【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】

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1名無しさん@ピンキー
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。

*前スレ*
幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/

*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に…(派生元スレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1065173323/l50
いもうと大好きスレッド!(ここから派生したスレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077717174/

*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://adult.csx.jp/~database/index.html

■■ 注意事項 ■■
*職人編*
スレタイがああなってはいますが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
2名無しさん@ピンキー:04/03/01 22:49 ID:HX73L//I

諸君、私は幼馴染みが好きだ。
家で、街中で、通学路で、学校で、この地上で出会えるとあらゆる幼馴染みが大好きだ。
肩をならべて歩いていた喧嘩っ早い幼馴染みが轟音と共に私を吹き飛ばすのが好きだ。
空中高く放り上げられた私の鞄の中身がばらばらになった時など心がおどる。
入浴中の幼馴染みのすっかり成長した身体に驚くのが好きだ。
悲鳴を上げて風呂場から飛び出してきた幼馴染みに謝り倒した時など胸がすくような気持ちだった。
毛先をそろえた幼馴染みが見せるはにかんだ笑顔が好きだ。
似合うかなぁ?なんていいながら何度も何度も鏡を覗く様など感動すら覚える。
完璧主義の幼馴染みがふとした弾みで恋愛感情に目覚める様などはもうたまらない。
バカァ!と泣き叫ぶ幼馴染みが振り下ろした手の平とともに、私がばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
哀れな幼馴染みが雑多な調理器具に揉まれながら、健気にも手料理を作ってくるのが好きだ。
憎まれ口を叩きながら口に入れた時など絶頂すら覚える。
朝のアンニュイな時間に滅茶苦茶に叩き起こされるのが好きだ。
必死に守るはずだった掛け布団が蹂躙され剥ぎ取られる様はとてもとても悲しいものだ。
諸君、私は幼馴染みをご近所さんの様な幼馴染みを望んでいる。
諸君、エロパロ板住人の諸君。君達は一体何を望んでいる?
更なる萌えを望むか? 情け容赦のない糞の様な登校風景を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な三角関係を望むか?
『弁当! 弁当! 弁当!』
よろしい。ならばSSだ。我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ。
だがこの暗い板の底で四半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの幼馴染みではもはや足りない!!
幼馴染みとのHを!! 一心不乱のHを!!
我らはわずかにスレの一つ。千人に満たぬROMに過ぎない。だが諸君は一騎当千の古強者だと私は
信仰している。ならば我らは諸君と私で総力100万と1人の幼馴染みスキーな集団となる。
幼馴染みを思い出の彼方へと追いやり眠りこけているROMを叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう。連中に幼馴染みの味を思い出させてやる。
一千人の幼馴染みレスの戦闘団でエロパロ板を萌やし尽くしてやる!!

3名無しさん@ピンキー:04/03/01 22:50 ID:HX73L//I
昨日、不細工な男と話したんです。ブ男。
そしたらなんかめちゃくちゃ好きな娘ができたらしいんです。
で、よく見たらなんか小ぎれいにしちゃって、見たこと無い服着てるんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
あんたね、好きな娘ができたぐらいで着なれない服着てるんじゃねーよ、ブ男が。
そのセンスだよ、センス。
なんか帽子かぶってるし。ストリート系だってか。おめでてーな。
よーし俺イケてるじゃん、とか言ってるの。もう見てらんない。
あんたね、普段のがなんぼかマシだから着替えて来いと。
ブ男ってのはな、ダサい服着てるべきなんだよ。
すれ違った女100人が100人とも「今日のダサい奴」にチェックしてもおかしくない、
俺は女に縁がありません、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。
ブーンだのメンズノンノだのは、すっこんでろ。
で、やっと着替えたかと思ったら、どうやってコクるかな、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、あんたはわかってねーんだよ。ブ男が。
得意げな顔して何が、コクるかな、だ。
あんたは何度失敗すれば判るのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
あんた、コクりたいって言いたいだけちゃうんかと。
隣に住んで15年のアタシから言わせてもらえば今回、あんたはやっぱりコクれない、
自爆、これだね。
ベッドの上で叫んでのたうちまわる。これがあんたのコクり方
自爆ってのは相手に言えない。そん代わり相手に避けられる可能性少なめ。これ。
で、相手に彼が出来てあきらめる。これ最強。
しかしこれを続けてるとホモの噂が立つという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まああんたみたいなブ男は、早いところアタシの気持ちに気付けってこった。
4名無しさん@ピンキー:04/03/01 23:11 ID:NxpSnOpu
即死回避
5名無しさん@ピンキー:04/03/01 23:23 ID:mATbHLSa
とにかく即死回避
6名無しさん@ピンキー:04/03/01 23:36 ID:GD+4DD2E
う〜ん、前スレは初めの方にネタ書いたんだけど
書いてるヒマがない_| ̄|○
7名無しさん@ピンキー:04/03/01 23:37 ID:HX73L//I
自らの手で即死回避


あなたの一番好きな幼馴染みは誰ですか?
8名無しさん@ピンキー:04/03/01 23:57 ID:cAOrjV1j
天音
9名無しさん@ピンキー:04/03/02 00:11 ID:MOTJdOdQ
幼馴染マンセー。王道マンセー
10名無しさん@ピンキー:04/03/02 00:13 ID:dk5oXL9Y
幼馴染みというカップリングに限定してエロゲー原作のSSも大歓迎です。


ということでOKでしょうか?
11名無しさん@ピンキー:04/03/02 00:22 ID:dk5oXL9Y
ttp://village.infoweb.ne.jp/~two4/osana/osatop.htm

ここに来るくらいだからみんな知ってるかな?
12名無しさん@ピンキー:04/03/02 06:05 ID:M/w0nsRs
>>2-3
よくできてるなぁ(w

>>7
こっそり、DQ5のビアンカと言ってみるテスト。
13名無しさん@ピンキー:04/03/02 11:13 ID:Wyh+EGWc
>>10
もともとエロ「パロ」だしな。
そこまで絞らなくとも、それっぽい関係があればいいんじゃないか?
14名無しさん@ピンキー:04/03/02 14:16 ID:7TIZxZJB
スレ立て乙です。

好きな幼馴染みキャラですか。
あかり(東鳩)、ティファ(FF)、ゼオラ(スパロボ)…書ききれない。
15名無しさん@ピンキー:04/03/02 15:27 ID:Klt51SKH
前スレの中継ぎ氏乙です!!
二人マフラー萌え、激しく萌え。

>>7
「水月」の宮代花梨とか。
16名無しさん@ピンキー:04/03/02 16:24 ID:Yr2Q2WrW
>>12
とりあえずビアンカは幼馴染では無いと言ってみる。
17名無しさん@ピンキー:04/03/02 16:39 ID:g+L+RxUE
俺にとっちゃ、氷川菜織(WithYou)が永遠唯一無二の幼馴染みと言ってみる
気が強くて、突っ込みが激しいという概念は
これに植え付けられたようなものだから…

>16
一応、幼馴染であると、俺は解釈してるが。
18名無しさん@ピンキー:04/03/02 17:31 ID:3WDKoGJ1
乃絵美乃絵美乃絵美乃絵美乃絵美
妹よ、実妹でもいい…
19名無しさん@ピンキー:04/03/02 18:22 ID:qHtQcnlQ
ちょっとおまいさん方にお尋ねしたいのですが、幼馴染みのSSでもエロ抜きは投下禁止ですか?

昔少し書いて放置してるのがあるんですけど、なにぶん小学生モノなんで…。
20名無しさん@ピンキー:04/03/02 18:36 ID:g+L+RxUE
>19
エロ無しでも萌えればモーマンタイ
21名無しさん@ピンキー:04/03/02 20:12 ID:VuhNs/wM
>>15
同志!
っていうかこの手のスレ以外でその名を挙げると必ず「雪さんのほうが・・・」って
レスがつくんだよなぁ(´・ω・`)

他には痕の梓とか最近でははにはにの保奈美、茉理の二人がヒットですた。


・・・ってエロゲばっか_| ̄|○
22名無しさん@ピンキー:04/03/02 22:53 ID:dk5oXL9Y
>>18
いもうと大好きスレッド!(ここから派生したスレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077717174/

ここがあるぞ!
23名無しさん@ピンキー:04/03/02 23:36 ID:tcnLBQRx
DQ5の主人公の幼馴染は

ヘンリー王子。

……おもいっきりスレ違いになりそうだ。
24名無しさん@ピンキー:04/03/03 01:45 ID:CDQ6D1Sr
I"sのいつきに萌え。 …古いなぁ。
25名無しさん@ピンキー:04/03/03 13:11 ID:ZhvFTa1l
とらハの唯子×真一郎×小鳥が欲しいなあ
26名無しさん@ピンキー:04/03/03 14:42 ID:gL9Tzf1M
とらハの唯子×真一郎×小鳥 と、
瑠璃雪の瑠璃×博士×陽子 は切実に欲しかった……

後者はスレ違いだな、すまん
27名無しさん@ピンキー:04/03/03 20:16 ID:qdtdGBMO
ならてのひらをたいように明夫×永久×穂×美花ってのは・・・・・・。


ごめん、マイナー過ぎた_| ̄|○
28名無しさん@ピンキー:04/03/03 20:19 ID:qdtdGBMO
スマソ。sage忘れ
29名無しさん@ピンキー:04/03/03 20:21 ID:arfIr0MF
無料のすごいの見つけた!携帯限定だけど(ニガ)http://www.80607.jp/?see70
30名無しさん@ピンキー:04/03/03 20:30 ID:qdtdGBMO
変なのが来ちまった_| ̄|○
以後はもう少し落ち着いて書きこみまつ。
31名無しさん@ピンキー:04/03/03 23:58 ID:qPsIyqLO
>>25
とらハなら、耕介×瞳ってのも好きなんだが。
32名無しさん@ピンキー:04/03/04 01:04 ID:ZI+v/YOR
ひらたい、私は大好きですよ
ちなみに明夫ではなく明生ですが
そんなこといったら『たまきゅう』というゲームの隼人と弥衣というのも……
ちなみの、この二人のSSをいま書いてます
幼馴染の定番、二人っきりでお留守番というのを


ところで、幼馴染から恋人へというステップアップの後に結構見かけるネタといったらやっぱり

二人っきりでお留守番
一緒にお風呂
夕飯を作りに

でしょうか?
恋人同士になる前の、ただの幼馴染だった時のことを語り合いながら
二人でイチャイチャする、というネタが定番かな?
33名無しさん@ピンキー:04/03/04 01:06 ID:DuDdAy15
幼馴染みに関わる全てのネタが愛おしい…
34名無しさん@ピンキー:04/03/04 23:32 ID:EHQyHOKd
保守
35名無しさん@ピンキー:04/03/05 21:51 ID:583jH/5z
>>32
とらもかくにも、変化があれば進展するわけで…そこがいいのかも。
36名無しさん@ピンキー:04/03/05 22:35 ID:74/c5jm+
(;´Д`)ハァハァ・・・
37名無しさん@ピンキー:04/03/05 22:36 ID:583jH/5z
とにもかくにもだった…_| ̄|○
38名無しさん@ピンキー:04/03/05 22:44 ID:niQ3fgLT
たそがれ清兵衛に幼馴染が。
39前スレ812:04/03/06 02:35 ID:HEilTi+K
前スレ855からの続きになります。
保守になればいいのですが。
40前スレ812:04/03/06 02:36 ID:HEilTi+K
――わーん、わーん。
……誰かが泣いてる。
――泣くんじゃないよ、仕方ないだろう?
……誰、でしたっけ…。
――だって、だってえ…。おねえちゃ、おねえちゃん…。
――ゆり姉は、幸せになりに行くんだよ? ほら、妹のアンタが花嫁さん悲しませんじゃないよ。
…あー。わたしですね、泣いてるの…。姉さんの、結婚式の日だ…。
…ああ、じゃあ、子供のころの、ゆめ、ですね…。
――でも、でもやだあ。おねえちゃんイギリスなんかにいっちゃうの、やだようっ…。
――はあ。しょーがないな、甘ったれまゆ。…アタシがいてやるから。
…そういえば。
――え? なあに?
――…アタシはどっこも行かずにアンタと居てやるって言ってんだよ。
わたしが話してるのって、いったい――。
――ほんとう? みいちゃん。どこにも行かない?
――ああ、本当だ。
――じゃあ、約束して――。
…ああ。約束。そうだ、わたしはみいちゃんと、やく、そくを―――。


―――――。
―――――――。
―――――――――おーい。
―――――――――――おーい。
「おーい。起きろー。まゆー。まゆこサーン。朝だぞー。いい加減起きてクダサーイ」
あ。瑞、穂、ちゃ、……。
そこで、一気に目が覚めました。
「ぶはあっ!? んな、何で…!?」
なんでわたしの部屋にこの人が。てゆーか、顔が! いま顔がムチャクチャ近くに来てませんでしたかーッ!?
41前スレ812:04/03/06 02:39 ID:HEilTi+K
「うわ。真由子、おまえなあ、年頃の女なら『キャー』くらい言ったらどうだ。色気の無い」
「…そ、その年頃の女の寝てる部屋に勝手に入ってこないでくださいよっ!? なに考えてんですかっ!?」
「おばさんに起こして来いと頼まれたからな。春休みだからって寝すぎだろう、もう八時すぎてるぞ」
お、お母さんめーっ!?
仕方ないので起きて着替えます。タンスの引き出しを開けてパジャマのボタンを外そう、と。
「どうした。俺のことは気にするな。早く着替えろ、味噌汁が冷める」
「出て行けーーッ!!」
力の限り枕を投げつけました。
「ま、まったく、あの人は…っ!」
絶対にわざとわたしを怒らせようとしています。
――そういえば。
「…なんか、変な夢を見たような…」
どうにも思い出せません。ま、忘れるくらいなんですから大した事では無かったのでしょう。
着替えて、顔を洗って髪をブローしながら昨夜の事を思い出します。


――昨日、友達と遊びに行って夕方帰ってきたら、知らない男の子が母とコタツでみかん食べながら世

  間話してて、しかもそれが病気で遠くの病院に入院した幼馴染(女子)だったのが男の子になって

  戻って来て。それでまた隣に引っ越して来てまたヨロシクと。
「…わかりました。頭が痛くなりそうな話ですが、概ね理解したつもりです。
 …あなたが瑞穂ちゃんだって言う事は、さっきイヤというほど思い知りましたし」
「納得してくれてありがたい。では、これからもよろしく」
「…それはいいんですけど、なんでわたしの家でごはん食べてるんですか…!?」
「さっき言っただろう、今日の昼に引越してきたばかりなんだぞ。俺は」
荷物なんかまるきり片付いてないからメシも食えないのだ。とやたら堂々とした態度で言い切られてしまいました。
42前スレ812:04/03/06 02:41 ID:HEilTi+K
「…あの、ちょっと聞きたかったんですけど」
「何をだ」
「おじさんとおばさんは何でいないんですか…?」
「ああ、最初、全員でこっちに帰ってくるはずだったんだが、急に本社から辞令が降りたそうで、後1年は東京だ。
 せっかく俺がこっちの高校に受かったんだから、一人だけでも帰れと言われてな――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。高校に受かったって――?」
同い年でしょうわたし達。
「ああ、ダブった。半年入院してたからな、仕方ない。後は週一で通って治療受けるだけでよかったけど」
「あ――」
そうでした。わたし、なんて事を。
「ま、そういう事だ。――それじゃ、四月からよろしくな、先輩」
「――は?」
「学校一緒なんだよ。明日、案内頼むな。通学路と学校近辺くらい事前に知っておきたいんだ」
ちょっと。ちょっと待ってください。展開に、アタマが――。
「家でも学校でも一緒か。楽しみだな。なあ、まゆ」
そう言って。ニヤリと、例の邪悪な笑みを浮かべました。
――その後。瑞穂ちゃんは帰ってきたお父さんにも妙に気に入られたらしく。
お父さんの晩酌の相手をしながら二人で妙に盛り上がり。
ずうずうしい事にお風呂にまで入って隣に帰って行ったのでした。回想終わり。
43前スレ812:04/03/06 02:49 ID:HEilTi+K
相変わらずギスギスしてます。
早く恋人、せめて友達に戻してあげたいと思います。
頑張ります。

>前スレ857様
笑っていただけて嬉しいです。書いてるほうもまゆこいぢりは楽しいです。
44名無しさん@ピンキー:04/03/06 08:07 ID:QdG8Jj2T
>>43
GJです。
ギスギスなんてことはないですよ。
過去の弱味を握って攻撃、は幼馴染み専用の特殊攻撃ですしw

学校でも振り回されるのか、それとも紳士的に接してギャップを楽しむのか。
この先を期待です。
45名無しさん@ピンキー:04/03/06 10:32 ID:iGNvlk0H
なんでこう、誰が書いてもこういうSSの主人公は典型的なエロゲキャラになるんだろう…。

やっぱ書き手の願望の発散か?
正直、同じ男としてまったく魅力を感じないんだけどな。こういうキャラ造型って。
46名無しさん@ピンキー:04/03/06 13:40 ID:QdG8Jj2T
>>45
ぶっちゃけた話、ここはそういうシチュのスレだ。
肌に合わないと言うなら創作文芸板にでも行くことをお勧めする。

っていうか”幼馴染み萌え”スレでどんな高尚な話を求めてるんだ?
文句を言う前に自分で書いてみたらどうだ。
47名無しさん@ピンキー:04/03/06 14:33 ID:iGNvlk0H
>>46
勝手にこのスレの趣旨をお前に決められてもなあ。
いつのまにここ、エロゲキャラ発表の場になったの?

>”幼馴染み萌え”スレでどんな高尚な話を求めてるんだ?
何気に職人の人にすげー失礼な事書いてるのに気付いてない?もしかして。
48名無しさん@ピンキー:04/03/06 15:09 ID:F18t8r1+
言い争いはやめろよー。

ここはこういうスレでそ。

って事を言いたかっただけでしょ?
49名無しさん@ピンキー:04/03/06 15:16 ID:m7r0GyLs
喧嘩をやめて〜♪
ふたりをとめて〜♪
50名無しさん@ピンキー:04/03/06 16:35 ID:22AK8kON
>>47
ここがエロパロだということを忘れてないか?
51名無しさん@ピンキー:04/03/06 17:11 ID:uyYovlOO
>>45で職人を馬鹿にする一方で、反論に対しては>>47で職人を盾にして口封じ。
このダブルスタンダードぶりを見るだけで、相手にするだけ無駄な手合いだとわかる。
放置ヨロ
52名無しさん@ピンキー:04/03/06 18:40 ID:HYrI9PQb
81氏の主人公はコンプ入ってて少し気持ち悪かったけど
別にお決まりの展開とかお決まりのキャラでも良いと思うけどな
53名無しさん@ピンキー:04/03/06 18:52 ID:Gcybcwgf
>>52
コンプって何?

おもわずコンプティークかよ懐かしいなとか思ってしまった。
54名無しさん@ピンキー:04/03/06 20:17 ID:iGNvlk0H
>>51
作品がどれも類型的だという疑問は差し挟んだが、職人の人を蔑ろにした発言なんかした覚えないが。

マンセースレ以外は全部煽り扱いするお前の方こそ遠まわしに職人をバカにしてるよ。気づけ。
55名無しさん@ピンキー:04/03/06 20:40 ID:m7r0GyLs
>>54
誰もエロゲキャラなんて言ってないのに、エロゲキャラの発表の場って決め付けてる時点で失礼だと思うけどなあ……。
56名無しさん@ピンキー:04/03/06 20:52 ID:Gcybcwgf
>>40
いきなり寝顔拝見ですか!



次の朝は布団の中まで侵入でヨロ
57名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:08 ID:uyYovlOO
>>54
>>45が1行目だけなら作品に対する意見ですんだだろうが、

>やっぱ書き手の願望の発散か?
と言ってしまってる時点で人格攻撃だろ。さらに、

>正直、同じ男としてまったく魅力を感じないんだけどな。こういうキャラ造型って。
という発言が組み合わさってしまっては、正直高みから嘲笑っているようにしか見えない。
これが失礼でなくて何が失礼か。

あんたの言う「典型的なエロゲキャラ」が主人公のSS書きなんざ職人じゃねぇって
言うなら、>>54
>職人の人を蔑ろにした発言なんかした覚えないが。
も間違いではないんだろうがな。
58名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:11 ID:iGNvlk0H
あーはいはい。これからは適当なマンセーレスだけ書いておく事にするよ。
59名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:19 ID:22AK8kON
>>58
釣れますか?
60名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:27 ID:piFH22ut
釣られてるのかどうかはともかくとして・・・。

面白い、つまらないといった、SSの出来具合の話題ならまだしも
(ここは〜の方が面白くなるのでは?といった建設的な意見があればベストだと思う。)
>45>52のような書き手本人にダメージを与えるような(もしくは創作意欲を著しく喪失させるような)
発言は控えた方がいいのでは?
俺はタダで萌えさせてもらってるから
職人さんがどんな内容のSSを投下しても文句は無いが。
61名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:31 ID:VjKlu5qP
うーっむ!
まゆが敬語を使うのを止めるのはいつの日か…
62名無しさん@ピンキー:04/03/06 21:40 ID:F0f8tYDo
ID:iGNvlk0Hは他のスレでも煽りやら何やらやってた奴。気にしないほうがいいっぽい。
63前スレ812:04/03/06 21:57 ID:RZP1hPF+
議論紛糾中のところ、大変もうしわけないのですが、
萌え話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?

>7
少女漫画なのですが、津田雅美の漫画は幼馴染みネタが結構あります。

「きまずい関係」の磯崎×ちさととか、
「あばれる王様」の和寧×駒子が好き。

どっちも成長するに従って変わってしまった関係を描いているのがとても好きです。

「きまずい関係」は、『何を考えているのか解らなくなってしまった』幼馴染みとの距離の取り方に悩む
女の子の話です。

「あばれる王様」は、昔は病弱で繊細で優しかった幼馴染みが、
成長してデカくて頑丈でとてもイヤなヤツになってしまった。という話です。
和寧のヒロイン(駒子)いぢめっぷりに当時とても萌えました。


数年ぶりに引っ張り出して読んでみて。
今、自分の書いてるの、ほぼこれらのパクリだという事に、気がつきました_| ̄|○ スイマセンスイマセン
精進します。
64名無しさん@ピンキー:04/03/06 22:18 ID:NGLFkWed
少女漫画では幼馴染と転校生が対決した場合、
幼馴染の方が負ける事が多いって聞いた事があるが、そうなのかな?
65名無しさん@ピンキー:04/03/06 22:27 ID:9P4SewGX
>>64
いや、それはむしろ少年向けのマンガ小説の方ではないかな?

少年向けの場合は純粋に恋愛要素のみで展開することは少ないから事情は異なるけど、
転校生が連れてくる非日常の世界(SFだったりファンタジー・オカルトだったり)に主人公は連れて行かれてしまう。
そして捨て去っていく、それまでの日常の象徴としての幼馴染みという構図。

少女マンガの場合は、主人公の女の子が転校生に憧れて、でも結局は身近で見守っていてくれた幼馴染みと、って感じかと。
66名無しさん@ピンキー:04/03/07 21:43 ID:jg2qtV/S
>>49
DIVEですか?
67名無しさん@ピンキー:04/03/08 02:32 ID:GxsYMJ7/
とりあえず職人さん来るまで間があるようなので、
ちょっと投下させていただきます。
書きながらキャラつかんでるので妙な部分もあるかもしれませんが、
どぞよろしくです。
内容は、かなりふざけてます。
68(1/15):04/03/08 02:33 ID:GxsYMJ7/
「あのねあのね、ケッコンするとずっといっしょにいられるんだって」
 確か最初に言ったのは歩弓だったと、中間望(なかま のぞむ)は記憶する。
「だからお兄ちゃん、おーきくなったらケッコンしようね」
「いいよ。じゃ、歩弓がおっきくなったらな」
「うん!」
 こうして幼い望の頭の中には『ケッコン→一緒にいられる』という情報がイ
ンプットされた。
「ケッコン?」
「したら、いっしょにいられるんだって」
「ふーん……じゃ、い、いちおー、あたしと、しとく?」
「そだな」
 こんな会話を、望は澄とも交わした。
 ……それからさして時間の経っていないある昼間。
 くいっと、裾を引っ張られた。
「…………」
 振り返ると、そこには佳苗が何か言いたげにしていた。
「佳苗もしたいのか?」
「……ん」
「よし、分かった。じゃあ、佳苗もおっきくなったら僕とケッコンな」
「ん」
69(2/15):04/03/08 02:36 ID:GxsYMJ7/
「……んん」
 目を覚まし、真っ先に目に入るのは自室の天井。
 横を見ると、ショートカットの少女が望に身を寄せて眠っていた。時々小学
生にも間違われる未発達な身体の熱が、布越しにも伝わって来る。
「……すー」
 静かな寝息だ。
 もっとも彼女、片倉佳苗(かたくら かなえ)は起きてても物静かだが。
「思えば、とんでもない約束だったよなぁ……」
 その髪を望がもてあそんでいると、布団がもぞりと盛り上がった。
「ほんでもらい約束……って?」
 そこから、くぐもった声が響いた。
「……昔の夢だよ。ご飯は出来てんの?」
 下半身の粘膜に愛撫される感覚に身を委ねながら、望は尋ねる。
「準備は出来へるよ……ん……ふぐ食へる?」
 布団は持ち上がっては下がり、また持ち上がる。そのたびに望の朝勃ちした
モノが、吸引され、根元の辺りをリング状のものが往復する。
 腰の辺りからせり上がってくるものをこらえながら、望は布団をつかんだ。
「この状態で止められるのは、どう考えても生殺しだろ……」
「そだね……んんっ……一回出さないと駄目だよね」
「暑くないか、お前?」
70(3/15):04/03/08 02:37 ID:GxsYMJ7/
 呆れながら布団を剥ぐと、メイド服姿の小柄な少女が望の下半身に顔を埋め
ていた。妹分の小野坂歩弓(おのさか ふゆみ)だ。
「ふはぁ……暑かったよ」
 歩弓が大きく顔を上げると、ツインテールとそれを結ったリボンもつられて
揺れた。顔を離しても、手は肉棒を離さない。唾液でぬめった竿が、細い指で
扱かれる。
「だったら布団取れば良かったのに」
「そしたらお兄ちゃんが寒いでしょ……わたしは我慢出来るもん……あ、もう
出そう?」
 手の感触で察したらしい歩弓が、再び身体を屈めた。
「ん、もうちょい……だけど」
 舌先の感触に、望の腰が小さく跳ねる。
「分かった、ゆっくりするね」
 歩弓はそう言うと、指で作ったリングを根元で上下させながら竿を舐め始め
た。
「ああ……ってカナ、目が醒めたか」
 隣で動く気配に、望は顔を向けた。
「ん……」
 寝ぼけ眼を小さな手でこすりながら、佳苗が望を見た。
 ジッと見る。
71(4/15):04/03/08 02:39 ID:GxsYMJ7/
「歩弓」
 望は、自分が動かない理由を簡潔に説明した。
「ん」
 小さく頷くと、佳苗も望に擦り寄り始める。
「カナもしたいって?」
 望は佳苗にキスしながら、パジャマのボタンを外した。
「ん……っ」
 佳苗は身体を望に密着させると、Tシャツの肩口を握り締める。
「カナ姉ちゃん、腰少し上げて」
「ん……んぅ……んく……んん……っ」
 歩弓に言われるまま佳苗が腰を上げると、ショーツをズボンごとずり下ろさ
れた。
「カナ姉ちゃんも気持ちよくするね……」
「ふぁ……」
 望に口内を嬲られていた佳苗が、驚きの声を上げる。
「じゃ、俺は上を担当」
 その佳苗の胸に、望は手を滑り込ませた。微かな膨らみの先端が、手の中で
転がる。
「っ……ゃぁ……っ」
 指先で弄ると、佳苗は小さく声を上げる。その一方で、下半身からも音が漏
れ始めていた。
72(5/15):04/03/08 02:40 ID:GxsYMJ7/
「二人掛かり〜」
 歩弓の指先にも、蜜が絡み始めていた。佳苗の秘処は無毛で、ほとんど一本
の筋のようなそこに歩弓は指を往復させる。抽送を繰り返しつつ中指で小さな
肉芽を刺激すると、佳苗の腰が何度も痙攣を繰り返した。
「いや、この時間だと、三人掛かりになるかも」
 望の言葉とほぼ同時に、部屋の扉が開いた。立っていたのはセーラー服姿の
勝気そうな少女だ。
「……朝っぱらから元気ね、三人とも」
 ため息と一緒に、ポニーテールまでうなだれたように見える。
「よう、澄。おはようさん」
 兵頭澄(ひょうどうすみ)は、顔を赤らめながらそっぽを向いた。
「朝の挨拶ってのは、寝そべったまま言うもんじゃないわよ……ま、その状況
で起きろって方が無理でしょうけど」
「ん……澄姉ちゃんは、どうするの?」
 望の下半身に顔を埋めていた歩弓が振り返った。
「し、下で待ってるわよ。こんなのに参加できる訳がないじゃない」
 澄は踵を返し、部屋を出て行こうとする。
「ぅん……ん……分かった。お兄ちゃん、ここ……どうかな?」
 それには構わず、歩弓は望の袋を吸い、左手の指先を会陰部に滑り込ませる。
唾液で濡れた指はスムーズにそこを滑り、望を刺激していた。菊座に触れると、
望の腰が大きく跳ね上がった。
73(6/15):04/03/08 02:41 ID:GxsYMJ7/
「ちょっ、ふ、歩弓、そんな知識どこから仕入れてきた……!?」
「でも、いいらしいよ……お兄ちゃんの、すごく元気になってきたし……」
 指先の刺激を続けながら、歩弓は先端から根元まで舌先を滑らせる。先走り
の液が珠となって溢れてくるのを、吸い上げた。
 ノブに手を掛けていた澄の身体が硬直する。
「そ、そりゃそうだけど……んぅっ!?」
 抗論しようとする望の口が、佳苗に塞がれた。
「っ……ん……んん……っ……!」
 トロンとした目つきで、無我夢中で彼に唇を押し付ける。その下では、歩弓
の指が二本に増えて彼女の胎内を掻き回していた。
 澄は再び振り返ると、勢いよくベッドに乗って歩弓の隣に座り込んだ。
「……あたしも、する」
 真っ赤な顔のまま、澄が宣言した。
「んっ……下で待ってるんじゃなかったのか?」
「う、うるさいわね。とにかくするのっ!」
「はぁ……じゃ、澄姉ちゃんは……こっちだね」
 息も荒いまま、歩弓は少し脇にどいて澄に場所を譲る。
「……あのね歩弓、気が利き過ぎるのも考え物だと思うんだけど」
「しないの?」
「するわよ……けど。制服に掛けないでよ?」
74(7/15):04/03/08 02:42 ID:GxsYMJ7/
 言いながら、やや躊躇いがちに澄の手が望のモノを握った。
 それは保障出来ないなあと、望は思う。
「大丈夫だよ、澄姉ちゃん。全部飲んじゃえば、汚れない」
 再び下方、望の袋の皺を舐めながら、歩弓が言った。
「何か微妙にズレてるような気がするんだけど……大体、歩弓は汚れたって着
替えれば済むじゃない」
「んー、でもやっぱり汚れ落とすの大変だし……澄姉ちゃんは上お願いね」
「う、うん……じゃ、じゃあ、するわよ……」
 澄は、慎重に肉棒へ顔を寄せた。
「噛むなよ」
「まだ根に持ってる……大丈夫だって」
 舌先が先端に触れる。鈴口に浮かんだ先走りの液を、眉をしかめながら舐め
取ると、亀頭部全体を舐め始める。
「うん、澄姉ちゃん、練習したもんね……痛っ」
 後頭部をはたかれ、歩弓の顔が望の股間に押し付けられた。
「よ、余計な事を言わない……とにかく、大丈夫なんだから」
「…………」
 胸を弄られながら、佳苗が望を凝視した。
「ああ、そうだな」
「……相変わらず、不思議なコミュニケーションが成立してる」
75(8/15):04/03/08 02:43 ID:GxsYMJ7/
 それで意味が通じてしまうのが、澄には不思議でならないらしい。
「いや、リビングのバナナが減ってた理由についてちょっと話をしてたんだが」
「噛むわよ」
 言いながら、澄は雁の部分に歯を立てた。
「澄姉ちゃん」
「冗談よ」
「今軽く歯が立ったのも冗談だったのか……うわっ」
 亀頭部全体を粘膜が包み込んだ。その中で、澄の舌がナメクジのように這い
回った。
「ふふん……いいみたいね。って言っても、もう出そうだけど」
「澄姉ちゃん」
 傘が張ってきたのを悟ったのか、歩弓が声を掛ける。
「あ、あたし? ん……わ、分かった。やってみる」
 喉奥に当たらないように気を付けつつ、澄は望の肉棒を飲み込んでいく。
「カナ姉ちゃんも、いいみたいだね」
 指を深くまで挿入し、佳苗の具合を確かめる歩弓。絶頂が近いのか、締りが
徐々に強くなってきていた。
「っ……ぁ……ぅんっ……!」
 後ろから指を激しく出し入れされ、佳苗は熱い息を吐きながら望のTシャツ
を握り締める。
76(9/15):04/03/08 02:45 ID:GxsYMJ7/
「ああ、気持ちよさそうな顔……いやいや」
「〜〜〜〜〜!」
 真っ赤になった佳苗は顔を伏せ、望の胸に押し付けた。
「お兄ちゃん、腰少し上げて」
「こうか?」
 言われるまま小さく腰を上げると、歩弓はそこに顔を割り込ませ舌を伸ばし
た。
「ん……」
「う、わ……」
 会陰部から菊座までを舌で舐められ、望が驚いた声を出した。
「……?」
 それを変に思った佳苗が顔を上げる。
「い、いや、何でもな……っ……くっ……!」
 しかし、望はそれどころではない。歩弓に加え、澄が頭を上下に動かし、彼
のモノを強く吸引し始めていた。尿道を直接吸い上げられるような感覚に、望
は危うく精を放ちそうになるのを何とかこらえる。
「んっ、ぅくっ、んんっ、んぅ……んむ、んく……んう……っ!」
 口の中で処理しきれないのか、口の端から唾液がこぼれ落ちる。それでも、
澄は頭を動かすのをやめようとしない。
「んぅ……澄姉ちゃん、気をつけてね」
77(10/15):04/03/08 02:46 ID:GxsYMJ7/
 言い、歩弓は尖らせた舌を望の後ろの穴に潜り込ませた。一緒に、佳苗の膣
内に指を捻りながら突き入れ、肉芽も撫で上げる。
「っ……!」
「っっっ!!」
 限界だった。
 望は身体を反らせながら澄の口の中で精を迸らせ、佳苗は彼にしがみついた
まま絶頂を迎えた。
「んんっ! ん……うぅっ……んぐ、んくっ……!」
 口の中で爆ぜた液体を、澄は懸命に飲み下す。しかし、処理し切れなかった
分がこぼれ、その白い雫は竿を伝っていく。
「あ……もったいない」
 それを下にいた歩弓が舐め取っていく。
 その間も望は腰を震わせ、断続的な射精を続けていた。ようやくそれが終わ
ると、澄はゆっくりと頭を引き上げた。
 喉に絡みついた粘液を、最後にゴクリと飲み下し、顔をしかめる。
「は、ぁ……はー……はー……ん、やっぱり変な味だわ、これ……歩弓、よく
こんなの舐められるわね」
「そう? 平気だよ、お兄ちゃんの…んっ……だもん」
 歩弓はまだ精液で汚れた望の肉棒を、自身の舌で清めていた。言葉通り、特
に嫌そうな素振りは見せていない。
78(11/15):04/03/08 02:48 ID:GxsYMJ7/
「そういうもんかなぁ……で、ご飯?」
「うん。あ、わたし、火入れてくるから、澄姉ちゃんは二人の後始末よろしく
ねっ」
 歩弓はベッドから降りると、パタパタと部屋から出て行った。
 ペタンとベッドに座ったままの澄は、どうしていいか分からない。
「ちょ、ちょっと後始末って」
「よろしく」
 身体を起こした望は、自分のズボンを指差した。
「握りつぶすわよ!? それぐらい、自分でしなさいよ!」
「…………」
 静かな目で、佳苗が澄を見た。特に威圧されている訳ではないが、いつもの
如く澄は気圧されてしまう。
「な、何……?」
 しかし佳苗は無言で望のズボンに手を伸ばした。
「『じゃ、自分がする』ってさ。いや、自分で何とかするよ」
 望は佳苗の頭を撫でながら、ティッシュを手に取った。
「ん」
 佳苗はそれを受け取る。
 二人の呼吸に、澄は憮然とした表情を作った。
「……なんで、この子が相手だと、そーなるのよ」
79(12/15):04/03/08 02:49 ID:GxsYMJ7/
「むしろ逆だろ。お前が相手だから、あーなるんだよ。って、そんな事話して
る場合じゃないな。佳苗、早く着替えないと遅れるぞ」
「ん……」
 何か言いたげな佳苗に、望はポンと手を打った。
「ああ、シャワーか。歩弓の事だから多分、風呂も沸いてると思う」
「ん」
 頷くと、佳苗は部屋を出て行った。
 そして残されたのは、望と澄。
「つー訳で着替えるわけだが」
「?」
 だから、どうしたとよく分かっていない澄に、望はいやらしい笑みを浮かべ
た。
「えっち」
 澄の顔が、一気に真っ赤になった。
「ふ・ざ・け・る・な!」
 出た拳を、望はあっさりと受け止めた。
「はっはっは、エロいなー、澄は」
「歩弓を手伝ってくる!」
 その手を振り解くと、澄は乱暴にベッドを飛び降りた。
「あいよー」
 その背を見送りながら、望は軽く手を振った。
80(13/15):04/03/08 02:51 ID:GxsYMJ7/
「思うに」
 早坂勇(はやさか いさみ)はガシガシとトースターを齧りながら、望を始
めとする四人を眺め回した。黒髪を後ろで細い尻尾のように束ねた、中性的な
印象の女の子だ……が、食べっぷりはそこらの育ち盛りの男の子を凌駕する勢
いだった。
「朝、早すぎるよね、みんな。何で?」
 ウインナーとオムレツを同時に頬張りながら、不思議そうな顔をする。
「え、えっと、それはー……あ痛ぁっ!?」
 何するのよ、と澄は望を睨んだが、彼はまったく意に介さなかった。テーブ
ルの下、澄の蹴りを自分の足で応酬する。
「習慣だよ。人間健康の秘訣には早寝早起きが一番だからな。宿題だって、眠
くなる夜より早朝の方が効率がいいんだぞ? ……動じるな」
「そ、そんな事言われたって……」
 弁慶の泣き所をやられ、澄がテーブルに突っ伏した。
「でも、確かに早起きするに越した事はないわ。遅刻者が出ないのは、風紀委
員としても大いに助かるしね」
 紅茶の匂いを楽しんでから、佐伯万知恵(さえき まちえ)はティーカップ
に口付けた。ショートボブで銀縁眼鏡を掛けた、いかにも優等生風の少女だ。
「約一名を除いてな」
「……起こすの大変なんだよね、ノノ姉ちゃん」
81(14/15):04/03/08 02:53 ID:GxsYMJ7/
 まだメイド服のままの歩弓がため息をついた。
「歩弓、だからいつも言ってるじゃない。あんなのは、水ぶっ掛けたら起きる
んだって」
「そんな事したら、後始末が大変だよ、イサミ姉ちゃん……もう行くの、二人
とも?」
「ええ、今日は当番だから。歩弓、ご馳走様」
「ボクも朝練あるからね。じゃっ、行って来まーすっ!」
 静かに席を立った万知恵とは対照的に、勇は勢いよくキッチンを出て行った。
「あ、そうだ、歩弓を除く三名」
 それに難しい顔をしてから、ふと思い出したように万知恵が振り返った。
「あん?」
「進路指導の用紙、回収今日だから忘れないように。特に望クン。また前みた
いに不真面目な事書いたら駄目よ?」
「俺はいたって真面目だったんだけどな」
「将来の目標が『世界征服』なのは、真面目とは言わないの」
「分かった。じゃあ、どっかの王様にしとこう」
「……先生に即効却下されるんだから、もう少し無難な選択肢を出しときなさ
い。あと、乃々子忘れないように、お願いね。それじゃ、行って来ます」
 今度こそ、万知恵は出て行った。
「行ってらー……しょうがない、表向きはまともな事書いとくか」
82(15/15):04/03/08 02:55 ID:GxsYMJ7/
「……裏じゃ王様なのね、あんた」
 コーヒーを啜りながら、澄は引きつった笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんは本気だよ」
「ん」
 歩弓の言葉に、黙々と朝食を食べていた佳苗が頷いた。
「何せ、ひーふーみーよー……覚えているだけで九人いるからなぁ。うち、何
人かが忘れてたとしても、最低でも四人だろ?」
 望は、この場に残った三人を見回し、苦笑した。あともう一人、神社に住ん
でいる幼馴染を入れて四人となる。
「言った責任は取らなきゃなぁ」
8367:04/03/08 02:56 ID:GxsYMJ7/
エロは浅めでした。
元ネタはラノベ板『幼馴染、その傾向と対策〜分類編』より。
本当なら第二ラウンド行こうかと思いましたが、
朝っぱらからそれはどうかと思い、やめました。制服汚れますし。
キャラクター重んじると、エロの比率が下がるしと難しいです。
それでは、次の方、どうぞです。
84名無しさん@ピンキー:04/03/08 10:14 ID:af97Oaoy
河豚とかトースター(焼く機械)を食うのかよ、と。
次は巫女服ですかね?
85名無しさん@ピンキー:04/03/09 04:26 ID:uDA+Y30c
全ての要素をテンプレ的お約束から微妙にズラした話…というのを考えてますが、読んでみたいと云う方居りますでしょうか。
実験的な要素が多くなると思うので萌えられるかどうか少々疑問ですが…。
86名無しさん@ピンキー:04/03/09 05:27 ID:FnozgbZ8
8767:04/03/09 09:15 ID:Sy5tT8UE
>>84
うっわ、ありえない。>トースター
マジすみません。
深夜だったので寝惚けてたのかも。
河豚は一瞬何のことか分かりませんでしたが、あれですか。
88名無しさん@ピンキー:04/03/09 10:26 ID:JMyduiUV
>>84
ノシ
ぜひ願いします。
むしろそういった試みから新たな萌えが生まれると思われ。
89名無しさん@ピンキー:04/03/09 10:27 ID:JMyduiUV
スマソ
>>85の間違い
9085:04/03/10 00:38 ID:FEOYQ5dn
では練ったプロットをもとに書いてまいりますです。
少々忙しいので4、5日かかるかもしれませぬ。
91名無しさん@ピンキー:04/03/10 01:58 ID:8P3dLC8w
「新しい試みブラボー」となるか
「やはりお約束は偉大だった」となるか
お楽しみってわけだ。

とりあえず、がんばれー
92前スレ812:04/03/12 02:20 ID:wysf9h9g
場つなぎ、といっては何ですが、
FDを漁っていたら、昔書いたSSが出てきたので、投下させていただきます。

・無駄に長い。
・エロ無し。
・御都合全開。
・日本語全壊。

なので、お嫌いな方はスルーしていただければ幸いです。
それでは、スレ汚し失礼させていただきます。
93プロローグ/ターニングポイント:04/03/12 02:23 ID:wysf9h9g
左右に雪の積もった道を、1人の少女が歩いていた。
中学生だろうか、学校から帰宅する途中らしい。
古風なデザインのセーラー服が、着膨れてもこもこになっているのが野暮ったくも可愛らしい。
肩を少し過ぎる長さの黒髪に、つやつやと健康そうな赤い頬と、
表情豊かにくるくるとよく動く大きな瞳が印象的な少女である。
少女の名前を、斉藤静という。
がさり。
ふと右手の茂みから音が聞こえた。
冬の初めのこの時期に、いったいなんだろうかと静は思わず警戒する。
大して害の無い狐や鹿ならばいいが、猪や最悪、冬眠しそこなった熊という事も考えられる。
このあたりで、熊が出たという話なぞはついぞ聞かないが、ありえない話ではない。
なんせここは北海道。天下の動物王国だ。
そして、ここ北海道に生息するエゾヒグマは本州のツキノワグマなんぞ目じゃないくらいにでかくて強い。
成長したら軽く2メートルを超える立派な猛獣である。
もしも、その『最悪』の部類であれば、いきなり駆け出すのはかえって自殺行為のような気がして、
じりじりと下がる事しか出来ず、かといって、いまだがさりがさりと派手な音が確実にこっちに向かって
近づいてくる薮から目をそらす事も出来ず、静の緊張が極限に達しようとしたときに、薮の中から、ぬうっと、
大きな影が現れた。
『最悪』だ。
静がそう思い、意識しない悲鳴が喉を駆け上がりかけたそのとき、
「シズカ?」
名前を呼ばれた。
いくらなんでも、熊に知り合いは居ないし、名前を呼ばれることも無いだろう。それもこんなに親しげに。
「わーっ! 熊ぁっ!」
頭でわかってはいても、悲鳴を止めるのは間に合わなかったらしい。
「…誰が熊だ」
酷く憮然とした声を聞き、ようやく、静はそれが誰か理解した。
「あれ、よーちゃんだ」
同級生の芝村洋大だった。
94前スレ812:04/03/12 02:24 ID:wysf9h9g
「脅かすのやめてよ、もう。食われるかと思っちゃった」
その言葉に、むぅ、と口をへの字に曲げる洋大。
確かに、勝手に勘違いしたうえ悲鳴をあげられ、さらに熊よばわりされた上でのこの言葉である。
むっとするのも無理は無い。
「ホントに熊だと思ったよー。よーちゃん、図体でっかいしー」
洋大の眉間に皺が寄る。
「ちょっとくらい、声を出してくれたら良いのにさー、無言で近づいてくるんだもん、すっごい怖かったんだからー」
さらに眉間の皺が深くなる。
「よーちゃんもさ、山に行くんなら、蛍光色の服着たり、鈴とか持たなきゃダメだよ。危ないよ?」
あ、皺が消えた。
「…いや」
微かに首を振って否定の意思らしきものを示す洋大。
「あー、落としたの? 鈴。本当に熊あぶないよー。道路沿いならまだともかく、山の中まで行ってるんでしょ、
よーちゃん」
その言葉にこくりと、今度は先ほどよりはっきりと首を縦に振る洋大。
さすがに小学校からずっと一緒の分校仲間の幼馴染である。洋大の言いたい事が、
今の反応だけで概ね理解できたらしい。
静はそんな風に心配しているが、洋大の腰には薮を払うための大きな鉈がぶらさがっているし、
たとえ熊と格闘になったとしても充分勝てそうな立派な体格を洋大はしている。
それでも静にとって、この友人はいまだ心配すべき対象であるらしい。
静のほうが二ヶ月ほど年長だという事も理由なのだろうが、それにしても心配性であると言えるだろう。
「ところで、よーちゃんはまたロケット?山に行ってたのも、回収しに?」
先ほどから、洋大がずっと右肩に担いでいる細長い流線型の筒に三角形の尾翼が付いた、
静の身長ほどもありそうな物体を見て、静は聞いた。
ん。
肯定。
95プロローグ/ターニングポイント:04/03/12 02:26 ID:wysf9h9g
「やっぱりそーなんだ。ねーねー、それってひょっとして新作?」
ん、…んん。
肯定、やや間をおいて否定。
「へ? どっち? 古いの? 新しいの?」
付き合いが長いとはいえ、よくもまあ、音すら出さない口許のわずかな動きだけで、
否定肯定の意思を見分けるものだが、さすがにあまりややこしい事は解らないようだ。
「…改良型。パラシュートとか、エンジンとか、その…、…色々」
「へー、今回はまたずいぶんいじったんだね。しかも、その、なんか」
それまで左側を歩いていたが、右側に回って洋大の右肩に担がれたロケットをしげしげと眺める。
「…また、大きくなってない?よーちゃんのロケット」
洋大の唇が綻ぶ。静でなくても、得意そうな表情であることが解る顔だ。
「それで、学校三日も休んだワケ? わたし、先生にプリント渡すように言われたんだから」
途端に眉が下がる。…なんというか、無表情のようだが、意外と表情は豊かなようだ。
「そんな顔しても駄目だからねー! ちゃんと学校には来なさい! はいこれプリント!」
カバンからプリントを取り出し、そのまま畳んで洋大の上着ポケットに突っ込む静。
洋大はといえば、されるがままである。この幼馴染の少女にはどうにも逆らえないものがあるらしい。
「ノートも! 見せたげるから、ちゃんと写しなさい! というわけで、今からよーちゃんちに行くからね!」
「…俺、今から今回の打ち上げのデータ纏めるつもりだったんだが…」
「ノートが先! ロケットは後! 受験生なんだから我慢なさい!」
「…わかった…」
96前スレ812:04/03/12 02:28 ID:wysf9h9g
どこか、がくり、という擬音が聞こえてきそうな様子である。
そのまま、二人は並んで歩きながら洋大の家に向かった。静の家は、洋大の家の隣にある。
と、いっても田舎の事。
「隣」などといっても家同士の距離はかなり離れていて、歩くと十分ほどもかかってしまう距離である。
とはいえ、お隣さんはお隣さん。二人は子供のころから一緒に遊び、双方の親同士も交流のある、
いわゆるところの「オムツをしていた頃からの仲」で小学校から中学三年生の今まで、
ずっと同じクラス――クラスが学年に一つしか無いせいではあるが――という、
まさに『鉄壁の幼馴染』という奴である。
しかし、その関係にも、徐々に変化が訪れていた。これは、そんな二人の転換期の物語である。
97近くて遠いひと/1:04/03/12 02:30 ID:wysf9h9g
二人並んで芝村家までの道を歩く。洋大の家は、学校からの帰り道だと、静の家の手前になる。
歩いている間も、静がひたすら喋り、洋大はそれにときおり相槌を打つ。
幼い頃から変わらない、二人の帰り道の光景である。いや、一つだけ、変わった事があった。
静は昔から、話をするときには相手の顔を見ながら話そうとする。特に他意は無く、癖のようなものである。
洋大の背がひどく伸びた今でも、そうやって話そうとするため、足元がおろそかになる事がたびたびあった。
今日も、いかにも危なっかしい様子で歩いているので、洋大が注意を促そうとした矢先に、
静がいきなりバランスを崩した。
わあとひゃあの中間のような、妙な悲鳴をあげて静がコケる、
「…っ!」
寸前。洋大の左手が、静の右上腕をしっかりと掴んでいた。そのまま引っ張りあげて、
まっすぐ立たせる。
大きな目をまんまるに見開いている静。よほど驚いたらしく、顔が強張っていた。
「…あ、ありがと、よーちゃん。びっくりしたー」
びっくりしたのはこっちだ、という目を向ける洋大。
「うん、ごめん。気をつけ、マス」誤魔化すような妙な笑顔になって、今度はおとなしく前を向いて歩き出す。
静が黙ると途端に静かになる。二人はそのまま家に向かって歩き出した。
98近くて遠いひと/2:04/03/12 02:32 ID:wysf9h9g
――やっぱりな。と洋大は思う。
何の事かというと、ここ一年程の、静の自分に対する態度の事だ。
静は昔から人懐っこく、スキンシップを好む傾向があった。
それは、同性の友人だけでは無く、洋大に対してもそうであったのだが、最近少々変わりつつあった。
静のほうから触れてくることは変わらない。
ただ、洋大のほうから触れられる事に対して、過剰な反応を返される事が多くなった。
さっき、転びかけた静を支えるために腕を掴んだ事もそうだ。以前なら、あそこまで何かに怯えるよう

な、強張った表情はしなかった。
要するに、俺がシズカを怖がらせてしまっているのだ、と洋大は思う。
そのくせ、静のほうからは幼い頃と同じように洋大に触れてくる。
そう、幼い頃と、同じように。である。
――つまり、そういうことなんだろうな。
幼い、どこまでも幸福で、今日と違う明日が来るなどと思っても見なかった優しい季節。
性別の違いなどという事を考えもしなかったあの頃。
静はあのころのままでいたいのだろう。そんなことが出来るはずも無いのに。
洋大は思う。
――もし、今のバランスを崩すような事があったら。
自分たちは一体、どうなってしまうのだろう。そんな事を考える事が、最近多くなった。


洋大の横顔を仰ぎ見て、よーちゃんは、変わったな、と静はこっそりと思う。
今でこそ、静の身長では見上げる事になってしまう、背の高い洋大だが二年前、
中学一年生までは、クラスで一番小さかった。
153センチ。
当時の静の身長である。十三歳の少女としては、大きくも小さくも無いくらいだろう。
その、大きくも小さくも無い、平均並みの身長しかない静が、それでも簡単につむじを
見下ろせるほどの背丈しかなかったのだ。
――ずるい。
それが、今の洋大への静の率直な本音であろう。
――だって、わたしはあれから三センチしか大きくなってないのに、よーちゃんだけ、ずるい。
99近くて遠いひと/3:04/03/12 02:36 ID:wysf9h9g
たかだか二年で五十センチ近く。
月平均二センチなんていう、無茶苦茶な速さで洋大の背は伸びて行った。
そうして、洋大の頭の位置が自分より低いところから、高いところへと遠くなるごとに、静は置いてい

かれたような気持ちになった。
当時の、静よりたっぷり頭ひとつは背丈の低かった頃の十三歳の洋大は、もとより内向的な性質で、不

必要なおしゃべりをする子供ではなかったが、それでも今のように必要なことすら滅多に喋らない、と

いうほど無口では無かったと、静は思う。
中一の終わりごろ、洋大の背丈がぐんぐんにょきにょきと野放図に伸びだしてから変わってしまった。
二人が通っている中学校は、全校生徒合わせても二十人ほどしかいない小さな分校で、それも小学校か

らずっと同じ面子という、学校全体が幼馴染みたいなところである。そんなこともあって、洋大がどれ

ほど無口でも、みんななんとなく彼が言いたい事は解ったし、そのまま普通に受け止めてもいた。
そして、静はまるで気がつかなかった。その頃の洋大が、今までよりもさらに口を開こうとしなくなっ

ている事に。
静が、そのころの洋大と自分を思い返してみると、確かにしょっちゅう一緒にはいたが、彼の声を聞い

た覚えはまるきり無かった。
だから、二年生へ進級する新学期に、そのころからロケットフリークで、春休み中種子島の親戚の家へ

行っていたという洋大にしばらくぶりに会ったとき、静は心底仰天したのだ。
まるきり声が変わっていた。
今まで静が覚えていた洋大の声とはまるで違う、低い声になっていた
100近くて遠いひと/4:04/03/12 02:36 ID:wysf9h9g
そのときになって、やっと静は洋大が最近やけに無口になっていた事と、それが何故だったかという事


さらにいえば、その事実に気づいて居なかったのが自分だけだったということに、激しくショックを受

けたのだった。
その事から、疎遠になったりするという事などは無く、以前と変わらず仲の良い幼馴染として過ごして

いる二人ではあったが、静はふと、自分の記憶にある高く澄んだ幼い洋大の声を思い出し、今の低い洋

大の声が、まるで見知らぬ男の声のように聞こえてしまい、奇妙な居心地の悪さを感じてしまう。
そして、そんな風な居心地の悪さを感じる自分自身に罪悪感を感じてしまい、ひどく落ち着かない気持

ちになる事が、静にはあった。
――いくら見掛けが変わっても、よーちゃんはよーちゃんなのに。
そんな風に思っては、幼馴染に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまい、静は、洋大に対し

て幼いころと全く変わらない態度をあえてとる事をするようになった。
それは、いってみれば、じきにこの場所を離れて別れてしまう寂しさへの反抗のような感情から来たも

のだったのだと、後になって静は思う。
静にしろ洋大にしろ、本人たちはよく解ってはいないが、この冬が終わって春になってしまえば、洋大

は旭川の高専へ、静は札幌の女子高へ、それぞれ進学する予定である。
同じ道内だから、休みには帰ってくるから。『だから、いつでも会える』そんな風に思っている。
でも、そんな事は間違いだ。二人にとって、これが『最後の季節』で『お別れの日』はびっくりするほ

ど近いのだ。
そして、そうなればもう二度と今の関係には戻れない。
意識には登らなくても、その事が二人の仲を、一見は、静の望んだ『一番良い季節』のころのように見

えるが、実際はどこか奇妙な齟齬のある関係にしてしまっていた。
101近くて遠いひと/:04/03/12 02:38 ID:wysf9h9g
芝村家は共働きである。
家族構成は両親に、長男長女次女に犬。
そのうち、長子たる姉(十九歳)は、とっくのとうに家を出て東京に進学し、ごくたまにしか帰ってこない。
妹の遥(七歳)は大抵、帰るなりルーク(飼犬・オス三歳)と遊びに行って、日が暮れるまでは帰ってこないのが常だ。
そんなわけで、洋大が玄関に投げ出してあった遥のランドセルを回収しながら、二人は洋大の部屋に向かっている。
重ねて言おう。二人っきりである。
普通なら、それなりに意識したり緊張したりするのだろうが、二人とも、お互いの部屋に行き来するのは当然のようなところがあってか、特に何も感じていないようだ。
つまらない連中である。
「えーと、これがお知らせのプリント。…風邪が流行ってるから、ちゃんとうがいしろってさ。で、こ

っちがこないだの小テスト。やり直しするようにー、だって」
静が三日分のプリントを先ほど自分が突っ込んだ洋大の上着ポケットからバサバサと取り出し並べ始め

る。
「で、これがノートね。今日と、昨日と、一昨日と――、…ん、これで全教科」
バインダーからルーズリーフを外して纏める。
「はい! すぐに写す! 待ってるからね」
む。とする洋大。
明日の朝すぐに返すから、今すぐじゃなくても別にいいだろう。
「だって、よーちゃんの事だから、おいて帰ったらどうせ後回しにしちゃうでしょう? 今すぐロケッ

トの飛行記録まとめたいーって、そう顔にかいてあるもん」
「…………。」
図星だったらしい。
「それで、途中でノートの事なんかきれいさっぱり忘れちゃって朝になるんだわ。…前にも、何回かあ

ったもんね?」
102近くて遠いひと/6:04/03/12 02:40 ID:wysf9h9g
ぐうの音も出ない洋大。そのまま大人しく回れ右して机に向かい、自分のノートを取り出す。
今回も全面的に洋大の敗北である。
「あ、そうだ、忘れるとこだった。明日の体育、スキーだからちゃんと一式持ってきてねー」
肩越しに軽く手を上げる洋大。了解した。という事らしい。
もとより無口な性質ではあるが、それに加えて、いったん本気で集中しだすと、周りの音すら耳に入ら

なくなる、という所が洋大にはある。
もう今からは何を言っても認識しないだろうな、と静は思い、勝手知ったる幼馴染の部屋の本棚から適

当に本を取って洋大のベッドに寝転がった。
……しばらくして、洋大はノートを全部写し終えた。たかだか三日分とはいえ、静のノートは実に細か

いのでそれなりに時間がかかる。
終わったぞ、と言おうとして背後を振り返ると、静が自分のベッドで熟睡していた。
時間がかかったといっても、それはあくまで、「それなり」である。現に、時計を見ても一時間程しか

経ってはいなかった。
いつのまに寝てたんだろう。と思いながら、静を起こそうとベッドに近づく。
103近くて遠いひと/7:04/03/12 02:41 ID:wysf9h9g
「…シズカ」
静は目覚めない。
白くやわらかそうな頬と少女らしい、ふっくらと優しげな唇に、艶々した柔らかい黒髪が、掛かっていた。
髪を払って耳に掛けてやる。そのまま、首筋に指を滑らせると、一掴みに出来そうなほど細く、
白い頸を指に感じる。
静は目覚めない。
「シズカ…」
指先だけで頬に触れる。…想像通り。すべすべして、ひどく柔らかい。
静は目覚めない。
唇が、微かに開いて、可愛らしい小さな歯が覗いている。…まるで誘っているかのようだ。
そんなふうに、思ってしまった。
――そんなことが、あるはずなどないのに。
親指で、下唇をなぞる。…自分のものとは、まるで違う。
綺麗な桜色で、ほんとうに、とても、やわらかな――。
そこで、今まで一定だった静の呼吸がふいに変わった。
目覚める前兆だ。
そのことに気づき、はじかれたように手を引っ込める洋大。
いつのまにか、ひどくベッドに――静に、近寄りすぎていた。慌てて少し遠ざかる。
むー、と可愛い唸り声を出す静。ふう、と自分を落ち着かせるように息を吐いてから、声をかける。
「シズカ、起きろ」
「…うー? なーにー? よーちゃん…」
何? じゃない、と言いたげな洋大の顔が目に入る。
「……? …! …あー、ごめん。寝ちゃってたー」
104近くて遠いひと/9:04/03/12 02:42 ID:wysf9h9g
あははー、と誤魔化し笑いをする静。洋大は静にノートを渡す。
「あ、写し終わった? それじゃ、わたしもう帰るねー」
送ってく、と上着を手に取る洋大。
短い冬の日はすでにだいぶ傾いた。静の家まで約十分。
女の子ひとりで帰らせる事など、到底出来ない距離と時間である。
他愛も無い話をしながら短い距離を並んで歩く。十年以上、何も変わらない、いつもの二人の光景。
――そう、思っているのは、静だけだ。洋大にとって、静は十分にただの幼馴染などではない「特別」だった。
静は気づかない。洋大が気づかせない。
――そうして、いつも通り、静の家の前で別れる。いつもの挨拶。いつもの「また明日」。
一体、いつになれば変えられるのか。
誰よりも、一番近くて遠すぎる「幼馴染の距離」を、どうすれば埋める事が、出来るのか――。
答えは、出ない。
105そんな冬のはなし/1:04/03/12 02:44 ID:wysf9h9g
がたがたと玄関から音がする。
芝村家の主婦、八重子が何かと思い、玄関をのぞくと、最近とみにでかくなった彼女の息子が
靴の紐を結んでいる最中だった。
この寒い中、また星を見に行くらしい。私には理解できない趣味だ、まったくあきれたものだ、
と思いながら、注意をしようと玄関まで行く。
「――洋」
紐を結び終えて振り返る。目線だけで何だ? と問う表情。
「――これ」
靴箱わきの戸棚から靴下用カイロを取り出し渡す。凍傷で足の指をうっかり無くす奴は意外と多い。
首を軽く左右に振る。
へいき。
そう言いたいらしい。
そんなわけがないだろう、とずい、とカイロを差し出す母。
自分の足元を指差し、もう貼った。と主張する息子。
そうか、と納得してうなずく母・八重子。
そうだ、と心配無用とばかりにうなずく息子・洋大。
…なんというか、独特すぎる芝村母子の無言のコミュニケーションである。


裏庭の物置からひさびさに引っ張り出した愛用のそりに荷物を積む。
そり自体も金属製の頑丈なもので、大人が四人は余裕で乗れるほど大きなものだ。
それに、断熱素材のマット、折りたたみ椅子、熱い紅茶の入った魔法瓶、
乾電池式のランタン、スコップと、天体望遠鏡のケースを積み込む。
プラトロンMSZ‐400。
去年のお年玉でようやく買った、洋大の一番の宝物の一つである。
ちなみに、もう二つの宝はいままで作ったロケットたちと、
そのデータをまとめたノートであるのだが、それはまた別の話。
106そんな冬のはなし/2:04/03/12 02:46 ID:wysf9h9g
月は満月。一月の、呼吸すると肺腑が凍る、ガラスのような大気の中、雲もなく、
蒼く蒼く澄み渡る空に、化石のような皓い月が浮かんでいる。
確かに、この寒さは堪えるが、天体観測にはもってこいの、実にいい夜である。
洋大は思う。この一ヶ月と半、自分はよく頑張った。真面目に受験生らしく毎日、
一日たりとて休まずに学校に行き、冬休みに入っても、大晦日の大掃除はあっても正月は無いというくらい、
今までに無く勉強した。
――たまのガス抜きも、必要だよな。いくら受験生だからってそう毎日机にかじりついていられるもんか。
つまるところ、現実逃避である。確かに、こんないい夜に部屋にこもって机に向かえというのは、
洋大にとっては拷問に等しいだろう。
ふと、夜空を見上げる。
どこまでも蒼い空に、星が無数に輝いている。
洋大は空を見上げるのが好きだ。
昼間のどこまでも透明な青い空も、夕方の茜色の空気の中、柔らかな藍色に星が瞬き始めるころの空も、
すべてが好きだった。
その中でもとりわけ好んだのは、今日のような晴れた夜空だった。蒼いビロードに描かれた砂絵のように、
無数に瞬く星々の群れ。
――いつか、自分で作ったエンジンを積んだ宇宙船に乗ってあそこまで行く。
子供じみた夢と言わば言え。
それが、洋大の野望だった。
大気の底から、空を見上げるたびに湧く感情。いつか、必ずあの場所まで行ってやる。
しばらくぼんやりしていたらしい。ルークに袖口を引っ張られて、ふと我に返った。
――ああ、悪い。
そりのハンドルを掴み、さっきからしきりに横で尻尾を振っていたルークと一緒に歩き出す。
ルークはよくこうして、洋大の突発的な天体観測に付き合ってくれる。…いや、洋大の天体観測に付き

合いたがる物好きがもう1人いた。
107そんな冬のはなし/3:04/03/12 02:48 ID:wysf9h9g
「おーい! よーちゃーん!」
静が自室の窓から声をかけてくる。
…説明すると、洋大がロケット打ち上げポイント及び観測場所としてよく使う空き地へは、
芝村家からはどうしても斉藤家の前を通る事になる。
ちなみに芝村家からは徒歩四十分。斉藤家からは三十分かかる、
空き地というより「原野」と表現したほうが正しいくらい、周りに人家や畑の一切無い場所である。
まあ、そういった位置関係により、洋大が突発的に思いついたことでも。
「星、見に行くんでしょー!? わたしも行くから、10分だけ待っててー!」
とまあ、こういうことになる事もままあるわけである。静は、洋大のように天体に関する知識を
持っているわけでもなんでも無いが、星を見るのは好きだった。
というより、洋大の影響だろう。
それにしても、普段からちゃんと勉強しろとうるさいシズカが珍しい事もあるものだ、と洋大は思う。
やはり、こんな夜に星を見ないというのはあまりにももったいなさ過ぎる、ということだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていると、もこもこに着膨れた静が玄関から飛び出してくる。
「おまたせー! あ、ルークもこんばんは!」
しっぽをぶんぶか振って歓迎の意を示すルークに今気づいたらしく、嬉しそうに頭をなでくりまわす静。
芝村家の愛犬、ルークはかなりの大型犬である。
血統書付きでも何でもない純然たる雑種犬ではあるが、力が強くて足が早く、勇敢で頭も良けりゃ鼻も
利く、その上性格は温厚で飼い主に従順という、まさに理想の犬である。
ルークがこうして洋大の夜歩きや、遥の遊びに付き合うのも、単なる飼い主とペットのコミュニケーション
だけで無く、ボディーガードの意味もあったりするのだ。
ちなみに何から守るのか、というと、一番には変質者などではなく、主に野犬や猪や熊なのであるから、
このあたりの平和さが解ろうというものである。
108そんな冬のはなし/4:04/03/12 02:49 ID:wysf9h9g
で、それがどういう事かというと。
「おかあさーん! 今日はルークも一緒だから、よーちゃんが遅くまで残ってても、わたしとルークで
帰って来れるもん大丈夫だよー! ねえ、行っていいでしょー!?」
こういう事だ。
たとえ洋大が朝まで望遠鏡の前から動かなくなって、1人で帰るのが怖くても、
ルークに送ってもらえば問題は無い。
今までにも散々前例のあることである。
ルークも子犬の頃から静のことは知っているので、静の言うことは実によく聞く。
結局、斉藤家の母からはあっさりと了解が出た。
…まあ、洋大が信用されているという事だろう、たぶん。
それはさておき、観測ポイントまで二人と一匹、大きいのと小さいのと四本足のと三つの影が歩く。
まったくもっていつもの冬の光景。
いつもの空き地に着いて、洋大が望遠鏡を設置して、椅子を置く場所の雪を足で踏み固め始める。
この作業を怠ると、後で椅子や望遠鏡がひっくり返って悲惨な事になったりするのだ。
その間に、静は荷物をそりからいったん降ろし、断熱マットと持参した座布団をそりの底に敷いて、
ルークと共にそりの中に座る。
これが、いつもの二人と一匹の天体観測の光景である。
109そんな冬のはなし/5:04/03/12 02:51 ID:wysf9h9g
静は、そりの中で寝転びながら星空を見上げていた。
二人の間に沈黙が横たわる。これも、いつもの事だ。慣れた沈黙は、かえって心地良いものである。
「…ね、よーちゃん」
うむ、何だ。と望遠鏡を覗きこんで顔も向けないまま合槌を打つ洋大。解っているのかいないのか、
静は言葉を続ける。
「もうじき、受験だし、その後は卒業でしょう? …こんな事するのも、もう後何回も無いんだよねえー…」
静が、そんな事を言い出すのは初めてだったので、洋大は驚いて、静のほうに顔を向けた。
そんな洋大を見て、慌てたように上半身を起こし、ぱたぱたと顔の前でごまかすように手を振る。
「あ、ち、違うのよ? 別にさ、ただ、ちょっと、もうじき、こんな事できなくなるんだなーって思っただけで、
 別に、平気よ?」
「…別に」
「う、うん! そーだよね! 別にさ、二度と会えないって訳でも無いもんね! 同じ道内なんだしさ。
 だから、何が変わるって物でも、無いわよ。あは、あはははー…」
何故か、妙に感情的になっていく静。
「違う。俺は、別に」
「だから、へいきだってば! 寂しくなんて、ないんだからっ!」
静の眉間に皺がよって、口をぎゅうっと引き結ぶ。
完全に癇癪を起こしている。
「聞け!」
物凄く珍しい洋大の大声に、びくり、と、まるで引っ叩かれたように身体を縮こませる静。
「…俺は、別に、寂しくて当たり前じゃないか、と言いたかっただけだ。まるっきり平気だ、
 なんてヤツ、いないだろう」
その、洋大の言葉に、へいきだもん、と返す静。
「…シズカ」
「…へいきだもん。また、夏休みになったらみんなと会えるもん。だから、へいき――」
「…シズカっ!」
「だって! 寂しいなんて思ったら、もう二度と会えないみたいじゃない! 今と変わっちゃうみたいじゃない!」
「…新しい場所に行けば、それは、変わるだろう。変化しないなんて、無理な話だ」
「そんなの、やだよ。…よーちゃんは、変わらないよね? ずっと、ともだちだよね?」
今までと、変わらず? 触れる事もできない、距離のままで?
「…シズカ、俺は」
「…よー、ちゃん?」
110そんな冬のはなし/6:04/03/12 02:53 ID:wysf9h9g
目の前の少女の肩を掴んで、抱き寄せた。
「…俺は、ともだち、なんかじゃない…!」
息が、詰まる。
腕の中の、まるで骨が無いみたいに柔らかな身体。
力任せに抱きしめているのは自分の方のはずなのに、なぜこんなに息が苦しいのだろう、と、
洋大はぼんやりと思った。
「俺は、おまえが好きだ。…友達では、いられない」

いきなり抱きしめられた。
苦しくて、離してほしくて、必死に暴れた。
耳元に熱い息がかかって、ぞわり、と、鳥肌が立つ。
そのとき、信じられない事を、言われた。
びっくりして、呆然としていたのだと思う。
次の瞬間、がつん、と歯と歯があたって目の前に火花が散った。
力任せに強く掴まれた腕がひどく痛い。
圧倒的に暴力的な男の力。
ぬるり、とひどく気持ちの悪い感触が口内に入ってきて、静は反射的に歯を立てる。
洋大の肩がぎくり、と一瞬震え、鉄錆びた味が口腔の中いっぱいに広がった。
それでも、洋大はやめてくれなかった。
いつのまにか、顎を掴まれていて、口を閉じる事もできない。
なにがなんだかわからない。
何故か、こめかみのあたりがひどく冷たかった。
怒ったような、泣き出す直前のような、奇妙な表情をした洋大と、その後ろに煌めく星空が見えて。
そこでようやく、静は自分がべそべそと、子供のように泣きじゃくっていたことに気がついた。

洋大が上体を起こしてくれて、上着のポケットから取り出したハンカチを渡す。
静が顔を拭っている間に、そりにルークを繋いだ。
ハンカチに顔を埋めたまま、身じろぎもしない静を抱き上げようとすると、目に見えて静の体が強張った。
洋大は一瞬躊躇したが、静を抱き上げると、そりに乗せる。
ルークの背中を軽く叩くと、そりは静の家に向かって走り出した。
家に向かって走るそりの中、抱き上げられたときの「ごめん」と言う洋大の声を、静は思い出していた。
111前スレ812:04/03/12 02:57 ID:wysf9h9g
すいません、予想よりも遥かに長かったので、
残りはまた明日にでも。
場つなぎには長すぎました、申し訳ありません。
112名無しさん@ピンキー:04/03/12 03:51 ID:IPv3iPIo
GJ!!!!
113アザラシ:04/03/12 20:46 ID:RKruOQ1N
「あ、そのままそのまま。もうすぐ終わるからな〜〜」

私は悠介の前に座ってる。一日の内で一番幸せな時間。
その悠介は今日も軽いタッチで飄々と鉛筆を走らせてる。彼が絵を描き始めて以来、私はずっとモデルをやってるんだ。
初めの頃は何十分もじっとしてるのが嫌で嫌でしょうがなかったんだけど、最近は悠介と二人っきりになれるこの時間が楽しみになっちゃってる。

「腹減ったよなぁ・・・いくら誕生日だからって俺らもう17だぞ!?母さんもメシ一つにこんな気合入れることないだろぉ・・・しっかし腹減ったなぁ・・・・・・」

実は私と悠介の誕生日は同じ。ナント生まれた時間までほとんど同じなんだ。
その頃私の家族(って言ってもお母さん一人なんだけど)は悠介の家の隣に住んでて、

「やっと悠介産んで一息ついたらさ、隣からも赤ちゃんの声が聞こえたんだよ。もーホントびっくり!」

って、おばさんは何かある度に笑いながら話してくれるさ^^
それ以来私と悠介はずっと一緒。いつも悠介の家の庭で走り回ってた。お母さんは悠介と遊んだって言う度に凄く嫌な顔をしてたけど、気にしないでいつも遊んでた。
114アザラシ:04/03/12 20:47 ID:RKruOQ1N
私達の2歳の誕生日の時、悠介の家でケーキをご馳走してもらって家に帰ったら、お母さんがいなかった。元々家にはあまり居ない人だったけどその日は何時になっても帰ってこなくて・・・
次の日の夜、ひどい嵐の中おばさんが様子を見に来てくれて、事情を察して私を連れて帰ったんだ。その瞬間から今に至るまで私は悠介の家のイソウロウ。

「悠介〜!小夜〜!ご飯だよ〜〜!」

「お!メシだメシ!小夜ぉ、去年みたいに食い過ぎで腹壊すなよ!」

(大きなお世話ですよ!)

