おつカレー!
>>1 スレ立てお疲れ様です。
アク禁から復帰、久々の投下です。
前スレの埋めネタで書いたものですが、9KBを目指していたのに微妙に10KB超えてしまいました。
削ろうか迷いましたが、こっちに落とします。
前スレ埋めれなくてすいません。
注意!
今回はバカ話でもモテ話でもありません。怖い紫苑さまです。
奏ちゃんのイジメを紫苑さまが知ったらどうなるか、という話。
『釘を刺す』
舞台は異議申立書の件で、奏が中庭に連れてこられてイジメにあった直後。
瑞穂が奏をいじめから救い出した後、奏は泣き疲れて瑞穂に抱きついたまま眠ってしまった。
「……すぅ……すぅ…」
「奏ちゃん…」
瑞穂は身動きせずに奏を優しく抱きしめている。
「瑞穂さん、奏ちゃんを寮に送っていきましょうか。このまま午後の授業に出させるのは酷というものですわ」
紫苑がそう提案するのに瑞穂も同意する。
「そうですね。でも黙って授業を休むのは…」
「奏ちゃんの先生には何か適当な理由を考えて私から伝えておきますから」
「そうですか。宜しくお願いします」
「では瑞穂さんはこのまま寮に奏ちゃんを抱いていってあげてください。
私は奏ちゃんと瑞穂さんのカバンを取って参りますから」
「えっ、私もですか?」
「勿論です。今日は奏ちゃんの傍について慰めてあげてください」
「わかりました。それでは」
瑞穂は軽々と寝ている奏をお姫様抱っこで抱えると寮に向かった。
そして紫苑は校舎に戻る。
――1年E組の教室。
つい先ほど4時限目開始のチャイムがなり、廊下にいた生徒たちが教室に戻ってくる。
教師が来るまでまだ少し時間がある。
そこに青ざめた顔色の数人の生徒が教室に戻ってきて席につく。
中の一人は身体をブルブルと震わせながら机に突っ伏してしまっている。
彼女たちは、奏を中庭に連れ出したメンバー。
派手な目鼻立ちと行動で目立つ彼女たちは、この教室の中心的なメンバーでもある。
裕福な家庭の子女である彼女たちは、自分たちの行動を優先し、時に自分たちがクラス代表のようにに振舞うこともあり、
それゆえ、自分たちの行動がクラスメートたちに見られていることを常に意識している。
これまでにそういう学生生活を送ってきた彼女たちは、クラスメートたちの動向に敏感であった。
人気のある者、反感を持つ者、仲良くなる者、距離を置く者、裕福な家庭の者、普通の家庭の者。
そんな彼女たちの目に、奏は異質な存在に見えた。
そこから奏の『生い立ち』を嗅ぎ出すまでたいした時間はかからなかった。
自分とはあまりにもかけ離れた存在に、嫌悪する人間がいる。
その存在が弱者であれば、攻撃したくなるものも中にはいる。
何不自由なく、ぬくぬくと育てられてきた彼女たちがそうだった。
だが、寛容と慈悲の恵泉に、イジメなどは存在しない。
クリスチャンである教師も生徒もそのようなことを許しはしない。
だから彼女たちもそのようなことはしない。
すれば自分たちが自滅するのは理解している。
だから『無視』をする。
口を利かない。話しかけられても答えない。見えないものとして対処する。
そうした彼女たちの行動を見て、真似をする生徒たちも現れた。
奏の存在を故意に無視する。
クラスの3割ほどの生徒がそうしはじめていた。
だがクラスの大多数の生徒はそうした少数の生徒の行動を眉を顰めてみていた。
今回の異議申立ての一件は、そうした状態に火をつけた。
嫉妬心に煽られ、奏を無視し始めたクラスメートが激増したのだ。
これまで奏に同情的な立場をとっていた者たちも、距離を置くようになり、
他のクラスの生徒たちも奏に露骨に非難の視線を向けるようになった。
こうなると、奏と仲の良いクラスメートたちも奏に近寄りづらくなる。
奏とおしゃべりしているだけで、自分までも非難の視線をむけられるのだ。
教室で奏は孤立し始めた。
この状態になり、彼女たち『中心メンバー』の行動が徐々に大胆になってくる。
無視だけではない。
歩いていてわざとぶつかる。
本人に聞こえるように悪口を云う。
上履きにガラスを入れる。
だんだんとエスカレートし、そしてついに本日、奏を中庭に引きずり出す事態になった。
このメンバーが奏を中庭に連れて行ったことを、数人のクラスメートたちは知っていた。
このクラスメートたちはそれを止めることも、教師に報告することもしなかった。
今、教室に周防院 奏の姿はない。まだ教室に戻ってきていない。
そして奏を連れ出したメンバーたちが、青ざめた表情で席についている。
「どうしたの?」
隣の席の生徒が彼女たちに小声で尋ねる。
だけど彼女たちは軽く首を振って答えなかった。
机に突っ伏していた生徒から小さく嗚咽が聞こえる。
どうやら泣いているらしい。
その様子に周りの生徒が気にし始める。
(どうしたのでしょう?あの方たち)
(そう云えば周防院さんがまだ帰ってきていませんわ)
(先生がもうすぐいらっしゃるのに…)
教室がざわつき始めた時、教室の後ろの扉がガラリと開いた。
クラスメートたちは奏の姿を想像して、振り向いたがそこに居た人物は違っていた。
長身、腰まである長い黒髪、見惚れるほどの美貌。
新入生たちは一瞬、誰なのか判断できず視線を向けたまま硬直してしまった。
「失礼します」
紫苑の挨拶に教室の一番後ろの席にいる受付役の生徒がかろうじて声を絞り出す。
「十条紫苑さま」
その言葉に教室中の生徒がハッと我に返る。
十条紫苑、学院中の生徒が知っている名前。
勿論、新入生でさえ知らない者はいない。
まさに学院のトップスターのひとり。こんな一年生の教室の後ろのドアから入ってくるような人ではない。
皆の頭に『光臨』という文字が浮かんだ。
「どなたかに御用でしょうか?」
「授業が始まる直前にお騒がせしてすみません。周防院 奏さんの席はどちらでしょうか?」
その言葉に、メンバーたち全員の身体がビクッと震える。
机に突っ伏していた生徒も嗚咽が止まる。
「周防院さんはまだ戻ってきていません。理由は分かりませんが」
「良いのです。奏さんは本日、早退しますので私がカバンを取りにきたのです」
紫苑が優雅な微笑を浮かべたまま、そう答えた。
「えっ!?」
ざわざわと静かにざわめきだす教室の中、紫苑は奏の机の場所を聞いてそこに向かう。
(何故!?)
(紫苑お姉さまが何故!?)
(奏さんは、あの人は一体なにをしているんでしょう?紫苑お姉さまにこのようなことをさせるなんて)
驚きや奏に対しての好意的でない言葉が極小のボリュームで囁かれているが、
紫苑はそれを聞こえていない様子で机の横にかけてあるカバンを手に取った。
普通の人なら到底、聞こえないくらいの超小声なので本当に聞こえていないのかも知れない。
瑞穂だけでなく紫苑にまで可愛がられているらしいという事実を知って、嫉妬心が高まったのも仕方がないのかも知れない。
……しかし…
紫苑は教科書を取り出そうと机の中に手を入れ、動きを止めた。
やがてゆっくりと机の中から腕を戻した。
その手に握られているのはバラバラになったシャープペン。
その他、ボールペンも分解されている、消しゴムはちぎられている。
何者かが奏の筆箱を机の中にぶちまけた上に、このようなことをしたのだ。
そしてそのことを、紫苑は瞬時に悟った。
紫苑は机の上にそれらを並べると、丁寧に筆箱の中に仕舞い始める。
その光景をみて凍りつく教室。
幾人かの生徒は一気に青ざめ表情が凍りつく。
「私がカバンを取りに来たのは奏さんが私の妹同然だからです」
紫苑は仕舞い込む作業をしながら、顔を下に向けたまま、誰に対するとも無く話し始めた。
その紫苑の表情に微笑みは無かった。
紫炎
「エルダーである瑞穂さんの妹なら、前エルダーの私にとっても妹も同然。おかしな道理でしょうか?」
そう云って紫苑は顔を上げ、教室をぐるりと見渡した。
厳しい視線。
皆、言葉もない。
特にメンバーや今、顔色を変えた生徒たちはとても直視できず顔をそむけてしまう。
その顔をそむけた生徒たちの前で紫苑の顔は止まった。
「私の大事な妹、奏に良くしてくださり本当に有難うございます。今後も宜しくお願いしますね。
奏は本日、気分が優れないので早退しますが、明日からはまた普通に登校しますから」
何ということもない紫苑の話。
しかし、一部の生徒にとっては聞くのが耐え難いほどの苦痛。
傍から見ても分かるほど動揺している生徒もいる。
「例え本人が何も云わなくても全てわかるのですよ。この学院内での人間関係は」
そう云ってちらりと教室の一番後ろの席をみる。
受付嬢はクラスにくる人間を把握している。
全クラスの受付嬢が集まれば、学院内の人間関係は丸裸にされる。
そしてその元締めと目される人は、瑞穂と紫苑の親しい友人である。
「妹が苦しいとき親切にしてくださった友人の方、今後も仲良くしてください。
残念ながらそうではなかった方……明日からの行動に期待させて頂いて宜しいでしょか?」
紫苑はそこで言葉を切ると、カバンを持ち上げた。
顔をそむけたまま硬直している生徒がいる。
涙目になってガクガクと震えている生徒もいる。
「それでは失礼しますね」
カバンに教科書と筆箱を詰め込んだ紫苑は後ろのドアに向かう。
その時、教室の前のドアが開き次の授業の教師が入ってきた。
「あら、貴女は…」
「お邪魔しております、先生。このクラスの周防院 奏さんが早退しますのでカバンを受け取りに参りました」
「そう。担任に報告していくように」
「はい」
紫苑はドアを開き教室の外に一歩踏み出した。
そこで教室の中に振り返り、いつもの気品ある微笑を浮かべながらお辞儀をした。
「私の妹、くれぐれもよろしくお願いしますね。失礼しました」
ピシャン!
ドアが閉まった。
静まりかえったままの教室。
「……私の妹?十条さんに居たかしら…」
教師が首をかしげていた。
この日、放課後までこのクラスは紫苑の残留する存在感が教室を支配していた。
メンバーの生徒たちがクラスの中心的存在から外れたことは全員が理解した。
同様にクラスの形勢が大きく変化したことも全員が理解していた。
奏を責めていたメンバーや一部の生徒たちの内、二人がこの日、昼休みで早退し一人が保健室で寝込んでしまった。
逆に、奏に同情を寄せていたクラスメートや仲の良い友人たちは、今回のことを心から喜んだ。
――寮にて。
「あれ、紫苑さんも早退してきたんですか」
「ふふ。奏ちゃんが気になって。初めてサボタージュというものに挑戦してみましたわ」
瑞穂の部屋で起こったことの事情を聞く紫苑。
「そうでしたか」
「はい。私がもっと気をつけていればこんなことには」
「瑞穂さん。人には限界があります。何でも自分の力でできると思ったら間違いです。
でも今日は瑞穂さんが頑張ったから、きっと明日からは今日のようなことはありませんわ」
「そうでしょうか」
「そうですとも」
そう云って紫苑はニッコリと笑う。
その時、奏が目を覚ました。
「あの、ここは…」
「私の部屋よ」
奏から生い立ちを聞く瑞穂と紫苑。
「奏ちゃん、瑞穂さんと私が奏ちゃんの家族になっては駄目かしら」
「えっ?」
「頼ってほしいの、奏ちゃんに。一人で強く生きようと思う心は立派ですが、実際、一人で生きていけるほど人は強くはありません。
私たちの大切な奏ちゃんをせめて私たちが守りたいのです。頼りない姉たちかも知れませんが、頼ってほしいのです」
「そ、そんな…良いのですか?…本当に、奏なんかのお姉さまになってくださるのですか?」
「もちろん。奏ちゃんだからですよ」
ぽろりと涙をこぼす奏を紫苑がギュッと抱きしめる。
奏の顔に、リボン色のような眩しい笑顔が溢れた。
Fin
お粗末さまでした。
イジメに対して釘を刺すどころか、ぶっとい杭を打ち込んでいきました。
L鍋さん久しぶり、お疲れ様。
とてもいい話でGJです。
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
奏を囲んで家族っていうと、父と母と子に見えてしまうよ
>>21 お姉さまが母、紫苑さまが父ですね、わかります。
25 :
M釜:2008/09/24(水) 13:02:36 ID:kgBZVLtgO
前エルダーと現エルダーを敵に回したのが誰かはすぐにわかってしまった。
げに恐ろしきは、受付嬢ネットワークの力。
彼女達中心人物たちは逆に無視をされ、学校を中退せざるをえなくなった。
めでたし?
>>19 お帰りなさいL鍋さん!
L鍋さんの紫苑さまでお茶目系じゃないのは珍しいですね。
相変わらず理不尽な程の無敵っぷりですがw
前スレの続きも楽しみに待ってます!
GJ!&お疲れ様でした
27 :
みどりん:2008/09/27(土) 11:17:43 ID:8+XblFch0
>>1 遅くなりましたが、スレ立てお疲れ様でした。
L鍋さん、前スレ、このスレ、両方ともGJです!
これからもお互いに頑張りましょう!
シンデレラへのステップの続きです。よろしくお願いします。
いつもの鏑木家の夕食の光景。そこで僕たちは、会話を交わしながら夕食を食べていた。
「由佳里ちゃん、ダンスのことだけど、まだ決心がつかないのか?」
「……いえ、決心はついてます」
父さまの質問に、由佳里は決まり悪そうに答えた。
「そうか。ついに決心したか。なら、スポンサーには私がならせてもらうから、安心したまえ」
「由佳里ちゃんでしたら、きっと世界に名を轟かせることができますよ!」
父さま、義母さまに続き、奏ちゃんも嬉しそうに言う。
「いえ、ですから……」
「由佳里ちゃんのダンスの実力は、もうすでに瑞穂さんに勝るとも劣らないですからねえ」
「ええ。それどころかもう僕の実力はとっくに超えているからね」
初めて会った時は由佳里が僕を慕ってなついてくる形だったけど、あの時はまさか色々な面で
由佳里が僕を超えた存在になるなんて、夢にも思ってなかったからな。やっぱり嬉しいな。
〜由佳里編APPENDIXU シンデレラへのステップ Part3〜
「でも由佳里も、やっとダンスの大会に出る決心をしてくれたんだね。僕も婚約者として鼻が高いよ」
夕食を終え、由佳里と奏ちゃんと3人で部屋に戻る途中、僕は由佳里に話しかけた。
「あの、瑞穂さん、そのことですけど……」
「どうしたの?」
由佳里が歯切れが悪そうに言う。どうしたんだろう。
「私、ダンスの大会に出る気、ありませんから」
「ええっ!?」
「どうしてですか?」
由佳里の言葉に、僕も奏ちゃんも驚いた。
「今の由佳里の実力なら、負けることはないと思うよ? それに、仮に1回戦で負けるようなことになっても、
恥ずかしいことじゃないんだから……」
「違うんです!」
「え……?」
「負けが怖いわけじゃないんです。ただ、私がダンスを始めた理由、わかりますか?」
由佳里にそう言われて、僕は思い返した。
「……そういえば、僕が由佳里に、自信を持つようにってことで教えたんだったっけ。
でも本格的に習い始めたのは、僕の妻として恥ずかしくないように……」
「そうです。私がダンスを習う理由は、それだけですから」
「由佳里ちゃん、もったいないですよ。あれだけ上手なのに……」
「奏ちゃんの言うとおりだよ。きっかけなんてどうでもいいじゃない。
由佳里ほどの才能の持ち主が、それを埋もれさせておくのは惜しいよ!」
「でも、ダンスの大会に出ると、そのパートナーは……」
そうか……ダンスは1人では踊れないもんね。パートナーになるのは……。
「僕……になるわけか。でも、由佳里のレベルに合う人を見つければ、その人と……」
「ですから、それがイヤなんです」
「由佳里……」
どうしてここまで拒否したがるんだろう? 単純に自信がないだけかと思ってたけど……。
「私は瑞穂さん以外の人と踊りたくありませんし、百歩譲ってそのことを気にしないとしても、競技ダンスの大会に
出るということは、それだけ真剣にダンスの練習だけに打ち込まなければならなくなるってことでしょう?」
「まあ……そうなるね」
「それってつまり、瑞穂さんと一緒にいられる時間も、ほかの瑞穂さんのために自分を磨く時間も
少なくなってしまうんですよね」
なるほど、由佳里は僕と一緒にいられる時間。僕のためにお料理とかその他の腕を上げる時間が少なくなるのがイヤだったのか。
そこまで僕のことを想ってくれてるんだな。それはとても嬉しい。とても嬉しいけど……。
「でも由佳里、僕はそれでも由佳里に大会に出てほしいと思うよ。少しぐらい一緒の時間を削られても、
それに一生懸命打ち込んでる姿は、やっぱり素敵だと思うもの」
それに、僕のためにせっかくの才能を埋もれさせてしまうのももったいないしね。
ダンス教室の先生の話じゃ、由佳里は20年に1人いるかいないかの逸材だそうだし。
「ありがとうございます。でも、やっぱり私はダンスで記録を残すより、瑞穂さんと一緒にいたいんです。
自分の気持ちに、ウソはつけませんから」
由佳里は、そう言って自分の部屋に戻った。でも、20年に1人の逸材だと言われてるのに、惜しいな。なんとかならないかな。
「奏ちゃん」
「なんですか、お姉さま?」
「奏ちゃんはどう思う?」
僕は、奏ちゃんに由佳里のことについて、意見を聞いてみることにした。
「由佳里ちゃんのことですか? 由佳里ちゃんの気持ちもわかりますけど、
やっぱり私としては、勇気を出して大会に出てほしいと思います」
「そうだよね。僕もそう思うよ。奏ちゃん、僕はもう1度由佳里を説得してみるよ」
「お姉さま……」
「僕も由佳里には絶対大会に出てほしいからね。じゃ、おやすみ、奏ちゃん」
「お休みなさい、お姉さま」
こうして、僕は自分の部屋に戻った。
翌日、僕は奏ちゃんと2人で由佳里を説得した。だけど、由佳里はなかなか首を縦に振らなかった。
「でも、それで由佳里の才能が発揮できるなら、僕はむしろ鼻が高いし、
少しぐらい会えなくても、他のことがおろそかになっても我慢できるから!」
それを聞いた由佳里は、嬉しそうな、でも少し悲しそうな表情をしてから言った。
「……わかりました。瑞穂さんがそこまでおっしゃるのでしたら、大会に出ます」
「ホントに!?」
あれだけ渋っていた由佳里が折れてくれた。そう思った直後……。
「ただし、条件が1つありますけど」
「条件?」
「はい、その代わり、瑞穂さんが女性服のモデルとしてデビューしてください! それが条件です」
「なっ……!?」
僕は由佳里の出したあまりにも過酷な条件に固まってしまった。
「お姉さまが、女性服のモデルとして……」
一方奏ちゃんは、それを聞いて電流に打たれたような感じになった。
「な、なんで僕が……」
「だって瑞穂さんがおっしゃったんですよ? せっかくの自分の才能の芽を刈り取ってしまうのはもったいないって」
……確かに由佳里を説得する時そう言ったけど。
「瑞穂さんのお美しさは、女性服のモデルにぴったりです! 瑞穂さんには、モデルの才能がおありなんですよ。ね、奏ちゃん」
「そうですね……お姉さまがモデルになれば、トップモデルの座も夢ではないと思います……こうしてはいられません」
奏ちゃんはそう言うと、先に自分の部屋に戻っていった。
「由佳里……僕が女装するのは大嫌いなの知ってるでしょ!?」
「でも、瑞穂さんには女性服のモデルの才能があるって、聞かれた全員が答えると思いますよ?
せっかく才能をつぶしてしまうのはもったいないって、ご自分で実践しないと説得力がないですよ?」
うっ……確かにそう言ったけど……。
「でも、やりたくもないことを無理やり押し付けられても……あっ……」
そこまで言った僕を、由佳里が勝ち誇った目で見る。
「おわかりになりましたか? 才能だけを理由に、やりたくもないことを押し付けられても、
本人にとっては迷惑に感じることも、苦痛になることもあるんですよ」
「……ううう……由佳里、ずるいよ……そんなこと言われてしまったら、反論のしようがないじゃないか……」
「はい、ずるいですよ。私はまりやお姉さまの妹ですから」
す ねた態度をとって見せた僕に、由佳里は僕の顔を覗き込んで、そうおどけて見せた。
「もし他にやる事がなければ、ダンス1つに打ち込むのも考えたかもしれませんけど、
私には瑞穂さんのお嫁さんとして必要な能力を伸ばす方が、はるかに大事ですから」
「はあ……」
僕は思わず色々な気持ちを込めてため息をついてしまった。
「どうしたんですか、瑞穂さん?」
「なんか、由佳里に申し訳ない気持ちになってしまって」
「どうしてですか?」
「だって、陸上にしてもダンスにしても、せっかくのありあまる才能を全部僕がつぶしてしまっている気がして……」
それを聞いた由佳里は、プッと噴き出す。
「何をおっしゃってるんですか、陸上もダンスも、瑞穂さんがいなければ才能をのばすどころか、
それに気づくことも、楽しむことさえできなかったんですよ? ですから、瑞穂さんが気にする必要はありませんから」
って、確かにあのままなら、由佳里の言うとおりになってたかもしれないけど……。
「そういうものなの?」
「はい、そういうものですよ」
こうして結局、僕は逆に由佳里に言いくるめられてしまった。でも、由佳里の選んだ道なら、それはそれで仕方ないかな……。
プルルルルル……プルルルルル……。
僕が部屋に帰ってすぐ、携帯が鳴っていた。
「はい、鏑木瑞穂です」
『聞いたわよ瑞穂ちゃん! いやあ、お母さんは嬉しいよ』
この声はまりや? いったい何を言ってるの?
「誰がお母さんだよまりや。それに嬉しいって、何が嬉しいの?」
『またまたとぼけちゃってえ。でも大丈夫よ。あたしがついてるから、瑞穂ちゃんなら大成功間違いなしよ』
意地悪そうな声。でも僕には、まったく心当たりがない。
「とぼけてなんかないよ。いったいなんのこと?」
『奏ちゃんに聞いたわよ。瑞穂ちゃん、女性服のモデルとしてデビューするそうじゃない』
「……え?」
僕は固まってしまった。どうしてそうなっちゃうの?
『あたしも俄然やる気が出てきたわよ。瑞穂ちゃんに似合うデザインを徹底的に追及してあげるわよ。
将来は世界トップモデルのデザイナー兼ステイリストとして立派にコーディネートすることになるんだからね』
ガーン!!
「将来は女性服の世界トップモデル」
ううう……僕の人生……というか人間終わっちゃったのかも……。
『じゃあね。瑞穂ちゃん』
ガチャッ……ツー……ツー……。
「ううう……僕の人生……僕の人生……お先真っ暗だよお……!!」
そして翌日……。
「いやあ瑞穂、まさかおまえが女性服のモデルとしてデビューすることになるとはな。
由佳里ちゃんと2人で世界の頂点に君臨する日が来るとな。父親として鼻が高いよ」
「私も、お2人の義母として鼻が高いですわ」
「私も、妹として鼻が高いです」
「………」
予想はしてたけど、僕がモデルとしてデビューするという誤報は、すでに父さまと義母さまにも伝わっていた。
どちらから聞いたのかは知らないけど。
しかも父さま、父さままで僕がそれで世界の頂点に立つなんて屈辱を決めつけないでほしいんですけど……。
朝食の時は父さまと義母さまと奏ちゃんの3人で話が盛り上がって、とても誤解を解くきっかけは作れなかった。
「奏ちゃん、ちょっといい?」
「はい?」
朝食後、僕と由佳里は誤解を解くべく、奏ちゃんを呼び止めた。
「どうしたんですか、お姉さま?」
「奏ちゃんは僕が女性服のモデルとしてデビューすると思ってるようだけど、僕はそんな気全然ないから」
「ええーっ!?」
僕がそう言うと、奏ちゃんは愕然とした。
「だ、だって、お姉さまは絶対に由佳里ちゃんをダンスの大会に出すつもりだとおっしゃってましたし、
由佳里ちゃんはお姉さまに女性服のモデルになる条件を出していましたのに……」
なるほど、それで誤解したのか……確かにそうは言ったけど……。
「だから、それで僕もあきらめたんだよ……自分の価値観の押し付けは間違いだって気づいたから」
「そ、そんな……」
「だいたい、奏ちゃんも僕が女装するのは大嫌いだって知ってるはずでしょ?」
「あ……」
僕がそう言うと奏ちゃんははっとした。僕が女装するのは半ば当たり前になっているのかな……なってるんだろうな……。
「そういうわけだから、奏ちゃんの方からもまりやお姉さまとご家族の方に、誤解を解いておいてね?」
「あの、すみません……昨日紫苑お姉さまと会長さんにも話してしまいました……」
「………」
僕は、その言葉に脱力せざるを得なかった。
「奏ちゃん、本当にいいの? 誤解ぐらい僕でも簡単に解けるけど」
「私の早合点が原因ですから、責任は自分で取ります」
その日、奏ちゃんは紫苑さんと貴子さんの誤解を解くべく、僕たちと一緒に翔耀大学に行くことになった。
手続きを済ませると、僕と由佳里と奏ちゃんで、手分けして紫苑さんと貴子さんを探すことになった。
それからしばらくして……。
「お姉さま、由佳里ちゃん、大変です!」
「どうしたの? 紫苑さん達を見つけた?」
僕が再び由佳里や奏ちゃんと合流した時、奏ちゃんが血相を変えてそう言ってきた。
「違います! 由佳里ちゃんがとんでもないことになっているんです!」
「とんでもないこと?」
僕が聞くと、奏ちゃんはあの後、由佳里と2手に別れた直後のことを話しだした。
奏が由佳里と別れた直後、近くにいた女生徒たちがヒソヒソ話をしていた。
「ほら、あれよ、上岡由佳里って」
「ああ、鏑木くんの恋人の……?」
「淑女ぶってるけど、一皮向けばただの小娘じゃない。鏑木くんも、あんなののどこがいいのかしら?」
「騙されてるだけじゃないの? ま、そのうち別れるわよ」
「………!!」
それを聞いた奏は、3年前のリボンの時に自分が受けた数々の嫌がらせを思い出した。
(このまま由佳里ちゃんがいじめられたら大変です! 早くお姉さまに知らせないと!)
「そう……そんなことが……知らせてくれてありがとう」
奏ちゃんの話を聞いた僕は安堵した。由佳里もそういう顔をしている。
「ありがとう。でも、そんなのほっとけばいいよ」
「紫苑さんたちも言ってたよ。うらやましいからそう言うんだって」
「でも、3年前の私みたいに、由佳里ちゃんがいじめを受けたら……」
その時の気持ちを実際に体験している奏ちゃんの心配ももっともだな。
「大丈夫だよ。僕も最初は頭に来てたけど、由佳里が言わせておけばいいって。
それに、その時になったら僕もちゃんと対策をとるから」
「はい。私も、お姉さまを信じます」
よかった。僕の言葉に、奏ちゃんも落ち着いたようだ。
「あ、それと……」
「それと?」
奏は、それからもその女生徒たちの話に耳を傾けていた。
「それより聞いた? 鏑木くんが、女性モデルとしてデビューするって」
「聞いた聞いた。写真集とか発売されたら、絶対買わなきゃね」
「どれだけ色っぽくなってるのかな?」
「今まで見たことないくらいじゃない? すっごい楽しみ♪」
「……というわけで、お姉さまがモデルになるという話が、一般の生徒の方にも広がっているようです」
「………」
そういえばここに来るまでも、期待してるぜとかなんとか、色々言われたっけ。このことを言ってたのか……。
「も、もう間違った噂が広まっているなんて……」
僕は、もう泣きたい気分になった。
「でも、ここまで早く噂が広まるなんて……」
紫苑さんを問いただしてみよう……。
「紫苑さん!」
僕がテラスで話していた貴子さんと話していた紫苑さんを見つけると、大きな声でそう呼んだ。
「あら瑞穂さん、おはようございます」
「おはようございます、瑞穂さん」
「おはようございます……それより紫苑さん、まさか僕が女性服のモデルになるなんてデマ、広めたんですか?」
「まあ、奏ちゃん!」
むぎゅっ。
紫苑さんは奏ちゃんにふらふらと歩み寄ると、抱きしめる。
「はややっ!」
「まさか、こんなところで奏ちゃんを抱きしめられるとは思いませんでしたわ」
「紫苑さん、僕のデマを広めたんですか?」
「はあ……やっぱり奏ちゃんの抱き心地は最高ですわ」
「ですから紫苑さん、僕の話を聞いてください!」
「奏ちゃんを抱きしめていると、もう何も見えなく、何も聞こえなくなってきますわね」
「紫苑さん、わざと無視してるでしょう!」
「あら、わかっていました?」
紫苑さんが奏ちゃんを抱きしめたまま、こちらに向き直って言った。
「紫苑さあん……」
「瑞穂さんの推測どおり、私たちが皆さんに話しました」
紫苑さんに代わって、なんと貴子さんが答えた。
「た、貴子さん?」
「はい、私たちが話しましたわ。吉報は早い方がいいと思いまして」
貴子さんに続き、奏ちゃんを放した紫苑さんが答える。
「き、吉報って……いや、それより、せめて本人に確認してから……」
「あら、それでは否定されてしまって、無意味になってしまいますから」
……全部計算ずくですか。
「えっ……そ、そんな……」
一方由佳里は、いつの間にか電話していた。
「どうしたの、由佳里?」
「まりやお姉さまです」
由佳里はそう言って僕に携帯を手渡した。ちょうどいい。まりやに奏ちゃんの早合点だと説明しよう。
「まりや、ちょっと話があるんだけど」
『どうしたの、瑞穂ちゃん?』
「奏ちゃんが僕が女性服のモデルになるって言ってたことだけど……」
『瑞穂ちゃん、あたし今、女性服のデザイナーとして、ものすごく意欲が湧いてきてるのよ。
まさか大切な幼なじみの夢を追う気力を削ごうなんてこと、言わないわよね?』
「くっ……」
電話の向こうから、まりやの意地悪そうな顔と「瑞穂ちゃんの性格はお見通しよ」という声が見えた気がした。
「そ……そんなわけないでしょ? デザインの勉強頑張ってね」
『ありがと瑞穂ちゃん。他に何もないなら、あたしはこれでね』
「うん。それじゃ」
プツッ……。
「みんなひどいよ……」
「あら、モデルになる気がないのでしたら、正直にそうおっしゃってくださってかまいませんわよ?
私たちの早合点でしたと説明して謝罪いたしますから」
「瑞穂さんは何も心配いりませんわよ。私たちの信用が少し崩れて他の皆さんががっかりなさる。
“ただそれだけ”の話ですから」
紫苑さんと貴子さんが笑顔で言う。
「な……なんですか……その真綿で首を絞めるような脅迫は……」
「あら、私はただ事実を述べたまでですわよ?」
「………」
よく言うよ……そう言えば僕が断れないのわかってて……。
結局、モデルの仕事を1度だけやることでみんな妥協してくれた。
「もう、由佳里が変な条件出すから、とんでもないことになっちゃったよ」
夕方、家に帰った僕は、由佳里にそう言ってすねてみせた。
「ご、ごめんなさい。私もまさかああなるとは予想してなかったですから」
由佳里は慌てて僕に謝ってきた。とはいえ、僕は本気で怒っているわけじゃない。
ムリに自分の望みを由佳里に押し付けようとした自分も悪いんだから、半分は自業自得だ。
「ふふっ、冗談です。怒っていませんから」
「えっ……?」
僕が由佳里のおでこをつん、と言うと、由佳里はきょとんとした。
「あの時由佳里はああ言うしかなかったですから。奏ちゃんのせいでも、ましてや由佳里のせいでもない。
それはわかっていますよ」
「もう、瑞穂さんの意地悪」
由佳里は頬を膨らませた。とはいえ、口調からこっちも本気で怒ってないのはわかる。
言わば、他愛もない冗談でじゃれあってるだけだ。
「でも、ちょっと見たかったな。瑞穂さんのモデル姿」
由佳里が小声でそう言った。僕に聞かせるつもりはなかったんだろうけど……。
「じゃあ、由佳里の前でだけ見せてあげようか? 僕の女装姿」
「えっ……いいんですか?」
「ちょっと意地悪しちゃったお詫び。それに女装は嫌いだけど、由佳里が喜んでくれるなら、
由佳里だけが見てくれるなら、それも悪くないかなって」
自分で何を言ってるんだ……とも思う。僕もだんだん由佳里に毒されてるのかな?
「あ、ありがとうございます……えへへ、瑞穂さんのモデル姿は、私だけのもの……なんですよね。すごいいい気分です」
「何言ってるの。心も、身体も、由佳里だけのものだよ」
「もう、瑞穂さんったら」
こうして、ダンス大会に端を発した一連の騒ぎは、意外な形で結末を迎えたのだった。
To be continued……
ここで一区切りです。あと2回続く予定です。
なんか連投禁止時間が増えてるような……。
今回は由佳里ENDで語られていた内容を書いてみました。大体こんな感じかな……?
それでは、今回はこれで。お目汚し失礼いたしました。
44 :
みどりん:2008/09/28(日) 23:15:50 ID:CD0quDeX0
ロミオとジュリエット
〜薫子編〜
後日談(当日談?)
今日は学院祭です。瑞穂と貴子も後輩の発表や展示を見に来ています。
「貴子、ロミオとジュリエットだってよ。あの薫子ちゃんがロミオをやるみたい」
「そうですか。去年の劇を思い出しますわね。懐かしいですわ」
「あれからまだ1年しか経っていないんだね」
「そうですわね。あれから色々ありましたわ。あなたとこんな関係になるなんて夢にも思いませんでしたわ」
「そうだね。女通しのはずだから……」
「うふふ………ですが、今日のあなたは去年同様お美しい女性ですわ」
「……あんまりそう言われても嬉しくないんだけど……」
「ねえ、折角だから劇を観て行きませんか?」
「そうだね」
瑞穂と貴子は薫子の劇を観に行きます。
そして、観劇中………
「きょ、去年の私達はあんな感じだったのですわね………」
「そ、そうだね……何か客観的に観ると恥ずかしいね」
「え、ええ……」
二人は手を繋ぎ、心持ち顔を赤くして観ています。もう、ロミオとジュリエットのラブラブの雰囲気が劇場を支配しています。自分たちもこんな風に愛を振りまいていたのだと思うと、なかなかに気恥ずかしいものです。
劇が終わってから、瑞穂と貴子は薫子を労いに行きます。
「薫子ちゃん、ご苦労様」
「あ、瑞穂お姉さま、貴子お姉さま、ごきげんよう。観に来て下さったのですね」
「ええ。とても素晴らしい劇でしたわ」
「本当に……」
「去年のロミオとジュリエットにそう言っていただけると嬉しいです」
「お二人の愛が伝わってくる感じがいたしましたわ」
「ええ、実は……ジュリエットとは本当に愛し合っていますから……」
薫子は顔を赤らめながら答えます。
「へえ、そうなんだ………」
「それはよかったですわね」
45 :
みどりん:2008/09/28(日) 23:16:58 ID:CD0quDeX0
「奏お姉さまに、お二人も劇を通じて急に親しくなっていったとお伺いしたのですが……」
「ま、まあ……そうかもしれませんわね」
「そ、そうだったかもしれないね……」
「他にも貴子お姉さまのことを色々伺ったのですよ。初めて聞くことばかりだったので驚きました」
「そうですか。どのようなことを仰っていましたか?」
「ええ、もともと貴子お姉さまは冷徹な方だったとか、学校の規則ばかりを遵守して融通が利かない人だったとか……」
「そうですか……」
貴子の眼がきらりと光ります。
「あ、貴子お姉さま、気を悪くなさいましたか?」
薫子が貴子を気遣って言います。
「いいえ、全然そんなことありませんわ。もっと奏さんが話した内容をお聞かせ願いますか?」
「ええ、他にはリボンが校則違反だと指摘されたことなども話してくださいました。その時の貴子お姉さまは本当に鬼のように恐ろしい感じがしたと仰っていました」
「ええ、ええ。他にはどんな話をされていましたか?」
貴子はにこにこしながら、話を促します。
「ええ。それからリボンの校則違反のときは、他にこんなこともあったと仰っていました――――――」
調子に乗った薫子は奏に教えられたことを事細かに貴子に伝えました。
「そうですか。色々話して下さったのですね。どうもお話ありがとうございました」
薫子の事情聴取を終えた貴子はにこやかに去っていきました。瑞穂は心なしか貴子と距離をとっています。
46 :
みどりん:2008/09/28(日) 23:18:20 ID:CD0quDeX0
貴子は奏を探しに行きました。そして、丁度演劇部に出演する奏を発見しました。
貴子は瑞穂と二人で演劇部の劇を見て、それから奏に会いに行きました。
「奏さん、ごきげんよう」
貴子が明るく奏に声をかけます。
「あ、貴子会長、お姉さま、ごきげんよう。見に来て下さったのですね」
奏は貴子と、後ろに立っている瑞穂に挨拶をしました。
「ええ、素敵な劇でしたわ。来年の部長は奏さんで決まりですわね。それどころか、エルダーも夢ではありませんわ」
貴子はにこやかに話します。
「いえ、そんなことありません」
奏は恥ずかしそうに顔を赤らめます。
「これからも演劇部頑張ってくださいね。
ところで、奏さん、あなた薫子さんに昔の私の事を"色々"、"詳しく"説明してくださったのですね。薫子さんに伺いましたわ。どうもありがとうございました」
貴子はにこやかに……本当ににこやかに話します。
「あ………」
奏の顔は今度は一気に蒼白になっていきました。
「それで、それについて少し私達"二人"でお話をしたいと思いまして。
じっくりと……
時間をかけて………」
奏は蛇に睨まれた蛙のように、身動き一つ出来ません。頼みの瑞穂は、既にどこかに消えています。奏の運命や如何に?
おしまい
47 :
みどりん:2008/09/28(日) 23:27:54 ID:CD0quDeX0
L鍋さん、東の扉さん、GJでした。
本作投稿所に寄稿したのですが、まだまとめリストに登録されておらず、ここに書けるようになったので移動しました。
元あった場所は中国雑技団……失礼、中国故事シリーズ 蛍雪を入れておきました。
ロミオとジュリエット〜京花編〜も登録したいのですが、東の扉さんの感想にもあるように、書いている最中に禁止・規制がかかってしまいそうで少し不安です。
近日登録予定ですので、よろしかったらご笑納ください。
それでは、また。
48 :
みどりん:2008/10/03(金) 22:53:00 ID:jaEyHNoN0
ロミオとジュリエット
〜京花編〜
作:シェ・クスピア
訳:みどりん
七々原薫子。
いやな女(ひと)。
茉清様と親しくして私に嫉妬させたかと思えば、街で私を助けて私の心を虜にする。
それだけじゃない。
フェンシングで凛々しいお姿を見せ付けて、私の心を鷲掴みにする。
もう、私の心は薫子さんから離れられない。
でも、あの女の眼は決して私を向かない。
いつもあの女の眼は奏お姉さまを見ている。
奏お姉さま。素敵な方ですものね。
・ ・ ・
はぁ………
どうして、私が奏お姉さまに嫉妬しなくてはならないのかしら?
これも薫子さん、あなたのの所為。
あなたはこれだけ私の心を弄んで、そして私を無視する。
本当にいやな女。
あなたと出会わなかったら、どんなに平和な高校生活を送れたことでしょう。
でも、現実にはもう彼女と逢ってしまっている。
あなたがもう少し私を見てくださったら、もっと幸せな高校生活が送れるのに。
お願い、もう少し、私を見て。
私はマリア様に祈る。
………
………
………
49 :
みどりん:2008/10/03(金) 22:53:34 ID:jaEyHNoN0
駄目よね。
祈っただけでものごとが改善するなら、世の中平和よ。
天は自ら助くる者を助く、ですものね。
………こんなことをキリスト教信者の振りをしている者が言ってもいいのかしら?
まあ、キリスト教系の学校に通っているだけで、信者じゃないからいいわよね。
さて……
どうすればいいかしら?
どうすればきっかけが得られるかしら?
あなたとお話をする時間を増やす…………
今でもやっているけど、あなたはいつも聞き流すだけ。
全然私の声に心を傾けてくれない。
だから、もっと他の……他の何か。
何か私たちの心の距離が縮まるもの。
あなたが心を私に向けてくれるもの。
そんなものがあればいいのだけど………
そういえばもうそろそろ学院祭の季節ね。
クラス委員だから、クラスをまとめていかなくてはならないのよね。
まあ、ほとんどの人は協力的だから意見をまとめればあとは進んでいくと思うのだけど。
私たちのクラスは何になるのかしら?
喫茶店か模擬店が妥当なところでしょうね。
スタンダードですものね。
スタンダールはフランスの小説家。
赤と黒。
あれはいい小説ね。
何回も読み返したわ。
スタンダースはラトビアの石鹸会社。
あの石鹸はいいわ。
しっとりしていて、素朴な感じで。
入浴剤もいいわね。
フランダースは犬の故郷‥‥
・・・ごめんなさい、つまらない駄洒落を考えてしまったわ。
50 :
みどりん:2008/10/03(金) 22:54:14 ID:jaEyHNoN0
スタンダードよ、スタンダード。
石油の会社じゃないわよ。
映画とか劇とかも面白いと思うのだけど、そんなに自分たちを前面に押し出したい人はあまりいませんものね。
音楽もいいかもしれないけど、クラス全員で、となると合唱か合奏か、といったところかしら?
ちょっと学院祭には合わないわよね。
展示は当日は楽だけど、テーマ選定と調査が大変そうだし。
つまらないテーマを選んだら、いかにも素人の報告になってしまうし、かといって難しいテーマでは調べるのも大変だし、それに来てくださった方が興味を持たないですものね。
去年の学院祭を見学した感じでは、劇は大体どれもよくできている気がしたわ。
全部でどの位劇があったのかしら?
なかでも、あの生徒会主催の劇は素敵だったわ。
何かみているだけでうっとりとして、そして劇に引き込まれていく雰囲気があったわ。
そして、あのロミオとジュリエット。
本当にお二人の愛が伝わってきた気がしたわ。
私もあんなふうに愛を感じたいわ。
そう、薫子さんと一緒に。
でも………
………………
……………………
?
出来ない理由なんか何も無いじゃない!!
そうよ、劇をすればいいのよ!
どうして今まで気がつかなかったのかしら?
愚かな私。
劇をしたら、少なくとも劇の間は薫子さんは私を見てくれる。
劇が終わったら………それでおしまいかもしれない。
それでもいいじゃない。
今よりは二人の間が親密になることには違いないもの。
そうとなったら、行動あるのみ。
まずは下調べをしておかないと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
51 :
みどりん:2008/10/03(金) 23:01:00 ID:jaEyHNoN0
よかった。去年使った大道具も衣装なんかの小道具も大体残っていて、使う予定も無いんですって。
だから、自分たちで準備しなくてはならないのは、大小の道具の補修と、去年の衣装で寸法が全然違う人用の衣装作り。
それから、背景なんかは使い捨てのものもあるそうだから、それは書かないとならないらしいわ。
でも、案外簡単にすみそう。
そして、これが台本。
……少し長いわね。
でも、プロンプを使うことも出来るみたいだし、なんとかなるでしょう。
確かクラスに演劇部の人もいたから、彼女に指導をしてもらいましょう。
まあ、大体全員去年の劇を見ているから、雰囲気だけなら誰でも知っていると思うのだけど、指導となるとまた少し違うでしょうから。
あとは、どうやってクラスの出し物を劇にしていくか……なんだけど…………
変な工作はしないほうがいいような気がするわ。
みんなあの劇の素晴らしさは覚えているでしょうから、あれを自分たちでできるとなったらきっと賛成してくださいますわ。
薫子さんは、絶対反対するでしょうけど、他の生徒全員が賛成すればやってくれそうな人ですものね。
配役は、ロミオ=薫子さん、ジュリエット=私、それから……あとはどうでもいいわ。
あ、マキューシオは茉清さんがよさそうね。
男っぽい役柄でしたものね。
それに、実はロミオより格好いいのではないかしら?
それなのに、どうして私は薫子さんに胸ときめかせているのかしら?
本当に、薫子さん、あなたはいやな女です。
他の役はホームルームで皆に決めてもらいましょう。
いいわよねぇ、この台本。
キスシーンが一杯。
あ……ぞくっとしちゃう。
薫子さんとキスしたらどんな感じかしら?
しっかり私を護ってくれるかしら?
うふふ、今から楽しみ。
って、まだ劇にするかどうかも決まっていなかったわ。
まずは、みんなの意見を劇に向かわせるのが大事よね。
薫子さんと茉清さんを前面に押し出したら、きっとうまくいくわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
52 :
みどりん:2008/10/03(金) 23:04:56 ID:jaEyHNoN0
今日はとっても嬉しい。
思ったとおりみんなが劇に賛同してくれたから。
みんな去年の劇を思い出してうっとりした表情になっていたものね。
本当に私たちもあんな雰囲気の劇にしたいわ。
クラスの気持ちはとても高まったから、もう気持ちは十分。
あとは練習して、その気持ちを舞台で表現できるようにすればいいのだけど。
あ、薫子さんは別。
がっくりしていたもの。
少し可哀想。
でも、きっと私たちならうまくいくわ。
何かそんな気がするの。
もっと私をみて、私を護って。
そうすればきっと二人の愛が観客に伝わるわ。
去年の劇の雰囲気は、きっと瑞穂お姉さまと貴子お姉さまの愛が私たちにも伝わってきたのよ。
それを感じて私たちはうっとりとしたんだわ。
だから、私と薫子さんの愛があれば、きっと観客をうっとりさせることが出来るわよ。
まあ、最低限の劇の技術はいると思うんだけど。
さあ、練習を頑張りましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
可笑しい。
薫子さん、こちこち。
機械じゃないんだから。
小学生だって、もっとスムーズに読めるわよ。
もっと肩の力を抜いて。
ほらね、演劇部に指摘されるでしょ。
みんなくすくす笑っているわ。
マキューシオに向かって台詞を言うときは、茉清さんの方を向かないと。
それに、薫子さん、台本が逆さまよ。
……………
え?………
53 :
みどりん:2008/10/03(金) 23:06:24 ID:jaEyHNoN0
もう、覚えているの?
す、すごいわね。
奏お姉さまの特訓を受けていたのかしら?
私も頑張らなくては……
折角薫子さんと競演できるのですものね。
ジュリエットに話しかけるときは私を見るのよ。
って、言ってもまだ全然そんな余裕は無いみたいだけど。
もう少ししたら変わるわよね。
何か楽しみ。
どんなロミオとジュリエットになるのかしら?
早く演じてみたいわ。
練習が終わると薫子さん本当に疲れた感じ。
少し励ましてこないと。
話しかけているんだから、話している人をみてよ、って思うんだけど、そこまで疲れたの?
魂が抜けたみたいになっているわ。
悪かったかしら、こんな劇につき合わせて。
まあ、今日疲れたのは最初の練習だからよ。
きっと、大丈夫。
………何も根拠が無いけど。
薫子さん、今何を考えているのかしら?
頭の中を覗けたら面白いのに……
脳内メーカーで薫子さんを調べたら
疲疲疲疲
疲疲疲疲疲疲疲疲
疲疲疲疲疲疲疲疲疲疲
疲疲疲疲疲疲疲疲疲疲
疲疲疲疲疲疲疲
疲疲疲疲
とかでてくるのかしら?
54 :
みどりん:2008/10/03(金) 23:08:45 ID:jaEyHNoN0
七々原薫子
秘秘秘秘
秘秘秘秘秘秘秘秘
秘秘秘秘秘秘秘秘秘秘
秘秘秘秘秘秘秘秘秘秘
秘秘秘秘秘秘
秘秘秘秘
ヒヒヒヒヒ……お、可笑しすぎるわ。
お腹が……お腹が痛い……
薫子さんって、そんなにもミステリアスな女性だったのね。
道理で惹き付けられるわけだわ。
でも、もっと私に薫子さんの内面も見せてもらいたいのだけど。
そうしたら、私たちの距離が縮まるわ。
……ね。
ところで、私の脳はどうなのかしら?
大谷京花
愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛愛愛
愛愛愛愛
……だって、薫子さんを愛しているのだもの。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
55 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:00:36 ID:jaEyHNoN0
だんだん練習がハードになってきたわね。
台詞だけじゃなくて、動きも交えなくてはならないし。
動きを考えると台詞がおろそかになるし、台詞に集中すると動きが止まってしまうわ。
役者って大変なのね。
まあ、だからこそ役者の職業があるのでしょうけど。
薫子さん、相変わらず固いわね。
もっと普通にしないと、違和感あるわよ。
それでも、台詞は前に比べると普通になってきたわ。
さて、私の出番。
動きと台詞を同時にこなして……
薫子さんが私の手を握る。
ごつごつしていて堅いのね。
剣道をしているのですものね。
一生懸命練習しているのでしょうね。
だから、フェンシングでも勝てたのですよね。
………薫子さん?どうしたの?
じっと私を見つめている。
そんなに見られたら緊張しちゃう。
薫子さん、急に力が抜けて自然になった感じ。
本当にどうしてしまったのかしら?
それに……あん……そんなに気持ちを込めて抱きしめたら、私、私、昂奮してしまうわ。
あぁ……
だめよ、薫子さん。みんなが見ているわ。
もっと、薫子さん。私はあなたを感じたいの。
矛盾した気持ちが私の中にある。
薫子さんの台詞が私の心に響いてくる。
本当に、急に薫子さん変わってしまったわ。
ジュリエットを見て、ロミオが演じているみたいに。
私のジュリエットもそれに答える。
そう、こんな感じがよかったのよ、去年の劇は。
二人の愛が観客に伝わってきたもの。
56 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:02:26 ID:jaEyHNoN0
今でもこんなに二人の心が響きあっているのに、キスなんかしたら……
あ、薫子さんの唇が近づいてくる。
軽く触れて、そしてすぐに去っていく。
薫子さん、顔が真っ赤。
私もきっと真っ赤。
そして、もう一度薫子さんの唇が近づいてくる。
軽く触れて……違うわ、しっかりと、しっかりと口づけをして、しっかりを私を抱きしめて……
あぁぁ……だめ、力が抜けちゃう。
駄目よ、頭を押さえたら……
早く離れて……
ほら、演劇部も言っているでしょ?もう、離れなさいって……
はぁ……はぁ……
………
……
ぼうっとしている。
私、台詞はちゃんと言ったのかしら?
薫子さんもぼうっとして私の前に立っている。
そして、何かいいたそうに、でも何も言わないで帰っていってしまった。
どうしたの、薫子さん。
どうして、今日はあんなに情熱的だったの?
どうして、それなのにあっさりと帰っていってしまったの?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
薫子さん、あれからいつも情熱的に私に接している。
でも、劇の中だけ。
劇が終わると、いつもさっさと帰ってしまう。
なんなの?
私にあんなに情熱的に迫って、そして逃げ帰るって酷いんじゃない?
私の心の炎をより激しくしておいて、それなのに逃げるって、ほんとうにいやな女。
前にもましていやな女。
そして、前にもまして私の心を惹きつける。
57 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:03:26 ID:3upbqjXb0
でも、何か変。
何かわだかまりがある、そんな感じだわ。
何かしら?
私が何か悪いことをしたのかしら?
お互い知らないことが多いですものね。
それを私に言ってくださらないと。
………
と、何日か思っていたのだけど、今日の薫子さん、また何か変わった気がする。
劇の前から私に声をかけるなんて、初めてじゃないかしら?
それに、劇でもないのに私の手を握るなんて……
恥ずかしいわ。
演技も前にもまして自然になった感じ。
自然に私を抱きしめる。
自然に私にキスをする。
本当の恋人みたい。
うれしい、薫子さんとこんな関係になれるなんて。
練習のあとも楽しそうにお話しする。
私の声をしっかり聞いてくれる。
私と一緒に楽しんでくれる、悲しんでくれる、怒ってくれる。
ああ、薫子さん、好きよ。
大好き。
一緒にお買い物に行きましょう。
一緒に遊びに行きましょう。
一緒に……そうそう、今度お家に泊まりに来てください。
きっと、もっと仲良くなれますわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほ、本当に泊まりに来ると、緊張しますわね。
家族と食事をして、話をして、お、お風呂も一緒……
服を脱いでいるところは見ないでくださいね、恥ずかしいから。
58 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:04:33 ID:jaEyHNoN0
私も見ませんわ。
薫子さん、スレンダーな体。
どこに、力が入っているのかしら?
腕も細くて、とても剣道をしているなんて思えない。
それに比べて、私はふわふわな体で……
あっ、いやっ……裸で抱きしめられたら……ああぁん〜〜……
キスまでするなんて……
はぁ……はぁ……体を洗わないと……
え?洗ってくれるの?
ああぁぁ……はぁ……はぁ……気持ちよすぎる……
だめ!そんな恥ずかしいところ、洗わないで……中までなんて……あっあっっ……あああーーーっっ!!
お願い、恥ずかしいところがどうなっているか説明しないで……
恥ずかしすぎます。
さ、触らないで……
力が……入らない。
私も薫子さんを洗ってあげたいのに……
本当にひどい女。
私だけはずかしい思いをさせて、自分は自分で体をさっさと洗う……
そして私を見てにこにこしている。
嫌いです……
あ、湯船に二人はいるのは、少しきついのではないかしら……
ほら、こんなに体がくっついてしまう…………
そんなに体を密着させないで……
胸を揉まないで………
キスを……しないで……………
………
……
はぁ……はぁ……
ん………くぅ…………
あがりましょう、のぼせてしまうわ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
59 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:08:21 ID:3upbqjXb0
寝るのも一緒。
ベッドは一つ。
人間は二人。
二人一緒のベッドに入って顔を見合わせる。
にっこりと微笑む。
そして、昔の話や家族の話をする。
薫子さんの知らない面が色々分かってくる。
私の話も薫子さんにする。
そして、夜も遅くなって二人で眠る。
灯りをおとす。
唇が自然に近づく。
薫子さんの手が、私の寝巻きの中に入ってくる。
あっ……きもちいい……
お風呂より感じちゃう……
あっという間に私の服は剥ぎ取られる。
薫子さんのエッチ。
薫子さんも同じ姿にしてあげますね。
肌のふれあいが気持ちいい。
ああぁっっ……そこを舐めたらきたないわ……
……そんな……私の体にきたないところなんかないだなんて……
だったら、薫子さんも……
……ね……恥ずかしいでしょ……ああ……
ぅ……ん……はぁ……
あああぁぁぁぁぁっっっ………
ね、ねぇ、激しすぎるわ、声が家族に聞かれちゃう……
も……もう少し優しく……くっ……
っっ…んっ……ぅぅわあああああぁぁぁぁぁぁ………
………………
はぁはぁはぁ
………
はぁはぁ
……
60 :
みどりん:2008/10/04(土) 00:10:23 ID:3upbqjXb0
はぁ
……
はぁ
……
……
薫子さん、大嫌い……
優しくって言ったのに……
もう、私から離れたら駄目なんだからね…………
ずっと私を護りなさい。
罰よ、これは………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
劇は大成功。
やっぱり、主演が愛し合っていると、周りの人たちもそれに釣られて演技が自然になっていくのよ、きっと。
他の役者もロミオとジュリエットの世界に入り込んでいた感じだわ。
観客にもそれが伝わったみたい。
劇が終わった後、拍手喝采だったわ。
よかった、去年の劇の成功に泥を塗るようなことがなくて……
学院際が終わると、みんな日常に戻っていく。
私も薫子さんも日常に戻っていく。
一つ変わったことは………私と薫子さんの仲が親密になったこと。
ね♪
え?もう一つ変わったことがあるって?
何、それは………?
そうね、確かに私は丸くなったと思うわ。
昔みたいに誰かを攻撃したい気持ちがなくなってきたわ。
それは、私が愛を知ったからなのよ。
薫子さん、愛しているわ。
ずっと一緒よ。
おしまい
GJ!良いツンデレでした
管理人さんへ
みどりんさんの「ロミオとジュリエット薫子編後日談」は43でなく44からですよ?
あと、前スレの私の作品の「だから私がいる」の登場人物は瑞穂くん、紫苑さん、貴子さんの3人は伏せておいた方がよかったような……。
その時はそこまで気が回らなかったのでしょうが……。
次回更新時、修正をお願いします。
やっと追いついた
久しぶりにバカ話を投下します。ちょっと長いです。
『瑞穂の週番』
風紀委員と一緒に風紀監視をする週番が、来週、瑞穂に回ってくる。
恵泉女学院に転校して来て初めてである。
風紀委員たちは、瑞穂にどのような仕事をしてもらえば良いのか悩み、生徒会に相談した。
結果、一週間、朝の正門前での立番が良いだろうとのことになった。
そして月曜日
朝、早くから寮を出る瑞穂。
「行ってきます」
「瑞穂ちゃん、がんばってね。みんな、びっくりするわよ〜。朝、登校したら校門にエルダーがいるんだから」
まりやに励まされ、校門にやってくると、君枝と数人の生徒が待っていた。
「お早うございます。お姉さま」
皆、腕に週番の白い腕章を付けている。
瑞穂も受け取り、腕に腕章を付ける。
「生徒会からはいつも誰かが立会いという形で参加しているんです。今週は私ですのでよろしくお願いいたします」
そう云って君枝が頭を下げる。
「こちらこそ宜しくお願いしますね、君枝さん。何しろ週番なんて初めてですから」
「お姉さまは以前の学校で、週番をなさらなかったのですか?」
「ええ。前の学校では週番制がありませんでしたから」
「そうですか…でも心配の必要はありません。この学院の生徒は皆、礼儀正しい人ばかりですので校則違反も殆どありません。
ごく少数元気が良すぎる方がいらっしゃいますが」
「…そのごく少数というのが気になりますが」
「その方は寮住まいですので、校門チェックでは関係ありません。ご安心ください」
「は、はあ」
(喜んでいいのか悪いのか)
「お姉さまはここで皆に挨拶していただくだけで充分です。
お姉さまがここにいらっしゃるだけで、我々も気合が入るというものです」
君枝の言葉に、他の風紀委員たちもウンウンと頷く。
「そ、そうですか。では頑張って挨拶させていただきますね」
仕事は挨拶だけというのが、ちょっと肩透かしな感じがしたが、少し不安を感じていた瑞穂にとっては好都合というもの。
午前8時過ぎの正門。
部活練習以外の生徒の姿も徐々に増え始めてきた。
登校してくる生徒たちの姿を注意深く観察して、チェックする風紀委員と君枝たち。
そのぶしつけな視線に、多少、気分を害する生徒もいるだろうが、表面上は皆、にこやかに挨拶をして門を通り過ぎる。
それがいつもの風景。
しかし、今朝は瑞穂の姿がそこにある。
登校してきた生徒は皆、一様に驚いて足を止める。
「お早うございます」
エルダーから挨拶をされて、慌てて挨拶を返す生徒たち。
「おおお、お早うございますっ!お姉さま!」
ぼぅっと上気した顔で、幸せな気分で昇降口に向かっていく生徒たち。
――朝からお姉さまと言葉を交わせましたわ
――なんだか今日はとても良いことがありそうですわね
皆、上機嫌。
ごく稀に注意のために君枝たちに呼び止められる生徒もいたが、目の前にエルダーのお姉さまがいるのでニコニコの笑顔。
スムーズな流れが続いていた。
「お早うございます、瑞穂さん」
紫苑が登校してきた。
「お早うございます、紫苑さん」
瑞穂が挨拶を返す。周りの生徒たちも口々に挨拶をする。
「瑞穂さん、週番ご苦労様です。頑張ってますか?」
「ええ。仕事といっても私は皆さんに挨拶するだけなんですけどね。細かい仕事は、君枝さんたちがやってくれていますので」
「あらそうですか。ふふふ。挨拶も立派な仕事ですわ。これから一週間頑張ってくださいね」
そう云って通り過ぎかけた紫苑は、足を止めて瑞穂をじっと見た。
「な、何ですか?紫苑さん」
「瑞穂さん、リボンが曲がっていますわよ」
そう云って手を伸ばし、瑞穂の胸元のリボンの位置を修正する。
瑞穂と紫苑、二人の体が近づいて、瑞穂は照れて顔を赤くした。
「はい、これでよし。瑞穂さんは皆さんのお手本なんですから」
「あ、有難うございます。紫苑さん」
――ハア〜〜
周りでその様子を目撃している君枝や風紀委員や登校中の生徒たちから静かな溜息が漏れる。
――朝から良いものを見ましたね
――今日は本当にツイてますわ
「それでは瑞穂さん、お先に」
そう云って、今度こそ紫苑は玄関に去っていった。
瑞穂がふと、周りを見回すと皆がぼぉっとした表情で瑞穂を見ていた。
「ん?どうしたんですか、皆さん」
「えっ、いえ!何でもありません。ちょっと見入っていただけですので」
立ち止まっていた君枝たちが慌てて動き出す。
(…? 何を見入ってたのかな)
圭と美智子が登校してきた。
「おはようフェルプスくん。任務は順調のようね」
「お早うございます…って誰がフェルプスくんですかっ!?」
「お早うございます、瑞穂さん」
「美智子さん、お早うございます」
「今日から一週間、正門で瑞穂さんに挨拶してもらえるなんて楽しみですね。もしかして今週は欠席する生徒はいないかも」
「果たして一週間無事に勤め上げられれば良いんだけどね。…ふっ」
美智子の言葉に圭の意味ありげな発言。
ギョッとする瑞穂。
「ど、どう云う意味ですか、圭さん?」
「瑞穂っちに降りかかる苦難を我々は生温かく見守るだけなのでそのつもりで。任務の成功を祈ってるわ」
そう云うと圭はスタスタと歩き始めた。
「それでは頑張ってくださいね」
美智子もその後を追いかけて去っていった。
(……何だろう…凄く気になる…)
圭と美智子が登校してきた。
「おはようフェルプスくん。任務は順調のようね」
「お早うございます…って誰がフェルプスくんですかっ!?」
「お早うございます、瑞穂さん」
「美智子さん、お早うございます」
「今日から一週間、正門で瑞穂さんに挨拶してもらえるなんて楽しみですね。もしかして今週は欠席する生徒はいないかも」
「果たして一週間無事に勤め上げられれば良いんだけどね。…ふっ」
美智子の言葉に圭の意味ありげな発言。
ギョッとする瑞穂。
「ど、どう云う意味ですか、圭さん?」
「瑞穂っちに降りかかる苦難を我々は生温かく見守るだけなのでそのつもりで。任務の成功を祈ってるわ」
そう云うと圭はスタスタと歩き始めた。
「それでは頑張ってくださいね」
美智子もその後を追いかけて去っていった。
(……何だろう…凄く気になる…)
71 :
L鍋:2008/10/12(日) 21:50:06 ID:Laz8oYn/O
回線が激混みのようなので一旦中止します。
空いてる時間帯に続きを投下します。
すいません。
もう大丈夫なようですので続きいきます。
圭の意味深発言は、瑞穂の不安感を凄く煽ったが幸い(?)その後は何も起こらずに30分ほどの時間が過ぎていった。
午前8時半になると学院の正門は閉じられる。
変わりに横の小さな通用門が開かれて、以降に登校してきた生徒はここで遅刻届けを提出して中に入ることになる。
当然、シスターの説教付きである。
風紀委員たちが正門を閉め始めたとき、門の向うからひとりの生徒が走ってくる姿が見えた。
遅刻しないように必死で走ってきているのがわかる。
しかし、風紀委員たちはその姿を一向に気にせず、役目だとばかりに門を閉めていく。
そしてその生徒が正門の前まで来たときに、一足及ばずに目の前で門は閉められた。
直後、8時半を告げる予鈴が鳴り響く。
「そんなあ〜。お願いです、開けて下さい〜」
「駄目です。時間です。隣の通用門に回りなさい」
女生徒の懇願を撥ね退ける君枝。
駅から必死で走ってきたのだろう、まだ呼吸も整っておらず肩を大きく上下させていた。
服装もあちこちゆがんでいる。
「で、でも。あと数秒待ってくれていたら駆け込めたのに…」
「規則です。悪いのはこのようなギリギリの時間に登校してきた貴女なのです。明日からはもっと早く登校しなさい」
「……」
閉められた門の向うで半べそでうなだれる女生徒。
「――待ってください」
瑞穂が前に出てきた。
「お姉さま!?」
女生徒はここで初めて、瑞穂が週番であることに気がついたのだろう。
驚きの表情で見つめている。
「門を開けてあげて。君枝さん」
「お、お姉さま!いけません!例えお姉さまのご指示と云えども規則ですから!」
頑として撥ね退ける君枝の顔を瑞穂が困惑気に見つめる。
「君枝さん…」
「だだだ、駄目です!駄目です!規則です!」
そんな悩ましげな瑞穂の表情に、つい折れてしまいそうになる気持ちを必死に支える君枝。
周りの風紀委員たちはただぼけっと見ているだけだった。
「……そう」
瑞穂はふぅと息を吐くと、今度はキッと君枝を風紀委員たちを見つめた。
その雰囲気の変わりように、ドキッとする君枝たち。
瑞穂も校則は守るべきだということは分かっている。
遅れてきたこの娘が遅刻扱いになっても仕方ないことだと理解している。
だけどそれ以上に、目の前で門を閉められた不運なこの娘に同情していた。
「皆さん、規則とは何かということを考えて欲しいのです。規則は絶対に守らなければならないモノですか?」
「当然です!」
「何があっても絶対に?」
「…は、はい」
「私は校則というものは学生たちの守るべき指針を示したものだと思っています。
ですが絶対に守るべきものだとは考えていません」
「そ、そんな…お姉さま。では罰則なんてものは要らないとおっしゃるのですか!?」
君枝が愕然として聞き返す。風紀委員たちも、瑞穂が何を云い出すのかと驚いている。
「このような云い方だと語弊があったわね。御免なさい。
君枝さん、そして皆さん。規則とは違反者を作り出すために存在するモノでしょうか?」
「いいえ」
「では校則を守らせる立場の皆さんにお聞きします。校則とは生徒に対して、行動を監視し縛り付ける為のモノなのでしょうか?
