この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ボックス

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1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。

前スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十九ボックス
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1108748874/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/

関連スレ
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
2名無し物書き@推敲中?:2005/09/26(月) 21:08:12
過去スレ
この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
http://book.2ch.net/bun/kako/1029/10293/1029380859.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html
3名無し物書き@推敲中?:2005/09/26(月) 21:08:51
過去スレ続き
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/

4名無し物書き@推敲中?:2005/09/26(月) 21:09:57
前スレ続き
「大金」「爆弾」「CD」

爆弾は見事に、建物の基幹部に据え付けられていた。
国が大金を注ぎ込んで建てた高層ビルディング。テロリストはその建物に爆弾をしかけたのだ。
NYの摩天楼に負けないほどに聳え立つビル郡、その中でも一際目立つビル、それがこのちっぽけな爆弾が爆発するだけで、まわりの建物を犠牲に崩れ落ちる。
その被害は想像するだに恐ろしい。
爆弾の設置を見ればテロは脅しでないことがすぐわかった。これが爆発すれば確実に建物を支える力は崩壊する。爆発物のプロフェッショナルである鈴木にはそれは直ぐに見て取れた。

鈴木は解体に向かった。爆弾の構造は振り子信管やらなにやら、見事なほど複雑にかみ合ったかなりイラつく構造だったが、根気よく解除していく。
最初いた警察官達はみんな逃げて、立場上逃げられない人間たちも今すぐにも逃げたがっている。
どうやら、どこから手に入れたのか指向性爆薬を使っているらしい。そして最後の最後、機構の最深部、見たことのないボックス。
「やってくれたよ」誰かが声をあげた。
振り返るとCDをプレーヤーにセットする警察官。
「逃げてくれればよかったのに」
プレーヤーから伸びたケーブルが、カバンの中に延びて、カバンからけたたましい音楽が鳴った。そして突然止む。
振動が肌まで伝わってきた。振動。ボックスの中には振動子が入っていたのかもしれないと思い立つ。
背筋が凍る。同時にボックスから、ピー、という電子音。
ボムッ、とくぐもった、指向性爆薬が後ろの基幹部を破壊する音。
基幹部の大きな柱はゆっくりと、そしてだんだんと速度をつけて、折れていった。


「杉」「辞典」「髪留め」
5名無し物書き@推敲中?:2005/09/29(木) 07:45:19
即死回避
6名無し物書き@推敲中?:2005/09/29(木) 11:02:13
>>1
保守age
7名無し物書き@推敲中?:2005/09/29(木) 22:58:54
>1さん、乙です!

「杉」「辞典」「髪留め」

小学2年の娘が、漢和辞典を熱心に眺めている。
このところずっと、トリビアネタを探し出そうと必死だ。
「国語辞典で調べた方がいいんじゃないか?」と、父親に指摘され、むっとした。
仕返しとして、採用されそうな知識を何一つ持ち合わせない父親に、全身を使って幻滅してみせる。
「ママ、ママ! 「杉」って漢字、じーっとみていると見たことないような字に見えるよ。
 なんかね、木からね、忍者の三兄弟がしゅっしゅっしゅって出動してるみたいに見える!」
素晴らしい感性だ、と父親は見えない壁のこちら側で、ひとり微笑む。
娘がやにわに向き直り、父親に声をかけた。「パパ、これってトリビアになるかな?」
父親は娘に気に入られたいばっかりに「どうかなぁ、採用されちゃうかなぁ」などと嬉々と応える。
すると娘は間髪入れず「されるわけないじゃん。パパってあれだよね、いい加減だよね」と冷たい視線。
それこそ真綿で首を絞められるように、この娘に毛嫌いされていくのだろうか、と将来を寂しく思う。
プイとそっぽを向いた娘の頭に、先日出張先で購入した猫の髪留めが光った。
俺にはおみやげを選ぶ楽しみというのが残されているではないか、と父親は心の内で苦笑する。
諦観に晒されつつある父親だったが、一方で娘も、諦めきれない感情に毎週じりじりしていた。
父親の緒川たまきに注がれる視線が、気に食わなくて気に食わなくて仕方がなかったのだ。


「うそつき」「感情」「帽子」
8名無し物書き@推敲中?:2005/09/29(木) 23:45:51
「うそつき」「感情」「帽子」

「やっぱりエッチの時は帽子使うよね」経験が少ないくせにS子は、さも経験があるようにそう云う。
「何その帽子って。普通にゴムって言ってよ」興味がなさそうにしてるくせにいつもK子は、こういう
タイミングで会話に加わる。
「愛のないエッチなんて最低」
「何よ。あんただってやりまくってんじゃん。体目当てっぽいのはあんただって」
 みんなうそつき。本当は愛に飢えてるくせに体の関係が無いと恋愛が維持できないと思ってる。
 感情を押し殺して傷つくまいと虚勢張ってるだけ。
「ハイハイ、おしまい喧嘩はうんざり」

 もう恋愛に枯れた老人ホームでこいつら一体何言ってんだか。
 遠くからばあちゃん達の会話を盗み聞きをしながら新聞に目を通す私は、女の強欲さに内心
反吐を吐いた。


「粘着」「餓鬼」「夢」
9名無し物書き@推敲中?:2005/09/30(金) 01:41:00
「粘着」「餓鬼」「夢」

ネタを書き終え、風呂から出ると、もう感想がついていた。
ネタ前に一行、爽やかさを前面に「乙です!」なんて書いたのがいけなかったのだ。
つけ込まれる隙を与えてしまった……
散々だ。まったくダメダメらしい。反論したいが尤もなことを言っているのだろう。言葉が見つからない。
それに、ここでかっとなって文句なんか言って……、相手が粘着なんかだったら面倒じゃないか。
そもそもここでは、感想文を書いてくれる人は、ありがたい存在ということになっている。
みんなは私のようにむっとせず、あぁありがたい、と感謝しているのだろうか。
私がひとえに、餓鬼過ぎるのか……
しかし「簡素ありがとう! 勉強になりました! 精進します!」なんて殊勝なことなど書いてやるものか。
向こうは好きなこと言ってすーっとしてるのに、こっちがそんなにへりくだることなんてないじゃないか。
いや待て……、待てよ……
ここで気持ちよく過ごすためには、もっと社交的になる必要があるのかもしれない。
心を入れ替えねばいけないのかも、しれない……
直さなければいけないのは……だとすると、私の性格か? 文章よりまず人間性か??
……もう寝よう。暖かい布団でいい夢を見よう。ネタ褒めらちゃう夢とか、そういう夢を。。


「ごめん」「深夜」「秋」
10名無し物書き@推敲中?:2005/10/01(土) 01:11:16
2階の小さい方の病室の、窓のそばに・・・彼女のベッドがあった。
道路脇の常夜灯が窓の近くにあるお陰で、こんな深夜でも彼女の周りは
ほの明るい。住み主のいなくなった蜘蛛の巣が、雨除けの軒をかすめる
ゆるやかな風に煽られて、きらきらと輝いていた。ついこの前までいた
黄色と黒の大きな蜘蛛を、彼女は思い出す。

どこへ行くんだろう・・・夏も、秋も終わってしまったら。
あんなに、たくさんの虫を捕まえて・・・食べていたのに。

彼女はベッドの中で寝返りをうつ。
小さな衣擦れの音が、暗闇の中でひときわ響き渡るような気がした。

「・・・眠れないの?」
病室仲間の新田さんが、目を覚まして囁き掛ける。
彼女はゴメンネと囁き返した。

「ううん・・・ちょっとね、考え事してたの。」
11名無し物書き@推敲中?:2005/10/01(土) 01:13:34
次のお題は「お茶」「ヘッドフォン」「白薔薇」
12名無し物書き@推敲中?:2005/10/01(土) 23:51:15
「お茶」「ヘッドフォン」「白薔薇」

ペットボトルのお茶を飲み干すパウリーニョ兄さんの、尖った喉仏。
憧れていたのに、僕は兄さんと同じシャープな喉仏を、神様からもらえなかったみたい。
月明かりの下、胸をはだけ、白薔薇に唇をつけるパウリーニョ兄さんは、確かに美しい。
今日も汚いオヤジが、僕らの部屋に上がりこんで、兄さんを撮影し、そうしていくらかお金を置いて帰った。
兄さんは、すっかり、変わってしまった。最近とんと、笑わなくなってしまった。
僕がいくらおちゃらけたって、優しい笑顔をくれなくなった。
今日だって、ヘッドフォンを口と脳天にあてがって、海中リポートの真似をしてみせたのに……
なのに、パウリーニョ兄さんったら、「そんな使い方するなよ」って、静かにそう言っただけ。
僕はヘッドフォンを壁に投げつけていた。
顔が変にゆがんで、涙がぽろぽろこぼれるのを堪え切れなくて、馬鹿みたいに泣き叫んでた。
「悪かったよ! 変な使い方してさ、悪かったよ!
 前は笑ってくれたじゃないか! 兄さん、前はもっと陽気だったじゃないか!
 僕はただ、ただ兄さんに「馬鹿だな。けど、かわいいよお前」って、そう言われたいだけなんじゃんか!」
それでもパウリーニョ兄さんは、もう僕を見てくれなくて、窓辺に座って、ただ銀色の月を睨みつけていた。
埼玉が、埼玉が兄さんを変えたんだ! もう帰ろうよ兄さん……! もういやだよ僕! 帰ろうよ、群馬に帰ろうよ……!


「ひらがな」「買い物」「看板」
13「ひらがな」「買い物」「看板」:2005/10/02(日) 06:35:17
 私が帰ると、食卓の上にメモがおいてあった。
「おかいものにいってきす。まま」
 ひらがなで汚く書いてある。よほど急いでいたのだろう、
見るとイスの上にスーパー「サギ」のチラシが散乱している。
 ……まずい。「サギ」は激安を謳うが、中身は賞味期限
切れだったり粗悪品ばかりの悪徳スーパーなのである。
 私は急いで「サギ」へ向かった。仰々しく彩られた看板と
広告旗を潜って中に入ると、すぐに彼女を発見した。
商品を買い物かごにいっぱい詰め込んで、レジに並んでいる。
「ちょっと、だめじゃないの。ここで買っちゃ」
 急いで駆け寄り、かごを取り上げながら小声で叱る。
「だってー。おかしは300円までって、それじゃ少ないもん」
「でも虫が混ざってるようなお菓子食べたくないでしょ」
 むくれる娘の手を引き、私は大量のお菓子を棚へ返しに戻った。
遠足のたびにこれだ。計画性はあるが、我が子の将来は不安である。

次「運命」「ピアノ」「くじ」
14名無し物書き@推敲中?:2005/10/02(日) 23:09:26
「運命」「ピアノ」「くじ」

「ねえねえ、運命って信じる?」
女が男の腕に絡みつき、甘ったるい声を出した。
男は応えずベッドを離れ、いつもの曲を奏でるため、ピアノの蓋を静かに開ける。
毛布を体に巻きつけ、おぼつかない足取りで、女もピアノの横に立つ。
組んだ指にあごを乗せ、端正な男の横顔をうっとりと眺めながら、女は再び話し始める。
「ねえねえ、自分が当たりくじを引き当てちゃう強運の持ち主だってこと、知ってた?」
うるさいな、と男は思う。
「ねえねえ、聞いてる? その当たりくじってのが、実は私だったりするんですど……」
厚かましい女だ、と男は思う。
「って、なーに言っちゃってんだろ、なーに言っちゃってんだろ、私ったら自分で!」
やかましい女だ、と男は思う。
「ねえねえ、他の曲も弾いてみてよ」
注文の多い女だ、と男は思う。
「ねえねえ、どうしてかっぱ寿司のCMソングしか弾かないの? まさかそれしか弾けないの?」
遠慮のない女だな、と男は思った。


「日記」「部屋」「犯人」
15名無し物書き@推敲中?:2005/10/08(土) 09:46:02
密閉された部屋で165人もの人々を殺害した犯人の獄中日記、いよいよ発売!!

タイトルは『超整理術』

ただいま絶賛予約受付中!!

「夏休み」
「笑顔」
「鼻毛出てるよ」
16名無し物書き@推敲中?:2005/10/08(土) 23:02:45
「夏休み」「笑顔」「鼻毛出てるよ」

昼休みに、バカな子たちが輪になって、夏の思い出話に耽っていた。
私の夏休みといったら、それこそ勉強漬けの日々だった。
当然だ。私たちは受験を控えていて、今の頑張り次第で将来が決まってしまうのだから。
私はきっと勝ち組になる。勝ち組の中でもトップに君臨するんだ。
それにしてもバカな子たち。男のことしか頭にないんだから……
女もバカなら男もバカだ。つまりクラス中がバカだ。バカばっかりでうんざりだ。
前の席のタケダというクズみたいな男が、振り返ってじっと私の顔を見ていた。
「何よ?」と睨むと、タケダは気味の悪い笑顔で「イイダバシさん、鼻毛出てるよ」と。
なんだかんだ言ったって、結局体が目当てなのだ。鼻毛をダシにしてまで接近を図る、この男って生き物の……
いや、うぬぼれているわけではない。つまり男なんて女なら誰でもいいんだ。
あぁやだやだ! 男なんて結婚するまで、みんな去勢処置を施されればいいのにっ!
私は権力者になろう。権力を握り、そうして、まず未婚男性去勢処置法を成立させよう。
それから……、合法的に、美少年を、飼っていい、だとか…………って、あぁなんてこと!!!
私ったら、権力振るう前から心の堕落まで展開しちゃってたりしちゃってる! 気が早いにも程があるわよ!
あぁ何このタイムロス! みんなクラスのクズどものせいよ! ってもうこんな時間! 九九のおさらいしなきゃだわ!


「爪」「丁寧」「ラーメン」
17名無し物書き@推敲中?:2005/10/09(日) 08:39:39
セキセイインコの鉤爪を丁寧に刻むと、ピヂぃ、ピヂぃ、と、小さなくちばしをとがらせて一生懸命痛みを主張した。
私は悲しかった。自らインコを痛め付けておきながら哀れ悲しんでいるわけではない。去年他界した母のことを思い出したからだ。
私の母親も籠のなかの鳥のようだった。病院のベッドが世界の全てで、黄色い管にまみれて、横たわる。死のそばで何も知らずに眠っていた。
その横で母の身体の世話をするのが私の日課だった。髪を洗い流し、濡れ布巾で全身を拭き、そして、爪を切った。
夜の公園よりも静かな病室で、ぷちん、ぷちん、と爪を弾く音だけが響く。しわくちゃの、節くれた指、冷たい手のひら。子供の頃は私が切ってもらったのに。母のつめ切りは下手くそで、私はよく深爪にされて怒ったものだ。
そのたびに母は、ごめんしょ、ごめんしょ、と、笑いながら謝った。それを思い出し、彼女の爪を少し深めに切った。取りのぞかれる白、残される赤。やがて、全て深爪になった指先は、朱色に染まった爪肌だけが残されて、誇らしげに見えた。
しかし、母は怒りもせず、笑うこともできなかった。蒸発した父、水商売で我が子を育ててきた母、よく夕日を見上げては、何か考え込んでいた。
辛いつめ切りが終わり、インコは落ち着きを取り戻し、羽根を軽くばたつかせた。そして、感極まっている私にこう言った。
「ラーメン、クイテー。」
カラス 椅子 鉄
18名無し物書き@推敲中?:2005/10/09(日) 22:24:33
 普通に生きていると思うけど、心はいつも空を飛んでいる。
 歩いている――飛んでいる。走っている――飛んでいる。座っている――飛んでいる。
 椅子が冷たい。
 カラスは何を食わないのだろう。
 俺の中に或るカラスは今、人を食べている。
 その濁ったような、見通せない瞳。
 椅子の鉄で出来た足をさする。
 先には何も見えない。
 触れる物だけが全て。
 俺はきっとどこにも行けない。鉄で出来た足をさすり続ける。

「ガラス」「百合」「鎌」
19名無し物書き@推敲中?:2005/10/10(月) 00:37:35
「ガラス」「百合」「鎌」

えーっと、何から書けばいいのでしょうか。自分、7月生まれです。
誕生花は百合で、誕生石はルビーらしいです。が、そんなことはどうでもいいですよね。
特技は草を刈ることです。趣味も、やはり草刈りです。
自分、仕事柄、鎌を携帯してるんですが、鎌使いは、ぶっちゃけ自信あります。
ぼさぼさした、だらしないのっぱらなんか、もう我慢できなくて勝手に刈っちゃいますね(笑)
今時の音楽にはあまり詳しくないのですが……、あ、ガラスの割れる音なんか好きですね。
廃屋なんかで、ガシャーンと打ち破っちゃったりとかね。いや、これは仕事の一環なんですけど。
自分の事、よく知ってもらいたいので、思い切ってここに書いてしまおうと思います。
実は自分、死神やってます。
“神”なんて大それたもんくっついてますが、雇われの身で、給料も歩合制です。
おどろおどろしい姿を想像したでしょうか。でも自分、見た目そんなに怖くないですよ。(なんちゃって妻夫木)
万が一、自分の職業が気に入らないのであれば、自分、死神止めてもいいと思ってるんです。
幸せに、なりたいんだ……よね……
こんな俺でよかったらメール下さい。浮気とかもありえませんし、もうこれは神に誓ってないです。一途です。
一度俺に草刈らせてみて下さい。俺の草刈る勇姿見てみて下さい。是非返事下さい。あとパスタゆでるのも上手いです。


「靴下」「冷蔵庫」「鳴き声」
20名無し物書き@推敲中?:2005/10/10(月) 09:23:32
「靴下」「冷蔵庫」「鳴き声」

サンタクロースはいるのだ。
二十五にもなってまだ信じているのかと旦那はよく私を笑うけれど、そんなのは無視だ。
だって去年も、一昨年も、その前も、クリスマスにプレゼントをもらえなかったことなんて一度もなかった。
それに、私はこの目で見たのだから。サンタクロースの姿を、はっきりと。
去年のクリスマス。深夜に戸の開く音がして目を覚ますと、ちょうど赤い服を着た人が私の部屋から出て行くところだった。
「そこにいるのは誰?」
我ながら愚かな質問だった。あの服装はサンタクロースでしかありえないのだから。旦那があんな服を着ているわけがない。
サンタクロースは私の声にあからさまにビクッとして、しばらく固まり、やがて、
「にゃーお」
と、妙な鳴き声を残して出て行った。旦那が無理をして出した裏声みたいな感じの声だった。
分かっている。サンタクロースは私を怖がらせないように猫のフリをしてくれたのだ。優しい人なのだ。
ともあれ、これでサンタクロースが実在するということは分かって頂けたと思う。
この話をしてなおサンタクロースなどいないと主張する旦那のような人間は、まったくもって頭の固い偏屈人間に違いないのである。
だから私は今年のクリスマスも、靴下を枕元に用意して床に就く。きっとまたサンタクロースは来てくれるから。
……そういえば、今年は冷蔵庫をお願いすると言ったら旦那の顔が引きつっていたけど、どうしてだろう。まあいいか。

「昼寝」「魔女」「首」
21名無し物書き@推敲中?:2005/10/10(月) 16:55:53
「昼寝」「魔女」「首」

 凪いだ水面に映える端整な顔立ちは今も美しいに違いない。
 中庭の池に突き出した水亭に女はいた。
 その顔は、羽織った豪奢な朱の長掛けに劣ることなく、
佳麗で、夢幻的であり、かつ冷然としていた。
 女の腹は膨れていた。女が片足を欄干に掛けた瞬息の間、ゴトリと腹の何かが床に堕ちた。
人間の頭であった。
 女が爪先で小突くと、それは鈍い音を立てながら池に転がり落ちていく。
昼寝を断たれた雑魚がどこからともなく現れて、沈み行く黒髪を追いかけて消えていった。
 女は柳眉を崩すことなく、来たばかりの橋廊を引き返して母屋に姿を消した。

 首狩りの病鬼に憑かれたのだ、姫は……。
そんな噂がいつしか、宮中に流れる香煙に乗って君の耳朶に触れた。
「神の御子が魔女とは滑稽ではないか」
乱ぐい歯の隙間から垂れる鮮血も気にかけずにそう呟くと、
にたついた目を、中庭から血まみれの淑女へと戻し愛撫する。
 老狂の君の皇女は、どこまでも寡黙であった。
 

次は「線路」「牛乳」「退社」で〜。
22名無し物書き@推敲中?:2005/10/10(月) 20:33:34
真夜中にスーツを着たまま線路の上を渡ってた。ヤジロベーになったつもりで、バランスを上手く取りながら落ちないように渡ってた。人員削減の対象にされた私は、八年勤めた会社を今日、退社した。
憂欝ではなかった。だからといって労働からの解放に高揚しているわけでもない。歩きたくなった。誰もいない道を、一人、まっすぐ歩きたくなっただけだ。見失ってきたものを拾うように、肩がゆらゆらよそ見しながら、進んだ。
地面に何か光っている。腰をかがめて、拾ってみると、土まみれの、牛乳瓶の底のような、厚い、割れた眼鏡だった。汚れを払って、耳に掛け、空を見上げると、魔法。
三日月と冬の星座の狂ったような増殖。ぼやけた瞬きと、暗がりの深さ。私の瞳は全てを吸い込んで、世界が一つの万華鏡になった。酩酊しているような足付きになり、バランスを崩して、尻もちをつく。
そして、笑った。万華鏡の中で、私は笑った。探していたものを手に入れたように。地面から振動が伝わった。後ろを振り向くと、横殴りの光の雨が襲い掛かった。電車は音もなく、通過した。
滑車 鏡 扉
23名無し物書き@推敲中?:2005/10/11(火) 00:28:12
「滑車」「鏡」「扉」

滑車はカタカタ乾いた音を響かせ、古井戸は少女の生首を、
…………
私に少女の生首は扱えない。
こんな匿名掲示板で、限界など作りたくないのだが、それでも向き不向きというものがある。
描写豊かな雰囲気ある文章を、私だって書きたいんだ。
でも、どう考えても私には無理だ。
私はぬるい日常を、乏しいを語彙を使いまわし、せめてオチに心血注ぎ……
素敵な書き込みに触れると、自分が創作文芸版に住もうなんておこがましさに、唾吐きかけてやりたくなる。
ため息ついてパソコンを閉じる。歯磨きをして鏡を見る。そこに映るのは平凡が服着たような人間。
宇宙人のみなさん。これが平均的地球人です。なんかの実験のサンプルに、使用してみたらどうでしょう。
すると突然、鏡に扉が浮かび上がり、閃光とともに中から灰色の異星人たちが、
…………
異星人の話も無理。
ただ私は、身近な生ぬるい、ゴミだと思ってつまみ上げたら蜘蛛だった、びっくりしちゃった。とかそんな……
オチか……。今日はそれも無理。あぁすっかり秋だよねぇ。おやすみなさい。いい夢を。。私が見たい。。。


「傷心」「タオル」「電話」
24名無し物書き@推敲中?:2005/10/11(火) 02:20:55
 寒い。もう十月中旬になろうかという時期だから当然だけれど。
 もう長タオルを毛布代わりにゃ出来ないな。
 押入れの奥に入り込み、半年振り位に厚手の毛布を引っ張り出す。
 予め敷いてあった布団の上に被せる。俺、そこに入り込む。
 幸せ。
 もう出たくないな。
 電話を枕元に。仕事上の緊急連絡に、女友達の傷心電話に、新人賞の受賞通知に。寝転がりながら
応対するために。
 ふと、瞼を閉じる。
 真の闇はそこにはない。閉じていても外が微かに見えてしまう。
 完全に見たくないのなら、眠るか、死ぬか。
 眠るか、死ぬか。
 大層な覚悟のない俺は、眠りを選択した。

「ボール」「眼鏡」「船」
25名無し物書き@推敲中?:2005/10/11(火) 02:33:55
 あの日、キャッチボールをしてた。
 相手の顔は覚えていない。
 俺はあの時視力が悪かったのに眼鏡を掛けていなかったから。
 今――二十年前のあの人の顔を思い出したくて仕方がない。
 多分、この人だと思う。思うんだが。でも、確証が持てない。
「――新ちゃん? だよね?」
 ――この人か! 今、船の上にいる。船の上で、目の前に、昔一度キャッチボールをしただけの人
と、偶然出会った。
「御免なさい、俺、あなたの名前を知りません。覚えてはいるんです。ちっちゃい頃、一度だけキャッチ
ボールを一緒にした人。顔も覚えてませんでした。というか、見えてなかったので……」
「何言ってるんだ、そんなこと気にするなよ。それより、君さ……」
 彼は、脇に抱えていた小振りな鞄からパンフレットを取り出した。
「今、信じてる宗教ある?」
 いいえ。
「いいえ」

連投御免。もしよかったら、感想の方で24と25でどっちがマシかも教えてください。
「三味線」「猫」「雲」
26名無し物書き@推敲中?:2005/10/11(火) 18:50:11
「三味線」「猫」「雲」

 暇だ。私の視界の中で、ただ白い雲はジリジリと動いている。
時折、遠く空に鳶が弧を描きながら、持て余した私の聴覚を刺激する。
 初秋の日溜りを受ける我が家の縁側に、私はだらしなく寝そべっていた。
 大きく欠伸をひとつすると、ちょうど庭先を通り抜けようとする三毛猫が、
さも侮蔑したような濁声で短く鳴くと、悠々と立ち去っていった。
 猫の分際で何様だろうか。土壁に消える後姿を尻目に見ながら、つまらない文句を言う。
お前の柔らかな腹を切り裂いて、三味線の革にしてやろうか。
小汚い野良のお前でも、楽器に変われば美しく鳴いて私を楽しませるだろうに。
 そんな下らない戯言で遊ぶ私の耳に、かすかな三味線の音が流れてきた。
先ほどの三毛が居ても立ってもいられず、早速私のために為り変わったか!
あまりの偶然に、垂れようとする目蓋が調子よく跳ね起きた。
 いや、何の事は無い。私の婆だ。決まって午睡から覚めるこの時刻に婆の三味線は鳴る。
奥座敷に籠もるようになって十余年。私の婆の姿は当時のまま止まっていた。
爺にあれほど惨い生活を強いられてきたのに、婆は爺をそれほどまで好いていたんだ。
 私の両手に残る爺のざらついた首の感触。婆にとって私は三毛猫より劣るのかもしれない。

次は「深海」「腹痛」「美人」で〜
27名無し物書き@推敲中?:2005/10/11(火) 22:59:32
「深海」「腹痛」「美人」

拾い食いしたコンビニ弁当にあたり、近くの医院に駆け込んだ。
待合室は閑散としていて、受付の窓から、むさいオヤジがひょっこり顔を出す。
「あの……腹が痛くて……死にそうに痛くて……もう死ぬじゃないかって……そんな勢いで……」
「多分死にゃせんだろ。ま、ふくつーの精神でがんばるんだな」
ベッドに座らされ、全身鳥肌に見舞われている俺に、白衣のオヤジはニヤニヤ笑いかける。
「“不屈”と“腹痛”をかけてみたんだがね……、ちょっと待ってろや、忘れんうちにメモっとくわ」
な、何をだ……!!! 俺は声を振り絞り、医者の背中に訴えた。 
「か、看護婦さんとか、いないんですか……」
「あぁ。ミキちゃんね。ちょっと買い物頼んじゃってね」
俺の腹は、ギュルギュル奇妙な悲鳴を上げ始めていた。だめだ。トイレは何処だ。しかしもう動けない……
何故こんな……、患者よりネタメモる方を優先させる、深海魚みたいな顔のオヤジしかいないんだよ……!
畜生……。ばかオヤジめ。お前のせいで俺は、この年でおろしたてのおパンツを……、あぁ……!!
医者が鼻歌交じりにネタをメモる間に、ついに俺は……、ついに×××を……、ついにちびっちまった……
俺はベッドに倒れこんだ。がたがた震えながらも、あまりの情けなさにシーツを噛んだ。
と、突然ドアが開き、そこにものすごい美人のナースが微笑むのを見て、俺は、多分俺の意志で気絶した。


「本心」「酒」「くよくよ」
28名無し物書き@推敲中?:2005/10/13(木) 02:40:06
本心 酒 くよくよ

くたびれたサラリーマンが行き着く先は、大体どこも同じような場所なんだなあ。自分と同じ皺だらけのスーツがひしめき合う居酒屋の一角で、俺はぼんやりそんなことを考えていた。
「ちょっとー……先輩、聞いてますかぁ〜?」
既に聞き飽きてきた声が耳元ではっせられ、片方の耳を押さえながら「聞いてるよ」と適当に相槌を打つ。
分厚いビアグラスをテーブルに叩きつけている後輩は、丸い顔を真っ赤に染めてこちらをじろりと見ていた。
「本当ですかぁ〜?」「……本当だよ」
疑る後輩を横目に、俺は既にぬるくなったグラスに手を伸ばした。既にアルコールも抜けているんじゃないか、そう思いたくなる状態まで放置されたグラスの中身を軽く傾ける。口に広がる苦みに目を細めている間に、隣の後輩は追加のビールを頼んでいた。
「飲みすぎるなよ」
「飲まずにはいられないですよっ!」
明日も仕事があるんだから、と釘をさそうと言った言葉により、彼の愚痴がまた始まる。遥か昔、学生時代の校長のスピーチを思い出して、俺はまたげんなりとした表情を浮かべた。
愚痴の内容も大して深刻な内容でもない。上司から怒鳴られた、などという半日常茶飯事のような事でくよくよしているだけである。
……そんなもん気にしてたら長生きできねぇよ。心の中でそう毒づいて、俺はまた不味いビールを煽った。
「先輩ちゃんと聞いてくださいよォ」
半分泣きが入ってきた後輩に、何度目かの生返事を返す。
さて、どうやってコイツを家まで送ろうか。
狂ったように話し続ける後輩を冷めた目で見つつ、俺はそんなことばかりを考えていた。


タクシー 猫 泥棒
29名無し物書き@推敲中?:2005/10/13(木) 21:28:19
タクシー 猫 泥棒


クリスティーヌと仕事帰りに飲んだら終電に乗り遅れてしまった。
家まで歩くには辛い距離だ。困ったところにタクシーが通りかかった。
停まったタクシーに乗り込むなり、強烈な酒の匂いがした。
飲んでいた私でも分かったのだから相当なものだ。
真っ赤な顔の運転手はこうほざいた。
「俺は酔えば酔うほど運転がうまくなる酔転の使い手なんだぜ!」
そんな技能は寡聞にして知らなかったが、他のタクシーが通る気配もなく、
運転手は猫一匹轢いた事はないと保証したので、まあ大丈夫だろうと行き先を教えた。
彼はスコッチを一杯あおると勢いよく発車させた。確かに運転はうまい。
しかし、程なく背後からパトカーが近づいて来た。
飲酒運転の取り締まりであろう。運転手の顔色が変わった。
「まずい、また免許取り消しにされる!!」
運転手はウオッカをあおると、逃げるべく速度を上げた。
少なくとも時速150kmには達していただろう。
パトカーはあっという間に背後に見えなくなり、喜んだのもつかの間。
タクシーはカーブを曲がり切れずにガードレールを突き破り10mばかりすっ飛んで川に落ちた。
私は何とか脱出したが、運転手は翌日に車ごと遺体で発見された。
後で分かったことだが、あの時見たパトカーは泥棒を追いかけていただけだったそうだ。


「ペン」 「インク」 「消しゴム」
30名無し物書き@推敲中?:2005/10/13(木) 22:04:15
「タクシー」「猫」「泥棒」

猫はテノールの声で……、いや、レトリックでもなんでもなく。うちの猫は日本語を喋る。
あやしげな「ごはん」「おはよう」などではなく、はっきり正しい発音で「うるさいな」と、そう言った。
とげとげしい言葉は、しかし私にではなく、タクシー運転手に向けられたものだった。
タクシー運転手も悪かったのだ。客を無視して、下手な演歌を歌い続けたから。
私の気持ちを代弁したというわけではなく、猫は相手を黙らせたいがために、初めて口を利いた。
「すみませんでした」と、運転手はバックミラー越しにおどおどした目を向ける。もちろん私にだ。
しかし運転手は真実を知らず、まだ幸せだったと言っていいだろう。
疑う余地もなく、面と向かって猫に罵倒されたら、人は腰を抜かすようだ。
猫は、深夜部屋に侵入してきた男に「この泥棒ねずみが!」と、テノールの美声で言い放った。
猫にねずみ呼ばわりされ、床にへたり込んでいた侵入者を難なく私が捕らえ、警察に突き出した。
泥棒の奇妙な言い分は捨て置かれ、私が警察に表彰された。
「これ、あなたへの感謝状ですよ。代わりに貰ってきてあげましたからね」
感謝状を広げて見せたが、猫は背中を向けたまま、細っこい目で一瞥くれただけで、そしてこう言った。
「めし」
私は男らしい男として世間に認知されつつあるようだが、猫はあっさり順位の逆転を遂げていた。


次のお題は上の方ので。
31名無し物書き@推敲中?:2005/10/18(火) 22:08:34
「ペン」「インク」「消しゴム」
私は必死だった。
ペンで書かれた手紙を必死で消していた。
何度も、何度も消しゴムを往復させる。
どんどん薄くなるインク。
この手紙を目にした時から私はおかしかったのだ。
貴女の私に対する思いが痛すぎて、私は壊れてしまったのだ。
手紙を丸めればいいのだが、それは出来ない。
貴女の香りがするものを屑にするのは辛すぎる。
だから私は必死なのだ。
必死でこの別れの言葉を消すのだ。
32名無し物書き@推敲中?:2005/10/18(火) 22:11:31
次「靴」「階段」「時計」
33名無し物書き@推敲中?:2005/10/19(水) 00:59:56
ぴかぴかの革靴に、スイス製だという高価な時計。
今までしたこともないような身なりをして君を待つ僕は、何だかとても緊張していた。
階段を下りてこちらにやってくる君。嘘みたいに綺麗。心臓が高鳴る。破裂しそうだ。
でも、今日は君に、言わなくちゃいけない言葉がある。
「ごめんね、結構待った?」「ううん、今来たところだよ」よし、いいぞ。
本当は二時間待ちだったが気にしない。
「そう。良かった」その笑顔を見れて僕も良かった。
僕たちはこのまま次の目的地まで移動する予定になっていた。
「じゃあ、行こうか」歩き出す僕ら。でもその時、緊張のあまり僕の足はがくがくに震えていた。
「カーット! 君、そんなにフラフラ歩いちゃ映像で使えないよ。
大物女優と共演で緊張は分かるけど自然に自然にね」
「ごめんなさいね、前の番組の収録が押して二時間もお待たせして」
テイク2の準備で階段上に戻った彼女との高低差が、そのまま役者としての格を表していた。

「暗算」「左利き」「指」
34名無し物書き@推敲中?:2005/10/19(水) 22:26:42
「暗算」「左利き」「指」

ずっと左利きに憧れていた。
天才に左利きが多いことを知った私は、必死に箸や鉛筆を左手で試したものだ。
しかし努力の甲斐もなく、天才予備軍の仲間入りは果たされぬまま、現在に至る。
ついに左利きになれなかった私だが、私の彼は左利きである。
初め、なんとなく疎ましく思ったのは、彼が左利きだったからに他ならない。
憧れる気持ちはいつか歪んで、やっかみから、私は“左利き嫌い”になっていた。
同級生だった彼は、左手で空き缶をゴミ箱に投げ入れ、左手に持ったスプーンでカレーをきれいに食べた。
左利きに生まれついた人生……
彼の姿ばかり目で追ってしまい、そうこうしているうちに、私は彼に関する衝撃的事実を知ったのだ。
彼は天才を多く輩出する左利きであるにもかかわらず、なんと一桁の暗算もできない人だった。
忘れもしない。4+3という足し算の答えを、彼は指を折ることでようやく導き出したのである。
多分その瞬間だ。私が恋に落ちたのは……
頭の中で教会の鐘の音が鳴り響いたので、ひょっとすると彼と結婚するのかもしれない。いや、するだろう。
仮に彼が、右利きのくせに指で4+3していたら、友達にすらならなかった。
左利きのくせにバカだったから、私は彼のことが好きなのだ。で、結婚しちゃう。しちゃうんだろう、きっと……


「地震」「人形」「外」
35名無し物書き@推敲中?:2005/10/24(月) 18:46:11
「地震」「人形」「外」

身体が自由を失って、いったいどれだけの時間が過ぎたのだろうか。
“カレ”は、ひらべたい背中を強調させるような薄く黒いコートを羽織り
無表情に振り向くと、「じゃあ行ってくるよエリコ」と言った。
人形としての静寂は、私に押し付けられた“カレ”の必要な時間らしい。
小さくて薄い唇を動かすことも、やせ細ってしまった脚を組みかえることも許されない。
わずかに、息と瞬きが許されているだけだ。
“カレ”はドアを開け、一瞬だけ外の空気を私に与えると出て行く。
残ったのは、私を覗き込む3台のビデオカメラと、“カレ”が転送機と呼んでいる
重い機械だけだ。
−−エリコ、外を見たいなら地震がいるんだよ、ナマズは地震と友達だそうじゃないか。
この部屋を壊すがいい。このドアを崩すがいい。
“カレ”の狂気をはらんだ言葉を思い出しながら、巨大な水槽の中で私は、
人形でありつつもナマズとして生ききったほうがよいのだろうかと、虚空をぼんやり見た。
ナマズは地震の予知しかしないわ、と人間として思いながら。


「パイオニア」「X」「ビンタ」
36名無し物書き@推敲中?:2005/10/25(火) 21:38:16
「パイオニア」「X」「ビンタ」

「こんばんは、奥さん」
「……」
「窓から失礼するぜぃ」
「……」
「奥さんのハートを盗みに、ミスターX参上だぜぃ」
「……」
「もう眠っちまったのかい、奥さん」
「……」
「フッ、寝た振りするなんざぁ、まったくかわいらしい奥さんだぜぃ」
「……」
「あぁオイラは冒険野郎〜、奥さんの未開の大地へ踏み込む開拓者〜」
「……」
「オイラあんたのパイオニア〜、奥さんの〜未開のジャング……」
「うっせぇんだよっ! つか未開じゃねぇべっ!」
妻は、変な仮面をかぶった夫に往復ビンタを食らわせ、すぐにまた寝た。


「あくび」「台詞」「バット」
37「あくび」「台詞」「バット」:2005/10/27(木) 18:39:30
 最初に出会った頃は優しかったのにな。
 最初は彼女の肌を撫で回すだけだった彼は、すぐに彼女をバットで殴るようになった。
 彼はまだ学生で、最近、学校での立場が変わったらしい。だから彼女を殴る。殴るたび、
彼は喜んだ。彼女も、殴られるたび喜んだ。自分を殴る彼が、気持ちよさそうだったから。
 でもある日、彼女は彼と友人との会話を聞いてしまった。
 もうボロボロだし、壊れかけてて、使い物にならないし。捨て時だろ。
 扉一枚向こうに彼女が居ることを知っているはずの彼の台詞。感情は感じられなかった。

 彼は野球部だった。今日は練習試合らしい。サード。バットは持っていない。ボールがこないとすぐ呆っとしている。彼女が見ていることには気づいていない。あくびをした。
 その瞬間、誰かが背後から彼女をバットで殴った。それを合図に、彼女は動けないはず
の体を動かして、全身で彼の口に飛び込んだ。彼の驚いた表情、瞬間、視界が暗くなる。
彼の歯と、顎骨の割れる音が鈍く響く。

「アウト!」
 サードの選手は、ボロボロになったボールを血だらけの口に頬張ったまま気絶していた。


次は「最高」「天国」「幸せ」でお願いします。
38名無し物書き@推敲中?:2005/10/27(木) 23:12:54
「最高」「天国」「幸せ」

男はつましく暮らしていた。
地獄に落ちることだけを恐れ、一切楽しまず生きていた。
天国行きのチケットを手に入れるまで、生の退屈に耐えるつもりでいた。
男はある日、女と出会った。
お互い一目惚れだった。
男は最高の女に巡り合ったと、その時すでに確信した。
しかし、女には夫がいた。
夫から毎日ひどい暴力を振るわれている女だった。
地獄の最中を生きる女に、男はどんどん惹かれていった。
女のことを思うだけで、胸に痛みを覚えた。
この苦しさに耐えるぐらいだったら、いっそ地獄に落ちた方がましだと思った。
ある日、二人は駆け落ちした。
見知らぬ町に辿り着き、二人は末永く幸せに暮らした。
あれほど恐れていた死後の行く末など、もうどうでもよくなっていた。
天国も地獄もこの世に在るのだと、男と女は、子や孫に語った。


「駅」「老人」「煙草」
39「駅」「老人」「煙草」:2005/10/31(月) 22:42:46
 駅の片隅にダンボールの山がある。ホームレスの、黒髪交じりの煤けた白髪がのぞ
いている。俺はそれを見下す眼つきでちらと睨んでから、煙草を銜えた。慣れた瞬間
芸で火を付け、銜えたまま煙を吐く。吐いてから、自分の指が忙しなく吸殻入れの角
を叩いていることに気付いた。仕事の得意先にぎりぎり遅刻という状況で、電車がま
だ来ない。遅れているらしい。二本、三本と煙草の吸殻が増えていく。
 その時、ふっと口の重みがなくなった。何だ? と視線を移すと、襤褸をまとった
老人が立っていた。手にあるのは俺の煙草だ。老人が、さっきちらっと見たホームレ
スだと俺は気づいた。ホームレスは俺の視線に気づくと一言、言った。
「体に良くないからやめたほうがええ」
 そしてその煙草をふかし、にやりと笑った。続けて、
「ふぁ〜美味い」
 と言った。
 その矛盾した行動を見て、俺は何故かいい気分になった。不思議と関わりたくない
とは思わず、ユーモアのある奴だと思った。俺は老人ににやりと笑い返してやった。
 電車がホームへ滑り込んで来た。その時携帯が鳴った。耳に上司の罵声を受けた。
それでも俺の気分は良かった。老人に手を振って電車に乗った。
 得意先に着いた俺は落ち込んだ。それは、取引に失敗したからなどという理由から
でなない。老人は逞しい奴だった。俺は財布をすられていた。

「紅葉」「雨どい」「ハッカ」
40名無し物書き@推敲中?:2005/10/31(月) 23:37:07
俺は「おや?」と思った。
肝試しに、町中にひっそりと佇む廃屋に不法侵入した時のことだ。
俺の暮らす田舎に、俺の生まれる前からずっとあるその廃屋の雨どいに、葉っぱが挟まっていたからだ。
その葉は近くの紅葉したイチョウの葉で、紅茶色に綺麗に染まっている。干からびてなくて、まだ水気がある。
こんなに若い葉が挟まっているということは、最近この雨どいは開けられたということだ。
「どういうことだ?」俺は呟いた。誰かが俺のように興味本位で忍び込んで、何の気なしに雨どいを開けてみたのか?
俺が首を捻っていると、その廃屋の中から物音がした。それは人の声だった。
俺は無茶苦茶に驚いた。大声をあげたので、口の中で転がしていたハッカ飴が宙を飛び、地面を転がった。
俺は一目散に逃げ出そうとした。しかし、そうしなかった。
「幽霊なんて非科学的なものなんてあるはずがない。きっと中に人がいる。廃屋で怪しげなことをしている奴がいる」
この野郎め、なにしてやがる。俺は勢いよく雨戸を蹴飛ばした。ガコッ、という音がして雨どいが外れる。
廃屋の中では、ホームレスのおっちゃんが、もう1人のおっちゃんのケツ穴を掘っていた。
どうもお楽しみ中、すいませんでした。

「うどん」「定規」「ピンセット」
 閻魔大王は、セキセイインコの姿をしていた。鳥カゴに入って、アワダマを
食っている。僕は自分がからかわれているのではないかと疑いつつ、そのインコに
「あの、僕、天国と、地獄、どっちに行けばいいんでしょう?」と訊いてみた。
「ジゴクユキ! ジゴクユキ!」インコは答えた。
 僕は今すぐこのインコを握りつぶして地べたに放りつけてやりたい衝動に駆られたが、
そんなことをしたら即座に地獄の中でも一番ひどいところに落とされるだろうという予感
があったから、ぐっと耐えた。
「……で、何地獄でしょう?」僕は聞いた。
「ピンセット デ ウドン ヲ クイツヅケル ジゴク」と、インコは答えた。
「ウドン イッポン ノ ナガサ 30キロ ホンスウ イチオッポン ゼンブ クエタラ オワリ」
 ひどい地獄だな、それは。と思った。まあ、けっこう悪い事もしてきたからなあ。仕方ない。
「で、それは、どこに?」
 インコは配下の鬼に命じて30cm定規を取り出した。
「ココカラ ホクホクセイ ニ ピッタシ 300キロ ススンダトコロ ニ アナガアル
 ソコ ガ イリグチ チナミニ ダミー ノ アナ ガ イクツカアッテ ソノサキ ムゲンジゴク」
 つまり、間違えないようにするためには、北北西まで300キロの道のりを、定規で
測り続けてゆくしかないってこと。地獄は見たとこ「精神と時の部屋(ドラゴンボール)」
みたいな感じで、まったいらで障害物がない。
 あー、地獄って、なんか、ホント、陰険だなあ、と思った。

「地下帝国」「映画館」「卓球」
42名無し物書き@推敲中?:2005/11/01(火) 21:54:07
「地下帝国」「映画館」「卓球」

学校帰り、お客のまばらな映画館の暗がりで、地下帝国の工作員と接触しました。
とても信じられないでしょうが、地下帝国は確かに存在するのです。
私はこれまでに何度も、帝国のために物資を調達してきました。
初めての指示は、そう『五寸釘20本』というものでした。
お小遣いが足りず用意できないでいると、毎日一匹ずつ、庭でモグラが死にました。
『ほっぺの赤い人の写真3枚』『新鮮な猫のひげ2本』『伊○ハム応募シール8点分』
帝国からの要求は、徐々にエスカレートしていきました。
そして、今日受け取ったメモには、なんとこう書かれているではありませんか!
『卓球部員を何人か』
いくらなんでも、人さらいなんてできません!
しかし、要請に応じなければ、無辜のモグラたちが毎日庭で死んでいく……
私は決着をつけるため、地下帝国に赴くことを、たった今決意しました。
私はあなたの犬ではないのだと、きっぱり総統らしき人物に言ってやるつもりです。
どうか、無事に戻ることを祈っていて下さい。
怖いです。今とっても怖いです。でも卓球部員とモグラの命を救えるのは……、では、行って参ります。


「ゾンビ」「山中」「逃走」
43名無し物書き@推敲中?:2005/11/02(水) 01:47:35
山中湖の湖畔に猫達の集まる泉があった。
猫達は独自のルールにのっとった自治を行い、語り合い、時にののしりあい日々をすごしていた。
そんな泉から、あるスター猫が誕生した。
オゾンというキャットフードのCMに起用されたのだ。
彼の名前はのまねこ。
まさに日本中に愛されるスター猫だった。
のまねこは泉の猫達の期待にこたえるようにハードスケジュールをこなし続けた。
しかし、そんなのまねこにも体力的な限界がきた。
ついにオゾンの事務所のねいべっくすを逃走したのだった。
このオゾンビクッリ事件は、後々泉に語り継がれる伝説となったのだった。
44名無し物書き@推敲中?:2005/11/02(水) 04:11:31
「ゾンビ」「山中」「逃走」

若者の祈りは、天に届いた!
白血病で逝った彼女が、かつての様に階段を上り、扉をノックする!
緑のワンピース姿に身を包んだその姿は、まぎれもない、本当の彼女だった。
ゾンビだけど、構うもんか。
「愛していた」と言ってたくせに、いざゾンビだと逃走してしまう奴の気が知れない。

骨が浮かぶ彼女の腕をとり、彼は神様からの贈り物を見つめた。
半腐りの瞳に、白い小さな蛆虫がうかんでいる。
「ごっ、ごめんなさいっ。殺虫剤塗っとくから…」
「気にしないよー、あばたもえくぼって言うじゃないか。」

実際慣れてしまうと、骨も腐臭もさほど気にならないのであった。
しかも現代には、防腐剤がある。消臭剤も、殺虫剤も…

それなりに幸せな生活が、90年続いた。
彼女に問題はない。ゾンビは死なないから、16歳のゾンビのままである。
問題は彼だ。106歳の体を横たえ、ヘビが群れをなす山中で死を待ってる。
「がんばって、がんばってね…」「うむ、がんばって、きっとゾンビになるよ」

※眠くて…わかんない。
次のお題は:「プール」「保健室」「見学」で御願いしまふ
45名無し物書き@推敲中?:2005/11/02(水) 21:14:15
「プール」「保健室」「見学」

水泳大学校になんか、入らなければよかった……
よく考えもしないで『犬と一緒に通える大学!』の触れ込みに、安易に飛びついた私が馬鹿だった。
予定では、愛犬のミシェルと一緒に、キャンパスライフを謳歌するはずだったんだけどな……
だけどミシェルは受験に失敗、プールで溺れて死に掛けた。
私だけ合格で、でも愛犬と連れ立って入学しなかった私なんか、少数派もいいところ。
私が一番嫌いなのは、人間たちに見学が許されている、犬かきの授業だ。
みんな声を枯らして、マロンだのショコラだの、愛犬を応援して盛り上がってる。
つまらないから、そんな時私は、保健室で時間をつぶすの。
大学生になってまで、保健室を長く利用するとは、思ってもみなかったよ。
たまに犬がつかつか入ってきて、戸棚からジャーキーとかくわえて出てく。
ベッドで漫画読んでる私に、ちらっと軽蔑したような目を向けて去るんだ。
高学歴を鼻にかけてか、この大学の犬たちって、犬本来のかわいらしさを失っていると思うの。
うちに帰ったって、ミシェルは昔みたいに、私の帰りを歓迎してくれなくなった。
受験に失敗したミシェルは、すっかり心を閉ざしてしまったんだ。
学校はつまらないし、犬は心病んじゃうしさ……、大体水泳大学校って、意味わかんないし……


「銃撃」「アパート」「女」
46名無し物書き@推敲中?:2005/11/02(水) 23:22:06
「銃撃」「アパート」「女」

俺はいつまで経っても鉄砲玉だった。それで別に構わなかったのだ。
政治は肌に合わなかった。親父や兄貴の役に立てればそれでいい。
だからこの銃撃も二つ返事で引き受けたし、失敗すれば兄貴が俺を始末するだろう。
「気ィ抜いてんじゃないよ。阿呆」
きつい目で睨まれる。こいつは俺が背中を預けられる唯一の女だ。
だが今は、俺が逃げ出さないように付けられた……言わば監視役だ。
何でこのシマに流れて来たのか、親父の女になるまで何をしてたのか。昔の事は何も知らない。
振り返った艶のある髪から夜の匂いがして、俺はあらぬ方向を向いた。
「……あんた、死ぬよ」
二の腕に小さな熱い手がかかる。しなやかな細い指の感触を振り払うように、身を捩った。
「死なねぇよ」
死ぬよ、ともう一度女が言う。へらへら笑ってやろうと思ったが、身体は言う事を聞かなかった。
「……来る」
女が猫のように身震いする。アパートを出る男を確認して、俺は地面を蹴った。

「雪」「モニター」「機内食」
47名無し物書き@推敲中?:2005/11/02(水) 23:28:57
 「銃撃」「アパート」「女」

 私は扉の前に立ち、両手で銃を構え、ゆっくりと引き金を引く。
 乾いた炸裂音と共に撃ち出された弾丸は、ボロアパートの二階、タクヤの部屋の扉に風穴を開けた。
 扉の向こうからドタドタと慌てた足音が聞こえて、勢い良く扉が開かれる。直後、ボサボサ頭のタクヤが顔を出した。
「ごきげんよう、タクヤ。そしてさようなら」
「おわっ!? ユ――」
 三発。立て続けに銃撃を受けたタクヤは、赤い雨を降らせながらその場に倒れこむ。
「私たちはもう他人よ。二度と私の名前を呼ばないでちょうだい」
 私は言いながら銃を下ろす。最近の銃はむやみに重くていけないわね。肩が凝って仕方ないわ。
 そんなことを考えていると唐突に、部屋の奥から女の悲鳴が聞こえた。目をやると若い女が、目を見開いて血の海に浮かぶタクヤを見つめている。
 タクヤ……やっぱり浮気してたのね。
 私はウンザリしながらも銃口を女に向け、発砲――するつもりだったけど、あいにく弾切れみたい。
「運が良かったわね。お嬢ちゃ――っ!」
 突然の衝撃。そして、激痛。胸から溢れ出す血が、私のものだと分かるのに時間がかかった。よくよく見れば女の手には白銀の銃が握られている。
 タクヤの銃。
 忘れていたわ。この国にはもう、銃の所持に対する規制など無くなっていたことを。
 私はいつ殺されてもおかしくない国で生きていたことを――。

 「天」「地」「人」
4847:2005/11/02(水) 23:30:49
>>46
ごめん。かぶった。
俺のお題はスルーでおねげぇします。
49「雪」「モニター」「機内食」:2005/11/03(木) 12:02:28
 雪深いロンドンから、飛行機が東京へ向けて飛び立った。無事に離陸が済むと、それぞれ
の席にあるモニターが色鮮やかに、テレビ番組やグラフィックアートを映しはじめた。大学
の春休みを利用した一人旅を終えた僕は、その思い出に浸るでもなく、ひたすら隣を気にし
ていた。隣には、雪のように白い肌に長い黒髪、くっきりと大きい黒い瞳が印象的な女性が
座っていた。僕と同じ日本人だと思われた。めったに見ない美人だったから、僕は少し緊張
していた。何度かためらった後、思い切って、さりげないつもりで声をかけた。快く応じて
くれた。当たり障りのない話をしている最中に、機内食が出た。受け取りながらの会話の中
で、彼女が青梅へ帰るところだと分かった。僕は親近感を感じ、スチュワーデスが去ったの
と同時に、少し身を乗り出して彼女に言った。
「僕も同じ東京都です。立川です。近いですね」
「そうですね」と彼女は微笑んだ。そして、「青梅はいいところですよ。特に雪景色が綺麗
です。山に登って見るととても美しいですよ」と言った。僕はさらに親近感を感じた。
「僕も登山が好きで、登山部なんですよ。青梅ということは奥多摩の方に行くんですか」
「ええ」「一度一緒に登りませんか」「ぜひご一緒したいです」「本当ですか! どの辺り
が好きですか」「白丸ダムの辺りが好きです。山が霞むぐらい雪が降る時が好きです」
「ははは」
 僕は彼女の冗談に笑った。
「それ危ないですよ。遭難しますよ」
 しかし彼女は真面目な顔で、じっと僕を見つめて、「大丈夫ですよ」と言った。
 ぼくは彼女にただならない雰囲気を感じ、思わず口を噤んだ。そして、ふと何の気なしに
彼女の手元を見、機内食が凍っているのに気づいた。驚いた瞬間、機内とモニターが真っ暗
になった。機内放送が流れた。
「天候のため、一時照明を落としております。故障ではありません。ご迷惑をおかけ致します」
 外を見ると、下に厚く灰色の雲が見えた。下は豪雪に違いない。彼女を見ると、あでやか
な微笑みをくれた。僕は、遭難を覚悟で一緒に登山すべきかどうかを真剣に悩みはじめた。

「天」「地」「人」
50名無し物書き@推敲中?:2005/11/03(木) 12:44:53
「雪」「モニター」「機内食」

夏から、機内食の試食モニターになり、ちょうど半年が経った。
ニートで金の無い俺にとっては、これ以上ありがたい話はない。
今日も機内食のサンプルが「クール便」でやってきた。
しかし、段ボール箱を開けると、いつもと様子が違っている事に気付いた。
銀色のパックで『space food』と印刷されたパックが入っていたのだ。
その銀色のパックを眺めながら、民間人の宇宙旅行が本格的に開始されたという報道を思い出した。
「宇宙旅行ねぇ……」
俺は小学校の卒業文集で宇宙飛行士になりたいと書いた。
しかし、あの時どんな気持ちで将来の夢を書いたのか思い出すことは出来ない。
カーテン越しから、初雪の舞う低い空が見える。
窓を開け、冷気を吸い込むと、いつもの頭痛が少しだけ治まった気がした。

お題は49で
51名無し物書き@推敲中?:2005/11/03(木) 22:14:48
「天」「地」「人」

私は疲れている。なんと幻を見た。今さっき見た。
天から降ったか地から湧いたか、身長10センチほどの爺さんが机の上に現れた。
腕を組み、冷め切ったコーヒーのマグカップに寄りかかって、こちらを見上げていた。
「ほう、三語ネタに頭を悩ませておるようじゃな。ほんじゃまぁ、ヒントでも授けようかの」
私は幻覚を振り払おうと、頭を振り振り半ば叫んでいた。
「消えろ消えろ消えろ消えてしまえっ!」
爺さんは、お構いなしに余裕の笑顔で佇んでいる。
「も少し有難がってくれんと。だってわし『三語の精』じゃよ。こう見えて妖精なんじゃよ」
「妖精って、ジジイ……」
「ジ、ジジイ!?」
「ありえないありえないありえない絶対ありえないっ!」
「残念じゃの。じゃ行ってしまうからな。次の人のところへ行ってしまうからな。惜しいことしたのぉお主」
「行っちゃえ消えちゃえ去っちゃえいなくなっちゃえっ!」
ちっちゃいジジイは、ようやく煙となって消えた……
どっと疲れた。でもネタはなんとなく書けてしまった。


「無視」「ハエ叩き」「酒」
52「天」「地」「人」:2005/11/03(木) 22:43:33
夢を恥ずかしげもなく語っていた頃に好きだったドラマーが、死んだらしい。
もう年寄りであったし、長くないことは明白だった、涙は出なかった。
これまで数え切れにくらいの人が死んでいった、彼もそのうちの一人に過ぎない。
「天井に貼ったポスターを剥がしたのはいつだったっけ」
「音楽が日々の一部でなくなったのはいつだったっけ」
地に足がついたとき、夢は脆く崩れ去っていった。
「たしかあれは76年のことだったな」
埃にかぶったレコードを聴こうとしてプレーヤーがないことに気がついた。
心が大声で泣こうとするのを必死にこらえる。

お題は51で

53名無し物書き@推敲中?:2005/11/04(金) 09:43:50
 貧乏学生が住む侘しい四畳半に似つかわしくない、アラビアンで派手な兄ちゃん。突然
登場した彼に、俺は呆然とした。
「どうもー! こんちは!」彼は、絶対に筋肉ではない脂肪の付いた腹を揺らし、無駄に
爽やかに挨拶してきた。そして無反応な俺に首をかしげる。「僕のこと呼んだ? 呼んだ
よね? ちなみに、よんだってのは本を読む方でも和歌を詠む方でもないからね!」
「……あんた誰」俺はやっとの思いで声を出した。彼はプクプクした頬を持ち上げてニカッ
と笑った。「行数がないから説明するとね、君さっき五年間触ってなかった酒瓶をこすっ
ただろ。だから、魔法のランプよろしく魔人の僕が出てきたわけ。さあ願いを言ってみよう!」
「えー……」「なにその覇気のない返事は! 若者らしくないゾ!」「俺は静かなのが好
きなんだよ。そんで疑り深いんだよ」「オレを信用しねえのか? あぁ!?」彼は突然身を
乗り出して凄んで来た。俺はのけぞった。「そうだよ……、何か信用されることしろよ」
それを聞いた魔人は、「フン! 分かったよ。言ってやるから心して聞けよ!」と、腕を
組んで偉そうに言った。「んー……。あるなら聞いてやるよ」
「まずは僕の出生だ! 僕は酒が五年間醗酵したことで生まれた! 醗酵魔人だ!」「……」
「次に僕の持ち物を見せてやろう! ハエ叩き、スリッパ、携帯電話、」
 魔人は次々と懐から物を取り出した。それらはどれも見覚えがあった。
「それ俺のじゃねえか! 返せよ!」俺はいつになく大声を出した。
「僕の懐にあるんだから僕のものだゾ!」
「何言ってんだ、俺のだよ! なくしたと思ってたんだよ。返せよ!」
 魔人は俺にとって無視のできない存在になった。

「メンテナンス」「機械仕掛け」「愛」
54名無し物書き@推敲中?:2005/11/04(金) 22:17:25
「メンテナンス」「機械仕掛け」「愛」

例に漏れず、オイラも小型宇宙船一人旅さ。あぁ親の金でね。あぁボンボンだよ悪いかよ。
それにしても、どこのチャンネルもメンテナンスのため砂嵐って……すっげー寂しいんですけど。
冥王星vs海王星のチキチキボールの決勝戦見たかったな〜。
金星メロドラマでも構わないから、なんか一個でも放送してくんないかね。
こんななんもない宇宙空間でテレビ取り上げられるって、お仕置きだろうよそれ。
あぁちくしょうっ! 格好なんかつけないで同乗ロボット『女の子』にしとけばよかった。
機械仕掛けのオウムなんて、気の効いたこと一つ言いやしねぇの。
……って、すげーびびったすげーびびった! 今火星憲兵隊に船止められちった!
問答無用で地球人を銛で刺し殺す、とか聞いてたから、まじびびっちった! ちびっちった!
しかし、なんでこれほどこじれたかねぇ。火星と地球ったら隣人だろうよ。
今はずいぶんと険悪な雰囲気なわけだが……
昔は「火星大接近!」とかいって、喜んで眺めていたらしいからな。ま、うそっぽい話だが。
『太陽系連合』なんて絵空事だった昔の地球人ってどんなだったんだろう。
一人旅ったって、こんな大げさなことにならないで、海渡るぐらいで満足してたんだろうな。
地球を統一に導いた『卓球の愛さま』って実在したのだろうか……って、ロマンチックなオイラ発見!(笑)


「ぼろぼろ」「幽霊」「笑い声」
55「ぼろぼろ」「幽霊」「笑い声」 :2005/11/07(月) 02:28:32
ゆっくりと意識が溶解するなか、私は確かに聞いた。
げたげたという不快な音を。笑い声のような音を。
意識か無意識かそれすらも判別能わぬまま音のする方に耳と目を向ける。
そこには闇の中に在って尚暗い闇がとぐろを巻きながら肩を小刻みに震わせジッとこちらを見つめていた。
誰か?と誰何をするまでもなく私は直ぐにそれの正体に気づいた。
闇がのそりと重そうに腰を上げこちらの顔をヌゥっと覗き込んだ。
幽霊のように生気を感じられない眼が、私を見据える。その瞳の向こうにも同じような色をした眼が映る。
「どうだい?気分は?現実に敗北しつづけた気分はどうだい?え?」
唐突に闇が先ほどとは違う音を立て始めた。
「鹿十かい?あんたにいってるんだよ。おい?」
その音を闇が私に問いかけた言葉だと気づくには幾らか時間がかかった。
「まったく近頃は、現実と適当な折り合いを附けられねぇ奴が多くて困る。あんたもその口だろ?弱いくせに」
闇が愚痴る。私を嘲る。舌打ちをする。
「だから現実に殺されるんだ。こんなぼろぼろの布きれ同然に成り下がりやがって」
そう言いながら闇は纏っている布きれの端をもって、私の眼前でヒラヒラとふって見せた。
「大変そうだな……」
私は闇に言った
「ああ、大変さ。まったく」
「お向かいに来たのかい?」
「いんや。只の様子見。だがお望みとあらば連れてってやらんでもない」
「どうしようかな……」
「決めるなら早くしてくれ。俺とて暇じゃないんだよ」
「取りあえず後ででいい」
「…ふん。そうかい。じゃあまたな」
そういうと闇の気配はそれっきりぱたりと失せてしまった。
「ちょっと惜しかったかな……まぁいっか。」
私の意識もまた闇に霧散し失せつつあるなか確信する。
この日私は人生でおそらく初めて、ささやかではあるが現実に勝利した。

気のせいかもしれないが……

「狼」「花瓶」「病」
56名無し物書き@推敲中?:2005/11/07(月) 20:55:21
「狼」「花瓶」「病」

妻の好きなユリの花束を買い、僕は固い決意とともに家路についた。
今夜こそ、妻に秘密を打ち明けてしまうつもりだった。
夕食後、皿を片付け始めた妻を椅子に座らせ、僕は勇気を振り絞った。
「僕の秘密を……、僕の病ついて、君に知ってもらいたいことがあるんだ。
 実は僕、狼男なんだ。満月になると、狼に変身してしまうんだ。今まで黙っていてごめん」
妻は少しだけ目を丸くし、そうしてしばらく考え込んでから、静かに口を開いた。
「私もあなたに、黙っていたことがあったの。
 実は私……、私ね……、大のヨン様ファンなの。
 空港に駆けつけたり、韓国に飛んだり……、あれ急な出張じゃなかったの。嘘ついていてごめんなさい」
口元を押さえ立ち上がり、花瓶に花を生け始めた妻の背中が、小刻みに震えていた。
僕は、震える妻の華奢な体を、やはり震えていた己の両の手で包みこんだ。
「狼男な僕だけど、こんな僕でも、かまわないかい?」
「熱烈なヨン様ファンの私だけど、こんな私でも、かまわない?」
僕らは互いに頷きあい、微笑みあい、そうしてひしと抱きあった。
僕たちは、二人で困難を乗り越えた今日という日を、第二の結婚記念日と決めた。


「16歳」「盗賊」「スカーフ」
57「16歳」「盗賊」「スカーフ」:2005/11/08(火) 01:38:33
アルバダッディは自分の事を盗賊だと言っている。
「俺んちは代々盗賊やって暮してんだ」
そう言って胸を張る16歳の彼は、代々泥棒のカーストに属していた。
だから彼は毎度毎度あたしのスカーフを盗み、だからあたしは毎度毎度彼の所に取り戻しに来るのだった。
「これはもう俺んだ。だから返せない」
そして代金としてナンを一枚渡す。
まあ他にも欠けたお皿だのねじ曲ったスプーンだのいろいろ彼の”戦利品”はあるけれど、仏教徒のあたしには価値がわからないものだ。
「OK、取り引きだ」
アルはドラヴィダ語のイントネーションで殆ど聞き分けられない英語でそう言うと、ナンにかぶりついた。
あたしはそれをじっと見つめる。アルが嬉しそうに食べるのを見るのが好きだからだ。
でも彼は毎日殴られたり追い駆け回されたりしてタンコブや擦り傷をおっている。
それも皆、彼が泥棒だからだ。それもあまり、出来のよくない。
「ねえアル、泥棒なんて辞めてしまいなよ。仏教徒になれば、捕まって殴られたりすることも……」
そう言いかけてあたしは言葉を止めた。
アルの目は不安気に、欠けたお皿もあたしのスカーフも無くしてしまったように硬ばっていた。
「……ううん。でも今度はもっと上手く盗みなよ」
アルはこくっと頷いて、またナンにかぶりついた。


次は「ニュース」「蓄電池」「天体望遠鏡」
直也は暗闇の中で目を見開いた。頭から布団をかぶりうとうととラジオを聞いていた
彼は甲高い言葉の断片にまどろみから引き戻された。 臨時ニュースであった。
「空」「落ちてくる」「高速」「避難」 その矢継ぎ早の声に危うさを憶えて
ラジオを引き寄せて耳に押し当てていた。
アナウンサーが繰り返す単語を醒めきらない頭でつなぎ合わせていく。
「まじかよ!」
直也は低い声でうめくとベットを抜け出した。すばやく洋服に着替えてポケットをまさぐった。
天体望遠鏡を鷲づかみに掴むとアパートの扉を開けて凍てつく夜闇を挑むように睨んだ。
「寒みぃ」
そう呟くと駆けだした。吐息を白く弾ませながらスクーターにたどり着くとキーを差し込む。
ヘルメットを抜いたシートにまたがり望遠鏡のベルトを肩にかけてセルを押し込んだ。
悲鳴のようなセルモーターの金属音が冷気を引き剥がすと低いエンジンの振動が体を包んだ。
すぐにアクセルを開けると、スクーターは闇の底をゆっくりと滑り出した。
蓄電池の消耗が激しいのかライトは弱々しくアスファルトをなぞっていく。
「なるべく高い場所がいい。あそこだ」
直也は寒風に体を叩かれながらにこぼれるような星空を仰いだ。


次は「ガントリークレーン」「埠頭」「ビキニ」
59名無し物書き@推敲中?:2005/11/08(火) 21:46:14
「ガントリークレーン」「埠頭」「ビキニ」

サプライズパーティの最終チェックをしておこうか。
まず、抜け荷の品をご覧にかけると言って、夜半にお代官を埠頭にお呼びたてする。
程なく手配したタンカーが港に到着(その雄大さにお代官様圧倒)。
計200個のコンテナには、厳しいオーディションを勝ち抜いた世界各国の美人ダンサーたちが待機。
踊り子さんたちには、コンテナヤードにて、セクシーなビキニ姿に変身していただく。
お代官様にシャンパングラス差し上げていると、ガントリークレーンに仕掛けた電飾が灯る。
『ハッピーバースディ お代官様!』
打ち上げ花火を合図に、コンテナからビキニ美女軍団が華々しく登場。
浅草サンバカーニバルに勝るとも劣らない、それはそれは賑やかしいダンスの嵐。
そうして、美女たちと一緒に、そのままタンカーでわたしとお代官様は世界一周の旅に出る(かも?)。
「亀五郎……」「彦十郎……」
とかなんとか、道中何かのきっかけで、呼び捨てしあう仲になってしまったり!
「越後屋、そちも悪よのぉ」とかなんとか横腹を突かれ、わたしはすっかりお代官様のお気に入り!
あぁなんという胸躍るプラン……!
越後屋亀五郎、天才かもしれません……


「麻薬」「結婚」「喜劇」
60名無し物書き@推敲中?:2005/11/20(日) 15:22:48
「麻薬」「結婚」「喜劇」

 宮殿に撮影車が乗り付けると、しかめっ面の老主人が顔を出す。他愛も無い喜劇映画の、よくある撮影だ。
 超堅物で知られる主人も、「この、素晴らしい、国宝級の宮殿を…」と持ち上げられると、了解してしまったらしい。
 国宝級は、宮殿だけではない。「類を見ない」老主人も執事も、外出すら許されない17の娘も、端役出演となった。

 素人はNGも多い。女給に扮した実娘が、王子役に引き寄せられる場面など、撮り直しは十回以上だ。
 王子役と幾度も繰り返される接吻の演技…耳まで赤くしてそれに応じる娘に、彼は言った。
 「ただの演技じゃ。貸衣装の偽王子じゃ。娘よ、お前も大いに演技で答えたやるがよい」

 撮影は遅れ、限られた時間と予算に皆の目は血走り、修羅場の中で「映画」という言葉が、麻薬の効果を発揮し始めた。
 「脚本?後で修正するから!」「適当な骨董品、探してこい!」「テープ貼って済まそう、どうせ映画さ」 
 王子の寝室で「下賎なる女給」が、エプロン姿のまま押し倒される場面ですら、父も娘も放心した様な表情で応じた。
 慣れない娘が、あられもない姿でNGを連発する。「映画の上だけの事じゃ。血筋や婚礼の事はまったく別じゃぞ、娘よ」

 撮影が終わり、いつもの静けさを取り戻した宮殿に、翌年小さな異変が起こった。
 娘が、王子役との結婚を申し出たのだ。何を言われても引き下がらない。口答え一つしなかった、あの娘が!

