1 :
幼馴染み萌え :
2007/05/13(日) 11:33:56 ID:MgQz1FGW 幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。 ■■ 注意事項 ■■ *職人編* エロパロ板のスレですが、エロは必須ではありません。 ラブラブオンリーな話も大歓迎。 書き込むときはトリップの使用がお勧めです。 幼馴染みものなら何でも可。 *読み手編* つまらないと思ったらスルーで。 わざわざ波風を立てる必要はありません。
乙
即死回避乙。
前スレ403で終わり?
前スレはあと15KBくらい残ってる 雑談でのんびり埋めてけばいいんじゃね
7 :
名無しさん@ピンキー :2007/05/13(日) 16:04:04 ID:ApZmp74U
いちもつ
回避いちもつ
>>1 乙。ここののんびりした雰囲気好きだ。
安らげる
>>1 乙。
…さて、一人寂しく西山馳村の続きを待つか…
>>11 安心汁。おまえは一人じゃない。たくさんの住人がいつもここに寄生してる。
前スレに243氏キテタ━━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━━!!!!
前スレ完全に埋まりましたな。 そして職人さんたちGJ! どれも続きが気になる!!
前スレの愛と勝利、今回は埋めだけで終わりなのかな?つ、続きを…
>>1 乙
天馬と鈴奈の作者さん、きてくれないかなー。
高校生が主人公なのに、まったく学園モノっぽくなくって、ノワールな雰囲気が好きだったんだ。
いつまでも待つか。
夢枕獏風ツンデレ 「お前の事など心配してない」 「たまたまだ――」 「たまたま材料が多く余ったのだ」 「勿体無いので弁当を作っただけだ」 「お前のためじゃない―――」 家が隣同士だとか― ふん。 幼馴染だとか――― ふん。 「全く関係ない」 ふん。 「いらないのなら別にいい」 「本当にお前のことなんか何とも思ってないからな」 ふふん。 本当は食べて欲しいくせに――― 「あと昨日欠席しただろう」 「ノートのコピーもとって置いた」 「ついでだ、気にするな―――」 「もうゆく、変な噂でも立てられたら困るからな」 たまらぬツンデレであった。
ああ、たまらぬな
---------------------------------------------------------------------------- Blue ---------------------------------------------------------------------------- 一つめ: 「いやらしい。イチ君、ね。これ。こういうの。 剣道を辞めてからイチ君はいやらしくなった。私はそう思うな。 だからスポーツをやめちゃ駄目だったんだ。 こういう事をする位ならイチ君は剣道を続けるべきだったんだよ。」 断言される。その眼差しは強く、説得しようとする気概に溢れている。 ああ、心配だと。そういう気持ちが篭った目で。 その上、自分の言葉にうんうんと頷いている。 ツライ。 「いやらしいって・・・」 最近伸ばし始めた髪をかき上げ思わず反論しようとした俺に向かって、 雨音さんは後ろ手に持っていた雑誌をばっさと振り翳した。 雨音さんの、俺は綺麗だと思うんだけど本人は気にしているちょっと癖のある髪が肩の下辺りでぴょんと跳ねる。 「いやらしい。いやらしいでしょう?ほら。」 不適切な雑誌だよ。高校生には。ほら、これ。こういうのは不適切。 こういうものを部屋に置いておくのは不適切でしょ。 そう言ってパラパラと雑誌をめくるとほら、ほらここと裸のお姉さんが色々している部分を指差して突きつけてくる。 はい。 まあそうだ。そうですよ。 そうですね。 確かに不適切ではあろう。青少年には有害ですとその雑誌の表紙にも書かれている。 法律でもそうなっている。いやらしい本は子供は見てはいけません。体に有害です。 十分に理解しています。ええ、不適切ですとも。 人間、好き嫌いをせず、食事はヘルシーなものが良いし、甘いものばっかりとりすぎてもいけません。 夜はきちんと寝たほうが体調も良いです。雨音さんの言うとおり。 お説ごもっともで御座います。 人を妬まず、人に威張らず。 そうあるべきだろうし、そう雨音さんは言う。
が。 男には譲れない一線も存在する。 わかるだろ? それは趣味だ。 英語で言えばHOBBY。 中々に儘ならない人生、厳しい寒風の吹く世の中で戦っていく為の強い心を保つ道標。 たとえ世間様に後ろ指指されようとも、理解されなくても決して譲ってはいけない大事なものの一つ。 ある人はスポーツ。ある人は文化的な何か。 ある人は何も考ずに好きな音楽に身を委ねる、そんな穏やかなひと時。 型に嵌らない、誰にもルールを押し付けられない、誰しも一人、一つ以上は持っている大切な心の一休み。 人に自慢したい、人にちょっと隠しておきたい、内緒でこっそり、皆で楽しく。そんな何か。 それこそ戦って勝ち取るべき、いや男なら勝ち取らずにはいられない自由への扉だ。 古来より人が争い、傷つけあいながら誇り高く勝ち取ってきたものこそ、これではないのか。 雨音さんは物事の表面しか見ていない。 そういう高尚ななんていうか人としてのあれだ。夢とか希望とか。そういうのを判らせる必要がある。 雨音さんをぴしりと指差す。 「そういう雨音さんだって人いっぱい死ぬホラー映画とか好きで良く見てるじゃないか。 あれだって不適切じゃん。人いっぱい死ぬし。俺は道徳的にもどうかと思うなあ。でも雨音さん好きでしょ?」 だからそういうのと俺のも一緒なんだって、と続けようとすると雨音さんはふふんと胸を張った。 「私は20になったからいいの。」 なにい。
「雨音さん、高校生の時から見てたじゃないか!」 あんた初心で多感な中学生だった俺にホラー映画をこれでもかって位に見せて恐怖心を深く、深く植えつけたじゃないか。 おかげで未だに夜道と風呂場が怖い。 「それとこれとは違う。いやらしいのは駄目。」 くるくると雑誌を丸め、剣のようにこちらに突きつけながら断言する。にべもない。 はっきりと言おう。 俺はエロ本が好きだ。 人並み外れて好きかどうかはおいておいて少なくとも人並みには好きだ。 胸を張って言うことかどうかはおいておいて。 でも17歳男子としてはエロ本が好きだ。というのは別段異常ではないはずだ。 ないはずだろ? そりゃあれだ。雨音さんのスレンダーなくせにとても張り出してる胸を掴んだだとか、 お尻を撫でただとか、足を撫でただとかお風呂を覗いたとか。 そういうのなら怒られても仕方がないかもしれない。 この前電車でおっさんに脚を撫でられて張り飛ばしたとか言ってたし。 ん。兎も角そんな事する勇気はないけど例えばそういう事をしたのだったのならいやらしいと罵られても我慢しよう。 だが。 たかがエロ本だ。 たかがエロ本でしょう? 誰に迷惑を掛けるでもなく、自分一人の場所、自分一人の時間にひっそりと楽しむ、 そんな夜寝る前に、ちょっとだけ心の開放を味わえるちょっと小粋なアイテムじゃない。 近年援助交際だの、高校生の性犯罪だのと新聞に度々載る世の中で、 そういう風に楽しむって言うのはむしろ良心的と受け止められても良い位だ。
確かに。 確かに18歳未満の人間がエロ本を買うのはルール違反だよ。 倫理に悖る行為かもしれない。社会的に許されない事かもしれない。 雨音さんはそう言うかもしれない。 確かに俺は年齢をごまかして私服の時にそれを入手しているよ。 時にコンビニで、時に本屋の未成年が入っちゃいけないコーナーで。 その一点においてのみ雨音さんに対して、いや世間に対して心に一つの曇りも無いかと言われればそうじゃない。 それは認めるよ。うん、認めるよ。 俺も男だ。それにたいしてくどくどと言い訳はしない。 あえてその汚名は被る。 社会的ルールを少しだけ、逸脱しているかもしれない。 ただこれだけは、これだけは言わせてもらいたい。 男は、いや人は自由を守る時に後ろ指を刺されねばならない時もある。ってね。 例えばジャンヌダルクだ。知ってる? 女性蔑視が極限まで解釈されていた時代に彼女はフランス軍の旗手として軍隊を率い、そしてフランスを取り戻した。 そういう偉い人なんだ。 そんな彼女の背中に人々は何を見ただろうか。 坂本竜馬はどう?。今でこそ文明開化の足音だろうけど、 その時代に彼の考えは本当に皆に文明開化と受け取られたのかな? 逆境を乗り越え、その時代の空気そのものをひっくり返していった彼ら、彼女達は誰からも後ろ指を差されなかったのか。 ルール違反と受け取られなかったのか。いや違う。いいや違うんだ。 彼ら、彼女らの最期を見れば判る。決して受け入れられはしなかった。 じゃあそんな彼ら、彼女達が苦労して得たものは何だと思う? フランス?新しい日本か?それとも後世のに遺した英雄としての名? 否。そんな物ではない。 そうじゃないと思う。 断じてない。全く違う。 雨音さん聞いてる?
彼らが得たもの。それを一言で言うとすれば、自由だ。と俺は思う。 英語で言えばフリーダム。 彼らが得たもの、もう一度言うよ。 それは全世界全時代に通じる人としての自由だ。俺はそう思う。 理解はされないかもしれない、 ルールはルール、守るべきものだとそう言いたい雨音さんのその気持ちは判る。 でも考えてみて。 大体大人たちってのはそうやって子供達の自由な発想を、自由になりたい、 大空を羽ばたいて行きたいっていうそういう希望に満ち溢れた無限の可能性をルールと言う名の足かせで摘み取ってきたんじゃないの? そういうものに対してきちんとNOと言っていく 「うるっさい。」 何の本を読んだの。と丸めたエロ本の剣でばしりとはたかれる。 「ルール違反とかそういう事をいっているんじゃないでしょ。」 んん。と咳払いをしながら雨音さんは丸めていたエロ本を開いて続けた。 「あのね、イチ君。こういうのが駄目って言うんじゃないの。 こういう事に興味を持つのはとても自然なことだと思うから。」 まあ、私は嫌だけど。と溜息混じりに理解を示す雨音さん。 「女の子の体に興味があるんでしょ。だからこういうのを読むんだよね。」 きっぱりと言い切られる。 言い切られるとハズい。
「あのね。イチ君は結構しっかりしてるし、剣道だって上手だったし。お勉強だって得意だし。良い子だから。 そういう子が一度ぐれると大変なんだって聞いたことあるの。」 ぐれてないです。と言い返そうと思って踏み止まる。 冗談ぽく言っていた雨音さんが、この時だけ、真面目な顔をしていたからだ。 剣道を辞めたのは確かだし、雨音さんが俺の事を最近ずっと心配しているのもそうだ。 俺にだって理由があるけれど、でも雨音さんから見たら心配だという気持ちも判る。 エロ本の一冊二冊でぐれてるだとかぐれてないだとか、その理由は多分心配性な雨音さんにもあるけれど。 幾分かは心配を掛けている俺にもあるからだ。 「知らない人に、見せてもらおうとしたり、触ろうとしたりしたら駄目なんだからね。捕まるんだから。」 私はそれが心配。と言い切られる。 ・・・この人、俺のことなんだと思ってるんだろうか。 「私に言われても・・ううん・・でも他の人にしたら駄目なんだよ、捕まるし・・」 ぶつぶつ呟いているが聞かなかったことにしておく。 ま、こういう本の女の人って胸とかすごく大きいし、スタイル良いからね、そういうの見たいんだろうから。 関係ないでしょうけど。と雨音さんは一人ごちながらも嫌味っぽく言っているが。 まあ、雑誌に載っているお姉さんたちより多分スタイルは雨音さんの方が。 「そういうの、我慢できないの?見たいのは判るけれど、それをぐっと我慢できないと、捕まっちゃうんだよ。 そういうのはイチ君だったら良いって女の人じゃなきゃいけないんだよ。」 エロ本一つでこの言われようだ。 だからしないですって。 なんていうかな。 エロ本とエロ行為はまた別でして俺がエロ本を買う行為っていうのは精神的な自由っていうの?そういうのを 「うううん。きっとこういうのを読み始めると、我慢できなくなると思う。 こういうのって、どんどんエスカレートするに違いないから。 それでそのうち交番から電話がかかってくるの。お宅のイチ君を捕まえましたって。」 捕まえましたって、と繰り返して涙ぐむ雨音さん。
「そうしたら、お姉ちゃんどうしたらいい?」 「あ、あのねえ。お姉ちゃんってこんなときばっかずるいじゃん!」 「大体ね、エスカレートって!何考えてるんだよ雨音さん。 そういうのはね。コントロールできます。 雨音さんは駄目駄目とか言いながらケーキとか食べるけど、 ケーキが我慢できなくなって万引きとかしないだろう?」 「そりゃしないわよ。それに私は20だから我慢しなくて良いし。」 大人だから。と言い放つ。 「関係ないじゃん!」 昔からしょっちゅう食べてるじゃないか。甘いものに徹底的に弱いくせに。 お互いに言いたいことを言いつくして黙る。 なんだか会話が微妙に噛み合わないのはいつもの事だ。 だからいつも言い合った後はちょっとした会話の休憩時間になって。 はあ、と俺の溜息をつき、憮然とした顔を見ながら雨音さんは呆れた顔になって。 「あのね。大体ね。お姉さんにこういうものを見つかったら、そう開き直らずに普通はもう少し恥ずかしがるものよ。」 と、そう言った。 ああ、もう負けだ。 これもお約束みたいなもので、雨音さんがこれを切り出すのは議論はおしまいって事だ。
昨日買ったばかりで碌に読んでないっていうのに。 奴はもう帰ってこない。 こいつとも僅か20時間と32分位の短い付合いだった。 目に焼き付ける暇も無かった。 がっくりと肩を落とす俺に雨音さんは、ごはん今から準備するけど今日はカレーだから手伝うんだよ。 と一仕事終えた感じに声を掛けてエロ本を掴んだそのまま、ドアを開け、トントンと階段を下りていってしまった。 やっぱり返してくれる気配は、ない。 まあ、ここで大体血が繋がってないじゃないか、とか、 そもそもうちに部屋こそあるにしろ雨音さんは別に家があるじゃないかとか。 なんてのは喧嘩の時でも言ってはいけない禁句だから。 いつもこうなる。 いっつも喧嘩しては、こうなる。 だからどっちかっていうと雨音さんはタイプとしてはお姉さんじゃなくて 年上の幼馴染というほうがしっくりくる気もしないでもない。 が。 まあ。 幼馴染でもお姉さんでも。 こういう時、弟とか、男とかは我慢するしかないのだろう。 了
----- ご無沙汰しております。 2話目は◆NVcIiajIygさんが落とす予定です。 そのうち。 (=゚ω゚)
いいですなあ〜
うにさんキター!GJ! つか続き丸投げってw
>>28 GJなのです!! しかし主人公が不憫で仕方ないですなぁ。
これは是非、色んな意味で雨音さんに一肌脱いで頂くしかありませんな!!
32 :
優し過ぎる想い :2007/05/19(土) 02:51:48 ID:7gr8DhyU
コンコン 遼君の病室の前に立ってノックする。 逃げちゃダメだと心に言い聞かせ深く深呼吸する。 「どうぞ。」 「遼君、葵だよ。入るね。」 入ると遼君が苦虫を噛み潰したような顔でこっちを見ている。 「そんな変な物を見る目で見ないでよ。」 私は勤めて明るく言うようにする。 「もう来るなって言っただろ。」 「うん、言われた。でももう来ない、とも私は言ってないよ?」 「うるさい。お前がいると嫌なんだよ。帰れ。」 心に体に言い聞かせて遼君のベッドへと近寄っていく。 「遼君。無理するのはやめようよ。つらいでしょ?」 「辛くなんか・・・ない。」 私はベッドに腰掛けると、遼君の頭を抱え込む。 「でも遼君の顔と心はそう言ってないよ?辛そうだよ。」 10年間も幼馴染みをやっているのだ。好きと自覚してからもかなり時は経っている。 それだけの間、見てきたのだ。 無理してるのかどうかなんて、わからないわけない。 キチンと私を怒ってる時の顔を目を見れれば一瞬でわかる。 前の私は、衝撃でそこまで気が回らなかった。 それだけ遼君を助け出すのが遅くなってしまった。 純粋に悔しさだけを感じる。
33 :
優し過ぎる想い :2007/05/19(土) 02:52:35 ID:7gr8DhyU
「無理してなんかっ。」 「してる。もっと私を信用して良いんだよ。私は絶対に遼君の前からいなくならないから。」 「だって私は、遼君の事が大好きなんだから。幼馴染みとしても、友だちとしても、男の子としても、ね。」 遼君が一瞬息を詰めるのがわかる。 そのあと顔をくしゃくしゃにしてるのもわかる。 私の腕の中に顔はあって、直接的には見えないけど、みえる。 「葵、いいの?」 「うん。」 とても短い問答。 ひっ、うぅ。 漏れ始める鳴咽。 そして遼君は私に抱き付いて、泣き始める。 「泣いていいんだよ。辛かった時には泣かなきゃ。自分を押さえ込んじゃ駄目。人の事ばかりじゃなく自分の事も大事にして。」 腕の中の遼君を抱きしめながら誰に言うわけでもなく話す。 「葵、ありがと。」 「ん、大丈夫だよ。」 また一瞬の静寂が部屋を包む。 「ごめんな。」 「別にいいよ、一番辛かったのは遼君だろうし。でもなんであんな事を?」 遼君になんであんなことをしたのか聞く。 ある程度想像はつくけど、やっぱり本人の口から聞きたい。
34 :
優し過ぎる想い :2007/05/19(土) 02:54:39 ID:7gr8DhyU
「皆に忘れて貰いたくて。」 「忘れる?」 「うん。俺いつ死ぬかわからないからさ。その時、皆を悲しませたくなくてさ。」 遼君は1から10まで他人の事しか考えていなかった。 優し過ぎるよ・・・ 「馬鹿。」 「そうかもね。」 遼君は自嘲的な笑いをする。 「私はそんな簡単に遼君の事、忘れられない。それに、そんな簡単に遼君の事は死なせない。」 「もう少し自分の事考えてよ。」 「でも・・・」 「でも、じゃない。もう遼君は充分に他人の事を考えた。次は自分のやりたい事、やってもらいたい事を私に言って。」 「そんなことしたら葵に迷惑じゃ。」 遼君と話してて、わかってきた。 何故かはわからないが彼は、人に迷惑を掛けることに怯えている。 更に、あくまで他人は彼に取っての奉仕先で、対等の立場じゃないのだ。 理由もなんとなく分かる。 「遼君は自分を過小評価しすぎだし。遠慮しすぎ少しくらい頼み事したり心配かけてもいいんだよ。」 「駄目だよ。人に迷惑なんて掛けちゃ。全部自分でやらなきゃ。」 遼君は即答で返してくる。 「遼君。何に怯えてるの?私は遼君に用事頼まれたら嬉しいよ?」
35 :
優し過ぎる想い :2007/05/19(土) 02:56:00 ID:7gr8DhyU
遼君は沈黙してしまう。 「いっつも遼君は一人で抱え込んじゃう。私たちが助けてあげたいと思っても、助けられないんだよ。」 「ごめん。」 「また謝る。だから謝らなくていいから。次からは私たちを頼って。」 「うん、わかった。」 「そう。遠慮せずに用事や頼み事は私に言うんだよ。なんか心配な事があってもね。言えば晴れたりするもんだから。」 「うん。」 素直だ。 遼君がとっても素直だ。 まもなく面会時間の終了です。 アナウンスが流れる。 ふと窓の外を見ると真っ暗になっていた。 「もうこんな時間だね。」 「そうだね、もう帰るよ。明日また来るから、頼み事考えておきなさいよ!」遼君はポカンとした顔をしている。 「え〜っとそれは用事を頼むことを強要してるのかな?」 「もちろん。じゃあね〜」 「あ、じゃあね。」 遼君は苦笑いを浮かべて私を見送る。 「やった。やったやったやった!」 病院を出た頃にやっと、私は達成感と嬉しさに包まれる。 遼君を助けられたし、人を頼っても大丈夫なように諭したし、どさくさに紛れて告白したし。 私的には100点を上げてもいいね!
36 :
優し過ぎる想い :2007/05/19(土) 02:56:58 ID:7gr8DhyU
よし、かーえろっと。 上機嫌で帰途につく。 翌朝 「岩松、どうだった?」 教室に着いた私にいきなり高瀬君が話し掛けてくる。 私は声に出さずに、表情とVっと突き出した手で答える。 「その表情だとうまくいったらしいね。」 「うん。」 「よかったよかった。」 「な〜に、なんの話?」 「中川さん「安井の精神状態が安定したって事。」」高瀬君が割り込んで簡略に説明してしまう。 「あんたは葵の話に割り込まないの。」 中川さんはそう言うと高瀬君のおでこにデコピンを喰らわせる。 「いった〜。ひどいぞ、この鬼女!」 「だ〜れが鬼女ですって?」 逃げる高瀬君に追う中川さん、一見仲が悪いように見えるけど、本当は凄く仲がいい。 なにをやってても心の底で繋がってる感じだ。 正直憧れる。 「岩松さん、誰か来てるよ」 ドア際の人に呼ばれる。人が来てる?誰だろ? 廊下に出た私の前にいたのは、とっても小柄な、でも凛とした風格を漂わせる少女だった。 「あなたが安井さんにくっついてる悪い虫ですね。」一瞬、何を言われてるのかわからなかった。 虫?私が? 「私は今日づけで高校一年三組に転入して参りました、岩崎綾芽と申します。以後お見知りおきを」
前スレ140辺りの遼太×葵の続きでございます。 間に一ヶ月も開けちゃって本当にすみません。 もうこんなのイラネという方はスルーして下さると嬉しいです。 また以前通りのペースで書いていくと思うので、読んでもらえたら嬉しいです。
>>37 おかえり〜、そしてGJ!!
漸く続きが見れるんだね〜、嬉しい限りです。
新キャラも出て来てwktkが止まらないっ!!
>>37 今でもあれは覚えてる。すっかり放棄されたのかと思ったが、そうじゃなくてよかった。
GJ!この先も期待して待ってる。
>>37 続きktkr
新キャラも出てきたし、葵の告白の行方も気になる
この先も楽しみにしてるよ
幼馴染み万歳
>20-28の続きです。
---------------------------------------------------------------------------- Blue ---------------------------------------------------------------------------- 二つめ: 真夏のお昼時は手持ち無沙汰だ。 洗濯物なんて午前中で乾いてしまったし、お野菜が安くなるのは夕方から。 おまけに雲ひとつ無いこんな日に外に出たら絶対に日焼けする。 あまり強い日焼け止めを塗りすぎるのはお肌によくない。 髪だって紫外線でダメージを受けるのだから肌なんて何をかいわんやだ。 だから平日は本を読んだりしてすごすのだけれど。 土日はみんなの分もお昼ご飯を作る。 今日はおとうさんが午後までお仕事だから、昨日の残りを温めてサラダだけ作った。 二日目のカレーをかき回して溶けたジャガイモをお皿に盛る。 とろりとコクが増した濃い色に新しく茹でたブロッコリーと温泉卵を添えて、 真っ白なお皿をことりとお盆に載せる。 エプロンを外しながら居間に声をかけた。 「イチ君。またサボってる。手伝って」 答えまでにはややあって、のそりとワイシャツ姿が台所をくぐってきた。 頭をかがめて入るのでちょっとおかしい。 サラダとカレーライスの器を指差すと、イチ君は無言のままこちらを睨み、ふいと持っていってしまった。 顔をしかめる。 ――昨日からろくに口を利いてくれない。
朝叩き起こしたときに 「なんだよ休日なのに。だいたい雨音さんは横暴だ。エロ本だって捨てるし。」 捨てるし。捨てるし。捨てることないよ。 とかなんとかひたすら言うのでいじいじしないの。また買うくらいの気概を見せたらどうなの。 と誠心誠意叱ったら余計に口をつぐんでしまった。 ええもう。 昨日のは、早速朝7時に私のうちから廃品回収に出しました。 確かに、イチ君がああいう女の人であんなことやこんなことを考えているのがちょっと嫌だったっていうのもあったのだけれど。 少し邪心があったのは認めなくてはいけない。 でもいやらしいのはいけない。 別に。 別に、イチ君をいじめようとしてやっているわけじゃないのだ。 うん。 ほんとに。 いやらしい本を捨てられたのがそんなにショックだなんて私もショックだ。 そんな。そんなにも女の人の裸が大好きだなんて思わなかった。 どうしよう。 このままだとイチ君は不良になってしまうんじゃないだろうか。 まず最初に家族と口を利かなくなる。これは大変な兆候なのかもしれない。 溜め息と一緒に冷蔵庫からオレンジゼリーをふたつ取り出す。 よく冷えていた。 氷を二個ずつ入れたグラスに水道水を注いで、周りを拭き取ってから台所を出る。 大きい背中が律儀にお皿とスプーンを並べて待っていた。
大窓にたてすがあるせいかダイニングは涼しい。 昼のテレビは天気予報に入っている。 イチ君は無言でカレーを口に運んでいた。 私はカレーとごはんの部分を混ぜて、さましてから一口ずつ食べる。 少なめによそったから早く食べ終わった。 ちらと横を眺めて、水を飲む。 ……いちくんはカレーが好きだ。 うん。 「イチ君。お代わりはいらないよね。私が全部食べちゃうからね。」 おもむろに立ち上がってお皿を台所に持っていく。 水が足りなくなったので片手には冷え切ったグラスも。 「え。え」 後ろでは誰かがうろたえている。 誰のことだかは知らない。 ガタンと椅子が弾かれている。 「雨音さん。雨音さん、待つんだ。待ってください」 うん。 カレーはすごい。 一時間ぶりにイチ君の声を聞いた。 網戸になった台所の窓からは蝉が騒がしく降っていた。 コンロの火がチ、とついて換気扇が回り始める。 夏の野菜カレーはジャガイモ・にんじん・豚肉のほかにもたまねぎを普段の二倍入れて、トマトも溶かしている。 お父さんが好きなサヤインゲンもポイントだ。 豚肉の代わりにひき肉を使うのも好きなのだけれど、イチ君はお肉は固形がいいといつも我侭を言う。 次からカレーはずっとひき肉か鶏肉にしよう。 シーフードにしてみるのもいいかもしれない。 「雨音さん、そんなに食べるほうじゃないじゃんか。だめだって。俺の。じゃない、俺が食べてあげる。おなかを壊しちゃだめだ。 父さんだっていつも言ってるじゃないか。女の人はおなかを大事にしなくちゃいけないんだ。 俺もそう思うよ。ほら、その、女の人は自分で戦う力を持っている。男なんか到底敵わないくらい強いよね。 それは大事にしなくてはいけない部分が男より多いからなんだと思うわけ。」 と思うわけといいながら台所に突入してきたイチ君は非常に真剣な顔でお皿を差し出してきた。
「だからね、俺は雨音さんに頼られるような男でありた」 脛を蹴ってみた。 うめき声が聞こえた。 さすがに呆れる。 いつもこうだ。 どんなに拗ねられて口を利かれないのが悲しいかなんてイチ君はちっとも分かってくれない。 私だって。 素直にもっと、怒ってくれたら謝りたいと思っていたのに。 「雨音さん。無視してごめんなさい」 「……」 イチ君は心を読んだみたいに素直に謝ってきた。 私はカレーの火を止める。 「うん。いいよ。」 それから黙ってイチ君のお皿にほかほかのごはんをよそって、カレーをたっぷり載せてあげる。 息がしにくかったので水を飲んだ。 網戸向こうのたてすのせいかダイニングは相変わらず涼しい。 さっきまで冷え切っていたはずのオレンジゼリーは少しぬるかったけれど、美味しかった。 冷たい水も、二日目のカレーのお代わりも美味しかった。 そしてそれがお昼時で。 ちょっと名前の上数文字が違っていてもひとつの屋根の下で誰かと食べて。 季節は夏の盛りの少し手前で、簾から覗くのが雲の無い青空だったのなら。 こんなに素敵なことはない。 何より、隣にいるのがイチ君だというのが一番嬉しいのだけれど、きっとそのことはいつまでも私の秘密だ。 了
第三話は量産型うに氏が投下予定です。 では第四話でまた。
どうでもいいけど、どうやったら午前中に洗濯物を乾かせるんだ?
朝からGJです! 続きを期待してますよ!
>>48 真夏だったら結構乾くもんだよー。
いやだって、お昼の支度前に取り込んで畳んで、それでも暇なんでしょ。 寧ろ、「洗濯物は午後になってから(≒二時過ぎにでも)取り込めばいいし」位のほうがお昼時が暇に感じられる。
せっかくの作品の感想も述べず自分の疑問しか投げかけないW5sWUyO6が 無粋な奴だってことは分かった
>>243 氏キタ━━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━━!!!!
この淡々とした語り口調が好きだ。
今後も期待!量産型うに氏も。GJですた(´・`)
うおお!続き来てた! 丸投げなんて言ってスマンカッタよ、うにさん! そしてGJ!
長閑な日常の幸福感が漂ってて、読んでて嬉しくなるなぁ。
神GJ! 随分細かな日常だな〜読んでて本当に楽しい。
一本投下 1年と数ヶ月ぶりのSSだからリハビリかねての短いやつ あ、女の子視点ですよ
57 :
1/6 :2007/05/23(水) 20:56:24 ID:cka7tAwH
「フラレた・・・」 私の目の前で幼馴染の健太がうなだれている。 「残念だったね」 告白と同時にふられたのが5回。つき合って1週間で別れたのが3回。一番長くて1ヶ月だったかな。 私の知る限りでは、今回で通算10回目の玉砕。 まぁ、健太は告白する時も、別れた時も逐一私に報告するから、回数は間違って無いはず。 「まぁ、次があるわよ。次が」 「真由ぅ」 はぁ。高校2年にもなって情け無い顔しないでよね。全く。 告白する前に元気付けて、玉砕して慰めて。疲れるなぁ、もう。 「なぁ。俺ってそんなに子供っぽいか?」 「うん」 「・・・正直な意見ありがとう」 健太はルックスは悪くは無い。サッカーをやってるから運動神経だっていい。頭もそこらのスポーツバカよりはまし。 けど、性格がその利点で補えないほどまずい。 無邪気、素直、明るいと言えば聞こえがいいけど、それは自分で言った通りただの子供。 落ち着きは無いし、言動に知性のかけらも感じられない。 特撮のテレビが好きで、未だにおもちゃを買っているくらいだし。 しかも、同じサッカー部の先輩でものすごく大人な人がいるからさらにその子供っぷりが目立ってしまうのよね。 「子供っぽいって言うか。まんま子供」 「がふ」 健太がテーブルにつっぷす。 私はシェイクを飲み干して、はいごちそうさま。 「もっと大人っぽくなりてぇなぁ」 「けどさ。いい所だっていっぱいあるよ。運動神経は1年のころからレギュラーやってるからいいでしょ。それにね、優しいもん」 優しさは触れてみないとわからない。大体の人は健太の優しさを知らずにごめんなさいだもんなぁ。 「いきなり告白じゃなくてさ。少しずつ自分を教えていけばいいんだよ」 「そうかなぁ」 「そうだよ。それに、段々と自然と大人っぽくなるんだし、今はそのままでいいと思うな。私は、そんな健太が好きだよ」 これは正直な気持ち。 健太は友達としてだと思ってるんだろうけど、私は本当に健太が好き。叶わぬ恋だと思うけどね。 「・・・ありがと」 「うん。さ、反省会は終わり。明日からはまた元気な健太に戻ってね」 「・・・う・・・はぁ・・・ま、いっか・・・おうよ!」 なによ。そのため息は。つきたいのはこっちなのに。もうケアしてやらないぞ。
58 :
2/6 :2007/05/23(水) 20:57:35 ID:cka7tAwH
健太が10回目の玉砕から2週間後。 廊下で健太が誰かと話しをしている。あれは、隣りのクラスの北野さんだったかな。 楽しそうに話してるよ。 健太が私以外の女子と普通に話ししてるなんてすっごい珍しい。驚きね。 少しは進歩したってことかな? けど、私が本当に驚いたことは翌日だった。 昨日、健太と話をしていた北野さん。彼女が私に話しかけてきたのだ。 「あの。佐野さん」 「はい?・・・あ。北野さん。どうしたの?」 「あの・・・えっと・・・その・・・三浦くんのこと・・・なんだけど」 「あぁ。健太?どうしたの?あ、ひょっとして、付きまとわれてウザイからどうにかしてくれってこと?」 「いえ!・・・あの・・・三浦くんの好きなものって・・・なんでしょうか?」 顔を真っ赤にして私に聞く北野さん。 え?あれ。まさか、ひょっとして。 「健太のこと好き?」 「す、す、す、好きだなんて・・・私は・・・あの・・・」 今時珍しい天然記念物ものだよ。この子。 はぁ。健太も昨日を見る限りではまんざらでもなさそうだし。やっと本当の恋人ゲットみたいね。 「健太が好きなのは」 ・・・ここでテレビでやってる子供向け番組のおもちゃ。なんて言ったら北野さん、どんな反応するかな? あ〜。いやいや、それはダメだよね。 「カレーとかハンバーグとか。美味しい手料理を食べさせてあげればいいと思うよ」 「あ。ありがとうございます!はい。頑張ります」 ホント素直な子だ。 私は、その日一日何も手に付かなかった。 授業も適当に受けて、夕食もほどほどで。今もベッドにうつ伏せになって寝ている。 今までだって告白するだのデートに行くだのといっぱいあったがこんな気持ちにはならなかった。 絶対に失敗するだろうなと女の勘が告げていたから。 けど今回は違う。上手くいってしまう。 健太だって高校生なんだし、彼女が手料理を食べさせると言って自宅に呼んだら・・・あぁ、彼女まで食べちゃう気だ。 「・・・そんなこと・・・無いとは言えないわよね」 はぁ。自己嫌悪。 こんなことなら私から告白するべきだったかなぁ。 卒業式に、一人身の健太に向かって『しょうがないから私が彼女になってあげる』そう言うつもりだったのに。 というか、こんなこと考えてる時点で負けよね。すんごく健太を見下してる感じだし。 北野さんみたく献身の心、みたいなのが全くないよね。 はぁ・・・ホント・・・何してるんだろう私。
59 :
3/6 :2007/05/23(水) 20:58:48 ID:cka7tAwH
「晩御飯に呼ばれた」 「ふぅん」 私は健太の部屋で漫画を読んでいる。 健太が買った新しい漫画を読ませてもらうのは、昔からの通例になっている。 私が漫画読んで健太がゲームして。小学校のころから変わらない光景。 けど、今日は少し違っていた。二人とも心ここにあらず。私も漫画の内容は全然頭に入ってこない。 「そういや、真由の飯食った事無い」 「私料理下手だもん」 「そっか」 そんなの知ってるくせに・・・けど、小学生の頃、調理実習で私が作った焦げたクッキー全部食べてくれたっけ。 「ねぇ」 「ん?」 「・・・健太って童貞だよね」 「おう」 何でも気兼ねなく言えるのはいいけど。もう少し恥じらいってものをね。ま、聞いてる私も私か。 「北野さん・・・多分初めてだから・・・練習しておいたほうがいいよ?」 「・・・練習って、エロDVDでも見るのかよ」 私は服を脱ぎ捨てる。 健太は私に背中を向けているからわからないだろうけど。 「・・・練習。させてあげるから」 抱きつく。健太が誰のモノになってしまっても、初めては・・・健太の初めては欲しい。 「真由。冗談は」 「冗談じゃないよ。ほら、寝て。女の体を教えてあげるから」 私は健太に抱きついたまま体を横にする。 抵抗する健太にそのままキス。ファーストキス・・・ムードないけど・・・すごく嬉しい。 「んっ・・・はぁ・・・ん!?」 健太の舌が私の中に入ってくる。 や・・・あ・・・だめ・・・頭の中が痺れて。ん・・・あぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ 「健太・・・ダメだよ・・・いきなりそんなことしちゃ」 「ごめん」 「・・・北野さんの時は普通にするんだよ」 北野さんの名前を出すたびに胸がチクリと痛くなる。 でも。これが最初で最後。もう・・・健太とは・・・最後だから。
60 :
4/6 :2007/05/23(水) 21:00:07 ID:cka7tAwH
「そのまま動かないでね」 健太をベッドに座らせて、パンツを脱がせる。 うわ。知識では知ってたけど・・・生で見るとけっこうグロイかも。 なんか、これを舐めるのは抵抗が。 「真由」 えぇい。女は度胸。 んっ・・・なんか、しょっぱい。 「ぅぁ。ま。真由・・・ちょ、そこ・・・ダメだって」 健太。女の子みたいに喘いで・・・可愛いかも。 もっともっと気持ちよくなって。可愛い健太を私に見せて。 「くぅ。ぁぁ・・・真由。ごめん」 「きゃっ」 健太の先っぽから白いものが勢いよく飛び出て・・・私の髪と顔にかかって。これって。精液だよね。 ちゃんと気持ちよくなってくれたんだ。 「真由。ごめん」 健太が私の顔と髪の毛を拭いて綺麗にしてくれる。 今度はちゃんと・・・飲んで・・・あげないと。 あ・・・でも、今度は無いんだ。じゃあ、飲んであげればよかったかな。 「健太」 私はパンツを脱いで健太の上に乗っかる。 「いくよ」 「・・・あ、ちょ、待って。それは・・・うぁぁぁ」 抱き合ったまま私の中に健太のが。 くぅ、なに・・・これ・・・漫画とかのは大げさだろうと思ったけど・・・本当に痛い。 「あ、あぁ・・・んっっ」 「真由・・・無理しないで」 「大丈夫・・・だから・・・ね。私に任せて」 そう。大丈夫。大丈夫なんだから。 痛い・・けど・・・もう少し・・・んっ・・・あぁぁぁ・・・はぁっ。 「はぁ・・・はぁ・・・全部・・・入ったね」 「真由・・・なんで」 答えたいけど、答えられない。 その代わりにゆっくりと腰を上下させる。
61 :
5/6 :2007/05/23(水) 21:01:35 ID:cka7tAwH
「うあ。真由・・・痛くないのか?」 痛いけど。でも・・・健太に気持ちよくなって欲しいから。 だから私は健太が気持ちよくなるように。我慢して動く。 「くぅ・・・あ・・・っ・・・真由・・・どけ・・・もう」 あ。でも、今日は・・・多分大丈夫。 だから。私は。 「真由。ダメだって・・・早く。うあ・・・あぁ」 んっ。 中で健太のが一瞬大きくなって、温かいものが。あぁ、これが中出しの感覚なんだ。 なんか、おしっこが逆流したみたい。 でも・・・お腹が温かくって気持ちいいかも。 「はぁ・・・はぁ・・・ごめんな」 「んっ。いいよ」 抜き取ると私の脚を伝って、健太の精液と私の血が流れてくる。 私たちはお互いに顔を合わせないように体を拭いて服を着た。 最初に口を開いたのは先に着替え終わった健太だった。 「なんでこんなことしたんだ?」 「・・・北野さんが心配だから・・・それだけよ」 「本当に?本当にそれだけなのか?」 健太が私の目を真剣に見てくる。 そんな風に見られたら私。 「俺は・・・いや、俺が悪かったような気がするんだけど・・・あのさ。俺が好きなのは北野さんじゃなくて・・・真由だから」 「うん。わかってる・・・・・・・・え?」 ちょっと待って。今、何て言ったの? 「私が好き?」 健太はうなずく。 「あ〜。えっと・・・その・・・・あれ?」 「ずっと、真由が好きだったけど、自分から思いを伝えるの怖くて・・・んで、色々考えて、そういう場を設ければと思ってさ」 「そういう場?」 「真由が・・・俺の事好きだって実感出来るような・・・・・・あぁもう。嫉妬して欲しかったんだよ」 え〜っと。つまり、今までのコイツの行動は私に嫉妬して欲しくて? 「ほとんどの女の子にはわざとふられるようにしてさ。前に一回長くつき合ったことあったろ。あれも、実は相手の女子に手伝ってもらってた」 「狂言?ウソ?偽り?ぜ〜んぶ私を騙してたの?」 「ごめん!けど、真由が全然そういうそぶり見せないから俺の事なんとも思って無いんだと」
62 :
6/6 :2007/05/23(水) 21:02:40 ID:cka7tAwH
私は一気に体の力が抜けた。 そりゃそうよ。なんか、真面目にいい子を演じてた自分がバカみたいじゃない。 「真由」 「・・・知らない・・・健太なんて知らない!」 「ごめん」 「っ」 健太に抱きしめられる。 「健太」 「好きだ。愛してる」 「・・・私も・・・私も好き・・・大好き・・・ずっとずっと前から好き」 涙があふれてきた。前が見えない。 大好きな健太の笑顔も見えない。でも、なんとなく・・・健太の笑顔がわかる。 もうこのまま時間が止まってしまえばいいと、初めてそう思った。 けど、そういうことが起こるわけはない。健太の部屋の時計が5時を告げた。 「ねぇ、ひょっとして・・・北野さんとのこともウソ?」 「あ。いや。北野は別。本当に飯食いに来てくれって。でも、行かないぞ」 そっか。北野さんも健太のいい所を見つけて惹かれたんだね。 「いいよ。行っても。せっかくご馳走してくれるって言うんだしさ」 「でも」 「そこで行くのが私の知ってる優しい健太。あ、でも調子にのって北野さんに手を出しちゃダメだからね!」 「わかってるよ。もし告白されても断るから」 「うん。よろしい」 顔を見合わせる私たちの唇が自然と触れ合う。 「・・・行ってくるな」 「うん。じゃあ、私は夫の帰りを待つ妻の役でも演じてようかな」 「家に帰らないのか?」 「泊まっちゃダメ?」 「俺はいいけど。今日は誰も家に居ないぞ?」 「わかってて言ってるんだから。それくらい察しなさいよ。もう。じゃあ、行ってらっしゃい」 「・・・うん。行ってきます」 健太が部屋を出て行く。 さぁ、私は部屋の片付けとお風呂の準備でもしよっと。 遅くなって私をヤキモキさせたらただじゃおかないんだから。 けど、ちゃんと早く帰ってきたら・・・いっぱい、いっぱいサービスしてあげようっと。
63 :
あとがき :2007/05/23(水) 21:04:08 ID:cka7tAwH
完了。 また、リハビリかねて投稿させてもらいますね〜 では
テラスクールデイズw
ふはぁー、甘ーい!! GJです!! 次の作品も期待してますですよ!!
いいねぇ…甘いねぇ…憧れるねぇ…でも幼なじみいないんだよねぇ…orz ま、何はともあれGJでした。
GJです。 こちらも投下行きます。
68 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:41:41 ID:iSds5ZNE
「では、失礼させて頂きます。」 彼女は高一の教室、則ち下の階へと降りていった。 「葵ちゃん、あれ誰?」 「さぁ?中川さん知ってます?」 「知らないから聞いてるんでしょ。でも『岩崎』でしょ、もしかしたら三○グループのお姫様だったりして。」 「まさか〜、○菱はないですよ〜」 「だよね〜。」 「まあ遼君の知り合いみたいでしたし、今日聞いてみますよ。」 「そうしてみなよ。もしかしたら先にあの娘がいたりしてね。」 「今日は私たちの方が短いから無理ですよ。」 「甘いな葵ちゃんは。早退だよ早退。」 「遼君と会うために?あの子ならやりかねない気が。」 「するよね〜。」 あの子はやると思う。 予知なんていう大層な物じゃなくて、あくまでも直感だけど。 「葵ちゃんも強くなったよね〜。」 「そうですか?」 「うん。昔の葵ちゃんだったら、あんな事言われてたらめちゃくちゃ気に病んでたと思うよ。」 「そういわれると、そうですね。私も強くなったんですよ。」 「うん、いいこといいこと。」 でも、さっきはあっちが帰ってくれたからなんとかなった。 だけどもし遼君の所で同席しちゃったら勝てる気どころか対等にいれる気がしない。
69 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:44:12 ID:iSds5ZNE
「では、失礼させて頂きます。」 彼女は高一の教室、則ち下の階へと降りていった。 「葵ちゃん、あれ誰?」 「さぁ?中川さん知ってます?」 「知らないから聞いてるんでしょ。でも『岩崎』でしょ、もしかしたら三栄グループのお姫様だったりして。」 「まさか〜、三栄はないですよ〜」 三栄とはこの近辺で圧倒的な力をもつ財閥の事だ。 「だよね〜。」 「まあ遼君の知り合いみたいでしたし、今日聞いてみますよ。」 「そうしてみなよ。もしかしたら先にあの娘がいたりしてね。」 「今日は私たちの方が短いから無理ですよ。」 「甘いな葵ちゃんは。早退だよ早退。」 「遼君と会うために?あの子ならやりかねない気が。」 「するよね〜。」 あの子はやると思う。 予知なんていう大層な物じゃなくて、あくまでも直感だけど。 「葵ちゃんも強くなったよね〜。」 「そうですか?」 「うん。昔の葵ちゃんだったら、あんな事言われてたらめちゃくちゃ気に病んでたと思うよ。」 「そういわれると、そうですね。私も強くなったんですよ。」 「うん、いいこといいこと。」 でも、さっきはあっちが帰ってくれたからなんとかなった。 だけどもし遼君の所で同席しちゃったら勝てる気どころか対等にいれる気がしない。
70 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:45:45 ID:iSds5ZNE
彼女みたいに本当に強そうな、いや強いであろう子に私なんかが。 そもそも私のせいで遼君は倒れたんだし、彼女が言ってることは正しいし「こらっ」 「わっ。な、なんですか?」 「一人の世界に入り込むな!またなんか変な事考えてたでしょ。」 「今の感じだと、[私、あの子にはかなわない。]ってところ?」 「いきなり女の子同士の話に首突っ込んで来るな。」 「女の子同士?女の子とぐはっ」 凄かった。同士?と最後が疑問形になった瞬間に振りかぶり後ろにいる高瀬君のお腹にパンチをしていた。 格闘技の事はよくわからないけど、凄く痛そうなのはわかる。 「ちょっおま。これ死ねる。」 「遺言は?」 「スイマセン。」 「よろしい。」 「高瀬君大丈夫?」 「あはは、大丈夫大丈夫。もうなれたよ。」 「ま、葵ちゃんも変な心配せずに行ってきな。 安井君にとってこの世で一番大事なのは葵ちゃんなんだから。 あんな子に臆さずに堂々といきなさい。」 私の事を買い被り過ぎだと思うけど、純粋に嬉しかった。 「うん。」 「ま、これから授業だけどね。」 「あんたは水を挿すな!」 「あはは。別にいいよ中川さん。」 起立。 号令がかかる。 今日の授業の始まりだ。
71 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:46:41 ID:iSds5ZNE
コンコン 「遼君、私だよ。」 「葵か?入っていいよ。」 私は学校が終わってから速効で病院に来た。 「入るね、遼君こんにちは。岩崎さんも。」 岩崎さんに会釈をする。 半ば予想はしてたけどやっぱり居た。 岩崎綾芽ちゃんがいた。 「岩崎さん、学校は?」 「葵からも言ってやってくれ。」 「葵も聞いてくれよ。」 「こいつ、転校初日に早退して来たんだぜ。ありえないだろ普通。」 「私は遼兄さまに早く会いたかったんです!」 「だからって早退までするか普通?」 「します!」 その岩崎さんの言葉には女の子が好きな人だけに向けるであろう真摯さがつまってた。 やっぱりこの子も遼君のことが大事なんだろう。 「仲・・・良いんだね。」遼君がギクッとした感じでこっちを見る。 「あ〜、こいつさ、家の母さんが入院してたときに、隣の病室にお前のおばあちゃんだっけ?」 「ひいお爺様です。」 「が入院しててさ、お互いガキだろ?死とかわかんなくて、一緒に楽しく遊んでたのよ。」 「そうですわ。あなたなんかより遥かに昔からのお知り合いですわ。」 私が黙ってしまってるのを見て遼君が助け船を出そうとしてくれてるのがわかった。
72 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:47:40 ID:iSds5ZNE
「昔ったって。昔に半年くらい一緒に遊んでたってだけだろ。」 「浅く長くより深く短くの方が良いんです。」 岩崎さんは堂々と言い返す。 私を睨みながら。 「おいおい、無理がねーか?」 「ないです。私はそろそろ失礼させて頂きますね。岩松さんもこれ以上私の遼兄さまを傷つけないようにして頂きたい。」 「こらっ綾芽!お前は葵に失礼な事を言うんじゃない。」 「では、失礼させて頂きます。」 驚いた。 遼君と話してるときの甘い空気から私と話すときの冷たい空気に一瞬で纏う空気を変えた。 なかなか出来る事じゃない。 それだけ私の事を憎んでいるんだろう。 自分の大事な人を殺されかけたんだし、当然だ。 「そこのネガティブ少女。」 「ん?」 「葵〜、反論くらいしよ〜ぜ。」 「だって、本当の事だし。みんなに心配ばっかかけてるし。」 遼君の手が私の頭の上に乗る。 「昨日はあれだけ強かったのに、今日はこれか?」 「それは、昨日は忘れてたけど、遼君を傷つけちゃったの私だし。私なんか・・・」 遼君は手で私の頭を撫でながら、ふぅとため息をつく。 「やっぱり誤解してたか。俺のこれ、説明してやるよ。」 「うん。」
73 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:48:38 ID:iSds5ZNE
「俺のは不整脈起こすのと、心臓の欠陥が重なってるんだ。」 「2個あるって事?」 「そう。どっちも生まれつきで、どちらか一方なら直せるけど、二つあるからいじりようがないんだと。」 「二つあって、治せない。」 私が口に言って出したそれは、つまり。 「でも、今すぐ逝く、逝かないの話じゃないんだ。」「え?」 「明日か、明後日か、来年か、五年先か、十年先か、いつ爆発するか解らない爆弾を持って生きていく。そういう事をしていくわけ。」 遼君の説明を聞いて、私の中に浮かんだ想い。 なんという残酷な病気なんだろう。 何時殺されるのかがわからない恐怖を味わせながら生かしていく。 でも必ず、最後には殺す。 「でも十年位頑張れば特効薬とかも。」 「出てるかもしれないし、出てないかもしれない。」唯一の希望的観測も暗に否定される。 「だから葵。この前の返事をするよ。」 私は急激に与えられた情報に悲観しかけてたけど、また冷静になる。 私はもし彼がイヤだと言ったら、素直に身を引く。 でも今までの遼君みたいに、迷惑云々と言ったら、傍に居続ける。
74 :
優し過ぎる想い :2007/05/25(金) 01:49:27 ID:iSds5ZNE
「うん。」 「なら、俺も誓うよ。葵を俺の命が続く限り愛し続ける事を。」 「うん!ね?」 私は満面の笑みで答える。 そして遼君の顔の前で目を閉じる。 遼君の手が私の背中に回る。 そして遼君が私に唇を重ねてくる。 とても柔らかく暖かい。私を包み込むように優しさに溢れている。 そんな心が伝わってくる。 遼君が倒れる前にもしたからファーストキスじゃないけど、誓いのキス。 私と遼君の永遠に続く誓い。
はい。 とりあえず完結です。 完璧非エロですorz ですがまだ海とか修学旅行とかクリスマスとかetcetc のやりたいイベント(含む初H)がたくさんあるので、そのシーズンに短篇を落としていきたいと思ってます。 もう少しお付き合いさせていただけたら幸いです。 またもう一つ病気じゃないですけど男の子側が傷を持ってるssを落としたいです。 こちらは書き始めてるのでそう遠くない未来にお目見えすると思います。 ですが取りあえず、 [優し過ぎる想い 葵×遼太] をここまで読んで下さってありがとうございました。 p.s 一つ目は完全に推敲前のを落としてしまいましたorz 二つ目からキチンとしたのを投下してあるので、そちらからお読み下さい。 本気でやってしまったorz
76 :
73〜74 :2007/05/25(金) 01:58:34 ID:iSds5ZNE
遼君にそんな遠慮はさせない。 「俺は葵の事が好きだ。女の子として。出来れば傍に居てほしいとも思ってる。」 歓喜に包まれる。 「でも、覚悟が出来ない。葵に傍にいてもらえば、俺自身は幸せだ。 でも例えば10年後、俺が逝った後は葵はどうなる? 人生で一番楽しい時期であろう10年を俺は奪い取っちゃうんだ。 その覚悟が出来ない。」 確かに怖いことだ。 時を奪われるのも辛いだろうけど、大事な人からその人の大事な時を自分の意志とは関係なく無作為に奪い取ってしまうのだ。 それは恐怖となによりの罪悪感に苛まされるだろう。 でも私は嬉しかった。 確かに多少はそういう事も考える。 だがもし遼君から離れて送る80年と、遼君と楽しく生きる1日だったら選ぶ方は明白だ。 「ありがとう。私の事をそこまで考えてくれて。私はそれが嬉しいよ。 でも、大丈夫。 私なりに考えたし、大事なのはどっちかって考えたら一瞬だよ。 」 一瞬息を付いて言う。 「私は遼君を守って傍に居続けて、愛し続ける。ね?」 遼君も不安そうな顔から変わっていく。 「わかった。覚悟は決まった。迷惑かけるかもしれないし悲しませるかもしれない、それでもいいんだね?」
本当に申し訳ありません。 73と74の間に上の文を入れてください。 推敲前の文章落としたり、順番入れ違えたり、読みにくくしてすいませんorz
GJです! 各イベントのものも読んでみたいですね! また投下して下さい。待ってますよ!!
GJ! まだまだこれからと言った雰囲気が好みです。 自分もイベント話待ってます! とりあえず、お疲れ様でした。
ポルコとジーナみたいな関係もいいね 幼馴染物の基本だと思う
絆と想い氏最近こないな〜。wktkして全裸待機中なのに。
アゲ
>>83 俺も待ってるんだが、やっぱりエロは難しいのかねぇ。まぁ職人さんは焦らずにじっくり書いてくれれば良いんだけどね。
折角だから雑談でもしようか。ゲームで良い幼馴染関係が見られるものってあるかな?
俺は今エターナルアルカディアというRPGをやってるんだが、これに出てくる幼馴染の女の子が結構良い感じ。
>>83 ONIX『隠忍を継ぐ者』
金髪ツインテールの勝気で可愛い幼馴染が登場する
>>85 このスレ自体が流れに差ありすぎだからなぁ
日曜日が待望の濡れ場展開だったのに思いの外感想が少なくて
見ててあれっと思ったものだ
このスレって常駐してる人が少ないのか知らんが、あんまり感想は書かれんね。 まあ、投下しただけで神神言われるよりはいいかも知れんが。
>>86 おま…それは…
たしかに勝気で可愛いけどさ…
ゲームの幼馴染み、か……。今思い浮かぶものは揃ってアレだぜ。 「エストポリス伝記II」では、“敗北する幼馴染み”が衝撃的だったな。 朴念仁の主人公と、それに思いを寄せる少女というお約束なのだが、 ポッと出のツンデレっ娘と主人公が、反発しながら接近していくのを、 やりきれない思いで見守る様子がプレイしていてとても切なかった。 「ジルオール」では、あるスタート地点でお姉さん系幼馴染みが登場。 「あんたは私がついててあげないと全然ダメなんだから」てな感じで、 序盤は、「これなんてギャルゲ?」的なほほえましい展開なんだけど、 行動次第では敵として戦う羽目になり、そのまま倒すと死んでしまう。 一応、ラブラブハッピーエンドも用意されてるので救いはあるのだが。 あと、あれも幼馴染みじゃなかったっけ、「バh
それ以上言うとNTRスレ送りにすんぞ!
一瞬ラノベ板の幼なじみ禁止スレかと思った
個人的にはワイルドアームズ2や5が良いな。 ただ、2は幼馴染がメインヒロインで主人公とくっつくが、5の方はちょっとかませ犬っぽいんだよね……。 そこがいいという人達も結構多いようだが。
じゃあ、バハムートラグーンは?
あれも一つの幼馴染みの形じゃないかねえ。 関係が崩壊していて、過去の二人とギャップがあるのも乙なものである。
バハラグで思い出したが、FF12も結構いい幼馴染ってるぞ。 周りが真面目な話してる時に、空気読まずに二人でいちゃついてたりするしな。
>>90 が言いかけてるのが正にそうだなw
しかしあのゲームは本当に衝撃的だった……。
あとはタクティクスオウガも良いね。荒れた主人公に、実は自分が幼馴染で主人公達と良く遊んだことを話してなだめる
シーンや、エンディングで旅立つ主人公を追っかけていくシーンなど、感動したなぁ。
ドラクエのクリフトとアリーナも良い幼馴染みだと思う
タクティスクオウガはいろんな要素を含んでるなぁ。 10年ぶりに遊んでみたいぜ。
スクランのような、幼い頃と今とでは立場が逆転してる幼なじみも良いもんだぞ
プレイしたのはかなり前なのでうろ覚えだが、TOEの主人公らが どえらく良い幼なじみだった気がする。
タクティクスオウガは当時プレイした時に衝撃をうけたな。大儀に従わなければカオスの属性付いたり 怖い姉がいたり、途中参加とはいえ献身的な幼なじみがいたり、全てとは言わないけど戦争のエグイ部分をちゃんと描写したり 本体は人にやったけど、これだけは家に置いてるな。 とスレ違いスマソ
103 :
名無しさん@ピンキー :2007/05/31(木) 02:59:12 ID:6cV0VLqO
幼馴染といったら、かしましのとまりだな。
ごめん、sage忘れてたorz
ちょおまwww
スレ進み過ぎwww
こんなに人がいるならもう少し作品投下された時に感想つけようぜ。
いや俺もだけどさ。
>>101 リッドとファラは最高だったな。
俺を幼なじみの世界に連れて行った立役者だぜ。
>>97 >>99 >>102 子供の頃、湖か何かで溺れかけて、その時額に傷がついたことを話すんだよな。
「私のことキズモノにした責任、取ってくれるんでしょうね」(←そんなこと言ってない)
あとは二人での外出中、突然の通り雨に遭って、近くの廃屋に逃げ込んで雨宿り。
どこかぎこちなく張り詰めた雰囲気の中で、とりあえずは濡れた服を乾か……
そうとしたら女の子の姉(元敵方で現在は敗残兵の身)が隠れていて邪魔される。
「どうして!? せっかくいいところだったのに!」(←言ってないけどきっと思ってた)
クロトリのルッカに光を…
ルッカは本当に噛ませ犬だったなw
ルッカはツンデレも持ってたんだがな……
噛ませというか、そもそも恋愛感情持っていたかどうかも怪しいところじゃなかったっけ。 長い事やってないんで間違ってたら申し訳ないけど。
>>110 クロノが生還するとき、パーティにマールがいないとそれらしい台詞があったようななかったような。
4以降のドラクエはみんな幼馴染がいるよな
お前ら話が脱線している
ロックマンDASHのロールちゃん 日記がモエス
ってな訳で日記ネタとか希望
>>101 あれは良い幼馴染みだった
元々仲が良いのに
くっつく訳でもなく、
進展がない訳でもなく、
最初から最後まできっちり「友達以上恋人未満」でいてくれた
>>113 いいじゃないか
「よしじゃあ俺が二次もので書いてみるか」
なんて思い立つ住人がひょっとしたら出てくるかもしれない
|・ω・´)ノ
>>115 センセイ! コンナカンジデスカ!
―6月某日ひねくれ男のひねくれ日記―
【8:42】「崇兄なんか嫌いだ!」惚気てくる紗枝の夢を見ながら起床。顔色は言うまでも無い。
【8:55】焦げた食パンを頬張る。忙しくてもちゃんと朝飯を食べるのが俺のルール。
【9:04】だるいバイトに出発、そろそろ今のバイトを辞めたくなってきた今日この頃。
【9:22】「おはようございます!」兵太だ、朝にこいつと会うのは実に鬱陶しい。
【9:34】「今日も天気いいっすね!」妙にテンションが高い。多分女だなこれは。ちなみに天気は
雨だけどな。
【10:10】黙々と働く。兵太は常にニヤニヤしている、傍目から見ていて実に気持ち悪い。
【12:34】休憩がてら昼食。最近のコンビニは明らかにおにぎりに情熱を注いでない、もっと注げ。
兵太も一緒に飯を食っている。相変わらずニヤニヤ(ry
【13:32】「いらっしゃいませ!」満面の笑顔で接客してたら客に笑われる。どうやら歯にのりが
くっついたままだったらしい、誰か指摘しろクソが。
【15:07】兵太がそわそわしだした、あいつはそろそろ上がりだ。ちなみに表情は相変わらず(ry
【15:30】「お疲れっしたー!」兵太上がる。見ていたら真由ちゃんが外で待っている。
あまりの展開に思わず加○茶ばりの二度見をかましてしまう。
【15:32】停止していたら店長に小突かれる。外にいた真由ちゃんと目が合い鼻で笑われた、
今度紗枝に彼女の対策を聞いておこう。
【17:00】かく言う俺も仕事終了、荷物まとめてとっとと職場を後にする。
【17:12】そういや今日は紗枝の家で晩飯を食うんだった、これからのことを思うとどうにも
溜息が止まらない。紗枝本人はともかくおじさんおばさんは魔物の域に達してるからな。
【17:59】紗枝の家到着。いつぞやのボロのワンボックスが見当たらないのがちょっと寂しい。
【18:07】「おやいらっしゃい」おばさんだ、今日は根掘り葉掘り聞いてくるんだろうなぁ。
「よく来たね」おじさんだ、メガネが光って目線が見えないのが実に不気味だ。
【18:08】「紗枝はどうしたんスか?」「あの娘なら今台所でご飯作ってるよ」
どうやら今日の晩飯は全部紗枝が作るらしい、非常に不安だ。
【18:10】「あ、た、崇兄っ、来たんだ」鍋にフライパンに踊らされてる紗枝が非常に面白い。
【18:11】「お前エプロン姿似合ってねーなー」「うるさいっ!」
酷いと思うかもしれんが実際似合ってないんだから仕方ない、なんつーかガキ。
「ちょっ、ちょっと! いきなり何すんだよ!」「んー?」
気付いたら抱きしめてた、いやでもこいつほんとエプロン姿似合わない。
【18:12】「もー、火傷したらどうすんだよ!」「そん時は火傷跡舐めてやっから」「っ!?」
紗枝の顔が火傷している。おじさんとおばさんがドアに隠れてニヤニヤしている。
【18:12】「お…お母さんとお父さん見てるんだよ!?」「見せつけてやれ期待されてるみたいだし」
こういうのは開き直ったもん勝ちだ。
【18:47】とりあえず紗枝にビンタされてからダイニングの椅子に座ってお預けを食らう、二つの意味で。
あー…くっそ早く食いてーなぁ、二つの意味で。
【19:01】「出来たよー!」やっと完成したようだ、てめー一時間近く待たせやがって。
【19:02】「大好物作ってたんだ!」ほほう俺の好物を作ってくれるなんてんなかなか殊勝な真似…
「ほら、上手に出来たんだよぶり大根!」お前の好物ぢゃねーか。
【19:04】メニューは他にも色々あるが、なにはともあれ食うことに。
「いただきまーす!」こういう時の紗枝はいつも以上に子供っぽい。
【19:11】「そういえば、孫の顔はいつ見れるんだろうねぇ」「気になるところだな」
おじさんおばさんの口撃が始まる、紗枝の顔が途端に不機嫌になっていく。
【19:11】「もう仕込んだよ」紗枝一人思いっきり噴出す。おじさんおばさんは全く動じない。
それどころか笑みが深くなってんぞ、怖えーな。
【19:12】「それは楽しみだな」「名前考えとかないとねぇ」「ははは、そっすね」「……っ」
よく考えたら飯時にする会話じゃねーよな。
【19:15】机の下で足を紗枝にげしげし蹴られ続ける。おいおい、そんなに求愛してくんなよ。
118 :
Sunday :2007/06/01(金) 01:30:06 ID:cygFOO4b
【19:25】ちなみに紗枝の料理の感想はロシアンルーレットみたいなもんだと思ってくれ。 【19:54】夕食終了。喋りながらだったからダラダラ食っちまった。 【20:00】居間でくつろがせてもらおうかと思ったら紗枝の部屋に通される。紗枝はどうやら 俺とおじさんおばさんを話させたくないらしい。 【20:04】「ご飯どうだった!」「ぶっちゃけ微妙」正直に答えたら途端に顔曇らせやがった。 お前嘘ついたら余計に怒るだろ。 【20:07】「……お茶汲んでくるね」頼んでもないのにトタトタと階段を降りていった。 別に喉渇いてねーのに。 【20:10】「はい、どーぞ!」やっべ、紗枝の表情が怖いくらいに笑顔だ。相当怒ってんな。 「お、おう」なんか濃い塩味がするぞこの麦茶。 【20:24】「あー、その、悪かった」「うわっ」埒が明かなくなったもんだから、いつものように 座椅子になってやる。 【20:25】「ちょ、ちょっと!」「んー」「お母さん上がってきたらどうすんだよ!」「んー」 止めたら止めたで寂しがるだろーがお前わ。 【20:29】「もうー、止めてよー」眉吊り上げて口を尖らせだした。どうやら機嫌を治してくれた ようだ、良かった良かった。 【20:43】「だめ?」「だーめ、下に二人いるんだよ?」「聞かせてやりゃいいじゃん」「絶対嫌!」 今日は鉄壁のガードだ、まあ当たり前っちゃ当たり前だが。 【20:45】妥協した結果キスだけOKということに。 【20:48】(時刻は書き込まれているが空白になっている) 【21:03】明日もバイトがあるのでそろそろお暇することに。 【21:07】「またいつでも来なさい」「待ってるからね」 おじさんおばさんの二人の笑みが妙に深い、もしかして覗いてたのかオイ。 【21:12】「じゃあお休みなさい、明日は紗枝家に帰ってこないんで」 しゅたっと手を上げ挨拶すると、二人は満足したように手を振ってきた。 【21:15】帰路についてると追いかけてきた紗枝に思いっきり背中を蹴られる。別れ際の挨拶が 不満だったらしい、何を今更。 【21:18】「あんなこともう言わないでよね!」「別にバレてるから良くね?」「だめ!」 【21:19】(時刻は書き込まれているが空白になっている) 【21:20】あまりにうるさいから力づくで黙らせてしまった、俺も大概だな。 【21:25】ふらふらした足取りの紗枝を見送って再び帰路につく。 あー…、そろそろフリーターやめて就活するべきかなぁ……
GJ!!w 崇兄の日記はマメだなw
ちょwww うますぎるwww 超GJ!