それとも、行動を正しい方向に導くためのモノなのでしょうか?どちらだと思いますか?」
「それは勿論、正しい学生生活に導くためのものだと思います」
君枝が答え、周りの生徒たちも頷く。
「そうですね。私もそう思います。でしたら何故、走って登校してくる生徒の目前で門を閉めるのですか。
息を切って走ってくる姿を見れば、遅刻をするまいと考えていることが一目瞭然ではありませんか。
なにも何分も待てと云っているのではありません。
この生徒が門を通るまでのあと数秒、待つことも出来ないくらい規則は守らなければいけないのですか?
この子の気持ちを考えず、理由の如何を問わず、目の前で門を閉めてしまうことの何処に生徒たちを導く姿があるのでしょう。
その姿は私には生徒の行動を監視し縛りつけ、罰を与えるための作業に見えてしまったのです。
如何でしょうか、君枝さん、皆さん」
これを聞いて、皆、俯いてしまった。云い返す言葉も無い。
自分たちの行動が、冷徹に規則を押し付けているように聞こえる。
「偉そうなことを云って御免なさい。私も校則が必要なことも罰則が必要なことも分かっているつもりなんですよ。
ただ規則というものは性悪説を基として定められたものでは絶対にないとそう思っているんです」
君枝は無言で門に近づくと、正門を開けた。
「君枝さん…」
「お姉さまの仰る事に一理あります。私は性善説も性悪説も信じてはおりません。
ですがお姉さまの御言葉に我ながら慈悲と寛容が足りないことに気付きました。お姉さまの御心を察せず申し訳ありませんでした」
そう云って深々と頭を下げる君枝に瑞穂は近づいて、その肩に優しく手をかけた。
「そんなことはありません。私の我が儘を聞き入れてくれて有難う。貴女はとても優しい人ですよ、君枝さん」
「お、お姉さま…」
真っ赤な顔でモジモジする君枝。
瑞穂は正門の方を向くと、門の外で呆然と立っている娘に手招きした。
「さあ、入っていらっしゃい。ギリギリセーフですよ」
「……!」
おずおずと入ってくる娘。
瑞穂が自分のために、風紀委員たちを説き伏せてくれたことは理解している。
娘の瞳は感激で潤んでいた。
「お、お姉さま。ど、どうも有難うございます。なんとお礼を云えば…」
「必要ありません。貴女が遅刻すまいと走ってきたから間に合ったのです。
ただ次からはもう数分だけ、早く登校するように心がければ走らなくても間に合いますよ」
「…はい」
「さあ、早く教室に行きなさい。HRが始まってしまいますよ」
「はい。それでは失礼します、お姉さま」
「あ、ちょっと待って」
大きくお辞儀をしてから教室に玄関に向かおうとした娘を、瑞穂が呼び止めた。
走り出そうとして立ち止まった娘に瑞穂が近づいて、胸元に手を伸ばした。
「リボンが曲がっていますよ。それにほら、走ってきたから髪も乱れているし」
瑞穂は驚いて硬直している娘の胸のリボンを直してあげ、髪の毛も手ぐしで整えてやる。
「………」
「ハイOK!それでは行きなさい」
「あああああ、有難うございましたぁ〜〜」
娘は上ずった声で礼を云うと、フラフラと与太った足取りで去っていった。
「さてと、私たちもそろそろ…ん?」
瑞穂が振り向くと、こちらを見ながら口を半開きにして君枝と風紀委員たちが突っ立っていた。
「どうしたの、皆さん?」
さらに何か強烈な視線を感じて、校舎のほうを見てみると教室の窓に生徒たちが鈴生りに群がって、こちらをじっと見ていた。
「ひっ!!!」
その異様な風景に腰を抜かしそうになる瑞穂だった。
その日の選択授業の世界史の時間。
いつものように瑞穂の隣の席に貴子がやってきた。
何故だかそわそわしているようである。
「ごごご、ごきげんよう。お姉さま」
「ごきげんよう、貴子さん」
貴子が席に着く。
なんだかおかしな雰囲気が漂う。
「あの、貴子さん。どうかしましたか」
「えっ!?いいえ、なんにも」
「そうですか」
貴子が何だかこちらのほうを向いている。
そこで瑞穂が気がつく。
「貴子さん」
「はいっ」
「胸のリボンがちょっと斜めを向いてますよ」
「まあ、気がつきませんでした」
抑揚のない口調で返事をする貴子。
「「・・・・・・」」
お互い無言。
「えっと貴子さん。どうかしましたか?」
「・・・いいえ、何にもありませんわ」
そう云って貴子は自分で胸元のリボンを整え、ついでにミニサイズのブラシを出して髪を整えた。
「・・・・・・」
その間、無言。
瑞穂には何が何だか分からなくて、かける言葉も見つからない。
結局、あまり会話もないまま授業が終わり、貴子は赤い顔をしてあたふたと出て行ってしまった。
(……?)
瑞穂は首をかしげている。
廊下を意気消沈して貴子が歩いていた。
我ながら馬鹿のことをしてしまったと後悔している貴子。
そんな貴子の前に紫苑が現れた。
「あら貴子さん。どうかしましたか?」
「しし、紫苑さま!な、なんでもありませんわ」
「そうですか。何だかしょんぼりとなさっていたようですけど」
「い、いいえ!私はいたって健康です。なんら落ち込んでなどいません。急ぎますので失礼します」
内心を見抜かれたようで動揺しながらもそそくさと立ち去ろうとする貴子。
「そうですか。胸のリボンを瑞穂さんに直して貰いたい…」
貴子が立ち止まって、ドサドサと教科書を取り落とす。
「えっ…えっ…!?」
そんな貴子の様子を悪戯っぽい笑みを浮かべて見つめている紫苑。
「…という風に考えてわざとリボンを乱して瑞穂さんの周りをうろつく生徒が今日は多いようですが」
「そそそそ、そうですかっ!わわ私、気がつきませんでしたわっ!」
そう云いながら、貴子はあたふたと教科書を拾う。
「皆さん、朝のアレを見てましたからね。それで貴子さん…上手くいきましたか?」
ドサッ!
またしても教科書を取り落とす貴子。
「ししし紫苑さま!」
「その様子だと失敗だったようですね」
「そんなこと…私は…」
「瑞穂さんは鈍感な方ですから気付いてもらうのを待っていては駄目ですわ。口に出して云わないと」
貴子が弁解するのを相手にせず、全て心得ているように話す紫苑。
「………」
貴子もそれを悟り、もう何も反論しない。
「貴子さんにコレを差し上げましょう」
そう云って紫苑が差し出したのは、美しい装飾が施された小さなブローチだった。
「ブローチ?」
「少し早いですが御誕生日プレゼントということで」
そう云って微笑む紫苑だった。
昼休み、屋上に行こうとひとり廊下を歩いている瑞穂に貴子が近寄ってきた。
「おおおお姉さま!」
貴子の声がうわずっている。
「あ、貴子さん」
「わわわ私、お姉さまにお願いしたいことがあるのですが」
「はい?どんなことでしょうか」
近くを歩いていた数人の生徒たちが、何事かと足を止めてふたりに視線を向ける。
貴子はギクシャクとした動きでポケットをまさぐって、先ほど紫苑からもらったブローチを取り出した。
「ブローチ…ですね」
「はい。着けたいのですがピンが硬くて。おおおお姉さま、つつつ着けて頂けますでしょうかぁ」
顔が真っ赤で呂律がまわっていない。
しかし瑞穂はそんなことにお構いなしに気軽に引き受ける。
「いいですよ。どこに着けるのですか?」
「むむむ、むねっ!右胸のところに!」
「…胸ですか」
胸の位置と聞いて、瑞穂も多少躊躇う。
しかし、女性同士ならばこんなこともあるかと思い直してブローチを受け取った。
満足げな貴子。
たかがお姉さまにブローチを着けていただくだけ。
なのに何故こんなにも幸せな気分になるのか!
貴子の脳は既にトリップし始めている。
周りで見ていた生徒たちも今や固唾を呑んで見守っている。
エルダーと会長の世紀の瞬間を目に焼き付けようとしている者、携帯を取り出して構える者。
「あらぁ、何やってるのかしら〜?」
その時、乱入者が現れた。
「あっ、まりや…さん」
たまたま通りかかっただけだが、貴子にとっては不運としか云いようがない。
何か意味ありげに会話している瑞穂と貴子。
しかも貴子が顔を真っ赤にしているとなれば、ちょっかいを出さずにはいられない。
「貴子さんがこのブローチを胸につけて欲しいって」
「ふ〜ん。ブローチねぇ」
赤い顔の貴子をジロジロと見て、まりやはにやっと笑う。
「OK!じゃ、あたしがつけてあげますわ」
そう云って瑞穂の手のひらからブローチを奪い取った。
「あっ、ちょっとまりや…」
「まりやさん!貴女!」
瑞穂と貴子がとっさに声をあげる。
「これを貴子の胸につければいいのね。よし、うぅん、何だかピンが硬いわね」
両手で力ずくでピンを開けようとするまりや。
「えいっ!」
・・・パキッ!!
掛け声とともに変な音がした。
「ありゃあ、御免御免。ピンのところが折れちゃったわ。これ返す」
悪びれた様子も無く、にゃははと笑いながら貴子にブローチを放って返す。
「あああっ!ブローチがっ!」
「もっと良いブローチを差し上げますわよ、会長さん」
貴子の企みを潰して上機嫌なまりや。
「ああ、どうしたら…。紫苑さまから頂いたブローチ…」
「えっ!?」
まりやの笑顔が凍りつく。
「紫苑…さまから?」
「申し訳ありません、貴子さん。私が安物のブローチを差し上げたばかりに」
すぐ後ろから話しかけられ、ギョッとして振り返るまりや。
そこには、いつからいたのか紫苑が立っていた。
「私が貴子さんに差し上げた安物のブローチ、まりやさんが壊した私の安物のブローチ…」
「あ、いや、その、紫苑さま?ちょっと、あの…」
「そうですか、そうですか。私のブローチをまりやさんが…そうですか…」
そう云いながら紫苑は向うへ歩き去っていく。
「あ、いや、その、紫苑さま。ちょっと待ってください」
慌てて後を追いかけていくまりや。
「し、紫苑さま。喉が渇きませんか?紅茶飲みませんか?奢りますから!買ってきますから!」
「…レモンティーでお願いします。そうですか、ブローチをまりやさんが…バニラプリンが食べたくなりました…ブローチが…」
ガヤガヤ云いながら食堂のほうへ去っていく二人。
ブローチを手に持って、激しくがっかりとしている貴子に瑞穂が声をかける。
「あの、貴子さん?大丈夫ですか?」
「え?ええ、勿論。何の心配もありません」
動揺しているのか云っていることが噛み合っていない。
「いえ、そのブローチ。直りそうですか?」
「……残念ですがもう無理なようです。ピンの根元からポッキリと折れてしまっていますから」
「そうですか。御免なさい、貴子さん。大切なものを壊してしまって」
「お姉さまが御謝りになる必要などありませんわ。壊したのはまりやさんです」
「でも…まりやには後できつく云っておきます」
「良いのです。これも邪な了見を抱いた天罰ですから」
「え?」
「いえ、何でもありません。ブローチ自体はそれほど大事だった訳ではありませんからお姉さまもお気になさらなくて結構です。
それでは失礼しますわ、お姉さま」
そう云うと貴子は、肩を落としてトボトボと歩き去っていく。
瑞穂としては貴子にそう云われても、こんなにもガッカリとして歩き去る貴子をみると気にならずにはいられなかった。
生徒会室。
トボトボと貴子が帰ってくると、君枝が待っていた。
「会長、校内の風紀が乱れているのにお気づきでしょうか?」
「風紀の乱れ?」
「はい。具体的に云うと服装の乱れです。多数の生徒がわざとリボンタイを緩めたり髪を乱れさせたりして、
それを友人たちが直したりしています。そういう行為をして楽しんでいるんです」
「……」
「中には3-Aの教室の前まで行ってお姉さまを待ち構えている生徒もいます」
カランッ!
動揺した貴子が手に持っていたブローチを取り落とす。
「会長、何か落としましたが。…ブローチですか」
君枝が拾おうとする前に、慌てて掴み取る貴子。
「そそそ、それでどうしようと?」
「何らかの注意を呼び掛けたほうが良いのではと思いまして。
このようなことが流行りだしたそもそもの原因もハッキリしていますが、かといってお姉さまに何とかしていただくという訳にも…」
「と、当然です。お姉さまに何の責任があるというのですか。これは個人の問題です。
掲示板への貼り紙と風紀委員の巡回で対処しなさい。まだ校則違反とは云えない物ですが、見かけたら構わず注意指導するように!」
半ば八つ当たりのような厳しい貴子の指示だが、君枝にとってはキビキビとした天からの指示。
「分かりました。早速そのようにします!」
即、掲示板には風紀強化の貼り紙が貼られ、多数の風紀委員が巡回に出動した。
そして大勢の生徒が注意指導を受けた。
放課後、廊下をぼんやりと歩いている貴子の前にまりやが現れた。
「あらら、八つ当たりの会長さん。こんなところで何をたそがれてますの?」
「…なんですか、その八つ当たりと云うのは」
「アレよ、アレ。昼間のブローチのこと。
自分の企みが失敗に終わったからって急に風紀強化するのは八つ当たり以外何者でもないでしょ」
「そ、そのような理由で強化しているのではありません!」
「他人に美味しい思いはさせたくないと?」
「違います!」
「あんなお粗末な作戦、失敗して当然」
そう云ってせせら笑うまりや。
「……お粗末ですか?」
まりやの背後から声が聞こえた。
「そう、とってもお粗末…えっ!?」
慌ててまりやが振り返ると、そこには紫苑が立っていた。
「し、紫苑さま。いつの間に…」
「ブローチ作戦はお粗末でしたか。確かに幼稚な作戦に見えましたわね。あれでは狙いが丸分かり。
あれに気がつかないのは瑞穂さんくらいなものですわね」
紫苑がそう云うのに、まりやが恐る恐る話を合わせる。
「そ、そうですよね。ま、まあ貴子さんだから仕方ありませんよね」
「うふふふ」
「ほ…ほほほほほ」
共に笑いあう紫苑とまりや。
「うふふふ。あのお粗末極まりないブローチ作戦、貴子さんに薦めたのは私ですの」
「・・・・・・げっ!」
まりやの笑顔が凍りつく。
「そうですか、安物のブローチにお粗末な作戦。失敗して当然ですか、そうですか」
優しく微笑みながらそう云うと、紫苑はゆっくりと立ち去り始めた。
「そうですか、そうですか。私は発想力が貧困ですか、そうですか。失敗して当然ですか、うふふふふ」
「あ、いや、その、待ってください!紫苑さま!」
慌てて後を追いかけるまりや。
「お、お腹空きませんか?プリン、バニラプリン食べませんか?買ってきますよ?奢りますから!」
「……パフェが食べたくなりました、駅前の喫茶店で」
「うっ!?」
顔色を変えながら追いかけるまりや。
「あら、奏ちゃん。良い所に。これからパフェを食べに行きましょう。え、由佳里さんも一緒ですか?
もちろんOKですよ。えっ?お金?心配しなくても良いですよ。本日は食べ放題ですから」
「ひ〜〜っ」
そんな会話をしながら去っていく2人を、声もなく呆然と見つめていた貴子。
ハッと我に返る。
(それにしても…八つ当たり…)
貴子本人としては八つ当たりのつもりでは毛頭ない。
しかしまりやに指摘されて考え込んでしまった。
無意識の内に、他の人が瑞穂に構って貰えないようにしようと思ったのではないだろうか。
(いえ、そんなことはありませんわ!)
だが否定してみたところで、昼間のことを知っている人間からすれば、まりやの云うとおり八つ当たりに見えてしまうだろう。
そう考えて、貴子はさらに深く落ち込んでしまった。
その落ち込んでトボトボと廊下を歩いている貴子を、瑞穂が見かけて後ろから声をかけた。
しかし、貴子はそれが聞こえなかったのか、気がつかない様子で悄然とうな垂れたまま歩き去っていく。
瑞穂もそれを見て、それ以上声をかけようとしなかった。
次の日、火曜日の朝。
昨日と同じく瑞穂は、君枝や風紀委員たちと正門前に立っていたが、全員がオロオロと慌てていた。
時刻が8時半になろうかというのに、まだ全校生徒の内、100人以上の生徒が登校してきていないのだ。
「お、お姉さま。どう云うことでしょうか?」
「さあ…私にもさっぱり。……それで圭さん達は一体何をしているんですか?」
瑞穂は後ろを振り返って声をかける。
そこには、先ほど登校してきて教室に向かわずにその場に居座っている圭と美智子が居た。
「気にしないで頂戴。貴女はあたしの想像以上に活躍してくれているから」
「はぁ?」
「目が離せないとはまさにこの事」
「……」
圭が何を云っているのかさっぱり理解できない。
圭の横では美智子がニコニコしながら立っている。
どうやら圭が教室にも向かわず正門に張り付いているのに付き合っているらしい。
「どう云う意味でしょうか、美智子さん」
「さあ?圭さんの意味不明は今に始まったことではありませんし。あ、そう云えば駅前に大勢、生徒がいましたよ」
「へ?大勢?」
「100人以上いたでしょうか」
ドドドドドッ……!!
その時、あたりに地響きが鳴り響いた。
慌てて辺りを見回すと、校門の向うの通学路から黒い人だかり、恐らく数十人規模の集団が土煙を上げて走ってくるのが見えた。
「え!?えええぇっ!?な、なに!?」
呆然と立ち竦む瑞穂、君枝、風紀委員たち。
その時、8時半の予鈴が鳴り響いた。
……キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
はっと我に返った君枝が風紀委員たちに声をかけつつ、慌てて門に飛びつく。
だが、そうこうしている間に暴走集団は既に正門に到達しており、目の前にいた君枝、風紀委員を弾き飛ばして門の中に入ってきた。
「ふ〜。間に合いましたわね」
「ギリギリでしたわ」
「良かったですわね」
ガヤガヤ……
続々と走りこんでくる生徒たち。
その数は100人を超える。
「な…なっ!?」
あんぐりと口をあけて見つめる瑞穂。
弾き飛ばされた君枝たちも驚愕の表情で見ている。
瑞穂たちが呆けている中、生徒たちはお互いの服装の乱れや髪型を整えあっている。
「○×さん、リボンが曲がっていますわよ」
「…△△さん、髪がみだれていますよ」
ガヤガヤ……
君枝が打ちつけた腰を擦りながら瑞穂の横にやって来た。
「お、お姉さま。これはもしや…昨日の…」
「・・・・・・」
ワイワイガヤガヤと賑わっている正門前。
未だ走って駆け込んでくる生徒もいた。
時刻は既に8時半を回っている。
女生徒たちは服装を直しつつ、チラチラと瑞穂のほうを何か期待を込めた表情で視線を送ってくる。
(・・・私に何をしろと?)
「貴女たちっ!一体何をしているのですかっ!」
そう叱咤しながらきつい表情で貴子がやってきた。
騒ぎが一気に収まり、シンとなる。
「もうHRが始まりますわよっ!早く教室にお行きなさいっ!」
貴子がそう云って校舎を指差すと、皆は慌てたように瑞穂に挨拶してバタバタと玄関の方に向かいだす。
「君枝さん、正門を早く閉めなさい」
「えっ…でも…」
君枝が躊躇する。
未だ校門に到達しておらず、向うの方から走ってくる生徒がちらほらと見受けられる。
「構いません。わざわざ時間潰しをしてまで8時半に合わせて駆け込んでくるような者にお姉さまの慈悲は必要ありません。
そうですわね、お姉さま?」
「………」
貴子にそう云われて瑞穂も返す言葉がない。
「分かりました」
君枝は頷くと正門をガラガラと閉めてしまった。
間に合わず、目の前で正門を閉められてしまった生徒が10名程。
「開けてくださーい」
「お慈悲を〜」
門の向うでワイワイと騒ぎ立てる生徒たちに貴子がきっぱりと云い渡す。
「諦めて通用門に回りなさい。貴女方は遅刻したのですから」
「えー!そんなあー」
締め出された生徒たちは、救いを求めるように瑞穂の顔を見る。
瑞穂もその様な目で見られるととても辛い。
「あ、あの、貴子さん…」
「いけません!お姉さま。それは甘やかしというものです。
お姉さまのその優しさにつけ込んで、この子たちはこんな事をしているのですよ!」
「…で、でも…」
「お姉さま、そもそもの原因をお忘れですか」
「………」
考えるでもなく、昨日のアレだろう。
「どうやらお姉さまは他人に厳しく指導なさるのが苦手でいらっしゃるようですね。
…そうですね、申し訳ありませんがお姉さまの週番はこれで終わりということにいたしましょう」
「「「えっ!!!」」」
貴子の言葉にその場にいる全員が驚きの声を上げる。
「原因はともあれ、お姉さまが悪いわけではないのは分かっております。
しかしながら、お姉さまの優しさに甘えてこのような事がおこるのも見過ごせません。
申し訳ありませんが、お姉さまの週番はたった今、…まあ、良く云えば特別待遇で『免除』という事にいたしましょう」
呆然とする瑞穂や他の生徒たち。
貴子はまだ、門の外でぶうぶう云っている生徒たちに向かって云う。
「貴女たち!お姉さまの週番は終わりました。もう絶対にこの正門は開きません!早く通用門に御回りなさい、HRに遅れますよ」
事ここに至って門の外にいた生徒たちも諦めて通用門に向かっていった。
瑞穂はというと…
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ヽ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; , ´/ `´ ヽ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; l !ノノリ))ソ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; |!(l|TヮTノl| ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ノ, /i _i ノ_i リ .;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ( とんU )U ノ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
(・・・免除だなんて云っても・・・クビという事だよね・・・週番をクビになるなんて・・・)
激しく落ち込んでいた。
そんな瑞穂の後ろにやってきた圭。
やさしい笑顔で瑞穂に微笑みかける。
「…圭さん」
「見事だよ、フェルプスくん。あたしはもって3日だと思っていたけど、24時間とは想像を遥かに上回ったわ」
「うわぁぁぁん!!」
「あらあら、だめですよ。圭さん。さらに追い討ちをかけては」
そう云う美智子の顔も笑っている。
貴子が瑞穂の様子に気がつきやってくる。
「お、お姉さま、どうなさったのですか」
「原因は会長なんですけどね」
「え!?私?」
そこに更にやってきた人物がひとり。
「あらあら、皆さん楽しそうですわね」
「紫苑さま」
「皆さん瑞穂さんを弄って楽しんでますわね。私も混ぜていただこうかしら」
「弄ってなんて…そんな…」
生真面目に否定する貴子とは反対に、圭は頷いて肯定する。
「どうぞどうぞ。ほんと、瑞穂さんが来てからというもの退屈することがありませんから」
「全くですわね」
「ところで紫苑さまは何をしにここへ?」
美智子が訊ねる。
「あ、そうそう。もうHRが始まるので皆さんを迎えに」
「そうですか。それでは私たちも急いで教室に向かいましょう」
皆、ぞろぞろと玄関に向かう。
瑞穂もトボトボと後に続いて歩き始める。
「瑞穂さん」
紫苑がそんな瑞穂に声をかける。
「はい?」
「昨日おっしゃってましたコレを持って参りました。ちょうど貴子さんもいらっしゃることだし、お渡ししておきます」
そう云って紫苑が瑞穂に何かを手渡した。
「あら、何でしょうか?」
貴子が自分の名を紫苑に呼ばれて瑞穂の所に戻ってきた。
「昨日、瑞穂さんが私に、貴子さんに差し上げたブローチと同じものが手に入るかとお聞きになったので持って来たのです」
瑞穂の手のひらに乗っているのは、昨日の貴子と同じ模様のブローチ。
「有難うございます。紫苑さん」
ようやく笑顔に戻った瑞穂が紫苑に礼を云う。
「どういたしまして。さあ瑞穂さん。それを貴子さんに差し上げてください」
「ええ。貴子さん」
貴子の方を向く瑞穂。
「昨日のまりやの壊したブローチのお詫びといっては何ですけど、このブローチで許してくださいませんか」
「お姉さま、そんな…。もとより私は怒ってなどおりませんし…」
「そうですね。ただ私の気持ちとしてどうしても貴子さんにコレをお渡ししたかったんですよ」
そう云って瑞穂は微笑みながら、貴子の胸元にブローチを持っていく。
「え!?ちょ、お、お姉さま…」
「ちょっと動かないでください。貴子さん」
瑞穂は慎重に、そして丁寧に貴子の右胸にブローチをつける。
紫苑の持ってきた地味な色だがセンスの良いデザインのブローチは、貴子の胸にとても良く映えていた。
「はい、これでよし。…貴子さん?」
貴子は真っ赤な顔で硬直しており、失神寸前だった。
周りを見回すと、傍で紫苑がにこにこ顔で見ており、少し離れたところで圭が無表情に、美智子が驚いた表情で、
そして遠巻きに玄関に向かおうとしていた大勢の生徒が足を止めて呆然とコレをみていた。
一拍の後、
――きゃあ〜〜
――素敵素敵素敵〜〜
沸き起こる大歓声。
――美しいものを見ましたわ!
――会長とお姉さま!私、網膜に焼き付けましたわ
興奮する生徒たち。
――会長!会長!かいちょー!
錯乱する君枝。
「これは…もしかして…」
瑞穂が恐る恐る校舎のほうを向くと、
「…ひっ!?」
校舎の教室の窓には、昨日と同じく生徒たちが鈴生りになってこちらを見ていた。
中にはオペラグラスで覗き込んでいる用意の良い生徒もいる。
「う、うわあ…ま、また…」
蒼くなる瑞穂。
未だ硬直したままの貴子。
そんな2人を笑顔で見ている紫苑。
そして、紫苑を見ている圭と美智子。
「流石は紫苑さま。楽しみはまだまだ終わらせないつもりね」
「結局、キッカケは紫苑さまなんですね」
〜えぴろーぐ〜
校内で友人同士、ブローチをつけあう遊びが流行りだした。
校内の購買部や近くの雑貨屋でブローチが売り切れた。
校則に違反している訳ではないが、どうしたものかと君枝が貴子にお伺いをたてるが貴子としては、
自分が原因なのだから何も云うことが出来ない。
厳密には貴子ではなく、今回も瑞穂なのだが貴子の胸には今もブローチがついたままなので取り締まるつもりは毛頭なかった。
「くぅ〜、貴子の奴、うまいことやったわね」
ひとり悔しがる女、まりや。
「いや、貴子は紫苑さまに乗せられているだけか。全く紫苑さまは何のためにこんな事をするのやら」
その頃Aクラスの教室で、机に突っ伏して落ち込んでいる瑞穂がいた。
その横で笑いながら話しかける紫苑。
「あらあら、瑞穂さん。大変なことになってますわね。今回は風紀委員の取り締まりもなさそうですし。
どういたしましょうか、瑞穂さん」
瑞穂を弄って楽しんでいた。
どうやら目的は途轍もなく浅かったようである。
Fin
お粗末さまでした。
最近書くスピードが遅くてこんなものに2ヶ月もかかってしまいました。
ううっ、途中投下失敗。へこむ・・・。
GJ
なかなか面白かったです
L鍋さんGJ!
紫苑さま最強
GJ!
L鍋さんの壊れ話は大好物です
GJです!
L鍋さんの作品は遅さや投下ミスを補って余りある価値があると思いますよ!
ミスはその経験を次に活かせばいいということで。
これからも作品に期待しています!
それでは、シンデレラへのステップの続き、投下させていただきます。
「そういえば、由佳里ちゃんの初恋っていつだったんですか?」
ダンス大会騒動も一段落し、いつもと変わらぬ夕食の光景、ふと奏ちゃんがそう聞いてきた。
「奏ちゃん、どうしてそんなこと聞くの?」
「今日ふと聖央でまりやお姉さまが由佳里ちゃんと話してたことを思い出したんです。
あの後聞こうと思っていたけど、色々あるうちにすっかり忘れてしまって……」
「あ、ああ、うん、わかった。後で教えてあげるね」
由佳里は気まずそうに言う。だけど……。
「僕も聞きたいな。由佳里の初恋の話」
「俺も興味あるな。由佳里ちゃんの初恋については」
「私も聞きたいですねえ」
「あうう……」
結局、みんなでその場で聞くことになった。
〜由佳里編APPENDIXU シンデレラへのステップ Part4〜
「私の初恋はまだ広島にいた、小学6年の時の話ですけど……」
と言うと、僕が中学2年の時か……そう思って由佳里の話を聞いていた。
いたずらをして逃げている途中、きれいな女の人にぶつかり、一目惚れしたこと。
その人の荷物を拾うのを手伝い、後で落とした本に気づいて、翌日同じ場所で渡したこと。
「変ですね……その話、どこかで聞いたような気がします」
奏ちゃんはそうつぶやいていた。
僕は驚いた。それだけの符合の一致、ただの偶然であるはずがない。
「……あの時の女の子が、由佳里……?」
「えっ?」
「えっ……?」
みんなが、一斉に僕の方を見た。
「由佳里とそんな昔にも会っていたとはね……やっぱり運命の出会いだったんだね」
あれからしばらくその時の話で盛り上がった後、僕は由佳里に誘われて彼女の部屋に来ていた。
「そう……ですね。まさか私の初恋の人が瑞穂さんだったなんて……なんだか嬉しいです」
由佳里は照れるような仕草で僕を見ながら言う。
「僕もだよ」
「瑞穂さん……」
そう言うと、僕と由佳里はしばらく見つめあった。
「そう言えば、まりやが持ってこいって言ってたあの本、一体なんだったのかな? まりやは教えてくれなくて……」
僕はふと思い出して聞いてみた。
「レディースコミック……でした……」
由佳里はそれに対し、言いづらそうに細々と教えてくれた。なるほど、まりやが教えないわけだ。
「まさか由佳里、それで僕がそういうものを読んでると思い込んで、それが原因でえっちになっちゃった……とか?」
聞くと由佳里は、真っ赤になってうつむいてしまった。図星か……。
なんだ、結局由佳里がそうなったのって、半分はまりやのせいじゃないか。あとで釘を刺しておかなきゃ。
「そういえばまりやから聞いたけど、僕が転校してきたとき僕の入ってるトイレの隣で1人でしてたの、由佳里だって……」
「なっ……!」
由佳里の反応を見れば、まりやの推測は正しかったことは明らかだ。
「ひょっとして、その時もう僕のことを考えてしてくれてたの?」
「だ、だって、昨日瑞穂さんみたいな美人と再会……して、お弁当届けて『ありがとう』って笑顔でお礼を言われたら、
我慢できなくなっちゃいますよお……」
由佳里は真っ赤な顔のまま、恥ずかしそうに言う。
「そっか。僕が転校したばかりで、女の子としての生活に慌てふためいてた時、
由佳里はもう僕でする程、僕のことを想ってくれてたんだね」
由佳里の反応の全てがすごく可愛い。そして由佳里がそこまで僕のことを愛してくれてたんだってわかって、すごく嬉しい。
「そうだ!」
「な、なんですか?」
僕が思いついたお願いを言うことにした。
「由佳里が1人でしているところ、僕に見せてくれないかな?」
「えっ!?」
僕が甘えたような口調で言うと、やはり由佳里は真っ赤になって驚いた。
「うん。だって、今まで由佳里とは何度も肌を重ねてるけど、1人でするところは見たことないから。
由佳里がオナニーしているところ、見たい」
それを聞いた由佳里は、ベッドの上で枕を抱いて縮こまってしまった。
「ど、どうしても、ですか?」
「うん。どうしても」
「で、でも……1人でする時って、ただでさえ結構乱れてるのに、瑞穂さんに見られながらだと、
瑞穂さんに愛想尽かされるぐらい乱れちゃうんじゃないかって……」
半泣きになりながら、そう言う由佳里。僕が安心させてあげなくっちゃ。
「ねえ、由佳里前に僕のこと、『男でも女でも変態さんでもいい』って言ってたでしょ?」
「あ、はい……」
「僕も同じだよ。僕だって由佳里のこと、悪女でも毒婦でも変態さんでもいいから。だから見せてくれないかな?」
「そ、そこまでおっしゃるなら……でも恥ずかしいから、向こう向いててもらえますか?」
「わかりました。これでいい?」
僕が後ろを向くと、由佳里が服を脱ぐ音が聞こえてくる。心なしか、もう呼吸が乱れてるような……。
「み、瑞穂さん……はあ……も、もういいですよ……」
由佳里に言われて振り向くと、可愛い下着をはいた由佳里が、卵形のバイブを持って立っていた。
「すごく可愛いよ、由佳里」
「はあはあ……じゃ、じゃあ……はあ……始めますね」
そう言うと、由佳里は股間にバイブを押し付ける。
「ちょっと待って、その前にやりたいことがあるから」
僕はそう言うと、大急ぎで自分の部屋からDVDに録画できるカメラを持ってきた。
「そ、それは……?」
「うん。由佳里のオナニーを撮影したくて。それがあれば、離れてる時でも、おかずに使えるから」
「そ、そんなの恥ずかしすぎますよお……」
僕が言うと、由佳里は可愛らしく首を横に振っていやいやした。
「わかったよ。じゃあムリにとは言わないよ。離れてる時は適当に他のDVDから見繕っておかずにするから」
僕はもちろんそんなつもりはない。だけど、それに対して由佳里は予想通りの反応を見せた。
「そ、そんなのダメですう……私のえっちなとこ撮影していいですからあ、それだけは勘弁してくださいよお……」
由佳里は甘えた口調でお願いしてきた。その嫉妬と甘えが心地いい。
「あはは。わかりました。じゃあ撮影始めるよ。僕だけのポルノ女優さん」
おどけてそう言うと、それまで全身を小刻みに震わせていた由佳里が、びくんとなってOKのサインを出し、
カメラをベッドに向けて設置すると再びバイブを股間に触れさせた。
「あっんっ……くうっ……瑞穂さんが、私のいやらしいとこ、真剣に見てくれてるう……ふぁっ……」
僕に見られてるというだけで、そこまで感じ方が強くなるのか。それが嬉しい。そして、そんな由佳里がとても可愛い。
「あっあっあ……ふうんっ……瑞穂さんが見てくれてると、くっつけてるだけでイっちゃうかも……はあっ……」
「ねえ、電源入れて動かしたら、どのくらい感じるのかな?」
「………!!」
僕が言うと、由佳里はびくっ、となったかと思うと、スイッチを持ってるほうの手を胸まで持っていって、
ぎゅっとしている。ひょっとして、もう心臓が爆発しそうなのかな?
由佳里はなんとか呼吸を整えると、すうっと深呼吸をし、次の瞬間スイッチを入れた。
「ふぁあああああんっ!!」
そう叫ぶと、由佳里は身体中を激しく動かして悶えている。僕はそんな由佳里に釘付けになった。
「やあんっ!! 前にやってた時より、ずっと感じちゃううんっ!!」
必死に快感に耐えている由佳里が、しばらくすると僕のほうを向いた。
「み、瑞穂さあんっ!! ど、どうですか? 私のオナニー……あふううん!!」
「う、うん。乱れてる姿が、可愛くていやらしくて、すごく素敵だよ、由佳里」
僕は素直に思うままの感想を言った。
「ふぁああんっ!! 嬉しいいん!! 瑞穂さんが私のすごくえっちな姿を見て、オナニーしてくれてるうふううん!!」
「えっ? あ……」
由佳里に言われてみると、知らないうちに手が股間をなでている。
「ふぁあっ……もう……もうダメえっ……来ちゃう……来ちゃうよおっ……!!」
もう由佳里の全身が激しく震えている。どうせなら、このままイくところまで見せてもらおう。
「あっ……ふぁっ……んっあっ……くううううっ……!!」
由佳里は必死に歯を食いしばっている。僕に見せてくれるために少しでも長引かせてるのか……。
「くうっ……ふうんっ……あっ……うっ……くっ……んんんんんっ……」
僕がしばらく見物していると……。
バターン!
由佳里がベッドの上に倒れてしまった。
「由佳里!!」
僕はすぐさま由佳里に駆け寄った。頂点を迎える前に気絶してしまうなんて……。
「一体どうしたの? 気絶するなんて……」
「だって、瑞穂さんに入れてほしかったから、ずっと我慢してたら……」
そっか、僕はイくところまで見たかったからな……。
「ごめんね。僕は由佳里の絶頂まで見たかったから……」
僕が謝ると、由佳里は驚いていた。
「ご、ごめんなさい! じゃあ次は最後まで見せますから」
「ううん、僕が言わなかったのが悪いから、僕が途中で入れてあげるよ」
「見せるのが先です!」
「入れるのが先だよ!」
……こうして、なんか色々な意味で奇妙なけんかになってしまった。
「じゃあ次は、僕が途中で由佳里に入れて、その次は由佳里が最後までする……それでいいかな?」
「はい……」
「じゃあその前に、由佳里のいやらしいとこ見て、僕も我慢できなくなっちゃったから……」
僕はそう言うと、由佳里のショーツに顔を埋めた。
「ん……ふぁあ……」
「ん……由佳里の感触と匂いが、とっても心地いい……」
「わ、私も、瑞穂さんの優しい快感が包み込んでくれてるみたいで、すごく気持ちいいです……」
「1日中、ずっとこうしていたいな」
「私も、瑞穂さんにこうしていてほしいです……」
由佳里の顔を見ると、うっとりと酔いしれている。それに加えて少しずつショーツから染み出てくる由佳里の匂いが、
また気持ちいい。
「残念。悪いけど僕は、こっちも味わいたいから」
そう言うと、今度は由佳里の胸の谷間に顔を埋めた。
「はあっ……はあっ……瑞穂さん……」
「こっちも気持ちいいよ……由佳里」
いつしか僕の手は、自然と由佳里のショーツの中をいじっていた。
「み、瑞穂さあん……もう……もうダメえっ……ふぁあああああああっ!」
しばらくもたたないうちに、由佳里は達してしまったようだった。
「あらら、由佳里ったら、もうイってしまったの?」
「はあっ……だ、だってえ……はあっ……はあっ……」
「いいよ。何度でもイってくれれば。僕は嬉しいから」
僕はそう言うと、少し休んでから、由佳里の胸にキス。
「ふひゃあっ!!」
それから、そこをちゅうちゅうと吸い始める。
「やあんっ……瑞穂さん、赤ちゃんみたいだよお……」
「ふふふ……由佳里、僕のこと可愛いって思ってる?」
「も……もうっ……瑞穂さんの意地悪う……」
そのまま由佳里の顔を見ると、可愛らしく、照れた顔を隠しながら目を細め、こちらを見ている。
「ふふっ……」
赤ちゃん……か。
「僕も由佳里の前だと、本当に赤ちゃんみたいに安らかな気持ちになれるのかもね」
「瑞穂さん……それって褒めてるんですか?」
「褒めてる褒めてる。じゃあ、由佳里ももっと安らかな気持ちにしてあげるよ」
そう言うと、僕は再び乳首を吸い始める。
「あっ……やあ……また来ちゃう……はああああ……」
由佳里が再び軽く達したのを確認すると、僕は乳首から口を離した。
「はあ……はあっ……はあっ……はあっ……」
「由佳里、大丈夫? もう限界じゃない?」
ぐったりしている由佳里に、僕は優しく問いかけた。
「はあはあ……た、確かにちょっと疲れてますけど……でも、まだ終わりたくないです……瑞穂さんに入れてほしいです……」
そういう由佳里の気持ちがとても愛しい。でも、この状態で入れるのも酷だろう。
「じゃあ、ちょっと休憩しよっか?」
「は、はい……」
僕は服を脱いでベッドに入り、そのまま由佳里を抱きしめる。
「瑞穂さん……あったかいです」
「ふふ……」
「あの……お体をなめてもいいですか?」
由佳里がぼーっとしながら、遠慮がちに聞いてきた。
「そうだね。それぐらいなら体力も使わないし、僕からもお願いするよ」
ぴちゃぴちゃぴちゃ……。
「んっ……んふう……あふう……」
「はあ……はあ……体力なくなってる割には、ずいぶん積極的だね」
「だ、だって……瑞穂さんだもん……」
そう言いながらも由佳里は僕の身体をなめ続ける。
「も、もういいよ由佳里。これ以上やると、僕が限界に来ちゃう。別の意味で」
僕たちはもどかしさを感じながらも、由佳里の体力が戻るのを待った。
「瑞穂さん……そろそろいいですよ」
「そう。じゃあ入れるね。下着はつけたままのほうがいいかな?」
「えっ……?」
「その下着、由佳里が1人でするときにはいてるってことは、それをはいてるとえっちな気分になっちゃうんでしょ?
それはいたまましてほしい、とか思ったことがあるんじゃないの?」
僕は優しい口調で自分の推測を言ってみた。
「そ……そうです……これをはいたままで、瑞穂さんに入れてほしい……と思っていました……」
「ふふ……結構マニアックなんだね。由佳里って」
「そ、そんなこと言われても……」
由佳里は不安そうにそう言った。こんな時にも心配性なんだな。
「別にいいよ。言ったでしょ? 僕は由佳里がどんな女だとしても好きだって。もっと僕を信じてほしいな」
「は……はい……信じます……」
「そう、いい娘だね。じゃあ、望みどおり、そのまま入れてあげるね」
僕はそう言うと、下着を横にどけて、由佳里の中に挿入した。
「ふぁあああああああっ!!」
「うっ……今までよりも、ずっと気持ちいい……」
中に入れると、由佳里が今までよりずっと激しい動きで僕のあそこを震えさせてくる。
「やあっ!! 瑞穂さん、今までよりずっと感じるよお……私のオナニーで感じてる興奮が、すごくよく伝わってくるよお……!!」
と思ったら、僕も激しく動いてたようだ。
「くうっ……そうだよ……オナニーしてる由佳里に入れるのも、由佳里が最後までイっちゃうとこを見るのも、
今から待ち遠しくてしょうがないんだ」
「あっあっあっ……わ、私も、クセになっちゃいそうですうん……だって、瑞穂さんにオナニー見てもらうのも、
それを撮影されるのも、すごく感じちゃうよお……」
「僕も、由佳里のオナニー見るの、クセになっちゃいそうだよ……」
「ふぁあああっ……瑞穂さあん……私をこれ以上えっちにしないでえ……
瑞穂さんといると、信じられないくらい乱れちゃうよお……」
「うっ……僕も同じだよ……僕も由佳里といると、どんどん由佳里とえっちなこと、したくなっちゃうんだから」
「そ、そんなあ……でも、イヤじゃないよお……すごくうれしいよお……」
そうこうしているうちに、僕も由佳里も限界が来てしまっていた。無論、イくときは一緒だ。
「くうううううううっ……!!」
「ひゃああああああんっ……!!」
そして僕たちは、中で結ばれたままぐったりして抱き合っていた。
「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……」
それから僕たちは、何度かぼおっと起き上がり、無意識のうちに性行為を行っていたのだった。
「瑞穂さん、何してるんですか?」
「昨日のDVD、早速調整しようと思って」
翌日、僕が昨日撮った由佳里とのシーンをパソコンで鑑賞していた。
「……瑞穂さん! やめてください! 恥ずかしすぎますよ!!」
そこへやって来た由佳里はパソコンをのぞきこんだ途端、顔を真っ赤にして手で覆った。
指の隙間から、しっかり見てるみたいだけど……。
「ううう……私って、こんなに乱れてたなんて……」
「いいじゃない。僕にはそこらのポルノ女優より、由佳里の方がよっぽど魅力的だよ」
「で……でもここまでしたんですから、瑞穂さん、ほかのアダルトDVDは見ないでくださいね?」
由佳里が恥ずかしさいっぱいに消えてしまいそうな声で言った。それがすごく可愛くて、僕は笑顔で由佳里に言う。
「心配しなくても、最初からそのつもりだから。まあ仮に見たとしても、僕と由佳里のからみを想像しながら、だろうね」
「も、もう……瑞穂さんのえっち」
そう言いながら、僕たちはDVDを見ていた。
「瑞穂さん……このDVD、後で私にもくださいね」
「ふふっ、わかってるよ。ところで今日は由佳里がイっちゃうところまで見せてくれる約束だけど、それも撮影していい?」
「そ……それは……」
「イヤそうだね。じゃあやめよっか?」
「ま、待ってください! 撮影、お願いしますう……」
僕がやめるフリをすると、返ってくる期待通りの答え。今日の由佳里とのえっちも楽しみだな。
そのころ……。
「1回だけとはいえ、瑞穂ちゃんが女性服のモデルしてくれるんだから、気合入れてデザインしなきゃね」
まりやは、アメリカでデザインを研究すべくパソコンを開いていた。
「ん……?」
そこで、瑞穂のパソコンのデータから新しいものを見つけ、興味本位で見てみることにした。
「ほお……瑞穂ちゃんとゆかりん、えろシーンでこんなに乱れてたなんて……しかも撮影までして……こりゃ、即ネタ決定ね」
その日、瑞穂と由佳里はまりやからの電話に、耳までどころか、全身爪の先まで真っ赤になったのであった。
To be continued……
作者の皆さま、いつも素晴らしい作品をありがとうございます!
そして、更新が遅く&精度も悪くて本当に申し訳ありません。
ここ数ヶ月は別もののウエブサイトの立ち上げにも関わっており、
なかなか思うように時間がとれない状況です。
>>63 ご指摘ありがとうございます。
ご希望およびAPPENDIXの前後関係表示も含めて直しておきました。
また何かありましたらよろしくお願いいたします。
コテハンの入れ方も間違えてるし……orz
「櫻の園にも、百合の花」
※この作品は誰エンドでもないところで起こっています。(一子エンドですらありません)
恵泉女学院を卒業してはや二年。御門まりやは親元を離れて恵泉女学院ではなく服飾課程のある大学へ通い、厳島貴子は国立女子大に入学をした。
宮小路瑞穂は、ぐずぐずしているうちに恵泉女学院大学部へそのまま上がってしまって、あいかわらずクラスメイトたちにもてあそばれている。
そして歴史的和解をした御門まりやと厳島貴子は今や同居するまでになっていた。とは言え、家を無理矢理出てきた貴子がまりやの部屋に転がり込んだ――のが正解なのだが。
「まりやさん、いい加減に片付けて下さいませんか? 制作物の提出期限は昨日だったんでしょ?」
もともとセレブな人たちが借りているマンションなので、そんなにリビングも狭くはないのだが、あれやこれやと洋裁道具やトルソ、何よりも布を撒き散らかしているので足の踏み場もなくなっていた。
ベビードールのまま、昼近くまでだらけているまりやは、リビングで立っている貴子に上目遣いで言い訳を始めた。
「だってさー、昨日まで何日半轍したと思ってるのよ〜、もうやる気も残っちゃいないよ。栄養補給させてくれよう」
そう言うと、まりやは目をつむって唇を少しだけとがらせて貴子のリアクションを待った。
「もうっ! 真っ昼間からさかっているんじゃありませんよ。しょうがないわねえ……」
貴子はソファーに中腰になってまりやに顔を近づけた。ちゅっと軽くキスをするだけのつもりだった。
貴子がまりやと唇を重ねた瞬間、まりやはがばっと貴子を抱きしめると舌をちろちろと貴子の唇に這わせ始めた。貴子はまりやの舌の律動を楽しむと、お返しとばかりにまりやの舌に自分の舌をこすり合わせる。
「んぐ、んぐんぐ」
粘膜の強力な接触はより強力な欲求を生み出す。お互いに首を軽くかしげるとお互いの口唇をむさぼるように吸引しあった。
その吸い合う口唇の中ではお互いの舌がぬらぬらと蛇が絡み合うようにポジションを入れ替えながら相手に快感を与えようと、また相手から快感をむさぼろうとしていた。
貴子はまりやの背中に手を回すとさわっさわっとソフトにタッチし始めた。男とのセックスの経験は二人とも無かったが、それが幸いしているのか相手に強い刺激を与えれば感じるだろうと考える男性的な荒々しい行為は入らない。
一方のまりやも貴子の太ももをさわさわと刺激し始めた。決していきなりスカートの中をまさぐったりはしない。じらしてじらしてじらしまくってさらにじらす。女同士ならではの愛撫だ。
「今日はたくさん愛し合いましょ」
すでに目がうるんでいるまりやが貴子におねだりした。幼少の頃は犬猿の仲だったとは思えないくらいの甘えん坊ぶりだ。
「じゃあ、キスして下さいってお願いしてご覧なさい」
「……いじわる。キスして」
「くださいは?」
「キスして下さい」
「よろしい。ちゅぱ。むぐん」
十分に口へのキスを堪能すると、まりやの首筋へ舌をはわせる。
「はうっ!」
舌を押しつけながら柔らかな舌腹でゆるゆると鎖骨周りをねぶるように舐めあげる。
そのままくるくると舌をこねまわしながら、胸と脇の間を何度も往復する。
「あらぁ、乳首が硬くなってるみたいね。いやらしい娘」
「やだっ。貴子のせいじゃない」
「へえ。そうなんだぁ、じゃあやめちゃおうかしらねえ」
「だめぇ」
「じゃあ、今度は貴女の番ね、脱がせて」
「あらぁ、簡単に脱げるようにワンピースにしてたのでしょう?」
「ばれましたか」
「だって、ガーターベルトまでしてる貴女がワンピースにしている理由はそれしかないもの」
「ワンピースはシフォン生地の薄手にしてたのもわかってくれた?」
「当たり前じゃない。スカートの後ろに期待汁でシミが付いてたしね」
まりやは貴子のワンピースを脱がした。
「かわいいわよ。貴子。食べちゃいたいくらい」
貴子のランジェリーはミントグリーンのブラとショーツとガーターベルトのセットだが、ブラはカップレスでワイヤーだけで胸を支えている(というか支え切れてないんじゃないかといつも思う)。そして貴子のショーツの上から秘園をまさぐった。
「まあ、こんなにしっとりと濡らしているなんて、期待してるのよね」
「こ……これは、あ……あせですわっ! まりやさんのいけず」
「ふーん、こんなにとろとろで甘ーい匂いのする汗なんだー」
そういうと指に付いているねばねばを親指と人差し指で糸を引かせて貴子に見せつけた。
「まりやさんのえっち……知ってるくせに」
「ふふふ、これはお仕置き」
まりやはにやっと笑いながら貴子の愛液の付いた自分の人差し指と親指をしゃぶって見せた。じゅん。と、貴子の股間は湿り気を増した。
「まりやさん、あなたはツボを得すぎです、こんなにびしょびしょになってきちゃったじゃないですか」
そういうとソファーの上に乗り、まりやの顔の前にショーツをはいたままの股間を突き出した。
カリッ
いきなりクリトリスを甘噛みした。ショーツがベールとなって刺激が弱まり、適度な刺激になっている。
「くうう」
貴子は体を折り曲げて快感に耐えている。
だが、貴子の陰部に刺激を加えたのはその一撃だけであとは太ももの内側やおしりの谷間の部分に攻撃が集中していた。
女はじらし、じらされる事でより快感が高まるのである。男性よりも興奮状態になるのが遅く、引くのも遅いが故。男女間におけるノーマルのセックスよりも女同士のセックスにはまる女子が多いのはこのため。
「ねえ、貴子。ベッドでもっと激しく愛してあげるわ」
「これじゃあ、どちらが主導権握っているのか判りませんね」
基本的なレズの場合、タチ(攻め)とネコ(受け)が居ると信じられているが、実際には状況に応じて攻守入れ替わるリバも多い。特に対等に愛し合いたいという女性達の間では、攻め受けすら無い場合がほとんどだ。
ひろいものテキストさん、これで終わりでしょうか?
もし続きに行き詰っている状態でしたらすみません。
シンデレラへのステップ、最終章、投下させていただきます。
「それにしても、まさか瑞穂さんが本当にモデルの仕事を引き受けてくださるとは思いませんでしたわ」
翔耀大学のキャンパスで紫苑さんがそう話す。
「……って、たきつけたの紫苑さんたちじゃないですか」
「それはそうですけど、瑞穂さんは高確率でお断りするのではないかと思っていました。
だって瑞穂さんはもう“普通の翔耀大学の生徒”なのですから」
「普通の翔耀大学の生徒って、貴子さん、それどういう意味ですか?」
由佳里が聞いてくる。僕もどういう意味なのかわからない。
「つまり瑞穂さんは高校時代と違ってただの一般生徒だということですわ。
瑞穂さん、大学に入っても、精神はエルダーの時のままですわね」
………!!
その言葉で僕はハッとしてしまった。聖央から卒業しても、僕の心は聖央から脱出できていないのか……。
〜由佳里編APPENDIXU シンデレラへのステップ エピローグ〜
「なあ貴子、エルダーって、瑞穂っちは開正出身なんやろ? 何であんたらの高校の称号を持ち出すん?」
桃子ちゃんの言葉に、貴子さんはハッと口を押さえた。まずい……。
「桃子ちゃん、それは言葉の綾ですわ。瑞穂さんは高校時代から私たちで言うエルダーの器でしたの。
ですから、私たちの感覚で自然にエルダーという言葉が出てきたというわけです」
紫苑さん、ナイスフォロー。桃子ちゃんも納得してくれたようだ。貴子さんも安堵のため息をついている。
「でも、瑞穂っちが女性服のモデルか。今から楽しみやわ」
「って、桃子ちゃんまで……」
「でも、紫苑さんも貴子さんも、1回きりって条件、よく納得しましたね」
ちなみに由佳里は、最初紫苑さんのことを“紫苑さま”、貴子さんのことを“会長さん”と呼んでいたが、
最近になって自然に向こうの指定した呼び方で呼ぶ事ができるようになった。
「まあ、乗り気でない瑞穂さんに、そう何度も押し付けるのも酷でしょう。
1回引き受けていただいただけでも良しとしなくては……」
紫苑さん、それなら最初から話題に出さないでほしいんですけど……。
「……っていうか、なんで僕だけなんですか? 由佳里のダンスのことも楽しみだって言ってたのに……」
「あら、確かにそちらも惜しいとは思いますけど、瑞穂さんのモデルと由佳里さんのダンスは、
私の中では重要度がまったく違いますから」
……勘弁してほしいです。
「うちも瑞穂っちのモデル服が見られんいうことになっとったら、ほんま泣いとったわ」
「おいおい、浮気は勘弁してくれよ、桃子」
非常に残念そうに言う桃子ちゃんに、隼人先輩が苦笑いして言う。
「大丈夫やって。うちは隼人一筋やし、そもそも瑞穂っちはうちの中では男に入っとらんし、女友達と一緒やから」
ガーン!!
「男の中に入ってない」「女友達と一緒」
聖央を卒業して、やっと女装の屈辱から解放されたのに……。
「い、一体どうしたら僕は……僕は……」
「あら、瑞穂さん、また落ち込んじゃいましたね」
「瑞穂には気の毒だが、定期的にこれを見ないと瑞穂がいる気になれないよな」
「まったく同感ですわね」
「ううう……」
「奏お姉さま、やりましたよ!」
「薫子ちゃん、どうしたのですか?」
家に帰ると、薫子ちゃんと初音ちゃんが遊びに来ていた。
「初音が第75代エルダーに選ばれたんですよ!」
「ほ、本当なの?」
「は、はい……」
僕たちが驚いて聞き返すと、初音ちゃんが恥ずかしそうに答えた。
「これも初音の成長の賜物……っていうか、チェリーズがよく働いてくれたおかげもあるんだけどね」
「チェリーズって……?」
なんだろう? そんな名前聞いたこともない。
「あっそうか。あたしと初音の妹ですよ。あたしの妹が間部春樹(まなべ はるき)。
初音の妹が吉沢真桜(よしざわ まお)。どっちも名前が桜っぽいからチェリーズって、あたしと初音で名づけたんだ」
「な……なるほど……」
「それはそうと、薫子ちゃんはエルダーにはならなかったのですか?」
奏ちゃんが聞くと、薫子ちゃんは照れたように笑いながら言った。
「勘弁してくださいよ。ちらっと小耳に挟んだことはありますけど、あたしはエルダーなんてガラじゃないですから」
「由佳里お姉さま! 私、きっと由佳里お姉さまのようになって、75代エルダーを立派に務めます!
応援していてくださいね」
一方、ガッツポーズを決めてそう宣言する初音ちゃんを、由佳里は愛しそうに見つめながら言った。
「ありがと。でも、ムリして私みたいになることはないよ。初音は初音の良さを伸ばしていけば」
由佳里のようなエルダー……か。きっと今年度の聖央女学院も、素晴らしいものになるだろうな。
「私みたいに……か」
「由佳里……?」
感慨深そうにつぶやく由佳里。どうしたんだろう?
「瑞穂さんが転校してきたときは、私が誰かに慕われるようになるなんて、考えてもみなかったな……って。
あの時は、私はただの女の子でしたから」
「そうだね……」
あの時は、僕もただの男の子だった。それがエルダーに選ばれたことで成長できたんだ。
「僕たち、一緒にいることで成長しあえる王子とシンデレラ、なのかもね」
普通の男の子と普通の女の子が出会い、魅かれあって、お互いに釣り合うようになろうと努力し続け、
そして誰もが認める王子とお妃になった。
まあ、僕の場合はちゃんと王子様になれているのかちょっと自信ないけど、でも由佳里はきちんとそうなれている。
それは自信を持って言える。
「そして、その精神は、後々まで引き継がれていくんだね」
僕から奏ちゃん、奏ちゃんから薫子ちゃん……まりやから由佳里、由佳里から初音ちゃんへと。
「僕たちも、もっともっと自分を磨かなきゃね。奏ちゃんや薫子ちゃん、初音ちゃんたちに笑われないように、ね」
「そうですね、瑞穂さん。ふふっ……」
由佳里と一緒なら、きっとそれができる。いつか僕の奥さんになる女性を見つめながら、
僕は改めてそうなろうと決意したのだった。
Fin
シンデレラへのステップ、以上で完結です。
なんとかやるきばこ2の内容に近づけたかったのですが、私ごときの実力ではこれが限界でした。
普段、他のヒロインと比べ、何かと冷遇されがちな由佳里ちゃんですが、非公式とはいえAPPENDIXを2つ作って、
瑞穂くんとのえっちも1人だけ1回きりだったのが番外編も含めると5回に増えたのですから、
満足してくれてると思います。
それでは、今回はこれで。お目汚し失礼いたしました。
東の扉さんGJです
「ショーツ脱いで。あたしも脱ぐからさ」
そういうまりやにせかされて貴子はショーツを脱ぐ。クロッチは愛液で濡れそぼり、ショーツを脱ぐと、股間とクロッチの間でつつーーーっと糸を引いた。
「こりゃ、また興奮しちゃうわね」
まりやも自分のショーツがピンポイントで濡れているのに気がついた。
「まりやさんってば。私の痴態で興奮してくれたのですね」
貴子が感激しながら言った。女はいつでも自分で愛する人が興奮してくれるのがうれしいのである。ベッドに横たわると、きつく抱き合い唇を重ねる。
抱きしめられる事で興奮が深まるのである。まりやはストッキングをはいていれば良かったなと少し後悔していた。貴子のストッキングをまさぐっていて、ストッキングをはいた足同士を絡ませる事の気持ちよさをすっかり失念していたからである。
女性下着にナイロンが多いのはまさぐられた時の気持ちよさを優先しているに違いないと、ファッションを勉強している身としてはありえない考えをしていた。
そして、お互いに体中を舐めるようなキスをしたり舌による愛撫を続けていった。三十分以上じらしあったおかげで、お互いにちょっとした刺激でもぴくぴく反応するようになっていたのであった。そして、ついに性器への愛撫がはじまったのである。
もう、身体の方は準備完了になっているわけで、そこへちょっとした刺激が加わるだけで、勝手に登り詰めていく状況になってしまったのである。だが、快感にどん欲な二人はそれだけでは我慢ができなくなっていた。そして、挿入感を楽しみたくなった。
「ダブルバイブしてみましょう」
貴子が提案する。
「んじゃ、バイブの準備は……ってもう用意してあるんかいっ!」
「だってぇ。」
これは新婚の奥さんのような反応である。
ちゅぱちゅぱちゅぱとお互いのクリトリスや膣口をなめ回したので、膣口からはとろとろと秘蜜が流れ出してきていた。
お互いに蜜液をすくい取ると、菊模様のかわいらしい菊門になすりつけあった。
「ん、くはぁ」
そもそも排泄器官である菊門には挿入することは通常ありえない行為であるため、挿入を考えると括約筋を良くもみほぐす必要がある。お互いの蜜液はラブローションの様に指に絡まり、お互いの人差し指をアヌスに挿入すると優しくもみほぐし始めた。
と同時に舌はクリトリスを丹念に刺激し、より括約筋がリラックスするようにした。
目の前で自分の指が相手のアヌスに入ったり出たりするのを見て、興奮もしていたのもあるが相手の膣口がぴくぴくと反応しているのにも感動し興奮していたのである。その気分の高まりがさらにとろとろの愛液を蜜壺に蓄えさせた。
指も一本から二本、二本から三本と十二分にほぐれてきたようだ。
「まりやさん。今入れますからね」
貴子は顔を興奮で真っ赤にさせながらスキンをかぶせていつでも使用出来るようにしてベッドサイドに置いておいた三本のバイブレーター付きの双頭ディルドーのうち、細い方の一本を自分のアヌスに挿入した。
片側の長さ二十センチ全長で言えば四十センチ、太さは成人男子の平均はあろうか(貴子もまりやも男性は知らないので、大人のおもちゃやで「平均男性サイズ」というのを買ったのである)、はぁーっと息を吐き出しながら菊門に収まっていく。
直腸にごりっと当たる感覚が膣と違って少し違和感があるが、それもしばらくすると収まった。もう一本はアヌスに収まったものの倍の太さはあろうかというスーパーサイズだ。ベッドサイドに腰をかけ、挿入しやすい格好になると、両足をぐっと開脚させた。
縦筋で真一文字だった大陰唇がくぱぁとわれ、中の小陰唇と尿道口、膣口があらわになった。
「ふぅっ」
まりやがいたずら心をだして、息を吹きかけるとぴくっと反応した。日頃は大陰唇にふさがれて外気にさらされない秘密の場所なので、とても敏感であった。
「あせったらだめよ」
「へっへへ、おくさ〜ん、辛抱たまら〜ん」
どこのおっさんですか? と聞かれそうなリアクションをとりながら、ベッドに飛び乗って、貴子の胸を後ろから揉みし抱き始めた。丹念に双丘のまわりから渦を巻くようなソフトタッチで頂を目指す。
「はやく、入れてよ。あたしも気持ちよくして?」
「ん……」
綴じ気味だった膣口も全開になりミリミリっと極太のディルドーをくわえ込んだ。貴子の股間には平行になった二本の異物がそそりたっていた。
「このまま、貴子を感じさせても良いんだけど、それは別の時のお楽しみにしておいた方がいいわね。今度はあたしの番ね。お願い貴子」
「ん」
下半身の双穴を塞がれた貴子は、興奮して言葉も出なかった。貴子はまりやをベッドに横たわらせると、両足を抱えてくの字になるように身体を折り曲げさせた。
期待に満ちたまりやの陰部はいまかいまかと挿入を待っていた。貴子は自分の時と同じようにアヌスの方からディルドーを挿入していった。膣口に先に入れてしまうと直腸が圧迫されて挿入しづらくなるからだ。
貴子が体重をまりやに向かってゆっくりとゆっくりと駆けていくと、ディルドーはきゅーっとまりやの菊門に収まっていった。そのままでは膣用のディルドーを挿入しにくいので、アヌスを少しほぐすつもりも兼ねて、律動的にまりやの挿入されたモノを出し入れする。
「ああ……」
ああん。とかあっあっあっとかAVにありがちな不自然なまでにするあえぎ声は女達の間では不要だ。あれは男を興奮させる為(たまに自らを盛り上げる為にする者もいるが)にする演技だ。
女同士はもっとうめき声のような(マッサージで気持ちいい時に発する声みたいだ)声で快感を表明する。まりやの快感表明は短い「ああ」だった。
本来、肛門は排泄器官であり、性的交渉をする場所ではない。膣のように愛液で潤い、潤滑剤として男性性器を受け入れやすくする必要がないので、濡れるという反応はありえないはずだったが、まりやのアヌスを出入りしているディルドーはてらてらと潤い汁が見えている。
一度半抜け状態にして前後を同時に挿入するように準備した。
「そろそろいいわね」
そうささやくと貴子は極太ディルドーを手で支えて、まりやの膣口に当てると先を少しだけ入れもう一度足を抱きかかえ腰が浮いた状態にして、グッと体重を掛けて、前後をまりやに送り込んだ。
「はああああああ」
まりやが大きい吐息で挿入に応える。ゆるゆるとではあるが、二十センチのディルドーは前後ともにまりやに収まった。最後には貴子とまりやのクリトリスがキスをした形になった。ぷるっ。まりやが軽く震えた。
そして、貴子がまりやを抱え起こすとお互いに抱っこし合っている形になった。
「スイッチを入れるわね」
ぐぅうううううん。膣のバイブとアヌスのバイブが振動を始める。それぞれの振動は小さいのだが、二つの振動が重なると大きい揺れになって、思いの外体の中でうねるのである。下半身の異物感に満足しながら、貴子とまりやはキスをした。
「二本差しはやみつきになるから気をつけなさいねって言われたけど、これは本当に……ううう。ああ……」
「た……貴子、もう一本のはどうするつもり?」
「上のお口でしゃぶるのよ」
貴子は器用に最後の一本を取ると、舌でぺろぺろとしゃぶりだした。唾液でてらてらになった方をまりやの口に入れる。
ぐっとなりそうだったが、まりやの口に半分まで押し込んだ。まりやの口から出ている半分を丹念にしゃぶると貴子も飲み込んだ。三本のバイブレーター付きの双頭ディルド−は二人の少女の咽喉、膣口、肛門の三点に綺麗に収まった。
上のディルドーも根本まで収まった為、まりやと貴子は単にバキュームキスしているようにしか見えなかった。上のバイブのスイッチも入れると脳天にぶーんと刺激が送られる。頭がシェイクされるためか、正常な判断が出来なくなってきていた。
貴子とまりやは、お互いを強く抱きしめあって、挿入物をより奥へ取り込もうとするが、頭から股間までバイブレーターの甘美な振動が二人をとろけさせていった。
そして、お互いの腰を最初はゆっくり、だがだんだん高速に動かし始め、ディルドーを出したり入れたりさせるようにした。
「むー、むー」
お互い口いっぱいにディルドーを含んでいるために、言葉が出ない。やがて、絶頂に達してお互いにのけぞると、口のバイブがぽろりと落ちて二人のお腹の部分におちた。
丁度振動している部分がクリトリスにあたるような形になっているので、絶頂に達しているのにまた快感刺激が加わり気絶をしたが、二人の股間にささったままの二本のディルドーはそのまま振動を続けていたのであった。
やがて、電池も切れ。怒張の如く熱くなっていたバイブレーターも体温と同じ温度まで下がった。
「ん。イっちゃってたみたいね」
「やだ、入りっぱなし。電池なくなってますね」
「抜こうか」
まりやはそう言うと自分に刺さっている方をするっと抜いた。
「やだ、肛門がガバガバ。フィスト出来そう」
「あら、まりやさん。今度はフィストで楽しみたいのですか?」
「フィストも病みつきになるらしいから気をつけないとね」
「あ、そうだ、うふふ」
何か思いついたような貴子は自分の膣口のディルドーを抜くと反対の向き、つまりたった今までまりやの胎内に入っていた方を、自分の胎内に送り込んだ。
「貴子、いきなり何してるの」
「まりやさんの中に入っていたものを私の中に入れたくなっちゃったの」
まりやはこの言葉を聞いてきゅんとした。
「貴子、あんたってば……」
「うふふ。まりやさんずっと愛してる」
「あたしもだよ、一生捕まえていてやるからね!」
そして長いキス――
>東の扉さん
由佳里ファンなので素晴らしいAPPENDIXが読めてよかったです。
ところで呼び方なんですが、
桃子→貴子は貴ちゃん
紫苑→桃子は桃子さん
瑞穂→桃子も桃子さん
紫苑→由佳里は由佳里ちゃん
隼人→桃子は桃子さん
桃子→紫苑はしーちゃん(以前の分)
です。
まあ4つ目の由佳里さんは許容範囲だし、5つ目のは恋人同士になって変わったという見方もできますが
それなら一言断りを入れておいた方がいいかと思います。
>ちなみに由佳里は、最初紫苑さんのことを“紫苑さま”、貴子さんのことを“会長さん”と呼んでいたが、
>最近になって自然に向こうの指定した呼び方で呼ぶ事ができるようになった。
こういう感じで。
>>133 ご指摘ありがとうございます。
やるきばこ2をやったのがだいぶ前のことなので、随分記憶が曖昧になっていたようです。
ちなみに5つ目はおっしゃるとおりです。
以後、参考にさせていただきます。
135 :
名無しさん@初回限定:2008/10/18(土) 13:12:35 ID:s7pay2RvO
115-117,128-131は夏コミで売られていた突発本からの転載。
たぶん本人アップではない。(作者本人は過去にここに書いているから)
ただ、作者がめちゃくちゃユルい運用していて無断転載も可なんだけど作者名くらいいれろ。
あと間に割り込みが入ってみにくい。書くのに詰まったんじゃなく、入力疲れか?
