【2次】漫画SS総合スレへようこそpart44【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1158949830/
まとめサイト
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm


2作者の都合により名無しです:2006/11/04(土) 17:48:10 ID:G3hHT7+S0
ほぼ連載開始順 ( )内は作者名 リンク先は第一話がほとんど

オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・ドラえもん のび太の超機神大戦 下・ネオ・ヴェネツィアの日々(サマサ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tyo-kisin/00/01.htm
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/samasa/05.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
やさぐれ獅子 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
鬼と人とのワルツ (名無しさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい (一真氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/silver/01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
3作者の都合により名無しです:2006/11/04(土) 17:49:05 ID:G3hHT7+S0
バーディと導きの神 (17〜氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/birdy/01.htm
MUGENバトルロイヤル (コテ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/mugen/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
ダイの大冒険アナザー (オタク氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/otaku/00.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1158949830/218-225
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1158949830/418-424
虹のかなた (ミドリさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/01.htm
超格闘士大戦 (ブラックキング氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tyo-kakuto/01.htm
4:2006/11/04(土) 17:54:40 ID:G3hHT7+S0
スレ立ては久しぶりなので、うまくいったかな?

>サマサさん
ラグナロク、神々の黄昏、ですか。最終バトル前に相応しいサブタイですね。
グランゾンFもバキスレイオスも強さの極まったもの同士、決着は異次元ですね。
いよいよこの2年以上に渡る物語も本当にラストが近いんですね・・寂しい。
5作者の都合により名無しです:2006/11/04(土) 20:57:51 ID:hmpzqY+dO
_________________________
    <○√
     ‖ 
     くく
しまった!ここは糞スレだ!
オレが止めているうちに他スレへ逃げろ!
早く!早く!オレに構わず逃げろ!
6作者の都合により名無しです:2006/11/04(土) 23:33:22 ID:LoYMxPKo0
1さん乙。
サマサさん乙。

>超機神大戦
いよいよクライマックスですか。
2つの超パワーのぶつかり合いで宇宙も歪みましたか。
でも最後は、ロボットじゃなく生身の勇気で決着つけてほしいと思ったり。
7ふら〜り:2006/11/04(土) 23:43:26 ID:M91CI/qP0
>>1さん&テンプレ屋さん
おつ華麗さま! 44かぁ……次はもう45。50の大台も遠からじ、ですな。私もまた、
日頃仰ぎ見ている職人の皆様とテンプレで並んでみたいものですが。仕事忙しく休みは
潰れ睡眠時間が削られる今日この頃。書きたいネタはあるんです前スレ>>445さんっっ。 

>>ミドリさん(お帰りなさいませ。心身を労わること第一に、その上で楽しく書いて下さい)
>地上の正義と平和を守る戦士だ!
言い切っちゃいましたねぇ。人外まで含めて殆ど女の子のみの本作で、こんな熱いヒーロー
魂台詞が聴けようとは。沙織も威厳というより迫力あったし、ジュネの敵味方双方に対する
思いは熟練戦士の風格充分。銀杏丸さんの戦闘神話といい、ここの「星矢」はカッコいい。

>>サナダムシさん
サナダムシさんのこういう話は、つくづく昔話的というか教訓めいているというか……深い。
願い叶えネタってのもいろいろ見ましたが、「同系統はダメ」でこうヒネるとは。何かトンチ
を働かせて神龍を引っ掛け、状況打破してやりたいとも思いますが良い知恵が浮かばず。

>>サマサさん
ついに本編に登場バキスレイオス。一人(一機?)ジェットストリームアタックにはチト笑え
ましたが、極まった者同士の戦いは複雑な策・トリックのない、豪快なパワーぶつけ合いに
なりますな。……それにしても、映像で見てみたいなぁ機体もパイロットも。どんなだろ?
8作者の都合により名無しです:2006/11/05(日) 00:21:02 ID:KiFMV1IS0
1氏お疲れ様です。

サマサさん、いよいよ本当にラストが近付いているんですね。
正直アニメとかゲームには疎いんですけど、それでも
このシリーズは前作から好きでした。
インフレバトルの真骨頂、見せてもらいます…
9月の勇者:2006/11/05(日) 15:41:37 ID:RAW05XW30
 滅亡寸前の王国があった。
 魔王軍の侵略は苛烈にして執拗。すでに城は落ち、国土の大半が焼き尽くされた。
 わずかながら逃げ延びた王族は、散り散りとなった兵と国民を集め、各地でささやかな
抵抗を展開する。いくらかの勝利こそ収めたが、戦況を覆すにはまるで至らない。
 彼らの集落が発見され、総攻撃を受けてしまえばそれまで。まさに風前の灯。
 しかし、彼らは希望を捨ててはいなかった。
 王国に古くから伝わる一文。

『国亡びし時、異国より勇者現る。其の者、月を自在に操り、魔を打ち破るであろう』

 王国にも月は浮かぶ。もし操ることが可能ならば、さすがの魔王軍とて一日と待たずに
壊滅するはず。もはや人々はこの伝承にすがるしかなかった。
 幸い、王家の血を引く者には伝承に相応しい力が備わっていた。
 ──異界から無作為に生命を召喚する能力。
 平時では使用を禁じられていた能力だが、今は一刻を争うときだ。王族たちは体力の続
く限り、召喚を繰り返した。
 だが、出てくるのは期待に反して有象無象ばかり。ほとんどが使えない。時には戦士ら
しき人物が出現することもあったが、いずれもテスト役を引き受けた兵隊長にあっけなく
倒された。兵隊長を倒せなければ、とても魔王軍には歯が立たない。
 こうしている間にも戦争は続き、指揮を振るった王族は続々と戦死、残されたのは若き
姫君たったひとりになってしまった。
10月の勇者:2006/11/05(日) 15:42:58 ID:RAW05XW30
 姫は大変美しかった。気丈だが、だれでも分け隔てなく包み込む温かさをも持っていた。
彼女の健気なふるまいに、傷ついた国民はどれだけ励まされてきたことか。
 姫がいる限り頑張れる。いつか必ず平和を取り戻せる。
 人々は勝利を信じて戦い抜いたのだが、魔王軍は非情なまでに強大だった。皆が限界を
感じつつあった。
 魔族による捜索も目前に迫っている。ひとたび大部隊が押し寄せれば、こんな集落など
呼吸をするよりたやすく粉砕されてしまう。
 この遠からぬ未来を悟った兵隊長が、そっと姫に促す。
「姫、お逃げください。もう二日三日のうちに、奴らはここを嗅ぎつけるでしょう」
「どこに逃げるというの? 国中どこへ行こうと、いるのは邪悪な魔族ばかりよ」
「しかし……!」
「ここが滅ぶ時は、私が死ぬ時よ。今まで……ありがとう」
「ひ、姫……」
 これまで後ろ向きな姿勢を見せなかった姫にも、諦めの色がただよう。十中八九、一週
間後には彼らはこの世にない。だが、まだ彼女の瞳には戦う意志が宿っていた。
「でも、私にも意地がある。最後の最後、あの力を使ってみるわ」
 王家特有の召喚能力には限度があった。姫もまた生涯で使える回数をとうに使い切って
いたが、無理をすればあと一回くらいなら──。
「姫っ! なりませんっ!」
 なめらかな肢体が発光する。
 兵たちの制止を振り切り、姫は能力を行使した。
 やはり制限を無視した反動は大きく、直後に姫は口から血を流して倒れてしまう。
「あぁっ……!」
「しっかりしてください!」
「姫様っ!」
 大勢の国民が姫に駆け寄る。そして同時に、そこに先ほどまでいなかった男がいること
に気づく。
 召喚は成功していた。
11月の勇者:2006/11/05(日) 15:44:53 ID:RAW05XW30
 若い男だった。白を基調とした服に身を包み、たくましい気配を発している。
 姫が命がけで呼び寄せた男。もし彼が勇者でなければ、王国の命運はここで尽きること
となる。
「ん? なんだ、おめぇたちは?」
 きょろきょろと目を動かしながらも、男は平然としていた。心臓は大きいようだ。
 さっそく兵隊長が歩み出る。姫の意地が生んだ成果をすぐにでも確かめねばならない。
「無礼は承知だ。おまえが勇者がどうか試させてもらう。一騎打ちを願いたい」
「……勇者? 意味がよく分からねぇが、戦えってことか?」
「いざ!」
 鋼をも断ち切る剣が左右に踊る。が、鋭い剣閃を男は軽々とかわす。周囲からは思わず
歓声が上がる。
「くっ、やるな!」
「悪かねぇが、正直すぎるな。おめぇさんの攻撃はよ」
「ならば本気でゆくぞ!」
 目を吊り上げ、兵隊長が大きく振りかぶる。一撃必殺狙い。
 ピンチにもかかわらず、男は冷静だった。がら空きになった胸板に、強く握った拳を叩
きつける。
「……がっ! ぐはぁっ!」
 兵隊長は後方へ吹き飛び、落ちた剣が地面に刺さる。持ち主は起き上がることなく、大
の字で白目をむいていた。
 さらなる大歓声が沸き上がった。
「す、すげぇっ!」
「あの隊長が一方的に……!」
「いったいどんな武器を使ったんだ?!」
 ギャラリーから飛び出た疑問に、勝利者は呆れながら返す。
「おいおい、俺はただ突きをぶち込んだだけだぜ」
 これを聞き、人々の興奮は頂点に達した。
「あ、あれが月かっ!」
「姫様がついに勇者を呼んだんだ!」
「勝てる、勝てるぞっ!」
 大いに盛り上がる国民を目に、幸い命に別状はなかった姫もにっこりと微笑んだ。
 月を自在に操る勇者が、亡びゆく王国にようやく降臨したのである。
12月の勇者:2006/11/05(日) 15:46:09 ID:RAW05XW30
 事情を知った勇者は、魔王軍との対決を決意する。
 激戦に次ぐ激戦。月ならぬ突きの猛威に、恐るべき魔族たちがどんどん数を減らしてい
く。
 人類と魔王軍の戦力差は一対九から、徐々に五対五となり、とうとう九対一にまで追い
つめた。
 勇者降臨から約半年、ついに勇者と魔王が対峙の時を迎える。
「おめぇさんが魔王とやらか。なるほど、悪そうな面構えしてらぁな」
「待っていたぞ勇者よ。貴様、噂によれば月を使うらしいな?」
「おうよ。一日千本、稽古を欠かしたことはねぇ」
「面白い。だが快進撃もここまでだ、死ねっ!」
 決戦開始。
 鋭利な爪と牙、加えて口から吐き出される炎。魔王は強かった。
 だが、勇者はさらに強かった。死を呼ぶ猛攻をかいくぐり、胸に渾身の突きを叩き込む。
「ぐおっ……。こ、これが月の威力か……!」
「まだまだ修業中の身だが、俺の正拳はいずれダイヤをも砕く。おめぇは特異な体に頼り
すぎて、鍛錬が足りなかったな」
「ふ、ふふふ……月だけでなく聖剣とはな……。み、見事だ……勇者よ……。ぐっ、ぐわ
ああぁぁぁぁっ!」
 黒衣をその身にまとった悪の化身は、跡形もなく塵と化した。
 そして全てに後始末がついた時、勇者は元いた世界へと消えていた。いつしか恋仲に落
ちていたあの姫君とともに……。

 あれから時は流れ、勇者と名を改めた姫はひとつ屋根の下で生活している。
「おう夏江、ひとっ風呂浴びてくるから蕎麦でも茹でてくんな」
「はいはい、お風呂から上がったら一緒に食べましょ」

                                   お わ り
13サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/05(日) 15:49:11 ID:RAW05XW30
>>1
新スレお疲れ様です。

今回はファンタジーSSです。といっても正体は……。
長編の方には今スレ中に復帰したいと思っています。
生温かく見守ってください。
14作者の都合により名無しです:2006/11/05(日) 16:52:58 ID:DcWFzzh/0
上手すぎる。
冗談のような月と正剣ですな。
15作者の都合により名無しです:2006/11/05(日) 21:04:19 ID:4G+DJNhYO
私のスーパー独歩ちゃんって実話だったのかwww
16作者の都合により名無しです:2006/11/05(日) 23:17:14 ID:3EasHQ1D0
>サマサさん
異次元の戦いになるのか。最終決戦間近に相応しい。最後はのび太に決めてほしいなあ。

>サナダムシさん
幻想的だったのに最後のレスでいきなり漬物臭くなって笑った。相変わらず上手いなあ。
17サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/06(月) 00:29:02 ID:LHC+1kms0
訂正です。
夏江さんは、“夏恵”でした。
多分、あの怪物とごっちゃになったんだと思います。
18作者の都合により名無しです:2006/11/06(月) 00:29:46 ID:AAmwE6cU0
「月」と「突き」の同音異句一つでSSを作ってしまうとは。
サナダムシさん恐るべし。

ところで、「長編の方は今スレ中に復帰します」と
書いてあって嬉しかったけどm「やさぐれ獅子」とは書いてないのね。
もしかして違うものかな?
19作者の都合により名無しです:2006/11/06(月) 11:11:33 ID:vBCWzBYs0
「月」と「突き」だけじゃなく、「正剣」と「正拳」もかかってんだね。
2回読んで初めて気づいた。
20作者の都合により名無しです:2006/11/06(月) 18:16:43 ID:RfDBn2FK0
もうすぐサイト30万ヒットなのに
やはりバレさんはお忙しいのだろうか・・
21作者の都合により名無しです:2006/11/06(月) 23:06:02 ID:TVdwktMD0
>サマサ氏
まさにスパロボとデモベの融合した究極の戦いッ!
どちらも『軍神強襲』でのアートレータ・アエテルヌム級の化物だw
そしてデモベといえば何といっても2丁拳銃、これが出てきてくれたのが嬉しいです
これでアトランティス・ストライクがあれば完璧なんですが……やっぱり必殺技といえば飛び蹴りという固定観念な自分
元ネタのバンプレイオスにもブレードキックがありますし、ここは1つ
22WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:10:00 ID:c/TiaSsj0
《EPISODE4:There's a man going around taking names》

――イングランド南部 ウィルトシャー州 ソールズベリーの北西13km地点

「着きましたよ。ここが我が錬金戦団大英帝国支部です」
ジュリアンがにこやかに指し示す光景を前に、三人は驚きのあまり呆然と立ち尽くしている。
「ここがって……。おい、こりゃあ……アレじゃねえか……。何て言ったっけ」
なかなかその名称が出て来ない火渡に代わって、千歳がそれを引き受けるように呟く。
「ストーンヘンジ……」

眼前に展開された荘厳かつ奇妙な風景に、三人は圧倒されたままでいた。
円を描くように配置された4、5m程の立石の群れ。
その中心に築かれた巨大な門を思わせる五つの組石。
そして、それ以外には何も無く、只々草原が広がるばかりだ。

“ストーンヘンジ”

紀元前3000年から2500年辺りに造られたという、世界で最も有名な先史時代の遺跡である。
しかし、誰が、何の為に、どうやって造ったかは未だに解明されていない。

「こんな所に戦団の本拠地が……? だが見たところ何も無いようだが……」
意外というにはあまりにも意外な場所に連れてこられ、しかも建物らしき物も入り口らしき物も無い。
防人はただ困惑しながら周りを見回している。
「ていうか、何でこんな目立つ所にあるんだよ。秘密結社も糞もあったもんじゃねえ」
驚きからいち早く立ち直った火渡の無粋なツッコミが入った。
小さい頃は、戦隊ヒーロー物を見ても「変身してアホみたいな決めポーズしてる間に襲っちゃえば
いいじゃん、怪人」と嫌なツッコミを入れるガキだったに違いない。
ジュリアンはまたか、とばかりに眉間に皺を寄せて火渡の方を向いた。
何故この日本人は自分を目の仇にするのだろう?
自分は何か失礼な振る舞いを彼にしただろうか?
23WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:10:40 ID:c/TiaSsj0
「僕に言わないでくださいよ。作られたのは何百年も前なんですから……。
でも、おそらくですけど、当時はこんなとこに人なんて来なかったんじゃないでしょうか。
今は観光地ですけど……」
そう言いながら、ジュリアンはストーンヘンジの中へどんどん入っていく。
「ちょ、ちょっとジュリアン君……!」
千歳は慌てて声を掛ける。それも当然だ。
観光地とはいえ、本来ストーンヘンジ内は絶対に立ち入り禁止であり、少し離れた監視所では
警備員が眼を光らせている。
「大丈夫、大丈夫。僕達、戦団関係者は“王立古代遺跡研究機関”のスタッフって事になってますから」

ジュリアンは中央の祭壇状の巨岩の側にしゃがみ込むと、懐から一枚のカードを取り出した。
そしてそのカードを岩のひび割れに近づけると、カードは一瞬吸い込まれ、また出て来た。
どうやらひび割れを模したカードリーダーが巧妙に設置してあるようだ。
地響きのような音を立てて祭壇石の真下の地面が割れ、ひどく古びた階段が姿を現した。
ジュリアンがカードを懐にしまいながら、背後の三人に声を掛ける。
「ここが入り口になっています。さあ、中へどうぞ」
階段を下り切るとそこにはエレベーターがある。
四人がエレベーターに乗り込むと、地面の入り口も自然に閉じていった。

エレベーターのドアが開くと、そこには清潔かつ近代的な作りの戦団基地があった。
ざっと見ても、かなりの広さだ。
「へえ、これはすごいな……」
防人も思わず感嘆の声を上げる。
白とグレーを基調としており、一見、病院やラボラトリーを思わせる雰囲気である。
「ここは地下六階57mまでの深さで、広さは約47000平方mあります。広いでしょ?」
まるで自分の手柄のように鼻高々と説明するジュリアン。
「人手不足なんだろ? 無駄に広いってだけじゃねえか」
またもや無粋なツッコミを入れる火渡。
確かに今のところ、ごくたまに白衣やブラックスーツの戦団員が駆け足で通るくらいだ。
その彼らの表情にも『動く歩道くらい用意せえや』と言わんばかりの疲労の色が見え隠れしている。
24WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:11:17 ID:c/TiaSsj0
「ぐっ……。だ、大戦士長の執務室にご案内します」
防人と千歳に両サイドから肩を殴られている火渡を尻目に、ふくれっ面のジュリアンが
さっさと歩き出した。

ややしばらく基地内を歩いた後、四人は“COMMANDER ROOM”と刻印された
大きめのドアの前に辿り着いた。
ジュリアンはドアを控えめにノックした。
「おう、入んな!」
中からひどく乱暴な口調の蛮声が響く。
「失礼します」
四人全員が室内に入るとジュリアンは背筋を伸ばし、声の調子を改めて報告した。
「ウィンストン大戦士長! ジュリアン・パウエル、只今帰還しました!」
「よう! おかえり、ジュード。お使いご苦労さん、ハハハッ!」
広い室内の、ドアからだいぶ離れたソファに座る大戦士長と思しき人物がひらひらと手を振っている。
親愛の情いっぱいの呼び方に、ジュリアンは拗ねたように頬を膨らませる。
とても最高司令官と末端戦団員のやり取りには見えない。
「その呼び方はやめてください。子供じゃないんですから……。
あっ、お客様がいらっしゃいましたか。す、すみません」

見ると、ウィンストンの真向かいにあるソファに、金髪に褐色の肌の女性が座っていた。
落ち着いた雰囲気や知的な丸眼鏡、それに“男装の麗人”という言葉が浮かんできそうな
スーツ姿のせいか、年齢の想像がつかない。まだ十代後半くらいであろうか。
そして彼女が座るソファの後ろには二人の男が立っていた。まるで護衛(ガード)だと言わんばかりに。
一人は左の眼窩に片眼鏡(モノクル)を掛け、仕立ての良いワイシャツとベストに身を包んだ老紳士。
もう一人は長身痩躯に、まるで静脈血のようにくすんだ赤のコートと帽子を纏った不気味な男。
どちらもソファの女性に仕える身なのだろう。
女性はジュリアンらをチラリと振り返ると、すぐにウィンストンの方に向き直り、丁寧な物腰で言った。
「私達はそろそろ失礼致します……。それでは、ウィンストン卿」
「ああ。気をつけて帰れよ、インテグラ。まあ……お前さんら二人がいりゃあ安心か」
25WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:12:19 ID:c/TiaSsj0
ウィンストンはインテグラと呼んだ女性の背後にいる二人に、悪戯っぽく笑いながら声を掛けた。
老紳士は胸に片手をやりながら深々と頭を下げたが、コートの男は異常に研ぎ澄まされた
鋭い犬歯を見せながら不敵に笑うだけだ。
そして、コートの男は主人であるインテグラを置いたまま踵を返すと、ゆっくりとドアの方に向かった。
しかし、防人が立っているせいで開いたままのドアは30p程度の余裕しかない。
「あっ……と、失礼」
だが防人が謝り、道を空けようとした時には、もう男は廊下に出ていた。
「何も、問題無い」
ボソリとした、しかしよく通る低い声。
男の背中を見送りながら、防人はふと違和感を覚えた。

今、自分は確かに身体を退けるタイミングが遅かった。
入り口には人が通る程の余裕は無かった筈だ。
にも関わらずあの男は……。自分にもドアにもぶつからず……。

防人が首を捻っていると不意に声を掛けてくる者がいた。
「失礼。道を空けてほしいのだが……」
我に返ると防人の目の前にはインテグラと従者の老紳士が立っていた。
別段、気分を害している風もない。
「あ……。す、すみません!」
防人は慌てて飛び退いたが“今度は”二人ともたっぷりと余裕のあるドアを通って、
部屋から出て行った。

「さあ、皆さん、中の方へ……。大戦士長、こちらが日本の戦士の方々です」
防人達三人はジュリアンに促されるままに執務室の中央へと歩み寄った。
ウィンストンは三人を迎えるように立ち上がり、両手を広げる。
「ようこそ、錬金戦団大英帝国支部に! 俺が大戦士長のジョン・ウィンストンだ。よろしくな!」
こちらに歩いてくるウィンストンの風貌に三人は開いた口が塞がらない。
明らかにオシャレではなく惰性で伸ばした肩までのロングヘア、鼻に引っ掛けたズリ落ちそうな丸眼鏡、
サイケデリックな模様のよれよれシャツ、あちこち破れたジーンズ。
26WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:13:05 ID:c/TiaSsj0
どう見ても英国紳士というより、アメリカのヒッピーだ。
上級幹部しか着る事を許されない戦団支給の外套も、彼が羽織っていると安物の古着に見えてしまう。
「ホントよく来たなぁ! まあ、まずはゆっくり座ってくれ! 日本の話を聞かせてくれよ!」
ウィンストンはにこやかに笑いながら防人の肩に腕を回したり、火渡の背中をバンバン叩く。
手厚い歓待を受けながら、防人は照星やその他の自分が知る戦団員を思い出し、こう考えていた。
(フ、フツーの人はこの組織にいないのだろうか……)

“いません”という天の声がどこからともなく聞こえてきた。



――北アイルランド ダウン州バンガー モーテル・アクトンベイビー

安モーテルの一室に六人の男がいた。
一人は携帯電話で何やら熱心に喋っていたが、他の五人は咳払い一つ発しようとはしない。
携帯を持った男の低い話し声以外には、テレビのスピーカーからひどく陽気なナレーションが
聴こえるばかりだ。
テレビ画面にはベルファスト市内の高級ホテルが、自信を持ってオススメするディナーが
映し出されている。
しかし、他の五人の男はテレビを観ている訳でも、電話に聞き耳を立てている訳でもない。

五人には首が無かった。

首の無い男達は皆一様に銃を握ったまま、床に倒れ伏している。
切断された頭部はその持ち主の傍に転がっている物もあれば、部屋の入り口付近まで
吹っ飛んでいる物もあった。
27WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:48:02 ID:c/TiaSsj0
そして、部屋の中央には右手に携帯電話を持ち、左手に異様に刀身の長い銃剣を持った“神父”が一人。
銃剣の切っ先からは鮮血が滴り落ち、法衣にも返り血を浴びているが、本人は息を切らすどころか
声の調子も変えずに淡々と話している。
電話口からは通話相手の、物静かで理知的だが癇癖が強そうな響きを持った声が聞こえてきた。

「――ええ、ここも同じでした。“知らない”の一点張りです。やはりマクスウェル、あなたの睨んだ通り……」
『ああ。“化物(フリークス)テロ”を企てているのは、分派したReal IRAから更に分派した集団、と
考えていいだろう』
「となると厄介ですな。あの情報管理局第2課“ヨハネ”でも奴らの居場所を特定出来ないようでは、
あとどれ程の時間がかかるか……。手詰まり、ですかな」
『そうとも限らんぞ、アンデルセン』
「……と言うと」
『ここはひとつ、“呉越同舟”といこうじゃないか』
「ほう」
『ただし、ただの呉越同舟じゃあない。力尽くで無理矢理船を奪い取り、乗員を皆殺しにして、
こちらの欲しい物を頂くんだ』
「ほほう、それはそれは……。で、どうします?」
『ヨハネが錬金戦団のエージェントを何名か特定した。さすがに錬金の戦士までは無理だったようだが……。
それで、だ。その内の一名の電話を傍受したところ、そいつが錬金の戦士を連れて
北アイルランド入りする事が分かった』
「ククク、何とまあ……間抜けなエージェントだ。それで? そいつの名は?」
『ジュリアン・パウエル、錬金戦団情報部門のエージェントだ。詳しい資料はヨハネの機関員に
既に送らせた。追っ付けそちらに届くだろう。フフ……まあ、お前の好きにしろ』
「ええ、そうしますよ……」
『では――』
「ああ、言い遅れましたが……。次期第13課局長就任内定おめでとうございます、
エンリコ・マクスウェル司教」
『ほう、早耳だな。ありがとう、アレクサンド・アンデルセン神父』
「我々、第13課機関員は皆、あなたに期待していますよ。ハインケルや由美子も喜んでいる。
同じ孤児院出身のあなたが要職に就くと知ってね」
28WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:48:42 ID:c/TiaSsj0
『そうか……。現在のヴァチカンの“人道・平和主義”は、カトリックを弱体化させてしまった。
それどころか異教・異端の愚者共を調子付かせる格好の餌にすらなっている。
我々、第13課はもっと攻性の集団であるべきだ。
逆らう者には、微塵の躊躇も無く極大の暴力を持ってして、神の大鉄槌を振り下ろすが如くな』
「……」
『今回の任務でヴァチカン中に知らしめてやる。たとえカトリックに身を置いていようとも、
異端の力を行使し、化物を使役するような背信の徒には苦痛に満ちた神罰が下ると。
それは信徒だろうが、司祭だろうが、司教だろうが、大司教だろうが、法皇猊下だろうが関係無い。
そしてそれを執行するのは神罰の地上代行“イスカリオテ”だという事をな。
お前はその第13課(イスカリオテ)の鬼札(ジョーカー)だ、アンデルセン。この任務、完璧に遂行しろ』
「わかりました」

『聖霊と子の御名において。AMEN――』

「――AMEN」

神父アンデルセンはしばらくの間、無表情で携帯電話を見つめていたが、やがて懐に仕舞い込んだ。
と、同時に、テレビ画面から先程の陽気な声とは正反対の切迫した、ある種ヒステリックさを
感じさせる女性キャスターの声が響いた。
『番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです。つい先程、アーマー州アーマー市の警察署内において
襲撃事件が発生した模様です。さっそく現場の様子を伝えてもらいましょう。
現場のリチャード、そちらの様子はどう?』
スタジオの女性キャスターの呼びかけを受けて、精力的な狐を思わせる風貌の現場担当アナウンサーが
映し出された。
彼の背後には警官隊に遠巻きに包囲された警察署が見える。
『はい、こちら現場のリチャード・ソーンバーグです。
我々がここに到着した時には、まだ市民が無秩序に逃げ回っている状態でした。現在はご覧の通り、
警官隊が警察署を包囲しています。警察署内にいた人の話を総合すると、どうやら二人組みの男が
警察署内で突如発砲を始め、警察官や市民を射殺していった模様です。
29WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:49:26 ID:c/TiaSsj0
そして幸運な事に、我々は被害者の単独インタビューにいち早く成功しました。
では、こちらのVTRをどうぞ』
大勢の人間が死んでいるにも関わらず“幸運”という言葉を使うこのアナウンサーも非常識だが、
次に画面に現れた被害女性の喚きたてる内容はその非常識を吹き飛ばす程の“非常識”だった。
頭から血を流し、涙でマスカラが落ちてパンダのような顔になった小太りの女性は
ろれつの回らない口調でこう言った。
『わ、私は留置所の弟に会いに行ってたの。そしたら……そしたら急に二人の男が暴れ出した!
一人は見た事も無いゴツイ銃を撃ちまくってた。警官もそいつらを撃ったわ。でも二人とも銃で
撃たれているのに全然平気な顔をしてたの! ホントよ!』
アンデルセンはテレビの方に振り返ると、眼を剥いて被害女性のパンダ顔を凝視する。
『それにもう一人は警官の身体を紙みたいに引き千切ってたわ! 素手でよ! 嘘じゃないわ!!
この眼で見たのよ! ホントよ! 信じて!!』
VTRは終わり、画面には再びアナウンサーが映し出される。
『――とこのように、この女性を含めた何人かはあまりのショックで強い錯乱状態にあるようです。
未だ署内に立てこもっている犯人からは何の要求もありません。これに対し当局は――』

画面を見つめていたアンデルセンは薄気味悪い笑顔を浮かべ、もう今は映っていない先程の被害女性に諭した。
「あなたの訴えを信じよう。天なる父は真を訴え、縋る者のみを愛する」
そこへ突然、ドスを効かせた怒鳴り声が響いた。
「な、何なんだテメエはァ!」
一人の男が銃を構えて、入り口に立っている。おそらく皆殺しにされたこの部屋のテロリストの仲間だろう。
食料の調達にでも出ていたのだろうか、足元には缶詰やパンの入った紙袋が落ちている。
アンデルセンはテレビから眼を離さず、男の方を見向きもしない。
「こ、これはッ……! テメエがやったのか!? テメエ、何者だあ!?」
ここで初めてアンデルセンが男の方へ振り返った。しかし、見ているのは部屋の入り口であり、
男そのものの事はさして意識していない。
アンデルセンはゆっくりと歩を進め始めた。
「クソッ! くたばりやがれ!」
男は銃の引き金を引き、銃口からは轟音と火花が撒き散らされた。二度、三度、四度と。
30WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/07(火) 06:50:59 ID:c/TiaSsj0
だがアンデルセンは涼しい顔をして歩いている。銃弾は何発も彼に命中しているというのに。
「な、な……な……」
既に銃弾は尽きたというのに男は引き金を引き続けていた。
驚愕の表情を顔に貼り付けたまま震える手で銃を構える男に、歩みを止めないアンデルセンが迫る。
視線は入り口の方へ注がれたままで。
「邪魔だ」
アンデルセンが銃剣を横薙ぎに一閃させると、くぐもった短い悲鳴と共に男の頭部が床に転がった。

「せいぜい派手に踊るがいい、化物共(フリークス)。私がそこに征くまでの短い余生を存分に楽しむ事だ。
クククッ……。パンにはパンを(フレブ・ザ・フレブ)。血には血を(クロフ・ザ・クロフ)。
生と死を弄ぶ貴様らには、この私が地獄の死を与えてやる」





だいぶ間が空いてしまい申し訳ありません。防人パートはなかなか話が進まないし。
EPISODE5は《基地外神父VS面白テロリスト(略して面テロ)、ギャルもメカもエロも無いメガネマンバトル》
って事でひとつ。
31さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/07(火) 06:51:45 ID:c/TiaSsj0
>>前スレ340さん
ありがとうございます。
もう少し三人を活躍させてあげたい、というよりも目立たせてあげたいと思いながら書いております。

>>前スレ341さん
HELLSING読んで頂けて嬉しいです。癖の強さが癖になりますよ。
あと、そんなに毛色変わりますか? 私のSS。

>>前スレ342さん
神父はわりと書きやすいです。それに私自身も神父を書くのが一番楽しみになってます。
次回は丸々神父一色です。

>ふら〜りさん
独自の味になっていれば良いのですが……。“七年前”だから好き勝手にやってるとも言えるかもしれませんw
なかなか防人パートの戦闘シーンに行けなくて泣きそうです。

>スターダストさん
千歳は原作ではあんな感じだったので、せめてこういうところでフツーのヒロインをさせてあげたいですね。
>HELLSING拝読しました。
おお、スターダストさんも読まれましたか。そしてさっそく作品内にHELLSINGネタがw
ペンウッド卿を演じるまっぴーの絵を想像すると何とも面白おかしい。
>実は萌えスレで1度だけ。
その作品、読ませて頂いた事があります。ほのぼのしていつつ、キャラの描写のすごさが印象に残ってます。
小説版『//』は、読んでからしばらくSS書く手がしばらく止まりました。自分の作品の矛盾点が嫌になって。

>銀杏丸さん
私はまだ生平野先生を見た事がありませんが、まんま少佐みたいな人なんだろうなと思ってます。
いろんな面が。
32作者の都合により名無しです:2006/11/07(火) 11:28:11 ID:QICoGUYw0
さいさんお疲れ様です。
HPも見に行きました。楽しかったです。

真の主役はアンデルセン神父ですかね?
錬金軍団もインテグラもこの存在感の前には霞んでしまう。
次回は更なる暴れっぷり見せてくれそうで神父ファンにはたまりませんw

33作者の都合により名無しです:2006/11/07(火) 15:34:12 ID:Txk2UEUh0
さいさん乙。
基本はヘルシング世界に武装連金の戦士たち、でしょうか?
それともヘルシング世界と武装錬金世界が同時に存在してるのかな?
ともあれ、世界設定も凝ってあって両作品のファンには楽しいですね。
ちゃんと神父も神父らしく描かれているし。

あと俺もサイト見ました。
エロパロにも投下されてらしたんですね。
トップページのまひろのイラストが可愛かったです。
34作者の都合により名無しです:2006/11/07(火) 22:08:30 ID:VcOGmDC+0
さい氏乙。さい氏サイト持ってたのか
神父の行動も楽しみだが、インテグラと千歳のいい女対決もあるといいな
35作者の都合により名無しです:2006/11/07(火) 23:50:08 ID:WiYFRqKQO
婦警もだしてほしいです。
36作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 00:02:23 ID:DSQEoMtY0
婦警はいずれ出るでしょ
人気キャラだし
37一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:52:57 ID:QNTInL730
太陽に支配されていた世界は、夕暮れと共に闇に支配される。
また、その世界に存在する動物というのは、闇に興味を持つのと同時に畏怖する。
しかし、そんな動物の本能から生まれる好奇心も、俺にとっては一日の終わりを知らせる術でしかない。

(だから・・・、こういう状況も自然なのかもしれないな・・・。)

一人そんなことを考えながら、俺は手持ちのタバコにゆっくりと火をつける。
「ふう・・・・。」
俺の口から出た白いドーナッツは、ゆっくりと頭上にある電灯を覆うように上昇していく。

これが、今の俺に唯一出来る、この場に生きている証の提示。

まあ、今日も一日中、ソファー上で寝転んでいるだけなんだけどな・・・。
そして俺は、指先近くまで消耗されたタバコを憂鬱な表情で見つめると、左手に持っていたウーロン茶を一口飲んでこう呟いた。
「あ〜、暇だな・・・・。」
「けっ!!全くだ。こんなどこだか分からない空間に、お前とたった二人きりだなんてよ。」
俺の嘆きが辺りに響き終わるのと同時に、真後ろにある自動ドアが勢い良く開く。
どうやら、俺が今乗っている宇宙船の所持者。
スキンヘッドのおっさん――――ジェットが帰って来たようだ。
38一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:53:56 ID:QNTInL730
「ったく・・・。あれだよ、スパイク。前門の虎に、後門のチータって奴だ。」
「はっ、狼だろ。で、孔子さん。外の様子はどうだ?」
返ってくる答えは決まっちゃいるが、一応は聞いておく。
こうでもしないと、俺のデリケートな心臓は、今の状況に耐え切れそうにないからだ。
「あ〜。そうだな・・・。結論を先に言うと・・・。暫くは出られん。何しろ『ここがどこだか』も分からないんだからな。」
「やっぱりそうか・・・。聞くんじゃなかったな・・。」
「けっ!知ってて聞いたくせによ。一日中、暇そうにしている御大臣は。これじゃあ、本当に嫌になってくるよ!」
全くジェットの言う通りだ。
何しろ、賞金首の乗っている宇宙船を追い込んだと思ったら、何時の間にやら訳の分からない空間に閉じ込められたんだしな。
(ジェットがここまで愚痴をこぼすのも無理は無いか・・・・。)
そう考えながら、俺はジェットの顔からゆっくりと視線を外すと、ぼんやりと宇宙船の窓の外を見る。
これは、この状況に陥ってからのいつもの行動。
いくら外を見た所で、状況が代わるはずが無いのだが、居ても経ってもいられないのが追い詰められた人間の性である。
しかし、そんな一握りの希望をあざ笑うかのように、俺の眼に映し出されるのは永遠に続く―――永久の闇。

そう、これは決して宇宙にいる間には見ることの出来ない光景。
常に輪廻転生している星々に埋め尽くされた宇宙では見れない光景だ。
(ったく・・・、訳分からないな・・・。本当に・・・・。)
しかし、俺には『こんな訳のわからない状況』にもかかわらず、実は三つ程分かっていることがあった。
39一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:54:45 ID:QNTInL730
なあに、簡単な事だ。

一つ。ここは俺等が賞金首を追い詰めた場所ではない。

二つ。窓の外から星が見えないことから、ここは俺等が賞金首を追い詰めた宇宙でなく、別のどこか。

三つ。外に出たくても、何故か宇宙船の扉は開かない―――つまり、これ以上は分からない。

これらの事から分かる事は唯一つ。
この状況は正に・・・・。

「あれだな。正に一寸先は闇って奴だな。ったく・・・、昔の人もよく言ったものだぜ。」
俺の思考を遮るように、ジョットは左右に頭を振りながらポツリと愚痴をこぼす。
「ジェット・・・?」
「ああ?なんだ?」
「お前って、ジャパニーズだっけ?」
「違うが・・・。どうした?やぶからぼうに・・・。」
「いや・・・。最近、妙に諺を口にするものだからさ。」
前から細かい奴だったが、最近は口を開くたびに諺とかいう古代日本が作った格言を織り交ぜてきやがる。
まあ・・・、この状況が状況じゃ・・・な。
星一つ無い空間に閉じ込められた、むさ苦しい男二人。
これで滅入らない方が、神経を疑っちまう。
まあ、趣味が趣味の場合は関係ないかもしれないが・・・。

とまあ、それにしても、ここまで外の状況に変化が無いとなると、さすがにそろそろ・・・・。
40一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:56:10 ID:QNTInL730
「なあに。こういう状態が続くと、自然と気が滅入ってくるからな。ここは一つ、頭の体操をしつつ・・・・。」
また俺が一人物思いにふけっていると、先ほどの俺の言葉を受けたジェットが雄弁に薀蓄を語り始めた。
こういう状態に入ったジェットは暫くは止まらないだろう。
バカもおだてりゃ木に登る。―――猿もまた同様。
しかし、そんな猿でも動く場所がなければ、おだてられてもリアクションが取れないだろう。
俺はジェットの話を聞きながらそんなことを考えつつ、吸い終えたタバコを左手に持っていたグラスに放り入れた。
ゆっくりと消えていくタバコの煙。
「あっ・・・・。ウーロン茶・・・・。飲みかけだった・・・・。」
41一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:57:30 ID:QNTInL730
訳の分からない空間に閉じ込められて、今日で一週間。

終わる事の無い暇の連鎖。底を尽きかけている食料。
で・・・、無限の闇が広がる窓の外。
こちらに被害は無いが、状況の変化も無い。

―――――いわゆる八方塞という奴だ。

「なあ、ジェット・・・。知ってるか?革靴って食えるんだぜ。」
状況の変化――――――限度があるが、今はこの程度の冗談も許されるだろう。
まあ、とりあえずの話題づくりだ。
「ああ・・・。昔のカーボーイは、本当に困った時は革で出来ているブーツを食ったらしいな。」
「そうそう!で・・・、食うか?」
断っておくが、これは冗談だ。
さっき言った通り、これは暇から来る話題づくり――――俺なりの気遣いと生きる希望の提示だ。
「そうだな・・・・。」
「はっはっは!!ジェット〜。冗談だよ、冗談!!って、流石に分かっているだろうがな。」
もう少し引っ張っても見たいが、ここらで冗談は仕舞にしておく。
何しろ、ジェットは頭が固いんだか柔らかいんだか分からない奴だからな。

でも、これで少しは・・・・、

「食うか・・・・。」
「はあ?冗談だろ?はっはっは、お前も結構こういう冗談もいけるんだな。」
「いや・・・・、今日で食料も尽きる・・・。そうなると食えるものは今のうちに確保しておかないと・・・・。」

・・・・目がマジだ。
42一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 03:59:43 ID:FkF46pcb0
どうするスパイク?
奴を止めるか?それとも暇つぶしに放っておくか?
「ソース・・・。確か、冷蔵庫の奥の方に・・・・・。いや、やはりここは中華風か・・・。」
いやいや、ここはやはり人として止めるべきだな。
これで食中毒で逝っちまったら夢見悪いし、それにアイツには世話に・・・・・、
「いや、中華より生で醤油ソースだな・・・。よし、後は革靴の調達・・・。確か・・・・、おい!スパイク!!」
「あ、ああ・・・。な、なんだ?」
「お前のはいている靴。俺にくれ!!今すぐに。」

―――――前言撤回。

ああ、これはあれだ。あれだよ。
どんなに普段まともな人でも、少しばかり不可思議な場所に閉じ込められれば、
「くれ!!くれ!!!くれよ〜!!!スパイク〜〜〜!!」
ほら、この通りってやつ。
って、天は我を見放したのか!!
「ちょ、ちょっと待て!!いくら腹が減ったとしても限度があるだろ!考え直すんだジェット!!」
「う〜ん・・・・。やっぱりダメ。オレ、ソレタベタイ。」
「突然片言になりやがって!!お前は原始人か〜〜〜!!!」
ジェットの言葉にそう返すと同時に、俺はリビングルームを飛び出る。
そして、俺はジェットから急いで身を隠す為に、なるべく虚をつけそうな隠れ場所を探し始めた。
「ったく!!幾ら状況が状況だって、ジェットの奴!!」
俺は大声で愚痴をこぼしながらも、必死に宇宙船内を駆けずり回って隠れられる場所を探し続ける。

機関室―――バスルーム――――俺の部屋―――ジェットの部屋・・・・。
43一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:00:53 ID:FkF46pcb0
ダメだ。どれもこれも隠れるのには適していない。
となると、かくなる上は天井裏か・・・?
「確か、あそこのダストポットの天井のタイルは簡単に外れるはず・・・・。」
服が多少臭くなるかもしれないが、この際は仕方が無い。
俺はすぐさま意を決すると、ダストポットがある部屋に駆け足で入った。
「うえっ・・・。くっせ〜!!」
入ったと同時に、生ゴミの匂いが俺の嗅覚を過剰に刺激する。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
(ともかく天井裏に隠れなければ・・・。)
この思い一つで、俺は慌しくこの部屋にあるはずの梯子を探し始める。

すると、前に使って放置していたであろう、汚らしい梯子が運良く視界の隅に映った。

―――これは運が良い。きっと逃げ切れるに違いない――――――

訳の分からない空間に閉じ込められていたせいか、俺は目の前の幸運に単純な感想しか抱く事が出来なかった。
今考えれば、この宇宙船は元々ジェット本人のもの。
船内のメンテナンスをいつもしている彼にとって、俺が考え付く逃げ場などお見通しも同然だろう。

だから・・・・。

「よ、よし・・・。後は、この梯子を使って・・・。」
俺は早速見つけた梯子をその場で設置すると、勢い良く梯子に足をかけて登り始める。
そして、たどり着いた天井に敷き詰められたタイルの隙間に手を掛けた瞬間。
力も入れていないのに、目の前のタイルは大きな音をたてて地面に落下していった。
「スパイク君。み〜つけた〜♪」
そう、天井に敷き詰められていたタイルを外したのは、俺ではなく目が完全に逝ってしまったジェット。
あらかじめ俺の行動パターンを予測して、天井裏を移動していたのだろう。
それにしても、相方にこんな目付きで追い詰められるとは。

正に、この世は・・・・。
44一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:01:33 ID:FkF46pcb0
「ス〜パイク君〜〜!!君の履いている靴をくれないかな〜?ねっ?」
俺が一人この世を呪う暇もなく、ジェットはさっさと本題を切り出してくる。

まあ、本題というよりかは命題かもしれないが。

しかし幾ら命題とはいえ、ここでジェットの言う事を聞くわけにはいかない。
なんせ、こんな逝っちゃった目をしている奴のいうことを聞いたらば、それこそ最後だからだ。
次は服を食わせろとか要求してきたりするかもしれないし、最終的には発狂して自害するかもしれない。
別に信がつくほどの間柄ではないが、一応は俺の相方である。
だから俺は、身振り手振りを混ぜながら説得・・・、もとい時間稼ぎを始めることにした。
「じぇ、ジェット!!落ち着け!!話し合おう。こういう時こそ、ラブ&ピースだ。なっ?」
自分でも歯がゆくなる台詞・・・。
でも、今は文句を言っている場合ではない。
ともかく、次に行動する指針をさっさと決めなくては。
「そ、そうだ、ジェット。流石に俺にも、この靴に対しては愛着というのがある。
だから、片方の靴だけやろう。な?どうだジェット。」
「カタホウ?カタホウ?」
「そうだ、これで平和的に解決の道を作ろう。ジェット。いつものお前ならば分かるはずだ。」

『いつものジェット』・・・。

自分でその言葉を発した瞬間、俺は本当に長い間、正気のジェットを見ていない気がした。

――――人の精神はもろく壊れやすい。
45一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:02:59 ID:FkF46pcb0
(だから・・・か・・・。)
これが普段の彼が物凄く懐かしく思えた理由。
(そうだな・・・。俺は全く・・・。)
そして、俺は未だに「カタホウ?カタホウ?」といい続けているジェットを見て、もう一度意を決する。
いや、これは『意を決する』という言葉は適切ではない。
むしろ、極限状況に追い込まれたせいで壊れたジェットに対して、逃げる一手しかしなかった自分への・・・。

――――ケジメだ。

「ジェット・・・・。これをやる。俺の靴だ。だから、お前はこれで元に戻ってくれ・・・。って、おわっ!!」
しかし、梯子の上に居た事をすっかり忘れていた俺は、自らの靴を脱ごうとし為にバランスを崩してしまい、
靴底に手がかかっている状態でゆっくりと生ゴミの中に落下していく。
(ひたすらついてないな・・・。ああ・・・、そうか。何がケジメだ・・・。結局俺は・・・。)
一瞬でブラックアウトする俺の意識。
その時、俺が考えていた事は、ケジメという名の自己陶酔への後悔であった。

・・・・・。

意識を失ってからどれくらい経ったのだろうか?

俺が次に目を覚ました時は―――――

「おう、スパイク!やっと起きたか。いつも寝てばっかりいないで、すこしはソードフィッシュの整備でもしたらどうだ?」

―――――何もかもいつも通りのジェットと―――――

「あっ・・・、火星・・・。」
「何言ってんだスパイク?当たり前であろうが、賞金首を換金しにいくだからよ!まったく・・・。」

――――いつも通り、俺らが居た宇宙に戻っていた。
46一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:03:53 ID:FkF46pcb0
「ジェット・・・・、元に戻った・・・。はは・・・。」
眠い頭を左右に振りながら、俺は今の状況に幸運を感じていた。
いつも通りのジェット、いつも通りの窓の外の光景。
今はこれ以上の幸運は無い。
「どうした?まだ眠いのか御大臣は!!まあ、もうすぐ飯が出来るから、さっさと顔でも洗ってきな!!」
そして、俺が目の前にある幸運をかみ締めていると、いつも通りのジェットはいつも通りに俺の世話を焼いてきた。
「ああ・・・、わかったよ。」
一時はどうなる事かと思ったが、本当に良かった。
ここ最近、自分の中に募っていた世に対する恨み辛みは無かった事にしよう。

そうだ、世の中は『一寸先は闇』なんかではない。

むしろ世の中は光と闇の繰り返し。
良い出来事もあれば、その分だけ悪い出来事もあるのだ。
そうさ。そうだ・・・。

「よっこらせ!・・・っと!」
顔を洗い終わった俺は、いつもよりも上機嫌にリビングルームにあるソファーに座ると、
胸ポケットに入っているタバコの箱とジッポを取り出した。
「最後の一本か・・・・。」
個人的には、タバコをきらすのは大変きついことだが、ジェットが元に戻ったのと、
元の宇宙に戻った分を考えればイーブン以上の価値がある。
そう、タバコの代わりにジェットが戻ったと考えれば・・・。
(相棒を元に戻してくれてありがとな・・・・。はは・・・、そんな訳ないのにな・・・。)
そう思いながら、俺はタバコと一緒に取り出したジッポの表面を感慨深く見やる。
すると、ジッポは妖しい光を放ちながら、俺の顔を湾曲させた状態で映し出した。
47一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:06:40 ID:AlPK9KVE0
「よ〜し!スパイク。さっさと、飯を頂いちまおうぜ!」
そして、ジッポに俺の湾曲した顔が映った頃、ジェットはテーブルの上に出来上がった食事を並べ終えていた。
「おっ!今日はステーキか。これは上手そうだ。」
「だろ?牛の特製ステーキだ。じっくり味わって食えよ!まあ、生でも食えるちゃあ、食えるんだがな。」
「ほー、新鮮なんだな。」
ジェットの言葉に、俺は素直に感心しながら、ナイフを使ってステーキに切込みを入れる。
「ん?ちょっと肉が固いな・・・。」
「何言ってんだ?これはさっき取れたての新鮮ピチピチだぞ。」
「ああ、そうだったな。全く俺は・・・、はは・・・・。さ・・っき?」
俺はとんだ思い違いをしていた。
確か俺達は、今の今まで訳の分からない空間に閉じ込められていた上に、食料の補給すらおろか、食事さえ苦しかったはず・・・。
「ま、まさか・・・。これは!!」
思い浮かべる最悪の結果に心底慄きながら、俺は勢い良くその場に立ち上がる。

――――ひんやりと冷たいリビングルームの床・・・・。

さっきは起床直後だったのと、ジェットが元に戻ったような言動を取っていた為に、気に止める事も無かった。
少し気を巡らせれば、簡単に分かる事なのに・・・・。
「どうした、スパイク?美味しいぞ。渾身の自信作だからな。」
戦慄の表情で固まった俺を尻目に、ジェットは本当に上手そうだといった表情で『ステーキ』を食い続ける。
「じぇ、ジェット・・・・。おまえ・・、まだ・・・・。」
自分の声が震えるのを肌で感じながら、俺は恐る恐るジェットに声をかける。
「ああ・・・、そうだな・・・。『靴』は美味かったから・・・、今度は・・・。」
すると、ジェットはステーキに刺さっていたフォークを徐にテーブルの上に置くと、
目の焦点の合っていない顔でこちらを見上げた。
「オマエノツケテイル『ベルト』ッテ、カワセイダヨネ〜?ア〜、タベタイナ〜!!ネエ〜〜〜、スパイク君♪」
ジェットがそう言った瞬間、窓の外の光景は、元の永久の闇に逆戻りした。
48一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:07:30 ID:AlPK9KVE0
世の中を呪う言葉として、一寸先は闇というのがある。

「クレヨ!クレヨ!ソノベルト、クレヨ〜〜!!」
「くっそー!!またこれかよ!!」

しかし、本当の闇は、こういった状況の連続をいうのかもしれない。

「はあ・・・。はあ・・・。はあ・・・。どこか隠れる場所・・・。そうだ、ダストポットがある部屋の天井裏ならば。」

そうなると、一寸先というのは、あくまで人の希望を反映したものな気がしてならない。
つまり本当の闇は、一度入ると抜け出せない、果てなく続く永久の闇・・・。

「よし・・・。後は天井のタイルを剥がせば・・・。」
「マタ、ココニイタ♪スパイク君〜♪」
「うわっ!! ったく・・・、世の中は本当に先もクソも見えたもんじゃないな・・・。」

そう考えると、諺も案外楽観的である。


<一寸先は・・・・。・了>
49一寸先は・・・・。:2006/11/08(水) 04:08:54 ID:AlPK9KVE0
どうも、しぇきです。
かなり間が開きましたが、次から連載しているものを再開しようと思っています。

ちなみに今回の元ネタはカーボーイ・ビバップです。

では失礼・・・。
50作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 05:00:36 ID:oHNuYE/P0
http://12253406543.web.fc2.com/

なんというレギオン…
理想郷とネギまノベル時代から逃げたと思ったら
こんな所に
51作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 05:02:54 ID:oHNuYE/P0
誤爆スマソorz
52作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 09:15:17 ID:dvVqjmVe0
しぇきさんお久しぶり!
ミドリさんに続いて復帰うれしいなあ。

カーボーイ・ビバップはしらないけど、(有名な作品らしいね)
読みきりは楽しかったです。
結構サイコホラーみたいな感じだのに、オチはほのぼのしてますなあ
53作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 13:39:44 ID:UlMt4pTm0
しぇきさんお帰り。
原作のクールな感じと諺のラストがうまく書けてますな
長編の方もラストまでもう少しだと思うのでそっちもがんばって下さい
54作者の都合により名無しです:2006/11/08(水) 17:49:26 ID:qkMDDcfe0
しぇき市お疲れ様。
カウボーイビバップ好きなんで、これで次の長編をお願いしたいと思ったりw
しぇきさんって、スレタイとオチが連動してるタイプの短編SS多いですね。
(サナダムシさんもか)
オチ、というかまとめは割とありがち(失礼)だけど、すっきりと読めました。
これからも余り間をおかずがんばって下さい
55スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/09(木) 00:48:37 ID:8tTi/Ojb0
しぇきさん、お久しぶり&おつかれさまです。
怪奇極まるこの展開、原作のエビやら道化師やらのテイストですね。

ところで例のアレ、ようやく完成しましたのでご紹介をば。詳細は下記にて。

http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1161352063/537

これでSS一本に絞れるので一安心といった所です。では。
次に来るときは永遠の扉を久しぶりに投下させていただきます。
56作者の都合により名無しです:2006/11/09(木) 09:45:04 ID:EVJ50Yw40
スターダストさん乙!
ところで、スターダストさんはホームページ作らないんですか?
SSにフラッシュにといっぱいネタあるのに。
57作者の都合により名無しです:2006/11/09(木) 13:42:12 ID:IbZClqkG0
バレさん・しぇきさん復活おめでとうございます!
バレさん、サイト30万ヒット目前ですね。
しぇきさん、読みきりだけでなく長編の復活も期待してます。

スターダスト氏・・
パソコン初心者の自分には手順が難しくて見れなかったです・・
無念・・
58作者の都合により名無しです:2006/11/09(木) 16:59:29 ID:paXkw/yH0
バレさん、いつもお疲れ様です。

お仕事とお体に支障のない範囲で更新お願い致します。
自分もSS書くの頑張りますので。
59作者の都合により名無しです:2006/11/09(木) 19:21:10 ID:gy2r4+lv0
>>57

つ http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/562

youtubeに上げれればいいんだが、これが限度だ。でも、見る価値はある。
60ふら〜り:2006/11/09(木) 19:55:04 ID:NoBAoKIX0
バレさんにはいつもいつもお世話になってますね……お忙しい中、本当に
ありがとうございます。私もせめてSSを献上いたしたく、ずっと昔にリクエストの
あった作品に取り組み始めましたが。完成はいつになるやら。あぁ時間が欲しい。

>>サナダムシさん
干潮を操ってどーにかする? 月光の影響で人々を狼男化? いっそ月を重力で引いて
直接ぶつけるのか? とかいろいろ考えたんですが、見事「突き」喰らいました。意表に。
で刃牙世界の美人といえば井上さんが定番ですが、こういう見方・描き方もいいですね。

>>さいさん
世を忍ぶ仮の姿あり、隠し入り口あり、立派に秘密基地ですよ大英帝国支部。某大戦隊
の基地なんか……いやその。で初登場時からイカれてましたが、神父様が良いですなぁ。
化物が化物を化物呼ばわりしてグロく戦う。映像だけでなく思想もドス深黒い。震えます。

>>しぇきさん(ズラリと並んでる一群の中の一人として……「お帰りなさいませっっ!」)
昔話によると、難破船では海水で煮込んで食すとか。それはともかく、最終的には人肉
食スプラッタか、はたまたリサイクル循環食かとハラハラして読んでましたが……怖くは
あるけど雰囲気は明るく、救いはないけど絶望してなく、後味良。長編もよろしくです!