空白の中身が気になりすぎるwww
>>117 よし、まずは18:12〜18:47までのホシの行動と同じく20:10から21時頃までの一連のやり取り
そして、空白になっている部分の詳細をまとめて提出してくれ
紗枝バージョンも期待して良いですか?
>>117 GJです! こういう日記形式も良いですね! 空白の部分は是非たっぷりと書いて欲しいですw
それでは、こちらも投下させて頂きます!
図書館で舞衣にプロポーズまがいのことをしてしまった日の夜。正刻は中々寝つけずにいた。 天井を見上げながら、ふぅと溜息をつく。 「しかし……。舞衣があんなに思いつめていただなんてなぁ……。」 図書館での出来事を思い返してそう呟く。いつも自分に愛を囁き、ひっついてくる舞衣があんなに不安を抱えていたとは想像すらしていなかった。 「まったく俺って奴は……。あいつに何年俺の幼馴染やってるんだ、なんて言ったが……人の事は言えねぇな本当……。」 そう言って正刻は目を閉じた。瞼に浮かぶのは舞衣の泣き顔、そして笑顔。 「しばらく……ベタベタしてくるのも大目に見てやるか、な……。」 そう言って正刻は、ようやく訪れた眠気に身を委ねていった。 「……き、おき……刻……。」 自分を呼ぶ声に、正刻は起こされた。枕元の携帯電話を見ると、まだ午前二時前後といった所だ。 こんな時間に部屋に侵入してくる人間は色々と不味い感じなのだが、夜中に起こされた所為で今ひとつ覚醒しておらず、かつその人物が自分の 良く知る少女であったため、正刻はその点には深くつっこまずにとりあえず問いかけた。 「……こんな時間に何の用だよ舞衣……。」 そう、正刻を呼んでいたのは舞衣だった。学校指定のセーラー服を身に纏い、とびっきりの笑顔を浮かべながら正刻に跨っている。 「こんな時間に済まんな正刻。だが……どうにも我慢が出来なくてな。」 正刻に跨ったまま笑顔で答える舞衣。その笑顔を見て、やっと働き始めた頭が警鐘を鳴らし始める。 「な、何だよ……。何が我慢出来ないってんだ……?」 正刻は慎重に舞衣に問いかけた。正体不明のプレッシャーを感じつつ。 「何が、だって? ……君とこうすることを、さ。」 すると舞衣は、言うが早いか正刻の頭をかき抱き、キスをしてきた。 「─────ッ!?」 突然の不意打ちに、正刻は思わず硬直してしまう。その隙に、舞衣は舌を入れ、濃厚なディープキスを行い始めた。 「……っぷ、はぁ……。んっ……。」 一心不乱に正刻の口内を蹂躙する舞衣。正刻は最初、驚きのあまりにされるがままになっていたが、我に返ると舞衣の肩をつかんで引き離した。 「んっ……。」 正刻の口と舞衣の口を銀色の糸が繋ぎ、そしてぷつんと切れる。それを見ていた舞衣は名残惜しそうに言った。 「何をするんだ正刻。折角のディープキスの最中だったのに……。」 「何をするんだ、はこっちの台詞だ馬鹿野郎!! お前、一体どういうつもりなんだよこんなことして!!」 「だから……言ったじゃないか。もう我慢が出来ないって。私は君が欲しくてたまらないんだ。君と……セックスしたくてたまらないんだ。」
そう言ってじっと見つめてくる舞衣。正刻はその瞳を暫く見返していたが、不意に目を逸らした。そしてぽつり、と呟いた。 「……俺には、お前を抱く資格はまだ無いよ。」 「……資格、か。君は変な所で真面目だな。」 そこがまた良いのだがな。そう言って舞衣は正刻の髪に軽く口付けをする。 その感触にぴくりと身を震わせ、そして正刻は言葉を続ける。 「とにかく、俺はお前をまだ抱けない。……お前のことを一番に考えることが出来ない今は、な……。」 そう言って舞衣から目を逸らし続ける正刻。そんな彼を見て、舞衣はくすり、と微笑んだ。 「? ……何だよ。」 「いや、君は少し勘違いをしている、と思ってな。君が私を抱くんじゃない。私が君を抱くんだ。」 そう言われた正刻はきょとん、とした顔をした。しかしすぐに呆れた顔をして舞衣を軽く睨みつける。 「おい舞衣。俺の話、ちゃんと聞いてるか?」 「ああ聞いているとも。その上でこう言っているんだ。いい加減覚悟を決めろ。」 「だから、何度も言っている通り、俺は……。」 「私の事を一番に考える事は出来ない、か? なら聞くが、君は私のことが嫌いなのか? 私のことを抱きたいと、これっぽっちも思わない のか?」 妙な迫力を伴って正刻に問いかける舞衣。その迫力に押され、正刻は思わず本音を言ってしまう。 「そんな訳ないだろ! お前のことが嫌いだったりどうでも良かったらとっくに手を出してるさ! お前のことが好きで大事で大切だから、 必死になって我慢してるんじゃねーか!!」 その正刻の本音を聞き、笑みを浮かべる舞衣。それを見て、正刻は自分の失敗を悟った。思わず唇を噛み締める。 「ふふ……。そこまで私のことを想ってくれているのなら正刻……。私のことを抱いてほしいな……。」 舞衣はゆっくりと正刻に覆いかぶさり、彼を抱きしめながらそう囁いた。 自分を抱きしめてくる舞衣の身体の柔らかさと温かさに正刻はもう陥落寸前であったが、しかし最後の抵抗を試みた。 「だ、けど、それじゃあお前が……。」 「正刻。私のことを大切に想ってくれるのは有難いし嬉しいが、必要以上に大切に扱われるのは辛いものだぞ? ましてやそれが、愛する 人ならば尚更な。」 舞衣はそう言って正刻を抱きしめる腕に力を込めた。 その台詞を聞き、正刻は寝る前に考えていたことを思い出す。 (そうか……。だから舞衣は、あんなに不安に……。) 考え込んで抵抗を止めた正刻に、舞衣は止めとばかりにこう言い放った。 「今までずっと不安で辛かったんだ……。その分、君の温もりを欲しいと思うのは……私の我侭、か?」 潤んだ瞳で見つめられ、正刻は自分の理性の最終防衛ラインが破られたのが分かった。 舞衣の背中と後頭部に手を回し、しっかりと抱きしめる。 「あっ……。」 思わず声を上げた舞衣の頭を撫でながら、耳元で囁いた。 「覚悟しろよ? やめてと言っても、もう止まらないからな。」 それを聞いた舞衣は正刻に微笑みかける。 「それはこちらの台詞だ。君のことをたっぷりと愛してやる。私以外の女の子など、眼中に入らないくらいに、な。」 そうして二人はゆっくりと目を閉じ、再び口付けを交わした。
「むぐっ……はぁ……あむっ……。」 二人はお互いを貪るように深い口付けを交わす。舌を入れ、入れられ、またその舌を吸っては吸い返される。 その感触に二人とも陶酔していたが、やがて正刻は自分の胸に押し付けられている舞衣の胸に手を伸ばした。 「!? ん、んんんんんっ!!」 キスをしながら胸を鷲づかみにされた舞衣は思わず身をよじる。しかしそれは触られるのを拒絶するものではなく、予想以上の快感が自身 を襲ったためであった。 正刻はその反応を見ながら、片手だった胸への愛撫を両手を使って行い始めた。もちろんキスはしたままだ。 舞衣の胸はFカップに達しており、正刻の手には到底収まるような大きさではなかった。 その大きな胸を強弱をつけて揉みしだく。柔らかさと、手を弾くような瑞々しい弾力に正刻は夢中になった。 「ぷはぁっ! ま、正刻、ちょっと待ってくれ……!」 息が続かなくなったのか、キスを止めて舞衣が叫ぶ。その様子に、正刻は意地の悪い笑みを浮かべて言った。 「何だよもう降参か? まだキスと、服の上から胸を揉んでいるだけだぜ?」 そうして一際強く両胸を揉みあげる。舞衣は思わず「ひっ!」と声を上げてしまうが、それでも何とか正刻に言った。 「い、いや……。想像以上に気持ち良いが、降参とかではなくて……。ふ、服を脱ぎたいと思って……。」 そう言われて正刻の頭の冷静な部分が働く。確かに制服を皺だらけ、もしくは汚してしまっては不味いだろう。 だったらそんな格好で来なければ良いのに、と思ったが、それは言わないでおく。 「分かった。じゃあ俺も脱いでおくか。」 そうして二人はゆっくりと身を離し、着ている服を脱いでいった。 ……しかし。 「な、なぁ正刻……。」 「ん? どうした?」 「そ、そんなに見つめられると……流石に恥ずかしいのだが……。」 そう言ってもじもじとする舞衣。まだスカーフしかとっていない。それに対して正刻は既にパジャマを脱ぎ終え、布団に入って舞衣の着替え を凝視していた。 「心配するな。俺も結構恥ずかしいぞ。」 「だ、だったらこちらをあんまり見ないで欲しいのだが……。」 「それは却下だ。」 「うぅ……。」 舞衣は真っ赤になった。普段は素直クール属性で正刻に過度のスキンシップをとっている舞衣だが、流石にこの状況では羞恥心が勝ってい るようだ。もっとも、何回か場数を踏めばもう嬉々として脱いでしまうようになるのかもしれないが。 だが今は、この貴重な舞衣の姿を楽しんでやろう。正刻はそう思いながら、舞衣を凝視し続けつつ言った。 「早く脱いでくれ舞衣。俺はお前の身体を見たくてたまらないんだ。」 だが、その言葉が舞衣の中の何かに火を点けた。 「……そんなに見たいのか? ……私の身体を……。」 正刻は無言で頷く。それを見た舞衣の身体は、羞恥心とは別の気持ちで熱くなり始めた。 (そうか……だったらたっぷりと見せてやる……。目を離すなよ正刻……。) そうして舞衣は制服に手をかけた。 上着を脱ぐと、純白のブラに包まれた豊かな双乳が露わになる。舞衣がちらりと正刻の様子を伺うと、彼は既に胸に釘付けとなっていた。 (ふふ……そんなに見つめて……。このおっぱい星人め……。) そんな事を思いながらも素知らぬ振りで服を脱いでいく舞衣。スカートを下ろすと、ブラとお揃いの純白のショーツが現れた。 正刻はもう無言である。ただ、興奮しきった目で舞衣の身体を見つめ続けている。
舞衣はその視線を感じながら、ソックスを脱ぎ、ブラのホックへと手をかけた。 だがすぐには取らず、正刻の様子を伺いながらゆっくりと外していく。 そして。ついにブラが全部外れた。 大きいのに全く垂れず、上向きの乳房。その先端は薄い桜色であり、興奮のためか、既に乳首は固くなり始めている。 それを見た正刻は、思わず息を吐いた。その様子に舞衣は満足し、ショーツにも手をかけ、下ろしていく。 股間の陰りはやや控えめであった。そして生まれたままの姿になった舞衣は、顔を赤くしながらも正刻に問いかける。 「どうだ正刻。私の裸は?」 そう言われた正刻は、すぐには反応出来なかった。舞衣の裸に見蕩れていたからだ。 やがて正刻は、ぽつり、と言った。 「……凄く、綺麗だ。」 それを聞き、舞衣は顔と……股間が熱くなるのを感じた。それを紛らわすため、布団に潜り込み、正刻と抱き合う。 「何か……凄いな。肌と肌を合わせると、こんなに気持ちの良いものなんだな……。」 正刻は舞衣の体中を撫でまわしながら呟いた。舞衣も同じように正刻の身体を触りながら答えた。 「そうだな。だが……誰とでも、という訳ではあるまい。私と君だから……こんなに気持ち良いんだよ。」 正刻は軽く頷いて同意を示すと、身体をずらし、舞衣の胸に吸い付いた。 「ひゃあっ!?」 痺れるような快感に、舞衣は思わず叫ぶ。その声に驚いた正刻が、慌てて舞衣に尋ねる。 「す、すまん舞衣! 痛かったか?」 既に荒い呼吸をし始めた舞衣は、しかし正刻の問いに首を振って答えた。 「いや、あまりにも気持ちよかっただけだ……。だから、もっと吸って、いじってくれ……。」 舞衣の懇願に、正刻は乳首に激しく吸い付くことで答えた。激しく音を立てながら舞衣の乳首を責め立てる。 「んっ!……はぁ……あああっ!!」 舞衣は激しく嬌声を上げた。声を出すのを我慢しようとは思っていない。正刻に愛され、それに応える自分を見て欲しいという想いがある ためであった。 そしてその姿は正刻をより激しく興奮させる。 乳首を吸い、舐め上げ、軽く甘噛みする。片手で片方の乳首もさすり、ねじり、つねってやる。 そして正刻は、もう片方の手を舞衣の股間へと手を伸ばした。 「! あ、正刻……!」 「舞衣……。お前……凄いことになってるぞ……。」 「ばかぁっ……! 」 そう、舞衣の股間は大洪水と呼ぶに相応しい状況であった。 正刻は、胸への愛撫をしながら舞衣の秘裂をゆっくりとなぞった。 「ふ、ああ、ああああ……。」 正刻に秘裂をなぞられるたびに、舞衣は身体をびくんびくんと震わせる。 舞衣の秘裂からは、とめどなく愛液が溢れ出る。指をたっぷりと濡らしたそれをぺろりと舐めると、正刻は舞衣に囁いた。 「指、入れるぞ。」 「! ……分かった。でも、優しくしてくれ……。」 「分かった。」 舞衣に軽くキスをすると、正刻は彼女の秘裂に中指を入れる。 「ん、くぅ……。」 舞衣は正刻の頭を抱き寄せた。正刻はされるがままになってやりながら、指の挿入をゆっくりと行なう。 最初こそ少し苦しそうな表情を浮かべていた舞衣だが、すぐにそれは喜悦の表情へと変わる。 それを確認した後、正刻は入れる指を二本へと増やした。
「あっ! そ、そんな二本も……っ!!」 「けどお前のココは、ぎゅうぎゅう締め付けてくるぞ?」 そう言って指の出し入れを更に激しくする正刻。舞衣は反論しようとするが、快感に喘ぐことしか出来ない。 それを見た正刻は、ちょっとした悪戯心を出す。人差し指と中指で愛撫を行なっていたが、親指でクリトリスをぐっ、と押したのだ。 「!? あああああああああっっっ!!」 だが舞衣の反応は正刻の想像を遥かに超えていた。獣のような叫び声を上げ、背を弓なりにそらし、膣が激しく収縮して正刻の指を千切ら んばかりに締め付ける。そして糸の切れた操り人形のようにぐったりと動かなくなった。 「お、おい、舞衣! 大丈夫か!?」 正刻は慌てて舞衣に問いかける。舞衣は虚ろな目をしていたが、段々と意識を取り戻し、絶え絶えな息をしながらも答えた。 「ああ、何とか大丈夫だ……。だがいきなりクリを刺激するのはちょっとひどいぞ……。」 「すまん……。まさか、その……こんなになるなんて思わなかったから……。」 そう言ってうなだれる正刻をそっと抱き寄せて、舞衣はその髪に軽く口付けた。 「悪いと思っているなら正刻……。そろそろ挿れてくれ……。本当はその……フェラをしたり、君にも私のあそこを舐めて欲しかったが…… もう我慢出来ない……。君が欲しいんだ正刻……。」 舞衣のその告白に、正刻も頷く。実の所、正刻ももう限界であった。愚息は今までに無いほど固く大きくなり、先走り液も大分溢れている。 「ああ……。俺もお前が欲しい……あ、でも……。」 正刻はこの段階に至って気がついた。コンドームを用意していない。 どうしたものかと思っていると、舞衣がくすりと笑いながら言ってきた。 「心配するな、今日は安全日だ。そのくらいの事は私も織り込んで来ているさ。」 「けど……。」 「それに決めていたんだ。初めては直接君を感じたいと。君の精液を……直接受け止めたいと、な。」 そこまで言われて引くことは出来ない。正刻は舞衣を仰向けに寝かせ、足の間に身体を割り込ませた。 「あっ……正刻っ……!」 愚息を舞衣の秘裂に当てた正刻を舞衣が呼ぶ。 「どうした? ……怖い、か?」 「うん、少し……。だから……キスをしながら挿れて欲しい……。」 その願いはすぐに満たされる。正刻は舞衣にキスをし、舞衣はその首と背中に腕を回す。 そのまま正刻は腰を進めた。熱く、ぬめった肉の中を進んでいくと、僅かな抵抗があった。 その抵抗を、正刻は体重をかけ、一気に突き破った。それと同時に舞衣の口から声にならない叫びが上がり、身体が震え、 腕に力が込められ、背中には爪を立てられた。 そのまま突き進むと、こつんと行き止まりにぶつかった。正刻は口を離し、舞衣に囁いた。 「舞衣。全部入ったぜ。」 すると舞衣は、ぎゅっと閉じていた瞳をゆっくりと開けた。うっすらと涙がたまっている。 それを見て正刻は仕方ないとはいえ少し胸が痛んだ。 「痛い、よな、やっぱり……。」 だが予想に反し、舞衣は首を振って否定した。その様子に正刻は少し驚く。 「え? だってお前、泣いて……。」 「いや……痛みはそれほどではない。少し圧迫感はあるがな。泣いているのは……嬉しくって、安心したからさ。」 「え?」 「不思議だな……君自身を私の中で感じることが、これほど嬉しくて、気持ちが安らぐものだとは思わなかった。君はどうだ? そうは思わないか?」
そう問われ、正刻も思っていたことを素直に言った。 「ああ。俺も同じ気持ちだ。ついでに言うなら、俺の方は受け入れてもらって安心する気持ちがあるのと、……気持ちよすぎて もう出ちまいそうだっていうのがあるな。」 その正刻の告白に、舞衣は声を上げて笑った。そして、自分が正刻の背中に爪を立ててしまっていることに気づく。 「済まない、正刻。この背中……私なんかよりよっぽど痛かっただろうに……。」 そう言ってくる舞衣に、正刻は笑顔で答える。 「何、いいさ。これもお前との初体験の思い出だしな。」 そんな正刻が愛しくて、舞衣は軽くキスをした。そして彼に囁く。 「じゃあ正刻……。もう動いてもいいぞ……。」 「え? だが……。」 「私なら大丈夫だ。さっきも言ったように、痛みはそれほどではない。それに私は早く君に、私の中に精液を注いで欲しいんだ。 だから……動いて、私を愛してくれ。」 もっとも、優しくしてくれると嬉しいがな、と舞衣は付け加えた。 既に動きたくてたまらなかった正刻は、その言葉に頷いた。 「優しく……してやるさ。」 そうして彼は動き始めた。 ゆっくり、慎重に正刻は愚息を出し入れする。その度に舞衣が上げる喘ぎ声は、否応なしに彼を興奮させていく。 舞衣の膣内は、とても気持ちが良かった。出し入れするたびに、これまで味わったことの無いような快感が正刻を襲う。 気がつけば、腰の動きは段々と早くなっていき、そしてそれを止められなかった。 結合部からはぐちゅぐちゅと粘膜の擦れあう水っぽい音がしだし、肉と肉がぶつかりあう音もし出した。 「ま、正刻! ちょ、はげしすぎっ……!」 「ごめん、舞衣、俺もう止まらない……ッ!!」 そう謝って正刻は激しく腰を打ちつけ続けた。 舞衣はもう正刻の下で、ただ嬌声を上げ続けることしか出来ない。 限界は、すぐに訪れた。射精感を覚えた正刻が舞衣に囁く。 「舞衣っ……! そろそろイクぞっ……!!」 すると舞衣は、足を正刻の腰に絡めて固定する。 「ああいいぞ正刻……ッ! 君の全てを……私の中に注いでくれえっ……!!」 絶え絶えの息でそう告げる舞衣。正刻は頷くと舞衣にキスをし、ラストスパートをかける。 もうお互いが絡み合う音は部屋中に響いていた。正刻も舞衣も、既にお互いの身体の熱さと、快感しか感じることが出来ない。 そして、終局が訪れる。 正刻は舞衣の一番奥に一際強く腰を打ち付けると、限界まで我慢した欲望を一気に解き放った。 これまでに無い程の勢いと量と熱を持った精子が、舞衣の膣を、更には子宮を蹂躙する。 その感触に、舞衣は絶頂へと一気に持ち上げられた。獣のような叫び声を上げると、彼女は深い充足感と安心感と幸福感を 味わいながら意識を手放した。
「まったく君はひどい奴だな。優しくしてくれって言ったのに……。本当に君はケダモノだな。」 「う……。ご、ごめんなさい……。」 情事が終わった後。正刻に腕枕をされながら舞衣は正刻を責め、彼はひたすら低姿勢に謝っていた。 まぁ優しくしてやるといっておきながらいきなりエンジン全開になってしまったのだから、この場合は責められても仕方無いかもしれない。 そんな正刻を半目で睨んでいた舞衣であったが、くすり、と笑うと、腕を回して正刻を抱きしめながら言った。 「まぁいいさ。私も気持ちよかったし、それに……やっと君と一つになれて幸せな気分だし、な。」 その舞衣の言葉に正刻はほっと胸を撫で下ろした。 しかし……そのほっとした気持ちもすぐに奈落の底へと叩き落されることとなる。 何故なら……。 「あぁそうだ正刻。私も実は一つ謝らなければならないことがあるのだが。」 「? 何だ?」 「いや、大したことではないのだがな。実は、今日は安全日などではないのだ。」 その言葉に正刻はぴしり、と固まる。そんな正刻を無視して舞衣は衝撃の告白を続ける。 「実は今日はむしろ危険日……いや、超・危険日と言った方が良いかな? とにかくそういう日でな。そんな日に子宮にあんな量と粘度の 精液を流し込まれたのだから、恐らくは当たっているだろう。」 そして舞衣はとても穏やかな笑顔で自らの腹部を撫でる。 しかし正刻には、その笑顔は悪魔の笑顔に見えた。 (こいつ全部計算して、そして俺を嵌めやがったな……!) そんな正刻の様子をちらりと見て、舞衣は妖艶に微笑んだ。 「もう逃げられないぞ、正刻。さあ、色々と覚悟を決めてもらおうか!」 そんな彼女を見て、正刻の思考は走馬灯のように回り始める。 いや俺は舞衣のこと嫌いじゃないしエッチも気持ちよかったけど流石にこれはないんじゃないか俺の人生これで決まりなの?いや何ぼ何でも コレは無いだろうでも責任とらなきゃだしああ俺唯衣と鈴音に殺されるかもいやもう勘弁してくれそうだこれは夢だそうに違いない頼むから そうであってくれというか夢なら醒めてくれお願いだから夢なら─────
「─────醒めてくれぇぇぇぇっっっ!!!」 そう叫んで正刻は飛び起きた。 はぁ、はぁ、と自分の呼吸音が聞こえる。 真っ暗な部屋には自分以外……舞衣も……いない。聞こえるのは自分の呼吸音と時計の針の音、そして遠くを走る車の音だけだ。 時計を見ると午前四時くらいだった。 「……夢、だったのか……?」 そう言って正刻は額の汗をぬぐった。ひどい寝汗をかいてしまっていたようだ。 そのままの状態で正刻はしばらく呆けていたが、徐々に落ち着いてくると、自己嫌悪で頭を抱えて唸りだした。 「あー、もう! 何つう夢を見てんだ俺はー!!」 そしてとある事に思い至り、そっと自分のトランクスの中を確認した。 一応寝る前にある程度の「処理」を行なっていたので流石に夢精はしていなかったが、しかし愚息は天を衝く程に戦闘態勢に入っていた。 正刻は溜息を吐くと、汗を洗い流すのと、愚息の「処理」のために、風呂場へとシャワーを浴びに行った。 「ねぇ正刻大丈夫? 何か顔色悪いよ?」 朝食を作っていた唯衣が心配そうに問いかける。それに対して正刻は力ない笑顔で返す。 結局あの後シャワーを浴びて愚息の処理を行なっても眠ることは出来ず、寝不足になってしまったのだ。 「あぁ大丈夫だ。ちょっと厭な夢を見ちまってな……。その所為で少し寝不足なんだ。」 「ふーん。逆に舞衣は何か良い夢を見られたような事を言ってたけどね。どんな夢を見たかは教えてくれないんだけど。」 そう言って唯衣は舞衣を見た。つられて正刻も彼女を見る。 確かに今日の舞衣は上機嫌だった。心なしか、肌もいつにもまして艶々としている。 二人の視線に気づいた舞衣が問いかける。 「何だ? 私の顔に何かついているか?」 「いや、今日はいやに上機嫌だと思ってさ。何だか良い夢を見たんだって?」 俺が見たのはお前が主演のある意味悪夢だけどな、と心の中で呟きながら正刻は舞衣に尋ねた。 すると舞衣は満面の笑顔を浮かべて答えた。 「ああそうとも! まぁ君になら言っても良いだろう。私が見たのは君と私の夢だったのだよ。」 ふぅん、と正刻は舞衣が淹れてくれたコーヒーを啜りながら相槌を打つ。 「具体的に言うならばな? 私と君が初体験を行なう夢だったのだよ!」 ぶ─────っ!! がっしゃ─────ん!! その舞衣の衝撃の告白に、正刻は盛大にコーヒーを吹き出し、唯衣は皿を落とした。 そんな二人の姿も眼中に入らないのか、舞衣はうっとりとした表情でその「夢」の内容を語りだす。 「いや夢の中の君はおっぱい星人でな? 私が服を脱ぐのをもう獲物を狙うハンターのように見つめてくるんだ。その視線に私はまた感じ てしまってな。更に優しくしてくれって言ったのに最初からクライマックスでもう激しく責め立ててくるし……。まぁそれはそれで愛 を感じることが出来て嬉しかったがな。ただ一ついただけないのは安全日だと偽って君に中出しさせたことだな。確かにそうすれば君 は責任をとってくれるだろうが、そんなものは私の本意ではない。……まぁ、少しだけ魅力的な案ではあるのだがな。それにしても凄 かったよ。起きたらもうショーツがぐっしょりと……。」
「あ────ッもうそこまで!! あ、あああああアンタは一体何言ってんのよっ!?」 唯衣が耐え切れずに舞衣の話を強引に中断させる。唯衣の顔は真っ赤だ。 そんな唯衣を不思議そうに見ながら舞衣が答える。 「いや、ただ単に私が見た夢の内容を語っただけなんだが……。お前だって私が見た夢の内容を知りたがっていたろう?」 「い、いや確かにそうだけど、まさかこんな……。」 そう呟いて唯衣は俯く。その様子を見ながら舞衣はしれっとした調子で言った。 「心配するな。別に誰にでも言うわけじゃないさ。流石に往来でこんな話をするつもりも無いしな。」 「当ったり前でしょうがッ!! 道端でこんな話をしてたらそれこそ良い晒しモノよっ!!」 それでもけろっとしている舞衣に、正刻からも何か一言言ってもらおうとした唯衣は、彼の様子がおかしいことに気がついた。 いつもなら自分がつっこむ前に、彼のアイアンクローが舞衣を捉えて黙らせている筈である。 なのに今の彼は、青い顔をして気まずそうに目線を外している。よく見ると、こめかみには脂汗が浮いている。 不審に思い、正刻に声をかけようとした瞬間、唯衣の中で色々なものが繋がり、閃くものがあった。 「厭な夢」を見て寝不足の正刻。「良い夢」を見て上機嫌の舞衣。更にその「良い夢」の内容を聞いて、明らかに様子がおかしい正刻。 常人ならばこれだけでは何も連想できないかもしれないが、ずっと幼馴染として過ごし、そして正刻を愛する乙女の勘が唯衣にある推測 をもたらす。 (まさか正刻が見た夢って……!) そう思うが早いか、唯衣は正刻の頭をつかみ、強引に自分の方に振り向かせる。 「うわっ! 何すんだよゆ……!」 「ねぇ正刻……。私、あんたが見た夢の内容を知りたいんだけど、教えてくれない……?」 そう言った唯衣は笑顔だった。しかし正刻は、その笑顔の裏に唯衣の激しい怒りを垣間見た。 (ま、まさかコイツ……気づいて……!?) そんな筈はないという考えと、唯衣ならば気づいてもおかしくない、という考えが頭でせめぎあい、正刻は硬直してしまう。 そして怖い笑顔を浮かべてくる唯衣と、興味津々な様子で見つめてくる舞衣をどうするべきか、正刻は内心で溜息をつきながら考えた。 結局唯衣のプレッシャーに押され、つい真実を言ってしまったため、数日間唯衣と事情を聞いた鈴音に完全に無視され、舞衣にはいつも 以上にベタベタされて正刻はぐったりとしてしまったのだが、それはまた別のお話。
以上ですー。やっぱりエロは難しいですね……。 話の性質上、なかなか本番は織り込めないのですが、まぁ妄想やら夢やらで何とか入れていきたいと思いますー。 ちなみに私が好きなのは、やはりドラクエ5ですね。あそこでビアンカを選ばずに、何が幼馴染萌えかッ!!と思いますー。 長々と失礼しました。ではー。
きたぞーっ!久々にきたぞーっ!超GJ!! いやーついに舞衣ルート確定したかと思ってWKTKandHIHIYAしたよ。 それにしても作者さん引っ張るなー。一体誰と結ばせる気なんだ? やっぱ三人とか?それともハーレム?まさか亜依とか言わないよな? 激しくwktk!アンドage
GGGGGGGGJ!!!!おっぱい星人の俺にとってFカップは魅力たっぷりなんだぜ?いや、まあ実際は大きさよりも温もりなわけだが。 正刻が『覚悟』を意識してきた辺り、話全体が大きく動き出してきそうですね。やはり例の伏線張りまくってる新キャラが出てからが勝負か? しかしみんないいキャラだからいっそのことハーレム囲って…ってそれは俺の願望だなw 続きが早く読みたいですっ。あなたが書く作品なら、いつでも、いつまでも待ちますよ!
mo☆e★tu☆ki★ta☆
GJ。 さすがですな。正直にいうと別にエロなしでも楽しめるタイプなのだが、これはいい。 甘甘でそれでいて純粋なこの世界観が俺のツボにクリーンヒットしている。 しかし、舞衣よ、その夢の内容は、いくら何でも嬉々として語るようなものじゃあないぞ。 たが、それこそが君の輝くところだ。存分に輝いてくれ。いつか俺が悶え死ぬが、悔いはない(舞衣大好き派)。 最後にふと気になったのだが、なぜ13話なんだ?保管庫の方には9話までしかないのだが、まだ保管してない話か、俺が見過ごした話があるのか?
>>139 確かこの方の作品「絆と想い」は、実は最初は作品名が無かったのだよ。4話目からこのタイトルがついたのだ。
で、ここからは推測だが、最初の方は短めの投下だったから、管理人さんがまとめてしまったようなんだな。
過去ログと照らしあわせると、まとめサイトの1は、第一話から第三話、2は第四話と五話、で、3からは六話以降が
対応している感じだな。
まぁ別に不都合は無いだろうが、知らないとちょっと戸惑ってしまうかもなぁ。
それはともかく作者さんGJ!! 夢オチでも良いので唯衣や鈴音との絡みも書いてくれー!!
なるほど。そういうわけだったのか。
ここ来るようになったのが、前スレからだったから、初期の投稿時の様子を知らんかった。
>>140 ありがとう。
小生意気にも予想とかしてみるが、二人が夢の話を聞いて舞衣に対する軽い嫉妬と、正刻に対する願望が渦巻いて一人でしちゃてる状況が来るとか妄想してる。
ごめん。唯衣と鈴音も好きなんだわ。はあ、俺の妄想力がたくましすぎる。
そこで仲良くハーレムですよ 誰が妻で誰が愛人かなんて些細なこと。全員平等に愛せば無問題。 愛に優劣など無意味よ。頑張れ正刻
ハーレムとなるとこのスレの定義から若干外れそうな気もするが、それはまあ住人の裁量次第か 「今宵の〜」でNTR云々盛り上がったりもしたしな
まったくの他人を巻き込んだハーレムはちょっとアレだが、構成している女の子が全員幼馴染であるならば、それほど 違和感無いように思うけどなぁ。 何がいいたいかというと、誰か一人とくっついても、ハーレムエンドでも私は一向に構わんッッッッ!!という事だ。
妻妾同衾という言葉がありましてな……。
文字通り、妻も妾も同じ家、或いは布団に同衾するという事で。 素晴らしい言葉だと俺は思う。
保守。投下待ってます。
1. ……人生には、決して目を離しちゃいけない瞬間ってのがある。 例えば、初めて恋人とキスをするとき。 女の子は目を瞑ってもいいけど、男の子は駄目だと思う。 それは何ていうか、ロマンチックじゃない。男の子はじっと彼女を見つめなきゃだめ。 例えば、お気に入りのスポーツ選手の試合。 一瞬でも目を離したら、そのあと何十年も語り継がれるような瞬間を見逃してしまうかも。 そうなったら悔やんでも悔やみきれない。 そういうときは、例え目が乾燥して涙がどばどば出ても、目を開けてなきゃいけないの。 だから、そうじゃないときはゆっくり目を休ませてあげましょう。 一例をあげれば、議題がほとんどないゴールデンウィーク前のホームルームとか。 そんなときはぐっすりと眠るに限る。 教室はエアコンを使わなくてもほどよくいい心地だし。 授業とは違って、先生だって寝ている私を叱ったりしない。 せいぜい、そっと私の机の横に立って、「起きなさい、那智子さん」と注意するぐらい。 ――それがそもそもの間違いだったわけだけど。 「……では、最後の一人は妙高那智子さんにしたいと思います、異議はありますか?」 『ありませーん』 三十人の声が重なって私はがばっと起きた。 ……確か、今私の名前呼んだよね? ああいう時って、一瞬自分が日本人じゃなくなったみたいな気がしない? 周りでは確かに日本語を喋ってるんだけど、それが理解できないの。 私もまさにそうだった。 慌てて見回すと、クラスメイトのみんながにやにやと私を見ていた。 担任のシスターまで。あらあら困ったものね、みたいな笑顔で私を見つめている。 戸惑う私の視界に、親友の青葉の顔が飛び込んできた。 三列向こうの席に座っている青葉が、声を出さずに何か言ってる。 マ・エ・ヲ・ミ・テ……? 私ははっと首をひねる。 指差す方に目をやると、黒板には私の名前がばっちりと書かれている。 あの字は副学級委員長の字だー、なんて、私はぼんやりと考えていた。 私の上には別の名前も並んでいる。 クラスメイト三人の名前……あれ、青葉の名前もある。 さらに私は視線を上にやる。 すると、そこには。 「第45回・校内英語弁論大会 クラス代表」…… 「え、え、え、えええ……!?」 そう。 人生には決して目を離しちゃいけない瞬間がある。 何の議題もない「はず」の、ゴールデンウィーク前のホームルーム――とか。
その日、家に帰った私はさっそくあの人に愚痴っていた。 「つまり、居眠りしてる隙に弁論大会の代表に選ばれちゃったわけ?」 「……そうです」 祐輔はわざとらしく確認してから、小さく笑った。 私はじろっと睨んでから、彼の入れた緑茶をそっとすする。 ――あー、悔しいぐらいおいしい。 何でこんなにお茶入れるのうまいんだろう、祐輔ってば。 そんなことを思いつつ、私は弁解がましく返答してみる。 「だって、そんなのこれまで関係なかったんですもん。 居眠りしちゃっても仕方ないじゃないですか」 私たちはキッチンに置かれたテーブルに向かい合って座ってる。 いつも、私が帰宅して私服に着替え終えた頃に祐輔は大学から帰って来る。 それから二人して飲むお茶。 それは私たちにとって大事な時間になっていた。 「……だいたい、原因は祐輔さんのせいなんですからね」 「僕? 何で僕のせいなの?」 「それは……」 私は口ごもる。 そもそも私の英語の成績って大したものじゃなかった。 クラスでも真ん中ぐらい。学年でいえば下半分に入ってるはず。 青葉にヤマを教えてもらって何とか人並みな点数を取ってるぐらいだもの。 あ、ちなみに青葉は英語はかなり得意。 ところが。 祐輔に勉強をみてもらうようになってから、私の成績は突然上がり始めた。 特に苦手だった英語と数学は、先生がびっくりするぐらいの上がり方だった。 だから、今回クラス代表を選ぶに当たっても、担任の先生は内心私に決めていたらしい。 祐輔の教え方がうまかったわけじゃない。 でも、私が行き詰まるところは、なぜか大抵、祐輔もかつて行き詰まったところだった。 だから、祐輔は私が「なぜ分からないのか」をすぐ理解して教えることが出来たってわけ。 どうやら、私たちは考え方の方向性が似ているらしい。 ……それはそれで嬉しいけど「成績優秀」になると余計な仕事が増えるなんて聞いてない。 私はそういう知的な役目は回って来ないはずだったんだ。これまでは。
「――八つ当たりじゃない? それって」 「う、うるさいなあ! もう、とにかく祐輔さんが悪いの! 悪いから、お茶っ!」 私は空になった湯飲みをドン! と机に置く。 祐輔ははいはい、と言いながら新しいお茶を入れに立ち上がった。 こぽこぽこぽ、と心地よい音を立てながら、お茶が注がれていく。 まるでエメラルドみたいなきれいな色。薄すぎず、濃すぎず、理想的な緑。 祐輔って、本当にお茶入れるの天才的だ。 「……で、今度の土曜日、私の家で打ち合わせをやるんですけど」 「へーっ、打ち合わせなんかするんだ」 ここからが本題だ、とばかりに私は祐輔の顔をじっと見た。 見つめられた祐輔の方は、まだ事情をつかめずぼんやりしている。 「ゴールデンウィーク明けには練習始めなきゃいけないんで、みんなで原稿を書くんです。 ――だから、その日は祐輔さん私の部屋に顔を出したり下さいね」 「なんで?」 祐輔が首を傾げる。 ああ、やっぱり分かってない。私はため息をついて、もう一度祐輔を真正面から見据えた。 「女の子の中にひとりだけ見知らぬ男の人がいたら緊張するじゃないですか。 ……みんなお嬢さまで、ずっと女子高の子もいますし」 本音をいえば、私と裕輔のことを邪推されるのが嫌なんだけど。 青葉を除けばみんな私がいとこと暮らしてることなんて知らないし。 しばし、無言。 祐輔の目が、素早く一周した。 それは彼が物を考えているときの仕草。 「……OK。分かった」 でも、祐輔笑ってる。 「本当に分かってます?」 「分かってるよ。年頃の女の子の考えることは、よく分かんないってことが」 「このっ!」 私が手を振り上げると、祐輔はおどけたように逃げていった。 ああ、もう。疲れそうだな……今度の土曜日。
2. 「へぇ……ここが妙高さんのお部屋なんですね……」 「わりかし片付いてんジャン、あたしと全然違うわー」 そんなこと言いながら、部屋を見回しているのは私のクラスメイト。 おっとりした様子で、静かに座布団に座ったのが羽黒さん。 ウチの高校でもいまや絶滅寸前のお嬢様。幼稚舎からの生え抜きだって。 まるでシスターみたいな黒いワンピースに、真っ白なレースの靴下。 肩までで切りそろえた髪は毛先まで滑らかで、宝石みたいに輝いてる。 もう一人、あけっぴろげな口調で断りもなく人のベッドに腰掛けてるのがハル。 本名は霧島はるなって言うんだけど、みんな「ハル」って呼んでる。 ソフトボール部のエースで、まあクラスに一人はいるお調子者……っていうと怒るけど。 ボブヘアでパンツルックが馴染んでいるのは私に似てる。 違うのは彼女はスポーツに加えて、勉強も出来るってことかな。 ちなみに私はどっちも苦手です。はい。 「でも前に来たときよりは片付いてるよね、なっちゃん」 そう言って青葉はくすくす笑った。 私がにらむと、口をそっと手で押さえて目をそらす。 全く、何が言いたいのよ何が。 「さすがに散らかしっぱなしじゃまずいもんねー」 意味深長な青葉の発言に、羽黒さんとハルが反応した。 「なんですか?」「どういうこと?」 二人の問いに、青葉は私の方を盗み見る。 羽黒さんとハルの目が私に向けられるのを感じる。 「……なんでもないの、いまお茶淹れてくるから」 『おかまいなくー』 背中で三人の声がハモるのを聞きながら、私は台所の方へ向かった。 台所で私が湯飲みを取り出していると、隣の部屋の扉がそっと開いた。 「お客さん、もう来てるの?」 まるで怖いものでも見るみたいに隙間から片方の目だけが覗いてる。 ……なんだか、失礼だ。私はそんなに怖くないぞ。 そんな気持ちが表にでちゃったのか、裕輔は私と目が合うなり部屋に引っ込んだ。 「……私たちはずっと部屋にいますから、裕輔さんはどうぞご自由に」 「みなさん何時ごろお帰りになるかな?」 扉の向こうからおびえたような声。ああ、もう。 ――別に、そんなつもりじゃないのに。 ただ、私のいとこだ、とか、小さい頃から知ってるとか。 そんな理由で挨拶とかされたり、まして「これからもなっちゃんをよろしくね」なんて。 そんな父兄みたいなこと言って欲しくないから。だから「顔出すな」って言ったのに。 これじゃまるで…… でも、もう何を言っても仕方ない。 とりあえず裕輔さんには部屋にいてもらおう。 っていうか、そんなに気になるなら出かけてくれれば良かったのに。 ……家に居座って勝手に気を揉んでるのはあなたの勝手でしょう!
もう。 知らない。 私はポットから急須にお湯を注ぐと、さっさと自分の部屋に戻ることにした。 裕輔の部屋の扉に「べーっ」と舌を出すことは、忘れなかった。 部屋に帰ると、私たちは作業を始めた。 英語弁論大会はクラスごとに色々と趣向を凝らす。 代表は各クラス四人だから、ただ英語でスピーチするだけじゃない。 たとえば寸劇仕立てにしてみたり。擬似討論(もちろん台本アリ)だったり。 だからどういう方向性でいくかについては良く考えなきゃいけない。 ただ、ウチのクラスにはハルがいた。 彼女の提案で、私たちは「法廷」風でいくことにした。 もちろん日本のじゃなくて、アメリカのアレ。 「異議あり!」とか「陪審員のみなさん〜」とか、ああいうの。 テーマは「自然保護におけるテクノロジー使用の是非」。これは羽黒さんの意見。 私と青葉は二人の意見にうなずいていればよかった。 あー、熱心な人とまじめな人がいると話は早い。 だいたい、私があまりに場違いなんだけどさ。 とりあえず私たちは手分けして筋を考えることにした。 クラスの代表だから、何度かクラスのみんなの前で発表してみせなくちゃいけない。 で、クラスメイトの意見を聞いて修正する、と。 あー、なんでこんなめんどくさいことになったんだか。 私はぶつくさ言いながら(もちろん心の中だけで)ペンを走らせていた。 えっと『資源確保は文明社会の維持には必須であることは産業革命以来の……』 ……ハル、もっとやさしい日本語にしてよ。 だいたい英訳するのが何で私の役目なの? もっとさあ、すなおにSVCとかSVOで済む文章を… なんて思ってたら、不意に当人が話しかけてきた。 「そういえばさあ」 私が目を上げると、ハルは手を休めてテーブルに肘をついたまま私を見つめていた。 「青葉っちに聞いたんだけど、なっちんって従兄のお兄さんと住んでるんだって?」 私はテーブルの向こうにいる青葉をじっと睨む。 こっちを全然見ないところをみると、私がお茶を入れている間に余計なこと言ったな。 おのれ裏切り者。 視線を横に移すと、青葉の隣に座った羽黒さんは興味津々って感じ。 ……青葉を口止めしておけばよかった、不覚。 「どんな人? どんな人?」 ハルは身を乗り出さんばかりに聞いてくる。 分かってたんだ。ハルがこういう人だってことは。 「別に、普通だよ」 私はそっけなく言って、自分の原稿用紙に目を落とす。 そうそう明後日には練習を始めるんだから、今日は遊んでられないの。 分かったハル?
「すっごいかっこいいよ。背が高くて。それにやさしそうだし」 青葉……わざとやってるのね? 確かにさ、さっき英訳するの難しそうなところそっちにこっそり回したけど。 だからってそんな仕返しはないでしょう。 「そーなんだ、へー、いいなー、男の兄弟とかー」 「ハルにだっているじゃん、弟」 「えー、駄目だよ年下はさー。馬鹿だし」 まるで飲み屋でクダまいてるオヤジみたいに、ハルは吐き捨てた。 「中学になったらとたんに生意気になってさー。 『俺ねーちゃんみたいな女とは絶対つきあわねえ』とか言い出してさー。 こっちだってお前みたいな男ごめんだっつーの」 そう言って手をひらひらさせるハルを見て、羽黒さんはくすりと微笑む。 「仲がいいのね、ハルちゃんと弟さん」 「羽黒さんは一人っ子だっけ」 私が聞くと、彼女はこくりとかすかにうなずいた。 「母が体が弱いものだから。父はどうしても男の跡継ぎが欲しかったようだけど」 「……ふ、ふーん」 なんだろう。その口ぶりに何かとても生臭い背景を感じて、私は言葉を濁した。 「最近英語の点がいいのも、裕輔さんのおかげだもんね、なっちゃん」 青葉の口調には悪びれたところは全然なく、純粋に裕輔のことを尊敬している風だった。 うーん、やっぱり天然だったか。 「なに? 勉強見てもらってるの?」 ハルの問いかけに、うんとうなずく私。 そのおかげで今こんなことする羽目になってんのよ……とは言わなかった、さすがに。 「この前の実力試験も校内五位だったから、ご褒美にデートしてもらったんだよねー」 「こら、青葉っ!」 叫んだのが逆効果だった。 羽黒さんとハルは目を輝かしている。もう手を動かしている人が誰もいない。 「うそ、付き合ってんの? 彼氏?」 「違う、違うよ!」 あわてたけど、もう遅い。 ハルはにじり寄ってくるし、羽黒さんは頬を赤らめて私をじっと……。 ちょっと待って二人とも。 「ち、違うの! 点数とは関係なく、ちょっと買い物に付き合ってもらっただけ!」 っていうか、青葉も変なこと言うな。 「でもさ、好きじゃなかったら買い物につき合わせたりしないよね〜」 「そうですね」 ハル、変なところで鋭い……じゃなくて。 私は無意識のうちに首をぶんぶん振っていた。 「じゃ、なっちんお兄さんのこと嫌いなの?」 そうじゃなくって。 好きとか嫌いとかいう以前に、裕輔はずっと一緒にいるから。 そりゃ、小さい頃のことはよく覚えてないけど。 でも私の感覚が、ときどき思い出させてくれる。 裕輔と一緒にいたころのことを。 私は裕輔とずっと一緒にいたいし、多分そうなる。 ここは私の家で、裕輔の家。 だから、私たちは――
「会ってみたいです、そのお兄さんに」 意外や意外。 そんなことを言い出したのは羽黒さんだった。 驚いたのは私だけじゃなかった。青葉も、ハルもあっけにとられている。 そんな三人の視線を感じたのか、羽黒さんはもじもじと少しあとずさった。 「……だって、とても素敵そうな方に聞こえるし……。 今日、ご在宅じゃないんですか?」 ううん。 首を振って否定すると、羽黒さんはまた少しはにかんだ。 「ではぜひ。 それに、おうちにお邪魔したのに、ご挨拶しないのは失礼ですし」 なるほど。 高貴な人はこういう風に自分のわがままを通すのだな。 なんて、私が変な納得している間に、どうやら裕輔に挨拶することに決まったらしい。 じゃあ早速、なんて立ち上がってるのは青葉。 そういえば青葉も写真は見てても、まだ直接あったことはなかったっけ。 なんだかんだ言って、羽黒さんに便乗したいみたい。 仕方ない。 あわせてあげますか。「私の」裕輔に。 私が先導して、裕輔の部屋までぞろぞろと歩いていく。 なんだろう。このちょっとドキドキする感覚は。 初めて彼氏を友達に紹介するときの感覚? たぶん、こんな感じなんだろうか。私は気を落ち着けるために小さく咳をする。 扉を、ノック。 「裕輔さん、ちょっといいですか?」 中で慌てて立ち上がる音。 「……な、何?」 あ、こりゃ寝てたな。 「私たち、今から休憩するんですけど、一緒にお茶でもどうですか?」
3. 青葉と羽黒さんとハルを玄関で見送った私は、上機嫌だった。 ばいばい、と手を振ってそのまま台所へと引き返す。 すると、裕輔がテーブルに頬杖ついて一人お茶をすすっていた。 私が入ってくるなり、大きくため息。 「……なんですか?」 その態度、私に対してのアピールと受け取った。なんか、文句ありげ。 いいじゃないの、聞いてあげるわよ。 「で、一応合格だったのかな」 「何がですか?」 裕輔の顔が、少し真剣。ちょっとどきっとした。 こんな顔したのは……。 確か、彼のお父さんと名乗る人から電話があったときぐらい。 あのあと、裕輔はすごく沈んでいて、真剣な顔で、私は何も聞けなかったけど。 今日の理由は、たぶん私。 「出てくるなと言ってみたり、突然挨拶させられたり。どういうことかな、と思って。 考えてみるに、僕は試されてたのかな……ってね」 確かに、裕輔はパーフェクトだった。 あたりさわりのない話題から始まって、やがて親しげな会話へ。 誰とでも打ち解けるハルはともかく、内気な青葉も最後は声を上げて笑ってた。 もっと驚いたのが羽黒さん。 応接間でお茶をしたとき、彼女は最初は裕輔から一番遠いところにいた。 ところがだんだん近づいていって、気づいたら裕輔のそばから離れなくなっていた。 裕輔の湯飲みが空になったら甲斐甲斐しく台所に立って新しいお茶を淹れさえした。 ……裕輔、羽黒さんはすごい逆タマだけど、お父さんはたぶん怖いぞ。 ま、それはともかく、みんな裕輔のことが気に入って。 私は素敵な男性と暮らしていることが証明できて。 何の問題もないはずだった。 「……苦手なんだよ。ああいう社交的なことは」 ポツリともらした言葉に、私は裕輔の本音を聞いたような気がした。 いつも私をからかってばかりの裕輔が、たまに漏らす本音。 それはこの家に彼が住むことになったとき。 私が以前つまらない意地をはって風邪ひいて、看病してくれたとき。 そんなときにわずかに覗く表情。 「知らない人の前で、笑顔を作り続けるのって、正直、いやなんだ」 「……どうして、ですか」 裕輔の言葉は意外だった。 裕輔ってなんでも如才なくこなしちゃうタイプだと思ってたし。 お父さんと話すのを聞いてても、大人同士の会話とかすごく得意に見えた。 じゃあ、あの裕輔の笑顔は、何なの?
「僕はここに来るまで、ずっと親戚中をたらいまわしにされてきたからね」 「……え?」 それは初めて聞く、「離れ離れだったころの裕輔の話」だった。 「親戚って言っても、なっちゃんのお父さんやお母さんみたいな関係じゃなくて。 血のつながらない叔母さんの、そのいとこの家とか。 母方の祖父の後妻さんの本家とか。遠い親戚ばかり。 そんな環境で、僕は小学生から高校生までをすごした。たった独りで。 母は病気で入退院を繰り返してたし、親父はいなくなってたし…… とにかく周りから嫌われないでいよう。それだけ考えて過ごした」 「裕輔さんのお父さんって……」 この前電話をかけてきたあの人ですか? そう問いかけて、私は口をつぐんだ。 裕輔が触れて欲しくないことは、明らかだったから。 「叔父さんが――なっちゃんのお父さんが僕を下宿させてくれる…… そう聞いたとき、僕は息が詰まるような思いがした。 また、大人の顔色ばかりうかがって生きなきゃいけないんだろうか、って」 裕輔は何度も頭を振りながら、目の前のとっくに冷めた湯のみを両手で握っていた。 私は泣きそうになった。 突然裕輔が、遠くなったような気がしたから。 そんなことを考えて、この半年裕輔はこの家で過ごしてきたんだろうか。 私は裕輔の顔も見れないまま、尋ねた。 「じゃあ、私に笑ってくれたのも……」 「勘違いしないで欲しい、今はそんなこと――」 裕輔は言葉を詰まらせた。 それは、私が裕輔を抱きしめたから。 立ち上がって、裕輔の頭を、ぎゅっと胸に抱きしめる。 「なっちゃん、あの――」 「裕輔さん、どこにも行かないでね」 涙交じり言ったら、余計悲しくなって、私は涙をこぼしてしまった。 そしたら、後から後から涙がわいてきて、止まらなくなって。 私は裕輔の髪に顔をうずめるようにして、必死に涙をこらえようとした。 「ここが、裕輔さんの家だから。 だから、お父さんのこととか、お母さんのこととか、気にしなくていいから。 私、裕輔さんが何にも気にしないでここで暮らせるように頑張る。 ……裕輔さんのこと、好きだから。 だから、どっかに行っちゃったらやだ……」
私の背中を、大きくて暖かい手がそっとなでていた。 それに促されるままに、私は裕輔の首にすがりつく。 気がつけば、今度は逆に私が裕輔の胸の中に抱きしめられていた。 「最後まで話は聞こう、なっちゃん」 裕輔は私の頭を撫でている。 私が見上げると、裕輔はいつものように優しい笑顔を浮かべていた。 「確かに、僕はここでの暮らしが不安だった。 でも、それは余計な心配だったんだ。叔父さんも叔母さんも優しかったし…… 何よりなっちゃんがいた。 小さいころと同じ、やんちゃで、わがままで、僕の知ってるなっちゃんが」 「……褒めてないですよね、それ」 涙声で責めると、裕輔は声を殺して笑った。 私も自然と笑みがこぼれる。 「ありがとう、なっちゃん」 私は「どういたしまして」と言おうとして……やっぱり止めた。 そんな言葉遊びはどうでもよかった。それより、私は自然とある行動をとっていた。 腕を裕輔の首に絡めて、小さく体を伸ばす。 目指す場所はすぐ目の前にあった。 軽く目をつぶって。そう、こんなときは目をつぶるの。 昔からそう決まってる。 小さな子供がふざけてするみたいに、私は唇でそっと裕輔の唇に触れる。 「あ、わっ!」 突然裕輔が立ち上がったもんだから、私は思わず椅子から落ちそうになった。 「逃げないでくださいよー」 「だ、だって……」 あらら、赤面して。 なんだか裕輔のかわいい一面を見てしまった。 キスって言っても軽く触れあっただけなんだけどなー。 少なくとも、私の初めての相手(たぶんあっちも初めて)はこんなに動揺しなかったぞ。 修行が足りん、うん。 「ふーん」 「な……何が『ふーん』なの?」 「なんでもー」 うん。 私はニヤニヤしながら、窓の外を見る。 なんでもない。 そう、こんなのなんでもない。小さいころから遊んだいとこ同士にとっては。 ――このときまでは私はそう思っていた。 (続く)
ほぼ10ヶ月ぶり?ぐらいのご無沙汰です。 最近時間に余裕が出来たのと、なんとか結末への目処がたったので、投下させていただきました。 話の都合上、今回はなんか重くなってしまったけれど、次ぐらいからはたぶんらぶらぶえっちな展開になると思います。 たぶん。 では。
待ってた。超待ってた。全力で待ってた。GJ!
うおあわああ マジでまた読めるとは!!GJGJGJ 次回も期待している!
うおおこれは良い不意打ち! 久々に乙! >次ぐらいからはたぶんらぶらぶえっちな展開に ウヒョー
保管庫で読んだことあるけど、GJ。 なんか中途半端なとこで切れてるなあ、と思っていたら続きがありましたか。早合点してました。すいません。 重いというよりも、何かしっとりとした雰囲気に感じました。続きを待ってます。
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『亜qすぇdrftgyふじこlp;』
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ | な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 おれも 何が起こったのか わからなかった…
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ 頭がどうにかなりそうだった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
>>160 GJだとか神降臨だとか
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ もっと恐ろしいものの 片鱗を味わったぜ…
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \
>20-28 >43-46 のつづきです
---------------------------------------------------------------------------- ブルー 第3話: ---------------------------------------------------------------------------- 俺より先に、寝てはいけない。 俺より後に、起きてもいけない。 飯は美味く作れ。いつも綺麗でいろ。 出来る限りで、かまわないから。 殴られる。 少なくとも我が家でそのような態度を取ったら雨音さんに殴られる。 男の見栄とそして不器用な愛の表現が語られたこんなに良い曲なのに。 幸せの形は様々とは言う。 うちはうちでこれで良いのだとも思う。 しかしかかあ天下ここに極まれりという感じでは少々肩身も狭い。
こういう家庭である理由は雨音さんが世話好きだとか、 母親がいないだとか色々あるかもしれないが 俺はひとえに父親の性格によるものだと思っている。 妻つまり俺の母親だがに逃げられた現在42歳公務員で毎日6時には家にいる冴えない男、 俺の父親の事を俺から見て端的に表現するとこんな感じの人間となる。 気が弱く、腰が低く、外で喧嘩でもしてる所なんかは見た事がない。 その癖説教臭く、事ある毎に俺に説教をする。 それが又ねちっこい上に理不尽だ。 子供の頃は喧嘩に負けたといえば負けるお前が悪いと説教され、勝ったといえば乱暴を振るうなと叱られた。どうしろと。 その割に雨音さんには異常に甘い。 フェミニストとかそんな物を凌駕する感じに甘い。何があろうとどうあろうと雨音さんの味方になりやがる。 そう、まあ言ってみれば理不尽な位にだ。
@@ 「お前が悪い。」 開口一番こうだ。まだこっちは何も言っちゃいねえ。 「いや、あのなあ」 「雨音に謝って来なさい。」 公務員てのは公正を旨にするべき。 という世の常識に真っ向から反発するかのごとく人の話を聞かねえ。この親父。 警官じゃなくて本当に良かった。 もし警官だったら俺みたいなちょっと世の中を斜めに見ちゃう年頃の、 でも内面は凄く男らしくて頼りがいがあって、 でも口にすると自分を上手く表現できない、 そんな不器用な男を次々と冤罪に陥れていたに違いない。 「別に雨音さんが勝手に怒ってるだけで俺は何もしてないって。」 「怒るのにも怒られるのにも理由がある。それを聞いて謝って来なさい。」 「親父は理不尽なことで怒られた事はねえのかよ。」 「理不尽だと思った事はあるよ。でも後々良く何度も考えれば父さんの場合はそう理不尽じゃないと思える事ばかりだった。 理不尽だと思ったのは自分が未熟だったからだ。雨音が怒ったならお前が悪い。我慢しなさい。」 実の息子に背を向けながらこれだ。驚くべき理不尽さだ。いつもこうだ。 「親父が雨音さんに甘いのは判るけど今日なんか俺、ただ学校から帰って来ただけだぞ。」 それなのに口を聞いてくれないわ、ご飯は茶碗に小盛り一杯とメザシだわ、 洗濯物は俺の分だけ綺麗に畳んでくれているものの仕舞ってくれてはいないし、 夜のおやつは無くなってるし家に帰っちゃうしで大騒ぎだ。 親父は今、こちらに背を向けながらちゃぶ台の前に丸まって いつもならあるはずの晩酌のつまみなしに中年男の悲哀、ここに極まれりという感じでちびりちびりと日本酒を啜っている。 「じゃあただ帰ってきたその中に不味い事があったんだろう。」 俺が反論すると不貞腐れたようにそう言う。 「ねえよ!」 と叫んだ瞬間に、ふと気に掛かった。
「・・・まあ、でも、あれは。」 「ほらあるじゃないか。」 今日は確かに後輩の女の子と2人で帰った。 「でも関係ないよなあ。」 「関係なくはないんじゃないか。」 「いや、関係ないよ。判らないくせに口挟むなよ。」 「因みに今日は雨音は午後5時半頃に鬼のような顔をして帰ってきたぞ。 それから3分おきに時計を見て、だんだん角が尖ってきてたな。」 確かに今日は後輩の女の子と2人で帰った。大体そのくらいの時間に。 テレビや最近はやりの漫画について語り合い、大分盛り上がったのも確かだ。 盛り上がりついでに喫茶店に誘われたのでついていって小一時間ほど話をした。 主に剣道の話やテレビや音楽の話などを。 その後輩の女の子は派手だがそこそこ可愛いと評判の子でもあり、 帰り際には俺の腕を取ったり、にこにこと笑いかけてきて悪い気がしなかったのも確かだ。 しかしそれが何か問題でも?
「多分それだよ。」 「だから何も言って無いじゃん。」 エスパーか。 「とにかく父さんはにこりともせずエプロンを握り締めて台所の暗がりに立ち尽くす雨音を見るのは正直怖い。 怒りを父さんに隠そうとするところも含めて。どう対処していいのかわからん。」 まさか。 「・・・そんなに怒ってたの?」 「イチは遅いねえと言ったら き っ と 楽 し く 遊 ん で る ん で す! 剣道を辞めたとたん羽伸ばしちゃってさ。 とかなんとか目線を全く動かさずに答えてたからな。 だからまたお前が何かしたんだろうと思ったんだけどな。」 そういって又背を丸めてぼりぼりと頭を掻く。 「いやだから特段何もしてないけど。」 「そうか。ならいい。謝って来なさい。」 「聞いてる?俺の話。」 何故に俺が謝らなきゃいけないのか。 そういうと親父はようやくくるりとこっちに向き直り、真面目な顔をした。
「・・あのな。雨音は良く怒るけど、怒った後に毎回悲しい気持ちになる芯の優しい子だ。 お前だって雨音が悲しい気持ちになっていたら嫌だろう。 理不尽だと思ったら謝らなくてもいいけれど、兎に角話しに行きなさい。」 ・・・この始末だ。 いつもいつもだが親父はえこひいきじゃないかって位に雨音さんを可愛がる。 「・・・ま、謝りはしないけど、迎えに行くよ。今日は雨降りそうだし。」 そういうと親父は頷いた。 「それがいい。雨の夜に家で1人なんて可愛そうだ。連れて帰ってきなさい。 なんだったら向こうに泊めてもらってきてもいいが。」 冗談を。雨音さんは父親がいないし、母親は殆ど家に帰ってこないからいつも家にいるときは1人きりだ。 昔ならいざ知らず17にもなってそんな所に泊まれるか。 ただでさえ近所じゃ何言われてるかわからないのに。 「・・連れて帰ってくるよ。」 俺が立ち上がるとそういって親父はほっとしたような顔をしてうんうんと頷いた。 「うん。そうだな。そうするといいな。雨音も家に一人じゃ寂しいだろうからな。 雨音が落ち着いてから連れて帰ってくる方がいいな。うん。 あ、あれだ。雨音の好きなお菓子があっただろ。ふんわり名人とかいう。 あれ帰りに2人でスーパーで買って帰ってきなさい。お金渡すから。な。な。」 一段落。といった顔で、じゃあ雨音が帰ってくるまでお酒は控えておこうかな。うん。 などと1人ごちている。 雨音さんのいない晩酌が嫌だから、だろうがエロ親父が。 了
----- 感想ありがとうございます。 4話目は◆NVcIiajIygさんが落とす予定です。 そのうち。 (=゚ω゚)
のはー、GJです! イチ君が雨音さんの気持ちに気づくのはいつになるのだろうか……。 交代で投下してるから大変でしょうけれど、お二方とも頑張って下さい! とにかく期待してます!
GJ! 二人で交互に書くなんて非常に面白いですねー 頑張ってください
( ゚∀゚ )<ムッハー! 那智子キテターーー!とおもたらイチくんまで! 那智子の人待ち遠しかったよ那智子の人(ノ▽`)
>>173 なんという鈍感主人公!