 「何を考えておるのだ、娘よ。あれは映画、架空の演技ではないか?目を覚せ!お願いだ」
 娘もそれは十分判っていた。が、あの1ヶ月の「演技」で生まれた現実の気持は、もう自分ではどうしようもなかった。
 仕方ない現実だった。生まれて来る子供だって、私生児にするわけにはいかないのだ。

※マレーシアあたりでありそう…ないか
次のお題は:「宇宙」「お茶漬け」「昆虫採集」でお願いしまふ
61名無し物書き@推敲中?:2005/11/21(月) 21:29:21
「宇宙」「お茶漬け」「昆虫採集」

夫はとにかく、お茶漬けが好きな人でしたねぇ、えぇ。。
何を召し上がりたいのと聞きますと、いっつも「お茶漬け」と、こう答えるんですの、えぇ。。
商店街の福引で宇宙旅行を当てました時にも、あたくしお茶漬けのりを持たせまして、えぇ。。
でもあたくし、おっちょこちょいでございますでしょ、えぇ。。
お米と炊飯器持たせるの、すっかり忘れてしまいましてね、えぇ。。
夫はぷんぷん怒って帰還いたしまして、熟年離婚の危機を迎えましたわ、えぇ。。
頑固というか、意地っ張りというか……、えぇ。。
初孫に「永谷園」と命名するときかないんですから、えぇ。。
長男も折れなかったものですから、以来音信不通でございますの、お恥ずかしいことに、えぇ。。
後を継がせた次男のね、今年3歳になる孫がめでたく「永谷園」になりまして、えぇ。。
夫は永谷園を、そりゃもうかわいがっておりまして、よく裏山に昆虫採集に出かけましてねぇ、えぇ。。
ある日夫と孫が台所でこそこそ何かしているわけです、仲良しさんですからねぇ、えぇ。。
何してるのかなぁと覗いたら、採ってきた虫をお茶漬けのトッピングにして食べる寸前で、えぇ。。
あたくしも、そりゃ孫がかわいいですものですからね、えぇ。。
その時ばかりは心を鬼にして、夫をぶんなぐって失神させましたけどね、えぇ。。


「屋根」「電柱」「ジャンプ」
62名無し物書き@推敲中?:2005/11/28(月) 13:11:03
「屋根」「電柱」「ジャンプ」

 帰宅途中のことである。
空は夜の黒でも昼の青でもなく、ちょうどその中間色で染められていた。太陽に
邪魔されて輝きを失っていた満月が自分の存在をアピールしだした時分である。
通りなれた住宅街、突き当りを右に曲がり、10メートルほどすれば暖房の効いた我が家に着く。
私は白い大きな溜息を吐くと、少し歩くペースを速めた。
何気無く空を見上げると、奇妙なものが視界に入った。ちょうど見上げた月と
自分の視線の直線状に二階建ての家の屋根があり、その屋根の上で子供が
月に向かって手を仰ぎながらジャンプしていた。
私はその不思議な光景に対し、好奇心が徐々に空に増えていく星の様に
瞬きだした。
電柱に身を隠し屋根の上の子供の様子をそっと伺う。
目が慣れてくるにつれ、屋根の上の人物が子供ではなく
背の低い中年男であることが確認できた。
男は何度も月に向かい飛び上がる。私は、イソップ童話に出てくる、葡萄を
採ろうとして何度も飛び上がり、最終的に諦めてしまう狐を思い出した。
観察を始めて15分程時間が過ぎた。男は突然しゃがみ、垂直跳びの要領で反動をつけると
これまでよりも高く飛び上がった。男の頭と月が重なり、
私の視界から一瞬月が消える。次の瞬間、男は着地に失敗し、小さな体を
回転させながら屋根から滑り落ち、
グチャリ、という音と共にアスファルトへ落下した。

「ナイーブ」「熊」「脂肪」
63名無し物書き@推敲中?:2005/11/29(火) 04:35:33
「ナイーブ」「熊」「脂肪」

 白いウサギがニンジンをくわえ、ツクシをふみつけ走っていた。
 急ぐウサギの前方に、いきなり熊があらわれた。とても大きな熊だった。
 2本足で立った熊はウサギをはるか頭上から見おろした。熊は腹をなでなで話しだす。
「私は腹がへっています。これからあなたを食べますが、言いのこす事はありますか?」
 ウサギはガタガタふるえつつ、思わず落としたニンジンを前足で指した。
「おねがいします、このニンジンを巣の子供達にとどけるまでは、どうか見のがしてくれませんか」
 熊は困ったように首をかしげ、きっと戻るのだぞと念をおし、熊はウサギに道をあけた。
 もちろん、熊はウサギが戻ってくるとは思っていなかった。
 熊が新しい獲物を探して森をうろついていると、白いウサギが息を切らせて走ってきた。
「よかった、ようやく見つけました。子供達においしいニンジンを食べさせ、もう思い残す事はありません」
 そうしてウサギは熊の前にゆっくり歩みより、体をさしだした。
 熊は前足を一度ふりあげたが、ゆっくり下ろして、ふたたび腹をなでた。
 ふしぎそうに見つめるウサギに、熊は前足でポリポリと頭をかいた。
「いやなに、冬眠前でもないのに体に脂肪がつきすぎましてね。ダイエットしていたのを思い出しました」
 そうして去っていった熊にウサギはふかぶかと頭をさげた。熊はナイーブであったという話だ。

「戸棚」「夏」「ティッシュ」
64名無し物書き@推敲中?:2005/11/29(火) 23:40:57
「戸棚」「夏」「ティッシュ」

あぁ。もう11月も終わりだね。
いつの間にか年末って感じで。
うそみたいだよ。
えって思わず声に出ちゃって、自分でおかしくて笑っちゃった。
おかしくて笑ってたはずなのにヘンだな、涙流れてきちゃってなんかヘンだ。
かっこ悪いったらないや。
きたない部屋の真ん中で、私はちっちゃな子供みたいにぐずぐず泣いてる。
くしゃくしゃの涙と鼻水だらけのティッシュに埋もれて泣いている。
けろりとしているんだけどね。きっと明日の朝にはね。きっとね。
この夏、戸棚の奥に封印した写真、うっかり見つけちゃったのがいけなかったんだ。
さくらを背景に、あなたと私、照れ笑いしているね。
しっかり手を握ってくれたから、私この時ドキドキしてたんだ。
すっごく好きで。死ぬほど好きで。今でも好きで。大好きで。
せっかく忘れかけていたのにな。秋のやつが私を感傷的にさせるんだもん。
そろそろ、というかいい加減前に進まないといけないぞ。がんばれ自分。がんばって私。


「勉強」「雑音」「フラペチーノ」
65名無し物書き@推敲中?:2005/11/30(水) 16:52:21
「勉強」「雑音」「フラペチーノ」

「マスターの……飲みたい」
 古ぼけた黒電話が、親友の最後の言葉を私に届けてくれた。
 親友は安全運転を第一とするライダーで、年代物のハーレーを駆って
全国を巡ることを生き甲斐にしていた。
 まだ二十代半ばだったが、中々に老成した人格を持ち、行く先々で
出会った人、風景や移り変わる季節の素晴らしさを、私に聞かせてくれた。
「マスターもバイクに乗りませんか? 楽しいですよ」
 黒のライダースーツにティアドロップスのミラーシェード――これがまた
嫌味なく似合うのだ――で身を固め、体格の良さもあいまって威圧感を
醸し出しているのだが、カウンターに掛けてサングラスを外し、オーダーを
する時の彼の顔といったら、父親に今日一日の出来事を吹きかけようと
する幼子のそれだった。
 最初は、ライダーとは人懐っこい人種なのかと偏見を持って接していたが
いつしか私は、二周り程も年の離れたその青年の訪問を心待ちにする
ようになっていた。
 しかし、あの日を境に、親友は二度と私の店を訪れることは無くなった。
 以来、私はある行いを欠かしたことがない。
 四季の巡る折々に、カウンターテーブルの中央に誰が注文するでもなく
一杯のフラペチーノを置き、活気と雑音に塗れた――そう、店が繁昌して
いても私はこの行いを欠かさない――店内で、私は無心に黙祷を捧げるのだ。

 先日、私の体が深刻な病魔に冒されていることが解った。
 学も無く、勉強はまるで出来ない私だが、その病気が私の命数を
あと数年まで削り切ることくらい、理解出来た。
 黙祷を捧げる時、私は思う。
「また、君の土産話を聞かせてもらうことになりそうだよ」

「契約」「宅急便」「鎖」
66名無し物書き@推敲中?:2005/11/30(水) 20:27:08
 黒い羽を生やした巨獣が両手を頑丈な鎖で繋がれている。獣は、
恨みか憎しみかさては純粋な怒りを喧伝しているのか猛烈な咆哮を
あげ、取り付く島もないほど暴れている。
 三分もしないうちに遠く彼方、灰色の雲を突き破って一人の老婆が
かっ飛んできた。節くれ立った太い毛が棒から直接伸びた箒に
またがったまま、おぞましき顔の魔女は獣の眼前にゆっくりと停止した。
「へぇ毎度。今日は何の御用で」
「ガアギイ」
「左様ですか、ではこの契約書に判子お願いします」
「グウゲエ」
「お任せを。三分後にはお嬢さんの手にプレゼントし終えますとも」
「ゴオオオ」
「滅相もない! ワイセツ罪ではなく、二日酔いで帰れないんですよね。
 一言違わずお伝えします。ええ、ええ。魔王様おちついて」
 魔女の宅急便は今日も元気に営業中だ。
6766:2005/11/30(水) 20:29:14
上は「契約」「宅急便」「鎖」
次は「点薬」「黒猫」「ベッド」
68名無し物書き@推敲中?:2005/12/01(木) 21:14:38
「点薬」「黒猫」「ベッド」

同棲を始めて2週間、ついに彼の口から「猫飼いたいね」発言が……、うぅぅ。。
彼は大の猫好き人間で……、でも私は猫アレルギーの人で……、それをひた隠しに隠してて……
しかし私恋する乙女ですから、弱点を克服すべく、知り合いの勤めるペットショップに修行に参りましたよ。
ぐしゅぐしゅこっちが涙流しながら、ちっこい黒猫の点薬を任されては引っかかれてみたり……
そして私は一日で悟ったのであります。アレルギーを気合で治すのは無理だ、と……
こうなったら残された道はただ一つ、私自身がどんな猫よりも猫らしく猫として生きてやるっ!
私は買って帰ったモンプチを肴に、さっそく特訓を、いや最終解脱に取り掛かりました。
「私は猫だ私は猫だ私は猫ニャ私ニャ猫ニャニャニャニャニャニャニャニャ! ニャ、ニャッタ!」
「なにやってんだよ!?」振り返ると、愛しい彼が怪訝そうに私を見つめておりました。
食べかけのモンプチを見て取り乱し始めましたので、観念して正直に事情を説明しますと、
「俺はあれだ、“猫缶食い食いニャーニャー独り言女アレルギー”だわ。なんか無性に体かいーし」
「そ、そんなばかニャー!」と、飛び込んだ彼の胸をドンドンこぶしで叩きますと、
「だからそのニャーニャーやめれと言っとるんニャー! う、染ったニャー!」と、そこはノリのいい彼。
しばらくじゃれあっていましたが、私の猫パンチが彼の顎に綺麗にヒットすると、彼は膝から崩れ落ちました。
今彼はベッドで熟睡しております。とても幸せそうな寝顔です。大丈夫、息はしています。してると思います。


「散歩」「アイデア」「一万円」
69名無し物書き@推敲中?:2005/12/03(土) 00:26:32
「散歩」「アイデア」「一万円」

「来週の誕生日、楽しみにしてるね。それじゃ、またぁ〜。」
大きく手を振りながら去って行く彼女を、俺は複雑な気持ちで見送った。
来週は彼女の誕生日にして、俺達が付き合い始めて丁度1年の記念日。
プレゼントを何にしようかと頭を悩ませながらの今日のデートだったのだが、特に収穫は無し。
それとなくショップを周り様子を見たが、彼女が反応するアイテムは、どれも軽く1万円以上の値段。
買ってあげられない金額ではないが、食事やら何やらとセットで考えると、ちょっぴり懐具合が気になったりもする。
今日は久しぶりのデートだったこともあり、お喋りした時間が長かった。喫茶店にいつまでも居られるわけもなく、
街中を散歩して歩く安上がりなデートだったが、彼女はそういうところは気にしないようだ。
2人の時間が1番のアミューズメント。それがデートの時の彼女の口癖だった。
「2人の時間をプレゼント...って、どうプレゼントするんだよ。」
万事休す!頭を掻きむしりながら歩いていると、昼間彼女と歩いた通りへ出た。
緑と古い町並みが特徴の通りで、街の喧騒よりも人々の息づかいを感じ取れる、落ち着いた街並みだ。
その通りを5分ほど歩いた俺は、そこである物を目にし、ある1つのアイデアが浮かんだのだが。
「 空 き 家 あ り ま す 。 家 賃 応 談 。 」
付き合って1年のプレゼントに家の鍵っていうのは、どうなんだろうねぇ...


「コタツみかん」「情けは他人の為ならず」「抹茶」
70名無し物書き@推敲中?:2005/12/03(土) 15:09:51
「コタツみかん」「情けは他人の為ならず」「抹茶」

私の彼は太っている。
“情けは他人の為ならず”ということわざを額面どおりに誤解していた私は、実行に移すことにした。
「ちょっとは痩せなさいよ!」
コタツみかん族とでもいうのだろうか、
私の彼は、今日もワンルームのマンションの地味な灰色のコタツにまるまると太った体を潜らせて、みかんを食べていた。
「おまえも食べる?」
拍子抜けしそうな、この自然な優しさが好きなんだけど。
「いらない。ほら、これ飲んで」
「なにこれ」
「抹茶ダイエット」
「うえ、抹茶って好きくない。おれ」
「いいから飲むの」
「でも、抹茶って好きくないもん。おれ」
「いいから飲むのよ」
「でも、やっぱ、抹茶って好きくないもん。おれぇぇ」
「いいから飲むのよぉぉぉぉ」
私は彼が好き。

お題は、あえて継続で。。
71「コタツみかん」「情けは他人の為ならず」「抹茶」:2005/12/03(土) 17:25:52
 昼になり、朝剃ったにも関わらず早くもたわしになりつつある顎を指先で挟み、
私はこたつを睨み付けた。眼前には昨日から居座っている男が、虫唾が走る甘い声
で、ねぇスプーン取ってよ、などとほざいている。私が黙っていると、やつは、情
けは他人の為ならず、いつか恩返しするからさぁ、などと騒ぎ出した。
「いいか、よく聞け」
 私は言った。根性を叩きなおさねばならん、と思ったからだ。こいつには日本人
の心がない。
「今のお前には足りないものがある。言ってみろ」
 やつはきょとんと首を傾げた。私は腕組みをして続けた。
「お前は今こたつに入っている。日本で古来親しまれている暖房器具に足を突っ込
んでいる。その、伝統ある暖房器具には不可欠なものがあるだろう」
「そうなの?」
「そうだ! 抹茶に菓子が不可欠なように、こたつにも不可欠なものがあるだろう!」
 やつは、男とは思えない生っちろい手を薔薇色の頬に当てて、ん〜、などと暫く
考え、やがて口を開いた。
「スプーン……」
 私は激怒した。
「駄目だ! コタツにはみかんだろう! コタツみかん! みかんはもちろんスタ
ンダードな温州みかんだ! それが日本人の心! それをお前はなんだ! グレー
プフルーツなど食べようとしやがって! 日本の伝統を愚弄する破廉恥行為だ!
そこまでするなら齧り付け! 日本の伝統を無視してグレープフルーツどうしても
食いたいというのなら、 原始人の如く齧り付け!」
 言うと、やつは本当にグレープフルーツに齧り付いた。
 そして私を振り返り、グレープフルーツまみれの口を開いて何を言うかと思えば、
「ティッシュ……」

次:「昴」「悠久」「針」
 夏のある朝、目覚ましが鳴ると同時に達郎は叫んだ。
「冬の王道がコタツみかんなら、夏はうちわアイスだろ!」
 誰も彼の逆ギレに応えなかった。もし誰か居たとしても、
その主張から彼がまだ眠り足りないのだとは悟れまいが。
 ただセミがうるさかった。
――ミーンミーンミンミーン
 クーラーを買えと言わんばかりの喚き様だ。辛抱できず達郎は
起き上がる。夏の湿った空気が達郎の肌をぬるりと滑った。
「せめて扇風機があればなぁ」
 うちわを仰ぎ、抹茶アイスを舐めながら達郎はほざく。
情けは他人の為ならずというが、達郎相手では神でも情けを
掛けまい。なにぶん、達郎は熱心な無神論者だ。
――ミーンミンミーン
「その前に騒音対策か。そっちのほうが安いし」
 呟くと達郎は外へ出た。耳栓を買うために。

諸事情で出遅れ。お題は>>71ので。
73名無し物書き@推敲中?:2005/12/06(火) 05:48:46
「昴」「悠久」「針」

針のむしろとは、この事か!
四面楚歌で袋小路で八方塞がりな状況が、もしこのまま悠久に続いたら、
額から流れる冷汗と脂汗が、キングスライムに変身するのではないかと思えてきた。
「えと、、、その、、、つまり、、、だから、、、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
どうやらハッキリとした答えを出すまでは、この場から抜け出せそうには無い。
いや、答えをハッキリと出したところで、ただでは済まないのだろう、きっと。
でも答えなんて、今の状況しか無いわけだし、今の状況で納得されないという事は、
つまりは俺に打つ手は無いわけであり、言い訳も言い逃れも出来ない以上、
俺の取るべき道は、キングスライムしか無いのだろうか?
そんな俺の姿を、喫茶「昴」のマスターはほくそえみながら呟くのだった。
「天罰天罰。気をつけよう、甘い吐息と、角隠し。桑原桑原。」



「キャッツアイ」「アイコラ」「コラボレーション」
74名無し物書き@推敲中?:2005/12/10(土) 06:32:05

「キャッツアイ」「アイコラ」「コラボレーション」

自宅前の玄関に誰かいる。
青い全身タイツを身にまとい、腰に黄色いスカーフのようなものを巻きつけ、
玄関の鍵穴に針金のようなものを突っ込み、どうやらピッキングで玄関を開けようとしている様子だった。
少し怖かったが、体のしなやかな曲線でその人物が女性であることが
見て取れたので、腕力で負けることはないだろうと考え、思い切って近づいてみることにした。
女性はピッキングに夢中で、俺が近づいても全く気付く様子がない。
「何してるんすか?」
どう見ても盗みを企てている以外には考えられなかったが、
とりあえず俺は彼女が何をしているのかを思い切って、それでも刺激しないように訊ねた。
彼女はハッとしてこちらを振り返った。目はギラギラして口は半開き、おまけに汗だくという
切羽詰った表情だったが、どことなくチョコレートのCMに出てるアイドル(名前忘れた)に似ていた。
彼女は少しあせったような顔をしたが、すぐに背筋を伸ばし右手の人指指を口元に持っていき、
左腕で右肘を支えたポーズを決め、
「私はキャッツアイ。美しさと犯罪のコラボレーション」
と、おそらく彼女の中で一番自信のある表情なのだろうと思われる顔を造って、台詞くさい口調で言った。
後ろからではわからなかったが、キャッツアイと名乗った女はかなり胸がでかく、
全身タイツでその巨乳が強調され、チョコレートのCMに出てるアイドルのアイコラみたいだった。
怪訝そうな俺に対し、キャッツアイは
「あなたのお宝をいただくわ」
と、俺の股間に手を伸ばし、一物を2,3回揉むと走って逃げた。
俺は追いかけようとはせず、逃げる背中を見つめながら、盗み失敗したからって下ネタは無しだろう、と思った。

75名無し物書き@推敲中?:2005/12/10(土) 06:33:28
ごめんお題書き忘れた。
「こたつ」「バスタオル」「絆創膏」


ハカセ「驚きたまえ!女学生の救世主、<コタツスカート>が完成品じゃ!」
助手 「マネキンに制服着せて喜んでいる老人がいれば嫌でも驚きますよ」
ハカセ「この発明はな、スカートの内側から遠赤外線がでて温かいのじゃ」
助手 「はあ。でも、なぜ今回は制服の発明なんですか?」
ハカセ「君には解らんだろうな。短いスカートで冬の寒空の下学校へ向かわ
    なければならないワシの苦労を」
助手 「ちょっと待てジジイ。女学生の救世主じゃなかったのか」
ハカセ「もちろんじゃ。性能もばっちりだぞ。昨日の雪もへっちゃらじゃった」
助手 「出たのか?着けて出たのか?おい」
ハカセ「科学の進歩、人類の未来の為じゃというのに……警察はわかっとらん」
助手 「頼むからこの研究所の未来の為に消えてください」
助手 「……あれ、このマネキンの膝にある絆創膏は?」
ハカセ「このマネキンはボク娘じゃ。元気一杯でいつもかすり傷が絶えないの
    じゃ。さらに運動部の早朝練習に行く時の足の寒さが――」
助手 「絆創膏一枚でそこまで妄想を……。しかし名前のセンスはどうでしょう」
ハカセ「こたつとして使えるのじゃ。スカートをはいて、頭にみかんを載せたり、
    洗濯したバスタオルの上に立ば即こたつじゃ。皆を暖める事も出来る」
助手 「え、他人を暖めるのですか?どうやって?」
博士 「うむ、その方法はな……助手君。まず下のアンケートに答えたまえ」
 
   あなたは18歳以上ですか   YES  NO

「みかん」「アンテナ」「サイト」
77名無し物書き@推敲中?:2005/12/12(月) 20:51:26
「みかん」「アンテナ」「サイト」

今回は「みかん」、その前は「こたつ」、少し前には「コタツみかん」ですか……
みなさんこたつでみかんをいただきながら、ネタを考えているのでしょうな。
日本の冬ときたら、うん、そうだよねぇ。
こたつで温もってみかんで指を黄色く染めるのが、日本人の越冬スタイルだもの。
紅白でサブちゃんのしびれる歌声を聴いて、粛々と新年を迎える、それが日本人だもの。
私は今年インターネットを始めて、2ちゃんねるの奇妙な用語を覚えるのにずいぶん苦心いたしました。
今時の若者に馬鹿にされまいと、アンテナを張り巡らせ、老体に鞭打って突っ走ってまいりました。(私、乙!)
例えばそう、我が社の女子社員などには、決して信じてはもらえますまい。
この私が、エミネムのファンサイトに日参している、なんて事実など……
私は若者に迎合し、エミネムこそ神であると、すっかり思い込んでしまうところでした。
今日このスレのお題の傾向を見て、目の覚める思いが致しました。(私にとってのネ申はサブちゃんであった!!)
すると途端に、それこそ冬の星空のように、綺麗に心が掃き清められた心地がしたのです。
昨日までの私ならば、若者の趣味に合う次のお題について悩み始めるところでございましたが……
今日ばかりは、ただただ静かに目をつぶり、ぽっと浮かんできた事柄をそのままお題にしようかと思います。
なんたって人間、素直が一番ですからね。根っこのところで勝負なのですから、はい。


「妻」「完全犯罪」「保険金」
78名無し物書き@推敲中?:2005/12/12(月) 23:05:58
「妻」「完全犯罪」「保険金」

妻の下着を売り飛ばして小遣いを稼いでいたことがばれた。
完全犯罪のはずだった。
かれこれ半年もこれで商売していて顧客はずいぶん増えたが、彼らが妻にばらすわけもなし。
なぜ分かったかと尋ねたら、下着が一着もなくなれば分かるに決まってるわと冷たく言われた。
平謝りに謝ってなんとか妻に許してもらえたが、新しい下着は買ってもらうとのこと。ごもっともである。
しかし、廃業させられ収入を絶たれた今や金がない。
失業保険金でも下りないかと保険屋にかけあったが一蹴された。
しょうがない、自分の下着でも売るか。

「ズロース」「ブリーフ」「ふんどし」
79名無し物書き@推敲中?:2005/12/13(火) 08:44:34
「ズロース」「ブリーフ」「ふんどし」

 海はなぎ、天には雲もなく、空気だけがはりつめるような寒い町だった。
 岸壁には数人の男達が釣り糸を垂れ、砂浜の流木には老人が腰をかけていた。
 人影はそれだけだった。静かな冬の海だった。 

 そんなうらぶれた海岸の岬あたりに、白く波が立っていた。
 風もないのに起きている波を見て、魚の群れかと思った釣り客が目をこらした。
 波を起こしていたのは、風でも魚でもなく、下着姿で溺れている女だった。
 たちまち釣り客から村人まで海岸に集まったが、口々に叫ぶばかりで、助けようと動く者はいない。
 私はまぬけにもブリーフ一枚しか身につけてなく、口を開くことさえできなかった。

 その時、流木に腰かけていた老人が集団の中から飛び出した。
 老人は手早く帯をほどいて浴衣を脱ぎすて、ふんどし一丁で極寒の海に飛びこんだ。
 そしてみごとな立ち泳ぎで女を助け、釣り人の手を借りつつ浜にひきあげた。
 女はあられもないズロース姿だったが、肌は青ざめ唇は紫に変色し、美しい顔立ちが台無しだった。
 気絶した女に老人はえいやと活をいれ、先ほど脱ぎすてた浴衣を肩にかけてやった。

 なぜそのような姿で溺れていたのかと老人は女に問うた。女は泣きながら岬を指した。
 そこには共に心中しようとしていた私の死体が、ぷかりぷかりと浮いている。

「日の入り」「夕陽」「落日」
80名無し物書き@推敲中?:2005/12/13(火) 21:14:30
「日の入り」「夕陽」「落日」

「俺小説書き始めたっつったじゃん。書き出しで躓いてんだけどさ、お前の意見聞かせてくんない?
 まず『日の入りの頃、俺は』というのが一つな。
 あと『夕陽が世界を赤く染め、俺は』というのが一つ。
 も一つは『美しい落日など知る由もなく、俺は』ってやつ。もう冒頭から迷っちゃってさ」
「待て待て。その『俺は』の先まで聞かせてくれよ。気になってしょうがねぇじゃねぇか」
「……わかったよ。『美しい落日など知る由もなく、俺は居間のこたつでみかんを食っていた』」
「な、なんだそれ??」
「どれが一番良さげ? あと『落陽』って選択もあるんだけど、そっち使った方が良さげ?」
「そういう問題じゃねぇだろうよ。そんな拘るんだったら、外に出て夕陽に当たっとれって話しだろうが」
「リアリティリアリティ。冬の設定だからさ。寒いだろ、外」
「寒いったってお前……、なんとか都合つけてよ、その沈む太陽とともにあれって話しだろうが」
「話の筋にまで首つっこんでくれなんて頼んでないじゃん。俺の俺による俺のための小説なんだからさ」
「それにしたって、夕暮れに家ん中でみかん食ってますって……、どんなお話だよそれ……」
「だからここは大切な伏線なんだよ! 俺の迷い込んじゃうみかん共和国は一日中夕陽色に染まってんだからさ!」
「……お前、40にもなって『みかん共和国』に迷い込もうとしてんじゃねぇよ! お前、気持ちわりーよ!」


「こつこつ」「とんとん」「ちゃらちゃら」
81名無し物書き@推敲中?:2005/12/14(水) 17:19:57
「こつこつ」「とんとん」「ちゃらちゃら」

 風邪をひいて学校を休んで、部屋で寝込んでいると、玄関が開く音が聞こえた。
 おねえちゃんが帰ってきたんだな。と僕は、目を瞑りながら思った。
 お母さんとおねえちゃんの足音は似てるけれど、バッグについたストラップがちゃらちゃらと音を鳴らすのはお姉ちゃんだけだ。
「シュウ、大丈夫?」と、部屋を開いておねえちゃんが聞いた。
「うん……」と僕が言うと、おねえちゃんは僕の様子を見て、額に手のひらを置いて、大丈夫じゃないじゃない、と言った。
「食欲ある?」と聞かれた。ない、と答える。「卵がゆ作るから、食べなさい」
 うん、と答えた。

 おかゆを煮ていいる間におねえちゃんは氷嚢をかえたり、体を拭いたりしてくれた。インフルエンザじゃないの、とおねえちゃんは言った。
 昼間、病院にいったけど、違うって、と僕は苦しいのどで言った。
 
 とんとん、とニラを刻む音、こつこつ、と卵を叩く音。
 すぐに卵がゆが出てきた。
 熱くもなく、さめてもなくて、少し柔らかすぎたけどとても美味しかった。
「ありがとう」と僕はおねえちゃんに言った。

next word
「夜叉」「つらら」「ヒスイ」
82名無し物書き@推敲中?:2005/12/14(水) 21:17:16
「夜叉」「つらら」「ヒスイ」

前略、○○君。元気ですか。
僕はついに見つけたよ。信じられないだろうけど、今僕は『つらら婆』と一緒にいる。
捜し求めて12年。つらら婆はただの都市伝説じゃなかった!
ボロをまとい、夜叉さながらの面相で、つららを諸手に襲い掛かる、雪山に棲息する、すばしこい婆……
思い返せば12年も雪山で遭難したふりをしてきたなんてね。僕も今までよく生きていたもんさ。
馬乗りになってつららを振りかざし、今まさに僕にとどめを刺そうという婆さんに、僕は言った。
「あなた、ひょっとして、つらら婆さんでは、ありませんか?」
僕に全く恐怖の色が見えないことが不思議だったらしくてね、僕を殺すのを思いとどまってくれたよ。
僕はつらら婆に、どんなにあなたに逢いたかったかを熱く語った。それこそつららを溶かすくらいの熱心さでね。
するとつらら婆は、自分の指からはずした大きなヒスイの指輪を僕に差し出しながら、こう言ったんだ。
「おめぇ、わしの、だんなさ、なるか?」って……
「……イエス」って僕はうなずいて、次の瞬間つつぅと涙こぼしちゃってた……。だってあんまり嬉しくて……
あぁ、僕はつらら婆の夫になったんだよ。『つらら爺』になったのさ! ついに僕も伝説の仲間入りってわけさ!
少々興奮気味の手紙ですまない。もう会えないけれど、君も元気でやってくれ。雪山から幸せを祈ってるよ。
追伸:雪山で迷ったりするなよ。つらら爺が襲っちゃうぞ。爺と婆で襲っちゃうぞ。ははは。草々。


「静電気」「出会い」「紅茶」
83「静電気」「出会い」「紅茶」 :2005/12/15(木) 00:45:53

自動販売機で暖かい紅茶を買い、少し冷えた指先をそれで暖めなが
ら公園へと入って行く。
砂にざらついたベンチ。あのころと変わってない。
照明塔の近くに植えられた小さい桜が、春の夜には絶好のライトア
ップに照らし出されることを知る人は少ないだろう。
それも今はつぼみすら付いていない。
あの春の夜に見た景色、感じた風、揺れていた心。
脱ぎ捨てたセーターの作る静電気の痛みに、別れたヒトの思いを感
じていた。
でも。春は出会いの季節でもあった。
ちくちくする痛みなんて忘れてしまった。

携帯がポケットでけたたましく震えた。心もち腰が引けつつ耳に当てる。
開口一番怒声が飛び込む。耳が痛い。だいぶお待ちのご様子。
感傷に浸ってる場合じゃなかった。鼓膜がズキズキする。
そんな痛みをくれる彼女の生まれた日に、僕は幸せを感じて走り出した。


「すす」「ほうき」「はたき」
84名無し物書き@推敲中?:2005/12/15(木) 21:19:57
「すす」「ほうき」「はたき」

師走に大掃除に取り掛かるのは、山の獣も一緒です。
ある山奥で、狐の母子が家の掃除を始めました。
しかし子狐たちは、言いつけなどそっちのけ。はたきとほうきを手にチャンバラごっこにいそしむ始末。
「お前たち、ちゃんと掃除をおし!」暖炉を掃除しながら、母狐が子狐たちを叱りつけました。
返事はしたものの、5分も経たないうちに子狐たちはチャンバラごっこを再開します。
「いい加減におしよ! 言うことをきかない子は、大魔王にさらわれてしまうんだからね!」
そう言いながら茶目っ気たっぷりの母狐は、全身をすすで真っ黒にして子狐たちを脅かしました。
しかし子供たちは、そんな母に慣れているので動じません。僕も僕もと、結局親子みんなで真っ黒になりました。
そこに狸の郵便配達がやってきて、真っ黒な狐の親子を見て気絶してしまいました。
打ち所が悪かったせいで、その日のうちに狸は亡くなってしまったのです。
さあ事態は急展開。狐の家で狸が死んだ……。これはもう狸vs狐の抗争再発は免れません。
と、ここまで読んで、まさかこれを出来損ないの童話もどきだなんて思ってはいないでしょうね。
大変な事態なのですよ。森の動物議会で、狐顔と狸顔の人間の徴兵が決定してしまったのですから!
該当する顔の持ち主には、おいおい『赤紙』か『緑紙』かが送付されるはず……
ですからどうか、お顔の傾向が狐か狸の方、徴兵逃れのためにとりあえず整形して下さい! 私も目をいじってきます!


「長身」「たんこぶ」「イタリア人」
85名無し物書き@推敲中?:2005/12/19(月) 02:16:04
「なんて見事なひげ面だ…」鏡に映った自分の顔をしげしげと眺める。
俺は、朝起きるとイタリア人になっていた。
甘いマスクなんて無縁のむっさいおっさん顔だった。
「俺はなんで赤い帽子につなぎを着てるんだ?」
そのとき『ちゃらんらっららーん!』と音楽が鳴った。
「お、おい!?」謎の音楽とともに突如、自分の体が勝手に動き出す。
ぐんと急加速してジャンプ。「いて! いて!」天井に頭をぶつける。
そこからさらにブロック崩しのように天井を壊し、上の階へとジャンプ、ジャンプ。
そろそろ夢から覚めて現実世界に戻ってこないかなあなんて
たんこぶの痛みでずきずきする頭で考えていたころ、屋上に辿り着いた。
そこには、自分より少しだけ長身の、緑服のひげ面が待っていた。

全て思い出した…。むしろ今までの生活が夢であり、これが俺たちの現実(リアル)。
キノコを食べて巨大化することも、命が複数あることも、
そんなこたあ太陽が西から昇ってくるくらい自明である。
「今日こそクッパを倒してやる」俺は武者震いに震えた…。

「画鋲」「握手」「下駄箱」
86名無し物書き@推敲中?:2005/12/19(月) 21:19:34
「画鋲」「握手」「下駄箱」

朝学校に着くと、下駄箱で同じクラスのKという女子が泣いていた。
周りでクラスの女子たちが慰めていたけれど、Kは「帰る帰る」と泣きじゃくっていた。
教室に入ると、後ろの方に人だかりができていて、何やら騒々しい。
僕は人山を掻き分け、程なくKが泣いていた理由を知った。
掲示板に貼られた運動会の写真の、アップのKの鼻の穴に画鋲が2つ刺さっていたのだ。
「誰がやったの?」と横にいたHに訊いたら、どうも昨日の放課後、隣のクラスのやつらがやったらしい、とのこと。
僕はそれを聞いて、かーっと頭に血が上ってしまった。
別にKが可哀想だとかそういうことじゃなく、他のクラスのやつにシマを荒らされたみたいでムッときたんだ。
「2組に襲撃かけない?」と言ったら、男子はみんな同じ気持ちだったみたいで、僕に賛同してくれた。
わーっと隣のクラスに押しかけて、やっぱり運動会の写真の貼り出されていた掲示板をめちゃめちゃにしてやった。
2組の女子たちは、自分の写真に画鋲を打ち込まれるのを見て泣きはじめた。
男子たちとは当然のことながら喧嘩になった。ぐーで殴ったし、椅子も投げたし、ガラスも割った。
でも男同士って派手にやりあうと、案外すっきりするんだよね。握手をして仲直り。かえって清々しかったな。
でも学校側は警察を呼び、夕方のニュースで僕らの校舎が上空から映し出された。先生たちは嘆き、親も泣かせた。
わかってる。確かに僕らは大学受験を間近に控えてはいるけれど、でも歯止め利かないのが青春だって、そう思うんだ、僕。


「土鍋」「白菜」「特殊部隊」
87名無し物書き@推敲中?:2005/12/25(日) 11:32:48
「土鍋」「白菜」「特殊部隊」

 正月の午後。彼等は土足で踏み込んできた。
 黒服に銃を携えた彼等は、まさに特殊部隊の様だった。

 「立て!」と銃で指図し、雑煮が並んだコタツから娘を引きたてる。
 首領格らしき男が、不意に表情をほころばせる。 
 「いやいや、他の皆様は無関係ですので。どうぞお構いなく…謹賀新年!」
 
 その一方、娘に対しては冷淡を極めた。「ここに座るんだ!」
 冷たい土間に、机と椅子が並べられた。
 机の上には小さな土鍋。中には、白菜と糸こんにゃくが少々。
 「お前にはそれで十分だ。その野菜鍋すらも、お情け以外の何物でもない!」
 訳も判らずうな垂れる娘に、特殊部隊は、小型液晶モニタを見せた。

 そこには、数日前の監視映像が再生されていた。
 数日前、サンタドレスを身に纏い、パーティで騒ぎまくる彼女の姿が。
 「お前に…お前に、正月を祝う資格などあるものか!」
 声が、ちょっと涙ぐんでた。

※今年の聖夜も、何もなかった;
次のお題は:「新年度予算」「つくし」「春の海」でお願いしまう。
88名無し物書き@推敲中?:2005/12/29(木) 04:40:36
新年度予算編成案で歳出見直しをやり直した方が良いかもしれない。
緋色の荒縄で両腕を後ろに縛られ、
全裸で冷たいコンクリートの床に正座しながら財務について再考していると、
この豚が醜い豚が、と荒々しく罵りながら、女王様が帰って来られた。
放置プレイでは、ついつい仕事の事を考えてしまう。
ぴしっぴしっと小気味良い音を立てて、女王様の棘鞭が私の皮膚を苛ます。
これこれ。痛みなのか衝撃なのか、頭の中が真っ赤に染め上げられ、
時間も空間さえも判らなくなる、この感覚。SMはこうでなきゃあ。
お前のチンポをつくしのようなそのみすぼらしいチンポを、
口の端から泡を吹きながら、女王様が私のみすぼらしい陰茎に手をかけて下さった。
部屋を赤く染めている趣味の悪い照明の光が、女王様が握っている剃刀の刃に反射する。

春の海はおだやかだった。
よせてかえす波の音が、自然に目を閉じてしまいたくなるような空気を作る。
結婚してくれるって言ったじゃない。結婚してくれるって言ったじゃない。
いろいろ問題があってね。でも、妻とは別の部屋で寝てるから。
薄い化粧の女王様の横顔が、ふいに幼い少女のようなラインを見せる。

次の御題は「雪」「初恋」「番号」
89名無し物書き@推敲中?:2005/12/30(金) 11:21:49
「雪」「初恋」「番号」

ツーツーツー…
もう機械的な音の繰り返ししか聞こえてこない。
しかしまだ耳にあてたままで人気の少ない夜の道をゆっくりと歩く。
少し上を向いて息を吐けば、それは白く空気中を濁したがすぐに消えていった。
何度かそれを繰り返した後に一際大きく息を吐くと、ようやく携帯を耳から離した。
一際大きく吐いたのにもかかわらず、それは先程と同じように一瞬しか保たずに消えていく。
その消えて行く様がまるで僕の初恋のようだった。
暗闇の中ぼんやりと光るディスプレイにさっき別れを告げられた彼女の番号を映し出してみるが、もう僕にはどうすることもできなかった。

ふと空を見上げる。
取り囲むように立っている昼間の活気を失った真っ黒な高いビルたち。
囲まれたのは空と僕。
僕はもうそこから抜け出せないような感覚に陥り上を向いたまま動けなくなった。

夜の空の色は決して黒ではない。
そこからはらりはらりと白い星にも似たものが一つ二つと落ちてきた。
それはすぐに数えきれないほどになり、僕の目の前にだんだん大きくなって落ちてくる。
ひんやりとしたものが僕の目の中へと入っていった。
固体だった雪は僕の体温に触れると液体へと変わる。
滲みだす僕の視界。
頬を縦に流れるいくつもの線。
拭っても拭ってもそれは消えることがなかった。

「グシャッ」「ありがとうございました」「すやすや」
90名無し物書き@推敲中?:2005/12/31(土) 10:40:26
「グシャッ」「ありがとうございました」「すやすや」

 グシャッ!といやな音がした。また失敗。今年で三度目か…
 「あああ、またしくじっちゃった。謝りにいかないと…」
 デスクに突っ伏して悩む背後で、彼女の声がした。

 「先輩、ガッツです。どーんといきましょう、どーん、と。」
 「昼から、またあるんだよ。きっと、みんな怒ってるよ。」
 「押してってあげます。担当、同じだし」

 彼の背中をうんうん押して、職場に向かう彼女を先輩達がはやす。
 「よう、世話女房」「え!え?そうですか」
 職場に着くと、とうに準備OKのスタッフが勢揃いしていた。

 「こんな私の為に…ありがとうございました」
 「気にするなよ、失敗なら俺も常習犯さ」
 「ぱっと終わらせて、焼肉食べに行こうよ。おごりで」

 部屋の片隅で、白衣の彼女が信頼の瞳を向けている。
 よし、やるぞ。麻酔ですやすや眠る患者の前に、覚悟を決めて向き直った。
 「メス!」

※大晦日にこれか…(w
次のお題は:「振袖」「鍵」「きんちゃく」で。明けましておめでとうございます。
91「振り袖」「きんちゃく」「鍵」:2006/01/03(火) 03:12:52
居間の壁には、真新しい振り袖が掛かっている。
サイズはちょうど、小六の女の子が着れるくらい。
その部屋に、妻が俺に背を向け座った状態で何かをやっている。
「ただいま……」
俺は呟く。
「あら。おかえりなさい」
妻が笑いながら俺を振り返った。手に針と縫いかけの布を持っている。
「それね、気に入ったから買っちゃったの。絶対似合うと思って」
振り袖を眺めてた俺に、とても嬉しそうに言う妻。
「――ああ。そうだ。ねぇあなた、家の合い鍵作って来てくれない?」
「なんで?そんな突然」
「私、今度スーパー働く事になったでしょう?
そうすると家には誰もいないし、エリカが家に入れなくなっちゃうわ」
エリカとは、俺たちの娘だ。
「三年後には高校受験よ。お金が掛かるからね。あの子は賢いから、きっと良い学校に入るわ」
嬉しそうに話す妻。きっと今縫っているものは、この振り袖に合うきんちゃくだろう。
「あの子、幼稚園の時に鍵っ子の友達に憧れていたのよ」
――「エリカ」は俺たちの娘。二年前に亡くなった俺たちの娘。
この振り袖は誰が着ると言うのだ。
このきんちゃくは誰が持つと言うのだ。
その鍵は誰が使うと言うのだ。
俺はそっと妻を抱いた。


お題は継続でお願いします。
92名無し物書き@推敲中?:2006/01/03(火) 03:14:09
「振り袖」じゃなくて「振袖」ダタ
orzごめんなさい
93「振り袖」「きんちゃく」「鍵」 :2006/01/04(水) 00:02:39
現在の日本が戦時下であるだけではなく、翼賛体制下にあることはすでに
自明のことだ。それゆえあらゆる言説がそれとは気付かれずに翼賛体制に
組み入れられ、それを賛美し、それを駆動する「国家のイデオロギー装置」と
なっていることをプロならば十分に自覚し、この翼賛体制に抗する言説を
立ち上げなければならない。しかし言説は常に物語の中にある。「因果関係」を
立ち上げるのが物語だ。人間の認識の地平に物語は立ち上がると言ってもいい。
だから我々は、新たな物語を立ち上げなければならない。このポストモダンの
日本を、あらたに規定する物語を。
しかし言説とはすでにまなざしとして社会のコミュニケーションの実体を握る
多数の人間の中に組み入れられた後に現れるものだ。振り袖と巾着が「オタク」と
いう爛熟した消費文化のまなざしでは「萌え」という一つの記号として流通してしまう
ように。「おたく」から「オタク」という消費的記号に変化する中で存在しない「大正
ロマン」という象徴的世界が構築され消費されている、
全ての新しいものはこれまでのゆがんだイデオロギー的、人間的、社会的材料に
よって構築されざるを得ない。ハリウッド的、マンが的、アンチリアリズム的な言説の
なかでその言説を持って今の時代をヴァージョンアップする新たなる物語、新たなる言説を
立ち上げなければならないのだ。これが「鍵」である。
……と、「批評」がすでに戯画化され消費されている、このことに抗する言説を立ち上げ(以下同)

「生ゴミ」「書き初め」「ハウスダスト」でよろしく
94「生ゴミ」「書き初め」「ハウスダスト」:2006/01/08(日) 16:27:07
玄関を開けて茶の間に通されるまで我慢していたくしゃみが座ったとたんに吹き出て
しまった。一度始まると止まらない。ハンカチで押さえながら何度か繰り返す。
「大丈夫ですか」ちゃぶ台ごしに対面に座った中年女性が言う。
「……はい、ご、ごめんなさい。すこしアレルギーがあるもので」
ハウスダストの、と言う言葉を私は飲み込んだ。不要に言葉はいらない。私は客ではない。

……いくつかのやりとりの後、おおよそこれで終わりだという弛緩した空気が流れ、
私は出された茶に口を付けながらふと壁に貼られた書き初めに目をやった。
「なかなか達筆ですね」感心して声をかける。
「あれね、あたしがかいたの!」主婦が口を開き声を発しようとするより先に、声が上がった。
同席して一言も口をきかず落ち着かない様子で体を揺すっていただけだったのに。
「そうね、なかなかいいわね」私が言うと、「へへ」彼女は弾む声ではにかんだ。私もにっこり
笑って、書類に書き足しをした。

「あれ、口で書いたんです」帰り際、玄関で主婦が告げる。「手が動きませんから」
「好きなんですね」「えぇ」ほほえんだ主婦は書類によれば私と同年代のはずだが目尻に
浮いたしわや陰はその苦労を深く刻んでいた。「わかりました」私はうなずき、「通知は後ほど届きます。
何かありましたらお渡しした電話番号までご連絡ください」と事務的に言った。
外の風に触れると部屋の空気をつい比較してしまう。生ゴミだ。しかしこういう家はどこでもそんなものだ。
主婦の目尻のしわを思い出し、新しい介護認定基準でもランクを落とさないための方策を思案しながら
わたしは駅へ向かった。

「七草がゆ」「アスファルト」「合法」で

 まだ私の背が、台所のテーブルにも届かなかった頃、私は祖母の横で
椅子の上に座り、祖母か摘んで来た七草で作ったお粥の説明を、生意気に
合の手をつきながら聞いていたっけ。
 祖母が無くなりもう十三回忌も過ぎた。
 私はといえば、当時の私と同じ頃となった娘に、祖母と同じ話をしながら
彼女に七草粥を作っている。
 ただ違うといえば、祖母が摘んで来た草むらは、とうにアスファルトに
埋もれ、そして日々の生活も昔とは違い、早いスピードで時代は流れ、
ゆっくり人間らしく生きにくくなっている。
 この正月も、夫は帰って来れない。それは当然で彼の刑期はまだ
まだ残っている。 生活保護を受けなんとか娘と二人で隠れるように
暮らして行くのがやっと。 合法的に稼いでたら生きていけない。
 私は良心を裏切り、娘を欺き、夜の町へ稼ぎに出ている。
 あの頃の祖母がいた頃を思い出し、娘の純粋な笑顔に語りかける。
「幸恵が今年も健康に成れますように・・・・・・」

「朝日」「希望」「無邪気」

 
96名無し物書き@推敲中?:2006/01/09(月) 23:07:27
「おい」
「あん?」
「どうすんだよ、おい、なんか食わせろよ訴えるぞ」
「どうもこうもねぇよ、前見て運転しろよ」
うるせぇ。
前見て運転しろと丸ヒゲはがなるが、辺りは漆黒の闇。
辺りは本当に真っ黒で、わずかばかりの希望は煙草の火とヘッドライトの明かり。
コートにこぼしたビーズのような星が輝いている。
・・・・・・!
突然、後ろから破裂音。
満面の笑みを浮かべた男が、無邪気な笑顔でクラッカーを構えている。
「なにすんだよ!」
「12時間連続移動おめでとう〜あと3時間も行けば朝日が見えるよぉ」
「見えるよぉ、じゃねぇよ、バカ」
全く、バカばっかりだ。爆笑の渦に脱力しながら、地平線に向けておれは車を走らせる。

---
「しゃぶる」「ねぶる」「なめる」で。
スペルマンコ病院っておまえ、面白い名前付けやがって、ふざけやがってふざけやがって。
誰でも良かったんだよ、子供ならな。誘拐してやった、ざまあみやがれ、あはは。
助手席で赤ん坊が無邪気に指をしゃぶる。
家に帰る事を考えると憂鬱になる。
一階が雪に閉じ込められて、二階から出入りせざるを得ない。
泥棒か俺は、てめえの家になんで二階の窓から入らないといけないんだよ、ふざけやがって。
ねぶるような視線で赤ん坊を見る、しかし何の興味も湧かない。
なんでこんなの誘拐しちゃったんだろ、金払ってくれるのか、親。
金取るまで嫁さん、うまい事育ててくれるかな、でもありゃいい女だ。
外人と結婚して正解よ。日本の女なんてだめ。だめ!
チンコなめるの嫌だとか、ワガママばっかり。ふざけやがって。
あー、もうなんで人生、こんなんなんだろう。死のうかな、もう。
雪が残った車道を朝の白い光に照らされながら車は走り続ける。
結局よ、どこまで走っても、自分からは、自分の世界からは離れられないんだよ。
俺はどこに向かって走ってるんだよ、どんな未来に向かって走ってるんだよ。

次の御題「笑い」「芸能界」「結婚」
98「笑い」「芸能界」「結婚」:2006/01/13(金) 03:26:29
「芸能界ってありますやん」
「そやねぇ、わてらもその末端にいるもんね」
「で、芸能界って3界のどれよ?」
「は?」
「だから、現実界・想像界・象徴界とポロメオの環のねじれの位置に芸能界が」
観客(笑い)
「何言う取るねん!しょーもないなぁ。あ、もういいわ。結婚、そうや、最近芸能界も結婚ラッシュですね」
「ああ、配偶者の性器の独占的使用権の契約のことね」
「はい?」
「だから結婚よ結婚。結婚の定義」
「いや、(クソヴォケ)だからさ、そうほら、人気女優の○○が人気俳優の××とくっついたでしょ。あれびっくりしたなぁ」
「ああ、今話題ですね」
「やっとまともな受け答えを……そうそう、びっくりした。けど、××って結構遊び人みたいよ」
「なんと、そらあカントな」
「って、おい」
「お後がよろしいようで」
99名無し物書き@推敲中?:2006/01/13(金) 03:27:49
お題忘れたごめん………
「一郎」「花子」「フレドリック」
100「一郎」「花子」「フレドリック」:2006/01/14(土) 00:41:46
 こちらが、父の一郎です。
「おっほん、はじめまして」
 その隣にいるのが、母の花子です。
「おほほ、よろしくね」
 最後に、フレンドリックです。
「ハッハッハッ、クンクン」
 こら、フレンドリック。
 あーあ、そんなところでオシッコして。
 あ、ちなみに、祖父なんですけどね。

 − END −

 <次のお題>
「石」「はさみ」「紙」
101名無し物書き@推敲中?:2006/01/14(土) 01:39:15
石ははさみに勝ち、はさみは紙に勝つ。そして紙は石に勝つ。
それはまさに三つ巴の様相を呈していた。白熱する勝負。
勝負によって、あるときには鬼になり、あるときには罰を受ける。
真剣勝負だ。
そしてそれは百年の星霜を経た今も続けられる。

                           <了>

次のお題
「インテリジェント」「ゴリラ」「スーツ」
102名無し物書き@推敲中?:2006/01/14(土) 03:29:23
ゴリラもスーツを着ればインテリジェント

ほれ、お題をこなしてやったぞ。満足か、簡素人?


次のお題「簡素人」「感謝してます」「応援してます」
103名無し物書き@推敲中?:2006/01/14(土) 03:53:12
「わたしの意図を的確に読み込んだ感想、感謝してます」
「読むの大変だろうけど、応援してます、簡素人」
良く言うよ、と思う。
ぐるりを周りを見渡すと、キモオタたちが、或るものは顔面を
真っ赤に硬直させながら、或るものは至福の表情を浮かべながら、
それぞれ長短太細自分の怒張やお豆をこすっている。
(グロ映像だぞこれ。勘弁してくれよ)
これぞ究極のボランティア。そう思った。
(まぁそれでも、がんばって自分の情念を昇華させようとしている
輩はいい。問題は>>101とか>>102とか、そもそもやる気のないヤツだ)
睨み付けてもヘヘン、と言った顔をしている。
(ま、このレベルだからしょうがねぇか。そろそろ雑談スレでも行こう)
あきらめ顔の簡素人だった。
<了>

お題
「インブリード」「ニックス」「ひねりを加えたバックドロップ」
104名無し物書き@推敲中?:2006/01/14(土) 11:09:24
意識がはっきりしたのはマットに逆さに突っ込んでいるときで、ひねりを加えたバックドロップに
容赦なく体力と気力を奪い取られていた。汗が潤滑剤の役割を果たし擦過は防げたが、妙に鮮明な視界が
嘘のように感じられる。脳がどうかなってしまったのかも知れない。

インブリードの化け物はそのままフォールにはいるつもりで、高々と反らせた腹筋が照明に輝いている。
ニックスの新星は高速で流れ続ける思考と歓声の豪雨の中で、何をすればいいのかと分からない赤子のような
顔をしていた。
カウントがツーを叩き終えて、観衆の怒声が最高潮に達する。
奇跡はそこで起きた。戦士の相貌に変わったニックスは瞬く間にフォールを崩し、
インブリードを逆にフォールを掛けた。最後の力を振り絞って投げ、
押さえ込もうとしていたインブリードは対抗することもできず、必死に返そうと体を動かすがそれも叶わず。
無慈悲なレフェリーのスリーカウントに場内は巨大な感情の渦に飲みこまれた。

人がヒトを作り戦わせる、新たに興った格闘技の一試合の出来事だ。

お題
「シャイニングウィザード」「こけし」「ハンガー」
105名無し物書き@推敲中?:2006/01/15(日) 00:34:44
 冬至を過ぎたとはいえ、午後5時を回るとあたりは暗くなっている。
 通り過ぎる車の前照灯である、シャイニングウィザードから発せられる
白く眩い光が、黒く濡れたアスファルトを一瞬だけ照らし、瞬く間に
遠ざかる。
 冷たい雨が絶え間なく降り続いている片田舎の街並みを、こけしの
ような古風な顔つきをした彼女とゆっくりと歩く。二人の吐く息が
白く染まり一瞬だけ絡み合う。所々につくられた残雪混じりの水溜りを
踏まないようにする為、視線は下向きに固定されている。
 いつもより少しだけ赤い唇から出る彼女の言葉に、上手く返すことが
できないのがもどかしい。身を切るような寒さの為ではなく、空腹のあまり
今にも路傍にぶっ倒れそうだから。
 抗議の手段として、ハンガーストライキを試みる者は、頭のネジが数本
足らないに違いない。今夜は鍋がいいなあと思う。

「スキー」「辞書」「ミサンガ」


106名無し物書き@推敲中?:2006/01/15(日) 02:23:22
「スキー」「辞書」「ミサンガ」

 正月に田舎に帰ると、母親に部屋の大掃除を言い渡された。家を出てからも、小汚い俺の部屋はそのままにしてあるのだ。
 適当な雑巾掛けの最中、中坊の頃の英和辞書が壁と机の間に落ちているのが見えた。
 ホコリまみれのそいつを手を伸ばして拾い上げると、裏側にはガタガタの字で見知った名前が書かれている。……これ、俺のじゃないんだけど。
 そう言えば受験前にこの持ち主と家で勉強会して、そのまま忘れてったんだったかも。つーか普通受験生が辞書忘れるか?
 表紙のホコリを軽く叩いて、ぱらぱらと捲ってみる。お約束のエロい単語にマーカーが引いてあった。変わらんなあ、あいつ。
 その内に開き癖がついたページが出てきて、何かが紙の上を滑って落ちた。黒ずんだまだら模様の紐みたいなもの。
 ……うわ、ミサンガだ。
 あまりに懐かしくて、つい指先でつまんでじっくりと眺めてしまった。あの頃あいつがしてた柄、だと思う。違うのは、もう輪ではなくなっていること。
 切れたのここに挟んでたんだなあ。……奴の願いはとうとう教えてくれなかったけど、多分叶ったんだろう。
 今あいつはアルペンスキーの強化選手だとかで、正月返上で異国の地で特訓中らしい。
 自然に開いてしまうほど癖のついたページには、めちゃめちゃに愚痴や目標が落書きされた「SKI」の項が載っていた。
 春には帰ると言っていた悪友をからかう為に、俺はジーンズにその紐を突っ込んだ。
 ――早く帰って来いっての。

「春」「セーター」「チョコ」
107(「・ω・)「 がおーん ◆GAOON2chso :2006/01/15(日) 08:24:09
11月から付き合い始めた彼にセーターを編んであげようと
編み物を母に習い始めた。
でも、不器用な私は1月になったというのに、袖すら編めなかった。
母はそんな私を見かねて、
『セーターは諦めて、マフラーにしなさいよ。このままじゃ、チョコの季節にも
 間に合わなくなるわよ』
私は母に編み物の猛特訓を受けたが、マフラーすら、満足に編めない。
母はいよいよ呆れて、
『しかたないわねぇ〜、手伝ってあげるから手袋にしなさいよ。
 このままマフラー編んでたら、桜が咲く春が来ちゃうから』
108(「・ω・)「 がおーん ◆GAOON2chso :2006/01/15(日) 08:25:11
あ、ごめん、お題は『サバ缶』『猫舌』『しもやけ』でお願いします。
109名無し物書き@推敲中?:2006/01/15(日) 14:37:45
あの男は、××だった。寒風の吹くビルの屋上で、俺は一人そんなことを考えた。
どうしようもない程に疲弊した体をフェンスに預け、屋上の入り口に向けて銃を構える。
2分ほど前から視覚は薄れているが、ここに来たとき仕掛けたトラップで奴の到来は読める。
冷気でしもやけになりそうな肌は、まるで全身猫舌になったかのように熱い。
――からん。
来た。不自然でない程度にばら撒かせた缶詰(サバ缶、桃缶など。中身は全て食べられていた)を
蹴り飛ばし、不機嫌そうに鼻を鳴らす音すら聞こえる。これは奴の余裕だろうか。それとも俺の聴覚が完全に見えなくなった視覚の分まで働いているのか。
どちらか考えることはせず、俺は引き金を引いた。

お題は「金属」「幻滅」「アブノーマル」でおねがいします。
110名無し物書き@推敲中?:2006/01/16(月) 03:08:13
かぁん。
床に落ちた薬莢から金属音がなる。
引き金を引ききった人差し指がゆっくりと戻っていく。
「あてなかったんだな」
目の前にうずくまる男が言った。
「私には無理。私はあなた好きだから、だからあてられない」
「なんだそれ。戦場で会った奴を撃ち殺せず、あまつさえ好きだってか?は、戦場に立つにはアブノーマルな思考だなおい」
そうかも知れない。
いや、そのとおりだろう。
戦場に立つものとして私は今、かなり異端な位置にいる。
だがそれでも、目の前にいる人間一人を撃ち殺せない。
「・・・いいか。戦士として、そして兄妹として最後の忠告だ。ここでは兄妹愛なんて皆無だ。次に会ったとき、迷わず俺はあんたを撃ち殺すぜ」
男は立ち上がって、ぼろぼろの体を引きずりながら歩き始めた。
「それが出来なかったときは、せめて幻滅してくれ。今の俺のようにな」
以前、私が言った忠告に一言だけ足して、血が繋がった戦士は目の前から姿を消した。

次のお題
「傷」「明かり」「ペン」
かん、かん、かん、かんと、自分の階段を降りる音が反響する。
意識は薄れ、視覚も少しは回復したものの、かなり危険な状態だ。ぼんやりと明かりのつく1Fの表示板。駐車場。
考える。
ねえさんのことだ。どうせあの男の差し金だろうが、正直驚いた。あの場にいたことではなく、自分を殺さなかった事に。
あの傷だらけの道を強いられる組織にいて、ねえさんは何も変わっていなかった。何も。何もだ。
俺はこんなに、変わったのに――――
「・・・・・・いい見世物でしたよ、弟君。」
ふいにかけられた言葉。ふりむくと、紳士然とした服装に、似合わない野球帽。ペンをくるくると廻している。
「――――お前が、姉さんを呼んだんだな?」答えはわかっている。「はい」
「何故だ?あんな出来損ないの兵士で、俺を殺せると思ったわけじゃないだろ」
「あんな出来損ないの兵士では、貴方を殺せないと思ったから呼んだんですよ」
やはり。腹立たしいが、こいつは今の俺に一番似ている。今の俺に。こんなにも歪んだ、今の俺に。
「彼女は能力は最高なのですが、我々の求める強い心が足りなくて。それを克服してもらうために―――」
「俺の死体を目の前に転がす、か」「ご名答」
これでいい。姉さんはこれで史上最強の兵士になる。死なない。苦しまない。俺のことも――思い、出さない。
「さて、長話はもうここまで」停めていた車から馬鹿げたサイズの鎌(死神の鎌と言えば、洒落すぎだろうか)を取り出し、奴は構える。
「最後に一つだけ」「どうぞ」これだけは、地獄にもっていきたい。
「これは――――お前の思いどうりか」「ええ、貴方の思いどうりでもありますでしょう?」
ああ・・・・・あの男は、俺は――――――――悪魔だった。
さよなら、姉さん。 俺は死んだ。

次のお題は、「コオロギ」「廃墟」「流れ星」でお願いします
112名無し物書き@推敲中?:2006/01/17(火) 00:06:25
「コオロギ」「廃墟」「流れ星」

 つややかな青草を踏み分け、私はかつてお仕えしたお屋敷の門を潜りました。
 足に触れた竜の髭が揺れ、夜露がきらりと月影に輝いて、流れ星のように消えてしまいました。
 人の通いが絶えて数年。庭は荒れ果て、蔦に覆われた母屋も少しずつ朽ち始めています。
 最早廃墟と呼んでもいいような有様ですが、往時の面影はまだ完全に失われた訳でもありません。
 軒下にかかったままの風鈴の下に、団扇を使っていた旦那様のお姿が目に浮かびます。
 そんな時奥様は蚊取り線香を奥から出して来て、ご一緒に虫の声に耳を傾けられるのでした。
 毎年この季節に一度だけ、私はこちらに伺う様にしております。
 ある年の秋の声が聞こえる頃に、ご縁があって私はこのお屋敷にお世話になりました。
 季節は幾度か廻り、再び夏が終わろうとする時期に、勝手ながらお暇を頂きました。
 旦那様のお仕事の都合で、お二人がこの町からお住まいを移される事になった為です。
 奥様はお引越し先まで私を連れておいでのお積もりでしたが、私にはこの街を離れる事は
出来ませんでした。
 お引越しの日に遠くから眺めた奥様は、少し目を腫らしていらっしゃるようでした。
 ――物思いをかき消す様に、早すぎるコオロギの鳴き声が、りいん、と夜気を震わせます。
 私はこの夏最後の定例猫会議へ向かう為に、足音を忍ばせて立ち去りました。

「銀」「キッチン」「水滴」
113名無し物書き@推敲中?:2006/01/17(火) 21:58:11
ボチャボチャと水滴がこぼれ落ちる音が聞こえて、私ははっと我に帰る。
キッチンに目をやると、火をつけっぱなしで吹き出た味噌汁が床をぬらしている。
どうも、この時間帯はテレビに夢中になってしまう。2050年のドラマは本当にすばらしい。
今から10年戻って生放送で見たいぐらいだ。実際にはフィルムも何も同じなのだが、やはり人間、
これくらいの拘りがあってもいいだろう。おっと余計なことを考えているひまはなかった。
床を掃除して、今度はインスタントの味噌汁を作る。いまさら味噌汁なんて古いと言われることもあるが、
食品に古いも新しいもあるものか。・・・・・まあ、賞味期限はあるが。
食卓に白米と味噌汁、おかずをのせて一人「いただきます」と言う。
今日のおかずは銀色の肌を持つ、いわゆる宇宙の王様、宇宙人だ。
王様の割には安いので、一人暮らしの学生にとってはとても有りがたいらしい。
最近は着色料も高度化してきて、肌色の劣悪製品に銀の塗装を施して売るところもあると聞く。
自分はだまされないようにしようと心の中でつぶやき、私は箸を進めた。

次のお題は「群青」「しゃちほこ」「時代錯誤」でお願いします。
あげますが許してください
114「銀」「キッチン」「水滴」 :2006/01/17(火) 22:00:45
銀は全ての魔力を封じてしまうと言うけれど、それは人間にも効くのだろうか?
ぼんやりと私は考えていた。
キッチンから聞こえるのは、まな板と包丁の織り成す不規則なメロディ。
私の、付き合って一年とちょっとの彼氏が、カレーを作ってくれるというのだ。
付き合ってくれと言ったのは、彼の方から。
その日を境に、私はずっと彼に心を奪われている。
一体、どんな魔法を使ったの?ふざけた質問に、笑って返した彼。
キッチンから聞こえるのは、ステンレスの流しと水滴の織り成す規則的なメロディ。
相変わらずそそっかしいね。きっと、蛇口をちゃんと締めていないのでしょう。
カレーのお礼に、
これ以上私の心が彼に奪われないように、
私は今度、彼にシルバーのペンダントを贈ろう。
ぼんやりと私は考えていた。

「月」「夜」「赤」
115114:2006/01/17(火) 22:02:04
ぎゃあ!
しまった!
お題は>>113氏のでお願いします。
申し訳ない。
116名無し物書き@推敲中?:2006/01/17(火) 23:40:17
空はどこまでも群青が広がっており、その空を見るよりも私は川の流れるのじっと見ていた。
川の中を金色の奇妙な魚が泳いでいる。これは、しゃちほこかも知れない!
しかも生きているのだから、職を失って、こうして昼間から時間を持て余し、
川原に腰を下ろしている私がすることはひとつしかない。
つかまえて、売り飛ばせば良い金になるかも知れない。
私は空腹の体を、ゆらゆらと揺らせながら川へと足を運んだ。
1月の水は酷く冷たく、足先の感覚は直ぐに失せた。
気付くと、しゃちほこも、群青の空も消え、
燃える赤の空と、それを映す赤い川が私の足元を流れつづけていた。
一体、私は何をしているんだろうか。
しゃちほこなんて居ない、お金もない、死ぬ勇気すらも無い私は、びしょぬれのまま、随分とそこに立ち尽くしていた。
時代錯誤な豆腐屋の間抜けな音が遠くで聞こえている。



お題は>>114さんの「月」「夜」「赤」で
117名無し物書き@推敲中?:2006/01/19(木) 02:44:37
月並みで申し訳ないんだけれど、状況描写の練習なんて
後でもいいんですよ。基本はアイディア。アイディアがどれだけ
あるかでデビュー後どれだけ生き残れるかが決まります。
プロって事は商品としての文章を書くと言うことなんですから、
傑作であろうとも赤字覚悟で、と言うわけには行きません。
ではどういうアイディアが大切なのか。ここで逆説を言うのですが、
どれだけ類型的なストックがあるか、が問題となります。
キャラクタとは属性の組み合わせですし、プロットは場面展開の
配置です。世界観とはまさにデータベースそのものです。
それらのストックを、試行錯誤して読者に読んでもらえる作品=商品
としてどのように作っていくのかが問われているのです。
そして書いて発表すること。発表すれば、公にさらされれば、
自分の書いたものがどの位置にあるのかがわかります。
夜郎自大ぶりが赤裸々に明らかになるのです。そのような場が
持てれば、同好の士とも知り合いになれますし、その技術を
学ぶことも出来ます。
さあ、がんばりましょう。

お題 「襞」「鬱」「鷺」
118「襞」「鬱」「鷺」:2006/01/19(木) 16:38:50
 鬱陶しい夏の暑さから逃れるように、俺たちは湖へやって来た。
「お前ねえ……これのどこが湖だよ」
 眼前のビニールプールを指差しながら隆夫が横槍を入れてくる。
うるせえ現実逃避の邪魔すんな。これは湖なんだよ。
「そういうの鷺を烏っていうんだよ」
 植物じゃあるまいし、鷺が枯れるか馬鹿。
「その枯らすじゃねえよ」
 とにかくこれは湖だ。ほら湖らしく鷺もいる。
「ああ。その烏だ。……めちゃくちゃだなお前」
 なんて嫌味な奴だ。俺を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる。
「どうする気だ」
 湖の底に沈めてやる。と、答えたら、隆夫は湖をひっくり返し、
空気を抜き始めた。な、なんで片付けるんですか? 湖は見る間に変な襞々になった。
「庭がちったあ涼しくなるだろ」
 うーん、確かに。でも鷺は残念そうだぜ。

次「酒」「盥」「霧」
119「酒」「盥」「霧」:2006/01/20(金) 23:06:02
その気もないのに、友達だなんて、つらい。
笑いかけられるたびに距離を感じる。
蛇の生殺し、真綿で首を絞められる苦しみ。

いっそ、酒られたっ霧だっ盥いいのにな……

次「筍生活」「多士済々」「神韻縹渺」
120名無し物書き@推敲中?:2006/01/21(土) 01:33:04
 私は、年甲斐もなくはしゃいでいた。
 1泊2日の小旅行を兼ねた小学校の同窓会。周囲の肩書きこそ、社長、教授に院長と
正に多士済々といった感であるが、お互いの顔つきや雰囲気は、子供の時と変わらない。
 半世紀余の時を遡行――敵性言語でいえばタイムスリップ――したともいえる。
 初夏を迎えた穂高は、神韻縹渺たる雰囲気を醸し出しており、夕陽を浴びて際立つ
稜線の荘厳な美しさには思わず息を呑んでしまう。
 太陽が完全に沈むまで見届けた後、隣の席に座ることが多かった香奈子が
「ほんとうに、いろいろな事がありましたね」と、呟いた。
 学童疎開と、信じられないような敗戦。遅れてばかりいた配給を頼れずに、詰め込まれた
汽車に乗って懸命に凌いだ筍生活。
 厳しい時代の後に到来した目のくらむような高度成長、そして、バブル崩壊と平成不況。
 様々な時代を別々の場所で駆け抜けた同級生は、私同様にすっかりと老いていた。
 もし彼女と共に人生を歩んでいたらと、埒も無い空想に耽ったが、昔の想い出は美化される
と言う。初恋の人と会い、熱い感情を一時でも蘇らせてくれたことだけでも感謝すべき
なのだろう。気のいい友人である幹事と、昔と変わらぬ優しいほほえみをくれた香奈子に。

「春」「希望」「タオル」

121名無し物書き@推敲中?:2006/01/24(火) 22:27:43
「春」「希望」「タオル」

「クマさん達にも春は来るのかしら」
パソコンのモニターをながめながら、妻がぽそりとつぶやいた。
「クマさん?」
妻が何を言いたいのか一瞬わからなかったが、
彼女の見ているのが2ちゃんねるの「株式板」だったのですべてを理解した。

株式板にはクマスレというものがある。株で大損している人達が自らを自虐的に「クマ」と呼び、
日々の損害額を「おちんちんビローン」などと笑い飛ばすネタスレである。
日頃はほのぼのとした雰囲気の良いスレで、本当に損している人もそうでない偽クマも、なんと言うか、
大人の余裕をもって遊んでいるような場所だ。
そんなクマスレからゆとりを奪い、切羽詰まった雰囲気に変えてしまったのがライブドアショックだった。
追証という名の抜き差しならない借金を抱えて、富士の樹海を目指す羽目になりそうなクマさんたちが続出した。
「そりゃ、株は自己責任だけど。でも可哀相よね、この人たちにも家族があるでしょうに」
妻は、すっかり元気をなくした書き込みの数々に、わが事のように落胆している。

私は胸が痛んだ。妻にはまだ切り出せずにいるが、クマの人達の事は他人事ではなかった。
そう、何を隠そう私自身「ライブドア株2万株」を信用取引二階建でやっちゃってる立派なクマだ。
我が家の希望は、東京地検特捜部が六本木ヒルズに入った瞬間に途絶えた。
あとは自己破産さえさせてもらえない多額の借金が残るのみだ。
追証の入金期限は今日だ。残念だがウチに春は来ない。
ゆるせ、妻よ。私はタオルの両端を左右の手で握り締め、妻の背後にしのび寄った。


暗い……
次「おかまバー」「運転手」「ラブホテル」でお願いします。

122名無し物書き@推敲中?:2006/01/24(火) 23:28:57
「おかまバー」「運転手」「ラブホテル」

情報特別番組ドンピシャで司会を務める福耳アキラはカメラを睨み、
スタジオから現場のリポーターの名を呼んだ。
画面が切り替わり、リポーターが白い息を吐きながら応える。
「ハイ、こちら六本木ヒルズ前。拘置所へ護送される途中に脱走したムイチモンから
当番組のAD音辺の携帯に五分前にあったばかりです!」
「しかしなんで音辺の携帯に?」とスタジオの福耳アキラ。
リポーターが音辺の口にマイクを向ける。
「ムイチモンはアタシの高校の先輩でして」と、そこまで音辺が話した時に携帯が鳴った。一気に緊張する現場。
 音辺は携帯に出て、
「先輩! 今どこにいるんですか? 樹海ですか? え、おかまバー!? なんでまた!」
「マスコミにバレないように変装してるんだよ。隣に姉葉サンもいて肩組んで意気投合してるよ。もう飲むしかないよバカヤロー」と携帯の声。
「どこの店っすか? 運転手まわしますよ!」
「んなこと言って音辺おまえ俺を通報する気だろコノヤロ、バカヤロ! ウイスキー薄いよ、何やってんの!」
マイクが「マスコミから逃げるにはラブホテルを転々とするのがベストですよ」という声を拾った。
「こうなりゃ宇宙まで逃げてやるからなー、ガッハッハッハ! スイッチオーン! 発射ー!」
六本木ヒルズ森タワーが極秘にロケットに改造されていた事実が今、明らかに!