>>スターダストさん(前のもでしたが、剣がお好きなようですな。私は空我と555です)
拝見させて頂きました。SS同様に知識とセンスと原作への愛、スターダストさんのいろいろ
が込められてますねぇ。その多芸多才っぷりに感服しつつ、SSの続きも待ってますよっ。
61老兵は死なず:2006/11/10(金) 01:02:50 ID:4a4KRGhy0
 新ナメック星で、最長老となったムーリは密かにある決心をしていた。
 フリーザ一味とベジータの手によって、七つの村がことごとく壊滅させられるという忌
まわしき悲劇。二度と現実にしてはならない。
 ならば、講じるべきは外敵に対する絶対的な防衛手段。
 フリーザ亡き今、若者らの武力だけでも自衛には十分かもしれないが、油断はできない。
いつまたドラゴンボールを狙って、第二のフリーザが攻めてくるか分からない。
 ムーリはその日のうちに、他の六つの村を治める長老を招集する。

 会議は長引いた。
 格闘訓練を日常的に行い、青年たちの戦闘力を底上げしようという意見も出た。しかし、
アジッサの緑化活動はなによりも優先させたい事業。貴重な労働源である若者に、これ以
上の無理は強いたくはない。
 いつでも使えるよう、ドラゴンボールを一箇所にまとめておくべきだとの主張もあった。
だが、ドラゴンボールは創造主を超える者についてはまるで無力。実行してもあまり意味
はないという結論に至った。
 若者にも、ドラゴンボールにも頼れない。老いた七つの脳がこれでもかと悩む。
 しまいには、一人の長老からこんな苦しまぎれのアイディアが出る始末。
「ムーリがフリーザくらい強くなれば、ドラゴンボールでたいていの敵は撃退できるんだ
がな」
 どっ、と笑いが起こる。
 いわれた本人までもが笑っていた。
 結局、大した成果もなく会合はお開きとなった。話し合いはまだ今度に、という口約束
だけを残して……。
 だがこの晩、ムーリはまるで寝つけなかった。生まれて初めてコーヒーを飲んだ子ども
のように、火照りが全身を駆けめぐっている。
「考えたこともなかった……。わしが強くなるだなんて……」
62老兵は死なず:2006/11/10(金) 01:04:15 ID:4a4KRGhy0
 翌朝早く、ムーリは独りトレーニングにいそしんでいた。村外れで一心不乱に拳を突き
出している。
 突然の奇行に、畑仕事に出かけようとしていた村人が訝しげに声をかける。
「ムーリ長老……いったい何をなさってるんですか?」
「新ナメック星の平和のためじゃ。わしが強くなれば、わしより弱い悪者はドラゴンボー
ルを使って無条件で倒せるようになるからな」
「は、はぁ……。では、なにかお手伝いできることはありませんか?」
「いや、かまわんでくれ。これはわしが独断でやっていること、皆を巻き込むつもりはな
い」
「……分かりました、でも、無理はなさらないでくださいね」
 最長老の特訓は日夜続いた。
 疲労が一杯になれば、すかさずデンデと同じ能力を持つ者に治療してもらう。サイヤ人
も裸足で逃げ出すほどの熱中ぶりであった。

 一ヶ月を過ぎても、依然としてムーリの生活は変わらなかった。
 ある日、数名の若者が特訓している彼のもとへやって来る。
「なんじゃ、今日は休日じゃなかったか? することがないなら、子供たちと遊んでやり
なさい」
「あの長老……俺たちにも特訓を手伝わせてくれませんか?」
「バカを申すな。前も他の者にいったが、わしはおまえたちを巻き込むつもりはない」
 すると集団の一人が大きく首を振って、こう訴えた。
「巻き込むだなんて、そんな……。我々は、最長老様が黙々とトレーニングをする姿に心
を打たれたんです! 迷惑はかけません。どうか手伝わせてください!」
 なかなかムーリは首を縦に振らなかった。だが若い熱意に根負けし、仕事に支障が出な
い程度にという条件つきで彼らが訓練に参加することを認めた。
63老兵は死なず:2006/11/10(金) 01:05:27 ID:4a4KRGhy0
 やはり、トレーニングは仲間がいる方が効率がいい。
 ムーリの進歩はめざましかった。
 元来ナメック星人は基本能力ではサイヤ人の上をゆく優秀な種族。また、ムーリは先代
最長老から龍族としての才能を特に認められていた人物。年老いたとはいえ、今頃になっ
て素質が開花したのかもしれない。
 一年も経つと、組み手において若者らと五分に渡り合えるレベルに成長。
 三年目ともなると、新ナメック星において彼の相手が務まる者はいなくなっていた。
 なおもムーリは止まらない。手を自らの頭上にかざし、セルフで潜在能力を引き出すと
いう荒技までやってのけた。
 そして、村一番幼かったカルゴがめでたく成人を迎えた年──。
 ムーリは完成していた。

 老齢ながら、岩山さながらに盛り上がった筋肉。体皮からは、大人しく待っていられる
かとばかりに絶えず気力が溢れ出ている。
 おそらくフルパワーを発揮すれば、あのフリーザにも劣らない戦闘能力を期待できるだ
ろう。
 これで新ナメック星の平和は保障されたも同然。それを知らしめるためか、ムーリは星
中のナメック星人を一堂に集めた。
 ざわつく大衆をよそに、ムーリは天に指を向ける。
 そして一言。
「宇宙(そら)へ……」
 とことんまで磨き上げた強さが引き金となり、肥大化した闘争本能。ムーリにはそれを
抑えることができなかった。
 だが、異を唱える者などだれもいない。だれもがムーリの努力を知っており、だれもが
ムーリの完成した肉体に魅了されていた。すでに彼のカリスマは、親である先代をはるか
に凌ぐものとなっていた。
 ポルンガに頼めば、ムーリよりも強い生物を避けることなどたやすい。弱者だけを的確
に狙い、そして支配する。
 第二のフリーザが誕生する日は近い。

                                   お わ り
64サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/10(金) 01:07:28 ID:4a4KRGhy0
今回はナメックSSです。

>>9もふら〜りさんのほぼ直後でしたね。
いつも感想、ありがとうございます。励みになります。
そしてしぇきさん、バレさん、復帰お祝いします。

>>18
長編が新作か否かは未定としておきます。
まだ連続した話を書く脳味噌になってないので……。
65作者の都合により名無しです:2006/11/10(金) 02:26:53 ID:3eT8iWfY0
星新一の再来を思わせるなサナダさん
どれだけ満喫させてもらってるか表現する言葉が見つからん
66作者の都合により名無しです:2006/11/10(金) 10:18:34 ID:cwuSB/4j0
サナダムシさんは短編というより読みきり職人だな
たった3レスなのに中身が濃すぎるわw

>>59
えっとこれは?
現スレの>>562?え?
67作者の都合により名無しです:2006/11/10(金) 14:22:14 ID:PbwYZngE0
ナメック星人にも悪いやつはいるだろうからなあw
しかし、週に2本は凝った読みきり上げてるな。
サナダさんすげえぜ。
68作者の都合により名無しです:2006/11/10(金) 18:48:37 ID:FmT0cMnI0
サナダムシさんの次の長編はドラゴンボール物の気がする
ここ最近の短編の流れで
でも、とりあえずやさぐれを完結して頂きたいな
69贋作「剣客商売」:2006/11/10(金) 23:29:19 ID:zlZSsdHU0
その日、秋山大治郎は遠州の浜松に住む剣友・浅田忠蔵を訪ね、数日間の逗留を経て江戸へ戻る途中であった。
道灌山のあたりは人家もなく、街道の両脇には雑木林が広がっているばかりである。
 晩秋の午後の穏やかな陽の光を浴びて、ゆったりと歩みを進める大治郎の耳になにやら慌しい声が聞こえてきた。
 「おのれ、小癪な!」
 「こいつ、小娘の分際で!!」
 街道の曲り角の向こう、ちょうど林の影になっているところで数人の男が若い娘になにやら“狼藉”を働いているような様子である。
 もちろんそのような場面に出くわして知らぬ振りなど出来る大治郎ではない。
(このままには捨て置けぬ)
 腰の大刀に左手を添え、すぐにでも刀を抜き放てる姿勢で駆け出した大治郎は雑木林を回りこんだところで思わず足を止め、目の前の光景に見入ってしまった。
 「そっちへ行ったぞ!」
「えいくそ、獣みたいにすばしっこい奴だ!!」
口々に怒鳴りながらいかにも食い詰め者といった風体の浪人が三人、いずれも刀を抜いて一人の娘を追い回している。
いや、娘が男達を振り回しているといったほうが正しいだろうか。
浪人者の一人が、両手に握った大刀を上段に振りかぶり、
「やっ!」
と打ちかかると娘は素早く体を入れ替え右手で浪人の顔を払う。
「わあっ!!」
と喚いて仰け反る浪人の頬はざっくりと裂け、みるみるうちに血が溢れてくる。
見れば娘の右腕は肘から先が木製の義手になっており、先端には鎌のような鉤爪が取り付けられている。
仲間を傷付けられた浪人二人はすっかり頭に血がのぼり、がむしゃらに切りかかる。
娘はぱっと身を翻し、後ろから襲ってきた浪人の鳩尾に肘を突き入れると、今度は前から迫る浪人に自分から飛び込んでいく。
「ぬ!?」
慌てた浪人が横薙ぎに払った一刀を猿(ましら)のように跳躍して躱すと、浪人の顎をしたたかに蹴り上げる。
顔を斬られた浪人はすでに何処かへ姿を消しており、その場には地面に這い蹲って呻き声をあげる浪人二人が残るばかり。
大治郎が助太刀する暇もあらばこそ、実に鮮やかな手並みであった。
70作者の都合により名無しです:2006/11/11(土) 08:24:44 ID:hX6ZQAz5O
支援
71作者の都合により名無しです:2006/11/11(土) 10:03:56 ID:TvTp366I0
シグルイか何かと思いきや単なるコピペかこれ
72贋作「剣客商売」:2006/11/11(土) 12:45:23 ID:nXm/0qc90
  翌日、大治郎は鐘ケ淵の隠宅へ父、秋山小兵衛を訪ねた。
 小兵衛は久方振りの息子の訪問に開口一番、
 「なんぞ面白いことでもあったかえ?」
 と言ったものだから、大治郎はおおいに驚いた。
 「何故お分かりになられました?」
 「わしは何年お前の父親をやっておる。お前がなんぞ喋りたくてうずうずしているときはひと目でわかるわえ。」
 「父上にはかないませぬ。」
 思わず苦笑いをした大治郎は小兵衛に、道灌山で見かけた風変わりな娘との出会いを語りはじめた。
 娘が単身、三人の無頼浪人を退治している間、助けに入る時期を逸してしまった大治郎は気を取り直すと娘に向かって一歩踏み出した。
 すると娘はまだかなりの距離があるにも関わらず、大治郎の気配にはっと気付くやまさに獣のような素早さで雑木林の中に姿を消してしまった。
 「しかしこの話にはまだ続きがあるのでございます」
 その後、道灌山の麓の茶屋で一息入れることにした大治郎は、先刻逃げられたばかりの義手の娘とばったり顔をあわせたのである。
 大治郎も驚いたが娘はもっと驚いた。
 板張りの壁に右手の鉤爪を打ち込むや、鉄棒の逆上がりの要領で身の丈の倍以上の高さに一息で飛び上がり、茶屋の屋根から木々を伝って飛ぶように去っていった。
 「あの娘、もしや天狗かなにかではあるまいな?」
 思わず呟いた大治郎に
 「あれは最近道灌山に住みついたお鶴という娘でございますよ」
 と声を掛けたのは茶屋の主人であった。
73作者の都合により名無しです:2006/11/11(土) 15:42:47 ID:h9g7NhzK0
なんなんだこれ。SSじゃないならいい加減に消えろ
74作者の都合により名無しです:2006/11/11(土) 15:46:25 ID:3HNin1p+O
しずちゃんがイタズラされるやつある?
75新展開:2006/11/12(日) 01:04:27 ID:cl9DeNIw0
 とある人気漫画があった。
 第一シリーズは伝説の秘宝をめぐる冒険活劇。宝を手に入れんと、いくつもの勢力がコ
ミカルに争う様子が人気を呼んだ。
 第二シリーズは一転、秘宝に封印されていた悪魔たちとの対決がメインとなった。敵方
の魅力も手伝って、作品の大胆な方向転換は大成功に終わった。
 さて、続く第三シリーズ。作者は悩みぬいた末、奥の手を使うことを決断する。
 すなわち、トーナメントである。

 
 ──組み合わせが決定した。
 トーナメント枠は八つ。さっそく出場する戦士を順に紹介していこう。
 まずは主人公。ボウガン使いで、体術もたしなんでいる。第一シリーズでは海賊や秘密
結社、モンスター、果ては帝国軍とも戦い、持ち前の体力と知恵でみごと秘宝を勝ち取っ
た。また第二シリーズでは、老師のもとで修業を積み、苦戦しながらも首領である大悪魔
を討ち取った。そして今シリーズにおいては、その武名が仇となりこのトーナメントに出
場するはめになってしまった。
 次に名を連ねるのは怪力男。身の丈ほどもある角材を軽々と振り回す危険な男だ。
 三人目にはいかにも強そうな騎士。ただし騎士のわりに、素行はあまりよくない。大会
前には主人公を汚い言葉で散々に挑発していた。また、優勝候補の一人でもある。
 騎士と対決するのは、平凡なサラリーマン。こちらはうって変わって弱そうだ。
 ブロックが変わり、五人目はピエロ。やはり敵を惑わす攻撃が得意なのだろうか。
 そして、主人公の親友でありライバルでもある剣士。第一シリーズ、第二シリーズとも
に、主人公とは常に切磋琢磨してきた。現在、主人公との戦歴は一勝一敗であり、今回の
トーナメントで真の決着がつくのではと注目されている。
 続いて、仮面男。黒マントに身を包み、不気味な紋章が描かれた仮面をつける正体不明
の戦士。怪しい気配がこれでもかとにじみ出ている。
 最後は僧侶。職業に恥じぬよう聖書を持ち、絶えず柔らかな笑みを浮かべている。
 まとめると出場者は、主人公、怪力男、騎士、サラリーマン、ピエロ、剣士、仮面男、
僧侶となる。
 トーナメント、開幕。
76新展開:2006/11/12(日) 01:05:00 ID:cl9DeNIw0
 第一試合。リング上で向かい合う主人公と怪力男。
 開始のゴングと同時に、怪力男は角材を力いっぱい振り下ろす。一撃をまともに喰らい
主人公はよろめくが、体勢を崩しながらも三本もの矢を発射していた。
 だが、怪力男の厚い筋肉にはまるで通用しない。その後も執拗に打ち込まれる角材に、
主人公はなすすべなく──。
「ちょっと待ったァ!」
 主人公が叫んだ。
「おまえおかしいだろ! 主人公の一回戦なんて本来さっさと終わっちまう試合だ。どう
考えても強すぎるだろうが!」
 この剣幕に、ついさっきまで鬼のような形相をしていた怪力男が縮み上がる。
「ま、まずかったですか……?」
「いいか、俺は前シリーズで大悪魔を倒してんだ。大悪魔だぞ、大悪魔。それなのに、な
んだっておまえみたいな筋肉バカに苦戦しなきゃならねぇんだよ」
「で、でも……おいらだって結構鍛えてきたんですよ?」
「黙れ! こんなとこで俺が苦戦したらどうなる? あれだけ苦労した大悪魔って大した
ことなかったんだなってことになって、第二シリーズが根本からひっくり返るぞ! 読者
が失望しちまうだろうが!」
「……すいませんでした」
「よしっ、やり直し!」
 
 一回戦、さすが主人公は怪力男をやすやすと退けた。他の三試合も終わり、嵐を予感さ
せる二回戦がスタートする。
 主人公の相手は予想通り、彼をあれだけ挑発していた不良騎士だった。
「くくく、まさかてめぇが勝ち抜いてくるとはな。すぐに殺してや──」
「……待て」
 主人公が発するただならぬ殺気に、騎士は思わず怯んだ。
「おまえが勝ち上がってどうすんだ! バカ野郎が!」
「え、でも俺……あなたと因縁あるし……優勝候補だし……」
「そこが甘いんだよ! 俺と因縁があって、なおかつ優勝候補なおまえが負ける。これが
どれだけ読者を驚かすのか分からんのか! ダークホースってのがあるだろうが!」
「……すいませんでした」
「やり直しっ!」
77新展開:2006/11/12(日) 01:05:43 ID:cl9DeNIw0
 なんと、騎士はサラリーマンによって大敗を喫していた。実はサラリーマンは暗殺拳の
使い手で、一秒間に十人を殺してのけるという伝説を持つ達人であった。
 この伏兵に、主人公は大いに苦しめられる。だがヒロインの声援が、決勝で会おうとい
う剣士との約束が、彼に力を与えた。
 最後の一本となった矢が、サラリーマンの胸に命中する。
「俺の矢にはみんなの力がこもっている。憎しみしかないあんたの拳とちがってな……」
「ふっ……勝てぬわけ、だ……」
 こうして主人公は決勝進出を果たした。
 同じく決勝の切符を手にしていたのは、僧侶。すかさずリングの中心で主人公が叫ぶ。
「なんでてめぇが勝ち抜いてやがるんだァッ!」
「あれ、私じゃ役者不足ですか? これでも空手十段、柔道十段、剣道十段なんですけど。
意外性もばっちりですよ」
「奇をてらいすぎなんだよ! 俺とおまえの決勝戦なんて、だれが喜ぶってんだ!」
「……すいませんでした」
「──ったくここまで来て……やり直しっ!」

 サラリーマンとの接戦を制した主人公をリング上で待っていたのは、ライバルの剣士で
あった。まさに相手にとって不足なし。だれもが待ちわびた宿命の対決が今、幕を開ける。
「さぁ、今日こそ決着をつけようぜ! この最高の晴れ舞台でな!」
 にもかかわらず、対する主人公のテンションは低い。
「……いや、ダメだ。やり直し」
「なっ……どうしてだよ?! 俺ならおまえの相手も務まるし、人気だって上位だ! 決
勝戦としては申し分ないカードだろうが!」
「たしかにな……だが、おまえは準決勝でやられなきゃならなかったんだ。読者のほとん
どが望むライバル対決──実現しなきゃ抗議する人だって出るだろう。それでもなお、お
まえには未知なる悪玉に力及ばない役を受け持って欲しいんだ。読者のさらなる反響を呼
ぶためにな……。分かってくれ、親友よ」
「……すまん」
「さてと……やり直しっ!」
78新展開:2006/11/12(日) 01:06:42 ID:cl9DeNIw0
 決勝に上ってくる相手は剣士にまちがいないと、主人公はだれよりも信じていた。一勝
一敗で止まっているライバル関係に決着をつけるのは今日しかないと──。
 ところが、控え室で休んでいた主人公に仲間から凶報が入る。
 主人公と五分の実力を持つ剣士が、仮面男によって子供扱いされたあげく、重傷を負わ
されたというのだ。
「あいつが……やられた……? ──嘘だっ!」
 うろたえる主人公。だが、知らせは本当だった。全身を切り裂かれた剣士は、医務室の
ベッドで死んだように眠っていた。医師によれば「彼でなければ死んでいた」とのこと。
 ショックを受けながらも、主人公は決意を固める。仮面男を絶対に倒してみせる、と。
 決勝を目前に控え、沸き上がる会場。入場した主人公の目に映るのは、仮面男、ではな
く全身に刃をまとった異形の魔獣だった。
「これが私の正体だ! 鉄をも斬る百の刃が、貴様をバラバラにするであろう!」
 仮面男は人間ではなく、魔獣だった。一方、主人公は少しも驚くことなく、冷静に指摘
する。
「早い」
「え?」
「正体明かすのが早いってんだよ! 仮面状態で俺に苦戦して、それからマントを脱ぐっ
てのがセオリーってもんだろ! おまえは第三シリーズのラスボスを務めるんだぞ、もう
少ししっかり仕事してくれよ!」
「は、はぁ……。でも、さっきの剣士メチャクチャ強いんですよ。ぶっちゃけ仮面つけた
ままじゃきつくて……つい……」
「安心しろ、俺が手加減するよういっておく」
「……すいませんでした」
「もう次はないぞ、やり直しっ!」
79新展開:2006/11/12(日) 01:07:57 ID:cl9DeNIw0
 トーナメントもいよいよクライマックス。決勝のリングに姿を現す主人公と仮面男。
「よくもあいつをやってくれたな……絶対に倒してやる!」
「くくく……。どうやら貴様も、仮面を取るまでもなさそうだ」
 序盤、仮面男は幻術を次々に唱える。だが二回戦までならばいざ知らず、ライバルの想
いをも背負った彼にはまったく通用しなかった。
 放たれたボウガンの矢が、仮面を叩き割る。
「あやかしは通じぬか……。ならば、真の力で応えてやる!」
 ふたつになった仮面が落ち、黒マントが脱ぎ捨てられる。
 中身は人間ではなかった。体中から銀色の刃が飛び出た、まさしく魔獣。あまりの殺気
に、会場中が凍りつき、主人公からも冷えた汗が止まらない。
「鉄をも斬る百の刃が、貴様をバラバラにするであろう!」
「くっ……ば、化け物め! いったい何が目的だ?!」
「ふん、知れたことよ。我が呪われし一族の強さを証明し、人間を絶滅させるためだ!」
 魔獣が四方八方に刃を飛ばす。罪なき観客たちに、容赦なく凶刃が襲いかかる。主人公
もボウガンで応戦するが、どうにもならない。
「ふははははっ! どいつもこいつも解剖してやるっ!」
 この非情な行いに、主人公の怒りが頂点に達した。とてつもない威力の矢が、魔獣の胴
体を射抜く。
「お、おのれ、まだ息があったか……。百の刃よ、奴を殺せっ!」
 最後の激突。一本の矢が、百の刃を粉々に打ち砕いた。
「バカな……人間如きに……! ぎゃああぁぁぁぁ……」
 粉末となった刃とともに、魔獣もまた絶命した。波乱に満ちたトーナメントであったが、
ここにようやく優勝者が決定──。
「ちょっと待ったァ!」
 叫んだのは主人公、ではなかった。どこからともなく飛来する、天の声。
「毎度毎度主人公ばかりが美味しい目にあうと、読者の反感を買う! 今回は主人公を敗
北させ、魔獣は次シリーズにも登場させることにした!」
 やっと終わると安堵したばかりだった主人公は、もちろん猛然と抗議する。
「主人公が優勝しないなんて、んなバカな話があるか! っつうか、おまえはだれだ!」
「作者だ」
 しばしの沈黙の後、主人公はこう呟くしかなかった。
「……すいませんでした」
80サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/12(日) 01:14:52 ID:cl9DeNIw0
よくあるネタを使った漫画SS、トーナメントSSです。
なお、漫画キャラは一切登場しません。

>>68
『やさぐれ獅子』は現在難航中です。
申し訳ありません。
81作者の都合により名無しです:2006/11/12(日) 11:14:08 ID:Hp880wQ60
色々ネタを考えるなあw
「人気出すためにはトーナメント」が少年漫画のお約束だけど、
大体、こんなようなトーナメント展開ですな、確かにw
82作者の都合により名無しです:2006/11/12(日) 18:38:42 ID:/2Go40To0
やさぐれ未定か…
ちょっとショックだ。
でも、相変わらず湯水のようにアイデアがでるな。
83作者の都合により名無しです:2006/11/13(月) 21:56:12 ID:CEmQcsiK0
30万ヒット近いのに、ペース落ちてるなあ
84祝!ミドリさん”復帰”!!:2006/11/14(火) 16:55:17 ID:EPcQyiFY0
聖少女風流記 慶次編 第二話 「終わりの始まり」

ジャンヌ・ダルクの人生において、その絶頂期ともいえる3ヶ月が始まっている。
オルレアンの奇跡的な解放に始まり、パテーの会戦を始めとする破竹の快進撃。
そして、ランスにおけるシャルル七世の戴冠式……。

それまで、フランス軍は戦うと必ず負けていた弱軍であった。
イングランドより兵数で上回っていても、戦略の緻密性や武器の差、そして何より
士気の差において、明らかにフランス軍は下回っていた。

士気の差とは、大雑把に断言すれば彼我の王の正当性の差から来る。
フランスの王太子のシャルルは俗物、いや愚物であった。
猜疑心が強く、嫉妬深く、劣等感に常に苛まれ、その憂さを晴らす為に
日々享楽に更け、現実から目を逸らそうとしていた。

その現実とは、母・イザボウの言葉である。
「あの子は不倫の末に出来た子供。王の血を引いてはおりません」
実の母自らが、半ば公然と宣言していたのである。自信が出る訳は無かった。
それに元々、自分は王位継承者ではない、という僻みもある。
上の兄が2人、立て続けに無くなった為、継承権が廻ってきた、というだけである。

王妃・イザボオは権力者を愛人とし、または愛人を自らの手で権力者して作り上げ、
宮廷の権謀術数の中を泳いで生きてきた。
前王・シャルル6世は発狂した後に死んだが、発狂の一因は妻のイザボオの多情にあった。

そして上記の実の息子に対する心無い言葉は、愛人の地位を息子が王に成った後、
脅かす事が無いよう、保険として発した言葉でもある。
だがその愛人が没した後は、掌を返したようにシャルルの側に付く。
イザボオ…。正式名、イザベル・ドゥ・バヴィエールは強かな毒婦であった。

こんな王妃と王太子を戴くフランス軍の兵士に、士気など沸く訳は無かった。
故に、ジャンヌ・ダルクが現れるまで、フランス軍は負け続けていたのである。
85聖少女風流記:2006/11/14(火) 16:57:04 ID:EPcQyiFY0
フランスの言い伝えには、古くからこんな言葉があるらしい。
『この国は一人の女によって滅び、一人の処女によって救われる』
当時のフランスの人々は、この『一人の女』をイザボオと信じて疑わなかった。
そして、言葉の後半のもう一人。フランスを救う処女。


「宣言します。私は一命を賭けて、シャルル様をランスにお連れします。
 そして、ノートル・ダム大聖堂の聖別式でシャルル様に戴冠してもらい、
 この地に、正当なフランス王が戻られる事を!」

ジャンヌが小さな体を震わせながら、ありったけのソプラノの声を響かせる。
一瞬、静寂が吹き抜けた後、兵たちの声から次々と歓声が沸き上がる。
「おおお!ラ・ピュセル万歳!!シャルル王太子…、いやシャルル王万歳!!」 
「やっとだ、やっとフランスが俺たちの手に帰ってくる!!」  
「そうだ、フランスはフランスの王様のもんだ。あいつらのもんじゃねえ!!」

今、フランスには王が2人居る。
イングランドと、それに追するフランスブルゴーニュ派が立てたパリの幼王と、
ジャンヌが正当な王と信じる王太子・シャルル7世である。
ジャンヌは、シャルルこそが王であると宣言した。
神の遣いの言葉は何よりも強く、兵たちの心に響いた。
まして、オルレアンを奪回した翌日である。興奮状態は依然として続いている。

ジャンヌの傍らのジル・ドレも、少し離れたジヤンも、ラ・イールも、兵と同じように
顔を紅潮させ、熱に煽られるように恍惚とした面持ちでジャンヌを見ている。

だが慶次は不安を覚える。
神々しいまでに凛々しいジャンヌの中に、焦りを感じるのだ。
それに何故か、少しずつジャンヌがジャンヌで無くなっていく恐さも感じていた。
86聖少女風流記:2006/11/14(火) 16:57:55 ID:EPcQyiFY0
慶次は兵たちからやや離れた、全体を見渡せる最後尾にいた。
異人である自分が公式にジャンヌの横にいては不味いと、気を配ったのである。
兵たちは今だ狂躁状態に居る。
それを見据えながら慶次の隣の偉丈夫が、ポツリと呟いた。
「生き急いでおられるようだな、神子殿は…」

慶次はこの男を覚えていた。
先のオルレアンでの戦いで、数百の私兵を見事に率いていたからである。
慶次やジャンヌの陰になり目立ちはしなかったが、明らかにその操兵は、寄せ集めの
フランス軍の中で群を抜いていた。
合戦には必ずある均衡状態や、呂布の圧倒的な圧力。
もし、この男がその手腕を発揮していなかったら、どうなっていたかも分からない。
地味なれど、確実にオルレアンの勝利を演出した一人であった。

「貴殿、ラ・ピュセル殿の騎士だな。 ……身近にいて、どう思われる」
不意に、その男が慶次に問い掛けた。慶次はニコニコとしながらも油断はしない。
男は慶次より少し背は低いが、長い手足と頑健な肉を持ち、歴戦の力強さを感じさせる。
「どうもこうもありませんな。本当に、天下一のいい女です」

慶次はごく自然にその言葉を発した。男が吹き出しそうになる。
「貴殿、いまやフランス中に名を馳せる聖女を、ただいい女と見るか」
「惚れてますからな。救国の聖女のジャンヌ殿で無い、ただの女のジャンヌ殿に」
 男が、必死に笑いを堪えている。剛直な武人に見えたが、どうやら根は明るいらしい。

「成程。そうだな、神の遣いとは言え生身の女だ。貴殿は正しい。だが」
男が厳しい顔になる。慶次は静かに次の言葉を待った。
「世の中には、その正しさを疎むものもいる。ラ・ピュセル殿の美しさも」
慶次は黙っている。男の言葉が続く。
「先のオルレアンの戦い。あれはもう人の戦いでは無い。何故なら美し過ぎる。
 その美しさと偉業ゆえに、多くの人を惹きつけて止まぬ。
 それはそれでいい。勝たねば、この国は滅びるだけだからな。
 ……が、勝ち方が美し過ぎる」
87聖少女風流記:2006/11/14(火) 16:59:18 ID:EPcQyiFY0
淡々とその男は譚った。
自身もその戦に加わったというのに、あくまで外から物事を見ている。
そしてその見方は、寸分違わず慶次と同じ見方だった。男は続ける。
「神子は美しく勝ち過ぎた。人が導いたと思えぬほどの圧勝であった。
 ……それが危ない。神子の名が輝けば輝くほど、その名に凡愚が怯える」

2人の視線の先では、ジル・ドレがジャンヌに代わり演説を打っている。
仕切りに、ラ・ピュセルが、ジャンヌ・ラ・ピュセルが、と言葉を振るっている。
「あの男も変われば変わるものだ。己の、財にしか興味が無かった男が」
偉丈夫が楽しそうに笑った。慶次も釣られて笑う。
その男の、心底愉快そうな笑みに気分を良くしたのである。

「この国と、神子にとっての不幸は…。その凡愚が、次期フランス王位継承者である事だ」
男の笑みが消え、陽気で剛直な武人から、折り目正しい為政者の顔になっている。
「そして、それでも最後には、俺はあの凡愚を護らなくてはいけない事も。
 たとえ、神子と袂を分かつ事になっても、な」

瞬間、慶次と男の間に殺気が走る。
この2人は予測しているのだ。
近い将来、ジャンヌとシャルルの間で決定的な亀裂が走るであろう事を。
そして、お互いの立場から、敵同士に分かれるかも知れない事も。

「名前を聞いておきたい、聖女の騎士殿。他でもなく、あなた自身の口から」
「……前田 慶次朗利益と申す。貴殿の名は?」
「アルチュール・ドゥ・リッシュモンと申す。慶次殿、出来るものならお互い…。
 ずっと同じものを護り、旨い酒を酌み交わしたいものだな」
「酒を酌み交わすも、槍を交えるも…。貴殿が相手なら、楽しいひと時になりそうだ」
「全くだ。親友と宿敵の両方を一度に得たような、良い気分だ」
88聖少女風流記:2006/11/14(火) 17:01:16 ID:EPcQyiFY0
男らしい、爽やかな笑みを残しアルチュールは場を辞した。

ジル・ドレの演説が終わり、ジャンヌたちが講壇から姿を消した。
が、まだ熱気に満ちている。兵たちの高揚と興奮が覚めやらない。
無理も無い。
彼らたちは、奇跡とも呼べるような歴史の転換点に参加しているのだ。

ラ・ピュセルは既に兵たちの心の中で、神の代理として存在している。
穢れず、破れず、滅びる事も知らずに自分たちを栄光へと導くと信じている。

が、ジャンヌは一介の乙女である。
怒り、泣き、笑い、戦の恐怖に怯え、兵の死に涙し、腹を空かせた子供たちの姿に
心を痛める、優しい処女(おとめ)である。

しかし、時代は彼女を一介の女である事を赦さない。
同じ人物でありながら、ジャンヌと、ラ・ピュセルがどんどん離れていく。
時代の流れの中で、主役を演じざるを得なくなってしまっている。

俺は、この時代という巨大な流れから、ジャンヌ殿を護り切れるだろうか。

慶次の中に、彼らしく無い『怯え』のような感情が目覚める。
業火の中で焼かれるジャンヌ。それに届かない己の手。
そんな悪夢が彼の中で甦る。 ……いや、必ず護る。俺の命と引き換えにしてでも。
89聖少女風流記:2006/11/14(火) 17:05:34 ID:EPcQyiFY0
「慶次、お前、あの方と知り合いだったのか」
葛藤をジヤンの声が破った。慶次は穏やかな顔のまま、動揺を隠しながら聞いた。
「いや、初めてお目に掛かったよ。涼やかな、見事な人物だな」
ジヤンが首を振った。
「当たり前だ。あの方こそ、フランス一の武人。数々の武功を若くから立て、
 王国筆頭元帥に史上最年少でなったお方だ。
 だが、王宮の権力争いに巻き込まれ、王太子とその取り巻きから追放されたがな」

慶次はジヤンの言葉に、またも不吉なものを感じた。
あの男は私心を持つものではあるまい。
おそらく、シャルルとフランスの未来の為に、あえて憎まれ役を買って出て、
厳しい事を具申したはずだ。
が、最終的には疎まれ、無能な提灯持ち連中に追放された。

権力という魔物が、そしてそれに魅入られた愚物どもが、
アルチュールを中央から遠ざけていく。
彼が人物であればあるほど、有能であればあるほど、だ。

(何もかも、腐っているな)
反吐が出そうな気分だ。
が、それでも自分は、この世界を愛している。命の限り護りたいと思う。
ジャンヌがいる、この世界を。

たとえ、既に終わりが始まっているとしても。
90ハイデッカ:2006/11/14(火) 17:16:44 ID:EPcQyiFY0
ミドリさん、復帰おめでとうございます!
いやあわが事のように心配しましたよ。
ミドリさんは人気があるゆえに、おかしな連中が纏わりついて来ますからな。
いや、そんな奴ら江戸時代なら叩っ斬ってますよ、本当に。
ま、そんな連中は俺が赦さないんで、安心してまた投稿して下さい。


さて、本編だが中々進まない。
物語の性質上、説明臭くなるのは仕方ないんだが
いい加減にそろそろ話を進めないとなあ。今週中にもう一回うぷ出来そうです。


あと、隠し事の出来ない性格だからちょっと書きます。
とある職人さんへ。


あなたの事、最初にインキン丸と言い出したの実はボクなんだ。テヘヘ♪
91作者の都合により名無しです:2006/11/14(火) 17:41:42 ID:mcyAqaQIO
ハイデッカよ、GJ。
お前はSS書きとして、会社を退職してSSだけ書いてろ。
92作者の都合により名無しです:2006/11/14(火) 19:13:57 ID:7PUmO2uL0
>ハイデッカ氏
旦那乙。相変わらず作品はクオリティ高いな。
後書きはともかく、色々と調べて書いてあるのが分かる。
旦那とかまいたち氏は二次創作というより一次創作に近いな。
このスレ的には良いかどうか分からんけど、面白いから良いか。
信長の出番を待ってます。

>インキン丸と言い出したの実はボクなんだ
ワロタww
93永遠の扉:2006/11/14(火) 20:39:54 ID:Lfg70+gT0
どぎまぎする少女はそこはかとなくまひろに似ている。
リスのように丸っこい瞳が特にそうであり、前髪を中央から三つ又に分けているのも類似だ。
違うとすれば、セーラー服をまとったなめらかな肌。まるで日光を知らぬ永久凍土のごとく白
くひんやりと透き通り、あたかも名工が心血をこめて作り上げた人形のようだ。
人形といえば、発達途上の胸の中ほどまで伸びた髪も多分にその要素を含んでいる。
幾筋もの太い束に分けて大きな円筒状のアクセサリーを被せたヘアスタイルは全くに。
「ね、ね、助けたらお礼代わりにメルアドちょーだい。女ともだち、あやちゃん位なのよね」
「たかが人間の女に何ができる」
少女の回答を待たずして、男たちの横槍が入った。
「あたしホムンクルスよ。まー、ぶそーれんきんはご主人と違ってつかえないけど」
その一瞬、少女の瞳が細まり冷えた光芒を帯びたが、この場の誰もが気付かない。
「なら数の多い俺らが有利だ」
「あんたら知らないみたいね」
香美は持っているペットボトルのふたを開けた。
「ホムンクルスを倒せんのは『錬金術の力』だーけ。『ぶそーれんきんだけ』じゃないし。つま
り、ホムンクルスでもじゅーぶんホムンクルスぶっ殺せるし……あたしは爪や牙を使わずに
それができんの。よってメルアドはいただきでー」
ボトルを口の方から左掌にあてがい力を込める。
すると掌へピタリと吸い付き、ボトルはソケットにねじ込まれた電球のようにぶら下がる。
そして男たち目がけて心持ち上向きに突き出される右掌。
「あんたらはぎゃーの刑っ!」
ネコ口で楽しそうに叫ぶ香美が突き出した右から左へジャ!っと水平移動させると。
半透明の細い光明が彼女と男たちの間を伝い、アスファルトに重いものが落ちる音がした。
それは、左腕。
肘の少し上から切断された腕が一本、買い物袋から落ちた大根のように無造作に落ちていた。
3人の男のうち、一番左(つまり香美から見れば右)にいた男は色を成した。
と同時に左腕の先がやや欠損している彼の上体がつんのめった。転倒したのではない。
下半身はしっかと大地を踏んでいる。その前へ上体だけがどさりと落ちた。一拍遅れ右腕も。
残り2名も同じく。左腕も上体も右腕も路上へボタボタと……
94永遠の扉:2006/11/14(火) 20:42:39 ID:Lfg70+gT0
その頃、ロッテリやではまひろが秋水相手に延々と話し続けていた。
食事に誘われた当初こそ戸惑ってはいたものの、特技が人見知りしないこと(出会って五分
で日常会話!)という少女だから、一度堰を切ればあとはもう平生と変わらぬ調子だ。
内容はよくいえば幅広く、悪くいえばとりとめがない。
演劇部の様子から始まりお菓子の話、夏休みの宿題を見てくれた千里への賛辞やら昨日
沙織の帰りが遅くて心配したとか。色々。
対する秋水はといえば防戦一方。
一般に男性という奴は女性との会話に不慣れである。
ネタを提供して笑いを取れねばダサいという先入観で身を硬くし、ついつい星座や出身地な
どのつまらぬ話題を振る。
が、それは会話というものに明瞭なる見通しを持たぬゆえに振る話題だから、返答を得た
所でなんら展開できよう筈もなく、「そーなんだ」という相槌を以って幕を閉じるが常である。
秋水の場合はそれより悪い。
社会というものに心を鎖してきたから、まだ大きく踏み込めず、会話が展開できない。
よって沈黙しがちだが、それは彼の整った顔立ちへ恐ろしく映えている。
まひろはといえば、真剣な聞き役としての好ましさを秋水に感じて、ある晴れた日のコトだ
けにハレ晴れユカイな気分で次から次へと話題を繰り出させている。
すでに時間は彼らのデート──と思わず礼の食事などと思っているのは現在の地球上でもはや
秋水のみであり、本件においては彼を絶滅危惧種に指定し手厚く保護する必要がある──
の開始より数時間が経過している。
フロアでイスを直したり使用済みのトレーを下げたりし始めたバイト少女は、暮れかけた夕陽
を窓の外に認め、まぶしそうに目を細めた。
「そうだ!」
まひろには喋り疲れるという概念が存在しないらしい。
勢いよく拍手(かしわで)を打つと意外な話題を提供した。

「ね、秋水先輩はお兄ちゃんを何て呼んでる?」
丸々としたビー玉のような瞳に期待の光を灯らせて、まひろは秋水を見据えた。
「武藤」
と手短に答えるなり、まひろは双眸きらめく自らの顔を何度か勢いよく指差した。
「でもさでもさ、私も武藤だよね」
「確かにそうだが」
95永遠の扉:2006/11/14(火) 20:44:18 ID:Lfg70+gT0
秋水はまひろのいわんとするコトを図りかね、またも手短に答えた。
本当に女性との会話ができない男である。
誘ったのが千里や沙織ならば沈黙のままデートは散会しただろう。
千歳ならばある程度の事務的な会話は続けられただろうが、それだけだ。
斗貴子は誘うコト自体できたかどうか。カズキの件があるから色々な意味で難しい。
まひろを腕組みをして、どこか滑稽な真剣な表情で考えだした。
「でもさ、それだとお兄ちゃんとややこくない? ちょっと待ってね。何かいい呼び方を考える
から! 何を隠そう私はあだ名つけの達人よ!」
あるいは、秋水の沈黙が兄妹2人の区別への困惑に起因したと考えたのかも知れない。
ズレてはいるが親切で、問題を前向きに改善していこうとする所はやはりカズキに似ている。
そしてカズキの影を感じると、自分の過去と未来を考えてしまう秋水である。
(呼び方、か。あまり考えたコトもなかったな)
人との関わりを極力避け、同級生や剣道部の面々の名前も学園に潜む便宜上、無機質に
覚えてきただけだ。
だから、ごく普通の人間的な感情を以って覚えた人間の名前というのは本当に少ない。
桜花を抜きにすれば、「武藤カズキ」とか「津村斗貴子」など、秋水にとって世界が開き始めた
頃に関わったごく数人の人間の名前だけだろう。
むろん、いずれ転校生してくる少女もその一人ではあるが、更にまひろが加わるのだろうか。
(とりあえず考えてみるべきだな。この子の呼び方)
人は「何を下らないコトを」と笑うかもしれない。
だが、いつか開いた世界の中を歩くためには、目の前で起こったコトに心を動かしていくしか
ないのだ。よって、秋水は考え始めた。
(武藤の妹……は駄目だな。軽く見ているようだ。フルネームなら無難だが、しかし俺の声は
愛想に欠けている。あまりフルネームで呼ぶとこの子が萎縮してしまわないだろうか)
実はこの配慮、秋水の嗜好からすると驚くほど異例である。
もし先ほどまひろが、「嫌いなモノは?」と尋ねてきたら言葉にせぬまでも

「自分を取り巻く世界」 「社会」 「楽しそうな人」

の3つを想起した筈であり、まひろはこれ以上ない「楽しそうな人」なのだ。
かつての秋水なら声すらかけなかっただろう。
96永遠の扉:2006/11/14(火) 20:45:19 ID:Lfg70+gT0
だが彼は昨晩、月を見上げて泣く彼女の姿を見ている。
「楽しそうな人」であれど、奥底に兄との別離の痛みがあると知ってしまっている。
たった一人の家族である桜花を守るべく戦い続けてきた秋水だから、カズキを失ってしまっ
たまひろの心情は察するにあまりある。
別離といえば秋水は、桜花とのそれをカズキの助力により免れもした。
だからカズキへの報恩と、助力を得る直前に背後から刺してしまったコトへの贖罪を果たす
べき責務を秋水は負っている。
更に、基本的に一生懸命なまひろはカズキと同じく好感を抱けるし、彼を背後から刺し、好意をない
がしろにしてしまった以上、その妹までも傷つけたくはない。同じ轍は踏みたくないのだ。
昨晩の彼なりの励ましで泣かせてしまったコトとて、実はショックでもあった。
と同時に、その後寄宿舎の玄関で「嬉しかったんだよ」と気迫一杯に叫んだまひろの心情は
ちょっと良く分からない。
ならば聞けばいいような物だが、そこは例の踏み込めなさゆえ保留中。
ともかくも秋水は難しげな顔で、自分なりの結論を出してみた。
「武藤さん」
「はい?」
「武藤さんという呼び方ならどうだろうか」
敬称はついているし、カズキとの区別もつけられる無難な呼び方だが──
まひろは「えっ!」という驚愕を浮かべると、年不相応に豊かな胸の前で掌を左右に振りたくり、
とんでもないという意思表示をした。
「えっ! 私じゃ”さん”は似合わないよ! ピッタリなのは斗貴子さんだけだよ!」
「分かった。ならば別の呼び名を考える」
秋水なりにまひろの動揺を汲んだつもりだったが、表情の堅さゆえに伝わらない。
(しまった! 強くいいすぎちゃったかも……)
まひろはまひろでまた慌てる。
「秋水先輩が良かったら、”武藤さん”でもいいよ。ウン。呼んでもらえれば何でも……」
まひろは抗弁しかけるも実際に秋水から呼ばれる光景を想像して、頭から蒸気を吹いた。
美男子に敬称をつけて呼ばれるのは、想像ですら刺激が強いらしい。
「ゴメン。やっぱできればまっぴーの方で……」
「すまないがそれは断る。俺にはできない」
両名ともお互いの顔から微妙に視線を外しつつ会話する。
97永遠の扉:2006/11/14(火) 20:49:44 ID:Lfg70+gT0
呼べるワケがない。秋水のような堅い男が発するには、「まっぴー」という単語は軽すぎる。
「だ、大丈夫! できるよ! 秋水先輩ならきっとカッコ良くいえるよ!」
「待て。話題がズレていないか? 根拠も薄い」
冷静に突っ込む秋水だが、まひろは聞かない。
およそ3分ほど、吼え散らかすマルチーズのように秋水のカッコ良さというのを語り、それを
タテに自説を固持する。
もちろんおべっかではなく、心からの意見だ。
褒められるのに慣れていない秋水には、真心のこもった褒め言葉は非情にむず痒い。
されどあだ名で呼ぶには性格上抵抗があり、段々段々度を失ってしまう。
といっても、こう、子犬が尾の付け根をくすぐられてたまらず軽く噛み付くような敵意のない
ほのぼのとした失い方だ。
彼はまひろのヨイショ含みのあだ名薦めへ、何度か小さな抵抗を試みたものの断ち切るには
至らず、彼はとうとうたまりかね大きな声を出してしまった。
「俺がいうには君の持つまっぴーというあだ名はそぐわない。いった所で周囲の笑いを買うだ
けだ。ひいてはそれが君の名誉に関わる。だからまっぴーと呼ぶのはよくない」
たまたま近くのテーブルを拭いていたバイト少女は危うく噴き出しそうになった。
思いっきりいってるではないか。それも二度も。
「うん。やっぱりカッコいいね」
まひろも気付いた。同時に、秋水の生真面目な配慮へ好感を抱き、ほわほわと笑った。
その表情に、秋水は自身の失言に気付いた。
反射的に周囲を見回すと、バイト少女や他の客が慌てて秋水から視線を逸らすのが見えた。
(やってしまった)
おおよそ人生の中で味わったコトのない奇妙な感覚(要するに羞恥心)が全身を駆け巡り、
彼は弾かれるように立ち上がった。
「もう時間も遅い。寄宿舎まで送っていく。……えぇと」
まひろに視線をやって、彼は何か考え込んだ。呼び方についてまだ思う所があるのだろう。
「まっぴーだよ!」
まひろは自分を笑顔で指差した。
「いや、武藤さんだ」
憮然とした面持ちで秋水は呼びかけ、使用済みのトレーを持って歩き出した。
「ありがとうございましたー。またお願いしますー」
笑顔で見送ったバイト少女は、秋水が置いたトレーを前にクスクス笑った。
98永遠の扉:2006/11/14(火) 20:50:21 ID:Lfg70+gT0
いったい、どうして呼び方がどうとか何を下らないコトをあの2人は話していたのか。
男女の関係としては幼稚園児並みだと思う反面、そういう精神的初々しさを持って付き合える
関係がやや羨ましい。

腕ごと胴なぎにされた男たちが、ワケも分からないという様子でアスファルトに転がっている。
「どよ? わざわざ核鉄使えるご主人出すまでもないじゃん。あたしニャ水入りペットボトル1
つあればじゅーぶんよじゅーぶん。ペットボトルなんてちっとも怖くないしー」
勝ち誇ったように胸を大きく仰け反らす香美の後ろで、少女は目を白黒させた。
「な、何が起こったの?」
「てめー、何をやりやがった。ちっともひっつきやがらねぇ!」
「武装錬金の傷でもすぐひっつくのに!」
男たちは路上で芋虫のように手をひっつけようともがくが、一向に治癒の気配はない。
ホムンクルスは半不老不死であり、錬金術の力によらざる兵器の傷はたちどころに全快する。
もちろん香美がいうように、厳密にはホムンクルスでもホムンクルスを斃すコトはできるが、
人間に仇なす存在に仇なすべく、人間に仇なす存在になるのは本末転倒であるだろう。
ゆえに目下のところホムンクルス退治の切札は武装錬金のみとなっている。
しかしなぜ男たちは武装錬金並みのダメージを負ったのか?
『その疑問には僕が答えよう!』
「誰だ!」
上半身だけできょろきょろする男たちの姿はなかなかグロテスクで、ここにおまわりさんが通
りかかったら一大事件に発展しそうだ。
立ちすくんでいた下半身のうち一番左の物に誰かの上半身が当たり、横向きに倒れた。
それは倒れがてら他2体の物まで巻き込んでドミノ倒しにし、場はますます酸鼻を極める。
(この声……私の前から?)
少女は首をひねった。どうも香美から発せられているらしいのだが、よく分からない。
「んにゃ? バラしていいのご主人?」
『構わない。で、人型ホムンクルスが手から人間を捕食するのは知っているな!?』
「あ、ああ。バシュゥってやったりな」
アニメ版ではところてんのようにちゅるちゅるやったりもする。
99永遠の扉:2006/11/14(火) 20:51:01 ID:Lfg70+gT0
『香美のやってるのはその応用だ! いまのは左手から吸収した水をホムンクルス独自の
消化器官で一気に加速させて右手からウォーターカッターよろしく射出した!』
「ぶそーれんきん使えないからさ、どっかのフランケンシュタインの攻撃とか参考にしたの。
ま、そいつは血を心臓でびゃーってやるんだけどさ」
香美はくるりとターンすると、八重歯もあらわにVサインを繰り出した。
「は、はぁ」
少女は不承不承頷く。
「オイ待てェ!! た、たかが水にホムンクルスが切断されて再生不可っておかしいだろう!」
『水は体内を通る際に体組織を少しばかり削り取って混ざり合い、錬金術の力を帯びた!!
よって君たちを切断するのは理論上、不思議な話でもなかろうっ! ひっつかないのは傷口
に付着した僕と香美の細胞のせいだ!』
んなメチャクチャなというため息が男たちから漏れた。
「まぁでもダイジョブよ。死ニャしないから」
「は? なんでてめえそういうコトすんだ」
「だってだってだってー」
香美はまたも踵を返すと、右足の甲をぱたぱた踏み鳴らした。
「弱いものイジメはやだし、殺さなくていい奴殺して後で悩むのめんどくさいもん。よって」
ネコ口でにんまり笑いながら、意味もなく手を突き上げた。
「ぎゃーはぎゃーでも峰ぎゃーよ。ふーふーして2、3時間ひっつけてりゃ治るっ」
男たちは呆れたようにため息をついた。切断しておいて峰とはどういう了見か。
「その間に、はんせーして弱いものイジメをやめるよう心がけんの。ねーご主人」
『うむ。それならば良いだろう!!』
よく鼻を効かせばカレーの匂いがするが、きっと寄宿舎の方からだろう。
じわじわと暑苦しい夕暮れにひぐらしの声が響き渡って、穏やかに炒られる豆の精神状態
が世界を席巻すればこうでないかという位、辺りは静謐な熱気に包まれている。
後はもう男たちが香美の提案を呑めば事態は収束する。
少女はそう見た。
そして、返答が来た。
「ちっとも良かねーなぁ」
界隈に響く不機嫌そうな声に、香美は鼻っ面にしわを寄せた。
「なにさ。ゆるしたげたのにまだ不満?」
「ち、違う。今の声は」
100永遠の扉:2006/11/14(火) 20:52:15 ID:Lfg70+gT0
いずれも男たちの口から発せられた物ではない。
「フン。ほっつき歩いた挙句に野良ホムンクルスにやられるとはな」
「さ、逆向サマだ」
香美はネコ口のまま眉根を垂らし、目を真っ黒にした。
「だれそれ?」
『はっは。もりもり氏から聞いたコトがある! L・X・Eの幹部だな!!』
「あ、ああ」
『だがおかしいぞ! 彼は数ヶ月前、LII(52)番の核鉄を持つ戦士に殺されたと聞くが!!』
「よ、蘇っ」
刃を帯びた光輪が、言葉半ばの男に炸裂した。
彼はズクズクと内部から切り刻まれ、おおよそ100と65ほどの破片と化していく。
章印という急所のある上半身の消滅につれて、転がっていた両腕と下半身も芥振りまき消滅
し、残る2名も同様の末路を1秒と立たぬうちに辿った。
「余計な口を利くな」
唇を噛み締める香美へ、黒く長い影が伸びる。
憤然と面を上げる彼女の目線の先には、夕陽を背後にかき抱く男がいた。
「これで連絡つかずのB班は全部粛清。死ねよ。衆せず合せず何ら役立たずの無能烏どもが」
身長は175cm前後、男性としては華奢な方だ。
天に向かってギザギザに突き上がる髪型と、細い瞳と眼鏡はいかにも酷薄そう。
着衣は学生服で、右手には小型のチェーンソー。
「なんてコトすんの! 改心するかもしれないやつを殺すなんて!」
逆向を見据える香美は瞳孔を極限まで細め、今にも飛び掛りそうな勢いだ。
少女はその様子になぜか驚いたが、すぐに瞑目し元の落ち着きない顔を取り戻した。
「ご主人、一緒に切札ぶちかましていい!? 痛いメにあわさなきゃ気がすまな──…」
「まぁ落ち着け。足止めしてやるからそのお嬢さんを寄宿舎につれていけ」
声と同時に少女の横を十数の黒死の蝶が颯爽と通りすぎ、逆向へ着弾。
周囲一体に轟音が響き渡り、煙の中で赤黒い炎が暴虐を撒き散らす。
少女がヴィクっと肩を震わせたのは、不意の轟音にではない。
この声と武装の持ち主の登場へなぜか懐かしさを感じ、それに動揺したからだ。
水色の浴衣でぞうり履きの、金髪を無造作なポニーテールにまとめた欧州的美形が、ゆっく
りと少女の横を通りぬけ、香美と並んだ。
浴衣姿だというのに胸に認識票を着けている彼は誰あろう、いわずと知れた総角主税だ。
101永遠の扉:2006/11/14(火) 21:06:23 ID:Lfg70+gT0
総集編ですが、こちらに容量小さめ+手順少な目のものを
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1161352063/712
>>57さん、よければどうぞ。

>>56さん
サイトについては半々ですね。開いて作品を掲載したい反面、更新の時間分なにか別の物を
作りたいというのも。

前スレ>>441さん
自分が武装錬金を好きになったきっかけというのが、斗貴子さんと肩が触れて赤面したカズ
キでして、まひろにもそういう要素を盛り込めないかと。やっぱ可愛く描いてあげたいですし。
あと、スカートはアニメスレからですね。アレに関しては文で描くより説得力があります。

前スレ>>442さん
キャラはまだまだ増えていきます。それはもう加速度的に。もちろん一人一人に役割を与えて
物語を収束させるよう考えてはいるんですが、秋水の影が薄まらないかちょっと心配。ともか
く今は、初々しい2人が楽しいです。佐藤たちは出番が少なかったので、半ばオリキャラかも……?

前スレ>>443さん
やはり「品のいいお姉さんキャラ」は「強気なヒロイン」より優位に立ってこそ。本筋と関係ない
脇キャラ同士のやり取りというのもなかなか。ネゴロと違って登場人物が多いので、色々な
会話ができそうです。
102スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/14(火) 21:07:12 ID:Lfg70+gT0


ふら〜りさん (通してみると確かに剣が好きかも。前半だけなら響鬼最高ですが)
現在、AAを使ってサプライズを呼べる作品を思案中だったりします。それはさておき本作品、
どうも女性陣のが目立っているような。秋水、防人、総角、貴信。みな相方に喰われてるかも。
こうなれば戦いの時に彼らをカッコ良く光らせねば。男性はカッコ良く、女性は可愛くなくては。
総集編をご覧頂きありがとうございます。本当に色々とブチ込んで見ました。そのおかげで
ちょっと燃え尽き気味ですが……

さいさん (なるほど。パーマンよろしくきゅーがきゅーと消えた訳ですね)
>キャラの描写のすごさが印象に残ってます。
そんな。褒めすぎですよw 向こうといえば感電して今の髪色になるSSが大好きです。
//絡みでは自分の方も矛盾が。千歳関係じゃなくアリス喰らった斗貴子の回想で。
もし/zがヴィクターの過去話だったら爆爵主体の話が根底からひっくり返ってしまいますね。ハハハ。

>WHEN THE MAN COMES AROUND
遺跡や観光名所が実は秘密基地というのは一種のロマンですよね。防人の例のセリフは
津村一族の影響でしたが、理念としては戦団全体にあって、ロマンを現実のものとしている
のかも。インテグラは苦渋の決断がカッコいい人なので、そっち方面の活躍を期待しております。
103作者の都合により名無しです:2006/11/14(火) 23:30:24 ID:3rcRbIwj0
>ハイデッカ氏
渋いキャラが出てきましたね。慶次の敵になるか見方になるか分からないけど。
これは歴史上の実在人物かな?2部のキーキャラになりそうですね。
俺の好きなちょっとまだジャンヌの影が薄いかな?慶次編だから仕方ないか。

>スターダスト氏
すっかりまひろペースですね。秋水は今までの人生が真面目な分だけ、
きゃぴきゃぴ(死語)したまひろには主導権取れないですね。
姉と違って腹に何も無いだけ逆に厄介かも。まっぴーと呼ぶのは無理だろなw
104マブダチ:2006/11/15(水) 00:19:00 ID:XXuq06xc0
 久しぶりに、ドラえもんは自立したのび太に会いに行った。
 再会したのび太はめでたく静香と結ばれ、長男ノビスケをもうけていた。劣等生だった
頃の面影はどこにもない。
 そして静香とノビスケは気を利かせ、彼らを二人きりにしてくれた。
 並んで座り、昔話や近況報告に花を咲かす親友同士。
「……へぇ、あのジャイアンがねぇ。人間変わるもんだなぁ」
「まぁね。でも、根っこのところはちっとも変わってないよ。今でもたまにみんなで飲む
んだけど、酒が入ると子どもっぽい部分がけっこう出てくるよ」
「君はいい友だちを持ったねぇ」
「うん。あ、そうだ……ドラえもんも今度来ない? みんな喜ぶよ」
「いいのかい? じゃあ、ちょっとお呼ばれしようかな」
 やがて、二時間近くが経過した。
「……ちょっと疲れたね」
「大丈夫かい? じゃあせっかくだし、未来のストレッチ法を教えてあげるよ」
「頼むよ。会社でも疲れた時やってみるからさ」
「まず両手を軽く上げて……」
「こ、こう……?」
「そうそう。で、そのまま風に吹かれた草をイメージしてゆらゆら揺れるんだ。いっちに、
いっちに」
「お、けっこう気持ちいいね、これ」
「目をつぶると余計な感覚を遮断できるから、ストレッチ中はつぶった方がいいよ」
「うん、分かった」
 直後、二人はとてつもない衝撃を覚えた。
 ちなみに、ドラえもんは助手席、のび太は運転席にそれぞれ座っていた。

                                   お わ り
105サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/15(水) 00:21:05 ID:XXuq06xc0
SSとはとても呼べない一発ネタです。すいません。
最初は松尾さんと刃牙でしたが、奴は後部座席だと気づき却下。
小話は次をラストに終わりにします。
106作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 00:31:10 ID:SXXZ1D000
スターダスト氏お疲れ様です。
新キャラも続々登場していく中で、やはりまひろはふんわかしていいですね
トキコが痛々しい分、まひろと秋水くらいは上手くいくといいなあ。


サナダムシ氏、ハイペースの短編掲載、頭が下がります。
ちょっとオチがわからなかった。しずかが静香になってたのはすぐ気付きましたがw
次の読切りといよいよの長編、楽しみにしてます。
107作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 10:28:01 ID:FbrfczdF0
>ハイデッカさん
氏は後書きに反して意外とインテリかもな
俺はフランス史は知らないけど、楽しく呼んでます
慶次が朱槍を振るうのを楽しみにしてます

>スターダストさん
もしHPが出来たら見に行きますよー
まひろと秋水の初々しい様子がいいですね
新キャララッシュという事は、まだまだずっと続きそうですね。

>サナダムシさん
サナダさんの一発ギャグってもしかして初めてかな?
何でも出来ますね。感心します。
未来も今もストレッチ法はあまり変わらんねw
108作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 16:13:58 ID:jWarQv2b0
スターダストさん、SS以外も色々創作物作ってんだなあ
こういうのができる人は羨ましい
109作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 21:34:50 ID:W+wxIPYO0
かつてヤムスレで創られたリレー小説「全宇宙最後の希望」
結局続きを誰も書かなくなり未完に終わってしまったわけですが、このまま終わらすのはおしいです。
そこでこの小説の続きをここでやりたいと思います。(当時と同じリレー小説形式で)
皆さんの意見も聞きたいのですが・・・
これまでのストーリーはこちら
http://f32.aaa.livedoor.jp/~byoteki/novel/zen.html
110作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 21:42:53 ID:gaJwRqZgO
INFINITY2
TOPだけでも見れば、わかる!
http://www.infinity2.ne.jp/?serv=00b422bb915959b003c0021ce14502
111作者の都合により名無しです:2006/11/15(水) 22:59:21 ID:AV/CNm0cO
>>109
そういった話し合いはコチラ
ttp://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1152282950/
112ふら〜り:2006/11/15(水) 23:12:02 ID:79wydhLa0
最近、復活続きで実にめでたい。……だのに、あぁ、時間が欲しいっっ。
それはそうと、最近やたらとアク禁やら公開PROXY云々やらが多いです。何ゆえ?

>>サナダムシさん
・老兵は死なず
地球人でもクリリンや天津飯の域に達することが可能なんですしね。ナメック星人、あまり
真剣に修行したことなかったでしょうし、確かに可能性は有。で強さと共に野心を得る、か。
・新展開
うむうむ。ヒーローは一人でヒーローとは成り得ない。怖い悪キャラ、強いライバルキャラ、
萌えるヒロインに解説役と驚き役と引き立て役とその他諸々。彼らを軽んじちゃいけません。
・マブダチ
そこまでの、結構じんわりと感動できる状況説明や会話を豪快にブッた切る単純明快オチ。
短編一発ギャグはかくあるべし、お手本みたいな話でした。短編も長編も流石の巧さです。

>>ハイデッカさん(久々ですがお変わりなく、ますますご健勝のご様子。安心致しましたぞ)
いよいよ「不吉」の暗闇が濃くなってきました。今のジャンヌが輝いているから、余計にその
闇が引き立つ。つーか輝くからこそ招いてしまう不吉の闇。慶次とアルチュールの戦場での
再会とかも然り……非常ぉに続きが読みたい。けど続きが楽しみ、と言っていいものやら?