俺もイチ父の気持ちがわかるかもしれん…
うにさんGJ! 雨音さん直接登場していないのに存在感があるw
――――最近、よく夢を見る。夢ってのはその当人の精神状態とか… まぁ何かよく分からないけどその人の状態によって見る夢もそれに関係してるい夢を見るらしい。 あ、ちなみに今言ったのは俺の知識じゃないぜ?テレビでたまたま見たのを抜粋して読み上げただけだ。 夢ってたまに「あ、これ夢だ」って分かる時あるよな。あれは不思議なもので、夢って分かっててもなかなか起きられない。 だから誰かに起こしてもらうか、自力で頑張って起きるか。俺はどっちかって言うと誰かに起こしてもらう派だ。 目覚ましとか最近は凄い性能のがあるけど、所詮は機械だから俺の場合起きれりゃしない。 誰かに起こしてもらうのが一番手っ取り早い方法だと俺は考えて―――――バコッ!! 「痛って!」 痛みと共に俺は目覚めた。頭から入った痛みがつま先から飛び出していき、機能停止していた脳が正常に動き出す。 ただ、俺の脳のエンジンはどうも旧式らしく回転数が少ない。ま、簡単に言や馬鹿だってことなんだろうけど。 「やっとお目覚めか横山…?いい身分だよなぁ、お前今回の中間平均点何点だったっけか?ん?」 起きて早々ガタイの良い筋肉質な男の顔が目に入る。こいつは……そういや保健の授業だったな。 しっかしいつ見ても顔でけぇな〜、ほんとに人間なのか?原人の生き残りじゃないのか? 故にコイツには異名があった。本名は片山というのだがあまりにも原人…いや、現代ではゴリラに相当する形相なので 『ゴリ山』と呼ばれていた。何が異名なんだか分からんくだらない名前だ。誰か知らないが、正直センスに欠けると言うかなんと言うか… まぁ、高校生の発想なんてそんなもんだろう。くだらなく単純だから面白いっていう利点もある。 コイツの顔など見たくも無く、関わりたくないのだが…運悪くコイツが俺の担任教師でもあるのでそうもいかなかった。 「まぁまぁ先生、勉強だけがその人の価値を決めるものじゃないっしょ?人間性とか、そいつにしかない才能とか。 つまり!人を判断する要素は勉強以外でも――――っ!」バコッ!! 再び頭から入った痛みがつま先へ向かい飛び出した。それと同時に、とめどない笑い声が俺の四方360度を埋め尽くした。 * 「やっとお目覚めか横山…?いい身分だよなぁ」 「ちッ…うっせぇ、茶化すんじゃねーよ」 悪友の恭介だった。コイツは俺が奴に怒られる度に今みたいに似てないモノマネをしてくる。 似てないのでほんっとワザとらしくて腹に立つ野郎だ。一度ブン殴ってやろうか。 「まぁ、そうカッカすんなって。確かにアイツはムカつくよなぁ、言い方が嫌味でさ。 あんな図体してるくせにやる事は妙に女っぽいところなんかもう気持ち悪っちゃありゃしないっての!」 よく喋る奴だ。こいつとは子供の時からの付き合いだから分かる。とにかく人の話をまーったくこれっぽっちも聞かない奴だ。 相手が誰であろうとお構いなし、とにかく喋って喋って喋り通す!何考えてんのか知らないけど、これがコイツ流の会話術らしい…。
「オイ、ちょっと黙れって。聞いてんのかよ、喋るのやめろって」 予想通り注意しても聞く耳持たずだ。それどころか「もうちょっとだけ!な?」などと訴えてくる。 何がもうちょっとだ、毎回そのもうちょっとが長ぇんだっての。ほんと、呆れるしかねーよ… 「彼方彼方、おい聞けって。これから言うのが一番面白いんだよ。聞き逃してももう話してやんねーからよーく聞いとけよ?」 「別にいいよ、お前が黙ってくれれば何でも」 再び無視された。俺の言葉など聞かずに嬉しそうに楽しそうに愉快そうにトークを続けてきた。 「実はさ実はさ!ゴリ山の野郎3組の担任の白樫先生になんと!…恋をしちゃってるらしいんだよこれが!!」 「……」 くだらない話のネタが飛び出した。んなもんどーでもいいじゃんか、ゴリ山が白樫先生に恋しようが何しようが…興味ねーっての! 聞いて損した…すぐに頭のメモリーから情報を削除せねばならない。 こんなくだらない情報で俺の少ないメモリーを埋められちゃたまったもんじゃない。削除削除っと… 「とまぁ馬鹿話はここまでで。本題だ。」 「何?本題?」 「そう、本題。お前に言わなきゃいけないことがあってな。」 「どうせ、またくだらない話なんだろ?」 すると恭介はニヤけていた表情を一転させ、真剣な表情でじっと俺の事を見ながら口を開いた。 「伝言を頼まれたんだ。お前宛にな」 「は?伝言?」 「そう、お前にだ。その伝言なんだがな『ただいま』だってさ」 「…は?」 キョトンとしざるを得なかった。意味がまったく分からんうえに意味深だ。一体誰からの伝言だ?この学校の人?男?女? 様々な疑問がフワフワと宙に浮ている。だが聞いても恭介はただ『明日になりゃ分かる』としか言ってくれず 結局のところ、疑問を解決する為の答えは教えてはくれなかった。 * 何度も何度も伝言とやらを復唱しながら俺は下校していた。今日は珍しく俺での一人での下校だ。 いつもは恭介と帰っていたのだが、最近どうも彼女が出来たらしい。 つい最近振られたばかりだったのだがものともせず猛アプローチしてゲットしたらしい。 俺の人生武勇伝がどうのこうのとこの前熱く語っていたのをふと思い出した。 「―――にしても、伝言で誰からなんだ…?ただいま、かぁ…まったく意味が分からん」 再び頭の中は伝言の事で一杯になった。 家に帰っても変わらずだった。飯を食ってる時も、風呂に入ってる時も、テレビを見ている時も、歯を磨いてる時も。 とにかく、常にその事が気になって仕方がなかったのだ。 「明日になれば分かるかぁ…ほんとだろうな…?」 最後まで恭介の言葉を疑っていた。 だがそのうち睡魔に襲われ、俺は抵抗せずに睡魔に体を預けた。 疑問の答えは明日以降に持ち越しとなった。
いきなりの投下すみません。どうしても書いてみたかったので書きました… 駄文をお許しくださいORZ
これが駄文かどうかは、ちゃんと続きを書き、その内容によって決まると思うぜ!! だから遅くなっても良いから続きを書いてくれ! 待ってるから!!
GJ!! 続きが気になる・・
不思議な夢を見た。けど、どんなのだったか具体的には憶えていない。 『ただいま』と、誰かに言われた事だけが記憶に新しい。一体誰だったんだろう? それも含めすべてが今日分かるはずだ。恭介の話が本当だったらの場合だけどな。 不意に時計に目をやる。ぼんやりとしていた視界が段々と開けてきた。徐々に時計の針にピントが合い始める。 時計の針は俺が家を出る時間の10分後を指していた。毎日遅刻ギリギリにつくように家を出ていたので10分の遅れは確実な遅刻を意味していた。 「やっば!!」 慌てて家を出る準備をする。テーブルの上の食パンを手探りで掴み、口に銜え勢い良く玄関を飛び出る。それはどこかのベタなドラマのような光景。 この後どこかでヒロインと正面衝突したりするんだよ。んで、何だかんだ色々あり、最終的には付き合ったり結婚したりすんだよな。この前の番組のオチはそうだったし。 しかしながら当然そんな事は起きるはずが無い。所詮テレビドラマ、フィクションな話だ。現実にはありえんありえん。 大体、同じ学校に向かってるのに正面衝突する意味が分からん。ああいうのってそういうところが手抜きだよなぁ。ま、どうでもいいんだけど。 そうこうしてるうちに学校に着いた。予想通り誰とも衝突しなかった。遅刻1分前、家からダッシュした甲斐があったようだ。あんなに走ったのは何年ぶりだろうか? とりあえず遅刻しなくてよかった…あと1回でも遅刻してたら生活指導を受けなければならないのだ。過去の遅刻回数は3回。4回でゲームオーバーだ。 「もう遅刻出来ねーな…」 ボサボサの髪を少し整えてから教室に向かう。途中ゴリ山とすれ違い、軽く挨拶した。ゴリ山は『ほう、今日は遅刻じゃなかったんだな』と見下したように笑いながら言い放ち去って行った。 朝っぱらムカつく野郎だ。ほんとモチベーション下がるよ… 教室は幾人もの会話や、携帯電話での音楽再生による音で埋め尽くされていた。いつもと同じ光景、かと思ったのだが一ついつもある光景が今日に限って見られない。 恭介がまだ来ていなかった。このクラスで一番のお喋り君の声が聞こえてこなかったのはこのためだった。 「珍しいな…休みか?それとも遅刻か?」 自分の机に頬杖をつき窓の外をぼんやり眺めながら考えてみる。あいつに限って遅刻はないだろうし…昨日までピンピンしてたから休みってのも無いと思うし… まぁ、別にいいか。あいつがいなけりゃちったぁ静かになんだろうし。 うんうんと頷き納得。その事を考えるのはもうやめにしよう。つーかゴリ山遅ぇな。もうとっくにHRの時間過ぎてんじゃねぇか、時間に人一倍うるさいあいつがねぇ… こりゃ何かあったな。勝手な推測だけど。
「おはよう」 不意に声を掛けられた。遅い反応の後、声のする方へ顔を向ける。 「凪か…」 声の主はクラスメートの冬月凪だった。凪は俺の反応が気に食わなかったのか、少し不機嫌そうな表情を浮かべている。 「凪か…って、ちょっと酷いんじゃない?折角人が親切に挨拶したのに。普通、返すのが常識なんじゃない?」 「悪かったな非常識人間で」 冷たく言い返しまた窓の外へ顔を向ける。凪は顔、性格、スタイルが共に完璧な女の子だったので男子生徒に絶大な人気を誇っていた。 故に、凪と会話を交わすと周りの男子に冷たい目で見られたり闘争心剥き出しの表情で見られたりした。この前なんかトイレで手洗ってたら『調子に乗るなよ…?』とか言われた。 まったく、怖い怖い連中だ。だからあんまり凪とは話したくなかった。 凪が嫌いとかそういうわけじゃなくて、ただこれ以上凪と仲良しこよしをやってると面倒な事になりそうだったから。それはどうしても避けたかった。 ――――バタバタバタバタ…ヒュンヒュンヒュン… ヘリコプターが低空で飛んでいる。それになんかこっちに向かってきている。 「ねぇ、何か近づいてきてない…?あのヘリコプター」 凪が不安気な声でヘリコプターを指差しながら言う。まったくもって同感だ。明らかにこちらへ向かってきている。 教室内の他の生徒もそれに気付き、窓へ押し寄せてきた。「何アレ…?」「オイオイ、何かのショーか?」などとざわつき始めた。 するとヘリは校庭のど真ん中に着陸した。ざわつきがさらに大きくなる。 ヘリから4,5人の黒い服を着た連中が現れた。そして一人、ロングの髪をなびかせたうちの学校の制服をきた女の子が黒い服を着た連中に囲まれながら姿を現した。 そのまま校舎へ向かってくる。校長を始めとする職員の連中が慌しくそれを出迎えている。ゴリ山の姿も伺える。 何やら少し会話を交わした後案内されるように校舎へ入っていく。校舎へ入ったところで姿が見なくなった。 それと同時に放送が入る。 『生徒の皆さんは教室で待機していてください。くれぐれも教室内からは出ないように』 「…何だぁ?」 一体何が起きているのか理解出来ずにいた。それは俺だけでなく、全校生徒が同じ境遇であろう。 耳に入る大きなざわめきがウザったくて仕方が無かった。
書ききりたいと思います。途中でやーめたは嫌いなんで… それまでの間、不服であると思いますがどうぞご了承ください!!
なんか読み辛い。
俺的には好きなシチュだな
頑張って書ききって下さい!!
これは、三人が紡ぐ物語。 01 : Daily Life 六月、続く雨に誰もが気を塞ぎがちになる季節。 高校の教室の窓の外、しとしとと降り続ける雨をチラリと横目で一撫でして、塩崎忍は再び読みかけの本へと戻っていく。 「それ、面白いのか?」 近くの席に座り、声をかけてきた男の名前は、九条正宗。まるでどこかの殿様か、あるいは名家のご子息かといった具合 だが、父親は平凡なサラリーマン、母親はスーパーでレジ打ちのパートをしてるという、ごくごく一般的な家庭の育ちだ。 しかし、容姿は名前負けしない立派なものだった。背は人一倍高く、百八十近くあるだろう。その上に乗る顔も決して悪く ない。絶世の美男子というわけではないが、どちらかといえばいい男に分類される方だ。 ただいかんせん、愛想が無いことで有名だった。腹を抱えて笑っているところを誰も見たことがない、と噂されるほど、彼 は表情の変化に乏しいのだ。正宗本人にしてみれば、そんなことを言われるのは心外で、十分に笑っているのだが、なか なか伝わっていないようだ。 「これ? 面白いよ。読む?」 答えて顔を上げた少女、忍が本の表紙を彼に見せるが、正宗は小さく肩をすくめて首を横に振った。どうやら退屈過ぎた から言ってみただけで、さして興味はなかったようだ。 そ、とだけ言って、気を悪くした素振りも見せない彼女、塩崎忍は、スカートをはいていなければ男の子と見間違われかね なかった。短く切った黒髪に高い背、スレンダーな体形。彼女が少女を主張するのは、スカートと、衣替えを終えたばかりの 半袖の制服から覗く、白くて細い腕ぐらいだ。 「随分、読み込んでるんだな」 「好きだからね」 辛うじて背表紙のタイトルが読めるといった具合に、かなり読み込まれてボロボロになった本を、忍はパタンと閉じて膝に置く。 「どんな内容?」 「読めばわかるよ」 視線を向けられて、正宗はさりげなく目をそらした。やはり読む気はないらしい。その仕草に小さく口元だけで笑って、忍は 教室の壁にかけてある時計に目をやった。 「遅いね」 待ち合わせとして指定された時間は、放課後五時。場所は二人のクラス。なのに、当の本人は十分を過ぎても現われない。 「いつものことだろ」 投げやりな声で正宗は言って、大きく伸びをする。確かにいつものことだったから、彼女も怒ったりはしない。本を持ってきた のは、あらかじめこれを予想していたからだ。 「今日はどうする? どこに行こうか」 「雨が鬱陶しいから、遠くには行きたくない」 「じゃあコルトンなんてどう?」 忍が挙げたのは、彼女の叔父が経営している喫茶店の名前だ。本当はコールド・ストーンという名前なのだが、コルトンという 名前で通っている。忍が行くと安くコーヒーを出してくれるので、正宗も一緒に行くことが多かった。 「そんなとこだな」 と正宗も頷いて、ふと、 「明日って、何か授業が入れ替わってたよな。なんだっけか」 「数学が、木曜の英語に変わった。そういえば正宗、あてられてるけど、もう訳した?」 「そういやそんなのあったっけな。忍はもうやったのか?」 「やったけど、見せない。正宗の為にならないし」 「今日、奢るって言ったら?」 「……考えとく」 どうせ見せることになるのだろう、と思いながら忍は自分の意思の弱さに苦笑する。そこでちゃんと断れていたら、カッコ良かった のに、と。 もっとも、そんな彼女を見て声を出さずに笑っているところを見ると、そもそも正宗は断られることなど毛頭考えていなかったのだ ろうけれど。
「テストの時、困っても知らないから」 「なんとかなるさ」 「それで本当になんとかするんだから、正宗は可愛くない」 「平均点ギリギリだけどな」 他愛もない会話のやり取りの隙間からも、彼らの仲の良さが伺える。退屈な、それでいて楽しくないわけではない 時間を、忍も正宗も、決して嫌いではなかった。 「……ってか、あれじゃないか? 近付いてくるやつ」 そうこうしているうちに遠くから聞こえてきた足音に、二人は扉に目を向けた。階段を駆け上がって近付いてくる それは、確かに彼らが聞きなれたもの。 「来たね」 「だな」 二人が目配せをすると同時に、教室の前で足音は止まり、ガラリと音を立てて扉が開いた。 「ごめんっ、お待たせっ」 「遅い」 呆れ交りの忍の言葉に、戸口に立ったままの少女は片手を挙げて謝って見せる。正宗はわざとらしい溜息を ついて、鞄を持って立ち上がった。 「で? 遅れた理由は?」 「んー、ちょっと、話し込んじゃって」 彼の問いかけに返ってきたのは、はにかみの笑顔。 一瞬にしてまさかという顔になる正宗と、呆れ果てたという顔の忍、二人の視線が交わる。 「もしかして、またか?」 「ういっ! 立花美幸、好きな人が出来ましたっ!」 お茶目に敬礼をする彼女をよそに、二人は肩を落とす。 「あの台詞、これで何度目だ?」 「二年になってから、四回目」 「なに、暗い顔になってんのよ。雨だからって、気分まで暗くなってちゃ損だよっ」 忍と正宗、二人が同時に吐いた大きな溜息にも気付かないのか、美幸は一人、テンションが高い。その彼女 の明るさにつられたのか、気がつくと雨はすでにやんでいて、雲の境目から光が差し込んでいたのだった。 立花美幸は、気さくな少女だ。快活で裏表がなく、男女を問わずに友人の数は多い。忍があまり交友関係を 広げようとしないのとは対照的だ。 対照的なのはそれだけではない。体つきも、女性をしっかりと主張している。忍がモデル体形ならば、美幸は グラビアアイドルといったところか。 そんな彼女なのだが、恋の話に関しては、忍と正宗、二人の前でしかしない。 「それでね、それでね、まぁ前からちょっとカッコイイな、とは思ってたんだけど、顔だけかなとも思ってたわけ。 それが今日、ゆっくり話してみたら、意外に真剣に色んなこと考えててさ。あ、なんかいいな、って思ったんだ。 サッカーも遊びじゃなくて、プロにはなれないかもしれないけれど、ずっと続けていきたいし、ゆくゆくはコーチに なりたいんだって。で、今からそういう勉強もしてて……」 「それじゃ、また明日ねー」 「おう」 「……じゃあね」 コルトンからの帰り道の途中で美幸と別れ、二人になった忍と正宗は、今日、何度目かわからない溜息をついた。 喫茶店につくまでと、ついてから、そして店を出た後も、美幸はずっと『彼』のことを喋り続けていたのだ。彼らは ただ、時々相槌を打つぐらいにしか口を挟むことが出来ず、延々と聞かされるだけだった。 「疲れた……」 忍が漏らしたのは、心の叫び。ただただ疲れたとしか、言いようがなかったのだ。 「相変わらずだな、あいつは」 同じように正宗も言うが、わずかに苦笑が交っているのは、それだけ耐性がついているからなのかもしれない。 忍と正宗、そして美幸の三人は、幼稚園の頃からの幼馴染だ。住んでいるところが同じ町内と近かったので、 お互いの家を行き来していたものだった。そのまま小学校にあがり、中学校を経て、今は同じ高校に通っている。 ただしそれは、正宗と美幸の二人だけの話。 忍は家の都合で中学の三年間だけ、別の土地で過ごしていたのだ。すごく遠く、というわけでもなかったが、 中学生が自由に行き来出来るほどではなく、メールのやり取りはしつつも疎遠になっていた。 それが高校の入試前後に、また家族そろってこちらに戻ってくることになったのだ。なんだかんだで再び、一緒の 高校に通うことになった時には、一番喜んでいたのが美幸だった。正宗も勿論、喜んでいたのだが、同時に、 「お前もこれからは一緒に聞いてもらうからな」 と言ってもいた。覚悟しとけよ、とも その時には何のことかわからなかったのだが、今ならばよくわかる。
「いつも思うんだけど」 並んで歩く正宗を横目で見ながら、忍は疲れ切った声で尋ねる。 「よく耐えられるね」 「慣れたからな」 肩をすくめる仕草をした彼の横顔には、諦観に似た笑みが張り付いている。確かにそうだろう。忍がこの街を 離れていた三年の間も、ずっと聞かされていたのだろうから。 「ああやって人に聞かせたくて仕方ないんだろ。自分が好きになった男が、どれぐらい素敵かってのを」 「悪気がないのはわかってるんだけどね」 短い髪を軽くかきあげながら、忍は夕焼けの空に美幸の面影を重ねる。彼女が浮かべる無邪気な笑みは、 いつも眩しいから。 「にしても、簡単に人を好きになるな、って思う」 話を聞くのが嫌だというわけではない。ただ、恋をするのが一年に一度とか、それぐらいのペースならばまだ いい。そうではなくて、傍目から見ていると、美幸はあまりに簡単に人を好きになってしまうのだ。だからこそ、 たった二ヶ月ちょっとで四人目なのだ。 「そういうのは、許せないか?」 だが、そう言っておりながらも忍は、正宗の問いかけにすぐに頷けない。何故なら、 「あいつはいつでも、真剣だぞ。困ったことに」 「……そうなんだよね」 他の女子がそうだったなら、あまり友人付き合いはしたくないと彼女は思う。ただ美幸は、簡単に人を好きに なる癖に、その一つ一つに真剣なのだ。気軽な気持ちで恋をしているわけではないというのが感じられるから、 美幸のことを嫌いになれないのだ。 ただ。 「なんていうか、厄介な子と幼馴染になっちゃったな、って感じ」 「まったくだな」 それでもさすがに、幼馴染でなければきっと、見限っていただろうとも思う。まだ小さい頃の彼女を知っている から、嘘を付いていないと感じられる。それだけ、子供の頃からの絆は深い。忍はそう考えていた。同じことは 正宗にも言えるだろう。 「じゃあ、ここで」 「ん。また明日」 彼の家の前で、別れを告げた後、ふと忍は振り向く。 「そういえばさ」 「ん?」 「美幸の恋がうまくいったら、どうする?」 夕焼けを背に、彼女は問いかける。正宗からは影になって見えていないだろう。それでも、忍は表情を消す。 想いを悟られたくはないと、そう思って。 それに対して、彼もまた、表情を消して。 一瞬、そっと視線をそらした後。 「おめでとう。って、それだけの話だろ」 何事もなかったかのように、いつもの顔に戻って、そう言う。 「ん。そっか」 正宗に合わせるように、忍もいつもの顔で頷いた。胸の奥はわずかにくすぶっていたけれど、隠せない程では なかったから。
それから、一週間後。 「はぁぁぁぁ」 深い、深い溜息を付いているのは、立花美幸。この世の終わりが来た、と言わんばかりの表情。だが忍と正宗 にとっては、見慣れた光景でもある。 彼女がこんな風に落ち込んでいる理由は簡単だ。 フラれた。それだけのこと。 「今度は、何て言われたの?」 「好きな人がいるんだけど、って相談されてさ……なんでよりによって、私にするかな……」 テーブルに顎を乗せて、落ち込んでいく美幸に、二人は苦笑と同情の交った視線を向ける。どちらかといえば、 苦笑の割合の方が大きいか。 「相変わらずだね」 「いつものことさ」 彼女は人を好きになる数は多いのに、実はまだ誰とも付き合ったことがない。ただの一人も。 美幸は気さくな少女で、男女問わずに友人が多い。だが、それはもう一つの意味を持つ。 彼女は、その性格ゆえにか、男子から恋愛対象というよりは、『女友達』として認識されてしまうのだ。その為、 恋愛相談をしやすいと思われているらしい。そうしていつも、彼女の恋は実ることなく散ってしまう。 もう一つ、美幸は自分の恋愛を忍と正宗以外には話さない。だから、二人を除いた彼女の友人は皆、美幸は 誰も好きになったことがないと思い込んでいる。恐らくこれも、彼女に恋人が出来ない遠因だろうと、忍は推測 している。 「懲りないよね、美幸は」 美幸がノロノロとトイレに向かったのを見送ってからの忍の言葉に、正宗は重々しく頷く。 「まぁそれでも、男を見る目はあるんじゃないか。女なら誰でもいい、って奴には惚れないんだから」 「確かに、それは評価出来るかな」 美幸が好きになる男に共通するのは、真摯な男ということ。だからこそ、自分の想いを優先して、美幸に振り 向きもしないのだけれど。 「いつかベクトルが向かいあう人に、巡り合えるのかね」 「数打ちゃ……ってわけにはいかないだろうからな、こういうのは」 コーヒーカップで表情を隠す正宗を、忍はチラリと盗み見る。 もしも。 もしも、いつか。美幸のベクトルと、その想い人のベクトルがピタリと向かいあった時。 彼のベクトルは、どうなるのだろう。 そして私のベクトルは。 「落ち込んでても、仕方なーーいっ!!」 忍の物思いは、トイレから戻ってきた美幸の大声に破られた。一体何があったのかわからないが、すっかり 元気になっていつものテンションに戻っている。 「忍、正宗っ。カラオケ行こっ、カラオケっ。歌って忘れる、これに限るっ!!」 「はいはい、わかったよ」 「仕方がないな」 苦笑をしながら、二人は鞄を取った。 立ち直りが早いのは、いいことだ。それでこそ自分達の幼馴染、立花美幸だ、と。 そうして幼馴染三人は、カラオケへと連れ立っていく。一人の明るい少女を先頭に。 少年はその後ろについて、彼女の背を見ていた。普段はぶっきらぼうな彼の瞳には、暖かな優しさが浮かんで いる。彼女の後を歩く、それだけでいいと思っているかのように。 だが彼は気付かなかった。自分の背を、もう一人の少女が複雑な目で眺めていることには。 これは、三人が紡ぐ物語。 描き出される模様を、彼も彼女らも、まだ知らない。知ることもない。
突然の投下、失礼しました。 自分が感じる幼馴染の魅力をどのように描いていけばいいのか。悩みどころです。 難しいですね。 長編というよりは短編をちょくちょく投下していきたいと思っています。 今後ともどうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m
>>195 GJ!
一方通行でほんのり切ない香りが漂っていい感じです
これがそのうち三角関係に変わるのかどうか、続きに期待が止まらない
幼馴染の魅力をどう表現するかというのは難しいけど
微妙な距離感が読んでて伝わってくるこういう作品は好物です。
自分の信じる道を行くんだ!
こ、これは…かなり期待できるんじゃないか? こういう距離感、空気感で魅せる文体は好きだな。 職人さん、GJです!
>191-195 の続きですー。
雨の調べは寂しい。時に。 02 : Rainy Tunes 「あれ、もう帰るんだ?」 鞄に教科書を詰め込む正宗は、かけられた声に顔を上げた。扉から覗いているのは、部活の途中なのだろう、 Tシャツにハーフパンツ、そして長い栗色の髪をポニーテールに結った少女。 クラスメイトの宮村彩夏だった。 「でも珍しいね、九条君が一人なんて」 「……どういう意味だよ」 悪意はないのだろうが、気になる言葉を投げかけてくる彼女に視線を返すが、 「別に深い意味はないって。たださ、九条君っていつも、忍か美幸ちゃんのどっちかと一緒にいるイメージがある から」 正宗の席からほんの二つほど隣にある自分の机に、軽く腰掛けて彩夏は笑う。彼女は、彼の愛想の無い見かけ と態度に、物怖じしない数少ない女子の一人だ。 「そんなことか」 正宗はそう言って、肩をすくめて見せる。 「でも実際、そうでしょ? よく一緒に帰ってるし」 楽しそうな、それでいて探るような目で見つめてくる彩夏に対して、正宗はしかし、動揺することなく、 「そりゃ帰り道が一緒だからな。忍なんて、ほんの目と鼻の先に住んでるし」 「ふぅん?」 まだ満足しなさそうな彩夏に、鞄を肩にかついでから彼は向き直る。 「昔っから一緒なんだ。時間が合うんだったら、今さら別々に帰る方がおかしいだろ」 「うーん、つまんない」 正宗の言葉に対して、返ってきたのはひどく身勝手な感想だった。なんだそれは、と、さすがに呆れながらも、 目で彼女に先を促す。 「だってさ、照れるか恥ずかしがる九条君を見てみたかったし」 「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ」 「子供の時から一緒だけど、年をとるにつれて一緒にいるのが恥ずかしくなって、わざと冷たくする……とかさ」 大きな身振り手振りを交えた彩夏の熱演を、彼は冷たく、アホか、と切り捨てる。 「少女マンガの読みすぎだ」 「でも実際、そういうことだってあると思うけど」 「ガキじゃあるまいし。仲のいい奴を減らすことないだろ」 「へぇ。人の目なんか気にしないって? それ、なんかちょっとカッコいいよ」 からかう彩夏に、もう付き合っていられないとばかりに正宗は戸口へと向かう。さすがにそれ以上、追及してくる ことはなかったが、クスクスと彩夏は声をあげて笑い、片手をひょいと軽く挙げた。 「じゃあね。また明日」 「ああ、お疲れ」
校門を出て歩き出すのとほぼ同時に、ポツポツと雫が彼の頭を濡らし始めた。見上げると、青い空に唐突に 黒い雲が広がっていく。 舌打ちをする間もなく、墨色の天が泣き出した。 天気予報、あてにならないな。思いながら彼は、鞄の中から折り畳み傘を取り出して開く。出掛けに母が持って いけと渡してくれたものだ。何故か、正宗の母の勘は天気に関してだけはよく当たる。今回もそれに助けられたわ けだが、帰ってきた時の彼女の得意そうな態度を思い出すと、なんとなく渋い顔になってしまう。だから言ったでしょ、 とばかりに、調子に乗って恩を売ってくるのだから。 とはいえ、それでも濡れるのよりはマシだと云えた。そしてふと、思う。あの二人はどうしているだろうか、と。 確かに、彩夏が指摘したように、正宗が一人で帰るのは珍しい。大体いつも、幼馴染の二人の少女のどちらか、 あるいは両方と一緒だから。今日一人なのは、本当にたまたまなのだ。 美幸はクラスメイトと買い物に行くとメールが来ていた。忍は調べたいものがあるから、と図書室に向かった。 広い水溜りを避けながら、正宗はゆっくりと歩く。急ぐことはない。ただ、のんびりと。こうして帰るのも、たまには 悪くはないか。そんなことを考えながら。 ふと、彩夏の言葉が脳裏を過ぎる。 『忍か美幸ちゃんのどっちかと一緒にいるイメージがあるから』 あの時は頷いて肯定したが、改めて考えてみると少しだけ不思議な気分だった。 幼馴染だから、一緒にいるのが当たり前だ。そう正宗は心の中で呟く。 『人の目なんか気にしないって?』 必要がないからだ。例えそれでからかわれたところで、さっきのように聞き流せばいいだけ。相手にするから悪い。 そう思う。 噂が無かったわけではない。中学の時はもっとひどかった。忍がおらず、美幸と二人だけだったからだ。人の口と 妄想は、止められない。 だが彼女は、そんな噂を気にも止めようとしなかった。正宗も同じだった。やがて噂が静まった理由は、彼らがいつも 二人きりだったわけではなかったからだろう。途中まで二人と一緒に帰る友人も、数多くいたから。 高校になっても、同じだった。勘繰る連中がいなかったわけではないが、美幸の天真爛漫、正宗の無愛想、そして 忍のクールな態度は、火種を消すのに十分だった。 三人。一緒。 その関係を心地良いと、彼は感じている。 だが。 スッ、と正宗の目が細まった。鋭い瞳は、しかし何物も捉えていない。ただ心の内側を覗いている。 だが一方で。 想いは、確かにある。 陽炎のように揺らめいているけれど、そこには人の影がある。 「美幸?」 角を曲がった瞬間に目に飛び込んできたのは、たった今まで思っていた少女の姿。それと同時に、彼の口から名前 が漏れる。
「あ、正宗。よっす」 パン屋の軒先で、長い髪から水をしたたらせながら雨宿りをしていた美幸は、彼の声に携帯から顔を上げてニコリ と笑った。 「何やってんだ?」 「やー、カラオケ行こうと思ったら雨が降ってきてさ。今日はやめとくか、って別れてから走って戻ってきたんだけど」 トホホ、と言いたそうな顔で美幸は空を見上げた。 「結構、強くなってきたでしょ? もうビショ濡れだし疲れたしで、ここで休んでるの」 確かに、彼女の言う通りだった。半袖の白のシャツはピッタリと肌に張り付いているし、ローファーは浸水がひどく、 紺のハイソックスを絞ったら滝のように水が出てくるだろう。 「大変だな」 いつもよりしっかりと美幸の顔を見て話すのは、油断をすれば、透けて見えるピンクのブラに目が行ってしまうから だ。かなりの努力が必要だったが、それでもなんとか正宗は見ないようにしていた。出来るだけ。 「朝のテレビで、今日は晴れって言ってたのになー。正宗は用意いいね」 「またうちのお袋だよ。持ってけ、って言われてな」 「あー、やっぱり。正宗のお母さん、ホントに天気をよく当てるよね。元・天気予報のお姉さん、だったりしない?」 「テレビとかでか? 冗談じゃない、想像出来ねぇよ、そんなの」 軽口を言いながら、ふと、気付く。彼女がアーケードから出て来ないことに。 何の気はなしに、誘う。 「ほら。送ってってやるから、入れよ」 「ん? ああ、いいよ、別に」 メールでも来たのか、携帯から顔を上げずに美幸は応えた。 断られたという事実が胸の奥におさまるまで、少しの時間が必要だった。 拒否されるなどと、まるで思い浮かべていなかったことを、改めて知る。腹の底に、何か重いものが生れて、心を 圧迫する。 「見られたら困る奴でもいるのか?」 冗談めかして問いかけるのが、精一杯だった。 自分だけだったのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。仲が良すぎるとか、付き合ってるとか。そんな誤解など、 気にしていなかったのは自分だけで、美幸は実は気にしていたのか、と。 もしかしたら、好きな人が出来て、その男に見られたくないのかもしれない。相合傘なんて、カップルがするような ことだから。 寒い、と正宗の体が訴える。それは決して、雨に濡れたからだけではなかった。 「え?……ああ、そんなんじゃないよ」 明るく言って、美幸は笑いながら携帯を閉じた。そして、 「ちょっと用事が出来て、家に帰る前に寄るとこが出来たの。だからね」 途端に、彼は脱力する。考えすぎだったのか、ただの。思った瞬間、自分がおかしな表情をしてたのではないか、 そんな不安が襲ってきた。それを誤魔化す為に口を開くが、 「なら……」
「なら、そこまで送ってってやる」 台詞を先取りされて、正宗は目を軽く見開いた。少し滑稽な彼の姿に、ではないだろうが、軽く美幸は笑う。 「そう言うと思ったんだ、正宗なら」 なんとなく、頷く。確かに、そう言おうとしていたのだから、反論のしようがない。 「けど、ちょっと遠いしね。その後は、そこから一人で帰ることになるでしょ? さすがにそこまで付き合っても らうわけにはいかないもの」 風邪でもひかれたら嫌だしね。と、そこだけは真面目な顔で言う。 「普通に帰るなら、送ってってもらってたんだけど。でも」 一度、言葉を区切って、彼女は。 「ありがと」 真面目な顔だったその次の瞬間には、ニコリと満面の笑みなのだ。ありがとう、という言葉、そして感謝の気持ちが 心の底からのものだとわかる。そんな笑顔。 胸の奥の黒く重い霧が、一気に晴れていく。 それは灯火のようなものだった。癒しなどという、簡単な言葉では言い尽くせない。極上で最高なハッピーが、 体全体に広がっていくのだ。 「にしても、よくわかったな」 彩夏が見たがっていた照れ臭そうな表情を、手で鼻をこする仕草で隠しながら、正宗は美幸に言う。 すると、またあの笑顔で。 「だって、ちっちゃな頃からずっと一緒だったもの。正宗のことなら、何でもわかってるよ」 悔しいが、かなわない。正宗はそう思う。 こんな風にされたら、想わずにはいられない、と。 「あ、それに、姉さんが迎えに来てくれるっぽいし」 そんな彼の想いに気付くことなどなく、携帯に届いたメールをチェックして、美幸が言った。 「由梨さんが?」 「そ。用事って、姉さんの買い物に付き合うのだしね」 思わず正宗が顔を顰めるのは、一度、無理矢理に同乗させられた時の彼女の運転がひどかったからだ。 「正宗も乗ってく? ちょっとぐらいなら平気だろうし」 「いい。やめとく」 即座に断ると、姉の運転の荒さを知ってるだけに、さすがに美幸も引き止めたりはしなかった。ただ苦笑するばかり。 「じゃあ、早く行った方がいいよ。姉さんに見つかったら、絶対に乗ってけ、って言われるし」 「悪い、そうさせてもらうわ」 互いに手を振り合って、足早にその場を立ち去るのとほぼ同時に、車のブレーキの音が背の向こうに聞こえた。 走り去る車を遠くに見ながら、正宗は拳をグッと握り締める。 『正宗のことなら、何でもわかってるよ』 多分、そうなんだろうな。美幸の言葉に、彼は心の中で同意する。が、同時に、だけどな、と否定する。 知らないことだってあるぞ。 口には出さずに思いながらなぞるのは、鎖に縛られながらも跳ねる心臓と、マグマのように紅く熱い想い。 まだ知らないだろ。俺の気持ちを。お前を好きだって言う、この想いを。 当然だ。隠してきたのだから。決して彼女には気付かれないようにと。 そうすることで報われると思ったわけではなかった。 ただ、側にいたかったから。幼馴染でしかなかったのだとしても。 想うことで身を焼かれるのは辛くない。彼女の存在が遠くなることに比べれば。 もし、誰かのものになったとしたら。 それはきっと辛いこと。だけど。 側にはいれる。 正宗はそう思い、想う。 何でもわかっている。そんな風に言われるほど近い存在には、きっと、他の誰もなれないと。 何故ならそこは、彼の、九条正宗の場所だから。
性懲りもなく書かせて頂きました。
>>196 >>197 ありがとうございますー。早速レスがついて、ほっとしております。
幼馴染の良さって奥が深いな、って感じております。それを伝えられていれば良いのですが。
ともあれ、今後ともどうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m
GJ!なんか先は長そうだが、じっくり練って書いて下さい。期待してます。
205 :
名無しさん@ピンキー :2007/06/13(水) 23:50:53 ID:4bJJdQ4W
>>203 胸の奥がもにゃもにゃする。
三人の想いの行方がどうなるか楽しみです。
じっくりがっつり書き進めて下さい!
206 :
名無しさん@ピンキー :2007/06/14(木) 01:42:46 ID:acpGVSdD
シロクロなかなか来ませんね。毎回楽しみにしています。いよいよ最終回が近いですが周辺キャラKIBOU
>>203 三角関係かー
鬱系は本当は嫌いだけど、これは良さそうだから今後も読ましてもらいます。
絆マダー?
クレクレしか出来ない屑は黙ってろ。
それくらいは別に良いと思うけど、作品が投下された直後に書き込むのは非常識だな
---------------------------------------------------------------------------- ブルー 第4話: ---------------------------------------------------------------------------- ○月×日 うちへの帰り道、雲が黒くて雨が降りそうだったので引いていた 自転車をこいで坂道を登ったら息が切れてしまいました。 でも雨が降るまでに間に合ったからよかったかな。 熱かった風も冷えてきて、お風呂上りにベランダへ出たら少し雨が降ってきました。 それにしても、何で剣道をやめてしまったんだろう。 考えてみたけれど、分からない。 初めて会ったときから、イチ君は竹刀と一緒に飛び出してきた根っからの剣道少年だったのに。 大好きだった相手にある日突然興味がなくなってしまうのは、よくあることなのかな。 夏中ずっと考えていたけれどやっぱり分かりません。
@@ 椅子を引いて、麦茶を入れ替えるためにキッチンへ出た。 2LDKのマンションは母娘で暮らすには贅沢な広さだといつも思う。 「ぁ。雨」 窓を開け放した居間には雨の音がぱらついている。 夕方の予報どおり、本格的に降ってきたようだ。 湿気でただでさえいうことを聞かない髪がまた跳ねているのを あいた右手で撫でつけて、冷蔵庫を開けた。 暗い中で白い光が眩しかった。 相変わらず何も変化が無い。 タッパーにおひたしや和え物なんかを並べて、いつ帰ってきても大丈夫なようにしているのに、無駄になりそうだった。 冷えた空気を眺めて手前のタッパーだけ取り出した。 今回もまた、悪くなる前に、榊原のうちに持っていかなくちゃいけない。 いつもそうだ。 お母さんは、一週間に一度帰ってくればいい方なのだから、もう慣れている。 寂しくないといったら嘘になるけども、 ――だからといってお母さんが嫌いというわけでもないのだし。 たこときゅうりの酢の物をつまみながら、麦茶をグラスに継ぎ足した。 ビールでもいいかもしれない。 とふと思って、グラスと一緒に冷えた缶ビールを抱えて部屋に戻る。 なんたってもう20歳なのだ。 合法的にお酒が飲める。 前にイチ君がお父さんに隠れて飲んでて怒られていたけれど、私はもう大丈夫だ。
うん。 それを考えたら少し気分が良くなった。 でも夕方のことを併せて思い出してしまったので、麦茶を後にしてビールを飲むことにした。 よく冷えていた。 もやもやする。 ご飯と生焼けの目刺しだけで、お腹をすかせていないだろうか。 あ、でもきっと可愛い女子高生と何か食べてきたんだろうから大丈夫だ。 うん。 じゃあ大丈夫だ。 考えてたらなんだか頭がぐるぐるして、喉が苦しくなったのでそのまま缶を飲みきって、机に頭を埋めた。 熱い。 20歳になって発覚したところなのだけれど、残念ながら私はとてもお酒に弱いみたいだった。 好きなのに悔しい。 水がベランダを打つ音が心地いい。 アルコールが血を巡っていくと指の先までぽかぽかしてきた。
「……んー」 チャイムの音で目が覚めた。 酔ってしまって寝ていたみたいだ。 まだ十時前だったのであまり寝ていないのにほっとする。 頭がふわふわした。 ぼうっとしたままインターフォンを取ると、向こうでちょっと怒ったイチ君の声で「帰るよ」と一言だけ 聞こえたので酔っていたせいだと思うけどどうしようもなく泣きたくなった。 ロビーまで傘を持って降りていって、顔を直接見たら泣いてしまった。 雨でよかった。 水がアスファルトを覆っていて、足の指が濡れている。 後ろでぐずぐず泣きながらサンダルでぺたぺたと歩いているのを、イチ君が時々溜息をついて待ってくれた。 別にすぐ帰らなくてもいいじゃん。と言われるのがなんとなく余裕めいていて生意気と思ったので強引に背中を押して帰っているような感じだ。 いつもは私が先を歩いて遅い遅いと怒っていたから、これもなんとなく珍しい。 最初の頃、おとうさんとイチ君が、私はどうしてもいい人だと信じられなくて、 ただ「私はお客様」の気持ちが強くて、小学生のくせにすごく嫌な態度をいっぱい取った。 それはもうこのおうちのひとに信じてもらえない方があたりまえ、みたいな、勝手なことをいっぱいしたと思う。 20になった今思えば、いくらうちに帰ってこなくてもお料理を作ってくれなくても お母さんだけが家族なんだと信じたかったのかもしれないし、 いくら面倒を見てくれるといっても、お母さんの恋人ではなく まして本当のお父さんでもない人を「おとうさん」と呼ぶことを、 どこか裏切りみたいに感じていたのかもしれない。 でもイチ君の面倒を見てあげなくちゃ、といつの間にか当たり前みたいに思っていた。 周りの子達が妹や弟の話をするのを聞いていたから、小さかった私も、誰かのお姉ちゃんになれることだけはすごく嬉しかったのだ。
スーパーにイチ君が寄って私の好きなお菓子を買ってきてくれて (こんな顔で人前に出るのいや、と駄々をこねたらものすごく仕方なそうな顔をして中に入っていった)、 うちの近くの街灯を見上げる頃には、そんなことを思い出して、涙が収まっていた。 「雨音さん歩ける?」 「歩けてますー。お姉ちゃんのことばかにしてるんでしょ。」 「いやだってまっすぐ歩いてないじゃん。お酒弱いのに飲むからだよ。この酔っ払い。」 生意気なことを言うので傘でアタックしてくすくす笑った。 「痛いって!人がお腹すいてんのにそれかよ!」 「分かった分かった。おつまみと一緒に何か作ってあげるから。 目刺しの焼いたのとか。そら豆茹でたのとか。ワカメのおひたしとか」 「それただのおつまみじゃん!」 呆れ顔の男の子を雨越しに眺め、しばらくじっと観察する。 そうか。 私、今、イチ君と一緒に帰っていくところじゃない。 ふと気づいてなんだかおかしくなってますます笑った。 自分でも思う。 こんなしょうもないことで笑えるくらい、絶対ものすごく酔ってる。 そして次第に強まる雨の中をお父さんが待つイチ君のうちまで一緒に歩いて帰った。 楽しかった。 ただ問題がひとつあったのは。 次の朝起きたとき、恥ずかしくて死にそうなのでした。 ああ。 了
5話目は量産型うにさんの予定です。
うひょー!! GJなのです!! こういう日常はとても良いですねぇ。のんびりしてて、でもとっても温かくて好きです!
良作の宝庫だね
この連作はどちらも読んでいて嬉しくなれる
>>217 和んだ。「お姉ちゃんの愛ってね、核ミサイルより強いんだよ?」って感じに和んだ。
だから容赦なくGJの嵐を贈るぜ!
GJ!
やっぱり243◆NVcIiajIyg氏の文章はいいですね
それと
>>221 !
お前の言い回しがすごく萌えるわ!
>191-195 >199-203 の続きですー。
何も見えない暗闇の中。触れ合う体から伝わる熱だけが、確かに心に刻まれていく。 03 : In The Darkness 「ちょ……まずいよ、こんなの……」 「いいから」 夜の校舎、静寂を裂く二人の声は抑えられたもの。 「ほら、早く」 「わ、わかったよ……」 耳元で正宗に囁かれ、忍は頬を赤らめる。おずおずと彼の側に寄って、それでもさ さやかな抵抗とばかりに体を離そうとするが、許されない。 正宗の顔に顔を埋めて、改めて彼の胸板の厚さに気付く。悔しいのは、こんな状況 なのに、聞こえてくる鼓動が平常なところだ。こんな風に自分を夜の学校に誘ってお いて平静なのが忍の癪に触ったし、ドキドキしてるのは自分だけというのが少し悔し くもあった。 「どうだ?」 「ん……大丈夫、だよ」 何とか自分も冷静に、と願うが、声が震えてしまう。どうしてそうなってしまうの かは、彼女自身でもわからなかったのだが。 「声は出すなよ?」 「…………」 コクリ、と頷く。出せるわけがない。なんといっても、夜の学校、しかも昼には自 分達が勉強している教室なのだ。見つかったらまずい。 「…………」 何とか声を出さないようにと意識する。それでも、正宗の体の一つ一つに、敏感に なってしまう。少し動かれるたびに、ドキンと心臓が跳ね上がるのだ。 「ん……」 漏れた吐息に、慌てて忍は唇を噛み締めた。密着して見えないが、きっと今、彼は 責める様な目をしていることだろう。とはいえ、悪いのは自分とわかっているから、 うつむいていることしか出来ない。そもそも顔を見上げることすら出来ない程に密着 しているのだけれど。 ……段々と、息苦しくなってくる。一方で、漂う独特の匂いに、さらに顔を強く彼 の胸に埋める。触れ合っている場所の全てが、熱くて仕方ない。段々と濡れてきてい るのを、彼も悟っていることだろう。 それでも正宗の鼓動は、相変わらず平静なままだったが、忍はもう、どうでも良か った。願うのは、ただただこの時間が早く終って欲しいということだけ。彼と一緒に いることは嫌じゃないし、むしろ楽しいのだが、これはあまりに恥ずかしすぎるから。
自業自得。ふと、そんなことを思う。こういうことを断れない自分のせいだ、と。 腹立たしくもあるが、正宗に頼まれると嫌と言えないのだ。 そんな彼女の物思いは、彼が少し動くとどこかに吹き飛んでいってしまう。たまら ず忍は、 「ちょっと……そんなに動かないでよ……」 「仕方ないだろうが」 抗議も、一蹴される。それどころか、 「大体、お前だって動いてるだろが」 「それは……」 確かに彼の言う通りだったから、反論も出来ない。動かないでいることの方が苦痛 なのだから。それでも正宗ほどではないと思ったが、喧嘩をしていられる余裕などな かった。 ほんの五分ほどのことだったろうが、忍には永遠に近いほどに長い時間に感じられ た。耳元で正宗が囁く。 「イッた?」 半ば意識が朦朧としていた彼女は、小さく頷くが、 「ちゃんと口に出して言えって。わかんないだろ?」 「……イッたよ……」 そうか、と彼は頷くのを見上げて、忍は最後の気力で言う。 「ね、早く……」 「ああ、わかってる。出るぞ」 ようやく。ようやくだ。心躍らせる彼女に、ようやく待ち望んでいた瞬間が到来した。
「ぷはっ……」 「あっつかったー」 掃除用具の入ったロッカーから転げるように出てきて、二人は肩で息をつき、早速 に愚痴を言い合う。狭い空間に閉じ込められていたせいで、暑くて仕方なかったし、 酸素も足りなくなりそうだった。無理な姿勢をしていたせいで、体のあちこちが痛い。 「匂い、きつい」 「だな。辛かった」 ロッカーの中は、鼻が曲がりそうな据えた雑巾の匂いが充満していて、忍は服に移 らなかったかと心配そうに肩の匂いをかいでいた。 「すごい汗だく」 「お互い様だろう。こっちだって、お前の汗で随分と濡れてるんだからな」 「はぁぁ。帰ったら速攻でシャワー浴びないとね」 溜息の後に不機嫌そうに言ってから、彼女はジロリと正宗を睨み付ける。 「こんなことになったのも、正宗のせいだからね」 「悪かったよ」 半ば投げやりに答えられて、忍は眉を顰めるが、今はそれよりもここを離れること が先決だった。 「もう見つかったんでしょ? さっさと帰ろ」 事の次第は、こうだ。 夜中の九時も回ったところで、忍の携帯に正宗からのメールが入ってきたのだ。 『学校に明日の宿題忘れた。取りに行くから付いてきてくれ』 実は正宗は、夜の単独行動を極端に避けている。何故かといえば、なんのことはな い、怖がりなだけだ。普段は無愛想で、どこかふてぶてしい様さえ見せるのに、怪談 やホラー、夜の闇といったものがからっきしダメなのだ。 それでも、日常に生活する分には問題ないのだが、学校というのは怪談や幽霊譚に 事欠かない。しかも夜の学校というのは、昼間の喧騒に包まれた場所とは全くの異空 間だ。怖く思うのも仕方がないか、と忍は思う。実際、自分が同じ立場なら、やはり 誰かに一緒に付いてきて欲しいと願うだろうから。 しょうがないな、と付き合ったのが、しかし不運の始まりだった。 特に何事もなく、二人は夜の校舎に侵入したのだが、それが警備員の見回りの時間 と重なってしまったのだ。教室で二人、廊下に出ることも出来ず、どうしようかと迷 って、結局、ベタにロッカーに隠れることにしたのだ。 とはいえ、平均より背の高い二人が入るには、ロッカーはあまりに小さかった。し かも箒やバケツといった掃除用具も入っているのだ。かなり窮屈ではあったが仕方な く、彼女達は体を密着させて入ったのだが、無理な姿勢にしょっちゅうゴソゴソと動 かざるをえなかった。 そうしてどうにか、警備員をやり過ごすことが出来たのだが、正宗はロッカーの入 り口に背を向けていたので、行ったのかどうかわからず、忍に口に出させて言わせた のだった。
「っていうかさ」 帰り道、コンビニに寄って買わせたアイスで正宗を指し、忍はからかうように問い かける。 「いい加減、正宗、怖がりを直した方がいいんじゃない?」 「うるさい」 にべもなく切り捨てられるが、それは普段よりは強気なものではない。だから忍は、 構わず続ける。 「そんなんで、彼女とか出来た時、困るんじゃない? オバケ屋敷に行きたいとか言 われたら、どうするの?」 一瞬、足を止めた後、正宗はペットボトルのジュースを口に運んで、目を空に向け て考え込む仕草を見せる。 「言っておくけど、そうなったら私は助けに行かないからね。今回は、幼馴染ってこ とで特別だから」 忍は幼馴染、というところを強調して言うと、彼は小さく苦笑する。 「まぁみっともないところだけは見せないようにするよ」 「私には見せてもいいって?」 軽口のつもりの忍の言葉に、しかし正宗は大真面目な表情で、 「お前は特別だからな」 「はいはい」 さすがに忍も、その言葉に胸を震わせる程に、彼のことを知らないわけではなかった。 「幼馴染として、ってことでしょ」 「そういうことだ」 頷く正宗だが、彼女は少しそれを不満に思う。甘い言葉を期待出来るはずもないが、 もう少し言いようがあるのではないか、と。もっとも、それを正直に口にすることは 出来ない。出来ようはずがない。 「ホントは今も、怖いんじゃないの? なんなら手を繋いであげようか?」 だからまた、冗談めかしてそう言うが、正宗は黙って忍の方を見て、ボソリと聞こ えるか聞こえないかの声で呟く。 「いいよな。お前は見えなくて」 「……え?」 一瞬、忍は凍り付く。正宗の視線は、彼女からゆっくりと離れて、彼女の向こう側 に向かった。そこには何もないはずの宙空を。 もしかして、何かいるのか。不安になるが、振り向くことは出来ない。ただ、言わ れてみれば、確かに何かの気配が背後にあるような…… 「冗談だよ」 クックック、と声を抑えて笑っている彼を見て、担がれていたことを知る。カァッ、 と頭に血が上り、忍は正宗の肩を怒りに任せて小突いた。バランスを崩しながらも、 彼は意地悪な笑みを浮かべて、 「手を繋いでやろうか?」 「いらないっ!」
またお付き合い頂きありがとうございます。
色々と模索中です。
>>204 >>205 >>207 レスありがとうございます。これからも楽しんで読んでいただけるよう、精進していきたいと思います
ので、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m
…十中八九意味違うとわかっているのに、「イッた」なんて言葉を見ると期待してしまうんだぜ? 言葉のあざとさにニヤニヤしまくり。 実にいい空気だなー。というか正宗の方がかわいいんですけどw 互いの距離感は忍の方が近そうで遠いですね。 とにかきゅGJです! …噛みました
GJです!! 忍には頑張って欲しいなぁ……。
超超GJ! 分かってたよ!罠だって事くらい分かってたよ!? でも期待しちまうじゃないか!何とか好意の対象変わらないかな〜 保守
232 :
名無しさん@ピンキー :2007/06/18(月) 04:02:34 ID:qwRrI5R9
保管庫って何処にありますか?
あるから自力で探せ
>191-195 >199-203 >224-227 の続きですー。
人は、知ることを快感と感じるという。 04 : By My Side 「あ、これいいね」 「どれどれ? へぇ、こんなのあったんだ」 化粧品の棚の前で、立花美幸と、宮村彩夏の二人はファンデーションを手 の甲に塗って試していた。 「新発売らしいよ。いい感じじゃない?」 「だね。あんまり目立たないし」 腕を軽くあげ、光にあてて確かめる。その唇が艶々と光っているのは、近 くに置いてあるグロスの試供品を試したからだろう。 日曜日の駅ビルの混雑はすさまじい。家族連れやカップル、それに交って 私服の学生の姿も多い。彼女達もそれに交って、服を見たり小物を見たりし て休日を満喫していた。そうして最後に行き着いたのが、このへんでは珍し い、広いスペースのドラッグストアだった。すでに買い物もほとんど済ませ たのか、手には服の入った袋をそれぞれ二つ、握っている。 「うーん、でも、今日は結構、使っちゃったしなぁ」 「そうなんだよね。バイトでもしてりゃ、もっと使えるんだろうけど」 揃って溜息。名残惜しそうに試供品を戻し、彼女達は店を出る。 「あー。早く大学生になって、バイトとかしたいよ」 彩夏の言葉に、美幸もうんうんと大きく頷く。何しろ、欲しいものは山ほ どあるのだ。いくらあっても追いつかない。 「美幸は何か、してみたいバイトとかあるの?」 「色々やってみたいよ。ウェイトレスとか、コンビニ店員とか、家庭教師と か」 「最後のは美幸には絶対無理だと思うけど」 「いやいや、わかんないよ? バカだから教えられることだってあると思う し。それに中学生なら」 「はいはい」 ムキになって反論してくる美幸の声を聞き流して、彩夏はちょうど見えて きたビルの中のトリーズコーヒーを指差す。 「とりあえず、休も。もう足がパンパンだし」 「いいねー。お? なんか新作も出てるみたい」 コロッと態度を変えて、彼女は足早に追い越していく。その後ろ姿にこっ そりと苦笑をしながら、彩夏は歩みを少し速めたのだった。
「あ、あそこ、空いてるよ」 冷えたモカとラテを一つずつ頼んで、ちょうど空いたばかりの席に座る。 窓側の席で、駅前の広場を見下ろせるいい場所だ。 「そういえば、この前に貸したマンガ、読んだ?」 椅子に座った途端に言われて、美幸は一瞬、キョトンと小首を傾げる。が 、すぐに頷いて、 「ああ、あれのこと。読んだ、読んだ。結構、面白かったよ」 「でしょ? 特に最後なんて、素敵じゃなかった?」 「うーん、まぁ、ね」 彼女の答えは、普段に比べて今ひとつ、歯切れが悪い。それが不満なのか 、彩夏は机の上にわずかに身を乗り出して問いかける。 「気に入らなかった?」 「嫌いじゃないけどね。っていうか」 逆に顔をグイッと近づけられ、今度は彼女が身を引く。 「魂胆、ミエミエ。ちょとわざとらしすぎだよ」 わざと目を細め、眉を顰める。怒っているのだ、というアピールだろう。だが そうして見せたところで、本気で怒っているわけではないのがバレバレ だし、逆に可愛く見えさえする。 「ん? なんのことかなー?」 そんな感想が笑みとして表に出ることを必死に抑えながら、彩夏はなんと かとぼける。が、唇の端が微かに上がるのは止められない。 「マンガの最後のこと。ヒロインが幼馴染を選ぶじゃない。前に貸してもら ったのも、そんな感じだったよね。ってか、その前のも」 これはなにかの偶然かなー? ニッコリと笑って問い詰めるのは、ドラマ か何かの登場人物の真似なのだろうが、ひどく迫力に欠けていて、決して怖 いとは思えない。 「プ……クックック、アハハハ」 とうとうこらえきれず、彩夏は思い切り声をあげて笑い出してしまう。一 瞬、美幸はキョトンとした表情を浮かべて彼女を見た後、さすがにプイと顔 を背けた。その仕草がさらにツボにはまってしまい、しばらくの間、彩夏は お腹を抑えて笑い続けるのだった。 「ハー、苦しかった」 「彩夏、ひどい」 ようやく笑いの発作が治まった彩夏に、美幸は口を尖らせて抗議するが、 「やめて、その百面相。ホント、笑えるから」 また笑い出しそうになるのを見て、もう、と云うと同時に、コツンと彼女 の頭を叩いた。ゴメンゴメンと云いながらも、まだニヤついてしまいそうな 彩夏だったが、ストローでアイスのラテを吸い込んで表情を誤魔化した。 「あんまりじゃない? そんなに笑って」 「ゴメンってば。でもさ、さっきの話だけど」 強引に話を変えたのは彩夏の方。ついでに表情にも真剣みが増す。 「まぁ確かに、意図がなかったわけじゃないよ。さすがに気付いてるみたい だけどさ」 「いくらバカでも、あれだけ見せられりゃ気付きますー」 語尾を軽く延ばして、まだ怒ってるんだぞ、というポーズを取る美幸。だ からゴメンって、と謝ってから、彩夏は続ける。 「でもさ、実際、ありかなしか、って言ったら、全然ありじゃないの?」 彼女がわざと誤魔化した人物を、美幸は正確に把握する。 九条正宗。美幸の幼馴染にして、無二の親友。 「ちょっと無愛想で話しかけ辛いから、遠巻きに眺めてる子も多いけどさ。 あれで案外、女子の間で人気だよ? 見た目、カッコイイし」 「知ってるよ。私も何度か紹介、頼まれたことあるし」 美幸はさして驚きもせず、むしろ冷静に切り返す。今さらこれぐらいのこ とで、と言わんばかりの態度に、逆に彩夏が呑まれてしまい、そうなんだ、 と呟いた。
「実際に紹介したこともあるんだ。女の子と二人きりで出かけさせたりとか」 「で、どうだったのさ?」 「全然ダメだってさ。会話が弾まないらしくて。そんなの、普段の正宗を見 てればわかると思うんだけど」 確かに彼はかなり寡黙な方だ。同級生の男子の輪の中にいる時はそうでも ないが、女子と二人きりの状況では、自分から喋るという方ではないだろう。 その姿が容易に想像出来て、彩夏は苦笑する。 彼女自身、何度か正宗と一対一で喋ったことはあるものの、それほど多い わけではないし、会話が弾んだという印象もあまりない。 「だから一緒にいて、つまんないのかな、とか色々考えちゃうんだって」 「あー。あるある」 何を考えているかわからないから、不安になるのだ。話を聞いてくれてい ることは感じるのだが、反応が薄くて、どんな感想を抱いているのかが読み 取れない。 「けど、そうやって不安にさせる割には、優しいんだよね」 それがまたわからないわけよ。言って、彩夏は深い溜息をついた。さりげ ない優しさなことが、余計に難しく感じてしまう。好意と受け取っていいの かどうか、と。 「私はそこらへん、よくわかんないな」 「九条君のこと?」 そう、と頷く美幸の目はいつになく真剣だ。 「わかんないし、もどかしい。正宗って、すごいいい奴だよ? それを皆に もっとわかって欲しい」 彼女の言葉に嘘がないことは、彩夏にも感じられた。そして確かに、美幸 は心の底から、そう思っていたのだ。 正宗は確かに、無愛想に見えるかもしれない。あまり大声で笑ったりする ことはないし、無口だ。さらに黙っていると不機嫌そうに見える。 だけど実際は、とても優しいし、頼りがいがある。明るいとは言えないか もしれないが、意外にお茶目な部分も持っているし、何よりも一緒にいて楽 しい男なのだ。 誰もそれがわかっていないことが、美幸は本気で悔しいし、もっと知って もらいたいと思う。見た目のかっこよさよりも、中身の方が数倍、いいと知 っているから。 「ベタ褒めだね」 「そうかな? でも、ホントのことだし」 からかい交りの言葉に、あっさりと答えるモカを飲む彼女の素直さを、彩 夏は眩しく感じる。他人のいい所を見つけ、それを素直に賞賛する美幸のあ り方は、自分には真似出来ないな、とも。 「なら、さ」 だから、か。少し意地悪な気持ちが交った台詞を、彩夏の唇は紡ぐ。 「自分が付き合えばいいのに。そんなにいいんだったら」 「それとこれとは別」 予想していたかのように、一瞬の間もなく、しかもはっきりと美幸は答え た。そうして、彼女は視線を窓の外へと向ける。 「いいとこいっぱい知ってても、好きにはならないもの」 「どうしてさ?」 「多分、正宗と幼馴染だから」
美幸の目が、駅前の広場を並んで歩くカップルを捉える。腕を組んで、幸 せそうにして。 それを自分と正宗の姿に置き換えることが、彼女にはどうしても出来なか った。 「私、正宗のことなら何でもわかってる。一緒にいて楽しいし、落ち着いて られる。でも、ううん、だからかな。好きって気持ちにはなれない」 黙っているのは、続きを促しているのだろう。チラリと彩夏の顔を見てか ら、美幸は続ける。 「もっと知りたいとか、もっと一緒にいたいとか。好きって、そういうこと じゃないかな。違うかもしれないけれど、私はそう思ってる。で、私は正宗 にそういう風に感じたことはないよ」 「何でも知ってるから?」 答えの代わりに、コクリと美幸は頷く。 幼馴染で、ずっと長く一緒にいてきたからか、大体において、彼女は正宗 の行動が予測出来る。普段はあまり意識していないが、次に何と言うかまで 、正確に当てられることさえあるのだ。それだけ理解しているということな のだろう。 だから、というわけではないが、恋愛とは結び付かない。知り過ぎている からこそ、そういった感情とは一番遠い男性に感じられる。 「じゃあ、さ」 「ん?」 顔を上げた美幸に、彩夏は真剣な顔で問いかける。 「もし私が、九条君を好きだ、って言ったら、どうする?」
壊したかったのだ、彩夏は。あるいは、羨ましかったのかもしれない。何 でも知っていると、そう臆面もなく言える彼女のことを。 彼女の言の矢は、しかし目の前の少女には届かなかった。 「勿論、そういうことだったら応援するよ。でも」 「……でも?」 「本気で好きなら、ね」 ジッと確かめるように見つめてくる美幸に、彩夏は苦笑して首を横に振る ことにする。 「やめとく。嫌いじゃないけど、恋ってほどじゃないし」 「なんだ、残念。彩夏なら、正宗とお似合いだと思うのに」 「まぁ、本気になったら、その時はよろしく頼むよ」 冗談にする一方で、彩夏は思う。 軽い気持ちで付き合おうって考えられるわけがない、と。自分よりも彼を 理解している人が側にいたら、きっとすごく辛いから。本気で好きにならな い限り、くじけてしまいそうだ。 しかもそれが一人ではなく、二人なのだから。彼女は、ここにはいないも う一人の幼馴染、忍の姿を脳裏に描く。あの子だって、正宗のことを良く知 っているだろうから。 「難しいもんだね」 「何が?」 「人を好きになるってことがさ」 キョトンとする美幸に、言ってみたかっただけさ、と彩夏は笑って見せた 。あるいは他の少女達も、同じように太刀打ち出来ないと感じたのかもしれ ない、そんな風に思いながら。 「それでさ、美幸にオススメのマンガがあるんだけど」 「……また幼馴染ものでしょ?」 「当たりっ! 今度のはさ、ホント、美幸にバッチリなんだって。ずっと側 にいて、何でも知ってると思ってた幼馴染だったのに、実は彼はすごい秘密 を抱えててさ……」 「もーう! いい加減にしなさーい!」
お付き合い頂きありがとうございます。
書くということの難しさを改めて、思い知らされています。
>>229 >>230 >>231 GJ頂けてとても嬉しいです。今後、どのように展開していくか、色々と頭を
悩ませています……
どうかよろしくお願いいたします。
うはwwwもう続きがきてるwwwwGJだぜ!! しかし書くペースが本当に速くて凄いぜ!! これからも頑張ってくれー!! 楽しみにしてるから!
投下ペース速いな…三人が四人になりかけて、やっぱり三人になったか ひたすら日常を描く辺りが好みです。次は誰の話かな。正宗?
早い仕事GJ! 毎回楽しみに読ませてもらってます。 3人の想いのすれ違いがなんとも歯がゆく、それが面白い。 いつ均衡が崩れるのかなぁ
>>241 GJです! 本当に筆が早くて羨ましいです……。
では、負けずにこちらも投下させて頂きます!