東の扉さん、完結お疲れ様です。
私も完結に向かって頑張……あまり自信がないです。
前スレで予告した第1話を投下します。
『背中』
奏がエルダーになって約1ヶ月。夏休みに入った或る日の事……
「くっそ……っ、こりゃ完全に遅刻だな」
人がまばらな大通りを、ひとりの少女が全力で駆け抜けてゆく……
處女(おとめ)、と云うには少々憚られる罵詈雑言を撒き散らしながら。
待ち合わせの時間まであと5分。
夏休みに入ってややだらけ気味になっていた為か、目を覚ましたら約束の30分前。
慌てて寮を飛び出したのだが、やっぱりダメらしい。
「……とりあえず電話しておこう」
一旦走りを止めて息を整えた少女……七々原薫子は、バッグから携帯電話を取り出した。
「はいもしもし?」
「あっ!もしもし、七々原薫子です。えっと……思いっきり寝坊してしまいまして、
時間までにそちらに行けそうにないんです。すみません、なるべく早く着く様に全力で……」
「えっと……ストップ!」
早口でまくし立てる薫子に待ったが掛かった。
「そんなに慌てなくても、世界は滅びませんよ。
少しくらい遅れても構いませんから、息を整えて歩いていらっしゃい」
「えっ……でも……」
「薫子ちゃんが慌てて走って事故でも起こしたら、奏ちゃんが悲しみますよ。
大丈夫、私は薫子ちゃんが来るまで待っていますから」
「……わ、わかりました。すみません、あと20分くらいでそちらに行けると思いますので」
奏の名前を出されると効果的な反論が出来なくなってしまう薫子に、電話の相手は微笑ましさを感じた様だ。
「ふふっ、ゆっくりいらっしゃい」
電話を切り息を落ち着かせると、薫子は待ち合わせ場所に向かって歩き出した。
心臓がバクバクしているのは走っていたせいだ。多分……
電話からきっちり20分後、薫子は待ち合わせ場所に歩いて到着した。
「すみませんお待たせしました瑞穂さん」
「……はいコレ」
瑞穂がスポーツドリンクの缶を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
プルトップを開け、一気に飲み干した。
「ぷはっ!生き還りました」
「改めまして……ごきげんよう薫子ちゃん」
「ご、ごきげんよう瑞穂さん」
「……ぷっ」
窮屈そうに挨拶をする薫子を見て、瑞穂は思わず吹き出してしまった。
「あーっ、ひどいですよ瑞穂さん」
「ふふっ……ごめんなさい薫子ちゃん。もしかしてまだ聖應の雰囲気に慣れてないのかな?」
「はあ……何とかしなきゃいけないとは思うんですが」
「僕は1年足らずしか聖應に居なかったから、正直助かったけれどね」
瑞穂のセリフを聞いた薫子は、その瞬間固まってしまった。
「……あれ?僕何か変な事云ったかな……って……ああっ!」
知らないうちに地が出てしまっていた様だ。
「……ぷっ、『僕』!瑞穂さんが『僕』って……あははははははっ!」
「……いや、薫子ちゃん。こっちが僕の地なんだけどね……」
「へっ?そうなんですか?」
「無理矢理聖應に入れられて、訳がわからないままエルダーになってしまって、
何が何だか良くわからないまま『お姉さまらしさ』って云うのを求められたものだから、
正直在学中はいっぱいいっぱいだったんだよね。だから薫子ちゃんの事は他人事とは思えなくって……ね」
いっぱいいっぱいだった理由は別の所に有ったのだが、無論それは口には出さない。
「へーっ、意外ですね。瑞穂さんってすっごい女性らしいのに……」
(女性らしいですかそうですか……orz)
「まりやや紫苑さんに、女性らしい立ち居振る舞いって云うのを嫌って程叩き込まれたからね。
僕が女性らしいって云うのは、猫被りの結果って事」
気が付けばそれが自然体になっていたのだが、無論それも口には出さない。
「何か納得行きませんが、そう云う事にしときましょうか。
でも云われてみれば、瑞穂さんの私服って、あたしとほとんど変わらないんですね」
ラフな大きめのYシャツとデニムのパンツ……2人の服装は色が若干違う程度の差しかない。
パッと見、格闘ゲームの同キャラ対戦(1Pカラー VS 2Pカラー)みたいだ。
「僕自身は女物の服って買った事ないからね。
クローゼットに入ってる服のほとんどはまりやが買った物だし……」
「ふーん、でもその服結構似合ってますよ瑞穂さん」
「薫子ちゃんもね。じゃ、そろそろ行きましょうか」
「は、はい。今日はよろしくお願いします!」
一流モデルも真っ青になりそうなツーショット。
服装が地味な為かえって目立ってしまっているのだが、本人達に自覚は無い。
「すみません瑞穂さん。あたしのお願いに付き合ってもらったのに遅刻しちゃって……」
ひと月後に迫った周防院奏の誕生日。薫子は今年、奏に何を贈ろうか迷っていた。
そこで奏の姉である宮小路瑞穂に相談する事にしたのである。
「僕は別に気にしてないけれど……そうだ!じゃあ今日はこのままでいいかな薫子ちゃん?」
「このまま?」
「奏ちゃんや由佳里ちゃんの前では『お姉さま』にならないといけないからね。
せっかくだから今日は少しハメを外そうかなって。薫子ちゃんも今日は地のままでいいから」
「わっかりました。それじゃ今日は無礼講って事で!」
「それ、僕が云うべきセリフだと思う……」
まず最初に、2人はブティックに入った。
「!……これはこれは瑞穂様。ようこそいらっしゃいました」
満面の笑みを浮かべた女性店長が瑞穂達を出迎えた。
瑞穂はこの店のお得意様である。
正確に云えば、お得意様なのは嫌がる瑞穂を引きずってこの店を訪れるまりやである。
身も蓋も無い云い方をすれば、まりや(と瑞穂)は派手に買い物をしてくれる上客だ。
だが店長の愛想が良い理由はそれだけではない。
まりやと一緒に服を選び着せ替える、そして綺麗に飾られた瑞穂に陶酔する。
結局の所、彼女も瑞穂に惚れ込んでいるのである。
「……で、何であたしがこんな目に合っているんでしょうか?」
瑞穂が店長に耳打ち→服を選ぶ→店長、薫子を引きずり試着室へ→着替え完了。ここまで僅か5分。
フリフリが付いた薄いピンクのワンピース姿になった薫子は、かなり恥ずかしそうだ。
「うん、似合ってるわよ。ね、店長さん」
「はい!やっぱり中身が良いと映えますね。流石は瑞穂様のお友達です」
「あたしの話を聞いて下さーい!」(しかも瑞穂さん、いつの間にかお姉さまモードに戻ってるし)
「はぁ〜っ……」
店を出た途端、薫子は大きなため息をついた。
「まりやの気持ちが少しだけわかった気がするよ」
薫子に色々な服(全て可愛い系)を試着させ、瑞穂は上機嫌だった。
その為調子に乗って、薫子に服を何着か買い与えてしまった。(寮に配送したので手ぶら)
「あの店に入ったのって、お姉さまのプレゼントを探す為じゃなかったでしたっけ?」
「ううん、服関連はどうあがいてもまりやにかなわないから、最初から選択肢に入ってないよ」
「へ?じゃあ何であの店に行ったんですか?」
「僕が薫子ちゃんに可愛い服を着せてみたかったから」
「……」
あっさり断言した瑞穂に、薫子は絶句してしまった。
「薫子ちゃんが遅刻したから罰ゲームって事で。奏ちゃんにもあの服を着た所を見せなきゃダメだよ」
「う……ここで遅刻の事を持ち出しますか。気にしてないとか云ってた癖に……
あの服なら瑞穂さんが着た方が似合いますって絶対」
「そんな事無いって。大丈夫、もっと自分に自信を持ちなさい。
綺麗に着飾った薫子ちゃんを見たら、奏ちゃんも喜ぶよ多分……じゃなくて絶対」
「……何ですかその根拠の無さは。ま、遅刻したのは確かにあたしが悪いですから、
瑞穂さんの罰ゲーム、謹んでお受け致します!」
いきなり返答が真面目っぽくなったのは、どうやら照れ隠しらしい。
「うん、それじゃ改めて奏ちゃんのプレゼントを探しに行こう!」
・家電量販店
「掃除機とか……どうかな?」
「うーん、今使ってる奴がまだまだ現役ですからねぇ」
「映画のDVD詰め合わせとかは?」
「そ、それはやめましょう。お姉さまが『演技の参考に』なんて云って、画面に噛り付いたままになりそうで……」
「……否定できない」
・靴屋
「靴って云うのは悪くない選択肢ですね」
「奏ちゃんのサイズって知ってる?」
「あれ?いくつでしょう?小さ過ぎて特注とかには……」
「ならないでしょ流石に」
・ファミレスにて昼食
「食べ物関連は、ハンバーグ大魔王の由佳里さんが居ますから無理ですね」
「苺を詰め合わせで送ると云う手も有るけれどね」
「あ、それはダメです。苺の旬は4月〜5月ですから。今の時期では季節外れです」
「……やけに詳しいね」
「『あの』お姉さまの妹ですから!」
・アクセサリーショップ
「ん?何見てるんですか瑞穂さん?」
瑞穂が眺めていたのは、手作りと思われるロザリオだった。
「あー、それって何とか薔薇って奴ですか?姉妹の契り、みたいな……」
「……いや、そう云うのじゃないけれど。僕が聖應に居た時の事を思い出してね」
「?」
「学院祭で、奏ちゃんのクラスが手作りのロザリオを展示してたの。それがとっても素敵だったから……」
「へぇ〜。それじゃお姉さまが作ったロザリオは瑞穂さんが持ってたりするんですか?」
「そう云えば、あの時のロザリオってどうなったんだろう?誰かが買い取って大事にしてるんじゃないかな?」
他にもいくつか店を回ったが、決定打になる物は見つからなかった様で……
「薫子ちゃん、歩き通しで疲れたでしょ。ちょっと休憩しようか」
「は、はい、そうですね。それじゃ何か飲み物を買ってきます。
スポーツドリンクのお返しにあたしが奢りますよ。瑞穂さんは何がいいですか?」
「えっと……それじゃ缶コーヒーをお願い。出来ればブラックで」
「……瑞穂さん渋いですね。じゃ、行ってきます!」
パッと見周囲に自販機やコンビニが無かったので、薫子は自販機が有りそうな方向へ走って行った。
(ロザリオか……いくら何でも僕が奏ちゃんにあげるのは……)
自分の立場(性別)を考えて、瑞穂は少しブルーになってしまった。
そんな時……
「ねえ、そこの綺麗なお姉ちゃん。暇だったら俺らと遊び行かない?」
いきなり数人の遊び人風な男達に声を掛けられた。
休憩する為に人通りの少ない所へ移動したのが、かえって仇になってしまった様だ。
「あ、あの、連れが居ますから……」
女装をしていると、たまにこう云う状況に遭遇してしまう。
実は女装をしていなくても、こう云う状況に遭遇する事は有るのだが……
「何?連れって女の子?それだったらその子も一緒でいいからさ……」
瑞穂の都合はお構い無しに、男が早口でまくし立てる。
どの様にして男達をあしらうか、瑞穂は愛想笑いを浮かべながら思案した。
いっぽうそのころ……
「うーん、ブラックが見当たらない……」
いくつか自販機を見つけたが、缶コーヒーはどれも無糖ではなかった。
「もうこれでいいや」
ピッ!ガチャン!
微糖タイプの缶コーヒーを購入し、薫子は走って瑞穂の所へ……
「お待たせしました!……って、あれ?」
薫子はすぐに様子がおかしい事に気付いた。
「おっ、連れの子も可愛いじゃん……ってちょっと?!」
男達の存在を完全に無視して、薫子は瑞穂の腕を取り、その場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ。そんなつれない態度は無いんじゃない?」
男のひとりが薫子の腕を掴んだ。
「あたし達がアンタらみたいなのを相手する訳無いだろ!顔を洗って出直してきな!」
薫子が強引に腕を振り解いた。
「何だこのアマ!下手に出てりゃいい気になりやがって!」
「あーあー本性を現すのが早いねぇ。女を口説きたいなら、とりあえず空気を読んだ方がいいわよ」
「うるせえよ!もうあったま来た。お前ら2人共攫ってタップリ可愛がってやるよ!」
(あっちゃー、まさかここまで血の気が多いとは……さてどうしよう?)
瑞穂と薫子が背中合わせになった状態で、男5人が2人を取り囲んだ。
薫子は剣道の有段者だが、男所帯で育った為か、素手の喧嘩もかなりのレベルに達していた。
余程の達人で無い限り、男相手でも勝てる自信が有った。1対1なら……
(流石に2対5はキビシイな……)
そんな時、薫子が介入してから無言だった瑞穂が、小声で薫子に話しかけた。
「薫子ちゃん聞こえる?」
「はい?」
「いい?僕が合図したら、薫子ちゃんの目の前の男を何とか突破して、そのまま逃げなさい」
「え?ちょ……」
「ひとりだけなら何とかなるでしょ。後は僕が引き受けるから」
「そ、そんな。あたしも一緒に……」
そんな薫子の言葉に対し、瑞穂は信じられない返答をした。
「薫子ちゃんがそばに居ると……
僕が本気を出せない!」
「えっ?」
薫子は戦慄した。
瑞穂は薫子を逃がす為に虚勢を張っているのだろうか?
それとも本当にひとりで何とかするつもりなのだろうか?
しかし薫子が考えたのはほんの一瞬だった。
(瑞穂さんの背中が語ってる。『僕は大丈夫だ』って……)
瑞穂の背中からぬくもりが伝わって来る。
明らかに自分達に不利な状況の筈なのに、薫子は不思議と落ち着いていた。
「何ゴチャゴチャ言ってやがる!覚悟しやがれ!」
じわりじわりと包囲を縮めていた男達が、ついに襲い掛かって来た。
「薫子ちゃん……GO!」
瑞穂の合図と共に薫子が前方にダッシュ!
パーンッ!
薫子の目の前に居た男は、自分の身に何が起こったのかを理解出来なかった。
「うわっ?!」
男が怯んだ隙に、薫子はその横を走り抜け、包囲からの脱出に成功した。
(猫だましか。やっぱり薫子ちゃんは度胸が有るね)
その度胸を与えたのが自分であると云う事に、瑞穂は気付いていない。
「馬鹿!何してんだ!」
リーダー格と思われる男が狼狽した。薫子を追うべきか、それとも瑞穂の包囲を続けるべきか、
男達に一瞬の迷いが生じた。それは瑞穂にとって十分過ぎる一瞬だった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
包囲網を突破した薫子は、そのまま安全地帯まで走り抜けるかと思いきや、
30メートル程走った所で急停止し、瑞穂達の方に振り向いた。
(ひとりしか追い掛けて来ないならあたしが迎撃する。複数来た場合は……改めて考えよう)
薫子はそう考えたのだが、振り向いた時には……全てが終わっていた。
地面に男3人が這いつくばっている。3人共気絶している様だ。
残り2人は何が起こったのかもわからず、呆然と突っ立っていた。
「申し訳ないですが、この方達を連れてお引取り願えますか?」
今男達の目に映っているのは、先程までの気の弱そうな綺麗なお姉ちゃん……では無く、
怒りのオーラを纏い男達を睨み付ける、得体の知れない何かだった。
「「うわ〜っ!!」」
結局倒れた仲間を助ける事無く、男2人は一目散に逃げ出した。
「瑞穂さん、大丈……」
駆け寄って来た薫子のセリフを無言のまま左手で制止すると、瑞穂は右手で携帯電話を操作し始めた。
「あ、楓さん。瑞穂です。実は……」
真剣な表情で『楓』と云う人物と会話をする瑞穂を横目に、薫子は改めて周囲を見渡した。
(目撃者は居ないみたいね……)
今の状況を考えると、誰にも見られていない方が好都合なのかもしれない。
「……はい。お手数掛けますがよろしくお願いします」
ピッ!
どうやら通話は終わった様だ。
「えっと、瑞穂さん。どちらに電話を?」
「……正直好きなやり方じゃ無いのだけれど、この場の後始末をね」
「後始末?」
「後でお礼参りとかに来られると困るでしょ?」
「……『お礼参り』なんて単語を、瑞穂さんの口から聞けるとは思わなかったです」
瑞穂と薫子がこの場を去った後、楓率いる鏑木家の精鋭達による後始末が行われた。
具体的に何が行われたのか、後刻瑞穂は楓に説明を求めなかった。多分知らない方が幸せだろうから……
「それじゃ薫子ちゃん、寮まで送るよ」
「え?」
「せっかくの薫子ちゃんとのデートだったのに水を差されちゃったからね。
今日は改めてプレゼントを探す気にはなれないでしょ」
「デ、デ、デートって、どさくさに紛れて何云ってるんですか?!」
薫子の顔が真っ赤に染まった。
「あはは……ゴメンゴメン。嫌な思いをしちゃったから、気分を変えようと思ってね……」
「ま、確かに嫌な思いはしましたけど、あたしはスカッとしましたよ。
後ろを向いてたから、瑞穂さんの本気って奴を見られなかったのは残念ですが」
「ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
2人は寮に向かって歩き出した。
「瑞穂さん……ごめんなさい」
「どうして薫子ちゃんが謝るの?」
「え、だって、あたしが騒ぎを大きくしちゃった挙句、瑞穂さんの足手まといになっちゃったから……」
「薫子ちゃんは僕の事を助けに来てくれたんでしょう?責任はキッパリと断れなかった僕に有るから。
でも……薫子ちゃんの喧嘩っ早い所は直さないといけないかもね」
「今日の瑞穂さんに云われるのはものすごい理不尽なんですが……」
「な、何の事かな?……そうだ!結局飲み物はどうしたの?」
やぶへびになりそうなので、瑞穂は強引に話題を変える事にした。
「あ、コレです。すみません、ブラックは有りませんでした」
薫子もあえて蒸し返す様な事はせず、缶コーヒーを差し出した。
「ありがとう。少し運動したから糖分が入ってる方が有り難いかも。いただきます……って、ぬるっ!」
今は夏真っ盛り。缶コーヒーはすっかりぬるくなってしまっていた。
「あー、その、ええっと……冷たいコーヒーは胃に良くないと思ったんで、あたしが懐で温めておきました」
「……それじゃ僕は、聖應の大うつけって役どころかな?ふふふっ」
「あははははっ!」
全て笑い飛ばして終了。それが瑞穂と薫子にとっての暗黙の了解になった。
「ふう、ごちそうさま。美味しかったよ、薫子ちゃんのぬくもり入りコーヒー」
「み、瑞穂さん?!」
再び薫子の顔が真っ赤に染まった。
他愛の無い会話で盛り上がり、いつの間にか聖應女学院の敷地が見える所まで来ていた様だ。
「それじゃ僕はこの辺で帰ろうかな」
「えっ?瑞穂さん、お姉さまに会って行かれないんですか?」
「うーん、僕らが奏ちゃんのプレゼントを一緒に探してるって云うのは、
誕生日まで隠しておいた方が良いんじゃないかと思ったのだけれど……」
「そんなのどうとでも言い訳出来ますって。『偶然街で会った』とかにすれば問題無いですよ。
このまま瑞穂さんを帰しちゃったらあたしが後味悪いですから。ささっ……」
「ふふっ、薫子ちゃんは強引だね」
背中を押されながら瑞穂は苦笑した。
「ただいま帰りましたー!」
パタパタパタッ!階段を降りてくる足音がした。
「お帰りなさい薫子ちゃん!」
「ただいまお姉さま」
「ごきげんよう奏ちゃん」
「お、お姉さま?!」
「薫子ちゃんと街で偶然バッタリ会ったのだけれど。薫子ちゃんが『今日は寮に誰も居ないんです』
何て云うから期待して来たのに……どうやら騙されちゃったみたいね」
「瑞穂さん、何しれっとした顔で豪快な嘘をついてるんですか……」
「あながち間違いとは云えないでしょう?薫子ちゃん」
「いやいやいや、思いっきり間違えてますって!」
「ふふふっ、お姉さまと薫子ちゃんが仲良しで私は嬉しいですよ。
ごきげんようお姉さま、ようこそいらっしゃいました。今お茶を淹れてきます」
奏は一旦台所へ……
「薫子ちゃん、もしかして未だに奏ちゃんがお茶を淹れてるの?」
「恥ずかしながら……」
「考えてみたら、僕もお茶を淹れた事って一度も無いから、人の事は云えないけれどね」
お盆にグラスを3つ載せた奏が戻ってきた。
「お待たせしました!」
「ありがとう奏ちゃん」「あ、ありがとうございますお姉さま……」
「今日は暑いのでアイスティーにしてみました」
「奏ちゃんのアイスティーを飲むのは久しぶりね。いただきます……うん!『冷たくて』美味しい!」
「喜んでいただいて嬉しいです……あれ?薫子ちゃん、どうしました?」
「今日は瑞穂さんがすっごい意地悪だ……ブツブツ……」
「ぷっ、それじゃ意地悪ついでに……奏ちゃん、今日は『丁度良い』お盆で持って来たのね」
「ふふっ、お姉さまひどいです」
そう云いながら、奏は必死で笑いを堪えていた。
「ごめんなさい薫子ちゃん。今日は薫子ちゃんとのデートが楽しかったから、つい調子に乗ってしまったみたい」
「まあ?!お姉さまとデートだなんて羨ましいです。お姉さま、もう私の事飽きてしまわれたのですか?」
明らかに奏の口調はわざとらしかった。
「うわーん!瑞穂さんだけじゃなくて、お姉さまも意地悪だーっ!」
この後、部活から帰ってきた由佳里と初音も交えて、瑞穂は楽しい1日を過ごす事が出来た。
その日の夜、瑞穂就寝前。
瑞穂はベッドに腰掛け、今日の出来事を思い出していた。
「薫子ちゃんの背中……小さかったな」
不思議な感覚だった。瑞穂と薫子、2人の体格はほとんど差が無い筈である。
それなのに、薫子と背中合わせになった時、瑞穂は薫子の背中の小ささに驚愕した。
暖かで(不思議と暑苦しいとは感じなかった)、真っ直ぐで、それでいてか弱かった。
(やっぱり薫子ちゃんも女の子なんだな……)
女の子らしからぬ度胸の持ち主、と云うのが薫子に対する瑞穂の評価だったが、一部修正する必要が有る様だ。
(それにしても……)
今日の自分は明らかにおかしかったと思う。ナンパ男相手にあっさりキレてしまったのもそうだが、
何よりも薫子相手に何ひとつ遠慮をしていなかった事が、自分の性格を考えると不思議で仕方が無かった。
あの周防院奏相手ですら、最初の頃は(今でも?)遠慮がちに接していたのに……
「気心の知れた男友達ってあんな感じなのかな?本人に云ったら怒られそうだけれど」
本当に云ったら苦笑いしつつ否定はしない……と云う所か。
鏑木家に帰宅したと同時に、聞き慣れた声が瑞穂の耳に入って来た。
「お帰りなさいませお姉さま!楓さんからお姉さまの身に何か有ったと聞かされて、
一子はずっとずっとずーーーっと心配してました。お姉さまに万が一の事が有ったら、
私はどうしたら良いのかわからなくなってしまいますし、幸穂お姉さまにも顔向けが(以下略)」
瑞穂の聖應女学院卒業と同時に鏑木家の住人になった高島一子である。
「た、ただいま。一子ちゃん、『お姉さま』は禁止って云った筈だよね?」
何故なら、ここでは瑞穂は『鏑木』瑞穂だから……
「ごめんなさいお姉さま。で、お姉さま、ご無事だったんですね?」
いつも通り『お姉さま禁止』はスルーされる。
一子がこの家に来てから毎日の様に繰り返されている恒例行事だ。
「うん。心配掛けてゴメンね……って、もう楓さんから全部聞いてるんでしょ?」
「あ……バレちゃいました。でもでも、心配したのは事実ですよ」
「ありがとう一子ちゃん」
……
既にベッドの中で寝息をたてている一子を横目で見つつ、色々な事を脈絡も無く考えているうちに、
ふと気が付けば、そこには次に薫子と会う時の事を楽しみにしている自分が居た。
(こんな事を考えてると、一子ちゃん怒るかな?)
薫子のぬくもりを背中で思い出しながら瑞穂は眠りについた。
今夜はグッスリ眠れそうだ。
同時刻、薫子就寝前。
薫子はベッドに入り、今日の出来事を思い出していた。
「瑞穂さんの背中……大きかったな」
不思議な感覚だった。薫子と瑞穂、2人の体格はほとんど差が無い筈である。
それなのに、瑞穂と背中合わせになった時、薫子は瑞穂の背中の大きさに圧倒された。
暖かで(不思議と暑苦しいとは感じなかった)、優しくて、そして雄大で……
瑞穂は帰る時、薫子に耳打ちをした。
「薫子ちゃん、今日1日僕に付き合ってくれてありがとう。楽しかった。
それと今日は助けてくれてありがとう。近いうちにまた連絡するから」
瑞穂に相談したのは薫子の筈なのに、助けてくれたのは瑞穂の筈なのに、何故か薫子が礼を云われていた。
(やっぱり瑞穂さんは不思議な人だ……)
元々『不思議な人』と云う印象が有ったが、今日1日瑞穂の素顔(?)に触れて、その想いがより強くなった。
「今日の瑞穂さんは、気心の知れた男友達って感じだったな。本人に云ったら怒りそうだけど」
本当に云ったら大喜びしそうだが……
色々な事を脈絡も無く考えているうちに、
ふと気が付けば、そこには次に瑞穂と会う時の事を楽しみにしている自分が居た。
(何だかんだ云って、あたしも楽しかったしね……)
瑞穂のぬくもりを背中で思い出しながら薫子は眠りについた。
今夜はグッスリ眠れそうだ。
2人が『お互い』を異性として意識するのは、まだ先の話である。
『―― to be continued』
「あっ、思い出した。瑞穂さんが電話で話してた楓さんって、蕎麦つゆの人だ!」
以上です。一応これがシリーズ『瑞穂と薫子』(投げやりなネーミング)の第1話です。
これと2話『十十』で第1部完と言う事で。
最近薫子が、自分の中の好きなキャラランキングで一気に上位進出をしてしまいました。
(薫子は、おとボク企画段階での主人公候補だったのではないか?と推測)
薫子主人公の百合ゲー(あくまでも恋愛未満の百合)とか出ないですかねぇ……
ヒロインは、奏・初音・茉清・京花・ケイリ・瑞穂で。
続きを書く気は一応有りますが……と言うか、3話は既に書き終わってますが、
3話を投下してしまうと最後まで書かないといけなくなってしまうので、目処が付くまでは保留にします。
それでは駄文失礼致しました。
GJ!
良いですね!続きが楽しみです。
今すぐ3話まで投下する作業に戻るんだ!と言いたい所ですが
まあ御自分のペースで頑張って下さい。
GJ
楽しませてもらいました
SSが完成しましたので、投下させていただきます。
どのルートかは伏せておきますが、
6月に由佳里ちゃんと一緒に寝ている、とだけ言っておきます。
それでは、よろしくお願いします。
「由佳里! ちょっと頼まれてほしい事があるのよ」
ある日曜日のこと。あたし、御門まりやは、由佳里に頼みごとをするため、由佳里の部屋を尋ねた。
ガチャッ……。
鍵のかかってない扉を開けるが、由佳里の姿はなかった。
「由佳里のヤツ、鍵もかけずにどこ行っちゃったんだろ?」
そう思って部屋を見渡すと、見慣れない鍵が置きっぱなしになってた。
「あーあ。無用心もいいとこね」
そう思いながらも、あたしはしまっておこうと机の引き出しを開けた。すると、その鍵にぴったりの箱が見つかった。
「なんだろ?」
そう思いながらも開けてみると、それに入っていたのは由佳里の日記だった。
「あはは。部屋の鍵も開けっぱでこの鍵も置きっぱなんて、見ろと言ってるようなもんね」
あたしは由佳里の日記を開けて見てみる。
〜風に揺れる茉莉花〜
6月×日
今日、お姉さまと一緒に寝させていただいた時、思わずお姉さまにキスしちゃった♪
だって、お姉さまの寝顔、すっごく素敵なんだもん。思い出したとき、すごく慌てちゃったな。
でも、これでお姉さまに嫌われちゃうかもって思ってたら、「私のファーストキスの相手は由佳里ちゃんね」って。
それでお姉さまが「お仕置き」って、お姉さまのほうからキス。「これで由佳里ちゃんの初めては私のものよ」
「このことは、2人だけの秘密」って。
やあん♪ やっぱりお姉さまって、素敵すぎるよおっ。
私、お姉さまのこと、ますます大好きになっちゃった♪
「ふうん……瑞穂ちゃん、ノリノリにお姉さましてんじゃない」
あたしは、ニヤニヤしながら由佳里の日記を見ていた。
見ると、そのページの隅に栞が挿んであった。由佳里ってば、きっとこのページを何度も見てるのね。
「瑞穂ちゃんと由佳里、2人をいじるにはまさに格好のネタね、これは」
でも、なんだろ? それを見つけられたってのに、胸に引っかかるような、気分の悪さは?
まあ、言うほど気分は悪くないけど、ちょっと胸につかえる感じ。
それから月日は流れ、11月。その時になって、あたしはようやく気づいた。
由佳里の日記を見たときに感じた、わずかな気分の悪さに。
あれは、嫉妬だったんだ。あたし、あの時由佳里に嫉妬してたんだ。
日記にウソを書く理由なんかないし、となると、由佳里と瑞穂ちゃん、おそらく2人は……。
「ねえ瑞穂ちゃん、由佳里のことどう思う?」
学院で、屋上にいた瑞穂ちゃんに聞いてみた。
「どう……って、由佳里ちゃん、何か様子がおかしいの?」
瑞穂ちゃん、相変わらず天然なんだから。
「そうじゃなくて、瑞穂ちゃんにとって、由佳里はどういう女の子だと思ってるのかってこと」
瑞穂ちゃんは、安堵したようにため息をついてから言った。
「由佳里ちゃんのこと? まあ、一見おてんばそうに見えるけど、お料理は上手だし、気配りもうまいし、
ホントはすごく女の子らしくって可愛いって……」
「そっか……」
「まりや……?」
よかったわね、由佳里。瑞穂ちゃんもまんざらでもないって感じよ。
「由佳里、話があるのよ」
「なんですか、まりやお姉さま?」
その日、あたしの部屋に紅茶を淹れに来てくれた由佳里に、あたしは思い切って話を切り出した。
「今からあたしの言うこと、絶対誰にも言わないって約束できる?」
「はあ……まりやお姉さまがそう言うなら」
「実はさ、瑞穂ちゃんは男の子なのよ」
「はあ? なんですか、そのわかりやすいウソは?」
……だいたい予想通りの反応。こっからが大変なのよね。
「まあ、普通そう思うわよね。一子ちゃんもそうだったし、あたしが由佳里の立場でもそう思ったと思う」
「……って、まさか本当に?」
「信じられないのも無理はないけどさ、そのまさかよ」
そしてあたしは、瑞穂ちゃんが聖央に来るまでの経緯を簡単に説明した。
由佳里は唖然のしながらも真剣に聞いてくれたみたいだった。
「……そうだったんですか」
「そういうわけで、由佳里が瑞穂ちゃんとつきあっても、何の問題もないワケよ」
「………」
「だからさ、思い切って告白しちゃいなよ。瑞穂ちゃんもまんざらでもないみたいだしさ」
あたしは由佳里の背中を後押ししてあげた。あの日記の内容からして、由佳里が瑞穂ちゃんを好きなのは
まず間違いないし、瑞穂ちゃんも多分そうだからね。
「……お姉さまはどうなんですか?」
「え……?」
由佳里の言葉に、あたしは一瞬固まった。
「だから、お姉さまは、瑞穂お姉さま……瑞穂さんのことを、どう思ってらっしゃるんですか?」
あたしは答えを用意していなかった。素直な由佳里なら、そのまま勢いに乗って瑞穂ちゃんとうまくいくと思ってたから。
由佳里はあたしに瑞穂ちゃんをとられるんじゃないかって心配してるんだな……落ち着くとそれがわかった。
「あたしが? 大丈夫だって。瑞穂ちゃんはあたしのこと、多分やっかいものとしか思ってないから。
今まで嫌がる瑞穂ちゃんに無理やり女装させてたし、ほかにも嫌がること、面白がっていっぱいしてきてるわけだし、
それは由佳里もよくわかってるでしょ?」
「そ、それはまあ……」
「だから心配いらないって。瑞穂ちゃんがこんな性格悪いあたしのことなんか好きになるわけないって」
「で、でも……」
「はい、この話はこれでおしまい。お世話ご苦労様」
あたしはそう言って、由佳里を部屋から追い出した。
「性格悪い……か」
そうだよね。あたしは今までにも瑞穂ちゃんと由佳里、あんないい子たちに意地悪してばかりだもんね。
由佳里の恋路を邪魔する資格も、瑞穂ちゃんを好きになる資格もない。
だから、これでいいんだよ、これで……。
そして、年は明けて、2月、櫻館……。
「ねえ、瑞穂ちゃんとはうまくいってるの?」
あれからしばらくたっても、いまだに由佳里と瑞穂ちゃんの間で、浮いた話は聞こえてこないし、
2人の間でそういう空気が流れてる気配もない。
だから、あたしは2人の時に由佳里に聞いてみることにした。
「うまくいくも何も、まだ瑞穂さんには告白してませんから」
「なっ……!」
あたしは、予想外の答えに固まった。
「なんでよ! 瑞穂ちゃんがここにいるのは、あと1ヶ月ないのよ!?
由佳里がもたもたしている間に、瑞穂ちゃんはいなくなっちゃうのよ! わかってるの!?」
こうなったら、一刻も早く、由佳里と瑞穂ちゃんを恋人にしなきゃ。あたしのためにも、2人のためにも。
「まりやお姉さまはどうなんですか? まりやお姉さまも、瑞穂さんのことが好きなんじゃないんですか?」
由佳里はそう切り替えして来た。そりゃ、あたしも瑞穂ちゃんのことは好きだけど……。
「だから言ったでしょ? 瑞穂ちゃんはあたしのこと好きになるわけないって」
「……答えになってませんよ」
由佳里はそう言う。どうしたらいいんだろう?
「わかりました。今から瑞穂さんに告白します」
由佳里はそう言って瑞穂ちゃんのところにいった。よかった。これで幸せになれる……。
「由佳里ちゃん、どうしたの、こんなところまで連れてきて?」
そう思ってたら、由佳里が瑞穂ちゃんをここに連れてきた。どうしたんだろう?
「まりやお姉さまから聞きました。お姉さまが……ううん、瑞穂さんが男の方だってこと」
「……そっか。聞いちゃったんだ。ごめんね、今まで騙していて」
瑞穂ちゃんがちらっとあたしの方を見た後、由佳里を優しい目で見ながら言う。
「そのことはいいです。それより、瑞穂さんに重大な話があるんです」
お、やっと告白シーンへ突入ですな。
「私、瑞穂さんのことが好きなんです。私とおつきあいしていただけませんか?」
由佳里が真剣に言う。よかった。これで、あたしも肩の荷が下りたよ。
ところが、そう思ってると、展開は予想外の方へ行った。
「……ごめん。僕は、由佳里ちゃんとはつきあえない」
ど、どういうことよ、これは!?
「なんでよ瑞穂ちゃん! 由佳里のどこが不満なのよ!」
「どこって、不満はどこにもないよ」
「じゃあなんで由佳里とつきあえないのよ!? かわいい妹が精一杯告白してくれたんだから、
試しにOKしてあげてもいいでしょ!?」
瑞穂ちゃんの言葉が信じられない。あたしは自分の意見を精一杯ぶつけた。
「そうだね。少し前ならそうしたかもしれない」
「なんで少し前なのよ!? まさか、誰かと早く妹に告白させた方が、100万円とかやってたっていうの!?」
「もう、そんなワケないでしょ」
「だったら、OKしてあげなさいよ! 勇気を振り絞って告白した由佳里の身にも……」
あたしが言いかけたところで、胸に伸びた手があたしを遮った。由佳里だった。
「瑞穂さん、なぜ私とつきあえないのか、納得のいくご説明をしていただけませんか?」
「わかった。さっきも言ったように、由佳里ちゃんに対して不満はどこにもないし、
由佳里ちゃんの気持ちは、むしろすごく嬉しかったよ」
由佳里の言葉に、瑞穂ちゃんは根負けしたように話し始めた。
「だから、少し前……自分の気持ちに気づく前なら、試しにつきあってみようかな、と思ったかもしれないし、
つきあっていくうちに気持ちが揺れて、そのままずっと……ということもあったかもしれない。でも、今はもうムリ」
気持ちって? 揺れるってどういうこと?
「僕が自分の気持ち……まりやが好きだって気持ちに気づいてしまったから」
「……だそうですよ、お姉さま」
瑞穂ちゃんがそう言うと、由佳里があたしに向き直って続ける。
ウソでしょ……瑞穂ちゃんもあたしのことを……なんて……。
「今度はまりやお姉さまの番ですよ?」
「あたしの番って、由佳里はそれでいいの?」
あたしは念のために由佳里に聞いてみた。
「もし相手が瑞穂さんを利用するだけ利用して用がすんだらそれまで、なんて考えてる人なら、
もちろん全力で奪い取りますよ? でも、まりやお姉さまなら、納得できますから」
「でも、それじゃ、由佳里は幸せになれないんだよ?」
「ああもう! 私の幸せ云々は今はどうでもいいです! 私が聞きたいのは、まりやお姉さまが瑞穂さんの気持ちに
こたえる気が“ある”のか“ない”のか、それだけです!」
あたしが由佳里をなだめるように言うと、由佳里は逆に怒ってしまったみたい。
「だいたい、普段はなんでも自分の思い通りにしなきゃ気がすまないのに、
こんな時に、その本領を発揮しなくてどうするんですか!?」
「ぷっ……」
由佳里の言葉に、あたしは思わず噴き出してしまった。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
あたしが気持ちを抑えて由佳里のことを応援してたみたいに、由佳里もあたしと瑞穂ちゃんのことを応援してたんだ。
思い返してみれば、ふられた時も含めて、由佳里の表情は何一つ変わっていない。
まるでこうなることを予測していたみたいに。
「それで、どっちなの、まりやの気持ちは? OKなの? NOなの?」
瑞穂ちゃんが由佳里に続いて聞いてきた。由佳里のためにも、あたしが正直にならなくちゃ。
「……OKに決まってるじゃない」
気がつくと、あたしは涙を流していた。すごく嬉しい。瑞穂ちゃんの気持ちも、由佳里の気持ちも。
「でも瑞穂ちゃん、ホントにあたしでいいの? つきあい始めた途端、自分の都合で何年も放っておこうとしてるような女で」
それからしばらくしてあたしが留学する事が決まって、瑞穂ちゃんに聞いてみた。
「違うよ。まりやでいいんじゃなくて、まりやがいいの。そうじゃなきゃ、由佳里ちゃんに告白された時OKしてるよ」
ホント、あたしには過ぎた恋人と妹よね。
「まりやお姉さま、ホントに留学なさるんですか?」
一方、由佳里にもそのことを伝えると、由佳里は驚いた顔をしていた。
「するよ。自分の夢を叶えるためにね」
「それで、寂しくないんですか? 瑞穂さんと何年も会えなくなるのに……」
「バカね。留学って言っても一時帰国もあるし、電話やメールでのやりとりもできるから、
まるっきり会えないってわけでもないのよ。瑞穂ちゃんにも、由佳里にもね」
「まりやお姉さま……」
「由佳里も、早くいい人見つけなよ? 由佳里ならその気になれば、きっと引く手あまたなんだから」
「あはは……わかりました」
そこまで行って、あたしは今までの瑞穂ちゃんと、そして由佳里との記憶を思い返してみる。
「……あ」
「どうしたんですか、お姉さま?」
由佳里が何かいやな予感を感じたのか、引き気味になった。
「そういえば瑞穂ちゃんのファーストキス、由佳里が奪われたままだったわね」
「ちょ……なんでまりやお姉さまがそんなこと知ってるんですかあ……」
「瑞穂ちゃんのファーストキスは本来あたしのものになってしかるべきなんだから、おとなしく返しなさい」
そう言って由佳里の唇にキスを迫る。
「な、なんでそうなるんですかあ……瑞穂さんはお姉さまのものなんですから、それぐらいいいじゃないですかあ!」
「よくない! おとなしく返しなさい、キス泥棒!」
もちろんあたしなりの由佳里への愛情表現なんだけど、由佳里のことも愛してるからちゅーさせてなんて、
こっぱずかしくて言えないしね。
「誰がキス泥棒ですか! やめてくださいよ……わああっ!!」
こうして由佳里と最後の別れの日、あたしは由佳里をとことんいじり回したのだった。
Fin
以上です。
私の作品では、まりやが結構悲惨なんじゃと思い、たまにはこういうのもいいかな、と
また、由佳里ちゃんが恋のキューピットになるシーンがまりや、奏ちゃんともに貴子さんにとられていたので、
書いてみようかな、と思い書かせていただきました。
それでは、今回はこれで。お目汚し失礼いたしました。
GJ
東の扉さん楽しませてもらいました
後れ馳せながらGJ
ただ、たまには由佳里主体の話以外も読んでみたいと思った
>>173 IDって知ってるか?
バレバレの自演乙
175 :
名無しさん@初回限定:2008/10/24(金) 22:30:01 ID:T5VAwV030
この人の自演失敗は何回目だ?
専ブラで見ればID表示が赤くなってたりしてかなりわかりやすいのになw
そうでなくてもIDみてれば同じってわかるけど。
せめて日付変わってからとか考えないのかな?
ワワロタ
>>174 もちろん知ってますよ。
言われてはあ? と思って
>>173を確認したら、なぜか「風に揺れる茉莉花」を投稿した時と同じ……どうして?
偶然同じIDになることとか、故意に同じIDに変えることとかってあるんですか?
あるとしたら、防ぐ方法とかあるんですか?
偶然ってのはあるって聞いたことがあるけど、少なくとも俺は今まで見たことないな。
でもIDは日付が変わるまでは変化しないよ。
あと、防ぐ方法とかは知らんけど、気になるなら自分で調べろ。
なるほど。偶然ですか。
マッチポンプ失敗かと思いましたよ。
宝くじほどの確率の同IDの奴がその日の内にGJと言ったのですね。
普段は無視されてるのに災難でしたねーw
しかも反論するのがID変わってからというのがいい味出してますね。
そういや前回コテハン出しっぱなし事件のとき・・・
自演じゃないって言うのは自由ですから。
俺だったら恥ずかしくて二度とここに来ないけどね。
共同で引いてる回線とかだと一致することもあるしね
でもそれでも天文学的数字じゃないかな
市況2板ではコテハン2人がIDかぶりまくってたな。
違う日でもかぶってた。ひとりは会社のPCから書き込んでたらしいが。
理系的に同じ板ではIDが被る可能性が高くなる、と仮定してみる。
自演擁護乙
>>183 回線による一致は基本めったにないよ
お隣さんがたまたま同じスレ見てたとかより、ロジックによる一致の方が起こりやすいだろうね
的確なデータがないとその判断は難しいよな…
天文的確率で偶然の一致であり得るとしても、
以前にも同様のケースがあった場合は果たして本当に偶然の一致なのかな?
以前にあったんなら逆に同じ失敗はしないんじゃね?
同じ失敗を繰り返すほうが人間的とも思える
191 :
名無しさん@初回限定:2008/10/27(月) 15:12:42 ID:TllsxpYrO
面白い作品書く人程自演騒ぎから遠い。
つまらないスレになるからここは穏便に済ませようとするのは間違い?
お姉さまはつまってないのですか?
便秘とは無縁なお姉さまが羨ましいですわ
お姉さまには、
愛と威厳と○刀乙が詰まっています
ageるぜぇ〜超ageるぜぇ〜
新しい電波を受信しました。よろしくお願いします。
〜西遊記〜
昔々、中国に、三蔵法師奏と呼ばれる僧侶がいました。
彼女は、天竺に仏典を求めて旅をしていました。
「ううう……でも一人旅はやっぱりさびしいのですよ……」
そうして旅を続けるうちに、途中、巨大な人参にはさまれた猿を見つけました。
「えーん、奏ちゃん、助けてーっ!」
人参に潰されて泣いていたのは、孫悟空由佳里でした。
「由佳里ちゃん、どうしたのですか?」
「実は聖母マリア様に罰ゲームを喰らって、助けがあるまでそうしていろって……」
奏が見ると、巨大人参には“大魔王封じ”“ハンバーグ禁止”の2つのお札が……。
「えっと……このお札をはがせばいいのですか?」
「うん。お願い」
奏は2つのお札をはがしました。すると、人参がみるみるうちに小さくなりました。
「ありがとう奏ちゃん、助かったよ」
「どういたしましてなのですよ。でも、どうしてこうなったのですか?」
「うん。私はマリア様のもとでお料理作ってんだけど……」
「ちょっとゆかりん。毎日毎日ハンバーグばかり、いい加減にしなさいよ!」
聖母マリアは料理番の孫悟空由佳里を呼び止めます。
「あたしはマリアじゃなくてまりやだーっ!! むっきーっ!!」
ガシャーン!!
と、とにかく、呼び止めてそう忠告しました。
「なんでですか!? 私のハンバーグはおいしいって、おっしゃってたじゃないですか!!」
「そりゃ確かにおいしいけどね、毎日毎日ハンバーグじゃ飽きるわよ。
宮殿でも料理番変えてくれって意見が出てきてるんだから、たまにはハンバーグ以外のものも……」
「何をおっしゃるんですか!? 飽きちゃうのは、ハンバーグを愛する心が足りないからです!
ハンバーグ道を極めればいいだけの話です!」
それを聞いて、マリアまりやはうんざり。
「それじゃ、賭けをしましょ?」
「賭け?」
「そっ。由佳里には色々恥ずかしい秘密があるでしょ? 1週間、あたしがそれを目撃できなければ由佳里の勝ち。
お料理は今までどおりでいい。そのかわり目撃したらあたしの勝ち。罰ゲームが待ってる。どう?」
「い、いいですよ。受けてたちます!」
そして勝負開始。由佳里は6日間なんとか我慢していたものの、7日目、とうとう我慢できなくなりました。
「この辺まで来れば、大丈夫だよね」
筋斗雲に乗った孫悟空由佳里が見ると、山の頂上らしき場所に、人参が置いてありました。
「何でこんなところに人参が……?」
人参を見ると、食べかけといった感じでした。そばには、「瑞穂ちゃんの食べさしだよーん♪」と書かれてました。
「んっ……」
それで由佳里が我慢できようはずがありません。
「やあっ! イくっ、イっちゃうーん!!」
由佳里は人参の食べさしの方で思いっきり励んでいました。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
そして、6日間の禁欲生活の後だけに、快感のあまりおもらししてしまいました。
「んっふっふっ……見たわよゆかりーん」
帰ると、まりやが意地悪な笑みを浮かべていました。
「な、何をですか?」
由佳里が見ると、まりやの右手に食べかけの人参とおもらしの後が……。
「あ……あ……あ……」
すでに由佳里は真っ赤っかです。
「と、いうわけで、ゆかりん撃沈ー♪ はい、罰ゲーム」
まりやがそう言うと、由佳里の頭上に巨大な人参が。しかも、なぜか“大魔王封じ”と“ハンバーグ禁止”のお札が。
「わああああっ!!」
「……というわけなんだ」
「……それは、色々な意味で自業自得だと思うのですよ……」
三蔵法師奏は、呆れて言いました。
「でも、お姉さまだよ!? お姉さまの食べかけを見て我慢できる?」
「まあ、それは……」
「それと、なんで人参ばかりなんだろ!?」
「それは、由佳里ちゃんが孫悟空だからだと思うのですよ」
「いや、そっちの孫悟空じゃないし……」
何はともあれ、音楽は省略せざるを得ないが、孫悟空由佳里が、三蔵法師奏の仲間に加わった!
そして、2人で旅を続けてると、河童がいました。
「あれは、沙悟浄貴子さんなのですよ」
「奏ちゃん、知ってるの?」
「はいなのです。昔、奏のリボンを盗まれた事があるのです。奏の大事なものだとわかって、返していただきましたけど」
そう言うと、三蔵法師奏は駆けていきました。
「沙悟浄貴子さん、お久しぶりなのですよ」
「奏さん、どうしてここに?」
「奏たちは、天竺まで仏典を取りにいくところなのです。貴子さまも、よろしければお供してくださいなのですよ」
「そうですわね。昔のお詫びがてら、お供させていただきますわ」
沙悟浄貴子が仲間に加わった! 音楽は省略。
「しかし天竺に仏典を取りに行くとは、危険な旅をしておいでですわね」
「どうしてなのですか?」
「天竺までの道は、牛魔王という恐ろしい魔物がいると聞きます。妻の羅刹女、配下の金角、銀角とともに
天竺までの道を封印していると聞きますわ」
「奏、自信がなくなってきたのですよ……」
「大丈夫だって奏ちゃん。私たちもついているんだから」
そう話していると、前から豚が歩いてきました。
「あっ!!」
貴子の顔が怒りに満ちてきます。
「猪八戒まりやさん! ここで会ったが百年目、今こそ恨みを晴らしてさしあげますわ!」
「沙悟浄貴子! ちょうどいいから、決着をつけさせてもらうわよ!」
そう言うなり、2人は喧嘩を始めました。
「はややっ、お2人とも、落ち着いてくださいなのですよ!」
「そうだよ、喧嘩はダメだって!」
奏と由佳里は2人を仲裁します。そして仲間になってくれないか説得しました。
「いいわ。あたしも丁度退屈してたから。ヒマつぶしにつきあってあげる」
猪八戒まりやが仲間に加わった!
「しかし、なんであたしが豚なのよ!」
「アニメ版には、烏龍茶のほかに茉莉花もいますから、問題ないと思うのですよ」
「それより、あなた、私を人参に閉じ込めたマリア様じゃないですか?」
「違うわよ! あれは別人! あたしはこの役で出てくれって言われたから出ただけ。文句はヘボ作者に言ってよね」
「もっともなのですよ……この作者さんは、3秒経てば忘れるのですよ」
「私たち、そんな作者に書かれているのですか……」
みんなで色々話していると……。
「牛魔王様のご命令だ! ここから先は通さねえぜ!」
金角が現れた!
「きんかくって、どっかで聞いた気がするわね」
「京都のお寺のことですか?」
「ああ、それそれ、どんなお寺だっけ?」
「まったく、少しは勉強なさい! 室町3代将軍足利義満が建てた寺で……」
沙悟浄貴子は、説明していきます。
「なぜ世界史専攻の私が日本史を教えなければいけませんの?」
「ちょっと、いくら絶頂期の将軍だからって、庶民の税金を無駄遣いするのもたいがいにしなさいよ!
だいたい、光ってりゃいいわけないでしょ!? 悪趣味よ、悪趣味!」
「ぐわーっ!!」
猪八戒まりやの口撃! 会心の一撃! 金角をやっつけた!
「……って、もう終わりですか? さすがまりやお姉さま、毒舌達者……」
「ほお? 何か言ったかねゆかりん」
「あだだだだ!! やめてください」
まりやは、由佳里の頭をぐりぐり痛めつけています。
「兄者の仇、とらせてもらうぜ!」
銀角が現れた!
「ねえ、ひょっとして、ぎんかくってお寺もある?」
「まったくもう……」
沙悟浄貴子は、またしても説明していきます。
「ちょっと、11年も不毛な戦起こした能無し将軍のクセに、そんなもん建てて現実逃避してんじゃないわよ!
だいたい、全然銀使ってないじゃん! 名前負けもいいとこね」
「うぎゃーっ!!」
猪八戒まりやの口撃! 会心の一撃! 銀角をやっつけた!
「って、こんな戦闘でいいんですか?」
「いいんじゃない? 先に進めれば」
こうして、物語の都合上、ついに牛魔王の城にたどり着きました。
「燃えているのですよ」
「燃えてますね」
「どうしたら中に入れるのでしょうか?」
「消防車を出動させればいいんじゃない?」
一行は、炎に包まれた城を見て、相談しています。
「ムダよ。それは私の魔法のバリアだから。芭蕉扇じゃないと消せないわ」
羅刹女瑞穂が現れた!
「お姉さまなのですよ!」
「お、お姉さま!」
「瑞穂ちゃん!」
「……なんで僕がよりによって女の役なの?」
みんなはそれは当然じゃないのか? と思いました。
「とにかく、そういうわけだから、芭蕉扇を持ってないなら、出直してくれないかしら。ねっ?」
瑞穂は申し訳なさそうに手を合わせて言います。
「……すごい色っぽい! あんた、間違いなく三国一、ううん、世界一の美女よ!」
ガーン!!
「僕は男なのに……男なのにい……うわああああああん!!」
猪八戒まりやの口撃! 痛恨の極みの一撃! 羅刹女瑞穂をやっつけた!
「火が消えてるわね」
「消えてますね」
「じゃ、中に入りましょうか?」
そして、城の奥深くまで進んでいくと、泣きじゃくる羅刹女瑞穂を、牛魔王が慰めていました。
「牛魔王さん、奏たちは天竺に行きたいのです。ここを通してくださいなのですよ」
「まあ、奏ちゃん!」
そう言うと、牛魔王は奏に歩み寄ります。
むぎゅーっ!
「はややっ!」
「奏ちゃん、ここで一緒に暮らしませんか?」
「あの、あなた、牛魔王ですよね?」
「ええ。私がこの城の主、ぎゅーっ魔王紫苑ですわ」
「はうう……すごく心地良かったのですよ」
「お供の方も、いかがでしょうか?」
「一緒に暮らしましょうなのですよ! 紫苑お姉さまとお姉さまがいらっしゃれば、それが極楽浄土なのですよ」
「奏ちゃん。うん。もっともだね」
「そうよね。2人がいるところ、それ即ち極楽浄土だもんね」
「ままま、毎日お姉さまと一緒に……きゅうううううう……」
こうして、三蔵法師奏たちは、ぎゅーっ魔王紫苑たちとともに、末永く幸せに暮らしましたとさ。
Fin
以上です。お目汚し失礼いたしました。私はしばらく寝ます。
そろそろ他の作者さんのSSも読みたいな……と思う今日この頃です。
東の扉さんGJです
楽しませてもらいました
210 :
名無しさん@初回限定:2008/11/02(日) 19:11:47 ID:04ZXtFKf0
てst
覚悟を決めてシリーズ『瑞穂と薫子』の第3話を投下します。
ここからは明確に薫子がメインになります。
『姉と姉?』
夏休みが終わり、2学期が始まった。
奏の誕生日以降、瑞穂が学生寮に遊びに来る頻度が上がった様だ。
3人で(主に奏の部屋で)他愛の無いおしゃべりをしたり、
瑞穂と奏が(主に薫子の部屋で)薫子に勉強を教えたり、
時には体育館を借りて、講師瑞穂の護身術教室(基本的にはマンツーマン)が開かれたりした。
その結果、薫子の学院生活はより充実する事となった。
学業成績の向上(と云っても、元々成績が悪い訳ではない)。
剣道・フェンシング・合気・空手他、各種格闘スキルの向上。
そして何よりも、3人でまったり過ごす事の心地良さ。
(聖應に来て本当に良かった。ありがとう親爺……いや、心の中でもお父様と呼ぶべきかな?)
父親に感謝しつつ、薫子は幸せを噛み締めた。
しかしその幸せは長くは続かなかった。
幸せの中に、アルミホイルの欠片が混入している事に気付いてしまったのだ。
10月の某日曜日、奏の部屋。
薫子がさりげない視線で、瑞穂と奏の事を観察している。
(お姉さまと瑞穂さんって、『姉妹』とかそう云った枠を遥かに超えてるよね)
今更ながら薫子は、瑞穂と奏の絆の深さを思い知らされていた。
奏が瑞穂に見せる無邪気な笑顔は、薫子に向けられた事が有っただろうか?
瑞穂が奏に見せる慈愛に満ちた微笑は、奏だけを包み込んでいる様に見える。
3人で過ごしている筈なのに、自分ひとりだけ遥か遠くに取り残されている様な感覚が薫子の心を支配した。
あと半年で奏は卒業する。
奏がこの寮を去った後でも、瑞穂と奏の交流が途絶える事は無いだろう。では自分は?
今瑞穂がしている様に、卒業後奏は寮に遊びに来てくれるのだろうか?
卒業と同時に奏と薫子の縁は切れてしまうのではないか?
不安は増大する一方だった。
幸せを手に入れると、次に来るのはそれを失う事に対する恐怖である。
「……ちゃん、薫子ちゃん?」
何時の間にやら思考の迷宮にハマってしまった薫子を、奏が心配そうに覗き込む。
「薫子ちゃん!」
「は、はい!何でしょうお姉さま?」
「何でしょう、ではありません。具合でも悪いのですか?話しかけても何だか上の空ですし……」
「え?そ、そんな事は無いですよ。
今日はいつもより暑いみたいなんで、少しボーッとしちゃったかな……なんて」
奏に続き、瑞穂が心配そうな表情で薫子の様子を伺う。
「それでは今日はやめておきますか薫子ちゃん?ハンパな状態でやってもケガをするだけですし」
やめると云うのは、無論護身術教室の事である。
「いえ、今日もお願いします。眠気覚ましに丁度良さそうですから!」
瑞穂の挑発に対し、薫子は反射的に強い口調で返した。
「ふふっ、どうやら大丈夫みたいね」
「あっ……」
薫子は、呆気無く挑発に乗ってしまった自分に対して赤面した。
「何だか瑞穂さんの掌の上に乗っかってるみたいで腹立つなぁ……
瑞穂さん!今日こそ一本取ってみせますから覚悟して下さい!」
「その意気よ薫子ちゃん。今日も頑張りましょうね」
……
「あ、ありがとうございましたぁ」
結局この日も、薫子は瑞穂に対して有効打を叩き込む事は出来なかった。
(風が語りかけます。強い、強過ぎる……ってボケてる場合じゃない。やっぱ瑞穂さん強過ぎ!)
1年前のフェンシングの特訓以来、今まで一度も(試合形式で)瑞穂に勝った事が無い。
自分の得意分野である筈の剣道ですら、瑞穂から一本も取れずにいる。
(あたしは普通の男とのタイマンなら何とかなる。瑞穂さんは男3人を一瞬でねじ伏せる。
瑞穂さんは少なくとも、あたしの3倍以上強いって事なのかな……)
ただでさえ沈んでいた気持ちが、より憂鬱になってしまった。
そして翌日……
昼食(沈んでいる時でもガッツリ食べる)を終えた薫子は、教室の片隅でたそがれていた。
そんな薫子に声を掛ける勇者はこのクラスには居ない。ひとりを除いては……
「学生寮櫻館のなーなーはーらーっ!」
「んだとコラァ!……って、茉清さんどうしたのよいきなり」
「おや?普通に返してくれた所を見ると、思ったより重症ではないみたいだね」
「重症って……あたしが?」
「そう。自覚は有るのだろう?薫子さんが禍々しいオーラを放つものだから、クラス中が困ってる」
とりあえず周囲に愛想笑いを振り撒いてから、改めて茉清の方に向き直った。
「どーせあたしは柄が悪いですよ……」
「そうじゃなくて……薫子さん、何か悩みが有るのだろう?良ければ相談に乗るが」
「へ?珍しく優しいね茉清さん。明日は雪か台風か……」
茉清との会話が気分転換になったのか、薫子の表情に少し笑顔が戻ってきた。
「失礼な。そうだな……強いて云えば、薫子さんが沈んでいるとお姫さまが悲しむからかな?」
そう云いながら茉清が視線を向けた先には、薫子の事を遠くから心配そうな瞳で見つめる大谷京花の姿があった。
とりあえず京花に向かって笑顔を見せ手を振った後、改めて茉清の方に向き直った。
(京花さんには悪いけど……)
残念ながら、京花の存在は今の薫子の眼中には無い。
「うーん、他人(ひと)に云える様な話じゃないんだけど……
大雑把に云うと、いつもすぐ側に在った筈のモノが、
何時の間にやら手の届かない場所へ行ってしまった……って感じかな」
「ん?サッパリわからないな」
「あはは、そうね。こんな曖昧な表現じゃわからないよね」
「いや、そうではなくて。何故そんな事で薫子さんが悩んでいるのかがサッパリわからない」
「え?」
「遠くへ行ってしまっても問題無いモノなら、そのまま放置すれば良い。
それが嫌なら、薫子さんが自分の足で手の届く所まで歩いて行けば良い。それだけだと思うけれど……」
薫子は思わず目をパチパチさせながら茉清の事を見直した。
「少なくとも、私が知っている薫子さんならそうする筈だ」
簡単に云ってくれる……とは思わなかった。
茉清の単純かつ乱暴なアドバイス(薫子の性格を知り尽くしている故か)で、
薫子の顔はみるみるうちに精気を取り戻した。
「そうか!そうだよ!その通りだ!ありがとう茉清さん。どうすれば良いのかわかった気がする」
「お役に立てた様で何より。それでは報酬はスイス銀行に振り込んで置いてくれるかな?」
「それじゃ口座番号を教えて下さいな」
「ふっ、どうやらもう大丈夫みたいだね」
「おかげさまで。よーし!今日から改めて頑張るぞー!」
放課後。薫子は1人で帰宅の途に着いた……と云ってもすぐそこだが。
奏の部活動が終わる頃に、改めて迎えに行く約束になっている。
帰り道を歩きながら、茉清のアドバイスの意味を考えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今のあたしは、お姉さまや瑞穂さんに相応しい存在である自信が無い。
それならば、これから努力して相応しい存在になれば良いんだ!
