【友達≦】幼馴染み萌えスレ4章【<恋人】

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681243 ◆NVcIiajIyg :2005/05/29(日) 23:09:47 ID:/PDqiJDj

旦那様は孝二郎への口止めを梅子が思わぬほどあっさりと引き受けてくれて、
梅子の亡き両親に代わる保護者達にも丁寧に説明と対応をしてくれた。
そうして春海と琴子の住むだいぶ北に行ったところのお屋敷に、働き口を世話してくれた。
ひどく親切だったものだから感謝半分、猜疑心半分というかたちである。
梅子はそういう自分を可愛くないと確かに思う。
それだけ孝二郎の傍を離れることを本家に喜ばれてしまったのか、なんてことを
未練がましく邪推している自分には、まだまだ幼い恋心が残っているのだろうか。
諦めたのになと梅子は心中呟く。
どうでもいいともう思う。
だってあれだけ言われて、それでも孝二郎は梅子が自分を好きでいると信じていて、
あの傲慢さといったら百年の恋だって一瞬で蒸発して積乱雲に溶け込んでしまうのだ。

帯の上で指を絡める。

まだ考えている時点で、負けなのかもしれないけれども。
「梅子ちゃん」
「はい」
呼ばれてあざみの高い身長に首を向ける。
「あたしは春海お嬢様のお部屋、やっておくから玄関を掃いてきて」
「塀の外も掃きます」
そう言って笑うとあざみはエライエライ、と朗らかに傍の部屋へ消えた。
682243 ◆NVcIiajIyg :2005/05/29(日) 23:10:00 ID:/PDqiJDj
春海は孝二郎の叔母だ。
彼女は既にかけだしの学者として外の貸しマンションに住んでいるが、時折戻ってぐうたらする。
彼女はまさに変わり者という言葉がぴったりで、いくら連絡無しに帰っても、
部屋には塵ひとつないことがあたりまえであるとお金持らしく信じ込んでいる。
そうでないと部屋で実験を始めて屋敷が怪しいガスに包まれる。
その姉の琴子は機嫌が悪くなると清助を苛めて琴のバチを振り回し部屋を壊す。
困った双子だ。
というより、孝二郎のことしか見えていなかった時分は気付かなかったのだが、
この「家」は本家を初め親戚一同どれもこれも困った人間ばかりであるような気がしてきた。
幼い頃の慣れは怖ろしい。
箒を往復させながら、梅子は初夏の空を仰いだ。
孝二郎は幼い頃、機嫌が悪いと籠もっていたから、春海タイプなのだろう。
乾燥した風が吹く。
裏手の山は夏を間近に青く茂っていた。

結婚してしまえばよかった。

空の青さに睫毛を揺らして、梅子は遠い主人を思った。
もう朝の時間にあの生意気でやる気のない表情を起こすことがない。
それに魅力を感じなくなってしまった。
だったら本当に。
なにもかもが、どうでもいいのだ。
683243 ◆NVcIiajIyg :2005/05/29(日) 23:13:01 ID:/PDqiJDj
固有名詞が多くなってきましたが梅子と孝二郎だけ識別していただければ問題ないかと。
では食前酒としてメインディッシュを待つ心構えで。
684名無しさん@ピンキー:2005/05/29(日) 23:33:43 ID:GRuyu/E3
243 ◆NVcIiajIyg氏って文章うまいなぁ。
ひーことイトくんの人ぐらいうまいなぁ・・・と思ってたら、同じ人でしたか・・・orz