心配してくれてるのか、からかってるだけなのか、そんな悠介を無視って私はおばさんの所へ。
正直私もお腹すいてたんだ^^座りっぱなしで体も痺れかかってたしw
115アザラシ:04/03/12 21:01 ID:RKruOQ1N
  _/ ̄ ̄ ̄ ̄\    
 煤Q    ∪ ゚Д゚) エロパロ初カキコです。
              このスレに来たのは今日が初で、
              記念に書きかけの文章を投下してみました^^
              元々私は電波な文章しか書けないのですが、
              もし希望があればエロにも挑戦してみようと思います。
              自分自身では作品の表現力、文章力を客観視出来ないので
              よろしければ簡単な批評をしていただけると助かります。
116名無しさん@ピンキー:04/03/12 21:24 ID:yNov1o1F
>>115
電波ねえ…
別に普通の文章だと思うけど。けっこう読みやすいし好きだけどな。
ただ、^^とか、wとかはSSの文章では使わない方が良いと思う。

何にせよ面白そうなので続きをキボン
117名無しさん@ピンキー:04/03/13 02:36 ID:OwXIvib/
今日は前スレ812氏の投下は無いのか。。。続きキボン
118名無しさん@ピンキー:04/03/13 09:08 ID:RNIJKggh
前スレで猛烈な勢いで作品を投下していた81さんはもうこないのだろうか?
119前スレ812:04/03/13 15:00 ID:UOxLZgFw
>117様
ありがとうございます。
少し手直しをしておりました。
エロも無いくせに残りも猛烈に長いのです、申し訳ありません。

それでは、最後まで投下させていただきます。
120パンドラ/1:04/03/13 15:01 ID:UOxLZgFw
その日、円谷円(十五歳)はひたすら惰眠を貪っていた。
苛烈な受験戦争に身も心も磨耗しきった哀れな受験生が、
全てが終わってひさびさにありついた泥のような睡眠である。
結果なんぞ、今は考えたくも無い。もう何も考えずに、スイッチが切れたように、ただ眠りたかった。
神様だってアメリカの大統領だって、たとえ怒れる母親であっても邪魔をする権利は無いはずだ。
と、いうわけで、円はたとえ火事になろうが大地震が起きようが斧を持った殺人鬼が乱入して来ようが
あたしは絶対に眠り続けるぞ。という不退転の決意を持って、太陽が中天に差し掛かろうかという今も、
ひたすらに眠り続けている。
だというのに、その眠りに邪魔が入った。
ピリリリリリ。
部屋の隅で充電器に挿しっぱなしにしていた携帯電話の着信音だった。
半覚醒の意識の中で、ああ、そういえば電源を切るのを忘れていた、しまったな。まあいい、
誰か知らないが直に諦めるだろう、と見当をつけて布団に深く潜りこむ。
ピリリリリリ。
ピリリリリリ。
電子音は鳴り止まない。
ピリリリリリ。
ピリリリリリ。
ピリリリリリ……。
「ぬがあーッ! くそったれえッ!」
十五歳の、花も恥らう年頃の乙女としてはいささか適切ではない雄叫びと共に布団から這い出す円。
121パンドラ/2:04/03/13 15:03 ID:UOxLZgFw
我が眠りを覚ます者に呪いあれ。そんな気分のまま携帯電話の通話ボタンを乱暴に押す。
「はい円谷ですっ!!」
「…え、えんちゃん…? あ、あの、あのね…」
「…静か?」
友人の斉藤静だった。はっきりいって、彼女が携帯に掛けてくる事は珍しい。
何か、緊急事態でも起きない限り、掛けてくる事は全く無いと言っていい。
つまり、静にとってはよっぽどの事があって掛けてきたという可能性が極めて高いという事だ。
数瞬の間にそこまでの結論に辿りつく。その思考を裏付けるかのように、電話の向こうの静の声は、
どこかひどく切羽詰っているようだった。
「今どこに居るんだ? 家? …ああ、うん。とりあえずあたしの家に来いよ。話くらいなら聞けるから。
…ああ、解ってるって。じゃあ、待ってるから」
ぴ。という音と共に電話が切られる。
ありがとう。
最後に聞こえた静の声は、円には、どこか泣くのをこらえているように聞こえた。
普段のどこかぽややんとした雰囲気と、落ち着きの無い挙動のせいで、誤解されやすいが、
ああみえて静は結構我慢強い。
何か、悩んでいる事があってもギリギリまで自分で何とかしようとするし、人一倍涙もろい癖に、
人前で泣く事は我慢しようとする。
つまり。
「――やーっぱ、なんかあったんだろうなー、こりゃ」
ぼふ、とベッドに頭をもたれさせてから、よいしょっと気合を入れて立ち上がる。
つー事は、洋大の事かなあ、冬休みが終わってからあいつらどうも変だったし。などと考えつつ、
すっかり冷え切っていた部屋の温度を上げるために暖房をつけてから、暖かい居間で着替るために部屋を出る。
正月が明けて冬休みが終わって、中学生活最後の記念すべき新学期。
洋大と静、二人揃ってあからさまに様子がおかしかった。
何も無かったように振舞えている、と思っているのは本人たちだけで、クラスメート、つまり、三年生全員が、
「ああ、何かあったな、こいつら」と悟るのには一時間もかからなかった。
なんせ、普段しょっちゅう洋大にかまう静が、一日中洋大を避けていた。
洋大は洋大で、普段から置物のような男(ちなみに、彼のあだ名は『モアイ』である。命名者は円だ)ではあるが、
それがさらにひどかった。
122パンドラ/3:04/03/13 15:05 ID:UOxLZgFw
しかも、その日から二人とも、異常なまでに勉強をしはじめた。
今までも、比較的真面目に受験勉強に勤しんでいたほうだったが,常軌を逸していると思うくらいだった。
『まるで、何かから逃げているみたいだ』そういったのは誰だったか。
とにかく、いくら本番一ヶ月前だからという事を差し引いても、異様な熱の入りようだった。
二人とも、冬休み前の模試では、第一志望の合格圏内に余裕で入っていたのだ。油断するべきではないが、
無理をすることは無いだろう。
静はどんどん顔色が悪くなって、おまけに日に日に笑わなくなっていった。洋大の表情や顔色はよく解らないが、
それでも何か悩んでいる事くらいは皆、解った。
普段から人数の少ない分、団結力がやたら強い学校である。
クラスメート達は、そりゃもう心配した。
それが一日二日なら、何も言わなかったかもしれないが、三日も続くと流石に何があったのか気になった。
野次馬根性も多少あったのは確かだが、それ以上に二人のことが、みんな心配だった。
心配はしたが、いつにも増して、異様にテンションの高い静は、
あからさまに空元気で――「だって、洋大の『よ』の字が出ただけであからさまに固まるんだぜ?」
とは円の談である――あまり突っ込んだ事はとてもじゃないが聞けなかった。
かといって、もう1人の当事者であろう洋大から何か物事の詳細を聞きだすのは、
ゾウリムシに芸を仕込むよりも困難だろうと、全員の意見が一致した。
そして、一週間が過ぎた頃の、二人を除くクラス全員の事態の対応への結論は
「とりあえず、静観」という物だった。
薄情と言うなかれ。
受験前の一番ピリピリした時期にそこまでのおせっかいを焼くほど余裕のあるやつは誰一人としていなかったし、
本音を言えば、はっきりした事態の解らない第三者が首を突っ込んで余計に拗れさせるよりも、放っておいたほう
がいいだろう。という事もあった。
123パンドラ/4:04/03/13 15:07 ID:UOxLZgFw
円も、そのことに付いては激しく同感ではあったが、相談されれば力になってやりたいという気持ちはあったのだ。
「…さーて、なにがあったんだーろねーい」
――まあ、静のこったから、十中、八九、洋大のことだろけどなー。
妙にウキウキしたような口調で呟きながら、もそもそと着替える円。
完全に面白半分である。…心配も半分はあると信じたい。彼女達の友情のために。


静が来たのは、それから30分後だった。
上下ジャージにどてらという、着替えたことに何か意味があるのか本人以外には激しく疑問のある格好の
円が玄関を開けると、面接官の前でもここまでの緊張はしないんじゃないか、と思う、まさに『決死の覚悟』
としか表現の仕様の無い異様な面持ちで静が立っていた。
こりゃ、相当だなーと内心思いつつも、とりあえず、自室に通しておき、茶と茶菓子を出す。
「とりあえず、番茶とせんべいなんつー色気の無いモンしかないが、構わないよな?」
「え、あ、うん。あの、さっき電話で言いかけた事、だけど、なんていうか、ちょっと、うまく言えないかもっていうか、
その、あの、ちょっとね、なんていうかあの」
「…いや、まあ、とりあえず、茶ァ飲め、茶。ちょっと落ち着いてから話そうぜ? あたしも喉は渇いてたんだ」
「あ、うん。ごめんね…」
しばし二人で茶をすする。
暖かいお茶が、少しは緊張をほぐす役に立ったのか、目に見えて静の表情がやわらいだ。
124パンドラ/5:04/03/13 15:08 ID:UOxLZgFw
「…よし、ちったあ、落ち着いたみてえだな」
「う、うん。お世話かけましたー…」
「別にいいさ。…ま、前置きすんのも、いまさらアレだし、単刀直入に聞くぜ?『相談したいこと』ってなァ、
洋大の事か?」
一瞬、顔を強張らせて、ぎこちなく微笑む静。
「――直球だね、えんちゃんは」
まあ、いつもの事だけど。と呟く静。
へっ。と鼻で笑って、円は先を促す。
「――あのね、冬休みの話なんだけど――」
そこまでは、円の予想の範囲内だった。
そこから先は、少々予想を越えていた。
一ヶ月と少し前の、三学期が始まる少し前の晴れた夜の事を、静は話した。
自分が癇癪を起こした所で、自己嫌悪がよみがえってきたようだった。
洋大にいきなりキスをされた所の話では『キス』という言葉のところで必ず口ごもってつっかえた。
まあ、我慢してたほうだよな、洋大も。とりあえずそこまでで止まって良かったな。とか、
静がそこまでこの町を離れることにプレッシャーを感じていたとは知らなんだ。とか、我慢強いヤツほど、
切れるときは意外とあっさり行っちまうものなのかなあ、とか。とてもじゃないが、静には言えない感想をいくつか
円は抱いたが、流石に口には出さなかった。
そのかわり、こんな事を聞いてみた。
「その調子じゃ、自分の問題はわかってんだろ?」
こくり、と頷く静。その後で、自信が無さそうに、たぶん。と呟く。
「で、相談ってのは、自分じゃ無くて、あくまで、洋大との事なんだな?」
これまた、こくり、と頷く。
ふん、と鼻を鳴らして、静の顔をまっすぐに見て、円は口を開いた。
「――それで、おまえはさ、どう思ってるんだ?」
「――え?」
わざと、突き放すような、冷たい口調を作って、静に聞く。
「え、じゃないだろ? 無理やりキスした洋大が許せないか? 嫌いになったか? それとも違うのか? 
おまえの気持ちはどうなんだって聞いてるんだ、あたしは」
なにも答えられず、うつむく静。
「――わたし」
「わたし、よーちゃんのこと、きらいだなんて、おもえない。ゆ、ゆるせないとか、も、たぶん、ちがうと、おもう…」
125パンドラ/6:04/03/13 15:10 ID:UOxLZgFw
訥々と、せいっぱい声を絞り出すようにして、話す静。
「めんどくさい事、考えない方がいいぞ。好きな男にキスされりゃ嬉しいもんだし、嫌いな男だったら
それこそタマ引きちぎって息の根止めても腹の虫が納まらねえってモンだ。
――で、お前は別に嫌じゃなかった。それ以上の事、考える必要があるとも思えねェがな」
「――う、けど、わたし、よーちゃんが、あ、あんな事するなんて、思っても見なかったから…、
嫌と か、う、嬉しいっていうか、その、すごく、びっくりして――」
それを聞いて、先程の突き放すような声音ではなく、少し優しい声になる円。
「な、静。おまえさ、なんていうか――、洋大のこと、幼馴染としてだけ、見ていたいんだな」
びくり、と怯えるように静の肩が震える。
「――えんちゃん」
やめて。と声にならない声で嘆願する静。
「いいや、止めない。おまえも――、いや、おまえが一番解ってて、望んでるはずだ。
答えはすでに見つけてんだろ? おまえは、その答えを直視するのが嫌で、自分で認めるのが嫌で、
箱に入れて、鎖を巻いて、鍵を何個も何個も掛けちまって、最初から無かったって事にしたいだけさ。
それを、洋大が鍵を開けちまったから、そんな風に、慌ててるんだろう? 
――あの野郎は、箱の蓋を開けはしなかったみたいだがね」
まったく、妙に詰めの甘いヤツだ、と独り言のように呟く円。
「もう一回、聞くぞ? おまえは、洋大の事を、どんな存在だと、思っているんだ?」
静は、呆然としていて、言葉もでない。大きな目をさらにまんまるに見開いて、じっと円を凝視している。
数分が経過してから、ようやく静が口を開く。
「――えんちゃん、わたしね」
黙ったまま、ただ静の言葉だけを聴く円。円に呼びかけてはいるものの、円に対してというより、
自分自身に言い聞かせるような口調だった。
「わたしね、よーちゃんの事が、怖かったよ。いつのまにか、知らない人みたいになっちゃってて、
すごくすごく怖かった。そんな風に思っちゃ駄目だって思うのに」
126パンドラ/7:04/03/13 15:12 ID:UOxLZgFw
箱の蓋が開く。
「よーちゃんが、男の人になっていくのが怖かった。わたしの身体が、どんどん変わって丸くなっていくのが
嫌だった。大人になったら」
そこで一旦、息をつき、深呼吸をする。その先を口に出すのは、自分で認めるのは、少しばかり、勇気がいった。
「――大人になって、よーちゃんと、みんなと。この町を離れるのが、すごくすごく嫌で、寂しくて、悲しくて、
怖かった」
「だから、昔のままで、ずっと、いたくて、よーちゃんにもそれを強制しちゃってた。わたし、ひどいことしてた――」
――ああ、言葉にしてしまうと、こんなにも簡単な事だったのか、と静は思った。
夜、暖かな布団で眠りに引き込まれる瞬間の、形の無い悪夢のような不安。それは、ひどく子供じみて、
愚かしくて。――だからこそ、切実な恐怖感だった。
認めてしまえば、こんなにも簡単な事だったのか。今まで訳もわからず怖がってばかりいた自分がひどく滑稽に
思えて、静は思わずふきだした。笑いながら、泣いていた。
「…なんかさ、ばかだよねえ、わたしってさ」
帰ったら、よーちゃんのところに行こう。そして、ちゃんと白状して、今までの事を謝らないといけない。
怖がったりして、ごめんなさい、と。
「――いや、まあ。おまえがあいつのこと怖かったのって、本能的に危険を察知してたからってのもあると
思うんだが――」
小動物が、自分を捕食する肉食獣を見て怯えるように。
そんな事を円は思ったが、静には伝わらなかったようだ。
何かを決意したらしく、ひどく懸命になって、肩に力が入っているのが、傍から見てもよく解る。
127パンドラ/8:04/03/13 15:13 ID:UOxLZgFw
静は思う。
押し込めて、蓋をした。
無かった事にしようと、鍵を掛けた。
――そして、存在すら忘れてしまっていた。
そんな気持ちを、救ってあげないといけない。
自分を甘やかす嘘をついて、ごまかし続けて逃げるのは、もうやめた。
こんな、ずるい自分をいままでずっと見ていてくれた、いちばん大切な男の子に、言わなければならない事もある。
「あとね、いちばん大事なことも言わないとダメだし。――わたしは、よーちゃんの事が男の人として好きなんだって」
少し照れくさそうな、はにかむような笑顔だった。
間違いなく、円がいままで見てきた中で、いちばん良い笑顔だった。
「ありがと、えんちゃん」
「ああ、頑張れよ。要はさ、おまえ、洋大と離れるのが嫌なだけだったわけだし。両思いってやつじゃねえか。
大丈夫、旨くいくさ」
うん、と微笑む静。うん、でもね。と続ける。
「わたし、えんちゃんと離れるのも、つらい。今日は、いきなり押しかけてきたのに、ありがとう」
「本当に、えんちゃんと友達で、よかった」
そんな、ずるい自分の本当の気持ちに気づかせてくれた親友に、心の底からの礼を言った。
いままでの、あまったれで子供過ぎた、情けない自分から抜け出すための、最初の一歩の言葉だった。
128ある晴れた冬の日に/1:04/03/13 15:14 ID:UOxLZgFw
太陽はずいぶん西へと傾きはじめている。
もう、あと何時間もしないうちに、夕日は雪原を紅く染めるだろう。
昨日、受験を終えて、旭川から帰ってきた洋大は、久しぶりに愛犬と共に『打ち上げ場所』にやってきていた。

雪原を走り回るルークを横目に、雪原にごろりと横たわる。
――あの日以来、ずいぶんと久しぶりに、空を見上げた。
静とは、もう一ヶ月以上、まともに顔をあわせていない。
本当に、幼い頃からの付き合いで、今までに幾度と無くケンカをしたことはあったが、
いつも次の日には仲直りをしていた。
こんなに長い間、会わないことは、初めてだった。
いや、顔を合わせない、という事だけなら、初めてではない。
二人が十三歳だった、あの夏も、一ヶ月近く会う事は無かった。
洋大が、静の背丈を追い越した、あの夏の日。
思えば、あの頃から二人の関係は変わっていたのだと思う。
ただ、お互いその事をごまかし続けていたというだけの話だ。
いつか、破綻は来るはずだったのだ。それが、たまたまあの夜だったということだ。
…ただ、それだけの事だろう。
洋大は、静をただ守りたかった。
それと同じくらい、壊してもみたかった。
その、捩れた衝動は、洋大の背丈が静よりも大きくなるごとに、同じように大きく強くなっていった。
129ある晴れた冬の日に/2:04/03/13 15:14 ID:UOxLZgFw
自分自身でも制御できない感情。魂が根こそぎ惹かれ、奪われる感覚。
そんな感情を起こさせる静に対する苛立ちを覚える、自分自身への嫌悪感と怒り。
それが、あの夜、ついに弾けた。
――傷つけたく、なかった筈なのにな――。
約一ヶ月と半分。
短いといえば短いが、洋大にとっては凄まじく長かった。
その間、静が自分を徹底的に避け、教室でも自分が近くにいると、緊張している様子が、
洋大には手に取るように解った。
夜もよく眠らずに勉強しているのだろう、静の顔色が悪くなって、笑顔が無くなっていくのを見るのは辛かった。
何故、夜も眠らずに勉強しているとか、そんな事が解るのか。
答えは簡単。
自分も、そうだからだ。
静のことを徹底的に避けた。近くにいると、ひどく緊張した。
自分がしでかした事を考えるのが嫌で、受験勉強に逃避した。
あのときの静の泣き顔と泣き声を夢に見るので、自分をギリギリまで追い込むように机に向かい、
ネジが切れるように、夢も見ない眠りについた。
そのおかげか、試験の出来は上出来だった。自己採点が間違っていなければ、合格は確実だろう。
四月が来れば、自分はこの町を離れる。
そうすれば、静に二度と会う事も無く生きていく事は可能だろう。
――そうしようと、決めた筈なのに。
胸が痛い。自分の未練がましさに吐き気すら覚える。
自分は取り返しの付かない失敗をしたのだ。彼女の気持ちは解っていたのに。まだあんなに幼かったのに。
130ある晴れた冬の日に/3:04/03/13 15:15 ID:UOxLZgFw
シズカにとっては、手酷い裏切りだっただろう。あの優しい世界をくだらない劣情で穢したのは自分だ。
なのに。
それなのに、自分はまだシズカが、好きで好きで仕方が無いのだ。もう、気持ちを押し込める事は
できそうに無かった。
――だからもう、二度と。
分厚いコートに、雪の冷たさが凍みこんでくる。
――会うことは、できない。
感情の堰が切れてしまった今となっては、いままでの関係を何食わぬ顔で続けられるほど、
自分は器用では無かった。きっとまた、傷つけてしまうだろう。
それなら、二度と会わないほうが、まだマシだと、洋大は思ったのだ。
空は、地上の人間の気持ちなど余所に、ただただ、どこまでも青かった。
その眩しさに、目を閉じていると、ふいに、耳慣れた軽い足音が聞こえた。
一秒で、誰が来たのか解った。
二秒間、自分の判断が信じられなくて、呆然とした。
三秒、逃げるかどうするかを迷った。
そこで、まぶたの裏が暗くなって、人影が自分を覗き込んでいることが分かり、観念して、目を開けた。
「…そんなとこで寝てたら、風邪、ひくよ?」
静だった。
131ある晴れた冬の日に/4:04/03/13 15:16 ID:UOxLZgFw
円の家からの帰り道、そのままの足で芝村家に向かった。
最初は普通に歩いていたはずが、いつのまにか走り出していた。
息を切らして玄関に駆け込んできた静を迎えたのは、洋大の妹の遥だった。
昨日が試験日だった事は知っていた。遥に、洋大は帰ってきているか、と聞くと、
ルークを連れて外出した。どこにいったかは解らない。という答えだった。
あそこだ。
何故か、直感した。
ひさしぶりに、大好きな『シズねーちゃん』が来てくれて、遊んで遊んでとなついてくる遥に、
ごめんねごめんね今日はお兄ちゃんに大事な用事あるからまた今度ね。といって、芝村家の玄関を飛び出した。
そこからまた、走って走って『打ち上げ場所』に行くと、見覚えのある大きな身体が雪原に横たわっており、
近くでルークが走り回っていた。
心臓が破れそう。
たぶん、これは、必死に走って来たからだけではないと、静は思った。
どうしようどうしようと、いまさら意気地なく、回れ右して逃げ出したくなる気持ちを押さえつけ、
洋大の元へゆっくりと向かった。
本当に、眠ってしまっているのだろうか?
自分が、雪を踏みしめる足音が聞こえない筈も無いのに、目を瞑って横たわっているので、
ふと、不安になって横に立って顔を覗き込む。
そうすると、気配を感じたのか、洋大が目を開いた。
安堵して、声をかけた。
目を開けて、静を見上げた洋大が口を開いた。
「――どうして」
ひどく呆然としたような、何が起きているのか、よく解らないような声音だった。
俺の顔など、二度と見たくは無いだろうに。
洋大は、そう思った。本当に、何故静がわざわざ来たのか、解らなかった。
132ある晴れた冬の日に/5:04/03/13 15:17 ID:UOxLZgFw
ここは、思い出したくも無い場所のはずだ、静にとっては。
いたたまれなくなって、立ち上がる。
静に見下ろされて、表情を悟られてしまうのが嫌だった。立った状態でいれば、
身長差のおかげで顔をまじまじと見られることは無い。
「――どうして、来たんだ」
そう、繰り返す。
「謝らないといけない事と、伝えなきゃならない事があるから。今日、どうしても会わなくちゃいけなかったの」
洋大の問いに、ふわりと微笑んで静かは答えた。
「――別に、おまえは、何も」
謝る事なんて、ないだろう。と言いかけた洋大を遮るように言葉を続ける。
「わかったから。わたし、自分が何してたのか、何を望んでたのか、やっとわかった。…ごめんなさい」
それは、ひどく抽象的な言葉の断片。
でも、それでも。洋大には静が何の事を言っているのか、何を言いたいのか、解ってしまった。
もう一度、ごめんなさい、と、呟く静。
「ごめんなさい、…わたし、わたしね、よーちゃんの事が、怖かった。どんどん男の人になって、
知らない人みたいになっていくよーちゃんが怖かった。――わたしが、変わってしまう事が。
大人になって、この町から離れることが、今、大事に思ってる気持ちも忘れちゃうかもしれない事が、
すごく怖かった。 …自分で、夢のために選んで決めた事なのに、おかしいけどね…。
だから、せめてよーちゃんとだけは、子供のときのままでいたかったんだ。きっと」
いちばん大切な思い出たちは、いつも洋大と一緒のものだった。だから、余計に執着した。
「巻き添えにしちゃった。絶対やっちゃいけない事だったのに。よーちゃんの事、全然考えても見なかった。
…本当に、ごめんなさい」
「謝るのは、俺の方だ。…おまえが、悪いわけじゃない」
「…よーちゃんは、そうやって、ずっとわたしの事、気にして、守ってくれてたよね。
…わたし、全然気が付かなかった」
「シズカ、違う。俺は」
もう一度、シズカはにこりと微笑んだ。洋大が何を言いたいのかは解っているつもりだ。
伊達につきあいは長くない。
133ある晴れた冬の日に/6:04/03/13 15:18 ID:UOxLZgFw
――ああ、こうやって、わたしは、よーちゃんに守られてたんだ。
今までの自分の不甲斐なさが情けなかった。
言わなきゃ駄目だ。決めたんだ。
ちゃんと、対等の立場で、手を繋いで、これからもずっと、一緒に歩いていけるように。
顔を上げて、まっすぐに洋大の目を見て、言った。
「あのね、わたし、よーちゃんが好きよ。…ちゃんと、よーちゃんとおんなじ意味で」

何が起きたか本気で解らなかった。
泣かれるだろうと思っていた。
怖がられるだろうと思っていた。
びんたの一発くらいは来るかもしれないと思っていた。
洋大にとって、静のこの言葉は本気で予想の範囲を軽く超えていた。
なんせ、自分は手前勝手な恋心を、相手の気持ちも碌に考えずに押し付けたあげく、
いきなり押し倒すわキスはするわ、そのうえ初めてなのに舌は入れるわなんぞという事をしでかしたのである。
だから、二度と顔を合わせられないと、思ったのだ。
「シズカ、おまえ――。自分の言ってること、解ってるか」
自分と、同じということは、つまり。
「うん、ちゃんとわかってるつもり。…今までが今までだったから、信用されてなくてしょうがないと、思うけど。
一ヶ月以上、ずっと考えて、でも自分ひとりじゃわかんなくて。えんちゃんに、相談しにいって。
…それで、ようやく答えが出た。…あの、あのね、よーちゃん、わたし、よーちゃんのこと――」
134ある晴れた冬の日に/7:04/03/13 15:18 ID:UOxLZgFw
「シズカ。俺は、おまえが好きだ」
静の言葉を遮って、洋大がいきなりそんなことを言った。
必死の告白の途中で遮られて、きょとん。と静が固まる。
「え、う」
驚きすぎて、意味の無い音しか口から出ない。そんな静に構わず、洋大はさらに言葉を続けた。
「…スマン。…あの時の、あんな、どさくさでしか、ちゃんとおまえの事が好きだとも大事だとも言っていない。
そんなのは、嫌だからな」
けじめの問題だけじめの。と、何かよくわからないことを、ぶつぶつと呟く。
憮然としたような表情だが、顔色は真っ赤である。
「よーちゃん――」
「俺にとって、おまえの事は、いちばん大事とか、いちばん好きだとか、それもあるけど、それだけじゃなくて」
上手い言葉が見つからなかったのか、ここで、困ったように口ごもって、天を仰ぐ。
ややあって、真っ赤な顔で、静の目をまっすぐに見つめて、口を開いた。
「俺は、おまえに、さわりたい」
好きだとか愛してるとか大事だとか離れたくないとかだけじゃなく。
身体目当てと罵られるかもしれない。それも確かにあるけれど、その前の、いちばん正直で単純なきもち。
『大好きなひとに、さわりたい』
その言葉を聴いて、静は洋大の身体に手を回し、力いっぱい抱きついた。
「シ、シズカ――」
うろたえる洋大の胸に頬をつけ、ぎゅうぎゅうと抱きついた後、勢い良く顔を上げて、こう言った。
「わたしも! よーちゃん、大好きー!」
弾けるような、笑顔だった。その行為が、その笑顔が、なにより雄弁に静の洋大への気持ちを語っていた。
そのままぎゅうっと。洋大は、静を抱きしめ返した。
いつのまにか、夕日が白い雪原をあかくあかく染めていた。
その、茜色の大気の下で、二人は二度目のキスをした。
今度は、小鳥のついばむような、優しい、優しい、キスだった。
135エピローグ/たとえ遠く離れても:04/03/13 15:20 ID:UOxLZgFw
そりに、ロケットと発射台を積み込んで家を出る。
空は雲ひとつ無い、呆れるほどの快晴。しばし、足を止めて、洋大は空を見上げた。
三月。合格発表はとうに終わり、卒業式も、先日済んだ。
結局、受験の結果はどうだったかというと、二人とも、第一志望の学校に見事合格。
それに伴い、洋大は旭川市にある工業高等専門学校。静は、札幌市にある短大付属の女子高へ、
それぞれ進学することになった。
他のクラスメートたちも、道内外に散らばって進学する。
もう、この町にはいない者もいるくらいだ。自分も、今週末には旭川へ行くために、荷物をずいぶん送った。
空を見ながら、しばらく呆けている事に気が付いて、そりを引いて歩き出す。
この町でロケットを飛ばすのは、おそらく今日で最後だろう。と洋大は思う。
洋大が、ロケットそのものに魅せられたのは、彼が十歳のときだったが、
いわゆるモデルロケットの類を飛ばし始めたのは、十二歳の頃からだ。
それでも、最初のうちは市販されているキットを作って飛ばしていたのが、
自分で設計をして一から作る事にこだわるようになりだした。
当然のように、失敗した。
最初の一機は、そもそもまともに飛ばなかった。
二機目は、途中で気が変わったように校長室の窓に突っ込んで、
猛烈に叱られた(そのころは中学校の校庭で打ち上げをやっていた)。
三機目は、結構な高度まで達したのはいいものの、着陸用のパラシュートが開かず、地面に激突して大破した。
136エピローグ/たとえ遠く離れても:04/03/13 15:21 ID:UOxLZgFw
そんなこんなで、自作を始めて約二年。作ったロケットはすでに三十機を超えた。
しかし、完全成功には、まだ至っていないというのが、現状である。
――今日は、今日こそは。
そんな決意を胸に秘め、一人、燃えて歩いているうちに、斉藤家の前まで来る。
玄関から、静が飛び出してきた。そのまま、二人、並んで歩く。
洋大がふと、横を見ると、静が寒そうに手をこすり合わせていた。
「シズカ、手袋、どうした」
「いや、ちょっと出るときぱたぱたしてたから、忘れちゃって」
しもやけになるぞ。と呟いて、自分の手袋を外して静に渡そうとする。
「駄目よ。それじゃ、よーちゃんが寒いじゃない。わたしはへいきだから、いいの」
こうなると、静は頑固だ。洋大は、困ったように少し考えてから、右手の手袋だけを静にはめさせ、
戸惑う静の左手を繋いで、そのまま自分のポケットに入れた。
あったかいね。と、くすぐったそうに静が笑う。
137エピローグ/たとえ遠く離れても:04/03/13 15:21 ID:UOxLZgFw
いつもの『打ち上げ場所』に付き、発射台にロケットをセットする。
成功すれば、ここからそう遠くない場所に降りてくる筈である。
「成功、するかな」
するさ。というように、洋大は静の手をぎゅっと握る。
息を詰めて、タイミングを計る。
点火。
どこまでも青い空に、銀色のロケットが火の粉を吹き上げてまっすぐに飛んでいく。
静の歓声。
上空でパラシュートが開いて、そのままゆっくりと、降りてくるのが見えた。
 
今日の事は、ぜったい一生忘れないと思う。
この町で、生まれてずっといっしょだった。
これから、今までになく離れる二人の、大事な思い出のひとつになるはずだ。
離れ離れになったとしても、忘れなければ、いつでも会える。
記憶の中に、いつでもいる。
静が恐れていたように、思い出になったから、終わってしまうわけじゃない。
終わってしまうのは、忘れてしまうからだ。
思い出が、ひとつでもあれば、たとえどれだけ遠く離れたところで、この想いが消える事は無いだろう。

頭上には、青い青い空。
その下に広がる白い大地。
ゆっくりと降りてくるロケットと、君の、声。
138前スレ812:04/03/13 15:26 ID:UOxLZgFw
以上です。
ぐだぐだと長い話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
現在書いている話も無駄に長くなりそうです。スレ消費申し訳ありません。
それでは、また。
139名無し@ピンキー:04/03/13 17:05 ID:h7HqeiN1
続きキター!!
乙です、そしてGJです!!
140名無しさん@ピンキー:04/03/13 23:02 ID:5NNIn2I/
GJ!
穏やかな雰囲気でエロ無しでも充分イケますね。

前スレの続きも期待してますです。
141アザラシ:04/03/14 01:36 ID:/0Pbb7UH
  _/ ̄ ̄ ̄ ̄\    
 煤Q    ∪ ゚Д゚)
こんばんは。素晴らしい作品の後ですごく恥ずかしいですが、
暇を見つけてほんの少し続きを書いてみました。
明日は暇なはずなので、残りを書き終えて夜には投下しようと思ってます。
あまりスレの趣旨には沿ってないかもしれませんが、
気が向いた方がいたら、もう少しだけ眺めてあげてみてください。

142アザラシ:04/03/14 01:37 ID:/0Pbb7UH
(よいしょっと!)

食後はソファに横になるのが最近の私の日課。
こうしてるとなんかおばあちゃんになった気分がして内心複雑なんだけどね。
この頃体の節々が時々痛んでさ、あんまり動く気にならないんだ。
今なら悠介とかけっこの競争しても負けちゃいそうな気分。
まぁ、それだけは私のプライドが許さないからこの事は誰にも話さないようにしなきゃ!
のろまな悠介に負けるなんて、考えただけで叫んじゃいそう。
でも、、こうやって横になってると何か気分が穏やかになって、色々なことが見えてくるんだ。
悠介がいて、おばさんがいて、私がいる。
当たり前すぎて今まで全然気付かなかったけど、こうして三人で暮らしていることって、とても幸せで、それでいて大切なことなんだなぁ・・・ってことを考えさせてくれる。
ふぅ、なんか眠くなってきた、、悠介はまだ食べてるのかなぁ。お、めずらしく真剣な顔してるよ!何か笑える〜。おばさんと何話してるのかな?明日聞いてみようかな。
あ〜もうダメ、おやすみなさ〜ぃ・・・・・・
143名無しさん@ピンキー:04/03/14 02:54 ID:A1hbufxJ
前スレ812様の作品は、
とても奇麗で感動は、いたしましたけれども、
やはり、ちょっとエロが無いのが、寂しかった

なのでアザラシ様には、是非とも、バリッとエロを期待したいと思います
144名無しさん@ピンキー:04/03/15 13:24 ID:CzRwZ1bx
神降臨キボンage
145名無しさん@ピンキー:04/03/15 17:32 ID:sxNa4VbA
「監禁から助けたい」同級生の少女面会迫る 岸和田・中3虐待
ttp://www.sankei.co.jp/news/040312/evening/e13nat001.htm

励ましの手紙全文
ttp://www.sankei.co.jp/news/040312/evening/e13nat002.htm
146名無しさん@ピンキー:04/03/16 13:55 ID:3TEZg5HB
前スレの81氏はどこへ・・・?
ブラウザないから入れないのかな?
147名無しさん@ピンキー:04/03/16 20:12 ID:d/Clhw1F
他の都合ってのもあるかも知れんし、気長に待とうや。
148名無しさん@ピンキー:04/03/19 00:50 ID:aMEGrkbh
こっちもとまってる。。。
149前スレ812:04/03/19 01:02 ID:kZ8J75J7
保守をかねて、拙作を投下させて頂きます。
…早く神々が戻ってきてくださる事を願って。
150前スレ812:04/03/19 01:07 ID:kZ8J75J7
>43からの続きになります。

「――あんまり変わらないな、このあたりは」
「三年も経ってないですし…。そうそう変わるものではないんじゃないですか?」
朝食の後、昨夜言われたとおり、彼を連れて学校へ向かう事になりました。
「そうかもな。…あー、でもあのコンビニは無かったな、たしか」
「…そうですね、たしか、二年前くらいに出来たんです」
「ふーん。なあ、まゆー。歩いて30分くらいだったか? 学校って」
「…そうです。だから案内の必要も無いんじゃないかと思うんですが。
 後、学校ではわたし、先輩なんですから、その呼び方やめてくださいね、藤井くん」
「藤井くん、ね。ふん」
…あ。…ちょっと、言い過ぎたでしょうか。
でも、やはり四月からはわたしが先輩なわけですし、それに。
――見上げなければいけないほどの長身、涼しげ、というよりは鋭い目つき、低い声、
ごつごつと骨ばった大きな手。
…やっぱり、この人を瑞穂ちゃん、みいちゃんなどと呼ぶのは抵抗があります。
151前スレ812:04/03/19 01:08 ID:kZ8J75J7
「おまえみたいなちっこいの、あんまり先輩って感じでも無いんだよなあ」
などと言いながら、ぽんぽん、と人の頭を叩いてきます。
「背丈はこのさい関係ないでしょうっ!?」
年齢の事ならともかく、身長の事を言われるとは思いませんでしたよっ!
「スマンスマン。…いや、しかしお前ひょっとして中学の頃より縮んでないか? 
 なんかえらくちまこくなったような気がしてなあ」
「それは、あなたが大きくなったからですっ! それにわたし150センチはあるんですよっ! 
 そんなにチビチビ言われるほど小さくありませんっ!」
ぜーはーぜーはー。
…どうも、身長の事を言われると冷静になれなくなります。
ここ数年、毎日牛乳を飲んで小魚も食べてとして来た割には、あまり効果が果々しくなく、
150センチでぴったりと止まってしまったわたしの背。
…華奢で、すらりと長い手足が妖精のような。そんな風になりたかったのに、現実は非情です。
わたしは、相変わらずチビで、重たい肉が胸やお尻にみっともなく付いています。
「…すまない、言い過ぎた」
「――いえ、わたしこそ、すいません。…少し、ムキになりすぎました」
それきり、会話が途切れてしまいました。幸い、すぐに学校についたので、
気まずい時間は少しの間だけですんだのですが。
152前スレ812:04/03/19 01:11 ID:kZ8J75J7
「――それで、あっちがグラウンドと体育館。こっちが記念館です、食堂と購買はここの一階」
「一年の教室が四階にあるんだったな。――だいぶ、遠いな」
「ええ。昼休みは生徒でいっぱいになります。ですからパンを買うときは急いだ方がいいですよ。
 後、 学食も食券制なので、昼休みの前に食券を買っておくのが早くて確実です」
春休みとはいえ、部活の生徒もいるので、学校は開放されています。
藤井君に学校内を案内しながら歩いていると、
「あれー? まゆっちじゃん、どしたの?」
後ろから、聞き覚えのある声がかけられました。
振り返ると、真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばした、背の高い綺麗な女性が立っていました。
細く長い足に、Gパンがとてもよく似合っています。三年の、高橋彩先輩でした。
「彩先輩。先輩こそどうなさったんですか?」
「んー? ほら、私ら明日卒業式じゃん? そんでさ、やっぱ最後だしね、学校一通り見とこうかなー

 ってぇ話になったワケよ。それよりさ、まゆっちー。その子ダレ? 彼氏?」
「――! ち、違いますっ! 四月にウチに入学してくるから案内してただけで――!」
「えー? アヤシイなあー」
にこにこと――、いえ、ニヤニヤと冷やかすような笑みを浮かべてからかってくる彩先輩。
「ま、あんまり追求するのも野暮ってもんだから、カンベンしてあげるわ。それより、はじめまして、

 高橋彩です。もっとも、もう卒業だから、これからもよろしくってワケにはいかないけど」
「藤井瑞穂です、こちらこそ、どうも」
お互い挨拶をしながら握手を交わす彩先輩と藤井君。
153前スレ812:04/03/19 01:12 ID:kZ8J75J7
「まゆ。さっき先輩って言ってたが、部活の先輩か?」
「い、いえ、委員会です、図書委員の先輩で。それより彩先輩、お一人なんですか?」
「いや、タケもいっしょ。アイツさあ、明日の式で卒業生代表で答辞なんか読むことになったっしょ?

 今から胃ィ押さえて青い顔してんのよ。そんでさ、校内でも見てまわれば、ちょっとでもいい気持ち

 で読めるかなーと、思ってさ」
「…余計な事、言うのやめろよう、高橋ー」
「小川先輩!? お、お久しぶりですっ…」
いつのまにか、すぐそばに小川先輩が来ていました。
「あ、原田さん。久しぶりだね、元気にしてた?」
小川武弘先輩は、その勇ましい名前とは裏腹な、少し長めの髪に、眼鏡の奥の少し眠そうな目、細っこ

い長身を少し猫背気味にして、いつも書庫で本に囲まれながらにこにことしている、そんな人です。
「ところで、原田さんはどうしてここに? デートですか?」
「違いますーっ!」
もう一度、さっきと同じ説明をする羽目になりました。


「…ふうん、病気で半年休学で、留年かあ。それは、なんていうか、大変だったろうねえ」
それからなぜか、学食に移動して、お茶にする事になってしまいました。
とはいえ、春休みなので、食堂が営業しているはずも無く、カップベンダーのコーヒーなのですが。
先輩方――特に、小川先輩が、妙に藤井君と意気投合して話しこんでしまい、何か変な事を言いはしな

いだろうかと、ハラハラしたのですが、特に何事も無く、わたしたちは先輩達と別れ、家路に着くこと

になりました。
154前スレ812:04/03/19 01:13 ID:kZ8J75J7
「――そういえば、わたしもすっかり忘れてたんですが」
「何を?」
「何を? じゃありませんよ、ちゃんと家のほうは片付いたんですか?」
昨日引っ越してそのままなんじゃないでしょうね。だったら、手伝いにいかなければなりません。
「まあ、だいたいはな。必要最低限のものは片付けたから、後はボチボチやるさ」
「ボチボチって…」
はあ。おもわずため息が漏れます。そういえば、昔からこの人は片付けが嫌いでした。
いえ、嫌いというより、極端にマイペースな上、雑然としていても気にならない性質なのでしょう。
わたしの目には、散らかり放題にしか見えない部屋の、どこに何があるのかを完璧に把握していました

し。実際に困らないのですから無理も無いのかもしれませんが。
「…わかりました。今日と、あと、明日はわたしも卒業式に行くので無理ですが、明後日はわたしも手

 伝えるので、一気に片付けてしまいましょう」
「…えー」
「なにか、文句でも、あるんですか」
「いや、冗談だ。手伝ってくれるならとても助かる、ありがたい」
…最初から、素直にそういえばいいんですよ。もう。
155前スレ812:04/03/19 01:15 ID:kZ8J75J7
家に帰ったのは、昼過ぎでした。
明日渡すクッキーを、急いで作らなくてはいけません。
夕飯前に終わらないと、おかあさんに怒られてしまいます。
さっそく、材料を取り出して計り始めます――。

「…おばさん、まゆのヤツ、なに作ってんのか、わかる?」
「…クッキーみたいだけどねえ。チョコチップクッキーみたいよう」
「…ほう、チョコチップ」
「…そういえばねえ、バレンタインの時も、なんかごそごそやってたわよう。 
 帰ってきてから一人でばりばり食べてたみたいだけど」
「…つまり、バレンタインの、雪辱戦だと?」
「…かしらねえ。…あーあー、あんなに混ぜたら混ぜすぎよう」
「…今度は、卵一気に入れましたね…」
「…分離して大変よう」
「…昔から思っていたんですが」
「…なあにー?」
「…あいつ、普通の料理はそれなりにできるくせに、菓子は本当、壊滅的に下手ですよね。
 なんで、たかがクッキーをあんなに不味く作れるのか、不思議でしょうがない」
「…そうねえ。自信が無いからかしらねえ。だから混ぜすぎたり入れすぎたり一味足らなかったりする

 のよう」
「…ああ、なるほど。それがあのスプーンの刺さらないゼリーであるとか石のようなクッキーとかに繋

 がるわけですか」
「――心のそこからうるせえーっ!! 陰口ならせめて聞こえないようにやったらどうなんですかっ!?」
156前スレ812:04/03/19 01:16 ID:kZ8J75J7
「き、聞こえてたのうっ!? まゆちゃん!?」
「イヤというほどまる聞こえでしたよっ!」
ああもうこれが嫌味でもなんでもなく本気なんだからわが母ながら、たまりません。
「聞こえてたなら言わせてもらうが、お前それチョコチップの量、多すぎ。
 くるみも、入れるならもっと細かくしたほうがいいし、そもそも、生地を練りすぎだ」
「もーいいから出てってください! 二人とも! これはわたしだけで作るんです!」
157前スレ812:04/03/19 01:21 ID:kZ8J75J7
以上です。
エロスの神がなかなか降りてきてくれません。
ですが、必ず甘酸っぱくエロエロにしたいと思います。
では、頑張ってまいります。
みなさまも、規制に負けず頑張ってください。
158名無しさん@ピンキー:04/03/20 10:05 ID:OF2rXBsg
>ここ数年、毎日牛乳を飲んで小魚も食べてとして来た割には、あまり効果が果々しくなく、
>150センチでぴったりと止まってしまったわたしの背。
>…華奢で、すらりと長い手足が妖精のような。そんな風になりたかったのに、現実は非情です。
>わたしは、相変わらずチビで、重たい肉が胸やお尻にみっともなく付いています。

えろシーンへの期待が増しました(とプレッシャーをかけてみる
159名無しさん@ピンキー:04/03/23 15:44 ID:gdZLV8Br
西尾○新ぽいキャラですね。って知らないかな…
160名無しさん@ピンキー:04/03/25 04:43 ID:I7M1VJwZ
age
161名無しさん@ピンキー:04/03/27 21:48 ID:vHfi6kez
(´・ω・`)ビアンカ・・・
162名無しさん@ピンキー:04/03/28 16:35 ID:DzduNELS
何となく個人的最強の幼なじみキャラは「同窓会」の若林鮎と言ってみる。
数居る幼なじみキャラで最後はケコーンに至ったのは彼女以外そんなに居ないんじゃないかと…
居たらスマソ。
163名無しさん@ピンキー:04/03/28 19:04 ID:R81mRcKM
>>162
エロゲーの恋愛シミュレーションだとエンディングで結婚してるのってけっこういそうな。
とらハの真一郎×小鳥
とらハ2の耕介×愛
ピアキャロットの祐介×さとみ


164前スレ812:04/03/29 03:16 ID:suJY5KFr
>158 良いプレッシャーをありがとうございます。
    女性一人称でのエロス描写は正直無謀だったと思うほど難しいですが、
    ご期待に沿えるよう、精進させていただきます。

>159 私でしょうか。西尾維新はとても好きなので、あちこちに影響が出ているやも知れません。
    自分ではイマイチ客観視できないのでよく解らないのです、申し訳ない。
    

では、続きをキリのいいところまで投下させていただきます。
連投、申し訳ありません。
165前スレ812:04/03/29 03:16 ID:suJY5KFr
どうにか、クッキーを焼き、ラッピングも可愛くでき、卒業式の朝がやってきました。
もっとも、わたしは、委員会の先輩を個人的に見送るだけなので、式場内には入れませんが。
先輩方に渡すお花は通学路の途中にある花屋さんに頼んであるので、行く途中で受け取ります。
卒業式の後は、図書館の司書室を借りて、図書委員のささやかな送別会です。
――さて。
「…なんだってあたりまえの様に我が家の朝の食卓にいるんですか藤井君」
「うわ冷てえなー『ふがっ、ふがっ』とかすげえ豚みたいに可愛らしい鼾で寝てたくせに。…一人分の食事を作るのは結構に面倒くさいんだ。特に朝は。…きちんと理由を話したんだから、無言で急須を振りかぶるのはよせ。それさっき煎れたばかりでとても熱い」
本気で顔面に熱湯をぶっかけてやろうかと思いましたが、どうにか思いとどまります。
…落ち着け、落ち着くのよわたし。こんな日にこの人のせいでペースを乱されたくありません。
無言で朝食を食べ終わり、洗面所で身支度を整えて玄関先で靴を履きます。
…よし、持ち物も先ほどきちんと確認しましたし、靴はぴかぴか。制服にも変なシワや埃はありません。
166前スレ812:04/03/29 03:17 ID:suJY5KFr
で、なんでこの人は玄関までついてくるのでしょうか。
「…まゆこー。お前さあ、昨日焼いてたクッキーみたいなのって」
「『みたいなの』は余計です」
「小川サンだろ。告白する気か」
「んなっー!?」
な、なん、何でっー!?
「なに『何で解ったのー』ってツラしてんだ。解るってぇのオマエって単純極まりないんだから。
 …俺が考えるに、先月のバレンタインに告白しようとしたが、それも出来ずに悶々として、卒業式ギリギリでケツに火がついて大慌て。って所か」
「――! あ、あなたには関係ありませんっ! それじゃ、いってきますっ!」
逃げるように玄関を飛び出します。何だって、あんなにカンが良いんでしょうか。あの人は。
小川先輩にだって、昨日が初対面で小一時間ほど話しただけなのに。
…いえ、考えないようにしましょう、今日は、とても大事な決戦の日なのです。ペースを乱さずに行かなくては…!
167前スレ812:04/03/29 03:18 ID:suJY5KFr
――数ヶ月前よりも、ずいぶんと日が長くなりましたが、六時も近くなればさすがにもうずいぶんと暗くなってきます。
わたしたちのマンションの近くには、わりと大きな児童公園があって、学校の行き帰りには、ここを抜けると近道になります。
いつもは子供たちの遊び場になっているのですが、この時間にはもう子供たちの姿は見えません。
「――おい」
「うっわっああっ!?――って、ふ、藤井くんっ!? い、いきなり驚くじゃないですか、変質者かと思いましたよ!?」
藤井君が缶コーヒー片手にブランコに座っていました。…まさか、とは思いますが、わたしの帰りを待っていたのでしょうか。
手振りで座れ、と促されたので、藤井君の隣のブランコにわたしも腰掛けます。
「失礼な事を言いやがる。――で? どうだった?」
ほれ、とわたしにも缶のミルクティーを渡しながら、そんな事を聞いてきます。
「――。何の、ことです?」
「今更とぼけんな。朝、あんだけ動揺してたら、全部図星でした。って白状したも同然だっての」
――はあ。
「…そういう、俺様は何でもお見通しだー、って態度はどうかと思いますよ」
「だったら、見通されないようにしてくれよ。筒抜けなんだから仕方ないだろ、お前の場合」
ぬあー、口の減らない人です。
「小川サンの事だよ。――あの人な、たぶん――」
「…彩先輩と、お付き合いしてらっしゃいますね。…2月から」
あ、びっくりしてる。この人をここまで驚かしたのは初めてかもしれませんね。などと妙な達成感にひたります。
168前スレ812:04/03/29 03:20 ID:suJY5KFr
「…気づいてたのか? お前が!?」
「…その、『お前が!?』というのがどういう意味で出たのかはあえて追求しませんが…。
 …気づいてた。と、いうより、知ってましたよ」
あの、夕暮れの教室に、わたしが行ったときにはもう全部終わっていて。
「…あのお二人、幼稚園からずうっと仲良かったんですって。お互いの長年の想いが通じて、
 ようやく恋人としてお付き合いし始めたのが、先月のバレンタインに彩先輩から告白したのがきっかけだそうですよ。
 …すごいですよね。まるで物語みたいにロマンチック」
最初からわかっていました。小川先輩の一番は、彩先輩であってわたしではないのですから。
わたしが好きになったのは、わたしといる時の小川先輩ではなく、彩先輩といる時の小川先輩でした。
彼が彼女を見るときの表情は、とても優しくて、少し苦しそうで、誰よりも何よりも愛しい相手を見るときの目で――。
――わたしは、二月よりもずっと前、自分の恋心を自覚した途端に失恋していたのです。
「――それで、がんばって玉砕してきました」
わたしは、自分の恋心に止めを刺して欲しかったのです。きちんと殺してしまわなければ、きっとずっとこの気持ち
を引きずったまま生きていくのでしょう。
どうせ、散るんだったら、潔く行きたいじゃあないですか?
「――あ、クッキーも、『そういう意味なら受け取れない』って、ちゃんと突っ返されてきましたよ。
 食べようと思っていたので、飲み物がありがたいです、ありがとうございます」
大丈夫です。平気です。だって、わかってたんですから、この日のために、1ヵ月もかけて腹を括ってきたんですから。
だから、わたしは、だいじょうぶ。
「――あのな、真由子。おまえ今すっげえブサイク」
「――な、」
いきなり、なにを言うのかこのひとはっ…。ほっといて下さいよ、どうせ、どうせわたしなんて、彩先輩の足元にも
及ばないチビブスだってわかってますよ。でも、でも、だからって――っ!!
「泣きたきゃちゃんと泣け。悲しいなら悲しいって、悔しいなら悔しいってちゃんと言え。無理すんな、馬鹿」
「―――っ!」
だって。泣いたって。ないたって、しかたがないじゃないですか。ブスがないたら、よけいブスになるし、まわりのひと、みんな、こまる、し、
169前スレ812:04/03/29 03:22 ID:suJY5KFr
「どうせ俺しか居ないんだ。意地っ張りな女は嫌いじゃないが、俺の前でまでつまんない意地張るな、馬鹿。
 ――胸くらいは、貸してやるぞ?」
ほんとに。――ほんとに、もう、この人は。
意地悪で、えらそうで、口が悪くて、ひとが嫌がることばかりして、――でも、わたしがいちばん弱ってる所で
優しいんです。
「――っう、ひっく、う、うっ、あ」
「だーかーらー、我慢すんなっての。――もう、人いないしな、大声出したって大丈夫だろ」
「うあ、あ―――!」
藤井君の胸にしがみついて、子供みたいにわあわあと泣きました。
好きだったんです。子供っぽい憧れかもしれない。恋にも成ってなかったかもしれない。
でも、優しくあの女性を見る先輩が、本当に、好きだったんです。小川先輩も、彩先輩も同じくらい大好きで、
一緒に居て幸せそうに微笑みあうお二人を見るのは、とても幸せだけれど、同じくらい悲しいんです――!
思いっきり、泣いて、泣いて、もう自分がどうして泣いているのか解らなくなるほど泣いて、ようやくわたしは。
本当に、この気持ちを終わらせる事が出来ました。
170前スレ812:04/03/29 03:25 ID:suJY5KFr
そうやって、ひとしきり泣いた後で、二人でクッキーを食べました。
…あー。本当に不味いです、これ。
練りすぎたのか、石みたいに硬いし、そのくせ何だか粉っぽい。チョコチップの量も多すぎる。
くるみももっと細かく刻めばよかった。
…突っ返されて、良かったです。わたし、こんなものを小川先輩に食べてもらおうとしてたんですか。
なんだか、激しく落ち込みます。隣をちらり、と盗み見ます。
きっと、呆れ果てた辛辣な感想が飛んでくるに違いありません。
「…うん。別に、悪く、無いな。まあ、フツーか」
がり。ごり。ぼり、ぼり、ぼり、ぼり、ぼり。
ものすごく硬そうな咀嚼音をたてながら、それでもそんな事を彼は言ってくれました。
…まったく。なんだって、こう、変なところで妙に優しいのでしょう、この人ときたら。
なんだか、おかしくなって、つい吹き出してしまいます。
「…なーにを笑ってんだか。いいからオマエももっと喰え。いってみりゃ、オマエの未練の塊だろ、これ。
 失恋の供養だと思ってきっちり喰え」
「ふ、ふふっ。…まったく、相変わらず言いたい放題言ってくれますよね、みいちゃんは」
「…みいちゃん、ね。ふん」
それから、二人並んでブランコに座りながら、硬い硬いクッキーを食べて、一緒に家まで帰りました。
先輩のことを考えると今は少し辛いけれど、きっと、明日にはちゃんと笑えているでしょう――。
171前スレ812:04/03/29 03:28 ID:suJY5KFr
以上で、ようやく関係修復編終了です。
まだまだ続きます。
相変わらずスレの趣旨から全力で明後日の方向に向かって
突き進んでいますが、ご容赦ください。

172名無しさん@ピンキー:04/03/29 03:40 ID:DglbSoai
>>171
このまま突っ走ってください。
あなたの文体とても好きです。
173名無しさん@ピンキー:04/03/30 23:34 ID:dx39uNW1
>>171
この話結構好きです。
エロとか関係なしにご自分の好きな様にお書き下さい。
楽しみに待ってます。
174名無しさん@ピンキー:04/04/02 23:15 ID:8djzRBCI
とりあえず保守
175.:04/04/03 02:05 ID:ajd+97iE
       , -‐`゛'"~''‐- 、
     /   ,      ヽ
    /  _彡´ ゙゙"ヽ    ヽ
    l   /     丶、   ヽ
     l ,ノ ,-━、   ,━-、   /
    l' ゙l  ー-、 )( ,-‐‐ ゛l''ヽ
   丶 |   / | | ヽ    | ノ
    ゝl  /ゝ、_ , ヽ ノ lィ                     I believe I can fly
      丶  ー==-‐ ノ ./ ゝ                        イ・チョンス
      丶、 __ / /|、_′
        |` ‐‐‐ '´ , ' `、                 
        /|    , '   , ' `ー-、
    ...-ッ'´_ |   /   , '     ヽ
  , ´ ´ ̄ ゙ヽ/´`ー‐-′
 /      〃
176名無しさん@ピンキー:04/04/05 11:17 ID:avBezsl8
定期ageで職人さん誘致
177名無しさん@ピンキー:04/04/05 23:04 ID:XwMpXwqZ
前スレ81タンはマダ〜?
てかもしかしてCANVAS2のシナリオライター?
178名無しさん@ピンキー:04/04/06 23:20 ID:FYl3mN9t
前スレ81さんや中継ぎさん、今スレ85さんやアザラシさんはまだだろうか。
規制解除されたらみんな帰ってくるのかな。
179名無しさん@ピンキー:04/04/09 23:23 ID:Txm/+bLh
あげ
180名無しさん@ピンキー:04/04/11 22:37 ID:8r8gttOC
隣にすんでる幼なじみいるけどスレのような展開はありえない。
181名無しさん@ピンキー:04/04/11 23:10 ID:hIE9GtdN
>>180
現実に起こり得るなら妄想する必要はない…
182名無しさん@ピンキー:04/04/12 00:21 ID:FoVYntB7
春だからきっと何かがはじまるヨカーソ(妄
183名無しさん@ピンキー:04/04/13 22:38 ID:rbojtjyS
保守しときましょう。
184名無しさん@ピンキー:04/04/15 21:05 ID:dbYVvsH5
保守保守。
185名無しさん@ピンキー:04/04/18 01:18 ID:XP/q+tjr
保守
186名無しさん@ピンキー:04/04/19 22:10 ID:dKnGacYf
保守
18781 ◆ys4//9gEbc :04/04/20 08:16 ID:wYeELJ19
|゚Д゚)))コソーリ!!!!



|彡サッ
188名無しさん@ピンキー:04/04/20 09:05 ID:skTa2Vf+
>187
うおーい。
189名無しさん@ピンキー:04/04/20 15:51 ID:s5/LbLrG
>>187
おか〜
190名無しさん@ピンキー:04/04/20 21:46 ID:+VSBX894
>>187
   人
 ( 0w0)< >>187ザァーン!! ナズェミデルンディス!!
19181 ◆ys4//9gEbc :04/04/20 22:25 ID:wYeELJ19
   人
 ( 0w0)< マエ゛ガイデダSS、マチカ゛テケシチャッタンディス!!

新規に書きます・・・・・・けど萌え分が不足しがちだ・・・・。
       
192名無しさん@ピンキー:04/04/21 01:47 ID:2JpQzk3K
   人
 ( 0w0)<オンドゥルゲジジャッダンディスカ-!!
       ウツダドンドコドーン!!

……頑張ってください。お待ちしてます。
193名無しさん@ピンキー:04/04/22 21:47 ID:C0vsuEK9
新作もこないことだし、余所のスレのSSでおさななじんでるのを紹介ってのは駄目?
194名無しさん@ピンキー:04/04/23 02:55 ID:st8Jzy1j
それも有りかも
19581 ◆ys4//9gEbc :04/04/23 22:50 ID:OCtYLW5C
今回、色々とネタを詰め込んでみます・・・蛇足の可能性もありますが。
火付け役になれれば幸いかな・・・。

「ハァハァ、ハァハァ」
息が上がる。でも止まることは出来ない。
校舎の廊下を必死に駆け抜ける。
捕まったら死ぬ。
確実に殺され・・はしないだろうが、代わりに極限の苦しみを味わう羽目になる。
俺は狩猟者と呼称するに相応しい、幼馴染の追撃から逃れていた。
奴の戦闘力を侮ってはいけない。
あの腕から生み出されるそれは、ダイオキシンすら道を空ける程の威力を秘めている。
・・・・・・・・・・・・・本日は2/14。
おそらく一部の人間はこの日を呪い、また、この日を待ちかねる事だろう。
だが、俺にとっては一年に一度のサバイバルな日。
この一日の間はあの女と顔を合わせぬ様、最大限の努力をせねばならない。
捕まれば最低2週間は満足な活動が出来ぬほどの、
(主に精神的)大ダメージを被る事になるからだ。
そんな事を考えながらも脳は別の場所で、安全な逃走経路を模索している。
階段が見えた。
今いる場所は2階・・・上に行けば逃げ場所は少なくなる。
ならば、やはり一階に行くしかない。
            視点チェンジ
19681 ◆ys4//9gEbc :04/04/23 22:51 ID:OCtYLW5C
「アイツ・・・何処に行ったの・・・!」
私こと永瀬 綾子は、今現在幼馴染の男を捜している。
男の名は葛葉 尚也。幼稚園からの腐れ縁である。
何のために探しているのか・・というと、手に持ったモノを渡すためである。
今年こそは、と気合を入れて作り出したのだ。
そう・・・・・・・・・・。

チョコ=レイトは内に秘めた想いを最大限に高めて相手にぶつける奥義である。

この奥義を究めることにより・・・

両想いになれる確率は63%上昇

相手に自分を意識させる面では120%上昇

チョコ=レイトを極めたものは恋愛において無敵となる!!

・・・・と言う訳だ。
ま、冗談はさておき、何としてでも渡さなければならない。
しかし・・・。
肝心の男だは行動はバカだが、クレバーな部分は持ち合わせている男なのだ。
それ故に、行動の先読みが難しい。
同級生の情報から、先ほどまで二階の廊下に居たのは確実だろう。
階段を目前に思案する。
上に行けば行くほど選択肢は少なくなる。
下に行ったのは間違い無さそうだ。
・・・・・・・・だが、一階を一通り見回ったが、
尚也が隠れている気配は無かった。
19781 ◆ys4//9gEbc :04/04/23 22:51 ID:OCtYLW5C
            視点チェンジ
一階に行くと見せかけて、俺は上階へと駆け上がった。
別の階段から降りれば鉢合わせをする事も無い、そう判断しての行動だ。
だが、ハンターの行動は俺の予想を遥かに越えて、素早かった。
グラウンドから下駄箱に、ルイス真っ青の速度で駆け込む綾子の姿が見えたのだ。
俺はその執念に戦慄を覚えた。
砂糖と塩を間違えたチョコをどうしても俺に食わせたいらしい。
殺る気だ・・・今年こそは確実に俺を殺る気だ・・・。
一刻も早く身の安全を確保しなければならない。
あと3分しないうちに奴は3階まで駆け上がってくるだろう。
・・・・ど○べえでも最近は5分待たせるというのに!!
ヤバイ、階段を派手に駆け上がる音が聞こえてきた。
どこか・・・どこか隠れる場所はッ!?
その時、俺の視界の中に救世主が現れた。
俺は、その救世主に助けを請うた。
「た、た、たたたたた・・タチヴァナさんッ!!」
3年生の橘先輩は、中学時代からの付き合いである。
「お、葛葉じゃねーか・・・そうか、今日は14日だったな。」
「ですですですので、かくまってくださ」
「解ったから、そこの教室に非難しとけ・・・適当にはぐらかしてやるから。」
「恩に着ます・・・!」
俺は足を震わせながら、手近な教室に転がり込んだ。
扉に背を預けて、腰を降ろした。
ああ、3年生の視線が痛いよ・・・・。けど背に腹は代えられないのです。
19881 ◆ys4//9gEbc :04/04/23 22:53 ID:OCtYLW5C
耳を澄ませば、扉越しに廊下から声が聞こえてくる。
「あ、橘先輩!!尚也を見ませんでしたか!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
綾子の声がやたらでかく、ここまで聞こえてくる。
橘先輩の声は殆ど聞こえないというのに。
そんなに俺にあの地獄チョコを食わせたいのか。
「よかった〜〜〜〜!探してたトコなんですよ!」
む、会話の流れがおかしくないか?
「そこの教室に居るんですね?」
な、なんだってーーーーー!!
た、橘さん?
いやそれよりヤバイ、早く場所を移さないと。
腰を上げようとしたとき。
ガラ!っと、無情にも音を立てて扉が開いた。
ぎぎぎぎ・・・とゆっくり後ろを向くと。
手に(ある意味において)凶器をもった綾子が居た。
ゾンナァハァヘェ・・・ソンナァハァウェェ!
「あ、綾子・・・なんでここがわかった・・・。」
「橘先輩が教えてくれたのよ。」
ウソダ ウソダドンドコドーン!!
何で・・・誤魔化してくれるって言ったのに・・!!
「・・・・・・・マジ?」
ダディャーナザァーン!!オンドゥルルラギッタンディスカー!!
「マジも大マジよ。」
ンナヅェダァ! ンナヅェダァ! ナヅェダァ!
オンドゥルしながら視線で訴えると橘先輩は・・・。
「すまん。」
と、態度で謝っていた。
アンタは俺の理解者だったはずなのにーーー!!
19981 ◆ys4//9gEbc :04/04/23 22:56 ID:OCtYLW5C
オンドゥル・・・ブレイドに容赦なく射撃するタディアーナさんが素晴らしいですね。
悪ふざけも程ほどにする予定なんで、笑って見逃してください・・・・。
200名無しさん@ピンキー:04/04/23 23:02 ID:LP7DuYya
うむGJです。
くされ縁ならぬ、鎖で縛られた縁ですな。
こういうネタ満載のも好きですよ。
ただパティシェの端くれとして一言。





だ〜か〜ら〜、
チョコレートを作る過程で砂糖を加えることなんてないんだから、
砂糖と塩を間違えるなんてあり得ないと何度言ったら!