>>スターダストさん
やってるコトこそ思いっきりスプラッタだけど、峰ぎゃーですよと。つくづく本作は人道弁えた
御仁が多いですなぁ。で秋水、今回を見た限りじゃ根来よりはコミュニケーション能力が大分
マシな気がしますね。意外と早く、まひろに溶かされるかも。凍ったもの、固まって
113作者の都合により名無しです:2006/11/16(木) 09:48:25 ID:KlpPgOKz0
公開PROXY多いよねえ。ムカつく

サナダムイ氏、しぇき氏、ミドリさん、ハイデッカ氏、スターダスト氏と
好きなベテラン職人さんが好調&復活でうれしい

でもハシさんや一真さんや17さんやオタクさんや、新人さんたちが
今度は来なくなったよね・・
なかなかうまくいかんもんだな
114作者の都合により名無しです:2006/11/16(木) 15:19:03 ID:TZMZ/33n0
ふら〜りさんはいつも忙しそうですなあ
またSS楽しみにしてます
115強さがものをいう世界:2006/11/16(木) 21:05:34 ID:XskWyeTy0
「やれ、やれい!」
 ぶんぶんと拳を振り上げ、ブラウン管の中にいるヒーローを応援するのび太とドラえも
ん。
「あぁっ、まずい、がんばれっ!」
 いつしか二人の声は美しく同調し、名門応援団にも匹敵するであろう旋律を奏でていた。
 このような声援を受けては、たとえピンチだろうがヒーローが挽回しないわけにはいか
ない。傷ついた体に力がよみがえる。
「今だーっ!」
 のび太とドラえもん、いや日本中の少年たちの心(ハート)がヒーローに乗り移る。
 切り札の大技が炸裂し、大爆発とともに悪者は散った。
「やった、やったぁーっ!」
 抱き合う二人。ヒーローの勝利は、すなわち彼らの勝利でもあるからだ。

 テレビの前ではあれだけ息が合っていた二人だが、終わってしまえば冷めたものだ。
 目をギラギラさせ、まだヒーローのつもりでいるのび太。
 早くも熱が下がり、後先のことを考えているドラえもん。
 こうなると、次に二人の間になにが起こるかは、神でなくとも容易に予想ができる。
 部屋に戻り、のび太が口を開く。
「ねぇ、ドラえもん。頼みがあるんだけど……」
 そら来た、とドラえもん。今に始まったことではないが、今に始まったことではないが
ゆえにうんざりする。
「ダメだよ。強くなる道具なんか出さないよ」
 機先を制し、釘を刺すドラえもん。だが時として、のび太は二十二世紀を超える。
「いやいや、ぼくは強くなる道具なんか頼まないよ」
「へ?」
「もしもボックスを出して欲しいんだ」
116強さがものをいう世界:2006/11/16(木) 21:06:09 ID:XskWyeTy0
 いくら考えても、ドラえもんはのび太の狙いを測りかねた。
 どうせろくでもないことを考えているに決まっているが、この少年がもしもボックスを
どう使うか少し興味がある。もし変な世界を作ったら、すぐに元に戻してしまえばいいだ
けの話だ。
 しばらく悩んでから、ドラえもんはポケットに手を入れた。
「もしもボックス〜!」
 もしもボックス。パラレルワールドをいとも簡単に創造できる、まさしく究極の秘密道
具。一見するとただの電話ボックスだが、中身は我々では想像もつかないようなテクノロ
ジーで支えられている。
 さっそくのび太は中に入ると、受話器に向かってこう叫んだ。
「もしも、強い人がえらい世界になったら!」
 けたたましくベルが鳴り響き、世界は生まれ変わった。

 もしもボックスから出たのび太に、首を傾げながらドラえもんが尋ねる。
「強い人がえらい……って、まずいんじゃないの? 君はますますいじめられるだろうし、
ジャイアン辺りがものすごいことになるんじゃ……」
「分かってないなぁ、ドラえもんは」
 のび太は鼻高々に、持論を展開する。
「ぼくがこれまで弱虫だったのは、別に強さが必要ない世界だったからだよ。いくら喧嘩
が強くたって、先生やママに叱られるだけだしね。でもこういう世界になれば、ぼくだっ
てヒーローのように強くなれるはずさ」
 唖然とするドラえもん。どうやらのび太は自分が弱かった原因は、社会のルールにあっ
たと考えたらしい。
「……まぁ、気の済むまでやってみたら」
「うん!」
 すると、階下から玉子の声が飛んできた。
「のびちゃん、ご飯よ〜!」
117強さがものをいう世界:2006/11/16(木) 21:06:58 ID:XskWyeTy0
 台所では、すでに父と母が椅子に座っていた。が、どうも様子がおかしい。
 のび助も玉子も、体格がまるで記憶とちがう。首はずんぐりと太く、肩幅はがっしりと
広い。腕も足も、空気でも詰めたかのようにふくれ上がっている。
 じろりと、二人をにらむのび助。
「のび太、ドラえもん、早く座りなさい」
「う、うん」
 のび太とドラえもんがそれぞれ椅子を引く。ところが、まったく動かない。
「なにこれ、重すぎるよ!」
 いくら引っぱってもびくともしない。百二十九馬力を誇るドラえもんで、かろうじて動
かせる重量だ。
「のびちゃん。あんたまだ、百キロも動かせないの? いつもトレーニングをさぼってば
かりいるからよ」
「まぁいいじゃないか。のび太、動かせないんなら立ったまま食べろ」
「はぁい……」
 箸を取るのび太。これもやはり重く、一キロはある。そして、今日のメニューは以下の
通りだ。
 粉(プロテイン)。
 注射器(強化ステロイド)。
 炭酸抜きコーラ。
 梅干し。
 熊の生肉。
 どれもこれも、強くなるためには欠かせない献立ばかり。とはいえ、生肉は加工食品に
慣れ親しんだのび太の鼻には耐えがたい臭気を発していた。
「い、いやだぁ〜!」
 箸を投げ、逃げ出すのび太。ドラえもんが追う。玉子も追う。
「もういやだ、早く元に戻さなきゃ!」
 だが、先にスタートしたにもかかわらず、のび太はあっさりと玉子に追い抜かれてしま
った。
118強さがものをいう世界:2006/11/16(木) 21:07:39 ID:XskWyeTy0
 部屋に置かれたもしもボックスに、玉子の髪がぞわりと逆立つ。
「マ、ママ……?」
「のびちゃん──だっしゃあァッ!」
 玉子のたくましい脚が、水平に美しい孤を描く。
 ミドルキック。もしもボックスは彼女の蹴りによってくの字にへし折れ、大きな音を立
てて畳に寝そべった。
「電話ボックスなどを持ち込みおって……恥を知れいッ!」
「ひ、ひぃぃっ!」
「罰として、今晩はメシ抜きだッ!」
 失禁したのび太には目もくれず、部屋を出ていく玉子。遅れて入ってきたドラえもんが、
ひしゃげたもしもボックスを見て絶叫する。
「な、なんてことを!」
「ドラえもん! 早くもしもボックスを直して、元の世界に戻そうよ!」
「……ダメなんだ」
「えっ?!」
「もしもボックスはとても複雑な道具だから、ちゃんとした工場でないと機能まで元に戻
すことは難しいんだ」
「じゃあ、タイムふろしきは?」
「時間系の道具は全部メンテナンスに出しちゃってて……。ちょうど明日の今頃になった
ら戻ってくる予定だけど、つまりドラミやセワシ君に頼ることもできない」
 突きつけられた八方塞がりという現実に、のび太は青ざめる。
「ってことは……」
「うん。明日の夜まで、ぼくたちはこの世界にいなきゃならない」
 のび太は泣いた。ドラえもんも泣いた。泣き疲れて眠るまで、泣きわめいた。
 ──本当の地獄は、これからだ。
119サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/16(木) 21:09:23 ID:XskWyeTy0
次回へ続く。
ゲバルもやられたことなので、『もしもボックス』短編です。

>>106
しずかの漢字は静香で合ってますよ。
念のため『ドラカルト』で確認したので、まちがいありません。
オチの方は弁解しようがないです。
ブラックジョークっぽくしたつもりでしたが……精進します。
120作者の都合により名無しです:2006/11/16(木) 22:05:01 ID:TgoiR9WK0
乙です、サナダムシさん最近ノリノリですね
強さが云々の世界と言うより、単純にバキの世界になったという感じで……
しかし食事に注射器なんか持ち出したら怖すぎるw
121作者の都合により名無しです:2006/11/17(金) 10:13:07 ID:GyJTCsx/0
静香であってたのか!サナダムシさんごめんなさい。

これ、短編というよりしばらく連載してほしいなあ
ドラえもん版バキって感じで話が広がりそう。
やたらママとかも強そうだし、この分だと出木杉くん最強だな。
あの高いスペックを戦闘にすべて向けたら、
ジャイアン如きは紙風船みたいなものだ・・
122作者の都合により名無しです:2006/11/17(金) 14:45:47 ID:uGSoTKYa0
色々と発想が沸くなサナダさんはw
この世界でのび太なんか生き残れるのか・・
恐竜の群れの中にウサギが飛び込む様なもんだ。
123作者の都合により名無しです:2006/11/17(金) 23:44:08 ID:y72TODs+0
ひょっとしてしずかも暴力的になってるんだろうか。
しずか最強だったりして。
124作者の都合により名無しです:2006/11/18(土) 01:28:38 ID:ePsvDbRZ0
蛸江みたいなしずちゃんはいやだ
しずちゃんみたいなしずちゃんもいやだ
125作者の都合により名無しです:2006/11/18(土) 12:23:36 ID:e2J0px1Q0
125
126野比のび太(仮):2006/11/18(土) 12:35:18 ID:1pNcaZyZ0
「ドラえもーん!」
 野比家の金庫をピッキング中のドラえもんに、のび太が泣きついた。
 やれやれ、またか。テストで0点とっただのジャイアンに殴られただの
トラブルのない日は一日としてない。進歩のなさもここまでくると一つの才能だ。
「なんだいのび太くん、またジャイアンにいじめられたのかい?」
「僕、しずかちゃんにレイプされちゃったよー!」



グシャ!!


嫌な音が響いた。
肉が、骨が、何かが潰れた様な音だ。
そして視界は赤に支配されてい 
そして  最後に 見えるのは
狂気の笑みを浮かべながら空気砲で僕の頭を打ち抜いたドラえもんの姿だった
127野比のび太(仮):2006/11/18(土) 12:38:10 ID:1pNcaZyZ0
       ------数分後-----




「ひどいよ、ドラえもん!!いくら僕がドラえもんの麻雀教室のパクリをしたからって
いきなり空気砲で頭を粉砕する事はないだろう?タイム風呂敷がなかったら僕死んでたんだから!!」
顔を真っ赤にして怒り狂うのび太、対するドラえもんは・・・・
「ふ〜ん・・・・。わるかったよ」
興味なさそうに死んだ目のまま反省の色を表さずに平謝り
この態度は誰だってキレル、クラス一の温厚な人間でも顔を真っ赤にしてキレル
「わかれば良いんだよ。ドラえもん、次は勘弁してよ」
訂正、どうやら頭の一部がイカレた少年のび太は例外のようだ。
とそんなこんなでいつも道理の平凡な日常の中

ジリリリリリ!!!!!

ドラえもんの四次元ポケットから突然の大音量
これにはのび太もドラえもんも飛び上がるようにして驚く。
「一体何なんなんだ!!この五月蝿い音は!!」
耳を抑えながら音に負けじと大声を出すのび太
「静かにして!!」
のび太の大声以上の声を発するドラえもん
この迫力にのび太は黙ってしまう。
128野比のび太(仮):2006/11/18(土) 12:40:02 ID:1pNcaZyZ0
音の正体はもしもボックスの呼び出し音だった。
この道具はパラレルワールドを想像できる以外にも未来との通話も可能
つまりこの呼び出し音は未来からの通信を意味している。
「またドラミかな?」
と大音量に最初はびびっていたドラえもんも楽観的な思考で
もしもボックスに入り可愛い妹との会話を楽しむドラえもん
の筈が
驚愕の表情を浮かべるドラえもん、それを防音ガラス越しにみつめるのび太
そして数分後扉を開けてでてくるドラえもんに近寄って
「どうしたの、ドラえもん?未来で何かあったの?」
と心配するのび太、そしてドラえもんは重い口をあけて
「よく聞いてほしい、のび太君・・・・僕は数日で・・・・・この世界から消える」
129店長 ◆RPURSySmH2 :2006/11/18(土) 12:55:08 ID:1pNcaZyZ0
旨いSS見たかったらここをスルーしてください。
と言う訳で初めまして、SS暦は一日目の店長と申します
ようはこれが処女作という奴です。
処女作と言う訳で荒いというか滅茶苦茶ですがそこはまぁご愛嬌
日本語がおかしいですがそこもまぁご愛嬌
色々とパクってしまいましたがそこはまぁ土下座で謝罪
本当にすいませんでした!!
自分に殺意を覚えた方がいてもそこはまぁご愛嬌という事で
これからも精進いたしますので温かい目で見てやってください
これからよろしくお願いします。
130作者の都合により名無しです:2006/11/18(土) 14:25:04 ID:E8dC+6Bn0
VSさんをリスペクトする人は結構多いと思う。
好き嫌いの激しい芸風ですが、ネット上でもやたら評価高かったし。

あの芸風をチョイスしたのかな〜と思いきや、最後の一行で
リアルテイストになりましたね。
誰にでも最初の一歩はあるので、是非がんばってください。
131永遠の扉:2006/11/18(土) 19:00:02 ID:YPnag1TT0
「ところで転校生してくるコってどんな名前?」
秋水と並んで寄宿舎へ歩くまひろは、ようやく触れるべき話題を思い出した。
昨晩、彼女は桜花から転校生の世話を頼まれたのだ。
ただし生来の性格から、ついつい聞き忘れていたのだ。
「名前は……」
言いよどむ声の半ばで、乾いた爆音が響いた。
「わ。花火かな? まだそんなに暗くないのに珍しいね」
まひろは水平にした掌を額へ当てて、遠くを見た。

総角の放ったニアデスパピネスの音は、まひろのみならず寄宿舎にも届いた。
距離的には秋水たちよりも近いので、当たり前といえば当たり前だが。
(いまのは一体……?)
食堂にいた斗貴子はとっさに飛び出しかけたが、すぐに何らかの陽動を疑い踏みとどまる。
現在、彼女を含めた戦士勢は「寄宿舎に内通者がいるかどうか見極める」べく行動中。
千歳と斗貴子は例のカレーパーティで集めた生徒40人ほど(帰省中の生徒が多く、現在はこ
れだけ)の様子をそれとなく監視中。
ノイズィハーメルンという催眠特性を持つ鉄鞭により、総角が生徒を間諜にしていないか確
認するのが目的だ。
「なんだろうね今の音。ところでちーちん、このカレーさ、鶏肉とか入ってないよね?」
「あれ? 鶏肉嫌いだったっけ。入ってるのは牛肉だから大丈夫だけど」
沙織と千里がそんな他愛もない会話をするように、生徒たちは爆音に一瞬ハっとしたが「花
火だろう」とすぐ納得し、他愛もない会話に戻る。
催眠にかけられているにしては反応があまりに自然すぎ、斗貴子の疑惑は曇った。
(陽動の線はない、のか? もしくは内通者そのものが最初からいないのか……?)

防人と桜花は、パーティの間もぬけの空になった寄宿舎を捜索。
御前は寄宿舎の上空から怪しい影が出入りしないか見張っている。

というコトで最初に異変に気付いたのは御前である。
寄宿舎の近所で突如として火柱が上がった瞬間、ややジゴロがかった口調で呟いた。
「なんだなんだ、パピヨンの奴でも来やがったのか? ひとまず秘密工作員桜花へ精神伝達
(テレパシー)送信。受け取れ」 ピピッ
132永遠の扉:2006/11/18(土) 19:01:02 ID:YPnag1TT0

ピッ 「というコトですけど、どうします?」
桜花は携帯電話の向こうの声を待った。
彼女は遠慮斟酌なく家捜し中だ。
侵入者を求めてベッドの下を覗くと、スクール水着を着た幼い少女が表紙の本があった。
(あらあら)
桜花はそれを手に取りパラパラ読むと、生ぬる〜い笑みを浮かべて、元の位置へ戻した。
(秋水クンもこういうの好きなのかしら?)
望みとあれば別に着てやってもいいが、本題ではない。
電話の向こうで防人が、かつて纏っていた銀色の防護服のような堅牢な指示を出す。
「しばらく様子見だ。何が目当てであれ、ここにいる限りは皆を守れる。御前には引き続き、
爆音のした方を監視させてくれ」
「はい。了解しました」
長らくL・X・Eという集団に隷属していたせいか。
非情に物分りのいい桜花に感心しながら、防人は別な思案に暮れる。
(陽動にしては散発すぎる。もしかするとL・X・Eの連中の方か? どちらにしろ迂闊に動く訳
にはいかない)
思い浮かぶのは揉み手をするウジ虫型ホムンクルス。
7年前、真に守るべき所からまんまと防人を引き離し、災禍を招いた忌まわしき男の顔だ。
(私があの時、核鉄を使わなければ。防人君に、校長の捜査を強く薦めなければ)
食堂で千歳は、7年前の唯一の生き残りである斗貴子を見た。
そして食堂で談笑する生徒たちも見て、粛然と気を引き締めた。

「な、なにいってんのさもりもり! あたしは反対! このコをおっきな建物に連れてくなんて!」
総角の指示に、香美は憤然と声を張り上げた。
『たまには名前で呼ぶんだ香美。我らがリーダー・総角主税氏に失礼だろう』
「まったくだ。ちなみに反対の理由は?」
香美は苦笑の総角の横から二歩下がると、少女のか細い肩を抱きつつ叫んだ。
「だってこのコ、ホムンクルスじゃん! 戦士んとこ連れてったら殺される!」
少女は「え?」と気の抜けた表情で、2、3回まばたきをし
「な、何のコト? ホムンクルスって何?」
全くワケが分からないという様子である。
133永遠の扉:2006/11/18(土) 19:02:24 ID:YPnag1TT0
それを奥行きのある紺碧の瞳が、親しげに見つめる。
ウソを隠す子どもを見るような慈愛と、ちょっとだけからかってやりたいという悪戯っぽさが
同居していて、刑事になればいながらにして犯人を篭絡できそうだ。
「悪いが、知らばっくれても分かる。少し父親の面影があるからな。取り繕っていても顔立ち
ばかりは偽れないものだ。誰でも、な」
「なにいってんだか。ひかり副長は思っきりいつわれるじゃ……」
「少し黙ってくれないか香美。またタバコをかがすぞ」
うげと髪を逆立たせる香美の横で、少女は思案にくれた。
実に謎めいた指摘だが、心に掛かる要素があるらしい。
少し黙った。
何らかの言い訳を考えているらしい。
ただしそれも束の間だ。
少女はまず鼻を鳴らすと、気だるげに瞳を細めた。
「アナタ、パパとどういう関係?」
喫煙現場を見られた不良のようにふて腐れたその顔や口調には、先ほどの可愛らしさはなく
ひどく沈み込んだ攻撃の気配すらある。
「寝顔を少々拝見した程度だ。ところで顔といえばこの顔と同じ奴を見たコトはないか? も
うちょっと老けてると思うが」
香美は「またそれ? なんであう人あう人全部にするのさ?」と顔をしかめた。
感情のベクトルとしては、少女も香美と同方向らしい。
「何いってるのよ。ある訳──…」
だが、言葉半ばで息を呑む。
死人に出会うような、10年ぶりに帰った故郷で死んだと勝手に決めていた老人を見るような。
驚きと懐かしさと、一握りの郷愁を秘めた顔で。
だがそれもやはり束の間である。
少女はひどく不機嫌な表情で視線を外し、反問。
「……あったら何よ。親でも探しているの?」
「あるようだな。その辺りはいずれ聞くとして……香美、その可愛いコを連れて走れ」

「ハ!」
神社の中でシルクハットを縫っていた小札は、不意の悪感情に驚き周囲を見渡した。
「む…… 今の不快感と切なさが入り混じった奇妙な感覚。なにゆえ? ……なにゆえ?」
134永遠の扉:2006/11/18(土) 19:03:32 ID:YPnag1TT0
肩の上で結び目を作った髪をいじりながら、小札は「きゅう?」と首を傾げた。
なお、彼女の頭頂部には妙な癖っ毛がある。
斗貴子との初遭遇時には暗闇ゆえに見えなかったが、中央から後ろへかけてロバのたてが
みのようなさざ波が、両側には高さ2cmほどのロバ耳じみた跳ねがピュルリと出ている。
小札が人前でシルクハットをかぶっているのは、おかしな癖っ毛を隠すためなのだろう。
けしてコレは後付ではない。
大豪院邪鬼が18m強に見えたのが闘気のせいだというぐらい、キチンとした設定だ。

火柱が黒い吐息をもうもうと薄闇に吐き、うねっている。
時には命脈断たれぬ赤い粉をバチバチ弾き、辺りを照らす。
それを背にうける総角は、悠然と口走った。
「ちなみに戦士については大丈夫と保障する。理由は……貴信、走りながら説明してやれ」
『了解! 安心するんだ香美、奴らにはこのコに手出しできない負い目がある!!』
「んー、いろいろ納得できないけどさー、ご主人がいうならいちおう了解」
「で、置いてきたら小札のところへ戻れ。全速力でな。まごまご留まって千歳さんに見られで
もしてみろ、一気にお前たちは不利になってしまう。それは困るだろう?」
「そりゃま」
香美は軽々と少女を肩に担ぎ上げて、砂塵巻き上げつつ疾風のように走り出した。
もちろん少女は抵抗するが、ピクリとも束縛は解けない。
抵抗をあやしつつホムンクルス1体を運ぶ膂力もさることながら、それでなお凄まじい速度を
保つ香美は、ホムンクルスの中でも出色だろう。
そんな彼女らを見送ると総角は、キザったらしく瞑目し背後へ呼びかけた。
「ところで、そろそろ出てきたらどうだ? 黒煙に紛れて俺の不意をつこうという魂胆だろうが
夏場に炎の中でじっとしているのは健康上悪いぞ」
「クズの分際で相変わらず知恵だけは回りやがる」
燃え盛る黒煙から無傷の逆向がのっそりと身を出し、チェーンソーを構えた。
「勘、といってほしいな」
総角は認識票に手をかけた。

屋根の上で御前。
寄宿舎目がけて路上を疾駆する影を見た。
が、影はあくまで影にすぎず視認が追いつかない。
135永遠の扉:2006/11/18(土) 19:05:25 ID:YPnag1TT0
接近するか桜花に知らせるか、悩む頃に影はもう、寄宿舎内部に突入していた。

カレーパーティを開催中の寄宿舎食堂で、斗貴子。
考えていると、ドタドタという凄まじい足音が廊下を走ってきた。
千歳に目配せし承諾を得ると、廊下へ飛び出す。
すると20メートルほど先で見覚えのある制服姿の少女を担いで走ってくる謎の人物(香美
だが、もちろん斗貴子は名を知らない)が居た。
「警告する。私たちの敵でなければ止まれ」
「うわ、おっかないのが出てきた。でもいわれて急に止まれるあたしじゃないしー」
ならばと斗貴子はバルキリースカートを発動。
床を弾いて飛び上がるとピンボールがごとき乱軌道で天井、壁、床をお構いなしに跳ね回り
香美へ殺到した。
速度と恐ろしげな炸裂寸前の雰囲気はあたかも大砲の弾丸だ。
しかし香美は少女を担いだままひょいっと飛び上がり、斗貴子の頭を踏んづけて後ろも見ず
に走り去る。
(わ、わたしを踏み台にした……?)
唖然と俯く斗貴子を尻目に、香美は手近な窓を開けて身を乗り出した。
『はーはっはっは! 敵陣深く突っ込んだ僕は、将棋ならばくるっと回って成っている頃だな!』
「まー、あたしが”ふ”だったらご主人は”と”だけどさ、……ん? ご主人、交代したいの?」
「今はしないぞ! お嬢さんは戦士に任せて三十六計逃げるに如かず!!』
「とゆーコトでばいばーい。良かったらこんどメルアド教えてね〜♪」
騒々しい声と、凄まじく嫌そうな顔の少女を着地と同時に残して香美は逃げた。
「事情は良くわからないが、大丈……」
大丈夫かと少女に問いかけた斗貴子の顔が、ひどく強張った。
斗貴子はこの少女と面識がある。
どころか、彼女とその母がカズキの命運に関わってきたという点では、因縁浅からぬ間柄だ。
「どうしてキミがここにいるんだ」
苛立ちにやや戸惑いを含めて、斗貴子は聞いた。
「別に私がどこにいようと勝手でしょ」
少女は冷え冷えとした眼差しで憮然とため息をついた。
「まぁ折角ここまで来たんだ。もうすぐ転校してくるコトだし、自己紹介でもしていけ」
背後にガッシリとした大きな影がいるとも知らず。
136永遠の扉:2006/11/18(土) 19:08:27 ID:iiRXt7NL0
「戦士長!? いつの間に。というか……転校?」
「いやな」
防人は目を糸状に細めると、香美が開けた窓を顎でしゃくった。
「あれだけ足音を立てられたら、放っておくワケにもいかんだろう」
胸中では陣頭指揮をとる戦士長として
(真っ向から突撃してくるとはな。幸い被害はなかったが、侵入を許したのは俺の責任だ)
と反省するコトしきりだが、おくびにも出さぬのが防人だ。
「で、転校についてはおいおい話すがそれよりもまずはッ!」
「さっき逃げた敵の追跡ですね」
少女を挟んで防人と相対する斗貴子は神妙な面持ちで頷いた。
「違うな戦士・斗貴子。このコにカレーを喰わせるのが最優先だ!」
が、きたのはごく気楽な回答で、それと同時に少女の幼い体がふわりと浮かんだ。
見れば防人が襟首をつかみ、移動を始めている。
「ちょ、ちょっと。何するのよ」
ぶら下げられたせいでお腹が覗くセーラー服を必死に抑えて、少女は傲然と抗議した。
「まーまーそう遠慮するな。俺の特性ブラボーカレーはまだまだ沢山あるッ! お代わりも自
由だし、各種トッピングも取り揃えてある。うまいぞカレーは。じゃんじゃん喰え!」
かんらかんらと気のいい笑いを無精ひげまみれの頬へ貼り付けて、防人は少女を連行する。
「じゃなくて! だいたいおとといもいったでしょ! 寄宿舎なんかには入らないって……」
さて、こう叫ぶ彼女の名は──…

「ヴィクトリア=パワード。転校してくるのは俺と姉さんの遠い恩人の娘だ」
秋水がようやくながらに名を告げると、まひろはあごに手を当てて考え込み、結論が出ると元
気良く右手をあげた。
「じゃあびっきーだね!」
「あだ名が?」
回答を促す声は、秋水自身も驚くほど穏やかだった。
「うん!」
人懐っこい満面の笑みは、暗くよどんだ何事かが溶かされていくようで心地よい。
それが次の瞬間に崩されるとも知らず、秋水は浸りかけた。
137永遠の扉:2006/11/18(土) 19:09:29 ID:iiRXt7NL0
ドリルのように回転するロボ的な人差し指と中指が逆向へ肉迫すると。
何面もの六角形状の光がほとばしり、命中間際の指どもを粉々にした。
「こいつも通じないか」
総角はため息をついて巨大な右篭手を引っ込めた。先ほどからこの調子である。
武装錬金は逆向の前で分解される。散らばる忍者刀の破片や、矢の残骸がその証左。
(武装錬金の特性──ではないな。あれは触れた物体を165分割するだけだ)
相手の小型チェーンソーを凝視しつつ、思考を進める。
(無銘のと似ているが、分解のされ方はライダーマンの右手のそれ…… もしや)
「どうした? ご自慢の借り物どもが振るわないようだが」
逆向は嘲笑をありありと浮かべながら、チェーンソーを最上段に踊りかかった。
「不振の時もままあるさ。が、そんな時こそ」
ぎゅらりぎゅらりと闇裂きながら頭蓋に迫る狂回転、されど総角は放胆にも大きく踏み込んだ。
「出でよ。百雷銃の武装錬金・トイズフェスティバル」
認識票を右手で一撫で。左の掌から500mlのコーラ缶に似た赤い筒を中ほどまで射出。
それを逆向の口に叩き込む。唇を抉り前歯をへし折って。
入るなり痛烈な足払いを見舞い、自身は飛びのく。
「物は試しだ。内部から爆破してみよう」
背中よりぐらり倒れる逆向の頭部が破滅的な閃光と共に爆ぜた。
局地的な突風が路上に吹き荒れ、金属的な肉片を周囲へブチ巻く。
ひび割れメガネが電柱に激突し、歯がスイカの種のように塀へ直撃。両の目玉はドブへ。
ズタズタの下顎だけを首に繋げた体が路上に倒れ伏す。
「出でよ。日本刀の武装錬金・ソードサムライX」
現われた刃は逆向の左胸へ抵抗なく突き立った。例の分解現象は止まっているようだ。
人間型ホムンクルスは頭を吹き飛ばされた位では死なない。左胸の章印を貫く必要がある。

まひろとの会話から一転、秋水の表情が憤然と引き締まったのはこの瞬間である。

ここは寄宿舎近くの道路。西へ歩けば学校や街の方へ、東へ歩けば寄宿舎へ続いている。
よってウマカバーガーもといロッテリやから寄宿舎へ歩いてきた秋水とまひろは、この凄惨な
現場に出くわしてしまった。

誰も気付かないが逆向の小指がピクリと動く。ただの痙攣か、それとも──…
138スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/18(土) 19:14:06 ID:iiRXt7NL0
アニメ版の爆爵の声がカッコ良い!明治や大正の匂い漂う声で「くはー」ですよ「くはー」。
願わくば彼の出番が削られませんように。蛾は蛾なりに〜だけは何としても。

さてヴィクトリア、色々な部分でキーパーソンになると思います。
このSSはファイナルとピリオドの間の話なので、女学院にいた彼女がパピヨンの元へ行く
経緯を描きつつ、爆爵への感情も描く予定。

>>103さん
まひろはあの斗貴子さんですら篭絡するカズキの妹なので、秋水のような生一本な男には
優位ですね。あのきゃぴきゃぴ(死語)振りでかき回す姿が楽しい。で、最後の最後で「すまない、
まっぴー」「嗚呼─ 私のあだ名……」とかやりたいけれどもやったらマズそう……?

>>106さん
カズキの行動原理を踏まえているので、まひろはとても描き易いです。
ふんわかして丸っこい感情の動きはやはり素敵。当初は果たして進展あるのかと思ってた2
人ですが、何とか現在はそれっぽく描けてるかも。なんとかこれを話を動かす原動力にしたいです。

>>107さん
HPは長続きするか不安で迷ってます…… 作るならダイや柳沢教授のレビューとか描きたいですね。
作劇の知識を仕入れて、それを元に分解して研究するような。秋水とまひろはブッちゃけ、描い
てて脳髄が甘く痺れてます。で、新キャラは原作キャラオリキャラ問わず、まだまだ沢山出てきます。

>>108さん
いえいえ。頭に浮かんだ物をどうしても形にしたがるだけでして。技術的にはあまり熟達してないと
思います。それに作ったら作ったで今度は、DL数とかレスの数とかに一喜一憂したりで、割りに
合わない趣味かもと思ったりも。それでもまだ多くの物を形にしたがるのは困りモノ。

ふら〜りさん
いずれは外道も出したいです。そういうのがいてこそ、例えばゾエビに挑む真柴たちのような
カッコ良さが描けますので。秋水は作中で今後の方針(自分に勝つ)が提示されてたので、そ
れを叶える形でまひろと交流させやすく、変化もさせやすいです。根来はコミュ能力皆無な所が好きです。
139作者の都合により名無しです:2006/11/18(土) 22:57:42 ID:T5kRiJig0
>野比のび太
不条理もの(というか、一瞬コピペ荒らしかと思った)からシリアスへの橋渡しが素敵ですね。
SS初めてという事ですけど、結構書きなれている感じがします。完結目指して頑張って下さい。

>永遠の扉
表の顔はちょっと面映いような青春グラフティで(秋水とまひろが主役で)裏の顔は
ちょっとコミカルなところもあるしダークな部分もある戦闘もので。この2面性が楽しいなあ。
140作者の都合により名無しです:2006/11/19(日) 00:42:12 ID:odGEeB220
小札可愛いですね
今後のキーキャラとは思えないほど天然というか爛漫というか
桜花はまひろが現れてなんか秋水のお母さんっぽくなってきたなw
141作者の都合により名無しです:2006/11/19(日) 17:39:15 ID:IXI0bmVS0
秋水が完全にまひろに取り込まれた感じだ
ブラボーカレー旨そう。
でも、秋水はやはりソードサムライXを振っている方がかっこいいな
142ふら〜り:2006/11/19(日) 23:44:37 ID:ayLlurg10
>>サナダムシさん
かつて玉子は、チョップ一発で白黒テレビを直したことがありましたけど。さんご(あさり
ちゃんのママ)と違って原作での戦闘力描写はないんですよね意外と。なのに本作の
マッチョ玉子は、のび助よりも容易に浮かんできました。日頃のイメージによく合ってて。

>>店長さん(おいでませ、なのか実は古参の方なのか。SS暦、これから積んで下されぃ)
なるほど、冒頭以外もVSさんの風味が感じられますな。しかし>>130さんも仰ってる通り、
ラスト一行で一気に重く……なった、のかそれとも次回冒頭で豪快に足払いしてくれるの
か。新しい方の新しい作品は予想がつかないのでいつも楽しみです。続き待ってますよっ。

>>スターダストさん(スク水とな。マニアックなコスなら、エレガなんか好きなんですけど)
前作でもそう……って原作もそうなのか、防人って地味にいい人いい上司ですね。飄々と
しつつ責任感あり、押し付けがましくなく気配りして。斗貴子なんかは責任感ある常識人故
にいつも何かに振り回されてる印象。こういう人たちがいるから非常識人も引き立つ、と。
143作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 10:51:49 ID:xLfGJDeZ0
今日か明日にサイト30万ヒットだな
これを機会に、いろんな人が復活してくれるといいな
144作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 16:39:07 ID:E3lxhD720
30万か。
とりあえずバレ氏・ふら〜りさん、そしてパオ氏のコメントが欲しいな
パオ氏は難しそうだが
145さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/21(火) 00:48:22 ID:jOfX0Hex0
今回はエグい描写が多いのでお気をつけ下さい。
苦手な方は飛ばした方がよろしかと。
あとかなり長くなってしまいますが、今回だけは一気に投稿させて下さい。
申し訳ありません。
146WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:49:39 ID:jOfX0Hex0
《EPISODE5:The wise man will bow down before the thorn and at his feet》

薄暗がりの中に、男が一人座っていた。
豪奢なソファに似合わないジーンズ履きの普段着姿。
部屋の中でもアルスター・コートを脱がないのは男のこだわりだろうか。
彼の周りでは屈強な男達が、コンピューターとモニターと無線機の海の中でせわしなく
蠢いている。
男は煙草の煙を吐き出しながら、自分と祖国の為に身を粉にする兇暴かつ健気なテロリスト
十数人の群れを見つめていた。

「1番、2番、3番モニターはOKだ!」

「撮影班、警察署内に入りました!」

「ブリギット! 邪魔だから隅の方で遊んでろ!」

「ウィリアムとノエルの視点映像を出せ! 7番と8番だ! 早くしやがれ!」

「とっとと配置に就かせろ! このウスノロ!」

「パトリック、準備が出来たぞ。あと3分30秒でウィリアムとノエルが署内に入る。
……いよいよだな」

「応」
パトリックと呼ばれた男はゆっくりと、ゆっくりとソファから立ち上がる。
そして片手を挙げ、男達に呼び掛けた。
「諸君、しばし手を止めて聞いてくれ」
その声は静かで低く重々しい。しかし、内に秘めた渦巻く闘志は隠せない。
147WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:50:47 ID:jOfX0Hex0
パトリックの周りで働く男達は皆、その動きを止めて彼に注目した。
全員が固唾を呑んで、まばたきもせず、彼に見入っている。
まるでカリスマ・ロックスターのMCを一言たりとも聞き逃したくないファンを思わせる男達の
ほとんどは、二十代後半から三十代後半の鍛え上げられた猛者だ。
だが、中にはたった一人、十代の少女の姿も見られる。
パトリックは一人一人の眼を見据え、軽く頷くと静かに語り出した。

「……遂にこれから、我々の新たな闘争が幕を開ける。
ぬるま湯好きのIRA暫定派はベルファスト合意に調印し、あの英国(ブリテン)との和平を推し進め始めた。
そして、我々が見限ったReal IRAはまるで玩具のような車爆弾でショッピング街を爆破して
悦に入っている。
だが、そんなものは闘争とは言わん。爆破のための爆破だ。殺しのための殺しだ。ただの
マスターベーションに過ぎん。
だが我々は違う。我々の敵は英国だ。ユニオニスト(英国連合維持主義者)だ。プロテスタントだ。
我々の闘争は彼らを皆殺しするまでは終わらん。鉄火を以って奴らを血と臓物の河とするまでは終わらん。
英国人や売国奴の血を吸い尽くした大地の上にこそ、“統一アイルランド”は築き上げられる。
それを成せるのは闘争の為に生まれてきた……否、闘争が生み出した我々しかいないのだ。
見たまえ――」

パトリックは数あるモニターの中の一つを指し示した。
皆の眼がモニターに向けられる。
そこには和気あいあいと談笑しながら歩く、二人の男が映っていた。

「祖国の為に自らの身体を差し出した我が同士、ウィリアム・ギャラクシアンとノエル・ギャラクシアンは
必ずやこの第一戦に勝利するだろう。そして、新たな統一アイルランドの歴史書の1ページ目には
彼らの名が、統一の礎を築いた英雄として燦然と輝くのだ。
同士諸君! さあ、見届けよう!
我々こそが冠するに相応しい、真の(Real)、アイルランド共和軍(IRA)……。
この名を掲げる自由と愛国の闘士の第一射を!」
148WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:51:30 ID:jOfX0Hex0
――北アイルランド アーマー州アーマー 市警察署前

アーマー市警。主に“プロテスタント系住民”の治安を守る法と正義の砦。
入口にはマシンガンを装備した警察官が二人、鋭い目つきで周囲を睥睨している。
カトリック系北アイルランド人にとって、この警察官という種類の人間は同じ場所にいて
あまり気分の良い存在ではない。
警察関係者には英国人やプロテスタント系住民が多く、取調べの名を借りた暴力や不当逮捕など
カトリック系北アイルランド人への差別的な対応が問題になっているからである。

そんなカトリックの鬼門とも言うべき警察署に近づく二人の男がいた。
二人はまるで双子のように同じ風貌、同じ格好である。
レザーのハーフコート、濃紺のジーンズ、ブラウンがかった細身のレイバン。
頚に彫られた(肩まで続いているであろう)トライバル・タトゥまでがお揃いだ。
違いといえば一人は不潔に伸ばしっ放しにした長髪、もう一人は坊主頭に近い短髪という点である。
どちらも煙草をくわえ、歩きながらのお喋りに興じている。どちらかというと長髪の男の方が
ややはしゃぎ気味だ。
「やっぱ喰うんならよ、ヤク漬けの若え女に限るぜ。ガボーンとブッ飛べんだよ、ガボーンと」
「分かってないな、お前は。赤ん坊こそが至高の味だ。余計な臭みは無く、肉も柔らかい……」
交わす会話は不可解で狂気染みている。
しかし、それは彼らにとっては至極当たり前な会話であった。
ウィリアムとノエルのギャラクシアン兄弟。
祖国統一の為に、自分達を導く首領の為に、自らの意志でその身を人外のホムンクルスに変えた
分裂Real IRAの尖兵だ。
二人は警察署の目の前まで来ていた。
後は半階分の階段を上がれば、署の入口である。
「なあなあ、見てくれよノエル兄ちゃん! ジャーン!」
長髪の弟ウィリアムはコートの内側からショットガン並みに巨大な拳銃を取り出し、
誇らしげな顔で兄に見せつけた。
「ツェリザカだぜ!? パトリックに買ってもらったんだ。いーだろー!」
「ほう、珍しい。なかなかお目に掛かれない銃だな。しかも高価だ……」
149WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:52:16 ID:jOfX0Hex0
“フェイファー・ツェリザカ”
オーストリア製。60口径・全長55cm・重量6kg。
アニマル・ハンティング用のシングルアクション式リボルバー。
象さえも射殺する.600NitroExpress弾(ライフル用)を使用する為、『地上最強の拳銃』との呼び声も高いが、
その重さと長大さはもはや拳銃と言えるかどうかすら疑わしい。

「さぁらぁにぃ〜……ジャジャーン! 今ならもう一本オマケして、このお値段!
な〜んてな! ギャハハハハハハハ!!」
ウィリアムは懐からもう一丁のツェリザカを取り出すと、手の中でくるくると回して玩ぶ。
総重量12kgの二丁拳銃がプラスティックか何かの水鉄砲のようだ。
ノエルは呆れて首を振る。
「二丁も買ったのか? 28000ユーロ(約400万円)はするぞ。パトリックの奴め、協力者が付いたとはいえ
無駄遣いが過ぎる……」
ヨーロピアン・テロリストは律された経済観念の持ち主が多いというが、ノエル・ギャラクシアンも
御多分に洩れず、その類であるようだ。
「それにだ、ウィリアム……。」
ノエルはポケットから黒いレザーの手袋を取り出し、引き絞るようにギッチリと両手に填めた。
その時――
「お、おい……! お前ら!」
署の入口前に立っていた警官二人がマシンガンを水平に構えたまま、兄弟に声を掛けた。
それも当たり前の話である。政情不安な北アイルランドの警察署の前で堂々と銃を見せているのだ。
それが例え安物のモデルガンだったとしても、即座に射殺されて文句は言えない。
だがノエルはにこやかに警官達に近寄った。
「やあ、お勤めご苦労様です……」
「う、動くんじゃ――」
警官達が何か言い終える前にノエルは素早く両腕を振った。残像が見える程に素早く。
次の瞬間には、胸に大穴を開けた警官二人が地面に崩れ落ちた。
150WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:56:25 ID:jOfX0Hex0
両手に彼らの心臓を握ったまま、ノエルは振り返ると弟に言い聞かせる。
「生態系の頂点に立つホムンクルスだからこそ、己の肉体を武器とするものなのだ。
人間の兵器や武装錬金を使うなど以ての外だぞ……」
「へいへい。ったく、兄ちゃんは堅物すぎるぜ」
ウィリアムは手を振り兄の説教を聞き流すと、一人さっさと署内に入っていった。
ノエルも心臓を投げ捨て、憮然とした表情で後に続く。

警察署内は大勢の人でごった返している。
苦情を訴える市民、現行犯逮捕された容疑者、そしてそれらの処理に追われる警官。
あらゆる種類の人間が、あらゆる目的を抱えてこの署内1階ロビーに集結している。
やんちゃな弟は溢れる興奮を抑えきれず、ウズウズしながら兄に問い掛けた。
「なあなあ! こいつら全員ブッ殺していいんだよな!? 兄ちゃん! な!?」
ノエルは静かに頷く。
「ああ、お前の好きなようにな……」
兄の許可を得たウィリアムは乗り乗りのテンションで大声を張り上げた。
聞いていようが聞いていまいが、もはや関係無い。
「レディース・アンド・ジェントルマン!! ボク様ちゃん達はギャラクシアン兄弟と申します!!
はじめまして!! そしてェ……――」
ノエルが一言添える。
「――“さようなら”だ」

二人の挨拶と同時に“それ”は始まった。
それは虐殺(ジェノサイド)と言っても足りない。地獄(インフェルノ)と言っても足りない。
幼い子供が戯れに蟻の巣を壊し、蟻達を一匹残らず踏み潰す行為に似ていた。
ウィリアムの巨大二丁拳銃の前には人間の身体など熟れ過ぎたトマト同然だった。
ノエルの両の手の前には人間の身体など紙細工も同然だった。
初めこそ警官達も応戦らしき形を取ったが、ホムンクルスの身体に人間の兵器が通じる訳も無い。
151WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:57:29 ID:jOfX0Hex0
せいぜい顔面に至近距離からショットガンを撃ち込まれたウィリアムが「かゆい」と
一言洩らしただけである。
防御や回避が必要無いのだから作業効率も良い。
ウィリアムは遊び半分に1階ロビーの警官や逃げ惑う市民を撃ち殺し(それでも高精度な射撃能力だが)、
弟思いのノエルは2階〜4階を突風の如く駆け抜けて警官や職員を突き刺し、引き裂き、抉り取った。
倒れ伏す死体の中には後生大事にバッグを抱えた男がチラホラ見受けられる。
バッグには傍目には分からない程の小さな穴が開いている。
ウィリアムがウィンクをすると戦闘、いや殺戮現場にバッグを向けた“死体”達はこっそりと
笑顔を返した。
やがて、上階を完全制圧したノエルがロビーに戻ってきた。

「物足りんな……。まるでお話にならない。とんだ雑魚共だ……。所詮は脆弱な人間に過ぎんのか……」
ノエルが軽く手を払うと、手袋にこびり付いた鮮血が床に飛び散った。
とはいえ死屍累々のこの光景の中にあって、その程度の鮮血などまるで目立たない。
ウィリアムはご機嫌で窓から外の様子を窺っている。
「ヒュウ〜。見ろよ、増援が続々お出ましだぜえ」
「いい具合に報道陣も集まってるな……」
アーマー市警は別働の警官隊にすっかり包囲されていた。
署内にいた警官など問題にならない程の人数が、アーマー市警周囲に展開されている。
そして、さらにその後方には、あらゆるチャンネルの報道陣が熾烈な報道合戦を演じている様子が
見て取れる。
二人は万事予定通りの事の運びようにほくそ笑む。
「フフフ……いいぞ、予定通りだ。お次はあの警官隊を全滅させる。一匹残らずな……。
そして報道陣には我らReal IRAの存在と力の程を、全世界に向けて発信してもらう……」
「んで、最後にゃブン屋ちゃん達にも死んでもらおっかなぁ〜」

その時、二人の背後でジャリッという音が響いた。
152WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:58:18 ID:jOfX0Hex0
兄弟が素早く振り返ると、入口近くに一人の男が立っていた。
グレーと薄青を基調にした法衣。首から下げられた十字架(クルス)。
両の手にはそれぞれ「Speak with Dead」「Section 13 ISCARIOT」と染め抜かれた白手袋。
そしてその白手袋に包まれた手には冷たい光芒を放つ“銃剣(バヨネット)”が握られている。
物騒な物を手にしているが、どうやら“神父”のようだ。
神父はガラスの破片や薬莢を踏みにじりながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

“神父”アレクサンド・アンデルセンは小首を傾げながら二人に問いかけた。
「調子はどうだ? 化物共ォ……」
大きく見開かれた眼は瞳孔が開き、焦点が合っていない。
そして、遠い異国の地に住まう恋人にやっと再会できた若者のように胸は高鳴っている。
自制心はどこかへ飛んで行き、口が裂けんばかりに破顔してしまう。堪えようとしても堪えきれない。
ようやく、ようやく希少かつ強靭な化物(フリークス)、“ホムンクルス”に出会えたのだから。

ウィリアムは訝しげにアンデルセンを睨みつける。
「なんだ? テメエは。コイツら葬式に出すのはまだまだ先の話だぜ、神父さん」
だがノエルはこの神父の風貌から、すぐにその正体を悟った。
「こいつ……。ヴァチカンの“イスカリオテ”か……」
「あ? あーあー、そういや協力者の野郎が言ってたなぁ。そんな奴らがいるって。殲滅機関ちゃんだっけ。
……で、どーするよ? 一時退却、アジトにトンズラするか?」
ウィリアムの冗談交じりの提案に、ノエルが眦を上げる。
「冗談を言うな。何一つ問題など無い。奴を殺して、このまま任務続行だ」
ギャラクシアン兄弟もまた、神父に向かってゆっくりと歩を進めた。

「ケケケッ、だよなあ。所詮、奴は核鉄も持ってねえ……――」

「――ただの人間だ(オンリー・ヒューマン)」
153WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 00:59:33 ID:jOfX0Hex0
ノエルの言葉を合図に、ウィリアムは何の感情も迷いもなくツェリザカを構え、引き金を引く。
派手な轟音と共に発射された弾丸は狙いを寸分も過たず、アンデルセンの額に炸裂した。
「ぶぅるああ!」
おびただしい量の血と呻き声を撒き散らしながらアンデルセンは大きく仰け反る。

が、倒れない。

まるで走り高跳び選手の背面跳びのように、仰け反った姿勢のまま身体は静止している。
「なっ……」
それだけでも充分驚愕に値したが、ギャラクシアン兄弟はある事実に気づいた。
“血が流れていない”
確かに銃弾が命中した時は額や後頭部から大量の血液が飛び散ったというのに、それに続く流血が
全く見られない。
床の血溜まりもあまりに少なすぎる。
やがてアンデルセンの身体は細かく震え始めた。
「クッ、クククッ、クカカカカッ!」
搾り出すような、漏れ出るような笑い声がロビーに響き渡る。
突如、バネ仕掛けの玩具にも似た動きで、アンデルセンの身体が勢い激しく前方に向き直った。
大型獣狩猟用ライフル弾を喰らった筈のその顔は、眼鏡が少々ずれているだけで傷跡一つ付いていない。
「シィイイイイイイイイイイイイッ!!」
アンデルセンは奇声を上げながら、先程とは打って変わった猛烈かつ俊敏な突進で二人に迫った。
そして両の銃剣を振り上げ、力任せに斬りつける。
斬りつけられた瞬間、二人は数メートル後方に飛び退き、寸での所で斬撃を回避した、
かのように見えた。
「いってえええ!」
アンデルセンの足元にツェリザカを握ったままのウィリアムの左腕が転がっている。
オープニング・ヒットにしてはあまりにも大き過ぎるダメージだ。
「いてえな馬鹿野郎!」
ウィリアムの右手に握られたツェリザカから再び火花を吹き、数条の銃弾がアンデルセンを襲う。
154WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 01:00:29 ID:jOfX0Hex0
しかし、銃弾はアンデルセンの額、肩口、胸、腹に何発も命中するも、今度は微動だにしない。
そして傷口は肉を蠢かせながら、瞬時に塞がっていく。
ウィリアムのみならずノエルもその光景に驚愕していたが、冷静を装いアンデルセンに尋ねる。
「受傷部位の高速治癒……。貴様、再生者(リジェネレーター)か?」
アンデルセンは鼻の方へずれた銀縁の丸眼鏡を指で押し上げた。
「ククク、そうだ……。我々人類が貴様らと戦う為に、我が神から授かりし力で作り出した技術だ」

再生者(アンデルセン)とは対照的に、ウィリアムの左腕の傷口はシュウシュウと音を立てながら煙を上げている。
焼けつくような痛みがウィリアムを襲う。炎で炙られるが如く。酸で溶かされるが如く。
「ぐああああっ! なっ、何でだよ! このホムンクルスの身体は“錬金術の力”以外は
受け付けないんじゃねえのか!」
「錬金術!? “錬金術の力”だと!?」
ウィリアムの言葉に、アンデルセンはギリギリと歯軋りして怒りを露にする。
汚された。我が神が汚された。この便所の反吐同然の化物は、蛇の舌を以って我が神を侮辱した。
「貴様ら汚らわしき異端の力ごときに、我が神の祝福が施されたこの銃剣(バヨネット)が及ばぬとでも……――」
アンデルセンは両手を頭上高く掲げると、勢いよく振り下ろした。
その反動で法衣の袖口から幾本もの銃剣が飛び出し、彼の手に、指の間に握られる。
「――思うかぁあああ!!」
アンデルセンは怒号と共に、銃剣をあらん限りの力を込めて投擲した。
先程とは逆に、今度は数条の銃剣がウィリアムを襲う。
顔を上げたウィリアムは激痛を堪え、ツェリザカを構え直す。
「ハァアアアアア!」
一本、二本、三本、四本――。空中で.600NE弾が次々と銃剣を砕いていく。
片腕とはいえ彼の的確無比な射撃技術は、襲い来る銃剣を全て撃ち落とした。
「フヒャハア! ホムンクルスの動体視力を舐めんじゃ――」
目の前にアンデルセンの顔がある。目の前に。いつの間にか。
「動体視力が、どうしたって……?」
アンデルセンは歯を剥き出して笑うと、まるで空手の貫手を思わせる動きで力強く右手を突き出した。
「シィイイァアアアアッ!!」
155WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 01:02:52 ID:jOfX0Hex0
零距離射程。

右の袖口から直接射出された十本の銃剣がウィリアムの全身を貫いた。
「ぐぅおおっ!」
ウィリアムは全身を銃剣のハリネズミと化して吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「安心しろ……。弱点の章印とやらには一本たりとも突き刺してはいない。貴様らは充分楽しんだのだろう?
私の事も少しは楽しませてくれなければ困る……。何せ――」
アンデルセンが一歩踏み出す。
「――化物狩りは久しぶりなのだからなァアア……」
また一歩踏み出す。
だがその時、アンデルセンの不意を突いて、ノエルが動いた。
「!」
壁や天井を蹴って、ロビー内を高速で縦横無尽に飛び回り撹乱する。
そしてアンデルセンの左真横に回り込むと、渾身の力を込めた右ストレートを放った。
「殺ったぁ!」
ノエルの拳がアンデルセンの顔面を捉え、グチャリと肉の潰れる鈍い音が響く。
「何をだ?」
顔面を潰された筈のアンデルセンが余裕で問い掛ける。
ノエルの拳は銃剣によって真ん中から斬り裂かれていた。創傷は手首の辺りまで達している。
顔面に拳が届く前に銃剣の刃を立てて防御(ガード)した、としか思えない。
「うっ、うわっ! うわああ!」
すぐに後方へ身を引こうとするノエルだが、アンデルセンは逃がさない。
素早く逆手に持ち替えた銃剣を、喚き立てるノエルの口中に突き立てた。
「ごああッ!」
そのまま肩を使い、ノエルの身体を壁に叩きつける。そして、さらに口中の銃剣を深く抉り込んだ。
後頭部から突き抜けた銃剣が壁に刺さり、ノエルを磔にする。
「キシシシシシシシ……」
アンデルセンは眼を糸のように細めて、歯の間から笑いを漏らす。
156WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 01:06:57 ID:jOfX0Hex0
そして童子の頭を撫でる父親を思わせる仕草で、ノエルの口中に捻じ込まれた銃剣をグリグリと抉った。
磔の獲物を思う様弄んだ後、アンデルセンは銃剣から手を離す。
楽しい。楽しくて堪らない。このあまりの楽しさに哄笑を禁じえない。

「ゲァハハハハハハハハハハハハハハ!! ヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

天井を仰ぎ見たまま高笑いをするアンデルセン。
彼の化物に対する、戦闘への喜び、殺戮への悦びは頂点に達していた。

「さあァ、来い! 準備運動はもう充分だ! ホムンクルスの真の力、見せてもらおうかァ!!
ゲェァハァハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!」

「は、はへほほ……(ば、化物……)」
ノエルは磔にされたまま、イスカリオテ聖堂騎士(パラディン)の鬼神の如き所業に震え上がっている。
ウィリアムに至っては声も出せずに、床に転がって苦痛に身悶えている。
いつまで待っても立ち上がって来ない、立ち向かって来ない二人に、アンデルセンはある種の危惧を覚えた。
「まさか……貴様ら、それで終わりなのか……?」
アンデルセンの狂喜に満ちた笑顔が崩れ、見る見るうちに落胆と激怒の表情に変わっていく。
「弱い……。弱い弱い弱い弱い弱い! 弱過ぎる!! まるでお話にならん! とんだ雑魚共だァ……。
所詮は低能な錬金術師共の生み出した不良品(ゴミクズ)に過ぎんのか……」
アンデルセンは侮蔑の視線でギャラクシアン兄弟を見つめていたが、やがてノエルに近づき
彼を穿つ銃剣を引き抜いた。
「グハァッ!」
呻き声と共に床に倒れ込むノエル。
そして眼の前にあるアンデルセンの両脚を見るや、ホムンクルスとしての、そして愛国の闘士としての
誇りも忘れて命乞いを始めた。
「た、助けてくれ……! 命だけは……命だけは……」
眼鏡を光らせた巨大な影は怯えるノエルを見下ろしながら、ある質問を浴びせた。
157WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 01:07:45 ID:jOfX0Hex0
「私が知りたいのは二つだけだ。一つは貴様らの本拠地(アジト)。もう一つは貴様らを化物に造り変えた連中だ」
「あ……ああ……。あ……?」
ノエルはパクパクと口を開け閉めするだけである。
アンデルセンは即座にノエルの左腕を斬り落とした。
「ぐぉああああああああああ!!」
灼熱の激痛にノエルは喉が破れんばかりに悲鳴を上げる。
「い、い、言えないんだ!」
「『言えない』か……。いい度胸だ。よほど訓練された化物らしい……」
再びアンデルセンはニタリと口を吊り上がらせた。
“戦闘”というお楽しみは得る事が出来なかったが、“拷問”というお楽しみがまだ残っていた。
「ち、違う! 言いたいのに言えないんだ! 言葉が出て来ないんだ! “頭”と口がどうにかなっちまってる!」
ノエルの言葉を聞き、しばらくアンデルセンは思案顔で首を傾げていた。
その間にもノエルの命乞いは続いている。
「助けてくれ……。も、もう二度とReal IRAには関わらない……」
「……」
アンデルセンは無言である。基本的に異教徒や化物の言葉は、彼の耳に入らない。
ややあった後、アンデルセンは銃剣を両手に持ち直すと頭上高く振り上げた。
「ひいッ!」
「塵は塵へ(ダスト・トウ・ダスト)、灰は灰へ(アッシュ・トウ・アッシュ)。塵から生まれた貴様らは……塵へ帰れ!!」
振り下ろされた銃剣がノエルとウィリアムの左胸の章印に突き立てられる。
「AMEN!」
二体の人間型ホムンクルスは断末魔の悲鳴を響かせながら、その身を灰と化した。

アンデルセンは灰となったギャラクシアン兄弟の、主に頭部があったと思われる場所を両手で探っていた。
灰を掻き分け、懸命に何かを探している。
やがて彼の指に何か金属質の物が当たった。
「これか……」
アンデルセンはそれらを拾い上げ、掌に乗せた。
158WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/21(火) 01:09:08 ID:jOfX0Hex0
一つは、小さなレンズが付いている所を見ると、どうやら小型カメラのようだった。
大きさからいって眼球の代わりに眼窩に埋められていたのだろう。
もう一つは、何らかのIC(集積回路)のようだ。これが埋められていた場所は脳だろうか。
そして、その二つには共通しているものがあった。
どちらにもアルファベットの『X』を逆さにした記号に四本の横線を引いた、特徴的な
エンブレムが刻印されていた。
「そうか……そういう事か……」
アンデルセンはその二つの機械を強く握り締めた。
顔には次なる“狩り”への渇望、そして愉悦の色が薄ら笑いとなって浮かんでいる。
「いいぞ。これは面白い……。ひどく面白い……。とても面白い事に、なる。
クッ、クククッ、クハハハハハッ」
アンデルセンは立ち上がり、出口に向かった。
もうこんな場所に用は無い。
闘争の暴風は去った。殺すべき化物も消えた。第13課(イスカリオテ)がいるべき場所ではない。
あとは“表”の人間がどうとでもするだろう。

「うぅ……ねえ……」
立ち去ろうとするアンデルセンを呼ぶ声がする。
そこには、奇跡的な事に生き残りがいた。
瀕死の婦人警官がこちらに手を伸ばし、助けを求めているのだ。
何ヶ所か銃創が見られ出血も激しいが、今すぐ病院に運べばあるいは助かるかもしれない。
「た、助けて……。お願い……」
アンデルセンはニヤニヤ笑いのまま、彼女を見下ろしながら吐き捨てた。

「薄汚いプロテスタントの淫売め……。そのまま苦しみ、のたうち、神に許しを乞いながら……死ね!」

神父は靴音を響かせ、血と硝煙の臭いに溶け込むようにして消えていった。
159作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 01:12:19 ID:hLHqxjZs0
お疲れ様ですさいさん。
実は先行でさいさんのサイトで読んでましたがw
ヘルシングはやはりこのくらい過激でなくては。
キャラの壊れっぷりがこの漫画の魅力ですし。神父を筆頭に。
あと、さいさん武器の知識深いなあ。
こういうSSを書くのには非常に役に立ちそうですね。

あと、時間軸的に本作に出るのは無理でしょうから
婦警を番外編かなんかで出して下さい
160さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/21(火) 01:14:05 ID:jOfX0Hex0
長くなってしまい、本当に申し訳ありません。
次回からはこんな事が無いようにしますので。

>>32さん
ん〜、やはり主役は神父って事になりそうですね。
表の主役は防人。裏の主役は神父。しかして真の主役は……神父って感じでしょうか。
暴れっぷり、いかがだったでしょうか。
サイトに遊びに来て下さり、ありがとうございます。なかなか更新出来てませんが……。

>>33 さん
HELLSING世界と武装錬金世界が同時に存在してますが、雰囲気としてはHELLSING寄りかもしれません。
そして防人と火渡と千歳と神父の四人が同じ場所に揃うと化学反応を起こします。たぶん。
サイトに遊びに来て下さり、ありがとうございます。でもエロパロの時の話は思い出すと自害したくなるので勘弁……orz

>>34さん
インテグラがこの先活躍するかは少し微妙なんですよ。なにせ神父と錬金三人組でかなり手一杯になっちゃってるので。
すみません。

>>35さん>>36さん
婦警いいですよね。神父の次に好きです。実は元々、HELLSINGは婦警のオパーイが目当てで読み始めたのです。
しかし、設定としては『武装錬金アフター&HELLSING第1話から七年前』なので、
それでいくと婦警はこのお話の時点で12歳。ただの子供です。
と言う訳で、出る予定は無いのです。申し訳ありません。
161さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/21(火) 01:14:41 ID:jOfX0Hex0
ふら〜りさん
今回は神父、絶好調にイカれまくりです。
そのイカれ具合に当てられて、今回の執筆は本当に疲れました。書いてる本人が言うのも何ですが。
あと神父に戦われると戦闘描写が勝手にどんどんグロくなるので困ります。書いてる本人が言うのも何ですが。
神父を手に負えるSS職人はこの世にいるのでしょうかね。

スターダストさん
おお、スターダストさんも遊びに来て下さったのですね。ありがとうございます。
/zは銀成学園メンバーのコミカルかつほのぼのな日常話が良いです。
せっかく不良教師・火渡が赴任したんですから。//はまひろの出番少なかったし。
>永遠の扉
秋水とまひろのデートは読んでて何だか顔がニヤケてしまう程のほんわかぶりですな。
思わずPCの前で頬杖を突いてしまいますよ。確かに秋水の心を溶かしていくのはまひろが一番適任かも。
それにしても個性たっぷりのオリキャラ達。私もオリキャラを使っているだけに、見習いたいです。
162作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 11:27:18 ID:1pzTV8mZ0
お疲れ様ですさいさん。
ブログで少し今回の描写関係で迷われてたみたいですけど、
やはり「神父」だから別にいいんでしょうか?
神父はこの位じゃないと神父じゃないしw
次回は錬金サイドかな?