ん?お姉さまだけじゃなくて、何で瑞穂さんの名前が出るんだ?
そもそもあたしにとって瑞穂さんって何?
『お姉さま』
……では無いな。あたしが心の底から「お姉さま」って呼ぶのは(奏)お姉さまだけだし。
実際「瑞穂お姉さま」って呼んだ事は有るけど、今ひとつしっくり来なかったしね。
『先輩』『師匠』
……うーん、一応合ってるんだけど、先輩後輩とか師匠弟子って間柄では無い気がする。
『ライバル』
……を名乗るには、今のあたしじゃ色んな意味で力不足だね。
一度でいいから「強さも、美しさも、私の勝ちというわけね」とか云ってみたい……
『友達』
……あの時(デート?)の瑞穂さんはそんな感じだったなぁ。
結局瑞穂さんが地のままだったのってあの日だけだから良くわからないや。
て云うか、アレが本当に地だったのか今でも半信半疑だ。
要するに、あたしが瑞穂さんに何を望んでるのかがわからないんだよね。
瑞穂さんがあたしに何を望んでるのかもわからないし。
何故だろう。瑞穂さんの事を考えると、胸が痛い……
って、昨日は瑞穂さんの突き(ファント)が綺麗に入っちゃったからなぁ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
薫子は、奏に相応しい妹になる為、新たな一歩を踏み出した。
(お姉さまに相応しい妹になりたい。瑞穂さんに相応しい……何になれば良いのだろう?)
『―― to be continued』
ガチャ!
「ただいま帰りましたー!……って誰も居ないんだっけ。寮母さんは買い出しだったかな?」
奏は部活動。由佳里と初音も生徒会で遅くなるらしい。
「テレビでも見るか……」
プチッ!
――天気予報です。昨夜発生した台風○○号は、東北東に進路を変え、風速……
以上です。明確な設定は無いですが、ここから5話までが第2部と言う事で。
4話を書いていたのですが、3KB位書いた所でめでたくボツ決定orz
無かった事にして改めて4話を書き初めて今17KB位です。
どうにも文章が浮かばないのでキャリバーWで薫子っぽいのを作ってみたり……
(あまりに似ないので闇に葬った)
6話が一子ちゃん誕生日話の予定なので、それまでに間に合えばいいなあ…………無理
それでは駄文失礼致しました。
>>219 なかなかの出来です
楽しませてもらいました
>>219 遅くなりましたがGJ!
続き楽しみにしてます
『エルダーズオリジナル』
私がお姉さまに淹れた始めての紅茶。
それはエルダーズオリジナルで、私は(自主規制)才でした。
その香りは一片の濁りも無く芳醇で、こんな素晴らしい紅茶をお姉さまに淹れて差し上げる私は、
きっと特別な存在なのだと感じました。
今では私がお姉さま。妹に淹れてあげるのはもちろんエルダーズオリジナル。
なぜなら、彼女もまた、特別な存在だからです。
それでいいのですか?奏ちゃん……
『完』
このネタってとっくの昔に既出な気がしたので少しひねってみました……って何をやってるんだ私はorz
忙しいのはわかりますけど、最後の更新からもう23日……。
「おとボク」の次期燃料の投票もありますし、そろそろ更新してほしいな……。
聖誕祭の16日は都合で投稿できませんので、
フライングですが、貴子さん聖誕祭SSを投稿させていただきます。
舞台は学院祭当日、(正確な日にちがあるのかは忘れましたが、私の脳内設定では23日です)
設定はまだニュートラルですが、貴子ルートは確定しています。
僕が1人で学院祭を回っている時……。
「ううう……」
1人で震えている貴子さんを発見した。
「どうしたんですか、貴子さん?」
「お姉さま……その、本番前ですので、緊張してしまって……」
本番って、そっか。あの劇を演じること……それを今から想像してガチガチに固まってしまっていたのか。
「貴子さん。私も緊張しています。でも、意識しすぎては出来るものも出来なくなりますよ?
ですから今は意識するより、せっかくの学院祭を楽しんだ方が緊張もまぎれていいと思いますよ?」
「お姉さま……」
「そうだ。もしよかったら、一緒に回りませんか?」
〜学院祭のロミジュリデート〜
「一緒に? 私とお姉さまが……ですか!?」
貴子さんは驚いて聞き返してきた。
「ええ。もしおいやでしたらよろしいですけど……」
「ととと、とんでもない! 喜んでお供させていただきますわ!」
「それじゃあ、行きましょうか」
「ははは、はいっ!!」
「えっと、貴子さん、改めて聞くのも変ですが、どこか行きたいところはありますか?」
「いえ、私は特に……お姉さまにお任せいたしますわ」
そっか……じゃあ、僕が行きたいところを回ることにしよう。
「ここは……?」
「たしかロザリオを売っているはずです」
「ロザリオ……ですか……」
奏ちゃんがいるところで、先月のこともあるし、貴子さんとは気まずくなるかもしれないけど、とにかく入ってみよう。
「貴子さん、行きましょう」
「はい……」
「いらっしゃいませ……きゃああ、お姉さま!」
「生徒会長の貴子さままで!」
教室中が、いっせいに黄色い歓声に包まれる。お客さんが2人訪れたくらいでこうなるなんて、
元気いっぱいで微笑ましいな。
「お姉さま、いらっしゃいませなのですよ!」
「奏ちゃん、来たわ」
出迎えてくれた奏ちゃんだったけど、貴子さんの顔を見て表情が固まった。
「………!」
「………」
貴子さんも奏ちゃんから視線をそらしている。気まずい……。
「奏ちゃん、ロザリオを見せてもらえるかしら?」
「は、はいなのですよ!」
僕はそう言って貴子さんとロザリオを見ることにした。
「あ、あの、会長さん、ごめんなさいなのですよ……」
「………?」
僕がロザリオを選んでいる時、奏ちゃんがそう謝っていた。
「先月は、会長さんの顔を、奏が潰してしまいましたのです」
「ああ、何のことかと思ったら……お気になさる必要はありませんわよ」
貴子さんは優しい顔で奏に言う。
「お姉さまから聞きました。そのリボンは、あなたにとって大切なものだったのでしょう?
それを守ろうとするのはあなたにとっては当然でしょう?」
「でも……それでは会長さんは、ご自分が間違っていたとおっしゃるのですか?」
「周防院さん、こんな話を知っていますか? 足利尊氏は、戦前は逆賊と呼ばれていたのを」
「ふぇ?」
「しかし、江戸時代までは、後醍醐天皇側の武将が逆賊扱いされていたそうです。それが明治以降、
南朝が正式な天皇ということで、尊氏をはじめとする北朝側の武将はみな極悪人のように言われていました。
しかし、本当にそうでしょうか?」
そういえばそんな話を聞いた事があるな。僕も疑問に思っていたけど。
「そうではないでしょう? 一方が正しくて一方が悪いのではなく、お互いが自分の信念の元、
国の未来のために命を賭けて戦った。それだけですわ」
確かに貴子さんの言うとおりだ。こういうことに、正義と悪を決めつける必要なんてないんだ。
「私たちも同じです。私もあなたも、自分の信念を貫こうとして衝突してしまった。
そしてあなたの信念に賛同するものが多かっただけです。ですから、お互い恥じることはありませんわ」
「会長さん……」
奏ちゃんは会長さんを意外そうに見ている。これで気まずさは解消されたかな?
「奏ちゃん、これをお願いね」
僕はエメラルドに似せた、薄緑色のビーズで出来たロザリオを選んだ。
「はい、ありがとうございますのですよ」
僕は奏ちゃんからロザリオを受け取ると、貴子さんの首につけてあげた。
「……え?」
「あとで知りましたけど、今月の16日は貴子さんの誕生日だったそうですね。
遅くなりましたけど、私からのプレゼントです」
「おおお、お姉さま……」
貴子さんは真っ赤になってうろたえていた。その様子がなぜかとてもかわいい。
「そうなのですか? それでは、奏はこちらをプレゼントいたしますのですよ」
奏ちゃんはそう言ってバラの花型のロザリオを貴子さんに見せた。
「それで会長さん、どの形がよろしいですか?」
「形……とは?」
「裏の作業場で、お客様のご希望通りの形に仕上げさせていただきますのですよ」
こうして、貴子さんは僕と奏ちゃんのプレゼントを希望の形に仕上げてもらった。
「お姉さま、ありがとうございます」
貴子さんは、早速僕たちのプレゼントしたロザリオのネックレスをつけ、それを愛しそうに見つめている。
「いえ、誕生日プレゼント、遅れてすみません……」
「と、とんでもありませんわ。まさかお姉さまからいただけるとは思っていませんでしたから、それで十分ですわ」
「じゃあ次は、貴子さんはちょっと行きたくないかもしれませんけど……」
「行きたくない……とは? ま、まさかお化け屋敷……」
「あはは、違いますよ」
「なるほど、ここがちょっと行きたくない所……ですか」
「ええ」
貴子さんは納得いった、というようにため息をついた。
「あら、珍しい方が来ていらっしゃいますわね」
「まりやさん、私がどこに行こうと勝手でしょう?
それとも私がここを訪れてはいけないという決まりでも出来たのかしら?」
「意外だと思っただけです。とげのある言い方ですわね」
「それはお互い様でしょう?」
学院祭という場をわきまえているのかそれほど激しくはないけど、言葉の冷戦を始めそうな2人。まずいな……。
「まあまあ2人とも。それじゃあまりや、貴子さんと見させてもらうから。よろしくね」
僕は貴子さんを押しながら中に入った。
「しかしまさか学院祭でプラネタリウムとは、随分思い切った発想ですわね」
「そうですね……」
それにこの出来……僕も一体どうやったんだ? と思ってしまう。
「これは、体操用のマットかしら? これでしたら、好きな体勢で“星空”を観察できそうですわね」
「そうだ、貴子さん、一緒に寝転んで観察しましょうか?」
「え、えええ!? お姉さまと2人で、ですか?」
「ええ。その方がよく見られていいでしょう?」
貴子さん、どうして動転してるんだろ?
「それではただいまより、星の世界にご案内いたします。どうぞごゆっくりご鑑賞ください」
案内役の人がそう言うと、プラネタリウムの天井に星空の様子が写された。
「きれいですね、貴子さん」
「え……ええ!? そ、その……」
僕が隣で寝転がっている貴子さんの顔を見て話しかけた。
貴子さん、そこは普通に賛同するところでしょう? どうしてあわてふためいてるの?
「貴子さん、私の方を向いていても、星空は見えませんよ」
そんな貴子さんがおかしくて、ついくすりと笑ってしまう。
「え、ええ、そそそそそ、そうですわね! 星空、星空ですわよね! 星空は見えませんわよね!」
貴子さんは真っ赤な顔で上の方を向き直る。ホントにどうしたんだろ?
「今ご覧いただいているのは、今月夜9時ごろの星空です。この時期最も明るいのは土星で……」
解説とともに流れ星が流れたり画像が変わったりと、ホントに良くできてるけど、
僕はそんなことより貴子さんの身体が心配だった。
「貴子さん、大丈夫ですか? 熱でもあるんじゃ……」
僕はそういうと、おでこをつけて貴子さんの熱を測る。
「熱はないみたいね……って、貴子さん!?」
「きゅうううううう……」
貴子さんは、目まいを起こして倒れてしまった。
まりやにも手伝ってもらって貴子さんを保健室へ連れて行くと、しばらくして目を覚ました。
「大丈夫ですか、貴子さん?」
「私は……どうしたのでしょう?」
「プラネタリウムを見ている最中に倒れたんですよ。保健の先生は大丈夫だとおっしゃってましたけど、
体調が悪いようでしたら劇まで休んでいましょうか?」
「い、いえ、もう大丈夫ですわ! それより、なんだか休んだら小腹がすいてきました。どこかで何かいただきましょうか?」
「そうですね。それでしたら……」
僕たちは保健室を後にした。
「いらっしゃいませ! あ、お姉さま!」
「きゃああああっ!!」
由佳里ちゃんのクラスのティールームを訪れた時も、奏ちゃんのクラスの時と同様、黄色い歓声に包まれる。
下級生ってみんな元気いっぱいでいいな。
「ごきげんよう、皆さん」
「早速お姉さまに試食していただきましょうよ!」
「試食って、私、一応お客さんなんだけど……」
「まあよろしいではありませんか。私も手伝いますから、じっくり味わって試食しましょう」
「あ、はい……」
貴子さんは落ち着いてるな……。
由佳里ちゃんに聞いた話だと、僕に試食してもらうのを、クラスの最終目標にしていたとか……。
「4つ運んで来ていただきましたけど、さすがに1人ではムリですわね……」
「そうですね。とりあえず2つずつ、半分いただくことにしましょう」
食べるのを半分だけにしておけば、2人とも4つ全部味わうことが出来るからね。
「え? ええ、お姉さまがそうおっしゃるのでしたら……」
僕と貴子さんはそう決めると試食に入った。
「すごくおいしいですわ! まさか高校の模擬店でこれほどの味が出せるとは……」
「そうですね……私も改めて驚いています」
紅茶がお菓子の味を、お菓子が紅茶の香りを最大限に引き出している。
「一流の喫茶店に勝るとも劣りませんわね……これだけの味、いったいどなたが……」
「あ、それ、私です……」
由佳里ちゃんが恥ずかしそうな顔をして出てきた。
「あなた、何度か見かけた事があります。確かまりやさんの妹……でしたわよね」
「はい、上岡由佳里です」
由佳里ちゃんは貴子さんにメニューの組み合わせと調理のアイデアについて説明した。
「驚きましたわ……私の家のグループにも製菓部門がありますが、あなたに意見を出していただければ、
いくつも参考になると思います」
「そ、そんな大げさな……」
「いいえ、本気ですわ。またいつかあなたのお料理を食べさせていただけないかしら?」
「はい、機会があれば、是非……」
「私もおいしくいただかせてもらってるわ。由佳里ちゃん、貴子さんの言うとおり、プロのシェフも顔負けだと思うわよ」
「お、お姉さままで……あ、私、持ち場に戻りますね」
由佳里ちゃんはそう言うと真っ赤な顔で調理場に戻っていった。
「由佳里ちゃんったら……それじゃあ貴子さん、交代しましょう」
僕はそう言って自分が食べていたケーキと飲んでいたお茶を貴子さんに差し出した。両方まだ半分ぐらい残っている。
「じゃあ、私は貴子さんのケーキとお茶をいただきますね」
僕はそう言うと、貴子さんが食べていたケーキとお茶をいただく。
「うん。こっちもおいしいわ……貴子さんは食べないんですか?」
見ると、貴子さんは鼻を押さえながら僕の方を見ている。どうしたんだろう?
「貴子さん、早く食べないと、感想を言えませんよ?」
「あ、そうですわね!」
貴子さんはハッとなるとケーキとお茶を口にしたんだけど……。
「きゅうううううう……」
また気絶してしまった。どうしたんだろう?
「……念のために聞くけど、この紅茶とケーキに、毒薬とか劇薬とかは入って……ないわよね?」
「そんなわけないですよ」
「そうよね……」
じゃあ、貴子さんは一体……やっぱりまだ体調悪いんじゃ……。
「私がお姉さまの食べかけと飲みかけを……お姉さまが私の食べかけと飲みかけをおいしいって……」
そっか。考えてみればこれって間接キスともとれてしまうもんな。貴子さんがひいてしまうわけか……。
「貴子さん、ごめんなさい……なんか体調悪いのにムリにご一緒させて……」
貴子さんと別れる際、僕は申し訳なさでいっぱいになり、そう謝った。
「いいえ、お姉さまが謝る必要などありませんわ! わわわ、私は十分楽しませていただきましたから!
それではお姉さま、演劇の時にまた!」
貴子さんは真っ赤になりながらそう言うと、一目散に走っていった。
そして、月日は流れ、僕は晴れて貴子さんと恋人同士になった。学院祭の2度の気絶は、
僕とのふれあいに対する喜びのあまりだとわかって、すごく嬉しい。
けど、それでまた新たな問題が……どんな問題かというと……。
デートで、本物のプラネタリウムを訪れ、椅子に座りながら観賞してた時……。
「瑞穂さんが私の顔を見て、おでこを……きゅううううう……」
「ああっ、貴子さん!」
そして、鏑木邸でお菓子を食べながらのティータイム……。
「瑞穂さんが私の食べかけをおいしいって……きゅううううう……」
「ああっ、貴子さん!」
そのたびに学院祭のことを連想し、気絶してしまうということだった。
Fin
以上です。
好感度ありヒロインの中では、貴子さんだけ瑞穂くんと学院祭デートをしてないな……と気づいて、
もししていたらこんな感じかな……と思い書いてみました。
明後日にはL鍋さん、ばんくーばーさん、そしてもしかしたらみどりんさんからも
貴子さん聖誕祭記念作品が読めるのではと思うと、今から待ち遠しいです。
それでは、今回はこれで。お目汚し失礼いたしました。
239 :
みどりん:2008/11/18(火) 00:02:01 ID:/NRZqdCZ0
君枝トラップ
その生徒会主催の劇は、恵泉史上最悪の劇になってしまいました。
でも、おかしいのです。
私はほんのちょっとベッドに細工をして
ビリッ(衣装の破れた音)
火災報知機に細工をして
ジリリリリリリリ
催涙ガスが入った発煙筒が煙を出すように仕掛けをして
モワーー
ワー!火事よ!!逃げましょうー!!キャー…ワーー
落ち着いて!!
ンーーー、目が痛い!!
電気が落ちるようにして
イヤー、真っ暗!!
皆さん、冷静に!!
240 :
みどりん:2008/11/18(火) 00:03:14 ID:aLupHbuz0
パチンコ玉を転がしておいて
ドテッ
イッターーイ!!
入り口付近に落とし穴を作って
ドサッドサッドサッ…
キャーー、落とし穴よ!!気をつけて!!
床に超強力両面テープを置いて動けなくなるようにして
何これ?動けない!
そこを通り過ぎたら網に捕まるような仕掛けを作って
ガサッ……
イヤー!!何なのよ、この網は?
その先には手榴弾をセットして
ドカーーン ドカーーン ドッカーーーーーン
おいただけなのに。
どうして、皆さん倒れていらっしゃるのかしら?
不思議です。
おしまい
241 :
みどりん:2008/11/18(火) 00:05:43 ID:/NRZqdCZ0
東の扉さんの期待にこたえて、貴子さん聖誕祭記念ではありませんが、学院祭をテーマにSSを書いてみました。
最近、別の話のSSを書いているので、おとボクはご無沙汰です。
一段落したら、また戻ってくると思うのですが……
ではまた。
最終更新から、今日でもう1ヶ月……。
ここまで来ると、管理人さんに何かあったのではと不安になるのですが……。
どなたかご存知の方いらっしゃいますか?
あと、結局、今の段階で貴子さん聖誕祭でSS投稿したの、結局おとボクまとめ掲示板も含めて
私1人だけですか……(涙)
一子ちゃんの方は大丈夫かな?
色々とかなり不安の隠せない私です。愚痴を書いてしまってすみません。
『1−5』
20XX年11月24日。僕と由佳里が結婚して最初の……
今日は特別な日。僕と由佳里、そして奏ちゃんとまりや、4人が鏑木家に集結する日だ。
4人が集まるのは珍しい事じゃないけれど、4人『だけ』で会う機会は意外と少ない。
大抵は紫苑さんや貴子さん、薫子ちゃんや初音ちゃん、いずれかが交ざっている状況がほとんどだ。
でも今日だけは違う。あの日あの時を共に過ごした4人だけが集う大事な日なんだ。
「由佳里。まりやはまだ来ないの?」
「はい瑞穂さん。何か用事が有るらしくて、夕方になるって云ってましたけど」
「それではまりやお姉さまがいらっしゃるまで、お姉さまに甘えてもいいですか?」
「ダメ奏ちゃん!瑞穂さんに甘えていいのは私だけなんだから……」
由佳里……奏ちゃんは由佳里の事をからかっているだけだって。
「由佳里ちゃん、お姉さまと結婚されてからケチな人になってしまいました」
「いや……そう云う問題じゃないって」
「あははっ!奏ちゃん、甘えたくなったら後日紫苑さんにお願いしてね」
甘えてくる奏ちゃんって可愛いよね……なんて口にしたら、由佳里に殺されそうだ。
そして夕方。
「瑞穂ちゃんお待たせ!」
「遅いよまりや」
「ゴメンゴメン。今日はコレを買いに行ってたのよ!」
まりやがテーブルの上に紙切れを並べた。
「もしかしてコレって馬券ですか?」
「そうよゆかりん。なんか知らないけど、
今日は月曜の筈なのに京都と福島で中央競馬をやってるって聞いたから、
全部のレースの馬連『1−5』を買ってみたの。東京競馬場でも買えるから」
「全部って……何レース有るの?」
「京都と福島どっちも12レースずつだから合わせて24レースね」
「1枚千円ずつだから24,000円か……」
「まりやお姉さま。23枚しか無いみたいですけれど?」
「おっ!良い所に気が付いたわね奏ちゃん。
こんなデタラメな買い方したんだから全滅するって思ってたんだけど、
ひとつだけ当たったから、さっさと払い戻して来ちゃった」
「へ〜っ、凄いじゃないまりや。それでいくらになったの?」
keiba.yahoo.co.jp/scores/2008/08/05/06/04/result.html
「京都の第4レース、馬連『1−5』で2,540円よ」
「ん?2,540円って事は、千円買ってるからその十倍で25,400円だね……」
「「……」」
「そ。結局電車賃入れたらほとんどチャラよ。これなら全滅の方がまだネタになったのに……」
まりやには失礼だと思ったけど、僕らは大笑いしてしまった。
怒るかな?って思ったけど、まりやも一緒になって大笑いしてくれた。
この後由佳里が料理を作って、それを食べながらみんなでワイワイ騒いで……
毎年11月24日は僕達4人『だけ』が集まる日だ。
この日は僕達が決めたルールが有った。それは『何もしない』事。
特別な祈りもしないし、特別なケーキを買ったりもしない。
ただただ4人で楽しく過ごす。それが決まりだった。まりやがやったのはちょっと反則。
料理を美味しく食べて、他愛の無い話で盛り上がって……
そうする事で僕達は、今日だけは学生寮にいたあの頃にタイムスリップをするんだ。
僕達は幸せです。遠い空から見守っていて下さい。母さま、そして……
『完』
以上です。一子ちゃんの聖誕祭なのに、『一子』と言う単語を一切出さない事に挑戦してみました何故か。
一応『みずほはへんたいさん』『○○記念』と同じ世界観です。当然話のつながりは無いですが……
基本的には『何もしない』って話です。
競馬ネタで誤魔化そうと思ったんですが、ネタにならない結果だったので……
>東の扉さん
申し訳ないです。貴子さんの誕生日ネタって、案外浮かばなかったりします。
あと、今私の頭は完全に薫子モードになっちゃってます。
『瑞穂と薫子』の4話は、もう書き終わってるんですが、
気が付いたら(私にしては)サイズが大きくなりすぎたので(約36KB)、
明日から3つ(3日)に分けて投下する予定です。
一子ちゃん誕生日おめでとう!そして安らかに……
>>246 GJです、俺は24日のG1当てました枠連だけどね
ごめん23日のG1だった、間違えてしまった
>>246 なるほど、そう来ましたか。聖誕祭記念で本人の話題が出てこないのはビックリしました。
けど面白かったです。
貴子さんの話は気にしないでください。私も聖誕祭記念で思いつかないことは結構ありますから。
それと、瑞穂と薫子、楽しみにしています。
それでは、私も遅ればせながら一子ちゃん聖誕祭記念SS、投下させていただきます。
〜歓迎会は後の祭り〜
学院祭当日、僕はお気に入りの娘との学院祭デートを終え、演劇の時間になるまで、自分の教室で休んでいた。
「瑞穂さん、お疲れですか?」
「紫苑さん……そうですね、疲れるというより、緊張している……と言った方が正しいでしょうか」
紫苑さんと横に並んで話していると……。
「お姉さま! 危ない!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「えっ……?」
僕が振り返ると、一子ちゃんが飛んできたジュース入りの紙コップをつかもうとしていた……
まあ、幽霊なのでつかめないんだけど……。
「わあっ!」
一子ちゃんのおかげで僕は慌ててジュースをかわすことは出来たけど、クラス中の娘が一子ちゃんを見て
パニックになりかけている。
「ど、どなた……?」
「あ……」
一子ちゃんも自分が出てはいけない場所に出てしまったことに気づいたようだ。だけど、出てしまったものはどうしようもない。
「あ……あはははは……みなさんこんにちは……」
決まり悪そうに笑っている。
「きゃああああっ……!!」
「ゆ、幽霊、幽霊ですわ!!」
その声を合図に、クラス中がパニックになって叫んでいる。
「あ、あのお……」
一子ちゃんが近づいてなだめようとするけど、逆効果だった。
「と、とりつかれますわ! 身体をのっとられますわ!」
「呪わないでください! まだ死にたくありません!!」
「ひいいいいい!! 悪霊退散! 悪霊退散!」
「えーっと……」
困り顔の一子ちゃん。僕はそんな心配ないのはわかってるけど、初対面じゃこうなるのも仕方ないか。
「はろー♪ 私悪霊でーっす♪ 怒らせるとマンモス怖いんだっぴー♪ お取り扱いにはくれぐれも気をつけてちょんまげ♪
……なんちゃって、えへ♪」
バターン!!
一子ちゃんが満面の笑顔でそうおどけると、僕と紫苑さん、圭さんを除くクラスのみんながずっこけてしまった。
「みんな落ち着いて、大丈夫、この娘は大丈夫だから……」
僕はみんなを落ち着かせると、騒ぎを聞いて駆けつけてきた緋紗子先生の横に一子ちゃんと並び、自己紹介をさせることにした。
「……というわけで、この娘は私の母の後輩で……」
「高島一子といいます。はじめまして、よろしくお願いします」
「は、はあ……こちらこそ……」
「しかし、瑞穂さんも、今までよく幽霊と一緒に暮らしてきましたね」
「私も最初は驚きましたけど、一子ちゃんはいい娘みたいですから、一緒に暮らしても問題ないとわかりましたので……」
他のクラスメイト達も、緋紗子先生もあっけにとられている。
「まあ、こんな可愛い幽霊さんがいらっしゃるとは、驚きましたわ」
紫苑さんがお嬢さまスマイルを浮かべながら一子ちゃんに歩み寄ってくる。
「私は、幽霊といったら怖い顔で『うらめしやー』……というものだとばかり思っておりましたから……」
「ああ……私もそう思っています」
います……って、一子ちゃん、相変わらず自分が幽霊だという自覚がまったくないようで……。
「えっと……」
「あ、申し遅れました。私、十条紫苑と申します。一子さん、でしたわね。ぎゅっとさせていただいてもよろしいかしら?」
「は、はあ……」
一子ちゃんが戸惑っていると、紫苑さんは一子ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「温かくはないですが、冷たくもなくて、奏ちゃんとまた違った心地良さがありますわね」
「あはは……あの……奏ちゃんをご存知なんですか?」
(一子ちゃん、この人は私の友人で、去年のエルダーなの。私の事情もわかってくれているのよ)
僕は一子ちゃんに小声で話す。もっとも、万が一誰かに聞かれたらそれまでだから、女言葉でだが。
「わあ、そうなんですか。言われてみれば、エルダーという空気が漂ってきていますねえ」
それから一子ちゃんは、紫苑さんともすっかり打ち解けて仲良くなっていた。
「瑞穂さん……私にも予想外のことをしてくれたわね……超GJよ」
「圭さん……」
僕がやったわけじゃないんだけどね……。
「それじゃあ、学院祭が終わったら、一子さんの歓迎会を開きましょうか」
「いいですね……あ、確か一子ちゃんの誕生日って……」
「はい、11月24日……明日です」
「まあ、そうでしたの! それでは、お誕生パーティーと歓迎会を同時にやりましょう!」
「紫苑さん……そうですね! そうしましょう!」
緋紗子先生も、クラスのみんなもそれに賛同してくれた。
「あああ、みなさん……こんな浮いてるしか能のない三流アンデッドモンスターのために……
この高島一子、恐悦至極の極みでござりまするう……」
一子ちゃんも涙を流して喜んでいる。でも、妙な時代劇じゃないんだから、その言い方は……。
「おおお、お姉さま……」
と、そこへ貴子さんが君枝さんたちと一緒にやってきた。見ると、全身がガクガク震えている。
「貴子さん!」
どうしたんだろ? 一体……。
「お姉さまが幽霊と一緒にいるというのは……!」
そこまで言って、貴子さんは僕の後ろに隠れている一子ちゃんに気づいたようだ。
(貴子さんって、お姉さま、この人が悪の生徒会長……)
「ええ、“悪の”ではないけどね」
「あ……あああ……ほ、本当に幽霊と……」
バターン!!
貴子さんは倒れてしまった。
「ああっ! 貴子さん!!」
しばらく落ち着いた後、僕はお互い怖がっていた貴子さんと一子ちゃんに、3人になって説明をしていた。
「ですから、怖がる必要なんてありませんから」
貴子さんが悪者ではないというのは一子ちゃんはわかってくれたみたいだけど、
貴子さんの方はまだ一子ちゃんに対しておびえている。
「ででで、でも……」
「一子ちゃんは幽霊ですけど、中身は普通の女の子と変わりませんから」
……これは説明するより、実際にあったことを話したほうがいいかな?
「たとえばお茶を入れてくれようとしたときとか、ティーポットを掴もうとして指がすり抜けて、
『これじゃあお姉さまのお役にたてませーん! 運命のいじわるーっ!』って……」
僕はほかにも一子ちゃんの今までの行動について話した。貴子さんは真剣に聞いてくれている。
「それから、訳あって私に取りついたときも、そのことにびっくりしてまりやに相談しにいったわけで、
そのあと『これならお姉さまにお茶を淹れて差し上げられる』って上機嫌で淹れた後で、自分で淹れてるのと変わらなくて、
私が飲めないことに気づいて落ち込んだりして……」
「あーっ! お姉さま、ひどいです! 私の恥ずかしい失敗談をばらすなんて! ひどすぎますひどすぎますひどすぎます!
もう呪っちゃいます呪っちゃいます呪い殺すの大決定です!!」
一子ちゃんはそう言って僕に殴りかかってきた。とは言っても、ポカポカと可愛い擬音が聞こえてきそうな殴り方だけど。
当然僕はノーダメージ。
「あはは、一子ちゃん、呪いじゃない。それ、呪いじゃないから。それに、一子ちゃんを笑いものにしようとして
話したわけじゃないのよ」
「えっ?」
「プッ……」
そう会話していると、貴子さんが不意に噴き出した。
「あーっ! 会長さんまでひどいです! 人の失敗を笑うなんて!」
「ご、ごめんなさい……別にあなたの失敗を笑ったわけではないのですよ」
「ふぇ?」
「あなたのような健気で優しい方に、取りつかれるとか呪い殺されると思っておびえていた自分がバカらしくなって
笑ってしまったのです」
「は、はあ……私もあなたのこと、悪の生徒会長だと聞いていましたから、どんな悪逆非道なことをされるかと
おびえていましたから……今考えるとバカバカしいですね」
「ふふふ……」
「「あははははは……」」
貴子さんと一子ちゃんは笑いあう。よかった。一子ちゃん、貴子さんとも仲良くなれたみたいで。
そして翌日……。
「一子さん、お誕生日おめでとうございます!」
(一子ちゃん、お誕生日おめでとう)
講堂に僕のクラス、まりやのクラス、奏ちゃん、由佳里ちゃんのクラスのメンバーがイスと机を持って集まって、
一子ちゃんの歓迎会&誕生パーティーを開いている。
ちなみに僕は、一子ちゃんに身体を貸している状態なので、一子ちゃんにしかしゃべれないけど……。
「ありがとうございます! みなさん!」
一子ちゃんは涙を流して喜んでいる。
「わあ! この紅茶とケーキ、すっごくおいしいです! このお茶淹れ日本一を誇った私をもうならせるとは、
由佳里ちゃん、さすがお料理エルダーと言わざるを得ません!」
「あはは……一子さん、褒めすぎだよ……」
ちなみにみんなの前には、昨日由佳里ちゃんのクラスで出していた紅茶とケーキが並んでいる。
他のお料理も全部由佳里ちゃんが作ったものだ。
でも一子ちゃん、お料理エルダーって何?
「遠慮せずにどんどん食べてくださいね、一子さん」
「あぐあぐあぐ……ホントにおいしすぎて、箸が止まりませーん」
(あはは……一子ちゃん、久しぶりに食べられて嬉しいのはわかるけど、張り切りすぎてのどに詰まらせないようにね)
「ごふごふ……遅かったみたいです」
もう、一子ちゃんったら……。
「でも、身体は瑞穂ちゃんなのに中身は一子ちゃんだから、瑞穂ちゃんでは普段見られない表情がいっぱい見れて興味深いわ」
まりやはそう言いながらカメラのシャッターを切り続けている。
「確かに、貴重な体験ですわね」
「あはは、まりやさん、やめてください、恥ずかしいですよ」
僕も恥ずかしいよ……というか、まりやにカメラで撮影されると、女装ファッションショーのトラウマが……。
「でも、本当に一度でいいから、お姉さまにお茶を淹れて差し上げたいです……」
一子ちゃんもみんなと仲良くなり、パーティーも一段落して一子ちゃんが僕から離れた後、一子ちゃんが不意にそう漏らした。
「うーん……こればっかりは……」
ティーカップがつかめない以上、どうにもならないよね。
「じゃあ一子さん、私に乗り移って淹れるのはどうかな?」
由佳里ちゃんがそう提案してきた。
「ありがとうございます。でも、それはできないんです」
「どうして?」
「由佳里ちゃんと私って、魂の色が極端に似通っているんです。ですから、由佳里ちゃんに乗り移ってしまうと、
由佳里ちゃんの意識を私が取り込んでしまう危険があるんです」
「そうですか……それでは私が身体を貸して差し上げますわ」
「紫苑さん……それじゃあ失礼します」
一子ちゃんはそう言って、紫苑さんに乗り移った。
「うーん……うーん……」
「一子ちゃん?」
しばらくして、一子ちゃんは紫苑さんの身体から離れた。
「ダメです……乗り移った途端病気に……紫苑さん、この身体で普段どおりでいられるなんて……」
そ、そうなんだ……僕は改めて紫苑さんに感心した。
「では、奏がお身体を貸して差し上げますのですよ」
「奏ちゃん……」
次は奏ちゃんに乗り移る。
「わっ! わわっ!」
しかし、一子ちゃんはバランスを崩してこけてばっかり。
「ダメです……体型が違いすぎて、バランスを保てません……」
「では、私の身体をお使いくださいませ」
次は貴子さん。
「うわああああ! 熱い! 熱いですう!!」
貴子さんに乗り移った途端、一子ちゃんはやけどしたかのようにパニックになって走り回る。
「今度はどうしたの?」
「会長さんの魂、情熱がありすぎてやけどしそうですう……」
「じゃあ、あたしの使ったら?」
最後にまりやに乗り移る。
「ねえ、いつまでモタモタしてんのよ」
「一子ちゃん……?」
確かに一子ちゃんが乗り移ったのに、話し方はまりやのままだ。一体……。
そう思っていると、まりやの身体から一子ちゃんが出てきた。
「どうしたの?」
「ダメです……まりやさんの魂が頑丈すぎて、私が表に出て行けません……」
それは……なんというか……。
「まったく……一子さんが表に出るのをも妨害するとは……やはり図々しさと図太さだけは天下一品ですわね」
「はあ? 貴子、何ワケのわかんないこと言ってんのよ!」
「結局、どなたの身体も失敗ですか……」
一子ちゃんはしょんぼりしていた。無理もない。せっかくやりたい事ができると思ったのに、
最初からことごとく失敗だったんだから。
「ねえ一子ちゃん、もし成仏して生まれ変わる事が出来たら、
その時は私に一子ちゃんの淹れたお茶を飲ませてくれないかしら?」
「お姉さま……本当ですか?」
「ええ。待ってますから。約束よ」
「はい……約束です」
僕は嬉し泣きしている一子ちゃんと指切りをした。一子ちゃんの淹れるお茶……僕もいつか飲んでみたいな……。
「一子さん、おはようございます……」
「おはようございまーす!」
「一子さん、ちょっと相談があるんですけど……」
「なんでしょうか? 幽霊二等兵で答えられることなら、相談に乗らせてもらいますよ」
あれから一子ちゃんの噂は学院中に広まり、一子ちゃんも堂々と学院のみんなと会話するようになった。
一子ちゃんの明るくて前向きな性格はみんなの人気を呼び、今や一子ちゃんは学院の人気者だ。
相談されたりすることも頻繁にある。
それに歓迎会以来、学院全体が明るくなった気がするな。
「一子ちゃん、お疲れ様」
「お姉さま……でも、今までみたいにこそこそじゃなくて、堂々と学院生活に溶け込むことが
できるようになったのですから、疲れ以上に嬉しいです!」
実際に一子ちゃんは楽しそうだ。疲れ以上にやる気が出てきているのが、見ていてよくわかる。
そしてクリスマス直前にはみんなでお別れ会を開き、僕とラストダンスを踊って一子ちゃんは旅立っていった。
寮生以外の生徒とは1ヶ月ちょっとの触れ合いだったけど、みんな一子ちゃんとの別れを心底惜しみ、
それでも来世の幸せを願ってくれていたのが、とても嬉しい。
「一子ちゃん、僕も一子ちゃんに負けないように頑張るから、その時は……また一子ちゃんも僕のそばにいてね?
そして……一緒にお茶を飲みましょう」
Fin
以上です。
もし一子ちゃんが学院の生徒たちに知られたら、を考えてみました。
連続生誕祭なので不完全燃焼ですが、ここから色々創造していただければ幸いです。
それでは、お目汚し失礼いたしました。
管理人さんへ
「西遊記」は登場人物欄、紫苑さんは伏せておいた方がいいような気もしますが……。
あと、「学院祭のロミジュリデート」は、奏ちゃん、まりや、由佳里ちゃんも登場していますよ。
お手数ですが、次回更新時に修正お願いします。
昨日の予告通り、4話を投下します。
むりやり3つに分けました。今日は前1/3だけ……
註)もしかしたらデジャヴを感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、それらは全て気のせいであり、
(私の)既存の作品とは一切関係はありません。
『白と黒』(前編)
10月下旬。学生寮櫻館、いつものメンバーでの夕食時。
「……と云う訳で、薫子ちゃんに生徒会劇の出演をお願いしたいのですが」
初音が薫子にお願いをする。
「いや、何が『と云う訳で』なのかわからないし、何であたしが?」
「いつもならエルダーのお姉さまにお願いする所なんだけど、今年はねえ……」
由佳里が薫子に説明をする。
学院祭でほぼ毎年上演される生徒会主催の演劇。
瑞穂&貴子の『ロミオとジュリエット』を筆頭に、毎年数々のドラマを生み出してきた学院祭の目玉である。
本来なら、今年はエルダー周防院奏の出番なのだが……
奏は演劇部部長であり、生徒会の催し物に参加するのが困難な立場にある。
生徒会企画は、生徒からの投書を元に毎年決定するのだが、
エルダー周防院奏絡みの企画は、最初から除外される運命にあった。
「てな訳で、今年は我が寮の誉、七々原薫子君に投書が集まったのだよ」
「いや、だから何で『てな訳で』になるんですか?」
「まあ、薫子は奏ちゃんの妹な訳だし、何よりもあの『騎士(ナイト)の君』だからねえ……」
「ぐはっ、由佳里さん、その恥ずかしい二つ名はやめて下さいよぉ。それにあたしに劇なんて無理ですって!」
「お姉さまはどうお考えでしょうか?」
初音が奏に向かって視線を送る。
「ふぇ?初音ちゃん、今何かおっしゃいましたか?」
デザートの苺ショートに没頭していたらしく、唇にクリームを付けたままの状態で奏が顔を上げた。
「……エルダーになっても、苺ショートを目の前にすると相変わらずねぇ奏ちゃんは。
生徒会劇に薫子を出そうって話よ。奏ちゃんは賛成よね?」
「薫子ちゃんの晴れ姿は見たいと思いますが……」
「ん?何か問題でも有るのかな?」
「ハンバーグを目の前にすると相変わらずな由佳里ちゃんには云われたくありません。
……と云う冗談は置いといて、今からですと、練習する期間が短過ぎではないですか?」
「そ、そうですよ……今からじゃ無理無理!劇はやめて他の企画にしましょう。ね?」
奏の控え目な否定に便乗し、劇をやりたくない薫子が露骨な援護射撃をする。
と同時に、紙ナプキンで奏の唇のクリームを拭った。
「う……仕方無いじゃない。『周防院奏は禁止』って布告してた筈なのに、全然伝わってなかったみたいで、
投書が『お姉さま』だらけになっちゃったから改めてやり直したって経緯があるのよ」
「お姉さまがダメなら、響姫さまが居るじゃないですか」
「いや、響姫さんは奏ちゃんよりもっと無理。学院祭当日は放送委員会の仕事で手一杯だから」
「副会長は『奏さん連闘でもいいんじゃないですか〜』なんておっしゃってましたが……」
「可奈子の云う事をいちいち真に受けてたらダメよ初音。ね、奏ちゃん。ぱぱっと出来そうな話とか無いかな?
あ、そうそう。薫子を指名した投書のほとんどは、剣劇モノをご所望みたいよ」
「無茶ばっかり云わないで下さいよ由佳里さん。お姉さまが困ってるでしょう。
学院生に殺陣をやらせるなんて無理ですしって云うか、お姉さまに台本を用意させるつもりなんですか?」
「……剣劇モノですか?それなら私にひとつ考えがあるのですが」
「本当?さっすが奏ちゃん。エルダーの名は伊達じゃないわね」
「……由佳里さん、調子に乗り過ぎ」
「ただ……可能かどうかわかりませんので、明日まで時間をいただけますか?」
「うん。わがまま云ってゴメンね奏ちゃん。ダメならダメで別の企画を考えるから」
「あ、あれ?ちょっと?あたしの意思は無視ですか?!」
夕食後、奏はいくつかの場所に電話を掛けた。しかしその内容を薫子達に語る事は無かった。
次の日。休み時間・昼休み・放課後、奏は精力的に動き回った。薫子を連れずに……
その結果、奏が想定していた要素を全て揃える事に成功した。
再び夕食時。
「由佳里ちゃん。必要な物が揃いましたので、薫子ちゃん主役の剣劇モノにゴーサインを出そうと思います」
歓声ふたつと控え目なブーイングひとつがあがった。
「本当?ありがと奏ちゃん。奏ちゃんのお墨付きが有れば成功間違い無しよね初音」
「はい!生徒会総出でバックアップしますので、何でもおっしゃって下さいお姉さま」
「えーっ、本当にやるんですか?あたしに劇なんて、しかも主役なんて無理ですよ〜」
薫子は既に諦め顔だ。
「ただし、ひとつだけ条件が有ります」
「ん?奏ちゃんのお願いなら何でも聞いちゃうよ」
「本当ですか?それでは……
たとえ何が有っても、最後まで私の事を信じて下さい。これが条件です」
「は?何云ってるのよ。あたし達が奏ちゃんの事疑う訳ないじゃない。ねえ」
「そ、そうですよお姉さま」
「……お姉さまを疑うなんて有り得ないけど、劇はやりたくないなぁ」
「……わかりました。それでは3日以内に台本を書き上げますので、
由佳里ちゃんには人員の確保をお願い致します」
「「「3日?!」」」
3人の目が驚きに見開かれた。
「3日って、演目を3日で決めるって事よね?」
「違います。3日で台本を書き上げます。オリジナルストーリーを。1から」
奏は何故か変な区切り方をした。
「早く準備をしていただけるのは嬉しいですが……大丈夫ですか?お姉さま」
「大丈夫ですよ初音ちゃん。既に構想は出来上がってますし、
今回の作品の為に、フェンシング部の全面協力を取り付けてきましたから」
「お姉さま、そんな突貫工事みたいなのはやめて他の企画にしましょうよ。
お姉さまは演劇部の公演に全力を注ぎましょう!」
「ま、いいわ。奏ちゃんを信じるって決めたんだものね。云う通りにしましょう。
人員って何人位必要なのかな?」
「そうですね……出演者はほぼ決まってますので裏方さんを何人か。
演劇部からもヘルプを出しますので、10人位の方にお願い出来れば」
「あ!それなら『騎士の君ファンクラブ』にお願いすればいいじゃない。初音、交渉は任せたわよ!」
「はい!由佳里お姉さま!」
「だからあたしの意思は無視ですかーーーっ?!て云うか、『騎士の君ファンクラブ』って何?」
就寝前、奏の部屋でのティータイム……と思いきや、奏と薫子はホットココアを飲んでいた。
何と!薫子お手製である。(薫子「驚き過ぎだ!」)
電子レンジの牛乳温めモードを使用しているのでかなり手抜きだが……
「はぁ……」
「ふふっ、随分と深いため息ですね……以前同じ事を云った記憶が有りますが」
「それはそうでしょう。何度も云いますが、あたしに演劇なんて無理ですって」
「そうかもしれませんね」
「へ?」
「多分薫子ちゃんは怒るでしょうけれど聞いて下さい。
私は薫子ちゃんの事を、最も演劇に向いていない存在だと思っているのです」
「ちょ……それじゃ何故?」
奏はココアに大量の苺ジャムを投入すると、一見関係無さそうな話を始めた。
「私は……自分自身の事があまり好きではありませんでした、瑞穂お姉さまに出会うまでは。
演劇部に入ったのは、そんな自分とは違う別の自分を見付けたかったから。
尤も、しばらくはそれすらも出来ずに演劇部のお荷物になっていたのですけれどね」
「……」
「私は薫子ちゃんの事を羨ましく思っているのです。薫子ちゃんは別の自分なんて探す必要が無い人だから。
いつも真っ直ぐで、正義感が強くて、何が有っても後へは引かない。
そんな薫子ちゃんの姉になれて、私は今とても幸せなのです」
「お姉さま……」
「……ごめんなさい。何だか湿っぽくなってしまいましたね」
「えっ……い、いや、そんな事はないですけど」
「話を戻しましょうか。本来ならば薫子ちゃん主役の演劇……と云う企画には反対すべきだったのです。
薫子ちゃんに合った企画が他に有る筈だ……と思いました。
でも、由佳里ちゃんが『剣劇モノ』って云った時に閃いたのです。
薫子ちゃんの演劇に対する適正の無さを逆手に取る秘策を」
「秘策……ですか?」
「大丈夫。私が責任を持って生徒会劇を成功させてみせます。もちろん演劇部の公演も。
薫子ちゃんは私の事を信じて下さいますか?」
薫子に向けた奏の笑顔は輝いていた。
「お姉さまズルいですよ。そんな顔されたらノーなんて云えないですって。
あたしはお姉さまを信じますよ。それはこの寮に初めて来た時からずっと変わらないですから」
「ありがとうございます薫子ちゃん!」
そして宣言通りの3日後の夕食時。
「台本が完成しましたので、由佳里ちゃんと初音ちゃんにお渡ししておきます」
「本当に3日で完成させたんだ。読んでもいい?」
「もちろんです」
「では拝見致しますお姉さま」
・題名『白騎士VS.黒騎士』
・キャスト
白騎士(主演):七々原薫子
黒騎士:????
第一王女:????
女王:烏橘可奈子
忍者:上岡由佳里
僧侶:皆瀬初音
魔法使い(第二王女):烏橘沙世子
黒騎士親衛隊:フェンシング部員一同
ナレーション:真行寺茉清
・あらすじ
南の大国の第一王女が、北の大地を支配する黒騎士の手下に攫われた。
黒騎士は王女と強引に婚姻関係を結ぼうとし、それを足掛かりに大陸全土の支配を目論む。
無論そんな状況に攫われた側は黙っていない。
第一王女の婚約者である白騎士を筆頭にした黒騎士討伐団が結成され、女王が見送る中、北へと旅立つ。
白騎士は『最強の剣士』と噂される黒騎士を倒し、王女を救う事が出来るのだろうか?
……
台本を読み終えた3人(薫子は初音の台本を覗き込んだ)は絶句している。
「えっと奏ちゃん……黒騎士と王女の『????』ってのは、まだ配役が決まってないって事?」
「いいえ違います。メインの配役は全て決定しています。理由が有って秘密にしておきたいのです」
「どう考えても話が途中までなのは?」
「その台本は、由佳里ちゃん達の出番が終わる所迄しか書かれていません。
最後の戦いと、白騎士と王女の再会シーンは、トップシークレット扱いです。
薫子ちゃんには後で完全版の台本をお渡しします。他の方には絶対に見せないで下さいね」
「は、はいお姉さま……」
薫子の返事には覇気が無い。
「……」
初音は声を出す事すら出来ない様だ。
「皆さん、云いたい事が有るならはっきりおっしゃって構いませんよ。
恐らく由佳里ちゃんは次にこう云います。『云いづらいんだけど奏ちゃん、この話つまんないわ』って」
「云いづらいんだけど奏ちゃん、この話つまんないわ……ハッ!
思わず奏ちゃんのネタ振りに乗っちゃったわよ。本当に大丈夫なの?コレで……」
「ってお姉さま、つまんないって自覚しちゃってるんですか?!」
「もちろんです。時間が無いのもひとつの要因ですが、この話はわざとつまらない出来にしてあるのです」
「「「!?」」」
「大丈夫です。この劇は必ず成功させます。大事な事なのでもう一度云いますが、
たとえ何が有っても、最後まで私の事を信じて下さい。これが成功させる条件です」
「……わかったわ。大事な事だからもう一度云うけど、
奏ちゃんを信じるって決めたんだものね。云う通りにしましょう」
「そうですね。考えてみれば、お姉さまは薫子ちゃんに恥をかかせる様な事はなさらないでしょうから」
「あたしは何が有ってもお姉さまの事を信じますよ。
もしかして、つまらない話って云うのも、お姉さまの策のひとつですか?」
奏は3人の信頼に対し、言葉には出さずに柔らかく微笑む事で返答した。
就寝前、薫子は自分の部屋で台本(完全版)とにらめっこをしている。
今日はココアではなく、机の上には奏が淹れた紅茶が置かれていた。
「……お姉さま、何ですかコレは」
台本の壮絶な内容に、薫子はグウの音も出なくなってしまった。
「そうおっしゃると思いました。黒騎士との決闘シーンが、この劇最大の目玉ですから。
この台本を由佳里ちゃん達に見せたら、間違い無く反対されるでしょうね。
薫子ちゃんの演劇に対する適正の無さを逆手に取る秘策、と云う意味を理解いただけたでしょうか?」
「いくらなんでも無茶でしょうコレは。黒騎士役を誰がやるかにもよりますが」
「大丈夫ですよ。薫子ちゃんが私を信じてくれるのと同様、私も薫子ちゃんの事を信じていますから。
もうおわかりだと思いますが、黒騎士さんの正体を隠すのも、私の策のひとつなのですよ」
「要するに……お姉さまを信じて当たって砕けろって事ですか?」
「ふふっ、そうですね。本当に砕けてしまうと困りますが……
とりあえず今日からこの時間は、最後の白騎士とお姫さまの再会シーンを重点的に練習しようと思います。
私がお姫さま役をやりますから」
「えっ?お姉さま、そこまでしてくれなくても……」
「ラストシーンも由佳里ちゃん達には秘密ですから、ここで練習するしか無いのです。
それとも……お姫さま役が私では不足ですか?」
「と、とんでもない!って云うか、本当のお姫さま役って一体誰なんですか?」
「秘密です。これも私の策のひとつですから」
奏が薫子に見せた表情は、悪戯っ子のそれだった。
「今日からお姉さまの事『アッコちゃん』って呼ぼうかな……」
「?」
翌朝、薫子の教室にて……
「おはようございます薫子さん」
「あ、おはようございます京花さん」
「あの……私、生徒会劇に裏方として参加する事になりました。よろしくお願い致します」
京花は少し大袈裟に頭を下げた。
「京花さんも参加されるのですか?!あの、頭を上げて下さい。
協力して貰えるのだから、頭を下げるのはあ……私の方です。ありがとうございます!」
薫子もつられて頭を下げる。
「いえ、薫子さんのお役に立てて光栄ですから。では……」
少し顔を赤らめながら京花は自分の席に戻っていった。
(騎士の君ファンクラブ・裏方・京花さん。まさか……ね)
「おはよう、薫子さん」
「……おはよう茉清さん」
「実は私も劇に参加する事になってね。改めて薫子さんに挨拶をしようかと……」
「ああ、そう云えば……台本に名前が有った様な。茉清さんはこう云うのって嫌いなんじゃないの?」
「京花さんの時とは随分態度が違うな……それはさて置き、
お姉さま直々に出演依頼に来られたら、流石にノーとは云えないでしょう」
「あはは、確かに」
「全く……有名人と同じクラスと云うのも考え物だな。ま、私は声だけの出演だから気楽にやらせて貰うよ」
「自分だって有名人の癖に……」
「それはそうと……台本を読んだのだが、本当に大丈夫なのかな?」
「大丈夫って?」
「いや、その……」
珍しく茉清がオロオロする姿を見て薫子は満足した。
「ひとつだけ云えるのは、お姉さまは信じられない位自信満々だって事。
虚勢を張ってる様にも見えないし、大丈夫でしょ。あたしは何が有ってもお姉さまを信じるから」
たとえ何が有っても、薫子の奏に対する信頼は揺るがない。
「それなら良いのだけれど……」
茉清は半信半疑の様だ。
寮生以外は半信半疑の空気の中、ついに学院祭当日を迎えた。
『中編に続く』
とりあえず今日はここまで。続きはWeb……じゃなくて明日と言う事で。
『白と黒』(中編)
各プログラムは順調に進み、演劇部の公演は大歓声の中終了した。
「お姉さま!今年の劇も最高でした!」
薫子が奏に花束を差し出した。
「ありがとうございます薫子ちゃん。でも……」
「でも?」
「今は私の事よりも、ご自分の事だけを考えて下さい。生徒会劇は3時間後ですよ」
「うぐっ、大丈夫ですよ。お姉さまが保障して下さったんですから」
薫子の宣言を受け、奏は周囲に集まった学院生達(薫子含む)に笑顔を見せた。
「そうですね。皆さん、私はこれから生徒会劇の準備が有りますので、これにて失礼致します。
よろしければ、再びこの場所に足をお運び下さい」
「はいお姉さま!楽しみにしてます」「薫子さん、頑張って下さい!」「白菊の君〜!」「騎士の君〜!」
激励を背に、薫子と奏は生徒会劇の準備に入る。
この時薫子は、自分の事で精一杯だった為、普段ならあっさり気付くべき事をスルーしてしまった。
本来なら起きる筈のイベントが起きていないと云う事を……
そして運命の生徒会劇開幕……
ナレーション(茉清)「遥か昔、大陸が南北ふたつの国に分かれていた頃のお話です……」
茉清のナレーションで舞台が始まった。
客席は演劇部公演の時よりも若干人数が少なめだろうか?
薫子は同級生と下級生からの人気は高いが、上級生からの受けはいまひとつだった。
恐らく言葉遣いの悪さ(ケイリ・グランセリウス程ではないが)が影響しているのだろう。
―旅立ち―
女王(可奈子)「それでは皆さん、頑張って下さ〜い」
白騎士(薫子)「はっ!姫さまをお救いする事を、この剣と女王陛下に誓います!」(やや棒読み)
「きゃああああ〜〜〜〜〜っ!」
薫子が剣を掲げると、客席から複数の黄色い声援が飛んだ。
魔法使い(沙世子)「全く……母さまは今の情勢をわかっておられるのか……」
僧侶(初音)「ああやってどっしり構えてらっしゃるから、私達は安心して旅立つ事が出来るのですよ」
そこに颯爽と(?)忍者(由佳里)が登場した。
「きゃああああ〜〜〜〜〜っ!」「琥珀の君〜!」
忍者「騎士(ナイト)殿!姫さまが攫われたと云うのは誠か?」
騎士「ええ。我々はこれから救出に向かうところです」
忍者「おのれ!姫さまを拐かすとは何と卑怯極まりない。拙者も助太刀いたすぞ!」
劇は無難に立ち上がったかに見えたが、この時点で既に暗雲が立ち込めていた。
ここから先は、奏自身が堂々と「つまらない」と云い放ったシーンが続いた。
最初の内は、白騎士達が迫り来る敵軍を斬って斬って斬りまくる様子に客席は盛り上がったのだが、
(黒騎士軍兵士:演劇部新入生&陸上部より抜擢)
同じ様な事が繰り返されるだけだったので、次第に客席のテンションは下がってきた。
出演者(特に薫子)が明らかに演技力不足なのも影響している様だ。
そんな中、舞台袖から客席の反応を見ていた奏は、不気味に目を光らせた。
, -― 、 キュピーン
/ !((从))ヽ
レリ☆ーノi、j
計・画・通・り
この直後、奏は出演者&スタッフの前から姿を消した。
盛り上がりに欠ける劇にうんざりしかけた頃、ようやく転機が訪れた。
黒騎士の居城内、王座まであと少しと云う所。
白騎士一行の前に、黒い鎧を身に纏った一団が現れた。
黒騎士親衛隊『1』「我らは!」
黒騎士親衛隊『A』「黒騎士親衛隊!」
黒騎士親衛隊『α』「ここから先は!」
黒騎士親衛隊『壱』「我々を!」
黒騎士親衛隊『い』「倒してからに!」
黒騎士親衛隊『甲』「して下さい!」
黒騎士親衛隊『T』「尤も!」
黒騎士親衛隊『ein』「その様な結果には!」
黒騎士親衛隊『un』「なりませんが!」
白騎士「……今までの相手とは訳が違うみたいですね、色々な意味で」
忍者「その様でござるな。騎士殿、ここは拙者達に任せて先を急ぐでござる!」
白騎士「し、しかし……」
魔法使い「そうですね。貴方は早くお姉さまの所へ急いで下さい」
白騎士「!……わ、わかりました。皆さんご武運を!」
白騎士は敵陣を突破し、舞台の上手(かみて)へと消えた。
僧侶「騎士さま、ご無事で!」
この後忍者が分身の術を駆使して親衛隊と戦いを繰り広げる場面で照明がフェードアウト、一旦幕が下りた。
(友情出演:陸上部で由佳里と体格が似通っている者数名)
由佳里達の出番はここで終わり。
裏方さんがちょこまかと動き回っているのを横目に見ながら、薫子は最大の難所に向けて覚悟を決めた。
結局黒騎士役が誰なのか、薫子にも知らされないままだった。
改めて台本(完全版)の内容を思い出す。黒騎士との決闘シーンは、たった一行で表現されていた。
『黒騎士と本気で戦い、勝利して下さい』
「お姉さま、本気って……」
「ひと月足らずで薫子ちゃんの演技を完成させるのは無理が有ります。ですから……
演技ではなく、舞台で薫子ちゃんの『本気』を見せます!」
「本当に本気でやっちゃっていいんですか?」
「はい。ちなみに本気でやらなかった場合は、黒騎士さんが勝つバッドエンドも用意してありますので」
「……マジですか」
「マジです。たこ焼きがラーメンになる位マジです」
「……」
―黒騎士との戦い―
幕が上がると、そこには白騎士がひとりで立っていた。上手の方を向いている。
♪エ○ス○スの戦闘テーマ(ネオではない)
音楽と共に上手から黒騎士が現れた。
全身着ぐるみ(黒騎士風?)に巨大な剣。中に誰が入っているのかは薫子にもわからない。
ちなみにこの着ぐるみは、奏が演劇部OG小鳥遊圭に依頼して入手した物である。
以前遊園地のヒーローショーで使われていた物らしい。
他には、由佳里達が身に付けた忍装束等も圭が用意した物だ。
衣装を手配するに当たり、圭は奏に対して条件を出した。
「当日私はそちらには行けないから、劇の様子をカメラに収めて後で私に送りなさい」
奏は少し悩んだ末承諾した。
出来が良いとは云えない着ぐるみの登場に、客席から失笑が零れた。
しかし、相対した薫子はそれどころではなかった。
(誰だかわからないけど……只者じゃない!)
強者は強者を知る。薫子は相手が発するオーラを敏感に感じ取った。
(声を聞けば誰だかわかる筈)
黒騎士「ヨクゾココマデキタ。ソレダケハホメテヤロウ」
(?!)
マスクの下にボイスチェンジャーが仕込まれているらしい。
黒騎士から発せられたのは、抑揚に欠けた禍々しい音声だった。
白騎士「姫さまは返して貰うぞ!」
(お姉さまの期待に答える為にも……やるしかない!)
黒騎士「フフフ、オマエニデキルカナ?」
(まずは様子見。あの着ぐるみなら当たっても大丈夫でしょ)
最初に薫子は、60%の速さで突きを繰り出した。
黒騎士はそれを軽く身を捻って回避する。
(!)
少しピッチを上げ、80%の速さで連続突き。
カッ!カッ!カツン!カッ!カツン!カツン!カッ!(プラスチックの剣なので金属音はしない)
80%でも高校レベルでは明らかに上位な筈の薫子の攻撃を、黒騎士は大剣で難なく全弾受け流した。
白騎士「くっ!」(アドリブ……と云うか本音)
黒騎士「オマエノチカラハソンナモノカ?ナラバコンドハコチラカラユクゾ!」
黒騎士の大きく振りかぶってからの一撃。
ブゥン!
(は、速い!)
カッ!
薫子は慌ててガードした。
安心したのも束の間、矢継ぎ早に黒騎士の剣が襲い掛かる。
(ちょっ……?!)
ヒュンヒュンヒュンヒュン……ブゥン!
カツン!カツン!カッ!カッ!カツン!
モーションが大きい為、何とかガードが間に合っている状況だ。
薫子は一旦距離をとって体勢を立て直す事にした。意外にも黒騎士は追撃をして来なかった。
黒騎士「ナンダ……タイリクニナヲトドロカセルシロキシトハ、コノテイドカ」
(そう云う事か……わかった!黒騎士の正体は瑞穂さんだ!)
聖應女学院高等部に限定すれば最強と云っても過言ではない七々原薫子。
その薫子とまともに(しかも着ぐるみ状態で)打ち合える時点で、聖應の現生徒では無いと薫子は判断した。
それに加えて薫子の動作を完全に読み切った様な動き。
そんな事が出来る人物は、薫子が知る限りひとりしかいない。
動きがややぎこちないのは、着ぐるみが影響しているのだろう。
奏が徹底的に秘密主義を通し、全身着ぐるみやボイスチェンジャーを使用したのは、
OGを生徒会劇に出す(しかも主役級)と云う行為が反則スレスレなのを考慮した為か?
とは云え、これらの考察は、現時点ではただの推測でしかない。
(瑞穂さんかどうかは劇が終わった後に確かめるとして、とりあえず今は勝つ事だけを考えよう)
剣を構え、薫子は本気モードに移行した。
白騎士「まだだっ!」
薫子は相手の懐に飛び込んだ。リーチの長い相手に対する常套手段だ。
今まで培ってきた剣道の技、瑞穂から教わった様々な技、全てを駆使する本気の戦いが始まった。
突きだけでは無く、斬り・払い・振り下ろし等を組み合わせた白騎士の連続攻撃が黒騎士を襲う。
ブン!ブン!カッ!カツン!ブン!カツン!
黒騎士は窮屈そうな動作で白騎士の攻撃を回避&防御する。
視界が狭い為、懐に入られるとやり辛い様だ。しかしそれでも有効打は一発も入っていない。
(凄い!着ぐるみのハンデが有るのに、それを物ともしない)
最速の攻撃を無限に続ける事は出来ない。白騎士のラッシュが止まったところで黒騎士の反撃が始まる。
大振りなのに的確に薫子の隙を突いてくる。薫子は防戦一方になりながら反撃のチャンスを待った。
そして黒騎士の攻撃が止んだところで再び白騎士がラッシュをかける。
しばらくはこの繰り返しになった。
客席は完全に静まり返っている。BGMはいつの間にか止まり、効果音も一切鳴らない。
聞こえるのは演劇レベルを遥かに超えた剣の打ち合いをしているふたりのキュキュッ!と云う足音と、
プラスチックの剣を打ち合うカツンカツンと云う乾いた音だけ。
観客はふたりの剣劇(薫子にとって、これは既に劇ではない)に完全に魅入っている。
いや、観客だけではない。
舞台袖に居るスタッフ・共演者達も、自分の仕事を忘れてふたりに魅入っていた。
その為、どこかへ行っていた奏がいつの間にやら戻っていた事に誰も気付かなかった。
奏の隣に生徒会OG厳島貴子が立っている事も……
(着ぐるみのハンデを背負った瑞穂さん相手ならあたしにも勝ち目は有る筈。動きを良く見るんだ)
薫子は、黒騎士の正体を瑞穂だと完全に思い込んでいる。
『どうやって黒騎士に勝つか』と云う意識は、『どうやって瑞穂に勝つか』にすりかわっていた。
黒騎士「ナカナカヤルナ。シカシソノテイドデハワタシハタオセヌ」
本来なら何かセリフを(アドリブで)返すべき場面なのだが、そんな事はもう薫子の頭には無い。
(来る……狙いは5発目)
黒騎士の攻撃。右・左・右・左……カッ!カッ!カツン!カッ!