失礼しましたw
201190:04/04/23 23:07 ID:eU2MKtPt
キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
おいらはブレイドはネタ番組として好きなので、ブレイドネタもオッケーです。

続きを楽しみにしております。
202実験屋:04/04/24 12:38 ID:HmeIZsHf
どーも。前スレ1の実験屋です。
人大杉に見事にやられ、専ブラ入れようと思った矢先に
ダンプカーにはねられ全身複雑骨折、
現在、振るえる左手で見苦しくパソコンと向かい合ってる日々を送っとります。

今更ですが、>>1さん乙です。
そして、職人の皆さんGJです。眼福ですな。
203名無し@ピンキー:04/04/24 15:43 ID:AGT57z4J
>>202
大丈夫ですか!?
204名無しさん@ピンキー:04/04/24 18:24 ID:QXMhzvII
>202
よく生きてたなアンタ……

見舞いに何か投下してあげたいけど、何もない、ごめん
205名無しさん@ピンキー:04/04/25 01:08 ID:9RvwH9wc
>>202
ま、マジっすか……。
お大事になさってください……。

そういうときこそ
病室に駆けつけて泣きじゃくり、今まで隠してきた思いを打ち明ける
幼なじみがいてほしいところですが。

誰か書いてくれい。
206名無しさん@ピンキー:04/04/25 08:15 ID:v5ru3i9c
>>202
ゴメン。ここも2chの一部だからかどうしてもネタかと疑っちまうよ。
個人的偏見をもってみてみると真実である確率は四分六分というところか。


本当だった場合のオレの気持ち。

無理しないで今はゆっくりと養生してくれ。
入院中はオナニーするのが難しいので非常に溜まることでしょう。(経験あり)
退院したらその鬱屈を全てSSに注ぎ込んでくださいな。


ネタだった場合のオレの気持ち。

言い訳してないで書けるまでコテハンは封印しとけ。それが為だ。
207名無しさん@ピンキー:04/04/25 10:55 ID:0olq0qzm
>206
いや、此処まで具体的なネタもあんまり無いだろ。
208名無しさん@ピンキー:04/04/25 15:27 ID:rZNQm8bz
>>206
確か実験屋は文才が無くて
ネタを振るだけの御仁じゃなかったっけ?

まぁいいや。命が有るだけメッケもんだしな。

と言うわけで、御仁の溜まった物を吐き出させる作品をキボンヌ
209名無しさん@ピンキー:04/04/25 19:09 ID:ZJUP8+kH
>>193
かってに改蔵スレにけっこう幼馴染んでるSSがあるよ。
原作ほどに電波じゃなくなってるから純粋に楽しめると思う。
210前スレ812:04/04/26 22:32 ID:FthWQH74
>205
「実験屋の、ばかばかっ! 心配したんだからっ! 
 …も、もう、会えない、かもって…。ひっく。す、すごく…、しんぱい、したんだからぁ…。
 …いつも、心配ばっかり掛けさせるんだから、わ、私が居ないと、やっぱり実験屋って
 だめなんだから。…だから、…そばにいても、いい、よね?」



こんなカンジですかー。呼び捨てですいません。実験屋さん。


211名無しさん@ピンキー:04/04/26 23:56 ID:WB0B+2Uv
>210
そ、そこにいたるまでの過程つきで……
212名無しさん@ピンキー:04/04/27 00:17 ID:w312iwUU
>>209
けっこう良いぞ
思い出の共有とか、幼い頃の約束とか、一つ屋根の下とか、
ツボを心得てるSSが多い!
21381 ◆ys4//9gEbc :04/04/27 00:33 ID:1wyFxDIB
>211こんな感じ・・・?

今日も仕事(or講義or授業)を終え、あ〜畜生、そろそろ2ちゃん用ブラウザでも
導入しようかな〜と考えていた矢先の出来事・・・・。
片側1車線の道路に差し掛かったときのことであった。
まず、目の前の歩行者用信号機の色は青である。
次に、下校時刻だというのに通行者は見当たらなかった。
否、一人、居た。
黒いランドセルを背負った児童が、横断歩道を渡っていた。
児童は目の前を舞っている、てふてふに完全に気を取られていた。
故に、轟音を立てて疾走するダンプカーに気が付かない。
考えるより先に、体が動いていた。
全力を以って横断歩道に飛び込み、児童に接近する。
そこから先に広がる世界は、まるでスロー再生されているかのようであった。。
ボクサーなどが感じるといわれるアレであるのだろう。
足は実際良く動いたと思う。もしかしたら通常の3倍の速さで動いたのかもしれない。
間一髪、間に合った。重心を落とし、前傾姿勢を取り、迷わず黒いランドセルを突き押した。
その衝撃で、児童の体はダンプカーの車体の幅・・・・衝突範囲から逸れた。
よかった、これでこの子は大丈夫・・・・だが。
ダンプカーという名の死神の鎌は、俺に標的を変えていた。
避けられない。あの子を救うために姿勢を崩した。確実に当たる。
その刹那、今まで蓄積した思い出が次々と脳裏に浮かび上がった。
ああ、これが走馬灯って奴か・・・断じて罠に嵌めるゲームではない。
ったく、それにしても、何でアイツとの思い出ばっかり浮かぶんだか。
次の瞬間、俺の体に激しい衝撃が走り・・・意識が途切れた。
21481 ◆ys4//9gEbc :04/04/27 00:45 ID:1wyFxDIB
というわけで目を覚ましてから、幼馴染襲撃まで次の職人さんドゾー。
215前スレ812:04/04/27 01:13 ID:JY+1CFNX
目を開けると、まず、白っぽい天井が見えた。
身体が上手く動かない。何か、聞きなれない電子音までする。
あ、父さん。母さん。俺は、いったい、
「――まだ麻酔が効いて眠っておられますから、苦痛は無いでしょうが、全身あちこちの骨を折っています。
しばらくICUで治療に当たらせて戴きますが、今のところ後遺症のほうは――」
あ、そうか。ダンプに轢かれたんだっけ。すごいな、俺。生きてるぞ。
母さんが泣いている。父さんもだ。――父さんが泣いたところなんて、初めて見た。
医者らしい人の声がまだ説明をしている。
母さんが、良かった。本当に良かったと繰り返し呟いているのが聞こえた。
――眠いな。すごく眠い。
――あれ。なんで、アイツがここにいるんだろう。それも、あんな真っ青な顔に、泣きはらしたみたい

  な真っ赤な目をして。
216前スレ812:04/04/27 01:15 ID:JY+1CFNX
…すいません、重症にしすぎましたかね?

次の方、看病編ドゾー。
217名無しさん@ピンキー:04/04/27 09:40 ID:U/7sMp+8
こう重症ではエチまで突入できんな。
実験屋さんの膝から上と腰から下が無事なら騎乗位でなんとかなるが。


_| ̄|○ スミマセン エロスナンデス…ワタシ
218実験屋:04/04/27 17:33 ID:WJFIy8n/
まさかネタにしていただけるとは。感激です。

目が覚めた時はほとんどその通りでした。幼馴染みはいませんが。
はねられた原因ってのが飲酒・居眠りのとばっちりを
うけたっていうのが真実です。
容体は右半身中心にうちまして
右肋骨4本と鎖骨が折れました。右腕も指先まで完全にやられてまして
現在感覚がありません。
左側は足以外、比較的軽症で肩を打撲しただけです。202で言っていた痙攣も今朝方
緩まりました。
右足は膝下からギプスで左足も同様です。
頭部は強打と真皮までめくれてしまって顔面はミイラ男状態です。
首が無傷なのは奇跡だそうです。

容体はこんな感じです。SSの続きを楽しみにしてます。
長くてスマンです。
ここまで書くのに4時間かかってしまった。無様だね。
219名無しさん@ピンキー:04/04/27 18:42 ID:pSY5au8u
う、うわ……。
とりあえず、お大事に。
命があったことを喜びましょう……
とか他人が言っていいのかどうかわからんくらいシリアスですな。
快癒を祈っております。
220名無しさん@ピンキー:04/04/30 22:59 ID:lCWF+eqX
とりあえず保ー守!
221age屋:04/05/01 10:18 ID:py2E3NGa
age
222中継ぎ:04/05/01 10:26 ID:lObMzqc0
 ……囁くようにそよ吹く春風……穏やか太陽の陽射し……愛らしい小鳥の囀り……白衣のおねいさん……
 ……ああ、生きているってなんて素晴らしいんだ…………それなのに……ああ、それなのに……

「……なんでお前がいるんだよ?」
 俺が横たわるベッドの傍ら。パイプ椅子に座る不満の原因が前髪を揺らしながらゆっくり顔を上げ、
「何よ、文 句 あ ん の ?」
 その瞳から、そして手にした果物ナイフから危険な光を放った。
 折角助かった貴い命をベッド上で無意味に散らさぬため「滅相も無い」と答えると、そいつは軽く
「ふん」と鼻を鳴らして、またリンゴを剥き始めた。リンゴの皮がリボン状になって伸びていく。
 ふぅ、と安堵の溜息をついた俺が天井を見上げ、頭を枕に沈めると、
「勘違いされる前に言っとくけど、私だって好き好んでこんなとこに居るんじゃないわよ。
 叔母さんにどうしてもって頼まれたから、仕方なくアンタの面倒をみてあげてるんだからね。
 それに暇人のアンタと違って、私本当は忙しいの。そこ時間割いて来てんだから有難く思いなさい」
「へいへい」
 そう正直に言われちゃ、素直に感謝なぞできないっつーのが人情ってもんだがな。
 それに『仕方なく』のわりには……ま、そこはあえて突っ込まないでおくか。
 コイツが『仕方なく』余計な世話を焼くのは、別に今に始まったことじゃないわけだし。
 きっと、マグロが泳ぎ続けなければ死ぬように、誰かの世話をしなければ生きていけないんだろうな
 ……とか何とか言ってる間に、形よく切り揃えられたリンゴが真っ白な皿の上に並んでいた。
「はい、どーぞ」
 ……って皿ごと目の前に出されてもなぁ。
 俺が黙ってリンゴ山盛りの皿を凝視しているのに、少々不安になったのか、
「ちょっとぉ、そんなに拗ねる事無いでしょ? 折角剥いてあげたんだから、早く取りなさいよ」
「……どうやって?」
 何を言っているんだという表情のそいつに、両手を上げてみせてやる。
 その両方に装備された、色気もくそもない無骨なギブス。
223中継ぎ:04/05/01 10:28 ID:lObMzqc0
「あ……」
 漸く気付いたかこのバカ者め。昔っから余計な世話焼くくせにどっか抜けてるのはいつまで経っても
 変わらんのな。ちょっとは成長せんかい。……と、短い沈黙の後、
「勘違いしないでよ?」
 おもむろにリンゴにフォークを突き刺した。……微妙に嫌な予感がする。そして、それは的中する。
「何してんの? 早く口開けて」
「ちょっと待て……お前、自分が何をしようとしているか、もう一度冷静になって分析してみろ。
 それは所謂一つのストロベリーな関係にある若い男女がナニようなアレだぞわかってんのか?」
 俺の命乞いに似た動揺の滲む言葉に、コイツは事も無げに言ってニッコリと微笑を返しやがった。
「うん。でも、他にやりようが無いしリンゴ勿体ないし、それに勘違いしないでって言ったでしょ?」
 ……これ以上拒否し続けては、逆に俺の方が意識しているみたいでカコワルイ……おのれ、小賢しい奴め!
「ほらほら、早くしないと私が食べちゃうよ?」
「……分かったよ……」
 観念した俺が「あーん」と口を開けると、リンゴが口元に運ばれてきて……『シャリッ』
 ……まあ、やってみれば大したことじゃないわな。別にキスするとかいうわけじゃないんだし。
 幸い俺がICUから移された一般病棟は1人部屋だから、同室患者の視線を気にする必要も無い。
 この程度で満足してくれるなら安いもんか……口腔に広がる甘い酸味を噛み締めながら、ふと思う。
「ねっ、おいし?」
 僅かに上気した頬。小首を傾げながら、何処か嬉しそうに尋ねてくる幼馴染み。
 ……一瞬、ほんの一瞬だが、可愛いと思ってしまった自分が悔しい。だから、こう答えてやった。
「リンゴの味がする」
「あ、そっ。じゃもう一口いかが?」 
 ち、ノーダメージか。その上、どうにもコイツのペースのような気がするぞ。遺憾だ。実に遺憾だ。
……なのに俺は、バカみたいに大口を開けていたりするのだから世の中わからな――
224中継ぎ:04/05/01 10:30 ID:lObMzqc0

 おひさです。とりあえずここまで書いてみました。実験屋氏お大事にー。
 では、続きどなたかどぞー。
225名無しさん@ピンキー:04/05/01 22:48 ID:WDq0MbqY
実験屋氏の再起を期待しまつ。
>>222>>223を見て、どんなアクシデントも即座に料理してのけるのはエロパロ板住人の美点であるなあと思ったり。
226名無しさん@ピンキー:04/05/04 10:54 ID:culehxst
ホッシュ&再起応援sage
227実験屋:04/05/05 18:16 ID:h9Aw4XYL
足が少しだけ復活しました。なんと松葉杖を使えば
両足で地面に立てるのだ!!(歩けないけど)・・・スマンです。情けなさ過ぎですね。

自分のせいでスレの進行を遅くしてしまってるようで
申し訳ないです。

私のことは気にしないで職人様方の新作の投下お待ちしております。
228名無しさん@ピンキー:04/05/07 22:53 ID:Vxua1/Tu
実験屋さんお大事に。
ついでに保守。
229名無しさん@ピンキー:04/05/11 21:55 ID:8cIYntlm
ホシュ
230名無しさん@ピンキー:04/05/13 00:02 ID:1fCeMYcl
保守。
幼なじみの定義ってなによ?
231名無しさん@ピンキー:04/05/13 03:18 ID:xDpDwyTQ
そこに萌えがあるかどうか。
232名無しさん@ピンキー:04/05/13 03:19 ID:xDpDwyTQ
すまぬ、ageちまった…
233名無しさん@ピンキー:04/05/13 09:53 ID:1+k7s+FN
人それぞれ。
だから、まずは>230なりの「幼馴染みの定義」を語ってみ。
234230:04/05/13 23:29 ID:1fCeMYcl
俺は幼い時に良く遊んだりしてればそうだと思う。
235名無しさん@ピンキー:04/05/15 00:45 ID:7/CsKTpo
小学校低学年から友達になったのは幼なじみなのだろうか。
小学校高学年からは?

自分は小学校入学以前・以後で幼なじみか否かを分岐しているけど、
「小学校からのつき合い」を「幼なじみ」と定義する人もいるみたい。
言葉の定義は難しいね。
236名無しさん@ピンキー:04/05/15 01:52 ID:cm0ROJyS
小学生までだと思う。
237名無しさん@ピンキー:04/05/15 10:09 ID:AYoUWnoV
思春期以前以後がこのスレでは萌えるかな?
思春期がいつ始まるかは、人によって違うから一概には言えないと思うが。
238名無しさん@ピンキー:04/05/15 10:12 ID:AYoUWnoV
ageちまった。スマソ

後言うなら、中学生でも奥手同士なら、小六の入試会場で会って中学一緒に通うようになって、そのままというのもありかも。
ジャンルが若干ずれるかもしれないが。
239名無しさん@ピンキー:04/05/17 08:04 ID:b9kqD9Bp
幼馴染<恋人 な王道だけど、延々と 幼馴染≦恋人 になってる関係って如何だろう?
240名無しさん@ピンキー:04/05/17 20:50 ID:CxSLmH3X
馬鹿野郎!幼稚園or保育園の時に結婚の約束したらもう幼馴染なんだよう!
241名無しさん@ピンキー:04/05/17 22:23 ID:b9kqD9Bp
>>240
でもそれを延々とひっぱってるのはそうないだろう? 特に男の方は。
「ずーっと俺にはお前しかいない。お前しか見えてねぇよ」
って恥ずかしげもなく言える関係だってあっていいじゃねぇか?
242名無しさん@ピンキー:04/05/19 20:12 ID:YVNpZKGC
ちょっと暇だったので通りがかりに参加。
全くラブラブでもエロでもないですが幼馴染の話なので落としてみます。
職人さんたち降臨までの繋ぎにでもなればこれ幸いということで。
243名無しさん@ピンキー:04/05/19 20:13 ID:YVNpZKGC
「辞書」
「辞書がなに」
机から顔を上げずに見知った他人の声を聞く。
彼は私の様子に少し困った溜息をついて、半開きだったドアから身体を滑り込ませた。
それをちらりと見上げて、また宿題に戻る。
私は幼馴染の人と違って、そんなに頭がよくないのだから
遊んでばかりで受験を乗り切れるわけではないのだ。
「辞書、貸してほしいんだけど、いいかい」
「弟に借りてよ」
私も溜息をついて、ペンを転がすと彼に向き直った。
「使うって分かってるなら、最初から持って帰ってくればいいじゃない」
「おまえを当てにしてたんだよ」
幼馴染が肩を竦める。
妙に背の高い彼は、その仕草をよくする。
私が溜息をつくのと同じくらいの頻度で、していると思う。
244辞書2/2:04/05/19 20:14 ID:YVNpZKGC
「昔からそうよね」
「うん」
「……」
嫌味というほどでもなかったけれど、誉めたわけでもないのに。
彼は時々、満足そうにあんな目で笑う。
私は困った。
そうして、何千回目かの溜息をついた。
「本棚にあるから持っていって」
「ありがとう。愛してるよ」
私はペンを持ちかけた手を止めた。
今、何か言われた。
気のせいだと思うことにした。
「…明日使うからちゃんと返してね」
「はいはい」
当たり前のように笑って、長身のTシャツ姿がドアの向こうに消えた。
窓の外の暗い若葉が妙に私の思考を鈍くした。
きっと、気のせいだったと思うことにする。
受験生なのだから、宿題を終わらせるほうが先だと思うことにする。
網戸から吹き込む初夏の風はいつもより涼しかった。
245辞書のひと:04/05/19 20:15 ID:YVNpZKGC
終わり。
一個目にタイトル忘れた。辞書 で。
246名無しさん@ピンキー:04/05/20 00:00 ID:OJte6a90
>>245
雰囲気出てるね。
ここで終わりってのは勿体ないよね、これをプロローグに続けて欲しいな
247名無しさん@ピンキー:04/05/20 22:24 ID:dVKKJKoj
>>243-245
グッジョブ。
俺も続きを読みたいです……。
248243:04/05/21 02:56 ID:vMqvK3Oe
王道の幼馴染コースとは違った雰囲気なのでどうかな、と思ってたけど
ちょっと安心しました。ありがとう。
気持ちと時間が向いたらまた今度書いてみようかと思います。
249名無しさん@ピンキー:04/05/21 08:03 ID:H7tS8zqa
>>248
全ての道は幼馴染みに通ず!
250名無しさん@ピンキー:04/05/21 19:02 ID:86Se8873
…まだ5歳だったころ、「えっちごっこ」と称してお互いの体を触りあう遊びを提案した、ひとつ年上の少しおませさんなハルカねえちゃん、今はどうしてるのかな…。

今も、俺が住んでた隣りの、あのクリーム色の家で暮らしてるのかな…。

なんかこのスレ読んでたら、ちょっぴりおセンチ気分になったよ…
251名無しさん@ピンキー:04/05/21 22:13 ID:NE9xLpxI
某スレの二次ものだけどイイ感じ

http://adult.csx.jp/~database/sslibrary/kaizou11.html
252243:04/05/24 04:02 ID:3oahpR8O
ちょっとだけ続き(というか仕切りなおしで最初から)書きましたので落とします。
前回同様、全くラブラブでもエロくもないですすみません。
いつかそっちにもってはいきたいのですがいつの話になるやらorz

というわけでラブエロ素敵作品は職人さん待ちということで、つまみ食いになればこれ幸い。
253243:04/05/24 04:03 ID:3oahpR8O
帰り道が一緒になってしまった。
なので私は、困りもせず嫌な顔もせず、肩を竦めて溜息をついた。
「何だい、ひーこ。そんなにぼくが嫌いなのかな」
「どうしてそういう発想になるの?」
私は彼を見もしないで答える。
とても困る。

幼馴染というのは、そんなに甘い関係ではないと思うのだ。


・・・・その1



初めて会ったとき。

初めて会ったとき、当然「依斗くん」なんて漢字は読めなかった。
私はだから幼いなりに頭を使って解読し、イトくん、だと信じ込んだ。

イトくんは兄さんが連れてきた。
イトくんは私の1つ上だった。
そして、名前は本当なら「よりと」と読む。
1つ上だったはずのイトくんは、高校三年生のときに突然何を思ったのか
フランスに行ってしまい、何を思ったのか今年戻ってきた。
そして当然のように留年扱いになり、高校三年生になった私と同学年同クラスになってしまった。
兄さんはもう大学生になり東京に行ってしまったのに、彼は未だにうちに入り浸っている。
もちろん理由はある。
邪魔なわけでもない。
だけど、困る。
私は彼の存在に、喜ぶでもなく嫌がるでもなく、なんとなく困っている。
ずっとずっと。
254243:04/05/24 04:22 ID:3oahpR8O
↑タイトルないけど、1/3。
255243:04/05/24 04:23 ID:3oahpR8O


―溜息が出るのはそのせい、といっても、この人には分からないだろうけれど。

「…イトくんのことが嫌いなわけないじゃない」
今年初めてクラスメートになった年上の幼馴染を横目で見遣って、私はすぐに視線をもどした。
春も終わりになり、薄紅の静かな夕空が広がっている。
隣から妙に嬉しそうな声がした。
「何、ひーこ。嬉しいことを言うね」
「どういたしまして…」
一緒に歩きたくないというオーラを発しているのにどうして気付いてくれないのだろう。
本当に、この人には困ってしまう。
年上とはいえ一応受験生だというのに、平気で遊び歩いているし。
256243:04/05/24 04:24 ID:3oahpR8O
↑…2/3。なんかもう意味ない気もしますがorz
2573/3(243):04/05/24 04:25 ID:3oahpR8O


 『緋衣子。橋田、留学するって』と、去年の3月兄さんは言った。
 『あいつ本当に頭飛んでんよな。すげえな。意味分かんねー』
 私は昔からそんなふうに、兄さんがイトくんのことを誉めるのを聞いていた。
 (まあ、どこまでが誉め言葉だったのかは分からない)


そう、馬鹿みたいに頭がいいのは知っている。
でもだからって、私がそうでないという事実は変わらないので
彼の余裕を見ていると本当に受験生としての気分が萎える。
きっと、悔しい気持ちもあるんだと思う。
私は本当に普通なのだから。

「あ」
それで思い出して、急に足が止まった。
苦手な生物の参考書を買うはずだった。
「何、どうしたの」
「イトくん、私本屋さん寄るから」
受験生ですから。
そしてご近所の目が気になるから先に帰ってほしいのですが。
私の無言の訴えに気付きもせずに、背の高い幼馴染が余裕げに呟いた。
「あ、今日サンデーの発売日だ」
「……」

私は本当に彼を嫌いではないのだろうか。
258243:04/05/24 04:27 ID:3oahpR8O
その1終わり。続きはまた時間ができたときに。
名前欄、間違えてばかりで申し訳ないです...
259名無しさん@ピンキー:04/05/24 19:17 ID:LHWsKyVj
>>258
GJです。
良い雰囲気が出ています。
260名無しさん@ピンキー:04/05/25 22:43 ID:mIdsRQGg
GJ
261名無しさん@ピンキー:04/05/26 01:11 ID:s8hUBET7
淡々とした甘くない空気が良いです。
イトくんの掴み所のなさと、ひーこさんの困惑が可愛いです。
続きを楽しみにしています。
262名無しさん@ピンキー:04/05/28 20:33 ID:hbZCeLct
続きを期待して保守をしよう。
263名無しさん@ピンキー:04/05/28 20:35 ID:hbZCeLct
続きを期待して保守をしよう。
264名無しさん@ピンキー:04/05/29 23:40 ID:PMJrXxYk
期待保守
265243:04/05/30 02:07 ID:8fJAozws
その2。
前出の「辞書」と大体同じなのでちょっと新しさはないのですが。

前回感想くれた方々、本当にありがとうございます。
続きはまた時間ができたときに。
2661/3(243):04/05/30 02:08 ID:8fJAozws

・・・・その2



橋田依斗くんは、隣の古マンションの2階でお父さんと二人暮しをしている。

私のうちは5人家族だ。
両親と兄さんと私と弟。
イトくんのうちと対で建つ、同構造のマンションの4階が住まいになる。
築20年は過ぎようかというおんぼろの建物ではあるけれど、
その分部屋も多くて割に広い。
5人(今では兄さんがいないので4人)で暮らすには少し狭いけれども。

でも幼馴染のクラスメートは、私のおぼえている限りでこの13年間ずっと、今の暮らしだった。
イトくんのお母さんがなくなった理由も時期も、私は何も知らない。


2672/3(243):04/05/30 02:10 ID:8fJAozws

「辞書」
ノックして入ってくるなり、幼馴染は私にそれだけ言った。
年上のくせに頻繁に私に頼る癖、どうにかならないのだろうか。
私は溜息をついて宿題を続けた。
「ひーこ、辞書あるかい、辞書」
「…たまには自分のを使えば?」
しかたなく一旦手を休めて、顔だけで振り返る。
イトくんは入りかけだった体を滑り込ませて、なぜか満足そうに私を見下ろして笑った。
「じゃあ宿題を教えてあげよう。ギブアンドテイク」
「自分でやるからいい。」
全く分かってないのだなと思う。
私がどんなに、イトくんが羨ましいのかとか。
未だに近所のお兄ちゃん気分でいる彼に、私はまた小さく息をついた。
268111:04/05/30 02:11 ID:8fJAozws
「使うって分かっててどうして持って帰ってこないの」
「もちろんひーこが持って帰ってくるからじゃないか。」
ペンを投げようと思ったけれどやめた。
長身の彼が、眉を僅かにあげる。
「で、借りてっていいのかな?」
「…どうぞ。後で返してね」
どうせいつものことなので、貸さない理由もないししかたがない。
閉めたカーテンの隙間から夕闇のほの白い空が見えた。
空のマグカップをなんとなく見つめて、私は頬杖をついた。
視線の端で、彼が一冊を手に引き出している。
そちらに視線を移すと、イトくんは不意にこちらを見返した。
そして薄く笑んで、目を細めた。
「分かってるよ。」
私はひとつだけ瞬きをした。
「おまえはいい子だね。愛してるよ」

頬を支えていた手の力が抜けた。
そしてイトくんはその好きに悠々と部屋から出て行った。
どんな顔で言っていたのか見るのすら忘れた。
とりあえず椅子に座りなおして宿題に向き合う。
そのまま何も考えずに、しばらく前の空間を眺めていた。
多分、気のせいだろう。
もしくはラテン語系国家の空気がまだ抜けていないのだ。

どちらにしても忘れたほうが心に良さそうだと結論付けて、
カーテンを閉めなおしてから宿題に戻った。
とりあえず気にしないことにした。
気にすることなんて、昔も今もなんにもない。
2693/3(243):04/05/30 02:14 ID:8fJAozws
↑なぜか名前欄が変になってますがエラーみたいです。111…??
その2は268で終わりです。
270名無しさん@ピンキー:04/05/30 03:02 ID:kktesXuH
GJ!
まじめでクールなひーこと、掴み所がなくて何を言ってもするりとかわすイトくん。
ひーこがイトくんのペースにまきこまれ、とまどって少し困っている様子がカワイイ。
こういう性格の組み合わせで、淡々としてながら良い空気感、雰囲気が出てるのがいいです。
大事に書いて(育てて)欲しい、とか勝手なことを思ってしまった。
気長に続編を期待。
271名無しさん@ピンキー:04/05/31 06:46 ID:8tQqOFTo
味のあるテンポ、雰囲気がイイ!
けっして甘甘ではないけど、どこかに確かに繋がりが感じられます。


ところで、いきなり部屋に入ってきた(家にいた)辺りが唐突に感じられました。
”うちに入り浸っている”という描写はありましたが。
母親の「今日も夕飯食べていくでしょう?」とか、
父親の「後で一局頼むよ」みたいな描写を入れて、
家族ぐるみのつき合いであること、外堀は既に埋められてることを示してみても良かったのでは。


話は変わりますが、自サイトでも書いてたりしません?
お気に入りのweb作家に雰囲気が似てるのですが。
勘違いならごめんなさい。
272243:04/05/31 13:47 ID:erWCwdxX
感想・ご指摘、謹んでお受け取りします。
いつもありがとうございます。

>>271
Σ (゚Д゚;)!!
確かに自サイトでこれの原型的な作品書いてます…が
二次創作(マイナージャンル)メインでやってるかなり小さなサイトなので
オリジナルの方面から特定される可能性はないような気がします。
多分違うのではないでしょうか…多分。


その3。
会話無いので読みにくいかもしれません。
続きはまた時間ができたときに。
2731/3(243):04/05/31 13:49 ID:erWCwdxX

・・・・その3


一緒に登校するなんて漫画みたいなことは、高校生にもなるとしないものだ。
だから学校に来て、出席が始まって気付いた。
出掛けにお母さんが受話器を取るのがドアの向こうに見えたけれど、
あの電話の主がイトくんだったのだろうということ。

衣替えで半袖になった制服の裾になんとなく指を落として、
だるそうに眠る幼馴染の顔を思い出した。
何か変わったことを言った風でもなく平気でいつもどおり接してくる幼馴染に、
ようやく私も気分がもとに戻り始めていたところだった。
あれはきっといつもの、心のこもった感謝の言葉だったのだと気を取り直していた。
だから、戻りかけたテンポがまた不意に僅かにずれを生じたみたいな、
そんな気持ちが私を不思議な空気で包んでいた。
「橋田ー。今日は橋田は休みか」
先生の声が教室に響いていた。
ガラス窓から見える梅雨前の曇り空が低い。

2741/3(243):04/05/31 13:53 ID:erWCwdxX

イトくんが留学すると聞いたとき、
性格は違うのにいつも不思議な信頼のようなもので繋がっている兄さんと、
ゲームで対戦しながらお土産を頼んでいた弟はどうだか知らないけれども、
少なくとも私とお母さんとお父さんが最初に思ったのは、「大丈夫なのか」ということだった。
それは言語や文化や性格の問題でなく、体が大丈夫なのか、ということだった。
昔ほどではないけれど、イトくんはやっぱり普通の人より体が弱い。
小学生の頃は、夏や冬は特によく半分ふらふらのまま兄さんに引きずってこられ、
橋田のおじさんが会社から帰ってくるまでずっと私のベッドで休まされていた。
ああ。
考えると私とイトくんは、同じ布団で寝たことがあるのか。
…だからなんだろうと思ったので思考を戻す。
小さく溜息をついて、珍しく聞き流した授業の、終わりを告げるベルを聴く。

広くたって所詮は安マンションだから、全員が一人部屋なんて無理な話だった。
私は女の子だったから小さな部屋を最初から一人で使えていたけれども、
兄さんと弟は去年までひとつの部屋をカーテンと本棚で仕切って使っていた。
でもイトくんが熱を出すたびに、私の部屋はイトくんの病室になった。
私は両親の部屋や兄弟の部屋で、布団を敷いて床に寝た。
せっかくの「私の部屋」を、お兄ちゃんのおともだち、に占拠されて、追い出されて。
2752/3(243):04/05/31 13:53 ID:erWCwdxX
↑…また間違えました。ごめん
2763/3(243):04/05/31 13:54 ID:erWCwdxX

だから私は最初、あんまりイトくんが好きではなかったように思う。
懐かしいことをふと思い出しながら、受験生用補習授業の無い曜日を帰途に着いた。
帰ったら多分、イトくんが兄さんの使っていた部屋辺りで寝ているだろう。
今日はそのまま泊まるのだろうか。
イトくんのお父さんは今年、はじめて海外転勤になった。
イトくんは受験生だから着いていかなかった。
(ただでさえ留学で一年遅れたのだからますますそうだった)
父一人子一人で、ほとんど出張も転勤も無かったというのは、今考えると変だった。
出世を諦めて、できるだけ定時に帰って、遅くなっても必ずうちに迎えに来ていた
優しくて背の高い橋田のおじさんの顔を、多分大人になっても忘れることはないだろう。

どうせお母さんが買ってあげているだろうな、と思いながらも
コンビニでイトくんが好きだったかちわり氷を手に取った。
遊び歩いていて、人に頼って、だけれどあつかましくもなく乱暴にでもなく、
当たり前のように、だけど常に深い感謝を伴って人を頼ることのできるイトくんが私は時々羨ましい。
手の中のアイスボックスから、ひんやりと水滴が手首に伝った。
梅雨がもうすぐだ。と私は思った。
277名無しさん@ピンキー:04/05/31 23:26 ID:tXqNWj4q
乙!
淡々とした描写が上手いですね。
278名無しさん@ピンキー:04/05/31 23:39 ID:kjAkyytR
お〜、こんなに早く続きが読めるとは!
ひーこの微妙な心の機微を丁寧にすくいとっていてイイ!ですよ。
しかしイトくん、馬鹿みたいに頭がいいけど体は弱いってなよキャラ設定でありながら
遊び歩いていてさらにあの性格か…。手強いな。
っていうかイトくんって結構スーパーキャラですね。
お泊まり…なにかある、のかな。
期待してない訳じゃないけど、この二人にはゆっくりじっくりいってもらいたい。
気長に続きを待ちます。
279243:04/06/05 05:40 ID:ZWZxsThM
淡々としたもの書いていると

「しょうがないなあ、あんたは昔ッから泣き虫なんだから!
 本当にあたしがいないとだめねぇ」
「うるさいな、いつまでも姉さんぶるのやめろよっ」

みたいなものが恋しくなります…おおお


その4。
王道幼馴染作品を待ちつつ、続きはまた時間ができたときに。
幼馴染ばんざい。
2801/3(243):04/06/05 05:42 ID:ZWZxsThM

・・・・その4


私と兄さんは似ていない。
兄さんは完全な運動部タイプで、行動力があって、感情が顔に出る。
なんでイトくんのような病弱な優等生と仲がよいのか、分からない。
それを言ったら、私がどうしてイトくんと一緒にいるのかも分からないけれども。

「ただいま」
音が響かないようにドアをそっと閉めて(古いマンションはこれが不便だ)、脱いだ靴を揃える。
ねずみ色に黒の線と紐、大きなサイズのスニーカー。
ふと目に付いたその靴で、幼馴染が来ていることが分かる。
「あらま緋衣子ちゃん」
母が抑えた声とともに台所から顔を見せた。
ひそひそ声でおかえりなさい、を言いながら口に指を立てる仕草をする。
「ちょうどよかった、買い物行きたかったのよ。
…橋田くん寝てるから静かにね」
弟の享は高校生になったばかりで部活に燃えている。
どうせ今日も夜まで帰ってこないのだろう。
私は心の中で息をついて、留守番を了解した。
こういうところが困ると思う。
イトくんがいくら家族同然と言ったって、私にとってはどこまでも他人なのに。
幼馴染と言うのはやっぱり、他人なのだと思うのに。
2811/3(243):04/06/05 05:44 ID:ZWZxsThM

テレビのある部屋のソファに荷物を下ろして、曇り空の窓を見た
コンビニの袋を右手に持ったまま、なんとなくその場で立ち尽くす。
そろそろ家の中が薄暗くなってきたので、電気をつけなければ、と頭の隅で思う。
氷も溶けてしまうし。
軽く溜息をついて、蛍光灯の紐を引っ張った。
そしてカーテンを閉めてから、自分の部屋を通り過ぎて、隣部屋のドアを開けた。
弟と兄さん(今はベッドと少しの家具しか残っていないけれど)の2人部屋は、
私にはほとんど用事のない場所だったので、なんとなく気後れがする。

軽い音を立ててドアノブが回った。
そしてその向こう、窓際の奥、少し前まで兄さんが使っていたベッドで、
幼馴染が身体を起こして外を見ていた。
…寝ていたんじゃなかったのか。
音をなるべく立てないように、後ろ手でドアノブを引く。
でも相手がすぐに気付いたのであまり意味はなかった。
疲れ気味の顔が、いつもの表情で余裕げに笑んでいる。
「やあ、ひーこ。お邪魔しているよ」
お邪魔というのかなんというのか。
「起きてたのね」
「いやいや、おまえの気配を察知しただけだよ」
「何しょうもないこと言ってるの」
謎の台詞に脱力して、とりあえずベッド脇の椅子に腰掛ける。
微かな溜息が出た。
何千回目だろう、この人に関わって溜息をつくのは。
買ってきた氷を差し出しながら、制服を着替え忘れていたことに気付いた。
2823/3(243):04/06/05 05:45 ID:ZWZxsThM
「イトくん、具合は?」
「頭がぼーっとしていると本が読めなくて困るね」
そんなこと聞いてない。
まあ、イトくんにとっては結構重要なのだと思うけれども。
曇った日の夕方に特有の、うすぼんやりした日光が開いたカーテンから差し込んでいる。
溶けかけたかちわり氷を食べる年上のその人は、こんな時いつも薄らいで見えた。
「ひーこ」
突然した声に、顔を上げる。
幼馴染は、空になった容器をゴミ箱に入れてから、私を見据えた。
なぜか、身体のどこかが萎縮した。
「何、イトくん」
「心配してくれてありがとう」
私は困った。
幼馴染の "心配かけてごめん" ではなく "心配してくれてありがとう" という
その性格が、多分私が困っている一番の原因なのだろう。
コンプレックスよりも、人をくったような遊びっぷりよりも、ご近所とか世間体とか、そんなものよりも。
否定ができなくて、何を言っていいのか分からない。
兄さんは、こんな人とどうやって仲良くしていたのだろう。
黙ってただイトくんを眺めるだけの私に、幼馴染は目を細めた。
「氷美味しかったよ」
「…そう」
お母さんが帰ってくるのを、こんなに待ち遠しく思ったことはない。
283名無しさん@ピンキー:04/06/05 08:03 ID:4WKWm5uF
何やらいい雰囲気・・・?新鮮な感じがするなぁ。
284名無しさん@ピンキー:04/06/05 13:51 ID:jiX3Px27
乙!
うん、幼馴染みでこの感じは新鮮だ。
王道もいいけど、こういう幼馴染み物は読んだ事無かったので楽しみ。
また時間が出来たときに続きよろしく。
285243:04/06/09 22:32 ID:tTxKYd8W
その5.
話、なかなか進まなくて申し訳ないです。続きはまた時間ができたときに。
2861/3(243):04/06/09 22:39 ID:tTxKYd8W

・・・・その5


私はあまりに早く兄さんがいないのに慣れた。
同じように去年、幼馴染が家に来なくなった時にもすぐ慣れた。
そんなものだ。
だって、別に死に別れるわけじゃなくて、世界のどこかで生きている。


イトくんは三日ほどしてやっと回復し、梅雨入りの直後に学校に復帰した。
薄手のシャツは寒いから、と紺色のジャンパーを羽織って登校している。
授業中も着ているので、たまに先生に注意されている。
校則違反ギリギリらしいけれど、イトくんはどうやらそういうことを気にしない人らしい。
今年になってから、幼馴染の新しい事実をたくさん知るようになった。
学年の違いというのは大きいものだな、と彼に視線をちらりと向けて思う。
「ひーちゃんひーちゃん」
声がしたので、思考を中断して顔をあげた。
後ろの席から伸ばされた手が袖を引っ張っている。
私は振り返って、なあに、と言った。
「予習やった?4番って解けなくない?」
ポニーテールで顔をしかめる志奈子さんに意識を移して、私はイトくんのことをすぐに忘れた。

2872/3(243):04/06/09 22:47 ID:tTxKYd8W

「橋田君はさぁ」
幼馴染のことを不意に志奈子さんが呟いたので、傘を持つ手に一瞬力がはいった。
「…うん?」
「橋田君てさ」
私より少し背が高い彼女は、大きめのビニール傘を時計の一時間くらい回して、
私の顔を見た。
「しょっちゅう休むよね」
「身体弱いから」
「そうなの?あれってさぼってるんじゃないんだ」
イトくんは基本的に性格がああなので、知らない人は本当に知らない。
私だって幼馴染でなかったら、あのふらふら遊び歩く自由人が夏には滅法弱いとか、
猛暑の日には外にも出られずぐったりうつ伏している、とか、きっとそんなこと信じられないだろう。
傘に落ちる雨音がひっきりなしに響いて、彼女の声に薄くかかる。
「ひーちゃん見た?4月の模試の上位者。橋田君全教科上の方にいるんだよ。
さぼってると思ってたからびっくりしたの。あと佐藤さんが1位だった。
 ひーちゃんもいたよ。49番」
嫌な数字だ。
軽く溜息をついて、かばんを身体に密着するように持ち直した。
雨の日はプリントがぬれるからいやだ。
「イトくんは頭良いから。風邪で寝ててもしょっちゅう本読んでるし、
休んでるところのノートはさらっと見て覚える。昔からだよ」
「ふうん…ちょっと待ってね。あ、あと3分だ。ラッキー」
道路わきにあるバス停の表面を屈んで見つめる後姿を雨の向こうに眺める。
彼女はバス通学だ。
ポニーテールが、振り返りざまに揺れる。
2883/3(243):04/06/09 22:48 ID:tTxKYd8W
「ていうかひーちゃん、なんでそんなに橋田君のこと知ってるの」
「うちの兄さん、イトくんと仲よかったからね」
「ああ、ダブりだからかー。ところでなんで橋田君が"イトくん"なの?」
私は、バス停の向こう、街中の道路に降る雨をぼんやりと見た。
傘にあたる水の音を無意識のどこかで聞いた。
梅雨時は、スカートの下に冷気が入って足が寒い。
志奈子さんの細い指にはまった金属は、とても冷たそうに見えた。
それでも好きな人のものなら、温かいものなのだろうか。
「漢字の読み間違いで、ちょっとね」
私はそれだけ言って、口をつぐんだ。
「…志奈子さんの彼氏、元気?」
そして話題を変えた。
「えへへ、聞くなよう」
「幸せそうだね」
そう言いながらも、受験生なのになぁ、と心の隅で思う私は、どこか冷たい気がする。
受験のせいで心が狭くなるなんて、なんの正しさもない。
でも私のある部分は確実に、去年より少しずつ冷えだしている。
雨みたいだ。
そんなもの、邪魔にならない人にはならない。
イトくんが漫画を読んで笑っていても、成績にひびのひとつも入らないように。
バスが水しぶきをあげて角を曲がってくる。
友だちにさよならをして、私はぬくもりのある古いマンションへの帰途に着いた。
水溜りを踏むと、靴に水が跳ねて滲み込んだ。
多分、今頃紺のジャンパーが玄関のコート掛けにかかっているんだろう。
それは気が塞ぐようで、暖かい気もするようで、楽しみなようで、滅入るようで。
ああ。

(まるで雨のようだ)

傘から伝い落ちる水滴に濡れた手の甲が、とてもひやりとした。
289名無しさん@ピンキー:04/06/10 23:11 ID:YqFRsMNf
なんか独創的というか幻想的というか…
雰囲気出て良い感じです。GJ!
290243:04/06/11 00:40 ID:BLHcz4ro
その6です。
前回イトくん出てこなかったので、すこし早めに。
お付き合いいただいている方、本当にありがとうございます。
続きはまた時間が空いたときに。
2911/3(243):04/06/11 00:42 ID:BLHcz4ro

・・・・その6


夢を見た。

中学生時代のセーラー服を着ていた。
スカートの下から伸びた足は幼く、小学校からやっと卒業したばかりというふうだった。
椅子に座って、自分のベッドから出た誰かの手を緩く握っている。
そうして、小さな窓から空を見ていた。
雨が上がって、仄かに光がひとすじ雲の切れ間から見えていた。
両手で包み込んだ誰かの手は、汗ばんでいて熱かった。
閉めた窓の向こうから、ちり紙交換のテープの音声が聞こえていた。
そうして、私は手の主の顔を見下ろして名前を―


「…こ、ひーこ」
夢うつつに名前を呼ばれ、ぼんやりと目を開ける。
薄暗い部屋の中に、幼馴染の顔が見えた。
長身を屈めて、私の頬に、手の甲で触れる。
いつの間に、こんなに男の人の手は固くなるのだろう。
「お嬢さん。夕食ですよ」
おかしそうに声を抑えて囁かれ、のろのろと身体を起こした。
制服のまま、自分のベッドで寝てしまっていた。
枕元に目をやれば、読みかけの参考書がひっくり返っている。
家に帰って、眠気を堪えながらも勉強していたはずだったのに。
「…今何時」
「七時半ちょい前だね。起きられるかい?ほら」
また頬を叩かれたので、力なくそれを退けて脚を床に下ろした。
2921/3(243):04/06/11 00:43 ID:BLHcz4ro

「イトくん、今日も食べてくんだ」
「いやまあ、自炊した方がいいんだろうけどね。お世話になってます」
「いいけど…お父さんと享は?」
「まだだよ。先に食べようっておばさんが」
じゃあ、この人と三人か。
少し力が失せて、シーツに手をついた。
ちらりと近所のお兄さんだった人を見上げる。
「イトくんのばか」
「? なんだいいきなり」
幼馴染は薄暗い部屋で小さく笑った。
言ってみただけだけれども。
私は溜息をついて立ち上がった。
「ひーこ、スカート皺になってるよ」
「寝押しするからいい」
「着替えないの?」
私は黙った。
イトくんが私を名状しがたい表情で見ていた。
「…あとでね」
「ふうん」
幼馴染の声は、穏やかな笑いを含んでいた。
私は彼の方をもう見ることもせず、さっさと居間に向かった。
2933/3(243):04/06/11 00:44 ID:BLHcz4ro

一年ぶりに帰ってきた幼馴染みのお兄さんは、なんだか顔が「お兄さん」ではなくなっていた。
きっと私がイトくんと上手い距離が取れないで困っているのは、そのせいだ。
それは確かに昔から、イトくんは私にとってよく分からない人だったけれど。
前はあんなふうに笑わなかった。
近くにいる時間は前よりずっと多いのに、前よりますます分からなくなってしまった。
怖いとか、そういうのではない。
嫌い、でもない(多分)。
「ひーこ。襟めくれてる」
「……」
黙って直して、形を整えた。
変わったのはもしかして、この人じゃなくて私なのかもしれない。
それは半分くらいはありえそうだった。

だって、2人とも変わったに決まっている。
こんなに手の形が変わったのに、お互いが変わらないなんてありえない。
襟を押さえていた手をゆっくりと離しながら、そんなことを思う。
294名無しさん@ピンキー:04/06/12 22:39 ID:chvunRwy
保守
295名無しさん@ピンキー:04/06/16 00:47 ID:ntIJ9Gpu
保守
296名無しさん@ピンキー:04/06/16 08:31 ID:aSzao+Us
期待age
297で〜もん:04/06/16 23:38 ID:dBoXv81C
 僕には幼馴染がいた。
 彼女と初めて出会ったのは小学二年の頃だった。僕はその頃郷里を離れこの地へと引っ越してきた。郷里は田舎だったため、引っ越してきてからというもの、ことあるごとに田舎者と、いじめられた。
 そんな時僕は、家の近くの川原で時を過ごす。ただぼんやりと、緩やかに流れる川を見る。僕の唯一とも言える楽園であった。そして、空が黄昏に染まる頃帰路へつくのだ。
 その日も、いつものように学校でいじめられたため、川原で座っていた。川の流れは緩やかだが、そこは深い。過去に大人一人が溺れ死んだこともあるぐらいだ。
 表面が穏やかでもその隠れた部分は激している。そんな川を見ているとすぐに時間が過ぎる。辺りは黄昏に包まれ、僕はそろそろ帰ろうかと腰をあげた、その時だった。
「おっ田舎者の浩太じゃん」
 ガキ大将格の翔とその友人数名が声をかけてきた。
「なにしてんだよこんなところで。やっぱ田舎者にはこういうところがないと生きていけないのか」
 翔が笑うと他の者も笑い出した。僕はむっとしながらも、何も言い返すことができなかった。言い返した後を考えると何もできないのだ。
 しかし、この場から逃げたいという思いは強かった。僕は、翔の横を通り抜けて家へ帰ろうとした。だが、僕の行く手を翔の腕が阻んだ。
「どこいくんだよ。お前にはこの川原が似合ってんのによぉ」
 僕は翔の腕を払って進もうとしたが大きく跳ね返されて、大きく尻餅をついた。翔が僕を跳ね飛ばしたのだ。
「どうせ引っ越してくる前の家も川原にテントだったんじゃねぇの?」
 僕は半ばむきになって、翔の横を通り抜けようとした。しかし、何度やっても翔に弾き返された。
 何度も跳ね返された僕は、尻の痛さと、翔に勝てない口惜しさと、嘲笑されている惨めさで、涙が出そうになった。しかし、何とかこらえようとしていると、
「浩太が泣くぞ! 泣け! 泣け!」
 一斉に泣け! 泣け! と、合唱が始まった。最初のうちは何とかこらえていたが、やがて涙が頬を伝った。
「やったー、浩太が泣いたぞ! 泣き虫浩太!」
 高らかに笑い声をあげた。その笑い声で僕のすすり泣く声は掻き消されていた。
「もうやめてあげたら?」
298で〜もん:04/06/16 23:40 ID:dBoXv81C
 突然、可愛い声が聞こえてきた。僕は思わず顔をあげた。そこには少女が立っていた。きれいに揃えられたショートヘアが似合う、活発そうな女の子だ。
「うーん、まぁレナちゃんがそういうなら……」
 と、翔たちはその場を渋々ながら去っていった。
「ほら大丈夫?」
 レナと呼ばれた少女は僕に声をかけた。だが、手を差し伸べることはぜず、ただ僕を見ているだけだ。しかし、返事をしようとしても、かすれて声にならなかった。
「全く……男の子でしょ」
 と言うと、レナはポケットからハンカチを出して、ぽんと投げると、そのまま去っていった。
 僕は彼女の投げたハンカチを拾った。真っ白なハンカチで、女の子が持っているものにしては味気ないものだった。そのハンカチで涙を拭い、しばらく彼女の残り香を嗅ぐようにその場に佇んでいた。

 後から知ったことだと彼女の名は雨宮レナ。僕と同じ年齢だがクラスは違ったためあったことがなかったのだ。美人で頭もよく、まさに優等生タイプだった。しかし、どこにも嫌味くさいところはなく、みんなから好かれていたようだ。明るく、優しい性格でもあった。
 そして僕の家の近所に住んでいると言うことが分かって以来、よく一緒に遊ぶようになった。
 はじめてあったと時、手を差し伸べてくれなかったあの冷たさは嘘のように優しく接してくれた。それは中学生まで続いた。
 しかし、中学生頃になると、女と遊んでいると、冷やかされることもあったので少し、遊ぶ頻度も少なくはなったが、それでも週に一度はお互い一緒に過ごす時間があった。
 それだく仲良く接してはいても、異性としての意識はなかった。少なくとも僕は意識していなかった。友達関係としてずっと過ごせていたのだ。
 しかし高校生になるとそれは変わった。
 レナは私立の進学校へ通うことになったのだ。レナの学力なら当然ともいえることだった。しかし僕は地元の公立高校に進学した。お互い学校が違うためスケジュールも合わず、当然のように疎遠になっていった。
 僕の高校生活は充実したもので、やがてレナのことも記憶の片隅にへと追いやられていった。
299で〜もん:04/06/16 23:41 ID:dBoXv81C
僕はいつものように帰宅していた。その日は丁度、自転車がパンクしていたため、徒歩で帰宅していた。徒歩で歩くのも新鮮でいいと、僕はいつにもなく気分が良く、いつもとは違う道を通って帰ることにした。
 普段通らない道なので再発見があった。特に川原がこんなところにあったとは忘れかけていた。レナとはじめてあった場所。
 中学生ぐらいから、川原へ足を運ぶことはなくなっていた。懐かしいなと、感慨にふけっていた。
 すると、川辺で誰かがしゃがんでいるのが見えた。僕は不思議に思ってそこへ近づく。
 それは女性だった。しかも、下着姿であった。ブラジャーとパンティーだけの姿だ。手には長い木の枝を持って、川へ身を乗り出して、何かを手繰り寄せようとしている。
 僕はもっと近づいてみた。見覚えのあるショートヘア。髪の毛だけを見て気付いた。レナだ。
「レナ」
 僕は静かに声をかけた。レナはびっくりしたように振り向き、僕だと気付くと当惑したような表情に変わり、手で下着を隠した。
 どこか焦燥したようなその表情は哀れみを感じた。
「どうしたんだよ、そんな格好で……」
 僕が聞くと、レナはぎこちない笑顔を浮かべ、
「いや、制服を川に落としちゃって。私ってドジね」
 と言うとぺロッと舌を出した。僕が川に目をやると制服は川に浮かんでいた。かろうじて、川底に刺さっている、木の棒に引っかかり流れることは免れていた。
 そんなところに制服が落ちるはずがない。普通に考えればそうだが僕は何も聞かずに上着のブレザーを脱ぎレナの肩にかけた。レナは驚いたように僕の顔を覗き込んだ。
 レナの顔はしばらく見ない間に大人っぽくなっていた。
 潤いのある眼、魅惑的で真っ赤な唇――。
 僕はそんな視線を避けるためか、靴を脱ぎ川へ入っていった。川が深いといっても中央辺りから突然深くなるだけなので、制服の引っかかっている場所は足をつけていけた。しかし思ったより深く、胸の辺りまで濡れた。
 僕が制服を持ってレナの元へ行くと、
「ありがと……」
 と消え入るような声で呟いた。
300で〜もん:04/06/16 23:41 ID:dBoXv81C
「これからどうするんだ?」
 僕は聞いた。
「ん……家に帰るけど……」
「そんな姿で帰れるか?」
「じゃあブレザー貸しといてくれる?」
「いいけど、ブレザーでも胸が開いてるから下着が見えるんじゃないか」
「大丈夫。胸元押さえていくから」
 と言ってレナは立ち上がって、胸元を押さえ、ブラジャーを隠すようにして歩いた。だが、長さが足りないため、足を踏み出すごとにパンツが見えた。
「ほら見えてるぞ」
「キャッ」
 レナは膝を押さえてしゃがみこんだ。
「ほらそれじゃあ帰れないだろ」
 レナは困ったような顔つきをして、涙に潤んだ瞳で僕を見つめた。
「どうしよう……」
 気丈だったレナがしおらしくなり、僕に助けを求めている。僕はしゃがみこんでレナに背中を向けた。
「ほら」
「ほらって?」
「おんぶしてやるからこいよ」
「そんなの恥ずかしいからいいよ」
「そんなこといわずにほら」
「おんぶされるぐらいなら歩いて帰る!」
 と、レナは真っ赤になった顔で叫ぶと、突然立ち上がり歩きはじめた。しかし、パンツを意識してか、物凄い小股で歩いている。
301で〜もん:04/06/16 23:42 ID:dBoXv81C
「ほらほら見えてるぞ」
 と言うと、もっと歩幅が狭まった。ほとんど前に進んでいない。
「まったく、それならこうしてやる!」
 僕は、レナに駆け寄ると膝の後ろと、肩を持って抱きかかえた。お姫様を抱く時のようなやつだ。
「やだやだ、やめてよ!」
 レナは僕の腕の中で暴れ出した。
「ほら暴れると下着が見えるぞ」
 レナは大人しくなったが口は俄然動き、
「やだ! 下ろしてよ。こんなの恥ずかしいよ!」
「おんぶとどっちがいい?」
「分かった、おんぶされるから下ろして!」
 僕はレナを下ろした。レナは子供のように頬を膨らましているが、素直に僕の背中へ乗った。レナの重みが僕の体にかかる。肌の温もりが服を通して伝わっている。気のせいかレナの鼓動が大きく打っているようだった。
「最初からこうしてればよかったんだよ」
 僕は皮肉るようにレナに言った。レナは不貞腐れたようにそっぽを向いている。一目で照れているのだとわかる。自然に笑いが漏れた。
「何笑ってるのよ。早く歩いてよ! ほら変な目で見られてるじゃない」
 レナはそうは言ったがこちらを見てる人は誰もいなかった。
302で〜もん:04/06/16 23:43 ID:dBoXv81C
レナは僕の家へ連れて来た。今のまま帰ると家の人が心配するだろうからと、僕の家でレナの制服を乾かしてから帰ることにしたのだ。レナは一体何があったのだろうか。
 僕はレナのことを考えて何も聞かなかったし、レナも何も言おうとはしない。レナが言いたくないのなら聞かないでおこうと思っていた。これが僕流の優しさなのだ。
 制服はドライヤーを当てて乾かした。時間がかかったが仕方がない。その間レナには僕のジャージを着ていてもらった。制服が乾いたのでレナはすぐ帰るものだと思っていたが、
「少しだけ話をしていきましょ」
 僕はその言葉に喜ぶと同時に当惑した。レナと一緒にいられるのは嬉しいが、その口調は少し深刻なものだったので、川原に下着姿でいたことの話ではないかと思うと重苦しく感じるのだ。
 しかし断ることもできないので、僕は承知し、台所へジュースを取りに行った。
 ジュースを持って部屋に入ろうとするとレナのすすり泣く声が聞こえた。一瞬入るのをためらったが、意を決してドアをあけた。レナははっとして僕を見たが、再び顔を伏せ啜り泣きをはじめた。
 僕はレナの隣に座った。レナが何かを言い出すのを待った。部屋にはレナのすすり泣く声だけが響く。
「私いじめられてるの……」
 レナは消え入るような声で喋り始めた。途中何度もつっかえたが、僕は口を挟むことはしなかった。レナが、離し終わるのを待った。
 レナが話した内容はこうだ。
 レナは進学国に通い始めた。だが、周りは小中学校からのエスカレーター式にあがってきた者ばかりで、レナの話し相手になるようなのはいなかった。
 その分勉強に励んだ。そして第一回目のテスト。レナは学年で一位を取った。いや、取ってしまったのだ。
 以後、クラスメイトのレナを見る目は冷たくなり、やがていじめへと発展した。最初は机に落書きするとかその程度だった。
 やがては靴を隠したり、教科書を隠したりと陰湿ないじめが続いた。しかし、レナは耐えた。耐えるしかなかった。
 そのうち、レナはいじめグループに呼び出された。そしてこういわれた。
「次のテストで学年最低点をとれ」
 と。
303で〜もん:04/06/16 23:44 ID:dBoXv81C
しかし気丈なレナはその命令を無視した。いじめにより満足な勉強はできなかったが、学年で上から十番目に入った。そのことにいじめグループが黙っているはずがなかった。
 そうして今回の事が起きたのだ。レナの制服を剥ぎ取り川へ投げ捨てた。
 レナはそういったことを淡々と喋った。僕は何も言葉はなかった。だが、僕は立ち上がり机の引き出しを開け、ハンカチを手に取り、レナの前に差し出した。
 真っ白な、何の飾り気のないハンカチ。僕が小学生の頃レナから渡されたハンカチだ。
 レナはそのハンカチを取り、涙を拭くと、うって変わったような笑顔で、
「ありがとう」
 と、僕のほうを見て言った。その瞬間、僕の視線とレナの視線が絡みついた。その一瞬だけ時が止まった。
 僕はレナの肩に手を置き、ぐっと引き寄せた。レナの顔が目の前にある。長いまつげ。透き通った肌。真っ赤な唇。
 レナは静かに目を閉じた。僕はゆっくりと顔を近づけた。レナの唇が僕の唇と触れ合った。柔らかい感触が僕の感覚を支配する。
 僕はただ、唇をくっつけていただけだが、レナが少しだけ唇を開いた。僕も同じように唇を開け、舌をレナの口の中に滑り込ませた。レナの味だ。
 舌と舌が濃厚に絡み合う。ぺチャぺチャと淫乱な音が部屋を響く。僕はレナの口の中を闊歩しながら、右手はレナの胸に滑り込んだ。
 レナは僕のジャージを着ていた。そのジャージを捲り上げ、ブラジャーの上から揉んだ。柔らかい。それでいて弾力を感じる。
 僕の理性はもう飛んでいた。唇を離し、レナを押し倒した。レナの潤んだ目が来て、と言っているようだった。
 僕は荒々しくレナのズボンとパンツを脱がした。初めて見る女性の神秘だ。薄っすらと光っているのは濡れているからだろうか。
 きれいなピンク色をしている。淫乱に僕のものを欲しているようだった。僕もズボンを脱ぎ去りいきりたった自分のものを出した。
304で〜もん:04/06/16 23:45 ID:dBoXv81C
「いいわよ、来て」
 レナは初めてなのだろうか? そんなことを考えながら僕のものをレナの恥部にあてがった。
「そこじゃないの……もっと上」
「ここかい?」
「そう……。そこ」
 僕は導かれた場所へものを入れようとした。しかし上手く入らない。何度も入れようとしたが、滑ったようになり、入らない。しかしそれはそれで、恥部と擦れあい気持ちのいいものだった。しかし、レナは、
「ほら、私も手伝ってあげるから」
 と、言って僕の物を握った。レナの細い指が僕の太いものを握っている。レナの体温が僕へと通じる。そして、レナが少し擦った時僕の限界が来た。白濁液がレナの体に飛び散った。
「もう……」
 レナは苛立ったように声を出した。
「ごめん。初めてだったんで……」
 と僕がうなだれていると、
「実は私も初めてだったんだ」
 照れるように笑ったその笑顔は、子供の頃のそれだった。僕がレナの笑顔を見たのはそれが最後だった。
 レナはその三日後死んだ。
 あの川で溺死したのだ。僕がいじめられたときレナが助けてくれたあの川。レナがいじめられていたとき僕が助けたあの川――。
 レナをいじめていた者は警察の事情聴取でこう答えた。
「ええ、私がレナさんをいじめていたの。ええ、そう。それであの川原でからかおうとして鞄を取り上げたの。それで中をあさってたら可愛げのないハンカチが出てきたの。
 そしたらレナさんは突然激昂して、それだけはやめてっていうの。だけど私たちは、そのハンカチを川の中へ放り投げたの。そうしたらいきなり川に飛び込んだの――」
 レナの死体の右手にはぎゅっと堅く握り締められていた。その中には真っ白な何の飾り気もないハンカチが入っていていた。
305で〜もん:04/06/16 23:46 ID:dBoXv81C
 ∧||∧
(  ⌒ ヽ 無駄に長いくせにエロくないです。。
 ∪  ノ  死んでお詫びします
  ∪∪
306名無しさん@ピンキー:04/06/16 23:51 ID:6Gp7iJ+X
>>305
グッジョブ……(つД`)ウワーン!!!
307名無しさん@ピンキー:04/06/17 02:11 ID:8yU6QD16
盛り上がって読んでいたら…ちくしょう切ないじゃないか・゚・(ノД`)・゚
308名無しさん@ピンキー:04/06/17 08:10 ID:H3EJpUVH
泣ける…
主人公、いじめっ子殺してよし
309名無しさん@ピンキー:04/06/17 08:11 ID:H3EJpUVH
今、横でいじめ自殺のニュースが横で流れてます…鬱だ…
310名無しさん@ピンキー:04/06/17 08:46 ID:qnT6t7dd
いじめっ子をギャフンと言わせてくれるような 次回作キボンヌ
311名無しさん@ピンキー:04/06/17 11:41 ID:EOgXXqBE
主人公にも腹が立つ…
312243:04/06/18 00:39 ID:tDaFuDZi
のろのろとした展開ですみません。
エロどころか恋仲にすらなってないよ…_| ̄|○|||
次なるエロ神様のご降臨の合間にでも読み流していただければ幸い。

その7です。
313243:04/06/18 00:42 ID:tDaFuDZi

・・・・その7


昼休み、イトくんの周りにいつもより人が集まっていた。
お弁当をしまって、図書室に行こうとしたときに気付いた。
何か写真らしいものを見て男子と数人の女子が盛り上がっている。
なんだろうな、と気にはなったけれど、それより複素数の方が私にとっては大事だった。
もうすぐ中間テストと模試がある。
早朝から放課後まで、最近図書室に篭ってばかりだ。

梅雨の晴れ間が数日続き、その日の夕暮れは久しぶりにきれいだった。
夏至が近い今は、七時半くらいになってもほのかに明るい。
段々に薄暗さを増す校舎の影をくぐりぬけ、締め切っていない正門から出る。
半袖の制服に初夏の夜風が気持ちいい。
……と、門の脇に立っていた影が不意に壁から離れ、私に手をあげた。
ただでさえ長い影が街灯に照らされて、私の足元まで伸びている。
「―おまえ、遅くまでよくやるね」
苦笑気味なのがどこかばかにされているようで、少し悔しい。
私は彼を仕方なく見返して、溜息をついた。
「イトくんこそ何やってるの」
「ひーこを待ってたんだよ」
あっさりと言われてしまった。
どう答えていいのか分からず、とりあえず彼を無視して歩き出す。
校舎脇の道路を、数台の自動車がヘッドライトとともに走り去った。
後ろから平気でついてくる気配が、なんだか落ち着かない。
私も話しかけないし、幼馴染もしばらく何も話す様子はなかった。
徒歩で30分強のマンションに少しだけ近道をするために、暗い公園の方に曲がる。


3142/3(243):04/06/18 00:43 ID:tDaFuDZi
公園に入ったあたりで、イトくんが沈黙を破った。
「家に帰ってからだと勉強できないわけじゃないんだろう」
私は彼を振り返った。
そうしてまた、前を向いて歩き出した。
「……学校のほうが集中できるから」
「帰り道が暗いだろう」
電池の切れかけた公園の白熱灯に、虫が群がっている。
足が、不思議と止まった。
後ろの足音も、私につられて消える。
「イトくんは心配性だね」
それでわざわざ、待っていることもないのに。
今度は体ごと振り返って、幼馴染を見上げた。
相変わらず読めない表情で見返してくる目は、それでも昔と変わらない色だ。
イトくんは、薄く笑って私の頭を撫でると歩き出した。
今度は私の方が彼に続く。
並ぶのはやっぱり気が引けるので、一歩だけ下がった位置のままで。

3153/3(243):04/06/18 00:44 ID:tDaFuDZi
「そんなに心配してもらわなくてもいいのに」
私が呟くと、幼馴染は斜め前で肩を竦めた。
「まあ、実際ぼくは頼りにならないしね」
「そんなこと言ってない」
「体力はないし喧嘩は弱いし、逃げるとしてもお前より先に息が切れるだろうね……なんとも情けないけど。
 でもまあ、いるだけで全然違うだろう。我慢しなさい」
「…だから、そんなこと言ってない」
何回目なのか、また溜息が出た。
イトくんがくつくつと笑う。
公園を抜けたところでまた、前を車が一台通り過ぎた。
ライトが遠ざかって、空はすっかり夜になっている。
私はふと思い出して、緩い坂道で彼に並んだ。
「イトくん。昼休み、何見てたの?」
「あぁ、おまえには見せてなかったね。ほら」
彼は鞄から封筒を取り出して、私に投げてよこした。
「留学してたときの写真。送ってもらった分。
 暗くて見えないだろうから、返すのは明日でいいよ」
頷いて、封筒をしまいながらまた一歩彼の後ろについた。
地方の県立高校の帰り道は、星がよく見える。
車も人も、そんなに通ることはない。
でも、やっぱり並んで歩く気にはならなかったし、これくらいの方が気が楽だ。
316名無しさん@ピンキー:04/06/18 01:10 ID:zKZLgswj
>>312
GJ!!
俺はあなたの作品好きですよ。穏やかで良い雰囲気です
次も楽しみに待ってます。
317無礼度:04/06/18 04:38 ID:Ffrhk1Xk
はじめまして。
「強気な女の子〜」スレで駄作を携帯投下中の駄文書きです。
以前こちらの住人の方にお誘い頂きまして、ちょいと来てみました。その内何か投下させて頂ければと思います。需要があればですが。
では。
318無礼度:04/06/18 04:45 ID:Ffrhk1Xk
↑「強気な女の子」ってなんだそりゃ。
「気の強い娘が……」DEATH。すいません。ごめんなさい。生まれて。
319名無しさん@ピンキー:04/06/18 11:05 ID:x+Oi8UNc
無礼度タンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
320名無しさん@ピンキー:04/06/18 13:26 ID:2qC+TJAW
お姉さん大好き
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1080659392/
いもうと大好きスレッド!
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077717174/
男装してる美少女にハァハァするスレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1020794488/
魔法・超能力でエロ妄想
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1083837007/

無礼度さん
こちらのスレにも来てください!
321無礼度:04/06/18 13:48 ID:FaBzzolX
>319
タン違います。といいますか、こちらのスレにはきっちりこちらのスレの職人さんがいらっしゃいますし、折りを見て投下させて頂きます。
あ、「気の強い〜」の自作駄文、気に入って頂けましたら転載して頂いても構いませんです。一応幼馴染みネタですし。
>320
携帯投下人間ですので、そのうち折を見て、という形で……(滝汗)いえ、お姉さんスレとかは実は投下したいのですがw
322で〜もん:04/06/18 15:21 ID:F+vMPqA+
 ∧||∧
(  ⌒ ヽ こんな作品を読んでいただきどうもです。
 ∪  ノ  死んで感謝します。
  ∪∪

>>310
書こうと思えば書けますが、かなりのスレ違いになりそうなんですが・・・
323243:04/06/21 05:12 ID:yib4B5Vc
その8です。
長くなってきたので、題名つけた方がいいかなとも思うのですが、どうなのかな。
他の職人様の作品を待ちつつ、続きはまた時間のできたときに。

>>321
自分の作品はいつ終わるかも見えないマイペース状態ですので、
どうぞお気になさらず投下してくださいませ。
エロを!もっと幼馴染的エロスを…!!
324(1/4)243:04/06/21 05:16 ID:yib4B5Vc

・・・・その8


写真はたくさんあって、どれも日本と全然違っていた。
空の青さや、人々の髪の色や、いつも写真のどこかで何気ない顔をしている幼馴染が。
よく一緒に写っている人たちには、男の人も女の人もいた。
撮った人は本当に写真が好きなんだろう、と思う。
いい写真ばかりだった。
それなのに、半分くらい眺めたところでめくる指先が止まった。
手がいつもより重かった。
無理をしてはしゃいだ次の日に心が疲れるような、そんな気分だった。
なぜだろう。
私は封筒に写真をしまった。
部屋の明かりを消して、お風呂に入ろうと腰を上げる。
なぜだろう。
――その気分はひどく、寂しさに似ていた。