既に梅雨入りしている六月のとある放課後。降りしきる雨を眺めながら大神鈴音は一人昇降口に佇み、溜息をついていた。 「あー、失敗しちゃったなぁ……。でも確かに入れたと思ったんだけどなぁ……。ああもう……。」 本当にボクの馬鹿、そう一人ごちる。 鈴音が家に帰らずにいるのは、傘を持っていないためであった。 しかし今は梅雨入りしている。たとえ朝は降っていなくとも、携帯用の傘を持ち歩くのは当然といえた。 もちろん鈴音もそのつもりだった。しかし、どういう訳か入れた気になっていただけで、実際は入れていなかったようである。 彼女はいつもなら陸上部のメンバーと帰ることが多いため、こういう時は誰かの傘に入れてもらえば良いのだが、今日は担任に提出する 委員長としての仕事が少しあったため、皆には先に帰ってもらってしまっていたのだ。 「本当、間が悪いなぁ……。」 そう呟きながら雨を恨めしげに見る。まだ学校に残っていそうな知り合いに連絡を取ることも考えたが、もし既に帰ってしまっていたら いらぬ気をつかわせる事になってしまう。 だから鈴音は雨が止むことを期待して少し待っていたのだが、雨足は一向に衰える気配が無かった。 「あーあ、仕方が無いなぁ。じゃあ、強行突破といきますかぁ!」 そう呟くと鈴音は屈伸を始めた。雨の中を、家までダッシュで帰る覚悟を決めたためである。 そうして準備運動を終えた鈴音がじゃあいくか、と駆け出そうとした時、不意に背中から声がかけられた。 「あれ? お前まだいたのか鈴音?」 振り返って見ると、そこには靴を履き替えている正刻がいた。手には折りたたみ式の傘が握られている。 「う、うん。ちょっと委員長としての仕事が残っていてね。それより正刻、キミこそどうしたのさ? 今日は図書委員会の仕事はお休み だったんでしょ?」 鈴音は正刻の問いかけに答えた後、尋ね返した。委員会の仕事は毎日ある訳ではない。正刻は積極的に参加しているが、それでも週に一、 二日は休みの日があるのだ。 その鈴音の問いかけに正刻は苦笑しながら答える。 「ああ、今日は本当は休みの筈だったんだがな。けど急に代わってくれって頼まれちまってな? まぁ特に急ぐ用事も無いし、代わって やったって訳さ。」 そう言いながら正刻は靴を履きかえて、鈴音の隣までやってきた。 「で、お前は帰らないのか? それとも友達を待ってるのか?」 そう正刻に訊かれた鈴音はバツの悪そうな顔をして目を逸らす。不思議そうな顔をしている正刻に、鈴音は歯切れの悪い口調で答えた。 「い、いや、実はさ、その……。」 「……?」 「帰ろうとは思うんだけど、その……傘、忘れちゃってて……。」 その鈴音の告白に、正刻は思いっきり苦笑する。 「お前、梅雨に入っているのに携帯用の傘を持ってないのか!? ……いや、違うな。どうせお前のことだから、自分では入れた気になって いたんだろう? ところが実は入れ忘れちゃってました、と、そういうオチなんだろう? 違うか?」
正刻にそのものズバリな予想をされた鈴音は悔しそうに「うぅーっ!」と呻いた。その様子を見た正刻は、自分の予想が当たっていた事を 知り、肩を竦めながら言い放った。 「全くそういう所は中々直らねぇもんだな? ええ? ドジッ娘委員長さんよ?」 その正刻の発言に、鈴音は猛然と噛み付いた。 「こら正刻! いくらキミでも言って良い事と悪い事があるぞ! ボクはドジッ娘なんかじゃない! 何回言ったら分かるんだキミは!!」 しかし正刻は全く怯むことなく言い返す。 「んな事言ってもなぁ。過去の行動と今回の件を鑑みると、お前をドジッ娘と呼ぶのはごく自然なことだと思うぞ? そんなに不満なら、 今度からはドジッ娘眼鏡っ娘委員長と呼んでやろうか?」 「なお悪いよこの馬鹿!!」 顎をさすりながらそんな事を言う正刻を、鈴音は思いっきり罵倒した。 そう、鈴音は実は、うっかりとポカをやらかしてしまうことが結構あったのである。 中学では生徒会長、今でも学級委員長を務めている彼女は仕事ぶりも良く大変優秀であるのだが、何故か時々間抜けなミスをしてしまうのであった。 折角完璧に書き上げた書類と、もう古くて処分する書類を間違えてしまって新しい方を危うくシュレッダーにかけそうになったり。 学校行事の手配などをちゃんとしたと思ったら、実は一日ずれてしまっていたり。 もちろんそういうミスは少ない。あくまでたまにしてしまう程度なのである。しかしそのフォローを今まで一番してきた……というかさせられた のは正刻であった。故に彼は、鈴音がうっかりなミスをする度に、そのフォローをさせられる仕返しとばかりに「ドジッ娘」と彼女を呼ぶのである。 そんなやりとりをしつつ、正刻は鈴音に言った。 「で、どうするんだ鈴音? 何だったら、家まで送っていくぜ?」 正刻と鈴音の家は方向が全く違うが、しかしそんなに距離が離れ過ぎているわけでもない。良い運動にもなるし、何より彼女をこの雨で 濡れ鼠にするのは可哀想だと、正刻はそう思って言ったのだが。 「えー……。でもキミと相合傘で帰ったら妊娠しちゃいそうだしねぇ……。」 鈴音は正刻を半目で睨みながらそう言った。ドジッ娘と呼ばれた事が余程腹に据えかねたようである。 そんな鈴音を正刻は苦笑しながら宥めた。 「分かった分かった。ドジッ娘だなんて俺も言いすぎたよ、ごめんな? だから早く帰ろうぜ?」 しかし鈴音はそう言われてもまだ不満そうな顔をしている。その様子を見た正刻は内心苦笑しつつ言った。 「ああそうかい。人の好意を無にするとは、世知辛い世の中になったもんだぜ。じゃあな、鈴音。精々びしょぬれになって、透けた下着を 通行人の皆様に見てもらうんだな。それじゃ……。」 「ちょ、ちょっと待ってよ正刻!」 鈴音は慌てて正刻を引き止める。確かにドジッ娘呼ばわりされたのには腹が立ったが、しかし正刻がいてくれたお陰で濡れて帰らずに 済むと安心したのも確かだ。 「ご、ごめんよぉ。ちょっとおふざけが過ぎたよ。だから一緒に入れてってよぉ。」 先程の態度とは一変し、下手に出る鈴音。そんな鈴音を今度は正刻が半目で睨みながら言った。 「何でぇ。俺と相合傘で帰ると妊娠しちまいそうだから嫌だったんじゃねぇのか?」 ぐ、こいつめぇ、と鈴音は内心で唸る。しかしすぐに打開策を思いつき、それを実行する。 正刻を笑顔で見つめながら、鈴音はこう言い放った。
「いやね? 正刻の子供だったら産んであげても良いかなーって、そう思っ……ふがっ!?」 途中まで言いかけていた鈴音の口を、正刻のアイアンクローが塞ぐ。そのまま周りの様子を伺い、誰もいない事を確認すると、 正刻は手を外しつつ深い溜息をつきながら言った。 「頼むよ鈴音……。冗談はもうちょっと吟味してから言ってくれよ……。」 その言葉に、それほど冗談って訳じゃあないんだけどね、と心の中で呟いた鈴音は、しかし表情には出さず、いつもの猫のような笑みを 浮かべて言った。 「じゃあ漫才はいい加減これぐらいにしといてさ、早く帰ろうよ正刻!」 「了解。それじゃあ行こうか、鈴音!」 そう言うと正刻は傘を広げた。そして鈴音は彼にそっと寄り添い、昇降口を後にした。 二人は他愛無い会話をしながら歩く。そんな中、鈴音はふと昔の事を思い出した。 (そういえば……あの時も相合傘で帰ったんだよねぇ……。) 思い出したのは、中一の頃のとある一日の記憶。まだ自分が周囲を拒絶していた時の出来事。 鈴音は正刻の横顔をちらりと見た。 (こいつは覚えているかな……。あ、でも覚えていたらそれはそれでちょっと恥ずかしいかもなぁ……。) そんな風に考えていた鈴音に、不意に正刻が声をかけた。 「そういやさぁ、鈴音。」 「う、うん? 何さ正刻?」 ちょうど正刻絡みの事を考えていた時にその本人から声をかけられたので、鈴音の心臓は跳ね上がった。何とかそれを態度に出さずには 済んだが。 「いやさ、昔もこうやって相合傘で帰ったことがあったなぁって、そう思ってさ。」 にっと笑いながらそう言う正刻。鈴音はその笑顔を見ながら、嬉しさがこみ上げてくるのが分かった。 「覚えてて、くれたんだ……。」 ぽつり、と呟く鈴音に、笑顔を少し意地の悪いものに変えた正刻が言った。 「そりゃあそうさ。あんなにツンツンされたり泣かれたりしたら、嫌でも忘れられないっつーの。」 そう言われた鈴音は、かあっと顔を赤らめる。 「む、昔の事は言わないでよおっ! 恥ずかしいじゃないかあっ!!」 そう抗議してくる鈴音に、笑いながら正刻は答える。 「いやいや、そういう訳にはいかないさ。何たって、俺とお前の大切な思い出の一ページだからなぁ。忘れるだなんて、そんな薄情な 事をするわけにはいかないだろう?」 「キミ絶対にボクをからかうネタとして覚えてるだろ!? 思い出の一ページだなんて、白々しいにも程があるよ!!」 そう言い合いながら、それでも二人は当時に想いを馳せていった。
それは正刻が鈴音に初めて話しかけてから暫く経ってからの事だった。 ちなみにその間、正刻はちょくちょく鈴音に話しかけるようになっていた。 鈴音は相変わらず冷たい態度を取っていたが、段々と正刻と話す時間が増えていっており、そしてそれは彼女自身も自覚していた。 だが、鈴音自身はその事を少し苦々しく思っていた。 自分は誰とも関わりたくないのに、ずけずけと自分に関わってくる男。 それなのに、それを拒みきれない自分。 実際、正刻の話は鈴音にとっても大変面白いものであった。 同じ本を愛する者同士、とても話が合ったのである。 だからこそ、鈴音は正刻と話すことに楽しさを覚え始めている自分と、そうさせている原因である正刻を少し苦々しく思い、そして少し だけ……恐れていた。 このまま他人と馴れ合うようになってしまったら、自分は、自らが忌み嫌っている周りの連中と同じ存在になってしまうのではないか。 少し目立つだけで他人を迫害する、そんな連中の一人となってしまうのではないか、と。 そんな恐れと、正刻と話すことの楽しさとの間で鈴音が苦悩していた時、それは起こった。 それは、やはり六月のとある放課後であった。やはり今回と同じように鈴音は傘を忘れてしまい、昇降口で雨が止むのを待っていた。 「…………。」 無表情で降りしきる雨を眺める鈴音。周りの生徒達は次々と傘を広げていき、また傘を忘れた者は友人の傘に入れてもらっていた。 しかし、鈴音のことを傘に入れようとする者は一人もいなかった。 降りしきる雨は、一向に止む気配を見せない。やがて鈴音は小さく息を吐き、雨の中を帰るべく歩き出そうとした。 しかし。 むんず、と肩を掴まれた。驚いて振り返ると、そこには仏頂面をした正刻がいた。 「……おい。傘も差さずに行くのはやめろよ。風邪引いちまうぞ。」 「……うるさいな。別にいいだろ。」 正刻の呼びかけに、鈴音も無愛想に返す。それを見た正刻は、深い溜息をつくと鈴音の肩を掴んだ手を離しながら言った。 「大神、お前、傘はどうしたんだよ。忘れちまったのか?」 「……キミには関係無い事だろ。ほっといてよ。」 相変わらず冷たく言う鈴音に、正刻は今度は苦笑を浮かべながら言った。 「忘れちまったんなら、俺の傘に入っていけよ。送っていくぜ?」 その正刻の申し出に、鈴音は思わずまじまじと正刻の顔を見つめてしまった。 自分はコイツに冷たい態度を取り続けているのに、どうしてコイツは自分を気にかけてくれるのだろう? 彼の目は、心底自分を心配している目だ。 その瞳に、また引き込まれていきそうになり───── ─────しかしその寸前で、鈴音は踏みとどまった。そして引き込まれそうになった事を打ち消すかのように、正刻に冷たい言葉を 投げつける。 「……そうやって、偽善者ぶるのはやめて欲しいな。何様のつもりだい? いつも一人でいる可哀想なクラスメイトに優しく手を差し伸べ て、それで満足かい? 悪いけどボクは、君の自己満足のための道具になるつもりはこれっぽっちも無いから。」 だから放っておいてくれ、そう言って鈴音は再び外へと向かおうとする。 (……これだけ言えばもう十分だろう。) 鈴音はそう、心の中で呟いた。これで彼が自分に関わってくることは、もう二度と無いだろう。 これでもう、彼に煩わされる事は無い。これでもう……彼と楽しく本の話をすることも、無い。 そう思った瞬間、鈴音の胸は荒れ狂った。怒り、悲しみ、嘆き、絶望……。自分でも何故そんなに感じるか理解不能な程の負の感情が 鈴音の全身を駆け巡った。 (……いいんだ! これでいいんだ!!) 鈴音はぎゅっと目をつぶり、雨の降りしきる外へと駆け出そうとした。
しかし。 「……おい。だから待てってば。人の話はちゃんと聞けよ。」 呆れたような彼の声。そして、とても温かい手が自分の手を握っているのに気づく。 (……ああ、温かいなぁ……) 鈴音は自然と、そう思った。そのまま彼へと振り返る。 彼は先程の自分の言葉など聞いていなかったかのような顔で、こちらを静かに見つめていた。 「……あのな? 俺の傘に入っていけってのは、俺の方にも事情があるからそう言っているんだぞ?」 正刻は鈴音の目を見ながらそう言った。鈴音は黙って聞いている。 「お前、今日図書館で本を何冊か借りたろう?」 まぁ確かに、と鈴音は心の内で呟いた。それと同時に、それが何の関係があるのかという疑問もわいたが。 その疑問に答えるように正刻は話し続けた。 「お前が傘も差さずに帰ったら、その本達までずぶ濡れになっちまうだろう? だから俺の傘に入っていけって言ってるのさ。」 あぁ成る程そういうことか、と鈴音は納得した。 しかし。 (……嘘つくのが下手だなぁ……コイツ……。) 鈴音は正刻の顔を見ながらそう思った。いや、嘘というのは少し違うかもしれない。多分、正刻が本を濡らしたくないという気持ち は本当ではあるのだろう。 だが、先程と同様の自分を心配している顔で言われてしまっては、流石にその真意も分かってしまうというものである。 しかし鈴音は、ふっと息を吐くと、くるりと身を翻し正刻に背を向けながら言った。 「……もういいや。君と言い合う事にも疲れたし、さっさと帰りたいし。……だから、良いよ。君の傘に、入れてもらうよ。」 その言い草に、正刻は苦笑しつつ言った。 「素直じゃねぇなぁ全く……。ま、良いさ。さっさと行くか。」 そう言うと正刻は傘を広げながら外へと出る。そして躊躇いがちにその後を鈴音が追う。 この時、鈴音は気づいていなかった。先程まで自分の中で荒れ狂っていた負の感情が綺麗さっぱり消えて無くなっていたことに。 そして、代わりにとても温かい気持ちが自分を満たしていたことに。 「しかし君はいつも周りを拒絶してるよなぁ。そんなに人が嫌いなのか?」 「……あぁ嫌いだね。群れなければ何も出来ず、群れれば誰かを弾圧しにかかる愚鈍な連中なんてこの世から消えてしまえば良いと、 本気で思っているよ。」 「まぁなぁ。確かにそういった連中は困りモンだがなぁ。……それにしても君はいやに辛辣だな。経験者は語る、か?」 「……想像に任せるよ。」 相合傘で帰る二人。しかし、その会話の内容はその甘い状況とは真逆のものであった。 切り込んだのは、正刻であった。以前から鈴音の周りを拒絶する態度が気になっていたため、思い切って訊いてみたのだ。 もちろん拒否されればそれ以上は訊かないつもりであったが、しかし鈴音が何故か比較的素直に応じたため、会話を続けていたのだ。 表面上は何気なく、しかし実際には全神経を集中させ、彼女を気遣いながら、正刻は鈴音との会話を続けた。 「……まぁ、誰とでも仲良くしろとは言わないが、でもあまりにも周りを切り捨てすぎるのもどうかと思うぞ。」 正刻が少し心配の色を込めた声で鈴音に言った。しかし鈴音はその意見をあっさりと却下する。 「別に構いやしないよ。愚鈍な連中なんぞと仲良くやるなんて、こっちから願い下げだね。ボクは一人でも十分やっていけるさ。」 鈴音は自信有りげに鼻を鳴らしながら言った。だが。
「……人はさ、一人じゃあ生きてはいけないぜ。……絶対に、な。」 今までとは違った静かな、そして重い声に鈴音は驚き、正刻を見た。 彼の瞳には、鈴音が初めて見る色が浮かんでいた。彼女はその色を読み取ろうとしたが、それよりも早く正刻は普段の雰囲気を取り戻し、 笑いかけながら鈴音に言った。 「だから、さ。少なくても良いから信頼できる友達作れよ、な?」 鈴音は少し正刻の顔を見つめていたが、やがてぽつり、と呟いた。 「……もう、遅いよ。今までずっとあんな態度で過ごしてきたんだ。今更友達になってくれる人なんていやしないさ。それに、仮に友達 になったからって、その人がボクを裏切らないとは……言えないしね。」 そう言うと鈴音は黙り込んだ。正刻も何も言わず、黙って歩を進める。 (それにしてもボクは……随分と色々なことを喋っちゃってるなぁ。) 鈴音は歩きながら今まで交わした会話を思い返し、そう思った。 今まで自分が考え、胸に秘めていた想いを、何故か正刻には素直に話してしまっていた。 (……本当、不思議な奴。) そう思って、鈴音は正刻を横目で見た。彼は何か考えているようで、眉間に皺をよせている。 と、正刻はその表情を変え、くくっと笑った。 「? ……何だい? 何がおかしいんだい?」 「いや。君は案外臆病なんだなって思ってさ。」 正刻に問いかけた鈴音は、その答えを聞き、かあっと頭に血が上るのが分かった。 「何だと!? もう一回言ってみなよ!! 誰が臆病だって!?」 しかし正刻は鈴音に怒りを向けられても冷静だった。ひょい、と肩を竦めて言う。 「まぁ落ち着けよ。大体、そんなに反応しちゃあ自分で認めているようなもんだぞ?」 「うるさい!! 何だよ君は!! 君に何が分かるというんだ!! 何も知らない他人のくせに、偉そうな口を利くな!!」 鈴音は激情を迸らせ、それをそのまま正刻にぶつける。 正刻は無言でそれを受け止めた。そして、鈴音が想いを全て吐き出したのを見計らうと、ゆっくりと鈴音の方へ顔を向け、彼女の目を見つめた。 鈴音はその静かな圧力に、思わず気圧されてしまう。 「……大神。俺は確かにお前とは何の関係も無い、只の他人だ。……だがな? だからこそ分かることもある。俺はさっき君を臆病だと言ったが、 何の根拠も無しに言ったんじゃあない。」 正刻の口調は軽めだったが、その目は真剣そのもので、正刻が軽い気持ちで言っているのではないことを鈴音に理解させた。 「今までひどい態度でいたから友達など出来ないと言ったな? だが君は、その態度を改めようと思ったことはあるか? ただ単に、そうする のがみっともないと、そう思ったんじゃないのか? それに友達が裏切るかもしれないというが、そうなった場合、自分に原因があるかも、 とは思わないのか? そういったことを全て踏まえた上で、俺は君を、臆病だと言ったのさ。」 鈴音は正刻の言葉を黙って聞いていた。正刻が言ったことは、実は全て的を得ていた。鈴音自身も、そう思うことはあったのだ。 だが今までは、その思いを気の迷いだと切り捨てていた。そう、今までは。 だが今、そのことを初めて他人から指摘され、鈴音は揺らいでいた。そして、本音が彼女の口から漏れ出す。 「……確かに君の言うとおりかもしれない……。だけど……怖いんだ。やっぱり怖いんだよ。君は臆病だと笑うだろうけど、でもやっぱり ……拒絶されるのが……怖いんだよぉ……。」 鈴音の目から、涙が溢れ出た。 ずっと抱えてきた想い。冷たい態度の下に隠されてきた、本当の想い。 他人を切り捨てるのではなく、他人と関わりたい。仲良くなりたい。 だけど一度傷つけられたから、再び傷つけられないように固い鎧を纏わねばならなくて。 そのお陰で傷つかずに済むようになったけれど、でも自分の望みからはどんどん離れていって。 でも再び傷つけられるのが怖いから、自分から鎧を脱ぐことは出来なくて。 いつの間にか自分の本当の想いを隠し、鎧を纏った理由を忘れ、鎧を纏うこと自体を目的にすりかえて。 どこかでそのことに気づいていたけれど、自分ではどうしようも出来なくて。 ……だから、自分は待っていたのかもしれない。この鎧を砕いてくれる人が現れるのを……。
ぐじゃぐじゃになった頭でそんな事を考えながら、鈴音は泣きじゃくった。 と、ぽん、と頭に手を乗せられた。 「……誰が笑うもんかよ。」 その優しい声に、鈴音は正刻を見た。正刻は、優しい笑顔を浮かべながら鈴音の頭を撫で、言った。 「偉そうなこと言ったけどな、俺だって同じ立場だったら絶対に怖ぇよ。間違いなく怖ぇよ。だから、そのことは恥ずかしいことでも何で ない。むしろ……見直したよ。」 正刻のその言葉に、鈴音は不思議そうな目を向ける。 「君は、自分の素直な気持ちをちゃんと口に出した。言葉に出来た。凄いと思うよ。尊敬する。」 鈴音はその言葉を聞いて、少し苦笑気味に笑った。 「……何だい君は。人の事を貶したり褒めたり……。ボク、どういう反応すれば良いか分からないじゃないか。」 確かに、と鈴音に同意して小さく笑うと、正刻は言った。 「それで、な? お詫びといってはなんだが、俺に友達になってくれそうな人を紹介させてくれ。実は二人ばかり心当たりがあるんだ。」 「……二人? それってひょっとして……。」 「ああそうさ。俺の幼馴染、宮原唯衣と舞衣さ。あの二人なら大丈夫。必ず君の友達になってくれる。……実は、あの二人はずっと君 のことを心配していたんだぜ? で、何かあったら力になるからって言ってくれてたのさ。」 「……ボクのことを……そんなに……。」 鈴音は胸が熱くなるのを感じた。実は宮原姉妹は、彼女に挨拶をしてくれたり、話しかけたりしてくれていたのである。 だが鈴音はそれも冷たく切り捨てていた。だから、彼女らが自分を気にかけてくれていたことを知り、感謝の気持ちで胸が一杯になった のである。 そんな鈴音を見ながら正刻は言った。 「あの二人と仲良くなれたら、少しづつ友達増やしていこうぜ。な?」 そう言ってウィンクをしてくる。それを見ながら、鈴音はふと思いついた疑問を口にした。 「……君は……。」 「うん?」 「君はボクの友達に……なってはくれないの……?」 そう言った後、鈴音ははっとし、急速に顔を赤らめた。 (な、何を言ってるんだボクは!? こ、こんな恥ずかしいことを何で……!!) ちらりと正刻を見ると、驚いた顔をして固まっている。鈴音は慌てて弁解をした。 「い、いや高村! こ、これはその、あの……!」 しかし気が動転して上手く喋れない。そうしている内に、硬直から回復した正刻が口を開いた。 「驚いたなぁ……。」 その言葉に鈴音は身を竦ませる。しかし、その後に続いた言葉は鈴音の予想を超えたものだった。 「俺はとっくの昔に……それこそ君と初めて会話した、あの時から友達のつもりだったんだが……。」 その言葉に、鈴音は驚いて正刻の顔を見ようとした。 しかし彼は俯き、鈴音から顔を背けてしまった。 「ちょ、ちょっと高村……。」 「そうかぁ……。友達だと思ってたのは俺だけだったかぁ……。悲しいなぁ……。大体友達じゃなかったら、ここまで親身になって君の ことを考えたりしないしねぇよ……。あぁ世知辛いなぁ……。切ないなぁ……。」 その正刻の様子に、鈴音は慌ててフォローに入る。 「そ、そんなことないよ! ボ、ボクだってずっと君のことを友達だと思ってた……というか思いたかったさ! 君と本のことについて話す 時は、凄く楽しかった! もっとキミと話したいって、そう思った!! だけど、それを認めるのが怖くて、ボクは! ……って、おい、 高村?」
そこまで話して鈴音は正刻の異変に気がついた。 自分から顔を背けている彼の肩が、小刻みに揺れているのである。 泣いているのかと一瞬思ったが、微かに聞こえてくる彼の声が、そうではない事を示していた。 その事に気づいた鈴音は、急激に不機嫌な顔をすると、同じく不機嫌な声で言った。 「おい高村。こっち向きなよ。」 しかし正刻はいやいやをするように頭を振って振り向かない。業を煮やした鈴音は、彼の頭を掴むと強引に自分の方へと振り向かせた。 その顔を見て、鈴音の顔が凶悪な相を帯びた。 正刻は泣いていた。しかし悲しみのためではない。思いっきり笑いすぎて、その所為で泣いていたのだ。 「何っっっなんだいキミはッ!! あんだけ感動的な話をしといてこんな事してッ!!」 「いやすまんすまん。まさかこんなに綺麗に引っかかるとは思わなかったから……! くくっ……腹痛ぇっ……!」 「キ、キミという奴は……! もういい!キミとなんか友達になるもんか! もうこの場で絶交してやる絶交!!」 「おいおい勘弁してくれよ大神さん。そんな事されたら、俺寂しくって死んじゃうじゃないか。許しておくれよぅ。」 「今更何だい!! 土下座したって許してやるもんかッ!!」 正刻が許しを請い、鈴音がそれを突っぱねる。しかしその様子は、学校を出た直後とは違い、仲の良い友人同士がじゃれあっているようであった。 そして、その事に気をとられていた二人は、一人の少女がすぐ傍まで来ていたことに気づかなかった。 「二人とも、凄く仲が良いんですね……。」 少女が笑顔と共に、そう話しかけるまでは。 「いやー、良い思い出だよなぁ。」 「どこが……! 本当、昔っからキミは最悪な所があるよね、本当に!」 あっはっは、と笑う正刻に、鈴音が猛然とツッこむ。 しかし二人の距離は、四年前と比べて遥かに縮まっていた。 そう、仲の良い友達というより、むしろ……。 と、その時正刻が口を開いた。 「……うん? おやまぁ、こんな所まであの時と一緒か。」 「え? 何のこと?……って、そっか、確かにそうだねぇ。」 正刻の言葉に首を傾げた鈴音だが、正刻の目線を追って、その先にいた人物を見つけるとそう言った。 二人の前には一人の少女が立っていた。正刻は少女に声をかけた。 「よっ! 久しぶりだな朱音ちゃん!」 「ご無沙汰してます、正刻さん。」 そう言って少女はぺこり、と頭を下げた。
少女の名は大神 朱音(おおがみ あかね)。鈴音の妹であり、香月の同級生にして親友である。 姉と同じさらさらとした髪を、一本のおさげにして背中に垂らしており、やはり姉と同じように眼鏡をかけていた。 ただし雰囲気は大分異なる。鈴音が活動的な眼鏡っ娘だとするならば、朱音は落ちついた雰囲気を醸し出しており、典型的な文学少女的な 眼鏡っ娘と言えた。実際彼女は図書委員を務めており、進学希望先も正刻達の学校であるのだが、その理由も当然図書館目当てである。 「で、どうしたのさ朱音? こんな所まで。」 そう問う鈴音に朱音は苦笑を返した。 「何言ってるのよお姉ちゃん。お姉ちゃんが傘忘れていったから、困ってるだろうと思って迎えにきたんじゃない。メールだってちゃんと 送ったんだよ? 返信が無かったから来ちゃったけど。」 そう言われた鈴音は慌てて自分の携帯電話をチェックした。確かにメールが届いている。 「流石だぜ鈴音! やっぱりドジっ娘はやることが違うな!」 「あ、あうう……。」 正刻の嫌味にも、鈴音は頭を抱えることしか出来なかった。 「じゃあ俺はここで。二人とも気をつけて帰れよ。」 「分かってるよ。キミこそ気をつけなよ。」 「お姉ちゃんを送ってくれて、本当に有難うございます正刻さん。またうちに遊びに来て下さい。美味しいお菓子を作って待ってますから。」 朱音の言葉に、そいつは楽しみ、と笑顔を浮かべた正刻は、二人に再度別れを告げ、自分の家へと歩きだした。 二人は正刻の背中が小さくなるまで見送っていたが、やがて朱音が囁くように言った。 「ねぇ、お姉ちゃん。」 「うん? 何だい朱音?」 「私……邪魔しちゃったかな?」 妹にそんなことを言われた鈴音は慌ててしまう。 「な、何を言ってるのかなキミは!? お姉ちゃんをからかうもんじゃないよ!?」 そんな姉の様子を笑顔で見ていた朱音は、更に言った。 「えー、だって二人とも、まるで恋人同士みたいだったよ?」 鈴音の顔はもう真っ赤だ。妹に言われて恥ずかしい気持ちと、正刻とそんな風に見られて満更でもない気持ちがごちゃまぜになってしまって いる。 そのまま真っ赤になった姉を笑顔で見ていた朱音は、しかしちょっと意地の悪い笑顔になって言った。 「でもお姉ちゃん、もっとチャンスを生かさなくっちゃ駄目だよー。ライバルは多いし皆強力なんだから。まだまだ増えるかもしれないしね。」 その言葉に鈴音も苦笑する。 「はいはい、分かっているよ。でもこれ以上増えるのは勘弁してもらいたいなぁ。」 「そうは言っても仕方ないでしょ。……案外、すぐ近くにライバル候補がいるかもよ?」 そう言って朱音は小悪魔的な笑みを浮かべる。 その笑みを見た鈴音は、厭な予感が背筋を走り抜けるのを感じた。 「あ、朱音。まさかとは思うけど、もしかしてキミも……?」 「さぁ、何のことかな? それよりお姉ちゃん、早く帰ろうよ!」 そして朱音は雨の中走り出す。鈴音も慌ててその後を追って行った。 この後、小悪魔の笑みを浮かべた朱音に色々からかわれたり翻弄されたりして鈴音がぐったりしたり、今度は正刻が傘を忘れて鈴音の傘に 入れてもらうことになってしまい、ここぞとばかりに鈴音に散々「ドジドジ」と連呼されて正刻はぐったりしてしまったが、それはまた 別のお話。
以上ですー。 ところでこの絆と想いですが、書きたいお話(季節ごとのイベント、誕生日、日常、特殊イベント)を考えると、どう考えても 十話や二十話では終わらない気が……。いや全部書くかは分かりませんが……。 でも必ず完結はさせます。ですのでのんびり楽しんで頂ければ幸いですー。ではー。
本好きでドジっ娘で眼鏡っ娘でボクっ娘でツンデレなスポーツ娘が相合傘イベントに遭遇するなんて… お前はお気に入りのいい作品が投下されたときにはGJするだろう? 誰だってそうする。俺もそうする。 GJ!!GJゥ!!鈴音かわいいよ鈴音
何?話が10話や20話じゃ完結しないだと? 大歓迎じゃねぇか、GJだこの野郎!
絆きてるうううううう!! GJ!!次の話が待ち遠しい・・・
259 :
名無しさん@ピンキー :2007/06/19(火) 19:49:57 ID:lQq6Y/3M
たとえこの身くちはてようともwktkして待ってる。
絆想神GJ! 毎回毎回読んでる途中にほのぼのwktkし過ぎて体力を思いっきり削ってるな〜 10話20話じゃ終わらない? 最 高 の 報 告 じ ゃ な い か ! 寧ろ絆想が終わる事に恐怖すら感じる俺。
>>255 すっごくGJですっ! いいなぁ……こういうのを描けるようになりたいと、切実に思います。
こちらも負けずに投下させて頂きます。
>191-195
>199-203
>224-227
>236-240
の続きです。
唇と、唇が重なる。その熱は、暖かくも優しく。 05 : Kiss 夢ではないか、と思った。 幼馴染の彼女が、今、こうして自分の腕を抱きながら歩いていることを。 その顔はとても、とても楽しそうで。世界で一番、幸せそうと形容してもいいぐらいだ。 そして、立花美幸は確かに、幸せだった。 隣に並ぶ横顔を見上げる。その凛々しさに、どうして今まで気付かなかったのだろう。これまで の自分の見る目の無さに、彼女は溜息を付きたい思いだったし、実際に朝から何度も付いていた。 その吐息ですら、どこか艶かしく色付いている。それほどまでに、美幸は心を奪われていたのだ。 隣に立つ幼馴染の、普段は見ない姿に。 「そんなに……」 「見るな、って? ゴメン、ゴメン」 ジッと見られることに、戸惑いを覚えたのだろう。不機嫌そうに言うその台詞の、その先を奪って 抑える。見られるのが恥ずかしいのだろう。そんな姿も、可愛らしく思えてしまう。 だから、ギュッ。 力強く、彼女はその腕を胸に押し付ける。 「ちょっ……」 「エヘヘ。楽しいね」 言って朗らかに笑う美幸の姿に、何も言えなくなったのか、小さく肩をすくめ、帽子を目深に被って 表情を隠してしまう。 そんな仕草は、何度も見ているはずなのに、とても新鮮に感じられて。 ああ、こんな顔をするんだ。 そんな風に思って、また楽しくなるのだった。 「夕方まで、まだ結構、時間あるね」 右手の腕時計を見て、美幸は何となしに言った。今日は映画を見ることになっているのだが、それは 夕方過ぎからのことだった。今はまだ、昼を過ぎて間もない。ついさっき昼御飯を食べ、それから駅近く の店をブラブラと見て回ったのだが、さすがにそれだけでは時間を潰しきれなかった。 「カラオケは?」 「うーん、それもいいけど……」 なんとなく気分が乗らず、視線を彷徨わせると、その先にあったのは、 「あ、あそこ。あそこ行こ」 美幸が指差したのは、派手で大きな看板を掲げた店。 「ゲームセンター?」 「そ。プリクラ撮ろ。せっかくの記念だし」 断る隙も与えず、彼女は手を取って引っ張っていく。最初は感じられた抵抗も、小さな溜息の後に すぐなくなる。 それもまた、美幸のハッピーな気持ちを盛り上げたのだった。
「ほら、もっと寄ってよ」 「ちょ、そんな……」 「いいからいいから。ほら、いくよ」 3、2、1……パシャッ。 無理矢理に引き寄せて撮ったので、画面に浮かび上がるのは、頬を触れ合わせんばかりに近付いた 二人の顔の写真。 「お、いいねいいねー」 「…………」 諦めたのか、何も言わずに為すがまま。その横顔をチラリと見て、美幸は悪戯心をくすぐられる。 3、2、1……パシャッ。 「…………!」 「ヘヘッ、いいの取れたねっ」 我ながらナイスタイミング、と呟きながら、彼女は満足そうに写真を見つめる。シャッターが切られる一瞬 前に、振り向いて背伸びをし、相手の頬にキスをしたのだ。 決定的瞬間は、これ以上ないというぐらいにバッチリ、ハッキリと写されていた。 「よしっ、これ、一生の宝物にするねっ」 落書きタイムを終えて、出てきたそれを二つに分けながら、美幸は幸せそうに言う。その笑顔は、不満を 言い募ろうとした口を縫い留めるのに、十分の力があったようだ。やれやれとばかりに首を振って、 「まったく……」 こっそりそうとだけ言ったのは、しかし、店内の喧騒に飲まれて彼女の耳には届かなかったのだった。 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「ん」 散々、プリクラを撮り、UFOキャッチャーに挑んでいると、時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまったようだ。 気が付けば、もうすぐ映画が始まりそうだった。 「カップル割引って、いくら安くしてくれるんだっけ?」 「普段より1000円も安くしてくれるんだって。ラッキーだよね」 どんどんこういうイベントはして欲しいな、という美幸の台詞に、小さな苦笑が返って来る。もっとも、それが 恥ずかしがっているからとわかっているから、彼女はさして気にしない。なんだかんだで、付き合ってくれた のだから。 本当に、今日は楽しい一日だ。美幸は、心の底からそう思う。幼馴染の、今まで知らなかった一面を、これ ほどに見れたのだから。 知ってるようで、知らなかったんだな。と、彼女はそんな風に思う。それも、もしかしたら、仕方のないこと なのかもしれないけれど。 「……?」 自分を見上げてニコニコとしている美幸が怪訝に思えたのか、眉を顰めてくるのに対し、 「なんでもないよ。ただ、今日はすっごくラッキーな日だな、って。そう思ってただけ」 そう言ってギュッ、と体を寄せる。朝に感じられた抵抗は、もう、今はなかったのだった。
そして実際に、美幸はラッキーだった。 「おめでとうございまーす!」 映画館に入り、カップル入場を頼んだ瞬間に、どこからともなくマイクを持った女性が二人の前に現れた のだ。 「え? え?」 「お二人は、本日100組目のカップルでーす! 記念に、チケット代全額無料、パンフレットの進呈、ついで に映画の特製ストラップと、ペアマグカップを差し上げちゃいまーす!」 戸惑う二人に押し付けられる、品の数々。綺麗に包装されたどれにも、映画のロゴが入っている。よく見れば いつの間にか、テレビカメラまで用意されている。何かの番組の企画なのだろうか。 「いやー、本当にラッキーですねー。ちなみにお二人は、お付き合いを始めてからどれぐらい経つんですか?」 「……すごく最近なんです。で、今日が初デートなんですよー」 先に動揺から立ち直ったのは、美幸だった。それまでのテンションの高さのまま、ニッコリと笑って向けら れたマイクに答える。 「おおっ、そうなんですかっ!? じゃあこれで、一生忘れられない記念日になったんじゃないですか?」 「はい、ホント、嬉しくて仕方ありません」 グッ、と腕を抱き寄せ、溢れる笑みを逆の手で隠す。カメラは自然とそちらに向かっていた為、撮らずに 済んだ。その隣で、苦虫を噛み潰したようにしている顔を。 「じゃあ、そんな初々しいカップルのお二人に、セカンド・チャーンス! カメラの前で、愛を見せ付けてやって 下さいなっ。さらに豪華なプレゼントがありますよっ」 「愛って……例えば?」 「そうですねー、キスとか素敵ですよね」 「……!?」 突然の台詞に、帽子の下の目を見開いて驚く。さすがに、そんなこと出来やしない。なにせ、これまでキス などしたことないのだから。 「あ、無理に、とは言いませんが……!?」 その言葉にホッとした瞬間。 美幸は、軽く背伸びをして。 唇に、唇を重ねたのだった。 呆然とする、その耳元で、彼女が囁く。 「ヘヘッ、私達の、ファーストキスだね」 「おおおおおおっ、大胆な彼女さんですねっ! いやー、彼氏さん、羨ましいっ! そんな素敵なカップルの お二人には、こちらのプレゼントを差し上げちゃいます! よりどり詰め合わせですよー、映画を見終わったら、 是非、ゆっくり中を見て下さいねー」
「あ、可愛い指輪。これ、あれだね。映画のヒロインが付けてたのだ。これは……ネックレスか。男物だ」 映画を見終えて、すっかりと日も暮れた公園のベンチで箱を開けている美幸の横で、ぐったりとする人影 が一つ。 「これは……って、元気ないなー。どうしたのよ?」 「……どうもこうもない……」 いつものような覇気が全く感じられない声に、彼女は苦笑する。 「そんなにショックだったの? キスが」 「…………」 「なんだかなー、私だってファーストキスだったんだよ。そんなに落ち込まれると、こっちも凹んじゃうよ」 「……そういうのじゃ」 「じゃあ、何?」 からかい半分にたたみかける美幸の言葉に、返ってくるのは沈黙。 電灯の白い光が、辺りを照らす。空を見上げても、星の明かりはまばら。けれどすっかりと満ちたまん 丸い月が、優しい光を降らしている。 「もう、やめよう」 ようやく、ポツンと口にされた言葉に、美幸は悲しみを浮かべる。 「どうして? こんなに楽しいのに?」 「…………」 「私は、今日一日、ずっと楽しかったよ。ハッピーもラッキーも、こんなに重なった日なんてないと思う。 キスだって、強制されたからしたんじゃない。したかったらしたんだもの」 本音を、彼女は口にする。全て、偽らざる心境だ。神に誓ってもいい。人生において、これほどまでに 楽しかったことはない。 出来れば、これからも続けていきたい。そう願っている。 「けど……無理だって」 そんな彼女の願いは、しかし拒絶されそうだった。寂しい予感に、胸が苦しい。自分が悪いのだと、わかっ ていて、それでも足掻く。 「確かに、悪ノリし過ぎたかもしれない。それは反省する。だからさ、これで終わりなんて、言わないでよ。 たまにでもいいからさ、皆に秘密でもいいからさ」 見苦しいとわかっていて、すがる。お願いだから、と。 それでも首は横に振られるのだ。 「気が向いた時でも、いいからさ」 最後の一言も、効果はない。ゆっくりと顔をあげたその瞳に、激しい拒絶が見える。 「無理だって……やっぱり」 「どうしても?」 「……うん」 言いながら、ベンチから立ち上がるその姿を、美幸は物悲しい目で追った。ハッピーでラッキーな一日は、 終ったことを肌で感じながら。 そんな彼女の想いに構わず、言の葉は解き放たれる。 「彼氏役なんて、もう絶対、やらないからね」 そう言った忍の声音には、滅多に見せない激しい怒りが交っていた。
話は、その日の朝にさかのぼる。 「おはよ、美幸。どうしたの? 朝から家に来るなんて、珍しい」 「お誘いだよん。ね、忍、映画でも見に行かない? この映画なんだけど」 「ん? ああ、これ。私も見たかったんだ……でも、パス」 「どうかしたの? なんか予定あるとか?」 「いや、ちょっと金欠。今月、本にお金を使い過ぎちゃったし」 「ほほう、それは好都合」 「……好都合って?」 「これ、ここを見てみたまえ」 「……カップル割引……?……何、考えてる?」 「いやん、そんな胸倉掴まないでよ……まぁ、忍の考えてる通りのことなんだけどねー」 「あそこできっぱりと断っておけば……!!」 悔やんでも悔やみきれない、とばかりに拳を固める忍に、美幸はコロコロと明るく笑う。 「アハハ、でも良かったじゃない。映画も無料で見れたし、色々ともらえたし」 「……映画の記憶なんて、全然ないんだけど」 「え!? なんで!?」 「自分の胸に聞いて……」 ガクリとうなだれて、彼女は自分の服装を見る。確かに体のラインが現われない服を着て、帽子で顔を あまり見せないようにしてはいた。とはいえ、レポーターの女性に全く疑いもされなかったというのは…… 「胸、ねぇ」 言いながら、ふくよかに育った胸を触る美幸の姿に、 「なんかムカツク」 殺意すらこもった視線を向ける。アハハ、とさすがに気まずそうに笑ってから、 「まぁまぁ。それに、キスって言っても、女同士のキスなんてカウントに入らないよ」 「そりゃそうだとは思うけど」 フォローになってないフォローだったが、忍は渋々怒りを抑える。押し切られたからとはいえ、悪ノリを した自分にも非はあると感じたから。 「今日のことが夢だったらいいのに」 それでもボヤくことぐらいは許してもらいたい、と思う。悪夢、という言葉は辛うじて飲み込んだが。 「ま、滅多にない経験、ってことで」 「くどいようだけど、もう絶対、二度とやらないからね」
「でも、さ」 上に着ていたものを脱いで、タンクトップ姿になった忍は、帰り道の途中でふと、美幸に問いかける。 「カップルってだけなら、正宗に頼めばいいのに」 「まぁね。でも忍、いつか、あの映画を見たい、って言ってたでしょ? だからだよ」 言われてみると、確かに思い当たる節はあった。だがそれは、いつのことだったか思い出せないほど 前で、しかもなんでもない話の流れでだったはずだ。 よく覚えててくれてたな。驚きながら、彼女は隣に並ぶ幼馴染の横顔を見つめる。いつも人のことを 思っている、優しい少女なのだということに、改めて気付く。もっとも今回は、悪ノリがひどかったけれど。 「それに、彩夏辺りに知られたら、またうるさそうだし」 「彩夏が?」 「うん。なんか、幼馴染モノの恋愛マンガをいっぱい勧められてね。忍は押し付けられたりしないの?」 素朴な疑問のつもりなのだろう。何気ない言葉に、しかし忍は黙ってしまう。 押し付けられたことなど、なかった。かわりに思い出すのは、時に彼女がこちらに向けてくる、探る ような視線。それは大抵、忍が正宗の姿を無意識に眺めていた直後に感じたものだった。 意味があるのか、どうか。わからなかったけれど、時々、不安に思うことがあったことは否定出来ない。 「多分、私が恋愛とかしなさそうにないからじゃない」 疑惑を打ち払いながら、適当なことを言ってとぼける。きっと考えすぎと、自分に言い聞かせながら。 「えー、そんなの差別だよ。私なんて、いい加減にしてー、って言うぐらいに読まされてるのに」 むぅっ、と唇を尖らせる美幸の横顔を、彼女は複雑に眺める。 蘇るのは記憶。ほんの数年前のこと。 そこにいるのは、美幸と正宗。いないのは、私。それを見ていた私。 当時は何でもないことと思ったのに、今は胸を苦しませる。 「今度、彩夏に言っておくね。忍にも読ませてあげて、って」 「それ、単に面倒を私に押し付けてるだけじゃない?」 心の奥に広がり始めた黒雲を、強引に打ち払う。考えても仕方のないことだから。自分にはどうしよう もないことだから。 このままでいい。このままが楽しい。バカなことを考えてたり、凹まされたりもするけれど、美幸のこと は大切だから。キスをされたって構わないほどに。 だから、このままでいい。 このまま、三人がいい。 忍はそう思った。 後日。 「正宗、これあげる」 「ん? どうしたんだ、これ」 「聞かないで」 「お、おう……」 美幸に押し付けられた、プレゼントでもらった男物のネックレスは、結局、忍から正宗へと渡り。 「忍、こういうの、好きなんだって? 水臭いなぁ、言ってくれれば良かったのに」 「……美幸のやつ……」 嬉々としてマンガを持ってきた彩夏に、忍は頭を抱えることになったのだった。
お付き合い頂きありがとうございます。
ベタです。でもベタって難しいですね。
>>242 >>243 >>244 GJありがとうございます。ようやく少しずつ、物語が動いてきたかな、と。
出来る限りこのペースを保っていけたらいいな、と考えています。忙しく
なると厳しいかなぁ……とも思いますが。
これからも、どうかよろしくお願いいたします。
なんという高速投下…!ピオリム+ヘイストかけてるとしか思えないw 天真爛漫キャラとクールキャラって相性いいよね。俺もベタは好きです。 GJですよ!
GJ!しかしガチンコの三角関係成立かと思ってしまったw
>255
>>268 お二方ともGJです!!
最近は投下が多くて嬉しいですな!!
保守りますぜ
投下町
274 :
ゼンソン :2007/06/26(火) 19:58:21 ID:Kiimj4ub
とつぜんですが…これから長編小説を書こうと 思っております。一応、第1話の投稿しようと思います よろしければ、皆様のご感想やご意見をお聞かせください
>>274 新しい職人さんが増えるのは嬉しいな。いや、作品見ないとなんとも言えんが。
そうだな。新人さん大歓迎だ! だが前からいた方たちの作品も待っているぜ俺は!!
>>274 投下してくれ。
がんばって書いた作品見せてくれ。
メール欄にsage
279 :
ゼンソン :2007/06/27(水) 17:21:41 ID:tgKLo0Bp
春…俺は2人の気持ちをしった… 大切な思い 第1話:新しい春 ピピビピ………… 「ふぁ〜あ…朝か…」 俺の名前は坂本 伸二 昨日、高校生になったばかりだ、目覚ましを止めて再び眠りこもうとすると… 「しんちゃん〜おきなさ〜い!」 あぁ…母さんが呼んでる 「仕方がない…起きるか」 「そう言えばあいつが起こしに来るっていってたよな?」 「う〜ん…」 となりを見るとあいつがいた…何故?…ってそれどころじゃあないぞ!! 「おい!起きろ!由美!」 大崎 由美 俺が生まれた時からいっしょにいる… いわば幼なじみというやつだ…
281 :
大切な思い :2007/06/27(水) 19:14:39 ID:tgKLo0Bp
「おい!起きろって!」 そういって由美を揺さぶると 「伸二〜おはよう〜」 「あぁ、おはよう、じゃあなくて、なんでいっしょにねてるんだよ!!」 「気持ちよかったらからつい…」 「理由はわかったから、早く起きろ〜」 「だったら…おはようのキスしてくれる?」 「はぁ?キス?」 「うん、お願い〜」 「わかったよ……」 そういって由美の唇に近づいた時… ガチャ! 「いつまでねてるの!!」 そういって入ってきたのは母さんだった…… 「「あっ!」」 「それじゃあお母さん仕事行くから〜……」
282 :
大切な思い :2007/06/27(水) 19:59:03 ID:tgKLo0Bp
「あぁ〜、お前のせいで絶対!勘違いされた〜」 「だから、謝ってるじゃん〜」 笑いながらいわれても…説得力がない 「お〜い!二人とも〜」 そういって、手をふるのは俺の2人目の幼なじみの外村 美紀 こいつは俺が5歳のときに引っ越ししてきたのだ 「おはよう、美紀」 「おはよー♪美紀」 美紀の家は俺の家から離れているため、こうして待ち合わせをするようにしているのだ。 ちなみに由美の家は俺の家の隣である… 「それにしても、遅かったね〜。なにしてたの?」 「それがさぁ〜、伸二がなかなか起きなくて……」 うそつけ!!と突っ込もうとしたとき、 「やばっ!!急がないと遅刻だよ!!」 「なに!急ぐぞ!!由美、美紀!」 その時は気ずかなかった…2人が俺のことが好きだったなんて…… 続く?
wktk
GJ! 頑張れ!! 初心者さんらしいので幾つか注意を。 とりあえずメールの所に半角でsageと書いてくれ。 これはルールなんでよろしく頼む。 あと気になった所が、「・・・」を他用してるみたいだけど、「・・・」より「。」にした方が良い点が幾つか見受けられる。 この辺りを頑張ってくれたらもっと読みやすくなると思う。 続きを全裸で正座して待ってる 携帯から長文失礼
286 :
ゼンソン :2007/06/28(木) 07:21:45 ID:WZmIxKEd
ご意見ありがとうございます。 まだまだ、初心者なので皆さんのご意見はとても 参考になりました!
取りあえずsageてくれ。 理由はスレ一覧の上の方にあると荒らしと呼ばれる誹謗中傷しかしない人たちが来てしまうからだ。 荒らしは作家さん達や読者にひどい迷惑を与える。 このスレには、あなた以外にも4〜5人の常駐作家さんがいる。 あなた一人の行動でその方達とその他一般の読者さんに迷惑がかかってしまう。 それが分かってくれたら、メール欄に半角でsageと打ち込んでくれ。
>>286 作品を投稿する時は、テキストからコピーしてまとめて投下してくれ。
携帯ならメールを使って。
投下に時間かかると他の職人さんの迷惑になることがある。
携帯でもPCでもどれにしろデフォだとsageじゃなかったっけ? 専ブラで設定いじってなきゃ もしかしてvipper?まぁいい作者さんだから sageてくれば、どうでもいいや
読みにくい。もう少し他の職人さんのSS見て学んでくれ。 特に改行。これが駄目すぎるから。もう少し基本から学んで投下して。
sageないのと書きながら張るのは良くないね
292 :
交錯する願い :2007/07/01(日) 02:23:02 ID:5A/2qPJX
「あやちゃんだーいすき。」 「わたしもゆうくんだいすき。」 二人の子ども達は、実の親に捨てられるという辛い境遇にありながらも健康に、健やかに育っていた。 「綾ちゃん、優君、こっちに来て下さい。」 「「は〜い。」」 二人とも無邪気に手を繋いで走り寄ってくる。 「せんせいな〜に?」 「二人とも明後日に新しいお父さんとお母さんの所に行くことになりました。」 「ゆうくんといっしょのところ?」 先生は困った顔をしながら答える。 「残念だけど、違うお家よ。」 「「ええ〜」」 「さぁ、今日は遅いからもう寝ましょうね。」 「は〜い。」 先に男の子が返す。 「はい。」 女の子も一瞬遅れて返す。 二人ともまだ、別れという意味を解っていなかった。 「綾芽っ、起きなさい。」 下でお義母さんが怒鳴ってる。 「は〜い。もう起きたよ!」 義母に怒鳴り返した少女は、藤崎綾芽。 特徴的な釣り目で、気がとても強そうである。 だがその釣り目は、目の中にある大きな瞳と調和して、トゲトゲしさを全く感じさせなかった。 更に整った顔立ちと、誰を相手にしようと物怖じしない性格は、そのスレンダーな体型と合間って特徴的で人気がある美少女を形作っていた。
293 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:25:21 ID:5A/2qPJX
「また優祐の夢だ。」 綾芽は最近昔の、施設に居た頃の夢をよく見ていた。 無論今の生活に不満があるわけじゃなく、純粋に会いたいのだ。 優祐に。 特にこの一年くらいその思いはただ強まるばかりだった。 綾芽は結局施設から出た日以来、それまでず〜っと一緒に居た優祐と一度も会えなかった。 何度も何度も連絡を取ろうと努力した。 施設の先生にも聞いた。でも優祐の家の住所は愚か電話番号すらわからなかった。 綾芽はそれを聞いたとき、憤ったものだった。 ここまで優祐に会いたくなった発端は、綾芽の年代が思春期と呼ばれる頃に入ったころにある。 回りの女友達や男子が色恋に明け暮れ始めていたた。 だが綾芽は全くそういう気になれなかった。 異性を恋愛対象として見ていなかったのだ。 勿論同性愛者等ではなく、綾芽に取っての異性、好きになり得る人は優祐ただ一人しか居なかったのだ。 それとて自分で気付いたわけではない。 昔の境遇、そして今の自分を知っている数少ない親友の指摘で気付いた。 否、気付かされたのだ。
294 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:26:50 ID:5A/2qPJX
それからだ、優祐に無性に会いたくなったのは。 「綾芽〜早く出ないと遅刻するわよ。」 「は〜い。」 綾芽は大声で返すと、階段を駆け降りていく。 「綾芽、酷い顔だな。」 「してるね〜。」 冷静で冷厳とも取れる声と、非常に柔らかくちょっと間延びした声が同じ事実を語る。 「うるさい。」 「また優祐君の夢でも見て悶々としてたんだろ。」「だろ〜。」 「凜、鈴菜、うるさい。」 凜と呼ばれた少女の名は、香原凜。 容姿的にはいたって普通。特徴といえば、腰まで伸びた漆黒のストレートヘアー位だ。 だが、その冷静で冷酷で平等な性格はとても頼りになる。 時々その厳しさに、辟易することもあるにはあるが・・・ 。 またその強い性格から、一部の男子に圧倒的人気もある。 鈴華は本名、武田鈴華。 おっとりとした口調と、丸く柔かそうな女の子の体型をしており、典型的なお嬢様ムードだ。 男女に人気があるがその内側に秘められた、悪戯っ子な鈴菜を知る人は数少ない。 「本当の事を言われたからって怒っちゃダメだよ〜。」 「誰も怒ってなんか。」 「ほんと〜に〜?」 「し つ こ い!」 「怒ってるじゃん。まぁいいけど。じゃ後でね。」 「けど〜」
295 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:27:39 ID:5A/2qPJX
彼女たちはそう言い残し、呆れたように三々五々自分の席に戻って行った。 まったく、なんで凜達はすぐ分かっちゃうのよ。確かに夢は見たけど、またってほど頻繁じゃないし。 別に悩んでた訳でもないし。 単純に優祐に会いたいだけだもん。 口にださずに本音をまくし立てる。 誰かに聞かれていたら赤面ものだ。 「あれでバレてないつもりかな〜。」 「ああ、多分な。」 「凜ちゃん冷酷〜。」 「お前が言うな。」 凜の冷静な突っ込みが入る。 「あはは、ごめんごめん。。」 この二人は席が隣なのを良いことに、綾芽が聞いていたら憤慨するであろう会話を、延々と続けていく。 「あ、先生来たよ〜。」 「起立!礼!」 先生が来るのに合わせて凜が号令をかける。 ちなみに凜は委員長である。 「はい、おはよう。報告です、今日から転校生が来ます。みんな仲良くしてやってください。」 「転校生か〜。少女漫画だと運命の再会ってところかな〜?」 「べたべただな。それはそれで面白そうだが。」 「でしょ〜。」 「武田、入って来てくれ。」 先生が外にいるであろう転校生に声をかける。 瞬間殆どの生徒たちの目が教室のドアに向かう。
296 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:28:33 ID:5A/2qPJX
ガラッ 「少女漫画になったらしいな。」 「困惑しまくってるね〜。」 この二人のみ、ドアを見ずに綾芽を見ていた。 少女漫画的出会いを期待していたのだろうか。 まぁ結果的に決定的な表情を見たのだが。 そして二人は、この顔を後で綾芽をからかうネタにしようと固く心に誓った。 「武田、自己紹介を頼む。」 「はい先生。武田優祐と言います。昔この辺りに住んでました。ぜひ友達になって下さい。これからよろしくお願いします。」優祐は、そつなくセオリー通りの挨拶を述べる。 パラパラと拍手が鳴る。 優祐はそれにもお辞儀して、後ろの方のーー先生に指定されたのだろうーー席に座った。 「90点かな〜」 「鈴菜高いね。私は75点位かな。」 「やっぱあれだけ可愛いと高くなるよ〜。食べちゃいたくなるよね〜」 「うむ。男としてはどうかと思うが、一人の生き物としては最高だな。」 優祐は純粋に可愛かった。 160に足らないであろう身長に華奢な体つき。 それに中性的で一見女の子のような顔。 ウイッグなど付けて髪を長く見せればまず間違いなく、美少女と間違えられるだろう。
297 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:29:32 ID:5A/2qPJX
「起立!礼。」 凜が号令をかける。 HRが終わると同時に二人はせかせかと綾芽の机に向かう。 「綾芽、運命の再会おめでとう。」 「綾芽ちゃんの言ってた子ってあんなに可愛かったんだね〜」 優祐の出現。 という明らかに許容オーバーなショックを与えられた綾芽は、完璧に凍っていた。 「ってバカ!バカバカバカ!」 「やっと溶けたか。」 「べ、別に運命の再会なんかじゃ、そりゃ嬉しいけど、でっでも私は顔じゃなくて優祐が好きなだけで」 フリーズは解除されたが、明らかに混乱している。 混乱中の綾芽の両肩に手が置かれる。 「落ち着け。」 冷静な声で凜が呼び戻す。 「深く深呼吸、すって、はいて、すって、はいて。」 綾芽は凜の言うままに深呼吸する。 「落ち着いた?」 「ん、うん。」 「まぁ綾芽の本心が良く分かったよ。」 さっきまでの自分の醜態を思い出したのか、綾芽の顔がさっきとは別の感情で真っ赤になる。 「べ、別に」 「いいのか、あれで?」 皆まで言わさずに凜が遮る。 凜が指差した先には、クラスの少女の壁と遠巻きにそれを羨ましそうに見る男子諸君。
298 :
交錯する想い :2007/07/01(日) 02:30:42 ID:5A/2qPJX
そしてそれに囲まれ、辟易してるーーように見えるーー優祐がいた。 そもそも転校生と言うだけでも興味をそそるのに、それがとても可愛い美少年だったのだ。 当然の如く、優祐は好奇心旺盛な女子生徒の注目を浴び、女子に囲まれるという現在の天国ーー地獄ともいうーを作っていた。 「なに?あれ?」 それを一目見た綾芽は凜に問う。 「可愛い優祐君奪取戦。」凜が珍しく楽しそうに言う。 「綾芽ちゃんいいの〜?優祐君取られちゃうよ〜?」 「取られるって別に優祐はそんなんじゃ・・・」 顔を真っ赤にしながらしどろもどろに答える。 「素直になろうよ〜。それとも私が優祐君貰ってもいいのかな〜」 「べ、別にいいわよ。」 「へ?いいの?」 正直、鈴菜はここまで言えば綾芽は白状してくれるだろうと思っていた。 「綾芽、意地を張るのも大概にしておけ。」 凜の声に綾芽の動きが止まる。 「だからっ」 「じゃあ本当に貰うからね。」 皆まで言わさずに鈴菜が宣言する。 「えっ。」 綾芽も綾芽で、鈴菜の言葉を本気だと思っておらず驚きを声に乗せる。 「じゃあね。」 そして鈴菜は優祐の机に行き、凜は中立と言わんばかりに自分の間の机に腰掛け、見物を始めた。 「なっなんなのよもう!」
新作投下させていただきます。 最初の投下なのに綾芽と優祐の会話が幼少期しか入れられませんでしたorz 次回はもっとちゃんと絡ませます。 取り敢えず優し過ぎる想いみたいに欝展開にならないように面白おかしく、時に切なくやっていきますので、生暖かく見守ってやってください。
うはー、新作GJ!! 夜更かしした甲斐があったってもんだぜ!!