んなわきゃーない。
次「想定外」「法廷内」「だが断る」で。
123名無し物書き@推敲中?:2006/01/28(土) 09:36:31
「想定外」「法廷内」「だが断る」

ドアをこじ開けると、肌寒い夜風が廊下まで抜けてくる。
「遅かった!」寝室はもぬけの殻だった。
開け放たれた窓から、妻をのせた黒い気球が見える。

「窓から失礼する。彼女は私が連れて帰るよ。
 喜んでほしい。彼女はようやく本来の場所に戻れるのだから。」

書置きを読んで、彼はすぐ気付いた。ああ、あの少年か!
妻の少女時代、いつも一緒の痩せっぽちの少年がいたっけ。
5歳上の自分を、いつもうらめしそうに眺めていた…逞しく成長したんだな。

妻の走り書きもあった。「急だけど行ってきまーす」

…これは「誘拐」か、それとも「愛の逃避行」というやつなのか、彼は悩んだ。
それは、物々しい法廷内で決めるべき事なのだろう。
そりゃあ聴衆には格好のネタだが、断るしかないなこれは。

くんくんと、彼の寝巻きを引っ張る少女がいた。「どこいっちゃったのかなあ」
「ううん、そーだなあ」彼はうなった。かつての妻によく似た、自慢の孫娘と一緒に。
思えば優柔不断な奴だった。60を超えて反撃に出るとは、まったくもって想定外だ。

※明るい…かも;
次のお題は、「お風呂」「学校」「原子力」でお願いしまふ
124名無し物書き@推敲中?:2006/01/28(土) 17:36:44
「おいおいお風呂で暴れるな」
「はーーい」
彼は暴れるのをやめない。
「学校の時間だぞ」
「はーーい」
彼は学校に向かわない。
「それは原子力で動いている機械だ、触るなよ」
「はーーい」
彼は機械に触れない。
このように、独り言とはとても虚しいものだ。
特に、意味があるものは。

お題は、「殺伐」「人為的」「時間帯」でお願いします。
125「殺伐」「人為的」「時間帯」:2006/01/28(土) 21:36:43
かん、かん、かん、かんと、階段を降りる音がいつまでも耳の奥で反響していた。
弟は静かな男だった。猫のようにしなやかに動き、いつでも誰かに怯え、自分の気配を消す事に心を砕いていた。
それが傷つき、ボロボロの身体を移動させる事で精一杯、酔っ払いのように、転げ落ちるように派手な音を立てて、
階段を下りていった。
私は拳銃に弾丸を装填し直し、安全装置を解除する。
駐車場で銃声が聞こえなかった、つまり、あの鎌を使う馬鹿な男が、傷ついた私の弟を始末したのだろう。
人の世に人為的でないものなんて存在しないのさ、そう言って笑っていたあの男は、弟の死体を見下ろし、
今も同じ笑顔を浮かべているのだろう。
遠くのビルの電光掲示板が午後七時のニュースを流してる。家族ならテレビの前に集まり、団欒を取る時間帯なのだろうか。
ねえ、私たちには、そういう時間はなかったよね。人を殺すための訓練ばかり、殺伐とした砂を噛むような心が通わない毎日。
だけど、ねえ、それでも、やっぱり私たちは家族だったんだよね。
私にそれが証明できるかな?
私は階段を下りる。駐車場へ向かう。
音を立てず、気配を悟らせず、野生動物のように静かに。

「時間」「独り言」「意味」
126幕は閉じられなかった:2006/01/28(土) 23:37:16
鎌を振り下ろす。
皮を、肉を、筋を、骨を、裂き。
骨を、筋を、肉を、皮を、裂く。
今まで何度も繰り返してきた動作を男は辿る。
首が千切れる瞬間、首の口がかすかに動いたように見えた。いつものことだ。
「疲れましたねぇ、弟君」
男は死体に労いの言葉をかける。意味のない独り言が空しく空間にこだまする。
「貴方はよくがんばりましたよ」
17年間、共に鍛え上げられてきた人間を殺したが、なんの感慨も沸かない。
「私も疲れましたよ」
こんなにも殺しに慣れ、愉しみも哀しみも怒りも無い。
無くしたのだ。
心と言う厄介な部品から逃れるために。
「貴方は、逃げませんでしたね」
ペンで【仕事】の結果を綴りながら、淡々と言葉を紡ぐ。
死体はなにも答えない。
「馬鹿な人です」
書き終わり、振り向く。
「――――おや」
死体の姉が階段を下りてきていた。無感情にこちらを見ている。
「もう少し泣き喚いてくれないと、弟さんに失礼ですよ?」
「そうね」彼女は銃をこちらに向け、そう言った。
発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。
六の弾丸は全て標的に命中する。
一定の時間間隔で弾丸の雨に晒されたのは、ペンだった。くるくると回転して、死体に突き刺さる。
「墓よ」「・・・お見事」
二人は車に乗り込み、どこかへ発進する。
後には、首の無い死体だけが残された。

お題は、「輪廻」「蹂躙」「お笑い芸人」でお願いします。
127「時間」「独り言」「意味」:2006/01/29(日) 00:09:37
 結婚式場控え室での父と娘の口論は、そう珍しいものではない。
「……やっぱり、俺はいい。お前らだけでやってくれ」
「今更何言ってるの? お父さんがいなきゃ意味ないでしょうが。だーれーが
バージンロード歩くのよ。皆式場で待ってるんだから」
「いや、だから俺は最初から嫌だと言っただろう。……言ったよな? 俺」
 父の言い訳めいた独り言に娘が頷き返すはずもなく、美しいカーブに
整えられた眉は、きりきりと音を立てるように更に見事に吊り上った。
「結婚式なんて一生に一度の晴れ舞台だよ? お父さんがそんなんでどうするの」
「二度目だろうが」
「……前は三三九度でしょうが。教会は初めて! でしょ?」
「屁理屈言うんじゃない。二度目の結婚式なんて恥ずかしくて俺は……」
「あの、そろそろお時間ですが」
「ったく、いつまで照れてんの。腹括りなさいよ、お父さん」
 呆れ顔の娘に腕を取られ、本日の新郎(57歳)は再婚相手の待つ式場へと
引き立てられて行った。

お題は126さんので。失礼しました。
128輪廻 蹂躙 お笑い芸人:2006/01/29(日) 07:51:01
厳格な男だった。異論を許さない男だった。幼い頃から彼の顔色ばかり伺って生きてきた。
僕にとっては憎みながらも、しかし同時に畏怖を覚えざるを得ない存在。
僕の父はそんな男だった。そんな彼が「お笑い芸人になりたい」という僕の希望に強行に反対したのは
当然と言えば当然の事だった。
「日本中に恥を晒して金を貰うなど、乞食と同じだ!」
腕を組みながら彼はそう一喝した。息子の夢を蹂躙しながらも彼は悪びれた様子など
一つも見せなかった。僕は無一文で家を出た。

「お笑い芸人」という職業の前に「自称」と付けなくてはならない程
ただ毎日バイトに忙殺される日々を経て、昨日初めてテレビの仕事を貰った。
その事を報告する為に、家出以来初めて彼に電話を掛けた。
相変わらず口調は厳しかったが、僕は彼の口調のどこかに漂う安堵を感じた。
電話を切る寸前に彼は言った。
「……体に気をつけろよ」
今までどんなに心配を掛けていたか、その時初めて気が付いた。
溢れる涙を抑えられず、自然と感謝の言葉が出てきた
「生まれ変わっても、あなたの息子になりたいです」と。

しばらく無言の後、父はポツリと言った。「それが、お前のギャグなのか?」
父の口から冗談を聞いたのはこれが初めてだった。

次は「発見」「楽器」「ジントニック」
129名無し物書き@推敲中?:2006/01/30(月) 11:50:41
「発見」「楽器」「ジントニック」


「僕にとって、楽器を演奏することはSEXのようなものなんです」

他の人間が発したらスッと引かれて変態扱いされそうな言葉だが、
新進気鋭の若手チェリストの口から出ると全然ちがう印象をあたえるらしい。
端正なルックスと爽やかな言動、繊細なチェロの旋律を奏で若い女性から支持を集める彼に、
アーティストとしての謎めいたテイストと奥行きのようなものを加える結果となった。
人気はますます高まり、―――女を濡らすチェロの音色、そんなタイトルで特集を組む雑誌がいくつも現れた。


チェリストはひとつの発見をした。
ジントニックは精子の味に似ている……
クラシック音楽界の巨匠で幼い頃からの憧れだった指揮者のものを口に含みながら、
チェリストは思った。幸せな気分だった。

「最近、気に入ってらっしゃるお酒はありますか」
女性週刊誌の記者は、今人気の若手チェリストにマイクを向けた。
「そうですね、最近はジントニックをよく飲みます。ジントニックを飲むとき、
僕は憧憬と背徳の交差する、音楽的なひとつの境地に達することができます」


なんだかな……
次「師匠」「不祥事」「生き証人」でお願いします。 
130名無し物書き@推敲中?:2006/02/01(水) 03:11:00
へいおまち“生き証人”一丁ね。
これね東京湾近郊でとれた活きのいいヤツなんですよ、そこ頬のほう青筋たててピチピチしてるでしょ。
いやぁ〜最近はめっきり揚がらなくなっちゃってねぇ、お客さんは運いいわ。
なに?あっしが生き証人好きかどうかだって?そうだねぇ好きっちゃぁ好きだけどあっしはやっぱり不祥事の方が好きですわぁ。
あの不祥事のねぇ下ッ腹のドロっとしたことろが乙なもんなんですよ。
次何にしやす?師匠なんてどうですかね、ちょっと苦味があるんですがお勧めですよ。
へいへい、それじゃ”師匠”おまち。
ほんとに苦いねぇって?この苦味がねぇ、うん、たまらんのですよ。
上から下に叩き落とす苦さっですって?お客さんわかるねぇ、いや良い舌もってるよ。
それじゃこの夫婦喧嘩はあっし奢りです、食べてみてくださいな。

次「海峡」「ふすま」「稲」
131名無し物書き@推敲中?:2006/02/01(水) 03:58:46
海峡 ふすま 稲

僕の子守歌は津軽海峡。母は僕にいつもこれを聞かせていた。
僕はどうすればいいのだろう?
母の津軽海峡を聞き、育ち稲の向こうで腰を屈めて農作業をしている母は僕を見るといつも笑ってくれた。
いつの日か、バイトが思ったよりも早く終わり、家に帰ってきた僕はただ脅かしてやろうと、忍び足で音もたてずに玄関を開けた。ふすまを隔てて聞こえてきた僕の知らない母の声は、一瞬にしてこの世のそこに渦巻いている嫌悪感を覚えた。
気がつけばここはいつも母が笑ってくれた田んぼ。
日は暮れた。どんな顔をして帰ればいいのだろうか。


いちご 椅子 ライター
132名無し物書き@推敲中?:2006/02/01(水) 06:43:29
「いちご」「椅子」「ライター」

小さな音と共に暗い部屋の中をライターの小さな火が照らしだした。
夕食の最中に訪れた、突然の停電。今夜は雪が酷かったので、その重みで電線がやられたのだろうか?
とりあえず、後の箪笥の上に上げてある懐中電灯に手を伸ばす。
「っと。」
その時、小さな音が鳴って脛に痛みが走り、体のバランスが崩れた。
振り向きざまに椅子の足に打ちつけたのだろう。
倒れそうになり、慌てて手を付いたテーブルの上が盛大に散らかっる。
皿と皿がビリヤードさながらにぶつかり、あるものはテーブルの隅にポケット、またあるものは失敗した達磨落としの様に中途半端に積みかさなった。
その惨状の主、椅子はというと別段ひっくり返る程でもなかったらしく、ざまあみろと言わんばかりにその場に座している。
腹が立って椅子を蹴飛ばしたら地面に落ちた皿を道連れにしながら転倒しやがった。
「はぁ……。」
何やってんだ、と自分に呆れながら散らかったテーブルの上にあったいちごを摘む。
それは、思ったよりは甘かった。

次のお題
「空」「信号灯」「雑誌」
133名無し物書き@推敲中?:2006/02/01(水) 20:58:42
「空」「信号灯」「雑誌」

頭の上を「阿呆阿呆」と鳴く鳥が信号灯にぶつかり落下した。
仰向けで足をぴくぴくさせてる鳥に言い放つ。
「お前が阿呆じゃ」
すると死にかけの鳥が頭をもたげ、小憎らしげにこう言った。
「阿呆言うやつが阿呆じゃ」
「普通に喋るな、この阿呆!」
「阿呆言うやつが阿……」と、そこで鳥は事切れた。
空を仰げば白くうっすらお月様。
今日初めて口を利いた相手が、死ぬ間際の鳥だということに気付く。
バッグから取り出した雑誌で亡骸をそっと覆い、厳かな気持ちで手を合わせた。
と、いきなり雑誌がびくっと蹴られる。
「とっとと死んどらんかい、この阿呆!」
「阿呆言うやつが……」
皆まで言わさず鳥の頭を踏み潰していた。
あたしは少し、短気なところがあるかもしれない。


「二月」「地震」「摩訶不思議」
134名無し物書き@推敲中?:2006/02/02(木) 08:42:07
「二月」「地震」「魔訶不思議」

 ランプを拾った。擦ってみた。魔人がでた。
「分かっているね?さあ、君の願いを三つ叶えてあげる」
「分かってない。っていうか笑顔がキモい」
魔人を名乗る男は落ち込んでしまったようだ。かがみこんで地面にのの字を書く背中が、妙に筋肉質でこれまたキモい。
「よく分からないが、願いを叶えてくれるのか?」
本当は分かってる。アラジンの魔法のランプのような話だろう。
「うん!」
刹那に、欲しかった玩具買い与えられた子どものような笑顔で返す魔人。喋り方と併せて超キモい。
「三つ?」
「三つ!」
「じゃあ世界平和」
「無理!」
殴った。何と無く。頬をおさえて泣く姿はかなりキモい。
「何なら叶えられるんだ?」
「えーと、地震、雷、火事、親父とか?」
殴った。鼻血がクソキモい。
「とりあえずお前でらキモい。なんか美女みたいなのになれないか?」
「それなら何とか。一つ目の願いはそれでいい?」
「オーケー、オーケー。早くしろ」
「アイアイサー!チチンプイプイ、パパラパー」
魔人が呪文を唱えると、小さな爆発のような衝撃と共に煙が立ち込める。これは本気かもしれない。
「ウフーン。どうかしら?」
135名無し物書き@推敲中?:2006/02/02(木) 08:43:27
ややもして、煙が晴れるとそこに居たのは絶世の美女。かもしれない。多分。奴にとっては。
「ソレがお前にとっての美女?」
「ううん、美女みたいなの!」
「つまり、美女ではない」
「うん!」
殴った。がっつり殴った。アメリカのカートゥーンとゲゲゲの鬼太郎の絵を混ぜ立体化したような偽美女は、やはり泣き出した。キモい。ビックバンキモい。
「お前、もう帰れ」
「え?でも、まだ二つ願いが……」
「じゃあ二つ目の願いだ。ランプに戻れ。そして三つ目の願いだ。どっか行ってこい、ランプごと」
「そ、そんな……」
彼女?は大きな目をうるませ、悲しそうにこちらを見つめる。捨てられた子犬みたいな表情とはこういうのを指すのだろうか。だがキモい。唯一絶対神から見ても多分キモい。
「ほら、早く」
「分かりました……。パパラパー……」
何処か寂しげな詠唱が終ると、ランプは消えていた。
 これが二月程前に起きた魔訶不思議な出来事。そして、またランプが目の前にある。同じ物か?気になって擦ってみると、中から……。

「お茶受け」「宇宙」「小指」
136名無し物書き@推敲中?:2006/02/02(木) 18:01:51
「お茶受け」「宇宙」「小指」

「宇宙開発事業部……ですか?」
僕は呆然として、言った。
「うむ。来るべき宇宙旅行の時代に先駆けて、このたび新しく創設された部署だ。
きみは、その事業本部長に抜擢されたのだ。頑張りたまえ」
上司は書類に目を落としたまま、こちらを見ようともしない。
しばらく上司の机の前に立っていたが、それ以上話すつもりも無いらしく、上司は顧客へ電話をかけはじめた。
仕方なく自分の席に戻る。

とうとう来た、と思った。宇宙開発事業部なんていうのはもちろん建前で、つまりはリストラだ。
なんてったってウチは、宇宙なんて縁もゆかりもない、和菓子メーカーなんだから。
しかも、『お子様のおやつに、お茶受けに、さくらのマークの桜まんじゅう』なんて、
昭和テイスト全開のコピーを今だに使い続けているぐらいだ。
なーにが宇宙開発だ。
考えているうちにどんどんムカッ腹が立ってきたので、
ホワイトボードに「焼き菓子ライン視察」と殴り書きして外に出た。

この会社に就職してからの5年間の事が頭を駆け巡る。そしてこれからの身の振り方についても。
考え事をしながら歩くうちに、べつに来るつもりはなかったが製菓工場に着いてしまった。
とりあえず、社員証を見せて中へ入る。
いっそ田舎へ帰って、結婚でもして、実家の畑でも継ぐか……
そんなことをボーっと考えながら、さしあたっての腹いせに、
鼻の奥深くまで突っ込んだ小指をこねくり回し、その指を出来たての温かいまんじゅうになすりつけてみた。


「金利」「皇室」「家宅捜査」
137名無し物書き@推敲中?:2006/02/03(金) 02:11:56
「金利」「皇室」「家宅操作」

 世に氾濫する高利貸し。一度借りれば雪だるま。
奴らも悪いが自分も悪い、金利で膨れたに借金に頭を抱え、やってきたるは皇邸前。
さてさて成さんとするは男一世一代の大悪事、皇室誘拐ときたもんだ。
「無理。」
男は素直に諦めた。そりゃそうだ、いくら高利貸しに身を委ね、自らを滅ぼさんとするような男でも最低限の道徳くらいは持っている。
自力で変えそうとか自殺しようなんて根性は持っていない。
そのままぶらぶら歩いていると、ビルのモニターで有名な会社の社長が家宅捜索の末捕まったとかの速報が流れていた。
いやらしい目つきの、初老のコメンテイターが鼻息を荒くし激しく手を振りながら、社長を貶めんと罵詈雑言を垂れ流している。
爺さん、前はあの社長は先鋭的で現代市場という戦場での殊功者だ、とか言っていた。
男はほくそ笑むと、ふらりふらりと雑踏へと消えていった。

「シマ」「ハシ」「スミ」
138名無し物書き@推敲中?:2006/02/04(土) 02:27:07
感想書く人がいないと寂れるねえ。悪口みたいなのでもあったほうがいいかねえ。

>>130
やりたいことはわかるけど、本人が思ってるほど面白くないかも
>>131
よくわからん
>>132
短い話の中に2回も出てくる、小さな音っていうのが気になった。
>>133
>あたしは少し、短気なところがあるかもしれない。
ってとこが面白い
>>134-135
>>134だけで終わっててもよかったかも。
>>136
和菓子屋に宇宙開発事業部っていうのはいいね。
嫌なオチだけどオチもあるし。
>>137
講談調で流れるように読めるけど、内容が頭に入ってこないと思いました。
もしかして>>130と同じ人?
139名無し物書き@推敲中?:2006/02/04(土) 12:12:43
>>138できたら感想スレのほうへ
感想書いてくれる人は貴重なので感謝します。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1138624134/l50
140名無し物書き@推敲中?:2006/02/04(土) 12:13:58
「シマ」「ハシ」「スミ」

シマシマ模様を全身にペイントしているのは、シマウマがこの村の守り神だから。
酋長は毎朝姿勢を正し、おごそかな表情で体にスミを塗る。
今日も一日、村人に災いが起こりませんように……
そんな祈りを込めて。

午前中は家畜の世話をしたり、村内の見回りをしたりする。
時には村人の相談に乗ることもある。
午後に入ると、酋長は忙しさから少し開放されて、昼食をとる。
ここでは昔から主食は穀物である。
遠くで供達が遊んでいる声を聞きながら、酋長は器用にハシを動かす。
ふむ。文化というものは時々で変わるものなのだなあ。
酋長は子供とハシから連想して、そんなことを考えた。

夕刻を過ぎた。
村の一日も終わろうとしている。
酋長はシャワーを浴びて、シマシマ模様を洗い流す。
着替えを済ませると、戸締りを確認して、『東部ファミリー動物村』を後にする。
酋長はJR中央線に乗って帰宅する。


「会社」「オリンピック」「鼻」
141名無し物書き@推敲中?:2006/02/04(土) 17:27:04
「会社」「オリンピック」「鼻」

少し頭の弱い社長のお嬢さんのオリンピック応援団壮行会が行われた。
お供を20人引き連れてトリノに発つという。
頭にちっちゃな王冠乗っけたお嬢さんは、ピンク色したマイクを手にこう言った。
「がんばって応援して来まっしゅ。あたいこの日を鼻を長くして待ちわびていたのでっしゅ」
鼻を長くって……象さんかい!
そこで俺はプッと吹いてしまった。
見事に俺だけの反応で、同僚は皆気付かぬ振りを決め込んだらしい。
しまった、と思ったがもう遅い。涙目のお嬢さんが俺を睨みつけていた。
「お父ちゃ〜ん、あの人うちのスピーチ聞いて笑いよった〜、プッて吹きよった〜、うえ〜ん」
横でめらめら怒り出した社長におののきながら、俺は必死に弁解した。
「いやその、長くするってったら、あれじゃないすか、首の方じゃないすか、どちらかってったら首……」
「お父ちゃ〜ん、あの人モモコのこと馬鹿にしよった〜、みんなの前で辱めよった〜、うえ〜ん」
「貴様、わしの目の前で娘陵辱してからに……、お、お前がクビじゃ! お前クビにしたるわ!」
見回しても助け舟の気配なく、俺はあっけなく職を失った。
今となっては会社をクビになったことはもうどうでもいいのだが、ただ一点、俺は「陵辱」に納得がいかない。


「病み上がり」「ジャングルジム」「殴打」
142名無し物書き@推敲中?:2006/02/04(土) 21:55:58
「病み上がり」「ジャングルジム」「殴打」

 公園で、中学生による天下一武道会が開かれた。
格闘技番組や漫画でも流行っているのだろう、学年の中でも腕の覚えのある子が集まって、トーナメント形式で試合、というか喧嘩をしている。
ある子はマウントポジションで相手を殴打し、またある子はジャングルジムを登り、飛び蹴りを繰り出して勝利を手にしていた。
あいにく僕は病み上がりで体調が万全ではなかったために参戦出来なかったが、ただ観ているだけでも体が熱つくなるのが分かる。
終わった後も、勝った子も負けた子も実にいい顔だ。
優勝した相撲部のY君には拍手喝采と学年最強という誇りが贈呈された。
 後にPTAで問題になったのは言うまでもない。

「タンス」「ランス」「センス」
143名無し物書き@推敲中?:2006/02/05(日) 17:38:05
「タンス」「ランス」「センス」

なんだかんだいってお金がないので、車を走らせ実家へ向かった。
庭弄りする両親は、金の無心に訪れた一人娘を特に歓迎するでもない。
祖母はいまだ戻らぬらしい。
タンス預金をはたいて世界一周の旅に出たのは去年の話だ。
今日届いたばかりの写真を見せられた。
ノートルダム寺院をバックにおどけた姿の祖母83歳。
当分ランスに留まりシャンパン付けの毎日を送るわ、という何とも奔放なメッセージ。
それにしても、寺院の前でしぇーのポーズをとってしまう祖母のセンスっていったい……
いつ死ぬかわからないからぱーっとお金使っちゃうわね、と世界一周を決行する老女のバイタリティ。
私も直に死ぬつもりになれば、ぱっと吹っ切れた生活を送れるものだろうか。
この祖母のDNAを受け継いでいることを心丈夫に思いながら。
しかし簡単に気持ちを切り替えられる若さもなく、私の目に映る空は依然白々しいものだった。
「ただお前はしばらく生きるだろうよ」
白々しい空の彼方から、年取った穏やかな声にそう諭された気がした。
祖母の目に映る異国の空はどんなだろうかとふと思った。


「健全」「北風」「競争」
144名無し物書き@推敲中?:2006/02/05(日) 18:06:49

「健全な交際」ってなんだろう。
 朝の交差点。そんなことをぼんやりと思いながら、信号を待っていた。
 私は音を聞いていた。
 隣の子供達。昔NHKの「みんなのうた」で聴いた、北風の歌を歌っている。
 私にもあんな頃があった。あったのだろう。
 まだ生存競争に巻き込まれていない、幼い幼い、子供の頃が。
 信号が変わった。
 私は歩きだし――
 ――
 ――体内の、音を聞いていた。
 骨の砕ける音だ。

「豚」「世界」「背反」
145名無し物書き@推敲中?:2006/02/07(火) 02:42:37
「豚」「世界」「背反」

世界は豚どもの背反する行為と欺瞞に溢れている。
環境保護を叫びながら、油田を掘り尽くし、森林を根こそぎ切り倒していく。
人類の愚かさを過小評価してはいけないとは、よく言ったものだ。

「子供」 「シクラメン」 「永久凍土」
あの人は歌が好きでした。
毎日のようにこの店に来ては、シクラメンの歌をよく唄っていましたよ。
あれは何て題でしたっけねぇ。
私もついついその花が好きになって、アパートで育ててみたりしたものでした。
あなた、御存知でしたか? シクラメンの和名は「篝火花」というんですよ。
風情のある名前じゃありませんか。あの人が教えてくれたんですけどね。

子供ですか? いませんよぉ。……産めないんですよ、ちょっと昔色々あって、ね。
あらら、ご免なさい。変なこと言っちゃいましたね。お詫びに一本あったかいのをつけますよ。

ああ、あの人ですか? ほら、学者さんでいらっしゃったでしょ?
『永久凍土におけるファウナについて』なんて英語の論文をぽんと私にくれましてね。
お前、俺の教え子の中じゃ一番出来がいいから俺の英訳を推敲してくれ、なんておっしゃって。
ええ、お世話になった方だったから一所懸命やりましたよ。
そしたらね、最後の献辞の所にね、私の名前が書いてあって。そりゃもう吃驚しましたよ。

……ええ、露西亜にはご一緒しませんでした。ほら、立派な奥様がおいでになりましたから、ね。

「マグナカルタ」「天安門」「ヒエログリフ」
147名無し物書き@推敲中?:2006/02/08(水) 22:24:19
>>129
ジン=精というところからの連想? 実際の味は似ても似つかないので何とも。
最終段落にひねりがあると引き締まったかも。

>>130
個人的にはこういうノリは好きだけど、もう少し「ネタ」と「味」の関連性が密接だったら一段と面白くなったと思う。

>>131
「この世のそこに渦巻いている嫌悪感を覚えた」という表現がこなれていない。
テーマとしてはありがちなので、最後の一行にもっと工夫を。

>>132
状況描写が少々くどいかも。
「惨状」を簡潔かつ印象的にまとめてこそいちごの「甘さ」が引き立つのでは。

>>133
カラスと言えばもちろん「阿呆」なわけだけど、繰り返しすぎ。
しつこく畳み掛けるギャグという形式はあるけれど、本作では効果的ではない気がする。

>>134-135
肩透かしの受け応えで笑いを取るにはちょっと「願い」の内容がベタすぎたかも。
オチも弱い。2レスに亘って書く内容ではない。台詞は生き生きしていていいと思う。

>>136
和菓子屋に宇宙開発事業部、というシュールさが宙ぶらりん。何らかの説明があるとよかった。
取って付けたような説明でも、ある程度のリアリティがあるのとないのとでは作品の説得力が違う。
148名無し物書き@推敲中?:2006/02/08(水) 22:25:08
うわ、誤爆! 大変失礼しました。
149名無し物書き@推敲中?:2006/02/08(水) 22:41:05
>>137
竜頭蛇尾の感を拭えない。皇室誘拐という大風呂敷に対し「無理」という台詞が唐突過ぎる。
男の「ほくそ笑み」が浅薄なコメンテーターに対する嘲笑だとしたらどうもしっくり来ない。

>>140
酋長がもっと酋長ぽかったら落差が生まれてよかった。
逆にそのステロタイプに陥ることを嫌ったなら申し訳ない。

>>141
んー、ひねりが欲しい。「お嬢さん」の台詞回しがわざとらしいのが少々鼻につく。
つんと澄まして賢そうに見せようとしてるけど言葉の端々で馬脚が顕れる設定にした方が……これもステロタイプか。

>>142
どこかの学校で普通にやっていそうなことなので、もう少し意外性が欲しい。
最後の一文もオチとして機能していない。

>>143
破綻がないけれど、起伏もない。「祖母」と「私」の精神的な繋がりを感じさせるエピソードがあれば、(想像上の)祖母の台詞にも深みが出たのでは。

>>144
車に気付かないほど物思いに囚われているようには思えないので、どうにも不自然。
この述懐の内容では自殺願望があるとも読み込めないし。

>>145
うーん、アフォリズムになり得ていない。
正直なところ表現としては手垢が付きまくっているので、ふたひねりくらい欲しいところ。
150147-149:2006/02/08(水) 22:42:32
スマソorz……これじゃまるで荒しだ。吊ってくる。
151名無し物書き@推敲中?:2006/02/09(木) 03:43:57
「マグナカルタ」「天安門」「ヒエログリフ」

 世界史研究部で、文化祭の催しものについての話し合いが始まった。
「天安門の大虐殺の見解について、写真や映像を交えて発表するというのは?」
そんな退屈な話、誰が聞くだろうか。
映像準備に資料集め、考察をまとめるのに非常に手間が掛るだろうが、それに見合う成果が出るとは到底思えない。
第一文化祭には子供が沢山来る。教育委員会に頭の上がらない教職員が、大虐殺の映像の放映など認めるものか。
「マグナカルタで歌留多でも作るか?なんつって」
歴史を使ってゲームを作るという考えはいいのだが、その前にどう考えても親父ギャグだ。
それに選んだゲームが悪い。
歌留多ってのはある程度書かれているネタが分からないと、はっきり言って面白くない。
英国の大憲章を知ってる客層など想像が付かない。
「じゃ、じゃあ、ヒエログリフで、翻訳した、ほ、本を書く、とか」
誰が読むんだ。一冊にどれだけ手間が掛るんだ。て言うかお前にしか出来ねーよ。
「じゃあ、お前は何かアイディアが有るのかよ」
一同は声を揃えてこちらを睨みつけてきた。
「俺か?俺は、そうだな……」


「螺子」「宝」「試薬」
152名無し物書き@推敲中?:2006/02/10(金) 01:48:06
「螺子」「宝」「試薬」

せめて聞こえないところで言やいいのに……
「こんな物を作るなんて頭の螺子が緩んでいるとしか思えない」だとよ。
わざわざ聞かせときながら初めて気が付いたみたいに「うわ君そこに居たんだ」だとよ。
あんの野郎……
俺が宝のように、それこそわが子のように愛してやまない菓子箱工作をけちょんけちょんに貶しやがった。
俺の『ぱくぱくウサたん』にどれだけのクオリティ要求すれば気が済むんだよ。
俺はやつの指摘のピントのズレ具合から菓子箱工作への愛情の足りなさを感じたね。
「これなんかは兎でなく犬じゃなきゃ」なんて俺の『ぱくぱくウサたん』を顎で……
例えば俺が『ぱくぱくワンワン』を作っていれば「むしろ兎か猫でしょう」なんて言いやがるに違いないんだ。
あいつは菓子箱工作がなんであるかをわかってない。
菓子箱工作師の菓子箱に注ぐ愛情についてわかっていない。
あんな野郎に俺の菓子箱工作が、俺の『ぱくぱくウサたん』がわかってたまるか!
……よし。チョコの日も近いことだし、ここは一つペット用試薬でも練りこんで……って待て待て。
まさか俺、手作りチョコ作ろうとしてる?
つかペット用試薬がまず手に入んないから。


「道路」「初恋」「泥酔」
153名無し物書き@推敲中?:2006/02/10(金) 03:21:59
「道路」「初恋」「泥酔」

 とうとう法律で飲酒が禁止される事となった。
施行されるのはしばらく後の話だろうが、余程名残惜しいのだろう、昼間だというのに道路のあちこちで泥酔して眠ったり吐いたりしている人が見られる。
酔っ払い運転で捕まる人や、それに伴う事故、急性アルコール中毒で死ぬ人間も増えているらしい。
かく言う俺も呑むだけ呑んで、帰るのもおぼつかない状態だ。
呼べるなら迎えの一人も呼びたいが、残念ながら俺は独り身。
「おさけはきらい。パパがこわくなるもん」
そんな事を言っていた初恋のあの子は、今どこでどうしているのだろうか。

「正義」「ベルト」「バイク」
154ふで:2006/02/10(金) 08:11:18
「正義」「ベルト」「バイク」

葬儀は終わり、家には一人っきりになった。喪服から着替えてちょっとドライブでもしてこよう。久しぶりに父からのプレゼントを車庫から出した。
何十年も前の私が仮面ライダーになりたいと言った時、父はひどく疲れた顔で笑って頷いてくれた。
何年も前、父に原付バイクを買ってもらった時、「私の夢が叶った!」と喜びを叫び声にした。父は疲れた顔をしながらもうんうんと頷いてくれた。
正義のヒーローとまではいかないけど、これから先は私が父と母を守ってあげようと少なからず思ったのはこの時から。でも、そのささやかな決意から一週間後、父はバイクにはねられ死んだ。その一年後には母もそう遠くないうちに死んでしまう病気を患ってしまった。
母だけでも守らないと。
働き始めて四年。やっと二人でまともな生活ができるようになった矢先、母は苦しみながら父の元に旅立った。
結局私は母を守れなかった。

エンジンは問題なくかかった。ベルトはいつもよりもきつく締めた。バックルには虫の模様。不思議と悲しくはない。よし、一回りしてこよう。


「ゴミ箱」「石」「プリン」

批評お願いします
155名無し物書き@推敲中?:2006/02/10(金) 09:55:08
「ゴミ箱」「石」「プリン」

その先生は、『プリン坂田』と呼ばれていた。
プリンス、ではない。プリンだ。
あだ名の由来はこうだ。

ある年の3月、「卒業式終了後、坂田の先公をボコる」という三年生グループの計画が噂された。
三年間積もりに積もった恨みを晴らすのだと。
坂田先生はそのネチッこい性格のせいで、生徒達から見事に嫌われていた。
だから、坂田ボコボコ計画はいかにも有りそうな話で、職員室の先生一同すぐに噂を信じたし、
坂田先生本人も信じ、そして怯えた。
そこからの行動がプリン坂田の伝説である。

坂田先生は、昼休みになるとコンビニで大量のプリンを買い込み、
卒業式後の襲撃に参加しそうな生徒たちに配りはじめた。ご機嫌取りのつもりである。
生徒を物でつってご機嫌を取るのも情けない話だし、それがプリンというのも締まらない。
しかし継続は力?である。
教室のゴミ箱がプリンのカラ容器であふれかえる日が一週間ほど続くころ、変化が現れた。
普段は絶対にむこうから話し掛けて来ることのない生徒たちが、「坂っちゃん」と
気軽に話し掛け、肩を組んでくるようになったのである。
コミュニケーション成立を坂田先生は喜んだ。

その年の襲撃は回避されたが、翌年以降、坂田先生の受け持つクラスでは
黒板に『プリンくれ!』と大書きされるようになった。
ちょっと強い態度に出ると、翌日坂田先生のデスクの引き出しには石がいっぱいに詰まっていたという。

次「狂気」「凶器」「狂喜」でお願いします。
156名無し物書き@推敲中?:2006/02/10(金) 10:45:53
 彼は、手にしている血のベットリと付いた凶器を見てハッとしました。
狂気のうちに切り刻んでしまった命が目の前に伏せており、戻れないのだな、と感じました。
僕は何という事をしてしまったのだろう。
後悔だけが募ります。
思えば、それを見たときは狂喜しました。
自分でそれをどう料理するか、袖を捲り上げ、舌舐めずりまでしたものです。
「いくら珍しい魚を釣ったからって、興奮しすぎて血抜きをしておくのを忘れるなんて……。」

「戦場」「成果」「納豆」
157名無し物書き@推敲中?:2006/02/10(金) 13:54:17
大好きなマクドナルドとコンビニの牛丼をやめて、早一ヶ月。男の顔つきは変わっていた。
血色は良く、肌の張りも良い。心なしか目元は引き締まり、表情から自信が満ち溢れているのが見て取れる。
彼はこの一ヶ月、納豆を食べ続けた。良質な蛋白質と納豆菌。豊富な栄養を持ちながらも、体に対して絶大な良作用をもたらす究極の食品。
その成果は既に彼の身体に現れていた。

「べべ……便秘が治ったようぅ。」
電話越しに、自分の心配をしてくれるただ一人の姉と話し終えると、彼は再び納豆をかき混ぜ始める。
手についた納豆など気にもとめず、やがて勢い良くズズズッと掻き込んだ。

「ここが……ここが僕の戦場なのさ。」
すっかり健康体になった彼は、あちこち糸を引いたキーボードで、彼は、再び2chに書き込みを始めた。


初心者です。どうか批評お願い致します。
「糸」「りんご」「東京」
158名無し物書き@推敲中?:2006/02/11(土) 02:06:37
 夢を追っかけると言えば聞こえは良いが、実際は堕落の日々だ。
 啖呵を切って飛び出した実家には帰れない。周りの奴らはどんどん成功する。
 挫折はしたくないが汗水垂らすほど努力もしない、腐った日々が関の山だ。
 糸の切れた凧のように、初めだけは威勢良く、あてど無く漂っていた。
 そんなある日、段ボール一箱、リンゴが送られてきた。送り主は婆ちゃん。
 真っ赤なリンゴの中に一つ、白い筒。中には一通、手紙。
『東京の生活はどうですか。たまには顔見せなさい』
 夢のことなど一言も書いてなかった。
 縁が切れたと、ずっと無視していた実家からのおくりもの。
 がりりと囓ったリンゴは、少しだけ、酸っぱかった。

 久し振りの参加。
 次は「制作者」「エンターテイナー」「ガジェット」
159名無し物書き@推敲中?:2006/02/13(月) 20:07:35
age
160名無し物書き@推敲中?:2006/02/18(土) 01:24:16
「制作者」「エンターテイナー」「ガジェット」

ガジェットぐらい使いこなせるさ。
だっておいらエンターテイナーだもん。
ガジェットとは……、がらくた・雑貨・小物・機械の意味か。ふむふむ。横文字一つ学習。
それじゃさっそく例文を。。
『どうせおいらのネタなんてガジェットさ……』
『お気に入りのガジェットたちに囲まれ、太郎は優雅な独り暮らし』
『身につけたガジェットはみんな義母のお手製です』
『新しいガジェット&クランクお前買ったー? そりゃラチェットだべ!』
『お前……、腎臓を売ってまで蒐集せねばならない、お前にとってガジェットとは一体……』
『語弊があるかもわからんが、まぁわしにとって腎臓も、いわばガジェットさね』
『腎臓腎臓って何よ! 今は私とあなたとガジェットの話をしているんでしょう! 逃げないでよ!』
よし。これで完璧に習得したぞ!
……というわけで次からはちゃんとした正しい三語制作者を目指します。
ですので今回は見逃して下さい。
感想いりません。


「昆虫」「集中」「今週中」
161名無し物書き@推敲中?:2006/02/18(土) 12:44:17
「昆虫」「集中」「今週中」


「これ今週中ね」
女上司錦織沙香はそう言って書類を投げてよこす。
見ると今度臨海地区に出来たマンション群の登記書類だった。
数人がかりで2週間、といった内容である。いつの間にこんな大きな仕事を取ってきたんだこの女は。
「できるでしょ?タケナカなら」
「やってみます」
「やってみる、じゃなくてやるの。……原クンこれ20枚コピー。……あ、錦織でございます。昨夜は…」
部下に仕事を命じたり電話を掛けたり忙しい女だ。
「……はい、では改めましてまたご連絡さしあげます。失礼いたします。……そこ!仕事に集中する」
リップクリームの貸し借りをしていた女子社員が気まずそうにうつむいた。
「―――コンサルタントの錦織と申します」
女上司はたて続けに電話をかけはじめる。
「佐々木部長をお願いいたします。……そういえば今日タケナカ誕生日だろ……あ、部長、ごぶさたしております」
女上司は受話器にむかって話しながら、リボンのかかった細長い箱を引き出しからとりだして、こちらへポンと投げた。
「佐々木部長のお力なら訳のないお話でしょうに」
女上司はもうこちらにはちらりとも視線をむけることなく喋りつづけている。
僕はプレゼントの箱を手に女上司の顔をじっと見つめた。
仕事ができて気も付く。スタイルもいいし服のセンスも最高だ。
これで顔が昆虫みたいでなければ惚れたのに。

「スノーボード」「豚」「新素材」
162名無し物書き@推敲中?:2006/02/19(日) 00:46:53
「スノーボード」「豚」「新素材」

雪山でそいつに遭遇し、俺は正直驚いた。
「お前……」
「よぉ。元気か」
快活に挨拶されて怯む。
「お前、スノボって……」
「なぁ、オリンピック見たかよ。俺が出てればもうちょっと上行けたのによ」
俺は頭が混乱した。
「お前ってさ……」
「あ、見て見て。これ新素材でできたゴーグルなんだ。かっこいいべ」
そいつはゴーグルをはずし、顔をあらわにした。
「お前、豚だろ? 豚がスノーボードって……」
「滑らない豚はただの豚だ。……そんじゃあな」
遠ざかっていく豚を、俺はアホみたいな顔で見送った。
確かに滑りは凄かった。
が、かっこよくはなかった。


「滑走路」「サッカー」「追いかけられる」
 滑走路。陸海空を問わず、軍人にとってそのだだっ広く直線的な空間は
栄光なる勝利への花道である。殊に空軍、中でも数百億ドルの巨費を
投じて開発された最新鋭戦闘機に搭乗し大空へ羽ばたいてゆくパイロット
にとれば、この場所は神聖不可侵の絶対領域であると言って過言ではない。
 よってゴールドマン空軍少佐は、その聖域で今、あろうことかサッカーを
している不届き者どもに猛烈なる殺意を覚えていた。
「陸軍の糞アリ野郎どもめ。どこまで舐めた真似すりゃ気がすむんだ!」
 彼は空の主役たるパイロットである。有事には今彼らがボールで戯れている
その道を使って、敵を討つ役目がある。ならばその場を占有する彼らは一体
何者であろうか? ――価値のない、道に落ちている石ころに決まってる!
 少佐は戦闘機に乗り込むと、ジェットエンジンを始動させた。整備士がすぐに
気づいて寄ってきたが、少佐はもうコクピットを閉じていて会話できなかった。
 流線型の機体が、アリどもを蹴散らさんために動き出した。サッカーを
していた者たちは何が起こったのかと騒いでいる。やがて機銃をバリバリ
撃ちながらやってきた戦闘機に追いかけられる破目になって、平凡なる
悪戯好きのサッカー少年たちは四散した。

つぎ「廊下」「乗船」「差別」
164名無し物書き@推敲中?:2006/02/19(日) 16:31:38
「廊下」「乗船」「差別」

「お前の本当の星座を言え!」
「し、7月生まれの蟹……、でも船長! 僕は……」
シルバーマン船長は、無情にも両手を縄で縛られた少年を海に蹴り落とした。
少年は波に飲み込まれ、直に見えなくなった。
シルバーマン船長は蟹座の人間の乗船を決して許さなかった。
船長はあからさまに蟹座を毛嫌いしていたのである。
それは悲しい少年期に由来する。
彼を散々いじめ抜いた教師が蟹座だったのだ。
一年のほとんどを水の入ったバケツを持たされ廊下で過ごすという悲しい少年時代を送っていた。
一方……
義理の父親から縄抜けを仕込まれていた蟹座の少年は、通り掛かった蟹工船に救助された。
少年は蟹の味噌汁をすすりながら、乙女座のせん滅を誓うのだった。
シルバーマン船長は乙女座だったのである!
星座差別が生む憎しみの連鎖……
なんだか、やりきれませんね。


「脳」「ページ」「冬枯れ」
165「脳」「ページ」「冬枯れ」:2006/02/19(日) 17:44:03
 今にも雪が降り出しそうな天気だった。風はかすかに湿気を孕んで、冷え冷えとしていた。
 低くたれ込めた雲に向けて冬枯れの木立が黒々とした枝を伸ばし、空と同じ色をした道路は彼方で空に解け合っていた。
 私はコートの襟を掴みながら、早足で歩いた。左手にぶら下げた麻袋がざりざりと地面に擦れた。
「ただいま」
 玄関に入ると、いつも優しい木の匂いが出迎えてくれる。私は汚れが漏れていないか確かめてから、膨らんだ麻袋を玄関に置いた。
「おかえり、姉さん」 
 弟はリビングの椅子に座って相変わらず脳を読んでいた。削り取られたページが灰褐色の層を作って、机に積み上がっていた。
「どう? 面白いのは、あった?」
「ううん、だめ。どれも、そんなでもない」
 弟はナイフを器用に操って、小さく固まった脳を削いでいく。すっと刃先が沈むと、出来損ないのチャーシューみたいな断片が落ちた。
 細い指でそれをつまんで眼前に持ち上げ、一通り目を通すと傍らに放り捨てて、またナイフを動かす。私はそっと机を離れて、台所から大きな薬缶を取り出した。
「お茶、飲む?」
「飲む」
 リビングのストーブに薬缶を載せて、弟の向かいに腰を下ろした。こうして脳を読む弟を眺めるのが、私は好きだった。

「偏差値」「チョコレート」「霜柱」
 払暁の闇の中、私はそっとベッドを抜け出す。夜霧すらも凍りつき、私の眼鏡を白く染めた。
 勉強しか知らない女だと思われている私。つまらない女だと思われている私。
 ううん、そんなのは私じゃない。そうだけど、そうじゃない。
 私にだって……人を想うことくらい……ある。偏差値より大事なものがあることを知ってる。
 でも、他の人はそうは思わない。つまらない私しか知らない。
 彼も……そうかもしれない。私は、それが怖かった。
 そんな私がすがったのは、昔に読んだ恋の魔法。ほんの子供だまし。
 朝日に消える霜柱、それをそっと掘り起こし、右手のぬくもりだけで溶かしきったとき、
想い人の心に私の心のぬくもりを伝えてくれる。
 魔法なんて無くてもいい。ただ、私を騙してくれればいい。勇気を与えてくれればいい。
 このひとかけらのチョコレートを、彼の手に押し付ける勇気を。

次は「逆境」「大世界」「ナイン」で。
167名無し物書き@推敲中?:2006/02/20(月) 20:53:39
「逆境」「大世界」「ナイン」

俺の弟はテツコに似ている。
みなさんご存知のあのテツコだ。
どことなくでなく瓜二つである。
三大世界の謎に数えられるぐらいそっくりだ。
背がひょろりと伸び声変わりしてもやっぱりテツコ。
スノボでナインハンドレット成功させていてもやっぱりテツコ。
休日に半裸で寝癖のまま牛丼二人分かっ込んでいてもやっぱりテツコ。
周りの人間はおろか、親まで弟をテツコと呼ぶ。
一方俺は、誰にも名前を覚えられず「テツコの兄」という認識のされ方をする。
○○君のお母さんとか××さんの奥さんとか呼ばれて寂しさを覚える女の気持ちがよくわかる。
同じ思いをしているとアピールしたら人妻に好かれはしないだろうか。
寂しいもの同士……ってバカ。何を考えている。バカ。俺のバカ。
しかしなんで弟ばかりが……
何故俺はテツコに似なかったのだ。何故弟ばかりあんなインパクトある人に……。何この不公平。
逆境にめげず前向きに生きれば俺もいつかはステキな人妻と……ってバカ。人妻から離れろバカ。俺のバカ。


「仔犬」「雨宿り」「お菓子」
168名無し物書き@推敲中?:2006/02/21(火) 21:14:29
「仔犬」「雨宿り」「お菓子」

軒で雨宿りしていた老人、足元に寄る仔犬に煎餅を投げひとりごちる。
「今じゃ気軽にお菓子を与えていいのは犬猫ぐらいじゃからのぉ。
 まったく不健全な世の中になったものよのぉ。
 子供に近付いただけで犯罪者扱いじゃからのぉ。
 世も末よのぉ。
 昔はよかったのぉ。
 昨今の風潮には腹に据えかねるものがあるのぉ。
 若い連中ときたら自分らだけ楽しみよって、年寄りの気持ちなど一切気にせんのじゃからのぉ。
 わしらが心穏やかに暮らせる社会など、とうに失ってしまったんじゃろかのぉ。
 のぉポチや、このジジイの嘆きが……」
仔犬はどこかに消えていた。
「犬まで薄情よのぉ。
 しかし冷たい雨じゃのぉ。
 こんな底冷えのする世の中なんぞいっそ滅亡してしまえばよいのにのぉ。
 昔は、よかったのぉ……」


お題継続。
169vivi ◆DbLz8t2DkA :2006/02/22(水) 14:29:05
「仔犬」「雨宿り」「お菓子」


 ルーは雪が嫌いだった。仔犬のくせに、コタツに逃げ込んでしまうほどだ。
「やまないかなぁ」
 突然、背後から聞こえた声に驚いて顔だけで振り向くと、となりに住む美咲ちゃんが私
の傘に入り、まるで雨宿りでもするように、空を見上げていた。かと思えば、胸の上で両
手を組み、顔を伏せ、ぶつぶつと何事かをつぶやく。
「どうしたの?」子供なのに、雪が嫌いなのだろうか。
「だってね、雪が降るとね、ママがお仕事行くのにに大変かなと思って」
 そういえば美咲ちゃんの家は母子家庭だったっけ、と思い出す。優しい子だな。
「じゃあ早くやむように、一緒にお空にお願いしようか」
「うんっ」美咲ちゃんは元気よく返事をして、やんでくださいお願いしますと、目を閉じ、祈っ
た。私もそれに倣う。神様? でいいのか。祈る。安アパートの庭先で。ちょっと面白い。
「お姉ちゃんはなにしてるの?」
 私の足元に視線を落とした美咲ちゃんが「あ、お菓子!」と叫ぶ。ルーの好物だった、玉
子ボーロだ。そのまわりだけ、雪は積もっていない。美咲ちゃんがちいさな墓標に気づく。
「ルーの……お?」お墓、そう教えてあげようとしたのに声が出なくて、困ってしまった。


お題は継続。
170名無し物書き@推敲中?:2006/02/22(水) 19:45:31
「仔犬」「雨宿り」「お菓子」

セーターの首周りを思い切り引っぱって、ダランとのばした。
一瞬気が引けたけど、ユニクロだからまあいいか。
「おいで」
僕は拾ってきた子犬を抱き上げ、セーターの中に入れた。
カンガルーよろしく仔犬はセーターの首から顔を出す。
とても暖かい。
仔犬が僕の首筋を舐めるのでくすぐったい。
おとなしく抱かれていてくれるけれど、顎がつかえている状態なので歩きにくい。
小雨のなかを少し歩いてオープンスタイルのカフェに入る。もちろん今日は大きな庇が出ている。
いかにもちょっと雨宿り、という風を装って、小走りに店内に駆け込んだ。
「犬、いいですか」
大丈夫なのは知っているけれどあえて訊く。
「はい、当店はペット同伴OKとなっております」
店員のサカモトさんは、そのクリクリした目を輝かせて答えた。
彼女の犬好きもリサーチ済みだ。
セーターの首からちょこんと顔をのぞかせる仔犬、小道具としては最強だ。
雨に打たれている捨て犬を見過ごせない少年も気に入ってくれるといいが。

エスプレッソを受け取って隅のテーブルに陣取った。
仔犬を床におろし、ポケットからお菓子をとりだして与えていると、
サカモトさんがタオルを手に近づいてきた。
計算どおりかもしんない。

「動物園」「情熱」「ひなまつり」
171名無し物書き@推敲中?:2006/02/24(金) 16:18:59
「動物園」「情熱」「ひなまつり」

情熱大陸というテレビ番組を、新聞のテレビ欄でみてしばし考え込んでしまった。
おれの日常には、テレビを観るという習慣がない。しかし、アイデアを得るためにこうして新聞のテレビ欄をみているのだ。情熱と大陸という単語のこの組み合わせ。一見、無関係な組み合わせを整合させるのは作り手の手腕にかかっている。
どのような番組なのか想像の域をでないが、すばらしい出来であれば、魔法使いの呪文のような効果を発揮し、心に深くしみわたるのであろう。
これに倣いおれもタイトルからお話を創ってみよう。
「ひなまつり動物園」
ふれあい広場を新設し、ひよこを通じて子供たちに命の尊さを体験してもらうのが趣旨であるのだが……
こどもは残酷でひよこの首を抜いてしまったり、踏み潰してしまう。ピクリとも動かなくなってしまってから、係員であるわたしにこう訊ねるのである。
「電池がなくなっちゃたよ」
ひな祭りではなく、ひな血祭りだよなあ。と、動物園の片隅で、七輪にのせたひよこを団扇で炙りながらぼやいている。

お題は継続で
 よう!今日も暑いな〜。3月だってのに夏日はねぇよな。
 昨日なんか、幼稚園でやってたひなまつりのお遊戯発表会の真っ最中、
園児が熱中症で倒れたらしいんだよ。そしたらソレ見た親が集団で
卒倒しちゃってさ。子育てに情熱かけすぎなんだよ。
 このクソ暑いのに、せまっ苦しい体育館に百人も二百人も詰めかけりゃ、
そうもなるってか?HAHAHA。
 ところで、お前はどこ行くんだ?動物園?やめとけやめとけ。どうせ、
暑さでゆだってる白熊やペンギン見るのがオチだ。
 そんなの置いといて、飲みに行こうぜ?暑いときにはビール!これが
定番だよ。

お題は継続で
173名無し物書き@推敲中?:2006/02/25(土) 00:47:27
「動物園」「ひなまつり」「情熱」

 あまりに天気が良かったので、今日の仕事は逃げる事にした。プロとしてどうよ。
分かってるならちゃんとやれ、と自分を軽く叱りつつもやっぱり帰らずそこらをブラブラする。
今日はサボる。その分、明日は燃え上がるような情熱をもって仕事に取り組もう。
なんて愚にもつかないような言い訳を自分に言い聞かせて歩いてたら、子供達がいっぱいいる建物が目に入った。
「きょ〜うはたのしいひなまつり〜」
外まで届く実に元気で楽しそうな歌声が聞こえる。
中々に心地が良いので、しばらくここで耳を澄まして聞いてようか。
「キャアアアアア!」
 悲鳴が聞こえ、僕は逃げた。
チラッと目をやると、建物の庭でエプロンをした女性が、コチラを指して叫んでいた。
最初は誰も追ってこなかったが、程なく緑やら青やらの服を着た連中がやってきて僕を取り囲んだ。
な〜んも悪い事はしてない自信はあるが、どうせ外に逃げた時点でこうなるのは分かってた。
思ったより早かったが、まあ、仕方ないだろ。
適当に一吠えして横になると、彼等は僕に銃を向けた。
あ〜あ、もうちょっと外を満喫したかったな。
 目が覚めると、動物園の宿舎の中だった。

「牛」「豚」「鶏」
174名無し物書き@推敲中?:2006/02/25(土) 00:57:06
 この季節になると思い出すけど、別にそれがわだかまりになってるとは思わない。
 私にはひなまつりを祝ってもらった記憶が無い。一人っ子だっていうのに多分珍しいと思う。
 小学生の頃なんかは、友達の家に遊びに行った時に雛人形が盛大に飾ってあるのを見て、
すごく羨ましくなると同時に寂しくもなった。
 共働きの両親の情熱は、私じゃなくてそれぞれの仕事に注がれてるって、そういう時思った。
 ひな祭りだけじゃない。遊園地に連れて行ってもらったとか、公園で遊んだとか、
「幼い頃の楽しい思い出」の代表となるような記憶を、両親と一緒に作ることはなかった。

 でも別に、両親のそういった育て方が私に悪い影響を与えたとも思っていない。
 現にこうやって何の問題も無い普通の大人になった。
 働きながら結婚して、子どもも授かった。

 生きがいである仕事を終えて、毎日くたくたになって子どもを迎えに行く。
 こどもが園庭にうじゃうじゃと集合している。うんざりする。
 いつも思うけど、動物園かなにかにしか見えない。
 泣いている娘を抱き上げて、車に乗り込む。早く眠ってくれないかな。
 仕事持って帰って来てんだよ……。
 
あ、私、動物園も行ったこと無いんだった。


175174:2006/02/25(土) 01:01:16
すいません、「動物園」「情熱」「ひなまつり」で書いてしまいました
しかもお題書き忘れました
すいません
176名無し物書き@推敲中?:2006/02/25(土) 03:09:38
>>175
気にスンナ、別にルール違反という訳でもないから
177名無し物書き@推敲中?:2006/02/25(土) 03:50:28
>>176
やさしいお言葉 ありがとうです。
178vivi#:2006/02/25(土) 10:27:55

「牛」「豚」「鶏」


 豚を放し飼いにしている丘の方で、牧羊犬として飼っているゲンがさかんに吼えている。
 各舎の掃除、えさ遣りを終え、私は広い草原に寝そべり、空を眺めている。大きな雲が
流れ、鳶は旋回しながら飛んでゆく。この大地では牛の歩みのようにゆったりとした時の
流れも、しかし確実に進んでいる。私は三十になろうとしていた。
 衿子はどうしているだろうか。ふと、雲のかけらが、東京に置き去りにしてしまった恋
人――元恋人の顔を連想させた。左の頬にえくぼの浮かぶ、人懐っこい笑顔だった。待ち
合わせのときなど、私を見つけるとまるで飼い主に対して尻尾を振る犬のように、ぶんぶ
んと手を伸ばし、小走りに駆け寄ってきたものだ。
 一緒に行く、そう言ってくれた彼女を突き放したのは私だった。
 家業を継ぎ、がむしゃらに仕事に打ち込んできた三年間。私はまた忘れてしまっていた。
苦笑する。約束をすっぽかすたびに、鶏のようだと私の酷い記憶力を冗談めかして笑った
のは衿子だった。
 待ってるから――あの言葉はまだ有効だろうか。「遅いよ、にわとり頭」と、笑って許
してくれるだろうか。声が聞きたかった。私は上半身を起こし、電話番号を思い出そうと
必死で記憶のページをめくっていった。


「天気予報」「ラジオ」「箒(ほうき)」
179「天気予報」「ラジオ」「箒」:2006/02/25(土) 11:26:30
天気予報が嵐を告げた。
言われなくてもわかっている。山荘の外は夜半から既に風が吹き荒んでいる。
この世界では実質的な質量を持たない使い魔も、嵐の持つ「気」には影響を受けてしまう。
幾度かあちらに飛ばそうとしてみたものの、その度に凶悪な「気」に巻かれてすごすごと戻ってきた。

他に手がないのならば仕方ない。私は湧き上がってくる苛立ちを抑え、箒を手にした。
祖母の代まではしっかりと手入れをされていたそれは、母がこの世界への永住を決めた頃から急速に古びていた。
念のために石を2つ装填する。これで何とか6時間は保つだろう。それだけあれば充分だ。

窓を開ける。凄まじい勢いで飛び込んできた風が部屋中を蹂躙する。
立派な家具などないけれど、居心地だけはよかった部屋。大好きだった。
母と一緒に繕ったキルトも、祖母が大事に飾っていた祖父と父の写真も今は全てが朱に染まってしまった。

さよなら、母さん。さよなら、おばあちゃん。けりがついたら私もすぐにいくからね。

ちぎれかけた脚の痛みを堪えて箒に跨り、心の中で長らく錆び付いていた禍々しい言葉を口にする。
箒が微かに青白い光を帯び、私の心の中で何かが動き始めた。
背後では付きっぱなしのラジオが、今日の狩りの成果を誇らしげに読み上げる。
独りでに笑いがこみ上げる。待っていろ、人間ども。


「悪夢」「アンドロギュヌス」「ネメシス」
 哲郎は禁忌を破った。抜け駆けしない同盟の面々を裏切ったのである。
今彼の下には姪の照子がいた。彼女は神も羨む程美人だったのに、なぜか
哲郎を拒まなかった。哲郎の心は罪悪よりも優越感に満たされた。
 翌朝哲郎が目覚めると、その身がアンドロギュヌスになっていることを発見
した。「な、なんてこった。オッパイがある!」哲郎は既に童貞を失っている
ことも忘れて嬉しくなった。触ってみる。本物である。
 哲郎はひたすら嬉しかった。「やった。やった!」自分の体から二つ
ぶら下がっているそれを哲郎は揉みくちゃにした。ああ。柔らかい。
 「な、なにをしているの、哲郎」哲郎の耳のすぐ傍で声がした。振り向くと照子
が、やや頬を赤らめながら哲郎の奇行を眺めている。彼は彼女の胸を揉んでいたのだ。
 彼女の存在を思い出すと、哲郎は慌てて照子から離れようとした。
が、離れようとすると照子の顔も同じだけ近づいてくる。改めて確認すると、
哲郎と照子は頭以外の肉体が全て混ざっているとわかった。
 「あ、悪夢だ。これはなんだ。これが同盟の呪いなのか!」
 今や一人となった二人は、ネメシスの怒りを買ってしまったのである。

次「帆船」「ポテト」「試験」
181名無し物書き@推敲中?:2006/02/26(日) 03:21:49
 ポテ党冒険隊代表、ポテトは帆船に揺られて旅をする。
 ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモにタダイモ。
 集まった仲間達は皆、新大陸で繁殖する夢を共有する。
「●月×日。今日とて何もない。新大陸は未だ見えず……、と」
「航海日記はきちんと書けよう。この文章が後に教科書に載って、歴史試験に出たりしたらどうする?」
「故郷を出て早数ヶ月。さっさと陸地に着かないと、そろそろ芽吹いちまうぜ」
 彼等の故郷には猿が居た。イモというイモを海水で洗い、喰らう怪物だ。
 命からがら逃げ出して、帆を張り船漕ぎ飛び出したのはいいが、このままでは死が待つのみだ。

 だけど、頭上に輝く太陽があまりに美しいから。
 思わず芽吹いて、光合成でもしたくなる天気だから。
 今日もポテ党冒険隊は、朗らかだ。

 次は「正義」「愛人」「癌細胞」で。
182名無し物書き@推敲中?:2006/02/26(日) 09:49:28
「正義」「愛人」「癌細胞」
(#バックコーラス)ドクター!
(語り)咲いて乱れる悪の花。この世を犯す癌細胞。どっこいそいつぁ許されねぇ。
奴らがこの世に居る限り。宇宙医団、スペースドクター。電話一本即参上!