3252/4(243):04/06/21 05:20 ID:yib4B5Vc

イトくんはまた校門の脇で黙って私を待っていた。
放課後が始まってから3時間と少し、ずっとそこにいたのだろうか。
そんなことを考えると、暗くなる前に学校での勉強を切り上げようかと思う。
この人を心配させるのは嫌だ。
「写真ありがと」
忘れないうちに封筒を手渡す。
教室で返すのは何となく気が引けていたのでちょうどよかった。
私は、手の平から消えた封筒の感覚にぼんやりしたまま、目の前の人を眺めた。
いつもと同じだ。
一学年上の校章が鈍く光っている。
写真が昨日と同じかばんの中に滑り込むのを見る。
あれから一応すべてに目は通したけれど、あまり気分は軽くはならなかった。
テスト直前は部活がなく、体育館も校庭も不自然に静かだった。
幼馴染の些細な仕草でさえも、耳に響いてくる気がした。
横断歩道を無言で渡る、二人分の小さく不規則な足音や、
布の擦れる音も、私が呟くようにこぼした言葉でさえも。



3263/4(243):04/06/21 05:22 ID:yib4B5Vc
「あのね」
いつも通りで、この人はどこにも行かないし変わらない。
私はなんとなく視線を上げられずに、幼馴染の名前を呼ぶ。
「イトくん」
"依斗"の一文字目が"緋衣子"の二文字目と似ていたから、幼い私はイトくん、と読んだ。
幼い彼は、一度も訂正しなかった。
一拍をおいてから、イトくんの声が返ってきた。
「ん?」
「もう待っててくれなくていいよ」
高校が見えなくなるくらいの道まで来たところで、告げる。
風が水の匂いを含んでいた。
そろそろまた、梅雨の後半が始まる。
私は、肩越しに振り返ったイトくんを見上げて、少し笑った。
「明日から、暗くなる前に帰る」
「どうして?」
「どうして…って。帰り道が、暗いし」
幼馴染は一瞬だけ不本意そうな目をして、それから残念そうに首を振った。
「一緒に下校できるの、楽しみにしてるのになあ」
「……やっぱり明日から早く帰る」
どう見ても本心で言っているようだったので、かえって困った。
写真を見ていて沸き起こった不思議な感じが、気のせいだったように思える。
なんなんだろう、もう。
イトくんがそんな私を見ておかしそうに笑う。
3274/4(243):04/06/21 05:22 ID:yib4B5Vc
「ひーこ」
通り過ぎた家の窓から、鯵を焼く匂いが漂ってくる。
そういえば、おなかがすいた。
「なに?」
「ぼくがなんでフランスに行ったか知りたい?」
いきなり何を言うのか。
「『夜間飛行』が好きだからって言ってなかったっけ」
「そうだよ」
「おととし聞いたよそれ」
なんなんだろう、もう。
溜息が出た。
イトくんは何がおかしいのか、私を見て心底楽しそうに目を細めた。
そしてしばらく私を眺めてから、肩につっかけていたかばんを揺らした。
「それ以外に好奇心というのもあるけど。因みに他の理由も知りたい?」
「どっちでもいいよ」
ちらりと見上げたら、目が合った。
ので逸らして口をつぐんだ。
この人はいつも通りのようで、やっぱり昔と少し違う。
それ自体は、困りはしても嫌ではない。
だけど、昨日突然この人を遠く感じてしまったのは、それは。
私がまったく共有していない世界がこの人にあるのを、見たせいなのだろう。
日本の片隅で必死に図書室通いで勉強する私なんて、イトくんから見たらどんなにか小さいだろう。
それを思うと、ひどく心が涼しかった。
「聞きたくなったら教えてあげるよ」
何も知らない幼馴染は懐かしそうにそう言って、前を向いて空を仰いだ。

私は彼の存在に、喜ぶでもなく嫌がるでもなく、なんとなく困っている。
初めて会ったときよりも、ずっと。

328243:04/06/21 05:31 ID:yib4B5Vc
>325の下のスペース空きすぎましたが、特に時間とか場面とか大きく変わってるわけじゃないです。
ただの失敗です。_| ̄|○
329名無しさん@ピンキー:04/06/22 22:33 ID:AjpSS5db
age
330名無しさん@ピンキー:04/06/25 02:09 ID:ka5WFN7c
ひーこちゃん萌え、だが
やはりイト君萌え!!<昔少女漫画読者だったので、このタイプには弱い

いいなー、いいですね。素敵です。243さん。
まず文章が上手いんですね。
その上、ひーこちゃんのすごく微妙な気持ちがまた丁寧で。
いつかあなたのサイトに出会えるといいな。
原型の作品も読んでみたくなりました。

くらもちふさこの「いろはにこんぺいと」(一応幼馴染みネタw)を
読みながら保守。
331243:04/06/26 05:17 ID:32t+O7DS
感想いつもとても嬉しいです。ありがとうございます。

その9。
いい加減進展させたいのですが、相変わらずな感じです。
続きはまた時間のできたときに。
3321/3(243):04/06/26 05:19 ID:32t+O7DS


・・・・その9


中間試験が終わった。
幼馴染はといえば、「テスト期間は早く帰れるので好き」だったらしく、
最終日はかなりつまらなそうにしていた。
その神経が分からない。
だけど、それくらいでないと兄さんと仲良くはできないのかもしれない。
兄さんはとても快活で、私からいつも遠い場所にいる人だった。



飲み物を取りに部屋から出ると、ちょうど電話が鳴った。
電子音は、ゲームをしている幼馴染と弟の傍で響いている。
「橋田くん出てよ」
「なんでぼくが?」
「いいから出てよ」
イトくんは、しぶしぶ手を伸ばして子機をとった。
弟はその隙にイトくんのキャラクターを連続技でKOした。
「…い、もしもし崎ですが」
空いた手で享を叩きながら、イトくんが滑らかな口調で受話器に話しかける。
3332/3(243):04/06/26 05:22 ID:32t+O7DS

『おー、橋田かぁ?』

大声が受話器から漏れ聞こえて、私の耳にも届いた。
思わず享と目を見合わせる。
テレビゲームの画面だけがちかちかと光って動いていた。
『オレオレ、オレだよ』
「……詐欺かおまえは」
イトくんは呆れたようにさっくりと言い放つ。
しかも返事は聞かず、隣に立っていた私ににっこりと受話器を押し付けた。
「さあ、おまえの大事な兄さんからだよ」
「イトくん話さなくていいの?」
「ハルの声なんて聞いてもなあ」
幼馴染は眉を顰める。
「あいつうるさいし」
「仲いいのにね」
受話器の下を押さえながら言う私を見て、幼馴染はふと目を細めた。
そうして私の頭をぽんと撫でて、弟の元に戻った。
それを見ながら何となく溜息をついて、電話を耳に持っていく。
「私だけど。何か用でもあったの?」
『くそ、おまえも橋田も冷たいな。オレの周りはそんなんばっかかよ』
「そんなことないけど。で、何か用?」
『用がないと電話しちゃダメか!?実家に!生まれた家に!』
私はしばらく黙って、弟をちらりと見た。
押し付けてしまおうか。
それでも一応気を取り直して、また受話器に耳を傾ける。
母さんが買い物から帰ってくれば、喜んで話に花を咲かせてもらえるのだけれど。
うちは兄さんだけが母さん似で、下の二人は父さんに似ている。
だからといって、別に兄弟の仲が悪いわけではないけども。
3343/3(243):04/06/26 05:23 ID:32t+O7DS
「兄さんは元気にしてる?」
『ああ。で、うちの家族は元気で、どーせ橋田は相変わらずふらふらしてんだろ、アハハハハ』
「……」
本当に弟に代わろうか。
そう思っていると、ふと電話向こうの空気が落ち着いた。
なんとなく、分かったので、どうしたの、と聞く。
壁にもたれて話す私を、ちらりと見る視線が幼馴染のものだと、なぜか分かった。
『おまえ、橋田と仲良くやってるか』
受話器を持つ力が、一瞬強まってすぐ抜けかけた。
落とさないように、慌てて持ち直す。
兄さんにそんなことを聞かれるとは思わなかった。
「どうして、そんなこと聞くの」
兄さんはしばらく黙ったあと、言い訳するみたいに続けた。
『ん。いやだから、同じクラスなんだろ?』
「うん……まあまあかな」
『そーか』
「うん」
『よし橋田に代われ!』
突然命令された。
相変わらずだ。
これだから、会わなくとも同じ場所にいなくとも、私はすぐ慣れるのだと思う。
世界のどこかで元気にしている。
―それが分かれば、私はいい。
嫌そうなイトくんに受話器を押し付けて、少し興味深そうに電話を見遣る弟を少し眺める。
それから飲み物を取りに冷蔵庫に向かった。
居間に戻ると、イトくんが隣の部屋に入っていくのが見えた。
どうせ友達同士は、内密の話でもあるのだろう。
あの二人の関係は本当によく分からない。
335名無しさん@ピンキー:04/06/26 05:27 ID:6+0cdxz3
乙です
初のリアルタイムでした

この二人の何とも言えない距離感がいい感じです
これからもがんがってください
336243:04/06/26 05:32 ID:32t+O7DS
幼馴染ネタの漫画だと、最近では「結界師」(少年サンデー)に萌えました。
お隣さんで家が敵対同士で年上ポニテの美人幼馴染。ばんざい。
337243:04/06/26 05:37 ID:32t+O7DS
>335
Σ(゚Д゚)!!あ、ありがとうございます…びっくりした
338名無しさん@ピンキー:04/06/26 06:19 ID:th9bevXN
乙!
いつもとても楽しませてもらってます。
相変わらず微妙な心理描写がうまいですね。
ひーこと、そのまわりの世界との間にひーこが感じてる距離感とか。
お暇な時にでもまたよろしく。
339名無しさん@ピンキー:04/06/26 08:06 ID:eQ46o5+6
結界師いいですよね!
アニキ出現でちょっとどきどきの本誌連載。

こちらでもアニキ出現ですね(出現言うな)
さりげなくジャブかましてくるアニキ萌え。素敵(ぽ)

疑問に思ったことがひとつ。
ひーこちゃんが「イトくん」と呼んでいるのに、
あきらかにもっと仲の良さそうなアニキと弟君が
「橋田」「橋田君」呼びなのは何か理由があるのでしょうか?
・・・実は重大な伏線だったり・・・

進展させたいがさせられないもどかしさが恋愛の常ならむ、
もどかしさが積もって急流になることもありましょう。
お暇なときにまたよろしくお願いします。
340代理転載:04/06/27 00:26 ID:Fu+37k5F
幼馴染み萌えスレhttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/otaku/2051/1088130904/

携帯からのマイペース書き込みの為、避難所に投下されたSSの転載です。
341代理転載:04/06/27 00:26 ID:Fu+37k5F
2 名前: 無礼度 投稿日: 2004/06/25(金) 11:51 [ j2w.ZBD. ]

以下の内容でSSを投下致します。
HN/無礼度
投下先/スレタイに準じます
タイトル/blue capsule

です。どうかお願い致します。では次のレスより投下開始します。
342代理転載:04/06/27 00:27 ID:Fu+37k5F
3 名前: blue capsule/無礼度/前書き 投稿日: 2004/06/25(金) 11:55 [ j2w.ZBD. ]

以前にお誘い頂きまして、せっかくですので(デス様)投下させて頂きます。
なお、以下の問題を含みますので、苦手な方は読まずにスルーして下さい。
・イタイ系かもしれません。
・甘々では無いです。
・EDはちとやるせないです。
・エロくないかもです。
・下手です(致命的)。

それでは、よろしければどうぞお楽しみ下さい。
343代理転載:04/06/27 00:28 ID:Fu+37k5F
4 名前: blue capsule/無礼度/1 投稿日: 2004/06/25(金) 12:06 [ j2w.ZBD. ]

小さな頃から、薬を飲んでいる。
水色と透明なカプセルの中に白とオレンジの顆粒。
濃い青のカプセル。
この二つを俺は飲まねばならない。
「快傑!!ネッケツマン」という遥か昔、俺がガキの頃流行ったアニメのデザインされた平べったい缶。絵ははがれ、浮き彫りのタイトルとキャラが残るソレを、俺は未だにケース代わりに使っている。
元々は飴かなんかの箱だったらしく、サイズも丁度良い。
もっとも、長年の使用により、あちこちへこんだりもしているが。
カラカラと音をたてながらそいつをいじっていると、台所から良い匂いと、モノを炒める音が聞こえてきた。
部屋の片隅に詰まれたゴミの中身はコンビニ弁当やら安さだけがウリのバーガー屋の屑やらである。
この部屋に料理の音など、久しく流れているまい。
苦笑と期待の入り混じった顔で、俺はソファーベッドに腰掛けた。

344代理転載:04/06/27 00:28 ID:Fu+37k5F
5 名前: blue capsule/無礼度/2 投稿日: 2004/06/25(金) 12:33 [ B/LZ9Mk. ]

「カズくーん、お皿どこー?」
香織ののんびりとした声が聞こえてくる。
「無ぇ」「な、無いって」「普段使わねーからな。どんぶりしか無ぇ」「ど、どーすんのコレ」「ちょい待て」
香織はあたふたしているが、野郎の一人暮らしで食器が揃っているほうが珍しい。
「ん」「ご飯って……、丼モノじゃ無いんだけどなぁ」
苦笑しながらも香織はたっぷりとソレを入れてくれた。
「ん?なんだコレ」「カズくんどーせ野菜なんか食べてないでしょ?本日は野菜オンリー」「まあかまわんが」肉の無い包皮肉というのは唯のキャベツ炒めでは無かろうか。
肉無しのチンジャオロースーにはローがつかぬのでチンジャオスーであるし。
「美味いから何も言わんがな」
「言ってる言ってる」苦笑しながらも香織はエプロンを外し、俺は軽く頭をさげ、そして飯にかぶりついた。

麻生和人。
森坂香織。
俺ら二人は別に付き合ってもいない。だが、ガキの頃から一緒だったので、お互いに気楽に会える。
たまに香織はメシを作ってくれたりもするし、俺も香織の家に遊びにいったりもする、そんな仲だ。

345代理転載:04/06/27 00:30 ID:qVS9Msz8
6 名前: blue capsule/無礼度/3 投稿日: 2004/06/25(金) 12:46 [ B/LZ9Mk. ]

「ふぅ、ごっそさん」
からん、とプラスチックの蓮華を置く。普段余り食わない俺だが、香織の料理だけは三杯はいってしまう。
「はい、お茶」
にこにこしながら香織は茶を渡してくれる。
「おう、サンキュ」
俺はそう言うと目を細めてソレを啜る。
「おじいさんみたいだよ?」
苦笑する香織に、「ほっとけ」と言うと俺は再び茶を啜る。
「ね、カズくん」「ん?」「最近、どうなの?」「何が」「だから」「おう?」

「やりたい事、できた?」

香織の質問は、
いつもの事ながら、
俺を不快にした。
「またソレか……」
「カズ君、もったいないって。投げちゃったらどーしよーも無いじゃん」
「どうもなんねーよ、いまさら」
「カズくん、そんな事」「あーもーこの話はナシにしよ……」

346代理転載:04/06/27 00:30 ID:qVS9Msz8


どく……ん。



自分の心臓の音が聞こえた気がした。
「……ヤベ……」
声が、かすれる。
「か、カズ君!?」
「わ、り……水、くれ……」
かすれた声でそれを言い、震える手で缶を開け、紺のカプセルを取り出す。
「は、はい」
「すまん……少し寝るから、帰っちまって構わねえから……」
そこまで言うと、俺はカプセルを呑み、ソファにばたりとぶっ倒れた。
発作……畜生……。
なあ、香織、おまえはそれでも、

投げるなっていうのか?
347代理転載:04/06/27 00:31 ID:Fu+37k5F
7 名前: blue capsule/無礼度/4 投稿日: 2004/06/25(金) 13:02 [ B/LZ9Mk. ]

俺が小学校に上がる直前。剣道の練習中に、俺は突然ブッ倒れた。
先天性のナントカで、治る見込みの無い病気らしかった。俺は運動を奪われた。
ガキだった俺に、おふくろは「別の趣味」を探させようとした。そんな中で、絵だけが俺の興味を捕らえた。
しかし、描いたりしていく内に、俺の興味はイラストや漫画に移って行った。
実際、そちらでなければ到底食えないだろうというのもあった。
両親は反対したが、俺は試してみたくて色々な賞に応募したりしながら経験を詰み、

そして絶望した。

流れ。流行。それに躍らされた無個性な絵。それを盲信する連中。擦り寄る事でしか防衛をせず、防衛しかせず。
アニメや漫画、ゲームを支えているオタクという人種の正体。
そして恐らくは俺もその一部だ。そう考えると、もはや俺はソコにはいたくなかった。
そして、筆を折った高校二年の春より、

俺はずっと空っぽのままだった。


病気は進行こそしないが、常におれが綱渡りをしているのは事実だ。そして、今の空な俺には何も無い。
バイトも下らない。しかし金が無ければ生きて行けない。
最低限の金だけを稼ぎ、残りの日々をだらだらと過ごす繰り返し。俺はもはや、生きているとは言えぬ日々を過ごしていた。
348代理転載:04/06/27 00:31 ID:Fu+37k5F
なあ、香織。
何も無いよ、俺には。いつ死ぬかもしれず、夢なんて二度も失ったしな。
わかってくれとは言わないけどさ、
香織……

「ん……」
「あ、気がついた?カズ君」
気がつくと、俺は香織に膝枕をされた状態で頭を撫でられているようだった。……酷く、気恥ずかしい。
「ん」
「あ、駄目だよまだ動いたら」
「……」
実際、まだ体は若干重い。俺は仕方なく、そのまま体を横たえた。
「……香織」
「ん?」
「お前は、どーなんだ?」
「え?何が」「最近」
「ああ。んー、やっと実習にいけるかも」
「そっか」
香織は教員を目指し、大学に通っている。……俺とはまるで違う、恐らくは実りある日々。確かに足を踏み込んでいる感覚があるであろう毎日。
「香織は、良いよな……」
ぼそりと呟いた俺のセリフを香織は聞き逃さなかった。
「カズ君?」
「ん?」
「こっち向いて」
膝枕の上の俺の頭を軽く押し、香織はまっすぐに俺を見た。
「カズ君?」「ん」


「……あたしは良いよなって、何……?」

香織は、怒っているようだった。
349代理転載:04/06/27 00:32 ID:qVS9Msz8
12 名前: blue capsule/無礼度/6 投稿日: 2004/06/26(土) 04:24 [ JrLNBnzI ]

「な、何って……」
香織の純粋な目が、俺を貫く。
「あたしね、要領悪いしトロいから、だから頑張らないとついていけないの」
「…………」
「高校の時からカズ君は全部投げちゃった。漫画も、イラストも、進学も、就職も。そして今だってダラダラしてるだけじゃない」
「そ、れは……」
「カズ君の病気は知ってる。でもそれは今のカズ君の理由にはならないよ?」
「…………」
「あたしだって、明日死ぬかもしれないんだから」
「そ、それは……」
「そんなのは詭弁かもしれないよ?でも事実。あたしは今のカズ君に羨ましがられる筋合い無い」
「…………」
「頑張ろうと、してよ。しようよ。カズ君。こんなボロクソに言いながらもカズ君の家に来て、ご飯作って。あたしが何でこんな事してるか、わかる?」
「…………香織」
「コレ……覚えてる?」
からん、と音がして、カプセルの入った缶が目の前に出される。
「……ああ」
「あたしがコレ、川に落としちゃって……そしたらカズ君、川に入って取ってくれてさ」
「ああ」
「そん時こう言ったんだよ?『目に見えてる内にあきらめるな馬鹿』って」



そんなセリフを、
言っただろうか。
当時の、
俺は。
350代理転載:04/06/27 00:33 ID:qVS9Msz8
13 名前: blue capsule/無礼度/7 投稿日: 2004/06/26(土) 04:40 [ JrLNBnzI ]

……香織は黙った。
今まで、いつになく熱に浮かされたように喋っていたのが嘘のような沈黙。
ただ、目はじっとこちらを見ている。
「……香織」
「ん?」
「俺な、たぶん」
「ん」
「……怖いんだよ」
「…………」
「夢中になってさ。それが楽しくて楽しくて仕方が無い時に、死んじまう……そんなのが怖いんだよ」
「馬鹿」
優しく、香織は俺の頭を撫でる。
「だからだよ。いつ死んだってここまではやれたって、笑って後の人に託せるようにならなきゃ。そういう風に頑張らなきゃ駄目じゃん。後悔なんて無い人生なんて無理だけど、せめて笑って死ねなきゃさ」
「…………」
いつから、コイツは。こんなに、強く、なったなか。いつから、俺は。ヘタレて、逃げるばかりになったのか。
「香織……」
「いいの。私は平気。カズ君が頑張る姿知ってるから。またあれを見れる日が来るって思ってる。ちょっと待ちくたびれてるけど」
「香織……」
ぴぴっ。電子音に、時計に目をやる。
「い、一時!?」
「あーもーそんな時間?」
「そんな時間?じゃねーよ!!お前どーすんだよ、帰れねーだろ!?」
「んー、ま、仕方無いよー」
あははと笑う香織の姿は、
昔から変わらないようで、
変わったようで。
幼い日、ハッパをかけた俺と立場がまるで逆だけど。
俺らは当時のように、こうして一緒にいる。
351代理転載:04/06/27 00:34 ID:qVS9Msz8
14 名前: blue capsule/無礼度/8 投稿日: 2004/06/26(土) 04:54 [ JrLNBnzI ]

「……香織」
「ん」
どちらからともなく、俺らは唇を重ねた。

「んッ……、ちょ、やだ……」
「何が?こんなに濡れちまってるじゃねーか」
「馬鹿ッ、あ、……んンッ!!」
月並みなセリフしか出ない。
ありきたりな想いしか出ない。
でも、間違いなくそれが本心で。
俺は香織を抱き締め、愛撫する。
互いに狭いソファーベッドの上で、丸で猫がじゃれるかのように睦み合う姿は、滑稽かもしれないけど。
俺達は愛し合った。
「ちょ、……やッ、それ、駄目……」
「ヤベ……もう、我慢できねぇ……、挿入て……イイか?」
「ん……」
一つに、なる事が、嬉しい。そう心から思えた。
「ん、んあッ、ああッ、〜〜〜〜ッ!!」
「く、ぅッ……気持ち、イイ……」
「あ、ああ……カズ君、カズ君ッ……」
「う、ごかす……ぜ……」
お互いに、大した経験も技術も無い。故にか、たちまち限界は訪れた。
「香織、悪ィっ、も、もうッ……!!」
「あた、しも……んァあッ!!」
「ぅ、くぁッ!!」
最後の理性のかけらでなんとか引き抜き、俺は香織の身体を白く汚した。互いにぶるぶると暫く震え、そしてそのまま抱き合い、眠りに落ちた。
352代理転載:04/06/27 00:34 ID:Fu+37k5F
15 名前: blue capsule/無礼度/9 投稿日: 2004/06/26(土) 05:08 [ JrLNBnzI ]

なぁ、香織。
俺は馬鹿だよ。
しかもヘタレだよ。
でもな、やっぱり男だからさ。
意地があるんだよ。
大事な、がむしゃらになれる事。
やっと、一つ見つかったよ。
なあ、香織。
ガキの頃から。
お互いそばにいてさ。
わかんねー事なんて無いかと思ってもそんな事は無いんだよな。
なぁ、香織。
なぁ、

かお……


「カズ君!!」

353代理転載:04/06/27 00:35 ID:Fu+37k5F

私の机の引き出しには、缶が一つ入っている。「快傑!!ネッケツマン」というアニメのキャラクターが浮き彫りにされたその缶の中には、今でも青いカプセルが入っている。
……教師となって数年が立つが、いまだ挫ける事が多い私。そんな私の、お守りだ。

カズ君。見ていてくれますか、聞いていてくれますか?
私は、元気に、出来るだけ悔い無く、毎日を過ごしています。
カズ君。
……ねえ、カズ君。






「ねえ、カズ君。
私たち、上手く行くかな?」
「そこも努力すんだろ?お前の言い分なら」
「ん、そだね……ふふ」
擦り寄る私。照れくさそうな彼。


ごめんなさい、私はまだ時々こうして泣いてしまうけど。
カズ君。
私は、元気に、必死で、やって行くから。
次に会ったら、お互いに笑顔で。
カズ君。


ねえ、カズ君。


<了>
354代理転載:04/06/27 00:36 ID:Fu+37k5F
これで終了。

エロパロ板としたらばの行数制限の違いの為、分割したレスがあることをお詫びします。
では。
355名無しさん@ピンキー:04/06/27 18:35 ID:f3PyBWcP
せつない話やのお
356名無しさん@ピンキー:04/06/28 00:09 ID:KIq7Zfnx
GJ!!
だが切ない(つД`)
357名無しさん@ピンキー:04/06/29 21:58 ID:+mxD0u4Y
前スレのSSってもう読めないのでしょうか。
どうも>1の保管庫が死んでるようなんですが・・・。
358名無しさん@ピンキー:04/06/29 22:10 ID:8YDDDVJW
>>357
サーバーが重くて繋がりにくいので、何度かリロードして再試行してみて下さい。
359SS保管人:04/06/29 22:57 ID:S7zSeQ1P
建設途中の移転先を紹介してみる…

http://sslibrary.gozaru.jp/

今の所とは比べ物にならないほど軽い!
何故かFFFTPが繋がりにくい点と、容量制限がある点をクリアすれば多分引っ越すことになると思う。
360243:04/06/30 00:43 ID:ddk8v84F
これはなんと軽い保管庫!
いつも頻繁な更新おつかれさまです。

その10.
無礼度さんはじめ職人様方の新作も期待しつつ。
いつも読んでくださる方には本当に感謝です。
3611/5(243):04/06/30 00:45 ID:ddk8v84F

・・・・その10


嫌なことは重なると諺がいう。
その通りだと思う。
中間試験の結果は、努力なんてものに少しも報いてくれず、現実だけが紙の上にあった。
私は多分、どこかの誰かと違ってとても要領が悪いのだ。
だけどそれでも、やったことにまったく結果がついてこないのは悔しかった。
そうして落ち込んでいた数日後、何年振りだろうか、走っていて転んだ。
それはもう見事に、坂道で。
その日は日曜日で、受験生だけが模試のために登校することになっていた。
だからただでさえ人口減少中の町内には人がいなくて、
私は一人で傍に散乱したノートを掻き集めた。
信じられないくらい悲しい。
そう思って立ち上がろうとしたら、右の足首が体中を痛ませた。
……こんなときに泣いてしまえたらどんなに楽だろう。
3622/5(243):04/06/30 00:46 ID:ddk8v84F

蹲って私は足首を反射的に抑えた。
緩い坂道の途中に、拾いかけた鞄が放り捨てられて日光に晒されている。
膝はすりむいて血が出ていて、グレーのスカートの裾に数滴染みこんでいる。
遠くから、誰かに呼ばれた気がした。
目の端で坂の上に現れた長身が走ってくるのを痛みに麻痺したままぼんやりと感じる。
頭上に影がかかってなんだか涼しい。
痛みに麻痺しかけた私の上から、よく知った声が降る。
「ひーこ、どうした」
膝を折って、座り込んだ私を幼馴染が覗き込んだ。
心細かったので、やっぱりそういう態度はありがたかった。
通学路が同じで学年も同じだったことを、このときばかりは嬉しく思った。
でも状況説明をするのはなんだか気後れがして、答えようとする声は萎む。
「大丈夫かい、何かあった?」
「…転んだだけ」
「本当に?」
「あと足首が痛い。ちょっとだけ」
心配そうな視線で、かえって泣きたくなった。
この人といると劣等感ばかりになる。
「立てるかい。手貸そうか」
「ん、ちょっと捻っただけだと思う…から、」
立とうとしたけれど痛すぎてまた顔が歪む。
動かすと痛い。
「ああこら」
隣の人が慌てて身体に触れる。
手の平が熱かった。
梅雨明けの太陽の下なんてこの人にはいい環境ではないのに。
3633/5(243):04/06/30 00:48 ID:ddk8v84F
「無理するなよ。まずは病院だね、電話はあるかい?」
「でも模試」
イトくんは黙って私の頭に手をうずめた。
彼の瞳を見上げて、私は口をつぐんだ。
なんだか悔しい。
「…携帯は校則違反だもの」
「相変わらず真面目だね」
イトくんは膝の砂利を払って立ち上がると、辺りを見回して頭をかいた。
私達の隣を好奇心に駆られたような小学生が自転車で過ぎ去っていく。
道路をつっきる小学生を困ったように眺めて、幼馴染はまた背をかがめた。
「とりあえずおまえを移動しよう。通行の邪魔になる」
「うん……」
あまりに見も蓋もない言い方だけど、その通りだった。
悲しくて惨めな気分だった。
なのにこういうときに限ってイトくんの声は優しく降ってくる。
「ひーこ。立つのは辛い?」
「無理そう」
投げやりな口調に幼馴染はただ苦笑した。
そうして、突然私の体が浮いた。
「よっと」
ひょいと抱えられて、身体ごと持ち上げられた。
びっくりして一瞬視点が宙に浮く。
頭の横で声がする。
「おまえ見た目より軽いね」
「……そう?」
とりあえず見える範囲に人はいなかったので、安心して息をついた。
事態に慣れると、歩道の端までの数秒間、空を眺める余裕ができる。
この人は、こんなに力があったのだろうか。
落ちないように首に手を回して考える。
3644/5(243):04/06/30 00:50 ID:ddk8v84F

体力がないなんて言ったって、やっぱり男の人だ。
膝の下で支える左腕も肩口にまわされた右腕も兄さんよりはずっと細いけれど、
それでも私なんかとは全然違う感触と温度で。
はっきりと覚えていないけれど、会ったばかりの頃は全然こんな風ではなかった。
そう思うと変な感じがする。
というかむしろ宙で動く足が痛い。
腰くらいの高さがあるコンクリートに踵が触れて、ほっと心が落ち着く。
それから、腕をほどこうと力を抜いた。
その一瞬、イトくんが私を抱いていた力を不意に強めた。

一秒間。

長かった。

力はすぐに弱められて、あたりまえのようなしぐさで彼は私を放した。
だけど、私はイトくんの顔を見なかった。
鞄を拾って持ってきてくれて、自分の携帯電話(…もはや何もいえない)でうちに電話をかけて
保険証と後の対応を頼み、さらにタクシーを呼ぶ彼の声は全部耳を素通りしていた。
込められた力の余韻が肩口で熱い。
3655/5(243):04/06/30 00:52 ID:ddk8v84F
……さっきのは。
さっきのは、なんだ。
「タクシー呼んだ。病院までは一緒に行くよ」
「……うん」
「ひーこ」
顔をあげると、いつもの顔があった。
少しほっとする。
気のせいだと思いたい。
「大丈夫かい」
私は彼から目を逸らした。
溜息をつくほど、気持ちは静かではなかった。
「…大丈夫じゃない」
「うーん、骨いってないといいね」
「嫌なこと言わないで」
足首の痛みと太陽の暑さが私の頭を白くする。
顔もなんだか熱い。
イトくんは心持私から離れてタクシーを待っていた。
困ったことは重なるものだ。
諺はとても正しい。
366243:04/06/30 01:02 ID:ddk8v84F
>>339
アニキが「依斗」で呼んでると、ひーこが名前を読み間違えるという誤解が
そもそも発生しないから、というくらいのかなり軽い理由です_| ̄|○ スミマセン...
ひーこ以外が苗字で呼ぶのは単にお兄さんの呼び方に倣っているだけです。

では、続きはまた時間のできたときに。
367243:04/06/30 01:17 ID:6fLaR7zL
ちょっと長めの新作キター!
しかも早いし、ナニやら震天、じゃなくて進展・・・
これをニヤニヤせずにどうやって読んだらいいのか!
イトくん偉い!!

「橋田」呼びのお答えありがとうございました。
なるほど、そういわれればそうですね。ふーむ。
イト君は、もしかしたら、ひーこちゃんだけのその呼び方を
こっそり気に入ってたりするのかも・・・なんてそりゃアンタ乙女の発想よ

すいません。不意打ちに嬉しい展開だったので、かなり頭がイカレました・・・
以後名無しに戻り、おとなしくします。
スレの皆様失礼いたしました。
368名無しさん@ピンキー:04/06/30 01:17 ID:GDCmUYp/
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
匍匐前進中・・・?
369名無しさん@ピンキー:04/06/30 01:29 ID:kGH8jKVl
いつもながらGJ!
序々に動きがでてきた…のかな?
またよろしく。
370SS保管人:04/06/30 01:31 ID:IGr3w3qj

新しいPCを注文してるので、それが来てから正式に引っ越すことになると思う。
データの移行とかリンクの書き換えとか、ファイルが3000以上もあるから何度も繰り返せないし。
371SS保管人:04/06/30 21:34 ID:5uChcK1n
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/

移転しました
372名無しさん@ピンキー:04/06/30 22:06 ID:h8sL004L
>>371
すげぇぇぇっ!快適だぜぇっ!

まだアクセス数が少ないだけかもしれないけどね(´・ω・`)
373名無しさん@ピンキー:04/06/30 22:31 ID:8oTpSfLn
>372
うん、快適だ。お疲れさんです。
37481 ◆ys4//9gEbc :04/06/30 22:34 ID:8oTpSfLn
失礼、お疲れさんの部分は>371宛てです。

それはそうと・・何ヶ月ぶりだろうか( ゚∀゚)ノ
なかなか私生活で時間が取れない。
まぁ、忘れた頃にもう一度投下します。
375243:04/07/01 02:01 ID:Y4QJxWSc
>371
うおう、ほんとに軽いですね。おつかれさまです。

81さんが投下してくださるのも気長に待ってます。


その11、早めですが。
前回ちょっと(展開的に)緊張しながら落としたので感想とても嬉しかったです(゚∀゚)
3761/4(243):04/07/01 02:03 ID:Y4QJxWSc


・・・・その11


「全治二週間」
と言われて、私は松葉杖としばらくお付き合いすることになった。
骨に異常はなかったけれど、ねんざとしてはあまり軽くもないようだ。
一週間と少しの間、仰々しいギブスが足首についてくる。
結局、今回の模試は受けられず(イトくんはあのあと居残りして受けたそうだけれど)、
私はしばらく人の助けなしには動けなくなった。
溜息が出る。
それに加えて、頭まで混乱しているので授業は全然耳に届かなかった。
頭に何も入らない。
勉強が、まったく、ちっとも、できない。
こんなのは変だ。
恨もうとしても、思い浮かべただけで何も分からなくなるのでそこまでたどり着きようもない。
それなのに当の本人は、いつも通りにうちに来る。
全然平気な顔でいるように見えるのは気のせいだろうか。
かといって気のせいじゃなくても困るような気もするし、
考えれば考えるほど分からなくなるので半分諦めた。
分かることといったら、顔をまともに見られないのは、私の方だけだということくらいだ。
そんなこと分かったって嬉しくもなんともない。
ぼんやりと朝の曇り空を見上げ、私は溜息をついた。
3772/4(243):04/07/01 02:06 ID:Y4QJxWSc

「おっはよう、ひーちゃん!待ってて、開けたげる」
塞がった両手でどうにかドアを開けようとしていると、早朝のざわめきに混じって声がした。
当たり前のように教室のドアを引いてくれる友だちに感謝する。
志奈子さんは困ったように細い眉を寄せて、心配そうに首を傾げる。
「なんか大変だね。三年生1階で良かったよ」
本当にそうだ。
もしこれで教室が最上階だったりしたら泣きたい。
足がこの状態になって2日ほどだけれど、意外にも人が手伝ってくれないことが多くて少しショックを受けている。
単に気付いてくれないだけなのは分かるのだけれども。
階段を上るとか、ドアを開けるとか、本当にそれだけのことでなんでこんなに力が要るのだろうと思う。
予定通りならあと一週間ほどで普通に戻るのだけれど、一週間も待てないくらいだ。
椅子に座るだけでも簡単にいかないのは、流石に嫌になってくる。
座る間、持っていてくれた杖を受け取って、机の左端に寝かせた。
「ひーちゃんどうやって学校来てるの?やっぱ車?」
「行きはお父さんの車。帰りは時間あんまり合わないから、タクシーとかだけど」
鞄から辞書を引っ張り出しながら肩を竦める。
お父さんは学校で待っていられる時間限界よりずっと遅くまで働いていることが多い。
兄さんが独り暮らしを始めてからお母さんも週3のパートに出た。
東京の私立大学でしかも一人暮らし、となるといくら奨学金を申請していても
やっぱり家計的には苦しいものがあるのだろう。
うちにはまだ弟もいるのに。
だから私はできるだけ国公立に行きたいと思うし、私なりに頑張っているのだけれど。
田舎の進学校にとっては国立狙いだけでも充分にハイレベルだ。
溜息をついて、腕時計に軽く視線を移す。
3783/4(243):04/07/01 02:08 ID:Y4QJxWSc
午前8時近くなってクラスには続々と人が増えはじめている。
笑い声やざわめきが大きくなりはじめた教室の前のドアから、また一人入ってきた。
「…ぁ」
目の端でそれが誰かすぐに分かってしまいそちらを反射的に見る。
幼馴染はこちらを一瞬見つめた後、小さく笑った。
いつも通り周囲に挨拶しながら自分の席にさっさと落ち着く。
なんでそこで笑うのかが分からない。
どういう顔をしていいのか途方にくれて、なんとなく友だちの名前を呼ぶ。
「志奈子さん」
「んー?」
後ろの席の友だちは、2時限目の予習から顔をあげてにっこりと笑った。
「何かな。何かあったらなんでも言ってね」
私は振り返ったままで彼女を見る。
今日はおろしたままの長髪が、胸元の緋色のリボンにしっとりとかかってとても綺麗だ。
「ひーちゃん今、ちょっと立つだけでも大変でしょ。遠慮しないでいいからね」
「…ん、ありがとう」
もともと何を聞こうかも決めないで話しかけただけだったけれど、
なんだかとても嬉しかった。
自然と気分が落ち着いて、ほうっと前を向く。
掲示板のプリントが外れかけているけれど、今の私ではちょっと立って直すだけのこともできない。
だからこそ、志奈子さんの言葉は実感を伴って届いた。
気遣ってくれる人がいるのは貴重だ。
普段思っているよりも、ずっとずっと貴重なことだ。
身体が思い通りに動かせないと、そんな当たり前のことが身にしみて嬉しくなる。
3794/4(243):04/07/01 02:10 ID:Y4QJxWSc

―ああ。

開いた教室の窓から、涼しげな風が吹き込んでいた。
授業開始のベルを遠くに聞きながら、相変わらず茫漠とした頭でふと蘇った言葉がある。
あの人は。
窓際寄りの、前の方で外を見ている(授業を聞いていないようだ)幼馴染は、当たり前のように言う。
"心配をかけてごめん"ではなく、"心配してくれてありがとう"と言う。
いつの間にか、その声を鮮やかに思い出していた。
今ならなんとなく分かる。
イトくんが心の底から、かみしめるようにでもとてもさり気なく、人に向けている言葉と気持ち。
人より病弱で誰かの手を借りなければ生きていくのが難しい。
だけどそれは多分、皆同じだ。
私だって、少し足を違う方向に捻っただけでそうなってしまう。
白いままのノートをぼんやりと見下ろしながら、時々幼馴染の背中を無意識に眺めた。
橋田依斗くんはそれでも、いつも通りにうちに来る。
マンションの階段を登るのに手を貸してくれたりする。
それは私をとても困らせたけれども、落ち着かなくさせたけれども、
本当に自然に彼は私を助ける。
あの人はそういう人だ。
それが不意に分かり、自由な方の足首で、私は何となく床をけずった。
だからといって、イトくんのすることまで理解できるわけでもなかった。
それでも無秩序に波立っていた混乱が、少しだけ穏やかになった。
シャープペンを持ち直して、数日振りに黒板を見る。
頬に当たる夏の風が心地よく、私はしばらく最近の困惑を忘れることができた。
380243:04/07/01 02:17 ID:Y4QJxWSc
ええと、そろそろ、タイトル『辞書』のままではなんなので。
『Scarlet Stitch』に変更お願いいたします。<保管庫管理人さま

一歩進んではまた止まってるようではありますが。
続きは、少しいつもより早めに投下できるのではないかと思います。
381名無しさん@ピンキー:04/07/01 03:00 ID:bKFs6e4+
乙!
前回動きがあった後の素早い投下でうれしかったです。
投下間隔が短くても丁寧な心理描写がくずれないのが素晴らしい。
タイトルも決まって、一進一退を繰り返しながらも確実に動いてますね。
続きを楽しみにしてます。
382名無しさん@ピンキー:04/07/02 00:43 ID:Cjq3kw2c
243さん乙かれーです。 いつも楽しみにしてるんで頑張って下さい。
383名無しさん@ピンキー:04/07/02 02:31 ID:7Vln/4kP
おお、ひーこちゃんの方にも進展!
想像していたのとは違ってましたが、とても気持ちのいい変化ですね。
微妙に微妙に近づいていく距離がいいです。
タイトルの意味を考えつつ、続きがいよいよ楽しみです。
384243:04/07/02 05:03 ID:M5mP1Zh4
その12です。
この調子だとくっつくのいつになるんだろ orz
が、頑張ります。続きはまた時間ができたときに。
3851/4(243):04/07/02 05:05 ID:M5mP1Zh4

・・・・その12


今更のように中間試験の順位が発表された。
点数から予測はついていたけれど、前回よりもずっと下がっていたのに落胆した。
イトくんの方は、成績を判断する両親がいない代わりに、お母さんがいちいち食卓で聞き出している。
だからいやでも私との差が分かった。
そのたび「橋田くん、緋衣子ちゃんにも今度教えてあげてね」とお母さんが言うのが
またなんともいえずじくじくと堪える。
イトくんは曖昧に答えて、食卓の片づけを手伝っている。
足の怪我で手伝い免除の私は、それを横目に部屋にのろのろと戻った。
ドアの向こうに消える幼馴染の長身が、目の奥になぜだか残る。
私はベッドに倒れこむようにして、頭をうずめた。
―どうせ今日も、何も頭に入らないのだし、寝てしまったって。
「……それもやだなぁ」
鬱々とした気持ちで、溜息で枕を湿らせる。
それはそれで、イトくんのせいにして逃げているみたいで気分がよくない。
私は確かに、逃げているんだと思う。
あの人が頭がいいのは生まれつきだ。
そしてあの人の、数少ない大切な武器だ。
天井を仰いで、ふと三年前を思い出した。
3862/4(243):04/07/02 05:07 ID:M5mP1Zh4

三年前の今頃。

「幼馴染なんて、そんなに甘くないものだよね」

流行の風邪にいともたやすくかかった幼馴染の高校生が、呟いたのを覚えている。
帰ってきた私をちらと見て、苦笑気味に言った目が、印象に残っていた。
弟は中学一年生で、兄さんはイトくんとは違う男子校に通っていた。
高校受験で部活もない私は、帰ってきて荷物をおいたばかりだった。
光るテレビには10年以上前のアニメ(再放送だった)が流れ、
主役の男の子が幼馴染のヒロインを守ろうと決意する思い出のシーンが動いている。
「ふうん」
私はそのとき、当然のように兄さんのことだと思った。
だってこの人がうちに来たのも入り浸っているのも、ほとんど兄さんのせいだったからだ。
仲がいいのか悪いのか。
…高校が違っても続く友情にいいも悪いもないよなあと思った。
「でも悪いものでもないよね」
答える私に、彼はそうだね、と目を細めて笑った。
あの日も今のように、空の薄い7月の初めだった。
あのときのどこか申し訳なさそうな瞳を覚えている。

3873/4(243):04/07/02 05:11 ID:M5mP1Zh4
イトくんのようなれっきとした青年男子がうちに平気で出入りできているのは、
彼が兄さんの友達だからとか、うちの両親と仲が良いからとか、
橋田のおじさんに面倒を頼まれたからとか―それだけの理由ではないと思う。
私みたいな年頃の女子がいたら、普通はもっと警戒される。
もちろんイトくんはいい人だし、うちにとってはもう家族みたいなものだ。
だけど世間的に見れば、彼の性格なんかに関係なく、
片親で病弱で余所者でと、不利な部分はいっぱいある。
世間に通用するイトくんの武器といったら、やっぱり頭がいいことくらいなのだ。
そんなことくらい知っている。
分かっている。
兄さんが大学に進学できたのは、どんな学部でも必須になる英語の成績が急上昇したせいだ。
フランスから毎日のように送られてくる難解な英語メールに、
むきになって返信し続けたためらしい。
私はたまたまではないかと思うけれど、お母さんは本気でお礼を言っていた。
イトくんは本当に教えるのが上手い。
私はあまり教わるのが好きでないけれど、兄さんと弟は小学校から彼の世話になりっぱなしだ。
お母さんがイトくんをお気に入りなのは、そのあたりが少なからず影響しているに違いない。
3884/4(243):04/07/02 05:13 ID:M5mP1Zh4
…でもやっぱりプレッシャーだ。
必死で二桁台に喰らいついている横で、余裕そうに
一桁台の順位をキープされていると悔しいなんてものじゃない。
「あ、はい」
乾いたノックの音に気付いて、返事をした。
ちゃりと響くドアノブの奥から、幼馴染が顔を見せる。
「あれ…寝てたの」
「別に、寝てない。何?」
身体を起こして、乱れた髪を撫で付ける。
イトくんは予想通り、平気な顔で私を見下ろして言った。
「ひーこ、古語辞典持って帰ってきてたら貸して」
溜息が出た。
私はやっぱり彼の存在に困っているし、あの日のイトくんの言葉の意味もそんなに分かっていない。
だけど少なくともあの時から、イトくんがうちを、意識的にせよ無意識にせよ、
生きていくうえで頼らなくてはならなくなってることは分かっていたと思う。
それを思い出して、不用意にこの前のことを聞けなくなってしまった。
踏み込みすぎて、それでこの人がうちに来辛くなってしまったら。
私がそれでどんな気分になるかは予想もつかないのでおいておくとしても、
イトくんにとってはとても困ることだろう。
具合が悪くなっても、一人で暮らすには広い古マンションの隅で、
たった独りで寝ていなければならなくなるかもしれない。
私は、そんなのは嫌だ。
長かった一秒間について、本当は聞きたくてたまらないけれども。
それであの人が来なくなるのは、もっと嫌だ。
逃げているのかもしれない。
だけど、それでも、やっぱり私は。
頬に落ちかかった短めの髪を耳にかけて、部屋を出て行く背中を黙って見ていた。
なぜか、少しだけ泣きたくなった。
389名無しさん@ピンキー:04/07/02 09:27 ID:IUCIx5S6
いつも乙!
うわ〜、こんな時間にスレチェックしてよかったー!
じりじりと、でも確実にひーこの心が動いていく様子に
固唾を飲みつつ続きを待ってます。
390名無しさん@ピンキー:04/07/02 19:09 ID:Cjq3kw2c
ええ話や…
頑張って下さい。
391243:04/07/05 02:23 ID:Jl6YwIZj
その13.
相変わらず展開とろくてすみません…
エロいの読みたい。幼馴染でエロイの。蝶エロイの。そして幼馴染。(;´Д`)ハァハァ
他の職人様を心よりお待ちしております。

では、続きはまた時間のできたときに。
3921/4(243):04/07/05 02:24 ID:Jl6YwIZj

・・・・その13


ギブスが外れて松葉杖がいらなくなった。
まだ走ると痛いので体育を見学しているということの他は、普通通りに生活できている。
なにより幼馴染に助けを借りなくてもよくなったのに安堵した。
どういう顔をしていいのか分からなかったときに、逃げることもできるようになったし。
ネガティブすぎて自分にうんざりする。
別にイトくんが嫌いなわけではないのに、こちらを見られるたびに
思わず身体が萎縮してしまうのは相変わらずだ。
平気な顔で話すなんて私はできない。
それとも本当にあれは、痛かったせいで感覚がおかしくなっただけの、気のせいだったのだろうか。
だんだん自信がなくなってきた。
10月にある文化祭の打ち合わせをぼんやりと聞き流しながら、
無意識にその人を眺める。
あの背中は見慣れたはずなのに、なんとなく目が行ってしまう。
そんな自分に気付いて、意識的に黒板に視線を戻した。
これでは見ているみたいだ。
副委員長の佐藤さんが、白チョークで今後の予定を書き出していた。
もうすぐ、夏休みになる。
半袖の制服でも充分に暑くて、膝の裏にじっとりと汗が滲んでいるのが分かる。
そういえばお父さんは8月から一ヶ月ほど、北海道に出張だと言っていた。
羨ましいなあ、と溜息をついて、気分が悪そうに頬杖をつくイトくんをまた無意識に視界に入れた。
3932/4(243):04/07/05 02:25 ID:Jl6YwIZj

お母さんがキッチンから出てくるのを見て、イトくんが
コマーシャルになったテレビを消した。
「おばさん。夏休みになったら、ハルのところにちょっと行ってきます」
夏バテ気味でソファに寄りかかっていた背を、少しまっすぐにして彼が言う。
お風呂の掃除を終えたばかりの私は、部屋に入ろうとした足を一旦止めて声のした方を見た。
春張兄さんの家に、私はまだ行ったことがない。
一体どんなところに住んでいるのだろう、と心の端で考える。
お母さんはあらあらと嬉しそうに手を口に当てて、目を輝かせた。
「そう、東京までねえ。いってらっしゃい。
 あ、あの子絶対部屋汚いから、大変だと思うけど頑張って」
「慣れてます」
さらりと返す兄さんの幼友達は、「兄さんの友達」である男の人の顔だった。
立ち止まったまま、その横顔にぼんやりと目を向ける。
ああ、イトくんだな、と思う。
兄さんがイトくんのことを「弱いのは身体だけ」と評したことがあって、
それが今更しんみりと胸に落ちる。
兄さんは所謂「ガキ大将」で、イトくんは所謂「優等生」だった。
でも、二人はどちらが引っ張っていくとかどちらが付いていくとかではなく、
一対一の仲の良さでずっといたような気がする。
それが私にとっては自然な姿だった。
一学年上で、家族以上に優しいけれどあくまで兄さんを挟んだところにいる人で、
それが私の知っている「イトくん」だった。
でも兄さんという緩衝地帯がなくなってからも、イトくんはやっぱりイトくんで、
……だけど、何か違うような気もして。
私はこの人のことを、知っているようで知らない。
3943/4(243):04/07/05 02:27 ID:Jl6YwIZj
急に、心臓が跳ねて身体がこわばった。
お母さんと言葉を交わしていた彼が私の視線に気付いてこちらを見ていた。
―どうしよう。
今、完全に目が合った。
イトくんはいつもの顔で、いつもどおりの口調で私に話しかける。
なのにしばらく、何を言っているのか聞こえなかった。
肺の奥が手で掴まれたように息苦しくて、顔が熱い。
最近おかしくて自分がよく分からない。
堪らなくなって床に視線を落としていると、イトくんの落ち着いた声が切れ切れに聞こえた。
「…で……うことになったんだよね」
「え、あ……うん」
「へえ、昔から緋衣子そういうの得意だものね。
 それで橋田くんは何?かっこいいから主役でしょう」
突然戻った聴覚に口ごもっていると、お母さんが図らずも助け舟のようなことを言ってくれた。
文化祭のことだった。
多分、私の割り振りが小道具係だという話題なのだろうと思う。
イトくんが、お母さんの期待した口調に苦笑して手を振った。
「いやありえないありえない。まだキャストも決まってないですよ。
 単なる脚本グループの平メンバーで」
「うわー脚本も自分達で作るの、すごいじゃない緋衣子ちゃん達のクラス」
「……そんなことないよ」
私は言って、イトくんをちらりと見た。
というよりなんで私まで会話に混ざっているんだろう。
まあ、いいけど。
「脚本って言っても、確か元の脚本探して削ったりする係でしょう」
「うん、ひーこの言う通り。まだ元ネタ探しも始まってないです」
「へええ。大変ねえ、そうかあ舞台かあ……」
お母さんはそれくらいで飽きたらしく(兄さんにそっくりだ)、
ふんふんと相槌を打ってそのままテレビをつけた。
3954/4(243):04/07/05 02:28 ID:Jl6YwIZj
特に珍しいことではないので、私はさっさと話を打ち切ったことにして部屋に戻った。
ドアを閉めて、思わずほっと息をつく。
ノブにかけたままの手の平が、冷たい金属に触れて気持ちよかった。
手の力がゆっくりと抜ける。
それなりに普通に話せるのに、時々、ふとした一瞬、どうやって
イトくんと接していいのか突然分からなくなることがある。
以前も困惑はあったけれど。
こんなに何もかもが真っ白になるのは、ちょっと前まではなかったのに。
それについて考えると、泣きたいような、なにかに八つ当たりしたいような、
縋りつきたいような知らない困惑が体中を襲う。
私は最近のイトくんが苦手だ。
なのに向こうは平気そうなのが、悔しくてたまらない。
大体、受験生の癖に夏休みになった途端旅行なんて気楽すぎて嫌になる。
―いっそ夏休み中帰ってこなければ少しくらい落ち着くのに。
思いながら床に座り込んだ。
学校だけならまだしも、家でまでこうだと本当に落ち着かなくて困る。
幼馴染だなんて、困るばかりで全然嬉しくない。
勉強しなくちゃと心の隅で言い聞かせながら、私はそっと溜息をついた。
396名無しさん@ピンキー:04/07/05 04:17 ID:jgAXnQJo
ホントに、いつもいつも乙〜!
兄さんのところに…ってつるむとやばそうな二人だ
397名無しさん@ピンキー:04/07/05 21:41 ID:lqV9tsYD
乙!
一人暮らしのところに幼馴染がやってきて、という王道パターンをあえて「兄」
に仕掛ける氏が好きだw
398唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 17:55 ID:tH4Ame9w
ガリッ
「…ん?」
あれ?林檎の果肉にこんな硬い部分なんかあったっけ?と思ったか思わぬ内に
「うわ、苦ぇっ!お前、これ種付きじゃねぇか!」
「え?本当?まあいいじゃない、それ一つだけだろうし。」
「い、いいわけあるかっ!あぁっ、飲んじまった!」
「良かったわね。これでお腹の中に林檎が生えたら一生空腹には悩まされないわよ?」
こ、このアマっ!この俺の不幸を、見下した笑顔で祝福しやがった!
「何でいつも大事なところが抜けるんだお前は!小学校の時もそうだったよな!あの悪夢の調理実習の時だ!」
「あれのどこが悪夢よ!完璧だったじゃない!」
「完璧なハニーケーキに蜂の子は入ってねぇ!」
「ちゃんと蜂蜜の味はしたでしょ!?」
「するかっ!食感最悪だったわ!」
399唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 18:03 ID:tH4Ame9w
俺は抗議を怒鳴り散らした。そう、
こちらが動けぬことも忘れて。
気がつくと敵は林檎が盛られた皿を持ち、眉をひくつかせて立ち上がっていた。
「そう…、じゃあこれはお詫びよ!」
言うやいなや、俺の口を無理矢理広げ、皿ごと食わせる勢いで林檎を流し込む。どこの世界にこんな凄惨な詫び方があろうか。下手すりゃこちらに審判が下る。
「フゴッ…」
一気に7、8個は投げ込まれたであろうが、その内の一つが
「ほ、ほほっ!(喉っ!)」
「ちなみに食物を粗末にする悪い人は…」
仁王立ちで俺を睨み付けながら言い放った。
「右足の診断結果…、亀裂骨折から複雑骨折に変わるわよ?」
か、顔が笑ってるのに笑ってねぇ!マ、マズい!吐き出すのはマズい!だが、口を塞ぐこともできない量の林檎をどうやって食えば…!

結局、30分近くかけて食い尽くした。
「お疲れさま♪」
「マジで疲れたよ…。寝る。」
「そう。お休み。」
400唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 18:08 ID:tH4Ame9w
む…。11:30か…。…くはぁっ…、眠っ。
確か面会時間は10:00までだったか。
部屋をぐるりと見回す。パイプ椅子には誰も座っていない。
アイツは帰ったんだな…。居たら居たでやかましいが、居なければやはり物寂しい。仕方ないが。
そういえば、麻酔が効いてた時にも一回起きたんだっけな。で、そこにもアイツがいて…


泣いてたな…

長い付き合いで解るものがある。あの張り巡らされた意地の中にも、やはりアイツなりの、俺を想ってくれる心があったんだろう。
畜生、悔しいが

愛しい、と思ってしまった。
401唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 18:10 ID:tH4Ame9w
何を考えてんだ、俺は。もう寝るか。
と、布団を掛けなおそうとしたが
「ん?」
左端が重い。何かがつっかえているようだ。
盛り上がった掛け布団の膨らみを平たい手で凹ませていくと、見慣れた顔に出くわした。
「なっ!?」 何してんだ!?と問い掛ける前に気付いた。
寝てやがる。床に膝を立てて。そんな態勢でよく寝られるものだ。
正直、俺は嬉しかった。が、そんなこっ恥ずかしいこと言えるはずもないし、何より面接時間はとうに過ぎている。
手が自由なら顔に落書きでもしてやるんだがな、起こしてやるか。
声をかけようとしたその時。
「良かった……。心配したんだから……。」
サァッと差し込む月明かりに照らされ、一筋の涙が通った跡が浮かび上がったのを見つけた。

似たような形跡が俺の顔にも出来た。
402唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 18:13 ID:tH4Ame9w
「ん…。ふわぁっ…。…あ、お早よう。」
「早くねぇよ。何してんだ。」
「何って看病じゃない。…って言うかアンタこそ何泣いてんの?」
プッと吹き出し、軽く笑いながら言う。普段はこんな奴だ。だが今は腹が立たなかった。
「なぁ。」
「何よ。」
「ごめんな。心配かけて。」
はぁ?といった顔をする。いきなりの真面目モードに困惑しているようだ。
「べ、別に心配なんかしてなかったもん。何なの?いきなり真剣な顔して。」
「俺、嬉しかったよ。お前が来てくれて。」
「え、えっと…どうしたの?後遺症?」
お互いに段々と顔が上気しているのが解る。まさかコイツとそんな雰囲気になるとは思いもしていなかったんだけどな。
「母さんの言い付けで迷惑かけたけど、ありがとな。」
「……んーん、迷惑じゃなかったよ。」
「何で?」
少し悪戯っぽく聞いてみる。予想どおりコイツは困った表情を見せた。
「何で、って…言われても、その……義理…じゃなくて…。」
「なぁ。」
「な、何?まだあるの?」
前置きはもう十分だろう。俺は一呼吸おいた。
403唐突なる>>222-223の続き:04/07/06 18:14 ID:tH4Ame9w
「好きだ。」
「……何て?」
「だから好きだ、って。二回も言わせんな。恥ずかしいだろ。」
途端に目から大粒の涙をこぼし始めた。いつもの仕返しと言わんばかりに意地悪く尋ねてみる。
「何だよ。泣くほど嫌だってか?」
「違う…違うよ…。」
「じゃあ何だよ。」
「…本当?本当なの?」
「こんな場面で嘘つくほど非道い男じゃねぇよ。本当だ。俺は夢の中でも俺を心配してくれるお前が好きなんだよ。」
「え?…あっ。」
思い当たる節があったらしい。更に顔を紅潮させる。
「そっか…。そうだよね。アンタ、私がいなけりゃ何にもできないもんね♪」
ここへきてまだ虚勢を張るのか。でも、全く憎たらしくなかった。それどころか、目を潤ませながらはにかむ顔を何より可愛いと思った。
「そうそう、俺はお前がいなかったら何もできないんだよ。だからさ…。」
「しょうがないなぁ。うん、解った。じゃあ私がずっと傍にいてあげるよ。」
そう言うとコイツは布団に潜りこんできた。
「…いいよね?」
上目遣いの懇願。俺はこの時に事故に遇ったことを最も恨んだ。できることなら今すぐにコイツを抱き締めてやりたかった。
「いいよ。ありがとう。」
「うん…、嬉しい。」
そう言って最上の笑顔を向ける。そして、患者服の間から俺の身体へ手を伸ばした。
404名無しさん@ピンキー:04/07/06 18:22 ID:tH4Ame9w
途中だったっぽいので書いてみました。ちなみにこれが初回。

差し支えなければエロに突入するかもしれません。
405名無しさん@ピンキー:04/07/06 19:49 ID:vUylWhyp
差し支えどころか背中を押す勢いです
406名無しさん@ピンキー:04/07/06 23:07 ID:qmZ7g41j
何の差支えがあろうか!
続きをきぼん。
407名無しさん@ピンキー:04/07/06 23:32 ID:tH4Ame9w
>>405>>406
うぉ。dクス。
ただ、携帯投下+五本同時進行なんで、続きが書きあがるのは良くて今週中かと。スマソ。
けどまぁ、大体の流れは浮かんでおりますので。
408名無しさん@ピンキー:04/07/07 03:22 ID:ycClou+8
(*´Д`)ハァハァしながら待ってまつ
409243:04/07/08 02:10 ID:tMtJYc0j
看病話の続きが来てる(・∀・)!!!意地っ張り幼馴染萌え。
ぜひともエロに突入しまくってください。

楽しみに待ちつつ、その14です。
続きはまた数日後に。
4101/4(243):04/07/08 02:13 ID:tMtJYc0j

・・・・その14


半分まどろみながらベッドに座り込む。
僅かに残った理性で手放さない英単語集を開いて、私は大きくあくびをした。
暑さで体力が減りやすいせいかここのところやけに眠い。
時計を見るとまだ9時で、眠るにはまだまだ早かった。
いっぱいに開いた窓から、涼しい夜気がしみこんで肌に触れる。
こんな中で遅くまで部活をやる享の気が知れない。
と言ったら、そんなにガリ勉する姉ちゃんの気が知れないと言い返された。
受験生が勉強して何が悪い、と思ったけれど黙っていた。
もともと、私は頑張る他に何もできないのだ。
好きなことも我慢できないで、どうやって私くらいの頭で志望校に入れるんだろう。
今だって、やってもやっても結果は手からこぼれていくばかりで、焦れば焦るほど
自信はどんどん磨り減って、既に数値は零より下になった。
私は、あの人みたいになれそうもない。
天井を仰ぐと、古い染みが蛍光灯に照らされて焦げ色をしていた。
―いつも、あれを熱に浮かされながら見上げていたんだろうか。
修学旅行で熱を出して、途中で強制送還されたような日にも、この部屋で。
無造作なノックの音がした。
答える前に乾いた音でドアが開く。
「いつ起きたの?」
夏負けして居間で寝ていたはずの幼馴染が、顔を覗かせていた。
私の声に無言で肩を竦めて、そのまま部屋に入ってくる。
単語集をとりあえず閉じて、彼を見上げた。
4112/4(243):04/07/08 02:17 ID:tMtJYc0j
「何。夏休みなんだから辞書は持って帰ってきてるんでしょ?」
「うん、辞書じゃないよ」
何が楽しいのか、イトくんが満足そうに笑う。
そしてこちらに寄ってくると、ベッドを指先で示した。
「座っていい?」
「……いいけど」
「ありがとう」
イトくんが私がいるのと逆の端に、無造作に腰を下ろした。
重みで僅かにベッドが軋む。
イトくんの細身に、薄い墨色のTシャツが似合っている。
ふと、ここしばらくの不可解な気持ちに襲われた。
空気が薄くもないのに、なぜか息が詰まって、心臓が痛くなる。
緊張しているのに似た気分だ。
イトくんは、しばらく黙ってからちらりと私を見て、眉を上げた。
そして天井を見上げた。
…何が言いたいんだろうか。
眉を顰めて様子を伺っていると、イトくんは急に思い出したようにこちらを振り返った。
「ああそう。ひーこ、東京は明日から行くから。お土産は東京ばななということになってるからね」
「ふうん」
誰の要望だろう、お母さんだろうか。
まあ、お土産なんてなんでもいいけど。
「どれくらい行くの」
「そんな長くないよ。二泊くらいかな」
「東京はここより暑いと思うけど」
何気なく言うと、幼馴染は妙に嬉しそうに目尻を下げた。
「お、もしかして心配してくれてるのかな。いやいや嬉しいね」
「……」
4123/4(243):04/07/08 02:18 ID:tMtJYc0j
相変わらず意味不明だ。
溜息をついて、膝上の単語集を枕元にのける。
「してないわけじゃないけど。外国で一年間やれたんだから、それくらい大丈夫なんでしょ」
「…そうだね。自信はついたかな」
「行ってらっしゃい」
イトくんはふと目を細め、ゆっくり頷いた。
微妙な沈黙が落ちてくる。
窓から入る風だけが涼しい。
この人はどれだけの広い世界を見ているんだろう。
居間にかかっている風鈴が、ドアの向こうで遠く小さくかそけく響いている。
高く澄んだ音が、耳をかすめて消えていく。
肺の中が、ざわついた。
「イトくん」
「ん?」
話しかけたものの、何を言っていいのか分からなくて私は俯いた。
行き詰っていることとか、相談してみたってどうなるわけでもない。
私が頑張っても上手く行かない理由を、この人に聞いたって、悲しくなるだけのような気がした。
俯いた顔の下に影がかかったかと思うと、不意に頭に手が乗せられた。
上体が、重さで少し沈む。
狭い視界に、いつの間に隣に来たのか、薄墨色の生地が見えた。
頭上から、苦笑気味の声がした。
「おまえはね。力が入りすぎ」
イトくんの声だった。
他にだれもいないのは知っていた。
「気になるのは分かるけど、ぼくと比べてもしょうがない」
―なんで、自分でそういうことが言えるのか。
あなたに追いつけないことくらい、とうの昔に知っている。
4134/4(243):04/07/08 02:19 ID:tMtJYc0j
悔しさに顔を上げたかったけれど、抑えられていて動けなかった。
「それより」
一度切って、イトくんは続ける。
「ちゃんと気を抜くことを覚えないと、つぶれるよ」
その声は信じられないくらい優しく、言葉の方は痛いほどに鋭かった。
手の平で皺になるシーツを見下ろして、一滴だけ染みになった場所に気付いた。
しばらく見つめて、やっとそれが、自分の涙だと分かった。
慌てて手の甲で拭う。
本当のことを言われたくらいで、泣いていたら、しょうがない。
それは確かにここ数週間、泣きたいようなことばかり、起きていたけれど。
笑顔とはいわないまでも、せっかく泣かないでこられたのに。
泣いたからって何も解決しないと分かっていたから、頑張っているのに。
なぜか、言い聞かせれば言い聞かせるほど胸の中から悲しいものがせりあがってきた。
また、シーツに何滴か落ちて染みができた。
「………っ、」
いったんそうなると止まらなくて、私はそのまま下を向いて、ぼろぼろと泣いた。
久しぶりに涙を押さえることもせず、声だけは必死で抑えて、それでも漏れる嗚咽を飲み下しながら、
幼馴染が傍らに座っている場所でずっとそうしていた。
こんなに泣くのは、小学校以来だった。
開いた窓から時折聞こえる車の音が、泣き声に何度か混ざった。
肌に触れる夜風は生温さを含んでひどく涼しい。
悲しかった。
いいようもなく悲しくて、悲しくて、止まらなかった。
心にたまった水の重みが次々と溢れ出ては手から腕に伝っていく。
人前で泣くのは何年ぶりだろう。
頭の上の重みはいつしか消えていたけれど、存在感だけはずっと消えずに隣にいた。
414名無しさん@ピンキー:04/07/08 02:55 ID:g8BZdkC4
おお、なんからぶらぶ…か?
ひーこちゃんここで泣けてよっかたな、危なっかしかったし
とにかくGJ!作者さん共々イトくんも
415名無しさん@ピンキー:04/07/08 03:34 ID:WJaCDr+v
さー、泣いたひーこちゃんと泣かせたイトくん(をい)の
続きが楽しみだぞーーー

看病話の続きも楽しみだぞーーーー
いいスレだここは・・・

というわけでage
416404:04/07/08 11:56 ID:PE+X4D9l
暑ぢー。昨日は暑さで寝れませんでしたわ。なので続き、書いてました。「書けているかどうか」はともかく。

で、ふと気付いたんですよ。
「名前無しでエチシーンが書けるかっ」と。
なので勝手ながら、彼らに名前を付けさせていただいたことを一応報告します。>実験屋氏及び「看病」シリーズ製作者の皆様方

さて、明日明後日中に仕上が…ればいいなぁ。
417名無しさん@ピンキー:04/07/08 19:34 ID:cQDShuAz
暑いね
418名無しさん@ピンキー:04/07/11 00:15 ID:VDVph1wV
仕上がらなかったのかなー?
419243:04/07/11 05:29 ID:YTLLcLsv
看病話の続きに激しく期待。

相変わらず、1oくらいずつのスローペースで歩み寄っている状況ではありますが。
いつもありがとうございます。
その15です。続きはまた数日後に。
4201/4(243):04/07/11 05:31 ID:YTLLcLsv

・・・・その15


中学一年生の秋、二年生が修学旅行に出かけた。
同じクラスだった兄さんと幼馴染を、早朝にお父さんが駅まで
車に乗せていくのを、朝ごはんを食べながら見送った。
いないことに特に違和感はなく、かえって家が広くて嬉しかった記憶さえある。
それが2日目に突然、イトくんが帰されたとお母さんに聞いた。
運が悪く修学旅行中は橋田のおじさんが出張で、帰ってくるのが難しいようだった。
それでうちで預かった。
とはいってもちょうどお母さんも町内会の用事で忙しく、ただ寝かせているだけだったけれども。
熱が酷くて、うつらないように私が兄さん達の部屋で寝て、イトくんが私の部屋で寝た。
土曜の午後は、冷たい秋の雨が降り続いていた。
本当なら兄さん達と遠くにいた筈の幼馴染の傍らで、珍しくお母さんに代わって彼の看病をした。
どうしてだか忘れたけれど、手を緩く握って傍についていた。
雨がベランダをぶつ音のうるささと、冷たい湿気の中で、彼の手だけがとても熱く。
あんなに悲しそうで悔しそうな幼馴染を、私はあの日、初めて見た。

