【エロパロ】素直クールでエロパロPART4

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1名無しさん@ピンキー
ふたば★ちゃんねる落書き板の天才によりツンデレに対抗すべく、
新たに"素直クール"なる言葉が誕生した。
ツン→素直 デレ→クール
ガチで愛してくれるが、人前であれ、好意に関してはストレートかつ
クールな表現をするため、男にとっては嬉し恥ずかし暴露羞恥プレイ。
しかし、どこか天然。言葉萌えのツンデレ、シチュ萌えの素直クール。

ここはそんな素直クールのエロパロスレです。
荒らし、煽りはスルーでお願いします

過去スレ
素直クールでエロパロPART1
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139830862/
素直クールでエロパロPART2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1151146736/l50
素直クールでエロパロPART3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1165760283/l50

保管庫(エロパロ板)
http://derheiligekrieg.h.fc2.com/cool.html
素直クール保管所(全体)
http://sucool.s171.xrea.com/
2-同級生型敬語系素直クール-:2007/04/28(土) 18:44:24 ID:PmJavEWQ
申し訳ない!
前スレが一杯になってしまった。
3名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 18:44:39 ID:aMgLP/Bv

         @〃⌒`ヽ@
          ! ノノ、从)))
          ヾリ ゚д゚ )l < ここはクソスレ
          /'._⌒,!(゜ヾ)  :::
         (_ノ⌒i ,/⌒,_)   ::::
     :: ::: :::(, ' ./゛ノ 、ノ :::: :::::::
    ::  :::  /_/ー'ヽ__( ::::
      ::::: 人:ヽ__)  ヽ_)゛
       .(:::::::;;)
      (;;::.:;,.:::.,;;) ブリブリブリ
    :.(;;:::::.:,:;.::,;;:;)∴;;,.
       ゙゙"゙;'゙゙
4-同級生型敬語系素直クール-:2007/04/28(土) 18:44:58 ID:PmJavEWQ
「私をこんなに夢中にさせた責任、取って下さいね?」
「せ、責任?」
「そうです。責任です」
 瑞希は明俊の肩に額をくりくりと擦り付けながら言う。
「一生、私は日阪君の傍を離れたくありません」
 その言葉の意味するところを理解し、明俊はより一層、顔が赤くなる。それは、つまり──
「私を、もらってくれますか?」
 こちらを見上げる瑞希と真っ向から視線が合う。恥ずかしさに思わず視線をそらしたくなるが、寄り添って
いる瑞希の手が僅かに震えてるのを感じ、明俊はそれを堪える。そらしちゃ駄目だ。
「……僕はまだ学生だし、その、そういう責任は今すぐ取ることは出来ないけど、でも、」
 明俊はなるべく真剣な表情を作り、瑞希の視線を正面から受け止める。
「僕も、雪雨さんとずっと一緒に居たい」
 明俊の答えに瑞希は微笑み、小首を傾げるように覗き込む。
「ずっと、ですか?」
「ずっと、……一生」
 ちょっと言い直して、明俊は限界が来た。恥ずかしくて真剣な表情が崩れる。
「約束ですよ?」
「うん、約束する」
 それでも目だけはそらさずに、瑞希を受け止める。
 僕は、雪雨さんが好きだ。だから、本当は悩む必要なんか無くて、凄く恥ずかしいけど、でも、一生一緒に
居たいと思うこの気持ちは本物だ。
 瑞希は明俊の肩に頭を乗せ、うっとりと微笑む。
「嬉しいです…。日阪君。…いえ、明俊君」
「え!?」
 突如名前で呼ばれ、泡を食う明俊に、瑞希は上目遣いで答える。
「私達は、もう夫婦同然なんですから、これからは名前で呼びますね? ね、明俊君?」
 明俊は、うっ、と言葉に詰まる。名前で呼ばれるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。
 実際に 呼ばれて分かる 破壊力。明俊、心の俳句。
 思わず現実逃避する明俊だったが、瑞希の言葉で我に返る。
「明俊君も、私の事を名前で呼んで下さいね?」
「ええ!?」
 驚く明俊を、瑞希が期待に満ちた目で見つめる。その目が今すぐ言って欲しいと語っていた。
「えっと、その……。み、瑞希さん」
「はい。なんですか? 明俊君。──ああ、すごく、いいです。名前で呼び合うのがこんなにいいとは思いま
 せんでした」
「ははは…」
「出来れば“瑞希さん”ではなく、“瑞希”と呼び捨てに欲しいところですが、どうですか?」
「さん付けで勘弁して下さい…」
 力無く答える明俊に、瑞希はくすくすと微笑む。
5-同級生型敬語系素直クール-:2007/04/28(土) 18:46:03 ID:PmJavEWQ
「では、呼び捨てにされる感動は、本当に夫婦になった時に取っておきますね?」
 二人はしばし見つめあい、
「…明俊君」
「な、なに? ゆ…、瑞希さん」
「明俊君」
「……瑞希さん」
「明俊君」
「瑞希さん」
 明俊君、瑞希さん、明俊君、瑞希さんと繰り返し、瑞希の顔が満面の笑みに変わる。明俊は茹でダコ化して
いる。
 名前を呼び合う幸せを噛み締めながら、彼女は彼に抱きつく。彼はわたわたと慌てながらも、控えめに抱き
返し、優しく髪を撫でる。

 淡いベージュ色のカーテンの向こう。
 満点の星空が、二人を祝福するかのように瞬いていた。

終わり
6-同級生型敬語系素直クール-:2007/04/28(土) 18:48:47 ID:PmJavEWQ
本当にすまない。
誘導も出来なかった。

以上です。
読んでくれた方、ありがとうございます。
7名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 19:34:05 ID:3OkS0B6S
GJ!
8名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 20:57:00 ID:oc1BXtKN
なんか中途半端で終わってると思ったら容量オーバーか。

GJ!
積極的な彼女が良かった。次があれば期待したい。
9名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 23:29:47 ID:GuNWLg2J
これはたまらん
GJ!
10名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 23:42:45 ID:u87Y1CV1
>>6
もう、萌え死にそうです……。
11名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 00:49:35 ID:xZBXmVOw
な、なんてエロかわいいんだ!
GJ!!
12名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 01:19:31 ID:f3EYzvNh
超絶GJ
13名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 01:29:02 ID:iIHwqgz8
>>6
やあ、俺。久しぶり
14名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 01:32:18 ID:iIHwqgz8
……ageてしまった。
すみませんすみませんm(__)m
15名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 03:19:53 ID:twZYRB06
これはエロすぎ死んだ
GJすぎる
16名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 11:20:07 ID:oUKTSZqu
「分かる、分かるぞ、その気持ち・・・」

好きな男との距離感を感じることが出来る、お互いの呼び方。他人行儀から親密さが増し、
お互いが名前で呼び合う関係に進めたときの充足感は、まさに至福。

彼女は、モニタ越しに伝わってくるその幸福感を我が事のように喜び、祝福した。


それにしても、と彼女は思う。
この、ぐしょりと濡れてしまったショーツの責任は、どう取ってくれるのか?

「ふむ、ならば早速、善は急げということで、『彼女』に倣ってみるか」

そうして彼女は、湿り気のおかげでずいぶんと重く感じる布きれを脱ぎ、それを意中の男性に届けるべく、部屋を後にした。




つうわけでGJですた。
17名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 17:09:52 ID:yqsKHP6r
なんか軽く書いてみようと思うんだが名前何がいいかな?
決まらないんだよ・・・orz
18名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 17:24:30 ID:0Mo4ZaA2
>>17
桜から取った方もいるし、自分の好きな物から取ったりするのも良いんじゃないか?
19名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 20:22:45 ID:oUKTSZqu
>>17
色の名前などはいかがか?
和風にすると、藍(あい)とか、浅葱(あさぎ)など、雰囲気もあるし。



「私の名前は、鴉乃 濡羽(からすの ぬれは)、先日君を見かけて、一目惚れというヤツをしてしまった。
 是非私と付き合って貰いたい」

そういって彼の前に姿を現した少女は、その名前が示すとおり、烏の濡れ羽色をした長い髪をたなびかせた。

「えーと、鴉乃さん、急に言われても、そんな・・・」

「濡羽でいい」

「じゃあ、濡羽、さん・・・」

「じれったいな。濡羽でいい、呼び捨てにしろ」



・・・とまぁこれは、私好みのキワモノ名前ってことで悪いサンプル。
20名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 20:51:39 ID:RdR83PMW
>>6
一日遅れだがあまりにもGJ
21名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 21:27:26 ID:CF6HHMkb
>>19
『鴉の濡れ羽色の〜』って、確かになんか良いよね
色っぽくて
22名無しさん@ピンキー:2007/04/29(日) 22:58:49 ID:yqsKHP6r
バイトが終わり、家に戻った。
だが、何かが違う。家の前に妙な影がある。
その影は俺の目の前にあった電灯の真下に移動し、顔を現した。
「やっと戻ってきたな、君は」
「あ・・・誰?」
その女の子は綺麗だった。
髪はセミロング、色白で、アニメやゲームに出たらとんでもない人気が出るかもしれない。
「私を覚えていないのか?・・・まあいい。君に伝えねばならない事がある」



「保守」
23名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 00:23:24 ID:7CPG8ET8
>>5
萌えた。おっきした。オナ禁中だから抜けなかったが。続編がこんなに早く拝めるとは何たる僥倖!

>>17
あまり深く考えなくても大丈夫です。
最後までヒロインに名前をつけなかった奴がここにいます。
24名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 01:41:36 ID:FNhXDfBY
オナ禁しようと思ったらこれか
巧いな〜
25450 ◆dPbouk8tpE :2007/04/30(月) 07:52:50 ID:Yz3/94Vb
即死防止に穴埋め投下。

意外と妹を好いてくださる人がいて嬉しい限り。

兄様は、星を見るのが好きです。
私ももちろん好き。
星が、ではなく。星を見る兄様が、ですが。

「寒くないか? ひとみ」

家の屋根にしつらえられた、小さなテラス。兄様は、星のよく見える夜、ここに来てはチェアに仰向けになり、
夜空に思いを馳せています。
そして私も、よく兄様に誘われてここに来ます。
まだ二人とも中学生だから、こんな小さなチェアでもかろうじて二人のスペースを許してくれるのだけれど、
私は兄様に抱かれるようにして横になり、二人して同じ方向に目を向けるのです。
私にとって、至福の時間。

少し肌寒いのを兄様は感じたのだろう、私を気遣ってくれます。夏が過ぎ秋を迎え、少し過ごしやすくなった夜、
いつも兄様はそう私に問いかけるのです。

ここで私は、寒い、とは言いません。
言えば、兄様はこの星空鑑賞を切り上げ、私を部屋に戻してしまうだろうから。
だからここで私は、寒くない、と言うようにしています。
そうすれば、優しい兄様は、より強く私を抱き寄せてくれるはずだから。

・・・ほら、こんなふうに。




「なぁ、あの大きく光る星、分かるか?」

兄様は、夜空の一点を指さしました。そこには、ひときわ大きく輝く、一つの星。

「なんかあの星、気に入ってるんだよ、俺」

その大きな星の側に、いくつかの輝く星。

「ひとみも大きくなったら、あの星みたいに、きらきら輝く女の子になれよ」

そういって私を強く抱きしめてくれた。


兄様、たぶんそれは違います。
その大きな星は、兄様です。
私はむしろ、その星のすぐ側で小さく光る星になりたい。

・・・と、そんな風なことを兄様に言いました、私。
すると兄様、あははと笑いながら。

「中学生になったっていうのに、ずいぶんと甘えん坊だなぁ、ひとみは」

などと、また私を子供扱いします。





さて、兄様、今日はご報告があります。

「ん? なんだ?」

今日、初潮が来ました。

「・・・って、そんなこと、俺に報告しなくてもよろしい・・・」

いえ、まずは最初に、兄様にお知らせしないと。



私が、子供から大人の身体に成長したことを報告しました。そうすると兄様は、少し狼狽えているようです。
実によい反応。
今まで私が、幼い身体でどんな風にアピールしても軽くあしらわれてしまったことからすると、やはり大人の身体になったという事実は強い武器になりそうです。

さぁ、これからガンガン攻めますよ、兄様。
私はそんなことを心の中で再び決意した後、愛しい兄様に、宣戦布告をすることにしました。


「兄様、お慕いしています」


END OF TEXT

29450 ◆dPbouk8tpE :2007/04/30(月) 07:57:01 ID:Yz3/94Vb

以上です。

ふ、二人とも、あの北斗七星の側に光る、小さな星が見えているのか・・・ッ!!
30名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 07:58:54 ID:m1DQTQho
うわ、リアルタイムで投下遭遇しちゃったよ。
しんみりした話でよかった、GJ。


でも死兆星のせいで台無しw
31名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 13:06:01 ID:pDbxSYOG
okkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk
32名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 13:18:00 ID:KGMPTHIA
死兆星テラバロスwwwwwww
33名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 21:26:32 ID:nXdkBLtz
巨人の星かとおもいきや、北斗の拳かよ!
GJw
34海音 ◆Z9Z6Kjg2yY :2007/04/30(月) 23:51:07 ID:7CPG8ET8
新スレおめでとうございます。覚えていないと思いますが、前回は白水素女を投げた人です。
私も即死回避のために一筆奉りたいと思います。

※女の子しか出てきません。
※エロありません。
35名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:51:51 ID:7CPG8ET8


「はぁ……ちょ、ちょっとやばいかな……」

重い足取りで階段を上る。上履きの底がリノリウムを叩く音が反響する。
そんなありふれたような音でさえ耳に染み入るくらい、校舎は静まり返っていた。
まるでこの世界にたったひとりでいるような気さえする。
丁度学校の怪談にはうってつけのシチュエーション……いやいや、流石にまだそんな時間じゃないよね。

L字の校舎の端、体育館のすぐそばに居を構えるは我らが部室。
といってもわたしは入部……というより入学してからまだそんなに経っていないから、あまり偉そうにいうのも気が引けるけど。
わたしが足を向かわせているのは、一応そういうところというわけ。なにやら急なミーティングがあるなんて連絡が回ってきたのに、
運悪く図書委員の書架整理に駆り出されちゃって、終わってみればもう空が紫色。
あのにくったらしい司書め、末代まで祟ってやるんだから。

なんて、ひとりでぶつぶつ愚痴っても時計の針は戻らない。
いつもは大所帯――他ならぬわたし達なんだけど――が占領している場所を通り抜け、まったく人気の感じられない廊下をいく。
本当はすっぽかしてしまおうかとも考えたけど、やっぱり良心というものが咎めるし。

重い扉のノブを回す。比喩じゃなくて本当に重いんだよ。
わたし達の部室はその昔音楽室として使われていたらしいから、普通の教室より扉も重装備なわけ。
だからノックもしない……って、どうせ誰も居ないだろうなんて高をくくっていただけなんだけどね。
そう、ところがどっこい中にそれがひとりだけ居たわけで。部屋に一歩踏み入った瞬間、わたしは声も出ずに固まっちゃった。

窓に程近い、机に直に座る影。墨汁をさらりと流したような髪は肩下辺りまで伸びて、紺の地味なセーラー服を覆っている。
人形みたいな白い肌は、電気もついていない部屋の中で、ぼうっと発光してるみたいだった。
どきん、なんて何かの間違いで胸が高鳴ってしまいそうになった。
暗くなり始めた校舎の片隅で一人たたずんでいるなんてシーンのせいで、ひどく現実味が欠けていて――

「私の顔に、何かついているのかしら?」

「ひぅっ、ひゃあぁぁああっ、ご、ごめんなさいっ」

いきなり視線と声を放られて、わたしは冗談抜きに金縛りにあった。
何がどうというか分からないまま無性にここに居づらくて、全て無かったことにして逃げ出したかった。足は動かなかったけど。

「別に謝ることじゃないと思うけれど」

音もなく腰掛けていた机から降り立ったあの人……先輩は苦笑した。
そこら辺の男子ならイチコロだと思う。わたしも場面が場面じゃなかったら和んでたね。

実は、わたしが所属しているこの学校の部活は、全国大会の常連だったりする。
学校のパンフにもでかでかと載ってるぐらいで……その次期部長との専らの噂なのが先輩だ。
新入生歓迎会の部活の紹介で、いきなりこんな和風美人が出てきたときのみんなの反応といったら、なかったなんてものじゃない。
男子なんか殆ど視線、いや意識を持ってかれてたね。そしてその声がまたすっと入り込んでくるような語り口。
まぁ、何人がまともに説明を聞いて内容を理解していたかどうかは怪しかったけど。
おかげで男子部員が殺到してしばらくは窮屈な思いをしたけど、数週間後には三分の一も残っていなかった。やっぱり名門は名門みたいね。
36名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:52:27 ID:7CPG8ET8

内心ではわたしも先輩の立ち居振る舞いから容姿、特にその黒い髪に憧れがあった。
わたしは祖母がスラブ系の人だったらしく、隔世遺伝で髪の毛は蜂蜜色。軽くウェーブまでかかってる。
それまではかなり自慢して憚らなかった髪の毛だけど、先輩のそれを目の当たりにするようになってからは、めっきりそんな気は起こらなくなった。

「やっぱり、何かついているかしら」

「え? あ、いや、そのっ」

ぼんやりと思考に没入していたら、いつの間にか目の前まで近付かれていた。この人心臓に悪過ぎるよ。

「あ、あの、他の人達は……」

「帰ったわ。緊急なんて触れ込みの割には、あまり大したことのない用件だったから」

「先輩は……どうしてひとりでここに居たんですか」

電気もつけてない、あるのは外からの光だけの薄暗い部屋。
先輩だからこそかろうじて様にはなっていたけれど、よくよく考えれば不審……変な行動だ。
何か他に用事があるわけでもなさそうだし……

「さあね。うちの部員にひとり消息不明がいたからじゃない?」

「え……? あああっ、ごめんなさいごめんなさいっ、わたしなんかが先輩をお待たせしちゃって」

あまりの恥ずかしさに呂律がどこかへ飛んでいきそうだった。ただでさえそんな切れ長の涼しい目で見つめられたらどきどきするってのに。

「いいわ、気にしなくて。あなたを待っているというのも、悪い気はしなかった」

「は、はぁ」

よ、良かった。とりあえず怒ってはいないみたいだ。
なんていっても顔色から先輩の感情をうかがうのは至難の技だから。だいたい先輩のは怒るというより叱るだし。
激しい声音や口調は一切使わないのに、なんとなく従ってしまう。きっと天性の統率者ってのはこんな感じなんだろう。
次期部長の噂もあながち噂だけに終わらないかも。とてもわたしと一歳しか変わらないとは思えない。

「どうしたの。さっきから人の顔ばっかり見つめて。少し照れくさいわね」

「あ、その、えっと、たいした理由じゃないですよ、あはは」

「何か誤魔化したでしょ、その笑いは。言ってみなさいな。私は怒りはしないから」

ややかがみ気味で下から見上げてくる先輩の目。ちょっと距離が近いような気がする。
心なしかふわっと、甘い匂いがしたような、しないような。
校庭を照らす夜間用のライトの白い光がここまで届いて、横から輪郭を淡く浮かび上がらせている。

「少し……見とれてただけですよ」

「本当? 褒めても何も出ないわよ」

「嘘じゃないです! だって、わたし……特に先輩の髪なんか、逆立ちしても叶いませんっ。わたしなんか、こんなんですし」

「そうかしら。こんなのって……卑下するには相応しくないと思うけどね、私は」

息を吐く暇も無く、先輩はわたしのくるくる巻き気味になっている髪に指を通していた。
それこそお互いの髪の毛の一本一本が見えるくらいの位置に立っている。不意打ちを食らって、軽く眩暈がしそうになった。

「ああ、やっぱり地毛ね。黒い髪が良く見えるかも知れないけど、地毛が一番よ。私が今この色に染めようとしたって、こうはいかないもの」
37名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:53:13 ID:7CPG8ET8

「そんなもったいないことしちゃだめですっ」

言ってしまってから、いくらなんでも声が大き過ぎたことに気づく。
こんな時間に特に用事も無く先輩と二人っきりってのは怪しいかな。いや女同士だからいざというときは言い訳は出来るけど。

「そんなに好きって言うのなら、触ってみる?」

「ひぇえっっ!」

耳元でいきなり囁かれて、わたしは性懲りも無く緊張して肩を強張らせてしまう。

「お気に召さない?」

「いや、そういうわけじゃ……」

だ、だってそうでしょ、いきなり……そりゃあ普段から付き合いはあるけど、あくまで先輩と後輩。
わたしに先輩がそんなこと言うなんて思わないよ。わたしだって先輩の口から直に聞かなかったら本気にしないし――

「お返事は?」

「は……はい。それじゃ、お言葉に甘えて」

考える間も無く、口が勝手に返事をしてたよ。はぁあ。



日本では昔から“髪は女の命”なんて言うけど(わたしに言わせれば男にとっても命だと思う。ある意味で)
先輩の髪は文字通り命があるようだった。こりゃシャンプーの宣伝のモデルも顔負けね。

「これだけのを維持するのって、やっぱり苦労するんでしょうか」

「……あなたなら想像がつくように思うけど。若いからって油断はしてられないわ」

「女子校生の台詞じゃないです、それ……」

こんなこと言うと変に思われるかもしれないけど、本当に感触が生きてるわけで。
って、別にわさわさうごめいてるわけじゃないからね。ふわりと広げると、それだけで柔らかい匂いがしそう。
遠くから差し込む光が、その黒さに控えめな艶を映す。こうやって指をくぐらせていても、くしけずるというより撫でているという気しかしない。
全然ひっかからないもんね。扇を広げたような髪ってのが、平安の絵巻から現代に蘇ったようにさえ思える。

やっぱり並々ならぬ配慮の賜物なんだねぇ。聞いたかい男子諸君、君達の憧れの先輩は陰で涙ぐましい努力を重ねてるんだぞ。
でも、やっぱりこの光景は傍から見たら変だよね。もう夜と言っていいぐらいの校舎。
外からの照明があるとはいえ、電気もついてない部屋に……やだ、何変な想像してるのわたし。よりによって……
38名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:54:09 ID:7CPG8ET8

「どうしたの。もういいのかしら」

いけないいけない、わたしったら変な方向にトリップしてた。
おかげで手の感触も上の空になってたし。

「その、もう時間も遅いですし……だいたい、もしわたしが女じゃなかったら、ちょっとやばいシチュエーションじゃないですか?」

「ふーん。そんなこと考えてたの」

「ぁ……」

さも犯し……いや可笑しそうな先輩の笑みにわたしは凍りついた。
あぁぁ、これじゃやばいのはわたしの頭じゃないっ。

「……別に、あなたが女の子だから触らせてあげたってわけじゃないけれどね」

まずい、まずいです、ちょっと声音が怒ってるかも。先輩に睨まれたら本気で部に居られないよ。
熱狂的なシンパだけでも両手に余るぐらい居るっていうのに。

「まあ、そろそろ帰った方がいいのは確かね。あまり体裁が良いとは言えないし」

「すすすいません……わざわざ待っていてくださったのに」

「……んもう」

な、なんとか一命は取り留めたみたい。危ない危ない、調子に乗って甘え過ぎた。

「まったく、分かってるのか分かってないのか」

「うぅぅ……」

先輩はまた音も無く机から降りて部室の床に立った。
部室の鍵は部長に代わって先輩が預かっていたらしい。最早先輩は実質的に部長なんじゃないのかな。



行きはまだ明かりがあったけれど、今はもうすっかり廊下も階段も暗くなっていた。
下手したら警備の人が巡回してるかも。先輩と一緒でひとりきりじゃないから、まだ気が楽だけど。

「そう言えば、こんな話を知っているかしら。あの部室の話」

「部屋……ですか?」

「そう、さっきまで居たでしょ」

ちょっと嫌な予感がしなくも無かったけど、わたしは強いて意識から打ち消そうとした。
黙ってるのもそれはそれで気まずいし、正直微妙に興味もそそられたりした。

「あそこは、本当は今でも音楽室のはずだったの。今じゃ私達が占拠してるけれど」

確かに“旧音楽室”なんて看板のくせに、壁やら内装やらに古臭さが無かった気がする。
わたしとしては、学校でのこの部の立場を見るようで、ちょっと優越感を感じてもいたりして。

「それにはね、少し曰くがあるの。私が入学した頃からあそこは私達が使ってる。
 けれど、音楽室として使われなくなったのはもうちょっと前。その間は空き教室だったのよ」

階段の踊り場の足元を、非常灯が顕わにしていた。かつん、かつんと二人分の足音が広がる。
先輩が前に立って、わたしは後ろからついていく。話を止めてしまったら、そのまま離れ離れになってしまいそうだった。
39名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:55:22 ID:7CPG8ET8

「脱線するけど、その音楽室として使われなくなった理由がまた可笑しな話でね。
 音楽室って基本的に防音で、楽器とかをたくさん並べないといけないから結構余裕あるでしょう?」

「そうですね。じゃないと、音楽室の意味がありませんし」

「……私達は大抵、外か体育館で練習するわよね。だから確実に人気の無い時間があって、それに目をつけた不届き者が居たのよ」

「ふ、不届き者っ……」

「そう。防音加工があるから外に声が漏れない。人気も無い。鍵だってかかる」

「どういうことですか、それ」

先輩はこっちを振り返って頭を抱える真似をした。

「先生がね、忘れ物をして音楽室に荷物を取りに行ったのよ。
 当然誰も居るはずが無いと思って、鍵を開けて中に入ってみたら……その、不届き者が二人で致していたわけよ」

「……はぁ?」

いいいい致すって、まさか。先輩の口からそんな言葉が――

「――おかげで学校中大騒ぎになったらしいわよ。白昼堂々だからある意味英雄よね。現に語り継がれているし。
 それから先生の怒り様が半端じゃなくて、もうこんな教室は使わないなんて言い出したから大変よ。
 そんなことがあったせいで、旧音楽室は空き教室になってしまったわけ。……しかも、その話にはまだ続きがあるの」

「まだあるんですか……」

「ええ。空き教室になってからもしばらく、あそこにはいかがわしい行為の舞台になった節があるの。それがいつからかはたと立ち消えた。
 ある夜の話よ。例の武勇伝が口々に伝えられるうちに、何故か恋人達の聖地になってしまって。
 人の目を盗んで想いを遂げようとする輩が後を絶たなかった。ある男子生徒が、またある女子生徒にそこで告白したの。
 ……どういう神経しているのかしらね。よりにもよってそんな場所で告白しようなんて。それで女子生徒は彼を断ってしまった。
 一世一代の大舞台を潰された彼は冷静さを失って、なんとその女子生徒に襲い掛かってしまった」

「は、犯罪じゃないですかそれ」

「ええ、ひどい男ね。まあ私はのこのこ付いて来る方も、別の意味でひどいと思うけれど。
 それで彼女は必死で抵抗した、でも体格の差はいかんともし難く、ついに追い詰められて操を奪われてしまう……。
 彼が平静を取り戻した時、彼女はぴくりとも動かなくなっていた。なんてことを……当然彼は慌てて扉の鍵を開けようとする。でも鍵はどうしても開かない。

 それなら窓、と窓硝子をぶち破ろうとした。でも殴っても机をぶつけてもびくともしない。彼は最後に全力で体当たりまでした。
 しかし硝子は彼の身体を弾いただけだった。床にくず折れた彼が喘ぎ喘ぎしていると……後ろから首に何かが巻きついた。

 それから彼と、彼女の姿を見た者はいないわ。ただ、夜になると彼女が音楽室を徘徊するの。わたしを返して……わたしを返して……丁度、こんな風にね」

先輩の人指し指の向こうに思わず目を向けると、そこは真っ暗な闇で、目を戻そうとしたわたしの首に何かが――

「きゃああぁあああぁあぁあぁあああああぁあぁああぁぁぁあっっっ!!! た、たすけっ、せ先輩助けてぇぇええっ!!」

「こらこら、落ち着きなさい。そんなもの居るわけないでしょ」

「だ、だだだっだだって、今わたしの首に何かが……」

いきなり後ろから誰かに抱きすくめられた。必死で振り払おうとするところに、耳のすぐそばから馴染み深い声が聞こえる。
40名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 23:57:24 ID:7CPG8ET8

「だから、そんなものがどこにいるのよ」

――――え、ちょっと待って。ま、まさか先輩は。

「わ、わたしを嵌めたんですねっ!! ひどい、先輩見損ないましたっ!」

「あなたがそんなに鈍感だから、少しばかりいじめたくなったのよ。それにしても今の声は凄かったわ……。これは確実に守衛に見つかったわね」

「……そ、それってまさか」

「逃げましょう。大丈夫、捕まったら一緒に言い訳してあげるから」

「ひゃっ、ひゃああぁっ、先輩早いですって!」

「走らなきゃ逃げられないでしょうが!」



後日、学校は深夜の絹を裂くような悲鳴の話題で持ち切りになっていた。もちろん原因は先輩……とわたしだ。
行方不明になった生徒は誰も居ないことが分かって、学校はひとまず噂を沈めようとしたらしい。効果があるはずもないけど。
例の旧音楽室の噂とも相俟って絶好調のよう。どうやら先輩がわたしに話したあれは、真っ赤な嘘というわけじゃないらしい。
部活の時間、他の部員の合間を縫ってわたしは先輩に小声で話しかけた。

「先輩……どうするんですかっ。こんなに噂になっちゃって……」

「気にしないでいいわよ。それより……今度の書架整理はいつなのか、教えてくれるかしら?」

(おしまい)

先輩は、きっと途中まで本気だったと思います。空気嫁って感じですね、後輩は。
41名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 02:53:43 ID:z4FfTaf4
>>40
百合の香しい香りが……。
なんか、このスレ見てると萌え死ぬ確率が飛躍的に高くなるww
42名無しさん@ピンキー:2007/05/01(火) 06:43:02 ID:w3+ZHC1Q
和み百合GJ
43これからずっとの中の人 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 21:55:26 ID:mvvMaZ3/
皆さんおはようございますこんにちはこんばんわ。これからずっとの中の人です。

この連休のおかげで思ったよりも早く次の話の骨組みが出来たのですが、無駄に長くなりそうなので少し投下させていただきます。

題名は『とある異国の物語』です。
それではどうぞ。
44とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 21:57:11 ID:mvvMaZ3/
「……み……ちょ……起きて……たいが鳴ってるからさあ、起きてよ。」
体が揺すられてまだジンジンする頭の芯に不快感が走る。眉根を寄せ怒りを露にするが体の揺れは収まらない。
「ずっと鳴り続けてるんだけど。五月蝿いから止めてよ。」
五月蝿いのはお前だよ、と言いかけ、誰と一緒かを思い出して止めた。ただでさえ関係が壊れかけてるのに追いうちをかける必要は無い。
昨日だってそんなに乗り気じゃない彼女をなだめすかしてやっとこさ持ち込んだってのに。
まだ重い体を持ち上げて自分の携帯電話を手に取り、通話ボタンを押す。
「やっと繋がった!」
実家の母親の声だった。朝からキンキンよく響く高音だ。
「……少し黙れよクソババァ。今何時だと思ってるんだ。」
「何時とか関係無いの、田舎のおじいちゃんが亡くなったの。すぐ帰っておいで。」
一瞬何を言われたか分からなかった。

すぐに彼女を帰してシャワーを浴び、スーツケースに適当にリクルートスーツと黒いネクタイを投げ込んで東京駅に急いだ。奮発して新幹線を使う。

始発の自由席だから結構空いているのだろうと思っていたが、ゴールデンウイークを前にして子供連れが多い。寝不足を解消しようとしていたのだが調子を狂わされた。
半覚醒している頭に次から次へと関係の無い事柄が浮かんでくるのは誰にでもあることなのだろうか。その中から昨日の夜中にくたばったと言う爺さんの思い出を拾い上げる。

ここで言う爺さんは俺の父親の父で、仕事は主に米を作っている農家だった。
結構な名家だったらしく、夏の法事の際には親戚一同が墓前に集まってくるような家だった。子供のころはお小遣いを稼げるオイシイ場だなという印象だったが。
そんな俺も小学校の上がる前は爺さんが好きだったが、上がったころからなぜか苦手になってしまった。
そんなに怒っていたイメージは無いんだけど、なんで嫌いになったんだったかなぁ……?
そこまで思考が及んだとき、実家の最寄り駅に到着した。一度実家に寄ってから田舎へ帰ることになっていたから下車する。

数時間後、母親と2人で在来線に乗っていた。向かい合わせになった4人座席を2人で占領する。父親は実父の危篤にここ1週間付きっ切りだったという。
「で、どうなの、東京での生活は。」
久しぶりに息子と顔と顔を突き合わせてうれしいのかテンションが高い。
「朝早くに叩き起こされて眠いんだ、ちょっと黙っててくれ。」
「あんたねえ……」
「五月蝿いな、お付き合いしてる子もいるし勉強もまた留年しない程度にはやってる、これでいいだろ!」
今度こそ眠りたくて怒鳴る。幸い周りに人はいないので見咎められることも無い。ほんの僅かな時間眠るためにどうしてこんなにイラつかないといけないのか。
泣きそうな母親の顔を見るのも嫌だ、大学のことを訊かれるのも嫌だ、彼女とも上手くいっていない。
何も感じない振りをして眠る。

気が昂ってしまって結局10分も眠れなかった。落ちかけて重い体を揺さぶられ、渋々起きると何度も見たことのある田舎の風景が広がっていた。
改札を出ると駅前のロータリーに車が滑り込んできて窓が開く。父親だ。
「早く乗れ。やらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。」
トランクルームへ荷物を放り込んでから、車が発進する。

爺さんの遺体と対面して、不思議と悲しかったり恐ろしい感情は持てなかった。柔和な表情を浮かべ、静かに眠っているんだなあという感想だ。
手を合わせ終え、立ち上がらずに顔を眺め続ける。こんなに優しい表情をしているのにどうして嫌いになってしまったんだろうか。
答えの出ないまま、両親に促され立ち上がった。
45とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 21:58:30 ID:mvvMaZ3/
それから2日、俺は家の掃除に追われていた。父親や母親が、この際だから、と言い始めたからだ。
葬儀の準備の合間を縫って両親も手伝いはしたが、基本的に何もすることのない息子主導でやるのは自然な流れだった。
小学生の頃に婆さんは亡くなっていたから、男やもめでは広い屋敷中に掃除や手入れが行き届くわけが無く、場所によっては歩くたびに埃が舞い飛ぶ所もあった。
それでも玄関や居間に繋がる廊下、台所に仏壇の置かれている部屋は掃除がきちんとされていたのは生真面目な性格だった爺さんらしい。
普段は使わない応接間や昔子供部屋だったという2階を掃除して、物置小屋と化している納屋に手を出したのは、通夜を翌日とした夜だった。

「結構片付いてるな。」
「普段使わないのにねえ。」
両親はつかつかと入っていくが、俺は敷居を跨ぐのに躊躇する。全く無意識に足が止まって驚いた。ここで何か怖い目にあったりした記憶は無いんだけど。
中は古くなった蛍光灯1本でかなり広い納屋が照らされていた。大きな箪笥の後ろは真っ暗になっていて夜に作業をするのはちょっと無理そうだ。
「ここはもう明日でいいんじゃね?日が昇ってからじゃないと暗くて出来ねーよ。」
ジーンズのポケットに手を突っ込んで辺りを見回して言う。
箪笥やなんかの家具が並んでいるコーナー、農具が並んでいるコーナーときれいに区分けされてる中に不思議な区画があった。
蛍光灯の光も当たらないようなそこには布の掛かった大きな細長い板が鎮座していて、周りにはどこか異国の装飾品が並んでいた。
何か違和感を感じて歩み寄る俺とは対照的に、両親は部屋を出て行く。確かにこう暗くっちゃ無理だね、と。
何が描かれているのか気になって布を取り払うと、俺にそっくりな顔が出てきた。鏡だ。
「それは親父が大事にしてた姿見だ。身だしなみに気をつける人だったから。ただ、そんなに大きい必要は無いと思うんだけどな。」
入り口で振り返って父親が言う。
確かに大きい。細長いと言っても幅は肩幅くらいあるし、高さだって180cmある俺が見上げるくらいだから少なく見積もっても2mはあるだろう。
身長の半分もあれば姿見としては仕事を果たせると言うからかなりのオーバースペックだ。

暫く後、俺は納屋に1人残って鏡を見ていた。
何のことは無い、小汚い俺の疲れきった表情がこちらを見ている。しかし何か、ずっと凝視させる不思議な魔力がそこにはあった。
酒に酔ったときのような薄ぼんやりとした意識が、まるで鏡の中に本当に自分がいるかのような錯覚を起こさせる。
顎を伝うように鏡の表面に指を走らせようと触れた瞬間、目に眩しい光が飛び込んできた。顔を背け後ろを振り返るが、俺の背後に光源はない。

じゃあ、光ってるのはこの鏡自体なのか……?

強い光に気圧されてへっぴり腰になりながら鏡の表面を撫でようと手を伸ばす。だが、表面に触ることは出来なかった。あるはずの鏡に触れることが出来ず、手は中空を掴む。
体重のかけどころを逃し、バランスを崩して鏡のほうへ倒れこむ。見ると凪いだ水銀に腕を突っ込んだように、鏡面は小さな波紋を浮かべている。
肩まで飲み込まれたとき、反射的に大きく息を吸い込む。一度傾いた体重を立て直すことも出来ず、目を閉じ、ええいままよと鏡の中へ身体を投げ出した。

絶叫マシンに乗ったときのように身体がふわっと浮いて、それからぐるぐる回りだした。目は閉じたままだし息も止めたまま。しかしとうとう息が続かなくなって大きく息を吐く。

もう嫌だ、何だよこれ。

苦しくて意識を失う直前、ぼんやりと考え付いた言葉がこれだった。遺言がこんなのだなんて俺らしすぎて、ムカつく。
46とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 21:59:15 ID:mvvMaZ3/
生きてる。そう実感したのは重い瞼をこじ開けたときだった。
大分前から意識ははっきりしていたが、怖くて目を開けられなかった。死後の世界なんて信じちゃいないが、それでも爺さんの顔が目の前にあったりするのはゴメンだったから。
「ん……あ゙あ゙〜〜〜〜」
呻き声を上げ、上体を起こす。俺はベッドに寝かされて裸に剥かれていた。
普段なら隣にどんな子が並んでいるのか見下ろすシチュエーションだが、あんな非科学的でファンタジーな体験をした後だ、そんなことが無意味なことは直感的に分かっていた。
全裸のまま歩き回るというのは見知らぬ土地では冒険が過ぎるのでベッドの上でじっとしていると、戸口に誰かが立った。

「お起きなさりましたか。」
年寄り臭い言葉遣いだったが、そこには俺と同い年くらいの少女が立っている。そのまま歩み寄ってくる少女に警戒して身じろぎする。
「そんなに警戒する必要はございません。お待ちしておりました。」
何を言っているのか分からない。怪訝な顔をしているとこちらに構わずまくし立てる。
「100年、永い時が経ちました。私(わたくし)は以前お会いした巫女から5代下った者で、カーナと申すものにございます。」
「はぁ。」
何とも気の抜けた返事をする俺に手ごたえを感じられないのか、彼女はこちらの様子を窺うように少し黙った。
その隙にこっちが訊きたい事のリストを頭の中で組み上げる。ただ、最初に訊く事は決まっていたのだけれど。
「えっと……とりあえず俺の服、無い?」
47とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 22:00:29 ID:mvvMaZ3/
1日目

麻か何かで出来たようなザラザラする生地の上着に腕を通し、下は半ズボンのようなものを下着無しで身に着ける。なんだかスースーして居心地が悪いが仕方ない。
「着替えは済みましたでしょうか。」
衝立の向こうからかかった声に肯定と返すと、すぐにこちらへ回ってくる。
「ゴメン、状況がよく飲み込めねえんだ。ここはどこだ?それに君は巫女だと名乗ったけど、俺に何を期待してるんだ?」
疑問点を要約、簡潔にして2つにまとめる。3つ以上の質問をしても自分がパニクるのは目に見えている。
今度怪訝な顔をしたのは少女の側だった。
「あの、『理』の使い様ではございませんのでしょうか?」
「ことわり?いや知らない、何それ?」
「『理』というのはこの世の全てを作り出された方でございます。本当にご存じないのですか?」
「いや俺、田舎の物置で鏡に吸い込まれただけだから。」
「そう、なのですか。本当に何もご存じないんですか……」
ガスの抜けた風船のようにしおしおと崩れ落ち、そしてまた立ち上がった。
「ここはスの国クの村でございます。私は村の外れで巫女をしております、カーナと申すものでございます。」
よく分からないが、俺は彼女の期待を見事に裏切ったようだ。しかしそんなに衝撃を受けているようには見えない。内心の動揺を表に見せないタイプなのだろう。
「私の仕事は『理』にお祈りを捧げること、そして稀に現れる『理』の使い様との子をもうけることでございます。」
「はい?……えっと、それは俺とヤるってこと?」
「はい。」
恥じる様子も無く答える。

話を聞くと俺は『カミサマのオツカイ』としてここに来たらしい。
彼女が言うには、いつものように目を瞑り祭壇に祈りをささげていると、突然大きな音がして俺が降ってきたそうだ。
巫女に口づてで伝えられる伝承によると、おおよそ100年周期でカミサマのオツカイがこの地上に降りてくるらしい。
巫女はオツカイが降りてきたときに備え毎日お祈りをすること、そして天から降りてきた人の子種を身に受けるのが仕事なんだそうだ。
「優れた子種をこの大地に広げるためにその身を捧げる存在というわけです。」
カーナと名乗った少女が言う。
ちなみに俺の着ていた服は祭壇のお供え物を巻き込んで着地したために汚れてしまったので、とりあえず洗濯するために脱がしたらしい。

「それでは少し時間は早いですが、伽の時間といたしましょう。」
彼女は一通り説明し終えると、準備がありますので、と外へ出て行った。
やっぱりカミサマのオツカイなんじゃないのか、俺。
ちょっと考えて結論を導き出す。何か理解できない力を勝手にカミサマの仕業だと決め付けるのは良くあることだ。
例えるなら雷は神や怨霊の仕業だ、と説明付けられていたようなものと言えばいいだろうか。
そういう考え方に従えば、空から降ってきた人間をカミサマのオツカイと扱うことだってあるに違いない。

1つ大事なことに気が付いた。こんなありえない話に怖いくらい順応している自分がいる。UFOを信じない類の人間ではないが、それでも頭から信じる人間ではないというのに。
それどころか、どこか懐かしい感じさえしているのは何故だろうか。
……ああ、思い出した。1つ思い出すと芋づる式に次から次へと記憶が甦ってくる。
「誰が信じるんだよ、こんな話……」
ちょうどその時身体を清め終えたのかカーナが戻ってきた。
「俺の前に来たオツカイの人について訊きたいんだけど。」
クソ真面目に部屋の中心に直立不動の態勢を取り、辞書をそのまま丸写しにしたような口調で説明してくれた。

「前回降臨されたのは今から108年前だと聞いております。その方は私の5代前の巫女様がお相手されて、子供を4人、もうけたそうです。」
彼女が言うことをそのまま信じるならば、先代はさぞかし絶倫だったんだろうな。
「名前は?」
「え?」
「先代のだよ。」
「詳しくは聞いておりませんが、ヨシ、と名乗られたそうでございます。……どうかされましたか?」
「それ、俺の爺さんだ……」
この答えで確信を持った。先代の名前は忠義(ただよし)、俺の爺さんだ。頭を抱え込む。
48とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 22:01:27 ID:mvvMaZ3/
小さい頃、爺さんに怖い話をされたことがある。鏡の中へ引きずり込まれて見知らぬ世界に放り出された男の話だ。
嫌にリアルな内容の上に舞台になった鏡というのが自分の身近にあるなんて聞かされて、幼稚園児が怯えないはずが無い。
もう泣きそうになって恐る恐る質問したことを覚えている。
「その人はどうやって帰ってきたの?」
「うーん、お前には帰ってこれない方法を使ったんだよ。お前がもし引きずり込まれたら終わりだなあ。」
それが決め手だった。ワンワン泣いて、怖い話をする爺さんを心底嫌いになった。

「そうなのですか、お爺様が先代様だったのですか。」
俺のつぶやいた言葉に特別驚いた様子も無い。そのまま近寄ってくる。
「質問は終わりましたでしょうか。では、お願いします。」
着ている服を全て脱いでしまう。形の整った胸にくびれた腰、すらりと伸びた足。日に焼けた浅黒い肌に茶色の茂みが生えている。
全身を一瞬で吟味して結論を出す。こいつは掛け値なし、最高レベルの美少女だ、と。
だがその一方で何かが足りないと引っかかっていた。何故だろうか。
「どうかされましたか?さあ、早くしてくださいませ。」
懐に飛び込んでくる。柔らかいおっぱいがおっぱいがおっぱいがっ!
沸騰した脳みそに従って手を伸ばしかけて、違和感にやっと気が付いた。

感情が感じられないんだ、こいつの行動には。

さっきから俺を気遣ってか知らないが、いやに余所余所しい。神様に対する畏怖の念を持っているのかもしれないが、それにしても身体を許すのだ、何か違わないか?
「カーナ?」
「なんでしょう。」
「これからするのは君にとって何だ?」
「『理』へ身体を捧げることです。」
「つまりただの仕事、ということか。……それは娼婦とどれくらい違う行為なんだ?」
「!?」
すぐに行為に入るのだと思っていたのだろうが、予想の斜め上の言葉を投げかけられ戸惑っているようだ。
「そのようなことは……!」
漸く何か言いかけたが絶句する。
「まあとりあえず服着ろよ。」
俺は閨の上に胡坐をかき、服を拾い集めているカーナの後姿を見ていた。
……もったいないことしたかな、俺。

「どうして私の願いをお聞き入れして頂けないのですか?」
すっかり服を着終えた彼女が床に座り話しかける。
ベッドの上に座ればいいだろうと言ったのだが、カミサマのオツカイと一緒の席に座るのはやはり気が引けると言う。
「俺は別に禁欲家じゃないし、SEXも……ええと、まぐわうのも好きだ。でもな、どうせ子供作るんなら愛し合った人と作りたいんだよ。」
付き合ってる女性がいながら他の女性としたことは何度もあるが、誓って風俗に行ったことは無い。
浮気相手も、結局は付き合うことが多いしな。
49とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 22:02:13 ID:mvvMaZ3/
「愛、とは何でしょうか?」
突然哲学的なことを聞いてきた。
「そりゃ……あれだ、その……」
「ご存知でないのなら私の願いをお聞き入れにならない理由は無いと存じ上げますが。」
答えに詰まった途端にぴしゃりとやられた。結構キツイ性格してるな、この子。尊敬語がこんなに慇懃無礼に感じるのは初めての経験だ。
会話のイニシアチブをとられないように慌てて言いたいことを言う。
「だ、大体、君は俺の名前も知らないだろ。生まれた子に親父の名前訊かれたらどうするんだよ。」
「『理』の使い様の子だと。」
しれっと言ってくれる。この少女にとっては俺は『カミサマのオツカイ』以上の存在ではないようだ。なんだか悔しい。
「ああ、分かったよ! 」
半ば八つ当たりのようにして大声を上げる。
「じゃあ、俺が言ってる意味が分からないって、そう言いたいんだな?」
「はい、おっしゃる通りでございます。」
「それならダメだ。まぐわい禁止!」
どうもこの子はズレている。言い知れない不安を感じて拒否した。
「あなたがそうおっしゃるなら仕方ありません。焦る必要もありませんし、ゆっくり考えさせてください。」
「ああ、是非そうしてくれ。」
これだけ豪華な据え膳があって喰わないなんて、俺も面倒な性格してるなあ。

「あの。」
「何だ?」
ベッドを譲る譲らないで一悶着した後(結果は俺がベッドに、カーナが床にござを敷いて寝ることになった)に訊かれた。
「お名前をお聞かせいただいてよろしいでしょうか。」
「巧だ。タクでもタクミでも好きに呼んでくれ。」
「分かりました。それではタクミさま、お休みなさいませ。」
カーナは三つ指突いてお辞儀をしてから掛け布団に潜り込んだ。布団越しに分かる膨らみに唾を飲み込む。

俺は悶々としてこちらの世界で始めての夜を迎えた。
50とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/02(水) 22:07:08 ID:mvvMaZ3/
一応今回は以上です。

素直でクールだけれど、主人公のことを(今の時点ではまだ)好きかどうかは分からない、というのは
>>1に書かれているテンプレとかけ離れているので個人的にもかなり微妙です(だから変な電波を受信したというわけで)。

一応予定としては連休中になんとしても3日目まで進めて完結させるつもりなので、是非ご意見お聞かせください。
51名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 23:12:50 ID:o/i60cnM
異世界モノか。とりあえずこれからの展開に期待。
……ただ、この手の場合アンハッピーエンドが多い事も事実なので、そこをどう料理するかを楽しみにさせてもらいます。
52名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 23:35:30 ID:OEz1hZKH
いや、ハーレムスレの住民でもある俺からすれば、異世界ものは脳天気オチと相場が。

とにかく期待するよ〜。

そうだなぁ、SS開始時にヒロインが主人公を好きではない状態だと、
本文中でどうやって好きになっていくのかを説得力を持たせるのが難しいかも。
53名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 01:55:53 ID:tDqYPNMi
素晴らしき連休パワー。
こんなにコンスタントにSS見れるとは嬉しい限り。
続きに期待。
54 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 03:57:48 ID:9Hm3mu4J
連休パワー炸裂ってことで、俺もいっちょ行ってみますか。

……現代日本が舞台じゃないです。
裏設定たくさんあります。でもくどくなるので、説明は程々に。
程々にしすぎて、舞台の違いの味が出ねえけど。

ま、いいか。
55彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 03:58:56 ID:9Hm3mu4J

 とある晴れた日、とある街角で、その少年は待ち惚けを食らわされていた。
 手持ち無沙汰に腕時計を眺めてみるが、秒針の速度に変化はない。少々レトロなデザインの、このアナログ時計はお気に入りなのだが、こういう時は恨めしく思ったりもする。
 暇潰しも早々に諦め、空を眺める。
 青い空に燦然と輝く太陽が、何とも眩しい。彼は目を細め、片手で陽光を遮る。流れ行く雲の気楽さを、ある種の羨望を込めて観察する。
「……フゥ」
 小さく溜め息を吐く。
 現在の時刻は、午前十時五分。待ち合わせの約束が十時丁度だから、五分オーバーしている。
 待機時間は、かれこれ三十五分に達する。何故、わざわざこんなに長いこと待たなければならないのかとも思うが、それは男の嗜み……らしい。
 そういう慣習だというならば、我慢しよう。待つこと自体は構わない。とはいえ……、
「やあ彼女、浮かない顔してどうしたの?」
 とはいえ、コレだ。
「ははァん。さては彼氏に待ち惚け食わされてるね? そんな冷たいヤツ放っておいてさ、おれと遊ばない?」
「悪いけど間に合ってる」
「つれないなあ。けど、ハスキーボイスがちょっとセクシーだね」
 五分十分置きにこんな輩に声を掛けられれば、うんざりして当然だろう。
 このアストという名の少年は、つくづく思う。自分はそんなに女っぽいのかと。
 顔は……仕方ない。毎朝再認識するのが日常だ。いい加減嬉しさなど微塵も込み上げてこないが、可愛いというより綺麗と評されることもしばしば。
 小柄、有り体に言えばチビなのも仕方ない。諦めよう。今後に期待する。
 しかし、声はやや高めで中性的と言えなくもないが、明らかに男のものだ。フィルターが掛かっているなら、その限りではないらしいのが難点だが。
 骨格も間違いなく男のもの。贅肉は少なく、引き締まった体格。手もやや筋張っている。細身で一見華奢なので、これもフィルター越しでは通用しないようだが。
 服装で差別化を図る手はあるが、ファッションの多様化から、今や誰の目にも明らかな男物というのも少ない。というか、女は男物を着てても違和感は無い。
 柔らかい笑顔など作ったことはない。口元を引き締め、鋭い眼光を射抜くように発しているが、何故か凛々しい表情だと受け取られてしまう。
 要するに、ちょっと弄れば何処に出しても恥ずかしくない美人として仕上がるのだ。
「……ハァ」
 再び溜め息。
 悲しい話だが、様々な条件が運命を受け入れるべきと伝えているようだ。
 溜め息を吐くたびに幸せは逃げるというが、この扱いに慣れるよりはマシだ。
「ねえねえ。いいだろ? 付き合ってよ」
「ダメージが大きくないうちに忠告しとくけど、僕、男だぞ」
「ははは、人が悪いな。キミみたいに綺麗なコが男の子のはず……」
「…………」
「マジで?」
「マジだよ」
「し、失礼しましたー!」
 そそくさと去ってゆく男を、軽く手を振って見送る。
 本日の撃墜数、通算六人。もしこのまま待たされ続け、さらに勝ち星を挙げることになるのかと思うと、正直憂鬱になる。
 さて、そろそろ同じ数字が二つ並ぶ一分を迎えそうだが。
「――って、デジタルでもないってのに」
 何をやっているのやら。
 流され――もとい脅された挙句こんなことになっているが、わざわざ延々と悪ふざけに付き合う必要は無いのだ。
「よし、決めた」
 もう五分したら帰ろう。……後が怖いので、ちゃんと断わり入れて。
 そして話が進むのは、何時もそんな時だ。此方の都合なんて、これっぽっちも考えちゃくれない。
 何時も勇気を持って心を決めた途端のこと。
「遅れてゴメン」
 同じ数字が丁度三つ並んだ頃、待ち人が現れた。
56彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:00:43 ID:9Hm3mu4J

「アストくん、待った?」
 大人しそうな少女は、そう言って僅かに首を傾げる。
 線の細い、薄幸のという形容詞が付きそうな美少女だ。華奢というよりは病弱、お姫様というよりは深窓の令嬢。
 実際はしっかりしたものなのだが、見ているだけで危なっかしく感じ、不安が拭えることはない。
 右目の眼帯が、その印象に拍車をかけている。普段の医療用でないだけ、まだマシかもしれない。
 知り合いであれば、今日の服の下を嫌でも意識するだろう。
 普段のラフな格好では、袖口や何かから、包帯を覗かせているのが常だ。心配しないはずがない。
(そうなんだけど……)
 一応、お洒落という名目なのだろう。やや装飾過剰な服は、いかにも服に着られていると様相を呈している。
 というより、“着せられている”が正しいのだろうが。
 馬子にも衣装。失礼ながら、この見事な不協和音は、褒められない例えが相応しい。
 セミロングの髪をかき上げる彼女の問いに対し、アストは、
「ああ、イフか。そうだね。大体、十分くら――」
「アッくんの馬鹿ー!」
「あじゃぱァー!?」
 物陰より感じていた視線の主に、突如殴られ宙を舞った。
 拳をピンと伸ばし、円と直線で力を伝えきった姿は、彫刻のように決まっている。動きやすいカジュアルな服装を最大限に生かし、思わず溜め息が出るほど芸術的な動きを披露してくれた。
 右目を隠す長い髪が、ふわりと浮き、まるでスローモーションのように見せた。
「何てデリカシーのないコト言うかなァ、この朴念仁は!」
 現れた人物は、泡を吹き大地とオトモダチになった少年を何度も指差す。
「い、イキナリ何するんだよ、リーア!」
「ちょっとお姉ちゃん、いくら何でもやりすぎ」
 ふんっ、と暴君は鼻を鳴らす。
 アストが息を吹き返し抗議するも、ちっとも悪びれていない。
「いいのよ。このくらいのことして解らせないと、何時まで経っても成長しないんだから」
 腕を組んで偉そうに踏ん反り返ると、その見事なボディラインが大きく揺れた。
 イフの姉、リーア。色々と心配で、跡をつけてきたらしい。
 変装のつもりなのだろう。長い髪をアップにして目深に被ったキャップと怪しげなサングラスが、定番すぎてちっとも用を成していない。それどころかサングラスに至っては、そもそも半分隠れている。
 加えて、イフに負けず劣らずの美少女だ。この怪しさ全開のオプションが、図らずもファッションとして成立しているのだから恐れ入る。
 ギャラリーがざわざわ騒ぎ出した。
 それも当然だろう。
 何処か果敢無げなイフ、活発でスタイル抜群のリーア、遠目には貧乳美人のアスト。この三人が、何か良く解らない理由でもめている。
 加えて一人は、空にアーチを描いた。これで目立たないはずが無い。
「さ、やりなおし。模範解答を示しなさい」
「くそ。この乱暴も――」
「あァ!?」
「わ、わかったよ……」
 アストを目で黙らせると、イフも促し、位置についてテイク2スタート。
57彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:01:31 ID:9Hm3mu4J

 少年は唾を飲み下し、お気に召す答えを探る。
 そして、
「遅れてゴメン。待った?」
「いや。今来たところだよ」
「これは我が妹の清らかな魂を傷つけた分だァー!」
「ぎゃびりーん!」
 先程にも増して強烈な一撃が見舞われた。
 グシャァッ、と嫌な音をさせて顔から落ちたが、このノリならば大事には至るまい。ちょっと腫れるだけだろう。
「……ぎ、銀河が……何かの動物も見えた……」
「アンタも遅刻したっていうの? もっと気を利かせなさい!」
「だからお姉ちゃんやりすぎ。悪いのはこっちなんだから」
 悶えるアストを尻目に、冷静に判断する妹さん。それよりもう少し心配して欲しい。
 リーアはイフの言を手で制すると、何事も無かったかのように続ける。
「そこは包容力を以って受け入れるべきところでしょう?」
「以後気をつけます……」
 流石にそろそろ身の危険を感じ、黙って有り難い心得を受け入れることにする。
 それにしても、とアストは頬をさする。
「何でイフのことになると、こう暴力的になるかな……」
「大事な大事な妹だもの」
「仮にも恋人の僕は大事じゃないのか」
「まさか。大事よぉ、唯一無二」
 リーアはニンマリと笑いながら、サングラスを仕舞い込む。
「ま、いいケドね」
 基準が違うのだから、比べようはずもない。
 それは解っているのだが、やはり痛い目は出来るだけ避けたいところだ。
「フフ。安心なさい。傷物になったら、ちゃんと責任持って、お嫁に貰ってあげるから」
「僕は男だっての」
「はいはい。もうちょっと逞しくなってから言ってね」
「ちぇっ」
「でも――」
 ずいっとアストに顔を寄せる。
「勘違いしないでよ。ゴツくなって欲しいってワケじゃないからね」
「勿論、心得ておりますとも」
 屈託の無い笑顔のリーアに、アストは肩をすくめる。
 と、
「二人の世界を作るのはいいけど、今日の主役は?」
 冷静に、取り残されてた一名からのツッコミが入った。
58彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:02:38 ID:9Hm3mu4J

 リーアとイフの姉妹には、そう多くの記憶が無い。
 数年前の事故で重傷を負い、同時に大部分の記憶が欠落した。
 検査によって血縁こそ確認されたが、データの登録は無かったために身元は不明。名前も暫定的に与えられたものだ。
 過去は不明。嘗ての“自分”が今の“自分”であったのかも不明。
 そんな状態だ。お互いがお互いの心の支えとなっていたであろうことは、想像に難くない。
 さらに姉のリーアこそ復調したものの、イフの傷が癒え切りはしなかった。致命的な機能障害があるわけではないが、極端な無理は利かず、不安定さも抱えている。
 一時間の運動を問題なくこなすこともあれば、五分で限界を迎えることもある。
 だからこそ、リーアも少々過保護気味になるのだろう。
 が、今はそんな境遇も関係無く。
「アストくんとデートしたいかも」
 テレビを見てての思い付きが姉の耳に入り、その瞬間にレンタルが決定された。
 単なるデートという行為への憧れ、ないしは好奇心からの発言だろうが、貸し出すほうも貸し出すほうである。


「――で、映画?」
「うん。最初は定番コースからね」
 イフは、評判のいいものを選んだと答える。
「しかし、ラブストーリーかぁ……」
「定番定番」
 気乗りしないアストも、主役を立てるためには、そう強く異議を唱えることは出来なかった。
 列も捌け、チケット売り場に近づいた頃、後ろから肩をポンと叩かれる。
「ま、諦めなさいって」
「今日は、リーアの分は払わないよ」
「いいよー」
 うやむやの内に本日の行動を共にする運びとなったが、リーアも同じウェイトで扱えば、今日本来の意義が薄れる。
 また仮にそうするつもりを見せていたら、おそらくもう一度星になっていた。二度あることは三度ある、というのは避けておきたい。何せ今までが実は仏だった可能性もある。
 そして丁度、三人の番になった。
「お姉さん、大人三人ね」
「はい。本日レディース割引がありますので――」
「三名割引」
 すかさずイフ。頷くリーア。
「ちょっと待った!」
 流石にこれには、異議を申し立てた。
59彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:03:38 ID:9Hm3mu4J

 ………………
 …………
 ……
 約二時間後。映画館を後にする一行の姿があった。
 いくらか正午を廻り、ポカポカと暖かい陽気は気分をほぐしてくれる。
 リーアは太陽へ向かって、気持ち良さそうに大きな伸びをした。
「んー、なかなかだったかな。評判倒れってワケじゃなくて良かったね、イフちゃん。感想はどう?」
 上映中はハンカチを濡らしたリーアも、終わればサッパリしたものだ。
 微動だにせず、ジッと銀幕を眺めていた妹へ話を振る。
「実力派集めただけあって、演技には問題ないと思う。けど、ライバルが完全に当て馬だったり、安易なお涙頂戴とか、物語のための物語なのは減点対象ね」
「おお〜、さっすがイフちゃん。厳しいわ。――――で」
 半眼で後ろを向けば、イフもつられてそちらに顔を向ける。
「何時まで涙ぐんでるのよ?」
「え?」
 気付き、バツが悪そうにアストは涙を拭おうとする。
 落涙こそしていないが、指先を目尻に持って行き、溢れ出しそうなモノを抑える姿は、
「ッ!? …………ヤバいなぁ、コレ」
「うん。これは……ちょっとね」
「いい? 覚えておいて損は無いよ、イフちゃん」
「だね」
「どうしたんだよ、二人して?」
 女の武器の扱いの手本として、姉妹の目に映った。
 そんな二人を、アストは不思議そうに眺めた。


 食事、観光、遊戯、散歩、ショッピング。
 それ以後も定番メニューを消化し、小腹が空いたあたりで日が沈んだ。
 時間もいいので、あまり混まない内にやや早めの夕食と相成った。
 目に付いた店の戸をくぐると、直ぐに奥の席へ通された。幾つか料理を注文し、まず飲み物が出されたところで、アストは率直な疑問をぶつけた。
「ところでさ、イフ。突然デートなんてどうしたのさ」
「気紛れ。経験したことないし、近くに手頃なのアストくんしかいないし」
「手頃だから、ねぇ」
「悪い虫は、寄せないようにしてるからね!」
 偉そうに胸を張るリーア。
 普通、それもどうかと咎めるべきかもしれないが、アストも知る全員共通の知人に、思いっ切り“悪い虫”に該当する人物がいる。
 その辺りを考慮すれば、それも仕方ないのだろうと納得は出来る。
 それよりも、端から“悪い虫”として見做されていないことに、アストは少し気が沈む。
 雑談しているうちに、次々と皿が運ばれてきた。いくらか追加注文し、ついでに安物の酒まで食卓に上る。
 それらを片付けながら、僅かに口の滑りが良くなったイフの答えは続けられる。
「私、基本的に感情が薄いから」
 当然喜怒哀楽は持っているが、揺れ幅が小さい。元々の性分なのか、後天的なものなのかは知らないが、とにかく今の自分はそういう人物だ。
 それ故、彼女にとって物語は最大級の娯楽だ。物事を客観的に、そして冷静に判断するために、かえって没入することが出来る。
 またそれは、自己の内面も例外ではない。“仮面”と“本心”が両立している。自分が二人いるようなものだ。
 そこから、彼女は一つの結論を導き出した。
60彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:04:31 ID:9Hm3mu4J

「感情が薄い分、好きなものへの拘りは強いつもり」
「どういう意味?」
「……気付こうよ、アスト」
 呆れてフォークを動かす手を止めるリーア。
 まだ解っていないアストを余所に、問題発言をした人物へ軽い忠告をしておく。
 妹に甘いリーアにも、譲れないものはある。
「いい? あくまで一時的なレンタルだからね?」
「じゃ、また貸してよ」
「駄ー目。そんなやたらとサービスできません」
「今度はお姉ちゃん抜きで」
「ぐむっ? あたたた……そう来たか――!」
 当初の予定と違ってしまったから、その埋め合わせ。
 そういう理論武装されてしまうとなると、乱入した本人としては少々分が悪い。断固としてストーキングに徹しておくべきだったか。
「何か……不穏な会話が為されてるような」
 アストは微妙な疎外感を覚え、行儀悪く頬杖を付く。
 今日一日を振り返ってみれば、デートとは名ばかりの、姉妹のお出かけがメインになっていた。
 何処か面白くない――というわけでもないが、居心地の悪さは感じる。
 蚊帳の外が気になるということは、
「理解できないから……か?」
 女ってものを。
 一応、今日は自分も主役であったはずだ。しかし、リーアが全て持っていった。心なしか、イフも自分相手より姉相手のほうが楽しそうにも見える。
 輪から外れてちょっとばかり寂しいなどと、ガキじゃあるまいし馬鹿馬鹿しい話だ。
(錯覚だ、錯覚)
 そうに違いない。そう決めた。今決めた。
「なァに難しい顔してんの?」
「これは元も――」
「そういう時は、呑んで誤魔化しちゃおう!」
 曰く“唯一無二の存在”の不機嫌を目敏く察して、リーアがグラスを勧めてくる。
「ね?」
 笑顔に負けて、空のグラスを受け取るには受け取るが、アストは気乗りしない。
 お酒は二十歳になってから、などとお堅いことを言うつもりはない。別に法には触れるわけでもない。
 理由は一つ。苦手だからだ。
「……でも酒って美味しく感じないんだよね」
 体質の問題か、単なる嗜好の問題か、アルコール全般が苦手だ。
 それはリーアも知っているはずだが、ニヤニヤしながらこんなことを言い出した。
「とか何とか言っちゃって。前々から思ってたけど、下戸なのを隠したいだけなんじゃないの?」
「な!? ちょっと。呑む分には全然平気だよ。顔にはすぐ出るけど、それ以上は変わらないんだから」
「ふぅん?」
 ニヤニヤと嫌らしい笑いは途絶えない。
 意外とプライドの高いアストは、その態度にカチンと来る。
「よーし。いいか、見てろよぉ」
 瓶を奪い取ってグラスに並々注ぐと、中身を一気に呷った。空になれば、すぐさま手酌で補給し、瞬く間に半分以上あった残りを全て空けた。
「あ」
「大丈夫、大丈夫。それより、いいもの見られるから」
「そうなの?」
「ん、勿論」
 急性アルコール中毒を心配するイフだが、リーアは動じない。いざ呑むとなれば、この少年がかなりイケるクチだと知っている。
 本人の言うように、真っ先に顔に出るタイプだが、許容量はザルと言っても差し支えない程だ。
 知っていながら、リーアが何故焚きつけたかと言うと……。
「どうだ! ――っ、やっぱ苦手だ」
「うんうん。ゴメンね、疑って。無理させちゃったね」
「……お姉ちゃん……」
 目の前には、頬を朱に染め、苦々しげに眉根を寄せるアスト。
 苦手なものを一気に飲み干してキツかったのだろう。口元が軽く緩み、瞳を潤ませながら上目遣いで睨んでくる。
 性別の垣根を越えて、その色っぽさたるや……。
「グッジョブ」
 最大限の感謝を込めて。
 親指を立てる妹に、同じく姉は親指で応えた。
 女の武器そのニ、取得。
61彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:05:33 ID:9Hm3mu4J

「あははは。ゴメンね、私のせいで予定が狂っちゃって」
 夜の街を三人で帰路についていると、リーアが言った。
 本来の予定では、本人の希望通りの内容で楽しませるつもりだったが、結局自分が楽しんでしまった感がある。
 少しばかりは、罪の意識に囚われていないでもない。
「いや、僕は構わないけど……」
 ちらりと、イフに視線を流す。
「私も。気にしないで。結果的に楽しかったし」
「そう? そう言ってもらえると、私も楽かな」
「でも――」
 さっきの約束。
「次の機会には、また貸してもらうから」
「うー……仕方ないかぁ……」
 困った顔で、リーアは笑う。
「でもまあ、そうだよね。年頃だもん。一番好きなコと、二人でいたいことあるよね」
「え? そんなことないよ」
 何気なく口にした言葉を、イフもまた何気なくそのまま受け取った。
(やれやれ……そういうことか)
 ようやく、アストは納得した。
 落ち着き無く居心地悪く感じたのは、恋人を取られやしないかと心配、嫉妬していたのだ。
 本当に。つくづく思い知った。
 ガキじゃあるまいし、情けない話だ。

「私が一番好きなのは、お姉ちゃんだもの」
62 ◆uW6wAi1FeE :2007/05/05(土) 04:11:07 ID:9Hm3mu4J


以上。
もうちっと怪我について触れてみたかったけど、それは追々。

キャラが育てば、触れながらも物語を転がせるようになるだろう。
作中のキャラに駄目出しされないように頑張ろう。うん。
63名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 04:41:35 ID:79Y2tILP
>62
期待下げ

>>「あじゃぱァー!?」

>>「これは我が妹の清らかな魂を傷つけた分だァー!」
>>「ぎゃびりーん!」

>>「……ぎ、銀河が……何かの動物も見えた……」

聖闘士星矢ネタワラタ
64名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 06:59:31 ID:XxeCXldh
期待。

すこし、誰が言ったセリフか判りづらい部分があるように思う。
読んでる自分がキャラクターに馴染んでくれば解決する問題かも知れないが。

でも、これから話をどう転がすのか、楽しみです。
65とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:53:55 ID:JM9J7mRr
おはようございます。

「とある異国の物語」です。2日目です。
夜中アニソンを色々流してくれるネトラジを聞きながらテンションをあげて何とか仕上げました。

それではどうぞ。
66とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:54:54 ID:JM9J7mRr
2日目

チチと鳴く小鳥の声に目が覚める。前日に見たのは悪い夢だったのだろうかと淡い期待を持っていたが俺のいる場所は変わっていなかった。
起き上がり隣を見ると、もうカーナは起きている。朝が早いんだな、なんて暫くぼんやりとしていたが、やがて起きなくては、と部屋を出た。

昨日は寝室にしていたあの部屋から出なかったので知らなかったが、この家は部屋数も少ない質素な家だと気が付いた。寝室以外に部屋は1つ、あとは台所くらいだ。
あちこちカーナを探し回っても見つからないので外へ出る。ドアを押し開けると、その向こうの光景に圧倒される。
さんさんと降り注ぐ陽光の下、一面に広がった畑の中心で少女が舞っていた。