どうしよう、私すっごい鈍い。ともかく素晴らしいです。
685名無しさん@ピンキー:2005/05/30(月) 00:43:07 ID:GZwxOSOG
食前酒にはもったいないほどの美酒ですな、いやはや。
個人的に古ガラスの〜という描写が良いなぁ、と。
686名無しさん@ピンキー:2005/05/30(月) 08:34:54 ID:XJro/00d
なんか野菊の墓を思い出した。
687名無しさん@ピンキー:2005/05/30(月) 21:04:39 ID:N3FVbiSt
243氏の文章は相変わらずイイですなぁ・・・
しかし保管庫に追加されてないのは何故?
688名無しさん@ピンキー:2005/05/31(火) 09:53:00 ID:glTZvIyS
保管庫の中の人もたいへんなのだろう
689名無しさん@ピンキー:2005/06/01(水) 16:25:01 ID:UkQEGlwN
>>687
始まりがリレーだったので下の方、ちょっと違う場所にあったりする
690名無しさん@ピンキー:2005/06/01(水) 23:15:47 ID:icchM70u
243氏キターーー!!
なんつーか、非常に描写が細かくて、ただただ脱帽するばかりであります。



ソレはそうと、このスレの住人にピッタリな曲を発見しましたよ。
現在、全国のゲーセンにて稼働中の音ゲー「GUITARFREAKS V & DRUMMANIA V」に収録の「DOKI☆DOKI」がソレ。
なんか、妙に幼なじみの初デートっぽく感じます。
691名無しさん@ピンキー:2005/06/02(木) 23:43:59 ID:Vu9Un6ey
>>690
バンプの「車輪の歌」なんかモロに幼馴染の別れって感じだよね。
誰かあれをモチーフにしたSSや漫画を描かないだろうか。
692名無しさん@ピンキー:2005/06/03(金) 00:58:24 ID:1zHN6g4y
俺的に幼なじみBGMといえば米倉千尋の「10 years after」かな
08小隊のED曲だったんだが、本編に燃えた後で萌えるとは思わなかったよ…
693放浪者  ◆Ms/Pnuh3DY :2005/06/03(金) 02:24:09 ID:UOhV5gYK
>>691
手元に「車輪の歌」が入っているアルバムがあったので聞きながら書いてみました。
歌の内容そのままではなんですのでだいぶ変えてあります。
気に入っていただければ幸いです。
694『タンデム』:2005/06/03(金) 02:39:46 ID:UOhV5gYK
駅へと続く長く急な坂道。ここを自転車でタンデムして走る。それはぼくの日課。
後ろに乗っているのはぼくの幼馴染の少女だ。
「もっと急いでよ! この電車乗り遅れたら次は30分後なんだから、遅刻しちゃうわよ!」
ぼくは応えない。というか応えられない。
高校に入学してからほぼ毎日、こうやって君を自転車の後ろに乗せて駅までの道のりを
タンデムしているけど、二年以上が経った今でもこの朝一の全力疾走はつらいんだよ。
しかも今は七月、太陽の光が無情にもぼくの体力と水分を奪い取っていく。
息切れしてしゃべることなんて到底無理だ。
「ほらもう少し。あっ! 電車来た! 急げ〜!」
ぼくたちの後ろから電車が迫ってきているらしい。普段ならその迫りくる音が聞こえるのだが、
今は全力疾走中だ。聞こえるのはぼくの荒々しい息遣いと脈拍、君の澄んだ声、
そしてさびついた自転車の車輪が出す悲鳴のような音。
駅の駐輪場に着き、見事なターンを決めて駐輪。素早く鍵を引き抜き、チェーンロックを後輪に掛けて走り出す。
全く無駄の無い動作、さすがに二年も同じことを繰り返しているだけはある。
「さあ、ラストスパート!」
駅の構内に入り、制服のポケットから定期を取り出す。すでにベルが鳴っている。
自動改札が導入されていない我が最寄駅に感謝。市内高校の最寄り駅を利用するときに思うのだが、
自動改札は定期を持っている人にとっては無用の産物である。
もちろんこの地方都市の駅たちはスイカやイコカといったしゃれたものとは無縁だ。
ぼくたちが電車に乗り込むと同時にドアが閉まる。それほど利用者の多い路線ではないが朝の通学、
通勤時間なのでそれなりに人はいる。ほかの乗客からの視線が痛い。
695『タンデム』:2005/06/03(金) 02:54:37 ID:UOhV5gYK
「ギリギリだったね」
君はそう言いながらぼくに微笑みかけてくる。
人事みたいに言うなよ。
誰のせいでギリギリになったと思ってるんだ。
最近太ったんじゃないの?
言いたいことはたくさんあったが、今は息を整えるので必死で声なんて出せない。
ひざに手を置き下を向いて肩で息をする。
「ひょっとして怒ってる?」
多少はね。
「ごめん、ごめん。昨日夜遅くまで友達と電話してて朝起きれなかったんだ」
君の寝坊に付き合わされるされるこっちの身にもなってくれよ。
君は昔っからぼくを振り回してばかりだ。
「あれ? けっこうマジ怒りですかぁ?」
けっこうマジ怒りですよ。
「もう! だからごめんって言ってるでしょ。ゆるしてよ、ねっ?」
君は体を傾けながら、下を向いて息を整えているぼくをのぞきこんでくる。
その表情は今朝の太陽よりまぶしい笑顔。ここで負けてしまってはいけない。
顔を上げて、もう怒ってないよなどと言ったら、君をますます調子に乗せるだけだからね。
そのことは君との長い付き合いでよく知ってるよ。
「しょうがないな。じゃあ……」
君の顔が近づいてくる。
君の吐息を頬に感じる。
そして君の唇がぼくの頬に触れた。
やわらかくて、少しひんやりとしている湿った感触。
だめだ。負けてしまった。
「これでゆるしてくれる?」
反則だよ。そんなことをされてぼくが首を横に振れるはずが無いだろ。
ぼくは顔を上げて君を見る。君はさっきの笑顔のままぼくを見つめている。
ぼくは君の頭に手をのせて髪をなでる。そしてこれ以上ない笑顔で君に応える。
ほかの乗客からの視線を感じるがそれはもう痛くなかった。
696名無しさん@ピンキー:2005/06/03(金) 21:01:33 ID:DxkglDZR
ゲーマーでバンプ好きな俺が来ましたよ
車輪の唄の歌詞、需要があれば書こうかな。>>694-695を読むなら、歌詞を知ってる方が良い。