4発ガードして、黒騎士が右斜め上に剣を振りかぶった瞬間。
(今だ!)ドスッ!
一瞬の隙を突き、白騎士は黒騎士の右サイドを走り抜けた。胴体を剣で薙ぎ払いながら。
剣道なら見事な胴一本だ。
(あれ?何でこんなあっさり……)
思惑通りに事が運んだのに、薫子は困惑していた。
黒騎士「グ……グハッ!」
黒騎士は左手で脇腹を押さえ、片膝を着いた。(もちろん演技)
白騎士「我が剣の力、思い知ったか!」
剣劇が一段落した事で、薫子の心にようやく余裕が出来、何とかそれらしいセリフを喋る事に成功した。
黒騎士「マ、マサカコレホドトハ……コンカイハワタシノマケダ。ダガ、ツギハ……マケヌ!」
脇腹を押さえたまま、黒騎士は後ずさりしながら退場した。
本来ならここで白騎士が決めゼリフと共に剣を掲げる筈だったのだが、
薫子は何も云わず、何も云えず、ただ無言で剣を高々と掲げた。
そんな薫子に対し、客席から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
声援は一切無い。純粋な拍手だけが薫子を包み、そして舞台は暗転した。
薫子は一旦下手(しもて)へと退き、ラストシーン(王女との再会)に備える。
しかしこの時点で、薫子の身にある異変が起きていた。
―王女との再会―
舞台中央にスポットライトが当てられた、と同時に客席からどよめきが起こり、数秒後大歓声が上がった。
「きゃああああ〜〜〜〜〜っ!」
白い豪奢なドレスに身を包んで現れたのは、他でもない、エルダー周防院奏その人だったのだ。
白騎士「姫さま!ご無事ですか?!」
白騎士が下手から走ってやって来た。
第一王女(奏)「騎士さま!」
薫子の異変に気付いたのは奏だけだった。
第一王女「騎士さま、助けに来て下さったのですね」
表向きは平静を装いながら薫子の事を観察する。
今までのシーンとはまるで違う。白騎士は完璧な『演技』で王女に接していた。
ラストシーンはふたりで徹底的に特訓して来たので、当然と云えば当然なのだが……
(完璧過ぎる……)
奏が立てた作戦は以下の通りである。
起:王道とも云える舞台設定と出演者(主に薫子や由佳里)のネームバリューで場を沸かせる。
承:メリハリの無い展開で、場のテンションを一旦最低値まで落とす。
転:薫子に本気を出させ、一気にクライマックスへ持って行き、観客を無理矢理引き込む。
結:自らが出陣し、薫子とふたりで綺麗に締める。
上みっつは完全に成功した。最後のひとつも成功しつつある。しかし……
奏は『薫子』の相手役として演技をしていた。
奏の誕生日に瑞穂と薫子がした宣言、
「私は奏ちゃんを守る盾になります」
「あたしはお姉さまを護る剣になります!」
この言葉を奏は生涯忘れる事は無いだろう。
舞台に出る際にリボンは外していたが(役作りの為)、
瑞穂と薫子に貰った盾と剣のペンダントは、肌身離さず身に着けていた。
結局の所、奏はこのシーンでも薫子に(演技ではなく)本気でいて貰いたかったのだ。
(王女の正体を明かさなかったのは、薫子に余計な先入観を与えない為である)
この劇の根底に在るのは、奏が大事な妹に対して仕掛けた子供っぽいわがままだったのだ。
ところが現実はそうならなかった。
今薫子が行っているのは、王女に対する白騎士の振る舞いであって、奏に対する薫子の振る舞いでは無かった。
王女役が自分ではなく別の人物だったとしても、薫子は全く同じ事(演技)をするのだろう。
そう考えると悲しかった。無論表情に出す様な真似はしない。奏には演劇部部長としてのプライドが有った。
白騎士が王女を抱き締める。客席は大いに盛り上がった。
白騎士「私は姫さまを、生涯をかけて守り抜く事を、我が聖剣エクスカリパーに誓います!」
王女を抱き締めたまま右手で剣を掲げる。
「きゃああああ〜〜〜〜〜っ!」「騎士の君〜!」「白菊の君〜!」
劇はめでたくハッピーエンド。大歓声と盛大な拍手の中幕を閉じた。
と同時に、奏は薫子の異変の正体を認識した。
奏を見つめている筈の薫子の瞳に、何も(奏の事も)映っていなかったのである。
『後編に続く』
おもいっきり規制に引っかかりました……o rz
さて次はどうしましょうか?しばらく大人しくした方が良いのかな?
『白と黒』(後編)
薫子の耳に大歓声と拍手の音が入って来た。
……あれ?あたし、何やってたんだっけ?
そうだ!黒騎士と戦って、何とか勝って、それから……あれ?思い出せない。
ん?あたしの左手に何が……ってお姉さま?!
何でお姉さまを抱き締めてるんだ?お姫さま役はお姉さまだったって事?
と云う事は、劇はもう終わった?あ゛あ゛っ、何も覚えてない?!
「薫子ちゃん……」
奏が心配そうな表情で薫子の顔を見上げる。
「……お姉さま。お姫さま役ってお姉さまだったんですね」
「黙っていてごめんなさい……」
「い、いや、謝るのはあたしの方です。
あの黒騎士と戦った辺りから記憶が無いんですが、劇ってもう終わったんですか?」
「ええ。見事な演技でしたよ薫子ちゃん」
この時、奏は一瞬だけ寂しそうな表情を見せたが、薫子はその事に気付かなかった。
(ん?もう劇は終わった?って事は……)
「すみませんお姉さま、失礼します!」
薫子は奏を抱き締めていた腕を解くと、いきなりどこかへ走り去ってしまった。
無意識のまま、無意識故に、練習した事をそのまま出して劇を成功させた薫子。
しかし意識を取り戻して尚、薫子の瞳には奏の姿が映っていなかったのである。
「薫子……ちゃん」
薫子がダッシュで向かった先は出演者控室だった。
(あたしは黒騎士の正体を確かめたい!瑞穂さんに違いないけどそれでも……)
黒騎士との戦いを終えた時点で、薫子の頭の中は瑞穂の事で一杯になっていた。
瑞穂に対する様々な想いが大量に渦巻いた結果、意識がどこかへ飛んでしまった訳だが……
薫子は改めて戦いの内容を振り返る。
黒騎士が仕掛けて来た攻撃は、薫子の限界ギリギリで防御が出来るレベルだった。
スピードは速かったが、意外と単調でパターンを読む事が出来た。
一瞬の隙を見出してカウンターの胴打ちを決め勝利を収めた……と思ったが、
実は黒騎士が自ら作った隙に薫子が誘い込まれただけだった。
結局薫子は、(戦闘の)最初から最後まで黒騎士の掌の上で踊らされていたのだ。
思惑通りに事が運んだのではなく、思惑通りに事を『運ばされて』いたのだ。
薫子は本気を出して戦ったが、黒騎士は薫子のレベルに合わせて手加減をしていたのだ。
(着ぐるみのハンデとか考えてたのが恥ずかしい。あたしと瑞穂さんの差はそんな次元じゃ無かった)
全身着ぐるみの黒騎士とは違い、白騎士の装備は薫子の希望も有りかなりの軽装だった。
恐らく黒騎士は、白騎士に攻撃を当てると見せかけて当てない様に心がけていたのだろう。
仮に黒騎士の正体が瑞穂だったとして、薫子は瑞穂に何を云いたいのだろう?
「ありがとうございました」なのか?それとも(手加減をした事に対して)「ふざけるな!」なのか?
薫子本人にもわかっていなかった。ただ今は瑞穂の姿を確認したかったのだ。
バァンッ!
控室の扉が勢い良く開かれた。中に居たのはただひとり。それは薫子にとって意外な人物だった。
「……あらあら。聖應女学院の生徒を名乗るなら、もう少しおしとやかにした方がよろしくてよ」
(?!)
控室に居たのは薫子が良く知る人物。学院OG、第71代エルダーシスター十条紫苑だった。
「ごきげんよう薫子ちゃん」
「ご、ごきげんよう紫苑さん……」
紫苑に挨拶を返したが、薫子の視線は、紫苑ではなく紫苑の足元にある物体に注がれていた。
(恐らく紫苑の手で)綺麗に畳まれた着ぐるみの抜け殻に……
「……ああ、薫子ちゃんにはバレてしまいましたね。わたくしが黒騎士だったと云う事が」
だが薫子は、紫苑の告白を相手にしなかった。
「申し訳ないですが、紫苑さんの冗談に付き合う気はありません。瑞穂さんは何処ですか?」
「瑞穂さん?何故瑞穂さんの名前が出るのでしょうか?」
「えっ……だって……それの中に入ってたのって瑞穂さんでしょう?」
薫子は着ぐるみを指差した。
「いえ、わたく……まあそんな事はどうでもいいでしょう。薫子ちゃん、今すぐ講堂へお戻りなさい」
「え?」
「瑞穂さんに何の用が有るのかは知りませんが、それは後回しにしても問題ありません。
今薫子ちゃんがすべき事は、講堂に戻って、劇を見て下さった皆さんに挨拶をする事でしょう?」
「……」
「さあ戻りましょう。わたくしも一緒に行きますから」
(講堂へ戻る……あの時の事を思い出しますね、瑞穂さん)
「……はい。わかりました紫苑さん」
薫子は一応頷いたが、納得はしていない様だ。
薫子と紫苑が、意味が有りそうで無さそうな会話をしている頃、
奏は舞台裏で、出演者とスタッフに対して深々と頭を下げていた。
「皆さん、ごめんなさい!」
しかし、由佳里以下彼女らの顔に浮かんだのは、怒りではなくクエスチョンマークだった。
「どうして謝るのですか?奏ちゃ……じゃなかった、お姉さま」
「え、だって私は……」
奏は由佳里達共演者を、薫子(の本気)をクローズアップする為のかませ犬にしてしまった。
しかもそれを徹底的に隠し通してきたのだ。由佳里達が怒るのは当然ではないか……と思ったのだ。
「お姉さま、幕が下りた時に聞こえたでしょう?盛大な拍手が。
劇は大成功だった。私達はその為に頑張った。それで良いじゃないですか」
「由佳里……さん」
「お姉さまが私達に掛けるべき言葉は、謝罪ではないでしょう?」
「……あ、ありがとうございました皆さん!」
奏はもう一度、深々と頭を下げた。そしてそんな奏に対して拍手が送られた。
「ふふっ、生徒会長がそれに相応しいリーダーシップを発揮して、わたくしひと安心ですわ」
「……ありがとうございます貴子さま。そう云えばどうして貴子さまがここに?」
「それはモチロン、まりやさんの妹がきちんと生徒会長の職務を全うしているか確かめる為……では無くて、
本日は奏さんの衣装係として参りましたの。このドレスはひとりでは着られませんから」
「何気ない本音は聞かなかった事にします。それではお姉さま、客席の皆さまに挨拶を……あれ?
そう云えば、肝心の主役は何処へ?」
「私ならここに居ます!」
薫子が戻って来た。紫苑も一緒だ。
「ごきげんよう皆さま」
ざわ…
「紫苑さま……」
ざわ…
薫子と一緒に現れた紫苑の存在は、その場の学院生達にある事を想像させた。
「紫苑さま、もしかして紫苑さまが……いえ、何でも無いです」
由佳里は思わず言葉を飲み込んでしまった。
紫苑は何も云わずにただニコニコしているだけ。それなのに皆(奏と貴子は除く)圧倒されてしまっている。
薫子と一緒に登場する事で、黒騎士の正体が自分であると云う事を周囲にアピールする。
しかし追求はさせない。由佳里達は紫苑の術中に完全にハマってしまった。
薫子も圧倒されたが、由佳里達とは違う想いを抱いていた。
(やっぱり黒騎士の正体は紫苑さんじゃない。紫苑さんが持つ威圧感は……あの黒騎士よりも遥かに上だ!)
薫子達は再び舞台に上がり、大歓声の中挨拶をした。
その後着替える為に控室へ引き上げたが、既に着ぐるみは何者かの手によって持ち去られた後だった。
薫子は着替えた後瑞穂の事を探し回ったが、結局見つける事は出来ず、学院祭は終了してしまった。
無事学院祭が終わり、安堵した寮生達の夕食。
「いや〜まさか奏ちゃんが最後に出て来るなんてねぇ。結局可奈子の無責任発言が現実になっちゃったじゃない」
「ごめんなさい黙ってて。でも、あのシーンだけは私が演じたかったのです」
「……なるほど。お姫さまとそれを守る薫子ちゃん、と云う構図ですね」
「しかしまあ、演劇部の公演もこなしてるのに、良く練習する時間があったわね」
「薫子ちゃんに稽古を付けると云う名目で、私も十分な練習を積めましたから。
それに私の出番は最後だけ。THANK Y○U MARI○って云うだけの(ピー)チ姫と変わりませんから。
薫子ちゃんの苦労に比べれば、大した事ではありません」
「……伏字になってないわよ奏ちゃん」
「……」
「ん?どしたの薫子」
カチャッ!
「……ごちそうさま。すみません、今日は疲れたので先に休ませて下さい」
「薫子ちゃん、それならお茶を淹れます」
奏が慌てて立ち上がったが、薫子はそれを制した。
「いや、今日はもういいです。お姉さまもお疲れでしょうから」
「薫子ちゃん……」
「お姉さま、由佳里さん、初音。おやすみなさい」
「……おやすみなさい薫子ちゃん」「うん、おやすみ」「薫子ちゃんおやすみなさい」
食堂から退出する寸前、薫子は奏の方に振り向いた。
「お姉さま、今日はありがとうございました」
深々と頭を下げ、今度こそ食堂から退出した。
「……」
奏は何も答える事が出来なかった。何故なら、薫子に礼を云われる心当たりが全く無かったからである。
「薫子ちゃんどうされたのでしょう?」
「劇が終わってからずっと様子が変だよね」
「……私は、薫子ちゃんのプライドをズタズタにしてしまったのかもしれません」
「「?」」
白騎士と黒騎士の戦いが演技ではないと云う事を、黒騎士が白騎士を勝たせる為に手加減していた事を、
由佳里と初音、そして他の出演者・スタッフ達も、最後まで気付く事はなかった。
自分の部屋に戻った薫子は、扉を閉め、鍵を掛けた……と同時に、薫子の目から大量の涙が溢れ出した。
「うっ……うぇっ……」
枕に顔を押し付け、嗚咽を無理矢理押さえ込む。
薫子の胸の内に在るのは、瑞穂(?)に手加減をされた事による悔しさ、
瑞穂(?)に本気を出させる事が出来なかった自分への怒り、
そして何より今日1日瑞穂に会えなかった事による寂しさだった。
今更ながら薫子は気付いたのだ。
奏がエルダーになって最初で最後の学院祭(当たり前だ)。
奏の事を物凄く大事にしている瑞穂が現れない訳が無い。
それなのに、結局瑞穂は薫子の前に現れなかった。演劇部公演の時も、生徒会劇の時も……
生徒会劇が終わった後、着ぐるみを脱いで奏や薫子に向かって微笑んでくれるのを期待していたのかもしれない。
瑞穂に会えなかった事に寂しさを感じている事が、薫子には驚きだった。
(お姉さまが居て、あたしが居て、そしてそれを見守る瑞穂さんが居る。
いつの間にかそれが当たり前になってたんだ……)
だが七々原薫子と云う人物は、ただ悲しみに暮れるだけのヤワな存在ではない。
(今のあたしじゃ瑞穂さんには遥か遠く及ばない。武道だけじゃなくそれ以外の事も全て。でも……)
薫子が流した涙は、悲しみの涙・悔しさの涙・怒りの涙・寂しさの涙……
そして『いつの日か瑞穂さんと同じ土俵に立ってみせる』と云う決意の涙なのだ。
(負けっぱなしはあたしの趣味じゃないからね)
翌朝、薫子の部屋の扉をノックする音がした。
コンコンッ!
「薫子ちゃん、起きてますか?」
「お姉さま?!」
時計を見ると明らかにいつもの起床時間より早いのだが、薫子は慌てて飛び起きドアを開けた。
ガチャッ!
「おはようございます薫子ちゃん」
ティーセットを持った奏が薫子に向かって微笑んだが、薫子は即座に気付いた様で、
奏の微笑には若干の陰りが見え隠れしていた。
「お姉さま……おはようございます」
「今お茶を淹れますね」
奏がお茶を淹れている間、ふたりとも無言になり、お茶が注がれる音と湯気だけが部屋の中を支配した。
カチャッ!
「どうぞ薫子ちゃん」
「……いただきます」
奏が淹れる紅茶は、いつでも薫子の心を落ち着かせる。今日は特に……
「薫子ちゃん……ごめんなさい」
「?」
「私は……以前瑞穂お姉さまにしたのと同じ過ちを犯してしまったのです。
私は薫子ちゃんと云う妹が居る事が誇らしかった。
周りの方々に七々原薫子と云う存在をもっとアピールしたいと思った。『この人が私の自慢の妹です』って。
薫子ちゃんはそんな事望んでいないのに……」
「お姉さま……」
「劇は結果的には大成功でした。薫子ちゃんの事をアピールするのも成功したのだと思います。
でも、薫子ちゃんは内容に満足してらっしゃらないのでしょう?特に黒騎士との戦いは……」
「そ、そんな事はないですよお姉さま」
「……いいえ、薫子ちゃんの目を見ればわかります」
奏が云う『目』とは、薫子の瞳だけではない。全体的に赤くなっていて、まぶたの下側が少し腫れていたのだ。
「ーーーッ!」
涙の痕を見られるのが恥ずかしいからか、薫子は突然奏の事を抱き締めた。
「きゃっ!薫子ちゃん!?」
「確かにあたしは悔しいって思ってます。だからってお姉さまの事を恨んだりはしないですよ。
ただ……ひとつだけ教えて下さい。黒騎士の正体って瑞穂さんなんでしょう?」
「そ、それは……」
この期に及んで奏は言葉を濁したが、そんな奏に薫子は微笑みかけた。
「いいんです。今のお姉さまの反応でわかっちゃいましたから。
恐らく瑞穂さんに『絶対云っちゃダメ』って口止めされているんでしょうね。
瑞穂さんとの約束を何よりも優先するのは当然の事ですから」
嫌みに聞こえるが、薫子はそんなつもりで云ったのでは無かった。
「……」
「あたしは瑞穂さんに感謝してるんです。あの戦いでは色んな事を学ばせて貰いましたし、
舞台の上で大勢の観客が注目するって云うのは、良い意味での緊張感がありましたから」
「薫子ちゃん……」
「それに謝るのはあたしの方なんですよ。せっかくお姉さまがお姫さまをやってくれたのに、
あたしは記憶が飛んでて全然覚えてないんですから。だから改めて宣言します。
私は姫さまを……いや、お姉さまを、生涯をかけて守り抜く事を、この剣に誓います!……ってね」
薫子は剣型十字架(のレプリカ)を掲げて見せた。
「薫子ちゃん、本当に私みたいな姉で良いのですか?」
「もちろん!お姉さまには瑞穂さんが不可欠な存在だ……って云うのと同じで、
あたしにはお姉さまが不可欠な存在なんですよ」
今では自分にとっても瑞穂は不可欠な存在だ……と云う事を、薫子はあえて口にはしなかった。
「ありがとうございます……薫子ちゃん」
「それじゃBボタンを押して新たな冒険(朝食)に行きましょうか、(ピー)チ姫さま!」
『―― to B continued』
後日劇のビデオを見た圭から、奏の元に返事が届いた。
「演劇としては最低の出来だけど……グッジョブ」
以上です。結局ひと月かかってしまいました。
タイトルはそのまんまの意味と、黒い白菊の君(でも自爆)という意味です。
行き当たりばったりで話を作って、思いついたエピソードとかネタとかを見境無く投入した結果がコレだよorz
登場人物出し過ぎで頭がパンクしてますし。これに加えて響姫&ケイリも登場予定だったって考えると……
・自分用(takayanさん用?)メモ
薫子・奏・由佳里・初音・可奈子・沙世子・茉清・京花・圭・貴子・紫苑
(名前だけ)響姫・ケイリ・瑞穂
リストアップした本人が一番自信が無い。これで全員だろうか?
そういえば『瑞穂と薫子』の筈なのに、結局瑞穂お姉さまが出てないですね。何故だろう?(ぇ?)
愚痴ばっかりで申し訳ないです。次はサラッと流して第2部完にする予定です。
それでは駄文失礼致しました。
正直今回はやり過ぎました。次回は……
ニア 自重しろ
もっとやれ
私達の戦いはk
次も楽しみにしています。
ちなみに、「伏字になってない」が大笑いでした。
>>300 GJ!
エトワールの雰囲気がよく出てて良いですね。
次回はもちろん『もっとやれ』でお願いします!
本日新たにSSが完成しましたので、投下させていただきます。
「ふう……随分遅くなってしまいましたわ」
ここは聖央女学院の桜並木道。貴子から生徒会のことで呼び出されていた紫苑は、1人帰路についていた。
「ここは家に電話を入れて、櫻館に泊めていただこうかしら?」
紫苑がそう考えていると……。
「何者ですか!?」
なんと、黒い服にサングラスをした4人組が紫苑を取り囲んだ。
「どなたか……くっ……」
紫苑が助けを呼ぶ前に、4人組の1人が紫苑に薬物の染み込んだ布キレで鼻と口を塞ぐ。
(先日の誘拐未遂事件で警戒もより厳重になっているはずですのに……どうして……)
そう考えているうちに、紫苑の意識は、深遠の淵へと沈んでいった。
〜誘拐されたエルダー〜
「なんですって!? 紫苑さんが誘拐された!?」
「はい……この手紙を見てください……」
学院長室に呼び出された瑞穂は、驚きを隠せなかった。先日貴子が誘拐されかかったばかりで、
再びこのような不祥事が起こるとは……。
「あたしもびっくりよ。まさかまたうちの構内で誘拐なんて……」
「私も誘拐未遂事件の矢先にこのような事が起こるとは……呼び出した身としては、責任を感じずにはいられませんわ」
同じく呼び出されたまりやと貴子、緋紗子先生、そして学院長も浮かない顔をしている。
「瑞穂さん、この手紙を見てください」
学院長はそう言って瑞穂に手紙を渡した。
「これは、紫苑さんを誘拐した犯人の……?」
手紙には、ワープロ書きでこう書かれていた。
『十条紫苑は預かった。返してほしくば、いたずらに騒いだりせず、私の言うことに従うべし。
鏑木グループの御曹司瑞穂と、厳島グループの御曹司順崇に5千万円ずつ持たせて私の手に渡るようにすること。
詳しい受け渡し方法は後で知らせる。断れば、十条紫苑の命はない。稀代の悪女、香山碧(かやま みどり)』
「くっ……」
手紙を読み終えた瑞穂は、歯ぎしりしていた。
「でも、一体どうすれば……」
「警察には知らせた?」
「いえ、この手口の鮮やかさから見て、おそらく相手はプロの犯罪者でしょう。下手なことはしないほうが得策でしょう」
「そうね。下手に警察に通報すると、それだけで十条さんも殺されてしまうかもしれませんからね」
まりやの疑問に、貴子はうつむいて答える。緋紗子先生も賛同した。
「でも、こちらでも何らかの対策はとっておくべきでは……」
「そうですね。ただ手をこまねいているわけにもいきませんからね」
「私、生徒会のみんなに相談して参りますわ」
貴子はそう言って部屋を出て行った。
「あたしも、何か手伝える事があったら協力するから」
「ありがとう、まりや」
プルルルル……。
それから約10分ほどして、電話が鳴った。
「はい、聖央女学院……」
学院長がしばらく電話をしていたが、やがて受話器を瑞穂に渡した。
「瑞穂さんに代われ、とのことです」
言われて瑞穂は受話器をとる。
「はい、代わりました」
「ヤア、キミガ鏑木瑞穂クンダネ?」
すると、受話器の向こうから、ボイスチェンジャーでも使っているような不気味な声が聞こえてきた。
「……どなたですか?」
瑞穂は警戒心をしいて聞く。
「香山碧、ト言エバワカッテイタダケルカナ?」
「……あなたが、紫苑さんをさらった犯人ですか!?」
「ソウダヨ」
「……どうして紫苑さんを!! 紫苑さんを返してください!!」
「私ニ命令スルナ!! キミハタダ黙ッテ私ノ言ウコトヲ聞ケバイインダ! 口答エスルナラ十条紫苑ハ殺ス!」
「……わかりました。私はどうすればいいんですか?」
香山碧を名乗る犯人の叫びに、瑞穂は怒りを抑えてそう聞く。
「3日後、午前9時ダ。ソノ時間、駅前のドーナツ店デ待ッテイルカラ。ソコニ厳島順崇ト5千万ズツ。ヨロシク頼ムヨ」
ガチャッ……ツーツー……。
そう言って電話は切れた。
「瑞穂ちゃん、なんて?」
「3日後、午前9時に取り引きするって……」
「そうですか……瑞穂さん、どうか十条さんのこと、よろしくお願いします」
「ええ、任せてください。かならず紫苑さんを助けて見せますよ」
そう言う瑞穂の目は、怒りと決意に満ちていた。
そして3日後、午前8時50分、駅前のドーナツ店……。
「どこにいるんだろ? “香山碧”は……」
5000万の入ったバッグを持った瑞穂は、ドーナツとコーヒーを口に運びながら、店内を見渡していた。
周りには一般人の格好をした警察が数名、瑞穂の周囲を監視している。厳島グループが密かに呼んでいたのだ。
「ん? あれは……」
自分と同じようにバッグを持った1人の男が、瑞穂に近づいてくる。
「ふうん、あんたが鏑木瑞穂か。噂には聞いてたけど、本当に女みたいだな……」
その男の言葉に、瑞穂は驚愕した。
「ど、どうして僕の名前を!? あなたは……」
「俺は厳島順崇。貴子の兄貴だ。今日は、十条紫苑救済のパートナーってわけだ」
「そうですか。よろしくお願いします」
瑞穂と順崇はお互いに挨拶をすますと、今回のことについて話し合った。
「でも、“香山碧”はいつ現れるんでしょうね?」
「さあな。向こうも警察に捕まるような下手な真似はしないだろうからな」
そう言っていると、従業員が大声で話してきた。
「店内にお越しの鏑木瑞穂様、厳島順崇様、香山碧様からお電話がかかっております!」
2人は大急ぎで電話に出た。
「オハヨウ、瑞穂クン、ドーナツハオイシク食ベテイルカイ?」
「それより、どうやってお金の受け渡しをすれば……」
「ククク……今カラ教エテアゲルヨ……ココカラ西ニ4キロホド行クト、電車ノ駅ガアル……
ソコカラ遠峰高原行キノ電車ニ乗ルンダ……」
「遠峰高原行きの電車?」
瑞穂は聞き返すと、相手が説明をしてくる。
「ソウ。コノ電車ハ9時30分発ヲ逃スト3時間ハ来ナイカラネ。急イダ方ガイイト思ウヨ?」
そういうと電話は切れた。
「なんだって?」
「順崇さん、急ぎましょう! 9時30分までに遠峰高原行きの電車に乗らないといけないんです!」
そう言うや、瑞穂は料金を払って店を飛び出した。すぐに順崇も後を追う。
「はあ……はあ……はあ……」
現在9時ちょうど。あれから2人は全速力で走り続けたが、駅まではまだ3km以上ある。
瑞穂は人ごみに巻き込まれて順崇より遅れ、2人は横断歩道を挟んで向かい合っている。
信号は赤。しかしそんなことを気にしていられない。瑞穂は車の合間を縫って横断歩道を走る。
プップー!! キュルルルルル……。
「バカヤロー!! 何考えてんだ!!」
「はあはあはあ……」
走ってきた車のクラクションと運転手の罵声を浴びながらも、瑞穂は横断歩道を渡り終えた。
「お、おい瑞穂、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「もっと急ぎましょう。紫苑さんを助けるためにも!」
「ったく、面倒なことを……」
一方その頃、聖央女学院……。
「紫苑さまは大丈夫なんでしょうか?」
「紫苑お姉さま……どうか無事でいてくださいなのですよ」
「大丈夫よ。今瑞穂さんたちが救出に向かっていますし、貴子さん達生徒会のみんなも、
極秘裏に犯人の足取りを追っている最中だから」
まりやや奏をはじめ、学院のほとんどみんなが、紫苑の身を心底心配していた。
そして一歩間違えば取り乱しそうになる生徒達を、教師達が懸命に落ち着かせようとしていた。
「はあ……はあ……はあ……」
現在9時ちょうど。あれから2人は全速力で走り続けたが、駅まではまだ3km以上ある。
瑞穂は人ごみに巻き込まれて順崇より遅れ、2人は横断歩道を挟んで向かい合っている。
信号は赤。しかしそんなことを気にしていられない。瑞穂は車の合間を縫って横断歩道を走る。
プップー!! キュルルルルル……。
「バカヤロー!! 何考えてんだ!!」
「はあはあはあ……」
走ってきた車のクラクションと運転手の罵声を浴びながらも、瑞穂は横断歩道を渡り終えた。
「お、おい瑞穂、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「もっと急ぎましょう。紫苑さんを助けるためにも!」
「ったく、面倒なことを……」
一方その頃、聖央女学院……。
「紫苑さまは大丈夫なんでしょうか?」
「紫苑お姉さま……どうか無事でいてくださいなのですよ」
「大丈夫よ。今瑞穂さんたちが救出に向かっていますし、貴子さん達生徒会のみんなも、
極秘裏に犯人の足取りを追っている最中だから」
まりやや奏をはじめ、学院のほとんどみんなが、紫苑の身を心底心配していた。
そして一歩間違えば取り乱しそうになる生徒達を、教師達が懸命に落ち着かせようとしていた。
「待ってください! その電車、待ってください!」
瑞穂たちが駅に着いた頃、その電車は発車寸前だった。大急ぎで切符を買ってホームへ行き、
すでにドアの閉まっていた電車を止めてもらって2人は乗車することができた。
「はあ……はあ……なんとか間に合った……」
「この電車にはな……だが、取り引きは成功したわけではない……」
「ええ……最後まで気は抜けませんね」
そう話していると、列車の後方から車掌が来て言う。
「鏑木瑞穂様、厳島順崇様、いらっしゃいましたらお返事をお願いします!」
「私たちですが……何か?」
「香山碧様から、お預かりしております」
そう言って車掌さんは手紙を渡してくれた。
「順崇さん、手紙にはなんと?」
「次の駅で降りろ。指令はその時伝えるだと……」
「まだあるんですか……」
「箱崎駅へお越しの鏑木瑞穂様、厳島順崇様、香山碧様からお電話です!」
次の駅で降りた2人が待合室にいると、電話がかかってきた。
「ヤア、ゴ苦労サマダネ、オ2人サン」
「次はどうすればいいんですか?」
「駅ヲ出テ左ニ行クト鏡川ガアル。ソノ上流ノツリ橋ニ10時30分マデニ来イ」
がちゃっ……。
「どうした?」
「鏡川の上流のつり橋に10時30分までに来いって……」
「走ってぎりぎりの時間だな……」
「これなら終点の遠峰高原から下った方が早いのに……何考えてるんでしょうか?」
「………」
瑞穂に言われて、順崇は考え込む。
「ああ、やめだやめだ!」
しばらく考え込んでいた順崇は、不意にそう言ってバッグを足元に捨てる。
「順崇さん……?」
「もうこんなこと、バカらしくてやってられねえよ!」
「順崇さん! あなた今の状況をわかってるんですか!? 紫苑さんの命がかかってるんですよ!
それでも紫苑さんの婚約者ですか!?」
「うるせえよ……婚約者って言っても親父が勝手に決めた相手だ。それに、十条紫苑は絶対に殺されはしねえよ」
「……もういいです! 紫苑さんの救出は僕1人でやりますから!」
順崇の態度に瑞穂は憤慨し、そう啖呵を切ってバッグを2つ持ち、鏡川のある左側に向かって走り出した。
「……あーあ。熱心だな。心配しなくても、本当に絶対に殺されねえってのに。このやり口を考えればな」
「はあはあはあはあ……」
10時29分。瑞穂はギリギリの時間で、鏡川上流のつり橋にたどり着いた。
「クククク……ヨク来タネ、鏑木瑞穂クン」
そこには、4人の黒い服とサングラスをした人間がいた。リーダーらしき1人が出てきて、
ボイスチェンジャーを使って話す。
「香山碧さんですね? 金は言われたとおり持ってきました。約束どおり紫苑さんを返してもらいますよ」
リーダーらしき人が目で合図すると、3人のうち2人が紫苑を連れて来た。もう1人はなぜかカメラを回している。
「紫苑さん!」
「瑞穂さん!」
紫苑は喉元に刃物を突きつけられながらも、心底嬉しそうな顔をしている。
「さあ、お金はここに置きます。紫苑さんを離してください!」
瑞穂はバッグを足元に置くと数歩下がった。
「マアソウ慌テルナヨ、モウ1人ガ到着スルマデ待トウジャナイカ」
「順崇さんは来ませんよ。ここに来たのは僕1人です」
それからしばらくすると、順崇がバイクに乗せられてやって来た。厳島グループが体裁のために無理やり来させたのだ。
「………」
「鏑木瑞穂クンハ時間通リニココヘ来タゾ。サスガハ彼女ノ親友。彼コソ紫苑ノ夫ニナリエル。
ソレニ比ベテ、オマエハ無様ナモノダナ」
「ふん……俺はおまえの望みどおりに動いてやっただけさ」
「えっ……?」
瑞穂は驚いて順崇を見た。
「何が香山碧だ。猿芝居はその辺にしたらどうだ、貴子」
「た、貴子さん!?」
「………」
順崇が言うと、リーダーはサングラスとかつらをとった。
「じゃ、じゃあそっちの3人は……」
その声を合図に、残りの3人も変装を解く。君枝と葉子と可奈子だった。
「た、貴子さん……一体どうしてこんなことを……」
「簡単なことさ。俺と紫苑の婚約をぶち壊したいんだよ、そいつは」
「えっ……? ど、どういうことですか?」
「走ってギリギリの時間で俺達をここへ来させた。本当に紫苑のことを思っていなければここにはたどり着くのは難しい。
それを理由に婚約を破棄できるってわけさ」
だから1人はカメラを回してたのか……瑞穂は順崇に向き直って聞いていた。
「お兄さま、どうして気づいたのですか……?」
「営利誘拐ならもっと確実に場所変えをするはずだ。2人を指名したことといい、
これじゃあ十条紫苑が賞品の出来レースと同じ。見え見えさ」
瑞穂は思い返した。そういえば、紫苑は絶対に殺されないって言ってたな。あの時に、この人はすでに見抜いていたのか。
「ま、礼は言っとくさ。おまえらのおかげで、たちの悪い漁色家のフリをする必要もなくなったワケだしな」
「フリ? でも、お兄さまの噂は……」
「裏づけがあると言いたいんだろう? だが俺は女どもの抱いてほしいって願いに応じてただけで、
自分から迫ったことは1度もないぜ」
「どうしてそんなことを……?」
今度は瑞穂が聞く。
「あの婚約に迷惑してるのはおまえらだけじゃないってことさ。俺は待ってたんだよ。
十条紫苑、あんたの家が俺に愛想を尽かしてくれるのをな」
「順崇さん……」
この人も、自分と同じでずっと苦しんでたんだな……紫苑は順崇に改めて共感を覚えた。
「そうだ、1ついいことを教えてやるぜ。実は十条家の凋落自体、親父が仕組んだ罠さ」
「えっ……?」
順崇の発言に、紫苑だけでなく、貴子も瑞穂も驚いた。
「巧妙に隠してはいるがな。そのカメラをマスコミ、特に週刊誌にぶちまければ、必然そのことも表沙汰になるだろ。
そうすりゃ親父もその責任を取らざるを得なくなるさ」
みんな、複雑な表情で順崇を見ている。この人も父のしたことに責任を感じてるんだろうか?
「じゃあ、俺はこれで帰らせてもらうぜ。あとはおまえらで頑張るんだな」
「貴子さん、驚かさないでくださいよ、本当に心配だったんですから!」
瑞穂はその場にへなへなとなってそう漏らした。
「申し訳ありません、紫苑さまを救うためにはこの手がいいと思いましたから」
「私もさらわれた後で貴子さんから事情を聞きました。とても楽しかったですわ」
「紫苑さんまで……」
「やっぱり私が提案した甲斐がありましたあ……」
可奈子が間延びしたように言う。
「まったく、まさか可奈子の無茶な提案が成功するとは思わなかったわ」
「葉子さあん、それはひどいですう。ある意味一番の功労者に対して失礼ですよお……」
「バカのまぐれ当たりじゃないの?」
「うーっ……ぐれちゃいますよお?」
「まあまあ、瑞穂さんも貴子さんたちも、本当によくやってくださいました。ありがとうございます」
ケンカになりそうな勢いを見て、紫苑が笑顔でそう言う。それを見て、みんな頑張ってよかった、と思えた。
「しかし、順崇さんの言ったことは本当でしょうか?」
「正直あの父なら、そこまでやりかねませんわ」
「でも、これをマスコミに見せれば、全てうまくいくんですよね?」
「ええ……」
それからみんなで聖央女学院に帰ると、窓から紫苑の無事を喜ぶ歓声が聞こえてきた。
そしてその日は紫苑の救出劇、貴子たちの婚約破棄のための作戦などの話題で学院は持ちきりだった。
厳島グループはというとマスコミに厳しく叩かれたおかげで、紫苑の家への罠も明るみに出て
責任を取らざるを得なくなっていた。貴子は少々罪悪感を覚えていたが、順崇が気にする必要はないと言ったことで
前向きになりつつある。
それともう1つ……。
「ちょっと貴子、稀代の悪女香山碧って、よく考えたらあたしの名前をシャッフルしたんじゃないの!」
「あらまりやさん、今頃お気づきですの?」
「今頃じゃないわよ! 人を稀代の悪女呼ばわりするのが生徒会長のすることなの!?」
「あなたが言うのもどうかと思いますが、直接使ったわけではないのですからよろしいでしょう?」
怒るまりやを貴子は悠然とかわして去っていった。
「ううう……納得いかーん! むっきーっ!!」
ガシャーン!!
Fin
以上です。
ちなみに、貴子さんに誘拐犯の演技が出来るのか? と自分でも途中疑問に思いましたが、
学院祭の演技と圭さんの指導で鍛えられたのでしょう。多分。
実は誘拐犯の正体を示すヒント、少しは書いたつもりでしたが、ヒントになっていたでしょうか?
まあ、何はともあれ、お目汚し失礼いたしました。
みかどまりや
かやまみどり
……おお!なるほど!
これなんて金田一?
322 :
名無しさん@初回限定:2008/12/08(月) 13:22:56 ID:vciaU4aFO
本編と明らかに違う設定は萎える
Q&A その1
(;´Д`)<オリキャラ出したいんだけど……
(・∀・)<オリジナルキャラが原作キャラよりも目立つ物、また、同程度の立場である場合、受け入れられない
事の方が多いようです。そんな作品の場合は投稿所の方が無難ですが、最終的な判断は作者さんに
委ねられます。
もし、これは大丈夫だ、と思ってスレに投下して、投稿した作品にケチをつけられたとしても、
それはそれで一つの事実ですので素直に受け止めましょう。
次の投稿時にその経験を活かしてください。
(;´Д`)<そんな固い事言ってたらオリキャラ使えないじゃん
(・∀・)<そんなことはありません。原作に登場してはいないものの、その世界に間違いなく存在しているキャラ
(一般生徒・店員・通行人)等のいわゆるMobは、登場させても問題ありません。
但し、それでもし投稿した作品にケチをつけられてとしても、それはそれで一つの事実ですので素直に
受け止めましょう。次の投稿の時に(ry
(;´Д`)<原作キャラの性格を弄りたいんだけど、どの程度なら大丈夫なの?
(・∀・)<極端に変わっていなければ大丈夫です。が、だからといってスレに投稿してケチをつけられてとしても、
それはそれで(ry
例外的に、笑いを取りに行った場合には受け入れられる事もあるようです。
Q&A その2
(;´Д`)<瑞穂ちゃんがあまりにも可愛いので、おかま掘りたいんだけど……
(・∀・)<どうぞ掘ってください。但し、作品が出来上がったときはスレの方ではなく、投稿所へお願いします。
逆に瑞穂ちゃんが掘っちゃった場合も投稿所を利用してください。
(;´Д`)<マリみてとか、極上生徒会なんかとクロスオーバーさせたいんだけど……
(・∀・)<クロスオーバー物は、混合物の元ネタを知らない人もいますので、投稿所の方へお願いします。
(;´Д`)<瑞穂ちゃんを襲った○○が許せません! お仕置きしてもいいですか?
(・∀・)<構いませんが、必要以上の暴力・陵辱・強姦・輪姦・監禁・調教・SM・スカトロ・グロ・強制妊娠・
達磨プレイ・死姦・人体改造・触手・食人等、読み手を限定してしまうような表現がある場合は、
投稿所の方へお願いします。
また、直接的な表現が無くても鬱な展開になった時は受け入れられない場合もあります。
(;´Д`)<携帯だから投稿所使えないyo!使えるけど投稿所ヤダ!
(・∀・)<仕方ないので事前に1レス使って傾向報告、あぼーんできるようにコテ、ケチつけられても
文句言うのはやめましょう。でも可能な限り投稿所利用してください。
(・∀・)<おとぼくの雰囲気に合わないと思われる作品は投稿所へ、どうすればいいか分からないときは
皆に聞いてみて下さい。
325 :
名無しさん@初回限定:2008/12/09(火) 12:38:19 ID:3OqmzNp4O
323,324
東の扉必死すぎ
326 :
名無しさん@初回限定:2008/12/10(水) 08:45:10 ID:nvq3NvI/0
やるきばこ2が台無しだよなw
どうでもいいが煽りが必死すぎ
sage進行なんで気をつけて
328 :
名無しさん@初回限定:2008/12/10(水) 13:49:23 ID:0MHMcuxJO
本人光臨必死だなあ
329 :
名無しさん@初回限定:2008/12/12(金) 02:23:16 ID:Q+2wI7e80
L鍋さんはまだか
330 :
名無しさん@初回限定:2008/12/13(土) 09:19:32 ID:oUoyjK+K0
L鍋>>>>>>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>>>>>>>みどりん=東の扉
まとめサイト的評価
331 :
sage:2008/12/13(土) 22:26:27 ID:S7NN2oEr0
職人の方々。
ここに書いていることはごく一部の人間のアラシです。
本気にせず、どうかスルーしてください。
気になさらないでください。
>>331 sageはメ欄にするって事くらいは理解しような。
ageてりゃお前だって荒らしと認識されても仕方ない。
つまらん、おまえらのはつまらん
お久しぶりです。
バカ話の投下です。
注意
かなりのバカ話です。
シリアス派の方はご遠慮いただいたほうが賢明かと…
『勝者は誰?』
学院の3年生の授業を担当している2人の体育教師の内、1人が来週いっぱい研修で留守になることになった。
その為、3年生の体育授業の時間割が一部変更になり、来週いっぱいの体育授業はABCクラスが合同となる。
しかもその時間は自習。体育委員に一任される。
研修に出かける体育教師は、それぞれのクラスの体育委員に自習時間の内容は任せるので話し合って決めるように申し渡した。
「何か意見はございますか?」
3人の生徒の前で議事進行する貴子。
「はい!」
勢い良く手を上げるひとりの生徒。
「……どうぞ、Bクラス体育委員のまりやさん」
「というか、何故、体育委員でもない貴子さんがここにいて司会をしているのかお聞きしたいですわ」
放課後、Aクラスの教室にABCそれぞれのクラスの体育委員が集まって自習内容を話し合っていた。
「私は立会人として参りましたの」
「立会人?」
「ええ。きちんとした自習内容に決定するかどうか、一部生徒の暴走がとても不安だったものですから」
「ああ、なるほど。生徒会長に普段から抑圧されてちょっとクレイジー気味になっているCクラスのことですね」
「・・・残念ながら違います。Bクラスの体育委員のことです」
「えっ!?ウチのクラスにはノイローゼの人もクレイジーな人もいませんわよ?」
「誰がノイローゼの話をしていますかっ!」
「貴子さん、あなたですが」
「私はそんな話をしておりません!キーッ!貴女と話していると頭がおかしくなりそうですわっ!!」
「貴子さん、やはりあなたノイローゼ気味のようですわね」
ふたりのやり取りをぽか〜んと見ていたAクラスの体育委員である夏樹が口を挟んできた。
「あの、御二方、先に進みませんか?」
「あ、そうですわね。失礼しました。まりやさん、何か意見がありませんか?」
ハッと我に返りまりやに乗せられていることに気がついた貴子が赤い顔で、意見を聞く。
「ノイローゼについて?」
「それはもういいですから!自習内容についてです!」
「えっと、読書が良いと思います」
「はあ〜?何故読書なんですか?体育の授業なのですよ」
「体育の授業だからって運動しなければいけないと決まっているわけではありませんわ」
「決まってるんですっ!体育の時間は運動することに決まってるんですっっ!」
「何時何分何曜日、どこの法律で決まったのかしら?」
「子供ですかっ、貴女はっ!!」
興奮してまりやの胸倉を掴まんばかりの勢いの貴子を、他の2人が「落ち着いてください」と宥める。
「夏樹さんのご意見は?」
ようやく落ち着いた貴子がAクラス体育委員に問いかける。
「まあ普通に考えれば組み分けして何か試合でもすれば良いのではないでしょうか」
「そうですね」
Cクラス体育委員も同意する。
「ええ〜?!そんなのつまんない。反対はんたーい!」
まりやが反対する。
「じゃあ、まりやさんはどうしたいのですか?体育とは無関係なものは却下ですよ」
「ええと、3クラス食堂に集まってルールブックを読むとか」
「却下」
「なんでよ〜」
「体育だと云ってるでしょう」
「体育じゃん。ルールブックの勉強。皆でお茶でも飲みながら」
最早、貴子たちはまりやの云うことを聞いていない。
ひとり反対するまりやを放っておいて話を進める3人。
「3クラス混合で組み分けして…」
「ソフトボールやバスケットボールとか…」
「来週中で2回体育の時間がある訳ですから…」
あーだこーだと話を進めている。
「ふんだ。いいわよ。あたしは勝手にするから」
まりやはぶつぶつとそう云うと、カバンから何やら画用紙を取り出して、チョキチョキと切り始めた。
貴子たちはそんなまりやを全く気にせず話を続ける。
「試合するにしてもコートが足りませんか」
「3クラスが一度にするわけには…他の学年の体育授業ともかち合うこともありますし」
「やはり1クラス分は余ってしまいますか」
「ええ。ここはまりやさんの意見も入れても良いのでは」
「どう云う風に?」
「組み分けしたチームごとに順番に一時間ずつルールブックを読むということで。来週中に2回の授業時間があるわけですから」
「なるほど。ちょうど良いという訳ですわね」
頷いた貴子は、後ろで何やら作業しているまりやを振り返り声をかける。
「まりやさん。遺憾ながら貴女の意見を一部取り入れて差し上げても…って何をしているんです?」
まりやは鼻歌交じりに何やらカードをチョキチョキと切っている。
机に散らばっている数十枚のカード。
貴子が一枚を手に取って見る。
【お姉さまのティータイムショー】
恵泉のアイドルとの夢のひと時を貴女に!
歌とトークの一時間!
S席 800円
A席 500円
・・・・・・ぶちっ!!!
何やら切れた音がした。
「貴女という人はっ!貴女という人はぁぁ!!!!」
貴子がまりやの胸倉を掴み、鬼の形相でガクガクと揺さぶる。
「ぐえっ!し、死ぬ、死ぬ」
「か、会長、落ち着いて!」
「首絞めてはいけません!本当に死にますよ!」
他の2人が慌てて貴子に飛びついて止めさせる。
「やっぱり駄目です!まりやさんの意見は却下です!!」
貴子の宣告。
「え〜!横暴!いいじゃん。少しくらい息抜きしても!」
「貴女は息抜きしっ放しです!」
「これは冗談だって!実際にこんなことはしないからさ〜」
「その割にはこのチケット、細かく作りこんでますが?」
チケットには席番号まで記入してある。
「でも会長、実際問題、全クラスが一斉にグラウンドを使用するのは無理がありますが」
「ならば体育館も併用すれば良いではありませんか」
「そうまで必死に拘って…体育委員でもないくせに〜」
まりやが、ぶぅたれる。
「貴女が体育委員のくせに不真面目すぎるのです」
「いや、あたしはいたって真面目よ」
「真面目にチケット切ってるのはなお悪いですわ!!」
いつまで経っても平行線。
そんなやり取りを離れた席から瑞穂と紫苑が呆れ気味に眺めていた。
(あ〜あ。貴子さん、まんまとまりやのペースに乗せられちゃってるな)
「紫苑さん、あのふたり…」
「ええ。とても楽しそうですわ」
「…紫苑さんにはそう見えるんですか」
「仲が良いことは美しいことだと昔の文豪もおっしゃってましたよ」
瑞穂の目にはそうは見えない喚きあっているふたり。
このままでは埒があかないと気がついたのか、
「お姉さまはどう思いますか?」
不意に貴子が瑞穂に尋ねた。
「瑞穂さんもせっかくの自習は伸び伸びと羽を伸ばしたいですわよねぇ〜」
まりやがニヤニヤ笑いを浮かべながら同意を求めてくる。
「えっと、まあ、どちらでも。私は部外者ですし」
急に話を振られて、少し引き気味に答える。
出来れば関わりたくはない。嫌な予感もする。
「参考意見です。お考えをお聞かせください」
食い下がる貴子。
「そ、そうですね。私は貴子さんの意見に賛成…かな」
「有難うございます、お姉さま」
喜びに表情を輝かせる貴子。
「当然ですわよね。そもそもまりやさんは授業というものをどう考えているのでしょうね。
自習といえども遊び気分なんて不謹慎極まりないというものですわ」
「…そうですね」
瑞穂は何もそんな生真面目気分で貴子に同意しているわけではなかった。
まりやが作っているチケット。
あんなものをされる位なら、生真面目に自習したほうが良いと思ったからである。
(やる!まりやなら絶対にやる!)
そんなもの、絶対に何があっても御免蒙りたい。
「ほら、まりやさん。お姉さまもこうおっしゃってますわよ」
「うぬぅぅ。裏切り者め〜」
「…あの、何をもって私が裏切り者呼ばわりされているのか、理解不能なんだけど…」
「ま、いいでしょ。部外者である瑞穂さんの意見は参考として聞いておきましょ」
「何を云っているのです。お姉さまはエルダーなのですよ。お姉さまの意見は全体の意見として重視すべきでしょう」
「貴子さん、アナタさっき参考意見と云ってたじゃない」
「重要参考意見です」
「あとだしでやんの。きったな〜」
「なんですか!その言葉使いは!」
また揉めはじめた。
「お2人とも、いい加減にしてください!」
他の2人がうんざりした声を上げる。
「分かったわよ。じゃあ紫苑さまの意見も聞いてみましょう。紫苑さまはどう思います?」
まりやが紫苑に話を振った。
まりやの思惑としては、紫苑は楽しいことが好きでその嗜好は貴子ではなくまりやに近い。
だから自習内容についても、きっとまりやに近い意見を云ってくれるものと睨んでいる。
貴子もまりやの狙いにすぐさま気がつき、渋い表情をする。
「私も部外者ですが…ですが私的な意見を云わせていただくなら自習といえど楽しいほうが好きですわ」
案の定な紫苑の言葉。
にんまりするまりや。
「ということは紫苑さまもティータイムショーが良いと?」
「まりやさん!やはり貴女はそれをするつもりだったんですね!」
「まあ、まりやさんの意見に全面的に賛成するわけではないのですが、いつもの授業とは違った内容の自習というものも、
たまには良いのではないかと私は思いますが」
わが意を得たりと勢い良く貴子に詰め寄るまりや。
「ほらほら、紫苑さまもこうおっしゃってるわよ。という訳でティータイム…違った、ルールブック勉強会に決定ね」
「駄目です。あくまで紫苑さまの意見です。決定ではありません!」
「なんで〜?貴子さん、アナタ、紫苑さまに不満でもおありなのかしら〜」
「バッ、バカなことを!!何でそんな事を」
「なら良いじゃない。決定ね」
「ダメ!まりや。私も反対よ」
勢いづいたまりやに押されそうになっている貴子を見て、瑞穂が口を出す。
これで貴子も元気を取り戻し、喧々諤々の云い合いになる。
体育委員3名、生徒会長、エルダーシスターの云い合いに到底、決着はつきそうな様子は見えない。
「それでは皆さん、こういう事では如何でしょうか?」
この状態を収束させるべく、紫苑が意見を出した。
「多数決で決めるということで」
「ええっ!多数決ですかー。…反対、反対!」
「どうしてですか、まりやさん」
「だって、多数決なら4対2で負けるのが分かってますから」
確かにこのメンツなら紫苑とまりや以外は全員、貴子の味方だろう。
「何を我が儘を…。紫苑さまの御意見に不服がおありなのですか?」
勝ち誇ったように云う貴子。
「それはさっきのあたしの台詞。オリジナリティーが無い人だね〜」
「なんですって!」
「まあまあ、お2人とも。で、確かに今多数決を取るとちょっと不公平なので明日、人数を増やして採択しては如何でしょうか?」
紫苑が睨みあう2人を抑えて言葉を続ける。
「人数を増やす?」
「はい。各クラスの級長3名、体育委員3名、そして瑞穂さん。計7名で」
ちなみに貴子は生徒会長でありながら、Cクラスの級長でもある。
「紫苑さまは?」
まりやが訊ねる。
「私は部外者なので」
「それは瑞穂さんも同じですわ。是非、紫苑さまも入ってください」
まりやとしては、紫苑は貴重な一票なので入って貰わないと困る。
「あと人数ももっと増やしてください。そうじゃないと不公平です。
既に今現在向う陣営は4票で過半数確定なのにこちらは紫苑さまがいないと1票なんですよ」
流石にまりやは頭の回転が速い。紫苑もそれを理解して頷きながら承知する。
「わかりました。僭越ながら私も参加させていただきます。これで8人。増やす人数ですが…」
紫苑が少し考えて、
「日直当番の方にも参加していただきましょう。3クラスで3名。これで計11名、奇数になってちょうど良いかと」
如何ですかとまりやに問うと、バッチリだとまりやが大きく頷きながら親指を立てる。
さくさくと紫苑とまりやの間で決まっていく展開を、ぼおっと見ていた他のメンバーが我に返ったときには既に凡そ決定していた。
貴子が爪を噛む。
「失態。あっという間にこちらの有利さが無くなってしまいましたわ」
これは最初から紫苑とまりやがつるんでいたのではないかと疑うくらいの手際の良さである。
勿論、そんなことは無く実際には即興で決めてしまったのだが。
まりやも紫苑もこんな策謀的な展開では本当に頭が良く切れる。
「仕方ありませんわね。ではそう云うことで。まりやさんもこれなら異存が無いようですし」
そう云って貴子はまりやを睨む。
かなり良い感じの風向きになって、まりやは心の中で紫苑に大感謝。
「明日の放課後、今云ったメンバーを集めてもう一度採択をしましょう。良いですわね、まりやさん。
これで決定したら四の五の云わずに従うんですよ」
「あ、ちょっと待って。明日は都合が悪いなあ〜。明後日の放課後にしてくれません?」
「何故?出来るだけ早く先生に予定を報告しないといけませんのよ」
「ちょっと野暮用があって。ほんと御免。そうじゃないと、あたしこの多数決にも反対するよ」
「!!まりやさん、貴女という人は何処まで我が儘なんですか!!」
「まあまあ、仕方がありませんわ。ここは最後の妥協ということで。ね、貴子さん」
「紫苑さま」
紫苑がにっこり微笑みながら貴子を宥める。
先ほどからまりやの云うとおりに事が運んでいることに嫌な予感がしつつも、紫苑にそう云われて渋々頷く。
「ハイハイ。では本日はこれにて終了。続きは明後日ということで!解散解散!!」
まりやがにゃはは〜と笑いながら席を立つ。
皆もそれぞれに席を立ち、帰り支度を始めた。
まりやは「それでは御機嫌よう」と軽く手を振りながら教室を出て行った。
貴子がカバンを持って瑞穂のところへ寄ってきた。
「お姉さま。大丈夫でしょうか?」
「まりやのことですか?」
「ええ。何だか嫌な予感がするのですが」
「でも多数決なんですから。イカサマのしようもないと思うんですけど」
「そうでしょうか」
「大丈夫ですよ。ね、紫苑さん」
そう聞かれて、紫苑は笑みを浮かべながら正反対のことを云い始めた。
「流石はまりやさんですわね」
「へっ!?」
「あのままなら五分五分と読んで、最後に一押しして行きました……と思います」
「何のことです?最後の一押し…明後日にしたことですか?」
「はい。明日の採択では時間が足りない。明後日なら一日猶予が出来る」
「紫苑さま、それってまりやさんが何か裏工作をすると!?」
「まりやさんはこういうことについてはまさに水を得た魚のようになる人ですから」
そう云われて瑞穂も自分の迂闊さに気がついた。
そう、まりやならやる。きっとやる。
この状況、サバンナにおける猫科の大形肉食獣のような縦横無尽の活躍をするだろう。
「ではないかと思ったのですが。ま、私が今、そう思っただけなので気にしないでください」
うふふふと紫苑が笑う。
嘘だ!と瑞穂も貴子も感じた。
紫苑はきっとまりやがそう云った時点で気がついた。
だけど面白そうなので敢えて知らん振りしてまりやを押したに違いない。
憮然として、紫苑を見る瑞穂と貴子。
「はい?」
やさしい笑顔を浮かべながら小首をかしげる紫苑。
「・・・紫苑さんも・・・・・・やっぱり肉食なんですね・・・」
サバンナではインパラに活躍する場は殆どありはしない。
その晩、寮にて。
まりやが由佳里に手伝わせて、台所にて何やら料理を作っている。
「油!油!」
「はいっ!」
ガスコンロの前で指示を出すまりやに、由佳里が油を差し出す。
「卵!卵!」
「はいっ!」
「ブイヨン!ブイヨン!」
「はいっ!」
調理しているのはまりやで、由佳里は補助をしているだけである。
瑞穂はリビングから不審気にそれを眺めていた。
「味の素!」
「はいっ!」
「こんにゃくゼリー!」
「はいっ!」
「ポン酢!」
「はいっ!」
グツグツと鍋が煮えている。
まりやは鍋の中身を汁碗に掬う。
「味見!味見!」
「はいっ!」
由佳里は汁碗を受け取ると、おもむろに飲み干した。
――ブゥゥッ!!!
飲んだ汁が鼻から噴出し、のた打ち回る由佳里。
その様子を落ち着いた様子で眺めているまりや。
懐からメモ帳を取り出すと、『こんにゃくゼリーにポン酢はヤバイ』と書き込む。
「ふむ。やっぱり失敗か。じゃ、後は宜しく頼むわよ」
そう云って、作った料理をおきっぱなしにしてひとり台所から出てくる。
「ね、まりや。一体何をやってたの?」
「ん、来週のティータイムショーで出す軽食の試作を」
「えっ!?やっぱりする気マンマンなのっ!?」
「モチ!先ずは新触感のカップスープを出してお客様の心をばっちり掴もうかと」
「…お笑い芸人みたいなことを云ってるね」
「こんにゃくゼリーとナタデココを入れてみた」
「…新しいにも程がある」
「やっぱり初回に大成功を収めないと次回以降、客入りが悪くなるし」
「ロングラン予定なの!?」
来週のティータイムショーはまりやの頭の中では決定事項になっていた。
もう瑞穂が何を云っても無駄だろう。
「でもさ、まりや。それも多数決でまりやの意見が通ればの話じゃない」
「通るわよ」
「何故そう云い切れるの?」
「勝つって決まっているからよ」
やっぱり、まりやは明日、1日の猶予で裏工作をするらしい。
(まあ判っていたけどね。まりやが裏工作をしないわけが無いって)
それに対抗する手段が自分にはあるかと考えて、気が重くなる瑞穂だった。
次の日の学院。
まりやは活発に動き回った。
休み時間の度にAクラスCクラスの教室に出かけ、級長や体育委員そして明日の日直当番に得票工作を行っている。
そしてその様子を貴子が苦々しい表情で見ている。
昼休み。
Aクラスの教室で圭と美智子が2人でお弁当を食べていた。
そこにまりやがやって来た。
「はあい、圭。美智子さん、ごきげんよう」
「あら、まりやさん。ごきげんよう」
美智子が挨拶を返した。
圭はサンドイッチをほおばったまま、何か用かと視線だけをまりやに向ける。
「明日の日直当番ですけど、圭が当番ですってね」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
恵泉の情報管理者とごく一部で噂される美智子は、それだけで直ぐに分かったようである。
「ええ。そういうことなんです。どうでしょう、あたしの方に賛成してもらえるかしら?」
「さあ、どうでしょうか。圭さん、どうします?」
美智子がひたすらにサンドイッチを食べ続けている圭に訊ねてみる。
「モグモグモグ…ほひゅう…」
「えっ?」
まりやが聞き返す。
「保留と云ってますね」
「…保留」
「モグモグ…そにょばにひゃってきへるつほひ…モグモグ…」
「ちょっと、何云ってるのか分からないわよ。飲み込んでから喋ってくれる?」
「えっと圭さんは、今は決めていないから明日、その場になってから決めると云ってます」
「その場になってから…」
圭がコクコクと頷く。
圭は騒動を見学するのが趣味の変人。(本人いわく、悲喜こもごもの人間ドラマ)
だからきっと明日、どちらに入れたらより騒動が大きくなるのかを見極めてから決めるのだろう。
まりやは、ここで一押ししておく必要があると感じた。
「圭も美智子さんも、たまにはのんびりとした自習時間があっても良いと思いません?
何も教師がいない時までバカ正直に授業をする必要はないと思うんですけど」
「そうですねえ。確かに私も圭さんも運動が取り立てて得意というわけではありませんし。
ただ、授業は真面目にすべきだとは思うんですけどね」
美智子は真面目な生徒らしく、至極平凡な返答を返す。
圭は何も云わない。
既に傍観者に徹して楽しもうという腹ね。それじゃ困るのよ。アンタも貴重な一票なんだから入ってきてもらわないと!
そう考えるまりや。
直球を投げてみる。
「そう云えばウチに劇団スノウの招待券が余ってるんだけど、圭は欲しくない?」
圭の目が瞬時に熱意を帯びる。急いで口の中に残っているサンドイッチを飲み込む。
「…モグモグ…ゴクッ…OK、乗ったわ」
グッと親指を立てる圭。
「サンキュー。物分りが良くって助かるわ」
まりやも親指を立てて返事をする。
「招待券は明日の放課後に渡すわね」
「まりやさん。あまりにも露骨過ぎます。ちょっとは捻ってください。それに圭さん。少しは躊躇いとかは無いんですか?」
美智子が少し皮肉を云うが、2人の耳には馬耳東風。
こうしてまりやは圭の貴重な一票を買い上げることに成功した。
その頃、学食では…。
瑞穂と紫苑が食後のお茶を飲んでいた。
瑞穂の顔色は曇っている。
それも当然。予想通り、まりやが今朝から活発に活動をしているからだ。
まりやをとめることも出来ず、かといって対抗する術もなく。
あの訳の判らないティータイムに強制的に参加させられるのが決定付けられて、もうまりやに流されっぱなし。
「やっぱり始めましたわね」
食堂に現れた貴子が瑞穂、紫苑のところへ寄ってくる。
「昨日、寮でも云ってましたから」
そう云って瑞穂は、はあ〜っと悩ましげなため息を吐く。
それを紫苑が微笑みながら見ている。
「寮で?」
貴子が聞き返す。
「ええ。ショーで出す軽食だとか云って新メニューを考案していました」
「やっぱりあの人!最初ッからそのつもりで!」
ちなみに昨晩つくった凶悪スープ、捨てずに鍋に置いたままにしてあったのを今朝、
寮母さんがやってきて知らずに味見をしたらしい。
ブゥゥッという何かを噴出させるような音を立ててぶっ倒れた寮母さんを、
由佳里と奏が見つけて介抱するという一騒動が今朝あった。
その後、まりやは寮母さんにこっぴどく叱られてスープ作りは諦めたのだが。
「殆どの人がまりやに抱きこまれたようですよ」
「…何という事でしょう!授業を遊び時間に変えようとする算段に簡単に乗るなんて。恵泉の最上級生ともあろうものが…」
「何だかワイロくさいモノをばら撒いているようですし」
「それこそ言語道断ですわ!明らかに不正です。選挙違反ですわ!」
厳密には不正も何も、ただの多数決であって選挙ですらないのだが。
「紫苑さんもまりやに入れるんですよね?」
「ええ。申し訳ありませんが約束してしまいましたし、こんなモノも頂いてしまいました」
そう云って紫苑がピラッと一枚の写真を取り出した。
「あああっ!それはっ!」
瑞穂のあられもない寝姿写真だった。際どいアングルのベストショット。
瑞穂が反射的に写真を掴もうとするのをかわして、紫苑はそれを胸元にしまいこんだ。
「ダメですよ。これは私のプラチナコレクションなんですから」
貴子が物凄く羨ましそうな目でそれを見ていた。
「ところで貴子さん」
「…は、ハイっ!?」
紫苑に話しかけられて我に返る貴子。
「貴子さんは何の手も打たないのですか?」
「まりやさんのように得票活動をしないのかとおっしゃってるのですか?」
「ええ」
「とんでもありません。私はあのようなさもしい行動は一切しません。授業は遊びとは違うのです。
私の云っていることのほうが正しいのですから」
「しかしこのままでは負けますよ?まりやさんの提案どおりになりますよ?」
「それは…でも、それでもいたしません」
貴子はまりやと同じように行動することに屈辱感をかんじるのだろう。
自分の方が正しいと思っているだけに、なおさら皆を説得しなければ負けてしまう状況に憤慨しているのだろう。
紫苑は考える。
こういう状況ではまりやに勝てる人は殆どいない。
貴子では到底、まりやに勝てない。
瑞穂は根回しの必要を理解している。
しかし、それを実行する行動力が足りない。
生徒ひとりひとりに話しかけて票をお願いして回るほどの厚かましさが瑞穂には無い。
瑞穂も到底、まりやには勝てない。
これは来週、瑞穂のトークショーは決定したも同然か。
「紫苑さん…」
瑞穂が細い声で話す。
「はい?」
「紫苑さん、何故そんなに嬉しそうな顔なんですか?」
先ほどから紫苑の頬はゆるみっぱなし。何故か携帯もいじくっている。
「コレクションの追加を」
「はあ?」
愁いを帯びた瑞穂の表情を堪能した。悩ましげなため息も聞いた。録音もした。
収穫は充分である。
だから、ここからは瑞穂を助けることにする。
「まりやさんをギャフンと云わせたいですか?」
「えっ紫苑さん、味方してくれるんですか?」
瑞穂が驚いた表情で紫苑を見る。
「心外ですわ。私はいつでも瑞穂さんの味方ですわ」
「そ、そうですか」
「ええ」
貴子も期待を込めた目で紫苑を見つめている。
「では紫苑さまは私に入れてくださるんですね」
「残念ながらそれは出来ないんです。まりやさんと約束してしまいましたから」
まりやに貰った写真はもう、返すことが出来ないくらい紫苑は気に入っていた。
「……」
まりやは朝から動いている。今から動いても半日遅れ。時間もあまり猶予が無い。
「やっぱりどうしようも無いんですね…」
この状況から、あの御門まりやに逆転できる人は殆どいない。でも皆無ではない。
「そうでもないんです。方法はあるんですが」
「「あるんですか!?」」
瑞穂と貴子が声を揃え勢い込んで訊ねる。
「はい。取って置きの方法が」
紫苑がその方法を伝えると、貴子が少し考えた後、表情を軽く歪めた。
「紫苑さま、失礼ながらそれはまりやさんと同じ事をなさろうとしているのではありませんか?