神に捧げる祈りの舞だろうか、苦しそうな、切なそうな顔をして一心不乱に手足を振り動かしている。
訳の分からない美しさを感じて呆然と見とれていると向こうがこちらに気が付いた。舞を止め、近寄ってくる。
「お早うございます。ご気分はいかがですか?」
「おはよ。まあまあだね。」
違う世界にいきなり飛ばされてそんなに良いわけないだろう、と思ったが口には出さずにおく。
「今踊ってたのはお祈りか?」
「あれは趣味です。」
「へ?趣味?」
「はい。これだけ辺りに人がいないとお祈りの時間以外は基本的に暇なんですよ。身体も少しは動かさないといけませんし。」
周りを見ながら少し遠い目をする。つられて俺も回りを見たが、遠くにぽつんと集落が見えるくらいでこの近辺には草原しかない。
「タクミさまがいらっしゃって、とてもうれしかったです。1人でずっと過ごすのはもう嫌になってきていましたから。」
寂しさを微塵も感じさせないトーンで語る。
「どれくらい巫女の仕事続けてるんだ?」
「3年くらいでしょうか。でも巫女の仕事は『理』の使い様との子をなすまで続きますから、先代様と比べれば私は救われていますよ。」
儚く微笑む。
67とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:55:25 ID:JM9J7mRr
朝食を摂り終え、暇つぶしにお互いの話をしてみようとなった。最初は俺から質問する。
「普段どんなことしてるんだ?」
「昨日も申し上げましたが、普段は巫女の仕事はお祈りです。それ以外の時間は祠に納めてある書物を読んでいますね。」
だから100年以上前の先代の名前を覚えていたのだ、と言う。
「建物の中が好きなんだな。」
典型的な引きこもりのように思えて苦笑する。しかし噛み付かれた。
「そんなことはございません。自分で食べる分の野菜を作る畑の世話もしなければなりませんし、先程の趣味をご覧になっていたでしょう?」
「ああゴメンゴメン、そんなに怒らないでくれよ。」
昨日から個人的な感情を表に出さない娘だと思っていたから、まくし立てる彼女に少し驚いた。
意外な逆襲に面食らっていると、カーナは自分のボルテージが上がっていることに気が付いたのか、少し俯いて謝る。
「すみません。失礼な物言いをしてしまいました。」
「いや、構わないよ。見たところ同い年くらいなんだから敬語も使う必要は無いさ。」
「いえ、『理』の使いの方にそのようなことは出来ません。」
昨日から気になってるんだけど、この娘と俺はお互いへのスタンスが違うようだ。どこがどう違うかは説明できないんだけど。

「さて、そろそろ始めないといけませんね。」
椅子から立ち上がり、棚においてあった大きめの麦藁帽子を手に取る。
「畑仕事?」
「早くしないと暑くなってしまいますから。」
言いながら首肯して帽子を被る。玄関のほうへ出て行くが、後姿が細くて頼りなく見えた。
「手伝うよ、何すりゃいい?」
「タクミさまにそのようなことをしていただくわけにはいきません。」
「でも何もせずに居候してるのも悪いし。」
「結構です。何も悪いところはありませんから休んでいてください。」
それだけ言うと扉を押し開け出ていった。

休んでいろと言われても昨晩は熟睡できたし疲れていない。かと言ってやることも無いので、カーナに一言声を掛けてから少し辺りを歩くことにする。
と、その前に。
「カーナ、俺が着てた服ってどこにしまった?」
「着替えるのですか?」
彼女は腰をかがめてひしゃくで水を撒いていた姿勢のまま振り返る。
「いや、服じゃなくて荷物に用事があるんだ。」
「持ち物でしたら寝室の箪笥に入れておきました。」
「ありがとう。ちょっと散歩に行って来るよ。」
寝室に戻り、タバコの箱と100円ライターを持って散歩に出る。タバコもライターも3日前、下宿先の最寄り駅で飛び込んだコンビニに並んでいたものだ。
屋敷の近所にタバコを売っている店が無いことを思い出しての行動だったが、掃除した側からタバコの灰を落とすわけにもいかなかったので中身はほとんど減っていない。
そんなに頻繁に吸うほうではないが、それでもここ3日間禁煙していたのでいい加減口さびしかった。
68とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:56:26 ID:JM9J7mRr
家から少し離れた草むらで横になり、タバコを取り出す。
こんなところで火事を起こしたら洒落にならないので、少し土を掘り即席の灰皿を作ってから火を付け、肺一杯に煙をまぶしつけるように深く吸い込む。
紫煙をふきあげて自分のこの先を考える。果たして元の世界に戻れるのか、このままカーナと結ばれていいものか。
だが幾ら考えても答えなど出るはずも無く、気が付くと3本も吸いきっていた。次を取り出しかけて止める。いつまでこの世界にいるのか分からないのに無駄には吸えない。
グジュグジュ土にこすり付けて完全に消火したのを確認。そろそろ行くかと立ち上がった瞬間、水が降ってきた。
「誰だよ、こんなところで焚き火してたのは。」
草むらを掻き分け、小学校を出たくらいの少年が顔を出した。手に桶を持って、息を弾ませている。
「ん?アンタ何してるんだ?」
「見て分からないか?水をかぶってずぶ濡れになってるんだ。」
先程の発言からこの少年がやったに違いない。ずいぶんと元気の良さそうな子だが、他人に水を引っ掛けておいて謝る様子が無い。
一服やって落ち着いた気分をぶち壊されて頭にきていた。アイアンクローをかけながら笑顔でにじり寄る。
「何か言うことは無いか?」
「あででででで!ごめんなさいごめんなさい!この手離して!」
一応謝ったので放してやる。

びしょ濡れになった服を脱ぎ、上半身を露にすると風が肌を撫でていく。快い風だ。
先程の少年と草むらに並んで腰掛ける。
「兄ちゃんどこの人?ここらじゃ知らない人、あんまり見かけないからさあ。」
「どこって……」
なんて言えばいいんだろうか。答えに困ってとりあえず、遠いところだよ、と答える。
「また抽象的だなあ。」
「ゴメンな抽象的で。でもそうとしか言えなくてこっちも困ってるんだよ。」
「何言ってるかよく分からないよ、兄ちゃん。」
「俺もよく分からないな。」
もう笑うしかなくて乾いた笑いをあげる。

そのままお喋りして、日が高く昇り、腹も空いてくるという時間になった。
日に翳していた上着はもう乾いている。上着を身に付け背を向け手を振り、小屋に戻ろうというときに怒られた。
「ダメだよ兄ちゃん。これ以上そっちに行っちゃダメなんだ。」
「って言われても、俺こっちのほうにある家でお世話になってるんだけど。カーナって娘の。」
「え!?」
途端に少年の目が険しくなった。ねめつけるように上から下まで見てくる。
「じゃあ、俺、帰るから。」
声のトーンを落とし、急に踵を返して駆けていく。その先にはカーナの小屋から見えた小さな集落があった。
「ああ、気をつけて帰れよ!」
少年は手を振り返すこともせず一心不乱に駆けていく。何か怒らせてしまったようだが、理由が分からないので謝りようが無い。
69とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:57:04 ID:JM9J7mRr
「どちらへ行ってらしたんですか?」
カーナが俺の姿を見つけて走ってくる。畝のしっかり作られた畑で走ると……あ、やっぱりこけた。俺は柔らかく耕された土に足を踏み入れ、彼女を引っ張り起こす。
「おいおい大丈夫か?」
「はい。……ずいぶん長い散歩でしたね。私、とても心配しておりました。」
「ただの散歩じゃないか。」
すると彼女は顎を引いて少し睨んでくる。俺はまた何か怒らせることをしたらしい。
「この辺りには蛇が出ます。噛まれると全身痺れてしまって、動けなくなる毒を持っているものもいるのですよ。」
麻痺した身体を食いちぎるなんて蛇がいるのだから生きた心地がしなかっただろう。ぞっとしない話を聞かされて、知らなかったとはいえ素直に頭を下げる。
「止めてください、頭を下げないでください。きちんとお教えしなかった私が悪いのです。」
つられたように彼女も頭を下げる。かなり恐縮しているが、彼女が全面的に悪いというわけではない。
「異世界に来て無警戒に歩き回るほうが馬鹿なんだから気にするなよ。……そういえば祠があるんだよな。中、見てもいいか?」
頭をぽんぽんとやって話題を変える。まだ頭を下げている彼女を見ると話題転換は上手く行かなかった気がするが気にしない。

軋んだ音を立て重そうな木の扉が開くと、埃やかびの臭いで充満した部屋が姿を見せた。明り取りの窓も無く、湿り気を帯びた空気が漂ってくる。
大きな岩を何分割かにして天井を支えているらしく、壁も床も天井も全て同じ質感の岩で出来ていた。
部屋の真ん中には本棚が居座っており、本がぎっしり詰まっている。適当に1冊引き抜き埃を払い、パラパラとめくる。
「どうですか?」
カーナが後ろに立って肩越しに手元を覗き込む。
「どうですかって……」
読めない。象形文字とも呼べないミミズの行進が並んでいる。考えてみれば当然だ。
カーナが空気を読んだのか俺の手にした本を奪って音読してくれる。何かの詩集だったようで、韻を踏んだ言葉が心地よい。
「他には、どの本を読みましょうか。」
「ありがとう。でも、本を読んでくれるより俺でも内容が分かりそうな奴、紹介してくれないか?挿絵が多い奴とか。」
「それなら……これは挿絵が多かったはずです。」
蔵書の並びを全て暗記しているのか、全く無造作に1冊取り出すと渡してくれた。
「私ども巫女の教科書……といえばいいでしょうか。随分昔に読んだのでかなり忘れてしまった部分もありますが。」
開いたページにはお祈りの手順らしきものが図解付きで書かれている。なかなか興味深い本だ。次のページを開くと、また違った項目が描かれていた。
「実行いたしましょうか?」
「……いや、遠慮しておく。」
そのページは房中術についての項目だった。エロ本と言っても通じるくらい細かく描き込まれている。
いや、お役目考えればこういう項目あるのも納得できるんだが、年端もいかぬ少女に読ませるのはどうなんだろうか。

部屋の一角にうず高く積まれた本の山があった。きれいに整理されている部屋なのにそれらだけは棚にも収まっていない。
そこを指差し、あれは?と質問する。
「あれはこの国の言葉では無いもので、私には読めなかったものです。貴重な書物ですので破棄せずに管理はしていますが、本棚に入れる場所がもう無くて。」
だから部屋の隅に積まれているのか。なんとなく一番上にある本を手に取り、ざっと中身を流し読もうと開くと、見慣れた字体が目に飛び込んできた。
「日本語だ……」
この筆跡にも見覚えがある。角ばっていて少し斜めになったくせ字は爺さんのものだ。少し言い回しが古臭いが読めないほどじゃない。最初から読み始める。
押し黙ってしまった俺に、読めるんですか、とカーナが聞くが俺はそれを無視した。元の世界に戻るヒントがあるかもしれないのに相手をしている暇は無い。
70とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:58:06 ID:JM9J7mRr
内容は爺さんの日記だった。こっちの世界に飛ばされてから毎日つけていたらしく、ページの頭に○日目の表記があり、自分の45の誕生日を祝っている箇所もある。
たしか爺さんの享年が67だったから、俺の生まれる前年くらいにこちらに飛ばされた計算になる。
他には毎日の生活や当時の巫女のについてが細かく書かれており、その点では非常に興味深かったが何か参考になりそうなところは無かった。がっくりとして肩を落とす。
「あの……」
彼女には状況が理解できていないのは当然だろう。いきなり落ち込んだ俺を見て、瞳にはてなマークを浮かべている。
「いや、何かいい事書いてあるのかと思ったら期待外れだっただけ。」
「そう……なのですか。安心しました。」
お互いに落胆と安堵でほぅっと息を吐く。
本当にどうやったら戻れるんだろうか。そう言えば戻る方法について爺さんが言っていた気もするけど、詳しくは覚えていない。
難しい顔をしていた俺を元気づけようとしてなのか、カーナが話題を変えた。
「中はどんなこと書いてあるんですか?出来れば読んでいただけますか?」

涼やかな風に当たりながら、俺は日記を朗読していた。ところどころどもりながらだったが、カーナは静かに俺の声に耳を傾けている。
俺もじっくり読んだわけではないので新鮮な気分だったし、当時の巫女の名前(ユウと言うらしい)など分からない単語もあったが、そこはカーナが教えてくれた。
読み進めていくと、段々気持ちが悪くなってきた。何か誤解しているような、ボタンを掛け違えているような気分の悪さだ。
その違和感は35日目の表記で決定的になる。
71とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 08:59:56 ID:JM9J7mRr
35日目

こちらの生活にももう完全に慣れた。ユウもよくやってくれている。

…………(中略)…………

昨日は三交。お互い飽きるということを知らない。ユウは仕事だからと頬を染めて言うが自分としてはそんなつもりは無い。
こちらの世界に骨を埋めても構わないと思っている。

愕然として読めなくなる。あの家族に優しかった爺さんが、婆さんや子供がいるにもかかわらず浮気をするなんて。ていうか三交って元気すぎるだろ……
色々な考えが頭の中をぐるぐる回って偏頭痛がしてきた。日記を取り落とす。
「どうかされましたか!?」
すぐにカーナが寄ってきて手をとる。
「何でも……っ」
泣いているわけではないが声が出ない。呆然とするという表現ではとても追いつかないほど心が空っぽになっている。
太陽に照らされた緑が急に眩しく感じて目を閉じる。歯を食いしばり浅くなった呼吸を落ち着けようとするがなかなか上手くいかない。
そのとき、ふわりと彼女が薫った。胸の中に顔を埋められた。
「私も巫女に任命されたときに不安で仕方の無いときがございました。でも、母に抱きしめられて私は決心することが出来ました。」
慰めてくれているらしいが、気の利いた言葉を返せない。
「ですから、タクミさまも辛かったら仰って下さい。泣いてください。頼ってください。私が側におります。1人で悩むのは……本当に辛いことですから。」
「……大丈夫だ。ありがとう。」
やっと声を出し、抱きしめ返す。そのまま暫く胸を借り続けることにした。

本を読んでいた時間が長かったので少し早めの夕食にして食卓を囲んだ後、寝室へ入る。寝室でもお互いの身の上話をしていた。
話し疲れてもう眠くなってきた頃、どきりとする発言をしてきた。
「タクミさまには元の国に、愛していらっしゃった女性はおられましたか?」
昼間に日記の内容のことは打ち明けていた。だから聞いてきたのだろう。いたよ、と答える。
「どのような方ですか?」
「気が強くって最近は喧嘩ばっかりしてた。……でもいい奴だよ。何人かの女の子と付き合ったことがあるけど、その中でも最高に相性の奴だ。」
「愛してらっしゃいますか?」
少し気恥ずかしいが正直に首を縦に振る。
「それにあいつのことすげえ尊敬してる。俺と違って真面目だし、人望もある。」
彼女が眩しすぎて訳も無く当たったこともある。めちゃくちゃ悪いと思っているけど、まだ謝っていない。
「本当に好きなんですね。」
「うん。でも迷惑かけてばっかりだし、言わなきゃいけないことも言えてない。」
「それなら素直になればいいんですよ。言わなければならないと分かっていらっしゃるんでしたら、ほんの少し素直になれば十分です。」
「……そうだな。いくら相手のことを想ってても言葉にしないと、行動に移さないと通じないもんな。」
もし無事に戻れたら、ちゃんと想いを伝えないといけないな、と考えた。
カーナが何か言いかけ口を噤んでしまう。それに俺は気が付かなかった。

明かりを消し、布団に潜り込むと眠気はすぐにやって来た。
しかし闇を踏み潰すような足音が響いてきて、俺は文字通り叩き起こされた。
72とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/05(土) 09:00:44 ID:JM9J7mRr
と以上です。

2日で1日分進められると思ってたんですが、うまく行かない可能性が出てきました……
しかも次回は濡れ場入れる予定だから長くなるというのに。
連休中に出来ない場合は投稿時期が著しく伸びますのでご容赦ください。

あと、もし敬語の使い方がおかしい部分があったら指摘してください。
眠くてミスをしている場合は自分の中で笑って済ませられますが、ガチで間違ってる場合すごく恥ずかしいので。

>>62
GJ。
設定とか背景とか色々知りたいけど、また次の機会を楽しみにしてます。
あとお姉さんはギャラクティカファントムの使い手ですか?


それではおやすみなさい。
73名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 19:59:23 ID:qLUDLtqd
>>71
GJ!!この先が気になりますわ〜
まさか村人に魔女が(ry
因みに彼女はツンデレですか?w
74名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 00:24:33 ID:RyU9T8UP
前スレが容量オーバーで落ちてるのに今気が付いたorz

にしても相変わらずレベルが高いぜ
7575:2007/05/07(月) 00:53:21 ID:IMy/W8aL
>>74のIDがupを望んでるので投稿します
4レス消費の書き殴り作品です
76ある日の情景〜「神崎七夜の場合」〜1/4:2007/05/07(月) 00:55:13 ID:IMy/W8aL

「お〜い!!七夜ぁ〜何か客が呼んでるぞ〜」
「………」
バシンッ!!頭を叩いたが反応がない只の屍の様だ
ゴスッ!!教科書の角で殴った悶絶している様だ
「ィッてぇなぁ!!誰だこんな非道な仕打ちをする馬鹿男は!!」

余りの痛さに少し涙目になりつつ殴ったと思われる馬鹿を睨む因みにこの似非優男風味な奴は友人の吉岡だ
「似非とか風味とか言うな!!」
あれ?声に出てたらしい…

「お前目は口ほどに物を言うって言葉しらんのか?」
それにしちゃ解りすぎだろ…
「それは愛だっちゃ」

「まぁいいや…ようやく起きやがったか七夜」
両手をアメリカ人みたいにしながら溜め息をついてやがる!!
俺はお返しに下敷き(プラスチック製)で縦の部分で殴ろうと手を伸ばした……

「お仕置きは後にしてくださいご主人様ぁ〜、それよりお客様ですょぉ〜。」
本気で気持ち悪い…あ、鳥肌起ってきた帰ろうか……ん?
「客?」
目の前の馬鹿はまだメイド気分なのか「あちらですぅ〜」とか言っている
その手が指す方に目線を合わせると……
772/4:2007/05/07(月) 00:57:40 ID:IMy/W8aL

「七夜君ちょっと話があるんだが良いかな?」
と言いながらも人の返事も聞かずに教室に入って来る我が部のクールクィーン
の皆広沙織が目の前に凛とした表情をしながら立つ
(因みに部活は弓道部で彼女は部内
No.1である、俺の事はほっといてくれ)

「ん〜?どうしたんだ皆広さん?部活でも中止になった?」
「いや、そうじゃない。」
相変わらずの簡潔な喋り方だなぁ〜とか思ってると
「好きだ、いや!!愛してさえいる!!結婚してくれ!!」

時が止まった…この人実はスタ○ド使いですか?
辺りの様子を見ていると…あ〜あ駄目だみんな止められてるよ
とかどうでも良い感想を思いつつ目の前のスタンド○(やべぇ隠れてねぇ)
使いを見据えて出来る限りに脳をフル回転させる
結果は3対0で(脳内では○ヴァンゲリオンのマギみたいなビジョン)
でプロポーズをされたと出ている
783/4:2007/05/07(月) 00:58:51 ID:IMy/W8aL

「無論断るっ!!」
「ふむ、なら断る理由を単純明解に教えて貰えると嬉しいのだが…」
「付き合う理由が無いからかな」
「そうか理由はそれだけか?例えば私の容姿が気にくわないとか…」

少し表情を曇らせながら見つめてくる彼女
「いやいや!!皆広さんは綺麗だよ!!」
「なんて嬉しい事を言ってくれるんだ七夜!!」
ふにょ…俺は椅子に座ったままだったので頭を抱き締められ
頭が丁度…む…胸に、しかも

「ふぁっ…これは、性的に気持ちいいな、癖になりそうだ」
とか何とか言ってるし、流石に息が出来なくて辛いので
身を捩って鼻だけでも脱出させ久々のシャバの空気を肺一杯に吸う
794/4:2007/05/07(月) 01:00:09 ID:IMy/W8aL

「さて七夜…君は私を性的快感に目覚めさせた
この責任は取ってもらおう」
そんな無茶苦茶な!!異議あり!!と叫ぼうとすると

「さて……そこの君」
まだ呆けてやがるこの馬鹿……まぁそんな俺もいっぱいいっぱいだが…

「先生に神崎は早退したと伝えておいてくれないか?」
「解りましたおぜうさま」
まだ続いてたのかメイド…って俺は了承した覚えはねぇ!!

しかし答えを聞くと同時に俺をずるずると引っ張って行く
「ちょっと…皆広さん……」
「ん?なんだね七夜?」
うわ〜凄く上機嫌な声だ、だが行き先を聞かなければと思い
「早退するのはいいけど…いや、良くないけど何処に行くの?」
「私の家だが?」

それが何か?と言わんばかりである…
「何故に?」
恐る恐る聞いてみる
「責任とってもらうだけだよ七夜、私を性欲の虜にした責任」
どうする俺!!ライフカ○ドのCMみたく選択肢を選ぶ事はないのか!?
選択肢は無い代わりに明日はアンパンが山積みにある事を予想しつつ
今までの日常が幕を閉じ新しい日常が開演される

つづく?
8075:2007/05/07(月) 01:02:06 ID:IMy/W8aL
最後ageちまいましたすまんorz
苦情は一切受け付けませんではでは〜。
81名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 02:24:46 ID:lF3I3S0W
おぉ〜GJ!!
随分強引な先輩に萌え
82名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 02:35:02 ID:quoSwVYC
正直にいうと


よみにくかった
83名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 02:49:41 ID:+pVO46o1
あげ
8475:2007/05/07(月) 05:36:00 ID:IMy/W8aL
>>81
言われて初めて分かるGJの嬉しさです
読んで頂けて嬉しいです

>>82
ご指摘ありがとうございます
どの様に読みにくかったか言って頂けると次からは
その部分を改善して行けるので教えて頂けますか?
85名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 06:23:07 ID:+Flx02Vk
俺は82じゃないけど、読みにくかったのは同意。
理由を考えてみると、たぶんこんな感じかなと思う。

・地の文(主人公のモノローグ)に句読点が少なく、感嘆符の後の空白もない。

・改行が不規則。

改行とか句読点とかは文章のリズムに影響するので、
それが読む人に合わないと、「読みにくい」と思われてしまうのかも。
86名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 09:20:48 ID:scgbwL5p
ふむ、だが話的にはとてもいい。期待しよう
87名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 15:26:08 ID:fU1/iW/w
>>85
>・地の文(主人公のモノローグ)に句読点が少なく、感嘆符の後の空白もない。
が大きいな

でも内容的にかなりくるものがあるので激しく期待
88名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 20:01:37 ID:RyU9T8UP
つづけ!
89名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 01:14:16 ID:CDsgb6jz
最近これから氏来ないな。続きが気になるから来て欲しい
90名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 15:28:09 ID:5WVA0zwT
最近て、土曜日に来たばっかりじゃないか。
91名無しさん@ピンキー:2007/05/09(水) 00:28:46 ID:UY+3epjr
>>84
個人的には先が読みたい。
ただ、流石にアンパンネタはどうかとw

まぁ頑張って下せーな。
92名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 23:43:51 ID:U2ufqVLL
星湯
93名無しさん@ピンキー:2007/05/12(土) 06:15:59 ID:E1nOkPxj
熱下がったけどage
94名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 08:46:25 ID:OMXtdSDL
>>84
続きマダー
95-宅配型押し掛け系素直クール-:2007/05/14(月) 01:22:47 ID:Te2nESdS
ピンポーン。
「はーい」
ガチャ。
「待たせたな。宅配ピザだ」
「あ、はい。(なんだこの女の人。すごい綺麗だけど、すごい偉そうだ…)」
「マルゲリータのMサイズが1つ、アイスティーが1つ、炭火焼きチキンが4ピース、そしてこの私。
 以上で間違い無いな?」
「いえ、最後のが良く分かりませんが…。それ以外はその通りです」
「ふむ、代金は0円だ」
「(突っ込みは無視かよ!)って、えええ! 0円!?」
「そうだ。宅配ピザ“私セット”は0円となっている」
「なにそのセット! そんなセット頼んで無いよ!」
「きみ限定の特別セットだ。きみからの注文は全て、この私がプラスされ、“私セット”となる」
「なにそれ!? 勝手にヘンなの付けないでっ!」
「ヘンなのとは心外だな。私は見ての通りピチピチの娘さんだぞ? 歳は19歳。大変に食べごろだ。
 若干、背は低めだがスタイルはそれなりに良いと自負している。上から80、52、84だ。初物だぞ?」
「そんなの聞いてないよッ! 何で女の人が勝手にセットに付いてくるの!?」
「さっきも言ったろう。きみ限定の特別セットだと。それに今考えたセットだからな」
「思い付きかよ!?」
「つまりだな、私は今、きみに一目惚れをしてしまったわけだ。そこで合理的にピザと一緒に私も食
 べてもらうことを考え、私セットというアイデアを思い付いたわけだ」
「合理的かもしれないけど、その代わり常識に欠けてるよ!」
「そんな常識なんぞで私の愛は止められない。では、お邪魔するぞ」
「ちょ、なに勝手に上がってるの!?」
「落ち着きたまえ、きみの家だろう。時にグラスはどこかね? 私がアイスティーを入れよう」
「そんな事しなくていいからッ!」
「なに? ではピザの前に早速、私を食べると言うのかね?」
「違うよ!」
「うちのピザはなかなか旨いぞ? 出来たての熱いうちに食べてもらいたい所だが、きみからの誘い
 をむげに断ることは出来んな」
「ちょっ、話聞いてっ!」
「おお、まるで私が来るのを待っていたかのようにベッドが設置されているではないか」
「変なこじつけしないでっ! 別に待って無いからっ! 部屋なんだからベッドぐらいあるよ!」
「照れるな照れるな。私は初めてだから上手く出来ないかもしれないが、よろしく頼むぞ」
「脱がないでっ! ちょ、なんで僕も脱がすのやめてやめt…アッー!」

保守代わりに書きなぐった。今は反省していない。
96名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 01:32:55 ID:ZbFZaBDm
>>95
反省するな。
続きを書け。
97名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 02:11:07 ID:eJ4RXe/L
>>95の娘さんを俺の嫁にしたいんですが、構いませんねッッ!?
98名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 02:29:46 ID:760VHSHH
>>97その人クーデレじゃなくてヤンデレだぞ。全くバカだなぁ。
>>95細かく名前とか設定決めて、改めて書いてくれると最高に嬉しい。
文も読みやすいしもし良ければ皆の願望を叶えてくれ。
99-宅配型押し掛け系素直クール-:2007/05/14(月) 03:24:19 ID:Te2nESdS
>>95

 * * * * *

「…な、なんかすごい内容のドラマだね……」
 宅配しにきた女の人が、そのまま男と関係を結ぶという無茶苦茶な、というか、それなんてエロビデオ?
というようなドラマの内容に、明俊が呆然と感想を述べる。
「そうですね。でも…」
 明俊に寄り掛かるようにドラマを観賞している瑞希が、うっとりとした口調で続ける。
「大感動です。素晴らしいドラマですね」
「えぇぇ!?」
 どこが!? と明俊は思わず大声を上げてしまう。
「分かりませんか? 一目惚れをした女性が男性に思いの丈をぶつけ、そして結ばれるのですから。とても
 素敵な内容です」
「そ、そぉかな…?」
 そこだけ見ると確かに良く聞こえるが…。明俊は納得行かない顔で傍らの瑞希に視線を移す。
「そうですよ。それに、このドラマの女性は何故か他人のような気がしません」
 確かにドラマの女性は瑞希と似てるかもしれない。強引な所とか無茶苦茶な所とか。そんな事を考えている
明俊に、瑞希はいたずらっぽい微笑を向ける。
「今、失礼なこと考えてますね?」
「え!? そんなこと考えて無いよ!」
 慌てて否定する明俊に、瑞希は身体をすり寄せるようにして問いつめる。
「嘘です。男の人を押し倒したり、自分から服を脱いだりする所がエロくて瑞希にそっくりだな。とか思って
 ますよね?」
「そんなこと思って無いからっ!」
「じゃあ、どんなことを考えていたんですか? あ・な・た」
「う、いや、その」
 明俊は言葉に詰まりながら、非常に嫌な予感を感じる。妻のこういったプレッシャーには昔から弱い。
 すり寄られ、ほとんど組み敷かれているような状態の明俊に、瑞希が囁く。
「そういえば、私だけじゃ無く、ドラマに出てきた男の人もあなたにそっくりですね」
「そ、そうかな? そんなことは無いと思うんだけれど…」
 瑞希の瞳が情欲に濡れている。明俊はその瞳から逃れられず、乾いたような声しか出せない。
「そっくりですよ? ほら、こんな所が…」
「んぅっ!」
 瑞希が唇を押し付ける。二人の体勢はほとんどソファに横になった状態になっている。高校の時から全然身
体が成長していない瑞希が、その小さい身体を明俊に預け、唇を貪る。
「ちゅ、はぁ、んぅ…」
「んん! ぷぁっ! ちょ、瑞希、待って! 亜美(あみ)が起きちゃうから!」
 一人娘は現在、ベビーベッドですやすやと愛らしく眠っている。
「大丈夫ですよ。それよりも、そろそろ二人目の俊希(としき)君を作りませんか?」
 学生の頃からすでに決めていた子供の名前を言いつつ、瑞希が迫る。
「いや、あのね? ここソファだし、あのね?」
「では、ベッドで、ですね。今日はゴム要りませんからね? 久しぶりに注いで下さい」
 そう言いながらも、すでにこの場でする気満々の瑞希は、嬉しそうに微笑みながらパジャマを脱ぎ始めた。

おわり
100-宅配型押し掛け系素直クール-:2007/05/14(月) 03:30:26 ID:Te2nESdS
保守だけのつもりだったけど、即興で続きを書いてみました。
てか続きじゃ無いね。ごめんなさい。

>>6を書いた人間なんだけど、この週末あたりにアップする予定で
続き書いたり新作書いたりしたんだけど、まとまらなくて、>>95
手が動くままに書いてみました。
何も考えずに書いたんだけど、>>95の続きというか書き直しもちょっと考えてみます。

このスレは良い内容のSSを書いてる人が多いから、非常に勉強になります。

ではお邪魔しました。
101-宅配型押し掛け系素直クール-:2007/05/14(月) 03:31:45 ID:Te2nESdS
肝心なこと言い忘れた…。
読んでくれた方、ありがとうございました。
102名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 06:44:25 ID:1P4+iP0t
>>101
蝶GJ!!
まさかあの夫婦が出るとは思わなかったぜ!!
103名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 17:49:13 ID:mx/U/wAX
GJ&wktk
104名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 18:12:24 ID:DxBEN/zs
素直クールというより一歩間違うとヤンデレな気ガス
105名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 21:13:30 ID:upbj3BAe
素直クールも色々だし
106名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 22:30:15 ID:U1rXN02l
素直クールの定義って難しいよね。
厳密にすれば

「名利君。私は君のことが好きだ、つきあって欲しい」
昼休み、友人と食事をしていた僕の前にやってきた浮生さんは
まるで天気の話をするかのごとく、さらりとそう言った。
各々弁当を食べながら騒いでいたはずのクラスの皆の視線を感じる。
「……え?」
永平学園一の才媛である浮生さんのいきなりの告白に
僕はそう言い返すのがやっとだった。
「突然で驚かしてしまってすまないと思う。
しかし私の君への気持ちを抑えることがもうできないのだ」
「現に今君と話しているときでさえ、……いや、君と会話をしているからこそ、
私の体は熱く火照り、君のち(ピー)をザ(ピー)を欲して、私のま(ピー)は
ま(ピー)汁で潤いはじめている状態なのだ」
「もし君が私の申し出を受けてくれるというならすぐにでも保健室に行……」
顔色一つ変えず、衆人監視のなかで放送禁止用語を連発しながら
僕とのsex計画を体位からピストン数に至るまで赤裸々に、
でも淡々と語っている浮生さんを見ながら、
僕は未だに事態を飲み込めずにいた。

みたいなステレオタイプなものしか認められないことになって
マンネリは逃れられないし、かといって自由に書いちゃうと
素直でクールなはずなのに素直クールではない感じになるし。
107名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 23:05:35 ID:TWwcBMKV
俺はそういうタイプにはいい加減飽きてる方だがなぁ
何か別のがあるなら、見てみたいと思うけど
108名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 23:23:57 ID:w9jKvlGW
どこからどこまでが素直クールなのか、ってところから定義が曖昧だからな。
「素直クール」な属性が他より強く出てくるのは最低条件としても、
他の属性も混ざった――ツンデレは定義上混ざるのはほぼありえないだろうが――キャラに関してはどうなるのか。

高純度な素直クールだけ認める、ってのはどう考えてもどん詰まりに陥るし、
かといって、どこまで他の属性が混ざることが許されるのかの明白な基準化は無理。

俺としては、まだまだ素直クールは模索の段階だと思う。
「このSSは素直クールスレが相応しい」と判断した作者の良識を信頼してもいいんじゃないか。
109名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 01:22:57 ID:QpzfxcPg
素直クール自体が自然発生ではなくてツンデレの逆という定義のみで
生み出された不自然な存在だからしょうがないのかもしれない。
110名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 07:48:41 ID:fhnxXp8M
>>100
GJ!!!!
瑞希の高校時代の続きがよみたいっす
書いてくれるのをwktkしてます
111名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 17:56:54 ID:tcjJcgWO
ツンデレも結構曖昧だしな、マスコミの情報操作で型にはまった見方してるの多いが

クーデレとツンデレは反対だけど「クールなツンデレ」とかあるし
112名無しさん@ピンキー:2007/05/15(火) 23:44:09 ID:ubG8TvMo
素直無関心 とか言うテスト
113名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 00:41:48 ID:CUSAQNfv
「おはよう、伸也(しんや)、今日も会えて嬉しい、幸せだ、私は」

おはよう、かがみ。あいかわらずだな、おめーは。

「いや、今日の私はひと味違うぞ」

どこがどーちがうんだ。まいにちまいにち、むひょうじょーなかおして、はずかしげもなくひねりもないセリフばっかでよー。

「君の好みを考慮して、『ツンデレ』というヤツになるべく努力するぞ」

つんでれ、って、おめーからはいちばんえんどおそうなキャラだな。
ま、たしかにおれは、どちらかというとつんでれのほうがこのみだ。とにかくがんばってみな。

「ふ、ふん、・・・・・・誰が君に為になんて、がんばってやるものか」

おおっ、たしかに、なんかいつもとちがうな。よし、もっとがんばってみろ。

「でも、君がどうしても、っていうなら、・・・・・・がんばってツンデレになってやらんでも、・・・無いぞ・・・」

やりゃーできるじゃねーか、なんかツンデレっぽくなってきたぞ!

「!! げふっ!!」

ぎゃっ!! どうした、きゅうに、ちをはいて!! もしかして、びょうきなのか!?

「・・・・・・だめだ・・・やはり、私にはムリだ・・・」

は?

「私が、君を愛していることを隠さなければならないなんて、出来ない・・・」

おまえなー。それじゃ、いつもとかわらんじゃねーか。

「『別に、君のことなんか、好きじゃないんだからな』とか、そんな心にもないことを言おうとしたら、吐血してしまった・・・」

うーん、やはりおまえに、つんでれはムリだったか。
じゃあこんどは、やんでれってのでも、ためしてみれ。

「『ヤンデレ』か、わかった、今度研究して、試してみるとしよう」


オチはありません。


114名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 00:44:43 ID:CUSAQNfv
素直クールの星の下に、もうちょっとかかります。
忘れないでいてくれたら嬉しい。
115名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 02:23:21 ID:rx4sIUJ8
忘れるもんかあんな名作を!
小ネタGJ!ものすごい日常的な感じで親しめた。

ところでver.ヤンデレもありますか?
116名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 19:03:50 ID:gmN6/vr7
           _   _   _   _
       +   +   | |   | | | |   | |  +
               | | Π| | | | Π| |     +
     / ̄ ̄ ̄ ̄/三三三三// ̄ ̄ ̄ ̄l ̄ ̄ ̄ ̄l +
   / ̄ ̄ ̄ ̄ /三三三三// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄i、 ̄ ̄ ̄ i、
  / ̄ ̄ ̄ ̄ _/三三三三// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄', ̄ ̄ ̄ ̄l
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/三三三三// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄',三二二ニl   +
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/三三三三// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

           古代都市ワクテカ (B.C.8000年頃)
117名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:22:58 ID:O2vDEUsQ
「薫風清々しい朝、いかがお過ごしか? おはよう、伸也、会えて嬉しい、幸せだ、私は」

おはよー、かがみ。ったく、あいかわらずだな、おめーは。

「いや、毎日季語を変えた風情ある挨拶を心がけているぞ?」

あたまにくっつけただけじゃねーか。それよりもおまえ、やんでれのけんはどーなった。

「うむ。あれから少し調べてみたのだが、これならば何とかなりそうだ」

ほう、そうなのか?

「ツンデレと違って、その行動理念には納得がいった」

そりゃけっこう。

「あまり他人に迷惑をかけるのは気にくわないのだが、君のためならがんばれる気がする」

おれにめいわくをかけないのなら、なにをやってもゆるす。

「まず、これを見てくれ」

ん? なんだ、このしょるいのたば。・・・・・・これ、くらすのれんちゅうのじゅうしょとか、ぱーそなるでーたじゃんか。
しかも、おんなだけだ。

「そうだ。君の近くにいる女の子全員を排除する準備を開始した」

・・・やめとけ。くらすからおんなのこがきえたら、おれがかなしむ。

「君の側にいる年頃の女の子は、皆君を私から奪おうともくろむ泥棒猫なのだ。しかたあるまい」

そんなことをしたら、おまえだってKさつにつかまるぞ。

「大丈夫だ、そんなへまはしない。証拠一つ残さないように、完璧な仕事をしてみせるさ」

いや、ぜったいつかまるね。

「君にそこまで心配されるのは大変幸せなことだが、杞憂だぞ。それとも、何か理由があるのか?」

なぜならおれがつうほうするからだ。

「むぅ、意地悪だな、君は」

まぁ、おまえにやんでれはむりだな、はーどるがたかすぎたらしい。

「そうか、君が言うのだったら仕方がないか。ヤンデレは諦めるとしよう」

そうだ。そーしろ。それがいい。
とりあえずこの、おまえがあつめたおんなのこのひみつでーたは、おれがあずかっておく。
いろいろとつかいみちがあるからな。

「・・・・・・・・・・・・・・・今、一瞬だが、真のヤンデレに目覚めかかったよ、私は」



落ちない。
118とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:00:56 ID:Rr56yFss
>>117
クラスの女の子逃げてえぇぇぇぇ!

さて。
おはようございますこんにちはこんばんは。とある異国の物語の中の人でございます。
とりあえず完結編です。

それではどうぞ。
119とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:01:58 ID:Rr56yFss
3日目

太陽が真上を通過するころ、寝不足でくらくらする頭に酒が入る。
「ささ、グイっとどうぞ!」
空になった杯にすぐにどぶろくが注がれる。飲まないと周りの目が怖いからキュッと飲み干す。
酒の度数も低く小さな杯ではあるが、それでも朝からぶっ続けだ。酩酊なんて状態は既に通り過ぎている。
どうしてこうなったのか。限界を迎え、倒れる寸前に走馬灯のように思い出していく。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

真っ暗な室内、胸に鈍痛を覚えて飛び起きた。素早く辺りを見回すと星明りに照らされて数人の人影が見える。
俺を囲んでいる人影は全員男らしく、手には物騒な獲物を持って俺に突きつけていた。
「起きろ!」
俺を中心とした輪から離れ後ろに立った男が低く引き絞った声で命令する。どうやら彼がリーダーらしい。
寝ぼけて状況がつかめない振りをしてカーナの安否を気遣うが、彼女のいるはずの場所には男達が立っている。
男達の足元は陰になっていて彼女がいるかどうかは見えないが、この状況で寝ているわけがない。連れ去られたと考えるのが自然か。
両手を挙げて降参のポーズをとり立ち上がると俺を囲んだ男たちに飛びかかられた。床に押し付けられ、腕を捻りあげられる。
こちらは無抵抗だというのになんて連中だ。そう思ってリーダー格の男を見上げる。

「貴様、ここがどこか分かっているのか?」
「知ってるよ。巫女さんの住まいだろ。」
「知っていてのうのうと過ごしていたのか。見上げた神経だ。」
言葉とは裏腹に冷徹な瞳をこちらに向け、手に持った蛮刀を俺の首筋に置く。
「本来ならばこの地には余所者はおろか、村の有力者でさえ滅多に立ち入ることを禁じられている。」
リズムを取るように蛮刀が俺の首の上で跳ねる。
「それをどうやって侵入した。答えようによってはコイツを思いっきり振り下ろす。」
おそらく本気だ。心臓が跳ね上がり息をするのも苦しかったが、答えなければ殺される。
「どうやっても何も、気が付いたらここにいたんだ。カーナ曰く、俺は『理』のお使い様なんだとよ。」
この一言で周囲の空気が一変した。蛮刀は持ち上がり、俺を押さえつける力は弱まった。
俺は、どけ、と一言立ち上がる。

おろおろとする周囲の男達だが、リーダーが一喝した。
「お前らまだ抑えてろ!コイツが使いだという証拠がどこにある!」
「でもよう……」
揉め始めた連中を尻目に、俺は枕の下に手を伸ばしてライターとタバコの箱を探り出す。
ゆっくり一服がしたかった。こんな狭い部屋の中で男がぎゅうぎゅう詰めになっている上に暴行をふるわれた。イラつかないわけがない。
「何してる!」
凶器を取り出そうとした、と勘違いしたのだろうか。喉元にピタリと切っ先が触れる。
「落ち着けよ。一服ぐらいさせろ。」
ここでブルったら負けだ。箱を上下に振って1本取り出し、ライターを点火する。一瞬赤い炎が部屋の中を煌々と照らし出し、影がざわめく。
「何をした。」
「何って……そうか、ライター無いのか。これはこういう風に火が出せる道具だ。」
見せ付けるように炎を出し続ける。
「それじゃやっぱり……」
「そうです、刃を収めなさい!」
カーナが駆け込んできて男達を怒鳴りつけた。
120とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:04:25 ID:Rr56yFss
その後、集落に運ばれ酒宴が開かれた。拉致してきた俺を座の中心に配し、その周りを男達が囲み、次々と俺と杯を交わしていく。

小屋から村へ向かうときにカーナがいないことに気が付いた。振り向いて問う。
「カーナ、君は?」
「……私はこの場所から出ることを禁じられていますから。」
「……そうか。」
彼女を一人ぼっちにして、俺はそのまま連れて行かれた。

何とか全員と杯を交わし終わった後、本格的に宴がスタートした。飲み、食い、歌い、踊りだす。俺を置き去りにして盛り上がる。
少し退出しても構わないだろうと立ち上がり宴会場の隅へ向かうと、昼に水を引っ掛けた少年が追ってきた。
「昼間は『理』のお使い様に失礼なことをしてしまって……」
保護者から謝るように言われたのだろう、少し棒読みぎみに謝罪の言葉を述べている。その頭を小突き、笑いかける。
「昼にもう謝ってるんだからグダグダ言うな。それと敬語を使う必要は無いし、『お使い』とか呼ぶな。兄ちゃんて呼べ。」
子供にまで「カミサマのオツカイ」なんて、こそばゆい呼ばれ方をされては堪らないからな。

「そうだった、忘れてた。あのさ……に、兄ちゃん、ちょっと来てほしいんだ。」
ぎこちなく俺を呼びつけ、袖を引っ張って引きずっていこうとする。だが俺は寝不足とアルコールで頭が揺れており、眠くて仕方が無い。
「少年、俺は今すごく眠たいんだ。」
「兄ちゃん、俺の父さんが呼んでるんだ。……父さん、ここの村長だから言うこと聞いておいたほうがいいぜ。」
途中から小声になりそっと囁く。
「それなら仕方が無いな。少年、どこにいるか教えてくれ。」
立ち上がり頭を振って、眠気と酔いを追い出してから少年の後ろをついて行く。途中ドンドン宴の中心に入っていく少年を見失いそうになったが、何とか村長の元に辿り着いた。

村長は30代位だろうか、身体は引き締まり顔は精悍、かなり若く見える。目を合わせると、彼は挨拶もせずにその頭を下げる。
「先程は失礼をしました。」
暗闇の中、男達を取り仕切っていたのはこの声だ。その渋い声は続いて響く。
「『理』の使いの方とは知らなかったとはいえ刃を向けてしまいました。すみませんでした。しかしあれも、全ては巫女を守るためなのです。どうか許していただきたく存じます。」
「許すも何も、誰だって普通はああなりますよ。頭を上げてください。」
「いいえ、そういうわけにはいきません。命あらばいつでも罰を受ける用意はあります。ご下命を。」
「ご下命って……別に怪我もしてないんですから罰する必要無いッスよ。」
きつく叱るわけも無いのにビビッてたみたいだ。安堵の表情が見て取れる。
そのとき誰かに袖を引かれた。あの少年だ。手に徳利を持ち杯を俺に押し付ける。父親が無罪放免になってうれしいのか、笑顔で溢れんばかりに酒を注ぐ。
「男同士仲直りしたんだから酒を酌み交わそうよ。」
……俺もう限界に近いんだけど。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
121とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:05:25 ID:Rr56yFss
目が覚めるとカーナの小屋にいた。酔いつぶれて運ばれてきたらしい。心地よく麻痺した全身を動かすのが億劫で、窓の向こうの夕日をずっと眺めていた。
飲み会に参加するなんていつ以来だろうか。大学に入ってから何度か誘われたし企画したこともあるが、最近は殆ど参加していない。
赤い太陽が目に眩しくて目が潤んできた。涙が零れそうになって目を閉じる。

「お気付きになられましたか?……まだですか。」
カーナが入ってくる。返事をする前に自己完結してしまったので寝たふりをすることにする。
「本当によく寝てますね。……もし巫女の役……無ければ、ワタシ……」
一部しか聞こえなかったが何事か呟いている。目を瞑っているので表情は見えないし、声音からは感情を読み取れない。
突然、はたっと俺の手に水滴が落ちた。カーナは涙声で独白を続けようとするが、俺は起き上がりそれを留める。
「起きて……らっしゃたんですか?」
カーナは身体をのけぞらせて驚き、慌てて顔を擦りはじめた。
「たった今な。……昨日、胸を借りたお返しだ。話聞くぞ?」
「大丈夫です。」
「大丈夫じゃないだろ。昨日辛かったら一人で悩むなっていったのはどこの誰だ。」
カーナは先程からずっと顔を撫で続けている。泣くのを止める気配は無いのに、遠慮をしているのか我慢している彼女に腹が立つ。
無理やり手を引っぱり彼女の顔を胸の中に収める。カーナは何とか抜け出そうともがくが、男と女の差はどうしようもない。それでもまだ暴れている。
仕方が無い。使いたくなかった方法を使うことにする。
「じっとしてろ。……『カミサマのオツカイ』として命令する。」
動きが止まった。初めてオツカイでよかったと思った瞬間だった。
「卑怯ですね。」
「狸寝入りして涙の告白を全部聞いてしまうよりかマシだろ。」
「本当に卑怯です。」
おでこを胸に押し付けてくる。

巫女ってのは15くらいの娘から村長によって選ばれ、35までお勤めを続けるそうだ。彼女もその例に漏れず16で選ばれこの場所に隔離された。家族、友人と会えなくなった。
「最初の頃は悲しくて、ずっと泣いていました。そして、私をこんなところに追いやった人達を恨みました。」
「カミサマに対して?」
「いいえ。私をここに封じておこうと決めたのは村の人たちです。タクミさまが気になさることではございません。」
気を遣ってなのかこう言ってくれたが、俺に対する嫌悪感はあるだろう。何だか悪い気がしてしまう。
「タクミさまにはむしろありがとうと言わせていただきたいのですよ?昨日も申し上げましたが、私は運がいいですから。」
そういえばそんなことを言っていたな、任期を終えるかオツカイが来るかで解放されるとか。

「先程も言いましたが、巫女のお役目が無ければ……」
「そこなんだけどさ、よく聞こえなかったんだ。なんて言ってたんだ?」
「聞こえていなかったのですか。……困りましたね。」
何か困ることを言ったのか?あれだけフォローしていながら罵詈雑言吐いていたのなら笑えるが、そんな様子は無かったのに。
「悪口なら言って構わないぞ?」
「それなら言う必要は無いですね。……ありがとうございました、落ち着きました。」
半分突き放すようにして顔を離す。目は赤いがそれ以外はいたって普通だ。とりあえず一安心できるだろう。

「じゃあ何言ってたんだよ。」
「大したことは言っていません。」
「なら尚更言えるだろ。どうしても言えないことか?」
「どうしても、と言われるとそんなことはありませんが……」
何故か言うのを躊躇っている。こんなに迷うようなことって何なんだ?
「ならはっきり言ってくれよ。内に溜め込んだままじゃ鬱憤溜まるだろ?俺も気になって仕方ないし。」
「……それなら、今から言うことはすぐに忘れてください。お願いします。」
彼女にとってはよっぽどの失言だったらしい。分かった、と言って先を促す。
「『もし巫女で無かったらお慕い申し上げることも出来るというのに』と言ったのです。」
「何だそんなことか。……って!?」
爆弾発言だ。
122とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:06:48 ID:Rr56yFss
「巫女はその身体を捧げるために誰かを愛することは禁じられております。それはタクミさま、『理』の使いでいらっしゃるあなたさまとて例外ではございません。」
巫女について解説してくれる。だが突っ込みどころはそこじゃない。
「カーナ個人としては……どうなんだ?」
「タクミさまの事ですか?好きですよ。だから巫女でさえいなければ、と申し上げました。」
当たり前じゃないかという顔で、やけにさらりと言ってくれる。
「さあ、約束です。もう忘れてください。」
「忘れられるわけ無いだろ。うれしいよ。」
「……水、どうですか。」
明らかに動揺した様子で湯呑みを突き出す。カタカタと震えている湯呑みを受け取り、一気に飲み干す。酔いの残っている胃腸に甘露が染み渡る。
礼を言って器を返すときに手が触れた。年甲斐も無く顔が熱くなっていく。彼女の顔も赤く見えるのは夕日が頬を染めているからだろうか。

「あのさ、ずっと巫女やってるのか?」
「ずっとやっているも何も私は巫女ですが?」
「ああいや、そういうことじゃなくってさ、俺に接してるときって素じゃないだろ?だからずっと巫女として振る舞っていて疲れないのかな、と。」
「……それが、巫女ですから。」
「素になっていいぞ。」
「でも、それでも私は巫女ですから。」
やっと気が付いた。この娘はあくまで『巫女』と『オツカイ』としての関係しか作ろうとしていなかった。
だからどこか態度が余所余所しかったし、『俺』と『カーナ』として接しようとしていた俺と考えがずれていたんだ。

「カーナ、初めて話したとき、『愛って何だ』って話題になったよな。答えが分かった。今なら質問に答えられるよ。」
「お互いを尊重して認め合うこと、でしょう?そんなことは知っていますよ。」
つまらなそうに答える。知っていてあえて問うていたのか。
「私は巫女ですからタクミさまを愛することが出来ません。だから、愛なんてものに意味は無いんです。」
何の感傷も抱いていないように言い放つ。その言葉にモヤモヤしたものが溜まってくる。
「……お前、感情あるんだろ?」
「当然です。でも感情を持ってもいいのは『カーナ』で、今の私、『巫女』ではありません。」
言い返してもきっと無駄であろうことは分かっていたが、ここまで見事に返されるとは思わなかった。褒めるべきは彼女のプロ根性、なのだろうか。
123とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:08:20 ID:Rr56yFss
「なら、もういいや。」
湯呑みを片付けようと背を向けたカーナに後ろから抱きつく。
「俺が君を抱かなかったのはな。カーナ、君と愛し合えると思ってたからだ。」
首筋に唇を寄せ息を吐くように囁き、腕を前に回し乳房をまさぐる。カーナは逃げようと身体をくねらせるが、腕に力を入れて背筋を反らせる。
「ただヤりたいだけならこうやって襲えばいい。幸いなことに、俺が命令を下せば君は言うことを聞いてくれるみたいだから。」
しかし手も体も離す。
「でも、俺はお人形さんじゃ満足できないんだよ。相手のことを好きじゃないと気持ちよくなれないし、気持ちよくしてやれない。」
「私が良くなる必要はありませんし、タクミさまを気持ちよくする方法は、私にはありますから。」
「そういうことじゃないだろ。どうしてそこまでこだわるんだ、巫女の仕事に!」
もどかしくなって声を荒げてしまう。

「……だって、巫女で無ければこうしてタクミさまとお会いすることも無かったでしょう?」
後ろを向いたまま目を合わせずに言う。
「少しでもタクミさまの側にいたいから、巫女であり続けないといけないんです。それは巫女としての義務感からではなくて、私自身の意思なんです。」
心なしか彼女の声が湿ってきた。まだ『巫女』を演じたままで感情を殺しているはずなのに、感情が漏れ出てきている。
ヤバイな、泣かしちゃだめだ。そう思ってもう一度抱きしめる。さっきとは違って変な所には手を伸ばさない。
「泣くなよ。」
「泣いてないですよ。」
「泣いてる。……確かにこういう出会いで無きゃ知り合う事は無かっただろうけどさ、俺、君がいなきゃとっくに死んでたよ?感謝してる。」
「私だって!……初恋で、一目惚れなんですよ。好きだけど……好きだから好きになっちゃいけないんです。」
もう完全に泣き出してしまった。泣き出してしまった彼女をあやすように語り掛け、抱きしめ続ける。
「どうして好きになっちゃダメなんだ?」
「記録によれば、使いの方は皆さんここから去られております。元の世界に戻るのかは不明ですが……いなくなっちゃうんです。」
腰に回した俺の手に、彼女の手が重ねられる。
「好きになったら別れが辛くなるでしょう?もう1人で過ごすのは嫌ですから。」
首だけで振り向いて見上げる。涙に濡れた顔が美しくて思わず唇を重ねてしまった。
「ん、はぁ……意地悪。巫女でいさせてくれないのですか?」
唇を離すと、『カーナ』がそこにいた。
124とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:09:28 ID:Rr56yFss
ベッドに寝転がり2人はキスを続けていた。柔らかく弾力のある乳房を掌で転がすと、合わさった唇からカーナの溜息が漏れる。
身体がかあっと熱くなって彼女の下半身に手を伸ばすと押し止められた。俺が不可解だ、と表情を浮かべると、彼女のほうから俺自身に触ってくる。
「教科書の中身、試していいですか?」
俺の了解を取る前に身体を反転させて俺の下を引っ張り下ろし、硬くなっている竿を手に取った。そのまま袋を指が伝い、鈴口には舌が走る。
「ふにゅ、ひから加減が分からないので、じゅるっ、ひたかったら言ってくらはい。」
彼女は力加減を心配しているが、ちょうどよく気持ちいい。というかイきそうだから舐めながら喋るな。

報復に目の前に突き出された尻にむしゃぶりつく。秘所からは大量の愛液が垂れ流されており、こもっていたにおいが充満する。
もう十分に濡れているので周りを攻めることをせず、いきなり中に舌を突っ込み鼻を押し付けた。淡い色をした陰唇に粘液が絡んできらきら光っている。
「ひゃっ、ああぁあ!ダメっ!」
「何が?されてる分、お返ししないと。」
「しなくていいです!」
カーナは尻を高く持ち上げて愛撫から逃れようとするが、俺は指を突っ込んで軽く揺すり、足腰を立たせなくする。
「カーナ、俺のことは気にしなくていいから続けていいよ?」
にやりと笑って強めに中を擦りあげる。どろどろになっている膣内は熱く、指をくわえ込んでいる。
「……言われなくてもそうさせてもらいます。」
気丈にそう言ってまた舐め始めた。今度は先を口の中に含み頭を上下させ、根元から扱きあげていく。

カーナは言うだけあって上手い。俺は先程よりも強い刺激に顔をしかめ、指が固まる。
「はむ、じゅっじゅる……手が留守になって……気持ちいいれすか?」
少し弄っただけで余裕を無くしていたのに言ってくれる。負けじと俺も顔を埋め、音を立てて吸い上げる。と同時にヌルヌルを指に絡めて少し上の出口に塗り込む。
「あっ!やっそっちは違……っ!」
「分かってるよ。でも気持ちいいんだろ?」
黙ってしまったが触った瞬間に全身が仰け反ったんだから感じてはいるんだろう。流石に中に突っ込む趣味は無いから表面をなぞる以上のことはしないけど。
125とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:10:23 ID:Rr56yFss
それにしてももう限界だ。さっきから何度射精しそうになっているか分からない。
それでもまだ達していないのは放つ寸前に彼女に刺激を与え、口の動きを一時中断させることで何とか凌いでいるからだ。
彼女のほうもさっきから愛液が止まらない。掬っても掬っても後から後から溢れ出してくる。ヒクついている花びらは彼女も限界だと示しているのか。
身体を起こしカーナを抱き上げ、向かい合って座る形にする。
「俺、もう限界だ。挿れていい?」
「はい。いっぱい中で出してくださいね。」
「カーナ、君はどうしてほしいんだ?」
「……いっぱい、優しくしてほしいです。」
「頑張るよ。」

カーナは意外と軽い。座ったまま両手で持ち上げてそのままゆっくりと挿し込む。
「いた!……くないです……っ!」
「無理すんな。いっぱい優しくしてほしいんだろ?」
涙目で奥歯を食いしばっているカーナを抱き寄せ、身体を密着させる。彼女の心臓の音が皮膚を通じて伝わってくる。さっきから跳ね上がりっぱなしだ。
平気なふりをしようとしても初体験の痛みに耐え切れるものじゃないらしいから、涙目で我慢している姿に少し同情してしまう。
「痛くなくなったら言え。少しずつ進めりゃいいんだから。」
「あり、がとう、ございます。」
ゆっくり進めることでこちらもある程度収まるから助かる。一気に突き入れていたら、処女特有のキツイ締め付けですぐに果てていただろうから。

ふいに先端に違和感を覚え、そしてパチンと弾けた。
「いった……っ!」
鯖折りをするかのように俺に回した両腕に力を込め、歯軋りが聞こえてくるくらい顎に力が入っている。
膜を破ったと分かったので一気に突き入れる。ここまで挿入されたら時間をかけるほうが辛いだろうと思ったからだ。
「やあっ!痛い痛いいいぃぃ!」
奥に届いた瞬間俺の背中に爪を立てて力を入れ、頭を振り回して長い髪が散らばる。
「一気にいかないと余計に辛くなるだろ!……ゴメン。慣れるまでいくらでも待つから、ゆっくり深呼吸してみようか?」
大声で痛がる彼女に負けじと大声を出してしまう。痛いのは分かっているのに怒鳴りつけてしまったと自己嫌悪して、語尾を柔らかくする。
震えながら深呼吸をする彼女の頭を撫でながら、頬を伝う涙を口に含む。そのままカーナと口を合わせ舌を吸う。

暫くして、カーナは酸素を取り込むために口を大きく開き、俺を見あげて言った。
「……もう大丈夫です。いっぱい動いて、いっぱい気持ちよくなってください。」
顔を見ると瞳を潤ませてはいるが呼吸は落ち着いてきている。本当に大丈夫そうだが様子見で少しずつ引き抜いていく。
「はああぁぁぁ……」
うっとりとした表情で溜息をつく。どうやら本当に大丈夫そうだ。ギリギリまで腰を引いて一気に押し込む。
「ひゃあああ!いきな……ああっ!やああっ!」
激しく反応すると身体は強ばり、膣内が収縮する。そのままゆっくり突き上げると、そのたびに大声を上げてしがみついてくる。
それに応えて抱きしめ返す。男と違う柔らかい触感を身体全体で感じてこちらも昂ぶってくる。もう爆発寸前だ。
「これ以上我慢できない。……激しくするよ?」
カーナは声を上げ続けて聞こえていないようだったが、お構い無しにピッチを上げていく。最初のうちはまだ痛そうだったが、段々声に艶が混じってくる。
「あっやっあっあっあっ!だめ、もう、どっか、飛んで……っ!」
身体が浮き上がる感覚がしているのか、腰に回された足も背中に回された手も輪が縮まっていく。
彼女の嬌声とグジュグジュと粘り気のある液体に空気の混じった音が耳に絡みつく。
「カーナ、出すよ!出すよ!」
「はい、いっぱい下さい!」
カーナにつられるように俺も半分叫びながら、腰を目一杯打ち付けて最奥で精を放つ。
126とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:12:11 ID:Rr56yFss
「あ、つい……これが……」
中で出された感覚があるのだろう、下腹部に手を置きうっとりとした表情を浮かべる。
「気持ちいい、ですね。」
「激しくしすぎたと思ったんだけどな。気持ちよかったんならよかったよ。」
言いながらいつものくせで身体を離そうとする。中に出したときも一瞬ヒヤッとしたし、どうも普段の癖というのは抜けないものらしい。
「どこへ行くんですか?」
「いや、なんでもない。」
腕に力を込め、逃がしてくれない。俺も癖が出て来てしまったのが分かって苦笑する。別に膣内射精をしたって焦る必要は無いというのに。
でもとりあえず中から抜いておこうと思って腰を引くが、密着させて放してくれない。
「カーナ?」
「まだ眠くないですよね。もっとしてください。」
「ぬ、抜かずにですか。」
眼前の少女はもう大人になって、次をせがんでいる。その姿に俺の分身も力を取り戻してきた。身体は正直だ。自分の若さに恥ずかしくなって誤魔化そうと口を塞ぐ。
それが第2試合のゴングだった。

さっきまでは頬を染め舌を吸われるままだったカーナが、今度は逆にこちらの口内を犯してきた。
「ん、むぅ、じゅっ……はぁ……じゅるじゅる、うむ、はぁ……」
夕日をバックにした顔が影になって表情が見えない。それがとても淫靡に見えて分身の回復速度を加速させる。
カーナは夢中で歯列をなぞり舌を舐めてくる。射精の余韻もあって頭がぼうっとしてきた。キスも上手いんだな、と頭の隅で考えていると体重を掛けられて押し倒された。
「最初はタクミさまにしていただきました。今度は、私の番です。」
顔がそのまま下がっていって乳首を攻める。膨れたところにチロチロと舌が走って気持ちがいい。今までこんなことをされたことが無かったから新鮮な感覚だ。
「気持ちいいんですよね。中で、大きくなっていますよ?」
カーナは悪戯っぽく笑って胸の辺りを舐め続ける。俺はその問いに答えることが出来ずに快感をただ受け入れていた。

「動き、ますよ?」
腕を伸ばし身体を少し浮かせて中途半端なところまで腰を引くと、ゆるゆる腰を揺すりだす。丁度Gスポット辺りに当たっているようで、口を半開きにして無心に腰を振っている。
「ああ、はぁ……大きい……。気持ちいいよぅ……」
開いたままの彼女の唇から涎が滑り落ちて、俺の鳩尾の辺りに滴々と水溜りを作る。カーナはそれに気が付いた様子も無く、先程より強く腰を振っている。
「カーナ、そのまま身体を後ろに倒して座ってみな。」
「え?」
一生懸命過ぎて聞こえていなかったようだ。もう一度同じことを言って少し肩の辺りを押しこむ。簡単に体勢が真っ直ぐになって深く繋がる。
「ふっ、くぅ……」
眉間に皺を寄せ頭の先まで反り返る。他よりも日焼けていない喉が夕陽を映して真っ赤に映える。
「まだ奥の方は痛いのか?」
「痛いですけど、あっ、はあっ、気持ちいいですっ!」
俺の臍の辺りに両手を置いて、今度は弾みだした。派手な動きに比例してカーナの声が大きくなる。もっともっとと言いながら跳ねる度、赤く染まった愛液が飛び散る。

「……く、イく、イくイくぅ!」
俺の上でガクガクと震えて身体を仰け反らせ硬直させた。不規則にうねっていた膣が強く締め付けにかかる。
「気持ちよかった?」
「はい。……好き、大好きです、タクミさま。」
全身汗でびっしょり濡れていて、耳の横では髪の毛が張り付いている。その格好で喘いでいるのが扇情的でたまらない。
「そうか、よかった。……イったばっかりで悪いけど、動くよ。」
「あ、ダメ、まだ待っあっ、やあっ!」
腰に手をあて1回、2回突き上げる。彼女は強すぎる性感にどうしたらいいのか分からないようで、身体をくねらせ倒れこんでくる。
ちょっと刺激が強すぎたかな。ゴメンと謝る。
「奥、気持ちいいです。もっとしてください。」
……総力戦だな、これは。
127とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:14:03 ID:Rr56yFss
カーナが隣ですやすやと寝息を立てている。
あの後抜かず3回、体中弄りあいながら1回してしまった。自慰を覚えたばかりの中学生か、俺は。もう腰が重くて仕方が無い。
いつか別れが来ると言われたが、今はカーナの子猫の無邪気さを思わせる寝顔が愛おしくて仕方が無い。それまで彼女の我侭を聞けてやれればと思う。
「タクミさま……」
隣でごそごそいいだしてカーナが起き上がる。
「起きてたのか?」
「今目が覚めました。……私、今とっても幸せです。タクミさまが好きです。離れたくありません。」
抱きしめられて軽くキスをされる。先程まで乱れていたのが嘘のような普段の表情だ。
「こうなってしまうから冷静に振舞っていたんですが、結局無意味なものになってしまいましたね。」
顔はそのままで声だけを少しトーンダウンさせる。いつか来る別れを想って辛いのだろうか。抱きしめ返して囁く。
「いつかは別れが来るけどさ……それまでに一生分、相手してやるから。」
「……意地悪。」

あと何日こっちにいるか分からないし、この世界から爺さんのように元の世界に戻れるかどうかも分からないけど、今は彼女を大事にしたいと思う。
128とある異国の物語 ◆6x17cueegc :2007/05/18(金) 02:15:03 ID:Rr56yFss
以上です。
ヤった後に元の世界に返しても良かったけど、結局「俺たちの戦いはこれからだ」エンドにしてしまいました。
そしてなんだかクール分が足りない、お前元の世界の彼女はどうするんだetcetc……gdgd過ぎてもうだめぽorz

また気が向いたときに「これから」や「とある異国の」を書いていくつもりなので、「6x17cueegc先生の次回作にご期待ください!」ということで。
129名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 02:23:53 ID:HZYBWXqn
>>128
リアルタイムGJ!
むしろ元の世界に帰るなww
一生ラブラブしてくれ!
130名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 02:33:21 ID:5vpLZvDL
>>128
GJ
これは素直クールの新しいかたち
131名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 07:41:04 ID:VT16mnvP
みなさんおはようございます。保管庫の中の人です。
今携帯から書いてます。接続が本格的にまずくなりました。
色々いじってうまくいかないようなら、ni〇tyに文句を言いにいくつもりです。
面目もありませんがまたしばらく失踪します。
それでは失礼。
132名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 13:21:38 ID:J+rI+1EQ
>>128
GJ!!!
最高ですた
133名無しさん@ピンキー:2007/05/19(土) 10:48:48 ID:jD7rBlhq
>>131
まとめ乙です。
復帰お待ちしてます!