4212/4(243):04/07/11 05:33 ID:YTLLcLsv

どれだけ時間が経ったのか分からない頃、幼馴染が立ち上がって、
ティッシュの箱を持って戻ってきた。
差し出された箱から柔らかい紙を引いて、涙を拭って鼻水を拭く。
どうして泣いていたのか、だんだん自分でも分からなくなっていた。
その割にまだ思い出したように涙が出てくる。
ひたすらティッシュを大量消費していると、また幼馴染が立ち上がった。
声をかける間もなく、部屋から出て行かれてしまった。
視線の先で、ドアの隙間に姿が消える。
しばらく私は呆然としていた。
外の風は少しだけ強さを増し、窓から吹き込んで私の髪を撫でていく。
腫れた目を拭って、ベッドから足だけ降ろす。
手も腕も涙の跡が乾いてべたべたしている。
お母さんに見られるのはいやだけど、顔を洗いに行ったほうがいいかもしれない。
耳に音が飛び込みふと顔をあげた。
イトくんが何かを片手に、そこにいた。
「ほら」
渡されたのは濡れタオルだった。
…気が利く。
黙って受け取って、目元を拭いた。
泣き続けた顔に、冷たいタオルが気持ちよかった。
イトくんがすぐ隣に座り、私の頭をぽんぽんと優しくなでる。
タオルから顔をあげられなくて、なんだか困った。
とりあえず下を向いたまま、横をちらりと盗み見る。
すぐに気付かれて、彼は少し困ったように笑った。
気恥ずかしくてなんとなく視線を外す。
こういうときは、何を言えば、いいんだろう。
とりあえず、もう少しだけいてほしかった。
しばらく、会話も何もなかった。
それが不思議に楽だった。
4223/4(243):04/07/11 05:37 ID:YTLLcLsv

口を切ったのはイトくんの方だった。
名前を呼ばれたので、窺うように横を見上げる。
「な…に」
発した声が掠れていて弱った。
ひとつ上の幼馴染は小さく笑い、ふと真面目な顔になった。
「誤解があるようだけど。おまえはね」
イトくんはいったん口を閉じ、言葉を探すように宙を見つめた。
沈黙の合間に、台所の水音が聞こえる。
彼は膝の間で指を組み、一言一言をゆっくり話しはじめた。
「おまえは―眠らないで、飲み物も取らないで、長い道を走っていけると思ってる。
 それで、早くゴールに着けると信じている、という感じがするよ。
 しかもその割には全然ゴールを見ないで、なぜか道路の自動車ばっかりを気にする」
こちらを見下ろした顔を、私は黙って見上げた。
イトくんが静かに笑って、涙の跡を柔らかに叩く。
「いくら練習しても、タイムが縮まらないのはそのせい。せっかく足が速いのにね」
泣き腫らした目が瞬きを忘れた。
濡れタオルを握る手から、力が抜ける。
頬に触れた感触がしっとりと残り、穏やかな熱を持った。
泣いた分の水の重さが、蒸発して夏風の向こうに消えていくような気がした。
言いたいことが、よく分かった。
4234/4(243):04/07/11 05:38 ID:YTLLcLsv
「……じゃあ、イトくんは車」
「おまえそれ、わざと言ってるだろう」
鼻声で呟く私に、イトくんが苦笑気味に脱力する。
「もののたとえだよ。単に走る道路は皆違う、ということ」
「うん。分かる」
でも、と心中で呟く。
―この人は、やっぱりすごい。
「ちゃんと休みなさい。おまえに実力があるのは知ってる。休んでも、大丈夫だよ」
「…うん」
言葉の一つ一つを、かみしめる。
そんな風に言ってもらえるとは、思っていなかった。
膝上の濡れタオルを持ち直して、目を落とす。
風鈴が遠くからまたひとつふたつ澄む。
風鈴の音は、夏風の音だ。
「イトくん」
「ん?」
「向こうに行ったら、兄さんによろしく」
「ぼくがいなくて寂しくても泣かないようにね」
私は俯いて、小さく溜息をついた。
「…何、くだらないこと言ってるの」
そんな小さな言葉も、今はどこか心地よかった。
湿ったタオルが、手の中で生温い。
今夜は寝苦しさなんて関係なく、よく眠れそうだ。
424名無しさん@そうだ選挙に行こう:04/07/11 13:37 ID:DcZ0lL3A
GJ!
いや〜、ひーことイトくんいい雰囲気だな。
スローペース全然オケー!
じれじれは幼馴染みの醍醐味だと思うし。
425名無しさん@ピンキー:04/07/11 22:17 ID:hvkQoBya
イトくんって何と言うか、面白い人だね。
426名無しさん@ピンキー:04/07/11 23:09 ID:0+yeomjS
スローペースだからこその、味というのもあると思う。
いや、ホント。こんなふんわりとした文章、マジ好きです。

まだエロシーンは無いけど、俺にとってはそれがたまらなくエロい。
他人様の定義とは違うかもしれないけどね。
427名無しさん@ピンキー:04/07/12 03:05 ID:GP+vKpo0
>>426
いえいえ、そういいたくなる気持ち、なんだかわかります。
エロい、というか、いろっぽい、というか、ええと・・・
風情がある、趣がある、じゃ弱いな・・・
そそられる、というか・・・なんといったらいいのかわかりませんが、
たまんないです。
428243:04/07/12 05:52 ID:8NZeGsy0
うわ、もったいないお言葉ありがとうございます…嬉しい
いつしか中身の方もエロにたどりつけるよう頑張ります。

早めですが、その16.
たしかにイトくんはプチ変人ですなw 
4291/3(243):04/07/12 05:53 ID:8NZeGsy0

・・・・その16


早朝から夕方まで、学校で勉強することにした。
行き帰りの時刻は比較的涼しくて、息抜きにちょうどいい。
図書室は冷房がついているからか、勉強しているのは私だけではない。
ちらほらと三年の校章をつけた制服が見える。
昨日の今日で異物感のある目をこすって、木々の葉が揺れるガラス窓を見た。
数ヶ月ぶりに、頭の風通しがとてもいい。
やっぱり、私は、普通だなあと思うのだけれど。
でも、イトくんに"実力がある"と誉められたのが正直とても嬉しかった。
本当はどうかなんて別としても、昨日の言葉があたたかい。
頑張ろう、と思った。
手の中の消しゴムを握って、化学の問題集に戻る。
背の高いあの人は、どの大学に行くんだろう。

4302/3(243):04/07/12 05:54 ID:8NZeGsy0

夕暮れの坂道を上がると、遠目に古いマンションが二棟、並んでいるのが見える。
右が私の住む家で、左が今イトくんが一人で住んでいる家だ。
昔はそれなりに賑わっていたらしいニュータウンも、今ではすっかり寂れている。
私の志望校は隣県にある国立で、電車で通うには少し遠い。
もしも手が届いたなら、この小さな町を出ることになるんだろう。
見慣れた雲と空と、まだ点かない街灯を仰いで風を聴く。
夏服のスカートが、裾から舞い上がってまたふわりと膝に落ち着く。
なんだか通りが賑やかしいと思ったら、明日は夏祭りだった。
今年はうちにも町内会行事の担当順番が回ってきたらしく、お母さんは忙しそうだ。
どうせ、私は行かないけれども。

兄さん(弟もだ)は夏祭りが好きだった。
イトくんは人ごみと暑さがだめなので、雰囲気は好きでも行くのは苦手らしい。
それを毎年無理矢理引きずっていったのが兄さんで、それにまとわりついていくのが弟で、
数年に一度、気が向いたときだけ着いていくのが私だった。
それも去年で終わってしまったかと思うと、少しだけ寂しい。
エレベーターなんて高級なものはないので、崩れかけたコンクリートの階段を四階まで上る。
今日はお母さんがパートで遅い。
多分、弟も部活なので誰もいないだろう。
幼馴染も、明後日まで帰ってこないのだし。
風が一瞬、涼しく感じた。
生温い温度だったはずなのに、心の中まで吹き通ったようだった。
4313/3(243):04/07/12 05:55 ID:8NZeGsy0
緋色の刺繍糸を紐代わりにしている鍵を、差し込んで捻る。
誰もいない家は妙にがらんとして、慣れているはずなのにしばらく玄関でそのまま立っていた。
靴箱の上に、今年の祭り用うちわがいくつか重ねて放置してある。
明日になれば配られるはずのものだ。

 『ひーこの作るものは、おもしろいね』

昔イトくんに言われた。
あれも、とても嬉しい誉め言葉だった。
夏祭り用のうちわを、紙を破って骨だけにして、薄い別の紙を同じ形に切り抜く。
切り抜いたら好きな絵を描いて、のりで貼り付ければ自分だけのうちわになる。
何かで見て実践していたら、兄さんを放って先に帰ってきたイトくんが覗き込んで誉めてくれた。
(…誉め言葉だった、と思う)
小さなものを作ってみたり、手袋の端に小さく刺繍をしてみたり、そういうことが昔から少しだけ好きだ。
文化祭の(イトくんによれば脚本選定係に『ロミオとジュリエット』原理主義集団がいるそうで、それの変化形になるだろうということだ)
小道具や小さな衣装を作るという役も、久しぶりで本当は嬉しい。
靴を脱ぎながら、懐かしくなる。
今日は灰と黒のスニーカーが玄関にも靴箱にもない。
多分、久しぶりのことで慣れていないだけだ。
明後日には、また声が聞けるのだし、そんなに寂しいわけではない。
誰も寝ていない居間を眺めて、荷物を置いてから夕暮れのベランダに出る。
空は薄い真珠に茜色がとけて広がり、取り込む予定の洗濯物は穏やかな風にはためいていた。
きっと元気でやっているのだろうし、多少具合が悪くても死ぬわけでもないし。
太陽を浴びてあたたかいバスタオルを手元に引きおろして、頬を当てて俯いた。
432243:04/07/12 05:58 ID:8NZeGsy0
では、続きはまた時間のできたときに。
433名無しさん@ピンキー:04/07/12 09:00 ID:qgOdnA98
GJ!
このただよう雰囲気がなんとも好きです。
たしかに「エロ描写」はないけど、でも「色」はある。
この作品には想像をかきたてられる余白があると思う。

でもエロ描写も大好きだ
434名無しさん@ピンキー:04/07/12 15:44 ID:f3HysHVM
何つーか、余裕のある雰囲気がいいですね
漏れのは余裕を奪う方面ばっかりなんで羨ましいです
435404:04/07/12 15:45 ID:Nw6t2cyO
ツンデレの極意が欲しい。マジで。

スイマセン。途中、別の小説書いてたので遅くなりましたが、書けました。

主人公、高本康介
ヒロイン、新庄沙耶
です。
次より投下。
436404:04/07/12 15:46 ID:Nw6t2cyO
「うわっ、大きくなったんだね。」
胸から肩辺りを優しく撫でながら言う沙耶。
「幼稚園の時は私の張り手で吹っ飛ぶ程ひょろっちかったくせに。」
「お前が馬鹿力過ぎなんだよ。そう言うお前は体格的にほとんど変わってないよな。」
胸を見ながら言ってやる。その言葉と視線にカチンときたのか、いきなり制服のボタンを外し、俺が見えやすい位置に座った。
「どう?人並みにはあるでしょ?」
薄緑のブラジャーに包まれた膨らみは
…確かにつるぺたと言うほど貧相では無いが、かといって豊乳と言うわけでもない。
「人並みかどうかは知らないが、微乳だな。」
「…ふん、形はいいもん。」
「ふーん。じゃあ見せてみ。」
437404:04/07/12 15:47 ID:Nw6t2cyO
え?と困惑した表情を見せる沙耶。墓穴を掘ってしまったことに気付いたようだ。さっき見せた顔の赤みを取り戻しながら言う。
「と、特別だよ?康介にだけだからね?」
普段なら考えられない扱いだ…。俺が満悦に浸っている間に、沙耶は後ろ手でホックを外した。
「ど、どうかな?」
…少々驚いた。真っ白な餅肌の胸に乗った色鮮やかな突起。全体のバランスは見事に整っている。俺は固唾を飲んだ。
「ね、ねぇ、黙ってないで何か言ってよ…。」
目を逸らしながら沙耶が聞く。
「あ、うん、綺麗だな、って…。」
「で、でしょ?良かった…。ふふ♪残念だね?触れなくて。」
う…、確かにこれは無念だ。すぐ近くにこんな触り心地良さそうな胸があるのに…。
沙耶の顔を見ると、いつもの意地の悪い、得意気な顔をしていた。
癪だ…。俺ができる範囲で攻撃してやれ。
「そうだな。せめてもうちょい近くで見せてくれ。」
「え…、こ、これぐらい?」
「ん〜、もうちっと。」
「う、うん…、これでいいでしょ?」
438404:04/07/12 15:48 ID:Nw6t2cyO
鼻先まで寄ってきた。よし、今だ。
「はむっ。」
「ひゃっ!?…ぁんっ!」
隙を見て桜色の尖端をくわえ込んだ。即座に先っぽを、かすめるように舌で撫でる。
「だ、だ…め……んっ…ゃ、やぁっ…。」
初めて味わう快楽なのだろう。俺の頭の横についた手が震えている。
構わず俺は、膨張した乳輪から適度に硬くなった乳首までを渦を描くように舌でなぞった。
「ひゃんっ!そっ、それ…だめぇ…。」
沙耶は思っていた以上に感じやすい体質らしい。力が抜けきった肘を折り、そのまま俺の頭を抱え込んだ。そして電流のように走る感覚に敏感に身を退いては、また胸を押しつける。「もっとして欲しい」という意思表示だろう。
期待に答えるべく奥歯で甘噛みし、そのまま少し強めにしごく。
「ひぁぁんっ!んぁっ…そ、それ…もっとぉ…んんっ…。」
そこで俺は糸を引かせながら舌を放した。
「んっ…。」
名残惜しそうに見つめる沙耶。それでも口を尖らせて言う。
「もおっ!いきなり卑怯だよ!」
「いいだろ、このぐらい。沙耶も気持ち良さそうな顔してたじゃん。」
「し、してないもん!嫌だったもん!」
「本当に嫌なら逃げようとしますー。押しつけたりしませんー。催促もしませんー。」
あ…、と口籠もる沙耶。「だって…。」
「気持ち良かったんだろ?」
「……うん。」
やっと素直に認めた。
俺の胴体に乗っかり、顔を真っ赤にしてうつむく沙耶。くうっ、可愛い!
が、直後に俺は「開き直り」の怖さを目の当たりにする。
「主導権は私が握ってるんだからね!」
そう言い放ったかと思うと体の向きを変え、俺の患者服のズボンを脱がした。
熱り立った陰茎との初のご対面だ。だというのに、コイツはたじろぎもしない。
「くすっ…アンタの方が興奮してるんじゃない?」
先走り汁を舐めとりながら沙耶が挑発する。
「それはお前がエロいからだ。」
439404:04/07/12 15:49 ID:Nw6t2cyO
防戦一方にならないように必死に言い返すが、
「そっか…。ふふ、じゃあ私、もっとHな女になってあげる。」
…四つんばいで不敵な微笑みをこちらに向けながら、掴んだ男根を傾け、裏スジを舌で刺激する沙耶。
さっきとは全く反対の様子に、女の順応力の凄さと敗北感を感じる。
俺はその妖艶な女豹のような沙耶の姿に、更に昂奮と情愛を覚えた。
「沙耶のも…舐めてやるから。」
一瞬、間があったが沙耶は俺の顔にまたがり、白い下着越しに秘部を向けた。俺は不自然に盛り上がった下着に薄く染みが出来ているのを見つけた。そこを基点に、縦スジに舌を這わせる。
「んふっ…ふっ、んんっ…」
くわえこんだまま、顔を上下させつつ吐息を洩らす沙耶。湿っぽい熱気と細やかな触感が亀頭を襲った。
「ぷはっ…、ん…」
じゅるっ、と唾液を垂らし、舌の先で雁首まで塗り込み、またくわえる。
ってかコイツ、どこでそんなテクを…。ヤバい、先にイかされる…。その屈辱は絶対に避けなければならない。
運良く沙耶は自分から、人差し指で下着をずらした。
「一緒に…」
恥じらいに曝されたのか、それ以上は言葉に出さない。が、俺にはそれに気遣う余裕など無い。
俺は舌に力を入れた。クリトリスを突き上げ、掻き回す。
「ひんっ!?ちょっ、ちょっと待っ…」
抗議を無視し、そこだけを徹底的に攻め続ける。沙耶はフェラを止め、攻めから逃れようとするがその動きが逆にヒダをくすぐらせた。
「くうっ!ご、ごめんっ!私…、イキそっ…ん、んんぁっ!」
鋭い喘ぎと共に、勢い良く吹き出された愛液が、俺の口の中に注がれた。
440404:04/07/12 15:51 ID:Nw6t2cyO
「ん、ふっ……あ、ごめん…大丈夫?吐き出していいよ?」
「んぐっ…けほっ…、あぁ、沙耶のだから大丈夫。」
「え、あ、ありがと…。」
言葉を濁しながら、沙耶は優しく棹を愛撫する。体の向きを戻し、呟いた。
「一緒に気持ち良くなろうね…?」
そして押さえ込むように、男根の上へ座り込んだ。一度、達した分の愛液を纏ったヒダが、その根元を捕え、棹を濡らす。
「まだ…イっちゃ駄目だよ?」
念を押すと、沙耶は腰を少しづつ前後に動かし始めた。
「ふぁっ…ん」
甘い吐息を洩らしながら体を揺する沙耶。ヒダがなびき、何度も微細な感触を与えられる。その様子は、ひらひらと上下するスカートの中に見え隠れする。俺の中で適度に保たれつつ、じわじわと迫ったり退いたりの絶頂感。
「ねえ…、ここが…一番感じる…んだよね…?」
そう言いながら、尿道口から亀頭の付け根を通る太い筋を親指の腹で撫でる。それだけで敏感に反応してしまう。
「うっ…」
「ふふっ…、まだ…大丈夫だよね?」
沙耶は指を放した。腰を少し下に傾ける。肉芽をその筋に押し当て、擦った。
クニッ
「ひぅんっ!」
「く、あっ…」
俺も沙耶も、今までで一番感じた瞬間だった。お互いの最も感じる部分を擦り合う。その極上の快感に二人は酔い痴れる。
「んあぁっ!っひぁっ!…あふぅっ…いいっ、コレぇ…」
悶えるように、その快感を得ようと腰を振る沙耶。コリコリとした感触が俺の全身に伝わるほど、執拗になすり付ける。
「あはっ、アンタの…ビクビクしてっ…んぁっ!ん、く、ふぅっ!」
その反応すら使うつもりらしく、性器ごと肉棒に預ける。押し上げる力が更に接触を生み、擦られる面積を増やす。
441404:04/07/12 15:52 ID:Nw6t2cyO
「う…ヤバッ…」
「あ…もう、出そうなの?」
俺の反応を察知すると、少し残念そうに振動を止めた。
「じゃ…挿れるね?」
俺が頷く前から、沙耶は両の指で入り口を広げ、俺を迎え入れた。
「は、あぁぁ…」
沙耶は霞んだ喘ぎ声をあげた。中の暖かさに、脈を波打たせる怒張。
「くうぅっ…ん、あ、はぁっ…」
背筋を反り返らせ、微睡むような快感の笑みを浮かべながら見下すように、根元まで埋まった結合部を観察する沙耶。
「ほら…、見える?康介…。」
恥ずかしそうにスカートを両手で捲り上げる沙耶。言われて俺はそこへ顔を向ける。そのまま沙耶は腰を動かし始めた。
「はぅんっ!……ね?…いっ、やらしいっ…くぅんっ…音、たててっ…、っん、ひあっ!っふ…どっちもっ、あっ、んあっ!…気持ち……良さそぉっ…」
グヂュッ、ヌチャッと卑猥な音を出して擦れ合うお互いの性器。いや、二人から溢れるぬめった体液のお陰で、既に摩擦の抵抗は無い。最初は苦痛を表していた沙耶の顔には、それこそ精一杯感じようとしている余裕が見える。
「んくぅっ…ふっ、あっ…」
喘ぎが消え入るように小さくなっている。いや、意図的に抑えているのだろう。その方がより感じることができるらしい。はかなげな瞳と、締まりの良さがそれを物語っている。
442404:04/07/12 15:53 ID:Nw6t2cyO
その代わりに、腰の動きが一層激しくなる。前傾姿勢から、ためらわずに素早く膝を立てては、重力に逆らわずそのまま落とす。隙間無く埋まった膣を亀頭の出っ張りが容赦を知らぬままに掻き混ぜる。
「んんっ!くふっ!んぁっ…ああぁ!」
両手が拠り所を求めるように、俺の胸を強くまさぐる。眉間にしわを寄せ、軽く下唇を噛む沙耶。
…抱き合える温もりが無い分、辛いのかもしれない。それならせめて、最高の絶頂を迎えて欲しい。
俺はおもむろに沙耶の胸に、包帯と板が巻かれた両手を伸ばし、膨らみきった乳首を摘んだ。
「きゃぅんっ!?やっ、それはダメっ!」
手首を掴まれ、引き離される。しまった、逆効果だったか。
「ごめんな、嫌だったか?」
「そ、そうじゃなくて…両方なんて…」
「あ、気持ち良すぎたのか?」
「…うん、変になっちゃいそうだった。」
「変になった沙耶も見てみたい気もするけどな…。」
「と、とにかく駄目なのっ!」
僅かな光でも解る程、沙耶の顔は真っ赤だった。仕切り直すように腰で2、3回、円を描く。沙耶の最奥の壁が万遍無く擦られた。クチュッ、ニチャッと粘液が亀頭をついてまわる。
「何か俺にできることは無いか?沙耶をもっと気持ち良くさせてあげたいしさ。」
「え……、じゃ、じゃあ…」
またも顔を赤くして、手首から先がまだ自由に動く俺の右手を取る。ためらいがちに中指をクリトリスに当てた。
「ここ…、弄ってて…。」
「うわ…、凄い膨らんでる。」
「んっ、や、優しく、だからね?」
そう諭しながら、沙耶はゆっくりと前へ倒れこんだ。下から順に、体が密着する。顔を俺の首筋にうずめ、背中に手を回した。安堵の溜息が肌に触る。
「康介の身体…、安心する…。」
443404:04/07/12 15:57 ID:Nw6t2cyO
しばらく感触を堪能した後、沙耶は腰から下を器用に動かし、ピストン運動を再開した。小刻みに奥を突き上げる。
横から差し伸べた右手の中指から離れさせないようにしながら、少しずつ重心をずらすようにクニクニと肉芽を撫でた。
「ひぅっ!…どっちもっ…すご、んぁっ!…気持ちいっ…」
余分な力を抜き、どんどん快楽に素直になる沙耶。ただ、抱き寄せる力は弱まらない。
沙耶は顔を上げ、ぎこちなく唇を重ねた。
「ん…ん、んっ…」
顔を上げたことで体と体の間に隙間ができて、胸に小さなしこりが左右に一つずつ乗っかった。上半身を軽く動かし、擦ってやる。
「んんっ!んんん!んむっ…」
一心不乱に舌を絡ませていたが、性感ポイントを全て同時に探られる衝撃に耐えきれず、唇を離す。
「くぅ、んっ!全部…気持ち良すぎるよぉっ…」
「変になりそうか?」
「な、なら…ないもん…ん、んんっ!」
「く、あっ…沙耶、俺…」
「ま、まだっ!まだダメっ!」
「え?」
「わ、たしっ…後、少しだからっ……ホントに、後ちょっとだからぁっ…、あっ…ん、んふぁっ!……一緒にっ…イキたいのぉっ…」
抱きついている為に、どうしてもストロークの幅が短くなり、絶頂に近づくまでの時間が遅かったようだ。俺としても沙耶と共に果てたかった。だが、いつまでも堪えられる訳ではない。
なら、答えは一つ。沙耶を急激に絶頂に近付ければ良い。
俺は中指を4倍速で動かしたり、摘んだりして、乱暴に弄り回した。
「ひ、ああぁん!やっ!やだっ、激しっ…」
「声、抑えろ…周りに聞こえるだろっ…」
「ご、ごめ……んうぅっ!わた…し…、もぉっ…」
腰が最高まで加速する。俺も可能な限り突き上げる。
「沙耶っ、イクぞっ…」
「う、んっ…一緒にぃっ…康介ぇっ…ひぁっ!も、イっちゃぅ…」
快楽に溺れる沙耶の顔がまた唇を求める。
互いに舌を織り成し、熱い吐息を交わす。沙耶の手は、俺の背中を痛い程に掴み、それでもなお、抱き締める。
そして…
「く、あっ!」
「んああああぁぁ!」
絶頂を迎えた。沙耶の中に、快感と共に吹き出る体液を、何度も引っかける。その度に沙耶はビクッと体を震わせ、小さく喘いだ。
444sage:04/07/12 15:58 ID:Nw6t2cyO
互いの全てを出し終え、繋がったまま小休止する。沙耶は肩で息をし、恍惚とした表情で、俺を見つめていた。
―――――
「今、思うとさぁ。」
制服に付いた粘液を拭き取っている沙耶に話し掛ける。沙耶は、まだ冷めていない顔を向けた。
「…何よ。」
「お前、痴女みたいだったな。」
「…うっさい、マグロ。」
「そ、それは仕方無ぇことだろ!?」
藪蛇とはこの事だ。いじめてやるつもりだったのに、こっちが泣きそうになった。
「ところでさ、私、今日学校に行かなきゃならないの。」
「は?いや、解ってるよ。平日だし。」
「…いいの?」
「何が?」
「だから康介は私がいなくても大丈夫か聞いてるの!」
……少し考え込む。それはつまり、
「休んでくれるのか?俺の為に。」
沙耶は『俺の為』という言葉に気恥ずかしそうに視線を横に逸らすが、小さく頷いた。
「じゃあ…、そうしてもらおっかな。」
俺が言い終わると同時に、沙耶は緊張を解くような、大きな溜息を吐いた。面倒臭そうとも、嬉しそうともとれる。
「ホント、世話焼けるよね。」
言葉とは裏腹に、声が弾んでいるのは明らかだった。俺は笑いを噛み殺し、沙耶に微笑み掛ける。
「じゃ、よろしく頼むな?」
「うんっ!」
何も包み隠さない、純粋な笑顔を見て思い立つ。


決めた。
体が治ったら、沙耶を抱き締めよう。
力一杯。何よりも先に。
445404:04/07/12 16:02 ID:Nw6t2cyO
以上です。携帯からなので、投下失敗してる可能性が。

何か話が不整合…。後、エロ薄…。
446404:04/07/12 16:17 ID:Nw6t2cyO
ageちまった…。名前は下げられねぇっつーの…。
スマソ。
447名無しさん@ピンキー:04/07/12 19:26 ID:qgj6SJJx
404
良いのを書いたのに気にすんなつーの、まじでGJ
ついでに、ここはオリジナル専用?
448名無しさん@ピンキー:04/07/12 20:49 ID:pr8/lc0g
オリジ、パロどっちでもOKだけど、
パロなら該当スレあれば、そっちに張ってもらったほうがいいかな。
こっちにはアンカー張ってもらえばみな読むし、
該当スレの住人にも読んでほしいだろ?
449名無しさん@ピンキー:04/07/12 23:16 ID:WHJVS9xB
>>404
GJ!!
いいよいいよー。萌えますた。
450名無しさん@ピンキー:04/07/12 23:40 ID:X5nK/2Lu
>>447
二次もオリジナルも大歓迎!
451名無しさん@ピンキー:04/07/13 03:41 ID:0izuZQ/G
404さんGJエロエロッ(;´Д`)ハァハァ
やっぱり幼馴染はよかですたい。
452404:04/07/13 22:40 ID:5ub/7WXz
「気の強い娘が…」スレの574氏、ギャップの出し方が上手いなぁ…。

感想、有難うございます。
GJ、なんて元気の出る言葉だ。

もうすぐ初オリのSSが書きあがると思うので、その内うpしてみようかなと思っております。少々背徳感漂っているので、イト君とひーこタンの雰囲気壊さないように注意します。スイマセン、本当に。
453243:04/07/14 01:25 ID:OqqfR3pC
404さんが背徳感とともにクル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
看病話とってもエロくて萌えさせていただきました。次回作も楽しみにしております。

職人様方の幼馴染を読むたびにハァハァさせていただいてます。
早くこちらのお二人さんもどうにかなってほしいものです。
その17。続きはまた、時間のできたときに。
454243:04/07/14 01:28 ID:OqqfR3pC

・・・・その17


油の沸き立つ台所の音が、扇風機に涼しい。
櫓の設置だけでいったん帰ってきたお母さんが、夕食の準備をしている。
居間のソファに寄りかかって、私は眠気の襲う頭をゆっくりと倒した。
夕食まで、少し寝よう。
眠って、明日になれば、イトくんが帰ってくる。


―― 夢を、見た。

幼稚園くらいの幼い指が、大きめの学習ノートをもっている。
緑色の表紙には、漢字が四つ。
ひらがなではないけれど、きっと、これはなまえだろう。
三文字目は、多分読める。
その次は、と考えていると、「きたはんきゅうのせいざ」がわきの壁に貼ってあるのが目に入った。
ポスターのなかに偶然同じ漢字を見つけて、ふりがなから四文字目の読み方を知る。
じゃあ、あの知らない人のなまえは――
開けっ放しの窓から吹く風に、細い髪がなでられている。
ベッドに寝ている小学生は、小さくて弱くて、あちこちに痣と擦り傷と血がついている。
お兄ちゃんの知り合いらしい。
うちの下でばったり出会い、なぜかその場でつかみ合いの大喧嘩になり、その最中に突然動かなくなってしまったらしい。
熱の高さにあわてたお兄ちゃんは、この人のうちをまだ知らなくて、とりあえず四階まで引きずって連れてきたのだ。
意味がわからないけど、多分お兄ちゃんが悪いのだろう。
はしだというのはやっぱり名字で、最初の二文字の読み方なんだろうか。
緑のノートを、さっきお兄ちゃんが放り捨てていったランドセルに元通りしまって、
他にもこぼれていた教科書や筆箱をそろえて流し込む。
絨毯が小さい膝小僧に柔らかい。
まだ自分が持てない「ランドセル」という小学生の証のようなものに触れた幼い手は、泥と血とでなんだか黒くよごれてしまった。
4552/3(243):04/07/14 01:30 ID:OqqfR3pC

弟に揺り動かされ、目が覚める。
「姉ちゃん。メシ」
「……ん」
肘をずらして、頭にかかった腕をどけると蛍光灯が眩しかった。
食卓には珍しく帰って来ているお父さんの分を含めて、三人分のお箸がある。
お母さんはまた、手伝いに出かけていったようだ。
弟は夏祭り帰りらしく、小学生でもないのに光る腕輪をつけている。
今日は、本当に、家族だけの食卓になる。
久しぶりのことだ。
だってイトくんは、今頃東京にいる。
天井の光がとても白く明るく、目にしみた。
「緋衣子、起きなさい」
お父さんの声に黙って頷いて、手首で目を擦る。
妙にお父さんと享の口調が似ているなあと頭の隅で思った。
お父さんは白髪が増え、弟は背が私より高くなった。
いつの間に、こんなに月日が経ったのだろう。
扇風機の風に、シャツの裾がめくれて軽く膨らむ。
東京にいる兄さん達は今、どこでなにをしているのだろう。

4563/3(243):04/07/14 01:32 ID:OqqfR3pC
幼馴染の夢を見た気がする。
数学の応用問題を解き終えて、壁時計をふりかえる。
夜も深まってきたので、勉強を切り上げて電気を消す。
蒸し暑い空気の中でタオルケットにくるまり、指先をぼんやりと眺めながらうつらうつら、
襲う眠気に身を任せていると、目蓋が重くなってくる。
いないことに、寂しさみたいなものを感じるのは、初めてのような気がした。
一年間いなくなったときもほとんど気にはならなかったのに、不思議だ。
心のどこかで、なにかを、思った。
それが頭の中で形になるよりも先に、私は静かに眠りについた。

連続した電子音で目を覚ました。
カーテンが閉まって薄暗い部屋にも、居間からの音が届いている。
身体をよじって、時計を見ると昼過ぎだった。
信じられない。
ということは、今日の昼は家に誰もいないはずだから、電話に出なければいけない。
がばり、と上半身を起こして、ベッドを飛び降り、寝間着もそのままで居間に出る。
案の定がらんとしているテレビの前を横切って、ひったくるようにして子機を取り上げた。
昼過ぎで明るい窓際の床に、裸足の足裏が少し熱い。
鳴り続けていた電子音が、手の動きと同時に切れる。
そのまま電話に出ようとして―なぜか、一瞬、手を無意識にとめた。
理由は、きっとなかった。
すぐに気を取り直して、白い受話器を耳に押し当てる。
息を吸って、電話線の先にいる誰かに、ゆっくりと応える。
ベランダに通じる大窓の向こうに、夏空が青く白く、ゆったりと広がっていた。


「はい、もしもし――崎ですが」


457名無しさん@ピンキー:04/07/14 07:31 ID:mRjQ4FDl
オレが思うに幼馴染キャラのSSには幼馴染を奪い合う
ライバルキャラいた方がいいと思う
458404:04/07/14 08:06 ID:YZ9e/ydW
それはよく考えます。アクセントに欲しい。

今、試しに男1女2の幼馴染集団のSS書いてるんですが…、これだと収集つかない希ガス。あらすじは描けているんですけどね。
やっぱり片方は振られ役として割り切れるキャラの方が良いっぽい。
459名無しさん@ピンキー:04/07/14 10:38 ID:xDDrsGnS
しかし「作者が振られ役にしたい方」=「読者が振られ役にして欲しい方」ではない罠

ヒロイン1人ずつ&ハーレムの3通りが読めて結果的に読者ウマー作者大変……前にもあったけど
460名無しさん@ピンキー:04/07/14 10:46 ID:vx8WpnNb
チカタンとエリスタン。えろくてよかったね。
作者は今頃どこで何を書いておられるのか。
461名無しさん@ピンキー:04/07/14 21:54 ID:op9WSOET
ライバルキャラが幼馴染でなければ、振られ役として割り切れるのではないだろうか?
462名無しさん@ピンキー:04/07/15 08:35 ID:Svf7kTLX
「幼馴染が唯一の萌え対象」
という読者はここでさえむしろ少数派かと
463名無しさん@ピンキー:04/07/15 20:38 ID:LUWtdfdR
でもそーゆー趣旨のスレですし。
464名無しさん@ピンキー:04/07/15 21:01 ID:Exm68tZ4
シチュエーション系ではついて回る問題ですね。
スレの趣旨以外が書けないというのは。

気の強い娘が、しおらしくなった後のいちゃいちゃっぷりも書きたい。
妹と姉の両方を相手にしたい。
でんきあんまだけじゃなくて、胸を責めて悶えさせたい。
フェラの後の本番も書きたい。


まあ、大抵のスレでは、スレの趣旨に沿った部分をしっかり書いてるなら、おまけとして書くくらいはOK
みたいな感触だけど。
465名無しさん@ピンキー:04/07/15 21:44 ID:K5i7hnLE
>Scarlet Stitch 17

"Memorial address"の予感が…。
466ネタ:04/07/16 09:43 ID:U9lLX9x/
あれは、暑い夏だった・・・俺が由美に好きになったと気付いたのは・・・しかし俺は付き合う事が出来なかった、なぜなら彼女は、男性恐怖症だから・・・

「暑いな・・・」「・・・あのさ、私さ、暇じゃないんだよね、帰ってくんない?」「・・・夏休みの宿題を写させ・・・」「嫌」
そう言って俺を追い返そうとした、しかし、俺は後三日しかない夏休みの宿題をやって無かった・・・だから優等生の由美に頼むしか無かった、こいつとは、浅名馴染みなのか、俺にだけ喋れる
「お願いします由美様!!!」
「・・・」
少し考えたのか「嫌」っと答えた
「何故!!!?」
「夏休みとは一学期に出来ない事を・・・」
「だぁ!!いいじゃん!頼む!何でもしますから・・・」
その時、由美の顔がニヤリと笑った
「へ〜なんでもするんだ・・・」
467ネタ二:04/07/16 10:20 ID:U9lLX9x/
「あ、金はだめ・・・」
っと、素早く答えた、由美の顔が少しチッと舌内をした
「じゃあ、家の小屋を掃除して」
「はぁ?嫌・・・差せて頂きます」
「うん、頑張ってね〜まぁ、やっといてあげるから」
「うゎ〜いまじdくす」
俺は意味不明な単語を使い、由美の家にある小屋へといった、この家はかなり古い、由美は小屋と言うが実際小屋より倉に近い、まぁ夏休みの宿題の為だ、掃除を頑張ろう

「やはり、築100年・・・良いもばかり・・・有る!!」
そうここはエロ本がかなり有るのだ!!つまり漢の楽園なのだ!
「くっ・・・あいつには、絶対秘密にしなければ・・・」
数分後心も体もスッキリした俺は、掃除をしたふりをして、由美の部屋へ帰った
「おーす、終ったぞ」
「んっ、乙一応はやっといたよ」
「おぉ!持つべき友なんかだ!」
「・・・やっぱり私、友達程度なんだ・・・」
「?どうした」
「いや、別に、じゃあ・・・」
「まぁマテ!お前に良い物をやろう!」
っと差し出したのは、肩揉み券だった
「・・・死にたい?」
「うん誕生日だからさ、なんか買ってあげようとしたんだが・・・まあ誕生日おめでとう!」
そして、夏休みは後二日になった
468名無しさん@ピンキー:04/07/16 11:01 ID:Hnv/nTQw
ベタな設定飽きたから
陽だまりの陰みたいな変わった幼馴染との関係が好きなんだけど
誰か変わった幼馴染のSS書いてください
469名無しさん@ピンキー:04/07/16 11:28 ID:U9lLX9x/
面白くなかったか?
470名無しさん@ピンキー:04/07/16 12:12 ID:fd4rWD0V
469
面白いから書いて
471名無しさん@ピンキー:04/07/16 13:58 ID:62QWVppf
そこまで思いついたのなら藻前が書け・・・と言おうとも思ったけれど。
うん。まあね。人に不慣れなものと言うのもあるさ。
ほら、たぶん、明日の日は昇るさ。だから、諦めるなよ。

まず、布団を敷こう。な?
472ネタ三:04/07/16 14:27 ID:U9lLX9x/
俺は由美のお陰で、だいたいの事が済ませる事が出来た、まぁお礼をしようと(しろと命令をされた)言われ、考えていた
「まぁ、一息つきますか」
そして、俺はベットの下にある、Hな本をとりだし自己欲求をしようとした、その時・・・
「ゆうと、遊びきた・・・」
由美はいきなり倒れてしまった
「ださ・・・」


数時間後・・・由美はやっと起きた
「・・・大丈夫?」
「いや、最悪・・・」
かなりへこんでいた、どうすれば良いか迷う程だった、俺は誤るしか無かったが「私が悪い」っと言ってくるだけだった
473名無しさん@ピンキー:04/07/16 22:31 ID:A4CGmMzw
>>468
その自己厨さを改めてから出直せ
474名無しさん@ピンキー:04/07/16 23:51 ID:PZ50zUWr
>>472
続きマダー(・∀・)?
475恥じらい肛門丸:04/07/17 15:19 ID:FNSAAv91
七月の某日、某深夜。俺の携帯に一通のメールが着信した。

『明日帰るから 迎えにきてちょ まみむめもがちょ 由美』

上記のメール主は、俺の幼馴染である柏木由美(かしわぎ・ゆみ)。
見ての通り、ジョークのセンスがまるで無い人物である。おっと、ご紹
介が後になって申し訳ない。俺の名は、氷室瑞貴(ひむろ・みずき)。
名前が涼しげな事意外は、何の取り柄も無い大学一年生である。
「帰ってきやがるのか、由美のやつ」
俺は、粗忽な由美の性格を思い出しながら、苦笑い。明日、帰郷の旨
を告げておきながら、時間や着地の事をまるっきり記していないからだ。
「勝手なやつ・・・」
地元を離れる気にはなれず、実家通いが出来る大学を選んだ俺に対し、
やつは上京して都会暮らしをチョイスした。小、中、高校と学び舎を共にし、
互いを理解しあった仲ではあったのだが、十八歳の春に、二人は別々の
道を選んだのである。上京する幼馴染を見送った日──ほんの数ヶ月前
の事だが、俺にとってその日は、生涯でもっとも打ちひしがれた日であっ
た。十八年という歳月をかけて育んできた関係が、これでついえてしまうと
いう悲壮感に包まれていたからである。しかし、やつは──由美は、悲しみ
をこらえる俺に向かって、こんな別れ言葉を放っていった。
「ごめんね、瑞貴・・・コマネチ!」
これを聞いた時は、さすがの俺も呆れた。ジョークセンスもさることなが
ら、別れの際にコマネチ!はねえだろうと思ったのである。
「寝よ・・・しかし、どんな顔をして会えばいいのか」
携帯を放り出し、ベッドへ仰臥する俺。迎えに行くことは別段いいのだが、
正直言って、どの面下げて・・・という気がしない訳でもない。
476恥じらい肛門丸:04/07/17 15:49 ID:FNSAAv91
その訳は、やつがどんな都会暮らしを送っているのかが気になって
いるからである。性格に難はあるが、由美は誰からも愛されるような
容貌を持ち、また、ノリもよろしい。実際、高校の頃なんかは、やつと
俺との間に横恋慕をしてくる輩も大勢いたのだ。もっとも、その都度
由美はすまし顔で、間に合っておりますと、想いを寄せてくるやつら
をあしらっていたのだが。
(もう、他の誰かに・・・抱かれ・・・て・・・)
眠ろうとして目を瞑ると、由美が誰かに抱かれる妄想が頭の中に沸く。
見覚えのある裸身が闇の中に浮かび、かつて恋人と呼んでいた女性
が誰とも知らない男の腕の中で、低いため息を漏らす。そんな悪夢が
脳を掠めていくのだ。
(あさましいな・・・俺)
瑞貴──と、やつが俺の名を呼んでいる気がする。ああ、そうだ、俺は
まだ、由美を忘れられないのだ。
(会いたいけど、会いたくない・・・いや、やっぱり・・・)
煮え切らない思いが、俺の眠りを妨げる。結局、俺は悶々とし、掛け布
団を由美に見立て、抱きしめたり足に挟んだりと、明け方近くまでうだ
うだとしてしまった。未練がましいとは思いつつ・・・

朝を迎えた俺は、眠りが浅かったためか若干お疲れ気味。とりあえずは
顔を洗い、朝食を摂ったのだが、その間中もやつの事が頭から離れない。
(携帯に連絡あるかな?車、洗っておこう。しまった、床屋に行っておけば
よかった・・・随分、不精してるなあ、俺・・・んッ?)
携帯を小脇に置いて、車の鍵をジャラジャラさせつつ、そわそわと食事を
する俺を、母さんが呆れ顔で見ていた。こんな無作法に躾た覚えはない
とでも言いたげに。いかん、相当舞い上がっているな、俺・・・
477恥じらい肛門丸:04/07/17 16:11 ID:FNSAAv91
結局、俺はやつからの連絡を待たず家を出た。東京駅から新幹線で
一時間ちょっとの我が街に、主要駅はひとつしかない。
(待てばいいさ。行き違いになる事もあるまい)
車を走らせながら、俺は思った。そして、何度目かの信号待ちをしてい
た時、俺の携帯がメールの着信を知らせた。

『あと十分で着く〜』

メールの主が由美である事は言うまでも無い。が、しかし・・・着駅十分
前に連絡を寄越してくるとは、無計画にもほどがある。だが、それを知った
俺の顔に怒りはない。身勝手で結構──多分、そんな顔をしていただろ
うと思う。惚れた弱み・・・そう理解していただければ有難い。

「あいつ、何番ホームかも知らせないで・・・はあ、はあ・・・」
駅に着いた俺は人いきれを掻き分け、ホームへ駆け上がった。つい今しが
た、東京発の新幹線が着駅し、乗降客をいなして大阪方面へ走って行った
ばかりである。そうなれば、由美は間違いなくここに居る──
「由美」
やつを見送ったあの日から数ヶ月しか経っていないのに、俺の心は逸って
いた。もう、何年も会っていないような気さえする。まして、今生の別れをし
た訳でもないのに、再会がとてつもなく尊く感じるのだ。

「瑞貴」

やつを探す俺の背へ、聞き覚えのある声が浴びせられた。これは勿論──
478恥じらい肛門丸:04/07/17 16:30 ID:FNSAAv91
「由美」
慌てて振り向いた先に、やつは居た。何やらあか抜けた服を身に
纏い、ブランド物のバッグを肩から引っさげて。
「お出迎え、ご苦労さん」
そう言って、ぴょこんと首を傾げ笑う由美。笑顔だけは、変わって
いない。さよならをした、あの日と何一つ変わっていなかった。
「お、お帰り・・・早かったな、ははは・・・」
「うん。さあ、送ってちょうだい。荷物は任せるわ」
挨拶もそこそこに、由美は俺に荷物を預け、腕を軽く絡ませてくる。
俺としては、もうちょっと感動的な再会を期待していたのだが、この
方がやつらしいといえばらしい。だから、何も言わない。
「行こう。車で来たんでしょ?」
由美が俺の腕を引っ張った。まったくもって身勝手なやつ──そう
思いはしたが、多分俺の顔は緩んでいるものと思われる。やはり、
俺はいまだにこいつの影を引きずっているのだ。何故ならば、腕を
組まれただけで、もうすっかり胸がときめいているのだから。

「やっぱり地元暮らしだと、車とか買えるんだ。東京じゃ、よっぽど
お金が無いと、車持てないからね」
大学入学と同時に親から譲ってもらった俺の車を見て、由美は東京
での生活を語りだした。と、言うか、何かにつけて、地元と都会の生活
を比較しだした・・・と表現したほうが、正しい。
「こっちは暑いね。蒸す感じ。東京は、案外からっとしてるのよ」
汗でぴたりと張り付いたシャツをぱたつかせながら、由美は言う。この
時、胸の膨らみが僅かに見て取れて、どぎまぎする俺。
479恥じらい肛門丸:04/07/17 16:59 ID:FNSAAv91
「相変わらず、この街は何にもないのね。東京だったら、少し歩けば
面白い所がいくらでもあるのに」
由美は故郷の街並みを見つめ、ため息混じりに言った。まるで毒づく
ような態度に、俺は何も答えられないでいる。いや、答えられなかった。
(何か・・・変わったな・・・)
先ほど出迎えたホームで見た笑顔──それは確かに、俺の知る由美
だった。しかし、今、語りだした彼女は俺の知らない何かを秘めている
ように見える。そうなると勝手なもので、流行の身なりや髪型をしている
由美が、どこか遠い存在に感じてしまうのだ。情報が発達した当節、ファ
ッションの流行に都会も田舎も大差はないと思っていたが、どうやらそ
れは間違いだと俺は思った。やはり、越えられない壁というものが、新幹
線で一時間ちょっとの距離に存在するのだ。
(心が離れている)
由美が地元を卑下するたび、そう感じる。そして、やつを実家へ送り届け
るまでに、俺はすっかりと無口になってしまった。だが、由美は飽きること
無く、何かにつけ東京と地元を比べては、弁舌滑らかにまくしたてたので
ある。

「送ってくれて、ありがとう」
やつは実家につくなり、俺に一瞥もくれず車を降りた。何かこう、過去の
男に用は無いわ、とでも言いたげに──
「あのさ、由美・・・今夜・・・」
聞いてくれ、と懇願するようにやつの背へ問い掛ける俺。情けなくはあった
が、未練もある。何より、故郷へ戻ってきたのだから、少しくらいは思い出
話に花を咲かせてもいいじゃないかと思ったのだ。しかし・・・
480恥じらい肛門丸:04/07/17 17:22 ID:FNSAAv91
「ごめん、友達と会うの」
由美は振り向きもせず、実家の門をくぐっていった。その後姿を、俺
はただ呆然と見送る。そして、思いを断ち切るべく、車のアクセルを
踏んだ。
(やっぱり、終わってるんだな、俺たちは・・・)
そう思うと、昨夜メールを貰ってからの自分の舞い上がりようが、恐ろ
しく道化めいていて、可笑しくなってきた。何のことは無い、俺はただの
過去の男じゃないか──そう言っては、自嘲する。だが、
(だったら、どうしてメールなんて寄越したんだろう)
という思いもある。みっともない話ではあるが、自嘲と未練を幾度も繰り
返しつつ俺は帰宅し、家族の前ではいつも通りに振舞い、由美と会った
事は隠しておいた。何も無かったんだ──自分にもそう言い聞かせて。

「瑞貴、由美ちゃんが来てるわよ」
翌朝、俺は母親からの呼びかけで目を覚ました。昨夜もあまり眠って
いない。勿論、由美の事を思っていたからだ。
「由美が?」
半信半疑ではあったが、俺は転がるように玄関へ駈けていき、やつの
存在を確かめる。すると・・・
「おはよう、瑞貴。携帯繋がらないから、直接来たわ」
白いノースリープに洗い流しのジーンズという姿で、由美は居た。それも、
俺の知るまぶしい笑顔をたずさえながら。
「ちょっと話がしたくてね。お出かけしようよ」
昨日のつっけんどんな態度とは正反対に、今日の由美は穏やかな表情
だった。地味ではあったが、くだけた雰囲気を見せている、俺が好きだった
昔の由美の姿である。
481恥じらい肛門丸:04/07/17 17:44 ID:FNSAAv91
やつに乞われるまま俺は車を出し、家を出た。まだ、朝の九時。陽が
高い。
「どこに行く?」
昨日のことがあるので、遠慮めいた口の利き方をする俺。多少、ぎこ
ちなかったが、やむを得まい。すると、助手席に居る由美は、
「ちょっと・・・あまり知った人がいない所がいいな」
と、外界からなりを潜めるように、シートへ深く身を埋める。そして──
「ラブホテルでいいわ。この時間だったら、値段も安いし」
そう言って、車内に差し込む光を避けるように、手で額の辺りを覆った。
「ゆ、由美・・・」
「そんな顔をしないで・・・お互い、子供じゃないんだから」
かつて恋人同士だった俺たちが、ホテルへ行く──それ自体には、何
の不思議も無い・・・とは思えなかった。確かに、俺たちは体を重ねあった
仲ではあるが、今のやつの物言いには何か含みが込められている。だが、
「久しぶりだよね、するの・・・」
と、由美は別段悪びれず、ふっと笑って俺を見詰めたのであった・・・・・

「先にシャワー浴びてくる」
ホテルに着くなり、由美は浴室へ入っていった。手馴れているというか、
男慣れしているというか、やつはもう、俺の知る由美では無くなっている。
(男か・・・やはりな)
嫌な予感──おととい俺を悩ませた疑問が、ここで結論と化した。以前
のやつであれば、体を重ねる際には必ずキスから入っている。それも、
ふざけあい、じゃれあいながらの、長く甘いキス。それを省き──と言う
よりは、キスを拒むようにして真っ先に身を清めに行く事など、俺の知る
由美からは考えられない。いや、考えたくなかった。
482恥じらい肛門丸:04/07/17 18:06 ID:FNSAAv91
「お待たせ」
俺が逡巡している間に、由美は浴室から出てきた。裸身にバスタオル
だけを巻いた姿で。
「じゃあ、俺もシャワーを・・」
「あなたは別にいいわよ。男はどうせ、ここしか使わないんだし」
浴室に向かいかけた俺の股間を指差し、笑う由美。言葉のとげとげしさ
もそうだが、何よりやつは俺の事を、あなた──と呼んだ。これは、今ま
でに経験が無かった事である。俺たちはいつだって、お互いをファースト
ネームで呼び合っていたからだ。
「早く脱いだら?時間がもったいないわ」
愚図な男に呆れるかのような由美の微笑み。だが、俺はやつに何の反論
も出来ないまま、いそいそと着ている者を脱いだ。まだ、この時点ではやつ
にかつてのよすがを求め、縋るような思いがあったからだ。もっとも、この
直後、俺はやつを拒まなかった事を、死ぬほど後悔する羽目になる。

「ゴム着けてね」
ばたんとベッドに仰向けになった由美が言った。バスタオルから伸びた足
をだらしなく広げ、あらわとなった恥毛を隠す事すらなく。
「来てよ、瑞貴」
コンドームを着けるや否や、由美は両手を広げ俺を招いた。やつは前戯な
ど要らないと言って、すぐさま挿入を促す。
「うふっ・・・ああ、久しぶりよ、この感触・・・」
濡れていない由美の膣は、何か俺を抗うような動きを見せた。口では愉し
むような事を言ってはいるが、その実、俺を拒んでいるような気がする。
483恥じらい肛門丸:04/07/17 18:25 ID:FNSAAv91
「ううッ・・・ふんッ・・」
俺が中に入ると、由美は眉間に皺を寄せて悶したような表情を見せた。
無理も無い。前戯もないまま一つになっているのだ。実際、コンドーム
に塗り込められたローションの助けが無ければ、挿入だって困難だった
はず。正直なところ、俺も彼女の中を傷つけないように、相当気をもんで
いるので、はっきり言って全然気持ち良くないのだ。
「由美・・・」
苦悶するようなかつての恋人の髪を梳き、俺は呟いた。おそらくやつも
まったく愉しめて無いはず。しかし、由美は俺を嘲笑うかの如く、
「もっと、腰を使ってよ・・・ん・・もう・・」
そう言って、激しい交わりを求めるのであった。

「あッ・・・あッ・・・あッ・・・」
つがってからしばらく経つと、由美は馴染んできた俺の男を膣口で食い
締めるようになる。やつの中も、本能的な粘液の分泌が始まってか、滑り
が良くなっており、俺が腰を使っても大丈夫そうだった。
「由美」
真正直なセックスだったと思う。仰向けになったままの由美の足を割り、
俺はただ機械的な出し入れに終始しているだけ。時折、名前を呼んでや
ると、やつは眉目をきゅっと吊り上らせ、俺を憎むような視線を呉れた。
そうして、交わりを持ってから十分ほども経った頃、胸へ愛撫をし始めた
俺の耳元へ、由美は挑発的な声でこう囁いた。
「瑞貴・・・あたしに男がいること・・気がついてるでしょ?」
484恥じらい肛門丸:04/07/17 18:44 ID:FNSAAv91
「ああ」
やつの乳房に優しく触れながら、俺は答える。もう、俺は由美を親しみの
こもった呼び方が出来そうにない。やつ──ふざけ混じりでそう呼んでは
いたが、これからはもう、それがかなわないと思える。
「やっぱりね。じゃあ、どうして怒らないの?あたしたち、離れはしたけれど、
別れた訳じゃないのに」
由美はそう言って、俺の背中に爪を立てた。彼女を寝取られた男を責めて
いるつもりらしい。
「それは・・・個々の取り方次第だよ。俺は、お前を見送ったあの日に、終わ
ったと思ってる。もちろん、未練はあったけど・・・」
「卑怯よ・・・瑞貴・・・ううん、男なんて、大嫌い!」
俺の答えが不服だったらしく、彼女は背へ立てた爪に力を目いっぱい込め
て、引っかいた。肌を裂く痛みがあるが、俺はお構いなしに彼女を抱く。
「あ───ッ・・・」
俺が前のめりになると、由美は仰け反った。今、俺の男は彼女の一番奥
深くまで達している。他人行儀ではあるが、これからはもう、由美をやつと
は呼ばず、彼女と呼ぶ。敬いと軽蔑をもって──
「あ・・・あたし・・・ううッ・・地元を離れるべきじゃ・・なかった。瑞貴のそばを
離れるべきじゃ・・・あ・・なかった」
男を迎え入れながら、随喜とは違う涙をこぼす由美。秘めた気持ちが張り
裂けそうなのだろう。
「うッ・・・あたし、馬鹿だったわ・・・あんなくだらない男に騙されて・・ううッ・・」
俺の顔から視線を背け、由美は泣く。もうこうなったら、思いのたけを放った
方がいいと思った俺は、彼女を優しく抱きながらこう言った。
「話せよ。聞いてやるから」
485名無しさん@ピンキー:04/07/17 18:53 ID:ChYaFrUX
支援
リアルタイムで書いてるの?まさかね・・・
486恥じらい肛門丸:04/07/17 19:01 ID:FNSAAv91
「東京に出てすぐ・・・あたし、同じ学校の人と遊びに行ったの・・・
瑞貴のこと、忘れたわけじゃなかったけど・・寂しかったから・・・
何度か会った後、お酒を一緒に飲んで・・・気がついたら、あたし・・
その人の部屋で・・・抱かれてた」
ぐすんと鼻をすすりながら、由美は語りだす。俺はそれをただ、黙
って聞いてやるだけだ。
「それから、付き合う事になったんだけど・・・そいつ・・・浮気ぐせが
あって・・・あたし以外にも、何人もの彼女作ってて・・・もう、嫌にな
っちゃったの。それで、別れて・・・勝手な事言うようだけど、一人に
なった途端、瑞貴の事・・思い出して・・・」
「それで、帰郷と相成った訳だな」
「ごめんなさい・・・身勝手だとは思ったんだけれど」
もう、セックスはどうでもよくなってはいたが、俺たちは離れようとは
しなかった。どころか、由美は俺の男をぐいぐいと引きつけては、淫
らがましい動きに終始している。まるで、離れていた時間を埋めんと
するかのように──
「瑞貴なら・・・優しく受け止めてくれるって思ったの・・でも、あたし・・
素直になれなかった・・・ホテルへ誘ったのだって、浮気された自分
をめちゃめちゃにして貰おうと思って・・・あ、あたし・・他の男の臭い
が染み付いちゃってるから・・瑞貴・・に・・あたし・・を・・怒って貰おう
と・・・」
由美の独白はそれ以上言葉にならず、ただ涙に霞むばかりだった。
そして、大粒の涙を指ですくいつつ、俺は言う。
「もう、いいさ」
別に格好つけているわけでは無く、心の底から出た言葉であった。
487恥じらい肛門丸:04/07/17 19:17 ID:FNSAAv91
それから一月もしない内に、俺は気ぜわしい日々を送るようになる。
その理由はと言うと・・・
「瑞貴!」
そう言って俺を呼ぶ『やつ』が、身の回りをうろつくようになったからだ。
無論、それは言うまでも無く、由美。
「編入できたか?予備校」
「うん。案外すんなりと。うふふ、もう一回受験するなんて思いもしな
かったけど、まあ、予備校生生活も瑞貴と一緒なら、悪くはないかな
ってね」
由美は予備校の前で待つ俺へ、ピースサインなんぞを呉れている。
気楽なもんだ──と、俺は呆れ顔。結局、由美は東京での生活をや
め、地元の大学を目指すべく帰ってきた。当然、この地へ骨を埋める
つもりで。言うまでも無く、俺と一緒に・・・である。
「乗れよ」
「うん」
俺の車にやつが乗った。お気づきかもしれないが、今、俺たちの関係は
昔の恋人同士に戻っている。と言うよりは、困難を乗り越え濃密さを増し
た、まことにしなやかな間柄という感じ。だから、俺は由美をやつ、と呼ぶ。
「瑞貴、この後の予定は?」
「特にない」
「じゃッ・・・じゃあ・・・二人きりに・・なれる、とッ・・・所にでも・・行く?」
由美は俺の予定を尋ねた後、遠まわしに愛し合おうかと提案した。いつ
ぞやの、やけっぱちになった時とは大違いである。
488恥じらい肛門丸:04/07/17 19:38 ID:FNSAAv91
「そうだな」
俺はそっとやつの手を取り、車の運転に注意を払いつつ、気持ち
だけは恋人へと向けた。もう離さない──そんなつもりで。
「ふふッ・・・瑞貴ったら」
お互いの手のぬくもりが伝わって、なんだか車内がとっても甘々
な雰囲気になったが、それもやむなき事。何せ今、二人は非常に
ラブリーな関係にあるのだから、その辺はご容赦願いたい。
「ああ、いい景色・・・やっぱり地元はいいわね。落ち着くわ」
由美が車窓に流れていく景色を見詰め、そう呟いた。つい、この前
言ってた事とは正反対の、まことにしなやかなお言葉である。
「ねえ、瑞貴・・・あんな感じの家を建てたいわね。どう思う?」
二人っきりになれる所へ行く途中で、センスの良い家を見るたび、
由美はそんな事を言う。どうやら、やつの頭の中にはすでに二人の
結婚生活までもが、描かれているらしい。
「ああ、いいな」
実は俺も、案外その気になっていた。あんな家で、由美と暮らせたら
非常に楽しいのではないかと思う。とりあえず、こんなラブっぽい時期
が落ち着いたとき、きっと俺たちは結婚するんだろう。古い馴染みなの
で、互いの両親も反対はしないだろうから、障害は何一つ無い。
「いっぱいキス・・・しようね」
二人っきりになれる所を目の前にした時、やつは控え目にそう言った。
余談だが、今の俺たちはセックスの時間よりも、キスをしている時間の
方が長い。それも、いちゃいちゃとやってはふざけあうという生臭さ。
そんな恥ずべき事を追記し、おしまい。
489恥じらい肛門丸:04/07/17 19:40 ID:FNSAAv91
>>485
ビンゴ。と言うか、考えながら貼っているという・・・
490名無しさん@ピンキー:04/07/17 20:39 ID:OHiOQ7xz
ぐは。も、萌え死ぬかと思った……
すげぇ、これをリアルタイムで書いたとは……

取り敢えず乙。
491名無しさん@ピンキー:04/07/18 02:56 ID:Q+kjymWv
やばい。かなりグッジョブな出来だと思う…。
何か想像力を書きたてる文章で良かったです。

ただ、改行に気を使ったほうがいいかも。
492名無しさん@ピンキー:04/07/18 07:36 ID:0ZDoP8+R
読ませて頂きました。gj。
………リアルタイムで書いているのか(驚)
493名無しさん@ピンキー:04/07/18 18:53 ID:cuNlDKo6
以外に472の続きが気になるんだけど・・・
続きマダー?(・∀・)
494243:04/07/19 00:30 ID:7MAjLdtt
こっそりのろのろとその18です。
続きはまた、時間の空いたときに。
お付き合いくださってる方に感謝しつつ。
4951/3(243):04/07/19 00:31 ID:7MAjLdtt

・・・・その18


どうして、カーテンを閉めたくなったのだろう。
窓際で布を引いた手を逆方向に戻すと、小さな部屋はすぐに光を失った。
薄暗い空間を歩いて、乱れたベッドに肩からもぐりこむ。
この感覚には、覚えがなかった。
胸を強く押されて苦しいような、寂しいような、怒りを数滴血に混ぜたような。
そして何より――数日前とは明らかに違う感覚だけれど、他に言葉が見つからない。
何かが滲む前に、薄毛布を巻き込む。
不貞寝するのは初めてだ。
しかも全然大したことのない理由なのに。

枕の上で目を瞑って、頭を埋める。
本当に、なぜだろう。
あの人は、ちゃんと元気で、所在だって分かっていて。
数日後には、帰ってくるはずなのに。
それが今日ではないだけで。
なのに、こんなに、悲しいと思ってしまうのは。
――本当になぜだろう。

4962/3(243):04/07/19 00:32 ID:7MAjLdtt

目を覚ますと夕方だった。
カーテン脇に浮かぶ光が、淡く薄くなっている。
時計は六時半を指していた。
昼まで寝て、そこから更に無理矢理寝た割には長い眠りだ。
まあ、毎月の今頃は、普段よりは眠いものだけど。
寝坊したのもそのせいだろう。
横になったまま溜息をつき、憂鬱になる。
足をもぞもぞと動かして、億劫な身体をどうにか起こす。
換気のない部屋は蒸し暑くて、薄暗かった。
汗を吸って寝間着がしめっぽい。
喉も渇いていた。
仕方なく適当な服装に着替えて、ひとつきりのドアを引く。
開けると同時に、白光が目を射た。
「うわ。いたの」
弟がぎょっと振り返って、声をあげる。
西日の差し込む中で、白いシャツが半分淡い朱に染まっていた。
部活帰りなのだろう、そのあたりに脱いだジャージが放り捨ててある。
……洗濯機に入れてほしい。
「靴あったじゃない」
答えながら居間を横切り、冷蔵庫を開ける。
冷えた麦茶が入っていたのでグラスに注ぎ、氷を落とす。
透明なガラスが手の中で冷え、微かな痛みを与えて熱を奪う。
扇風機の風が遠く届いて、耳元の髪が頬をくすぐる。
私は居間のソファに腰掛け、床に座る享を見遣った。
部活関連のメニューなのか、それらしきものを広げている。
4973/3(243):04/07/19 00:33 ID:7MAjLdtt
「享」
「何ー」
「兄さん、お盆に帰ってくるって。昼に電話で」
「あ、そうなん?橋田くん何も言ってなかったけどな」
私が熟睡していた早朝、本人がちゃんと電話を入れてきたらしい。
もう少し、見たいところと回りたい大学があるから――と。

―気になる大学を見に行っているなんて、知らなかった。

ちゃんと受験生だという自覚があるんだ、と思った。
私が見えていなかっただけなのだろう。
なんだろうなあ、ともやもやする。
「朝は兄さん、寝てたみたいよ」
イトくんは伝言だけ残して家主をさっさと置いて出かけたそうだ。
起きたら隣の布団は片付けられ、鍵はドアの郵便受けだったらしい。
ものすごく愚痴っていた。
「橋田くん元気そうだったよ。疲れてるっては言ってたけどさ」
「聞いた。兄さんは機嫌悪そうだった」
「一日の半分はそうじゃん」
「まあね」
肩を竦めて、グラスを口につける。
ひやりとした液体が唇から流れて、喉を潤してくれた。
氷がグラスの縁に触れ合って、澄んだ音がする。
私は氷を覗き込んだ。
その下の麦茶の色を。
昨日、心に浮かんだなにかが、そこに沈んでいるような気がした。
扇風機が、いつもより肌に涼しい。
498名無しさん@ピンキー:04/07/19 01:54 ID:Ir67n2h9
Gj!
いつも楽しませてもらってます。
499名無しさん@ピンキー:04/07/19 06:11 ID:gV2g1d2k
実際幼馴染系は、エロに持ち込まれるまでが真髄だからな。
エロになってしまえば、ほかの小説と本質的には大してかわらんし。
続き期待してます。
500243:04/07/20 02:04 ID:V2BvM88B
その19です.
続きは…できれば、近日中に。
5011/4(243):04/07/20 02:06 ID:V2BvM88B

・・・・その19


駅近くの川沿いで、花火大会がある。
私は多分、今年も家から見ているだけだ。
もうすぐ8月がやってくる。



図書室から見える景色は、いつも通りに夏だった。
ペンを置いて、疲れた手を軽く振る。
勉強は進むけれど、心はどこか塞いでいる。
そろそろ認めなくてはならないだろう。
椅子に寄りかかって、俯く。
寂しいみたいな、とか、悲しいような、とか、遠回しにいうまでもなく。
…私はイトくんがいなくて寂しいのだ。
どうして今回に限って、とも思うし、「いなくて寂しい」という表現は不正確な気もする。
形にならずに蠢くこのなにか、は、もう少し、違う言葉を待っているように思う。
それでも幼馴染の不在が寂しくてたまらない、というのも事実だし。
自分でもよく分からない。
軽く溜息をつき、眠気の襲う頭で教科書をめくった。
お腹が痛くなったり、気分が悪くなったりしない代わりに、この時期の私は異常なほど眠たくなる。
目を擦って頬杖をついた。
四、五日前から襲うこの眠気も、そろそろ逃げていくはずだった。
5022/4(243):04/07/20 02:07 ID:V2BvM88B

「おーい、大丈夫か。こら」

顔を上げると電灯がまぶしかった。
窓からの光でなく、頭上からの明るさにはたと戸惑って、声のした方を向く。
図書室担当のさやか先生が腕を組んで苦笑していた。
長い人差し指にキーホルダーをひっかけ、じゃらじゃらと鳴らしている。
「気持ちよさそーに眠ってるところ悪いけどね、閉館。学校閉めるの」
先生の声に、ふと時計を見る。
短い針が8のすぐ下にある。
一瞬、幻かと思った。
…窓ガラスに映る自分の顔に、すぐに現実だと理解したけれど。
この一週間、なんだかこればっかりだ。
溜息をつくと、ただでさえ悲しい気分が少し増えた。
窓の外はもう真っ暗で、木々と空の区別もつかない。
とりあえずかばんに教科書を詰めて先生に挨拶し、誰も残っていない図書室を後にする。
校舎には物音もせず、上履きの音が反響するくらいだった。
正面玄関を抜けると校庭も真っ暗で、部活動の人たちもいない。
体育館だけが、うっすらと光を放っている。
裏門と西門は閉まっていたので、正門までぐるりと回った。
夜空にかかる上弦の月が暗い足元を弱く照らしだしている。
こんな夜道を帰るのは中間テスト前以来だから、随分久し振りだ。
遠目に見えてきた正門を眺め、ゆっくりと息をついて俯きながら歩く。
ローファーのつま先を見ていると、門の滑る金属の溝を越えた。
5033/4(243):04/07/20 02:11 ID:V2BvM88B
なんとなく、思い出して足を止める。
前に帰りが暗かったときは、ここで、幼馴染が待っていた。
まだ帰ってきていないのだから、今はいないに決まっている。
分かっていながら顔をあげて、以前立っていた場所に視線を向けた。
誰もいなかった。
…分かって、いた。
膝の上でスカートの裾がくすぐったげに揺れる。
頬に触れる空気は生温く、街灯の明かりが妙に眩しく足元にかかる。
光が落ちてくるように音もなく、なにか、の正体を不意に知った。

―イトくんに会いたい。

それだけだった。
いないとか、元気でやっているとか体が心配とか、そういうことなんてどうでもよく。
口にできる理由も用事もないのだけれど。
ただ、ただ本当に、会いたかったのだと思う。
いつもうちに入り浸っている、背が高く年上の幼馴染に。
喉の辺りがなんだか苦しくて、寂しさが背中を押す。
鉛色のコンクリートに視線を落としながら、家路についた。
渡った道路を車が通り過ぎ、背後からの光に影ができる。
風は緩やかだった。
夏の夜は、なにもなくても心がざわつく。
幼馴染が東京に滞在して、明日で一週間になる。
いつ、帰ってくるんだろう。
遠ざかるエンジン音が耳を掠めていくと、あたりはまた静かになった。
通り過ぎる店のシャッターが閉まっている。
高校が視界から消える曲がり角を、俯いた視界に入れた時、斜め上から声がした。
5044/4(243):04/07/20 02:12 ID:V2BvM88B
予期しない声だった。

「ああ、思った通り」

余裕があり、聞き慣れていて、間違うはずのない声が、
当たり前のような口調で私に向けて言葉を発するのが聞こえた。
心臓が大きく跳ねた。
顔をあげるのが怖い。
足を竦ませて、その場に立ち尽くす。
俯いた視界には、その人の影もまだ見えないけれど、声と一緒に距離が詰まるのを確かに感じる。
「まだ学校にいたのかい。夜道は危ないというのに」
声に含まれた穏やかな笑いが温かくて、心が熱くなった。
地面を見下ろす視界に、ねずみ色のスニーカーが入り込む。
こ。
こんなのは……ちょっと、不意打ちだ。
震える手を握り締め、顔をおそるおそる上げる。