あと30万ヒットおめ!
163作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 13:42:50 ID:Ww4AvDuw0
バレさんはじめ皆さん方、サイト30万ヒットおめでとうございます。

>WHEN THE MAN COMES AROUND
アンデルセンは切れてていいなあ。原作そのままの迫力だ。
まあ、婦警やインテグラが活躍しないのはちょっと残念ですが
錬金部隊との関わりを楽しみにしてます。
アンデルセンと火渡は結構気が合うかなあ。
164作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 23:24:09 ID:HlAmrL6D0
聖少女風流記 慶次編 第三話 「愚物の王太子」

以外にも、ジャンヌ・ダルクの肖像画は一枚も残されてはいない。
現在、世界の美術館などに展示されている数多の彼女の絵や彫像は、
全て、後世の人間が想像の羽を広げて描いたものである。

いや、想像というよりも、作者が理想とする聖女の姿を具現化させたものだろう。
ひとつひとつの絵画がそれぞれ違うジャンヌ・ダルクの顔を描き、
ひとつひとつの彫像がそれぞれ違う光を纏う聖女を形作っている。

ジャンヌ・ダルクは無数の顔を持つ。
彼女を、愛する人たちの中に、一人ずつ宿っているからだ。
現代でも、彼女を天使とも、神の使いと信じるものは数多い。

しかし。



「フン。つまらぬ場所よ。だが、高みの見物にはちょうど良いか」
天魔の王がワイングラスを傾けながら、不敵な笑みを浮かべている。
闇の覇者、織田 信長。サタンの力を呑み込みし、人類最大の凶。
傍らには無骨で蓬髪の獣のような男が立っている。宮本 武蔵である。

が、信長の正面に、瘴気の満ちた暗闇には相応しくは無い、絶世の美女が立っていた。
雪のように白い肌が闇を弾いている。信長は女に言った。
「フフフ。おみゃーさんが俺の下に付くとはな」
生まれの方言を交えながら楽しげに笑う魔王。更に続ける。
「世の果てまで見通す、だったか? ならば、俺の運命はどうでゃ?」

女は短く応える。
「……今のままなら、時の天秤は闇に傾いたままでしょう。即ち、あなたへと」
165作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 23:25:09 ID:HlAmrL6D0
「フン。つまらん答えだわ」
信長は退屈そうに応えた。ワインを飲干してから、また呟く。
「前田、慶次。……ジャンヌ・ダルクか。本当に、俺を楽しませられるか、アイリス」
慶次の名前が信長の口から出た途端、武蔵がギリリと歯を食いしばった。

アイリス、と呼ばれた美女は一瞬、逡巡した。その瞳に、何故か哀しみが宿っている。
「…ええ。でも、もう少し、待って下さい。ジャンヌの、大望が果たされるまで」
「フン。やはり、気に掛かるか。まあいい。俺には無限の時間がある。
 しばらく待ってやろう。……あの聖女が、猿を天下人に仕立て上げるまで。
 一応は、お前の顔を、立てて、な」

武蔵が怪訝に思う。何故、この女如きに魔王が気を使うのだろうか。
「ありがとうございます。これで、少しは、未来に、希望が」
言葉を遮るように信長が哂う。
「フハハハハ。無いわ。この俺が、この世に永遠に君臨する限り。
 既にこの大陸の各国は俺の手の内にある。あとはフランスだけよ。
 それも、シャルルだの言う愚物如き、手の内に落とすのに半日も掛からぬ」
「……聖女と傾奇者の力、甘く見ないよう」

アイリスが立ち去ろうとする。その背に、信長が問い掛けた。
「待て。お前は、あの女が本当に人以上の天女と思うか。 …お前なら、分かるはずだ」
アイリスは暫し立ち止まった。振り返らずに応える。
「分かりません。彼女が人に生まれながらも天使の類なのか、ただの人間なのか。
 ですが、私は思います。 ……天使も、人から見たら化け物の類かも知れぬ、と」
「フム。面白いな。いずれ立ち塞がるか。天女と、傾奇者が、俺の前に」

アイリスはしばし立ち尽くすと、やがて応えた。
「……今の私には、運命を見届けるしか力がありません。
 あまりにも巨大になりすぎたあなたの力と闇の前で、私の力は掻き消えてしまった。
 ですが、ひとつだけ、言える事があります」
「フム。申してみよ」
「人の思いというものは、時に神も魔も超えてしまう事があるやも知れません」
166作者の都合により名無しです:2006/11/21(火) 23:25:54 ID:HlAmrL6D0
オルレアンの解放という奇跡を成し遂げてから、ほんの翌々日の事である。
ジャンヌは休む事もせずに兵を率い、王太子の宮殿へと急いでいた。
戦勝に沸くオルレアンの民の引き留めや、貴族たちの休養を求める声を振り切り、
ジャンヌは急いでロッシュに向かっていた。

この頃の王宮は1ヶ所にとどまらず、いろいろな城を巡回する形を取っていた。
ロッシュはオルレアンからほど近い。
ジャンヌは5月11日に王太子に再会し、すぐさまランスで戴冠式を行う事を
シャルルに提案している。

その提案の場にはシャルルの他に、彼の寵臣であるラ・トレイモユがいた。
更に、ジャンヌと共にジル・ドレが高位貴族という立場で同席をしている。
「ですから、今が天のお導きなのです! 今こそ、王太子様が王になられる時なのです。
 神はそう仰っているのです!」
金切り声に近いジャンヌの声が謁見の間に響き渡る。

それでも、シャルルは首を立てに振ろうとしない。理由は簡単である。
戴冠式を行うべきランスが、イギリスの同盟国であるブルゴーニュ派の勢力下だからだ。
ランスまでの道のりは、四方を敵勢力に囲まれながら進軍する事となる。
このシャルルという愚物に、そんな胆などある訳は無かった。
彼の意識の中にあるのは、自分の身の安全と、自分の栄達だけである。

慶次は胸クソが悪くなってきた。
十代の少女が命懸けでフランスを救おうとしている時に、王が己の身ばかりを案じている。
そして、その横にかしずく男(ラ・トレモイユ)の醜い顔にも吐き気を覚える。
この顔は、シャルル以上に己の事しか考えていない顔だ。

慶次は2人をぶん殴りたくなる衝動をジャンヌの為に抑えながら、低い声で言った。
「ならば、先にいる敵を払えばいいのでしょう。それだけの事だ」
167聖少女風流記:2006/11/21(火) 23:26:59 ID:HlAmrL6D0
結果、慶次のこの一言が通る事になる。
勿論、更に徹底して自分の安全を優先させて、だが。

シャルルはジャンヌや慶次たちに先兵隊を命じた。
ロワール河流域に布陣しているイギリス兵とブルゴーニュ軍をジャンヌ軍に一掃させ、
領地を確保させ、砦を奪い、その後に自分が砦に入城する。

その後、その砦を基地としてまたジャンヌたちに先兵をさせ、先の砦や街を奪い、
安全を確保した後に、自分たちの軍がまたその砦や街に進軍していく。
それの繰り返しでランスまで到達する。あくまで自分の安全を最優先させて。
これが、フランス次期国王の下した、ランス行きへの条件である。

ジャンヌはこの条件を呑んだ。いや、呑まざるを得なかった。
神が、自分に下した役目を果たす為に。

「胸糞がわるくなったろう、慶次殿」
アルチュールが謁見の終わった慶次に問い掛けてきた。慶次は大声で言った。
「いや、驚き申した。あれが次の帝とは。まるで生まれたての子猿ですな。
 小心で、せこせこしていて、さぞや一物も小さいのでしょう」
慶次が笑いながら言った。言い方は爽やかでも、内容が内容である。
周りの貴族が一斉に慶次を見る。ジヤンが慌てて慶次の口を塞ごうとする。

が、アルチュールは可笑しそうに笑いを噛み殺している。
「いやいや慶次殿、失礼ですぞ。 ……小猿にはまだ愛嬌がある」
ジヤンが阿呆のように口を空けてアルチュールを見た。
追放されたとは言え彼は、名門貴族である。しかも元は、シャルルの側近だった男だ。

「全くその通りですな。猿にあったら謝らねばなりますまい」
慶次とアルチュールは声を合わせて大声で笑った。周りの貴族は凍り付いている。
168聖少女風流記:2006/11/21(火) 23:27:41 ID:HlAmrL6D0
アルチュールが少し真顔に戻る。
「聖女殿は、どうされた?」
慶次はやんわりと応えた。
「ジル・ドレ殿と共に、今後の道のりを決める為に別室へ」

アルチュールは少し黙り込んだ。意を決し、慶次に問う。
「変わられたのではないか、ジャンヌ殿は。オルレアンの解放の翌日から。
 ……貴殿と、少し距離を取っているように思えるが」
「そんな事は…ないさ」
慶次は微笑んで返した。が、アルチュールの言った事は慶次が誰よりも感じている。
「フム。無粋だったな。そなたは、聖女をただの女として見ているのだった。
 人の色恋に口を挟むと、その内に馬に蹴られるな」

アルチュールがおどける。彼なりの気遣いだろう。少し難しい顔になり、彼は言った。
「ラ・トレモイユにはあったか、慶次殿」
「ああ。あの醜く太った男か。覚えているよ。虫唾の走る笑い方の男だな」
慶次は男の風貌を思い出す。
ブクブクと太った体に短い手足。柔和な笑顔を絶やさないが、目は酷薄なまでに冷たい。
「見た目で油断するな。権力に執着する化け物だ。俺が追放されたのもあの男だ。
王太子は所詮、あの男と皇后の傀儡に過ぎん。 ……手強いぞ、呂布と違う意味で」
169聖少女風流記:2006/11/21(火) 23:33:05 ID:HlAmrL6D0
アルチュールの不安は当たっている。
ラ・トレモイユは、日に日に賞賛の声が上がるジャンヌに脅威を感じている。
あの小娘に、いつ自分の権力の座が脅かされないか、と。
権力に執着する男の動きは速い。 ……彼は既に、ジャンヌ転落の為の手を打っていた。

そしてそれが、ジャンヌ・ダルクの悲劇の引き金となる。

「ご助言かたじけなく存ずる。ですが心配ご無用。 ……ジャンヌ殿は、俺が必ず護る」
アルチュールはそれを聞いて安心したように立ち去った。
が、慶次の胸の内には漠然とした不安が残る。

変わり始めたジャンヌ。動き始めた大きな歯車。権力に執着する化け物たち。


ジャンヌはその日、眠れなかった。
求めても求めても、聞こえないからだ。ハッキリと聞こえていた、神の声が。

(どうしてですか、神様? 啓示通り、オルレアンを解放したのに。
もうすぐ、シャルル様だって王になるのに。どうして、応えてくれないのですか)

自分がいけないのだろうか。
自分の心の中に、神よりも、信仰よりも大切なものが生まれている。
天にいる父よりもずっと信じられるものが、すぐ隣に存在している。

(……慶次さんを愛する事が、いけないのでしょうか?)
気付いている。慶次を欲しがっていたあの夜。
自分は処女ではなくなってしまったという事を。肉体的にではなく、精神的に。

神と慶次の間で揺れるジャンヌに、天の声は届かない。
170シャア専用ハイデッカ:2006/11/21(火) 23:35:33 ID:HlAmrL6D0
ここから先は落書きである。勝手に読むんじゃねえ。


俺は以前、女よりも綺麗なチ○コ付きの美少女とそういう関係になってしまったのだが、
まあ、150人位経験した中で(プロ含む)、男とはその一回だけである。

20歳位の時はそこそこイケメンだった自分と(今は10`位太ったのでアレだが)
美人女子高生(ただしチ○コ付き)の激しくも儚い恋物語と思っているのだが、
酔って他の人に話すと引かれる。あまつさえホモとか言い出す奴もいる。

まあ、やったのは確かである。相手のチンコも咥えました。しかもちょっと呑みました。
だってお肌スベスベで、無駄毛も無くてほっそりしててすっごい綺麗だったんだもん。
胸が無くてその代わりにチンコがあるだけじゃないか!
あくまで美少女と恋をしてるという感覚だったんだが、凡人には理解されないらしい。

が、夢は必ず醒める時が来る。
いろんな矛盾も彼女?のあまりの可愛さに吹き飛んで居たんだが、
あるラブホの一室で、いつもの甘えた口調で彼女は呟いた。夢から醒める魔法の呪文を。

「ねえ、今日はボクが○○クンに入れて、いい?」
……どんなに可愛くとも、すいませんその最後の一線だけは越えられませんでした。

故に俺はホモじゃない。ただ、美しいものが好きなだけだ。
まあ、その一言で急速に醒めて行って別れた訳だが。

何が言いたいかっつうと、俺もジャンヌダルクもまだ汚れを知らない処女って事だね。


だから読むなっつっただろうが!!!!
バキスレ30万ヒット記念に、過去の恋の話を書いてみました。
イズレ『リアル・指先ミルクティ』としてSS化するやも。
171作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 00:25:05 ID:BvAz9orz0
この人、SSは素晴らしいんだけどな・・
172作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 00:27:31 ID:2CTVKQzj0
飛びっぷりがぎこちないのがかつてのトンだ人々との違いだな
内容はともかく一種のリップサービスで
エンターテインメントに貢献しようとする姿勢だけ買う
173強さがものをいう世界:2006/11/22(水) 01:21:55 ID:4NlwWf/F0
 地球は変革を遂げた。金よりも家柄よりもなによりも、強さこそが尊ばれる社会。この
革命がたったひとりの少年によって引き起こされたという事実を、知る者はいない。
 すっかり眠りこけていたのび太が、友の声で布団から身を起こす。
「おはよう、のび太君」
「ドラえもん! なんでもっと早く起こしてくれないんだよ、遅刻しちゃうじゃないか!」
 大急ぎでパジャマから着替え、のび太はランドセルに持ち上げようとする。
「うっ!」
 ゴキン、という音とともに肩の骨が抜けかけた。
「あぁ、やった」
「いたたたた……! な、なんでランドセルがこんなに……」
「のび太君、忘れたの? ここは君が生み出した世界じゃないか」
 痛めた肩を押さえながら、ようやくのび太は思い出した。
「あっ、そうか! すっかり忘れてたよ」
「ぼくもさっき持ったけど、ランドセルは五十キロくらいあるよ。仕方ないから、学校に
は手ぶらで行こう。あと心配だから、ぼくもついて行くよ」
「ありがとう、ドラえもん」
 グルメテーブルかけで普通の朝食を取り、玄関を出る二人。
「そういえば家にいなかったけど、パパとママは?」
「朝っぱらから庭で組み手して、パパは会社、ママはバーゲンに行ったよ」
「そ、そう……」
 昨晩食卓に座っていた変わり果てた両親が目に浮かぶ。のび太は残すところ半日余りを
本当に生き残れるのか、少し不安になった。

 案の定、異変はご近所にも蔓延していた。
 道路には自動車はなく、代わりに車以上の速度と機敏性をもって人々が駆け回っている。
びゅんびゅんと人影が動く住宅街を、のび太たちはおそるおそる進んでいく。
 また、至るところで血で血を洗う果し合いが演じられていた。
 サラリーマン 対 大工。
 中学生 対 老人。
 八百屋 対 バンドマン。
 野良犬 対 女子高生 
 主婦 対 本屋
174強さがものをいう世界:2006/11/22(水) 01:22:45 ID:4NlwWf/F0
 理由などない。各々が力を誇示するため、己が全存在をぶつけ合っている。
 むろん、だれもが並みの肉体ではない。たった一発のアッパーで人が電柱より高く打ち
上げられ、打ち上げられた方はぴんぴんして反撃に転じる。
 こんな危険地帯にドラえもんとのび太が付き合えるはずもない。二人は進退を繰り返し
て登校するしかなかった。
 どうにかやって来れた家と学校との中間地点。ここでドラえもんはある決断を下す。
「巻き込まれたら命はない。こうなったら、チータローションで学校まで一気に駆け抜け
るんだ!」
「あのさ、どこでもドア使わない?」
「あっ、そうか」
 こうしてどこでもドアの力により、のび太たちは難なく学校にたどり着いた。

 午前八時二十五分。
 ホームルーム前、のび太のクラスで主役になっていたのはなんと──。
「あ、あばら谷君!」
 あばら谷一郎であった。
 机が四方に押しやられ、がらんとした教室。彼はその中心に立ち、対戦者を募っていた。
「さァ、次はだれが来る?」
 昨日までは貧しい家庭に育った、ごく平凡な少年だった。だが、今の彼は著しい闘争心
を宿す一流ファイターだ。現に、足もとには彼に倒されたクラスメイトが三人も転がって
いる。
 シャドーボクシングをしながら、周囲を挑発するあばら谷。
「どうしたんだい、みんな。ぼくのボクシングに恐れをなしてしまったかな?」
 のび太たちの耳に、あるクラスメイトの会話が聞こえる。
「ざけやがって、所詮ボクシングは手技しかない不完全な格技だ。次は俺がやってやる!」
「よせよせ。あいつのは純粋なボクシングじゃなく、貧乏生活で培ったブースボクシング
だ。えげつない技ばかり使うから、たとえ勝っても怪我は免れないぜ」
「ちっ……一時間目には千年杉からの飛び降りもあるしな。今怪我してもつまらんか」
 もう挑戦者は現れそうにない。切り上げようとするあばら谷だったが、そこへ名乗りを
上げる男があった。
「仕方ないなぁ、ぼくが相手してやるよ」
 ボクサーあばら谷の前に立ったのは、骨川スネ夫。
175強さがものをいう世界:2006/11/22(水) 01:24:22 ID:4NlwWf/F0
 互いにハリネズミの如く、針のような殺気を放射する。
 のび太未満の体格しか持たなかったスネ夫も、ルール変更に従ってぶ厚い筋肉を鎧とし
ている。ただし、身長だけはなぜか変わっていない。
 あばら谷がふっと笑う。この世界においても貨幣経済は健在だが、いくら金を持ってい
ても羨望の対象にはまったくならない。その逆もしかり。なので、彼には金持ちに対する
卑屈さは欠片もない。
「君みたいな坊っちゃんがぼくと戦うなんて、いいのかい? ぼくは無敗ではないが、対
戦相手を無事に済ませたことはないよ」
「構わないよ。むしろ、それくらいの方が試しがいがある」
「試すだと? ──後悔するなよッ!」
 のび太、ドラえもんを含む十数名がギャラリーを務める中、両雄が構えた。
 まず、あばら谷が動く。
 スネ夫の鼻先に、軽くジャブが触れる。これは攻撃ではなく、合図。ジャブで体内のリ
ズムを整えたあばら谷が、息もつかせぬ猛連打に出た。
 対するスネ夫も巧みに間合いを操作し、なかなか決定打を許さない。少なくとも、猛攻
に伴うスタミナ消費に見合ったダメージは与えられていない。
 だが、あばら谷の狙いは別にあった。
「そろそろかな」パンチだけを打つはずだった拳から、にゅっと親指が飛び出した。「こ
れがブースボクシングだッ!」
 スネ夫の目蓋に親指が引っかかる。
「親指を、目の中に突っ込んで、殴り抜け──」
 巨大な手が、ガシッとあばら谷の手首を捕えた。
「るッ?!」
「ふぅ……どんな技が出るかと期待したけど、大した工夫もないサミングか。ま、君みた
いな貧民にはお似合いな技だね」
 親指を目に入れてから、殴り抜ける間に生じるコンマ単位のタイムラグ。スネ夫ほどの
達人ならば、十分に隙だらけと評することのできる致命的な空白だった。
 次の瞬間、あばら谷は胸に深手を負った。素手ではなく、武器によるもの。
「グアッ! き、凶器……ッ?!」
「バグ・ナク……直訳すると“虎の爪”。ぼくのパパにはインド人暗殺者の友だちがいて
ね。昨日、パパから古いのを分けてもらったんだ」
 右手に仕込んだ暗器をさらりと自慢すると、スネ夫はハイキックで勝敗を決した。
176強さがものをいう世界:2006/11/22(水) 01:25:01 ID:4NlwWf/F0
「あばら谷君! スネ夫、なんてことを!」
 持ち前の正義感から、ついつい倒れた友人に駆け寄ってしまうのび太。これは、スネ夫
にしてみれば果たし状を渡されるに等しい行為だった。
「よう、のび太。次はおまえがぼくの相手をしてくれるのか」
「ス、スネ夫……!」
「おまえにはドラえもんがついてるんだったな。じゃ、こんなオモチャじゃ失礼だよな」
 スネ夫はバグ・ナクを、惜しげもなく黒板の横にあるゴミ箱に投げ入れた。
「ぼくのパパには刀匠の友だちがいてね。昨日、新作をもらったんだ。一人用だからおま
えには貸さないけど、ぜひ切れ味を試したい……!」
 どこからか取り出した日本刀に、舌をなすりつけるスネ夫。もはや、彼はのび太の知っ
ている腰巾着ではない。
「遊んでもらうよ」
 上段に刀を構え、スネ夫が踏み込む。ドラえもんも道具を取り出そうとするが、わずか
に間に合わない。振り下ろされる白刃。
「うっ、うわ──!」
 刹那、風が吹いた。風はスネ夫の手から日本刀を消し、のび太を救った。こんな神技を
できる者といえば、このクラスでも彼一人しかいない──出木杉英才である。
 相変わらずの二枚目だが、体つきはボディビルダーさながらだ。
「──出木杉ッ! なんのつもりだッ!」
「骨川君、刃物はよくない。学校内での闘争は徒手が原則だよ」
「ふん、下らないフェア精神で勝利を遠ざけるのがお好きか」
「フェア精神? 勝利を遠ざける? なにをいってるんだね、君は」
 出木杉は奪い取った日本刀を横に持つと、腕を上下にすばやく動かした。すると、なん
とこれだけの動作で丈夫な刀身が波打つように折れ曲がってしまった。のび太とドラえも
んはもちろん、原住民であるスネ夫までもが驚いている。
「グニャグニャだァ……」
「ヒッ!」
「骨川君、ぼくが素手にこだわるのはもっとも信頼できるからさ。これからは素手の時代
だ。今後、人類は進化を続け、近い将来核兵器にさえ耐えうる肉体を手に入れるだろう」
 そういうと、出木杉はスクラップと成り果てた刀を持ち主に投げ渡した。
 刀とともに心を折られたボンボンはその場に泣き崩れた。
「ヒィッ! ヒイイィィィィッ!」
177サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/22(水) 01:29:57 ID:4NlwWf/F0
>>119の続き。
次回へ続く。

当初は前後編で終わらせるはずだったのですが、ちょっと終われませんでした。
あばら谷君は一話だけ登場した貧乏少年です。
178作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 01:46:01 ID:BvAz9orz0
シュールな世界だなーw
あばら谷君とかぜんぜん知らんw
179作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 01:48:09 ID:2CTVKQzj0
サナダ氏は凝縮させてナンボだな
180作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 10:31:34 ID:bsp8BPNd0
>ハイデッカさん
史実に照らしあわすと、やはり最後の悲劇は避けられないのかな。
どんどん悲しい方向に流れていっているし。
権力の引き合いは信長より恐ろしいね。

>サナダムシさん
やはり出木杉英才は最強だったか。
たとえ元の世界でも、武の道を志していればギャイアンより強いだろうから・・
スネ夫はどこでもへたれだw
181作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 14:33:36 ID:eNAV8d2/0
細かいようだが、ラ・トレモイユではなくて
ラ・トレモ「ワ」イユだったと思う。
プロローグ
新西暦と呼ばれる時代・・・
人類は交互に訪れる平和と戦争に飽き飽きしていた。
恒久的な平和を理想とする連邦政府が樹立され世界はひとまずの平和を得たかに見えた。
だが恐竜帝国、ネオジオン軍、邪魔大王国を筆頭に様々な組織や勢力が出現し地球圏は再度混乱に陥った。
人類はこれに対しゲッターチーム、連邦軍、ビルドベース隊を結成し対抗していた。
そんな中、外宇宙から来た存在“バルマー”と名乗る組織が出現。
未知のテクノロジーの前に地球人類は苦戦を強いられていた・・・。
これはそんな中、懸命に生き抜いた若者達の物語である。
第一話 遭遇
初夏。それは非常に暑い日だった。
蝉が鳴き、日差しがきつい。
誰もが軽装で歩き汗をかいている。
道端を1人の男が歩いていた。
彼の名はカツ=コバヤシ。
エゥーゴという組織に入っている男だ。
彼は今新しい任務先に向かっている所だった。
ジオンの残党がいると思わしき場所の偵察が任務である。
楽な任務と言えば楽な任務である。
敵に発見されなければOKだ。
それにここいらにある組織も協力してくれるらしい。
待ち合わせの場所に向かって歩いて数分、古ぼけたアパートが見えてきた。
どうやらここらしい。
角を曲がって彼の目に見えてきた物は連邦軍の制服を着た女性だった。
否、厳密に言うと違った。
タンクトップの様な軍服に白いスリット入りのタイトスカート。
思わず見とれてしまう脚線美。
それに加えて風が吹いた。
スカートがめくれ上がり女は慌てて手でスカートを押さえた。
前からは見えなかったが横からは下着が見えた。
カツは慌てて顔を背けて股間が膨らみそうなのをこらえた。
そそくさとその場を歩き去りカツは待ち合わせ場所のドアの前に立った。
「どーも。」
コツコツとドアを叩く。
「合言葉は?」
「ビルドアップ!」
カツが合言葉を言うと同時にドアが開いた。
「どうも。私の名はポイズンアイビー。あなたは?」
ドアを開けた女が言った。
「俺の名はカツ=コバヤシ。よろしく。」
「よろしく。」
ピロロロ。
不意にカツの持っているケータイが鳴った。
「ちょっと待ってくださいね。はいカツです。」
「ああカツ君か。君の任務は偵察および相手の組織の殲滅に変更だ。よろしく頼む。」
「ハイ了解です。」
ブチッと電話が切れた。
「それでは任務の話に移りましょうか・・・んッ?」
カツは部屋中に満ちた甘い臭いに気付いた。
体が温まり頭が蕩けそうになっていく。
目の前がぼやけて股間が固くなる。
それが媚薬だという事に気付かない程カツの理性は蕩けていた。
体の力が抜けてカツは尻餅をついた。
ポイズンアイビーがカツの顔を抱えて耳にふっと息を吹きかけた。
「ねぇカツ君・・・エゥーゴの情報をお姉さんに教えてくれないかなぁ?」
アイビーがカツの股間を手で揉みシゴきながら尋ねた。
「うう・・・仲間を売るワケには・・。」
「仲間?協力相手でしょう?どうしてそれが裏切る事になるの?」
「協力相手ならこんな事はしない筈ッ!お前はネオジオンのスパイだな!?」
「うふふ・・・違うわぁ。私はれっきとした協力相手。君男の子だから色々負担して貰う事になるのよね。」
アイビーはそう言うとカツの唇にキスをした。
甘い味がカツの口内に広がっていく。
「んっ…んんんッ・・・ああッ・・・あうッ!」
アイビーの唾液がカツの体内に入り思考を鈍らせ性欲を膨らませていく。
今やカツの理性は蕩け彼は本能に従うままの獣になっていた。
「カツクゥン、エゥーゴで一番強い人は誰なのぉ?♪」
アイビーが猫なで声でカツに質問した。
カツは嬉しそうにアイビーの太腿を擽っている。
「もうちょっと触らせてくれたら教えてあげるよ。」
カツは涎を垂らしながらいやらしい笑みを浮かべている。
完全にアイビーのカラダの虜になっている。
「じゃあ私の胸を揉ませてア・ゲ・ル♪」
その言葉を聞くとカツはアイビーにむしゃぶりついた。
「あん!あう!そんなに強くもまないでぇ!」
いやらしい手付きでカツはアイビーの胸を揉んだ。
「エゥーゴで一番強い人はアムロ=レイ とクワトロ=バジーナ。」
「そう・・・今度仕事をする時はその人達も一緒だといいわね。なんせ敵は手ごわいわよ。ティターンズの残党も混じってるからね。」
「それだけの為にこんな事をしたの?」
「ううん。あなたに戦場で護って貰う為よ。私1人じゃ心細いもの。人間いつ死ぬかわからないんだから前払いよ。ンフフ。」
カツは度肝を抜かれた。意識は朦朧としていたにも関わらずこの女の度胸と手段に。
単にカラダを売るワケではない。こちらが払うのは労力だ。褒美が先払いとは…。
「ねえ・・・任務が終わったらさ・・・ベッド・・・」
カツが顔を真っ赤にしながら聞いた。女を口説くにももっとマシな言葉があるだろうにと自分で思っていた。
「う〜ん、あなたがそれなりの仕事をしたら、の話ね。」
「マジ!?うん やるよ!」
カツはのっそりとカラダを起すと嬉しそうな声を挙げた。
だがカツはこの時まだワカっていなかった。
自分のする任務がどれ程ハードなのか、そして命の保障など無いという事に・・・。
後書き
初めまして。板違いと思われる様な作品を描いてしまってすみません。
今後直接なエロスはあまり描く予定はありません。
あったとしてもじゃれ合う程度です。
一応全5話予定です。

人物紹介
カツ=コバヤシ(出典 機動戦士Zガンダム)民間組織 エゥーゴの一員。小柄であまり取り柄は無い。
ポイズンアイビー(出典 バットマン)元科学者でテロリスト。フェロモンを体内で発生させる事が出来、キスで他人を
操る。主な武装植物のツタ。自分が改造した巨大植物も使う。
187作者の都合により名無しです:2006/11/22(水) 23:27:37 ID:fzIBx44N0
>ハイデッカさん
相変わらずSSの方は知的ですね。後書きがアレですがw
歴史上のジャンヌも権力争いに巻き込まれて最後は悲劇になったけど
このSSでもやはりそうなるのでしょうか?慶次に運命を変えてほしいな。

>サナダムシさん
出来杉くんに勇次郎かオリバの匂いを感じるなw
あばら谷君ってキャラは知らないけど、ディオのようなしたたかさだw
まだジャイアンが出てないけど、ラスボスかな?

>新人さん
まずは初投稿お疲れ様です。完結目指して頑張って下さい。
Zガンダムからの出展ですか。あまり知らないけど、有名なんだろうなあ
いきなりのエロスで話がどう動くか分からないけど、期待してます。
188作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 00:45:22 ID:nCh9pBB00
いきなりのエロはちょっと脈絡無いような気もするがw
期待してますので頑張って下さい。
189作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 01:14:06 ID:CiDlzsfO0
ポケットの中の戦争ということは、いずれドラえもんも絡んでくるのかな?
まあエロはほどほどにがんばってください
190サマサ ◆2NA38J2XJM :2006/11/23(木) 01:25:17 ID:XGu9K2B70
とりあえず、30万のお祝いを一言申し上げさせていただきます。
SSについては少々難航してますが、近日中に続きを投下する予定ですので悪しからず。
191作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 01:31:59 ID:CiDlzsfO0
がんばれサマサさん
ラストスパートだからゆっくり練り上げてください
192作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 10:43:59 ID:ktYxJZLp0
30万ヒットおめでとう。でもバレさん大丈夫かな・・
サマサさん、焦らずに頑張って下さい。

新人さんも5話完結とは言わず、長編になるように頑張って下さい
193強さがものをいう世界:2006/11/23(木) 18:01:50 ID:4KRLHmXs0
 混乱しながらも、とにかく命を助けられたのび太は礼をいう。
「あ、ありがとう出木杉……助かったよ」
「いや、礼には及ばないよ」
「やっぱりこっちの世界でも君はすごいな。このクラスじゃ一番強いんでしょ?」
「………」
 この質問を浴びせた途端、出木杉の気配が変わった。迫力が増した。
「残念ながらぼくはナンバーワンじゃない。巨凶、剛田の血……。曰く、ガキ大将。曰く、
歩く公害。学校最強の生物“ジャイアン”こと、剛田武がまちがいなくナンバーワンだろ
う」
 のび太ははっとした。強さの価値が跳ね上がって、あの男が得をしないはずがない。今
朝から非常識を休みなしに叩きつけられてきたので、彼の存在がすっかり抜け落ちていた。
「でも……今日はいないみたいだけど、休み?」
「もうすぐ来るさ」
「え、なんで分かるの?」
「地を踏みしめる足音、拳に染みついた血の臭い──そしてなにより肉体から発せられる
凶悪なまでの覇気。全てが彼を示している!」
 ファイターのみが持ちえる感覚で、出木杉はジャイアンがまもなく登校してくることを
知っていた。
 出木杉に遅れて察知したらしく、皆もざわつき始める。
 突如、窓ガラスが砕けた。
 それと同時に、教室に侵入する巨漢。

 ──剛田武、降臨。

 ずん、と空気が重くなる。
 前の世界でもしばしばゴリラと形容されていた彼だが、この世界ではどうしようもない
ほどにゴリラだった。にもかかわらず、二階にある教室にジャンプして入ってきたように、
瞬発力は抜群だ。
 とてつもない威圧感。クラスは凍りつき、あれだけ強い出木杉も面差しを固くする。の
び太とドラえもんに至っては、かろうじて気を失わずに済んでいるという始末。
「ど、ど、ど、どうしようドラえもん」
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくにいわれても……」
194強さがものをいう世界:2006/11/23(木) 18:02:51 ID:4KRLHmXs0
 ジャイアンに目をつけられぬよう、二人はそっと背を屈めた。だが、かえって彼の注目
を呼んでしまう。
「おはよう、のび太。お、ドラえもんも来てんのか」
「お、おはよう、ジャイアン」
「さっそくだが……買ったばかりのバットの殴り具合を試させろッ!」
 どういう仕組みなのか、背中から金属バットを抜き取るジャイアン。目にはとても数セ
ンチの球体には収まりきらぬほどの殺気が宿っている。
 だが、今度はドラえもんの対応が一歩早かった。
「空気砲〜! ──ドカンッ!」
 空気の弾丸は一直線にジャイアンに向かい、みごと命中した。
「ド、ドラえもん!?」
「先手必勝だよ。もう学校はいいから、どこでもドアで家に帰ろう。あとは夜まで部屋で
じっと待つんだ」
 教室から逃げようと、のび太の手をひっぱるドラえもん。ところが予想に反してジャイ
アンは無傷で笑っていた。
「空気砲じゃ私を獲れんよ。残念ながら、ね」
 ダメージはないとはいえ、抵抗されたことには変わりない。それも不意打ち。みるみる
うちに、ジャイアンの顔が赤々と染まっていく。とばっちりを受け、握り潰されるバット。
「やってくれたな。二人まとめて、メタメタのギタギタにしてくれるわッ!」
 圧力をさらに増幅させるジャイアン。もう二人は声ひとつ出せない。声が出せないとい
うことは、空気砲は撃てない。すなわち、絶体絶命。
 ガキ大将、突進。
 ジャイアンの異名に相応しい巨大な拳が迫る。
 のび太もドラえもんも本能的に死を覚悟した。──だが。
 拳は掌によって阻まれた。パンチを受け止めてくれたのは、出木杉であった。
「くっ……すごいパンチだ……!」
「ドガア! おまえも俺に歯向かうか、出木杉ッ!」
 またも出木杉に助けられた。仮に出木杉が元々ジャイアンに挑む予定であったとしても、
今のタイミングは決してベストとはいえない。のび太が問う。
「出木杉っ! ど、どうして……?」
「さっき君は“こっちの世界”といったよね。あれでピンときたんだ。君たちはドラえも
ん君の力で、もっと平和な世界からこっちに来てしまった。……ちがうかい?」
195強さがものをいう世界:2006/11/23(木) 18:03:39 ID:4KRLHmXs0
 驚くことに、さしてドラえもんと交流がなかった出木杉が、二人の境遇をほぼ完璧に読
み取っていた。
「すごい、当たってる……」
「分かるさ。どう考えても、君の肉体はこの世界で十年間を過ごしたものじゃない──」
 名推理はジャイアンのボディブローで中断される。
「──ぐえぇッ!」
「なにをゴチャゴチャいってやがる!」
 吐しゃ物をまき散らしながら、出木杉は二人を促した。
「……行くんだ! 剛田君はぼくがなんとかするッ!」
「う、うん!」
 命を拾い、教室を飛び出すのび太とドラえもん。ジャイアンも追わない。
「俺にさえ逆らわなければナンバーツーとして天下を満喫できたのにな……。失敗したな、
出木杉」
「あいにく、ぼくは一番じゃないと気が済まない性分でね。……それに」
「それに?」
「これは予感だけど、今日ナンバーワンは君でなくなるような気がする」
「……面白ぇ」
 するとジャイアンは両拳を腰に据え、全身を硬直させた。
「さっきの分だ。まずは一発ぶち込んできやがれッ!」
 王者としての誇りか、あえて初弾を受けると宣言するジャイアン。もっとも、完全に防
御に回った彼にダメージを通せる者など小学生ではまずいない。出木杉は技巧や戦術には
秀でているが、打撃力に関しては特筆すべきものは持たぬはず。
「じゃあ、甘えさせてもらおうかな」
 出木杉は軽いステップから、一気に加速した。勢いを利用して拳を打ち込む算段だ。
「ハァッ!」
 鋼鉄の腹筋に、お手本のようなまっすぐなストレートが突き刺さった。だれもが「効い
ていない」と直感した。ところがジャイアンは、
「ごっ?! ……ガッハァッ!」
 と、胃液を吐き散らし、よろめく。どよめきがクラス中に広がる。
 これにて貸し借りなし。出木杉は当然のように追撃に出る。どれもこれも平凡なパンチ
のはずが、どれもこれもが効いている。
「これがぼくの研究成果さ。どうだい、効くだろう?」
196強さがものをいう世界:2006/11/23(木) 18:05:03 ID:4KRLHmXs0
 たまらず、逃げるように間合いを空けるジャイアン。
「てめぇ、出木杉……! ど、どんな技をッ……!」
 出木杉はこの問いには答えず、近くにあった机に黙って拳を落とす。そして拳が触れた
瞬間、机は粉末と化した。
 このパフォーマンスに、野次馬たちも大穴だった出木杉に傾く。
「スッゲェッ!」
「あんなこと、ジャイアンでもできねぇぞッ!」
「天才だッ!」
 粉になった机を手ですくい上げ、出木杉が誇らしげに語る。
「これが、ぼくが半年をかけて編み出した破壊の極意“二重の極み”だ」
「ふたえ……きわみ……?」
「これは物理学の基礎だけど、どんな物質にも必ず抵抗というものが存在する。そして抵
抗がある限り、どんな攻撃も技が持つ百パーセントの威力を与えることはできない」
 いつの間にか、皆が彼のレクチャーに聞き入っていた。
「でも研究によって、拳を刹那の拍子で二度ぶつけることによって、二撃目は抵抗を受け
ずに対象に伝わることが明らかになった。……あとは練習あるのみだったよ」
 すくった粉をさらさらと床に落とす。
「そしてついに、昨晩──二重の極みは完成した。悪いけど剛田君、沈んでもらうよ」
 レクチャー終了。出木杉が駆ける。
 ジャイアンも拳にだけは当たるまいとするが、悪あがきに過ぎない。
「残念。さっきは拳といったけど、別に拳でなくとも二重の極みはできる」
 左ハイ炸裂。やはり、衝撃は一片たりとも削がれていない。こうなればもう、ジャイア
ンに打つ手はない。ただ打たれるのみ。
 陥落しゆく王座というシチュエーションに何らかの快感を覚えたのか、狂喜するクラス
メイト。
「出木杉の勝ちだッ!」
「ワッショイッ! ワッショイッ!」
「とうとう世代交代かッ?!」
 どう戦況を判断しても、もう逆転はない。出木杉でさえ上手く立ち回れたことに内心安
堵していた。
 だが、不運にも彼は知らなかった。
 剛田武をガキ大将にまで押し上げた、あの絶技を──。
197サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/23(木) 18:10:29 ID:4KRLHmXs0
>>176の続き。

ヤイサホーッ!
まとめサイト30万ヒットおめでとうございます。
噛み締めれば噛み締めるほど、とてつもない数ですね。
198作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 19:04:58 ID:O4wN5JLH0
ここでシチューがくるか!?
乙です
199作者の都合により名無しです:2006/11/23(木) 23:21:53 ID:ktYxJZLp0
やたら出来杉がかっこいいな
あの、めちゃくちゃな論理の二重の極みがここで炸裂したかw
200作者の都合により名無しです:2006/11/24(金) 10:01:18 ID:1fpMSy0C0
ヤイサホー!
ジャイアン最強でしたか。出木杉が一番強いと思ったんだけどな。
確か原作で1回きりのキャラでジャイアンと殴り合いして
勝ったキャラみたいなのがいたが、まあ出ないでしょうねw
201ふら〜り:2006/11/24(金) 20:27:38 ID:+O6tly0b0
>>さいさん
猛毒をもって劇薬を制す、か。一般人の立場からすると、バケモノ同士が共食いするのは
協力し合うよりマシっちゃマシですけど。殺戮も戦闘も豪快過ぎて、グロいけど陰惨に感じ
ないのが独特の風味。その頂点たる神父が主役……血みどろロード、どこまでイくやら?

>>ハイデッカさん
凄いなぁシャルル。臆病者だと思われることなど全く恐れぬ、自己保身の心。庶民出身の
女の子が前線で活躍している状況下、対抗心などカケラも出さぬ強い意志。……確かに
胸糞悪い。が戦闘力だけではどうにもならぬものもあるが現実。朱槍一つで護りきれるか。

>>サナダムシさん
バキとドラ。こんなに噛み合う相手だったとは……特にドラ側が楽しいです。「ドガァ」とか、
確かにありましたね。こういった状況下でジャイアンが出せる奥の手と言えば、やはり歌声
か。でも本人が武器として認識しているかどうか。いや、この世界ならアリか? はてさて。

>>スパロボさん(おいでませ。書いている内に六話七話が浮かんでくるかも、ですぞ)
知識の偏ってる私のこと、元ネタは存じませぬ。が、媚薬を飲ませるとか催眠術をかける
とかではなく、フェロモンを自分で生成するって何だか面白い。つーかエロい。でラスト三行
を見る限り、結構明るいバトルコメディになりそな感じもしてますが。続き、待ってますよっ。
202『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 11:54:35 ID:awSFn4Wy0
          第一話 <必然のデアイ>


爆発。そして轟音が、学園の一角を包んだ。
その爆炎の中から、きていた黒いマントをぼろぼろにした金髪の少女と、ところど
ころを損傷した、ロボット少女が飛び出る。
ロボット少女……茶々丸が、事務的な声で、金髪の少女……エヴァンジェ
リンに言う。
「すいません、マスター。駆動系をやられました。どうやら、戦闘行動をとる事は
難しいようです。」
エヴァが、思わず叫んだ。
「くそっ、一体なんだというのだ!」
突如現れた、謎の敵。紅い髪の毛、そして紅い瞳の、一切感情を感じることが
できない、青年。
そして、その力に、先ほどから翻弄され続けている。
ふと、壁のように立ち込める爆炎に、トンネルのような穴が開いた。そして、そこ
から長身のほっそりとした、紅い髪と瞳の青年が現れる。
彼は、エヴァと茶々丸のすぐ前まで歩いてくると、かなり無愛想な声で言った。
「……悪いが、一緒にきてもらうぞ。真祖の吸血鬼、『闇の福音』エヴァンジ
ェリン・A・K・マクダウェル。」
無論、言われた通りに従うエヴァではない。
「ふざけるなよ!『リク・ラク・ララック・ライラック!氷の精霊29頭!集いきたり
て敵を討て!魔法の射手、氷の29矢』!!」
すぐさま魔法の氷の矢を精製、すぐさま青年に打ち込んだ。のだが……
「ふん、こんなものか。」
「な……なんだと……」
それらはすべて、彼に当たる前に、蒸発して消え去る。
203『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 11:58:48 ID:awSFn4Wy0
その現象、そして今までの戦況から、エヴァはすぐさま判断した。もう、自分だ
けではどうしようもない。そして、傍らに立つすでにぼろぼろの自分の従者に、
言った。
「茶々丸。」
「なんですか、マスター?」
「おそらく坊ややタカミチ、学園長のジジイも、このことに気づいているだろう。私
がここは食い止めるから、奴らに伝えろ。『侵入者はかなり手ごわい』……
とな。」
「しかし、マスター……」
「いいから、早くしろ!」
躊躇する茶々丸を、エヴァは大声でどなった。
茶々丸は一瞬躊躇したもの、すぐに決心して、言った。
「わかりました、マスター。」
そして、背中のジェットをフル稼働させ、宙に浮く。飛行機が飛び立つ瞬間の
ようなよく響く音が、あたりに火とがっていく。
「マスター……お気をつけて。」
「ふん……私を、誰だと思っている?」
自分の従者の気遣いの言葉に、エヴァは振り向いて笑って見せた。
「私は、『闇の福音』、エヴァンジェリンだぞ。そう簡単にくたばってたまるか。」




204『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 12:07:02 ID:awSFn4Wy0
「ターゲットと接触して、んで保護したみてえだな。なのちゃん。」
まるでアニメの機動戦艦を思わせるような部屋で、一人の女性が、椅子の上
で胡坐をかいて座っている。
175センチと、女性にしては背は高い。黒い髪は肩までの長さに切りそろえら
れており、身体には青いスーツを纏っている。
そんな彼女の言葉に答えるのは、傍らに立つ背の高い青年だった。
「ふむ、どうやらそのようだ。」
知的な雰囲気を漂わせる端正な顔立ち。髪の毛はまるで夜の闇のように黒
く、190センチ近くありそうな、巨大な、しかし細い身体には漆黒のスーツを
纏っている。
「ん〜、どんな娘(こ)かな、あのクロウリードの後継者ってよ?」
「………さあな。」
笑みを浮かべながら疑問を述べる女性に青年は無表情で答えた。

青年の名を、紅天元秀一(こうてんもとしゅういち)といい、女性の名を、蒼地
竜刹木(そうちりゅうさつき)といった。

205『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 12:11:49 ID:awSFn4Wy0
『あ、もしもし?』
ピピッ、
という電子音に続いて、一人の少女の声が、この部屋を形成している一部で
もある機械から発せられた。
それに応対するのは、刹木の役目である。秀一は、昔から無口、無愛想なの
で、たいていこういう風に人付き合いをするのは、彼女なのだ。
「はいはい、こちら時空管理局万能戦闘母艦弐番艦“ハガネ”です……ああ、
なのちゃんか〜」
『はい。……ターゲットの保護に成功しました。いまからそちらに向かいます。あ
と五分くらいでつくと思うんで……』
「はいはい、わかったよ〜、んじゃ気をつけてね〜」
と、満面の笑みを浮かべた刹木がそういい終えると同時に、少女からの通信
は切れた。
それから半秒後、
「ははは、楽しみだな〜、本当にどんな娘なんだろうな〜」
「知らん。」
と、二人は先ほどとほぼ同じやりとりを交わした。


206『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 12:22:04 ID:awSFn4Wy0
「へ、時空犯罪者?」
と、のび太はドラえもんの言葉に対して、抜けた声で返した。
対するドラえもんは、短い腕を組んで、頷いている。
「うん。なんでも、タイムパトロールのタイムマシンが、大量に奪われる事件とか
が起きているらしくて……ほかに、特に目立ってるのは、色んな時代にいる未
来の世界のロボットから、秘密道具を無理やり奪ったりしていることかな。」
「……で、その犯人が、いまこの時代にいるの?」
いつになくのび太が鋭い疑問を口にする。どういうわけか、こういう重大な事件
が起きるときだけは、勘が鋭くなるのだ。
普段もこれならいいのに……と内心思いながら、その思いを外に出すことなく、
ドラえもんはとりあえずその問いに答える。
「そうみたいだね。とりあえず、僕だけじゃなくて、この時代にいる全部のロボット
に、とりあえず警戒するように言ってるみたいだよ。」
「へえ〜……」
と感心したようにつぶやいて、のび太はそのまま寝転がった。そして、その体
勢のまま、ドラえもんに問う。
「じゃあドラえもん、とりあえずいろいろ準備したほうがいいんじゃないの?」
それには、ドラえもんも同意する。というか、最初から考えていたことである。
「そうだね。とりあえず、使えそうな道具を集めようか……」
と言いながら、短い手をポケットの中に突っ込んだ。


207『絶対、大丈夫』:2006/11/25(土) 12:27:39 ID:awSFn4Wy0
さくらと、応急処置を終えた小狼が案内されたのは、実に和風な部屋だった。
床には畳がしかれ、壁には掛け軸がかかっており、さらには部屋の中心には、
ちゃぶ台が「で〜ん」と置かれている。これが、さきほど見た巨大戦艦の内部
だというのだから、さくらも小狼もびっくり仰天である。
先ほどから自分たちを案内していたなのはの話によれば、時空管理局は、さく
らの世界を含んださまざまな世界の過度の干渉を抑えたりするのが仕事らしい
が、その大層な仕事の内容のわりに、この戦艦の内装は、かなり趣味が爆発
しているように思われる。
なのはは、右手で敬礼しながら、ちゃぶ台のところで正座している男と、その隣
に行儀悪く胡坐をかいて座る女性に、事務的な口調で言った。
「高町なのは、ただいま帰還しました。」
「ふむ。ご苦労だったな。」
男はそう答えながら、なのはの隣に立つさくらと小狼を見る。
「お、やっぱ可愛いじゃんか!」
と、隣の女性が言っているのは無視して、男は立ち上がってさくらと小狼のもと
へ歩く。その顔は、完全に無表情である。
「俺は時空管理局提督の、紅天元秀一だ。君たちが木之本桜と、李小狼
だな?」
「あ、はい!」
「……」
秀一の言葉に、さくらは慌てて返事をして、小狼は無言で頷く。どちらにせよ、
190センチ近い身長を持つ秀一の顔を見上げる形にはなっているが。
「とりあえず、立ち話もなんだ。あちらに座るといい。」
と親指でちゃぶ台を指しながら言う秀一に、とりあえずさくらと小狼はしたがっ
た。
208白書 ◆FUFvFSoDeM :2006/11/25(土) 12:53:27 ID:awSFn4Wy0
前回からだいぶ間があきましたが、とりあえず第一話投稿完了です。
紅天元秀一と蒼地竜刹木は、昔からの俺の持ちキャラです。苗字と設定だけ
変えて、ほかはほとんどそのままです。しばらくしたらキャラ設定を書きま
すので。
なお、タイトルはツバサ・クロニクルの第一話からそのまま持ってきました。
いや、アニメ版のツバサ、内容はともかくサブタイトルはかっこいいんです
よね。サブタイトルだけは。
とりあえず、時間がないので今はこれだけで。いつの日にか、また皆様の前
に現れることができることを、夢に見て、それでは、さようなら。
209作者の都合により名無しです:2006/11/25(土) 20:05:04 ID:5NRXSATW0
厨設定てんこもり
210作者の都合により名無しです:2006/11/25(土) 20:26:13 ID:+bXvIvvS0
お疲れ様です。
のび太の世界とは異質な人々との出会いが
これからの冒険を感じさせます。
まだまだお話が広がりそうなので楽しみにしてます!

CCさくらは知らないけど、2ちゃんの板で調べてみようかな
第二十七話「きっぱりNOと言える日本人になろう」

宇宙海賊といえば、まず頭に浮かぶのは『春雨』の一件だ。
宇宙海賊『春雨』。かつて、万事屋銀ちゃんが偶然関わってしまった大集団であり、その規模はそこらの攘夷浪士達とは比較にならない。
何しろ『宇宙』を舞台に悪事を働く連中なのだ。単なる万事屋風情が係わり合いになろうとすること自体、とんだ間違いである。

「宇宙海賊ねぇ……そりゃ宇宙海賊とドンパチやらかした経験はあるが……」
「本当か銀さん!? なら話は早ぇ! 早速、その宇宙海賊共と繋がってるっていう編集長をしょっ引きに行こうぜ!」

冷静に考えて、子猫が虎の群れに放られて無事に済むはずがない。
ヤンキーが度胸試しに極道の門を叩くのとは違うのだ。万事屋銀ちゃんと宇宙海賊では、それくらいどうしようもない戦力差がある。
銀時に依頼を持ってきた西本は、それを理解した上でこんな頼みをしているというのだろうか。
だとしたら、超が付くほどの無謀者である。

「でもなぁ……宇宙海賊なんかと関わって下手に目ぇ付けられるのも嫌だしー。ここは素直に警察とかに頼んどいた方がいいんじゃねーか?」
「警察は……無理です。彼等を動かすには、編集長が宇宙海賊のパトロンをしているという証拠が足りないのです。私の証言だけでは、どうにも……」

ポケットからハンカチを取り出し、額を拭う芝村の表情は、この世の最後でも訪れたかのような困り顔だった。
その顔を見て、頼まれている側の銀時も逆に困ってしまう。
ぶっちゃけると、あんまり厄介ごとには首を突っ込みたくない。
『なんでもやる』と銘打って万事屋をやってはいるが、人にはできることとできないことがある。
冷静に考えて、銀時、新八、神楽のたった四人で宇宙海賊と渡り合うことが、可能だろうか?
「って、無理に決まってんだろうがァァァァァ!!!」

堪えきれず、銀時が発狂するように叫んだ。
まぁ、当然の答えではある。

「そ、そりゃねえだろ銀さん! ジャンプを作ってる集英屋の編集長が、悪事に手を染めてるかもしれねーってんだぜ!?
 ジャンプをこよなく愛してるアンタが、それを放っておいていいってのかよ!?」

だからと言って、そんな逆ギレのような断り方で依頼主が納得できるはずもなし。
自身の願いを理不尽なテンションで拒否された西本は思わず立ち上がり、テーブルに拳を叩きつける。

「警察が当てにできないからって、俺たちに宇宙海賊を相手にしろって? お前はあれか? 
 事件が解決できないとすぐ金田一少年に頼る剣持のおっさんか? こちとら名探偵なんて看板は背負ってねぇんだよ」

「坂田さん、私は別に、あなた方に宇宙海賊を壊滅させてほしいとお願いしているわけではありません。
 ただ、編集長と宇宙海賊が密会している証拠さえ摑めればいいのです」

「それこそ名探偵に頼めや。最近は新撰組なんていう頼りがいのありそうな連中もでてきたみたいだし? 
 こんなちゃちな万事屋に危ない橋渡らせることはねぇんじゃないの?」

銀時の言うことも最もである。
万事屋銀ちゃんの構成員は、地球人二人+宇宙人一人+犬一匹という弱小メンツ。
猫探しならお手の物だが、国家的犯罪事件の証拠を摑め、などという危険度AAAランクの代物は、さすがに手に余る。
こういった事件は、相応の権力と組織力を持った団体に託すべきだ。
例えば、最近出張ってきた新武装警察『新撰組』。
おちゃらけた暴動ばかり起こしていた『真撰組』とは違い、真面目に活動する姿が世間から高評価を受けている。
結成されたのは最近だが、瞬く間に民衆の好感度も鰻上り、しかも町を破壊することもない。
十分頼れる連中だ、と銀時は思うのだが。
「……そうかい。銀さんは、この困り果てた芝村さんの依頼を受けちゃあくれねぇてのかい」
意外にも、西本は聞き分けよくその身を引いた。
いつの間にか完全に乗り出していた全身をテーブルから降ろし、差し出されていたお茶の残りをグイッと飲み干す。

「アンタの考えはよーく分かった。確かに、こんな寂れた万事屋に依頼するにゃあ、ちと山がデカすぎたみたいだ」
西本は、銀時を睨むように一瞥し、特に怒りを露にすることもなく扉へ向かっていった。
「芝村さん。ここは諦めて、別のところを当たろうぜ」
「しかし西本先生……いえ、そうですね」
芝村も、内心では無謀と感じていたのだろう。
銀時に申し訳なさそうに一礼し、そそくさと西本の後を追う。

「じゃあな銀さん。今度は、もうちっと小さな山を持って来ることにするよ」
多少皮肉の込められた口を吐き、西本は芝村と共に万事屋銀ちゃんを後にした。

ガララッ、という無情感の漂う音が室内に鳴り響き、扉がピシャンと閉ざされる。

「…………」
室内には無言の銀時と新八が取り残され、嫌な沈黙の雰囲気に気持ちを飲み込まれつつあった。

「銀さん、依頼、本当に断ってよかったんですか?」
空気の重さに耐えかねたのか、新八が慎重な面持ちで銀時に尋ねた。
「仕方がねぇだろうが。面倒なことに首つっこんで、命が危険に晒されるのは俺たちだ。簡単に引き受けられるようなもんじゃねーよ」
銀時は頭をボリボリと掻き、不機嫌そうな声で返した。
以前関わりを持った宇宙海賊『春雨』との抗争の折では、新八と神楽の命を危険に晒してしまった。
おそらくはその時の負い目もあるのだろう、万事屋銀ちゃんの大黒柱を務める銀時としては、易々と危ない仕事を引き受けられないのだ。

「ま、たまにはああいう場違いな依頼持ってくる奴もいるさ。俺たちは、俺たちにできることを端からコツコツとやっていきゃいい」
そういう当人が一番納得できていないような顔だったが、銀時も銀時なりに、色々考えた末に出した苦渋の決断だったのだろう。
でなければ、彼が容易く友人を、ジャンプを見放すはずがない。

「そうだ新八。お前たしか、掃除の途中だったろ? 実は最近天井が雨漏りしてるみたいでよぉ、ちょっと見てみて――」
あまり引きずらず、とっとと普段の生活に戻ろう。
銀時がそんなことを考えながら、新八に雨漏りの指摘を行おうとした瞬間である。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!!!」

――万事屋の外から、耳を裂くような奇声が聞こえてきた。
いや、奇声というよりは悲鳴と呼ぶほうが正しいか。
とにかく銀時は、この声を無視するはずもなく、躊躇いもなく一大事と感じ、脱兎の勢いで外に出た。
それというのも、聞こえてきた声が江戸っ子口調のあの男……新人漫画家西本のものだったからである。

銀時、新八の両名が万事屋の外へ出る。
そして、発見した。
万事屋の通りからすぐの路地脇で、
頭部から鮮血を垂らし、うつ伏せに倒れる西本の姿を。
215一真 ◆LoZjWvtxP2 :2006/11/25(土) 23:41:40 ID:UNK7Ed/l0
お久しぶりです。一真です。
……これ毎回言ってる気がするな。大丈夫かな。

とにかく、復活しました「シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい」です。
前回からだいぶ間が空いてしまったんで、一応再説明。
当SSは題材は銀魂でして、現在は完結に向けて、シリアスな方向で執筆をしています。
しかし今まで散々バカやってきた面子でフツーの会話させろというのも意外に難しく、筆は遅れるばかり。
中途半端な生温い空気で展開していますが、どうか記憶の片隅に覚えて置いてください。
ってぇ、久々すぎてコメントも詰まるよどうしよう。

まぁ作品をお送りするのが久しぶりなのは、単純にプライベートが忙しかったからなわけで。
次はもうちょっと早めにお送りできることを願いつつ。
一真でした。
216オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 03:37:59 ID:TxKFRdW40
超前回の話 ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/nakukoro/11.htm

<一日目・その10-(1) 『死から生へ―――白昼夢のススメ』>
現在時刻:午後15:30 場所:通学路脇にある草原

(暗い・・・。なんて暗いんだ・・・。)
子供の頃の自分に殴られた圭一は、冷たいものが流れ出てくるのを切に感じながら、
目の前に広がる混沌に体を委ねていた。
当然、委ねた先に待っているのは、逃れる事の出来ない絶対的な死。
そう、帰宅途中の際に起きた突発的な惨事は、最終的に自分自信が殺されるという結果になった。

しかし、今の圭一にとって、死に近づく事はある意味では喜ばしい事だった。
なぜなら、子供の頃の自分が狂った姿を見続けるくらいならば、今の自分は死んでしまった方が楽だと思ったからだ。
いや、むしろ、夢だという願いの方が多く込められていたかもしれない。

そして・・・。今、

「圭一君!!こんなところで寝たら死んじゃうよ!!」
「前原?さっさと起きないと、ここに置いて行っちゃうわよ。」

混沌のどこからか聞こえてきた声が、圭一を死という現実から、全く別の現実へと連れて行こうとしていた。
まるで圭一が受け止めなくてはいけない現実が、自分自身の死という現実では足りないと言わんばかりに・・・・。
217オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 03:38:58 ID:TxKFRdW40
「う・・・、う・・ん・・。」
本当に気だるそうな表情をしながら、圭一はゆっくりと目を開ける。
すると、ねむけ眼の圭一の目に映ったのは・・・、
「おっ♪やっと起きたね!!おっはよ〜〜☆」
「っていうか、何でこんな所に寝てるのよ・・・。アンタ・・、死んでも良い訳?」
いつも目にする通学路脇にある草原と、いつも見ている高校生の姿をしたレナ。
そして、彼女の友人である千沙であった。
「あっ・・・・、レナ!!こ、殺さないでくれ!!」
しかし、圭一はレナの顔を見た瞬間、震え上がるような思いに支配されると同時に・・・・、命乞いをしていた。
きっと、先程の惨事が脳内に再生されたからだろう。

子供の頃の自分に殺されるという矛盾に加え、その子供の頃の自分がした人とは思えない所業の数々。
しかも、その場には、子供の頃のレナも居た・・・。
これでは思い出しただけでも震え上がるのは無理も無い。

「はうっ!どうかしたした?圭一君?」
「ったく・・・、なに寝ぼけた事を言っているんだか・・・。」
「うるさい!!お前は・・・、お前は・・・・!!」
一方、そんなことは露知らず、圭一の反応を冷ややかな視線で見つめる二人。
この温度差のままでは、圭一が一人暴走し始めるのは明確であった・・・・・、

―――――――のだが!!