そういう事でしたら私は賛成しかねます」
「貴子さん、別に無理にとは云いませんが。それに私は有権者を買収するつもりはありませんよ」
「ですが…」
考え込んでいた瑞穂が紫苑に頼む。
「お願いします、紫苑さん。今更、私に出来ることがある訳ではありませんし。それに、まりやにも少しお灸をすえないと」
「お姉さまがそうおっしゃるのでしたら私にも異存はありませんわ」
貴子も同意する。
「それで瑞穂さん、私への報酬ですが…」
「え、報酬?」
「勿論です。ご褒美が有るのと無いのとでは私も気合の入り方が違うというものです」
「わ、わかりました」
ストレートな物言いに瑞穂も頷くしかない。
瑞穂の了承に紫苑はニッコリ微笑んだ。
「良いご判断ですわ。ここぞというときに必要な費用をケチってはいけません。そんな状況では最大投資、これが必勝法です」
「「・・・・・・」」
目を丸くして紫苑の言葉を聞いているふたり。
「そうですね、では瑞穂さん、奏ちゃんを入れて3人でハイキングというのは如何でしょうか?」
「奏ちゃんを連れて!?」
「はい。私への最大のご褒美です」
「…わかりました。それで結構です。宜しくお願いいたします」
瑞穂が紫苑に頭をさげた。
当日の朝。
紫苑はいつも登校時間が早い。クラスで一番乗りのときもある。
今日も一番乗り。
同じように登校が早いクラスメートがいる。圭と美智子である。
紫苑が教室に入ってほどなく、この2人が二番手として登校してきた。
「お早うございます。圭さん、美智子さん」
「お早うございます」
「お早うございます、紫苑さま。今朝はずいぶんとお早いですね」
「美智子さんにお話がありましたから」
「私にですか?」
紫苑が二枚の紙切れを取り出し、美智子の机の上に置いた。
「東京ネズミーランドの年間フリーパス2枚ですの。美智子さんに差し上げようと思って」
「まあ、いただけるんですの!有難うございます。でも、何故ですの?」
目を輝かせて喜ぶ美智子。
「理由は特に有りませんわ。たまたま頂き物が余っていたもので、きっと美智子さんなら喜んでいただけると思ったものですから」
「そうですか。勿論、喜んで頂戴いたしますわ」
美智子はフリーパスを受け取ると、圭に見せて大はしゃぎしている。
圭はいつものようにクールな表情で、良かったわねと返答していた。
「もう!圭さんはクールですね。ほら圭さんの分も有るんですから、もっと喜んでください」
「そう、じゃあ。う〜めら〜、ぬ〜めら〜…」
「…何ですか、それ?」
「紫苑さまの守護神ウーメラヌーメラを讃えることで喜びを表現してみた」
「…もう結構です。ところで紫苑さま」
美智子が紫苑の方を向く。
「お礼は何を差し上げれば宜しいのでしょうか」
「礼などはいりません。これは私が好意でしたことですから。お友達からお礼を頂くなんてとんでもありませんわ」
昨日、瑞穂にご褒美を要求した人物とは思えない台詞。
「でもそれでは私の気が済みませんわ。何でも良いので仰って頂けませんか」
「そうですか。では一つだけ。瑞穂さんが来週の体育の自習は貴子さんの案が良いと仰ってますの」
「ああ、それですか。でも私は議決権がありませんし。あるのは圭さんなんですけど…」
そう云って、美智子が圭を見つめる。
「まりやさんともう約束してしまっているんですよね。圭さん、貴子さんに変更することは出来ませんか?」
圭は軽く首を振る。
「無理」
圭は劇団スノウの招待券に執着していた。この劇団の鑑賞券はいつも抽選になるくらい人気がある。
「…だそうです。申し訳ありませんが」
本当に残念そうな美智子。
これではフリーパスを受け取るわけにはいかないと考えているのだろう。
「良いのです。コレは関係無しに美智子さんに差し上げたものですから」
「でも…」
「美智子さんが貴子さんを応援してあげてくれませんか?」
「私が?」
「はい」
それから暫くふたりは無言。
やがてふたりは視線を合わして軽く微笑みあった。
「分かりました、紫苑さま。微力ながら会長を応援させて頂きます。
ただ半日しか時間がありませんのでどれだけ出来るかわかりませんが」
「それで結構ですので宜しくお願いします。…あ、忘れておりましたわ」
自分の席に戻りかけた紫苑が、そう云って思い出したように更に一枚の券を差し出した。
「これも余ってましたの。いっしょに差し上げます」
差し出したのは東京ネズミーランド内のホテルのツイン宿泊券。1泊食事付。
美智子は顔を紅潮させて受け取った。
「紫苑さま、どうかお任せください」
「はい」
高出力のやる気が感じられる。
そのやり取りを圭が呆れて見ていた。
「美智子、昨日たしか露骨だとか躊躇いは無いのかとか云ってたわね」
「あら、そうでしたっけ?」
放課後、Aクラスの教室にて来週の体育自習内容についての多数決が行われた。
結果、9対3にて貴子案に決定した。
「・・・なんでよぉっ〜!」
根回しは済んで勝利を確信していたまりやは信じられない思い。
まりやに賛成したのは、紫苑と圭のふたりだけ。
「おっほっほ。やはり天は正しいものの味方でしたわね、まりやさん」
貴子の味方をしたのは天ではなかったのだが。
まりやは近くにいた級長たちに何故向うに賛成したのか詰め寄った。
しかしほとんどの人が気まずげに言葉を濁してしまう。
ひとりだけぼそりと話してくれた人は、
「…お姉さまが怒っていらっしゃるとお聞きしました」
「へ!?」
「それにまりやさんに賛成したら絶交されてしまうとも…」
どうやらまりやの知らない所でそんな噂が広まったらしい。しかもまりや以外の議決権を持った人の間にだけ。
「誰よ!そんな噂をながしたのはっ!」
床にこぶしを叩きつけて悔しがるも今更どうしようもない。
悔しがるまりやの前に、紫苑と圭がやってきた。
「残念でしたね、まりやさん。私も楽しみにしていたのですが」
「紫苑さま」
「こんな時に云うのも気が引けるのですが、約束ですし…」
そう云いながら右手を差し出す紫苑。
「負けはしましたが私はまりやさんに賛成しました。約束どおり、瑞穂さんの写真、後払いの分をくださいな」
「・・・げっ!?」
「…招待券も」
圭も紫苑に並んで右手を差し出した。
「・・・うわあぁぁぁん!!!」
訳の分からない内に大敗したまりやはただ、滂沱の涙を流すしかなかった。
〜えぴろーぐ〜
「あたしはこんなの絶対に認めない!」
吼えるまりやだが、今更できることなどあるように思えない。
大人しく体育の授業をすれば良いのだが、それをしないのがまりやのまりやたる所。
次の週、体育自習時間の前日。
夜、寮には沢山のテルテル坊主が逆さ吊りになった状態で並んだ。
寮の玄関からリビング、階段まで30個ほど。
「まりや、ナニ?これ」
「ん、降れ降れ坊主よ」
「……」」
「このまま終わってたまるかってーの。あたしの実力をみせてやる!」
「…誰に見せるの?」
恐るべきはまりやの強運。
翌日はこの季節には珍しい局地的集中豪雨。しかも風が強い。
「・・・・・・」
「ぬははは〜〜」
呆然とする瑞穂の後ろで、小躍りするまりや。
当然、グラウンドでの体育は中止。
しかも体育館は夜に大風で飛んできた板に、屋根の一部を傷つけられて使用不可。
結局、3クラス揃って食堂に集まってルールブックを勉強することになった。
「なんで…なんでこうなるのぉ〜」
嬉しげに手作りチケットを配っているまりやを見ながら、深く落胆する瑞穂だった。
結局、インパラはライオンや虎には勝てないというお話。
Fin
お粗末さまでした。
2ヶ月以上かかりました。
ちょっと長すぎたかも。時間も量も。
題名は最初、『肉食の3名』とでもしようと思っていましたがあんまりなんでやめました。
>>357 L鍋さんGJです、楽しませてもらいました
おう、失敗!
多数決の結果は8対3でした。
1名多かった…orz
GJ!
流石紫苑様も圭も抜け目が無いなw
GJ!です
362 :
名無しさん@初回限定:2008/12/15(月) 15:34:10 ID:VaF3wmWJO
ランク付け通りの高評価。越えられない壁
おもしろかった
笑いがとまらんかった!
また投下してください
L鍋さんGJなのですよ〜
>>359 11名で合ってるのでは
11人いる!
>>364 なんと本文中では9対3になっている不思議。
座敷わらしor遊星からの物体Xが紛れているのか…orz
>>357 遅くなりましたが、GJです。
ところで、メールは届いていますか?
(できれば、いるかいないかだけお答えください)
私的メール雑談をさせて頂きますがご容赦ください
↓ココから―――
届いてます。
昨晩、返信したのですがそちらには届いてませんか?
届いて無ければ、来てないぞ!ゴラァー!のメールをください。
届くまで何度でもメールください。
再送信します。届くまで何度でも再送信します。
―――ココまで↑
失礼しました。
もうこんなことはしませんのでお許しください。
あいかわらずバカ話を書かせたら最高水準だなあ。L鍋氏は。
同人誌で読みたいね。
子供の頃にやった遊びをみんながやったらどうなるか? を書いてみました。
この手の遊びは地方によって内容が多少違うかもしれませんが、私の知っている内容で行きます。
それでは、よろしくお願いします。
「紫苑さん、なんだか上機嫌ですね。どうしたんですか?」
ある日の教室、瑞穂は紫苑のうっとりと恍惚の表情を浮かべる様子が気になって、何があったのか聞いてみた。
「先日ボランティアで幼等部に行って一緒に遊んでおりましたの。みんな奏ちゃんみたいに可愛い娘ばかりで、
とても楽しかったですわ」
紫苑は顔を余計蕩けさせて答える。
「かっ……!」
「か?」
「か……えっと……」
紫苑に向かって“可愛い”とはとても言えない瑞穂。
「………?」
「あ、そうそう。完全にはまってしまったようですね。紫苑さん」
「ええ。みなさんとても可愛くていらっしゃいますから、浮気してしまいそうで困りますわ」
ここまで不自然な流れにも気づかずに紫苑は答える。
「紫苑さん……なんですか浮気って……?」
〜こどものおゆうぎ〜
あの後話にまりやが紛れ込んできて、みんなで一緒に子供の頃の遊びをやってみようという話になった。
そして放課後部活も終了した後で、いつものメンバー(=瑞穂、まりや、紫苑、貴子、奏、由佳里)が集まる。
「それで、どんな遊びをやってらしたんですか?」
「えっと、泡たった煮え立ったで始まる遊びですわ」
「……なんですかそれは?」
その遊びを知らない貴子が首をかしげた。
「えっと、確か鬼をみんなで手をつないで囲んで、周辺を回るんです。その時周りのみんなが
『あーぶくたった、煮え立った。煮えたかどうだか食べてみようムシャムシャムシャ』って言って、
その時食べるマネをするんです」
瑞穂が子供の頃を思い出しながら答える。
「でもって、最初は『まだ煮えない』って言って繰り返し。2回目は『もう煮えた。戸棚の中に閉まっておこう。
鍵をかけてガチャガチャガチャ』で鍵をかけるマネ。『お布団敷いて寝―ましょう』で床に寝そべるのよ」
まりやが瑞穂に変わって解説を続けた。
「ちょっと、いったい何を煮ていたのですか!? それになぜ戸棚の中に閉まって鍵までかけるんですか!?
しかもなぜそのまま寝るのですか!?」
「いや、それ聞かれても困るし……っていうか、考えたら負けよ。ま、ともかくそういう遊び」
「それから鬼役が『トントントン』って言ってそれ以外が『なんの音?』と返すんです。
そして鬼役が『お化けの音』って言ったらみんなが逃げて鬼役がタッチした人が次の鬼。
それ以外ならほかの人は『ああよかった』と言って寝て『トントントン』に戻るんです」
「貴子さん、わかりましたか?」
「ええ……だいたいは」
「それじゃあ、実際にやってみましょう」
……というわけで、早速遊び開始。
「最初の鬼役は誰にしますか?」
「貴子に決まってるじゃない。冷血絶対零度の鬼女なんだから」
「誰が冷血絶対零度ですか!? そういうあなたこそ鬼役にふさわしいでしょう!!」
「た、確かにある意味……」
「ほお、聞き捨てならないわね、今のセリフは」
まりやが由佳里に歩みよって頭を拳骨でぐりぐり。
「あたたたたた!!」
「まあまあ3人とも、私が鬼役をやりますから、矛を収めてくださいませんか?」
「紫苑さま……」
「なんですか? 何か不満がありまして?」
「いえ……紫苑さまがいいならそれでいいですけど」
そういうわけで、最初の鬼役は紫苑に決定した。そして寝るところまで遊びは進んだ。
「トントントン」
「何の音?」
「まりやさんが、瑞穂さんのファッションショーの衣装を持参した音ですわ」
「ああ、よかった」
みんなはそう言って再び床に寝転がった。
「わーっ!」
約1名を除いて。
「瑞穂さん、よほどトラウマになっていらっしゃるようですわね」
「なんか不愉快ねえ」
「お姉さまはお美しいんですから、恥じることはないと思いますけど……」
みんな逃げる瑞穂を見ながらそう話していた。しばらくして瑞穂が帰ってくる。
「はい、フライングで瑞穂さんの負け。次は瑞穂さんが鬼ですわ」
「そんなのアリですか?」
「アリに決まってるじゃない」
瑞穂の鬼役。以後、「あーぶくたった、煮え立った」から「お布団しいて寝ーましょ」までは省略します。
「トントントン」
「何の音?」
「えっと……寮のお化けの音」
「きゃーっ!!」
無論、寮のお化けとは一子のことである。それを知らない紫苑と貴子は逃げ出したが、
一子のキャラをよく知っている寮のメンバーは脱力して逃げ遅れてしまった。
「はい、タッチ。ごめんね、由佳里ちゃん」
一番逃げ遅れた由佳里をタッチ。
「ううう……なんかいやな予感はしてました……」
「ごめんなさい、でも……」
ごしょごしょごしょ……。
瑞穂が自分のアイデアを由佳里に話す。
「あ! それいいです!」
「トントントン」
「何の音?」
「世界中のハンバーグメニューが聖央の学食に出来た音」
「ああよかった」
「えへへへへ……」
みんなから「ああよかった」を聞いて、由佳里は顔をだらしなくして笑っている。
瑞穂のアイデアである自分のなってほしい“願い”を言って、それをみんなが「よかった」と言ってるのが嬉しいようだ。
「トントントン」
「何の音?」
「ナリくんがトップアイドルの座を手に入れた音♪」
「ああよかった」
「えへへへへへ……」
「こらこら由佳里、ちゃっかり自分の願い事ばかり言ってんじゃないの」
そう言うまりやだが、苦笑しながらそんな由佳里を愛しむように見ている。
「えーっ? まりやお姉さま、別にいいじゃないですか。遊びなんですから」
そう返した由佳里は何か思いついたらしく、上機嫌のまま瑞穂に向き直った。
「そういえばお姉さま、声が小さかったですよ? お姉さまだけもっと大きな声で言ってくださいね?」
「そんなに声小さかったかしら? まあいいわ。じゃあどうぞ?」
「トントントン」
「何の音?」
「世界中のお、ハンバーグメニューがあ、聖央の学食に出来た音っ♪」
「ああよかった」
「えへへへへ……トントントン」
「何の音?」
「ナリくんがあ、トップアイドルのお、座を、手に入れた音っ♪」
「ああよかった」
「えへ……えへへ……えへへへへへへ……」
照れ笑いを浮かべながら両手の指同士をつんつんする由佳里。
「見え見えよねえ、由佳里の魂胆」
「鬼役の醍醐味、ですわね」
そして、次のお化けの音で逃げた後、由佳里は……。
「つーかまえたっ♪」
タッチではなく、瑞穂を背中から抱きしめた。
「えへへへ。さっきの仕返しです。次はお姉さまが鬼ですから」
「嬉しそうね、由佳里ちゃん。仕返しならタッチでいいじゃない」
「えっと、それは……」
「仕返しってのは口実で、ホントは私に抱きつきたかっただけだったりして……」
「そそそ、そんなことないですよ!」
「さっきのも私だけに“ああよかった”って言ってほしかったんじゃないの? 甘えん坊の由佳里ちゃん」
「あわわわ、と、とにかく次はお姉さまですからっ!!」
顔を真っ赤にして逃げる由佳里を、瑞穂は苦笑しながら見送るのだった。
そして、何回かして奏の鬼役が回ってきた時……。
「トントントンなのですよ」
さすが奏。こういうときにも口癖をつけるのは欠かさない。
「何の音?」
「世界中の名産地のいちごが送られてきた音なのですよ♪」
「ああよかった」
「トントントンなのですよ」
「何の音?」
「紫苑お姉さまに抱きしめていただいた音なのですよ♪」
「ああよかった」
「まあ、奏ちゃん! 嬉しいことをおっしゃってくださいますわね。それでしたら、いくらでも抱きしめてさしあげましてよ?」
紫苑は奏に歩み寄り、ぎゅーっと抱きしめる。
「はややっ!」
「紫苑さん、気持ちはわかりますけど、あまり暴走しないでくださいね」
そして、また何回かしてまりやの鬼役が回ってきた時……。
「トントントン」
「何の音?」
「大地震が起こった音」
「………」
沈黙する一同。さすがにこれで「ああよかった」とは言えない。
「ちょっと、なんなのよその沈黙は!」
「……まりや、もうちょっと違うのにしてくれないかな?」
「わかったわよ。はいトントントン」
「何の音?」
「強盗が家に侵入してきた音」
「あ……ああよかっ……た……」
顔を引きつらせてなんとかそう言うものの、さすがに抵抗がある。
「まりや、そうじゃなくて、普通のことにしてくれない?」
「ありふれた回答にするのは、私のプライドが許しませんわ」
「何がプライドですか! ただのへそ曲がりでしょう!」
「いいじゃないの。遊びなんだから笑えなきゃ損でしょ? あんたそれでも芸人?」
「いつから私が芸人になったのですか!?」
「ちょっとみんな、落ち着いて……」
まりやと貴子の会話にすかさず危険を感じて、周りのみんなが仲裁に入った。
「トントントン」
「何の音?」
まだまりやの番。これで3回目である。
「由佳里が1人でしてる音」
「ああよかった」
由佳里は真っ赤になって硬直している。他のみんなは再び寝そべっているが。
「あの、まりやさん、由佳里ちゃんは1人で何をしてらっしゃったのですか?」
「紫苑さま、そうですよ。ナニをしてたんですよ」
首をかしげて聞く紫苑に、まりやはニヤニヤしながら答えた。他のみんなも意味不明な会話に、いっそう首をかしげた。
「まりやお姉さま……答えになっていないのですよ」
「えーっ? ちゃんと答えになってるわよ」
「なんか微妙に話がかみ合ってない気がするけど……まあいいわ、次に行きましょう」
意味はわからないが、ろくでもないことを言っていることだけは理解した瑞穂が、次に進める空気に持っていった。
「トントントン」
「何の音?」
「貴子が犬のフンを踏んづけた音」
「あ……ああ……よ……よか……」
いくら決まりでも、他人の不幸を「ああよかった」とすんなり言える人間はいない。
「まりやさん、あなたなんてことを……!!」
「いいじゃん。ただの遊びなんだから。遊びで怒るなんて、それこそ器の小さい人間だけよ」
勝ち誇ったように言うまりや。
「くっ……」
まりやによって反論を封じられ一方的になぶられる状態の貴子は、そう歯ぎしりするしかなかった。
「トントントン」
「何の音?」
「お化けの音ーっ!!」
まりやは思いっきり不気味な顔を作って言う。
「………!!」
その顔とセリフに、由佳里と貴子は金縛りに遭ってしまった。
「はい、タッチ、次は貴子が鬼ね」
「トントントン」
「何の音?」
「紫苑さまと兄の婚約が破棄された音ですわ」
「ああよかった」
みんなでそう言う。無理に決めさせられた婚約なのか、とみんな思った。紫苑は紫苑で、貴子を嬉しそうに見ている。
「トントントン」
「何の音?」
「まりやさんのいたずらがバレて、先生方にこっぴどくしかられている音ですわ」
「ああよかった」
「ちょっと貴子、なんなのよその回答は?」
「あら、“これはただの遊び。遊びで怒るのは器の小さい人間だけ”。まりやさんのセリフですわよ?」
今度は貴子が勝ち誇ってまりやを見る。
「うっ……っていうか、瑞穂ちゃんも由佳里も、なんであたしの時だけすんなり答えるのよ!」
まともに正論でぶつかっても勝ち目がないと判断したまりやは、怒りのはけ口をすり替えた。
「そ、それは……」
2人とも普段いじり回されているだけに、リベンジできた感覚に陥ってしまったのだが、
そんなこと口が裂けても言えるはずない。
「ほお? 2人とも大切な幼なじみの、大切なお姉さまの不幸を喜ぶような人だったんだ?」
まりやがニヤニヤしながら瑞穂と由佳里に近づく。2人は逃げようとするが……。
「このこのこのお! あたしの不幸を笑った罰は重いわよ!」
タッチの差でまりやに取り押さえられ、互いの頭をぶつけさせて頭をぐりぐりされた。
「いたたたた、ま、まりや、ちょっと落ち着いて……」
「痛いですまりやお姉さま! やめてくださいよ……」
「言ってる側からお姉さまたちに八つ当たりするなんて、やはりまりやさんは……」
「八つ当たりじゃないもーん! これはあたしたち流のおふざけ。ただのスキンシップだもーん!」
それを世間一般ではいじめ、八つ当たりって言うんだ、と思うものの、口には出せない2人であった。
そして時間も残り少なくなって、最後に瑞穂が鬼役のとき……。
「トントントン」
「何の音?」
「世界中の人たちに幸せが訪れる……そんな兆しが見えてきた音」
それに対し、みんなは心を1つにして言った。
「ああよかった」
それを嬉しそうに見つめる瑞穂であった。
382 :
名無しさん@初回限定:2008/12/23(火) 15:03:12 ID:6KJKxlwn0
そしてお遊びは終了。
「いかがでしたか? 久しぶりに子供の頃の遊びをしてみて」
「懐かしくてよかったです。子供心に帰った気分でした」
「また鬼役になりたいです」
「そうよねえ。鬼役ならなんでも言えるのがいいわよねえ」
「まりやさん、あなたは相変わらず……でも、お姉さまのセリフはよかったですわね」
苦笑しながら言う貴子。
「奏も、鬼役が嬉しいのですよ」
「私も、鬼役で色々なことを言ってみたいですわ」
すっかり鬼役の味をしめてしまった6人であった。
Fin
以上です。
途中規制に引っかかってしまいましたし、最後はあせって名前とメールの表示前に投稿してしまったみたいで、
相変わらず散々です。
ま、ともあれ、お目汚し失礼いたしました。
385 :
名無しさん@初回限定:2008/12/23(火) 17:58:17 ID:MxxTocj9O
>>383 この時期、燃料投下が必要なのだとは思うが、もう少しネタを練り直せといいたい。正直つまらない。
まあ、空気も読めてないようだし無理かね?
う−ん、知らない遊びだ…
ちゅんちゅん
あさちゅん
コミケの日なら誰もいないはず。作品を投下するなら今のうち……
と言う訳で『瑞穂と薫子』の第5話を投下します。
『本気』
学院祭が終わった次の週の土曜日(11月22日)、学生寮櫻館に瑞穂と紫苑が訪れた。
「ごきげんよう奏ちゃん!」
「はややっ……むぎゅっ!」
出迎えた奏が、あっと云う間に紫苑に捕らえられた。
「全く……紫苑さんは相変わらずですね。こんにちわ薫子ちゃん」
「……ごきげんよう瑞穂さん、紫苑さん」
自分は今微妙な表情をしている……と云う事を薫子は自覚した。
瑞穂の様子はいつもと変わらない様だが……
「ぷはぁっ!……ご、ごきげんようお姉さま方」
何とか今日も生き延びた奏が、息も絶え絶えに挨拶をした。
「ふふっ、名残惜しいですが、これ以上抱き締めていると薫子ちゃんに睨まれてしまいますから。
……あらあら、もう睨まれているみたい。ごめんなさいね薫子ちゃん」
「べ、別に睨んでる訳では……」
「あははっ、今日も奏ちゃんと薫子ちゃんが仲良しで結構な事です。それでは紫苑さん、参りましょうか」
「そうですわね。薫子ちゃんも一緒にいかがですか?」
「へ?何処へ行くんですか?」
「今日は宮小路瑞穂コーチが、フェンシング部の指導をなさるのよ」
「私、奏ちゃんの手で餌にされてしまったの……」
「お、お姉さま!?」
奏はフェンシング部の協力を得る際に、『瑞穂お姉さまの指導』と云う交換条件を提示したのだった。
もちろん瑞穂の承諾を得た後に……だ。
「冗談よ。他でもない奏ちゃんのお願いですもの。こんな事で良いなら喜んで!」
瑞穂は奏を抱き締めるそぶりを見せたが、寸前で構えをキャンセルした。
「おっとっと。奏ちゃんを抱き締めたら、私まで薫子ちゃんに睨まれてしまいますものね。
……もう睨まれているみたい。ごめんなさい薫子ちゃん」
「だから睨んでないですってば!」
いつの間にやら瑞穂達のペースに巻き込まれていた。
4人が体育館に到着すると、既にフェンシング部の練習は始まっていた。
「それでは瑞穂さん、着替えに行きましょうか」
「そうですね。紫苑さん、よろしくお願いします。薫子ちゃん今日はどうする?」
「……いえ、あたしは遠慮します。今日はじっくり見学しようかと」
『じっくり見学』の意味を正確に把握した瑞穂が、一瞬だけ口元を微笑む方向に動かした。
薫子はその事に気付いただろうか?
「それでは今日1日よろしくお願いしますね」
「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」
瑞穂の挨拶の後、指導が始まった。
フェンシング部の部員数はそれ程多くない。最上級生(2名)は既に引退しており(生徒会劇には参加した)、
今では2年生4名・新入生3名の、計7名だけである。
昨年薫子と戦った一条和枝が引退してからは弱体化が明らかであり、
現状では大会で1回戦を勝てるか否か……と云うレベルだ。
その為、瑞穂の指導は部員達にとって大きなプラスになる筈だ。
薫子・奏・紫苑と云う並びでベンチに腰掛けた3人は、瑞穂達の事を真剣な眼差しで見つめている。
「薫子ちゃん、今日は何故参加されないのですか?」
奏は当然な疑問を抱いた。
「そうですね。黒騎士の正体を見極める為……でしょうか」
そう答えながら、薫子の視線は瑞穂の事を完全にロックオンしている。
一挙手一投足まで見逃す気は無い様だ。
黒騎士の正体を見極める為、と云うのは薫子の本意ではない。
何故なら薫子は、もう黒騎士の正体を暴く必要は無い、と思っているのだから……
「……薫子ちゃん。台本の内容を覚えてらっしゃいますか?」
「紫苑さん?」
「キャストの所に黒騎士:????・第一王女:????と書かれていたでしょう。
王女の『????』には『周防院奏』が入りました。それでは黒騎士は?」
「『宮小路瑞穂』……あれ?文字数が合わない」
「『十条紫苑』ならピッタリでしょう?と云う訳で、黒騎士の正体はわたくしなのです」
「わかりました。じゃあそれでいいです」
この時点で、薫子は紫苑を相手にするのをやめた。
大先輩(物理的な意味ではない)に対して失礼か?と思ったが、
紫苑の嘘(薫子はそう確信している)に付き合う必要は無い、とも思っているのだ。
尤も『????』に入る漢字が4文字なのは、間違いではなかったのだが……
どちらにせよ、今薫子の意識のほとんどは瑞穂に対して向けられている。
奏や紫苑の問い掛けに答えるのは、ほぼ無意識で行われていた。
「ふふふっ、薫子ちゃんは完全に瑞穂さんに夢中って感じですね。妬けますか?奏ちゃん……」
「瑞穂お姉さまに夢中になる……と云う心境は理解出来ますから。私も夢中な訳ですし。
それに私は、こちらの方面では薫子ちゃんのお手本にはなれませんから……」
「……そうですわね」
フェンシング部部長が瑞穂に挑む。
「お願いします!」
カンッ……カッ……シャリリ……
瑞穂が華麗な剣捌きで相手の攻撃を受け流す。薫子がその様子を必死に眼で追う。
(なるほどね……)
しばらく瑞穂の動きを見ていて気付いた事が有る。
最初は防御に徹して、相手の攻撃レベルを見極める。
次に軽く攻撃を仕掛けて、相手の防御・回避レベルを見極める。
この時点で、瑞穂は相手の総合的な強さをほぼ完璧に把握している。
その後瑞穂は、自分のレベルを相手の1段階上に設定して剣を交えるのだ。
圧倒的な力の差でねじ伏せるのでは練習にならない。
かと云って、相手と同レベルまで落とすと、相手の上達スピードが鈍くなる。
相手に「何とかなりそう」と思わせつつ実際はどうにもならない、絶妙な強さのバランスを保つ事が重要なのだ。
(このやり方で相手のレベルを短時間で飛躍的に上昇させる。あたしも……か)
ちなみに瑞穂が薫子を指導する時は、レベルを薫子の2〜4段階上に設定しているのだが、
薫子はその事には気付いていなかった。
瑞穂の個別指導は順調に進み、最後の部員(新入生)を残すのみとなった。
「よろしくお願いします!」
カンッ……カンッ……カンッ……カンッ……
(あちゃーっ、ダメだよそれじゃ。スピードが足りないし、それを補うテクニックも乏しいみたいだし)
薫子は誰にも気付かれない様に、心の中でため息をついた。
瑞穂はしばらく剣を捌き続けていたが……
「ストップ!」
指導が始まってからまだ1〜2分しか経過していないのだが、瑞穂は剣を一旦止めた。
何をするのかと思いきや……
「薫子ちゃん!ちょっと良いかしら?」
「は、はい?!あ……私ですか?」
ベンチから熱い眼差しで見学していた薫子にお呼びが掛かった。
薫子は首を傾げながら瑞穂達の所へ……
「えっと、私に何か?」
「今のを見ていて、薫子ちゃんには何か思う所が有ったみたいだから、
意見を聞かせて貰おうと思ったのだけれど……」
(へ?もしかしてあたし……瑞穂さんに試されてる?)
「そうですね……ただがむしゃらに向かって行くだけではダメって事でしょうか。
攻撃の事ばかり考えてるから姿勢が崩れちゃってるとか……」
「……と云う事みたいよ。今やっているのは試合ではなくて、あくまでも練習なのだから、
もう少し冷静になってやってみてね。出来れば試合でも冷静な方が良いのだけれど……ね」
「は、はい。薫子お姉さま、ありがとうございます!」
新入生部員が薫子に向かって頭を下げた。瑞穂と薫子に対する憧れで眼が輝いている。
「礼なら私じゃなくて瑞穂さ……まに云ってね。それじゃ私はこれで……」
(あたしが出て来る必要無いじゃない……)
「ええ、ありがとう薫子ちゃん。それじゃ続けるわよ」
「はい!」
薫子が疲れた表情で奏達の所に戻って来た。
「はぁ〜っ。瑞穂さんって結構人が悪いですねぇ」
「……そうなのですか?薫子ちゃん」
「あたしに助言を求めるフリをして、
あたしが『じっくり見学』していたかどうかを抜き打ちでチェック……って所でしょうか。
一応及第点の回答は出来たと思いますが……」
「確かに瑞穂お姉さまは、薫子ちゃんに対して厳しくなる事が有りますが、
それは多分、瑞穂お姉さまが薫子ちゃんの事を高く評価しているからなのだと思います」
奏は紫苑に同意を求める為の視線を向けた。
「そうですね。瑞穂さんは人が悪い……では無くて、
瑞穂さんは薫子ちゃんに対してだけ人が悪い……と云った方が良いのでしょう。
厳しさは愛情の裏返し。正直少し妬けますわね」
「……こんな事を云うのはただの思い上がりですが、
あたしのフェンシングの実力は、あの人達(フェンシング部員)を既に超えてるって自信が有ります。
でも瑞穂さんの視点で見たら、あたしも彼女達も、全員同じにしか見えてないと思いますよ」
「薫子ちゃん!瑞穂お姉さまはその様なモノの見方をする方では……」
「わかってますよお姉さま。
瑞穂さんは一人ひとりの個性をしっかりと見極めて、それに合わせた対応をする人だと思ってます。
今あたしが云ったのは、お姉さまがおっしゃる様な意味じゃ無いんです」
「「?」」
一通りの指導を終えた瑞穂は、部員達を集合させた。
「皆さん、私の指導はここまでです。後は皆さんが、今日教えた事を頭に置きながら復習をしてみて下さいね」
「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」
部員達が揃って頭を下げた。
「……さて、それでは瑞穂さんの着替えをお手伝いしに行きましょうか」
紫苑がウキウキ顔で、瑞穂と共に更衣室へと消えた。
「お姉さまは一緒に行かないんですか?」
世話焼き(特に瑞穂や薫子の)が大好きなのに、奏が瑞穂の着替えを手伝わないのは変だと薫子は思ったのだ。
「……瑞穂お姉さまの着替えに立ち会えるのは、紫苑お姉さまとまりやお姉さまにだけ許された特権なのです」
「???……○○先生の作品が読めるのは○ャ○○だけ!みたいなノリですか?」
軽口を叩きながら、薫子はとある決意を胸に秘めていた。
「お疲れ様でした、お姉さま!」
更衣室から戻って来た瑞穂に、奏が大きなタオルを差し出した。
「ありがとう奏ちゃん」
タオルで顔の汗を拭って(化粧が落ちない様に気を付けながら)眼を開けると、
そこには真剣な表情で瑞穂の事を睨みつける薫子の姿が……
「……どうしたの薫子ちゃん?」
「瑞穂さん、今日1日見ていてわかりました。
瑞穂さんが今まであたしに対して一度も本気を出してないって事が……」
「……」
「今のあたしじゃ瑞穂さんの相手には不足だ……って事はわかってます。でも見ていて下さい。
あたしは、何時か必ず瑞穂さんの事を本気にさせて見せますから!」
突然の宣戦布告に対し、瑞穂は驚いて眼をパチパチさせたが、その後薫子に向かって微笑んだ。
「……ええ、楽しみにしてるわ」
薫子の宣言は、後へは引かない為の物、自分を奮い立たせる為の物。
そして以前茉清に云われた、自分の足で手の届く所まで歩いて行く為の物だ。
本来なら背景に龍と虎が浮かびそうな場面なのだが、薫子は場の空気がおかしくなっている事に気付いた。
「「「「「「「きゃああああ〜〜〜〜〜っ!」」」」」」」
まだ練習(復習)を続けていた筈の部員達が、薫子に向かって歓声を上げた。
(え?何?)
「薫子さんが瑞穂お姉さまに告白なさったわ!」
「『あの』瑞穂お姉さまに告白なさるなんて……流石は騎士の君。大胆です!」
「ああ……わたくしも騎士の君に『何時か必ず本気にさせて見せます』って云われてみたいです」
「いや〜ん、騎士の君〜!」
「お美しいツーショットですわ。ああ、妬ましいけれどス・テ・キ」
「ち、違う!そう云う意味じゃなくて……」
何故か顔を真っ赤にした薫子が訂正を試みるが、部員達は明後日の方角で盛り上がってしまっていた。
「お姉さま、紫苑さん。黙ってないで何か云って下さい!」
奏と紫苑に助けを求めたが、薫子の期待は見事に裏切られた。
「奏ちゃん、先程の薫子ちゃんの言葉の意味……わかりましたわ。
つまり薫子ちゃんは、『瑞穂さん、私の事だけを見て下さい!』と云いたかったのですわ」
「なるほど!薫子ちゃん頑張って下さい。でも……ただがむしゃらに向かって行くだけではダメですよ」
「よろしいのですか奏ちゃん?瑞穂さんと薫子ちゃんがくっ付いてしまうと奏ちゃんが……」
「仮に瑞穂お姉さまと薫子ちゃんが恋人同士になったとしても、それでもおふたりは私の姉と妹ですから」
「奏ちゃん……健気ですわ。泣きたくなったら何時でもわたくしの胸に飛び込んで下さいね」
紫苑が奏を抱き締める。
「紫苑お姉さま〜……むぎゅっ!」
何やら怪しげな寸劇を始めてしまった奏と紫苑は、部員達に新たな燃料を投下する役目になってしまう。
肝心の瑞穂は、周囲の反応を肯定も否定もせずに、ただ黙って微笑むだけだった。
ガンバレ薫子!瑞穂お姉さまのハートを掴む為の戦いは、今始まったばかりだ!
「だから、ちっが〜〜〜〜〜〜う!」
『―― to be continued?』
以上で第2部完です。
PS2版恋楯に浮気したせいで遅くなってしまいました。
打ち切りっぽい終わらせ方ですが続きは書きます……多分。
とりあえずあとみっつ(第3部(6・7話)+エピローグ)で完結の予定です。
ところで、同人誌とか買った事無い私ですが、『ニクキュー4コマ』と言う物に興味を持ちました。
コミケには行けませんし、委託とかしないのかなぁ……(アキバなら30分で行ける)
それでは駄文失礼致しました。
続きを楽しみにしております。
SS作者のみなさま、
ちょっと早いですが、本年も面白い作品を多数、どうもありがとうございました。
11・12月は別件でスケジュールが埋まってしまい、ほとんどサイトの更新ができず、本当に申し訳ありませんでした。
現在は別件の方は少し落ち着いていますのが、今度は2月まで本業の方がいろいろ……orz
ただ、幸い11・12月ほどではありませんので、出来る限り早い更新を心がけてまいります。
2009年もどうぞよろしくお願いいたします。
>>398 ばんくーばーさん、
第二部、なかなかよかったですよ。
さて、「ニクキュー4コマ」の件ですが、某所チャットでなら詳しくお話しできますが、いかがいたしましょう?
>>400 takayanさん
作家の皆様には大変失礼な表現になりますが、
私は、入手困難(物理的・時間的・金銭的等)な物は無理して手に入れようとしない……と言う人間なので(執着心が薄いとも言います)、
お心遣いだけ受け取っておきます。ありがとうございます。
有馬記念でオケラになったので、しばらく大人しくしてようと思います。 rz
さあ次は東京大賞典だ。(マテ)
管理人さんへ
このスレからの一子ちゃん聖誕祭記念の発表はなしでしょうか?
(11月の戯れ言)
>>403 君さ、いつもまとめサイトへの問い合わせを書いてるよね
なんで?どうして向うで聞かないの?Web拍手ででも書けばいいじゃん
それに向うの更新が遅れてたらいつもココで嫌味っぽく書くよね?
なんで?向うにはチャットもあるんだし直に聞けばいいじゃん
時々、コテハン無しで第三者っぽくまとめサイト更新遅いとか書いてるけど
なんで?ばれて無いと思ってるの?
枯れ木も山の賑わいと言うし、君のSSがとてもつまらないのは置いといて
書き続けるのはたいしたもんだとはおもうよ
でも自分のことを棚にあげて他人のSSに批評を書いてることがあるよね?なんで?
名作選、向うは挫折しちゃってるよね。しつこく督促してたけどなんで?
自分でつくろうとか思わなかったのかな?
向うの11月の戯れ言で書いていたことをここで問い合わせるのはなんで?
向うには掲示板やコメントフォームがあるのに?
相手に逃げられないように人が集まるとこで問いただそうとしている下種なのかな?
ここは君の個人掲示板じゃないんだよ?しってるかい?
君も大人なんだから俺の言ってること解ってくれたかな?
>>404,405
KYに正論ぶつけてもムダだよ。
自分に対する批判はスルーしてるしね。
人に対する批判のリアクションはものすごく求めてるみたいだけどさ
批判も単なる悪口と思って居るんだろうし。
出禁にならんかなと思ったりもするんだよねえ。
まとめサイトに出入りされたら中の人が迷惑千万な被害を受けるんだろうなあ。
かわいそうだ。
TPOをわきまえられない下衆(げす)野郎は放っておくが吉。
ここまで言われたら普通の人なら書くの止めるけどな
いつまでもつまらん作品たれ流して恥ずかしくないのかねぇ
>>407 自分が欠けないからって僻むなよ下衆野郎w
三 三三
/;:"ゝ 三三 f;:二iュ 何故ここまで放置したんだ!
三 _ゞ::.ニ! ,..'´ ̄`ヽノン しかし患者が最近多いな
/.;: .:}^( <;:::::i:::::::.::: :}:} 三三
〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ ←
>>404-408 . 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
};;;};;;;;! ̄ll ̄ ̄|:::::::::.ヽ\-‐'"´ ̄ ̄ll
×欠けない
○書けない
日本語ちゃんと書けw
ここは「処女はお姉さまに恋してる」のSSスレです。
優雅に礼節をもって進行していきましょう。
412 :
名無しさん@初回限定:2008/12/30(火) 11:37:53 ID:krhxrGrKO
だが、断るッ! ですね、わかります
こういうスレではつまらなかったらスルーが暗黙の了解だと思ってたのは私だけですか?
名前も見たくないなら専ブラでも入れてあぼーんしましょうよ。大人なんでしょう?
皆さん、聖應女学院のモットーは慈悲と寛容ですよ。
正直ここまでくると煽ってる奴が醜いな
うちの学校は恵泉(もしくは聖央)なので、関係ないね。
それより東の扉本人が必死に反論中ですか。
空気を読むことはしろや。な。
416 :
【小吉】 :2009/01/01(木) 02:41:45 ID:UOlaZmXJ0
アンチがわくほど注目されるのはうらやましくもある
アンチさんは社真名スレにも逝って上げてください。
もはやどこまで自演なんだか
>>415 恵泉、聖央、聖應の三校ともモットーは慈悲と寛容なんですよ。
貴方も空気を読みましょう。
貴方のようなレスが増えれば、貴方の嫌いな東の扉氏はともかくとして、
氏以外の作者も作品を落としにくくなるということをご理解頂きたいところです。
誰もが見られる場所に投稿する時点で、批判されるのを甘受すべきなのは常識じゃないのか?
それともくそつまらんものに、マンセーを浴びせねばならんのか?
L鍋やばんくーばーのように面白いものには批判は出てないよな。
それ以前に東がダメなのは「何故、ほかの場所の問い合わせをここでするのだ?」
ということ。
まあ、まとめサイトの管理者がグダグダなのは今に始まったことではないとして
(何度も数週間更新なくてごめんなさいを連発しているしな)
今のご時世からするともしかすると本業でもクビになりそうな危ない瀬戸際なのかもしくはすでに派遣切りされて再就職のアルバイト先を探すのに一所懸命だったのかもしれん。
そう思えば、あのグダグダもわからんでもなかろう。まあ、そういう事態じゃないことを祈るばかりじゃな。
そしてメールの確認までここでやってしかも居丈高な書き方だったなあ。
さぞかし偉い人なんだろうあ。
>>420さんの言い方がきつい
まとめサイトの中の人までけなす必要はないんじゃない?
だけど言いたいことはよく分るよ
このスレが荒れたとき、その原因のほぼ全部が東が原因だしね
偉そうに書いていたしね
だけどまあたまにだったらSS以外の書き込みもいいんじゃないかな
他の人をムカつかせない書き方をできるんだったらだけど
それよりも
>>419さんが言ってる内容も理解して欲しい
田んぼに殺虫剤を撒きすぎて、その田んぼを全滅させたら元も子もないと思うんだ
俺はこの田んぼが好きなんだよ
ここの空気の読まない人達は、夏冬の風物詩なのですよ〜
年明けてまで引っ張る話題でもないと思うのでそろそろヤメにしましょうよ
いつまでもこんなじゃ職人さんも投下しづらいでしょうし…
だれか〜新作うpしてくれ〜
正月のテレビはおもしろくない〜
>>420 別に称賛しなきゃいいじゃん
放置しろよ。
>>419の言ってる内容くらい理解しとけ
それにお前が言ってるのは結局作品の話じゃなくて偉そうなのが気に食わないってことだろ
そんなネタの出来とは無関係の論理で叩いといて何寝ぼけてんだ。
スレチのネタはそれを理由に叩けばいいだろ?なにが面白い「以前に」だ。
面白さの前に偉そうなのが気に食わないって自白してんじゃねーか。
傍観してたけど「おまいら自重しろ」と。
批判されるのは覚悟の上でというのは間違ってないよ。
でもね、批判というのは『短所を指摘して相手に改善を求める事』なんだ。
決して『鬼の首を取ったように煽り相手を追い出す事』じゃないんだ。
顔も知らない相手に罵られて気分の良い奴は居ないさ。
駄目な点を諭して見守る優しさも慈悲と寛容ってもんじゃないのかい?
スレを見に来てるおまいらはつまりアレだろ?
おとボクが大好きですって事なんだろ?
何が言いたいかっていうと、
>>210
俺が職人ならここには投下しないな^^
傍からみてそう思えるんだから書いてる人はどう思ってるのかな
>>428 これはその……
瑞穂ちゃんの胸の膨らみから出たミルクですか?
それとも
瑞穂ちゃんのエルダースティックから出たミルクですか?
2つとも欲しいので・・・
「いいえ。紫苑さまのおぱー・・・」
432 :
Qoo:2009/01/06(火) 18:28:50 ID:oW3nv5vM0
明けましておめでとうございます。
皆さんお元気ですか。 Qooです。 (((*´∀`)シ
はぁ…光陰矢の如し、もう一月か…。 (;´Д`)=3
時期設定などは特にありませんが、
貴子さんルート突入後です。
では、どうぞ。
・魔法の言葉
昼休み、瑞穂たちは持ち主のいない机を集めて囲み、弁当をつついていた。
メンバーは瑞穂、まりや、紫苑さん、圭さん、美智子さんの五人だ。
「…でさ、瑞穂ちゃんは貴子とうまくいってるわけ?」
脈絡もなく、まりやがそんなことを言い出した。
「…何なの?突然…」
箸の動きを止め、瑞穂は思わず怪訝に眉を顰める。
「いや?特に理由はないけど。で、どうなの」
「どう…と言われても…」
「私も、少し気になりますわね」
瑞穂が答えあぐねていると、紫苑さんも興味津々に身を乗り出してきた。
「紫苑さんまで…」
「確かに、食後のデザートには持って来いですねぇ」
「そういうことよ、瑞穂たん。諦めなさい」
「瑞穂たんはやめてください…」
果てに美智子さんや圭さんにまで飛び火した話題に、瑞穂は「はぁ…」と小さくため息を吐いた。
「…皆が騒ぐようなことは何もありませんよ」
「騒ぐなって言ったって、アンタらオモシロカップルは全校生徒注目の的なのよ?」
「だっ、誰がオモシロカップルですかっ!」
まりやの言葉に思わず憤慨する瑞穂だったが、
「まぁまぁ瑞穂さん、落ち着いて?」
と紫苑さんに穏やかになだめられ、上げかけた腰を仕方なく下ろす。
「でも、注目の的なのは確かよね」
「まぁ…」
「そうね」
「そうですねぇ」
まりやの言葉に頷く面々。
「皆まで…」
「もうキスくらいはしたんでしょ?」
「……ノーコメントで」
「「「…キャー!」」」
まりやの質問にとぼける瑞穂だったが、なぜか皆から小さく喚声が巻き起こる。
「ノーコメントって言っただけじゃないですか!」
「否定しなければ肯定と受け取るのが世の中のルールなのよ」
「そんなぁ…」
口を尖らせていじけ顔の瑞穂をよそに、少女たちの妄想は止まらない。
「でも、お年頃のお二人がよもやキスだけで終わるでしょうか…」
「もしかしてその先も…?」
「「「……キャー!」」」
再び小さい喚声が巻き起こる。
「うぅ…お願いだから、許して…」
机の上に突っ伏す瑞穂。
「これ以上追い詰めるとほんとに泣いてしまいそうですわね」
「仕方ありませんねぇ…」
「泣いている瑞穂っちも見てみたいところだけど」
「圭、エスが出てる」
「ふっ…」
四人は楽しそうに笑い合うと、机に突っ伏したままの瑞穂を放置して再び箸を動かし始めた。
436 :
Qoo:2009/01/06(火) 18:36:29 ID:oW3nv5vM0
しばらくして、ご飯も粗方食べ終わる頃。
「皆そろそろ食べ終わるよね。でさ、皆で一つゲームをしない?」
とまりやが言った。
「ゲーム?」
「うん。貴子とね」
「…貴子さんと?」
趣旨が分からず皆が首を捻ると、まりやは頷きながら説明を始める。
「そ。今から貴子のところに行ってさ、話とかをするわけ。
で、貴子に一番衝撃を与えられた人の勝ちっていうゲーム」
「……衝撃…?」
「衝撃…ですか」
衝撃と聞いて一瞬皆で考え込むが、
「そ。当たり前だけど殴る衝撃じゃないからね」
とまりやが続けると、あぁ…と何となく目的に思い至った。
「つまり、驚かしたり話をしたりして貴子さんに衝撃を与えるということ?」
「そゆこと」
「驚かす話…ですか…」
「それで、一番になるとどんな特典があるのですか?」
「参加メンバーの中の一人に一つだけ、何でも言うことを聞かせることができるの」
437 :
Qoo:2009/01/06(火) 18:42:53 ID:oW3nv5vM0
「ふぅん…」
「なるほど、面白そうですわね」
「乗ったわ」
「では、私も」
瑞穂以外の三人はあっさりと快諾するものの、瑞穂は一人表情を苦めた。
まず貴子さんを使って遊ぶというのもなんだったし、
それに圭さんや美智子さんはともかく、まりやや紫苑さんが一番になってしまうと、
瑞穂が標的になることは目に見えている。
特にまりやは、どんな手を使ってでもトップを狙ってくるだろう。
その罰ゲームの内容たるや、想像するに恐ろしい。
「私も…参加しなくちゃいけないの…?」
一応聞いてみるが、答えは聞くまでもなかった。
「当ったり前よ、一番の目玉が何言ってるの。
さっきの話をここで皆に根掘り葉掘り聞かれるよりはマシでしょ」
「うぅ…」
438 :
Qoo:2009/01/06(火) 18:43:50 ID:oW3nv5vM0
こちらに何のメリットもなく、マイナスが大きい方と小さい方、どっちがいい?
と聞かれているようで、どうにも納得のいかないが、
弱みのある身では反対すると余計被害が大きくなるような気がするので従うしかない。
…というのがやはりどうにも納得がいかないけど。
「ルールとかはあるんですか?」
「ルールは特にないけど…やりすぎて貴子との人間関係が微妙になってもこっちは責任を負いかねるわよ」
「さすがにそこまでは…」
要は自己責任が取れる範囲で驚かせということらしい。
「その、与えた衝撃の大小はどうやって判断するのですか?」
「ん〜、挑戦者以外のメンバー全員で誰が一番だったかを投票してもらって、
最多得票数を獲得した人が優勝者、みたいな感じかな」
「ラジャー」
「分かりましたわ」
439 :
Qoo:2009/01/06(火) 18:45:24 ID:oW3nv5vM0
頷くメンバーを前に、まりやはもう一つルールを付け加える。
「あ、あと瑞穂ちゃん。 瑞穂ちゃんは愛の言葉とか、禁止だから」
「あっ、愛の言葉っ!?」
「『愛してるよ』とか、『好きだよ』とか、『今夜どう?』とかね」
「ひ、人前でそんなこと言いませんっ!」
「人前でなければ、言うのね」
慌てて言い返した瑞穂の言葉に、圭さんがすかさず鋭い突っ込みを入れる。
「け、圭さぁん…」
「ふっ…」
「ふひひひ。まぁ、こんなところかな。
とりあえず貴子の所在を確かめないといけないんだけど……生徒会室にいるかな」
「それなら、お任せください」
まりやが下唇に指を当てて思案し始めた矢先、そう申し出る美智子さん。
440 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:03:54 ID:oW3nv5vM0
「美智子さん?」
何やら手があるらしい美智子さんへと皆の視線が集中すると、
美智子さんはやおらポケットに手を入れ、小さなコンパクトを取り出した。
パカッとコンパクトを開いて、少し何か操作するような仕草…その直後。
「メーデーメーデー、生徒会長の現在地をご存知の方、応答ください。
繰り返します。生徒会長の現在地をご存知の方応答ください。オーバー」
何と、コンパクトに向かって話しかける美智子さん。
少々ぶっ飛んだ出来事に、圭さん以外のメンバーは目を白黒させる。
しかしその数秒後、一瞬ザザッと耳障りな雑音が入ったかと思うと、
直後にまるで目の前で話しているかのような、非常にクリアな音声がコンパクトからこぼれ出てきた。
『こちらクラス3-E、目標確認。現在クラス3-E内にて生徒会アンケートを収集中ですわ』
「そうですか。ありがとうございます」
『お安い御用ですわ』
礼を言うと、美智子さんはゆっくりとコンパクトを閉める。
「だそうですわ」
441 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:10:01 ID:oW3nv5vM0
「「「………」」」
「皆さん、どうなさったのですか?」
にっこりと笑いながら、不思議そうに首を傾げる美智子さん。
「いや…突っ込みどころ満載だったんだけど…」
「考えるだけ無駄よ。 行くわよ、会長もいつまでもその場に留まっているわけじゃないわ」
怪訝な目で美智子さんを見つめる瑞穂たちだったが、
圭さんだけはさほど驚くことではないという風に冷静に先を促した。
圭さんが先陣を切って席を立つと、美智子さんもそれに追随する。
「…そ、そうね」
「う、うん。行こうか」
「…そうですわね」
残された瑞穂たちは納得のいかない表情を浮かべながらも、
考えても仕方ないことなのだと強引に頭を切り替え、
席を元通りに直すと急いで二人の後を追いかけたのだった。
442 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:12:29 ID:oW3nv5vM0
まりやが階段前から3-Eの方向をちらりと覗くと、お、貴子見〜っけ、と小さく声を上げた。
まりやの肩越しにそーっと覗き込むと、丁度向こうから貴子さんがやってくるのが見える。
「そういえば、順番はどうするんですか?」
ふと、美智子さんが疑問を口にすると、あ、と口を開くまりや。
「…そういえば決めてなかったっけ」
貴子さんの方をちらりと覗くと、貴子さんは階段通路から二つ向こうのクラスの前で立ち止まり、扉の向こうへと話しかけていた。
恐らくは生徒会アンケート収集の続きだろう。
「貴子が止まってる、今のうちに決めよっか。 何で決める?」
「シンプルに、じゃんけんとか?」
「そうね、それでいこう。 いい? 行くよ、じゃーんけーん…」
「ほいっ」
443 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:15:48 ID:oW3nv5vM0
・ 1st turn. Attack of 十条紫苑
『さぁトップバッター、一人目の挑戦者、揺らめき舞う黒蝶、十条紫苑が行きますっ!
最初だし、とりあえずはお手並み拝見かな』
『貴子さんといえば、貴子さんが紫苑さまを見る目には、どこか畏敬の念のようなものが感じられますねぇ』
『確かに…そう感じることがありますね』
『エルダー選考会のときも、紫苑さまには押され気味だったものね』
洗練された優美な足取りで、紫苑さんが貴子さんの方へと歩いていく。
紫苑さんのスカートのポケットの中には、美智子さんのコンパクトの下半分が入っている。
あのコンパクトは上下取り外し可能で、上半分はレシーバー部、下半分はトランスミッター部になっているらしい。
なので、今まりやが手に持っているコンパクトの上半分のレシーバー部で、二人の声が聞けるようになっている。
何気にありえないことが起きている気がするけど、きっと気にしてはいけない。
444 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:18:09 ID:oW3nv5vM0
ある程度近づいた時点で、貴子さんが紫苑さんに気が付いた。
「紫苑さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
会釈しあいながら、紫苑さんが貴子さんの前で立ち止まる。
「貴子さんは、生徒会アンケートの収集ですか?」
「ええ、よくお分かりになられましたね。紫苑さまは何か御用ですか?」
「ええ、まぁ…」
答えを曖昧にしながら、貴子さんと話し始める紫苑さん。
それからしばらく貴子さんと雑談し、そして不意に「ふふふっ…」と少し意味深に笑った紫苑さんは。
「えいっ」
がばっ!
…何の脈絡もなく、突然貴子さんに抱きついた。
「なっ、ししっしししっし紫苑さまっっ!?」
思いっきりどもりながら慌てる貴子さんだったが、さすがに振り払うわけにもいかないようだ。
「ふふふ」
楽しそうに笑いながら、何の釈明もなく、ひたすらぎゅうっと貴子さんを抱きしめ続ける紫苑さん。
「あ…あ、あの…っ…!」
貴子さんは訳も分からず、ただあたふたしている。
…気の毒だけど、困っている様子がちょっと可愛い。
445 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:20:33 ID:oW3nv5vM0
……………随分時間が経った気がする。
貴子さんが抵抗しないのをいいことに、大分長い間抱き締めていた紫苑さんは、
はあぁぁ……、とひどく満ち足りたため息を吐いてようやく貴子さんを解放した。
「ありがとうございます、貴子さん。奏ちゃんに匹敵する柔らかさでしたわ。
では、ごきげんよう」
驚いた表情のまま固まっている貴子さんに、何のフォローもないまま満面の笑顔で挨拶すると、踵を返す紫苑さん。
戻ってくる紫苑さんの表情から察するに、もはやゲームの勝敗は眼中になさそうだ。
紫苑さん、ただ貴子さんに抱きつきたかっただけなんじゃ…。
『騒ぎになりそうですね…』
『あれはさすがにねぇ…』
『なるでしょうねぇ…。貴子さんはもうお手付き済みですから、色々と』
『お、お手付きって、美智子さん…』
『はっ、次号の聖應新聞が楽しみだわ』
446 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:22:41 ID:oW3nv5vM0
・ 2nd turn. Attack of 小鳥遊圭
『二人目の挑戦者は、具現せし狂気、小鳥遊圭だぁっ!圭は演劇部だから油断ならないね』
『演技力は高いでしょうね』
『結構話のバリエーションも広いですから』
『まぁ圭さんのことですから、もう少し違った角度で攻めてきそうですけれど』
『案外紫苑さんと同じ手だったりして…』
『あははっ、だったら逆に笑えるわね』
『あははは……ってあれ…何だかちょっと…』
『何か、急に寒くなってこない?』
『急に肌寒くなりましたわね…』
『ふふふ…』
447 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:24:15 ID:oW3nv5vM0
「ごきげんよう」
音もなく貴子さんに近づいた圭さんは、まだ少しパニックの後引く貴子さんに話しかけた。
「はっはい……貴女は、小鳥遊さんでしたわね。ごきげんよう」
「覚えて頂いていて光栄だわ。 …あら、少し顔色が悪いようだけど、大丈夫かしら?」
「い、いえ、何でもありません。大丈夫ですわ」
「そう、ならいいけど」
一度話を切った圭さんは、
「…ところで、貴女面白いものを背負っているのね。お友達かしら」
と首を傾げながら貴子さんに問いかけた。
「お友達? 後ろに誰か…?」
貴子さんはちらりと自分の背中を振り向いて見るが、誰も見当たらないようだ。
瑞穂たちの方からも特に何も見えない。
少々訝しげな表情で視線を戻した貴子さんに、圭さんが優しく微笑む。
「貴女には見えないのね…。大丈夫、心配要らないわ。 悪いものではないから」
「か、からかうのはやめていただけるかしら」
圭さんの雰囲気にたじろぐ貴子さん。
448 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:26:26 ID:oW3nv5vM0
「からかっているわけじゃないんだけど…そうね、こうすれば見えるかしら」
そう言って圭さんはおもむろに、貴子さんの横にあるガラス窓に手を伸ばす。
「何を………」
強張った表情で、圭さんの手の先を目で追う貴子さん。
圭さんはその窓に向けて人差し指を伸ばし、何か文字を書くようにしてゆっくりと振った。
それから数秒後、圭さんの指の先の窓をじっと見つめていた貴子さんが、
突然「ひっ…!!?」と引きつった悲鳴を上げたかと思うと、その顔が見る見るうちに蒼白になっていく。
そこに一体何を見たのか、その目は恐怖におののいている。
唇はわなわなと震えてじわじわと広がり、今にも叫びだしそう…ってこれ、マズいんじゃない…!?
しかし、貴子さんの様子を目の前で見ている圭さんは、事態を悠然と眺めていて、何か対処をする様子はない。
貴子さんの唇が大きく広がり、空気を目いっぱい吸い込む。
やばい、叫びそうだ!
449 :
Qoo:2009/01/06(火) 19:28:26 ID:oW3nv5vM0
…と思っていたら、貴子さんは叫ぶ寸前の状態で一瞬止まったかと思うと、突然表情を失い、動かなくなった。
どうやら立ったまま気を失ってしまったようだ…。
結局貴子さんは一切声を出すこともなく、事態は静かに終焉を迎えた。
…圭さんはこうなることを予測していたのだろうか?