>>128
GJでした!
gdgdとは感じませんでした。
いつも途中で筆が止まる私としては、書き上げることが何より重要な事だと思っております。
次回作も期待しております。
134-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:47:47 ID:7wynCQv1
もう少ししたら投稿します。
悪いクセが出ました。またクール分が減少傾向にあります。
135-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:50:29 ID:7wynCQv1
-同級生型敬語系素直クール その3-

 朝。いつものように合流して、いつものようにおはようのキスをするだのしないだので絡み合って、いつもの
ように半ば強引にキスされて、いつものように腕を組まれて歩き出した直後、
「明俊君、今日のお昼はお弁当ですか?」
「うん、そうだけど?」
 片腕をぎゅっと抱かれた感触に、未だ慣れずに微妙に身体が逃げるように傾いたまま、日阪明俊(ひさか あ
きとし)が質問に答える。もちろん腕を抱いているのは雪雨瑞希(ゆきさめ みずき)で、質問したのも瑞希だ。
「それは丁度良かったです。私、今日明俊君にお弁当作ってきたんですよ?」
「え、そうなの?」
「はい。こう見えても私、料理にはちょっと自信があるんです」
 そう言って、瑞希は得意げに薄い胸をそらす。あまりこういったボディランゲージをしない瑞希にしてはレア
なアクションだ。余程自信があるのだろう。
「自分で言うのもなんですが、自信作です。味見してもらった母にも、いつもより美味しいと言って貰えました。
 明俊君に食べてもらえると考えただけで、魔法みたいに上手に作れたんですよ? 料理は愛情というのは本当
 なんですね」
 瑞希は楽しげに明俊を見上げる。相変わらず瑞希のストレートな表現に、明俊は苦笑いしてしまうが、別に嫌
がっている訳では無い。単に照れくさいだけで、本音を言うと非常に嬉しい。
「ありがとう。この前もらった瑞希さんちの晩ご飯美味しかったし、楽しみだなあ」
 明俊は素直に喜んでから、ふと疑問が湧いた。
「…でも、丁度良かったって、なんで?」
 自分が弁当を持参した事が、何故丁度良かったのだろうか? むしろ、お弁当を作ってきてくれたのなら、僕
は弁当を持って来なかった方が良いのではないだろうか?
 明俊の疑問に、瑞希が楽しげに微笑む。
「明俊君が持ってきたお弁当は、私が頂きます。明俊君は、私のお弁当を食べて下さい」
「お弁当を交換するってこと?」
「そうです」
「なるほど。そういうのもいいね」
 瑞希が作ってくれたお弁当を食べた後に、持参した弁当まで食べるのはちょっと苦しいかなと思っていたので、
瑞希の提案は明俊としても好都合だ。
「でも、なんだか悪いなあ。僕の弁当が瑞希さんの口に合えばいいけど…」
「悪いなんてことはありません。明俊君のお弁当を食べるもの目的の1つなんですから」
「え? なんで?」
 思わず自分の鳩尾ぐらいの高さにある瑞希の顔を見下ろす。
「明俊君のお弁当は、明俊君の家庭の味なわけですから、将来明俊君のお嫁さんとなる私としては、その味を覚
 えておく必要があるんです」
 お嫁さん、なんて、子供みたいに可愛い言い方をする瑞希に、明俊は一瞬微笑ましくて吹き出しそうになるが、
子供らしい言い方だけに、彼女の純な想いを感じ取り、打って変わって赤面する。
 照れ隠しに「家庭の味なんて立派なもんじゃないよ。僕が作ってるんだし…」と、ごにょごにょと言葉を濁す。
「? なんですか?」
136-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:51:18 ID:7wynCQv1
「あー。……いや、なんでもないよ」
 照れ隠しに言ったセリフを聞き取ってもらえなかったようだが、別に言い直す必要性も感じなかったので、明
俊は誤魔化すことにした。
「えっと、じゃあ今の内にお弁当を交換しておこうか?」
 明俊は鞄から布に包まれた弁当を取り出し、瑞希に差し出すが、瑞希はそれを受け取らずに、いたずらっぽい
微笑みで明俊を見上げる。
「私としては、教室で、『お弁当忘れて行きましたよ。あ・な・た(はぁと)』と言いながら渡したいのですが、
 どうでしょう?」
「……却下します」
 明俊は脱力して、手に持った弁当を思わず取り落としそうになる。
「というか、今年一年は学校ではあまり過剰な接触はしないってルールを忘れたわけじゃないでしょ…」

 明俊と瑞希は高校2年生で、クラスメイトだが、来年も同じクラスになれる可能性を高めるために、出来るだけ
学校内でイチャつくような行為は慎んでいた。特別、風紀に厳しい学校ではないが、あからさまに学校内でイチャ
ついていると、先生に目をつけられて、来年は確実に別々のクラスになってしまう事が予想出来るからだ。
 瑞希としてもそれは分かっているはずなのだが、学校内で何かに付けて明俊との親密な関係をアピールしよう
して、非常に油断ならない。ただでさえ二人は名前で呼び合っているのだ。二人が付き合ってるということは、
すでに周りにバレてしまっているし、明俊としては出来るだけ、“高校生らしい、清く爽やかな交際関係”とい
うヤツを瑞希と築いていると周囲に印象付けたいと考えている。僕達はTPOをわきまえた付き合いが出来ていま
すよ、と。だからクラスが一緒でも問題ありませんよ、と。

「駄目ですか? それは残念です」
 さして残念がってはいない様子で、瑞希も弁当を取り出して明俊と交換する。瑞希とて、先ほどのセリフは本
気ではないのだろう。明俊に断られるのを分かった上で言っているように見える。なんか僕が困る姿が見たいだけ
なんじゃないかな…と、明俊は最近思うようになってきた。

 瑞希は明俊から受け取った弁当を鞄に入れ、押さえるようにそっと手を当てる。その手には並々ならぬ思いが
込められていたが、明俊は気付かなかった。真直ぐ正面を見ている瑞希の瞳の奥が、微かに燃えている。
 …まだ見ぬ明俊君のお母様、勝負です。私のお弁当が美味しいか、お義母様のお弁当が美味しいか…。
 瑞希は割と致命的な勘違いを抱えたまま、密かに闘志を燃やし、心の中で明俊の母親(の想像図)に挑戦状を
叩き付けていた。

「ところで瑞希さん、あのさ…」
 一方、明俊は瑞希から受け取った弁当を鞄にしまいながら、恐る恐る口を開く。
「まさかと思うけど、お弁当にパンツとか入ってないよね?」
 我ながら、何わけの分からないことを聞いているんだ、と思うが、恐るべきことに彼女には前科がある。きち
んと確認しておかなければ、安心してお弁当を開けることが出来ない。
 明俊の疑惑の視線に、瑞希はきょとんとする。
137-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:52:03 ID:7wynCQv1
「入れて欲しかったんですか?」
「違うよ!」
 思わず叫んだ。
「もし良ければ、食後にデザートとして脱ぎたてをお渡しましょうか?」
「要らないからっ! そんなデザート聞いたことないよ!」
「換えの下着がないので、使ってもらった後に返していただかないといけませんが…」
「だから使わないってば!」
「今日は淡いブルーの柄で、小さなリボンがこう…」
「そんな報告しなくていいからっ! 話聞いてる!?」
「パンツだけじゃなくて、私を丸ごと食べてもらってもいいんですよ?」
「ちょっ、だから、」
「明俊君が私よりも私のパンツの方がいいと言うのなら、私としては非常に複雑な心境ですが、パンツをお渡し
 いたします」
「話を聞いてっ! というか分かってて言ってるでしょ!?」
 ぜーはー言いながらツッコミを入れる明俊を、瑞希がどこか拗ねたような表情で見上げる。
「だって、最近ご無沙汰じゃないですか…」
「ご、ご無沙汰って…」
 まるでセクハラオヤジのような物言いに思わず絶句する。少なくとも女子高生の言うセリフでは無い。
「もう2週間近くも、正確には12日も、愛しあってないんですよ?」
「一般的に、それくらいじゃご無沙汰って言わないんじゃないかな…。それに仕方ないよ。なかなか二人っきり
 になれないし」
 瑞希の家は母親が専業主婦なので、そういうことが出来るタイミングがなかなかない。かといって、ホテルな
んて行くのはちょっと恥ずかしいというか後ろめたいというか。さすがの瑞希もホテルには抵抗があるらしい。
 実は、瑞希には言っていないが、明俊の家ならば誰にも邪魔されずにすることが出来る。でも、それは──
「私にとってはご無沙汰ですよ。毎日でも抱いて欲しいところなんですから」
「ま、毎日って…」
「明俊君は、したくないんですか?」
「いや、その、まあ、えっと……」
 思わず口籠る。もちろん、したくないわけではないが、さすがに「したい!」なんてはっきり言えない。積極
的な瑞希と付き合って随分慣れたつもりだが、明俊は筋金入りの純情派だ。根っこの性格は、なかなか変われる
ものではない。
「もう、図書室でしちゃいましょう? 私また鍵借りてきますから」
「だ、駄目だよ。この前だってキスしてるのを危なく見つかりそうになったんだし」
「でも、もう私、気が狂っちゃいそうです」
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟じゃ無いです。このままですと明俊君を押し倒しかねません。教室とかで」
「…お願いだからやめてね?」
 “教室とかで”を強調して言う瑞希に、明俊が真顔でお願いする。すでにそれに近いことはされているので、
瑞希ならやりかねない。
「じゃあ、抱いて下さい」
「だから、場所がね?」
「…仕方ありません。母に頼んで少しの間、家を開けてもらいましょう」
138-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:54:41 ID:7wynCQv1
「え、頼むって?」
「私はこれから明俊君とよろしくするので母さん邪魔です。と…」
「ちょ、何言ってるの! 駄目だよそんな! というか頼んでるセリフじゃないよ、それ!」
「もう、明俊君は我が侭ですねえ…」
「………」
 なんだかもう、脱力して何も言葉が出ない。そんな明俊をそのままに、瑞希は重々しく口を開く。
「…ホテル、しかないですね」
「ええ!?」
「行きましょう、ホテル。早速今日、学校の帰りにでも。ホテルにはちょっと抵抗ありましたが、よくよく考え
 れば今の私達のためにあるような施設じゃないですか。利用しない手はありません」
「駄目だよ! お金も掛かるし…」
「お金は私が出します。私が誘ってるんですから」
 見れば、瑞希の目が据わっている。なんというか、開き直ってるというか…。さっきの気が狂いそうという発
言も、あながち冗談ではないようだ。
「…あー、瑞希さん?」
「何ですか? 言っておきますが、もうホテル行くのは決定ですよ? 正直、今すぐにでも行きたいところなん
 ですから」
 瑞希に睨み付けられるように念を押され、明俊は思わず怯む。禁断症状という言葉が明俊の脳内をよぎる。
「いや、あのね? ホテルじゃなくても大丈夫な所あるんだ」
「どこですか?」
 仕方がない。さすがにホテルに行くのはまずい。だから、仕方がない。自分にそう言い聞かせながら、明俊は
打ち明ける。
「…僕の家。誰も居ないから、その、ホテル行かなくても平気だよ」
「明俊君の家、ですか?」
「うん。今、父親が海外に出張というか、単身赴任というか。まあ、とにかく家に居なくて、母親も父さんにつ
 いて行っちゃったから、今は僕独りなんだ」
 もごもごと言いにくそうに答える明俊に、瑞希はきょとんとする。
「え? そういう居ないなんですか? 今日だけ居ないのではなくて?」
「うん。僕が高校に入ったと同時に海外に行ったんだ。だから、もう1年以上独り暮らしだよ」
「そう…、だったんですか」
「うん」
「……」
「……」
「……」
「……」
 案の定、下から問いつめるような瑞希の鋭い視線を感じる。明俊は気付かない振りをして、正面を向いてすた
すたと歩くが、瑞希が正面に回り込んできた。
「どうして、今の今まで言ってくれなかったんですか?」
「いや、その、言うタイミングが無かったと言うか…」
「私、何度も明俊君におねだりしましたよね? どこでもいいから抱いて下さいって」
139-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:55:45 ID:7wynCQv1
「お、おねだりって…」
 なんというか、非常にエロいワードだが、確かにここ1週間ほど、ことあるごとに瑞希は明俊を誘ってきた。

・おねだりその1
 移動教室の際、明俊を最後まで教室に残らせ、誰も居なくなった教室で熱烈に唇を重ねてきた。

・おねだりその2
 放課後、図書室に連れ込まれ、首筋についばむようにキスをしながら、明俊のふとももに股間をぐりぐり押し
付けてきた。ちなみにこの時、危うく先生に目撃されそうになった。

・おねだりその3
 明俊がトイレで用を足してる時に闖入してきて、個室に引っ張り込まれて、むき出しの股間を扱かれたり、明
俊の手をスカートの中に引き込んで下腹部を押し付けたりした。

 一歩間違えばとんでもないことになるような状態だ。誘うとか、おねだりとか、そんな生易しいレベルの行動
じゃない。明俊はその度に、ここじゃ駄目とか、する場所がないからとか、事を急ぐと元も子もなくしますよ閣
下とか、なんだかんだと理由を付けて断り、瑞希をなだめすかしていた。

 …なんか、普通、逆じゃないかな? ここ1週間の出来事を思い出し、明俊は思わず考え込んでしまう。
 女の子ががっつく男に対して「ここじゃ駄目」とか「外じゃ嫌」とか言うんじゃないかな? 普通は。
 思わず遠い目をして自分の生き方を振り返り始める明俊に、瑞希が責めるように言う。
「酷いです、明俊君。私がどれだけ我慢してたか分かりますか?」
「あ、いや、その…」
「もう少しで、ネット通販でバイブを買いそうになったんですよ?」
「バッ!?」
「どれが一番明俊君のに似てるかなとか、夜遅くまでネットでカタログ見てムラムラしちゃって、翌日寝不足に
 なったこともあるんですよ?」
「……」
 瑞希さん、いったい何をやってるの、きみは…。もはや言葉が出ず、心の中で突っ込みを入れる。
 瑞希さんは、人形のように華奢で、僕の胸ぐらいまでしか身長が無くて、肌なんかミルクのように白く瑞々し
くて、髪もほつれ一つない綺麗な黒髪で、夏服がとても清々しくて、どことなく浮き世離れした容姿なのに、な
んでこんなにエッチなの…。明俊は思わず瑞希の端正な顔を見つめてしまう。瑞希はキリっとした少し太めの眉
を心なしかつり上げ、明俊を真っ直ぐ見上げている。
「今日は、今までしてもらえなかった分、たっぷりしてもらいますよ?」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「却下します」
 瑞希はくすくすと微笑みながら即答し、明俊の腕を引いて楽しげに歩き出す。
「これからは毎日、明俊君の家で愛しあえますね?」
「…勘弁して下さい」
 ああ…、と明俊は天を仰ぐ。だから、瑞希さんには黙っていたのに。僕が独り暮らししてるなんて知ったら、
絶対に毎日とか言い出すだろうから、言いたく無かったのに。
140-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:57:03 ID:7wynCQv1
 ずるずると引きずられるようにして歩く明俊に、瑞希が思い出したかのように口を開く。
「あ、もしかして」
「え、なに?」
 瑞希はくるりと振り向き、明俊を見上げる。
「今までしてもらえなかったのは、私、放置プレイをされてたんですか?」
「違うよっ! 人聞きの悪いことを言わないでっ!」
 通学路に、明俊の悲痛な叫びが響き渡った。

 * * * * *

 がやがやと昼休みの喧噪に包まれた教室で、
「なんだ、今日の弁当袋はずいぶんと可愛いな」
 友人の吉木元春(よしき もとはる)が机をくっつけながら明俊に言った。
「あー…、いつも使ってる包みが洗濯中なんだ。これしかなくてさ」
 明俊の机に乗った弁当は、薄桃色と白で構成された可愛らしいチェックの布で覆われている。その弁当は、本
当は瑞希が作ってくれたものなのだが、そんなことは言えずに明俊は慌てて誤魔化す。友人の吉木はそんな明俊
に気付かない様子で、さして興味も失せたように「ふーん」とだけ言う。明俊の家庭の事情を知っている吉木は、
明俊が弁当を自分で作って持ってきていることを知っているのだ。
「あー、腹減った。さあメシ食おうぜ」
「うん。いただきます」
 明俊は若干緊張した面持ちで、弁当箱をぱかっと開ける。直後、そのまま逆再生のような動きで蓋を閉めた。
「どした?」
「い、いや、なんでも…。は、ははは…。」
 菓子パンを頬張る吉木に、明俊は取り繕うように笑う。もう一度、弁当の中身を隠すように、そろそろと蓋を
開けると、さっき自分が目にしたものは見間違いではなかったことが判明した。
 弁当には、“明俊君 愛してます”とご飯の上に器用に炒り玉子で記されていた。
 ちょっ、なにこれ!? 明俊は、文字の内容よりも、文字そのものが綺麗に表現されていることに驚く。
 ぶっちゃけ、瑞希の事だし、海苔か何かで“I LOVE YOU”とか書いてあるかも、と覚悟はしていたが、別の意
味で予想を裏切られ、明俊は唖然となる。
 “俊”とか“愛”とかどうやってるのコレ!? さして広くないご飯のスペースに、これだけ精密に文字を記
せるものなのかと、明俊は瑞希の職人めいた仕事っぷりに舌を巻く。
 しかもご丁寧に、炒り玉子で文字を型抜きしたようになっている。ご飯が文字の型に盛り上がり、その周囲を
炒り玉子が埋め尽くしていたのだ。まるで、ご飯と炒り玉子を使ったドット絵のように見える。さらに驚くべき
ことに、ご飯は無理矢理その型に整えられたのではなく、あくまで自然に、まるで炊き立ての白米のようにふん
わりと盛られていた。
 執念とも取れる瑞希の弁当に、明俊は思わず瑞希へ視線を走らせる。

 明俊から3列程席が離れた瑞希は、仲の良い女子数名と机をくっつけ、お昼の準備をしているところだった。机
を動かしながらも、その視線は明俊に向けられており、明俊と目が合うと僅かに微笑む。そして、「あ・い・し・
て・ま・す」と口パク。思わず明俊は赤面して顔を背けた。
141-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:58:18 ID:7wynCQv1
「…何やってんだ? 明俊」
 早くも菓子パンを1つ平らげ、包みの袋をくしゃくしゃと丸めながら、吉木が気味悪そうな顔をする。
「い、いや! なんでも」
「何を挙動不振になってるんだ?」
「な、なんでもないよ!」
 訝しむ友人に明俊は手を振って誤魔化す。片手は弁当の蓋を持ったままで、いかにも蓋で中身を隠してますと
いった格好だ。
「なに隠してるんだ?」
「あ!」
 止める暇もあればこそ。ひょいっと、吉木が明俊の弁当の蓋を取り上げた。途端に、吉木の身体が固まるのが
分かった。世にも恥ずかしい文字付きの弁当が、白日の下に晒される。
 炒り玉子を載せたご飯。ミニハンバーグが二つ。ポテトサラダにプチトマトがちょこんと乗っかり、アスパラ
ガスのベーコン巻きが縦に並ぶ。ブロッコリーとニンジンのバター炒めが彩りを添え、デザートとして、イチゴ
とオレンジが別の容器に収まっていた。
 明俊はわたわたと「いやこれは」とか「違うんだよ」とか意味不明に言い訳めいた言葉を口にするが、
「…ふーん、そうかそうか。まあ別に、お前と雪雨さんが付き合ってるなんて、クラス中が知ってるしな」
 何を今さら、といった感じで吉木が明俊に蓋を返す。
「あー、うん」
 てっきり、からかわれるか騒がれるかと思っていた明俊は少々拍子抜けした。
「今日は、たまたま作ってもらっただけで、別にいつもじゃないよ?」
「分かった分かった。いいから早く食え」
 それでも思わず言い訳してしまう明俊に、吉木が呆れたように言い、もう1つの菓子パンを開けながらため息
を漏らす。なんでコイツがあんな可愛い娘に好かれているんだ。と顔中に書いてある。
「い、いただきます」
 明俊は改めて小声で言って、ぱくりと炒り玉子入りご飯を一口。…うまい。絶妙な甘さの炒り玉子が、口の中
でとろけ、バターの香りが食欲をそそる。続けてミニハンバーグ。これもうまい。冷めたおかずなのに、作り立
てのように柔らかくジューシーだ。コクのあるソースが、また絶妙な味わいでハンバーグの肉を溶かし、ふわり
とバジルの香りが鼻に抜ける。
 ぱくぱくと、さも美味しそうに食べる明俊に、吉木が冷めた口調で告げる。
「…なあ、明俊」
「ん? なに?」
「この前貸すって言ってたCDな。やっぱ貸さねえ」
「え? なんで?」
「うるせえうるせえ! お前みたいな幸せモンに誰が貸すかコノヤロー!」
「ちょ、なんでいきなり怒ってんの!?」
 超うまそうに愛妻弁当を頬張りやがる幸せ者に、吉木の妬みと嫉みが混じった罵声が降り注いだ。
142-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 03:59:20 ID:7wynCQv1
「…瑞希、お弁当食べないの?」
「食べますよ? 今は精神を集中しているのです」
 一方、明俊の弁当を目の前にした瑞希は、目を瞑り、眉間に皺を寄せてうつむいている。
「なんでお弁当食べるのに精神を集中する必要があるのよ…」
 呆れたようなクラスメイトの声も、今の瑞希には届かない。
 明俊が独り暮らしで、弁当も自分で作ってるというのは想定外だったが、この弁当は紛れもなく明俊の家庭の
味のはずだ。
 それにしても…。瑞希は思った。明俊君の手作りのお弁当を食べることが出来るなんて、なんという僥倖だろ
うか! うへへ…、と思わず口元が緩みそうになる。
 はっ!? いけないいけない。瑞希は頭を軽く振って煩悩を追い払う。お互いの手作り弁当を交換しあうなん
て、幸せすぎて、脳みそがお花畑一色になる所だった。この弁当をしっかり味わい、味を分析して、明俊の家庭
の味をこの舌に覚え込ませねばならない。瑞希は意を決し、くわっと目を見開く。
「では、参ります!」
 え? 何処に? と、ポカンとする友人たちをそのままに、瑞希は気合一閃、弁当箱をがぱっと開けた。
「……」
「……」
「……」
「…別に、普通のお弁当だよね? 瑞希」
 瑞希の剣幕に何事かと、級友たちが開けられた弁当を思わず覗き込んだが、拍子抜けしたように口を開く。
 白いご飯に梅干しが1つ。カボチャの煮付けに、ぜんまいとこんにゃくの煮物。鶏肉とさやえんどうの味噌炒
めに、がんもどきとゆで卵の煮物。地味な色合いの煮物ばかりだが、確かに普通の弁当だ。瑞希はしげしげと弁
当を観察する。
 盛り付けがいい加減というか男の子らしいというか、大変大雑把な感じだが、煮物は全体的に良く味が染みて
いるように見える。それに、この香りはなんだろうか? 弁当箱を開けた途端に、食欲をそそるような良い匂い
が香り立っていた。
「いただきますっ…!」
 瑞希は箸を取り、弁当に手を付ける。まずは、カボチャから…。箸で小さく切り分け、口へ。
「これは……」
 味付けは普通だ。しかし、このカボチャは…。瑞希は慌てた様子で隣のぜんまいも口へ運ぶ。…これもそうだ。
味付けは普通なのに、物凄く美味しく、香り高い。
 明俊の手作り弁当は、食べるたびに驚きがあった。一通りおかずを食べた後、普通なのに、どこか普通ではな
い味わいをかもし出す料理の正体に気付き、がたんっと瑞希が椅子を倒す勢いで立ち上がる。
「瑞希? どうしたの? おーい」
 呼び掛ける友人の声もまるで耳に入らず、瑞希は明俊の所へ早足に向かった。

「明俊君っ!」
「わ、瑞希さん!? な、なに?」
 突然、血相を変えて詰め寄る瑞希に明俊は慌てる。
「なに? じゃありません。なんですかあのお弁当は!」
「え? あ、ごめん! 不味かった?」
「違います。逆です。美味しかったんです」
「あ、ホント? それは良かった。瑞希さんのもすごく美味しかったよ」
143-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:01:00 ID:7wynCQv1
「良くありませんっ! それに私のは美味しくありません!」
「ええ!? なんで?」
 なんだか良く分からないが、なにやらただ事ではない瑞希の様子に、明俊が恐る恐る声をかける。
「み、瑞希さん? 一体どうしたの?」
「…明俊君、あのお弁当の食材は、どこで手に入れたんですか? あんなに良い材料を使った料理は初めてです」
 まず、美味しさの秘密は食材の良さだった。スーパーで買ったような食材ではない。まるで採り立ての様な新
鮮さを誇っていた。さらに、
「調味料もそうです。市販のものではありませんね? 一体どこで買ったんですか?」
 あの香りの正体は調味料にあった。特に醤油と味噌が絶品だった。市販のものではありえない香りと、奥深く、
かつ、さわやかな味わいに瑞希は大きな衝撃を受けた。
「え? いや、あれは…」
 答える明俊に、瑞希が待ってましたとばかりにずいっと顔を寄せる。明俊は思わず逃げるように身体を反らす。
「ウチで、採れたヤツだけど…」
「…え? 明俊君の家で、ですか?」
「うん。あ、肉とかは違うけど、野菜はウチで採れたものだよ」
「そ、それでは調味料は…?」
「それも自家製。醤油と味噌だけだけど。お酒は作っちゃダメだから、みりんとかは市販のものだけどね」
「……」
 なんということだ。さも当然のように答える明俊に、瑞希は呆然となった。視線を落とした先、明俊が食べてい
る最中の瑞希の弁当が見えた。途端にかぁっと顔に血が集中する。
「ご、ごめんなさいっ!」
「え? あ、ちょ、瑞希さん!?」
 食べかけの弁当を奪い去り、瑞希は突然走り出して廊下に飛び出した。

 * * * * *

 屋上で、瑞希は膝を抱えてうずくまっていた。顔を膝に埋め、微動だにしない。時折、細い肩が微かに震え、
嗚咽が顔と膝の間から漏れる。
 恥ずかしい。もう消えてしまいたい…。何が「自信作」だ。馬鹿じゃないだろうか。
 瑞希は自分の不甲斐無さに止めど無く涙が溢れてくる。熱い水が堰を切ったように目蓋から漏れだし、制服の
プリーツスカートを濡らしていく。
 ちょっと味付けが上手く行っただけで、いい気になっていた。愛しい彼に自信を持って渡せるだけの、立派な
お弁当が出来たと思っていた。しかし、彼が持参した弁当は、瑞希の物とは根本から違っていた。食材ばかりか
調味料のレベルで手作りなのだ。そのような物を目の当たりにし、瑞希は自分が作った弁当がとても貧弱で粗末
な物に思えた。瑞希の弁当は今や屋上に散乱し、無惨な姿を晒している。明俊は美味しいと言ってくれたが、こ
んなもの、見るのも嫌だった。プラスチックの弁当箱が、屋上のコンクリートに叩き付けられヒビが入っている。
 こんなことなら、渡さなければ良かった。今朝の自分の舞い上がりっぷりを思い出し、縮こまるようにぎゅっ
と膝を抱く。自己嫌悪、自己嫌悪、自己嫌悪…。自己嫌悪の嵐だった。この程度の弁当で満足していた自分が、
あさはかで、情けなくて。
「…ぅ、うぅっ……」
144-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:02:46 ID:7wynCQv1
 嗚咽が漏れ、膝頭に顔を擦り付ける。新しく吹き出した涙が、白い頬を伝わり細い顎からこぼれ落ちる。長い
黒髪が小さな身体をカーテンのように覆い、屋上の床を掃く。

「…居た! 瑞希さんッ!」
 明俊の声に、瑞希がビクリと震える。
「探したよ…。瑞希さん、一体どうし」
「来ないで下さいっ!」
 ほっとしたように歩み寄る明俊を、瑞希が押しとどめる。
「み、瑞希さん?」
 悲鳴にも似た叫び声に、明俊の身体が硬直する。一体どうしたんだ? 僕は、何かまずいことをしでかしてし
まったのだろうか? そう口を開こうとした時、瑞希が顔を膝に埋めたまま、震える声を掛ける。
「来ないで下さい…。明俊君に合わせる顔がありません…」
「…え? ど、どういう事? なんで?」
「あんなお弁当を、あんな、どうしようもないお弁当を渡してしまって、私は…」
「ど、どうしようもないって、なんで!? そんな事ないよ!」
 明俊は散らばっている弁当の残骸を目にし、ぎょっとする。なんでこんなことになってるんだ。
「いつもよりちょっと上手に作れたからって、調子に乗って…。明俊君のお弁当は、材料も調味料も手作りなの
 に、私のは味付けで誤魔化すような粗末なもので……。自分が情けないです」
「ぼ、僕のは、あれは、確かに自家製だけど、瑞希さんの味付けが誤魔化しだなんて思わないよ!」
「材料から手作りするという発想がまるで無かった自分が情けないんです。明俊君の事、好きなのに、愛してる
 のに、なんで、そんな、当たり前の、事に、気付かな…ぅう…」
 最後の方は涙声になって途切れ途切れになる。細い肩が震えている。
「瑞希さん…」
 自分のために、そこまで真剣になってくれて、傷付いてしまって、泣いてしまっている瑞希に、明俊は身体が
自然と動いた。

 明俊の足音が聞こえ、瑞希は身体が震える。不意に足音が止まり、ゴリッゴリッと、何かが砕けるような音が
くぐもって聞こえた。
「うん。やっぱり美味しいよ。瑞希さんのお弁当」
 明俊の明るい声が耳に届き、続けて、またガリゴリと音が。え? と、顔を上げた瑞希の表情が固まる。
「な、なにやってるんですか!? 駄目です! それ、落ちたご飯…! 明俊君!」
 明俊は屋上に散乱してる瑞希の弁当を拾って食べていた。砂が付いたご飯は、明俊が咀嚼する度にガリゴリと
不快な音を響かせる。
「や、やめて!!」
 平然と、本当に美味しそうに、落ちたご飯を食べる明俊を、瑞希が悲鳴を上げて止める。涙で赤くなった目を
大きく見開き、明俊にしがみつく。
「なにやってるんですか! やめて下さい!」
「だって、本当に美味しいし」
「だからって、そんな落ちたのを食べなくても…」
「だって、瑞希さんが誤魔化しだなんて言うから」
145-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:04:05 ID:7wynCQv1
 瑞希は呆然と明俊を見上げる。明俊も瑞希を見下ろし、
「僕はこの味好きだよ。うん。すごく美味しい。誤魔化しだなんて全然思わない。それに、瑞希さんが僕のため
 に作ってくれたんだから、残すなんて出来ないよ」
 そう言ってにっこりと微笑み、また落ちたおかずを摘む。
「駄目ーッ! 何でまた拾うんです!? 駄目って言ってるじゃないですか!」
 おかずを摘んだ腕にしがみつくように明俊を止める。瑞希はもう、訳が分からず、声を荒げる。
「あはは、こんな取り乱した瑞希さん、初めて見るなあ」
「なに言ってるんですか!? 取り乱すに決まってるじゃないですか!」
 呑気な調子で言う明俊に、瑞希は叫び返す。ホントに訳が分からない。彼は何を考えているのか。
「とにかく、そんなもの食べないで下さい。落ちてしまってますし、……出来損ないなんですから」
「やだ」
「あっ!」
 呟くように付け加えた瑞希の言葉に、明俊はむっとした調子で言うと、摘んだおかずをひょいっと口に放り込
んだ。ゴリゴリと、歯がむずむずするような不快な音を立てつつも、明俊は平然と咀嚼する。
「なんで!? なんで食べるんですか!!」
「だから、瑞希さんが作ってくれたお弁当だからだよ。美味しいし、出来損ないなんかじゃない」
「もう、美味しいのは分かりました! でも地面に落ちてるんですよ!? 食べないで下さい!」
「じゃあ、瑞希さん、また僕にお弁当作ってくれる?」
「え!? そ、それは…」
 口籠る瑞希に、明俊は、
「あ、あんな所に美味しそうなベーコン巻きが…」
「駄目ーッ! 分かりました! 作ります! 作りますから!」
 瑞希が明俊の胸ぐらを掴むような勢いで叫ぶ。そんな瑞希に明俊は満足そうに微笑みかけ、頬の涙を軽く拭う。

 * * * * *

「まあ、そんなわけでさ、父さんの仕事の関係で、ウチはちょっとした自給自足みたいになってるんだ」
「そうなんですか」
 明俊と瑞希は、未だ屋上で、二人仲良く並んで座り込んでいる。散らばった弁当を掃除し、屋上に来る時に明
俊が持ってきた弁当(明俊製。瑞希の食べかけ)を二人で食べ、屋上のちょっと奥まったところで壁にもたれて
のんびりと雑談している。
 すでに昼休みは過ぎ、午後の授業が始まっているが、まあ仕方が無い。このままサボってしまおう。クラスメ
イトへの言い訳が悩みの種だが、今はこうして瑞希とおしゃべりすることの方が大事だ。
「父さんの場合、仕事の関係といっても、趣味と仕事がほとんど同じような人だから、どこまで仕事でどこまで
 趣味か分からないけどね」
 明俊は自由奔放な父親を思い出して、苦笑いを浮かべる。
 明俊の父親は、植物学の権威で、今は南米におり、現地の大学で農業の支援と教育を行っている。その影響で、
明俊の家には植物を育てる畑があり、おまけに味噌や醤油を作る発酵蔵まである。そのため、ある程度の自給自
足は出来、少なくとも野菜はほとんど買わずに済むようになっている(さすがに冬は限界があるが)。
「なるほど。どうりで料理が美味しいはずです」
146-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:05:12 ID:7wynCQv1
 すっかり落ち着いた瑞希は、納得したように頷く。理論と実践に基づいた野菜造りだ。美味しく出来ないはず
が無い。
「明俊君が生物の成績が良いのも、お父様の影響ですか?」
「うん。小さい時から、山に連れて行ってもらったり、研究室で顕微鏡覗かせてもらったりしてたから、自然と
 興味持ってね」
 明俊が少し照れくさそうに頭の後ろを掻く。
「そうだったんですか。私の父も趣味で植物を育てているんです。プランターにハーブや簡単な野菜を育ててい
 るくらいですが」
「へえ、そうなんだ? あ、もしかしてハンバーグのソースに使ってたバジルって…」
「あれに気付いたんですね? あのバジルは父のプランターから拝借しました」
「すごくいい香りだったよ。お父さんにご馳走様でしたって言っておいて」
「父に、お弁当に使うって言った時は、喜んで分けてくれたのに、恋人のお弁当ですと言ったら、すごく慌てて
 いました。今度家に連れて来いと言っていたので、その時に直接お礼言って下さい。たぶん、父もその方が喜
 ぶと思います」
 嬉しそうに言う瑞希に、明俊は若干戸惑う。
「お、お父さん、慌ててたんだ…?」
「ええ、朝なのに大声を上げて、絶対に今度連れて来いと言ってました」
「へ、へえ…そぉなんだ…」
 なんとなく、あまり歓迎されていないような予感を感じ、明俊は背筋が冷たくなる。
「…明俊君」
「なに?」
 瑞希は姿勢を正すようにして明俊の方へ向き直り、
「明日は、もっと美味しいお弁当作ってきます。……だから、楽しみにしていて下さい」
 真直ぐ見つめる瑞希に、明俊は微笑みを返す。
「うん。ありがとう。楽しみにしてる。……あ、そうだ」
「なんですか?」
「瑞希さん、僕の家の野菜持って行ってさ、それでお弁当作ってよ。瑞希さんの料理の腕なら、きっとすごく美
 味しく出来るよ」
「いいんですか?」
「うん。ただで作ってもらうのも気が引けるし」
「そんなの気にしないで下さい。でも、ありがたく頂きます。本当は自分で一から作りたい所なんですが…」
 残念そうに顔を伏せる瑞希に、明俊はちょっと考えてから、口を開く。
「今ある野菜って、全部僕が作ったんだ。ほら、父さんも母さんも去年からいないしさ。だからね、材料は僕が
 作って、それを瑞希さんが料理して…。なんていうか、共同作業みたいというか。こういうのも良いと思うん
 だけど、瑞希さんは、どうかな?」
「共同作業、ですか?」
 きょとんとこちらを見上げる瑞希に、明俊がちょっと照れくさそうに答える。
「そう、共同作業」
「……良いですね、それ。すごく良いです」
 瑞希は、共同作業、共同作業と繰り返し一人ごち、くすくすと微笑む。
147-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:06:17 ID:7wynCQv1
「また一つ、明俊君との共同作業が増えましたね?」
「またって?」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
 こちらを覗き込むようにして首を傾げ、床に手を着いて、そのままついっと顔を上げ、柔らかく唇を重ねる。
 明俊は思わず、うっと仰け反り、後頭部を軽く壁にぶつけてしまう。
「キ、キスのこと?」
「そうです。そして、その後の行為も、です」
 瑞希は猫のようにするりと、あぐらをかいた明俊の太ももの上に横座りになり、首に腕を回す。
「ちょ、ちょっと待って! 駄目だからね? ここ学校だからね?」
 明俊は焦ってあぐらを崩し、逃げるように立ち上がろうとするが、
「大丈夫ですよ。屋上なんて誰も来ません。それに今、授業中ですから」
 と、のしかかられてしまう。
「ストップ! ストーーップ! ダメ! 絶対!」
 まるで何かの標語のように、明俊が待ったをかける。のしかかった瑞希はまるで鉛のように動かない。普段は
羽のように軽いのに、なんでこんな時は重いのか。ひょっとして自重を自由に変える能力でももっているのか?
明俊は混乱の余り、あり得ない事に思考を巡らせてしまう。
「では、明俊君の家で、ですね?」
「あ、う…」
「今朝、約束しましたよね? たくさん、気持ちよくなりましょうって」
「う、うん…」
 仕方なく頷く明俊に、瑞希がいたずらっぽい微笑みを向ける。
「ああ、放課後が楽しみです。今から腰が疼いちゃいます」
「は、ははは…」
 うっとりとした表情で言う瑞希に参りつつも、いつもの調子に戻った瑞希に安心する明俊であった。

 * * * * *

 明俊の部屋で、絡み合う影が二つ。
「明俊君、私もう…」
 はあはあと荒い息をついて、瑞希がうるんだ瞳で懇願する。その手は明俊の腰に伸び、雄々しくいきりたった
股間のそれを愛おしそうに撫でている。
「う、うん…」
 明俊は股間の刺激に若干腰を引きつつ、舌で愛撫していた瑞希の胸から顔を離す。
「ちょっと待ってね」
 そう言ってベッドを降り、薄暗い部屋で机の引き出しを探る。そんな明俊を瑞希が赤く上気した顔で見つめる。
明俊はゴムを装着し、瑞希に覆いかぶさる。
「久しぶりなんですから、今日はナカに注いで欲しいです…」
 瑞希が熱に浮かれた顔で、肉棒をぴたりと覆っているゴムに手を伸ばし、引き剥がそうとする。
「駄目だよ。ちゃんと付けないと…」
「最初の頃は付けてなかったじゃないですか」
148-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:07:27 ID:7wynCQv1
「それはそうだけど…」
 瑞希はまだ、初潮を迎えていない。普通よりも少し遅れているが、17、8歳で初潮が来る女性は、それほど珍し
くないらしい。それゆえに、最初の頃はゴムを付けずにしていたが、いつ初潮が始まるか分からないので、最近
はきちんとゴムを付けるようにしている。瑞希は不満がっているが、こればかりは仕方ない。
 明俊は、未練がましく爪でかりかりとゴムを引っ掻いている瑞希の乳首に吸い付き、瑞希の意識をゴムから引
き剥がす。
「はっ、あ!」
 さらに、ぐしょぐしょに濡れそぼっている秘所に指を這わせて、ゆるゆると刺激する。
「あ、んあ…ゃあ…。明俊君、早く…!」
「ん? なに?」
「はあっ! だめ! くわえながらしゃべるのだめっ!」
 乳首を甘噛みされつつ返事をされる刺激に、瑞希の小さな身体がベッドの上で跳ねる。
 明俊は胸への攻めを続けながら、中指を秘裂にゆっくり挿入して行く。
「あぁ…、ゆび、あ、あっ!」
 入り口を小刻みに擦るように指を動かし、徐々に奥まで挿れていく。
「ん、あ、ああっ! きもちいい! それ、それいいです!」
 瑞希の腰がはしたなくベッドから浮き上がり、じゅぶじゅぶと音を立てて掻き出される愛液が、お尻を伝って
シーツに落ちる。
 明俊は乳首からヘソ、脇腹へと舌を滑らせつつ、秘所に挿れた中指を折り曲げて天井を擦る。
「ここ擦られるの、瑞希さん好きだよね?」
「そこ、そこすき! すきです! きもちいッ! あーッ! んぁあ!」
 瑞希はがくがくと頷きながら、身体をくねらせ快感に耐える。華奢な身体がベッドで跳ね、だ液でぬるぬるに
された乳首が、薄い盛り上がりの頂上でふるふると震え、艶やかな黒髪が白いシーツに乱れて広がる。
「だめ! だめ! イッちゃう! イッちゃいます! や! いやぁッ!」
 急速に登り詰めていき、瑞希は首を振って快感に耐える。
「いいよ。瑞希さんイッちゃって」
「いやあ! あきとしくんのほしいッ! おねがいいれてくださいはやくもうイッちゃう!」
 瑞希の目が完全に情欲に染まっている。口の端から涎を垂らしながら懇願する瑞希に、明俊の腰が震える。
「イッ……ひぁ…あ…」
 絶頂の寸前で明俊の手が止まる。瑞希の透けるように白い身体が赤く上気し、痙攣したかのようにぴくぴく震
える。
「あ、あきとしくんはやく、おねがいです、もうだめくるっちゃいます」
 瑞希が震える手で明俊の腰のものをさする。息も絶え絶えで、胸が大きく上下する。
「でも、ゴム付きだよ?」
「いいです! ゴム付きでもいいですからあ!」
「指でも気持ちいいんでしょ? こことかさ」
 意地悪く言って、挿れたままの中指で膣内をこねまわす。
「やッ! あああ!」
 突然の刺激に、瑞希の膣内からさらさらした液体が断続的に飛び散り、明俊の腕を濡らす。
「い、いじわる! いじわるですっ!」
149-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:09:00 ID:7wynCQv1
 本当ならば起き上がって明俊を押し倒し、騎乗位で挿れてしまいたいのだろう。瑞希は両手をついて起き上が
ろうとしてるが、腰が抜けているのが上手く起きあがれないでいる。支えている両肘がかたかた震えている。
「ホントに、おねがいですから、いれて…っ! いれてください…」
 さすがに、これ以上は明俊も限界だった。可愛らしい瑞希が卑猥に乱れる姿を見ているだけで出てしまいそう
だった。
「…入れるよ」
「あ、あああッ…!!」
 待ちかねた挿入に瑞希はそれだけで軽く達してしまう。かたかたと震え、大きく仰け反り、白い喉を無防備に
晒す。喉から胸元のラインが、薄暗い部屋に艶かしく白く浮かび上がり、明俊の興奮を盛り上げる。
「明俊君…。んぅ、ちゅ、は、んぅ…」
 仰向けになった瑞希に覆いかぶさってキス。唇をねぶりながらも、明俊は腰の動きは止めない。
「はあ、あ、んぁ…。あきとしくんきもちいいです…。んう、はッ…」
 明俊に組み敷かれながらも、瑞希は下から応戦する。明俊の首に手を回し引き寄せ、口内に舌を入れる。
「んッ、はぅ、あ、うんッ」
 明俊は瑞希の背中に手を回し、そのまま持ち上げるようにして体位を変える。
「ああッ…! いいです、これすき…。はあッ! ん! あッ! ああーッ!」
 対面座位の形となって、瑞希が愉悦の声を上げて腰をくねらせる。奥を突かれて、また軽い絶頂に達する。
「すごいです! さっきから、何回も! あッ! やあ! また、きちゃう! ああああッ!」
 ぎゅうぎゅうと熱い襞が痙攣を起こしたように締め付け、膣内で精液を子宮へ誘う動きが始まる。
「あッ…、あッ…! 奥が、んあッ、あッ! あ、あたま! へんになりそ…です…ッ!」
 ぱちゅぱちゅと淫らな水音が部屋に響かせ、瑞希が激しく腰を振る。熱い肉棒が子宮口にぶつかり、腰の奥が
溶けそうになる。膣内から熱い粘性の液体がどばどばと溢れ、肉棒との摩擦をより滑らかにする。
 小刻みに軽い山を越え、瑞希の頭は肉欲一色に染まっている。眉根を寄せ、顔を真っ赤に染めてがくがくと腰
を明俊に打ち付ける。
「あーッ! あーッ! あーッ! あーッ!」
 人形のように華奢な身体一杯に快感を溜め込み、瑞希は爆発寸前の風船のような焦りと、その後の開放感を予
感させる大きな浮遊感を感じる。
「きもちい! きもちい! あ! ひぁ! あーッ!」
 結合部は粘度の高い愛液でぐちゃぐちゃと泡立ち、二人の腰がくっついたり離れたりする度に、何本もの糸を
引く。明俊もがちがちになった肉棒で、貫かんばかりに乱暴に瑞希の腰を引き寄せ、打ち付ける。
「あきとしくんきもちいーッ! おくいいよう! あーッ! きちゃう! あ、あ、あ、あ!」
 これまでにない大きな絶頂を予感し、瑞希が乱れに乱れる。明俊の身体にしがみつき、飛んで行きそうな感覚
に耐える。耐えて、耐えて、より大きな絶頂で飛び上がりたい。
 明俊もそろそろ限界だった。瑞希の襞々がみっちりと肉棒に絡み付き、ピストン運動の度に腰が抜けそうな快
感が亀頭部分から裏筋を通って陰嚢に痙攣を起こす。
「くるッ! きちゃうぅう…ッ! あ、あ、あーッ! んああ! はあッ! イ、イキそ! ああッ!」
「僕も…ッ 限界…! 出るッ」
「イキますッ! あ、ああ、あ…ッ! イ、ィクう…ッぁ、あッあああああーーッ!!」
 お互い力一杯抱き締めあい、身体を密着させて凄まじい絶頂感に耐える。
「あーーッ! あッ! んああああッ!」
 津波のように激しいエクスタシーに、瑞希は明俊の身体に爪を立ててしまう。そうでもしないと意識ごと身体
が弾けてしまいそうだった。
「あ…、ふ…」
 抱き締めたまま、瑞希はかたかたと震え、激しい絶頂感の余韻に浸る。
150-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:10:28 ID:7wynCQv1
 * * * * *

「瑞希さん、もう帰らないと…」
「もう1回だけしましょう? ね?」
「駄目だよ。もう6時回ってるし…」
「大丈夫ですよ。ね、あと1回」
 時刻は夕方の6時を過ぎ、家に連絡もせずに一人娘を預かっている明俊としては、あまり落ち着いていられな
い時間帯になってきた。
 あの後、二人でシャワーを浴び、そのまま浴室で触りっこ。ムラムラして我慢出来なくなった二人は、お互い
ろくに身体も拭かず、抱き合いながら明俊の部屋に戻って再び貪りあった。シャワーを浴びた意味が全くない。
「まだ平気ですよ。いっそのこと、今日は帰らないって連絡を…」
「駄目駄目駄目ーー!」
 言うが早いか、携帯電話を取り出して連絡を取ろうとする瑞希をすんでの所で阻止する。
「もう駄目! 今日はお終い! ほら、瑞希さんも服着ないと」
 いそいそと服を身につけ始める明俊を見て、瑞希も諦めたようだ。しぶしぶ淡いブルーの下着をつけ始める。
明俊は思わず目を逸らす。情事後というやつは、何故にこうも生々しく、恥ずかしいのか。赤面して瑞希に背を
向け、服を着終える。
「明俊君って、エッチの時と普段の時との差がありすぎですよ」
「わあっ!?」
 ぴたりと、突然背中から抱き締められ囁かれた声に、明俊は飛び上がりそうになる。いつの間に近寄っていた
のか。
「今日なんか、すごいいじわるで、なかなか挿れてくれなかったのに…」
「や、やめて! 思い出させないで!」
 己の所業を思い出して、顔面が沸騰する。
「お風呂場でも、わざと核心の部分には触らずに焦らして、私の悶える姿を見て喜んでましたよね?」
「よ、喜んでた、わけじゃ…。と、とりあえず服をちゃんと着ないと。ね?」
 パンツを穿いただけの格好で、どことなく、水気を含んだ口調で言う瑞希に、明俊は嫌な予感を覚える。
「思い出したら、余計欲しくなってきちゃいました。明俊君…」
 するりと伸ばされた瑞希の手が、明俊の股間をまさぐる。
「ちょ、もっ、だっ、みっ」
 ちょっと! もう! 駄目! 瑞希さん! と言ってるつもりで、明俊は瑞希の破廉恥行為を阻止する。明俊
は瑞希の手を掴んで、自分のお腹の前で固定する。
「今日は終わりだって! もう6時半になっちゃったよ。ほら、ね?」
「じゃあ、せめてキスだけでももう1回して下さい。そしたら諦めます」
「ちゃんと服着て、帰り支度して、玄関の所まで行ってからキスしようね? 家まで送って行くから」
 この場でキスしたら、絶対になし崩し的になだれ込もうと考えていることが容易に想像出来た。その証拠に、
わざとらしい、瑞希の舌打ちが聞こえる。
151-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:12:37 ID:7wynCQv1
「今、チッて言ったよね?」
「気のせいですよ。わかりました。残念ですが、今日は諦めます」
 後ろから回された腕の力が緩み、明俊はほっと一息付くが、
「楽しみは、明日に取っておきますね? これからは毎日、明俊君と愛し合えるんですから、焦る必要なんてあ
 りませんしね。明日もまた、たくさんしましょうね?」
 念を押すように言う瑞希に、ほっと付いた一息が、ため息に変わってしまった。

 * * * * *

「……」
 もう、なにこれ…。
 昼休み、登校途中に瑞希から受け取った弁当を開けた途端に、明俊は机に突っ伏しそうになった。またぞろ、
何か書き文字がしてあるだろうと思っていたが…。
 弁当のご飯部分には、“今日は3回希望”と鳥そぼろと桜でんぶで記されていた。ちなみに“3回”の部分は強
調するかのように桜でんぶになっている。文字が崩れてくれていればいいのに、瑞希の仕事に掛かれば、細かい
文字も型崩れを起こさずに、憎たらしいくらい鮮明に解読可能だ。
 こんな文字、周りにお披露目出来ない。どうやって食べれば良いのか。お椀を開けずに中身を食べるように言
われた子坊主の気分が良く分かった。しかも状況的にはトンチで切り抜けられる状態ではない。
 というか、何も弁当をメッセージ代わりにしなくてもいいではないか。絶対、僕を困らせたいだけでしょ!?
と、明俊は非難の視線を瑞希に向ける。瑞希は涼しげな表情で明俊の視線を受け止め、携帯をいじり出す。
 明俊の携帯が震え、瑞希からのメールを着信する。
“お弁当、交換しましょうか? 中身は同じですし。もっとも、交換したら私のお弁当にその文字が出てくるわ
けですが。明俊君がそれでもよければ、言って下さい”
 そんなこと、出来る訳がない。瑞希のお弁当に、そんな、“今日は〜回希望”なんて書いてあったら、まるで
僕が催促してるみたいじゃないか…。
 どっちに転んでも、自分の不利益に繋がる事態に、明俊はがっくりとうなだれる。とりあえず、「希望回数に
関しましては、前向きに検討しますので、お願いだからお弁当をメッセージ代わりにしないで…」と返すのが精
一杯だった。

終わり
152-同級生型敬語系素直クール-:2007/05/20(日) 04:13:33 ID:7wynCQv1
以上です。
なんかエロいことしか考えていないバカップルですが、楽しんでいただけたら幸いです。

読んでくれた方、ありがとうございました。
153名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 04:19:30 ID:Yv8lkACb
エロ杉GJ

明俊凄すぎwww一人暮らしで自家栽培で調味料も作るとかwww
154名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 05:18:56 ID:gaj51F+W
ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ( ´口`)
神神神神神GJGJGJGJGJ!!!!
あんたどんだけ天才!?神なんてレベル超えてるぞ!!
超絶クオリティーに脱帽
155名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 11:00:09 ID:xcgvqwUa
テラGJ!

相変わらずのラブエロぶりにハァハァが止まらねーっすよ
156名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 11:35:39 ID:0645trxV
>>152
読んでて悶え転げそうになった!

GJ!!
157名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 11:43:13 ID:tRaTivqz
GJ!
エロさにもハァハァしたし、あと弁当の表現が食欲をそそったww
158名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 14:40:08 ID:zg7aCf77
ワロタwwwwこれだけの作品ならGJといわざるを得ない
159名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 15:27:54 ID:w6CEFaZl
ラヴラヴ性活たまらないね
GJ!
160名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 20:38:37 ID:5W0zOqPo
161名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 20:52:56 ID:5W0zOqPo
162名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 21:01:53 ID:RcBxyhhy
>>152
GJ!
瑞希さん凄すぎwww
163名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 21:36:27 ID:Ple+IFtn
GJ!!!!
続き希望します
164名無しさん@ピンキー:2007/05/20(日) 23:44:48 ID:GHT70vp3
165名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 00:22:50 ID:YldcvTaB
もはやGJとしか言いようがない。
166名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 02:54:21 ID:84P4AogG
>>152
明俊のスキルに脱帽した。GJ!
167名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 01:17:07 ID:9BmBrsgF
保守
168名無しさん@ピンキー:2007/05/23(水) 10:31:35 ID:2rL5cKzy
ここって、こんなに住民多かったんだ……。
169名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 07:53:53 ID:fWHPzC69
出勤前に投下

「ハンサムな彼女」
170ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 07:54:40 ID:fWHPzC69
 曲がり角を曲がると、そこにはラブレターがあった。
 正しく言うと、後輩の中でも清楚な雰囲気で特に人気がある一年女子によって差し出されたそれだ。
 俺は一切手を差し出さなかった。
 ぴくりとも指を動かさず、目線すら数秒でその手紙からそらした。
 冷たい野郎だと思う奴もいるだろう。
 ことに俺が告白された回数ゼロ、バレンタインは毎年義理チョコが2〜3個のみというていたらくの男とわかればなおさらだ。
 だが、ちょっと待って欲しい。宛先をみてほしい……と言いたいところだが文章なので俺が続ける。
 宛先は、大島慧である。俺は佐藤康一だからして、人違いである。
 俺は、こういうことを涙枯れるまで経験したので、学習したのだ。
 ゆっくりと振り返って、後に控える女、大島慧にアイコンタクトをかました。
 大島慧は、凛々しい女である。
 ややつり目がちな目はあくまでも涼しく綺麗であり、顔は中性的で、人形のように整っている。
 身長は俺の170cmを越えて、そのほっそりした身体には無駄な贅肉は胸以外にはない。
 もっとその胸も贅肉というには、魅力的すぎるだろう。俺には直視できない。
 背筋を伸ばして行う立ち居振る舞いは、気品と凛々しさに満ちあふれている。
 彼女は俺の視線を受けて、何か? という表情をした。その表情すら美しく侵しがたいものがある。
「慧、かわいい後輩が慧に用事。重要かつ至急、そして部外秘で」
 感情を込めずにそれだけを言うと、俺は彼女に道をゆずり、その場から去ろうとした。
 ハスキーでセクシーだが今はちょっぴり必死な慧の声が俺にかかる
「康一、待ってくれないか」
「待たない。これは慧の問題で、俺は邪魔者。オーケイ?」
 俺はこの一年女子の必死かつ思い詰めた顔を見たくはなかった。
 この女子のことをちょっとだけいいなと思っていたからだ。
「頼む」
 慧は実力行使にでた。俺の学生服の裾をがっしりと掴んだのである。
「……いいから告白を受けてやれよ」
 ため息をつきたくなる一瞬である。こういう事を俺達は中学校の頃から繰り返してきた。
171ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 07:56:07 ID:fWHPzC69
「私にその趣味はない」
「趣味でなく真剣なおつきあいを望んでいると思うよ……いでぇ!!」
 俺の脛に強烈な衝撃が走る。慧の足がすねに見事にヒットしていた。
「……あのぅ、大島先輩……」
 どつき漫才の上演時間が終了し、慧はごまかしきれなくなって、後輩に向き直った。
 その注意が逸れた瞬間、俺は学生服を思いっきり引っ張って慧の手から逃れて駆け出す。
 慧がなにか叫んだが、俺は構わず走った。
 別にあの下級生に惚れていた訳じゃない。
 だけど慧といたことで、この世の不条理を山ほど味わってきたのだ。
 ……俺の好みの女ほど、慧にベタ惚れして、そして俺の前で慧に告白する。そして俺は見たくもないそれにつきあわされてきた。
 何回も何回も告白する女だけ変えて繰り返されてきたその光景に、俺はうんざりしていた。
 だけど、慧は女同士つるむのを嫌い、男の俺と行動を共にすることを好んだ。
 慧は女に告白される女であったけど、親友は極めて少なかった。慧が言うには、女同士は大変、なのだそうだ。
 中学時代には同級生の嫌がらせを受けたことも原因の一つだろう。
 仲が良かったよしみで、慧と俺は親友になり、俺はこの世の不思議を間近でみることとなった。。
 ひょろ高い冴えない女が、いつしか凛々しく美しい麗人となり、真っ平らだった胸が正視できない魅力的なものになった。
 俺は、……冴えないの普通の男のままだった。
 並んで歩いて、ふとショーウィンドを見れば、驚くほどの凜とした美人と、一山十円の男が並んで歩いているのに気がつく。
 だから親友以上に踏み込む気は起きなかった。友情を壊したくなかったのもある。慧は性格も良かったからである。
 変な隠し事をせず、人を影で笑わず、理不尽なヒステリーを起こさず、クールで、勉強も運動も出来た
 そういうわけで、最近俺はいっそ慧が女の告白を受けても良いと思うようになってきた。
 彼女が同性愛者になれば、俺も無駄に心を騒がせずにすむからだ。
 要するに俺は楽になりたかったのだ。
172ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 07:57:01 ID:fWHPzC69
 一時間目の休みに、慧は少し怒った顔でやってきた。というか授業中から恨めしそうに俺を睨んでいたのだが。
「康一、酷いじゃないか。 なぜ助けてくれない!」
「あのな、恋愛沙汰で、しかも同性愛で俺になにかできると思うのか! 
 もてない俺より、お茶会のおねーさま方に相談したほうがましだろ」
「お茶会はだめだ! そんな話題をだしたら、怖いことになる」
 そういうと慧は、わずかに顔を青ざめさせた。
 お茶会とは、単純に言えば慧を愛する女の集まりである。
 ファンクラブと言いたいところであるが、慧にとっては嫌なものであるらしい。
 まあ、微妙なところまで触られて、キスまでされそうになったらしいから仕方がないかも知れない。
「とにかく、今後、学校ではずっと私といっしょにいろ」
「おいおい。恋人同士でもないのに、誤解されるぞ」
「誤解されても……というか、……ふむ、その手があったな」
「却下。学校中の女に恨まれるなんてごめん……、おい、恋人が来たぞ」
 慧は最近、この手の俺達がつきあうネタを多用するようになった。
 もちろん釣り合わない二人では冗談にしかならないので、彼女のネタはいつも空しく外れる。が、本人はいっこうに気にしなかった。
「せんぱーい! ……あの、顔を見に来ただけなんですけど、忙しかったですかぁ?」
 それは朝の1年女子だった。慧に見せる媚びた表情の後で俺に向ける目が厳しい。
 対照的に、慧は少し腰が引けていた。困ったような顔もしている。
「水上……、その先輩後輩としてだな」
「はい。わかってます。ですから順を踏んで先輩とお近づきになるんです」
 その可愛いこと言う後輩は、わざわざに俺と慧の間に割って入ってきて、俺に背を向ける。
 意図は簡単。邪魔者よ、去れという奴だ。
 俺は、静かにため息をついて、立ち上がって慧達から離れた。
 そして無責任なエールを内心で送ってみたりする。ま、がんばれ。慧を押し倒してもいいぞと。
173ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 07:58:04 ID:fWHPzC69
 それから数日がたった。
 図書館でふと手に取った本が予想外に面白く、半分まで読み進めたところで閉門時間になった。
 続巻と同じ作者の既刊本を漁って、吟味して五冊に絞り貸し出し手続きを済ませると、教室に戻った。
 何も考えずに教室の扉を開けると、二人の女が重なり合ってキスをしていた。
 あの一年女子と、慧だった。上になっていたのが一年女子で、慧が机に背を預けている。
 驚愕と何とも言えない苦々しさ、そしてどうしようもない居心地の悪さが俺を襲った。
 二人の目が俺を見て、一年女子が薄く勝ち誇ったような笑みを浮かべ、……慧はただ驚いた顔をしていた。
「……ごめん、邪魔をした」
 自分でも最速と思われるスピードで机から鞄を取ると。俺は駆けだした。
 何かに追われるように、憑かれたように家まで走りきって、玄関に飛び込み、自室に駆け上がってベッドに潜り込んだ。
 布団の中で服を脱ぎ、鞄も学生服もカッターシャツも放り出すと、うつぶせになって顔に強く枕を押しつける。
「忘れろ……忘れろ……忘れろ……。女同士なんだから、……もう俺には関係ない……」
 頭を抱えこんで、頭の奥に浮かんでくる慧の姿をひたすらたたき壊し、消してまわった。
 呪文のように忘れろ、俺には関係ないと繰り返すと、心のどこかがちくちく痛みながら、冷風が駆け抜けた。
 腹の奥底が冷えていくのを自覚して、それがどこか心地よくて、俺は暑苦しいなにかをため息にして押し出す。
「はは、なに勝手に動揺してるんだよ、俺は。慧が誰とキスしようが関係ないじゃないか。……馬鹿だな、俺は」
 時間が経ってくると俺を駆り立てていた何かが、ふっと抜け落ちた。
 体中の力が抜けて、うつぶせが苦しくなって仰向けになる。
「……おめでとう、慧。女同士でも……お幸せに」
「……誤解だ」
 誰にも聞かれないはずの独り言に、思わぬ返事が返ってきて、俺は驚いて入り口を振り返った。
 なぜか、そこに慧がいた。
「なっ! なんでここに!」
「康一、誤解なんだ。……油断して襲われたんだ」
 慧は俺の問いに答えず、誤解なんだと繰り返した。
 その言葉をつむぐ彼女に、普段彼女が目に漂わせているクールさは跡形もなかった。
 ただ、傷ついたような不安気な色ばかり浮かんでいた。
「……そうか。でも……女同士のことだから、俺には関係ないよ」
 自分で吐いたその言葉がさらに俺の心をさらに冷やした。
 何か大事なものがどうしようもなく冷えていくのを感じながら、俺はそれをどこか喜んでいた。
174ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 07:59:18 ID:fWHPzC69
「それに慧の事を俺はとやかくいわないよ。……俺に言い訳しなくても、俺は何も言わないから。慧の意志を尊重するから。
 あ、心配しなくても誰にも何も言わないから。秘密は守るよ。慧には色々世話になったからさ、それくらいは……」
「関係なくない! どうして……どうして康一はそんなこと言うんだ」
 気がつくと、入り口で立ちつくした慧の目から滴が滴っていた。
「ファーストキスは、康一にって思っていたのに」
「え?」
 慧はふらふらと部屋に入り、ベッドの前にぺたんと座った。
「私、女なんて好きじゃない。レズビアンじゃない! 私は、康一が好きなんだから。普通なんだ。正常なんだから
 どうして、どうして外見で勝手にレズにするんだ! どうしてわかってくれないんだ!」
「……慧」
「康一のせいだ。私をレズだって勝手に決めつけて、手を出さなかったから、汚されてしまった」
「……ちょっと待て。なんで俺のせい?」
 泣いていた慧が、どうしてか妙な雰囲気を漂わせながら、ベッドににじり寄ってくる。
 俺はなにか別の種類の涼しさを味わいはじめていた。
「うるさい! だいたい、私がキスを奪われて大変なときにどうして逃げるんだ。どうして助けてくれなかった!」
「……無理言うなよ。お互い合意だと思ったから……」
「どうしてあの女を蹴り飛ばして、その場で私を全部奪わないんだ!」
「……おい、全部って」
「康一が悪い。責任とれ」
 いつしか慧がベッドに上り、至近距離に近づいていた。
「……責任って、どうするんだよ……」
 慧が可愛く小首をかしげて数秒、そしてとんでもない回答をだす。
「あの女に舐められたところを、康一がキスして清めてくれ」
「……なんだって?」
「触られたところも気持ち悪いから、キスするんだぞ」
「……慧、おまえ、自分が言っている意味わかってる?」  
「やってくれないと、康一に犯されたって言いふらす。どうせ汚されてしまったし、どうせなら康一に汚された方が良いんだ」
 そして何か良いことを思いついたようにぽんと手を打った。
「これって良い考えだな。康一に穴という穴を犯されたって、あの馬鹿女に電話すれば、あいつもあきらめる。
 それに既成事実にもなるし、……これで公認カップルにもなるじゃないか。うん、そうしよう」
 ごそごそと携帯電話を取り出そうとした慧の手を、俺はとっさに掴み必死で押しとどめた。
「……慧さん、俺を強姦で退学にするつもりですか?」
 慧の目を見て俺はぞっとした。彼女の目がまぎれもなく本気だったからだ。
175ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:01:41 ID:fWHPzC69
「じゃあ、清めのキス」
 慧は目をつぶると、くいとかすかに顔を上げ、唇をかすかに突き出した
「えーと……」
「後三秒待たせたら電話する」
 俺は混乱しながら慧に唇を重ねた。
 濡れた柔らかいそれをついばみ、舌でなぞる。それを上と下で行うと息が苦しくなった。
 唇の思いかけない柔らかな感触は、呼吸すら忘れさせたからだった。
 唇を離して大きく息をついていると、慧が不満そうな顔をした。
「なぜ舌を入れないのだ! あの女は舌まで入れてきたのだぞ」
「……あのなぁ」
「ちゃんと舌を入れて……もういい」
 そういうと慧は俺の足をまたいで、その上に腰を降ろした。
 そして俺の頭を抱いて唇を押しつけ、舌を入れた。
 ぬめった舌が俺の口の中をはい回って、舌にからみついた。わき出した俺の唾液を慧は躊躇無くすする。
 たまらなくなって舌を慧の口に入れると、慧が待っていたように俺の舌をすすり、しごいて、唇で挟む。
 口の中の淫靡な刺激は、俺の股間を容易に直撃し、下着がテントを張っていた。
 そのテントにまたがっていた慧の股間が押しつけられ、微妙な快感がわき出してきていた。
 それだけではなく、下着一枚の俺の胸で、慧の二つの胸の膨らみが押しつぶされていた。
 それらを慧はまったく意に介さなかった。ただ俺の舌と口をむさぼることに専念しているかのようだった。
 長い間互いの口をむさぼりあって、俺の股間がたまらなくなってきたころ、ようやく慧の手が俺の頭から外れ、口が離れた。 
 少しだけ距離をとった慧の顔の中で、目がとろけている。
 色っぽいため息をついて、慧はうっとりと自分の唇を指でなぞった。 
「……私の馬鹿。こんなに良いなら、我慢するんじゃなかった」
「……慧、もういいか?」
 俺の呼びかけに慧はようやく俺に目を合わせ、そして激しくかぶりをふった。
「駄目。駄目だぞ! ここで止めては駄目だ!」
 そういうと慧はとんでもない勢いで制服を脱ぎ始め、上着があっという間に投げ捨てられる。
 ブラジャーに包まれた推定Dカップな胸がはずんだとおもったら、そのブラジャーも宙を飛んで上着の上に落ちた。
176ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:03:17 ID:fWHPzC69
「む、胸も触られたんだからな」
 そういうと俺の顔が引き寄せられ慧の胸に埋まった。
 気が狂いそうな温かさと柔らかさに、俺は夢中で胸の頂を吸って反対側の胸を掴む。
「……ふふっ、そんなに一生懸命吸って。……康一は赤ちゃんだな?」 
「……慧がキスしろって言ったんだろぉ」
 さすがに恥ずかしくなったが乳房から離れる気分にならず、乳房に顔を埋めて反論した。
「康一は胸が……おっぱいが好きか?」
「……うるさい、大好きだ。おっぱいのためなら死ねる」
 とろけるような柔らかさと弾力を顔全体でこねて味わいながら、反対側の乳首を探してくわえる
「……ふふ。そんなにがっつかなくても私の胸は逃げないぞ」
「……うるさいなぁ。もうこのおっぱいは俺のものだ」
 慧の胸を堪能していた俺は突然すごい力で抱きしめられた。
「うん、全部康一のものだ。……あ、でも私以外のおっぱいにはついていったら駄目だからな」
 返事の代わりに反対側の乳首をつまんでねじり、口に含んだ乳首を舌で転がした
 頭を抱きしめる手がびくびくと震え、慧の息が荒くなった。
 夢中になって左右の乳首と乳房をこね、つまみ、しゃぶって転がしているうちに、慧の口数が減り、荒い息だけになっていた。
 そして俺も限界に来ていた。
 おそるおそる手を下半身に滑らせ、スカートの中に差し入れると、慧が体を震わせて離した。
「……う、ス、スカート脱ぐから……」
 真っ赤な顔で慧がスカートに手を掛ける。
 そしてスカートを脱いで上着のところに放り投げたとき、俺は慧を押し倒した。
 小さな悲鳴をあげる慧に構わず、慧のショーツに手を掛けはぎ取ると、俺も急いで下着を脱いで慧に覆い被さった。
「慧、いいよな?」
「待て! 待って!」
 最後までいくものだと思いこんで獣モードになった俺に、慧は無情の制止をかけた。
「待てって、なんでだよぉ」
「違うんだ。……その、……あの、……私も康一を……愛したい」
177ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:04:23 ID:fWHPzC69
 というわけで、俺の目の前に肉の花弁が鎮座し、その上には薄く色がついたすぼまりがひっそりとあった。
 それらの両側には白く豊かな尻肉がそびえ、俺の顔の両脇には、食べたくなるような柔らかな太股が投げ出されていた。
 俗に言う69の体位だった。
 はじめ、慧は……俺のを舐めるつもりだったらしい。けれど、なんというか、俺も慧がもっと欲しかった。
 私だけでやる。俺もやりたい。はずかしい。俺だって恥ずかしい。ケチ。男女平等。
 そんな馬鹿丸出しの会話をして、結局俺が慧の下半身にしがみついて、解決した。
 我ながら馬鹿だとは思うけど、柔肉に囲まれ尻を抱えているだけで幸せがこみ上げた。
 なので、意味もなく慧の秘所をぺろっと舐めてみる。
「ひゃぁん!」
 とたんに尻の向こうで慧が反り返った。 
「こ、康一ぃぃ。こ、この態勢は、ちょっとぉ……。やっぱり、私だけするのでは駄目か?」
「俺だけ大事なところを慧に見せて、慧が見せてくれないのはずるい。やだ。却下」
「むぅ、康一のいじわる! なんか気になって集中できない」
「俺にも慧のおまんこ見る権利がある!」
「わああ! 恥ずかしい事いうなぁ!」
 とたんに太股が俺の顔を絞め、病みつきになりそうな柔らかさが俺を包んだ。
「はぁはぁはぁ、……そんな事言うなら、私も……康一の、ち、ち、ちんぽをしゃぶりたおすからな……」
 至福の感触が去った後、とんでもないセリフが放たれて、どうしてか俺は赤面した。
「ごめん。すごく恥ずかしいから止めて下さい、慧さん」
「ふふん、思い知ったか。すけべ」
「ここまでやっていて、すけべって、……それなんか意味があるのか?」 
 なぜか得意げになる慧につっこみを入れるが、彼女はすでに笑顔で顔を下げていった。
 すぐに肉棒の先端を、生暖かいなんともいえないぬめった感触が覆った
 腰に走るしびれをこらえて、花弁に舌を這わせて、固くしこった固まりを舌で突き刺した。
 尻がぶるっと震えたが、肉棒への刺激は止むことなく続き、ぬめったものが幹にからみついていた。
 肉棒への刺激で跳ね上がりそうな腰を必死で我慢しつつ、花弁や突起、舌で舐め上げると滴りがとめどもなく湧く。
 そして舌で膣口を捉えると、思い切り舌を伸ばして突き入れた。
 くぐもったあえぎ声が尻の向こうから漏れる。
 無茶苦茶に舌を膣内で暴れさせてから引き抜いた。さすがに下半身の刺激が止んでいた。
 たぶんさらに刺激されていたら、出してしまっていただろう。
178ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:06:49 ID:fWHPzC69
 そして再び慧を押し倒して、股をわった。
「もう、止められないからな」
「止めたら怒る」
 濡れた瞳をいっさいそらさず慧はつぶやいた。凛々しいと感じていたその顔も今は可愛く愛おしい。
 肉棒を濡れそぼった潤みに押し当てる。
 二三度うまく入らなかったが、やがて包まれる感じがして、ゆっくりと腰を進めた。
 押し返すようなきつさの中をゆっくりと押し込んでいると、何かを押し破るかすかな感触があった。
 慧が体をびくりと跳ねさせたが、顔をしかめながらもうめき声一つ出さなかった。
「……慧、全部入った」
 根本まで入って、俺は放出しそうなのを必死でこらえていた。
「……うん」
 きつく目を閉じていた慧が、目を開ける。瞳が涙で潤んでいた。
 体重を掛けないように腕を突っ張って上体を起こしていた俺を、慧が首に腕をかけて引き寄せた。
 足に慧の足がからみつく。
「康一、これで私がレズじゃないこと、信じてくれるか?」
「……分かった。分かったから、動かないでくれ。動くと出てしまいそうだ」
 その言葉に慧は無言で目を光らせると、ゆっくりと腰を使いだした。
「慧! だから出てしまうって!」
 快感が押し寄せてきて勝手に腰が動き始める。
 中で出してしまいそうになり、腰を引こうとする。すると慧の足が腰にからみついた。
「やばいって、慧!」
「……康一、私は男の子が欲しい」
「うわぁぁ!」
 急に壁が肉棒を絞った。
 目の前が白くなり。肉棒の中を何かが急速にせり上がり、拍動した。
 放出感で目がくらんで、体の力が抜けた。
「はぁはぁはぁ、……中に……出して……しまった……」
「……私、中まで康一のものに……。やっと全部奪ってもらえた」
 慧が見たことのない様な幸せな顔で笑っていた。
「……ひょっとして、はじめから狙っていた?」
「朝のお返し。……それにもう逃がさないから」
 倒れ伏す俺を慧が愛しげな顔をして抱きしめた。
179ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:08:09 ID:fWHPzC69
 そしてまた日は昇り、翌朝。
「慧、つらそうだな?」
 今日の慧は、いつもと違った。
「……康一がまだ挟まっている感じがするんだ」
 慧は顔をこわばらせてゆっくりとしか歩まなかった。
 かわいそうなので慧の鞄を持ってやり、速度を合わせて歩く。
「……学校、休むか? 無理しない方が……」
「いやだ。康一と一緒にいたい」
 慧の言葉に、俺は顔面が火照るのを感じた。
 何も言えなくなって、俺は黙って慧の手を握って引いてやる。
 その華奢で意外に小さな手が俺の手を握り返した。
「せんぱーい! おはよーございまーす」
 そのバカップル空気を壊したのは、例の一年生の声だった。
 駆け寄ると俺達の間に割って入り、その体でつながれた手を押し切ろうとする。
 だが、慧は俺を引き寄せ、腕に抱きついた。
「水上、紹介しよう。私の恋人、佐藤康一だ」
「……はい?」
 一年生が目を点にして、聞き返した。
「聞いてくれ。昨日、私はついに康一と結ばれたんだ。それで、康一が……」
 そういうと慧はにこにこしながら後輩の表情を無視して惚気始めた。
 主語としてくどいほど俺の名前が呼ばれ、きいてた俺でさえうっとおしいと思うほどの惚気話だった。
 一年女子の顔が、だんだんとこわばり、青ざめはじめ、やがて泣き出しそうな顔に変わった。
「ストーップ! 慧、もういい加減にしておけって!」
「なぜだ? 私達のことをもっと知って欲しいのに!」
「……学校に遅れるからな、そのぐらいにしておけ」
「……康一がそういうなら、そうする。水上も一緒に来るか?」
 一年女子の頭が全力で横に振られる。そして挨拶もなく彼女は学校の方に去っていった。
「なんだ? 挨拶もせずに……」
「慧、人にはな、そっとしておく時も必要なんだよ」
「……ふむ。康一がそういうなら、そうなのだろう」
 バカップルの破壊力が、彼女のトラウマにならないことを俺は少しだけ祈った。
180ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:10:08 ID:fWHPzC69
 かくして、俺達はバカップルとして、学校で敬遠されることになった。
 唯一変わらなかったのは、慧のファンクラブ、お茶会のお姉さん達だった。
「で、やはり康一は裏筋が弱くて、二三回出した後でも、そこを優しく舐めると、また準備オッケーになるわけだ」
「……佐藤って、見かけによらず精力絶倫だね」
「やっぱり慧を愛しているんだねぇ」
「慧のバストって反則じゃない。それに技と愛が加われば無敵よねぇ」
 慧とお茶会に来ているお姉さん達が、はぁぁとピンク色の吐息をもらした。
 体をもじもじとくねらせたり、頬を染めたりしている。
 慧と結ばれた後しばらくして、俺はなぜかお茶会に呼ばれた。
 そこで行われたのは、……こんな公開羞恥プレイだった。
 上質なはずの出された紅茶も、今はまったく味が分からない。
「慧、あなたは何をしてるんデスカ?」
 慧の口がようやく止まったのを見て、俺は顔を引きつらせながら尋ねた。
「いや、私達のことを聞きたいと言うから教えたのだが。いけなかっただろうか?」
 俺は目の前のテーブルにがっくりとつっぷした。おまけに……
「佐藤先輩! 私、佐藤先輩を誤解してました。
 佐藤先輩が、大島先輩をこんなに幸せに出来る人だったなんて。
 ……私、佐藤先輩も好きになってしまいそうです!」
 なぜかお茶会にはあの一年女子が加わっていた。
 さらにあろうことか、彼女は俺になにか瞳をきらめかせていた。
「水上……、康一は私のものだ」
 すこし恐い顔をして慧が宣言したが、一年女子はまったく意に介さなかった。
「大島先輩、もちろんです。私は今でも大島先輩が好きです。大好きです!」
 慧が顔を引きつらせて、少したじろぐ。
「すまない、水上。私は康一だけのものなんだ」
「はい。でも私、大島先輩だけでなく佐藤先輩も好きになってしまいました」
「……水上ぃ、それは佐藤や慧と混ざって、3Pしたいってこと?」
 にやにやしながら美人の3年生が茶々を入れる。だが……
「……好きな人達に挟まれて愛されると幸せかなって……」
 一年女子は、頬を染め、自らの体を抱いてくねった。
「……やだぁ! 3Pよ、3P!」
「だいったーん!」
「佐藤、始まったじゃない!」
「康一は、私だけのだ。駄目だ! だめだぞ!」
「佐藤先輩! お願いです! みんなで幸せになりましょう!」
 お茶会は、一気に黄色い声で沸き返った。
 慧が俺に抱きついて防御しているところに、一年女子が俺達にまとめてしがみつく。
「行けぇー、押し倒せぇ!」
 三人がバランスを崩して床に倒れ込むと、騒ぎは一層酷くなった。
 そしてこの騒ぎの中で俺はしみじみと感じた。
「……お茶会って、……いや女って恐いよな」
「そうだろそうだろ。康一も私の気持ちをやっとわかってくれたな。……これで私達の絆がまた一つ増えた」
 もみくちゃにされながらも、慧はなぜか満足そうに笑い、そして唇が重ねられた。
 周囲の騒ぎが最高潮に達したが、もう俺達の気にならなくなった。 
181ハンサムな彼女:2007/05/24(木) 08:12:42 ID:fWHPzC69
ということで、終了です。
182名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 08:44:18 ID:FhcS70lo
グジョーブ!
新しいタイプの話だな
183名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 11:27:30 ID:HdxLphBr
>>181
GJ!
おっぱいのためなら死ねる発言に漢を感じたのは俺だけじゃないはず
184名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 11:57:50 ID:jHBnwvmX
>>181
康一康一言われると広瀬康一が出てくる仙台人JOJO読者の俺イズヒア。
GJ!
素直クールはまだまだ進化の余地がありそうだ。
185名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 15:44:52 ID:WbfCCbU0
これは良い
186名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 18:45:09 ID:gYnI6o+w
GJ! 続編もカモン!
187名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 20:17:22 ID:nXjmikiG
素直クールは正義です
188名無しさん@ピンキー:2007/05/24(木) 20:54:16 ID:B4v39Wn+
GJ! 話の流れが上手い
>「……康一、私は男の子が欲しい」
がいかにも素直クールらしい孕ませ要求セリフですばらしかった
公開羞恥プレイも素直クールものの醍醐味
とても良かったです
189名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 04:07:23 ID:x1ThHaHH
なにこのクオリティ!?GJ!いや神GJ!