二番槍GJ! この展開は王道・・・ しかぁし!それゆえに萌 え る! 施設の後に再会いう設定にもさらに萌えた。 前に投下された糞作品とは大違いだ。
>>301 厨房発言するなクソ。そうゆうのが職人さんをとおざけんだよ。
保守
「ふぁあぁ〜〜〜」 欠伸にも似た気だるげな声を上げると、稔一(じんいち)は自分の布団に向かってゆっくりと 倒れこむ。疲労、緊張、そしてこの夏が最後のチャンスだという事実に肉体的にも精神的にも 追い詰められ、身体中を倦怠感に襲われ続けていた。 布団に身を委ねれば、床と同化してしまいそうな感覚を覚えてしまうほどに気持ちいい。 日頃、三大欲求の中では食欲を最重要視している男ではあるが、こういう気分だと、睡眠欲の 重要性もあながち馬鹿には出来ない。 しかし眠ってしまうわけにはいかない。この後隣の家に住んでいる幼い頃からの腐れ縁と、 何の因果か地元の夏祭りに出掛けないといけないのだ。 というわけで、このまま夢の世界へ旅立つわけにはいかないのである。 「………Zzzzz」 ……いかないのである。 「Zzzzzzzz…」 寝息は徐々に大きくなっていく。やはり人間、一番大事なのは自分の身体ということなの だろうか。しかしながら、人間たるもの欲求に従順なのは致し方ないことである。 「やっほー」 すると突然、備え付けられた窓がからからと開き、いかにもダルそうな眠そうな少女の 声が部屋に響く。どうやら彼女が、先の約束相手らしい。 「稔一ぃ、準備できて……ないなぁ」 姿を表した時は晴れやかだった表情が、一転してみるみる曇っていく。つかつかと彼の 枕元まで歩み寄ると、フラミンゴのように片足立ちになる。 そして。 「うるぁ」 ゴシャッ! 「痛ってぇ!」 額に容赦なく踵を踏み落とされ、稔一はたまらず跳ね起きる。踏みつけられた箇所を 押さえながら顔を上げれば、そこにいたのはジト目で睨みつけてくる、物心つく頃からの 顔なじみ。 「何寝てんだハゲ」 「ハゲ言うな。……起こすならもっと、まともな起こし方にしてくれよ」 「約束すっぽかしかけといてよくそんな偉そうなこと言えるね」 「毎度毎度勝手に窓から部屋に上がり込んでくる不法侵入者を快く迎えてやってんだ。 そのくらい大目に見ようぜ」 隣の家とは二メートルほどの隙間が存在しているのだが、向こうの家からはベランダが 備え付けられている。おかげで、二人は玄関を経由することなくこうして出会いを重ねるのが 常だった。通っている高校は同じだが、クラスが違っているせいで一緒に過ごせない時間を こうして埋めることが茶飯事だった。 「佳奈ー」 「んー? 起きたんなら早く準備してよ」 「浴衣。タンスから引っ張り出してこいよ」 「えー」 佳奈の格好は、普段と変わらないタンクトップと短パンというなんともラフな組み合わせ であり、手に持っている履物はなんと草履である。 アルファベットで数えて三番目のカップを誇るバストがかろうじて彼女が「彼女」である ということを証明しているものの、短く切った髪の毛をぼさつかせている様子といい、 (もっとも佳奈に言わせればこれはこういう髪型であり、彼女なりのお洒落なのだそうだ) 前述した部屋着同然の服装といい、見る人が見れば男子に見られかねない。
「あははー、どうせあたしにはそういうの似合わないしさー」 身も蓋もない反論に、眠たげに垂れ下がっていた稔一の眉尻が微かに跳ね上がる。 「お前から誘ったんだから、そのくらいサービスしてくれても良いと思うんだけど」 「どーせ着て来たら着て来たで、あんた何も言わないでしょ。そんくらい分かってるよ」 口角を片方だけ釣り上げニヤリとした笑みを返され見下され、彼はフーッと細く長く 息を吐く。どうやら、こちらの意見を受け入れるつもりは最初っから毛頭存在してないらしい。 「ほら、さっさと着替えて。花火始まったら意味ないよ」 「あー…面倒だからこのまんまで行くわ」 背中を丸めたまま欠伸をして、そしてゆっくりと立ち上がる。ついつい寝入ってしまって いたものの、彼が身につけているのはTシャツジーンズという、彼女と比べればまだ幾分 マシな姿である。本当は着替えようと思っていたのだが、佳奈の格好を目の当たりにして しまっては、そんな気持ちもすっかり失せてしまっていた。 「なら早く行こうよ、折角だから色んなもの食べたい」 「……奢るのか?」 「トーゼン。期末テストで負けた方が『何でも』言うこと聞くって話だったじゃん」 台詞の中の「何でも」の箇所だけやたら強調され、「一つだけ」という単語が含まれて いなかったことに、ついつい恨みがましい視線を送ってしまう。こっちは高校生活最後の 部活動に必死に打ち込み、向こうは家でのんびりぐーたらやってるのだ。テスト勉強する 時間を考えれば、当然相手が有利に決まっている。 「はー…っ」 たまった疲れを吐き出すように、苦々しさを覚えながらも相手の意見を受け入れる。 どうせ彼女に言い訳などしても徒労に終わる。自分にとって都合の悪いことには耳を 貸さないのだ。そのくせ都合のいいことに関しては地獄耳なのだから性質が悪い。なのに 人望はそれほど悪くないのだからおかしな話、不公平である。 「ほらー、早く行く早く行く」 「わーったわーった」 既に廊下に出ている佳奈の催促を受け止めると、不承不承ながらも稔一は財布を掴み、 自分の部屋を後にするのだった。 鷲尾稔一と桜井佳奈は幼なじみである。 しかしながら、二人は周りの人間にそう呼ばれることをあまり好まない。 お互いの関係が、そんな若干の甘酸っぱさを含んだような言葉じゃ言い表すことができないからだ。 そんな言葉より、「腐れ縁」というただれた表現の方がよっぽど自分達らしい。 まあ実際のところ、ただれきっていたりするのだが。 「財布、まずは焼きそばが食べたい」 桜井佳奈、高校三年帰宅部に所属。普段はあまり人の輪に加わって話しこむことを好んだりは しないが、テンションがハイマックスになると誰よりもうるさくなるパッと見男子な一応恋愛適齢期。 好きなものはその時好きなもの、嫌いなものはその時嫌いなもの。好きな人は幼い頃からの 腐れ縁、嫌いな人は幼い頃からの腐れ縁という本当に困りきった気分屋女子高生である。 「誰が財布だ、俺には俺の名前がある」 鷲尾稔一、高校三年こちらは野球部に所属。髪の毛を坊主頭に駆りこんでいるが本意では ないため「ハゲ」と呼ばれると若干の拒否感を示すナイーブな一面を持つ。と思わせといて、 実はそんなに気にしてないこちらもちょっと変わった思春期青年。 とはいうものの、こちらは好きなものが小学生の頃から野球と一貫していることもあり、 彼女と比較してみれば大分まっすぐ健やかに成長している模様である。
「あんた今日お金担当なんだから財布でいいじゃん、その方が呼びやすいし」 「じゃあ俺もお前のことをヒモ女と呼ばせてもらおう」 「いいよ別にー。そんじゃ財布、焼きそば買ってきて。あとたこ焼き」 「せめて店くらいは自分で探せヒモ女、不味い店で買ってきたらお前怒るだろ」 二人の関係会話には、高校生とは思えないくらいに新鮮味が存在していない。どんなに お互いを煽ろうとも右から左へ受け流し、緩やかに咀嚼して事も無げに会話を続行する。 先に述べたテストの結果で勝負したように、何かと勝ったほうが負けたほうがと条件を つけては争ったりはするものの、負けて悔しがることもない。そうした関係が、一番上手く 付き合えると分かっているからだ。 そんな二人の関係は恋愛面においても発揮される。こうやってデートをする理由も無ければ、 本人達にはデートという意識もあまり無い。既にキスも済ませているのだが、その理由も「キスって どんな感触なのか知りたかった」というなんとも色気の無い理由である。とは言っても、流石に その時ばかりは微かに顔を赤らめていたらしいのだが。 しかししかし、そこまですることしておいて、本人達の弁は「別に付き合ってない」と くるのだから、周りはもう彼らを変人カップルとして認定して扱うしか他に無かった。 「ふまい!」 「食ってから喋れ」 「ふまいふまい!」 「食いきってから喋れ」 人の金なら何の気兼ねなく食べられるとはよく言ったものである。 焼きそばたこ焼きイカ焼きたい焼きフランクフルトにりんご飴、わたあめカキ氷天津甘栗 フライドポテトに焼きとうもろこしと、佳奈は目に付いた食べ物を片っ端からせがんでは ぱくついている。その食いっぷりに稔一は、途中で使ってしまった分のお金を計算するのを 止めるのだった。 「はー食べた食べた」 「……お前、食いすぎだろ」 「? 何か言ったー?」 「太って死ねばいいのにって言った」 「……むー」 普段眠たそうに弛んだまぶたを微かに引き締めながら、佳奈は不満を露わにする。彼女が 露骨に怒りの表情を見せるのは珍しいことなのだが、その辺は幼なじ……腐れ縁という仲が 二人の根底にあるからなのだろう。 「そーんなこと言ってると、まだまだ注文しちゃうよ」 「好きにしろ、どうせ諦めてる」 「あっそ……じゃあもうお腹いっぱいだし、勘弁してあげよっかな」 「そりゃどーも」 どうせもう、お札が野口さん一枚しか見当たらなくなっていたのだ。ここまで減って しまえば、お金のことなんかどうでも良くなってしまう。溜まりに溜まった小遣いも、 部活で忙しければ使う暇も無いのだ。 「ねー、稔一ぃ」 「んー?」 「"ぱしゅぱしゅ"したいー」 「ぱしゅぱしゅ?」 唐突な佳奈の言葉の意味がよく分からなくて、服の袖口をくいくい引っ張られ促された方を 向いてみる。そこには、水風船の屋台が出店をしていた。広く浅い水槽に、色とりどりの 水風船がぷかぷか浮かんでいる。 「ねー、"ぱしゅぱしゅ"したいー」 「……」 「ぱしゅぱしゅー」 「……」 「ぱーしゅーぱーしゅー」 「分かった分かった、一個でいいな」 「うん」
幼稚なせがまれ方に根負けして、稔一は大人しくその店に近づいていく。適当な色を 見繕い、金を払って選んだ水風船を釣り上げると、また佳奈の元へ舞い戻っていく。 「ほら」 「へへー、ありがと」 手渡すと彼女は喜々としながら中指をゴムの輪に通し、風船を手の平で叩き始めた。 パシュパシュ 「……」 「……」 パシュパシュパシュ 「……」 「……」 パシュパシュパシュパシュ 「……楽しいか」 「ビミョー」 淡々と言い放ちながらもその動作を止めないということは、どうやら彼女なりに楽しんで いるらしい。 「ねー、稔一」 「ん?」 「次の試合、いつ?」 「明後日」 水風船の音をBGMに、佳奈は稔一の日程を聞いてくる。空いていた方の手の平を、 稔一の手の平に重ねながら。 「うお、明後日試合なのに女とデートとは余裕だな」 「『もし断ったら、一日中付きまとって耳元でしくしくめそめそ泣いてやるー』って脅して きたのは誰だっけ」 「あたしー」 「『試合前日深夜に部屋に忍び込んで喚きたててやるー』って言ってたのも誰だっけ」 「あたしー」 ゆるゆるした笑顔を浮かべながら、悪びれることなく手を挙げる彼女に、稔一は穏やかな 表情のまま鼻で笑い返す。 全国で一斉に始まった高校野球夏の大会地方予選も佳境に入り、早いところでは甲子園 出場校も決まってきている。各家庭のブラウン管は、このところ毎日のように勝利の歓喜に 湧き、また夏を終え悔し涙を流す球児達の姿を鮮明に映し続けていた。 稔一もまたそんな高校球児の一人である。彼の通う高校の野球部は、地方予選準決勝まで 無事に駒を進めていたのだった。 「勝てる?」 「どうかなぁ、相手はプロ注目のエースだし」 「……むー」 しかし準決勝の相手は、全国でも名の知れた好投手を擁し、春の大会では甲子園ベスト4に まで進んだ強豪校である。ちなみに稔一達はその時の地方予選でも対戦していたのだが、 結果は6対1と完敗を喫していた。
パシャンッ 「っと!?」 その時、何かが跳ねさせながら稔一の頬を襲った。その箇所を触ると、ひんやりと冷たく 水に濡れてしまっている。 「そんな気持ちじゃ、勝てるもんも勝てないぞー」 どうやら水風船で瞬かれたらしい。次の相手が格上だと伝えたかった言葉は、弱気で 消極的な台詞と受け止められてしまったようだ。 「そう怒んなって」 ポンポンと二度、彼女の頭を軽く叩く。 「俺だって、同じ奴らに二回も負けたくないさ」 口をへの字に曲げた佳奈の顔を見つめ返しながら、静かな、だけど確かな闘志を露わにする。 繋いでいる手にも、無意識の内に力がこもっていく。 「それに、以前対戦した時はホームラン打ってるしな」 前回対戦した時にもぎ取った唯一の得点は、稔一が一閃したバットから生まれたものだった。 あの時の感触は、未だにはっきりと覚えている。その時の、相手投手の悔しそうに歪んだ表情と 共にしっかりと。 「そだね。稔一も一応、プロ注目の選手だもんね」 「実感ないけどな」 有望選手から結果を残した選手が、その時訪れていたスカウトの目に留まることは、往々に してよくあることである。他の選手が軒並み凡退する中、稔一だけは全国に名を轟かす投手から ホームランを含む三安打猛打賞を放つ活躍を見せ、「ついで」という形ではあるが、一部の球団と 大学の興味を勝ち得ていたのだった。 「あれからチーム強くなったんだ?」 「まぁな。毎日毎日練習だったし」 「おかげで、遊びに来てもいっつも寝てたよねー」 「いっつも無理やり起こされてたけどな」 互いに前を、そっぽを向いたままの皮肉な言葉は、いつものように受け流されていく。 「今度は負けん。……勝つよ」 「……」 飾り気のない端的な台詞には、らしくもなく強い意志が込められていて。佳奈ほどでは ないものの、稔一も普段はふわついた雰囲気を纏わせている。しかし、こと野球に関しては 非常に真摯だった。彼が見つけることの出来た、唯一全ての情熱を注ぐことのできるもの だったからだ。 ヒュルルルルル ドーンッ 空に咲いた一瞬の大輪が、二人の顔を赤に青に染めていく。人混みの足は途端に鈍り、 その花を愛でようと顔を見上げる。それは二人とて例外ではない。 稔一は気付かない。佳奈が今更になって、浴衣を着て来なかったことに少しだけ後悔を 募らせていることを。試合が目前に迫っているのに、嫌な顔せずこうして付き合ってくれた ことに感謝していることを。彼女自身は未だ見つけられないでいる熱くなれるものを見つけて いることに、羨ましさを覚えられているということを。
「応援、行くね」 「あー……別にいいけど…」 「? けど、何?」 「いや、前の試合の時みたいな声援は困るなと思って…」 「えー?」 前の試合、つまり準々決勝戦。終盤同点チャンスの場面で、稔一に打席が回ってきた時の ことである。 『稔一ぃぃー! あたしの為に打ってぇー!!』 試合中には審判から、試合後には教育委員会やら学校やらの一部から物議を醸し、 後に個別で厳重注意を受けた声援である。 もっとも観客席からは笑いが起こり、その声援を送られた本人は顔を真っ赤にしながら 決勝のタイムリーヒットを放ちはしていたのだが。それでもあの時のことは赤っ恥に近い。 余談ではあるが、「あたしの為」というのはクラスメイトと野球部の勝敗でトトカルチョを行った 末に出た言葉である。それはそれで充分警告ものだが。そこに他意があったかどうか、不明の ままだが。 「だめー?」 「今度言ったら、球場から追い出されると思うぞ」 「うー…そいつは困る。あたしがいなくなると、稔一は打てなくなるからなー」 「はいはい」 なんとも横柄な台詞ではあるが、これはれっきとした事実である。実際、佳奈が応援に熱を 入れれば入れるほど、昔から稔一はよく打った。彼女に所用があったり面倒臭がったりで 姿を見せなければ、バットも湿り勝ちだった。 「声援送ってくれること自体はありがたいけどな。『がんばれ』とかそういうのにしてくれ」 「んー……しょうがないなぁ」 花火を見に来たはずなのに、結局二人の意識はお互いの会話に傾いてしまっていて。 一年、二年の時と違って、今年はクラスが違っている。その事実が、二人のこれまでの 関係をほんの僅かに変えつつもあった。当人達は、未だ気付いてないことなのだけれど。 ヒュルルルルルッ ドーンッ ドーンドーンッ 「勝ってね。また稔一達が勝つほうに賭けたんだから」 「オッズは?」 「10倍。相手が相手だしねー」 「ま、そうだろうなぁ」 自分の頭をしゃりしゃりと撫で、稔一は諦めたようにまた息をつく。手を振りほどいて 佳奈の前に躍り出ると、ぐっと握り拳を作る。 「……大儲け、させてやるからな」 「えへへ、期待してる」 二人がそう言葉を交わすと同時に、これまでより一層大きな大輪が、空に咲いて消えていく。 その瞬間、稔一の身体がシルエットになって。佳奈の顔はまた黄色く染まる。 その光景は脳裏に焼きつき、いつまでも残り続けるのだった―――――
それでは続けてこちらも新作をば 3、4話程度で終わらせる予定の短編モノですが 拙い作品ではありますが、宜しくお願いいたします
うおお、GJです! ぱしゅぱしゅ良いですね、ぱしゅぱしゅー。 『腐れ縁』な彼らがいかにして『幼馴染』、そして恋人になっていくか楽しみですー!!
シロクロの続きを待ち続けて早5年 すっかり禿上がりました
信じることは待つことだってばっちゃが言ってた
気持ちは分かるが作品が投下されて間もないのにそういう事言うのはちょっとあれだ 書き手さんがいなくなるぞ
乞食に良識を期待しても無駄
>>309 GJ
二人のステップアップがどうなっていくのかが楽しみ
なんかとてもGJのものが続いた後に出すのは畏れ多いんですが、 コッソリと投下させて頂きます。 >191-195 >199-203 >224-227 >236-240 >262-267 の続きです。
出会いが動かす。三人の関係を変えていく。 06 : Lonely 図書室の窓から差し込む夕暮れの光に、浮かび上がるのは少女の横顔。机の上に開いた本から 視線を上げて、忍は時計に目を向けた。 もうこんな時間か。思って、椅子から立ち上がる。太陽はまだ、遠くの地平に底を微かに触れさせて いるだけ。それでも、学校に残っていると怒られそうな時間にはなっていた。 もう少し、読み進めておきたかったけれど。そんなことを考えながら、借りるかどうしようかと少し迷って、 やはり本棚に戻しておくことにする。もう少しで読み終えるから、また明日、来ればいいと思って。 窓際を通った時、ふと、校門へと視線を向ける。そして忍は、ピタリと動きを止めた。 遠い視線の先、並んで歩く二つの背中。それはよく見慣れた親友達。 立花美幸と、九条正宗。どんなに距離があっても、見間違える筈がない。そう自信を持って言える二人。 瑞々しいまでの緑が繁る、校門へと続く並木道を歩む彼らは、きっと笑顔だ。遠すぎてそこまでわかる はずもないのに、何故か彼女はそう確信していた。 それでも、忍が硬直していたのはほんの一瞬のことだった。すぐに窓から目をそらし、座っていた席に 戻る。そして鞄を手に取って、図書室を出た。 その歩みは、しかし遅いものだ。まるで二人に追いつくことを、恐れているかのように。 考えてみれば、と、忍は物思いに捉われる。 いつもあの二人の背中を見てきたな。 想いが彼女の心に絡み付いて、記憶の海へと引きずり込んでいく。 次から次へと、少年と少女の思い出が蘇る。一つを手繰れば、そこからまた別のものがつられて。 幼稚園と小学校、そして高校の一年とちょっと。それだけでも、こんなにあるのかと忍自身が驚くほどに、 正宗と美幸に関わる記憶は多い。幼馴染だから、当然と言えば当然なのだろうが。 だけど、その全てが均質な価値を持っているわけではない。 何故なら、思い出の中の正宗、美幸の容姿が少しずつ成長していくように、忍自身も変わってしまった から。 例えば、高校生になってからの記憶の中で、正宗はとても輝いて見える。理由は簡単だ。 恋を、したから。 だがどんなささやかな思い出の中でも、正宗の横にはいつも美幸がいるように忍は思う。 きっとただの勘違い、あるいは思い込みで、実際にはそんなはずはないのだけれど、何故か。 何故か彼女は、正宗と美幸、二人の背中を見続けてきたような気がするのだ。
……ギターの音が響いていた。 図書室のある三階から、玄関へと向かう途中の階段。 微かに聞こえてきたアルペジオの音色に惹かれて、忍は足を二階の廊下へと向けた。 何か有名な映画に使われていた曲だったな。タイトルを思い出そうとするが、全く思いつかず、すぐに 彼女は考えるのを止める。 切なく、物悲しい。それは決して不快なものではないのだけど、風に乗る調べは儚く壊れやすそうな ものに彼女は感じて。 そうして忍が導かれたのは、三年生の教室の前だった。ギターは、この中から聞こえてくる。 そっと廊下から教室の中を覗き込んだ彼女は、軽い驚きを顔に浮かべた。音が途切れるのを待って、 そっと扉を開け、中にいた少女の名前を呼ぶ。 「彩夏」 「……忍?」 意表をつかれたのだろう、彼女以上にビックリした顔を見せた後、呼ばれた少女は照れ臭そうに笑った。 「聞こえてた?」 「ん。だから来たんだし……でも意外」 僅かに逡巡してから、忍は彩夏の隣の席に向かい、椅子を引いて腰を下ろした。 「意外って?」 「ギターが弾けるってことと、三年の教室にいること」 彼女の言葉に、彩夏は小さく苦笑して答えず、再びギターを爪弾き始める。無理に問い詰めることも せず、忍はただ耳を傾けた。 同じ曲、同じメロディ。だが今度のそれは、どこか優しい。そう感じながら、ふと横目で見やった少女の 顔には、哀愁とも懐古の情とも言える表情が浮かんでいた。 流れる時を、忍は肌に感じる。緩やかに、緩やかに。 目を閉じて、彼女は揺蕩う。しばしの間だけでも、音と一つになりたいと願ったから。 「元カレに、教えてもらったんだ」 手を止めて、彩夏が唐突に言う。半ば以上も思いに沈んでいた忍は、何も言葉に出来ず、彼女の方へ と視線を移した。 「ギターも、この曲も」 「……そっか」 彩夏の睫毛に、夕の日が絡む。少し俯いた彼女の表情から、忍は全てを見透かすことは出来なかった。 どこか苦くて、けれども甘い、まるでマーマレードのような笑みを浮かべていること以外には、何も。 「付き合ってた人、いたんだ」 「ん」 沈黙が不自然に感じられて、問う忍に対して、彼女はわずかな逡巡を垣間見せる。やがて、窓の外へと 目を向けた彩夏。それを追う、忍の視線。 「一年生の時、ほんの半年ぐらいかな。好きになって、告白して……耐えられなくて、別れた」 「耐えられない?」 「居場所がなかったんだよ。アイツの心の中に、私の」 責める言葉なのに、憎しみはない。ただ過ぎ去った時を懐かしむような声音に、忍はわずかに惑う。 「嫌いになったとかじゃなくて?」 「なれてたら良かったのにね。アイツは、最初っから最後まで、変わらなかったよ」 それが悔しいかな。言って笑う彩夏の、その先を忍は感じ取る。 だけど……だから、好きになったのだ、と。
ポツリ、ポツリと、彩夏は思い出を紡ぐ。 一つ上の先輩だったこと。中学が一緒だったこと。だけど、高校に入るまでは知らなかったこと。 同じバスケ部にいたこと。ハッキリとした性格で、物怖じすることなく、例え先輩にでも間違っていれば 間違っていると言える。そんな芯の強さに少しずつ惹かれていったこと。 告白をしたこと。付き合ったこと。 うまく、いかなかったこと。 「求めても応えてくれる奴じゃなかったね。そういう奴だってわかってて好きになったんだけど」 時に、軽くギターの絃を爪弾く指と、その言葉が、やけに忍の心に印象強く刻まれた。 「なんか疲れてね。付き合ってない方が楽しくいられるって思ったから、別れることにしたんだ」 結局、最初から最後まで、私だけが悩んでた感じだよ。おどけるその様に、悲愴はない。結果を悔いて いないのだと、それだけで忍にもわかる。 「すごいね」 だから感想を、そのまま口にする。急に彼女が大人びて見えた。二人の位置は変わらないのに、今は とても彩夏が遠く思える。 「別にすごくないよ」 「すごいと思うよ。なんか意外だし。そんな風に見えなかったから」 「隠してたからじゃない? ほとんど誰にも言ってないし。美幸にだって、言わなかったから」 その台詞に、少し忍は驚く。彼女の目から見ても、二人はいつも仲が良く、一緒にいるように見えたから。 とはいえ、美幸も彼女に、恋の話をしていなかったから、お互い様と言えるのかもしれないが。 「……どうして私に?」 「そうだね……聞いてみたかったからかな」 「何を?」 「正宗のこと、どう想ってるか」 彩夏の口から出た言葉に、忍は眉を顰める。 「それ、今、思いついたでしょ?」 「当たり」 言って、明るく彼女は笑った。 「話したことに意味はないよ。なんとなく、そんな気分になった、ってだけ。でも、せっかくだから聞いて みたいな、って思った。私が話したから、話してくれるかなって」 「そういう言い方、ずるいと思う」 「別に、話したくなきゃ話さなくてもいいけどね」 「それもずるい」 忍の渋面に、クスクスと笑いながら、彩夏はギターを机の上に置いて、腕を組む。その視線は、探るでも なく、興味本位でもない。ただ純粋に、知りたいだけだと気付く。 夕の静けさと、彩夏が明かした秘密が、忍の心の扉を開く。
「好きだよ」 素直に口にした想い。だが彩夏が笑む前に、厳しい口調で付け足す。 「でも、彩夏が望んでるのとは違うと思う」 「へぇ?」 首をかしげる彼女に、忍はわずかに胸を張り、真っ直ぐに目を見つめながら言った。 「幼馴染だったから好きになったんじゃない。好きになった人が、たまたま幼馴染だっただけ」 それはずっと、彼女が思っていたことだった。 中学の三年間を、忍は正宗と離れて過ごしていた。その間に、彼のことを思い出すことは、数えるほどに しかなかったように思う。 だから高校に入り、彼と再び同じ時を過ごすようになった時、正宗のことがまるで知らない男性のように 感じられた。 やがて、想いが忍の胸に宿った。それは幼馴染だったから生まれたものではないと、彼女は信じている。 「そういうもの?」 「そういうもの」 問いかけのための語尾の上がりを無くした同じ音で、忍は彩夏に返す。 「言うまでもないけど、秘密だからね」 「わかってる。でも、言わないわけ?」 「……気が向いたらね」 浮かべた苦笑に、何かを感じたのか、彩夏はふぅん、と頷いただけだった。そして、机に置かれたギター の絃を一本、軽く弾く。 生まれた音色は、やがて空に飲まれていく。 「おいこら。なにやってんだ」 その余韻を破ったのは、急に開かれた扉のガラガラという音と、呆れと怒りの交った少年の声だった。 「勝手に人のギター使いやがって」 「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」 一瞬、慌てたのは忍だけで、彩夏は小さく笑いながらもう一度、絃を弾く。 「だからって、人のロッカーを開けていいってことにはならんだろ」 「はいはい、ごめんなさいって」 近寄ってきた彼に向かって、彩夏は肩をすくめる。ったく、とだけ言う少年の顔から、怒ってるのは表面 だけで、決して本気ではないことを忍は見て取った。 「忍、忍」 「ん?」 「こいつが、さっき話してた奴だよ」 彼女が男を親指で指差すのに、忍は一瞬、硬直する。 さっきまで彩夏が話してた奴、と言えば、それはたった一人のことを指す。 これが彩夏の元カレ? 思わず、マジマジと忍は初対面の人の顔を見つめてしまう。 目付きは鋭い方、というよりは、悪い方だ。そこに宿る光も、どこか厳しいもの。背はさして高くはない のに、漂う雰囲気のせいか、見た目より大きく思える。そんな、パッと見、怖そうな外見なのに、近寄り がたいとは感じられなかった。多分それは、彩夏の話を聞いていたからだろうけれど。
「話してた? どうせ悪口だろ」 「それは内緒」 うんざりしたような口調の少年の肩を、楽しそうに答えながら軽く叩く彩夏。 そんな二人が以前は恋人同士だったとは、にわかには忍には信じられなかった。 だが、すぐに気付く。 きっと、彩夏にはこの距離が一番、心地良いのだと。 近過ぎず、遠過ぎず。程よい距離。それは体だけでなく、心も。 思わず忍は、自分を重ねてしまう。 正宗へと近付かず、さりとて去ることも出来ず。 心地良い距離を保っている、自分。 美幸という少女を交えているだけ、複雑なのかもしれないけれど。 「ああ、言い忘れてた。コイツ、アタシの先輩で、吉川亮太って言うんだ」 「お前は人の名前も出さずに、噂してたのか」 呆れ交じりの声を軽やかに聞き流し、今度は亮太と呼ばれた少年に向き直り、 「で、この子は私のクラスメイトの塩崎忍。二年になってから仲良くなった子」 「どうも」 微妙に困惑しながら、ゆっくりと頭を下げた彼女は、気付かなかった。彼が彼女の名前を聞いた時に、 一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたことを。 「とりあえず、お前ら、もう遅いんだから帰れよ。彩夏はバスケ部休みだったのに、こんな時間まで残って やがって」 「っていうか、そっちこそこんな時間まで何やってたわけ? 彼女、待ってるんじゃないの?」 自然に出てきた言葉を聞き流しそうになる。 彼女? それって恋人のこと? 忍の向けてくる視線に気付いたのか、悪戯っぽく彩夏は頷いた。 なんとなく、深く考えることが出来ず、少女は口を閉ざし沈黙を守ることしか出来ない。 「アイツなら先に帰らしたよ。待っててもしょうがないからって」 亮太の言葉に対して、可哀想、と彩夏が言いかけて飲み込んだのを、忍は見て取る。きっと、同じような ことがあったんだろうな、と想像するだけ。 彼女は、前言を撤回することにした。こちらもこちらで、複雑なようだ。 「それじゃ。またギター、触らせてね」 「わかった、わかったから、とっとと帰りやがれ」 しっし、と追い払う亮太の耳に笑い声を残し、彩夏は教室を出て行く。最後に軽く頭を下げてきた忍に、 鷹揚に頷いてから、彼はギターを片付けて、帰る準備を始めた。 「……ああ」 そうして机の中から読みかけの本を取り出した時に、ようやく亮太は思い出す。高校の図書室から借りて きた本の最後に、借りた人間の名前を書く欄があるのだが、そこに書いてあったのだ。 塩崎忍、と。 それを一度ならず、何度も目にしていたから、聞いた時に覚えがあるように感じたのだ。 気付いてみりゃ、なんてことないな。 声に出さず、そう呟いて、彼は少女の名前が書かれたページを閉じた。 出会いが動かす。三人の関係を変えていく。 それは糸。少年と少女達に絡み、新しい模様を紡ぎだす糸。 そのことに気付く者は、誰もいなかったのだけれど。
お付き合い頂き、ありがとうございます。 気が付けば二週間、空いていたのですか。ボチボチまた書いていきたいと思います。 しかし、やはりオリジナルは難しいですね。キャラを立てるのに四苦八苦しております。悩みどころ。 >269>270>271 高速投下のペースが再び取り戻せればいいのですが。なんにせよ、ようやくスタートライン、 というところでしょうか。長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 では、よろしくお願いいたします。
テンション寝る前に最高潮です。 ごめんなさい。懺悔します。正直今までの話は軽く読む程度にしてしまっていました。 だが、今回は。今回はダメです。ホントダメです。こういう文体にはマジで弱いのです。ストライクゾーンをストレートでど真ん中貫かれた気分です。 何がいいたいかというと、 GGGGGGGGGGGJ それでは今までの読み返してきます。
いいですねぇ……。これぞ青春、という感じでしょうか。 色々と動いていきそうな気配があって、これからの展開が楽しみです!
日のように眩しく、月のように穏やかで、朝のように優しく、夜のように美しい、あなたの文体が大好きです! 回りくどい物言いですが、つまりはなんというか、忍を下さい。ぎゅっと抱きしめたい。後ろから。
アゲ
327 :
292 :2007/07/07(土) 21:54:18 ID:rytTEZMs
「織姫って可哀相だよね〜。好きな人に年に一回しか会えないなんて、私なら死んじゃう。」 「バ〜カ、俺達だって似たような物だろ。間に流れてるのが天の川か、日本海か、のね。」 俺達は北京の町を歩きながら七夕の話をしている。 「私は涼也が頑張ってくれるおかげで、年に2回会えるもん。」 蘭は頬を膨らませて言う。 俺と蘭は2年前まで、生まれた時から一緒にいた。 そして幼なじみという関係から脱却して、俺達は幸せの絶頂にいた だがそれを蘭の父親の中国転勤が引き裂いた。 それから俺はバイトを始めた。 蘭に会いに中国に行くために。 そして何とか年に2回ここに来るだけのお金を手に入れ蘭との半年に一回の逢瀬を重ねている。 「一回と二回じゃ大して変わらないだろ。」 俺も苦笑して答える。 「本当はもう少し来たいんだけどな…」 「これ以上無理しちゃダメだよ〜。涼也だって学校とかあるんだし。」 「あと二年だから。大学は日本で通えるように頼むから…その時は、一緒に行こうね。」 「ああ、その時を楽しみにしてるぜ。あと蘭のためじゃなくて俺が来たいから来てるんだぞ。可愛い俺の蘭に会うためにな。」我ながらクサイセリフだと思う。 「もう……」
328 :
292 :2007/07/07(土) 21:54:53 ID:rytTEZMs
でも蘭は顔を真っ赤にして恥ずかしがってくれる。 可愛いやつだ。 「んじゃ行きますか。」 「行きましょ〜〜。」 半年ぶりの一泊二日泊まりがけデートの始まりだ。 楽しい時は一瞬で過ぎていく。 「もう終わりなんだね。」 寂しそうに蘭が言う。 この二日で色々な事をした。 観光もした。 おいしい食事もした。 一つにもなった。 でももっと一緒に居たかった。 「まぁまた来るさ。」 横に淋しげに立ってる蘭を抱きしめる。 「うん…」 「次は一月かな、まぁ頑張るさ。」 「あは、待ってるからね〜。」 「まぁ慎ましく待ってなさい。」 「あはは、何それ〜。ねっ?」 蘭が顔を寄せてくる。 俺はそれに唇を重ねる。 「はむっ……くちゅ…ちゅる……」 「ぷはぁっ。うん、これでまた半年頑張る元気貰ったよ。」 「俺も蘭に会うために頑張りますか。」 「頑張れ!それじゃあね。」 「それじゃあまた一月に。」 「うん。」 俺は、蘭の精一杯の空元気な眼差しを後ろに搭乗口へと入る。 さあ勉強&バイト地獄の始まりだ。 寂しくなんかない。 精一杯自分を元気づける。 逢ひ見ての 後の心にくらぶれば 昔は時を思はざりけり
329 :
292 :2007/07/07(土) 22:00:04 ID:rytTEZMs
七夕ネタです。 今さっき七夕だったことに気付いたんであんまり練れてませんけど、生暖かい目で読んでやってください。 感想、批評待ってます。 最後の和歌は百人一首から貰いました。 今回の話は全てこれが元です。 p.s 題名入れ忘れたorz 保管庫管理人さん、すいませんが [七夕な日] でお願いします。
>>329 GJでした〜、せつないねぇ…
和歌とかを見ると、やっぱり日本語って綺麗だなって思います。日本人でよかった。
GJです! そっか、今日は七夕なんですなぁ……。全然気付かなかったぜ……。
投下待ってる
>>329 GJ! こういう幼馴染も良いなぁ!!
しかしまた少し過疎気味だな。何か雑談したいなぁ。
前は幼馴染が出てくるゲームで盛り上がってたが、他にもないかな? まぁゲーム以外の話題でも良いんだが。
個人的には英雄戦記・空の軌跡の主人公二人が良い感じ。でも幼馴染というよりは家族に近いかもしれないなぁ。
エロゲーやってたら幼馴染なんて一杯出てくるよ!!
1. 町と人って、似てると思う。 いつも見慣れた町並みに、突然工事やってることってあるでしょ? そのとき、「あれ、ここってもともと何が建ってたっけ?」って思っても思い出せない。 で、新しい家なりビルなりお店なりが建つ。 そうしてしばらくするとそれもまた見慣れた町並みになっていって。 ふと気がつくと工事があったことも、もとは違う建物だったことも忘れてしまう。 それと同じで、人が変わるときって、 「変わったことは分かっても、何が変わったかは思い出せない」 ものだったりする。 私の家と学校のあるこの町だって、そんな感じでちょっとずつ変わっていってるはず。 毎日通う登下校の道だって、何も新しいものは無いようで、ちょっとずつ変わる。 そんな風に付け加わったり、無くなったりして町も人も変わっていく。 何かが新しく、何かが忘れられる。 そう―― たとえば、私の一年前の登下校にはなかった要素が、今私の目の前にはある。 女の子みたいな端正な顔を、ちょっと大き目の学ランに乗せた男の子。 望月近衛、とか。 「最近、よく一緒に帰るよね」 不意にそう言ったら、望月近衛は驚いたようだった。 「そうですっけ?」 意外そうな顔に、私はうなずき返す。 いつもの学校からの帰り道。 私はふと「かつては一緒によく帰った相手」が変わっていることに気づいたわけ。 「毎日とは言わないけど、三日に二日は一緒じゃない? そりゃお隣さんの学校に通ってるし、お互い帰宅部だから不思議じゃないけど。 でも――いつからだろうね?」 望月の通う北星高校と、私の聖マッダレーナ女子はお隣同士。 当然登下校時には二つの学校の生徒が同じ道を交じり合って歩く。 けれど、私たちみたいに二人で歩いてる人は少なかったりする。 異性との交際を禁止されてるわけじゃないけど、うちの学校はばりばりのカトリック。 やっぱりそういうことにはちょっと奥手だったり。 それに北星はエリートだから、ちょっと気後れもある。 もちろんこれだけ近いとお付き合いしてるカップルも結構いるらしい。 でも、おおっぴらにしてる人は少ない。
「――いつからでしょうね?」 微笑みながら、望月は自分の頬をこりこりと掻いた。 しばらく考えた返事は、当たり障りのないものだった。 実は問いを発してから、私はしまったと思っていた。 私たちが知り合ったきっかけは、あまり楽しい記憶じゃない。 彼にとっても、私にとってもそれは失恋の記憶。 かつて私が一緒に登下校した相手。古鷹青葉に告白したのが望月近衛。 そして、青葉の幼なじみの「アイツ」を好きになったのが―― 結局、青葉は私と毎日一緒に登下校することはなくなった。 十何年も続いた関係に楔を打ち込むには、私も望月も新参者過ぎた。 もちろん、青葉と私は今でも親友だけど、でも青葉には別に帰る相手が出来たってわけ。 (そうか) 私は小さく独りごちた。 余り者同士がくっついて、いつの間にか安定しちゃってる。 それが今の私たち。 私は今日の化学の授業を思い出していた。 化学反応と一緒だ。 あまった原子がイオンのままではいられなくて、あまった物同士新しい分子を作る。 それだけのことだったんだ。 「……そういえば、例のいとこの人とはうまくいってます?」 話題の不穏さを感じたのか、望月が急に尋ねた。 もちろん私も不愉快な話題からの変更に不服はないから、うまく調子を合わせる。 「そうね、やっと普通の家族になったって感じ」 とは言いつつ、私は先日のことを思い出してちょっとだけ笑った。 私が軽く裕輔にキスしたときのことを。 望月がそれを見つける前に私は笑いを隠し、隣の男に聞いてみた。 「ねえ、望月ってお姉さんいたよね?」 「ええ三人」 「その人たちと、普段どれくらいスキンシップする?」 望月ははあ?と一瞬すっとんきょうな顔をしたあと、すぐに私の言いたいことを悟った。 あごに手をあて、考えているポーズ。 「そうですねぇ……あんまりしない方ですかね。たまに頭撫でられたり。 こっちからはしませんよ。流石に肉親とはいえ女性ですからね。 小さいころはよく『ほっぺにちゅう』とかされてましたけど」 「やっぱそうよねー」 腕組みして、うんうんと私はうなずく。 私が黙ってしまったので、望月もそれ以上何も聞かなかった。 二人しててくてくと住宅街を歩く。 もうそこの角を曲がれば、私の住むマンションが見える、という所まで来たときだった。 突然私たちの目の前に、二つの影。 「なっちゃん今帰り?」 「あ、裕輔さん」 問題の、我がいとこ殿。 確かに私の帰宅時間と裕輔が大学から戻る時間は結構近いけど…… 家の外でばったり出会うなんて初めてだった。 裕輔の視線が、隣にいる望月の方をちらちらと動くのが分かった。 なんでだろ、緊張してきちゃった。冷や汗が出てきそう。
「ひさしぶり、那智子ちゃん」 女の人の声に、固まった空気が流れ出した。 よく見ると裕輔の隣に髪の長い女性の姿。 軽く会釈をしたので、私も慌てて頭を下げる。 「じゃ、私はここで。また電話するから」 そういうと、その女性はさっさと駅の方へと歩いていった。 春風に、ロングヘアがふわっと巻き上がるのを、私たちは見送る。 「……友達?」 裕輔の声に、また私はどきっとした。 「う、うん。隣の高校に通ってる、望月くん」 望月が黙って頭を下げる。 男同士の、はじめまして、という挨拶。 何、このぎこちなさは? 「……じゃあ、妙高さん。僕もここで」 望月は挨拶が終わると、逃げるように去っていった。私の方をちらりとも見ず。 私と裕輔は、取り残されたようにお互いの連れが去った方を黙って見守っていた。
2. 「誤解して欲しくないんですけど」 帰って制服を着替え、台所でいつものお茶の時間になったところで私はきっぱりと言った。 「あの男の子は彼氏とかじゃありませんから」 湯のみをどん、と置いて、私は裕輔を見た。 目を丸くする裕輔。 「誤解してましたね」 「ごめん」 私の表情が険しいのに気づいて、小さく頭を下げる。 最近気づいたのだけれど、こうやって少しずつ優位を取り戻していくべきかもしれない。 二つ年上ってだけで、大きな顔されたら嫌だもん。 とくに過去の話になると私は知らない話で一方的にうなずくしかない。 でも今の話なら十分逆転可能。 っていうか、裕輔けっこう女の子苦手と見た。 「こ、こっちも誤解して欲しくないんだけど」 「あの人、確か千代田さんでしたよね。今年のお正月に会った」 裕輔が言いつくろおうとするのを制するように、私は言った。 どこかで見覚えがあると思ったら、お正月に裕輔と初詣に行ったとき会った人だ。 で、私は二人の関係を誤解して。 不貞腐れて帰ってきてゲームセンターで五千円も散財して損しちゃった。 それはともかく。 「彼女じゃないことぐらい見たら分かりますよーだ」 私が鼻で笑うと、流石に裕輔も堪えたらしい。 椅子に座ったまま肩を落として、うつむいてしまった。 しばらく向かい合って私はお茶をすすり、裕輔はがっくりと下を見ていた。 日のさす台所は、そんな私たちをゆったりと受け止めている。 目の前の裕輔がなんだか、かわいい。写真の中の小さいころの裕輔みたい。 それを見ていると、むくむくといたずら心というか意地悪心がわいてきた。 私は、今日はちょっとSになることにする。 「っていうか、裕輔さん女の人とお付き合いしたことないんでしょ?」 「ぐっ」 まるで追い討ちをかけられたゲームキャラみたいに、裕輔はうめいた。 顔を伏せたまま、上目づかいに私の方をそっと伺ってる。 何で分かるんだって顔。分かるわよ、この前の反応見てれば。 「キスとかで、動揺しすぎですからー」 棒読みで言ってあげたら、ますます苦虫を噛み潰したような顔。 「で、でもいくらなんでもキスはやりすぎでしょう!? 親戚とはいえ、お互い大人なんだから……」 そのとき、私は初めてちょっとだけ気分が悪くなった。 あのときのキスは、私の精一杯の気持ちだった。 遊びでするほど私は節操がないわけじゃないし、裕輔が大事だから、好きだからこそ、だ。 それなのに裕輔はそのことに全然気づいてないらしい。 ちょっと、お仕置きしてあげなくてはいけない。 「今日会った男の子、覚えてます?」 「……? ああ、望月くんだっけ?」 「彼、お姉さんが三人もいるんですけど、スキンシップでキスは当たり前だって」 しれっとした顔で嘘をつく。 確かに当たり前だ。「小さいときは」というのは黙っておいた。 対象が唇じゃなくて、ほっぺたっていうのも、まあこの際だから黙っておいた。
「よよよ他所にはよその家の事情があるわけで、僕らは……!」 「裕輔さん、そんなに私にキスされるのがいや?」 この台詞は効いた。 ちょっとのどを詰まらせながら、上目づかいで、泣きそうな顔で。 私って女優の才能があるのかしら。 暇だし、こんど演劇部の扉でも叩いてみよう。二年からでも入れるのかな。 なんてことを考えながら、私は裕輔の対面の席を立って、隣の椅子に腰を下ろす。 覗き込むように裕輔の顔を見る私を、裕輔の泳いだ視線が捉える。 気持ちをなだめるように、私は裕輔の手を握ってそっと膝においた。 窓の外の鳥の声まではっきり聞こえる。 私たちはそれぐらい黙ったままだった。 裕輔の喉仏が、ごくりと動くのがはっきりと分かった。 「……慣れなきゃいけないですよね」 そういうと私は唇を近づける。 ふにゅっ。 私たちの唇が重なり、ぬくもりがお互いの唇を通して伝わってきた。 裕輔の唇、男のくせに妙にぷにゅぷにゅしてる。 まるでグミみたいな弾力。 私はそれを味わうように、何度かぐっと唇を押し付けた。 そのたび、裕輔は逃げようとして、でも私に怒られるのが怖くてぐっと踏ん張る。 それが面白くて、私は何度も何度も、裕輔の唇の弾力を楽しんだ。 「ぷはっ」 息が続かなくなったところで、私はようやく裕輔を解放してあげた。 新鮮な空気を胸いっぱい吸い込みながら、はにかむ。 「いい子いい子、ちゃんと逃げなかったですね」 そう言って裕輔の頭を撫でてあげる。 裕輔は相変わらず顔をちょっと赤くしたまま、私の顔をじっと見ていた。 「どうですか? スキンシップ、悪くないでしょ」 「なっちゃん……いいのかな」 かすれた声が、裕輔の緊張をはっきりと伝えていた。 「いやその、嫌ってわけじゃないんだけど、その…… なっちゃんはいいのかな…… 前のときに聞くべきだったかもしれないけど、その、初めての相手が……」 余りの古風さに、私はちょっと吹き出してしまった。 まるでおじさんみたいだけど、それが裕輔には妙にふさわしく思えた。 「ご心配なく。ソフトキスぐらい、ちゃんと初めては好きな人と済ませましたから」 ――私がむりやり奪ったファーストキス。 思えば、青葉に対する酷い裏切りかもしれない。 大好きな幼なじみと、目の前でむりやりキスするなんて。 そのことを私は、なぜか今まで当然の権利のように思っていた。 でも裕輔に問われて初めて気づいた。 それは、青葉にとっても、「アイツ」にとってもすごく悪いことだったって。 私、なんで気がつかなかったんだろう。 こんなに、人を傷つけていたことに。
3. 「なっちゃん、大丈夫? ……どうしたの?」 私の顔が翳ったのを、裕輔は見逃さなかった。 慌てて我に返る。 今は弱い自分を見せたくなかった。特に裕輔には。 「な、なんでもないですよっ。 そんなことより、裕輔さんこそ初めては私でよかったんですか?」 してしまった後に聞いたって、もう遅いんだけど。 でも、私は裕輔が「かまわないよ」と言ってくれることを半ば期待して尋ねた。 裕輔はやさしいからそう言ってくれると信じてた……つまり、私はずるい女ってわけ。 「ううん」 ところが、裕輔は首を横に振った。 私の心臓が跳ね上がりそうになる。 だが、その意味は私が思っているのとは違った。 「僕も、初めてはすましちゃったからね。 残念ながら、『好きな人』とは言い切れない相手だけど」 苦笑しつつ、裕輔はそのときの経験を反芻するように首を何度かひねった。 「……意外」 「失礼だな、なっちゃん」 私たちはそんな風に笑いあった。 笑顔で見詰め合うと、私はほんの一瞬だけど、さっきの嫌な思いを忘れることが出来た。 「じゃあ裕輔さん、聞いていいですか?」 「何?」 どんな質問でもどうぞ、とでも言いたげに、裕輔は悠然と構えている。 まるで生徒の質問に答える大学の教授みたいな感じで。 「ディープキスは、したことあります?」 「もちろん、初めてがそれだったから」 おお、と目を丸くする私に、裕輔は笑みを浮かべる余裕すらあった。 ――くそう、なんだかくやしい。 そう思った瞬間、私はもっと過激なことを口にしていた。 「じゃあ、セックスしたことは?」 裕輔の体が、一瞬硬直して、私の顔をまじまじと見た。 私はそれからずっと後になって、そんなことを聞いたことが、 「私たちの関係を変えてしまったんだ」 と気づいたのだけれど。 でもその時はなんとも思っていなかった。 むしろ肉親同士だから出来る、ぶっちゃけ話のひとつだと、そう思っていた。 「…………ある、よ」 長い沈黙の後、短い答えが返ってきた。 でもそれを口にした裕輔の顔は、なぜか苦々しいものを口にしたような。 そんな表情を作っていた。 「――相手は?」 裕輔の答えを聞いて、私は初めてそれは触れてはいけないことだったと気づいた。 私のファーストキスの思い出と同じで、それは甘いものじゃなかったのだ。
「……友人さ、僕が昔よく落ち込んでたときに、親身になって励ましてくれた。 あるとき、その人の部屋で相談に乗ってもらってたときにね。 相手が『なんか落ち込んできたから、お酒でも飲もうよ!』って。 自販機で買ってきたビールを二人で飲んで、酔っ払って―― そのまま、関係を持ってしまった」 裕輔は罪を告白する容疑者みたいに肩を落としたまま言った。 「相手には彼氏がいた。僕の知ってる人だ。共通の友人さ。 彼女は『気にすることないよ。私がしたくなったんだから、仕方ないじゃん』って。 『体で慰めてもらったなんて思う必要ないから』って。 でも――結局ばれてしまって、二人は別れることになった。それ以来、僕は……」 「女の人、苦手になった」 裕輔はじっと目を伏せたままだった。 それがとても苦しい思い出だってことぐらい、私にも分かった。 相手の彼氏に、二人が関係を持ったことを告げたのは、彼女自身なんじゃないか。 私はふとそんな気がした。 そして、裕輔はそれまで黙って友人をだまし続けた自分を責めた。 裕輔はそんな人だ。 「なっちゃん、僕は――」 言葉は続かなかった。 私は立ち上がり、もう一度裕輔の唇をふさいでいた。 離れないよう、両手でぎゅっと裕輔の頭を抱いて、彼の唇をついばむ。 ほんのり湿った唇同士が、吸い付くように何度も重なる。 とにかく、もう裕輔にはしゃべって欲しくなかった。 そうやって、自分を責めるのは止めて欲しい。裕輔は何もかも自分のせいにしたがる。 それは立派なことだけど、それだけじゃ駄目だ。 お前の生意気な口をふさいでやるぜ、なんて。 駄目なシナリオのテレビドラマでも最近じゃありえないけれど。 私はそうすることでしか、裕輔の口をふさぐことが出来なかった。 「……裕輔さん」 驚き、戸惑う裕輔の耳元で、私はそっと囁く。 「私に、素敵なキスの思い出をくれませんか?」 自分でも陳腐で恥ずかしい台詞だと思った。 だけど、そうでも言わなきゃ、裕輔は私に――してくれないだろう。 裕輔と向かいあって、私は彼の膝にまたがるように座る。 そして、黙って裕輔の前で目を閉じた。 ぎゅっと私の背中を抱きしめる大きな手。 顔が裕輔の胸に埋まる。 お互いの心臓の音がどきどきと反響しあうみたいに高く大きく聞こえる。 私は怖くて、目をつぶったままだった。 裕輔の手が、優しく私に顔を上げるよう促す。 つ、と持ち上げた唇に、裕輔のそれが重なった。
次の瞬間、暖かく濡れた塊が、私の唇を押し割って入ってきた。 「……ンっ」 怖くて歯をかみ締める。 すると、裕輔の手が私の短く切りそろえた後ろ髪を、そっと撫でてくれた。 それだけで、私は体中の力が抜けていく。 裕輔の舌が、私の舌に触れる。 まず先っぽをちろちろと触れ、何度かつつくように刺激してくる。 私の舌が応えるのを確かめてから、裕輔は絡ませるように舌を奥へと差し込んできた。 しばらく私の口の中で悶えていた裕輔は、今度は私の口の内側をつんつんと刺激していく。 「んー……んっ――――」 そのたび、私はちいさなうめき声を上げた。 くちゅくちゅと唾液が交じり合う音が、耳の奥の方から伝わってくる。 私は裕輔のされるがままに、深いキスを味わい続けた。 ちゅぽんっ やがて、大きな音を立てて裕輔の舌が抜かれた。 「ふぅっ」 ため息のような彼の息づかいに、私も自分の息が上がっているのに気づく。 それは鼓動が張り裂けそうなのと同じくらい、自分が興奮しているのを教えてくれた。 「裕輔さん……」 私は彼の顔を見ることも出来ず、ぎゅっと胸にしがみついたまま彼の名を呼んだ。 「うまく出来たかな」 耳に心地よい低い声が、胸を通して響く。 「――うん」 うなずく私を、もう一度裕輔は優しく撫でてくれた。 「裕輔さん」 「何?」 ようやく、私は顔をあげる。 彼の視線を避けるように、耳元に顔を寄せて。 「……あの、今度は」 「うん」 首筋にすがりつくように抱きつく私の背中に、裕輔の手があたる。 「……今度は、ですね」 「今度は、何?」 こんなことを言ったら、いやらしい女の子だと思われないだろうか。 変な子だと軽蔑されないだろうか。 私はそんなことばかり考えていた。 でも、胸のドキドキをおさめるには、言ってしまうしかなかった。 裕輔の耳たぶに触れるぐらい唇を寄せて、私は勇気を出して囁いた。 「今度は、私が裕輔さんの口に舌を……」
「ただいまーっ!」 突然、玄関が開く音がした。 熱いやかんに触れたみたいに、私たちはぱっと体を離す。 飛ぶような速さで、私はもともと座っていた裕輔の対面の席に戻った。 今までのことをごまかすように、冷め切ったお茶を飲むふり。 そこに、声の主……お母さんが帰ってきた。 「あら、二人とも帰ってたの? ベル鳴らしたのに……」 「あ、あれ? そう?」 心臓がマシンガンみたいにどきどきと鳴った。 でも、買い物袋をさげたお母さんはそんなことは気にも止めなかった。 「やーねー薄情な娘は。まあいいわ、今日は那智子の好きなグラタンにするから。 湯のみ片付けて、手伝ってちょうだい」 「は、はーい」 私は裕輔の方を見ないように、二人分の湯飲みを持って流しへと向かう。 でも、どこかに名残惜しさがあったに違いない。 私はそっと裕輔の方を盗み見た。 その瞬間、裕輔はすばやくウインクをして見せた。 ――うれしい。 安堵のため息をぐっとかみ殺し、私は微笑む。 そして、お母さんの目を盗んで、そっと裕輔に投げキスをして見せた。
4. その日から、私と裕輔のスキンシップは日ごとに激しくなっていった。 最初は帰宅後二人でお茶を飲んでるとき、軽くキスをするぐらい。 最後の最後にちょっと舌をいれるぐらいだった。 そのうち、朝起きて洗面所で二人っきりになったときもするようになった。 おはよう代わりに軽いキス。 二人で「ミント臭いね」なんて笑いあいながら、歯磨きしたあとにディープキス。 いつお父さんやお母さんに見られるかと思いながらするキスは、すごく興奮した。 裕輔とキスしたあと、何食わぬ顔で親とご飯を食べ、学校に行く。 私がさっきまでそんなことをしてたなんて、親も先生も友達も知らない。 それだけで私はどきどきした。 帰ってきたら、もちろんお帰りなさいのキス。 お母さんは大体夕方まで買い物とか用事でいないから、今度はおおっぴらに。 玄関で軽く触れ合って、二人で台所でお茶。 最初は隣に座って、目があったらキスするって感じだったけど、段々大胆になった。 そのうちお茶なんてどうでもよくなっていた。 私は裕輔の膝にまたがり、向かい合って抱き合う。 そのまま飽きるまでずっと―― 舌を絡め、耳たぶを愛撫しあい、首筋をつーっと舐める。 すぐ耳元で聞こえる互いの荒い息づかい。ぴちゃぴちゃという唾液の音。 お茶が冷め切って、お母さんが騒々しく帰ってくるまで。 私たちはキスばかりするようになった。 私たちはそのうち、家の外でもスキンシップをはかるようになった。 お互い何も言わなくても、顔を寄せ合うだけで何がしたいかは分かるもの。 私たちのお気に入りの場所は、マンションのエレベーターだった。 朝、二人揃って家を出る。 エレベーターに乗り込み、二人きりになった瞬間、私たちは抱き合う。 かばんを床に投げ出し、腕を絡め、ためらいなく舌を差し入れあう。 狭いエレベーターいっぱいに、くちゅくちゅと唾液の混じりあう音を響かせる。 互いに伸ばした舌をくねらせ、舐めあう。 もしこのエレベーターに監視カメラがついていたら、私たちのしてることは誰かに丸見え。 そんなことを意識すると、私はたまらなく興奮した。 やがてエレベーターが止まりドアが開く。 何気ない顔で二人は外に出る。 これが、新しい朝の儀式に加わった。
そんな風に、半月ほどがたった。 その日も私ははやる心を抑えながら、家へと急いでいた。 ドアを開ければ裕輔がいる。 今日もお母さんが帰ってくるまで、好きなだけ彼を貪ることが出来る。 駆け出したくなるのを我慢しながら、私はマンションのエレベーターに乗った。 ドアが開くと、その隙間をすり抜けるようにまっすぐ家のドアへ。 かばんから鍵を取り出し、馴れた手つきで開ける。 「ただいまー!」 ドアが閉まりきらないうちに、私は大声で裕輔を呼んでいた。 「……裕輔さん? いないの?」 台所は空っぽだった。そこに人のいた形跡はない。 お母さんはいつものように留守だった。どうせ友達と喫茶店で話しこんでいるんだろう。 念のため居間を覗く。 カーテンは閉め切られていて、薄暗かった。 私は照明のスイッチを手探りで入れると、外の明かりを取り込むためカーテンを開けた。 窓から見える町は静かで、何事もない平和な午後四時が目の前に広がっている。 私は改めて耳をすます。 家はしんと静まり返っていて、遠くから車の走る音が聞こえるほどだった。 「……裕輔さーん?」 私は恐る恐る、台所の奥、かつては衣裳部屋だった裕輔の自室のドアを開けた。 細長い部屋は真っ暗で、ほんのわずかにカビの匂いがした。 私はかばんを台所の椅子に置くと、裕輔の部屋に入っていく。 「……どこか、出かけたのかな?」 部屋にはいつも裕輔が大学に行くときに使うかばんが置いてあった。 壁の洋服かけには、裕輔が最近よく着ているジャケット。 家に一度戻ったことは間違いない。 私はジャケットをそっと手にとってみた。 男の人の中でも背が高い方の裕輔は、私と比べれば抜群に大きい。 そのジャケットも私にはぶかぶかで、ハーフコートみたいに思えた。 「ふふふ……」 制服の上から裕輔のジャケットを羽織る。 腕を伸ばしても、袖口からは私の指先しか見えない。 その瞬間、ふわっと裕輔の匂いがした。 毎日抱きしめられるときに嗅ぐ、あの心地よい、安心できる匂い。 私は思わず自分の体を抱きしめる。 裕輔に抱きしめられているような、そんな錯覚を覚える。 ぺたり、と床に座り込む。 背中に、裕輔を感じる。 私をしっかり抱きしめてくれる彼のぬくもりを。 私は、壁際に畳んで積んであった裕輔の布団に体をもたせかけた。 布団のぬくもりと裕輔の匂いが、私を裕輔に包まれているような気分にしてくれた。 「裕輔……」 声に出してみて、私は初めてはっとした。 裕輔、のあとに私は何を言おうとしてるんだろう。 「好き」? それとも、何か違う言葉? 違う、と私は心の中でその感情を強く否定した。 ――私はまだ「アイツ」が好き。 青葉のものになってしまった、あの鈍感で生意気なアイツが。 夜中に泣いてしまうほど好きだった一年前とは違うけど、でもまだ心が残っている。
じゃあ裕輔は? 裕輔への感情は、幼なじみのいとこへのもの? それとも優しい年上のお兄さんへのもの? 違う。 だったら私はあんな風にキスなんてしない。 あれを私たちは「スキンシップ」と呼んでるけれど、それはとんでもないごまかしだ。 ――私は、裕輔と一つになりたいと思ってる。 そう考えると、やはり「裕輔」と呼びかけたあとに続く言葉は…… 「裕輔……」 そのとき、私は初めてずっと我慢していた戒めを解いた。 裕輔への冒涜だと思ったから、決してやろうとはしなかったこと。 (裕輔……ごめんね) 心の中で謝ってから、私はそっと手を内股へと伸ばし始めた。 ごわごわとした裕輔のジャケットの袖が、セーラー服のスカートの中へ入っていく。 太ももの内側に当たる、その布地の感覚に私は体を震わせた。 私はまだ一度も「そういうこと」をしたことがなかった。 だから指先がショーツに触れた瞬間、ためらい、手を止めてしまった。 直接触るの、怖い。 私はさっきのジャケットの感覚を思い出した。 腰を浮かすと、スカートの中に差し入れた自分の腕を、内股に挟む。 そのまま、腕をわずかに動かしてみた。 ごわごわしたジャケットが、薄いショーツ越しに私のあそこをこする。 「ふぅんっ……!」 自分でもびっくりするぐらい、簡単に声が出た。 背中を痺れみたいな快感が駆け上がっていく――初めての快感。 一度知ってしまったら、怖くないと分かってしまったら、もう止めることは出来なかった。 何度も何度も、ジャケットの袖口を自分の陰部にこすりつける。 「くぅんっ……ぅぅっ……あんっ……!」 嬌声をかみ殺しながら、私は飽きることなく腕を上下させた。 だんだん、腕を動かす速度は早くなり、力は強くなっていく。 もう私には自分で腕を動かしているという感覚は全くなかった。 裕輔。 裕輔が私を愛撫してくれている。 私にはそうとしか思えなかった。 「私も……動くね…………裕輔……」 無意識につぶやくと、私は膝立ちになり、腕の動きにあわせて腰を上下させ始めた。 「うんっ……ふぐぅっ……んっ……んっ……! ふぅん……!!」 私はだんだん声を殺すことも出来なくなった。 頭の中に裕輔の顔が一杯に浮かび、微笑みながら私を快楽へと誘っている―― そんなイメージに包まれたまま、私は無我夢中で腰を振り続けた。
「裕輔……ゆうすけ……裕輔さん……裕輔さん……!」 顔はほてったように熱くなり、内股がまるで真夏の不快な汗をかいたように濡れていく。 もう、我慢できなかった。 もどかしげにショーツをずらすと、むき出しの柔らかな丘に手をあてがう。 ジャケットの袖越しに、割れ目に沿ってぴったりと指をそえると、小刻みにこすり始める。 「裕輔さん……裕輔さん……ゆうすけさんっ…………!」 何度も彼の名を呼ぶ。 呼ぶたびにしびれるような快感が私を襲った。 「ゆうすけさん……ゆうすけさん――!」 「……なっちゃん?」 低い声が、私の動きを止めた。 もちろん声の主は分かっている。 はあはあと荒い息を吐きながら、私はのろのろと振り返る。 部屋の扉のところに、彼が立っていた。 薄暗い部屋の中からでは、彼の表情は分からない。 でも、きっと驚いているんだろうということは考えなくても分かった。 「ゆう、すけ……さん……おかえり…………なさい……」 頬を上気させながら、私は微笑む。 裕輔の方を向き直って、ぺたりと座り込む。 そろそろと両脚を開きながら、私は彼に言った。 「ね――――今日も――きす――しよう?」 (続く)
あと3-4回で終わる予定です。 何とかこれから月1ぐらいのペースで落としていけたらなあと思っております。 ただ今は那智子をどうエッチな女の子にしたてあげるかしか考えておりません。 では。
こ、これは波乱の予感が!GJ
GJ!!キスシーンだけでおっきした。那智子エロいよ那智子。下さい。
なちこえろいよなちこ(゚∀゚)=3
GJ!! 男を足を開いて迎えるだなんて…… 那智子……いやらしい子……!
うにさんはまだかねぇ
お前に言ってんじゃないんだ いちいちレスすんな。カスが
>354 金髪ヤンキー娘。ぶっきらぼうだけど中身はいい娘 >355 真面目な眼鏡。口が悪いが幼馴染みの354のことが放っておけない。 回転ベルトの中心で御寿司屋さんがあれこれせっせと握りまくっている。 入り口近くにはきっちり学ランを着込んだ少年が座っていて、彼はサラダ巻を 頬張りつつも皿の色を並べなおし、それから眼鏡の位置を直している。 隣では長いプリーツスカートの膝と膝の間に細い手を置き、金髪の少女がぼやいている。 「うにさんはまだかねぇ」 「乞食は黙ってろ」 「お前に言ってんじゃないんだ いちいち返事すんな。カスが」 つっかかる声にも何処吹く風で少年は新しく玉子焼きの皿を取った。 一皿百円〜の回転寿司も、深夜になると客は目立って少なくなる。 (立地最悪な田舎に良くある潰れかけのチェーン店だというのも理由だったが) 「カス?いい口の利き方するじゃないか」 「気取ってんじゃねえ!大体てめーはむかしっからそうなん」 「誰のおごりだ。誰の」 積みあがった少女の皿を眺めて念を押すと、金髪がしおれて呻き声をだした。 「家の前でめそめそ泣くほどお腹がすいてるんなら、 『ありがとうございますいただきます一生ついていきます』と言いながら素直に食え。分かったら食え」 空になった緑茶を湯飲みに継ぎ足して、少年は次の獲物を知らぬ顔で物色しはじめた。 少女は泣くように呟いてから緑茶をちびちびとすすって、うにが出てくるのを夜更けの回転寿司でもうしばらく待つ。 「……この、おせっかい」 という電波を受信
保管庫が見れなくなってるのは俺だけなのだろうか・・・・・・
ページが移動してるね トップページからいってみ?
みれますた。ありがとう。
>>357 どうです、エロパロ専属萌え殺し和ませ職人として
働いてみては
投下します!