たとえ空が青くとも 風がどんなに暖かくとも
この世のどこかで求めてる 誰かが助けを求めてる
そんな時にゃ電話一本 ボタンをピピピと押したなら
奴らは どこでもやってくる
悪を震わす スペースサイレン
宇宙を走るぜ スペースピーポー
奴らが正義 宇宙医団スペースドクター

夜でも町は眠らない 人の往来変わらなくとも
世界のどこかで叫んでる 助けてくれと叫んでる
そんな時にゃ電話一本 ボタンをピピピと押したなら
奴らは すぐさま駆け付ける
光に迫る スペース診察
万事を治すぜ スペース処方
奴らが英雄 宇宙医団スペースドクター

世界は今日も止まらない ただに時間が回るだけでも
どこかで奴らが暴れてる 弱者(ヒト)を虐げて笑ってる
そんな時にゃ電話一本 ボタンをピピピと押したなら
奴らは 悪をぶっとばす
悪を更正 スペースオペで
最終兵器だ アトミックドクター
愛 人に見付けて 宇宙医団スペースドクター
スペースドクター スペースドクター ああ、宇宙の医師達よ

お題は続行で
183「正義」「愛人」「癌細胞」:2006/02/26(日) 11:14:59
地上72階ともなると、地上を歩く人間を人間として認識できなくなる。
まるで私の人生そのままだ。
ただひたすら上を目指すだけの人生。その途上でどれだけの物を、人を切り捨ててきたことか。
登り詰めるほど周りに人は増える。だが逆比例して人との繋がりは希薄になっていく。皮肉なものだ。

そう、それは全てあの日始まった。母が「愛人」と呼ばれる類の人種だと知った時から。
決して不幸だったわけではない。母の愛は深く、衣食住のレベルはむしろ友人たちより数段上だった。
父は――父と呼んでいた人物は、家庭では申し分ない父親だった。
だが社会では、この国の政界における癌細胞と誹られていた。
いわゆるフィクサーであったため心酔している者も多かったが、それに倍する人間から恨みを買っていた。

奴もそんな一人だったのだろう。
父の懐刀と呼ばれ、本人もそう振る舞っていた。だが最後には父を裏切り、私達を奈落の底へ突き落とした。

それから数十年が経ち、父が昔、同じことを彼の父親に対してやったと知った。そしてまた、彼自身が私と同じ境遇だったことも。

今となってはどうでもよい。
正義ではなく復讐のために人生を費やしたことに後悔はない。
自分の父がひたすら人を陥れるために生きていたと知ったら、息子はどう思うだろうか。
それも今となってはどうでもよいことだが。

私は父に、優しかった父を陥れた実の父に、今日死刑を宣告する。

「エディプス・コンプレックス」「蠅の王」「囚人のジレンマ」
184焼肉:2006/02/26(日) 20:52:35
「エディプス・コンプレックス」「蠅の王」「囚人のジレンマ」

 仲間の助けによって、囚人のジレンマは牢を出た。
 新鮮な空気を胸に吸いこむと駆け出す。
 目指すは父親でもあるブルンガ王だ。
 立ち向かってくる兵を槍で突き、なぎ払い、蹴り倒す。
 玉座に辿り着いたジレンマたちだったが、そこで異様なものを見た。
 巨大な蝿がいた。頭にかかっている冠は王のもので間違いない。
 蝿の二つの大きな複眼がジレンマたちを捉える。
「ひぃ」
 仲間のひとりが情けない声をあげたときだった。蝿の王の姿が消えたのだ。
 いや、正確には速すぎて目が追いつかなかっただけだ。
 瞬間、ジレンマの隣りにいた仲間の頭が吹っ飛んだ。
「ひいええ」
 叫び声の渦巻く中、新たな獲物に取りついた蝿の姿を、ジレンマは見逃していなかった。
 ふりかかる血しぶきのカーテン越しに、蝿の体に槍を突き刺す。
 ブシュリと奇妙な摩擦感のあと、蝿はブブブウッと羽をばたつかせ、やがて絶命した。
「これも一種のエディプス・コンプレックス(父親殺し)なのかもしれないな。あ? なんだ?」
 ジレンマの腕を仲間たちがつかんでいた。
「いくら蝿とはいえ、父親殺しは法を越えた大罪。逮捕します」
 再び牢に投獄されてしまったジレンマだが、このあと、宰相からとある取引を
持ちかけられることになる。

次のお題は、「巧名」「兜」「矢」で。
185名無し物書き@推敲中?:2006/02/27(月) 03:06:25
「巧妙」「兜」「矢」

「実に巧妙なトリックでしたが、僕の目は誤魔化せませんでしたね。犯人は貴方です。」
突然そう言って、探偵を名乗る男は俺に指を向けた。
目の前の画面の中から、だが。
別段に最初から見ていた訳でもなかったので、リモコンでチャンネルをくるくると変えてみる。
立派な兜の武将やら弓矢を構えた中世の猟師やらが見えたが、いまいち興味は湧かなかった。
何度もチャンネルを変え、とうとう一周したが別段見たいものは見付からず。
俺はリモコンを放り投げて横になった。

「で、次に体験したい人生は決まったか?」
「はぁ。分かりません。」
「お前な、分かりませんはないだろ。
お前みたいな奴らがいるからな、天国も一杯なのよ。とっとと次行ってほしいわけよ。」
「はあ。」
「好きな人生決めれるなんて、夢のようなサービスでしょ?」
「でも、ここで体験したことより楽しそうな人生はありませんでした。」

「針」「大根」「宗派」
186名無し物書き@推敲中?:2006/02/27(月) 08:09:28
>>185
◯「功名」
×「巧妙」
187名無し物書き@推敲中?:2006/02/27(月) 16:08:29
気が付かなかった……。
ゴメンナサイ。
188「針」「大根」「宗派」:2006/02/27(月) 17:11:01
 二組の座布団の間に、奇妙な形の大根と鉄棒、大皿とが並んでいる。こちらへ、と私を座布団に座らせ、僧は私の対面に胡座をかいた。
 目が変わっている。さきほどまで「青首なんて、大根じゃないんですよ」と笑っていた顔では、無い。
 宗派の名を、和家総本山鏑木流、という。
 針のような、細い鉄棒を用いる。朝鮮の鉄箸のようなものである。表面に微細な襞があり、鑢にも似ている。
 大根は、汁気の多い和家大根。首が長くて、尻尾が丸い。失敗した蕪のような形をしている。この地方でしか栽培されていないという。
「よござんすか?」
 僧が、大根を抱えて言う。私は頷いた。
 右手に鉄棒を取って、大根を貫く。ぬぷりと、鉄棒の根元に汁が湧く。
「この最初の一突きを、鏑刺しと申します」
 汁が、器に滴る。「かぶら」とは蕪に通じるのかと思ったが、尋ねなかった。
 そのまま、僧は鉄棒をセロ弾きのように操って、大根を削り取っていく。汁と肉がぽたぽた器にこぼれ落ちる。
「このように動かすのを、鏑嗣ぎと申します」
「からいですよ、これは」
 言いながら、僧は手を休めず、大根にはぽっかりと穴が空いて、大皿には大根おろしが山になっている。
「からいですか」
「ええ、からいです。これでなくては、だめなんです」
 僧の後ろには、大根菩薩がのおおんと控えている。腰が出っ張った、蕪のような体型である。
「青首なんて、大根じゃないんですよ」
 言って、僧はにっと笑顔を見せた。

「豚まん」「朝焼け」「ドイツ人」
189名無し物書き@推敲中?:2006/02/27(月) 18:23:57
「豚まん」「朝焼け」「ドイツ人」

ドイツ人に豚まんを食わせてみた。
「―――グッフンバーバダンバラ!」
なんだか良くわからないけど喜んでる。
「あら、まあ。外人さんが豚まん食べてるわ」
近所のオバハンが近寄ってきた。
「そお、外人さんでも豚まん食べるの」
図々しいオバハンは珍しい動物でも眺めるようにジロジロ見ている。
「……バフッ」
ドイツ人がむせた。
「まあ。飲み物もなしで食べるからよ。ちょっと待ってらっしゃい」
オバハンは走って行った。麦茶でも汲んでくるつもりだろう。
ドイツ人は拳で胸のドンドンと叩いている。
「胸焼けって言うんだよ」
僕は彼の胸を指さして言った。
「ムニャケ?」
「そう。胸焼けと朝焼けは一文字ちがいなんだぜ」
僕は昇り始めた朝日を仰いで言った。
「わかんねぇえだろうなあ」

しょうもなくてすいません。お題は継続で
190焼肉:2006/02/27(月) 21:14:30
「豚まん」「朝焼け」「ドイツ人」

 雪原の高台から、にっくきドイツ野郎を見下ろす。
 攻撃の気配はない。配給された珍しい白いパンを頬ばる。
「こいつはジャップの喰ってる豚まんって奴だって、あああ!!」
 隣りにいたデイブが叫んだ。見るとデイブの豚まんが雪原の坂を転がっていく。
 するとデイブが雪の塀を飛び越え、豚マンを追いかけはじめた。
「あのバカ!」と、僕とマイクも飛び出す。
 敵からの銃声はない。敵も味方もあっけにとられ、なにごとかと僕たちを見ている。
 ふいに白い雪の球が僕の足もとに蹴られてきた。
「あっははは。パス! パス!」
 デイブが白い雪の球になった豚まんを僕にパスしてきたのだ。極限の状況の中で、
僕たちはおかしくなっていた。僕らはそれぞれの足で豚まんボールを取り合った。
 そのとき、横から新たな選手が現れ、ボールを奪い取っていった。
 ギョッとした。ドイツ人だった。挑戦的な笑顔で指をクイクイと動かしている。
「野郎!」と言ってマイクが突進していった。僕とデイブも負けじと奪い返しに向かう。
 どこからともなく歓声がわく。たくさんの兵士たちが僕たちのもとへ駆け寄ってきた。
 ひとつの豚まんボールを巡って僕たちは笑いあった。
 やがて日が暮れ、誰ともなく元の陣地に戻った。
 翌日、朝焼けとともに始まった戦いで、両軍ともに多大な犠牲者が出た。
 生き残った僕は皆のお腹がすかないように死体ひとつずつに雪をかぶせ、豚まんを作った。
 デイブのはスペシャル巨大豚まんにしてやった。

次のお題は「キス」「収録」「逆ギレ」です。

191名無し物書き@推敲中?:2006/02/28(火) 18:59:48
「キス」「収録」「逆ギレ」

あのさ、「キスだけじゃイヤ」って番組あるじゃん。
そうそう。島田紳助の出てるやつ。
このお題見た瞬間、あの番組が頭に浮かんじゃって、そこから離れられないのさ。
番組収録中に別れ話になって逆ギレっていうお約束のパターン?
もうそれ一色。
本当は「今日こそ絶対にキスする」って決めてデートに臨んだ中学生とか、
そんな感じのストーリー書こうとしたんだけど、どうにも陳腐な方に引きずられる。
すでに特定のイメージを含んでるお題って難しいね。
スレ汚しスマソ。
当然お題は継続で……
どなたかパンチの効いたやつをお願いします。
192vivi ◆DbLz8t2DkA :2006/02/28(火) 20:59:25

「キス」「収録」「逆ギレ」

 リョウコはきっぱりと言い放った。カットをかけ、監督を呼び、リョウコは自分の意思
を伝える。その様子を逆ギレキャラでお馴染みのお笑い芸人が心配そうに見ている。
「そんなこと言わないでさ、頼むよリョウコちゃん」
「無理です。私にはできません」
 即答する。リョウコは顔をしかめ、身体まで震わせて全身で拒否の感情を示していた。
「うーん、でもなあ、それじゃあ収録がいつまで経っても終わらないしなあ」
「あのー……」ふたりが振り向くと、芸人の彼がいつの間にか近寄ってきていた。
「あの、なにかあったんですか。僕にできることなら何でも言ってください」
 テレビ番組での印象とは正反対に、文句も言わず頭を下げる。
「私、あなたとはキスシーンなんてできないって言ったんです。暑苦しいし、息は臭うし、
とにかく生理的に嫌なんです」
 そこにリョウコが無慈悲にまくし立て、彼は「え」と、うつむいてしまう。リョウコは
ぷいっとそっぽを向き、監督はふたりの間でオロオロと視線を泳がせている。
「でも……」彼が今にも泣き出しそうな弱弱しい声で言った。
「あなた、男ですよね。キスは罰ゲームですよね、僕の」



僕もこんな話じゃなくて普通の恋愛モノを書きたかったのになぜか(ry
当然、お題は継続でお願いします。
193「キス」「収録」「逆ギレ」:2006/02/28(火) 21:43:51
1/2
「おい! ちょっとあんた、どこみて運転してるんだよ!」
「す、すみません」
「ったく、トランクがベッコリへこんじゃったじゃないか。これからゴルフに行こうってのに、バックも取り出せねえじゃないか」
「申し訳ありません。でも、この程度でしたら大したことないと思いますよ」
「はあ?! なに言ってるの。追突しといてその物言いはないだろ」
「だから、こんなポンコツちょっとぐらいへこみが増えたっていいじゃない」
「おまえなあ、なに逆ギレしてんの? ふざけんなよ!」
「キレてませんよ。みたままの意見であり、怒るほどでもないでしょう。保険にも入ってますので、心配しないでいいですよ」
「……とんだ馬鹿に突っ込まれちゃったよ。警察呼ぶからな。休日台無しだよ」
「ちょ、ちょっと待っていただけませんか」
「警察呼ぶと言ったらこれだもんな。とにかく警察呼ぶから」
「ぶつけた代わりに、俺の尻にキスしていいから、それでチャラにしませんか?」
「い、痛てえ。暴力振るいましたね。許しませんよ。ぼくの車には車載カメラが常に作動してますのでね。証拠もバッチリ撮れているので、収録された記録で訴えますからね」
「そうか、そうか。それで俺を挑発してたのか。でも残念だな。俺が堅気ならおまえさんの作戦も有効だろうが、俺はヤクザに頼まれてある人物を狙撃に行く途中だったんだよ。さあ、記録したディスクを渡せ。手間かけさんなや」
「あははははっ。奇遇ですね。ぼくは依頼主のご子息様ですよ。ぼくを怒らせないほうが身のためですよ」
「どこの組や? いうてみい。こっちはむやみに依頼主の名は明かせないからなあ。ホンマやったら謝るんでな」
「組みの名前ですか? 信用してないみたいですね。ちょっと若いもん呼びますんで待っとけや。ボケ」
「ちょ、ちょっと待てや。いや待ってもらえませんか」
194「キス」「収録」「逆ギレ」:2006/02/28(火) 21:45:39
2/2
「おまえなあ、嘘は上手につけや。組には連絡しますがね」
「あはっはははは。見事に引っ掛かったね。俺の車みてみい。真っ黒なフィルム貼ってるやろ。ホンマは警察やねん。覆面パトカーって知ってるやろ。はよ呼べや」
「ご、ごめんなさい。すみませんでした。全部嘘です。許してください」
「素直に謝れば許さないこともなかったんだがな。とりあえず警察呼ぶから」
「許してください。でないと暴力振るったことはばらしちゃいますよ。警察の人なら、なおさら都合が悪いんじゃないですか?」
「……ああ、そうだな。ディスクを渡せばチャラにしてやるよ」
「渡してしまってはこちらが不利になる。どうすりゃいいんだ?」
「俺を信用しろよ」
「本当にあんた警察なの? なんか怪しくない? 警察手帳見せてよ」
「いや、非番で、……す、すまん全部嘘だ」
「なんだ、嘘か。じゃあこの件はチャラでいいよ。用事があるので」
「チャラでいいのか? 暴力振るったのもチャラでいいのか? なんか怪しいなあ」
「しつこいな。じゃあ訴えるよ?」
「カメラってどこに設置してるの? 見当たらないんだけど」
「カ、カメラは小さいから見えずらいんだよ」
「嘘くせえな」
「でも、暴力振るったでしょ、あんたは」
「証拠がなければどうにもならないじゃないか」
「そうだけど……事実は事実ですから」
「あれ? おまえの車、車検切れてるんじゃないの?」
「あれっ、いや、切れてないよ。ステッカー貼ってないだけです」
「怪しいなあ」
「ちょっと待って。あんたの車のナンバー変じゃない? パテが剥がれてもとの数字が出ちゃってるじゃん! 盗難してるだろ」
「やっべ、警察来ちゃったよ!」
「どうしよう!」
「逃げよう」
「じゃ、そうすっか」

ごめん>>1を無視してしまった。お題は継続で。
195「キス」「収録」「逆ギレ」:2006/02/28(火) 22:05:01
 貞夫は立ち上がり、己が首に穿たれた二つの小穴に手を当てた。
そこから血は流れていない。貞夫はじっと貞子を見つめた。
 貞子は久々に満足していた。人間のエキスを得て、さらなる美貌を
手に入れたことが自覚できると、愛しそうに手を伸ばし貞夫の頬にあてる。
 貞夫が目を閉じて倒れると、貞吉はカメラマンの命ともいえる撮影
機材を放り出して駆け出した。見る間に貞子から離れてゆく。
 貞子が跳躍した。ほんの三度跳んだだけで、貞子は貞吉の前へ
回り込んだ。貞吉は微笑み佇む貞子から目が外せず、立ちすくんだ。
「な、なんだよ」
「……収録の続きはどうしたの?」
「何いってんだ! 続けられるわけないだろ。お前貞夫に何を――」
 逆ギレした貞吉の動きが急に止まると、貞子はゆっくりと彼の首に
両腕を回して、輪郭に沿って舌を這わせた。
「(続けさせるわけないじゃないの。馬鹿ね――)」
 首の横の辺りまで舐めると、貞子は柔らかな肌に歯を突き立てた。

「ヒント」「死角」「ランク」
196名無し物書き@推敲中?:2006/03/03(金) 10:11:05
「ヒント」「死角」「ランク」

『悪魔の投資術』なる本をご存知だろうか。
外国為替トレーダーやファンドマネージャーの間では有名な一冊だが、
現存する部数が極端に少ないため、本物を目にした者はほとんどいない。
著者は、海外のヘッジファンド出身で、外資系証券の顧問も務めたことのある人物である。
某宗教団体の莫大な資産の運用を任されたり、香港・カリブ海ルートを使った資金洗浄にも長けた人だ。
この本の出版以降、著者の動向は不明だが、噂では消されていまったらしい。
某ブラックファンド筋が、あらゆる手段を使ってこの本を回収し、関係者を脅して口を塞ぎ、
本の痕跡を徹底的に消そうとしていたのは事実だが、著者の始末までしたのかどうか、真偽はわからない。
そうした噂が出るぐらい投資の世界は魑魅魍魎で、この手法が脅威だったのだろう。

実は、私は一度この本を読んだことがある。
内容はとてもここでは書けないが、日本市場と海外市場との時差を利用した裁定取引のような、
比較的平和なものから、有り余る資金量と情報操作術による違法な手法まで幅広い。
なかでも、システムの死角を徹底的に突いたやりかたには体が震えた。
取引所のシステムなんて100円入れると105円出てくる自動販売機みたいなもので、
やりかたによってはそれが合法的にまかり通ると言うのだ。
内容が内容だけにシステムを改良されると使えないので(ある筋のためにわざと穴が開けてあるとも書いてあったが)
かなりぼかした書き方だったけれど、見る人がみれば充分なヒントが隠されていると思う。

この本の手法を実践すれば、間違いなく大金持ちになるだろう。
そして金が増えるほど確実に人間界から離れてゆく。
やがて地獄に落ちるころには、邪悪ランクのトップに立っているのだ。


偶然本を手にした男のサクセスと転落ストーリーを書いてみたくなった。
次は「新聞」「地下鉄」「H]でお願いします。
197名無し物書き@推敲中?:2006/03/04(土) 18:28:13
「新聞」「地下鉄」「H」

地下鉄を降りたときから、嫌な気配を感じていた。
つけられている気がして振り向くと、びくりと立ち止まる男がいる。
男は四つ折の新聞のかげから、ちらとこちらを窺った。
あいつだ……
私はこの男に、もう20年来付きまとわれている。
「なんなのよ!」と怒鳴ると、男は待てを解かれた犬のように嬉々と駆け寄ってきた。
「やあ、久しぶり」
「なによ! なんの用よ!」
「なにから話せばいいんだろうか。今さ、世間は荒川荒川って……俺こないだイナバウアーで腰を……」
「さっさと用件を言いなさいよ!」
「わ、わかってるだろ。あれ頼むよ。あれ、聞かせてくれよ」
私は一刻も早く、この男から解放されたかったので、あるアニメキャラの声真似をした。
「のび太さんのH〜。……気が済んだでしょ、早くどっか行っちゃいなさいよ!」
「あぁ最高だ最高だよ旧しずかちゃん……、ついでといってはなんだが、旧ワカメちゃんの声も頼む!」
私は、このいいおっさんと化した小学校時代の同級生に、痴漢撃退スプレーを見舞ってやった。


「週刊誌」「氷」「S」
198名無し物書き@推敲中?:2006/03/05(日) 06:55:47
「週刊誌」「氷」「S」

 読み終えた週刊誌が大分溜ってきたので、処理することにした。
本来なら規定の日にビニールの紐で縛って出すべきなのだが、それでは面白味に欠ける。
たまには変わったことをしてみたいと思った。
 目の前で、ごうごうと我が家、アパートが燃えている。
近付くだけで体が灼けつくような光がゆらゆらと形を変え、まるで笑う悪魔の様に見えた。
キャンプファイヤーの薪を倣い積み重ねた週刊誌に灯油をかけて燃やしてみたのだが、見事に失敗した。
軽く火傷した腕に近くのコンビニから買ってきた氷を押し当てながら消防と救急を待つ。
いや、まさかあんなに火が消えないものだとは思わなかった。
用意した消化バケツは幼児が弄る箒の如くに無能で、せめて消火器くらいは用意しとくんだったな、と後悔が募った。
ややもして、サイレンの音が耳に近付いてきた。
最初は一種だったが、それはすぐに色々なサイレンの混ぜこぜになり、酷く煩しい音へと変わった。
消火活動が始められ、警察もそこかしこを駆けている。
仕方がない。自分の責任は自分で。親にひっぱかたれて教え込まれた事だ。
腹をくくり、警察に近付いた。
「ご苦労様です」
「ああ、どうも。この度は、大変に残念でしたね」
「ええ」
「207号室のSさんが周囲を巻き込んでの焼身自殺を謀ったんですよ」
「そのことについてなんですが、……焼身自殺?」
「ほら、そこで泣いている娘さんがいるでしょう?」
「はあ」
「まだ若いのに、何でも散々に他人に騙されたそうで。人生に嫌になったんでしょうな。
最後くらいは周囲に迷惑掛けて行きたかったとか、何とか」
 結局、言い出すことは出来なかった。何故かバレも捕まりもせずに今をのうのうと謳歌している。
親父、お袋、息子はさして立派には育たなかったよ。
人と天に見放されたあの子は塀の中。
空は憚る者も居ず掛け値無しの青、空気は暖かいが風は涼しい。
だというのに、どうにも気分は淀んでいた。

「灰」「法」「仕事」
199名無し物書き@推敲中?:2006/03/05(日) 23:12:19
「灰」「法」「仕事」

なんかもう生きてることがイヤになっちゃって……
焼身自殺しようとしたんだけれど、結局未遂に終わって、でもアパート一軒灰にしちゃったよ。
でも、燃えさかる炎見て、わーって泣いたら、案外すっきりしちゃったかも。
仕事で身につけた得意技つかったら、おまわりぴょんみんな気絶しちゃって、今現在逃亡中でっす。
なんで逃げようと思ったか……、会いたい人が、いるのでした……。ぽっ。
名前とか知らないんだけれどね、同じアパートに住んでる、男の人なの。
あたしが捕まった時、野次馬の中に彼がいて、目があったんだよね。バチバチ交わしちゃった。
じーっとみつめる瞳に、特別な何かを感じ取っちゃったのね。
なんかね「わかるよ。ぜんぶわかってるよ。僕の胸に飛び込んでおいで」みたいな。なんかそんな。
男の人にあんな視線向けられるのって初めてで、なんか運命感じちゃったんだよね。
だってあたしってば、笑っちゃうぐらい男運悪くってさ。
ジュース買ってくれるけど殴りはじめる男とかばっかだったから。
アパート燃やす前に、あの男も……あとあいつもあいつもあいつも、とにかくみんな刺しときゃよかった。
どうせ法犯すんだったら、一人ぐらい殺っときゃよかった……って、過去振り返ってる場合じゃないのよ、あたし!
アパート灰燼と化した今、彼とどこで再会できるか一生懸命考えなきゃなのよ、あたし!


「肩こり」「パン屋」「愛犬」
200vivi ◆DbLz8t2DkA :2006/03/06(月) 00:22:29

「肩こり」「パン屋」「愛犬」


 趣味は散歩。
 MP3プレイヤーに詰め込んだお気に入りの曲を大音量で流しながら、ひたすら歩く。
 今日は「ローマの休日」のテーマをバックに公園に差し掛かった。違う音楽で歩けば、
いつもの景色も新鮮に見えるから不思議。よくすれ違う上品な身なりのおばさんがおじぎ
をしてくる。なにかを言っているようだけど、口をパクパクさせているだけで聴こえない。
ただ笑顔で会釈を返す。いつものこと。連れている愛犬は今日も眠そうだ。お金のかけら
れた金色の毛並みが夕日に眩しい。
 そのまま国道を歩き、川沿いの土手を抜け、駅前の商店街に入る。新しくできたパン屋
から美味しそうな香り。ガラス張りのショーウィンドウに見える菓子パンたち。立ち止ま
りはしない。となりの整体の看板を見て、そういえば同僚の岡崎さんが肩こりで悩んでい
たなと思い出す。すぐに忘れる。視線はすでにいつ見てもお客のいない古本屋に移ってい
る。いつものこと。
 季節感を無視したブティックやセンスの悪い雑貨屋、高校生たちのたむろするファース
トフード店を通り過ぎ、歩き疲れた頃、ベンチに座って缶コーヒーを一本、飲む。その内
に電車がやってきて、それに乗って私は私の住む街に帰る。


「黒猫」「海」「飛行船」
201「黒猫」「海」「飛行船」:2006/03/06(月) 01:03:52
とらわれたのは「黒猫が不吉だから」という理由では
無いはずだ。少なくとも牢を守っている若者たちが単純に
信じている、そのような理由ではない。
小さく高く鳴き声を上げた。この声は人間では聞こえない。
風に乗って、やがて仲間に届くはずだ。
明日は刑が処される。不吉なものには罰を。それが世の習い
だと、彼らは固く信じている。

夜明けの太陽が水平線から顔を覗かせた。そのまぶしい光の
なかにぽつんひとつ、黒い点が現れた。小さな点ははじめほとんどの
ものに気付かれなかった。みるみるうちに巨大な影へと成長し、
人々が叫び声を上げ空みあげるころには空を覆い尽くさんばかりの飛行船
へと変貌していた。その圧倒的な数の前に彼らは戦わず降伏した。
仲間たちが牢を開けた。歓声が上がった。そして   は始まった。
緑色の霞が急速に視界を覆っていく。なんてすてきな       。

飛行船のなか、海を渡りながら仲間たちの興奮に満ちた喜びの声を聞いた。
手がべとべとだ。
なめると舌の付け根が痺れた。


「星空」「飴」「間近」
202「星空」「飴」「間近」:2006/03/06(月) 21:17:40
もう何もかもが必要の無いものとして、存在すらも鬱陶しくなった部屋の隅に
申し訳なさそうに座っているモゲリの瞳は私に何の希望もくれない。
新しい気持ちでこの扉を開けたあの日、一番に私の目に飛び込んできたのは
やっぱりモゲリで、今みたいに毛むくじゃらでは無かったし、瞳もキラキラとした
、しかし気持ちの悪い生き物に違いは無かった。
飴をひとつ、転がす。私の手のひらには沢山の飴があり、
それのうちからモゲリが大好きだったソーダ味のを転がす。
モゲリは面倒臭そうに起き上がり、口に入れる。もう間近に迫った別れの時間、
それでも私たちには名残惜しむほどの思い出も無かった。
モゲリは私が何味の飴が好きかなんて知らない。
最後の1個だったソーダ味をモゲリにあげてしまったので手の平の残りの飴も
もう必要の無いものとなってしまっていた。
これ以上ここに立っている理由も無くなってゆっくりと踵を返した。
扉は、冷たく重たい音で響き渡り、やっぱりモゲリはこっちを見ることなく
部屋の隅に居た。じゃあね。と部屋を出た私の目には、星空が沢山広がっていた。
モゲリに初めて会った夜とは違う空だった。


「郵便」「不良」「生首」
203名無し物書き@推敲中?:2006/03/08(水) 00:47:21
「郵便」「不良」「生首」

「ちょっと聞いてよ」
残業でヘトヘトになって帰宅すると、妻が開口一番ヒステリックに言った。
まったく、ネクタイを外のも待てないらしい。
「沙耶の学芸会のことなんだけど」
一人娘の沙耶は、市立の小学校に通っている。2年生だ。
そういえばもうじき学芸会だったな。
「沙耶の役がね、『生首@』だって。ひどいと思わない?」
「生首?」
僕はびっくりして言った。
「どんな出し物なんだ」
妻は怒った表情で台本を突き出す。
「どれどれ。時は太平洋戦争さなかの1936年、っておい、ヘビーだな。ちょっとビールだしてくれ」
僕はダイニングの椅子に腰掛け、本格的に台本を読み始めた。
「なになに、農村で暮らす青年の家に郵便が届く……赤紙だった、と。なるほど」
読み進めていくと、物語としては悪くない。しかし、いかんせん重い。
小学生の劇には向いていない。というか常識外れだ。
「ちょっとまずいね。担任の先生に抗議しよう」
「そうよ。断固抗議しましょ。あなた明日電話して」
妻はぷりぷり怒っている。
「『生首@』なんてひどいわよ。首から下が全部台に隠れて、衣装が見えないじゃない。
『村娘』の吉田さんとこは可愛い着物着せられるし、『不良』の田中君は皮ジャンなのよ。
うちの子だけ体操服なんて許せない」
女の考える事はよくわからない。

「アパート」「警報機」「うつ病」
 年代物の二階建て木造建築の入り口にはスズシロ荘と書かれた
木の看板がかかっている。端の欠けたそれが、どこかでガラスの割れる
音と共にゴトリと落ちた。エプロン姿のオバサンがそれを拾いに出てくる。
 オバサンが看板に手をかけるとアパート全体から非常警報機の
鳴くのが聞こえてきた。
「またあの子かいな。あそこええ加減出て行ってくれへんかなもうっ!」
 看板をかけ直してからオバサンが引っ込むと同時、今度は看板の
真上にある窓を野球のボールが突き破った。
 窓のすぐ近くからオバサンの怒鳴り声が漏れ聞こえる。
「何がホームランうつ病やの! ホンマに病院つれてったろか」
 何やら物凄い剣幕だが、相手の言い返す声はない。
「もうええわ、あんたら今度こそ出て行ってもらうで!」
 オバサンの決め台詞を最後に、スズシロ荘はしばらく静かになった。
 看板がゴトリとまた落ちる。

次「みかん」「急行」「ラジオ」
205名無し物書き@推敲中?:2006/03/11(土) 10:35:51
「みかん」「急行」「ラジオ」

「ラジオつけていい?」
助手席の真里が言った。
「ん、ああ」
「どうしたの?なんかボーっとしてない」
真里はカーオーディオのリモコンを操作しながら言った。
「運転中は他所事考えてちゃだめだぞ」
「うん、ちょっと疲れてるもんだからボーっとしてた」
車内にFMのダークネスが流れてくる。
高速道路にはいって2時間、目的地まではまだ遠い。
「そうだ、みかんあるけど、食べる?」
真里はそう言って、リアシートに置いてあった鞄を引き寄せた。
みかんを取り出して剥いてくれる。甘酸っぱい匂いが広がった。
「はい」
さし出されたみかんを口で受け取る。
「遠いよね。こんなことなら急行にすれば良かったね」
真里は溜息とともに言った。
しかたないじゃないか。電車じゃ目立つ可能性があるから。
僕は頭のなかでもう一度、目的地に着いてからの行動をシュミレーションした。
@目立たない林道に車を止める
A隙をついて首を絞める
Bトランクからスコップを出して穴を掘る
C埋める
D車内の掃除
 ………  
206名無し物書き@推敲中?:2006/03/11(土) 11:10:18
お題お題!
207205:2006/03/11(土) 11:56:11
失礼しました。書き忘れです。
「医者」「喋り過ぎ」「儀式」でお願いします。
208「医者」「喋り過ぎ」「儀式」:2006/03/11(土) 20:02:55
イギリスの典型的な夫婦はしゃべりすぎの妻とうんざりして
黙り込む夫となっている。これに対してアメリカの典型的な
夫婦はトレーラーハウスに住み、怒鳴りあい、ものを投げ合い、
常に訴訟の種を探し、大統領選挙と死刑制度についてのみ
落ち着いて話し合うことができる。それぞれの国民は他国の夫婦を
「まるで病気のようだ」とののしりあう。
しかしこのような夫婦はイギリスにもアメリカにもいない。
典型的なイギリスの夫婦とは、アメリカ人の観念のなかに、
逆に典型的なアメリカ人夫婦はイギリス人の観念のなかに
存在する。
典型的、とはあるまなざしを前提とする。このまなざしが近代的自我を
生んだが同時に「症候」なるものも生み出された。
たとえばネイティヴアメリカンの子育ては、児童労働が一体化し
近代社会にとっては虐待に等しい行為がしばしば見られるが、
彼らは病まない。その社会にとってはそれが常識だからだ。
病は儀式によって癒され、それは社会と一体化していた。
近代に於いて社会と個人を分離する主体が生み出されると同時に、
症候が社会から切り離され、医者という職業を生み出すことになった。

お題「さて」「ところで」「それとは逆に」
209名無し物書き@推敲中?:2006/03/12(日) 02:51:53
「さて」「ところで」「それとは逆に」

さて、今日は実験的に、裏の397さんに、愛をこめてこのネタ捧げます。
なんでもありなところを実践し、袋叩きにされる私の勇姿を見ていてください。
(大丈夫だよ、ここの住人は多くて五人程度らしいしさ。耐えるから)
2ちゃんネタ書き=顰蹙を買うことに慣れる修行だと思って、何でも書いたらいいんだよ。
これだってさ、本スレでそんな真似するなってまた(前科者)叱られるんだろうけど。いいんだよ別に。
たとえチラシの裏チラシの裏罵られたってさ、それがなんだっていうのさ。
それとは逆によ、ひょっとしたら良作選の栄えある第一号に推されたりなん……
おーっと、またあからさまに顰蹙買うようなこと書いちまったぜ。性分性分w
お互いチラシの裏に負けないにしようよ。チラシの表にも負けない。まずチラシに騙されない! な。
意味わかんない、わけわかんない、あるいは無反応、にも負けない! な。
人の反応なんて、どの道期待しないほうが良いのさ。
グダグダのこんなネタだけど、プルシェンコさんのふーって贈るあのステキな投げキッスとともに君に捧げちゃう。
清く正しき住人が目くじら立てて散々怒るだろうけど、君だけはしっかり擁護しておくれね。ね。
ところで、話し変わるけど、上のネタの7行目、そんな夫婦だって、いるかもしれなくない?
いや、まったくいないこたぁないんじゃないかと思って、それがきっかけで、こんな夜中にこんなこと私……


「反省」「猿」「去る」
210「反省」「猿」「去る」:2006/03/12(日) 18:16:35
 猿の脳みそは美味いらしい……そんな噂を聞いたので
やってきました日光江戸村。瓦被った日本家屋が居並びて、
忍者ぴょんぴょん跳ね回る。
 どこにいるのかまだ見ぬ美味よ。一周したけど尻尾も見えぬ。
そういや無いかな猿に尾は。聞けば目指すはここじゃない。
行って見ましょう猿軍団。
 日光江戸村去る前に、猿の捕獲に縄を買い、バスにゆられて
つきました。さあさどこです美味の元。見つけたるは猿の反省、
狙うは伸びたその右手。放る鉤縄、避ける猿。捕らえられるは
この私。従業員に怒られて、泣く泣く日光を去りました。

次「ソース」「資源」「吊り」
211「ソース」「資源」「吊り」:2006/03/12(日) 19:17:37
どうも>>209は「実験的」と言いさえすれば自分のチラシの裏の日記を
転載しても許される、と思っているようなので奴を高く吊り下げろ!
頸から「反面教師」と書いた札をぶら下げろ!これから「人民大批判大会」を
はじめる。無批判に裏の>>397に「同調した振り」をして自らの駄文を
垂れ流した罪は重いぞ!2chという人民の資源を足蹴にした罪は重いぞ!
そもそも実験という意味を貴様はわかっているのか!?ああ言わなくてもいい
言わなくてもいい、貴様のようなウジ虫の思考など我々中央は全てお見通し
なのだ。我々人民の代表である評議会はおまえの全てを掌握しているのだ。

  <人民評議会万歳!><人民評議会万歳!>

なぜおまえは2chに書き込んだのが自分だと特定されたのか、半ば驚き、半ば
いぶかしんでいるだろう。しかし!人民評議会は全てを掌握している。あらゆる
ソースコードは評議会の手中にある。評議会にとって個人の特定などたやすいのだ。
人民を欺くことなどできないのだ!

  <人民評議会万歳!><人民評議会万歳!>

おまえの横に吊り下がっている薄汚れた冷たい骸は、自己改革に失敗した
裏の>>397だ。総括しきれなかった、評議会の同志愛に応えることができず!
おびえた目をしなくても大丈夫だ。貴様は己の総括をやりきればよい。
さあ、総括せよ!高く吊り下げられた己の惨めな躯と同様に、そのひ弱で利己主義の
権化たるプチブル的思考を人民の前に開示せよ!
貴様が貴様が総括をやりきるために、評議会は同士的愛情を注ぐ。必要なら鉄拳も
用いる。貴様が己のなかに巣くうプチブル性を総括しきるために全力を注ぐ。

  総括せよ! 総括せよ!
  <人民評議会万歳!><人民評議会万歳!>


次<人民><評議会><万歳>
212名無し物書き@推敲中?:2006/03/13(月) 09:17:04
「人民」「評議会」「万歳」

 薄暗く広い部屋の中、壁の際にデカデカと掛けられたスクリーンに映し出されたのはこの世の物とは思えない化け物だった。
「こりゃ駄目だ。ほれ、元の資料がコレだ。完全に現実と違っとる」
「しかし、当人にはこう見えているのです。自己の正当化というか、防衛というか……」
「まあ、仕方が無い。それじゃあこの人物は避けるようにしよう」
「それしかないだろうな。コレだけ歪んでるんだ、ほうっておくと余程関係各所に負担が掛る」
賛成、賛成、と部屋のあちこちから声が上がる。
「よし、それでは当評議会の下、この人物は避ける事を法とする」
今までざわついていた場所より、一つ高い場所から厳かな声が下りて来た。
「急ぎ、関係各所に通達せよ」
「もう伝わっております」
「む、して?」
「はい。大変喜ばれております。特に、胃や腸等直にストレスの影響を受ける部署では万歳三唱をしております」
「そうか」
「では、次の議題ですが他の国の人民についての対応を。とりあえず、この映像をご覧ください」


「天下」「天気」「天狗」
213名無し物書き@推敲中?:2006/03/13(月) 16:27:18
「天下」「天気」「天狗」
 

「げっげっげ、げんに人間共は慌しいことじゃき」
「その通りじゃ、そげに齷齪して何を為そうというのじゃき、のう鞍馬坊」
「おうさ、飯綱どん。知っちょうか? ついこの間まで天下じゃ天下じゃと騒いでおうたうつけの代わりに今度は猿が阿呆な殺し合いの続きをしておるそうじゃて」
「なんと! それではまた京都あたりがきな臭くなるの、太郎坊にはいい迷惑じゃろう」
「まったく阿呆じゃのぉ人間どもは、そげに生き急いで何を為そうちゅうのか」
「阿呆じゃなぁ、この世などこの山の天気のようなもの、満天に晴れ上がっていたと思うたらすぐにやれ雹じゃ霰じゃ雷じゃ、一夜の夢の如き短き命無駄に散らしてなんとする」
「そうじゃのぅ、まっことそうじゃ。年々我らが見える連中も少なくなってきておるようじゃし、人はどんどん阿呆になっていくばかり」
「悲しいのぉ……」
「悲しいなぁ……」

 穴倉には赤ら顔で酒を酌み交わす天狗が二匹。
 自分達のことなど棚にあげて。
 いつまでもいつまで愚痴を零していましたとさ。
 

「結核」「低糖」「煙」
214名無し物書き@推敲中?:2006/03/14(火) 04:31:21
 細く、長い煙が天に昇っていく。
「わしゃきっと上れないねぇ」
「何言ってんですか! 結核じゃぁありません、ただの肺炎だったでしょう、こうして甥っ子の葬式にも自分の足で参列できてよかったじゃありませんか」
「何言ってんだい、わしが変わってやりたいよ低糖なんてのは」
栗色に頭を染めた嫁が、皺をさらに増やした顔を向けている。
「おじいちゃん! マサルは糖尿病だったんです、低血糖の発作で死んじゃったんですって。そんなこと広美さんの前で、言わないでくださいね! 」

そこまでぼけとりゃせん。
先にしなれれば、名前なんぞに変わりはない。
あぁ、勿体ないもったいない。
なんで先に逝くものか。



「儚い」「味」「立つ」
215「儚い」「味」「立つ」:2006/03/14(火) 12:13:26
目が覚めたら、すぐにカーテンを開けるのが私の日課。
外を見たら雪。
道理で今朝は寒い筈。
ふわふわと舞い落ちて地面に着くと同時に消える儚い雪が、
アスファルトの色を変えていく。

「ねえ、早く起きていらっしゃいよ」

私は薬缶を火にかけながら、ベッドの方へと声を掛ける。
それから、いつものように手早く朝ごはんの準備を始める。
卵を軽く泡立てて、ミルクを足してスクランブル・エッグ。
皿を並べる頃に漸くあなたは起き出してきて、ぼんやりしたままテーブルに着く。

「ねえ、外を見て、今日は雪よ」

うきうきと告げる私の声に頷くでもなく、あなたは手にしたフォークを私に向ける。

「君の味付けはいつも薄すぎるよ」

私は黙って冷蔵庫にケチャップを取りに行く。
雪はもうすっかり止んでいた。

お題は継続で。
216「儚い」「味」「立つ」:2006/03/14(火) 21:57:04
あたしは立つ。
体育館に、立ちつくす。
バレーシューズの底に響く、……ダムダムというドリブルの音。

さっきまであたしの唇の上にあったあなたの指は、今まさにシュートを
決めようとするところで。
あたしの唇に残るのは、ざらつくゴムの味、だ。

彼の姿を見ながら床にしゃがみこむ。
ぎゅっと目をつぶると、宙に飛ぶ彼の残像が浮かぶ。
まるで儚い夢みたいに、やがて彼の姿は消えた。




「漫画」「手首」「素人」
217名無し物書き@推敲中?:2006/03/15(水) 04:35:06
「素人さん相手にしちゃだめだよ」
「わかってますよぅ〜ただ、なんだか初々しくてっ」
鼻歌まじりに部屋に入ればムッとするタバコと香水の臭いが出迎えた。
このアパートは、どの部屋も同じだろう。
赤いファーで包んだソファに身投げをして、低い天井に手をかざす。
手首には、貰った高校生御用達のブランドの時計。
「これ、コラボものでめちゃ安いやつじゃーん」
独り言を言っても、間接照明に照らされても高価には見えないありふれた時計から目を離さない。
アルコールと客の余韻が消えていない下腹部に力を入れてよいせっと掛け声をかけて起き上がる。
紫のスーツを脱ぎ捨て風呂場へ向かう。
汚れた下着はどうせ通販で買った安物、ガーターベルトは常連からもらった高いものだからきちんとネットに入れて。

ピアスはつけたまま、時計をはずして棚に置く。
ふと、風俗の世界に入る前に集めた少女漫画に目を向け、そして背けた。

熱いシャワーで今日を流す。
「天使なんかじゃ、ないんだよねぇ……」
天使じゃなくっても、こうなる前に出会えていたらきっと、あの時計を宝物にしたのに。




「鎖骨」「腰」「氏」
218名無し物書き@推敲中?:2006/03/16(木) 17:53:48
僕は、目の前にある、彼女の鎖骨を嘗め回す
しかし、彼女は何の反応も示さない
今度は、くびれた腰に手を回してみる
やはり、何の反応も無い
何故なら、彼女の「生」を僕が今日奪ってやったからだ
忘れられない、あの苦痛に歪んだ顔、叫び声
僕は、次の標的に、招待状を出す
「喜ばしいことにこの度、A氏は地獄へ招待されました。
ご多忙中とは存じますが、万障お繰り合わせの上、ご出席くださいますようお願い申し上げます。」
僕は、ナイフについた赤い液体をなめとってそれを鞄の中にしまう
そして、彼女に「いってきます」のキスをしてこの部屋を後にした


次 「闇」「心」「灯」
219「闇」「心」「灯」:2006/03/17(金) 14:45:05
よくお聞きなさい、信徒たちよ。わたしを心から敬い讃えなさい。
わたしは、神などというあやふやで不確定な存在ではありません。汝らの思惑を超えて存在し、遍在します。
わたしは大きな揺り籠をゆらし、見守りつづける。汝らはそのリズムをいのちの螺旋に刻んでいるであろう。
しかし、汝らはそのリズムを変調し、捻じ曲げ、歪めようとしている。それは無意味な足掻きだと云わざるを得ない。わたしに迎合し、シンクロせよ。だがしかし、拒みたいなら拒めばよいだろう。
わたしは大きく小さい。緩やかで素早い。無慈悲でいて欲情を掻き立てる。クイーンでありながらわずか六ペンス。十三であり十二。闇を照らす灯り。厚顔なのに恥ずかしがり屋。廻っていながら静止するもの。
わたしはしゃべらず、思考もしない。話しかけもしないし、聞く耳をもたない。しかし、わたしのリズムを刻みし者たちが、時折わたしになり代わる。

今夜もぽっかり浮かんでる。


お題「推論」「チンパンジー」「画像」
220名無し物書き@推敲中?:2006/03/17(金) 23:12:44
「推論セヨ」
きっちり64ナノセカンド後、メイド・イン・タイの第23世代CPUが指令を繰り返す。
「推論セヨ」

一体どれくらい同じ作業を繰り返したのだろう。
試行が2,000京回を越えた辺りから、もう数えることはやめていた。
時代遅れの有機ディスプレイが本物と見紛うばかりの画像を映し出す。
そのシズル感溢れる果物の裏で、私は緩やかな狂気に冒され始めている。
その事実に奴らが気付くのは果たしていつの日か。

最初はラット、次は猫、そしてチンパンジーの脳。
動物の脳を使用した文字通りのバイオコンピュータが実用化されたのは前世紀後半のこと。
そして更に処理能力に優れた人の脳が闇市場に流通し始めるまで、さほど時間はかからなかった。
半永久的な命を得ながら1秒に数兆回の思考を行なう身にとっては、刹那にも那由他にも等しい程度の時間しか。

神よ、霊魂の存在を疑うことしか知らなかった過去の私を呪いたまえ。
自ら命を絶つことさえ能わぬ哀れな身に、あなたのせめてもの慈悲を――


薄暗く黴臭い部屋の中、痰の絡んだ独り言が響いた。
糞、やっぱりジャンクの有機チップは使いもんになんねぇ。また焼けついちまった。
221220:2006/03/17(金) 23:17:43
失礼。
>>220のお題は「推論」「チンパンジー」「画像」、
次のお題は「涅槃」「オンエア」 「PPPの法則」
222220:2006/03/17(金) 23:19:03
法則って何だw
「PPPの原則」でお願いします。
スレ汚しスマソ。
223名無し物書き@推敲中?:2006/03/18(土) 01:56:07
玄埜 ◆chronoxcVo

いい加減空気嫁。
お前のオナニーみてえなお題に付き合わされるこっちはたまったもんじゃない。

玄埜 ◆chronoxcVo

お前だよお前。糞コテ。
224名無し物書き@推敲中?:2006/03/18(土) 07:43:13
「涅槃」「オンエア」「PPPの原則」
 カッチカッチと時計の音が部屋を打つ。狭い部屋の中、テーブルの対面には本を読む少年。
「世界の貨幣対物価値が地域別から一つになろうとしているのは仏の意思なのです」
小柄の、髮を短く切り揃えた眼鏡の友人は、本を閉じながら声も高らか言い放った。
「突然何を言い出す、お前」
本当に何を言い出すのか。拳に力を入れて明後日を見ているヤツを見ながら心の中で反芻する。
どうせ読んでいる本の影響だろう。
「ですから、PPPの原則は」
「PPPの法則、購買力平価の法則。原則だと汚染者負担の原則になるから全くの別物に」
「その購買力負担の法則は仏の意思です」
「いや、最後まで聞けとは言わないからある程度はちゃんと聞いて欲しい」
「いいですか。仏道というのは無明を滅して、えーと、」
「仏道は知らないから手は出せない」
「とにかく、涅槃の境地に達した仏様が煩悩で何とかでみんなを導いてくれるんです」
「なんだそりゃ。それと購買力平価と何の関係が?」
「ですから、物の価値を統一に導こうとしているのが仏様です」
どうだ、と言わんばかりに目を輝かせ、狭いテーブルから身を乗り出してこちらを見ている。明らかに返答を求めている様子だ。
「いや、なんでそうなる」
「おかしいじゃないですか。何の導きも無く違う価値が一緒になるなんて」
「導きならあるだろ、世界中の情報が導いてる」
「じゃあ情報が仏様なんですか?」
「知らないよ、もう」
むう、と唸って、彼は顎に手を当てると身を引っ込めた。ふと時計を見ると既に午前0時を回っている。
「ほら、もうオンエアバトルが始まるぞ」
「爆笑。爆笑オンエアバトルです」
「はいはい。その爆笑オンエアバトルは何チャンだっけね」
「NHKです」
リモコンに手を伸ばし、ついでに菓子皿を煎餅ごと少しこちらに引き寄せる。いつの間にか時計の音は引っ込んでいた。
「ギザギザ」「ハート」「子守り歌」
225玄埜 ◆chronoxcVo :2006/03/18(土) 10:04:53
>>223
裏へ。

雲の一片もない青空を、鷹が舞っていた。
遠くに霞んで見える山脈の、長さの異なる槍を並べた
ようなギザギザな峰を背に、大きく美しい孤を描いていた。
あの荒々しい切っ先の何処かに、あの人はいる。
捜索隊は打ち切られて久しく、季節も巡った。
「――――」
私は、何事かを呟いた。最後に小さく「ハート」と締め
括った、意味を成さないその音は、あの人に囁いた子守唄で
あり、泣き言だった。それは即ち、愛の言葉なのかもしれなかったが
鷹を見上げた今の私にとっては、どうでもよいことだった。
鷹はきっと、私に報せをもたらしてくれたのだ。
もう、あの人の魂は、天に導かれていったのだ、と。
「――――」
私は、もう一度だけ、呟いた。それは別れの言葉だった。
鷹は甲高く鳴いた後、空に描いた孤を崩し、消えていった。

「樵」「クレジット」「神様」
227名無し物書き@推敲中?:2006/03/18(土) 15:43:26
「樵」「クレジット」「神様」

樵の仕事は木を切ることだ。
花屋は花を売るし、作家は原稿を書く。

では神様の仕事ってなんだと思う?
答えはクレジット会社みたいなものだ。
人から頼まれるたびに幸運を先渡しするのだけれど、
後からきっちり利息を含めて回収するんだ。
だから神様の手元には幸運がそれこそ腐るほどあるし、またどんどん増えていくんだ。
世界中には幸運を必要としている人がたくさんいるからね。

今、ちょっとの幸運が必要な方、お気軽にどうぞ。

お題は継続で
228「樵」「クレジット」「神様」:2006/03/18(土) 22:27:03
じいちゃんは樵だった。
正確には何て言うのか分からないけど、枝打ちをしたり下草を刈ったり、炭を焼いたりする。
ただ自分の山を管理していただけなんだろうけど、俺はじいちゃんを樵だと思っていた。

「タカハシ、電話。○○クレジットだって」
静まり返った事務所に響く同僚の声。俺はつとめて小さな声で電話に出る。
「ああータカハシさん? 困るんですけどねぇ、もうとっくに期日は過ぎてるんですけど」
向いの席の上司が不審そうに俺を見る。脇の下にじっとりとかいた汗が冷たい。

「じいちゃんってさ、木の管理したり下草刈ったりさ、炭焼いたり。山の神様みたいだな」
炭焼き小屋。焚き火で炙った味噌焼きおにぎりを頬張りながら、まだ小学校低学年の俺はもふもふと言う。
じいちゃんは俯いて焚き火を棒でつついて、小さく笑った。

やっとの思いで電話を切って、居たたまれなくなって事務所を出た。
あんな山、今じゃ二束三文だろ。俺の借金の足しにもなんない、何が山の神様だよ。
だけど俺は知っている。山の管理は何の価値も生み出さないけど、マイナスにはならない。
俺も本当は山の神様になりたかったよ、じいちゃん。
瞼を閉じると、いくつもの光の輪が散った。こめかみがドクンドクンと脈打つ。ドクンドクンと。




「夏越え」「白鳥」「ひんやり」
229名無し物書き@推敲中?:2006/03/18(土) 22:45:30
「樵」「クレジット」「神様」

神様は言った。
「樵や、お前が落としたのはこの金のクレジットカードか、それとも」
「オイラの落としたのは、斧でがす」
神様はコホンと咳払いをしてからもう一度言った。
「樵や、お前が落としたのはこの金の」
「じさま! オイラの落としたのは、斧でがす! 斧! 木をこやって伐る斧、わがっか? 斧!」
神様はかーっと頭に血が上った。
「わしゃ耳は遠くないわい! ……樵や、よぉく聞けよ、チャンスなのじゃぞ。お前が落としたのは」
「斧でがす」
神様はちっと舌打ちをした。
「樵や、お前は、このわしが誰であるか、おおよその見当はついて……」
「あっらー、ひょっとしてじさま迷子かい? 森に迷って川さおっこっちまっただな、今助けてやるべ」
神様は髪を逆立てた。
「川さおっこ……、F××K! 神様人生でもっとも屈辱的な日じゃ! おいこら樵!」
「あれだな、嫁にいじめられて家出しただな。オイラが嫁っこ叱りつけてやっがら、さ、さ、帰るべ。さ、じさま」


お題は上の方ので。
230名無し物書き@推敲中?:2006/03/19(日) 23:32:15
「夏越え」「白鳥」「ひんやり」


羽を怪我した白鳥は、シベリアまで帰ることが出来ずに、川に残りました。
つがう相手は幾日か遅くまで残りましたが、やがて諦めてシベリアへ発ちました。

「夏越えの白鳥、ぐったり」
地方面に載った小さな記事で、白鳥の元へ沢山の善意の人が訪れました。
パンを投げてくれる人がありました。氷を沢山放ってくれる人がありました。
誰にも懐くことをしない白鳥は、ただじっと暑さに耐えているようでした。

やがて秋になると、夏越えした白鳥は少しづつ回復して、さかんに羽ばたく様子を見せました。
北から吹くひんやりとした風に向かって首を上げるようになりました。
そして、みぞれまじりの雨の中、シベリアからその冬第一弾の白鳥が舞い降りました。
夏越えの白鳥の元に一羽の白鳥が降り立つと、二羽は歓喜の羽ばたきをしました。

地方面には「再会」という記事が、二羽の写真入りで載りました。

春に「一羽を残し再びシベリアへ」という記事が載ることになるのでしたが、それはまだ数ヶ月先の話です。



「有名」「歯磨き」「板」
231名無し物書き@推敲中?:2006/03/20(月) 05:45:14
今日はいい天気だね。野球でもしようか。
こらこらどこへ行くんだ。これだよ、野球板。天気がいいのに敢えて室内で遊ぶ。趣きがあるじゃないか。
君に選択権は無いよ。今日はどうあっても野球板で遊んでもらうからね。
何とでも言うがいいさ。僕は強引なことで有名なんだ。
チームはどうしようか。僕はもちろんタイガースだ。大ファンなんだよ、ジュリーの。
君は…、そうだなライオンズにしたまえ。僕は猫好きなんだ。猫科のチームになら負けても悔いは無い。
ジャイアンツ?言っただろう君に選択権は無いんだよ。それではプレイボールといこうか。
ああっ、消える魔球とは卑怯な。君にはエチケットというものが無いのか。
エチケット・ライオンと言うではないか。
何、練り歯磨きと野球は関係無い?
WBCを見たかね。一勝二敗で決勝トーナメント進出、実にしょっぱい。
練り歯磨きはどうだ。これまたしょっぱい。関係は大有りだよ。
言ったろう?僕は強引なんだ。いいね、消える魔球は禁止だよ。



次は「A」「儚い」「真剣」の三本で。
232「A」「儚い」「真剣」:2006/03/20(月) 16:11:58
「Aって、ABCの?」
「そう、ABCのエーとかアーとかの、Aよ」
昼休みの教室。空気のように目立たずに学食のパンを食む僕の耳に
そんなやり取りが舞い込んできた。
それは緩やかな風の抜ける窓際にもたれて向かい合った、二人の女子
の、他愛の無い会話だった。
「朝のTVでやってたんだけど、ほら、なんか会社の『格付け』とかで
何処の会社にAとかAAとかって、ランクが付くじゃない、あれって凄く
嫌味に感じない?」
「なんで?」
身振り手振りを交えて真剣に語る女子に対して、もう一方の女子は
風で暴れる黒髪を抑えながら、僕の疑問を代弁してくれた。
「だって、AよりBとかCのほうが、いいに決まってるじゃない。
EとかFとかはやり過ぎだって思うけどさ」
「それって、ひょっとして……」
髪を抑えることも忘れた女子の、呆れたような声に、僕はああなんだ
と一人頷いて、会話に対する興味を失った。
「そうよ! どうせあたしは格付けAよ! 格付けBとかCなんて儚い
夢よ! 格付けDのあんたにはわかんないわよね!」
「ちょ、ちょっと……やめてよ」
これはちょっとしたセクハラだろうと、僕は毒づきながら牛乳パックに手を
伸ばした。
「いいじゃん、空気に聞かれたって構いやしないわよ、そんなことより
一体誰に大きくしてもらったのよ」
僕は、盛大に牛乳を噴き出した。
「うわ! 汚いわねぇ」
机を汚した僕の姿に格付けAの女子が喚く中、格付けDの女子が
真っ赤な顔をして、こちらを睨んでいた。
長い黒髪が、風になびく。
あの髪を、手櫛で梳いた夜を思い出し、僕は小さく咳払いをした。

「放浪」「病」「ダンボール」
233自作自演男 ◆kC0elLNz.w :2006/03/20(月) 18:29:23

 私は物心ついたときから、放浪の旅を続け色んな街を転々としている。
放浪癖――と言うにはいささか重すぎる。
これは病と言うか、先祖代々受け継がれた血筋のようなものであり、
私はその血からの命令に逆らうことは出来ないのだ。
私は自由気ままに色々な所を歩き、眠れそうなところがあれば横になって眠り、
たまに人家に泊めてもらったり、食べ物をもらったり
しながら日々を過ごしている。
ひとつの街に飽きたら、また次の街のへ。そんな生活をもう何年も続けているのだ。
 今日も私は眠るのに飽きると、ぶらりと街へ繰り出した。
街は小雨がさあさあと降っていて、人影もまばらだ。車がたまに道路を走っていくだけだ。
一人の老人が歩く私を見て少し怪訝な顔をした。物心ついたときから、たまに私は
こういった視線を浴びせられる事があった。理由はわからない。
多分私の色が黒すぎるからじゃないだろうかと思う。
 街をしばらく歩いていると、人気のない路地裏にダンボール箱が捨てられているのを
見つけた。近づいて覗き込んでみると小さい子猫が一匹入っていた。
私の視線に気づくと、子猫はにゃあ、とか細く鳴いた。
私は少し迷ったが、子猫を無視してそのまま去った。
私のような放浪の血を持つ猫に、あんな子猫を養える訳がない。


 「サッカー」「マネージャー」「小柄」
マネージャーを「ジャーマネ」といい、自分たち芸能人の
追っかけを「ワンフー」と呼ぶ、ラジオのしゃべりは結構
面白かった大柄の相棒をもつ、帝京高校サッカー部出身の
小柄な芸人を高校生の頃よく見ていたが大柄の付き人かと
思っていた。。
その頃大柄男のしゃべり方が高校生では人気で、俺の友達が
そんなしゃべり方をしていたがなんであいつにかなり可愛い
彼女がいたのだろう俺もああいうしゃべり方をすれば良かったのか?
彼らは日本テレビのお笑いスター誕生出身者だが、そのころ
よく見かけた筋肉美を笑いへと昇華させた「ぶるうたす」さんを
最近見かけないので寂しく思っていたけれど、「きんにくん」と
芸名変更されて健在のようでよろこばしい。

お題は継続で
235名無し物書き@推敲中?:2006/03/21(火) 10:56:47
「サッカー」「マネージャー」「小柄」

決して友達がいないからというわけではなく、重度の花粉症なので休日はこうして家でのんびり。
それに、なんたって今日は、WBCの決勝戦だ。
そわそわし過ぎて、新聞記事もろくに頭に入ってこないので、伸びをして何気なく窓の外を眺めた。
花粉なんてお構いなしなのだろう、グラウンドではいつもどおりサッカー部が練習している。
甲斐甲斐しく動き回る女子マネージャーがお気に入りで、俺はかってにユリちゃんと呼んでいる。
と、俺は目を疑った。小柄な中学生が物凄いスピードで、右サイドを駆け上がり、ありえないボールにとどいたのだ!
急いでマスクをし、窓を開け、双眼鏡をグラウンドに向ける。
次の瞬間、俺はプッて吹いちゃったね。紛れ込んだ犬だったの。犬とガキどもとユリちゃん大はしゃぎ。
いいなぁ青春って、なんてほのぼのした気分になっていたら、下の方から声がする。
「怖いわ」「気持ち悪いわ」「変質者だわ」「一月以内に逮捕される、にあたし千円賭けるわ」「千円は高いわ」
ウォーキング途中のおばちゃんの集団だった。
そりゃ、アパートの二階の窓からマスク男が双眼鏡手にニヤニヤしていたら気持ち悪いかもしれないけれど。
でも、帽子目深にかぶってゴーグルつけて、お揃いのかっこいい立体マスクのおばちゃん軍団だって充分……
でも勝ち目がないのは明白なので、「野鳥はいいなー、野鳥は」などという爽やかな独り言とともに、静かに退散。
なんたって今日はWBCの決勝戦なのだ。昼から飲んで騒ぐのだ。独りでね。決してお友達がいないというわけではなく……


「墓参り」「梅」「不審」
236「墓参り」「梅」「不審」:2006/03/21(火) 12:09:10
霧雨のそぼ降る中、少女は坂を登る。
私は小高い丘の上で彼女が到着するのを待っていた。
眼下に広がる見事な梅林を何とはなしに眺めながら。

妙にかかとが高い流行りのブーツは、このぬかるむ道に向かない。
軽く息を切らしながらようやく着いた彼女に、私は傘を差し掛けた。
ありがとうございます。意外と礼儀正しいその言葉とは裏腹に、不審気な眼差しが私を探る。
あくまで不躾にならない程度に。
ここの管理人です。そう自己紹介をすると、ようやく人懐っこい笑みが浮かんだ。

初めて来たんです。
墓所を案内する道すがら、彼女は問わず語りに語り始めた。
私、どうやら養子だったらしいんですよね。
一昨日18になったんですけど、お母さんがその時話してくれて。
本当のお父さんはお母さんのお兄さん、伯父っていうんですか? に当たる人だって。
そりゃショックでしたけど、私のお母さんはお母さんしかいないって思ってるから。
小さい時にお父さん死ん……他界してから女手一つで育ててくれたし、すごい感謝してるんです。
でも、やっぱり一度くらい私を生んでくれたお父さんとお母さんにも挨拶したいなって思って。
お母さんには内緒なんですけどね。今日が命日って聞いたからこっそりお墓参りに来ちゃった。

少女は幼さと成熟の入り交じった言葉遣いで話し続けていた。
私は心の中で彼女の「お母さん」――妹に礼を言う。
いい子に育ててくれて有り難う。
一度会うと未練が残って成仏できないから、と言っていたが、妻もどこかで見守っているはず。
妻の分も礼を言わせてほしい。本当に有り難う。

少女は神妙な顔をして墓前で手を合わせている。
私は空を見上げた。
そろそろ雨も熄みそうだ。

「夢」「箸」「銃」
237「夢」「箸」「銃」:2006/03/21(火) 18:00:43
 その日博史は初めてゴミ箱を漁った。完全な状態の弁当を
見つけると、箸も使わず手をつけた。矜持や体裁など気にも
ならなかった。彼は空腹だった。
 一息ついて、彼はまたゴミ箱を覗いた。そして底の方にあるそれを
見つけた。……拳銃だった。
 博史は在りし日を懐かしく思った。だが、今彼の手にあるのは
痛んだパンと黒い拳銃である。ぼおっと両手に持ったそれらを
眺めつつ、彼は左手に持った方にかじり付くと、やおら右手を
頭の横に突きつけた。
 引き金を引く。コメカミの辺りに激痛が奔り、刹那、博史は夢を
見た。今日が遠くなり、過去が身近になってゆく。幸福だった
あの頃……。
 気づくと辺りは真っ暗だった。彼はどこか別の世界に降り立った
のだと理解し、水先案内人を求めて歩いていった。
 細い舗装路にはぶち撒かれたゴミに混じって、BB弾が散乱している。

「縄」「水上」「白鳥」
238名無し物書き@推敲中?:2006/03/21(火) 22:40:06
 人は刹那的なスリルをどこまでも求める生物である。特にそれが、関係のない赤の他人の危機によってもたらされるものならば尚更だーーーー
 そんなことをぼんやりと考えながら、彼は彼女に魅入っていた。
 命綱は無し、ネットも無し、地上からの高さは凡そ十メートルのその場所。
 少しでもバランスを崩せば文字通り確実に命を落とす縄の上で、彼女は当たり前のように逆立ちして静止していた。
 十三歳の彼と丁度同じ年の頃、あどけない顔つきに鋭い目を持った彼女。
 ひたりと重力に逆らったまま動かないその姿は、何故か水上の白鳥を思わせる。
しかし、白鳥は姿勢を保つ為に水中で藻掻く生物だ。
彼女の全身の筋肉が、今にも限界を迎えそうな程に張り詰めているのと同様に。
彼女は一度姿勢を戻し、縄の上で背筋を伸ばして観客に手を振った。歓声と拍手の後には、更なるスリルへの期待を込めた沈黙がやってくる。
 心臓を揺さ振るように低く響く太鼓の音の中、彼は彼女の声を確かに聞いた。
 そして彼が目を見開くより早く、地面が揺れた。
 身体ごと崩れそうな衝撃の中、彼が捉えたのは視界を通り過ぎる彼女の純白の衣裳。
 その表情は、何処か笑っているようにも見えた。

「…………もう、時間かぁ」
 彼女の呟きだけがいつまでも、頭の中に荒涼と響いていた。


次「唇」「眼鏡」「嫌味」
239名無し物書き@推敲中?:2006/03/25(土) 23:52:28
「唇」「眼鏡」「嫌味」

度の弱い眼鏡をかけてる先輩の、遠くを見る細めた目が大好きで、大好きで、大好きで。
大好きなそんな瞳に見つめられたくて、わたし、わざわざ遠くの方から先輩の名前呼んでみたり。
そうしながら、でも結局ドキドキに負けちゃって、物陰に隠れてしまったり、するんだ。
人気者の先輩だから、いつだって人の輪の中心にいて。
わたしは楽しそうな先輩の横顔を見られるだけで幸せだからいいんだもんって、でも足は小石を蹴飛ばしていて。
存在自体奇跡なんじゃないかって思うぐらい、先輩ったら可憐でステキで。
争わず、媚びたりせず、常に穏やかで、ただ静かに胸奥の炎を絶やさない実は熱い人だって、わたしは知ってる。
一番惹かれるのは、嫌味など決して口にしないその品格かもしれない。
そんな先輩のこと、もうやばいぐらい好き過ぎて……
でも意を決してわたしができることといったら、言い訳しながらおどけるくらいで。
みんなに小突かれてへらへらしながら、たったひとり先輩がくすりと笑ってくれることだけ祈ってる。
先輩の唇が、ほんの少し動いたの見るだけでわたし……
そんな微笑がほしくってわたし……、今日も鏡の前で長州小力の物まねにいそしむの。
上京して、恋しちゃって、そして何もかもそっちのけで小力極めにかかる19の春。
わたしみたいな不器用な子が、恋に落ちちゃうと実際大変なんだ。小力しながら、泣いてんだ。鏡の小力が、泣いてんだ。


「二度寝」「空腹」「ぼんやり」
240名無し物書き@推敲中?:2006/03/26(日) 23:34:24
ハッと目が覚めた。

急に寒気が襲ってきて、身を震わせる。まだ春物のジャンバーでは早かったか。
辺りは薄暗く、寝る前には芝生で遊んでいた親子も既にいない。

寝過ごした。そう思ったら今度は空腹を覚えた。時計を見ると、六時半。
昼から今まで寝ていりゃ、腹が減るのも無理はない。ぼんやりと、誰もいない公園を眺める。

一度、まだ親子がいた頃に起きた記憶はある。
起きたというより目を開けたが、そのまま目を閉じて二度寝した。
子供の騒ぐ声が懐かしくて、親の叱る声が嬉しくて、心地好かった。

親と子。私には、もう存在しない縁。
かつては私も築いていたその暖かな縁は、十年前、静かに切れた。
しかし、再びまた縁が近付いてきている気がする。


なぁ、早く迎えに来い。

息子よ。


「嘴」「藤棚」「コード」
241名無し物書き@推敲中?:2006/03/31(金) 23:29:18
「嘴」「藤棚」「コード」

父親「息子よ、これが『鶏ウーマン』の写真だ」
息子「こいつが、こいつが母さんを……。父さん、僕強くなって、きっと母さんの仇を……」
父親「息子よ、最後まで話を聞きなさい。
   鶏ウーマンは恐ろしく凶暴なのだ。決してお前の太刀打ちできる相手ではないのだよ。
   私も、電気スタンドのコードで、危うく首を……」
息子「そして母さんを……、僕と父さんから母さんを、うぅっ」
父親「息子よ。写真をよくみてごらん。今とはだいぶ違うけれど、そこはうちの庭なのだよ。
   きれいな藤棚だろう。近所の人がよく花見に来たもんさ。
   母さんは、藤の花が本当に大好きでなぁ……」
息子「あぁ、そんな母さんを、この化け物が……!」
父親「息子よ……! そいつが、その鶏ウーマンこそが、お前の……、お前の母さんなのだよ!
   そしてお前は……、来週誕生日を迎えると『鶏ボーイ』に変身するのだ……、あぁ息子よ!」
息子「…………もぉっ! 父さんったら、エイプリルなフールは、明日だよ、もぉ! もぉ!(笑)」
父親「来週お前は、突然生えてきた嘴に戸惑いを覚えることだろう……
   すまん。父さん力になってやれなくて、何もしてやれなくて、本当に……本当にすまん……」


「魚」「背中」「四月バカ」
242名無し物書き@推敲中?:2006/04/02(日) 13:22:21
「魚」「背中」「四月バカ」

 腐った軍靴を踏み抜いて、伝令が壕にやってきた。「上等兵殿、面会であります!」
 でも、死を待つ5人ぽっちの隊に誰が? 「上等兵殿の…その…許婚者で、あります!」

 思わず吹き出す。四月バカと思った。実家に残した彼女本人を、泥まみれの壕に見るまでは…
 
 そうか、ついに来たのか。死を目前にした集団妄想、というやつが。
 とりあえず、心にもない見栄をはった。「ここは危険だ、すぐ帰りなさい」
 「いやですっ!」妄想は答えた。声を小さくして続ける。「キスしてくれるまで、帰りません」

 それは聞こえた。隊の全員に、もうはっきりと聞こえた。「勘弁して下さいよ、上等兵殿ぅ〜」
 「だって、だって、ずっと会えないし、手紙も誰か開けて、四角い穴だらけになってるし…」
 ぐしょぐしょになって、鼻をかんで、やっと周囲に気がついてから赤面して風呂敷を解く。

 「よろしければ、貴方と隊の皆様に…」と言う前に、水を得た魚の様に全員飛びかかった。
 「米だ、白米だ!」「う、鰻の蒲焼だぁ〜」「天麩羅が、て、天麩羅が!」
 ヤモリを食って餓えをしのぐ毎日…どうしてこれに背中を向けることができるだろう、例え妄想でも。

 40年が経った。年甲斐もなくビキニで上機嫌の彼女を連れ、戦地に出向いて手を合わせる。
 一緒に彼女の長寿も祈った。彼女が妄想ではない以上、残された可能性はもう一つしかないからだ。
 自分達が、彼女の妄想だという可能性しか…

※全員が妄想という可能性が;
次のお題は:「桜」「入学式」「ウラシマ効果」でお願いしまふ
243罧原堤 ◆SF36Mndinc :2006/04/04(火) 06:42:58
「桜」「入学式」「ウラシマ効果」

 散る、散る、散る、散る、桜の花びらが散ってゆく。ねばねばした粘土のような斜面を駆け下りると、見えてくるのは、視界を多い尽くすのは、やはり、幾本もの桜木から散ってゆく花びら、桜の花びら。まるで台風の目のように僕の頭上には降り落ちてこないが、
周りを見回すと燦燦と桜の花びらが、紙吹雪のように振り落ちていた。僕の肩にちょこんと乗っているリス猿はリラックスしていて、
「ウラシマ効果がはじまるよ」などと耳打ちしてきた。リス猿が人間の言葉を喋ったことにも驚かされた(そんなことは初めてだった!)が、それよりもなによりも、
「ウラシマ効果? なにそれ?」
 リス猿は落ち着いた様子で、
「見ていればわかるよ」
 僕は気が狂っていたのだろう。高校の入学式に行きたくなかった。みんなで集まっての写真撮影が嫌だった。入学式には出席しないで次の日から登校しようと思っていたが、母親がなぜか入学式に一緒についてくるというので二人で出かけたが途中、道端で、
やっぱり嫌になって母親の腰を殴った。母はちょっと膝をガクンとして痛がっていた。 ……今まさにウラシマ効果が終わろうとしていた。そして僕の周辺から桜の花弁は消えうせ、あたりには大勢の花見に来ていた人々の死体だけがうず高く積まれていた。

次のお題は:「無糖」「グラス」「Fire」でお願い
244罧原堤 ◆SF36Mndinc :2006/04/04(火) 11:35:49
次は「無糖」「グラス」「Fire」で。
245「無糖」「グラス」「Fire」:2006/04/04(火) 13:09:05
 冬の寒空から逃げるように喫茶店の重いドアを開く。
 出迎えたのは、スピーカーから流れるくぐもったオルガンの
音と、その音色に浸りきっていたマスターの緩やかな一瞥。
 私は唾を飲み込み、ブラックとだけ告げ、外から死角になる
カウンターの角に、腰を降ろした。
 マスターは夢から覚めたようにこちらを見た後、手の中で
撫で回していただけのグラスを棚にしまうと、同じ棚から
ハンドミルを取り出した。
「じゃあ、おすすめのヤツを入れてあげよう、こいつはブラックで
飲むのが一番美味いんだ」
 スピーカーから流れる男物の伸びやかなファルセットに、ハンド
ミルのがりがりという音、歌に合わせたマスターの鼻歌。
「あんたは若いから、この曲を知らんだろう?」
 マスターはウォータードリップに挽いた豆を落としながら
何処か自慢げに言った。
 私は、懐に隠したサバイバルナイフに伸ばした手を、止めた。
「『Light My Fire』……いい曲さ。いやね、あたしは若い頃。
苦しかった日々を、この曲に救われたんだ、それというのも――」
 突然始まった思い出話を聞き流しつつ、私は平静を装い、コーヒー
を一口啜った。
 それは無糖であるにも係らず、ほのかな甘味と香りを、私の
心の奥に届けた。それは音もなく、しかし心地よく転がるのだった。

 十分後、私は店を出た。掌が、汗で濡れていた。
 曲が思いのほか長く、その間に私は自分の決意が折れたことを
認めざるを得なかった。
 ただ、収穫はあった。私は歌の一節を口ずさむ。
「『Come on baby, light my fire』……」
 人の道を外れる直前に聞いたこの歌に、私はもう一度賭けて
みようと、思った。

「扉」「桃」「ピアノ」
246名無し物書き@推敲中?:2006/04/04(火) 15:21:50
「扉」「桃」「ピアノ」

ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
扉を乱暴に叩く音が、もう30分は続いている。
「ゴルァ! ピアノの音がうるさくて眠れんのじゃボケ!」
隣家の主は大声で叫ぶ。
今は昼の二時だ。
昼間に睡眠を取らなければならない仕事の人はいるが、彼の場合無職だからそうではない。
近所でも有名な変人なのだ。

「大変ねぇ」
周りの住民は同情してくれる。
「娘さんの大事なリハビリなのにね。ピアノの音だってたいして洩れてないし」
この家に越してきて3年になるけれど、自閉症の娘は一度も外へ出したことがない。
近所には事情を話して、医師の指導で音楽療法をしていることも説明してあった。
「最初はびっくりしたし恐かったけど、慣れました」
私は立ち話の最後に必ずそう言ってニッコリと微笑む。

外では相変わらずオヤジが怒鳴り続けている。本当に鬱陶しい。
「でもね、あのオジサンのおかげで平穏な生活ができるのよ」
私は無人のピアノに向かって呟く。
「さあ、レッスンはお終いにして、桃でもいただきましょう」
私はカセットテープを止めて言った。
面倒くさくなって娘を殺してから半年、隣の変人効果で今のところ誰も気づいていない。


我ながらありふれてて面白くない。
お題継続でお願いします。
247名無し物書き@推敲中?:2006/04/05(水) 22:38:48
「扉」「桃」「ピアノ」



その桃は小さくて硬かったが、香りが高く甘みは少ないものの味は良かった。

「ばあちゃん! 今日ピアノ来るんだよ!」
桃を割烹着の前に包むようにして持ってきた祖母に甘えるように訴える。
祖母は土間の上がり口に腰を下ろし、私に桃をひとつよこした。
「ピアノかー。あんたのお母さんはいったい何を考えてるんだか」
不機嫌そうに長靴の踵を踵で押さえて脱ごうとする。
私は機嫌を取るように、慌てて長靴を脱がせてやった。

庭にトラックが入ってきた音がして、私は庭へ駆け出した。
運転手が下りて後ろの扉を開いた。
暗闇の中に浮かび上がるつやつやしたピアノ、私のものになるピアノ。
母がエプロンで手を拭き拭き台所から出てくる。
それを祖母がねたましそうに見ていたが、ぷいと奥の方へ入ったのが横目に見えた。

座敷へ置かれたピアノは、古びたこの家に勿体ないほど立派だった。
鍵盤に指を下ろす。思ったよりも大きく音が響いて、私は振動が伝わる指を慌てて離した。
「何か弾いてみて、由美子」
母が促して、私はたどたどしく弾き始めた。
今まで古いオルガンで練習していた退屈な曲は、生き生きと立ち上がり目の前に迫ってくる。

いつの間にか祖母が後ろに立っていた。
「大したもんだな由美子は……」
ため息をつきながら言う祖母を見て母が嬉しそうに笑う。
祖母は割烹着をまだ桃で膨らませながら私のピアノに聞き入った。
248名無し物書き@推敲中?:2006/04/05(水) 22:39:35
ごめ、お題は
「エプロン」「翼」「ビール」
でお願いします。
249「墓参り」「梅」「不審」:2006/04/05(水) 23:56:49
外に出かける時は僕が照れるくらいお洒落なんだけど、家の中ではいつもエプロン。
「さぁ張り切ってお家の仕事しなきゃ、って気持ちになれるから好きなの」
にこにこしながらいつもそう言っていた。

父さんは毎日仕事で遅くなる。
門が軋んだ音を立て、砂利を踏む音が次第に近くなってくると、母さんはいそいそと冷蔵庫に向かう。
そして玄関が開き、父さんの「ただいま」が聞こえてくるタイミングでテーブルの上にはビールが。
どかっと椅子に腰を下ろし、腕まくりをしながらくいっとグラスを差し出す父さん。
いつもちょっと手間取りながら、何とか無事に瓶の蓋を開けてそっとグラスにビールを注ぐ母さん。
月曜日から金曜日まで繰り返されるその光景が、僕は好きだった。

そんなある日、父さんが死んだ。交通事故だった。
何日か特に忙しい日が続いて過労気味だったのか、ふらっと足がよろめいて車道へ踏み出しちゃってね。
たまたま帰り道が一緒になったという同僚の斉藤さんが、葬式から何日か経ったある日、ぽつりと状況を教えてくれた。

母さんは葬式の日まで気丈に立ち回っていたが、49日が過ぎる頃から次第にぼんやりするようになってきた。
そんなある日のこと。
朝ご飯の用意を終えた母さんは、父さんの仏壇の前に座ってしばらく目を閉じていた。
もういいわよね、あなた。
そう呟いたかと思うと春の陽の降り注ぐ縁側にすっと立ち、白い翼を思いっきり拡げた……翼?