>>690
プレイ中は必死だから歌詞とか聞いてる暇ないんだがorz

>>693
GJ。車輪の唄の世界観が出てた
697名無しさん@ピンキー:2005/06/03(金) 23:35:41 ID:BV8FhSoa
>>696
JASRACの者ですが・・・

とならないうちにやめておいた方が吉。
698691:2005/06/03(金) 23:56:33 ID:MwiTrEFi
>>693-695
グッジョブ!
曲の雰囲気が上手く表れてて良かった。
こういう甘酸っぱい感じの短編もいいね。

>>696
著作権に絡む問題が生じてもナンなんで各自ググってもらう方向で。
699名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 00:54:59 ID:wQCtbZmU
「需要があれば」
「書こうかな」
700名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 03:22:07 ID:wvEDFi7Y
このスレ的には
「二人は今まで兄妹のように育ってきた(男が年上)んだけど、
実は女の子の方はずーっと男のことがすきだった」
とか言う展開はナシですか?(´・ω・`)
701名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 04:26:26 ID:lehB0Ath
>>700
幼馴染なんでしょ?アリですよ。
てか、そろそろ悲恋モノ書いてくれる人出てこないかなぁ。
702名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 07:01:28 ID:1/rmtq3A
>>700
ちょっと待って
何でアナタ、俺の脳内嫁の事をご存じなのですか?
もしやエスパー伊藤?
703名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 16:44:27 ID:Fo0mHxhN
>>702
エスパー伊藤にそんな能力があるのでしょうか。私にはそうは思えません。
704名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 16:47:26 ID:vjnBq6uK
ところで現在481KBなわけだが。
次スレ移行の時期か。
705名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 17:37:02 ID:JRVZSRiZ
だね。
何もしないと一週間で落ちるんだっけ?
俺は最近この板で新スレ立てたばっかりだから無理だとオモ。
誰かよろすこ。
706名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 21:23:00 ID:ew2k/zrO
うわあ…こんないいスレがあったのか。