六月も半ばを過ぎたある日の夜。正刻は宮原家のリビングにいた。 しかしいつもは我が家のようにくつろいでいるその場所で、彼は非常に緊張し、小さくなっていた。 その原因は、テーブルの上に並べられた実力テストの成績であった。 向かいには慎吾と亜衣が座り、両脇は唯衣と舞衣に固められるという状態の中、正刻は家長である慎吾の言葉を待った。 やがて、ふむぅと一言呟くと、慎吾は正刻に言った。 「……しかし、君は相変わらず極端な成績を取るねぇ、正刻君……。」 その言葉に正刻は首をすくめて、小さな声で済みません、と呟いた。 その様子に慎吾は思わず笑った。 「いや、そんなに小さくならなくてもいいよ。トータルで見ればそれなりの成績だしね。ただ……ねぇ?」 そう言って慎吾は隣に座る亜衣に問いかけた。亜衣も苦笑しながら答えた。 「そうねぇ……。確かにトータルで見れば良いけど、それでもここまで教科によって上下がはっきりしてると……ねぇ。」 慎吾も亜衣も揃って苦笑する。それほど正刻の成績にはばらつきがあった。 正刻は得意科目は校内でもトップクラスなのだが、反対に苦手科目は赤点を取ってしまう程に駄目だった。 具体的に言うと、国語全般、英語、社会全般は得意だし好きなのだが、数学、理科系は壊滅的に苦手で嫌いだった。 一年生三学期の期末テストにおいては国語系・英語で学年トップを取ったにも関わらず、数学・理科系が軒並み赤点という、ある意味 偉業を成し遂げてしまった。 その時、数学や理科の教師達から「お前は俺たちの事がそんなに嫌いか!?」と説教されたりしたのも伝説となっている。 その教訓を踏まえ、二年一学期の中間テストでは何とか頑張り赤点を回避することに成功した。 しかし、つい先日行なわれた期末テストへの腕試しともいえる実力テストで、彼はまたやってしまった。 そのため、今宮原家で彼は小さくなっているのである。 「まぁ、君の保護者代わりである僕らに言わせると、苦手な科目があるのは仕方ないけど、せめて赤点は回避して欲しいという所かな?」 「そうね。それに期末テストで赤点取っちゃったら、夏休みは補習三昧になっちゃうでしょ? そうしたら、毎年行っている旅行にも いけなくなっちゃうわよ? 他にも色々イベントがあるのに、全然楽しめなくなっちゃうわよ?」 慎吾と亜衣は、正刻にそう言った。 ちなみに亜衣が言っている旅行であるが、正刻と宮原家、更に場合によっては親しい人々……鈴音や佐伯姉妹や、その他の友人達……と 一緒に慎吾や兵馬の知り合いが経営している海沿いの温泉旅館へ行くものである。これは皆が楽しみにしているものであり、それは正刻 も同様であった。 「そうですね……。確かにこのままじゃ不味いですものね……。俺、必ず赤点だけは回避してみせますよ!!」 うな垂れていた顔を上げ、決然と言う正刻。すると、横からにゅっと腕が伸びてきて、正刻を抱きかかえた。 「流石は正刻だ。それでこそ私が愛した男! 愛い奴めそらそら!」 そう言って正刻を抱きしめるのはもちろん舞衣である。正刻を横から抱き、その頭を自らのたわわな胸に埋めろように抱え込む。 「ちょ、ちょっと! 恥ずかしい真似は止めなさいよ舞衣!!」 すると当然唯衣は過激に反応し、舞衣の腕をほどいて正刻を救出する。正刻の顔は、息苦しさと恥ずかしさと気持ちよさで真っ赤であった。 「……何よその顔は。あんた、まさかあのまま舞衣の胸に埋もれていたかった、なんて言うんじゃないでしょうねぇ? ええ?」 怖い笑顔を浮かべながら正刻に詰め寄る唯衣。正刻は気持ちよかったという負い目があるため気まずそうに目を逸らすことしか出来ない。
と、そんな状況を制するように亜衣が言った。 「だけど正刻君。あなた一人で勉強大丈夫なの?」 「う……。そ、そこは何とか気合と根性で……。」 「あんたねぇ……。気合と根性で何とかなるなら、そもそもこんな状態に陥ったりしないでしょうが……。」 亜衣の心配に精神論で応えようとした正刻であったが、唯衣に冷静につっこまれて沈黙してしまう。 そんな正刻を見ていた宮原姉妹は、顔を見合わせるとやれやれといった風に笑った。 「何、心配は無用だ母さん、正刻。テストまで私と唯衣、それに鈴音で正刻にみっちりと勉強を教えてやるさ。」 「ま、舞衣と鈴音がいるなら私の出番は無さそうだけどね。この際だから、あんたと一緒に私もテスト勉強をするわ。一人で集中砲火を 浴びるよりは、仲間がいた方が気が楽でしょ? ね?」 そうして二人は正刻に笑いかける。正刻はしばらくその笑顔を見つめていたが、やがてぺこり、と頭を下げた。 「二人とも、本当に有難うな。恩にきるぜ!」 「何水臭いこと言ってんのよ。困った時はお互い様、私たちの間じゃ当たり前のことでしょ?」 正刻の頭をぽん、と軽く叩きながら唯衣は言った。それに舞衣が続く。 「まったくだ。それに、君が旅行に来れなかったら私も唯衣も悲しいしな。私たち自身のためでもあるのだから気にするな。」 「ちょ、ちょっと舞衣! 私は正刻が来なくたって、別に……!」 「ふぅん? 本当か? ほんっっとーに来なくても良いのか? んん?」 「むぐぅ……そ、それは……っ!!」 顔を赤くしながら悔しそうな顔をする唯衣。それを楽しげに見ながら舞衣は再度正刻に抱きつこうとした。 しかし、彼はそれをするりとかわすとリビングの出口へと歩いていった。 「それじゃあおじさん、亜衣さん、俺は今夜はこれで帰ります。おやすみなさい。」 「何だい正刻君。せっかくだからこのまま泊まっていけば良いのに。」 慎吾にそう誘われた正刻であったが、苦笑しながらそれを断った。 「済みません。でも、おそらく明日あたりから徹底的にしごかれてしまうでしょうから、今夜は自分の布団でゆっくり眠りたいんですよ。」 そう慎吾に言った正刻は、宮原姉妹に顔を向ける。 「それじゃあ唯衣、舞衣! 明日からよろしくな!」 にっと笑ってそう言うと、正刻は家へと帰っていった。 「……さて、では私も明日からの対正刻用の勉強計画でも練っておくか。」 そう呟いて立ち上がる舞衣。その動作に何を感じたのか、唯衣は妹の肩にぽん、と手を置いて言った。 「……先に釘を刺しておくけど、正刻と二人きりで勉強をする時間を作ろうとしないでよ? というか、あんたはその時間で勉強以外の事 をする気満々なんでしょうけどね。でも、絶対にそれは阻止させてもらうから。」 思わず唯衣の顔を見る舞衣。唯衣は妹を笑顔で見つめている。しばらく見つめあっていた姉妹だが、やがて舞衣が先に目を逸らし、深々と 溜息をついた。 「全く……お前には敵わないな。分かったよ。テスト勉強中はそこまで正刻にアプローチはかけないよ。日々のスキンシップはさせてもら うがな。」 「賢明な判断ね。というか、結局はそうした方が正刻のあんたへの好感度もあがると思うけどね。」 二人はそのまま話しながらリビングを出た。そして残された夫婦はというと……。 「いやー、やっぱりあの子達の絡みは面白いわねぇ! 下手な昼ドラよりよっぽどドキドキするわぁ!!」 「い、いや亜衣……。流石に自分の娘や親友の息子をダシにして楽しむってのはちょっと……。」 少し、世知辛いことになっていた。
次の日から勉強会が始まった。期末テストまでは二週間と少し。余裕は無い状況である。 舞衣が組んだ計画を元に、勉強は進んでいった。 ちなみに正刻以外の面子の成績はと言うと、舞衣は各教科ともに死角は無い。トップグループの常連である。 鈴音はやや国語系が弱いが、その分理数系に強く、やはりトップグループである。 唯衣はというと、特に苦手な科目は無いが、得意な科目も無い。強いていうなら現代文のみがやや強い、といったところか。 平均すると、中の上くらいの成績である。それでも正刻に数学や理科を教えるのには十分だと言えた。 そうして時間はあっという間に過ぎ、テスト開始を明後日に控えた土曜日の夕方。 高村家に宮原姉妹と鈴音が集まり、最後の追い込みが行なわれていた。 「ほら正刻! ここはこの公式を使えば……。」 「……ああ成る程! そういう事か!」 熱心に正刻に勉強を教える唯衣。その様子を舞衣と鈴音は少し羨ましそうに見ていた。 成績で唯衣より上位にある二人が正刻に勉強を教えていないのには理由があった。 舞衣も鈴音も天才肌な部分があるため、他人に上手く教える事が出来ないのである。 もちろん時間をかければ何とか教えることも出来るのだが、今回のように時間が無い場合は得策ではない。 そこで採られた方法が、一度唯衣に教え、それを唯衣が正刻に教える、または二人の言っている事を唯衣が通訳するという方法だった。 一見無駄なように見えるが、唯衣は聞き上手で話のポイントを押さえる事に長けていた。 そのため二人が直接正刻に教えるより、一度唯衣を経由した方が正刻に伝わりやすく、更には唯衣自身の勉強にもなるため一石二鳥な訳 なのである。 そんな訳で正刻に教える役を殆ど担当することになった唯衣は、熱心に正刻に勉強を教えていた。 ただ、今回はどういう訳か少し熱心過ぎるようであった。 「おい唯衣……もうぶっ通しで三時間は勉強してるぜ……。そろそろ休憩……というか晩飯にしないか? お前ら今夜は泊まっていくんだろ? 休憩がてら、腕によりをかけて美味いもの作ってやるからさ。」 深い溜息をつき、首や肩をごきり、と鳴らしながら正刻が唯衣に言った。 そう、今夜はテスト前の最後の土日ということで、三人娘は泊まりこんで正刻に勉強を教える予定なのである。 土曜の夜も、日曜の昼間もきっちりと勉強しようということなのだが。 しかし、いくら赤点を回避するためとはいえ、少々きついスケジュールではあった。 放課後は三人娘の誰かと必ず一緒に勉強させられ、部活動や委員会がテスト休みに入ってからは、高村家で連日の勉強会である。 趣味の時間はがりがり削られ、現実逃避をしたくとも女性陣がそれを許してはくれない。 故に、正刻の疲労とストレスはピークに達しようとしていた。 そんな状態の正刻が、せめてもの息抜きにと懇願した食事の準備。しかし、唯衣はすげなくそれを却下する。 「だーめ。食事は私が作るから、あんたは舞衣と鈴音と一緒に勉強してなさい。」 正刻の鼻の頭をちょん、とつついて唯衣は言った。 しかし正刻も流石にもう限界であった。唯衣に対して猛抗議をする。 「何だよ、良いじゃねーか! 大体俺はもう限界なんだよ! これ以上根をつめたらぶっ倒れちまうぜ! それでも良いってのかよこの黒い 髪をポニーテールにした悪魔め!! 略して黒ポニの悪魔って呼んでやるぜこの野郎!!」 正刻は今までの鬱憤を晴らすかのように一気にまくしたてた。それを聞いていた唯衣はこめかみをひくひくとさせていたが、正刻が疲れて いるのも事実だと思ったのか、代替案を出してきた。 「黒ポニの悪魔って何よそれは……。まぁそれはともかく、あんたも頑張ってるのは分かってるから、今夜はあんたの好物をそろえて あげるわ。それでどう?」 それを聞いた正刻は先程とは手のひらを返したように態度を変えた。 「……ピーマンの肉詰めも作ってくれるか?」 「もちろんいいわよ。」 「お前が作った煮物も食べたいんだが……。」 「ちょっと時間がかかっちゃうけど……いいわ、何とかしてあげる。」 唯衣が本当に自分の好物を作ってくれることが分かったせいか、正刻のストレスも幾分か緩和され、やる気が少し出てきた。 「さて、じゃあ舞衣、鈴音、悪いがもう少し付き合ってくれ。」 そう言って教科書に向かい合う正刻。 「もちろんだ。頑張ろうじゃないか正刻。」 「しかしキミは本当にお手軽だねぇ。まぁキミらしいといえばキミらしいけどねぇ。」 そんな彼を舞衣は励ましながら、鈴音は苦笑まじりで勉強を教えていった。
その後、唯衣によって用意された食事を皆で食べ終え、正刻は風呂の用意をしに行き、三人娘はそれぞれ休息をとっていた。 やがて風呂の準備を終えた正刻が女性陣に告げた。 「待たせたな、風呂が沸いたぜー。俺は一番後で良いから、お前ら入っちまえよ。」 そう言ってうーん、と伸びをし、また首や肩を鳴らす正刻。精神的には好物を食べたことで楽になったが、身体の方は疲れが たまっているようであった。 「……よし! では久しぶりに女三人で入るとしようか! 女同士の内緒話もしたいしな。」 その様子を見た舞衣は唯衣と鈴音に言った。鈴音には、少し意味ありげな視線を向けながら。 その視線には気付かずに唯衣は首を傾げた。 「どうしたの舞衣? まぁ別に私は構わないけど……。」 「……まぁ良いんじゃない? たまにはさぁ。久しぶりにこの面子で正刻の家に泊まりに来てるんだし。じゃあ早速行こうか。」 逆に、舞衣の意図を読み取った鈴音は唯衣の腕をとって浴室へと向かおうとする。 「へぇ、お前ら三人仲良く風呂だなんて珍しいな。ま、ゆっくり入ってこいよ。」 正刻はそう言って本を読み出した。三人が入浴している僅かな時間ではあるが、趣味に当てられる時間が出来て嬉しいようである。 「……分かっているとは思うけど正刻、お風呂場には近づかないでよね。もし来たら、トラウマになるくらいの折檻をするからね。」 そんな唯衣の言葉に正刻は思わず苦笑する。 「分かってるって、んな事はしねぇよ。黒ポニの悪魔様の入浴を覗いた日には、どんな呪いをかけられるか分かったもんじゃないからな。」 「……あんた、そのフレーズよっぽど気に入ったみたいね……。私としてはその呼び名はやめて欲しいんだけど……。」 「そうか? 俺は結構合ってると思うんだがなぁ。」 本を読みながらそんなことを言ってくる正刻に、唯衣はなおも言い返そうとした。しかし。 「ほらほら。さっさと行くぞ唯衣。」 「そうだよ。ボク、早くお風呂に入りたいんだから!」 舞衣と鈴音に風呂場へとずるずると引っ張られていった。 その様子を見た正刻はくくっと笑うと、読書へと没頭していった。 高村家の浴室はかなり大きく作られている。湯船も大人が数人入っても余裕があるくらいの大きさだ。 その湯船に浸かって浴槽の縁に背を預け、両腕を乗せながら舞衣が言った。 「……さて、と。では正刻とも離れたことだし、本題を話すとしようか。」 ちなみにFカップに達する胸は惜しげもなくさらされ、ぷかぷかと湯に浮いている。 その様子を同じく湯船に浸かって羨むように、恨めしそうに見ていた唯衣(Cカップ)と鈴音(Bカップ)は、その言葉に我を取り戻し、 視線を舞衣の胸から顔に移動させた。 「……唯衣、お前、少しやり過ぎだ。これじゃあ正刻は試験前に調子を崩して結局赤点を取ってしまうぞ。」 「唯衣、悪いけどボクも舞衣と同意見だよ。熱心なのは良いことだけど、今回はちょっと熱くなり過ぎだよ。」 妹と親友に説教をされた唯衣は「うぅー……。」と唸りながら顔半分を湯に沈め、ぶくぶくぶくと水面を泡立てた。 「大体さぁ、何で今回はこんなに熱心なんだい? 何か理由があるんでしょ?」 その鈴音の問いに、唯衣は顔を若干赤らめながらも依然として泡吹きを行なって答えようとしない。 しかし、そんな抵抗も舞衣が口を開くまでの間しかもたなかった。 「何だ鈴音、分からなかったのか? 唯衣は、夏の旅行に正刻が来れなくなることが嫌で怖くて仕方がなかったんだよ。」 ぶはぁっ!! 舞衣の言葉に反応し、盛大に吹き出してしまう唯衣。舞衣の言葉が当たっているかは一目瞭然の反応と言えた。 「あぁ成る程ねぇ。だからあんなに必死になってたんだ。唯衣も可愛い所があるねぇ。」 そう言って鈴音は唯衣の頬をうりうりと人差し指でぐりぐりと押した。 されるがままになっていた唯衣であったが、いきなりざばぁっ! と立ち上がって二人を見下ろすと、怒鳴るように言った。
「な、何よっ!! 私ばっかりいじめて! 舞衣も鈴音もあいつと一緒に旅行へ行きたくないの!? あいつが来なくっても良いの!? あいつが来ない旅行だなんて、考えたくもないわよっ!! あんた達だってそうじゃないのッ!? ええ!?」 言い終わると唯衣ははぁ、はぁと肩で息をした。舞衣も鈴音も無言であったが、やがて舞衣が言った。 「……唯衣、お前の言いたいことは分かった。だからとりあえず湯に浸かれ。丸見えだぞ。」 「うん、そうだねぇ。いくら女同士とはいえちょっと困っちゃうねぇ。」 鈴音にも言われ、唯衣は己の状態を確認する。 タオルも巻かず、湯船の中で仁王立ち。 それはつまり、胸もあそこも晒しちゃってる状態な訳で……。 「─────ッ!!!」 声にならない悲鳴を上げて、唯衣は物凄い勢いでしゃがみこむ。顔を真っ赤にして先程のように顔半分を湯に沈めた状態をとった。 そんな姉の様子に苦笑しながら舞衣は言った。 「心配するな唯衣。私もお前と同じ気持ちだよ。正刻のいない旅行なんて、これっぽっちの価値も無い。」 「もちろん、ボクだってそうさ。だけど、さ? よく考えてみなよ。正刻がボク達の期待を裏切ったことがあるかい? 自らが口に出した 誓いを、守らなかったことがあるかい?」 鈴音は優しげにそう言った。 「……無い、わよ。あいつが私たちを悲しませるような真似を……するわけがないじゃない。そんなこと、分かってるわよ。だけど……。」 「……不安、だったんだな? それも分かるよ。私だってそうだ。」 舞衣は湯の中でそっと、唯衣の手を握った。唯衣もその手を握り返す。 「だけど、もう大丈夫だよ。正刻は本当に頑張ったよ。このままなら、赤点を回避することくらい余裕さ。」 鈴音が笑顔で二人に言う。舞衣は大きく頷き、唯衣も、不承不承といった感じで頷いた。 「だけど、油断しちゃったら……。」 「ここまで来たら、あとは体調管理に気をつけた方が良いだろう。今まで何もせずにいて、一夜漬けに全てを賭けるというなら話は別だが 正刻は私たちにしごかれてちゃんと力をつけた。だから……そうだな、今夜はあいつにマッサージでもしてやって、ぐっすりと寝てもら おう。それで明日は最後の確認をやれば良いさ。マッサージする役は、今回は唯衣に譲ってやろう。」 それでどうだ? と問う舞衣に、OK! と返事をする鈴音。 しかし自分抜きで決められていく流れに、唯衣が思わず口を挟む。 「ちょ、ちょっと待ってよ! 私、正刻をマッサージしてあげるなんてまだ言ってないわよ!」 そんな唯衣をなだめるように舞衣と鈴音が言った。 「でもお前だって今までちょっとやり過ぎた、という思いはあるのだろう?」 「だったらマッサージぐらいしてあげても良いと思うけどなぁ。別に嫌だという訳じゃないんでしょ?」 「ま、まぁ確かにそうだけど……。」 今ひとつ素直にならない唯衣。それを見かねた舞衣は、挑戦的な口調でとんでもない事を言い出した。 「別に良いんだぞ? お前がやらないなら私がやるまでだ。風呂場で私自身の身体を使って、たっぷりと愛のこもったマッサージプレイを してやろう。きっと彼も元気になってくれる筈だ。特にある一部分が、な。」 その言葉に鈴音も唯衣も仰天し、激しいツッコミを入れる。 「ちょっと舞衣! 『プレイ』って何さ『プレイ』って!! それマッサージじゃないじゃないか!! そりゃ『ある一部分』も元気になるよ!! だけどそりゃちょっとイケナイんじゃないかなぁっ!? 大体女の子が言う台詞じゃないと思うなボクはぁっ!?」 「あ、あああああアンタはまたそんな事言ってーッ!! 恥を知りなさい恥を!! 分かったわ! そんな事をあんたがするくらいなら私が 普通にマッサージをするわよ! ええやってみせますとも!!」 勢いのあまり、自分がマッサージをすることを承諾した唯衣。それを言った瞬間に「しまった!」という思いが少しあったものの、正刻に 申し訳ない気持ちがあったのは事実なので、気持ちを切り替えて彼を癒してベストコンディションにもっていかせようと彼女は思った。 「さて、では話もまとまったことだし、さっさと上がるか。」 そう言った舞衣は微妙に残念そうな顔をしていた。アレはひょっとして本気だったのか? と、唯衣と鈴音は顔を見合わせた。
「ふいー……。いい湯だったなぁ。首や肩も少しは楽になったぜ。」 三人娘と入れ替わりに入浴し、上がってきた正刻は麦茶を飲み干しながら言った。 「さて、じゃあ夜も頑張りますかー。」 伸びをしながら言う正刻。そんな彼に、舞衣と鈴音に肘で小突かれつつ、唯衣が話しかけた。 「あ、あのね正刻……。」 「うん? 何だ?」 「う、うん。あのさ、あんた結構頑張ったからさ、舞衣と鈴音が赤点を回避するくらいならもう大丈夫だって……。」 しかし唯衣のその言葉に正刻は渋い顔をする。 「そう言ってくれるのは有難いけどな、しかし油断は禁物だしなぁ。」 「うん。もちろんそう。だけど、あんたも嫌いな教科を勉強していた所為で疲れがたまってるでしょ? だからさ、その……こ、今夜は、 わ、私……がマッサージをして、それで疲れを抜いてもらって、明日最後の見直しをしようと思うんだけど……どうかな?」 その唯衣の提案に、正刻は腕組みをして考えた。 「確かに正直言うと疲れ気味だし、首や肩も辛いが……。唯衣、お前は良いのか? 何か悪い気もするが……。」 そう答えた正刻に、唯衣は少し照れがあるせいか、まくしたてるように言った。 「い、いいの! それよりどうすんのよ! 私が折角マッサージしてあげるって言ってんのよ? まさか断ったりなんかしないでしょうね! ええ!?」 そう言って詰め寄ってくる唯衣の迫力に押され、正刻は頷いた。 「い、いやもちろんお願いしたいぜ! お前のマッサージは気持ちよいし、効果抜群だからなぁ。よろしく頼むぜ!!」 嬉しそうに言うと、正刻は自室へと向かった。その後を追おうとした唯衣は、舞衣にがっちりと肩をつかまれた。 「な、何よ? どうしたのよ?」 「唯衣。一応釘を刺しておくが、するのはマッサージ『だけ』だからな。それ以上は……許さんぞ? というか、そんなことをしようと しても必ず阻止させてもらうがな。」 じっと見詰め合う姉妹。やがて唯衣の方が先に目を逸らし、ふぅと溜息をついた。 「全く……。テスト勉強を始める前にはあんたに釘を刺したってのに、今度は私が釘を刺されることになるとはね……。分かってるわよ、 舞衣。大体私は変なことをするつもりはこれっぽっちも無いんだから安心しなさい。」 「だと良いがな……。ま、これ以上正刻を待たせるのも悪いか。じゃあ唯衣よ、正刻をよろしく頼むぞ。」 「舞衣はそう言ってるけどさ、たまには素直に正刻に甘えてきなよ。やり過ぎはよくないけど、ね?」 そうして二人に送り出された唯衣は廊下に出ると、頬を手でぱしん! と叩き、「よし!」と呟くと正刻の部屋へと向かった。 ノックをして部屋へと入る。正刻は既に布団を敷いて、その上に寝っ転がりながら本を読んでいた。 だが唯衣が入ってくると彼は本を枕元に置き、うつ伏せになりながら言った。 「待ってたぞ唯衣。じゃあ早速頼むぜ。」 「はいはい、今やってあげるわよ。で、どこか特に酷く辛い所はある?」 「そうだな……やっぱり首と肩かな。後はその影響で、背中も辛いや。」 「分かったわ。じゃあ力を抜いて楽にしてなさい。」 了解、と言った後、正刻は枕を抱いて目を閉じ全身を弛緩させた。唯衣はその脇に座り、正刻の肩甲骨の辺りを数回さすった後、親指に 力を込めて指圧を開始した。 「ふぅぅぅぅーっ……。はーぁぁぁぁぁあぁぁああぁ……。」 唯衣が力を込めるたびに、正刻は気持ちよさそうに声を上げる。しかしまるで頭のてっぺんから抜けるような変な声を出しているので、 唯衣は苦笑しながら注意した。 「ちょっと正刻、あんまり変な声出さないでよ。気が散るじゃない。」 「あぁすまんすまん。だが本当に気持ちよくて……ってああそこそこぉっ……!」 目を閉じたまま更に弛緩する正刻。彼は今、心も身体もかなり癒されつつあった。
しかし、対照的に唯衣の表情は沈んでいた。それは、マッサージをして正刻の身体が想像以上に疲れきっていたことが分かったからだった。 (まさか……こんなに疲れきっていたなんて……。) 唯衣が最初に指圧をした時、正刻の肩はまるで鉄板が埋め込まれているかのように硬かった。そしてそれは、他の首や背中などの箇所も 例外ではなかった。 (私が……無理させた所為だよね……。) マッサージをしながら、唯衣は正刻に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。その気持ちが、口をついて出る。 「……ごめんね。」 ぽつり、と呟く。それはとても小さな声だったのだが、正刻には聞こえていたようで、彼は問い返してきた。 「うん? 何がごめんなんだ?」 「あんたに無理をさせちゃってさ……。私が厳しくし過ぎたから、こんなに疲れ切っちゃったんだよね。……本当に、ごめんね。」 唯衣は沈んだ声で答えた。それを聞いた正刻は、むっくりと体を起こし、あぐらをかいて唯衣に向き直った。 そして、そのまま彼女の頭をゆっくり、優しく撫でた。 「あ……。」 「お前がそんなに気にすることじゃあねぇよ。むしろごめんなさいはこちらの方だ。俺の都合でお前たちをつき合わせちまったからな。」 「そ…そんなこと……。」 ない、と唯衣が続ける前に、正刻は次の言葉を繰り出していた。 「だけどさ。俺はどうしても、お前たちと一緒に旅行へ行きたかったんだ。いや、旅行だけじゃない。この夏の思い出を、お前たちと一緒 に作りたかったんだ。来年は受験だし、そんなに遊べねぇだろうから、な。……何かちょっと恥ずかしい物言いになっちまったけど、 でもそれが俺の正直な気持ちだ。」 唯衣の髪を優しくなぜながら、ちょっと照れたように正刻は言った。唯衣の胸が、トクン、と少し跳ね上がる。 「だから、お前はそんなに気にしなくても良いんだよ。それに、マッサージだってしてくれてるじゃねぇか。勉強を教えてもらってマッサ −ジまでしてもらえるなんて、むしろお礼をしたいくらいだぜ。」 そう言って、にっと笑う正刻。唯衣は思わず、その笑顔に少し見入ってしまった。 と、正刻は再び枕を抱いてうつぶせになる。続きをやってくれという意思表示だろう。両足をぱたぱたとさせている。 それを見て苦笑しながら唯衣はマッサージを再開した。 「……あれ? 正刻……?」 マッサージをして少し経った時、唯衣は正刻が大人しくなっていることに気がついた。 手を離して様子を伺うと、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。 「寝ちゃったんだ……。」 無理も無いか、と唯衣は思った。今夜はこのまま寝かせてあげよう、そう思って唯衣が立ち上がろうとした時だった。 「う……ん……。」 ごろん、と正刻は寝返りを打ち、うつぶせの状態から仰向けになった。 気持ちよさそうに眠る正刻の顔を見ているうちに、唯衣の中で、ある欲望がむくむくと頭をもたげた。 リビングの方を伺う。だが、一度抱いてしまった気持ちはそう簡単には止まらない。 構うもんか、と彼女にしては珍しく強硬な姿勢をとると、唯衣は寝ている正刻にそっと近づき囁いた。 「ねぇ正刻……。さっきあんた、お礼をしたいくらいだって言ってたよね……? そのお礼、もらっちゃっても良いかな……?」 もちろん正刻は答えない。それを確認すると、唯衣はそっと正刻に覆いかぶさるように顔を近づけた。 唇が触れ合う前に、ゆっくりと目を閉じる。そしてそのまま唯衣は、唇を重ねた。 久しぶりに感じる正刻の唇の感触は、やはり気持ち良かった。 前の時は彼が風邪を引いて熱があったせいかひどく熱く感じられたが、今は心地よい温かさであった。 二度、三度とついばむようにキスをする唯衣。 やがて満足したのか、身を起こした。 そっと手を唇に触れさせる。自然と笑みがこぼれた。 「えへへ……。またやっちゃった……。」 幸せそうに微笑む唯衣。彼女は愛おしげに正刻の髪を撫でたると、彼を起こさぬようにそっと立ち上がり、リビングへと戻っていった。 この後、唯衣は舞衣と鈴音に「貸し一つだ。」と宣告されて慌ててしまったり、日曜には差し入れに来た佐伯姉妹を交えて再び勉強会 が行なわれたり、今までのしごきの成果を発揮して、正刻は見事赤点を回避し夏休みを迎えることとなるのだが、それはまた別のお話。
以上ですー。最近ちょっと無駄に長くなってしまっている気がします……。 もうちょっと上手くまとめられるようになりたいですね。 それと、遅くなりましたが管理人様、一話から五話まであのように修正して下さりありがとうございました! また頑張って投下したいと思いますー。ではー。
>>371 一番槍!!GJです〜。
自分としてはこれぐらいの長さがちょうど良いですよ〜、読み応えがあるので。
次回も楽しみに待っております故。
gj!
GJ 同じく長さは気にならないですよ。 長くても短くてもおもしろければそれでよし。 さて、当然みんなも気付いているとは思うが、 温泉ネタだーーーーーー!!!!!! 今回のお風呂ネタにつづき温泉ネタが来る!!!! これでテンションあがらずにいられようか。いやいられない。こうなってるのは俺だけか?
やっと続きktkr!! 話の長さは気になりませんよ。 話がまとまってれば長くてもおk。 読むのは苦じゃないから。
アゲ
神GJ以外になんの言葉を使えばいいのか分からない。
俺も言うまでも無いけど投下されるだけなにより嬉しい。
長ければ、幸せ死にするぐらい嬉しいので完全に無問題。
>>374 そんな事聞いたらなお楽しみで楽しみで仕方ない。
俺、ようやく参上。 つー訳で投下いきます。今回も前後編です。
しかし何なんだろうこの最初からクライマックスな状況は。 始まりはいつも突然にしても突然過ぎる気がする。 私は啓介の頭を洗いながらそんなことを考えていた。 そりゃあ啓介になら裸見られても胸触られてもいいけど、 こーゆーのはちゃんと段階踏んでからの方がよかったとは流石の私も思う。 でもこーでもしないと私たちは進展しないような気もする。 ・・・啓介は消極的だし流石の私もえっちな方面には知識も経験もない。 義姉さんや友人からは「そこはキャラとハートでカバーしなさい」と謎のアドバイスを受けたけど、 具体的にはどうすればいいのか分からないままこの状況になっちゃって正直動揺が抜けきってません。 まあ私以上に啓介が動揺してるからまだ彼よりは冷静でいられるけど。 でも、啓介はそんな私の葛藤を知るよしもない。 私が彼の背後にいるからだけど。 私は――どうせなら開き直ってしまおうと――彼の正面に回って洗おうとしたのだけど、 流石にそれはと啓介に拒否されてしまった。 その時の彼の視線は私の首から下――具体的に言うなら胸や臍、そして秘所――に注がれており、 有り体に言えば、いやらしい目を向けていた。 でも不思議と悪い気はしなかった。 それは多分、『私』を見てくれているということだから。 さっきお尻見られた時はともかく彼の気持ちを聞いた今ならそう思える。 こんなこと考える私ってひょっとしてMの気でもあったのかなとふと疑問に思う。 まあ啓介以外の人にそうされたらすごく嫌だから多分違うと思うけどそれはともかく。 「頭流すよー」 「ああ」 彼は返事をすると瞼を閉じる。 そのことを確認すると私は彼の頭に熱めの液体をかける。 それが数度繰り返し、終わったことを伝える為彼の頭を軽く撫でる。
「まだ治ってないんだ・・・頭洗うときに目つぶるクセ」 「だって目にシャンプー入ったらいやだろ」 「・・・うつむいてたら目にかからないと思うけど」 彼は少し間をあけると、真剣な表情になって言った。 「・・・その手があったか!」 私は少し間をあけると、真剣な表情になって言った。 「・・・単刀直入に言うけど啓介って実は馬鹿?」 「単刀直入すぎるだろっ!?」 「否定しないんだ・・・」 「多少は自覚してるからな」 そう自嘲気味に言う彼に、私は思いきり抱きついた。 「どわぁっ!?」 即座に啓介は悲鳴を上げて私から離れた。 その時、彼の背中に触れていた私の乳首が擦れてしまった。 ・・・ちょっと気持ち良かった。 そんな私の内心を知らず、啓介は顔を真っ赤にさせて私に抗議した。 「おおおぉぉお前なあ!俺ら今裸なんだからいつも通り抱きつこうとするなよ!!?」 「い、いやごめん。啓介の自虐的なところに母性本能刺激されて、可愛く思えちゃってつい」 まだ動揺の抜けきってない私も 「ついじゃないだろついじゃ・・・」 さらに文句を言いながら啓介は私に が、彼の視線は私の顔から徐々に下に向いていき、かと思うと私から目をそらした。 でもちらりちらりと目線は私の方をまた向いて、また離れるを繰り返していた。 「・・・なにやってるの?」 「い、いや、お前の方向くと、つい、顔じゃなくて体の方見ちまうんで」 といいつつやっぱり私から目を背けていく。 彼にとっては私を思いやっての行為かもしれない。 でも、私にはなんだかその態度がいまだに私に「遠慮」してるように思えてカンに障った。 だから私は彼の頭を両手で掴み、無理矢理啓介の顔を私の胸に触れる寸前にまで引き寄せた。
「なっ・・・!?」 予想通り啓介が短い悲鳴を上げた。 だから私はその声を無視して言った。 「見たいのなら見ていいし、触ってもいいよ。啓介になら、されてもいいから・・・」 「ちょっとまてい」 啓介はいつものように励まそうとする私の声を遮ると自分の頭を拘束していた私の両腕を振り払い、 逆に私の頭を両手で掴み、自分の顔に触れる寸前にまで引き寄せた。 「なっ・・・!?」 予想外のことに私は短い悲鳴を上げた。 そして啓介はその声を無視してキスしてしまいかねないほど顔を近づけて言った。 「言っておくけど別にこの期に及んでヘタレたわけじゃないからな」 「ええっ!!?」 真剣な眼差しで私の目を見つめての彼の台詞に、私は心の底から驚きの声を出してしまった。 私のその声――それと一緒に出てしまったツバ――を超至近距離で浴びてしまった啓介は、 私に半目を向けて低い声で言った。 「・・・なんだいまのリアクション」 「いえなにも?」 出来る限りの満面の笑みを浮かべてとぼける。 でも彼が私に向ける目線は自分の顔についたツバを手で拭いても変わることはない。 でもそんな冷たい目線の啓介もいいかもと思うとカラダの奥の方が熱くなるような気もする。 そんなことを思っていると、啓介は私から顔を若干引かせた。 「いやそんな熱っぽい視線向けてもダメだから」 どうやら顔に出てしまったらしい。 もしくは心を読まれたか。 まあどっちにしろ。 「これって私たちの愛の力なのね!?」 そう勝手に確信した私は私の頭をホールドしていた啓介の両腕を振り払い、彼に抱きつこうとする。 けど、啓介は素早く両手を交差させるように身構え、 左手で私の頭、右手で私の身体を受け止めた。
「な・ん・で・そうなるーっ!!」 一言一言に力を込めて、同時に両腕にも力を込めて啓介は私を押し返そうとする。 「いいからおとなしくし・な・さ・いーっ!!」 私も負けじと両腕を彼の身体に絡ませ、無理矢理引き寄せようとする。 力自体は啓介の方が上だけど、私がのしかかるような格好になってる為拮抗状態となっていた。 この状況を打破する為、私は全体重をかけようとし、 体重を・・・。 たいじゅう・・・。 つい最近体重が増えたことを思い出した私は力を抜いた。 いえ違うんです太ったんじゃないんですむしろウェストは細くなったんだけど その分胸とお尻に肉がついちゃったんですそれもウェストから消えた分を超える量が。 これって女として喜ぶべきなんでしょうかそれとも悲しむべきって誰に言ってんだろ私。 それはともかくいきなり力を抜いたら私が彼に押し倒される。 いや啓介になら押し倒されてもいいけど場所が場所なんで怪我する可能性がある。 そう判断した私は口を開いた。 「ところでさ」 「何?」 「さっきから啓介、私の胸触ってるんだけど」 「なにぃっ!?」 そういわれた啓介は即座に絶叫をあげて私から離れた。 でも今までの経験から彼のリアクションは予測できたので私は慌てることなく笑顔で言った。 「う・そ♪」 啓介は一瞬何か言いたそうな顔をしたけど、特に反論することなくおとなしく腰を下ろした。 実際はホントにさわってたんだけど、それを言うとさらに話がややこしくなりそうなので言わない。 でも残念そうな彼の表情を見ると嘘をついた罪悪感がこみあげてくる。 代わりに彼の手に自分のそれを重ねると表情が和らいだ。人のことは言えないけど現金な。
「一体どうした急に冷静になって」 「乙女にはいろいろ事情があるの」 「・・・そうですか」 それ以上の詮索を許さない私のドスを利かせた声に啓介は若干引いたようだ。 いけないいけない。私の理想はカカア天下じゃなくて夫を引き立てる大和撫子なのに。 まだまだ日々是精進だなと思うけど今は別にやることがある。 「ところで目をそらしてた理由は?」 「あー・・・」 私にそう質問された啓介は今度はバツの悪そうな顔になった。 でもそれは本当に一瞬のことで、私が洗ったばかりの頭をバリバリとかくと、 「軽蔑しない?」 「内容によっては」 「・・・余計にプレッシャーかけるなよ」 そう言いながらあからさまに肩を落とした。 「まあ、話を聞きもしないで『大丈夫』と断言されるよりかは信用できるからいいけど」 「断言ならできるよ」 「え?」 ちょっと間の抜けた顔になった彼に、私は言った。 「何があっても、私はあなたが世界中の誰よりも大好きです」 そう言った途端、啓介の顔が真っ赤になったけど私は気にせず続ける。 「それだけは断言できる」 キッパリとした口調で言うと、私は彼に笑顔を向けて言った。 「だから安心して本音ぶっちゃけちゃっていいよ」 いつもならここで抱きしめてるところだけどさっきの繰り返しになるからガマン。 だから、その代わりに彼の顔を見つめた。 彼も私の顔を見つめ返す。
少しの間そうしていると、啓介は苦笑しつつ手を私の頭に移し、撫で始めながら口を開いた。 「まあ、気は楽になった」 「うん・・・」 久方ぶりの自分の頭を撫でられる感触に身を委ねる。 啓介はそんな私に肩を落としつつ言った。 「ぶっちゃけた話、お前を襲いたいっていうかしたくってしょうがないんだ。 でも、自分でもどこまで制御できるかわからんからなるべくお前の方見ないようにしてたんだ」 「別にいーのにー」 「そーゆー発言はキチンと避妊する用意してからいいなさい」 「・・・あ。」 忘れてた。 というかこの状況にとまどって完全に思考の外になっていた。 それ以前にこんなことになるなんて予想してなかったので、避妊の用意なんてしてるはずもなかった。 それを考慮に入れてくれている彼の気遣いがなんとなく嬉しかった。 そのことに礼を言おうとしたけど、啓介はがっくりとうなだれた。 「ごめんな」 「謝らなくていいのに」 この状況の責任は彼と私どちらにもあるし。 「でも」 私は啓介の頭を撫で、笑顔を向けていった。 「よく言えました」 「・・・また子供扱いかよ」 「ああごめん。そーじゃなくてさ」 ついいつものような口調になってしまったことを謝罪しつつ、私は啓介の身体を抱きしめた。 今度は何も抵抗されなかったことに満足し、彼の頭を撫でながら語りかける。 「啓介が私に本音を言ってくれるようになったのが嬉しかったの」
以前から啓介は他人に遠慮して、ここぞというときに言いたいことを言えないところがあった。 私が彼のそばに戻ってきた当初はそれがさらに強くなっていた。 その原因は多分『あの事件』。 でも、私と付き合うようになってから――もっと具体的に言うなら『あの事件』を吹っ切って、 彼が私にしてくれた『告白』の一件以来――たまにではあるけど、自分の主張を見せるようになった。 具体的には私を押し倒したりキス以上のことを求めたりなどの本能に忠実なことだけど。 まあ私はそのことは幼馴染みとしてカノジョとして素直に嬉しいしむしろうふふバッチコーイなんだけども もう少し普段の私や他の人にも自己主張できるようになってほしいとも思う下心抜きでいや若干あるか けど私には本音で向き合ってくれてるってことだから本当に私以外にするようになると嫉妬しちゃうな いや啓介の思い人は私だという自信と信頼はあるけど―――― 「綾乃、久々に目が危なくなってるぞ」 「へ!?」 正気に戻された私はとっさに自分の顔をぺたぺたと触って確認。 「いや顔じゃなくて目だから」 「め?」 「目つきがとろんとしてたというか、すごく熱っぽい目だった」 どうやら啓介のことを考えてそんな目になってたらしい。 「そういう目はきらい?」 「嫌いじゃないってかむしろ慣れた自分が怖い・・・」 啓介はそこまで言うとなぜか頭を抱えだした。 失礼な。ただの愛情表現の副産物なのに。 そう思っても話がややこしくなるので口には出さず、代わりに礼を言う。 「・・・ありがと」 「・・・ああ」 互いに耳元で言葉を交わしあうと、私はさらに言葉を続けた。 「ホントにガマンできなくなったら言ってね。いつでも覚悟は出来てるから」 「いや一時の気の迷いでしちゃうのはマズいだろ」 「な・・・・・・・・・・・・!?」 苦笑混じりの彼の返答に私は絶句し、思わず彼の身体を離して後ろにのけぞった。
・・・・・・・・・そんな、そんなバカな・・・! 「啓介は私との子供がほしくないの!?」 「んな事言ってねぇ!それと風呂場で大声出すな近所迷惑な!」 「なんで?」 「外に聞こえるだろうが!」 その瞬間、私はあることをひらめいた。 が、口はそれとは別の用件を言う。 「そういう啓介も、声、大きい」 そういわれた啓介はしまったというような表情を浮かべた。 チャンス! 私は目を輝かせて大きく息を吸い込み、叫んだ。 「私黒田綾乃は、白木啓介が大好きですー!!」 私の放った叫びはエコーとなって風呂場に響いた。 ――――沈黙。 「おおおおおおおおおおお前なぁぁ!!」 顔どころか耳まで真っ赤にさせて啓介は私に詰め寄った。 「よりにもよってそんな恥ずかしい事言うなバカ!」 「あっひっどーい!恋人の愛の告白をそんなに言うなんて、啓介は私のこと嫌いなんだー!?」 「バカ言うな!俺だって綾乃が好きに決まってんだろ!!」 ――――沈黙。 「やっちまった・・・!」 「よし!作戦勝ち!」 思わず恥ずかしい台詞を大声で叫んでしまった啓介はがっくりと肩を落とし、 逆にこれである種の既成事実がご近所に広まると確信した私はガッツポーズを取った。 まあ毎日のようにこの家に来てるんですでに何らかの噂はされてるかもしれないけど、 こういうたゆまぬ努力が明日への勝利――具体的には啓介との幸福な結婚生活――に繋がるはずだ。 ・・・って結局グダグダになってるし。 「まあともかく、続きしよっか♪」 「・・・好きにしてくれ」 なぜかぐったりとした声で啓介が答えた。
「・・・体も洗うのか?」 「そりゃもちろん」 返事しながら私はボディシャンプーを染み込ませたタオルを手に持ち、空いた手で啓介を手招きした。 「おいで〜♪」 「ペットか。俺は」 そう突っ込みつつも啓介はその場で座ったまま半回転し、私に背中を向けた。 私はその背中を遠慮なくタオルで拭き始める。 「おかゆいところはないですか〜♪」 「・・・強いて言うなら全身っていうかこの状況そのもの」 「要するにここ?」 言いながら私は啓介の背に指を滑らせる。 「うおぁっ!?」 瞬間、啓介が悲鳴を上げて身を震わせた。 その反応はただ背中を触られたにしては明らかにおかしい。 そう判断した私は、もしやと推測をたてた。 「もしかして、背中弱い?」 「・・・・・・・・・」 無言。 それは反論の術を持たない――――つまりは肯定だということだ。 勝手にそう結論づけた私はあることを思いついた。
早速実行に移すべく私はボディシャンプーのボトルを手に取る。 そしてボディシャンプーを自分の胸にかけ、啓介に抱きついた。 と、流石に気付いた啓介が私に振り向いた。 「っておいおいおい!!」 啓介の抗議を無視して私は身体全体を動かして彼の背に押し当てた胸で洗い始めた。 「む、胸当たってるって!」 「大丈夫。あててるから」 「っていうか妙にニチャッて感触がするんですけど・・・」 「そりゃ胸にボディシャンプーかけてそれで洗ってるんだし」 「なにぃっ!?」 私の発言に、なぜか啓介は目を見開いた。 ついでに口元がにやつき、鼻もひくひくとしていた。 「・・・いま、いやらしいこと考えてなかった?」 「はっはっはっ、何をバカなってゴメンナサイ実は考えてましただから離れないで下さい」 この期に及んでシラを切ろうとしたので身体を離そうとしたら啓介は即座に訂正した。 ・・・ホントに正直になったなあ、エッチな方面で。 「つーかさっき俺が必死にガマンしてる状態だっていっただろ」 「それは分かってるけど、その分啓介を気持ちよくさせてあげたいと思ったの」 言いながら私は胸をすりつける作業を再開する。 そして、啓介の耳元にささやきかける。 「それにね。私もなんだか、エッチな気分になってきちゃって」 本心からの言葉だった。 異性の裸をみてエッチしたくなるという啓介の気持ちは――自意識過剰ではなく――よく分かる。 というか私の方がしたくてたまらない。 好きな男の子の裸がこんなに魅力的とは思わなかった。 いや正直啓介をオカズにするときに――他の人をしたことはないけど――いろいろ想像はしたけど、 実物は私の想像を超えてすごかった。 だから今こうやって身をすり寄せている。 それに胸の先端がこすれてなんだか気持ちいいし。
と、私の内心を知らないだろう啓介は私に半目を向け、 「・・・あのさ。実はお前がしたいだけじゃないのか?」 「うん。こういう恋人らしいいちゃつきがしたかったし♪」 「即答!?ていうか否定しろよ少しは!」 その発言を無視ながらも私の指先は彼の首、胸板、腹へと滑っていく。 「っていきなり前かよっ!?」 「だって背中終わったし」 「普通は腕とか足から先にやると思うんだがってかそんなに体中なで回すと当たるっていうかやめれ」 「当たるって何に――――」 その台詞を最後まで言い切る前に、私の手が何かに触れてしまった。 「・・・ん?」 それまで触っていたものとは違う異質な感触に疑問を持った私は、 啓介の肩越しに自分の触れている物を覗き見る。 そして、仰天した。 「え、えええええええええええ!!!?」 私の触れていたもの。 それは啓介の足と足の間つまりは股についている肉棒と袋状の男性特有の部位すなわち―――― 「けいすけの、お、お、お、おち、おち」 「落ち着けいいから」 「だ、だって、間近で見るのは久しぶりだしさっきは湯気とかであんまりよく見えなかったけど、 てっきり子供の頃のをそのまま大きくしたものを想像してたけど全然違って、 記憶にあるものよりおっきくなっててなんか黒くなってて、 毛も生えてて何か皮みたいなのが剥けててちょっとグロテスクになってるし、 触ったらやわらかいようでちょっとかたいしあったかい変な感触がしたりして」 「・・・そこまで言われると流石に落ち込むんだが」 「ご、ごめん。だからそんな落ち武者みたいな顔しないで」 「どんな表情だ一体。とゆうかオチにもならんことを言わんでいい」 啓介は落ち着いた声で突っこみを入れる。 顔が赤く見えるのは風呂場の熱気のせいだけではないだろう。 まあ自分もおそらくそうなってるだろうけど。
「・・・意外と純情だな」 「・・・なによ意外って」 半目で睨むと啓介は目をそらして自己弁護し始めた。 「い、いや、いつも抱きついてきたりキスしてきたりするから、そういうの平気かなっていうか、 ヘタしたらこういうエロイことの経験あるんじゃないかって思ってたんだが・・・」 「ダーリンとは今度じっくり話し合う必要が出来たんけど」 「誰がダーリンだっ!?」 「啓介」 「だから平然と言うなってそんなこと!?」 「まあそれはともかく」 「無視かよっ!?」」 その発言を追加で無視して一息つき、私は彼の股間を、じっくりねっとりと見つめる。 当然ながら自分にはないその器官は―― 「綾乃、さっきとは違った意味で目がイってるぞ」 「へ!?」 啓介のその言葉で私は正気を取り戻す。 どうやらトリップしてしまっていたらしい。 現実に戻った私はふうと一息つき、額の汗を拭うジェスチャーをした。 「あぶなかった・・・。」 「何がだ。」 啓介はそういいながら冷めた目で私を見るが、追求する気はないのか異なる話題を口にした。 「とりあえずさ」 「な、なに?」 未だ動揺の抜けきってない私に啓介は目を背け、頬を赤らめながら言った。 「先に腕とか足とか洗ってくれないか?」 私は慌ててタオルを拾い上げた。
今日は以上です。 続きはまた明日。
………き…キタ━━(・∀・)━━!!(古いなw 一番槍行かせて頂きます、神GJ!! 続きを全裸で正座しながらwktkしてます。
遂にシロクロ来たー!! エロいぜ綾乃!! だけどそれが貴女の魅力!! もっと突き抜けてくれ!! しかしシロクロも絆と想いもお風呂場シーンとは……。お風呂プレイが大好きな俺にとっては最高に嬉しいぜ!!
み な ぎ っ て き たァ!!!! こんな良質なラブラブ見たこと無い。 神GJ!