恥ずかしがる素直クールもこれまた乙ですな。
190名無しさん@ピンキー:2007/05/25(金) 16:13:03 ID:4BugM/77
時代はまさに素直クールですな!
191ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 13:52:11 ID:aQ09fypy
GJありがとうございました。
続編希望ありましたのでまもなく投下します。
192名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 16:37:10 ID:7IMuMfHx
早く!早くゥ!
193ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:19:15 ID:aQ09fypy
「うーむ、不思議だ」
 昼休み、学食でA定食を食べながら慧は、俺の顔をじっと見つめてうなる。
 慧の綺麗な瞳から伸びる視線が俺の顔と心を灼いた。
 じりじりと立ち上る照れと恥ずかしさに、俺の冷却装置は全開となる。
 といっても、脂汗が額と手のひらに浮いただけなのだが。
「実に不思議だ。……なぜ康一の魅力に皆は気付かないのだろうか?」
 真顔で投げ出された不意打ちののろけは、俺の心をしこたま打ちのめした。
 茶を吹き出して、盛大にむせる。後から後から咳が出てきてしばらく止まることが無かった。
 大丈夫かと乗り出す慧を制して、深呼吸をし、のどの違和感を吐き出すようにしてようやく収まる。
「……慧、いったい何を突然言い出すんだ?」
「決まっている。康一はこんなに素晴らしいのに、どうして皆は平気なのだろうかと思ったのだ。
 茶を吹き出して驚くほどのことか?」
 光の速さが不変であることを語る学者のように、慧は表情をまったく変えず落ち着いた目で言い切った。
 恐ろしいことにどうやら慧にとっては確定事項であるらしい。
 茶を吹いた俺に注意を向けた周囲が、慧の発言を聞いて、げんなりした顔をしていた。
 バカップル、駄目駄目、処置無し、幸せだねぇなどとの小声が聞こえる。
「慧、目を見せてくれ」
 かすかな疑問をにじませつつ、慧は俺の目を見据える。
 深い黒瞳とまっしろな目、涼やかな目元、そして長く美しいまつげ。
 後ろで舌打ちが聞こえて、現実に引き戻された。見つめ合ってしまったらしい。
「目がどうかしたか?」
「ああ。慧の目にハート型でピンク色のコンタクトレンズがはまっているなって」
「? 私は裸眼で1.5あるぞ。コンタクトなんかしていない」
「わかっている。そのコンタクトは着用者の視力を落として、ソフトフォーカスをかけるんだ、きっと」
「よくわからない」
「周囲のみなさんにはわかっていただけたことと思う。問題ない」
 周囲がうんうんと頷いているのをみて、慧は不思議そうに小首をかしげる。
「そうか。よくわからないが康一に見つめられて幸せだから、良いような気がする」
「そうだ。良いんだよ」
「そうか、良いんだな。うれしいぞ。康一とこうも心が通じ合って、私はうれしい」
 周囲が疲れた顔をして、食事に戻り、慧は楽しげに食事を再開した。
194ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:20:32 ID:aQ09fypy
「それにしても、康一が告白を受けたり、ラブレターをもらったりしないのは不思議だ。
 ……怒らないから、正直に話せ」
「無い。金輪際、まったくもって、きれいさっぱり、無い。……いや一度だけあるか……」
「おお! 相手は誰だ?」
 興味津々に乗り出す慧自身を、俺は箸で指し示してやった。
「俺の大好きな大島慧だ」
 慧はすとんと席に座り、無表情に食事に戻った。
 だが、持っている箸がかすかに震え、ご飯をぽろぽろとこぼし、豆をつかみ損ねるようになった。
「くぅ、康一が変なことを言うから、ご飯の味がしなくなったじゃないか」
「今日は俺の勝利と言うことで」
「……くやしい。何かわからないが、とてもくやしい」
「はっはっはっは。ヴイ!」
 俺は勝利のサインを突き出す。
「やっ、バカップル共。今日も元気にのろけているようだな?」
 盛り蕎麦を持って現れたのは、3年の女生徒だった。
 例のお茶会の中核メンバーでもある。
 その女生徒は慧とは種類が違う美人だった。
 黒目がちの大きな瞳と桜色の上品な唇が柔らかな輪郭を描く顔に整えられてのっている。
 その顔を背中の中程まである柔らかそうで滑らかな黒髪が彩っている。
 細い首と、スリムな身体、やはり細い手足は優雅さを感じさせ、黙っていれば令嬢で通るだろう。
 しかし瞳の強く冷たすぎる光と媚びた笑みを浮かべない口元、快活な口調は、彼女を女傑に仕立てている。
「各務先輩。訂正していただきたい。私はともかく康一は馬鹿ではない」
「ははっ。慧も可愛いことを言うようになった。だが混み合った食堂でいちゃつくのは馬鹿でいいと私は思うな。違うか、佐藤?」
 そう確か各務睦美という名前だったはずだ。
 慧の抗議も各務先輩は軽くいなして、俺に視線を向けた。下手なことを言わないように俺は無言で肩をすくめるにとどめた。
 さわらぬ各務にたたりなし。3年男子からはいろいろな非常識さで敬遠されているという噂とともにそんなフレーズを思い出す。
「ま、いいだろう。隣に座らせてもらう」
 なぜか先輩は慧の隣ではなく、俺の隣に座った。慧が微妙な表情をする。
195ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:22:34 ID:aQ09fypy
 先輩は優雅に蕎麦を啜り、俺達も食事を続けた。
 先輩はなにか周囲に緊張をもたらす人間だった。もっとも慧も俺とつきあう前はそういう空気を纏っていたが。
「……で、先輩。いつものお連れの人達はどうしたんですか?」
 お茶会をしきっているグループのことだ。各務先輩はそのグループの女達と行動を共にしていることがほとんどだった。
「色々考えることがあってな。しばらくはおまえ達と遊ぼうかと思う」
「はぁ……じゃあ俺は消えましょうか? ちょっとだけなら慧を貸しますよ。でもちょこっとだけですけどね」
 空気を読んだ俺の発言に、空気を読まない抗議の声があがる。
「康一!」
「慧、先輩には世話になってるんだ。話し相手はしたほうがいい。人目のあるところで話せば大丈夫だ
 ……それにちゃんと埋め合わせはする」
「むぅ」
「……土曜日は一日中つきあおう。おまえ言うことなら何でも聞く。……金はあんまりないけどな」 
「ほんとだな! 絶対だぞ!」
 元々そのつもりだったのを急遽懐柔に使ったが効果は絶大だった。
「ああ。予定は空けてある。土曜日は慧様にこの身をささげましょう」
 期待と満足の色が慧の目に浮かび、俺も安堵感と喜びが心に満ちた。
「……あー、おまえ達。別に気をつかわなくていい。佐藤も一緒で良いんだ」
「え? あ、そうですか? でも先輩は慧が好きだから、俺は邪魔では?」
 先輩の一言で配慮と懐柔が無駄になったが、それ以上に意外さを感じて俺は再度尋ねた。、
「……いいんだ。おまえ達二人一緒で良い。あたしもカップルの邪魔するほど野暮じゃない」
「康一、土曜日は返さないからな。デートだぞ!」
「わかったわかった。……先輩がそういうならいいですが」
 おもちゃを見てしまった子供のようにデートの約束にこだわる慧とは対照的に先輩の態度は変だった。
196ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:23:27 ID:aQ09fypy
 各務先輩は、カップルであろうと遠慮会釈無く邪魔する人だったはずだ。
 俺と慧が結ばれた後もしばらく、慧を愛していると本人の前で公言し、慧は慧でにべもなく拒絶していた。
 振られたとか嫌われたとかでへこむことなく何度もそういうやりとりをやるあたりが各務先輩たるゆえんであった。
 各務先輩はTPOに関係なく、言いたいことを言い、やりたいことをやる女傑であるというのが皆の共通見解だった。
 もっとも人として越えてはいけない一線だけは守るので、敬遠されるだけで済んでいるのだが。
「しかし……おまえ達は幸せそうだな」
 どこか物憂げに先輩がつぶやき、生理なんだろか? と不埒な事を俺は考えた。それほど、今日の先輩は変だったのだ。
「先輩、お茶会で慧がさんざんのろけてるでしょう? そういうこと言ったらまた慧が……」
「康一、私は聞きたいって言われるから話してるだけだぞ!」
 なんとなく話題をそらしたくなり、慧ののろけに話題を振る。我が相棒は果たして予期した返答をしてくれた。
「はいはい。でもな、慧、ここでのろけたら、俺がどうするかわかるか?」
「どうするんだ?」
「トイレに連れ込んで、キスで口を塞ぐ」
 慧がまた無表情になり、動きも完全に止まった。いってしまったようである。
 俺は完全勝利に満足した。慧はクールな女だが弱点を突くと壊れて止まるのである。
「くっくっく。……佐藤、おまえもたいがい馬鹿だな。……おまえ達は似たもの同士だ」
 夫婦漫才に先輩が肩をふるわせて笑っていた。
「……馬鹿でいいんです。俺は理解ある振りして利口ぶって、慧を傷つけましたから」
 そういうと俺は残りの飯を食べてしまい、茶をすすった。
 慧は表情に乏しいけど、その目が全てを語ってくれる。そして最近の慧の目の光を俺は心から好きだった。
 愛しいというと照れくさすぎて口に出すことも出来ないので、俺達が結ばれたあの日の気持ちをぽろっと漏らした。
 ふと視線を感じて先輩をみると、先輩が俺を凝視している。
「……な、なんでしょうか?」
「いや、なんでもない」  
 なぜか、先輩は目をそらした。人を見据えることが多い先輩にしては珍しい、何気なく俺はそう思った。
 慧はまだ固まっていた。解凍するのもまた楽しいので、じっくりとほぐすことにきめた。
197ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:30:34 ID:aQ09fypy
 翌日になっても慧はそのことにこだわっていた
 木曜日。お茶会……、かつての大島慧ファンクラブは内実をすっかりと変えていた。
 いまでは、大島慧と佐藤康一のバカップルをいじって楽しむ会になっている。
 なんせ俺が直接各務先輩から聞いたのだから間違いがない。
 従って俺は部外者からレギュラーメンバーに格上げされ、参加を拒む権利を奪われた。
 だって両脇を慧と水上にとられて引きずって行かれるのだから、どうしようもない。
 今日も女だらけの(同性愛志向だが)中に入れられ、公開羞恥プレイに耐える時間が来るはずだった。
 しかしそれは慧のこだわりがなかったらの話だ。
「康一が、告白されたりラブレターもらったことが無いのはおかしいと思うのですが」
「そう?」
「普通だろ?」
「もてない男なら当然じゃない」
「あたしが慧ちゃんに襲われない方がおかしいよ」
 興味なーしとかどうでもいいというような投げやりな答が返った。
 当たり前だが、慧にラブな女達に聞くことが間違いということは見事に実証される。
 でもちょっと前なら傷ついたかもしれないが、今では余裕をもって聞けた。さんざんバカップルをしているせいだろう。
 いつもならこれで話は終わりだった。
 慧を愛する女達は、慧にくっついたお邪魔虫には冷淡であり、話す価値を認めなかったからだ。
 だが今日は違った。
「慧、こいつらに聞いても無駄だよ。こいつらは男を見る目が無くて、女に走ったんだからね」
 まるで爆弾が炸裂したかの如く、和んだ空気が一変した。
「各務先輩?」
 爆発させた当の本人は、涼しげな顔をして紅茶を飲んでいる。慧の問いかけにカップを皿に置いて口を開いた。
「あたしは、慧の疑問を理解できるよ」
 そういうともう一度カップを口元で傾けた。全員の注目を浴びる中で、動作はあくまでも優雅だった。
「佐藤はね、その良さがわかりにくいやつなんだ。……きっと愛された女しかわからないんだろうね」
「へぇ、各務にはわかるわけ? いつからあんたはバイになったの?」
 入れられた茶々にも各務先輩は表情一つ変えなかった。
「あたしは慧が好きだけど、佐藤も嫌いじゃない。……というかあたしはビアンじゃない。好きになったのがたまたま慧なだけ」
「それ、立派にビアンだよ」
 周囲から嘲笑の笑いが漏れる。各務先輩の論理は確かに変だったが、どこかわかるところもあるような気がした。
198ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:32:29 ID:aQ09fypy
「でも悪いけど慧に振られてもあんた達とは愛し合わない。慧以外の女と抱き合うくらいなら、佐藤のほうがましだから」
 白々とした空気が流れる。俺は慧に目配せでうながし、静かに席を立って出口に向かった。
 が、逃亡の企みは、各務先輩自身によって阻止された。
「佐藤! 慧! 先輩をおいてどこに行くのかな?」
「ちょっとトイレなど」
「康一と一緒」
「ふーん。まあとにかくさ、ここに座りなよ。話は終わってないんでね」
 そういうと各務先輩はぽんぽんと自分の両脇を叩いた。なぜか目がとても恐い。
 あらがえないものを感じて、慧と二人で各務先輩を挟むように座った。
「なぁ、慧。どいつもこいつもあんたの外見しか見てないくせに、男と違って裏切らないとか、女同士の綺麗な愛とか、おっかしいよねぇ」
 各務先輩の迫力に、さすがの慧もリアクションが無かった。それは俺も同じだった。
「慧は、佐藤とつきあいだして、さらに綺麗になったよ。あたしは慧を本当に好きだったからわかる」
 そういうと先輩がぐるりと周囲を見返した。
「だけどこいつらは慧を男代わりにしているだけ。慧はなまじの男よりかっこいいからというだけでね。
 でも慧は女だよ。見た目よりずっと可愛い、女らしい女だね。
 好きな男と結ばれたら、もう四六時中その男の事しか考えてないし、その男に可愛がられると、とんじゃうくらいね」
 俺は冷や汗を流した。慧がのろけるのにはだいぶん耐性がついたけども、他人にあからさまに言われると恥ずかしくなったからだ。
「なあ、佐藤。そう思わないか?」
「……は、はい。まぁ、外見と中身にかなりギャップがありますが、……慧は可愛いです」
「くっくっく……。佐藤、あんたって奴は、大胆というか、とぼけてるというか」
 またもや先輩が肩をふるわせて笑った。なぜか俺は先輩の笑いのつぼを突くらしい。
199ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:33:20 ID:aQ09fypy
「ま、それはともかく。慧、あんたがこいつらに佐藤の事を尋ねて、佐藤が悪く言われるのって、あたしは我慢できない。
 慧は佐藤と結ばれて幸せになったんだから、慧の男を見る目は確かだよ。あたしはそう思う。
 なのに佐藤のことを悪く言われると、あたしの好きな慧まで悪く言われているようで気にくわない」
 お茶会は、今や鋭い緊張をはらんで静まりかえった。対立の焦点となった俺と慧は、居心地悪いのを我慢して座っていた。
「……各務、なにかっこつけてるの? なんだかんだ言って、各務が佐藤のこと好きなだけじゃないの?」
 沈黙を切り裂いて飛び出した反撃に、なぜか各務先輩は黙り込む。
 どうしてすぐに否定しないのだろうと思い、先輩の方を見ようとすると、先輩が俺のことをじっと見ているのに気付いた。
「……そうだな。確かに……佐藤に処女をやってもいいというぐらいには、好意を抱いている」
 ショジョ? しょじょ? SHOJO? えー、それは食べられるものでしょうか?
 救いを求めて、周囲を見渡すが、誰も彼も呆けた顔をしていた。慧ですら呆然としている。
 皆が各務先輩の言っている意味を理解できなかった……いや、理解を拒んでいたというべきだろう。 
 その中で一人各務先輩だけが普通に行動して、慧に向き直った。
「……ふむ。……慧」
「……なんでしょう?」
「佐藤を貸してくれないか。慧を抱いた佐藤となら、SEXしてみたいと思うんでな」
 そのときの慧の反応は、神速の一言だった。
 気がついたら慧に引きずられて、お茶会の会場を脱出していたのだ。
「康一……私達はこれから……非常警戒態勢だ」
「……えーと、ちと大げさじゃないかな? 慧さん」
「いや、これは私にとって最大の危機だ」
 もはや俺の言葉にも答えずに、慧は蒼く深く静かに、瞳を燃やしていた。
200ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:35:49 ID:aQ09fypy
 それからの慧は密着率が高くなった。というか、事情が許す限り俺にくっついていた。
「全周囲防御だ、我慢して欲しい。」
 さらに翌日、金曜日の昼休み、教室で慧は俺に隙間なく寄り添って、出入り口に鋭い視線を飛ばしている。
 いちゃつくと言うには慧の目は鋭すぎたが、かといって俺の単独行動は絶対に許さなかった。
 なんせトイレまでついてきて、中まで入ろうとしたくらいだ。
「……全く、大げさすぎるんじゃないか」
 慧は、俺を食堂に行かせてくれない代わりに弁当を作ってきてくれた。
 しかしながら手作り弁当も、まるで雛を守る鷲のような目付きの慧相手では、楽しさも半減する。
「康一、言ったはずだ。非常警戒態勢なのだと。私とて手作り弁当を康一と共に楽しみたい。
 康一に食べてもらう喜びをじっくりと味わいたい。だが現状が、それを許さない。
 ……かつてない敵が迫ってきているのだ」
 拳を握って力説する慧は、かえって可愛かった。なので、ちょっとつついてみる。
「それって先輩の事か?」
 雄弁な無言という奴で、慧は肯定した。
「気にしすぎだよ。気にしすぎ。俺を好きになる物好きは、どこかの大島慧さんしかいないって。
 いくらなんでもあんなの真に受けるなって。冗談に決まってるだろ?」
 なんと言ってもお茶会である。俺達をいじって楽しむと公言しているので、あれくらいはやるだろう。
 信じ込むほうが、どうかしていると俺は言った。だが、慧は首を横にふった。
「いや。……康一の良さをわかる女は手強い」
「はいはい。確かに慧は手強い女だよ」
「……うかつだった、私だけが康一をわかっていると思っていたが、あのような強敵が……」
 つぶやく慧をそっとしておくことにして、俺は弁当に専念することとした。
 慧が殺気立っているとしても、弁当のうまさには変わらなかったからだ。
201ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:38:26 ID:aQ09fypy
 弁当を食べ終わり、茶を飲んでいると、いつもの女がやってきた。
「せんぱーい」
「水上か。すまない、今は取り込み中だ」
 慧は律儀に対応したが、俺は軽く手をあげるにとどめた。
「取り込み中って、各務先輩のことですか? もうそこに来てますよ?」
「……何!」
 慧の目がロックオンシーカーのごとく目標を捕らえる。
「やっ! この間は、真剣に考えて告白したのに、逃げるとはつれないな」
 かくして、トラブルクイーン、各務先輩が登場した。
「先輩、あんまり慧をからかわないでください。こいつは、まじめですんで冗談が通じにくいんですよ」
 慧の緊張に辟易した俺は、先輩にくぎを刺したつもりだった。だがその甘い考えはあっさりとひっくり返される。
「なんのことかな、佐藤? 私は冗談で処女をやるなんて言わない。この間の言葉は、100%本気だ。処女をかけてもいい」
「……マジ?」
「確かに突然の告白で信じがたいのは理解できる。ここは一つ手付けとしてキスを交わそうではないか」
 そういうと各務先輩がゆっくりと近づき、……俺の前に慧が立ちはだかった。
「だからいったのだ、康一。……各務先輩……いや各務睦美。康一は私だけのものだ。泥棒ネコ……退散!」
 びしぃと先輩に慧が指を突きつける。突然の修羅場にギャラリーが俺達を取り囲みはじめていた。
「ふっ、慧は修羅場でも可愛いのだな」
 だがそんな慧の気迫も、各務先輩はさらりと長い髪をかき上げてかわす。
「だが、それは誤解。あたしは慧から佐藤をとろうなんて思っていない」
 その言葉で慧の気迫が緩む。困惑しているらしかった。
「……信用できません。ならば、康一に処女をやるとかSEXしたいとかの言葉について説明を要求します」
「ふむ。実に簡単だ。慧、私はあんたと佐藤を共有して、いわゆる棒姉妹になりたいというわけだ」
 周囲のギャラリー多数が、口にしていた飲料を吹き出した。卒倒する女生徒もちらほら。
 そして大多数が、口を馬鹿みたいに開けていた。いや、それは俺と慧も同じだった。
「……はぁ?」
202ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:40:31 ID:aQ09fypy
「あれぇ、各務先輩も、二人とも好きになっちゃたんですかぁ?」
 この場にそぐわない明るい声があがる。いつもの定期便、一年の水上だった。
「水上も来ていたのか? ああ、そうだ、水上の気持ち、今はよくわかる。確かに慧と佐藤に愛されることを想像すると濡れる」
 収まり掛けていた咳込みが、再び強くなった。
「ですよねぇ。二人とも良い雰囲気ですから、一緒に愛されたいっていうか」
「佐藤を通じて、慧とつながると考えると、いってしまいそうになった。だから昨日、つい慰めてしまったよ」
 女生徒が父母の名を呼んでへたり込んだり駆け出したりした。男子生徒は白く燃え尽き掛けている。
「じゃあ先輩、私は第3夫人で、先輩が第2夫人ですね」
「イスラムか。悪くはないが、やはり慧が本妻で、あたしは妾がいいな。水上は愛人でどうだ」
「やっだー、なんかドラマみたいじゃないですか。この泥棒猫とか、夫を返してとかするんですか?」
 ぎぎぎと音をたてそうな動きで、周囲の観客の首が俺の方を向いた。
 物言わぬ視線が伝えるのはただ一つ。……おまえ、どうするんだよ、このいかれた女達は?
「ははは、なかなか愉快な生活になりそうだ。……ということで佐藤、キスだ。本番も望むなら、できる場所も心当たりがあるが?」
 静寂が教室を包んだ。ギャラリーはもはや声もない。俺も言うべき言葉を無くした。
 水上と各務先輩は、興味津々で俺の返答を待っている。
 その沈黙を破ったのは、……やはり慧だった。
「……残念だが、それは無理だ。先輩も水上も康一の大事な部分を知らないからだ」
 今や瞳に不敵な色さえ浮かべて、慧は胸を張る。
「ほう? やけに自信があるな。それはなんだ?」
 先輩と水上以外の誰もが、慧に良識の光をもって、いかれた女達を調伏することを、期待した。
「……康一は、私の胸が大好きなのだ。おっぱいのためなら死ねると言ってくれた。正真正銘のおっぱい星人なのだ。
 そして各務先輩は、良くてCカップ、水上は、Aカップと見た。……残念だがその大きさでは康一は満足しない! 
 よって、この戦いは、Dカップである私の胸の勝利だ。C以下の胸の者は速やかに去れ!」
「ぐはぁ!」 
 俺は恥ずかしさで焼けこげた。同時にクラスの大部分の女生徒がクリティカルヒットに刺し殺される。
 断末魔の悲鳴が各所で上がり、犠牲者の女生徒が恨みと軽蔑の眼を残して倒れていった。
203ハンサムな彼女:2007/05/26(土) 17:42:00 ID:aQ09fypy
 だが、強敵はこゆるぎもせず、同じ場所で立ちはだかっていた。薄い笑みさえ浮かべている。
「ほう、佐藤は、おっぱい星人か。だがな、慧、私は美乳だ。そして、巨乳は垂れるが、美乳は長持ちなのだよ。
 ……胸の大きさだけが、女の魅力でないことを教育してやる!」
「む、胸がなくても、若さで……」
 ちなみに水上は、涙目で何かを小声で訴えていたが、すでに戦闘力を失っていた。
「く、まだまだぁ!……それに私は康一の……むぐぅ!」
 俺は、犠牲者を多数出してもなお不毛の争いを続けようとする慧の口を覆った。
「……えーと、佐藤康一、並びに大島慧は脳みその調子が悪いので早退します」
 そして鞄を二つ持つと暴れる慧を引きずって教室をでる。
「そこのおまえ、各務睦美も股間の湿りが酷いので早退すると伝えておいてくれ。ではな」
 なぜか各務先輩まで教室を飛び出し、俺達を追ってきた。
「先輩達ずるーい!」
 水上の声に俺は一度だけ教室に振り向いた。教室の誰もが、頭から白煙を上げている。
 俺は、この戦闘の幾多の犠牲者に、心から哀悼の意を捧げた。敬礼!


ということでひとまずここまで。
204名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 17:49:49 ID:3c3OgOoB
ギャラリー自重GJwwww!!
205名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 17:53:37 ID:+EbIprez
こ、攻撃力が高すぎる…

gj…

ガクッ
206名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 17:56:38 ID:+3MDV5px
おいおい生殺しっすかw
最高ですぜ
207名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 18:05:34 ID:Wz2gfSix
凄い迫力だ
先輩オソロシス

水上ちゃんはもらってやってもいいぞ
小さいのが好きだ
208名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 18:19:48 ID:7lXtTCfk
GJ!
上手いなあ。
テンポもいいし最高だ。
209名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 18:43:15 ID:WCJjj4gM
GJ!
なんてかわいそうな男w

でも「棒姉妹」じゃなくて「竿姉妹」だったような希ガス。
210名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 18:44:43 ID:+3MDV5px
>>208
ごめん、チンポに見えた。ガチで
211名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 19:11:52 ID:zdZB7kV/
GJ!
怖いよ〜w
>>210
ちょっw俺も見えたじゃねーか
212名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 19:12:38 ID:7lXtTCfk
>>210
ちょw
生殺しパワーが強すぎてついに幻覚まで。
213名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 21:11:09 ID:acGL8qMX
貧でも巨でも、貫き通したおっぱい好きに嘘偽りなど何一つない!
もしもキミが自分をおっぱい星人と恥じるならば!
愛で続けろ、佐藤康一!
214名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 21:42:15 ID:Dv/28L9L
キャプテン・ブラジャー!!
215名無しさん@ピンキー:2007/05/26(土) 22:25:28 ID:JydzTNrS
康一! ここで三人まとめて食うのが漢の道ぞ!!
216名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 00:22:39 ID:Z7MPW1rr
ここで終わらないでくれ!頼む!!
217名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 04:16:49 ID:EUZHxY34
作者さん最高神GJ!!見ててこんなにもwktkな気持ちになるのは初めてだ!

>>207残念それは康一君だ。
水上は俺が既にいただいた。
218名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 08:29:12 ID:tTduFj6l
これはギャラリー有志による『佐藤康一暗殺チーム』を起ち上げるしかないなw
219名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 12:08:36 ID:fIWOt69w
GJ
220名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 13:29:31 ID:LLM4nppH
>>218
3人のヴァルキリーによって全滅
221名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 20:05:22 ID:lqx7Euol
素直クールっ娘どうしによる男の取り合いとか、
内心に危機感を抱えつつの慧のあくまでクールな対応とか、
とても素晴らしい。
あと、水上のキャラがとても効果的でうまいと思った。
作者さんにGJ砲を撃ちます。GJGJGJGJGJGJGJGJ!!!
222名無しさん@ピンキー:2007/05/27(日) 22:44:08 ID:Iot2HeRb
水上の脳内ビジュアルが漫画家の水上悟志のキャラ(「さみだれ」の火渡)だったから、キャラの名前が水上だって気付いた時に思いっきり噴いたwww
GJ!
223名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 03:15:09 ID:lrBOjXQk
GJ! 慧のH中の喘ぎ声をもっと聞きてぇ!
224名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 03:40:27 ID:L4RgVNdW
GJ多いなあ、うらやましいと言いつつ自分もGJ。
ただ改行した方が見やすいかもしれないとも思った。
225名無しさん@ピンキー:2007/05/28(月) 06:11:57 ID:+W7ByXwV
俺はそこまで気にならなかったなぁ
段落下げてるからかね
226名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 13:07:04 ID:TskWSgWz
【佐藤くんのリアクションを暖かく見守り隊】を結成したい気分だw
227名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 22:06:50 ID:ycpL1FF6
どちらかというと「生暖かく」で
228-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:06:49 ID:HVq+lhKh
>>203氏の興奮が覚めやらぬ所、お邪魔します。

もう少ししたら投下します。
エロ無しです。
229-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:08:48 ID:HVq+lhKh
-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-

「ここはちょっとタイミング遅らせて表示して…」
「じゃあ、ここはこういうデータを…」
「…ああ! フリーズした!? この糞SIがッ!」
「ええ!? いや無理ッスよ。ゲームショウには1面だけ公開って話だったじゃないですか」

 オフィスビルの1室は、まるで戦場のような様相を呈していた。
 部屋中からカタカタ、カチカチとキーボードとマウスの音が響き、ばたばたと忙しそうに何人かが
行ったり来たりしている。
 ここは、コンシューマーゲームの開発現場。近々開催される大規模なゲームショウの出展に備えて、
詰め込み作業の真っ最中だ。
 仕様書を片手に、ホワイトボードを使って内容の摺り合わせをしている企画者とプログラマー。ソ
フトウェアのフリーズに頭を掻きむしるデザイナー。クライアントからの無茶な要求に電話口で応戦
しているディレクター…。

 そんな中、デザイナーの一人、笹戸圭介(ささど けいすけ)は、連日の徹夜で眠気が限界を超え、
意識が飛んだ。モニターに頭から突っ込み、その衝撃に仰け反って椅子から落下しそうになる。
 どんなコントだ…。圭介は心の中で自分に突っ込む。ため息を付いてズレた眼鏡を掛けなおした。
 情けない有り様に、これ以上、意識を保つのが困難だと悟り、仮眠を取る事にした。このまま仕事
を進めても、ロクに進まないだろう。効率を上げるためにも、一度仮眠を取った方が良さそうだ。
 圭介は“仮眠中”の札をモニターに張り付け、おぼつかない足取りで仮眠室へ向かった。

 * * * * *

「……んー…」
 枕の下に仕込んだ携帯が震え、圭介は目を覚ました。頭の下に手を突っ込み、目覚まし代わりにし
ていた携帯を引っぱりだして時間を確認する。午後3時を少し回った所だ。睡眠時間は丁度1時間半。
携帯はちゃんとセットした時間に目覚ましを起動してくれたようだ。
 圭介は幾分すっきりした頭を再起動させ、起き上がろうとした時、視界の左端に映る影に気付いた。
無意識に影を追い、その正体を確認すると、圭介は仮眠用のソファベッドから落ちそうになる。
 圭介の左側には、ちょこんと、誰かが座っていた。枕元に佇むというよりも、息が掛かるような距
離で、その人物はじっと圭介の顔を至近距離で眺めている。
「た、七夕さん?」
 圭介はかすれた声を出す。眼鏡を外しているため、視界がぼやけて良く分からないが、肩の辺りで
揺れる黒髪と、眼鏡を掛けた小顔がかろうじて見える。女性で眼鏡を掛けているのは、開発内部には
一人しかいない。七夕夜子(たなばた よるこ)だ。
「おはようございます。笹戸さん」
 発せられた平坦な声で、圭介は彼女が夜子だと確認する。
230-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:09:30 ID:HVq+lhKh
「おはようございます。ってか、何? どしたの?」
 びっくりした照れ隠しに、わざと仰々しく挨拶を返し、圭介は起き上がりながら枕元に置いておい
た眼鏡を探す。
「あ、ごめんなさい。眼鏡はここです」
 夜子は自分が掛けていた眼鏡を外し、すっ、と圭介の顔に掛ける。途端に圭介のぼやけた視界がク
リアになり、目の前に裸眼の夜子がはっきり映る。
「あ、え?」
 圭介は思わず掛けられた眼鏡を外し、確認する。軽いチタンフレームで出来た極細のフレームは、
確かに自分の眼鏡だ。
「笹戸さんの眼鏡を掛けたくなって、ちょっと借りてました」
 夜子は平然と言うと、自分の眼鏡を取り出し、掛ける。地味なツーポイントのレンズの奥に、意志
の強そうな瞳が輝く。
「私と笹戸さんは、同じくらいの視力なんですね。あまり違和感がありませんでした」
「ああ、そう…」
 圭介は曖昧に返事をする。なんで彼女が急に自分の眼鏡を掛けたくなったのか分からないが、寝起
きの圭介はそこに突っ込むだけの思考力を取り戻していなかった。とりあえず外した眼鏡を掛け直す。
 夜子は未だに至近距離で圭介を見つめている。
 肩の辺りで艶やかな黒髪が揺れ、キリっとした聡明な瞳を控えめな眼鏡が覆う。ソファベッドのそ
ばでしゃがみこむような体勢のため、胸が両腕で押しつぶされるように強調されている。その大きさ
に、華奢に見えるけど、以外に大きいんだな。と、圭介はベッドから降りながら観察してしまう。
「笹戸さん。早速ですいませんが、データのチェックをお願いできますか?」
「ああ。いいよ」
 いかんいかん、これはセクハラだ。と詮無い考えを脳みそから掻き消し、頭を切り替える。
 圭介はデータの一部を総括する立場にあり、夜子は圭介の下でデータを作成しているスタッフの内
の一人だ。
 夜子は開発部の中でも若い方で、まだ二十歳を過ぎたばかりだが、技術的には中堅どころの領域に
達していた。少々取っ付きにくい性格だが、仕事は真面目にこなすし覚えも早いので、手の掛からな
い部下だと圭介は評価している。
 二人は連れ立って仮眠室を後にし、開発室へ戻った。
231-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:10:10 ID:HVq+lhKh
 * * * * *

「…うん、いいんじゃないかな。次は?」
「これです」
「うん。……あ、ちょっと貸して。……ここ、動きが少し中途半端だね。最後まで流すか、かちっと
止めるか、はっきりさせた方がいいな」
「はい、わかりました。次はこれです」
「……うん、これはいいんじゃないかな。欲を言えば、この角度から見た時にちょっとバランス悪く
見えちゃうのが残念だけど」
「なるほど。修正します」
「あー、いや。この作業は後ろに回して。先に終わってないデータを作ってからでいいよ」
「はい、わかりました。次は──」
 圭介はモニターに表示されるデータを次々とチェックし、修正箇所を指示していく。夜子は指摘さ
れた内容を淡々とメモにとる。
 やがてデータのチェックが終わり、夜子は圭介を真直ぐ見上げ、
「チェックありがとうございました」
 ぺこりと丁寧に頭を下げる。黒髪がさらさらとこぼれ、ふわりと良い匂いが圭介の鼻先をかすめる。
「いやいや。修正よろしくね」
 圭介は手をひらひら振って自分の机へ足を向ける。1歩踏み出した所で、ふと気付き、夜子の方に向
き直った。
「もしかして、俺が仮眠取ってる間、データチェックを待ってた?」
「はい」
 即答する夜子に、圭介はばつが悪くなって頭を掻く。
「ありゃー、ゴメン。どのくらい待った?」
「そうですね、1時間半ぐらいでしょうか」
 彼女の言葉に圭介は目を見開く。1時間半といえば、仮眠を取り始めた時間ではないか。
「そんな待ってたの? そういう時は遠慮なく起こしてくれていいよ」
「はい。起こすつもりで仮眠室に行ったんですが、笹戸さんの寝顔を見ていたら、いつの間にか1時間
 半過ぎてました」
「…は? ずっと見てたってこと? 1時間半も?」
「はい」
 平然と答える夜子に、圭介は二つの意味で呆れた。一つは人の寝顔をじっと見ていたことで、もう
一つは1時間半も時間を無駄にしたことだ。
 まあ、寝顔の方はどうでもいい。忙しい時期はほとんど会社に住んでるようなものだから、今さら
そんなのを見られてもどうという事はない。
 問題は時間の方だ。ゲームショウを間近に控えたこの忙しい時期に、時間を無駄に過ごすのは余り
感心出来ない。
 気分転換に買い物に行ってくるとか、仮眠を取って頭をすっきりさせるとか、そういった理由なら
分かるが、1時間半もただじっと人の寝顔を観察してたなんて無駄にもほどがある。
232-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:11:28 ID:HVq+lhKh
「すみませんでした」
 圭介の様子を察したのか、何も言っていない内に、夜子が頭を下げる。
「いや、まあ…。七夕さんは自分の分担をキチンと上げてるし、いいんだけどね…」
 出ばなを挫かれた格好になり、圭介は思わず口籠る。夜子は仕事のスピードも早く、割り当てられ
ている作業はかなり順調に消化しているため、スケジュールにも余裕がある。
 しかし、それは彼女個人のスケジュールであって、全体のスケジュールではない。
 開発というのは、不思議と何処かで遅れが生じるもので、余裕のある人は遅れた部分をカバーしな
ければならない。
 もちろん、個人個人がキチンとスケジュールを守り、全体進行も遅れないのが理想だし、当然のこ
とながら「作業が遅れてもカバーしてくれる人がいるから、手抜きでいいや」なんて考えはもっての
ほかだ。
 それでも、「自分はもう終わったから、じゃーねー♪」とはいかないのが、チームというものだ。
チームで1本のゲームを作っているのだから、個人個人が全力を出しつつ、それでも遅れた所は皆で
カバーする。一人は皆のために、皆は一人のために。この業種に限らず、どんな仕事でもそうだろう。
 夜子はその辺まで分かった上で、謝っているのだろう。この辺りのことは、夜子が新人の時に教え
込んだ内容で、本人もキチンと理解しているはずだ。

 …まあ、とはいっても、今の所大きな遅れは出ていないし、問題ないだろう。と、圭介は思い直す。
 しかし、夜子は、
「私が謝ったのは、寝顔を見ていたことについてなのですが」
 と、小首を傾げる。
「え? そっち?」
「スケジュールは全体的にあまり遅れていませんし、私がカバー出来る場所での遅れはありませんか
ら、そこは問題ないかなと思っていました」
 うん、まあそこはその通り。そういう圭介の言葉を待たずに、夜子が続ける。
「では、笹戸さんの寝顔をじっと見ていたことは、謝らなくてもいいんですね?」
 なんだか変な質問に、圭介は苦笑して答える。
「まあ今さらだしねえ。皆ほとんど会社に住んでるしなあ…」
「良かった。それでは、これからは遠慮なく寝顔を拝見させて頂きます」
 そう言って、夜子が微笑む。圭介は彼女と一緒に仕事をして2年目になるが、微笑みを見たのは初
めてだった。花が綻ぶような、というのはこういう笑顔のことなんだろうな、と観察しつつ、真面目
そうに見える彼女も、こういう冗談が言えるのか。と、夜子のセリフを冗談だと決めてかかった。
「後で俺の寝顔を見てた時間をまとめておいてよ。見物料の請求書を回すから」
 圭介は笑って冗談を返し、机に戻る。
 その様子を、夜子がじっと見つめていた。
233-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:13:00 ID:HVq+lhKh
 * * * * *

「それじゃ、どうも皆さん! お疲れ様でした!!」
 ディレクターの琵琶山が生中のジョッキをかざし、乾杯の音頭を取ると、お疲れ様でしたー! と
周囲から歓声が湧き、ジョッキをぶつける音が響く。
 ゲームショウから約10ヶ月。つつがなく開発が終了し、打ち上げが始まった。駅前の居酒屋で総勢
15名の開発者がジョッキを傾け、ねぎらいの言葉を掛け合う。あちこちで開発中の苦労話に花が咲く。
 圭介もジョッキを傾け、周囲の同僚と談笑する。出てくるのは、大抵が苦労話とクライアントへの
文句だ。とはいっても「あの時は大変だったよなあ」とか「急に注文が来て二日貫徹したよ」などを
笑いながら語り合うだけで、ネチネチと愚痴をこぼしているわけではない。喉元過ぎればなんとやら、
というやつで、全ての作業から解放された今となっては、開発中の苦労は話のネタとして場を盛り上
げる格好の話題に早変わりする。

「笹戸さん、ビールのおかわりはどうですか?」
 圭介の隣に座っている夜子が、空になった圭介のジョッキを手にする。キチンと足を折り畳み、行
儀良く手を膝に置いて、小首を傾げる。
「ああ、ビールはもういいや」
「では、何かカクテルとか飲みません?」
 夜子は圭介の前にメニューを広げ、肩を寄せるようにして酒類のページを覗き込む。自然と身体が
密着する体勢だ。圭介の肘に夜子の胸が当たる。
 またか。と圭介は心の中で苦笑した。
「七夕さんはお酒強いの?」
 圭介はさりげなく体勢を変え、夜子の胸が当たっている肘を引いた。彼女は自分の胸の大きさに、
余り自覚が無いようだ。今までも何回か、当たっている胸を気付かれないように避けたことがあった。
セクハラになりそうで「当たってるよ」とストレートに言えないでいるが、そろそろ気付かせてあげ
た方が良いかもしれない。圭介はそんなことを考えていた。
「………余りお酒を飲んだことがないので、良く分かりません」
「そうなんだ? じゃあ控え目にした方がいいよ」
 何故かセリフの前に空白があったが、圭介は特に気にしなかった。
 夜子は可愛らしく小首を傾げ、下から覗き込むように圭介を見上げる。
「飲みすぎたら、笹戸さんに介抱してほしいです」
「そういうことは、彼氏にやってもらいなさい」
 圭介は思わず苦笑する。
「では、笹戸さんが私の彼氏になってください。今フリーですよね?」
「あはは。七夕さんって以外に冗談好きだよね」
 夜子は度々こういった内容のことを圭介に言ってくる。圭介はそれらを全て冗談だと判断していた。
この無防備さは少し注意したほうがいいかもなあと、圭介は密かに思い悩む。確かに自分には彼女は
いないが、だからといって、部下のスキンシップに勘違いするほどおめでたくも無い。
 圭介は気を取り直して、夜子を見下ろす。
「で、どれ飲もうか?」
 夜子は何かを言おうと口を開いたが、先に圭介に催促され、口を閉ざす。仕方なく、メニューに目
を向ける。
「私、この馬刺ソーダが非常に気になるんですが、一緒にどうですか?」
「七夕さんはチャレンジャーだね」
 明らかなゲテモノメニューに、圭介は苦笑する。
234-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:14:28 ID:HVq+lhKh
「マズくて飲み切れないかも知れないよ?」
「ええ、ですから一緒に飲もうかと」
「うわ。人を巻き込むつもりか」
「駄目ですか?」
 笑うように言った圭介に、夜子が下から覗き込むようにして真直ぐ見つめる。不意に視線が交叉し、
圭介は顔の近さに驚く。夜子の頬にほんの少し赤みが走っているのは、きっと酒のせいだろう。
「もっとマシなのにしようよ」
 圭介は気付かない振りで、視線をメニューに戻した。
「じゃあ、これはどうです?」
「え? オイスターカクテル?」
「牡蠣のカクテルですね」
「……味が想像出来ねえ!」
 圭介は吹き出した。なんだこの店。誰が頼むんだよ、こんなカクテル。
 夜子も可笑しそうにくすくすと微笑んでいる。
「七夕さんは実はゲテモノ好きなの?」
「いえ、そういう趣味はありません」
「じゃあ、普通のにしとこうよ」
 圭介の提案に、夜子は小首を傾げ、細い指を顎に当てて困ったような顔をする。
「うーん、こういう普段飲めないものなら、一つのグラスで一緒に飲める口実になるかなと思ったん
ですが…」
 口実? なんの口実だ?
「別に、普通のカクテルでいいんじゃないの?」
 夜子の意図が良く分からないまま、圭介が口を開く。おそらく、一人で飲み切れないかもしれない
から、一緒に飲んで欲しいということだろう。酒を余り飲んだことないようだし。それならば、別に
ゲテモノに走らなくても良い。圭介はそう思った。
「いいんですか?」
「いいよ。むしろ、俺も飲むんだから、まともな飲み物がいいな」
「そうですか。では…」
 夜子は心なしか嬉しそうな表情でメニューを見始める。圭介は正面に向き直り、料理を食べようと
取り皿を手に取った。

 その時、豪快な声が頭上から降り注ぐ。
「よう! 飲んでるかね? けーくん」
「…けーくん言うな」
 なみなみとビールが注がれた中ジョッキを片手に、圭介の傍らにウンコ座りでしゃがみこんだのは、
南東辰美(みなみあずま たつみ)だ。
「何しに来た。俺はゆっくり飲んでるんだから邪魔するな」
「冷たいなあ、けーくん。それが幼馴染みに対する言葉かね?」
 突き放すように言う圭介の言葉に、微塵も傷付いた様子がなく、辰美が片頬を上げてにやりと笑う。
 圭介と辰美は物心つく前からの知り合いで、いわゆる幼馴染みの間柄だ。辰美はその言動と名前か
ら男だと思われがちだが、れっきとした女性である。
 辰美は、中学生よりも小柄な身体を器用に縮め、狭い空間にすっぽりとその身を収めている。ボー
イッシュな髪型と化粧っけの無い幼い顔つきは、少女というよりも少年のような印象を与え、終始浮
かべた薄い笑みが、いたずら小僧のような愛嬌さとしたたかさをかもし出している。
235-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:16:02 ID:HVq+lhKh
「だからけーくん言うな」
 圭介は眉をしかめて露骨に嫌がり、まるで犬を追い払うかのようにシッシッと辰美に手を振る。
 そこだけ見ると、圭介の言動は酷く冷たく見えるが、どちらかというとそれは幼馴染みゆえの気安
さというものを感じさせる。その証拠に、手で払いつつも、もう片方の手では、床に置かれた荷物を
どかして辰美がゆったり座れるスペースを確保してやり、座布団まで敷いてやっている。
「そんな邪険にしないでくれ。泣くぞ?」
 辰美は敷かれた座布団に移動し、その姿に似つかわしくない男らしさであぐらをかく。
「泣く? お前がか?」
 冗談言うな。と言わんばかりに圭介が苦笑する。
「私だって泣くぞ? 例えばきみに嫌われた時とかな」
「それならお前は、一生泣いていることになるな」
「ふふふ。きみのような性格をなんというか知ってるかね? ツンデレというらしいぞ?」
「何言ってやがる。俺は自分に正直な男だ」
 きっぱりと言いつつも、圭介は誤魔化すようにマグロのカルパッチョを取り皿に盛る。
 辰美は満足そうに、くくくと喉の奥で笑い、中ジョッキに口をつける。少年のような姿の辰美には
不釣り合いな中ジョッキをぐいっと傾け、ゴクゴクと黄金色の液体が喉に吸い込まれて行く。

「おお、そうだ。忘れてた」
 辰美はジョッキを口から離し、不意に真顔になる。行儀悪く組んだ足を正し、圭介に向き直った。
「や、この度は、マスターアップおめでとうざいます。どうもお疲れ様でした」
 芝居がかった口調でお辞儀をし、辰美はわざとらしい真摯な瞳で圭介を見上げる。
「…はいはい。こちらこそお世話になりました」
 おざなりに言う圭介だが、世話になったのは事実だ。辰美の方に身体を向け、頭を下げる。
「また次回もお声を掛けて頂ければ、この南東辰美、粉骨砕身で頑張らせて頂きます」
 次回も何も、辰美には確実に声が掛かるだろう。こいつが居ないと仕事が進まない。
「そういうことは俺に言うなよ。琵琶山さんか社長に言え」
「もちろん、そちらにはもう挨拶済みさ」
「じゃあ俺に言う必要はないだろ。俺がお前に仕事を振ってるわけじゃないんだ」
「分かってないな。こういう地道な営業活動がフリーランスには必要なのだよ」
 そう教えてくれたのはきみだぞ? と偉そうに言って、辰美は正した足を崩して片膝を立てたあぐ
らをかく。まるで、缶ビールを片手にテレビで野球中継を観ているオヤジのような格好だ。
「ま、面倒なことこの上ないがね」
 この監督は選手の使い方が分かってないよ。とテレビに向かって文句を言うオヤジの口調で言い、
辰美はジョッキを傾ける。
「お前が自分で選んだ道だろ?」
「まあ、その通りなんだがね。人付き合いが嫌だからフリーになったのに、フリーランスの方が人と
の繋がりが重要だったとは、皮肉にも程があるだろう?」
 辰美は社員ではなく外注のスタッフだ。在宅のフリーランスのプログラマーとして、圭介の会社の
仕事に広く携わっている。

 辰美はハードの基礎的な部分を解析し、効率よく使うための土台となるエンジンを作成している。
そのため、ぶっちゃけ、辰美が居ないと成り立たないプロジェクトがあるほど、重要な人物だ。
 プログラマーが在宅というのは、開発の視点から見ると百害あって一利なしだが、辰美の場合は、
請け負っている部分が部分だけに、在宅でも問題は発生し辛かった。
236-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:17:10 ID:HVq+lhKh
「フリーランスはそういうもんだろ、普通。少し考えたら分かるだろうが」
 圭介は呆れた声を出す。会社員と違って、フリーランスは自分で仕事を取って来なければならない。
それゆえに人脈がものを言う世界だ。人付き合いを敬遠している辰美に、おいそれと務まらないのは、
火を見るより明らかだった。
「だから言ったんじゃねえか。お前に営業が出来るのかって」
「プログラマーというのは、技術職なのだよ。要は技術があれば、仕事なんざ向こうから勝手に降っ
てくる。……と、思ってたんだがねえ」
 やれやれと言った感じで、辰美は手を伸ばして圭介の取り皿から勝手にマグロの切り身を摘む。
「人の皿のものを食うな。しかも手掴かみで」
「固い事を申すな。圭介どの」
 辰美はおどけてみせ、ドレッシングがついた指を、子どものようになめる。
「いつの時代の人間だ、お前は。ほら、手ぇ貸せ」
 圭介は辰美の返答を待たずに、無遠慮に小さな手を取って、だ液とドレッシングでべた付いている
指先をおしぼりでぬぐってやる。子どものように小さいその手は、マニキュアも何も塗られていない。
「潔癖だなあ。けーくんは」
「お前が無頓着過ぎるんだ」
 けーくん言うな。と眉をしかめつつも、圭介は指先をぬぐう手を止めない。
 辰美は嬉しそうに頬を緩め、幼馴染みに無遠慮にぬぐわれている自分の指先を見つめる。
「お礼にちゅーしてあげよう」
「やれるもんならやってみろ」
 唇を突き出して迫る辰美に、圭介は気味悪そうな視線を送り、慣れた手付きでガッキとオヤジ女の
額を掴み、アイアンクロー。ギブギブ! と辰美は圭介の腕をタップする。
「ところで、けーくん」
「今度はなんだ?」
 辰美はアイアンクローから解放され、痛むこめかみをさすりながら、圭介の背後へ視線を投げる。
「そちらの可愛らしいお嬢さんが、きみに何か言いたそうだぞ?」
「ん?」
「………」
 振り向くと、夜子が無表情で圭介を見つめていた。
 あ、忘れてた…。とは当然言えずに、圭介は平静を装って夜子に声を掛ける。
「あ、えっと。飲み物決まった?」
「………」
 夜子は圭介をじっと見つめるのみで、返答をしない。その顔からは、何も感情を読み取ることが出
来ない。鉄壁の無表情に、思わず、うっと、圭介は身体を仰け反らせた。
「………………………………………今、決まりました」
「…ああ、そう。それは丁度良かった」
 永遠に続くかと思われた沈黙を破り、夜子がいつの通りの平坦な口調で言う。
 圭介は何とも言えない居心地の悪さに、俺が注文してくるよ。どれ頼むの? と聞くが、いえ私が。
と夜子に断れた。彼女は席を立ち、注文に向かう。
237-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:18:13 ID:HVq+lhKh
 その様子を見送り、圭介は思わず止めていた息を吐き出す。彼女は無表情だったが、どう考えても
怒ってそうだった。
 忘れていたのは悪かったが、夜子がそこまで怒る理由が圭介にはとんと分からなかった。というか、
適当に飲み物を選んで、もうとっくに注文してるものと思っていた。

 くくく、と背後から辰美の忍び笑いが聞こえ、振り向く。
「やはり、今日は打ち上げに参加して正解だったな」
「来ないつもりだったのか?」
「野暮用があったんだがね。ちょっと確認したいことがあったんで、こちらを優先した」
 辰美は楽しそうに笑って、ジョッキを傾けぐびりと一口、上機嫌にぷはっと息を付く。
 口元についたビールの泡を手の甲で拭う辰美を見て、圭介は息をするように自然におしぼりを放っ
て寄越した。
 幼馴染みのその行動に、辰美は思わず苦笑する。
「圭介、きみの為に言っておこう。あのお嬢さんの前では、私に対してこういう気遣いをしない方が
いいぞ?」
 私はとても嬉しいがね。と片頬をゆがめて笑い、圭介から受け取ったおしぼりで、泡が付いた手の
甲を拭く。
 圭介は「どういうことだ?」と、言おうとして、セリフを飲み込んだ。
 このオヤジ女は時々訳の分からないことを言う。……いや、時々じゃなくていつもだな。と圭介は
思い直し、気にしても無駄だ。こいつの考えてることなんぞ分かりたくもない。と肩をすくめるに留
めた。圭介は、身体に染み付いてしまっている行動に、まったく自覚が無い。

「飲み物を注文して来ました」
「ああ、ありがとう」
 夜子はすっと圭介の隣に腰を下ろすと、まだ封が切られていないおしぼりを差し出す。
「新しいのをもらってきました。どうぞ」
「ありゃ、悪いね」
「いえ。汚れたおしぼりを下さい。私が処分してきます」
 “処分”に力を込めて、夜子は手を差し出す。それには気付かず、何から何まで悪いね、と圭介は
今まで使っていたおしぼりを手にしたところで、辰美が割り込んだ。
「いや、それには及ばない。このおしぼりは私が使おう」
 ひょいっと圭介の手からおしぼりを取り上げ、にやりと笑ってみせる。
 その様子に、夜子が口を開きかけたところで、「何言ってんだ。お前は」と圭介に奪い返された。
「せっかく、持って行ってくれるって言ってるのに、わざわざ汚れたのを使うヤツがいるか」
 子どもを叱りつけるように言う圭介に、夜子の顔が明るくなる。
「笹戸さん、それをこちらへ。持って行きますから」
「ドレッシングやらビールやらでべたべたじゃねえか。全く。お前はこれを使え。俺は新しいのをも
らってくるから」
 圭介は夜子の声に全く気付かず、先ほど夜子が持ってきた新品のおしぼりを辰美に渡してしまい、
そのまま席を立っておしぼりの交換に行ってしまった。
238-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:19:29 ID:HVq+lhKh
「……」
「……」
 呆然としたのは夜子だけではない、辰美もぽかんとしている。

「……くっ…」
 先に沈黙を破ったのは、辰美の方だった。
「くく、うくくくく…!」
「…何が可笑しいんですか?」
 身体をくの字に折って笑う辰美に、夜子は突き刺すような視線を向ける。いや、失礼。と辰美は涙
を拭う。
「きみのことを笑ったわけではないよ。七夕夜子さん」
「私のことをご存知なのですか?」
「そりゃあね。私は外注だが、一緒に仕事している人たちの名前くらいは覚えているよ」
 辰美は片頬を上げてにやりと笑い、付け足す。
「特にきみのことはね」
「どういう意味ですか?」
 途端に、夜子が鋭い視線を投げる。辰美はそれを、片頬を上げた笑みのまま平然と受け止める。
「なに。たいしたことじゃない。開発室にお邪魔する度に、彼に必要以上にくっついているきみを見
かけたのでね。少々気になっていた」
「それは奇遇ですね。私もあなたのことを気になっていました。南東辰美さん」
「ほう?」
 向き直って正面から辰美を捕らえて言い募る夜子に、辰美は不敵に頬をゆがめる。
「たまに開発室にいらしたと思えば、笹戸さんに馴れ馴れしく声を掛けてましたからね。否が応にも
気になります」
「なるほど」
 辰美は不敵な笑みを浮かべたまま、残り少なくなったビールを飲み干す。
「実を言うとだね、今日はきみに会いに来たのだよ」
「それは残念です。私は会いたくありませんでした」
「まあ、そう言わないでくれ」
 辰美は空になったジョッキをテーブルに置くと、夜子の方に向き直る。
「私はね、前々から不思議だったんだ」
「何がですか?」
「彼のことだよ」
「笹戸さんが何か?」
「正直、彼は素敵だ。あれほど良い男は見たことがない」
 辰美は夢見る少年のような顔になって、きっぱりと言い切る。
「その点は同意します。でもそれは不思議でも何でもありません」
 即座に夜子も負けじと言い切る。
「いや、そうじゃない。それは分かっている。彼が良い男なのは、不思議でもなんでもないんだ」
「…何が言いたいんですか?」
 夜子は、目の前の少年のような女性に、上手いこと誘導されているような焦燥感を感じつつも、
先を促す。
239-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:20:31 ID:HVq+lhKh
「彼の良さに気付く女がほとんどいないということさ。私はそれが不思議でならない」
 本当に不思議そうに、辰美がため息交じりで口にする。
「なるほど。そういうことですか」
「私が知る限り、現時点で彼に好意を寄せている女は、私ときみだけだ」
「ということは、敵はあなただけ、ということですね?」
 夜子は心の中でデフコンを即座に1段階アップさせ、緊急警報を発令した。
「きみは意外に血の気が多いな。まあ落ち着きたまえ」
 しかし辰美は、挑むような夜子の視線をさらりとかわす。と思えば、不意に真面目な顔になり、夜
子を見つめる。
「きみに質問があるんだ。──彼の何処が気に入ったのかね?」
「愚問ですね。彼の全てです」
「なるほど。私と同じだな」
 光の速さで即答する夜子に、辰美は嬉しそうに微笑む。いつもの人を食ったような片頬笑いではな
く、心の底から嬉しそうに微笑んでいる。そんな彼女に、夜子は少し毒気を抜かれた。
「なぜ他の女は、彼の良さに気付かないんだろうなあ」
 世間話でもするかのような気楽さで、呟くように言う辰美に、夜子はふと疑問が湧いた。
「どうして彼の良さを知って欲しいのですか? ライバルを増やすだけだと思いますが」
「それこそ愚問というものだよ。彼はもっと多くの選択肢を持つべきなんだ」
「…多くの女性が、立候補に名乗りを挙げるべきだと?」
 辰美の独特な言い回しを、夜子は噛み砕いて理解する。
「そう、その通り。彼にはその価値がある」
「彼にそれだけの価値があるのは同意します。しかし、分かりませんね」
 夜子が真直ぐ見つめて言い切ると、辰美は、ん? と片眉を上げて先を促す。
「あなたはなぜ、彼の良さが広まるのを望むと同時に、他の女性が彼に近付くのを邪魔するのですか?
あなたの行動は矛盾しています」
「きみは何か勘違いをしているね? 私は他の女の邪魔をしたことなど一度も無いぞ」
「いえ。現にこの私が邪魔をされました」
「いつ私がきみの邪魔をしたね?」
「私と彼が、仲睦まじくメニューを選んでいる時に、割り込んできたのをもうお忘れですか?」
「別にきみと彼の会話に割り込んだわけじゃないだろう? 会話がひと段落したようだから、彼に声
を掛けただけだ」
 平然と、辰美は続ける。
「私は彼に話し掛けただけで、その後は自然な会話だったはずだが? それに、忘れているのはきみ
の方だ。そもそも彼にきみのことを思い出させたのは、他ならぬ私だぞ?」
 片頬を上げて、にやりと人が悪い笑みを浮かべる。うくっと夜子が怯む。
「私が他の女の邪魔をしようとするならば、そういったことはしないはずだがね?」
 確かにその通りだ。しかし、と夜子は食い下がる。
240-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:21:30 ID:HVq+lhKh
「もう一つあります。なぜおしぼりを横取りしたのですか?」
「そんなのは決まっている。“処分”などと言われては、黙ってみてるわけにはいかない。私は彼に
他の女が近付くのを邪魔はしないが、私自身に売られたケンカは買う主義だ」
 いつになく鋭い視線で、辰美は夜子を真直ぐ見つめる。二人の視線はしばし交叉し、
「…なるほど。それは失礼しました。謝ります」
 意外なほど、夜子はあっさり非を認め丁寧に頭を下げる。再び上げたその顔からは、今まで発して
いたトゲが消えていた。彼女の変化に、辰美は頬を微かに上げる。と、その時、

「………あのぉ……、ラブラブジュースをご注文のお客さまはぁ……?」
 周囲の異様な空気に、勇気を振り絞って、店員が注文の品を持ってくる。
 見れば、いつの間にか周囲の視線が辰美と夜子の二人に集中している。同僚も、他の客も、二人の
女の戦いを、固唾を呑んで見守っていた。
「あ、あのぉ……、ラブラブジュースは、どちらに置けば……?」
 店員は、針のむしろのような空間に、自分の職務と逃げ出したい感情のせめぎ合いに悶えていた。
 ここは店なのだから、決して場違いではないはずなのに、空気読め。とか周囲で囁かれ、まだ若い
女の店員は泣きそうになる。
「そのジュースは私です。ここに置いておいて下さい」
「あ、はい。かしこまりました」
 夜子が手を挙げ、店員はほっとしたように品物を置くと、そそくさと去って行く。
「その飲み物を彼と飲もうとしたのかね?」
「ええ、そうです」
 夜子が注文したのは、ラブラブジュースという名前の品物だった。大きなグラスにピンク色の液体
がなみなみと注がれ、二本のストローがハート型を描き、二手に分かれている。
 よくある、バカップルご用達の、二つに分かれたストローで一緒に飲むタイプのジュースだ。この
居酒屋は、馬刺ソーダといい、オイスターカクテルといい、ヘンなメニューが多いようだ。
「そういえば笹戸さん、遅いですね」
「ふむ。──私のけーくんはどこに行ったか、誰か知らないかね?」
 周囲に呼びかけた辰美に、会社の皆が申し合わせたかのようにブルブルとシンクロで首を振る。
「私の、とは聞き捨てなりませんね?」
 耳ざとく聞き付け、夜子がにらむ。
「しかし、きみのでもないだろう?」
「今は、私のではありませんが、あなたのでもありません」
「いずれそうなるさ」
「いえ、なり得ません」
 二人は静かに火花を散らす。辰美はにやりと笑って、先ほど運ばれてきたジュースを一瞥する。
「恐らく、彼は一緒に飲むのを拒否すると思うぞ? 鈍感のくせに、恥ずかしがり屋だからな」
 辰美は苦笑してピンク色の物体を眺める。
「笹戸さんは何でもいいと言ってくれましたから。それより、また質問してもいいですか?」
 圭介は何でもいいとは言っていないはずだが、夜子はもう飲み物などどうでもよさそうな調子で、
辰美に問いかける。
「なにかね?」
241-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:22:47 ID:HVq+lhKh
「彼が多くの女性から迫られ、その結果、自分が選ばれなかった時はどうします?」
 望んでライバルを増やすということは、自分が彼に選ばれる可能性を自ら減らすことと同義だ。夜
子には、それは自殺行為に思えた。
「その時は諦めるさ」
「あ、諦めるんですか?」
 あっさりと言い切る辰美に、夜子は唖然となった。
「まあ大泣きするだろうがね。その後は、まあ、彼次第」
「あ、あなたは、諦められるんですか!? あなたの彼への想いは、その程度なのですか!?」
 思わず、夜子は立ち上がるような勢いで、辰美を問いつめる。
「きみは早合点が過ぎるな。まだ話の途中だ」
 辰美は片手を上げて夜子を制し、続ける。
「私は、全てにおいて彼の意志を尊重したいのだよ。その結果、彼が選んだのが私でないのならば、
それはすなわち、彼は私とそういった関係になるのを望んでいないということに他ならない」
「……」
 夜子は押し黙り、真剣な表情で辰美の言葉を聞いている。
「もしそうなったら、私はすっぱりと諦め、彼が望む私との関係を築くだけだ」
 例えそれが、彼の前から消えることでも、私は喜んで引き受けるさ。そう言って、辰美はテーブル
においたジョッキを掴み、口元まで運んでから、中身が無いことを思い出す。
「これをどうぞ」
 夜子はラブラブジュースを辰美に差し出した。
「いいのかね? 彼と飲むつもりだったのだろう?」
「いいんです。その代わり、私も一緒に飲みます」
 まるで、一緒に死地へ赴く戦友のように、夜子は辰美に接していた。辰美はいつものように片頬を
上げた微笑みで答える。
 二人は同時にストローをくわえ、迷いを吹っ切るかのように、一気に中身を飲み干す。
 辰美は大きく息を付き、
「きみの言いたいことは分かるよ。私も、その時は諦めると言ったが、実際に諦めが付くかどうかは
よく分からない。でもね、」
 少年のように屈託のない笑顔を夜子に向ける。
「想像してみたまえ。目の前に並べられた、この世の全ての女の中から、彼が自分を選んでくれたと
したら?」
 ぞくり、と夜子の背筋が震えた。思わず持っているラブラブジュースを落としそうになる。
「確かに分が悪い賭けかも知れない。しかし、それは賭けるだけの価値がある勝利だと思わないかね?」
 夜子は震えた。彼女の真意を今こそ理解した。
「もちろん、ただ指をくわえて彼に選ばれるのを待っているわけではない。選ばれるだけの努力はし
てきているし、これからもするつもりだ」
 辰美の覚悟と意思に、夜子は一言だけ、絞り出すように言った。
「あなたは、とんでもなく手強い相手ですね」
「当然だ。この世に生まれ落ちた瞬間から、それこそ同じ病院の新生児ベッドで共に寝ていた時から、
25年間も彼のことを狙っているのだからね」
 にやりと、いつもの笑みを浮かべる辰美に、夜子は挑戦的な笑みを返す。
242名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:23:37 ID:T2E7ovW4
(・∀・)イイヨーイイヨー
243-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:23:41 ID:HVq+lhKh
「25年かけても落とせなかったんですね? 私は彼にアプローチを始めて1年弱ですが、随分と親しく
なれたと思いますよ?」
「それはきみの頭の中だけだと、老婆心ながら忠告しておこう」
「それはどうでしょうか? あなたは在宅、私は同じ職場。しかも彼と同じ班です。このペースなら
ば、25年のハンデを覆すのも、時間の問題ではありませんか?」
 お互い一歩も引かず、笑みを浮かべ続ける。今度は辰美が切り出した。
「私がなぜフリーランスをしているか、きみは分かっていないようだね?」
「さっき、笹戸さんと話している内容を聞きました。人付き合いが嫌いだからですよね?」
「それは理由の半分に過ぎない。いいかね。私がフリーで仕事をしている理由は彼との生活のためだ」
「どういうことですか?」
 彼との生活、という生々しいキーワードに、夜子は眉を潜め、一時は下がったデフコンを再び引き
上げる。
「私の仕事内容は知っているね?」
「はい。断腸の思いであなたが作ったコンバーターを使ってますよ」
「それは結構。こういったエンジンは非常に儲かるのだよ。私は自作のエンジンで複数の会社とライ
センス契約を結んでいる。圭介の会社もその1つだ。フリーじゃないと、こういうことは出来ないか
らね。つまりだね、下賤な言い方をすれば、私は同年代の人間の中ではお金持ちの部類に入るのだよ」
「あなたを見損ないました。笹戸さんはお金で釣られるような人ではありません」
「さっきも言ったが、きみは早合点が過ぎるぞ。圭介に注意されたことはないかね?」
「余計なお世話です。あなたこそ、言い方が周りくどすぎます。笹戸さんに呆れられたことはありま
せんか?」
「なかなかどうして、きみも鋭いね。よく言われるよ」
 余裕の笑みで、辰美は受け流す。
「おだてても何も出しませんよ。で、そのお金持ち様がどうだと言うんですか?」
 何も出ないではなく、出さないと言って、夜子は先を促す。
「私は将来的に圭介と会社を興そうと考えている。そのための準備金を溜めているところだ。私はプ
ログラマー、圭介はデザイナー。二人いればゲームは作れる。圭介は今はモーションを専門にしてい
るようだが、彼は2Dも3Dも行けるからね。どうだ? 夫婦でゲーム作りだぞ? 羨ましく無いかね?」
「まだ実現もしていないことで羨ましがらせようとは、あなたのお目出度さには頭が下がります。取
らぬ狸の皮算用という言葉をご存知ですか?」
「確かにまだ実現はしていない。しかし、準備はあと2年以内に整う予定だ。どうだね? きみの言っ
ていた時間の問題とやらは、実はきみの方なのが危ういのではないかね?」
 隙がない。夜子は突破口を探して、言葉を捜す。
「…笹戸さんはその話を知っているんですか?」
「いや、この話はしていない。ちなみにこの計画を話したのはきみが初めてだ」
「それは光栄ですね。では全力持って望ませて頂きます。その余裕を後悔させて差し上げますよ」
「さっきも言ったがね、私は余裕を披露しているわけではない。あらゆる条件に置いて公平に、彼に
選ばれたいだけだ」
「自分がどう攻めるか、公開するということですね?」
「その通り。もっとも、これは私の内部ルールだ。きみがそれに付き合う必要は無い」
244-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:25:30 ID:HVq+lhKh
 挑発するかのように、辰美が言う。夜子としては乗らないわけには行かない。
「さっきも言いましたが、私は同じ会社で同じ班という好条件を、最大限に利用させてもらうだけで
す。忙しい時期は、それこそ寝食を共にするほどの密度ですからね。ちなみに、これを見て下さい」
 ハンドバッグから紙切れを取り出し、辰美に差し出す。
「…一体、これはなにかね?」
 紙切れには、“942時間48分12秒”と記されていた。
「これは、私が彼の寝顔を見ていた総時間です」
「寝顔? 盗撮でもしてるというのかね?」
「いえ。これは彼の許可を得て、正当な権利として至近距離から眺めていた時間ですよ」
 言い方は仰々しいが、ただ単に、仮眠室で寝ている圭介の寝顔を見ていただけだ。
「どうせ会社の仮眠室で寝てるところを見ていただけだろう?」
 あっさり看破し、くだらない。とでも言いたそうな顔つきで、辰美は続ける。
「つまりきみは、この時間分だけ無駄に過ごしていたということだね」
「この時間分だけ、無防備な彼と接しているということです」
 夜子は辰美の言葉を訂正する。その言葉に、辰美は下からにらみ付ける様に夜子を見上げる。
「こっちこそ見損なったよ。彼をレイプなどしてみろ。私は必ずタイムマシンを作り上げて、きみの
先祖を七代前から抹殺してくれる」
 絶対にやり遂げる意思を持って、辰美は宣言する。辰美にしては珍しく苛ついているようだ。
「荒唐無稽な復讐方法ですね。安心して下さい。レイプなど畜生の真似はいたしません。もっとも、
彼の寝顔を見てるとムラムラして襲いたくなってしまいますが」
「正体を現したな。このニンフォマニアめ。圭介に近寄るな汚らわしい」
 はき捨てるように、辰美が凄む。おや? と、夜子は辰美の変化に気付いた。
「彼に抱かれたいと思うことは正常なことだと思いますが? それに、私が抱かれたいのは彼だけで
すから、色情狂ではありません」
「どうだかな? 性犯罪者の再犯率は高いそうだがね?」
 色情狂の次は性犯罪者と来たか。ここにきて、急に酷い言われようだ。夜子はカマを掛けてみるこ
とにした。
「何を、そんなに焦っているんですか?」
「焦ってなどいない」
「嘘ですね。そんなに私が彼を誘惑するのが怖いですか? 彼が、私の身体にコロッと参ってしまう
のが、そんなに怖いですか?」
「違う! ──ああ、いやだいやだ。これだから、胸にぜい肉がある女は嫌いなんだ。すぐシモの話
をする」
 嫌なものでも見るように、辰美は夜子の胸を一瞥する。興奮しているらしく、辰美は止まらない。
「不恰好な胸のぜい肉に彼が惹かれるくらいならば、とっくの昔に私がものにしている」
 言ってもいないのに、辰美は胸の話をしだす。風向きが変わった感触を、夜子は確かに感じた。
「それは分かりませんよ? あなたには出来ない誘惑方法ですからね?」
 わざとらしく胸を寄せ、挑発する夜子に、辰美が苛ついたように言う。
「大きさは関係ない。胸を触らせたり押し付けたりした程度では、彼は動じないという話をしている
んだ!」
245-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:26:26 ID:HVq+lhKh
 確かに彼は、夜子が散々、胸を押し付けても無しの礫だった。だが、引けない。
「ですからそれは、クレープ生地のように薄いあなたの胸だからです。私の胸とあなたのクレープ生
地を一緒にしないでください」
「ク、クレープ生地だと!?」
 これまで、ある程度は冷静に対応してきた辰美が、ここに来て初めて怒りをあらわにした。どうや
ら胸は本格的に弱点らしい。手応えを感じた夜子はさらに畳み掛ける。
「あら? クレープ生地に失礼でしたね。言いなおします。シングルのトイレットペーパーのように
薄い…」
「よおおおし! いい度胸だ表へ出ろ!!」
 ロケットのような勢いで、辰美が立ち上がった。短く切ったボーイッシュな髪が、猫のように逆立っ
ている。完全に辰美の逆鱗に触れたようだ。
「胸の大きさが、女の魅力の決定的な差でないことを教えてやる!」
「いい加減にしろ」
 ゴヅン! と腹に響くような鈍い音を立てて、辰美の脳天にゲンコツが降った。
「〜〜〜ッ! な、何をする!? 圭介!」
「お前が何をしているんだ? 全く、人がトイレに並んでる間に、なんか騒がしいと思ったら…。何
が表へ出ろだ。慌てて飛んできたぞ」
 呆れた顔で、圭介が辰美を見下ろす。
「ち、違う! それは違うぞ!」
「言い訳はゆっくり聞いてやるから、とりあえず帰るぞ」
 圭介は答えを聞かず、辰美の腕を掴んで引きずる。
「待て! あの女にせめて一太刀…!」
「まあまあ。とりあえず来なさい」
 圭介は中学生よりも小さい辰美を、まるで荷物のように小脇に抱えて、歩き出す。
「待て! 下ろせ! ああでも抱えられてるのも嬉しい! いや、やっぱり下ろせ! ああでもっ」
 夜子へ逆襲したい気持ちと、圭介に抱えられて嬉しい気持ちが、辰美の脳みそを綱引きする。
「明日は臨時休暇だからな。朝までたっぷり説教してやるから覚悟しろよ」
「あ、朝までだと!? 私は初めてなんだぞ! う、嬉しいが、そんなにされては壊れてしまう!」
 辰美の脳みそは、綱引きで何か重要な部分がイカレてしまったようだ。しなくてもいい告白をして
いる。
「はいはい。いいからいいから」
 圭介は何事もなかったかのように、辰美をしっかり抱えて、ぽかんとしている皆に振り返る。心か
ら済まなそうに眉を下げ、
「それじゃ、すみません。こいつ連れて帰ります。七夕さん、ごめんね? 後で何かお詫びするから」
「圭介! そんな女に詫びる必要など…あだッ!」
 口を挟む辰美に、抱えたままでダルシム折檻。
「ホントすみません。お騒がせしました」
246-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:27:14 ID:HVq+lhKh
 頭を下げ、全身から申し訳ないオーラを出しつつ、笹戸圭介が南東辰美を強制退場させた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……し、しまった…!」
 静寂の中、夜子が沈痛なうめき声を上げ、がっくりとうなだれる。
 舌戦には勝ったかもしれないが、肝心の彼は辰美をお持ち帰り(決してそういうわけではないが)
してしまっているこの現状。
 試合に勝って勝負に負けたとはこのことか…。


 静寂の中、誰かがボソリとつぶやいた。

七夕夜子 VS. 南東辰美
8分22秒、七夕選手のTKO勝ち。


終わり
247-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ- :2007/05/30(水) 00:28:31 ID:HVq+lhKh
以上です。

読んでくれた方、ありがとうございます。
248名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:31:14 ID:hbqt6UP9
うおぉ…初めてリアルタイムで読めたっ!!