イトくんがいた。

ひとつ上の幼馴染が変わらぬ立ち姿でそこにいた。
私の視線の先で、いつものように笑ってこちらを見下ろしていた。
「……イトくん」
「久し振りだね、ひーこ」
風が、生温くて緩やかだった。
名前を呼ばれて、不意に、何を思う間もなく、胸がいっぱいになった。
私は。
次の言葉を聞く前に、
彼の身体に額を押し付け、
――無言で背中に腕を回した。
そして、しがみつくように力を込めてシャツを握った。
505名無しさん@ピンキー:04/07/20 02:23 ID:Kpo6dfJI
おおうっ!おおおぉぉおうぅっ!
マジで10メートルぐらいゴロゴロ転がったぜよ。
神は漏れに悶え死ねと言うのか()
506名無しさん@ピンキー:04/07/20 04:49 ID:hXP7Bn8+
ついに、ついにその時か?
さて次にどう転ぶかな
続きが待ち遠しいです
507名無しさん@ピンキー:04/07/20 10:04 ID:bYGjYn2r
ついにクライマックス、ですか…
どうなるのかやきもきしてた半面、もうすぐ完結かと思うと
寂しい感じもします。心理描写はこれまでの職人さんのなかでは
かなりきめ細やかで毎回驚かされていましたから。
ラストスパート頑張ってください。
508名無しさん@ピンキー:04/07/20 10:32 ID:cvYn/Jhq
実はまだまだ続くとか。
509名無しさん@ピンキー:04/07/20 13:08 ID:Y2KV0nB7
>>507
比較あんまりイクナイ
他の職人さん、来なくなるぞ
510名無しさん@ピンキー:04/07/20 23:06 ID:cUM5wBxN
(*´Д`)ハァハアァ
511名無しさん@ピンキー:04/07/23 08:41 ID:JTBLFgk2
個人的に歴代最強スレかも。これだけのクオリティの作品が絶え間無く続出するのはちょっと記憶にない。
512243:04/07/24 02:32 ID:CQH2m0lW
>507-8
申し訳ありません、まだ少し続きます_| ̄|○スミマセン
ですがいい加減長すぎるので、さくさくいけるよう頑張ります…。


その20。
ちょっとまとまりなくなってしまったのですが。
続きはまた、時間ができましたら。いつもありがとうございます。
5131/4(243):04/07/24 02:33 ID:CQH2m0lW

・・・・その20


においがする、と思った。
私ではない人の。



温かい風にとけた記憶は、熱と一緒にまじりあって、不明瞭なままだ。
憶えていることといったら、
指の間で握り締めた生地の感触と、
腕が布越しに感じていた体温と。
頭と肩にそっと置かれた両手が、優しかったことと―

それから、その両腕が静かに、私を抱きしめて、
息の詰まるような長い、長い時間が過ぎていったことと、
…ゆっくりとその力が緩まった時の、安堵感と喪失感、と。

その時に囁かれた、少し掠れた声だった。
「それで」
イトくんらしくもなく、小さい声だった。
ぼんやりした頭の隅で、変なの、と思う。
「いつまでこうしてようか」
その声で、じわじわと自分の状態に気付き始めた。
空白だった記憶が、湧き水のように縁まで満ちて溢れ始める。
次第に血の巡りがはやくなり、全身がゆっくりと熱を上げる。
目の前に彼の服が見えた。
5142/4(243):04/07/24 02:36 ID:CQH2m0lW
…今、…何を、私は。
顔に急激に血が集まるのが自分でも分かった。
声にならない声で、何かを言おうとしたのだけれど、鼓動のはやさがひどい。
力の入らない手で、イトくんの胸を押すようにして、弱々しくあとずさる。
「………ぃ、」
「積極的でびっくりしたよ」
イトくんが余計なことを呟くものだから、また体温が上がる。
月並みな表現だと分かっていても―顔から、火が出そうだ。
―恥ずかしい。
何をやっているのだろう私。
全身が、内部から夏の陽射しよりも強い熱をもち、湯気のかわりに涙が出る。
目の前に視線を固定しながら、力の入らない足で半歩下がる。
遠くで車の音がして、数秒間だけあたりがさあっと明るさを増した。
イトくんが、傍で私を見下ろしているのが分かった。
心臓が、痛いほど早鐘を打っていた。
さっき、自分のしたことが分からない。
いたたまれなくて指先が震えた。
何か、言わないと、と思う。
思うのに、声が出ない。
膝から力が抜けて、立っているのもやっとで。
5153/4(243):04/07/24 02:38 ID:CQH2m0lW
「さてと」
突然声が降って、思わず顔を上げた。
イトくんが、いつもみたいに、頭に手を置く。
静かになでてから、優しく二三回、ぽんと叩いた。
―何も言わなくていい、と言ってくれるみたいに。
「遅くなるから、帰ろう」
「……ん」
当たり前のように続けられた言葉に切なくなった。
ありがとうと言いたいのに、踵を返した背中にかける声がない。
イトくんだって、何か言いたいことがあるはずなのに。
出会い頭にしがみつかれて、嫌だったかもしれないのに。
…抱き返したあの人の腕を、憶えてはいるけれども。
複雑に沈む気持ちを抱えながら、落ちていたかばんを拾う。
埃を払ってから、イトくんの後を追った。


時折車や自転車が通る他は、とても静かな帰り道だった。
ただ時々、前の人がふらついているのが気になる。
見たまま、大丈夫ではないのだろう。
長旅帰りで、往復一時間を徒歩なんて無理なのだ。
いくら昔より丈夫になったといっても、そこまでの体力がないことは分かっている。
でも、心配して来てくれたんだろうということも、知っているから。
心臓がひそやかに鳴った。
まさか本当に来てくれるとは、思わなかったのに。
なんだかたまらなくなって、夜空を仰ぐ。
月光がまぶしい。
自然に開いた唇が、幼馴染を呼んだ。
「あのね」
5164/4(243):04/07/24 02:40 ID:CQH2m0lW
「ん?」
「会いたかった」
振り返りかけた幼馴染の、足が止まった。
私もつられて止まる。
木々はそよ風にさわいで、不思議な沈黙をさらう。
イトくんが、深く長い溜息とともに、ぽつりと呟いた。
「すごいこと言うね…」
気恥ずかしくなったので、そう、とだけ答える。
夜風が髪を揺らした。
虫がかすかに鳴いている。
イトくんは、しばらくしてから視線を戻し、また歩き出した。
ゆっくりと前を行く幼馴染の、一歩後ろにつけて、足元を見ながら踵を追う。
もしかしてこの人も。
兄さんみたいに――東京に行くのだろうか。
思いついて、ふと立ち止まる。
…薄い痛みがかすかに滲んだ。
少しだけ離れて、影の先を踏む。
でもその距離以上に離れたくなくて、そのまま背中を見上げた。
背が高い、病弱で年上の幼馴染を。
肌を掠める夜気はあたたかいのに、目の奥が熱くなって、泣きたいのに嬉しい。
そう。
この人が好きだ。
肩口にあてた手に、薄れ往く余韻を想う。
抱きしめられたときのことを、霞んだ記憶からすくいとり、眼を伏せた。
―どういう、意味だったろう、あれは。
気のせいというにはあまりにも、長く。
脇の道路をトラックが過ぎさり、ざわりと風が、強まった。
517名無しさん@ピンキー:04/07/24 03:02 ID:ioUCZPVr
・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!
(言葉もなく悶え転がって帰ってこられなくなりそうな図)

ちなみに私は505さんではないです。が。
きっと505さんも悶え転がって月夜に吠えているにスーパーひとしくん人形。
518名無しさん@ピンキー:04/07/24 03:32 ID:BHH9AGsy

       ⌒ ⌒ ⌒ シュルルル
     __⌒ ⌒ ⌒__
    /::::::::::Λ_Λ::::::::::::::::::/
    /::::::::::(∩;´Д`)∩:::::::/  チャラッチャラッチャーン
   /::::::::::::(  >>517/:::::/
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
519名無しさん@ピンキー:04/07/24 03:52 ID:OpGRxF0Y
ついにひーこが自分の気持ちと向き合いましたね、よかった。
しかし、イトくんスゴイな、本当に10代か?
ひーこの心の混乱や葛藤を理解した上で待っている包容力とか。

個人的にはまったく長いとは思わない。
やっぱり終わりが近いのかと残念ではあるけどね。
でも、作者さんの書きたい物語を書きたい長さで思うままに書いて下さい。


520名無しさん@ピンキー:04/07/24 05:26 ID:t6tWJI54
糸を引いこ。GJ!!!
521505:04/07/24 11:07 ID:WxPWyu/r
>>517
・・・・・・。
(ベッドから転がり落ちて頭を打ったようなたんこぶを押さえている)

言葉に出来ない感情で胸がいっぱいです。
もうちょっとで泣きそうですた。グジョブ。
522名無しさん@ピンキー:04/07/25 02:44 ID:iWc7HCuH
良スレage
523名無しさん@ピンキー:04/07/26 03:48 ID:p1aRnNed
>>519
イトくんはいろいろと確かに凄いですが、
内心まで落ち着いているかはわからないですよーw

・・・などと言って
整理中でいつになく大胆な緋衣子ちゃん(何気にいろっぽい名前)に
内心おたおたあわあわどきどきの依斗くんを
妄想するのが最近の楽しみッス。
524名無しさん@ピンキー:04/07/27 20:30 ID:4hsUa0z4
陸上部♀×美術部♂きぼんぬ。
525名無しさん@ピンキー:04/07/30 02:00 ID:X/evUnap
保守
526243:04/08/01 13:45 ID:f8IEAsep
その21です。
感想いつもありがとうございます。嬉しいです。
続きは、時間ができたときに、また。
5271/4(243):04/08/01 13:48 ID:f8IEAsep

・・・・その21


享に言わせれば、私は淡白な人らしい。
そうなんだろうか。
頬杖をついて、模試の解説冊子をめくった。
昨晩からの雨はやむどころか、いっそう雨足を強めている。
解説を読んでいたはずが、いつの間にか別のことを想いうかべていた。
赤ペンを手放して、壁際に転がす。
ペン軸はころころと滑り、重ねた本に当たって止まった。
なんとなくそれを見つめて息をつく。
ゆっくりと腕を崩して顔を伏せた。
あの後、疲労で寝込んだり熱を出したりと、少しの波乱はあったけれど。
気のせいでなければ、あの人はいつも通りにしている。
そのおかげで私も助かっていると、分かっている。
でも、たゆたう温水の行き場がないみたいな、靄のかかった疼きも、消えない。
顔をうずめた腕に、額を押し付ける。
「今まで通り」なんて、もうありえないのに。
イトくんは違うんだろうか。
あの日のことは、何もなかったようなものなんだろうか。
台風が近付いているのか、窓を揺らす風が強くなり、水滴と一緒に耳を攫った。

5282/4(243):04/08/01 13:54 ID:f8IEAsep


髪を梳かれて、顔をあげた。
寝てはいなかったけれど、ドアの音にも気付かなかった。
いつの間にか来ていた人の、気配を不意に知る。
―イトくんが手を引っ込めて、私を見ていた。
熱くなる身体を気付かれないよう祈りながら、彼に目を向ける。
「なに」
雨音に紛れて、自分の声はなんだか小さく聞こえた。
イトくんは、しばらく黙っていて、それから言った。
「辞書貸して」
「なんで」
「雨だから家に戻るのが面倒くさい。貸して」
…やっぱりいつも通りな気がする。
かすかな溜息で、視線を紛らわした。
教科書やノートに混じって、机に重ねた辞書を探す。
「どの辞書?」
「英和」
簡潔な答えに頷いて、上にあった単語集を別の山に重ねた。
それにしても、原書を平気で読むくせに、勉強には辞書がいるのだなと思う。
そういうものなんだろうか。
5293/4(243):04/08/01 13:56 ID:f8IEAsep
黙って差し出すと、幼馴染が目を細めた。
少し戸惑って、視線を逸らす。
はやくなった鼓動があたたかい。
雨音が、なんだかうるさいと思った。
渡しかけた辞書を、なんとなく引いて、膝元に置く。
「ひーこ?」
所在なさげに浮いた手を、私とは違うなあと改めて眺めた。
いぶかしむ声を聞く前に、重い口を開いた。
「…イトくん」
最近ちゃんと勉強を始めたこの人は、学部以外の進路に口を閉ざす。
志望学部が違うから、詳しいことは分からないのだけれど。
彼レベルの医学部がある大学は、この辺にはない気がしていた。
……都会に行けば話は、別で。
「なにかな」
「イトくんは、東京の大学に行くの?」
沈むものをどこかに感じながら、声にした。
英和辞書を机の端に置いて、期待せずに答えを待つ。
沈黙に諦めて眼を伏せかけたとき、一言だけが返ってきた。
「さあね」
ぽつりと呟かれた言葉を、意外に思った。
答えをもらえたことだけへの驚きでは、なく。
不可解な不安と少しの嬉しさが、動脈を巡る。
見上げると、寂しそうな目が、私の視線を受けた。
「…迷っているから。どうすればいいか」
「そう、」
5304/4(243):04/08/01 13:58 ID:f8IEAsep
なんだか目が離せないまま、言葉に詰まった。
こんな目を、初めて見た。
この人が迷うなんてことも、考えたこともなかった。
「ひーこは、隣県志望だったっけね」
「うん」
「がんばって」
「うん」
イトくんは頷いて、瞳の色を深めた。
「あの県は山がきれいと言われるね。でも、海もいいよ」
すごくね、と小さく付け加え、彼は懐かしむように窓を見た。
視線を追って振りかえる。
閉まったカーテンが、隙間風に揺れていた。
夏の雨が、緑を濡らして降りしきる。
…隣県が、どうかしたんだろうか。
海が。
目の奥に霞がかかる。
紙で切ったみたいな、薄い痛みだった。
今更気付くのが遅すぎるだけだった。

幼馴染はどこまでも他人だ。
ずっとそう考えていたから、本当にそうなってしまった。

十年以上も、家族みたいに傍にいたのに。

――この人を何も知らない。
531名無しさん@ピンキー:04/08/01 14:27 ID:ByhQi4s/
キタ。(絶句)

ほんとに、いいなぁ・・・これ
振り子のように揺れながら、ふたりは距離を縮めていくんですね。
などと言うとちょっと恥ずかしい気もしますが。
でも、そんなふうに感じました。

いつも楽しみにしています。
ゆっくり、ご自分のペースで、どうぞ>243さん
続きを早く読みたい気持ちと
いつまでも読んでいたい気持ちの
せめぎ合いに揺れながら、待ってます(^^)
532名無しさん@ピンキー:04/08/01 14:39 ID:VW0HBLsB
Gj!
気付いたと同時に遠くなるって切ない。
ひーこちゃんの名前がどういう字をを書くか分かった時
その後の話の進展を思ってドキドキしました。
今はさらにドキドキだ。
533名無しさん@ピンキー:04/08/01 18:30 ID:6D/OJnds
(^^)
534名無しさん@ピンキー:04/08/02 03:41 ID:orzOQSt5
頑張れ。超頑張れ。
あ、でも無理はなさらずに。
535名無しさん@ピンキー:04/08/02 03:50 ID:HzjMNDaS
思わずageたくなるほどGJです。最近の一番待ち遠しいモノになってしまったw。この話もいつか終わるんだよね。ひーこちゃんの気持ちそのまんまだわw
536名無しさん@ピンキー:04/08/02 18:06 ID:TyHl+M8g
待ち遠しいといえばいまだに前スレ812氏の続きを待っているわけだが…
そして404氏の新作も待っているわけだが…

マダカナー(*´∀`)
537名無しさん@ピンキー:04/08/02 22:41 ID:MI/e4wQ4
そだねー、243氏のはもちろんいつも楽しみにしてるんだけど
他の職人さんの作品も読みたいなー
こないだの、都会に行っちゃった彼女とやり直す話、好きだったなー
ちょっと変わったシチュで・・・最後HappyEndなのも好きだった。

538404:04/08/03 22:45 ID:uIIsCP4Y
>>536
(つд`)

ごめんなさい。本当にごめんなさい。生きててごめんなさい。

243氏いるからしばらくは大丈夫だろ〜、とかほざいてR.O.にハマっていた俺を許sうわ何をすr6dg8fやめa2vo(ry

書きます。しばしお待ちを。
539名無しさん@ピンキー:04/08/03 22:55 ID:l3lWqokq
>>404
たのしみにしてますよん^^
540243:04/08/05 02:11 ID:5Ictj4yJ
404氏の新作(*´Д`)

なんと待ち遠しい。
その22です、続きはまた時間の出来たときに。
541243:04/08/05 02:13 ID:5Ictj4yJ

・・・・その22


私が幼稚園生のとき、「はしだ」くんが家に来た。
"来た"というより、兄さんに"連れて来られた"といった方が正しい。
最初、二人はものすごく仲が悪かった。
暇さえあれば殴ったり蹴ったり物を投げたりで、今考えると相当近所迷惑だったろう。
きっかけはいつも兄さんの一言で、喧嘩(一方的なのでそう呼べるかはともかく)の勝敗はいつも決まっていた。
毎回、終わった後はお母さんにみがみと叱られた兄さんが、イトくんを病室に引っ張っていく。
弟が小さかったので、それは大抵私の部屋だった。
子供心に迷惑だなあと思っていたけれど、巻き込まれたくないので黙っていた。

そんな日常も、それなりに楽しかったように思えるから不思議だ。
夕方近い曇り空を見上げて、記憶をたぐる。
こんなに早く、自分達が変わっていくなんて知らなかった。
涼しくなりだした高校からの帰り道を、ぼんやりと歩く私に蝉の声が降る。
回復し出した頃にまた喧嘩、さらにまた喧嘩と、そんなことばかりだった気がする。
だから仲が悪いくせにいつもイトくんはうちに来ていた。
いつの間にか二人は仲良くなってしまって、"喧嘩"はいわゆる
"どつきあい"みたいなものに、変わったのだけれど。
兄さんは、イトくんに、子供の無邪気さで何を言っていただろう。
信号を待ちながら、かばんを持ち直した。
微風が頬をくすぐっていく。
橋田依斗くんが片親で余所者、というのを、本人から聞いた記憶が私にはない。
だったらそれは、噂やよくない話題の中で、幼い私の知識に刷り込まれていたものなのだろう。
思い出せない風景を想い、ふと考える。
―私も、あの頃どこかで無意識に、彼を傷つけたりしていたのだろうか。

5422/4(243):04/08/05 02:14 ID:5Ictj4yJ

お父さんの出張に加え、弟が合宿に行ってしまい、家がなんだか静かだ。
重い扉の金属音が、いつもより大きく聞こえる。
玄関に上がって靴をそろえようと腰をかがめると、サンダルの他には幼馴染の靴しかなかった。
腕時計によれば六時前だ。
そろそろ、お母さんも帰ってくるだろう。
鍵をかけた後も、なんとなく玄関に佇む。
声もしないし出てもこないということは、寝ているんだろう。
溜息をついてかばんを持ち直し、居間までの短い廊下を歩く。
床に、電話の子機が投げ出されていた。
つけっぱなしの扇風機が数秒間だけ、髪をなぶる。
居間のテーブルには化学関連の書物と参考書が乱雑に広げてあった。
洗濯物は取り込まれて窓際に積んである。
立ち止まってから、また少し歩いて子機を拾った。
穏やかな寝息が聞こえているのに気付いていた。
電話を元に戻して、ソファの幼馴染を振り返る。
雨の名残でまだ雲がかかる空から、うっすらとした西日が部屋に射していた。
薄らいで見えるその人を、無言で見つめた。
荷物を足元に置いて、音を立てないよう床に座る。
珍しく、熟睡しているようだった。
絨毯を取っ払った夏の床が固い。
5433/4(243):04/08/05 02:16 ID:5Ictj4yJ
時々扇風機がこちらを向いて風を送り、またゆっくりと回っては
彼の上をなでていくのが妙に涼しげで、変な気がする。
夏服の背には薄い陽射しがあたたかかった。
五分くらいそのまま、イトくんを見ていた。
いくら風が来ても、見ているだけで体温が上がるようでこそばゆい。
毎日帰るとここにいてくれるのは、顔が見られるのは、嬉しかった。
嬉しいのに。
同時にどこかが沈んでいて、氷みたいに冷たかった。

愛してるよ、とか冗談のようにさらりと言った次の日も。
一緒に帰るのを楽しみにしている、という静かな一言の次の言葉も。
模試に行くはずだった日曜日の、たった一秒の時間や、
先週の長い長い夜の数十秒間の、後でさえも。

あの人は、前とちっとも変わらない。
何もなかったかのようにされると、わけが分からないだけじゃなく、苦しい。
気まずさのない態度を取られるのに最初は安心していたのに、今は反対になってしまった。
床に眼を伏せて、舞い上がる埃を眺める。
何も知らなくたって、もしかしてこの先進路が分かれるかもしれなくたって。
別に私の気持ちが変わるわけでもない。
夏で気分の悪そうな寝顔を机越しに見つめ、小さな息をつく。
制服だけでも着替えよう。
思いながら、立ち上がって、数歩歩いた。
そしてなんとなくソファの前に腰を屈めた。
近くで見る身体は湿気に少し汗ばんでいて、前と同じにおいがする。
呼んでみたけれど、返事がなかった。
手を伸ばして肩に触れる。
指先がじん、とした。
「…イトくん」
5444/4(243):04/08/05 02:18 ID:5Ictj4yJ
熱いままの手の平を引っ込めもう一度声をかけると、
少しの間があって、彼の目がうっすら開いた。
「風邪引くよ」
「……おかえり」
寝起き特有の声が、妙に嬉しそうに言う。
「ただいま…」
心臓が変な音で鳴るものだからどうにも困った。
声もか細くて、妙に居た堪れない。
急いで話題を探した。
「電話あったみたいだけど。誰から」
「ハル」
ぼそっと呟いた年上の幼馴染は、不服そうに目を逸らした。
何度も聞いたことのある口調だったのですぐに合点が行く。
それで子機が投げ出されていたのだろう。
「喧嘩したんでしょう」
「…喧嘩じゃないよ」
不意に視線が向けられて、脈がぶれた。
読めない表情が、静かに私を仰いで、まばたきをする。
ふうと溜息をつくと、イトくんは苦笑した。
「叱られたんだよ」
「ふうん」
何を叱られたのだろうか、逆は珍しくないのに。
夏休みの宿題を手伝わされたときとか。
「あいつは決断力と行動力だけはあるからね…まあごもっともだったんだけど」
面白くない、と顔が言っているのに、なんだかおかしくて顔が微笑った。
悲しいことも多いけれど、ほんのりと嬉しくなる瞬間も、とても多くて。
この人が傍にいると心地いい。
……でも、と勝手な期待を抱えて思う。
通り過ぎたたくさんのきっかけが、冗談ではなく、意味のあることで。
イトくんにとって、私もそれくらい影響のある人であったらいいのに、と思う。
545243:04/08/05 02:20 ID:5Ictj4yJ
>毎回…お母さんにみがみと→「がみがみと」

_| ̄|●
546名無しさん@ピンキー:04/08/05 02:23 ID:+jNDFiLS
リアルタイムキタ!!
547名無しさん@ピンキー:04/08/05 02:25 ID:wFjMoHwM
キタ―(゚∀゚)―!!
548名無しさん@ピンキー:04/08/05 19:04 ID:v7o1fbuI
お待ちしてますたー!(*^_^*)

今回はひーこちゃんが眠ってるイトくんにちょっとだけ触れてましたけど
以前イトくんは眠ってるひーこちゃんの髪を梳いてましたなぁ、
何気に……仕掛けてるなぁw と読み返して感じました。

直接のエロはないものの、色っぽいと称されるのがわかったような気もします。
視線のやりとりとか。細かな表情とか。風や空気や光とか。
今イトくんがひーこちゃんにこういう風に触れたけれど
何を考えながら触れてるのかなーと想像するときとか。

549名無しさん@ピンキー:04/08/08 21:56 ID:oTfmemDv
えーと、保守。
550243:04/08/09 02:06 ID:0Tq0L20k
その23.
どうも展開が遅々としてますが。
直接のエロも書きたいので頑張ります…。

むしろ読みたいです。もっと幼馴染を!一心不乱の幼馴染を。
5511/4(243):04/08/09 02:07 ID:0Tq0L20k

・・・・その23


暑かったので、押入れからクッキーの箱を出した。
古い金属の箱にはたくさんのうちわが入っている。
どれも黴臭くて色褪せていて、懐かしかった。
自分で作ったものもある。
骨組みに糊付けした薄紙は今見ると皺だらけで、ひどい出来だ。
扇いでも涼しくないどころか、いっそ破れそうだし。
役に立たないのは知っていたけれど、それだけ取り出して箱を戻した。
部屋に持っていって、机の傍に立てかけてみる。
稚拙な筆遣いで描かれた紅花色の花火が、目に優しくて気が休まるから、これはこれでいい。
不安定な白い骨組みを指でなぞって、瞬きをする。
いつかこんな記憶たちも、失くして忘れていくのかもしれない。
そういえばこれを作っていた時、イトくんに誉めてもらった。
こんなものをよく誉めてくれたものだと思う。
何年前の話だったかは憶えていない。
留守番中の暑い部屋で、その言葉だけを幼心に残して、あとは忘れてしまった。
ほんの、たった一言で、特に大切な思い出というわけでもない。
でも幼馴染の記憶を掘り起こすたび、脈が静かに熱を増す。
むっとする夜気にむきだしの腕が汗ばんで、白熱灯が手首を灼いた。

5522/4(243):04/08/09 02:09 ID:0Tq0L20k

窓から見える空は、相変わらず青くて白い。
夏休みにも購買部が開いているのは受験生としてありがたい。
パンを抱えて二階にあがると、見慣れた影を見つけた。
入試情報の掲示板を眺めている髪の長い横顔が、近付くにつれてはっきりする。
傍に近付いて、横から彼女を見上げた。
「志奈子さん」
「あ、ひーちゃん。おひさしぶり」
篠尾志奈子さんは柔らかい目で、にこりと笑った。
志奈子さんは表情が綺麗だ。
ちらりと掲示板を見ると、学部ごとの偏差値一覧表が
国公立、私立に分かれて貼ってあった。
画鋲が太陽に鈍く反射している。
昨日通ったときは、こんなものはなかった。
「これ新しいのだね」
「そうなの?あんま学校来ないからなぁ」
志奈子さんが右端(看護学部だろうか)の欄を見つめ、悩ましげに眉を寄せる。
私も理学部の偏差値を眺めて、志望校の位置に溜息をついた。
まあ、どう足掻いても無理な数値、というわけではないのだけれど。
夏休みはまだあるから頑張ろう。
蝉の声を聞きながら、腕の中のパンを抱く。
影になった校舎の廊下は比較的涼しく、窓からは湿気の篭った空気が
ゆっくりと屋内の空気と混じりあいながら流れてくる。
医学部の欄に目を向けた。
前は見もしなかったのだけれど、今は気になる。
5533/4(243):04/08/09 02:11 ID:0Tq0L20k
眺めていると、外で太陽が隠れたのか廊下が薄暗くなって、風が吹いた。
波が寄せて去っていくみたいに、奥のなにかがざわつく。
ふとした瞬間に想ってしまうと、どうしていいか分からなくて切なかった。
腕の中のパンを潰さないように、強ばりかけた肩から、意識的に力を抜く。
もう一度見上げて、表の上から大学名と数値を曖昧に追った。
医療系は、思っていたよりもずっと難関のようだ。
イトくんは現役で進学するつもりのようだけど、いくら彼でも簡単にはいかない気がする。
自分の進路以外のことはあまり調べていなかったので、今更のようにそんなことを考える。
でも、まあ、どちらにしたって。
私の志望大学には、もともと医学部はないし。
ぼんやり模試の広告を見ていると、隣から志奈子さんの落ち着いた声がした。
「ひーちゃん今日、学校で勉強してくの」
意識を戻して、隣の子を見上げると、また太陽の光が廊下に満ちた。
床を照らす明るさになんとなく落ち着いて、ゆううつが薄らぐ。
それに久し振りに友だちが傍にいるのは、やっぱり安心した。
「うん、一応そのつもりだけど」
「今日はやめない?今から駅前でお茶しようよ」
「いいけど。どうして?」
「今日一日遊んだら、本格的に受験生するつもりだから。
 だからひーちゃんも遊ぶの付き合って」
私は、少し考えて顔を和らげた。
きっぱりと、遊びをここまで、と決められる彼女をすごいと思う。
イトくんは、遊びと勉強を、もっと細かに混在させながら
効率よく生きていて、それもそれですごいけれど。
5544/4(243):04/08/09 02:12 ID:0Tq0L20k
最近になってやっと、分かってきた。
皆、それぞれのやり方とペースで、道を歩いていて。
だから私が一人で焦って他の人と比べるなんて、
最初から何の意味もなく。
「花火大会も、今日だよね。志奈子さんは花火大会も行くの」
「もちろん行くよー。夜になったら浴衣来て、宗太と行くの」
彼氏の名前を口にして、彼女は嬉しそうに笑った。
幸せそうだね、と私が呟く。
蝉の鳴き声が途切れて、吹奏楽部の練習の音が、耳に響いてくる。
中庭から演劇部の発声練習も聞こえた。
夏が、あまりにも明るい。
ふと胸が塞いで志奈子さんにもたれた。
彼女の制服を掴むと、弱い力で縋りついて腕に顔を埋める。
「どうかした、ひーちゃん」
「うん……」
「お悩みかな?」
耳元に届く声が柔らかい。
夏服から伸びた腕は白く細く、以前に触れたあの人の腕とは、なにもかもが全然違った。
それでまた不意に、泣きたいくらい、胸が熱くなった。
学校の空気が首筋をなぜて、廊下を流れる。
8月が終わるのなんて、あっという間かもしれない。
555243:04/08/09 02:23 ID:0Tq0L20k
そしてこっそり555get

では、続きはまた時間ができたときに。
556243:04/08/10 02:28 ID:wHY0zBRL
前回進展なかったので、早めに。
24です。
続きはできれば数日後。
5571/5(243):04/08/10 02:29 ID:wHY0zBRL

・・・・その24


志奈子さんと分かれて、四時半過ぎのバスに乗った。
屋台による通行止めのせいか駅前は渋滞がものすごい。
通りには浴衣が行き交い、遠くの橋は人で溢れかえっている。
花火大会がこんなに混むものだとは知らなかった。
いつも部屋の窓から見るだけだったし、今年もそうだし。
窓から見える花火大会のポスターに、感覚が薄かった日付を思い出す。
そういえば今日は、弟が合宿から帰る日だった。
もう帰って来ているのだろうか。
エンジン音を耳に、背によりかかって目を閉じた。
志奈子さんの主張は結局、ひとつだった。
膝上でかばんを抱えた手を握り合わせて、薄目を開いた。
建物の間から射す西日が、眩しくてしみる。
思いがあるなら、伝えるか黙っているか、どちらかしかない。
その時々で判断を保留しても、結果は、どちらかひとつに最後は決まる。
だからしたい方を選べばいいんだよ、と彼女は言った。
単純な二択。
信号が変わってのろのろとバスが動き出すと、光が目をいっそう強く射た。
そのまままどろんで、ガラス窓に頭をもたれる。
陽光が、夏服の上に、あたたかい。

5582/5(243):04/08/10 02:32 ID:wHY0zBRL

弟も幼馴染もいなかった。
享が帰るのは夜らしく、イトくんは遊びに(…)行ったらしい。
お母さんと二人の夕食を済ませて、部屋に戻る。
花火大会は七時半からだったから、もうすぐだ。
英単語集を持ったまま窓際に椅子を持って行き、小さな窓を半分網戸にする。
温い風が、緩やかに入り込んできた。
月はまだ出ていなくて、雲もほとんどない。
きっとよく見えるだろう。
市街地の上空に、気の抜けた破裂音が数度響きわたる。
開始が近い合図だ。
あと五分ほどしたら電気を消して見よう。
腰を下ろして英語と向かい合っていると、ドア越しに重い金属音が響いた。
手元の本に指を挟んで閉じ、時計を見遣る。
どちらだろう。
耳を澄ますと、かすかな会話が聞こえた。
…よく考えたら、駅解散で荷物の多い弟は、お母さんが車で
迎えに行くはずだったから、イトくんに決まっていた。
腕の微弱な痺れとともに、甘い鼓動がはやくなった。
二人分の声は、少しずつ大きくなって居間に移動してくる。
と、お母さんの高い声が近くに聞こえたかと思うと、不意にこちらのドアが開いた。
突然のことで振り返る視界に、お母さんと幼馴染がいる。
5593/5(243):04/08/10 02:33 ID:wHY0zBRL
荷物を降ろしている姿をお母さんの向こうに見て、また正面に視線を移した。
「緋衣子ちゃん、花火始まってる?」
「まだ。でももうすぐだと思う」
「ああよかった間に合った。橋田くんもほら、皆で見ましょ」
お母さんはすたすたと入ってきて電気を消し、窓に顔を寄せた。
…そのせいで私が座っているところから、影で窓が見えなくなった。
まあいいけど。
ちらと明るいままの居間の方を見遣ると、幼馴染と目が合った。
一瞬だけ、気のせいみたいな沈黙が降りた。
イトくんがすぐに笑って、部屋を指差す。
「ちょっとお邪魔しても」
「どうぞ」
「ありがとう」
長身が半分くらいドアを閉めると、ちょうど花火のあかりが部屋を一瞬、照らした。
遅れて音が届く。
暗い部屋の窓際で、お母さんが嬉しそうに声をあげている。
「見えます?」
イトくんの身体が声と一緒に隣に来て、体温がじわりと上がった。
気配だけで、熱が分かる。
椅子の背にイトくんの手が乗っているので、寄りかかれなくて困る。
そっと窓から目を逸らして、隣に立つ長身を見上げた。
―また、目が合った。
暗かったけれど分かった。
赤くなるところまで見えていないだろうと思いながらも、顔を背けて膝を見る。
その動きのせいで、不意にイトくんの腕が肩へ触れた。
わざと身体を離すのも不自然な気がして、そのまま動けなくなった。
肩が焼けるみたいだった。
5604/5(243):04/08/10 02:35 ID:wHY0zBRL
動悸がうるさくて、花火の音も光も五感に入ってこない。
どうにか思考を誤魔化そうとして、窓(というかお母さんの背中)をぼやけた視界に眺めた。
花火が見えない。
「……お母さん、見えないからちょっとずれて」
「あらごめんなさい。あ、じゃあもしかして橋田くんも見えなかったのかしら」
「え、ああ。いやそんなことは」
「優しいわねえ」
「おばさんほどじゃないです」
イトくんがあっさり言い、お母さんが笑っている。
よく、そういう台詞をいやみなく言えるものだと心の端で思う。
見えるようになった空に、まだ咲かない大輪を待ちながら鼓動を聞いていた。
左側にいる気配が動かないので、私も動けなかった。
布越しにほんのわずか感じられる、触れあう温度が、さっきから信じられないくらい高い。
花火は次の点火準備中らしく、夜空は余韻にただ濃紺色で佇んでいる。
ふと、傍に立つ幼馴染が身じろぎして、背もたれから手を放した。
耳に花火以外の音が飛び込んでくる。
親機と子機の、二重の電子音が居間から流れていた。
「ああ、ええと―」
「私出る」
イトくんの声を、遮って立った。
お母さんのありがと、が背中に聞こえるけれど、振り返らないで居間の光の下に逃げる。
ドアの閉まる音が、妙に大きく頭を通り抜けた。
後ろ手に握ったドアノブが冷たい。
息を整えながら、テレビ横の受話器を取った。
「…もしもし」
『あ、姉ちゃん?』
享の声の向こうで、花火らしき破裂音がする。
携帯電話からかけているらしく、雑音と騒音がひどい。
『今駅についたから。母ちゃん迎えによこして。じゃ』
用件を一方的に伝えて、あっさり電話は切れた。
5615/5(243):04/08/10 02:36 ID:wHY0zBRL
…早すぎる。
耳元で、ツー、ツーと小さな音が繰り返されている。
暗い部屋にいたから、やけに蛍光灯の白が目に痛かった。
拍子抜けして、長い溜息が出た。
しかたなく子機を戻して、部屋に顔を出す。
「お母さん。享が迎えに来いって」
「ええー。今駅渋滞してるからやだ」
「でも切れちゃったし」
ぶつぶつ言いながらも支度はしてあったのか、お母さんは
バッグだけ持ってあっさりと出かける用意を済ませた。
鍵を閉めるので玄関までついていく。
遠くで花火の音が、小さく聞こえている。
階段で見送ってから鍵を閉め、玄関に上がった。
サンダルを脱いで、揃える。
渋滞で時間がかかるといっても、車だから長くて一時間程度だろう。
短い廊下を歩いて、部屋のドアを押した。
薄暗い中で、手に何かを持った幼馴染がひとり、こちらをふと見た。
心臓が止まる。
――いるのを、忘れていた。
「懐かしいもの出してるね」
花火のあかりで古いうちわに目を落として、また、イトくんはドアの傍に立つ私に笑った。
ドアにかけたままの指先からふらつく頭の端まで、血液がゆっくりとまわる。
私の視線に気付いたのか、イトくんが目を細めて、机にうちわをゆっくりと戻した。
それから、私を、静かに見た。
少し遅れて届く音に重なって、また別の花火が、窓の向こうで爆発していた。
562名無しさん@ピンキー:04/08/10 02:49 ID:ZE+82rHb
おお!もう続きが!二人きりですか。ワクワク(*´д`)
563名無しさん@ピンキー:04/08/10 03:17 ID:CduGUlDD
うおおお〜(ゴロゴロゴロ→悶えて萌え転がる)!
よっしゃ、キター!キター!キターー!!
夏、花火、薄暗い部屋、二人きり…。
見事なまでの舞台装置の揃いっぷりですな。
ひーこちゃん、がんばれ、243さんも!
ただ応援することしかできないけど。

確実に結末が近付いていて、出来るだけ長くこの話を楽しみたい気持ちと
でも二人の成り行きを早く読みたいという気持ちがせめぎあって
興奮してるけど複雑な心境です。





564名無しさん@ピンキー:04/08/11 05:20 ID:ZIH6Y0Nt
うわ、うわ
板移動に気づかなくてあれーとか言ってる間に
…………やべ、心臓がばくばくゆってる
今うっかり死んだら絶対に成仏できない。

243さんがんがってくださいっ






あと、403さん、新作まってまーすw
他の職人の皆様も・・・ほんとにまってますようーーー
565名無しさん@ピンキー:04/08/12 20:22 ID:ad4bF17C
緋衣子&イトくん綺麗!
幼馴染シチュ、自分じゃ書けないのでネタだけ投下

勤め先の社長(もうすぐ50代)、奥さんとは小学校以来の仲

どなたか神様、書いて下さらないかなぁ…
566404:04/08/12 23:29 ID:yXNnZWaq
243氏乙です。コテは使われんのですか?


一つ中身のある話を書きたいと思い立ち(次作早よ書け)、書き始めてみて、ふと、

落とせるスレが無いことに気付くという珍プレーを犯してしまいました。

…消すかな、コレ。
スイマセン。次作、しばしお待ちを(二回目
567名無しさん@ピンキー:04/08/13 01:43 ID:Rt/HBGtj
568243:04/08/13 04:53 ID:GdVTgQXx
ちょっと長いです。
あ、あとまだ少し、続きますほんと長くてごめんなさい。
いつもありがとうございます。

その25.
5691/7(243):04/08/13 04:53 ID:GdVTgQXx

・・・・その25


近所のお兄さん、はいつも余裕そうで。
勉強が馬鹿みたいにできて、変に優しくて、よく分からない人だった。
性格はそのままで、いつしか顔が近所のお兄さんではなくなっていた。
今年の春、外国から帰って来てからだった。
それは本当にイトくんが変わったからだったろうか。
私の彼を見る目が変わったというだけのことだったろうか。
どちらもありえるのだろう。
私は彼と同じ学年になって、見る目を確かに、変えていったのだし。
イトくんだって一年も違う文化に触れて、私のいない場所にいたのなら、そんなの変わって当たり前だ。
それに。
…変わっても彼は彼で、私は私だ。
幼い頃の面影を残したままで、呼び合う名前も変わっていないし、
今はまだ昔のように、家族みたいに傍にいる。

5702/7(243):04/08/13 04:55 ID:GdVTgQXx

薄暗い部屋は生温く、入り口は明るく。
そこに立ち尽くして、僅かに顔を上げたまま。
イトくんを見ながら心臓の音を聞いていた。
一体どれだけの間、彼を見つめて立っていたのだろう。
時間が過ぎるにつれて緩々と思考が戻り始め――
かなり経ってからやっとその不自然さに気付いた。
焦点以外の視界がはっきりしだして、その恥ずかしさが意識にじわりと切り込む。
よく見ると幼馴染も、おかしそうな顔で見ているし。
…急に顔が、朱に染まった気がした。
言葉を見つけられずに、俯きがちに顔を逸らす。
花火のささやかな明るさに部屋が照らされて、やがて薄暗さが戻った。
開いたままのドアから光が差し込み、足元に影を作る。
「どうしたの」
いつもの穏やかな笑いを含んで幼馴染が言うので弱った。
抱きついたときも、こんなだったのを思い出して悔しい。
私ばかりが自分の気持ちに戸惑って困って。
なのにイトくんは、いつも平気そうに笑っては、私がついてくるのを待っている。
かすかな溜息をついて、彼にそっと目を向ける。
優しい瞳が私を見下ろしていた。
心の深部がひそやかに疼く。
5713/7(243):04/08/13 04:55 ID:GdVTgQXx
小さな私の一人部屋は、机までたった二歩で辿りつけるくらいだけれど。
そんな距離でさえ遠いのか近いのか、分からなかった。
窓の外からエンジンと、花火と、虫の鳴き声とが雑ざった、夏の音が聞こえる。
幼馴染はなんとはなしに窓を見て、私の机に寄りかかった。
風の弱い夜だった。
網戸から入り込む空気は湿っていて温く、皮膚にしみこんでしっとりと肌を汗ばます。
イトくんは眼を伏せて、しばらく何も言わなかった。
私も何も言わずに、立っていた。
それから、イトくんは息をつき、顔を和らげて私を見た。
「ひーこ」
「なに?」
小さく答える。
波が静まって、水温があたたかくなった。
離せない視線を揺らし、瞬きをする。
はやめの心音が不思議と音量を潜め、でも身体は上気したままかすかな緊張に動けずにいる。

イトくんが静かに目を細めて、もう一度、私の名前を呼んだ。

それだけだった。
…それだけだったけれど、充分だった。
その一言が数年分のすべてだった。
私ではなくて、
イトくんの。
5724/7(243):04/08/13 04:57 ID:GdVTgQXx
「……あの、私」
もともと火照っていた顔が耳まで熱くなり、鼓動が急にはやくなりはじめた。
指の尖端までが甘く痺れていく。
どうすればいいだろう。
こんな風に伝えられてしまうなんてずるいと思った。
名前を、呼ぶだけなんて。
喉元に満ちた感情が音もなく溢れて私を押す。
踏み出した足がふらついて、自分の身体ではないみたいだった。
「…あのね」
幼馴染が机から背中を離して、かすかに目元を動かした。
彼がどんな表情なのか観察する余裕なんて少しもなかった。
「あの、」
喉が塞がり、声が震える。
一歩近付くと、手が届く距離になった。
見上げたまま、彼の名前を口にする。
もう一回、呼んで、それからまた、同じように。
部屋がほんのかすかに明るさをまして、遠い音とともにまた薄暗くなる。
手を伸ばして、彼の服に触れた。
搾り出すような声で、言うと、たまらなくなって肩が震えた。
「好き」
指先が、彼のシャツを弱く握った。
掴んだ手を、覆うように包まれるのに気付かないで、もう一度言った。
「イトくんが好き」
「知ってる」
不意に声が返ってきて、感覚と記憶が焼けてこぼれた。
――いつ、抱きしめられたのか、分からなかった。
5735/7(243):04/08/13 04:58 ID:GdVTgQXx
シャツに顔を押し付けられていて、彼のにおいが間近にあった。
慈しむように肩と背に力を込められると息が詰まった。
以前よりずっと腕の力が強くて、少し苦しい。
動悸がうるさくて触れられた部分が熱くて、頭がじわじわと白熱して溶けていく。
電気がついていないので、狭い視界すらも何があるのかよく見えない。
苦しさに身を捩ると、少しだけ力が緩まったので、身を僅かに離す。
身体に力が入らなくて弱くしがみついていると、頭を撫でられた。
ゆっくりと、髪をすくい、また撫でられて、心地よく。
名前を呼ばれたように思ったけれど、本当に呼ばれたかどうかは憶えていない。
私も何かを言った気がするけれど憶えていない。
頭を撫でる手がいつしか頬に下りて、指先はゆっくりと耳の脇から分け入って髪を梳いた。
その熱に混じって、一瞬だけ唇が触れた。
手の先が痺れて、息が止まった。
すぐにまた唇が重なって、引き寄せられたような――気がする。
私から彼を引き寄せたような気もするけど、どちらでもよかった。
涙が滲んで離れるたびに縋って求めた。
自分でも何をしているのか、分からないくらいに意識が飛んでいて、
ただ熱くて暑くて、何かで身体が蕩けそうだった。
足から力が抜けて崩れ落ちるのを、追いかけるように抱きとめられて耳の裏を指の腹でなぞられて、
座り込みながらまだしばらくそれを続けていた。
5746/7(243):04/08/13 04:59 ID:GdVTgQXx
だんだん酸欠になってきて、苦しさが心地よさに迫り始めたあたりで、イトくんが先にダウンした。
座り込んだままで私を緩く抱き寄せ、肩に顔を埋める。
「…ごめん酸欠」
細い声が耳元で正直に言うものだから、沸騰した頭がそろそろと熱を下げ始めた。
熱湯が温かいお湯になって、荒い息が落ち着くのと一緒に、理性が少しだけ帰ってくる。
記憶も弱くだけれど蘇って、別の意味で全身から力が抜けた。
首に絡めていた腕を少し緩めて、熱い身体を休める。
彼の肩に顔をつけて、ぼんやりと言葉を捜した。
知っている、と言ったけれど。
思い出すとじんとする。
そうしていると、イトくんが弱く腕に力を込めた。
「イトくん」
「……なに?」
声が掠れてまだ息が上がっているけれど大丈夫なのだろうか。
心の隅で思いながらも、離れたくなくて少し腕を寄せた。
薄暗い部屋から、目の端にまた花火が見えた。
最初に上がったときよりも派手に大きくなって、色も多い。
ぼうっと見ていると、少し回復したらしく、肩の重みが軽くなった。
まだ弱々しい声が、耳の傍で届くのに鼓動がはやまる。
「なにかな」
「知ってる、ってどうして」
5757/7(243):04/08/13 05:00 ID:GdVTgQXx
遠くでエンジン音がした。
時間は今、何時くらいだろう。
背中の手が、私をそっと叩いてかすかに揺れた。
「そりゃあね、分かるよ」
嬉しそうに笑われるのが、なんとも決まり悪い。
そんなに分かりやすかったろうか。
「そう?」
「だてに何年も見てない」
「…そう」
今度は恥ずかしかった。
嬉しかったけど。
聞きなれた車の音がしたように思った。
気のせいかと思ったけれど、幼馴染が離れたので、やっぱりうちの車のようだった。
頭をそっとなでて、イトくんが立ち上がりながら笑った。
「髪とかした方がいいよ」
「イトくんがやったんじゃない…」
かき乱れている髪を指でおさえて、私は溜息をついた。
こうなるとどうにも恥ずかしくて、決まりが悪い。
…でも、なんだかあたたかかった。
夏の風は夜気に沈み込み、火照りが冷めた顔をなでていく。
それでもまだ脈だけははやくて、血の中にだけ余韻は確かに残存していた。
576243:04/08/13 05:02 ID:GdVTgQXx
>566
数字でいるのが好きなのでw
新作楽しみにしております。

では、続きは時間ができましたらまた。
577名無しさん@ピンキー:04/08/13 07:15 ID:AbeM+rmM
   _| ̄|○
 
萌え過ぎてもう立ち上がれません。。。もうこの作品なしでは生きてゆけない。。
578名無しさん@ピンキー:04/08/13 07:56 ID:j61VSDQj
ああ、もう…(絶句)
頭の中がぐるぐると、興奮で考えがまとまらないよ

自分は速読みですが、一字一句丁寧に読みたくて、
でも次の一字を少しでも早く脳にいれたくて、
そのせめぎ合いでありえないくらい長い時間がかかりました。
そして、読み終わって脱力…。
何なんだ、この心地よくて幸福な疲労感は。
579名無しさん@ピンキー:04/08/13 10:20 ID:BxeoUoVH
今だったら私死んでもイイかも……
と思ってしまった。ヤヴァイ!

いやいやいやいや
この先直接のエロ書いてもらうまで死ねない!
あーんど403さんの新作見るまで!(>_<)
(なぜ消すのですかーっ)
580名無しさん@ピンキー:04/08/13 14:42 ID:wAUbsaWR
鼻血出そうです、もう。
うわ〜うわ〜うわ〜〜〜〜
頭、くらくら、のぼせそう。

きっと今の私は顔真っ赤かも。
581名無しさん@ピンキー:04/08/14 04:15 ID:OIELKAdp
ひーこちゃんは真面目だし淡泊な印象の娘だったので
てっきり奥手で未開発だと思ってまして
イトくん大変だぁとニヤニヤしてたのですが。
どうしてどうして……。
いやこりゃ一本とられちゃったな。

そーゆーのも萌えですので今後の展開楽しみです。
582名無しさん@ピンキー:04/08/14 23:55 ID:Jj6PLW+x
>243神
禿しくGJ!
ひーこちゃん可愛いなぁ…


ところで、変わりモノで「サッカー選手×女オーナー」っていうのはどうだろう。
583名無しさん@ピンキー:04/08/15 00:30 ID:n8gRiltc
テーマに沿うならいいんじゃない?
584名無しさん@ピンキー:04/08/15 08:46 ID:ZpHEZvF4
感動して泣きそうだわ
585名無しさん@ピンキー:04/08/15 12:50 ID:/TSuodoF
>582
それはつまり

万年J2下位な弱小チームのオーナーの跡取り娘と、幼なじみ。
チームが負けるたびにクラスでばかにされる彼女を見て、主人公が約束する
「オレが将来お前のチームのストライカーになってチームを強くしてやる!」

とか?
586243:04/08/15 16:02 ID:eYi0lZVO
ピクニックを計画してお弁当を作って手に絆創膏とか
夏合宿の買い物に付き合いなさい!荷物持ちだからねとか
言いながらも当日はお洒落して顔を赤らめて待ちあわせ場所にとか
寝苦しい夏、眠る幼馴染の布団を剥いでラジオ体操(教える方)に引きずり出すとか
お盆だけに、帰省中の電車で向かいに座った子が
実は懐かしい昔よく遊んだあの子だったとか

そんな幼馴染に激しく萌えたいわけですよ(;´Д`)
職人様の新たな幼馴染をいつまでも待ちますとも。

そんなときめきエピソードはありませんがその26.
勿体無いくらいの感想ありがとうございます。
作品に還元できるように頑張ります。
5871/5(243):04/08/15 16:04 ID:eYi0lZVO

・・・・その26


朝から部屋が蒸し暑い。
気だるい身体を起こして、壁にかかった制服を取った。
ハンガーを降ろしてから、はたと気付いてまた戻す。
お盆前の一週間は学校が閉まっているのだった。
ベッドに座り込み、閉まったカーテンを見上げた。
昨日が遠い夢のような気がして、ぼんやりと記憶をたどる。
熱に浮かされていたあの時のことを思い出すと、おぼろげながら恥ずかしさが渦を巻く。
唇に指の関節を寄せると、湿気に濡れて柔らかかった。
深く息を漏らして、ぼんやりと思いにふける。
白濁した意識が身体を侵食して、芯から蕩けていくみたいなあの感覚を、何と、呼ぶだろう。
思い返して顔が熱くなり、空いた手でシーツを弱く握った。
眼を伏せると、肩から腕までに何かがじわりと満ちる。
初めて、だったのに。
なんであんなことができたのだろう。
自分で自分が信じられなくて、まるでおかしくなってしまったみたいで、少し怖い。
あんな風になるなんて思わなかった。
他の人もこうなのだろうか。
自分が以前男の子を好きになったのは確か小学校低学年だったので参考にもならないし。
イトくんはどうだったろう。
考えても答えは出なくて、とりあえず溜息をつく。
夏服に着替えて、火照る顔を洗いに洗面所に向かった。
居間から見える朝空は色濃く青く、雲がいっそう白く見えている。

5882/5(243):04/08/15 16:05 ID:eYi0lZVO

そろそろ兄さんが帰ってくるそうだ。
それで、今年は私も受験だし、明後日からのお盆はどこにも行かない。
ただお祖母ちゃんも歳なので今日一日はお母さんが様子を見に行っている。
台所には朝と昼の食事が、ラップがけで置いてあった。
弟はもうすっかり食べ終えて部活のない午前中をゲームに費やしはじめている。
扇風機が気持ちいい。
市の図書館はお盆もやっていただろうか。
それとも家で勉強していようか、とつらつら考えていると、チャイムが鳴った。
「姉ちゃんお客さん」
「ちょっと…」
出る様子のない弟に溜息をついて、チェーンを外してドアを押す。
開けて、そのまま、手が止まった。
言いようのない感覚が空の青さみたいに澄みながら、湧き上がる。
「おはよう…」
こちらを見下ろしていたイトくんが、僅かに目を見開いた。
そしてなにかおかしそうに笑って、頭を撫でて軽く髪を梳いた。
「おはよう、ひーこ。暑いね」
「…うん」
「ハルはまだ?」
玄関に上がって家を見渡す幼馴染の脇で、サンダルを揃える。
なんだかんだで仲はいいくせに、二人とも連絡は適当なのがそれらしい。
「明日か明後日みたい」
ちらりと見上げると、優しい目で見られていたので赤くなった。
やはり夢ではなかったわけで、そう思うと、顔を見るのが恥ずかしい。
というよりも、なんでこの人は平気なのだろう。
「…あと、夜までお母さん出かけてるから」
聞いてるよ、と笑うと、イトくんは荷物も降ろさず居間に向かった。
単にうちに来るにしては大きな荷物だなあと、ふと気付く。
5893/5(243):04/08/15 16:06 ID:eYi0lZVO
またどこかに行くのだろうか。
背中を眺めていると、幼馴染は弟に声をかけ、文庫本を数冊取り出した。
ゲームを一旦止めて振り返った弟の額をそのうち一冊で、軽く叩く。
「リストにあった本で、書きやすそうなやつはこれくらい」
「おお。ほとんどある」
「ていうかね、感想文以外にも本は読んだ方がいいよ…。
 まあこれが書きにくかったら他にもあるから」
荷物を持ち直して、イトくんが肩を竦める。
兄さんも弟も、夏休みの宿題は毎年ほとんど彼頼りなものだから、進歩がない。
少し呆れて扇風機の傍に立ち、風量を調節する。
今日はなんだかいつもより暑い。
後ろから、二人分の声が聞こえている。
「ども。すぐ返さなくてもいい?」
「全部読んだことあるからね。貸しておくけど、その代わり」
「合宿でお金ないからおごるのはやだ」
何を勝手なことを言っているのだろう。
溜息をついて扇風機から離れると、不意に、幼馴染に掴まれて、引き寄せられた。
何が起こったのか分からずによろめいて彼の腕に触れる。
イトくんを見上げると、彼は弟を見下ろしたまましれっと言葉を続けた。
「その代わりアキラの姉さんを少し借りるよ。ひーこ、デートしようデート」
「………なんで?」
5904/5(243):04/08/15 16:07 ID:eYi0lZVO
混乱した私の耳に、弟の肯定とも否定ともつかない呆れた声が素通りしていく。
イトくんが満足そうに享の頭をかきまわしてお礼を言っている。
"強"に合わせた扇風機の風が、背筋に当たってくすぐったい。
なんで、弟の反応が普通なのだろうというか、それよりも。
なによりもまず困って、高鳴る心音を無視しながら、触れた手を一旦離して、服の裾を引いた。
「あの、イトくん」
「ん?」
帰ってきた声音と、一拍遅れて振り返った目を、見上げた。
…今日は暑くて、風も少し強くて、晴れ渡った夏の盛りで。
こんな日にわざわざ、昼を跨いで出かける人ではなかった。
イトくんの視線にとけている、よく分からないものが目先にしみた。
「もちろん、嫌なら断わっても大丈夫だよ」
「いい。行く」
感覚だけで、何の保証もないけれど、なんとなく何かがあるようだった。
別に遊びに行くわけでもなさそうだし。
「どこまで」
「海まで。電車賃がかかるかも」
イトくんが、そう言って、私が最近まで知らなかったあの目で、静かに笑った。
―やっぱり。
人工の風に吹かれる髪を押さえて、私はかすかな溜息をついた。
「準備するから待って」
「ていうか、海ってここら辺にあったっけ」
弟の呟きが耳に遠い。
5915/5(243):04/08/15 16:08 ID:eYi0lZVO
そう。
多分"隣の県"に電車で入って乗り換えて、ずっとずっと行かなければ見えないだろう。
部屋の棚から適当なトートバックを引き出して荷物をつめ、
少し考えてから、メモ帳と単語集を入れた。
まあ、勉強はしないだろうけれど。
時間があって大丈夫そうならついでに志望大学も見られるかもしれないし。
「あのさー俺嘘下手だから頼られると困るんだけど」
「いや、ちゃんと夕方までには返すし変な心配はいらないから」
「……何言ってるの」
なんだか不明な会話を交わしていたらしいのを眺め、部屋のドアを閉めた。
バッグを肩に掛けて、二人を見遣る。
弟がなんだかどうでもよさそうに溜息をついて、肩を竦めた。
イトくんが靴を履くのを玄関で見つめて、金属に背をもたれる。
昨日のことをふと思い出して、一瞬、鼓動がとくんとした。
これは、多分普通のお出かけではないんだろうと、知っているけれど。
(そもそもそれだったら家で勉強するし)
でも、傍にいたいと思うのも、声を聞けて嬉しいのも、本当で。
「時間があったら大学見ていい?」
「ああ、うんそれもそのつもり」
当たり前のように答えを返す幼馴染に、安堵する。
気負わなくていいのは嬉しい。
だからこの人が好きだ。
そして知らなかったイトくんを、できるならもう少し知りたい。
「うわ、色気ねえの」
玄関口で見送る弟のぼやきを聞き流し、暑い日差しの外で重い扉を閉めた。
お盆がもうじきで、兄さんが帰る日もすぐ目の前だ。
日除けの帽子を被る幼馴染の後を追い、夏の早朝のマンションを降りていく。
592243:04/08/15 16:10 ID:eYi0lZVO
では続きはまた時間ができたときに。
593名無しさん@ピンキー:04/08/15 16:37 ID:YtjYxHNw
思っていたより貪欲な243氏にむしろ萌え

GJ
594名無しさん@ピンキー:04/08/15 17:16 ID:KVOLS1n4
前回の興奮が治まる間も無く新たな燃料が…!
595名無しさん@ピンキー:04/08/15 21:06 ID:6H9JWAc+
岐阜か長野か山梨か。。。
>586のリストは垂涎の的ですな
596名無しさん@ピンキー:04/08/15 22:53 ID:A+Hce6z9
すっごい面白いー
先が楽しみで仕方ないです。243さん頑張って下さい
597名無しさん@ピンキー:04/08/15 23:09 ID:zMhYR6k7
>>595
重箱ツッコミだけど、その3県だけでなく栃木・群馬・埼玉・滋賀・奈良も
海ないわけで。

本編前に>>586のリストを軽く付ける243氏に乾杯。
598595:04/08/16 00:29 ID:yJ5UjuTJ
隣県に海も山もいい感じで在って東京から少し遠いのはここくらいかな、
と思った次第で。まぁ設定的にはどうでもいいことだけど。
599404:04/08/16 01:03 ID:a5URScLm
>>243
ぐは。該当しねぇ。
「雨の日に、風邪ひいて看病に来てくれる予定だった幼馴染みが、家に来る途中に雨に打たれて風邪ひいて、共倒れ看病状態」ってな
ワケワカランやつなら後々書くつもりなんですが(次作早よ書け
良作の恩返しができず、申し訳無い


そろそろ「口ばっか星人」になってしまうので、気合いいれて次作書きまつ。見捨てないでください(ぇ
600名無しさん@ピンキー:04/08/16 01:51 ID:HcaAaTE+
夜中に600get
601名無しさん@ピンキー:04/08/16 03:07 ID:aEEb9jb+
>597さん
こまかいけど^^;
そのなかで埼玉だけはないですね。
イト君が東京の大学へ行くことにひーこちゃんが動揺する理由がなくなっちゃいます。
(埼玉から東京へってあたりまえにありますもんねー)

それと、隣の県(ひーこちゃん進学志望の大学アリ)に海がある、
ということを考えると、群馬が消えるのかな。
隣の県と住んでいるところはなんとなく文化・経済・交通的なつながりが強そうだけど
群馬でそれを考えたとき、「海のある隣の県」はつながりが薄そうだから、
という推測でっす。

重箱返しって無粋ですねごめん^^;

とりあえず、
幼馴染みというくくりを超えてふたりのつながり全体を
(自作では)描き出そうとがんがってるのに
その一方で>586のような萌えーな注文つけまくる>243氏にあらためて惚れますた*^_^*

そして>404氏
そのシチュ萌えなんで投下ヨロっ
602597:04/08/16 21:09 ID:QBb1tYk9
>>601
いえいえ、俺も単に海に接していない県、と言う条件のみを考えただけですので。
ただ、群馬と新潟って上杉(長尾)家関係で意外と関係深そうなので群馬について
は異議あり、と言いたいです。
まあ、重箱返しに対し更に重箱つつきで返す、と言う無粋極まりない発言失礼。

しかし、幼なじみというと「夏祭り、異性を感じてなかった幼なじみのふとした動作に
異性を感じて困惑と恥ずかしさが入り交じった状態になる→それがきっかけで相手を
恋愛対象として見はじめる」という王道(ライトノベル板風に言えば馬鹿一)しか思い
浮かばない俺の思考回路が情けなく…。
603名無しさん@ピンキー:04/08/16 23:49 ID:BfG8G6mQ
幼馴染み…前にちょっと他スレ用に書きかけたヤツがあるんですけど、
エロくないとダメでつか?
604名無しさん@ピンキー:04/08/16 23:52 ID:SkXZJ8lv
>>603
無問題
605名無しさん@ピンキー:04/08/17 03:09 ID:XoGNFb3X
>603
ぜひぜひおまちしておりまつ。
606名無しさん@ピンキー:04/08/17 21:55 ID:NMBfzU7r
おお、そうですか。では書き上がったらあげさせていただきますね。
607243:04/08/19 01:42 ID:CKcAKX5+
404氏も603氏も、ひたすらお待ちしております。
王道、覇道、素晴らしい。幼馴染ばんざい。

その27.
早くエロに行きたいのですがいつになるやら不安です。申し訳ない。
あ、設定は特にないのでお好きな地を想像してください。
608名無しさん@ピンキー:04/08/19 01:42 ID:8lqTldTV
その24から26まで一気に読んだけど、本当にただ読んでるだけのこっちまで嬉しくなってしまうよね。素晴らしい。他の書き手さんも何人か書いてくれそうだし、もう何も言えなくなってきた。ただただ素晴らしい
6091/4(243):04/08/19 01:44 ID:CKcAKX5+

・・・・その27


お寺の裏から海が見えた。
黄と白の束ねられた陰影と、冷たい御影石を伝う水の光が、目に残る。
汲んだ水にひしゃくをくぐらせる幼馴染の手つきは、滑らかだった。
海沿いの風が潮を含んで肌に涼しい。

明後日からお盆だ。




正午過ぎの眩しさの影に、海が隠れて視界から消えた。
お墓参りの他は特に用事もないそうだったので、散歩がてら、駅まで脇道を通っていく。
イトくんに言われて川沿いの裏道に曲がると、影の多い涼しげな場所に出た。
初めて訪れる小さな町は、暑い盛りの時刻だからか、驚くほど人通りがない。
軽く息をついて、脇を走る、川の飛沫に目を向ける。
隣でだるそうにあくびをする彼を見遣って、なんとなく、橋田のおじさんを思い出した。
歩きながら横を見て、何気なく聞いてみる。
「イトくん、お母さん似でしょう」
「ぼく?いや、写真もあんまり残ってないからどうだか…」
建物の隙間から射し込む日光に帽子を被りなおし、イトくんは呟いた。
「ああでも、とーさんによれば、身体の弱さは母譲りらしいよ」
「ふうん」
「だからこれが形見」
光が目を射て、私は目を細めた。
6102/4(243):04/08/19 01:46 ID:CKcAKX5+
自分を指差して薄く笑うイトくんには、何のてらいも影もない。
なんと答えていいのか分からなくて、ただ彼を見上げて数度、瞬きをする。
風が吹き、僅かに脈がぶれていく。
私に会わせてゆっくり歩いてくれる幼馴染を、隣に感じながら
歩くのが心地よく、俯いて今の言葉を思った。
周囲に身体を心配されても、自分を貶めたりしないで、ただ当たり前のように感謝を素直に表して。
初めて会った小さい頃からずっとずっと、彼はそういう人だった。
なんとなく眼を伏せれば、足元の影がまた建物の陰に溶け、腕を灼く熱が薄れる。
川音が耳に優しく、長く伸びた雑草が時折靴に触れてちくちくした。
ふと思い当たって、また隣を見上げる。
「そういえば親戚のおうちとか、ないの」
隣の塀から伸びる枝に、蝉が止まって鳴き始める。
幼馴染は虚をつかれたように、一瞬怪訝そうな顔をした。
お母さんの方の故郷だと言っていたので、聞いてみただけだったのに、少し意外に思う。
彼は私を見下ろしたまま、顔を崩して困ったように笑った。
「あるけど……何年も行ってないな」
横の建物の換気扇から、むっとした食堂のにおいがして、後ろに消える。
そのせいか、違う理由からなのか、イトくんは気だるそうな息をついて、僅かに目を細めた。
「とーさんが不注意でね。おかげで風当たりが強いから」
え、と聞き返すと、頭を撫でて穏やかな声が言葉を続ける。
「だから。ぼくが不注意で、できちゃって、若かったし身体が弱かったものだから
 無理して出産したけど、二、三年して亡くなって――
 それで、まあぼくはともかく、母さん側の親戚筋にはとーさんの評判が悪くて」
又聞きだけどね、という声を聞きながら、私はしばらく黙った。
雲が太陽を隠して、建物の影で涼しかった道が、周囲に紛れて薄くなる。
澄んだ川音が土手を流れ、高い空に消えていく。
「私はおじさんすごく好き」
イトくんが疲れた笑みで、ありがとうと呟くのを横目で見る。
この様子では、座った方がいいのではないだろうか。
6113/4(243):04/08/19 01:48 ID:CKcAKX5+
軽く肩を竦めてイトくんが独り言のように話すと、蝉がうるさく鳴きだした。
「…結局父方も似たようなもので、どうもね。
別に好きで結婚したんだからそこまで気にすることもないだろうに」
私なんかじゃ何をコメントしていいのか分からなかったので、答えずに見つめた。

 お盆をわざわざ外して、お母さんのお墓参りにひっそり来ては帰るのも、
 今更ながらに思えば、病弱な一人暮らしの彼を誰も一度も見舞いに来なかったことも、
 修学旅行から帰されたあの時だって、なんでおじさんの次に連絡が来るのが、赤の他人のうちだったのか、とか。

風に吹かれた髪もそのままにして見ていたので、目に髪が入る。
イトくんが指を伸ばして目端の髪をすくい、耳にかけてから、ふと含みのある目で笑った。
「…大丈夫だよ、反面教師にしてちゃんと気をつけるから」
「……」
何を、と、聞き返しかけた瞬間に気付いてやめた。
顔の熱さに、目を逸らして少し離れる。
そこでなんでそういう話に飛ぶのだろう。
夏草の青を拭き流して、薄い潮のかおりがした。
ぎらつく太陽を背に隠した雲の白さに、目がくらむ。
幼馴染が後ろで名前を呼ぶので、雲を仰いだままで答えた。
「なに」
「ごめん怒らないで」
相変わらずの余裕に呆れて、振り返りながら深い溜息がでた。
そして何かを言おうと口を開いた瞬間、――さらりと髪を梳かれた。
呼吸と一緒に、足が止まる。
そのままじりじりと撫でるように頬に手が滑り、指先が耳を辿ってくすぐる。
いきなりのことによく分からなくなって、身体が火照りだす。
「……ちょっと、待っ」
「ひーこ」
昨日みたいな深い声で、呼ばれて、一瞬で言葉を失った。
こういう目で触れられると弱くて、心臓が引きずり出されるみたいで怖い。
イトくんが、顔を寄せて耳元で囁いた。
6124/4(243):04/08/19 01:48 ID:CKcAKX5+
熱に浮かされたような掠れ声に、僅かに残った反抗心がじりじりと灼けて灰になる。
聞いてからなんて、怒れないから、ずるい。
顔を抑えられたまま、視線を動かしたけれど誰もいなかったので頷くと、
触れるだけのキスをされて、彼が離れた。
あたたかさと同時にせりあがるものに戸惑いながら、朦朧とする。
私は平均身長で、彼は背が高いので、なんだか、し辛いように思う。
…足りなく思ったもどかしさは、きっとそのせいで。
半ば無意識に、離れかけた頬の手に、指を重ねた。
夏の空気の中で、触れ合った肌から滲んだ汗が溶けて混じり、そこから茹だるような暑さが広がる。
なぜだか離したくなくて、そのまま緩く頬に押し付けた。
その手に言葉を押し隠して、胸のうちで湧き上がる衝動に蓋をする。
きっとこれを言ったら、おかしいと思われる。
――昨日の、あの深さを恋しいと思ったのは多分、気のせいで、だから。
そうしていると、髪から彼の手が静かに抜けて、緩く指先が絡んだ。
鼓動が余計に私を震わす。
理性はもう離さなくちゃいけないと、分かっているのに。
ここは道端で、人がいない裏道だけれど、そこまで狭くもなくて対岸に誰かがいたら当たり前のように見えるし。
「イトくん」
「ん」
答える声の低さと小ささが空気の振動になって身体に届き、鼓膜にしみる。
口に出かけた言葉を必死で飲み込んで、別の言葉で熱を逃がす。
「…好き」
「そう」
降る声が、本当に嬉しそうだったのに、何かが焼き切れるような気がして、その前に手を握ってからそっと放した。
蝉がうるさい。
…私も早く、涼しいところで座りたいと思った。

613243:04/08/19 01:52 ID:CKcAKX5+
では続きはまた、時間ができた時に。

もっとして、を言えずに口をつぐむ真面目系の幼馴染は宜しいと思います。
614名無しさん@ピンキー:04/08/19 02:19 ID:8VfGR5GK
宜しいとおもいますっっっっっっっ!
615608:04/08/19 02:24 ID:8lqTldTV
気付かないまま投下途中にいらぬレスを。マジすまそ
616名無しさん@ピンキー:04/08/19 02:25 ID:GrufAXGc
宜しいですとも!!
617名無しさん@ピンキー:04/08/19 03:32 ID:GkZtJ3lq
五輪中継の合間にふとのぞいてみたら…!