フクダーダあたりに漫画描いてもらいたいな
待 っ て い た ぞーーーー!!!!!! 綾乃エロ可愛いよ綾乃。 前編、美味しく堪能させて頂きました って後編は今日の夜だと!? 道理でwktkが止まらないわけだ。
tntnおっきした 綾乃エロいよ綾乃ハァハァ(*´Д`)
このバカップルっぷりがたまんねえよマジで! ラブラブすぎて悶えそうw
つ い に き た か ・・・ま っ て た ぜ (ガクッ
投下。
啓介の両手足を洗い終わった(普通に洗いました)私は再び彼のモノと対峙していた。 「これが、啓介のおちん○ちん・・・」 「○の位置に意味がない気がするが」 「まるのいち?」 「・・・なんでもない」 彼の台詞に違和感を感じたけどそこを指摘する前に啓介が再び口を開く。 「そんな真剣な目で見られるとものすごく恥ずかしいんですが・・・」 「あ、いや、あの・・・」 私は顔が火照っていくのを自覚しながら言った。 「お恥ずかしながら男の人のこんな姿を見るのはこれが初めてで・・・」 「AVとかも見てない?」 「見てないよ。啓介のしか見たくなかったし・・・」 そういって目を背ける私に啓介は遠慮しがちに聞いてきた。 「・・・退いた?」 「全然」 私はキッパリと言いきり、目線を戻す。 啓介が若干退いたようだけど構わずに言葉を続ける。 「私の知らないところがあってビックリしちゃっただけだから」 「お前だったらホントにそう思ってそうだよな・・・」 「ホントにそう思ってるって」 言いながら私は啓介の股間の棒にゆっくりと手を触れた。 重さを確認するために軽く持ち上げては力を抜いて下ろし、そびえたつそれの上に手をのせ、 肌触りを確認するためにゆっくりと指を這わせ、輪郭をなぞっていく。 そしてゆっくりと揉み始めた。 ・・・やわらかい。でも、芯でも入ってるみたいにかたい。 「感触まで本当に子供の頃と違う・・・」 「いやこれは興奮してる時だけだから」 啓介は私に何をバカなことをという風な口調で言う。 ・・・まあ確かにこちらの勉強不足かもしれない。
そう考えるとこちらの知識不足がなんだか申し訳なくなってきた。 ならば聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。根掘り穴掘り聞いてみよう。 「おおきい方なの?」 「知らん。前に旅行行った時には黄原、俺と兄貴、赤峰の順にデカかったけど」 「それって赤峰くんのが小さいだけじゃない?」 「そうなのかなやっぱ・・・」 がっくりと肩を落とした。 どうやら先ほどの私の発言は失言だったらしい。 「まあ大きくても小さくても啓介のが一番だから別にいいや」 そういいつつ私は再び彼の肉棒に視線を移す。 そして、私の指が彼の先端に触れたと同時、 「うぁっ!?」 啓介が普段にはあり得ない素っ頓狂な悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちて尻餅をついた。 それと同時。 私の指にねちゃりとした感触が伝わった。 そちらに目を向けると、私の指にお湯とは違うあたたかい液体がついていた。 「・・・なにこれ?」 「・・・・・・ガマン汁だよ悪いかこんちくしょう」 顔を真っ赤にし、私から目を背けながら啓介は答える。 流石にこれは聞くまでもない。 「感じてたの?」 「そりゃ全裸のカノジョにあそこ弄られて何も感じないわけないだろ・・・」 「つまり、『くやしい・・・!でも、感じちゃう・・・!』ってこと?」 「・・・言い方はかなりアレだがそんなところだ。つーかいきなり先触るなよ一番敏感なんだから」 ビンカン・・・! 啓介の反応とその言葉で調子に乗った私は、再び彼のものに触れる。
「ちょ、待て、待て待て待て!」 彼の制止の声も聞かず、私は指を滑らせていく。 かつて啓介がしたように、ありとあらゆる部位に。ついでにたまには揉んでみる。 「いやホントもうそろそろ勘弁して――」 目の前には、顔を真っ赤にした啓介が私を見つめている。 抱きしめたい衝動に駆られるけど、それでは啓介の男性器を触りにくい。 というわけでガマン。 ガマン。 ガマ―――― 「いいやもうべつに」 「なにがっ!?」 彼の突っこみを黙殺し、ガマン出来なくなった私は素早く啓介の背後に回り込んで抱きしめた。 そして背中越しに再び彼の分身に触れる。 これなら啓介を抱きしめながら責めることが出来る。 さらにお互い一糸まとわぬ姿なのでお互いの肌の感触と体温、心臓の鼓動がダイレクトに伝わり、 私の気持ちを高ぶらせる。 これぞまさに一石二鳥ならぬええと何鳥になるのかなまあいいや気分いいし。 そう考えながらも指の動きは止めない。 爪をわずかに立てて輪郭をなぞると、傘状の部分にひっかかってしまい、弾いてしまった。 「あ。」 揺れ動くそれをつかみ取ろうとするが手を滑らせてしまい、手のひらを擦らせるだけとなった。 が、それは宿主本人には案外強力なダメージになったらしい。 「あ、やばいもう出る」 「出るって何が――――」 私がそういうと同時。 彼の先端から白い液体が飛び出した。
床に落ちた白濁液。 それを私たちは他人事のような目で見つめていた。 先走り、というやつだろうか。 詳しいことは知らないしそれがどんなことなのかは分からない。 でも、少なくともいい思いはしないというのは啓介の顔を見れば分かる。 私が啓介にそんな顔をさせた、と思うとなんだか自分がものすごく情けなくなった。 「・・・ゴメン。調子に乗りすぎた」 「いや、お前のせいじゃないよ」 啓介はそういいながら、私の肩に頭を乗せた。 私に向けるその表情は、笑顔だ。 「誰のせいかって聞かれると返答に困るけど、それでも、お前のせいじゃないよ」 まるで理屈になってない、だけど、不器用ながらもこちらを気遣う啓介の言葉。 その気持ちだけでも、嬉しい。 だから私はその気持ちを伝える為、彼の唇に口づけて、言った。 「ありがとう」 「ああ」 そういって微笑みあう私と啓介。 もうさっきの罪悪感は消えていた。 落ち込む私を啓介が励まし、笑顔を取り戻させてくれる。 子供の頃からの私たちが幾度となく繰り返してきたこと。 どれだけ月日がたっても、長い間離れていても、これは変わることがない。 ・・・やっぱり、根本的な部分じゃかなわないなあ。 そう考えると共に、この人が恋人で本当によかったとも思う。 「じゃ、先あがるね――――」 「待てい。」 ドスの利いたその声と同時、啓介はその場を立ち去ろうとする私の肩をガシリと掴んだ。
その声の低さと尋常ではない何かを察した私は、 油の切れた機械のようにギギギと音が鳴りそうなくらいぎこちなく彼の方を向き、仰天した。 一言で言うと、目が逝っていた。 何かが切れたようなスイッチが入っちゃったような輝きを瞳に宿しており、 目つきは獲物を目の前にしたケモノのようにギラついていた。 こんな啓介を見るのは生まれて初めてです。 つまり――――彼の行動は普段以上に予想不能。 行動パターンを予想して彼に接し、それゆえ予想外の事態に弱い私にとってはスーパーピンチ!? 「あはははは・・・」 流石の私も、いつもと違うふいんき(←なぜか変換できない)な啓介にたじろいでしまう。 「見逃して・・・くれないよね?」 「当たり前だ。恥をかかされた責任は取ってもらうぞ」 そう言うと返事も待たずに啓介は私を抱え上げた。 「・・・っていうかなぜにお姫様抱っこ?」 「だってこれが一番運びやすいし」 言ってる間に私は再び椅子に座らせられ、啓介も向かい合わせになるように腰を下ろす。 再び彼の股間の方に目を向けると、既に大地を割りかねないくらいにそそり立っていた。 回復早ッ!?いや標準がどれくらいかは知らないけど。 と、どうやらまだ冷静な部分は残ってたらしい啓介が私の顔色をうかがうように言った。 「イヤなのか?」 「まさか」 私は微笑みながら否定した。 「言ったでしょ?啓介なら、何されてもいいって」 「・・・あとで後悔するなよ。その台詞」 こうして、攻守の逆転した第2ラウンドが始まった。
髪、柔らかいよな。サラサラで綺麗だし」 「ありがと」 啓介の膝の上に座った私は背後から自分の髪を洗う彼に礼を言う。 (髪が長いので後ろに回った方が洗いやすいという理由でこうなった。 まあさっき自分で洗ったのでシャンプーで軽く洗うだけだが) 彼が自分から私のことほめるなんて珍しい。 ならば、私の方からも。 「啓介の顔って・・・」 「ん?」 微妙に何かを期待するような目を向ける啓介に、私は言った。 「童顔よね」 「サラリと言うなよ!人が気にしてることを!」 どうやら逆効果だったらしい。 ・・・案外繊細な。知ってるけど。 そんなことを思ってる間に髪にシャワーがあてられていく。 そして、シャワーが止まる音が聞こえると私は言った。 「カラダ、触っていいよ」 「あ、ああ」 言われた啓介はボディシャンプーを手に取ろうとする。 「あ、待って!」 「ん?」 私は伸ばした彼の手を取り、彼に頬を寄せ――位置関係でこうなっただけで他意はない――言った。 「私が啓介に使ったのでいいから」 「へ?」 間の抜けた声を出す啓介に続けて言う。 「啓介の匂いをつけたいの」 「ん、わかった」 意外とあっさりと了承し、啓介は先ほど私が使ったボトルを手に取った。 何の迷いもなく。
ホントにいつもと調子が違うなと思いながら私は身を啓介に預けた。 背に当たる啓介の胸から伝わってくる彼の鼓動が心地よい。 が、啓介はそれを気にせず自分の両手にボディシャンプーをたっぷりとかけ始めた。 「え、手で直接!?」 「誰かさんは乳でやってくれたしな」 そういわれると誰かさん=私は反論出来ない。 「あのー出来ればタオルの方が・・・」 控えめに言う私の意見を啓介は答えは聞いてないと言わんばかりに黙殺し、 私の背中越しに腕を伸ばして私の腕を洗い始めた。 最初はおっかなびっくりといった感じの手つきだったけど、 次第にかつてのように這うような動きになっていく。 「啓介、手つきやらしくない?」 「好きな女に触れるのにやらしくなくてどうする」 即答された。 ダメだ。今の啓介には会話が出来ない。制御出来ないかもと思ってたけどまさかここまでとは。 そう思ってる間に啓介は私の両腕を洗い終え、今度は私の足に手を伸ばした。 まあ今は彼の好きなようにさせてあげようと思いつつ、私は彼が洗いやすいように座る向きを変えた。
啓介は私の足も洗い終わると、今度は背中を洗い始めた。 「どんな感じ?」 「気持ちいいよー」 私は彼の質問に軽い調子で答える。 実際、背中から伝わる感触は私に快感を与えてきている。 普段自分が触ることのない部位を愛する人が愛撫する。 それがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。 そんなこと考えてると、急に啓介が私のお尻に触れた。 「ひゃぅっ!?」 「おお、やっぱり声上げた」 思わず悲鳴を上げるが、なぜか啓介の声と表情は満足そうだ。 どうやら私の反応が鈍かったことが不満だったらしい。 「あ、あのね啓介?気持ちよかったのはホントだからね?」 「む。そうかスマンスマン。んじゃ尻洗うから腰浮かしてくれ」 そういって私の前に出された腕に私は渋々捕まり、腰を浮かせる。 啓介はそれに「よし」と頷くと、お尻に触れた。 鼻歌まできこえてきそうなくらいご機嫌な表情で私のお尻を撫で、時に揉む。 人の話をあまり聞かず、あくまでマイペースに作業を続ける啓介。 ・・・なんだかいつもと立場逆転してるような気が。 でも、これも啓介の一面だと思う。 今まで抑制してた彼の欲望。 それが私に向けられてる。 そのことが女として恋人としてすごく嬉しい。 「終わったぞ」 「うん」 言われた私は啓介と向かい合わせに座り直した。
啓介は遠慮なく私の剥き出しになった胸や秘所に視線を向けた。 流石に恥ずかしいけど手は太ももの上に置いて、胸や秘所は一切隠さない。 こんな状況で隠しちゃ今までの流れが台無しだし。 そんな私の葛藤を知らない啓介は私の胸の二つのふくらみにゆっくりと手を触れた。 重さを確認するように軽く持ち上げては力を抜いて下ろし、何故か乳房の上に手をのせ、 以前のように肌触りを確認するようにゆっくりと指を這わせ、輪郭をなぞっていく。 そしてゆっくりと揉み始めた。 「すごくやわらかい・・・」 「・・・うん、ありがと」 そしてある程度そうしていると、啓介は私に質問をする。 「またでかくなってないか?」 「うん。そうみたい」 「具体的には?」 「上から87−59−86だったのが89−58−87になった」 「そんなにか・・・」 ツバを飲み込んで喉を鳴らす。 でも、そうしてる間も彼の手は止まることはなくひたすら私の胸をも見続ける。 「・・・そんなに気に入った?」 「うん」 啓介は私の質問に案外素直に頷く。 「・・・よかった・・・」 それを聞いた私はほっと胸をなで下ろす。 「うつぶせで寝ると胸が圧迫されたり肩こったり暑いときは胸の下とか谷間に汗掻いたり 机とかに当たったりして邪魔だったりサイズの合う服とか水着とか下着とかがなかなか無くて いいのが見つかっても高かったり太って見えるからワンピースが着れなかったり エッチな目で見られてもその一言があれば報われるなーって思えるわ」 「・・・苦労してんだな」 「それなりに」 しかしそうやって会話しながらも啓介の手は止めることはない。
そこまで気に入られると女冥利に尽きるとか思ってる間に既に私の乳房は泡まみれになっていた。 触られた胸から伝わる快感を味わった私は今度はいまだ触られてない先端が触られることを期待する。 が、啓介はなぜか乳首には触れずに両手を私の乳房から離した。 「先っぽ、さわらないの・・・?」 「あとで」 啓介は簡潔に答えると十指を私のウェストに触れさせ、その指を這わせた。 途端に、未曾有の快感が私の身体に伝わった。 「ひゃっ!?」 思わず悲鳴に近い嬌声をあげて、椅子から転げ落ちてしまう。 「だ、大丈夫か?」 急に過度のリアクションをした私に啓介は声をかける。 つい先ほどまで欲望のままに私を弄っていたのに、異変を感じると即座に気遣いの言葉をかける。 そんなところが彼の美点だと私は思う。 そんな彼だから、私は心惹かれたのだ。 「大丈夫、ビックリしただけ「んじゃ続けよう」」 切り替え早ッ!?と私が突っ込むより速く、啓介は私のウェストを撫で回す。 「あぅっ!」 言おうとした言葉はただの嬌声に塗り替えられた。 「何か乳や尻の時より敏感じゃないか?」 「多分胸やお尻より肉が薄いからだと思うひゃぅっ!?」 言い終える前に啓介は私の乳首にボタンを押すように触れたため、嬌声をあげてしまう。 「関係ないと思うぞそれ」 「ツッコミの代わりに乳首責めないでよ・・・」 顔を赤くして口を尖らせると、啓介は泡まみれの手で私の頭を撫でてきた。 「もう、そんなんで機嫌直ると思ったら大間違いだからね」 「めっちゃニコニコしてそういっても説得力ないぞ」 啓介はそういうと同時、私の乳首を同時に指で弾いた。 「ふあぁぁっ!」 私は悲鳴を上げて、胸を揺らしながらのけぞってしまった。
「けいすけの、えっち・・・。そんなところもすきだけど・・・」 「何を今更」 完全に開き直った発言をし、啓介は私の太ももに触れて足を開かせる。 当然啓介はそこに視線を移す。 「そんなに見つめられると流石に照れるんだけど・・・」 「何を今更」 剥き出しになった私の恥部。 その真上には私の髪と同じ色の毛が生えていた。 そこを見られ、顔が火照っていくのを自覚した私はそれを誤魔化すようにまくし立てる。 「ほら、私って毛が真っ黒だから濃く見えるかなーって」 「そんなことないと思うけどな」 そういわれた私は多少なりとも落ち着きを取り戻した。 「啓介に言われると例え気休めかもしれなくても安心するなーって」 「気休めじゃないっての」 そういいながら彼の指がついに私の亀裂に触れる。 が、触れただけで止まってしまった。 「・・・濡れてる?」 「・・・たぶん」 秘所の湿りを看破された私は再び動揺しだした。 さわられる前から濡れてしまって、いやらしい、と思われないだろうか。 そんな考えが脳に宿り、私の心から落ち着きを奪う。 と、そんな私の思考を気いてるのかいないのか落ち着いた口調で啓介は言った。 「綾乃も、これぐらい感じてたんだ」 「・・・うん」 耳まで真っ赤になりながら私が答える。 が、彼の言った言葉は予想外のものだった。 「よかった」 彼のその台詞を聞いた途端、私にまとわりついていた不安が吹き飛んだ。
彼は単純に私を感じさせてるか不安だっただけだ。 さっきまで私が嬌声をあげていたというのに。 こういう微妙に察しが悪く、臆病なところはいつもと変わってない。 ならば私のやることは一つだ。 そう判断した私は、彼の背中を押す台詞を言う。 「いいよ、好きにして」 「・・・ああ」 気を取り直した啓介は私の割れ目にあてていた指を動かし始めた。 その手つきは何というか、おっかなびっくりといった感じで以前のように欲望のままにと いうわけではなかった。 でも、それは最初の方だけで、次第に激しさを増していく。 そして空いた手で胸を責める。 「・・・ぅあっ・・・!」 片方の手は割れ目をなぞって時に指先を少し突き入れ、もう片方は乳房とその先端を蹂躙する。 それにあわせて私も嬌声をあげる。 二点同時の責めに、私の理性はあっけなく崩れていた。 と、突然啓介の割れ目側の手が止まった。 そちらに目を向けると、彼の指先は 啓介の顔を見ると、私に何かを問いかけるような目を向けていた。 何のことかはすぐに分かったけど、あいにくしゃべれる余裕はない。 だからその代わりに無言で頷いた。 それは正確に伝わったらしく、啓介はその一番敏感な部位を指で転がし、弾いた。 秘所の中の豆を弄られ、そこから私の身体に快楽と言う名の刺激が伝わっていく。 「ひあああああああ!!」 悲鳴か嬌声か自分でも分からない叫びが私の口から放たれた。
イってしまった。それも好きな人の手で。 嬉しい、と思うと同時に私ってこんなにエッチな子だったのかと恥ずかしくも思う。 絶頂のあとの脱力感で動けない身体を啓介にもたれさせながら私はそんなことを考えていた。 「おつかれさん」 耳元で最愛の人の声がする。 内心を悟られぬように残った力を振り絞って枕代わりにしていた彼の肩から顔を上げ、 「もういっかい、する?」 そんな体力もないのに微笑みながら言う。 が、返ってきた答えは予想外のものだった。 「ごめん、もう無理・・・」 そういった啓介の鼻から紅い筋が流れ落ちた。 そして、今度は啓介が私の身体にもたれかかった。 軟弱な、とは思わなかった。 私もものすごく疲れたし。 だから私は啓介の頭を撫で、言った。 「おつかれさん」 と、肩から疲れたような声がした。 「・・・つづきは、あとに、しようか・・・」 「・・・うん、そうしようね」 いろいろな意味でのぼせ息も絶え絶えになった啓介にそういうと、 私は浴室を出るために啓介ごと身を起こした。
今回は以上です。 長い間書き込んでない間に渋茶の人の連載が終わっちゃったり 新しい職人さんが増えたりして寂しかったりビックリしてます。 皆さんの作品も楽しみに読ませてもらってるのでお互いガンバりましょうってことで。
さ す が 綾 乃 は エ ロ イ な (褒め言葉
なんという破壊力か。壊滅寸前のところで止めを刺しにこないあたりが凶悪w
GJすぐる そしてなるべく早く続きを 焦らされて死にそうだ・・ この二人萌えるわー
>>1-4 お前らまとめてギルガザムネのミサイル喰らわせるわ
なんという誤爆
保守
422 :
sage :2007/07/19(木) 22:13:53 ID:ckQwL6ZD
この二人 ついにヤッたか
またまた来てしまいました。 それにしても破壊力抜群のものばかりで、溜息ばかりです。 すごいなぁ。本当にすごいなぁ。 というわけで、 >191-195 >199-203 >224-227 >236-240 >262-267 >317-321 の続きを投下します。
未来の形なんて、まだ見えてこない。 07:Walk This Way 「はぁぁぁぁ」 椅子に座ると同時に大きな溜息をついた美幸は、そのままテーブルの上に突っ伏して全身で疲れを 表した。 「どうしたんだ、急に」 彼女の突然の行動に、さっと自分のコーヒーをソーサーごと持ち上げた正宗は、小さく苦笑しながら 問い質す。それに、んー、としばらく呻いて答えてから、ようやく美幸は体を起こした。 「ちょっとさ、ヤなことがあって」 「それはわかるが」 でなければ、待ち合わせの場所に遅れて現れて、唐突にうなだれたりはしないだろう。ここが馴染みの 喫茶店、コールド・ストーンでなければ、店員から奇異の目で見られていたに違いない。いや、彼女の ことをよく知っているバイトの女性でさえ、美幸の行動には溜息と苦笑を浮かべていたが。 「……って、あれ? 忍は?」 「いつもの病気だよ」 カップを口元に運びながらの彼の言葉に、美幸は、ああ、と頷く。 「本の虫?」 「図書室で見つけた本が、随分とお気に入りらしくてな」 「じゃあ、しょうがないね」 彼女は諦めと苦笑の入り混じった表情で、肩をすくめる。正宗は、少女をチラリと眺めて、まったくな、 と呟いた。 本の虫、というのは、幼馴染の忍の行動に二人が付けた名前だ。 読書好きで、放課後に図書室に入り浸っている彼女は、気に入った本や、続きが気になって仕方ない 本に出くわすと、それ以外のことが目に入らなくなる。文字通り、本を手放せなくなるのだ。学校の休み 時間は勿論、昼休みも食事そっちのけだし、下校途中も歩きながら読み続けている。恐らく、帰ってから もずっと読み続けているのだろう。授業中はさすがに控えているが、完全に上の空状態になっているら しく、指名されても問題に答えられず、教師に呆れられたことが何度かあった。 歯医者に行って順番を待っていたのに、自分の名前が呼ばれたことにも気付かず読み続け、結局、 治療を受けることなく帰ってきたこともあるという。 実際、彼女がその状態になると、正宗や美幸といった仲の良い友人の声も遠くなるようで、何度も呼び かけてようやく気付いてもらえる程だった。それも本当に、しょうがなく顔をあげる程度。 もっとも、そんな本に出くわすことはそうそうあるわけではなく、三ヶ月に一回、あるかないか、という 程度だ。だが、その時の集中力の高さを、二人はすごいことだと思っているし、尊敬もしていた。 ただ、一つ難点があった。 その本を読み終えた後、忍は周囲にその本を勧めまくるのだ。 普段、口数の少ない彼女が、一生懸命になって、その本の良さと自分が感じた感動を伝えようとたく さんの言葉を費やす姿は、二人とも感じ入るものがないではなかった。 しかし彼女のお勧めの本は、読書と言えばマンガぐらいしかない美幸や、読む本の嗜好が偏っている 正宗にとっては、それほど食指が動く内容でないことの方が多かった。為に、どんなに勧められても読む ことはほとんどない。もうこれは、趣味の違いとしか言い様がないのだけれど。 最近ではさすがに、自分と二人が求めているものが異なることがわかってきたのか、忍も強いて勧め たりはしなくなってきた。残念そうな彼女の姿に罪悪感を覚えつつも、二人は内心、ホッとしてもいたの だった。
「それじゃ、今日は来ないかな、忍は」 「だろうな。あいつがいないと出来ない話か?」 彼の問いかけに、ううん、と美幸は首を横に振る。 「大したことじゃないんだけどね。今日、サノセンに呼ばれてさ」 「佐野先生? 現国の?」 そう、と頷いた彼女の前に、アップルジュースが置かれる。どうも、と頭を下げる正宗にニッコリと笑って、 その馴染みのウェイトレスは元いた場所、二人のいるテーブルからさほど遠くない所に戻っていく。チラリ とそれを見てから、美幸はストローくわえてジュースを一口、飲む。 「なんで呼ばれたんだよ?」 「んー、まぁ、大したことじゃないんだけどさ」 テストの点数が悪くてさ、と声を潜めて美幸は言う。なるほどな、と頷きながら、正宗はジッと彼女を見つ める。 流れるBGMはジャズの音。サックスの力強い響きとは裏腹に、目の前の少女の吐く息は、重い。 「で、しぼられた、ってわけか?」 「それもあるけど、他にも色々とね」 また一つ、重い溜息を吐いてから、美幸はゆっくりと語りだした。 「どうして呼ばれたか、わかってるかしら」 「はぁ、まぁ。なんとなく」 椅子に座るよう促され、腰を下ろした途端の質問に、美幸はあまり気のない返事で答えた。目の前の 若い女性――現国の教師、佐野玲子――は、それに不満を抱いたのか、一瞬、眼鏡の向こうの瞳を 軽く吊り上げたが、グッと怒りを飲み込んで手元のテストを彼女に差し出してくる。 「昨日やった小テストのことだけど」 ざっと目を通すが、実はそんな必要もなかった。そこにあるのは、自分の白紙の解答用紙なのだから。 当然、丸があるわけがなく、バツばかりが並んでいる。 「どうして何も書かなかったのかしら?」 「わからなかったからですけど」 至極、真っ当な答えだと美幸は思う。わからない。だから書けない。その結果、白紙になったというだけ のこと。 だが佐野には、それが理解出来なかったらしい。パンツスーツの足を組み替えて、身を乗り出してくる。 「漢字が読めないのならわかるけれど、これ。この問題」 赤ペンで彼女は、トントンと解答用紙の一部分を指し示す。大きなカッコがあり、その横にはこう書いて あった。 『傍線の部分の文章を読んで、主人公がどのように感じたかを答えよ』 「この問題もわからなかったの?」 「はい」 率直に答える。恥じることなど、何もない。だから、美幸は佐野の顔を、目を、ジッと見つめた。 「……そう」 ギシッ、と音を立てて背もたれに体重をかけた彼女は、何を言うべきかを迷うかのように、眉間に皺を 寄せていた。 放課後の教官室に、珍しく他の教師の姿はない。外から聞こえてくるのは、部活動に励む生徒達の声。 だがこの部屋の中は、張り詰めた、重い空気が漂っている。もっともそれは、教師である彼女が一方的に 作り出したもので、少女は多少の居心地の悪さを感じている程度だけれど。 悩む佐野の姿をボンヤリと見ていた美幸は、ふと思い出す。彼女は確か、自分たちと一緒にこの高校に、 新任教師として入ってきたのだ、ということを。 まだ若くて年の近い女教師の存在に、生徒達、特に男子生徒は盛り上がったものの、それは一過性の 波に過ぎなかった。佐野が極めて真面目で、厳格な女性だとすぐにわかったからだ。面白味のない退屈 な授業に、生徒からの人気は下がる一方だった。それでも、一部の男子の間では、その厳しさがいいと いう声もあがっていたのだけれど。 こうして間近でじっくり眺めていて、美幸もなんとなくそれはわかる気がした。眼鏡の下の目は鋭く、きつい ものだし、化粧っ気も薄いものの、よく見ればそこそこ美人なのだな、と。もっとも、普段の言動や真一文字 に結んだ口が、それを台無しにしてしまっているのだけれど。
「私の授業は聞いてなかったのかしら?」 「聞いてたような、そうでないような……」 もったいないなぁ、等と考えている最中に声をかけられたせいで、思わず本音で答えてしまう。言ってから、 しまったと思う美幸だったが、彼女は眉を軽く跳ね上げただけだった。 「立花さんは、理系志望だったかしら」 「はぁ」 急に質問のベクトルが変わって、美幸は戸惑うが、それに構わず佐野は続ける。 「だったら、現国なんて必要ないのかしらね」 その言葉はどこか、心に絡んでくるような、粘りのあるもので。 咄嗟の一言に詰まる少女だったが、やはり彼女は構わず、手元の答案用紙を眺めている。 「でも、入試で必要になるかもしれないんだから、せめて解答は埋めるようにしてちょうだい。点数が入る かもしれないんだから」 厳しいながらも、どこか諦めたような声に、先ほど感じたような不快感はなく、美幸は釈然としないなが らも、はい、と頷く。 そのまま佐野を見つめるが、彼女の表情は凍りついたように変わらず、何を思っているのか、はっきり とは読めなかった。ただ、忍や正宗の無表情とは違い、明らかに外界と自分とを遮断しているのだという ことだけは、おぼろげに理解出来た。 「次から気を付けてちょうだい。行っていいわよ」 「はい、それじゃ失礼します」 何だったのだろう、思いながら立ち上がった瞬間。 一瞬、美幸はゾクッとする。 「そういえば、立花さん、随分と男の子達と仲が良いみたいね」 何気ない風を装って、しかし、確かにその言葉は少女の心臓を掴んで絞る。 自分が感じた寒気が何だったのか、佐野の台詞の前と後、どちらだったのか。それすらもわからぬまま、 彼女は固まってしまう。 「良いかもしれないですけど、何か?」 知らず強張る声を何とか搾り出すが、振り返る気にはなれなかった。 否。 佐野の漏らしたたった一言、そこには毒が含まれていたに違いない。足が縫いとめられたかのように、 動かなくなってしまったから。 「別に。ただ、その時間をちょっとでも勉強に回して欲しい、と思っただけ」 佐野が、背の向こうで肩をすくめたのが、気配でわかった。スッと解ける緊張、だが背筋に残った嫌な汗 が、今、起きたことが本当にあったことなのだと知らしめる。 「月並みだけど、楽しむのは自由よ。けれど、やることはやって頂戴」 「はい。気をつけます」 そのやり取りを残して、美幸は逃げるように教官室を飛び出した。 外の空気を思いっきり吸い込むと、カラカラに乾いた喉が少し痛かった。気だるい夏の湿気がシャツに まとわりついてきて、その不快さに彼女は思いっきり、顰め面をしたのだった。
「それで、疲れた顔、してたのか」 「うん。けどまぁ、話してたら随分と落ち着いてきたけど」 美幸の言葉に、正宗は怪訝な顔をしながら、そうなのか、と頷く。 ストローをくわえながら、彼女は目の前の幼馴染の顔をジッと見つめた。その視線に応えるように、 彼も見つめ返してくる。 話して落ち着いたのは、本当のことだ。胸の中でモヤモヤと溜まっていた、怒りにもやるせなさにも 似ている感情を吐き出すことが出来たのだから。もっとも、それを受け止めてくれる人がいなければ、 ここまでサッパリと出来なかっただろうということを、彼女は理解していた。 「だいたいさ、男の子と仲良くしてるだけで、悪いことしてるわけじゃないし」 「そうだな」 「勉強はまぁ、好きじゃないけれど。でもわかんないものはわかんないし」 「確かに」 「まぁ私も反省しなきゃいけないかもしんないけどさ、それとこれとは別ってもんだよね」 「ああ」 「だからこれからも、男友達とは仲良くしてくよ、私」 「いいんじゃないか?」 「私、間違ってないよね?」 「間違ってないと思うぜ、俺はな」 マシンガンのように放たれる自分の言葉、その全てを正宗は受け止めてくれている。 美幸は、思う。 彼がいてくれて、良かったと。 だから、告げる。 感謝の気持ちを。 「ありがと、正宗」 「どういたしまして」
「そういえば」 一通り、佐野を始めとした教師達の悪口に花を咲かせた後、ふと思い出したように正宗は疑問を 口にした。 「今日、ここで集まろうっていうのは、何か理由があったんじゃないのか? サノセンのこと以外に」 「ああ、うん。実は、正宗に協力して欲しいことがあってさ」 「協力……? って、もしかして」 不自然にニコヤカな彼女の表情に何かを感じたのか、正宗はわずかに身を引いた。 「多分、当たり。恋のお手伝い、ってやつ」 「またか……」 深い、深い溜息を付く。 恋のお手伝い。文字通りの意味だ。美幸の男友達の恋愛をバックアップする、というもの。これまで にも何度か、彼女に頼まれて協力したことがあるのだが。 「ダメかな?」 「駄目ってことはないが」 普段の正宗ならば、美幸の願いを断ることなどない。決して、と言っていいだろう。 にも関わらず、今の彼は、気が進まなかった。なんとなれば、理由は一つ。 彼女が応援するのが、彼女が好きになった男だからだ。 勿論、その男が恋しているのは、美幸ではない。彼女はただ、女友達として相談を受け、協力を 約束しただけだ。 「……いいのか?」 「何が?」 あっけらかんと答えられて、逆に正宗は言葉に詰まる。そんな表情をされては、聞くことがいけ ないことのように思えてしまうから。 「好きな男の恋の手伝いなんてして、アンタはそれで満足なのか、ってことよ」 救いの手は、意外なところから訪れた。正宗の空になったコーヒーカップにお代わりを注ぎながら そう言ったのは、先ほどから話を聞いていたらしいウェイトレスだった。 「姉さん、盗み聞きしてた?」 「アンタの声が大きすぎるのよ」 美幸の非難を意に介さず、彼女の七つ年上の姉であり、この店のウェイトレスをしている由梨は、 そのままテーブルの脇に立って動かない。 「ほら、答えなさいって」 「もう、仕事しろっての」 ぶつくさと言いながらも、妹は決して嫌な顔をしていない。なんだかんだで、仲の良い姉妹なのだ。 昔から変わらない光景に、正宗は何となく、安心する。 「好きな人が幸せなら、それで満足! これでいい?」 ツンと澄ました顔をする美幸に、だってさ、と由梨は彼に振ってくる。 「まぁいいけどな」 「じゃ、協力してくれるってこと?」 「わかったよ」 渋々といった正宗の言葉に、美幸は満面の笑みを浮かべて言う。 「ありがと、正宗」 「……どういたしまして」
「妹が迷惑かけるね」 トイレに行ってくる、と美幸が席を立つと、由梨は笑いながら彼にそう言ってきた。 「別に、構わないっすけどね」 苦笑と共に返す他、正宗はなかった。何より、どうしたって彼は、美幸の頼みを断れないのだ。 これはもう、しょうがないことだ。 「あの子はまだ、本当の恋愛を知らないね」 正宗のそんな思いをよそに、由梨はポツリと何気なく、そう言った。正宗は、コーヒーカップを ソーサーに置いて、テーブルの脇に立つ彼女を見上げる。 「そういうものっすか」 「そういうもんよ。だてに学生結婚してるわけじゃないって」 無駄に胸を張る彼女の姿は、彼には少し眩しく思えた。大学四年の時に入籍した彼女は、二十四歳 の今、立派な人妻なのだから。 「でもアイツ、本気で好きになってると思いますよ」 「それもわかるわ。けど、本気で恋はしてないと思うよ」 謎めいた言葉に、正宗は首をかしげる。肌では理解出来ている気がするのだが、実際はどうなのか、 心もとなかったのだ。 ただ、思うのは一つ。 もしも美幸が恋をするのならば、その相手が自分であって欲しいということ。 同じ頃。 「彼女が絶望から立ち直るとこ、あったじゃないですか。あそこですごく、胸が締め付けられて、泣いちゃい そうになって」 「あそこは良かったよな。その後、何度、打ちのめされそうになっても、あのシーンの想いを大事にして立ち 上がるって意味でも」 「そうそう、そうですよね。吉川先輩、結構、読み込んでるんですね」 「ま、な。三回ぐらいは読み返したか」 夕暮れの光差す高校の図書室に。 夢中で話し込む塩崎忍と、吉川亮太の姿があった。
また文体が変わったような。 >323 そう言っていただけて、本当に嬉しい限りです。コンスタントにそのレベルを保っていければ、 言うことがないのですが……難しいものですね。 >324 展開の進みの遅さが申し訳ないです…… >325 分不相応なお褒めの言葉で、照れるばかりです(;´∀`) 忍を愛していただけて、作者冥利に付きますです。差し上げたいのはヤマヤマですが、もう 少し焦らさせてください´∀`) ともあれ、今後もどうかよろしくお願いいたします。
>>415 GJ!この二人には幸せになって欲しいわ。綾乃と聞くと捨て熊の方を思い浮かべてしまうorz
GJ以外に言うことなど何があろうか。いや、あるはずがない。 最近のこのスレの神作品の投下率は異常だと思う。
GJ!正宗健気過ぎて哀れ…でもかわいいなw 美幸が勝てない相手もいるんですな。姉最強説浮上。 次楽しみです。忍は先輩と何か起こるのか?
乙
435 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:39:38 ID:MNYU0coS
>292 >298 の続きです。 「武田君誕生日何時なの〜?」 「8/13です。」 「家は何処に住んでるの?」 「三丁目の坂上った所です。」 「好きな女優さんとかいる?」 「ごめんなさい、そういうのにあんまり興味ないんです。」 優祐は周囲の女の子達から繰り出される有像無像の質問に律義に答えていた。 「武田君、藤崎綾芽ちゃんとはどういう関係かな〜?」 「藤崎綾芽さんって?」 「綾ちゃんからすると ゆう君 って呼ぶ位親しかったらしいよ〜。」 優祐はそれを聞くと少し考え込む。 「すいません、え〜っと」 「私は武田鈴菜だよ〜。苗字同じだから、鈴菜でいいよ〜」 「わかりました。鈴菜さん、その藤崎さんの所に連れてってもらえます?」 「もちろんだよ〜。あと呼び捨てで良いよ〜。」 「お願いしますね。」 優祐は非常に礼儀正しかった。 完璧に同級生に向かって、ですます調で喋っていた。 「あやちゃん、武田君が喋りたいってさ〜。」 鈴菜が優祐を綾芽の机の前に立たせる。 「武田優祐……ゆう君だよね?」 綾芽は優祐に万感の想いを感じていた。 「あや……藤崎さん、お久しぶりです。これからよろしくお願いしますね。」
436 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:40:25 ID:MNYU0coS
優祐はそう言って頭を下げる。 その態度は綾芽に冷たさを感じさせた。 「ゆうすけ?」 「すいません、ちょっと先生に呼ばれているので。」 優祐は更にもう一度頭を下げ、教室を出ていく。 「あ、武田君、職員室まで案内してあげるよ〜。」 その後ろを鈴菜が追い掛けていく。 残された綾芽はただ一人呆然としていた。 「今日は色々と大変だな」 その綾芽にくっくっくっと笑いながら凜が話し掛ける。 「しかし私が綾芽から聞いていた限りでは彼があんなに礼儀正しいとは思わなかったんだがな。私が受けたイメージはいつもは悪ガキで悪戯っ子だが、いざという時は凄く優しい子というイメージなんだが。」 「うん。昔はあんなじゃなかった。あんなの……優祐じゃない。」 「まあ10年も経てば人も変わる。そう落ち込むな。」 「そう……だよね。」 「もしくは単純にもう綾芽が嫌いなのかもしれないね。だから振ろうとしてるのかも。」 挑発的な口調で綾芽をやゆする。 「なっ、優祐はそんな子じゃない。」 綾芽は表情や口調が明らかにムッとしていた。 「わからないよ。確かめるためにデートにでも誘ってみたらどうだい?嫌なら断られると思うよ。」 「いいわよ。次の日曜にでもやってやろうじゃない。」
437 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:41:05 ID:MNYU0coS
「おぉ〜頑張れ〜。振られても泣くなよ。」 「誰が泣くか!」 綾芽は完璧に凜に乗せられていた。 「あれ〜何処に行っちゃったのかな〜。」 優祐を追い掛けていた鈴菜は彼を見失っていた。 単純に考えれば先生に呼ばれているそうだから、職員室に居るはずなのだ。 しかし優祐は職員室にはおらず、行方が知れなかった。 「裏庭にでも迷い込んじゃったかな〜。」 鈴菜は独りごちて裏庭へと行く。 綾芽達の学校は、都市の中央部からかなり離れた所にある。 また立地的に丘の上に建っている事もあり見晴らしがよかった。 また整備された校舎と校庭とは違いほぼ未開の地と言っていい程の裏庭もあり、そちらもかなりの広さを誇っていた。 「あ〜武田君居た〜。何処に行ってたの〜?」 その裏庭へと続く廊下に優祐が一人立っていた。 「すいません、迷っちゃいまして。」 優祐は一瞬驚いた顔をするも、すかさずそれを隠そうとする。 「ふ〜ん。その手はどうしたの〜?」 優祐の右手の甲には血が滲んでいた。 何か固い物を殴った時に出来るような傷だった。 「あの……え〜っと」 「武田君、無理して自分を押さえ付けない方が良いよ。」
438 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:42:13 ID:MNYU0coS
鈴菜は一瞬だけ真面目な声で優祐を諭す。 「さっ、先生の所に行こうか〜。」 しかしすぐに元の柔らかい声に戻る。 「いや……あの、すいません。」 「あは〜やっぱり呼ばれてる訳じゃなかったんだね〜。」 「ごめんなさい。」 「別に良いよ〜。でもどうしてそんな嘘ついたのかな〜?」 鈴菜は優しそうに見えて容赦なく優祐を追求していく。 「それは……あの……」 「言いたくなかったら言わなくてもいいよ〜。」 「すいません。」 「も〜、武田君謝り過ぎ〜。しかも謝り方が単調なんだよね〜。」 「ごめんなさあっ……」 「あはは〜。ま、言いたくなったら言えば良いさ。それじゃあね〜」 鈴菜は優祐を教室の前まで連れていくと何処かへ走り去っていった。 一人残された優祐はその姿を見送った後、とぼとぼと教室に戻って行く。 「優祐、今週の日曜暇?暇なら遊びに行こ、」 教室に戻った優祐を待っていたのは、肩を怒らした綾芽と綾芽から出された提案だった。 「日曜ですか?お昼からならなんとかなりますけど、どうかしましたか?」 優祐は下から綾芽の顔を覗き込む。 「ベ、別にどうもしてないわよ。」 綾芽は必死に取り繕おうとするが。
439 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:42:54 ID:MNYU0coS
「でもあやちゃん顔赤いよ〜。」 しかし、いつの間にか戻って来ていた鈴菜が茶々を入れ、 「そりゃデートのお誘いをしてるんだから赤くなるさ。」 凜がとどめを刺す。 「なっ……凜なに言ってんのよ!別にデートなんかじゃなくて、ただ街を案内してあげるだけだからデートなんかじゃ……。」 元々赤かった顔を更に真っ赤にして釈明という名の墓穴を掘り続ける。 「あやちゃん、墓穴掘ってるってわかってるかな〜?」 「なっ。」 慌ただしく動いていた綾芽の動きが止まる。 「ホントに凄いな。」 「今どき中々いないよね〜」 それを見て二人はけらけらと笑っていた。 「藤崎さん、大丈夫ですよ。誰もそんなこと考えませんから。そもそも僕と藤崎さんじゃ釣り合わなさ過ぎてありえませんよ、デートなんて事は。」 只独り状況を良く把握していない少年が全くフォローになってないフォローを入れようとする。 「そうだよね〜。ごめんちょっとお手洗いに行ってくる。」 綾芽は小走りにトイレへと走っていく。
440 :
交錯する想い :2007/07/21(土) 23:43:40 ID:MNYU0coS
はぁ 凜が一際大きなため息をつき優祐に問う。 「あれだ、君は昔虐待されてたとか、いじめられてた、とかいう体験の持ち主じゃないかな?」 「え?なんでですか?」 「いやいや、気を悪くしないでくれよ。君の言動と性格がそういう事をされてしまった人々に酷似してたからさ。」 「ああ、いいですよそんな事気にしなくても。そうですね、昔捨てられちゃったってのはありますけどそれ以外でそんな経験はありませんね。」 「そうか、なら良いんだ。でも、それならば尚更自虐的な言葉遣いとその敬語はやめた方がいいぞ。」 「そうですか?」 「うむ。」 「わかりました気をつけます。」 「授業始まるよ〜。」 優祐は慌てて自分の席に戻る。 「その言葉は他人も自分も傷つけるだけだからな。」 最後の凜の呟きは誰にも聞こえていなかった
441 :
292 :2007/07/21(土) 23:49:05 ID:MNYU0coS
神作品がたくさん来てますね。是非とも見習いたいです。 作者の方々GJです!!! 続きです。 前投下分で鈴菜の名前が鈴華となってる部分がありますが、武田鈴菜です。 間違ってしまい申し訳ありません。 ということでまだまだ落とさせてもらうのでよろしくお願いします。
いいねいいね〜GJ!! さてどんな過去があったのやら・・・
こっそり。 >191-195 >199-203 >224-227 >236-240 >262-267 >317-321 >424-429 の続きを投下。
同じ価値観を持つ人に、出会えることの幸せ。 08:Changing Seasons 本を閉じて、一つ、ほぅ、と溜息。噛み締めるは物語。そこに描かれた人々の想いと心が、全身に染み 渡るのを感じながら、忍はもう一度、最初のページを開く。 なんて優しい物語。忍は一つ一つの文字を大切に、慈しむように目で追う。 この本に出会えて良かった。しみじみと幸せを噛み締めながら、忍は、読み終えたばかりの小説を、 もう一度、愛し始めるのだった。 時を忘れて。 そしてふと思う。 この本を、あの人は知っているのだろうか? もしも知らないのならば、知って欲しい。 世界にはまだ、こんなにも素敵な本があるということを。 あの人とは正宗のこと、ではなかった。 忍が思い描いたのは、一つ年上の少年の姿。つい最近に初めて出会ったばかりとは思えない程、 彼女に近しくなった人。 そもそものきっかけも、やはり本を通してだった。場所が図書室というのも、出来すぎといえばそうだが、 ある意味、当然のことなのかもしれない。 「……あ」 いつものように放課後を本を読んで過ごそうと向かった図書室、その入り口。扉を開けようとして、廊下 の向こうから歩いてくる彼の姿に気付いて、忍は思わず小さく声を漏らした。 「おう」 「どうも」 軽く片手を上げてくる吉川亮太に、彼女は小さく目礼する。近付いてきた彼は、その顔に小さな笑みを 浮かべている。 「やっぱり図書室か?」 「そうですけど……やっぱりって?」 先日、知り合ったばかりの筈なのに、まるで旧知かのような亮太の言葉に、忍は軽く目を見開いて 怪訝な顔つきになった。 「黒後家蜘蛛の会」 返って来た答えに、一瞬、キョトンとした後、それが彼女がつい先日に読んだ本の名前だと気付く。 「前にここで借りて読んだろ?」 「え、あ、はい」 「貸し出しカードに名前があったからな。何となく、覚えてた」 それだけじゃないぜ、と小さく笑いながら、彼は続けて幾つかの本の名前を挙げた。どれもこれも、 忍がここで借りて読んだことのあるものばかりで、さすがに息を飲む。 「よく見つけましたね」 驚きに目を丸くしながら言うと、亮太は小さく肩をすくめて、たまたまさ、と呟く。 「けど、たまたまにしたって、こうも自分と同じ本を読んでるとなると、少しは気になるもんだ」 言った後、小さな苦笑交じりに続ける。 「それも、マイナーであんまり知られてない本ばかりだから、余計にな」 彼の言葉に、思わず、忍も吹き出してしまった。 確かに彼女が借りる本は、どうしてこの本が図書室にあるのだろう、というようなものが多い。あまり 知られていない作家のものや、あるいは有名な作家が書いた無名のシリーズものなどだ。 元々、それほど本が好きな生徒が少ない学校なのか、忍の前に借りられたのは、五年や十年も 前という本も多い。確かに、それだけマイナーな本を借りようとした時、つい最近、同じように借りた 人がいたのならば、その名前を覚えていてもおかしくないかもしれない。
「吉川先輩も、マイナー好きですか」 「マイナーだから好きってわけじゃなくて、好きな本がたまたまマイナーなだけだ」 並んで席に座りながらの忍の言葉に、亮太は軽く目を吊り上げながら反論する。が、それは決して、 不快に思っているからではなく、むしろ楽しげに彼女には見えた。 「じゃあ、あの本とか読みました?」 忍の挙げたタイトルに、彼は首を横に振る。そして、 「面白いのか?」 「ええ。今までの本、ああ、私と被った本ですけど、それが楽しめたなら、面白いかと」 「ふぅん? まぁ、それなら読んでみるか」 その日、忍は結局、一度も本を手に取ることなく図書室で放課後を過ごした。二人以外、他に誰も いないことを幸いに、延々と好きな本の話題と情報交換をしていたから。 時計の針が、てっぺんで重なる。さすがにそろそろ眠くなってきて、忍はベッドに横たわった。 時々、美幸が遊びに来ては、女の子らしくないと呆れるほど機能的に整頓された部屋には、所狭しと 本棚が設置され、多くの本が並べられている。目を閉じる前に、適当に本をとってパラパラとページを めくるのがいつもの彼女の癖なのだが、今夜はそうする気にはなれなかった。それだけ、今日、出会った 本が心を暖めてくれたからだ。 ほぅ、とまた溜息をついて天井を見上げながら、宙に描くのは彼のこと。 吉川亮太。 今まで、彼ほどに話が合う人はいなかった。正宗も、美幸も、こと読書に関しては、まるで彼女と趣味が 合わなかったから。どれだけ忍がいい本だから読んでみて、と勧めようと、苦笑いと共に、いつかね、 とかわされるだけだった。 仕方ない、と忍も頭では理解している。人の好みの問題だから。押し付けることは良くない。 ただ少し、寂しくもあった。同じ話題で盛り上がりたい、いや、同じ感情を共有したいと思っていたから。 知って欲しかったのだ。こんなにも素敵な世界が、本の中には描かれているのだということを。もし それを分かち合えたら、どれだけ楽しいだろう。 だが正宗達には、彼女の願いは伝わらなかった。幼馴染達に対して忍が感じる唯一の不満は、そこ だった。もっとも、そんな不満を吹き飛ばしてしまうほど、彼らと過ごす時間は楽しいものだったのだけれど。 それでも、不満があったのだ。 そこに現われたのが、一つ上の先輩である吉川亮太だった。 彼は、わかってくれた。彼女の世界観を。 彼は、理解してくれた。彼女が望む物語を。 彼は、わかちあってくれた。彼女が感じた想いを。 それがどれだけ楽しくて嬉しいことかを、忍は言葉に言い表せられない。 だから忍は、最近、放課後に足繁く図書室に通うようになっている。彼と、吉川亮太と本の話をすることが 楽しかったから。
「なんか最近、忍、一緒に帰ってくれなくなったよね」 ポツリと呟いたのは、美幸だった。目を伏せた彼女は、その唇を小さく尖らせている。 「図書室に行くって言って、放課後もすぐにいなくなるからな」 答える正宗も、どこか落ち着かないと思う。喫茶店コールド・ストーンに三人で来るといつでも、美幸の 隣には忍が座った。そうして、美幸が喋り、正宗が受け、忍が冷静につっこむ、というのが当たり前に 繰り返されてきた風景だった。 「なんだかね、隣がスースーする感じ」 とても感覚的な言葉だったが、彼にもそれは理解出来る。これだけ長い間、忍が二人から離れて 行動したことはなかった。だから、彼女がいる筈のスペースが空いていることが、ひどく不自然に思えて しまうのだ。 実際、それは正宗や忍だけに留まらず、この店で働く由梨もまた、 「忍ちゃん、最近、どうかした?」 と心配そうに尋ねてくるほどなのだ。 何となしにざわめく気持ちを振り切るように、努めて明るく彼は振舞う。 「よっぽど好きな本があったか、長いシリーズにはまったかだろうな」 「……ホントに本なのかな?」 美幸が呈した疑問に、正宗は怪訝そうに眉を顰めた。 「どういうことだ?」 「例えばさ、好きな人が出来たとか? こっそり付き合ってるとか? だから一緒に帰れないとかっ」 考えているうちに盛り上がってきたのか、疑問系が最後は断定になる少女を、彼は目で抑える。 「落ち着け。勝手に妄想してやるなって」 「む、ゴメン、ゴメン。でも、ホントにそうだったらどうしよー。やっぱ応援したげないとね」 「だから、決め付けるなって。あんまりそんな風には見えなかっ……」 言いかけて、口ごもる。考えてみれば、いつもの本の虫の病気だと思っていたが、以前とは違って 最近の彼女は楽しそうに見えた。図書室に向かうのも、本以外に目的があるかのようで。 もしかして……? 「まぁでも、私達に何も言ってこないんだったら、こっちからも何も言わない方がいいのかな。実際は どうだかわかんないわけだし」 「あ、ああ。そうだな」 熱くなった時と同じように、唐突に冷静になる美幸の言葉に、正宗は翻弄されながらも、なんとか 頷き返す。 それでも、ほんの少しだけ、一瞬だけ。心は、捉われていた。 もしも、忍に好きな人が出来たら……? 胸の奥に砂を撒かれたような、微かな不快を覚える。ザラザラと流れる砂が、小さな傷となって心を 痛めてきた。 「でさ」 その不思議な違和感は、しかしすぐに目の前の少女の笑顔に吹き飛ばされた。 「今度のデートだけどさ」 「ああ」 デート、という言葉を、何とか彼は左から右へと受け流す。受け止めてしまったら、きつく結んだ口が ゆるんでしまいそうだったから。 勿論、デートと言っても、本当のデートではない。以前のお願いの一環だ。彼女が好きだった男子と、 その彼が好きになった女子。それに美幸と正宗の、四人で出かけようと言うのだ。見方によっては、確かに ダブルデートと言えなくもない。 もっとも、ただ響きだけが良くても、意味がない。美幸と正宗は、確かに二人でいることが多くなるだろうが、 それは決して文字通りの意味ではないだろうから。 例えば、もしもここに忍がいたならば、きっと彼女も巻き込まれていたことだろう。そうあってくれれば、 と思う部分があるあたり、正宗自身、単純に喜んでいるわけでは決してなかった。 「一応、カラオケとか予定してるんだけど、二人が適当にいい感じになったら、私と正宗は抜け出すって ことで」 「うまくいきそうなのか?」 「多分ね」 あっさりとした美幸の言葉に、そうか、と正宗は頷く。 彼女がそう言うのならば、きっと大丈夫なのだろう。 美幸が確かに愛を繋ぐキューピッドだということを、彼は知っていた。彼女が応援した二人で、付き 合わなかったカップルは今までになかったのだから。
「……」 「ん? なに?」 「いや、なんでもない」 まじまじと見つめたのに気付かれて、正宗はゆっくりと首を振って目をそらす。 そのキューピッドの力は、幸か不幸か、美幸自身には向けられていない。全て、他人の為に使われている。 幼い頃からいつだって、そうだった。 人の幸せを、無心に祈ることの出来る子供だった。 少しずつ成長するにつれ、時には傷ついた姿を見せた時もある。それでも彼女は、立花美幸は、他人の 笑顔の為になら自分が痛むことさえ恐れなかった。 以前、彼女が言った言葉が本当のことだと、彼は知っている。 好きな人が幸せなら、それで満足。その優しさと強さを、彼は好きになったのだ。 だから思う。自分もまた、彼女のようにありたい。美幸には幸せであって欲しい。 コーヒーを飲んで、一つ、間を置いて。 改めて正宗は、目の前の彼女を見る。 彼は、しかし思うのだ。自分が、彼女を幸せにしたいと。 幼い頃から知っている、彼女の全てを好きだから。 幼馴染の二人の、そんな語らいを知る由もなく。 「ってわけで、この本がお勧めなんですけど」 「へぇ? じゃあ、借りてみるか」 「そっちはどうでした?」 「すごくいい、ってわけじゃないな。でも、読む価値はあると思う」 「じゃあ、借りてみます」 忍は今日も亮太と、図書室で話し込んでいた。お互いに本を薦めあい、感想を互いに述べ、徐々に 相手のことを知っていく。 いつか、二人の名前が連なって書かれた貸し出しカードを持つ本は、少しずつ増えてきていた。 「あれ?」 そして、それを見つけたのは、忍だった。 予備校に通うと言って、一足先に帰った亮太を見送った後、読みかけの本を借りようとした彼女は、 貸し出しカードを取り出した瞬間に、カードのポケットから折り畳まれたルーズリーフが落ちたのに気付き、 それを拾い上げた。 随分と古く、わずかに黄ばんだそれを何気なく開いた忍は、柳眉を顰める。 それは、手紙だった。 ――――想いの、こめられた――――
入り組んで参りました。 >433 姉はまた登場予定です。最強かどうかは、その時にまたw ゆっくり過ぎて、なかなか進まない物語ですが、またお付き合いいただければ と思っています。 ではどうか、よろしくお願いいたします。
>>448 GJ!やはり先輩との間にフラグが。色々と濃厚かつ濃密に絡み合ってきたな(語弊あり)
今回も面白かったです。 この先どう転ぶのかもう心配で心配で・・・ でも楽しみっす!!
ふいーー。 今回も楽しませてもらいました。 最近の話の流れのせいか、美幸と正宗よりも忍と先輩のほうが気になってしまう俺。 忍と先輩の関係をどっかでみたことあるなと思ったら、ジブリの『耳を澄ませば』ですね。 こんな二人がいた気がします。気のせいだったらごめんなさい。
ありゃアマサワが本好きの雫の気を引くために片っ端から借りるというストーカー行為だ。 イケメンがやったから美談になってるがな。
保守
あ、そんな話だっけか。 やっぱうる覚えで書くのはよくないな。すまんかった。
うる覚えと書いてあるのをみると(ry
保守
ほしゅ
458 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう :2007/07/29(日) 09:47:37 ID:D4kyLE8O
保守
ホシュ
ちょっと書きたくなりまして、初投下させて頂きます…
序章『かずみとゆうき』 その子は女の子みたいだった。 私は彼を妹のように捉えていた。私はその妹を守る兄のような存在だった。窓ごしに会話出来るほどに 家が近かった、という地理的な要因も存在していた。 その子は体の線が驚くほど細くて、ちょっと走るだけですぐ疲れるような子で、気が弱くて、あたしがいつも 傍に居て守ってやらないといけないような、そんな感じだった。 名前も 『和美』 なんていう女の子みたいな名前が一層拍車をかけている。和美が名前と外見のことについていじめられていた 記憶が今も印象に残っている。で、それを助けていたのはいつもあたし。当時は空手を習っていたのもあって、 あたしは喧嘩が強い男気のあるガキ大将的存在だったのだ。 で、助けてやると、 『ひっ、うぐ…うっ、勇希ちゃん、ごめんね…』 とゆうようになきべそかきながらあたしに謝るのだ。
『あのねぇ、あんたも男ならシャッキリしなさいよ』 いつもこんなやりとりをしていた。 そんなある日のこと、学校で将来の夢を作文に書いて発表する課題があった。あたしはスポーツ選手に なりたいとかそんな感じのことを書いた記憶がある。そして、和美の番になって、和美は少し皺のよった 作文用紙を開いて読み始めた。 『しょうらいのゆめ いちねんにくみ しまもとかずみ ぼくのしょうらいのゆめは、つよいひとになることです』 『ぼくはちからもなくて、よわむしで、よくおんなみたいっていわれるけど、おおきくなったらヒーローみたいに カッコよくなりたいです…』 その作文が印象に残ったあたしは、その日の帰り道、和美に尋ねた。 『ねぇ、今日のあの作文…ほんとにつよいひとになりたいって思ってるの?』 『うん! ぼくね、つよいひとになって勇希ちゃんを守れるようになりたいんだ!』 『なんで?』 『昨日見たテレビで「男の子は女の子を守ってやらなくちゃいけない」っていってたよ』 『和美はバカねぇ、それは古いかんがえよ、だんじょさべつよ』 『え、えぇ? そ、そうなの?』 『そうよ』
『じゃあ、僕どうしたら…』 あたしはまた泣きべそをかきそうになっている和美に溜息をつきながら言った。 『なら、あたしを支えてよ』 『え?』 『昨日見たドラマでね、言ってたの。人っていう字は支えあってできてるんだって。だから、和美はあたしを 支えて。あたしは和美を守るから』 今思えば、あたしって完全な思いつきであの頃生きてたんだな…ドラマで言ってたからってそう言うなんて。 よく考えたら前後の話の関連性が無いような気もするし… でも、その時の和美は笑顔で、 『うん、わかった!』 と言って大きく頷いた。 『ぼく、おおきくなったらつよいひとになって、勇希ちゃんをささえるよ!』 『なら、ゆびきり。これをしたらもう約束をやぶっちゃいけないんだからね』 『うん、約束』 『ん』 …ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます…ゆびきった 『約束』 『うん』 その後、あたし達は手を繋いで家に帰った。 そんな遠い日の、はじまりの、記憶…
投下終了 というわけで、唐突に初めさせていただきました。 プロローグとして回想的にしたかったので、いささか読みにくくなってしまいましたが、ご容赦ください。 この主人公の名前は「和美:かずみ」と「勇希:ゆうき」です。 できればお楽しみください。これから少しの間よろしく願います。
おぉ!!wktkです でも1回の投下が少ない気が
続き待ってます
とりあえず全員レイプされて欲しい。
これは期待せざるを得ませんな!
保守
またまたこっそり。 >191-195 >199-203 >224-227 >236-240 >262-267 >317-321 >424-429 >444-447 の続きを投下。
時を越えた想い。 09:A Seclet Letter 「正宗」 昼の休み時間。ジュースを買いに一人、廊下に出た彼に声をかけてきたのは、塩崎忍だった。 「ん?」 「あ……うん」 振り返った正宗は、いつも通りの顔をしていたつもりだったが、何故か、忍は口ごもる素振りを見せる。 呼びかける時に挙げたのだろう右の手を、グーパーグーパーと繰り返して、そのまま彼女は下げてし まった。 「……? どうかしたか?」 訝しく思いながら問いかけた彼は、彼女が左の手に本を一冊、持っていることに気付く。タイトルまでは わからなかったが、表紙に描かれた主人公の絵から、つい先日、忍が勧めてきた本だろうと見て取る。 確か、『私』というだけで名前のわからない少女を主人公に据えた、短編ミステリー集と言っていたか。 「いや、その、ね……今日も、美幸と一緒に帰ったりする?」 そんな彼の様子に気付かなかったのか、しばしの逡巡を見せた後、思い切って彼女は口を開く。 なんだろう。ふと、正宗は思った。忍の素振りが、いつもと違って見えたのだ。どこかおずおずとして いて、距離を置かれているような。 「ああ、そのつもりだけど。忍も久しぶりに、一緒に来ないか? 美幸も、寂しがってたし」 違和感を払拭すべく、いつもより柔和な表情を心掛けるが、忍は一瞬、目を見開いた後、軽く顔を伏せた。 「……そっか。ありがと。でも、今日は無理。ごめん」 次に顔を上げた時には、彼が知るいつもの彼女の表情だった。つまり、あまり愛想の無い無表情。 「元気なんでしょ? 美幸」 「ああ、勿論。余計なことに首を突っ込んで、張り切ってるけどな」 「正宗も大変だね、振り回されて」 シニカルに笑む忍に、正宗は肩をすくめる。声音も、言葉も、その内容も、いつも通り。だから彼は、 先ほど感じた違和感は、何かの勘違いだったかと思う。 「で、忍は何の用だったんだ?」 「大したことじゃないよ。ちょっと手伝ってもらおうかと思ってたけど、美幸の方に付き合ってあげて」 「何だよ? 別に、両方だって……」 「いいよ、ホント、つまんないことだったからさ。呼び止めてゴメン」 この話はもう終わり、とばかりに身を翻して教室に戻る彼女に、正宗は首をかしげながら、ジュースを 買いに向かったのだった。
放課後の図書室には、まだ誰も来ていなかった。 鞄をいつもの場所に降ろして、席に座る。そして忍は、ノートに挟んであった紙切れをもう一度、広げて みた。 かなり黄ばんでいて、時の流れを感じさせる紙に書かれているのは、シンプルな、しかしまるで意味が わからない言葉の羅列。 『H.TからR.Iへ 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』 紙の横に置かれるのは、正宗に話しかけた時に持っていた本。昨日、彼女が借りた北村薫の『六の 宮の姫君』という本。貸し出しカードと一緒に挟まれていた紙切れだった。 手紙、であることは間違いないだろう。H.TとR.Iというのは、恐らくイニシャルのことだ。 書いたのは、恐らく男だと忍は思う。丁寧に書かれているが、角ばっていて、女性らしさは感じられない 文字だったから。 後は……よくわからなかった。いや、よくどころではない。何もわからなかった。 「亀な嫁産め、なほ産めかごめ、粉舐めると難」 口に出して呟いてみる。韻を踏んでいるようにも思えるが、歌や詩というわけではなさそうだ。少なくとも 彼女は見たことも聞いたこともない。第一、響きの収まりが悪い。 そもそも、この文章に意味があるのだろうか。忍はこめかみをトントンと人差し指で叩きながら、眉間に 皺を寄せて考え込む。 手紙であるならば、意味はあるはずだ。伝えたい内容が。 それを知ってどうしようと言うのだろう。彼女の中の冷静な部分が囁く。人の手紙を盗み見るのは、 倫理的にまずいのではないか。 けど恐らく、この手紙を送った人も、送られた人も、この学校にはいない。何しろ、この紙の黄ばみ具合を 見るに、一年や二年前というわけではないだろう。だから、構わない。もう一つの声がそう反論する。 それは昨日から何度も、彼女の頭の中で繰り返されている議論だったが、優勢なのは後者の方だった。 もしかしたら、届けられなかった相手を探し出して、渡すことが出来るかもしれないし。 苦しい言い訳だと自覚しながらも、忍はそう思うことで自分の行為を正当化していた。 逆に言えば、彼女はそれだけ、この謎が気になって仕方なかったのだ。謎そのものもそうだが、図書 カードに入れて伝えようとしたその手段に、一体どんな人が考えたのだろう、という興味が湧いていた からだった。 とはいえ、いかんせん、一人では糸口すら見つからない。忍は推理小説を愛読していたが、それと 自分が推理するのとではまた別物だということを、改めて彼女は感じる。 だからこそ、相談がしたくて正宗に声をかけたのだが。 「…………」 知らずこぼれる溜息、胸の奥には微かな痛み。 元より、三人で謎を解こうと言うつもりだった。なのに、いざとなるとその言葉は出てこなくて。 何故かは、彼女自身にもわからない。ただ、正宗が美幸の名前を口にした時、表情を柔らかくした ことが辛かったのかもしれない。 以前より、二人の距離は近付いているんじゃないだろうか。そんな風に想像してしまう。ただの妄想だと わかっていても、なお。 忍は、軽く頭を振って、短い前髪をかきあげる。気持ちを切り替えよう。今はこの暗号の手紙のことだけを 考えよう。そんな風に自分に言い聞かせる。 何より、恐らく正宗達よりも、相談に乗ってくれそうな人がいるのだから。 「相変わらず、早いな」 少女一人きりの図書室の沈黙。それ破って声をかけてきたのは、ちょうど彼女が考えていた人物だった。 扉の方を見て、小さく頭を下げながら、忍は小さく微笑み、そして言った。 「こんにちは、吉川先輩。ちょっと相談があるんですけど」
「じゃあ、静香。待ち合わせは明日の十一時、駅前でいいかな?」 「うん。いいよ」 長い黒髪に手をやりながらはにかむ少女の様子に、美幸の顔にも自然と笑みが浮かぶ。頬をほんのりと 染めた彼女は、確かに可愛くて仕方ないものだった。 「楽しみだね」 「うん、楽しみ」 自然と口をついて出てきた言葉にも、少女は素直に頷いて返してきた。美幸は笑みを深くすると同時に、 思う。きっと、うまくいく、と。 今頃、正宗もまた同じように、友人と明日の予定を確かめ合っていることだろう。 そう、明日は、以前から計画していたダブルデートの日だった。無論、建前は皆で遊びに行くだけだ。 だが始まれば、正宗と美幸と残り二人、という風に自然に分かれることになるだろう。 後は、いなくなるタイミングかな。 明日の服を考える少女、静香の嬉しそうな横顔に目を細めながら、美幸は思う。予定ではカラオケの頃 なのだが、もしかしたらもっと早くなるかもしれない。なにしろ、思った以上に静香は乗り気で、楽しそう なのだ。カップル成立は確かだろう。 美幸が、まったく寂しさを感じないと言えば、嘘になるだろう。正宗と共に来る少年は、ひとときとはいえ、 彼女が想いを寄せた男なのだから。 それでも美幸は、彼が想いを寄せた少女もまた、彼を好きだと言う事実が嬉しい。 好きな人には笑顔でいて欲しい。幸せであって欲しい。それは立花美幸の、偽らざる本音だったから。 「そういえば、明日は九条君も来るんだよね?」 「正宗? 来るよ。それがどうかした?」 「ううん、別に。ただ、九条君の私服姿って、あんまり見たことないなぁ、って、ちょっと思って」 彼の私服姿を想像しているのだろうか、わずかに視線をあげて静香は天井を見ながら小さく笑う。 「すごく、カッコいいんだろうね」 「んー。そうかな? 普通だと思うけどね」 「それは美幸ちゃんが見慣れてるからだと思うな」 言われて、彼女は首を傾げる。否定しているわけではない。カッコいいとは思っているが、すごくと言う ほどではない気がしたのだ。 「じゃあ、美幸ちゃんは目が肥えてるってことで」 「それも違うと思うんだけどなぁ……っ」 やや途方に暮れたように言葉を継いだ美幸だったが、廊下の向こうから近付いてきていた現国の教師、 佐野の存在に気付いて言葉に詰まる。 冷ややかな光を目に浮かべながら近付いてきた彼女は、チラリと二人を睥睨してから、 「また、男の子達と遊ぶ相談かしら?」 「えぇ、まぁ。男友達と、出かけようって話です」 咄嗟に出た一言は、美幸の苛立ちがストレートに現われたものだった。以前から彼女に対して感じて いた反感が、この瞬間にピークに達したのだ。 彼女の鋭い言葉を、しかし、佐野はそう、と頷いただけで受け流す。それでも、美幸を見つめる視線は、 決して緩んだわけではなかった。一人、静香だけが、二人の間に漂う異様な空気に戸惑っている。
「まぁ、あんまり楽しみ過ぎて、羽目を外さないように。それから勉強もしっかりとね」 先にそう譲ったのは、佐野だった。捨て台詞のように言い残して、彼女は廊下を再び、歩いて行く。背筋の ピンと伸びた、いかにもな女教師の後ろ姿に、美幸は顔をしかめる。完璧だからこそ、嫌味に思えたのだ。 「何かあったの? サノセンと」 不思議そうに尋ねてくる静香に、少女は肩をすくめた。たいしたことじゃないんだけどね、と前置きをして、 つい先日に呼び出された時の話をする。 「別に私達がどんな風に過ごそうと、勝手だよね」 女子高生なんて期間限定なんだから、と口を尖らせる美幸に、静香は困ったように笑いながら、そうだね、 と言って首を縦に振る。 「でも、もしかしたら、あの噂のせいかも」 「ん? 噂って?」 「サノセン、最近、恋人とうまくいってないだって。別れるとか、電話で話してるのを聞いちゃった子がいる とか」 噂だけどね、とさらに声を潜める静香に、彼女は渋い顔をした。 「何それ。八つ当たり? ひっどいなぁ」 私なら絶対に、そんなことしないのに。 美幸は心の中で言う。 例え好きな人に好きな人がいても。その相談を受けて、協力して、カップル成立まで導いても。 辛いと思わないわけじゃない。 それでも、耐えてる。恋愛の、自分の痛みは、自分にしかわからないもの。 八つ当たりなんてしない。そんなのは、醜いだけだから。 「美幸ちゃん?」 沸々と沸く苛立ちを、美幸は首を振って一掃した。次の瞬間には、明るい笑顔になる。 「なんでもないよ。それより、明日のこと、しっかり考えとかなきゃ」 つまらない人のことは、忘れよう。そう決めて、佐野のことを頭の片隅に追いやって彼女は、楽しい明日の 計画を決めるのに没頭し始めたのだった。
「なるほどな」 手紙を手に取って、亮太は眉を顰めていた。 図書室には、いつもの二人。吉川亮太と、塩崎忍。だがその様子は、いつもとは違う。 肩を寄せて覗き込んでいるのは、一枚の紙。そう、忍が見つけた手紙だ。 『H.TからR.Iへ 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』 図書室に後から現われた彼も、すぐにこの謎が気になり始めたらしい。穴が開くかというほど、じっと その紙を見続けている。 「意味がわからんな」 「近いものとかでも、知りませんか?」 「俺の記憶にはないな、こんな変な文章は」 「じゃあ、見たままの文章に意味はないんですかね」 二人揃って、眉間に皺を寄せる。何か解く鍵はないかと、手紙をひっくり返しながら表も裏も調べるが、 全くそのようなものは見つからなかった。 「手紙、だと思いますか?」 「だろうな。H.Tとか、R.Iってのは、イニシャルだろうし」 忍が口にした疑問に、亮太が答える。と、突然、彼女は小さく声を出して笑う。 「ん? なにかわかったのか?」 「あ、いえ」 やはり微笑みながら、忍は首を横に振る。 「昨日からずっと考えてたんですけど、一人だと煮詰まっちゃったから。やっぱり、誰か応えてくれる人が いる方が楽だな、と」 「そんなもんかね」 怪訝そうに答える亮太に、彼女は深く頷く。そうか、とだけ呟いて、彼は再び視線を手紙へと落とす。 さして興味の湧く話題ではなかったのだろう。忍もまた、それ以上、続ける気はなかったので、再び疑問を 口にする。 「手紙だとしたら、内容があるんでしょうけど……どんな内容だったと思います?」 「さぁな。けど、内容より先に、考えなきゃいけないことがあるだろ」 亮太の言葉に、忍は目を瞬かせる。内容より先に、考えなきゃいけないこと? そんなこと、あっただろうか。 「あのな、手紙ってのは、届くように送るもんだろ、普通。目当ての人と全く違う奴に届いたってどうしよう もねぇんだから」 「はぁ」 そうですね、と頷いてから、首を傾げる。 「でも、これはそうじゃないですよね」 紙の黄ばみから見ても、おそらく随分と長い間、貸し出しカードの裏に挟まっていた筈だ。そしてたまたま、 忍が手に取らなければ、きっとまだずっと気付かれることがなかっただろう。 つまりこれは、届かなかった手紙なのだ。 それを彼女が指摘すると、亮太は小さく頷いて答える。 「確かにな。けど、送り主になって考えてみろよ。届くはず、と思ってそこに入れたんだろ? でなきゃ、 なんでそんなとこに手紙を入れるんだ」 「……あ」 なるほど、と忍は深く頷く。必ずこのR.Iに読まれると思ったからこそ、この送り主H.Tは、貸し出しカードの 裏なんて場所に隠したのだろう。そうでなければ、ここに入っていた説明が付かない。 「つまり、送り主は確信があったわけだ。相手がこれを借りて読む、っていうな」 「そうして見つけてもらおうと思ってた、と」 ありうる話だと思って、彼女は深く頷いた。少し無茶な気がするが、そんな無茶をしても渡したいと思った ものなのだろう。 「だとしたら、送り主は簡単だな」 「ですね」
言いながら、二人は『六の宮の姫君』の貸し出しカードを手に取る。一番新しい借り手は塩崎忍。そして その一つ上に書かれた名前は。 「戸塚秀人……こいつがH.Tだろうな」 彼の言葉に、忍は頷いて、時を経て変色した彼のサインに思いを馳せる。一体、何を願いながら、彼は この手紙を残したのだろう。 きっとロマンチストだったのだろうな。彼女はまだ見ぬ男の人影を心に描く。純粋な思いで、書いたの だろう。この手紙を。 「本当なら、ここに一人、間に挟まってるはずだったんだろうな」 取り出したルーズリーフに戸塚秀人、塩崎忍と縦に並べて書き、その間に亮太はR.Iというイニシャルを 矢印で挿入する。一つ、謎が解けたというのに、彼の顔は曇ったままだ。 「ただ、なんでこの本だったか、が問題なんだよな」 彼が訝しく思うのは、何故、この『六の宮の姫君』という本だったのか、というところなのだ。図書館には 他にも、たくさんの本がある。 その中で、この戸塚秀人という男が、どうしてこの本を選んだのか。 逆に言えば、どうしてこの本を相手が読むと思ったのか。そこがわからなかったのだ。 「ああ、それなら私、わかりますよ。どうしてこの本だったのか」 事もなげにあっさりと言った忍の声に、彼は思わず勢い良く顔を上げた。 「マジでか!?」 「ええ。って、その前に吉川先輩、この本、読んだことないんですか?」 「芥川龍之介の書いた『六の宮の姫君』なら読んだことあるんだけどな」 負け惜しみのように亮太は言ってみるが、彼女は、 「じゃあ、仕方ないですね」 とあっさりと言って取り合わなかった。そして忍は、席を立って本棚の方へと歩いていった。つられて 亮太も立ち上がり、彼女の後を追う。 「この北村薫の『六の宮の姫君』って、芥川の書いた『六の宮の姫君』の謎を追うストーリーなんですよ」 「謎なんてあったのか?」 「読んだらわかりますよ」 笑いながらそういなして、彼女は北村薫の本が並ぶ棚の前に立った。 「で、これの主人公が『私』ってだけで、名前が出てこない女の子なんですけど」 「ネームレス主人公、って奴だな」 「そうそう。で、彼女が出てくるのは、この本だけじゃないんですよ」 言いながら忍が手に取ったのは、『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』と題打たれた三冊の本。 「ナンバリングがされてないし、全部、タイトルが違うから気づきにくいですけど、これ、『私』と探偵役の 〈円紫師匠〉が出てくるシリーズものなんです。『六の宮の姫君』は、その四巻目」 私も、順に読みました。そう言いながら、彼女は三枚の貸し出しカードを取り出した。それぞれ、一番、 新しい名前は塩崎忍。二つ上には、戸塚秀人の名前。 「この戸塚って人は、こう考えたんじゃないでしょうか。自分と同じように、順番に読んでいっているなら、 きっとこの人……この女の子も、『六の宮の姫君』を読むだろう、って」 塩崎忍と、戸塚秀人。二人の間に挟まっている名前は。 「井上玲子……イニシャルR.Iか」 「きっと彼女が、戸塚って人が手紙を届けたかった相手でしょうね」
「届け主と、送りたい相手はわかりましたね」 「ああ」 席に戻った二人は、机の上に三冊の本を新たに重ねて置く。 一歩前進、と言ったところなのだろう。まずは一つ目の山を越えた。 だが、と彼女達はまた、頭を寄せ合って手紙を覗き込む。 「問題は、この手紙の内容だな」 「暗号……ですよね、多分」 「解けるもんなのかね、こいつは」 溜息混じりに言う亮太に、忍は小さく笑って答えた。 「大丈夫ですよ、きっと」 「自信あるみたいだな。何かヒントでも見つけたのか?」 「いえ。でも」 根拠はないですけど、と前置きをして、忍は前髪をかきあげながら言った。 「私一人じゃ、全く意味がわからなかったけれど、吉川先輩が一緒に考えてくれたおかげで、少しは謎が 解けましたから」 だからきっと、大丈夫です。そう言う忍に、亮太は苦笑を返す。 「俺が考えたことなんて、たいしたことじゃないだろ」 「それでも、一人よりは二人ですから」 チラリと、正宗の影が頭の片隅を過ぎる。彼に相談していたら、一緒に考えてくれただろうか? きっと考えてくれていただろう。忍はそう思う。 先輩のようにあっさりと答えへの道筋を見つけはしなかっただろうけれど、それでも考えてくれていた はずだ。 彼女は、そう信じることにした。 「後は、本文だけですし。考えましょう」 だから忍は、余計なことを考えるのは後回しにして、目の前の暗号を解くことだけに集中しようとしたの だった。
謎解きものです。精一杯、無い知恵を振り絞ってひねくり出したのですが…… 解答編はまた次回ということで。まぁそれまでに解けた方は、ニヤニヤしていて おいて頂けるとありがたいです。 >449>450 濃厚に絡み合ってきて、自分で整理出来るのか、不安になってきたりもしますねw でも頑張っていきたいと思います。 >451 私は実は『耳をすませば』を見ていないのですが、金曜ロードショーのナレーションか、 どこかの映画評で、確かにそんなことを言っていましたね……すっかり記憶から飛んで いたのですが、指摘されて初めて気付きました('Д`) ともあれ、今後ともどうか、よろしくお願いいたします。謎解き編も頑張って書いてきますー。
GJ GJなんだが、 頼む!ヒント!ヒントをくれー!!!いや、ください。 わかっているさ。これが禁句だっていうことは。 だがそれでも、それでもにやにやして待つ感覚を味わいたいと思ってしまうダメ人間である俺に愛の手を差し延べてくれる紳士はいませんか。
にやにや。
>479 これでいいのかどうか… 日本語で書かれた暗号を解く時のいろはの"い"をやろう。 最後の文は略称。 頑張れ。
おお、今回は謎解きものですか。現在ニヤニヤ中です。先輩からの手紙ではなかったのね。 北村薫作品は少ししか読んだことないのでこれを機に読んでみようかな。 ダブルデートと図書館デート(?)、同時進行に胸ドキドキ。 そしてやっぱり忍はかわいいと改めて再認識。GJです!
解けた・・・だが、この本文がなぜ「この行為」をすれば読めるようになるのかはわからない なぜ「これ」を・・・ 勘でやったら当たっちゃいました ってやつだな
解けた…久々に頭使ったよ
>>483 「この行為」の意味はあるよ
手紙の入ってた場所がポイントだと解釈しているが。
解けねー!!!!!
三人を最初から読み直したら意味がわかった
おお、分かった。 続き楽しみです。
どこかにヒントは有る が、解いた後の最後の文だけ意味が取れないoooooorz
だから最後の文は略称で最初から読み直せばわかるってことじゃね?