「てめぇぇぇら〜〜!!何時までそこでくっちゃべってやがる!!さっさと、あの自転車に乗れいぃぃぃぃぃ!!
特に前原!!てめえのせいで、時間を食ったんだ!!てめえは自転車の籠の中に入ってろ!!分かったな!!」
「「「は、はい!!アナタ様のおっしゃる通りでございます!!」」」
その温度差も、鬼の前では些細な事この上ない。
嵐のように現れた、腕力が地上最強の教師こと―――範馬勇次郎の一声で、この場は簡単に収まったのだった。
218オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 03:39:43 ID:TxKFRdW40
<一日目・その10-(2) 『捏造』>
現在時刻:午後15:30 場所:通学路

―――チリンチリン〜〜♪

舗装されていない田舎道を、一台の自転車が猛スピードで突っ走ていた。
鬼一匹と学生三人を乗せて。
まあ、普通は自転車に四人も乗っていたら、警察のご厄介になってもおかしくないモノなのだが、
流石は超が付いても足りない程の田舎。
自転車が進む先に民家はおろか、人っ子一人見えやしない。
高度経済成長期を終えた日本から見たら、この村はさしずめ、成長の副作用である『格差』の象徴といえよう。
それでも、この村には勇次郎を惹きつけてやまない、『何か』があるようだが・・・。

注:勿論、一台の自転車に四人乗るのは犯罪だ!!
良い子は真似しないように!!語り部お兄さんとの約束だぞ!!

「ああ・・・。それじゃあ、あの異臭騒ぎは結局、殺人事件だったのか・・・。」
「そうだよ〜!!レナはトイレの中で、ちょっと元気がなくなっちゃったから、保健室に居たけど・・・。」
「私は同伴。」
一台の自転車に乗っている、学生三人の内の一人である圭一は、後の二名であるレナと千沙から、
彼女達が自分のところに居た理由を尋ねていた。
勿論、圭一がこんな野暮な事を聞くのは、先程まで体験した惨事が夢だったという自己完結が欲しい為だろう。
それを示すかのように、圭一の額からは尋常じゃない量の汗を掻いているのが見える。

そう、圭一の中で先程の惨事はまだ終わっていないのだ。
219オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 03:40:56 ID:TxKFRdW40
「で・・・、みんなは警察に送ってもらって・・・。俺は放置・・・・。」
「なんでだろうね〜?」
「ま、寝てた上に、元から存在感が気薄だもんね〜。それに、みんな警察が来た事でテンションがMAXだったし・・・。」
さらりと問題発言を残しながら、千沙は的確な意見を圭一に呈す。
だが、圭一は千沙の言葉は最後まで聞いていなかった。
なぜなら、これで自分が夢を見ていたことが―――――あくまで自分の中だけで確信されたからである。
自分が学校に一人で居た理由も。彼女達が自分をたまたま発見した理由も。

確かに圭一は寝ていた。
学校で。通学路の途中の草原で。
前者は圭一の記憶の中で証明し、後者はレナたちの記憶の中で証明している。

物的証拠が一つも無い証明。
しかし、それでも、今の圭一にとってこの証明が、何よりの安心を得たのは間違いない。
子供の頃の自分の狂気も、何もかも全てが『夢だと思えた』のだから。

「いやった〜〜〜!!!!!」
自分が入っている籠を思いっきり揺らしながら、圭一は歓喜の雄たけびを挙げる。
心が折れるほどの不安を解消できたのは、例えそれが仮初めであったとしても心底嬉しいものだ。
しかし、歓喜の雄たけびも、周りの人たちがその理由を知らなければ、ただの騒音でしかない。

つまり・・・・、
220オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 03:42:36 ID:TxKFRdW40
「てめえ!!当然、籠に入った状態でジタバタ暴れるんじゃねぇ!!!」

ゴォン!!

金属バットで壁を叩いたときのような音が、勇次郎の後ろに居たレナ達の鼓膜を揺さぶる。
「はう・・・・。」
「しんだ・・・かな・・・。」
突然の騒音は勇次郎の怒りの一閃を簡単に超え、惨事から生還した少年を、もう一度奈落へ突き落とすのであった。
「が・・・、はっ・・・・。あっ・・・・、おじいちゃん・・・。そんなところで何をして・・・。ガク・・・・。」
「け、圭一君〜〜〜!!!」
「大丈夫よレナ。ただ伸びただけみたい・・・。」
鬼の居ぬ間に洗濯ではないが、少なくとも勇次郎の近くに居る時は静かにしておくものである。
221オーガの鳴く頃に:2006/11/26(日) 04:05:29 ID:TxKFRdW40
どうもしぇきです。

半年振りの連載ものの投稿です。
今回は、今までのまとめのようなものと、次の展開へのつなぎです。
後、補足としてですが、圭一の元に三人が現れたのは、
<一日目・その8-(3) 下校> で、勇次郎がレナと千沙を家まで送り届けることになっていたからです。
忘れている方しか居ないと思うので、末節ながら補足させてもらいます。

>スターダストさん
いつもながら、多彩な文面や自作フラッシュを楽しませてもらっています。
恋模様とバトルは少年漫画の花の一つですが、ある種の残酷な面も花の一つのように思えます。
ホムンクルスなんて、正にその花の一つと思います。
後、まひろの活躍が個人的には新鮮なんで、そちらの方も楽しみにしています。
>ふら〜りさん
いつも感想をありがとうございます。
パタリロに続き、こんどのSSは、是非ツル姫じゃ〜!で・・w
>52さん
サイコホラーに見えましたか。良かったです。半分、それっぽくしてみました。
>53さん
ありがとうございます。もう少しお付き合いいただけたら幸いです。
>54さん
デスノート、リングの短編を書きたいと思ったりしていますが、時間が・・・。

では失礼・・・。
222作者の都合により名無しです:2006/11/26(日) 12:58:36 ID:E/JHlt980
一真さん、しぇきさん復活お疲れ様です!

>シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい
最終章に相応しく巨大な敵ですね。
原作でも最初はボケながらも、最後は結局男気溢れる台詞で
引き受けていたので、おそらくこのSSでもそうなるでしょう。
まず最終章の最初の見せ場ですね。

>オーガの鳴く頃に
読んでいるうちにだんだん思い出してきましたw
そうだ、この作品のオーガは結構懐深い男だったんだな。
悩める圭一たちの前にどうかっこよく立つのか楽しみです。
第二話 旧型
カツとアイビーは車に乗って協力相手のアジトへ向かっていた。
人数は10人程度らしい。
車窓から見る風景は何処と無く殺風景だ。
町から離れているらしく荒野を道路が走るのみである。
車は数十分程でアジトに着いた。
アジトと言っても廃工場の倉庫でしか無い。
それはあくまで表向きのモノである可能性も無い事は無いが。
「よく来た。君がエゥーゴからの協力者だね。」
カツ達をカジュアルな服装の男が迎えた。
「ア・・・あなたはッ!?」
カツは身構えた。目の前にいる男はかつて戦場で敵であった男だからだ。
無論かつて敵だった人間が仲間になるケースもある。
だが今回は意外だった。
どこをどう見ても共闘出来る要素など無い人間が協力相手なのだ。
「フフフ・・・まだ私の事を覚えていたのですか。まあ無理もありませんね。」
男は愛想良く笑った。
(マサキがいたら喧嘩が始まるだろうな・・・)
カツは一瞬そう考えたがそれを振り払った。
「あの・・・相手の情報はどのくらいあるんですか?」
カツは真面目な口調で男に質問した。
「現在、地球上におけるいくつかの勢力の複合体だという事がわかっています。
彼らの本拠地はここから50km程離れた場所にあります。我々は何度か遭遇していますが
それほどの脅威はありません。」
複合体。
その言葉にカツはいささか恐怖を覚えた。
敵側に特色がある機体が一機あるだけでも戦況は変わる。もしそれが複数あればなおさらである。
数で攻めればいいという訳では無い。
「あの・・・そちら側の戦力を見せてくれませんか?」
カツがよそよそしく聞いた。
正直不安なのだ。並程度の腕しか持ってない自分が彼らの役に立てるのか。
「ではこちらに。」


ここはアジト地下格納庫。
「勢力名の説明がまだでしたね。現在、私達は“カラバ”と名乗っています。」
カツ達は格納庫の通路にいた。
様々な機体がここにはあった。
赤青黄の戦闘機、モビルスーツ二体、ロボット三体、そして機体が入っていると思わしき
コンテナが一つ。
カツは全ての機体に見覚えがあった。中には以前自分が動かしたモノもあった。
その時、ピーッと音が鳴った。
男がホイッスルを使ったのだ。
直後、機体の後ろからワラワラと人が出てきた。
「あらカツじゃない。元気してた?」
集団の1人がカツに声をかけた。どうやらカツの知り合いらしい。
「ルー、ルー=ルカじゃないか。エゥーゴで姿を見ないと思ったらカラバにいたのか。」
「まあそういう所ね。」
「初めまして。カツ=コバヤシさん。カラバのメンバーのロビンです。」
「同じくメンバーのジョーカーです。」
「ヴィレッタ=プリスケンだ。よろしく。」
「一文字 號ってんだ。」
「大道 凱だ。」
「橘 翔だ。よろしく。」
(ルカ以外は初対面か。)
カツは細かく相手の顔と名前を頭に叩き込んだ。
「カツさん。何かご質問は?」
「あのう・・・あそこにあるのはゲットマシンですけど・・・それが何故ここに?」
カツが疑問に思うのは当然だった。
三機のゲットマシンが変型合体する事で“ゲッターロボ”と呼ばれる機体が完成する。
それはスーパー系ロボットが引っ張りだこの今の状況でカラバの様なマイナーな組織が手にいれられる代物では無い。
「あれは旧型なんです。現在あちらの方では新型のゲッターロボ二機が主力の様ですしね。」
カツは驚愕した。
今男が言った事を言い換えるなら旧型のゲッターでは歯が立たない程の敵がいるという事なのだ。
「自分はどの機体にのるのでしょうか?」
「カツさんの機体は・・・これです。」
男は目の前の機体を指差した。
RX 78-2 ガンダム。
かつてアムロ=レイという男が搭乗し大きな戦果を挙げた機体である。
(自分に乗りこなせるのか?そんな事が本当に可能なのか?」
カツは不安になりながらも現実を受け入れた。
「さて皆さん、今回の作戦を説明します。」
男は仲間達の方に向き直った。


参戦予定作品
機動戦士Zガンダム
ゲッターロボ
ゲッターロボG
真・ゲッターロボ
ゲッターロボ號
バットマン
バンプレストオリジナル
鋼鉄ジーグ
登場人物説明
ルー=ルカ(機動戦士ZZガンダム)エゥーゴの一員。グレミー=トトと知り合い。

ロビン(バットマン)正義感溢れる青年。バットマンの助手。

ジョーカー(バットマン)ゴッサムシティのマフィアの首領。悪に美学を追求する男。

一文字號(ゲッターロボ號)並外れた身体能力を持つ漢 
大道 凱(同上)巨漢。
橘翔(同上)ゲッターチーム 紅一点。

ヴィレッタ=プリスケン(バンプレストオリジナル) 地球連邦軍SRXチーム大尉。



一気に大人数になって来ました。
これから先は戦闘。
自分の拙い文章能力のせいで伝えきれない場面があると思いますがそこら辺は皆様の
ご想像にお任せします。
227作者の都合により名無しです:2006/11/26(日) 19:50:26 ID:JzPA/Qpl0
なんかいっぱい着てるw復活さん・ご新規さんとうれしいね。
出来れば平日とかにも振り分けてほしいけど・・w

>白書さん(ちょっとお久しぶりです)
さくら世界とドラえもんのコラボってありえないなw
でも両作品好きなので頑張って下さい。
のび太主役にさくらヒロインでいいのかな?

>一真さん(かなりお久しぶりです)
銀さんの最初ちょっと「俺にゃどうでもいいー」
見たいな感じでも最後まで付き合ってしまう度量の広さが好きです。
ラストらしく、激闘と感動のてんこ盛りになりそうですね。

>しぇきさん(結構お久しぶりです)
今回は今までの総集編&物語後編への助走、という感じですね。
早く本編進むのを楽しみにしてます。
あと、フリーザ野球軍と読みきりもお待ちしてます。

>ポケットの中の戦争作者さん(出来ればコテをつけてくれると・・)
今回はぜんぜん18禁描写はありませんでしたねw
次回からバトルに突入しますか。激しく楽しい戦闘を待ってます。
ゲッターロボってこんなに種類あるんですか・・


228ふら〜り:2006/11/26(日) 22:33:22 ID:2wh4W+6M0
おぉ、一足早いクリスマスプレゼントですか。この賑わいと復活劇は。
……せめてお年玉でお返しをしたく、鋭意努力中であります。

>>白書さん
ドラとさくら以外はわからないんですが、その二作とは随分と雰囲気違いますね
今回前半。いずれ物語が進めば、出会って話して戦って……想像つかないっっ。
>こういう重大な事件が起きるときだけは、勘が鋭くなるのだ。
普段頼りなくても、イザって時に頼れるのがいい男。何気にヒーロー気質ですよね。

>>一真さん(忙しいのは仕方なきこと。無理なく楽しく書くことが何よりですゆえ)
あー……まだ、立ち直ってないというか元気になれてませんね一同。第一部開始
当初がウソのよう。それだけに、いずれ何もかも解決してあのテンションが戻って
くる時が楽しみ。○○を倒せば解決、なんて単純な事態じゃないけど頑張れ皆!

>>しぇきさん(テニス部が車道に整列してラジオ体操してる田舎です、我が地元)
そうそう、本作の勇次郎は何だかんだで先生っぷりが板についてるんですよね。
にしても、まさか勇次郎の出現で「日常への帰還、安堵」を感じる日が来るとは。
それだけ本作の非日常部分がスゴいってことですな。地上最強の生物以上に。

>>ポケットさん(←お名前をっっ)
有名なロボ群がズラりと並ぶ中、バットマンが異彩を放ってますな。この様子だと、
「いくつかの勢力」ってのもどんなメンツなのか楽しみ。そしてスパロボといえば、
当スレには達人な大先輩がおります。ポケットさんも負けずに頑張って下され!
229作者の都合により名無しです:2006/11/26(日) 22:42:57 ID:ILO98+Kg0
>>226
ヴィレッタの姓が「プリスケン」ということは、スパロボじゃなくてスーパーヒーロー作戦の方かな?
しかし、スパロボSSは結構読んだ方だが、カツがここまでクローズアプされてる話は初めて見たw

>>227
他にもゲッターロボアークってのもあるよ
まあ、もう永遠に続きが読めることはないんだけどな……orz
230作者の都合により名無しです:2006/11/26(日) 23:38:52 ID:latDtDeF0
しぇきさんと一真さんの復活が嬉しいな。

お2人とも好きな作風だし、それにもう戻らないかもと半分諦めてたしw
これからもたまにでも結構なんで楽しませて下さい。
231WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/26(日) 23:58:49 ID:TsIk0p0Q0
テロリスト達が群れを成す薄暗がりは重い沈黙に包まれていた。
モニターには背を向けて立ち去ろうとしている“神父”の姿が映し出されている。
その沈黙を破ったのはリーダーのパトリックだった。
「ど、ど、どど、どう、どういう事だ! ななな、な、何なんだ! 奴は!」
人間を遥かに超えた力を持つ生物兵器と化した部下。アーマー市警壊滅など赤子の手を捻るより
容易いと信じて疑わなかった。現にそれは九分九厘成功していた。
だが突然現れた化物染みた、いや化物そのものの“神父”に二人はあっけなく殺された。
話が違うではないか。
“想定外”というありきたりの言葉も浮かんでこない。
例えるなら、神経衰弱で最後の一組の札をめくったら、違う絵柄だったようなものだ。
「き、き、聞いてないぞ! あ、あん、あん、あんな奴が、い、い、いるなんて……!」
何度もつっかえ、口ごもりながら、おかしな発音のアイリッシュ・ゲール語を吐き出す。
先程、愛国の闘士達の指導者として、開戦の演説を打った凛々しい姿はどこへやらである。
その奇妙な光景を初めて眼にした、Real IRAの一員である少女は隣の中年男に尋ねる
「ねえ……彼って……」
「シッ! よせ、ブリギット!」
男は人差し指を口に当て、少女ブリギットの言葉を遮った。
そして“誰か”に聞かれる事を恐れるかのように、細心の注意を払った小声で少女に耳打つ。
「パトリックは怒ったり、興奮したりするとひどくどもっちまうんだ。奴自身も気にしている。
だから、それには触れるな。奴の耳に入ったらブッ殺されちまうぞ。わかったな」
「う、うん……」
ブリギットはゴクリと唾を飲む。
この鍛え上げられた勇猛な男が、噂好きの女のような耳打ちをするからには本当なのだろう。
言葉の意味通り、“殺される”のだろう。
その時、口を押さえ頬を擦るパトリックの腰の辺りで、単調なメロディが鳴り始めた。
携帯電話の着信音だ。
パトリックの一番近くにいた副官らしき男は、自分を指差して周りをキョロキョロと見た後、
恐る恐る彼に話しかけた。
232WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/26(日) 23:59:37 ID:TsIk0p0Q0
「……パ、パトリック、電話が鳴っているぞ。なあ……」
「う、う、うるさい! わ、わか、わかってる!」
露骨に苛立ちを表しながら怒鳴ると、彼は携帯電話を取り出し、通話ボタンを押した。
「だ、誰だ!」
『やってくれたな……。この阿呆共が……』
電話の向こう側から気取った低い声が発するの言葉が届いた。声の主はあの“協力者”だ。
そしてその口振りからして、アーマー市警の襲撃、及び失敗を知っている
だが早過ぎる。まだ警官隊も突入していないのに、中の様子が分かるはずがない。
「お、おま、お前……」
『何故、私に何の断りも無く事を動かした? 生物兵器に改造された部下と、潤沢な活動資金を得て、
少しでもお偉くなったつもりか? 貴様なんぞ所詮人殺ししか能の無い、ガキの集まりの大将に過ぎんのだぞ』
IRA暫定派に加わってからも、そこからReal IRAに分派してからも、さらに自分だけのReal IRAを
立ち上げてからも、こんな舐めた口を利かれた事は無かった。
暫定派軍事協議会の幹部連中だっていつも自分を丁重に扱った。
だがこの男は。何処の馬の骨ともわからんこの男は。
「き、き、きさ、貴様、誰に向かって、く、く、口を利いている」
『お、お、おま、お前に向かって口を利いているんだ。このチンピラ風情が』
協力者はどもるパトリックの物真似をしながら、彼を嘲る。
『フン……。やはり適任がいないからといって、貴様らのようなテロリズム脳炎のガイキチ共に
話を持っていったのが失敗の元だったな』
「な、な、な……」
パトリックは怒りのあまり、もはや言葉も出て来ない。
『いいか、この私の話をろくに聞きもしなかった、高潔な闘士様にもう一度教えてやる。
あの神父がヴァチカン特務局第13課“イスカリオテ”だ。神父の名はアレクサンド・アンデルセン。
イスカリオテ最強の機関員だ』
「イ、イ、イスカリオテ……。い、い、異教・異端専門の、せ、せん、殲滅機関……」
確かに聞いていた。聞いていたが、まさかここまでする連中だとは思っていなかった。
あの平和主義の、人道主義のヴァチカンが。
233WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/27(月) 00:00:14 ID:SvFPU9P70
『そうだ。人の話はキチンと聞けと先生に習わなかったか? ああ、失礼した。貴様は小学校も
出ていなかったか』
いちいち罵り言葉を付け足す事を忘れない。
『奴らにだけは嗅ぎつけられたくなかったというのに……。しかも、あの装置まで……。
まったく、厄介な事になったぞ。これであの神父“も”始末しなくてはならなくなってしまった。
こんな事、“計画”には無かった……』
パトリックは協力者の呟きを聞き逃さなかった。
「お、おい! け、け、けい、“計画”とはどういう事だ! そ、それに、あ、あの、あの頭の機械は何だ!
お、お前が埋め込んだのは、カ、カ、カメラだけじゃ――」
『黙れ!! いいか、私の言う事を良く聞け!』
ここで初めて協力者は怒鳴り声を上げ、パトリックの詰問を強引に打ち消す。
『近いうちにそちらへ行く。ごく近いうちにだ。それまでは目立った行動は一切するんじゃないぞ!
あの神父の銃剣に突き殺されたくなければな! わかったか!!』
「な、な、ま――」
返事を待つ事無く電話は切られていた。
「ち、ちくしょう!」
パトリックは怒りを爆発させ、携帯電話を床に投げつける。
床に叩きつけられた電話のボディは粉々になり、中の精密機械と一緒に飛び散った。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」
拳を握り締め、語彙の少ない不良少年のようにひとつの言葉だけをただ喚き散らす。
誰も止める者はいない。
命を賭してまでこのリーダーを落ち着かせようという者はこの組織にはいなかった。
ひとしきり大声を吐き出し続けたパトリックは、やがてフウフウと息を切らせながら黙り込んだ。
しかし、その濁った赤黒い眼光だけは収まってはいない。
「殺してやる……。皆、殺してやる。クソ神父も、クソ協力者も、クソ英国人も……。
俺を邪魔する奴は全員殺す……。俺を舐める奴は全員殺す……」
自分でも驚く程にスラスラと言葉が出てきた。周りの部下達は皆、一様に言葉を失っていたが。
234WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/11/27(月) 00:01:15 ID:SvFPU9P70



「奴があの神父に殺されるより先に、私が奴を殺さなくてはな。その後は神父……。それと……」
パチリと携帯電話を閉じながら男は低く呟いた。
ひとつ予定外の仕事が持ち上がると、必ずそれに伴って複数の仕事が附いて来る。
難義な事だ。
そうぼんやり考えながら男は振り返る。
やや離れた場所に停車してある黒塗りの車。そして、その横に立つ黒尽くめの運転手らしき男。
いかにも待ちくたびれたと言う態度で、眉根を寄せて時計を見ながら煙草を吸っている。
男はソッと近寄ると、笑いながら声を掛ける。
「待たせたな」
「あっ、いえ、とんでもありません。さあ、どうぞ」
驚いた運転手はあわてて煙草を踏み消すと、後部座席のドアを開けて男を招いた。
「ああ、ありがとう。さて、愛すべき“我が家”へ帰るか……」

男は颯爽と車に乗り込み、優雅に脚を組んだ。
235さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/27(月) 00:02:34 ID:SvFPU9P70
EPISODE5で神父が去った後に書く筈だったシーンを書き忘れてました。
それが無いと話が繋がらないシーンを忘れるとはどうかしてます。

>>159さん
婦警を出せなくて申し訳ありません。
しかし、本作品が完結した後、セラス・ヴィクトリアと武藤まひろ(あえてフルネーム)を主役にした
次回作を予定しています。もう少し掛かりますが、今しばらくご辛抱下さい。
巨大拳銃大好き。

>>162さん
やはり“神父”はこれくらいでちょうど良かったみたいですね。胸を撫で下ろしているところです。
お察しの通り、次からは錬金サイドです。神父は『溜めて出す』波動砲形式で。

>>163さん
レス読ませて頂いて『焼き鳥屋の屋台で肩を並べて飲む神父と火渡』を想像してしまいましたw
アンデルセンと火渡は『磁石の+と+』みたいな感じですかね。
ぶつかり合ったら嬉々として闘うでしょう。周囲に甚大な被害を与えながら。

ふら〜りさん
実際、公式設定では第13課はヴァチカン内でも疎んじられているようです。
たしかに化物並みの神父ですが、自分がただの炸薬、ただの暴風、ただの脅威である事を願って
ひたすら信仰の為に闘う姿は、ちょっぴり悲哀を感じ……ないか。
ちなみに神父、再生能力効果で外見は30歳だけど実年齢は60歳です。たしか。
236作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 00:09:44 ID:EDbwtf8E0
お、さいさんにしては今回は短いなw
でもその中でも、心理描写がしっかりと書かれているのは流石です。

>セラス・ヴィクトリアと武藤まひろを主役にした次回作
これはマジで楽しみな。
でも、さいさんとスターダストさんって実際に会ったら本当に話があいそうだw
237さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/11/27(月) 00:16:26 ID:SvFPU9P70
すみません、間違い発見しました。
>電話の向こう側から気取った低い声が発するの言葉が届いた。声の主はあの“協力者”だ。
じゃなくて
>電話の向こう側から気取った低い声が発する侮蔑の言葉が届いた。声の主はあの“協力者”だ。
でした。
失礼しました。
238作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 11:26:38 ID:21KXvH4J0
お疲れ様ですさいさん。
神父に振り回される周りの人間はなんと滑稽なことか。
そして敵に回すのはどれだけ恐ろしいことか・・
239作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 13:13:09 ID:RPlvY1SJ0
一真さん・しぇきさん・さいさんと好きな職人が立て続けに来て嬉しい。

特に一真さんとしぇきさんは随分ご無沙汰だったからな。

かまいたちさんやうみにんさんも復活しないかな。
240よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:18:48 ID:iqh77/KD0
―――いつでも今日が一番楽しい日。



ひっきりなしに人の行き交う掛川の町外れを一台の荷車が歩いていく。
親子だろうか、子供づれの若い男が一人。

「もうすぐだぞ―――よつば」
「おー」
「すげぇ、とーちゃん、ここ家がたくさんあるな!」
「そーだろう、お店もあるぞー」
「お店もか!?」

田舎から出てきたのであろう。
少女は興奮した様子で辺りをきょろきょろ見回している。

「すげぇー、人がいっぱいいる!」
目を輝かせて父親の方を振り返る。
「きょうはまつりか?」
「市場だ市場、そういや明日から六月市だな」

街中をきょろきょろ手を振りながら少女と荷車は進んでいく。
ちょこちょこ走り回る少女は危なっかしいが、それを受け入れる雰囲気が当時の日本にはあったのだ。
皆が微笑んで荷馬車の前に道を開けてくれる。
戦乱の世も終わり十数年、人々は太平の世を謳歌し始めていた。

やがて荷車は一軒の家の前に留まった。
241よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:19:55 ID:iqh77/KD0
「ほーら着いたぞー」
「ついた?ってどこについた?」
「どこって、そりゃおまえ」
言いかけたところへ家の中から大男が出てくる。
「あ、権左だ!!」

「よう」
「うむ、久しぶりだの小岩井」
大人同士はぞんざいに挨拶を交わす。
「権左ーひさしぶりだなー!」
「うむ、よつばもな、元気に致しておったか?」
ごしごしとよつばの頭を撫でる権左である。
「うあー、やめろー」

「従者のやんだはいかが致した?」
「んーあいつはぎっくり腰で動けないから来ないとさ、多分仮病だ」
「駄目だなあいつは」
よつばが二人の会話に割ってはいる。
「権左はしばらくみないうちにもっと牛になったな」
「うぬ、何処で覚えたその台詞」
「まぁ、いいか権左が二人分働くしな」
「何を言う、わしは働かぬ」
「いや、働いてくれ」
「よつばがはたらくー!」
「うむ、えらいの、よつば、父上はだめだの」
「うん、とーちゃんはだめだ」
「おい、まて」
242よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:21:02 ID:iqh77/KD0
どうやらとーちゃんは駄目らしい。

さて三人は荷馬車から家の中に荷物を運び込む。主に書籍のようだ。
「お主もよく読むの」
「いや、読まないと放逐だし」
どさっと一抱えの書籍を置くと尋ねる。
「そういえば辺りに配る挨拶など用意しておるのか?」
「あ、考えてもいなかった」
「お主らしいの、どれ、わしが見繕って来てやろう」
どっこらせと玄関の戸に手をかける。
「変なものを持ってくるなよ」
「わしは勝ち栗、打鮑、昆布などがよいと思うのだが」
「いや合戦の作法はいい、普通のを買ってきてくれ」
「初の太刀は大事ぞ」
「いや、ご近所と戦ってどうする」
剣理は近所づきあいにも当てはまると言わんばかりの牛股だが、ふと何かに気がついた。
「ところでよつばはいかが致した?」
言われてみると先刻から姿を見ない。
「・・・いなくなった」
「ふむ、お主は片付けておれ、腹が減ったら帰ってくるだろうが、見つけたら連れてこよう」
牛股を見送ると小岩井は片付けを続けた。半刻、途切れずにである。
小岩井が荷車を片付けようと表に出たとき一人の侍が声をかけてきた。
双眸の大きな男である。

「越されてきた方であられるか?」
「はい、そうですが」
「やはり」
男は居住まいをただし、しっかと小岩井の目を見据えた。
243よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:22:15 ID:iqh77/KD0
「拙者、この隣の虎眼流道場の内弟子、山崎九郎衛門と申しまする、牛股師範にはいつも懇意にさせていただいて折り申す」
「腕前の程は?」
「中目録にござる」
「すばらしき腕前ですね、俺が貴方ぐらいの歳の頃はもっと…いや今でも大した腕ではないのだけれど」
「師範からは大目録の腕前とうかがっており申すが」
「いや、昔のことだし、殆ど義理許しですから」
「なれば精進なされよ」
「はぁ」
何とも話しづらい男である、何より目つきが本能的恐怖をあおる。
「こちらにはお一人で?」
「いや、娘を一人連れてきたのですが、先ほどから姿が見えなくて」
「一大事でござるな、・・・某が探してまいろう」
「あ、いや、いつものことだから大丈夫です、心配しなくても」
というよりこの男に見つけられる方がよほど心配である。
「しかし、かどわかしなどにあっては」
「だから大丈夫ですってば」
「さように・・・ござるか」
納得いかない様子だが、その方が安心である。

「されば、それがしはこれにて、どこかで見かけ申したらお連れ申そう」
「お願いいたします、変な奴だと思う娘がいたら恐らくそれです」
「・・・面妖な娘とな」
「…いや、ちょっとちがう」
244よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:23:24 ID:iqh77/KD0
「娘御のお名前は?」
「よつば」
「よつばどのにござるか、判り申した」

さて、掛川の町の女達の間で一人の男が噂に上らぬ日は無かったといってよい。
当の男は特にどうとも思っていないのだが、その目で落された女は数知れずである。
今日のお相手は小唄師匠の小鈴であった。
朝に小鈴の家を出た男は街中で凧を買い求めた。
特に意味はない、ただ無性に遊びたかったのだ。
家には数多くの凧が置いてある。数少ない男の趣味だ。
家の裏で凧を揚げていると少女が一人こちらを見ているのに気がついた。
「娘、何を見ておる?」
「なー、それなんだー?」
「それって、凧のことか?」
ちなみに凧には清玄と書いてある。
自分の名前を書くとはどういう了見であろうか。

「こうだ、こうやって飛ばすのだ」
「おおっ!」
目を丸くして喜ぶよつばに気を良くした清玄は更なる技を披露する。
己はやはり凧揚げにおいても頂点に立つ男だ。
糸の繰り方を見せてコツを教える清玄は自らの神妙なる指使いに改めて感心した。
「やる!やる!よつばもやるー!!」
「どれ、まっておれ」
きらきらした目でねだるよつばに苦笑しながら清玄は家の中から一番大きな凧を出してきた。
「ほれ」
といってもよつばには飛ばし方が判らない。
「ふむ、こうやるのじゃ」
よつばの手を取りながら凧の飛ばし方を教える清玄。
245よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:43:19 ID:iqh77/KD0
よつばが少年であったならこれほど親切にしただろうか?
「やったー!」
上手く揚がった凧を見て、清玄は手を離して家に入った、自分は別の凧を揚げようと思ったのだ。
そういえば見ない顔だったの、牛股が道場の隣に越してくるものがあると言っていたがもしや…
そう思って振り返るとよつばの姿が見えない。
「なんと!」
外に出た清玄が見たのは強風で彼方に飛ばされた凧に小さくぶら下がるよつばの姿であった。
「一大事なり」
走り出す清玄。
手を放すでないぞ。と祈りながら駆け出した。

「いないのう」
さて、山崎九郎衛門はよつばを捜し歩いていた、面妖なる娘。これを逃す手は無い。
その大きな双眸の端に、空を飛んでくる凧が映った。
その端にぶら下がる少女の姿もである。
それなりに人生を生きてきた山崎だが、凧に掴まり空を飛ぶ少女というのは見たことがない。
恐るべき握力だ。
「うぎゃ」
凧は樹の上を通り越し、少女は樹にぶつかった。
何とか枝につかまった少女はするすると樹を降りてきた。
「・・・何をしておったのだ?」
「たこあげ!」
「凧揚げ・・・」
・・・面妖な娘だ!!山崎九郎衛門は狂喜した。

「お主はよつばどのか?そうであろう」
「なんでしってんだ?」
246よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:44:49 ID:iqh77/KD0
首をかしげるよつば。
「さぁ、なぜじゃろうのう・・・?」
内心、舌なめずりする山崎。
「わしは御主の父上に言われて迎えに来たのだ」
「おお、とーちゃんか!」
「じゃぁ一緒にいこうかのう」
「いこう!」

「よつばどのはいくつになる?」
「おなかへった」
「そうか、お腹減ったか」
わしのお腹もぺこぺこであるよよつばどの。内心つばを飲み込み異様な雰囲気を出し始める山崎。
その瞳孔は猫科の動物の如く拡大している。
よつばは気付いていないが、近くを通る人々はその気に当てられ顔を青ざめさせている。

みんなが山崎から逃げるのを見てよつばも少し不審に思った。
とーちゃんの教えが頭をよぎる。
―――いいか、よつば、知らないおじさんについて行っちゃいけないぞ。
―――いいものあげるとか、とーちゃんが呼んでるとか謂われてもだ。
―――その人は悪党かもしれないぞ
ふと山崎の顔を見る。
青筋立てて興奮する鼻、血走った焦点の合わぬ巨大な双眸、心なしか荒い息。
よく見ると、本能的な恐怖を感じた。
「…ちょっとようじをおもいだした」
「うぬ?」
「あっちに・・・さよなら」
一気に駆け出すよつば。
「な、なんと、いかが致した?」
走って追う山崎。
なんとしたことだろう、虎眼流で心身鍛え上げた山崎の俊足を持ってしても追いつかない。
247よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:47:11 ID:iqh77/KD0
更に足に力をこめた山崎は恐るべきものを見る。
「馬鹿な…さらに加速しよった!!」
驚きに大きな眼をさらに大きくした山崎。
「まちよれ!」

待てといわれて待つ馬鹿はいない。
「たーすーけーてー」
と神速で逃げるよつば、追う山崎。
だが追いかけているのが虎眼流の山崎と見て取ると助けるものは誰もいない。
誰も好き好んで顎を失いたくはない、顎が無いと飯を食うのが不便だからだ。

さて未だに凧とよつばを追いかけていた清玄は走ってくる二人を見つけた。
「山崎、これは」
「清玄!とらえよ!」
叫ぶ山崎、反射的に道を塞ぐ清玄。
それを見たよつばは左の二本抜き手を清玄の目に向けて放ちながら駆け抜けた。
反射的にその手を払ったとき、よつばは清玄の脇を駆け抜け、既に後姿のみとなっていた。
「速い!」
呆然とする清玄の腹へ山崎の肘が入る。
普段はなかなか出来ないが、この際である。いつも気に入らなかったのだ。

「おお!」
それを見て驚き更に加速するよつば。
虎眼道場はもう目と鼻の先である。
交差点で四足獣の肝をたくさん抱えた牛股の正面を横切ったが今はそれどころではない。
「こは何事?」
首をかしげる牛股師範。
248よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:48:24 ID:iqh77/KD0


「たすけてー」
青年が振り返ると少女が一人走って逃げてきている。
恐るべき速さだ。
追っているのは内弟子の山崎である。またあいつか。
「・・・いかが致した」
「おう!源之助!その娘を捕らえよ!」
山崎は無視してよつばにもう一度尋ねる源之助。
「・・・娘、いかが致した?」
「た、たすけて、悪い人につかまる!」
「違、な、なんと」
必死で弁解しようとする山崎だが、咄嗟には言い訳は思いつかない。
源之助はじろりと氷のような眼で山崎を見ると口元にかすかに笑みを浮かべた。
笑うという行為は本来攻撃的なものである。
「ふむ、悪党は拙者が懲らしめよう」
「ほんとか!」
「ま、またれよ、これにはわけが…」
「言い訳無用」
こきこきと手首を鳴らすと、恐るべき速さで間合いを詰め、源之助は虎拳を山崎の頭に叩き込んだ。
ゴキンと小気味の良い音がした。
その後、駄目押しの鉄肘をわき腹へ。
山崎は音も立てずに崩れ落ちた。
「すげぇ、つえぇー!」
感心するよつば。

「はぁはぁ、何の音だ?」
息を切らして後からかけてきた清玄が尋ねる。
「あ、山崎」
倒れている山崎を見て絶句する清玄。
249よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 13:49:54 ID:iqh77/KD0
「清玄、何事か?」
「某にもよくわからんのだが…」
そのとき戸が開いて小岩井が出てきた。
「随分大きな音でしたがどうしました?」
「とーちゃん!」
「あれ、よつば、ああ、つれて帰ってくれたんですね、ありがとう」
「・・・」無言の源之助。
「いえ、拙者は何も」顔を赤らめる清玄。
「・・・」頭を二倍にはれ上がらせて答えられる状態には無い山崎。
「えーと」
ぽりぽりと頭を掻く小岩井。
「山崎さん、ご紹介願えますか?」
非情にも言い放ち、山崎の体を揺さぶる。
余談だが、頭を強く打った人間を揺さぶるのはあまり良くない。
傷の周りの組織を更に破壊することになるからだ。
しかし虎眼流剣士にその心配は無用であろう。

立ち上がった山崎の形相は一変していたが、何とか話し出した。
「こ・・・れが、虎眼流師範藤木源之助…こっちが伊良子清玄、某は・・・山崎く・・ろえもんでご・・・ざ・・・る」
息も絶え絶えに山崎がいう。
「えー、隣に越してきた小岩井です、こいつがよつば」
「「よろしくよつばどの」」
「え?」
きょとんとするよつば。
「この方々は、とうちゃんが昔お世話になった虎眼流の門弟の方々で、今日から家のお隣さんだ、きちんとご挨拶なさい」
「おとなり?」
「そ・・・う、我らが道場はそ・・・こ、お隣・・・に・・・ござる」
「違うよ、よつばのいえはもっとずっとあっちにあるよ」
「あ、よつば、お前、何も判ってなかったのか」
ちょっと驚いた小岩井。
250よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 14:13:06 ID:iqh77/KD0
「いいか、よつば、これが今日からよつばが住む家だ」
きょときょとと家と父の顔を見比べるよつば。そして
「おお!今日からここか!」
「で、こっちが我等の道場にござる」
「おおっ、おとなりさんだ」
「そうだ、おとなりさんだ」
「じゃぁあっちの人は悪い人じゃないのか?」
山崎を指差すよつば。
「だ・・・から・・・違うと・・・」
怪しいものだと小岩井は思う。
「それはともかくお隣さんだ、仲良くしないとな」
気を抜く気は無い、気を抜いては彼らはこれまで生き延びては来れなかったろう。
それでもおとなりはおとなりである。いらぬ波風は立てる必要がない。
「じゃあ、よろしくな!」
太陽のような笑顔で笑うよつばに、虎眼流の三人は三者三様別の意味で惚れこんだ。

さてこの後よつばは虎眼流道場にたくさんの小さな小さな騒動を運んでくるのだが、それはまた別のお話。
それではまたそのうちに。

よつばと虎眼流。 終

251よつばと 虎眼流 一羽目:2006/11/27(月) 14:14:03 ID:iqh77/KD0
ヤイサホー!
遅ればせながら30万ヒットおめでとうございます。
結構昔からバキスレヲチャだった私にはバレさんはじめ皆様方の努力に感謝感涙する次第であります。
これからもバキスレが続いていきますようお祈り申し上げます。

というわけで久しぶりにちょっとだけ書く時間が取れたので短編です。
毎度の事ながら下手で済みませぬ、会話が読みづらい、向上しないな俺。

それと随分間が空いたのにネタです。
シグルイにしては鉄分不足な上、よつばと一話とほぼ同じ構成、少しは頭を使って考えろ俺。
パロディーということで許してください。

長いほう(鬼と人のワルツ)は時間がぜんぜんとれないのでなかなか手をつけられずにいます。
12月のクリスマス休みには少し時間も取れるので、そのときには何話か書き上げられると思います。
よつばと虎眼流は結構書きやすかったので、またちょっとだけ時間が取れたときに書くかもしれません。

>ふらーりさま、またいつも感想をくれる方々
いつもありがとうございます。

それではごきげんよう(虹の彼方風に)

252作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 15:36:07 ID:nepMIbna0
>さいさん
アンデルセン神父に付け狙われる・敵に回す心境ってどんな感じだろうか
ちくしょうみたいな陳腐な台詞しか出てこない絶望でしょうね・・

>鬼と人のワルツ作者さん(久しぶりです)
シグルイはバキ以上にバキっぽいからバキスレにぴったりかもなー!
よつばって原作キャラ?他の漫画のキャラ?また、次編楽しみにしてます。
253作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 17:54:30 ID:xpnmD7mX0
鬼と人さん久しぶり。
シグルイは好きなんでこれを連載してくれると嬉しいな。
読み切りなのか1話完結形式の連載なのか微妙だけど。

ミドリさん、しぇきさん、一真さん、鬼と人さんと、
最近、復活続きで嬉しいね。
254永遠の扉:2006/11/27(月) 22:27:45 ID:LA32+8s20
「見るな」
「う、うん」
まひろの切り替えは早い。すぐさま指示に従い秋水の後ろへ隠れる。ただ、
(何が起こったんだろう)
純粋な子どもじみた恐怖と心配を抱いて、眼前にそびえる逞しい背中に頼りたくなる。
秋水は頼られるとも知らず、名にこもった「切れ味の良い刀剣」じみた目線で総角を見る。
ただのホムンクルス同士のいざこざであったのならばこうはならなかっただろうし、事実、逆
向はL・X・E所属のホムンクルスである。
ただしその装束はなぜか銀成学園の制服。ゆえに誤解が生じた。
つまり、総角が一般生徒を殺害したという単純極まる誤解が。
単純極まるといえば日本刀という兵器の機能もそうであり、殺傷能力を追求する過程で期せ
ずして美術品へと昇華してしまうように、切れ長の瞳に湛えられた蒼き冷光は、一種凄然な
色気を秋水に与えている。
与えつつもその光は殺傷に根ざす物であるから、浴びる総角はたまらない。
「待て待て。確かに楽しいデートの帰り道でひどい物を見せたコトは謝る。この通りだ」
余裕をたっぷり含んだ調子だが、態度はかなり下手である。
「デートではない。姉さんを見舞ってくれた礼の食事だ」
憮然と抗議する秋水に、まひろは肩を落とした。塩を浴びた青菜のようにしゅんとした。
(だよね。うん。……そうだよね)
(朴念仁め。言わんで良いコト言ってお嬢さんヘコますなよ)
気配を悟った総角は若干カチンと来た。が、触らぬ態で忠告する。
「秋水よ。もっと言葉の選び方とか選べ。悪意がなくても相手が傷つくコトは結構ある。だから
考えるべきだ。な? 俺も一緒に頑張ってやるから」
「何の話だ」
無愛想な返事に、総角はソードサムライXを下へ押し込む。逆向の章印に刺さった刃をだ。
もちろん八つ当たりである。
刀身は面白いように逆向の胸へ沈んでいく。底なし沼へ足を投じるように沈んでいく。
「とにかくだ。俺は別に嫌がらせのためにやった訳ではない。いうなれば不運な偶然だし、
コイツはホムンクルスだ。それもなぜか蘇った逆向。まぁ外見は以前と違……」
突きたてた刀身は全体の3分の1ほどまで逆向へ埋没している。
そして逆向が伏しているのは道路であり、彼の体の下にはアスファルトがある。
にもかかわらず。
255永遠の扉:2006/11/27(月) 22:28:21 ID:LA32+8s20
(おかしい。あるべき手応えがない。貫通したなら、アスファルトの堅い手応えがあるだろうに)
総角は顔色を変えた。
「秋水…… 千歳さんに連絡を取り、そのお嬢さんだけでも寄宿舎へ戻せ」
強張った声音で、総角は手にした日本刀を抜き出すと。
……先端がなかった。首を打たれた武士のように一直線にこそぎ落とされていた。
一体、その消えた部分はどこへ行ったのか?
(よく分からんがマズいな)
総角はそう判断すると、生真面目さゆえに迷う秋水へ鋭い叱咤を飛ばした。
「気持ちは分かるがボヤボヤするな。後ろのお嬢さんまで巻き込──…」
澱んだ熱気がたゆとう路地に、カラスが舞い降りるような暗い音が響いた。
頭蓋なき逆向の手が跳ね上がったのである。
反射的に飛びのく総角。されど彼の不運は秋水に気を取られ、回避が微妙に遅れていたコト。
足首がむんずと捕らえられ、まばゆい光が閃くとみるみる内に分解され、逆向へ吸収された。
後に残った唯一の彼の痕跡は水色の浴衣のみ。
生ぬるい微風の中、すくりと立ち上がる逆向を、秋水は愕然たる面持ちで見た。
最大の弱点たる章印を刺されたのに、なぜ逆向は動けるのか。

すっくと立ち上がった逆向は、下顎から上を吹き飛ばされている。
むき出しになった歯はところどころ欠け、あるいはひび割れ、その近くでは血色の悪い舌が
月光を反射し、棘皮動物のような嫌悪の輝きを振りまく。
ぬぐり、という切羽詰った吐瀉音が食道から響いた時、さすがに秋水はまひろを心配した。
こんな馬鹿げた非日常の光景からは早く遠ざけてやりたい。
ごくごく自然な──それでいて昔なら他人へ絶対しなかったであろう──配慮をする間に、
気道からの不気味なえずきが一気に加速し、ついには肉塊を噴水のように巻き上げた。
くすんだピンク色の雨が注ぐ中、いかに喋っているのか逆向の声。
「ケッ、相変わらず吸収効率が悪ぃな。肉の再生には人一人分足らんようだ」
ぼたぼたと生臭く落ちるのは……恐らく総角の肉片だろう。
「まぁ大元はひとまず回復できた。あの盗人野郎をこうしたように、やりようは幾らでも」
腕に吸い込まれた総角は消化済み。ドロドロとしたペースト状で道路に張り付いている。
そして現われた逆向の顔は……歪んでいた。
256永遠の扉:2006/11/27(月) 22:29:16 ID:LA32+8s20
比喩的な意味ではなく、古くて故障したブラウン管に映る宇宙人のように、バチバチと。
彼の肌には肉感がなく、目鼻や顔の輪郭が光線のみで結ばれている。
何らかのエネルギーが肉体の代用を務めているようだ。
そして秋水は、現われた顔の造形に見覚えがある。
眼鏡こそないが、ひどく冷淡な印象を与える細目と、天を衝くギザギザの短髪は。
「震……洋?」
L・X・Eの同胞。かつて生徒会書記を務めていた信奉者のそれ。
「体はそれだが今は違う。アイツは迂闊にも廃棄されていた方の『もう一つの調整体』を飲み、
この俺、逆向凱を蘇らせた。この新しい能力付きでな! 武装錬金や章印への攻撃は一切
通じない。クク。廃棄版ですらこの威力、貴様らより先に割符を集め、正式版を入手すれば
ヴィクター様ほどではないにしろ、俺たちはより無敵に近づくだろう! そして」
(俺たちが探している物にはそういう効果があるのか……?)
息を呑む秋水の向こうで、逆向はチェーンソーを発現した。核鉄を持ってなかったにも関わらず。
「震洋などとォ」
「どこか物陰に隠れるんだ!」
「う、うん」
切迫した叫びにまひろは戸惑いながらも駆ける。
「下らねぇ名前で……」
逆向は小型チェーンソーの爆音を轟かせながら、大きく振りかぶった。
「呼ぶんじゃねぇぞぉクズがァァァァァ!!」
チェーンソーの刃先から直径30cmほどのささくれた円輪が群れを成して秋水に迫る。
「武装錬金!」
秋水はポケットから核鉄を抜き出し、日本刀の武装錬金・ソードサムライXを発動。
無骨なコバルトブルーの刀剣を一文字に薙ぎ払うと、触れた円輪がことごとく吸収され、下
緒を伝い、飾り輪からX字型に激しく飛散していく。
「無駄だ。エネルギーを絡めた攻撃は」
「全て防ぐ……その程度は知ってるんだよ! 囮なんだよクズが!」
いつの間にか秋水の頭上高くを飛び越えている逆向は、ワニのような大口を開けた。
「言ったよなぁ、肉の再生に人一人足りねぇってなぁ! まずはそこの女から喰ってやる!」
「え?」
電柱の影に隠れるまひろ目がけて、逆向は急降下を開始する。
卑劣な不意打ちだ。秋水は激しい怒りの赴くまま、猛然と踵を返し電柱前へひた走る。
257永遠の扉:2006/11/27(月) 22:30:24 ID:LA32+8s20
意識したのか無意識なのか、飾り輪から飛散するエネルギーがピタリと止まった。
そしてがっきと絡み合う日本刀とチェーンソー。
振り下ろされたライダーマンの右手を見事受け止めた秋水が、逆向を睨む。
「彼女に手を出すな」
そのセリフに、まひろはお気楽な勘違いをして勝手に頬を染めた
(カ、カノジョ? 私が秋水先輩の……?)
もっとすぐさま間違いに気付いて、湯上りの子犬のような表情で首をぶんぶん横へ振る。
着地した逆向は一切迷わず、秋水と鍔迫り合いを開始した。
「張り切りやがって。フン。まぁそんなに組みたきゃ付き合ってやるがな」
忌々しく唾棄すると、チェーンソーが唸りを上げて回り始めた。
「テメーの刀が165分割のエネルギーを吸収しようが関係ねえ。武器本来の攻撃だけで刀
を砕いてやる。退けば腹をズタ裂きにして、クソの詰まった腸を泣き叫ぶ女に喰わしてやる」
高速回転の刃がソードサムライXの刀身をガギガギと削りはじめた。
「くっ」
舞い散る金属粉の中で、秋水は必死に前へ踏み込もうとするが
「クズが! 高出力(ハイパワー)の人型ホムンクルスを、人間風情が押し切れるとでも!?」
逆向が無造作に歩を進めるだけで、巨岩のような重量が秋水の背筋を仰け反らす。
(たっ、ただの呼び方だよね。うん。きっとそう! というか守ってもらってるのにヘンなコト
考えちゃ秋水先輩に失礼! 応援しなきゃ……!)
まひろは意を決すると、電柱の影からひょっこり顔をだし、頬に手を当て大きな声援を送った
「が、頑張って秋水先輩! 私のコトはいいから!」
なにがどういいのか。天然丸出しのぼけーっとした声に、秋水はちょっと白けた。
(だいたい何をいうんだ。放っておけるワケが……)
付き合いこそ2日足らずだが、色々な面を秋水は見てしまっている。
妹・弟という共通項ゆえの感情だって覚えている。何かあればカズキに申し訳も立たない。
(この場は守ってみせる。必ず。彼の為にも)
じりじりと圧されながら、秋水は思いがけぬ決意をした。が、ただの力押しでは勝てないだろう。
(考えろ)
チェーンソーは刀身の半ばまで達し、逆向は薄笑を浮かべた。
(武藤ならこういう時どうする。考えるんだ)
258永遠の扉:2006/11/27(月) 22:31:15 ID:LA32+8s20
カズキの諦めなき姿勢に倣い、秋水は考える。今まで目を向けなかった様々な事象を考える。
そして。
(……あった。わずかだが残っている)
握る刀から伝わる情報に、秋水はためらいながらも行動を起こす。
(危険だがやるしかない)
柄から左手を離すと、飾り輪を跳ね上げた。
ソードサムライXの特性は、エネルギーによる攻撃の吸収ならびに放出である。
どうやら後者は期せずして、まひろに駆け寄る時に中断されていたようだ。
放出が中断されたエネルギーはどうなるか。
消えはせず溜められる。放出に時間差を作り、そのまま敵への攻撃に利用するコトも可能。
「何だ? 諦め──…」
逆向の眼前に浮かんだ飾り輪から、X字型の閃光が放たれる。
斬撃への固執ゆえにかつての秋水は用いなかった機能であり、発動はこの場が初めてだ。
「因果応報だ。目を灼かれたとて文句はいえまい。そう……」
一時的に失明した逆向は静かな、しかし徐々に沸騰へ向かう怒りの声を聞いた。
「いま放出したのは! お前が彼女を狙うために囮にした光輪の残りだ!」
凄まじい気合を迸らせながら、ひるんだ敵を片手持ちの剣で力任せに押しのける秋水。
いきおい逆向は数歩後退し……皮肉にも総角の肉片に足を取られ大きくバランスを崩した。
見逃す秋水ではない。
「行くぞ!」
一気呵成に飛び込みながら、右手で握ったソードサムライXを背中へ大きく回し。
凄まじい左薙を逆向の胴体へ見舞った。
左薙。別名を逆胴といい、秋水がもっとも得意とする技である。
剣風がまひろの髪をぶわりと巻き上げた。
(あの剣…… 秋水先輩、ひょっとしたらお兄ちゃんの仲間なのかな……?)
可愛らしく疑問を浮かべるまひろの耳を、熱吹く汚らしい声が叩いた。
「言っただろうがクズめ! 俺に武装錬金は通じねぇんだよッ!」
総角の攻撃をことごとく防いだ例の六角形の光が展開し、刀身を阻む!
が。
剣は勢い止まらぬまま、逆向の上半身を見事に切断した。
正体不明の防護光は……無効。
刀身へ吸収され、破裂音と共に飾り輪から放出されていた。
259スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/27(月) 22:33:40 ID:skcuIPjI0
本当は今回、ヴィクトリアに対する斗貴子たちの反応もあったのですがそっちは明日へ。
ちょうど秋水vs逆向が5レスに収まったので。いやぁ、一場面だけなら短くできるのかも。

そしてバレさん、30万ヒットおめでとうございます!