ハァ、なんかもうメロメロ…
618名無しさん@ピンキー:04/08/20 03:29 ID:pkQtqtMe
かみさま
萌え死ぬってことを教えてくれてありがとう(>_<)
619名無しさん@ピンキー:04/08/20 17:25 ID:8qmW+Yd5
死ぬなー>618。今死んだら続きが読めなくなるぞ!!
それに郷には、出征前に思いを告げた幼なじみが待ってるって言ってただろう!!
彼女と結婚するまでは死ねないって誓ったんじゃ無かったのか!!
620名無しさん@ピンキー:04/08/20 18:03 ID:c1MQFqlk
>>619
「ほら…これ、お守り」
「お、おう。……ん?なんか、安産祈願て書いてあ」
「うっるさーい!!昨日急いで神社まで行って
 買ってきてあげたんだから、ありがたく受け取りなさいよ!!」

という遣り取りもあった筈だ。あったと言ったらあったんだ。
621618:04/08/20 20:42 ID:QDxNYdGX
>619
ありがとう。
あの娘にもう一度会うために生きて帰るよ!

>620
ありました。ありましたったらありました。
ほーらこれがそのときの水天宮のお守りです。


というか、そのシチュ、受験の時の話とかでぜひ。どなたか。
気の強い女の子とおっとりした男の子とかも萌え。
622名無しさん@ピンキー:04/08/20 21:37 ID:TjjoECwy
>>619
(618が619に一枚の写真を見せる)
619「ん?誰だこの人?きれいだなあ」
618「へへっ、これ、郷にいる幼馴染でさ。ここに来る前に、ずっと好きだったって伝えてきたんだよ。
……もしここから生きて帰れたら、結婚しよう、ってさ……」
619「そうか……。んじゃあ、もう死ねねえなあおめえ」
618「おうよっ」


(その日の夜)
619「くそっ、なんでまたこんなとこで当たっちまうんだよお前は……!!」
618「悪ィ、へましちまったぜ……がふっ」
619「うるせえしゃべんな!傷が広がるだろバカ!(だめだ、内臓が……いや、あきらめられるか!)」
618「へへ……俺、あいつに、嘘ついちまった……ぜ……」
619「だからしゃべるなって……あいつってまさか」
618「ちくしょう、ごめんなあ○○(幼馴染の名前)……俺、帰れることには帰れるけど、生きては無理みてえだ……」
619「!! 馬鹿野朗!なに言ってやがる!こんな傷でお前が死ぬわけねえだろ!」
618「ああ、なんか、眠く、なって……」
619「死ぬなああああああ!!」
618「(微笑んだまま息絶えている)」
619「畜生……ちくしょおおおおおおおおおおお!!!」



こんなドラマがあったりなかったりするんだNE!
623名無しさん@ピンキー:04/08/20 22:01 ID:6RPGk6Kr
ムセタ
624名無しさん@ピンキー:04/08/20 23:44 ID:uEO4kfkE
てゆーか最終兵器彼女?
あれにも幼馴染みいなかったっけ?
625619:04/08/21 00:03 ID:TP70cOIq
正しくは「戦場の結婚話は死亡フラグ」と言う故事からきてる
急に現れた新キャラは特にやばい
あと郷で待ってるのは幼なじみが多い気がする

最終(ryでも出てきたが、戦争物なので出しやすいから
ただ、最終(ry自体はメインヒロインのちせが幼なじみじゃ無いので戦犯物

あとこのスレの住人のノリの良さには感謝
626243:04/08/21 05:39 ID:B3dmBrsR
「男2女1の幼馴染三角関係だと、片方が女の子と結婚して
男二人とも戦場に行った場合、結婚した方が死亡する」
のもお約束。


話数はまだかさむかもしれないのですが、話の流れ的には残り少ないです。
長々とお付き合いいただいている方に感謝を。
職人様方の新作も待ちつつその28.

6271/3(243):04/08/21 05:41 ID:B3dmBrsR

・・・・その28


市内に出て、大学を一通り回った時点で体力が切れたのだろう。
朝はそれなりに余裕そうだったイトくんも、帰りの電車ではずっと寝ていた。
単語集を持ってきて正解だったと思いながら、ページをめくる。
途切れなく肩から伝わる体温に落ち着かない気分になりながら、薄れていく電車の外の、空を見る。
なんで私を、連れてきたのだろうと思った。
大学を見るだろうからついでに、というだけだったのだろうか。
考えながら、気が遠慮がちに塞いだ。
『迷っている』と言っていたから、彼の進路はまだ知らない。
でも、なんにしてもイトくんと、同じ大学には行けないだろう。
レベルとか、なんとか言う前に、私が行きたいところに医療系の学部はないという、単純な理由で。
膝を寄せて、単語集に指を挟んで閉じた。
横の寝顔を眺めて、そっと小さく息をつく。
離れているのが気にならない人なのかもしれない。
何年も前からずっとずっと好きだったと、言葉の端々や視線から、彼は伝えてくるけれど。
一昨年の彼は、一年間外国に行くことをあっけなく決めて、本当に実行してしまったのだし。
山の木々に空が隠れ、汽笛の直後、電車がトンネルに入った。
古い座席が軋んで、揺れる。
アルファベットの並びに目を落として、唇を弱く噛む。
幼馴染がどうであれ、私は確実に、薄い痛みに触れるだろう。
…それでも行こうと思った大学を、変えるほどに私は器用ではないし、それは違う気もするから。
駅からの帰り道ではもう、彼は何もご両親のことについて言わなかった。
どうして私を連れてきたのか、私も聞けずじまいで、夕陽に沈むマンションの階段を見上げながら昇った。

6282/3(243):04/08/21 05:42 ID:B3dmBrsR

8月は一日一日がゆっくりと、でも見失うように過ぎ去った。
兄さんは相も変わらずで、賑やかだった。
台風のように三日間は去ったけれど、でも二年ぶりのその光景は久々で、懐かしかった。
本物の台風も上空を吹き抜け、大雨の後はまた青空が広がった。
気がつけば夏休みは後半になり課外授業も始まって、また私は制服で片道三十分を歩くようになり。
任意参加だから行かない、と堂々とうちに居座って、弟の宿題を手伝いながら自分の勉強をする
幼馴染も相変わらずで、呆れた反面、前ほど気にはならなかった。
海から帰ってきて、イトくんの雰囲気は、気のせいでなければ少し変わった。
相変わらず漫画も本も平気でたくさん読んでいて、弟のゲームにも付き合ってはいる。
でも勉強に対する真剣さは明らかに増していて、…要するに多分学校の授業は彼のペースに会わないのだろうと思う。
(一応進学校なのに、となんだか頭が痛くなるけれど。)
私は私で、自分のペースがやっと掴めてきてなんとなく頑張れる気になってきた。

そうしてどこに辿り着くのかと思うと、風が涼しく吹く。

ふと触れられた瞬間や、少しだけ二人になったときによく、あたたかさに紛れてそんなことを思った。
お母さんが買い物に行く数十分間とか、帰ると他に誰もいなかった一時間弱の隙間とか、
そういうものが本当に大事で、だからなおさら。
深みに嵌らないぎりぎりの波打ち際を歩く関係が心地よいような危ういような、おかしなゆらめきがいつも奥底にあった。
その感覚に関しては、多分幼馴染も共有していただろうと、なんとなく信じている。
過ぎる日々に、僅かな寂しさを溶け込ませながら、新学期になってカレンダーが替わった。


6293/3(243):04/08/21 05:43 ID:B3dmBrsR

文化祭の準備が少しずつ始まり、三年生の教室も授業の傍ら最後の行事にざわつきで満ち始めている。
小道具係という名目だったのに、なんだか衣装も小物も、まとめて私の仕事になってしまった。
理系クラスは女子が少ないので、キャストや他の係の人を抜いたら、こういう役目は必然的に回ってくる。
好きだからいいけれど。
小さな飾り花を縫う手を止めて、軽く溜息をついた。
文化祭用にあてられた学級活動の時間に、周囲が忙しく動いているのをぼんやりと眺める。
橋田依斗くんは、キャストと演出の人たちとなにやら話し合いながら台本に手を入れていた。
話が上手くて人と人との調整をするのが上手で、知識が豊富だから、適役なのだろう。
「崎さんこれ、こっちの糸だっけ」
横から同じ係りの男子に聞かれて頷きながら、指先に巻いた糸を一回転させて、作業に戻る。
椅子に寄りかかり緋色をたらした針先で布をすくうと、ふと、慣れた視線を感じた。
顔を上げると、目の端で一瞬、嬉しそうに笑われる。
困ったので、無視してまた針を見つめた。
あんまり日常的で変わらなくてあたたかくて、縫い打つこの刺繍みたいにちくりと痛い、9月が沈む。
長さが途切れた糸を結び、糸切り鋏を滑らせながら、
それが途切れる瞬間を、予測できずに私はいた。
630243:04/08/21 05:46 ID:B3dmBrsR
では、続きはまた時間のできたときに。

>608>615
お気になさらず。むしろ嬉しかったです、ありがとうございます。
631名無しさん@ピンキー:04/08/21 23:55 ID:2PQfF3av
タイトル来ましたね。
どこへ辿り着くのだろうと、読んでいるこちら側も考えていたところでした。
ゆっくりと。ゆっくりと。

それがどうか幸せな場所でありますように。
632前スレ812:04/08/22 01:30 ID:HtD3fowV
恥ずかしながらROMから戻ってまいりました。


>243さま
毎日毎日、あなたの作品を読むのが楽しみで仕方がありません。
直接的な描写がほとんど無いのに、ちょっとした仕草や触れ合いだけで
とても色っぽく美しくて、いつも溜息をついてしまいます。

633前スレ812:04/08/22 01:32 ID:HtD3fowV
桜が少しずつ散り始め、日差しがぽかぽかと、暑いくらいになる日も多くなりました。
四月十日。今日から、新学期の始まりです。

「おう、おはよう。まゆ。今日もいい天気だぞー」
何故か、私よりも先に食卓に着いている瑞穂ちゃんが、ノンキに声をかけてきます。
「…おはようございます。今朝も食べに来たんですか…」
「あー、なにようー。いいじゃないのよう、ごはんくらい別にー。お母さん、そんなイジワルいう子に

 育てた覚えないわようー?」
「いいんですよ。俺も、おばさんの料理があまりに美味いので、つい、いつも食べに来てしまって。
 本当に、毎日申し訳ないです」
「瑞穂ちゃんは、いい子ねえー。真由子ー、あんまり瑞穂ちゃんいじめたらダメようー?」
み、みいちゃんの猫っかぶりめ…っ!
「それじゃ、お母さんもうお仕事行くからー。後片付けしといてようー」
ウチは両親共働きで、お父さんもお母さんも朝早く出るため、
朝は私が一番最後になり、後片付けをしてから出て行くのが習慣なのです。
「はあい。『いってらっしゃい』」
わたしとみいちゃん。二人同時にお母さんに声をかけて、朝食を食べ始めます。
「別に、先に食べてても良かったんじゃないですか?」
「俺が来たときには、もうおじさんもおばさんもとっくに食べ終わってたしな。
 それに、お前がもう起きる頃だったから」
それで、わざわざ待ってたんですか。
特に会話も無く、つけっ放しにしているTVの音と、食器の音だけが響きます。
お味噌汁を啜りながら、目の前の食卓に着いて、朝っぱらから健啖ぶりを発揮
している人をこっそりと見やります。

なんというか。

最近、瑞穂ちゃんがこうして、本来の住居である隣よりも、我が家に居る事に違和感を感じなくなって

きている。というのは、いささか問題があるような気がします。
634前スレ812:04/08/22 01:35 ID:HtD3fowV
別に、居るのがどうしても嫌。というわけではありませんが、どうも、おとうさんもおかあさんも、
妙に歓迎しているようなのが、なんとなくしっくり来ないというか。
まあ、キレイで賢くて性格もハキハキしていた瑞穂ちゃんの事を、昔からおとうさんもおかあさんも気

に入っていたので、仕方ないのかもしれません。
それに今、隣の藤井さん家には、瑞穂ちゃんだけしか住んでいないのです。一人暮らしというのはやっ

ぱり大変だと思います。
もし今、両親が遠くに行かなくてはならなくなって、わたし一人で家の中を切り回せと言われたら、き

っと三日で途方にくれると思いますし、ひどく心細いだろうと思います。
だから、瑞穂ちゃんが春休みの間、こうして朝から晩までほとんど寝るとき以外、我が家で過ごしてい

た事も、おとうさんが、毎晩、瑞穂ちゃんと楽しそうに話していたり、おかあさんが、ごはんは瑞穂ち

ゃんの好物ばっかり作っていた事なども、…当然の事だと思います。
…ええ、おとうさんに「男同士の話だから、お前は入れてやらん」と言われた事も、おかあさんにわた

しの好物のリクエストを却下された事も、ちっとも怒っていませんとも。

「…なに。腹でも痛いの、まゆ」
「何ですか急に。別にどこも悪くありませんよ」
「いや、なんつうか、朝から機嫌悪いなー、オマエ。
 新しいクラスメートの前でそんなカオすんなよーイジメられるぞー」
「余計なお世話ですっ!これでも、人前での行動は弁えているつもりですからっ!
 それより、自分の――、…っ!」
「…何だ、気にしてくれてたのか」

失言です。
それも、とんでもなく。
635前スレ812:04/08/22 01:37 ID:HtD3fowV
…ウチの学校には、同じ中学校出身の人も数多くいます。
その中には、女の子だったころの瑞穂ちゃんを見知っている人も多いでしょう。
たしか、中学のときに瑞穂ちゃんと仲が良かった。というかその、お付き合いしていたのでは?という

関係の男子もいたはずです。
そんな人たちと顔を合わすのは、いくらなんでもかなり気まずいのではないか。と思うのです。

「…あの、何かあったら、わたしのクラスに来てくださいね。良かったら、ですけど、お昼も一緒に食

べましょうか…?」
「…やさしいな、まゆは」
少し目を伏せたまま、静かな口調でみいちゃんは言いました。
やはり、不安だったのでしょう。私が力にならなくては。と思います。
「いいんですよ。そんな。…あの、部活どうするかもう決めました? わたし、文芸部なんですよ。図

書委員も引き続きやるつもりですし、良かったら、みいちゃんも、あの」
「…いいのか? 入ってくるなって言われるかと思った。オマエ俺に対してキツイし」
「い、言いませんよ、そんなの…」
顔全体を俯けて、少し震えているようにも見えました。…まさか、泣いて――?
「あ、あ、あの、みいちゃ――」
「…そうかそうか。ありがとな、まゆ。是非昼休みにはそっちに行かせてもらうよ――。それだけじゃ

 なく、放課後も一緒なら話が早い。一日べったりくっついていてもかまわない。そういう事だな?
 なあ、真由子?」

くつくつくつ。と哂いながら、ゆっくりと顔を上げる藤井君。
その顔には、陰湿極まる邪悪な笑顔が浮かんでいました。
636前スレ812:04/08/22 01:39 ID:HtD3fowV
「だ、騙しましたねーっ!?」
「騙す? 何を? 人聞きの悪い事を言うんじゃない。――オマエが勝手に勘違いしたんだろう?」
にやにやと笑いながらそんな事を言ってきやがります。
むがががが。む、むかつくーっ!
「オマエもさあ、いいかげん引っかかりすぎだろ。昔っからこのパターンだろ。判れよ」
「…えーえー、そうですとも。ほんとに! 昔っから! 嘘つきですもんね! あなたは!」
くそう何より自分に腹が立ちます。もう二度と騙されませんよこんちくしょう。
「そりゃ違う。俺が嘘つきなんじゃなくて、オマエが極端に単純なんだ。そんなことじゃ、そのうち変

 な男にカモにされるんじゃねェかと心配だよ俺は」



最近は、始業式でも午後から授業をするカリキュラムの学校も、進学校ではあるそうですが、
ウチはそこらへんがのんびりしているようで、今日は授業もなく、お昼までで終わりです。
結局あの後、瑞穂ちゃんとは一言も口を聞かないまま一緒に登校し、正門前で別れました。
くう、朝の事を思い返すとまた腹立たしい気持ちになってきます。
おのれ、今日はもう絶対口をきいてやるもんか。

「…ま、真由ちゃん? どうしたの?」
「え?」
はっとして顔を上げると、友達のたかちゃんが心配そうな顔でこちらを覗きこんでいました。
「あ、いえ、なんでもないですよ?」
「そう? なんだか、すごく難しい顔してたから、どうしたのかと思っちゃった」
「…あ――、はは…。そんな顔、してましたか。わたし」
「うん、してた。…なにか、力になれることがあったら、言ってね?」
まさか本当のことが言えるはずもありません。
「い、いえ。別にたいした事じゃないんです。本当にくだらない事で。それより、早いとこ図書館に行

 きましょう。たかちゃんも今日、先生のとこに顔出すんでしょう」
637前スレ812:04/08/22 01:41 ID:HtD3fowV
わたしとたかちゃんは二人とも図書委員なのです。
ウチの学校の図書館は、付属の短大や小中学校と合同なので、結構大きく、専門の司書の先生もいるく

らいです。
で、高等部の図書委員の溜まり場、もとい、活動場所として、図書準備室や会議室なんかは開放されており、
特に委員会の活動日ではない日でも、司書室にいる先生の所に行ってああだこうだと喋っているのが
常なのですが。
…別に、遊んでいるわけではないんですよ? カウンターでの貸し出し手続きや、返却された本を元の

書架に戻したりとかの仕事もちゃんとしてますし、それになにより、一見雑談のように聞こえる会話の

中から、図書委員として図書資料の充実を図ったりとか、よりよい図書館にするための具体案なんかも

でてきたりするんですから。…ホントですって。

で、いつもどおりたかちゃんとわいわい喋りながら図書館へ行くと。
「おう、遅かったな」

――うわあ。わすれてた。

「あら、原田さん、宮原さん。こんにちは。今年はさっそく委員会に入りたいって一年生が来てくれた

 のよ。お話してたんだけど、藤井君って原田さんから図書委員会の事を聞いて、来てくれたんですって。
 本当にありがとう、原田さん。やる気のある一年生をこんなに早く連れてきてくれるなんて、先生、すごく
 うれしいわ」
――とても、感激した先生に手をぎゅっと握られます。
瑞穂ちゃんが、たかちゃんや、その場に集まっていた他の委員会のメンバーと談笑しているのが、
先生の肩越しに見えました。
――ああ、なんというか。わたしの場所が日に日に瑞穂ちゃんに侵食されているような気が――。
63881 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:04 ID:WbTNXfrh
20分経過したので、もう投下しても大丈夫かな・・・。
ようやく復帰・・・忙しいときって何で集中的にくるんでしょうね。
まぁいいや・・・・・リハビリも兼ねて投下します。

         NO TITLE

三条直哉の朝は比較的早い。
眼を覚ませば、いつもの天井が視界に広がる。
顔をごろんと横に向けて、手探りで目覚まし時計を探す。
あった。時間は6時・・・本日も目覚ましに対して勝利を勝ち取った。
自分でもよく解らない矮小な優越感。
こういうちっぽけな自己満足に浸ることから、俺の一日は始まる。
「さぶ・・・」
布団からまさに這いずるように出る。
年が明けて10日。
まだまだ朝晩の冷え込みは非常に激しい。
というわけでコタツのスイッチをONに入れて、
Tシャツとカッターシャツ、靴下、ズボンをコタツの中に突っ込む。
こうしておけば着替える時に暖かくて良い。
部屋を出て階段を下りる、向かった先のリビングは既に無人だった。
相変わらずウチの親は朝が早い。昔から顔を合わせるのは稀だ。
「今となっちゃどうでもいいけどな」
食パンをトースターの中に突っ込んでスイッチを入れる。
その間に洗濯機のスイッチを入れ、朝食を軽く済ませる。
そして洗濯を済ますと大体7時前になる。
「・・・・時間だな」
コーヒーの残りをぐっと喉の奥に流し込んでから二階の自室に戻る。
温めた学生服に袖を通し、コートを羽織り鞄を掴んでいざ出陣である。
63981 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:05 ID:WbTNXfrh
外に出て自宅玄関の鍵をかけて、お隣の椿家まで行ってインターホンを鳴らす。
しばらくして、扉が開いて中年女性が姿を現した。
「直哉君、おはよう。今日も早いわね」
「おはようございます・・・まだ’上’ですか?」
人差し指を天井に向けると、中年女性はええ、と頷いた。
「いつも悪いわね・・・・」
「いえ、日課みたいなもんですから」
階段を上がって、「すずね」と平仮名で書かれたネームプレートがかけられた
扉の前にやってきた。
「鈴音、起きろ!!」
声を上げながら少し強めにドアをノックする。
しかし、いつもの通り返事はない。
返事が無いのを確認してから、室内に突入した。
これでもかと強調された女の子の部屋である。
アレだ、ぬいぐるみとかフリルのカーテンとか・・・そんな感じ。
だが、この部屋の主は部屋とは対照的である。
「おい鈴音、朝だ、さっさと起きろ」
まずは射程外からの遠隔攻撃である。
だが対象に対して全く効果は認められず、未だベッドの中で爆睡中である。
「おい、起きろ」
次に接近しての攻撃となる。
布団の上から体を揺すって、対象の覚醒を誘発しようと試みる。
「ん・・・・」
対象が初めて反応を見せたが、それでも起こすには不十分だ。
普段はここで起きてくれるのだが、
我が麗し(?)の女帝閣下の今朝のお目覚めは
非常に芳しくないようなので最終手段に訴えざるを得ない。
64081 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:05 ID:WbTNXfrh
鈴音の耳元に顔を寄せて、そっと囁く。
「起きないとキスするぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
反応がない。ただの屍のようだ。
おかしい。いつもならここで完全に起きるのだが。
もしかして具合でも悪いのだろうか。
「おい鈴音・・・真面目な話、具合悪・・・ウェ!?」
なんだなんだ・・・!?
って、何かに頭を掴まれて引っ張られて、それでがっちりホールドされた!?
同時に、ギリギリと効果音を上げながら頭が締め付けられてゆく?
っていうか、痛い、マジ痛い、洒落にならん!
「いででででででで!!決まってる決まってる!!ギブギブ!!」
右手で、俺の頭をロックしている腕を叩く・・が、力が弱まる気配が一向にない。
あああああ、神様、女帝閣下はついに待ち伏せすると言う技術を備えられました。
明日から私はどうやって女帝閣下を起こせばよいのでしょうか・・・って、イタイイタイ。
いたたたたたた・・・・と、痛がっている中、俺は頬に当たる柔らかいものに気付いた。
鈴音は左腕を使って俺の頭を脇に抱えるようにして締め上げている。
・・・・・・と言うことは、この頬に当たる柔らかな感触は・・・。
鈴音の胸?
しかもノ―ブラですか?
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
け、健全な青少年には少々刺激が強すぎます、女帝閣下!
「アンタが私にキスしようなんざ100光年速いのよ」
気だるそうな閣下のお声。
しかしその事実に女帝閣下は気付いてらっしゃらない様子。
あと付け加えると光年は距離の単位です、閣下。
もう少しこの甘美な感覚を楽しんでいたいが、ヘッドロックが洒落になってないので
遺憾ながらそちらを優先する。
64181 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:07 ID:WbTNXfrh
「ちょ、鈴音、当たってる、当たってる!」
その言葉に一瞬だけ力が緩む。
「何が」
「む・・・・・胸」
その一言で、ビシィ!!と鈴音が硬直した。
うむ。
死刑執行何秒前だろうか。
・・・・・・・・・しばらくの沈黙、そして。
「言い残すことは?」
「・・・・・ふ、不可抗力とだけ」
女帝閣下←タメ中・・・・・・そして・・・・・・・→強パンチ
「さっさと出てけ!このスケベ!変態!!」
逆上した女帝閣下によって、俺はアッサリと撤退を余儀なくされた。
お約束どおり、手痛い平手打ちを一発頂戴致しましたとさ。
頬がヒリヒリする・・ぜったい頬に手形残ってるな、コレ。
何か釈然としないが、鈴音を論破できたためしがないし、
元々俺はビンタの一発くらいで一々腹を立てたりはしない。
・・・・・・・ふむ。
なにはともあれ、本日最初の仕事は終わった事だし学校に行くとするか。
階段を降りた所で鈴音の母親と再び顔をあわせた。
「あ、起こしときましたんで・・」
「悪いわね、はい、お弁当」
おばさんが差し出した包みを受け取る。
「あ、ども・・・」
俺は毎朝朝の弱い鈴音を起こし、その報酬として彼女の母親にお弁当を作ってもらっている。
俺は包みを鞄の中に入れると、靴を履き始めた。
「ごめんなさいね・・・あの子も一緒に行くといいんだけど」
「いや・・流石に本人が嫌がってますんで」
以前にもおばさんから一緒に行けばいいのに、という話題が
鈴音本人の前で出たのだが、それに対して鈴音が
「冗談止めてよね、お母さん。だ〜れがこんな奴と一緒に行くもんですか」
と言って以来一緒に登校していない。
64281 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:07 ID:WbTNXfrh
それがいつなのかは忘れた。
小学校4〜5年の頃だったと思うが・・・霞がかかったように曖昧になってしまっている。
それまでは一緒に登校していたのだが。
思春期に差し掛かって、そういうのが恥ずかしくなって・・と言う風に今では解釈している。
スニーカーの爪先をトントン、と軽く床に押し付けて踵を合わせる。
「それじゃ、行ってきます」
「はい、気をつけてね」
自分のではなく、鈴音の母親に見送られて外に出る。
いつものことである。
出勤するリーマンに混じって住宅街を歩いてゆく。
「寒いな・・・・・・・・」
手足と胴はいいが、顔面が寒い。
身を切るような寒さの中を10分も歩いた頃だろうか。
「ナオ君」
唐突に後ろから声を掛けられた。
その声に足を止めて後ろを振り向けば、黒コートを纏った見知った顔が一つ。
身長は160あるかないか、肘まであるストレートの黒髪が印象的な子である。
「葉月か・・・おはよう」
「おはよう・・・」
この子は更科(さらしな)葉月(はづき)といい、幼稚園からの腐れ縁だ。
(ちなみに鈴音は小学校からの縁である)
表情・感情に変化が殆ど無く、口調も淡々としている。
そのためクールビューティーとか雪女とかそういう風に言われる事もある。
その彼女とほぼ毎日、こうして一緒に登校する。
64381 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:09 ID:WbTNXfrh
並んで歩いていると、葉月がこちらを見ているのに気が付いた。
「・・・・どうかした?」
「ほっぺたどうしたの」
「あ〜〜〜〜〜〜〜・・・・これか」
傍目で解るほどに平手打ちを受けた部分の色が変わっているのだろう。
さて、どういう風に説明したものだろうか・・。
・・・・今朝の情景と感触を思い出すと下半身に血が集まりそうになった。
いかん、平常心平常心・・・・よし、抑えきった。
「・・・鈴音ちゃんね」
「う・・・まぁ、そういうこと」
「どう?」
「割と平気・・っていうか、痛みなんてとっくに引いてるよ」
「そう」
葉月はおとなしく、口数が少ない子なので会話はいつもこんな感じである。
「ま、今朝は女帝閣下のご機嫌が優れなかったと」
俺のほうにも責任が・・・ある・・んだろう、多分。
こちらとしては不可抗力を主張したい所だが。
「彼女の場合女帝と言うより暴君よ」
・・・・この通り彼女の舌には少々毒が仕込まれている。
そのため友達は多くないようだ。
「暴君と言えば・・ハ○ネロ試してみたよ」
「そう」
「葉月の言った通り美味かったけど予想以上に辛かった」
痔でない方、その心配のない方は話の種にご賞味あれ。
(食ってる間はそうでもないけど、後からスゲェ来るので辛いの弱い人は止めた方がいいです)
64481 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:10 ID:WbTNXfrh
「アレは病み付きになるわ」
「そ、そうか・・・・」
葉月は辛党である。激辛王の番組に出られるのでは?と思うほどに。
そして少し歩いて駅に到着した。
通学には電車を利用するのである。
出発駅・目的駅共に、急行や準急が停車する駅なので車内にいる時間は短い。
リーマンや他の学生に混じって構内で列車を待つ。
風を押しのけて急行がホームに到着し、人の流れに合わせて俺たちは列車に乗り込んだ。
あっという間に列車の許容量限界の数の人間が乗り込み、車内は満員となった。
「間もなく〜○○行き急行が発車します〜」
構内にアナウンスが流れた後、自動ドアが閉まり列車が動き出した。
しかし・・・これは・・・いつも以上に人が多い。
ぎゅうぎゅう詰めという程ではないが、確実に普段よりは多い。
そのため・・・・。
俺と葉月の体がいつも以上に接近して葉月のいい香りが俺の鼻腔に届いて
もうなにがなにやらわかくぇdrftgyふじこlp
だが、今日に限って言えばその接近していたのが幸いした。
「っ・・・!」
一瞬、葉月が脅えたように息を殺したのが解ったのだ。
・・・なんだ?と最初は訝しげに思っていたが、直ぐにある結論に達した。
痴漢・・・・!
よりによっておとなしい葉月を狙うとは卑怯な輩だ。
一瞬で逆上する一歩手前まで来たが、その前に葉月を何とか助けないといけない。
64581 ◆ys4//9gEbc :04/08/22 02:12 ID:WbTNXfrh
この混雑の中だ・・誰が犯人なのか解らない。
人一人越した所から触ってきているかもしれないし・・・。
現時点では痴漢から遠ざける方が確実だろう。
幸い位置を交換する程度の隙間は何とか確保できそうだ。
「葉月・・・悪い、ちょっと場所変わってくれないか?」
小声で葉月に問いかけると、彼女は驚いたような顔をした。
葉月が驚くのも珍しいが、それだけ今の彼女は動揺しているのだろう。
他の乗客に悪いと思いつつ、背中を少し押してスペースを作って
葉月と立ち位置を交換した。
すると、若干ではあるが葉月の表情が和らいだ。
その様子を見て、俺は痴漢に対して激しい怒りを覚えたのであった。

復帰第一戦・・・・今回はツンデレ風味でいこうかな、と。
646名無しさん@ピンキー:04/08/22 02:17 ID:zjjyZIlq
リ…リアルタイムで復帰初戦を見物させていただきました。
やっぱたまんねえなあ。
自分でもときどきSS書いてみたりするけど、こうもうまくいかねえんだよなあ…。
おそらく、俺の興味が幼馴染だけにとどまらないのが原因ではあろうが。

いずれにせよ、頑張ってくださいな!
以前のような長さになっても、スレごと保存する所存です(笑)
647名無しさん@ピンキー:04/08/22 04:19 ID:7RlCju3w
投下ラッシュキタ Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!
また眠れない日々が続きそう。。お三方ともGJ!!
648名無しさん@ピンキー:04/08/23 22:23 ID:kEptYzyO
おお、新作が2本!
81さんのは、おさななじみが二人なんて、おもしろいシチュエーションですねぇ!
どうなっちゃうんだろ?!
前スレ812さんのは、文体がすごく可愛らしくて、この彼じゃなくても
なんだかいぢめたくなるw

嬉しいですーーー
続き待ってますよーーー!
649名無しさん@ピンキー:04/08/24 12:51 ID:Hd2J7hG8
81さんTWINSの続きも期待してます。
650名無しさん@ピンキー:04/08/27 07:27 ID:8wdAjrfr
萌えるための燃料を求めてage
65181 ◆ys4//9gEbc :04/08/27 22:31 ID:8v2ILz6Q
       /    /.   │   ヽ        \
 ∧ ∧/     /.    │    ヽ       ∧\∧
(  ⌒ ヽ      /     │    ヽ      (  ⌒ ヽ
 ∪  ノ     /     │     ヽ      ∪  ノ
  ヽ_),)      /      │     ヽ      し' l_ノ
     ミ   /      │      ヽ
       ∧ /∧.     │     ∧ヽ∧  彡
      (  ⌒ ヽ     │    (  ⌒ ヽ   
        ∪  ノ ミ ∧│∧ 彡  ∪  ノ
        ヽ_),)   (  ⌒ ヽ    し' l_ノ
               ∪  ノ
                ヽ_),)
652名無しさん@ピンキー:04/08/27 22:45 ID:5Q/ijeDn
どうした?
65381 ◆ys4//9gEbc :04/08/27 23:18 ID:8v2ILz6Q
地雷踏みそうになった・・・回避は出来たが心情的に>651的な状態。

・・・ちょっと初心に帰ってきます(癒してきます)
654名無しさん@ピンキー:04/08/28 00:07 ID:BGUTlNwF
ははぁ、「アレ」か。
俺はもとより無視なんだが、ここの住民なら似た心境の人多いかも。
655名無しさん@ピンキー:04/08/28 00:35 ID:weXCa4sf
ttp://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1093576880/

アレに引っかかったのなら、まあ、ここ行って頑張れ。
656名無しさん@ピンキー:04/08/28 00:39 ID:usfOLjRb
買ってきてから騒ぎ知ったよOTL
657名無しさん@ピンキー:04/08/28 00:53 ID:4ds22Zqj
・・・・話だけは聞いた。

辛かったな、皆。
658名無しさん@ピンキー:04/08/28 01:05 ID:zGdIDGi7
噂が広まってるなw

ちなみにこのスレは二次創作もOKだし、スレ趣旨に合ってるならエロゲだって大歓迎ですよ。
そして趣旨に合うように設定を改変したものもアリなわけで
659前スレ812:04/08/28 01:11 ID:D/ZIqRfp
申し訳ありません、ただいまより、数レス、投下いたします。
660前スレ812:04/08/28 01:12 ID:D/ZIqRfp
とぼとぼと廊下を歩き、図書館へと向かいます。
以前は、こうして図書館へと向かうのが毎日楽しみで仕方なかったのですが、今はとても憂鬱です。
それというのも。

「あ、藤井君、当番じゃ無いんだし、いいよー、ソレ置いといてー!」
「いや、いいですよ。これ重いですし。ええと、1階4の5と6の3と…、後は全部二階の9の棚と、書庫の本か。
作者別に並べとけばいいんですよね」
「ごめんなー、ありがと! 助かるー」

一週間で、すっかり委員会に馴染みきっている瑞穂ちゃんのせいです。
…いえ、その事は良いんです。仕事振りは真面目で正確ですし、周りとも凄い速さで打ち解けきって、まるで
ずいぶん前からの仲間みたいになってます。

「終わりました、次なんかあります?」
「うわ、藤井君すごいな、もう行って来たの!? オレなんか、あんだけの本もって四階まで上がるだけで
ヘロヘロになるよ」
「やーねえ、アンタが体力なさすぎなんだって。それは」

こんな風に、皆と仲良くやっているようです。
その事については、問題ないんです。
問題なのは。
661前スレ812:04/08/28 01:14 ID:D/ZIqRfp
「――そんでさー、藤井君? 実際のところ、どうなのよう? 原田さんとはさあ?」
「あー、それアタシも気になるなー。なんつーか、こう、他人が入れないカンジがするのよ? 原田さんと君って」
「…まあ、長い付き合いですから。それこそ昔はイロイロありましたし…。
 …ただ、アイツは過去の事にしてしまいたいようなんですけどね…」
「をををっ!? 何!? やっぱりただの幼馴染みとかじゃないんだ!?」
「…あ、いや。そうですね、何ていうか――。昔はそれこそ、心も身体も共有してた。っていうか、
 お互い無しにはいられない関係でしたね――」
「な に を 嘘八百言い散らしてるんですかあなたはああああああああっ!?」
「…ひどいな、まゆ。俺たち、何度もひとつのベッドで朝まで過ごした仲だっていうのに」
「ご、誤解を招くような言い方しないでくださいっ! 二年以上も前の話じゃないですかっ!」
「…そうだな、お前にはもう終わったことなんだな…。あの14の夏の事は…」
「なっ! だ、だから、そういう言い方しないでくださいっ!」
「それにしてもつれないよなあ。一緒に風呂で洗いっこまでしたのにな。俺は、お前の尻の可愛いホクロまで
 しっかり覚えているのに…。お前には、もう過去のことか…」

――いますぐ、思い出ごとこいつの全てを葬り去ってやる。

「…瑞穂ちゃん、あなたって人は…。…ほんとに。あ な た っ て 人は――っ!」
激情の命ずるまま。持っていたカバンを振り上げてぶってやろうと追いかけます。
「まーゆー。だめだぞう、図書館では静かにしないとー」
「ううううるさいーっ! そもそもあなたが変な話を触れ回るから悪いんでしょうっ!?」
「すいませーん、先輩方ー。まゆこがうるさいので俺たちちょっと、外に行きますねー」
「おーう。がんばれよー、藤井君ー。俺たち男子は君の健闘を祈ってるぞー!」
「原田さーん。女の幸せは、半身を引いて構えるところから始まるのよー!」
完全に勘違いしている先輩方が声援を送ってきます。
662前スレ812:04/08/28 01:15 ID:D/ZIqRfp
うわああああ。一体どこまでこの手の誤解は浸透しているのか、考えただけで気が滅入ってきます。
「おや。どうしたよ、まゆこ。急におとなしくなって」
「…だれの…、…せいだと…」
ああああ、わたしは平和に過ごしたいだけなのに、なんでこんな事になったのでしょうこの疫病神め。
「…まあ、これでおおかた、ムシ退治は済んだかな」
「――? 今なにか、言いました?」
「うんにゃ、なんでもー。それよりまゆー。俺、ハラ減ったよ。なんか喰って帰ろうぜー」
にいっと、何の屈託も無い笑顔でそんな事を言われ、怒る気がしおしおと失せていきます。
「――はあ。そうですね、それじゃどっかに寄りましょうか。何かおごってくださいね、
 迷惑料として!」
「へいへい。それじゃ、帰るとするか」
隣を歩く、背の高い横顔を見上げながら、ひょっとして、これからの2年間も、毎日こんな調子なのでしょうか。と思いました。
そう考えると、ぞっとするような、どこかわくわくするような、不思議な胸騒ぎがしました。
これからも、このひとはわたしの日常をおもうさま引っ掻き回すんだろうなあ。
663前スレ812:04/08/28 01:18 ID:D/ZIqRfp
今回の分は、これで終了です。
続きが書けたらまたいずれー。


664名無しさん@ピンキー:04/08/28 02:20 ID:g6wZHJ9Q
おお、瑞穂の方はその気があるのか。
それはもう、思うさま引っかき回して頑張ってほしいものですなw
続き楽しみにしてます。
665名無しさん@ピンキー:04/08/28 21:23 ID:1xoerPvn
ナイス虫退治(^^)b
なんだかんだ楽しげな(最後2行)まゆちゃんのかわいらしさに激萌えです。
次回の分も楽しみにしてまーす!
666名無しさん@ピンキー:04/08/29 02:22 ID:b77V+tP3
純愛SSスレに神降臨
667234:04/08/29 04:20 ID:ghAzB07/
なんともスレが豪華に!
幼馴染ばんざい。

その29です。
相変わらず展開が遅くて話数もかさみそうではありますが。
続きはまた、時間ができたときに。
6681/4(243):04/08/29 04:21 ID:ghAzB07/

・・・・その29


名前を呼んだ。
いつもの呼び名で、まだ幼さを残した声で。

雨上がりで湿度が高かった。
汗ばんだ指先がかすかに動いて、緩く握りしめる私の手をくすぐった。
覗き込む先で、目元がぴくりと震える。
窓の下から遠く聞こえる車の音が、大きくなって、やがて遠ざかった。
寝ていたその人は僅かにまぶたを持ち上げて、数度瞬きした。
視線が私をとらえるのを、黙って見返す。
屈みこんで、手を握っていた片側を離し、額の髪をかきあげた。
熱い額にそっと押し付ける。
薬が効いたのだろう。
これなら、大丈夫そうだ。
もう一度声をかけ、何か欲しいものはあるか尋ねると、小声で答えた。
頷いて、額の手を離す。
―それなら確か、お母さんが冷凍庫に置いていったはずだ。
立ち上がって彼の手を放し、毛布を掛けなおした。
私のではない汗が指先に熱を持って、しとりと沁みる。
窓から差し込む光が頬に淡く、カーテン越しに部屋を照らした。
一学年上の幼馴染は、熱に浮かされた顔で枕に頭を埋めたまま、
…ぼんやりと、私を見ていた。

――五年前の秋の土曜日、それが不思議で、私は少し微笑った。

6692/4(243):04/08/29 04:22 ID:ghAzB07/

「じゃあ今日はここまでにしましょう、明日は―」

先生の言葉にノートを閉じて、筆箱をかばんにしまった。
五限が終わると同時に帰り支度をする。
放課後のざわつきが耳に忙しい。
まだ午後四時前の空は青く、風は弱くて涼しかった。
校舎を後にして、秋の通学路を辿る。
季節の変わり目は温度差が激しく、今日は昨日に比べて随分涼しい。
早く衣替えになってくれないと困ってしまう。
イトくんじゃなくたって、風邪を引きそうだ。
今日一日空席だった場所を思いながら、信号を待つ。
昨日うちに来なかったと思ったら、やっぱり今日は休みだった。
…熱が高くなければいいのだけれど。
考えながらぼんやりと中学生が横を通り過ぎるのを眺めて、懐かしく思う。
あの頃より丈夫になって、頻度は低くなっていると言っても、やっぱりイトくんは、イトくんだ。

6703/4(243):04/08/29 04:23 ID:ghAzB07/

幼馴染の靴はなかった。
代わりに玄関で慌しく出かける準備をしている人がいた。
もうパートに行っていておかしくない時間なのに、何をしているのだろう。
ドアを開けて驚き、佇む私に、お母さんはすぐに気付いた。
ものすごく助かったという顔をして私を輝く目で見つめる。
「緋衣子!ちょうどいいところに」
おかえり、も言わず、当然のように謎の袋を押し付けて
靴を履くのを再開するところがお母さんらしい。
中身を見ると、ポカリスエットの粉や風邪薬や、アイスやタッパーが入っていた。
林檎に蜜柑にペットボトルまであり、薄い袋はずしりと重い。
「もう一度これ届けに行こうと思ったんだけど、時間がないのよ。お願い」
「いいけど…イトくん、どうかしたの」
お母さんはバッグを肩にかけ、心配そうにそわそわした。
本当は仕事も休む勢いだったのだろう。
「ここまで来れないくらい具合悪くって熱高いの。さっきは三十九度だったけどまだ上がりそう」
「そんなに?」
僅かに眉を寄せて、袋の紐を握る。
…それは本当に、数年ぶりだ。
大丈夫なのだろうか。
「病院は」
「明日になっても下がらなかったら連れてくけど、ああもう時間ないわー!」
お母さんが叫ぶので、ドアを開けて横にどけ、道を作った。
この調子だと下手をすると私が怒られ始める。
「もし熱下がってきたら、できればうちに連れてきて。
 仕事今日は短めにしてもらったから、七時頃には帰るわ」
「分かった」
「じゃあね、それ宜しく」
6714/4(243):04/08/29 04:23 ID:ghAzB07/
お母さんが去っていくのを無事見届け、ちょっとだけ気が抜けた。
玄関に学校の荷物だけ置くと、制服のまま外に戻る。
見舞い袋を足元におろして鍵を回し、手ごたえを感じた状態で引く。
最近は少なかったとはいえ、そのくらいの高熱は別に、珍しいことではない。
それは、分かっていた。
…分かっているけれど。
鍵を抜き取るのにしばらく手間取りながら、動揺しているなあと自分でも思った。
ゆっくりと息をはき、喉の棘を意識的に忘れる。
崩れかけの階段を、制服のままゆっくりと下りながら、片手で髪をさらう。
一段降りるたびに袋が揺れて、膝をぶつ。
こんなことはしょっちゅうあることだと、割り切っていたのに。
意外に私もなんというか、なんだなあ、と呆れて弱った。
大体それ以前に、幼馴染だというのに問題ではあるのだけれど。
――正直、家を覚えている自信がない。
二階の一番奥でよかっただろうか。
彼の家に行くのは小学校低学年以来だ。
いつもあの人の方から、うちに来ていたから行く機会もなかった。
階段に足音が霞む。
手の平に食い込むビニール紐を握って、階段を下り切る。
まだ空の高い頭上が青くて、目にしみた。
ふとお母さんの焦りようを思って、少し不安になる。
大丈夫なのだろうか。
うちに来れないということは、歩くのも辛い状態なのだろうと、思うけれど。
そこまで考えてまた足が止まった。
風が涼しく、重い袋を揺らしては足にぶつける。
結局そういうことだ。
大丈夫だと知っていても、珍しいことじゃないと、分かっているとしても。
あの人が苦しいのは嫌だ。
顔の横を蜻蛉が飛び去って、遠くでちり紙交換のテープが単調に鳴っていた。
672234:04/08/29 04:32 ID:ghAzB07/
>632
ありがとうございます。
まゆことみぃちゃん、ずっと待っておりました、頑張ってください。


少し萌えが有り余ってるのでコソーリ
小さい頃から自宅に入り浸っていた素直で元気な血の繋がらない引っ掻き回し系お姉ちゃん、
というのは正確には幼馴染とはちょっと違うのかもしれないが…
とにかく藤ねえはいいと思います。シチュエーション的にも文句なしだ。藤ねえ最高。

…すみませんでは続きはまた。
673名無しさん@ピンキー:04/08/29 04:35 ID:8zonGpDm
キタキタキタキター!
234氏GJ!そして萌え!
ひーこはすっかり看病に忙しいようですな。
ていうか風邪引いてるとはいえ二人っきりかよ!
次回も期待しております。

あと藤ねえには同意。
なんで藤ねえルートがないのか小一時間問い詰めたくなります。
674名無しさん@ピンキー:04/08/29 05:15 ID:wiAqku81
とんでもなくちゃちい話でヤバいと思うけど
気になり出したら止まらなくなってしまいまして…一言言わせて下さい

うちの母校は夏服にも長袖あったから
衣替え前でもそんなに寒くなかったんだけど…
もしかして夏の長袖は
無い学校の方が普通なんでしょうか?
スレ違いなら書き手スレとかで質問して来ます。
675名無しさん@ピンキー:04/08/30 00:22 ID:Z+nnsc1e
自分は
冬服期間→冬服・夏服両方OK期間→夏服期間→夏服・冬服両方OK期間→冬服期間
だったな。
金持ちの学校じゃない限り、そんなに種類多く買うことは無いんじゃないのかしら。
676名無しさん@ピンキー:04/08/30 02:06 ID:PN1S8KkK
俺の高校は長袖夏服あったよ。白地に紺線・紺ネクタイのセーラーが、半袖・長袖両バージョンあった。
衣替えの間と夏服の間は、半袖・長袖どっちの夏服でもよかった。男もカッターシャツの長袖着てる奴たくさんいたし。
だから、梅雨の間や9月半ば終わりから長袖の夏服が目だったなあ。
677名無しさん@ピンキー:04/08/30 02:29 ID:d8sNkBR1
ワシが高校ん時は夏服冬服 夏服の長袖版があって時期に関係なく自分の好きなように着用可という(w
678名無しさん@ピンキー:04/08/30 14:13 ID:8hq2j/0k
>675
なるほど。寒暖の激しい日がそんなに無い地方なので(寒い日は夏でも寒い…)
物凄く疑問だったのですが、納得しました。ちなみに母校は田舎の古い公立です
>676
そう、うちも当にそんな感じでした。長袖も薄手なんですよね
男女共に半袖・長袖あって、秋になると殆ど長袖。
>677
凄いw本当にあるんですねそういう所。大らかでイイ

思えば唐突な質問でしたが、本当にありがとうございました
毎度良質なハァハァを頂いてる分も併せて言葉に尽くしがたい程の多謝です。
長々と失礼しました。
679四条 ◆JeifwUNjEA :04/08/31 04:16 ID:hZZVmeiN
一応幼馴染設定のSSうpしますた
……この設定、大して意味ないような希ガス
あまりにも長いのですが、興味がある方はドゾー

ttp://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1050075354/492-
680名無しさん@ピンキー:04/08/31 09:43 ID:sDkDxvPk
>679
純愛スレの神乙!
前編だけ読んだけど、萌えよりもえろよりも
喘息描写のリアルさが心に残りました。
今後は、喘息持ちの方は出来るだけ気遣うようにします…_| ̄|○
681四条 ◆JeifwUNjEA :04/08/31 11:50 ID:hZZVmeiN
どもです
>今後は、喘息持ちの方は出来るだけ気遣うようにします…
作中のNGワードっぽいの以外は何言ってもおっけーだと思います
もしそういう知人が居たらふつーにお話ししてやってくだされ
そっちの方が断然助けになると思われ
682名無しさん@ピンキー:04/08/31 21:15 ID:2eyoslxz
喘息を訓読みすると

あえ(ぐ)息・・・となる。

・・・ごめんなしあ
683名無しさん@ピンキー:04/08/31 22:03 ID:bQhiRLQS
うあ・・・なんか、ヴォッキする前に泣きそうになったよ。
俺も、喘息じゃないけど・・・似たような経験あったもので。

すごい好きです。これからも頑張ってください。
684名無しさん@ピンキー:04/09/01 03:09 ID:adVkYU35
自分も以前、喘息に悩まされていた時があったので、
浩の苦しさが凄く伝わってきました。
最後は悲しかったけど、とても良いお話でした。
685243:04/09/01 06:43 ID:Nge8NmRU
夏服長袖でも寒い北の方出身だったので考えたことがなかったのですが、
衣替えの周辺事情も地方によって違うのですね。
大変参考になりました。ありがとうございます。

その30です。
6861/5(243):04/09/01 06:44 ID:Nge8NmRU

・・・・その30


小さい頃、橋田依斗くんのうちに遊びに行ったことがある。
連れてきてくれた兄さんの意図は今考えれば、ただの人数あわせだったのだろう。
ともあれゲームに混ぜてもらって遊んでいると、途中で二人が喧嘩しだした。
それでつまらなくなって私は一人で帰ろうとしたのだけれど、階段で転んでしまった。
そのまま半泣きでイトくんのうちに戻ったら、二人が私に気付いて謝りたおして、仲直りした。

思い出すだけで呆れる。
年上二人も仕方なければ、私だって格好悪い。
幼馴染だからといって、支えになるような思い出も、美しい約束も特にはなく。
(もっともあの二人は互いにそういうものを持っていたかもしれないけれども)
そうこうするうちに、気付けば成長してしまった。
傍に居続けた兄さんは東京に自分の住処を持って、いなくなり。
私とイトくんもどうなるか分からない。
弟は物心つくどころか高校生だ。
―だからいつか自然に離れるはずだった。
あの人が私の手さえ握らなければ。
それを私が、心地よく思うようにさえ、ならなければ。
でももう、自然に任せて一緒にいるだけでは足りないのだ。
"幼馴染"の延長上は、もう、自分でレールを敷いていくしかない。
だって私も彼もこの先は、大人になるしかないのだから。
大人になるということは、誰の電車と同じ路線を走っていくか、
自分で決めていくことなのではないかと思うから。
だから。
寂しさにかまけて予測に怖気づいて、それを先延ばしにしている私は、きっと、彼から逃げている。
それはかえって、遠回りなのだと感づきながらも。
布を通らない針が結局何も縫い合わせることができないようなものだ。
一針、糸が行き交うごとに離れ難くなる反面、そのたび必ず痛みが伴うような。
6872/5(243):04/09/01 06:45 ID:Nge8NmRU

――風が吹いて、重いドアの軋みにかなしさを添えた。
手の中で、袋の紐が指に食い込む。
『橋田』と書かれた表札には、おじさんとイトくんの二人の名前だけ、古びた黒で読むことができた。



夢を見ていた。
誰の夢だか分からないまま、西日に顔を照らされ、目が覚めた。
顔と腕が、堅い机に突っ伏して寝ていたせいで痛い。
生温い空気の橋田家の居間は、同じ構造なのにうちとは全然雰囲気が違った。
机に読みかけの『夜間飛行』を取り上げて、目を擦って立ち上がる。
時計は五時半だった。
袋を届けてアイスを冷凍庫に入れて、ポカリスエットを入れ替えて。
風邪薬は飲んだ跡があったので、カーテンを閉めて電気を消して、毛布を掛けなおした。
イトくんは少し目を開けたけれど、また朦朧と眠りに戻ってしまったのでそっと居間に出てきた。
その後は、結局何もしていない。
部屋にいても静かに眠れないだろうし、実際する事がないのだ。
でも本当に具合が悪そうだったので、置いて帰るのも気が引けた。
イトくんが好きだといっていた本が居間の本棚にあったので、
読み倒した形跡のあるそれをなんとなく読んでみたりもしたけれど。
6883/5(243):04/09/01 06:46 ID:Nge8NmRU
群青色の文庫本の表紙を眺めて、窓に視線を移す。
もう、ほとんど日が暮れている。
居間を見渡して、テレビの裏の死角にさりげなく積まれた雑誌に気付いて、しばらく見つめた。
怪しげな表紙に、まさかと思いながら少しめくってみて、…黙って閉じた。
小さく呻いてあとじさる。
…頭に血が集まって、なんというか、その、困った。
それはここに隠しておけば、万一部屋を掃除されても、お母さんには見つからないだろうけど。
だからってこういう雑誌を居間に堂々と置くのもどうなんだろう。
なんだかどうしていいか分からなくて、変に身体が熱くなる。
別に私がどうこう言う問題でもないし、誰がいるわけでもないけれど、なんというか微妙に気まずい。
というか、初めて小さいのはどうなのかと思ってみたというか―
遠くから、パチンコ屋の宣伝の車が高い音で聞こえて、ふと我に返った。
肩の力が抜けて、深い溜息を漏らす。
人のうちの居間で何をやっているのだろう。
読みかけの文庫本を本棚に戻して閉じたドアを見遣る。
制服のままもなんだし、様子を見てから一旦帰ろう。
襟を直して、そっとドアノブを回して隙間から覗く。
まだ寝ているようだった。
風邪特有の空気がにおう床に、足を静かに踏み出す。
うちでは兄さん達が使っている位置にあるこの部屋は、同じ大きさでも随分雰囲気が違った。
イトくんの空気がする部屋だった。
絨毯は薄くて、本棚がとても多い。
カーテンの色も薄い灰色で、黒の線が斜めに模様で引かれている。
6894/5(243):04/09/01 06:47 ID:Nge8NmRU
ふと、何かが目端に入った。
横の本棚に倒れている赤い背表紙の分厚い本が目を引く。
背表紙に書かれた黒い文字が、私の意識を奪いかけた。
「……誰」
突然不審そうな掠れ声がして、すぐに意識が逸れた。
窓から漏れる西日が隠れる下で、幼馴染が薄目を開けていた。
「イトくん」
起きているとは思わなかった。
ベッドに歩み寄って覗き込む。
薄暗さに良く見えないけれど、前より顔色が良くなっていたのでほっとした。
「ひーこ」
「お母さんが仕事だから、代わりに来たの」
彼にしては随分戸惑っている視線に答えて、体温計を手渡す。
熱計って、と言い添えて、傍の椅子に座った。
「…珍しいね」
幼馴染がなんとも言えない声で呟いて、私を眺めたままで体温計を受け取る。
風邪特有の声が苦しそうで胸が押された。
熱を測っている間はすることもないので、とりあえず電気をつけた。
そのまま、さっきの本棚に視線を向ける。
横でごそごそと起き上がる気配を感じながら、ぱっと明るくなった部屋で、
赤地に書かれた黒文字を改めて眺めた。
大学別過去問集の、いわゆる赤本だった。
一冊だけのその本の意味が、心の中を泡立たせる。
どう考えればいいのか分からなくて、制服の袖を緩く掴んで視線を揺らす。
しばらく言葉を飲み込んで、それでも聞きたくて、朦朧と熱を測る彼を見つめた。
そして、目がかすかに滲んだ。
言葉が薄れて喉の奥に霧散する。
さっきより良くなったといっても、明るい光の下で見れば充分具合は悪そうで。
6905/5(243):04/09/01 06:47 ID:Nge8NmRU
ピピ、とかすかな音がする。
イトくんは表示を眺めて、少し安心したみたいに私に渡した。
…三十八度二分というのは、一応下がったことになるのだろうか。
電子表示から視線を彼に移すと、視線がはたりと合った。
かすかにはやまる脈を感じて、身体が自然に動いた。
幼馴染が黙って、私の動きを目で追った。
椅子から腰を浮かせて、肘を伸ばして、一瞬、躊躇う。
頬にそっと指で触れ、手の平で覆った。
熱かった。
「具合、どう」
「風邪移るよ」
イトくんが、なぜかおかしそうに、少しだけの気遣いを混ぜて目を細める。
その答えになってない答えで、僅かに気が抜けた。
何をさせたいのかこの人は。
仕方なく溜息をついて頬の手を離そうとすると、熱い指先に引きとめられた。
重ねられた力が、いつもと違って弱くて遠慮がちでかえって動けなくなる。
その熱で緩く手の甲を撫でられると息が詰まった。
―今更意識するのも変だけれど、この人の手は、本当に男の人で。
絡んでしまった視線をほどけなくて、顔が余計に血を通わせる。
私は何をしに来たのだろう。
これじゃあ、全然、看病になんてなっていない。
重なった手が熱かった。
触れる前に一瞬混じった吐息が熱くて、いつもと違うと気付く。
風邪なのだから、いつもと違って当たり前かもしれなかった。
でもそんな思考は全部、心臓の音に掻き消えて飛んだ。
自分からするのは初めてだった。
彼がするまえに、屈んで、ぎこちなく唇を重ねた。
頬に触れた手の上を、なぞる指が僅かに震えた。
691243:04/09/01 06:51 ID:Nge8NmRU
では、続きはまた、時間ができたときに。
…このまま雪崩れ込んだら片方が途中で力尽きそうなので本番はまだです_| ̄|○スミマセン
692名無しさん@ピンキー:04/09/01 07:01 ID:fO64aSUX
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあwdじゃpうぃおdfjぱおfjぱあ!!!!!!111111111111
リアルタイムでキター!!
ついにひーこが自分から!うおおおおおおお!
……失礼、少々落ち着きます。
相変わらずの繊細な描写、思わずため息がでてしまうくらい良いです。
イトくんはいったいどこの赤本を持っていたんでしょうか?激しく気になりつつ、次回を期待させていただきます。
693名無しさん@ピンキー:04/09/01 11:19 ID:Uwbn7Bh6
GJ!
スラスラと読めてそして面白いw
描写も(・∀・)イイ!!
次回も期待してます。
694名無しさん@ピンキー:04/09/01 12:21 ID:HmpT3dPV
前に色っぽいという話がありましたが、まさにそんな感じですね。
文章と一緒に画が流れて行く感じ、とても良いです。
695名無しさん@ピンキー:04/09/04 05:14 ID:aeMfka8b
あいかわらずすばらしい。
次回も期待ホシュ
696名無しさん@ピンキー:04/09/04 09:27 ID:HX8qbyLH
なるほどなー、タイトルってそういう意味だったのねと
あらためて感じました。
ひーこからするキス、はもちろんキターーーーーーーーでしたし
赤本もハゲシク気になるところですが、
1の後半の、

>大人になるということは、誰の電車と同じ路線を走っていくか、
>自分で決めていくことなのではないかと思うから。

に感嘆しました。
師匠と呼んでもいいですか>243様
697243:04/09/05 02:45 ID:ZmkJpoLd
二人の名前が「赤い糸」にかけてあるので、
タイトルも折角なので、二人の名前にかけてみたりとか。

ちょっと所用で海の向こうに暫く行って参りますので、次回お待たせします。
出立前に落としたかったのですがタイムリミットでかないませんでした。
すみません、いつもありがとうございます。

では職人様方の新作や続編を期待しつつ、次回は九月中旬〜下旬に。
698名無しさん@ピンキー:04/09/05 03:34 ID:WKbDD8pd
お気をつけて!(^^)/
699名無しさん@ピンキー:04/09/10 09:28 ID:T7dmyt+g
保守
700前スレ812:04/09/11 02:04:39 ID:PVUMR0AC
243様を待ちつつ、保守がてらに投下させていただきます。
今回少々見切り発車気味。
701前スレ812:04/09/11 02:04:52 ID:PVUMR0AC
五月の黄金週間初日。休みの間にシリーズ物をまとめて読もうと図書館に出かけて帰ってくると、わた

しの部屋のベランダにでるサッシの前で、瑞穂ちゃんが寝ていました。
――ああ、買ったばっかりなのに、わたしのクッション…。
お気に入りの、パグを象った可愛らしいビーズクッションを枕代わりにしています。
昔から、『アタシの部屋よりアンタの部屋のほうが日当たりいいからなあ』などと言って、しょっちゅ

う昼寝しに来ていました、そういえば。
「ちょっと、もー。起きてくださいよ」
「…何だよ、うるさいな。俺の部屋よりオマエの部屋のが日当たりいいんだよ、ちょっと寝かせろ…」
そう言いながら、すでに瞼が落ちています。
…こうやって寝ていると、起きている時はキツ過ぎる目つきや意地悪そうな険のある表情が無くなって

、どこか可愛らしくすらあります。
…というより、悔しいですが、瑞穂ちゃんはやっぱりやたらと整った、えらく綺麗な顔立ちをしていま

す。普段は浮かべている表情のせいで、気づきにくいのですが。
「…子供みたい」
いつも見上げてばかりいる顔が、ずいぶん下にあるのがなんとなくおかしくなって、顔を覗き込もうと

しゃがむと、ぱちり、と目が開きました。
702前スレ812:04/09/11 02:06:19 ID:PVUMR0AC
「あ」
ぐいっと。
腕を引っ張られ、そのまま、彼の胸の上に倒れこんでしまいました。
「わ、うわっ!?」
そのまま、ぎゅうっと抱きしめられます。い、痛い、苦しい…っ。
「ちょ、ちょっと! なにするんですかっ!?」
答えは無く、かー。と、いびきだけが聞こえてきます。
「…まさか、寝ぼけてたんですか…?」
とにかく離してもらおうと、じたばたと、渾身の力を込めてあちこち叩いたり蹴ったりしましたが、
ぬいぐるみか抱き枕よろしく、がっちり抱きかかえられて腕の力はちいとも緩んでくれません。
それどころか、逆に力を込めてきます。…つ、潰れるっ…。
「だ、駄目だ…」
暴れすぎて先にこっちの体力の方が底をつきました。
「…起きるまで待つしかないんでしょうねえ…」
はあ。
「…ホントに、子供みたい」
抵抗をあきらめておとなしくする事にしました。
そうすると、こっちを潰さんばかりに抱きしめていた力は緩みましたが、相変わらず抜け出せないくら

いの力で抱きしめて、離してくれません。

うううううう。
恥ずかしい。

何だか、強い腕とか、広い胸とか、綺麗に筋肉の張った首からアゴのラインとか、そういった男の人に

なってしまった部分を猛烈に意識してしまって、急に心臓が落ち着かなくなりました。
…や、やっぱり駄目だ。何とかして離れないといけません。
703前スレ812:04/09/11 02:09:17 ID:PVUMR0AC
「――瑞穂ちゃん、みいちゃん、起きてくださいっ! 起きてっ!」
必死でごそごそと動き、耳元に口を近づけて大声で怒鳴ります。結果的に、ますます密着の度合いを深

める事になってしまいますが、このさい仕方がありません。
「…ぅう」
必死に声を張り上げた甲斐あってか、ようやく瑞穂ちゃんは起きてくれました。
「ああ、ゴメンゴメンまゆー。俺、ちょっと寝ぼけてたみたいだなあ」
目を開けた途端に、ものすごく爽やかな笑顔で言われました。
―――なんだか。とても、わざとらしい。
「…瑞穂ちゃん」
「んー?」
「…いったい、いつから、起きてたんですか?」
渾身の力で笑顔を作り、さりげなく聞いたつもりですが、こめかみがひくひくと震えるのが自分でもは

っきりとわかりました。
「変な事をいう奴だなー。そんなの、ついさっきに決まってるダロ?」
「う――、ウソだあっ! 起きてたでしょう、絶対寝たフリして遊んでたでしょうっ!?」
「いや、ホントに寝てたって。起きたのは――、そうだなオマエがポカスカ殴ってきた頃か」
「やっぱり起きてたんじゃないですかあっ!」
うわあもうあたまにきたあー!
わたしが必死に抜け出そうと頑張ってたのも、恥ずかしい思いして耐えてたのも、もっと恥ずかしいの

に、あんなに身体を密着させてまで頑張ったのも、全部無駄だったんですかー!
「まあそのなんだ、そんなに怒るな、まゆ。俺の立場にもなって考えてみろ」
「…みいちゃんの、立場ですか?」
「そうだ。せっかく気持ちよく昼寝をしてたというのに、いきなり殴られ耳元で大声出されて、暴れら

れたんだぞ?」
704前スレ812:04/09/11 02:10:23 ID:PVUMR0AC
う。
それは、たしかに。たしかに、わたしもちょっと悪かったかも――。
「その分を取り戻すべく、女体の柔らかさを堪能しても悪くは無いとは、思わないか?」
「思うわけがありますかーっ!」
ここここここの。この人はもうほんとにーっ!
「言っときますけど、その考え方はあまりにも変態的に過ぎますよっ!?」
「だってなあ。起きたらすごく抱き心地のよいものが腕の中にあったんだぞ? 普通、離さないだろ?


「…起きたんだったら、すぐに離してくださいよ…。もう…」
よくもまあ、痴漢行為をここまで堂々と胸を張って正当化できるものだと思います。
とにかく、借りてきた本を机の上に置いて、至福の読書タイムの準備に取り掛かります。
「…ホントにもう。そもそも、何で勝手にわたしの部屋で寝てるんです? 留守中に女の部屋に上がり

こむものではありませんよ?」
「なにをいまさら。俺がオマエの部屋で寝るのなんかいつもの事だっただろうに。――それに、こっち

の方が安眠できるんだよ。なんか、落ち着く」
そういって、今度はベッドにもたれかかると軽く目を閉じてしまいました。
…うー。
なんか、そういう言われ方されたら、出て行って貰いにくいじゃないですか。

「わ――、わかりましたよう。だったら、別に昼寝くらいしててもいいですけど…。その…」
「けどその? なんか条件付き?」
「じょ、条件っていうか、あの、…変な事は、しないように」
「…変な、事って?」
「へ、変な事って言ったら変な事ですっ。…だ、だから、あの、さっきみたいに、いきなり触ったりと

か、抱きついたりとか、そ、そういう、いやらしい事は、その…」
言っているうちに、さっき抱きつかれたときの事を思い出してしまい、顔に血が一気に集まってくるの

がわかりました。
705前スレ812:04/09/11 02:10:55 ID:PVUMR0AC
うわーん、なんでー!?
別に好きじゃない――、それも、元々は同じ女の子だったみいちゃんに抱きつかれただけで、なんでこ

んなに真っ赤になっているのでしょうわたしときたら。
ううううう。イヤだなあ、わたし、こんなにはしたない女だったのでしょうか。
「――わかったわかった。さっきはちょいと冗談が過ぎたな、悪かったよ、ごめん。『いきなり』触っ

たり抱きついたりとかは、もうしないから」
その言葉を聞いて、ちょっとだけほっとした気持ちになりました。
「な、なんか、飲み物でも取ってきますね、おかあさんに、おやつか何か無いか、聞いてきます」
「――ああ、言い忘れてた。おばさんならいないぞ。仕事のシフトが変わって、急遽、深夜勤になった

そうだ」
――え?
「看護婦さんってのも大変だよなー、ホントに。休みのはずが急に仕事だもんな。あ、夕飯は準備する

ヒマなんざ、当然無かったから適当に食べとけってさ」
思わず、ドアに手を掛けた姿勢のまま固まりました。
――たしか、おとうさんは、今朝、出張で北海道に。
あまりの事に固まったままでいると。
「――今夜は、二人っきりだな、真由子」
耳元で、ぞわぞわするような低音で囁かれました。
「ききき、禁止ですからねいやらしい事禁止ですからね――っ!!」
思わずドアに背中をへばりつかせるような格好で叫びます。
お、音も無く背後に立つのは本当に止めてほしい…っ!
706前スレ812:04/09/11 02:11:45 ID:PVUMR0AC
「冗談だっての。ところで、今日は夕食どうする気だ? 買い物に行くならそろそろ行ったほうが良い

んじゃないのか、もう17時近いが」
ありゃ。
瑞穂ちゃんに捕まってる時間が、思いのほか長かったみたいです。
「え、あ、本当だ。とりあえず、冷蔵庫見てきます…」
「おばさんが出る前に見せてもらったけど、あんまり何にも無かったぞ。あのさ、まゆー、俺コロッケ

食べたい。玉葱はあったけど、じゃがいもと挽肉は無かったな」
うーむ。
揚げ物ですかー。あんまり得意ではありませんが、コロッケならば火の通り具合にそれほど神経質にな

らなくても大丈夫でしょう。よし。
「…わかりました、それじゃ、買い物に行って来ますね」
ええと確か水菜があったからカニカマ買ってきてサラダを作って、後はおとうふのお味噌汁なんかでい

いでしょうか。
「あー、俺も行こう。荷物もちだ」
「いや、別にそんな買い込みませんよう。留守番しててください」
「いい。ヒマだから行く」
…ワガママだなあ…。別に、いいですけどね。
近所のスーパーで買い物をして、夕暮れの中を二人で歩くと、長く影法師が出来ました。
少し遅くなりましたが、みいちゃんにも手伝ってもらえばそう送れずに夕飯にすることが出来ると思い

ます。
…まさかしないとは思いますが、今晩は、さっきみたいなイタズラされたら困るなあ。
たぶんいつもみたいに夕飯の後も寝る寸前まで我が家で過ごしていくのでしょうし、その間、今夜は二

人っきりという事を考え出すと、なんだか胃の下あたりがきゅうきゅうしてきます。
隣を見上げると、あんまりにもいつもどおりの顔で、少しだけ腹が立ちました。
くそう、なんでわたしだけこんなに緊張しなければならないのでしょう、理不尽な。
707前スレ812:04/09/11 02:14:16 ID:PVUMR0AC
以上で今回分終了です。変なところで引いたので、出来るだけ早く続きを書きたいと思います。
それでは、また。
708名無しさん@ピンキー:04/09/11 02:31:43 ID:iHd/OX8J
ちゃんと買物に着いてくる辺りワラタ
厳重にガードしてるんだから虫はそうそう付かないと思うのに(w
709名無しさん@ピンキー:04/09/11 22:47:32 ID:5yxf9Xkp
バッカだなぁ
単に一緒にいたいに決まってるジャン!(ノ∀`)

前スレ812さんありがとう!!!
あーしやわせ。
彼女視点で描かれてるのに
私(読む側)の視点はどっちかというといぢめる彼氏側で
いぢめられてる彼女をみて喜んでる…
不思議で面白いです。

続きは早めに来るそうで、それも楽しみ!
あーもー、こんな良作ばっかりで…職人さんたち、ほんとにありがとう!!
710名無しさん@ピンキー:04/09/15 23:21:50 ID:NKPjuv/o
(´ー`)
711名無しさん@ピンキー:04/09/16 19:22:15 ID:K2PtO5t1
相も変わらず幼馴染マンセー。

|-`).。oO(時間が無くて書きかけで放置しちゃってるのがあるけど、いつか書こう……
712名無しさん@ピンキー:04/09/17 21:50:50 ID:IUghLF0e
ttp://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1095344793/199-
現在進行中。
悪いけど、ルール熟知するまでは参加しないでね。
713名無しさん@ピンキー:04/09/19 01:10:51 ID:AFYHgIaV
>>452
岩手県の平泉はどう?
七月に行ってきたけど、寺と北上川と束稲山がきれいだった。
714名無しさん@ピンキー:04/09/19 01:11:32 ID:AFYHgIaV
激しく誤爆した_| ̄|○
715名無しさん@ピンキー:04/09/19 13:10:54 ID:qUk03PDK
>>713
幼馴染みと二人旅か、激しく羨ましいぞ!
716名無しさん@ピンキー:04/09/19 14:34:47 ID:LcePR7d/
>>713
貴様!
登山の最中足を挫いた幼なじみを背負ってみたり、
部屋が足りなくて幼なじみと一つの部屋に泊まったり、
混浴の露天風呂に入って二人きりで星空を眺めたり、
あまつさえ夜部屋で寝る前にじゃれあってたら
いいふいんき(←ry)になってハァハァしちゃったりしたというのか!!