職人さん、GJっ!!!!!
249名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:44:28 ID:0YTREf3m
おお、なんともいい女の戦い!!
GJ!!
250名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 00:52:23 ID:KYIHn/jY
素直かつクールなバトルだったなw
それほど描写がなかったにも係らず、周囲が固唾を飲んでいたであろう空気まで伝わってくるw
251名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 01:01:38 ID:pYB1yvst
GJ!
何だこのピリピリしたやり取りw
続編希望!
252名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 02:23:26 ID:xIyp8mZk
これはあっ!!・・・・神GJェェェ!

これの続編とエロがみれるならガチで60万なら支払ってもいい。
253名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 04:18:45 ID:hh0IakSG
試合に勝って勝負に負けたという言葉が的を得すぎ
うめえ
254名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 04:46:29 ID:ZsNRzAI7
ワッフルワッフル
255名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 09:38:36 ID:rUaQFcHQ
女同士のバトルで手に汗握ったのは初めてだぜw
ところで第二ラウンドはいつかね?
256名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 10:32:04 ID:PLgz0HC+
GJ!GJ!wktk!wktk!
257名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 10:58:50 ID:pXKqTZBT
ここの所このスレ神すぐる……何だかかえって怖いな。
258名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 18:14:04 ID:e9M6Z5kw
的を射る
259名無しさん@ピンキー:2007/05/30(水) 18:39:05 ID:+3PzOjI9
素直クールな恋人がほしいなんて贅沢は言わん。
だが、実際に素直クールな人に会ってみたいと思った今日この頃。

何にせよ、GJでした。
楽しませてもらいました。
続編禿しくキボン!
260名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 01:35:29 ID:ATf+/6jI
>>259そうか・・・・
だったら俺たちで精一杯素直クールを演じてやる!拙いかもしれないが絶対に満足させてやる!









男でよければな〜
261名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 09:45:39 ID:VG2XsYsm
大丈夫だ>>260
そこに本物の素直クールさえあれば性別なんか関係ないはずだ!!!!


…関係ないと思う
……きっと関係ないとうれしいなぁ〜
少なくともお前はそうだろ?
>>259
262259:2007/05/31(木) 13:01:56 ID:6vFgChUM
>>260-261
関係がないわけはありません。
むしろ、性別は最重要事項といっても過言ではないかもしれません。
私は女性の素直クールを求めているのです。
故に貴方方などはこれっぽっちも必要とはしていません。

…と、自分なりに素直クールを演じてみましたが、
なかなかどうして難しいものです。
もう自分で演じるのは今後一切やらないと同時に、
職人さん達が如何に神であるかを思い知りました、ええ。
263ハンサムな彼女:2007/05/31(木) 17:39:09 ID:6j+3X31k
ある程度書き上がって、推敲したら投下可能です。
ただし、家の回線が、プロバイダ規制にかかっていますので、
解除までお待ち下さい。
264名無しさん@ピンキー:2007/05/31(木) 18:11:50 ID:0euq5/yU
待ちますとも!
wktkwktk
265名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 09:42:37 ID:ztKgeOLW
『ゴゴゴゴゴゴ』とか『ドドドドドド』といった荒木エフェクトが聞こえてきそうな緊迫した戦闘シーンをお待ちしてます
266暇つぶしにどーぞ:2007/06/01(金) 12:58:04 ID:SFgmKIKE

          良く晴れた朝の教室にて

先生「え〜、今日は昨日言っていた通りぃ、転校生を紹介しま〜す」

 ( ヴォースゲー!! 美人じゃアッーん!! 可愛いぃ!ムカツク! ( ゚∀゚)o彡゜オッパイ! オッパイ! )

素直「はじめまして。州菜 瑠子(スナ ルゥコ)と言います」

 ( ルー子? 外人か? 欧米か? koolな感じぃ〜 落ち着いた雰囲気だなぁ〜 )

先生「はーいみんな静かにぃ、州菜さんは引っ越してきたばっかりなのでぇ、わからないことが沢山あると

州菜「特にありません」

先生「とぉ、特にないのでぇ、え〜みなさん仲良くす

州菜「結構です」

先生「すぅ、普通にぃ、接してくださいねぇ〜」

 ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚ ) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) 

先生「じゃぁ、席のほうは後ろの空いて

州菜「彼の隣がいいです」
     ↓
主人公「 !? 」
267暇つぶしにどーぞ:2007/06/01(金) 12:59:30 ID:SFgmKIKE

先生「えぇ〜っとぉ、誰の

州菜「緋色 公人(ヒイロ キミヒト)君の隣がいいです」

 ( な、なんだー!? なんなのあの子? 何で名前知ってんの? ハムの知り合いか? )

先生「あーハムっち、あっ、じゃなくて、公人君のとなりね〜。でも、となり

 ツカツカツカ

州菜「悪いけれど席、交換してくれないかな?」

隣人「ぇ、あ、の、ちょっとあの、いきなりは  

――クリップから諭吉を数枚抜き取ると隣人に握らせる――

州菜「交換してくれるね」

隣人「of course( 私は貴方のマゾです )」

先生「教室内でぇ、買収はちょっとぉ〜                     隣人移動中……

 カタンッ

州菜「よろしく、州菜 瑠子だ。好きに呼んでくれてかまわないよ」

緋色「あ、はぁ、よろしく」                             移動完了ォッ!!!

( どうなってんの!? これな(ry 万札いっぱい持ってたぞアイツ )

州菜「可愛いお尻だ。なぁ緋色、本当にどんな呼び名でも構わないよ。
    験しに雌豚とでも呼んでみてくれ、出来れば蔑むように、こう

先生「えぇ〜っと! では皆さぁん、新しい友、達? が増えて賑やかになりましたがぁ〜、
    勉強に部活に、しぃっかり身をいれるよぉ〜っに!」

   ( ´∀`)<はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!

先生「よろしい♪ では日直ぅ」

   きりぃーーーっ   っれーーーーーーーーっ  ちゃくせぇーーーーーっ

州菜「ところで緋色、私のおっぱいを見てくれ。こいつをどう思う?」

緋色「(いきなり呼び捨て…) すごく… 大きいです… 」


         そして緋色の青春が始まる!!
268名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 14:34:44 ID:++E7UBNM
>>267
GJ!
そして緋色の桃色な青春が始まるワケですね?
269名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 14:50:58 ID:lyrrEivL
>>267
面白いんだけど…
携帯から見ると変に文章ずれてて見づらいよ。
270名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 16:24:18 ID:rx/mGQEh
しょうがないんじゃ
271名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 16:54:08 ID:9/Fnt74Q
携帯から見んなボケって話だ
272素クール質問コーナー:2007/06/01(金) 16:56:05 ID:+J7g3PJ7
便乗してネタを一丁

Q.天然と素クールを組み合わせるとどうなるの?

     * * *

とある高校のとあるクラス。
そのクラスは現在、混沌とした空気に包まれていた。
その元凶は、一組の男女であった。

「戸隠守、君が好きだ。付き合ってくれないか?」

そう席に座る少年の目の前に仁王立ちし、じっと彼を見つめるのは、長身の美少女。
その美少女、名を真金 怜(まがねれい)と言った。

「え?僕?……うん、いいよ」

そう返事をした少年。
名を戸隠 守(とがくしまもる)と言い、少々頼りなくはあるが、類い希なるの優しさを持ち合わせた少年であった。
ただ────

「ほ、本当かっ?」
「うん、真金さんが卵の黄身を好きな事と何の関係が有るのかは分かんないけど、何処へでも付き合うよ?」

────天然。であった。

「……何だって?」
「え?だからどこかへ一緒に行ってくれないかって行ってるんでしょ?」
「…………」
「で、何処行くの?」
「…………」

しばらく、怜は固まったままだったとさ。

     * * *

Q.天然と素クールを組み合わせるとどうなるの?
A.固まります



落ちないorz
273名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 17:44:09 ID:9jp00uca
>>272
吹いたwww
274名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 21:09:25 ID:tK4sesh2
>>272
これよくね?
275名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 21:20:56 ID:AHZx2zPp
素直なアプローチに対するリアクションは恥ずかしがる、というケースが多かったからなぁ。
考えてみれば天然のリアクションはよいカウンターになり得るわけだw
276ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:29:59 ID:qZ2oXRBk
規制が解除されないので、ネカフェで投下します。
277ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:31:20 ID:qZ2oXRBk
「ほほう? ここが佐藤の自宅か」
 悪魔が、最終防衛ラインを確認し、ターゲットロックオンした。
 痛ましい犠牲者を多数出した教室での戦闘後、悪魔は俺達を追尾し、間に割って入り、右手で俺、左手で慧の腕を抱きしめた。
 そしてなんたることか、佐藤の家に行こうという寝言をほざき、数度にわたる却下も受け付けなかった。
「ちなみに、佐藤の家の場所は地図で予習済みだ。ごまかそうとしても無駄だから」
 そういうと邪悪な笑みを浮かべた悪魔は、ちゃんと俺の家の方に歩き始めたからどうしようもない。
 ひたすら嫌な予感を感じつつ、歩くこと20分。
 慧と俺と各務睦美という悪魔は俺の家の前に立っていた。
「さて佐藤、おまえの家にあがらせてもらうぞ。好きな男の家に上がり込むのは女の幸せだからな」
 そうして悪魔は最終防衛ラインへの侵攻を宣言する。
 ひたすら無言で状況に耐えていた慧も、さすがに侵攻阻止にまわった。
「各務先輩、康一の家は、いずれ私の家になる。よって「赤の他人」の先輩には是非遠慮していただきたい。
 それに、これから私は康一の子供を産むためにやらなければならないことがたくさんある。今すぐ帰って欲しい」
「なっ! 慧!」
「康一。先輩に引導を渡すためには、私が康一の子供を産むしかない。
 身も心も子宮も卵巣も康一のために捧げれば、先輩の妄執も晴れると思うのだ。
 ……というわけで、私は康一に似た男の子が欲しいな」
 力説していた慧が、頬を薄く染めて上目遣いでおねだりした。
 その反則ワザに力が抜けて、俺は家の門に寄りかかった。
「なるほど、慧の言葉から考えるに、佐藤の家には今両親がいないということか。 
 ククッ、これはおもしろいことを聞いたぞ」
 だが、先輩はひるむどころか、獲物を見つけた虎のような表情をした。
278ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:32:48 ID:qZ2oXRBk
 失策を悟った慧が、顔をわずかに引きつらせる。
「しまった! す、すまない、康一!」
「いや、そこでリアクションを返すとなおのことばれるんですけど、慧さん」
「なんだと! 図ったな、先輩!」
 俺の冷静な指摘に、慧はますますうろたえる。
「慧、君を愛しているが、素直なのがいけないのだよ」
「ともかく先輩。両親はいませんが、残念ながらうっとおしい姉がいます。
 先輩が妄想するようなことは起きませんので、先輩はもう帰って下さい。
 ……ついでに、腕も離して下さい」
 勝ち誇る先輩から流れを引き戻そうと、俺は努めて冷静な口調で言った。
 しかしまるでPAKを蹴散らすキングタイガーのごとく先輩の進撃は止まらない。
「子作りをしないなら、あたしが邪魔しても問題あるまい?
 それとも、愛し合う予定があるのか? どうだ、このスケベ共?」
 やすやすと抵抗を蹂躙して、各務睦美はにやりと笑う。
「……なぜだ。どうしてこうなる?」
「すまない、康一。私のせいだ」
 落ち込む俺に沈痛な面もちで慧がわび、そして敗戦がやってきた。
 突然扉が開き、肩までのセミロングヘアでワンピース姿の女が顔をのぞかせたのである。
 俺に似ずに美人と評価される、それは俺の姉であった。
「あら康一、家の前でどうしたの? こんな可愛い女の子達を立ち話させるなんて、駄目よ?
早く上がってもらいなさい。ほんと、しようがない康一ね」
 かくして、最終防衛ラインは、我が姉という司令部のうらぎりによって突破された。
279ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:34:46 ID:qZ2oXRBk
 いつも見慣れたリビングも美人二人が座ると、どこか違うような気がする。
 もっとも、俺は軍法会議の被告席に座っている気分だった。
 正面には、笑顔の姉がいて、俺の両隣で慧と先輩が茶を飲んでいた。
「各務睦美です。康一君とは、その……友達以上のおつきあいをお願いしているのですけど……」
「康一がいつもお世話になっています。姉の靖子です。よろしくね。
 でも康一、大島さんだけじゃなく、こんな綺麗な人までどうしたの?
 好きになるのは仕方がないけど、二股は駄目よ。お姉ちゃん、悲しいわ」
 いつものようににこにこと姉が対応する中、俺と慧は各務先輩の被った猫に、心の底から驚いていた。
 頬を染めて上目遣いになり、口調も丁寧語に変わった。声のオクターブは一段高い。
 目を凝らせば先輩の頭の上の巨大な猫が幻視できそうだった。
 今の仕草だけ見れば、男の五十や百の撃墜はたやすいだろう。もっとも中身はレズで非常識なので俺は絶対遠慮するが。
「お姉さん、それは誤解だ。康一君は、私だけを愛してくれている。ほんとうだ」
「……いいんです。私が佐藤くんを勝手に好きになっただけですから」
 慧の反撃も、先輩の巧妙な猫攻撃で説得力をあらかた持って行かれてしまった。
 恐ろしいことに、先輩の目が少しうるんでいたりする。きっと目薬なのだが、証拠がない。
280ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:36:40 ID:qZ2oXRBk
「あらあら、二人とも本気なの? それは困ったわね。康一ってばいつの間にこんなにもてるようになったの?
 昔はお姉ちゃんだけのものだったのに、悲しいわねぇ」
 姉のにこにこ顔は変わらない。変わらないが、俺は弁解の無意味さを確信していた。
 姉は、切れたりヒステリーを起こしたりしないが、くどくてしつこい女だった。
 さらには信じ込むとなかなか思いこみを修正しないという悪癖も持っていた。
 きっと間違いなく、姉は先輩の言うことを信じただろうと俺は確信した。
「康一、お姉ちゃんにちゃんと正直にお話ししてくれるわよね?
 各務さんに大島さん、すぐに済むから康一のお部屋で待っててくださいね」
「お姉さん! 違う……」
「大島さん、私達もいきましょう? お姉さんの邪魔をしてはいけないと思うの」
 にこにこ顔は変わらず、しかし姉は俺を恐ろしい力で、奥の仏間まで引っ張り込んだ。
 その途中で、先輩の姿をした悪魔が笑ったのを俺は見た。
281ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:37:56 ID:qZ2oXRBk
 仏間にしぶしぶ座った俺の前に姉は正座した。詰問する気がありありだった。
「康一、二股掛けるくらいなら、どうしてお姉ちゃんに相談してくれないの?」
「だから、二股じゃないって! 俺は慧を愛しているの!」
「はいはい。ところで各務さんって同い年なの?」
 なぜか、俺の反論は華麗にスルーされる。
「流すなよ! 一つ上の先輩だよ」
「康一は私にはいつも冷たいのに、そんなに若い子がいいの? 若い子をたぶらかしてはだめよ。お姉ちゃんでがまんしておきなさい」
 姉は取り出したハンカチで涙を拭くまねをする。子供の頃はこの泣き真似に何度も騙されたものだった。
「人聞きの悪いことを! たぶらかしていない! だいたいなんで姉さんで我慢するんだよ!」
「私と結婚の約束をしてるのに、大島さんみたいな綺麗な人に悪いことして……それでも足りずにまた綺麗な人を連れてきて。
 結婚の約束は、嘘だったのね」
 いつも思うが、姉の思考はわからない。結婚の約束というのは、幼稚園の時のものだ。
 お姉ちゃんと結婚するって約束したらチョコアイスをやると言われて、俺は承諾の返事をしたそうだ。
 チョコアイスしか目に入っていない当時の俺も俺だが、結婚をチョコアイスでつり上げる姉も姉である。
 しかもそんなものは笑い話でしかないはずなのに、なぜ近年になって姉がやたら蒸し返すのである。 
「姉さん! 姉弟では結婚できません! だいたい、結婚の約束って、おやつを餌に俺に無理矢理言わせた奴でしょうが!」
「いいの、私我慢するわ。そして康一がいつか私のところに帰ってきてくれるのを待ってるから」
 姉がハンカチの端を噛んで耐える女を演じるのを俺は生暖かく見守るしかなかった
「待つな。是非、今すぐ、嫁に行きやがれ。というか彼氏のところにいけ!」
「冷たいのね。でも私は康一だけを愛してるということを忘れないで。
 ……それじゃぁ、あの子達に私が別れ話をしてきてあげるから、康一はここで待ってなさい」
 生暖かく見守っていると、訳のわからない理屈になったので、立ち上がりかける姉をおさえつけた。
「からかうのもいい加減にしてくれ! ……もう、俺行くからな。姉さんは部屋に来るなよ!」
 そういうと俺は立ち上がって仏間を出ていった。
 でていくとき姉は相変わらずにこにこしていたが、人の言うことはまるきり聞いていないようだった。
282ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:39:48 ID:qZ2oXRBk
 仏間を出た俺は、自室がやけに静かなのが気になっていた。話し声がしないのである。
 いやな予感がつのり、冷たい緑茶と適当にみつけた茶菓子を盆に乗せて部屋に駆け上がる。
「ごめん! 待たせた……」
 パソコンのモニタにドアップで移ったオッパイが俺を迎え、俺ががっくりと膝をついた。
 おっぱいはぽよんと跳ねて、女優のあえぎ声がモニタ脇のスピーカーから流れる。
「佐藤、さすがオッパイ星人だな。なかなかのコレクションだ」
 床には、秘蔵のエログッズがいろいろと広げられ、慧がわたついてエロ本を取り落とした。
「こ、康一。こ、こ、これは違うんだ。わ、私は止めた。けれど各務先輩が……」
「慧、おまえも真剣に見ていただろうが。慧もさすがにGカップにはショックを受けていたぞ、佐藤」
 そういうと先輩はクククと笑う
 制服姿の二人は並んでちょこんと座っていた。ただしエロ本を手に持ち、PCのモニタにエロビデオを流しながらである。
 今日、何回目かの顔から火が吹き出るような感じに襲われ、俺は思わずわめいた。
「各務先輩!、これはさすがに酷すぎます!」
「わかっていないな、佐藤。女が好きな男の部屋に来たらやることは一つしかあるまい。
 エログッズを漁って、男の好みを分析し、夜の営みで応用し、男の下半身を制するのだよ」
 無意味に胸を張って偉そうに言う先輩に、なぜか慧が衝撃をうける。そんな慧に先輩がノウハウを伝えるように講義をした。
「……そ、そんな意図があったなんて」
「慧、男の部屋チェックは女のたしなみだ。掃除だけで満足していては駄目だぞ。
 手紙やメール、レシートのチェックは初歩として、服に付いた臭いや落ちた髪の毛の長さと色も確認するんだ。
 ブラウザのお気に入りと、お気に入り画像も気を付けるべきだな」
「はっ、はい、先輩。なるほど、非常に重要だ……」
 先輩の妙に具体的なアドバイスを慧はまじめに聞いてメモさえ取っていた。
283ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:43:06 ID:qZ2oXRBk
「その点、佐藤はわかりやすかった。……ほら、慧の写真もあるくらいだ」
 先輩が何気なく、慧の写真を引っぱり出した。慧が驚いた顔をして俺を見る。
 それは慧とつきあう前、たまたまなにかでとった写真だった。
 写真の中で慧が薄くほほえんでいるので、気に入っていたのだ。
 俺は大声を上げて、写真をひったくる。顔から火が出そうだった。
「先輩は処女でレズのくせに、なんでそういうことに詳しいんですか!」
「私は、ビアンじゃない。ただ慧が好きだというだけだ。もちろん男にもエッチも興味がある。
 なに、佐藤に処女をやるんだから、エッチアイテムぐらいはけちけちせず見せればいい。
 馬鹿なカマトトと違って、私は男のエッチアイテムぐらいなら充分許容範囲だ。安心しろ」
「俺が困るんです!」
「ロリコンとか、SMとか、盗撮ならともかく、おっぱい星人くらいは可愛いじゃないか。
 PCをチェックするときに、幼女の裸とか盗撮画像がでてきたらどうしようとどきどきしたぞ。
 取り越し苦労で本当に良かった。後は多少胸が小さくても問題ないと言うことを教えればいいんだからな」
 そういうと先輩はさわやかな笑顔で、俺のお気に入りのエロ本をぱらぱらとめくる。
「この糊付けされている……ページが男の好みなんだ……おお、確かにな。見てみろ、慧」
「……お、大きくて綺麗な胸だ……。いったいどのようにしたら、こんな胸になるんだ?……」
 二人して、エロ本女優の裸を食い入るように見つめた。慧なんか唾を飲み込んでたりする。
 俺は恥ずかしさで悶絶していた。『糊付け』は俺がしたからである。
 スピーカーから流れるあえぎ声が突然甲高い物になった。
「ふふ、こちらも山場のようだ」
 エロ本から目を離した先輩が、モニターに目を向ける。慧もどこか焦点の合わない目をモニターに合わせた。
 女の腰を持った男が、背面騎乗位で女を責めている。終わりが近いのか、演技臭いあえぎ声をあげていた。
「この女優は、胸だけしか取り柄がないな。慧のほうが上だ」
 先輩の批評に慧は答えず、じっと画面を見ていた。
 その慧に背後から先輩がそーっと近づき、腕を伸ばして慧の胸を手のひらで覆う。
「きゃぅ!」
 飛び上がった慧が、胸を押さえながら瞬時に後ずさって俺にしがみついた。
「な、何をする!」
「ふふん。立っていたぞ、慧」
 先輩の言葉に慧は無表情ながら、首筋から耳を真っ赤に染める。 
「いい加減にしてください!」
 さすがに我慢できなくなり、俺はエログッズを回収しようとした。
 室内に散らばる肌色の本とDVDを拾い集め、先輩の手にあった本をひったくろうとしたところで、扉が唐突に開いた。 
「康一、お茶が入った、わ、よ?……」
 姉が姿を現し、室内の動きが止まる。ひったくったはずの本が『糊付け』されたページを開けて、姉の顔に向かって飛んだ。
 ばさっと音をたてて、エロ本が姉の顔に張り付く。
「ひぃぁ」
「あ……あ……」
「少し、まずかった、かもしれないな。すまん」
 先輩の顔が珍しく強ばったが、それ以上に俺は青ざめていた。
 姉が顔の本を手に取った。そして本をしげしげと見る。笑顔は崩れなかった。
 嫌な光を瞳に浮かべて、室内を見渡す。モニタの中はクライマックスだった。
 得体の知れない怒気を立ち上らせ、姉は俺の持つ本に気がついた。
「……康一、どうしてこんな胸ばっかりの……エッチなものをたくさん持っているのかしら?」
 男のサガだと言いたかった、言いたかったが……
 お気に入りの巨乳雑誌1000円(未成年の購買は禁じられています)
 夜のおかずの巨乳エロDVD3000円(未成年の購買は禁じられています)
 言えない言い訳 プライスレス
284ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:45:16 ID:qZ2oXRBk
「康一、ほんとうにごめん」
「佐藤、悪かった。反省している」
「ははは、いいんだ。エログッズなんかなくても……。慧がいるし、ちょうど捨てなきゃと思ってたんだ。ははは」
 我ながら笑いに力がなかった。暴かれたエログッズは全て没収された。エロ動画も消された。
 しかしそれは些事である。エログッズを失ったことより、姉に全部さらされたことが痛かった。
 落ち込むなんてものじゃなく、全身が脱力して、全てがどうでも良くなってしまった。
「康一? 大丈夫か?」
「しかし、あたしでもあれは残念だな。女の胸があれほど綺麗だと、捨てられるのは惜しい。気持ちは充分わかるぞ」
 腕組みをしてうなずく先輩も、今はどうでも良かった。
「康一? しっかりしてくれ! 康一! 康一!」
 慧が必死に呼びかけてきたが、俺は乾いた笑いしか出なかった。
「はははは、いいんだ。もういいんだ。はははは」
 そんな俺に各務先輩が痛ましげな視線を送った。
「慧、言葉での慰めは無効だ。ここは一つあたし達が誠意を見せないとな」
「誠意? どうするのです、先輩?」
「簡単だ」
 一つウィンクをすると、先輩はすっぽんと服を脱いだ。上半身が下着姿になる
「なななな! 何を!」
 強烈な刺激に、地上20mの高さを漂っていた俺の意識が、体に引き戻される。
「先輩! ……やはりそれが目的か!」
「機会は逃さんよ。傷心の時を狙うは恋愛の王道、違うか?」
 獲物を前にした野獣の顔で先輩が笑う。
「確かに。ですが、いかに裸でも見なければどうってことはない」
 そういうと慧は俺の頭を胸に抱き込んだ。
 甘い匂いのする慧の体臭と、心安らぐ柔らかさの中で、俺は犠牲となったエログッズにサヨナラを告げる。
「ほう、慧らしい良い手だ。だが、攻撃がいつも前からとは限らないことを覚えておくんだな」
 俺の背に温かいものが被った。ふたつの柔らかく丸く気持ちの良いものも押しつけられる。
 そして後ろからまわされた手が、スボンの前を這った。
「うわ、ど、どこを触ってるんですか!」
 思わず慧もろとも先輩をはねのけ、部屋の隅に逃れる。
「逃げるとはつまらんな。まあいい。……佐藤、今からおもしろいものを見せてやるぞ。よく見ておけよ」
 本気の目つきな先輩の言葉に、俺と慧は戦慄した。
 腰に手をやると先輩のスカートがするっと落ちて、完全に下着姿となった。
 スリムなプロポーションに抜けるような白い手足で、俺は頭がくらくらした。
 ちなみに下着は、意外なことに白だった。
 慧ですらその大胆さに目を見張っていると、先輩は慧に近寄り、背中で手をうごめかせる。
 何かに気付いた慧が突然胸を抱え込んだ。
 無防備になった慧の腰に、先輩が指を走らせると慧のスカートが落ちた。
「きゃ! な、何を……」
「さて、仕上げ!」
 恥ずかしさにしゃがみ込む慧の両腕を先輩がつかんで、上着を引き抜いた。
 ブラがぽろりと落ちて、慧はあっという間にパンツだけになった。
「そんな……」
 呆然としながらかろうじて胸を隠してしゃがみ込む慧をみて、先輩が俺にウィンクをした。
「これが制服の脱がし方だ。なかなか鮮やかだろ?」
「さすがレズな先輩だ。いったい何人脱がしてるんですか?」
 あまりの手つきの良さに、あきれながら俺はつっこみを入れた。
285ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:46:47 ID:qZ2oXRBk
 ちなみに直視すると、いろいろやばいので、目をそらしている。
「わたしはビアンじゃないって。慧が好きなだけだ」
「今の見て信用すると思います?」
「……ビアンだろうとノーマルだろうと、処女には違いあるまい。細かいことは気にするな、佐藤」
 視界の端で、先輩があさっての方をみてごまかしたのがわかった。だが反論は先輩の言葉に圧殺された。
「さて、もうピロートークは充分だろう。本番にいこうじゃないか」
「ピロートークって……何考えているんですか!」
「密室に下着姿の女が二人、そして健康で若い男が一人。さて答はなんでしょう?」
 先輩が、人差し指を立てて、顔の前で振る。
 わかりやすい回答は即座に浮かんだが、それを絶対に言う気は無かった。
 気の利いた反撃をしようと言葉を探すが、思いつかない。
「答は、お邪魔な女がはじき出される、だ、各務睦美!」
 と、下着姿の慧が叫んで、俺に覆い被さった。
「やれやれ、慧は真面目だが、融通が利かないな。私達三人はうまくやれると思わないか?」
 ため息をついて、各務先輩は頭をかいた。だが、俺はそんなことより慧に気をとられていた。
 慧が目から透明な滴をぼろぼろとこぼしていたからだ。
「嫌だ! 康一を他の女が触って欲しくない。ずっとずっと好きでやっとやっと結ばれたんだ」
「……慧」
「康一に他の女が近づくと、気が狂いそうになるんだ。たとえ各務先輩でも嫌なんだ。
 私は各務先輩みたいに女らしくないから、康一はきっと各務先輩しか見なくなる。
 嫌だ。康一が行ってしまうなんて嫌だ」
 必死に俺にしがみついて震えながら、慧が叫んだ。困った顔をして先輩が言い訳をする。
286ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:48:33 ID:qZ2oXRBk
「……慧、あたしは佐藤をとるつもりはないんだ。ただ……」
「……ただ、慧が好きだったから、困らせたかった? 構って欲しかった?」
「佐藤!」
 先輩の言葉を引き取って続けた俺の言葉に、先輩が驚いた顔をした。慧もびくりと震える。
「だって先輩は、慧と一緒の時しか俺にちょっかいかけてきませんでしたよね。
 処女をやってもいいとか言いましたけど、俺のことを心から好きだとは言いませんでしたね」
 慧の頭を撫でながら、俺は続けた。しゃくり上げるような慧の動きがゆっくりと静かになっていく。
 先輩はなにも反論しなかった。
「俺が慧の当て馬だってことぐらいは鈍い俺でもわかります。今までずっとそうでしたから。
 それでも俺は先輩の好意はありがたく思います。処女をやってもいいと言われたこと、軽く考えてません。
 しかし慧を悲しませるなら……それは別です。そんな先輩なら、俺も許しません」
 俺の言葉に、先輩はぽつっとつぶやいた。
「……あたしが女というだけで、受け入れてもらえないのが悔しかった。
 佐藤だけが慧を幸せに出来たことが、妬ましく、羨ましかった。
 だから、佐藤に受け入れてもららえれば、慧とともにいることが出来ると思ったんだ。
 慧と共にいることが出来れば、処女を差し出して、佐藤の子供を産んでもいいとすら思った。
 一緒に佐藤に抱かれて、一緒に佐藤の子を産んで、ずっとずっと一緒だと思った。
 だけど……当たり前だよね。好きな人との間に他人が割り込んでくるなんて嫌に決まってる。
 なのに、あたし……あたしは……」
 先輩がうなだれた。俺は滑らかな慧の背中をゆっくりとさすりながら。首を振った。
「まったく、先輩にはかなわないなぁ。惚れた女のために男に身体を差し出すなんて……。
 ……俺、恋愛沙汰は苦手ですけど、でもそんなに好きなのに、こんな後味の悪い終わり方でいいんですか?
 一年ちょっとの楽しい思い出をこんなもので汚してしまうなんて、馬鹿馬鹿しいですよ。
 先輩、今謝れば慧はきっと許してくれると思います。
 俺、前に言いましたよね? ちょっとの時間なら慧を貸しますって。
 だから、今から少しの間、慧と二人きりにしますから、先輩は慧に謝ってください。俺はそれで良いですから」
 俺の言葉の後には、誰も声を出さなかった。慧も泣くのを止めていた。
 俺は慧を抱いてゆっくりと立ち上がった。
「さあ、先輩、慧、服を着て。……それと慧」
 濡れた目で、慧が俺を見つめた。
「頼む、少しの間、少しだけの間、先輩を抱きしめて、そして話をきいてやってくれ」
 慧は何もいわず俺をじっと見つめた後、やがてうなずいた。
「ごめんな、慧。でも今の先輩には、俺じゃなくて慧が必要なんだ」  
 慧の頭をぽんと叩いて、そして俺は部屋を出た。
 やがて、中から先輩の嗚咽が漏れ出てきた。
287ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:49:31 ID:qZ2oXRBk
「康一、女の子を泣かせるなんて……悪い男になったわね」
 ふと見ると階段に姉がいた。いつもと同じ笑顔なのに、どこか寂しげな顔のような気がした。
「違うよ、姉さん。各務先輩は、俺よりクールでハンサムな奴に失恋して泣いているのさ」 
「ハンサム? 誰?」
 不思議そうな顔をする姉に、俺は笑って答える。最後の言葉だけは、心の中で。
「……とってもハンサムな……彼女に、さ」

 帰ってきたときは高い位置にあった太陽も、すでに地平線に没した。
 夕暮れも過ぎて、宵闇が辺りを等しく覆ったころ、俺は慧に呼ばれた。
「……佐藤、今日は済まなかったな」
 先輩は目を赤く腫らしている他は変わらなかった。もちろんちゃんと服は着ている。
「余計なまねかもしれませんが、送りましょうか?」
「恋の敗北者に勝利者の好意は嫌みだ。……一人で帰るよ」
 俺の出過ぎた申し出に、先輩は口元だけに寂しい笑いを浮かべて拒絶した。
「すみません。無神経でした。……ただこれだけは言わせてください。
 高校に入って、孤立していた慧に最初に友達になってもらったのは、先輩でした。
 だから……なんというか、その……ありがとうございます」
 さっきまでまわってた口も、もう陳腐な言葉しか出なくて、我ながら嫌になった。
「康一の言うとおりです。すこし嫌な想像ですけど……もし私がレズだったら、先輩の恋人になれたと思います」
 俺の陳腐さを、慧の言葉が救ってくれた。
 普通の女が言えば嫌みな言葉だろう。だけど、裏表無くいつも真剣で素直な慧だから、伝わったと思いたい。
「……あたしはビアンじゃない。……もう慧に失恋したから、ね」
 先輩は家を出るまで俺達と目を合わせてくれなかった、だけど、このとき浮かんだ笑みは……少し明るい物だった信じたい。
288ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:50:50 ID:qZ2oXRBk
「私は心の狭い女なんだろうか?」
 玄関で先輩が出ていった扉を見つめて、慧がぽつりとつぶやいた。
「……異性でも絶対に恋人にならない奴がいる。俺達だってこうなるのに時間がかかった。
 しかも水上が慧にキスしなければ、友達のままだったかも知れない。
 ……だから仕方がない。異性だろうが同性だろうが恋人にならないものはならない。
 ……実らない恋なんてありふれているさ」
 先輩の姿は、慧とつきあう直前の俺だった。だから勝利感なんかかけらも無かった。
 ただ、幸運だったことを噛みしめるだけだった。
「……そうかも知れないけど、私と康一は違う」
「何が?」
 俺に向けた慧の瞳が、力を取り戻して輝き始めていた。
「水上に唇を奪われなくても、康一とは友達のままでは終わらない」
「そうはいうけど」
 いたずらっぽい光が、瞳で踊っていた。
「康一は私の写真を持っていた」
「い! いや、あれは」
「両思いだったんだ。……康一も私のことを愛してくれていた」
 目を閉じて、幸せそうな表情を浮かべ、言葉を噛みしめるように慧は胸に手をあてた。
「……いや、あれは慧が可愛く笑っているなと思ってさ」
 なぜか、俺は焦った。とんでもない弱点を慧に握られたような気がする。
 しかし、慧はそんな俺の狼狽を一切気にしなかった。
「相思相愛だった。……こんなことなら、去年のクリスマスに押し掛けるんだった。
 バレンタインに告白するんだった。なんかすごくくやしい!」
 両腕をすごい力で捕まれ、慧の目に炎が燃えていた。
「あの、慧さん?」
「康一、愛し合わなかった時間を取り返そう! ……まずは今日から!」
 慧の手が俺の首にからみつき、唇が迫る。それで俺も覚悟が決まった。
 今日はさんざんな目に遭わせてくれたから、慧の唇をむさぼって気を晴らすことにした。
 思い切り舌を暴れさせて、慧の腰をぬかしてやろう。
 いや、没収されたエログッズの復讐じゃないですよ。ええ、復讐じゃありませんとも。
289ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:52:30 ID:qZ2oXRBk
「康一? お姉ちゃんの目の前でキスしないでくれる? 
 ……あーあ、あの可愛かった康一が、姉の前で当てつけのように他の女とキスするなんて」
 慧の甘い舌を堪能して、下半身がいい具合にむらむらしてきた頃、姉が俺達の目の前に立っていた。
 さすがにびっくりして、思わず唇を離す。
「え、えーと」
「……申し訳ありません、お姉さん。康一さんのことが好きなあまり周りのことを忘れてしまいました。
 ですが、私は康一さんとやがて結婚し、康一さんの子供をたくさん産むことになると思います。
 ですので、どうかキスもそれ以上も認めていただいて、温かく見守って下さい」
 まごつく俺をしり目に、クールなクールな俺の彼女が、いつものようにとんでもないことを口走った。
「……康一、結婚て何? 子供産むって?」
 姉のにこやかな顔は変わらない。だけど、へこんだような怒ったようなとまどったような変なオーラがにじみ出た。
「ははは……そうなったらいいなって言う将来の予定だろ?」
「ほぼ確定事項だよ、康一」
 空気を読んだ俺のフォローを、空気を読まない発言がぶち壊す。うん、いつものことだ。
「……ちょっと、お姉ちゃんと話をしましょうか」
 姉からやばい雰囲気を感じて、俺は土間に降りて靴を履く。
「……慧、やばいから逃げよう」
「どうしてだ?」
「姉さんの説教は長いぞ。……愛し合う時間が減ってしまうが?」
「わかった。二人で地の果てまで逃げよう」
 慧が靴をつっかけ、俺が扉を開け、二人で外に飛び出した。
「康一、待ちなさい! 待ってよー、ちゃんとお姉ちゃんに話してよーー」
「……康一と愛の逃避行……」
「いや、ちょっと姉さんの説教かわすだけなんですけど? 慧さん」
 走りながら、慧が真剣につぶやく。俺のつっこみはいつものごとく聞いていない。
「まずは、上野駅、そして夜行列車。……いい。いいな、康一!」
  
 それで上野駅にいったかって? いや、財布を家に忘れましたんで、はい
290ハンサムな彼女:2007/06/01(金) 22:53:28 ID:qZ2oXRBk
  本日はここまで。
 前回多数のGJありがとうございました。
291名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 22:54:33 ID:YfVGWXDz
リアル投下遭遇記念GJ!

おねえちゃんうざいよおねえちゃん(いい意味で)
292名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 23:31:08 ID:rx/mGQEh
GJ!
やっぱ神だわアンタ!
293名無しさん@ピンキー:2007/06/01(金) 23:31:44 ID:66dqbhWl
GJGJGJGJGJ〜!!

これでひとまず各務先輩のことは一件落着か。
あのまま3Pにもつれ込んでも面白かったと思うけどw
でもこういう展開も嫌いじゃない!
続きはあるのかな?
あるなら激しく続編キボンヌ!
ただし、規制が解けてから。
294名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 00:54:45 ID:Z9rIUJct
GJ


IFルートで姉さんルートがほしい!
295 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/02(土) 02:17:17 ID:V5UlQBCV
他職人の方々、GJです。
いやはや、最近賑わっていて良いねえ。

というわけで、ご多分に漏れずいってみましょうか。
296彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/02(土) 02:18:11 ID:V5UlQBCV
「っつ!」
 通路を曲がった時、アストは鋭い痛みを感じた。
「あーあ……やっちゃったよ」
 そう言って、右肘のあたりを見る。
 ちょっとした突起に引っ掛けたのだろう。袖が裂け、覗く肌に赤い線が走っていた。
 線の上には、小さな赤い玉が幾つも浮かび、その一つ一つが少しずつ大きくなる。やがてそれらが合わさり一つとなって、張力が重力に負けて血が垂れるのだ。
 その過程の経過時間に比例して、ジワジワと痛みが強くなっていく。
 痛み自体は大したこと無いが、このテの傷は性質が悪い。鈍い痛みが長く残り、酷く気になる。もう少し大きな怪我のほうが、気分的にはかえってマシだ。
 ハンカチで軽く押さえる。傷口をさっさと洗ってしまいたいが、此処から医務室へは少し遠い。
「仕方ない。リーアの部屋行くか」
 それに医者を煩わせる程のものでもない。
 都合良く距離も近いし、確か救急箱やソーイングセットの常備はしていると言っていた。折角だからお世話になろう。


 カードは、部屋の主より貰っている。
 当人のお墨付きなのだから、誰憚ることなく顔を出せる。
 部屋の前に到着するなり、ロックを解除して自動扉をくぐる。
「リーア、居る? あのさ、此処んとこ――あ」
 この時点で、リーアの自室に居た人物は三人になった。
 内訳は、男一人と女二人。
 すなわち、眼前に広がる光景を見て、入るなり固まるアストと、
「あ」
 相変わらず、何を考えているのか解らない表情のイフと、
「あら」
 人を惑わす、天使の微笑みで迎えてくれたリーア。
 アストの時が止まるのも無理はない。この辺りを責めるのは酷な話だ。
 目の前には、男の子なら何時も夢見る桃源郷。悩ましげな天女様が、ご馳走片手におもてなししてくれる花園。
 個室ということもあるのだろう。二人はリラックスしたラフな格好をしていた。イフに至っては、下着と肌着のみ。
 リーアは椅子に、イフはベッドに。それぞれ対面する形で腰掛けている。
 シャツをたくし上げて半裸を晒すイフと、細長い布を手に、それを妹の身体に巻きつけに掛かっていたリーア。
 美人姉妹の日課の時間に、ジャストミートしてしまったらしい。
 肌を隠したのを見届けた後。何秒かの静寂を置いて、アストは我に返る。
「うあわわわ! そ、その、ゴ、ゴメ……!」
「うろたえるな小僧――!!!」
「ぐわあぁ――!!」
 隙は逃さず、容赦もせず。
 やはり何時ものように、リーアにぶっ飛ばされるアストだった。
297彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/02(土) 02:18:59 ID:V5UlQBCV

 数分後、アストはベッドの上に腰掛けて苦い顔をしていた。
 傷口を流水で洗った後、清潔な布で水を拭き取り、現在はリーアに薬をつけてもらっている。
 後はガーゼを絆創膏で止めて、不安なようなら包帯を巻けばそれで終わりだ。
 が、
「っつー……痛ちちち。っと、ありがと、イフ」
「凄い腫れてるよ。お姉ちゃん、力加減間違った?」
 同時に渡された濡れタオルで、赤くなった頬を冷やしていた。
「別にぃ。間違ってたら、人相変わっちゃってるよ。具体的には、骨格粉々」
「……時々恐ろしいコト言うよね、キミ」
「そう? 優しくしてるつもりだけどな」
 しれっと答えるリーアに、アストは肝を冷やす。
 実際に毎度のこと絶妙な手加減を披露してくれるのだが、よくまあこれでキレないものだと、アストは自分に感心する。
 乱暴ものに見えて、良い所はたくさんある。暴力にしても、分別のつけた振るい方により、そう見せているだけだ。よって付き合える。
 そのせいもあってか、むしろ乱暴な部分も魅力の一つと受け取ってしまうのは、惚れた弱みと言うやつだろうか。
「ところでさ、アスト」
「ん?」
 リーアが神妙な面持ちを作る。
「イフちゃんの身体……見た?」
「ああ――うん。もう、バッチリ」
 至極真顔で、親指を立てて答える。
 スレンダーだが、出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んだ見事なプロポーション。
 大きさは並み。しかし魅力の根本はそこではない。色といい形といい全体のバランスといい、完璧なシルエットを描いている。
 彫刻のように整った顔立ち、人形のように均整の取れたボディライン、長くしなやかに伸びた手足。
 これだけなら、そこらのグラビアアイドル程度は、厚着したまま逃げ出すだろう。
 僅か数瞬。されど数瞬。一期一会の眼福に感謝。
 自慢ではないが、アストの目は人並み外れて良い。その精度はカメラもかくやという程で、ボールの縫い目まで確認できるというのも、あながち比喩表現ではない。
 さらには瞬間的な記憶能力も相当なモノだ。視界を写真のように記憶できる。こちらは自慢できるし、日常生活でも活用可能な便利な特技だ。
 尤も、当然ながら、放っておけば簡単に忘れてしまう。だが今回はすぐさま脳裏に焼きつけ済み。
 脳内ファイルの保管場所を忘れなければ、何時でも閲覧可能という寸法だ。整理整頓は大事です。
「よぉし。お姉ちゃん力加減間違っちゃうぞォ」
「ち、ちょっと待った! 冗談、冗談だから!」
 肩慣らしとばかりに、グルグル左腕を回すリーアへ、必死で弁解する。
 目が笑ってない笑顔での鉄拳は、何としても回避しなければ命は無い。
「ったく。笑顔も作れない人間が、つまらない冗談言うんじゃないの」
「い――」
「ん? どしたん?」
「……何でもない」
 いや。嘘ってワケじゃあないんだけどね。
 つい口に出しそうになり、慌てて呑み込んだ。折角拳を収めてくれたのに、余計な一言で拗らせるのは御免被る。
298彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/02(土) 02:19:47 ID:V5UlQBCV

「で、真面目な話、どうなの?」
「ん……まぁ。さすがに」
「やっぱり」
 アストの目で、確認できないはずがない。
 拙いものを見られたというように、リーアは顔に手を当て、次いで髪を掻き揚げた。
「アストくんは気になる?」
「別に」
「うわ。人の心配、あっさり無駄にしてくれたし」
 イフの言に事も無げに答えるアスト。それを聞いて、拍子抜けのリーア。
「傷痕くらい、僕にだってあるしなぁ」
「アストってさ、ちょっとズレてるよね?」
 そうは言っても、物事の気にするしないは、個人の感性や思想による。アストは気にならない。それだけの話だ。
 というより、性差の問題かもしれない。外見にせよ体重にせよ、余計に神経質になるのは得てして女の方だ。
 アストは気にしていない。ならば、残る問題は当人にある。
「イフは気になるの?」
「……別に。アストくんが気にしないなら、それでいい」
「だって。お節介焼きも程々にね」
「程々に。お姉ちゃん」
「ううぅぅー……善意からの行動を、二人がいぢめる……」
 女の子で傷が目立つのは拙かろうと厚着を推奨するのだが、本人は気楽な服装を好むばかり。
 ならば苦肉の策として、特に目立つものだけを重点的に固め、人目に触れる可能性を低くするという約束だけは取り付けた。
「さらしとかバンテージみたいなものと思えばいいじゃない……」
 とは、策を講じた本人の弁。
 姉の心、妹知らず。というより、ぶっちゃけ空回り。
「てかさあ、そんなに気にするなら、消せばいいんじゃない?」
「埋め込んである機器の問題でねー……ちょぉっと難しいらしくて……」
 そういえば、リーアにもちょっとソレっぽいとこあるな。と、アストは脳内ファイルをめくる。
 思えば、単に妹可愛さからの行動ではないのかもしれない。
「いーもんいーもん。厚意って、得てして報われないものだもん」
 膝を抱えて縮こまって、リーアは“の”の字を書く。
 ベッドの上で、背中向けつつ。適度にアストと距離置いて。尻尾があれば、大きく振って、無言で床を叩いているだろう。
「はいはい。偉いよ、リーアちゃんは。ちゃんと解ってるから、心配しなさんな」
 アピールを受け、それに応じて頭を撫でてやる。
「わーいっ」
 お姉さん面も形無しに破顔してみせる。
 猫科の猛獣が、飼い猫のように咽喉を鳴らす。
「むー」
 なんとなく、イフは面白くない。自分もかまってほしい。
 姉に対抗するように、覆い被さってアストに提案する。
「ねえ、アストくん。イジケ虫で世話かかるお姉ちゃんから、私に乗り換えない?」
「んっふっふ。おやおやイフちゃん、女の戦い勃発させる気ですか?」
「貸し一つ」
「レンタルだけで、販売してませーん」
 左手より攻めるイフちゃんに、右手より光速で防御陣を張るリーアさん。
「傷物にして買い取り――」
「ざーんねん。その時は、私が嫁に貰うってことで決着済みさー」
 仲良く喧嘩する二人。
 左右より頭を柔らかな物体に挟まれながら。何かもう、アスト呆れ顔。
 嗚呼、僕ってモテてるんだなァ。
 てか、そんなんどうでもいい。人の頭上で火花を散らさんで下さい。
 気疲れが解消されることはないのだろうと、この日、少年は半ば確信したのだった。
299 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/02(土) 02:22:32 ID:V5UlQBCV


たまには短く、今日はここまで。前編ですから。
次回はもうちょっと長くいきます。


久々の……なシーンも入れるしね。
300名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 06:00:03 ID:9kw3phVi
wktkwktk!
続編早く!
301名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 07:58:42 ID:70jd+1Nx
wktkするけど良いよね?
302名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 14:20:50 ID:caUwl4Wi
答えは聞いてない!

って感じかな
まあwktkするけど
303書き込みテスト:2007/06/04(月) 20:38:25 ID:wBdJhlmx
>>だが、実際に素直クールな人に会ってみたいと思った今日この頃。

「だとさ、慧」
「そういわれてもな。私にしてみれば愛想ないとか、澄ましているとか、空気読めないとか言われるのだが?」
「あたしなんかは、歩く非常識とか言われて、親友以外は寄ってこないぞ」
「先輩は実績が充分ですから。きっと、黙っていればもてますよ」
「黙っていられるなら苦労しないね。通信簿にももっとよく考えて話しましょうって書かれたくらいだ」
「私も、もっと友達と仲良くしましょうって書かれた。
 だけど、なんというか女同士のグループ作りが、私は苦手なんだ。
 昔、グループから外れた人と仲良くしているとグループの女に無視されたり嫌がらせされたりしたからな」
「女同士は大変なんだな」
「お昼は誰と食べるとか、あの子としゃべっちゃいけないとか、会話で冷静なつっこみは厳禁とか、とにかくやりにくくて」
「お茶会も大変だったんだぞ。まあ、慧は誰にでもクールだが、変な分け隔てもないので、まだましだったけど。
 女王様きどりでグループ作るような勘違い女だったら、絶対醒めていたね」
「先輩、それはない。そういうのは嫌いだから。
 けれど相手が勝手に親密さのランク付けして、先に親友になったから、あらたに友達になりたいなら話をとおせとか言うことがある。
 そんなことしてなんになるんだと思ったのだが、勝手に友達になると先に友達になった人が無視されたって怒って……」
「それ、なんかやだなぁ」
「佐藤に限らず、男は女同士に幻想をもっているからな。男は男であるんだろうけど、女も女で大変なんだ」
「……それでレズやるんだから、凄いというか」
「あたしは慧が好きなだけ。ビアンじゃない!」
「……普通の友達としては、私は取っつきが悪くてあまり面白くないんだろうと思う。自覚はあるんだけど、直しづらい」
「慧はそれでいい。媚び媚びの女なんて気持ち悪いから。あたしは嫌いだね」
「あたしみたいな、ですかぁ?」
「げっ、水上! いったいどこから!」
「出番を探してましたぁ。あたしが媚びるのは佐藤先輩と大島先輩だけです」
「いや、俺には媚びなくていいから」
「私にも媚びなくていい」
「なんか冷たくないですか?」
「「素直”クール”だから」」
                              終わり
304名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 23:20:50 ID:6WPPHrXk
うはwwwwwGJwwww!!

しかし実際に素直クールな女の子がいたら凄いよなぁ。
俺絶対ギャラリーになって、当事者達に生温かい視線を送りそうだ。
305名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 02:03:09 ID:RYMVwZIl
>>304実際にいたらだぁ?





犯すにきまっとるじゃないですか!素直クールに出会えるのなんて一生に一度あるかどうかだぞ。


あれ?俺最低?
306名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 02:17:25 ID:wR/lRobJ
素直クールってことは嫌いな相手や無関心な相手にも素直でクールな対応すると
好かれなきゃ一気に地獄wwworz
307名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 05:50:34 ID:fyOeMLsz
しかし、欠点を冷静に的確に指摘してくれるというのは存外に助かるぞ。
そこに悪意がないから、直そうとかそうゆう気になるし。

そういう意味で、素直クールな友人が欲しいなぁ…
308名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 06:48:48 ID:EoCCsnT9
基本的に最初から男を好き好きラビューな素直クールが多い中、
最初は男を嫌っている素直クールを読んでみたい俺は少数派?
309名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 11:20:00 ID:2hQsj2BN
>>308
おまえはひとりじゃない

最初は嫌っていた、というほどでもないし厳密には恋愛でもないんだろうけど
今は好きで傍にいる相手の存在に興味を抱いていくエピソードが描かれた素直クールというと
市販の作品ではネウロのアイ(っていうかイミナ)がいるな
残念ながらコミックスの今刊行されてる部分まではチョイ役でしかないんだが

もっとこうドラマティックに嫌い→好きってのも良い
あああ読んでみてー
310名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 13:30:18 ID:2bi09xiN
不可能ではないのだが、その分、文量も比例して増えるんだよね……
連載形式で書いて、嫌い→好きに変化するまで待てってのならともかく
短編だと、どうしても既に好きなところから始めるのが当たり前になる
設定上嫌い→好きであっても、描写されなかったり、されても地文でさらっと流したり

あとはツン→デレなので、キャラ本人の性質とは別に
シチュエーションの問題で、このスレ以外にも通用する場所があるというw
311名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 16:46:59 ID:xtRAQFAG
今書いてるシリーズが素直クール初挑戦なんだ、こなれてきたら挑戦も出来るさ。
312名無しさん@ピンキー:2007/06/05(火) 19:46:43 ID:usgX7OyH
>>310
>設定上嫌い→好きであっても、描写されなかったり、されても地文でさらっと流したり
そこで回想シーンとか、壱話丸ごと過去話とかの出番ですよ?
313名無しさん@ピンキー:2007/06/06(水) 18:55:28 ID:BakA6JO0
”ハンサムな彼女”は続くよな?!
314名無しさん@ピンキー:2007/06/07(木) 01:28:20 ID:k/Ta3iUB
>>313
IDが「Baka」なんて…すごすぎるぜ…
315名無しさん@ピンキー:2007/06/07(木) 02:35:49 ID:j/iZUsU7
オムライスの『川゚-゚)は恋愛をするようです』(タイトルうろ覚え)が>>308のシチュに近いような飢ガス。

女子高生川゚-゚)と35の('A`)の恋愛物だけど、ファーストコンタクト時の川゚-゚)が言ったセリフが『キモい』だったよーな…
316名無しさん@ピンキー:2007/06/07(木) 16:38:45 ID:p95TSOgq
>>315
厨房臭いレスだな
317名無しさん@ピンキー:2007/06/07(木) 20:07:51 ID:hUx1IKGm
>>313
続いてほしいんだぜ
318名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 02:46:56 ID:VTMQSrdL
個人的には慧の喘ぎ声の強化をキボン。
319名無しさん@ピンキー:2007/06/08(金) 18:29:19 ID:KI0w7qbr
最近でこんなに萌えたのは無い
320名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 03:43:32 ID:sv56/tEX
瑞希の続きがみたい
321-宅配型押し掛け系素直クール- :2007/06/10(日) 20:21:13 ID:TUaG/Vf/
ピンポーン。
「はーい」
ガチャ。
「やあ、愛しのきみ。アマゾンからの荷物をお届けに参上した」
「…またあなたですか。てか今度はそっちの宅配ですか?」
「さあ、ここにサインをくれたまえ」
「はいはい。ってちょっと! これ婚姻届じゃないですか!」
「気にするな」
「気にしないわけないでしょ!」
「大丈夫。大丈夫だから」
「何が大丈夫なの!? 全然大丈夫じゃないよ!」
「婚姻届も伝票も同じ紙ではないか。目を瞑れば一緒だ」
「なにその理屈!? そういう問題じゃないから! もう、いいから早く伝票をわたして下さい」
「仕方ないな。わかった。ここにサインを」
「はいはい。あ、ペンありますか?」
「うむ。──さあ、取りたまえ」
「何で胸にボールペン挟んでるのーっ! どんな渡し方だよ!」
「ほらほら、早く取らないとペンがどんどん下に落ちてしまうぞ?」
「なにその仕組み!」
「さあ、私の谷間に手を突っ込んで思う存分まさぐってくれたまえ」
「……もう、家のを取って来ます」

ガサゴソ。
「えっとこの辺に」
「見つかったかね?」
「わっ!? なんで上がり込んでるの!」
「玄関を開けっ放しにするとは、きみは不用心だな。もし私が不審者だったら危ない所だったぞ?」
「…自分が不審者だって自覚を持って下さい」
「よし、私が付きっきりで警備してあげよう」
「いらないよ! 何が“よし”なの!?」
「私が警備する以上、完璧を目指すぞ。まずは身体チェックだ」
「ちょ、また脱ぎ出したよ!」
「さあ、お互いに身体を隅々までチェックしあおうではないか」
「お互いにって、ちょ、まって脱がさないでやめてやめt…アッー!」

懲りずに小ネタを投下。
322名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 20:30:12 ID:/QZ1yTTt
いいぜぇ。GJ!
323名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 20:56:46 ID:XMEBZLl7
なんか微笑ましくて好きだ
324名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 21:36:24 ID:uertd7EV
イイネェ…GJ
325名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 23:45:08 ID:HABz1oX5
素直クールというか居直りクールだ
326これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:21:34 ID:s1rQPMt5
おはようございますこんにちはこんばんわ。「これから〜」の中の人でございます。

今回は蛇足多目エロシーンも多目。
ではどうぞ。
327これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:22:27 ID:s1rQPMt5
「「お疲れ様でした〜〜!」」
やっと高校最後の作品の搬出が終わった。日が長くなったとはいえ、外はもう暗くなり始めている。
「あばー……」
意味不明なノイズを吐き出して美術室の机にへたり込む。足が重い。唯一の男手(先生除く)だったから階段を何往復もさせられてもうヘロヘロだ。
……なんでこの春、誰一人として男が入部しなかったんだ。
「さ、帰ろうか。」
「「はーい!」」
岸本先生が声を掛けて他の部員が返事をする。語尾にハートマークをベタベタ付けたようなテンションの高さだ。
そりゃ何にも運んでないんだから疲れてるわけないよな、とぼんやりしていると、突然視界に安田が入ってくる。
コイツには搬出の日だから待っている必要は無い、と言ったんだが、待っています、と一言言い放つとずっと俺の周りをちょろちょろしていた。
……明子ねーちゃんのごとく物陰から見てるんだったら手伝いやがれこの野郎。
「先輩。」
「何や後輩。……みなまで言うな、送っていったる。」
軋む身体を強引に伸ばして立ち上がる。どっちにしろ部屋の鍵は先生が持っているんだ、すぐに出ないといけない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
付き合うと決めた日、安田には3つ注文をつけていた。
1つ、男が苦手なら俺に気兼ねせずさっさと逃げること。
1つ、俺とHしたことを周りに言わないこと。
1つ、俺とHしたいとか公衆の面前で言わないこと。
理由はどれも説明する必要は無いだろう。特に下2つ。
本当なら言っておく必要も無い事柄だが、こいつの明け透けさにはいい加減痛い目にあわされていたから一応言っておいたのだ。
それに対する彼女の反応は、
「ケチ。」
の一言だった。困惑する俺を見て楽しみたかったらしい。
……ちゃんと目上の人として扱ってほしいなあ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「行きましょう。」
暗くなってきた廊下を、安田がずんずん俺の手を引いていく。震えずに俺に触れるようになったのは大きな進歩だろう。
「待て待て、何を急いどるんや。ゆっくり歩いたらええがな。」
「でも。」
「なにが『でも』なんや。自分、寄り道せんと帰るんやろ?」
学校の校門を出てすぐに見える駐車場に停めてあるんだから急いで歩く必要も無いだろうに。
「ちょうど昨日終わりました。ですから今日は迎えは頼んでいません。」
「終わったって?」
何を指して言ったのか分からず訊き返す。というか、なにが『ですから』なんだ。
「月経です。今日はコンドームを付けずにいっぱい中出しして構いませんよ?」
「あのなぁ……」
「約束は反故にはしていませんが、どうかしましたか?」
彼女は何を怒っているのか、と足を止めて訊き返す。確かに薄暗い廊下に人影は無いが、それでも声が響くんだから少しは考えてくれ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こっちから条件を出すと同時に、安田も条件を出してきた。
「好きな人が出来たのなら包み隠さず言うこと。それだけ守ってください。」
「それだけでええんか?」
俺の方は3つ要求を出しているのに、フェアではない。
「はい。私は先輩と一緒にいられればそれでいいんです。もちろんずっと繋がっていたいのが本音ですが。」
「はいはい。」
お願いは重く受け止め、後半は軽く聞き流した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
328これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:23:08 ID:s1rQPMt5
学校から駅前、繁華街の外れへ引っ張られていく。そこにこの辺りでは唯一のラブホテル街があるからだ。
駅の近所に無いのは風営法に引っかかるからだとか聞いたことがあるが、まあそれはどうでもいい。問題はどうやって目がイってしまっている安田を押し止めるかだ。
「おーい。」
「なんでしょう。もうこの場で押し倒したいのを我慢しているのですが。」
「……いやね、前と比べてすごく積極的になってるなぁ思て。」
こちらを振り向かずに前しか向いていない彼女に気圧されてちょっとビビりながら言い返す。
逆に言うと付き合いだしてからもこの部分以外はあまり変わっていない。教室に来てもベタベタ引っ付くわけでもなく横に座っているだけだ。
もう少し粘っこくなってもいいと構わないんだが、それは彼女の性格に起因するものかもしれないし黙っている。

安田は足を止めいきなり振り向くと、自分の下半身を俺の太ももに押し付けるようにして身体を寄せる。
「初めてしたときからずっと触ってくれていないじゃないですか。生理中、腰がずっとムズムズして仕方なかったんですよ?」
ほどほどに肉付きの良い身体を押し付けて上下させ、薄手のシャツをシャリシャリと擦り合わせる。
「その路地に入ってしませんか?」
冗談で言っていない。目がマジだ。
「いや俺も男の子やし、したくないわけとちゃうけどさ、あんまりそういうのを前面に押し出すのは……ね?」
「私だってすごく恥ずかしいのに誘ってるんですよ。私の初めて貰っておいて、そんなのは無しです。」
目を潤ませ、半分叫びかけている。いったい何が彼女を性欲を掻き立てるのか。

もう「しないぞ」と押しとどめるのは無理か。仕方が無い。
「ほんなら、もうちょっとついでに今週末まで我慢してくれるか?」
「どうしてですか?……今すぐしたいです。」
大きく首を横に振りイヤイヤをするが、その頭に手を乗せて撫でながら続ける。
「我が家にご招待したるから。」
「え!」
一瞬で性欲を源とした陰の気を放っていた安田の顔が晴れ、摺り寄せた体が余計に押し付けられる。
「期待してもいいんですよね?」
「なるべくご期待に沿えるように準備しとくわ。せやから今日は帰ろう?」
まだ名残惜しそうに引っ付いて離れないが、引き剥がして駅の方へ転進する。
今夜は自分で何とかしようとか聞こえてきたが相手はしない。かなり我慢しているようなので、これ以上無駄に藪をつつきたくないからだ。

土曜の午前中に電車で来るように、と言ってホームで見送る。疲労感から大きく溜息をついた。
本当にホテルに連れ込まれそうだったからああ言ったが、女関係に五月蝿い家族を説き伏せることを考えると今から気が重い。
情けない顔をしながら逆方向行きのホームへ階段を下りていく。
週末、父親は仕事で、妹は中学の部活でいないはずだから問題は母親か。どうすれば追い出せるだろうか。

プランその1
映画なり美術館なりのチケットを渡して行ってもらう。
……却下だな。今週誕生日というわけじゃないし、第一、今まで贈り物なんかしたことない。この間の母の日だって何もしなかったんだから。
逆にその分の埋め合わせを……やっぱりダメだ。絶対にバレる。

プランその2
買い物に行かせる。
はいはい無理無理。何時間買い物させる気だ。帰ってくる頃には商売できるくらい買い込んでいるだろう、多分。

じゃあいっそのこと。
プランその3
二人を会わせる。2人は初対面じゃないし、にこやかに事を収めることが……
いやダメだ。安田の目的はあくまでSEXにある口ぶりだったし、あとで何言われるか分かったもんじゃない。
よって却下。
はぁ……どうしよう……
329これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:24:15 ID:s1rQPMt5
土曜日。
電車の運行も止まるような大荒れの天候を期待していたが雲1つ無い快晴だ。反比例するように俺の胸中は曇天、今にも降りだしそうだ。
重い頭と心を抱えて起きだすと、いやにめかし込んだ母親がいる。
「何してるん、コテコテに顔塗り倒して。」
「先、おはようやろ?……ちょっとお出かけしてくるから、留守番しといてな。」
よしきた!心の中では一気に雲が晴れる。
「どこに行くん?」
「展覧会と映画行ってくるつもりやから、1日空けるよ。」
「ふーん。」
リアクションはあくまでそっけなく、心の中では安堵の表情を浮かべて。勘が鋭いんだから気をつけないと。
……ん、展覧会?
「アンタの絵見に行くから。じゃ、いってきまーす。」
あっけにとられて、元気よく飛び出していく母親の後ろ姿にいってらっしゃい、と声をかけた。
作品を見られるのがこっ恥ずかしいから教えなかったはずなんだが、どうしてあなたはその存在を知ってるの?