>>139さん
ありがとうございます。青春モノっていいですよね。少年少女の葛藤と成長とかは見てて気分
が若くなります。(自分はまだ24ですけど) 反面、ドロドロしたダーク要素も大好きです。そ
ういうのがあってこそ、立ち向かう少年少女が引き立ちますので。

>>140さん
ご好評につき、小札は段々設定が増えております。恐らく、総角の過去話をやるとしたらそ
こで確実にキーキャラになるかも。そして桜花は雪代巴の、秋水は雪代縁のそれぞれのリ
ボーンで、巴は縁のお母さん代わりでして。それを思うとなんだか不思議な気分。

>>141さん
自分でも「え、ここでこう思うのかよ秋水」と。予想より早く取り込むとは、やはり武藤遺伝子
は恐ろしい。ブラボーカレーはもっと描写したいんですが、他の情報が多すぎて……
で、秋水は剣士として動いている時がカッコイイですよね。描いててすごく実感しました。

ふら〜りさん(エレベーターガール…… は、発想のスケールで負けた……)
司令官としての合理性にはやや欠けますが、男性としてはかなり尊敬できる人です。仮面ラ
イダーでいうならヒビキさんみたいな。斗貴子さんは余裕がない所が一種のチャームポイント。
ギャグパートになると途端に戦士の苛烈さが消えて周りに流されるのが良いです。

さいさん
>WHEN THE MAN COMES AROUND
物語の前提条件を、「十傑集を舐めるなァァ!」みたく気迫で覆すのが好きです。大好きです。
だから武装錬金なしでホムンクルスを蹂躙する神父はもう。肉がどぷどぷブッ壊される
凄惨な描写ともども読んでてゾクゾクしました! もしかするとヴィクターですら敵わないのではw
260スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/27(月) 22:35:24 ID:skcuIPjI0
/zはまひろと火渡と毒島主軸のコメディをやって欲しいです。また新設定が来て青ざめるのも楽しそうですが。
秋水とまひろは、少女を守る少年っていうシチュに恐ろしいほどはまってて、脳がムズムズします。
オリキャラについてはまた後日。ライナーノート好きなので、色々語りたいコトがありまして。
そしてあのビロードのような真っ黒つやつやな毛並み……あぁ、猫って素晴らしい。カワイイ。

しぇきさん
>オーガの鳴く頃に(本格復帰おめでとうございます)
渦巻く狂気もどこ吹く風のオーガはやはり流石。毒を持って毒を制すというか。
ふら〜りさんも仰ってますが、オーガ登場で場の空気が緩和されるのもスゴい。
反面、お爺さんの顔の皮剥いだりジャガッタりしてる人がマトモに見える世界が恐い……

例のアレは2番の学校決戦あたりに一番力入れてますw 爆爵の最後がピークかも。
まひろはドラマを動かすには最適なキャラだと思います。恋愛でも青春でも何でも。
残酷描写は一種のカタルシスをもたらしてくれるので、もっとやりたいブチ撒けたい。
261スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/27(月) 22:47:29 ID:skcuIPjI0
あ、>>257 6行目に間違い
もっとすぐさま → もっともすぐさま ですね。
262作者の都合により名無しです:2006/11/27(月) 23:27:44 ID:ZbwuntH50
ここ2、3日の来方は凄いな。
特に、しぇきさん・一真さん・鬼と人さんの復活は嬉しい。

> 『絶対、大丈夫』
さくら世界は知らないけど、ドラえもん物の新作として楽しく読んでます。
のび太がイマイチ活躍してませんが、これからですよね。多分主役だもの。

>シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい
飄々とした銀さんらしい対応だけど、この人はかならず出張ってきれますからね。
ギャグだけでなくバトルも人情話も期待できそうですね。シリアス編だから。

>オーガのなく頃に
圭一のトラウマの迫るような、子供の頃の狂った自分のトラウマ。続きが楽しみだ。
いや、物語の初期からは想像もつかないシリアス路線になりましたね。

>18禁スーパーロボット大戦H −ポケットの中の戦争−
次回からロボット対戦にふさわしくバトルがガンガンの世界になるのかな?
サマサさんの作品しかロボット大戦知らないけど、期待してます。

> WHEN THE MAN COMES AROUND
ま、神父は核が違う化け物ですからね。しかも信念に満ちた化け物だから。
アリの中にカブトムシが混ざっているようなもんだ。虐殺もやむなし。

>よつばと虎眼流
シグルイの元ねたの割りに、意外とほのぼのとしてますね。よつばのキャラでしょうか。
でも、もし二羽目以降があって虎眼先生が出てきたら血の海になりそうなw

>永遠の扉
そうか。秋水はその錬金と同じく、日本刀のような男なんですね。しかもむき出しの。
美しくて切れ味鋭い。でも、冷たい。その秋水の鞘にまひろがなれるかって事ですね。

感想書くの結構疲れた。ふら〜りさんは凄いな〜
263作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 00:36:51 ID:J20dlr+H0
秋水はきっとこのまままひろに取り込まれて
一生、お気楽なカズキまひろ兄妹に付き合うんだろうなあw
でも立派にナイトしてますね、秋水。
264作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 10:54:05 ID:5Ht7N6Wv0
今更ながらこのSSの主人公が秋水と気付いた。
いや、まひろヒロインはわかってたけど、
なんか秋水って主役って感じに見えなくて。

主役というより、まひろの相手役って感じかな。
騎士役として恋の相手として。
265作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 11:41:41 ID:CafxJRpl0
スレ違いだけど、武装錬金に興味が出てきたんだけど、買う価値ある?
アマゾンじゃ辛口批評が多いんだけど。
266作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 13:14:20 ID:8UhQaiyW0
スターダストさんのまひろカワイスw

スターダストさんといい、さいさんやミドリさん、銀杏丸さんといい、
錬金好きには更新が待ち遠しくてたまらないな。


>>265
俺は大好きだけど、万人向けの作品でないのでどうだろう?
良いか悪いかは別として、るろうに剣心と比べて
画風も変わっているしね。(この辺がいまいち不評な原因かも)

ブックオフか漫画喫茶で3巻あたりまで読んでから
購入するかどうか決めた方がいいかも。
でも、最終決戦は燃える。ラストも綺麗に終わってる(と思う)
第二十八話「夜更けに見るカラスはやたら怖い」

真夜中の江戸街道。そこは、闇への出入り口。
蛍の灯火を思わせるような微光を放つ街灯は、視界に映るだけでも一つ……二つ……三つ……それしかない。
もちろん人通りなどというものは皆無で、酔っ払いのおっちゃんもいなければ深夜営業のラーメン屋台も見当たらない。
無人の街道――その右隣では、底知れぬ闇の中に月光を浮かべた水通りが一筋。
現在時刻深夜二時。場所は、河川敷の江戸街道である。

「おめぇか? 俺をこんなところに呼び出したのは」

音もない気配もない姿もないその道に、二つの影が足を踏み入れた。
闇夜の中に置かれ、ぼぅっとした輝きを見せているのは、銀髪の天然パーマ。
腰には愛用の木刀を携え、いつもの死んだ魚の眼は封印した状態で佇む。
坂田銀時が、こんな時間こんな場所にいるのには、一つ訳がある。

「やあ。嬉しいですよ、まさか本当に来てくださるなんて」

その訳というのが、他でもないこの男。
忍装束ととるには十分すぎるほどの影に紛れた衣服に、鴉を思わせる漆黒のマント。顔面は、黒光りするメタリックカラーの鉄仮面によって覆い隠されていた。
銀時と正面から対峙し、仮面越しからでも笑っていると判断できる、不気味さ百点怪しさ百二十点の奇人がいた。

「内心不安だったんですよ。あんな置き手紙一つで、天下の『白夜叉』さんが来てくれるのかってね」
「人質なんて下衆なマネしといて、よく言うじゃねぇか。……芝村さんは無事なんだろうな?」
鋭い眼光は、「誰これ?」と思わせるには十分なほどの輝きを放っていた。
威嚇、のつもりで睨みつけた。銀時を『白夜叉』と呼び、さらには『あんな真似』までした輩だ……敵意を向ける理由は十分にある。


――時刻は遡り、昼時。
西本と芝村の依頼を断った直後、万事屋銀ちゃんに届いた耳を劈くような悲鳴。
その声の主は、何者かに頭部を殴られ出血し、昏倒状態に陥った西本だった。
銀時と新八は、それを発見してすぐに119番。
慌てふためきながらもテキパキと連絡を済ませていた新八の一方、銀時は、傍に置かれていた一通の手紙を発見する。
その文面はこうだ。『人質を預かった。返して欲しくば、以下の指定場所、指定時刻に白夜叉一人で来い』
ご丁寧なことに、地図つきで。
推測するに、この人質というのは、倒れた西本の傍にいなかった人物――ジャンプ編集者、芝村のことに違いない。
万事屋銀ちゃんに依頼を持っていった直後に、襲われた。攫われたのは、宇宙海賊と編集長密談の秘密を握る芝村。
誰の犯行かなど、考えるまでもない。


だから、銀時は来た。
厄介ごとなんかには関わりたくない。だが、既に足を踏み入れていることに気づいてしまったから。
こうなったら、とことんまで付き合ってやろうじゃねーかと。

「やだなぁ」
人質の安否を尋ねた銀時に、鴉男は嘲笑混じりの声で答えた。
「もちろん、ちゃんと始末しときましたよ。僕の目的は白夜叉さんに来てもらうことだけでしたし、もし来てくれなくても、生かしとく理由、ありませんでしたから」
平坦な口調で、極自然に、お笑い芸人がギャグを言うくらい自然に、そう述べた。
プチン。
プッチンプリンの容器の底の爪が折れたような、そんな感じの音が聞こえた。
ただ、そんなつまらない音に反応を示す者はその場におらず、掻き消すように新たな音で空気を上書きしたのは、銀時。
腰に下げていた木刀を抜き取り、大きく踏み込んで、跳ぶ。
「手前の血は――――何色だァァァァァァ!!!」

虎とも、狼とも、獅子とも形容しがたい――例えるならば、正に『夜叉』か――銀時の突撃が疲労される。
大胆な跳躍から、木刀による大降りの逆袈裟を仕掛ける。
ブン!!!と豪快な風切り音を鳴らして振り出された木刀は、ガキン!!!という金属製の衝撃音で停止。
生まれた衝撃をもどこかへと消し去り、勢いを完璧に殺す。

「――生憎ですけど、僕、血ィ流れてないんですよ」

木刀は、鴉男の両手に握られた二本のクナイによって、止められていた。
ほとんど奇襲のつもりで放った先制攻撃。しかし、鴉男はまるでその攻撃を予期していたかのように、いとも簡単に防いでしまった。
銀時が驚きの顔色を見せる刹那、鴉男はクナイに力を込め、銀時を対極の位置へ弾き飛ばす。
互いに一定間の距離が生まれ、再び硬直状態を作る。この男、戦意があるのかないのか。

「さすがですね、坂田銀時さん。噂に違わぬ剣の腕だ。その枠に嵌らない天衣無縫の型……ぜひ皆さんにも見せてあげたいですよ」
「チャンバラごっこがしたいならそこら辺のガキでも捕まえてな。オレぁ手前みたいなエセ忍者と遊んでる暇はねぇんだよ」
「そんな、僕の楽しみを全否定するような言い方しないでくださいよ」

木刀を構えなおし、銀時が再度飛びかかろうとタイミングを窺う。
対して、鴉男は両手にクナイを持ったまま、棒立ちの状態で迎え撃つ。
武器を納めないこところから、戦意がないわけではないようだが、その構えはまるで遊んでいるようにも見える。
余裕なのか、挑発なのか。どちらにせよ、銀時が鴉男を許すことはもう絶対にない。
例えコイツの正体が宇宙海賊の一員であろうと――大切な依頼主を傷つけた罪は、きっちり償わせる。
「どうしました? 僕が許せないんでしょう? いつまでも尻込みしているわけにはいきませんよねぇ……来ないなら……こっちから!」

棒立ちの状態から、瞬間、特別な予備動作を見せることもなく、鴉男が銀時目掛けて突っ込んできた。
その突然の奇襲に虚をつかれた銀時は、僅かに遅れた反応で防御を試みる。
直線的な軌道で迫る黒翼の弾丸の勢いは、とても回避がままなるレベルのものではない。
嘗めていたわけではないが、敵の予想以上のスピードを垣間見た銀時は、額に冷や汗を浮かべ、
それが頬まで伝わろうとした直前、空から、狂気の雨が降り注いだ。
「!」
対峙していた銀時と鴉男の間を遮るかのように飛来したそれは、数十本にも及ぶ大量のクナイ。
おそらくは鴉男を狙っての投擲だったのだろうが、それを事前に察知した鴉男は突進を中断。急ブレーキをかけてクナイの降雨から逃れる。
「無粋ですねぇ……誰ですか、いったい?」
これから面白くなってくるところだった戦闘に水を差され、鴉男はクナイを放った邪魔者に侮蔑の視線を傾ける。
その男は、満月をバックにしたまま民家の屋根の上に立っていた。

「――知ってるか? この国じゃあ、猫と鳥は昔っから天敵同士だったんだよ。特に野良猫と鴉といやあ、今でも餌場をめぐって争い合ったりなんてことはしょっちゅうだ」

闇に紛れる真っ黒な扮装、正体を隠すためか、目元は長い前髪で覆われている。
夜と同化し、夜と共に生きる、黒猫のような出で立ち――その姿、正に忍。

「この前はよくも虚仮にしてくれたな。残念だが、今日はジャンプの発売日じゃねぇ。……俺に攻め入る隙はねぇぜ」

その言葉から分かる。この男、先日の借りを返しに来たのだ。
鴉男は興味なさげに「やれやれ」と呟くが、そんなことは関係ない。
屋根から飛び降り、銀時と鴉男の間に割って入ったのは、戦闘参加への意思表明。
服部全蔵が、逆襲にやって来た。
271一真 ◆LoZjWvtxP2 :2006/11/28(火) 17:30:01 ID:KqOptfUw0
毎回毎回、サブタイトル考えるのに無駄に時間かけてる気がする。
銀八先生の時は「〜時間目」で括ってたから楽だったのに。

どもども。一真です。
復活しておいてそれっきりってわけにもいかないので、早いうちに続きをば。

今回は第四部の初回に登場した、謎のオリキャラ再登場。
これからの展開は、真選組再登場までは彼がキーパーソンになってきます。
同時に、バトル描写も多めに。
初期のシルバーソウルと比べるとだいぶ作風が違ってくるかもしれないけれど、そこら辺はご容赦ください。

ではでは。一真でした。
272強さがものをいう世界:2006/11/28(火) 19:20:43 ID:pJritHMZ0
 のび太とドラえもんは昇降口にいた。
 学校中で勃発している争いから逃げ回ったためだ。
「さすがに下駄箱で戦ってる子はいないようだね。さぁのび太君、どこでもドアで帰ろう」
「でも……」
「どうしたの?」
「出木杉がジャイアンと戦ってるのに、ぼくだけ逃げるなんて……」
 ため息をつくドラえもん。
「なにいってるんだよ。手助けできるような相手じゃないんだよ?」
「出木杉……ごめん……」
「仕方ないよ、ぼくらじゃどうしようもないんだ……」
 残念そうに、ドラえもんは四次元ポケットから桃色のドアを取り出す。彼らは“強さ”
の支配下ではあまりにも無力なのだ。
「さ、行くよ」
 ドラえもんはドアノブに丸い手をかける。のび太もうなずく。
 すると突然、背後からあの憧れの声が飛んできた。
「逃げるのね……。のび太さんのいくじなし!」

 冴え渡る二重の極み。
 剛田武と出木杉英才の頂上決戦は、下馬評に反して一方的な展開を迎えていた。
 出木杉は直突きを鼻先にめり込ませると、怯んだジャイアンにアッパーを打つ。浮かび
上がった巨体へ、さらに全体重を乗せたチョップブロー。むろん、全て二重の極みによる
恩恵を受けている。
 背中から黒板にふっ飛んだジャイアンに、壁にかけてあった時計が落ちて当たった。
 これには多くのクラスメイトが失笑する。
「プッ、ダッセェ〜ッ!」
「……カッコワル」
「いいぞ、出木杉ィ!」
 中には笑わず、じっと出木杉の技を研究するグループもいる。早くも出木杉攻略を目論
む者たちだ。ナンバーワンになりたいという野心を抱くのは、なにも出木杉ひとりではな
い。
 どちらにせよ、ジャイアンの防衛という可能性はクラス中から消え去っていた。
 ──だが、ここに来てジャイアンの一発がようやくヒットする。
273強さがものをいう世界:2006/11/28(火) 19:21:42 ID:pJritHMZ0
「ぐっ……!」
 右フック命中。テレフォン気味で、かつ相手はディフェンス技術にも長けた天才。クリ
ーンヒットではない。にもかかわらず、出木杉がぐらつく。
「さすがだね、剛田君。技術を粉砕するパワー、二重の極みにも耐えるタフネス──とて
つもない肉体だ。もし君が、ぼくくらいの頭脳を持っていたら地上最強だって夢じゃない」
 この賛辞に、大きく首を振るジャイアン。
「逆だぜ、出木杉。おまえに俺ぐらいの肉体があったら、だ」
 似て非なる、平行線を描く理論。微笑む両雄。まるで愛し合う男女のように。ただし、
互いにあるのは相手を叩きのめしてナンバーワンになるという欲求のみ。
 二人に挟まれた空間が軋み、歪む。
「邪ッ!」力任せにジャイアンが突進する。
「乗らないよ」出木杉は丁寧に、拳をひとつひとつ当てていく。
 結局、再びめった打ちとなるジャイアン。天才は一撃喰らった程度で流れを渡したりは
しない。
 激しい攻防に、大量の砂ぼこりが立つ。
「ケホッ。早く終わらせないと、あとで掃除するのが大変そうだ」出木杉が両拳を脇に回
す。「これで決めるッ!」
 正中線四連突き。かつて出木杉が空手を研究中に開発した大技だが、二重の極みの力に
よってより高みに達した。
 人中、喉、水月、股間。これらに机を粉砕する拳を入れられて、いくら恵まれた筋肉に
守られているとはいえ無事で済むはずがない。
 とうとうジャイアンが動きを止めた。ガクッと膝から落ちる。
「普段ならここで終わりにするところだけど……君は怪物(モンスター)だ。ダメ押しさ
せてもらうよ」
「……し、け……い……」
「え?」
「逆らう者は……死刑ィッ!」
 ジャイアンが拳を床に振り落とした。轟音とともに、ブワッと砂ぼこりが舞い上がる。
 ギャラリーはもちろん、出木杉にも意図が読めない。
 しかし、ジャイアンをもっともよく知る人間。出木杉に敗北し、クラスメイトに混じっ
て観戦していたスネ夫にだけは答えが分かっていた。
「こ、殺す気か……ッ!」
274強さがものをいう世界:2006/11/28(火) 19:23:10 ID:pJritHMZ0
 砂ぼこりは一気に量を増し、煙と呼ぶに相応しい濃度になった。が、出木杉は冷静さを
崩さない。
「これが君のとっておきかい? でも、ぼくだって悪条件下での闘争術は勉強して──」
「関係ねェよ」
「なんだって……?」
「こうなった以上、おまえは絶対にメタメタのギタギタだ」
 劣勢にあるジャイアンがうそぶく。
 一方、煙がひどくなる中、不安を抑えきれぬ者がいた。わずかに心に潜む良心がうずき、
スネ夫は叫ばずにはいられなかった。
「出木杉、逃げろォッ!」
 それでも、出木杉は退かない。意地などではない。彼はバカではないので、勝てぬと判
断したら必ず逃げる。逃げないのは、勝てると信じているからだ。
「行くよ……剛田君!」
「哀れだな、出木杉!」
 砂煙が器用に二人だけを包み込むと、惨劇が幕を上げた。

 ──殺戮のドームと化す砂煙。

 煙からは、ジャイアンの咆哮と打撃音しか聞こえない。
 時折手や足が中から姿を出すが、攻防の詳細を知る手がかりにはなりえない。
 潰れる音、砕ける音、折れる音──大小さまざまな音がオーケストラを奏で、たった十
秒足らずで演奏は停止された。
 どちらがどうなったのか、ギャラリーには及びもつかない。
 そして、程なくして煙が晴れる。勝敗が明らかになる瞬間だ。
 まず目に映ったのが、仁王立ちするジャイアン。次いで、足もとで無残な肢体を晒して
動かない出木杉。あちこちから出血し、あらゆる骨を砕かれている。
 分かりきっていた結果を悔やみ、うなだれるスネ夫。
「砂煙に包まれながら、規格外の腕力で対戦相手をがむしゃらに殴打! ──これをやら
れたら、いかに出木杉がテクニシャンだろうと勝てる道理はない! ……こうなることは
分かっていたんだッ!」
 しん、と静まり返る一同。
 しかも地獄はこれだけでは終わらない。
275強さがものをいう世界:2006/11/28(火) 19:24:21 ID:pJritHMZ0
 学校のアイドル、源静香。
 可愛らしさは健在だが、首から下にはスネ夫や出木杉にも匹敵する肉体が当然のように
備わっている。
 しかし、いくら屈強になっていようと愛する女性には変わりない。どことなく後ろめた
そうに、のび太が声をかける。
「し、しずちゃん……」
「武さんを出木杉さんたちに任せて、あなたは逃げるというの?」
「だって、どうしようもないじゃないか! 相手はジャイアンだよ、殺されちゃうよ!」
「拳を合わせてもいないうちに、なにをいうの! 私には分かるの、あなたは武さんより
もずっと強いはずよ!」
「で、でも……無理だよ……」
 煮え切らない少年に、静香はあっさり愛想を尽かす。ぷいと背を向けてしまう。
「失望したわ、あなたがこれほどにチキンだとは思わなかった。武さんは私が止めてみせ
るわ」
 昇降口から立ち去ろうとする背中。
 このとき、のび太の中でなにかが弾けた。
 今さらいわれるまでもなく、のび太は人一倍いくじなしだ。だが、戦場に向かおうとす
る未来の妻を黙って見送れるほど無神経でもない。
 勇気を振り絞るべきは、今──。
「待って、しずちゃんっ!」
 ぴたり、と静香が足を止めた。
「ぼくが……ぼくが戦うっ! ぼくがジャイアンと戦うよっ!」
 静香は振り返らない。が、笑っていた。唇から歯をむき出し、いかにも「計算通り」と
いいたげな黒いスマイルを顔面に張りつけていた。
 そして、将来夫婦となる男女は手を取り合う。
「じゃあ、教室に戻りましょう。のび太さん」
「うん」
 さて、ひとり取り残されたドラえもん。口を挟むことすらかなわなかった。
 もはや秘密道具などでは太刀打ちできない領域へと、戦国時代は動いていく。
276サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/11/28(火) 19:29:31 ID:pJritHMZ0
>>196の続き。
ようやくレギュラーが出揃いました。
一真さん、直後になってしまい申し訳ありません。

>>200
マイナーキャラはあばら谷君だけにしておきますw
あと、出木杉はもう一回出番があります。
277作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 19:52:18 ID:xRrbKvtk0
>静香は振り返らない。が、笑っていた。唇から歯をむき出し、いかにも「計算通り」と
>いいたげな黒いスマイルを顔面に張りつけていた。
ちょwwwwwアライwwwwwww
278白書 ◆FUFvFSoDeM :2006/11/28(火) 20:19:52 ID:yIkge9Ob0
レス返し〜ふもっふ(´・ω・`)

>>ふら〜りさん
どうもです。いつもたくさん感想を書かれていて、すばらしいですね。
>普段頼りなくても、イザって時に頼れるのがいい男。何気にヒーロー気質ですよね。
個人的には、のび太の性格ってそういう感じだと思うんですよ。大長編でもいつも男前
ですし。基本的に頼まれたことは断れない、お人よしでもありますしね。

>>262さん
>のび太がイマイチ活躍してませんが、これからですよね。多分主役だもの。
多分のび太は主人公'sの一員として活躍するでしょう。後でかなり活躍させるつも
りですし。

>>210さん
いや、2ちゃんねるで調べるよりも、ちゃんと検索したほうが……

>>227さん
>のび太主役にさくらヒロインでいいのかな?
いえ、どちらもほぼ同じ立場の、主人公'sです。ただ、個人的な好みのせいで、
さくらのほうが終盤目立つかもしれませんが。
279作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 21:55:47 ID:0TPnl4Do0
>一真さん
銀時のキャラが急に変わった・・
本当に最終決戦ぽいですね。バトルも見応えありそうだ。
新八とか、ついてこれるだろうか。

>サナダムシさん
ジャイアンよりスネ夫より、しずかが怖いw
しずかの顔にジャイアンのボディか。
余計に怖い。もしかしてラスボス?w
280作者の都合により名無しです:2006/11/28(火) 22:54:19 ID:8UhQaiyW0
>シルバーソウル
銀さんカッコよくなったというか、怖くなったな
血に植えた白夜叉の復活か・・

>強さがものをいう世界
静香黒え!!www
のび太って確か元のままの強さだよなw殺されるw
281作者の都合により名無しです:2006/11/29(水) 11:04:22 ID:a2kLYooY0
一真さん、復帰されたと思ったらすぐ2度目の投稿か。
嬉しいです。お疲れ様です。
最後の話らしい少し暗い感じの話ですね・・・
282ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:40:23 ID:E6tsuyPH0
第九十四話「ラグナロク・中編」

彼らが飛ばされたのは、<終わった宇宙>だった。
かつてこの世界で勃発した、全銀河を巻き込んだ大戦乱―――その果てに待っていた結末。
全ての崩壊と、宇宙の終焉。
そんな、何もかもが無に帰した世界で蠢くものがあった。かつてこの宇宙に存在していた知的生命体からは<宇宙怪獣>
と呼ばれ、恐れられた怪物たちだ。
彼らは本能のままに破壊し、蹂躙し、そして食い尽くし、もはや邪魔者がいなくなった宇宙を我が物顔で埋め尽くしていた。
その数は、まさに天文学的数字に昇るだろう。
―――その中心に、バキスレイオスとグランゾン・Fは現れた。
「な・・・何?こいつら・・・」
「ふん・・・私に聞かれても知らないとしか言えませんが、友好的でないのは確かですね」
シュウの言うとおりだった。宇宙怪獣たちは一斉に襲い掛かってきたのだった。
単純明快。会話や意思疎通の余地などまるでない。ただただ、目の前に現れた目障りな連中を押しつぶさんと、圧倒的な
物量を持ってして押し寄せる!
「くっそお―――訳が分かんないけど、やられてたまるか!」
二丁拳銃―――クトゥグアとイタクァを構え、零に近い時間で全弾撃ち尽くす。狙いなど付ける必要もなかった。何しろ
目の前を文字通り埋め尽くす数なのだ。
一気に数十万、あるいは数百万の宇宙怪獣を屠り、同時に弾丸をリロード。再び、三度、四度、五度―――
「埒があかない―――なら、これだ!<サイフラッシュ>!」
閃光が迸る。周囲数光年にも及んだそれは、その範囲内の全ての宇宙怪獣を一瞬にして消し飛ばした。だが、また新たな
宇宙怪獣が押し寄せてくるだけだ。
「くそっこいつら・・・ならとことんまでやってやる!」
迫り来る宇宙怪獣の群れに、全速力でこちらからぶつかっていく。同時に脚部にエネルギーを集中させた。そして膨大な
エネルギーが凝縮された廻し蹴りを、怒涛の勢いで放つ!
「―――<アトランティス・ストライク>!」
暴風の如きキックが、宇宙怪獣たちの身体を容赦なく打ち砕いていく。だが、バキスレイオスはまだ勢いを弱めない―――
それどころか、さらに速度を上げていく。
その姿は、まさに荒れ狂う竜巻!
「―――<アトランティス・トルネード・ストライク>!」
283ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:41:11 ID:E6tsuyPH0
―――ようやく一段落着いたか。そう思い、息をついた瞬間、絶望的な気分になった。
宇宙怪獣はまるで数を減らしたようには見えない。先ほどの超々暴力的なバキスレイオスの大立ち回りでさえ、彼ら全体
から見れば、精々蚊に刺された程度の効果しかなかったらしい。
「フッ。この程度でへたばるとは、まだまだですねえ・・・」
嘲るようなシュウの声に、グランゾン・Fをきっと睨み付けた。
<この野郎!てめえはさっきからのらりくらりやってるだけじゃねえか!偉そうな口利きやがるなら、こいつらぜ〜んぶ
吹っ飛ばすくらいのことをしやがれ!>
「あなたも相変わらず下品な口の利き方ですね、マサキ―――まあいいでしょう。リクエストにお応えして、とりあえず
やってさしあげましょうか」
グランゾン・Fが両手を掲げると同時に、宇宙空間に無数の魔方陣が出現した。そこからずずっ・・・と音を立てて、
何かが生み出される。
それは、剣だった。無限の魔方陣の中から生まれた、無限の剣。
「グランワームソード・無限精製―――」
そして、幾億もの刃が宇宙を蹂躙する!
「―――<アンリミテッド・ブレード・ワークス>!」
放たれた剛剣の嵐が、宇宙怪獣たちを貫く。貫く。貫く―――!
「まだまだ、終わりではありませんよ―――行け、<ブラックホール・フェザー>!」
号令のようなシュウの声と共に、グランゾン・Fの背中の黒い羽が、一斉に飛び立つ。
「これら<ブラックホール・フェザー>は全てが全て、極小ナノマシンで作られたブラックホールクラスターの発射装置。
すなわち―――こういうことです」
展開した黒い羽―――ブラックホール・フェザーが、破壊の力を解き放つ!
「―――<ブラックホールクラスター・一斉発射>!」
破壊破壊破壊破壊―――破滅破滅破滅破滅―――
合計数万発にも及ぶブラックホールクラスターが、全てを塵に変えた。
「な・・・なんて強さだ・・・」
よくこんなのとさっきまで互角に戦えていたものだ、と我ながら関心するのび太たちだった。
「やっぱ悪い奴だし、いけ好かないけど、言うだけのことはあるね・・・てゆうか、ナノマシンでほんとにあんなもんまで
作れるものなの・・・?」
「ククク・・・まあ、細かいことは抜きにしましょう。さて、邪魔者も大概片付けたところで、勝負の続きを―――」
284ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:41:43 ID:E6tsuyPH0
言いかけたシュウが、口を閉ざす。何事かと辺りを見回すと―――そこには、いた。
一瞬前まで何もなかったはずの空間に、それは存在していた。
姿はまるで、某ロボットアニメに出てくる量産型のロボだ。確か、ジムだかなんだか。しかし、それはとてつもない大きさ
だった。軽く百メートルは越えているだろう。まるで巨神だ―――そう思った。
そう、神だ。これはまさに、神そのものだった。
巨神が手を翳す。同時に宇宙が揺らぎ―――バキスレイオスとグランゾン・Fがその中に飲み込まれた。
「な・・・!?」
「ふむ。どうやら我々を別の宇宙に飛ばすつもりのようですね。まあいいでしょう。こんな宇宙など、こっちから願い下げ
ですよ」
「いや、それはいいけど・・・結局なんだったのさ、この宇宙って!?」
「フッ・・・詳しくは第三次αで、といったところでしょうか?」
「またそんなよく分からないことを・・・!」
抗議の声も掻き消され、別の宇宙へと消えていく。残されたのは、終わった宇宙だけだった。
285ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:42:14 ID:E6tsuyPH0
―――次に彼らがいたのは、<小さな宇宙>だった。
バキスレイオスとグランゾン・Fが入り込めば、それだけで満杯になるような小さな宇宙。
まるで箱庭のような宇宙の中で、二柱の超機神はぶつかり合った。その力に耐え切れず、小さな宇宙が砕け散った。
そしてまた、飛ばされる。

―――次にいたのは、<巨大な宇宙>。
何もかもが巨大な宇宙。その中では原子核ですらも、まるで惑星の如く鎮座している。
その中で塵にすら満たぬ大きさの超存在たちは戦い、そしてそれが宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。

―――次にいたのは、<速い宇宙>。
ありとあらゆる全てが、時間すらもが果てしなく速く流れる世界。
体感時間ではコンマ数百数千の間に必滅の奥義を撃ち合い、その力が宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。

―――次にいたのは、<何もない宇宙>。
文字通り何もなかった。その中では、バキスレイオスとグランゾン・Fも存在できなかった。
だが彼らは物理的な存在によることなく、もはや想像することさえ叶わない領域で戦っていた。
そして―――
286ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:42:46 ID:E6tsuyPH0
そして―――何百もの宇宙を越えて戦い、疲弊しきった彼らは、また飛ばされた。
そこで、見た。
「ああ・・・」
それは、地球だった。漆黒の宇宙の中で輝く、宝石のような青。
どこの宇宙なのか、どの時代の地球なのか、どんな地球なのかすらも分からない。だがその青さは、その美しさは、心を
奮い立たせ、そして、のび太たちに何より大事なことに気付かせた。
ぼくたちは、何て勘違いをしてたんだろう。
世界を守る?世界を終わらせない?
まるで神にでもなったみたいな思い上がりじゃないか。
世界は、こんなに綺麗で、青くて―――大きい。
こんな途方もないもの―――誰に終わらせたりできるものか。
例え機械仕掛けの神であろうと―――最悪の狐であろうと。
すうっと、肩の荷が下りていくような気がした。まるで、馬鹿みたいだ。
勝手に世界の運命を背負った気になって。勝手に救世主気取りで。そんなガラでもないくせに。
世界はぼくたちに守られるまでもなく―――そこに、ある。
身体の奥から、底を尽いたはずの力が湧き上がるのを感じた。エネルギーの枯渇しかかったバキスレイオスすら、それに
呼応するかのようにグランゾン・Fに向き直り、その機械の瞳で睨み付ける。
「なんと・・・」
シュウの口から、溜息に似た呟きが漏れた。地球を背にしたバキスレイオス。その姿は、例えようもなく美しかった。
もはや神域に限りなく近づいたシュウですらも、身震いさせるほどに。
そして機体越しからでも感じる、絶大なる意志。
何者にも折れぬそれは―――鋼の魂。神ですらも消せぬ―――命の輝きそのもの。
「その覚悟―――どこから?」
その問いに対する答えは、一つ。
「―――あの星から」
そして、またぶつかり合った。
287ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:55:08 ID:+Scxd5Cu0
―――そして、その果てに。
グランゾン・Fが漆黒の宇宙に立っていた。そのボディは傷だらけで、もはや再生していない。
バキスレイオスは―――いなかった。代わりに、たくさんのロボットたちが満身創痍で立ち尽くしていた。
「ククク・・・もはや合体を維持する力もなくなりましたか・・・」
さすがにシュウも息を切らしてはいたが、勝利を確信して笑みを浮かべる。
「グランゾン・Fもかなり消耗してはいますが、今のあなたたちを倒す程度なら、造作もありません―――
これで、終わりです。長かった戦いも、これで、ね・・・」
グランゾン・Fがゆっくりと近づいてくる。
「・・・これで、終わりなんて・・・!」
キラが歯噛みする。
「くそっ、まだだ。まだこれからだ!∞ジャスティスはまだちょっと全エネルギー使い果たしてちょっと両手足を
切り飛ばされてちょっと全武装使い物にならなくなってその上ちょっとメインカメラがぶっ潰れただけだ!
この程度で諦めてたまるか!」
アスランが威勢よく怒鳴るが、どう考えても既に終わっていた。
「ふっ、人生最後の時です。今のうちに精々吠えていなさい」
<ちくしょう・・・俺は・・・俺たちは・・・結局シュウには勝てねえのかよ・・・>
マサキが悔しさに塗れた声で呟く。
「のび太くん・・・」
そんな様を横目にしながら、ドラえもんが突然口を開いた。
「のび太くん・・・ぼくたち、何度冒険して、どれだけの人たちを助けてあげられたかな・・・?」
「え・・・?な、何言ってるんだよ。こんな時に・・・」
「そうだよ、こんな時だよ・・・こんな時だからこそ、言ってるんだ」
ドラえもんは決然と言い放った。
「お礼を求めてたわけじゃないけど―――今、その恩を少しだけ返してもらおう」
ドラえもんは、自分のポケットから一つの道具を取り出した。
それは、小さな板切れのようなものだった。煌々と光輝くそれは、ドラえもんにとって最も大切な道具―――
「―――<親友テレカ>!」
288ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/11/29(水) 19:55:42 ID:+Scxd5Cu0
投下完了。前回は前スレの482より。
いよいよスパロボ臭とデモベ臭がかき消せないくらい強くなって参りました。次回、ラストバトル決着。
親友テレカが出ましたが、ドラえもんズが駆けつけるとかじゃありません。
「その覚悟―――どこから?」
「あの星から」
錬金の中でもあまりにも好きなセリフだったので無理矢理使ってしまいました。
何度見ても泣けるよ、このシーンのカズキ。

>>4 <ラグナロク>はスパロボでもシュウとの決戦ステージの題名ですので、これしかないと思いました。

>>6 生身の勇気―――とは違うけど、最後は友情・・・かな?

>>ふら〜りさん
まあ、妄想で合体キャラを説明するのって難しいですし、姿は想像にお任せということで・・・

>>8 インフレバトルの真骨頂はサナダムシさんがやりきった(不完全セルゲーム)感があるので、二番煎じにも
    ならないかもしれません。

>>16 止めは・・・どうなるかな?

>>21 やっちゃいましたよ、アトランティス・ストライク。軍神強襲ネタも盛り込みましたし・・・
第三話 進撃
ここはカツが最初に訪れた町。
人々はいつも通りの生活をしいつも通りに動いていた。
たった数分前までは。
ズン。
地響きの様な音が鳴った。
ズズン。
ビルが大きい音を立てて倒れた。
ドオン。
熱線が地面の爆発を起した。
今や町は廃墟になる寸前だった。
突如として巨大なロボット達に襲撃されたのだ。
何の前触れも無かった。
人々は逃げ惑っていた。
「あなた!」
「ハニー!」
1人の女が夫と思われる男に手を伸ばした。
その時彼女に影が差した。
彼女を中心にした半径二メートル程の地面を覆い尽くす巨大な影。
ロボットの足だった。
「ヒッ!」
彼女は観念して目を瞑った。
ドオン。
轟音がして数秒後彼女は恐る恐る目を開けた。
彼女の目に入って来た光景は白いモビルスーツがロボットを組み伏せている状況だった。
「逃げてください!」
白いMSのパイロットが無線越しに叫んだ。
「ハニー!大丈夫だったか!?」
「ええ・・・逃げましょう」
二人の男女は全速力で駆け出した。
(何とか間に合ったか・・・。)
安堵したのもつかの間、パイロットは機体に衝撃が走るのを感じた。
組み伏せられていたロボットが今度は白いMSを弾き飛ばしたのだ。
「ウッ!」
遠のきそうになる意識をどうにか繋ぎとめた。
頭部のバルカン砲で敵を牽制しどうにか機体を立ち上げる。
(ガンダム 大地に立つ か。)
そんな他愛の無い想像をしながらもカツは前後左右を確認した。
自分の周りに目の前の敵一機のみ。
「ていッ!」
相手の側面に回りこみながらビームライフルを連射する。
幸運な事に全て命中した。
だが・・・
「グゥゥッ!」
相手のロボットが吼えて尻尾を振り回した。
ドンッと音を立ててカツの乗ったガンダムが弾かれる。
「ウッ!」
カツはカラダがバラバラになりそうな程の衝撃と目の霞みを覚えた。
このままではいけない。
動かなければ踏み潰される。
相手は迫ってくる。
「く・・・う・・・」
出力が上がらない。レバーを目一杯押しても機体が僅かに動くだけだ。
敵が目前に迫りカツのガンダムのコックピットを踏み潰そうとしたその時、
敵は真っ二つに切り裂かれた。
敵のロボットの後ろにいたのは赤い斧を持ったロボット、ゲッター1だった。
「恐竜帝国の連中はタフなんだぜ?1人じゃ危ねえよ。俺らに任せな!」
ゲッター1から聞こえてきたのは一文字號の声だった。
「ありがとう。やられる所だったよ。」
その時ピーッと音が鳴りカツ達の機体に通信が入った。
「こちらルー。応答を願う。ティターンズと思われる部隊と交戦に・・・ガーッ」
(まさか…)
カツは嫌な予感がしていた。
「この敵に加えてまた新しいのが来たのか。ここは俺に任せてアンタはルーの所に行きな!」
「任せたぜ!」
カツはガンダムを何とか立ち上がらせるとバーニアをフルに噴射させた。
號はカツを見送るとゆっくり後ろを振り返った。
「へっへっへ この町の人達が味わった恐怖をお前達にも思い知らせてやるぜ ゲッターの恐ろしさをな〜!」
ゲッター1の姿は恐竜帝国のメカの群れの中へと消えていった。



二つの機影が空中で何度も激突していた。
一つはルー=ルカが駆るリ・ガズィ もう一つはハンブラビ。
リガズィがビームライフルを放つもハンブラビは軽々と避け反撃でビームを撃ってくる。
「ちッ!」
ルーは焦っていた。
先程から何度も撃っている。もうビームライフルのエネルギー残量が無い。
「ハハハ!どうした!それで終わりか!」
相手のパイロットは嘲笑っていた。それがルーの焦りと怒りを更に増大させた。
リガズィのビームがもう一発。だがそれも避けられる。
カチッ。EN切れの合図である。
「見せてやるわ!女だからと言って甘くみないで!」
「ほう?女なのか。」
ルーはビームライフルを投げ捨てビームサーベルを抜き相手に切りかかった。
ハンブラビもビームサーベルで応戦する。
「やあッ!」
何度か切り結んだ末、リガズィのビームサーベルがハンブラビの右腕を落とした。
「ぐおッ!」
「てぃっ!」
リガズィの前蹴りがハンブラビの腹を蹴った。
ルーがトドメを刺そうとリガズィの腕ミサイルを放とうとした時だった。
何かがリガズィの腕に巻きついた。
「一体何を?・・・・あぎぃぃぃぃ!」
突如として凄まじい電撃がリガズィの機体を襲った。
「海ヘビ」
それが兵器の名だった。
「へへへ名乗っとくぜ。俺はティターンズのヤザン=ゲーブル。」
「こちらルー。応答を願う。ティターンズと思われる部隊と交戦に・・・」
言葉を最後まで言わずにルーは沈黙した。気絶したのである。
リガズィの駆動系統もダウンしていた。
ロボットの弱点である電撃攻撃は計器類を麻痺させるのだ。
「コイツとパイロットを持ち帰って・・・ん?」
ヤザンはレーダーに映った影を見た。
まっすぐこちらに飛んで来る。
「そこのMS!動きを止めろ!」
両肩に長いキャノン砲を積んだロボットが現れた。
パーソナルトルーパー R-GUN powered。
ヤザンのハンブラビに対してツイン・マグナライフルで攻撃を仕掛けた。
「ほおう威勢がいいねぇ。人質を取ろうかなと思ったんだが・・・それじゃジャミトフと同じだからな!」
このまま逃げさせてもらうぜ!」
「待て!」
変型して逃走するハンブラビをR-GUNが追跡する。
その時R-GUNの両脇にハンブラビが二体出現した。
「へっへっへ コイツも頂きだぜ。」
「ふふふ覚悟しな。」
ヤザン達の編隊は丁度三角形を形どっていた。R-GUNは丁度その中心にいる。
ヤザンのハンブラビと他のハンブラビからワイヤーが発射された。
「拘束するつもりか!?そんなワイヤーでこれを縛れると・・・むッ!?ミギャアアア!」
ヴィレッタの体を鋭い電撃が襲った。
「ふっふっふ 見たか これぞ我らの連携 “クモの巣”!」
「うう・・・リュウセイ・・・」
ヴィレッタの体がガクリと折れた。気絶したのだ。
「ヤザン隊長 どうします?」
「とりあえずアジトに戻るぞ。こいつらには色々聞きたい事がある。」
動かなくなったリガズィとR−GUNをぶら下げてハンブラビ達は都市上空から消えた。
カツの乗ったガンダムがそこに付いたのはその数分後だった。
「ルー!どこにいるんだ!返事をしてくれ!」
声を大きく張り上るもそれは唯虚空に響くだけだった。
「カツ君 敵軍はあらかた倒した。撤退したまえ。」
カラバのリーダーから通信が入った。
「了解しました。ルーが・・・ルーが攫われました!」
「何ッ。ともかく今は帰還したまえ。作戦はじっくり練る。」
「はい・・・。」
カツは言い知れぬ不安を覚えていた。
これは単なる誘拐だけでは終わらない気がするのだ。
彼はそれが杞憂に終わる事を願うのみであった。
第参話終了です。
次はロボットではなく白兵戦メインです。ちょっとHなシーンも入ります。
>ふら〜りさん >229さん
読んで頂きありがとうございます。
サマサ氏の作品に比べると自分の作品は拙い事のこの上ありません。
精進しますので今後よろしくおねがいします。
295作者の都合により名無しです:2006/11/29(水) 21:55:05 ID:0/WL6xfW0
ヤザンに捕まった二人...ゴクリ
296戦闘神話:2006/11/29(水) 23:28:52 ID:ZNaZaexX0
part.10

少々ケレンが強すぎたか、とポセイドンは自省した。
あの場ではああ言って見たものの、その実、身体へのダメージが無かったわけではないのだ。
無論、戦闘不能になってしまうような領域ではなかったし、戦闘続行は可能だが。
本来の状態ならば、おそらく黄金聖闘士といえども鎧袖一触であっただろうし、
テンスセンシズに覚醒していない者の攻撃などまずもって攻撃にはならなかっただろう。
仮定に仮定を重ねても詮無きことであるが、歴代ソロ家の人間の中で、
破格のポテンシャルをもったジュリアン・ソロであったとしても、
過去のアテナとの聖戦によって喪われてしまった己の本来の肉体を思わずにはいられなかった。
いや、神としての力の八割を封じられた現状が痛いのだ。
本来ならば海皇の覚醒によって完成するはずの肉体変化が、四年もの歳月をかけてもまだ不十分であることが、
海皇の悩みの種の一つとなっていた。
海皇は肉体改造を得意としており、過去にも男になることを望んだ女性を男へと変えたこともある。
それくらいならば平然とこなすのだから、神の力を封じられていたとしても
己の肉体くらいはベストといえる状態へと持っていくことは可能であるはずだった。
しかし、ジュリアン・ソロと融合してしまったがためにどうも不具合を起こしたらしく、
思うように肉体の変質がいかないのだ。

ジュリアン・ソロという表の顔を維持せねばならぬし、裏も表も知悉するものは今やソレントしか居ない。
297作者の都合により名無しです:2006/11/29(水) 23:29:42 ID:rlEKbHZI0
>サマサさん
いよいよラストまで秒読み状態ですね。宿命の対決も次回で決着っぽいし。寂しいなあ。
ロボット大戦は知らないけど、今回読んでてなんとなくイデオンを思い出しました。

>ポケットの中の宇宙作者さん
もう少し台詞周りの描写をしっかりした方が、作品として完成度は高くなるかな?
でも、期待してますよ。サマサさんの作品終わってしまうし、この系統の作品は好きですから。
298戦闘神話:2006/11/29(水) 23:34:48 ID:ZNaZaexX0

せめてあと、三人は欲しい。と、海皇は思う。
錬金術師協会などと嘯(うそぶ)いてみたところで、実体は低能オカルティストのサロンに過ぎず、
使えそうだと思ったホーエンハイムは、こちらのきな臭さを感じ取ったか、早々に協会を脱退。
おそらくはトゥーレ協会でも頼ったのか、こちらの探索は徒労に終った。
その息子をようやく引きこんだは良いが、直情径行に過ぎてどうにも組織の一端としての使い勝手は悪い。
曲がりなりにも敵は、聖域は組織だ、組織に挑むには組織を用いねば成らないし、
今から組織を編成しようにも正しく時間的猶予が無い。
歴代教皇の妄執とも言うべき聖域の年輪の打倒は、神をもってしても至難の業だ。
あたかも時が芳醇なワインを産むかの如く、対敵滅殺の意思はオリンポス十二神次席の海皇を阻むだろう。
たとえ現在存在するすべての聖闘士を殺しつくしたところで、機構は生き残る。
聖闘士候補生すら殺しつくすことは事実上不可能だ。
聖衣を打ち壊し、聖闘士を殺しつくし、聖域を侵したとしても、アテナが滅ばぬ限りは何度でも蘇るだろう。
その前提すら困難であるのだから、言わずもがな。
内心苦笑しつつ、海皇は懐中から時計を取り出す、それは先ほどの一撃で粉砕されていた。
お気に入りの一品だっただけに、少し惜しい。そう思うのはジュリアン・ソロの部分だろう。
彼らの融合は均一ではなく、大理石のようにまだらなのだ。

この空間、『nのフィールド』と呼ばれる異空間に人間が滞在できるのは約三十分が限度なのだという。
人形師ローゼンの前身は、錬金術師であったらしい。
調査結果とそれに基づく考察、そして金糸雀の証言からだが、物理的側面からではなく、精神的側面からの
アプローチによってこの異空間を『発見』したらしい。
仮定ばかりの話だし、もしかしたら長期滞在も可能なのかもしれない。
だが、今の海皇が冒険心を起こすには、人的にも時間的にも猶予が足りないのだ。

「ピチカート、道案内を頼むよ」
299戦闘神話:2006/11/29(水) 23:38:06 ID:ZNaZaexX0

いつの間にか彼の傍には明滅する光の玉が浮かんでいた。
ローゼンメイデンには人口精霊が付き添っている、その外見は光の玉であり、人格すらも有するという。
その人工精霊の一体であるピチカートは、ローゼンメイデンの第二ドール・金糸雀(かなりあ)の随伴である。
ポセイドンはエドワード・エルリックが蝶野爆爵探索の為に出立した直後に彼女を得ていた。

実に間の抜けた話になるが、彼の大叔母の遺品の中に「あった」のだ。

地中海に名をはせる名家であるソロ家の人間は、必ず収集癖を持つのだ。ロスチャイルド一族の如く。
実際、ジュリアン・ソロの父は数多くの妾を囲っていた、城戸光政ほどではないにしろ。
その結果、血みどろの後継者闘争を生み、彼の幼い妹をはじめとして多くの命が散ったのだが…。
その叔母はそんな苛烈な性を持たず、もっぱら洋の東西を問わぬアンティーク・ドールの収集家として有名であった。
正確な数は現在目録と合わせて調査中だが、日本の市松人形からロシアのマトリョーシカ、
そしてビスクドールに至るまでコレクションは達しており、その数は万を越していたらしい。
例の大洪水の後、体調を崩し床に臥せっていたのだが、つい数日前眠るように逝ったのだ。
「ジュリアン」の名づけ親でもあった彼女とジュリアン・ソロは懇意にしており、
それは海皇となっても続いていた事もあってか、彼女の遺言によって海皇は遺品群の受け取り手と成ったのだ。
ポセイドンもジュリアンも、幸か不幸かドールの収集癖は無く、亡き彼女の意を汲んで博物館でも作ろうかと思っていた所、
遺品目録と共に、ジュリアン・ソロに届けられた大叔母名義の手紙があったことが、金糸雀を得る由となった。

「まきますか?まきませんか?」

簡素な一文のみな、否、生前の彼女を良く知る人間からも、ソロ家ほどの水準の家柄の人間としてみても
ジュリアン・ソロからしてみても異常というほか無い手紙。
怪しい、以外の何物でもなかったが、即断即決をジュリアン・ソロ時代からの美徳としている彼にとって、
「まく」以外の選択肢は存在しなかった。
「まく」の側を丸く囲み、封筒に収め、デスクの上に置き、食事の為に一時退席した後、執務室に戻ると、
古めかしいが堅牢で頑丈なつくりの鞄がぽつんと置いてあったのだった。
なるほど、と彼は思った。
300戦闘神話:2006/11/29(水) 23:42:34 ID:ZNaZaexX0
これが伝説にすらなった人形師の傑作のひとつかと。
はやる気持ちを抑え、彼は鞄を開けると、一人の少女が眠っていた。
カナリアイエローを基調とした楽士風の装いと、大きな額が愛らしい。
彼女の背の部分に巧妙にかくされた螺旋穴へと螺旋巻きを巻く。
これが先ほどの問いの正体なのだろう。
眠っていた刻が、人の手を介して動き出す。
もはやローゼンという人形師は、人でも神でも魔でもない何かへと変質しているに違いなかった。
人の手で作り出せる領域ではなく、まるでピュグマリオンの象牙人形の如き精緻さをもってあるこの人形は、
恐るべき事に人間のようにあくびをし、人間のように伸びをし、人間のように目じりに涙をため、
人間のように慌てふためいて、人間のように顔を真っ赤にして、己の名をあげたのだった。

「カナは金糸雀!
 ローゼンメイデン第二ドールかしら!」

金糸雀のような高く美しい声色は、彼に何故か喪った妹を想起させていた。
外見相応にローティーンの少女らしさをもった彼女の言葉はとりとめもなく、
判断に難儀したが、ようするにこう言う事だ。
一つ、自分が活動するにはねじを巻き、かつローゼンメイデンとしての活動する為にエネルギーを提供パートナーが必要である。
二つ、ローゼンメイデンは至高の少女「アリス」になることを宿命付けられており、
そのためには他のローゼンメイデンと戦ってローザミスティカを奪わなければならない。
アリスゲームという宿命は、半ば本能としてこの小さな頭脳に刻まれているのだと言う。
それを聞いて彼は失望を禁じえなかった。
ローゼンは己の欲深さ故に己を見失ってしまったのだと、ジュリアン・ソロの部分は失望したのだ。

「はじめまして、金糸雀。
 私の名はジュリアン・ソロ。気軽にお兄様と呼んでくれると嬉しい。」

何を口走っているのだ、ジュリアン・ソロ。
301戦闘神話:2006/11/29(水) 23:47:05 ID:ZNaZaexX0
自制する海皇をジュリアンは凌駕した。
代償行為だとは分かっている、人形に肉親のような愛情を向けるのも異常だと理解している。
情を移してしまったら、賢者の石(ローザミスティカ)を手に入れづらくなることも重々承知だ。
だがそれでも、ジュリアン・ソロの中にあった肉親への愛情は、対象を求めていたのだ。
愛(アガペ)など知らなかったジュリアンにとって、僅か三月しか共に過ごさなかった妹の存在は大きかった。
その小さな妹が、愚かな後継者闘争によって死んでしまった事も大きかった。
今まで望んだこと、望んだものは全て手にしてきた、だが、死んだ人間はもう二度と微笑まない。
はしゃぎ回って服を汚すことも、転んで泣きじゃくることも、むくれることも、二度と出来ない。
喪った。という感情を自覚したのは、城戸沙織と出合った頃、後継者闘争に勝利を収めた頃だった。
あの時の自分は、まさしく狂っていた。
権力欲に狂った有象無象を廃し、ソロ家を、ソロ財団を掌握し、
天上天下に己の意思の及ばぬところは無いと自惚れ、権勢に狂っていた。
蛇蝎の如く嫌悪した親族連中と同じ、愚物に成り果てていたとは気が付かずに。

故に、城戸沙織の危険性にも気が付かず、うかうかと求婚までしたのだ。
あの狡猾なアテナに対してなんと迂闊であったことか。
最初の聖戦の戦端を切ったのはポセイドンであったが、それを誘発したのは他ならぬアテナだ。
ポセイドンの愛妾の一人を化け物に変えた上で殺した、つまりは完全なる挑発だったのだ。
アテナとしては、なにより己の正当性を得る為に「ポセイドンの側からの侵略戦争」でなければならず、
トロイア戦争で広まってしまった悪名を拭う為にも、アテナが戦うからには聖戦でなければならなかったのだ。
ポセイドンの愛妾一人の命など、アテナの前では毛ほどの意味も持たない。
こうしてポセイドンの猛威から地上を守った守護戦闘神という肩書きを得た女神は、
己こそが正義とばかりに、地上に君臨してきた。
戦の女神が大地を収めるのだから、自然、この地上に争いの絶えた時は無かった。
しかも、性質の悪い事に争う双方が互いに正義を主張して止まないのだ。
これがアレスの闘争ならば、ただ本能に従って争うだけだからまだ納得はいくのだが…。
302作者の都合により名無しです:2006/11/29(水) 23:48:29 ID:rlEKbHZI0
銀杏丸さんお久しぶり
(割り込みになってごめん。夜勤に出るのでここまでの感想と連投支援を)
ジュリアンとローゼンメイデンか。系統的に似てますな。
今回は主役が不在でしたが、ジュリアン側の視点が面白かったです
303戦闘神話:2006/11/29(水) 23:50:22 ID:ZNaZaexX0

そして、人が歴史を紡ぐ度、大地はすこしずつ荒廃していった。

神話の昔、あの暴龍神との戦いで神去った(かむさった※死んだこと)大地の女神が愛したこの大地が荒廃して行く。
彼女を愛した海皇に、冥王に、それが我慢できるはずも無かった。
おそらく、その力さえあれば天主といえども静観はしなかったろう。
ポセイドンの戦いは、全て女と己の意地の為の戦いだった。
聖戦もまた、例外ではない。
今回もまた、例外ではない。

「おにーさまー!
 お帰りなのかしらー!」

さえずりのような金糸雀の声が聞こえる。
仮初(かりそめ)の人形に過ぎないが、今のジュリアン・ソロにはかけがえの無い妹だ。
海皇はそんな己を、すこし面白いと思っている。それを少々危険と感じないでもないが、これもまた余興だと割り切る事にした。
死なず、老いない海皇は、余興を求めるのだ。

「お迎えありがとう。
 金糸雀はお利口さんだね」

そう、割り切ることにしたのだ。
妹を愛でる兄、というよりは、娘を愛でる父のように、彼は金糸雀の頭を撫でる。
彼女を喪いたくないという気持ちと同時に、海皇の力を完全なものとしたいという欲望が鎌首をもたげるのも感じる。
俺は欲深い。
ジュリアン・ソロは胸中で毒づくが、金糸雀は勿論気が付かない。
304銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2006/11/29(水) 23:54:58 ID:ZNaZaexX0

ヤイサホー!
遅ればせながら保管サイト祝30万ヒットおめでとうございます
一月ぶりのご無沙汰で失礼しました。銀杏丸です。
またしても長くて申し訳ございません

前スレ>>415さん
一応そういうくくりです
原作主人公の星矢は、頼りになる兄貴分として登場予定です
予定変更して第三回の結構最初に登場させる予定です
コロコロかわってますが、つまりは予定は未定なのですw

前スレ>>416さん
すみません、だいぶ長いです
まだ第一部序盤だったりします、ハイ
トランスフォーマーの映画が公開するころには完結させたいなぁと

前スレ>>417さん
次のパートにて久々にエド登場ですので
ペース云々は…
前向きに善処しますw

>>302さん
夜勤お疲れ様です
ジュリアン・ソロと金糸雀
12神次席の神の寄り代と神がかった人形の第二姉という不可思議奇天烈なコンビは
今後思いもよらないような形で主人公勢と関わりますのでご期待くだされ
305銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2006/11/29(水) 23:56:39 ID:ZNaZaexX0

>>スターダストさん
原作連載していたころには、まひろと秋水の二人をこういう視点で見ることになるとは思いませんでしたw
ネタかぶっている以上、独自性を模索して四苦八苦しております
斗貴子さんの過去から現在、そして未来の支柱となる錬金の力とカズキの存在
ともに悩み、ともに戦い、ともに涙し、ともに生きる。連載ラストの一心同体だ!から
宇宙をバックに抱き合う彼らのその姿が、僕にはまぶしくて美しくて大好きです
>神話
今回、ポセイドン視点での聖戦の顛末でしたが、銀杏丸解釈ですので、ご容赦ください
それを踏まえても、アテナとは狡猾な女神だと思います。ギリシア神話ではやることエゲツないし
でも味方にすると頼もしいことこの上ないというイヤぁな女神なんですよ、美しいのもまたイケナイ
敗者からの視点、というのは善悪が逆転していて実に面白いんですが、
あんまりやるとイリヤッドの二次創作になるんで自重しとりますw

>>ふら〜りさん
神々レベルと超人レベルと人間レベルの差、というのも考えています
光速でカっ飛んでる連中とせいぜい音速レベルの連中じゃ文字通り桁が違うので
それぞれのランクにあった敵を用意するために、巨大な組織・トゥーレ協会を登場させたわけですが
この団体、現在は存在しないので好き勝手やってますw
関係者のご遺族には申し訳ないですが
ナチスとか第二次大戦ネタとか絡めると明後日の方向へ光速突撃しそうなんで自重してます

>>ミドリさま
復活おめでとうございます。
不詳銀杏丸、憧れておりまする。萌えて燃えておりまする。
ミドリさまの描かれるアテナ・城戸沙織のなんと尊きことか…
泥臭い銀杏丸には真似出来ません…

最後に>>ハイデッカさん
ステキな渾名ありがとう(刺爵風に

では、part11でお会いしましょう、銀杏丸でした。
306銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2006/11/30(木) 00:16:05 ID:8KjnlaM60
攻爵だー!
なにやってんの俺ー!

失礼しました…
307作者の都合により名無しです:2006/11/30(木) 00:56:34 ID:aetK1OPn0
・超機神大戦
いよいよラストバトルも最後、エンディングへ一直線ですか。前作と合わせて3年、お疲れ様です。
ドラえもんの差し出した最後の道具、親友テレカがどんな演出になるんですかね。

・ポケットの中の戦争
やはり、このSSのメインのロボットはガンダムなのかwまだまだ序盤戦といったところでしょうけど
よりによってヤザンにつかまっちゃったなあw

・戦闘神話
ジュリアンが主役の会だと、流石に文体がいい意味で重いな。流石神様ですね。
しかしジュリアンの神の母体ならぬ人間らしい葛藤がよく伝わってきますねえ。
308作者の都合により名無しです:2006/11/30(木) 05:16:56 ID:K+RLJgpB0
サマサ!303!さまさ!SAMASA!
309作者の都合により名無しです:2006/11/30(木) 10:10:04 ID:KFYDSuGr0
サマサさんいよいよカウントダウンか…寂しい。

あとインキン丸さんお帰り。
310ふら〜り:2006/11/30(木) 15:45:09 ID:e/A203Zf0
仕事などが忙しい時ほど、気軽に多彩な作品が読める当スレがありがたいです。

>>さいさん(ヴァチカンって聞くとゴルゴやパタリロが浮かびます)
深く納得しました。確かに神父、主人公ですね。だって今回の内容、「邪悪で強大な敵
組織の幹部連が、予想外に強かったヒーローに驚いて対策を練る」のパターンですよ。
こうなるともう、錬金サイドがむしろ第三勢力に見えてしまう。ってそれが正しいのかも?

>>ワルツさん(お久しぶりですっ。今回は、凧揚げにぼっちゃまが混じってましたね?)
軽快だけど、どこかのんびりした文体・会話のやりとりは、漫才ではなく落語の感じです。
元気良くて無邪気で、見てて充分可愛いんだけど並の萌えキャラとはちょいとイメージの
違うよつば、味があります。あと冒頭の一文、常に心がけるべきだなと思わされました。

>>スターダストさん
お気楽というかいい度胸というか、こんな状況でこの娘っこは全く……てなトコが彼女の
魅力ですねまひろ。で秋水がそんな彼女に対し、「義理ゆえに」の気持ちを吹っ飛ばして
それ以上の感情を抱くのはいつになるやら。そして二人ともスルーしてますが、総角はっ!?