一通りここを読んでみたけど、いいね。
特に「ちいさなあいのかたち」。
おまけとして書かれたんだけど、幼馴染だからこその切なさというか。
本編以上にイイね。
707名無しさん@ピンキー:2005/06/04(土) 22:58:47 ID:wQCtbZmU
そんなこと言われても俺には「本人光臨乙」としか
708名無しさん@ピンキー:2005/06/05(日) 00:00:14 ID:yHw0yCy5
とりあえずのところ立ててきました。

【友達≦】幼馴染み萌えスレ5章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117897074/l50

不備があれば訂正お願いします。
709名無しさん@ピンキー:2005/06/05(日) 00:47:59 ID:+ZRYK9K2
>>707
まあ、そう言わず。
とりあえずマターリ新スレに移行しようや。
710名無しさん@ピンキー:2005/06/05(日) 01:41:03 ID:vs7BmfUm
>>707
初めてこのスレに来た706が素直に一番面白いと思ったSSを挙げただけだろ?
そこで自演扱いするはいくらなんでも酷いんじゃないか?
711243 ◆NVcIiajIyg :2005/06/05(日) 21:16:25 ID:tSn6/LlC
新スレがたった今なら言える。

幼馴染の歌といえばなごり雪。なごり雪。なにはなくともなごり雪。
春が来てきれいになった幼馴染が去ったホームに残り落ちては融ける雪を見るんだっ
712 ◆fwEqM5TUkg :2005/06/05(日) 21:29:40 ID:rX+OJoCC
>>711
 あれって、幼馴染の別離の歌かなぁ。
 どっちかって言うと、別々の地方から2年差くらいで上京してきて同じ大学に通っているのが縁に
なって付合い始めたカップルがいて(男が年上で、女が年下)、男は東京で就職して卒業後も女と
付合っていたけど、女は卒業を期に地元に帰るっていう歌だと思ってたんだけど。

 もちろん、>>711さんが仰るようなシチュもかなり萌え〜なんですけど、その場合、男の方が
分かれのホームで初めて自分の気持ちに気付くっていうのが個人的にツボです。
713243 ◆NVcIiajIyg :2005/06/05(日) 21:53:41 ID:tSn6/LlC
>712
二番の歌詞!二番の歌詞!!
714526 ◆PGuMXHUDvk :2005/06/05(日) 23:34:52 ID:Fz+7DdaV
>>711
「なごり雪」もいいですが、個人的には「木綿のハンカチーフ」もおすすめです。
最後はアレですが
715名無しさん@ピンキー:2005/06/05(日) 23:37:23 ID:UGwMEyDb
漏れ的にはなごり雪はやっぱイルカVer'の方が・・・・・・
716名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 00:43:20 ID:UZskgsdb
>二番。
幼い〜君〜も〜大人〜にーなるーとー、んんーんーんーんんんーってとこでしょうか?


個人的幼馴染みソング。
MY LITTLE LOVERの「Hello,Again」
コッコの「やわらかな傷跡」

……なんか、別れとか悲恋の歌が多い気がしてきた。
誰か知りませんか、ひたすらラブい幼馴染みソング。
717名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 03:01:21 ID:whZXbWHd
前にバンプの「車輪の唄」が話題にでてたけど、バンプの幼馴染みソングっていったらやっぱり「天体観測」でしょ!
サビ前の震える手を〜と、背が伸びる〜からの一連の歌詞は正しく幼馴染への恋愛感情って感じ。
でもこれは幼馴染みが遠くにいっちゃった(もしくは死んじゃった)悲哀系の歌詞なんだよね。