なんてうらやましいやつだ!
717243:04/09/20 00:40:11 ID:U8n1WJGM
お久し振りです。
一人旅ばかりなのでたまには幼馴染と旅行に行きたい。(いないけど)


その31.
くっついたのに相変わらず進展が遅くて申し訳ないです。
そして平泉はいいところ。
7181/4(243):04/09/20 00:41:10 ID:U8n1WJGM

・・・・その31


「イトくん」
と呼ぶと、同じくらいの背丈が、こちらを振り返った。
それから、少し黙って、それから、笑った。
「ひーこ、だっけ。ハルトモには言っちゃだめだよ」
太い油性ペンでこっそりと、間違った問題に×印を落書きする近所の男の子に、素直にうなずく。
ちょっと、ひどいなと思って、怒りかけて、でも思いなおした。
いつもお兄ちゃんはこの弱そうな人をいじめているのだから、それくらいはしてもいいんだ。
「イトくんあたまいいんだね」
「勉強なんてできても、体育が出来ないとかっこわるいししもてないよ」
体育に関しては、小学校の科目なので、そのときはよく分からなかった。
「そうなの?」
「そうだよ。ひーこだって、ハルトモは人気があるって分かるだろ」
分からなかったけれど。
そういってつぶやくひとつ上の男の子が、なんだか悔しそうだった。
「わかんない。どーでもいいよ」
幼心に、理不尽だなんて言葉は知らなかった。
だけど、どうしようもなくそう思って、小さな反抗をした。

なんとなく蘇った記憶に、静かな部屋の床を見る。
本当は、兄さんに友だちが大勢いることくらい、知っていた。


7192/4(243):04/09/20 00:42:07 ID:U8n1WJGM


「下着つけてないね?」
「……」
なんでそんな質問に答えなくてはいけないのか。
見えないようにパジャマの襟を寄せる。
すごく興味深そうに言う幼馴染に呆れて、ベッドの上で彼を見上げた。

風邪が移ってしまって、私まで休むことになった。
そう具合も悪くないし、ちょっと熱っぽいだけなのだけれど、
皆も受験生なのだから移してはいけないと思って休んだ。
聞き逃してしまうだろう授業のことを思うと、溜息が出る。
文化祭の準備にも穴を開けてしまうし。
今日明日と寝て、彼岸休み明けには、治っていることを祈りたい。
ほとんど治っている幼馴染も一応、大事を取って休んだままだ。
7203/4(243):04/09/20 00:43:25 ID:U8n1WJGM

それで、
午後までの留守番の間、生姜湯を作って持ってきてくれたはずだと思ったのだけれど。
いきなり力が抜けて、感謝の言葉が頭から消えた。
熱いカップを受け取って、ベッドが、脇に腰掛けた重みで軋むのを聞く。
身体をずらして離れると、ちょっと不本意そうな顔をして、幼馴染が肩を竦めた。
「言ってみただけなのに。信用ないなあ」
生姜湯の熱を一口含み、久し振りの風邪の飲み物を眺め、無視した。
…微熱のはずなのに、無意味に顔が熱いのが悔しい。
つけていなかったらどうだというのか。
無理に何かしようとする人ではないと知っているけれど、そういう発言をするのはやめてほしい。
湯気を吸い込むと少し落ち着いて、軽く息をつく。
特有のこの香りは、インスタントだけれど、小さい頃からうちに常備されている。
少し飲んで膝上に置くと、パジャマの薄い生地のせいで熱くてまた離した。
部屋の空気が、少し寒い。
「そういえば、ひーこ」
「…何」
「ぼくが休んでる間、何か変わったこととかあった?
 文化祭の方は携帯で連絡してるから、それ以外で」
自分に淹れたインスタントコーヒーから口を離して、幼馴染が言う。
こぼしたら緊急事態なので、今は流石のこの人も、触ったりしてこない。
こんな風に移ったのは、あの後抱きしめてキスしかえされた、
その時間がおかしいくらい長かったせいだと思うし。
まあ、最初にしたのは私なのだから、こちらの非は認めるけれども。
自分が何をしに行ったのか本気で分からない。
7214/4(243):04/09/20 00:44:35 ID:U8n1WJGM
思い出すと熱が上がりかけたので、生姜湯に目を落とす。
どれくらいの早さで飲み終えようか、迷ってまた一口熱さを喉に流した。
「特にないけど。七月の模試の結果は出てた」
「ひーこ、成績表持ってきたっけ」
「私、受けてないもの」
呟くように返して、溜息をついた。
言ってから今更、少し後悔する。
イトくんが、あぁと頷いてカップを膝に置いている様子は、いつも通りだったのでいいけれど。
別に彼にとってはどうという日でもなかったろう。
足を捻挫したあの模試の日のことは、私にとってはひどく大きな出来事だった。
横目で、近い距離に自然に座る男の人を、眺める。
平日の昼時に、こうしているのは妙に現実感もなくて、不思議な気がした。
いつまで続くだろうと思いながら、カップを持つ手が熱くて、また一口飲む。
まだ、聞けずにいるけれど、帰り際に大学案内まで見つけてしまったのだし。
それにいつかは、知らずにはいられないことだ。
正座していた膝を崩して、枕のすぐ脇に腰を落とす。
風邪特有のぼんやりとした意識が、なんとなく沈んでゆらめいた。
足の下の毛布が、柔らかくて影になる。
いつの間にか、イトくんが半分日常的になった仕草で手を伸ばして髪を梳いていた。
それを黙って感じながら、カップを持ち直した。
落ち着かなさが最近、安心感に少しずつ侵食されていて、それはそれであたたかく。
大分温度のやわらいだ生姜湯を、言葉を隠しながら飲む。
ちらりと見ると、目が合った。
722243:04/09/20 00:45:54 ID:U8n1WJGM
少々中途半端ですが。
続きはまた時間のできたときに。
723名無しさん@ピンキー:04/09/20 04:58:33 ID:90TcWOfH
243さん復活!!
またこれから毎日がワクワクですよ!
724名無しさん@ピンキー:04/09/21 00:58:22 ID:sqctJtbq
復活お待ちしておりました。
ほのかなエロさが良いです。
725恥じらい肛門丸:04/09/21 10:41:48 ID:oHxIHTM7
『OO銀行に立てこもっているのは、十数件に及ぶ強盗殺人で、すでに全国指名手配
されている富塚久史(とみづか・ひさし)と、沢野美幸(さわの・みゆき)。共に、二十一歳
の若者です。銀行内では人質が取られており、警察は特殊部隊の投入を検討・・・』

・・・というニュースを、俺はその銀行内にあるテレビで見ている。おっと、犯人の写真が
出た。案外、男前じゃないの。うん、まるで俺みたいな色男・・・っていうか、俺。そう、実
は今、ニュースで流れている立てこもり犯というのは、俺の事である。そして、
「いよいよこれまでかって感じだね、久史」
そう言って、笑っているのは美幸。冒頭のニュースで紹介された、俺と同じ立てこもり犯
であり、一応はマイ・彼女というべき存在。お互い付き合いは古く、いわゆる幼馴染という
間柄なのだ。

「人質、全員殺しちゃったのはまずかったな」
「だって、あいつらギャアギャア騒ぐんだもの。腹が立って」
「お前は、気が短すぎるんだよ」
銀行に立てこもって早々、美幸は持っていた散弾銃で人質数人を殺めていた。俺たちが
ここへ押し入った時、パニクッたお客や、行員さんたちが騒いだから──というのが、その
理由。

「それにしても」
今や物言わぬ屍となった人質の皆さんを見ながら、俺は美幸に向かって言う。
「弾除け用の人質くらいは、残しておくもんだ」
「ごめーん」
謝った美幸の顔が可愛い──俺は、こいつのこの笑顔が好きだった。この笑顔のためで
あれば、何でも出来る。それは、昔から今もずっと──
726恥じらい肛門丸:04/09/21 11:11:00 ID:oHxIHTM7
ここで諸兄には、俺たちが全国に指名手配をされる訳を話さなければなるまい。その
訳というのは、凡庸ではあるがズバリ、金。マネーである。美幸の半生は不幸であった。
ここからは回想モードになるが、涙もろいお方はハンケチのご用意を。

「え・・・おじさん・・美幸のお父さんが経営していた会社が、倒産・・?」
「うん。父さんが、倒産したって・・・えへへ、駄洒落言ってる場合じゃないね」
高校三年生の夏、美幸の口からそんな事を聞いた俺は驚愕した。世で不況が叫ばれて
いた、数年前の話である。
「借金が出来ちゃって・・・あたし、風俗で働こうと思ってるんだ」
美幸は微笑みながら、そんな事を言う。気丈に振舞ってはいるが、不安で胸が押し潰
されそうなのが、手に取るように分かる。負けず嫌い。それが、彼女の持ち味だった。

「一緒に卒業できなくてごめんなさい」
美幸が鼻声になって呟く。泣いているのだ。しかし、当時ボンクラ高校生だった俺は、彼女
を救う術を持ち合わせていなかった。ただ、ずっと一緒だった幼馴染が遠くへ行ってしまう
という予感が焦燥となって、心を燻らせている。

「あと、数ヶ月じゃないか。何とかならないのか?せめて、高校を卒業するまでは・・・」
俺は、美幸の震える肩を抱きながら言った。恥ずかしながら、俺も泣きベソをかいている。
それを見た美幸も、ついにはぽろぽろと大粒の涙を零し、
「だめだよ」
と言って、俺の背中へ手を回し、ぽつりと呟いた。

「さよならの記念に、あたしの処女・・・貰ってくれる?」

・・・とまあ、そんな訳で俺は美幸の初めての男となった。ついでに言うと、俺も美幸が
初めての女である。ここで、回想はいったん打ち切り。銀行を囲む当局の動向を伺うと
しよう。
727恥じらい肛門丸:04/09/21 11:35:36 ID:oHxIHTM7
「久史、あれ・・・SATじゃない?」
「多分そうだ。対テロリストの訓練を積んだ猛者どもだぞ。まいったな、こりゃ」
僅かに開けてある窓から外を見ると、陸上自衛隊が羨む様な装備を持った、覆面姿
の警察官がいた。彼らはSATという、全国から選りすぐられたお巡りさん。そう言うと
おちゃめな感じだが、彼らは普通のお巡りさんとは違い、テロ鎮圧の訓練を受けてい
るので発砲をためらわない。いざとなれば、人質ごと犯人を撃っちゃうような粋な人々
なのである。

「SATが出てくる前に、サッと逃げたかったのだが」
「ぷッ!くだらない駄洒落」
俺がギャグをかますと、美幸は笑った。この笑顔のためならば、何でも出来る──
いつもの事だが、そう思う。もし、ここが人質さんたちの死骸が並ぶ銀行内じゃなくて、
外国のリゾートビーチかなんかだったら楽しいのだが、現実は過酷である。そうそう、
過酷といえば、美幸が学校をやめてからの話が抜けていたっけ。再び回想モード
スタート。今度はちょっと、生臭くなります。

「美幸、OO町の風俗で見たぜ」
・・・という話を耳にしたのは、卒業を間近に控えたある日の事。俺は、学校一のすけ
べえ男からそれを聞かされた時、正直、血が逆流するほど腹が立った。
「あいつ、俺のケツの穴まで舐めたぜ。学校やめたって聞いてたから、変だなとは思っ
たけど、まさか風俗にいるとは・・・。オマンコは緩々だった。ありゃ、そうとう客とってるな」
そいつは意気揚々として、美幸の現状を語った。それも、級友たちの前でだ。
「あいつ、俺にやられてる時は泣いてた。みんなには言わないでとか・・・うわッ!久史、
何をしやがる・・・」
言い終わる前に、俺は学校一のすけべえ男をぶん殴っていた。美幸が風俗で働き、それ
を級友に見られて、泣きながら秘匿の懇願をする・・・その気持ちが、痛いほど分かった
からだ。
728恥じらい肛門丸:04/09/21 11:53:06 ID:oHxIHTM7
その日、いい加減、学校一のすけべえ男を殴ってから、俺は美幸が働いているという
風俗店へと足を運んだ。会いたい──その気持ちが、先走っている。
「しばらく会わない方がいい」
処女を頂戴した日、美幸からそう言われていた。しかし、俺は会いたかった。だから、
なけなしの金を握って、店内へ入り込んだのである。

「いらっしゃいませ、誰かご指名ですか?」
入店早々、強面のお兄さんに上記の如く問われ、ビビる俺。しかし気を奮い、風俗嬢の
顔写真が貼ってあるパネルを注視し、美幸の姿を探していたその時・・・
「やだ、OOさんたら・・・」
きゃあきゃあとはしゃぎながら、廊下の奥から下着姿に近い格好の美幸がやってきた。
どうやら客を送る途中らしく、見るからに好色そうなジジイと腕なんか組んでやがる。

「美幸!」
思わず俺は叫んでしまった。僅か、半年会わないだけで、彼女は随分変わっていたか
らだ。
「あッ・・・久史」
美幸も俺に気がつき、表情を強張らせる。久しぶりに会う彼女は、肌が荒れ、顔色も良
くなかった。それに、痩せた印象がある。疲れているのだろう、足取りだって怪しい。
「ひ・・・さ・・し・・」
言葉を詰まらせる美幸。俺は、風俗店の受付前で微動だに出来ないでいる。声を掛け
るには、あまりにも痛々しい姿だった。
「こ、こんな姿・・・見られたくなかった・・・」
ついに美幸は跪き、泣き伏せってしまう。この時、俺は確信した。彼女はもう、限界で
ある、と。そして、彼女を救うのは金。金しかない──と。
729恥じらい肛門丸:04/09/21 12:09:44 ID:oHxIHTM7
「絶対に、お前をここから救ってみせるからな」
俺は美幸にそう言って背を向けた後、その足で近くにあるコンビニへ入った。そして、
店員を刃物で脅し、金を奪ったのである。これが、記念すべき第一回の強盗であった。

「はあ、はあ」
パトカーのサイレンが鳴り響く中、俺は息を切らしながら風俗店へ向かう。そして、強面
のお兄さんにお金を渡し、
「美幸を返せ!」
と、頼んだ。これは後で知るのだが、美幸は別段この店に借金している訳ではない。なの
に、俺は持っていた金の全てを叩きつけ、美幸の名を叫ぶ。おバカさんにも程があるのだ
が、とにかくこの時は必死だった。
「久史!」
店の奥から美幸が走ってくる。彼女には予感があったのだろう、俺が何をしてきたのかが、
分かっているような表情であった。

「美幸」
「逃げよう!久史、逃げるのよ」

それから俺たちは家にも帰らず、悪行の限りを尽くすこととなる。詳細は省くが、犯した罪
が十数犯にも及び、お縄になっていないのが不思議なくらいだ。そして今、SATに囲まれ
絶体絶命の大ピンチ。はっきりいって、ここが引き際とも思う。回想はここで全部終わり。
長々とお付き合い頂いて、恐縮至極なり。

「自首するか、美幸」
俺は拳銃を構えつつ、言った。するとやつはきゅっと眉を吊り上げ、
「もう、離れ離れは嫌よ」
と言って散弾銃のセーフティを外す。立てこもっている時間からいって、強行突入の時が
近づくのを理解しているようだった。
730恥じらい肛門丸:04/09/21 12:28:28 ID:oHxIHTM7
「こっちへ来いよ、美幸」
「抱いてくれるの?だったら、行くわ」
俺が手招くと、美幸は穿いてたジーパンを脱ぎ捨てる。下着は着けていないので、
すぐに素肌が目に飛び込んでくる。恥毛は濃く、アソコを全て包み隠すほど茂って
いた。

「久史も脱ぐのよ。しゃぶってあげるわ」
美幸が俺のズボンを下ろし、ポコチン君をぱっくりといってしまう。緊張のためか、俺の
モノはさっきからギンギンに反り返り、先走りを漏らしていた。
「あむ・・・うん・・ん」
「ああ、美幸・・・」
俺は立ち姿勢で、跪いた美幸の髪の毛を手で梳きながら考える。こいつだけは、死な
せたくない・・・俺はともかく、美幸だけは逃がしてやりたい。そればかり思っていた。

「寝転がって、久史。あたしが上になるから」
血だまりのすぐ脇に寝転がり、俺と美幸はひとつになった。人質の死体に囲まれている
のが多少気にはなるが、俺はこの瞬間が好きである。単純に、世の中で一番好きな異
性と肌を合わせる瞬間は素晴らしいものであると同時に、至福を齎せてくれる。俺は、上
になった美幸の尻を持ち、懸命に腰をゆすった。

「ああ・・ん・・い、いいわよ・・久史・・・ふふふ」
彼女曰く、騎乗位は男を征服している感じがして、とても良いそうな。自分で腰を使う事
が楽しいらしく、いつも美幸はこの体勢を好んで、淫靡に笑う。
「この時間がいつまでも続けばいいのにね・・・」
「俺もそう思う。もうすぐ、出るぜ」
至福の時というものは、大概が短いものだと俺たちは分かっていた。だから、いつも願う
ような口調になる。そして俺は美幸の膣内で冥利を果たし、粘液を大量に放出したので
あった。
731恥じらい肛門丸:04/09/21 12:46:22 ID:oHxIHTM7
「照明を落とした。強行突入してくるぞ」
「いよいよね」
銀行前から報道陣が消え、静寂さが漂っている。テレビ内の画像に変化が無いのは、
おそらく報道規制がされているからだろう。そうなると、SATの出番だ。

「死ぬときは一緒よ、久史」
「ああ」
美幸がそう言って、笑った。一応、俺も頷きはしたが、本心は違っている。
(お前だけでも、逃げてくれ)
嘘偽りなく、そんな事を考えていた。その直後である──

「伏せろ、美幸」
「きゃあッ!」
ガシャン!と、銀行の窓が割れ、猛烈な光と煙を放つ弾頭が入ってきた。これは、スタン
グレネードと呼ばれる、暴徒鎮圧用の特殊弾。まあ、これは予測の範囲内であった。俺
も美幸も破裂音がする前に、目を瞑って耳を塞いでいるから、ダメージは無い。が、問題
は煙の方。

「催涙ガスだ。もうここには居られない。打って出るぞ、美幸」
「ウン。あなたとなら、いつまでもどこまでも!」
SATは裏口か窓から侵入してくると読み、俺たちは正面のシャッターを開放した。銀行の
前にはお巡りさんがたくさん居るが、SAT並みの装備は持っていないはず。それならば、
強行突破がしやすいと思ったのだ。鍵のついたパトカーもあるし。だが・・・

「動くな、富塚、沢野!抵抗すれば、撃つ!」
そう言う一般のお巡りさんたちも、相当な装備を持っている。まあ、仕方ないか。何せ、こち
とら凶悪事件ばっかり起こしてきた人間だしなあ・・・なんて思ってたら!
732恥じらい肛門丸:04/09/21 13:04:14 ID:oHxIHTM7
「くたばれ!」
と、美幸が早々に発砲。彼女が持っているのは散弾銃なので、盾を持っている機動隊員
はほぼ無傷である。この銃はその名の通り、弾が散っちゃうので、近距離での発砲が基本
なのだ。要するに、弾の無駄遣い。

「犯人が発砲したぞ!応戦せよ!」
美幸の発砲に対し、機動隊は発砲許可を下す。SATが出てきて面子を潰されたのか、怒り
心頭といった雰囲気である。しかし、これはマズイぞ!美幸が蜂の巣になる。
「建物伝いに走れ、美幸!」
俺は片膝をつき、拳銃を構えた。勿論、標的は機動隊員の皆さんである。今、お巡りさんたち
の銃口は、美幸の方ばかりに向いている。あいつを、死なせるわけにはいかない──

「こっちだ!」
俺は拳銃を撃ちまくる。オートマチック銃の弾の装填数は十二発。ものの五秒で、全部撃っ
てしまった。が、しかし、その甲斐あって、お巡りさんたちの注意はこっちへ向いた。その隙に、
美幸が歩数を稼いでくれれば・・・俺は向けられた銃口を見つめながら、思う──

「撃て!」
現場を指揮しているおっさんがそう叫んだ途端、右足が熱くなった。気がつくと、膝から下が
無い。銃弾で吹っ飛んでしまったようだ。
(だめだ、こりゃ!)
思わず前のめる俺。体のあちこちが熱い。どうやら、かなりの弾数を食らっている模様。その
間にも銃声は重なり、いよいよ意識が遠くなってきた。

(美幸!)
あいつは逃げてくれただろうか。俺は美幸が走って行った方を見る。生きてくれ、逃げてくれ
と何度も心の中で叫んだ。ところが──
733恥じらい肛門丸:04/09/21 13:18:01 ID:oHxIHTM7
「久史!」
銃弾の雨の中を、なんと美幸は戻ってきた。全身から血をしたたらせながら、俺めがけ
て走って来るではないか!
「バカ、戻ってくるな!」
俺は泣いていた。あいつ、体中に怪我をしてる。それでも俺を心配して、戻ってくる。もう、
やめてくれ、撃たないでくれ!頼む!機動隊の皆さんに向かって叫ぶのだが、銃声が
それをかき消してしまう。

「逃げろ、逃げてくれ!頼むから!」
「久史を置いてはいけない!もう、離れ離れは嫌よ!約束したでしょう」
美幸が手を伸ばし、俺もその手に縋る。そして、後一歩・・・という所で、俺は見た。一発の
銃弾があいつの頭を貫通していくのを──

「美幸!」
「ひ・・・さ・・し」
がくんとくず落ちる美幸の今際の言葉──それは、俺の名であった。

「み・・・ゆ・・き・・・」
俺は、地に突っ伏した彼女の手を取った。僥倖と言うべきか、俺たちは死に際でもひとつ
になれたのである。もう、離さない、離れない──
「ずっと、一緒・・・だよな・・・」
機動隊の皆さんによる一斉射撃は終わっていたが、俺ももう意識がほとんど無い。それ
でも美幸の傍らから離れたくなかった。そこで、諸兄にお願いがある。どうか、俺と美幸
の亡骸を一緒に葬って欲しい。悪党の最後なんてこんなもんだが、そ・・れ・・で・・も・・
俺と美幸は・・・離れ・・・た・・く・・・な・・・・・・い・・・・・

おわり
734名無しさん@ピンキー:04/09/21 15:06:13 ID:QAmTbBTV
複雑な読後感ですたが、なかなかに興味深く読ませてもらいますた。
735名無しさん@ピンキー:04/09/21 15:33:00 ID:RX23Qkfd
こんなのも書けるんですね。



いや、「バカエロしか書か(け)ない奴」と認識してたので。
……今回のもある意味バカだけど
736名無しさん@ピンキー:04/09/21 21:32:22 ID:ytk8wSQK
俺達に明日はナイッス
737名無しさん@ピンキー:04/09/21 22:38:32 ID:X6IuwXXR
肝心な時はシャイッス
738名無しさん@ピンキー:04/09/22 21:38:20 ID:Ap2FgMcI
>736
ノーフューチャー?
739名無しさん@ピンキー:04/09/23 04:38:00 ID:Q2gq8P/W
>738
もはやノーフィアーでノーペインっすけどネ >恥じらい氏のSS
740名無しさん@ピンキー:04/09/23 22:51:41 ID:02v8yq5I
愛の前に立つ限り
恐れるものは何もない
で完全独走か?
741名無しさん@ピンキー:04/09/23 23:54:03 ID:pt+ucs7M
このスレって幼馴染という関係であればそれが第三者によって
意図して作られた環境だったとしてもOKなの?(例えば親とか
74281 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:10:13 ID:mqe/DhD0
書き溜めてた分を一気に投下。絨毯爆撃します。前回は>645随分空いたもんだ。

それからしばらくして、ようやく電車が減速を始めた。
いつもならあっという間の時間が、何倍にも感じられた。
葉月を辱めた外道と一緒の空間に居るのがたまらなく嫌だったからだろうか?
車両が駅のホームに到着し、扉が左右に開くと同時に降車する人の流れが出来上がる。
俺は葉月を促して、その流れに乗って車両を降りた。
階段を降りていく人の流れから外れて、葉月に話しかける。
「葉月、大丈夫か?」
「ええ、少し触られただけ…行きましょう、ナオ君」
釈然としないものはあるが、本人が大丈夫といっているのだから、
これ以上俺が口を挟むものでもないだろう。
駅から学校までは徒歩で十数分を要する。
その間、例によって黙々とひたすらに歩き続けるわけだ。
徐々に制服姿の人間が増えてきたかと思うころに、学校に着く。
標準の学校よりほんの少し偏差値の高い学校である。
しかし何年かに2〜3人は国立校に入ったりするから侮れなかったりする。
顔見知りの同級生に挨拶を交わしながら校舎に入る。
教室に入ると部活で朝練があった面子が居た。
「よう、カツ、今日も朝練か?」
自分の席に鞄を乱暴に放り投げて、小学校時代からのダチに声をかける。
腐れ縁の小林勝彦。あだ名はもちろんカ○=コ○ヤシ。
バスケ部に所属し、その気さくな性格から交友範囲は多岐に渡る。
「おう、相変わらず帰宅部にしちゃ早いな」
俺は身近に有った椅子を引いて、腰を下ろした。
葉月はというと、いつものように自分の席で予習を開始している。
74381 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:11:23 ID:mqe/DhD0
俺より10cm長身の腐れ縁の男が、どすんと乱暴に対面に座る。
「うむ、まぁ仕方がないだろ」
「あ、そうか、アレか」
アレとは言うまでもなく、女帝閣下の事である。
「ああ…アレですとも」
「…悪いな」
この話になると、こいつはいつもすまなさそうな顔をする。
「…何年経ってると思うんだ、いい加減忘れろ」
小学校の頃、鈴音を中心にちょっとしたトラブルがあった。
色々あってトラブルは何とか収まったが、カツはその収集の仕方に納得がいっておらず、
カツが言うには「俺はお前のとった行動も、俺の汚さも許せない」らしい。
こいつには悪いが、ぶっちゃけ今更そんなのどうでもいいし。
「しみったれんのは、俺らのキャラじゃないっての…多分な。
それより昨日のテレビなんだが」
こうやって雑談を交わし時間が過ぎ、HRぎりぎりになってくるとやってくるのが、
「セーフ!!」
セミロングの髪をなびかせて、乱暴に引き戸を開けて教室内に入ってくる鈴音。
…俺が朝、鈴音を起こしている意味はほとんど無い。非常に遺憾ではあるが、事実だ。
鈴音はそのまま席に着くと、俺には眼もくれずに周囲の女子と雑談を始めた。
俺の扱いなんてぞんざいなもんです。
そして今日も授業は何事も無く、進んでゆく。
ちなみに、鈴音が頻繁に居眠りをしているのもいつもの事だ。
午前の授業が終了し、昼休みに入って食事を取るわけだが、
その前に俺にはやるべきことがある。
購買に行って、鈴音が飲むお茶を調達しなければならないのである。
要するにパシリだな、これは。
しかし、おばさんが弁当を作ってくれているので、現時点ではメリットの方が大きい。
偽装工作として、表向きは俺がお茶を買いに行ったついでに、
鈴音の分も買ってくる、ということになっている。
これは周囲に怪しまれないための鈴音なりの計略だろう。
74481 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:11:55 ID:mqe/DhD0
一度カツが代わりに行った事が有ったが、それだと鈴音が納得しないのである。
鈴音にとっては、俺に買いに行かせる事の方が重要ということになる。
他人を顎で使うと気分がいい。多分そういうレベルの話だろう。
購買でブツの仕入れを済ませて、鈴音に保温機で温められたお茶を渡す。
「鈴音、いつもの」
「ん」
鈴音は目で行っていいよ、と促す。
それで俺はようやく食事にありつけるわけだ。
「すまん、カツ、待たせた」
「いや、気にするなよ」
俺がお茶を買いに行くまで律儀に待っているのがカツである。
「何度も言うけど、先に食ってていいぞ?」
カツの対面に腰を下ろして、弁当の包みを開ける。
「…逆の立場だったら、お前先に食ってるか?」
「いいや」
やっぱり俺もカツを待っていると思う。
カツの問いに即答する。
「だろ…んじゃ、いただきます、っと…」
食事中は黙って貪る様に食うべし。
その結果、10分足らずで食い終わる俺たち。…男の食事ってこんなもんだ。
食後は適当にトランプで遊んだり、週刊漫画などを読んで過ごす。
午後の授業も滞りなく行われる。
そしてHRが終わると鈴音は即座に教室を出てゆく。
ソフトボール部の活動に行くためである。
そのおかげで、今日も鈴音の掃除当番の代わりをすることになる。
教室の隅にあるロッカーから箒を取り出して、床を掃いてゆく。
「ナオ君、またなの?」
葉月が鞄を手に、俺に話しかけてきた。
74581 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:12:59 ID:mqe/DhD0
「見ての通り」
また、とは、鈴音が掃除当番をサボったことである。
その埋め合わせを俺がやっているわけである。
「…そう」
彼女はそう一言つぶやくと、ふい、と顔を背けてそのまま教室を出て行った。
時々ふと思う。
彼女の目に、今の俺はどう映っているのだろうか、と。
情けない男と軽蔑されているかもしれない。
見下されているのかもしれない。
ちょっとした恐怖感のようなものに襲われるが、頑張って無視する。
ここ数年で自己防衛が上手くなっているのが実感できる。
それが良いことなのか悪いことなのかは、わからないが。
窓の外に目を向ける。うん。空はいつもと変わらず青い。
ひたすら教室を掃除して、終わったのが40分後。
毎回思うが一人でやるには広すぎる。
鈴音とペアの男子が今日は欠席だったからな。仕方が無い。
とにかく、これで自分の当番が回ってくるまでは、掃除とはおさらばだ。
箒をロッカーに戻して、教室を後にする。
「さて、どうしたもんか」
そこで、俺は愛読しているミステリー小説の新刊が、図書室に入荷されたのを思い出した。
階段を上がってまっずぐ図書室に向かう。
この学校の図書室はわりと…否、ものすごく閑散としている。
人がいるのはテスト前くらいのものだ。
人が居る。誰かと思ったが、葉月であった。
彼女は俺に気づいたのか一瞬こちらを向いたが、すぐに本に目線を戻した。
何を読んでいるのだろうか。
「葉月、何を読んでるんだ?」
彼女の傍に立って、本を覗き込む。
「ナオ君、読みづらい…」
「ああ、悪い」
彼女の反応は四六時中こんな感じである。
朝一緒に登校しているのが、本当に奇跡に思える。
74681 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:13:34 ID:mqe/DhD0
俺はその場を離れて、本棚まで移動してお目当ての小説を探し始めた。
「…………あり?」
五十音順に並べられている書籍を順に追っていく。
「…………ナズェ?」
もう一度順を追っていくが、無い。
おかしい。確かに新刊が入ったと張り紙が張ってあったんだが。
まさか、貸し出し中か?
受付の図書委員の子に尋ねると、案の定貸し出し中であった。
新刊を貸し出すか?普通。
残念だがしょうがない。今日はあきらめて帰るしかない。
鞄を取りに戻ると、デカイ本棚の間に葉月が居るのが目に入った。
台の上に乗って本を戻そうとしているのだが、肝心の台が不安定なのと、
台を使っても目的の場所まで届いていないせいで、葉月の体が小刻みに揺れている。
ああ、危ないな〜〜と思った時にはすでに俺は駆け出していた。
葉月がバランス失って、台ごと転倒したからである。
必死で走りこんで、滑り込んで、倒れこむ葉月を受け止めようとして、
「うげっ…………!」
背中と腹部に鈍い、大きな痛みが走った。
女の子とはいえ。人間一人が倒れこんできたのだ。それなりに痛い。
「ごっ…………ごほ、げほ、げほっ!!」
腹部に当たった衝撃に、むせ返る。
仰向けの俺の体の上に、うつ伏せの人間がのっかっている。
倒れこんだ葉月の体だ。
どうやら彼女が床に直撃するのは避けられたらしい。
「え、あ、ナオ…君?」
「よう、葉月…ケホっ……大丈夫か」
そういうと、葉月は俺の体からどいて、その場に座った。
「ええ…なんとも無いわ…ありがとう」
俺も上体を起こしてその場に胡坐をかく。
「そうか、よかったよかった」
葉月と真正面きって向き合う。
視線が絡み合う。
74781 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:14:24 ID:mqe/DhD0
改めて見なくても葉月はかわいい。昔からかわいかった。
それが最近になって、綺麗さと色香も併せ持ってきた。
容姿端麗、成績優秀、運動はちょっとアレだが。
体と一緒に頭も若干打ったのか、ちと頭が呆けている気がする。
そのせいなのだろう。
俺は彼女の頭に触れ、彼女の自慢の黒髪を手で梳いていた事に全く気がつかなかった。
サラサラと引っ掛かることなく流れていく。
それも、飽きることなく、何度も、何度も。
彼女の頬もやや紅潮しているように思える。
どうやら拒絶はされていないらしい。その事実がとても幸せに思える。
「あ…ナオ、君」
葉月の声に、肩を震わせて我に返った。同時に、髪を梳いていた手も硬直する。
心臓が跳ねる。瞬時に襲い来る焦燥感、絶望感。
嫌な汗が全身の毛穴という毛穴から噴出しそうだ。
俺は余りの迂闊さを、そして自分の愚かしさを呪った。
「…ごめん、葉月」
彼女から目線をそらし、平静を装って立ち上がる。
「俺、先に帰るとするよ」
「ええ」
彼女に背を向けて振り返る事無く、図書室を後にした。
74881 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:15:42 ID:mqe/DhD0
「っくそ!!」
俺は帰り道、一人で毒づいていた。
失態。それもとんだ大失態だ。
「何も変わって無かったってことか…!!」
どんなに取り繕っても、演じても、やはり根幹にあるものは簡単には変わらないらしい。
そう、三条直哉という人間は、ガキの頃から何も変わってない。
だが、今はそのことについてはどうでもいい。
どうする。果たして誤魔化しきれるのか。
あの状況をよく思い出せ。
あの場には図書委員の子しか居なかった。
それに本棚の間に居たから、現場は死角になっていて、受付からは見えなかったはず。
「…大丈夫だよな」
俺は焦燥感に駆られながら、家路を急いだ。
家に帰っても、落ち着かない。食い物の味も判らない。
アレだ。
とんでもないミスをやらかして、それが発覚するまでの恐怖感に似ている。
「頼む…杞憂でいてくれ…」
だが、その願いむなしく、8時過ぎに電話が鳴り響いた。
受話器をとりに行く足取りは重い。
「はい、三条です」
「あ、直哉?今すぐこっち来て」
「わかった。すぐに行く」
受話器を置いて、鍵をかけて外に出る。
真っ暗で、しかも冬の屋外は。
「寒っ!」
まぁ、隣までの距離だしちょっとの我慢だ。
隣家まで小走りで移動して、インターホンを押す。
数秒して、ドアが開いた。姿を見せたのは勿論鈴音である。
74981 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:17:03 ID:mqe/DhD0
セーターにジーンズというラフな服装だ。
「ん、じゃあ上がって」
ヤバイ。なんかすげぇ不機嫌な様子。
「ああ」
鈴音の後をついて階段を上がっていく。
まるで13階段を上がっているかのような気分だ。
部屋に入ると、鈴音はベッドに腰を下ろした。
「適当に座って」
俺は無言で床においてあった座布団に胡坐をかいて座った。
「直哉、何で私が呼んだか解ってるわよね?」
「いや、全然」
藁にもすがる思いでてとぼける。
「とぼけても無駄。図書委員の子から聞いてるんだから」
あっさり藁は水の中に沈みました。
その一言でもうこれは腹をくくるしかないと思った。
やっぱりあの時見られてたか。正直、鈴音のネットワークの広さを舐めていた。
「アンタ、自分の立場解ってる?」
「ああ」
「あの時の約束覚えてる?」
「忘れるわけが無い」
「それじゃ決まり。今後葉月と話すの一切禁止。朝一緒に登校するのも禁止」
その一言で、金槌で殴られたようなショックを受ける。
とうとうきた。
いつか来るとは思って覚悟はしていたが、実際に直面すると辛い。
「今まで見逃してきたけど・・・もうそれもおしまい」
「そうか」
「ええ。アンタは私のモノなんだから、私の言うことだけを聞いてればいいの」
奥歯を強く噛み締める。
75081 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:17:35 ID:mqe/DhD0
噛筋力で奥歯を砕いてしまいそうになるぐらい、強く。
「返事は?」
「解った。葉月と話さないし、一緒に登校もしない」
「解ればいいのよ。んじゃ、今日は帰っていいわよ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる鈴音を一瞥し、無言で立ち上がって部屋を出た。
部屋を出る直前に鈴音が「ちょっとでも私の言ったこと破ってみなさい。その時は」
と、釘を刺してきた。
「言われなくても解ってる」
振り返ることなく、言葉を返し部屋を後にした。
階段を下りたところで、おばさんと鉢合わせになった。
「あら、直哉君、もう帰るの?」
「ええ、夜分すみません。お邪魔しました」
「そう…気をつけてね」
「ええ」
そういって、俺は椿家を出て、自分の家へと戻った。
部屋に戻る頃には、なぜか落ち着きを取り戻していた。
いつかこうなると、予想はずいぶん昔からしていたからだ。
それに、覚悟もできていた。
「とはいえ…!!」
自業自得とは言えども、辛いものは辛い。
75181 ◆ys4//9gEbc :04/09/24 00:19:28 ID:mqe/DhD0
俺は本当にガキの頃から何も変わっちゃいなかった。
自分の弱さも、葉月への想いも。
何より性質が悪いのは自分の弱さに気づいても、それを克服できない事だ。
ベッドに仰向けになる。
「何でこうなったんだろうなあ…」
自分では気づいている。
何もしなかったから、改善しようとしなかったからこうなっている。
ホラ、結局悪いのは自分自身だ。
「なら、文句を言うのは筋違い…だよな」
覚悟は決めた、腹も括った。
自分でまいた種は自分で刈り取るのが当たり前。
刈り取れないなら、そこから生じるリスクを自分が背負うのも当たり前。
唯一の心残りは…いや、止めておこう。ループしそうだ。
兎に角、腹は括ったんだ。もう、今日は、寝よう。
(葉月…ごめんな…)
電気を消して、ベッドの上に倒れこむと意外なほどあっけなく眠りに落ちていった。

これで一旦投下終了。
752名無しさん@ピンキー:04/09/24 02:04:55 ID:wNe8HvBs
うーむ、この複雑な人間関係がどんな風に展開していくのか予想も付かない。
先を期待して待ってますよ。

>>741
自分の子供たちを幼馴染みに育て上げる親たち、彼らには”幼馴染みブリーダー”の称号が授けられます。
親たちの策略によってカップルに仕立て上げられていく子供たちは最高です。
非合法な人体実験の為に集められた子供たちが、、、とくればパラサイトムーンを連想するなあ。

どのようにして幼馴染んだのかは問題ではない、
幼馴染みであることが重要なんだ!

というわけでSS投下ぷりーづ
753名無しさん@ピンキー:04/09/24 02:16:24 ID:SxrJHzcK
>81◆ys4//9gEbc氏

こうゆう風な複雑な関係ってのは非常に(・∀・)イイ!!
次回を心待ちしております。
754名無しさん@ピンキー:04/09/24 04:05:25 ID:OP6Fg0sK
>>741
親同士が旧友の仲で家も近ければ自然と・・・・
755名無しさん@ピンキー:04/09/24 07:48:32 ID:osG3TllH
>752
多分、渡瀬スレの住人と見た!
パラサイトムーンは幼なじみを作るために集められたわけじゃ無いけどなw

昔、互いの祖父と祖母が幼なじみで恋中だったけど、許婚がいたため結ばれなくって、
孫同士をくっつけようと策謀するという漫画だったか、小説だったかを読んだおぼえがある

あと「マリみて」の礼と由乃なんて片方が男だったら、それだけで一本書けそうだよな
756名無しさん@ピンキー:04/09/24 13:37:54 ID:xmqZVTqU
>>81
主人公ヘタレ
757名無しさん@ピンキー:04/09/25 18:24:00 ID:ite9+hZu
>>755
元宮ひろしのなんたら万太郎とかいう奴か?
記憶が定かでないが。微妙にスレ違いスマソ
758名無しさん@ピンキー:04/09/25 20:51:33 ID:/8d5OAwh
期待age
759名無しさん@ピンキー:04/09/27 20:32:07 ID:KBmFGCIh
幼馴染マンセー!マンセー!
76081 ◆ys4//9gEbc :04/09/29 02:13:34 ID:ahb4govr
展開に詰まった・・・!
また例の分岐をやらかすにせよ、一本道にするにせよ、
最大の難関’主人公ヘタレからの脱却’を通過せねばならなくなった。
自分の脳みそオンリーだと前回と同じような展開になりかねんので。
コレ、一応ネタ振りも兼ねているってことでく一つよろしく。
題は「’燃える’ヘタレ主人公がヘタレを脱却する瞬間」で。
今のところ「誰かの為に、肉体的・精神的苦痛を耐え切る」という案があるんですが。

後、ナオ君呼ばわりする幼馴染が居たと思ったらほなみんでしたね
・・忘れてましたorzダカラワタシハアヤマル
761名無しさん@ピンキー:04/09/29 10:15:10 ID:YSRu8C8w
くぁ思いつかね _| ̄|○ヤクニタテナイヘタレデス
762名無しさん@ピンキー:04/09/29 18:14:03 ID:RuqtQht6
>>一つよろしく

聞  き  方  が  な  っ  て  ね  ぇ  よ
76381 ◆ys4//9gEbc :04/09/29 21:16:17 ID:xA1nusc/
>762
いや、文体が気に入らなければスルーしてくれればよかったんですが。
しかしこちらの言い方(聞き方)がなってなかったのも事実です。
というわけで私は素直に謝るorz、申し訳ない。

・・・で、>762での文面から察するに、氏の脳内には
このスレ住人を納得させるだけのネタが有るに違いない。
というわけで私は762のネタに期待します。
764名無しさん@ピンキー:04/09/29 23:15:31 ID:pi+xlrrh
謝っておきながら煽るなって・・・・・・。
76581 ◆ys4//9gEbc :04/09/29 23:57:03 ID:xA1nusc/
>764すんません、ちと頭冷やして吊ってきます。
766名無しさん@ピンキー:04/09/30 01:59:29 ID:V4hHdme9
>>763
とりあえず、何でこんなに虐げられ、それに従っているのかが示されないと、
それを克服する方法も考えられないのでは?
767はじらい肛門丸:04/09/30 18:16:47 ID:MRC66HF2
勉強は人並み、運動もそれなり。ルックスは平均的な日本人顔で、趣味は眠る事。そんな、
毒にも薬にもならない男、市橋猛(いちはし・たける)が自室のベッドで惰眠を貪っている。
「ぐう、ぐう」
猛は十六歳。普通、この年頃であれば燃え滾るような情熱があっても、おかしくはない。
それなのに、彼は眠る事を何より愛していた。ちなみに猛は、過去に教師から座右の銘は?
と尋ねられた時、『三年寝太郎』と答えている。質問の意味を、まったく理解していなかった。

「猛」
眠る猛の元へ、不意に女性の声が響く。どうやら接した隣家の窓から、誰かが彼を呼んでいる
らしい。しかし、猛はいまだ夢の中で、ちっとやそっとの事じゃ、起きそうにも無かった。
「また寝てるのね、もう・・・」
声の主は業を煮やしたのか、なんと窓伝いに猛の自室へ入ってくる。カーテンの裾からにゅっ
と細い足が現れた後、まるで天使の如き軽やかさで、一人の美しい少女が舞い降りてきた。

「よくこんな真昼間から眠れるわね・・・というか、自宅で起きてる姿を、見た事が無いわ」
両手を腰に当て、呆れ顔の少女。その名を指宿翠(いぶすき・みどり)といい、ここ市橋家と
隣接する家に住まう、奇しくも猛と同じ十六歳の乙女であった。するとどうした事か、もう
一人、隣家に接する窓から翠とそっくりな──というよりは、まったく同じ顔、同じ服を着た
少女が、これまた天使の如き軽やかさで舞い降りてくるではないか。

「翠、猛はまた寝てるの?」
「うん。呆れるわ。きっとまだ、宿題だってやってないのよ」
同じ顔を持った美少女が二人、まるで鏡で姿合わせをしたかのように立ちながら、眠る猛を
見下ろしていた。そう、この二人は一卵性双生児なのである。先に入ってきた方が、姉の翠。
そして後から来た方が、妹の蛍(ほたる)。姉妹は近所でも評判の、美人双子なのであった。
768はじらい肛門丸:04/09/30 18:35:31 ID:MRC66HF2
「来てたのか、二人とも」
ぎっとベッドを鳴らしながら、身を起こす猛。腫れぼったいまぶたが、いかにも眠たそうである。
「起きてたの?」
これは翠。
「寝てるかと思った」
これは蛍である。二人とも今のところ、名乗ってはいない。だから、猛から見ればどちらが姉で、
どちらが妹ということは分からない──はずなのだが。

「腹が減って目が覚めた。何か食うもんないかな、翠」
猛は向かって右にいる翠に手を差し伸べ、こう言ったのである。すると、翠はやっぱりというような
顔つきで、
「どうしてあたしが翠って分かるの?パパやママだって、どっちがどっちか分からない時があるのに」
と、尋ねてみた。そして猛は質問に対し、表情も変えず答えるのだ。

「何故か分かっちゃうんだよなあ・・・俺にも理由は不明だけど・・・ふわあ・・・」
猛は股間のあたりをぼりぼりと掻きながら、大きな欠伸をしてみせた。良識ある人間が見れば、思
わず顔をしかめるような無礼さである。当然、それは美しい双子姉妹も同じ事。
「なんかムカつくわね。親ですら間違えるあたしたち姉妹を、このものぐさ男だけは区別がつくなん
て。それも、今日の今日まで、ただの一度も間違えた事がないときてる。変よね、翠」
「・・・まあね。でも、蛍。ちょっと言いすぎよ」
蛍が厳しく毒づくと、翠が優しく諌めた。この双子は妹の方が毒舌家で、姉はおしとやかな性格を
持っている。そして、寝る事が趣味というぐうたら男が、彼女たちの中心にあった。
769はじらい肛門丸:04/09/30 18:57:00 ID:MRC66HF2
「腹減ったなあ・・・今日、母ちゃんが出かけてて、昼飯も食ってないんだ。翠、何か作って
くれないか?」
「いいわよ。簡単なものでいいかしら?」
「うん。頼むよ」
猛と翠の息の合った遣り取りである。ただ、飯を作ってくれ──いいわよ──だけの会話だが、
阿吽の呼吸でそれらが交わされている。お互い付き合いが長く、性格を良く理解している証拠
だった。しかし、これを不満そうに見ている者が約一名居る。言うまでも無く、妹の蛍である。

「翠ばっかりに頼んで・・・」
蛍はぷうと頬を膨らませ、窓におでこをぴったりとつけて背を向けていた。これは彼女なりの
気を引くポーズである。姉、翠と猛がまるで夫婦のように言葉を交わし、気の合うところを見せ
た事が、気に入らないのである。要するに、やきもち。
「一緒に作ればいいじゃないの。ね、蛍」
「ふーんだ。猛は翠に作って貰いたいみたいよ・・・どうせ、あたしなんて」
拗ね者となった妹をなだめすかそうと、翠はご機嫌取りに奔走し始めた。双子とはいえ、その
性格には歴然とした違いがあり、こうやってみればなるほど姉妹の区別はつく。しかし、猛は
どんな状況下にあっても、決して翠と蛍を呼び間違えたりはしないのである。それが不可思議
だった。

「悪かったよ、蛍。お前と翠で飯作ってくれたら、俺はありがたいんだがな。ちょっと、言葉が
足らなかったか」
猛は蛍の背へそう言った。別段、媚び諂う訳でも無く、あくまでも自然に。すると、蛍はにや
にやと口元を緩ませ、
「まあ、そこまで言うのなら、作ってやらんでもない。でも、その前に!」
と言いざま、猛の胸へ飛び込んで行ったのである。そして、
「いつものやろうよ・・・翠、カーテンを閉めて、電気を消して・・・」
猛の唇を奪いながら、自らは着ているものを脱いでいったのであった。
770はじらい肛門丸:04/09/30 19:23:28 ID:MRC66HF2
「飯が先じゃダメ?俺、腹減ってるんだけど」
遮光された部屋の中は十分に暗く、寒々とした印象さえ受ける。その中で、猛は下半身を
露呈させられ、ベッドへ座らされていた。その上、何故か顔には黒いブラジャーを着けられ、
目隠しをされているも同然となっている。そして、その対面には──

「ご飯はこれが終わるまで、お預けよ。うふふ、ちょっとだけ待ってよ」
と言って笑う全裸姿の蛍。それに、
「あたし、恥ずかしいわ。こんな遊びは・・・」
と言ってうつむく翠の姿があった。こちらも、当たり前のように身に着けているものは、何
ひとつ無い。

「じゃあ、始めようか。猛、用意はいい?」
「いいよ」
蛍が開始の音頭を取ると、双子姉妹も猛も共に無言となった。まだ外の日は高いが、ここ
だけが宵の深まった夜の如く、閑静になる。

『どっちがいく?あたしから?それとも翠?』
蛍が手で輪を作り、何かをしごくような仕草をした。更には唇から舌を出し、片目を瞑って
悪戯な笑顔を作ってみせる。小声で翠へ語りかけたのは、何かたくらみの為らしい。
『じゃあ、あたしから・・・』
翠がすっと足を出した。そして、猛の前へ傅いたかと思うと同時に、垂れ下がった男根を肉厚
な唇の中へ、咥え込んでいったのである。蛍が先ほど見せた仕草は、男根への口唇愛撫を
示していたのだ。
「おっ・・・」
じゅるりと肉筒を啜られて、猛は声を漏らした。部屋が暗い上に目隠しをされているので、双子
美少女の姉、翠の口唇に男根を収めて貰っているとは分からない・・・はずなのに──
771はじらい肛門丸:04/09/30 19:38:45 ID:MRC66HF2
「これは翠だな」
なんと猛は、男根を咥えて貰っている相手が、双子の姉の方だと即座に分かったのである。
もちろん、姉妹のどちらも声ひとつ出してはいない。
「当たりよ。どうして分かるんだろうね」
蛍が感嘆したように呟いた。すると、翠は咥えていた男根を唇から離し、
「不思議よね」
と、妹に同調した。

「今度はどっちの胸か当ててね。猛、手を出して」
「ほい」
翠のいざないで猛は両手を前に出す。姉妹はここで猛を惑わすように部屋をうろつき、その
後、翠が右、蛍が左に立った。そして、それぞれが無言で猛の手を取り、自分の乳房へと持
っていく。
「触るからな。揉むぞ」
猛の手がやんわりと二人の乳房を揉んだ。優しい手遊びである。

『ああ・・・』
女の急所を責められると、姉妹ともにまったく同じ反応をした。声には出さなかったが、蕩ける
ような表情と、若干腰を引いた所まで寸分たがわず同じだったのだ。こうやってみると、傍目に
はまったく姉、妹の区別などつきそうにない。しかし──
「右が翠で、左が蛍」
やはり猛は間違わなかった。それも、乳房に触れてすぐ、明確な回答を出している。不思議な
事に、ここでも迷う仕草は全く無かった。
772はじらい肛門丸:04/09/30 19:56:53 ID:MRC66HF2
「不思議ね」
「不思議よ」
蛍と翠は、聳え立った猛の男根へ顔を寄せながら、何度も同じ事を言った。今、二人は
舌を出して、交互に男根を舐めている。その都度猛は、
「今のは蛍。今度は翠だな。おっと、フェイントか、また翠の舌だ」
と、ひと舐めして貰うたびに、どちらが唇を寄せているのかを、ぴたりと当ててしまうので
あった。もちろん、なぜそれが分かるのかは、不明である。もう、彼の天性としかいいよう
がなかった。

「もうダメ、降参。後は好きにさせてもらうわ」
何度やっても猛に不正解はない。それを認めた蛍は男根にまたがり、すっぽりと女穴へ
咥えこむ事にした。遊びはもう終わり。これからは、単に男と女の睦み合いが当たり前の
ように始まる。
「あーん・・・猛のコレ、太くてステキ・・・」
肉筒で女穴を満たされると、蛍はうっとりと目を細めた。猛をベッドに座らせ、自分がその
上で腰を使うのが、彼女が好むスタイルである。
「あっ、ずるいわ。蛍」
妹に先を越され、翠が猛の脇へ回った。そして唇を奪い、親愛の証を求めようとする。

この双子の姉妹は、まったく同じ人間を好きになってしまったのである。いや、双子ゆえに
好みを同じくしてしまったのかも知れない。

「あッ・・ああッ・・・双子云々は別にして、あたしたちと猛とのセックスのの相性って、きっと
最高なんでしょうね・・・だって、こんなに気持ちいいんだもん・・・」
騎乗位で凄まじく腰を使っている蛍が女泣きに泣く。恥ずべき事に、この少女は淫らな言葉
を何の気無しに叫ぶ性癖があった。
773はじらい肛門丸:04/09/30 20:25:38 ID:MRC66HF2
「猛・・・ごめん、指でいいから、あたしも可愛がって・・・」
若干、控え目に淫戯をねだるのは姉、翠の方である。男根は今、妹が占有しているので、
自分は愛しい男の指遊びで女を濡らしたいと願ったのだ。

「二人とも、困ったもんだな」
蛍を男根で、翠を指で愉しませながら、猛は呟いた。このぐうたらで何の取り得もない男が、
美人双子姉妹を篭絡している事が不思議でならないが、現に姉も妹もすでに彼の手中に
ある。

「こういう関係、ドキドキする。あたしと翠、どっちも一生可愛がってね、猛。あたしたちは二人
でひとつなの。どちらが欠けてもいけないわ」
「ああ・・・猛、あたしたち三人は、ずっと離れられないの。運命なのよ」
「分かってるさ。ホラ、二人とももうイクんだろ?どっちも膣の動きでそれが分かるよ」
蛍と翠、それに猛がひとつとなって肉塊になり、今際の時がやってきた。

「アーンッ!」
蛍も翠もそれぞれが同時に絶頂へ導かれた。叫ぶも同じ、表情も同じである。その上、膣穴
から分泌される愛液の放水までが同調しており、快楽の波に合わせて濁った粘液をピュッ、
ピュッとほとばしらせるのだった。そこへ、猛の放水も重ねられる。

「キャアーッ・・・で、出てるッ!猛のザーメンが!」
男根をねじ込まれている蛍が叫んだ。目を剥いて、背をぐっと反らせ愛しい男の子種を、ぐい
ぐいと肉穴の奥まで無意識に送り込む。すると、それと同じように指で犯されている翠もきゅう
と膣口を締め、まるで自分も子種を胎内で放出されているかのような動きを見せた。物の本に
よれば、双子は精神を同調させる事があるという。この双子姉妹もご多分に漏れず、それに
近い状態を感ずる事が度々あった。
774名無しさん@ピンキー:04/09/30 20:41:48 ID:4/YFMyYE
支援。
似たような設定のえろゲーを見たことがあるな(´ω`)
775はじらい肛門丸:04/09/30 20:52:00 ID:MRC66HF2
「ふーッ・・・いい思いが出来たわね、翠」
「ええ、蛍もずいぶん気が入ってたみたいね。それが、あたしにも伝わってきたわ」
ベッドの上で、姉妹は絶頂後の余韻に浸っていた。そこへ、猛が問いかける。
「飯・・・まだ?」
空きっ腹で荒淫を果たしたので、疲労の度合いが濃いようだった。ブラジャーの目隠しは
もう外していたが、部屋が暗いために姉妹の姿がはっきりとは捉えられていない。
すると──

「さて、今、猛から見て、どっちが翠でどっちが蛍でしょう?」
薄闇の向こうから、そんな声が聞こえてきた。確かにベッドの上に二人はいるのだが、
生足が僅かに見て取れるだけで、どうやっても姉妹の区別など出来そうに無い。勿論、声で
判断する事も不可能である。しかし──

「右が翠で左が蛍。俺は気配で分かるんだよ、どっちがどっちかが」

猛はやはり、何の気無しに答えた。そして、当たり前のように正解だったのである。


おちまい
776名無しさん@ピンキー:04/10/01 00:37:32 ID:oDkp6v5l
GJ!!

ところで現在472KB、そろそろ新スレの季節だろうか。
777名無しさん@ピンキー:04/10/02 23:48:38 ID:M+NT9gE7
んじゃスレタイでも考えますか。
【二階の】幼馴染み萌えスレ3章【向かい窓】でどうでしょう。




778名無しさん@ピンキー:04/10/03 00:28:37 ID:m+4EN9pM
【変わりたい】幼馴染み萌えスレ3章【変えたくない】

長すぎか・・・
779名無しさん@ピンキー:04/10/03 01:35:04 ID:pKsIl+mb
【ランドセルが】幼馴染み萌えスレ3章【制服になっても】

スマン、これも長いか…
780名無しさん@ピンキー:04/10/03 02:02:01 ID:mT2zsGnG
【揺り篭から】幼馴染み萌えスレ3章【墓場まで】

趣味は悪いがいちおう間違ってはいないなw
781名無しさん@ピンキー:04/10/03 05:48:30 ID:0k1O9HJR
【今日と同じ】幼馴染み萌えスレ3章【明日】

もしくは

【今日とは違う】幼馴染み萌えスレ3章【明日へ】
782名無しさん@ピンキー:04/10/03 06:59:43 ID:SBzonWSe
二階の向かい窓にイピョーウ
783名無しさん@ピンキー:04/10/03 07:56:21 ID:nBP5iAwZ
【手作り弁当】幼馴染み萌えスレ3章【鉄建制裁】
784名無しさん@ピンキー:04/10/03 07:57:06 ID:nBP5iAwZ
【手作り弁当】幼馴染み萌えスレ3章【鉄拳制裁】


間違えターヨ・・・orz
785名無しさん@ピンキー:04/10/03 16:47:40 ID:Px+tPMnU
【近くて】幼馴染み萌えスレ3章【遠い】
786名無しさん@ピンキー:04/10/03 16:53:09 ID:Px+tPMnU
【純愛?】幼馴染み萌えスレ3章【ツンデレ?】
787名無しさん@ピンキー:04/10/03 21:28:20 ID:WrRoQBXn
【友達?】幼馴染み萌えスレ3章【恋人?】
788名無しさん@ピンキー:04/10/03 22:13:47 ID:50gCKZW1
>>785
(・∀・)イイ!!
789243:04/10/05 00:23:43 ID:bioUTXo0
まだ容量少し間に合いそうなので、現スレに投下してみます。

随分間が空いてしまいました。
その32.
7901/3(243):04/10/05 00:24:49 ID:bioUTXo0

・・・・その32


私はやはり、享の言うように、淡白なのかもしれない。
絡んだ視線を瞬きして逃し、髪を梳く手を黙って感じる。
もっとこう、何か甘えてみるところだったのだろうか。
実の兄さんにも甘えた記憶がないから、持って生まれた性格なのだろう。
イトくんは、何も言わずに触れてくれるので少し安心する。
私は嫌がっていないと、知ってくれているのは心地いい。
しばらくして、髪から指先が静かに抜けて彼の膝に戻った。
カップの底にひと口残った薄色に、目を落とす。
別にどうしても触っていてほしかったわけじゃない。
飲み干して、斜め横から、幼馴染を眺めた。
私は、甘えたりしたことがないから。
我侭の言い方が分からない。
小窓の網戸越しに、曇りがちな彼岸の空がある。
回収する手にカップを預けて、気のせいみたいに撫でられた頬に、
残る余韻をまた飲み込んで、消える隙間を見送った。

言いたいことは、我侭でもなんでもないのかもしれないと、時々思う。


7912/3(243):04/10/05 00:27:42 ID:bioUTXo0

朦朧と教科書を読んでいた顔を休め、一人息をついた。
カップを洗っているのだろう、水音がかすかに聞こえている。
風邪を引いて何が困るといって、頭の回転が鈍くなることだと思う。
再来週には定期試験だ。
イトくんに言わせれば、試験というものは直前の勉強よりも普段の勉強の結果が出るもの、らしい。
だからそう焦ることもないと言う。
…今はともかく、昔から遊んでばかりだった人に言われても。
俯くと溜息が出た。
一理あるとは分かっていても、試験前だって勉強は必要だと思うのだけれど。
つくづく風邪を引いたのが恨めしい。
―あんなことしなければよかった。
毛布の裏で膝を曲げて頬を埋める。
本気でそう思っていないことは自分でも分かった。
私からしたそれは本当に短くて下手で、ぎこちないものだったのだけれど。
重ねられていた手を思い出すと顔が火照る。
ああいう風にキスされたのは、初めてで。
妙に恥ずかしくなって、目を瞑って記憶を押し込む。
どれだけああしていたのか憶えていない。
離れた時に何かを囁かれたようにも思うけれど、膝が崩れていて息が荒くてそれどころじゃなかった。
重なっていた手ともたれていた肩の硬さと脳髄の熱ばかりが鮮明で、心臓が疼く。
結局連れて帰ることも出来なかったし、
イトくんは見送ると言いながら力を使い切ったらしく寝てしまったし、
…私は風邪を移されているし。
よく考えるとものすごく格好悪い。
なんなんだろうもう。
毛布を握る指先が緩まって溜息が出た。
7923/3(243):04/10/05 00:28:18 ID:bioUTXo0
遠くにしていた水道の音が止まっていた。
伏せた眼をドアに向けて、耳をすませる。
がちゃがちゃと食器を漁る音がしていた。
昔から、ああやって、うちの手伝いをしていたなあと、なんとなく気付いて思考をずらしていく。
家族みたいに傍にいたのに、兄さんがいなくなった途端に、私は困惑ばかりで。
その前は、一年間留学していたときにも平気で、普段どおりに過ごせていた。
それまでは確かに、お兄さんだったのに。
今ではドア一枚でも遠いように思えるなんて不思議だ。
教科書を枕元に置いて軽く目を泳がせる。
寒い部屋で、手が少し冷たくて握り合わせた。
聞けないのは、責任を勝手に感じている私の無意味な拘りだと、分かっている。
イトくんは自分で自分のことを決められる人だったし、
不自然な進路でも、ないのだけれど。
…だったらなんで東京の大学なんて見に行ったのだろうとか、
私をお母さんのお墓参りに連れて行ったあの日のことは、どんな意味があったのだろうとか。
だったらつまり、私はあの人にとって想像以上に大きな存在だったのかという、
そんなことまでも考えると思考が止まってしまう。
何に迷っていたかなんて分からない。
嬉しくないといったら嘘で、でも、そんな重い存在であっていいのだろうかと思うと自信なんてなく。
だって私は、悩んでいたとしても、自分の進路を彼に近づけようとはしなかった。

考えても仕方ないし、勉強はできないし、イトくんももう入ってくる様子もないので、諦めて眠ろうと頭を倒した。
寝てばかりのような気もするけれど、これで早く治ればいい。
学校にいたのなら、ちょうど二時限が終わる頃だろう。
時計の音が規則正しく、小さな部屋を流れていく。
教科書が落ちて、床に潰れるのをかすかに聞いた。
793243:04/10/05 00:29:15 ID:bioUTXo0
では、続きはまた時間のできたときに。
次スレになっても幼馴染スキーに祝福あらんことを。
794名無しさん@ピンキー:04/10/05 00:49:30 ID:SG22M0xB
>>793
乙&GJ

そろっとまとめようか
795名無しさん@ピンキー:04/10/05 09:29:31 ID:3IZBZT+r
変えないってのはだめなのかな?友達以上恋人未満より良い表現はない気がする。


>243氏
いつも乙です。24とともに夜を待ち遠しくチェックしてますw
796名無しさん@ピンキー:04/10/06 06:24:31 ID:LlUc/PYs
>>795
ま、他にいいのがあればいいんだが・・・
別に縛りって訳じゃないけどこれ以外ないんだわさ。
ただ無理に変えてもめるのだけは勘弁、揉めたりしなけりゃいい。
797名無しさん@ピンキー:04/10/07 19:30:37 ID:3mi3yDh+
亀レス

>>763
期待か、では

格好良い主人公に必死に自分に陰を重ねるようなオナニー小説やあからさまな伏線の張りすぎ不発・誤爆、勘違い才能電波等を飛ばしながら書いてみればいいんじゃないカナ?いいんじゃないカナ?

それで前スレで大活躍してた人は随分脚光浴びてたし

いや、前スレ途中から見てないから解らないけど。見苦しくて
798名無しさん@ピンキー:04/10/07 22:15:25 ID:3mi3yDh+
前スレ全部見てきた

しつこいけど、要は

前スレ>>557


あれが偽物だろうと本物だろうと謝り方も知らないアンタの態度は疑問符が付く
同じようなスレのSSの書き手から見ても
799名無しさん@ピンキー:04/10/07 22:36:10 ID:Qx2sj04g
とりあえず何でもいいからお前邪魔。ごちゃごちゃ五月蝿い。
今お前がこのスレの雰囲気悪くしてるのはわかるだろ。そういう事は別の所に行ってやれ。
言ってる事もSS批判から人格批判に変わってきてるし。
嫌ならこのスレから去ればいいだけだろ?
800名無しさん@ピンキー:04/10/07 22:48:23 ID:3mi3yDh+
1、81氏本人は此処にしかいないので此処じゃないと批判できない
2、俺は他の書き手さんのSSが好きだ


なんでも叩きゃあいいってもんでもないよね

邪魔だろうね、おとなしくするよ
俺は81氏の態度に不快感を覚えた、それだけ
801名無しさん@ピンキー:04/10/07 23:13:25 ID:UqZ5IAVX
煽り荒らしはスルーで。
802名無しさん@ピンキー:04/10/08 01:21:29 ID:UerLNsUW
やれやれだな。
803名無しさん@ピンキー:04/10/08 02:15:54 ID:vSmYkxdE
ガ板で81が吊っているのを見かけたんだが、ここの81だろうか。
804名無しさん@ピンキー:04/10/08 03:16:11 ID:J5dvZ9K5
もう……。
みんな仲良くしないと、明日の朝起こしてあげないぞ〜?
805テンプレ:04/10/08 07:56:33 ID:rDqqQhu0
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。
*前スレ*【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1078148899/
*前々スレ*幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/

*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に…(派生元スレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1065173323/l50
いもうと大好きスレッド!(ここから派生したスレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077717174/

*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://adult.csx.jp/~database/index.html

■■ 注意事項 ■■
*職人編*
スレタイがああなってはいますが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。

806テンプレ修正:04/10/08 07:59:47 ID:rDqqQhu0
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。
*前スレ*【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1078148899/
*前々スレ*幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/

*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第2章(派生元スレ)
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1090474137/
いもうと大好きスレッド!(ここから派生したスレ)
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1077717174/

*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://adult.csx.jp/~database/index.html

■■ 注意事項 ■■
*職人編*
スレタイがああなってはいますが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
807名無しさん@ピンキー:04/10/08 08:01:37 ID:rDqqQhu0
スレタイ変えずに今夜立てる予定です。意見があればそれまでにどうぞ
808名無しさん@ピンキー:04/10/08 08:16:03 ID:gD3r+uuo
>807
異議なーし!議事進行!(^^)/
809名無しさん@ピンキー:04/10/08 12:08:35 ID:O1H/6dJZ
>>806
乙。関連スレッドに

お姉さん大好き
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1080659392/

を加えていただけるとありがたいです。
810名無しさん@ピンキー:04/10/08 13:55:39 ID:zMIxbv73
>>806
保管庫は移転してます
http://sslibrary.gozaru.jp/
811名無しさん@ピンキー:04/10/08 16:10:59 ID:Ale/1hC2
>>2>>3はどうする?
812名無しさん@ピンキー
補足修正などありがとうございます。
>2と>3を入れて新スレ立てました

【友達≦】幼馴染み萌えスレ3章【<恋人】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1097237524/