>>一真さん
人質が、美女でも子供でもなく単なる仕事の依頼人。で危害を加えられて本気で激怒。
飾りっけのない、地味に強く硬派な匂いがしてます。相手が柔らかく挑発的なだけに、
銀時の真っ直ぐさが際立ってて。昔のギャグパートとの比較も然り。本気本戦開幕、か。

>>サナダムシさん
前回もさんざん思いましたが、まだまだ続いてる「ジャイアン決め台詞・定番アクション集」。
こんなにあったかと溜息です。そしてそれらをバトルに自然に盛り込まれる技量も流石。
でもこの展開だと、いずれのび太がジャイアンに勝つべきなんでしょうが……どうやって?
311ふら〜り:2006/11/30(木) 15:45:41 ID:e/A203Zf0
>>サマサさん
敵も味方もどんどん強くなるのがインフレバトル。が本作今回はそんな単純なものではない
のを魅せてくれました。これ以上スケール壮大な映像は想像できません、私は。あと、安心
したのが合体解除。やはり最後は馴染んだ顔ぶれが欲しいところ。それがいよいよ……か。

>>ポケットさん(ラノベでも数少ないんですよね、ロボ戦は)
ロボ戦メイン話は、昔挑戦しようとしたこともあったのですが、殴る蹴るとかダメージ感覚
の主体(カメラアイというか……)をパイロットにするかロボにするかが難しく断念。本作を
見てちょっとナルホドでした。サマサさんとはまた感覚の違うメカ感描写、勉強になります。

>>銀杏丸さん
原作を見てた時は、人間が神に挑むという点で燃えたものですが。こうやって見ると、案外
星矢たち側も強大な存在だったんだなと。聖域に加えて、やろうと思えばグラード財団が
SPW財団みたいなこともできたはずですし。いつもながら「星矢」の違う視点が面白いです。

>>久々に
二レスにまたがるこの分量。喜ばしくもおめでたい。にしてもこの調子だと、また
どなたかの復活があるかも?
312作者の都合により名無しです:2006/11/30(木) 17:49:12 ID:nFrO17nn0
>>307
そうだ、超機神ってもう3年やってるんだな、前作と合わせると。
サマサさんの凄いのは前作よりちゃんと面白くなってるところだ。

銀杏丸さんも復活されて目出度いな。
でも、まだエドがあんまり目立ってないから次回ではよろしく。
第二十九話「僕らはきっと総理大臣の孫だって殴り飛ばせる」

「お、お前は……ッ!」

予想外の乱入者に、銀時は思わず息を呑んだ。
忍者装束を身に纏った、闇に溶け込む出で立ち。間違いない。あの男だ。
かつて、ジャンプを争い拳を合わせ、講談屋の一件では色々と騒動も起こしてしまったあの男……。
そう、あの男だ。いけ好かない男で影の薄い男でたしか痔持ちの男でたしかたしかたしか。

「えーと…………誰だっけおたく?」
「ええええええェェェェェェ!!? ちょ、この雰囲気でそりゃあねぇだろ!?」
「バッカ、俺だって空気は読めるよ? ただあれだ、ちょっとばかし名前をド忘れしちまっただけだよ。ごめんな鈴木くん」
「鈴木くんちげェー! 全蔵! 服部全蔵だバカヤロォォォ!!」
銀時は、決してボケているわけではない。
誰にだって、親しい友人の名前をド忘れしてしまうことはある。
それが本人の人生にとって比較的どうでもいい人物なら、なおさらだ。

「ったく……まぁいい。お楽しみのところ悪いが、俺ぁこの鴉ヤローに借りがあってね。この喧嘩、俺に譲ってもらうぜ」

全蔵はクナイを構え、鴉男の正面に向き直る。
先日のジャンプ発売日、鴉男は、卑怯にもジャンプを人質に全蔵をブービートラップ(単なる落とし穴)に嵌めるという下劣な行為を行った。
今回は、その時の報復にやって来たのである。元お庭番衆としてのプライド、軽く見られたままでは終われない。

「おいおい、お前あのヤローがどんな奴か知ってて喧嘩ふっかけてんのか?」
「宇宙海賊――の一味かも知れないってんだろ? おもしれぇじゃねーか。暴れがいがあるってもんよ」
全蔵の不敵な笑みは、ただのジャンプ好きな大人の笑みではない。
元お庭番衆随一の使い手――この国でもトップクラスの実力を持つ、最高峰の忍としての覚悟と余裕の表れだった。
「元お庭番衆の情報網、甘く見てもらっちゃあ困るぜ。コイツが宇宙海賊と繋がってるかもしれねぇってことはもちろん、ここ最近の奇怪な動向についても調査済みよぉ」
「奇怪な動向? なんだそりゃ」
フフフと微笑む全蔵を嫌味たらしく思いながらも、銀時が尋ねた。

「こいつぁここ最近、夜な夜な名うての使い手ばかりを襲いまくってるのさ。時には任務遂行中の忍を、時には凄腕の侍を。
 江戸中の実力者を闇討ちしては去っていく。それで付いたあだ名が、鴉男。同業者連中の間じゃ既に噂になっててな。驚いたぜ」

暴かれた鴉男の奇行に、警戒心を強める銀時。
先程の身のこなしからしても只者ではないと思っていたが、とんだ変人がいたものだ。

「しかしこの俺でも分からなかったことが一つある。襲われた連中だが、そのどれもが名のある使い手ってだけで、関連性がまったくねぇ。
 宇宙海賊としての犯行だとするんなら、なにかしら目的があるはずだが、この一連の襲撃からは、その目的がまったく見えねぇんだよ」

質問するような全蔵の言葉に、鴉男は飄々とした態度で返す。
「僕の目的ですか? そんなの単純ですよ。なんなら教えてあげましょう――」
正体を暴かれ、ヤケになっているわけではない。
知られようが知られまいが支障はない。そう言わんばかりに、鴉男は極自然に軽口を開く。

「――強い人と戦いたい。ただ、それだけです」

ポロッ、と零すように口にした発言は、銀時と全蔵をキョトンとさせるには十分のものだった。

「この江戸という街には、相当な数のツワモノがいるようですから。さすがは、元侍の国といったところですね。
 もちろん、あなた方の武勇伝も調べ済みですよ。元お庭番衆随一の使い手と呼ばれた服部全蔵さん。
 攘夷戦争の折、敵はおろか味方からも『白夜叉』として恐れられた坂田銀時さん。
 他にも、銀時さんと同じく攘夷戦争で活躍したという桂小太郎さん、高杉晋助さん。
 白フン一丁で天人の戦艦を落としたという鬼神、西郷特盛さん。
 将軍家剣術指南役である柳生家当主、柳生敏木斎さん。そしてその孫、柳生九兵衛さん。
 いずれも後に取っておいたお楽しみばかり……あなた方を始末したら、次は桂さんのところにでも出向きましょうかね」
その長台詞が、癪に障った。
身勝手でくだらない目的についてもそうだが、敵を目の前にして、もう次の対戦相手を考えているという点もムカツク。
「……手前みてーな単なる喧嘩好きは嫌いじゃねーけどよ」
顔を若干伏せながら、銀時が鴉男へと静かに歩み寄る。
「やるなら、人様に迷惑が掛からない程度にやれや。何の罪もねぇジャンプ編集者を手にかけるなんざ、もってのほかだ」
その歩みには、確かな怒りが込められているような気がした。

何人もの天人を切り捨て、鬼神の如き働きを見せたという侍――『白夜叉』坂田銀時。
人の道を踏み外した外道を前に、ゆっくりと、その牙を曝け出そうとしていた。

「どうやら、俺の調べた以上に下衆なヤローみたいだな」
歩み寄る銀時の横に、全蔵がそっと並び立つ。
「お前……」
「さっきも言ったとおり、俺はコイツに借りがある。本当ならサシで戦りたいとこだが……一応はテメーの顔も立ててやるよ」
全蔵が鴉男に喧嘩を吹っかける理由は私情によるものだが、下衆野郎を懲らしめたいという銀時の考えには同意するところがある。
遠まわしだが、銀時に共闘を求めているのだ。
「痔……」
「え? なにそれ、俺の代名詞? いくらなんでもそりゃあんまりじゃないちょっと」
だからといって、この二人がむやみやたらに馴れ合うことなど永遠にないのだが。
しかし、銀時と全蔵の怒りの矛先が、鴉男一点であるという事実にはなんら変わりない。
二人がかりという劣勢を感じてなお、鴉男は不気味に微笑む。

「二対一……というわけですか。いいですよ。一対一の真剣勝負というのも面白いですが、これはこれで楽しめ――」
「二対一ィィ? オイオイこのぼっちゃん、なーんか勘違いしてねーか」
「しまくりだな。なんせ、俺たちがこれからやるのは勝負でもなんでもねー。これから始まるのは……」

銀時と全蔵がそれぞれの獲物を構え、標的に飛びかからんと力を溜める。
「「……一方的な、集団リンチだァァァァァァ!!!」」

咆哮一声。棒立ちの鴉目掛け、黒い猫と白い夜叉が飛びかかる。

「ちょ……集団リンチって、あなたたち二人だけじゃないですか!?」
さすがの鴉男も二人の迫力に押されたか、やや遅れた動作でクナイを構える。
木刀とクナイ、型に嵌らない変則的な動きでがむしゃらに攻めてくる二人に対し、鴉男は高速の手さばきでそれをガード。
銀時&全蔵と鴉男の武器同士が弾け合い、周囲にはリズムのよい金属音が鳴り響く。

深夜――近所迷惑なことに、やかましい二人と一人の喧嘩が、こうして開幕した。
あれだけ煌々と輝いていた満月はいつしか雲に覆われ、闘争者たちを更に深く、闇へと誘っていく。
この先の展開を案じるように、暗く、密かに、闇が蠢く。

ほのかに、血の香りがした。
317一真 ◆LoZjWvtxP2 :2006/11/30(木) 22:02:05 ID:kOwwFNFB0
今日、久しぶりに銀魂のアニメ見たら、自分が書いてる銀さんとギャップがありすぎてビビリまくりだったんだぜ!
……まぁ、原作はほとんどギャグで、シリアスな顔はあんまり見せないからなぁ。

どもども、一真です。
何気に第四部7話目。展開の進み具合が著しく遅い。ギャグ描写ならもっとあっさり行ってたんだろうけど。
次回で三十話目ですが、このままいけば五十話くらいまでシリアスで通すかもしれません。
どっかでギャグ入れられればいいんだけどなぁ……最終話あたりは和やかな感じでいきたい。

鴉男との決着は以下次号、って感じで。
それでは。一真でした。
318永遠の扉:2006/11/30(木) 23:20:50 ID:esRcscFY0
「──という訳で、二学期からの転入となる一年、ヴィクトリア=パワードだ」
防人の紹介が終わると食堂全体から歓声が上がった。
さもあらん。紹介されたのは金髪で透き通るような白い肌を持つ、外国人の少女だ。
緊張しているようだが、声はなめらかで日本語も流暢で、とかく聞くものの耳に心地よい。
生徒達は思い思いに誕生日から星座からなんでもかんでも聞きまくり、果てはスリーサイズ
を知りたがる不逞の輩や罵倒を期待するマゾ気質のブタ野郎(いやに声が低い。マジに)ま
でもが出現し、食堂はお祭り状態になった。
少女はそれらに、間延びしたどこかとろくさい声で答えたり、時にはクスクス笑ったり
ひどく慌てたりと、表情豊かに反応を返すから、生徒達の印象はますます良くなる。

さて、紹介を終えた防人は斗貴子を連れて部屋の片隅にこっそり移動した。
斗貴子は落ち着かない。
先ほどの爆音の正体が気になるのか、外の方をちらちら見る。
ヴィクトリアがホムンクルスであるコトを知っているせいか、黒山の人だかりをちらちら見る。
今にも彼女を生徒から引き剥がしたくて仕方ないらしい。
「早く説明して下さい戦士長。どういう経緯で彼女が転校してくるのか」
低く押し殺したハスキーな声が、徐々に早口へなっていく。
「大体、横浜(神奈川県)にいた彼女がどうやってココ(埼玉県)まで」
「移動自体は私が」
ひょっこり会話に参入してきたのは千歳だ。
白い半そでの割烹着を身につけ、下は紺のGパン。
折り目正しく被った三角巾から雪のように白い耳たぶが覗き、レトロな色気が漂っている。
さっきまではカレーをよそっていたが、ヴィクトリア登場のあおりで鍋前がほぼ無人なので来た。
右手に真新しいおたまを持っているのはなぜか斗貴子は気になったが、もし千歳までもが
「その方がカッコイイから」と答えたらすごく人間不信になりそうなので突っ込まない。
「おとといのコトよ」
千歳は任務に必要な下準備を果たすべく、クローン技術に長けたヴィクトリアの協力を仰いだ。
「その時、彼女が出した条件が銀成市(ココ)への移動だったの」
319永遠の扉:2006/11/30(木) 23:21:35 ID:esRcscFY0

──「私の知っている場所はココしかないけど、大丈夫?」
──(中略)「じゃあ私のいう通りにして」
──千歳は少女の望みを聞くと意外そうな顔をしたが、追求はしない。
──華奢な肩をそっと抱いて、六角形の画面にペンを走らせた。

「ちなみに転校は秋水の発案だ。一応、大戦士長の許可も得ているが……その」
斗貴子が一気に不機嫌になるのを、防人は(やっぱり)という顔で見た。
「スマン。もっと早くいうべきだったんだが、残党狩りやもう一つの調整体のコトで遅れてしまった」
「……彼はカズキの真似でもしたいんですか?」
「いや、そうじゃなくもっとブラボーな理由があるんだが」
皮肉交じりの斗貴子にそういいかけた防人だが、二の句はやや詰まる。
単なるカズキの真似じゃないと知ってはいるが、動機を詳しく説明する為にはカズキが月に
消えた戦いへ触れねばならず、触れれば斗貴子が傷つく。
よって笑顔が好きで涙が嫌いな防人としては避けたい。
「だいたい、こんな人手がいる時にアイツはどこへ。まったく姉弟揃ってフザけて……」
険しい目つきで斗貴子は桜花を見た。
メイド服を着てお冷をにこにこと注いでいる桜花を。
これでもかと短いスカートと青と白の縞模様のニーソックスの狭間でわずかに太ももを覗か
せながらしゃなりしゃなりと歩いて、生徒の要望に応じてお冷を注ぐ。
エプロンドレスの胸元ははちきれんばかりに膨らみ、ウェストは60とやや太めながらも、実
状以上に悩ましくくびれて見るものを悩殺する。
このサービスがついてタダでカレーを喰えるのだから恐ろしい。
新参の転校生なんぞより天下の生徒会長が好きな生徒はひたすらお冷を飲んでいる。
それにしてもこの姉さん、ノリノリである(キートン山田氏の声でお読み下さい)。
とても溌剌とした笑顔で「はい。お注ぎしますね」とかやっている。
そして斗貴子の目線をキャッチすると、にこっと笑って声をかけた。
「あら。津村さんもコレ着たいの? でもごめんなさいね私のじゃないから一存じゃ……」
「う、うるさい! そんなヒラヒラした服を着れるか! というかそれ誰のだ!」
「私のだけど」
千歳がぽつりと呟いた。おたまを無表情な頬の横へ掲げながら。
320永遠の扉:2006/11/30(木) 23:22:35 ID:esRcscFY0
(クソ。やっぱりこの人も戦士長と同類か。というか本当におたまは何なんだ)
斗貴子は肩を落とすが、千歳は比較的マシな部類だろう。
ただ衣装とそれを着る自分の年齢の関連性を考える機能が致命的なまでに欠落しているだ
けである。7年前(18歳当時)は自分が小学生として潜入できると本気で考えていたのである。
「ところでさっきの話題だけど、きっと前歴が似ているからよ。違う? 防人君」
自然な呼吸で千歳は防人の会話をリリーフした。これで話は例の戦いから逸れるだろう。

ヴィクトリアという少女は、望んでホムンクルスになったワケではない。
100年前、父・ヴィクターが、存在(い)ながらにして死を撒き散らす怪物と化し、錬金戦団に
壊滅的打撃を与え続けていた頃、あろうコトか、その錬金戦団の手によって彼女はホムンク
ルスへその身を変えられた。
以来、ヴィクトリアはホムンクルスも武装錬金も、錬金術に関わる物全てを嫌悪している。
そして100年。神奈川は横浜にある、ニュートンアップル女学院の地下で。
ヴィクターが怪物と化した時の巻き添えで首から下の機能を失い、クローン技術によって脳だ
けで生き続けていた母・アレキサンドリアと共に、閉じた世界で生きてきた。
だが8日前、太平洋上でヴィクターが叫んでいる頃、アレキサンドリアは死んだ。
クローンの大元となる細胞が100歳を超えてしまった為、老化に耐え切れなかったのだ。

秋水のかつての望みは、『桜花と2人きりで永遠に生きるコト』だったと千歳は聞き及んでいる。
前歴はヴィクトリアとかなり近い。だから秋水は動いたのだろう。
ちなみに千歳は前述の任務の最中、ヴィクトリアを探していた時に彼女を説得する秋水をヘ
ルメスドライブ(対象を映すレーダーの武装錬金)で見てしまっている。

──その人物はいつもの居住地で、別の人物を会話をしているようだ。
──(中略)対象と話をしている人物は、ひどく端正な顔立ちだ。
──にもかかわらず、その前歴は特異で、かつ波乱と闇に満ちている。
──戦団に入るのがもう少し早ければ、再殺部隊へ編入されていただろうと思わせるほどだ。
321永遠の扉:2006/11/30(木) 23:23:43 ID:esRcscFY0
秘めた何かを変えようとする秋水の表情は、けして真似から出たものと千歳は思いたくない。
それはきっと7年前の失態以来、ずっと冷静たろうと務めてきた姿勢ゆえの親近感だろう。
もっとも、「小学生として潜入中のホムンクルスに気付かず、自分が戦士と漏らして任務を失
敗に導いた」千歳が、ホムンクルスの転入を認めるのは皮肉めいてもいる。
更に斗貴子は惨劇の唯一の生き残りだから、学校にホムンクルスを招いて平気な筈もない。
「人喰いについては大丈夫だ。キミが女学院を調査した時、そういう話は聞かなかっただろう?」
斗貴子は頷く。
「神隠し」により一時的に姿を消した生徒のウワサなら小耳に挟んだが、死者や行方不明者
の話はなかった。人喰い不可避のヴィクトリアが100年も住んでいたにも関わらず。
「しかし、外部の人間をさらっていたら話は別です。武装錬金を使えば完全に隠蔽も──…」
「それはないと思うわ。彼女は錬金術の力を嫌っているから」
千歳は粛々と説明する。
「武装錬金を使ってまで隠蔽はしない筈よ。人喰いの衝動自体、かなり辛いでしょうしね……」
理を持って諭されると、それ以上抗弁できない斗貴子である。
そも、ヴィクトリアをホムンクルスにしたのが戦団と知っているから殺意はあまり抱けない。
「ただ、いま私がいったコトは、闇の中のわずかな光明にすぎないの」
(その"わずか"に多くの人々の命をかける訳にはいかない、か)
むかし斗貴子にいったセリフを使われて、防人は複雑な微笑で頬をかいた。
「冷たくいえば人喰いの可能性はゼロじゃないから、あなたの不安も分かるわ。だから……」
千歳はちらりとヴィクトリアを見て、Gパンのポケットに触れた。
そこには核鉄が入っているから、ヘルメスドライブで監視する、といいたいのだろう。
「確実な手段だが、あまり気が進まないな」
防人がため息をつくと、千歳も微妙な表情をした。
ヴィクトリアは戦団の被害者だし、容貌もまだまだ幼い少女だ。
7年前、小学生の姿のホムンクルスに出し抜かれていながらなお、監視には抵抗がある。
(せめて戦士・根来が入院中でなければなぁ……)
(確実に遂行するでしょうね)
322永遠の扉:2006/11/30(木) 23:25:35 ID:esRcscFY0
単身痩躯で鋭い目つきをした同僚の冷徹さが、防人や千歳には羨ましい。
だが根来は重傷。退院まであと9日は要するだろう。
「私にはそれ(監視)を強制する権利はありません。戦士長の判断にお任せします」
斗貴子は呟くだけだ。千歳の提案を推挙しないのは、彼女なりの葛藤があるせいだろう。
(……カズキ。キミだったらきっと真っ先に、彼女を人間に戻そうとするんだろうな)

「大丈夫! ヴィクターだって白い核鉄がもう1つあれば人間に戻れる! だったらホムンク
ルスから人間に戻る手段だって絶対にある! 一緒に探そう!」

などと力強く励ましながら。
口調や身振り手振りや表情がリアルに思い浮かび、斗貴子は寂しそうに微笑した。
そういう感傷があるからこそ、秋水がやっている真似事は気に入らない。

(カズキの代わりはいない。誰もカズキの代わりになれるはずもない)

そういう率直な感想が、なぜか段々自分へ言い聞かせる言葉へと変じていく。
奥底に抱いた願望や希望を諦めようとするように。叶わぬ辛い願いを断ち切ろうとするように。

(分かっている)

斗貴子は、陽光なき寒色を瞳に宿し佇んだ。

ところでどうも今晩の早坂姉弟は日常を満喫できない運命らしい。
桜花は御前から「震洋現る。秋水とまひろがそれに遭遇し、総角が倒された」という報せを
受けて、急いで防人たちに声を掛けた。

「震洋?」
「L・X・Eの信奉者だ。行方をくらましていたが……」
千歳に説明する防人へ、桜花は報告を続ける。
「ハイ。ただ彼、逆向凱の武装錬金を使ってるんです」
「俺の部下が倒したという幹部のか」
防人は顎に手を当て軽くうめいた。
323永遠の扉:2006/11/30(木) 23:27:37 ID:UacrL0gd0
(気になるな。まぁ戦えば正体も判るだろうが……どうも色々ありすぎる。正直、人手が欲しい)
と防人は考えてみるが、現在の戦団の状況からすれば望みは薄い。
そもそも、防人、千歳、斗貴子、桜花、秋水の5人だけでも他から見れば戦力過剰のむきがある。
「ともかく私が出る! まひろちゃんをアイツに任せるワケにはいかない! だが桜花」
ぶっきらぼうな声が桜花に刺さる。斗貴子だ。
鋭い直視の眼差しは対ホムンクルス並みに殺伐としていて、千歳は7年前とのギャップに息を
呑む思いをした。しながらも、一団の神経が本来目的の監視から外れそうなので、食堂を見る。
「いいか。戻ってきたらなんで秋水の奴がまひろちゃんと一緒にいるか聞くからな!」
「ム! それは俺も気になるな。戦士・秋水もストロベりたい年頃か?」
防人は興味津々だ
「タダのお食事」
桜花はしれっと笑った。
「以前、私をお見舞いに来てくれたコトへのお礼だそうです。だから今度は津村さんの番かも」
もちろん秋水にその気はない。まひろへの誘いだって桜花の提案だ。
しかも桜花は、デートの体裁になるのを半ば計算の上ですすめたのである。しかし。
(津村さんに本当のコトなんていったら私の身が危ないもの。嘘はついてないからいいわよね)
ある程度の打算によって、安全が図れる言葉を吐いているのである。
「冗談じゃない! 誰がアイツの誘いなど……まぁいい、今はそれどころじゃない」
凄まじい勢いで食堂を脱出する斗貴子を、千歳はおたまを振って見送った。
(あらあら。ひょっとしたら秋水クンとまひろちゃんにとって一番の障害になるかも。困ったわ
ね……私が何とかしてあげないと)
桜花は意味ありげな薄ら笑いを浮かべ……お冷を注ぎに戻る。

すると、鍋からカレーを非常に大きなタッパーに移す見慣れぬ生徒がいた。
髪は黒いが明らかに浮き、カツラだと語っている。首筋には金色の煌きが覗いている。
背は秋水とほぼ同じで、フザけたコトに鼻メガネ着用だ。そして胸には……認識票。
桜花は防人とアイコンタクトを取り頷くと、2人がかりで近づいていく。
千歳は(監視していたのに……どうやってそこへ)と、核鉄を握り締めた。

彼らの事情を別として、ヴィクトリアへの質問、続く。
324永遠の扉:2006/11/30(木) 23:29:01 ID:UacrL0gd0
ほやほやした性格のまひろでも、流石に目をぎゅっとつぶって見るのを避けた。
文字通りの胴体着陸。湿ったおぞましい音の反響。
逆胴により真っ二つの逆向は、腸ブチ撒く腹を地面に叩きつけた。
(チ。どうやら例の光の原理はライダーマンの右手と同じらしいな。大抵の武装錬金を防げる
といえど、エネルギー吸収の特性だけは例外…… つまりはいつもの構図かよ。武器持ちの
クズがだらだら俺らを削りやがる構図かよ。変わり映えろや気にいらねェ)
残心怠りなき秋水が踏み込み、逆向を唐竹に割らんと剣を振りかざす。
(だが!)
「嘲笑」というテーマであつらえた胸像があるとすれば、いまの逆向はそれに似ている。
「サシならばまだやりようはあんだよクズ!」
逆向の下半身がしゅうしゅうと煙(けむ)に溶けるやいなや、イナゴの群れのようにソードサム
ライXにまとわりついた。
例のエネルギー吸収が発動しないところを見ると、物質的な攻撃のようだ。
刀身を逆向の脳天近くでぴたりと捉え、斬撃を終息させた。
「クク、『もう1つの調整体』の特質がァ、防御のみだと思うなよッ!」
煙の中で細かい光が瞬いた。
チェーンソーと赤子の鳴き声をブレンドした不気味きわまる怨嗟の音を響かせながら。
秋水はまひろをかばえるラインで飛びのく。が、煙から刀を引き抜く時、嫌な手ごたえが走った。
見ればソードサムライXの至るところがばらばら崩れつつある。
もはや武器としての使用は望めない。救援を呼ぶ時間も。
「どうだ? 構図に慣れきった堅物にはなかなか絶望的な光景だろう!!」
逆向の顔の光が激し、鉛のように中空で塗り固められた煙が最高潮の殺気を上げる。
正体不明の刃の音を内包しつつぎゅらぎゅらと。
「喰らい尽くせッ! ブライ・シュティフト!」
瓦解の剣を携え、なおまひろを守らんと佇む秋水。その背中を悲しげに見つめるまひろ。
救援が訪れたのは正にその時。
「フ。何が出るかは知らんが、1体1でしか功を奏さぬならば阻止は容易い」
秋水は目を見開いた。逆向も同じく。
「俺が参戦すればいいだけだからな。最適の武器と技を選択した状態で」
天空から聴きなれた声が響いた。
「出でよ! 戦闘槌(ウォーハンマー)の武装錬金、ギガントマーチ!」
325永遠の扉:2006/11/30(木) 23:30:10 ID:UacrL0gd0
「ア、アイツ生きてたのか? しかもわざわざニアデスハピネスで飛んでる!」
寄宿舎上空の御前は数10m先の上空に、意外な影を見た。
学生服姿で背中から蝶の羽を生やしている金髪の男を。
「あ、解除した。で別のが」

影が振ってきた。逆向の脳天めがけて。
牛の頭ほどある鉄塊を長い柄につけただけのシンプルな槌を振りかぶり。
「標的変更! 行──…」
中空から落下する物体は、質量が多ければ多いほど速度を帯びる。
例えばなんらかのアクシデントで戦闘相手と落下した場合、鎧を着ている方が早く落ちる。
ロビンマスクがいうんだから間違いない。
煙が影を狙い撃つ頃には、轟然と風切る槌はすでに致命の射程内。
「チッ」
すんでの所でかわした逆向のすぐ横に槌がめり込み、ソニックブームを界隈に走らせた。
「おや。避ける必要がない物をわざわざ避けたか。ちょっとした地震が起きてしまうな」
余裕たっぷりな人影──…総角の足下で逆向は歯軋りした。
確かに避ける必要はない。が、意表をつかれ反射的に回避を選んでしまっていた。
「クズが。どうして生きている」
「おいおい。それは俺こそお前に言いたいセリフなんだが」
屈辱に唇わななかせつつ逆向は、片腕だけで跳躍。
寄宿舎から走ってきた斗貴子が目を尖らせながら殺到したのはこの時だ。
彼女も同じく飛ぼうとした。がその瞬間地震が起こり、充分な跳躍を許可しなかった。
ギガントマーチの特性は……地震発生。
7年前、防人や千歳と同じ部隊にいた戦士(現在は戦士長)が戦った時には、山肌をブッ叩いて
土石流を巻き起こし、一集落をまるまる壊滅させた。
ちなみに本来の使い手は、斗貴子の顔に一文字の傷を刻んだ男でもある。
「惜しかったなァ! 飛んで一撃食らわし叩き落せば、クズども全員で俺を袋にできただろうが」
付近の民家の屋根へ手をつくと、逆向は彼を見上げる者たちへ濁った瞳を向けた。
「下らん小競り合いに終始する俺じゃない。一時退く。だが、そのうち面白いコトになるぞ。
『奴ら』は既に動き始めている。ネズミのように街を走り回る貴様らとその仲間も! 戦士も!
人間も! いずれ坩堝に飲み込まれて死に尽くせ!!」
それだけを言い残すと、逆向は屋根伝いに跳躍し姿を消した。
326スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/30(木) 23:31:19 ID:UacrL0gd0
マズい。何だかサナダムシさんと被っている。ええと。
一真さん、すぐ後の投下となり誠に申し訳ありません。
ワザとではなくヤムにやまれぬ事情という物が色々と……

今回はネゴロとのリンクを少々。(ようやく伏線回収できた)
↓で出てたのとか防人見舞ってたのは秋水だったりするのです。
ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-kanketu/negoro/22.htm
ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-kanketu/negoro/24.htm

そしてアニメでもいよいよ秋水登場。こりゃカッコいい。吾代の時とはまるで声が違う。 
そして爆爵の声がいい。本当心底。痺れる。
で、「ブライ・シュティフト」ですが翻訳すると…… ドイツ語は日本語並みにカッコいいですね。

>>262さん
元ネタからいえば鞘は桜花(前世が巴なので)となりますが、本作に限ってはやはりまひろが。
いちおう協力して解決すべきコトも用意しておりますので、そこでやんわり包んでいくのではな
いでしょうか。恐らく。この2人はあれこれ考えるより実際描いた方がなじむので展開は未知数?

>>263さん
容貌的にはそちらの方がしっくりきますねw >ナイト しかしまぁ、か弱い女のコ守るという
描写の楽しいコト。ボーイミーツガール物が長らく愛されている理由もよく分かります。秋水と
武藤兄妹の付き合いは、何かにつけ「さすが秋水先輩!」と感心されるような気が。

>>264さん
いろいろアレなメンツがいるので忘れがちですが、いちおう前回は主役の面目を保てたかな?
と。そもそも三国志でいうならよくて馬超クラスの武将を主役にしているような状態でして、
2年ほどカズキを話の中で動かしてない自分は、劉備不在の三国志を描いているような状態でして……

>>265さん
まずは漫画喫茶ですよ。で、つまらなかったら蒼天航路かバビル2世を。ARMSやうしとらも良いです。
327スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/11/30(木) 23:32:11 ID:UacrL0gd0
>>266さん
やっぱズレた行動こそが彼女の真骨頂ですよね。アニメじゃムーンフェイスの”背中に人生を”
のポーズを微妙にパクっていたのが楽しい。最終決戦でのポジションはどう表現されるのでしょう。

銀杏丸さん
>戦闘神話
あれで八割封じ…… 真の力解放が早くも待ち遠しいw ジュリアンの部分がもたらす葛藤は
その呼び水となるのか障害となるのか? ともかくいまは葛藤を楽しむ海皇の懐の大きさが
敵役としてこの上なく好ましいです。アテナは現代でいうならJASRACみたいな感じですねw

思えば本誌最終回を夜明けの寒々とした空気の中で読んだ時、武装錬金がここまで恵ま
れるとはちっとも思ってませんでした。自分が秋水とまひろの話を描くとも。そして暖めておら
れたネタを先に描いたりしてたらすみません…… なるべく被らぬネタを追求したく……

ふら〜りさん
前回でのまひろの描写はちょい悩みました。秋水の意思を汲んで逃げて助けを呼びに行くか
機転を利かせて携帯で斗貴子を呼ぶか。 正解はあるのでしょうか。ちなみに原作では恐が
りながらも敵から友人を守ったコです。そして総角は大丈夫! 詳細は次回にて。
328作者の都合により名無しです:2006/11/30(木) 23:39:04 ID:nFrO17nn0
>シルバーソウル
あれ、前回のヒキと雰囲気が変わった。というか、銀玉っぽい感じに戻った。
全蔵さんおいしいな。途中シリアスでも最後ハッピーエンドっぽいね

>永遠の扉
ヴィクトリアが転校してきたか。間違いなくメインキャラになりますな
なぞの美少女転校生ってだけでもポイント高いし。桜花は複雑だな
329作者の都合により名無しです:2006/12/01(金) 00:03:59 ID:mqScB5kn0
スターダストさんは毎回更新回数多くてありがたいけど
一真さんも最近連投で嬉しいな。レス数は今回少ないけどw

お二人ともいつも楽しみに読ませて頂いてます。
330作者の都合により名無しです:2006/12/01(金) 11:15:16 ID:t6h/2npZ0
・一真氏(カズマさんですか?イッシンさんですか?)
シリアス→ギャグ→シリアスと目まぐるしく展開して楽しいですね。
でも少しずつ黒くなっていきますね、物語。最後はみんな笑って終わりがいいな。

・スターダスト氏
千歳は冷静な分、名バイブレーヤーだな。彼女を通して揺れ動く桜花たちの心がわかる。
ヴィクトリアも華があるし、メインキャストはこれでほぼ出揃ったかな?


331作者の都合により名無しです:2006/12/01(金) 23:28:18 ID:f8wGMRcs0
スターダストさんといい、さいさんミドリさんといい、
このスレでは異常に武装錬金人気が有るなw
332誕生日に選んだモノ:2006/12/01(金) 23:30:17 ID:8k8UbIdP0
さて、カズキの部屋に来たのはいいがどうしたものか。
正直、私は他人の誕生日などを祝った経験がない。
「え、ブラボーとか剛太のも?」
ああ、ない。
考えてみろ。戦士長はつい最近まで素顔も名前もわからなかったんだぞ。
誕生日なんか分かるワケがない。
分かったとしても、戦団でそういう浮ついた行事をするワケはない。
剛太も私も誕生日について深く考えたコトはないし、祝って欲しいと思ったコトもない。

だからだカズキ。正直、私はキミの誕生日に何をプレゼントすればいいか分からない。

パピヨンみたいにトチ狂った趣味の衣装とマスクを臆面もなく出せないし、桜花のように高級
レトルトカレーの詰め合わせを贈ったりはできない。
ケーキはまひろちゃんたちが作ったから買ってくる訳にはいかないし、秋水のように剣舞を
やるのも何か違う。戦士長なんかは秘密基地と称して屋根裏にキミの部屋を増設したが、
規則違反だから私は真似したくない。
火渡戦士長はしいたけを段ボール50箱分送ってきたが、キミの嫌いなモノだから論外だ。
そういえばキミの友人たちはヤケに分厚い本をプレゼントしていたが、アレは何の本? 
マンガが好きなキミに辞書や辞典は合わないと思うが……
「そ、それは秘密。中に別の本が入っていたりはしないから」
ああ例の綺麗なお姉さんがいるのか。そう怯えるな。別に私は怒ってなどいない。
「ゴ、ゴメン」
だからいっているだろう。別に私は怒ってなどいない。ほどほどならばエロスも結構。
とにかくだ。私はキミの欲しいモノが思い浮かばない。
だからあればいいなさい。布団や本棚みたいな家具でもいい。
逃避行で下ろした貯金も実はまだ半分以上残っているから遠慮はいらない。
「じゃあ一緒に探す?」
何をいい出しているんだこのコは。
大体、誕生日プレゼントというのは貰うモノじゃないのか?
「んー。確かにそうだけど」
カズキはアゴに手を当てて目を細めた。時々思うがこのコの仕草はいちいち戦士長に似ている。
「今は斗貴子さんといるだけで満足だから、特に欲しいモノは浮かばないというか……」
333誕生日に選んだモノ:2006/12/01(金) 23:32:32 ID:8k8UbIdP0
う、うるさい。
そうやってベタベタした意見をいうのはバカップルだ。長続きしないんだぞ。だからやめろ。
「とにかく一緒に行こう! 斗貴子さん!」
カズキは私の手を取って走り出した。
「あ、でも外は寒いからコレを!」
そして私を引きずったままくるりとUターンをして、ベッドにあったマフラーを私に掛ける。
抵抗しようかと思ったが、どうせ何かを思いついた時のカズキに勢いで勝てるワケもない。
だからさっさと終らせるためにじっとする。彼の手の動きを見ながら。
……まったく、キミはもっと不器用だと思っていたがこういうのは得意なんだな。すぐ終った。
「昔はまひろによく掛けてたから。あ……待って」
カズキは不意に顔を私に近づけてきた。
何を考えているんだキミは。まだ日も高いんだぞ。
いいか余計なコトは考えるな。考えるな絶対。したらブチ撒けるからな。
「よし! コレで完成! カッコいいし寒くない!」
マフラーの両端を私の背中にかかるような掛け方をすると、カズキは無邪気に喜んだ。
コレはあれか。再殺部隊の根来のマフラーか。
そうかそうか。キミはこんな下らない真似事で私を弄んだのか。
肺に貫手の一つでもブチ込んでやりたいが、誕生日だから勘弁してやる。

ともかく街に出たが、そもそもキミは何かアテがあって出てきたのか?
「全く!」
だろうな。まぁいい。どうせ私にもない。好きなように歩け。
だが手は離せ。通行人の目線が少々痛い。
「だって斗貴子さんの手、すごく暖かいから」
暖かいのがいいなら手袋を買え。というかプレゼントと別に買ってやる。
だから離せ。ってなんで私の手をとってそんなに見る。やめろ。
「それに綺麗だし」
黙れ。公衆の面前でバカなコトをいうな。離すんだ。
「握っているとちょっと気持ちいいし。斗貴子さんは違う?」
…………                                        //////
頼むから離してくれ。お願いだ。
「それにゴメン」
334誕生日に選んだモノ:2006/12/01(金) 23:33:28 ID:gPymU0LK0
何を突然謝る。
「ヴィクターとの戦いの時、オレ、嘘ついたから。だからもう」
過ぎたコトはいい。今は手を離すんだ。状況は色々違う。
「この手を離すもんか!」
真赤なちかーい…じゃなくて! もういい! 繋ぎたければ繋げ!

映画館に入って2時間ほどホラー映画を見て、それからファミレスで食事をとった。
で、そろそろ欲しいモノとやらは見つかったか?
「斗貴子さん見て見て、ここにも蝶野のフィギュアがある! アイツ本当に楽しんでいるなぁ」
人の話を聞けェ!
誕生日におかしな衣装を送る奴のコトはどうでもいい! 
今はちゃんとしたプレゼントを探すのが先決だ!
「まぁまぁ。焦っても仕方ないし、ゆっくり探そう」
キミはそうやって笑えば済むと思ってるのか? 
まぁ、確かに焦って見つかるモノでもないが……怒鳴って悪かった。
「考えてみれば始めてかも」
何がだ。
「斗貴子さんとこうやって過ごすの」
確かにそうだな。何の心配もなく普通に街を歩くのは。
正直、春頃の私はこんな生活なんて考えても見なかった。
「オレは楽しいけど、斗貴子さんはどう?」
まだ戸惑いの方が大きい。7年間も戦士をしていたからな。
感覚が日常に馴染んでいない。
「そう……だよね。でも大丈夫! コレから慣れていけるよきっと」
だといいがな。
……でも。
キミが傍にいなかった1ヶ月間に比べたら、今は恵まれすぎているとも思う。

食事が終った後は、大型ショッピングセンターに行った。
これだけの規模だ。キミの食指が動くモノも一つぐらいはあるだろう。
「ゴメン。言いそびれたけど」
コラ。意見があるなら行動する前にいうべきだろう。で、何だ?
335誕生日に選んだモノ:2006/12/01(金) 23:34:13 ID:gPymU0LK0
斗貴子さんがお金を出してくれるんだから、ヘンな物は変えないとゆーか」
何を今更。遠慮はいらないっていっただろう。
大体、私がキミの趣味に合わないモノを選ぶ方が良くない。
「そうだ、それだよ斗貴子さん!」
キミは嶋さんか。
「やっぱりオレには選ぶコトはできない! だから斗貴子さんに選んで欲しい!」
なななな何をいいだすキミは。私はそもそも誰かに贈り物なんかしたコトがないんだぞ。
もしキミがおかしなモノを大事な誕生日に押し付けられたら迷惑
「心配無用! 斗貴子さんが選ぶモノなら何でもOKだよ」
くそう。嫌な気配だ。押しても引いてもこのコのペースに巻き込まれる気配だ。
分かった分かった。私が選ぶ。だが私が選んだモノがイヤならすぐいうんだぞ。
「了解ッ!」
とはいうが何を選べばいい?
カズキの好物のカレーは桜花に取られたし、ケーキはまひろちゃんのがある。
マンガは贈り物には安すぎるし、まさかいかがわしい本を選ぶワケにもいかない。
家具なら無難だが、実の所カズキの部屋で不足しているモノはない。
……待て。家具じゃなくても日常生活に密着したモノなら送っても不便ではないな。
ただ、消耗品は良くない。安いしすぐに捨てられる。
つまりだ。

1.ある程度の値段で
2.この先も使えて
3.カズキが必ず必要とするモノ

を選べばいいんだが…………
…………そうか。パピヨンの奴は案外、そういう部分を考えていたのかも知れないな。
決めたぞカズキ。ついて来い。

それを買うと部屋に戻った。
「わー。お兄ちゃんカッコいい!」
「うん。斗貴子さんが選んでくれたんだぞ」
私が選んだモノをまひろちゃんに見せびらかすカズキはなかなか嬉しそうだ。
336スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/01(金) 23:35:27 ID:gPymU0LK0
ひとまず気に入ってくれたようで安心した。
もうあと1年もすればキミも就職するだろう。
なぜならキミはもう戦士じゃない。今日のような日常を過ごし続ける普通の少年だ。
どんな仕事を選ぶかは分からないが、面接の時ぐらいはそれも要る。
普通の紺色のスーツぐらい、今のうちから持っていても損はないだろう。
「ありがとう斗貴子さん」
礼には及ばない。私に感謝するなら、卒業まで樟脳とでも一緒にしまっておけ。
「うん。大事にする」
満面の笑みの彼に、私はひとまず安心した。
それから。
誕生日おめでとう。カズキ。

以下、後書き。

本日12/1はカズキの誕生日。というコトでこんな代物を。
永遠の扉じゃ何かと不遇な斗貴子さんなので、彼女視点でやってみました。

>>328さん
ヴィクトリアのポテンシャルもなかなか高いですからね。構想じゃ彼女、ネゴロにおける千歳
のように中核へなる予定です。その方向性は次回か次々回にて。

>>329さん
若干自分も展開が遅いのですがいまはご容赦を。中盤からはなるべくスピーディーな展開に
しますので。日常描写がくれば途端に止まってしまいますが……

>>330さん
千歳は司会進行役すら務まりそうな人ですね。何かと描きやすいですし。で、メインキャラは
まだあと1人来ます。錬金読者にはおなじみの彼です。パピヨンではなくアナザーサードな。

>>331さん
いつの間にやら人気作品? いやはや、ファンとしては嬉しい限り。さいさんが照星部隊、
銀杏丸さんが爆爵とヴィクターミドリさんが斗貴子さんとほどよくバラけてますし。
337作者の都合により名無しです:2006/12/01(金) 23:38:25 ID:f8wGMRcs0
スターダストさんの錬金と
斗貴子&カズキに対する愛を感じる作品ですな。
338作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 00:27:00 ID:3OGJhMIx0
339作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 00:57:50 ID:pWsGBK7j0
この2人は、全てが終わった後、ハッピーエンドの後の日常の2人ですね。
ほのぼのとしていい感じです。
でも、カズキが紺のスーツでサラリーマンしてるのは想像がつかないなw
340作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 02:17:08 ID:JKz04mdo0
>サマサさん

はじめまして。
最近『SHUFFLE!』クロスオーバーSSで検索してたどり着きまして、
『神界大活劇』から一気に読ませていただきました。

『神界大活劇』
今更ですが、ググって見たらグロキシニアという植物が実在して、
花言葉が『欲望・媚びた態度』だったり、アザミの花言葉に『復讐』
があったりと、ちゃんと『SHUFFLE!』本編の命名法に則っている
事に気付いて脱帽しました。

『超神機大戦』
ガン種本編よりも生き生きしているよ、アスラン(w

口調のせいで、気を抜くとフー子の脳内ビジュアルが風助@忍空になってしまう私orz

『SHUFFLE!』世界を体験していて、「我等は“魔”を断つ剣を執る」って聖句に引っかかりを
覚えたりはしないのだろうか、のび太?

六十三話。稟が言ってた「そういう奴」って、楓のことですね。

そしていよいよクライマックス。
<親友テレカ>がどんな逆転劇を起こしてくれるのか、楽しみです。
予想:デモンベイン=アートレータ・アエテルヌム(魔を断つ永遠の剣)

そしてエピローグで、「では次に、御伽噺をはじめよう」
となりそうな予感(w
341作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 03:57:09 ID:sudq3GXY0
そしていよいよクライマックス。

なんとなくキユのような人だな
342作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 07:20:51 ID:7gFFU0oz0
343作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 11:01:41 ID:OYImQYRz0
斗貴子さんはツンデレとはちょっと違うな。
ただ、意識している異性に対する身の対し方を知らないというか。
スターダストさん乙です。いい感じの雰囲気を味わいました。
344作者の都合により名無しです:2006/12/02(土) 21:01:30 ID:RN2t72/Z0
>>340
あの量を一気に読むとは凄いな。クライマックスだからお互いに楽しもう。
でもサマサさんの事だからきっと第三部も書いてくれるよ。きっとね
345340:2006/12/03(日) 02:57:36 ID:8A0Y5baI0
ちょっと訂正

そしていよいよクライマックス。
<親友テレカ>がどんな逆転劇を起こしてくれるのか、楽しみです。
予想:機神飛翔トゥルーエンド版デモンベイン・アートレータ・アエテルヌム(魔を断つ永遠の剣)

346WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 08:39:48 ID:PtiBXFYe0
《EPISODE6:Everybody won't be treated quite the same》

――ストーンヘンジ地下 錬金戦団大英帝国支部 大戦士長執務室

「ワハハハハハ! そうかそうか、照星もずいぶんビッシビシやってんだな」
広い執務室にジョン・ウィンストン大戦士長の豪快な笑い声が響き渡る。
「そうなんです。だから戦士長に『こっちへ』って声を掛けられると条件反射で身体が硬くなっちゃって」
すっかり緊張の解けた千歳は、日本の戦団の(主に照星の)エピソードを面白おかしくウィンストンに話す。

ウィンストンと向かい合うようにジュリアン・防人・千歳・火渡は革張りの大きなソファに腰掛け、
談笑に花を咲かせている。
親子程も歳が離れているにも関わらず友人のような気安さで接してくるウィンストンのおかげで、
執務室はまるで戦士達の控室を思わせる和やかな雰囲気に変わっていた。
防人もニコニコと、時には声を上げて笑いながらウィンストンや千歳の話に相槌を打つ。

しかし、例によって仏頂面のままの者が約一名。
火渡である。
彼は他の者の話をつまらなさそうな顔で聞いていたが、やがてテーブルの上のある物を見つけた。
シガレットケースだ。中には茶色の紙で巻かれ、吸い口に金色の装飾が施された上等そうな
煙草が入っている。
おそらく大戦士長愛用の品なのだろう。
火渡はおもむろにシガレットケースに手を伸ばす。
そしてあろう事か、何の断りも無しに煙草を一本取り出し、自分の人差し指から立ち上る炎で
火を点けてしまった。
「お、おいっ! 火渡!」
「あ? 何だよ」
防人が慌てて咎めるが、火渡は平気な顔でフーッと美味そうに煙を吐き出す。
「何だよって、お前……」
イングランドに降り立った辺りから少し様子はおかしかったが、よりにもよって上級幹部である
大戦士長を目の前にしてこんな無礼な振る舞いをするとは予想もしていなかった。
347WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 08:40:32 ID:PtiBXFYe0
千歳に至っては真っ青な顔色で俯き、絶句している。
(この人は坂口戦士長の師匠……。この人は坂口戦士長の師匠……。この人は坂口戦士長の――)
高笑いしながら部下をタコ殴りにする照星のアップグレードバージョンが千歳の頭を過ぎり、
寒気すら覚えてしまう。

だが当のウィンストン本人は激怒する事も気分を害する事も無く、ただ泰然自若と微笑んでいる。
それどころか自分もケースから煙草を取り出して口にくわえると、ピコピコ動かしながら火渡に声を掛けた。
「よォ、俺にも火ィ点けてくんねえか」
火渡は少し驚いたようにウィンストンを見遣ったが、すぐにまた元の表情に戻ると無言で
パチンと指を鳴らした。
それと同時にウィンストンがくわえる煙草の先端で炎が燃え上がり、すぐに収まる。
「ハハハッ、便利な特性だな。俺もそんな武装錬金の方が良かったぜ」
上機嫌で煙草の煙を吐き出すウィンストン。
心持ち、仏頂面が緩まった感のある火渡。
ひたすら火渡に注意を促す防人。
青い顔で下を向く千歳。
四者四様の風景の中、比較的ではあるがウィンストンを取り巻くこういった状況に慣れている
ジュリアンはおずおずと話の進行を切り出す。
「あの〜、大戦士長……。ティータイムのお喋りもいいんですが、そろそろ本題に入った方が……」
「そう固え事言うなよ、ジュード。せっかく日本からの客人(ゲスト)が来てくれてんだぜ?」
「はあ……。それはそうなんですが……」
「それによ、今回の件に関しちゃサムナーの野郎に一任してあんだよ。
だから俺に話を進めろっつっても無理無理無理無理。わかんねえもん」
ウィンストンはおどけた顔で、掌をヒラヒラと振る。
ジュリアンは「ダメだ、この人……」とばかりにガックリと肩を落とした。
だが、ふと何かに気がついたように顔を上げると、この無責任大戦士長に尋ねる。
「そういえば、サムナー戦士長はどちらへ?」
「ああ、糞テロリストのヤサが割れたって情報が入ってな。今、あいつ自ら裏を取りに行ってる。
お前が三人を迎えに行ったすぐ後だから、もうすぐ帰ってくんじゃねえか?」
348WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 08:41:19 ID:PtiBXFYe0
「えっ!?」
ウィンストン以外の四人は皆一様に驚いたが、特に調査・諜報を生業にしているジュリアンは
眼を丸くしてしまった。
「奴らのアジトが……? 僕達、情報部門がどんなに手を尽くしても探し出せなかったのに……――」

「貴様ら情報部門に探し出せない物は、この私でも無理と言いたいのか?」

執務室に、不快感を込めつつも妙に気取った低い声が響いた。
防人ら四人が振り向くと、ブリーフケースを手にした一人の男が執務室のドアを開けて
中に入ってくるところであった。
火渡の無礼を笑って許したウィンストンが、顔をしかめて苦言を呈する。
「おい、ノックぐらいしろよ」
「失敬。身の程を知らない無能者が聞き捨てならん戯言を吐いているのが聞こえたものでね」
男はジュリアンを睨みつけながら、四人が座るソファの方へ歩み寄ってくる。
すこし後退している額が目立つ短い金髪のオールバック。彫りが深く眉の薄い精悍な顔立ち。
そして錬金戦団大英帝国支部の制服をカッチリと着込み、襟元から高級そうなワイシャツとネクタイを
覗かせている。
この男が戦士長であるサムナーなのだろう。
「も、申し訳ありません……」
ジュリアンは先程の千歳以上に顔を真っ青にして、俯いてしまった。
機嫌の悪そうな戦士長は、防人ら四人の座るソファの傍までやって来た。
「フン、やはり大戦士長のご寵愛を受けているジュリアン・パウエル殿は違うものだ。
底辺のエージェントの身分で大戦士長や戦士達と並んで、堂々と椅子に座る事を許されているのだからな」
サムナーはジュリアンを見下したまま、ひどく軽蔑の込められた言葉を投げ掛ける。
戦士でないエージェントは人に非ず、といったところだ。
ジュリアンは急いで立ち上がり、防人の横で気をつけの姿勢を取る。
「その辺にしとけよ、マシュー。部下は可愛がるもんだぜ」
「責任ある立場の貴方がそのように甘やかすから戦団内の規律が乱れるのですよ、ウィンストン大戦士長」
349WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 08:42:40 ID:PtiBXFYe0
「ケッ、そうかよ。こいつがマシュー・サムナー戦士長だ。趣味は部下イジメと上官イジメ。以上」
ウィンストンは簡素かつ嫌味たっぷりに彼の紹介を済ませると、くわえていた煙草をクリスタル製の
灰皿に押し付けた。
「まったく、仕様の無い人だ……」
サムナーはやれやれとばかりに肩をすくめると、ウィンストンの横に腰を下ろした。
そして三人の顔を一通り見渡すと、すぐに視線を外してブリーフケースを開けて書類を取り出し始める。
「君達の自己紹介は結構だ。君達の経歴はすべて読ませてもらったし、生憎時間も無い。
第一、私は日本の戦士の力など必要としていないしな……。
さてと、これが今回の任務の資料だ」
三人の前に投げつけるように、クリップで留められた数枚の書類や写真を寄越す。
せっかく和らいだ火渡の表情がまた強張るのを、防人は横目で確認した。

「充分承知の上だとは思うが、今回の任務は“ホムンクルスを研究・製造しているテロリストグループ
『Real IRA』を壊滅させる事”。そのReal IRAの首領がこの男だ」
サムナーは自分の分の書類に留められた一枚の写真を指でトントンと叩きながら、予告も無く
説明を始める。
三人もまた資料に眼を落とした。
火渡は煙草をくわえたままだ。
サムナーはそんな火渡をチラリと見るが、また説明に戻る。
「パトリック・オコーネル。39歳。アントリム州ベルファスト出身。
ベルファストは北アイルランドでも特にナショナリスト(アイルランド統合主義者)派の政党が
大きな力を握っている地域だ。こんな男が生まれるのも当然かもしれんな。
忌々しい事だが……。
14歳で“IRA暫定派”に身を投じ、近年までアイルランド紛争において無数の英国軍兵士、
警察官、民間人を殺害している。
通常戦闘、ゲリラ戦、市街地テロ……。オールマイティにこなすテロリスト、いや戦争屋と
言ってもいいかもしれん。英国に生まれていれば良い兵士になったのだろうがな。
しかし暫定派の和平路線に愛想を尽かし、つい最近に子飼いの部下を連れて、暫定派からの分派である
“Real IRA”に加盟している。ここまではどこの情報機関でも知っている事だ。
350WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 08:43:39 ID:PtiBXFYe0
問題はここからだ。この生まれながらのテロリストはReal IRAの過激路線にも見切りをつけ、
新たに独立組織を立ち上げた。まるで『自分達こそが正統なReal IRAだ』と言わんばかりにな」

サムナーがそこまで一息に説明すると、不意にウィンストンが口を挟んだ。
「そして、どういう訳かホムンクルスをテロに使う事を考え、実際に自分のものにしてるってか?
それがどうもわからねえ。協力者でもいて、そいつが話を持ち掛けでもしねえ限りそんな発想に
行き着く訳がねえし、ましてや行動に移せる訳もねえからな」
眉根を寄せて口元に手をやっている。
三人が対面してから始めてみせる、彼の真剣な表情だ。
こんな顔も出来るのかと、千歳はまじまじとウィンストンの顔を眺めてしまった。
話の腰を折られたサムナーは不機嫌な顔を大戦士長に向ける。
「話を横合いから引ったくるな、ジョン」
「おお、悪ィ悪ィ」
上官である大戦士長にぞんざいな口調ばかりか呼び捨てにする戦士長とは驚きだが、
それについ謝ってしまう大戦士長も驚きだ。
防人も千歳もいい加減、驚き疲れてきた感があるが。
ジュリアンがこっそりと防人に顔を近づけ耳打ちする。
「お二人は元々同期なんですよ。普段は上下関係をしっかり守ってますが、たまにそれを
忘れる事があるんです」
「なるほど……」
防人は妙に納得してしまう。
それにずっとウィンストンに抱いていた親近感の理由が少し理解出来たような気がした。
彼はどことなく火渡に似ているのだ。無論、似ていない面の方が多々あるのだが。
もし仮に将来、火渡が大戦士長になり自分が戦士長になったらこんな関係になるのだろうか、
とやや飛躍した想像までしてしまう。
サムナーのような戦士長にはなりたくはないけれど、とも。
351WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/03(日) 09:11:05 ID:PtiBXFYe0
「おい、何を話している。ちゃんと聞いているのか」
「は、はい!」
サムナーに注意された防人とジュリアンは、慌てて彼の方へ顔を向けて身を硬くする。
「続けるぞ。と、その前に……」
突如、ジュリアン・防人・千歳・火渡の前を、焼けつくような熱気と共に眩い光が凄まじい速度で通り過ぎた。
火渡のくわえていた煙草は吸い口をわずかに残して消滅している。
それは“燃えた”のでも“熔けた”のでもなく、“蒸発”したのだ。
そして光が通り過ぎた先の壁には直径3cm程の穴が開いており、細い煙が立ち上っている。
黙ったままではいるが、さすがの火渡も頬に一筋の汗が流れる。
驚愕のあまり口を開けっ放しにしている千歳の横で、防人はその鍛え抜かれた眼力によって
光の正体を見抜いていた。
(レ、レーザー光線……。それもとんでもなく高出力の。サムナー戦士長の武装錬金か……?)
サムナーは静かに、だが抑えきれない怒りを込めた声で言い渡した。
「私の前でその不愉快極まるシロモノを吸うんじゃない。大戦士長ですら私の前では控えて下さっているのだ……」





一応、今回で主要なキャラは全員登場しました。
物語が大きく動くまで少し退屈かもしれませんがどうかお付き合い下さい。

>>236さん
心理描写はなかなか難しいです。なかなか上手く表現出来なくて不貞寝する事もしばしば。
次回作は私も書くのが楽しみです。まっぴーは婦警にどんなあだ名をつけるんだろう……?
私もスターダストさんに会ってみたいですw
352さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/03(日) 09:11:59 ID:PtiBXFYe0
>>238さん
世の中、神父を中心に回ってますからねえ……。
せっかく敵を格好良く書きたくても、神父のおかげですべてヘタレになりそうで怖いです。

>>252さん
神父を敵に回して心底平気でいられそうなのはアーカードの旦那くらいしか思い浮かばない……。
武装錬金では誰だろう。やっぱ火渡、パピヨンくらいですかね。

スターダストさん
>永遠の扉
戦闘シーンの描写とテンポの良さがイイ感じですね。得物が日本刀とチェーンソーというのが絵的に好きです。
つーか凄惨な描写という面ではスターダストさんも結構すごいものがw しかもリアリティたっぷり。
寮母さんやってる割烹着姿の千歳とメイド桜花がなかなかですよ。なかなか素敵。
ヴィクトリアもこれからどうなるか楽しみですな。
それにしても、こちらの千歳とそちらの千歳のギャップが……。そして本当におたまは何なんだ。
んで、やはりまっぴーがまっぴーらしい!