なんだか凹ませられる要素があったが、安田に学校で擦り寄られるよりはマシだ。飯食って着替えて、迎えに行くか。
トースターに食パンを放り込んで時間をセットしていると、来客を告げるインターホンが鳴った。嫌な感じがして室内の受話器を持ち上げる。
『先輩。迎えに来ていただけなかったので自分で来ました。』
「……まだ7時やで。」
『ですから午前中に。』
「開けたるから登っておいで。こっちで話しよ。」
たっぷり溜息をつきながらLOCKのボタンを押し受話器を戻す。
俺の服装はまだパジャマだ。こっちに上がってくる前に着替えるか。

控えめにドアをノックする音が聞こえる。
早いな。まだ下しか着替えてない。パジャマの上を、ボタンをはめたまま首から引き抜いてTシャツを被る。
鍵を開けると同時にすぐに扉が開かれ、そのまま安田が突っ込んできた。タックルを喰らい、玄関先で押し倒され唇を奪われる。
「んふ、ちゅ、じゅるっ……もう我慢できません。今すぐください。」
短めのスカートを捲り上げ、俺の右手を秘所に導きながらまた唇を吸おうと首を伸ばす。
「情熱的なのは結構やけど、先、挨拶しようか。」
「今日はいっぱいHしましょうね。」
「それ挨拶と違うやろ。」
濡れた下着に右手の指がぬめる。本能というのは現金で、相手が準備OKと分かるとすぐに下半身に血液を留めようとする。
「とにかく止めようや、な?」
「こんなに膨らませて、言い訳するんですか?」
「うるさいなぁ、何をドタバタしとるんや。」
3人目の声に2人とも動きが止まった。逆さに見えるその人物を見上げる。
「……よう、我が愛しの妹よ。」
330これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:25:34 ID:s1rQPMt5
その妹君は能面のような顔をしてプレッシャーを放っている。
「何や色情魔。顔と股間、どっち踏み潰されたい?」
「どっちも勘弁して。……ところで、お前は何でおるん?」
「何でって?」
「いや、その、部活あったんと違うん?」
本気でビビりながらも返す。妹相手に情けないが仕方がない。悪いのは全面的にこっちだ。
ちなみに彼女の部活は地区の上位を争っているとかいないとか聞いている。中学最後の大会を前にして練習も厳しいとか言っていたような気がするんだが……
「地区大会が先週終わってな、7月の都大会出れることになったから今週の土日は丸々休みになってん。」
「あ、そうですか。」
「で、いつまでそうしてるつもりや?……話がある、ちょっと来い。」
般若が重低音で命令してくる。当然逆らうことなんて出来ません。

何とかどちらも踏み潰されること無く、3人で食卓を囲む。と言っても飯を食ってるわけじゃないのは分かってもらえるだろう。
いい感じに焼けたトーストの香りが漂っているが、当然手を出すことを許されるわけも無い。
「で、何してたん?」
抑え目のトーンで喋りだす。兄妹だから分かるが相当怒っている、間違いない。100円賭けてもいい。
「挨拶ですよ?」
「そうそう、ただの挨拶や。ただの。」
安田の無茶な言い訳に乗っかる。本人は多分真面目に言っているのだろうけど。
「どこの国の挨拶や。」
低い声で返してくる。目に鬼が宿っている。いつ爆発するか分かったもんじゃない。
「ところで、お前、ウチおらんと思っとったから女連れ込んどるんか?」
「いや、その……」
先程『どうしているの?』と訊くんじゃなかった、導火線に火がついた。
「お前、前科モンってこと忘れとるやろ!」
握りこぶしをテーブルに叩きつける。

「あの。」
置いてけぼりにされた安田が口を開く。
「これはアタシとこのバカの間の話です。関係無い人は黙っててもらえます?」
喧嘩を吹っかけるように口の端と頬の肉を持ち上げて皮肉を交えて言い放つ。どうでもいいが妹にバカって言われた。お兄ちゃんショックだよ。
「それだったら最初に私を帰せばいいんじゃないの?」
妹の皮肉と同じ響きを持った言葉をぶつける彼女に軽い違和感を覚える。
「それに先輩から中学時代の話を聞かせてもらいました。それなら完全に蚊帳の外、というわけにはいかないよね。」
意外なことに吹っかけられた喧嘩に乗った。今まで見たことの無い好戦的な部分を見て驚く。
「……聞いてるんやったら、アタシがどれくらい迷惑をかけられたか分かるやろ。」
確かに俺のせいでこいつにも嫌な噂は立ったし、泣いて帰って来たこともある。そのせいもあって未だに頭が上がらない。

しかし安田はどこ吹く風で言いたいことを喋り出す。
「先輩のとった行動のせいで辛い経験をしたかもしれないけど、今、先輩が好きな私にはなんら関係の無……」
「アンタに無くてもウチにはある!ヒトの都合考えんと突っ走って、周りに迷惑かけたバカがここにおるやろ!」
安田の鼻先に咬みつきそうな顔をして怒鳴り散らす。その表情は赤鬼そのものだ。
それに対応するように安田の顔は静かで波紋1つ立っていない。
「でもそれは、『あなたの』、都合でしょう?」
安田は全く動じずに落ち着いた声音で話を続ける。こういうときに感情的にならないのは見ているこっちの肝が冷える。
「私が先輩のことを愛しているという都合が、何故あなたに関係するの?むしろあなたの都合が私には邪魔でしかないのだけれど。」
「!?」
安田の言葉に息を呑み、我が妹は顔を赤から青に染め直す。
「どうかしたの?……何も無いのかな。」
安田が完全に打ち勝った。
331これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:26:43 ID:s1rQPMt5
「安田、ええ加減にしとけ。言い過ぎや。」
真っ青な顔をした肉親を見かねて口を挟む。
「俺も家族をコケにされたら怒るよ?」
「でも私の方が正しいことを言っています。」
「筋が通っとるのは認める。でも自分が言い過ぎなのは分かるやろ?」
厳しい目を向けてくる安田に真正面から挑む。
「そうですね。……妹さん、ごめんなさい。」
暫くして、睨む俺に根負けしたのか向き直って頭を下げた。
「別に、アンタは悪くない。」
動揺を隠せない顔をしたまま一言吐き出すように言い捨て、食卓に背を向ける。
「お出かけ?」
「友達のとこ遊びに行くわ。……邪魔らしいし。」
少しして、遠くで乱暴にドアを閉める音が聞こえた。

息の詰まりが取れた気がして大きく息を吐く。
人の話も聞かないで怒鳴り散らさないだけまだよかったかな。あとでフォロー入れとかないといけないか。
「先輩。」
「何や後輩。」
気を抜ききっていると安田が右膝の上に腰掛けようとする。
「昔の事、後悔していますか?」
「うーん、難しい質問やなぁ。Hしたこと自体は悪いとは思てないけど、やっぱり迷惑いっぱいかけたしな。」
椅子を少し引いて彼女の腰を自分の身体とテーブルの間に納めてやる。うれしそうに頬を摺り寄せて来るのを撫でながらちょっと凹む。
妹は未だに、俺が女性と一緒にいることに抵抗があるのだろうか。

中3のとき、偶々帰り道が一緒になった同級生の女の子と一緒に道を歩いていただけで散々に言われたことがあった。
そのときの妹の表情は今以上にとげとげしく、半分ヒステリーを起こしていた。
まあ今回の場合は最初が最初だっただけに怒るのも当然なんだが、それでもいつ無茶苦茶に暴れだすかヒヤヒヤして見ていたのだ。

「いずれにせよ、アレはまだ俺が誰かと仲良うするんを許してくれてないみたいやなぁ。」
猫にするように彼女の喉をころころ撫でる。くすぐったそうにして顎を引き、そのまま俺の手を挟み込む。
「先輩は、仲良くしたいんですか?」
「そりゃ男の子やもん、したいに決まってるやん。」
「私もいっぱいしたいです。お互いに想い合っているんですから、周りを気にする必要はありません。」
膝の上に横座りになったまま身体を捻って抱きついてくる。苦しそうな体勢なので腰に手を回して身体を持ち上げ、正対させて膝の上に置き直す。
「先輩は一度失敗しています。だからもう同じ轍は踏まないでしょう?」
「失敗したつもりは無いんやけどな。……まあ仲良くしつつ失敗しない為には、自分にも協力してもらわんとアカンのやで。」
人差し指を目の前の唇にトンと置いて笑いかける。
「例えば生理が終わったとか嘘を吐かない、とかな。」
「バレてましたか。」
「って嘘やったんかい!」
冗談で言っただけだったのに、誰が当たっているなんて思うのだろうか。軽く睨みつけて脅す。
「……もうゴムつけへんと絶対にせえへんで。」
「えー。」
「かわいらしく言ってもアカンよ、反省しなさい。」
もう周りの人間を嫌な目にあわせるのはコリゴリだ。
332これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:27:29 ID:s1rQPMt5
「ところで今日は何時ごろの電車に乗ってきたんや?」
「4時ごろでしょうか。始発です。」
「よっ……!?」
「何度か連絡を入れたんですが、まだ寝ていたのか出てもらえなかったので来てしまいました。」
言葉を失う。それなら駅で2時間以上待ってたのか。普通連絡入れてからこっちに来るものだろうに。
「……午前中に来いとしか言えへんかった俺が悪かった。ちなみに何時起き?」
「寝ていません。先輩に触ってもらえると思ったら身体が火照って、ずっと1人でしていたので。」
僅かに頬を上気させ俯く。明け方、どうしても我慢できずに着替えてこっちに来たと言う。
「それならお腹空いてるやろ。トーストと牛乳でよかったらあるから食べよか。」
「ミルクなら先輩……」
「それ以上は止めとこうか。」
『の』が付く前に会話を打ち切って、膝から降りてもらった。

「ご馳走さまでした。」
「お粗末さまでした。悪いな、料理できへんで。」
彼女はトーストだけを3枚も胃に放り込んで平然としている。俺も結構食べる方だが気持ち悪くないか?
「先輩。」
「何や後輩。」
「部屋に連れて行ってください。楽しみましょう?」
彼女の真っ直ぐな瞳にはじかれるように横を向いてしまう。
「あー、うん。」
「どうかしましたか?」
目を逸らしてしまった俺を不思議に思ったのか、立ち上がって視界に回りこんでくる。
「その、恥ずかしいやん。」
「何が?」
「いや、えっと。」
今度は視界に入られないように顔を上げ、卓上にあった新聞で顔を隠す。それをわざとガサガサいわせて小声で呟く。
「本番しよう、とか、さぁ。」

中学のときもそうだったが、俺はネタがマジに変わると途端に尻込みしてしまう性格のようだ。
外でそういうことを言われても冷静に突っ込むことが出来たが、本当に出来る状況になって一気に恥ずかしくなった。
何をいまさら気にかけているのかと言われそうだが、顔を赤くして俯いてしまう。
「何だか不思議ですね。」
「何が?」
「私を男嫌いにした張本人がそんなことで恥ずかしがるなんて。」
「……それは、ゴメン。」
意外な角度から切り込まれて言葉に詰まる。
声音から怒っていない、むしろ冗談で言っているのは読み取れたが、そこに安心してしまうのは甘え以外の何物でもない。
「部屋に行きましょう。悪いことをしたと考え込んでしまうのなら、行動に移してください。」
唐突でやや強引に俺の手首を掴み立たせる。
安田の無言の優しさに心の中でありがとう、だ。いつか俺自身が成長して、これを口に出せる日が来るだろうか。
333これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:29:17 ID:s1rQPMt5
「落ち着かない部屋ですね。」
ドアを開けての第一声がそれだった。
「お前の部屋と一緒にすな。」
確かにあまり整頓されていない部屋だが、自室がパステルの調度品と雑多なぬいぐるみに占められているような感性に判断されたくない。
そう思っていると、安田は手荷物を床に置いてこちらを振り向いた。そのまま胸に向かって飛び込んでくる。
「でも先輩がいれば十分です。」
「俺だけおってもしゃあないやろ。自分もおらんと始まらへんねんで?」
抱きしめ返して視線を絡ませる。安田は一瞬ぱあっと花が広がったように笑顔になり、それから顔を隠すように胸におでこを擦り付ける。
「反則です。」
「何で?当たり前のことやんか。」
言っている意味が分からないが何故か怒っているようだ。
「……やっぱり反則です。私に変な顔をさせた罰に、今日は3回以上してくれないと許しません。」
彼女はそう言いながら自分の下着に手を掛けた。

「あ、うぅぅっ!」
安田が何度目かの声を漏らして足の筋肉が張りつめた。スカートの中の気体が濃くなる。
「……ひどい、です。私が触られるばっかりで、さっきから何回も恥ずかしいところ見られて。」
「許してもらおうと頑張ったんやけど、不満か?」
俺はベッドに腰掛けた彼女に向かって跪いて、スカートの中に顔を突っ込んでいるから表情を探られることはない。
それをいいことに思いっきりいやらしい顔をして訊くが、声に表情がノっていたようだ。柔らかな太ももに顔を挟まれ『ムンクの「叫び」』になる。
「不満です。私もされるだけじゃなくて、したいから。……そこから出て下さい。」
お願いではなくて命令してきた。頭の上に乗る布を持ち上げ、上を見るともう顔を真っ赤にしている。
「嫌や、言うたら?」
ぷくっと膨れた肉芽を舐め上げながら、肉襞を押し分けるように指を突っ込む。柔らかくて熱くて気持ちがいい。じゅぶじゅぶ音を立てて出し入れする。
「ひゃっ……そういうことは1人でも出来ます。先輩としたいのはもっと違うことなんです。」
快感に悲鳴を上げながら、震える語尾でそう言う。両手を俺の頭に置き押し返そうとする。
そのけだるい仕草が可愛くて、苦笑しながら立ち上がるとベッドに押し倒した。
「それやったら今度は自分がしたい事、してみよか?」
耳元で囁くと、うっとりとして頷いた。

安田は何も言わずに体を入れ替えかがみこむと、荒い息を吐きながらジーンズのジッパーを下ろしていく。
「何がしたいんや?」
「今、一番してほしいのは、避妊具をつけずに、挿れること、なんですが……」
強調するように一言一言区切って喋りながら、ジーンズを脱がしていく。大きく隆起したトランクスにも手をかけ、下ろす。
ギシギシ、音を立てそうなくらいに張りつめた我が分身が飛び出し、臍の辺りでぶつかってぺたりと音を立てる。
「コンドームを、つけていても、いいですから、我慢しますから、早く、ください。」
愚息を手に取り愛おしそうに撫でながらおねだりをしてくる。切羽詰まってとろけた顔を拒否する術は俺には無い。
334これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:30:51 ID:s1rQPMt5
「……ちょい待ってや。」
ベッドの下に手を突っ込み、ドラッグストアの袋からコンドームの箱を取り出す。昨日近所で買ってきたものだ。
……もうあの店には行けないな。そう思いながら装着しようとすると、いきなりコンドームを奪われた。
「私がつけてあげます。」
袋を引き千切って中身を取り出し、先端に押し当てる。だが、焦っているのか上手く付けられずに、ぐいぐい押し付けるだけで一向に先へ進まない。
安田が頭に『?』マークを浮かべて一生懸命にすればするほど、先端に刺激を受けている俺は射精が近づくのを感じていた。
我慢しきれずに彼女を引き剥がす。非難の目を向けられたがそんなものに構っていられない。結局自分で全部してしまった。

あれほど性に溺れていた表情が醒めている。明らかに不満そうだ。
「いやその、あのな?」
「私に触らせたくないなら早く言ってください。」
何か勘違いしている。言葉にあちこちに鋭く尖った棘が突き出している。
頬を膨らせてそっぽを向いた横顔がとても可愛いが、そのままにしておくことも出来ない。限界が近かったからだと素直に白状する。
「本当ですか?」
「嘘ついてどうすんねん。……俺が恥ずかしいわ。」
安田は機嫌を直して目を合わせてくれたが、今度は俺が恥ずかしくなって下を向く。
「私の手、気持ち良かったですか?」
「いや、そうじゃなくて。アンタがイっとるところ見てずっと興奮しとったんや。それで限界やったの。」
「……先輩は不器用な人ですね。」
そう言われても意味が分からない。今の会話に不器用と言われるところ、あったか?
彼女は困惑している俺を不満そうに見つめていたが、やがて上に跨ると一気に飲み込んだ。

「あっあぁぁぁ……」
完全に腰を下ろしてしまうと、大きく息を吐き頭を振り乱す。待ち望んだ刺激に恍惚とした表情を溢れさせている。
「好き、大好き、もっと奥に、奥に下さいっ……」
腰をグリグリと押し付け、身体を前後左右に揺する。
情けない話だが、彼女の1mmでも深く繋がろうとする努力が俺をあっという間に高みに運んでいく。
「待って、アカン出る……!」
「我慢しないで、いっぱい下さいね?」
彼女は俺の上で口元だけで笑うと腰は遠慮なくスライドさせた。柔らかい刺激に耐え切れずあっさりと精を放ってしまう。

中身の入ったコンドームの口を縛り、立ち上がってゴミ箱に投げ入れる。
「先輩。」
「何や後輩。」
「二回戦。」
さっき出したコンドームの箱を手に取ってにっこりと微笑む。挿入してからが短かったし、俺もその気だ。
軽く頷いて2枚目をつけようとしたが、箱は彼女が持っている。手に取ろうとしたが拒否された。
「つけないとしませんよ、って言わへんかった?」
「だから私がつけるんです。どうすればいいのか教えてください。」
今度は丁寧に袋を破ると小さく纏まったコンドームを掌に乗せ、どうすればいいのか、と見上げてくる。


「えっと、な……」
ベッドに寝そべっている安田の側に胡坐をかく。真上を向いた一物を凝視されて顔に血が集まってきた。
顔と下半身に血が集まっている状況はどうなんだろうか、などと考えていると、遠慮したような動きで軽く先端に触れられる。
予期せぬタイミングで襲った快感に思わず顔をしかめると、すぐに手が引っ込んだ。
「痛い、ですか?」
「ちゃうちゃう、気持ち良過ぎただけや。……貸してみ?」
コンドームを持ったほうの手首を掴むとゴムを鈴口にあてがう。
「これをこうしてクルクルっと……これでしまいや。簡単やろ?」
つけ終えて顔を見るとまだ息子を凝視していた。そうしてから溜息をつく。分かってないなあ、と言うように。
やがて身体を寄せると無言のまま男性の上に腰を下ろし、足を絡ませてきた。
「あ、うぅっ……私がつけるって言ったのにぃ。」
ああ、そこが不満だったのか。子供のような理由だな。
そんなことを考えていると、彼女は繋がりながら上に羽織っていた服を投げ捨てていく。ブラジャーも外してしまった。
身に着けているのは臍の辺りまでずり上がったスカートだけだ。ピタリと身体を摺り寄せてくる。
「3枚目は私にさせてくださいね?」
「……ガンバリマス。」
運動後の汗を吸い込んで重くなっているTシャツをめくられながら、この後続くお楽しみに興奮が高まっていく。
335これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:32:11 ID:s1rQPMt5
「えっと、な……」
ベッドに寝そべっている安田の側に胡坐をかく。真上を向いた一物を凝視されて顔に血が集まってきた。
顔と下半身に血が集まっている状況はどうなんだろうか、などと考えていると、遠慮したような動きで軽く先端に触れられる。
予期せぬタイミングで襲った快感に思わず顔をしかめると、すぐに手が引っ込んだ。
「痛い、ですか?」
「ちゃうちゃう、気持ち良過ぎただけや。……貸してみ?」
コンドームを持ったほうの手首を掴むとゴムを鈴口にあてがう。
「これをこうしてクルクルっと……これでしまいや。簡単やろ?」
つけ終えて顔を見るとまだ息子を凝視していた。そうしてから溜息をつく。分かってないなあ、と言うように。
やがて身体を寄せると無言のまま男性の上に腰を下ろし、足を絡ませてきた。
「あ、うぅっ……私がつけるって言ったのにぃ。」
ああ、そこが不満だったのか。子供のような理由だな。
そんなことを考えていると、彼女は繋がりながら上に羽織っていた服を投げ捨てていく。ブラジャーも外してしまった。
身に着けているのは臍の辺りまでずり上がったスカートだけだ。ピタリと身体を摺り寄せてくる。
「3枚目は私にさせてくださいね?」
「……ガンバリマス。」
運動後の汗を吸い込んで重くなっているTシャツをめくられながら、この後続くお楽しみに興奮が高まっていく。

身体を少し離して胸を愛撫する。軽く持ち上げるようにして揺すってやると面白いくらい反応をしてくる。
「ダメ、そんなのすぐイっちゃう!」
頭を左右に振って離した身体をもう一度くっつけようとするがそうはさせない。立ち上がっている乳首を強く押し込む。
身体が反り返り、秘肉が縮こまった。言っていた通りに達してしまったようだ。
「そ、れ……」
掠れた声で呟く。強くしすぎたかなとは思ったが、呆けた顔も可愛らしくていい。
「こういうの好き?」
「先輩にされるのは全部、好き、です。」
いつも言われている『好き』という言葉とは違う響きに、劣情がかきたてられて震えが来た。自分を取り戻そうと抱きしめ直して深いキスを交わす。

キスをしている間も両手は愛撫を続け、下半身はゆっくり上下運動をする。陰茎に絡みつく襞が熱い。
時々息を吸うために口を離すが、すぐにまたどちらからとも無く塞ぎなおす。きっと錯覚なんだろうが、舌に絡みつく唾液が甘い。
何度目かの息継ぎでようやく落ち着いた。お互いの唾液が糸を引いて、2人合わせて唯一身につけられているスカートに垂れ落ちる。
「汚れるで、下。」
「構いません。」
彼女は目が潤み息が荒くなって、真っ白な頬には朱が差している。きっと俺も真っ赤な顔をしているのだろう。
「構うわ。……脱がすよ?」
スカートのウエストを緩めて身体を持ち上げようとするが、両手両足に力を入れてしがみつき離れない。
「安田〜?」
「脱ぎたくありません。」
三白眼で睨まれたが、汚さないで済む服をわざわざ汚してしまう必要は無い。無理矢理引き剥がして脱がせてしまう。

「無理矢理なんて酷いです。」
珍しくむくれている。関係無いが、今日はやけに表情が豊かでテンションが高いな。
「何か脱ぎたない理由でもあるんか?」
「……ん。」
後ろを向いて腰の辺りを強調する。滑らかな背中に通っている背筋の一部がボコボコと歪んでいる。
「小さいときに火傷して。嫌いなんです、自分の身体。」
腰に帯状の火傷の後が残っている。かなり広い範囲にわたって広がっているが今まで気がつかなかった。
見た目には他の場所との違いが分かるが、触り心地だけでは注意しないと分からない。それが今まで気がつかなかった理由だろう。
「親にもあまり見てほしくないんです。この場所を誰かの目に晒すのは久しぶりですね。」
そういえば今まで2回裸を見ているが、どちらのときも仰向けになったりパジャマの上着を羽織ったりして背中を見たことは無かった。
安田は俺がじっと見ているのに気がつくと、慌てて身体を捻って身体を隠そうとする。
「見られるん、嫌か?」
「好きではないです。やっぱり欠点ですから。」
「さよか。」
それなら、と後ろからぴったりくっついて抱きしめた。これなら彼女の背中は誰にも見られない。
安田は小柄だから、自然と包み込むよう抱きしめることになる。
336これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:33:48 ID:s1rQPMt5
胸を掌にすっぽり収めて軽く揉みしだく。火で炙られたマシュマロに似ていて、思わず手を引っ込めてしまうほど熱くて、今にも溶けそうなくらい柔らかい。
2人の汗でヌルヌルする指先でぷくりと膨れた乳暈を指の腹でなぞり、つんと立った乳首を摘む。
胸を揉んでいる間は反応が薄かったが、弄りながら耳たぶを舐めあげるとやっと声が上がった。
「くす、ぐったいです。」
「こういう触り方、気に喰わん?」
問いに首を横に振る。肩より少し長い髪がばらついて、白いうなじが見えた。シャンプーか何かの香料が香った。
「好きですけど……やっぱり先輩がほしいです。」
そう言うと少し腰を浮かせ俺を掴んだ。そのまま自分の中に収めてしまう。後ろからの座位は初めてだ。

「んあぁっ!こっち、向き、も、すごい……っ!」
この体位じゃそれほど深く挿さっていないだろうに、身体を俺に預けてぶるぶる震えている。
その様子を見ながら左手は胸に添えたまま、右手は繋がった部分に手を伸ばす。
今のままでもこんなに感じているのに、手で弄ったらどうなるのだろうか。押しのけられた花びらには触れずに、はちきれそうな肉芽に指を置いてみた。
「あああああぁぁぁぁ……っ!」
途端に耳をつんざく絶叫が響き渡る。声が枯れてしまうほどに叫び2、3度痙攣すると、そのままぐったりと動かなくなってしまった。
337これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:36:39 ID:s1rQPMt5
リビングのソファに寝転び野球中継を見ていると、背後に人の気配がした。入り口にパジャマの上下を身につけた安田が立っている。
「……おはようございます。」
「おはよう、よう寝とったな。」
まだ眠たそうに目を擦りながら起き上がってきた彼女にソファに座っているように言いつけ、俺は飛び起きて台所へ向かう。
コーヒーメーカーでサーブしておいたものをマグに2つ注いだ。片方を彼女に手渡すとソファに沈み込むようにして一口啜る。
そんな様子を見届けると、ほっとして隣に腰を下ろした。

「まさか気を失うとは思いませんでした。」
「そらこっちが言いたいわ。死んだんかと思たで。」
気をやると同時に気を失ってしまった彼女に顔面蒼白になったことを話す。
今の今まで飛び跳ねていたのが、急に糸の切れた操り人形になったのでは誰だって色を失うだろう。
すぐにすやすや寝息を立てていることに気がついたが、それでも暫く冷汗が止まらなかった。
「もうあんなんは勘弁してくれ、頼むわ。」
「先輩があんなにいっぱい愛してくれるからいけないんです。……寝不足だって言ったのに。」
少し恨めしそうに見上げ、唇を尖らせマグに口をつける。
そう言えば寝ていないとか言っていたような気がする。これで今日のテンションの高さにも合点がいくな。

手に持ったマグをテーブルに置いた途端に横倒しに倒されて圧し掛かられた。そのまま唇を割られる。
開かれた口には舌の代わりにコーヒーが入ってきた。結構な量を口に含んだままの口付けらしく、一気に流れ落ちてくる。
唾液が混じって少し温んだそれを、目を白黒させながら飲み込む。淹れてから時間が経っているから香りが飛んで酸味だけが残っている。はっきり言って不味い。
「不味いコーヒーの口直し、です。」
鼻先でふふ、と笑うともう一度唇を塞がれた。
コーヒーを注ぐだけだったさっきのキスと違い、今度は情事の最中に交わしたものと同じか、それ以上の激しさで舌を絡める。
一旦口を離して深呼吸をするともう1回。今日何度も味わった舌が中毒性を持って延髄を痺れさせる。

目が潤んできてそのまま本番に雪崩れ込みそうになるが、かろうじて理性のこちら側に立ち止まれた。
「もう3時過ぎや。風呂入って来ぃ。」
彼女が気を失った後、汗や粘液でドロドロに汚れたシーツを片付けた。当然、ゴミ箱に投げ込んだ使用済みのブツも忘れずに。
洗濯機や乾燥機を回している間中、彼女を裸に剥いたまま寝かせておくのも悪いだろう。そう思ったので一応固く絞ったタオルで身体を拭ってから服を着せておいた。
今着ているパジャマはそれだが、下着は彼女自身が持ってきた鞄の中を探らせてもらった結果だ。全く準備がいい。
一応全身くまなく拭いたつもりだが、俺は介護や医療のプロじゃない。まだ体のあちこちに気持ちの悪い感覚が残っているはずだ。

「もう帰れ、と言うんですか?」
声音はいつも通りの冷静なものだったが、目は口ほどにモノを言う。視線が痛い。目を外さないまま身体を寄せてくる。
「送ってくから。」
「学校じゃいちゃいちゃ出来ないんですから、もっとして下さい。」
いちゃいちゃ出来ない、というフレーズに引っかかる。特別禁じるような事を言った覚えはない。
「付き合うてるんやからやったらええやん。ちゃんと節度を保っとれば怒る事も無いで?」
何故か呆気にとられたように目が大きく開かれて、それからぼそりと呟く。
「……先輩はそういうことが嫌いだと思ってました。」
だってHなこと言うなって言っていたじゃないですか、と言葉を続ける。
「俺があんなこと約束させたから気ぃ遣って遠慮しとったんか。別に構へんで?人前に出て恥ずかしいレベルのこと、せえへんねやったら。」
「それじゃあ誰かに見られたら恥ずかしいようなこと、2人きりの時ならしてくれるんですね?」
……墓穴を掘ってしまった。ついさっきシーツを取り替えたばかりだというのに、もう汚さないといけない。

次の月曜日、学校にて。
「先輩。」
「何や後輩。」
「幸せです。」
「そうか。……そろそろ降りてくれへんか?」
これから暫くの間は、膝の上でこちらを向いて座っているコイツの行動に頭を悩ませることになりそうだ。
338これからずっと ◆6x17cueegc :2007/06/11(月) 00:37:46 ID:s1rQPMt5
以上です。
ワードで書いてたら18ページまで来ちゃいましたよ奥さん。俺、改行少ない人なのに。

>>308
実は「とある異国の〜」は最初、そうするつもりだったんです。
でも好きになる過程を描くのが面倒なのと(表面に出ないから感情の機微を描きにくい)、考え方に一本筋の通っているのが素クルの一部分だと思ったので、
ヘタれてしまってああいう落とし方をしてしまいました。

>>321
小ネタGJ!
短い話って起承転結をちゃんと作れないと書けないんですよね……うらまやしい。
339名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 01:55:49 ID:h4/IYgbZ
>>338
GJ!
妹おっかねえwww
340名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 07:50:13 ID:PUMJ0GTY
>>338
GJ! 超GJ! 待ってましたよー。

しかし、最近このスレ神すぎる……
341名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 15:18:08 ID:JRcJUttG
GJ! YEA!
342名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 19:29:34 ID:q/Nw0249
今気づいたんだがレス数より容量が多いって……
恐ろしいスレだなあ…もちろんいい意味で。
343名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 21:57:04 ID:7GldP3CL
敬語萌えの私としては、このシリーズの投下はうれしい限り。
GJ!!
344名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 00:59:52 ID:Q+hH+q42
GJ
345名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 17:04:30 ID:daITT4y4
いよっ!!

真打登場!!
346名無しさん@ピンキー:2007/06/14(木) 00:55:56 ID:XEhXxwiq
まとめの中の人は無事だろうか?
347-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 04:49:28 ID:h3cxuUFn
もう少ししたら、続編を投下します。
長くなってしまったので、2回に分けます。
348-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:05:58 ID:h3cxuUFn
-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ その2-


 俺は彼女達とセックスをしていた。
 何故セックスをしているのかは、忘れた。いや、忘れた、という表現は正しくない。忘れたのでは
なく、思い出せない。というか、そもそも思い出そうとも思わない。
 この状況が、まるで必然であるかのように、現在の状態に何の疑問も湧かないのだ。

 辰美が、その小さな身体で俺に跨がり、腰を振っている。
 七夕さんが、俺の顔にその大きな胸を押し付け、俺の右手を使って自分の秘所をいじっている。

 徐々に、二人の動きが激しくなり、俺は、辰美に攻められている己の肉棒から沸き上がる気持ちよ
さと、七夕さんに胸を押し付けられて息が出来ない苦しさに悶えていた。

 やがて、焦燥感を伴って高まる射精感と、窒息寸前の苦しさが限界に到達した時、俺は──

 * * * * *

 ぱかっと、目が覚めた。
 最初に目に飛び込んできたのは、我が家の見慣れた天井だった。

 薄暗い部屋の中で、笹戸圭介(ささど けいすけ)は、全身が強張り、ぜぇぜぇ、とかすれた呼吸
をつきながら、呆然と天井を凝視する。
 心臓が、工事現場の削岩機のようにドドドドッと早打ち、「夢か」という言葉すらも出て来ない。
 凍えたように強張る手で、身体に絡まったタオルケットを剥がし、圭介はやっとのことで身体を起
こした。
「っはぁあああああああ……っ」
 大きく息を一つ。頭をがくんと、前に倒し、
「…夢、かああああ…」
 やっと、言葉を吐く。うなだれて、垂れた前髪から汗が雫となってシーツに落ちる。未だガタガタ
震える手で、髪の毛を掻き上げると、びっしょりと冷たい汗で濡れていた。
 真夏の午前8時。外は快晴。今日も、最高気温を更新する勢いで、太陽はガンガン地表を照らして
いる。
 エアコンは寝る前に消し、締め切ったその部屋はじっとりと蒸し暑い。湿気を含んだ空気が確かな
質量を感じさせ、圭介の身体に重くへばりつく。
 そういった、真夏の朝特有の不快感の中で、圭介はまるで凍えているかのように震えていた。

 ……なんという夢だ。よりによって辰美とセックスしてる夢を見るとは。圭介は頭を掻きむしる。
 あいつは、幼馴染みのあいつは、普通の男友達よりも男(最近はオヤジだが)らしく、妹というよ
りも弟のような存在で、自分は女と全然思っていなかったのに。圭介は呆然と息を吐いた。
349-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:07:53 ID:h3cxuUFn
 圭介がここまで夢の内容にショックを受けているのは、辰美のことだけではない。夢の中のもう一
人の登場人物、七夕夜子(たなばた よるこ)の存在が、圭介の心を更に落ち込ませていた。
 夜子は、仕事先の後輩で、よく自分に懐いてくれている。最初のころは取っ付きにくい感じだった
が、現在ではことあるごとに、笹戸さん、笹戸さんと、自分にまとわりつき、腕を抱き締めてくる。
圭介は、それを部下のスキンシップだと捉えていた。
 夜子は自分を慕ってくれていて、懐いてくれているのは間違い無いが、それは仕事の先輩としてで
あって、所謂、男女間のアピールではないはずだ。それなのに、自分はあんな夢を見てしまうとは。
 圭介は夜子に対し、酷い裏切りをした気分になって、罪悪感がじわじわと良心を蝕む。
「なんか、いつもより元気だし…。こいつ」
 まったく、何を考えているんだ。と心の中で呟き、圭介は普段よりも元気よく盛り上がった股間に
呆れた視線を送る。
 圭介はベッドから降りるとエアコンのスイッチを入れ、びっしょりかいた寝汗と一緒に、夢の内容
をも流し去るべく、風呂場へ向かった。

 * * * * *

 ピポピポピンポーン、ピンポピンポーーン。
 風呂から上がって一息つき、さて、とPCを立ち上げた午前10時半。
 世話しなく連打された呼び鈴の音に、圭介は眉をしかめた。玄関の方に目を向け、キーボードとマ
ウスから手を離す。一瞬の静寂後、またピンポピポピンポーンと呼び鈴が連打。
 こんな非常識な呼び鈴の押し方をするのは、あいつしかいない。圭介はため息をつきながらモニター
の電源を切り、玄関に向かった。

「えへっ♪ 来ちゃった」
 玄関のドアを開けると、予想通り南東辰美(みなみあずま たつみ)が立っていた。むわっとした
外の空気が玄関に流れ込み、やかましいセミの鳴き声がボリュームを上げて一緒に飛び込んでくる。
 辰美は、やたらめったら乙女チックなセリフとは裏腹に、いつものようにいたずら小僧のような笑
みを浮かべていた。
「………」
 圭介は無言で玄関のドアを閉めようとするが、
「ラブコメ風に登場してみたのだが、お気に召さなかったかね?」
 と、小柄な辰美がするりと中に入ってくる。圭介はそれには答えず、
「…呼び鈴を連打するなって言ってるだろ。近所迷惑だ」
「こうでもしないと圭介は出てくれないじゃないか」
「インターフォンが無いアパートに住んでるんだ。身に覚えが無い呼び鈴に応じないのは、独り暮ら
しの常識だ」
 憮然とした表情で言い切り、1DKの室内を横切って、途中、冷蔵庫から飲みさしのペットボトルを取
り出し、パソコンのデスクに腰を下ろす。
 辰美は勝手にベッドに腰掛け、にやりと笑った。
350-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:08:47 ID:h3cxuUFn
「それじゃあ、出てくるまで呼び鈴を連打するのは仕方ないな?」
「なんでそうなるんだ。お前が来る前に一言連絡入れれば済む話だろ。つーかなんでお前はいつも連
絡なしでウチに来るんだ」
 疲れたように言って、お茶のペットボトルを一口飲み、ほれ、と辰美に放って渡す。
「抜き打ちで来られるとまずい理由でもあるのかね? けーくん」
 辰美も受け取ったペットボトルを一口。
「俺が留守だったらどうするんだって話をしてるんだろうが。……っておい、何してんだ」
 いつの間にか、辰美はベッドの横に置いてあるゴミ箱を、手前に引っ張って来て漁っている。
「ん? いや、きみが無駄にリピドーを発散せさせていないかと気になってね。どうやらそうでは無
いようだ。安心した」
「人ンちのゴミ箱を漁るな。野良猫か、お前は」
 辰美の訳の分からないセリフは無視して、圭介はゴミ箱を取り上げ、所定位置へ戻す。
「つーか、お前、何の用だ? わざわざゴミ箱を漁りに来たのか?」
 再びデスクに腰掛け、モニターの電源をつけながら圭介が続ける。
「俺は今日、いろいろ用事があるんだ。お前の遊び相手は出来ないぞ。大人しくマンガでも読んでろ」
 まるで親戚の子どもに対して言うような圭介のセリフに、辰美は、
「ふふふ。マンガ、か。帰れ、とは言わないんだな?」
 と、片頬を上げて人が悪そうな笑みを浮かべる。
「……帰れと言って、お前がその通り帰るならそう言っている」
 言い訳のするように言って、圭介はPCに向き直る。
「言っとくけど、作業があるんだから、邪魔するなよ」
 その言葉に、辰美が怪訝そうに片眉を上げた。
「作業? 今は休暇中ではないのかね?」
「休暇中だよ。でもチェックしなきゃならない資料があるんだ」
「ふむ、なるほど。攻略本かね?」
「ああ」

 ついこの前マスターアップを果たし、今は半月ほどの休暇の最中だ。しかし圭介はここ二日ほど、
ゲームと同時発売予定の攻略本のチェックを進めていた。
 圭介は自分が担当した部分を中心にチェックし、修正箇所をディレクターの琵琶山へ知らせるべく、
内容をまとめている所だ。各スタッフから修正箇所を受け取った琵琶山が、攻略本の編集へまとめて
返答するといった手はずになっている。

「しかし、最近の攻略本は、まるで攻略していないな」
 攻略本の原稿と仕様書を見比べて、内容のチェックをしている圭介の耳元から、呆れたような辰美
の声がした。いつの間にか近寄り、圭介の肩ごしにモニターを覗き込むような格好になっている。
「開発元から資料を取り寄せて攻略本として発売するとは、手抜きにも程がないかね?」
「俺に言うなよ」
 圭介は作業を続けながら、暑苦しいから近寄るな、と眉をしかめる。
351-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:09:44 ID:h3cxuUFn
 しかし辰美は全く意に介さず、
「本来攻略本とは、編集部が独自に攻略して、その情報をまとめたものではないのかね? 開発から
仕様を教えてもらって、一体何を攻略していると言うのかね?」
 と、言いながら、さらに圭介に密着する。今や完全に圭介の肩に顎を乗せ、背中にぴったりと身体
をくっつけている。
「だから俺に言うなっつーの。ゲームと同発なんだからしょうがないだろ。それに、今はこれが普通
なんだよ」
 まあ、言いたいことは分かるけどな。と圭介は淡々と作業を続けつつ、引っ付いている辰美を追い
払うように、肩辺りでシッシッと手を振る。
「しかし、開発に資料提供と文字校正のギャラは発生して無いのだろう?」
 それを無視して、辰美は圭介の前に腕を回す。
「知らねえけど、たぶん出てないだろうな」
 圭介は、邪魔だ、と辰美の手の甲をはたきながら、作業を続ける。
「では、作業するだけ損ではないか?」
 それでも懲りずに辰美は圭介の首を抱くように腕を回す。
「まあそうなんだけどな。クライアントと攻略本の出版社でなんか話がついてるんだろうな。雑誌で
ゲームの広告記事出してくれるとかさ」
 左手だけで器用にキーボードをカタカタ言わせつつ、くっつくなっての、と右手の甲でペシッと軽
く辰美の額を叩く。
「仕事は仕事として、なあなあで済ませない方がいいぞ? “いいひと”は損するだけだ」
 まったく怯まず、辰美はさらに腕に力を込め、ぎゅっと抱きしめる。
「んなこた分かってるが、それを判断するのは俺じゃなくて社長だ。……つーか暑苦しいぞ。いい加
減離れろ。邪魔するなって言っただろ」
 とうとう我慢出来ずに、圭介が口を開いた。
「ふふふ。断る」
「こっちこそ断る。デコピンかますぞ」
 嬉しそうに言う辰美に、圭介は嫌そうに眉をしかめ、右手を肩の辺りに上げてデコピンの形を作る。
「良いではないか。けーくん、実はお風呂上がりだろう? イイ匂いがするぞ?」
「くんくんすんな! こそばゆい!」
 唐突にもみあげ辺りをくんくんされ、辰美の鼻息に圭介が身悶える。
「ああ、これはヤバいな。クセになりそうだよ、けーくん」
 辰美は、はぁはぁ言いながら、圭介の首筋に顔を埋めるようにして一心不乱にくんくんする。どさ
くさに紛れて、首筋をぺろりとひとなめ。
「やめろっつーの!」
「あいたっ」
 たまりかねた圭介の裏拳が、辰美の小さなデコにクリーンヒット。たまらず辰美は抱き締めている
腕を緩め、痛む額をさする。
「つれないなあ。けーくん」
「お前なあ…。ここ数年のオヤジ化は目に余るものがあるぞ」
 心底呆れたように言って、首に巻き付いている辰美の腕を剥がす。
「一応、私は女のはずだが? ちんちんは付いて無いはずだが、見てみるかね?」
 ベルトに手を掛けて、ジーンズを下ろすフリをする辰美に、圭介はため息混じりに言う。
352-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:10:43 ID:h3cxuUFn
「やめろ馬鹿。そういうところがオヤジだって言うんだ」
「ふふふ。今さら照れるな。一緒にお風呂に入った仲じゃないか」
「いつの話だよ。つーか仕事の邪魔すんな。用が無いなら大人しくしてろ」
「誰も用が無いなんて言って無いではないか」
「俺にまとわりつく以外に、用なんてあるのか?」
「それも大事な用の一つだが、今日は報告があって来たんだ」
 皮肉で言った圭介の言葉をさらりと認めつつ、辰美が真面目な顔をする。
「なんだ? 用事があったんなら先に言えよ」
 圭介は辰美に向き直り、で、なんだ? と先を促す。
 辰美はじっと圭介を見つめ、口を開いた。

「実はな、私は妊娠したようだ」
「そうか、妊し…………。なんだって?」
 今、こいつは一体何と言った? 圭介はぽかんとする。今、妊娠って言ったのか? と、自分の耳
を疑う。
「だから、私は子どもを身籠っていると言っているんだ」
「……マジで?」
「こんな嘘はつかんよ」
 はっきりと言い切った辰美の言葉に、嘘や冗談の響きは感じられなかった。
「それは……、おめでとう」
 そうか、辰美が母親になるのか…。圭介はなんとも言えない思いに包まれ、思わず椅子から腰を浮
かす。
「なんだよ、そんなことなら早く言ってくれよ。ホントにめでたいじゃないか」
「しゅ、祝福してくれるのか?」
「当たり前だろ?」
 意外そうに狼狽する辰美の肩を、圭介は力強く掴む。
「そ、そうか。祝福してくれるか! 圭介!」
 辰美は笑顔になり、思わず抱きつこうとしたところで、圭介が口を開いた。
「で、相手は誰だ?」
「……なんだって?」
 今度は辰美がぽかんとする。そんな辰美をそのままに、圭介が明るい声を出す。
「いやー、まさかお前に彼氏がいるとは知らなかったよ。相手は誰だ? 俺が知ってるヤツか?」
「いや、ちょっと待て」
「もちろん結婚式には呼んでくれるよな? いつやるんだ? 妊娠してるなら結構早めなんだろ?」
「待て待て! 圭介、あのな、」
「まさかお前に先を越されるとはなあ。いやでもおめでとう!」
「いい加減、人の話を聞きたまえ」
「むぐっ!?」
 辰美はむっつりと言うと、ぐいっと圭介の首を抱き寄せ、口をキスで塞いだ。
353-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:11:44 ID:h3cxuUFn
「バッ! おまっ!」
 圭介は慌てて辰美を引き剥がす。辰美は名残惜しそうな顔をするが、
「ふふふ。けーくんとキスするのは実に10年ぶりだな?」
 と、にやりと笑い、ぺろりと舌舐めずりをする。
「おおお前、何してんだ!」
 激しく戸惑う圭介をそのままに、辰美がうっとりと続ける。
「覚えているかね? 最後にけーくんとキスしたのは、中学3年の時だったな?」
「お、覚えてねえよ!」
 思わず怒鳴る。しっかり覚えているが、咄嗟に否定してしまう。
「それは残念だな。あの時、私に初潮が来た日、クラスメイトの前で熱いベーゼを交わしたではない
か」
「知るか! そんなの!」
 そう言いながらも、圭介の脳裏にあまり思い出したくない記憶が蘇った。

 あれは、中学3年の秋ごろだった。
 朝から微妙に体調不良を訴えていながらも、俺の傍を離れようとしない辰美を、いいから保健室に
行って来いと、休み時間に強引に保健室に放り込んだ。
 その次の休み時間に、辰美は教室に戻ってくるなり、「圭介! 私はやっときみの子どもを身籠る
器が整ったぞ!」と廊下に響くぐらいのデカいで言い放ちやがった。
 固まっている俺とクラスメイトを気にも止めず、辰美はまっすぐ俺の胸に飛び込んで、そのままキ
スをかました。
 一瞬後に正気に返った俺は、辰美を抱え上げて、そのまま後ろに放り投げた。バックドロップを正
面からやった感じだ。
 床にしたたかに脳天を打ち付けたキス魔は、恍惚とした表情のまま脳震盪で救急車で病院に運ばれ
た。その後、俺は親にこっぴどく叱られた。

 幼いころから、圭介は何回も辰美にほとんど強引にキスをされ続けていたが、小学校の高学年くら
いになると、学習した圭介は辰美の迎撃に成功し、キスもそれ以来されていなかった。しかし、不意
をつかれたために、混乱した圭介は思わず投げ飛ばしてしまったわけだ。

 嫌な過去を思い出し、思わず圭介は渋面を作る。昔のキスの感触と今のそれとがシンクロし、圭介
は思わず唇を手の甲で拭った。
「中学の時の話なんかどうでもいい。なんで今、俺にキスするんだお前は?」
「けーくんが私の話を聞かないからだ」
「それならキスじゃなくても他に方法があるだろうが…」
 なんでこいつはそう極端なんだ。とため息をつきながら続ける。
「話って、お前が結婚するって話じゃないのか? つーか彼氏がいる女が、男の家に独りで遊びに来
るな」
「だから、それが勘違いだと言っているのだよ」
「それっつーのはどれのことだ?」
「私が身籠ったのは、圭介、きみの子どもだ」
354-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:12:44 ID:h3cxuUFn
「…………は?」
 再び、圭介はぽかんとする。その刹那、今朝の夢が脳内にフラッシュバックした。
 ……いや、いやいやいや! アレは夢だ。夢のはずだ。そんな、まさか、実際に、なんて。
 夢の内容を思い出し、一人慌てる圭介をそのままに、辰美がうっとりした様子で続ける。
「実はな、昨晩、圭介と愛しあっている夢を見たんだ」
「…なに? 夢?」
 お前もかよ! という言葉を圭介はすんでで飲み込んだ。
「さすがに内容は恥ずかしくて口に出せないがな。とても素敵な夢だったぞ?」
 珍しく頬を染めて恥ずかしがる辰美はさらに続ける。
「きみと愛しあう夢は過去にも何度か見たことがあるが、昨晩のそれは、まるで本当の出来事のよう
にリアルだったぞ? 起きてから、思わず膜を確認したくらいだ」
 膜は無事だったから安心したまえ。と聞いていないことを口にする。
「何故か、七夕夜子も夢に出て来たのは、非常に不愉快だったがな」
 辰美が言う夢の内容に、圭介は何やら頭痛を覚えた。なんで同じような夢を見てるんだ、俺たちは。
「…で、その夢とお前が妊娠してるのは、どういう関係があるんだ?」
 額を指で押えながら問う圭介に、辰美はきょとんとする。
「圭介、きみは想像妊娠という言葉を知らないのかね?」
「……お前こそ、想像妊娠を百ぺんググッて来い」
 圭介はいよいよ本格的に頭痛を覚えた。ため息をついてPCに向き直り、想像妊娠をグーグル先生に
質問してやる。

──想像妊娠とは。
妊娠を極端に強く望んだり、恐れたりするあまり、身体が妊娠したように変化することを『想像妊娠』
といいます。つわりの症状が出たり、中にはお腹が膨らんで来たりする人もいますが、これは自己暗
示によるもので、実際に妊娠しているわけではありません。

「…ほれ、これだ。読んでみろ」
「ふむふむ…」
 読み終わった辰美は、途端に眉をしかめる。
「なんだこれは。想像妊娠とは、本当に妊娠しているわけではないと言うのかね?」
「当たり前だろうが」
「…がっかりだ。非常にがっかりだよ。圭介」
 辰美はやれやれと、外人のように肩をすくめる。
「…想像妊娠で本当に子どもが出来ると思ってたお前もお前だけどな」
 大体、昨夜見た夢で即座に想像妊娠に陥るのも普通じゃない。どんだけ自己暗示が強烈なんだよ。
 呆れる圭介に辰美が向き直り、にやりと笑う。
「残念ではあるが、それならば本当に子作りすれば良いだけの話だ。そうだろう?」
「…なんだと?」
「圭介、子種をくれ」
355-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:13:44 ID:h3cxuUFn
 がばっと、辰美はデスクに座っている圭介の頭を抱きかかえる。直後、
「ぅぐッ!」
 圭介に無言で脇腹に貫き手をかまされ、辰美は呻いて脇腹を押さえながら悶える。
「お、女の子はもう少し丁寧に扱いたまえ…」
「ほーう。女の子扱いして欲しかったら、もう少し女らしくしてみろ」
 圭介は張り付いたような笑みを浮かべ、辰美にアイアンクロー。
「あだだだッ!」
「お前は義務を果たさずに権利を主張する、どっかの困ったちゃんか? ええ?」
「いたいいたい! 待った圭介! 話を聞きたまえ!」
「言い訳があるなら聞いてやろう」
 やっと解放された辰美は、半ベソをかいて圭介を恨みがましく見上げる。
「とんだ言い掛かりだぞ、けーくん」
「何がだよ」
「私ほど女らしい女は、そうそういないということだ」
「何言ってやがる、逆だろうが。お前ほど女らしくない女はいないぞ」
「好きな男の精子を欲しがるのは、これ以上なく女らしい行為ではないか。女の本能に忠実で誠実な
行動だぞ?」
「…そういうことじゃねえよ。こん馬鹿たれが」
 圭介は指を広げて再びアイアンクローの構えをとる。
「けーくん待った! どうせ掴むなら胸か尻にしてくれ。──あいた!」
 やっぱりコイツは駄目だ。と、圭介は心底呆れてズビシと脳天にチョップ。
 辰美はペタンと座り込み、涙目でつむじあたりを押さえる。辰美は文句を言おうと口を開きかけた
とき、携帯が鳴り、口を閉じた。
 仕方なく、辰美は片手で頭をさすりながら、若干舌足らずな涙声で電話に出る。
「…もしもし? ──ああ、どうもお世話に……なに? 明日じゃ駄目なのかね? こっちは今取込
み中だ。……明日の朝一でロム提出だと? そんなのは知らん。こっちは愛するけーくんと結ばれる
かどうかの瀬戸際なんだぞ」
「ちょ、待てこら!」
 たまりかねて圭介が辰美の携帯を奪う。
「あー、すみません。今こいつ酔っぱらってて…」
「何を言ってるのかね。私は酔ってなどいないぞ」
 いいから黙ってろ、と圭介は辰美の頭を押さえる。
「あ、田畑さんですか? どうもお久しぶりです。笹戸です。…え!? 明日マスターなんですか?
ああ、なるほど。すぐにコイツ送りだしますので。いえいえ、酒はすぐ抜けますよ。こき使ってやっ
て下さい」
 それじゃ、失礼します。と携帯を切り、辰美に向き直る。
「ほれ、仕事だぞ。行って来い」
 そう言って、辰美に携帯を放って返す。
 田畑は、圭介が昔お世話になった同業者で、今は別の会社で開発の取りまとめを行っている。その
田畑のプロジェクトがマスターを翌日に控えた今日、重大なバグが発見され、発売延期の危機を迎え
ているらしい。
356-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:14:42 ID:h3cxuUFn
 田畑の会社では辰美が作ったエンジンを使用しており、どうやら根っこの部分から探らないと分か
らないバグのようで、田畑のチームのプログラマーではお手上げ状態のようだ。そこで、エンジンの
開発をした辰美に声が掛かったというわけだ。
 辰美と田畑の会社との契約では、何か問題があった時のサポートも契約内容に含まれているので、
当然無視と言うわけにも行かない。しかし辰美はきっぱりと、
「今はけーくんと一緒に居たい」
 などぬかす。圭介はその言葉を予想していたかのように、即座に切り返す。
「お前のせいで田畑さんのゲームが発延になったら、一生、口きいてやらないからな」
「……仕方がない。さくっと終わらしてこよう」
「おう。頑張れよ」
 圭介は人知れずほっと息を付く。これで田畑のプロジェクトはマスターに間に合うだろう。辰美は
こんなんだが、プログラムの腕は確かだ。しっかりと問題を解決してくるだろう。
 辰美をほらほら急げと玄関に追いやりながら、ちらっと時間を確認すると、正午近くなっていた。
「じゃ、けーくん。いってきます」
「おう」
 しぶしぶ小さなスニーカーに足を通した辰美は、圭介に向き直ると無言でじっと見つめてくる。
「どした?」
 怪訝な表情をする圭介に、辰美は真顔で、
「いってきますのちゅーが欲しいな」
「さっさと行け」
 予想通りの圭介の冷たい視線を受け、にやりと片頬を上げて微笑む。
「ケチんぼだなあ。まあいい。すぐに終わらせて帰ってくるよ」
「俺ももう少ししたら出かけるから、ウチに来てもいないぞ?」
「ん? どこへ行くのかね?」
「ああ、ちょっとな。七夕さんと約束があるんだ」
「………なに?」
 あ、こいつには言わない方が良かったか。しまったな。と後悔するも、時すでに遅し。辰美の目が
据わったようになっている。
「圭介、詳しく話を聞かせてもらおうか? どういうことかね?」
「いいから、お前は早く仕事行けよ」
 誤魔化すように言う圭介の言葉は、辰美には当然効果がなかった。
「いや、仕事なんか行っている場合じゃない。あの女とけーくんを会わせるわけにはいかん」
 辰美の物言いに、圭介は思わずため息をついた。何故か辰美は七夕夜子とウマが合わないらしい。
この前の打ち上げでも、ひと悶着あったくらいだ。圭介は、何故二人の仲が悪いか全く分かっていな
かった。
「なに言ってんだ。つーか、あの女とか言うな」
「けーくんの寝顔を900時間も見ていたような変態女なぞ、あの女で十分だ」
「変態女とか言うな。つーかな、今日会うのはお前の尻拭いなんだぞ? 分かってんのか?」
「…どういうことかね?」
357-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:15:46 ID:h3cxuUFn
「お前が打ち上げで暴れたお詫びに、映画とお茶に誘ったんだよ」
「何!? あれは向こうが挑発してきたんだぞ!」
「まだンなこと言ってんのか。いいからお前は仕事行けって」
「駄目だ! あんな痴女と会ったらけーくんが食い物にされてしまう! 仕事なんぞしてる場合じゃ
ない!」
「なんでそうなるんだ」
 痴女とか言うな、馬鹿たれ。とペシッと軽く頭をはたいて叱りつつ、
「お前な。マスター直前の大変さは分かるだろ? 下手したら発延だぞ? サポートもお前の仕事だ
ろうが。ごちゃごちゃ言ってないで行って来いよ、頼むから。それに、田畑さんにお前を紹介したの
は俺なんだぞ?」
「む……。それを言われると……、実に辛いな」
 辰美はいたずらが見つかった子供のような顔で押し黙る。ここで田畑の要請を無視すると、自分だ
けではなく、圭介にも迷惑がかかる。辰美としては、それは絶対に避けたい事態だった。自分の評価
が下がるのは、自業自得だから構わない。しかし、それによって圭介のメンツが潰れるのは、とても
我慢ならない。
 辰美は腹を括り、ふう、と、ため息をつくと、ちらりと不安げな顔で圭介を見上げた。
「……映画と、お茶だけかね?」
「ん? ああ、そうだよ。今ピクサーの新作やってるだろ? あれを観て、少しお茶飲むだけだ」
「そうか。じゃあ、仕事行ってくる。あの……。なあ、けーくん」
「…なんだ?」
 いつになく、歯切れが悪く、しおらしい様子の辰美に、圭介は少し調子が狂う。しかし、
「あの女の胸なんかに、惑わされてはいかんぞ?」
「……さっさと行け」
 やっぱりコイツは駄目だ、と圭介は玄関のドアを開けて、辰美を外に放り出す。
「あ、おい! 分かってるのかね!? 胸なら私がいくらでも触らせてやるから、デカいだけの無駄
乳に目が眩んだら承知しないぞ!」
「表でデカい声だすな馬鹿たれ!」
 怒鳴り返し、玄関を閉めるも、「約束だぞ! ヤツの乳に気をつけろ!」と声が漏れ聞こえ、圭介
は頭を抱えた。
 躊躇しているように不規則な足音が、徐々に遠ざかるのが聞こえる。なんだかんだ言いながらも、
辰美はちゃんと行ったようだ。
 やれやれ、と圭介は、今日何度目か数えるのも億劫になるため息を吐いた。

 * * * * *
358-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:16:38 ID:h3cxuUFn
 目が痛くなるくらい、真っ青な空の端に、墨を垂らしたような真っ黒な雲が広がりつつある、午後
1時。
 傘を持ってくれば良かったかな、と考えつつ、圭介は夜子との待ち合わせの場所に向かっていた。
かなりの確率で、夕立ちが来そうだ。あいつは大丈夫か? と先ほど別れた幼馴染みに思いを馳せた
その時、
「笹戸さん、こんにちは」
 夜子が正面に立っていた。真夏の外気に当てられながらも、涼しげな表情は、少しも損なわれてい
ない。
 きりっとした瞳を、控えめな眼鏡が幾分柔らかく見せ、いつもは肩辺りで揺れている綺麗な黒髪が、
頭の後ろで結わえられており、涼しげな印象がより強調されていた。
 胸元にレースがあしらわれたキャミソールに、薄手のYシャツを羽織り、7分丈の細みのパンツに華
奢なサンダルという、夏らしい爽やかで涼しげな出立ちだ。
「やあ、七夕さん。ごめん、待った?」
 夜子と会社以外で会うのは初めてだった。なんとなく、気恥ずかしさを感じ、圭介は少しだけ早口
になってしまう。
「実は、ちょっと早く来過ぎちゃいました」
 夜子ははにかむように微笑み、圭介を見上げる。
「今日は笹戸さんとデートなんだって考えると、興奮して昨日も余り眠れなくて。1時間ぐらい前に来
ちゃいました」
「え!? 1時間も?」
「はい。あ、でも気にしないで下さい。私が早く来過ぎただけですから」
 嬉しそうに微笑むと、するりと圭介の横に並ぶ。そんな夜子を圭介は目で追うと、髪の毛をたくし
上げた首筋に、うっすらと汗の珠が浮いているのが目に入った。
 1時間も外に居たんだ。暑かったろうに…。
「外で暑かったでしょ? 先に喫茶店か何処かで涼んで行こう」
「大丈夫です。映画を見てから、ゆっくり休みましょう」
 夜子は圭介を見上げ、柔らかく微笑む。
「でも、お気遣いありがとうございます。笹戸さんは、とても優しいですね。大好きです」
 そう言って、圭介の腕をぎゅっと抱き締める。圭介の腕が、大きな胸に埋まった。
 夜子のあからさまな行動に、圭介は思わず苦笑いしてしまう。
「あー、七夕さん。腕にね、」
「駄目ですよ? 離しません」
 くすくすと微笑んで、夜子は圭介のセリフを遮る。
「今日は、お詫びに私の言うことを聞いてくれるって約束ですよね?」
「あー、まあ、うん」
「では、ずっとこのままがいいです」
 夜子はうっとりとした様子で言うと、嬉しそうに圭介の肩に頭を乗せる。
「でも、暑くない? それにほら、俺、腕むき出しで汗かいてるし」
 圭介は、汗が直接触れて不快に感じないかな? と気を使ったつもりだったが、
「笹戸さんの肌を直に感じられて、すごく嬉しいです。もう一生離したくないです」
 夜子は全く気にしないようだった。むしろ、喜んでいるように見える。
「一生ですか…」
「はい、一生です」
 きっぱりと言い切る夜子に、圭介は、相変わらずオーバーな表現だな、と苦笑する。
「じゃあ、行こうか」
 片腕を抱かれた慣れない体勢に、圭介は少し苦戦しながら映画館に向かって足を進めた。

 * * * * *
359-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:17:42 ID:h3cxuUFn
「なかなか面白かったね?」
 映画を見終わった後、圭介と夜子は近くのオープンカフェに移動した。ここなら軽い食事もできる
し、1、2時間ほど話をしていても特に問題ないだろう。
「はい、面白かったですね。でも…」
「ん?」
 圭介は自分の左腕を抱いている夜子に視線を落とす。夜子は宣言通り、ずっと腕を抱きっぱなしだっ
た。映画を見ている時も、映画館から出る時も、現在、カフェで軽食と飲み物の注文をしている時も、
ずっと左腕に寄り掛かるようにしている。おかげでカフェでは、二人連れなのにソファ席を使わせて
もらっている。
 夜子は小首を傾げた可愛らしい仕種で圭介を見上げ、微笑む。
「笹戸さんとこうして居られる状態が幸せすぎて、あまり映画に集中出来ませんでした」
「あー、そう…。それは、良かった。…のかな?」
 突拍子もない夜子の発言に、圭介は何と反応していいか分からず、曖昧に返事をする。
 そんな圭介に夜子は柔らかく微笑み、
「良かった、で当ってますよ? だって、こうして笹戸さんを独り占め出来ているんですから」
 と、幸せそうに目を細め圭介の肩に頭を乗せる。
 終始こんな状態の夜子に、圭介は彼女の意図を掴みかねていた。
 彼女は誰に対してもこんな感じなのだろうか? 自分は、仕事の先輩として慕われているだけで、
それ以上でも以下でもないよな?
 なんだかそれにしては随分と嬉しそうだが、女の子の本当の気持ちなんて、全然分からない。まあ、
とりあえず、変な勘違いをすることだけは避けよう。うん。と、独りで納得し、逡巡を切り上げ、様子
を伺うように、言葉を選びながら口を開く。
「あー、なんだ。俺としては、今日の映画は仕事にも役立ちそうだから、そういう視点で見て欲しかっ
た部分もあるんだけどね」
「笹戸さんならそう言うと思ってました。その点は大丈夫です」
「あ、そうなんだ?」
 映画というのは、どんな駄作でも何かしら参考になる部分があるものだ。「C級D級映画でも、必ず
1ケ所は参考になる部分があるぞ」と、圭介は昔世話になったデザイナーから言われたことがある。
最初は「そんな大袈裟な」と思った圭介だったが、今ではその通りだと思っている。
 ピクサーの映画ともなれば、多くの参考になる部分があるはずだ。ただぼーっと眺めて終わってし
まったのではもったいなさ過ぎる。
「あのシーン凄かったですよね? 中盤の」
「ああ、主人公が逆襲に向かう所だね?」
「はい、あのシーンの……」
 圭介と夜子が映画の話で盛り上がるのと比例し、空の端にあった真っ黒な雲も盛り上がりを見せ、
積乱雲の形状を取り始めていた。

 * * * * *
360-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:22:17 ID:h3cxuUFn
 完全にタイミングを逃した。
 圭介はもっと早めに切り上げるべきだったなと後悔し、どしゃ降りの空を見上げた。遠くからゴロ
ゴロと音が響き、雷雨はこれからが本番だと予感させる。
 雨が来そうだったので、オープンカフェを出て、駅に向かって歩き出したが、間に合わなかった。
早めに駅に行こうと、大通りから外れた裏道を歩いている時に、何の脈絡もなくどっと雨が降り出し、
シャッターが閉まった店の軒先きに慌てて飛び込み、二人はそこで立ち往生。
「ここでしばらく雨宿りするしかないね。ごめんね。もう少し早めに切り上げれば良かった」
 申し訳ない気分一杯で言って、圭介は傍らの夜子を見下ろすと、夜子がきょとんとする。
「いえ、私は平気ですよ?」
 彼女は微笑んで続ける。
「むしろ、ずっとこのままならいいな、と思ってるくらいです」
「え、なんで?」
「だって、笹戸さんと一緒に居られる時間が延びるじゃないですか。夕立ちに感謝です」
 当然のように言って、微かに雨で濡れた肩先に寄り掛かる。
 なんと返答すればいいのか決めかね、結局圭介は口をつむぐ。なんとなく、時間を確認しようと、
右手でポケットから携帯を取り出した。左腕に腕時計を巻いてあるが、左腕は既に自分の物ではない
ような気がするため、動かせずにいた。
 携帯の液晶は、16時20分を示していた。じりっと、圭介の心に焦りに似た何かが広がる。

 あいつが俺の家を出たのは昼前。田畑さんの所には1時間もかからずに着くだろう。辰美の性格上、
すぐに作業を開始するだろうから、そうすると、開始から大体3時間半ぐらい経つ計算になる。
 バグを突き止め、修正するには、十分な時間に思えた。「私のプログラムには、ブラックボックス
など存在しない。どの場所にどのコードを書いたのか、ほぼ完全に記憶している。バグを潰すには、
他の連中が書いたプログラムを読まないといけないが、それでもまあ、2時間もあればどんな深いバ
グでも追ってみせるさ」と、前に辰美が自慢げに語っていたことを思い出す。事実、辰美は幾度とな
く、それ以下の時間で、厄介な不具合を修正してみせた。
 バグの原因を突き止めるのに2時間。それから修正して確認作業をする必要があるが、時間的には
そろそろ作業が終わっている頃かも知れない。圭介はそわそわと身体が揺れそうになる。
 大丈夫か? あいつ。まあ夕立ち来そうだったし、大人しく田畑さんの所で避難してるだろう。