最近のお気に入り幼馴染みソングはアンダーグラフの「ツバサ」だけど、これも別れの曲だしなぁ……。
倉木麻衣の「Time after time」も幼馴染みソングだけどラブラブじゃないしな。
そういえばコナンは幼馴染み度がかなり高い漫画だよね。
うーん。ラブラブな幼馴染みソングは思いつかんな。
ジュディマリとかでありそうなんだけどな……。
誰か見つけた人いたら教えてくれ。
718691:2005/06/06(月) 03:19:47 ID:FvtJLzp4
>>717
> 「天体観測」
俺も最初はそう思ってたけど、どうやらPVとかによると(異性の)幼馴染ではなく少年同士らしいよ。


ところでこの曲もSS化してくれる神はいないだろうか?w
719名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 03:35:31 ID:whZXbWHd
>>717
嘘だぁっっ!!
俺は信じない! 信じないぞ!!
だってそれは、それは……。
720名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 03:39:18 ID:whZXbWHd
ああ、もう!
ショックすぎてアンカー間違えちゃったじゃないか。
>>717じゃなくて>>718です。スマソ。
721名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 12:17:59 ID:8kPyKzWs
>>718の設定で
「君の震える手を握ろうとして握れなかった」とか言ってるってことは
フォモってことかYO
722名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 17:02:19 ID:h0Yu/A2J
そうなのか…それはそれでいいな
723名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 17:26:10 ID:gnmnz1dS
いいのかYO!
724名無しさん@ピンキー:2005/06/06(月) 19:50:53 ID:mQ03BXCA
じゃあここはもう一つ捻って男装の美少女という事ではどうだろうか。
725『埋めたてアルバム』 ◆NVcIiajIyg :2005/06/06(月) 23:56:33 ID:OBQI7pW7

「ば、ばっかじゃないのっ!?」

三間コオリは最近切り揃えた髪の下で顔を真っ赤にした。
かつては公園と呼ばれていたはずの空き地は廃れて草が生えっぱなしだ。
土が彼女と向かいの男の下で散乱している。
どちらも二十歳を周り三十路に近付く頃合だ。
図体の大きな男は厚い肩を僅かに落としてそれをぼんやりと眺めた。
そして低い息をほうとはいてから、らしくもなく似合わぬ赤面をした。
「…ミコがこう来るたぁ思わなかったわ、俺」
「う、うるさいな二度も言わないで。気の迷い。
 ちっちゃいころのね、気の迷いって奴なのよ!
 別にそんなだってあたしは硬派だったし、これはそう、あのねっ」
彼女達の下では古いクッキーの缶が泥にまみれている。
開いた蓋の下には色褪せたドロップ缶がふたつきり。
726『埋めたてアルバム』 ◆NVcIiajIyg :2005/06/06(月) 23:57:26 ID:OBQI7pW7
――いわゆるタイムカプセルだ。
太いごつごつとした指の間ではクーピーで書かれた落描き帳の紙が微風に踊っている。