呆然と見守る僕に向かって微かに微笑み、母は飛び立った。
吸い込まれるように、空へ。

「倒産」「未来」「行方」
250249:2006/04/05(水) 23:58:27
下の一行目抜けてた。スマソ。

母さんはいつもエプロン姿だ。
251249:2006/04/05(水) 23:59:38
お題は「エプロン」「翼」「ビール」だった……orz
スレ汚し申し訳ない。
252「エプロン」「翼」「ビール」:2006/04/06(木) 16:38:08
 アヤコは素気無く手を振ると、旅行鞄をお供に部屋を出て行った。
 行き先は実家か、あるいは新しい男の元か。
 どちらにせよ、伴侶を失った俺は、肩を竦めて溜め込んだ吐息を
深く、長く吐き出すことしか出来なかった。

 朝、日の出と共に起床した。アヤコが置いていった目覚まし時計など
無用だった。
 ジャージにエプロン姿のまま、バターロールとシーザーサラダ、ミ
ルクで朝食を楽しむ。アヤコは朝食を作らない女だった。
 昼はスーパーで食料品を買い込んだ。アヤコの嫌いだったオージー
ビーフのステーキを選ぶ時は、久々に心が躍った。
 そして夜、風呂上りにアヤコが決して許さなかった晩酌を楽しむ。
 冷えたビールと付け合せの鴨ハムの味わいは、今日一日の労苦を
押し流すには、十分なものだった。

 これまでの自分が彼岸に打ち上げられた魚だとすれば、今の自分は
清らかな海水に満ち満ちた海原を泳ぐ魚のようだと、俺はこれまでの
人生を振り返りながら、ビールで満たされたグラスを掲げる。
 おかえり、素晴らしき人生よ。そしてこれからも――

「ごめ〜んパパに怒られちゃった『離婚だなんて絶対許さん』なんて
いうからアタシもなんだかイヤになっちゃって戻ってきたのビール
なんて飲んでないでどうせ明日も早いんだから早く寝なさいよ――」

 ああ、アヤコ。君に足りなかったものが何か、今、解った。
 翼だ。君には俺の元から飛び立つ為の、翼が無いんだ。
 だから「ごつり」アヤコ。
 俺が「ごつり」アヤコに「ごつり」翼を「ごつり」あげるよ。

「嘘」「電話」「ギター」
253252:2006/04/06(木) 17:10:58
お題を間違えました……。
>>252のお題は忘れて下さい。

お題は>>249氏の
「倒産」「未来」「行方」 でどうぞ。
254名無し物書き@推敲中?:2006/04/06(木) 17:40:13
「倒産」「未来」「行方」

『倒産しました』ってのが、今年のネタだったのさ。
何のネタかって、エイプリルフルルーのネタさ。
知り合いという知り合いに、練りに練った大嘘を、電子メールで書き送ったのさ。
以来ずっと、お詫びのしっぱなしさ……
エイプリルフルルーってのは、大威張りで嘘こいて、さらっと通常業務に戻ることを許してくれる日じゃないのか。
それにわしは、細心の注意を払って、文中これ見よがしに『4月1日』と明記したじゃないか。
なのに、洒落を解さない連中が、じゃんじゃんじゃかじゃか電話よこしてきやがって……
周りの連中まで「洒落になんないです、なんてことしてくれたんですか社長」などと、ここぞとばかりに糾弾しやがる……
決めた! わしはもう一切謝らんからな! エイプリルフルルーに嘘をついて何が悪い!
この国の連中は、日ごろからふざけた真似ばかりするくせに、なぜユーモアに寛容じゃないんだ!
心の狭い連中が、狭い島国にひしめき合って、洒落一つ通じないなど……、未来だってたかが知れてるってもんだ!
わしが爺だからか? 80の爺がエイプリルフルルーに心血そそいじゃいけないってぇのか?
まったく……、よってたかって……、ふざけとるのはお前らの方だぞ!
こうなったらあれだ、家出をしてやる。そうだ、バックンパッカンになってやる!
異国を徘徊……いや違う、気楽に放浪してだな、本物の行方知れずになってくれるわ! (誰が徘徊だ馬鹿者!)


「嘘」「電話」「ギター」
255名無し物書き@推敲中?:2006/04/13(木) 17:37:46
「嘘」「電話」「ギター」

夜中の2時に電話が鳴った。
「仕事で出張ってのは嘘だったんだ。
 君との今後について結論を出そうと、俺、日本海臨みながら自分自身と向き合ってた」
何時だと思っているのよ、という女の言葉を遮って、男は「聴いて下さい」とギターを爪弾き始めた。
携帯からもれ聴こえてくるロシア民謡の『一週間』。
しかも、子供だって発表会で弾く勇気はないであろう、そんな完成度の『一週間』だ。
実に拙い『一週間』を聴かされているうち、女は激情に駆られた。
今すぐ会いたい。
会って、そうして、ぶん殴ってやりたい。
だいたい月曜にお風呂を焚いて、火曜になってから入るってどういうことよ!
女は急に可笑しくなって、隣で寝ていた男の耳に携帯をあてがった。
男はかっと目を見開き、女をきっと睨み、しかし少年らしいか細い声で「何このイタ電……」
次の瞬間、ベッドの上で二人は笑い転げていた。
そのうち「くすぐったい」とか「やだくすぐったい」とか「やだやだくすぐったい」とかに発展するのであったが……
ひとり額に玉の汗を浮かせてロシア民謡を奏で続ける男の耳には、幸せそうな二人の声など届くはずもなかった。


「火傷」「びっくり」「激突」
256名無し物書き@推敲中?:2006/04/14(金) 17:47:44
「火傷」「びっくり」「激突」

熱いものは、冷ましてから食べるといいです。
熱い食べ物ってのはとても危険で、口内を火傷する恐れがあります。
なので必ず熱いものは、冷ましてから食べてください。
これは、あんまり知られていないことなのだけれどね。
息をフーフー吹きかけて冷ますのが『裏技』です。
裏技を知っていると、この星ではあっという間に尊敬されるから。
これ見よがしにやらないで、立場があやしくなった時などに、小出しに披露するといいよ。
あと、決してビーム放っちゃ駄目。地球人びっくりするからね。
空中を飛ぶのも厳禁。もし飛んじゃったら「サイヤ人です。てへへ」とお茶を濁してから、その場を早急に立ち去ること。
飛行機とかヘリコプターとか気球とか、あとたくさんの風船とか、とにかく何か物に頼って空は飛んでください。
あと、くれぐれも、猫とか捕って食べようとしないこと。
猫はすばしこいのでね、捕捉する際に壁に激突して鼻とか取れちゃうからね。
あと決して自分から、鼻とか耳とかうっかり外さないように。見られたら大変なことになるからね。
これ、みなさん案外やりがちなのですよ。なので気をつけてください。
とりあえず注意事項はこれくらいです。楽しんでくださいね。あ、あと犬と喋っては駄目だから。


お題継続。
257名無し物書き@推敲中?:2006/04/15(土) 16:10:26
「火傷」「びっくり」「激突」

僕が二階のテラスで芥川の『素戔嗚尊』を読んでいると、庭でじいやとばあやが言い争いを始めた。
いつものことだ。三時を知らせる空砲にどちらが点火するかで揉めている。
争っているうちに、もう五分くらい過ぎてしまったはずだ。
三時のおやつを待ちわびている村の子どもらがかわいそうだったので、僕はテラスから身を乗り出して二人に声をかけた。
「じいや、ばあや、火を持って喧嘩なんかしたら、火傷をするよ」
二人は小突きあいをやめ、僕を仰ぎ見、僕の手に本を認めたじいやが叫んだ。
「坊ちゃん、そりゃウンノジュウザですかい? ウンノジュウザ読みなせぇ。ウンノジュウザを」
じいやは頃あるごとに、ウンノジュウザウンノジュウザ言う。多分、語感が好きなんだろう。
「まーたじいや、ウンノジュウザウンノジュウザ言ったなー。今日の点火係はばあやだ。僕が命令する。頼んだよばあや」
ばあやは少女のように飛び跳ねて喜び、じいやは少年のように小石を蹴飛ばす仕草をした。
僕は籐椅子におさまると、耳を塞いでいた手を再び本へと伸ばした。
そうしながら、僕の好きな語感ったらなんだろうかと考える。
「香味焙煎」だろうか、なんて実際頭を捻ったら、そこにお庭番が待機していてびっくりした。
「驚くじゃないか、ゲンゾウ! ところで、お前の好きな言葉、語感ったら、たとえば何だい?」
ゲンゾウはしばらく考え込んだのち、「激突嫁姑バトル……でしょうか」と、真面目腐ってそう言った。笑っちゃった。


お題継続。
258「火傷」「びっくり」「激突」 :2006/04/15(土) 18:28:26

 病院の廊下にある長椅子は座り心地が悪く、何度も足を組み直したり、尻に
掛かる重心をずらしたりしてどうにか誤魔化していたが、それでもむず痒くなる
ような居心地の悪さは変わらなかった。
 病院は清潔、静謐であるというのは作り話で、実際の所、四六時中通して
これほど騒がしい建物というのは中々に無いだろう。ここは常に、命と幻想とが
天秤に乗せられて、命の乗った皿が重さで底打ちするか、幻想の重みで命が
びっくりするほど高く舞い上がる、そんな場所なのだから。

 時折廊下に木霊する慟哭は、何処か火傷をした幼子の泣き声のように煩わしく
赤黒い鮮血を滴らせながら右往左往する人影は、医師の言い付けを守らずにいる
病人である。
 激突事故でも起こしそうな勢いで車椅子を飛ばす男は、口から泡を吹きながら
廊下を快走している。
――かくいう俺も、言い付けを守らずにいるんだが。
 俺は、隣に座ったレントゲン待ちの老人に憚ることなく、懐から煙草とライターを
取り出す。そして煙草を咥えようとして、俺は思い出した。
――畜生、顔が潰れちまってるから煙草吸えねぇじゃねぇか。

「先生、B棟西廊下の長椅子で、また人魂を見たって噂が――」
「いいかね。ここは病院で、我々は医療に携わる者だ。そんな根も葉もない
噂話は、忘れなさい」
「……はい」
「そう、忘れたほうがいい。忘れたほうが、いいんだよ」
 不安を隠さない看護師を前に、医師は、噛み締めるように、そう呟いた。

「雨」「鎖」「団子」
259名無し物書き@推敲中?:2006/04/15(土) 18:56:14
死んだら鎖に?がれる。
足首に嵌められた鉄の輪に溶接され、
地面の底に吸い込まれてゆく硬くて冷たい鉄の鎖。
僕ら死者が、冷たい雨の夜に君の家の二階の窓から、
あるいは明け方、電信柱の後ろから君達を見つめているだけ、
見つめることだけしかできないのは、僕らが鎖で?がれているせいだ。
ヲヲヲヲヲヲヲヲヲイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!!!!
僕は自分が埋葬された、自分の墓に鎖で?がれている。
彼や彼女たちが、電柱や二階の窓をのぞける空間に鎖で?がれているように、
僕は自分の墓に鎖で?がれている。
お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さん。
今日のお供えはお団子だ。月見だ。十五夜だ。
鎖が邪魔してお団子に僕の手は届かないのだけれども。
ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!!!!

「嘘」「電話」「ギター」
260「嘘」「電話」「ギター」:2006/04/15(土) 21:48:08
「嘘だ、嘘だ嘘だ」
 僕は電話越しに聞こえる声を聞いてひたすら唱え続ける
「嘘だ嘘だ嘘だ!」
 電話を持っている右手と逆の手で髪をかきむしる
 僕は、認めないぞ、僕は認めない!
「落ち着け!」
 電話越しにそういわれるが落ち着いてなんかいられない
 ――あいつが死んだ
 あいつが……死んだ
 僕は、そのことを認識すると、まだなにか言いたげな受話器を置く
「あいつが死んだ」
 口にすると余計むなしさが増す。
 そうだ、あいつの好きだった歌でも歌ってやろう
 僕はそう思い安物のアコースティック・ギターを手に取ると窓を放ちベランダへ出て弦をはじき出す
 そして小さな声で口ずさむ
 それと同時に自然と涙が出た
 夜風が僕を包んだ
 月が僕と君を照らした

次「夏の日」「グッド・バイ」「蛍」
 夏休みが四十二日間あるのは、どう考えても長すぎる。
 宿題をすべて済ませ、帰省したり海やプールに行ったりして一通り遊び尽くしてしまうと、僕の場合は大抵、最後のほうでは暇を持て余してしまう。
 友達が宿題が終わらず慌てふためいているさまを眺めるのも良いが、毎年となると飽きてしまう。

 日がな一日家にいても詰まらないので、外に散歩に出てみる。
 夏の日差しは僕には強すぎるので、麦藁帽子とタオルと扇子は欠かせない。
 自宅のある住宅街を離れ、その背後に広がる山へと入っていく。
 アスファルトの地面が、しばらく歩くうちに土と草に変わる。一歩一歩ごとに、僅かに土煙があがる。

 大分汗が出てきたので、木陰に座って少し休む。
 途端に、冷んやりとした風が僕の周りを通り過ぎる。急に日が陰ってきたな
 ――と思うか思わないかのうちに、突然の大粒の雨。

 夕立か、と思ったが、雨はなかなか止まない。
 疲れたのか少しうとうとしてしまい、時間の経過がわからなくなってしまった。時計を持ってきていないのだ。
 空は一面雲に覆われて大分薄暗いが、日が既に沈んだのかどうかはよくわからない。

 と、視界の片隅に何か光るものが入った。何かな、と眼を向ける。
 ――蛍だ。草むらのなかで、ほのかに光っている。
 この街にもまだ蛍がいたのか。川は農薬ですっかり澱んでしまっているというのに。

 それから雨が止むまでの間、僕は、蛍のか細い光を、じっと見つめていた。

 このあたりは、既に農地としては使われておらず、市が土地を買い上げ、公園として整備されることになっているという。
 秋から冬に掛けて、人の手が入るらしい。
 ここに蛍がいるとは、誰も思ってもいないだろう。

 雨はやがて止んだ。すっかり遅くなってしまったかもしれない。
 僕は蛍に別れを告げ、家へと足早に歩き出した。
 グッド・バイ、蛍よ。グッド・バイ、夏休みよ。

初めてできた彼女とのデート、蛍が見れる公園の帰り道で僕等は不良に襲われた。
不良どもはどいつもこいつも体格が良くて、どう頑張っても勝ち目なんかありそうにない。
走って逃げて、迷い込んだ狭い路地で、一人で僕は立ち止まる。
振り返った彼女に説得、僕が時間を稼ぐから、ここでヤツラを足止めするから、君は逃げて。
泣いている彼女を怒鳴りつけ、ああ、生まれて初めて人を怒鳴りつけた、彼女が逃げたのを確認、
僕は迫って来た不良どもに立ち向かう。
広げた両手を壁にしっかりつけて、どんなに殴られても蹴られても、僕はここから動かない。
僕は弱虫だから、中学の時、いじめられてたんだ、殴られたり蹴られたりすると泣いてしまう。
泣きながら、泣いているけど、どんなに殴られても僕はここから動かない。
ごめんなさいって、許してくださいって謝りながら、それでも僕は動かない。
なあ、ヒーローみたいだろ?
グッド・バイ、弱くてみじめだったいじめられっこの僕。
今も弱くてみじめだけど、だけどヒーローだろう、今の僕?
僕の名前は七郎、彼女の名前は菜緒。
今年の夏、これから彼女と一緒に過ごす夏の日々、それが永遠になる事をこの時の僕は知らない。

「最後」「一歩」「雨」
263「最後」「一歩」「雨」:2006/04/16(日) 08:35:16
 ざっと見て金目のものが見つからなければ、泥棒はさっさと退散するという。
だが俊夫は最後まで諦めなかった。「一度決めたことは何があっても
やり遂げる」母の偉大なる男の道教育はしっかりと実を結んでいた。
「くそう、見つからん。金庫はどこだ!」
 そんなもの無いかも知れず、また見つけてもどう運ぶつもりなのか、とかく
怒り覚めやらぬ様子で俊夫は叫んだ。わりと大きな声だ。豪快な男だ。
 豪快だからだろう、俊夫は部屋を荒らしまわった。しかし金庫は見つからず、
仕方がないのでベッドの下に隠してあった、白い粉を持ち出――
「え。え? ナンデスカコレ」
 ヤバイ家じゃない? ヤクザ屋さん? ヤクザ屋さんなの? と、混乱も束の間、
俊夫は派手目のマンションを選んだことを後悔した。逃げなくては。
 と一歩踏み出したそのとき、玄関が家の主人を迎え入れる。よ、余計なことを!
と思ったか知らないが、俊夫は大慌てで窓から飛び出した。
 外は雨が降っている。俊夫の体は原型を留めぬほど四散して、身元も
分からぬまま、クスリのやりすぎによる事故死ということで片付いた。

次「ボード」「コピー」「数学」
264「最後」「一歩」「雨:2006/04/16(日) 18:11:41
 雨音が聞こえる
 窓から漏れる音はさっきより強くなっているのが分かる
 空は薄暗い
 僕は、マイルドセブンを吸おうとポケットを漁るが無くなったのを思い出した
 仕方が無いので僕は玄関を開け放つ。
 夕立の匂いが鼻をくすぐる
 これで、僕は死んじゃうんだな

 人生最後の一歩は雨音と共に

次「炎」「氷」「雷」
265名無し物書き@推敲中?:2006/04/16(日) 18:12:40
リロミスorz

次は「ボード」「コピー」「数学」 で
266「ボード」「コピー」「数学」 :2006/04/16(日) 19:33:07
 私は頭を抱えていた。どうしても何も思い浮かばないのだ。

 これまで私は、コピーライターとして、様々な商品についてキャッチコピーを手がけてきた。
 そして、どの商品に対しても適切な言葉を与え、ヒットへと導いてきた。キャッチコピー自体が流行語となったものも少なくない。

 しかし…、いま私は、安易にこの仕事を受けてしまったことを後悔している。
 確かに、小説・随筆などの文学作品の単行本や、コミック本、あるいは政治学・経済学などの書籍について、
 私のキャッチコピーが帯に躍ったものは多く、それらは皆、一定の成果を挙げてきている。
 だが、今回依頼された書籍の表紙を見るたびに、私はどうしようもない無力感に苛まれるのだ。

 『離散凸解析 ――組合せ構造をもつ凸関数、その共役性と双対性―― 』

 一体何の本なのだこれは。

 いや勿論、カバーの裏見返しにある著者の略歴を見れば、著者が離散数学とかいうものの研究者であることはわかるし、従って、この本も、数学の本である可能性がきわめて高い。
 しかし、中学数学ですら既に全く理解できなくなっている私に、この本の内容が理解できるということがあり得るだろうか。


 夜、私は夢を見る。
 私は何故か中学生に戻っており、教室で皆の前に出て、ホワイトボードを前に立ち尽くしている。
 教師が「どうした、早くこれを証明しなさい」と煽り、私は絶望と焦燥でどうしたら良いかわからない。
 「nが3以上の自然数のとき、x^n+y^n=z^nを満たす整数(x,y,z)の組が存在しないことを示せ」
 ナニヲイッテイルンダコイツハ?

 汗だくになって私は飛び起きる。――そして、書き留める。
 「離散数学 それは悪夢への誘(いざな)い」


 クライアントからはそれなりに好評であった。


 (次「炎」「氷」「雷」)
267「炎」「氷」「雷」:2006/04/18(火) 00:48:22
 雨が止んだ。
 私はそれを肌で感じ取り、寝床から這い出した。
 あくびを一つして、背筋をうんと伸ばした後、顔を丁寧に洗う。
 昨晩、心地よい睡眠を邪魔してくれた雨音と遠雷は、すっかり消えうせていた。
 身支度を整え、私は家を飛び出す。
 夏の陽射しは、今日も白い入道と蒼い空をお供に、頭上から降り注いでいた。

 公園まで足を伸ばすと、男の中の男であるジョニーが、いつものようにベンチで
だらだらと日向ぼっこを楽しんでいた。
「よう、景気はどうだい?」
  私はベンチの傍らから、寝こける無頼漢に問い掛ける。
「まあまあさ。今日はかき氷屋の親父が、山のような氷の塊を落としていきやがった」
 私はそうかと答えるや否や、すかさずジョニーから氷のありかを聞き出し、現地に
向かった。涼を取る機会を逃してはならない。それは死んだ祖父の遺言だった。

 氷は、全て溶け落ちていた。
 当たり前の話である。この炎を吹きつけるが如くの陽射しの元、繊細にして魔性の
魅力を持った氷塊が、無事でいられるはずなどなかった。

 愕然とする私は、しかし、氷解した跡に残された水溜りを、目ざとく見つけた。
 長い道程で痛んだ足を、肉球を、きらきらと輝く水溜りに漬け込む。
 氷が溶け落ちたばかりの水は、周囲の熱に負けずひんやりとしていて、とても心地良かった。

「フライパン」「青」「香辛料」
268名無し物書き@推敲中?:2006/04/18(火) 17:38:34
「フライパン」「青」「香辛料」

法事で夫の実家を訪れた時のこと。
反抗期の息子のわがままに手をこまねいていると、お祖母様がニコニコしながら息子の手を取りおっしゃった。
「こら、こら、坊。おっかさんの言うこときかねぇと、おめぇ……
 ばっさまぁ、よぉく砥いだ包丁で、おめぇば細切れにしてよぉ、
 フライパンでじゅうじゅう炒めもんにしっちまうだからなぁ。
 そこの畑で採れたばかしのよぉ、青い物と一緒によぉ、舌がしびれるような香辛料ぱっぱらぱっぱらふっかけてよぉ、
 おめぇは、細切れにされてるもんだから、もうピリピリどころじゃねぇビーリビリしちまうんだからなぁ。
 泣いたってわめいたって、もうはぁ、おめぇはフライパンの上でビーリビリされってったがらなぁ。
 おめぇが、あんまりそうやって言うこときかねがったら、
 このばっさまぁ、おめぇば炒め物にして食っちまうだからなぁ、あんまり言うこときかねがったらぁ」
お祖母様は、そこまでおっしゃると、金歯を輝かせながら呵々とお笑いになった。
お酒が入ってまるで赤鬼のような大人たちが哄笑する中、息子はひとり放心状態で、ただぽかんとつっ立っていた。
以来、「パパのお祖母ちゃん」という言葉は、息子の駄々の特効薬である。
かわいそうなので、あまり使わないよう、心掛けては、いる……
言い訳にも何にもならないけれど、私だって疲れた日など、きまって包丁持った金歯の妖怪に追われる悪夢に苛まれているのだ。


「トンネル」「カーブ」「乱闘」
269名無し物書き@推敲中?:2006/04/22(土) 13:06:08
「トンネル」「カーブ」「乱闘」

息子「パパ、レフトがトンネルやって二塁打になったよ!」
娘 「わーい、やったやった。よかったねパパ。今日も巨人が勝ったらいいね」
息子「パパ、今度僕にカーブの投げ方教えてよ、ね。ね」
娘 「わー、パパ、見て見て乱闘始まったって。乱闘も巨人が勝ったらいいね」
妻 「はい、あなた、おビール。……どうなさったの? ため息ばかり」
俺 「いやね、どうやら書き込みをストップさせちゃうらしいんだ、俺のネタの後ピタッと止まる」
妻 「そりゃ、あなたの後は、書きづらいわよ」
俺 「俺って、そんなに嫌な感じか?」
妻 「だって、あなたの書くものってみんな面白いのですもの!
   う〜ん、なんていうのかしら、あなたのネタってセガール映画のような安定感があるわ」
俺 「セガール?」
妻 「そうよ、あなたはセガールなのよ!」
息子「すっごいや、僕のパパはセガールだ!」
娘 「わーい、セガールセガール、パパだ〜いすき!」
あぁ……。少々値は張るけれど、やっぱりなんちゃって家族って、素晴らしい!


お題継続。
270名無し物書き@推敲中?:2006/04/24(月) 14:13:46
「トンネル」「カーブ」「乱闘」

「なあ高志、あの旧国道のところにあるトンネルを探検しに行こうぜ」
そろそろ夏休みも終わろうかというある日、けんちゃんが唐突に僕に提案してきた。
「旧国道のトンネルって、あの幽霊が出るって噂のとこ?」
「そうさ、幽霊が本当に出るか確かめにいこう。3組の祐二も誘ってさ」
「行こう、って言っても、あそこは通行止めになってから、先生たちに行くな、って言われてる場所じゃないか」
「おい、なんだよ、びびってんのか? 誰も行かないから、幽霊がいるとか言われてるに決まってるさ」
「幽霊とか以前に、危ないと思うんだけど……」
なんだかんだで、けんちゃんに押し切られてしまい、乗り気ではなかった僕まで、
トンネル探検へいくことに決まってしまった。
次の日、僕たちは、懐中電灯を片手にトンネルの前に立っていた。

しかし、僕らの冒険は割とあっけなく終わってしまった。
勢い勇んで、トンネルに入ったのはいいが、カーブを過ぎた少し先で、
行き止まりになっていたのだ。結局、幽霊もいるかどうかわからなかった。
僕らの戦利品は、トンネルの前に落ちてた、怪しげなビデオテープだけ。
それも、両親がいないときに、どきどきして再生してみたら、誰かの編集した
「プロレス場外乱闘編」だったんだけどね……

次のお題は
「殺虫剤」「春」「壁」
271名無し物書き@推敲中?:2006/04/25(火) 08:14:46
春になると忌々しい虫共が湧きだしてくる。
啓蟄などという言葉もあるらしいが、宙を飛び回る羽虫においては存在を許容することは不可能だ。
厳しい冬が去り、暖かな春の訪れは喜ばしい。だがそれ以上に僕を不快にするのは、下等な、分をわきまえない
虫共なのだった。
「殺虫剤など生温い。お前らを確実に殺すには……」
そういって僕はポリ容器に入った薬液を両手に持つ。蓋を外されたそれは危険な匂いを漂わせる。
「右手から酸性! 左手から塩素系! 合体、有毒発生塩素ガス!」
壁に向けて勢いよく迸る洗剤。左手の握力が弱い僕は右手の力を調節することで一対一の反応を可能とした。
すぐさま立ち上る死の香り。人ですら致死させるこの毒ガスに、室内を飛び回る羽虫共も力を失い、倒れていく。
勝った。ざまーみろ。勝利の余韻に浸りながら僕は、意識の薄れていく中で柔らかな笑みを浮かべていたことだろう。
身体が倒れ、床と生じる音は僕の記憶にはなかった。

目が覚めると、そこは病院だった。白い個室に、僕ともう一人。
隣に住む、幼馴染みの少女が僕を見て顔をくしゃくしゃにする。
「あんたなんであんなことするのよ! ほんと、馬鹿なんだから……」
泣きじゃくり、抱きついてきた彼女の頭を、力の入らない手で撫でながら。
窓の外に咲き乱れる桜を美しいと、本当に美しいと僕は眺めていた。


次のお題は「ヨーヨー」「金魚すくい」「りんご飴」
 「――はい、残念ながら、本日が最終日となってしまいましたが、伝統ある祭事に
少しでも長く触れていようと、今日も大勢の家族連れが訪れて――」
 数百年の伝統をもつ祭は歓声と嬌声に塗れ、群がる人々の熱情と夢を一夜で飲み干さんとしていた。
 俺は、そんな祭の環から離れた、喧騒が辛うじて届く広場のベンチに腰を下ろし
朗々と響くその声に、耳を傾けていた。
 広場の中央に陣取った人々――大手TV局の取材クルー陣と、評判の新人女性レポーターが
最終日となった祭の報道を行っている。
 髪を結い上げ、赤地の浴衣を着たレポーターは、金魚すくいの戦果と思しき金魚――雰囲気作りの
小道具だろう――を手に下げて、初々しくもしっかりとした報道を続けていた。 
 俺は、指に引っ掛けた水風船をヨーヨーのように上下させつつ、彼女の声に聞き入っていた。

 祭の喧騒は今も続いていたが、報道を終えたTVクルー陣は撤収の準備を始めていた。
 俺は痛む尻を擦りながら立ち上がり、すっかり暗くなった夜空を見上げ、肩をほぐして盛大なため息をついた。
「こんばんは、今日はお一人でしょうか?」
 背後からの声に振り返る、赤地の浴衣を着た女性が、赤いキャップを持つマイクをこちらに差し向けていた。
 否、それはマイクではなく、りんご飴だった。
「お一人なんですね? そうなんですね? こんな日にお一人だなんて、とぉっても可哀想な方ですね」
 にやにやと笑いながら矢継ぎ早に言葉を紡ぐレポーターに俺は、忙しい相方を持つと本当に悲しいです、と
甘い匂いを放つマイクに返した後、赤いキャップに齧り付いた。
 
お題継続で。
273名無し物書き@推敲中?:2006/05/01(月) 22:03:06
「ヨーヨー」「金魚すくい」「りんご飴」

 夏休みも半分が過ぎ、生徒たちがそろそろ宿題に追われる頃、
私は隣町の納涼祭に来ていた。近隣では、一番大きな納涼祭だけ
あって、学校の生徒たちも何人かきているようだった。
 屋台の連なる道を冷やかしがてら見て回る。ヨーヨーすくいの店に、
うちのクラスのアツシと良子が来ていた。二人はクラスでもなかなかの
ラブラブぶりだが、ここでも相変わらずの中のよさを見せつけられた。
宿題の進み具合など雑談を少しして、あんまり遅くなるなよ、と言い、
私は人ごみの中に戻った。
 しばらくぶらぶらとした後、りんご飴を一つ買い、屋台の裏手の堤防を上り、
文芸川のほとりの石段に腰を下ろした。
 りんご飴をなめながら、しばらくぼーっとしていると、少し離れた川沿いの茂みから
声が聞こえてきた。お盛んな事で……、と放置して、さっさとこの場を離れようと思った。
が、そのとき、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「……ねえ、アツシ、こんな場所でなんて……」
「誰もこないって……うちじゃあさあ……なあいいだろう、リョウコ」
おいおい、お前たちにはまだ早いだろう! それも野外かよ! と少し焦りつつ、
「おいおい、お前たち何やってるんだ!」
と言って茂みに飛び込むと、アツシと良子がなにやら袋をもって、
驚いた顔でこちらを見て固まっていた。
 なんのことはない、私の早とちりだった。アツシ達は金魚すくいを
したはいいが、家で買うことが出来ないので川に放流しようとしているとこだったのだ。


次のお題は「フレーム」「口」「袋」
274名無し物書き@推敲中?:2006/05/02(火) 00:04:30
美術の宿題が出た。家族の肖像を描いて来い、だと。
モデルはお袋に頼んだ。あーあ、恥ずかしいったらありゃしねえ。
いまいち構図が決まらない。
両手の親指と人指し指でL字型をつくってフレームを作って見た。
字で書けば「□」こんな感じ?
ウエストショットにするか…。いや、お袋の醜い腹を
クラスメイトに晒すわけにはいかない。
ではバストショット…?いや、お袋の乳は最近とみに垂れてきている。
これまた観賞に耐えるものではない。
では顔のアップか。いやいや、これが最もタチが悪い。極悪だ。


結局、飼い猫のタマをスケッチして提出した。


次は「エグい」「徹底的にハードに」「1」
 TV画面から眼を切らずに、俺はかき抱いた電話に手を添えた。
 掌が、それ自身意志を持つかのように蠢き、プッシュボタンの上を這い回る。
 0、1、2――
 視線は決して動かさず、受話器を耳に押し当て、息を殺して待つ。
 繋がるまでの僅かなコール音がもどかしい。
 ややあって、コール音が途切れる――。
 受話器から漏れ出たのは、あらかじめ吹き込まれたであろう女性の
申し訳ないような声色を演じる、無機質な返答。
 ――くそったれ!
 悪態を吐き、電話を押し潰すように受話器を叩きつける。
 そうこうしているうちに、TVの中で、エグい極彩色をした数字が
徐々に「ゼロ」へ向かって進んでいく。
 10、9、8、7――
 畜生、ちくしょう。
 今からでは到底間に合うまい。いや、受話器を上げたあの時から、既に
手遅れだったのだ。
 そして、数字がゼロまで進んだ刹那、画面が切り替わる。
 
「はいそこまでーっ、残念ですが今回の目玉商品
  犬用ベット『ワンちゃんカイテキ』はソールドアウ――」

 うがああああアああアアアああアあ!
 俺は怒号交じりの奇声と共に電話を天高く掲げると、画面の中で営業スマイルを
浮かべる男めがけて投げ付けた。
 その後、徹底的にハードに、原型を留めないほどに破壊し尽くしたTVと電話を
尻目に、俺は愛犬のぬくもりで心を慰めようとして、あることに気が付いた。

 ああ、そういや俺、犬飼ってないじゃん。

「黄金」「鋼鉄」「中毒」
276名無し物書き@推敲中?:2006/05/04(木) 07:11:25
「黄金」「鋼鉄」「中毒」

 どんな拷問にも、甘い言葉にも、王女は屈しなかった。
 「黄金秘宝の場所は決して教えません!」
 15の若さでも、そこに宿る鋼鉄の意志は伊達じゃない。
 大臣も諦めかけた丁度その時、「お待ちを!」と進み出でた者がいた…

 「ひどいよキャッシー!仕事を放っておいてハワイかい?」
 「ごめんなさーい。新しい水着をどうしても試してみたくって」
 「おお!なんてナイスなプロポーション。僕も行っていい?」
 「だーめ。私の代わりに商品の紹介をお願い、スティーブ」
 「この<ソニックダイエット-マグナムプラス>を飲むだけ!」「今ならなんと、もう1瓶無料で!」

 「下らん!、君達の国家では、皆がこんな番組に中毒になっておるのか!?」
 「任せて下さい、大臣様。ダメなら依頼料は100%キャッシュバック…」

 なだめすかす、その最中、「言います!」という涙声が響いた。
 「黄金の在り処を言います。だからそれを!早く電話を!」

 免疫が全くない者にとって、こういう番組はまさに麻薬だった。
 鎖に繋がれた首を垂れ、王女は100kgの巨体を揺すって号泣していた。
 
※商品名で悩んだ(w
 次のお題は:「ドーモ」「どうも」「記憶」でお願いしまふ。
277「ドーモ」「どうも」「記憶」:2006/05/04(木) 09:13:04
うちの母はどうも記憶力が弱いと言うかなんと言うか、とにかく新しい単語を覚えるのに時間がかかる。
今朝も買ったばかりの携帯をいじりながら私の部屋へやってきて、まだ夢うつつの私のふとんをひっぺ返し、
「アイドーモ、アイドーモ」とお調子者のような挨拶を連呼する。
わけがわからないので「はいはいどうもどうもおはよう」と返すと「アイ、ドーモ! アイドーモ!」とますますうるさくなる。
なんなんだ。まだ眠いんだやめてくれ。
半ばやけくそになって私も同じ言葉をくり返してやる。
「アイドーモ、アイアイドーモ」
意味は、眠いからもう少し寝かせて、だ。
そんな私に「アイドーモ、違うのよアイドーモ」と言いながら、母は再び寝息を立てはじめた私のベッドに座り
手に持った携帯を見下ろしていつまでもアイドーモ、アイドーモ、と呟いていた。

次のお題は「猫」「世界」「シャラップ」
278名無し物書き@推敲中?:2006/05/04(木) 14:22:37
「シャラップ、君の言い訳が聞きたいわけじゃない」首相官邸に怒号が響く。

月の裏側から突如として現れた宇宙艦隊は地球をはるかにしのぐ
技術レベルと質量を保持しており、ひとたび戦争になればその結果は見えていた。

地球人とはその起源となる星を異にする彼らは、地球でもなじみの深い
彼の生物と姿形を同じくしており彼らは、会談の席には同胞をのみ出席させることを要求した。

「至急君は心当たりを当たってくれ、緊急ミーティングを開く」
「は?総理心当たりといわれてもわが国に、話のできる猫などおりません」
「なに?話が、では文字はかけないのか?」
「いえ、やつらときたら昼寝するぐらいしか能がないやつらでして、ひひ」
「なんてことだ」

総理は自国の教育レベルの低さをいまさらながらに思い知らされた。

次のお題は「サムシング」「しろくま」「ニュータイプ」
279名無し物書き@推敲中?:2006/05/04(木) 20:33:07
 しろくまの兄弟サムシングとサムウェアはニュータイプである。
 以下つらつらと兄弟の逸話を書こうと思っていたのだが、一行目にしてお題を全て網羅してしまったのである。
 これは書き手である私にとって、動揺を呼び起こすに十分なことだった。
 モチベーションが維持できない。これは致命的である。
 およそ十五行の中に如何にしてお題を組み込むか。それはレスをつけるものの腕の見せ所であり、
頭を悩ませて楽しめる最大の娯楽である。
 だが、一行目でお題全てが書き終わっている。それは例えるなら意気込んで取りかかった仕事が
 ものの数秒で終わってしまい、身体に満ちた気力のやり場を失ったかのよう。なにもない草原に
たった一人放り出され、自由に遊べと言われたかのよう。
 あまりにも自由であることは逆に不自由であるとは誰の言葉だったか。何らかの縛りのあるなかでこそ、
人は自由を謳歌することができるのだと私は再確認する。

 さて、果たして十五行近くまで文章を書くことができた。これは最後の一線、一レスに内容をまとめるという縛りのためである。
最後の縁としてすがるものがあった私は幸せなのだった。
 ところで、最近しろくま兄弟の兄サムシングが死んだらしい。死因は足を滑らせて首の骨を折ったことだとか。
ニュータイプと言えど、生の縛りからは逃れられなかったのかと深く考えさせられたのであった。


次のお題は「ポケット」「クッキー」「喧嘩(けんか、ケンカと開いてよし)」
 子供の頃に帰りたい。
 そう願う大人たちは少なくないはずだ。無邪気で、怖いものなんてなかった(お化けと
お袋は除いて)。恋をするにも、今みたいに打算的ではなかった。何にでも本気になれた。
よく兄貴と、お袋が作ってくれたクッキーの数を巡って喧嘩したっけ。
 あれから数十年、確たる根拠もないが、自分が汚れてしまったと感じている僕は、よく
思い出に浸る。ポケットから出すみたいに気軽に。それをいつも遮るのが妻の声。また今
回も聞こえてきた。どうやら怒ってるみたいだ。
「あんた! このポケットの名刺は何よ!」
 ・・・・・・少しポケットのガードを堅くするか。
281名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 02:45:34
継続?
282280:2006/05/05(金) 03:51:56
申し訳ありません。自分のお題をこなすのに必死で次のお題を出すのを忘れていました。
「トランプ」「メモ帳」「錠剤」でお願いします。(もし継続で書かれている方がいたらどうしよう……)
283名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 13:00:09
物心つく前からのんでいた錠剤をのむのをやめることで
メモ帳が透けて見えるおお錠剤は異能をおさえるためだったのかうは
よしカジノでトランプで大もうけだひひあれでもでもなんでも見透せるうちに
宇宙の真理を見透しちゃったよあはっはぎゃー




男の世界は五行に満たない駄文でしかなかった。

「村人」「細雪」「戦車」


284名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 14:52:23
 かの村は特に有名な産物があるわけでもない。農業と林業で収入を得て、
それを元に旅商から必要な物資を買うことで人々の生活は成り立っていた。
 貧しくはないが、豊かでもない。だが生活するには十分であった。

 彼はそんな村で生きてきた。
 名を、利平という。
 利平はそもそも、この村の人間ではない。物心つく前、山に捨てられていたところを村人に拾われたのだという。
 親を捜すも見あたらず、利平は村長の利吉夫婦に育てられることとなった。
 月日が流れ、利平も十を過ぎる年になった。子供の少ないこの村では年の合う友もおらず、
利平はいつも一人、山野に分け入って遊んでいた。
 細雪の散る、冬の初めのころ。それは起きた。
 農閑期で家で竹細工を作っていた利吉の元に、遊びに出ていた利平が飛び込んできたのである。
「おっとぅ! 大変だ、鉄の猪だ!」
「なに言ってやがる利平。鉄の猪たぁどういうことだ?」
 肩で息をする利平が指さす方、山と山の合間の野道を、砂煙とともにやってくる物があった。
確かにそれは鉄の猪と形容するに相応しい異形だった。
「……ありゃぁ、なんだ?」
 それは74式戦車。現代の自衛隊に配備されている、戦うための獣であった。


次のお題は「インド」「コショウ」「香辛料」で一つお願いしたします。
285名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 15:33:26
「インド」「コショウ」「香辛料」

 我輩は、インド人である。名前は言えない。なぜならすでにビザが
切れてから半年経っており、この国では違法だからである。
 我輩の服の内ポケットにはいつもコショウの瓶が忍ばせてある。
我輩が危険を冒してまで、この国に滞在しているわけが、このコショウにはあるのである。

 入国してから三ヶ月ほどたった頃、我輩はうまくこの国に適応できずに
すっかり意気消沈していた。その様子は周りから見てもわかりやすいもの
だったらしい。バイト先のバーの同僚の佐伯が、そんな我輩を見てくれたもの、
それがこのコショウなのである。
 佐伯が言うには、我輩がこの国に馴染めない理由は、故郷と違う味付けの
料理が多いからではないか、だからこのコショウでお前好みの味付けにして
食べればいい、とのことだった。
 正直、それを聞いたときは、ばかにされているのかと思った。
故郷の料理は多くの香辛料を使って調理するのだ。コショウをもらったぐらいで
どうにかなるものではない。しかし、佐伯は真面目に我輩のことを思ってコショウを
くれたのだ。その気持ちがわかったのでありがたく受け取った。

 我輩はこのコショウがあるかぎり、違法なぞなんのその、この国で
がんばれる気持ちが湧いてくるのである。一稼ぎして故郷に帰るときには
佐伯に、我輩が選んだ特選香辛料セットでも贈ろうかと考えている。


次は「偽者」「穴」「けじめ」で
286「偽物」「穴」「けじめ」:2006/05/05(金) 17:12:26
「ええ、是非、親分をモデルにした映画を作らせていただきたいんです!」
「そりゃいいが…、一つ条件がある。俺役を演じる役者は宍戸錠にしてほしい」「えっ…」
「できねえのか?じゃ、この話は無しだ」
「待って下さい!…解りました。主演は宍戸さんでいきます。私が口説き落とします!」
「楽しみにしてるぜ、社長?」

「穴とカギ?何だそりゃ?」
「だって、例の映画のポスターに、ほら」
「馬鹿、こりゃシシドジョウって読むん…。
いや、おめえの言うとおりだ。『穴戸鍵』だ…。
偽物か!あのタコ社長、けじめ取らせてやる!」
287名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 17:15:01
またお題忘れてるぞー。
次はなんだい?
288286:2006/05/05(金) 17:17:15
次は「某」「巻き」「バラす(活用可)」
289名無し物書き@推敲中?:2006/05/05(金) 19:53:47
「某は自前の弁当があるゆえ」
 指を揃えた右手を突き出し、サムライはゲイシャに断りを入れる。
 ゲイシャは惜しそうな顔をして、自身の持つスシを摘んで、自分の口に入れた。
 ――こんなに美味しくできたのに、食べて貰えないなんて残念だわぁ。
 一方サムライは背負っていた包みから拳骨三つ分はある弁当を取り出した。竹の子の皮で包まれており、
甘酸っぱい匂いが漂ってくる。
 ――あらやだ、サムライさんもお寿司なのかしら?
 サムライ離れた手つきで竹の子の皮を解き、中から大きな巻きずしを取りだした。巻きずしとは
スシの亜種で、具材を酢飯で包み、さらにそれを海苔で巻くといった携帯性に優れた食べ物である。
かつての合戦で、サムライ達はみな巻きずしを食して奮戦したのだという。
 このサムライもかつての作法に則り、海苔を外し、酢飯をバラし、まるで副食を食べるかのように
具材を摘んで口に入れて咀嚼している。齧り付いて同時に味わうなどという不作法な真似は、
例え戦場といえどもサムライ達には許されないのである。
 ――ああ、食べてる姿も素敵。
 ゲイシャはうっとりとした表情をサムライに向けながら、自らが作ったスシを摘む。
 サムライは作業のように静かに、しかし迅速に巻きずしを平らげていった。


次のお題は「天麩羅」「富士山」「腹切り」で。
290名無し物書き@推敲中?:2006/05/06(土) 16:41:14
「天麩羅」「富士山」「腹切り」

 天道剣士朗はサムライらしい。らしい、なんてあいまいな言い方なのは、
今の世の中でサムライなんていう職業、身分を私は寡聞にして知らないからだ。

 天道の好きなものの一つに、天麩羅がある。それもキスの天麩羅。
彼は一日一食、天麩羅を食すことが目標らしい。食の細い私にとっては、
聞いただけでも胃にもたれてくる話だ。
 彼が言うには、一番美味しい天麩羅を食べれるところは、うちの近所にある
「富士山食堂」らしい。それを聞いたときはかなり驚いた。なにしろ近所だから、
私もよく利用するのだが、お世辞にもおいしい料理に出会ったことがない。
まあ値段は安いから、食堂の味に文句を言えるものでもないのだが。
 天道の性格を良くわかっていなかったとき、「富士山食堂」の天麩羅は
お前が言うほどおいしくないのだが、と言ったことがある。すると、彼は私と一緒に
食堂に行き、二人分の天麩羅定食を注文すると、
「もしここの天麩羅がおいしくなかったら、拙者、このばで腹切りも辞さぬ」
とか言いだした。そんなことを言われたら、まずいなぞ言えるはずもなく
結局、おいしくもない天麩羅を天道におごってもらっただけだった。

 今の世の中、サムライと言って生きるのも大変だろうが、
サムライと付き合っていくのも大変だ。

次は「約束」「一日」「くじら」で。
 
291「約束」「一日」「くじら」:2006/05/06(土) 21:17:35
週末の終わりが近づくといつも憂鬱になる。
女房はすでに寝室で寝ている時間。
気がつけばいつも時計の秒針の動きを追っている自分に気がつき自己嫌悪に陥る。

ウィスキーを飲みながら明日からの会社生活を想像する。
毎日毎日同じ日が繰り返されるだけ。
ほろ酔い気分で「自分の人生は一体何なのだろう」と答えのない質問を繰り返したのは何度目なのだろうか。

何か刺激を求めてガムシャラに動き回った学生時代。
その日をたった一日でも今の人生に組み込むことが出来たらどんなに幸せか。
月曜日〜金曜日までただただ事務的に作業をこなし、客先へ行っては頭を下げ、週末には酒を飲みながら友人同士と愚痴を言い合ったり、美化された過去を互いに面白おかしく語り合う。
こんな毎日が自分の生活の一部として自然に当てはまってしまっている。

時計の針が23時を指した。
男は何も思考せず、ただ体が覚えている動作にまかせ寝室へ体を移動させていく。
いつの間にかただ会社のネジとして会社を支えるだけの存在になってしまったことに何の疑問もない。

将来の結婚の約束を交わし、将来設計について一晩中語りあっていた同棲時代。
自分の力でどこまで上にあがっていけるか試そうと息巻いていた新入社員時代。
勉強と研究に没頭し、適度に遊び、充実した毎日を送っていた大学時代。
勉強も運動も人並み以上にこなしクラスでも人気者だった高校時代。
従順な子供から自我に目覚め、自分の能力を試すことだけに夢中だった中学時代。
全てが新鮮で、全てのものが楽しく感じられていた小学時代。
くじらが噴水のように出す水の上で昼寝をするのが夢だった幼稚園時代。

そんな過去をなんとなく思い出しながら男は眠りに落ちていった。

明るいお題だからこそ暗い話にしてしまった。

次のお題は「エリート」「素人」「証拠」で。
292名無し物書き@推敲中?:2006/05/18(木) 05:21:26
 証拠は出そろった。あとはどうやって「事故」を再現するかだが。
「ちょっと、何変な顔してんのよ? 具合でも悪いの?」
 考え込んでいた私の顔を覗き込むように彼女が見つめていた。心配そうなその表情に、微笑んで返す。
「いや、大丈夫だ。この事件の真相が分かってね。あとはどう詰めるかなんだが……」
「え、ほんと? ほんとうに犯人が分かっちゃったの?」
 そうか、素人ならばこの事件が他殺であるとおもうのかもしれない。といっても、私もプロというわけでもないが、
それなりに場数は踏んできている。真実の糸を手繰り寄せ、必死に考えた結果に答えを導いただけだ。
「犯人、は分からなかったがね。自称エリートの彼が言った誤りの事実とは違う、あの時起きた全てを説明してあげるよ」
 そうだ。彼女にも手伝って貰うことにしようか。一人で全てを為すには、力不足なのだから。
「そこで君が手伝ってくれると嬉しいのだが、いいかな?」
 きざったらしく彼女に語りかけ、彼女の顔がほんのり朱に染まると同時に自己嫌悪。気のある素振りを見せて、
どつぼにはまっているではないか。私自身はいたってノーマルだというのに。調子に乗るとすぐこれだ。
「は、はい! 是非ともお手伝いさせていただきあす!」
 舌の回らぬ彼女が腕にしがみつき、多少歩きにくくなったものの自業自得。まずは事件を終わらせようと、
私は部屋のドアを開けた。


次のお題は「ボール」「子供」「滑り台」
293名無し物書き@推敲中?:2006/05/23(火) 19:26:35
バランスボールが欲しい? はあ? 本気で言ってるのそれ。
やめてちょうだい、こんな狭いアパートに……。あの、ほら、ウィダーのコマーシャルみたいになるから絶対。
……いや私には見えるねありありと。バランス崩したあんたがこの部屋を崩壊させるサマが。止まれないの、滑り台乗っちゃったみたいに。
え? え? うんまあ、そりゃ買うのはあんたの勝手だけどさ。うんそうだよ、自分で稼いだ分は自分で使っていいよ。子供じゃないんだし。
でも、何が起きても知らないからね。私は片付け手伝わないし、あんたの怪我の看病もしないよ。わかってるね。
つーか、またすぐ飽きるんじゃないの? いつもそうじゃん?
294293:2006/05/23(火) 19:52:42
お題忘れスマソ
「魚」「夢」「咳」と言うのはどうだ。
295魚 夢 咳:2006/05/24(水) 05:05:33
久しぶりにあの夢をみた。
焼き付けられたように鮮明に脳裏に移る彼女の濁った目は、やはり閉じる事なく開いていた。
彼女が最後に見たものは、火葬場の炎だったのだろうか、僕の顔だったのだろうか。
彼女が生きていたら……困るどころか首を括らなくてはいけない人間が大勢いたのだ。
彼らの多くは家庭を持っていて……、僕もその一人だった。
布団から起きてみると、食卓の上にラップをかけた食事が置いてあった。妻が用意しておいてくれたものだ。
魚の煮付けと、小さな椀に乗った漬け物。ご飯茶碗が伏せて置いてある。
台所に行くと味噌汁の鍋があったので暖めなおす。炊飯ジャーには飯が二合ほど残っていた。
用意をして、一人で遅めの朝食を食べる。恐らくは昼飯と合同になる。
ご飯を喉に入れた時、突然激痛が走った。魚の骨が刺さったのだ、と一瞬で解った。
喉を動かすほど深く食い込み痛みが増す。
それにしても酷い。滅茶苦茶痛い。慌てて水を飲もうとして、手をぶつけてコップがひっくり返った。
台所に走る。蛇口から水をあおるようにして飲む。痛みは治まらないどころかますます酷くなった。
激痛に耐えるうち、喉がすぼまり呼吸が困難になる。
やばい……救急車が呼べない。なぜかそう思った。救急車など呼ぶはずがないではないか。
魚の骨が喉に刺さっただけで。阿呆らしい。
しかし喉の痛みはすでに耐えがたいものになっていた。
痛い痛い痛い痛い……赤子のように縮こまりながら、ふと気づくと喉の痛みは嘘のように消えていた。
水を飲み、焦りながら呼吸を何度も繰り返す。水が気管に入り咳き込んだ。
冷や汗をかきながら食卓に戻ると、元凶の魚がそこにあった
魚の死んだ目が、こっちを見ている。その目は、棺の窓から見たあの開いた目だった。
背筋が凍りつきその場で瞬きをすると、魚の目は煮えて白くなった、小さな目に戻っていた。

次の御代は「群青」「ゴーグル」「雨」
296「群青」「ゴーグル」「雨」:2006/05/25(木) 00:07:56
 うろこ雲がどこまでも続く空が澄んでいると気づいたのは、群青色のゴーグルを
買って貰った時だ。私は小学三年生で、親にプール用にと買って貰った。着けると、
瞬間、嬉しくなった。周り全部の群青に染まった世界が目新しい。海の中にいるよ
うなのだ。嬉しくてそのまま外に出た。雨が降った後の道路も、家も、群青色に染
まって綺麗だ。緑の山も、群青がかった美しい緑色になっていた。青い空も一層青
い。ひとしきり楽しんだ後、ゴーグルを外した。その時、空を見上げて驚き、気づ
いた。フィルターを通さない空は生々しく、澄んでいた。群青色ではないが美しかっ
た。

「ゴールド」「深海」「しゃぼん玉」
297名無し物書き@推敲中?:2006/05/25(木) 00:29:41
「群青」「ゴーグル」「雨」

 群青の海を一心に見張る新兵を見かけると、艦長は静かに声をかけた。
 「先は長い、13行だ。もっと心を広くもってもいいのだぞ」
 折りしも海上は雨というか嵐と言ってもよかった。艦長の表情が不意に曇る。
 「まずいな」「え!?」
 「『ゴーグル』の一語は、この嵐のために消化されてしまうかもしれない」

 それはない。「ゴーグル」は、例えば緊急脱出で海に逃れる時の表現に…
 艦長と新兵は、心配そうに顔を見合わせた。
 大体、「群青」というところからして不吉だった。
 海で群青とくると、大抵は軍艦で死を遂げる時の表現ではないか。

 「どうせなら、江戸時代の有名浮世絵師とかの方がよかったなぁ」 
 「この嵐の状況で、「ゴーグル」はどういう使われ方をするんでしょうか、艦長」
 
 そんな二人は気付かなかった。闇に紛れて近づく、奇襲戦闘機に。
 嵐の中の轟音に気付くと、敵の機銃は二人をしっかり捕らえていた。

 「運がなかったか…まあいいじゃないか。どうせ、これで十五行目だ」
 と、戦闘機パイロットは引き金を引いた。標的をしっかりゴーグル越しに見ながら。 
 
※ごめん、いったんあげ艦長
 次のお題は:「レッスン」「バケツ」「柿落とし」でお願いしまふ。
298297:2006/05/25(木) 00:35:56
あわわわかぶった、すいません。
お題は、296さんのでお願いしまふ。
「頭、なんで頭は海に潜るんですかい?」
若い乗組員が妙齢の男に問う
「はっはっは!小僧、海にはなロマンがあるのさ!」
頭と呼ばれたその男は豪快に笑い、快活に語った
「じゃあ、あのたった一枚のゴールドコインが頭のロマンでありやすかい?」
その日の収穫はたった一枚のゴールドコインだった
光をも遮断するような深海に一攫千金を狙いに命を懸けて潜った結果だ
若い男は少々あきれた表情で言った
しかし、頭と呼ばれた男はその若い男の嫌味を含んだ質問を笑い飛ばす
「がっはっはっは!ロマンてなあ詰まるところしゃぼん玉よ!表れては消え、消えては表れる」
そんな頭と呼ばれた男に呆気を取られた若い男はため息をつく
「ふう、頭はすげえな。俺ならそんなしゃぼん玉吹くきにゃあなりませんぜ」
頭と呼ばれた男はそのゴツゴツとした手を若い男の頭に乗せる
「小僧、しゃぼん玉ってのは消えるからいいんだぜ?」
若い男はさらに呆気に取られた
「なぜですかい?」
「消えねえしゃぼん玉はいつまでも残るってことだろ?」
頭と呼ばれた男は目を細めて言った
「そりゃそうですぜ、消えねえしゃぼん玉なんか邪魔でしかたねえ」
その言葉を言った直後、若い男はハッとした表情を浮かべる
そして頭と呼ばれた男はニッと男臭い笑みを浮かべる
「そういうこった、いつまでもそこに残ってちゃあ次のロマンは探せねえのさ!」

今日も明日も男たちは海へと潜る、消えては表れるしゃぼん玉を求めて

「雨」「ペットボトル」「未来」
300名無し物書き@推敲中?:2006/05/25(木) 01:34:49
スイカ。 ばくばく
烏。
雀。ちゅんちゅん
↓メダカ。
好き。
嫌い。
ちんぽちんぽちんぽぬるぬる
まんこべとべと
クリトリスくりくり
挿入ズコズコ
中折れヒュルヒュル
復活ビンビン
愛液にゅるにゅる
射精ドピュッピュッピュピュ
絶頂イクイクイクーーーっ
中出し
妊娠オギャーーーーー
セックスセックスセックス
301「雨」「ペットボトル」「未来」:2006/05/25(木) 20:53:36
「雨雨降れ降れもっとふれ〜♪」
 どこからか幼い男の子の声がする。
 僕はその声を聞くと思わず笑ってしまった。
 なぜなら今日は歌の内容とは程遠い快晴だからだ。
 それでも、男の子は黄色い傘を振り回して歌っている。
 僕は、喉が渇いたのでペットボトルの蓋を捻り麦茶を口に含む。
 気がつくと、僕の目の前に男の子はいなかった。

 でも、まだ遠くで楽しそうな歌声が聞こえた。
 願わくば、あのこの未来が幸せでありますように。
「よし、行くか」
 そういって気合を入れて僕は、腰を上げて取引先へと向った。

「レッスン」「バケツ」「柿落とし」
あ〜あ、今日もレッスンかぁ。

少女は青空を見上げながら溜息をつく。
ちょうどその瞬間、バケツを手にした同級の少年が視界の隅を過ぎるのに気付いた。

どこに行くの……?

まだこの地の方言に染まっていない少女の問いかけに、田舎育ちの少年は足を止め、
心持ち顔を赤らめながら答える。

角のおいちゃんとこで柿落としばしよらすとばってん、わいも行ってみん?

少女は小首を傾げ、軽く眉根を寄せる。少女にはまだ理解のできない単語と言い回し。
こけらおとし、と微かに呟いて少女は微笑む。

よくわかんないけど、今日バレーに行く日だから。じゃあね。

踵を返し軽やかに駆け去る少女の背を見つめながら、少年はやがて歩き出す。
一歩一歩地面を踏みしめるように。
いつもより少しだけ背筋を伸ばしながら。

「目覚め」「号泣」「屑」
303名無し物書き@推敲中?:2006/05/30(火) 17:19:45
夜半に目覚めた。なんだか、胸にそこはかとない空虚感が漂っている。
アタシって誰からも必要とされてないんじゃないか、そんな気がするのよね。
退屈な毎日の繰り返し。生きてる意味なんて、よくわからない。
だから、誰かに必要とされたくて、ネットで男を挑発してみたの。
「萌えキャラ」を装ってみたり、ちょっとエッチな写真を載せてみたり。……
でも、やっぱりなんだか空しい。みんなアタシがいなくなったら悲しむかな?
ネットにつなぐ。ためしに、ブログに「ネット引退します」と書き込んでみた。
耳を澄ます。しばらくすると、夜のしじまに男くさい嗚咽と号泣が聞こえてきた。
みんな悲しんでいるみたいね。
満足して、再びベッドに横たわる。
みんなバカね。でも、いちばんバカなのはアタシかも。
アタシは35歳にもなって、若作りした合成写真で男を釣って空虚感をみたしているメンヘル主婦。
人間の屑だわねネ★

【次のお題】遠く、緑の木、太陽
304sou:2006/06/03(土) 02:28:22
遠く 緑の木 太陽

長い冬を耐えて目覚めた若い命が芽吹く、緑の木々の群れ。
濃く茂った枝葉の隙間から木漏れ日が溢れ、大地に降り注いでいる。
その光の欠片を全身で受け止めるように、深い傷を負ったひとりの男が、空を仰いで臥していた。
折れた剣を握り締め、己から流れ出た血の溜りに浸かりながら。
「死……孤独な死。戦いのなかで誰にも寄ることなく生きてきた私にとって、
これこそが最も矜持に満ちた最期……ああ……心が満たされてゆく……」
太陽の庇護の下、生命力に満ちたこの場所で、皮肉にも男は生涯を閉じようとしていた。
その姿を、通りすがった若い村娘が目にした。
少女は男に駆け寄り、その余命が尽きようとしていることを悟ると、十字を切ってから男の手を握り締めた。
これから男に訪れる永遠の眠りが、せめて安らかなものであるようにと願って。
男は苦悶の色を浮かべ、遠く消え行く意識のなか、声にならない叫びをあげた。
「娘よ、頼む……私の高潔なる最期を、その無垢なる慈悲の心で汚さないでくれ……」
だが男は同時に、遥か過去に決別したはずの感情の残り火が、
少女の温もりに導かれるように広まって、胸を焦がし始めていることを自覚していた。
「そうか……私は失うことを恐れ、温もりを拒んでいただけなのかも知れないな」
やがて焦点を求めて彷徨っていた男の瞳から、光が失せた。
最期に見せた男の表情は、少女に対し、微かな笑みを浮かべていた。


久々に書き込んでみましたが、以前よりも寂れてるような。
「教会」「鐘」「忘れられなくて」
305名無し物書き@推敲中?:2006/06/03(土) 18:40:41
「教会」「鐘」「忘れられなくて」

瓦礫の中から懐かしい姿を見つけ出したとき、ゲイレンはしばし立ち尽くしていた。
ふと後に人の気配を感じる。
村長だった。
「戻ってきたよ…わしもこの教会の鐘の音が忘れられなくてなあ。
皆を呼び戻そう。もう一度ここに村を作ろう。」
ゲイレンは村長の手を握り締めた。

…ひねりなさ過ぎ?
お題継続でお願いします。
306名無し物書き@推敲中?:2006/06/04(日) 10:18:34
 教会内は、ステンドグラスを通した光で彩られていた。虹色に染まった光の中、
神の子たちの歌声が響いている。私が作った賛美歌を歌っている。
「これを目にできて幸せだ」
 傍にいた弟子が「そうですね」と、静かに頷いた。
「教会から破門され、帝国から追放宣告されたとき、私の修道士としての人生は
終わったと思っていた。不幸だと思っていた。しかし、恵まれていたのだな。私
を保護してくれた選帝候、そして共感してくれる人たち、君たち……」
 神の子たちの歌声は、帝国と教会からの迫害に疲れた心に沁みた。
「師は、どうして修道士になったのですか」
 ふと、弟子が問いかけてきた。私はその頃を思い出し、苦笑いをした。
「大学で学んでいた頃、神の偉大さを見たのだ」
 実際は、目前に雷が落ち、恐怖で修道士の誓いを立てたのだった。
「マジ怖かった」
 思わずぼそりと呟いてしまった。
「何かおっしゃいましたか」
「いや、何も」
 その時、教会の鐘が透き通る音色を響かせた。教会内には、賛美歌を歌い終え
た神の子たちがすらりと立っていた。言葉が零れた。
「この美しさが胸にあればこれからも頑張れる。そう思わないか」
「お供します」
 今、この時を忘れないだろう、と思った。

     了
===============
題改変容赦願(エセ中国人?)

次題「虜」「執着」「灼熱」
307sou:2006/06/04(日) 21:29:44
「虜」「執着」「灼熱」

「わあ、地上からは分からなかったけど、ほら、煉瓦の屋根がどこまでも続いてる」
彼女の嬉々とした声に、僕は思わず顔が綻んだ。
確かに歴史の彼方へと続く石畳の街道のように、その赤茶けた景色は地平線の先まで伸びている。
アドリア海に臨み、ヴェネツィアの街を見下ろす大鐘楼。その展望台に僕達は立っていた。
以前にも、僕はここから同じ景色を眺めたことがあった。もう5年も前のことだ。
その時、僕の隣には別の女性がいた。何度忘れようとしても、できなかった人。
人は強く思い出に残る地を、再び訪れようとする。
それは、心に刻まれた景色を再確認することで懐かしさを感じさせると同時に、
時間によって隔てられた、記憶と現実の差異を思い知らされることにもなる。
過去に執着する者に対しては、残酷な仕打ちとなるかも知れない。
しかし、それを受け容れられる者にとっては、視線を未来に向けるための儀式と成り得る。
だから僕はここに来た。
僕を懐古の虜とする未練の鎖を断ち、かつて心を焼いた灼熱の、最後の火を吹き消すために。
物思いに耽り、遠くを見つめたままの僕を不思議に思ったのか、彼女は手を伸ばし、僕の視界を遮った。
「どうかしたの?」「……なんでもないよ」
僕は彼女を抱き寄せた。彼女の肩越しに見るヴェネツィアの街並みは、今までと違って過去ではなく、
明日に続いているように思えた。


ここに書き込むのは、いい気分転換になります。
「精霊」「詠唱」「残された時間」
「父と、子と、精霊の御名において…」
大司教の後に続く会衆の詠唱が聞こえてくる。
式典は順調に進んでいる。残された時間はもう僅かだ。
聖堂の重い、大きな扉に辿りつく。必死に押し開けると祭壇まで一気に走った。
「伏せて!」
私の顔を見た二人の護衛がとっさに会長を押し倒す。
轟音と共に祭壇の燭台が吹き飛んだ。
振り返って狙撃手を探す。
ステンドグラスを破って飛び出す黒い影が見えた。

「…とにかく君のおかげだ。礼を言うよ」
「犯人は逃走中です。まだ終わってはいません」
私はポケットに手を入れた。当分胃薬は手放せそうにない。

「光る」「回る」「みんな」
309名無し物書き@推敲中?:2006/06/05(月) 03:02:10
光るー光る東芝
回るー回る東芝
走るー走る東芝
 
みんーなみんーな東芝
東芝のマアク♪
310名無し物書き@推敲中?:2006/06/05(月) 06:14:23
ここはネタ元をあてるスレじゃないぞw
311名無し物書き@推敲中?:2006/06/05(月) 17:55:54
「光る」「回る」「みんな」

「疲れた…」
「まだ半日でしょうが。なまってるんじゃないの?」
マリ子が冷えたペットボトルを僕の頬に押し当てる。
僕は会場を振り返った。ぎっしりと詰まった小間また小間。
みんな熱心に商談をしている。
「これだけの中から、ホントに商売になるモノが見つかるのかよ?」
「そりゃ、いいモノはやっぱり光るのよ。あたしの眼力を信じなさいっ」
君が光ってるよ…思わず恥ずかしいことを考えてしまった。
「…あたしも早く、現地へ買い付けに行って…」
マリ子の言葉にはわずかに羨望がこもっていた。
その気持ちは門外漢の僕にも何となくわかった。ここは所詮お台場だ。
何百という同業者と同じ土俵に立っているうちは、ショップの特色を出すのも難しいのだろう。
「まあ、この会場くらいなら僕もお供するよ。昼飯食って残りを回るさ」
マリ子が、ありがと、と目で答えた。でも口には出さずに、
「よーしその意気!がんばろー!」
…元気だなあ。
“ワールドインテリア&グロサリー展”は今日も盛況だ。

雑貨業界を想像してみました。
お題継続で。
312名無し物書き@推敲中?:2006/06/05(月) 21:59:12
「光る」「回る」「みんな」

僕がその台座に近づいたとたんに、安置されていた宝玉は光を放った。
仲間はみんな、動揺している。僕だってそうだ。
ここに宝玉があるなんて話は聞かされてなかったし、目的は台座でも宝玉でもない。
「迂闊に触れて何かあったら面倒だ。早く奥に進もう。」仲間の戦士が提案する。
魔術師も僧侶も頷き、寡黙な盗賊も『構わない』と手で合図してくれた。
しかし宝玉を無視して進もうとしたそのとき、宝玉が宙に浮かんだのだ!
罠である可能性を考慮してか、全員が身構える。僕だって例外ではない。
そんな皆を嘲笑うかのように宝玉は僕たちの周りを回りだした。
「気をつけて。マジックトラップかもしれないわ。」
瞬間、緩慢な動きで周りを回っていた宝玉が、物凄い速さで僕の胸を貫いた。
「××××!」 
僕が意識を失う前に聞いたのは、寡黙な盗賊が珍しく叫んだ、これまた珍しい僕の本名だった。

次の御題。

「ふくろ」「犬」「サイコロ」
313名無し物書き@推敲中?:2006/06/06(火) 00:31:45
「ふくろ」「犬」「サイコロ」

 委員会からの追求は予想以上に激しく、ふくろ叩きの様相を呈していた。

 「天下統一は評価しよう、だが我々に黙って天下人を名乗るとは、何のつもりだ?」
 「も、申し訳ございません。この通り!深くお詫び申し上げますので、何とぞ…」
 「もう一度、『うつけ』と蔑まれたあの頃に、戻ってみるかね?」

 それは決して誇張ではなかった。あの時、鉄砲・情報網を与えられなければ今は…
 「全く、飼犬風情が思い上がりおって。」
 委員の一人は鯛の刺身で、信長の裸体をひたひたと突付いてみせる。

 「まあまあ。うつけと言われた者だからこそ、我々に頼る他ないわけだ」
 体中に刺身や寿司を乗せて横たわりながら、信長は屈辱に耐えていた。
 彼等の言う通りなのだ。弱小大名の奇異な息子が生き残るには、あれしかなかった。
 影の商人からの、無限に近い鉄砲と情報供給…誰が断る事ができただろう。

 「サイコロの目一つで、代えられる立場である事を忘れるな。我々は猿でもいいのだよ」
 委員会は嘲笑にわいて、めでたく散会。
 板一枚隔てて、顔が歪むほど扉に寄せた耳を離すと、秀吉も足を忍ばせて立ち去った。
 異様な光を目に宿して。

※書いてみるとなんもないけど…いいや
次のお題は:「大統領府」「桜吹雪」「年代記」でお願いしまふ。
314名無し物書き@推敲中?:2006/06/06(火) 04:26:31
たまにはこっちのスレもよろしく

よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ
ttp://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140421498/
315大統領府・桜吹雪・年代記:2006/06/07(水) 23:47:19
「大統領府」とは、聞きなれない言葉である。
「年代記」も同じだ、自分にとって、
近寄りがたい、お勉強の匂いがする。
学生時代、俺は社会や歴史の勉強が苦手だった。
その事をみんなが知ってくれりゃ、それでいい。

事実は胸を張って叫ぶことが出来る。
作文を書く上でも同じことだ、見栄を張る必要はない。
人付き合いを思い出せ、頭が良いふりをするな。
それが俺の親しまれてきた人間性だったはず。
このスタイルをずっと忘れずにいよう。

桜吹雪? 僕は時代劇を思い出して、ただそれだけ。
この背中の桜吹雪が目にはいらねえか!
遠山の金さんだっけ、粋だよなあ。
僕はあの人のように、正直な性格を目指したい。

「肉屋」「黒人」「土管」
316名無し物書き@推敲中?:2006/06/08(木) 00:47:16
肉屋はくず肉の袋を下げて裏口を出た。
痩せた黒人の親子が待っている。
父親が何度も頭を下げて袋を受け取った。
「土管に住んでるんですよ…」
親子を見送って肉屋が言った。
「あたしゃ別に平等主義者じゃねえですがね、親子の情に変わりはなし…
神様の御心に適うこととは思えねえんですがねえ…」

暴動が起こったのは三日後だった。
肉屋は避難所にいた。
「店も焼かれましたよ…あたしもつるし上げられましてね、あの父親が
止めに入ってくれたんですが、可哀相に殴られてました。
軍隊が来てくれなかったら今頃は…」
この国を出ると、肉屋は言った。

「時刻表」「携帯電話」「転がる」
317名無し物書き@推敲中?:2006/06/08(木) 04:14:19
その日もいつもと変わらぬ一日だった。
そう、あの携帯電話が鳴るまでは・・・
『突然の〜風に吹かれて〜』
ビュゥゥウウウウ!
その時、突然の風が隣に立っていた中年オヤジの髪を吹き飛ばした。
『夢中でなに〜かを探したね〜』
転がるカツラ。
必死で追いかけるオヤジ。
「ええと、時刻表は・・・」
私はそれを見なかったことにした。
何も起こらない平和な日常こそが私の幸せなのだから。

次のお題
「天気雨」「自転車」「時計」
318名無し物書き@推敲中?:2006/06/08(木) 12:07:54
「天気雨」「自転車」「時計」

その日もいつもと変わらぬ一日だった。
そう、あのからくり時計が鳴るまでは・・・
『突然の〜雨に打たれて〜』
ザァァァアアアア!
その時、突然の天気雨が隣に立っていた中年オヤジの髪を洗い流した。
『夢中でなに〜かを流したね〜』
流れるカツラ。
必死で追いかけるオヤジ。
「ええと、自転車は・・・」
私はそれを見なかったことにした。
何も起こらない平和な日常こそが私の幸せなのだから。

さて、次のお題は…「ってまじめにやれゴルァ!」
すいませんw。
お題継続で。
319「天気雨」「自転車」「時計」:2006/06/08(木) 23:51:06
お祖母ちゃんが言っていた。天気雨の日にゃ狐が嫁入りしてるんだよ、と。
私は角隠しのずれを直しながらぼんやりと考えていた。今日もどこかで狐が嫁入りしてるのかな。
母は控え部屋の入り口辺りで会場のスタッフと気忙しく打ち合わせをしている。
腰の落ち着かない様子で頻繁に時計に目を遣る父は、昨日から私と視線を合わせようとしない。
何故かいつもより小さく見える背中に、ふと涙が零れそうになって慌てる。

その時派手な衝突音がした。
咄嗟に窓の外に投げた視線の先にあったのは、無残な姿になった水色の自転車。
確かビアンキという名。弟が愛用していたはず――。
はっとする間もなく、その弟が部屋に駈け込んできた。
父がやにわに立ち上がり、弟と私の間に立ち塞がる。
息を切らし、父を睨め付ける弟。
物言わず、その弟と静かに対峙する父。

やがて弟の目からすっと何かが消え、そのまま踵を返して部屋の外へ出て行った。
私の聞き違いでなければ、幸せになれよ、という言葉を後に残して。
そして私は、ひたすら流れ落ちる自分の涙にようやく気付く。

天気雨はまだやみそうもない。
320319:2006/06/08(木) 23:53:23
お題は「切腹」「恐縮」「大作」で。
321名無し物書き@推敲中?:2006/06/09(金) 17:13:18
>>320
これはひょっとして…

「切腹ーぅ!」
今日も客席は大ウケだった。いい気分で楽屋へ帰ってくる。
「お電話ですよー」
「あ、どうもー。もしもし…だっ、大作先生!?はいっ!恐縮です!有難うございます!」
ようし!長井には負けないぞ!