 辰美がこの世で一番苦手なもの、それが雷だった。いつも人を食ったように飄々としている彼女も、
雷鳴の前では消えてしまいそうなくらい縮こまり、産まれたての仔馬のようにガタガタと震えが止ま
らなくなってしまう。屋内にいればまだ平気なのだが、屋外で雷に遭遇した時の辰美は、尋常じゃな
く怯え、怖がり、誰かが傍にいてやらないと発狂してしまいそうなほどだ。
 圭介はせわしなく携帯の時計と、時々光る空を見比べる。
361-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:25:07 ID:h3cxuUFn
「……笹戸さん? 聞いてます?」
「え? ああ、ごめん」
 斜め下から声を掛けられ、圭介は我に返った。
「どうしたんですか? 難しい顔して。さっきも言いましたが、雨なら気にしないでくださいね?」
「あ、うん。ごめん。ちょっと考え事してた」
 辰美のことを考えてた、とはさすがに言えずに、圭介は曖昧に誤魔化す。
「もしかして……」
「え? なに?」
 不審そうな瞳で見上げられ、圭介は思わず上体が逃げる。しまった。自分が辰美のことを考えてい
たと悟られてしまったのかもしれない。
 何故かは知らないが、彼女も辰美と仲が良くない。ここで辰美のことを話したら彼女は機嫌を損ね
てしまいそうだ。今日は、俺は接待モードなのだから、彼女が気分よく過ごせるようにしなければな
らない。圭介はそんなことを考えていた。
 夜子はさらににじり寄り、口を開く。
「もしかして、笹戸さんって、雷が怖いとか…?」
「……違うよ」
 圭介は脱力して肩を落とす。夜子に考えていたことが見破られなかったことに安心としたのと、そ
んな、雷が怖いなんて子供っぽく見られていたのか、という思いが混じりあった脱力であった。
「なんだ。ちょっとがっかりです」
「…七夕さんは、雷は平気?」
 何ががっかりなのか、聞かない方が良さそうに感じ、圭介は逆に尋ねてみた。
「平気ですよ? そうじゃなければ、足止めをされているこの状況を楽しめません」
「まあ、そりゃそうか」
「あ、でも、雷に怖がって笹戸さんに介抱してもらうというのも良かったかも…。失敗しました」
 心底、しまった、という感じで、悔しげに呟く。
「………」
 思わず呆れて見下ろす圭介を、夜子はキッと見上げ、
「今から、きゃ〜雷怖いです! 笹戸さん助けて〜! と言って抱きついたら駄目ですか?」
「…既に抱きついてるよね?」
 芝居がかった口調で、横から抱きつく夜子に、圭介はため息をついた。
「はい。私はたった今から雷が怖くなりました」
 微塵も怖がっている様子がなく、ぴったりと密着し、肩に頭を乗せる。
「…全然怖がってないよね?」
「そんなことありません。笹戸さん、雷が怖くて、これ以上外に居たくありません。あそこに入りま
せんか?」
 すっと夜子が指差した場所に視線を向け、圭介は唖然となる。
「休憩なら3800円かららしいですよ?」
「いや、あのね…」
 夜子の指の先には、ペンションのように洒落た外装の建物があった。ペンションと大きく異なる点
は、ここは街中であるという所と、入り口に値段表がでかでかと建てられている所だ。所謂、ラブホ
テルというやつだろう。
362-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:26:12 ID:h3cxuUFn
「私としては宿泊したいところですが、どうですか? 明日もお休みですし」
 にこやかにこちらを見上げ、楽しそうに話す彼女に、圭介は大きくため息をついた。さすがにこれ
は、先輩として言っておいた方が良さそうだ。
「…あのね、七夕さん」
「はい。なんですか?」
「前から言おうと思ってたんだけど、男ってこういうの誤解しちゃう生き物だから、あんまりやらな
いほうがいいよ?」
「…? 何がですか?」
 夜子が不思議そうに圭介を見上げる。うわ、これはホントに自覚ないな、と圭介は呆れた。もし、
この場に他の同僚がいたら、自覚がないのはお前のほうだ! とツッコミが入っていただろう。
「いや、だからさ、腕を抱いたりとか、ああいう所 ──圭介はそう言いながら、ラブホテルに視線
を送り── に入ろうと言ったりとかしてると、本気に取られちゃうよ? 俺は、七夕さんが実はそ
ういう冗談が好きだって知ってるからいいけど、誤解されちゃうから気を付けた方がいいよ?」
 諭すように圭介が言うと、夜子はぽかんとする。その余りの放心っぷりは、圭介が思わず、あれ?
なんか変なこと言ったかな? と心配になってしまうほどだ。
「えっと、七夕さん?」
 恐る恐る声をかけると、夜子は絞り出すように口を開いた。
「……まさか、全然気付かれていないとは思ってもいませんでした…」
「え? なんのこと?」
「薄々、もしかして、と思っていましたが……」
 がっくりとうなだれ、独り言のように呟く。圭介はよく分かっていない。
「その…、何が?」
「私は今、とても悲しい気分になっているということです」
 下から睨み付けられるようにして見つめられ、圭介は慌てる。
「え!? あれ? 俺なんか変なこと言った?」
「もう、笹戸さん。場所が外じゃなかったら、正座させてお説教してる所ですよ? いいですか?
よく聞いて下さい」
「あ、はい。すみません」
 気分的には既に正座させられている居心地の悪さを感じ、圭介は思わず謝ってしまう。
「誰が冗談でホテル行こうなんて言いますか? 本気で言ってるんですよ」
 実際はちょっと冗談混じりだったが、勢いで100%本気ということにした。
「えっと、なんで?」
「笹戸さんとセックスしたいからに決まってるじゃないですか」
「セッ…!? ちょ、声大きいよ! なに言ってるの!」
 突然の言葉に、圭介が慌てる。しかし、夜子は呆れたような口調でつっこんだ。
「私にここまで言わせてるのは、他ならぬ笹戸さんですよ」
「いや、あの…。なんで、ホテル行こうなんて言うの?」
「それは、私が笹戸さんのことを好きだからです」
 それは知ってるよ。先輩として、だよね? と言おうとする圭介に、夜子が釘を刺す。
「言っておきますが、異性として、笹戸さんが好きだということですよ。人間としても、先輩として
も好きですが、異性として笹戸さんが大好きなんです」
363-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:27:13 ID:h3cxuUFn
「えっと、それは、つまり…?」
 この期に及んで、異常な鈍感さを発揮する圭介に、夜子は根気よく答える。
「愛の告白です。私から、笹戸さんへの、告白ですよ」
 きっぱりと言い切った夜子の言葉に、圭介は言葉を失った。
「………」
「………」
 二人は黙ってしばし見つめあう。夜子は挑むような目つきで見上げ、圭介はホントに理解してるの
か不安になるような顔つきで、呆然と夜子を見下ろしている。
 どしゃ降りの雨音と、徐々に近付いてくる雷鳴が、辺りを支配する。

「……えっと、」
 沈黙を破ったのは、圭介だった。
「…これも、冗談ってことは…?」
「違います」
 ピシャリと言われ、圭介はうっと口をつむぐ。
「分かってくれるまで、何度でも言いますよ? 私は、笹戸さんが、あなたが好きなんです。好きで
好きでたまらなくて、一日中、腕を抱いていたいほど好きなんです。今日のお出かけが楽しみで仕方
なくて、1時間も早く来ちゃうくらい好きなんです。この前も言いましたけど、笹戸さんの寝顔を942
時間48分12秒も眺めちゃうくらい好きですし、今すぐホテルに行って、朝まで愛し合いたいくらい好
きなんです。それから、」
「分かった! もう分かったから!」
 たまらず、圭介がストップをかける。夜子の真直ぐな告白に、顔が火照るのが自分でも分かった。
赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、圭介は顔を背ける。
「いや、なんていうか、その、全然気付かなかった」
「鈍感すぎですよ。私、何度も好きですって言ってたじゃないですか」
 責めるように言われ、圭介は言葉に詰まる。全くもってその通りでございます。でも、
「好かれてるのは分かってたけど、それは同じ班の仲間として、だと思ってたんだ」
「まあ、なんとなく、そうとしか見られていないかなあとは思ってましたけど…」
 夜子は苦笑し、続ける。
「全然、女として見てもらえてないですし、脈が無いのは自分でも分かっていましたが、好きな気持
ちを止めることが出来なかったので、自分なりに一生懸命アピールしてきたつもりでした」
 夜子の言葉に、自嘲が内包されているのを圭介は感じ取った。
 ……これは、参った。圭介は自分の鈍感さを恨んだ。彼女のスキンシップは、自分に対するアピー
ルだったのか。自分は彼女の気持ちに気付こうともしてなかった。
 圭介は、申し訳ない気分になり、その一言を言った。言って、しまった。
「俺、今まで女の子に好かれたことなんて無かったから、全然気付かなかった。ごめん」
「……それは、どういうことですか?」
「え?」
 怪訝な口調で聞かれ、圭介は思わず声が出た。
「今まで、女の子に好かれたことなかったって、じゃあ、南東さんのことにも気付いてなかったって
ことですか?」
364-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:28:15 ID:h3cxuUFn
「え? 辰美?」
 なんでそこで辰美が出てくるんだ? 圭介には夜子の問いかけの意味が分からなかった。
 夜子はずいっと詰め寄り、更に問いつめる。
「気付いていないんですね? 南東さんの気持ちに」
「え? え?」
 全く要領を得ず、しどろもどろになっている圭介の様子に、夜子は全てを察したようだ。
「…さすがにこれは、聞き捨てなりません」
 地の底から沸き上がるような口調で、夜子が告げる。絶妙なタイミングで稲光りが走り、夜子の顔
をシルエットにする。数秒後、雷鳴が地を揺るがした。
「本当に自覚がないんですね? それはいくらなんでも鈍感すぎませんか? これはさすがに南東さ
んが可哀想です」
 夜子の視線には明らかに非難が込められていた。なんか知らないけど、凄い怒られてる…。
「えっと、辰美が、どうかしたの?」
「どうかしたのじゃありません!」
 夜子の叱責と共に稲光り、同時に雷鳴が轟く。大地にも、圭介にも雷が落ちた。
「私は、南東さんの、25年間の戦いに、思いを馳せると、彼女の苦労に、同情を、禁じ得ません」
 一言一言に力を込めて迫るようにして言われ、その度に圭介は後ずさる。無自覚な圭介は、何故怒
られているのか分からずに困惑するばかりだ。
「まあ、そのおかげで私にもチャンスがあるわけなんですが……」
 言いたいことを言い切ったのか、夜子は大きなため息をつく。
「これからは、彼女の言動にもう少し注意を向けてみて下さい」
 とりあえず怒られタイムは終わったようだ。圭介は曖昧に返事をする。
「はあ……。──あ、」
 そのとき、携帯が震え、着信を主張した。圭介は携帯を取り出すと、ディスプレイに表示されてい
る発信元を確認して、眉をひそる。電話をかけて来ているのは、辰美だった。
 圭介は素早く夜子に視線を走らせる。夜子は圭介の表情に何か急な用件を感じ取って、「どうぞ」
と電話に出ることを促す。
「どうした? 無事か?」
 圭介は電話に出るなり、そう切り出した。嫌な予感がする。
『…けいすけ、どこ?』
 弱々しい、辰美の声がかろうじて耳に届く。ゴロゴロとした雷鳴が、携帯の先からも自分の頭上か
らも聞こえる。……嫌な予感が的中したようだ。
「お前、外か?」
『…うん。ね、けいすけ、おねがい、どこ?』
 辰美の声が震えて聞こえるのは、携帯のせいや電波のせいではないだろう。雷が苦手なクセに、な
んで外に出るんだ。そう言いたくなる気持ちを押さえ、圭介は出来るだけ短く、伝える。
「迎え行くから、どこにいるんだ?」
『えき出て、わかんない、こわくて…。おねがい、けいすけ』
「駅だな? 出口はどっち側だ? 東口か?」
365-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:29:16 ID:h3cxuUFn
『うん、東。けいすけ、雷こわいけど、会いたかったから…。どうしても。だから…』
「分かってる。大丈夫だ。すぐ行くから、そこ動くなよ」
『あ、まって! でんわ、きらないで! おねがい』
 今にも泣き出しそうな声で、辰美が訴える。そう言われても、このどしゃ降りの中で携帯をかけっ
ぱなしにするわけには行かない。
「大丈夫だ。すぐ行くから」
『でも、わたし、おねがい、ねえ、おねがいだから、──きゃあ!』
 頭上と携帯と、ステレオで雷鳴が轟く。
『もうやだあ! やだよお…。けいすけ、こわいよお…』
 泣き声と、雷鳴の余韻が圭介の鼓膜を震わせる。
「大丈夫だ。今すぐ行く。絶対にそこを動くなよ」
『切っちゃヤダよ? おねがいだから、けいすけ?』
 まだ辰美は何か言っているが、とりあえず圭介は電話口を押さえ、夜子に向き直る。
「七夕さん、ごめん。ちょっと…」
「南東さんですか?」
 圭介の口調で相手が辰美だと察していた。
「うん、あいつ、雷がちょっと洒落にならないぐらい苦手なんだ。それなのに、今、外にいるみたい
で…」
「分かりました。行ってあげて下さい」
 夜子は、自分でも驚くほどあっさり承諾した。圭介の表情を見れば、どれくらい緊迫した状態なの
かが分かった。
「ごめん! この埋め合わせは必ずするから!」
 圭介はきびすを返し、駅への最短ルートを頭に思い描く。携帯を耳に当てると、
「辰美、すぐ行く。一旦切るぞ、いいな?」
『え、やだ! けいすけ、まっ』
 圭介は通話を切り、躊躇なくどしゃ降りの中に飛び出した。

 * * * * *

 さて、今回も愛しの彼は、彼女に持って行かれてしまったわけですが。と、夜子は圭介が飛び出し
て行った方向を眺める。
 まあ、この場合は緊急みたいだし、仕方ないだろう。それに、自分はキチンと想いを伝えることが
出来たわけだし。一方、彼はまだ彼女の想いに気付いていないようだし、(信じられないことだが、
彼の反応を見るに、恐ろしいことに事実らしい)その点では自分はリードしていると言える。
 昨晩、彼とエッチしている夢を見た時は、これは今日中にキメてしまえ、との啓示だろうかと思っ
たが、やはり世の中そう甘く無いようだ。まあ、何故か辰美も夢に参加していたので、正夢になった
らなったで困るのだが。

 いずれにしても、勝負はこれからだ。
 夜子は「今回は譲りましたが、最終的に、勝てばよかろうなのです」と、静かに心の中で闘志を燃
やした。


七夕夜子 VS. 南東辰美
6時間2分 南東選手のTKO勝ち。

 ……と、思われたが、今回のラウンドは、ここで終わっていなかった。

 * * * * *
366-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:30:19 ID:h3cxuUFn
 圭介が夜子の元を飛び出して、数分後。
 夕立ちはいよいよ本格的になり、雷が絶好調に轟いている。

 夜子は軒先きに避難したまま、どしゃ降りをただ見つめていた。アスファルトに叩き付けられた大
粒の雨が、もうもうと水煙を上げ、膝から下を湿らせる。その雨足の強さに、軒先きで避難している
のに服が湿って重くなり、夜子は不快感に眉をしかめた。

 カッ! と強烈な稲光りがフラッシュのように地面を照らし、直後に大木を引き裂くような雷鳴が
お腹に響く。そのとき、
「きゃあああああああ!!!」
 雷鳴に負けじと悲鳴が響いた。夜子は瞬間的に声がした方に目を向けると、小学生か中学生くらい
の女の子が、どしゃ降りの中にしゃがみ込んでいた。
 彼女は傘もささずに耳を押さえ、ひたすら震えていた。産まれたての仔馬のように震えている女の
子に、夜子は思わず声を掛けていた。
「ねえ! そこ車が通るから、こっちに来なさい。ね?」
 しかし、女の子はしゃがんで耳を押さえたまま、震えている。彼女は耳を力一杯押さえているらし
く、夜子の声が聞こえなかったようだ。
 どうしたものかと思案したのは一瞬、夜子は軒先きから飛び出し、女の子に駆け寄る。どしゃ降り
に、すぐにずぶ濡れになってしまうが、道路の真ん中でいつまでも座り込んでいるのは危な過ぎる。
放っておくわけにはいかなかった。
「ねえ、ここ車通るから、こっちに避難しましょう?」
 夜子はずぶ濡れになり、水滴だらけで用をなさなくなった眼鏡を外し、女の子に声をかけた。
 さすがに今度は聞こえたようで、女の子はうつむいている顔を上げ、夜子を見上げる。夜子は眼鏡
を外しているため、少女の表情は良く分からないが、血の気が引いた顔に、短い髪の毛が張り付き、
唇を不安げに震わせているのが見て取れた。
 夜子は優しく微笑みかけ、少女の脇に手を回して立ち上がらせ、軒先きへ避難させた。

 バッグからハンドタオルを取り出した夜子は、少女の傍にしゃがみ込んだ。ずぶ濡れになった細み
のパンツが脚に張り付き、しゃがむのに一苦労する。スカートにすればよかったなあ、とちょっと後
悔した。
367-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:31:18 ID:h3cxuUFn
 少女は軒先きに避難したにも関わらず、やっぱりしゃがみこんで耳を押さえている。よほど雷が怖
いのだろう。
「はい。これで顔拭いて」
 夜子は出来るだけ優しく声を掛け、タオルを差し出した。
「………」
 少女は耳を押さえたまま、無言で夜子を見上げる。唇が何か言いたげに動くが、震えて上手く言葉
が出ないようだ。
「大丈夫よ。雷なんて、すぐに終わるから」
 夜子は微笑み、女の子の顔を優しく拭いてやる。小さな額や頬にかかった髪の毛を払い、手で軽く
梳く。
「あ、ありがとう…」
 か細く、消え入るような声で、女の子がお礼を言った。夜子はにっこりと微笑み返し、眼鏡のレン
ズをタオルで拭う。
「…いすけは?」
「え? なあに?」
 女の子の問いかけが良く聞こえず、夜子は聞き直す。拭き終わった眼鏡を掛けて、女の子に向き直
るのと、女の子が再び問いかけるのは、同時だった。
「けいすけは? いっしょじゃないの?」
「み、南東さん!?」
 小学生か、中学生くらいかと思っていた女の子は、辰美だった。
「えいが観るっていってたから、こっちにあるいてきたんだけど…」
 夜子は、辰美の変貌っぷりに驚いて声が出なかった。常に片頬を上げて人を食ったような態度の辰
美が、今は本当に怯えた小学生か中学生の女の子のようになってしまっている。
 夜子は、目が悪いとはいえ、裸眼でも近くから見れば知り合いの顔ぐらいは判別出来る。それなの
に辰美だと気付かなかったのは、雰囲気が違いすぎるからだ。
 思わず夜子の脳裏に、「そんな、声まで変わって…」と懐かしのCMが再生された。
「……?」
 呆然としている夜子を、辰美が不安げに見つめ返す。その視線に、夜子ははっと我に返った。
「笹戸さんは、南東さんを探しに行っちゃいましたよ? 行き違いになってしまったんですね」
「……どうしよう」
 辰美は顔をゆがめ、子供のように幼い瞳から、ぽろぽろと涙をあふれさせる。
「うごくなって言われたけど、こわくて、あるいてきちゃったから……」
 涙声で言って、ぐしぐしと涙を拭う。本当に子供のような仕草だ。
 ……ほ、本当に彼女は辰美だろうか? 夜子は驚きで固まってしまう。圭介があれほど心配そうに
していた理由が分かった。確かにこれは、放っておけないレベルの怖がりっぷりだ。
 いつもの辰美も厄介だが、この辰美は、別な意味で厄介だ。とても自分の手に負えそうにない。
「…えっと、笹戸さんの携帯に連絡しますから、ちょっと待って下さい」
 とりあえず、圭介に連絡しなくては。夜子は携帯を取り出す。
「…うん、ありがとう」
 辰美は涙を浮かべた瞳で夜子を見上げ、あどけない口調でお礼を言った。その様子に、夜子は一瞬
ドキッとする。や、やばい。可愛い……。
 年上の癖に、どう見ても年下のようにしか、というか、中学生か小学生にしか見えない彼女が涙目
で見上げてくる仕草は、同性の自分が見ても可愛いと思ってしまうほどの破壊力だ。男性ならば、ひ
とたまりもなくコロッといってしまいそうだ。
 夜子は、辰美のこの状態が非常にマイノリティーであることに感謝しながら、携帯で圭介に連絡を
とった。


続く。
368-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 06:32:14 ID:h3cxuUFn
一先ず、ここまでです。
続きは今晩にでもアップします。

読んでくれた方、ありがとうございました。
369名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 06:46:22 ID:fF/2Fjnt
退行辰美テラモエス!!!
GJ!
370名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 06:47:02 ID:3QimB+LP
リアルタイムに遭遇GJ

正夢に期待してもよかですか?
371名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 12:15:38 ID:1gUyeDBb
GOD JOB!
372名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 14:24:04 ID:BHdBA5Vu
GJ
373名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 16:44:34 ID:M9F891um
辰美たん可愛いよ辰美たん(*´д`)ハァハァ

おかしいな、俺は辰美姐さん萌えなはずで
ロリの気は無い筈なんだが…('A`)
374名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 19:51:52 ID:wGcBX8TU
グジョーブ!GJ!
にしてもけーくんめ…
あの鈍感さは犯罪だろ…
375名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 21:49:45 ID:Qrw0gG+V
GJ!
これは正夢ルートまっしぐらだな。
376-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:53:33 ID:h3cxuUFn
もう少ししたら続きをアップします
377-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:56:00 ID:h3cxuUFn
 * * * * *

「南東さん、バスタオルここに置いておきますね」
「すまない。何から何まで助かる」
 夜子がタオルを持って風呂場に声をかけると、スリガラスの向こうから辰美がいつもの口調で返事
を寄越した。もう大分、雷の影響から回復したようだ。
「いえ。ゆっくり温まってください」
 夜子はカゴにバスタオルを置くと、乾燥機を回して濡れた服を乾かし始める。

 あの後、ほどなくして圭介と合流を果たした。
 ずぶ濡れのままだと風邪をひいてしまうということで、とりあえず夜子が住むマンションへ三人で
向かった。あの場所から一番近かったのが夜子の部屋だったからだ。
 三人分ともなると、バスタオルが足りなかったので、圭介は軽く身体を拭くと、そのまま近くのホー
ムセンターへタオルを買いにいった。
 辰美は、圭介と合流したことで落ち着きを取り戻したが、一番長時間濡れていたので、最初に風呂
に入ってもらった。

「っくしゅん!」
 ゴウンゴウンと回る乾燥機の様子を見ていた夜子がくしゃみをした。濡れた服を脱いで、着替えた
とはいえ、やはり身体が冷えてしまったようだ。夕立ちの影響か、気温も下がって若干肌寒い。
 夜子はふと思い付き、服を脱ぎ始めた。

 * * * * *

「ふう…」
 湯舟に肩まで浸かり、辰美は大きく息をついた。冷えた身体が徐々に温まり、心地よい感覚に身を
ゆだねる。
 まさか、夜子に世話になるとは思ってもみなかった。あの時、雷鳴に身体がすくんで道路にしゃが
み込んでしまった時、夜子と合流していなかったらどうなっていたか分からない。
 あの道路は裏道で狭い道だったし、車もゆっくり通る場所なのだろうが、一歩間違ったら交通事故
に遭っていたかもしれない。
 胸の大きさに次いで、自分の最大の弱味を知られてしまったが、不思議と嫌な気分ではなかった。
純粋に、夜子に感謝しているからだろう。彼女はずぶ濡れになるのをためらわずに、自分に掛け寄っ
て来てくれたのだ。
 胸をクレープ生地呼ばわりされたときは、この女どうしてくれようと思ったが、辰美は夜子に対す
る評価を改めていた。
378-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:56:58 ID:h3cxuUFn
 辰美がそんなことを考えていると、
「お邪魔します」
 と、夜子が風呂場に乱入して来た。辰美は一瞬ぎょっとして湯舟に深く身を沈める。
「…きみは、実はバイセクシャルなのかね?」
 湯舟の縁から顔だけだして、辰美が気味悪そうに夜子を見上げる。
「いえ? 違いますよ?」
 夜子はきょとんして洗い場に膝を着き、シャワーで身体を流す。小さいタオルで前を隠しているだ
けなので、ほとんど裸同然だ。
「では何かね。そのでっかい乳を披露しに来たのかね?」
「違いますってば」
 思わず突き刺すような視線を送ってしまう辰美に、夜子は苦笑する。
「笹戸さんが帰ってきたら、すぐにお風呂に入ってもらいたいからですよ」
「…ふむ、そうか。なるほど」
 辰美、夜子、圭介の順に、それぞれがめいめいに入っていては、圭介の身体が冷えきってしまう。
例え夜子が、「お先にどうぞ」と言っても、圭介は絶対に譲らないだろし、「では、ご一緒に」なん
て言おうものなら、それこそ自分が許さない。
 そう考えると、圭介が買い物に行っている間に、辰美と夜子が一緒に入って風呂を済ませた方が都
合が良い。辰美は一瞬で夜子の考えを理解した。

「お隣、お邪魔しますね」
 掛け湯を済ませた夜子が湯舟に入って来る。夜子が住んでいるマンションは広めとはいえ、独り暮
らし用に作られた部屋だ。バスタブも小さく設計されており、どうしても身体が密着する。
「きみは、思ったより豪快な性格だな」
「そうですか?」
「同性とはいえ、バスタブに二人で入るのはどうかと思うぞ?」
 なんとなく、身体を比べられそうに感じて、辰美は居心地が悪くなる。
「まあ、いいじゃないですか。二人で一緒に入った方が、光熱費も安くつきますし」
 辰美の心情を知ってか知らずか、夜子は明るく言う。辰美は、夜子に弱味を握られっぱなしのこの
状況に、なんとなく焦りを感じ、口を開く。
「光熱費ぐらいは出そう。世話になりっぱなしは性に合わない。さっきも助けてもらったしな」
「気にしないで下さい。そんなつもりで言ったわけではありません」
 夜子は一瞬考えるような仕草をし、続ける。
「南東さんって、料理は得意ですか?」
「…また随分と話が飛んだな」
「ふふ、確かにそうですね」
379-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:57:58 ID:h3cxuUFn
 夜子は微笑んで辰美に目を向ける。その視線を受け、辰美が答えた。
「和洋中、一通りの物は作れるよ。一番得意なのは中華だがね」
 意外にも、辰美は料理が得意だ。父子家庭というのもあり、料理は小さい時から日常的に行っていた。
 中華が得意なのは、中華鍋一つで事足りるから洗い物が少なくて済む、という辰美らしい合理性か
らだが。
「へえ、すごいですね」
 夜子は素直に驚き、
「私、全然料理が出来ないんですよ」
 と苦笑する。
「意外だな。料理の話を振るから、得意なのかと思ったよ」
「私、火が駄目なんですよ、怖くて。だからガスコンロが使えなくて、ずっと料理する機会がなかった
んです」
「……」
 辰美は黙って夜子の話を聞いている。
「でも最近は電気でも料理出来るから、少しずつ勉強している所なんです」
 明るく言う夜子に、辰美は少し片頬を上げて微笑んだ。
「なるほど、それでこんな良いマンションに住んでいるわけか」
 安全性や機能性から、電気の調理器具は普及して来ているが、まだまだ高価なシステムで、一般的
な独り暮らしの賃貸ではガスが主流だ。
 辰美の言葉に夜子も微笑み、
「そうなんですよ。どうしても電気の調理器具がある賃貸が良かったので、ここにしました。でも、
家賃が私の給料の1/3よりも高いんですよ?」
 と言って、不満そうな顔をする。
「それは、かなり厳しくないかね?」
「厳しいですよ。でも料理を覚えたいので、なんとか切り詰めてます」
 一般的に、家賃は給料の30%以下、出来れば1/4程度が良いと言われている。それ以上になると、ど
こかで切り詰めないと、生活が苦しくなってしまうからだ。
 1/3以上ということは、相当苦労してやりくりしているのだろう。逆に言うと、それだけ料理を覚え
たいということになる。その理由は、聞かなくても分かった。
「当ててみせようか? このマンションに引っ越したのは、ここ1年以内ではないかね?」
「ええ、その通りです」
 予想通りの答えだ。夜子が「彼」を気になり始めたのは、この1年弱と言ってた。生活を切り詰めて
も料理を覚えたいという理由は、つまりそういうことだろう。
 辰美の質問の意図は、当然、夜子も分かっているし、夜子が分かっているということも辰美は分かっ
ている。二人は可笑しそうに微笑みあった。
 ひとしきり笑った後、辰美が切り出した。
「私が雷が怖いのを知って、お返しにきみの弱味を提供しているのかね?」
「そういうわけではありません。それに、雷で怖がるなんて、女の子らしくて可愛いじゃありません
か。さっきなんて、私が男性だったら放っておかない可愛らしさでしたよ? 思わずドキッとしちゃ
いました」
380-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:58:58 ID:h3cxuUFn
「……きみは、本当にバイセクシャルじゃないんだろうね?」
 思わず逃げるように身体を傾ける辰美に、夜子は困ったように笑う。
「違いますよ。笹戸さん一筋ですから」
「私もそうだ。だから、圭介以外の男に可愛いとか思われても嬉しくないな」
 どうでもいいように言って、辰美は夜子を真直ぐ見つめる。
「ところで、きみは怒らないのかね?」
「何をですか?」
「私は今日、きみの邪魔をしてしまったからな。非難されても仕方ないと思ってる。遠慮なく文句を
言ってくれて構わないぞ?」
「確かにそうですね。でも、そのおかげで笹戸さんを私の部屋に招待できたので、結果オーライです。
……というかですね、」
 そう言うと、夜子は眉をひそめる。
「笹戸さんってなんであんなに鈍感なんですかね?」
 辰美は思わず吹き出した。可笑しそうに肩を震わせ、苦笑する。
「くくく…。彼の恐ろしさを思い知ったかね?」
「ええ、それはもう。この1年の私のアピールはことごとく空振りだったことが判明しましたよ」
「だから打ち上げの時に言っただろう? 親しくなったと思っているのはきみだけだとな」
 辰美は本当に気の毒そうな顔で言う。セリフは皮肉のように聞こえるが、どうやら本心から気の毒
だと思っているようだ。夜子はそれを理解し、くすくすと微笑んだ。
「ホントにそうですね」
「彼は奪三振王だからな。私なんて25年間、全打席空振りだよ」
「酷いですよね? もう思わず彼に説教しちゃいましたよ」
「その気持ちは非常によく分かるな。まあ、勝手に好きになったのはこちらだから、あまり贅沢は言
えないがね」
「惚れた弱みってやつですね…」
「うむ…」
「「はぁ〜……」」
 二人揃ってため息。そのシンクロっぷりに思わず顔を見合わせ笑いあう。
 笑いながら、辰美が口を開いた。
「ああ、そうだ。今度、料理を教えてあげよう」
「いいんですか?」
「うん。電気だから中華鍋は使えないが、ゆっくり調理する料理との相性は良さそうだ」
 楽しそうに言って、辰美はくくくと意地悪く笑う。
「圭介の好きな料理を知ってるかね? 煮込みハンバーグなんだ。それもケチャップたっぷりの甘い
やつ。……子供っぽいだろう?」
「……子供っぽいですね」
 夜子も可笑しくなって笑う。
「もしかして、ミートボールも好きだったりしませんか?」
「その通り」
 顔を見合わせ、また笑う。くっついているお互いの肩が、笑いで震えて擦れあう。
381-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 22:59:58 ID:h3cxuUFn
「人がせっかく旬のフキとかを使って煮物を作ってやっても、苦いからあんまり好きじゃないとか不
満を言うんだ」
「タケノコとかも苦手そうですね。美味しいのに…」
「湯豆腐にも、ポン酢をたっぷりかけるしな」
「あら、それじゃあせっかくの出汁がわからなくなっちゃうじゃないですか」
「25にもなって、味覚が子供のままなんだよ」
「そういえば、昼食を外で食べるときも、唐揚げとハンバーグとカレー以外を頼んでいるのを見たこ
とがありません」
「…ああ、その光景が目に浮かぶようだ」
「子供ですねえ」
「子供だろう?」
 可笑しくなって、二人して身体をくの字に折って笑い転げる。
 狭い浴室に、楽しげな笑い声が絶えず響いていた。

 * * * * *

 圭介は、若干焦りを感じながら、マンションのエレベーターに乗り込んだ。
 咄嗟に自分が買い物に行く役を買って出たが、よくよく考えれば、辰美と夜子を二人っきりにする
のはマズかったのではないだろうか?
 さすがに取っ組み合いのケンカとかにはならないだろうが、また辰美が逆上して何かしでかしてし
まうかも知れない。
 しかもこういうときに限って、店が予想外に混んでおり、帰るのが遅くなってしまったのだ。
 しまったなあ。頼むから早まってくれるなよ。と念じながら夜子の部屋へ急いだ。

 * * * * *

 圭介が夜子の部屋へ戻ると、まずは辰美が出迎えた。
「やあ、おかえり」
「ただい……」
 辰美を見るなり、圭介が固まる。がさりとビニールの買い物袋を取り落とす。
「お、お、おま、お前、まさか」
 圭介は辰美の右手を指差して、おまおま言っている。右手には、包丁が握られていた。
「ん? どうしたけーくん?」
「あ、おかえりなさい。笹戸さん。お買い物、ありがとうございました」
 奥からひょっこりと夜子も顔を出す。夜子の手にも包丁が握られている。
「!!! ふ、二人ともッ! 早まっちゃ駄目だーッ!!」
 圭介は縮地のようなスピードで、二人の間に割り込む。
「暴力は何も生まないぞ! 冷静に! 冷静になろう!」
「きみが冷静になりたまえ」
「笹戸さんが落ち着いてください」
 ステレオで、呆れたような声で言われる。
382-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:00:59 ID:h3cxuUFn
「一体、何を勘違いしているのかね?」
「辰美さんと一緒に晩ご飯を作ってただけですよ?」
「……え? そ、そうなの? なんだ、俺はまたてっきり…」
「何かね? 私と夜子が包丁で殺しあいでもしてたと思ったのかね?」
 呆れたように片眉を上げて言う辰美に、圭介はきっぱりと、
「いや、お前ならやりかねないな、と」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。私は決着をつけるなら拳でつけるタイプだぞ」
「それもどうかと思うぞ。……まあ、何事もなくて良かった」
 ほっと一息つき、落としたビニール袋を拾う。それを夜子が受け取って、圭介に心配そうな顔を向
ける。
「それよりも、笹戸さんは早くお風呂に入って下さい。お身体を冷やしてしまいます」
「いや、俺は七夕さんの後でいいよ」
「私さっき、辰美さんと一緒に入りましたから。ね? 辰美さん」
「え? そうなの?」
「うむ。だからきみは気兼ねなくお風呂をよばれたまえ」
「あ、うん、じゃあ、お借りします」
 今までと全く様子の違う二人に戸惑いながら、圭介は頭を下げる。
「上がったら晩ご飯にしましょう。ご馳走します」
「え!? いや悪いよ。そこまで迷惑をかけるわけには…」
「全然、迷惑なんかじゃありません。是非召し上がって行って下さい」
「そうだぞ。もう既に作ってるんだ。今日はけーくんの好きなハンバーグだから、楽しみにしていた
まえ」
 楽しそうに言う二人に迫られ、圭介は思わず頷いてしまう。
「え、あ、うん…」
 ……というか、あれ? なんか仲良くなってる? 圭介は呆気に取られ、首を傾げながら風呂場に
向かう。歩きながら、ちらりと振り返り二人を見ると、楽しそうに談笑しつつ料理をしていた。圭介
はその様子を見て、あれ〜? とまた首をひねる。そういえば二人は「夜子」「辰美さん」と名前で
呼び合っていた。
 いつの間に仲良くなったのか知らないが、まあ、ギスギスしてるよりは良いに決まっている。圭介
は安心して脱衣所に入った。

 * * * * *
383-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:02:05 ID:h3cxuUFn
「笹戸さん、聞いてますか? 大好きって言ってるんですよ?」
「そうだ。ちゃんと聞きたまえ。私も大好きなんだぞ?」
「…あー、その、なんだ? 酔ってるよね?」
 風呂から上がった圭介を待ち構えていたのは、数々の料理と、缶ビールとチューハイの山だった。
何故か知らないが、突然、仲が良くなった二人は、酒をカパカパ飲み、すっかり出来上がっている。
 右側から辰美が寄り掛かり、左からは夜子が寄り掛かっている。
「んー。けーくんイイ匂いがするぞ? 一日で二回もお風呂上がりの匂いを堪能出来るとは、実に
僥倖だな」
「やめろ、くすぐったい!」
「あ、辰美さんずるい。私も」
「ちょ、七夕さん、駄目だって!」
 圭介は両側から首筋をくんくんされて身悶える。
「二人とも! 駄目、離れて!」
 ぐいっと、二人を押し退け、やっと解放される。圭介は二人の体温と恥ずかしさで顔が火照る。
「ケチだなあ。減るもんじゃなし、良いではないか」
 オヤジ全開のセリフに、圭介が呆れ、辰美の方を向いて口を開こうとした時、夜子が後ろから覆
い被さって来た。
「ふふふ。隙有りです」
「ちょ、七夕さん!」
 後ろから抱きすくめられ、背中に胸を押し付けられる。
「じゃあ、私は前からだな」
「おまっ!」
 辰美が、小さい身体を圭介の膝の上にするりと猫のように滑り込ませる。
「笹戸さん、こういうのはお好きですか?」
 ふっと夜子の胸が背中から離れたかと思うと、また押し付けられる。しかし、今度は微妙に感触が
違っていた。なんというか、その…ぽよぽよした柔らかい感触に混じって、ちょっと固い突起が二つ。
「ブラ、外しちゃいました」
「ちょ、何してるの!?」
 夜子はくすくす微笑んで腕の力を強め、より強く胸を押し付ける。否応なく乳首の感触を感じてし
まい、圭介は慌てる。
「あ、夜子ずるいぞ」
 辰美は言うなり圭介の手を取り、自分の服の中にずぼっと突っ込む。圭介の手の平が直に辰美の胸
と接触した。ほとんどまっ平らなくせに、柔らかくて温かい感触が手の平を刺激する。
「んっ…。けーくん、手を動かしてもいいんだぞ?」
「何やってんだーッ!」
 圭介は熱い物に触ってしまったかのように手を引っ込めようとするが、辰美にしっかり押さえられ
動かせない。それどころか、圭介の手の上から自分の手を重ねて、ぐりぐりと小さな胸を押し付ける。
「ん、ふぁっ…」
 見慣れた幼馴染みの口から、聞き慣れない悩ましげな吐息が聞こえ、圭介は頭が爆発しそうになる。
「じゃあ、私も直に…」
「まっ!」
 後ろから聞こえたセリフに圭介はぎょっとして止めようとするが、既に夜子は服を脱ぎ捨て、大き
な胸をあらわにしていた。
「っ!」
384-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:02:59 ID:h3cxuUFn
 それをまともに見てしまい、振り返りかけて、また向き直る。
「では、失礼しますね」
「ぅわ!? ちょっと!」
 夜子は勝手に後ろから圭介の服をたくし上げ、背中に直に胸を押し付けた。
 予想以上に柔らかく温かい感触が圭介を襲い、圭介は思わず声が裏返りそうになる。同時に、
「うぅン!」
 正面から辰美の悲鳴混じりの嬌声が聞こえた。
「ふふふ、けーくん、急に強く揉むな。びっくりするではないか」
 とろんとした顔で、辰美が正面から圭介を見上げる。どうやら夜子の不意打ちに驚いて、手に力が
入ってしまったようだ。
 ……もう、圭介は、色んな意味で限界だった。

「だーーー! もうっ! いい加減にしろ!」
 絶叫して、辰美と夜子を強引に引き剥がす。フローリングの床を這うようにして移動し、二人との
距離を取った。
「二人とも! やり過ぎだ!」
「「えー」」
「えーじゃない! 七夕さんはちゃんと服着て!」
「どうせ脱ぐんですから、問題ありません」
「もう脱がないの!」
 圭介はぜーはー言って一息つき、真面目な顔で二人を見つめる。夜子は胸を露出させたままなので、
視線は若干、辰美寄りだ。
「あのね、酔っぱらった状態で迫られても、嬉しくないよ。迷惑なだけだ」
「確かに酒は入っているが、酔っぱらってはいない」
「そうです。お酒の勢いを借りていることは否定しませんが、酔っぱらって前後不覚になっているわ
けではありません」
 まるで答えを用意していたかのように即答する二人に、圭介は言葉に詰まる。絞り出すように、次
のセリフを探す。
「そ、そもそも、なんでこんなことするんだ?」
「圭介が好きだからだ。きみは人の話を聞いていなかったのかね?」
「私も昼間に言った通りですよ? 笹戸さんが好きだから、セックスしたいんです」
 また即答。圭介はこの状況だけで一杯一杯なのに、矢継ぎ早に即答する二人は、次の言葉を考える
時間を与えてくれない。ショート寸前の脳をなんとかフル稼動させ、言葉を紡ぐ。
「す、好きだからって、そんな迫られても困るよ。こっちの意志も尊重してくれ」
「よし、では圭介の意志を聞かせてもらおう。私と夜子、どちらが好きなのかね?」
「そうですね。是非ともお聞かせ下さい」
 さらに即答。今度こそ、圭介は言葉を失った。
「ど、どっちって……」
 圭介は思わず二人を見比べる。
 幼馴染みの辰美が、いつものいたずら小僧の顔を引っ込めて、真剣な表情で圭介を見つめている。
その表情に不安げな様子が見え隠れしているのを圭介は発見し、思わず夜子の方へ視線を逸らす。
385-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:03:59 ID:h3cxuUFn
 一方、夜子も辰美と同じく真剣な表情で圭介を見つめているが、トップレス状態が気になってしま
い、まともに見ることが出来ない。結局、圭介は視線を自分の足下へ落としてしまう。
「あの、とりあえず七夕さんは、服着てくれないかな。落ち着いて考えられないから…」
「……分かりました」
 不承不承、夜子は脱ぎ捨てた服を着る。その間に、圭介は辰美に目を向ける。
「…なあ、辰美」
「なにかね?」
「俺のことが好きって、友達として好きとか、そういう好きじゃないのか?」
「男として、圭介が好きだ」
 きっぱり言われ、圭介は困惑する。必死に平静を保とうとしながら、搾り出すように口を開く。
「……いつから?」
「そうだな。記憶を遡る限り、私は最初からきみが好きだった。記憶はないが、病院で新生児として
寝ていた時からきみのことが好きだったと断言出来る」
 真直ぐな告白に圭介は頭が真っ白になる。どう答えて良いのか分からない。
「圭介、私が最初に発した言葉を知ってるかね?」
 平坦な辰美の声に、圭介は回らない頭で答える。
「……ああ、お前の親父さんにも聞いたことあるし、俺の親からも聞いたことあるよ」
「うむ。“けーくん”。それが私が最初に言った言葉らしいな」
 そうだ。こいつは、“ぱぱ”とか“まま”よりも先に、自分の名を口にしたらしいのだ。
 圭介は、大きくため息をついた。途端に、辰美が悲しそうに目を伏せる。
「そんなため息をつかないでくれ。私に好かれるのが嫌なら、私はきみの前から消えよう」
「いや! 違う! そうじゃないんだ。なんつーか、気付かなかった自分が情けないというか…」
 慌てて言いつつ、口籠る。自分の気持ちが分からない。自分は、辰美を一体どう思っているだろう
か……。
 黙り込んだ圭介に、服を着終わった夜子が声をかけた。
「私と辰美さん、どちらが好きなのか、答えられませんか?」
「………」
 圭介は呆然と顔を上げ、夜子を見つめる。圭介の沈黙を肯定の意味と受け取ったのか、夜子は続ける。
「いきなり告白されて、どちらか選べと言われても困ってしまいますよね? まあ、私達にとっては、
いきなりでもなんでもないんですが」
 ちらっと責めるようにジト目で見つめられ、圭介はうっと怯む。
 夜子は考えるように顎に指を当て、こう言った。
「そうですね。じゃあ、こう考えてみて下さい。どちらの方が好きとかではなく、単純に、まずは、
私に好かれるのは、嬉しいですか?」
 それは……。
「嬉しくないわけじゃない…。あ、いや……。嬉しいよ」
 いきなり今日、告白されて驚いたが、嬉しいに決まってる。夜子は可愛いし、話も合う。好かれて
嬉しくないはずがない。
 夜子は心底嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。では、辰美さんに好かれるのは、嬉しいですか?」
 無意識に、圭介は辰美に目を向けた。真っ向から視線がぶつかり、圭介は呆然と辰美を見つめる。
「さ・さ・ど・さん! 私はあなたに聞いているんですよ? 単純に、辰美さんに好かれるのは、
嬉しいですか?」
386-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:05:02 ID:h3cxuUFn
 夜子に念を押すように言われ、圭介は慌てて辰美から視線を逸らす。俺は……。
「圭介、答えてくれ。圭介が私のことを好きなのかどうかではないんだ。私に好かれることに対して、
嬉しいのかどうか、それが聞きたい」
「それは……、嬉しいよ」
「本当か?」
「ああ」
 そうじゃなければ、こんなオヤジ女と25年も一緒にいない。自分が辰美に対してどう思っているの
かは、相変わらず分からないが、辰美に好かれること自体は、嬉しい。
「そうか、良かった。これまでの人生で一番嬉しい瞬間だ」
 辰美は屈託のない笑顔を浮かべる。圭介は何となく恥ずかしくなって、顔を背けた。
「じゃあ、決まりましたね」
 明るい声で夜子が言い、両手をぽんっと合わせる。
「私も辰美さんも、笹戸さんが好き。笹戸さんは、それに対して嬉しく思っている。あとは、どちら
の方がより嬉しいか、という所ですが…」
 言いながら、夜子は圭介を見つめる。どちらの方がより嬉しいかなんて、そんな…。圭介は答える
ことが出来ず、黙り込む。
「まあ、そうでしょうね」
 圭介の様子を確認し、夜子は事も無げに言う。
「笹戸さんが、その答えを見つけるまで、保留ですね?」
「うむ、本音を言えば、今すぐ聞きたい所だが、今日は圭介が私の告白を嬉しく思ってくれたという
事実だけで十分だ」
 二人はうんうんと頷きあう。
 ……とりあえず、今日の所はこれで解放してもらえるようだ。圭介はどっと疲れて息を吐き出す。
「あ、ちなみに笹戸さん」
「…なに?」
 圭介はだらしなくへたり込んだまま、夜子に顔を向ける。夜子は明るい口調で告げた。
「私は別に、必ずしも私たちの片方しか選べないというわけではないと思ってますよ?」
「ふむ、それは私も同意見だな」
「え? どういうこと?」
 圭介の疑問に、辰美が答えた。
「二人一緒に愛してくれても構わないということだよ。けーくん」
「は!?」
 思わず圭介は素頓狂な声を上げる。
「ふ、二股かけろって言うのか!?」
 圭介の言葉に、二人は顔を見合わせ、平然と答えた。
「辰美さんとなら、私は別に構いませんよ?」
「私も夜子だけなら別に構わないぞ?」
「な、なに言ってんだ、二人とも! そんなこと出来るか!」
387-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:06:08 ID:h3cxuUFn
「じゃあ、私達のどちらかを選べますか?」
「そ、それは……」
「ほらみたまえ。私達が二人セットでいいって言ってるんだから、良いではないか」
「そうですよ。その代わり、均等に愛して下さいね?」
 言いながら、二人は圭介に迫って来る。嫌な予感を感じ、慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょっと待った!」
「なんですか?」
「なにかね?」
「な、なんでこっちに来るんだ!?」
「好きな男に近寄るのに、理由が必要かね?」
「そうですよ。それに、そんな“こっちに来るな”なんて、お化けみたいな扱いしなくてもいいじゃ
ないですか。酷いです」
 夜子に非難まじりの視線を向けられ、うっ、と後ずさっていた圭介の動きが止まる。その隙に辰美
が左側から、夜子は右側から圭介を抱き締める。
「先ほどの、続きをしましょう?」
 うっとりと夜子が圭介に囁く。
「さっきけーくんに揉まれた胸が、熱くてたまらないんだ。続きをしてくれ」
 辰美もとろんとした顔で、圭介の腕を抱き締め、胸を擦り付けてくる。
「ふ、二人とも! ほら! 料理が冷めちゃうから! ストップ!」
 圭介は必死に二人の意識を逸らそうとするが、
「今は料理よりも、私を食べて下さい」
 と夜子に即答され、じりじりと押し倒されそうになる。辰美はいらずらっぽい笑みを浮かべ、
「それじゃ、私はけーくんを食べよう」
 と言うなり圭介の頬を両手で挟んでキス。
「んーッ!」
 不意をつかれた圭介はバランスを崩し、そのまま二人に押し倒されてしまう。
「おまっ……んぅ!」
 倒れたショックで離れた辰美に、非難の視線を向けようとした圭介の唇を、今度は夜子が奪う。そ
の勢いで、二人の眼鏡がぶつかった。
 夜子は顔を真っ赤に上気させ、くっついた眼鏡がズレるのを気にも止めずに圭介の唇を貪る。
「んっ、ふぅ…、んう、ちゅ、はぁ…」
 熱い吐息に炙られ、圭介の顔も真っ赤に染まる。
「ああ、けーくん。私も…」
 辰美が二人の隙間にキスの雨を振らせる。首筋、鎖骨、肩、頬。ちゅっちゅとついばむようにキス
を降らせ、時折ぺろぺろと子犬のようになめる。
 圭介は夜子の情熱的な口づけと、辰美が与えてくるくすぐったさに、もう何も考えられなくなって
いた。

「んぅ…ぷぁっ…」
 窒息寸前まで重ねていた唇を、夜子はやっと離した。だ液の糸がお互いの唇を結び、はぁはぁと漏
れる荒い吐息に揺れる。
388-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:07:07 ID:h3cxuUFn
 夜子は興奮のあまり震える手でズレた眼鏡を直し、熱に浮かされたように呟く。
「もう、我慢出来ません。笹戸さんの、下さい」
 言うなり、服を乱暴に脱ぎはじめる。圭介はその様子を、仰向けになったままぼーっと眺める。
「けーくん、私も我慢出来ない」
 辰美は圭介の気を夜子から取り戻すように、またキスする。そうしながらも、圭介の左手を取って
自分の胸に押し付け始める。
「ちゅ、んぅ…。はぁ、もっと、けーくん…。んぅ、ふぁ…」
 拙いキスをしながら、圭介の左手を服の中に突っ込み、小さな胸に這わせる。圭介は理性を手放し
た頭で、本能の赴くままに手を動かした。汗で濡れた肌に手を滑らせ、なだらかな胸をさするように
して揉む。
「ふぁぁ…。気持ちいい…。けーくん、ちゅ、んう」
 辰美は、愛しい幼馴染みの手で胸を愛撫され、中学生よりも小さな身体をビクビク震わせながらも
唇を貪る。その様子に、圭介は劣情を激しくそそられ、上体を起こし、辰美に覆い被さるようにして
キスを応戦する。
「笹戸さん、私にも、下さい」
 ショーツだけの姿になった夜子が四つん這いで圭介ににじり寄る。極度の興奮で言葉が途切れ途切
れだ。
「はぁ…! 笹戸さんッ!」
 夜子は圭介の右手を取って、胸に押し当てた。直に触れられた悦びに、夜子が震える。大きな胸に
指がたやすく埋まる。
 ぽよぽよした未知の感触が、指先から脊髄を通って圭介の脳みそを直撃する。圭介はたまらず手を
動かした。
「笹戸さんっ。もっと強く…! あはぁ!」
 圭介に胸を揉みしだかれ、夜子が悶える。そうしながらも、夜子は圭介の脚に跨がり下腹部を擦り
付け始めた。
「あ、はあ…! 笹戸さんっ。笹戸さんっ」
 身体をがくがく揺すり、夜子の艶やかな黒髪が跳ねる。圭介の右手を抱き締めるように胸に沈め、
彼の脚に擦り付けている下腹部が、内側からじんわりと熱を帯び始める。
「ちゅ、ん、ふぁ、けーくん…」
 圭介と辰美の顔が離れる。辰美は蕩けた顔で、圭介の顎先や下唇を愛おしそうにぺろぺろとなめて
いる。圭介は辰美の胸をさすっている左手を下に移動させ、ジーンズの上から下腹部を撫でる。途端
に辰美が反応した。
「ふぁあっ!」
 ごわごわしたジーンズの上からとは思えない反応で、辰美が仰け反った。
「あふ、けーくん、気持ちいい…。ふぁっ…」
 辰美は眉根を寄せ、圭介の腕を脚で挟み込むようにしてきつく抱き締める。圭介の腕に身体全体を
擦り付けるように腰をくねらせる。
「ふぁ、ん…、あっ、ふぅんっ…」
「ああ、辰美さん、気持ち良さそう…。笹戸さん、私も…」
389-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:08:03 ID:h3cxuUFn
 夜子は荒い息で呟くと、圭介の太ももに跨がったまま上体を倒してくる。圭介は夜子にキスをしつ
つ、胸を揉んでいる右手の動きを変化させる。
「ん、ちゅ、はぁ…! そこ、いいです…。はぁ、乳首いいっ」
 固くしこった蕾を刺激され、夜子が嬌声を上げる。もっともっととねだるように夜子は圭介の手に
自分の手を重ね、胸を刺激する。そうしながらも腰の動きを止めること無く、圭介の太ももに股間を
擦り付け続ける。
「笹戸さん、気持ち良いです…。ちゅ、んぅ、はぁ、んっ…」
 夜子のライムグリーンのショーツから微かに水音が聞こえてくるころ、辰美が唐突に動きを止めた。
「駄目だ、けーくん。もう、我慢出来ない」
 完全に情欲に染まった瞳で、睨み付けるような勢いで圭介を見つめ、訴えかける。息を荒げながら
もどかしそうにベルトを外し、ジーンズを下ろした。シンプルな白いショーツが圭介の目に焼き付く。
「けーくん、私、駄目だ、もうっ…!」
 顔を真っ赤に染めつつ辰美が圭介を見上げる。その表情に、圭介は心臓が大きく跳ねた。
 見慣れた幼馴染みの、一度も見たことがない表情。子供のように小さな辰美が、欲情しきった顔で
自分を見上げていた。いつもの人を食ったような表情は完全に消え失せ、あどけない童顔に戸惑った
ような情欲を浮かべ、半開きの口から荒い吐息が漏れている。圭介は思わず唾を飲み込んだ。
「ここ、私のここを、けーくんので埋めてくれ…!」
 固まっている圭介の手を取って、辰美がショーツの上から押し付ける。ぷにぷにとした信じられな
いほど柔らかい感触と同時に、熱い液体が指に絡み付く。
「ふぁああっ…!」
 途端に、かたかたと辰美が震え、半開きの口から涎が垂れた。もう、圭介も限界だった。
「…辰美ッ……!」
 圭介は興奮のあまり震える手でズボンと一緒に下着も下ろし、がちがちに固まった陰茎を露出させ
た。辰美のショーツも無遠慮に下ろし、脚を開いて固定する。
「ああっ……」
 辰美は圭介のものを見つめ、嬉しいような困ったような複雑な笑みを浮かべる。こ、こんな大きい
のが私のナカに入るのか? む、無理ではないか!? で、でも……。辰美は予想外の大きさにおの
のきながらも、腰の奥から温かいものがトロトロと溢れ、自分のナカが愛する人のソレをねだってい
るを感じた。
 圭介のペニスは平均のサイズだったが、辰美の小さな身体と比べると、相対的に凶悪な大きさに見
える。その対比も、圭介の興奮を膨らませた。
「行くぞ…」
 圭介は辰美の答えを待たずに、トロトロになった幼馴染みの秘所に自分のものをあてがい、腰を進
めた。
「け、けーく、ふあぁぁああっ!」
 辰美が仰け反って震える。途中の抵抗を突き破り、圭介は辰美のナカに自分のものを埋めて行った。
熱い肉壷の感触に、圭介は神経が焼き切れそうな興奮を覚える。
「い、いたっ…!」
 辰美は破瓜の痛みに思わず声を上げた。その声で、圭介は我に返った。結合部から、処女の証が一
筋流れている。
390-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:09:00 ID:h3cxuUFn
「た、辰美、大丈夫か?」
「平気だっ…。痛いけど、嬉しいんだ。私は、やっと、けーくんと一つになれたんだな?」
 辰美は涙を浮かべ、あどけなく微笑む。
「辰美ッ!」
「っあ!」
 その様子に圭介はたまらなくなり、辰美を抱き締めた。
「ああ、けーくん…」
 辰美も嬉しそうに圭介を抱き締め、呟く。
「けーくん、動いてくれ。私なら、もう大丈夫だから」
「あ、ああ」
 抱き締めたまま、圭介は腰を動かす。対面座位のため、上手く腰を動かせないでいるが、小さな辰
美にとっては、これくらいの動きが丁度良いようだ。たちまち心地よさそうな声を上げる。
「んあ、ふぁああっ! けーくん、いい、すごい…。ふああ…」
 眉根を寄せ、辰美は処女とは思えない感度で悶える。
「あ、はッ…ん、ふあ、はぁ…、あんっ」
 口を半開きにし、とろんとした表情で辰美が快感を味わっている。圭介とセックスしているという
事実が、何よりも催淫材料となり、辰美の頭を快楽一色に染め上げる。
「ふぁああ……、気持ちいい…ッ!」
 辰美はたまらずに嬌声を上げた。信じられないくらい気持ちいい。腰の奥から止めどなく愛液が溢
れ、更に圭介のものとの滑りをよくする。

「辰美さん、気持ち良さそう…」
 夜子は羨ましそうに呟き、熱に浮かされたように圭介の背中に密着する。圭介の背中に胸を押し付
けながらも、自らの秘所に手を伸ばし、ショーツの上からまさぐる。
「あ、んっ、はぁ…」
 夜子は目の前の二人の行為に興奮を高め、割れ目に沿わせるように激しく指で擦り上げる。
「あ、はあッ…、ん、あ、ううん…ッ」
 くちゅくちゅと水音を立て、ショーツに染みが広がっていく。
 そんな夜子の痴態を見つめ、辰美も更に高揚する。
「ふ、はぁ…、ふあ、けーくんっ、けーくんっ」
 圭介はステレオで聞こえる喘ぎ声に、下半身に更に血液が集中するのを感じた。その時、下から突
き上げる圭介になすがままだった辰美が、腰をくねらせ始めた。
「う、うわっ! 辰美っ!」
 不意に、肉棒が自分の意志とは異なる刺激を受け、思わず腰が跳ねる。その衝撃に、辰美もまた驚く。
「ふぁあああっ!」
 奥を突かれ、辰美が嬌声を上げる。膣内がきゅうきゅうと締まり、圭介のペニスを吸い込むように
刺激した。肉棒にまとわりつく襞の感触に、圭介は堪える間もなく達してしまう。
「ううッ!」
 歯を食いしばり、圭介は辰美の中に精を解き放つ。ビュクン、ビュクンとペニスが精液を排出する
度に膨らんで、辰美の狭い膣内で跳ねる。
391-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:10:10 ID:h3cxuUFn
「あッ!? ふああああああッ!」
 火傷しそうなくらい熱い精液を子宮口に浴び、辰美が震える。小さな身体を仰け反らせ、一気に絶
頂を迎えた。
「けーくんイク! ふぁああイクぅう!」
 がくがくと身体を痙攣させ、頭を振り乱す。身体がバラバラになりそうな快感に、辰美は翻弄され、
どうしようもなくなって涙と涎でべたべたになった顔を圭介の胸に押し付ける。
「は、あ…。ふぁあ……ッ!」
 ぎゅっと額を愛する人の胸板に押し付け、未だに自分のナカでビクビクと痙攣している肉棒を感じ
ながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「けーくんの、気持ちいい…」
 脱力し、圭介にもたれて絶頂の余韻に浸り、うっとりと目を閉じた。

 圭介はぐったりと脱力した辰美を静かに横たえ、幾分、柔らかくなった自分ものを引き抜く。愛液
と精液でぬらぬらと光り、根元の方に僅かに鮮血が付いている。
「笹戸さん、私も…」
 言うなり、夜子は圭介にのしかかり、潤んだ瞳で見つめてくる。
「た、七夕さん」
 回復の時間もなく迫られ、圭介はうろたえる。しかし、この後の夜子の行動に、さらに圭介はうろ
たえることになる。
「笹戸さん、元気にして差し上げます」
「うわっ!」
 夜子は躊躇なく、圭介のものを口に含んだ。突然の行為に、思わず圭介は声を上げる。
「ん、ふ、じゅる、んぅ…」
「た、七夕さん、何を…、うぅっ」
 唇で肉棒を扱かれ、温かい口内で舌が亀頭を刺激する。更に、唾を飲み込むように吸われ、圭介は
仰け反る。
「んぅ、ちゅぱっ、これが、笹戸さんの精子の味なんですね。ふふ」
 潤んだ瞳で微笑みかけられ、圭介は心臓が跳ねる。夜子はまた圭介のペニスを口に含み、じゅぶじゅ
ぶと音を立てて攻め立てる。
「う、くぅ」
 圭介は温かい舌で亀頭をなめ回される快感と、太ももにさらさら当たる髪の毛と、根元に当たる荒
い鼻息のむずがゆさに、歯を食いしばって堪える。
 力を失っていたペニスがあっという間に硬度を回復させ、夜子の口の中を圧迫する。
「ん、ぷぁ…」
 夜子は満足そうに口を離し、嬉しそうに微笑む。
「ふふふ、バナナで練習した甲斐がありました」
「んなっ…!?」
 な、なんでそんな練習してるんだ。圭介は絶句する。そんな圭介をそのままに、夜子は、
「笹戸さん、私はもう準備出来てますから、早く、下さい」
 自らショーツを下ろし、顔を真っ赤に染め、圭介にのしかかった。ぐっしょりと濡れそぼった秘所
に圭介の目が釘付けになる。圭介は唾を飲み込むように頷いた。
392-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:11:03 ID:h3cxuUFn
 圭介は夜子の腰を支え、天に向かってそそり立つ己の剛直に誘導する。フローリングの上でしてい
るため、またしても対面座位の形となる。ベッドに移動するという考えが出て来ないほど、興奮し、
今すぐ繋がることしか頭にない。
「ん…ッ! あぅううッ!!」
 圭介の上に腰を落とした夜子が絶叫する。涙を滲ませ、破瓜の痛みに耐える。圭介の肩を掴んだ手
に力が入り、思わず爪を立ててしまう。
「は、あぁ……ッ」
 痛みに震え、夜子は圭介の肩に額を乗せる。二回目で、幾分冷静な圭介は、夜子の髪を優しく撫で、
背中に手を回す。
「七夕さん、大丈夫?」
「は、はい…。平気です。んッ」
 頷いて、試すように腰を前後に揺する。
「た、七夕さん、無理しない方が…」
「だ、大丈夫です…ッ。ん、あッ! んはぁ…ッ!」
 ゆっくりと腰をくねらせ、夜子が息を吐く。耐えかねたように動きを止め、圭介の頭を胸に抱き寄
せる。
「ほら、無理しなくていいから、ゆっくり、ね?」
 言い聞かせるように言う圭介に、夜子がかぶりを振る。
「違うんです…、気持ちよくて…。笹戸さんが入っていると思うと……はあッ!」
 腰を少し動かし、また止める。
「ああ、気持ちいいです…! こんな、いいなんて…あはぁッ!」
 強過ぎる快感に、恐る恐る腰を動かす。その度に夜子の膣内がびっくりしたように締まり、圭介の
ものを刺激する。圭介は一度放っているため、ある程度の余裕はあったが、不規則な夜子の締まりに
奥歯を噛み締めて快感に耐える。
「はぁ…ッ、はぁ…ッ、はぁ…ッ!」
 快感に慣れて来た夜子は程よい腰の動かし方を見つけ、荒い息を付きながら一心不乱に快感を貪る。
「ん…は、気持ち良いです…ああ…素敵…。これ、すごい…ッ」
 快楽に顔を蕩けさせ、半開きの口から熱い吐息が漏れる。緩やかな心地よさが、じんわりと夜子の
腰を溶かし、少しずつ、少しずつ、高みに登って行く。
「あ、は…んッ、あはぁ…、きもちいッ、ん…ッ あんッ、笹戸さん、気持ちいい…ッ!」
 いきり立ったペニスに膣内を擦り付け、快感に悶える夜子に、圭介はより一層劣情をそそられる。
目の前でぷるぷると震える大きな胸の突起に吸い付いた。
「ッあ! さ、笹戸さん、そんな…ッ! ああッ!」
 突然の乳首への刺激に、夜子は慌てる。ゆっくりと登っていた絶頂への道のりが、急にスピードを
増して夜子を狂わせる。
「だ、駄目ッ! 駄目です笹戸さんッ! それ! あ、んん…ッ! うぅんッ!」
 髪を振り乱して急すぎる快感に困惑しつつも、夜子は圭介の頭を抱きかかえ、もっともっととねだ
るように胸に押し付ける。
「あーッ! きもちいい! はッ! あ、あーッ! あーッ!」
 ゆっくりとした腰の動きも、いつしか激しくなり、むちゃくちゃに腰をくねらせる。真っ赤になっ
て眉根を寄せ、口の端からは涎が垂れ、動きの激しさに眼鏡がずれる。
393-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:12:02 ID:h3cxuUFn
「ああッ! いい! だめ! 来ちゃいます! もうッ! ああイク! イッちゃう!」
 切羽詰まった嬌声を上げ、夜子が小刻みに腰をくねらせる。奥の気持ちいい所に圭介のものを押し
あてるように、はしたなく、腰を振る。
「あーッ! あーッ! イクッ! ああイクイクイクぅ…!」
 頭の中が快楽一色に染まり、夜子はもう、圭介の熱い肉棒で絶頂を迎えることしか考えられない。
「あッ! 来る! イキます……ッあああーーッ!!」
「俺も…ッ! 出るッ!」
 二回目とは思えない量の精液が、夜子の膣内で弾けた。
「ああああーーーーッ!!」
 熱い塊に子宮口を叩かれ、夜子は再度、絶叫する。どこまでも登って行きそうな絶頂に、夜子は
髪を振り乱して耐える。
「あああああ…ッ!」
 やがて膣内を蹂躙する射精が収まり、夜子はかたかた震えながら絶頂の余韻に浸る。時間にすれば
およそ4,5秒ほどだったろうが、自らの高まりによる絶頂と、熱い精液に子宮口を叩かれる刺激が混
じりあった快感は、時間の感覚を失うほどだった。
「…はぁ…、笹戸さん…」
 夜子がぐったりと圭介に身を預ける。激しく肩を上下させる夜子を圭介は支え、荒い息をついて肉
棒を引き抜く。さすがに、二回連続はきつかった。身体も汗でびっしょりだ。
 呼吸を整えようと、圭介は深呼吸をするが、
「けーくん、もう一回だ」
 いつの間にか復活した辰美が後ろから抱きしめられ、途中で息が止まりそうになった。
「夜子とけーくんを見てたら…。もう、駄目なんだ。なあ、けーくん、もう一回、しよう?」
「あ、いや、辰美…むぐっ!」
 完全に欲情して息を荒げながら迫る辰美を止めようとするが、あっさりとキスされ、圭介はまた押
し倒された。

 * * * * *

 ベッドに場所を移動し、どれくらいの時が経っているだろうか? 圭介はもう時間の感覚がない。

「…けーくん」
 語尾にハートマークを軽く3つぐらい付けながら、辰美が仰向けになった圭介にのしかかる。
 辰美は蕩けた表情で圭介のものに狙いを定め、腰を沈めた。
「んっ、ふぁああ……!」
 ずぶずぶと圭介のものが飲み込まれていき、辰美が大きく息を吐きながら仰け反り、かたかたと小
さな身体が小刻みに震える。
 そこいらの中学生よりも小柄な辰美が、張り詰めた男のものを騎乗位で味わっている姿は、とても
倒錯的で、圭介はもう何回しているのか分からないほど精を放っているのに、耐え難いほどの興奮が
脳みそを焦がし、股間が更に硬度を増す。
394-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:13:00 ID:h3cxuUFn
「…ふふふ。けーくんのが、私のナカで反り返ってるぞ?」
 辰美は顔を蕩けさせ、嬉しそうにヘソの下あたりを撫でる。さらにその下は、圭介の剛直をぐっぷ
りと根元までくわえこんでいる彼女の秘所が。その結合部からは熱い愛液と精液が止めどなく漏れ、
今まで繋がった回数が一回や二回ではないことを、如実にあらわしていた。
「けーくん、動くぞ……んっ!」
 圭介の胸板に小さな手が置かれ、辰美はゆっくり腰をくねらせる。きしきしと、ベッドが軋む。
「んっ、ふぁ、あ、んんっ…」
 辰美は眉根を寄せ、腰を前後に揺する。そうしながらも圭介の目を真直ぐ見つめ続け、時折、蕩け
た表情で微笑みかける。
 どくんっと、その卑猥な表情に、圭介の股間にさらに血液が集中する。
「ッあ! ……ふふっ。すごいな。まだ大きくなるのか」
 びっくりしたように腰を震えさせ、辰美は一旦動きを止める。半開きの唇から白い歯が意地悪そう
に覗き、熱い吐息が漏れる。
「分かるかね? 私の子宮口が、きみの熱い先端に押し上げられてるぞ?」
 荒く息をつきながらも、嬉しそうに顔を蕩けさせ、囁くように辰美が言う。
「私のナカが、きみので一杯で、腰を振る度にたぷたぷ言いそうだ」
 満足そうに言って、再び腰を振り始める。
「ふぁああ…気持ちいい…!」
 くねくねと、辰美の細い腰がはしたなく動く。
「きもちい…ッ、ふあ、うン…。あッ、ふぁああ…!」
 辰美は半開きの口から熱い吐息を漏らしながら、腰を振る。身体を前に倒したり後ろに反らしたり
しつつ、自分が一番気持ちが良いポイントを探る。
「はぁっ、うん、あっ…、あふ…、ふあッ! ここイイ…気持ちいい…ッ!」
 どうやら一番良いポイントを見つけたようだ。辰美は若干身体を反らせるようにして、腰を前後に
揺する。右手で下腹部を押さえるように撫で、更に快感を高めようとする。
「ああきもちいい…ッ! ふあ…、ああ、きもちぃ…んぅ…ふぁあ!」
 幼い身体を目一杯揺さぶり、快感を貪るように乱れる辰美から、圭介は目を離せない。辰美もまた、
蕩けた表情で圭介を見つめ、お互いの興奮を高めあう。

「笹戸さん、私も…」
 夜子が圭介に四つん這いで近寄り、胸を押し付ける。
「ん、あはぁ…」
 圭介に舌で乳首を転がされ、夜子は恍惚とした表情を浮かべる。
「笹戸さん、こっちも、して下さい…ッ! あああッ!」
 夜子は圭介の右手を取って、自分の秘所に押し当てる。夜子は刺激に仰け反り、胸がより強く圭介
に押し付けられる。
「はあ…ッ! 気持ちいい…。笹戸さんの手、すごい…」
 夜子の秘裂が圭介の指で広げられ、中からトプトプと愛液と精液が溢れる。
395-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:14:07 ID:h3cxuUFn
「けーくんッ! けーくんッ!」
「笹戸さんッ! 気持ちいい!」
 徐々に、二人の動きが激しくなり、圭介は、辰美に攻められている己の肉棒から沸き上がる気持ち
よさと、七夕さんに胸を押し付けられて息が出来ない苦しさに悶える。
 圭介は二人の攻めに頭が混乱し、もう何がなんだか分からない。
 やがて、焦燥感を伴って高まる射精感と、窒息寸前の苦しさが限界に到達し、
「けーくんイクッ! イックぅ……ふあああああ!!」
「私もッ! 私もイッちゃいます! ああああイクぅう!!」
 二人の絶頂と共に精を放ち、意識を手放した。
 薄れ行く視界の中で、彼女達も圭介にぐったりと覆い被さり、目を瞑るのが分かった。

 * * * * *

 ぱかっと、目が覚めた。
 最初に目に飛び込んできたのは、見なれぬ天井だった。
「夢…?」
 圭介は軋む身体を起こし、呆然と呟くが、自分の両脇を確認し、ため息をついた。
「…じゃないよなあ…やっぱり…」
 安らかな寝息をたてる彼女たちを見つめ、圭介はこれからのことを考えると気が滅入った。
 結局、流されるがままに二人と関係を結んでしまった。
 ……俺ってやつは…。額に手を当て、はああああ…と、またため息。
「けーくん…。愛してるぞ……」
「笹戸さん…。愛してます……」
 同じタイミングで同じ内容の寝言を言う二人を見下ろし、圭介は顔が火照る。
「なんつータイミングで寝言を言うんだ。全く…」
 こうなった以上、二人に見合う男になるしか、彼女達の思いに答える術は無さそうだ。彼女達に
愛想つかされてしまわないように、頑張ろう。
 圭介は腹を括りつつ、彼女達が起きた後、また襲われてはかなわんとばかりに、いそいそと服を
着始めた。


七夕夜子&南東辰美 VS. 笹戸圭介
七夕・南東ペアのKO勝ち。


終わり
396-敬語部下型と幼馴染み型素直クールズ-:2007/06/15(金) 23:15:00 ID:h3cxuUFn
以上です。楽しんでいただけたら幸いです。

女の子二人にしたらきっかり長さも二倍になるとか、
どんだけ構成力無いんだよ。と己の力量を思い知りました。

読んでくれた方、長文、お疲れ様でした。
ありがとうございました。
397名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 23:30:01 ID:eaKYWq50
うおおおっ!! GJだぜ!!

これは是非ともこの後のピンク色の日常も書いていただくしかないな!!
398名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 23:51:34 ID:AhRA2oaU
もうね、GJじゃすまされない
最高
最高だよ
399名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 23:58:01 ID:wAder2aj
GJですわは〜。
しかし、なんていうか、主人公だけ見ると修羅場適正SSSランク入ってますな。
400名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 00:07:36 ID:cFj9rCkM
もはやGJだけでは収まらん。
神だ!これは神というのだ!
401名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 00:08:58 ID:VM6eKS1G
オ メ ガ GJ
402名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 01:14:16 ID:lTFBqfY+
もはや神の仕事!
403名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 01:28:06 ID:8XM31CO6
>>396
俺の脳味噌が萌え過ぎて焼き切れそうだぜ!!
GJ!
404名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 01:50:31 ID:udFwgty2
先生!構成力が無い人は2人相手に書ききれないと思います!