貴子さんを気絶させた圭さんはしばらくその場に立ち尽くすと、少ししてから小さくふるふると震え出し、そして、
「くっ……!」
と一瞬だけひどく楽しそうに笑うと、何事もなかったかのように踵を返したのだった。
『おぉぉ〜〜〜〜〜!? 何が起こったのかはよく分からないが、とにかく貴子ノックダ〜〜〜ウン!』
『さすがは圭さんですわね』
『圭のヤツ…やるじゃない』
『いやいやいや、冷静に言ってる場合じゃないでしょ!』
『気絶してしまわれましたねぇ、貴子さん』
『次もこのまま進めるの…?』
『もちろん』
450 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:02:34 ID:oW3nv5vM0
・ 3rd turn. Attack of 高根美智子
『やってきました三人目の挑戦者。計謀秘めし微笑、高根美智子っ!意外に何かやってくれそうよね』
『意外どころじゃなく、明らかに大本命クラスよ』
『あの状況からどうするつもりなんでしょうね…』
『そうですねぇ…』
『ま、とんでもないことを平然とやってのけるのが美智子だから』
『まぁ…確かに…』
『ところでさ圭、さっきは貴子に何したの?』
『ちょっと見せたのよ』
『な、何を…?』
『…さて、ね』
451 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:05:17 ID:oW3nv5vM0
しずしずと、美智子さんが気絶している貴子さんに近づいていく。
貴子さんの近くまでやってきた美智子さんは、貴子さんの背中の方に回ると、その肩に触れる。
そして貴子さんの耳元に唇を近づけると、優しく囁いた。
「貴子さん…貴子さん…」
『え…っ……?』
『う、うそ、この声…!』
『な、何?』
『いや、待って…もうちょっと聞いてみよう』
「起きてください、貴子さん…」
再び、美智子さんが囁く。
『マジ…?』
『これは……』
『な、何なの?』
『…確かにこの声、瑞穂っちのものだわね』
『…はっ?』
『いやー……長年連れ添ってきたこのあたしの耳にも、完全に瑞穂ちゃんの声に聞こえるわ……』
『えぇっ!? ちょ、ちょっと待って、どういうこと!?』
『貴女の声を、美智子が出してる。それだけよ』
452 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:08:01 ID:oW3nv5vM0
「…ぅ……ん………瑞穂…さん……?」
小さく唸りながら、貴子さんが覚醒する。
「大丈夫ですか?貴子さん」
「えぇ…私、どうして…」
額に手を当てて、小さく頭を振ると、後ろに振り返ろうとする貴子さん。
しかし、美智子さんはその肩を掴んで止めてしまう。
「振り向かないで、貴子さん」
「えっ……?」
ふわっ…。
美智子さんは抱くであろう疑問を奪うかのように、いきなり後ろから貴子さんを抱きしめた。
「みみみみ瑞穂さんっ!!?」
焦る貴子さん。
どうやら貴子さんは本当に美智子さんのことをボクだと思っているらしい。
はたから見ていると奇妙な光景である。
「ああ、昨日の夜からこうしたいってずっと思ってたんです」
「あのっ、あのっ…!!」
「貴子さんの髪は、綺麗で柔らかくって、いい匂いですね…ずっとこのままでいたいです」
パニックに陥る貴子さんを置き去りに、貴子さんの髪に鼻先をうずめ、
瑞穂の声らしき声で甘い言葉を囁き続ける美智子さん。
453 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:10:23 ID:oW3nv5vM0
「そそそ、そんっっっ…!?」
貴子さんを抱き締めていた美智子さんの腕がじわじわと下がっていき、
やがて裾から服の中に潜り込んでいく。
…って、いろいろとマズいんじゃ…。
「みみっ、みずっ、みずっ…!」
もはや貴子さんの口からはまともな言葉は出てこない。
その時、一瞬だけ美智子さんの視線がこちらへと向き、そしてにこりと笑うと、
貴子さんの首筋にふうっと細い吐息を吹きかける。
「ひぃっ!」
「貴子さん?」
とどめへの布石を撒きつつ、美智子さんは更に揺さぶりを掛けていく。
「はっ、はいぃっ!?」
「すごく、美味しそうですね…食べて、いいですか?」
「…なななっなにををを……っ!」
454 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:12:31 ID:oW3nv5vM0
土俵際まで詰まった貴子さんに、主語を抜いて意味深に問いかけた美智子さんは、
「…もちろん……貴女を」
そう言って貴子さんの首筋を、かぷりと甘食んだ。
「っっっっ……!!!!」
見事なとどめだった。
その直後、しばらく硬直した貴子さんは、
「…………きゅううぅぅぅぅぅぅ」
再び立ったまま気絶してしまったのだった。
『お〜っと決まったあぁ〜〜〜〜! とんでもない伝家の宝刀を抜き放っての一発K.O.だぁ〜〜〜っ!!』
『さすがは美智子さんですわね』
『だからどうして美智子さんが私の声を出せるの…』
『やるわね美智子さん…あんな技を持ってるなんて』
『っていうか、この後すごく行きづらいんですけれど…』
美智子さんがこちらに戻ってくる。
そんなにボクの声に似てたのかなぁ…でも、貴子さんも完全にボクの声と間違ってたし。
それにしても、次はボクの番だよね…。
あの場面で気絶したってことは、アレが美智子さんだったっていうことには気づいてないわけだから…どうやって説明すれば…。
複雑な想いを抱きながら、ふと横を見ると。
さっきから圭さんが静かだと思っていたら、両頬をぷくーっと膨らませて非常に分かりやすく拗ねていた。
圭さん……可愛い…。
「宮小路瑞穂、あっちを向いてなさい」
「はっ、はいっ!」
じとー、と殺意のこもった目で睨まれ、瑞穂は慌てて視線を逸らした。
455 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:15:09 ID:oW3nv5vM0
・ 4th turn. Attack of 宮小路瑞穂
『四人目は貴子のダーリン、閃才の美眼、宮小路瑞穂が征くっ!』
『それにしても、立ったまま気絶されるなんて、貴子さんも器用ですわね』
『美智子ならできそうね』
『何圭、ヤキモチ?』
『呪うわよ』
『すません』
『そうですねぇ、できるかもしれませんねぇ…。
では今度、私の部屋で試してみましょうか…圭さんと、一緒に』
『え"…』
『気絶…どうやってなさるのですか?』
『ふふふっ』
『ぁ……う…ぁ…』
『どしたの?圭』
『い、いや……何でもない…』
456 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:17:31 ID:oW3nv5vM0
「大丈夫ですか?貴子さん」
「ぅん……」
瑞穂が呼びかけに反応した貴子さんが、小さく唸りながら覚醒する。
「みず…ほ……さん……?」
しばらくぼんやりと移ろっていた貴子さんの瞳が、瑞穂の目を捉えた。
それから瑞穂の顔をじーっと見つめていた貴子さんだったが、
その顔が突然ぼんっ!と真っ赤に染まる。
「みっ、みみっ、みみみ………!!!」
多分瑞穂の名前を叫ぼうとしているのだろうが、呂律が回っていない。
ああぁ、やっぱりこうなるよね…何となく予想はしていたけど。
「と、とりあえず落ち着いて、貴子さん」
「えと、あの、あのっ……!」
何とか貴子さんをなだめようとするものの、このパニックは収まりそうにない。
どうすれば……。
そ、そうだ。 まずは自分が落ち着かないと。
ボクが慌てているから貴子さんもパニックになっているのかもしれない。
心を穏やかに、落ち着くんだ。
息を深く吸って、吐く。 吸って、吐く。
…うん、落ち着いてきた気がする。
457 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:19:41 ID:oW3nv5vM0
「貴子さん、落ち着いて…ね?」
できる限り、優しく笑いかけてみる。
「は…はい…」
貴子さんの目が、徐々に落ち着きを取り戻していく。
顔は赤いままだけど、大丈夫…かな?
何か「そ…そうですわよね…」とか呟いているけど。
「あの…ですね、貴子さん。少し驚かれるかもしれませんが…」
改めて、さっきの説明を試みる。
「先ほどの私…私のようで私じゃないんですけれど…え〜、さっきのは私じゃないんです」
「はっ…?」
自分で言っておいて何だけど、非常に分かりづらい説明だ。
瑞穂自身も戸惑っているのだから仕方ないのだが。
「さっき私、貴子さんに、その…色々言っていたでしょう?」
「えっ……あっ…!?」
貴子さんの顔が、再びトマトのように赤く染まっていく。
しまった、一度ワンクッション置いた方がよかったか。
「あれは、夢では…なかったのですか…っ!?」
「は…?」
……?
458 :
Qoo:2009/01/06(火) 20:25:14 ID:oW3nv5vM0
……ぐあっ、夢だと思ってたのかっ!
何だか思いっきりやぶへびなことを言ってしまったみたいだ。
確かに、生徒の行きかう休み時間の廊下で後ろから抱きしめながら……とかいう非現実的なシチュエーション、
夢だと思ってしまってもさほど不思議はない。 …直前まで気絶していたわけだし。
「えぇ〜…っとですね、夢ではなかったんですけれど……さっきのは私じゃないんです」
「………はい?」
首を傾げる貴子さん。 まぁ、そういう反応になるだろう。
「落ち着いて聞いて欲しいんですけれど…先ほど貴子さんに話しかけていたのは、美智子さんだったんです」
「え…美智子…さん? 瑞穂さんのクラスの…?」
「はい」
「え…でも、ちゃんと瑞穂さんの声で…」
「ええ、みたいなんですけれど…でも、顔は確認していないでしょう?」
「ええ…まぁ…」
「私も驚いたんですけれど…美智子さん、私とそっくりの声が出せるらしくって…」
「そ……そうなんですか…」
呆然とする貴子さん。
信じられないのも無理はない。 瑞穂にだって信じがたいのだ。
しかし、しばらくして貴子さんから返ってきたのは意外な言葉だった。
支援
460 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:01:13 ID:oW3nv5vM0
「ごめんなさい、瑞穂さん…」
突然の謝罪に、思わず慌てる。
「い、いえっ、貴子さんが悪いわけでは…!」
悪戯を仕掛けたのは瑞穂たち (というか主犯はまりやなのだが) であり、非は全面的にこちらにあるのだ。
「瑞穂さんの……似ていたとはいえ、瑞穂さんの声と、他の誰かの声を間違えてしまいました…」
そう言って下唇を噛む貴子さん。
「あ……」
「ごめんなさい瑞穂さん…」
「貴子さん…」
謝罪を繰り返し、少し俯いた貴子さんの目元に、じわりと涙の粒が浮かぶ。
かっ……!
あまりのいじらしさに思わず抱き締めそうになる腕を、必至に押しとどめて貴子さんの肩へと誘導する。
「だ、大丈夫です。 紫苑さんやまりやも私の声と完全に同じだったって言ってましたから」
「それは…あまり慰めになりませんわ」
貴子さんが口を尖らせながら言う。
「ご、ごめんなさい…」
461 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:04:07 ID:oW3nv5vM0
「でも…そうですか、やっぱりあれは瑞穂さんではなかったのですね」
「はい…すみません」
「いやですわ、瑞穂さんではなかったのですから謝らなくてもよろしいですのに」
涙を指で拭いながら、少し可笑しそうに笑う貴子さん。
「そう…なんですけれど…」
「ふふふっ。 でも確かによく考えてみれば、場所柄もそうですけれど、
瑞穂さんはあのようなことを言う方ではありませんものね」
「あはは…」
貴子さんの言葉に苦笑する瑞穂だったが、
笑いながら言ったその声の奥に、微かに残念そうな感情が混ざっていたような気がして、
「でも…」
と言葉が勝手に瑞穂の口をついて出ていた。
「?……でも…?」
「あ…いや、その……さっきのは確かに私ではなかったんですけれど…」
自分の口から滑り出た言葉に驚きながら、それでも必死に言葉を繋いでいく。
「…でも、私が貴子さんのことが大好きだっていうのは、夢じゃない…ですから」
462 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:07:13 ID:oW3nv5vM0
真っ白になった頭の中から転げ落ちた言葉だったけど、だからこそ本当の言葉だ。
貴子さんを悲しませたくない心が、瑞穂の尻を叩いたのかもしれない。
「瑞穂…さん…」
体温がぐんぐん上昇していくのが分かる。
こんなところで何を言っているんだボクは。
ほら、貴子さんも目を丸くしてるじゃないか。
「そ…それだけです。 私はそろそろ戻りますねっ」
「そ、そうですか…」
「それではっ」
「あ、瑞穂さんっ」
居たたまれなくなり、捲し立ててその場を去ろうとする瑞穂を、貴子さんが呼び止めた。
「は、はい?」
「……もう間違わないように…瑞穂さんの声を、もっともっと聞かせてくださいね」
振り返る瑞穂に、貴子さんが嬉しそうに笑いながら言った。
「貴子さん……はい、分かりました」
瑞穂はその笑顔に頷くと、踵を返したのだった。
463 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:10:48 ID:oW3nv5vM0
『ともあれ、瑞穂さんは失格…でしょうか』
『そうなりますね』
『すっかり二人の世界ですねぇ』
『全く、期待外れもいいところよ…砂を吐きそうだわ』
『とんだ茶番だわね。途中で貴子がちょっと可愛いって思った自分がムカつくわ』
あれ、ボク何しに行ってたんだっけ…。
貴子さんと別れ、皆のところに戻りながら、そんなことを思う。
甘甘な展開ですっかり蕩けていた瑞穂は、貴子さんのところに赴いた目的を完全に忘れてしまっていた。
「……あ」
その疑問の答えを、待ち受ける四人の冷ややかな視線を浴びてからようやく思い出す瑞穂だった。
464 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:14:05 ID:oW3nv5vM0
・ Last turn. Attack of 御門まりや
「最後はまりやさんの番ですね」
「どこぞのお姉さまが見事に外してくれたものだから、最後は盛り上げて欲しいものだわ」
「うぅ…」
「今のところ、美智子さんと圭さんが同点…といったところでしょうか」
「まぁ、両方とも気絶してたしね」
「この場合は優勝特典はどうなるのでしょうか」
「ん〜、二人とも一人ずつ指名するか、最悪じゃんけんでもいいんじゃない?」
「ずいぶんアバウトなことで」
「だって、あたしが勝つもん。 二人には悪いけど、この勝負には負けない」
「すごい自信ね、まりや」
「どれだけの付き合いと思ってるのよ」
「ふっ、その自信の程、見せてもらうわ」
「ふっ。 美智子さん、惜しかったね。でも貴子にはもうちょっと奥ゆかしいほうが効くんだ。
…行ってくるわ」
─── 自信ありげにニヤリと笑うと、貴子さんの下へと歩いていくまりや。
そしてその三分後…。
そこには、鼻血の海ににやけ顔で沈む貴子さんの姿があったという…。
465 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:17:49 ID:oW3nv5vM0
「こちらがミルクティーになります…ご、ごごご主人様…」
「うむうむ、苦しゅうない苦しゅうない。にょほほほほほ!」
『お姉さま、どうされたのでしょうか…?』
『何かの罰ゲーム?』
『それにしても…』
『 『 『何て可愛らしい……!!!』 』 』
「うぅ…」
「何なの?この人垣は…」
まりやたちが座っている一つのテーブルをぐるりと囲んだ人垣を掻き分けて、
怪訝そうな呟きと共に緋紗子先生がやってきた。
そして瑞穂を見つけた緋紗子先生は、目を見開いて「まぁ…」と小さく感嘆の声を上げると、
「まぁまぁまぁまぁ!……可愛い!」
と瑞穂と初めて逢ったときのように目を輝かせた。
「でしょでしょ!? 緋紗子先生もそう思いますよねっ」
「えぇえぇ!………でも瑞穂さん、どうしてこんな格好を?趣味なの?」
466 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:21:12 ID:oW3nv5vM0
こんな格好…そう、こんな格好だ。
瑞穂は今、メイド姿にうさ耳バンド、シッポセットという、屈辱的な格好をさせられているのだ。
首を傾げる緋紗子先生に、瑞穂は疲れた表情で言い返した。
「こんな趣味はありません…。 その、先ほどやったゲームに負けて、罰ゲームで…」
「あぁ…なるほどね」
「でも、お昼休みももうすぐ終わるから、そろそろ着替えないと…」
ひたすら重いため息を吐きながら、ようやくこれを脱げる…と思っていたら、
「え、どうして着替えるの?」
とまりやが不思議そうな声で言った。
「え、どうしてって…」
「昼休み中とかいう期限は設定してなかったよねぇ?」
まりやが意地悪そうににやりと笑う。
「え…だって、このままじゃ授業も…」
とてつもなく嫌な予感に、何とか言い訳を試みる瑞穂だったが、そこへ鶴の一声が飛ぶ。
いや、瑞穂にとっては悪魔の声か。
「あら、構わないわよ?次は私の授業だし」
「ええぇぇっ!? 」
「ふふっ、授業が楽しみね」
そう言って緋紗子先生は楽しそうに笑った。
467 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:24:01 ID:oW3nv5vM0
それからというもの、昼休みが終わるまではもちろん、授業中はクラスメイトにじろじろじろじろ。
もちろんまともな授業になるわけはなく、しかもなぜかやたらと指名されて前で問題を解かされる。
瑞穂が立ち上がるごとに、教室内に黄色い歓声が上がり、
あくまで授業という体裁を取りながらも、さながらファッションショーである。
加えて、緋紗子先生の授業が終わり、やっと開放される…と思いきや、
「瑞穂さん、脱がなくてもいいわよ。次の先生にも通達しておきますから」と緋紗子先生から余計な根回しをされる始末。
回りの視線が気になって授業にも全然集中できず、
休み時間や清掃、下校時には噂を聞きつけた生徒にまでじろじろと視姦され続ける羽目になったのだった。
めでたしめでたし。
「って、全然めでたくなーい!………とほほ…」
468 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:28:08 ID:oW3nv5vM0
「主よ、今から我々が、この糧を頂くことに感謝させ給え、アーメン」
「アーメン」
「頂きます」
「頂きまーす」
「そういえば今日、お姉さまのうさ耳メイド服でクラス中大騒ぎでした」
「奏のクラスもなのですよ」
夕食が始まってすぐ、瑞穂の不名誉な話題が持ち上がる。
「うぅ…やっぱり由佳里ちゃんたちも知ってたのね…」
予想していたとはいえ、それでもやっぱり辟易する。
「当たり前でしょ。エルダー話の伝播速度は光より速いのよ」
「私もすっごく見たくってお姉さまのクラスに行ってみたんですけど、人がいっぱいで見れませんでした…」
「奏も見たかったのですよ…」
悲しそうにうつむく由佳里ちゃんと奏ちゃん。
「そ、そんなにいいものではないわ」
「なーに言ってんの、見た人全員狂喜乱舞してたじゃない。鼻血出して倒れる人だっていたのよ?」
「そっ、そんなにすごかったんですかっ!?」
「まりや、煽らないで…」
469 :
Qoo:2009/01/06(火) 21:31:49 ID:oW3nv5vM0
「それにしても、どうしてお姉さまはメイド服を着ていらっしゃったのですか?」
「ゲームで負けた罰ゲームだったのよ」
「貴子を驚かすっていうゲームね」
「会長さんを…ですか」
「そういえばまりや、最後まりやの番で貴子さん突然鼻血を出して倒れてしまったけれど、何を言ったの?
小さな声だったからよく聞こえなかったのだけれど」
「…聞きたい?」
まりやが楽しそうににやりと笑う。
どう見ても何か企んでいる顔だ…けど…。
「う……あまりいい予感はしないけれど……でも、一応聞いておくわ」
「ふふん。 おっけー、じゃあ皆ちょっと目を瞑ってくれるかな。
一応心理テストみたいなものだから、ぼんやりと想像しながら聞いてね」
「……いい?」
支援?
471 :
Qoo:2009/01/06(火) 22:01:40 ID:oW3nv5vM0
まりやが近づくと、貴子は憮然とした顔で腕を組んで待ち構えていた。
「今度は貴女ですか…」
呆れ顔で溜め息を吐く貴子。
「まぁまぁ。私で最後だからさ」
「一体何がしたいのですか貴女方は」
「すぐ終わるからさ。で、ちょっと目を瞑って欲しいんだけど」
「何なのですか不躾に…」
「ちょっとした心理テストするだけだから、お願いっ」
「はぁ…もう、全く…」
まりやが目を瞑り、両手を合わせて懇願すると、貴子は悪態を吐きながらも渋々に目を瞑った。
「ありがと……じゃあ、ちょっと想像してみて」
472 :
Qoo:2009/01/06(火) 22:02:11 ID:oW3nv5vM0
ちょっと用事があるので一旦休止します。 すみません。
1時前後に戻ります。
………
というかバイさる規制ひどすぎるんだお! (#゚Д゚)凸
コレ作ったバカはmjd○ねばいいんだお! (#`Д´)凸
バイさるなければもうとっくに落とし終わってるはずなのに…。
せめてSSスレぐらいは規制解除してくだしあ…。 (;´Д⊂)
紫苑。
「……いい?
…昼休み、貴女は昼食を摂りに食堂へと向かうため、廊下を歩いていました。
てくてくと長い廊下を歩いていきます。
すると不意に、後ろから声をかけられました。
『ごきげんよう』
立ち止まって振り返れば、憧れのお姉さまではありませんか。
『ごきげんよう』
少し話せば、どうやらお姉さまも食堂へと向かっていた様子。
『お昼をご一緒しませんか』
お姉さまからの願っても無いお誘いを快諾すると、貴女はお姉さまと並んで歩き始めました。
『今日はいい天気ですね』
他愛のない会話を交わしながら、廊下を歩いて行きます。
横を見れば、いつもと変わらず素敵なお姉さまのお顔…。
しかし、いつも通りであるはずのお姉さまなのに、どこか雰囲気が違うような気がします。
ふと視線を下ろすと、お姉さまのスカートの丈がいつもより短いような…。
しかし、それより明確な差異がありました。
お姉さまのおみ足が、黒のストッキングに包まれていたのです。
普段見ることのない、ストッキング越しのお姉さまのおみ足。
愛らしい膝の裏の窪み、ふくらはぎの柔らかそうな曲線、きゅっと引き締まった足首…。
お姉さまの脚線美を否応なしに引き立てています。
貴女はお姉さまから漂う色気に少しドキドキしながら、食堂へと向かいます。
曲がり角に差し掛かり、角を曲がろうとした際、貴女は向こうから歩いてきた来た生徒と鉢合わせしてしまいました。
ぶつかりこそしませんでしたが、女生徒が持っていたプリントがバラバラと辺りに散らばります。
「申し訳ありません、大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です。こちらこそごめんなさい」
謝りながら、女生徒と貴女は屈んでプリントを拾い始めました。
何も言わずお姉さまも屈みこみ、それを手伝ってくれます。
「ありがとうございます、お姉さま」
「ふふっ、怪我がなくて何よりです」
支援砲撃ヨーイッ!
477 :
Qoo:2009/01/07(水) 00:18:21 ID:QG9b+8qe0
粗方プリントを拾い終わり、立ち上がろうとしたときに、
貴女はお姉さまの脚の向こうに1枚プリントが落ちていることに気付きました。
しかし、貴女が動く前に、脚の間からお姉さまの長く綺麗な御髪が垂れ下がり、
その向こうにそっと下ろされた手がプリントを掴んだのです。
貴女はそのプリントをお姉さまに任せて立ち上がろうと、ふと視線を前に向けました。
しかし、貴女は突然目の前に広がったとてつもない絶景に目を奪われます。
立ったまま前かがみになったせいで、お姉さまのスカートは大きく捲れ上がっており、
スカートの中身が完全に丸見えになっているではありませんか。
艶やかで肉感的なお姉さまのふとももに、思わず息を飲み込みます。
急激に昂ぶる体温と感情を必至に抑えながら、そこから僅かに視線を上げると、
お尻の生地が引き延ばされ、薄くなったストッキング越しに、
お姉さまのふっくらと柔らかそうなお尻を包む、上品で清楚な下着がうっすらと透けて…」
478 :
Qoo:2009/01/07(水) 00:21:28 ID:QG9b+8qe0
ごつんっ!
突然、何か固いもの同士がぶつかったような鈍い音が辺り響いた。
驚いて音のした方に目を向けると、由佳里ちゃんが机の上に突っ伏して倒れていた。
顔の下からじわじわと血が滲み出している。
「ゆっ、由佳里ちゃん!?」
奏ちゃんが慌てて由佳里ちゃんの頭を起こすと、由佳里ちゃんはとても幸せそうな表情で鼻から血を流しながら気絶していた。
「ま、こんな感じかな」
「まりや…本当にそんなこと言ったの…?」
「貴子とか由佳里とか、ああいうタイプにはドカッと与えてやるよりは、
多少想像させる余地を与えてやる方が効くのよ。効き目はご覧の通り」
「そういう問題じゃなくて…というか、心理テストじゃなかったの?」
「単なる心理テストで貴子を驚かせられるはずないじゃない」
何言ってんの、当たり前でしょ、とでも言いたげにまりやが胸を張りながら反論する。
確かにそうなのだが…思わず頭を抱える瑞穂。
「…まりやぁ、貴子さんにあまり変なことを吹き込まないでよ…」
「まーまー、多少こういうスパイスがあったほうが新鮮でいいんじゃない?
まっ、明日黒ストでも穿いてったら貴子倒れちゃうかもしれないけどね」
そういってまりやが無邪気に笑う。
「もぉ…」
「でも、奏もちょっとドキドキしちゃったのですよ」
瑞穂はため息を吐きながら立ち上がり、
持っていたポケットティッシュから中身を一枚取り出して、由佳里ちゃんの鼻にあてがう。
ティッシュが瞬く間に真っ赤に染まっていく様にちょっと心配になるが、その表情は実に幸せそうであり…。
そしてその顔は、まりやの話のあとに倒れた貴子さんの顔にとても良く似ていた。
その夜、貴子と由佳里は寝付きがあまりよろしくなかったそうな…。
...fin
479 :
Qoo:2009/01/07(水) 00:22:53 ID:QG9b+8qe0
お粗末さまでした。
支援頂いた皆様、ありがとうございます。
バイさるは○ねばいいと思います。
えー、しばらく前にトリコロなど書いたりしてましたが、
何かSS書くごとに文章を書けなくなってる気がする。
でも何とか書けた。 ワーイ。
それでは、このスレと皆様が健やかであることを祈りつつ、ごきげんよう。
Qooでした。m(_ _)m
|彡サッ
乙でした。
最近おと僕やってないナー
Qooさんお久しぶりです!
起きたらいい感じのSSが投下されてて今日は良い気分で仕事に行けそうです。
もしよければまた投下して下さいね、GJ!&乙でした。
SSありがとう。お疲れ様です。またよろしく。(ぉ
保守?
穂酒
『瑞穂と薫子』の6話を投下します。ここから第3部です。
『嘘』
11月23日、学生寮櫻館夕食時……
「あ、そうだ!初音、薫子。明日は奏ちゃんとふたりで出掛けるから、後よろしくね」
「はい。わかりましたお姉さま方」
「は、はい……どちらへ行くんですか?」
「え?!そ、それは、その……」
薫子の質問に、何故か由佳里はうろたえた。
「明日はお友達のパーティーなのですよ!」
しどろもどろな由佳里に、奏が助け船を出した。
「そう、それ!明日はあたしと奏ちゃんの大事な友達の誕生パーティーなの!」
「……わかりました。いってらっしゃいお姉さま、由佳里さん」
『何やら怪しい』と思ったが、薫子は言葉や表情に出すのを控えた。
「あ、そうそう。そう云えば薫子、瑞穂お姉さまに告白したんだって?」
「ブーーーッ!」
薫子は飲み込もうとしたお茶を吹き出してしまった。
バシャッ!
「ひ、酷いです薫子ちゃん!」
顔がお茶まみれになってしまった初音が洗面所へと消えた。奏が慌ててテーブルの掃除を始めた。
「初音ゴメン!……どうして由佳里さんが知ってるんですか?!
って云うかそれ以前の問題で、あたしは告白なんかしてないですって!」
「え〜っ?ものすごい情熱的だったって、フェンシング部の子が云ってたわよ。
新入生の子がひとり気絶しちゃった……とも聞いたけど」
由佳里は生徒会長兼陸上部部長であり、運動部関連の情報が真っ先に入って来る立場なのだ。
「あれは告白じゃなくて、瑞穂さんに対する宣戦布告なんです!」
「そうなの?それにしては顔が真っ赤よ薫子」
「……」
「ま、いいわ。ライバルは多いと思うけど頑張りなさい。あたしは応援しないけどね」
「……だからそんなんじゃないですって」
茶化し気味の由佳里と、ムキになって否定する薫子。
奏はそんなふたりをニコニコしながら見守っている……
就寝前、初音の部屋。
コンコンッ!
部屋の扉をノックする音がした。
「初音、起きてる?」
「薫子ちゃん?起きてますよ、どうぞ」
ガチャッ!
「悪いわね、こんな遅くに」
「それは構いませんが、どうしたのですか?」
薫子は一度タメを作った後、改めて口を開いた。
「……あのさ、お姉さまと由佳里さん……怪しくない?」
「え?それはどう云う……」
「今までにも何回か有ったでしょ。休みの日にふたりで出掛けるんだけど、
何処へ行くのか聞いても微妙にはぐらかされちゃう事が……」
「……確かにそうですね。で、薫子ちゃんはどうされたいのですか?」
「だからさ……」
部屋にはふたりしか居ないのだが、何故か薫子はヒソヒソ声で初音に耳打ちした。
「ええっ?!お姉さま方を尾行する?!」
「シーッ!声が大きいよ初音」
薫子は慌てて初音の口を押さえた。
「ご、ごめんらはい。でもそれは……」
「尾行って云ってもちょっとしたお遊びよ。成功するなんて思ってないし。
姉ふたりが出掛けるんだから、たまには妹ふたりで出掛けるのも良いかなって……」
徒歩や電車での移動なら何とかなりそうだが、バスや車を使われたらお手上げだと思っているのだ。
「薫子ちゃんと出掛けるのは構いませんが、お姉さま方を尾行すると云うのは……」
「あくまでもふたりを見守るだけよ。
中学時代にはスケ番まで張ったこの七々原薫子が、何の因果か今じゃ『騎士(ナイト)の君』だからね。
あたしにはお姉さまの事を常に守らなきゃいけないって義務が有るのよ」
「……それはただのストーカーなのでは?」
「そのスなんとかって言葉は知らないけど、追跡困難な状況になったら素直に諦めるから……ね?」
「わかりました。薫子ちゃんをひとりにすると何をするかわかりませんから、監視役として付いて行きます。
ところで……スケ番だったと云うのは本当なのですか?」
「いや、嘘。今時そんなの居ないでしょ。もしかして、あたしなら有り得るって思った?」
「え?……いえ、その……」
指摘通りそう思ったのだが、言葉には出さない方が賢明だと初音は判断した。
翌24日、月曜振替休日。
「んじゃ、行って来るね〜」
「行って来ます薫子ちゃん、初音ちゃん」
奏と由佳里が寮を出てすぐに、薫子と初音がその後を気付かれない様に追った。
そして約1時間半後、奏と由佳里は大きな屋敷の前に到着した。
「目的地に辿り着いちゃったよ……」
「……私も辿り着けるとは思っていなかったのでビックリです」
寮→(徒歩)→駅→(電車)→駅→(徒歩)→大きな屋敷
見付からない様に距離を保ちながら尾行をした結果、呆気無く目的地に到着してしまった。
半ば冗談で始めた尾行が成功するとは思っていなかったので、
薫子と初音は成功した事に対して逆に戸惑っていた。
呆然としながらも、遠くの物陰から奏と由佳里の事を見張っていたその時……
「初音、あれ……」
「メイドさん……でしょうか?」
奏と由佳里の前にメイドが現れ、3人で屋敷の中へと消えた。
屋敷に入る前、メイドの目が一瞬だけ光ったのだが、誰もその事には気付かなかった。
「……よし!あたし達も行きましょう」
「何処へ行くんですか?!もう帰りましょう薫子ちゃん!」
『監視役』と云って付いて来た初音だが、正直機能していない。
「誰の家だか確認するだけよ。表札を見たら帰るから」
「……」
「なになに……初音、コレ(鏑木)何て読むの?」
「……『かぶらぎ』ですね……ってまさか」
「知ってるの初音!?」
「ええと確か……聖應女学院は明治時代に創立されたのですが、創立者の姓が鏑木だった様な……」
「へえ〜。それじゃこの家は聖應女学院創立者一族の家って事?あ、でも同姓なだけって可能性も有るのかな」
「正確な数字は知りませんが、鏑木姓ってそれ程多くは無い筈で、この御屋敷の大きさを考えると恐らく……」
「当家に何か御用ですか?」
薫子と初音の背後から、いきなり話しかけられた。
「え?!あの、その……」
(ちょっと待て?!この人さっきのメイドさん?何で後ろから??)
「いきなり話しかけて失礼致しました。わたくし鏑木家の家政婦長を勤めております織倉楓と申します」
優しげな笑顔、柔らかい物腰。ところが薫子と初音は、異様なプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
(何この威圧感……そうだ、あたしはこれと同じタイプの威圧感を、つい最近経験してる。……紫苑さん?)
「え、えっと……あたしの知り合いがこの家に入って行くのをたまたま目撃しまして……」
「なるほど……『たまたま』ですか……」
口調は穏やかなままだ。だがそれが逆に恐ろしい。
初音は何も云えずにガタガタ震えている。今にも泣きそうに、ギターを弾い……てはいないが。
(観念して謝ろう)
薫子がそう思った矢先……
「楓さん、何か有ったのですか?」
騒ぎを聞きつけて、屋敷から3人の女性が現れた。その内ふたりは奏と由佳里である。
そしてもうひとりは……
「み、瑞穂お姉さま?!」
初音が驚きの声を上げた。だが名前を呼ばれた側(瑞穂?)は、初音と薫子の事がわからない様で、
頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げている。
「薫子ちゃん、初音ちゃん。どうしてここに……」
「そ、それは……」
奏の質問にどう答えたら良いのかわからず、初音は言葉に詰まった。
そんな中、薫子は意外な行動に出た。
「初音、違う。あの人は瑞穂さんじゃない」
「……はい?どこからどう見ても瑞穂お姉さまじゃないですか」
薫子は瑞穂(?)から初音を守る位置に割って入った。
「お姉さま、由佳里さん、離れて下さい!その人は瑞穂さんじゃないです!」
「何云ってんのこの人?」と云う反応を覚悟したが、奏と由佳里、そして楓は、驚きに目を見開き硬直した。
「そ、そんな……!」
瑞穂(?)の表情は明らかに動揺を示している。
「ッ!ダメです一子さん!」
由佳里の叫びも虚しく、瑞穂(?)の身体から人の形をした何かが分離する。
聖應女学院の制服(夏服)に身を包んだソレは、明らかに足が地面に着いておらずフワフワと浮いていた。
分離したのは云うまでもなく高島一子なのだが、薫子と初音は現時点ではその事を知らない。
「あ……?あ……?」
初音は一子の様子をまじまじと見つめ、そして……気絶した。
ドサッ!
崩れ落ちる初音の身体を、薫子が何とか受け止めた。
その薫子は、宙を浮いている一子には目もくれず、
瑞穂(薫子の認識は『瑞穂さんじゃない』から『瑞穂さん』になった様だ)の事だけを見つめている。
正確には瑞穂の胸元を……だ。
「み、瑞穂さん。それは……」
パンパンッ!
いち早く硬直から立ち直った楓が手を鳴らした。
「皆様、とりあえず中へ……」
半ば強引に、その場の全員を屋敷の中へ追いやった。
「ごめんなさい!」
瑞穂の私室に通された直後、薫子は土下座をした。
気を失ったままの初音はソファーに寝かせられ、由佳里が様子を見ている。
楓は仕事が残っているらしく、薫子と初音にお茶を出した後部屋から出て行った。
土下座の後薫子は、瑞穂達にこの屋敷に来た経緯を説明した。
奏と由佳里の行動を不審に思った薫子が、初音と共にふたりを尾行した事を……
「成功するとは思ってなかったんです。でも気が付いたらココに到着してて……
どちらにせよ、あたしがやった事は許される事じゃありません。ごめんなさい!」
薫子はもう一度土下座をした。
「……う〜ん、本当は怒りたいんだけど、怒るに怒れないわね奏ちゃん」
「そうですね由佳里ちゃん。薫子ちゃんと初音ちゃんに隠し事をしていたのは事実ですし。
お姉さま、出来れば薫子ちゃんと初音ちゃんの事……許していただけないでしょうか?」
「……奏ちゃんと由佳里ちゃんに後ろめたい想いをさせているのは僕が原因な訳で。
どちらかと云えば謝るのは僕の方です。ごめんなさい薫子ちゃん」
「え?!いや、その……『僕』って云うのはやっぱり……」
「……」
支援。
……『僕』……!
「……あれ?ここは」
気絶していた初音が目を覚ました。
「あの……大丈夫ですか?」
一子が心配そうに初音の事を見つめる。やっぱり宙に浮いている。
「ひっ……」
初音はブルブル震えながら、由佳里の腕にしがみ付く。
「大丈夫よ初音。一子さんは幽霊さんだけど、良い幽霊さんだから」
「怖がらせてごめんなさい。私は一子、高島一子と申します」
「み、皆瀬初音です……」
初音・由佳里・一子のやり取りを見ていた瑞穂と奏は、必死に笑いを堪えていた。
「……瑞穂お姉さま、奏ちゃん。何やら悪意の視線を感じるのですが」
「あはは、ゴメンゴメン。やっぱり由佳里ちゃんと初音ちゃんは姉妹だなあ……って思ったから」
「ふふっ、初音ちゃんの反応……一子さんと初めて会った時の由佳里ちゃんソックリです」
「そうなのですかお姉さま?」
「……いえ、少し違いますね。由佳里ちゃんの時は、今よりももっと大騒ぎになりましたから」
「……」
「とりあえず……僕と一子ちゃんの事、ふたりには説明した方が良さそうだね」
本名(鏑木瑞穂)の説明、性別の説明、女装して聖應女学院に通う事になった経緯、
一子の背景(幸穂の事等)の説明、開かずの間の説明、瑞穂に憑依する事による副作用(女性化)等々……
「……と云う訳です。出来ればこの事は黙って置いて欲しいけれど、
薫子ちゃんや初音ちゃんが周りにバラしてしまっても恨みはしません」
瑞穂の表情が……痛々しい。
「あたしは何も喋る気はありません。それ以前の問題で、あたしにはそんな事をする資格がありません」
「そ、そうですね。私もココでの事は誰にも云いませんから、瑞穂お姉さま」
「……ありがとう、薫子ちゃん初音ちゃん」(でも呼び方は『瑞穂お姉さま』のままなのね、初音ちゃんもorz)
「ただ、ひとつだけ確認しておきたい事が有ります。お姉さまは瑞穂さんの事……どう想ってらっしゃるのですか?」
いきなり話を振られて奏は驚いたが、表情に揺らぎは無い。
「……お姉さまの生い立ちとか、性別とか、その様な事は私にとって些細な事です。
たとえ何が有ろうとも、お姉さまは私のお姉さまですから!」
「奏ちゃん……」
「それならそれで良いです。お姉さまが傷付いてたりしてたら話は別ですが、
お姉さまが何とも想ってないなら、あたしにとってもどうでも良い事ですから」
薫子の宣言に対し、瑞穂は少しだけ寂しそうな表情を見せた。
「あの……瑞穂お姉さま。一件落着って事で、そろそろ始めませんか?」
「何を始めるんですか由佳里さん?」
「昨日云ったでしょ、大事な友達の誕生パーティーだって。今日11月24日は一子さんの誕生日。
一子さんが瑞穂お姉さまに憑依してたのは、あたしと奏ちゃんのプレゼントを食べて貰う為だったのよ」
由佳里は食事(特製ハンバーグ弁当)担当、
奏は食後のお茶とデザート(手作りの苺ショート)担当だ。
「……ふーん」
薫子が極々僅かだが不快に顔を歪めた事に、瑞穂と奏だけが気付いた。
((?))
「一子さん……でしたっけ?ひとつ質問があります」
この時初めて、薫子は一子の事を見た。
「は、はい。何でしょうか?」
「あなたは何故、ココに居るんです?」
「……はい?」
「一通り話を聞きましたが、瑞穂さんのお母さん……あなたのお姉さまは、もう亡くなられているんでしょう?
それなのに何故、あなたはココに居るんですか?」
「そ、それは……瑞穂お姉さまと……」
「瑞穂さんがお母さんとソックリってのは聞きましたが、一子さんは容姿が同じなら誰でもいいんですか?」
「……」
「あたしは死んだ事が無いから良くわかりませんが、
若くして未練を残して亡くなられた……って云うのは気の毒だと思います。
でもそんな事を云ってたらキリが無い。
あたしの母さんは、あたしが物心付く前に死んじゃいました。無念だったんだろうなって思います。
そう云った意味じゃ瑞穂さんのお母さんも同じでしょう。
あたしに云わせれば、未練を全く残さずに死ぬ人なんてほんの僅かでしょ。
まだ未練が有るから幽霊になって戻って来ましたってのは、絶対にやっちゃいけない事なんです。
人生は何が有ろうが一度きりなんですから。
あたしはまどろっこしいのは嫌いだからハッキリ云います。
一子さん……さっさと消えて下さい!」
場の空気が、一気に凍りついた。
「……すみません、熱くなり過ぎました。
お姉さま、由佳里さん。あたしは今日やった事に対して、いかなる罰も受ける覚悟があります。
お姉さまに姉妹の縁を切られても文句は云いません。でも……
初音の事だけは見逃して下さい。初音は最後まであたしの事を止めようとしてましたから。
初音、今日は無理矢理付き合わせてごめんね。
瑞穂さん。今日ココで見た事は絶対に口外しません。お騒がせしてすみませんでした。
あたしには『居てはいけないモノ』を祝う事なんて出来ませんから……失礼します!」
薫子は、一子が乗り移ったかの様に一気にまくし立てると、
一切振り向く事無く瑞穂の部屋を、そして鏑木邸を後にした。
薫子が去った後、勢いに圧倒されていた一同はようやく我に返った。
「な……何よあの子?!一子さん、薫子の云う事なんて気にしたらダメですよ!」
由佳里は薫子に対する怒りを露にし、
「薫子ちゃん……」
奏は顔面蒼白になっていて、
「……」
瑞穂は茫然自失と云った感じだ。
そして初音は、3人の様子を見て途方に暮れた。
ところが当の一子は、意外な言葉を発した。
「……薫子さんって、優しい方なんですね」
その場の全ての人間が、「何云ってんのこの人?」と云う表情になった。
「……一子さん、あそこまで貶されたのにそれは無いんじゃないですか?」
「いいえ由佳里ちゃん、それは違います。何故なら薫子さんがおっしゃった事は全て正しいのですから……
瑞穂お姉さまはと〜〜〜っても素敵な方です。私は心からお慕いしています。
でも、瑞穂お姉さまは幸穂お姉さまではないんです。
私はそれをわかっていながら、今まで瑞穂お姉さまに甘えて来てしまいました。
薫子さんの言葉の真の意味は、『早く幸穂お姉さまの所へ行ってあげて下さい』と云う事なのでしょう。
薫子さんは……ここに居る皆さんに嫌われるのを覚悟の上で、私が採るべき道を示して下さったのです」
「一子ちゃん……」
「奏ちゃん、由佳里ちゃん、初音ちゃん。薫子さんの事を責めないで下さい、お願いします。
あの方は恐らく……いえ、今は口には出さない方が良いですね。
ひとつだけ云えるのは、薫子さんはそう遠くない未来に私の救世主になってくれる……と云う事です」
「「「「?」」」」
この後改めて一子の誕生パーティーが行われたが、
ぎこちない空気のまま、お通夜の様なパーティーになってしまう。
それでも一子は、終始満面の笑みを浮かべていた。それが虚勢なのか本心なのかは誰にもわからなかった。
微妙な空気は、寮生達が帰宅してからも続いた。
「今日は皆に気まずい思いをさせてごめんなさい!」
薫子は奏・由佳里・初音に頭を下げたのだが……
「でもあたしは、今日云った事を訂正する気はありません。
誰が何と云おうが、一子さんは居てはいけない存在なんです!」
主張を曲げる気は無い様だ。
「……あんたの云いたい事、一子さんが云ってた事。
頭では理解したつもりだけど、それでもやっぱりあたしには納得出来ないわ」
一子とは大の仲良しである由佳里と、一子の存在そのものを認められない薫子。
奏と初音は、そんなふたりに声を掛けるタイミングを掴めずにいた。
就寝前、薫子の部屋。机の上には奏が淹れた紅茶……
「お姉さま……こんなあたしにお茶を淹れてくれるんですか?」
「もちろんです。瑞穂お姉さまは何が有ろうが私のお姉さま、薫子ちゃんは何が有ろうが私の妹です」
「『あたしは何が有ってもお姉さまの事を信じます』……なんて偉そうな事云っときながら、
あたしは心の奥底ではお姉さまの事を信じきれてなかったんだと思います。それなのに……」
「私には薫子ちゃんを責める資格はありません。私はずっと薫子ちゃんに嘘をついていたのですから。
『私は薫子ちゃんに嘘はつきません』と云う嘘を……」
「お姉さま……」
「一子さんの事は兎も角、瑞穂お姉さまの事だけは、絶対に洩らす訳にはいかなかったのです。
ごめんなさい薫子ちゃん……」
奏の顔色は優れない。薫子に対して秘密を抱える事が、奏には相当の負担になっていた様だ。
「お姉さま。ついても良い嘘は2種類有るってあたしは思うんです。
ひとつ目は『すぐにバレる嘘』または『すぐにバラす嘘』。
そしてふたつ目は『何が有ろうが徹底的に隠し通す嘘』です。
中途半端なのが一番タチが悪いんですこう云うのは。
お姉さまがおっしゃる嘘って云うのは後者の方でしょう?
お姉さまは瑞穂さんの秘密を、あたしに対しても隠し通そうとしたんです」
「ごめんなさい……」
「い、いや、お姉さまを責めるつもりで云ったんじゃないですよ。
むしろ逆で、あたしに対しても隠し通そうとしたのが嬉しいんです」
「?」
「もしもお姉さまが、『薫子ちゃんにだけは打ち明けますが』……何て云って、
瑞穂さんの秘密をあたしに話してたら、あたしはお姉さまの事を見損なったと思うんです。
お姉さまは間違えてません。今日間違えたのはあたしの方です。
だから、あたしは償わなきゃいけないんです。瑞穂さんの秘密を隠し通すって方法で……」
「薫子ちゃん、ありがとうございます。
それにしても……薫子ちゃんは今日の事、驚いてらっしゃらないのですか?」
「……これでも一応驚いてはいるんですけどね。
自分で云うのも何ですが、確かに驚いてる様には見えないですね。何ででしょう?」
「それでは薫子ちゃん、おやすみなさい」
奏はティーセットを片付けて、部屋から去ろうとしたが……
「お姉さま!ひとつだけ良いですか?」
「ふふっ、薫子ちゃんコ○ンボ警部補さんみたいですね。何でしょう?」
「へっ?名前はゲレゲレで決まりでしょう……じゃ無くて!」
話が噛み合っていない。
「えっと改めて。お姉さま、黒騎士の正体って瑞穂さんですよね?」
「……はい?」
奏は薫子の質問の意味をしばらく考えた後、ゆっくり口を開いた。
「黒騎士さんの正体は紫苑お姉さまですよ。ご本人がそうおっしゃってますから」
『嘘をつくからには徹底的に隠し通せ』と云うメッセージなのだと奏は解釈した。
「わかりました。じゃあそれでいいです」
もうバレバレだからいいや……と薫子は思っているのだが、奏の返答には満足した。
(『????』に入るのは『鏑木瑞穂』だったって事ね)
「それでは今度こそおやすみなさい」
「おやすみなさいお姉さま」
パタンッ!
奏が去り、扉が閉められた。
「はぁ……」
薫子は大きなため息をついた。今日1日色々有った疲れがドッと出た様だ。
(お姉さまに云うべきだったかな……)
「お姉さまは間違えてません」と云うのは薫子の本心だったが、それだけでは無かった。
「お姉さまは間違えてません、でも瑞穂さんは間違えてます」と云おうかどうか迷い、結局云うのをやめた。
瑞穂が卒業するまで、奏や由佳里には正体がバレなかった。
ならば、瑞穂は卒業と同時に(聖應女学院関係者に対して)消息を絶つべきだったのだ。
瑞穂が採るべき選択肢はふたつだけだった。
ひとつ目は『最初の段階で奏と由佳里に正体をバラし、協力を要請する事』。
そしてふたつ目は『絶対に最期まで正体を明かさない事』。
しかし瑞穂はどちらも選択せず、卒業後しばらくしてから打ち明ける……と云う最悪の道を選んでしまったのだ。
鏑木家の跡取りとして、あまりに軽率だと云わざるを得ない。
奏と由佳里があっさり受け入れたので、大事には至らなかったが……
瑞穂に正体を打ち明けられた時、奏がどれだけ驚いたのかは何となく想像が出来た。
だが薫子自身は、奏に指摘された通り、それ程驚いてはいない。
「正直在学中はいっぱいいっぱいだった」
「まりやや紫苑さんに、女性らしい立ち居振る舞いって云うのを嫌って程叩き込まれた」
「僕自身は女物の服って買った事ない」
「奏ちゃんや由佳里ちゃんの前では『お姉さま』にならないといけない」
今改めて考えれば、心当たりが多過ぎたのだ。
薫子はふと自分の掌に目をやった。
思い出すのはあの時(デート?)の事。背中と掌で感じた瑞穂の背中の感触だった。
服の上からだと華奢に見える瑞穂の身体だが、その下にはしなやかかつ強靭な筋肉が潜んでいた。
(瑞穂さんの背中の大きさって云うのは、女性のモノでは無かったって事か)
兄の様な、父の様な、そんな大きさだった。
今まで瑞穂は、薫子に対して気さくに接して来た様に思う。
少なくとも奏達に対する様な『女学院的なコミュニケーション』では無かった。
(多分瑞穂さんはあたしの事、女だと思って無いんだろうな……)
聖應に入って少しはマシになったと思うが、自分のガサツっぷりには自信が有った。
以前薫子は瑞穂の事を「男友達って感じ」と評した事があり、結局それは正しかった訳だが、
逆に瑞穂も薫子の事を「男友達って感じ」だと思っていそうだ。
そう考えると、どうにも複雑だ。
薫子が『宮小路瑞穂』に対して抱いている感情の大半は、尊敬と憧憬と畏怖である。
一言で云うなら『完璧超人』であり、奏の姉にふさわしい人物だと思っていた。
しかし、今日『鏑木瑞穂』と云う人物に触れ、彼が持つ弱さを知った。
奏と由佳里に秘密を隠し通せなかった弱さ。高島一子の事を突き放せない……と云う弱さ……
だが薫子は、そんな瑞穂の弱さを「愛おしい」と思ったのだ。
『宮小路瑞穂』に対しては、そんな想いを抱かなかったのに……
(もうあたしは、瑞穂さんに嫌われちゃっただろうけどね。……瑞穂さんの事を考えると、胸が痛いや)
『―― to be continued』
以上です。
360版SaintsRow2に浮気したせいで遅くなってしまいました。(マタカヨ)
夏服奏ちゃん\1,580を手に入れたので少々テンションが上がってます。
瑞穂ちゃんの男バレが、このシリーズ最大の難関だったので、かなりグダグダです。何卒ご容赦を……
次回は長くなりそうなので、またみっつに分けるとかするかもしれません。
それでは駄文失礼致しました。
GJ、楽しませていただきました。
ただ、ちょっと
鏑木に関する情報源は初音より親が財界とも関係がある薫子が説明した方が自然だったような…
親の仕事とかを嫌っていても一応それなりの情報や知識を望まずとも持っていると思いますから。
……あー、なるほど。そこにツッコミが来ましたか。
その辺りはあまり考えて無かったんですが、あえて挙げるなら、
・エトワールを読んだだけでは、七々原家の規模が良くわからなかった。
鏑木家みたいな代々伝わる大きな家なのか?それとも薫子の父が一代で築き上げたモノ(成金?)なのか?
厳島家みたいな設定(必要以上に鏑木を意識している)だったら話は別なのですが……
・金持ち視点ではなく、聖應女学院視点で語らせたかったので、
にわか学院生の薫子(ひどい)よりは、生粋の聖應っ子である初音の方が適任だと思った。
初音も一応は、良家のお嬢さんでしょうし。
・雷電(解説役)をやらせるなら初音の方が良さそうだった&ぶっちゃけ影が薄い初音の見せ場を作りたかった。
大体こんなところだと思います。
何はともあれ、私の文章にお付き合い&ご意見ありがとうございます。
7話の文章が思い浮かばないから(話の筋は決まってるのに……)、エピローグ(8話予定)を先に書き始めちゃったよ……orz
ご説明ありがとうございます。
鏑木、厳島の名は日本の財界を二分するほどの家ですので一般でも知れ渡っているでしょうし
学院の理事や創始者の名前より自然に出てくるのではと考えました。
しかし、雷電の影にこれほどの事情というか深い考えがあろうとは脱帽です。
511 :
名無しさん@初回限定:2009/02/01(日) 23:23:48 ID:iwUKEyx30
保守!
星湯
あら?
強風吹き荒ぶ今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?
明日は2月14日です。皆様ご存知のアレがやって参りました。
そうだね花粉症だね……orz
と云う訳で(?)、『瑞穂と薫子』の外伝を投下します。
まだ書き終わってない本編のネタバレ(オチバレ)が思いっきりあるんですが、
時期的に今投下したいので……
2月12日夜、学生寮櫻館。
「お姉さま!明日はコレを持って行って下さい!」
薫子が奏に差し出したのは、紙製手さげ袋の束だった。
「薫子ちゃん、コレは何に使うのですか?」
とぼけた様子も無く、奏は首を傾げた。
「何云ってるんですか。明後日はバレンタインじゃないですか。
明後日は土曜日だから、皆がお姉さまにチョコを送るのは多分明日ですよ」
「……バレンタイン?」
「あたし瑞穂さんに聞いたんですよ。一昨年のバレンタインではとんでもない目に遭ったって。
だから瑞穂さんにアドバイスを貰って、お姉さまのフォローをする準備をしてたんです」
用意周到な薫子に、由佳里と初音が驚きの表情を見せた。
「へぇ〜、薫子にしてはやるじゃない」
「そ、そうですね。感心しました」
「……何ですかその珍獣でも見る様な目は。ま、いいや、由佳里さんにも渡しておきますね。
少し早い誕生日プレゼントって事で」
束の一部を由佳里にも差し出した。
「えっ?あ、あたしは要らないわよ。あたしにチョコを渡す子なんて居ないでしょ」
「そ、そんな事無いです!私は由佳里お姉さまに差し上げるチョコを用意してます!
陸上部の皆さんも用意しているみたいですし、他にも沢山……」
初音が真っ赤になりながら叫んだので、一同は呆気に取られた。
由佳里の顔も初音につられて真っ赤になっている。
「……あ、ありがとう初音。何かテレるわね。
薫子、一応受け取っておくわ……てか誕生日プレゼントが袋かい!」
「あの、薫子ちゃん。こんなに一杯は要らないと思うのですが……」
いくら何でも多過ぎだろう……と、奏の表情が物語っている。
「甘い!甘いですお姉さま。砂糖たっぷりのイチゴ牛乳より甘いです。
明日は朝から放課後まで『アパム!チョコ持って来い!』状態ですよ。
あ、そうだ!お礼の文章を書くカードも用意してありますから」
「……ありがとうございます薫子ちゃん」
「大丈夫ですよお姉さま。明日は放課後お姉さまの教室に行って、チョコの運搬を手伝いますから」
不安そうな表情の奏を、薫子は励ましているつもりなのだが……
翌13日の金曜日。(特に意味は有りません)
薫子は通学路を奏とふたりで歩く。由佳里と初音は陸上部の朝練の為、薫子達より早く寮を出ている。
(……って、由佳里さんはいつまで陸上部に居るつもりなんだ?)
「おはようございますお姉さま!」
「おはようございます!あの、お姉さま……コレ受け取って下さい!」
学院生達が次々と奏に向かってチョコを差し出す。
「あ、ありがとうございます!」
奏はアタフタしながらチョコを受け取った。
薫子は奏の様子を見て楽しんでいたのだが……
「騎士(ナイト)の君!コ、コレ……受け取って下さい!」
「か、薫子お姉さまおはようございます、コ、ココ、コレを!」
他人事じゃなかった。
「え?!あ……私に?あ、ありがとう」
結局薫子も10数個のチョコを受け取ってしまった。
「薫子ちゃん、袋……使いますか?」
自分が渡した袋を差し出された。
「はいお姉さま……」
そして薫子は奏と共に最上級生のエリアへ……
「おはようございます皆さま」
奏の教室は……いや、奏の席は想像通りとんでもない事になっていた。
机の上にチョコレートの箱が積み上げられていて、それは奏の……薫子の身長を遥かに超えていた。
「こ、これは……まるでジェンガみたいですね」
「ん?お姉さま、何でしたっけソレ。♪レッツ!キッス!頬寄せて!……だったかな?」
「それは違うと思いますが……とりあえず薫子ちゃん、ここまでお付き合いありがとうございます。
この状況は簡単にどうこう出来るモノではありませんから、薫子ちゃんはご自分の教室へ行って下さい」
「そ、そうですね。あたしが居てもどうにもならなそうですから、放課後に改めて来ます」
「はい、よろしくお願いしますね薫子ちゃん」
(多分放課後ここに来る事は出来ないでしょうけれど……ふふっ)
気を取り直して薫子は自分の教室に向かう。
(瑞穂さんの時もあんな感じだったのかな?)
チョコレートタワーの前で呆然と立ち尽くす瑞穂の事を想像し、不意に可笑しくなった。
ガラガラッ!
「おはようございま……
『チョコレートと騎士(ナイト)の君』(『瑞穂と薫子』外伝)
|ー-一´lー一ヽ_(ヽ
. _l____ l´´Y_> l l )/)\
´ \_l___ / 丶/´`-/ ̄/
厂__l___l__ -/ / /__ __
ー、/〉へ__|____l_\\/_/__< |/\
`´ ⌒) / l l\ ( \l-<´
\ /ノ_/_/ l l//ヽ_ __)
\'‐'´_ノ ヽl //、_  ̄ __/
`´ l、  ̄ ̄ /
/` 丶_ \_ __/ ´ヽ _
l__\___y´l\/  ̄ ./ . ̄.ー.、
l l l l / /イ/ノ从! \
l-- l- _ソ ! レ´○ ○ l i l
_____Z__ i. l //厂~l i i l ,イ |
A____ヽ ! l//ノ l !i //ノ |
/ l ○i i lゝ´ー-一 i !ノ、 l
\, へl_ i | l´lニ0ニl( ,) |
イー- __ヽ ̄ l/ノ 〈ハゝ ll l !i
へ___/==.、 / | | l l !、
l__ ヾ、 , / ilー|__lいヾ
ー‐、 l>ー、 ll i /´ヽ__ ___ l、`ー`
_l Lヽ __l〉 ヽ `>、 l-/´ ~ー--tイ/ーゝ
‐、−ヽ \/// ´~ ~ ↑
註:薫子です
L16O4G4.D4.B4 F4.A4.F4 G4.D4.B4 F4.DEFRERDRCR以下略
……な、何よコレ?!」
他人事じゃなかった。
「やあおはよう薫子さん」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おはようございます、薫子さん!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
クラス全員が薫子を出迎えた。
「お、おはようございます皆さん。茉清さん、コレって……」
「ん?見ればわかるだろう。チ・ヨ・コ・レ・ー・ト……だよ」
「何で『グリコ』だけ3歩なのよ……わかった!みんなしてあたしの事を担いだつもりなんでしょ。
『ドッキリカメラ』って看板を持ってる人は、今すぐ名乗り出なさい!」
薫子は周囲を見回すが、クラスメイトは皆、とんでもない……と云った感じで首を横にブンブンと振った。
「ははっ、そんな野暮な事をする必要は無いよ。
薫子さんもしかして、未だにわかってないのかな?自分がどれだけ人気者なのか……」
「そーゆー茉清さんは、チョコ貰ってないの?」
「私?私は……」
茉清の机の上にもチョコが積み上げられていた。
「茉清さんだって凄いじゃない」
大体2〜30個と云った所か。
「薫子さんには遥か遠く及ばないよ。かなり早い時間から、沢山の生徒が入れ替わり立ち代りやって来て、
薫子さんの机にチョコを置いて行ったからね。賽の河原を見てるみたいで面白かったよ」
茉清の言葉にクラスメイトは皆、その通り!……と云った感じで首を縦にブンブンと振った。
「何でいきなり例えが暗くなるのよ……」
目の前の状況に薫子は放心状態だ。
しかしそれと同時に、一昨年の瑞穂と同じ体験をしてる……と云う事が嬉しくもあった。
「ま、心配しないで良いよ。先生方には既に伝わっているから。
今日1日は授業中止。このクラスは私達『チョコレートと騎士の君』制作委員会が乗っ取ったから」
「何時からあたしの物語はアニメ化されたのよ……
今起きてるのはアニメじゃなくて本当の事でしょうが!」
「とりあえず薫子さんに、コレを渡しておこうかな」
薫子の言葉をスルーした茉清が差し出したのは、紙製手さげ袋の束だった。
「随分と用意が良いんだね茉清さん……」
「ああ……これは、昨日初音さんが持って来たんだよ。
『明日は大変でしょうけれど、薫子ちゃんの事よろしくお願いします』って、
次期生徒会長のありがたいお言葉まで頂戴してしまったよ」
「は?初音が生徒会長?!」
「何だ知らないの?相変わらず情報には疎いんだな。
あ、そうそう。お礼の文章を書くカードも初音さんから預かってる」
「……」
「初音さんが云ってたよ。薫子ちゃんはお姉さまの事しか考えてないでしょうから……って」
(……出来ない。一言一句否定出来ない……っ!orz)
結局薫子は、授業時間のほぼ全てを、書き取りの宿題……もといカードの記入で費やす事となった。
昼休みはクラスメイト達が極秘で制作していた剣型のチョコレートを皆で分けて食べ、
(生徒会劇で薫子が使用したプラスチック製の剣がモデル。大きさもほとんど一緒。
そこにクラスメイト全員が、自分の名前をホワイトチョコで(寄せ書き感覚で)書き込んだ)
放課後は大谷京花指揮の下、『騎士の君ファンクラブ』のメンバーが、
呆然と立ち尽くす薫子を横目に、薫子宛のチョコを袋に詰め、テキパキと運び出した。
何とか寮に帰還した薫子は、ファンクラブメンバーを寮内に招き入れ、労をねぎらった。
そして簡単なお茶会が開かれ(京花がお茶を淹れた)、ようやく一息つく事が出来たのだ。
(ありがとう京花さん、みんな……)
何とか春一番(違う)をやり過ごし、寮生達は無事夕食の席に座った。
しかし薫子は、明らかに気分を害していた。
恐る恐る初音が声を掛ける。
「どうしました薫子ちゃん?」
「いや、何か昨日ひとりで気合入れてたのがバカみたいだ……って思ったから」
「薫子の様子を見てたら、皆突っ込めなくなっちゃったのよ」
由佳里は呆れ顔だ。
「ふふふっ、私と由佳里ちゃんは一昨年のバレンタインを直接存じ上げていますから。
私の事は兎も角、薫子ちゃんには沢山チョコレートが送られると思ったので、
瑞穂お姉さまにアドバイスをいただいて、薫子ちゃんのフォローをする準備をしてたのです」
用意周到なのは、薫子ではなく奏の方だったらしい。
「はぁ……もう良いですよ。今日は色々とありがとうございました」
薫子は奏達に頭を下げた。
「ところで薫子クン。無事前座は終わった訳だけど、本番の方はどうなのかね?」
「本番って何ですか由佳里さん?」
由佳里の表情がニヤニヤ顔に変わったので、何となく嫌な予感がした。
「今日はあくまで13日だからね。最大の目玉は、薫子『が』チョコを渡す明日14日でしょ。
まさかとは思うけど、チョコを用意してない……なんて事は無いわよね?」
「え゛っ?!」(ギクッ……?!)
「ふふっ、大丈夫ですよ由佳里ちゃん。この前薫子ちゃんに、手作りチョコの作り方を伝授しておきましたから」
「な、ななな……何の事でしょう?」
「へぇ〜、それは初耳ねぇ。じゃアレだ、薫子は型にチョコを流し込みながら……
『瑞穂さん、あたしの想い……受け取って下さい!』なんてつぶやいてた訳だ」
「なっ……何云ってるんですか?!あたしはチョコを作りながらそんな恥ずかしい事は叫びません!……あ゛」
思いっきり自爆してしまった。
「「「お〜っ!」」」
パチパチパチパチ……
3人の拍手が食堂に響き渡り、薫子の顔が真っ赤に染まる。
「ーーーっ!」
「あ、そうそう。明日あたし達は1日中学院に居るから。この寮は好きに使って良いわよ」
「頑張って下さい薫子ちゃん!」
「瑞穂お姉さまのお部屋は、昨日の内に掃除しておきましたから。ゆっくりして下さいね」
「……」
翌14日昼。聖應女学院正門前に、1台のリムジンが到着した。
『完』
以上です。勢いに任せて即興で書き殴ってみましたが、途中で力尽きました。
貰ったチョコの数(重量ではない)が一番多いのは実は由佳里……なんて裏設定も有ったんですが。
本編(7話)は今13k。まだ4分の1にも達しておらず、全部で50k越えはほぼ確実の模様。
「フハハハハ、今までの話は全て前座よ!」などと言う幻聴が聞こえる始末です……orz
それでは駄文失礼致しました。
>>523 ばんくーばーさん、
存分に楽しませていただきました。GJ!
第七話は気長にお待ちしています。
投下します。
ちょっと長いですよ?
バカ話ですよ?
しかも、まりやですよ。
『フレグランス、まりやの失敗』
舞台は3学期バレンタインの後、まりやルート
卒業後に海外留学をすることに決めたまりやは、夜、寮の瑞穂の部屋にいることが多くなった。
どうやら少しでも多く、瑞穂と会話をしていたいらしい。
ベッドに二人並んで腰をかけ、まりやは頭を瑞穂の肩に預けている。
「ねえ瑞穂ちゃん」
「なあに?」
「最近、クラスの女の子たちに囲まれていることが多いわね」
「そうかな。いつも通りだと思うけど」
「傍から見ていて身体を触られることも多いみたいね」
「ううん、そんなことは無いと思うけど」
「気がついてないのね〜。例えば紫苑さまと手を繋いでいるときも多いじゃない?」
「あ、確かにそれはあるね」
「嫌なときは嫌って云ったほうが良いわよ」
「なんで?嫌じゃないよ」
ピクッ
まりやのこめかみに青筋が浮き出る。
しかし顔は笑ったまま、右手を瑞穂の頬に持っていく。
「あらあら瑞穂ちゃん。もしかして楽しいのかしら」
そんなまりやの様子に瑞穂は気がつかないまま。
「どちらかというとそうかも。みんなとホントに打ち解けてきたなあと思えてきたのはつい最近だし。
今までこんなに他の大勢の人と楽しく話をしたことなんて無かったしね」
ぐにゅっ!
まりやが瑞穂の頬をつまむ。
「なるほどね〜。大勢の女の子に囲まれて楽しいんだ、このエロダーは!」
グニッグニッグニッ!