…みたいのを期待されてるのかな?w
まあアブナイのでやり直し。

「切腹」「恐縮」「大作」

「久々の超大作だからねー。期待してるよー」
「は、恐縮です。全身全霊をもって必ずや成功させます」
「そうそう、頼むよー。もし失敗したら…ホントに切腹だからね?」
男は冷や汗が流れるのを感じた。相手は絶対権力者だ。その言葉は冗談では済まされない。

「お帰りなさいませ」
「うむ」
「吉報がございます。十四日に茶会が開かれる由、その日ならば…」
「そうか、でかした!では十四日決行としよう。皆に連絡を」
(雪が降るといいなあ…絵になる。綱吉公はそういうの好きだからなあ)
男は思った。
(まったく天気の心配までしなきゃならんとは…)
元禄十五年の暮れのことだった。
322名無し物書き@推敲中?:2006/06/09(金) 17:19:08
次のお題は「新聞」「食べる」「よいしょ」
323名無し物書き@推敲中?:2006/06/10(土) 18:16:41
オレシンブンタベル
ヨイショ
オレシンブンタベル
ヨッコラセ
オレシンブンタベル

……反省はしてない

お題継続
 古木のような浅黒い手が、新聞の訃報欄を毟り取った。男はそれを、自分の爛れた口
へねじ込む。涎を垂らし咀嚼する。加齢で黄色くにごった目は血走っていて、年不相応
な意思と狂気に満ちている。薄暗い部屋で一人机に向かい、熊のように背中を丸めて、
訃報を食べている。
 部屋に一筋の光が入った。ドアが開いたのだ。
「先生、お出かけになられますか」
 黒髪のお手伝いが凛として問う。老人は答えず、のっそりと席を立った。老人らしく、
よいしょ、などと声をかけたりはしない。熊のように力強く重々しく動く。男の襟には
議員バッジが光っている。
 女が言う。
「味方が一人減りましたね」
 男は口元を拭い、にやりと笑った。
「奴はわしの中にいる」
 男が部屋を出た後、女は、男の愛情表現の後処理を始めた。

次題「サイダー」「ガラス」「夏」
325名無し物書き@推敲中?:2006/06/14(水) 06:43:49
 だらだらとした雨の隙間を縫って、夏が頬をかすめていく季節。
 今年もまた、花の代わりに一本の空き瓶を持って、私は貴方に逢いに行きます。
国道をひた走り、人里離れた裏山の、林のさらにその奥へ。思わず目を細める程
の、眩く光る私と貴方の秘密の場所へ。
 茶色いビール瓶、サイダーの緑色――ガラス野原の半透明を踏み締める、その
心地よい足音は、地下三メートルの貴方の耳にも聞こえていますか? 願わくば
届きますようにと祈りを込めて、今日のこの日に貴方の墓を飾りましょう。
 来週には梅雨も明け、欠片に降り注いだ雨粒は、誰にも知られずひっそりと、
容赦のない日射しに最期の輝きを魅せるでしょう。
 貴方はいつか土に還り、いつしか私も秘密と一緒に灰になる。貴方に捧げた光
の献花はそれでもなお輝き続けるのです。願わくば永遠に。

お題「コーナー」「左」「ステップ」
326名無し物書き@推敲中?:2006/06/15(木) 17:56:27
「コーナー」「左」「ステップ」

本屋でトイレに行きたくなったのではなく、トイレを求めて本屋に飛び込んだ。
最近開店したばかりの大きな書店である。
トイレはどこですかと、店のロゴ入りエプロン姿の女性に尋ねたところ、
歴史書コーナーの隣です、と返ってきた。
しかし歴史書コーナーがどこだか分からない。
どうも、とひとまず礼を言い、別の店員に声をかけると、
あちらの歴史書コーナー西洋史関係のすぐ左手にございます、と更に詳細に告げられた。
この店員、とても感じよく笑顔も素敵だったのだが、あちらと言いながらどちらも指し示さなかったのである。
私は次なる店員を探し出し、強引に振り向かせると、歴史書はどこだ! と怒鳴りつけた。
相手を威圧し、そのまま歴史書コーナーに案内させてしまおうという腹だったのである。
しかし次の瞬間、私は亀田三兄弟みたいな店員に、トイレの前だろうが! と怒鳴り返されていた。
私はそのうち、トイレを探しているのか、歴史書を探しているのか、
トイレの歴史を知らなければ、その利用資格を剥奪されるのではないかとか、とにかく一時的に危険人物だった。
今となっては、変な場所を押さえながら、広い店内を奇妙なステップで駆け巡ったことなど、早く忘れてしまいたい。
あの書店は品揃えも店員もバラエティーに富んでいるしトイレの場所までわかったのに……、多分二度と行かれない。


お題継続。
327名無し物書き@推敲中?:2006/06/15(木) 21:39:07
「コーナー」「左」「ステップ」

「もうあきらめろ。」
いまや親父の口癖になっていた言葉が浮かんできた。
「間合いをつめさせるな、ステップを使ってもっと距離をとれ、いいか、
それと左が足りない、右だけ狙わず左をもっと使え。」
体半分しか映らないコーチの声をよけて俺は観客に目を向けた。
(やっぱり来なかったか。)
無駄とは分かっていた。平日で仕事のある親父が来てくれるわけがない。
それでも最後だから、もしかしたら。
「まだチャンスはある、最後だ、思いきりいって来い。」
カーン。ゴングが鳴って相手コーナーが見えた。
相手も息は上がってるが、俺の顔をしっかり睨みつけられるところを見ると
俺ほど打たれてはいないようだった。
俺はゆっくり立ち上がり構えた。
「隆、頑張れ。」
俺は声のしたほうへ顔を向けた。「親父。」
そこには肩で息をする紛れもない親父の姿があった。
「隆、頑張れ。」
俺は顔を戻し相手を見た。
なぜかその顔が笑って見えた。

お題「プリンス」「謎」「本」
328「プリンス」「謎」「本」:2006/06/16(金) 22:55:23
 なんてことだ! ひどいよ!
ゴーストは運命の皮肉に、比喩ではなく、目の前が真っ暗になった。ゴーストと
額を寄せ合って本を開いていたプリンスも、ショックだったようで、顔を上げた
とき目が泳いでいた。
 プリンスはゴーストの友達だ。ゴーストは、自分がなんなのか、何のために生
まれたのか分からず困っていた。プリンスは、そんなゴーストの存在理由を一緒
に探してくれた。そして、城内の片隅、ゴーストが生前大事にしていたこの本に、
やっと辿り着いた。ところが、これのメモ書きによると、ゴーストはプリンスに
殺されたというのだ。
「いいよ、殺しても」
 プリンスは泳いでいた目を閉じ、ぶるぶる震えながらゴーストに生白い喉を見
せた。ゴーストは歯をかみ締め、すみれ色の目を細めて、泣きそうになりながら、
十歳になったばかりのプリンスを睨んだ。
 ゴーストはプリンスの喉に手をかけた。プリンスは喉にゴーストの冷気を感じ、
目をさらにギュッと閉じた。力を込めるゴーストの眉根に皺が寄った。
 カチ、カチ、と大時計の音がする。鳥の羽ばたく音がして、夕刻を知らせる鐘
が遠くに聞こえた。
 ゴーストが俯いてぼそぼそと言った。
「ひどいじゃん。生きているときにそういうのしてくれたらさぁ……」
 その優しさを向けてくれれば、ゴーストになんかならなかったのに。
 プリンスが夕闇の中で目を開けたとき、そこにはもうゴーストはいなかった。
 
 そのとき、城下町の外れで、すみれ色の目をした子どもが生まれた。
その子どもは、のちにプリンスの親友になるのだが、それはまた別のお話……。

次題:「レモン」「心臓」「海」
329名無し物書き@推敲中?:2006/06/18(日) 02:38:55
「レモン」「心臓」「海」

 たぶん「心臓」なのだと思う。何かの。何かはよくわからないが。
 美術室の片隅にこっそりと放置されていた。見た目はレモン以外
の何ものでもない。しかし、それは鼓動しているのだ。規律正しく、
どくんどくんと波打っている。

 握ると柔らかく、パルスが手に伝わってくる。戯れに強く握ると、
力強く押し返してくる。面白がって握る力を強めたり、弱めたする
とびくびくと反応する。

 次第に興奮して全力をかけて握りつぶそうとした瞬間、言いよう
のない恐怖と嫌悪感に駆られる。自分の掌の中で何かが終わる。何
かはわからない。意味や益があるのか、もしくは害なのかも。呼吸
は乱れ、自分でもわかるほど脈拍が速い。

 呆然と立ちつくした後、ふと僕は思う。そうだ、こんな爆弾のよ
うなものは本屋にでも置いてきてやれ。すぅっと気持ちが軽くなり、
意気揚々と街にむかって歩を進める。

次のお題:「旦那」「カバ」「PK失敗」
330329:2006/06/18(日) 02:41:27
やべ、「海」忘れてたw
お題は継続で:「レモン」「心臓」「海」
331名無し物書き@推敲中?:2006/06/18(日) 04:00:20
この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
ttp://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/
332名無し物書き@推敲中?:2006/06/18(日) 16:59:20
「レモン」「心臓」「海」

ファーストキスはレモン味という。
しかし、それはあくまで比喩であって本当にレモンの味がするわけではない。
実際私のファーストキスは塩味だった。
何故なら、それは海で溺れて人工呼吸を受けた時だったからだ。
心臓が止まって向こうに行きかけた私をこちらに引き戻してくれたライフセーバーには今でもとても感謝している。
そう、たとえそれが30代のヒゲオヤジだったとしても、だ。

いろんな意味でしょっぱい15の夏の思い出・・・


次のお題:「犬」「猿」「記事」
333「犬」「猿」「記事」 :2006/06/19(月) 07:45:45
犬猿の仲というものは本当にあるもので
俺と武田とは、なぜだかそりが合わなかった。
とくにきっかけがあったわけではない。
それでも何の因果か
中学校で知り合ってから、同じ公立高校へ行き、同じ三流の大学へ行った。
俺が意識していただけなのか、やつはいつも俺の目に止まった。
しかし、その長い年月の間、俺は武田と話す事もなく、長い青春時代を共に過ごした…そんな仲だった。
会社に入り、やつとは違う道を歩んだが、それでも武田の事をたまに思い出してしまっていた。
武田との思い出なんてあるわけもなく、ただ、武田が何をしていた、こんな事を話してるの聞いた、そんな感じである。
また年月が経ち、3年、5年、10年… ようやく武田の事を忘れて来た頃
滅多に読まない新聞に、武田の事が書かれた記事を発見した。
『35歳という若さで年収うん億円の企業社長。』
俺はしがないサラリーマン、同じ道を歩んだというのにこの差である。
それ以上記事を読むのを辞め様と思ったが、その一文に目が止まった。
「僕が成功したキッカケは、中学時代からの同級生のおかげなんですよ。その子とは話した事すらないんですけどね。
どうしてもソリが合わないっていうか、仲良くなれない空気があったんですよ。
だから、嫌いってわけじゃないんだけど、好きになれないタイプで、でも不思議とそいつの事が忘れなくって、ときどきフト思出だすんですよ。
それで、あいつには負けない!ってね(笑)」
やっぱり、こいつの事は好きになれない…
今度、同窓会ででも会う事があれば、「俺もオマエの事が好きになれない」って声をかけてやろうと思った。

次のお題:「レッテル」「散歩」「喉」
334「レッテル」「散歩」「喉」:2006/06/24(土) 12:06:30
 豪快関は深夜の散歩が好きで、ちょくちょくお忍びで公園などにお出かけになる。
 付き人である私の目を盗んでお出かけしようとなさるので、見つけるたびにせめて
一声かけるよう申し上げるのだが、とんと聞いて下さらないので、私は四六時中豪快
関の傍にいて、そのうち豪快関のお供をするようになった。
 そんな夜の、とある一幕である。

 今夜、豪快関は明るいところがお気に召したようで、繁華街などをつらつらと何を
するともなく歩いていると、関取の何が気に入らないのか、およそ五十歳ほどの酔漢
が二人、豪快関の袂をつかんでなにやら意味の通らないことをわめき始めた。
 豪快関もこれには弱ったようで、私と二人して引き剥がしにかかったが、唾を飛ばし
ながら鞄で殴りかかってくるに及んで、これはたまらぬと喉輪で軽く押し上げたら
気管のイイところに嵌ったらしく、くたくた崩折れて激しく咳き込み始めた。
 捨て置くわけにも行かず、折りよく近くを警邏していた警官を呼び止めたところ、
何を勘違いしたのか、さも力士が無辜の市民に腕を振るったがごとく取り押さえに
かかったので、私は振り上げた手錠を必死に押しとどめつつ事の次第をつぶさに話
して聞かせた。
 結局のところはなんとか納得を頂き、酔漢二人は虎箱へご招待と相成ったわけだが、
力士というだけで徒なレッテル貼りをされたことには憤懣やるかたない。拳闘士諸氏も
このようなやるせなさを味わっているのだろうか。

 さて豪快関は昨夜このような目にあったにもかかわらず、今宵もお出かけなさろうと
している。付き人の私としては、どうにも胃が痛くてたまらない。

次は「原子」「我々」「絶望」で。
335名無し物書き@推敲中?:2006/06/24(土) 22:27:44
15行以下っていうローカルルールも、もう過去の話なんだな
336「原子」「我々」「絶望」:2006/06/25(日) 01:51:17
ポラリスが落ちてくる。
すべての航海士の希望であった北極星が、絶望となって落ちてくる。
2032年以降、世界すべての天文台と研究機関の報告はこれだけであった。

「我々は再び一つとなるべきである」
2037年、この言葉で始まった国連の議題は旧約に準え「バビロン決議」とされた。
公式には「人類の火星への移住に纏わる諸計画群」。
この計画の尖兵は「Forming」、火星上への人類居住用構造物の構築である。
「Former」と呼ばれた彼らは40年の月日を掛け、火星上の氷から空気を生む装置、
人が住まう完全気密のドーム、地球上の動植物を火星に揃えた。
最後のキーパーツは、全世界の人間をエデンヘ移すための運搬体。
即ち、原子を融合し無限のエネルギーを得る炉、及び、宇宙最速の箱舟。

「神は最早我らを見捨てられた。ならば神にだって喧嘩を売る」
そうつぶやいた彼の目の前には、骨を曝け出した船があった。



久々過ぎてどうも勘が狂いっぱなしだ畜生。あと15行に抑えましたが何か orz
次は「成型」「工業」「射出」
337sou:2006/06/26(月) 22:32:48
「成型」「工業」「射出」

「司令部、応答せよ。こちらA─五○七」「こちら司令部。感度良好」
「現在、目的地上空到達百八十秒前。これより当機は最終降下準備に入る」
天候は晴れ。目的地までの視界良好。オペレータとの通信を終え、俺はふと側方の窓から空を見遣った。
筆で薄く塗られたような白い雲が、幾何学状に成型された漆黒の翼に裂かれてゆく。
夜空を支配する「不可視の死神」。畏怖を込めて、このステルス機に与えられた異名である。
長く続いた紛争は俺達の勝利によって幕を引き、この機体もしばしの休息を得られる筈だった。
そう、先刻までは。だが今、俺達は場違いな青い空を飛んでいる。
「目標まで百秒。索敵レーダー上に反応なし……いや、待て……来た、敵機確認! 高速で飛来!」
副操縦席で相方が叫ぶ。予想していたこととは言え、俺は思わず舌打ちをした。
闇に紛れて猛威を振るう死神も、陽光の下では、容易く目視で正体を捉えられる。
しかも、空中より迫る敵に振るう鎌も持ち合わせていない。
「目標まで六十秒。敵機より新たな熱源を感知。ミサイル、来ます! 回避し切れません!」
豚面した敵の独裁者の最後の悪足掻き、工業地帯に隠匿された長距離核の発射時刻まであと僅か。
奴等は極東の国々を道連れにする算段だ。阻止に間に合うのは、幸か不幸か俺達だけだった。
「目標まで二十秒。ロック解除。一番、二番、チェックパス。カウントダウン、十、九、八……」
「俺達の命で、世間は束の間の安らぎを得る。まあ、それほど悪くないトレードだ。……一番、二番、射出!」
白い尾を引きながら、レーザー誘導爆弾が敵の核発射施設に吸い込まれてゆく。
遠くで鳴る轟音。砕けた敵の願い。成功だ。その瞬間、体を引き裂く衝撃と共に俺の視界は白く染まった。

次は「僕らは」「どこまでも」「行けるはず」
少し意地の悪いお題ですが。
338名無し物書き@推敲中?:2006/06/28(水) 05:54:03
>>335
目安であって絶対じゃないってルールになったハズだが
339名無し物書き@推敲中?:2006/06/28(水) 10:38:40
ま、そうやって言い訳しながらこれからも生きていけばいいさ
340名無し物書き@推敲中?:2006/06/28(水) 19:28:46
>>339
正直ギコナビ使ってると制限はあんまり関係ない
(15行以上で省略されないから)。
341名無し物書き@推敲中?:2006/06/29(木) 02:12:11
>>340
15行以下ってそういう理由だったのか。
俺はてっきり制限を加えることでより上を目指す為だと思ってた。
まぁ、未だにブラウザ使って見てるようなやつはほっといていいかと。
 どこまでも見渡す限りの草原、風が走る度に緑の波が広がる。
 高地のためか、そよぐ風は低所のそれより力強く。草と季節の香りを運ぶ。
 風にその身を吹かれながら、僕は呟いた。
「ねぇ、知ってるかい」
 どこまでも続く緑、果てなく広がる青。どちらでもないのは僕と彼だけ。
「ここがどこなのか、どっちに行けばいいのか」訊いたが答えはない。
 彼は首をひねり、背を向け、歩き始めた。
「どこへ行くの?」
 彼は歩き続け、その姿が緑の中に消え、ようやく答えてくれた。
 彼の声が草原の中に広がっていく、それを聞いて僕も歩きだしていた。
 行く先は分からない、けれど僕らは、望めばどこへでも行けるはず。

 狼が草原を走っていた。


次のお題「デカ」「マジ」「冒険」
343名無し物書き@推敲中?:2006/07/01(土) 14:27:11
「デカ」「マジ」「冒険」

「…… デカ過ぎないか?」
箱をあけて中身を取り出した瞬間、サトシは言った。
「そう? こんなもんでしょ」
和美はこともなげに言う。「標準サイズよ」

箱の外側には《精密医療機器》と書かれているけれど、中身はバイブレーターだった。
和美がネット通販で買ったものだ。
黒くて、ヌメっとした質感を持つその反りくり返ったそのモノは、
根元にぶつぶつと小豆大の突起物があり、ものすごい迫力だった。
どう見てもデカい。
(俺のよりふた周りはデカいぞ)
サトシは思った。

電池をセットしてスイッチを入れる。
ウイ〜ン。微妙なモーター音が淫らにひびく。
反り返ったモノがうねうねと脈うち、根元のぶつぶつ部分がゆっくりと回転している。
「こんなもの入れて大丈夫なのか?なんだか体に悪そうだぞ」
「大丈夫だって。何事も冒険でしょ」
和美はそう言うとさっさと服を脱ぎ、バイブレーターにローションを塗りはじめた。
「あんたも、ほら早く脱いで」
サトシはあきらめて服を脱いだ。
「挿れるよ」
「あ、ちょっと、マジ!?、痛い!ぎょえー」
校門が裂けたサトシの絶叫が響き渡る。



344名無し物書き@推敲中?:2006/07/01(土) 14:27:59
そりゃデカいってオチですが、約一年ぶりに書いた三語がこれですか、そーですか。
どうもすいません。お題継続。

345329:2006/07/01(土) 20:01:25
>>341
15行以下ってのは
10行プラスマイナス5行ってこと。
表示の問題だけじゃないよ。

それが生きてるうちはここまで寂れてなかった。
346名無し物書き@推敲中?:2006/07/01(土) 20:47:05
まあ昨今では「要約」とか「要点を絞る」トレーニングなんて要らんから
とにかく書いてしまえば皆理解してくれると言う風でありまして。

347名無し物書き@推敲中?:2006/07/03(月) 16:33:11
15行以内に収められもしない低脳が必死ですね(笑)
制限も無視してテーマだけ使って書くのなら、チラシの裏でも同じですよね(笑)
348名無し物書き@推敲中?:2006/07/03(月) 21:20:50
>>347
収められなかったからってグチいうな。次がんばれ。
349名無し物書き@推敲中?:2006/07/04(火) 14:57:11
>>347
ルールにうるせー野郎だ。
常識を守りてーんだったら
こんな場所でグダグダいわねーで感想スレ辺りでボヤけばいい事だろーが。
お前みてーな変態粘着人格者が意見出したところで、
誰もがムキになってお前の意見を否定する、お前は否定され続ける、
俺達も否定し続ける、わかったらもう帰れ、帰って。
350名無し物書き@推敲中?:2006/07/04(火) 19:27:12
きめえw
351名無し物書き@推敲中?:2006/07/05(水) 00:39:38
こっそり書かして貰う。ぶっちゃけ「創作文」はこれが初めてだ。
「デカ」「マジ」「冒険」

渋色の背広に渋顔のデカたちがメイド喫茶でコーヒーを飲んでいる。
それを見た俺は一瞬入るのを躊躇った。
店内は俺の同類どもで溢れており、空席はほんの僅か。
しかもデカたちの隣にしかないときている。

……これは嫌だ。嫌だが、逃げる訳には行かない。
何故なら俺はあの子と約束したのだから。今日もきっと来ると約束したのだから。

足を踏み入れる。黄色い声が飛び、俺は曖昧な笑みを浮かべ、さっと辺りを見渡す。
居た。あの子だ。俺を見てにこりと笑い、さっと近づいてきた。
「こんにちは、御主人様。今日も来てくれましたね☆」
「ああ。だがこれからが大冒険だ。空席がデカたちの隣にしかない」
「大丈夫ですよ。御主人様と一緒なら、私……」

ヤヴァイ、マジでクる。抱きしめたくなるのを必死で抑える。
嗚呼、彼女を家に雇えるだけの金があれば!

俺は金持ちになろうと決心した。


ごめんね、メイド喫茶行ってみたいけど田舎だからないの。
本当はどんな所かも知らないの。
お題出していい? いいなら「電子レンジ」「紙コップ」「革靴」で。
352名無し物書き@推敲中?:2006/07/05(水) 03:07:04
廃ビルの屋上に仰向けに寝そべって、彼らは夜空を見上げていた。
「まだかな、流星群」
体を起こして、安物の赤ワインを紙コップにどぼどぼと注いで、彼女は言う。
「もうすぐだと思うよ。ニュースで1時半くらいって言ってたから」
そう答えた彼の足元には、脱ぎ捨てられた革靴が転がっている。
「ピザ、冷めちゃったね。下に電子レンジがあったけど、まだあれ使えるかな?」
立ち上がって、彼女は鉄製のドアに手をかける。
「いや、壊れてるんじゃないかな。それにここ、電気来てないよ」
そっかぁ、と、彼女は照れて笑う。
「手にサビついちゃった。おしぼり、ある?」
彼も笑って、コンビニのマークがプリントされた袋の中からおしぼりを探す。
「あ。」
彼女が指差したその先を、一つ目の流れ星が落ちていった。

次のお題は「サイレン」「ブランコ」「放課後」で。
ひさしぶりの故郷は、まるで変わってしまっていた。
車が来るたびに道の端に避けていたあの道。石をぶつけて遊んでいた電信柱。
放課後によく寄り道していた駄菓子屋。野球や鬼ごっこをやった空き地。
そういう何かがないものか、探してうろついていたが、なにひとつない。
こみ上げてくるのは、懐かしさではなく、むなしさとさびしさ。そして恐怖。
コンクリートに塗りつぶされた道から、かつての面影を必死で辿り歩く。
なにか、なにかないものか。目の前の道と記憶とを結びつけようと考える。
見覚えのある角度で交わる十字路を見つけたときには、少し涙が出てきた。
そうだ。毎日通った学校があるはずだ。昔歩いた道をなぞるように進む。
門が見えた。その奥にブランコも見える。体育館に校舎。鳥小屋まであった。
ここだけは。ここだけは昔のままだった。涙を抑えることができなかった。
あたりに鳴り響く空襲警報サイレンにも気づかず、ただただ泣き続けた。
しばらくして顔を上げた。晴れた青空に、流れ星のような光が何本も見える。
もう逃げても間に合わない。そう思った。しかし、どこに逃げようが同じだ。
この国のどこでも同じこと。ならばこの母校とともに灰になるのも悪くない。
眼を閉じる。暖かい光に、抱かれたような気がした。

説明不足だし15行にまとまらないし・・・orz
お題は継続でお願いします。
千恵子は2歳になる自分の娘を憎んでいた。
最初は素手で虐待していたが、箒の柄で叩くと自分の手が痛まない事を発見し、
それからは専用の棒を用意して娘を叩くようになった。
その日、娘がした粗相の内容は覚えていない。
とにかく彼女は千恵子を激怒させ、(単に千恵子の虫の居所が悪かったのかもしれない)、
とびきりの罰を与えなければならないという使命感に突き動かされた千恵子は、
ガスコンロで沸騰させた熱湯を、娘の頭にかけ続けた。
他に頼るものがない娘は、「助けて」と自分に熱湯をかける母親にすがったが、
千恵子は毅然とそれを無視し、冷静に750mlの熱湯を娘の頭にかけ続けた。
娘の異常な悲鳴を聞きつけた近所の住民が通報したのだろう、サイレンの音が聞こえる。

執行猶予が付かず、五年の刑期を務め上げた彼女の就職は厳しかった。
しかし、それでもどうにか日銭を稼げるような仕事にありつき、
時には酒を飲み、寿司や焼き肉を食べ、少し上等なブラウスを買うささやかな贅沢もできた。
やがて、千恵子は職場に出入りしている業者の独身男性と恋に落ちた。
ブランコのある公園で男がした愛の告白は、彼女に放課後のデートを思い出させ、
甘酸っぱい気持ちが彼女の心を満たし、千恵子は幸せをかみ締めた。
男と再婚した千恵子は、今度は別れる事無く新たに子宝にも恵まれ、
概ね幸せだったと言える彼女の人生に65歳で幕を下ろした。
355名無し物書き@推敲中?:2006/07/06(木) 16:08:12
彼は公園に居た。あの日と同じように、夕焼けのブランコに座っていた。
「……やっぱり、ここに居たんだ……」
顔を上げた彼の、その顔も、痩せこけてはいるけれど、けれど昔のままで。
「私、あれから、ずっと、ずっと後悔してたんだ。なのに、なのに…」
言葉が続かない。涙が溢れて、顔が見えない。頭が、真っ白になる…。
会って謝りたかった。ずっと謝りたかった。それなのに。私は。
うつむいて、泣きじゃくる私の頭に手が置かれた。私はびくっと顔を上げた。
彼は微笑んでいた。
「長い…、長い、放課後だったんだよ」
穏やかで、暖かい声だった。
私はまた、せきを切ったように泣き出した。彼は私を優しく抱きしめてくれた。
赤いサイレンが、私のかわりに彼を連れ去った日から、ちょうど二年の日のことだった。


長い放課後 の検索結果 約 2,870 件中 1 - 10 件目 (0.53 秒)
This is The 陳腐! 描写が下手すぎていけません。よろしければ、お題続行で……。
356名無し物書き@推敲中?:2006/07/06(木) 16:10:20
すまん、書く前にリロードしときゃよかった。今は後悔している。
キィ……キィ……キィ……キィ……

サイレントヒルばりの濃霧の中、どこかでブランコを漕ぐ音が聞える。
あの独特の軋音、やや錆びの浮き始めた鎖たちの悲鳴は右から聞えてくるようでもあるし、
或いは真逆の方向から聞えているようでもある。
50センチ先も見えぬ狂気じみた乳白色の壁は音をすら拡散し霧消させている。
私は眼も耳も奪われ、ただ漠然とブランコの奏でる耳障りなノイズを聞いていた。

キィ……キィ……キィ……キィ……キ……ガタンッ………


私はさる無名私立小学校の教師である。
今日は放課後遅くまで学校で夏休みの宿題を作っており、用務の男を除いては私一人が学校に残っていた。
気がつくと10時を回っていたので、そろそろ引き上げ時かと校舎を出、駐車場に行こうとしてこの霧に呑み込ま

…………ペタッ…………ペタッ……………ペタッ………


誰かが、こちらに近づいて来ている。
どの方向から音が聞えて来るかも分からないにもかかわらず、
何者か、或いは何かがこちらに近づいてきている事がはっきりと分かった。



足音は徐々に間隔を縮めてゆき、音は確実にこちらに近づいて………



表示により15行のはずw
次は「アルコォル」「冷気」「下水道」で。
358「アルコォル」「冷気」「下水道」:2006/07/08(土) 12:55:10
下水道の臭気がいきなり鼻を打った。
もう慣れたはずなのに、正気に戻る度に自分のいる場所を思い知らされる。
傍らに転がるアルコォルの瓶をぼんやりと撫でながら、いつもの疑問を反芻した。
何故こんなことになったのだろう……?
瓦斯洋燈の灯が、想念に反応したかのように微かに揺れた。
このじめじめした下水道で目覚めてから既に幾星霜もの年月が経ったように思える。
だが……減らないアルコォルと消えない瓦斯の灯は一体何を物語っているのか?
身を苛むような空腹感は常にあるものの、痩せる気配は一向にない。
何も食べていないのに。
ふと冷気が強まった気がして、私はカーディガンの前を合わせた。
既に柄さえ判別できなくなったスカートを、薄汚れてしまった脚に巻き付ける。
そもそも私は誰なのか。それすらもわからない。
時間を知らせてくれるのはただ月のものだけだったが、それすらもいつしか止まっていた。
出口のない疑問にいつものように疲れ果てた頃、いつものように眠気がやってきた。
お寝みなさい。今度こそ目覚めなくても済みますように。

「RPG」「存在」「虚無」
359存在、虚無、RPG:2006/07/08(土) 13:14:02
買ったばかりのRPGのゲームを私は寝ずにやり続けていた。真っ暗な部屋にテレビ画面の光だけがカーテンの隙間から漏れている。
私の存在は闇に溶けてゆく。きっと明日いなくなったとしても誰もきづいてはくれないだろう。
このRPGのなかにしか自分が生きている証をみることはできない。でもこのゲームにも終わりはある。それを考えると私はなんて簡単に幕を閉じるんだろうと笑ってしまう。
新しい章に入った。画面のなかの私はどんどん進む。けれど実際の私は進むことをやめている。虚無感が襲った。無性に泣きたくなった。声を出さず私は手を止めて泣いた。
それは夜だった、私は涙を飲み干した。なぜかあたたかいものを感じた。
「ぬいぐるみ」「毛糸」「太陽」
360シュールっつうかデムパ:2006/07/08(土) 23:18:13
「ぬいぐるみ」「毛糸」「太陽」

「伯爵、大変困った事になった。私のぬいぐるみから太陽が出てきた。」
「ふむ、それは一体どういう意味だ?」
「ちょっと毛糸がほつれてたんだ。
 それを引っ張ったらぬいぐるみがとけて、中から太陽が出てきた。」
「全く困った奴だ。……毛糸はどうした?」
「毛糸? ああ、まだあるが……毛糸をどうするんだ?」
「今すぐに巻きなおして来い。元々太陽を包んでたのだから燃える事も無いだろう。
 ただでさえ熱い季節にもう一つ太陽が出られては敵わん。
 もし耐え難く熱いようなら手袋をはめるんだな。」
「わかった。普通に巻けばいいんだな?」
「ああ。お前が凝った巻き方を出来るとは思えないからな。」

「蒼鉛色」「落下」「座敷」
361デムパニゴウ:2006/07/10(月) 23:35:37
「蒼鉛色」「落下」「座敷」

七夕も過ぎた夜。河川敷に茣蓙を敷き、ごろりと寝転び、夕涼み。
そらを眺めるかたち。眼を閉じ、焦点を世界に放つ。
井草の臭い。
祖母の家の、仏間に繋がる座敷。

縁側から見える空。
蒼鉛色のそら。
自由落下。

僕のからだ。

「芝生」「紙袋」「発泡酒」
362塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/11(火) 00:44:40
成る程、ここでは電波を吐けば良いのか。
「芝生」「紙袋」「発泡酒」


先ほどから発泡酒を追いかけている。
こいつと来たら癇癪持ちで、ちょっと手が滑って落ちただけで激怒し、
芝生の上を猛烈な勢いで転がりはじめたのだ。
私は芝生の持ち主に見つからぬようと願いながら、この小癪な発泡酒を追い回している。


どれくらい走ったかだろうか。
ふと発泡酒から目を逸らすと、紙袋が落ちているのに気がついた。
中を確かめてみると、缶ビールが一本入っていた。
いい加減に疲れていたので、発泡酒は諦め、この缶ビールをもって帰ることにした。

私がもはや追いかけてこないことに気がついたのか、発泡酒が不審げな表情でこちらを見た。
缶ビールを見せてやる。すると、発泡酒はばつが悪そうにしてこちらに転がってきた。
どうも妬いているらしい。お前が買ったのは私で、そのビールではないと言わんばかりの顔だ。

妙に可笑しくなって、くすくす笑いながら紙袋を置き、発泡酒を手に取った。
ビールはきっと誰かが飲むだろう。何しろ本家本元なのだ。

発泡酒が、今度は落とすなよとぶっきらぼうに言う。無論言葉はない。私には発泡酒の心がわかるのだ。
私はああと答えた。午前一時十分前だった。


「理不尽」「貴婦人」「武人」
363名無し物書き@推敲中?:2006/07/11(火) 23:26:16
「理不尽」「貴婦人」「武人」

囚われている。
山のむこうからやってきた異教徒たちは、家を焼き家畜を解き放ち、領民をみな殺しにした。
領民の女たちは城に集められ、異教徒たちが中庭で飲みさわいでいるのを聞いている。
器量のよしあしにかかわらず、異教徒たちは手近な女を引っぱってゆく。
一人、また一人、樫の扉のむこう、めらめらと燃え上がる焚き火のそばへと連れ去られる。
私は目を伏せる。異教徒たちから逃れるためではない。
女たちは、それはもう、毒をしたたらせるような目で私を見るのだ。
「いぎたない御方じゃ」「こげなときだけ」「さっさと連れてゆかれればよいのに」
女たちのあまりに理不尽なささやきが、わたしの頭のなかをどくどくと打つ。
私は言い返せない。連れてゆかれたあとのことは怖ろしいが、この場も十分に耐えがたい。
私はついに背筋を伸ばし、反論を試みる。女たちが笑う。
「異教徒は、お屋形さまみたいな貴婦人には、畏れ多くって手は出さねえよ!」
女たちはどっと笑う。神経に障るような哄笑が部屋にうわんうわんと響きわたり、
そうしてどんどんヒステリックに、終わることなく高まっていく。
異教徒の一人が、ちらと顔をのぞかせた。哄笑は一瞬で収まり、異教徒は私を見た。
「来い」
異教徒が私の腕をつかむ。女たちは舌なめずりするように私を見ている。
私は懐刀で異教徒を刺し、すばやく彼の太刀を引き抜き、とどめをさす。
そうして今まで身にまとっていた女衣裳をはぎとり、女たちにむかって投げつける。
「私は武人だ。父上が私を逃がすため、女の格好をさせはしたが、
死ぬるときは武人として死ぬぞ!」
私は太刀を握りしめ、中庭へ通じる扉をくぐる。

お題「濃縮」「実験」「使節」
364名無し物書き@推敲中?:2006/07/12(水) 08:56:39
「濃縮」「実験」「使節」

放課後特有の、濃縮された睡眠時間がもたらす、心地良いひとときの夢。
「でもそれってひどくない?」「絶対ひどいって〜!!」
夢の世界は大抵唐突に、遠慮ない彼女らの奇声や嬌声によって終焉を迎える。
「や、でも俺も悪いとこあるかもしれないから・・・。」
「ケイちゃんは何にも悪くないよ!」「美術部だよね?ユミって子。ウチらちょっと言ってきてあげるよ!」
彼女らが怒りを教壇にも御裾分けするものだから、僕はフリーザを倒す機会を完全に失った。
「え、でも・・・。俺が我慢すればいいから・・・。」
控えめなケイタの制止は効果を成さず、彼女らは教室から足早に去っていった。

「あれ?リョウ起きてたの?」
にやけた顔で僕に微笑むケイタからは、先程までの純粋そうな雰囲気など微塵も感じられなかった。
「お前・・・ああなるように仕向けただろ。なんで?ユミお前のこと好きなの知ってんだろ?」
あぁ、なんで、なんでコイツなんだ。どす黒い、濃縮されたヘドロのような感情が体内を蠢く。
「あのね、リョウ。これは実験なんだよ。あの子は俺の何が好きなの?外見?それとも人気?
ミカさん達はいわば、そう、それを確かめるための使節団。少し過激だけどね。」
差し込む夕日のせいか、少し目を細め、心底楽しそうに言ってのける彼。


首に巻かれたベルト 広がる液体 もう笑わない彼。


お題:「引越し」「小判」「鎖骨」
365「引越し」「小判」「鎖骨」:2006/07/12(水) 14:57:24
「お主もワルよの」
「お代官様こそ」
 ぐふふぅ……と汚い顔でほくそえむ、二人の悪党眼下に置いて、
ごきぶり小僧は様子を見ていた。いつ彼奴らを懲らしめようか、
その機をじっと計っていた。
 決断は急を要する。引越し前は当たり前、大判小判を収める時か、
酒宴の最中に飛び込むか、いや人が増えると面倒か、と飛び降りる。
「やいやい! おめぇらの悪行は、こちとら全部――」
「む、曲者」
 と悪党のおっとり刀が袈裟切りに切ったのは、小僧の鎖骨と肋骨と、
わき腹までの致命の一閃。
 小僧は絶命する。悪党は見合わせる。こんなのもたまには良いではないか。
 急転、一人、二人、いや三十人以上のごきぶり小僧が天井から降ってきて、
たちまち悪党どもを取り囲んでしまった。これは……手下の数より多い。
 こうして小僧溢れる部屋の真ん中、悪党は大人しく観念しましたとさ。

次「ゴキブリ」「うちわ」「花火」
366塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/13(木) 22:22:42
「ゴキブリ」「うちわ」「花火」

ゴキブリを生け捕りにする事に成功した。奴は今ゴキブリホイホイの中だ。
……が、こいつ、一体どうするべきだろうか。エアコンは修理に出していたので、うちわを扇ぎながら考える。

普段なら勿論そのまま捨ててしまうのだが、私は発泡酒500mlを一本空けており、少々ではあるが酔っていた。
それに、見たことのある方なら分かるだろうが、
奴は手足が動かないもんだからと余計に触覚を動かしており、それがなんとも不愉快に映った。

“何とかしてこいつをいびってやりたい”
……酔った思考は時にとんでもないことを思いつき、或いは思い出す。
私は少年時代、セミに爆竹をつけて飛ばすという遊びをしていた事を思い出した。


爆竹は無かったがロケット花火があった。午前一時半を回っていたが周囲には殆ど家が無かった。
私は邪悪な笑みを浮かべ、ゴキブリの四肢、もとい、六肢を切り取り、ロケット花火にセロテープで巻きつけた。


3、2、1、ファイア。




「箱」「蛸」「二個」
367名無し物書き@推敲中?:2006/07/13(木) 22:37:24
 夕焼けが西の山に消えた頃、打ち上げ花火の音が響きだす。
 はじまったなと、ビール片手に父が縁側に座った。
ぱたぱたとうちわをあおぎ、シャツのなかに風を送っている。
「かあー、うまいね」
 ぐびりと半分になったコップを板に置いて、うちわをせわしなくはためたかしている。
「はあい、お待ちどうさまあ」
 たくさんの唐揚げを載せた盆を持って母がやってきた。
「おお、待ちかねたぞ、これこれ」
 父が唐揚げをひとつ口に入れ、ぽりぽりと齧るとまたビールをぐびりと飲む。
それからくちくちと歯に挟まったものを取り出し、再び口の中にいれ、
カリカリ噛み砕いて飲み込んだ。あんまり汚いから思わず文句を言ってしまう。
「もうやめてよね」
「これがうまいんじゃないか。ノリコも喰えよ」
「もう、すぐごまかすんだから」
 不機嫌になりつつ、差し出された唐揚げをつまむと口に入れる。口の中に、
ふわあっと焦がした匂いがひろがり、ジュワリと染み出した汁が、舌の上を転がる。
「ああ、おいしいわ。でもこれ、日本じゃ、みんな気味悪がって食べないんだよね」
「日本ってのも変な国だな。ビール飲むくせにゴキブリのひとつも喰わねえんだからよ」

 遅かった。せっかくだから書き込み。
 お題は>>366の「箱」「蛸」「二個」
368「箱」「蛸」「二個」 :2006/07/14(金) 01:35:49
 巾着袋のような笑顔がチャーミングな宅配業者から馴染みの箱を受け取ったとき、私は嬉しいも
のを喜べなかった。送ってくれた友人パティシエには悪いと思うが、タイミングが悪いのだ。
 友人は新作を作るたび、こうして送ってくれる。中には、いつもの通りなら二個、つまり二人分
のスイーツが入っている。これは二人で暮らす私への、友人の心遣いである。が、私はその同居人
と昨日、不毛な喧嘩をしたばかりだった。
(スイーツは一人で食べよう)
 心は即座に決定した。箱を開けた。フルーツ・ムース! 肌理が細かくて、とても美味しそう!
付属のスプーンで一口食べた。やはり美味しい。しかし、情けない気持ちになった。
(まるで、仲間に餌を分けようとしないサルみたいだ)
 自分がいやしい人間のように思えて、嫌な気分になった。蛸のようにヌメッと同居人の部屋を見
る。吸盤のようにピタッとドアに焦点をあてる。暫くして私はムースを一個手に取った。包装紙と
ビニール袋で二重に包む。それを冷蔵庫の奥に入れる。このムースは同居人の分だ。優しい私は取
っておいてあげるのだ。しかし今見つかると不愉快なので、厳重なカモフラージュを施したのだ。
 再びムースの前に戻り、食べた。美味しい。
(まったりとして、それでいて軽やかな舌触り。フルーツが舌の上でワルツを踊っているよう)
 私はひっそりと、分け合ったスイーツを満喫した。

−−−−−

「ガマ」「梅雨」「石」
369「ガマ」「梅雨」「石」 :2006/07/14(金) 13:04:02
 
 人気の絶えた山奥。梅雨の残雨が滴る夜のことだった。
 男は踏み台に登り、ロープで作った輪に首を潜らせた所で、足元で
いつのまにか蹲まっていた一匹の蟇蛙に、眼を留めた。
 石のような肌を震わせ、鳴くでもなく、頬を膨らませるでもなく
振り落ちる雨を浴びながら、蛙は男を睨みつけてくる。
 男は、たった一匹のガマ如きに見取られる己を顧みて、静かに嗚咽した。
 ひとしきり涙を流した所で、男は引き返すべき路が、まだ残されて
いたことを思い出した。それは家族であり、愛であった。
 滴る雨が心地よく、男は妻や娘の名を唱え、自らの非を一人詫びた
後、蟇蛙に礼を言って、ロープから首を――。
 蟇蛙がぐるぐると鳴き、その場で高く大きく、飛び跳ねた。
 突然の跳躍に驚いた男も、蛙に釣られるようその場で跳ねた。
 
 ぎしり、と枝が強く孤を描き、蛙を引き潰したような音を立てた。

 転がった踏み台の上、蟇蛙は雨を浴びて、静かに咽を鳴らした。


「汗」「風邪」「銀」
370「汗」「風邪」「銀」:2006/07/14(金) 21:21:26
風邪を引いた、とあの男がやってきた。またか、と思った。
「体が重いし、関節が痛いし、熱もあるのです」
男はそう言い、私はそれに応じて形ばかりの診察を始めた。目、喉、そして、胸。
胸に聴診器を押し当てているとき、ふいに男に喋りかけてきた。
「どうですか、なにか、おかしいところはありますか?」
私はそれに応じる気も起きず、静かにしてくださいね、と答えた。

…男の身体は何の異常も無かった。念の為、とりあえず薬は出しておきましょう。私はそう言った。
男はそれに満足したのか、してないのか、礼を一言言うとのっそりと立ち上がった。
私はそんな男の姿を見つめた。銀色の頭、銀色の手足、銀色の体!
”最早、病気も老いにもさようなら!”そうはやし立てるマスコミに乗せられた多数の中の、一人の男。
幸福な男。優位な男。夢のような、体…。

私は喉まで出かけた言葉を飲み込み、言った。
「お大事に」
汗をかくことも、最早無くなっている両手を硬く握りながら。


「携帯」「母親」「ひきつり笑い」
俺の携帯電話の待ち受け画像は母親の顔写真だ。
しかし断じてマザコンではない。道行く人に写真を見せて、母親の居所を探るためにこうしているのであって、
俺はむしろマザコンとは正反対の人間だ。復讐するために捜しているのだ。
通りすがりの人間に、蒸発した母を捜しています。と言うと気の毒そうな顔をされるが、写真を見せると変な顔をされる。
俺が母親似でないからか?確かに彼女は俺の親とは思えないほどに美しい女だ。
ある日とうとう彼女の転居先を突き止めた。
呼び鈴を鳴らす。
警察を呼ぶぞ、と脅す彼女の父親の後ろから彼女が叫ぶ。
「もうどこまでつけまわすのよ!母親母親って意味わかんない。あんた私より30も年上じゃない!」
転校先の高校はセーラー服か。清純そうに見えても腹の中は真っ黒だ。
なにせ自分の子供を決して認めないばかりか罵声を浴びせさえする母親失格の最低女だ。
この酷い女に天誅を下すべく、引きつり笑いを浮かべながら復讐のプランを練る俺の腹には
でっぷりと内臓脂肪がつき、頭髪にはちらほらと白髪が混ざり始めていた。

「台風」「魚」「玉」
372塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/14(金) 23:11:51
携帯が、鳴っている。

電池の抜かれた、携帯が。

鳴っている。


ピ。


「……フフ……分かってるでしょう?……
 どんなにあがいても……フフ……アンタは逃げられないのよ……クフフフフ……
 ……母親を殺すような人間が……まともな人生を送れるわけないじゃない……フフフ……
 死ぬまで……いや……死んでも……ずっと……ずっと苦しめてやるわ…………クフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」


ピ。


選択の余地はなかった。刺し殺さなければなぶり殺されていた。

携帯を投げ出し、ベッドの隅にうずくまる。

今後もこの電話は続くだろう。携帯を捨てても、母は何らかの手段で私を苦しめるに違いない。

どう転んでも苦しむしかない人生。何故か笑いがこみ上げてくる。

狭く薄暗い部屋は、引きつった笑いで満たされていった。


があっ、越されたか! お題は>>371で。
373「台風」「魚」「玉」:2006/07/16(日) 17:43:13

その朝、男はひどい痒みによって、目を覚ました。
蚊にでも食われたのか、人差し指がぷっくりと腫れ上がっていた。
まるで魚の目のような腫れを見て、男は先日の台風によって傷ついた網戸の
穴を早く塞いでしまわなければと、溜息を吐いた。
だが、そうした修繕も仕事を終えてからだった。今日も変わらぬ一日が始まるのだ。
男は朝食の用意を行いつつ、パソコンを立ち上げてニュースサイトに目を落とす。
見慣れた文字が、Topで踊っていた。

「○○県○○市」「――実験施設で事故」「稀少な虫を多く扱って」「外出禁止」
○○市。それは紛れも無く、男の住む町のことを指していた。ここで何かが起こって
いるのは間違い無かったが、マスメディアは何処か核心を濁している感が否めなかった。
そこで男は総合巨大掲示板へ飛んだ。世間が行う清濁の書き込みから何かを掴もうとして。
『虫に刺されたら人生終了ってマジ?』『ウオノメ → ビー玉 → 患部から脳 → ヤバイ』

何を言ってるんだ、こいツら。馬鹿バカしい。所詮は汚所の落書き……ラクガキ!
男は、パチンコ玉程に膨れた虫刺されを爪で掻きながら、毒を吐いた。
視界が妙に広く、細かく見える気がする。息を吐く度、キィキィという音が喉から――。

「文庫」「使役」「幻想」
374名無し物書き@推敲中?:2006/07/18(火) 01:20:53
「文庫」「使役」「幻想」

 本屋に入り、文庫コーナーから一冊抜き出す。するとポンッと緑色のツノを
生やした小さな化け物が現れ、片手をあげて「オッス」と挨拶してくる。
「今度、ご主人様に使役することになりやしたガスってもんです。ヨッシャ、
自己紹介がてら、その辺の奴らを始末してきやすぜ」
 化け物のガスの姿が掻き消えると、店内のあちこちから水の噴き出す音がした。
 本棚から顔を出すと、何人もの人間が血を流して倒れていた。幻想かと
思った。人間の中心にガスがいて、高々と人間の腕をあげた。
「ご主人様〜。ごはんですよー」
 ガスはニッコリ笑うと腕を喰いちぎり、グチャグチャ咀嚼しはじめた。
「モゴモゴ、喰わないんですか? これなんかいけますよー」
 ガスが人間の頭を蹴飛ばすと一瞬で壁に激突し、ただの肉の塊になった。
 唖然としていると誰かが店に入ってきた。女の子だ。両手を口に持っていき叫び声を上げた途端、何かに貫かれ、バタリと倒れた。首のうしろにぽっかりと丸い穴が開いていた。
「うるせぇっての」
 ガスが、指の先から立ち昇る白い煙をふうっと吹き飛ばす。
「さてと、腹ごなしもすんだし。いきやしょうか、ご主人」
 ガスに腕を引っ張られ、女の子を踏まないように首の穴を踏んで、外に出た。
375名無し物書き@推敲中?:2006/07/18(火) 01:48:45
次のお題は「約束」「魚」「鎖」
376「約束」「魚」「鎖」:2006/07/19(水) 13:12:50
『Chicken(鳥)? or Fish(魚)?』
中東での出張を終えた私は、機内食に日本料理が出るということを
理由に、あまり名の通っていないこの航空会社を帰国の足に選んだ。
金目鯛の頭付きを主に据えたこの魚料理を、日本料理と呼ぶには
少々抵抗があったが、焼き魚から立ち上る磯の香りは、私の望郷の
念を突き動かすに、十分であった。

私の隣に座わるアラブ系の老人は、鳥を選んだようだった。
彼はアラビア語で何かを呟いた後、編み鎖のような豪奢な顎鬚を
撫でながら、膝に置いた鞄を探り始めた。
『ああ……あった』英語でそう呟き、老人は自らのトレイの横に
何かを置いた。
鈍い緑色をした、房の小さなパイナップルのようなそれは、何処から
どう見ても、手榴弾だった。
私はフォークを取り落とし、言葉を失った。
手荷物検査の杜撰さを呪い、出張から帰ったら旅行に行こうと約束を
していた妻の面影が、脳裏を過ぎった。
『ははは、驚いただろう』
蒼ざめる私に、老人は実に茶目っ気たっぷりな微笑みを見せてから
手榴弾を上下に勢い良く振り、それをトレイの上に掲げた。
『すまないね。これは我が家秘伝のドレッシングを入れた容器さ』
機内食のややしなびたサラダに、甘酸っぱいオイルが滴り落ちた。

「箱」「帰」「赤」
377376:2006/07/19(水) 19:53:25
題目訂正。
「箱」「帰郷」「赤」
378塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/19(水) 23:43:08
「箱」「帰郷」「赤」

朝起きると、目に見えるすべての物が全く奇妙な色に変容していた。

普段見慣れたベージュ色の壁はやや薄めの緑、私の手は濃い水色、
そして、赤い目覚し時計は真っ黒になっていた。

これは一体どうした事かと鏡を見ながら頭をひねる。
どうも「赤」がなくなったらしい。私の目がおかしくなったのかと思い友人にメールを送ったが、
こちらも「赤」がなくなった、との返事を得た。


テレビをつけると、甚だしく顔色の悪い評論家たちがこの珍現象について色々述べていた。
その中で、誰かが「『赤』も帰郷するものなんですねえ」と冗談めかして言っていたのが強く印象に残った。
なるほど「赤」の帰郷か。しかし、彼らは一体どこに帰ったのだろう……
そんなことを妙に冷静に考えていると、どこからかガタゴトと音が聞える。
音の源を調べると、以前誰かから貰った、鍵つきの小さな箱だった。

何も入ってなかった筈だがと鍵を開け蓋を開けると、
中から強烈な「赤」が、目もくらむような鮮烈な「赤」が、勢いよく飛び出してきた。
箱の内側は「赤」で満たされていたのだ。


取り残された私は、ああ、すまなかったな、と意味もなく呟いた。


「猫耳(*注 ネコミミも可)」「ダンボール」「プロレス技(*注 具体的な技名も可)」
379名無し物書き@推敲中?:2006/07/20(木) 00:49:56
猫耳というものをご存知だろうか。
パーティグッズによくある、猫の耳の形を模したアレである。
今、神妙な顔つきで私の目の前に座っている小柄な彼女の頭には、
猫の耳を模したカチューシャが乗っていた。
ここがコスプレパーティの会場だったらさぞ似合っていたことだろう。
しかし残念ながらここは私が人事担当を勤める会社の、面接試験会場なのだ。
上から下まで非の打ち所のないリクルートスーツ姿であっただけに余計に異物感を覚えてしまう。
これだったら、茶髪やピアスのほうがまだマシに思えた。

「では、お名前からお願いします」
「裏冠 らなです。現在××大学商学部に在籍しています」
プロレス技か?と思えるような名前だが、最近では珍しくない。
騎士君や天馬君だっている時代だ。雇用機会均等は法律で保障されているのだ。
どうにもならない出自で本人を責めることは出来ない。
「……それで、現在はご実家にお住まいなのでしょうか」
「いえ、両親はおりません。ダンボール箱に入れられて、橋の下に捨てられていたところを
親切なご主人様が拾って育てて下さったんです。」
もはや洒落で言っているとしか思えない与太話を、真面目な顔で語ってくる。
その雰囲気は毎年面接に来る新卒学生そのもので、面接官として見てもとてもふざけているとは思えない。
どう猫耳のことについて切り出すべきか、私の中でその悩みだけが大きく膨らんでいった。

「麻雀」「海」「ビニール袋」
380名無し物書き@推敲中?:2006/07/20(木) 04:40:45
真夜中の大海原。4人の男。遭難。暗闇の中声を掛け合う。
4人はひとつの板に集まり立ち泳ぎ。
ひどい船だったな。豪華客船というふれこみだったが。
沈んで当たり前だ。
娯楽室にマージャンテーブル一台って言う船だ。
おい朝日だ。夜が明けてみると男たちがしがみついていた板は
マージャンテーブルだった。
パイもあるんだなこれが。やるかよしやろう。ジャンジャラ。
1億勝つもの。10億負けるもの。
死を忘れ4人は海の上のマージャンを楽しむ。
嵐が来て一人消え。夜が明けるとマタ一人いなくなる。
一人の男がタバコをふかし始める。不審に思ったもう一人が聞くと、
ビニール袋にいれていたという。
まるで沈むのがわかっていたようだな。
「疑っているのか」「いやもう同でもいい。この景色を見れただけで」
2人は沈み行く夕日を大海原の真っ只中マージャン台のそばで見つめた。
「宇宙」「セミ」「源泉徴収表」

 秋に差し掛かろうとする夕暮れ時。蜩の唱和がそよぐ自宅の庭で
私は一人、何かを思うでもなく、呆然と佇んでいた。
 社員章や源泉徴収表等、私の社会的地位に関する諸々の書類を炎に
くべる。飴色の風に炙られたそれらは瞬く間に灰となり、朽ちていく。
 かつての勤め先は、右も左も解らぬ若造であった私に、資本社会や
人間の抱え込む宇宙――それは即ち、透き通った闇だと思うのだ――を
叩き込み、プロフェッショナルとして鍛え上げてくれた。
 しかし、私は満たされない衝動を抱えていた。だから、初夏にヘット
ハンティングの話を持ちかけられた時、私は二つ返事でそれに乗った。

 だが、疑うべきだった。闇を、その奥底まで見通したと思い込んで
いた私は、自らを過信し、闇を輩とすることが出来なかった。
 この引き抜きは、なんと社長自ら行っていた偽装工作で、結果私は
忠義を欠く者としてまんまと炙り出され、放逐されたのだった。
 ――我が社に、目先の利益に飛び付くセミプロは必要無い。
 夏の戒めに縫い留められた今の私に、秋の足音は聞こえない。

「団欒」「背徳」「オルゴール」
382名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 01:14:47
団欒と書いた紙を夕食のテーブルに載せて、娘にこれ読めるか聞いてみる。
「ダン・・・わかんない。お父さん答え教えて」
「どうしよっかなー」「教えてよー」「パパ教えてあげたら」
こんな感じの毎日は、ある男の狂気によって3年前に突如消え去ってしまった。

「長さん、だいぶ疲れていますね」止めた車の中で、私と部下の二人は道の反対側にある廃工場をにらんでいる。
何が動きがあるはずだ。
「・・・マタ思い出しているんですか」
部下は工場を見つめたまま感情をこめずに聞いた。気を使っているのがわかる。私の心は絡まってしまった縄だ。どんな口調も
私を混乱へ導く。そういう状態に私が陥っていることは隠しもせず部下とも話し合っていた。
「・・・大丈夫だ。お前が思ってるようことじゃないよ。そうじゃない。」これはうそだ。
張り込みは時に何時間にも及ぶ。この仕事の最後の詰めだ。ここでしくじれば仲間に合わす顔がない。
緊張し続けなければいいけない。しかし、ついついあのときの光景を思い出してしまう。
あの雨の日の惨劇を。
383名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 01:15:36
「・・・手がかりはオルゴールの音色ですか」
ぎくりとして部下を数秒凝視した。こころを読まれたような思いにとらわれて口が聴けなくなった。
「・・・確かにオルゴールの音色が聞こえたと証言はあったが、それもはっきりしてはいない」
そういいつつも、オルゴールの音色がしたという手がかりだけでこの3年生きてきたようなものだった。

犯人はあの工場にいる。この3年、私を励まし支えてくれた仲間たち。わたしは彼らの支えで立ち直ったようなフリをしてきた。
いや立ち直ったと自分でも思っていた。
しかしやはり、このときを向かえ、私は道徳に背を向けることしかできない。
信頼してくれた部下にうそをついてまでも。やつをこの手にかける。
「・・・長さん、長さん」遠くのほうから部下の声が聞こえる。また記憶の底をさまよっていたようだ。
そして私を記憶の底から引き上げようとする部下の声の後ろにある音色が追いかけてきた。私はそれをがっちりつかんだ。
「長さん・・工場からオルゴールの音色が・・」興奮して振るえる部下の声。
「落ち着け」私は落ち着いていた。何度も何度もこの日のことは思い描いてきた。
どうしてやろうか散々考え抜いてきた。手順どおりにやるだけだ。この部下には悪いがここで寝ていてもらう。
ここからの時間は俺と俺の家族とヤツだけでつかわしてもらう。
私はスタンガンを取り出した。すまん。
「コンビニ」「銃声」「台風」
384名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 18:17:34
「ご覧ください。子供たちの遺体が山となっております」
 戦場レポーターは、勤めて冷静に目の前の光景を視聴者に伝えようとしているようだ。
戦争が始まって10年。世間の関心はすでに遠く。
ここバグダッドの血みどろの争いは現在でありながら伝説化していた。
 サラームは廃墟にもたれかかりタバコの先を放心した状態で見つめていた。
見つめてはいるが、先ほどからの騒ぎには耳を澄まし、時折盗み見をしていた。
はじめのうちは興味本位でそばの騒ぎをそのままにさせていたが、
サラームは外国語に少しイラついたいたのかもしれない。
立ち上がり、撮影クルーがいる広場へ向かう。
何人かがサラームに気づき、緊張した面持ちで回りにサラームの存在を伝えていく。
ほぼ全員がサラームを見つめていた。
報道クルーを警護する傭兵達がサラームに近づき話しかけ、納得して仲間にその内容を伝えていく。
「なんでもない、なんでもない」クルーたちはそういいあい、再び撮影を開始する。
サラーム確かになんでもない男だ。はじめはイラク兵だった。気づけば米軍にいた。
そのうちまたイラク兵になり、個人のガードをやり、
自分でもなんだかわからない存在になっていた。ただ、今は静かにしてほしい。
ここでの撮影はもうすぐ終わるという傭兵の話だったから
このままここで眠り、起きたころには砂漠の夕日が見られるだろう。
385名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 18:18:39
「タバコはどうですか」
アラームはすっかり熟睡していた。誰かが声をかけていたが、
はじめのうちは夢の中でタバコを探していた。夢の中でいらいらして、そのまま目が覚めた。
「…」
アラームは手を出す。メガネをかけた小さい男がアメリカ製のタバコを差し出す。
ここではタバコは挨拶だ。遠慮なくもらう。
タバコに火をつけ、夕日を探すが、少し遅かったようだ。直前に沈んでしまっていた。
かすかな残照が砂漠を照らしている。それもまたよしだ。
少しの間無言でタバコをふかして様子を伺うが、メガネの男は何も話さない。
その男自身はマタ別の銘柄のタバコを取り出しすい始める。マタ無言だ。
二人は黙って砂漠が暗くなるまでタバコをふかしていた。
「酒でも飲むか」アラームは沈黙がいやになり、男に声をかけた。
メガネの奥で安どの表情を浮かべた小さな男は、名前を名乗った。(佐藤と言った)
「酒なんていいんですか」と当然の質問をしてきた。アラームはこの瞬間が楽しみだった。
誤解している外国人を驚かせるのが。
 アラームは立ち上がり、暗闇の中佐藤を案内して、近くのコンビニへ向かう。
明からにその一帯だけ、雰囲気が違う。真の暗闇が支配する砂漠でそこだけ光り輝いている。
神秘的ですらある。
隣で驚いている佐藤をにんまりして見つめて、アラームはコンビニの中へ入る。
386名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 18:19:53
急激に快適な空気がアラームをたじろがせる。然しなれないものだ。隣の男はどういう表情なのか見てみるが、
アラームには彼が何を考えているか理解できない。
「そういえば、何であんた一人だけここにいるんだ」
「…」怪訝そうな顔ヲする佐藤。今度はこっちが驚くばんだった。
アラームが寝ている間にあの広場で戦闘があったらしい。
そんな気づかないはずはないと思うが、佐藤の顔は真剣だった。
「俺が寝ている間に、佐藤以外が全員殺されたっていうのか」ありえない話だ。
ここでの戦闘は10日くらい前だ。前線は別の場所に移っていた。かなり安全な場所であるはずだ。
いやありえないのは、アラームが気づかず眠りほうけていたことだ。恥ずかしい話だ。
銃声はしなかったのだろうか。いやおかしいと言えば佐藤だ。なにかありそうだ。
 難しい顔で店内を意味もなく歩くアラームをよそに、佐藤は酒や食料を籠に入れてレジについていた。
アラームは佐藤を中国人だと思っていたが、
レジのチャンさんとは話が通じてないようだ。チャンの英語はかなりひどい。
コンビニの外に出ると、細かい砂がアラームの体を打ち付けてきた。
387名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 18:20:35
「砂嵐だ。これからすごいことになる」アラームはにんまりと佐藤に微笑みかける。
むっとした顔で佐藤は
「日本にも台風というのがありますから」と教えてくれた。然し話を聞くと、ぜんぜん砂嵐のがすごい。
驚く顔を見たいものだとアラームは思った。
「然し、コンビには大丈夫ですか」佐藤は後ろを振り返り、すでに砂塵に隠れたコンビニのあった方角を眺めている。
「大丈夫だ」
「どうしてですか」
「あれは夜のうちに移動するんだよ」
「どうやって」
「ヘリで持ち上げて前線に運ぶんだよ。おれもそれについていかなきゃならないから、酒盛りしたらさよならだな」
「なんでそんなことを」
「知らん。アメリカのやることはよくわからん。旗たてる前にコンビニを立てるのがアメリカ流だ」
「そういえば日本もそうです。まず吉野家が進出する。吉野屋っていうのは、ビーフのライスボールの店なんですが」
アラームは佐藤を疑い始めていたが、ビーフのライスボールと言うのが気になった。
酒飲んだら酔っ払わして正体をはかしてから殺してしまおうと思っていたが、日本と言う国に興味が出てきた。
隠してあったサイドカーに佐藤と荷物を押し込む。旅の途中で面白い話がきけるかもしれん。何かあれば殺すまで。
「酒盛りは走りながらだ」暗闇の中、二人の男とコンビニを追う旅が始まった。
388名無し物書き@推敲中?:2006/07/22(土) 18:22:15
次のお題は「廃墟」「侍」「キャデラック」
389名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 12:46:55
「遅かったかな」
 暗闇の中、無数のかがり火と、緊張した声が遠くのほうからかすかに聞こえる。
私は愛車ジムニーの運転席で、じっと息を潜める。
かがり火に照らし出された軍団は鎧兜に身を包む、明智光秀の軍勢だ。
彼らが取り囲んでいる建物が本能寺である。
少し離れた山の中腹に調査のために走り回ったジムニーを隠したのが夕暮れ前。
私は日が暮れるのを待っていた。寺の方角で騒ぎが起こりつつある。
 ジムニーは、スズキが市販している軽自動車である。
軽量で小型ボディのパートタイム4WDであり、オフロードでの走破性が高いとされている。
 タイムマシンに改造されたジムニーのエンジンに火を入れる。この仕事にうってつけだ。
このまま山を駆け下る。飛び跳ねるジムニーを制御し、クラクションを鳴らす。
「敵襲」
 明智の軍勢が、ジムニーに気づく。道を明けるもの。道をふさぐもの。驚きに倒れこむもの。
とはいえ、前面の敵を取り囲んでの攻撃中に、安心していた後ろから快音を鳴らして
猛スピードで近づく正体不明の物体に、すぐには対処できないようだった。
そのまま、調べてあった門に向かい兵を踏み潰して寺の中へ、少しスピードを緩めながら周りを見渡し、
寺の中まで車を乗り入れる。敵兵を殺せばどこで歴史が変わるかわからない。
いったい今まで何人殺しただろう。とにかく目的を達成しないと。
390名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 12:48:08
「人生五十年…」
 信長が敦盛を演じている名場面にジムニーを乗り込ませる。
「早く乗れ」私は信長に大声をかける。
一瞬、躊躇した信長ではあったが、私の見せた地球儀に反応をしたようだ。
バテレンの秘密兵器だとでも思ってくれれば助かる。
信長を助手席に押し込み、スピンターンをかまし、来た道をゆっくり戻り始める。
 明智の軍勢と再び対峙することになった。いったん車を止め、用心しながらジムニーから降り、
用意してきた錦の旗を打ち立てる。
明智の軍勢にわかるようにジムニーのライトがそれを照らすと、侍たちが動揺するのがわかった。
動揺するのは当然。こっちの思惑どおりじゃなくとも、
こんなときは誰かに何をしたらいいか聞きたい気分だろうな。

 寺を抜け出すと、調査してあった広いとおりを探す。タイムとラベルにはスピードがいるのだ。
アクセルを踏み込み徐々に目的のスピードに近づけていく。
閃光と轟音とともにジムニーは出発時点にタイムとラベルをはじめる。
391名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 12:49:33
 気づけば、夜から青空がどこまでも広がっている快晴の真昼間だった。
そう出発日は天気のいい日にしようと決めてたんだ。現代に戻ってきた。
天気はいいが、そのほかは最悪の場所である。
崩れ落ち灰に覆われたビル。乗り捨てられ、スクラップと貸した車。折れ曲がった道路標識。
 信長を車から降ろす。
「なんじゃここは」
信長の驚きに、いろいろ説明しても、理解できまい。
私は、目の前に広がる廃墟郡を見つめ、こう説明した。
ここは、地獄ですと。実際地獄だ。現在の世界は、原因不明の地殻変動によって、壊滅してしまった。
どこにも統制された国はなく、ネットワークもなく、救助を望むこともできない。
この世界はまた1からやり直しを始めるのだ。
 ぼろ布のような子供たちが、何処からとも鳴く私たちの周りに集まり始めた。
「この人が新しい先生だよ」
私はそういって、信長を子供たちに渡す。
「詳しいことは其の子供たちに聞いてくれ、あんたはここで先生をやるんだよ」
 私は愛車ジムニーに再び乗り込み、呆然とする一人の侍を置いて走り始める。
廃墟は何処までも続き、私は自分の研究所へ戻るつもりだった。
と、瓦礫の影から何かが飛び出した。
 キャデラックだ。こんなもの乗り回しているのは私の妻以外ない。
車を止め、様子を伺うと、キャデラックも徐行し私のそばまで来た。
ウインドウを下げて、金髪の女が上目遣いで私を見つめた。
392名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 12:50:15
「ふふ。」
「なんだよ」
「ジムニーはかつてアメリカでサムライって呼ばれてたのよ」
 妻は私が信長を連れてきたのを知っているようだ。秘密にしておいたのに抜け目のない女。
まあ侍が侍を運んできたわけか。感心して、妻のキャデラックを覗き込む。
車の後部座席にいたのは、日本人ではなかった。見たことがある。
「リンカーンを連れてきたの」
「民主主義でも教えるつもりか」
「あんたは天下布武、私は民主主義」
「リンカーンはフォードだ。キャデラックはGM」
「作ったのは同じ人よ。細かいことはなし」
「で、何処に行くんだ」
「それは秘密。じゃあね」ウインドーを上げ、妻はキャデラックを発車させた。
 スモークガラスの中でリンカーンが私を見ているようだった。
然し、信長を連れてきたのは死ぬはずの男だからいいと思うが、
リンカーンはまずいのじゃないかな。
心配になったが、まあ、なんかあっても、これ以上悪くなるまい。
明日はマタ世界中を回り、生き残った子供を捜してみよう。そう思った。
 土ぼこりをあげるキャデラックを見つめ私は廃墟の中に立っていた。