まあ何が言いたいかというとGJだ!
405名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 03:33:15 ID:OxgqofSc
少しおかしな英語を使わせてもらうが
I read most very perfectest SS in my life!!
これは小説化に映画化にアニメ化に漫画化にしないといけないな。
406名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 03:53:01 ID:uQ+vSy3w
無理に英語使うからmostとveryと最上級が同居してら
407名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 03:53:15 ID:Bw+CCRUJ
GJ

まさか三人目が・・・・・!?


と勝手なことを言ってみるw
408名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 11:55:13 ID:ZsOLKRB9
朝から二本抜いているにもかかわらず
おにんにんおっきしますた。
GOD JOB!!
409名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 17:20:58 ID:ZW4vMAZ2
おお・・神よ!
410名無しさん@ピンキー:2007/06/16(土) 21:33:12 ID:L/pu9zxz
なんともGJ。


にしても、すごい数のGJだ。
411名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 00:40:13 ID:lv5KGV9F
グッドグウウッド!!
お次は「ハンサムな彼女」だな!。
412名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 11:51:37 ID:XlEA4yEM
おまえ……、そんな書きかたしたら、他の人が投下しにくいだろ。
413名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 13:08:55 ID:DZFjqiBJ
本人だろ
414 ◆6x17cueegc :2007/06/17(日) 13:33:41 ID:WtBMTH0d
なんだか書き込みにくい流れをぶった切る為に小ネタ投下。
書きなぐったものなので質を求めるのは勘弁。

…………………………
やあ、おはよう。今日もいい天気だ。

ありがとう。

気持ち悪い、だって?
君は最近邪険にしか扱ってくれないからね、普通におはようと言ってくれるだけで幸せだよ。

そんなことを言わないでくれ。もし本気で言っているのなら、君はサディストの気があるとしか思えないよ。
ただ、君はどう思っているのか知らないがこちらはマゾヒストじゃない。だからそういうことを言われて喜ぶことは無いんだ。
でも君がそういう趣味を持っていると言うんなら……

痛い。いきなり引っぱたくことは無いじゃないか。

……『グー』はやめてほしい。『パー』でも十分痛かったのに。
ところで……

だ……から、『グー』はやめてほしいとたった今、言ったばかりなんだが。しかも正中三段突きを中高一本拳でなんてマニアックな。
せめて本題に入ってから殴りかかってほしい。

ちょっと待ってくれ。いつものように下らないことと言ったが、いつも本気だよ。冗談でこんなことを言えるわけが無いじゃないか。

それでは。
君が好きだ。愛している。だから僕と付き合ってく、ぅ!

……だから『グー』で鳩尾は反則だと思うんだ。
415名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 13:50:37 ID:mzEXyAJ3
>>413
マジ歪んでんな
416名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 17:26:04 ID:qy+x6Odh
アッー!
417海音 ◆Z9Z6Kjg2yY :2007/06/17(日) 22:35:43 ID:X3lUk48a
久しぶりに覗いてみたら、いつの間にスレがこんなに活発化しているとは。
最近はちょっと煩悩が不調気味なので、出来れば私も肖りたいものです。

流れを変えるついでに、一本置いていきますね。前回と似たようなノリですが。

※女の子しか出てきません。
※エロありません。
418名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 22:36:21 ID:X3lUk48a


バケツをひっくり返したような、とまではいかなくても、九月も半ばになれば雨雲が空を覆う日も増えてくる。
今もシャワーのように窓や風景を叩く雫の音が、じわりと空間を包み込んでいた。
図書室なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど、この部屋は人口密度の割にひどく静かだから、普段は意識しないこんな音さえ耳に入ってくる。

窓際の受付のカウンターから、半開きのブラインドの向こうに視線を動かしても、興をそそる物は何も無い。
紅葉でも見られたら昔の文人みたいに、この退屈さも少しは潤うのかな。……夢想もいいところか。
何しろ生憎と、この部屋は閑静な住宅地にどんと鎮座する校舎の三階。彩度の薄い屋根ばかりが窓の向こうを埋めている。
秋の長雨に花なんて小野小町を気取るのは、ここではそんなに贅沢かな。
別に好きでここにいるわけじゃないわたしが言うのもなんだけど、カウンターの片隅にさびしく据えられたドライフラワーを眺めてると、
それこそこっちまで色褪せて枯れてしまいそうな気になってくる。

「ねえ、ちょっと」

なんか、いつものわたしらしくない。

この時期の放課後の図書室はもう受験生に占拠されてしまっていて、おかげで元々利用者も多くない受付には閑古鳥が鳴いている。
わたしは図書委員の当番だから一応ここにいるけど、今は誰もここにいなくても困らない、どころかこっそりいなくなってもバレないんじゃないかとも思っちゃう。
……のだけれども、ここの司書は神経質で説教長いんだわ。そのリスクを考えると、脱出はちょっとね。
そういえば司書にはいつかの恨みもあったっけ。まったくいつもいつも。

「あのー、もしもーし。聞こえてる?」

アンニュイな気分、とでも言えば洒落て聞こえるけど、実際は何もやることが無いということね。
別にわたしも本を読まないわけじゃない……でも、ここのラインナップじゃ睡眠導入にしかならないんだよね。
どうせ図書室は生徒しか使わないんだから、もっと生徒の要望に応えてもいいんじゃないの。
ぁああぁ、退屈で死にそう、何か面白いことはな――――

「ぅわぁぁあああああっ! な、ちょっといきなり何しようとしたんですか先輩っ!」

「しっ、静かにしなさい。ここは図書室なんだから……それに、何よその言い草。別にとって食べたりはしないわよ」

……出た。現れてしまった。本当に心臓に悪い。
誰だって自分の顔に前触れなしに妙な圧力がかかったりしたら驚くよ。なのに、何回抗議しても先輩はわたしに奇襲を仕掛けるのを止めてくれない。
ざっと一斉に投げつけられた殺気混じりの受験生連中の視線が痛い……な、なんでわたしが悪いみたいな雰囲気になってるの。

「何度も声をかけたのに、魂の抜けたような顔してたわよ。私がいなかったらどうなってたことか」

「べ、別にどうにもならないと思います……」

まさか幽体離脱するわけじゃあるまいし。そりゃあ、確かに今回はわたしも無防備だったとは思うけど……なんだか納得いかない。

相変わらず、日本人形みたいに滑らかな黒髪を無造作に指で弄びながら、先輩はカウンターの上に直接乗りかかった。
あまりお行儀がよくない体勢も、妙に様になっている。

以前も言ったかも知れないけど、先輩はいつも唐突に姿を現す。
わたしと知り合う前からそんな傾向はあったらしい……でも、最近はわたしばっかり先輩にちょっかい出されてる気がする。
悪気は無いんだろうけど、出会って数ヶ月経つのに未だにわたしは慣れそうもない。
あ、でも一応先輩は(一応なんて本人には口が裂けても言えないが)三年生が引退した今となっては、名実ともに我が部の看板だったりする。
うちの部は全国大会の常連で、それにつられて受験する子も多い。その中にあって、先輩の存在感は群を抜いていた。
それどころか、その道ではもう顔も名前も通り始めているとかなんとか……。

確かに先輩は、一度顔を合わせればそう簡単には忘れられない。簡単に言えば美人だ。
嫉妬する気も失せるような、つるりとし過ぎず、かといって主張も強過ぎない絶妙な按配の顔立ちは、ほんの少しの微笑みで何十人もの一年生を餌食にしたこともある。
もっとも、今に至るまで先輩は誰もまともに相手していないが。
ついでに言えば、物腰も同年代とは思えないぐらい洗練されている――ってのが、もっぱらの評判。
でも、いつもおもちゃにされてるわたしにしてみれば、気まぐれで子供っぽくて強引で……ああ、それでも憎めはしないな。
419名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 22:37:50 ID:X3lUk48a

「ところで、先輩も図書室に何か用ですか?」

どんなにやる気が無くても、わたしは図書委員だ。
(わたしがあまり行かないから)先輩が図書室をどのくらい使うかは分からないが、とりあえず事務的に聞くことにした。
図書室慣れしてる人間なんかは勝手知ったるもので、自分で貸し出しの手続きとかしていっちゃうんだけど。
あの憎き司書はわたしたち図書委員には厳しいのに、何故かこっちの方にはフリーパスなんだから。不公平だよね。

「太陽が眩しかったからよ」

「……要するに、無いんですね。というか雨だし」

冷静に突っ込むと、やれやれと言わんばかりに先輩は大袈裟に肩をすくめた。

「どうせあなたが暇していると思ったから遊びに来たのよ。丁度いいことに今日は部も休みだもの」

はぁ、まったくこの人は――なんて呟きつつも心中ではちょっとだけ嬉しかった。……ちょっとだけだからね。
時折女だてらにどきりとする科白を放ってくるから、先輩と一緒に居ると(良い意味でも悪い意味でも)退屈はしない。

「それで、さっきはどうしたの? 一人でため息なんかついてしまって」

「年頃の女の子には悩みのひとつふたつあるものですよ……ああ、先輩は例外かもしれませんね。全然悩みとか溜め込まなさそうですし」

「なによそれ。羨ましい? 悩みなんかあったってしょうがないじゃない。悩みを昇華するのは天才に任せておけばいいのよ」

嫌味のつもりで言ったのに、すっぱりと一刀両断されてしまった。

「そうですね……羨ましい気もします」

実際、先輩の悩んでる様子なんて想像出来ない。
特にわたしは、今こうしてカウンターに腰掛けてるような、先輩のいい加減な面まで見てしまっているから尚更だ。
仮に先輩が憂いを秘めていたとしても、どうせまた餌食が増えるだけだろうし。

ところが、先輩の反応はわたしの予想しないものだった。

「別に、わたしだって最初からこうだったわけじゃないわ。いつかの、こんな秋雨の日だったわね。図書室の受付で」

さっきまでわたしが目に映していた窓の外を、先輩は見遣っていた。らしくない、雨垂れみたいな呟き。

「何かあったんですか?」

「昔の話よ。もっとも世間で言えばたかだか数年前の……それでも退屈しのぎには丁度いいかしら。さっき、太陽が眩しかったからなんて言ったじゃない」

「それ、何か意味があったんですか」

「一応ね。何も考えずにいたら、浮かんでしまったの。雨、図書館、カウンター。わたしにとってはちょっとした思い出だったから」

420名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 22:38:50 ID:X3lUk48a


――――私が、小学生だった頃の話ね。
当時の私は、この学校が建っているような新興の住宅街とは違った、鄙びた風景がかすかに残ってるような、そんな街に住んでいた。

ランドセル背負ってた私は今よりも口数が少なくて、あまり他の人と関わりを持ってなかった――はっきり言えば周りから浮いていたってこと。
クラスにひとりは居たでしょう? 休み時間もひとりで本読んでるような……丁度今のあなたみたいに、図書室のカウンターにも委員として座っていたわ。
もっとも私は当番の仕事なんか殆どしないで、そこでも本読んでたりしてた。そんなある日のこと。

雨が降っていた。靴の中が悲惨になりそうなしとしと降り。薄暗い中、いつものように鍵を開けて電気を点けて、カウンターに読みかけの本を広げた。
どうせ私以外に図書室に入り浸るような連中なら、適当にやらせておいても不都合は無いから。
でも、そのときはいつもとは少し様子が違っていた。

(何かしら、あの人は)

人口密度が低いせいか、いつもは滅多な事では埋まらないカウンターの目の前の席が珍しく埋まっていた。
それで、そこに座ってる人間が何をするでもなくじぃっとこっちを見てるの。でも、私が目を向けるとすぐに反らす。
こんなこと言うのは失礼だろうけれど、明らかに図書室には場違いな男の子だったね。笑っちゃうでしょう?
いつもは休み時間は取り巻きとボールを追いかけているような少年が、紙の匂いの染み付いた図書室で居心地悪そうにしているのは。

私も最初は気づいていないふりをしていたわ。でも、あんまり接点も無い人にじろじろ見られるのも気分のいいものではなくて。
何か探しているんですか? なんて、さも真面目に図書委員の仕事をしているように話しかけてみた。そうしたら、

――あっ……いや、あれ……す、すこし調べ物の資料が……

とかなんとか、何を言っても変にぐしゃぐしゃした反応しかしない。
まあ、図書分類も知らなかったような人が本の壁に囲まれたら、多少は緊張するものかしらね。
421名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 22:40:04 ID:X3lUk48a

それから、その男の子は昼休みにやってくるようになった。
見るからに手持ち無沙汰な風なのに、いつも同じ――カウンターの前ね――席に座って、何か読むでもなく、借りてきた猫のようにじっとしていた。
たまに取り巻きらしき連中がやってくることがあったけれど、その時は図書委員の権限を乱用して追い出して……
それでもその男の子だけは次の日、何事も無かったようにやって来る。流石に閉口したわ。

――なぁ……それって、面白いのか?

そんな日々を繰り返し、時は移って三学期。もうそろそろ卒業、中学という単語が身近になってきた時分。
私は何ヶ月かぶりにその子と会話をした。付け加えるなら、あちらから話しかけてきたのは初めてだった。
その頃にはいい加減私も慣れて、じろじろ見られるのもあまり気にしなくなっていた。
今考えてみると、毎日数十分同じ時間に顔を合わせていながらろくに会話もしなかったというのは、傍から見たら奇妙だったでしょうね。

――どんな話か、知りたい?

白い装丁の小さくて薄い文庫を、私はぴらぴら弄んでいた。
少し日焼けした乾いたページには、細かくて古めかしい印字が端座していた。多分、私の生まれる前に刷られたもの。

――主人公はお母さんが死んでしまうのだけれど、特に悲しくもなく普段通りに、女の子と遊んだり映画を見て笑ったりして生活していた。
  そしてある時友達を撃ち殺してしまって裁判にかけられることになったの。それで、自分の死刑の執行にはたくさん人が来ればいいな、って話。

――はあぁあ?

男の子は目を丸くして、辺りも憚らずに声を出してしまっていた。私が睨んだらすぐに気まずそうな顔になったけれど。
私は口数が少なかったから、当然冗談なんか言うとは思ってなかったでしょう。
ただ中身自体は本当にそんなような話だったはず……でも、あんまり印象に残ってないから忘れた。

――貸してあげようか、これ。私のだし。それに短いからすぐ終わるわ。

私が突き出した本を、男の子は半ば反射的に受け取っていた。見るからに扱いに困っているのが分かった。
読む物がなくなった私はその様子をじっと眺めていたわ。いつも私が見られていたのが、この時だけは逆転した。
小学生の、しかも本なんかあまり読まなさそうな人にあんなもの渡して途方に暮れるを見てるなんて、我ながら意地悪。

結局、それからはまた沈黙の間柄に逆戻り……ああ、一回だけ男の子がその本を返しに来たことがあった。私は一言で突き放してしまったけれど。

――いいわ、それはあなたにあげる。私はもう読んでしまったから。

それきり、顔を合わすことも無くなった。卒業前は、今の学校の付属に通うための引越しで忙しかったのもあった。

後で他の子から、本当はあんたのことが好きだったんだよ、とか何とか言われた。私も考えなかったわけじゃないよ。
確かにそう考えれば、あの妙な挙動も説明出来るね……でも、私はたとえそれが真実であったとしても信じないわ。

だって、そうでしょう。どんな思いだって、言葉にしなければ伝わらない。
口で言う前に気持ちを察しろという人も居るけれど、それは自分は他人に理解してもらえると思い込んでる人の傲慢さよ。


422名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 22:41:05 ID:X3lUk48a


「――――分かっているわ。普通ならここは“ああ、そうだったんだ”と思うところなのも。私の感覚の方がひねくれているんだってことも。
 ともあれ私は、この辺りから、感情を表に出さない自分を変えようとした。最初は心の中で燻らせてばかりだったけれど。
 あとは、あなたも知ってる通り。めでたく悩みなんか無い様に見える人間になってしまったということよ」

先輩は、まるでここがかつて先輩の座っていたカウンターであるかのように、腰掛けていた机を見ていた。
わたしは、どちらかと言えば男の子の気持ちの方が分かる気がする。もし今の先輩がその頃から変わっていなかったら、わたしも近づき辛いと思うだろう。

「……それで、先輩の方はどうだったんですか? 結局その男の子のことはどう思ってたんですか」

「どう、と言われてもね」

「ず〜っとじろじろ見られていても気にならなくなったってことは、満更でもなかったとか。あ、もしかして先輩の初恋ですか?」

後から思えば、わたしは甘かった。つい忘れていた。考え込む様子の先輩に、調子に乗って余計なことを聞いてしまった。
わたしの知っている先輩は、絶対にここで照れたり誤魔化したりなんかはしないんだということを。
先輩はいたって真顔で、澱み無く無造作に言い切った。

「好きだったのかもしれないわね。でも、恋とかそういうものではないわ。だって私は、男の子にはそういう興味ないから」

「……え――そ、それってどういう」

「そのままよ」

こっちを向いた先輩は、とても眩しい笑顔だった。こっちもつられて笑い出しそうなぐらい。
だから、だからなんとなくわたしの頬が引き攣ってたり、喉から乾いた笑いが出てるのは当然のことよね、そうよね。
何だか笑うのを止めてしまったら、ものすごい危ないような気がするし……

「あ……あはは……あははははっ……ぁああっはっはっはっはっ」

「ふふっ、何? そんなにおかしいかしら」


数分後、先輩は司書に図書室を追い出され、わたしは当番終了後の説教が確定した。



翌日、わたしは先輩を見かけると、訊き忘れたまま引っかかっていた疑問をぶつけてみた。

「結局“太陽が眩しかったから”ってどういう意味だったんですか?」

「ああ、それね。私があの男の子にあげた本の中の台詞よ」

「え? な、何て本でしたっけ」

「……あなたには教えてあげない。それに、題名が分かっても読んじゃ駄目よ」

「ど、どうしてですかっ」

先輩はそれから先は、笑うだけで決して答えなかった。



(――だって、あなたがあの子みたいになったら、私が嫌だもの)


おしまいです。
423名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 23:52:25 ID:f6+/pk17
先輩もいいけど、先輩に迫られる主人公が可愛くて萌えた。
GJ!
424名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 16:05:57 ID:Zi/gKbVl
>>417
仄かな百合の香りが素晴らしいです。
GJ!
425名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 02:16:41 ID:QmBAJDCv
このスレになってから2ヶ月も経ってないのに、
気が付けば容量が453kbか。

職人さん達に敬意を払いつつ、保守。
426彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:28:36 ID:uOEWdA+R
やー長かった長かった。
ようやく続きが出来たので、投下しますね。
新キャラ続々。長めですが、しばしお付き合いを。

あと、いつまでも隠しててもしょうがないので、舞台背景の説明をば。
まず、アスト、リーア、イフ等はとある組織に属しています。
雰囲気的には、ワンダバでサリー・ゴー。
その中のふもっふな日常の断片を切り出してるとでも思っていただければ。

というわけで、いきまーす。



(……最近、本格的に文の方向性考えるべきだろうかなあ?)
427彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:29:33 ID:uOEWdA+R
 人気の少ない物静かな資料室に、珍しい人影一つ。手軽な眼帯だけは、言い付け通りちゃんとつけている少女だ。
 珍しく眉根に皺を寄せて、難しい顔で何かの本を読んでいる。
 一枚一枚ページを真剣に捲るが、理解し難い内容に悪戦苦闘している様子だ。
「――どうしよう。解らない」
「何が解らないって?」
 部屋の片隅より、昼寝を中断して声を掛けてきたのは、二十歳過ぎの青年。やや長めなブラウンの髪が、机の下から昇った。
 一つ大きな欠伸をして、イフの元へ近寄ってくる。
「あ。おはよう、ザニーくん」
「頼むから、そのあだ名で俺を呼ばないでくれるかな?」
「ちょっと調べ物してるんだけど……なかなか参考になるモノがなくて……」
「オーケー。見事なスルーだ」
 半分予想通りの反応に、ザニーは見栄えのする顔を綻ばせた。
 苦笑しながら、イフの広げた書物を手に取る。
「どれどれ。調べ物って……何だこりゃ。コミックか?」
 半分娯楽室・休憩室も兼ねている此処は、確かに難しい資料や文学ばかりが揃っているわけでもないが。それにしても、充実したラインナップだ。
「うん。何かの役には立つかなと思ったケド――」
「少女モノ、ねえ………………確かに、こりゃ役に立たんだろうなァ……」
 どうコメントすれば良いものか。パラパラと流し読みしてみたが、あまりの内容にザニーは頭痛を覚える。
 あるページでは、世界最高のスナイパーとされている男が、珍妙な銃で珍妙な方向から、珍妙な格好でターゲットに狙いをつけていた。
 あるページでは、MPを吸い取られそうな踊り(格闘技らしい)に幼女が魅入っていた。
「他人の想像力に期待してみたんだけどな」
 徒労に終わったことで心労が出たのか、イフは小さく溜め息をついて背もたれに体重を預ける。
 学術的分野からは、決定打となるモノを得ることは出来なかった。
 自身で判断しきれず、かつ理屈で図れない物事ならば、他者の感性を指針にしてみる。
 ソレ自体は悪くない考えだが、目を向ける方向が明らかに間違っていた。

 呆れるザニーへ、イフは説明する。
 自分の中に生まれた姉への対抗意識から、アストへの本格的なアプローチを開始しようと思うこと。
 何をすればいいのか解らないので、暇があれば手当たり次第恋愛について調べてみていること。
 だが、どれもこれもピンと来ないものばかりだ。
 そもそも心身に欠陥を抱えている以上、自分で判断は不可能と思い始めていたところだ。
 良い機会なので、この場にいる青年に質問してみよう。
「男の立場から、ザニーくんはどんな手が有効だと思う?」
「だからさ、名前」
「ザニーくんはザニーくんでしょ? みんなザニーって呼んでるし。ザニアスの愛称だから、別にザニーでも可笑しくは――どうしたの、ザニーくん?」
「連発かい……もういいや」
 あまり心情を理解してないみたいだし。
 素でここまで言われると、説明するのも無意味に思えてきた。
 ザニーは話を本題に戻す。
「まあとにかく、アストのことな。……やっぱ、プロレスごっことかがいいんじゃね」
「そんなのでいいのかな」
「確証は無いよ。ケドまぁ、男の子は大概好きなモンだから」
「うーん……」
「手技足技寝技を駆使して、翌日足腰立たないくらい完全にダウンさせてだな。抵抗する気も無くして、そんで手篭めにしちまえ」
 随分と実力行使に踏み切った発想だ。
 それでもあえてザニーは言う。
「既成事実さえ出来ればしめたもの。後は野となれ、山となれだ」
「イキナリやりすぎじゃないの?」
「へっへっへ、心配することはない。アイツは、お前さんを多少なりとも憎からず思っているからな。一回くらいのやりすぎで、何がどうなるってほど心は狭くないよ。心配なら、後でちゃんと謝っときな」
 無責任だが、他人が与えられるアドバイスなどこんなものだ。
 相談した時には、大抵の問題は八割方自己完結している。受け入れるか否かに関わらず、後は背中を押す一言が欲しいだけ、というのはよく聞く話だろう。
 現実問題、実力行使で迫られた場合は、まともな人間ではこの姉妹に太刀打ち出来まい。当の本人は自覚していないだろうが、そういう意味でもアストはかなり危うい立場にいる。
 男として少々の羨望を覚えつつも、無事を祈るばかりである。
428彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:31:41 ID:uOEWdA+R
「そんでな――」
 最後に一つと思った矢先、ザニーは危険な気配を察知した。
「――ムッ!? 来る……これは、死神か!」
「え……解るの?」
「無論だとも。面倒だ、ちょいと匿ってくれ」
 了承を得る間もなく、勝手に机の下に潜り込む。
「もう……」
 スカートでなかったのが幸いだ。もしそうだったら、姉にどんなお仕置きをされることか。――ザニーが。
 程なくして、知った足音が近づいてくる。激しく床を踏み鳴らすが、徐々に制動が掛かり、やがて部屋の前で停止した。
 ドンピシャだ。何度遭遇しても信じ難いが、ザニーの勘の良さには恐れ入る。
「ここかッ!?」
 ドアを開け放ち現れたのは、振り撒く殺気に違わず鋭い目つきの――例えるなら、鬼の形相をした女性だ。
 薄く上気しながらも、引き締めた表情は見る者に薄ら寒ささえ感じさせる。黒い絹糸のような長髪。上質な繊維の光沢は見るものを魅了するが、同時に距離感を奪う。
 美人ではあるが冷淡。冷酷。第一印象は、十中八九そんなものだ。
 死神と呼ばれるだけあり、この眼に睨まれれば、並みの男なら萎縮してしまい話しにならないだろう。
 だが、今彼女は激昂している。乱暴な足取りで部屋を闊歩しながら、舐め回すように観察する。
「イフィア! あの痴れ者の行方に心当たりはありませんか!?」
 挨拶も抜きに、イキナリ本題に入ってくる。
 あの痴れ者……やはりザニーのことだろう。行方となれば、それはもう良く知っている。何時でも飛び出せる体勢を維持しつつ、此方の会話に耳を傾けてるだろう。
 とにかく事情を把握しておこう。
 イフはザニーのことに触れず、話を促す。
「どうしたの、ティーナ」
「聞いてくれますか。実は……」
 死神ことティーナは理由を語りだす。
「私との勝負の約束をすっぽかした。これがまず一つです」
「なんだ。いつもの――まず?」
「そう、まず。アイツめ、あろうことか……楽しみに取っておいたプリンを勝手に食べたんです!」
 それは許し難い。
「しかも、しかもですよ。1パック3個のうち二つ。さらに残った一つは……」
「…………」
 息を呑む。
 たっぷり間を置いて、ティーナは親の仇が行った仕打ちのように、歯の間から搾り出した。
「プッチンだけ折られていました」
 無言で机の下の物体を蹴っ飛ばす。
「痛って! ――あ」
 思わず飛び出たところ、目にも止まらぬ早業で、首根っこ掴まえて差し出した。
「お好きなように」
「感謝します」
 だが引き渡される瞬間、
「へへへーん。そう思い通りにはいかないぜ!」
 拘束が解けた隙を突いて、ザニーは脱兎の如く逃げ出した。
 刹那の後、ティーナが我に返る頃には、資料室の入り口あたりまで距離を開けていた。
「あ! コラ、待ちなさい!」
 ティーナが慌てて追いかける。ザニーの良く通る笑い声と、ティーナの怒声と、二人の足音が次第に小さくなっていった。
429彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:34:08 ID:uOEWdA+R
 と思いきや、再び近づいてくる。
 ドアから顔を出し、イフに一言だけ告げる。
「まあ他の連中にも聞いてみな。リードとローラとかな。コミックよりゃ参考になるだろ」
 自分みたいないい加減な奴よりは、と二本指で格好つけた敬礼をする。
 そしてティーナが追いつきかけた頃、逃走劇再開。
「待て! 待ちなさいと言っている、ザニアス・フール!」
「こっちだぜー、とっつぁーん」
「誰がですかッ!」
 深入りはするまい。
「ツボを心得てるなぁ」
 イフは感心する。何であれほどティーナの神経を逆撫でするのが上手いのだろう。
 外見と裏腹に、中身はアレだ。乙女だ。ザニーもからかうのが楽しくて仕方ないのか。時々、わざと怒らせているんじゃないかと考えることがある。
 それは正解なのだが、イフ本人は確信を得るまでには至らない。
 何より、当面の危機はすぐそこにある。

「お静かに」

 そう書かれた貼り紙を指差し、無言で司書さんが睨みを利かせていた。


 三十分に渡る、マンツーマンでの無言のお説教の後に解放されたイフは、ザニーの忠告に従い他の人に当たってみることにした。
 思い立ったが吉日。どうせ埒が明かないことは、とうに理解した。ならば考える前に動こう。
 まずは勧められたリードとローラだ。
 あちらもアストとリーアに並ぶ名物カップルである。確かに何がしかの参考になる可能性は高い。
 イフは、二人の元へ足を運んだ。
430彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:35:45 ID:uOEWdA+R
「ははは。そいつは災難だったね」
「笑い事じゃありません。クレーム多いんですよ」
 ディレクションルームには、折り良く二人揃っているだけだった。
 事情を聞いて笑い飛ばすリードに、ローラは困ったように溜め息を吐く。
 リード・クリストファ隊長と、秘書兼看護士ローレン・リズ。
 若干三十歳の若き隊長と、その有能なる相棒である。
 ただの名物ではない。皆から頼りにされている二人だ。有益な情報の一つも貰えると期待していいだろう。
「それはそれとして、だ。風紀を乱しかねない行動は……その、どうかと思うよ」
「私としては、人間関係の乱れの方が心配です。処理が大変ですから」
 至極真っ当な忠告も、ローラのブラックジョークで流された。
 スルーが暗黙のマナーとなっているため、イフとリードもそれに倣って、ノーコメントの姿勢を取る。
 その時ふと思い出したように、真面目な顔でローラは言った。
「ところでイフィア、そろそろ定期健診の時期でしょう? 早めにドクターの所に顔を出しておきなさい」
「最近調子良いし、急ぐ必要はないですよ」
「そうね。けど、貴方の身体は、あの人しか手出し出来ませんから」
 ローラは目を伏せた。
 イフの境遇を考えると、どうしても不憫に思ってしまう自分に、いつも僅かな嫌悪感を覚える。
 同じような背景、同じような身体をしていながら、リーアは定期健診などという煩わしいものに通う必要は無い。
 原因は体質の差だろう。要は運の良し悪しでしかない。
 その差を特別気にすることこそがいけないのは解っているし、嫌悪感もエゴにしかすぎない。
 もともと優秀な看護士であるローラは、そんなジレンマに苛まれ続けるのから逃げたくて、二足の草鞋を選んだのかもしれない。
 そんな心を知ってか知らずか、イフはあえてそこに触れず話を変えた。
「――男女の秘策って、どんなのがあります?」
「どんなのと言われ――」
「先手必勝」
 言い淀むリードを抑え、ローラが割り込んだ。
「私がリードさんをGETしたように、まず最初のキツーい一発で、骨抜きにしなさい」
 拳を握り、持論を力説する。
「されたんですか」
「されたんだよ」
 恥ずかしながら、と涙する。イフの視線がこれまた痛い。
「でもですね、アストくんは既にお姉ちゃんに骨抜きにされてます」
 人差し指を立てて、イフが反論する。
 その反論も想定の範囲内。ローラはしたり顔で、論を繋げる。
「大丈夫、通用します。あのコは、ちょっと優しすぎ真面目すぎなきらいがありますから」
 今一つ論理が成立していない気がして、イフは頭を傾げた。
「解りませんか? 優しさが付け入る隙になるということです」
 ローズはもう、悪の幹部のようだ。
「貴女がそれ相応の覚悟を持って臨めば、彼はいずれ本気で拒絶できなくなります。加えて、その優しさ故に、ともすれば優柔不断となるでしょう。
 磨き抜いた女のパワー……心と技と身体、嘘と真実と涙、あらゆる武器を駆使して、投じた一石で波紋を呼びなさい」
「成る程」
「その後は、根気良く時間をかけて外堀を埋めると良いでしょう。とにかく粘り強くね。リーアは貴女に絶縁状を叩き付けられない。よって、貴女との共有ならと妥協させてしまいなさい。
 完全勝利をする必要はありません。リーアが状況を許容してしまえば良いんです」
「成る程成る程」
 一つ一つを噛みしめるように、イフは何度も頷いていた。
431彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:36:59 ID:uOEWdA+R
 さしものイフも感服した様子で、頭を下げて彼女は去っていった。
 見送った後、冷や汗一筋、リードは呟く。
「しかし……険悪にならなければいいけど……。今からでも遅くない。止めておくべきかな」
「まあ大丈夫でしょう。ボーダーラインは弁えていると信じましょう。――私と違って」
「は?」
 今、聞き逃しちゃいけない言葉を聞いたような。
 ローラは、可笑しそうに微笑んで、一字一字ゆっくり繰り返す。
「わ・た・し・と・ち・が・っ・て、です」
「そ、それはどういう……」
「意味でしょう、ね?」
 嗚呼、何か後ろに黒いものが見える。
 可愛らしく笑うのが、否が応でも不安を増大させてくれる。
「ご安心を。犯罪に手は染めてませんし、恨まれる証拠も残すようなヘマはしてません」
「そうか……うん」
 事実なのか冗談なのか。どちらか確認する勇気は無い。
(女って怖い……)
 それ以上追求できる雰囲気ではなく、リードは己の無力さを噛みしめるのだった。
「ま。万一修羅場が長引くようなら、ちゃんと責任とってフォロー入れますから、ご心配なく」
 修羅場は決定事項なのか。
(本当、女って怖い……)


 イフが次に向かったのは、先程話題に出たドクターの所だった。
「こんにちは」
「おおー、イフか。入れ入れ」
 招き入れたのは、奇妙な形のゴーグルをかけた白衣の老人。
 客人が誰か把握するや否や、そそくさと台所でお茶の用意を始める。
 イフは手伝おうとするが、部屋の主に手で制された。椅子に腰掛けることを勧められたので、暫し座して待つ。
 自分たちが訪ねると、いつも張り切るのは何故だろう。毎度イフは疑問を抱くが、今一つ答えに思い至らない。
 老人が盆にお茶一式を乗せてやってきた。ポットから急須に湯を注ぎ、次いで軽く回してから茶碗に茶を注いだ。良い色と香りが出ている。
 緑茶を一口含み、切り出す。
「で、何の用じゃ?」
「相談ついでに検診」
「ふむ。相談」
「いいかな、ドクター」
 ちっち、と老人は指を横に振る。
「その呼び方じゃあ、駄目駄目。呼ぶなら、親しみ込めて“ジジイ”な」
 通称、ドクター・GG。本名は、確かゲンジ・ゴンドウ。
 マッドサイエンティストな外見の割りに、ノリの軽い、お茶目な爺さんである。
「もしくは愛情込めて“おじいちゃま♪”での」
 大きな手振りを使って、熱い思いの丈を語る。
「おじいちゃま?」
「ノンノン。もっと愛を込めて。ハイ、リピートアフタミー。おじいちゃま♪」
「おじいちゃま♪」
「んー、ベリグッ。表情も伴えば、モアベター」
 何か良く解らないが、とりあえずOKが出たらしい。
 茶碗の中身を飲み干し、ジジイはニカッと笑った。
「まあ何にせよじゃ、検査しながら聞こうかい」
「うん」
432彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:38:04 ID:uOEWdA+R
 イフはベッドの上に横たわり、様々なコードで機器と繋げられる。
 部屋を埋め尽くす数々のマシンは、接続されたイフの身体と、その働きを認識した。
 コンソールを弄り、モニタに映し出される数値と睨めっこする。数値は全て正常。現状、特に手を入れる必要は無いだろう。
 そうしながらも、ジジイはイフの話に耳を傾け、大方の事情を把握した。
 そして、今までとはまた別のアイディアを授けてくれた。
「天国と地獄って知っとるか?」
「……何それ……?」
「ま、まさか言葉の意味も知らんと――?」
「とんでもない。あたしゃ神様だよ」
 ジジイはずっこけ、呆れ顔でしみじみと呟いた。
「…………最近、ボケるようになったのぅ」
「キレが悪いのが玉に瑕」
 自覚はしている。センスか経験、あるいは両方足りないのか、かましたギャグの大半は滑ってばかりで少し悔しい。
 気を取り直して、ジジイは説明する。
「まあ要するに、状況の落差による心理をついたものでな」
「ギャップ萌え」
「そうそう。普段男勝りな娘が、時折見せるしおらしさなぞ、もう堪らんもんで……って違う!」
 大きな身振り手振りを用いた寸劇。見事なノリツッコミだった。
 イフとジジイは、示し合わせたように親指を立てた。ついでにジジイは、さり気なくゴーグルの端を光らせ、格好良くキメる。
 とにかく、言いたいことは伝わった。イフはこの流れを止める。
「大丈夫。趣旨は理解したから」
「そんならいいが。あまりコトにせんでくれよ? リーアもお前も……大事な孫娘みたいなもんなんじゃから」
 生命を救うためとはいえ、全身に手を入れ、結果的に姉妹を非常に厄介な身体にしてしまったのはこのジジイだ。罪悪感もあれば、同時に愛着もある。
 聡明でありながら基本は楽天的なリーア、聡明であるが感情を置き忘れたイフ。
 姉妹の幸せを切に願い、そういう意味でもジジイはアストに期待を寄せている。
「うん。安心して、おじいちゃま♪」
(じゃが今の所は――)
 まあ良い傾向が見られたことで、満足しておこう。
 ジジイはカラカラと笑った。


 とある夜、とある部屋の前。イフは戦場に赴く気持ちで佇んでいた。
 意見を聞いたことで、計画は立った。実行の目処も立った。
 後は、タイミングを逃すことなく、一気に叩き込むのみ。姉に悟られてはいけない。予防線を張られる。
 程なく、絶好のチャンスは舞い降りた。
 本日、リーアは出張。アストとイフは待機。タイムスケジュールからして、一泊確定だ。
 しかも出張を決めたのは、前日にカレーを食べたからという、あまりに理不尽な理由での選抜。これを見逃せば、罰が当たるというものだろう。
 そして全室防音は完璧。少々のことでは、隣に迷惑が掛かることも無い。何から何まで、至れり尽くせりだ。
 薄手のガウン姿でアストの部屋の前に立ち、内心で宣誓する。

 それでは、イッてまいります。ヤッてまいります。
433彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:40:14 ID:uOEWdA+R
「こんばんは」
「やあ、イフか。どうし――ぐはぁっ!」
 ドアが開き、閉まるまでの時間すら待たず、急転直下の展開を見せる。
「ド、ドロップキックだとぉ!?」
 突如ガウンを脱ぎ、下着姿となったイフに対し、鼻の下を伸ばす余裕すらない。
 よろめくアスト。イフはすかさず起き上がり、休む間を与えない。
 アストの頭を片手で掴み。狙いを定め拳を振るって、攻める。攻める。
「な……何がどうなって……」
 アストは混乱し、誰にでもなく頭の中で語りかける。

 気を失う前に言っておくッ!
 僕は今、イフのナックルパートを、ほんのちょっぴりだが体験した 。
 い……いや……体験したというよりは、まったく理解を超えていたのだが……。
 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『本を読んでた所にイフが来訪したと思ったら、いつの間にか暴行されてた』
 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、僕も何をされたのかわからなかった……。
 頭がどうにかなりそうだった……。
 過激なスキンシップだとか小猫がじゃれつくだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
 もっと恐ろしいモノの片鱗を味わってるぜ……。

 薄れ行く意識で思う。
 やっぱりイフも、リーアの妹なんだな、と。
 ていうか、もしやこれがコミュニケーションの基本と思っていやしまいか。出来れば反面教師にして欲しかったなあ。
 そんな現実逃避も、無残に打ち砕かれる運命にあった。
「って、ええぇえぇぇ!? ちょ、ちょっとぉ!」
 さすがにすぐさま我に返る。
 膝が笑って思わず前のめりになったアストに肩で組み付き、イフは腕を彼の脚の付け根に伸ばした。
 丸太を引き抜くように腰を入れ、贅力で以って少年を逆さに持ち上げる。
 このまま飛び上がり、鷹が飛翔するかの如き勢いで叩きつければ――。
「ゲェ――ッ! ま、まさかこの技は――!?」
 その名、五所蹂躪絡み。
 またの名を――!
「ゲホッ!」
 技が決まり、視界が暗転する。
 着地と同時に、アストは血反吐を吐いて昏倒した。
434彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:41:31 ID:uOEWdA+R


 あれからどのくらい経過したのか。
「ぅ……うーん……」
 覚えの無い感触を得て、アストは眼を覚ます。
 その出所は……下半身?
 見知った天井から眼を移せば、
「うん、と。こんな感じかな?」
 イフがアストのモノを掴んで、手を上下に動かしていた。
 思わずアストは叫ぶ。
「な、何やってんだよ、イフ!?」
 いや、大体の想像はつくのだが。
 ここはベッドの上だ。KOした後、ベッドに連れ込んでズボンを剥ぎ取ったのだろう。
 それでそのまま、コトに及ぶつもりだった、と。
 時計を見れば、気絶していたのは数分も無い。この倍も眠っていたら、まず間違いなく毒牙に掛かっていただろう。危うい所だった。
「もう気付いたんだ。意外と頑丈だね」
「おかげさまで、鍛えられてるからね。ってか、止めなさい!」
 話してる途中も、しっかり手を動かしていたし。
 動きを止めようと、アストは手を伸ばし必死で抵抗するが、尽く跳ね除けられる。
 朦朧とした受け答えではない。完全に目が覚めたのを確認し、逃がさぬようにとイフはアストに馬乗りになった。
「やだ。愛する男と結ばれるのは、女の幸せって聞いた」
「だーかーらー!」
 思い止まってもらおうと、アストは必死の説得を試みる。
「大体、キミ初めてでしょ? それがこんな……その場の勢いで棄てるんじゃありません!」
「大丈夫。記憶失くす前は、経験あるかもしれない」
「駄目だろ色々と!」
 論理の成立を意図的に放棄している。端から聞く耳持っちゃいない。
 説得不能と悟ったと見るや、イフは自らの下着に手をかけていく。ブラのホックを外した所で、アストが叫ぶ。
「うわ、うわ! 待て待て待て! せめてゴム……用意ッ!」
「曰く。ナマ推奨」
「あンの糞ジジイー!」
 この姉妹の身体の場合、様々なケースでデータ収集するに越したことはない。アストも聞いたことがある。
 こんなことまで収集対象にするなと思うが、物は試しで子を為してみろというのも、科学者の視点からは正しかろう。
 おそらくジジイは、その辺りも見越して、イフに余計なことを伝えていたに違いない。
「ふっふっふ。うろたえるな小僧ー」
「うろたえるわボケェッ!」
 あらん限りの感情を込めて叫ぶが、何処吹く風ぞ。
 とにかくイニシアチブを奪い返さないことには、文字通りまるで話しにならない。
 アストは全身全霊を込めて動く。
「キミの気持ちは嬉しいけど、僕は――ガッ!?」
 無理矢理イフの下から身体を引き抜くが、勢い余った上にまだ下半身が利かないことで、そのままベッドの縁に後頭部をしこたま打ちつけた。
 半分腰が砕けてた上に、操縦桿を握られていたのだ。さもありなん。
 泣きっ面に蜂とはこのことだ。予期せぬ痛みに患部を押さえ、目尻に涙を浮かべてのたうつ。
「っ、痛ぅー……」
「もらった」
「しまっ……アッ――!」
 油断大敵、怪我一生。
435彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:42:51 ID:uOEWdA+R

 少年の上で、少女は動く。肉棒を咥え、技術は拙いながら、緩急つけて腰を上下させている。
 動きに合わせ、揺れる乳房が目に毒だ。
 イフはアストを観察し、より良い反応を得ようと、試行錯誤しながら動く。
 下半身より全身へ伝わる快感に耐えながら、せめてもの意地にかけて、アストは疑問を口にした。
「何でこんな……っ……」
 すなわち、こんなレイプ紛い――もとい、そのままの行為を画策した理由を。
 彼女一人で思いつくことではあるまい。必ず後ろに誰かの影があるはずだ、と。
「んっ、ふ……天国と、んぁ……地獄が、効果的って……」
「ア、アホかーッ!」
 快感すらフッ飛ばし、思わずツッコミを入れた。
 さては誰かに吹き込まれたこと、言葉面そのまま受け取ったな。素直というか、純粋というか、おバカというか。他の誰かを責める気にもならない。
 もう少し――常識的な範囲で構わないから――比喩表現や読解力を身に付けないことには、アストは彼女の将来が不安で仕方ない。
 最早気乗りしないどころの話ではない。必ずモラルを叩き込むと、アストは心に誓った。
 その時、イフが瞳を潤ませながら言った。
「アストくん……私のこと、嫌い?」
「そ、そんなことはない。けど!」
 アストは思わず目を逸らす。
「私は、ね……ぅん……強引だけど、好きな男の子と結ばれて、っ……嬉しい、と思う……んん!」
「イフ……」
「触れ合いを続けているとね……心が満たされていく感じがする……」
 イフは、切なそうに手を伸ばす。
 何かを探し中を彷徨うそれを、アストはしっかり掴む。心通わすように、五本の指と指を絡める。
 手の温もりを感じて……その瞬間、確かにイフは微笑んだ。
 その儚くも美しい笑顔に、アストは見惚れた。
 この傷だらけの身体が、何にも勝って愛しく思える。
 ずっととは言えない。しかし、今日ばかりは流されてしまっても良いかもしれない。そう思えた。
 抵抗を止めたアストの上で、イフは動いた。
 指を絡ませたまま手を反転させ、掌を空に向ける。
「ん?」
 雰囲気ぶち壊して、何か嫌な予感が……。
 その手をイフは自らの両腰の辺りまで引き寄せ、アストの腕を最大に伸ばした状態で。レッツトライ。
 少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべて、
 こう、
「クイッと」
 捻り上げた。
「痛だだだだだだ! もげる! 指、指ぃ!!」
 完全にキメているので、手首と肘も動かすことは叶わず。腕全体を通して、筋が引っ張られる感覚に襲われる。
 アストにかまわず、イフは与えられる快楽を貪る。
「ぁ、はぁ……! ん、んんっ……ハァ、ぁ……あ、あ!」
「いや、ちょっ、あのね……うわ!」
 イフがよがれば、それだけ痛む。しかしどちらかが動けば、それだけ不意な快感をも二人にもたらす。
 が、気が気ではない。何の弾みで、指やら腕やらがお釈迦になるのかわかったもんじゃない。
 そんな不安を、イフは感じ取ったようだ。
「あん……大丈夫。もがないし、うんっ……怪我させないから」
 これで安心させてるつもりだろうか。残念ながら、気休めにしかならない。痛いものは痛いのだ。事後小一時間ばかり痺れが取れないだろう。
 成る程、天国と地獄か。
 現在の体位は、所謂騎乗位である。腕全体が固定されてることで、自由になる部分と言えば、胴体から腰にかけて。脚はジタバタ空を切るだけの飾りに近い。
 痛みで跳ねれば予想外の動きでイフを刺激し、それはそのままアストへ、腕の痛みと下半身の快楽という形へ還元される永久機関。

 やがてこの拷問に耐え切れず、アストは白旗を揚げることとなった。
436彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:44:46 ID:uOEWdA+R


 時刻は深夜二時。全裸のアストは、自己嫌悪に襲われていた。
 傍らには、布団を被り寝息を立てるイフがいる。
 あれから二回戦、三回戦へと突入した上に、三回戦目は自棄になって自分から進んで行為をしたし、当然イフもそれを受け入れた。
 いくらでも言い訳は立つが、バレればどんな目に遭うか考えたくもない。
「困ったなァ、これ……」
「何が困ったのかなァ?」
「――!?」
 突如、入り口付近から声が掛かった。
 音も無く腕組みしてそこに立っていた人物は、良く耳に馴染んだ声を紡ぐ。
 視線を移せない。顔を見るのが怖い。優しい声が、アストの全身を鎖で縛る。
「ね、アスト?」
「ああ、あ、あぁぁああ……な、何で……?」
「んー? 質問に質問で返しちゃ零点なんだけど、まあいいわ。教えたげる」
 アストはようやく見た。
 そこには菩薩のようなリーアの顔。美しすぎて、涙が出そうだ。
「嫌ぁな予感がしたもんだからね、仕事終わらせたら、泊まらずとんぼ返りしてきちゃった♪」
「ささささ、さ、さ、左様でございますか……」
「そ。深夜で迷惑かなーとは思ったけど、すぐに顔見たかったから。それくらい、可愛い我が侭として許してちょうだい☆」
「とんんでもない。ゆ、許し、許しますとも」
 まともな問答など出来るはずがない。
 偉大なる聖者の前では、凡人は己が小ささを恥じ、ただただ平伏すのみである。
「ちょっとちょっと。動揺してるのよ、マイラバー?」
 アスト身を竦めてしまい、要領を得ないまどろっこしい会話しか出来そうもない。仕方ない。他の人から事情を聞き出そう。
 布団の中。狸寝入りを決め込んでいる相手に訊ねる。
「理由知ってるかな、マイシスター?」
「お……お姉ちゃん……」
 恐る恐る……そーっと布団から出した顔は、大いなる存在の気に当てられ、さすがに蒼白になっていた。


 菩薩モードを解除し、リーアが二人を前に仁王立ちをする。
 床を指差し、命令する。
「二人とも、服着てそこに正座」
「僕は被害し――」
「口答えしない!」
「はい……」
 普段なら言い訳を聞いて欲しいところだが、ここはこれ以上言っても説得力を持たせることは不可能である。
 リーアに対し、あまりにも大きい負い目があるのも確かだ。
 ただ、姉妹の関係が悪化したりすると、中心に配置された自分は心が痛むどころではない。
 どのような責め苦も、自分一人で受ける覚悟をしよう。
(これからが本当の地獄だ……)
437彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:47:46 ID:uOEWdA+R

 だがアストの心配も裏腹に、思いの他冷静に、リーアはこう切り出した。
 まずは恋人に目をやる。
「一応、弁解は聞いておきます。何か言いたいことは?」
「細かいことは言いません……自発的ではない、とだけ……」
「ふーん……。イフちゃんは?」
「…………」
「無いの?」
 数秒間の沈黙の後、ポツリと切り出した。
「……独り占め」
「は?」
「……男の子で一番はアストくんだから」
「ゴメン。要点を纏めてくれる?」
「お姉ちゃんの一番は、私とアストくん。――どっちかしか選べない時は、どうなのかなって」
 それから、ちょっとした女としての対抗意識もある。
「私もアストくんが好きだし、都合がいいから。独り占めしちゃえば、一緒に選んでもらえるかなって」
 何て理屈だ。素でこう言っているのだから、追求する側のリーアが頭が痛くなる思いだ。
「えーっと……じゃあ、逆にイフちゃんが選ぶ立場になったらどうするのよ?」
「お姉ちゃん。アストくんは、男の子で一番」
 何とも残酷に即答する。
 いくらなんでもこれはキツいだろうと、リーアは同情の眼差しをアストに向ける。
 案の定、正座を崩してこちらに背中を向けていた。体育座りで。壁と対面して。
「あーホラホラ、アスト。部屋の隅っこで咽び泣かない……っても、無理か」
「汗だよ汗。泣いてなんかないやい。――いやその……今はほっといて」
 色々と、自信が打ち砕かれたようだ。
 どんな経緯で二人が関係を持ったのか、今のリーアは知る由も無い。
 追求したい思いはあるが、今のアストにそれを求めるのは酷すぎる話だ。
「んー……」
 腕を組み、首を傾げてリーアは唸る。
 何か、白けてしまった。
「とりあえず、ある程度事情は把握しました。まあ今日の所は――怒る気も無くしたので――これ以上とやかく言いません」
 リーアは、アストの背中に向かって、ピッと人差し指を立てて伝える。
「アスト、ペナルティ1でいい?」
「好きにして」
 これまた振り向かず、アストは答えた。
 一先ずこれで丸く収まるのならば、安いものだ。自分のプライドだけで済んで良かった……とでも考えなければ、やってられない。
「ペナルティ?」
「二人の約束。アストも男の子だし、三度までは仏の顔になってあげる寛容さも……ね?」
「つまり……あと二回のうちに墜とせば、野望達成と……」
「お姉ちゃんさ……イフちゃんには、もう少し良識持って欲しいわ」
 いや、恋愛絡むと、抑えは利かなくなるものかもしれないけど。
 最近、頓に感情が芽生えてきたのは、何とも喜ばしいところではある。だからと言って、アストへのアプローチも精力的になってきたのは、それはそれで複雑でもある。
 素直に喜ぶべきか、本格的になりつつある脅威に焦るべきか、どう下せば最適な判断になり得るのか。リーア自身、心情の整理が付け難い状況だ。
 どうにも頭がこんがらがる。リーアは二、三度頭を掻き毟った。
438彼と“彼女”の優劣 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:48:38 ID:uOEWdA+R
 とにかく、
「今は自分の部屋に戻りなさい」
「怒らない?」
「さっき言ったでしょ」
「わかった……」
 とぼとぼと頼りない足取りでドアを抜け、閉まる直前にこう告げていく。
「――――ごゆっくり」
「な!?」
 あの妹がこんなこと口にするのかと、思わずリーアは赤面した。
 それ以上何も言うことなく、イフは自室へ戻っていった。
 後にはただ、どこか気まずい雰囲気の二人が残るのみ。
 その空気を破るためか、リーアはその真意を推測してみる。
「気を利かせたつもりなのかな?」
「さあ」
 まあ何にせよ、折角イフの残したお節介だ。存分に利用させてもらおう。
「……ねえ。いい?」
 まだいじけるアストの背中に覆い被さり、豊かな胸を押し付け誘惑する。
 反応が薄いならば、さらに手を前面に伸ばす。
 ようやく、アストが重い口を開いた。溜め息と共に、諦めの言葉を発する。
「聞く気なんか無いくせに」
「あんまり邪険にされると……お姉さん、嫉妬に狂っちゃうぞー?」
「はいはい」
 アストはリーアをエスコートし、ベッドに押し倒す。
 期待して目を閉じたリーアの唇を奪い、一枚一枚布を剥いでいく。
(こりゃ完徹決定だな)
 来るべき睡眠不足との戦いへ向けて心の準備をする。
 ただ今は、恋人の身体を堪能し、かつ相手を満足させることを心がけよう。
 くよくよしてもしょうがない。前向き前向き。


 翌朝、基地では憔悴しきったアストと、妙につやつやしたリーアが目撃された。
 アストには、嫉妬と羨望と同情とが入り混じった同僚の視線と、どこか不機嫌なイフの視線が向けられることになるのだが、それはまた別の話。
439 ◆uW6wAi1FeE :2007/06/20(水) 03:50:47 ID:uOEWdA+R

(1レス目にまで題名入れてしまった)

これで終わりです。長々とどうも。

うむ。どうにも超シリアスを書きたい欲求が募ってきた今日この頃。
最近ネタに走りすぎなきらいがあるし。
マジでちょいと方向性変えてみるかなあ。

以下余談。

ザニアス・フール:あだ名が気になる人は、zanyで調べてみて。現在の状況=前世もしくは先祖と逆に勝負から逃げてる。
リード・クリストファ:キャライメージ=いざという時こそ頼りになる、ミスター・ファイヤーヘッド。
440名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 04:30:32 ID:XNqBIQ/J
GJGJ!続きに期待!

>ミスターファイヤーヘッド
バードン自重
441名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 10:43:11 ID:IUJaKbq5
失礼を承知で言わせてもらえれば、
素直クールでも無ければエロコメでも無いような気がする……(´・ω・`)

ただのラブコメとしてなら充分に面白かっただけに残念。
次回に期待しますよ、と。
442名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 11:25:09 ID:Z+TAXF3L
誰か次スレ立ててぇ〜。
443名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 00:39:28 ID:NV4AfphG
はやっ!もう残りすくなっ!
444名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 00:42:11 ID:NV4AfphG
あと保管庫が・・・どうしたんだろう。

445名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 02:52:37 ID:VSxtFqv7
>>444
保管庫の人は、>>131に書いてあるけど、ネットの接続が調子悪いみたいね。
早めに新スレに移行して、このスレは保守しておいたほうがいいかも知れない。
446名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 21:47:42 ID:EfLygCoZ
このスレの残り容量が少ないため、
SSの投下に差し障りがあるかもしれないと判断し、
次スレを立てた。
素直クールのますますの繁栄と広がりを願っている。

素直クールでエロパロPART5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182429786/
447名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 18:16:50 ID:Vz2xIT5v
>446
乙! さあ・・・埋めようか。
448名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 05:32:31 ID:eVkciDcK
>>445のこともあるからまだ埋めなくてよくね
449名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 12:05:05 ID:f5Nnixjd
>>448
じゃあ管理人氏の復活が確認されるまで週一くらいのペースで保守していこう。かなり寿命が延びる。
450名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 13:22:32 ID:9ephwprS
板全体のことを考えたら、早々に落とした方がいいんだけどね。
管理人氏がログ欲しいというのであれば、アプロダにあげるという手もあるし。

ぼちぼちと雑談や埋めネタでGO、ってことでいこうよ。
451名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 07:53:20 ID:6YaznKZA
>>450が言い出した直後に管理人さん復活したようですね。
おめでとうございます。

そして埋め(は必要なのか?)。
452名無しさん@ピンキー:2007/06/24(日) 14:52:14 ID:A8jYfbp2
>>451
保管が完了したなら早々に埋めた方が良かろ。
埋め
453名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 00:26:25 ID:s2bHF4SZ
女子校が共学化した初日から始まるってシチュが好き。
その中の女性に素直クール分が最高だと思う。
454名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 02:09:11 ID:iwHtZ4sB
日本語でおk

素直狂うスレと勘違いしてのか
455名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 07:29:29 ID:4sJ9GcZ4
素直狂うってのもあんのかwww
456名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 10:36:05 ID:61PY7Fx0
素直狂うって、まんま狂人ということなのでは……
457名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 14:32:41 ID:ut3MJMqX
クールなヤンデレって(キャラとして)救いようがないようなw
458名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 21:30:05 ID:EjdliMVD
>>457
死んでやるとか殺してやるじゃなくて手篭めにしてやるって来そうだ。
459名無しさん@ピンキー:2007/06/27(水) 17:57:28 ID:ClYqX5GX
460名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 11:47:22 ID:b3coc9Ww
埋め
461名無しさん@ピンキー:2007/06/28(木) 19:02:38 ID:0JPMwAa4
うめえ
462名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 21:14:41 ID:Ie3eJUSE
 うめ                                   
463名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 14:42:40 ID:G4W0YIlD
うめぇ
464名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 18:59:06 ID:BghpuDBg
「なぁ」
「なんですか?」
「なんか良い埋めネタないかな」
「そうですね・・・」
「おわっ!ちょ、何してるんだ!!」
「いえ、『埋め』るなら『産め』の方が良いと思いまして」
「まて!俺たちまだ学生なんだぞ!」
「・・・嫌ですか・・?」
「嫌とかじゃなくて・・・・」
「じゃあ中出しするだけでいいですから」
「だからそれがダメだって(´Д`)」


オチない
465名無しさん@ピンキー:2007/07/03(火) 17:16:09 ID:4fEZeGHc
>>464
もっと頼む
466名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 02:24:10 ID:5iTknXuk
埋め
467名無しさん@ピンキー:2007/07/07(土) 18:11:55 ID:0x7iBpnR
うめる
468名無しさん@ピンキー:2007/07/08(日) 21:40:31 ID:PGzlOvxb
469名無しさん@ピンキー:2007/07/11(水) 02:02:04 ID:9XbP/45i
470名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 02:41:06 ID:KZURrE1P
471名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 14:26:28 ID:YBbciKfP
472名無しさん@ピンキー:2007/07/13(金) 23:36:44 ID:wmsUIkGQ
473名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 17:59:58 ID:ZlmJJbwx
474名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 18:42:07 ID:F/qxu0yS
475櫻嵐舞う ◆ELbYMSfJXM :2007/07/14(土) 22:30:18 ID:KhMcJFsr
容量挑戦埋め投下


「突然だガ高遠、私とセックスしよう」
 昼飯後の満腹感にだらけた五月晴れの午後に、ともすれば睡魔が心地よく誘ってくる頭へ、
ハリセンを飛ばされて認識ゼロ状態だと言っていい。
「はイ? なんですか嶺さン?」
 こっちもつられて片言喋りになる。先刻の言葉は空耳だ。絶対そうだ。
「S・E・X。せっくす、ダ。目の前の私、御所学園2年C組の嶺 枝垂(みねしだれ)と、
君、早晩山 高遠(いつかやまたかと)の二人で、だよ」
 一言づつ歯切れよい発音で言い聞かされる。片言なのは謎だ。
 医学系志望の才女でクールな眼鏡、スタイル抜群の難攻不落な美女の彼女が、
 眼鏡の奥の切れ長の瞳で俺を見つめて、……つーか目ぇ据わってる気する。
「いきなり何言いますか、保健室、行く? 脳わいてるみたい」
「突然だと断ったシ、無礼な頼みで無いダロう。自習時間を有意義に使おうと思わないかネ?」
「もしかして、暇つぶし?」
「空いた時間を無駄に使ウのは非効率極まりナイ。きちんと考えているよ、私ハ」
 背をそらせて腕組みをした手の上でGカップの胸が揺れる。
男ならあの生チチに触りてー、とか、色々えろい妄想をしてしまう事間違いない。
まー、健全高校男子な俺も……、つーか素朴な疑問。
「なんで俺? 嶺さんとは恋人同士でも、お友達付き合いすらしてませんが?」
「説明は時間がナイから、とりあえずシてしまおう」
 襟のリボンタイをするりとほどいて――
「ちょちょちょちょっ、ここは教室ですがーっ」
「何か問題ガ?」
「そおゆうコトは人目につかないとこでって習わなかったデスか?」
「どの授業だったカ? 覚えてナイから教えてくれ」
「……と、とりあえず外行こ、外!」
 彼女の手首を掴んで、人形状態のクラスメイト達の間を縫い、ひとまず廊下に出た。
476櫻嵐舞う ◆ELbYMSfJXM :2007/07/14(土) 22:31:58 ID:KhMcJFsr
「ああ、ホラ、トイレがある、すぐそこで……」
「き、却下です!」
 時間が〜とか意外と雰囲気を考えるのカ、とかのたまう嶺さんを引っ張って、
地学準備室の扉を開けてとりあえず押し込む。
「俺、地学部だから鍵持ってるんです、……うわ!」
とっととブラウスのボタンを外して脱いでいる、目を逸らそうと思っても、胸の谷間に釘付けだ。
「君は脱がないのか?ナラ私が……」
 すっと首筋に指を伸ばされ顔を寄せて耳元に息を吹きかけられる。ぞくぞくっと背筋が震える。
やば、逃げっ……
 顔を両手で捕まえられて唇で口を吸われる。豊かな胸が押し付けられる。
初めて触れる女の子の体から伝わってくる熱さと気持ちよさで、急速に理性が飛んでいく。
「んむっ、ちゅ、くちゅ、……んーっ」
いつのまにかお互いの舌を舐め合っている、ぴちゃぴちゃと響く音と熱い荒い息づかいに頭が白く――

かちゃん。
「あ……」
嶺さんの眼鏡が外れて床に落ちた。俺は大急ぎで後ずさって口元を拭いながら壁際に逃げる。
……前屈み気味なのが情けないがっ。
「いやいやいや、つーか理由も無しにするのは動物と同じです。もし俺のこと好いているなら
まず告白するのが筋だと思いますがっ」
「そんなに物わかりの悪い男ダと思わなカッタ……。私ヲ嫌いか?」
 名残りに紅くした頬と唾液に光る唇を自分で舐めて、また腕組みをする。
そーやって乳を揺らすなーっ、つーか絶対わざとだーっ。
「俺の質問に答えてもらってから言います。
生まれも育ちも顔も成績も中の中を走り、平々凡々を愛してる俺のどこにそんな欲情するネタがあるんです?」
 目を逸らさずにじわりと接近してくる嶺さん、……しまった、壁に逃げたのは失敗だった!
「医学系を志ス身としてはまず自分の体を知ルことダ。わかるな?」
「は、はあ……」
「昨夜ふと胸や生殖器を触ってミタんだが、自分デスルせいか気持ちよくなかったンだ。
処女のせいカモ知れぬし、やはりセックスして確かめねばナラナイだろ?」
 既に至近距離で蛇に睨まれたカエル状態でだらだらと冷や汗を垂らしていますよ俺。
「つーか、実験台に?」
 俺も初めてだし、最初から気持ちよくさせられる自信はまっったくありません、と有り難い申し出を
必死に押し戻そうと試みる。
「失礼な、君ハ父に良く似ている。誰でもイイ訳ではないよ」
「……すいません。ファザコン、つーか近親相姦の気が? ヤバイでしょ、それ」
「一応缶コーヒー大のモノが体に入ってくる不安はあるヨ。父は風呂上がりに裸で陰茎をブラブラさせているんダ。
あれなら私モ見慣れているし、そう怖くナイ。姿見の似た君ナラきっと似たようなモノだ。
――さア、早くシよう」
 すいません缶コーヒー無理です、つーかお父さん外人でしょ読んでるの医学書じゃないでしょ絶対変だって
やっぱりどう考えても実験台です本当にありが(略
「今度ハ私の質問の答えヲ聞く番だ」
「そ、そそそ、それは……」
 俺も普通に好意つーかでも恋人までは到底無理だと思ってるしよくある憧れのクラスメイトで
いきなりこんな行為は学生はやっぱりまず健全なおつきあいからで短絡的ないかんいけませんまずいですよであるから
 嶺さんの手が俺の左手を取る。片方の手でブラジャーを外すと、ぷるんと弾けるように現れた、
白い双丘とピンク色の乳首に惜しげもなく俺の手を押し付ける。
「――――!!」
 あっけなく指が柔らかい胸に埋もれてしまった、こんなに、やわらかくて、気持ちいいなんてっ。
 頭のどこかでぷっつりと切れる音がした。
「好きです……っ、嶺さんっ」
477櫻嵐舞う ◆ELbYMSfJXM :2007/07/14(土) 22:33:00 ID:KhMcJFsr
 無我夢中で両手でほやほやの胸を揉みまくると、掌や触ってる部分がどんどん熱くなって、
弾力が増してくるようだ。時々当たる尖りが大きくなり、指先で弄ってみると嶺さんは可愛い声を上げた。
「気持ち、いいですか?嶺さん」
「アッ、……そうだ、ナ、変ナ感じダ。くすぐったくて、宙に浮きソウ、だッ……」
 赤ん坊みたいに乳首を口に含んで吸い上げると、何度も体をびくびくさせて仰け反った。
大きい胸は感度が悪いって言うけど、違うみたいです。
 舌でころころと転がしたり乳輪を舐めてみたり、谷間やゆるやかな丘陵までくまなく味わう。
頭上ではぁはぁと荒い息をしてるのが聞こえてきて、一層全体がべっとりと濡れるまで舐めあげる。
 片方を口で責めてる間はもちろん指でもう一方を構うことは忘れない。
弾いてつまんで軽く潰して何度も擦って揉み上げて、弄りたおす。
 うすく汗を浮かべて桜色に染まった嶺さんは、とても綺麗だった。
「頭、がッ、痺れて……溶けそう、ダ……胸だけで……っ、私ヲこんなに、させてッ……、
初めて、な、のに、……とんだ男だ……っ」
 瞳を潤ませて切ない表情を浮かべるのを目の当たりにすると、何だか愛しくて仕方がない。
初めて胸を触った時は頭が真っ白になったけれど、俺の愛撫に一つ一つ反応する嶺さんを見てると、
もっと悦ばせてあれもしたいこれもして可愛いがりたい、と不思議に脳内がクリアになってきてしまった。
「嶺さんが、あんまり可愛いからです。普段とは全然違う」
「……秘め事ノ顔ハ、違うものだ……」
「教室のど真ん中でやろうとしていたのは誰でしたっけ」
「ここまで、トハ、思わなかったッ……、あぁ、気持ち、イイっ……」
 スカートの奥に指を這わせると、自ら股間を掌に擦りつけてきた。ショーツから染み出た液体が絡みつく。
倒れそうになる体を支えようと俺の頭を掻き抱いて、更に胸に押し付ける結果になってしまう。
右を甘噛みして左をこりこりとこねる。既に二本指を咥えこんで前後に揺れる腰の間からはぐちゅぐちゅと音がする。
「は、……あンッ、……、あ、あ、アア、……あぁン……ッ」
 両方の胸と秘所を同時に刺激される快感に酔って彼女は我を失っていった。

 固いけどすいません、と机の上に彼女を横たえて脚を開く。愛液でぐずぐずになった部分があらわになる。
 冷静な頭と裏腹に下半身は当に出来上がってて、痛いほど主張してたやつをようやく出してやる。
 待ち構えたとばかりに腹につくほど元気に反って脈打つペニスを、彼女の入り口にあてがう。
「挿れます、よ……」
「……ああ、来てく、レ……、高遠、キミが、欲シイ……」
 とろんと蕩す瞳にごくりと唾を飲み込んで、一気に押し込む。
 実際は狭さに拒まれて半分しか入らなかった。それでも、心地よい温かさは感じる。
んっ、と歯を食いしばって耐えてるらしい嶺さんに、もう一度謝ってから肩を掴んで思い切り突く。
「んン、あ、あッ!」
俺の全部を飲み込んだ嶺さんは、短く荒い息を繰り返している。
ぎちぎちに締め付けてくる襞と熱さで爆発寸前なものを、ゆっくりと動かしてみる。
「嶺さん……、大丈夫……?」
「名前、で……、呼べ……ッ、コンナ時に、失礼だ……ッ、高、遠っ……」
 涙目なのにいつもの口調で懇願する彼女がとてもとても愛しく思う。
「はは、枝垂、さん……、好きですよ」
「そう、だ、……高遠、私も、ダ……」
478櫻嵐舞う ◆ELbYMSfJXM :2007/07/14(土) 22:36:31 ID:KhMcJFsr
 それからはよく覚えていない。
 腰を振るのを我慢できない自分に枝垂さんの喘ぎ声。
 ペニスを搾り取るような収縮感に後頭部を殴られたような衝撃が来て、虚脱感。
 3時限目終了のベルで我に帰ったから、実際は1.2分に過ぎないだろう。
 しかし終わってから長い間、つながったまま何も喋らずに抱き合っていた気がした。
 中出ししたのに真っ青になって謝ると、日にち位分かっているサ、と平然と返された。
――つーか、じゃ、思いつきでなかった?
「私ノ目に間違いハ無かったな。缶コーヒーでなくて良カッタ、壊れてしまウ」
「そりゃそーですっ、あるわけないですよっ!」
 はあ……と微妙な気分になりながら大急ぎで身支度をする。
「とりあえズ1回目はわかった。2度目3度目と変化を知っていかなければならナイな。
今回ハ君のをじっくり観察する余裕ガ無かったのガ腹立たしいヨ」
「……これからも、つーか、俺でホントにいーんですか? 嶺さんにはもっと……」
「私ハ何とも思わないが、君が気にスルなら、私にふさわしいと高遠が思う人間に、なればイイ。
ところで、名前で呼べト言っただろう。もう一度言ったら……」
「はっはい。し、……枝垂さん。じゃ、俺、夢あるんです。それを叶えるために、頑張ります――」
「助力は惜しまないガ、失敗したら殺ス」
「言ってることがめちゃくちゃです。脅迫ですよ」
「15、6年経てば少しは丸くナルかもしれないヨ? ……ああ、歩き辛いな、手を貸してクレ」
「すいません。でも、自覚あるなら直してください」
 決めるのハ私ダ、と眼鏡を掛け肩まである黒髪をさらりと払って、切れ長の目で見つめた。
つーか、やっぱ目ぇ据わってるし、食われたのって、俺?

***

これで埋まる?
ノリと勢いだけで書いた
失礼しました
479名無しさん@ピンキー
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   イ と‐┐┌- .,/               / ん )ヘ (   <⌒ へ  ト ノ
   ゝ,  ̄ ノ                 /   )/  \ヽ人 ⌒) )イムi )
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                      | ) (  n /彳ヲ/ミヲ   | ヘ
    ._                 イ(⌒) ヒ >    /  ( \ (彡ヘ          _
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    . ̄                                              ̄