ああ、やっと分かった。
俺はシロクロを全力で待ち続ける 全力でだ
想像以上に問題を解くことに力を注いで下さった方がいらっしゃって、 嬉しい限りです。 皆様の暖かさに、幸せを感じながら、解答編を投下。 >191-195 >199-203 >224-227 >236-240 >262-267 >317-321 >424-429 >444-447 >471-477の続きです。
答えを求める者がいる。何が謎かがわからない者もいる。 10:Truth 「悪いな、付き合せちゃって」 「別にいいさ」 ひょい、と肩をすくめて、正宗は軽くそう答える。目の前の少年は、そわそわと落ち着かない様子を見せて いて、彼は内心で少し苦笑はしていたものの、表には決して出さなかった。 「大丈夫だよな? ちゃんと似合ってるよな?」 「そんな心配ばっかしてないで、堂々としてろよ」 正宗の言葉に、それもそうか、と大きく深呼吸をする少年の名は、高村衛。彼こそ、明日のダブルデートに 一緒に行くことになっている男だ。 今、二人がいるのは、駅ビルの中のメンズファッションのフロア。高村の腕の中には、買ったばかりの 衣類が詰まった袋がある。 「けどホント、助かったわ、九条がいたお陰で」 サンキュな、と言って彼が頭を下げるのには、理由があった。前日になっていきなり、着ていく服に自信が ないから、一緒に見に行ってくれ、と助けを求めてきたのだ。仕方なく付き合った正宗だったが、結局、 あれやこれやとアドバイスをする羽目になり、軽い疲労を覚えていた。 それでも、 「別にこれぐらいいいさ。俺も、自分の分を見たしな」 正宗はまた一つ肩をすくめて、気にするなと答える。 彼の心の中を過ぎるのは、一つの言葉。 『うまくいくよう、協力してあげてね』 想う少女の言葉が、彼の指針だった。そうでなくとも協力はしただろうが、ここまで真剣に考えたかどうか。 そんな本音を心の奥底に隠して、正宗はシニカルに笑う。 「けど、うまくいかなかったからって、俺が見繕った服のせいにはするなよ」 「そんなことするわけねぇだろっ」 怒ったように言う彼も、勿論、先の言葉が冗談だとはわかっているのだろう。それでも尚、真剣に答える 高村の姿勢に、正宗はまた苦笑する。ただしそれは、多分に好感のまじったものだったけれど。 「ホント、立花にも九条にも世話になるよ。明日、うまくいこうがいくまいが、恩は絶対、倍にして返すからな。 何かあったら言ってくれよ」 明日の打ち合わせの為にファーストフード店に入り、席に着いた瞬間、高村は真剣な面持ちでそう言った。 三度、正宗は苦笑。それは彼に対してだけでなく、自分に対しても。 いいヤツだな、と思う。思ってしまう。美幸がひとときでも好きになった男で、いわば恋敵だったというのに。 美幸が恋する男って、皆、いいヤツなんだよな。正宗は心の中で呟く。男の彼の目から見ても、好感が 持てる男ばかりで、嫉妬することすら難しい。 いや、本当は。 敵わないと思ってしまうのだ。 男として、勝ち目が無い、と。 これまで、美幸の想いを受け入れた男がいないことにホッとしている。そんな小さな自分ごときでは、 器量で劣っている。正宗はそう思ってしまう。 だからこそ、彼女に恋される程に、大きないい男になりたい。それが彼の願いであり、それ故に彼にとって 美幸の言葉は絶対だった。 例え、どんなに無茶な願いでも、自分が傷付くことになったとしても、作為ではなく笑って、彼女や他人の 幸せを祈れる。 そんな人間を、彼は理想としていたのだった。そして、目の前の少年は、少なくとも自分よりは理想に近い 位置にいるように思えたのだ。
「あぁ、そういえばさ」 大体の予定も決まり、つまんでいたポテトの残りも少なくなってきた頃、思い出したように高村が言った 言葉に、正宗は眉を顰める。 「塩崎が来ないのって、彼氏が出来たとかだったりする?」 「彼氏……? 忍に?」 予想外の言葉だった。いつか、美幸も口にしていたが、結局うやむやのままになっていた。 それが、こんな形で再び、現われるとは考えてもみなかったのだ。 「あれ、知らない? お前なら知ってると思ってたんだけど」 「最近は、あんまり一緒に帰ったりしてないからな」 正直に語る正宗の口調は、少し苦くもあり、言い訳じみてもいた。そして唐突に彼は、何とも言えない 違和感に捉われる。 「そうそう、それそれ。放課後さ、一緒に帰らなくなっただろ? この前、たまたま放課後に図書室に 行ったらさ、塩崎が男と楽しそうに話しててさ」 「男と? 楽しそうに?」 軽い驚きに、正宗は目を軽く見開いた。忍と図書室というのはすぐに結び付くし、一人静かに本を読んで いる姿は、容易に思い描けた。 だが、楽しそうに男と喋っているとなると、まるで想像がつかない。そもそも彼女は普段、決して饒舌な方 でなかったから。 「ビックリするだろ? 相手は一個上の三年らしいんだけど、なんか笑いながら喋っててさ。俺、塩崎が あんな風に笑うとこは初めて見た気がするな」 正宗の中で、違和感が徐々に大きくなっていく。高村の語る塩崎忍は、彼の知らない人間のように思えて 仕方が無い。そんなことは、決してないのだろうけれど。 不愉快というほど明確な気持ちではない。だが、正宗は、彼から聞かされた忍の姿に、自分の知らない 彼女の一面を感じ取って、何故か。 何故か、心が微かに、ささくれだったのだった。
「ん?」 ああだこうだと考えを述べ合うことにも疲れて、それぞれに考えを巡らし始めてから、十分が経った だろうか。 天井を睨んでいた亮太は、そう呟くと同時にルーズリーフに何事かを書き始める。 「わかったんですか?」 忍がかけた声にも取り合わず、一心不乱にペンを走らせていた彼は、やがて会心の笑みを浮かべて、 「なるほどな」 と、呟いた。 「解けたんですね?」 「ああ、解けた」 今度の問いかけには、亮太は深く頷いて返してきた。おお、と感嘆の声をあげながら、彼女は教えを 請う。 「なんて書いてあったんですか? って、それより前に、どうやって解いたんですか?」 結局、彼女にはまるで意味のわからないままだった。先に解かれたことは少し悔しくもあったが、その 解には興味があった。 「いいのか、教えて」 亮太の意地悪な表情に、しかし忍は笑って首を横に振った。 「私、ミステリは探偵が謎を解き明かすシーンが好きなんです。自分が気付かなかったことを明らかに されて、なるほどなー、って思えるから」 「そういうもんか」 微かに彼は不満そうな素振りを見せたが、それはそれとして名探偵役をやることは楽しいようで、嬉々と して解説を始めたのだった。 「キーは、やっぱりこの本なんだよ」 言いながら亮太は、『六の宮の姫君』の本を手に取ってみせる。 「この手紙は、この本に入っていて初めて、解読出来るものだったんだよ」 「他の本だったら、絶対に読み解けなかったと?」 「絶対に、ってわけじゃないけどな」 忍の問いかけに答えながら、彼は机の上に残りの本を広げる。北村薫の『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』 の三冊。 「こっちでも良かっただろうな。ああ、それから、この図書室の中にも、他にもたくさんあると思うぜ。手紙を 読み解くだけならな」 「……?」 首を傾げて、マジマジと忍は四冊の本を見る。そして次に、ずらりと並ぶ本棚を。 この中に、暗号を解読する鍵があるという亮太の言葉はヒントなのだろうが、彼女にはさっぱり、解の姿が 見えて来なかった。
「塩崎、この本の共通点って何だ?」 亮太が指し示した四冊の本、その共通点を、思いつくままに忍は口にする。 「作者が北村薫、創元推理文庫、表紙の絵を書いている人が一緒、背表紙が黄色」 「外見とかじゃなくて、中身だよ、中身」 「中身ですか? 日常の謎を解いている、円紫師匠が出てくる、落語の話題が豊富……」 そこまで言ってから、忍は彼がもどかしそうな顔をしていることに気付いた。 ふと、思い出す。亮太はこのシリーズを読んだことがないのだった。 なのに、共通点はと問いかけてきた。しかも、中身を。読んだことがないのならば、わかるはずもない のに。知っていることと言えば、彼女が今日、彼に教えたことだけだ。 それは、 「主人公が『私』ということ……?」 おずおずと言ったその台詞に、亮太は大きく、深く頷いた。 だがそれで満点というわけではないらしい。 「ああ。それを俺は、なんて言った?」 「ええと……」 記憶を辿る。確か、彼はこう言ったのだ。 「ネームレス主人公、でしたっけ?」 「まさにそれだな」 答えに気付いた時と同じように、会心の笑みを浮かべる亮太だったが、忍の目の前からは相変わらず、 霧が晴れない。 「ネームレス主人公が暗号を解く鍵、なんですか?」 「そういうことだよ」 こともなげに彼は頷くが、彼女は眉間に皺を寄せるばかりだった。 なるほど、確かにネームレス主人公ものは、北村薫のこの小説に共通するし、図書室を探せば同じような ものがいくつもあるだろう。 だがそれが鍵だというのか? 「あとほんの少しなんだけどな、わかるまで」 「焦らさないで下さいよ」 降参とばかりに手を上げる忍に、しょうがないな、と言わんばかりに笑って、亮太はペンと新しいルーズ リーフを渡してきた。
「ネームレスってそこに書いてみろよ」 言われるがままに片仮名で『ネームレス』と書いて、亮太の苦笑に気付く。 「ああ、英語でですか」 「そうそう」 改めて忍は、『nameless』と綴る。 「これで?」 「ネームレスってのは、名前がない、って意味だよな」 言いながら新しく出したペンで彼は、『name』と『less』の間に線を引いた。 「で、次にこれをこうしてみる」 さらに亮太は、『name』を『na』と『me』の二つに区切る。 「これだけなら、ローマ字読みで何て読める?」 「『な』と『め』ですね」 「そう。で、これを繋げて、強引に解釈すりゃ、『な』と『め』がない、意味にも取れるだろ?」 『na』と『me』と『less』。トントントンとリズム良く、三つの文字をペンで彼は叩く。 「確かに……」 思わぬ展開に、忍は軽く目を見開く。亮太の言う通り、強引な解釈ではあるが、そう取れなくはない。 「これで、暗号を見るとだな」 そんな彼女の反応に気を良くしたのか、楽しそうに彼はペンを動かし、暗号を区切りごとに縦に並べて 書く。 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難 「で、全部、平仮名に直すな」 言いながらその下に、亮太は書き足す。 かめなよめうめ なほうめかごめ こななめるとなん 「これに、さっき言った鍵を使うと、だ」 息を飲んで見守る忍の前で、彼は『な』と『め』の字に横線を入れて消していく。 そして、浮かび上がった言葉は。 か よ う ほう かご こ ると ん 「かよう、ほうかご、こるとん。これが手紙の内容だった、ってわけさ」 現われた文章に、彼女はほぅ、と息を吐く。わかってしまえば、拍子抜けするほど簡単なことだった。 どうして気付かなかったのか、と不思議なくらいだ。 「たぬきの手紙の親戚、ってわけですね」 「そういうことだな。気付いてしまえば、なんてことはないんだろうが」 「気付けるかどうか、ってことですね」 忍はうんうん、と何度も頷く。種明かしをされて初めて気付いた身としては、素直に驚くしかない。そして、 「すごいですね、吉川先輩。さすがでした」 素直に、賞賛するしかない。 亮太はそんな彼女の言葉に、面食らったような顔をした後、 「ありがとよ」 真っ赤になりながら、小さな声でそう言ったのだった。
「けどな!」 だが次の瞬間には、照れ隠しなのだろう、図書室に響かない程度に彼は声を張り上げる。軽く驚いた 忍は、危うく椅子ごと転びそうになった。 「だ、大丈夫か?」 「ええ、まぁ。それより、けど、なんなんですか?」 大丈夫とばかりに軽く頷いた彼女が呈した疑問に、コホンと一つ咳払いをした後、亮太は最後の一文を 指差した。 「こるとん、ってのがわからないんだ。何か意味のある文章なんだろうけどよ」 「ああ、それなら私、知ってますよ」 「マジでかっ!? ……って、こういうの、今日で二回目だな」 言って彼と彼女は、顔を見合わせて苦笑する。 「単に、たまたま知ってただけですって。先輩みたいに、頭を使ったわけじゃないから」 「別に、頭を使ったってわけじゃないけどな。勘だよ。で、それより、こるとんって何なんだ?」 やはり照れ隠しもあるのだろうが、早く知りたいとばかりに身を乗り出して来る彼に、忍はあっさりと答える。 「コールド・ストーンって店があるんです。私の叔父がやってる喫茶店なんですけどね。随分、昔から やってたから、使っててもおかしくないとは思いますよ」 もったいをつけることなく、シンプルに告げた彼女に、なるほどな、と彼は頷く。 「コールド・ストーン、略してコルトンか」 現われた『こるとん』の文字をじっと彼は見つめる。 チラリ、とその横顔を盗み見た忍は、亮太の瞳の深さに気付いた。一体、彼はどんな想いを抱いている のか、まるで読めないほどに深い。知らず彼女は、吸い込まれそうになる。 「行ってみますか?」 ふと気付いた時には、忍の口からはそんな言葉が飛び出していた。あまりに自然だったので、彼女は それが自分が言ったのだと最初、信じられないほどだった。 とはいえ、考えてみれば、いたって普通のことだった。自分の叔父が経営している、などという話題が 出たのに、誘わないのもおかしい話だから。 「この店にか? ……行っても、しょうがないと思うけどな」 「現場百辺、って言うじゃないですか。もしかしたら、叔父が何か知ってるかもしれませんし」 渋る亮太を、彼女は説得する。後になって、どうしてあそこまで強く言い張ったのか、と首を傾げるほどに。 「じゃあ、明日でいいか? 今日はこの後、ちょっと用事があるから」 「そうですね。じゃあ、明日、学校で待ち合わせをしてから行きましょう」 「まだ残ってたの。もう下校時間よ」 念の為にと携帯番号やメールアドレスを交換していた二人は、突然に扉が開くと同時にかけられた声に、 驚いて振り向く。そこにいたのは、よく見知った女教師。 「なんだ、佐野先生か」 ホッと安堵の息を吐く忍に、彼女は小さく苦笑を返す。最近、図書室に下校時間ギリギリまで残っている ことの多い二人は、何度か佐野に見つかって怒られていた。といっても、彼女は真剣に怒っている風では なく、本好きの彼らに一定の理解は示してくれていることを、忍も亮太も敏感に感じ取っていた。 だからこそ、なんだ、等と忍は言えたのだけれど。 「まったく、二人して本に夢中になるのはいいけれど、下校時刻はしっかり守ってちょうだいね」 責めるような言葉、しかし佐野の顔に浮かんだ表情は柔らかく、視線は暖かい。それに頷いて、忍達は 机の上の本を集める。『六の宮の姫君』は忍の鞄の中に、『空飛ぶ馬』を始めとする三冊は、亮太が借りて 読むことになっていた。 「はい、じゃあ今、帰ります」 「気を付けてね。まだ明るいって言っても、遅い時間なんだから」 向けられた視線に、亮太はゆっくり小さく頷く。 「吉川君、途中まででもいいから、ちゃんと送っていってあげるのよ」 「勿論」 当然のことと頷く彼に、また佐野は二人を交互に見つめて優しく笑うのだった。
「それじゃ、また明日」 「ああ」 分かれ道でそう言葉を交わして、忍は一人、また歩き出す。 今朝は手紙の意味がわからず、悩みながら歩いた道。帰りの今は、夕暮れに鳴く烏の声に耳を澄ます ことの出来るほど、余裕がある。 そして忍は、明日に心を飛ばす。彼の言う通り、きっと手がかりになるようなものは見つからないだろう。 だが、それでも。 「火曜、放課後、コルトン」 歌うように彼女は呟く。イニシャルH.T、戸塚秀人は、あの手紙にそれだけを書いた。日付がないという ことは、きっと毎週の火曜日、彼はコルトンで待ち続けていたに違いない。その間、何を思っていたのだろう。 どんな気持ちで、井上玲子という少女を待っていたのだろう。 もしかしたら、自分も座っていたのかもしれない。彼がそわそわしながら、窓の外に目をやっていたのと 同じ席に。 だから、行こうと思ったのだ。何もわからなくてもいいから、と。 まだ見ぬ少年に思いを馳せるのも、悪くはない。待ち続けた彼のことを思うと、少し切なくなるけれど。 そして、何より、吉川亮太と初めて長い、長い時間を共に過ごすのだ。 同じ趣味を持つ人と話して過ごすのもまた、忍は楽しみだった。 そう。 自然と小さく、微笑んでしまうほどに。
以上、解答編を含んだ続きでした。自分の精一杯を出して考えた謎に対して、
多くの皆さんがそれを解かんと挑んで下さったことは、とても嬉しいことでした。
ただ、まぁ。
あっさりと解かれると、それはそれで悔しくもあったのでwww
次があるとすれば、さらに頭を振り絞って、謎を皆さんに提示出来ればとも思いました。
いつのことになるかわかりませんがw
>>479-491 重ね重ね、考えて下さってありがとうございます。それだけで幸せですw
なるほどな、と思っていただけるかどうかは別として、出来るだけフェアにしようと謎を解く
鍵を散りばめておいたのですが、いかがでしたでしょうか。
先に述べたように、次があればまた、よろしくお願いいたしますm(_ _)m
ともあれ、皆様。
これからもよろしくお願いいたします。
502 :
489 :2007/08/06(月) 23:17:46 ID:eGe0PE5n
投下おつです。 「こるとん」の意味だけ判らなかったけど、略称だったのね
俺は暗号文を全部ひらがなにしてみれば「な」と「め」がやたら多かったので 抜いてみたら解けたというとても自慢できない解き方をしていたよw そうかーnamelessか。なるほどなー
>>501 GJ!亮太先輩かわいいw正刻もちょっと複雑な心境?
佐野先生はこれからのストーリーに関わってくるのかどうか。目が離せません。
で、やっぱり言いたい。忍かわいいよ忍。なんだか生き生きしてきた。
保守しとく
「ちょっ、待て、紗枝! 誤解だって!」 「誤解ぃぃ〜〜?」 「誤解だ! あれはたまたま道を訊かれて答えてただけなんだって!」 「へぇー……崇兄は道を訊いてきた女の人と腕組んだりするんだ」 説明しよう! 二人は今、浮気詰問中なのだ! 「……ど、どこから見てた?」 「最初っから最後まで全部ー」 しかもこれで、前回から数えて二度目なのだ! 「……今の発言、認めたと見なしてももいいよね」 「待て待て待て! 最初から見てたなら分かるだろ!? あれは向こうが いきなりやってきて俺だってびっくりしたんだぞ?」 「へー…」 男というものは、いつだって諦めと往生際が悪いのだ! 「どっちにしろ知り合いだったんだよね。初対面でそんなことする人なんか いないもんね」 「いや、まあ、そりゃそうだが……」 「昔付き合ってた人達じゃなかったよね。あたしその人達の顔覚えてるし」 「そ、それも確かにそうだけど…」 「じゃあどこで知り合ったの?」 「あー……あぁ、えっとな、その…高校時代のクラスメイトだ」 「高校時代のクラスメイトの人が、久しぶりに会っただけで腕なんか組むの?」 「むぐ…」 しかし、言い訳をすればするほど泥沼化するのだ! 「で?」 「……」 「ほんとはどこで知り合ったの?」 「……」 「言わないならしばらくお預けだからね」 「工工工エエェェ('Д`)ェェエエ工工工」 「当たり前だろ、そんなの」 それを持ち出されたら、男にはどうすることも出来ないのだ! 「 ど こ で 知 り 合 っ た の ? 」 「その…合コンで知り合いました」 彼女への愛情も性欲も人一倍な彼には、効果はバツグンなのだ! 「 い つ ? 」 「……二週間前」 「 そ れ 、 一 回 だ け ? 」 「…………」 「 聞 い て る ん だ け ど さ 」 「その……三回くらい行きました」 一回認めてしまったら、後は崖を転がり落ちる勢いなのだ!
「ふーん……」 「あ、あの、紗枝さん?」 「うるさいからちょっと黙ってて」 「ハイ…」 付き合い方に慣れてきたのか、最近の紗枝は逞しくなってきたのだ! 「とりあえずもう話になんないよね。散々『浮気しない』って言っといて これだもんね」 「……ごめんなさい」 「言い訳があれば聞くけど?」 だけど、ちょっと逞しくなりすぎなのだ! 「……」 「無いの? 無いなら無いで別にいいけど」 「……時に、紗枝」 「何だよ」 「お前はご飯派か? それともパン派か?」 「…ご飯だけど」 「けど、毎日ご飯だったら飽きるよな? たまにはスパゲッティとか他のもん 食いたい時もあるよな?」 「……まあ、あるけど」 「つまり、そういうことなんだ」 「……」 それは言い訳じゃなくて屁理屈なのだ! 「女の子と食べ物を同列に扱うわけ?」 「布団の上じゃ女の子も食べ物っつーのが俺の持論なんだ」 考えるまでもなく最低の持論なのだ! 「……」 「……」 「…………」 「…………」 「……………………」 「……………………えへっ☆」 べきゃあっ!! 「……ゴメンナサイ」 「 本 当 だ よ ね 」 ある意味、予定調和なのだ!
「もう…いい加減にしてよ」 「……」 「あたしには『忙しい忙しい』って言っておいてさ…」 「すまん、今度こそは…」 「もう信じないから。崇兄、我慢とかするの無理みたいだし」 「……」 「認めないでよっ」 こういう時だけ潔くても、意味なんて全然無いのだ! 「罰、受けてもらうからね」 「……」 「文句無いよね?」 「……はい」 だけど、(やっぱり)別れるという選択肢は出てこないのだ! 「そんじゃ、とりあえず週末バイトって言ってたけど空けといてね。 もちろん朝から晩までだからね。当然、一回だけじゃないからね」 それははっきり言って罰じゃないのだ! 「分かった。何とかやってみる」 「うん。それと当然、しばらくはお預けだから」 「何ぃ!!」 やっぱり罰なのだ! 「たまにならいいけど…毎回はやっぱりちょっと嫌だし」 「ナズェダ!」 「……崇兄、優しくしてくれないんだもん。最初の時だけだったし」 「それはだってお前あんな表情身体仕草見せられたら我慢できねーって!」 半泣き上目遣い少し怯え気味にシーツで半端に身体隠されて吐息が震え気味だったら、 それはもう無敵なのだ! 「とにかくしばらくはダメ。たまにはそういうこと無しでもいいじゃんー」 「ど、どのくらいダメなんだ?」 「一ヶ月くらい」 「長っげーよ!」 「……反論できる立場じゃないよね?」 「うぐっ……! ……性感帯が分かったから、あれこれ開発しようと思ってたのに…」 「うっ、うるさい!」 ちなみに紗枝の性感帯は、おへそ周りなのだ!
「そんなこと言うなら、もっとずっと禁止にするよ」 「嫌だああああああ!」 「じゃあステイで」 「ぐぅぅ……っ」 自業自得なのだ! 「それじゃ、週末予定空けといてね」 「お預け……我慢…」 「崇兄?」 「…禁止……ステイ……」 「崇兄? 聞いてる?」 「……」 「……もう、しょうがないなぁ」 ちゅっ 「…ぉ……?…」 「……こっちは…嫌いじゃないよ?」 「……」 「これでも、まだ我慢できない?」 「いや……できる…多分……絶対」 「…良かった。それじゃ、待ってるからね」 「……おう」 結局、なんだかんだ言いながら二人は相変わらずなのだ! 喧嘩するのもなんとやらなのだ! 犬も食わないのだ! まる!
|・ω・`) …… |・ω・`;)ノシ ゴメンネ、コノフタリノハナシバッカリデゴメンネ _、_ |,_ノ` ) ……白黒の御方に甘さで勝とうとしたのがそもそもの間違いだったようだ サッ |彡
GJ! 合コンとか行っちゃう辺り変わって無くて安心なんだか不安なんだかww
ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ(・∀・) 顔面の筋肉が歪みました。責任とって俺を紗枝の顔にしてくれ。 GJ!!
俺を糖尿病にする気か!! 全く、けしからん(´Д`)
GJ!逞しくなったのはいいことじゃないかw
第一章「六年後の『始まり』」 窓から差し込む陽光の眩しさで目が覚めた。 体を起こしてうん、とのびをする。あの時の夢を見るなんて…今日が特別な日だからかな。 ベッドから抜け出してハンガーにかけてある真新しい制服を手に取った。今日から通うことになる中学校の 制服だ。残念ながら紺色が主体の地味なセーラー服。 「もうちょっと可愛い制服だったらなぁ」 なんて思わず声に出して呟いちゃってみたり。 パジャマを脱ぎ散らかして、まだ着け慣れてないブラを背伸び気分で着けて部屋を出る。顔を洗って歯磨きを して居間に入って―― 「あら、和美」 台所で洗い物をしていたらしい和美を発見した。 「あ、おはよう。勇希ちゃん」 「おはよ。今日は母さんは?」 「今日は仕事早くからなんだって。昨日帰りに会った時に勇希ちゃんのことよろしく、って」
「まったく。実の娘に予定を知らせないでなんでお隣さんには知らせるんだか…」 和美は「あはは」と笑って手を拭きながら尋ねて来た。 「勇希ちゃん、朝ご飯どうする? パン? ご飯?」 「んー、じゃあパンで。あと一品何か付けてくれる?」 「目玉焼きとかで良い?」 「それで」 答えてキッチンの椅子に座る。和美の後姿に話しかける。 「ねぇ、和美。いい加減にその髪、何とかしなさいよ」 「うーん、まぁ…その内ね」 気のない返答が返ってくる。全く、ちょっとは格好に気を使えば良いのに。 あたしは頬杖をつきながらはぁ、と溜息を付いて学ランにエプロンという妙ないでたちの幼馴染を眺めた。 和美の髪は肩口まで伸びていて、その先端を短くゴムで結んでいる。お洒落で伸ばしている――のでは 勿論ない。ただ単に切るのが面倒だから、と本人は言っている。そのせいで後ろ姿は女の子にしか見えない。 女の子に間違われるといつも嫌そうな顔をする癖に、どうして切らないのかしら? まぁ、あたしもお洒落らしいお洒落はしてないからあんまり人のことは言えないけど。 髪、伸ばしてみようかな。楽だからってずっとショートカットだし。 「しかし、和美…あんた、どんどん家事関連の腕上げていくわね」 「まぁ、趣味みたいなものだし…と、はい、出来たよ」
あたしの前にトーストとカリカリに焼いたベーコンが添えられた目玉焼き、それに牛乳が置かれた。 トーストには既にマーガリンが塗られている。 いただきます、と言ってかぶりつく。サクッという子気味良い音を立ててトーストを噛み切る。 和美の料理はますますおいしさを増している。 最近、いつもあたしが思うことだ。と言うか、いつもあたしの好みを悔しくなるくらいピンポイントに的中させてくる。 初めてのあの時なんてあんな――しまった。嫌な事思い出しちゃった。あ、目玉焼きの黄身半熟だ。流石和美。 集中して食べると食べ終わるのにさほど時間はかからなかった。ごちそうさま、お粗末さまでした、 といういつも通りのやりとりをした後、皿洗いだけは習慣であたしがする。放っといたら和美が全部やってくれる気は するけど…流石にそれは、ね。 さっさと片付けて戸締りをして家を出る。時間は充分以上に余裕がある。履き慣れない革靴の爪先で地面を とんとん、と蹴って空を見上げた。 雲一つ無い青空! 「晴れてよかったわね」 「うん、折角の入学式が雨じゃあね」 二人で並んで歩き出す。身長はあたしの方がずっと高い。確か、和美の身長って150あるかないか―― そのくらいだったかな? 当然、前にならえで和美はこれまで一番前だった。中学でもきっとそうじゃないかしら。 和美が小五だかぐらいに、もう腰に手を当てるのは飽きたよとうんざりしながら言っていたのを思い出した。 思わず、くすくすと笑ってしまう。
「勇希ちゃん、何笑ってるの?」 「ちょっと、思い出を、ね」 「?」 和美が良くわからない、という顔をする。 「と、そうだ和美、いい加減そのちゃん付けで呼ぶのやめてよね」 「えー…なんで?」 「なんでって…あたし達中学生よ、ちゅうがくせい。もうそんなちゃん付けで呼び合う歳でもないし」 あたしは腕組みをして頷きながら言った。 「なんて呼んだら良いの?」 「うーん…呼び捨てとか?」 「じゃあ…勇希」 「…ごめん、なんかムカつくからやっぱそれなし」 「ほら、やっぱりそうなるじゃないか」 なんてやり取りをしながら、あたし達は入学式、とでかでかと書かれた大きな看板がかけてある校門をくぐる。 生徒会と記されている腕章を付けた上級生らしき人がパンフレットを配っていた。受け取って眺める。あ、クラス表がある。 えーっと…宮間勇希、宮間勇希、宮間勇希…と、あったあった。 「和美、あたしB組だったけど、和美は――」 「勇希ちゃん、僕B組だったけど、勇希ちゃんは――」
一瞬の沈黙。すぐに二人で顔を見合わせて吹き出す。 「また同じ、ね」 「うん、これで七年連続だね――あ、幼稚園も合わせると九年かな」 「でも、ちょっと残念かも」 「何で?」 「だって違うクラスだったら教科書とか忘れた時便利じゃない」 あたしがそう言うと、和美はむくれた顔。 「ひどいなぁ、僕の価値は教科書と同じだなんて」 「やーね、ウソよ。冗談冗談」 「本当に? そういう時って勇希ちゃん本気で言ってる時あるからなぁ…」 その後は長い割にはためにならないお話を講堂で頂戴した後、各クラスに割り当てられ、教室に移動した。 見回せば小学校からの馴染みの友達もいる。ようようやあやあという感じの適当な挨拶を交わした後、 席を決めた。何と窓際の一番後ろ。これはラッキーと思っている何と、和美が隣の席になった。 「席が隣同士になるのは初めてだね」 「そうなのよねー、何故か」 そうなのだ、これでまでクラスはずっと同じだったけど席が隣同士になったことは何故かこれまで無かったのだ。 あたしは心の中でこっそりガッツポーズを作った。これで授業で当てられて、まずい時に答えを教えてもらえるかも。 今日はオリエンテーション中心で、授業らしい授業は無い。まずは自己紹介から。窓際の列の前から席順に 自己紹介だったのであたしの番はすぐに回ってきた。
まぁ、無難に。 「西小出身の宮間勇希です。見知った人も結構いますけど、初めての人はよろしくー」 ちょっと間が空いて和美。結んである髪を尻尾のように揺らしながら和美が立ち上がった。 「えっと…西小出身の島本和美です。これから一年間よろしくお願いします」 和美も無難だ。そういえば、あの髪セーフなのね…ギリギリだったみたいだけど。結んでるから? 自己紹介もとどこおり無く終了。次はオリエンテーション、つまりは学校の案内だった。体育館、プール、 部室棟、食堂と、学校の施設を順繰りに巡った。今日は入学式だけあって、授業は一切合財無い。十一時を軽く 回ったところで入学式の行事は終了した。 ――そして、決戦の放課後。 「青春過ごすならここ! 来たれ雲中柔道部!」 「キミの熱い想いを白球に込めて見ないか!? そんなヤツは雲中軟式野球部へ!」 「花を一緒に愛でませんか? 希望者はグラウンド横の花壇へ。園芸部…」 「これからの時代はアニメ・ゲームだ! 雲中現代視覚文…」 とてつもない熱気だ。噂には聞いていたけど、これが新入部員勧誘ね。 中庭から校門に向かう道のスペースを一杯に使って、見るからに先輩と解る人達がクラブ紹介のチラシを手に、 ところせましと思い思いのアピールをしながら絶叫している。中には(あれは空手部かしら)瓦を割って パフォーマンスをしたり、往来でラケットを使ってボールを打ち合っているような人達もいた。
「なんか、迫力が…」 隣でたじろぎながら和美が言った。 「確かに、すごいわね」 まぁ、あたしはもう入る部活は決めてるんだけど。 「和美はどこか部に入る予定あるの?」 あたしはがっしりと和美の肩を掴んでにっこり笑った。 「う、うん、園芸部か家庭科部にでも入ろうかな、って…あの、勇希ちゃん肩、痛いんだけど…」 あたしは肩越しに親指で少し離れたとこに看板を出している部活を指差した。 「剣道部とか、どう?」 「僕、運動神経壊滅してるし…」 「マネージャーがあるじゃない。じゃ、決定ね」 そのままあたしは和美の腕を右手で抱いて引っ張っていった。 「ちょっ、ちょっと、勇希ちゃん! ってゆうか、勇希ちゃんは空手部じゃないの!? 昔やってたじゃない」 「空手なんてとうの昔に辞めたこと知ってるでしょ。まったく。男なら昔のことを蒸し返したりしないの。ほら、 観念なさい」 「僕、剣道のこと何一つ知らないんだけど…」 「これから覚えれば良いのよ。あたしも大して知ってるわけじゃないし」 「そんな、無茶苦茶な…」
少しの罪悪感はあったけど、感じからして和美はそんなに嫌がっていないとあたしは思っていた。 幼馴染の勘ってヤツで根拠はないけど。それに、あたしは和美の腕を引っ張りながらも何故か気持ちが うきうきしていた。 何でそんな気持ちが湧き上がってきてるのかな。それにしても、何であたしは和美を無理矢理誘ったんだろう? 何でだろう。でも、何か嬉しいから、まぁいいか。
投下終了、です。 ヤマもイミもオチもない…orz 初めとは言え、文才の無さが浮き彫りになってしまいましたが、見て頂けると幸いです… お疲れ様でした。
続きwktk
頑張ってください。GJ。
面倒だから髪切らないっていう設定浮いてないか?
GJ!!
529 :
名無しさん@ピンキー :2007/08/11(土) 09:43:24 ID:gYGI6aFT
>>527 そうか?髪の毛って、ほっとくとすぐに伸びるぞ?
>>510 幼馴染みスレ住民になって日が浅い俺は
この二人の絆がいかにに強くていかに互いを想い合っているかを
今日保管庫でようやく知った。この二人最高じゃん
「ごめ〜ん!」 綾芽が息を切らせながら走り込んでくる。 「まさか誘い主が遅れるとはな。」 「折角のデートに遅れちゃだめだよ〜。」 「別に大丈夫だよ。」 三者三様の反応が帰ってくる。 「なんで鈴菜達がいるの?」 しかし綾芽はその事気にも止めず、半目で冷静に突っ込む。 そう、今日はあくまで優祐と綾芽の二人きりのはずなのだ。 「見物。」 「あやちゃんが優祐君を襲わないように監視〜。」 「まあいいや。こんなのほっといて、早く行こう。」 二人の答えに綾芽は怒気を孕みながらも、完壁スルーを決め込む。 「うん。で、何処に行くの?」 二人は今日デートーー綾芽自身は必死に否定しているがーーに来ていた。 デートとは言っても、今日遊ぶ事が決まっているだけであり、何をするかは何も決まっていなかった。 「そうねぇ、何かしたい事ある?」 「特にこれといって……」 うーんと二人は頭を抱え考え混む。 「嘆かわしいな。若い男女が集まってやりたいことがないとは。」 「本当にね〜、本能に忠実になっちゃえばいいのに〜。」 二人はニヤニヤと、綾芽の顔を覗き込む。 「な、なんの本能に忠実になるのよ!」 綾芽は顔をみるみる間に真っ赤にしていく。
「食欲。」「購売欲〜。」 「へ?」 しかし想像とは正反対の事を言われ、一気に冷まされていく。 「いやいや今はこれだろ。ちょうどお昼時だし。で、何で綾芽はそんなに顔が真っ赤なのかな?」 「たぶん〜あやちゃんは愛しの優祐君との、アダルティーな事でも考えてたんだよ〜。」 「ふむ、確かに若い男女が集まればそれもあるかもな。だがそれをこの場所で晒すのはどうかと思うぞ。」 鈴菜はケラケラと、稟は淡々と綾芽を辱める。 「ば、ば、馬鹿〜っ!!」それに耐えられなくなった、綾芽は顔を真っ赤にして叫ぶ。 いきなり街中で大声を出した少女に人々の視線が集まり出す。 「藤崎さん、いきなりそんな大声だしたら恥ずかしいって。」 先程から女子連中のあんまりと言えばあんまりな会話に秘やかに赤くなっていた優祐は、その視線に耐えられなくなり綾芽に注意と逃走を懇願する。 「あ……い、行くわよ!」 綾芽もそれを察したのか右手に優祐、左手に鈴菜の腕を持ってぐいぐいと引っ張って行く。 「ちょっ、ちょっと〜。待ってよ〜。」 「うるさい!行くったら行くの。」 顔を真っ赤にした綾芽と彼女に引きずられる二人。 その後からくっくっくっと一人で笑っている凜が追いていく。
喫茶店の中に入り席についた一行は、そこでやっと一息付く。 「はぁ〜、もう、恥ずかしかったじゃない!」 「知らないよ〜」 「鈴菜達のせいじゃん。」 「違うよ〜、あやちゃんが勝手にアダルティ〜、な事考えて、勝手に自爆しちゃったんだよ〜。」 「だ、だからあれは鈴菜と凜が変な風に誘導したから……」 「誘導なんかしてないよ〜。あやちゃんの願望だよ、が ん ぼ う。」 「だから〜、違うって。」 「またまた〜。」 綾芽の必至の否定も流され、議論、熱論が続いていく。 「全く、元気なものだな。しかし、なんで君がそんなに赤いのかね?」 当事者なのに他人事のように傍観している凜は、顔を紅潮させている優祐に弄る目的を変える。 「いや、別に、赤くなんか……」 だが見目麗しい女子三人に囲まれ、会話の内容がそっち系の事をたやすく連想させ、更に自分が中心とされてしまっているのだ。 意識するなという方が無理である。
「おや、そうかい?おっと。」 わざとらしく凜が布巾を落とし、テーブルの下を覗く。 「顔に似合わず中々の物をお持ちのようだな。」 ニヤリとした顔を上げた凜が落としたのはーー優祐にはーー水爆級の爆弾だった。 「か、香原さうわっ……」 おもわず出そうになった声も、下半身から昇ってくる衝撃に中断させられる。 「あんまり大きな声を出さない方がいいぞ。また注目を集めてしまう。」 凜の指摘に優祐は慌てて口を押さえ、周囲を伺う。 「顔真っ赤だよ〜」 「だから〜〜」 幸い論戦中の二人は気付いていないようだった。 「ひぃっ、か……はらさん……やめ、」 が優祐は息をつく間もなく、下腹部から昇ってくる快感に翻弄される。
「まるで女の子みたいな嬌声だな。」 凜は淡々と足で優祐の逸物を弄る。 「それなのにこんなに大きくして……悪い子だな。」 凜は綾芽たちに全く頓着せずに、靴を脱いだ足で優祐のテントを撫で摩る。 「うあっ、そこ……ダメっ!」 「ここが弱いのかな?」 机の下という、他人に見られない状況を優位に生かし優祐を責める。 大きく反り立つそれの裏側を爪先で優しく撫でたかと思うと、先端の割れめをつんつんと突く。 「ううっ……ひゃあ。」 優祐の敏感な反応から彼の限界が近いことを見て取り、一気にとどめを刺そうとする。 「そろそろ……終わらせようか。」 両足をそれの右側と左側に合わせ、一気に上下する。
既に高まっていた優祐には充分過ぎるとどめだった。 「くうっ……」 ドクッドクッ ズボンの中で一物が大きく脈動し精を吐き出す。 パンツの中は大惨事だろう。 「ふう、はぁ」 優祐はくたりとテーブルに倒れ、荒く息をつく。 それとは対象的に凜は何食わぬ顔で会話に参加していた。 「そろそろ出ないか?」 「「いいわよ。」」 何故か息ぴったしで答えるとまるで決闘のような目線を交わし、優祐に問いの矢を発した。 「優祐、この後私と付き合ってくれるよね。」「優祐君〜、今から私と行ってくれるよね〜」 「へ?」 顔を上げ二人を見た優祐は呆然としていた。
537 :
291 :2007/08/13(月) 03:01:01 ID:qVoZsxfH
題名入れ忘れたorz 411の続きです。 でアンケートなんですが、綾芽と鈴菜 どっちとデートがいいでしょうか?
538 :
名無しさん@ピンキー :2007/08/13(月) 04:44:13 ID:Vr+MH+ad
ここは幼なじみのスレだ。 嫉妬する幼なじみもいいが、自分としては幼なじみの嬉し恥ずかしデートがみたいな。
三人の御方 とらドラスレにもいらっしゃって下さい サイト拝見しますた
携帯からだし、元は他のスレの書き手なんだけど、気分転換に幼馴染みネタを書いてるんだ。 なんか消去するのももったいなくなっちゃったんだけど投下してみて良いですか?
お願いします
それじゃ、試しに投下してみます。
「それじゃ、お先に失礼します」 「おう、お疲れさん」 荷物をまとめて鞄に詰め込み、先輩に挨拶をしてから会社を出る。 少々出るのが遅かったかも知れない。マナーモードに設定してある携帯電話がさっきから震えっぱなしだ。 出たら出たで怒られるのは分かっているので出ない。それよりまず一秒でも早く待ち合わせ場所に着くことだ。 走って、走って、走って─ 「おーそーいー」 会社を出て五分後、俺はスーツ姿の女性に文句を言われていた。 女性としては高い身長、黒いパンツスーツ、モデル顔負けのスタイル、整った顔に長い黒髪。 ぱっと見は、どこぞのキャリアウーマンだが、朗らかな笑顔が柔和な雰囲気を感じさせる。 男女関係なく振り向かせる様な女性。 「はぁ…はぁ…わ、悪いな……はぁ…」 「十五分も遅刻。電話にも出ないし。まったく、後五分来なかったら帰ろうと思ってたよ?」 「悪かったって…ふぅ……ちと、片付けておきたいもんがあったから」 「ふぅん?皆原優也くんは幼馴染みより仕事の方が大事なんだね?そうなんだね?私悲しいな」 言葉面だけ見ると怒っているようだが、口調にそんな調子は無い。 そんな彼女の調子に笑ってしまう。 「なんでそうなるんだよ?どっちも大事だっての」 幼馴染み、と言うか彼女の方が大事だが、言えるものか……… 「………」 「な、なに?」 なぜか恨めしそうな目を俺に向けてくる。 「……ま、良いもん。伊藤友梨ちゃんは優しいからそんな優くんも許したげるもん」 いったい俺は何を許されたんだ? そんなことを聞く暇もなく、彼女、同じ会社の部署違いの友人、俺の幼馴染みの伊藤友梨は居酒屋に入って行く。
「……だからね、私はそういうのが好きだって言ったの」 「それで?」 「そしたら美奈ちゃんね。『私はそういう………」 いつもの会話。いつもの役割。彼女は話し手、俺は聞き手。 彼女は最近の出来事や愚痴を話し、俺はそれに適当な応答を返す。 いつもの事だ。いつものままで充分。近くに入れれば、それで。 彼女は酒も入って舌の回りが良い。俺が飲むのはコーラやサイダー等の炭酸飲料。 別に酒が嫌いな訳じゃない。飲むときは飲むし、それなりに強い自信もある。 ただ、彼女と飲むときは酔っちゃいけない。彼女を送らなければならないから。彼女に何かあってはいけないから。 「ちょっと、聞いてるの!?」 「ん?あぁ、すまん」 「だからね、私…は……そこで…………あぁ…言っ……………」 「………友梨?」 机に突っ伏している。どうやら眠ってしまったらしい。 「……ぬぅ…」 別に彼女が眠ってしまうのはいつもの事だ。ただ、いつも思う。 ─出来れば起きていて欲しい 「御来店、ありがとうございましたー」 会計の女店員が微笑ましげな目で俺達を見ていたのが妙に記憶に残る。 まぁ、来るたび来るたびこんな感じじゃ微笑ましげにもなるか? 俺は寝てしまっている彼女をおんぶしていた。 正直、彼女がズボンで助かった。過去にタイトスカートで、足を開けないから、お姫様だっこをするしかなかった事があった。 ……だめだ、思い出すだけで赤面してしまう… 通行人は羨望と嫉妬、微笑みが混ざりあったような視線を向けてくる。 まぁ、小さいときから一緒にいる俺でも綺麗だと思うからな。赤の他人がそういう視線を向けるのも分かる。もう慣れた。 ……恥ずかしいには変わらないが…
「……ふぅ…」 駅の駐車場。目指していた車が見えてくる。 大学在学中に親から資金を提供してもらい購入した軽自動車。免許ももちろん取ってある。 基本的に電車で通勤、帰宅するが、さすがに友梨をおんぶしたまま電車には乗れない。 だから友梨から「今日は飲もう」と連絡があったら車を使う。 「んぅ……」 背中の彼女が唸り、俺の首筋に頬擦りをする。 彼女をおんぶ出来るのは、幼馴染みの特権だろう。 実家は隣同士、幼稚園、小学校はもちろん、中学、高校、大学、果てには就職先まで一緒だった幼馴染み。 小さい頃から一緒に遊び、その付き合いは社会人三年目の今になっても続いている。 いつの間にか、だった。理由は分からない。 彼女を好きになっていた。 だけど、幼馴染みと言う関係を崩すのが怖くて、まだ、告白も何もしていない。 「……はぁ…」 彼女を後部座席に乗せて、自分は運転席に。 いつか、この関係を崩すのだろうか?崩せるのだろうか? 友梨の実家の前に車を停める。彼女はまだ起きていない様だ。 ……しょうがない… 再び彼女をおんぶして玄関先へ。まだ十時は回っていない。チャイムを鳴らす。 「はーい、あら、優くん、こんばんは」 出てきたのは友梨の母親。 「こんばんは」 「また今日も?」 「今日もです。ちょっと失礼します」 許可を貰い中に上がらせてもらう。 そのまま階段をあがり彼女の部屋に。 ドアを開けるとたくさんのぬいぐるみが出迎えをしてくれる。 友梨は可愛いものが好きで、ぬいぐるみを集めている。 それを知っているのは彼女の家族と俺くらいのものだろう。 その事実が、なんとなく嬉しい。 友梨をベットに寝かせる。 優しげな寝顔だ。 「……じゃあな」 出来る限り静かにドアを閉める。彼女を起こしてしまわない様に。 「……なにか、してよ………」 部屋に響くその呟きは、誰にも聞こえなかった。
階段をおりると、まだ友梨の母がいた。 「いつもありがとうね」 「いえ、幼馴染みですから」 「幼馴染み、ねぇ……」 「?」 何か変なことを言っただろうか? 「いやね?そろそろ良い歳って言ってもいいころじゃない?」 「…ええ、まぁ……そうですね」 俺と同い年だから20代後半になるはずだ。 「だからね?そろそろ結婚とか、そういう話、した方が良いかなぁって思うの」 「いいんじゃないですか?友梨なら、相手には困らないと思いますよ」 「……はぁ…」 なぜか深く溜め息をつかれた。変なこと言ってますか?俺は? 「じゃあ、お邪魔しました」 「……じゃあねぇ。優くんなら、いつでも来て良いからね」 結婚、か。友梨は困らないだろうな。美人の上に仕事が出来る。料理もそこそこ出来たはずだ。 天は彼女に二物以上を与えた。 俺は……どうなるんだかな。 一応会社ではそこそこ仕事出来る方らしい。 顔は…甘目に見て……中の上?……駄目だ、自分で言ってて悲しくなる。 「……ふぅ…」 やっと家に着いた。彼女は実家から通勤しているが、俺は一人暮らしだ。 実家にはたまに帰るし、親と仲が悪かったりする訳じゃない。 ただ、男なのにいつまでも親の世話になるのが嫌だっただけ。 小さい意地だ。まぁ、一応最低限の料理や片付けくらいは出来る様になった。そこは成長したところだろうか? ただ、このくらいの成長で、彼女と釣り合う様な男に、なれる訳がない。 シャワー……は…面倒臭い…… 今日は金曜日、明日土曜日は休みのはずだ。 「別に、いいか」 そのままベットに倒れこむ。 「…友梨……好きだ……」 この一言が直接言えたら、どれだけ楽だろうか。 この呟きは、誰にも聞こえない。
投下終了 出来ることならもうちょい書き続けたいと思ってます。 感想とか、貰えたら嬉しいです。
王道…だがそれがいい GJ!
是非続きを書いてください!続きが気になって仕方ない!
20後半…奥手にもほどがあるwww だがGJ
王道だが20代後半は奇抜ですなww GJ!!続き待ってます
552 :
名無しさん@ピンキー :2007/08/14(火) 08:35:34 ID:T5Oo3+gy
age
社会人ネタとか少ないしGJ!
GJ! 社会人ネタいいねえ。 ところで480KBを超えたわけだが。
次スレ建ててくれ
結婚&新婚萌えスレで内容が非常に似通った作品を見た気が・・・・・・気のせいか?
>>556 みたいですね。今見てきました。
ただ、それのことは知りませんでした。真似したつもりも無いです。
まぁ、今回は被ってるとこが確かに多かったからそう思われても仕方ないですね。
パクりとかと思われるくらいなら、投下は自粛します。
次スレのテンプレこのままでいいの?
559 :
名無しさん@ピンキー :2007/08/15(水) 23:42:45 ID:4uQrJdbx
>>557 まあ、作家の数だけ作品があるんだから、他の作品と一部被る所があっても不思議じゃないんで…
というわけで続きにwktk
そうだねぇ。まぁこれからも投下したいのであれば、どんどん投下すべきだと思うなぁ。 それが結局は盗作の疑いを晴らす一番の手段だし。個人的には続きを読みたいんで投下待ってるよー。 あとは連載物を抱えている職人さんも頑張れ! 絆と想いとシロクロの続きを俺は待ってるぞ!
>>529 長髪にすることによる手入れの手間の方がずっと面倒って意味じゃね
手入れ無しでゴム縛りなんてしてたら、それこそ汚らしいオタの髪型の典型で
後ろからでもすぐわかるから、女性に間違えられる心配なんてねーし。
>>562 乙
埋めネタ投下.ややエロゲちっくなのは許してくれ
やっぱり夏休みだよ! 夏休み. 嬉しい気分で過ごして想い出を作るには夏休みが一番だ. 近所に出かけるのもいいし,それが例えありふれた近場でも夏はなんか良い. 普段行かない海辺でも観光地でも良い.色んな場所が最高になるさ. やっぱりだからつまり夏はイイぜ. なんて浮かれてしまうほど夏の暑さや熱風がおれの気分を高めてくれる. 試験が終わり単位を何とか滑り込みで取った後は,お楽しみの始まりだ. 彼女と一緒に出かけたいけれど彼女は親戚の家に顔を出さないといけないらしい. なら,おれは地元でのんびり過ごすかな,と言うわけで今日は幼なじみと待ち合わせ. それにしても折角の夏休みなのに,おれの彼女ときたら 親戚に顔出ししなくちゃ,なんてなんだかなあ……. まあそんなことはいいか,夏だし. 陽気に回転しながらドアをへし開ける! そのまま外に出て,でんぐり返しをしながら待ち合わせの場所へ! まあ,しないけどな. 地元の風が吹く.熱い風. 田んぼの中にある,こじんまりした薄い林の神社が待ち合わせの場所. 周りがマジで水田しかなくて笑える. 大きな道路から既に神社の中に見える白い人影がヤツだろう. 細いあぜ道を通って祠の前に突っ立っている娘に近づく. 「遅いよ……」 「いやあ悪い.今日も暑ぃな」 日陰でも白のワンピースは眩しく見えた. 「笑って誤魔化すんだから……」 「いや,お前のためを思って,でんぐり返ししながら来たら時間がかかって」 「してないでしょ」 「したぞ」 「嘘!?」 「やーい,騙されてやんの」 「すぐ騙す……」 そしてお前はすぐ騙される. 実際は前転を三回半もしたら気持ち悪くなって止めちゃったんだけどな.
「時間には間に合うように来たつもりだったけど遅かったかな」 腕時計を確認する.あれ?約束の時間3分過ぎぐらい?? 「そ,そんなことより,今日は何処行くの?」 「今は夏だな!」 「うん」 「夏はすべての場所がスペシャルになる!」 「う,うん……」 「その微妙な反応はなんだ」 「何でも?」 何故疑問形………. 「近場の丘にある神社に行こうと思う」 「清竜神社?」 「ああ.大して何も無いけどさ.大学のレポートにも丁度都合が良くてな」 「地元の歴史取材? いいね,それ.私も少し興味あるな」 「おし,行こうぜ.理菜」 「うん,健次ちゃん」 田んぼ沿いの道は広くて車がびゅんびゅん飛ばしている. 日差しは,だ〜だ〜と照りかかって来てシャワーを浴びるようだ. そんな中ワンピースを風にはためかせながら歩く理菜の姿を横目に見るのも 面白いと言えば面白い. ヤツは日差し避けに麦藁帽子を被り,広い道を飛ばす車の風圧に飛ばされないように 帽子のふちを押さえたりなんかしてその仕草は決まってると言えば決まっていなくもない. 「オマエ麦藁帽子なんて被ってるのかよ」 日差し避けの素朴な帽子をいじくる. 「わあっ,止めてよ健次ちゃん」 押さえていた手を深く構えてしまう理菜. 「もう,意地悪……」 「ははは.つい,な.でもそれ子供っぽくないか?」 「そんなことないよ.それより健次ちゃんは被りものなくて大丈夫なの?」 「平気さ.丘までの道ぐらいなら.だけど理菜は必要かもな」 理菜は体が少し弱いから……. 「私だって別に用心しての事だもん.そんな軟弱じゃないからね」 実は気にしてるらしい. 「おっと,自転車来てるぜ」 「あ……」 理菜の手を引いて端による. その横をシャーっと漕いでいく自転車. 「いやー,なんか競輪みたいな格好してたな.気合入ってんな〜」 「………」 「プロの人か自転車好きなんだろうなあ」 「………」 「なあ,理菜?」 「………」 「ん?帽子飛ぶぞ」 おれが自動車の風圧に飛ばされないよう帽子を押さえるとようやく気付いたみたいに 理菜はおれの手から帽子へと手を移す. 「あ,ありがと」 「いや帽子押さえたぐらいで大袈裟な」 おれたちは歩き出す. 理菜のワンピースと麦藁帽子が熱い夏に茹だる気持ちを落ち着かせてくれた.
埋めネタ投下終了. ハイ,お後がよろしいようで.
>>563-565 まだ500kBまでは余裕がある。せめて目的地について何するかとか、
ヒロインの微妙な反応の理由くらいまでは書いてくれ。頼む。
むぅ,テキトーに書いただけだから続きを書けるか自信ないぞ 微妙な反応を返した理由は「夏はすべての場所がスペシャルになる!」 と異様にハイテンションな主人公に(健次ちゃんは相変わらずだなあ……)と 思ってるだけだったり.ダメかもしんないけど埋まるまで続き考えてみるよ
幼なじみちゃんはハイテンションBOYに 彼女がいる事を知るや知らずや…… 色男、女を泣かすなよー、とか言ってみるテスツ
できれば句読点は「、」と「。」にしてもらえると嬉しい。
おk 続き書いたぞ
それで結局、清竜神社に行ってみたんだが、石碑を見たりして分かった事は その神社は平安時代の頃に建てられたもので、治水を願って建設されたものであることや 先ほど待ち合わせに使った小さな神社は清竜神社の分社であることだった。 管理してる人のいない神社なので詳しい情報は分からない。 「水神を祭る為……でもそれにしては近くに川はなかったと思うけど」 理菜が首を傾げる。 「確かに。だが治水のための神社が川の側にあって決壊で破壊されても困ると言う事かな」 「でもちょっと離れすぎな気もするなぁ」 「もしかしたら昔と今では川が違うのかもしれないぞ。 工事とかして川が変わってしまったとか」 「うふふ」 「……なんだ?」 「川がカワった、て……ふふふぅ」 「あほかっ」 ぽくっ 麦藁帽子が、ぽむっと弾む。 「ごめんごめん……ふふっ………」 「ったくよー。それにしても暑いな。そこの縁側が日陰になってるから、ちっと休むか」 「うん………ふふぅ……」 まだ笑ってるのかよ! 「さて、それではスーパー夏実感タイムの開始と行こうか」 「?」 おれはバッグから取り出した! 「ミニク〜ラ〜ボックス〜〜!」 「ドラえ○ん?」 「はい、アイス」 「うわぁ、凄い! 凄いよ、健次ちゃん!!」 「いーだろ?」 「うん、最高だよっ」 「おれに感謝して食え。貪るように食え」 まあ、暑い中おれの予定に付き合ってくれたんだしコレぐらいしておこうと思いましてね。 「ありがとー! 健次えもん」 「誰が健次えもんだっ!」 理菜は、おれのツッコミを笑顔で受け流しアイスをかじる。 「ち、アイス好きめっ。腹でも壊すがいい」 「んちゅ……本当に感謝ひてるひょぉ……ちゅっ、んぷっ」 なんか…………エロくね? 人のいない神社の中、おれはセミの声をバックに理菜にフェラをさせている。 「うまいか?」と訊けば「おいひいよぉ」と彼女が返す。 そして、おれはそのまま彼女の口に特濃ミルクを トロトロになったアイスシャーベットのように注ぐのだった―― な〜んてエロ週刊誌や東スポよろしくのエロ妄想は頭の中から 無理矢理にでも理性でねじふせて追い出す。 小生の愚息も一気に昇天!なんてやるわけにいかないからな。
「健次ちゃんっ、垂れてるよ!」 なに、先走り液!? じゃなくてアイスの話か。 「ハッハー、すまんすまん。おれはアイスを持って楽しむ趣味の持ち主でな」 おれは凄い言い訳で凌いだ。騙されてくれ理菜よ。 今晩のオカズにお世話になります、なんて考えてる事に気付くなよ? 「んもうっ、だから垂れてるってば! ……ぺろ」 理菜がひょいと舌を伸ばし、溶けたアイスの雫を舐める。 舐める、のだが彼女の舌はおれの指も、ちろっとくすぐる。 「………ぅ」 「な、なに……?」 そう返す理菜の顔だって赤い。 「い、いや。おれのかじったアイスでもあるわけで、いわゆる間接キスってやつにならないか?」 「……! べ、べつにそんなこと気にしないってば!」 「ま、まあな! そんなこといちいち気にしたりなんかしないけどな」 アイス食ってるのに、なんで赤面しないといけないんだ。 おれはがじがじと残りのアイスを食っていった。 そうして、ようやく頬の熱さも冷めてきた頃。 「こうして一緒にいると昔を思い出すね」 理菜がぽつりと呟いた。 「去年の夏も健次ちゃん、帰って来てくれたよね」 ……。 「やっぱり夏は最高だよ。でも…………。 でも、去年の夏休みはそんなに長く一緒にいられなかった」 「………そうだったかな」 「そうだったよ」 それは、おれに事情があったからだ。彼女が出来たから。 「もしかしたら、今年は帰って来てくれないんじゃないかと思ってた」 「…………」 「でも……帰ってきてくれた」 そして理菜は一息つくと静かに続けた。 「やっぱり夏は最高だよ」 そんな大したもんじゃないさ。でも何故か彼女にそんな風に言う事はできなかった。 笑顔がまるで向日葵のようだから。 だが、その向日葵が、あまりにも眩しすぎて 「帰ってきた健次マン」 「ウル○ラマンじゃないよぉ」 つい、ふざけてしまう。 「帰ってきた、だがウ○トラの母」 「嬉しくないよぉっ」 おれのからかいの言葉に、まるでくすぐられているような理菜の反応が心地よかった。
>>570 すまん。いつも書いてる報告書の仕様のまんまだった
てなわけで神社行くとこまで書いたんだがオチがつかねぇ
この後、付き合ってる彼女捨てて幼なじみを選ぶという見え見えのエンディングが
あるわけだが、そのへんは妄想でカバーだ
ダメか?
書くんだ
むしろ付き合ってる彼女の方も書いてくれ
そこまで創作意欲があり、需要もあるなら埋めSSで終わらせるなんてもったいない You次スレで連載しちゃいなよ
578 :
名無しさん@ピンキー :2007/08/17(金) 00:48:50 ID:p16Uxx0l
上げてくぜい!
>>575-577 むむむ、夏休み中だから一区切りするところまで書けるかな
てかまだ、このスレ容量残ってるのか
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あれ?なにこれ
夏休みは自由で楽しいけれど憂鬱だ。 幼馴染みの勝利の家には、毎年お盆になると従兄がやってくる。 努(つとむ)兄ちゃんは都会に住んでいてここらにはちょっといない雰囲気を持っている。 明るくて少年漫画が大好きで、小さい頃からうちにもよく漫画を借りに来ていた。 (うちは漫画大好きなパパのせいで近所から漫画御殿といわれている。恥ずかしい) (閑話休題) ――問題はひとつだけ。 努兄ちゃんは世間で言うところのロリコンというものらしい。 ゆえにあまり深くかかわってはいけない。 特に、年齢の割に背が低くて大人の体型になるまでもう少しだけかかりそうな、あたしなんかの場合にはなおさらだ。
* 「愛ちゃーん。ごろごろしていないで、紫蘇の葉っぱ、お庭から取ってきてちょうだい。」 ママが最近倉庫から出してきた「ベルサイユのばら」を読んでいたら すごくいいところでお手伝いを頼まれてしまった。 あんまりだ。 今まさにアンドレがオスカルと乾杯しようとするところだったのに。 抗議したけれどダメだったので、悔しい気持ちのまま裏口からサンダルを履いて表に回った。 6時の空はまだ明るい。 芝生には夕立のにおいが残っていた。 庭のはずれにある小さな畑に屈んで何枚か葉を摘んでいると、すぐ近くから二人分の声がした。 隣の男の子たちが、ちょうど草むしりをしているようだ。 「……んー」 うううん。 勝利だけなら声をかけるのだけれども。 高い位置で二つ結びにした髪が夜風に揺れて、庭が騒ぐ。 まあ努兄ちゃんはちょっと変だけれど悪いお兄ちゃんでもないからいいということにした。 今年こそ復讐気分にならずに爽やかなお隣の妹を演じきってみせよう。 我が体型の名誉にかけて。 「ふったりともー」 低い柵の前まで草を踏みしめていき、隣の庭を覗く。 勝利は声をかける前に気づいたのか、軽く手を上げて合図してきた。 相変わらず腹が立つほど背がでかい。 「よ。ばんは」 「こんばんはー。手伝いしてんの?」 「おおお愛じゃないか久しぶりだなーもう十四歳かー!」 努兄ちゃんは瞬間的に立ち上がってこちらに来て私の頭をなではじめた。 早い。 顔はかっこいいのであまり嫌な気分ではないけれど身長差がありすぎていやだ。 黙っていると撫で回されながら覗き込まれてニコニコ笑われた。
うああ。 嫌な予感がする。 「つ、努兄ちゃんは、受験なんでしょ。いいの?こっち来てても」 「俺は頭いいからオー・ケーなのよ…いやしかし」 勝利が後ろで立ち上がっているのが見える。 遅い。 対応が遅い。 じろじろと胸の辺りを眺められて首を満足げに振られ溜息をつかれ、 既に次の言葉がすごくよく分かってしまったので勝利が止めるのも間に合わないと思う。 「愛はやっぱり可愛いなあ。 いくつになっても体型は ぜ ん ぜ ん 変わってないようで何よりだ!」 「……う、」 「背もそろそろ止まったのかな?うんうん、いつまでもそのままでいろよ!」 「――うるっっっさあああい!!!!」 近所中に響き渡る声で怒鳴ったので窓からお母さんと弟の友と向かいのおじいさんと 勝利のお父さんが顔を出して斜め向かいの今の電気がついたけどそれどころではない。 やはりこのロリコンで無礼な顔だけ兄ちゃんには十年来の復讐をッ!!
と力いっぱい助走しつつ塀を乗り越えけたところで勝利に額を押さえられて止められた。 じたばたしてもダメで力ではどうしたって敵わない。 左ジャブもよけられた。 悔しい。 「もう!ちょっと放」 「まったく。毎年よくやるよな」 「放しなさい勝利!勝利は馬鹿にされてないから分かんないのよ!」 「いやァ馬鹿にしてるわけじゃなくて誉め」 「努兄ちゃんは黙ってて!!こ、これでもあたしだって、先輩にデート誘われたりしたし、 映画だって行ったし。 …ぜ。ぜんぜん子供ってわけじゃないんだからっ」 涙が出てきた。 今年はそんなこともあって、ちょっとくらい女の子らしくなれてるかなとか、自信もつき始めてたのに。 そりゃあ誘ってくれた先輩のことが好きかどうかはまだ分からなくて、 せいぜい一緒に帰るくらいでまだお付き合いしたりとかそういうことはしてないけど。 でもいつも悠々としている勝利に威張れるくらいには大人になったかなって。 「泣くな泣くな」 ぽんぽんと同い年の幼馴染みに頭を叩かれて無性に悔しかった。 「泣いてないわよ」 紫蘇の葉っぱを握り締めて睨むと溜息をつかれた。 努兄ちゃんは何も知らない顔でずっと向こうまで逃げ出している。 ……お母さんに怒られそうだし、もう何も無かったことにして手伝いに戻ろう。 悔しいけど。 勝利に慰められてずれた髪を結びなおして、紫蘇を摘みなおして家に入る。 なんとなく漫画の気分じゃなかったので夕飯の準備をたくさん手伝った。 梅のそうめんだった。 友が日焼けした手であたしの分まで食べていたのでお箸で叩いてテレビを見る。 8月ももう下旬、と天気予報で言っていた。 お盆休みもそろそろ終わってしまう。
シャワーのあと、縁側でお母さんと涼んでいると勝利がビニール袋を手に提げてうちにきた。 お隣からのアイスのお裾分けだった。 お母さんがお礼のお惣菜を取りにに台所まで戻っていく。 ビニール袋を覗き込んでちょっとだけ笑った。 あたしの好きな6本300円のミルクアイスだ。 「ありがと」 「や。兄ちゃんのアレ、あんま気にすんなよ」 「別に。気にしてないわよ」 濡れたままおろした髪をいじって、みえみえの嘘をつく。 「そんならいいけど」 笑った声が見透かされているのもいつものことだ。 隣の家に帰っていく幼馴染みを見送りながら、夜の雲を眺めてアイスをかじった。 虫が縁の下で鳴いている。 そう、毎年こうなんだから呆れもする。 お盆のたびに隣の兄ちゃんに馬鹿にされて、泣き出して、勝利があとから慰めにやってくる。 いつかは「成長したじゃないか」って初恋のお兄ちゃんを驚かせてやりたいと、心の底で思っていたこともあったけれど。 まあ驚いたとして、努兄ちゃんは顔だけの変態ロリコンだから別に喜んではくれないんだろう。 まあいいのだ。 あたしだって好意とからかいの区別がつくくらいにはなんとか成長してきている。 それに対して闘う女の子の意地は、小学生にだって中学生にだってあるものだ。 そこまで考えたら漫画の続きを読みたくなって、ビニール袋を手に提げたままあたしは縁側に立ち上がった。 終 ** 埋めネタでした。 ベルばらは良い幼馴染みですね。ノシ
楳
図
梅