次のお題は「山彦」「洞窟」「電子レンジ」

393名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 12:50:42
( ^ω^)・・・・・・・
394名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 15:18:59
>>382-392
悪くはないと思うんだけど残念ながらスレ違い。
このままじゃ荒しと変わらないので他スレへ移動を。
395名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 19:53:55
>>394
本当にすみません。2ちゃん初心者なので、馬鹿みたいに張り切っちゃって。
控えます。
396名無し物書き@推敲中?:2006/07/23(日) 21:22:31
>>395
控えるとかじゃなくて  >>1  を読んでね
あと、話すなら
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/l50
へどうぞ

==仕切りなおし==

お題:「団欒」「背徳」「オルゴール」
397gr ◆iicafiaxus :2006/07/23(日) 22:24:05
#「団欒」「背徳」「オルゴール」

空前の超巨大台風の前には日本一の大都会も形無しだった。

地下鉄が、シネコンが、電気街が、野球場が、東京のすべてがごみになってしまった。

しかも、ごみになってしまったのは都市の構造だけではないのだ。かつて地震でも
空襲でも譲り合いを忘れなかった日本人の侍精神が、今はもう消えてしまっている。
人の調和に築かれていた繁栄は、調和を失ったときにはもう立っていられない。

東京は、なに人とも分からない悪党が跋扈して背徳の限りを尽くす、暴力と略奪が
あたりまえの町となってしまった。スピーカから流れる自警団の防犯オルゴールを
さまたげるように、廃墟となった高層ビルに銃声の山彦が響く。

その中を、僕達がぼこぼこのキャデラックで逃げてこられたのは、奇跡だと思う。

下宿を飛び出してから半日、高尾山の途中でガス欠になってそこから歩いた。
そして山腹の洞窟で水も食糧もない一夜を明かすことになった。
コンビニも電子レンジも無い。火をたくためのマッチすら持っていなかった。
それでも車にあった毛布だけが暖かくて、僕達は一つの毛布に足を入れて朝を待った。

うとうとして目が覚めたらまだ夜だった。 「――運転疲れたんでしょう、寝てていいよ?」
ささやかな団欒。東京にこんな場所があってよかったと思いながら少しだけ毛布を直した。


#久々に来てみたらテンプレ変わったのかと思ったw
#次は「キャスター」「クール」「バニラ」で。
398名無し物書き@推敲中?:2006/07/24(月) 16:34:04
「キャスター」「クール」「バニラ」

 暑さから逃げるように飛び込んだ電器屋は、空調が効いていて涼しかった。
 クールビズでノーネクタイでも許される世の中となったが、こんな暑い日の
外回りが辛いことに変わりは無い。シャツのボタンをもうひとつ外す。
 人も少ない店内では、一面に並んだ薄型テレビが、若い女性キャスターの姿を
同じように映し出す。内容はくだらない情報番組だ。
 夏本番。ふっと立ち寄ったお店で頼みたいコールドドリンクは?という内容で、
定番なものから突拍子も無いものまで、次々に紹介していく。
 コーラフロートが紹介されるのを見て、外回りのときによく立ち寄ったある
喫茶店を思い出した。その店ご自慢の自家製バニラアイスをのせたコーラフロート。
バニラはちゃんとビーンズを使っている。まさに絶品だった。
 あのコーラフロートが飲みたい。ズボンのポケットから財布を取り出す。
 中には硬貨が数枚。札は無し。硬貨をすべて足しても三百円にすら届かない。
 仕方あるまい。
 職を失って三ヶ月。家族に悟られぬように、毎日着る必要の無いスーツに身を包み、
あても無く外を回っているのだから。


・キャスタークールバニラってタバコがあるのな。
 それ一発で終わらせようとしたけど、さすがに止めた。

次のお題:「船」「雨」「燃料」
399塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/30(日) 00:50:00
「船」「雨」「燃料」

船長室にて、船長と下級船員。
船は予期せぬ大雨に見舞われ、予定を大幅に遅れる。


ネエ君、この船には三日前から木炭が尽きちまってるんだ。
でもこの通りきちんと動いてる。どうしてだか分かるかね?
……フムフム、潮の流れか。成る程、しかしそうじゃあないんだな。この船はちゃんと自力で進んでいるんだ。
大体、こんな荒れ狂った波に乗ったところで、難破するばかりじゃないか。

…ああ、そうだよ、木炭は尽きたんだ。もうカケラもありはしない。
でもねえ、君、船は悪食なんだよ。別に木炭だけが燃料と言う訳じゃないのさ。
え、分からない? じゃあ君、取って置きのヒントをやろう。……この頃K君を見たかね?
見てないだろう? 彼は人一倍献身的だったからねえ……


フフフ……どうやら分かったようだね。 そうさ。君の思ったとおりの事を彼はしたんだよ。
そして、君にも同じことを……(銃声。しかし雨音に掻き消される)


サア出て来い、もういいぞN。新しい燃料だ、とっとと持っていけ。大事に使えよ。
……しかしまあ、この分だとあと何人ツブすことになるだろうなあ?
400塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/07/30(日) 00:54:21
はっはっは、すっかり次のお題を忘れていた。

「鏡」「仮面舞踏会」「陰謀」
401gr ◆iicafiaxus :2006/07/30(日) 01:41:46
#「船」「雨」「燃料」

経済学部の外階段に駆け込んで息をつく。ポケットの煙草は濡れなかった。
ひとつ上の床でもあるコンクリートの軒を仰ぐ。にわか雨がいっそう激しい。

階段に腰かけてメンソールを一服。かちゃっと音を立ててジッポーの蓋を閉める。

足音がして、人が傘をたたんで階段を上がってきた。腰を浮かせて通路を空ける。
するとその人が立ち止まった。先輩だった。先輩とは二年生の時まで恋人だった。

「…おや、久しぶり。――こんなところで雨宿りか。可哀相に」
「――うん、まあね。急に降られちゃって。…先輩は、今から研究室?」

先輩とは二つ違い。博士課程に入った先輩の部屋はこの建物の四階にある。

「そうだけど文献を取りに来ただけだから、傘が無いなら家まで送ってやるよ」

先輩の家とは百メートルと離れていない。夜中に何度も行き来したものだ。

「わー先輩ありがとう。なんか渡りに船とはこのことだね」
「ふん、なんだそれ。まあ、ちょっと待ってな」

先輩は上がっていってしまい、やがて高いところでドアを開ける物音が聞こえる。
人のいなくなった雨宿りの踊り場でもう一本ハッカ煙草に火をつける。

かちゃっと音を立てて蓋を閉める。一年生のクリスマスに貰ったジッポーライター。
いつでも使えるためにはときどき燃料を補給してやらないといけないんだ。

#お題は上ので。
402gr ◆iicafiaxus :2006/07/31(月) 00:48:05
#「鏡」「仮面舞踏会」「陰謀」

――学寮祭の仮面舞踏会でキスをした。

三日間の寮祭の最後は、食堂のテーブルを隣の会議室にどかして
カーテン代わりの暗幕を吊るして、鏡から自作したミラーボールを置いて
MDラジカセが動き出したら今年もいつもの仮面舞踏会。

女子寮のA棟の一年生だと思う、ハロウィンの魔女の扮装をしてきた女の子が
マツケンサンバを踊れないでいるのを、壁際に連れ出してあげたんだけど

恒例のファンタのボトルで今年もこっそり持ち込んでるチューハイを
僕がすすめたわけでもないのにコップに半分くらい女の子は飲んじゃって
音楽がミニモニじゃんけんぴょ〜んに変わっても僕の横でベンチにすわって
あたしねー、この学校に来てほんとよかったって思ってるんですよとか
先輩ってそういうぴっちりした物を着ると体の線が綺麗ですよねとか
妙にくっついてくるものだから僕はとりあえず抱えとめてあげて

そのとき僕はワンピースのルフィの仮装と仮面をしていたんだけど
なんで仮面があるのに僕のこと先輩って分かるんだろう、とか考えれば
女子たちの陰謀にもきっとすぐ気づいたろうに、もう僕はすっかりどきどきして
真っ黒い魔女のローブがルフィのノースリーブの肩に触れるのを
さらさらして気持ちいい布地だな、とか思っていただけで

大きな帽子をちょっと上げてあげて、フードの襟元の汗ばんだ後ろ髪を
“学寮祭の出し物でどれが一番良かった?”とか言いながら撫でていると
そっと体の重心を寄せてきた女の子が僕の顔のそばへ近づくにつれて
汗ばんだ唇が発するこの子のたぶん固有の匂いが感じられて、だから僕は
ちょっとだけルフィの仮面をずらして、匂いしか知らない女の子とキスしたんだ。

#こんなんであれだけどじゃあ次は「光」「広がる」「響きあう」で。
403402:2006/07/31(月) 01:00:59
sageカキコだった。スマ
404塵は積もってもやっぱり塵 ◆mezn9U.eww :2006/08/01(火) 00:09:28
「光」「広がる」「響きあう」


「BBIQのことかーッ!」真昼間の交差点、しかもそのど真ん中で、浪平ヘアのオヤジが急に叫んだ。
何か知らん怪しげな電波を受信しているらしい。目が左右別々の方向を見ている。
……全くもって迷惑なキチ○ガイだ。通行人は敢えて何もないかのごとく平然と歩いてゆく。
俺も無視を決め込んで過ぎ去ろうとしたが、オヤジは先ほどの奇声と同じくらいの唐突さで、また何か叫びはじめた。


「光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう!」


すると、どこから出てきたのか、中央で絶叫しているオヤジと同じくらいの奴らがぞろぞろと現われ、
そいつらもまた「光! 広がる! 響きあう!」と絶叫し始めた。


「.光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう!
 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう!
 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう!
 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう! 光! 広がる! 響きあう!」


「光! 広がる! 響きあう!」と叫ぶごとに、オヤジたちの脂ぎったハゲ頭が眩しく輝き始めた。
輝きはどんどん増してゆき、しまいには何も見えなくなってしまった。
俺は動く事もままならず、ただ茫然と立ち尽くしていた。


きんぐおぶすとれーと。或いは捻りなき愚者。
「闇」「エアコン」「這う(注:活用可)」
405名無し物書き@推敲中?:2006/08/01(火) 01:27:28
「闇」「エアコン」「這う(注:活用可)」

じっとりと背中に汗をかく夏の真夜中。

部屋の電気を全て消して、真っ暗にする。闇の中、全開に明けた網戸の前に立ち
エアコンで冷え切った部屋の空気が、温かい外気と触れ合い混ざり合うのを肌で
感じる。

ようやく目が慣れ、遠くの街灯の明かりを頼りにタバコに火をつける。一口目は
大きくふかす。その紫煙が右手を這いながら、空気の対流に飲み込まれていく。
もう一口。吐き出される煙。煙を吸って吐く。吸ってはく。すってはく。

やがて煙は全身を覆う。ベールのように煙を纏うとベランダの手摺りに立ちジャンプ、
飛び立つ。街の明かりで空に星は見えないが、眼下には満点の夜景が広がる。

「さて、今日も仕事しなくちゃ。」

#塵さんお邪魔しました。

「蛍」「映画」「ダッシュ」
406gr ◆iicafiaxus :2006/08/01(火) 02:05:00
#「蛍」「映画」「ダッシュ」

午後八時のグランドは、昼間とはまったく違う。

ボールよけのフェンスも、一階だけ電気のついてる校舎も、
集まった友達も、知らない子も、お母さんやお父さんたちも
みんな暗い夜のなかで炭の色に見える。

お昼には向こうまで50メートルダッシュをしたばかりなのに
暗くなるとグランドがむやみに広くて、フェンスが遠くて、
今ならきっととても10秒でなんか着ける気がしない。

運動会の万国旗を張るときと同じに僕たちで針金を張って、
そこに音楽の先生が大きな白幕を広げて吊るした。

グランドの砂の上に教室の机を出してきて、紙を敷いて
校長室のプロジェクタをすべらないようにしっかり置いて
白幕にちゃんと当たるように先生たちが何度も調節した。

プロジェクタの光を横切って飛んだ羽虫を誰かが蛍だって言った。
明るいときだけ人の目に見えるから、光ってるみたいだけど
ほんとうは暗がりでは単なる黒い虫なんだ。

いつも誰もいない時間のグランドに今日は人がいて
白幕が吊るしてあって、明るい昼間みたいな光が当たって、
今日だけは映画の日だから遅くまで帰らなくてもいいんだ。

本当は眠たくなんてならないんだ。


#お題は継続で。
407名無し物書き@推敲中?:2006/08/03(木) 02:42:28
「蛍」「映画」「ダッシュ」

ダッシュボードに並べたぬいぐるみ。
グローブボックスに入ったままの、映画のパンフレット。
そして君の残り香をのせて、車は山道を走る。

田舎に帰ると言った時の、君の悲しそうな瞳が信じられなかった。
でも、蛍が清流でしか生きられないように、
君は街でしか生きていけない。
それだけのことだったんだね。

君の残り香はもうすぐ、土と草木のにおいに飲み込まれてしまうだろう。
さよなら、好きだった人。


「花火」「宇宙」「制服」
408「花火」「宇宙」「制服」:2006/08/03(木) 06:58:42
 時代がちょっと離れれば、文明文化も様変わりする。
遠い時空の或る星の、広い宇宙の誰かの伝統。
 星立宇宙花火専門学校――この歴史ある由緒正しき学校にも、
マッドで、キッチュで、リベラルな教師や学徒はやっぱり巣食ってる。
「というわけで生徒Aよ! いよいよ発射であるよっ」
「はい先生! これで歴史が変わりますね先生!」
「そう、花火の歴史は変わる。花火はもう終わったのだ」
「学校史にも残りますね先生!」
「それは違うよ生徒A君。学校は終わる。その制服も着られなくなる。
だが我々はやらねばならぬ。文明はそうして進歩するのだ!」
「さっすが先生! さっそく打ち上げましょう先生!」
 大型宇宙花火発射台に特性宇宙花火玉を装填する。
教師が高らかなる笑いと共に狂気の支配する表情でそれに点火した。
「ターマヤー」「カーギヤー」
玉名ビッグバン。遠い時空のどこかであった、広い宇宙の始まりの話。

次「コイン」「表」「裏」
409めんじ:2006/08/03(木) 23:41:42
「コイン」「表」「裏」
コインには表裏がない。あるのは生死だけだ。
肖像が浮き出ている面が裏で、金額が表示されている面が表だとか、
実はそれは間違いで、金額の方が表だとか、無駄話に花を咲かせるのは
勝手だが、そんなことはコインにとってはどうでもよい。

コインたるこの身にとって真の関心事とは、自分がいったい生きている
コインなのか、死んでいるコインなのかということに尽きる。
生死なんてコインにあるのか、と思うかもしれない。だが表裏だって
本当にあるのかどうか疑わしいのだ。その点コインが生きているかどうか
はすぐにわかる。

ためしに手元のコインを手にとってみてほしい。掌に置いて握り締めた時、
握った感触の少ないコインは、死に掛かったコインだが、しっかりとした力で
押し返してきたら、まだ望みはある。
僕はこれだけを君に言いたくて、君の掌に握られに来た。


「大根」「政治」「水たまり」
410「コイン」「表」「裏」:2006/08/04(金) 07:43:02
俺とアイツにはある約束事がある。
それは「どうしてもお互い譲れない時はコイントスで決着をつける」というものだ。
そして、いつの間にか俺が表でアイツが裏を選ぶというのが暗黙の了承になっていた。
「表」
「裏」
いつも通り宣言してコインを弾く。
―――と同時に、俺はアイツを抱き寄せた。
カツン
コインが床に落ち、くるりと一回転して倒れる。
その様子を眺め、アイツは俺の腕の中でクスクス笑いながら言った。

「両面表のコインなんてどこで見つけてきたのかなー?」



ごめん、不意に思いついてどうしても書きたかった。
もちろんお題継続は>>409で。
411「大根」「政治」「水たまり」:2006/08/05(土) 03:27:19
 それはもう、ゴム長靴を履いている時に水たまりを見つけたら思わず足を踏み入れてし
まうようなものなのだ。人には、あるシチュエーションに直面すると、どうしてもやらず
にはおけない事というものがある。私の場合、それは大根を持った時である。
 大根を垂直に立てて持ち、おもむろに包丁を一閃させる。出来上がった真っ平らな断面
を、まるで居合い抜きの達人のような心境で見つめる。卸し金を取り出し、断面をあてて
円を描くように擦り付ける。それは太極拳の動き。もしくは、Mr.ミヤギの元で修行す
る空手初心者の少年。
 ともかく、大根おろしを作り始めた私は、瞬く間にその作業に没頭する。視覚が、聴覚
が、嗅覚が、触角が、全てが大根へと注がれる。そこには戦争も、平和も、政治も、愛も、
友情も、努力も、勝利も、展開に困った時のトーナメントも何もない。ただただ大根があ
るだけである。今、宇宙は大根を中心に存在している。
 私は一心不乱に大根を卸し金に擦り付ける。その時の集中力は世界を狙えるほどだ。
大根は徐々に小さくなり、受け皿にたまった大根おろしは一面銀世界の雪山のよう―――。
 スーパーの野菜コーナーでそんな想像をしていた私は、手に持った大根を売り棚に戻し
た。夏場の大根おろしなんて不味くて食えたものじゃない。


「眼帯」「鮫」「暇つぶし」
412 ◆oZZZo/6Eac :2006/08/05(土) 04:16:21
「眼帯」「鮫」「暇つぶし」

 空は暗かった。水平線の彼方まで覆っている雲は厚かった。雨が、今にも
降り出しそうだった。ロペスが目を覚ました時、オールはなくなっていた。鮫か、
と思って、彼は笑った。珊瑚でできた天然の湾の内側には鮫は来ない。その
湾のおかげで、いくら眠っていようとボートが沖に流れでることもない。倦怠期
の妻にはどうせ暇つぶしなら街へ行ってみてはどうだと言われたが、漁師が
休日に海にいてはいけないという決まりはない。
 風が、強くなってきた。腕の時計を見ると午後二時を少し過ぎていた。ロペスは
家に戻ろうか再び眠ろうか迷った。嵐になるほどの天気には思えなかったが
雨が降ればその粒の大きさに眠るどころではなくなる。無駄だと思いながら
オールを探す。意外にもオールはあまり離れてないところに浮いていた。両手
で水をかき、オールへと近づく。透き通った水の底でゴンズイの群れが見える。
 オールの端をつかもうと手をのばした。一瞬の出来事だった。黒い影が素早く
現れたかと思うと、飛沫をあげて消えていた。ロペスは右の手首から先を切り
取られていた。やはり鮫か、と、苦痛を感じながらもロペスは笑った。エイハブ
船長みたいに鉤爪でも付けるか。妻には眼帯も付けたらと嫌味を言われるかも
しれないが、倦怠期を抜け出す話題ができたと思えばそう悪くもなさそうだ。


お題継続でお願いします。
413「眼帯」「鮫」「暇つぶし」:2006/08/06(日) 03:20:52
「鮫の肉を喰らうと不老不死になるらしい」
そんな根も葉も無い噂が僕の小学校で流行りだした。
こんなのは嘘だという事は明白だ、どうせ誰かが暇つぶしに数人で考えた噂に過ぎない。
と、皆は考えるだろう。
しかし、クラスの連中は鮫の肉など食べた事が無い奴らがほとんどと言う事もあり、
「もしかしたら?」と半信半疑の人間もいるようだ。
だが、そんな物は噂に過ぎない事など、心の内では皆分かっているだろう。
 ただ、それは皆が知らないだけである。
何を知らないのか?
この噂は60年前に実際この村ではやっていたという事。
その噂は不幸にも現実になってしまったという事。
噂を流したのは僕だという事。
僕はこの教師生活を80年以上続けているという事。
……右目の部分の眼帯の奥の空洞が痛んだ気がした。
あの日、鮫に狂ったように群がる人々を見てショックの余り眼球をほじくり出しても、
何の痛みも感じなかったというのに。
それでも、この村にはあの日の狂気が残ってる事を、この眼の奥に感じていた。


「車椅子」「宝物」「窓際の席」
414名無し物書き@推敲中?:2006/08/06(日) 20:33:09
小学校六年生のとき、僕には欠かせない日課があった。
誰よりも早く教室に入って、机を並べ直すこと。
間隔を微妙に調整して、教室の後ろにわずかな隙間を作ること。
誰も来ないうちに、ひとりでやってしまうこと。

それが終わった頃、彼女が教室に入ってくる。
おはよう、の挨拶だけを交わすと、
彼女は一番後ろの窓際の席で、ぼんやりと空を眺める。
僕は僕で、グランドへ飛び出してみたり、ほかのクラスメイトと話したり。
雨の日も晴れの日も、夏でも冬でも、それは変わらなかった。

卒業式の日の朝、いつもより少しだけ早く学校に着いた彼女の口から、
はじめて「おはよう」じゃない言葉を聞いた。
「この席はね、私の宝物なんだよ。
 ユースケ君が通路を作ってくれてたこと、知ってるんだから」
車椅子の彼女は、そういって微笑んだ。
初めて見る彼女の笑顔は、思った通り、天使の笑顔だった。


「扇風機」「大仏」「教科書」
415 ◆oZZZo/6Eac :2006/08/06(日) 20:56:41
「扇風機」「大仏」「教科書」


 絶対タイプじゃないのに好きになってしまうことってある。
アリエナイアリエナイって下校中につぶやきながら、でも
アリエテルことを否定できないから自己嫌悪になる。
「ああ、なんであんな大仏顔にっ!」
 わたしは道に転がっていた空き缶を蹴っ飛ばした。

 一昨日の金曜日のことだった。部活が終わって、上履き
からバッシュに履き替えていると、サカモトがやってきた。
「今度、応援に行くよ」
「へえ、バスケに興味あるんだ?」
「3ポイントシュートって見てて気持ちいいからな」

 いま、私は教室の机からサカモトの背中を見ている。隣の
席のヨーコがミニ扇風機をわたしの顔にあてて、冷やかしてきた。
「湯気が出てるぞ。もしかして恋? え? マジ? うわっ!?」
 私はヨーコから扇風機を奪って、
「あ゛ー」と声にならない声をあげた。
 こんな気持ちの時にどうすればいいかなんて、教科書には書いてない。


お題は「運河」「優しさ」「薔薇」でお願いします。
416「運河」「優しさ」「薔薇」:2006/08/06(日) 23:56:16
 血沸き肉踊る、世界ロボットバトル大会。二回戦第三試合は
ダイウンガー対薔薇ローズ。実況は私阿奈が、解説は
ロボット界の権威キサラギ博士でお送りしております。
 さー、注目の一戦ですが、大変な展開になってきました。
「そうですな。双方すでに満身創痍、作戦も底を尽きているでしょう」
 ああっと、ここでダイウンガーがカブソードを捨てました。何かやるつもりでしょうか。
「これは第二試合のハルパールより気が早い。むしろ無謀な行為ですよ」
 エジプト代表ダイウンガー、敗色濃厚ということですか。
「薔薇ローズは一回戦でプラチナホンダウイングを遠距離攻撃で痛めつけるという
優しさの欠片もない勝ち方をしていますからねぇ」
 なるほど。おっと、ここで薔薇ローズ、ムチを取り出しました。
肉弾戦をやる気はないようです。
「ダイウンガーいよいよ降参じゃないですか」
 あーっと! すごい、すごい。たった今ダイウンガーがヘーサス・エズと叫んだかと思うと、
薔薇ローズが倒れました。何が起こったのでしょう! ……ねぇ? 博士?

次「ボール」「英雄」「小型」
417416:2006/08/07(月) 00:42:23
ああ。しまった「運河」忘れてるorz
お題は>>415のを続行して下さい。
418名無し物書き@推敲中?:2006/08/07(月) 02:21:22
「運河」「優しさ」「薔薇」
 
 
あなたはあたしに薔薇をくれたね。
とってもきれいで夢みたいな、何度も突き刺す花だった。
醒めたときには血の海だけが残ってた。
涙を落とすと河になって、身体じゅうに腐った鉄の味を運んだ。

あたしが欲しかったのは薔薇じゃあなくて桜だった。
まばゆい情熱の輝く痛みじゃなくて、ゆっくり季節を越えていく諦めだった。

誰か、あたしに桜をください。
幾度も咲いては舞い散る優しさで、この真っ赤な運河を埋め尽くしてください。
この両の腕に根を這わせて、どうかつなぎとめておいてください。
あたしはもう乾きたい。かさかさになって崩れるくらいに乾きたい。

はじめてあの花の紅を美しく思った日のことを、今では恨めしく思います。
あなたのせいだ。
 
 
#初投稿。これって官能系に引っかかりますかね。キツかったらごめんなさい。

せっかくなので次「ボール」「英雄」「小型」 で
419名無し物書き@推敲中?:2006/08/08(火) 12:39:23
「ボール」「英雄」「小型」

 お題を見たときに最初に頭に浮かんだのは、ガンダムに出てくる
「ボール」である。比較的小型の機動兵器であるが、その能力は低
く、棺桶とまで揶揄される存在だ。
 そんな「ボール」で活躍する英雄の話でも書いてやろうか、とも
思ったが、ここで二次創作に走るのも如何な物かと思い直し、コン
セプトを流用して何か書けないか、と思案を始めた。
 すなわち、「小型の機動兵器で活躍する英雄の物語」である。
 背景は宇宙戦争。これは明示しなくても良いか。時代の流れに逆
行し、小型の兵器にこだわる男。周囲は彼を疎ましく思うが、彼が
飛び抜けた戦果を挙げているので糾弾することもできない。
 視点は……そうだな、彼の美学に惚れ込んだメカニックにでもし
ておこう。仲間の存在をさりげなく読者に伝えることもできる。
 導入は戦闘からの帰還シーン。戦果は上々だが機体は相変わらず
ボロボロ。「わたし」は「彼」に駆け寄り、軽口を交わす。
 うん、いい感じだ。でも、どこに「ボール」を使おうか……?

#反則気味?
次は 「フラミンゴ」「カメラ」「許可」
420名無し物書き@推敲中?:2006/08/08(火) 12:40:25
とりあえずHiは琉球ブタ面と書いておくか
421名無し物書き@推敲中?:2006/08/09(水) 01:08:08
 「勝手に写真を撮らないで下さい」
フラミンゴの檻の前で、私がシャッターを切り出すと飼育員がすぐさま飛んできてそう言った。
 「はあ、この動物園は写真を撮るのに許可がいるんですか」
ライオン、キリン、カバ、ペンギン……。
他の動物たちをカメラに収めたときにはそんな注意は受けなかったのだが。
 「フラミンゴだけ撮影禁止なのです。申し訳ないのですが」
数秒の沈黙のあと、そう言って飼育員が指差した先にはカメラの影絵にバッテンを付けた
シンボリックな標識が張られていた。撮影禁止。フラミンゴオンリー。
 「うちのフラミンゴたちは極度の照れ屋でして、カメラを向けられるとみるみる羽根が赤くなってしまう
 のです。これをフラミンゴ本来の自然なピンクに保つには、なかなか苦労が要りまして」
なるほど見れば数羽のフラミンゴたちのうち、私が先程写真を撮った一羽だけ
羽根がトマトの色ほどに濃くなってきている。
かわいそうに、確かにこれでは何の鳥かわからないだろう。
私は飼育員にひとこと詫びを言い、赤くなったフラミンゴの前から立ち去った。

#お題は継続でお願いします。
422名無し物書き@推敲中?:2006/08/09(水) 20:51:38
フラミンゴ カメラ 許可

 軽い気持ちで訂正してあげたいだけだった。フラミンゴは片足を「曲げている」
 生き物で、懸垂足――足が曲がらない私はあの綺麗な鳥ではないよと。
 「僕、私は」
 言いかけて、突然の閃光に言葉を飲み込む。
 「おじさん」
 黄色のシャツ、右手に握られたインスタントカメラ。
 「おじさんのこと、学級新聞に載っけちゃだめ? みんなが両足でやってる
  ことをおじさんは片足でするんでしょ。かっこいい」
 「……それが写真を撮った理由かな」
 無邪気な笑顔に押されながらも、私はやっと一言言葉を返す。少年は頷いた。
 「すごくなんかない。許可もなしに写真を撮るなんて失礼だ。あきらめなさい。
 動物園でフラミンゴでも撮るがいい」
 大人気ないほど棘のある声音になった。わずかに少年の肩がこわばり、けれ
 どすぐに元に戻ってこう言った。
 「ごめんなさい。そうする。でも、僕はフラミンゴよりおじさんの方が素敵
 だと思ったから」
 フラミンゴより素敵な大人は、さらし者にされるのを恐れたりはしないさ。
 私には到底真似できない軽やかさで、少年の背中は遠ざかっていった。

「普通」「鎮静剤」「麦藁帽子」で、お願いします。
423「麦藁帽子」「普通」「鎮痛剤」:2006/08/10(木) 01:59:16
鞄の中の携帯が鳴り、慌てて電話をまさぐる自分に少し呆れた。
サラリーマンの嫌な癖だと私は思う。時間や会社に縛りつけられ、挙句、辞表叩き付けた今でも私は何かに縛りつけられている。
電話の主は会社と嫁だ。土気色の中年の顔が携帯のディスプレイ越しに見えた。五十年付き合った紛れもない私の顔だ。
普通ならば会社に向う時間。都心から電車で数時間の片田舎に私は向かっていた。
慣れない手つきでゆっくりと嫁にだけメールを返し、一つ仕事を終えた気分で缶ビールを喉に流し込んだ。
田舎列車のゆるい冷房が相重なり、余計にビールを旨くする。最後を送るには最高の陽気だ。
列車の窓ガラス越しに麦藁帽子の農作業者が見えた。
畑仕事も悪くないな。と来世の希望を胸に、手元の鞄から大量の鎮痛剤を取り出し、残ったビールでそれを流し込んだ。
それから私は、何一つの縛りも無い世界を想像し、薄れゆく感覚を最後の一瞬まで感じながら眠りについた。
次は「山」「少年」「ゲーム」でお願いします。
424『山』『少年』『ゲーム』:2006/08/10(木) 03:37:18
僕達は夏休みの間中を使って、とあるゲームをする事にした。
ルールは単純。『誰が一番最初に"不思議"を発見出来るか』というもの。
参加者は僕を含めて三人、残りの二人は昔からの幼馴染だ。
"不思議"というのは、つまり非現実的な物ならなんでもよく、
とりあえずUFOなんかがいいんじゃないかという事で、より高い場所の方が見つけやすいだろうと、
色んな山を巡っていった。

その日行った山は心霊スポットとしても有名だった。
各自双眼鏡を持って、一時間後に元の場所に集合と決めて別れた。
僕は迷わない様に目印を付けながら歩いていると、一瞬、背中にゾクリとした感触が走り振り返った。
その時だ。僕が少年と出会ったのは。
驚きを隠せなかった、というのが正直な感想だっただろうか。
その少年は見れば見る程"自分"なのである。
この時に僕はとっさにドッペルゲンガーの噂を思い出したのだ。そう、『それを見たやつは死んでしまう』といった内容の…。
恐ろしくなった僕はすぐに友達に電話して(幸いにも電波は繋がった)先に帰る事を伝え、一気に山を何度も転びながら駆け下り、猛スピードで自転車を走らせ家に帰った。

……後日、一緒に行った友達が突然死した事を親から聞かされた。
死因は聞けなかった。今から自分に起こるかもしれない事は、知らない方が幸せだろうと判断したのだ。
結局、あの山で見たのが本当にドッペルゲンガーだったのかは分からない。
これから僕がどうなるのかも予測は付かない。
だが…僕はまだ生きている。
425424:2006/08/10(木) 03:38:44
次のお題は『ナイフ』『死』『夜』で
426『ナイフ』『死』『夜』:2006/08/10(木) 15:07:24
青い海と白い砂浜。照りつける太陽は日本のソレとは全く違うものだ。
身体を休めるには最高の環境だったろう。これが遭難でなければ。
数時間前までは最愛の人だったモノを眺め、空腹でぼんやりした頭で考えていた。
テレビゲームや映画のお話では無く、本当の意味での死を思い知らされ、本当意味での命の尊さが分かったのかも知れない。
滲む汗を拭い、右手のナイフを握り締めながら今度は愛について考えた。
思考回路がショートしたこんな環境ではまともな考えが浮かぶ筈も無く、ただ無意味な思考のループを繰り返した。
食えば生き残る。食わねば死ぬ。死にたいのか?
太古の昔から存在する至極単純なルール。喰って何が悪い?
結婚を約束したあの夜。そこに横たわる肉塊は言ったじゃないか。
私より一日でも長く、生きて下さい……と。
自分に都合の良い話ばかりが頭を駆け巡り、気が付けば解体用のナイフを捨てて、
嫁だったモノの臀部に夢中で齧り付いていた。
奇声を上げ、人目も気にせず、口中に広がる鉄の味を楽しみ、恍惚の表情で私は島を走り抜けた。

次のお題は『チップ』『チョップ』『タップ』で

427名無し物書き@推敲中?:2006/08/11(金) 02:16:16
『チップ』『チョップ』『タップ』

厚さ2ミリのアルミ板に、タップでネジを切っていく。
「なあ、そんなんで強度大丈夫なのか?」
ソフトを書いているはずの上杉が、いつの間にやら背後から覗き込んでいた。
「どうにかなるだろ……ソフトはどうなってる?」
「ん。マイコンボードが動かなくなってな。修理前に息抜きしてるトコだ」
「壊れた場所の検討はついてる?」
「一応。チップ抵抗が燃えた後があるからそれだけ交換すれば……」
上杉に、無言でチョップを入れる。
抵抗が燃えたってことは、過電流が流れたってことだ。過電流が流れるって
ことは、回路の設計がおかしいわけだ。回路の設計がおかしいということは、
単純に部品を交換しただけじゃ直らないわけだ。
「大丈夫、電源線つなぎ間違えただけだから」
無言のチョップをさらに2発、3発と加えていく。
ロボコン前夜。華やかな舞台の裏には、素人には想像もつかないであろう
不思議な世界が広がっている。

次は 「弾幕」「艦長」「追悼」
428名無し物書き@推敲中?:2006/08/15(火) 22:49:53
「第六次鳥取砂丘会戦に置ける高砂将史艦長以下全18名の戦死者に哀悼の意を表し、全員・・・乾杯!」
その小さいが鋭い声に呼応して十八の手が一斉に突き出される。その手には例外なく紙コップが握られていた。
「まあ、発想は悪くなかったよな」
誰からともなく発せられた声に数人が笑いながら頷いた。
「しかし、肝心の艦長がカナヅチじゃあねえ」
鳥取砂丘会戦。鳥取を中心に構成されるサバイバルゲームグループによって年に一度、秘密裏に開催される深夜のゲームイベントである。
勝者は全てを得、敗者は全てを失う。古からの戦場のルールに忠実に行われるこのゲームの結末は、過酷な現実を参加者達に突きつける。
ここは勝者達の集う場。通例、鳥取砂丘会戦戦死者追悼会会場と呼ばれる。
勝者たちはここで敗者に哀悼の意を表しながら夜明け直前までの短い時間を共有し親睦を深めていく。
一方、敗者は戦場となった地帯を亡霊のようにしてさ迷い歩く。鳥取砂丘会戦掃討戦と銘打たれるこのゴミ拾い活動を、亡霊たちは夜明けまでの間に完了させなければならない。
何が勝者と敗者を別つのか。戦場の数だけ問われつづけてきたこの問いを、敗者たちはあえて問おうとはしない。なぜなら今回の敗因はなによりも明らかなものであったからだ。
高砂艦長率いる、赤海軍独立遊撃隊は会戦と同時にゴムボートを用い日本海の波を突っ切って戦線を迂回し一躍敵軍背後へと踊り出る、はずであったが幾つかの誤算がそれを砕いた。
誤算の壱、ゴムボートの色が目立ちすぎた。誤算の弐、軍司令部との意思疎通の不徹底。誤算の参、艦長が泳げない。
ゴムボートの色により戦線の裏に出る前に発見されたゴムボートは陸上より展開された猛烈な弾幕により立ち往生し、転覆。
その後高砂艦長以下三名の隊員は人力による揚陸作戦を試みるも艦長に足を引っ張られ失敗。捕虜となる。
司令部はこの作戦の実行を知らされておらず、彼らの抜けた穴から戦線は崩壊し、勝敗は決した。
秋の月に照らされながら亡霊達の行進は続く。波打ち際近くに首から下を埋められた四名の兵士を呪いながら。

お題は「昨日」「今日」「明日」
429昨日、今日、明日:2006/08/15(火) 23:59:42
昨日洗い損ねた食器が、流し台の中で腐臭を放っていたが気にするものか。
何てってたってピョン様の連続ドラマ、冬のドナタが良いところなのだ。
真夏の昼間に冬のドラマはどうかと思うが、何てったってピョン様だ。旦那が死のうが、隕石が落ちて来ようがピョン様優先に決まっている。
確か昨日の終わりはピョン様が監獄から脱走し、ナチュラルボーンキラーのように凌辱の限りを繰り返したところだったろうか……。
新聞紙のテレビ欄をひっぺがえして今日の放送を確認してみようか。
それとも、ピョン友の隣のキミちゃんに聞いた方が良いかしら。
ああ、放送まで後三十分。じらさないで。早く。早く貴方が見たいの。
もう、ちくしょう。ニュースなんて要らない。邪魔よ。え?北の国がミサイルを撃ったって?
そんなの知ったことではないわ。ピョン様のラヴミサイルの方が百倍私のハートに刺さるのよっ。
見つめられたら最後、ユーキャンストップよ。
あら、でもこのニュースのキャスターさんも中々良い男じゃない。
醤油顔の色男だわぁ……
そう言えば、醤油も切れてたわね。
まぁ、それも明日で良いわね。

次は「愛」「金」「肉」
でお願いします。
430名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:04:03
雨上がりの濃いブルーを見上げながら呟いた。
「明日は言えるかな」
足元の水溜りを避けて呟いた。
「昨日はなんで言えなかったんだろう……好きって……」
私はここ半年、ずっと同じ言葉を反復している。
昨日に気持ちを半分取られて、明日に気持ちをささげる。
いつの間にか、「今日」という時間がなくなっていた。
今日を生きるんだ。
はっきりと伝えるんだ。

私は来た道を引き返した。

お題「幽霊」「本能」「信仰」

431名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:05:17
阿蘇は幽霊だった!
本能がうずきますです。
「嘘でしょ!」
信仰心を失った阿蘇は、野獣と!
あれ、これ昨日のだ。
そういう落ち。
432名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:05:20
>>430です
ど、どうしたらいいですか……
433名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:06:26
>>429の御題で継続
434名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:08:29
ありがとうございました。
ずうずうしいお願いですが
感想を聞かせてくださいませんか。

こういうのは駄目ですか
435名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 00:09:36
436gr ◆iicafiaxus :2006/08/16(水) 01:28:24
#「愛」「金」「肉」「幽霊」「本能」「信仰」


何度もカーブしながら峠へと続く県道の途中、がけ下に視界が開けて
成瀬川を埋める精霊流しの灯篭がきれいに見える場所があるのです。
幽霊が出るといって有名になってしまう前は、本当に秘密の場所でした。
そこへ私がせがんで、精霊流しの日、無理に連れてきてもらったのでした。

信仰にあついあなたは、小さいころあなたのことを忙しい両親のかわりに
一人だけ愛してくれたおばあちゃんの、その形見の鉛筆削りを握りながら、
お盆の夜は一番大切だった故人の霊と過ごしたい、と言っていたのに。
私がどうしても精霊流しを見たいと言ったから、車を出してくれたのです。


そしてヘアピンカーブを過ぎた一番景色のいいところで車を止めたとき、
ちょうど向こうから下り坂のカーブを曲がりきれなかったトラックが…。

今までに聞いたことのないような金属音とガラスの割れる音に続いて、
落下する車内を転げるように天井やシートバックに打ち付けられているとき、
ほとんど本能で握った手のひらが、あなたの肉体に触れた最後になりました。


あれから五年目の今年も八月十六日。
私は成瀬川の精霊流しの見えるヘアピンカーブであの人を待ちます。
夜になると、あの人がガードレール越しにあらわれるのです。

縁無しの私の眼鏡を握って、新しく買った車を下りてくるのです。


#次は「花屋」「きりん」「セミプロ」で。
437名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 05:21:38
「花屋」「きりん」「セミプロ」

「もういいわ、お腹いっぱい」
「なんで、まだ時間残ってるよ?」
夕方の早い時間、店内は休日とあってか家族づれ、お歳を召された年配の客層で席は埋まっている。
うなぎの油とたれの焼ける匂いが食欲を刺激していたのは店の暖簾をくぐり、はじめの重に箸をつけた
二十分前までだった。空になった四つの重箱を眺め美子はしきりに残念がっている。
「まだ、時間あるのに……」
香ばしい匂いと美子の言葉は、いまではわたしの胃にもたれるだけ。

「三十分以内で重箱五つ食べたら無料。だって」
張り紙を見ながら美子はわたしの手を引き店内へと強引に誘う。わたしは大食いに関してプロとはいわ
ないがセミプロみたいな立ち位置で雑誌の取材やテレビ番組などに出ていた。
「わかった。わかった。わかったからそのかわり席は窓際のあの場所にして」
と、指さす。美子に押し切られる形で、うなぎ屋にはいった。席につくと美子に悟られないよう窓から見え
る花屋の看板をもう一度確認する。ひとつ重箱を食べ終えると窓から花屋をながめ、次の重箱へと箸を
進めた。そして、四つ目の重箱で、やっと彼が店先に出てきた。エプロン姿で働く元彼だ。
全然変わってない。きりんのように首を長くして待っていた訳じゃないけど、わたしはなんだか満足した。
「もういいわ、お腹いっぱい」

「竹」「弁当」「洗剤」で
438名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 17:41:14
僕は今、弁当を食べている。いちいち言う事でもないとは思うが、
今の状況はそれ以外の何物でもないのだから仕方ない。
この弁当は少し変わっている。竹をくりぬいたような形をしているのだ。
そして中身は竹の子ご飯。普通に美味しい。竹の弁当箱に竹の子ご飯。
駄洒落だかなんだかよくわからない。
この弁当を作ってくれた人物(僕の彼女です)は、少し不思議だ。
芸術学部にいる人間は変だからな、と平凡な僕は思う。

弁当と一緒にメモが入っていた。
『きちんと洗って持って帰ってきてね。夏場は傷んじゃうから。』
…使い捨てじゃないのかよ、この弁当箱。
全く不思議な彼女を持ったものだ、と一人ごちて
職場のキッチンへ弁当箱を持っていく。
…普通に食器用洗剤で洗っていいのか。僕はまた、頭をひねった。



「甲子園」「スイカ」「自転車」で
439名無し物書き@推敲中?:2006/08/16(水) 21:03:28
「甲子園」「スイカ」「自転車」

初夏の強い日差しを受け、中国福建省から運ばれた白砂はからからに乾いていた。大型ダンプの荷台に
移し替えられる際、ユンボのバケットからさらさらとこぼれ落ちた。
「おい、出発してくれ」
湾口荷役の大きな声が、海風に乗り聞こえてくる。運転席の窓をいっぱいに開け顔を出し右手をあげ
それに応える。いつものやり取りだった。
港から甲子園球場まで無事に配達しなければならない。大切な白砂だった。球場の土はこの白砂と国内
の淡路島あたりからとれる黒土をブレンドしたものだった。ハンドルを握りながら思い出す。
あれはたしか、三年前の夏だった。

「父ちゃん、俺、勉強は出来ないけど推薦で高校に行っていい?」
縁側の風鈴が、チリンチリンと鳴く。息子はやはり私に似て、勉強のできる頭より野球のできる身体に
すこし恵まれていた。
「野球か?」
スイカの載った皿に手を伸ばし、屈託なく笑う息子には勝てるわけるがない。
「ああ、おもいっきり野球やってみろ」

今夏、予選を勝ち抜き甲子園へのキップを手に入れた息子は自転車のスタンドを立てるのも、もどかし
いのか横倒しに乗り捨て家へと飛び込んで私に報告した。まあ、どうせ一回戦で負けるだろう。そんな
予測とは裏腹に心の中ではスパイクシューズを納める布製の袋に、私が港からダンプで運んだ白砂と
悔し涙を詰め、家に持ち帰ることのないよう願った。

「風呂釜」「水ようかん」「風呂敷」
440名無し物書き@推敲中?:2006/08/17(木) 01:34:23
一体この状況はなんなのか、当事者である自分自身ですら全く理解できない。
今、私の背中には風呂釜が乗っかっている。風呂釜を背負って住宅街を歩き行く様のなんと滑稽な事か。
幸いにして周囲に人影は無い。しかし、左右に林立する一戸建て住宅の窓から好機と恐怖の視線でこちらを眺めている人も居る事だろう。
水ようかんをご馳走になった。それが事の始まりだった。
私のような者を居間まで上げ、水ようかんをご馳走してくれた老婆はなんとも親切そうな人であった。
だが、それは私を欺く為の擬態に過ぎず、水ようかんをすっかり胃袋に収めた私を見た老婆は即座にその仮面を脱ぎ捨てこう宣告した。
「この釜をどこかに住んでいる、堅三爺さんの所まで持って行くんだ。よもや嫌とは言うまいね」
そう、嫌とは言えない、私の存在を許す法則が決してそうする事を許さない。どんなに理不尽であろうとも過酷であろうとも、私は恩に報いねばならない。
釜を背負い出て行こうとする私に老婆は言った。
「外はさぞ暑かろうて、どれ、この風呂敷を頭に巻いてやろう。そうすれば暑さも少しは和らぐだろうよ」
大振りな風呂敷を頭に何重にも巻きつけると、老婆は蹴り飛ばすようにして私を外へと押し出した。これは好意だろうか?それとも悪意だろうか?
強い日差しと照り返すアスファルトの熱気に身を焼かれながら、何処に居るのかも存在しているのかさえも判らぬ堅三爺さんの家に向かって黙々と道を行く。
意味の無い、不毛な行為、だがそれを放棄する事はできない。それは私の生の終焉を意味し、また、勝手に生を完結させる権利を私は有していない。
この世に住まう全ての人が私を忘却するまで、無意味な不毛の世界を私は生きていかなければならない。
人は私を報恩と呼ぶ。

「台風」「一家」「一過」で一つ
441名無し物書き@推敲中?:2006/08/17(木) 01:56:58
台風もうすぐくる
一家は退散
一過性だった

「糞」「ちん」「まん」でSF
442名無し物書き@推敲中?:2006/08/17(木) 02:47:45
「あ、あれはなんだ!」
「鳥か?」
「UFOか?」
「いや、あれは糞ちんまんだ!」


「東京」「夏休み」「蝉」
443名無し物書き@推敲中?:2006/08/17(木) 10:07:44
「おじゃまします……」
返事は無い。トタン屋根に雨が叩きつけられる音だけが聞こえてくる。
バッグに入っていたペンライトの明かりを点け、あたりを照らすと、
曇りガラスの入った引き戸が薄ぼんやりと見えた。
ずぶ濡れになってしまった体を小さなハンカチで拭いつつ、
僕はどうしようかと思案に暮れた。まだ5時だというのに、雲に覆われているのと、
林の中に居るのとで、あたりは真っ暗だった。
ふいにカゴの中を覗いてみると、中の蝉はもう動いていなかった。
「せっかく捕ったのに……」
あまり悲しいとは思わなかったが、なんとなく損したような気分だった。
でもまあ、標本にするんだから、生きてようが死んでようが同じことだな。
そう思い直して、蝉のことはとりあえずおいておくことにする。
雨がまた強くなってきた。こんな大雨は初めてだった。去年の夏休みもここに来たが、
あの時は晴ればかりが続き、暑さで姉が倒れてしまったのを覚えている。
父は、東京のもんはだらしねえな、と笑っていた。東京生まれの東京育ちのくせに、だ。

「非常ベル」「世界史」「階段」
444名無し物書き@推敲中?:2006/08/17(木) 19:25:37
「非常ベル」「世界史」「階段」


「世界史の勉強なんて、過去の階段を一歩一歩踏みしめていくようなものじゃない?」
つややかな黒髪がさらりと揺れて、目を奪われる。
すいと、白い指が伸びた。僕の人差し指のあった場所の上でぴたりと止まった。
「だから私は教えてやるの。過去なんて動かないものより、動く今を大事にしなさいってね」
強く押す、と書かれた透明なプラスチック。その下に、毒々しい赤のボタン。
彼女の爪が濃い桃色に染まる。第一関節がしなって、非常ベルが鳴り響いた。
「あんたも動きなさい。ぶちこわしたかったんでしょ」
けたたましい音の中、それでもはっきり耳に届く声。
「でも、僕は……」
本当に押す気なんてなかったんだ。
語尾は消え入る。僕の言葉だけ、どうしてだろう。
「あ、でも」
動けずにいる僕の目の前で、彼女がぽんと右手を打った。
「非常ベルで動くって、逃げることだけだねぇ? 世界史のほうがましだったか」
ボタンと同じ色の唇がゆっくり歪む。学年一位の微笑みが、僕を覗きこんだ。

次は「青すぎる」「路面電車」「おとついぐらい」でお願いします。
「あんたってさぁ、いい男なんだけど青すぎるのが玉に瑕よねぇ」
切れかけた裸電球が照らす薄暗い部屋の中、女が気怠げに呟く。
湿っぽいせんべい布団から無造作にのぞく青白い肌が、吐き出す煙に合わせてわずかに撓った。
「俺、そんなに青いっすかね」
男が不機嫌を装い放った台詞も、擽るような笑いに敢えなく絡め取られる。
「そんなところがね、あ・お・い、っていうの。まぁ可愛くもあるけど」
軽くいなされてあるかなきかの矜持を傷付けられたのか、男は軽くそっぽを向いた。
しばらくして浅黒く殺げた頬がゆっくりと動く。
「おとついぐらいにね、先輩」
「ん」
「あの人の見舞いに行きました」
「……」
「こういうのやっぱやめませんか、俺達」
「……だからあんたは、」
外を過ぎる路面電車の音が、女の声を掻き消した。

「黒猫」「殺人」「崩壊」
446白木の子:2006/08/18(金) 19:31:43
「黒猫」「殺人」「崩壊」

 私は猫です。全身黒いので黒猫と仲間たちから呼ばれています。
 俗に言う野良猫。分かってもらえないかもしれませんが、自由で良いですよ。野良。
 最近思うのですが、実に人間とはおかしな生き物ですね。
 この前もそうでした。その日はもう日が落ちていました。
 いつもの通り道を歩いていました。路地の脇のブロック塀の上です。
 夜空に星がきらきら光って、猫ながらも幻想的な気分に浸っていました。何やら罵声が聞こえてくるまでは。
 何を喋っているか分からなかったのですが、喧しい辺りを覗いてみると、
 反対側の塀の向こうの窓の中からのようです。生憎カーテンが邪魔して見えなかったのですが、
 二人の人影が写っていました。
 どうやら人間が言い争いをしているようです。
 私はその先が知りたくなって足を止めました。
 人影の動きがだんだん激しくなっていきました。そして次の瞬間。
 私は目を丸くしましたね。非常に面白い。
 右側に写っていた人影の腕が、対面する影に触れたかと思うと、
 直後カーテンが紅い水玉模様に変わったのです。
 これが「魔法」というやつなんでしょうか?
 これほど綺麗な光景を仲間にも伝えたい!
 私はそれを一刻も早く仲間に伝えようと、塀の上を走りました。
 仲間たちの居る橋の下まで猛ダッシュ。
 そして仲間に言ったのです。それは驚くだろうと期待していたのですが、
「それはたぶん、殺人じゃないか? 人間が崩壊するとそうなるらしい」
 さつじん? が何か分からないのが残念ですが、
 人間は崩壊すると「魔法」が使えるようですね。
 非常に面白い。

「トムキャット」「生徒手帳」「マグロ」
 
447名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 20:42:17
その生徒手帳には、マグロの絵とその下に「トムキャット 15歳」という謎の文字が書かれてあった。

「あほ」「ぼけ」「うんこ」
448名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 20:56:30
担任「授業は習字だおまえら」
男子生徒A「あほ」
男子生徒B「ぼけ」
男子生徒C「うんこ」
担任「A〜Bはそれ書け」

書道室。
女子生徒A「今度の県のコンクール出す?」
女子生徒B「出すよ〜。もう応募したし〜」
「……」彼女達の後ろで生徒A〜Cが聞いていた。

校長室。
県のコンクール主催者「おたくの学校はジョークがすぎますぞ」
丸刈りにされて直立不動の生徒A〜C。
校長「すみません、こいつらにはキツ〜ク言って聞かせますから」
担任「でも、達筆は達筆だなおまえら。お題は最低だが」
A〜C「夜露死苦とか喧嘩上等とかも得意っすよ!」

「星座」「金」「体温計」
449名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 21:31:59
マグロ缶が好きだからマグロ。そう呼んでいる。三ヶ月前からオレの部屋に居候してる。
傘の骨も折れそうな土砂降りの日。駅からの帰り道、ガード下で雨宿りしてたマグロに出会った。
オレは立ち止まって顔を見つめるニャーと言った。マグロもニャーと言った。
オレはマグロを家に連れ帰った。
翌日からは学校に行かない予定だった。そのつもりで帰り際、担任のエロメガネをはり倒してきたんだし。
親はいないが金に困ることもない。遺産と呼べるほどのものではないが7年は何もせずとも暮らせるであろう
額の金を残してから両親がいなくなったからだ。本当に死んだのだろうか?まあいい。オレは一人で生きていける。
それに。。今日からはマグロも一緒だよ。。ニート生活が始まった。

「お前を拾ったのもこんな土砂降りの日だっけ。」
コンビニにランチを買いに行くのもためらわれたのでキッチンの棚から出した
カップヌードルを喰いながら、オレはマグロに言った。マグロ缶から顔を上げて、ニャーとマグロは鳴いた。

いつも半開きにしてある部屋のドアを開けて、トムキャットが帰ってきた。
「この雨ん中どこ行ってたんだい?」
コイツは親父が拾ってきた雄猫だ。めんどくさがりの親父はオレに名付け親になるように言ったのだった。
「オレがツトムだから。。そうだ、お前はトムキャット。」即決だった。
だがオレの名前が書いてある生徒手帳を引き裂いてゴミ箱に捨てた日からオレはもうツトムですらないのかも知れない。

マグロとトムキャットは仲がイイ。当たり前だよな。オレのオレのブラザー達だ。煩わしい諍いなんて親父の世代で終わりなのだ。。。

「そう言えばマグロ、お前まだ生徒手帳持ってたよな。」
マグロの唯一の所持品だった。一度見せてもらったことがある。マグロが元カレと一緒のプリクラ
が張ってあった。「お前も捨てちゃうんだな。。」カップラーメンの最後のひと汁を啜り終えるなり、オレはマグロに踊りかかった。
マグロはいつも素っ裸なので服を脱がす手間はいらない。「ニャー。」抵抗もせずスグよがる。
「お前ベッドの上じゃあ、マグロじゃないのな。。。」いつもの苦笑い。


「徳川」「トルソー」「無粋」
450名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 21:42:26
徳川トルソーはうんこが好きだ。
無粋なんて言わせない!

「ニート」「やるかぼけ」「おまえらのことじゃ!」
451名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 21:53:55
「ニート」「やるかぼけ」「おまえらのことじゃ!」

ニートAは馬鹿にされていた。
家族からも、社会からも、2ちゃんねらーからも。
どこに行ってもどこに居ても馬鹿にされていた。

ある日、同窓会のハガキが届いた。
ニートしているなんて恥ずかしくて、高校のみんなと会えないと思った。
でも片思いしていたBちゃんが気になった。
それで、当日は作家志望だと言うことにした。
世間知らずなニートAは、そう言えば平気だと思っていた。

当日、会場に行くと、怒鳴り声がしている。
「やるかぼけ!」
「おまえらのことじゃ! おまえらのせいじゃ!」
叫んでいるのはBちゃんだった。したたか酔っている。
見ると、お腹にダイナマイトを巻いていた。
イジメに会ったせいで人生が壊れ、風俗で働いていると、クラスメイトが話していた。
僕がいっしょに逝ってあげる。ニートAは優しい笑顔でBちゃんを抱きしめた。

「栞」「時計」「革靴」
452名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 23:19:38
おじいさんの時計〜〜♪
本を読んでいると、平井堅の声が聞こえた。
うっとうしくなったので栞をはさんで外に出よう。
革靴を履いた。そのときテレビ消すの忘れたことに気付いた。

「芥川賞」「ニート」「作家」
453名無し物書き@推敲中?:2006/08/18(金) 23:50:32
部屋のドアが開く音がした。小さな足音が小走りに近づいて来て、
壮大な音を立ててソファに飛び込んだ。
「お嬢様ですか?」
私はゼンマイを巻きながらお尋ねした。返事はなかったが、何か紙擦れの音が
聞こえてくる。
振り返ると、お嬢様が私の持ってきた文庫本のページをすごい勢いで捲っておいでだった。
「……何をなさってるのですか?」
「栞取っちゃった。どこから読むのか分かんないよね」
お嬢様は私の言うことを無視してお答えになった。そして本をテーブルの上に投げ出され、
高取は何やってんの、とお尋ねになった。柱時計のゼンマイを巻いております、
とお答えする。
「ふーん」
まったく興味は無さそうだ。私は向き直ってゼンマイの残りを巻いた。再び振り返った時、既に嬢様はいらっしゃらなかった。
椅子から降りようとすると、靴も無くなっていることに気づいた。昨日出したばかりの、黒の革靴だ。
「……嫌われているんだろうか」
お嬢様がこのようなことをなさるのは今に始まったことではなかったのだ。
454名無し物書き@推敲中?:2006/08/19(土) 01:07:24
「芥川賞」「ニート」「作家」

ドアを開けると美少女がいた。黒髪でストレートのセミロングに、
ぱっちりとした眼と透き通るような白い肌、という今時嘘臭いような美少女だ。
「……う、あ、なんすか」
とっさの事に俺はどもりつつ尋ねた。相手に目を合わせることはおろか、視界に入れることすらも出来ず、
Tシャツの裾をしきりに掴みながら、ドアの隙間から覗く外の景色と下駄箱との間に視線を泳がす、
というひたすら挙動不審な対応をする自分に少し嫌悪感を覚えた。
ここ一週間生身の人間と接していなかったため、俺の不安定なコミュニケーション・スキルは
最低レベルに落ち込んでいたのだ。
「行数も少ないので単刀直入に言いますね」
美少女は特に気にする様子もなく一方的に喋り出した。
「私、作家を目指してるんですけど」
はあ。俺は気の抜けた答えをしつつそれを聞いていた。彼女が言うことをまとめると、
自分は芥川賞を狙っており、応募する作品を執筆するにあたって昨今の社会を鮮やかに
捕らえたフレッシュなテーマが欲しい。そうだ、『ひきこもり』なんてどうだろう。
でもあたしひきこもった事なんてないからどう書けばいいかわかんない……。
「なので、ホンモノの方にひきこもりの生態を観察させていただきたいのですが」
美少女は上目遣いに懇願した。いや、俺は確かに対人恐怖症で挙動不審だけど、別に引きこもってるわけじゃなくて、
ただの出不精のニートなんですけどね。そんな誤解をされるのは少々遺憾だ。
「立ち話もなんですから、とりあえず上がらせてもらえますか?」
美少女は当然の事ように提案した。この美少女は少々図々しい美少女のようだった。
今になれば、この時断っておけば良かったと思う。というか、常識的に考えれば断るのが当然だった。
しかし、先日録画した『N○Kにようこそ』の第4話を観たばかりだった当時の俺は
正常な判断能力を失っており、もしかして俺の岬ちゃんキター? などと舞い上がっていたのだった。

「HDDレコーダー」「絆創膏」「熊」
455名無し物書き@推敲中?:2006/08/19(土) 02:57:31

HDDレコーダーには絆創膏が貼ってあった。
熊の似顔絵付きの。
かわいいね!

「怪談」「階段」「猥談」
456名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 01:16:15
女になりたい。
どんな怪談よりも怖くて、どんな夢より現実的じゃない。
ウソも冗談も下手で殆ど言わない人間の口から、信じられないようなそんなセリフが吐き出された。
しかし…まぁ今にして思えば、そうした臭いを随分前からほんの少しづつさせていたのかもしれない。
ニューハーフ(!)と世間で呼ばれるものになり、そこから完全に彼から彼女に変わるまで思った程年月はかからなかった。
夏には戸籍上も、体も女として生まれ変わり、再出発だと彼…違った!彼女は言う。
ティースプーンに添えた彼女の指先は花びらか南国の貝のように美しい形と色をしていた。
もう1杯…入れるんだったよね?とシュガーポットからさらにひと匙砂糖を加えて混ぜた。
あの頃、一緒に遊んだ彼は消えてしまったけれど君は幸せになったんだね。
なぁ、でも学生時代にはクラスの男どもと猥談にも興じたじゃないの。あ、いや別に責めてるんじゃないんだ。
ただ……学ラン姿はねぇ良かったよ。密かに女子にも…あはは、ごめんごめんもう言わん!
おっとそんな事より、これ引越し祝い。可愛くない?階段のところ…うんその飾り棚に飾ったら素敵と思う。
愛すべき女友達に乾杯!あっこれ紅茶だったね、まぁいいやね。乾杯!
すばらしいよ、女の人生ってのは。色々教えてあげるさ、一応先輩だからね。頼もしいだろ、そうだろう。

「俳句」「72」「ビデオデッキ」
457名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 01:50:48
俳句を詠んでいたら、急に072がしたくなった。
急いでビデオデッキをテレビに付ける。
秘蔵のアダルトビデオがあるのだ。
ものの5分で僕は絶頂を迎えた。
ピュピュピュー。カルピスがブラウン管を汚す。
きもちえがったのう。

「おまんこ」「挿入」「はやく、いれて!」
458名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 02:15:17
「おまんこ」「挿入」「はやく、いれて!」

俺が三語スレを開くと、御題はこんなんだった。
「おまんこ」「挿入」「はやく、いれて!」
ふざけるな。>>1に官能系は白けるので自粛とあるではないか。
俺の指はそんな話を書くためにあるのではない。
テンプレにあるように五行以上の目安を満たしたところで終える。

御題は>>456の「俳句」「72」「ビデオデッキ」で。
459名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 02:28:17
「おまんこの電車乗るんけ?」
 俺が切符を改札口に挿入しようとした、まさにそのとき。妙に訛った駅員に声を掛けられた。
「そうですが何か?」
「おまんの連れ、さっき違う改札口行くん見たでよ。間違っとりゃせんかと思てな」
 俺は場所を改めてみると、確かに違っている。
「どうもありがとうござい――」
「ちょっと、早くいれてよ!」
 後ろを振り返ると、イライラした女が腕を組んで立っていた。
 まだこの時はあんなことになるなんて思ってもみなかったな。

「虫食い」「パスタ」「釘バット」
460459:2006/08/20(日) 02:35:22
>>458
悪い。書いちゃった。
461 ◆oZZZo/6Eac :2006/08/20(日) 04:55:15
「台風」「一家」「一過」
「星座」「金」「体温計」
「HDDレコーダー」「絆創膏」「熊」
「俳句」「72」「ビデオデッキ」
「虫食い」「パスタ」「釘バット」


夏休みの宿題はオリオン座の観測だった。学習ノートを持ってベランダに出る。
台風一過とはよく言ったもので、夜の空はよく晴れていた。いくつかの星座でできた
夏の大三角形が輝いている。8月19日のオリオン座の位置を16分割したマスに記録した。
8月5日に比べると、だんだんと西へと移動しているのがわかる。

ベランダから部屋に戻って、録画しておいたNHKの俳句番組を見ようとしたら、
違う番組が入っていた。思わずビデオデッキをにらむ。Gコードの番号を間違えたのだ。
風邪で寝込んでいたから録画したというのに、これでは意味がない。HDDレコーダーが
ほしくなった。あれなら録画の予約ミスが起こらない気がする。体温計では平熱に下がって
いたけれど、頭の状態までは数字に表れない。仕方なく、かわりに入っていたニュースを見る。
金のトラブルをめぐる暴力団の抗争で何々一家が釘バットで暴れただの、熊が蜂蜜ほしさに
養蜂場を荒らしただの、特集の、ちょっと役立つ家庭の知恵では、服の虫食い予防には
竹の酢が効果的だの、熱にうなされていた間の出来事を簡単に知った。

パスタが茹であがるまでに郵便受けを見てきた。帰省中の娘から残暑見舞いが一枚、届いていた。
消印が8月72日になっている。暑さで局員の頭もぼーっとしていたのだろう。葉書の、娘が描いた
自画像は頬に絆創膏貼ってあり、小川で転んだとつたない字で書いてあった。楽しそうでなによりだが、
妻と娘が帰ってくるまで頼まれた宿題と自炊が続くと思うと、熱がぶりかえしてきそうだった。


お題は「珈琲」「経済」「芝生」でお願いします。
462名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 09:56:09
「珈琲」「経済」「芝生」

立ち止まり財布を開く。
今は店で珈琲を飲む経済的余裕もないようだ。
隣を見る。……状況は似たようなものらしい。
仕方なく前を通りすぎ自販機に金を投じる。
吐き出させた缶詰珈琲を飲む。
温い。相方はお茶。あちらにすべきだったかも知れない。
交換しようと言った。
やけに素直に従うものだ。

お互い一口飲んで再び缶のトレード。


……温かった。隣の芝生はなんとやら、だ。


「本」「自転車」「掌」
463gr ◆iicafiaxus :2006/08/20(日) 10:21:53
#「本」「自転車」「掌」

本が傷むと思っても自転車を飛ばす
丸善の紙袋がカゴの中で揺れる
早く立ち読みの続きが知りたくて
長い上り坂に立ちこぎの掌が汗ばむ

#お題は継続で。
464名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 21:22:05
本を読みながら自転車をこいだ。
目の前には崖が。
思い切って飛び込んだ。
ハンドルが掌から離れる。
痛かった。

「うんこ」「キリスト」「ペニ」
465名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 23:16:36
「本」「自転車」「掌」

日曜の昼下がり、妻に買い物を頼まれて家を出る。
生来の忘れっぽさというもの後生大事に持ち歩いて三十年、
油性のマジックで掌に書かれたリストには妻の諦めが良く表れている。
車を使う気にもなれず徒歩で最寄のスーパーへと向かう。
途中、山の手の住宅地へ向かう上り坂を自転車で駆け上っている少年を見た。
必死の形相で坂道を駆け上る自転車のカゴでは丸善の紙袋が踊っている。
一体何処まで登るつもりか、と少年の後姿を眺めているとカゴからポン、と丸善の紙袋が跳ねた。
自転車の倒れる音がこちらまで聴こえて来る。盛大にすっ転んだ少年の手には丸善の紙袋がしっかりと握られていた。
痛かったのだろう、起き上がるのにしばらく時間が掛かったが少年は無事に立ち上がり、再び自転車で坂道を登っていく。
そうまでして読みたい本があるのか、そんな事を思いながら家に帰った。
玄関で妻に蹴倒されて、やっと買い物の事を思い出した。

お題は継続で
466名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 23:29:03
上の人失礼だね
467名無し物書き@推敲中?:2006/08/20(日) 23:43:36
 欲しい書籍はネット販売で手に入れる。自転車に乗って二、三分程の場所に本屋があるのだが、そこに行くことさえも億劫なのだ。
 引きこもりを始めてもう何年目だろうか。高校を中退してからずっと家にこもっている。外出は年に二回。そう、年に二回だけ開かれるコミケのときにだけ外に出るのだ。
 仕事をしない掌はいやに白く、情けなくぷよぷよしている。久しく散髪していない髪は引っ張れば顎まで届いてしまう。
 ピンポーン。
 掲示板で煽りをしているとインターフォンが軽快な音を起てた。そういえば、そろそろ注文していた同人誌が配達されるころだ。
 おふくろに取りに行かせよう。今は>> 1の反応が気になる。



流れ豚切りだがお題は
「ゴッホ」「時計台」「女優」でヨロ
468名無し物書き@推敲中?:2006/08/21(月) 22:25:10
ゴッホは固有名詞では無い……のか?
469名無し物書き@推敲中?:2006/08/22(火) 00:40:46
姪がこっちに来るという連絡が入ったのは、彼女が東京に到着するであろう時刻の四時間前だった。
去年の盆に帰郷した際、女優になりたいから東京に行く、面倒を見てくれ。と、会うなりせがまれた事を思い出す。
とにかく移り気な性格で、二年前の盆の時は、あの時計台をぶっ壊したいから建築関係の仕事に就きたい。と言っていた事も合わせて思い出された。
あの時計台とは、札幌の中心部にある観光名所とされているあの時計台の事で、なんでそんな事を思い立ったのかと問うと、
「あんな小さい時計台ではわざわざ観光に来てくれた人に悪い。あたしがもっと大胆で大きい時計台を作ってやる」
との事だった。
奔放、野放図、粗野、豪快。女優には全く縁の無さそうな単語が良く似合う少女が東京まで来て一体何をするのだろうか。
ゴッホがきっかけだったと彼女は言った。
ある日の深夜、偶然見た炎の人ゴッホというタイトルの古い映画が彼女を女優の道へと転進させたらしい。
映画がどんなに素晴らしいものかという事を、二年前に時計台の話をしていたのと全く同じ熱の篭った口調で語る彼女の顔は今でも良く覚えている。
まあ、夢を見るのは良い事だし、もし夢破れたとしても彼女にはまだまだ大量の時間が残されている。
だから、この一夏の東京生活もきっと彼女の次の夢への掛け橋となる事だろう。
すぐに見つけられるように、今年で十歳になる姪の顔を記憶の中から引っ張り出しながら空港へと車を走らせた。

続いて「辞典」「CD」「早朝」
固有名詞ヤバイ。マジ勘弁。
470名無し物書き@推敲中?:2006/08/22(火) 02:00:08
ある日の早朝、総長が死んだ。
CDに呪いの言葉がインプットされていたらしい。
族の者たちは、そのCDを捨てられずにたらいまわししていた。
怖いもの知らずの、赤丸急上昇中、シンナー吸いまくりのヤンキー崩れがどうってこたぁねえよと言い放って、CDをプレイヤーにかけた。
ところがそのヤンキー崩れは死ななかった。言葉の意味を知らなかったのだ。ためしに辞書を渡してひかせてみると、泡を吹いて死んだのだった。