つまんだほっぺを引っ張り回す。
「い、痛ッ、ちょ、止めて。まりや、痛い」
「あらあら、鼻の下だけでなくほっぺたの皮もよく伸びるわね〜」
「あぅ、ま、まりや〜。も、もしかしてなんか怒ってるの!?」
「ん〜?なんであたしが怒る必要なんかあるのかな〜。その理由を教えてちょうだい?」
そういうまりやの表情は笑顔だが、目は全く笑っていない。
「やめてぇぇ。なんだかしんないけど謝るから。御免、まりや〜」
まりやは無言で瑞穂のほっぺたをグニュグニュと捏ね繰り回していたが、やがて「はあ〜っ」とため息を吐くと手を離した。
「イタタ…」
瑞穂はやっと開放されて赤くなったほっぺを手でさする。
そんな瑞穂の横顔をまりやはナニやら思案をしながら眺めている。
暫く考え込んだ後、まりやは両手を瑞穂の胴にまわして胸元にガバッとしがみついた。
「な、なに?今度はナニ?」
「瑞穂ちゃんの香り〜」
「唐突に何を」
暗に体臭がキツイと云われているのかと考える瑞穂。
「さっきお風呂に入ってきたところなんだけど、匂う?」
「そんなこと云ってるんじゃないわよ。瑞穂ちゃんの匂いが好きだって云ってるの」
まりやは瑞穂の首筋に顔を寄せ、クンクンと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「そ、そう?自分では分からないけど変わった匂いがするのかな?」
「ううん。普通に汗の匂い。でもあたしには良い匂いなの。わかる?」
まりやにそう云われて瑞穂の顔が朱くなる。
暫くの間、くんかくんかと鼻を引くつかせていたまりやは、やがて顔を上げて瑞穂を見た。
「ね、瑞穂ちゃん。香水とかつけてみない?」
「へっ?」
「学院にいるとき。瑞穂ちゃんつけてないでしょ」
「必要かな?毎日化粧をしてるけど、僕ってそれで抑えられないくらいに汗の匂いがするのかな?」
「うんにゃ。だけど身だしなみとしてどうかなと思って」
「たまにだけどオーデコロンをつけるときもあるよ」
「そんなぬるいのじゃなくて、もっと香水っ!て感じのフレグランスつけてよ」
「なんで?今までそんなこと云わなかったのに。僕ってそんなひどい匂いがするの?」
そう訊くと、まりやは瑞穂の首筋に抱きついて嬉しそうに云う。
「良い香りね〜〜」
「ちょ、ちょっとちょっと!?」
「勿論、身だしなみって事もあるけど。体育のあととか汗を掻いてるじゃない」
「でも学院の中で香水つけるなんて怒られるんじゃないのかな」
「大丈夫大丈夫。その程度のことで怒られやしないわよ。
前にね、なんかの本で読んだんだけど体臭ってフェロモンを含んでいるんだって。異性を引き付けるの」
「えっ、それってホント?」
「さあね。でも、あたしがこうして引き付けられてるじゃない」
そう云ってまりやが瑞穂の首筋にキスをする。
「…あっ」
くすぐったそうに身をよじる瑞穂。
「それに女性用香水をつければ更に女装に磨きがかかるじゃない。なによりも…」
首に手をまわしたまま、まりやが瑞穂の顔を覗き込んだ。
まりやには珍しく、なんとなく照れているような表情をしている。
「あたしが嫌なの。瑞穂ちゃんの香りを他の人に嗅がれるのが。以前はともかく今はあたしだけの香りなの」
ヤキモチ?をみせるまりや。瑞穂に対してこんな姿を見せるのは珍しい。
どちらにしろそう云って顔を真っ赤にしているまりやを見て瑞穂はとても嬉しくなった。
「まりや…嬉しいっ!」
まりやの頭に手を回し、そのままぎゅっと抱きしめる。
「うぷっ。く、苦しい!瑞穂ちゃん!」
「まりやがそう云うんならつけてみようかな」
「そうそう。消臭スプレーの感覚でつけてみればいいから」
「うん。じゃそうする」
にやっと笑うまりや。
「香水はあたしのをあげるわね?トワレで使わないのがあるし。シャ◇ルの5番なんてどう?かっちょいいわよ」
「なんか聞いたことある名前だね。有名なの?」
当然のことながら瑞穂は香水のことなど全く知らない。トワレと云われても何のことか分からない。
因みにオーデコロンはそういう名前の商品だと思っていたし女性の身だしなみのための匂い消し位にしか認識していない。
「ちょー有名」
「そんな僕でも知ってるような有名なのは遠慮しとく。学院でつけるんだからもっと控えめなやつがいいよ。
えっと、確か寮に来るときに楓さんに揃えてもらった化粧セットに香水があったと思う」
瑞穂がごそごそと鏡台の引き出しを探って、小瓶を一本取り出した。
「あった!ほら、これ」
ビンのラベルをじっとみつめるまりや。
「……これ楓さんがくれたの?」
「うん。使わないからって」
「う〜ん、さすが楓さん。しかもパルファム」
ビンをみて考え込んでいるまりやに何だか瑞穂が不安を感じた。
「なんか拙いのかな。この香水」
「ま、いっか。コレで良いわよ」
※簡単な解説)香水の濃度…パルファム(高濃度)、トワレ(中濃度)、オーデコロン(低濃度)
◇ ◇ ◇
翌日、朝から早速、少量の香水をつけてみた。
朝食時に奏や由佳里が直ぐに気がつき、瑞穂を「お似合いなのですよ〜」「とっても素敵です!」等と誉めそやす。
「さすがは瑞穂ちゃん。どんな香水でもバッチリね」
こんなに簡単に人に分かるような匂いは拙いのでは…と、香水を落とそうとすると、まりやや由佳里たちが、
「せっかく似合っているのにもったいない」
「今日一日だけでもつけてみたら?」
などと止めるので、とりあえず今日はこれで登校する事にする瑞穂。
「にひひ。これで学院中の噂になるわね」
まりやがそう小声で呟いたのを聞き取った由佳里が、不審気な目でまりやを見る。
ちなみに由佳里は、瑞穂とまりやが付き合っているんじゃないかとおぼろげに気がついている。
「香水のことは噂になったら拙いんじゃないですか?」
「いいのいいの。そこからがお楽しみなんだから」
「…そうですか」
まりやのニヤニヤ笑顔を見て由佳里は「またいつものことか」と納得して引き下がった。
寮から学院に向かう通学路。
瑞穂とまりやが手を繋いで登校する。
「お早うございます」
「お姉さま、お早うございます!」
いつにも増して多くの生徒たちから朝の挨拶を受ける瑞穂。
恋人となったまりやとしてはこの人気っぷりを以前のように喜んでばかりはいられない。
(皆はあたしたちの繋いだ手が見えて無いっつーの?)
周りの生徒たちは何ら屈託の無い笑顔で、躊躇いもせず、瑞穂に挨拶をしてくる。
ここ最近、まりやは瑞穂と手を繋いで登校をしてきているのに噂の一つも立たないのはどう云うことか?
(あたしじゃそういう目で見られていないって云うことか。これが紫苑さまだったら違っているんでしょうけど…)
いっそ腕を組んで登校しようかとも考えたが、瑞穂がそれは流石に恥ずかしいからと強く拒否した。
――何故でしょうか?今日のお姉さまは…
――ええ。何だか大人っぽいというか、アダルトな感じで
香水効果なのか、瑞穂をみて小声で話し合う生徒たち。
瑞穂は律儀に毎回、ニッコリと微笑みながら挨拶をかえしている。
廊下でまりやと別れて瑞穂がA組の教室に入ると、紫苑が挨拶をしてくる。
「瑞穂さん、お早うございます」
「お早うございます。紫苑さん」
「何だか今朝の瑞穂さんは雰囲気が少し違いますね」
「そうですか?」
「少し大人っぽいような…」
近寄ってきた紫苑が鼻をヒクヒクとさせる。
「あら、これは」
直ぐに紫苑には分かったようだ。
「分かってしまいますか?寮を出るときに拭ってきたのですけど」
「……この香りは」
紫苑の顔がどんどん近づいてくる。
咄嗟に瑞穂の身体が後ろに下がろうとすると、紫苑が瑞穂の手を掴んで引き止める。
「そのままで」
「し、紫苑さん?」
「……」
クラスの他の生徒たちが何事かと見つめている。
目を閉じて瑞穂の首もとの匂いを嗅いでいる紫苑。
やがて瑞穂にガバッと抱きつくと顔の匂いを嗅ぎだした。
――キャ〜〜
静かな歓声があがる。
「トップがベルガモット、しかし単にシトラスではない。なるほど。『夜間★行』ですね」
ようやく紫苑が身体を離した。
瑞穂の顔は真っ赤。
「ななな、何ですか、それは」
「瑞穂さんがつけていらっしゃる香りです。知らなかったのですか?」
「ええ。たまたま実家から持ってきたものをつけてきたのですが、名前など気にしていませんでした」
と、昨晩まりやがビンを見て考え込んでいたのを思い出す。
それまで興味深そうに眺めていた美智子が寄ってきて、瑞穂の身体に顔を寄せた。
「まあ〜これがそうですの。私も初めて知りましたわ。流石、紫苑さまはよくご存知ですね」
「どれどれ」
圭も寄ってきた。
「えっ?えっ?」
二人に身体の匂いを嗅がれて居心地が悪そうにする瑞穂。
「もしかしてコレって有名なんですか?」
瑞穂の問いに紫苑がニッコリと微笑む。
「はい。名香です」
「まりやったら…。云ってくれれば良かったのに。でも何故、お二人とも珍しそうに嗅いでいるんですか?
有名とはいえたかが香水で」
その問いに美智子が答える。
「あら瑞穂さん。私は『夜間★行』をつけたことも嗅いだことも有りませんでしたからね」
「え?何故です?もしかして高価なんですか」
「まあ、我々が普段使っているオーデコロンより高いのは確かですけど。それ以前に私には似合いませんもの」
美智子はそう云って笑う。
瑞穂には益々分からなくなってしまう。
「どう云うことなんでしょうか?紫苑さん」
「年齢的なということですよ、瑞穂さん。私たちが普段、つけているものはティーンエイジ向けのシトラス系が多いです。
フローラルもありますが学校で大人の女性向けの濃い香水をつける人はいませんから」
※簡単な解説)シトラス …レモンなど柑橘系の香り。オーデコロンに多く使われる。
フローラル…バラなどの花の匂い。
そう云われて自分のつけた香水の香りがちょっと変化していることに気がついた。
「あれ?つけたときはもっと強い柑橘系な香りだったような…」
「変化しているのですわ。徐々に柔らかなアイリスや水仙の香りになっていくのが特徴です」
「紫苑さん。もしかしてこの『夜間★行』ってそれほどに有名な香りなんですか?」
「はい。『そういう催しの場』では大抵、多数の女性がつけていらっしゃるくらい有名です。
そういう香水を知らずにつけていても良くお似合いです。流石は瑞穂さん」
紫苑
「わわわっ」
慌てる瑞穂。
体臭を目立たせないようにつけた香水が、逆に物凄く目立ってしまっている。
「シトラス系の香りの中にひとりだけフローラル系の香り。大人の女を強調するとはやるわね、瑞穂さん…」
ぼそぼそと圭が云う。
「き、強調なんかしてませんっ」
「でも周りの子猫ちゃんたちはアナタにメロメロ」
オロオロとしている瑞穂の周りに、数人の女生徒たちが寄り集まってきている。
「素敵な香り」
「流石はお姉さま」
圭は唇の端をクッと歪ませた。どうやら楽しいらしい。
「くちびる盗む早業は噂どおりね、シンドバッド」
「何も盗んでいませんっ!それに誰がシンドバッドですかっ!」
「じゃ美人怪盗キャッ○アイ」
「不穏当なことを云わないでくださいっ!」
「そう云えばあの美人怪盗の愛用の香水もコレだったわ」
「なんのことですかっ!私は愛用してませんっ!」
圭の発言に立て続けにツッコミを入れ続けてハアハアと息切れをする瑞穂。
「すぐに更衣室で拭ってきます!」
「瑞穂さん」
タオルを持って出て行こうとする瑞穂を止める紫苑。
「迂闊に素肌を見せないほうが良いと思いますが」
「…うっ」
今まわりにいる女生徒たちは更衣室までついてきそうだ。迂闊な真似をすると男だとばれてしまう。
「じゃあ、おトイレの中で…」
「いいじゃありませんか。折角似合っているんですし」
まりやと同じようなことを云う。
「でもこんな香水、つけていたらシスターに怒られるんじゃないですか?」
「今日一日くらい大丈夫ですよ」
紫苑は軽く返事をする。
「本当に?」
期待する瑞穂。
「多分」
紫苑の返事に根拠は無かった。
「瑞穂さん、その香水を持ってきていますか?」
「ええ。これです」
瑞穂はカバンの中から小さな詰め替え用のスプレーを取り出した。
このスプレーの中に『夜間★行』を詰めて持ってきていた。
鼻を寄せて匂いを確かめる紫苑。
「ああ、確かにこれですね。瑞穂さん、これはトワレでしょうか?」
「えっと、まりやさんはパルファムとか云ってましたが」
「……それはまた」
「えっ、駄目なんですか!?」
「似合ってらっしゃるから良いのでは。ただ初めてつけるにしては濃いのではと思ったものですから。
それにしても今までつけたことの無い瑞穂さんが何故急にこのようなものを?」
紫苑にそう訊ねられて昨夜のやり取りを思い返す瑞穂。
(まりやは身だしなみだと云っていたけれどあれはちょっと違うよね)
まりやの様子を思い出し、少し嬉しくなる。
「瑞穂さん、頬が弛んでいますよ」
いつの間にかニヤけてしまったらしい。慌てて表情を引き締める。
「え、えと、まりやさんに女性の身だしなみだからって云われまして」
「まあ、まりやさんが?」
首をかしげる紫苑。何か目的があるのではないか?と、まりやの狙いを考え始めている。
「……はあ〜」
やれやれとため息を吐く瑞穂。勿論、瑞穂はそんなことを考えもしない。
(じゃあたしもつけるかな)
まりやは教室に来てすぐ瑞穂に分けて貰った『夜間★行』を詰めた小瓶を取り出し、洗面所に向かおうとしていた。
瑞穂と同じ香水をつけるためである。
昨夜、まりやが瑞穂に香水をつけるように薦めたのには実は訳が有った。
まりやは卒業後、服飾デザイナーの道に進むために海外留学が決定している。
その間、瑞穂と離れ離れになる。自分で選んだ道なのでそれは良いのだが、心残りがひとつ。
それは瑞穂のこと。瑞穂はモテる。モテすぎる。
それも姉としてモテているのではなく、みんなラブラブ状態で近寄ってくる。
ごく一部の人間を除き、学院では女で通っているにも関わらずだ。
(紫苑さま、貴子、由佳里、奏ちゃん、その他大勢。何故よっ!)
こんなモテモテを放置したまま留学など、とても不安でしょうがない。
となれば、ここはひとつ瑞穂の所有権を皆に明確に示しておかなければなるまい。
そう考えてここ最近、登下校時に手を繋いでみたり、休み時間に意味も無くべたべたと甘えてみたりしてた訳だが、
全く、一向に、瑞穂×まりやの噂が立たないという有様。
(何故に!?あえて無視されているのか!?それとも気がついていないのか!?)
気がつかれていないというのならば、さらなる行動に出なければならない。しかしながら瑞穂がそれを拒否する。
腕を組んだり、人前で抱きついたりキスしたりすれば良いと思うのだが「噂になると恥ずかしいし」などと云う。
(乙女かっ!どこのゲームのヒロインよっ!!)
なにもフレンチキスをしろと云っていない。ソフトキスでいいのだ。
しかし嫌がる瑞穂に強引にそれをやるとまるっきり乙女を襲う犯罪者になってしまう。
(あっちが男でこっちが乙女だっちゅうの)
まりやとしては全くじれったくてしょうがない。
だけど無理だというのならば仕方が無い。次の手を打たなければならない。
そうして昨夜、考えたのが『フレグランス作戦』
作戦の内容はこうである。
1)瑞穂に珍しい香水をつけさせる
↓
2)学院であの香水は何なのか噂になる
↓
3)まりやも同じ香水をつける
↓
4)皆が聞いてくる「まりやさん、その香りはお姉さまと同じでは?」
まりや答える 「あら、ばれてしまいましたか」
↓
5)頃合をみてまりやが瑞穂のとなりに行って手を繋ぐ
皆が聞いてくる「まりやさん、お姉さまと同じ香りでしかもとても親しそう。もしかして?」
まりや答える 「あら、ばれてしまいましたか」
↓
6)学院中公認となる。これ以降、瑞穂に手を出したらまりやの敵になるため、誰も手を出さなくなる。
↓
7)作戦成功
(完璧!!あたしの作戦、完璧!!)
意気揚々と洗面台に向かうまりや。
途中、顔見知りに会い声をかけられる。
「ずいぶんと機嫌がよさそうですね。何か良いことがありましたか?」
「ええ。これから良いことがありますの」
上機嫌で返事をし、洗面台の前で小瓶のふたを開けようとした時、となりの女生徒数人の立ち話が耳に入った。
――聞きましたか?お姉さまの香水。素敵な香りなんですって
――流石はお姉さま。とてもよくお似合いで
――紫苑さまとお姉さま、同じ香水をつけていらして凄く素敵ですわ・・・
ブウゥゥゥ!!!
噴き出すまりや。
「な、な、なっ!?」
のた打ちまわっているまりやを怪訝そうな表情で見つめる周りの生徒たち。
「どうかなさいましたか?まりやさん」
「い、今のお話は!?」
「ええ。もう教室中はその話題で持ちきりですわ。お二人はとてもお似合いのカップルではないかと…」
やり場の無い怒りに身体をブルブル震わせるまりや。
その時偶然、由佳里が洗面所に入ってきた。
「あ、まりやお姉さま。早速お姉さまの香水が評判になり始めてますね!」
良かったですねと楽しそうな表情の由佳里。
まりやは無言で由佳里の肩襟をむんずと掴むと一番奥の個室トイレへ引きずりこみ、バタンッ!と強い勢いでドアを閉めた。
「ナニがそんなに楽しいかぁぁっ!!」
「ええっ!!何でですかーっ!!・・・ぐええっ!?」
紫煙
まりやは遺憾ながら作戦の挫折を認め、早々に撤収を決定した。
(放っていたら害毒が広がる一方だしね)
まりやは生徒会室の厳島貴子のところへ向かった。
「お早うございます、貴子さん」
「あら、まりやさん。お早うございます。珍しいですわね、私のところへ来るなんて」
「親友に対してつれないお言葉」
「親友になった覚えはありませんが?」
「学院内の不祥事をほじくって己が権力を誇示することが生きがいの貴子さんに朗報を」
「喧嘩を売りに来たのですか?」
「っと、失礼。誤解を与えてしまったようですわね」
「誤解も何もその様にしか聞こえませんが?良いですか、私は不正や間違ったことを職務として正しているだけです。
そこの所をお間違えの無いように」
「成る程。単なる愚直でしたか」
「貴女が何を云っても腹が立つのは何故でしょうか?」
「まあまあ。実は瑞穂さんが今朝から香水をつけて登校してきていて、その事が生徒たちの間で噂になり始めてますの。
これは注意すべきことだとは思いません?」
「お姉さまが?…まりやさん。何故それを私に云いに来ましたの?」
疑うような目つきで貴子がまりやを見る。
「何故って?」
「お姉さまに関することでしたら何でも庇う立場にいる貴女が、何ゆえにわざわざそれを云いに来たのかという事です。
噂になると拙いということでしたら貴女がお姉さまに注意すれば宜しいのではありませんか?」
「……」
まりやが注意できるわけが無い。
「それとも何か云えない訳でも?原因が貴女だとか?」
「良いじゃない、そんな細かいこと!」
「やれやれ図星でしたか。まりやさん、貴女、私に自分の失敗の尻拭いを頼みに来たのですね」
「ねえ、お願いっ!貴子ぉ〜!」
まりやは態度を急変させ、下手に出ることにした。
「エルダーシスターズ(瑞穂&紫苑)に注意することが出来るのは同格の貴子しかいないのよぉ〜」
「何で私がそんなことを…」
「お願いお願いお願いっ!貴子さ〜ん!」
「全く…バレンタインの時といい、都合の良いときにばっかり頼ってくるんですから」
そう云いつつもまりやに頼られて、貴子は満更でもない表情をしている。
「ま、仕方ありませんね。今回だけですよ。お姉さまの香水が風紀の乱れになりそうだというのも問題ですし」
「ん〜有難う、貴子さん!感謝してるわ!愛してる!」
「気味悪いことは云わなくて結構。お姉さまのその香水がドレスコードに引っかかるかどうかは分かりませんが、
それとなく注意を与えてくれば良いのですね?」
「注意するだけでなく、出来れば香水を落とすように云って欲しいんだけど」
「そこまでの約束は出来ませんわ」
2時間目の授業が終わる頃には、瑞穂と紫苑の香水は学院中の話題になっていた。
その噂を聞きつけて、貴子が瑞穂と紫苑のところへやってきた。
瑞穂の周りを紫苑と数人の生徒たちが囲んでいたが、貴子を見ると紫苑以外は皆、あちこちに散っていってしまった。
「御機嫌よう、お姉さま。紫苑さま」
「御機嫌よう、貴子さん。何か御用ですか?」
「噂を聞いたのですが、お姉さま。香水をつけていらっしゃるとか」
そう云って貴子は瑞穂の制服に控えめに顔を寄せて香りを確かめる。
「…ええ。そうなの」
これは貴子に注意指導を受けてしまうかと、及び腰になる瑞穂。
「確かにこれはちょっときつめの香水ですわね。学生が学校でつけるものとしてはどうかと思いますが」
やや非難口調の貴子。
しかし隣にいる紫苑は全く気にした様子を見せずに、
「瑞穂さんによくお似合いだと思いませんか?ね、貴子さん」
そういう風に紫苑に話しかけられると貴子としては、とても非難口調で話しづらい。
「そ、そうですね」
同意せざる得ない。
「瑞穂さんの魅力がとても際立って、何だかアダルトな感じが滲み出てくるようです。ね、貴子さん」
「え、ええ。おっしゃる通りですわ」
「貴子さん。そんな無理に紫苑さんに合わせて貰わなくても良いんですよ。貴子さんはこの香水の事でいらしたんでしょう?」
瑞穂が訊ねると、貴子がやや表情を硬くして頷く。
「は、はい。そうなのです。実は学院内につけてくる香りとしては少々強いのではないかとの声がありま…」
「ほら、貴子さん。これが瑞穂さんが今つけている香水ですよ」
紫苑が貴子の言葉を遮るように、香水の入った小瓶を取り出して見せた。
貴子は香りを嗅いでみた。
「はあ。これがそうですか。…クンクン、校内でつけるにはやはり…」
「この香りの名前、分かりますか?」
貴子の話を全く物ともせず、会話を進める紫苑。
出来るだけ厳しい表情をしようとしている貴子も立て続けに拍子をはずされて、少々やりづらい。
「え、あ〜、先ほどから何だか記憶にある香りだと思っていたのですが。『夜間★行』でしょうか?」
「流石は貴子さん」
名前を聞いて合点がいったように頷く貴子。
「やはり。到底、学内につけてくるようなシロモノでは」
「私も瑞穂さんにお借りして、先ほどからつけてみたのですが如何でしょうか?」
「…その、似合っていらっしゃると…思います…」
「まあ!有難う。貴子さん」
紫苑は貴子の手を取り、両手で優しく包みながら微笑む。
貴子の憧れ、理想の人である紫苑に手を握られ、ボンッと音をたて貴子の顔が瞬時に朱くなる。
「あ、あの…紫苑さま…」
気持ちが上擦ってしまい言葉がたどたどしくなってしまう。
「瑞穂さんほどではなくても、多少は似合っていると云って貰えるとやっぱり女性として嬉しいものですね」
「そそそ、そんなことは。紫苑さま、ととととても素敵ですわ」
「そうですか!嬉しい」
紫苑が嬉し気に掴んでいた貴子の手を、自らの右の頬に当てた。
――きゃああ〜〜
遠巻きにこの3人を見ていた生徒たちから大きな歓声があがった。
この3人の周囲だけが他の空間と違った。何だかバラが舞っているよう。
――素晴らしい!素晴らしいものを見ました!
――今の光景は網膜に永久保存版でした!
――今の美しいシーンを見れただけでこの学院に通っていて良かったと心から思いましたわ!
周りの喧騒とは対照的に当の貴子は落ち着いているようにみえる。
それがまた見ている側からは映画かドラマのワンシーンのように非現実的に思われて興奮させているのだが、実は貴子はこの時、
「きゅうぅぅ〜」
脳回路がスパークして立ったまま失神していた。
「・・・ガッデム!!」
そんな華やかに盛り上がっている教室の中をドアの影から見ているまりや。ただひとり、呪いの言葉を吐いていた。
顔を真っ赤に上気させフラフラとした足取りの貴子。
洗面所の前で背後から肩を叩かれた。
「ヘイ、プレジデント!」
「ま、まりやさん」
・・・・・・ゴゴゴゴッ!!!!
振り返ると身体から凄まじいコロナを発しながら微笑んでいるまりやがいた。
「あ、あの、その、実はですね…」
「分かっております。見ていましたから。あれじゃ仕方ありませんでしたよね〜」
まりやのこめかみに浮き出る青筋。
「そ、そうなんですの。仕方なかったんですの」
「うふふふふ。ところで貴子さん。その香りは?」
貴子の身体からは瑞穂や紫苑と同じ香りがうっすらと匂っていた。
「こ、これは紫苑さまにうつされたんですわ、きっと」
そう云いながら貴子は紫苑に手を握られたり、軽く抱きつかれたりしたことを思い出して、またもや頬を朱くした。
自然、表情も弛んでしまう。
「そう。うつされたの」
「ええ。うつされてしまったんですの」
「ふ、うふふふ」
「お、おほほほ」
ふたり見合って笑い合った後、いきなりまりやは貴子の肩襟を掴むと一番奥の個室トイレへ引きずりこみ、
バタンッ!と強い勢いでドアを閉めた。
「ナニがそんなに可笑しいかぁぁっ!!!」
「ええっ!?ひいぃぃぃー」
支援
香水の件は教師たちも気がついた。
締め切った教室内で特定の生徒たちから香水の香りがするのだから当然である。
しかしその生徒が、学年主席と次席であるエルダーと前エルダー、ついでに香りを移されたのが三番の生徒会長だった為、
特に何も注意を受けることなく黙認された。
A組担任に至っては、「あら良い香り」と云って喜ぶ始末だった。
昼休み、教室で大勢のクラスメートに囲まれてお弁当を広げている瑞穂のところへまりやがやって来た。
「瑞穂さん、ちょっとついて来て」
一緒にお弁当を広げていた紫苑たちに断わりをいれて瑞穂を連れ出す。
「何処に行くの?まりやさん」
「ここよ」
連れてきた所は洗面所。
「え?何で?」
お昼を食べようとした所でトイレに連れてこられて、瑞穂は戸惑ってしまう。
「いいから!さっさと入る!」
まりやは強引に半ば押し込むような感じで、一番奥の個室トイレへ引きずり込んでバタンッ!と強い勢いでドアを閉めた。
そんな様子を洗面所の近くにいた生徒たちが、何事かと見ていた。
――今のは、お姉さまと御門さんでしたわね
――まりやさん、なにやら怖い顔をなさってましたが…
狭いトイレの個室の中、洋式便器を挟んで瑞穂とまりやが向かい合っている。
「な、何なの?まりや」
「瑞穂ちゃ〜ん。香水もそろそろ薄れてきたでしょう。香り追加のお時間よ〜」
「香水なら教室のカバンの中だけど。何でこんなところに…」
「イヤイヤイヤ。新しいフレグランスを調達してきたから」
まりやはそう云って、ニヤ〜ッと笑うと背後から一本のスプレー容器を取り出した。
瑞穂はその容器に印刷されている商品名を見た。
『消臭・芳香剤 ファブ○ーズ』
「ええええええっっ!?」
「さっ、これで新たに香りをつけましょ」
「いや、駄目、それ駄目。無理無理無理。そもそも消臭剤だし!」
「御免ね〜。学院内で手に入るものを探したんだけどこれしか無かったの」
「どどど、何処をさがしたのっ?」
「掃除用ロッカーの中」
「そんなの駄目!」
「大丈夫。瑞穂ちゃんなら何でも似合うから。保障する」
「そんな保障いらない」
慌てて瑞穂はトイレから出ようとドアに手を伸ばす。しかしまりやが先回りして立ち塞がった。
「へっへっへ、大人しくしな!子猫ちゃん。痛くしないからさ」
「嫌々!お願い!やめて、まりや!」
「そんな可愛くお願いされたら、尚更やめられないってもんよ」
まりやが瑞穂の頭から、勢い良く『ファブ○ーズ』を噴射する。
「やっ!酷い、本当にそんなのをかけるなんて!」
「まだまだこんなもんじゃないわよ〜」
瑞穂は必死に逃げ回るが、なにしろ狭い個室の中。
逃げ場など無く、抵抗するもまりやに抑え込まれて消臭剤をかけられる。
まさか、まりやを突き飛ばすことも出来ず結局数分間に及ぶ格闘の末、
まりやともども『ファブ○ーズ』まみれになってしまった。
「とほほ。あ〜あ、べちょべちょになっちゃった」
「ふ〜。これで良し」
満面の笑みで満足そうに頷くまりや。
狭い個室で暴れまわって、顔色が朱く息も荒いふたり。
「まったく信じられないことをするわね、まりやは」
「にゃははは〜」
はぁはぁと肩で息をしながら、やっとまりやが開放したドアのロックを外して表に出る瑞穂たち。
さてその頃、トイレの外側では…。
――何かあったのでしょうか?喧嘩でしょうか?
――さあ?御門さんがお姉さまを連れてこのトイレの中に…
――同じ個室にふたりで!?
まりや達が入った個室の前に生徒達が集まり始めていた。
普段から刺激に飢えている女子校のこと。
少しでも面白そうなことが起これば、すぐに人が集まってくる。
――中から話し声が…
数人が近寄って、中の様子を窺おうと聞き耳を立てる。
<・・・何なの?まりや・・・>
<イヤイヤ・・・新しい・・・>
――何の話でしょうか
<えええっ!・・・>
<・・・これで・・・つけましょう・・・>
<・・・だ、駄目、無理・・・>
――!!!
<大丈夫。・・・瑞穂ちゃん・・・する・・・>
<そんな・・・>
女生徒たちがわらわらとトイレの前に集まってきた。
全員、無言で手に汗握りながら聞き耳を立てている。
<へっへっへ・・・子猫ちゃん・・・痛くしないから・・・>
<嫌々!お願い!やめて・・・>
<そんな可愛く・・・尚更やめられないって・・・>
ドタン!バタン!動き回る音。
プシューと何かの音。
そして合間合間に聞こえる、「嫌々!」という瑞穂の声と「へっへっへ」と云うまりやの笑い声。
トイレの前にいる生徒たちは全員もう顔が真っ赤。
しかし誰も中に止めに入ろうとはせず、ただ固唾を呑んで聞き入るばかり。
<・・・酷い・・・そんな・・・かけるなんて・・・>
<まだまだこんなもんじゃないわ・・・>
ドタン!バタン!
暴れまわる音が続き、やがて音が静まった。
そして瑞穂の悲しげな声。
<あ〜・・・べちょべちょになっちゃった・・・>
<ふ〜、これでよし>
――・・・・・・
やがてドアのロックが外れる音がして、瑞穂とまりやが表に出てきた。
「…えっ!?」
立ち竦む瑞穂。
ドアの前には黒山の人だかり。
皆、一様に硬直したような表情で出てきた瑞穂とまりやを見つめていた。
「な、なに?どうしたんです?皆さん」
瑞穂とまりやは荒い息で、うっすらと汗を掻いていた。顔も朱い。
――・・・い
「い?」
――いやぁぁぁーー!!!!きゃあぁぁぁ!!!!
校舎が震えたかと思わんばかりの大音響!悲鳴の大合唱。
――お姉さまがっ!お姉さまが穢れてしまった!
――あああっ!私たちのお姉さまがっ!獣欲の餌食に!
――御門さんがとんでもないことを…!
――こんなことなら私が先に…!!
叫ぶ者、泣き出す者、怒り出す者、失神する者、何故だか分からないがやけに興奮して喜んでいる者。
洗面所一帯は大勢の生徒たちの興奮の坩堝となっていた。
「一体なんなの・・・?」
瑞穂とまりやはただ呆然と立ち竦むのみだった。
〜えぴろーぐ〜
皆の誤解を解くのは大変だった。
半狂乱になって詰め寄ってくる生徒たちが多数いた。
生活指導のシスターにも呼び出された。学院長や担任の耳にも入ったようだ。
皆が想像しているようなことは一切無いと云っても、では何故、トイレで消臭剤をかぶるような羽目になったのかと、
説明を求められても非常に難しい。
そもそもの発端から説明しなければならなかったのだが、当然、瑞穂が男であるということはばらす訳にはいかない。
嫉妬したまりやが暴走したこと。
これが全てなのだが皆に理解して貰うためには瑞穂とまりやが付き合っているという事を云わなければならない。
そうして、なんだかんだの挙句、瑞穂×まりやの性別を超えたカップルが学院公認となった。
その夜、寮のリビング。
寮生4人集まって、お茶を飲みながら談笑している。
「まりやお姉さま、おめでとうございます」
まりやと瑞穂が晴れて公認カップルとなったことを由佳里は素直に喜んでいた。
「奏、おふたりが付き合っていたなんて気がつかなかったのですよ〜」
奏も驚いていたが、やはりふたりがカップルとなったことを喜んだ。
「でもよく考えればお二人がお付き合いすることは、ごく自然なことだと思うのですよ〜」
「そう?」
「はいなのです。お二人は幼馴染なのですし」
「由佳里にも色々世話をかけたわね」
「ええ、本当ですよ」
「おっ、云ってくれるわね」
そう云って笑うまりやも晴れ晴れとした笑顔。
とりあえず瑞穂の所有者宣言も計画通り?果たせたことだし紫苑も、
「流石はまりやさん。完敗ですわ」
そう云ってくれたのでほっとしているのだろう。
紫苑、貴子、由佳里、奏の四人が瑞穂の恋人争いから手を引いてくれれば充分である。
「だけどトイレがキッカケになるなんて何と云うか、あまり…」
瑞穂が苦笑する。
確かにスマートとは到底云えない。
まりやも最初は、
「なんであたしが悪役なのよー!トイレで手篭めにしたって皆の記憶に残るのよっ!」
と怒り狂っていたが、時間がたってくると徐々に落ち着いて考えも変えた。
「ま、いっか。これだけ強烈な印象だったら誰も忘れないだろうし」
「流石はまりやお姉さま。最強のポジティブ思考です」
「あたしと瑞穂ちゃん。これがホントのクサイ仲ってね」
「…まりやお姉さま。最低の親父ギャグです」
Fin
お粗末さまでした。
途中、支援を入れてくれた方。
ほんとに助かりました。感謝。
GJ!
お疲れ様でした。
次回作も期待しております。
GJ!乙です。
楽しませて頂きました。
結構、面白いです
ID:iHVOWmLJ0は目障りなことをするな!
>>559 連続投降規制対策の支援って知らないの?
ID:iHVOWmLJ0さんは手助けしたんですよ。
だからL鍋さんも感謝してるのです。
ばんくーばーさんもL鍋さんもGJ!
楽しく読ませていただきました。
まだ知らないけど、連投しすぎるとさるが来るそうな・・・
そうすると投稿規制でなかなか書き込みできなくなるらしい。
そこで合いの手のように何レスかに1回、別のIDで書き込みをすることになっている。
これを支援という。
紫苑や紫煙はこれをもじったもの。
L鍋さん面白すぎます
今回も最後まで紫苑さまのターンかと思ったw
由佳里誕生日おめでとうSSキボン
以前は申し訳ありませんでした。
私はまとめサイトからこちらに入ってきたので、ここもまとめサイトの一部で、
まとめサイトのルール=ここのルールと今まで錯覚していました。
>>565 遅くなりましたが、投下させていただきます。
急遽書き上げたので、推敲もへったくれもありませんが(今までの作品も五十歩百歩か……)
よろしくお願いします。
僕が大学4年、由佳里が大学2年の2月……。
「瑞穂さん、こんな子供だったんですね……」
僕は、過去のアルバムや日記などを由佳里に見せていた。
「恥ずかしいから、あんまり睨むように見ないでほしいな……」
「え? 私、そんなに睨むようにしてました?」
「うん。もうすごい表情で」
由佳里が驚いて振り返る。お料理を僕が食べる時も同じだったっけ。
「あわわ、ごめんなさい! でも、どれも可愛らしくて素敵ですよ?」
「可愛らしい……か」
「瑞穂さん……?」
考え込んでいた僕を、由佳里が不安そうに見る。
「昔はそう言われると苦痛だったけど、由佳里に言われるなら悪い気はしないな、と思って」
由佳里は安堵の笑顔を浮かべたかと思うと、途端に照れた表情になった。その表情が変化する時がたまらない。
〜由佳里は瑞穂のマイフェアレディ〜
「あれ?」
それからしばらく昔探しをしていたら、不意に由佳里がタンスにしまわれたいくつもの女性物の服を見つけた。
「これは?」
「ああ、それは昔まりやに無理やり女装させられた時の服だよ。捨てるのも色々問題があるからそのままにしておいたんだ」
まあ僕としては、その問題については散々悩んだり対処が裏目に出たりしたこともあったのだけど、
そこまで言うことはないよね。
「そうですか……」
「由佳里?」
「い、いえ、なんでもありません。十分見ましたからもういいですよ。ありがとうございました」
「そう……いいよ。由佳里が喜んでくれるなら僕も嬉しいから」
「瑞穂さん……」
「あ、そういえばもうすぐ由佳里の誕生日だね。由佳里は何か欲しいものある?」
僕と由佳里はしばらく2人の世界に浸っていたけど、現実の世界に戻ったと同時に思い出した。
「欲しいもの、ですか? 私は瑞穂さんがくれるものでしたらなんでもいいですけど……そうですね。考えておきます」
「お願いするね。じゃあおやすみ、由佳里」
「おやすみなさい」
そして2月17日……。
「瑞穂さん、ちょっといいですか?」
「うん、いいよ」
部屋に入ってきた由佳里を迎え入れると、ベッドに寄り添うように並んで座った。
「瑞穂さん、明日の誕生日プレゼントなんですけど、2つお願いしてもいいですか?」
「2つって?」
「まず1つ目ですけど、前に見せていただいた瑞穂さんが女装した時の服、サイズが合うのを私にいただけませんか?」
「いいよ、誕生日プレゼントがそんなのでよければ。僕も苦い思い出から解放されて一石二鳥だし」
僕から見ればある意味願ってもない提案をためらいがちに言う由佳里に、思わず苦笑。
「あはははは……」
「それで2つ目は?」
「それを着ている私と一緒に踊ってほしいんです。瑞穂さんも私に合った服装をして」
「わかった。じゃあ、みんなに聞いてみるから、服を選んでくれる?」
「はい!」
そして2月18日、誕生パーティーが終わった後、約束どおり由佳里と2人でダンスをする場所に移る。
「どうですか、瑞穂さん?」
僕が待っていると、僕のおさがりの衣装に着替えた由佳里が出てきた。
「うん。よく似合ってる。すごくかわいいよ」
まず由佳里が着替えた服は、プリンセスドレス。以前国交親善パーティーでドレス姿の由佳里を見たけど、
こっちのドレスはあどけない可愛さが引き立っている。
「それでは踊っていただけますか、シンデレラ姫」
「はい、王子様」
僕が手を差し出すと、由佳里は僕の手をとって踊り始める。
「え……?」
気がつくと、僕は由佳里にリードされていた。いつの間に僕をリードできるほどうまくなったんだろ?
「どうしたんですか、瑞穂さん?」
「いや、なんか夢の中で女神様と踊っているみたいな気がして……」
これはウソじゃない。今由佳里と踊っていることが、現実の光景なのに現実じゃないような錯覚を感じるんだ。
「もう、瑞穂さんったら、お世辞を言っても何も出ませんよ?」
「僕はこんなお世辞を言えるほど器用じゃないですから」
まあ、僕も由佳里の表情が赤くなっていることから、照れ隠しだということは薄々気づいてるけど。
「でもこの衣装って、瑞穂さんが昔着ていたん……ですよね?」
「そうだよ。そう思うと複雑だな。昔僕がまりやに着せられていた服を、今由佳里が着ているなんて」
「………」
僕が言うと由佳里は恥ずかしそうに黙ってしまった。
「どうしたの?」
「あ、でももちろん洗ってあるんですよね?」
う……それを聞かれると痛い。
「じ、実は洗ってないんだ。だって、もう着るのはいやだと思ったし、だったら洗う理由がないから……」
「えっ!?」
由佳里が驚いた表情をする。誤解されてしまうかも……。
「あ、勘違いしないでね。それ以外の衣服は義母さま(=楓さん)がいつも洗ってくれているから」
そう言ったものの、由佳里の恥ずかしそうな表情は変わらない。
ダンスが一区切りすると、由佳里は別の衣装に着替えて僕と踊る。
心なしか、以前より顔が赤く、うっとりとしてるような……。
「瑞穂さん、今日はありがとうございました!」
「ううん、僕もいろんな由佳里と踊れて嬉しかったよ」
「瑞穂さん……」
由佳里がゴスロリやメイド服、チャイナドレスなど僕のおさがり……を一通り着てのダンスが終わり、
僕たちは普段着に着替えた。
「でも、由佳里も僕をリードするくらい上達するなんて、すごいよ。本当にダンスが好きなんだね」
「ダンスが好き……というより、瑞穂さんとダンスするのが好きなんですよ」
「そう。じゃ、ダンスの続きをやろうか?」
「えっ……?」
「だって、由佳里ったら、あんなうっとりした顔するんだもん。僕も限界が近づいてきちゃって。
だから部屋に戻って夜のダンス、しよっか?」
僕はそう言って由佳里をお姫様抱っこで部屋に連れて行く。
「あん♪」
Fin
以上です。
由佳里ちゃん、こんな作品で申し訳ありません。
これに不満な方は(私もですが)新たに聖誕祭SSを書いていただけると助かります。
それでは、お目汚し失礼いたしました。
嘘をつくなら少しは頭つかえばぁ
>私はまとめサイトからこちらに入ってきたので、ここもまとめサイトの一部で、
>まとめサイトのルール=ここのルールと今まで錯覚していました。
こんな戯言あんたとその仲間以外誰も信じないよ。
投稿し始めて最初頃ならあり得なくもないが、アンタ2年以上前から投稿してるだろう。
なのに最近まで気づかなかった。2chも知らなかった。という事ですか?
もう少し考えて嘘つこうよ。
>>574 ありがとうございます。
>>575 それは私の感覚と投稿方法の問題です。
確かに投稿を始めて2年以上は経ちますが、それ以前は2chには入らなかったし、
このスレに投稿する時もまとめサイトから入って1スレ分投稿が終わったらすぐに「戻る」でまとめサイトに戻って次のスレ分を
……というのを繰り返していましたし、
スレを立てたときも深く考えずに「色々難しいな」で終わってましたし。
その入り方と投稿方法のせいで今までまとめサイトと切り離して考えられなかったわけです。恥ずかしながら。
>>575 釣り乙。
こんどはSS書いて釣ってくれ。
578 :
名無しさん@初回限定:2009/02/22(日) 16:30:53 ID:/MrmE6gsO
あ〜あ、やっちまったなあ〜。東の扉がココの引導渡したな。
コミケでは、まとめサイトの管理人以下関係者がはっちゃけすぎて、「正直きもい」という事で次回はジャンル替えするサークルがいくつか出るようだし。自分で首絞めてるバカばっかりかな?
枯葉剤ばらまいてくれるなたのむから
>>578 お前が余計な毒撒くなボケ
つまらないと思ったら無視しろ
>>579 まあまあ・・・ageてる時点で荒らしと丸わかりではないか。
反応するあなたもそれにマジレスする私も荒らしと言うことでおk?
おk
色んなエロパロSSを読んで回り最近やっとこのスレを1話から読み終えた者です。
発売から4年たっても投稿が続いているスレというのは凄いですね。
大抵のSSスレは消えていくというのに、常駐職人がいるというのは良いことです。
L鍋さん面白いですね。エロなし一話完結でこのレベルは他のSSスレでも稀です。
他の職人さん方もおとボクに愛着があるのでしょうね、楽しそうです。
ばんくーばーさんのように後半から出てきた元気な職人さんもいらっしゃるし
きっとまだこのスレは伸びるんでしょうね。
私の常駐スレなど半年に一話ですからうらやまし。
職人さん方、もし良かったら他のSSスレにも遠征してみてくださいね。
どこのスレへ行けば、お姉さまに会えるのでしょうか?w
>>583 すまん、1日考えたがわからなかった...
585 :
名無しさん@初回限定:2009/03/13(金) 23:14:53 ID:PxPp/IrU0
あげ
586 :
名無しさん@初回限定:2009/03/14(土) 19:28:10 ID:3ehacDs2O
学校の新学期が始まろうかと言う、四月に入ったばかりのある日の午後、僕は父さまからお祖父さまが亡くなった事を、聞かされた。
「瑞穂、実はなお前に関する遺言があるんだが遺言を遂行するしないはお前にまかせるが聞くか?」
587 :
名無しさん@初回限定:2009/03/14(土) 21:15:15 ID:3ehacDs2O
「はい、父さま。でも僕を指名というのは、何故なのでしょう?」
「それは、私からは言いにくいので久石さんから聞いて欲しい…」
慶行は決まり悪そうに言葉を濁した。
「はあ、あのお祖父さまの遺言ですからね。なんとか叶えてさしあげたいですね」
翌日、弁護士の久石さんとまりやが訪ねてきた。
「なんでまりやが?」
「これからのお話は御門のお嬢様のほうがお詳しいものですから。とりあえずこちらをご覧ください」
久石さんはテーブルの上に一冊の本を置いた。
<ラノベを書こう!!学園編>
「何ですか?これ」
「非常に申し上げにくいのですが…」
口ごもる久石さんの言葉を聞いて、僕は立ち上がって大声を上げた。
「な、なんだって!?」
「その、瑞穂さまにはこちらに投稿して頂きたく…」
久石さんから見せられた遺言状にはこう書かれてあった。
『SSスレに一作品投稿しろ。但し携帯から』
「僕が!?」
「そう瑞穂ちゃんが」
携帯からって、その時点で既に正気の沙汰ではない。
絶対に2レスくらいでつまっちゃう。
まりやがウインクしながら云う。
「がんばって〜!楽しみにしてるよ〜!」
589 :
名無しさん@初回限定:2009/03/20(金) 12:26:49 ID:za6eEAM/O
「久石さまがお見えになられました」
家の中を取り仕切ってくれている織倉楓が来客をつげた。
「父さま、謀りましたね?」
瑞穂はやれやれと言う顔つきで慶行に文句を軽くつけた。
「私は用事をすませたらすぐに行くから先に行って話を聞いておきなさい」
590 :
名無しさん@初回限定:2009/03/20(金) 12:33:51 ID:za6eEAM/O
地の文またがえた、あとでなおすのです
591 :
名無しさん@初回限定:2009/03/20(金) 12:42:16 ID:za6eEAM/O
「ええっ!?ココは男で僕は女子校ですよ!?」
「瑞穂さま、日本語がおかしくなられてますわ」
お茶を運んできた楓さんに思いっきり突っ込まれた。「と…とにかく、僕が女子校に転入なんておかしいですよ?カテジナさん!」
592 :
名無しさん@初回限定:2009/03/20(金) 13:02:25 ID:za6eEAM/O
「ふっふーん。そこであたしの出番なわけ」
そういいながら久石弁護士の後ろから先程から話題になっている女子校の制服を着ていた少女があらわれた。
「ちょ、まりや?お前、まりやだろ居つ日本にもどってきたんだよ?なんでそんな格好してるんだよ?…お前…男だろっ!?」
「あれ、お祖父さまの葬儀の時隣にいたじゃない。えいっ」
そう言うとまりやは長い髪のかつらをかぶってこちらをみた。
「あっ〜!」
17スレとはすごい・・
最初にやったギャルゲが型月の月姫のせいなのか
どうも世界観や雰囲気に惹かれたり浸るくせがついてしまい
おとボクにも大分はまって脳がぐるぐるしてました。
そんな中ここにssがたくさんありほんと助かりました。
594 :
名無しさん@初回限定:2009/03/25(水) 14:14:40 ID:8pHdSLjWO
そう、確かにその長い髪の美少女は居た。親類縁者に、こんな娘居たかなぁと思いつつ見とれていたのだったが…
「瑞穂くんたら、あの時あたしに欲情してたでしょ?しってんだからね」
「ナ…ナニヲオッシャイマスカ…マリヤサン」
動揺しまくりでカタカナで棒読み口調になってしまっていた。
御門まりや。本当は鞠也。僕の従兄弟だ。アメリカに留学していでたしか飛び級で医大生やってたはず。
595 :
名無しさん@初回限定:2009/03/25(水) 14:25:04 ID:8pHdSLjWO
「大学なら半年前に終了して医者の免許も取った。インターンも半年で終わって帰ってきたわけ。で、あたしの出番は、これ」
そういうと、もっていたバニティバッグを開けた。ちょ、まて。そう叫ばずにはいられなかった。
…そこにあったのは外科手術用のメスとかだったからだ。
「女装なんかじゃ、バレた時こまるっしょ?」
596 :
名無しさん@初回限定:2009/03/25(水) 14:34:13 ID:8pHdSLjWO
「でもでも僕は男をやめたくないよ!」
「わかった。筆おろししちゃおう」
「はい?相手もいなけりゃ理由も無い」
「相手はいるわよ。あたし」
「まりやは男だろっ!?」
「今は元かな、さわってみてよ」
そういうと、僕の手を取ってスカートの中の自分の股間に導いた。
597 :
名無しさん@初回限定:2009/03/25(水) 14:45:35 ID:8pHdSLjWO
「ないっ!?なんで?」
僕の指先はなだらかなカーブを描いたしっとりとしたばしょをまさぐっていた。
「瑞穂くん、指たててみて」
僕は言われるがまま指をたててみた。まりやはその指先をパンティの中にみちびいて中心部の肉襞に深くさしこませた。
「どう?あたしの女の子は…」
「…すごく…熱いです…」
何が起こっているのかアッーさっぱりわかんねェ・・
だがそれがいい
明らかに遅すぎる紫苑さま聖誕祭SSを投下したいのですが、
その前に容量の問題で次スレを立てさせていただきます。
オーケイ、支援しようじゃないかセニョール
, - "´ ̄ ̄ `゙ ‐ 、
/:::::::::::::;、::::::::::::::;::';:::::::;\
/::::;::::;'::::;:/-ヽ::i::::i:;::';:i';::::::i:::::ヽ
/;:::;'i:::l::::i::l |::i::::l:l:::i:il::::::i::::::::::',
//::;':i:::l:::::リl |::i:::ll:ll:ll:l:l::::::l:::::::::::l
/:l::::i::::::l::::l l__ |::::+l'‐lft'リ、l::::|:::::::i:::l
!;'l::::i::::::|:::l',´-‐、 ,リl;/ハ。´`lゝ:::ト、::::::i::::|
ll |:::::l:::::|'l:::lパ:_」 ' └- ' l::::l l::::::::i::::|
l! !::::l:i::::ll:::ヽ ' l::::l´ハ:::::::l::::| < では、埋めますわね
':;:,-ll-、ヽ::ヽ、 ¨´ /l::::l::l::::i:::::::i::::|
/,´ヽヾ^"、:Vヽ、` r.、 イ.-|l:::::l::i::::::i::::::l:::::l
l Llvl::l^l:::ヾ:i:::::「 」l´ _l:::::l::|_::_::|::::::|::::::l
l ', l::l/+r'/´^`l.† l´ l:::::|l::l ,r;:rl::::::ト 、::',
_」 ヽ |::| l l lヽ / ゝr' l:::::| ` ´//l::::::l:.:.:.ヽ',
/ `ー 、ィ:::l | l |-| ,イ|ヽ、l::::::ト、///:.:.l::::::l:.:.:.:.:.ヽ
,〈 l:::/`´ イイ´/ | l l::::::ハ `´ヽ:.:.|:::::l:.:.:.:.:.::ハ
>, `ニー _l/: : //>' /O.| トl::::::L_ゝ V|:::::|:.:.:.:.:.:::::l',
//::::.:.:.:`l=l: : : . . . . .ヽ'll l./l::::::l . . . . . : :l::l:::::|:.:.:.:.:.:.::ハ'.,
l:./:::::.:.:.:.:l:::ハ: : : : : : : : lllOll l:::::l: : : : : : : :ハ l:::::l:..:.:.:.:.:.:.::〉',
V:::::::.:.:.:.l:.:l:::ヽ、: : : : : : lll__.ll::::::l: : : : : :, イ::.:.:.l:::::l::.::.:.:.:./;:::::':,
埋め(´・x・`)<なのですよ〜
埋めなくてはいけないのです。
結構、余ってますね・・・。
適当に思いついたものを書きます。
どうせ埋めネタですから、実験的なものを何か。
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; , -ー 、,;'⌒ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; /, , Y´`) ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; ,, -,ィイ///ノノ,ィリ' ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;; , -'" /////ノ!i| ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;; _,/,, -''"//// )i!、 ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;; /" /////////ヽ、=イ |ヾ\ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;; /"////////il | | | i! ゙ヾヽ、 ;;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;; ' '/ト{ ! !! !i、!l-ヽヽ | | ' ,ノ /ノ ;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;; (~ト( ゙ ゙ ゙ ゙ ゙ ゙ ゙ `⌒ヽ入,__ ;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;; /`ノ/`ー-、(`ハ, -‐´))_イ〉ノ‐^` ;;;;;;;;;;;;;;;;
;;.;.;.;.;.;;...`='-' /`ノ/-一'´`ー' ..;.;.;.;.;.;.;.;.;
;;.;.;.;.;.;.;.;;.;...... `='-' ......;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;
誰も僕のことを男だって認めてくれない・・・
『赤頭巾ちゃん 〜瑞穂ちゃんの奇妙な冒険〜』
あるところに瑞穂という赤い頭巾がトレードマークの可愛い女の子(?)がいました。
慈悲の村に住んでいるこの女の子(?)は皆に愛される人気者でした。
ちなみに村の挨拶は「ごきげんよう」。村長はツンデレ。
ある日、赤頭巾ちゃんはお母さんのまりやにお使いを頼まれました。
ちなみにお母さんはやんちゃ系で村長と表裏一体、南斗と北斗です。
「赤頭巾や。森の向うに住んでいる小動物系のおばあちゃんにショートケーキを持って行っておくれ」
赤頭巾ちゃんは意気揚々と出かけました。
さて、これを見ていた森の狼。
赤頭巾ちゃんを頂こうと思いました。どう云う風に頂くのか分かりませんが。
森の中で襲うのも良いですが、ついでにおばあちゃんも頂こうと考えました。
狼は欲張りさんだったのです。
そうそう、狼の名前はシオン。村人に恐れられる存在です。二つ名はサイコガンダムの君。属性はしっとり系です。
3年前からこの村と森を牛耳っています。
影の支配者です。
このことは皆知っています。知らないのは赤頭巾ちゃんだけでした。
「さて。では先におばあさんの所へ参りましょう」
家の居間で台本を読んでいたまりやお母さんは小さく呟きました。
「マズいわね」
このキャスティングは攻撃側が圧勝するパターンです。
「どうしよう…こうしよう!」
まりや母は即断即決すると家を出て村長の家に行きました。
「あたしよ。入るわよ」
中に入ると村長がちょうど、大口を開けてラーメンを食べようとしている所でした。
「なっ、アナタ、ノックもせずにい・・・・ブォっ、げふぉ・・・」
思い切りむせています。
「あ、御免。次回からはノックする」
「ごほごほっ・・・その台詞は203回目ですわ」
ツンデレ村長の鼻から麺が1本でています。
「それで何の御用で・・・って何をしているのですか?」
まりや母が勝手に戸棚をごそごそと漁っていました。
「お腹空いたから何か食べようと思って」
「勝手に食べないで!」
まりや母は一平ちゃんを見つけて蓋をはがしながら台本を差し出しました。
「これを見て。ツンデレ」
「台本がどうしました。ヤンチャ」
一平ちゃんにお湯を注ぎます。
「キャストよ。鼻血」
ブゥーーー!!
狼のキャストを見て村長は鼻血を噴いてしまいました。
「負け試合!また負け試合ですかっ!」
「ズルズル…そうよ…ズルズル…。敗戦投手はアンタよ」
一平ちゃんを啜りながらまりや母が云います。
「なんか手を打ちなさい。ズルズル」
「なんかって何を?」
「アンタには3つの僕がいるでしょうが!」
「しもべだなんて失礼な。家人と云って下さい」
「どうでも良いけどタイトルを見なさいよ」
「?」
「これ↑」
「い、いつの間に」
「もう負けフラグ立っちゃってるわよ」
「うう、駄目です。許しません」
「どうするの?」
「こうします」
村長はタイトルを書き直しました。
「これで良いですわ↑」
「かっこいい。渋いわね。センスが良いわね」
まりや母はとりあえず煽てておく事にしました。
ツンデレ村長は直ぐに調子に乗りました。
「それほどでもありませんわ。貴女も真面目に努力すれば直ぐに私のようになれますよ」
「いや〜、あたしは無理です。やっぱ生まれ持った品格というものでしょうね」
「おほほほ。そうですわ。ついでにageておきましょう」
まりや母は村長の胸倉を掴みました。
「それだけは止めておけ。な?」
「・・・はい」
村長は早速、3人の家人を呼びました。
「デコ、モブ、ワカメ」
現れた3人は凄い形相で村長を睨んでいます。
かなり傷ついたようです。
「どうかしましたか?デコ、モブ、ワカメ」
「「「・・・・・・」」」
「173センチの黒髪に勝つ方法を考えなさい」
村長の質問に3人は一所懸命に考えました。
「それは…」
「ちょっと…」
「れでぃきら〜?」
スープを飲み干したまりや母が首を振りました。
「使えないわね、この3人」
3名は凄い形相でまりや母を睨みました。
かなり傷ついたようです。
心の中で一年後を見ていろと叫びました。
ちなみにこの3人の一年後の名前は、カグヤ、ミカド、ワカメです。
「とにかくあなたたち。今から赤頭巾ちゃんを追いかけていって守るのです。行きなさい!」
3人は飛び出していきました。
それを見ていたまりや母も帰っていきました。
村長は中断していたお昼ごはんを食べる為に改めてラーメンを作り直すことにしました。
戸棚をあけると何も残っていませんでした。
大量のラーメンを抱えてまりや母は家に帰ってきました。
「あれじゃ駄目ね。あたしも何か手を打っておくか」
あの3人対サイコガンダムではコールド負けです。
「どうしよう。こうしよう!」
傭兵を雇うことにしました。
妹を呼びます。
「トイレでエロってた人〜。ちょっと来なさい〜」
「そんな云い方はないでしょう!」
飛脚娘が現れました。属性は平凡です。
「村はずれのルイーダの酒場に行って傭兵に手紙を渡してきて」
飛脚娘はまりや母の義理の妹です。
いつもこき使われています。
飛脚娘は自分のことを「灰かぶり」だと思っていますが、そんな良いものではありません。
ただの奴隷です。平凡なのですから仕方ありません。
まりや母の楽しみの一つは飛脚娘に、ハンバーグだといってコロッケや豆腐ハンバーグを食べさせることです。
「お使いがすんだらロコモコをご馳走してあげるから」
「行ってきますっ!!」
飛脚娘は全力疾走でルイーダの酒場にやってきました。
酒場の女主人は昔、受付嬢という仕事をしていました。
温厚そうな人です。
でも属性はガチ肉食です。
飛脚娘は店に入り女主人に訊ねます。
「賛美歌13番に会いたいのですが」
「一番奥にいますよ」
一番奥に行くと、壁にもたれて紅茶ソーダを飲んでいる陰気そうな女がいました。
「あなたがゴル…いや、スナイパー圭ですか。手紙を読んでください」
手紙を渡すそうとすると、スナイパー圭は受け取ろうとしません。
「そこに置きなさい」
「はい?」
「そこのテーブルに手紙を置いて後ろに下がりなさい。見知らぬ人から手紙を手渡しで受け取るほど私は自信家ではない」
かなりイっちゃってる台詞を吐きます。
手紙を読んだスナイパー圭に飛脚娘がお願いします。
「どうか請けると云ってください」
引き受けて貰わないとロコモコが食べられないかもしれないので必死です。
「…わかった。やってみよう」
飛脚娘は大喜びで家に帰っていきました。
↑
スナイパー圭はしばらく上を見ていました。
「…ふん」
そして指を一回、パチンと鳴らしました。
スナイパー圭も店を出て森に向かいました。
家に帰り着いた飛脚娘にまりや母は夕食を出しました。
「さあヘルシーロコモコを召し上がれ」
そのロコモコはハンバーグと目玉焼き抜きでした。
その代わりに豆腐が載っていました。
「こんなロコモコがあるかぁー!!」
森の中を女の子(?)赤頭巾ちゃんがおばあさんの家へ向かって歩いていました。
「えっと」
赤頭巾ちゃんはおしっこがしたくなりました。
立ち止まってキョロキョロと辺りを見回しています。
「大丈夫よね。こんなところ誰も通らないわよね」
森の奥、誰も辺りにはいません。
ちょっと道を外れ、大きな木の蔭に身を寄せてからスカートをたくし上げました。
「よいしょっ」
「何をやっているのですか?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
後ろから急に声をかけられて赤頭巾ちゃんは驚いてしまいました。
後ろを振り返ると、そこには村長さんの所の家人3人がいました。
「い、いつの間に」
「赤頭巾さん、何をしているのですか?」
「確かあなたたちは村長さんのところの、グー、チョキ、パーさん」
「「「違います」」」
「ちょっと立ちショ…」
「たちしょ?」
「いえ、ええと、太刀魚もった少女隊がいたような気がしたのですが気のせいですね」
「それはまた、ヤバ目の幻覚を見たものですね」
「あなた方は一体なにを?」
「173センチを退治しに」
「はあ?」
「我々が先に道の安全を確保しておきます。赤頭巾さんは後からゆっくり来て下さい。では!」
めがねをかけたグーがそう云うと、3人はさっさと森の奥に去っていってしまいました。
赤頭巾ちゃんはそれを見送ってから、自分がおしっこをしたいのだという事を思い出しました。
なので更に奥の木の蔭で用を足そうと思いました。
木の傍まで来て辺りを見回しました。
誰もいません。
「今度こそ大丈夫よね」
道から20メートルくらい離れています。しかも木の蔭です。
だけど赤頭巾ちゃんはちょっと嫌な予感がしました。
なので念のためにもっともっと奥に行くことにしました。
道を外れて5分くらい奥に歩きました。
途中、崖がありましたので蔦を伝ってよじ登りました。
こんな奥に村人は誰も来た事がないであろう場所まで来ました。
ここまでで容量一杯でしょうかね。
あとは力技で500KB越え。
実験へっぽこSS、続きはまた埋めの時にでも。
私が忘れていなければ。ということで。
不覚にもワカメで拭いてしまった
|`ヽミ l:.:./|! _l:/|.. :.\/1 /l. | lイ±リl| iトlム仕ミ| ト_j||. / 、 .', . ! !', ',. ',、ヽヽ ' ,
|ィト,/` lノ ´/ レ.. :.\..| | ゝ1!())Vレ:.(()}| |トーソ/, ', !',、 ', !! rナ ̄!`T', ヽヽ
|ソ,/ ___ ''' :\:!. ',: ̄ ..::,:.  ̄ / | |ヽ./! 「! ̄ト',ヽ N ,i! !! !_」_」弋ヽ、
|`............ /,、 ̄`_ヽ|:./\ ヽ:::::::t_ァ .:/ i | / ! ル」从、ヽヽ ソl/ フ rソ;;;; !ヾl `
| :::::::.... ,ト!(:.:rテ'/ ´ /:.:.:.\ | 丶、::_:// /.,! .! .! ',《ヽソ;ヽ L彡ン "! !ヽ うめなのですよ
| ' ::::..ヾニ_ / /'ノl:.:. \∧∧∧∧/ ! . ! ト .! ',. ゞ┘ !. ! ,l
ヽ ヽ 、_ /_' -‐':: < の .う > .! .! .! ', ヽ .,,. ' "" /! ,! リ
` \  ̄ ィ‐':.:.|:.:.:.:. < め > リ ! リ, ヽ、 ー‐ イ ..! ソ
─────────────< 予 .な >────────────────
. う < の > .:.:! i ィiナ/ 7⌒` ヾ⌒ヽマ ヾx.:.:.:.:.:.i
, -‐―‐‐-、 め .< 感 で >.:.:i.:.i.:.オ' / リ ヽ.:iハ、.:.:.:.:.|
/ , ヽ る < .す > .:i.:.i':.:.v,.ォ=ァ丶 r==ァミV}}.:.:.:.:.:.|
l */_ノ/ヽ)ノ.. \ . / ∨∨∨∨ \ ::i.:.i;ゞ i :::::: i i :::::: i ヌ;:':.:.:.:.:.i うめなのです
| (| | ┰ ┰|l | / !::: :::リイ" V\:. ヾ_;;;ソ ヾ_;;ソ/イj:.:.:.:.:.,'
l ∩、''' - ''ノ∩ /:ハ:! ( )ヾノ ( ) / \ .,,, ' .,,,. /.://.:./:/
| ヽ}| {介} |{/.. / :::. k_ヽ││" "| │ハ::.::: \ ー‐ /〃ソ/
(_ノ_,ノ く_/_|_j_ゞ!し /ノ!:!ヽ:: .:ト::ゝ! rー-‐‐、| !イ7: :/ヽ!:!.\ 、 イフ"/'
(__八__) うめなのですよ〜