「…『わたしはいつも陽太に冷たいたいどばかりとってしまうのでごめんなさい。
 ほんとうはいつかやさしいお嫁さんになりたいとおも』」
「音読するなばかぁあ!!!」
「おっと」
コオリが半泣きで飛び掛り、彼女なりに鍛えた細腕で手紙をひったくる。
ひったくろうとしたというのが正解。
高い位置に持ち上げられた手紙が無情にも背の低い彼女の上でふらふらしている。
「スーツ台無しだぞ。生徒に笑われるんじゃないの」
「ううう」
「それよりこっち、何入れたっけかな。忘れちまった」
じと目で古き恥辱(二十年もの・熟成)を奪い返す機会を狙うのを中断し、コオリがすいとそちらに興を移す。
「えー。陽太のことだから柔道の茶帯とかじゃないの」
「あーどうかな?あの頃はまだ白帯だったはずだがなあ」
比較的体温の伝わる近さで屈む陽太をしばし見つめてから、コオリも同じくドロップ缶に屈む。
ざぐ、と鈍い音がして錆びかけた金属が難なく開く。
夕も暮れ掛けた薄暗さに良く見えず、二人で腕を寄せ合い覗き込む。
先に女の方が丸い肩から身を硬くして真っ赤になった。
「……ようたー。なんなのこれぇ」
「あー。忘れてた、これか」
気まずそうに熊みたいな図体を脱力させて陽太が呻く。
小学生というのは無邪気で怖いもの知らずでなのに無駄に助平なのだ。
「笛ガムとかじゃないわよね…」
「開けてみるか?」
727『埋めたてアルバム』 ◆NVcIiajIyg :2005/06/06(月) 23:58:40 ID:OBQI7pW7
「だーれが屋外でコンドームなど開けるかー!」
すぱーんとチョークを投げる如く素晴らしい手首の返しで高等部に平手が決まる。
コオリの引っ叩くタイミングも力の入り具合も、手先の女っぽさが加わっただけで二十年前と変わりない。
昔は陽太のほうがいつも彼女に振り回されていた。
去りかける手首をなんとなく掴んで陽太が幼馴染を無言で眺める。
コオリはそれで突如として顔をそむけて真っ赤なままわめいた。
小学生を指導する立場にあるものとは思えない表情はかつてここでなんども夕陽を浴びていたものだ。
「ああもうなんなの!?これ埋めたとき小学生だったはずでしょう!
 すけべ!エッチ!何でこんなの、へ・ん・た・いー!」
「兄貴に冗談でもらったんだよ。そう怒るなって初めて見るわけでもあるまいし、だいたいつけてくれたこ」
「うるさいうるさいうるさいっ」
本来なら自身が恥ずかしさのあまり自己嫌悪になるところだったはずが、
あまりに相手が取り乱した結果、男の方がどんどん肝が据わってしまった。
コーチとして引退しているとはいえまだ本番になると落ち着きがやってくる体質は去っていない。
いざというときになると途端にパニックになりだす幼馴染とは絵に描いたように正反対で、だからこそずっと一緒にいたわけだけれども。
掴んだ手首をそのまま引き寄せて顔を近づける。
「…言っとくけどな、ミコと結婚したいんだけど何か道具になるものないかって聞いたら兄貴がよこしたんだ」
「う、そ、そんなの、言い訳にならな」
「折角だから使うか?今」
沈黙が夕陽に消えた。
息が弱々しく震える。
コオリが薄い化粧の奥から肌を赤らめ、小さな声で呟いて体を押した。
「…そんな昔の、危ないに決まってるでしょ」
「冗談だ馬鹿」
「あたしに一度も成績でかなわなかったくせに、えらそうに」
そしていつ切り替わったか歳相応の笑みで女性が唇をほころばせ、軽く男の口を塞いで愛しげに吸った。
首に絡めた腕をほどき、柔らかな身体を抱かれるままに自ら寄せる。
「陽太には冗談にする権利なんかないのよ。いつまでだって」
「そう来ると思ってた」
微かに欲情で笑いが震え、男は女性の髪を掻き乱した。
陽が峠に沈んだ。
タイムカプセルの空き缶が、湿度のある匂いと何かの動きに弾かれてころころと転げた。
728『埋めたてアルバム』 ◆NVcIiajIyg :2005/06/07(火) 00:02:03 ID:OBQI7pW7
以上。
埋めようと思ってやった
容量を10KB勘違いしていたので結果としては埋まらなかった
いまははんせいしている
729名無しさん@ピンキー:2005/06/07(火) 00:16:28 ID:C+PEflQh
>>725-728
GJ!! 小学生の癖に風船をタイムカプセルに入れるなんてとんだマセガキですな(w
逆に幼馴染の方は20代後半なのに子供っぽいところがまたギャップがあってチョト新鮮。
730名無しさん@ピンキー
あっ!
そういえば、俺も埋めたんだった。
すっかり忘れてたよ。
まあいい。ほかの奴らもみんな忘れてるだろう。