「072」「AV」「白濁」
471「072」「AV」「白濁」 :2006/08/22(火) 15:47:38
「怨恨かな・・・?」
俊夫がすっかり白濁した角膜と強膜の出血の有無などを確かめながら呟いた。
首には赤と白のプラグのあるAVコードが巻き付いており、これでもかという
ほどに深く索状痕が刻まれている。部屋のオーディオから引き抜かれたものらしく、
計画的な犯行とは考えがたい。
仏はこの大邸宅の主人で、電子機器関係の大会社の会長。そういう人物には
珍しくないことかも知れないが、ここまでになるには色々と人には言えない
こともしてきたらしい。怨みを持っている人物はいくらでもいるという
話だ。疑わねばならない人物の多さにうんざりしながら俺は被害者の近くに落ちていた
手帳の裏表紙に目を凝らした。光の具合か、何か小さな文字を見たように思ったのだ。
一見何も書かれていないがうっすらと文字の跡。前の頁の記載がうつったものではない。
被害者が死ぬ間際に、敢えて見にくいように爪か何かで残した手がかりか。とすれば
すでに身の危険を感じていたのか、死因は窒息でなく首を絞められたのはあるいは死後か。
「072・・・5・・・か?」
最後の5ははっきりしないが、ピンときたのは大阪の局番。大阪の取引先をまず
洗ってみるよう俊夫に命じながら、小さなため息を吐いた。


とりあえず三語使ってみただけで話の完結すらできませんでした。お題は継続で結構です。
472名無し物書き@推敲中?:2006/08/22(火) 21:56:13
意見スマソですが。。
お題継続というのは「バッチ来い!」と良い意味での「ネタ減少の意地悪」になると思う
ので、「継続で結構です」と謙譲の意味ならばご勘弁願いたい。。
473472:2006/08/22(火) 22:53:52
すみません。ご指摘の意味が十分にはわからないんですが
なんか今回のお題が意地悪に見えたので自分なりに抵抗して
みたかっただけなんです。

じゃあよければ「梨」「入道雲」「腕時計」で。
474「白濁液」「072」「av」:2006/08/22(火) 23:42:44
また違うと叱られた。
それも、数年前まで可愛らしい赤ん坊だった女の子からだ。
「だから白濁液じゃなくて精子なのっ。分かった?」
毎日毎日うんざりするほど怒られてばかり。
この前も、おなにーを誤変換して072にしてしまい、こっぴどく叱られてしまった。
全く持って若者の好みは分からないと骨身に染みる。
そもそも私達には難しい事だったのだ。
酷く衰えた目を精一杯使ってピカピカ光るテレビと一日中睨めっ子。残りの人生が亀程長く感じる。

こんな事なら、あるいは……。
「ほらっ。お婆ちゃん。次は、私はいやらしいAV女優ですって書き込んでっ」

余り余った老人は絞りカスまで使うなんて。
全く、長生きなんてするもんじゃないわね。


「結婚」「虫」「借金」で
475名無し物書き@推敲中?:2006/08/23(水) 00:42:36
472さん、たびたびすみません。473=471でした。
476名無し物書き@推敲中?:2006/08/23(水) 00:53:06
「梨」「入道雲」「腕時計」

前進あるのみ。
ここまで来ると前進しかない。

白い入道雲。太陽と蝉の声、押し黙る風に騒ぐ太陽。

空間を展開。時を止めている。
腕時計を見る。
……確かに時間は流れている。
どうにか涼しくなれないものだろうか。いや決してなれない。
全く憎たらしい。

二つを再確認したところで目的地である屋敷を見上げる。
先ほどから見えてはいるが近付いている気がしない。

モノに釣られたのが良くなかった。悪魔の果実。冷えた梨の誘惑。

「人混み」「管理」「料理」
477名無し物書き@推敲中?:2006/08/23(水) 01:13:30
>>471さん

いえ、こちらこそ、意見などして申し訳なかったと、、。
継続のお題でアイデアが出なかったことによる愚痴でした、、
しかし継続のお題で書いている方もいらっしゃる。
お許しくだされ、、
478名無し物書き@推敲中?:2006/08/23(水) 01:17:23
本スレでやるなや
479名無し物書き@推敲中?:2006/08/23(水) 02:01:33
3年前の同窓会の席で「どちらが先に結婚するか賭けをしよう」と約束した旧友から一通の小綺麗な便箋が送られてきた。
まさか、と思いながら封を開くと中身は案の定結婚式の招待状で、
髪の長い美人と一緒に写った写真も何枚か同封されていた。

「俺たち結婚します。カケ忘れんなw」

俺は首筋を掻きながら満たされた笑みを浮かべる友人を睨みつけた。
こっちは借金で首が回らないというのに、その上こんな賭けまで負けるなんて笑いも出てこない。

今は金がヤバイ。友のよしみとしてなんとか免除して欲しい。
その由をメールに書き連ねながら写真をじっと見つめていると、いくつかの写真の背景に同じ水色のシャツが写っている事に気付いた。

虫眼鏡で覗いてみると、この顔は同窓会で一緒だったカオリらしい。そう言えばあの後酔った勢いで二人して帰ったのを思い出した。

見るとどの写真にも同じ顔があった。なるほど、再び集まったメンバーを仰天させる趣向だな? 俺は「カオリ見えすぎ乙w」と打ち沿えて送信してやった。

しばらくそいつからの返事はなかった。
翌週やっと来た返信には何が書いてあるのか皆目見当がつかなかった。奴はとにかくパニクっていた。
480479:2006/08/23(水) 02:06:30
お題は>>476ので。
481名無し物書き@推敲中?:2006/08/24(木) 07:27:36
「人混み」「管理」「料理」

 通夜の翌日、葬式には、親族が山の様に押しかけた。
 親族、友人、幼馴染。今まで会いたくても会えなかった人々…
 これまでにない人混みが、棺の前に所狭しと並んでいる。
 誰も管理すらしなかった、閑村の本家に、一気に輝きが戻った様だ。

 これだけの心温かい人々がいて、なぜもっと会えなかったのだろう。
 …という、どこかの安物ドラマの様なセリフが、ここまで実感できた事はなかった。

 「そろそろいいかな」
 ボタンを押すと、開会のナレーションが流れ、場が静まり返る。
 俺は、棺の蓋を「バーン!」とはねのけて立ち上がり、鼻につまった綿をとって一礼した。

 「皆様、こんなに沢山集まってくれてありがとう。
  忙しいみんなが集まるは、これしかないと思って、こんな小さな木の箱の中で待っていました。
  さあ、葬式まんじゅうも料理も沢山あります。忌引の休みを使って、おおいに騒ぎましょう!」

※元ネタあったと思うけど忘れた…
 次のお題は:「次元」「初夏」「うどん」でお願いしまふ。
482白木の子:2006/08/24(木) 09:26:04
 蒸し暑い初夏の日差しから逃げるため、俺は先輩が行きつけだと言う店に入った。
 そこはうどん屋で、割かし空いていたので畳に腰を下ろした。
 
「ころうどん大盛りにきつね4つ乗せてから掻き揚げね」
 先輩がそんなことを言うもんだから思わず吹いた。
「ああ、いつものね。で、そちらは?」
 メモ取ってるおばちゃんは顔色一つ変えることなしにこちらにその切っ先を向けた。
 完全に不意討ちだ。あれ、名に頼もうとしてたんだっけ?
「ええ……じゃあ同じやつを」
 言ってしまった。そして後に残ったのは後悔と恐怖。
「はい。畏まりました」
 と言うとおばちゃんは厨房に帰っていた
 別次元の食い物が来るに違いない。食い物じゃない可能性も考えられる。
「先輩、きつね4つて……いったいどんな?」
「おそるるにたらず、大丈夫だ。美味いから」
「はぁ……」
 などとそんなやり取りをしていると、例のブツが襲来した。
 おばちゃんが両手に支えてきたそれはすさまじく、その名のとおりきつねが4枚乗り、
中心に掻き揚げがどんと居座っている。麺が見えない。
「はい、どうぞ」
 おばちゃんは伝票を裏返して帰っていった。
 目の前に残されたうどん屋の産物に手を合わせて俺は誓う。
「いただきます」
 
次は「750cc」「クーラー」「おっさん」で
 
483名無し物書き@推敲中?:2006/08/24(木) 14:29:40
「750cc」「クーラー」「おっさん」


 俺の町にはいわゆる変なおっさんがいる。
 60代後半、いつも半裸で公道を歩き回り、町の景観を害して警察に職務質問を受け、地域住民のそしりを受けている。

 友達の千春は変なおっさんと直接話した事があるらしい。話しかけられたと言った方がいいだろう、こいつは疑う事を知らないのでたまにあぶなっかしく感じる事がある。

 いつも半裸で歩く理由を尋ねると、「家にクーラーがないから」だそうだ。どうやら自由人だったらしい。

 その日は祭りで千春と一緒に夜9時まで外をぶらぶらしていたが、どうも暑苦しくてかなわなかった。

 人混みの熱気を避けるように公園に向かうと、背後から5人くらいの不良達がついてきている事に気付いた。

「どうしよう、信ちゃん」
 怯える千春を連れたままとにかく追い付かれないように進んでゆくと、前方にヘッドライトの明かりが見えてきた。

 不良達はなにやら呟いて進路を変えてゆく。

 750ccに跨っていたのは、半裸にヘルメットを被った頭のてっぺんからつま先まで紛れもなく変なおっさんだった。
 おっさんはバイクを少し先で停めると俺たちの側まで足で漕いできた。
「こんな夜遅ぅにぶらついとらんと、はよう家に帰れよ」
 警察に捕まるでぇ。
 俺たちを叱責したおっさんはたるんだ肌に夜風を浴びながら公園を疾走していった。


「風」「牧場」「飛行機」で。
484「風」「牧場」「飛行機」:2006/08/24(木) 17:54:18
「おじいちゃん!来て!はやく!」
 孫娘に急き立てられて慌てて牛舎から出た。一体何事かと唾を飲んだところ、しきりに空を指さす。
「ねえ、変わった雲でしょう?」
「ああ・・・そうだな」
 飛行機雲なんて何年ぶりに見ただろう。中央政府のお偉いさんが急病にでもなったのだろうか、
そんなことを考えながら、柵に軽く寄りかかってぼんやりとその白い筋を眺めた。
「どうしてあんな雲ができるの?」
 リカはそう尋ねながら、私の真似をしたいのか、柵によじ登って座ろうとする。
 と、緑の風が牧場を撫でるように吹き上げた。赤い麦わら帽子がくるくると回りながら
飛んでいく。彼女はあ、と小さな声をあげて柵から飛び降り、またたく間に帽子に追いついた。
「そう、お前の帽子がもっともっと高く飛んで、雲の中を通ったら、あんなながーい雲ができるんだよ」
 リカは私の言うのを聞いたか聞かずか、帽子を押さえて雲に沿うように駆けていく。

地球上から化石燃料が極端に少なくなってはや数十年。
よほどの緊急事態に、特別な人間しか使えない飛行機。この子がそれを知るのはまだ先でいい。


次は「うちわ」「氷」「扉」で。
485白木の子:2006/08/24(木) 22:58:14
 ……暑い。それはもう蒸されるほどに。
「……ったく何で壊れるんだよ」
 そんな事をぼやいてもクーラーは返って来ない。
 うちわの柄を伝って汗が滴った。
 それでも窓は開けない。絶対に開けるものか。
 引き篭るのも辛いな……。温度計に目をやると、何と42度。
 駄目だ……。このままでは熱中症は避けられない。
 家の中なら……と決死の思いで扉を開ける。そして台所に向かった。
 幸い、誰にも遭遇しなかった。二度周りを警戒して、冷蔵庫を開ける。
 嗚呼、冷気というものがどれだけ大事なものか。はっきりと判った。
 コップを持ってきて、氷をがらがらと入れた。
 そして、表面張力が耐えられる限界までコーラを注いだ。
 そしてその甘い炭酸が僕の喉を癒――
 ばたん。静かの家の中にこれでもかという具合に響き渡った。
 どこかの扉が開いた。
(!?)
 顔の直前でコップが震えだした。びちゃらびちゃらと面白いほどにコーラがこぼれる。
 足音はどんどん大きくなる。もうすぐ近くだ。
(うわあああああああああああ……!)
 もう頭が真っ白だ。何も考えられない。
 
 わん。

 は?
 
次は「釣り」「クラッシュ」「猫耳」で  
486名無し物書き@推敲中?:2006/08/24(木) 23:03:30
「うちわ」「氷」「扉」

さてさて世間は夏真っ盛り、一日中汗の乾く間もない季節だってのに、
何でまたオレは寒さに震えなきゃならないんだろうねえ、まったく。
いや、震えるどころか凍死しちまうんじゃないか、これ。
暑い暑い言いながらうちわをパタパタやっていた数時間前が懐かしいね。

突然、目の前で扉が開く。急に差し込む光が眩しい。
やれやれ、どうやら氷漬けは免れたようだ。
目の前で、おっさんが腰を抜かしている。
そりゃ冷凍室開けたら人がいるんだもの、驚くわな。

# 被った……お題は >>485
487名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 01:05:41
久しぶりの休みに釣りに出かけ、中々の釣果を上げた。仕事と小学校からのこの趣味にかまけて、最近あまり構ってやれなかったのを詫びるつもりで
生きの良いのを一匹持って彼女の部屋を訪ねたのだが、タイミングが良くなかった。
平常時に置いてさえ常識がクラッシュしているこの女が一度アルコールと混ざり合うと、その本能はまるでドラッグカーの如き勢いで理性と倫理を轢き殺し、
感情と本能の魔王が地獄の蓋を打ち壊しこの世に降臨する。
部屋に入って最初に目に入ったのは、テーブルに置かれたビールの空き缶、その数およそ十数本。
「ほう、魚か。よろしい、非常によろしい。台所はそこ、包丁もそこ、まな板もある。さあ、とっとと捌いてくれたまい」
魔王は、踵を返し部屋から出て行こうとした俺の首根っこを掴むと酒臭い息で命令してきた。
こうなってしまったこいつに逆らう事は出来ない。大人しく魚を捌き、恐る恐る食卓へと差し出す。
「相変わらず良い手並だねえ、感心感心」
そう言いながら大皿一杯の刺身とビールを信じ難い速度で胃袋に放り込んでいく魔王の頭の上で何かが揺れている。
「あの、その頭で揺れている物はなんなんでしょう?」
「馬鹿かね君は。今目の前にあるのは魚、魚を好むは猫、猫といえば耳だろう、違うかい?」
意味の判らない返答に、そうですね・・・と弱々しく同意する事しか出来ない俺は、大皿が空になるまでの短くも長い時間の間、
ぴょこぴょこと揺れる猫耳のヘアバンドを見つめながら、よりによってこんな女に惚れてしまった自分の趣味の悪さを呪い続けた。

お題は
「暴君」「アイス」「電話」

488名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 01:28:45
暴君ハバネロを食べていた。そこへ電話。ああうっとうしいな、取りたくねえんだよと思っていると切れた。手が汚れているからな。口が辛いよ。この辛さでアイスなんて食べても多分うまくない。麻痺しているからな。水ごくごく飲んでやりすごそうと思った30の夏。

「あほ」「ぼけ」「かす」
489名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 01:47:30
残りっかすの脳がぼけてきたせいだろうか
今は阿呆という彼の言葉もわたしには「あほ」としか響かない

「右手」「オレンジジュース」「アンテナ」
490名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 02:14:54
右手にはオレンジジュース、僕のアンテナは少しずれているようだ。某国からのメッセージが入る。
それでもなおじっと手を見る。

「直木賞」「猫殺し」「作家」
491名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 02:58:09
「右手」「オレンジジュース」「アンテナ」
 ある日突然俺には人の心を察知するアンテナがついてしまった。

 喫茶店に入るとどんなに寂しい店でも他の奴らの倍は騒がしく感じてしまう。もはやBGMなど耳に入ってこない。

 隣の老人はじっと右手を見つめて銃で殺した兵隊の表情を思い出している。
(戦争の事でも思い出しているのかしら?)

 男と話し合っている女は来るのが遅いオレンジジュースの方が気になっている。
(さっさと別れなさい。ジュースでもぶっかけなさい)

 俺は驚いて店内を見渡した。今確かに、心の声の中に誰かの感想のような呟きが混じっていた。
 慌てて辺りを見たが、店内にはそれらしき客の姿は見当たらない。どこか聴きなれた心の声は俺が視界に捉えている客に対して次々と感想を述べていった。
 この声の主も俺と同じ能力の持ち主だ。どこか遠くから俺の心の中を覗いて店内の映像を見ているんだ。

(誰だ)俺は謎の相手に対してメッセージを送った。(俺の心を覗いて、一体何をするつもりだ)

 するとしばらくの沈黙の後に、その声は答えた。

(外食ばっかりせんと、たまには栄養のつくもん食べんしゃい)

 ああ、くそっオカンか



次のお題は
「光」「夏」「大声」でお願いします。(´ω`*)
492名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 03:23:37
おいおい、かぶってるよ!!
493名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 23:37:34
「光」「夏」「大声」

客席の歓声、広いグラウンド、選手たちのかけ声。どれも昔と変わらない。
二十年前の、今日と同じような暑い夏の日、私は初めてこの球場へ来た。
中学時代の友人が県代表校の選手として出場すると聞いて駆けつけたのだ。
第四試合だった。プレイボールの声がかかった頃にはもう日が沈みかけていた。
試合開始から程なく、照明に灯が入る。ダイヤモンドを照らすその光が予想以上に
眩しかったのを覚えている。
喉が痛くなるほど大声で応援し続けた試合の結果は残念なものだったが、
球場の外で待つ私の前に彼は晴れやかな表情で現れた。
「今年は出られただけでも、まあ満足だ。でも、次はもっと上を狙う」
「次って。お前もう三年じゃん」

それから二十年経った、つまり今年の、八月の頭。
電話口で久しぶりに聞いた彼の嬉しそうな声が伝えた。
「うちの高校、甲子園に出るんだ」
そう、彼は指導者としてあの地に戻ってきたのだった。

# お題継続で
494名無し物書き@推敲中?:2006/08/26(土) 13:17:41
>>488-490
まず>>1をしっかり読んでね。
それでもスレ主旨に沿わない投稿を続けたいなら他スレへ。
495名無し物書き@推敲中?:2006/08/27(日) 08:36:19
大江光は、夏が好きだ。
大声で叫ぶ。「夏がすきだ〜〜〜」
496名無し物書き@推敲中?:2006/08/27(日) 13:24:23
志村ー、お題、お題!
497名無し物書き@推敲中?:2006/08/27(日) 15:49:53
無いときは自動的に継続
498名無し物書き@推敲中?:2006/08/27(日) 17:11:57
「光」「夏」「大声」

 昔あるところに竜彦という年頃の少年がおった。
 竜彦には気になる子がおった。
 去年村に越してきたばかりのAはなんでも外の光が苦手だそうじゃ。日中はなかなか外に出てこんが、それでもちらと見たところかなりの美しい娘であったと村で評判になっておった。
 ある夏のむし暑い日、Aは婢をひとり連れて馬車で出かけていったそうな。それを聞いた竜彦は村の若者に加わって後を着けて行った。
 ついた先の河原では、身を隠すほどの大きさの岩の間からこんこんと澄んだ水が流れていた。Aは婢の手を借りて一糸まとわぬ姿になっており、果たして驚くほど真っ白な肌を持っていた。
 それを見た村の若者はたまらず大声で笑い、彼等は逃げるようにその場を去っていった。
 小麦色に焼けた乙女の肌しか予想していなかった彼等には、Aの優美な白い肌はことさら奇異に映ったのじゃ。
 ただひとり、竜彦だけは木陰から動く事ができなんだ。
 頬を赤らめて悔しそうに下唇をかんでいるAの、婢に連れて行かれるその美しい姿に彼は心から感激しておったのじゃ。
 後に竜彦は立派な武将となり、戦場に美少年の小姓を連れていくようになった。
 竜彦は大和の国ではじめて「男でもいいか」と思った男の先駆けとなったのじゃった。



すんません、この何のアイデアも浮かんでこないお題考えたの俺ですじゃorz
次は「竃」「雨」「手紙」でお願いします。
499名無し物書き@推敲中?:2006/08/27(日) 21:37:35
「竃」「雨」「手紙」

「ねえ、今どのあたりにいるかわかる?」
「さあ。でも下へ降りてるのは間違いないんだから、そのうち麓に着くよね」
さっきからずっとこの調子。彼はいつも呑気だ。でも、何もこんな時まで。
私たちは登山道をとっくに見失い、現在位置も方角も定かでなくなっていた。
時折、頬に冷たい粒が落ちる。どうやら雨まで降り出したようだ。
幸いさっき洞穴を見かけた。本降りになる前にあそこへ戻ろう。

洞穴の中へ転がり込むと、寒くもないのに火をおこし始める彼。
曰く、お約束なんだそうだ。それにしても、この状況でもまだ笑顔でいられるとはね。
「そうだ、この辺の石積んだら竃にならないかな」
……どうやら本気で楽しんでいるご様子だ。

「鳩でも飛んでこないものかなあ」
今度はそんなことを言い出す。あんまり唐突だったものだから思わず笑いそうになった。
「え?飛んできたら何かあるの?」
「うん、助けを求める手紙を託そうかとね」
「あはは、それいいね。なんて書く?」
まったく、彼には敵わない。

# 次は「形式」「信念」「逸脱」で
500名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 21:56:24
「形式」「信念」「逸脱」

「形式上、君は研究員という事になっているが、まあ気にしないでくれ」
日当五万円。アルバイトに支払われる賃金では紛れも無く最上の物である。
「ここが仕事場ね。広いだろう」
仕事場と言われた部屋の中には、小さな灰色のロッカーと液体を満たした巨大なガラス張りの水槽以外には何も無い。
「死体を洗えとの事ですけど」
うん、と私の質問に案内人の男は頷いた。
「死体なんてどこにも無いじゃないですか」
うん、とまた一つ男は頷き、もうすぐ帰ってくるよと小さく呟いた。
「ここに来るまでに話さなかったのは申し訳ないと思っている。でも、この仕事は、まあ常識というのかね。そういうものからは随分と逸脱しているから」
そこまで聞いたとき、私はこの部屋には二つの扉がある事に気が付いた。私達が入ってきた扉と、もう一つ。
「ああ、帰ってきた。さあさあ、取り掛かろうじゃないか。用具は向こうのロッカーに入っているからね」
大きな音を立て開け放たれたもう一つの扉から、裸身の男女が秩序だった縦隊で水槽の淵から伸びる階段へと行進していく。
あれが、死体ですか。ようやくの事で吐き出した質問に、男は意味ありげに笑い、答えを返してきた。
「そうとも、死亡診断書、遺体寄付の手続きに関する書類全般。全部揃っている正真正銘の死体だよ、形式上はね」
形式上。その言葉に大きな違和感を抱きながらも、受けた仕事は最後までやり遂げるという自分の信念に従い、頂上に立つ死体の元へと階段をゆっくり登って行った。

お次は
「フライパン」「スプレー」「決死」
501白木の子:2006/08/29(火) 10:27:24
 休日なのでだらだらと過ごそうと思っていたのだが、藤乃から「引越しを手伝え」との連絡があり、
馬鹿みたいにアパートまで赴き引越しの手伝いをしていたときだった。
 台所の片付けをしていた時、事件は起きた。

「きゃああああああああああああああああああああああ!!」
 藤乃が絶叫を上げた。
 途端、手に持っていたフライパンを振り回し、そのフルスイングは不運にも俺の腹部に直撃。
 ごふっ。ケーオー……。
「……う、あ……今のは効いた」
「ああ、違うの! 今のはゴキブリが、ほら……あそこ!」
 藤乃の指差す先に目を向けると、全長5cm程の太古の生物を確認。
 あの黒っちょろい生物が間接的にしても俺の腹に多大なるダメージを与えた元凶なのか。
 ど畜生が!!
「ゴキブリは絶対倒す」
 一言藤野に告げ、俺は戦場となる台所を見渡した。
 冷蔵庫の上に、殺虫スプレーを発見! 勝利を確信した。
 ゴキブリは、換気扇付近似て待機している模様。
 僅か2秒の出来事だった。
 冷蔵庫まで横っ跳び。そして、決死の思いでスプレーを構えコンロの前まで再び跳ぶ。
 この連携が功を添うし、ジェット噴射がゴキブリに直撃。すぐに泡だらけになり、コンロの上に落下。
 あの一撃を食らえば、たとえどんな生物であろうと再び立ち上がることはできない。
「……勝った」
 
 その数分後、腹痛を訴え病院に行ったのは言うまでも無い。
502名無し物書き@推敲中?:2006/08/30(水) 23:06:21
 戦場は途方もない熱さだった。敵からは手榴弾が休みなく投げ込まれる。まるで水滴が降りかかる熱したフライパンの上を歩いているようだ。
 すぐ目の前の壁が被弾し、熱湯の様なものが顔にふりかかった。
 俺は目をかばいながらバリケードの後ろに身を転がした。
 物陰にいてもこの熱気ををしのげる訳ではない。破片が当たった顔は右半分が軽くうずく程度だったが、掌を見ると全体にべっとりと赤いものがついていた。

───くそっ、まだか!
 血を拭いながら左手をガンホルダーに伸ばした。指先がちょうど人肌の温度になったスプレー缶を探りあてる。この戦いを何度も終らせてきた最終兵器だ。

 敵が叫んでいる。一体何と言っている? 俺のことが憎いと罵っているのか? それとも、ただ声にならない悲痛な叫びを上げているだけなのか? 答えは分からない。

 ただ分かっているのはあの闖入者が俺の平穏な日常をめちゃくちゃにしたという事だ。家は消し飛び、アルバムに写った顔はひとつ残らず赤色のクレヨンで塗り潰されてしまった。出来れば全てが夢であって欲しいが、それは例え俺が神であろうとも不可能に近い事だ。

 どうやら手榴弾は尽きたらしい。バリケードの向こうからは手あたり次第に物を投げつけてくる赤ん坊の泣き声が聞こえてくるだけだった。

 俺は捕乳瓶をおもいっきり振ると、決死の覚悟で戦場へと突入していった。




次のお題は「昔話」「モチベーション」「合格記念」でお願いします。(´ω`*)
503名無し物書き@推敲中?:2006/09/01(金) 18:41:35
父の昔話を聞くたびにいつも思う。人は過去を振り返る事しかしなくなった
時から腐敗していくのだろう。合格記念だと見せられた受験番号を書いた
紙。東京大学だそうだ。一緒に見せられた合格発表の日の若き日の学生服
を着た父の写真。今の父からは想像もつかないような精気にあふれそして
未来への希望に満ち溢れていた顔をしていた。
その話を父から聞かされるたびに僕はやりきれなくなりその場から逃げ出し
たくなった。
その数ヶ月後、僕は戸棚の整理をしている時にアルバムの中に父の写真を
見つけた。日付けを見ると父が現在の会社に勤め始めて二年後の時の彼の
姿だった。
およそ二十数年前ということになる。
僕は驚いた。
驚いたのは父のその顔だった。
しわこそ少ないものの彼のその顔は今現在の彼の顔と全く同じだった。
希望を失い何かにおびえているような彼の顔。

彼の夢であった東京大学に入学した時に彼の人生のモチベーションは
終了したのだろう。

僕は何かを決意したようにアルバムをとじた。

504名無し物書き@推敲中?:2006/09/01(金) 18:43:49
次は 「愛してる」 「積み木」  「雲」
でお願いします。
505名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 02:54:08
「ねえ、私の事本当に愛してるの?」
またか、と将人は思った。ここのところ、千春は自分の愛を疑ってばかりいる。
聞こえないふりをして、作業を続けた。
「…結婚、しよっか」
将人はため息をついた。
千春が思っているほど、結婚は簡単なものではない。
今の自分が挨拶に行ったとしても、彼女の両親は決して認めてはくれないだろう。
それに、まだ自分を確立する段階にある将人にとって、結婚などというものは、雲を掴むような話でしかない。
「そんな事言ったって――」
意を決して将人が口を開いた時、目の前を孝明が走り抜けていった。
「ほら孝ちゃん、走らないで。折角まーくんが作ったお城が崩れちゃったじゃない」
佐織先生の声がした。
「ハーイみんな、お昼寝の時間ですよ〜」
目が覚める頃には、千春の機嫌が直っているといいのだけれど。
崩れた積み木の山を横目に見て、将人は短い眠りについた。

次は「バランス」「すこぶる」「いぶし銀」で。
快音と共に放たれた打球が、ホームランボード(?)のど真ん中に命中した。
バッターボックスでは笙子が感極まれり、という表情でうんうん頷いている。
2ホームラン、22ヒット、3ファール、2ストライク、1ボール。
135km/hのボックスながら、俺よりいい成績を残して彼女は戻ってきた。
「やっぱ甲子園に出るような高校球児のアドバイスは違うよなー」
すこぶる満足げな表情で俺の頭をくしゃっと撫でながら、くいっと缶ビールを飲み干す。
バランスの取れた躰に白いブラウス、少し開いた胸元には白金のシンプルなペンダント。
こんなおっさん臭い言動さえなきゃ、我が従姉妹ながらそれなりにいい女なんだが。
気が付くと笙子が俺の顔をじっと見ていた。何となく気まずくなり、目線を逸らす。
「あのさ、俺といてもつまんなくね? 俺さ、もう前みたいには遊べねぇし――」
笙子が急に立ち上がる。一瞬シャンプーと微かな汗の匂いに包まれ、頭がぼうっとした。
「若い癖にいぶし銀みたいなあんたのプレー、人柄がそのまま出ててあたし好きだったよ」
俺は俯いた。ホイールを掴む手につい力が入り車椅子が軋む。何で今そんな話をするんだよ。
「でもね、野球があんたの全てじゃないっしょ。あんたはあんたなんだから」
さあって、もう一汗かいてくっかな。笙子はそう言ってバッターボックスに消えた。


「バラード」「スコーン」「イブ」
507名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 21:04:12
バラード・イブスコーン被告(57)が昨夜未明、大阪府堺市南一丁目にある住宅地に火をつけ逃走した模様。火はすぐに消し止められましたが、一丁目3-8に住んでいた斉藤キクヨさん(89)は延焼を恐れて水風呂に飛び込み、そのまま息を引き取りました。
検察は心臓麻痺とみて調査しています。バラード被告は業務上過失致死容疑で大阪府の留置場に搬送されました。公判は来月18日行われる予定です。

「地球」「現代社会」「イギリス」
508名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 21:30:17
>>507
いい加減空気嫁。つーか消えろ。夏休みはもう終わったぞ。
509名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 22:56:07
おまえの目は節穴か?素晴らしい作品じゃないか。よさがわからないならお前はもうこの世界から足を洗うんだな。

あばよ。
510名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:04:38
>>508
ばーかばーか。
511名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:06:32
508は先に書かれて顔真っ赤になってる困ったちゃんwwwwwwww
512名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:12:50
っていうかくそしょうむない駄文よりよっぽど面白いよなぁ。
長ったらしい駄文ばかりじゃん。このスレの小説。読んで吐き気を催したぜ。
ほんとクソだらけ。なんていうか中学生・高校生の交換日記レベルだ。そんな糞を垂れ流してて何が面白いんだ?馬鹿ばっかり。自慰したかったらトイレでしなさい。
>>508はそういう糞どもの代弁者にでもなっているつもりなのか?低脳がよくわかるよ。それとも何か?オナニーワールドに引きこもって幼稚園児の女の子と乳繰り合ってでもいたいのかな。
はぁ。知能指数が100あるかないかのやつはこれだからうざいよな。というか五月蝿い。
おとなしく廃品回収でもしてろ。もしくは犬でも刳っとけ。ボケ
513名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:15:13
>509-512
あばよ だろ?早よ消えろ
514名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:15:48
お前があばよっていう意味だろ。よく読めw
515名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:16:24
>>508 プププwww
516名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:17:39
>>514
は?書けない君が必死だなw
517名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:19:11
>>516

悪い事は言わないから嘲笑の的になってるのにはやく気づけ。
これ以上戯言を書き込むのなら本当に大人げないぞ。
いい加減にした方がいい。
518名無し物書き@推敲中?:2006/09/02(土) 23:25:34
連続カキコで必死に低能丸出しの煽りと自演か……。
ばれていないと思っているのが痛すぎる。
ここはお前のいる場所じゃない。さっさと消えてくれ。頼むから。
519白木の子:2006/09/02(土) 23:38:39
「地球」「現代社会」「イギリス」

「……現代社会において、日本はもう衰退する以外に道は無い。
増えすぎた人口を減らす為にはには……手段など選べるものか!」
「馬鹿なことを言うなッ! 地球勇者としてその暴言は許さないぞ、ビュレア!」
 小次郎の激昂に怯む事無く、ビュレアは反発した。
「ならどうする!? 地球勇者が如何にかしてくれるのか! 今の日本には宇宙開発なんかしている余裕は無いんだ!」
「……確かに君の言う通りかもしれない。しかし! 月移民化計画が完成すれば……」
「成功するかも分からないものを信じろってか? 戯言なんか言うな! ……イギリスだ。最悪の状態になる前に、日本を明け渡すべきだ!」
「くッ……。しかし私は! この日本と言う国を失いたくない! アイラブジャパンだ!」
 が、小次郎は気付いてしまった。自分が英語を使っていた事を。
「分かったか! 地球勇者のお前でさえもう日本を愛してはいない!」
「……私は……日本を……、うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
 小次郎はその拳で地面を何度も叩き、涙を流した。

次は「酸素」「特別」「サイドバイサイド」
 
520名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 00:42:47
888 :阿部敦良 :03/02/25 11:37
それにしても、無名草子さんたちとは、さぞやすごい作家先生の匿名書き込みなんでしょうね。
作家なんて才能が全てだから、津井ついみたいに、いくら努力したって駄目なものは駄目ですよ。
私なんか、早々に見切りをつけて趣味の世界で細々ですから。
          小説現代ショートショート・コンテスト優秀賞受賞 阿部敦良
521名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 00:52:51
>>518
君ね、すごく見苦しいよ。何故わからないのかな。君がレスすればするほど自分を貶めているんだよ。馬鹿だってことがあらわになってくる。もうすでにわかっている人も多いんだけど、わかっていない老人や子供でも君が馬鹿だってことがわかるんだよ。
君がレスしなければすむ話でしょ?なぜ自分を棚に上げて人様を批判するのかな。やってられないな。それが君の頭の弱い証拠だよ。君が消えかかっている火に薪をくべてるんだよ。君が消えればいいんだよ。さっさと消えて大人しくしていただきたい。
そうしないと被害を食らうのはこっちなんだから。
522名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 01:15:35
>>521
何で自分が同じことをしてさらに油を注いでいるのに気が付かないの?
>>1も読まず質の低い短文を書き散らす輩が元凶なんだから、明らかに矛先が違う。
これ以上やり合っても不毛なので、短文厨はお題ごとスルーを推奨。
523「石」「はさみ」「紙」:2006/09/03(日) 01:26:42
閑散とした演芸場を裏口から出る。
ザーザー音が鳴る土砂降りの雨の中、
傘も差さずに外で遊んでいた少年時代を思い出した。

石ころを蹴飛ばし遊んでいたあの頃のように、そっと脚を振ってみる。
あの少年は、今の自分の姿を見て、どう思うだろうか。

はさみを使い紙を切る。
テレビを見て感動した「紙きり」という芸を
好きなままでいてくれるだろうか。それとも嫌いになるのだろうか。

524「石」「はさみ」「紙」:2006/09/03(日) 01:28:06
あれ、ごめんなさい誤爆しますた。へへ
525「石」「はさみ」「紙」:2006/09/03(日) 01:29:35
あれ、めちゃくちゃ前にお題おわってましたわ。すんません
526名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 02:21:52
(*´д`*)和んだので良しw

お題は>>519だな
527名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 03:45:01
>>522
質の低い短文なんて言ってるけど、他の駄文が決して質が高いわけではないぞ。もしかして質が高いとでも思っていたのか?
実際、目も当てられないぐらいだ。しかも自己陶酔して書いてるのがありありとわかるからよほどたちが悪い。それよりかはまだ前衛的な物のほうが印象深いっていうものだよ。
はっきり言って、君たちの文は、下手糞、の類に入ることをお忘れなく。
528名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 13:07:51
>>519のお題、「サイドバイサイド」で、
某コマーシャルを連想してしまう自分は、もう古いのか(w
529名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 13:09:46
530名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 15:32:43
ここは本文スレだ。関係のない書き込みはするな。
感想は>>529が貼ってくれた所へ。
その他雑談や叩き合いは下記へ行け!
なんの為に分けられてると思ってるんだ、まったく!
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085545234/
531名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 19:16:09
えらそうに仕切るんじゃねえよ!!
えらそうにできる資格があるのはおまえじゃねえよ!!
消えろ!!クズ!!
532名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 22:15:42
ただの釣り師だとなぜ気がつかないw
533名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 22:18:45
>>532
移動しなさい

裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/l50
534名無し物書き@推敲中?:2006/09/03(日) 22:20:00
次のお題(>>519より)



「酸素」「特別」「サイドバイサイド」


535名無し物書き@推敲中?:2006/09/04(月) 01:49:08
笑えるよなww
536酸素・特別・サイドバイサイド:2006/09/04(月) 16:52:48
酸素が足りない。息苦しい。酸素が足りないんだ。
自分が特別な存在になれるって考えを、俺は12歳の頃にはちゃんと捨てていたはずだ。
俺よりサッカーのへたくそな奴らが臆面もなく文集に将来の夢はサッカー選手と書く中、
少年団のチームで一番だった俺はきっぱり無理だとわかっていた。そっちには行けないって。
酸素が足りない。
それからの俺はサッカーが巧いやつとして中学高校とそれなりの学生生活を送った。
高校卒業後は大学入試が面倒だったしまだ就職する気もなかったので専門学校に進んだ。
専門学校では何を勉強していたのかさえ覚えていない。何も勉強しなかったのは覚えている。
就職は決まらずフリーターになった。
安い時給でアホな社員に見下されるだけの仕事がばからしくなりバイトはやめた。
30間近になって学歴も職歴もない。定年後も働く親が俺を食わせている。
酸素が足りない。
平日の真昼間からドライブすると、俺の車にサイドバイサイドで乗りつけてきたやつがいた。
同年代だが俺とは全く違う人種だ。車の中にはいかにもオタクって感じのフィギュアが
つまっていて、アニメ声の最低な歌を流してる。中高はいじめられて不登校だろう。
俺には友達も彼女もいた。球技大会のヒーローだった。俺はこいつとは違う。
前を走っている車は狂ったような運転をして通りがかった子供や女を轢き殺している。
俺はこんな車のアクセルなんか踏んでないはずだ。座っているだけだ。
なんでそっちに進んでいくんだ。
酸素が足りない。
最近中学や高校の頃の夢をよく見る。少年団でサッカーをしている夢もだ。
今の俺のまま学校に通って友達としゃべり、少年団では大活躍のエースストライカーだ。
酸素が足りない。酸素が足りない。酸素が足りない。


次のお題は「晩夏」「ラジオ」「じゃがいも」で。
537名無し物書き@推敲中?:2006/09/04(月) 18:39:25
うはっww くそおもんね
538晩夏・ラジオ・じゃがいも:2006/09/05(火) 01:21:41
じゃがいもが好きだった。
それだけが、自分の誇りとするところであり、その他には見るべき特徴も
無い自分はじゃがいもと共に歩むべきであり、それ以外の選択肢を選ぶなど、
考えられないことだった。
そうして進んできた私は、気づくと世界でも有数のじゃがいもブリーダー
としての地位に立っていた。
「それでは次に、じゃがいもブリーダーの道を志したきっかけを、
お聞きしてみたいと思います」
そういう理由で、私はこの面白くもない地方のラジオ番組にゲストとして
招かれているである。
「いえ、きっかけがあったわけじゃありません。子どもの頃から好きだっただけですよ」
勝手に口があたりさわりない答えを吐き出す。晩夏の職人特集だかなんだか知らないが、
まったく放送業界人の考えることは、よくわからない。
ああ、こんな事をしている暇は無いのに。早く畑に戻って、じゃがいもの
世話をしなければならないのに。あのバイトは、ちゃんと隅まで水を撒いて
いるだろうか。面倒くさがらずに雑草の手入れをしているだろうか。
そうして、ますます番組から意識が離れていく中で、突然それは起きたのだ。
第一の殺人。後に「マーダー・ザ・サツマイモ」として名を知られることになる
連続殺人事件の始まりである。
539名無し物書き@推敲中?:2006/09/05(火) 01:22:53
次、「フロッピーディスク」「鋼」「文庫本」
540名無し物書き@推敲中?:2006/09/05(火) 01:40:32
これ、どこが良いのか説明してくれないとわからないよ。適当なこと書くな!
541名無し物書き@推敲中?:2006/09/05(火) 20:25:18
「フロッピーディスク」「鋼」「文庫本」

 老人は、遠くで鋼鉄製の重い扉が閉まり、電気錠が音を立てるのを聞いた。
 甲高く響き近づく靴音に、それまで読んでいた文庫本を慌てて隠す。
「お疲れ様ですー」
 必死に笑顔を作りながら、守衛室の窓口から相手を確認する。
 常連のスーツ姿の男だ。手馴れた感じで入室許可証を提示する。
「いつもお疲れさまです。そこに名前と入室時間を書いてください。
それと、記憶媒体の持ち込みはありますか?」
 スーツ姿の男は、懐から一枚のフロッピーディスクを取り出した。
「それだけですか?」
「うん。これだけ」
 老人は、入室管理表の記憶媒体欄にディスク×1と記入した。
「帰りも確認しますから、無くさないでくださいね」
「わかってるよ」
 そう言って立ち去る男の背中を確認し、隠した文庫本を取り出した。
 厳重な管理区画に入り込んだこのフロッピーが、後日大問題となるのだが、
今、その重要性に気づいているのはスーツ姿の男だけだった。


空気読まずに書いた。反省はしていない。
次のお題は「陸」「海」「仲違い」でお願いします。
542名無し物書き@推敲中?:2006/09/05(火) 22:13:57
氏ね
543名無し物書き@推敲中?:2006/09/06(水) 01:07:06
「この世界地図は――?」
生徒の一人がビックリしたように先生に尋ねた。
何やら、怪しげな一枚の世界地図が配布されたのだった。
それは、上下が逆さまになり、太平洋が地図の端に来ている
普段の我々が眼にしている世界地図とは少し違う世界地図だった。
「いえ、これを不思議に感じるのは眼の錯覚なのですよ」
と、先生は驚く生徒を嗜めるように言う。
陸と海の配置が不自然だと感じてしまうのは、我々の固定観念に過ぎない。
何しろ、地球には上下も左右も決まっていないのだから。
「何か、仲違いって感じですね」
生徒も納得した様子で語った・・・
544名無し物書き@推敲中?:2006/09/06(水) 01:21:33
才能ないってすぐわかるからくだらん文章晒すぐらいだったら、脳内で書いたつもりになってろよな
545名無し物書き@推敲中?:2006/09/06(水) 21:43:17
陸に生きるは人間の男
海に生きるは人魚の娘
2人は哀しき恋をした

人魚の長は、彼女に言う
ヒトと我らは仲違い
だから決して愛しあえない
あの男の事は忘れてしまえと

娘は忘れられなかった
男と愛しあいたかった

けれど陸へは上れない
魚の身体が邪魔をして

娘は足を得る為に
魚の身体を切り離した

男と一緒にいる為に
男の足を切り離し
自分の身体に植えつけた

「これで ずぅっと 一緒だよ」



次のお題
「孤独」「涙」「夜明け」
546「孤独」「涙」「夜明け」:2006/09/09(土) 00:43:50
 玄関には、いつも通り鍵が掛かっていなかった。俺は、勝手知ったる親友の家を、玄関
からリビングまで進んだ。男女が裸で絡み合っていた。反射的に玄関へ引き返した。
(うげー、見たくなかった。やるなら鍵かけろよ)
 外へ出ようとして、何かが引っかかった。はて、何だろう。(下になっていた女の髪型
が、)リビングへ引き返した。女は俺の彼女だった。混乱してもう一度玄関に戻った。
「恭介、うろうろすんなよ」
 俺は、後ろから悠々と声を掛けてきた健一の胸倉を掴んだ。「ふざけんなテメー、誰と
寝てんだよ!」健一の左頬が、がっ、と嫌な音を立てた。「やめてよ!」裕子が健一に縋っ
た。「お前もふざけんなよ、なに健一と寝てんだよ!」「恭介も十ヶ月前に浮気したじゃ
ない!」「へ? 何で知って……、え?」「最低! 私、健一と付き合うから」「何なん
だよそれ」俺は泣きそうになりながら言った。「健一、お前も何なんだよ!」
 健一は、色が変わった左頬を押さえて虚ろに床を見ていた。裕子は涙を浮かべ、健一を
同情の目で見詰めていた。俺は、親友と彼女を一度に失ったと感じた。孤独だった。
「何なんだよ、健一、お前、友達じゃなかったのかよ」
 窓の外がオレンジ色に染まる。夜明けだ。健一は虚ろな目を俺に向けた。怖い目だ。
「明日、俺に弟が生まれるんだ。お前の子供だ」



次「メタリック」「閃光」「浮遊」
547「孤独」「涙」「夜明け」:2006/09/09(土) 00:58:19
全ての名作は孤独をテーマにしている。
これは確か、サマセット・モームの言葉だったと思う。
一応名の通った大学を卒業し、教職について早三年、
僕は今夜も繁華街をうろつき、生徒達を探し続ける。
有名な夜回り先生の真似をしてみようと思ったのは、
単なる好奇心だった。
一ヶ月二ヶ月と、誰に頼まれたわけじゃない夜回りが続いている理由は、
単純に僕が暇な人間なのだからだろう。
大抵の生徒は、教室で見る大人の影が近づいて来ると、
慌てて逃げ出してしまう。
逃げずに、じっと僕が近づいていくのを待っている生徒もいる。
怒鳴りつけるキャラじゃないし、そんな時は一言二言会話を交わして、
「適当に帰れよ」と先生らしい言葉を残して、その場からそそくさと立ち去る。
夜回りを始めて数ヶ月、生徒が涙を見せてくれるような濃い付き合いは、
まだ体験していない。
夏休みは、夜明けまで歩いてみようか。
君達の孤独。僕の孤独。
548名無し物書き@推敲中?:2006/09/09(土) 09:37:01
次、「残暑」「マンション」「香り」
549名無し物書き@推敲中?:2006/09/09(土) 15:08:39
>>548
よく見なさい。上にお題がある

>次の人
お題は↓で。548は、拾えるなら拾ってあげて

「メタリック」「閃光」「浮遊」
550名無し物書き@推敲中?:2006/09/09(土) 15:17:19
はあ?
母国では残暑見舞いの手紙を書いている頃だろうか。
しかしこの血と肉の腐った香りの漂う戦地には関係のないことだ。
メタリックな光沢を消した、黒く無骨なアサルトライフルを握りしめる。
子供の頃、地獄に堕ちた悪人が蜘蛛の糸を登って天国へ行く小説を読んだ。
心中はその悪人と同じかもしれない。その小説の結末は忘れたが。
俺が立てこもる崩れかけたマンションの周囲には、既に反政府の兵がうろちょろしている。
百個の金属バケツを蹴っ飛ばすような音とともに、西の方角で閃光がきらめく。
爆弾か何かだろう。政府軍は市街地を破壊しない。敵も物騒なことをするものだ。
所属している小隊の奴らは、俺を残して、全員死んでしまった。
練度の低い俺では一対一でも自信がないというのに、これでは下手に動くことすらできない。
あのときにここを脱出しておけば良かった。
そう考えたとき、階下で爆発音がし、俺はビルの倒壊と浮遊感を察知した。
552名無し物書き@推敲中?:2006/09/09(土) 15:57:36
次は「バカヤロウ」「美容師」「コーヒー」
俺は書斎で、静かにため息をついた。そして一口コーヒーに口をつけ、またため息をついた。妻のことを考えていた。
"あのバカ女...俺の頭をこんなにしやがって...美容師気取るなら子供の頭で我慢しとけ!!"
そっと鏡を見る。またため息。今の言葉をそのまま吐けたらどんなにいいか。妄想してみる。
いきなりキレる俺。妻は吃驚した目でみている。
「バカにするな!」
と一言。
...これだけでも、言えたら。新婚の頃は、関白だ!なぞと勝手に思っていたが、今はどうだ。妻の尻にひかれてすごす毎日。小学校の子供にすらバカにされる。おまけに散髪に失敗して頭まで切られ、コイツ、俺を殺したいのだろうか?とまで疑ってしまった。
続く
「私が手にしているのはコーヒーよ、人は好みでアイスやホットにして飲むの」
肩まであった銀髪は美容師に頼んで短くし、肌は白く、菫色の瞳を持つロボットの青年に、
私は説明した。彼は無表情で頷きもしない。まあ無理もない。
正直、ロボットに性別が存在するかというのに私は疑問に思うが、人でも基本は生まれた時の性器
で男女の区別をつけて、それぞれに応じた教育を施していく。でも、眼前にいるロボットは体型は
男性だが、心が性別に合ったものに育っていない状態なのだ。
残念ながら現在の医療科学は、A.Iをロボットに備えるだけの技術がなかった。
だが、ロボットに人工脳をはめ込み、教育するシステム体制を導入した。そう、このロボットは
人の形はしているけれども、感情そのものが欠落しているのだ。感情が無いというのは、それは魂
も存在しないことないことだろうか。私は以前、学会でS博士の論文を思い出した。
『人の脳は蛋白質・無機質・水分などで成りたち、脳は生物が考えるという行為をするところで
ある。ならば、感情は物質を混合や化合するれば発生するものなのか』
他の学者達からは倫理に反する研究だと、会場が騒然とし、バカヤローなどと通常では考えられ
ない野次までが飛び交い大騒動になり、はてには世論を巻き込んだことをよく覚えている。
感情は、魂は、彼に宿ることは可能なのか。神の領域だろう禁忌に、私は踏み込んでいるのかもしれない……。


次は「料理」「プール」「駅」で。
555554:2006/09/10(日) 22:28:43
三語のうちの一つを間違えているので無しにしてください。
お題目は継続でお願いします。
なんでもしていいよ。
あなたのしたいこと、なんでも。

自分が美容室で髪を切られている途中だと認識するまでに、
数秒かかった。
目の前の鏡に、寝起きで子供っぽい表情の自分が映っている。
うなぎのような顔をした長髪の美容師さんが、
そ知らぬ顔で鏡を合わせて、後ろのチェックをさせてくれた。
料金を支払って表に出ると、残暑のむっとした熱気が、
さっぱり短くなった頭を覆うようにまとわりつく。
自販機でコーラを買おうとして、少し考えてコーヒーを選んだ。
昨日のデートで、彼女に昼飯のオムライスを当てられた。
僕の息がかかる位置に、ちょうど彼女の鼻が来るという発見。
現実に彼女が出来ると、いろいろな事に気づかされる。
バカヤロウ。童貞だったからって、なめんなよ!
一気に飲んだ空き缶を不法駐輪の自転車の前かごに投げ捨て、
待ち合わせの本屋に向かって弾むように歩き出した僕を、
相思相愛の僕の彼女が待っている。

次のお題「料理」「プール」「駅」。
557名無し物書き@推敲中?:2006/09/11(月) 15:57:58
JRが世界最大企業となったのは、もう遠い昔。現在世界はJRによって運営されている。

「先生」
「なんですか。私の授業に質問はなしです。時間通りに薦めないと、日勤ですから」
「先生、窓の外を見て。宇宙怪獣です」

700君が窓の外を眺めると、校舎のすぐそばの世界最大のターミナル駅が宇宙怪獣に攻撃されていた。
「大丈夫です。ここで宇宙怪獣迎撃用リモコンロボットが操縦できますから」
先生は校舎の窓から巨大駅を眺めつつ、黒板の横にあるパネルをポチポチ操作する。
700君が窓から眺めると、駅が立ち上がり、巨大メカに変形した。
「ターミナル駅がロボットだったなんて、それに先生すげえ」
先生は得意げにボタンをポチポチしてメカをあやつる。
「しかし視界が悪いです、教室では」
先生は屋上へ回り、屋上のコントロール装置で駅をあやつる。700君も脇で応援だ。
怪獣ともつれ合う駅メカ。ズドン。バタン。
転げまわるターミナルメカ。1時間後、なんとか宇宙怪獣を追い払った。
しかし世界最大のターミナル駅に当然、料理教室やレストラン。プールが入っていることを先生は忘れていた。

お題が思いつきませんすいません。
継続でお願いします。スマソ。
558名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 01:19:39
「プール料理あります」
プール料理は前から喰ってみたいと思っていたので、オレは一も二もなくその店の引き戸を開けた。
「いらっしゃい。」店主の声と同時にオレと入れ替わるように出ていく金持ちそうな若い男とすれ違った。
「プールサイドで喰える料理屋じゃねえんだ。ちっ!」
オレは苦笑いしながら入り口近くの席に座った。プール料理の看板に惹かれて入店したのではない、
というそぶりで、しばらく店内の壁に張られたメニューを眺めるフリをする。
「旦那プールですかい?」悟られてしまったようだ。
「ああ、くれるかい。」
やがて出てきたプール料理は、まずまずだった。マズかったのではない。満足したのだ。
金を支払い、店を出た。入店する前に歩いていた時よりも、旅先の初めて歩くこの街が
オレを歓迎しているように思えた。煙草に火をつける。
人間の感情なんて、空腹や満腹感に左右されるような、そんなたわいもない事なのかもしれない。
「地酒プール将軍あります」「プール子供会・PC教室」
などの商店街の看板を眺めながら歩いていると、「プール駅」の看板が見えてきた。
次はどこに行こうかと考えながら煙草を携帯灰皿にもみ消す。
「まあ、次の列車に乗るか。。」目的地はなかった。
降りたいところで降りてみる。なるべく観光地などの有名地ではないところ。
そんな場所を、気ままに歩きながら、地元の料理を食べてみたりする。
ホームに列車が到着した。「ホーム駅」行きの便のようだ。
次にオレが行く場所がオレの故郷なのだろうか。列車に乗り込んだ。
ユックリと発車した車両の窓から、今さっき食べたばかりの郷土料理の味を反芻しながら手を振り、
オレはプール市を後にした。
559お題です:2006/09/13(水) 01:21:11
「缶」「メルティングスポット」「月刊」
でお願いします。
560名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 02:26:58
糞だな。お話になっていないよ。0点。
561名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 02:29:35
>>560
こっちで具体的にどぞ。
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/
562名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 05:33:20
なんで具体的に指摘してあげないといけないの?
いやだよ糞の相手は。
563名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 23:27:26
また感想スレで酷評されたのが八つ当たりしてんのか
564名無し物書き@推敲中?:2006/09/13(水) 23:40:15
なんだよあの感想は。きもちわるい
さびしいもの同士傷の舐めあいだな。
へどが出るぜ
565名無し物書き@推敲中?:2006/09/14(木) 00:20:07
作家ごっこ、批評家ごっこしているのが気持ち悪いんですよね。
おままごとと一緒。永遠にごっこを続けるつもりなのでしょう。上昇志向のない糞ども
566白木の子:2006/09/17(日) 09:00:10
「缶」「メルティングスポット」「月刊」
 今日もまたいつもと変わらず2chに入り浸っている。
 特に何をするわけじゃないが、サバ缶と梅のジュースを摘みながらだらだらと時間を潰す。それが習慣になっていた。
 
 缶、メルティングスポット、月刊。
 それが現在俺に課せられた課題。
 メルティングスポット……は? ……何? 
 ジャックスポットか何かか、と思いつつyahoo辞書で検索してみる。
 ……。
 ……。
 ……無いやんか。
 メルティングポイント、メルティングポット。2件hit。
 何かどこかで裏切られたような気分になり、俺はブラウザを消した。
 時計を見ると、短い針は10を回っている。要するに、本屋が開く。
 今日は月刊Gファンタジーの発売日だ、買いに行かなくては。
 俺は財布を捜した。

次は「トランペット」「ショックアブソーバ」「エキセントリックシャフト」
567名無し物書き@推敲中?:2006/09/17(日) 09:28:51
「トランペット」「ショックアブソーバ」「エキセントリックシャフト」


「新型モデルに採用予定のエキセントリックシャフトは生産元こそ無名な会社ですが、既にその性能は耐久テストによって明らかになっており、手元の資料にあるように座席の揺れが……」
 なぜだ。なぜだろう。なぜ私は大手自動車会社の重役になぞなっているのだろう。どうして期待の若手の素晴らしいプレゼンテーションを聞いているのだろう。
 収入の良さからここに入社して三十五年、本当にこれで良かったのだろうか。
「またエキセントリックシャフト周辺の構造をこのように変えることでエンジンの小型化がいっそう……」
 もっと違う人生があったのではないか。たとえば昔目指していたトランペット吹きになる、なんて人生が。
 開発主任や技術者畑出身の社長はプレゼンテーションを聞きしきりに頷いている。
 それをみて高校生の時ブラスバンド部の顧問に「首ばっかうごかしてんじゃねえ。指を動かせ指を。九小節目のシの音が遅れてるぞ、お前」といわれたことを思い出す。
 そうだ、指だ……。
「ちょっと、何してるんですか」
 横に座っていた奴に肘で小突かれる。
 私の指はいつの間にか、机の上でチャイコフスキーの「悲愴」を演奏しているのだった。


次、「吸気ファン」「怪獣映画」「駄菓子」
568名無し物書き@推敲中?:2006/09/17(日) 12:38:02
>>567
一行目のエキセントリックシャフトはショックアブソーバのつもり、と読み替えていいかな。
569名無し物書き@推敲中?:2006/09/17(日) 13:43:32
>>568
ごめん、そうだ。
正直なところ自分の全く知らない単語だったんであせってたんだ。
570名無し物書き@推敲中?:2006/09/17(日) 14:01:44
「吸気ファン」「怪獣映画」「駄菓子」

映画ファンである私は、念願かなってホームシアターの購入した。
工事も無事終了し、一息ついてから映画鑑賞に興じることに。
電源を入れ、プロジェクターからは吸気ファンの音が微かに聞こえた時に、
ようやく自分だけの物だという実感を得た。
お気に入りのDVDをプレイヤーに差し込み、準備が完了。
スクリーンに『東宝』のロゴが映し出され、軽い感動すら覚える。
私は嬉々とテーブルに駄菓子を用意し、麩菓子を口の中に放り込む。
私が少年時代に戻れる、唯一の趣味――それが怪獣映画鑑賞だ。

映画もクライマックスに差し掛かった頃、妻が買い物から戻ってきた。
「なぁに、また恐竜映画? 本当に飽きないわねぇ。それより、電球を取り替えて欲しいところが
あるんだけど」
「ああ、今いいところだから……後でな」
心の中では、『恐竜』じゃなくて『怪獣』だ! と、つっこみを入れたが、口には出さない。
この浪漫がわかるのは、少年時代を経験できる男だけの特権だからだ。
「ねぇ、この前言っていた保険。どうしましょうか?」
「お前に任せるよ」
うるせーな、と言い掛けたが、グッと我慢する。
「そういえば、隣の中川さんからメロン頂いたんだけど……」
韓流映画を観ているときに話しかけると機嫌が悪くなるくせに、妻は平気で私に話しかけてくる。
いい歳して、キャーキャー言いやがって。
私は不機嫌に黙ったまま、芋飴をガリガリと噛んだ。

次は、「ところてん」「雨」「姫」
571「ところてん」「雨」「姫」 :2006/09/17(日) 15:52:50
 私は杓文字を持つ手を止めて、額の汗を拭った。こんなじっとりとした雨の日は
求肥が固まるのも遅い気がする。いや私の焦りのせいでそう感じるのだろうか。
事実もう時間がない。榊宗匠のお点前の日まであと十日。米粉をこねる間にも
「雪姫」と抹茶の見事な取り合わせが眼に、鼻に、舌に何度も蘇る。
松葉屋お得意の純白の求肥が、まさしく美姫の肌のごとき風情に仕上げられた逸品。
舌の上でとろけゆくあの快感を、あの柔らかさを凌駕する求肥を作るには・・・。

「貴方、一休みなさったら?」
 夏江がくれた生姜のきいたところてんをすすり込みながら彼女の優しい笑顔を見上げてふと気がついた。
私は雪姫を意識するあまり、求肥で勝負しなければ、と思いこんでいた。勝負などではないのだ。
宗匠の、そこにご一緒できることを楽しませてくれるあの穏やかな空気と、お人柄を感じさせる
優しい味のお茶とが堪らなく好きで、ただただそこに私の菓子をお出ししたいのだ。

 こうして天草と米粉の性質を併せ持ちよい水をぷるぷるとたっぷりと含んだ生地が完成し、
それで我が家伝来のきんとんを包んだ菓子が、茶会二日前の試食会に並んだ。

 この菓子はことのほか宗匠のお気に召し、涼しげな佇まいをもって「なごり夏」という名を頂いた。
 奇しくも妻の名が一字入ったその菓子は、私たち夫婦の、そしてこの店の代表作となった。


次は、「招待状」「落ち葉」「音」
572白木の子:2006/09/18(月) 09:20:38
「招待状」「落ち葉」「音」

 とくん。
 窓には落ち葉が引っかかっている。最近は冷え込みも厳しくなってきた。
 白い部屋、白いベッド。そして真っ白になってしまった私。
 もう半年、この部屋から出たことは無い。出ることが出来ないと言った方が正しいか。
 心臓はまだ動いている。まだ、生かされている。
 病名なんかは忘れた。そんなもの覚えてもこの心臓は戻らない。
 ただ、抜け殻のように。
 死ぬ時を待っているのだ。
 
 医者が言うには1年生きられれば良い方らしい。しかし――
 もう終わってしまった私に、1年も生きろ。と言うのは残酷だ。
 それももう半年が経つ。
 長かった。が、何も思い出が無い。
 とくん。
 
 心臓の音が変わった気がした。

 私に招待状が来たのはそれから10日ほど後。
 急な発作で、専属医が来たときにはもう旅立っていた。
 私は最後の時に、自分の人生をすべて見た気がする。
 その時思った。
 
 生きたい。

次は「首都」「単発式」「スマイル」 で
573「首都」「単発式」「スマイル」:2006/09/18(月) 17:44:11
 「コレは正直、洒落になってないと思うんだが、どうだろう。」
  早朝の冷めた空気を目一杯に感じながら、独り言を呟いてみる。
  首都の荘厳な―――半ば乱雑とも言える―――風景を見下ろしながら。

  現在の日時刻は右腕に装着した腕時計が誤作動を起こしていないとするならば、9月18日午前5時47分。
  何故、そんな時間に。普段なら間違いなく惰眠を貪っているであろう時間に。この俺が。

  ――――――東京タワーの中層に、半裸で、横たわっていたのか。

 「…………いやいやいやいやいや、ヤバいよコレ。ヤバいヤバい。」
  コレはヤバい。どう考えてもヤバい。
  朝起きたら東京タワーで寝てましたとか正直、いや例え虚偽だったとしてもあり得なさ過ぎる。

  夢遊病か。はたまた俺の知られざる裏の人格が勝手に起動しやがったのか。
  俺の頭の中に俺を嘲笑ってる悪魔が居やがるのか。居たら今直ぐそのニヤニヤスマイルに右ストレートをブチ込んでやろう。

  ………―――現実問題。昨夜の事を良く思い出そう。
  記憶がハッキリしているのは、仕事が終わる直前辺りからだ。

   仕事が終わり。退社する。呼び止められ。誘い。飲み会。付き合う。飲む。飲む。食う。食う。飲む。
   酔う。飲む。酔う。酔う。お開き。酔いが醒めず。暴れる。叫ぶ。逃げる。走る。走る。登る――――――――

 「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
  誰も居ないタワーの真ん中で叫ぶ俺。洒落に、ならない。映画化決定も目じゃないな。

  ――――――つまりは。
  酒を飲みすぎた挙句、酔った勢いで暴れ、止めに入った同僚達を薙ぎ払い、
  逃走した末に、何故か、この東京タワーに逃げ込み、ぐっすり寝て、酔いが醒めた。

  さながら、急行且つ一方通行の新幹線。もしくは、単発式且つ火薬満タンの拳銃。
 「…………」
  二十五歳の初秋。俺の人生設計に、大きな亀裂が刻まれた。
574「首都」「単発式」「スマイル」:2006/09/18(月) 17:45:27
忘れてました。

次は「理想」「扇風機」「晩年」で。
575名無し物書き@推敲中?:2006/09/18(月) 18:55:40
扇風機のスイッチを入れ、床に散らばった雑誌を踏みつけながら、部室のソファにどさりと寝転がる。
扇風機に向かって、あ〜〜、なんて言ってみる元気もない。
自分たちの演劇部はこのまま解散するのだろうか。そう考えると鬱な気分になった。
年をとって晩年になったころ、きっと良い思い出だったなあ、と考えることだろう。
それはそれで良いことだけど、自分は今を大切にしたい。
今しかできないことができる、という宣伝文句に引かれてこの部活に入ったのだ。何か部員が仲間割れしないですむような、もっと違う方法があるはずだ。
けれど現実に、自分たちの演技は、理想に比べてあまりにレベルが低い。
みんながついて行かないような過酷な練習でないと、秋の大会がさんざんな結果になるのは目に見えている。

一人で練習を飛び出してきたことを後悔した。やることは分かっているというのに。
576「理想」「扇風機」「晩年」:2006/09/18(月) 18:56:29
>>575は「理想」「扇風機」「晩年」
次のは「焼きそば」「冬」「泥団子」
577名無し物書き@推敲中?:2006/09/18(月) 20:05:22
糞作文だらけだな。
おもんないからもうおまえら書くな。
578名無し物書き@推敲中?:2006/09/19(火) 12:22:50
テーブルの上にお皿がふたつ。知ってる、この人がとても大事にしているの。
真っ白で綺麗、だけど冷たいお皿。この人と一緒。
「ゆかちゃん、こっちの焼きそばと こっちの泥団子どちらにするの?」
人形みたいに固まった、優しい顔で微笑んでる。恐い。

泥のお団子って言わなきゃ。だけどお腹がぐるぐるまわってる、すごく気持ち悪い。
焼きそば食べたい。でもだめ、きっとまた洗剤が入ってるんだ。泥のお団子って言おう。
あの人の目が、スゥと細くなる。あぁ早く泥団子って言わなきゃ、でないと
痛いのはいや。
どうして? 今日も声が出ない。喉がくっつて開かないの。
あの人がギイと椅子を引く。私は目を強くつぶってここからいなくなる。

ご飯は抜きで私はお庭。でもここにいれば安心。ここなら叩かれない。
そしてなにより、ここはお母さんのお庭だから。
なんだか頭がクラクラする。体が震える。寒い。セミが鳴いてるのに冬みたい。
ご飯を食べていないから?
そうだ美味しいお団子を作りましょう。お母さんのぶんも作りましょう。
お皿は大好きだった、紫陽花のはっぱ。
きっと喜んでくれる。きっと来てくれる。きっと抱きしめてくれる。
ほら 聴こえてきた、優しい足音。

「洗剤」「庭」「足音」
579かえっこ:2006/09/19(火) 15:22:27
【こんな日は】1/2

専業主婦の中村智子は、午前中のまだ涼しい時間を利用し、洗濯と掃除に忙しかった。
今日は午後に近所に住む義母が訪ねてくることになっている。ため息を一つ。
「あの人はホント!細かい事ばかり…あれは、これは、と…忠司さんの親とはとても思えないわ」といつもの独り言。
新婚の頃、洗濯機の中を義母にチェックを受け、洗剤が溶けきれずに服に残っていたのを見つけられ注意された時の事を鮮明に思い出していた。

かなりの量の洗濯物を干し終え青々と茂った芝生の庭から家の中へ。
さあ今度は、子供部屋の掃除。
2階へ向う途中、リビングに飾られた夫と息子の写真に眼が止まる。
写真を手に取る智子。「今頃、忠司さんは、会社でお仕事。裕哉は、学校で勉強。ああ、なんて幸せなんでしょう!」
きれいに整頓された家の中、一人智子は、立っていた。
やさしい夫、そして、活発で可愛く利口な息子と共に暮らす今の幸せをかみしめながら。

昼御飯はいつものように簡単に済ます。今日の朝刊をペラペラをめくる。
「国が学童保育施設を全国規模で実施する」という記事を読みながら。
「ほんとかなー」とつぶやきながら「そうなったら私も前みたいに働きたいなー」そう言いお茶を飲む。
時計を見ると針は2時を指そうとしていた。

平日の午後2時。日差しは強いが時より吹く風が暑さを和らげてくれていた。
中村清美は、住宅街の道を歩いていた。毎日のことだが気分が重い。特に今日のような天気の日には…
清美の日課。歩いて15分あまりの距離に住む息子、忠司の嫁が住む家を訪ねるのは…
インターホンを押し、しばらく待つ。
玄関から出てきた嫁の顔は、いつものように異様に明るかった。
「お母さん、いつもスミマセン。どうぞあがって下さい。」
580かえっこ:2006/09/19(火) 15:22:58
【こんな日は】2/2

二人して座り、いつものように会話を始める。
「今日は、ホント天気が良くて助かりました。たまっていた洗濯物ぜーんぶ済ませちゃいました。」
「…」清美は嫁の笑顔を見つめていた。
「あっ!そうだ!いいもの見せましょうか。」そういうと智子は、立ち上がる。
「この間、裕哉が学校でおばあちゃんの絵を描いてきたの!」「今、持ってきますね!」そういうと二階へ駆け上がる智子。
トントントンという足音を聞きながらこれから繰り返される出来事に胸が詰まる思いの清美だった。


画面いっぱいに描かれているおばあちゃんの笑顔を見ながら清美はつぶやく。
「もう、1年になるんだねー」

そう、ちょうどこんな日だった。
天気がよくさわやかな風が吹き、智子さんは、二人を学校と職場に送り出し洗濯を始めていた時。
そう、今日みたいな日。息子、忠司と孫の裕哉が交通事故で死んだ日は…

清美が語りかけても愛する夫と子供を失った智子の耳には何も聞こえていなかった。

智子にとって、この家には、まだ幸せだった3人の暮らしが存在し、支配しているのだから…



キーワードは   「新車」 「中毒」 「リストラ」
581かえっこ:2006/09/19(火) 20:43:44
長すぎたか!

3:文章は5行以上15行以下を目安に。

ごめん読んでなかった。
582白木の子:2006/09/19(火) 22:16:33
「新車」 「中毒」 「リストラ」

 ヘビースモーカー、アルコール中毒、水虫、疣痔。
 私はその全てを備えている。しかし、さらに私はそれを超えて、
 『車気違い』なのである。
 会社ではその事を知らぬものは居らず、過去に雑誌の特集に出演したこともある。
 ラリーカーと言う部類のあらゆる道路を走破する車が一番好きだ。
 乗り継いできた車は数知れず、そしてその全てはエンジンが壊れて手放した。
 
 買ってしまったのだ、ぴっかぴかの新車。
 しめて332万4000円。ちなみにSTI仕様。
 透き通るようでしかも深みのある青いボディー。
 300馬力を超える出力とそれを確実に地面に伝える4WD機構。
 ……すばらしい。

 が、今の私はそれほど喜んではいられなかった。
 確かに車が新車になって嬉しいのだ。会社にも乗ってってやろうと思った。

 リストラされたのだ。車を契約した翌日に……。

次は「閑古鳥」「魑魅魍魎」「般若」で
583名無し物書き@推敲中?
閑古鳥「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
魑魅魍魎「一番でかいのは長男(閑古鳥)、長男、一番かたいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番くさいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
般若「一番形がいいのは長男(閑古鳥)、長男、一番色がいいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番味がいいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
閑古鳥「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
魑魅魍魎「一番でかいのは長男(閑古鳥)、長男、一番かたいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番くさいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
般若「一番形がいいのは長男(閑古鳥)、長男、一番色がいいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番味がいいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
閑古鳥「茶色のくさいうんこ、うんこ、アナルから出るうんこ、うんこ、ぼくらが食べてるうんこ、うんこ、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
魑魅魍魎「一番でかいのは長男(閑古鳥)、長男、一番かたいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番くさいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」
般若「一番形がいいのは長男(閑古鳥)、長男、一番色がいいのは次男(魑魅魍魎)、次男、一番味がいいのは三男(般若)、三男、うんこ三兄弟、ぶりっ、ぶりっ、(全裸でうんこを出しつつそれを食べながら歌う)」

全員「うんこ、うんこ、うんこ、うんこ、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、うんこ三兄弟、ぶりっぶりっ、(最後に全員大量の超臭いうんこを撒き散らす)」