もう武装錬金やホムンクルスの設定を壊せるのは神の力くらいしか無いんですよね。
あとは神父の勢いと。だからこの作品のHELLSING勢は神父じゃなきゃダメですわ。
さすがに13mm炸裂徹鋼弾(旦那)や爆裂徹鋼焼夷弾(婦警)はホムンクルスに通用しないでしょうし。

>>262さん
確かに格が違うという言葉がピッタリの神父。
しかし、いつから神父はこんなに無敵イメージが出来上がってしまったか、私にもわかりません。
(ネタバレになっちゃうけど)原作ではあんな非業の最期を遂げてしまったのに。

ふら〜りさん
私も深く納得。そんなパターンになっていたとは書いている私自身気づきませんでした。
その発想は無かったわ。しかし神父にヒーローという言葉は似合わないw
錬金組は第三勢力というよりも、むしろ本作品の良心ってことで。
353AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:37:46 ID:eMS9ZfAd0
前スレ400から
「急いで! こっちです!」
「…そんなモン置いてけ! 早くしろ!!」
「…うちの子が居ないの!! お願い、捜して!!!」
「必ず捜します! だから今は早く!!」
警備員と警官、そして幾分冷静な市民が人の波に大声で避難を促がす。
今でこそ観光地のフィブリオ市だが、古くは大国や戦乱の蹂躙を受け、それ故人災に対する危機管理能力が骨の髄まで染み付いていた。
連絡網と避難場所は完璧に確保され、平和になった今でもその為の訓練を欠かさない。
しかし――――

かなり近くからドラムロールの様な音が数回響いた。
「来たぞ!!」
警官の声に誰もが身を強張らせる。
視線の先には、瞬く間にゴーストタウンの様相となった道路の向こうからやって来る兵士達。武骨で機械的な類人猿を思わせる
戦闘服の集団は、それぞれが大仰な火器を携えていた。
ざっと見て向こうの装備は未来的なフォルムの小銃に、分隊支援用機関銃、グレネードランチャー、手榴弾、果ては火炎放射器。
比べてこちらは警棒に拳銃、有ってもショットガンやライフル、しかも数まで足りない。
……戦力差は量るまでも無いが、それでも警官達は引けなかった―――兵士達の足元に守るべき市民が、観光客が数人転がっていた。
「くそぉっ!」
一人の警官が警告無しで撃った。
だが腹部に着弾するも、兵士は足を止めただけでまるで負傷の様子が見られない。
「な……」
「……凄ぇ……こりゃ凄ぇ! 痛くも痒くも無えぞこれ! ……ターリカで欲しかったぜ」
戦闘服の凄さを仲間で体感し、彼らはこれより始まるであろう虐殺に色めき立った。
対して警官達の絶望は如何ばかりか。相手は銃が通じないのだ。
「こりゃ、正当防衛だよなぁ。サツの旦那よ」
まともな戦闘すら放棄して、小銃を掲げながら棒立ちで悠々と近寄る。
無駄だと知りつつ銃を向けるも、哀しいかな戦況は厳として動かず、その上人的物量にも負けている。
屈してはならないのが警察の常識。しかし圧倒的な暴力の前には、法も秩序もミキサーに放り込まれるトマトも同然。

だがトマトは放り込まれなかった。
354AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:38:52 ID:eMS9ZfAd0
横合いから飛び出した一迅の黒い風。それが先刻の兵士にぶつかったと思った瞬間、彼の首は死んだと気付く間も無くへし折れた。
全体重を乗せた飛び蹴りから鮮やかに着地して、トレイン=ハートネットは警官達に叫ぶ。
「あんた等は避難を優先しろ! こっちはオレが引き受ける!!」
「無茶言うな! 我々が……!」
「それが無理だって言ってんだよ! さっさとしろ!!」
噛み付く様な叱咤に気圧され、警官達がその場を後にするのを見届け、トレインは改めて兵士達に対峙する。
「…冗談ゴトじゃ済まねぇぞ、お前ら」
その憎悪に燃える眼差しに、彼らもまた気圧された。


「落ち着いて下さい! まず避難を…!」
「それは良いから、早く銃を寄越せと言っとるんだ!!」
禿げ上がった肥満漢が警官の銃を奪おうと詰め寄っていた。それに手を割かれるお陰で、避難は遅々として進まない。
「ですから、此処は我々に任せて…」
「貴様ワシを誰だと思っとる!! ワシは食品業界では世界七位の………!!」
訊かれてもいない自身の立場と、それに付随する自慢話をがなり立てる。この男が暴走しないよう三人もの警官が応対しているのだが、
当の本人は自分の身は自分で守るだの、逆らったら首にするだのと猫の手も借りたい彼らを更に煩わせる…と、その時、
「……ねえ、リッチなオジサマ?」
突如背中から掛けられた猫撫で声に、怒りを半分助平根性を半分で振り向いたが、彼を迎えたのは美女の艶笑では無い。
―――――拳、だった。
「ほげぁ!!」
肥満漢が無様な声を上げて地べたに転がった。
「………きっ……貴様ァ! ワシを誰だと…!!」
加減されていたらしく、即座に起き上がって襲撃者に噛み付こうとしたが…銃の力は素晴らしい。彼の罵声も無駄な横暴も、
ただ向けるだけで完全に停止させる。
「ゴチャゴチャ言ってないで避難しなさい。ブッ殺すわよ」
更に、銃口よりも雄弁な怒気を双眸に漲らせ、リンスレット=ウォーカーは矮小な暴君を睨み付けた。
355AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:39:49 ID:eMS9ZfAd0
「有り難う、何て言ったらいいか…」
「いいからあんた等も避難なさい! 手に負える相手じゃないわ!!」
避難し終えて礼を言う警官にも避難を促がして、リンスは次の場所へと向かおうとする―――――が、
「……チッ」
舌打ち一つで足を止め、睨んだ彼方には街中に余りにもそぐわない兵士達。間違い無く星の使徒の手勢だ。
そして彼らもリンス達を見つけたらしく、まるで無警戒に彼女達へと近寄ってくる。
「逃げなさい、大急ぎで!!」
リンスの剣幕に押されて警官達が慌てて逃げる頃には、兵士達は彼女の前に大挙していた。
……その彼らを一瞥して、内心反吐が出る思いだった。戦闘服は返り血に塗れ、その態度と来たらまるで街のチンピラの様に
緩く、彼らを睨むリンスを品定めする様に上へ下へと睨め上げる。それだけで彼等の下賎な行動と目的が明確に判り、存在そのものが
彼女の不快指数を無制限に引き上げていった。
「……星の使徒ね?」
訊きたくも無いがとりあえず訊く。すると一人が下卑た苦笑も露わに彼女を指差す。
「ほらな? やっぱり資料で見た女だろ?」
「ああそうだ、間違い無えな。写真で見るよかよっぽど美人だぜぇリンスちゃん」
圧倒的戦力に酔っているのか、そのどれにも品性は見られない。無理からぬ事だろう、彼等の戦場における常識がプラスの意味で通用
しないのだから、勇者も下衆に、下衆はより下衆に変わり果てる。正直言って、空気も共有したくないほど嫌悪を催す手合いだった。
だが彼女の心中を一切慮る事無く、彼らは勝手な事を次々と並べる。
「正直よ、殺すのは勿体無えよなあ」
「ああ云えてる」
「…こう言う気の強そうなのが堪らねえんだ、クックック…」
いよいよ忍耐はレッドゾーンに陥ったが、彼女は敢えて手を出さない。勿論それは彼らへの気遣いではなく、感情を来るべき時に
完全燃焼させる為、臨界の臨界まで自制しているのだ。

「…ま、大人しくしてたら優しくしてやっても良いぜぇ…ひひ」
356AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:41:03 ID:eMS9ZfAd0
一人だから、無抵抗だから、女だから、大人数だから、武装しているから―――――それらの理由が彼女の中にある巨大な地雷を
知らずに踏んでいた。
「…あらそう? 優しいのね」
しかし胸中とは真逆に、リンスは兵士達に向かって微笑む。それを見て彼らも、即座に増長した。
「そうそう、女は聞き分け良いのが一番…」
彼女に最も近い兵士が馴れ馴れしく無用心に手を伸ばす。
―――――だが、その手が彼女に触れるより早く、当の本人が消失した。

その兵士の脇をすり抜け、更に兵士達の間を疾く舞う水魚が如く潜り抜け、気付いた頃には彼らの最後尾よりなお後方に彼女は立っていた。
「……は?」
皆が予想を越える彼女の身体能力に驚くも束の間、
「うおおおおぉおお!! おっ、おっ! おぉっ!!」
聞き苦しい悲鳴が先刻の最前列から迸った。
物見高く集まった視線の先には―――――――リンスを捕まえようとした兵士が、何故か蹲っていた。
「…おおぉ、おっ、俺の………腕がぁッッ!!!」
彼の腕は、肘から先が無くなっていた。
『何ィ!?』
状況の流れで再度リンスに目を向けると、その手に有るのは懐中時計。そして其処から何か細い糸の様な乱反射が空いた手まで
橋を掛けている。
「このアマ……!」
だがそれを言わせるより早く、彼女の手から何か小さな物が数個地面に落ちて小さな金属音を奏でた。
思わず注視し、電子バイザーがそれを拡大すると………何たる事か、全て手榴弾のピンだ。
「…あ?」
疑問風の危機察知は遅過ぎた。数人の兵士がほぼ一斉に、体に括り付けたまま手榴弾を破裂させる。
破片が、爆風が、焼夷弾の炎が、誘爆した仲間の手榴弾が、零距離で最新戦闘服ごと彼らを引き裂き、吹き飛ばし、灼き尽くす。
それが済むともう一度地獄が、今度は彼らの阿鼻叫喚が幕を開ける。
357AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:41:41 ID:eMS9ZfAd0
辛うじて生を拾った兵士が這いつくばって周囲を見れば、死に切れない仲間達が安らかな結末を求めて苦吟の合唱を上げていた。
戦闘服のお陰で死人はそれほど居ないものの、どれだけの者が戦意を失った事だろう。
「マジかよ……あの女一人に…」
「…さっき、『大人しくしてれば優しくする』とか云ってたわよねぇ」
ドスの利いた声が聞こえるや否や、彼の頭をリンスが踏み躙った。
彼女を知覚した兵士は一様に射竦められる。睥睨する彼女の眼には、遂に殺意に達した義憤が燃え盛っていた。
―――甘かった。仮にも黒猫(ブラックキャット)の手勢の一人、単騎、物量、装備、性別、そんな物で勝ちが奪えるほど
この女は微温くない。
服に護られた腕を切断し、そして手榴弾のピンを掏り取って安全圏まで逃れる。それを一瞬で行う相手に装備など殆ど意味が無い。
その上周到この上ない。腕を切ったのは、手榴弾のレバーが落ちる音から注意を逸らさせる為だろう。
……戦闘服ごと腕を切断したのはあの糸―――――恐らくジーリ鋸だ。
元々は頭蓋骨を切断する為の医療器具だが、それ故鋭利な切れ味が要求される為、悪用すれば鋼鉄をも断つ代物だ。
リンスの装備は本来が工具、必然それは武器以上の威力を要求する。従って、彼ら自慢の戦闘服も彼女の攻撃には一切意味をなさない。
「悪いけど……アタシは目一杯痛くするわよ」
知ってか知らずか、彼女の言葉は真実だった。


街中に鳴り響く速射音と共に、銃弾は民間人・警官を問わず無慈悲に彼らを薙ぎ払った。
悲鳴も時には混じる。しかし銃弾を僕とする兵士達は耳こそ貸すが取り合わない。
「どうした! 弱ぇ、弱過ぎるぜお前ら!!」
「効かねえな、もっとデカいのを用意しなポリ公!!」
「プロ根性見せてみな! どうした、撃って来い!」
殺戮に陶酔した彼らは、まるでゲーム感覚でほぼ無抵抗に等しい人々を次々と殺意の牙に掛けて行った。
フルオートで踊る民衆に、皆笑いと銃撃を止めようとしない。血とマズルフラッシュが、悪意の彩度を高めていく。

「…お?」
その視線の先には、少年が妹と思しき少女の手を引いて全力で走っていた。
「よーしお前ら、撃つなよ。まずはオスガキからだ」
肩付けでOICWを構え、スコープが走る二人に背中を捉える。バイザーにも直結したFCS(ファイア・コントロール・システム)が
二人をロックオンし、拡大。その画像は少年のつむじが見えるほど鮮明この上ない。
それを沈黙で見守る仲間達は、まるでダーツかルーレットの結果を待つ様に興奮を押さえ込んでいた。
無論狙う彼も気持ちは同じ。その開放と達成に歓喜を宥めて銃爪に力を込める。
358AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:54:47 ID:eMS9ZfAd0
その彼の頭が―――――――突然爆発を伴って弾け飛んだ。

「!?」
続いてそれが倒れるより早く、数人が横一列に並ぶ形で何かに体を貫かれた。
「え? え!?」
「何だ!? どうした、一体!!」
前に進み出た兵士が背負う火炎放射器のボンベが破裂、爆炎と燃え滾るナパームオイルを友軍含む周囲に撒き散らす。
「ひっ、うわあああぁあぁぁ!!」
水でも砂でも消せない炎を纏う羽目になった兵士が幾人も狂乱した。さしもの最新装備と言えど、耐熱服でも防ぎ切れないこの炎
には成す術なく、生きたまま焼かれると言う非業の死を遂げる。
「……畜生、狙撃だ!!」
その仮定を証明する様に、彼の頭蓋骨を破壊する威力でXMスモーク弾(赤外線と光学装置を妨害する煙)が直撃した。

――――彼らから約八百メートル西の時計塔上階。
「悪く思うなよ。的確と確実が俺の流儀(スタイル)なんでな」
窓から小型の砲か巨大なライフルとでも言うべき銃を構え、スヴェン=ボルフィードはブレイクオープン式(銃自体を折る様に
薬室を開いて銃身そのものに弾丸を込める方式)の薬室を開く。同時に肩に担いだ弾薬ベルトから次弾を抜き取り、排莢機構が
空薬莢を弾き出すのとコンマ数瞬入れ違いで弾を込め、収める。素早く、確実で無駄な力が全く無い手馴れた動作だった。
スコープ越しに彼は右眼≠ナ狙いを付け、撃つ。するとまたしても彼方で狙い過たず標的に命中した。
彼が狙っているのが標的では無く、未来の結果≠セからだ。
359AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:55:53 ID:eMS9ZfAd0
……この右眼≠使うたび、病む様に疼く。身体ではなく、心の何処かが。
心にも幻肢痛は有る。それもまた、罰の一つなのだろうか。
「……始めは死のうと思ってたさ、でもな…ロイド」
聞こえているのかどうかも定かでは無いのに、彼は失った友に独白する。そして手は一連の装填動作を滞らす事無く行う。
「…あいつ―――トレインに出会ってからがケチの付き初めでな…死ぬ暇なんてありゃしない」
思い出すのは、いがみ合いながらも助け合う仲間達。それでも照星は未来をぴたりと見据える。
「…だが、だからと言って俺も手をこまねいてる訳じゃ無いぜ」
ライトブルーの眼差しの終点には、全滅の憂き目に遭い愕然とする残党達。何人かは銃を撃つが、XMスモークのお陰で
射手の居場所を特定出来ていないのを尻目に、彼は銃口にロケット弾を取り付ける。
「ロイド、この眼に映った俺を……せめて俺は嘘にしない」
銃声。通常の銃器を超える反動がストックから肩に突き刺さるが、彼の膂力はそれをも完璧に押さえ込む。
必然狙いは外れる事無く、広域炸裂弾が撃ちまくる数人の中心に命中し、彼らを紅蓮の炎が飲み込んだ。

「…俺は―――――最後の最後まで、お前が見てたヒーローになってみせる」


まるで濁流の様な狂騒に巻き込まれ、その中でイヴとシンディは波間に揺られる小船の様に翻弄されていた。
遠くから響く銃声、そして悲鳴、爆音も入り混じって先刻の祭りとは全く違う激しさが二人の耳朶を打つ。
―――既にイヴは平静を失っていた。
「いや…いや……もう…いやぁ………っ」
逃げ場は無い。知覚全てが暴威と死を捉え、それが細部まで忘れる事の無い頭に次々に刻み込まれる。
完全に恐怖に囚われてへたり込む彼女の頭を、自分も恐いであろうシンディがなけなしの勇気を振り絞って抱きかかえた。
「だいじょうぶ…だいじょうぶだから……お姉ちゃん…だいじょうぶ…」
誰かに縋りたいが、縋れなかった。無力な自分より更に無力な存在が、彼女が弱者になる事を許さなかった。
「何やってんだ! 来い!!」
二人を見かねた一人の大人が、彼女達の腕を強引に引いた―――が、彼は突然殴られた様に跳ね飛ばされる。
「きゃっ!! ……え…?」
驚いたシンディが恐る恐る彼へと目を向けると、倒れる体の下から赤が広がっていく。其処から彼が動く事は無かった。
泣きたかった。耳目を閉じて、全てから逃げ出したかった。だがそれは為し得ない、自分しか縋る物が無いイヴを放っては置けなかった。
だが――――――、動かないのはもっと不味い。
360AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:56:53 ID:eMS9ZfAd0
「どうだ、一発だぜ」
悪意を感じないほど得意げな口調の方を見て、シンディは絶句した。二人の周囲に既に生者は無く、それに取って代わる様に
兵士達がぞろぞろとやって来た。
「ん? このガキ……」
抱き合いながら竦み合う二人を、一人が何とも訝しげに見入る。
「何だ? 殺るのか? それとも…」
「俺はパス。さっき済ませたからな」
「いや、そうじゃねえよ。見ろって」
まるで品評される様な軽さが、二人には一層恐ろしかった。

361AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 09:57:27 ID:eMS9ZfAd0
延焼した炎を光源にして照らされる通りの惨状は凄まじかった。
市民の死体も多少は有るが、それ以上にこの町を圧倒的武力で襲撃した筈の兵士達の屍が凄惨の際を引き上げていた。
顔面が潰されたもの有る。首が捻られたものも有る。首が無いものも有れば、袈裟懸けに斬られたものまで有る。
…何が暴れ回ったのか見当も付かない凄惨の中で、一人の兵士が必死の思いで饒舌を自らに課す。
「―――…それで全部だ…嘘じゃない。だから頼む、殺さ…!」
命乞いする兵士の頭を、バイザーメットごとハーディスの銃床が叩き潰した。
息も荒く、血に染まった銃を握るトレインは、何故か怒り心頭に発していた。呼吸の乱れも別に戦闘による物ではなく、それが
平常心を掻き乱すほど大きいものだからだ。
「…やっぱり……そうかよ…」
声もまた、怒りに震えていた。返り血に塗れながら、トレインは先刻までお祭り騒ぎだった通りを憤慨任せに見やる。
ひっくり返った屋台、僅かの金と散らばる菓子、割れた店舗のショウウインドウ、血、死体。そのどれもが、戦いとは無縁だった。
「ふざけてんじゃ…ねえぞ……」
――今更、人の命は大事とか言うつもりは無い。そんなものは散々奪ってきたのだから。
しかし、彼らは全く無関係だった。如何にかつての自分が暗殺者とは言え、無為の殺生を行ったりする殺人狂でも無ければ、
見て見ぬ振りをする無情の傍観者でもない。それだけに眼前の有り様が、それを起こしたもの全てが、許せなかった。
轟音。汲めども尽きぬ怒りが、居場所を悟られるのを承知でハーディスに天を咆えさせる。
撃つ、なおも撃つ。弾丸が彼の殺意の形容である様に、その咆哮は彼の怒りの象徴だった。
…やがて弾は尽きる。しかし銃は変わらず虚空を睨み付けた。

「いい加減にしろ――――――ッ!!! 手前ェら―――――――ッッツッ!!!」

銃声に代わって、トレインは猛り狂った。
362AnotherAttraction BC:2006/12/03(日) 10:11:59 ID:eMS9ZfAd0
贅沢過ぎるよ、今のこのスレ(挨拶)!!
武装錬金二つにアンデルセンは豪勢過ぎですよ、ええ!
…でも、ヒラコーキャラで一番好きなのは『ガンマニア』の坂東英二なNBです。
皆さん判る?

まあ、趣味が偏ってるのはさておき、今回は人によっては気分の悪い描写も多々御座います。
ですがどうしても必要である為ご容赦の程を。俺自身こう言う手合いは好かないし。
ともかく毎回不安なのが、皆さんが楽しめているか、と話的に破綻は無いか、なので
それさえなけりゃI'm OK! なんですが。 
さて、次回こそホント早く仕上げるつもりですのでどうか忘れないでくれればこれ幸い。
と言う事で、今回はここまで、ではまた。
363作者の都合により名無しです:2006/12/03(日) 13:53:00 ID:fcYQiaSy0
朝っぱらから濃いのが2つも来てるw

>さいさん
あ、やっぱり火渡と神父は大きく絡みそうだ。楽しみ。
この、底では共通してるけど同属嫌悪しそうな2人の激突は尋常ではないだろうな。

>NBさん(お久しぶり)
リンスかっこいい。こりゃ原作には無いテイストですね。
大戦争といった感じの派手さがいいな。銃とかの小物のディテールも細かくて凄い。

>『ガンマニア』の坂東英二
想像もつかんw
364作者の都合により名無しです:2006/12/03(日) 18:16:51 ID:HO5swZIB0
さい氏、NB氏お疲れ様です。

・WHEN THE MAN COMES AROUND
メインキャスト揃いましたか。確かさいさんの予定では来年頭位で
この作品は完結される予定なんですよね。という事は、しばらくしたら
怒涛の展開になりそうですね。アンデルセンと錬金チームの鍔迫り合いが楽しみ。

・AnotherAttraction BC
描写力の高い人が戦争描写するとエグいですね。
でも、その分リンスは爽やかな位かっこいいし、イブが純粋だからこそ、
周りの悲惨さも際立つでしょうし。
この作品も3年位経ちますね。そろそろ核心部分に入ってきたのかな?
365ふら〜り:2006/12/03(日) 23:19:57 ID:nf+hdbcH0
>>一真さん
や、今回は久しぶりにに彼ららしい(?)賑やかさが出てましたよ。こういうノリとシリアスが
織り交ざってこそ、引き立てあってどちらも楽しめるというもの。まだまだ裏がありそうで、
実力も隠していそうな鴉男。どうにも無邪気な銀時たちがどう戦っていくか、見ものです。

>>スターダストさん
・永遠の扉
三角巾は予想してましたが、おたま……あぁやっぱり可愛いなぁこのヒトは。根性で早期
退院しろ根来、そしてまた淡々と、でもガッチリと気の合ってる二人のやりとりが聴きたい。
・誕生日
ふむ。案外乙女ちっくな面もあるものですな斗貴子。とはいえ最終的に選んだものがやはり
実用第一で。でも選考基準に「長く使って貰えるように」が入ってる辺り、気持ちが見えます。

>>さいさん
カッコいいとは言い切れないけど威厳はある……が、まだあの壮絶神父と釣り合うほどでは
ない、といった印象の本作の錬金チーム。戦い方が地味でリアルに近い方が、却って迫力を
感じますよね。何となく未熟者感が漂ってる本作の千歳たち、あの神父と渡り合えるか心配。

>>NBさん(待ってましたよっっ!)
今までにも結構一般人を巻き込んできましたけど、今回はまたケタ違いの被害が出てますね。
凄惨な戦場の中、スヴェンが皆と一緒にちゃんと戦っていたのに少し安心。とはいえ、あの
回想編以前のノリにはもう戻れないのかという心配も。イヴも加えての四人漫才が懐かしい。
366作者の都合により名無しです:2006/12/03(日) 23:34:30 ID:sR3lcqMq0
NBさん本領発揮だな。
相変わらず本当に戦闘描写上手いわ。
367作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 01:30:40 ID:0gU4k4nZ0
ここ10日くらい凄いな。
さいさん・NBさんお疲れ様です。

>さい氏
神父を迎え撃つ錬金戦士たちも戸惑うだろうな。神父はマッドだから。
こういう静かな話も好きですよ。サイトで心配されてたけど。

>NBさん
原作とトレインとリンスが人格違うようですがw原作より面白いからいいや。
この戦いはトレインやイヴのターニングポイントになりそうですね。
368作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 11:33:33 ID:A9ewIe8a0
NBさんもう少し更新回数上げてほしいな。
369作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 14:58:59 ID:LetLCtxy0
さい氏はここでは大人しいな。
ご自身のサイトでは下ネタばかりなんだがw

錬金チームの印象がアンデルセン神父の前では霞んでしまうw
370強さがものをいう世界:2006/12/04(月) 17:11:29 ID:osSkl/8p0
 その頃、教室には地獄絵図が広がっていた。
 机や椅子はひとつとして原型を保っていない。掲示されていたプリント類も、全てはが
れ落ちている。
 とてつもない台風だった。
 教室中に、巻き込まれたクラスメイトが男女の区別なく散らばっている。ある者は床に
沈み、ある者は天井や壁に刺さり、ある者は窓から放り投げられた。先生でさえ餌食だ。
 これほどの大災害を演じたのは──今さら明かすまでもなく、剛田武。
 出木杉を破壊した彼は、猛った矛先をギャラリーに向けていた。むろん、生徒たちも勇
んで抵抗する。大天才に手こずり、消耗したガキ大将を多人数で叩けるチャンスなどめっ
たにない。学校史上においても、まれな大乱戦となった。
 だが、それでも差は埋まらなかった。
 次から次へとドミノ倒しのようにチャレンジャーは撃砕され──。
 今や残されたのは、骨川スネ夫のみ。
「こんな雑魚どもをいくら喰らってもつまらんが……おまえは別だ、スネ夫」
「くっ……!」
「財力は強さにはならんが、強さを得る手段にはなる。今日も持ってきてるんだろう。い
いオモチャを期待してるぜ」
 すでに日本刀は出木杉によってガラクタにされている。だが、まだスネ夫には切り札が
あった。
「分かったよ、ジャイアン」
 ナンバーワンと立ち合うというピンチと、ナンバーワンに挑めるというチャンス。ふた
つを眼前にして、複雑な笑みを浮かべるスネ夫。
「これが……ぼくの」スネ夫はポケットから注射器を取ると、ためらいなく前腕に針を刺
した。「リーサルウェポンだッ!」
 筒の中にある濁った液体が注入される。
「ふ、ふふふ……ふっふっふ……来たぞ来たぞ来たぞ」
 急激に、スネ夫の上半身が二倍、いや三倍以上にパンプアップしていく。
「ぼくのパパには一流シェフの友人がいてね……。少しゆずってもらったのさ、このドー
ピングコンソメスープをッ!」 
 ステロイドなど比べものにならない即効性と膨張率。
「期待以上だよ……。これこそ、至高にして究極のボディだッ!」
371強さがものをいう世界:2006/12/04(月) 17:12:14 ID:osSkl/8p0
 通常、料理においてもっとも重視される要素といえば味だ。とはいえ、味覚は人によっ
て千差万別であり、いかに極めようと万人に認められることは難しい。
 だが、強さはちがう。好みや地域差など一切存在しない。
 事実、子ども同士の喧嘩から戦争に至るまで──強さを比べるための野蛮なゲームは地
球上いつでもどこでも繰り広げられているではないか。
 こんな危険極まりない分野(ジャンル)に、果敢にも挑んだメニューがこれである。
 ──ドーピングコンソメスープ。
 手始めに、スネ夫は壁にデコピンをぶつける。あっさり一メートルほどの穴が空いた。
「ジャイアン、君にひとつ面白い方程式を教えてあげよう」
 次に、右手に拳を作るスネ夫。
「財力×コネ×ルックス=破壊力!」瞳孔が開ききった目で、スネ夫が吼える。「今日か
らは、ぼくが学校最強の生物だァッ!」
 丸太ほどもある豪腕。これが決まれば、いかにジャイアンといえどひとたまりもないは
ず──であったが。
「おまえにちょっとでも期待した俺がバカだったようだな」
 スネ夫のパンチは、蚊に刺されたほどのダメージも与えてはいなかった。
 一転、弱々しく口を開くスネ夫。
「ゆ、許して……」
「決して許してあげない」
 命乞いも効力はなく、ジャイアンは拳を固める。
「消え失せいッ!」
 返しはアッパー。二百キロ以上を推測されるスネ夫が、天井を突き抜け、三階を通り越
し、屋上まで届けられてしまった。
 クラスメイトを全滅させ、さすがのジャイアンも一息つく。
「どいつもこいつも冷や飯にも値しねェ……。ま、出木杉を喰えただけでもよしとするか」
 驚くことに、彼はまだ満ち足りてはいなかった。
 まさに帝王、まさにガキ大将、まさにナンバーワン。
 そして今、ひとりの戦士がもっとも無謀な戦いを挑もうとしている。
「ジャイアン、ぼくが相手だっ!」

 ──野比のび太、帰還。
372強さがものをいう世界:2006/12/04(月) 17:13:10 ID:osSkl/8p0
 異常なまでの静けさ。フルネームまで知っている友人たちが、まるで石ころのようにご
ろごろと転がっている。
 これが毎日のように授業を受けていた教室だとは、のび太にはとても信じられなかった。
「よう、のび太。まさか戻ってきてくれるとはな」
 予想だにしなかったチャレンジャーに、ジャイアンは舌なめずりで応える。
 この時点で、のび太は完全に呑まれていた。
 無理もない。彼が向き合っている相手は、あまりに大きく、あまりに太く、あまりに厚
く、あまりに重く、あまりにも強すぎる。
「どうしたのび太。しずちゃんにいいところを見せようとやって来たはいいが、びびっち
まったか?」
 廊下でセコンドを務める静香に、横目をちらりと向けるジャイアン。 
 若干事実とは異なるが、のび太は図星を突かれたも同然だった。静香に出会わなければ、
今頃は家でぬくぬくしていたにちがいないからだ。
「色を知る年齢(とし)か。だが、この俺を恋愛の踏み台にしようなどと──たわけたこ
とをッ!」
「ひいっ!」
 ジャイアンが、持てる全殺気をのび太にぶつける。もはや立っているだけで、今朝食べ
たトーストが胃から持ち上がってくる。
 ここでようやくドラえもんがのび太たちに追いついた。
「あら、ドラちゃん。血相変えてどうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ! しずちゃん、君はどういうつもりでのび太君をジャイアン
と戦わせたりなんかしたんだよっ!」
 怒りをあらわにして問い詰めるドラえもん。これに対して静香は悪びれることもなく、
「いじめられっ子をガキ大将と戦わせる美少女……。そのくらいの毒気があっていいのよ、
アイドルなんて……」
 と、平然と告げてみせた。
 少女の中に住まう鬼に戦慄し、絶句するドラえもん。
 そうこうするうち、教室で動きが起こる。
 きっとドラえもんが助けてくれる、と安易な希望に身を投じたのび太が駆け出した。
「うおおおおっ!」
「いい気迫だ、のび太ァッ!」
 待ち受けるは絶望、とも知らずに。
373強さがものをいう世界:2006/12/04(月) 17:14:13 ID:osSkl/8p0
 のび太にしてみれば、活火山に挑むような心境であったろう。
 天と地、などという生半可な例えでは済まされない戦力差。いくらのび太が鈍感で、ド
ラえもんというバックボーンがあるにしても、生身で立ち向かうには荷が重すぎる相手だ。
もうすでに、のび太の中にある危険を察知する感覚は麻痺していたのかもしれない。
 結果はあっけなかった。
 あっさりとヘッドロックに捕えられてしまうのび太。厚い胸板と太い前腕に挟まれ、身
動きひとつできない。
「じわじわ喰ってやるよ、のびちゃん」
 少しずつ、少しずつ、力を加えていくジャイアン。
 ミシミシ、と頼りなく骨が軋む。
 たまらず、ドラえもんが大声で訴える。
「やめてよジャイアン! のび太君を殺す気か!」
「いつ殺すといった? 永久に起きなくするだけだぞ!」
 めちゃくちゃな理屈をお返しするジャイアン。話し合いが通じる相手ではない。さらに
力が込められる。
「ド、ラえ……助け……うぎゃああぁぁぁっ!」
「のび太君っ!」
 悲痛な叫び。平和な時代に生まれた小学四年生が発するには、あまりにも不釣り合いだ。
「空気砲〜!」せめてヘッドロックを解かねば、とドラえもんが実力行使に出る。「ドカ
ンッ! ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ!」
 全弾クリーンヒット。が、ジャイアンを怯ませることすらかなわない。
「そう慌てるなよドラえもん……。のび太のあとでたっぷりと遊んでやるって!」
「のび太君……。ご、ごめん……!」
 がっくりと、力を落とすドラえもん。もう打つ手はない。
 秘密道具は通じない。出木杉もいない。のび太が自力で脱出できるわけがない。
 あとほんの少しジャイアンが力むだけで、頭蓋骨はひび割れて砕け散る。
「さァ、のび太。フィニッシュだッ!」
 額に血管を浮かべ、ジャイアンが豪快に笑う。
 ──が、寸前。
 脳が発令した「力を加える」という信号が、腕に送り込まれる寸前。彼の後頭部に拳を
叩き込む少女があった。
「武ィィィッ! あたしが相手だッ!」
374サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/12/04(月) 17:19:39 ID:osSkl/8p0
>>275の続き。
前回のアライネタに気づかれた方がいて嬉しい限りです。
果たしてのび太は化けるか、否か。

年内あと何回投下できるか分かりませんが、頑張ります。
375作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 18:33:43 ID:/yXSrIc10
>いじめられっ子をガキ大将と戦わせる美少女……。そのくらいの毒気があっていいのよ、 アイドルなんて……

オリジナルよりイイ雌(オンナ)だと思ってしまった俺は病気でしょうか……
ともあれ、今回ネタ詰め込み杉w
サナダムシさん、GJです!
376作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 22:05:17 ID:7zScvRNv0
>>そう慌てるなよドラえもん……。のび太のあとでたっぷりと遊んでやるって!
フリーザもかw
377作者の都合により名無しです:2006/12/04(月) 22:09:29 ID:h5SvIR4Y0
巨凶剛田武恐るべし。
しかしドーピングコンソメスープか。
サナダさんがネウロネタをやるとは思わなかった。
氏は奥が深いなw
378作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 07:35:56 ID:CqfKShvf0
サナダムシさんがノリノリで楽しんで
書いているのがよく分かるな>強さがものをいう世界

やさぐれ獅子は少し苦しんでいるみたいだったけど
379作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 12:13:41 ID:LZWsJP8g0
380作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 14:42:38 ID:xH9ZzpVY0
>>サナダムシ

cao ni ma
381作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 15:00:23 ID:xH9ZzpVY0
みなさんオツカレ様です
382作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 20:16:13 ID:L0MMNeT70
確実にしけい荘とならぶサナダムシさんの代表作になるな
犬と猫など、他にも良作長編を完結させてるサナダムシさんは
個人的に俺の1職人。
383作者の都合により名無しです:2006/12/05(火) 20:36:31 ID:7z2kV3cuO
サナダムシさんと言えば、不完全セルゲームだろ。
384永遠の扉:2006/12/05(火) 21:45:37 ID:3rabFuN+0
「私、武藤まひろ! まっぴーって呼んで!」
細身にまとわりつく元気いっぱいの少女に、ヴィクトリアはひどく嫌気が指してきた。
生徒たちからの質問攻めが終ったと思ったら今度はコレだ。
「すごい、びっきーがもう来てるー!」と叫びながら飛びついてきたと思えば、背後から抱きつ
いたり髪をいじりまわしたり、人差し指と親指で作ったリングを目の前にかざして「79」と意味
不明の断定を下したり、「ね、ね、斗貴子さんと同じ制服だけどどういうカンケイ? ああでも
いいなー斗貴子さんとペアルック。私も着たいー!」と好き勝手に騒ぎ散らしている。
(次から次へと鬱陶しいわね。どこがいい学校よ)
だが、わざわざ猫をかぶって反応する自分のちぐはぐさにも腹が立つ。
イヤならば本性を露にし、楽しくて光に満ちた暖かな空間を壊して立ち去る方が良いのだ。
だがそれをしない、もしくはできない自分が嫌で嫌で仕方ない。
地下で闇に溶けてた醜さが、地上の光に浮き彫られているのが分かる。
心はひたすらねじくれて、肉体のみならず精神までも化物じみているのが分かる。
吐き気がする。心が暗い渦を巻く。
ココに誘った秋水が、元信奉者で戦士という錬金術の色濃き肩書きが、恨めしくて仕方ない。
ヴィクトリアの人生の大半は、そんな暗い感情の集積だ。
それでも、母が生きていた頃はまだ良かった。
奪われた大事なモノを取り戻す、確かな行動が日々に組み込まれていた。
そっけなくて硬さを帯びた言葉にも、毎日答えてくれる母がいた。
そのどちらも、最早ない。
100年の研究成果は父を人間に戻すには至らず、母は死んだ。
(いっそあのアイツが私を殺しに来ていたなら──…)
どれほど楽だったろうと沈んでいる所に声が届き、彼女は身をすくませた。
「こらまひろ。困っているでしょ。やめなさい」
その声にまひろは渋々ながらに引き下がり、「また後で!」とカレーをよそいに行った。
「ゴメンね。悪いコじゃないんだけど、ちょっと元気すぎて」
申し訳なさそうに謝っているのは、眼鏡をかけた大人しそうなおかっぱ頭の少女だ。
ヴィクトリアは息を呑んだ。
優しそうに「あ、私は若宮千里。一緒にカレー食べる?」と誘う笑顔に、目が釘づけられた。
(……ママに似てる)
385永遠の扉:2006/12/05(火) 21:46:29 ID:3rabFuN+0
逆向逃亡後、秋水はまひろや斗貴子ともども食堂に戻ってきた。
道すがら、武装錬金を使えるコトを他の生徒へ秘密にするよう頼むつもりだったが、
「大丈夫。さっき見たコトはナイショにしておくからッ!」
力いっぱいの形相で機先を制したまひろの様子からすれば大丈夫そうだ。
ただ、続けて「最初はビックリしたけど、お兄ちゃんの仲間なら尚更だよ」
と微笑された瞬間、秋水の胸に重苦しい気配が満ちはじめた。
「うん。お兄ちゃんと剣道の稽古してたのも、みんなを守るためだったんだね。偉いね」
言葉が詰まった。どうしようもなく。斗貴子の目線が険しくなるのも感じた。
(逆だ)
理念は桜花を守る一点だけで、他の生徒は『食い物』──血肉をL・X・Eへ捧げんがために
信頼を培う二重の意味──過ぎなかった。
その戦いの末に秋水は敗北を喫し、カズキを背後から刺した。
そして今は無条件に得た信頼が却って胸に突き刺さる。
謀るにはあまりに無垢な相手で、けれど真実を告げたら再び泣かしてしまいそうで。
そもそもまひろが泣くコトを嫌だと思う心情はどこから来ているのか。
自分との共通項ゆえか、全く違う別の感情ゆえか……
(…………)
思い起こしてみれば秋水は、まひろに対してもひどい仕打ちを目論んでいた。
桜花が死ぬのを誰よりも何よりも恐れておきながら、まひろの兄を濁った瞳で刺した。
謝罪すべきはカズキにもだが、まひろにもだろう。
だがその言葉をまとめる前に食堂へ到着し、まひろはお礼をいうとヴィクトリアへ殺到した。
手持ち無沙汰な心情で斗貴子の蔑視を浴びつつ、秋水は防人へ報告した。

戦士一同はテーブルに座って、カレーを前にしている。
この中で何故か桜花の顔が少し赤く、秋水は体調を心配した。
「やはりサテライト30(サーティ)か」
防人のいうそれは、「創造者を2〜30体に分裂させる」武装錬金。形状は月牙。
コレにより現れる分裂体は総て本物。1体でも残っていれば再び増殖が可能であり、限りなく
不死に近い武装錬金の一つである。
「震……逆向に吸収されても無事なワケだ」
テーブルの下で御前がヒソヒソ呟くと、千歳も頷いた。
「顔を無くしていたのも特性の一つね。新月、だったかしら?」
386永遠の扉:2006/12/05(火) 21:47:10 ID:3rabFuN+0
「ああ。だが、確かにムーンの奴も一体一体顔の形が違ったが……それまで再現できるとは」
先ほど桜花と防人の挟撃を受けた総角には、顔が無かった。
首の上に乗っていたのはカカシのような「へのへのもへ字」の偽首だ。
「こっちはヘルメスドライブ対策ね。確かに顔が分からなかったら私も索敵のしようが……」
それから”とある一動作”の後、総角はライスやカレー入りのタッパーを風呂敷に包み
「床に沈んでいったわ。どうやらシークレットトレイルを使っているみたい」
それも自分の衣装や風呂敷に髪の毛を縫いこんで、と付け加える。
シークレットトレイルは斬りつけた物に亜空間への出入り口を作り、創造者もしくはそのDNA
を有する物のみ通行を許可する。
「そしてここへ現れたのは、彼の部下がヴィクトリア嬢と共に廊下を走ってきた瞬間。私たち
の注意がわずかにあっちへ向いた瞬間ね」
「にしても、いちいち武装錬金の使い方がうまい奴だな」
「感心してどうすんだよブラ坊。カレー盗られちまったじゃねぇか」
御前は丸っこい短足で防人のつま先をげしげし踏んだ。
「大丈夫だ御前。代金は領収済みだ。ライスとカレー合わせて1つ頭680円! ×5名で
3400円、奴はキチンと置いていった。しかも原価を計算し、こちらにいくら利益が出るか
書いた紙まで残してな」
文字が躍る紙をぴらぴらしながら防人はひどく感心した様子だ。
「原価計算も的確。鍛えぬいた俺の眼力でもここまではいかないだろう。敵ながらブラァボー!」
「どうせなら毒でも混ぜたカレーを売って下さい戦士長!」
斗貴子は怒った。その肩へ桜花は笑顔で手を置いた。仏像のような穏やかな笑顔でこういう。
「あら津村さん。何か混ぜようとか考えちゃダメじゃない」

──「そっちの方がなおさら悪い! そもそも何か混ぜようとか考えるな!!」

斗貴子はカレー調理中にいったセリフを返されて「ぐっ」と歯切れの悪い声を漏らした。
「ところで姉さん、さっきから顔が赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫。ええ。何もなかったから」
桜花は少しぎこちない笑顔で返事をし、スプーンをきょどきょど盗み見た。
(黙っておいた方がいいか。アレは)
防人は沈黙に徹した。
387永遠の扉:2006/12/05(火) 21:49:13 ID:3rabFuN+0
前述の、総角がカレーを持って立ち去る前の「とある一動作」というのは。
「やれやれ。よそった奴もあったのだが食えそうにもない。というコトで」
桜花の口へカレーをよそったスプーンを無理やりねじ込んだ。
「コレはお前にやる。立ち仕事で小腹が空いている頃だろう」
そしてスプーンを引き抜く総角。
予想外の展開に、さすがの桜花も瞳孔を見開いたがすぐ落ち着き、清楚な佇まいでカレーを
咀嚼すると、ハンカチすら取り出し「ごちそうさま」と言いつつ口を拭った。
「ちなみに使っているのは真新しいスプーンだ。間接キスの心配はない」
「あら。お気遣いありがとう」
桜花はいつもどおり笑っていたが、どぎまぎとした強張りは抜けきらず、今に至る。
「ところで、秋水・桜花。しばらく寄宿舎で暮らしてくれないか?」
「といいますと?」
防人はカレーを一口食べると、ぐしゃぐしゃ噛みながら言葉を続ける。
「どうも逆向はココを狙っていたフシがある。となると奴だけじゃなく、L・X・E残党もだろう」
秋水の脳裏に、去り際の逆向のセリフが蘇る。
「だから寄宿舎を守る人間がいる。だが割符探しや残党狩りも平行してやらなくてはならない」
「2人がココで暮らしてくれたら、戦士全員が戻ってきた時に休養をとりながら敵襲に備えられるの」
千歳は防人をじっと見た。彼の口元を。食べながら指令を下さないでといいたいのだろう。
「そして戦士・斗貴子。キミには主に外回りをしてもらいたい」
「構いませんが、理由は?」
桜花にからかわれた表情を引き締める、斗貴子は問う。
「キミなら戦士・千歳の武装錬金で即座にココへ戻れるからだ」
ヘルメスドライブが移動できる質量は、創造者の体重も含めて最大で100kg。
千歳の体重は47kg。斗貴子の体重は39kg。合計86kg。
「話を聞く限りでは私も一応」
やや羞恥冷めやらぬ桜花もこっそり手を挙げた。こっちは50kgだ。
「そして戦士・秋水。キミにはなるべく寄宿舎に留まって貰いたい。実力的にはキミと戦士・
斗貴子が防衛の要だからな」
「……分かりました」
目線を落とす秋水。ようやく馴染みかけた部活動を惜しみつつの決断だ。
388永遠の扉:2006/12/05(火) 21:49:52 ID:3rabFuN+0
もっともそういう青々しい胸中の動きは、年配者にはもろに分かるものらしい。
「安心しろ戦士・秋水。部活動もなるべくできるよう俺が調整をつける」
「しかし」
「遠慮するな。剣士ならば鍛える時間も必要だ。それに寄宿舎にいる間は俺のリハビリも兼
ねて軽い戦闘訓練に付き合ってもらうしな。キミはどちらかといえば火渡より俺寄りのタイプ
だから(火渡は天才型、防人は努力型)、相性は悪くない筈だ」
秋水の顔は晴れない。全面的な好意をどう受け入れていいか分からないという様子だ。
確かに訓練も大事だが、元信奉者でしかもカズキを刺してしまった自分の都合を、こうも慮
られると嬉しさよりも戸惑いが先行してしまう。
千歳はそんな彼をなだめ、斗貴子は睨む。桜花も笑って諭す。
総角にカレーを無理やり食わされた桜花の頬の火照りはまだ抜けない。

「はっ! またもや不肖らしからぬ悪感情! 一体何が発生しているのでしょーか!?」」
神社の中で小札零はきょろきょろと辺りを見回した。
「む、むむ。この名状しがたきもやもやは一体なんでありましょう……」
小さな胸に手を当てて、ちょっぴり寂しげな顔でつぶやいた。
「神社に1人シルクハットを繕うというのも寂しきコト…… もりもりさんや香美どの貴信どの
はいつお帰りになられるコトでしょう。ああ、留守居役を務めし不肖の心はもはや一日千秋」
マシンガンシャッフルというロッドの武装錬金を発動して、振る。
カニが出てきた。冬場に鍋へブチ込んだら美味しそうな、でっかいズワイガニだ。
小札は滝のような白い涙をうぐうぐと流しながら、それに手を差し伸べる。
「我泣き濡れてカキとたわむるといったやるせなさなのであり……あああっ! 不肖の帽子が!」
カニはようやく修繕しかかったシルクハットのツバの部分をバリバリ破壊し始めた。
「お、おやめ下さいカニさん! これでは戯れるどころでは──っ!!」
慌ててカニを消すと、外から物音がした。
「もりもりさん!?」
扉に駆け寄りぱーっと明るい笑顔であける小札に、凄まじい突進が炸裂する。
「あーやーちゃーん!」
快活な八重歯の少女がそのまま小札を押し倒し、馬乗りになった。
「のわああ!? りょ、遼来々!?」
389永遠の扉:2006/12/05(火) 21:51:02 ID:drbydzQp0
「りょーじゃなくてあ・た・し。栴檀なんとか」
『さっきは名乗れたのにもう忘れているのか香美! ダメじゃないか名前は大事にしなければ!
鳩尾を見ろ、名前のない傷付いた体1つで心がまた叫んでいるんだぞ!』
小札はようやく状況を把握した。
「ば、栴檀どの達でありましたか。されど嬉しきコトには変わりなく。して首尾はいかほど」
「ま、色々あったけどさ、きぶんともども上々ってトコ?」
小学生のような肢体に乗っかりながら、香美は鼻をひくひくさせた。
「えーとね。おっきな建物見はってたら邪悪のゴズマをキャッチして水で峰ぎゃーして可愛い
子を連れておっかないのを踏みつつ置いて逃げて来たからバッチリ」
「ほほう。戦士の皆様方に動きがないゆえ動きに即応対すべく寄宿舎を監視されていたところ
可愛らしいおじょーさんがL・X・E残党に襲われているのを目撃したためほどよく攻撃を仕掛
けて救助するもなぜか復活された逆向どのと遭遇しもりもりさんの助力で切り抜けつつお嬢さ
んを寄宿舎へ引き渡しセーラー服美少女戦士のおねーさんを踏みつけて帰還された……と
いうワケなのですねっ!」
「そのとーり!」
『はぁーはっはっは! さすが小札氏、実況のみならず香美語の翻訳をやらせてもピカイチだ!
末は恐らく戸田奈津子女史か翻訳こんにゃくだろう!!』
ああ、ツッコミ役が欲しい。
「ところで」
小札は右手を唇の左端にピンと立てつつ栴檀に聞いた。
「ややはばかられますが……その、もりもりさんはおじょーさんに何かおっしゃってましたか?」
栴檀は考え込んで、答えた。
「なんにも! うんうんうん。なんにもいってなかったじゃん。ね、ね、ご主人」
『ああ! もちろん! ちなみにTYPEWRITERという綴りは、キーボードの中ほどに指を伸ば
すだけで打てるようになっている!! 理由はタイプライター普及の当時、営業の人がこの
文字を早く打つコトでお客さんの購買意欲を刺激するためだったと思う!!』
「それならばそれで」
(本当のコトいったら落ち込むもんねあやちゃん。もりもりが他の女のコと仲良くするとさ)
(食事も3日ぐらいとれなくなるしな! ふはは。どうだこのウソの隠蔽ぶり!)
390永遠の扉:2006/12/05(火) 21:51:53 ID:drbydzQp0
(ああ、貴信どのが訳の分からぬ豆知識を披露される時はウソがある時。きっともりもりさん
はおじょーさんに食事の約束を取り付けたりしたのでありましょう……不肖にそれを止める
権利はありませぬが、ありませぬが……ハッ! マズい、不肖の頭頂部がさらし物に……)
動揺する小札の細い肩に、くるりと丸められた香美の拳が乗っかって無邪気に動き始めた。
ネコがよくやる手の動きである。一説では母乳を出す行動の名残らしい。
「ところであやちゃんってさぁ」
薄く汗にまみれた豊かな胸がゆっくりと上下すると、重心が小札の下腹部に移動した。
「な、なんでありましょう。とととととというか、まずその手をば、離……」
小札は身をよじってマウントポジションから逃れようとするが、腰を香美の太ももでがっちり
と挟み込まれて動けない。
「可愛いから好き。ほら。あたしのツボって、トカゲとかネズミとかちっちゃいのに素早いヤツ
じゃん? だからついじゃれたくなんのよね」
香美は目を細めて、にゃっと笑った。むき出しの八重歯は捕食者のそれだ。
丸い拳は肩口から徐々にずれていき、小さな胸板へと活動範囲を映していく。
畳んだ指のみでピアノ鍵盤を流麗に叩くような仕草で。
タキシードの向こうにある少年がごとき薄い「そこ」を、香美は丸い手でトントン叩く。
いや、その手の動きは拳で揉むといった方がもはや正しい。
小札の口からさざ波のようにか細い吐息が漏れる。
蒸し暑い社の中で少女2人の甘い吸気が混ざり合い、漂うのはえもいわれぬ艶かしさ。
「お、おやめ下さい。頭の中で声が……これ以上はアウトオブマイコントロール……っ とい
うかその…… 手を動かされているのはまさか貴信どの? とすれば不肖は」
「どーすんの?」
陶然とゆるんだ瞳で香美は反問。シャギーの入った髪が頬に貼りつき、派手な目鼻立ちに
オリエンティックな色気を付加している。
やや詰問じみているのは優位を取っているという無意識の自覚がさせているのだろう。
小札は泣々(きゅうきゅう)とした哀切の瞳を背けて、今にも堰が切れそうな声をあげた。
「……涙枯れ果てるその時まで、泣きじゃくるコトでしょう」
(ありゃあ。あやちゃん本気だ。あたしはフザけてるだけなのに)
香美は手の動きを止めて、頬をかく方に回した。
391永遠の扉:2006/12/05(火) 21:54:17 ID:drbydzQp0
「え、えーと、そっちは大丈夫じゃん保障つき。うん。だよねご主人」
『勿論だ!! ちなみにやる気を出したい時は豚のしょうが焼きがいい! 総ては香美の手
の動きに任せるまま! 僕は何ら一切手出しをしてないから大丈夫だ小札氏! 』
香美の後頭部から響く謎の声へ、絶妙な合いの手が入った。
「だな!! お前は突風でめくれるスカートは凝視するが、自分からめくったりはしない主義!」
『その通り!! 無理やりは良くない! 確かに良くない! だが偶発的な現象であれば男
たるもの受け入れて楽しむべきだと僕は思う! だからさっきもかすかな弾力こそちょっと堪
能したが、自分からは一切手を動かしてない!! はーはっはっは!』
「フ、ご高説どうもありがとう貴信。なぜその状態かは分からんが、随 分 と 楽しそうだな」

恐ろしい気迫が彼らを衝いた。

振り仰いだ香美は一筋の汗を垂らした。髪も心持ち膨らんでいる。
「うげ。またもりもり」
総角は限りなく友好的で優しい笑みで香美を見ていた。
『ははッッッ! 悪を許すなゲッターパンチーという状態!? 千手ピンチだ!』
総角は認識票を撫でて、黒死の蝶をその手に浮かべた。
『ふぁーはっはっは!! 懲罰ですか懲罰ですね懲罰しかないという表情! 傍観者にすぎ
ない僕への裁定としてはやや過剰気味ですがリーダーの裁定であれば従うのみ! 覚悟は
できてますからババーンと景気良くサン・ハイどうぞォォォォォッ!!』

乾いた爆音が神社の中へ響いた。

「俺はだな。別に怒っちゃいない。その辺りは分かるな貴信・香美」
神社の中に座って会話するザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ(略してブレミュ)の3人。
香美はあぐら。総角は香美と向き合い正座。横には例のタッパーとパック入りのらっきょう。
小札は総角の背後から恥ずかしそうな顔をちょこりと出して香美を見ている。
「う、うん。ご主人はだまっててね危ないから」
後頭部がコゲコゲの香美は必死に頷いた。
『ははは! 穏やかな海が爆音で渦巻く炎が上がる! 今は昂ぶってるからこうだが、後から
ダメージがきてぐったりするパターン間違いなしだこれは! 後で絶対テンション低くなるッ!』
392永遠の扉:2006/12/05(火) 21:55:14 ID:drbydzQp0
煙をブスブス立てる後頭部から、いやに活発な声が上がる。
「ただだな、悪ふざけも度が過ぎるとやられる方は非情につらい」
小学校の先生みたいなコトを総角は言い出す。
『はーっははは! やばいぞむやみに楽しくなってきた!! どうし……うごげば!!』
どこから来たのか、また黒死の蝶が香美の後頭部に炸裂した。
「いいか、俺たちはホムンクルスだ。だが、だからこそ相手の心情を斟酌してやらねばならな
い。無意味に傷つけてはならない。でなくば、ただの化物になってしまう」
『いってるコトとやってるコトが違うという指摘は駄……ばじゅらぁ!』
どこから来たのか、また黒死の蝶が香美の後頭部に炸裂した。
「だから小札におかしなちょっかいを出すな。アイツは香美と違ってムードを大事にするタイ
プだ。強引に迫られたら本気で泣いてしまう」
「ね、一ついい?」
香美は恐る恐る手を挙げた。
後ろからは『ちょ……火に油をかけたら僕が爆破されるんだが……!』と震え笑いがしたが、幸い
質問の許可は流血爆風いずれもなしで出たので、ここぞと身を乗り出す後頭部コゲコゲ少女。
こんな質問を飛び出させた。
「もりもり、いやにあやちゃんのコトくわしいけどさぁ。強引にせまったコトあんの?」
総角は露骨に目を逸らした。小札もやや頬を染めてあらぬ方向を見た。
「言い忘れていたが、俺は寄宿舎からカレーを買ってきた」
「いや、せまったコトは」
「よって今日の晩飯はカレーだ」
「あたしの質問に」
「晩 飯 は カ レ ー だ」
総角は墨絵調で凄んだ。
「こ、恐い顔しないでよ。カレーも好きだけど食べると胃が荒れるし、やだなー……」
『何をいう香美! ホムンクルスだからすぐ直る!』
「そだけどさ。痛いものは痛いし」
「ちなみにらっきょうは小札のだ。絶対手を出すなよ。手を出したら殺す」
さらっと物騒なコトをいいつつ、総角はパック入りのらっきょうを小札にやった。
「良かったじゃんあやちゃん。大好物だもんね」
「え、ええまぁ」
マシンガンシャッフルの先っぽで鼻をかきながら、小札は嬉しさと照れ半々の表情をした。
393スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/05(火) 21:56:30 ID:drbydzQp0
ブラボーカレー、なかなか旨い。
3日3晩煮込まれたようなコクがあり、それがトロトロの牛肉に染み渡っている。
肉を噛むたびジューシーな肉汁とカレーのコクが絶妙な配合率で口内にパーっと広がり、飲
み込むのを惜しませる。咀嚼ばかりを際限なく促す。
ニンジン、ジャガイモ、タマネギというカレーという演劇の重鎮どもはどうだ。
おお、肉の柔らかさに比べ彼らの堅牢さはどうだ。
歯ごたえはほどよく順番に、甘味、タンパクっぽさ、えもいわれぬ薬味がそれぞれの解釈で
カレーの味をそれぞれの領分に引き上げる。
しかし彼らの派手さに隠れがちだが、ライスの役割もあなどりがたい。
ふっくら水気を帯び、辛味を抑えつつも汁粉における塩のような反作用で引き立ててもいる。
機能的には日本刀の芯に通った柔らかな鉄。見た目は宝石。味覚に瞬く白い輝きだ。
それらの競演はあたかも別料理のようでいて最終的に合致する。
究極ともいえる刺激が舌から高次に立ち上り、脳髄で凄まじい多幸感を分泌する。
(……おいしい)
戦士一同もヴィクトリアもまひろも千里もブレミュ一同も、それだけを思った。


後書き
ようやく007話終了。長いですなァ。しかもプロットにない話という。
008話からは新展開。もうちょいテンポ良くやります。

ところで良く行ってた本屋がつぶれてしまって寂しい限り。
見慣れた景色が消えるのは嫌ですね。

>>337さん
秋水とまひろとは違う、「やっぱこの2人は幸せな方がいい」という妙な感傷すら沸きました。
どうやら自分は、ずっと物語を動かし続けてくれた彼らが大好きらしいです。

>>339さん
戦いや葛藤から切り離された、ごく普通の男女としての2人は描いててとても新鮮でした。正
に一心同体。2人揃っていてこそのカズキと斗貴子。原作は偉大…… スーツ姿のカズキは
合うような合わないようなw 熱意はあるからどんな職業でもやれると思うんですが……
394スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/05(火) 21:57:18 ID:drbydzQp0
>>343さん
根が優しいのに強気で不器用なせいで、普通の女の子のような甘え方ができない。それが
彼女でしょうね。あと彼女の性格はなかなか一人称映えして、一風変わった雰囲気が。デビ
ルークの叛旗兵のテーマは「癒し」でしたが、こちらは「日常」といった所でしょうか。

さいさん
>WHEN THE MAN COMES AROUND
欧州的なウィンストンやサムナー。羨ましい限りです。自分が描くとおそらくヴィクトリアも日本
人的な思考・口調になってしまいますので。上下関係を時折忘れるところとか戦友ていう感じで
燃えですし、気のいいウィンストンと冷徹なサムナー(ちょいツンデレ風味?)もカッコいい。
照星部隊はマジメすぎるせいで話に活力を出し辛いでしょうが、自分は好きですよ。
神父の壮絶さといいメリハリになっていますし。ちなみに最後の大隊のメンバー位なら、防人
たちにも勝ち目見えるのですが、神父相手だとどうにも。「アイテムなど使うなァー!」とかやられそうw

で、日本刀vsチェーンソーは、正に正邪を現していて自分的にも燃えでした。
内臓とかは、もっとこう現物を観察して汁気も追加してリアルにしたいのですが……難しい所ですね。
そしてコスプレは女性キャラの華! 個人的最強は制服の上にエプロンの桜花。生活感が蝶サイコー!
千歳は本当にギャップがw WHEN THE 〜ではあんなに可愛らしい人がこっちでは素っ気ない解説役。
おたまとか持ち出してるし。何だろこの人w ヴィクトリアはいずれ重要に。まひろは原作読みつつ頑張って書いてます。

ふら〜りさん
段々おかしな方向へ行ってますが、ただの美人じゃないのがむしろ良いです。それでいて何
か説明する時は必ず彼女が喋ってくれるので実に大助かり。実に描きやすい人です。根来と
のコンビもまた予定しております。ちなみに彼の早期退院はなく『期日どおりにきっちり』としますよ。

そして斗貴子さんは内面の奥深いところは実に乙女してますよ。7年前は占いで見たウェデ
ィングドレス姿の自分とそれを抱えるカズキを支えに惨劇に耐えてましたし。ただし実用的な
考えで贈り物を選ぶのもまた優しさ。自分の嗜好より相手の都合を優先できる人なのです。
395Will Meet Again:2006/12/06(水) 02:55:00 ID:xtLex8mb0
トレヴィ広場は声と光に溢れていた。
イタリアの首都ローマ有数の観光地であるこの広場は、いつも多くの人で賑わっている。
観光客、家族連れ、恋人達。
その笑顔の海の中にその男はいた。
法衣の上に丈の長い外套を着込み、首からは十字架(クルス)を下げている。
百人中百人が「彼の職業は?」と聞かれれば「神父」と答えるだろう。
市内にカトリックの総本山“ヴァチカン市国”があるローマにおいては、街の中で神父を
見かける事など珍しくはない。
むしろよくある事だ。
その“珍しくない”存在である、一人の神父はベンチに座り泉を眺めていた。
彼の前を幾人もの人が通り過ぎていく。
多くは無関心に通り過ぎるだけであるが、十人に一人は顔をやや伏せて十字を切っていく。
敬虔なカトリック信徒なのだろう。
神父はその度に柔らかく微笑み、軽く片手を上げる。
たったそれだけのやり取りで心救われる者もこの世にはいるのだ。
そんな“弱き民”の為なら、笑顔や往来での対話など労のひとつにも入らない。
信仰に生き信仰に死ぬ覚悟のこの神父にとっては。
だが、その神父も今日はあまり心穏やかではない。
北の地に待ち受ける職務を思い浮かべれば、人々に見せてはならない筈の表情も自然に顔に張り付く。
だがそれではいけないのだ。
神父は心中で神に許しを乞い、神罰を望み、悔い改める。
他者には知られざる、神父の心の“死”と心の“再生”だ。
そして神父はまた一人穏やかな表情で、観光客が泉に向かって投げるコインの輝きを見つめる。

「隣、空いてますか?」

英語でそんな声を掛けてくる者がいた。
見上げると、人の良さそうな笑顔をこちらに向けた、スーツ姿の東洋人の男が立っていた。
見た目“だけ”は三十過ぎの神父と、さして変わらなく見える風貌だ。
396Will Meet Again:2006/12/06(水) 02:56:00 ID:xtLex8mb0
「ええ、ええ。空いてますよ。さあ、どうぞ」
信徒に向けるものと同種の微笑みを男に向け、神父は答える。
2m近い巨躯の神父は精一杯ベンチの端に寄り、男が座るスペースを空けた。
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、男はベンチに座る。
東洋人のようだが、日本人だろうか? 中国人だろうか?
「失礼ですが日本の方ですか?」
神父は無礼にならない程度に、遠慮なく声を掛ける。
「え!? 何故、わかったのですか?」
男はまるで小動物のように眼を丸くしている。よほど驚いたのだろう。
母音を強調した区切りの強い英語の発音は日本人によくあるので何となく言ってみただけなのだが。
それに日本人は「英語は“万国共通語”」と勘違いしがちだ。
「ハハハ、何となくですよ。それで、イタリアにはお仕事で?」
「はい! そうです! いやあ、よくわかりますねえ。さすが神に仕える方だ」
男はしきりに感心している。
これも、身形から察して問い掛けただけの事だ。スーツ姿で観光する者もいなくはないのだろうが。
「どうも海外出張の多い職場でして。こう海外生活ばかりだと本当に日本が恋しくなります」
男はあまり上手くない英語で、聞かれてもいない事を語りだした。
「子供達が私の顔を忘れてしまうのではないかと心配ですよ。あ、息子と娘なんですが――」
これは困った。信徒との対話なら良いのだが、暇を持て余した日本人とのお喋りに興じる程の
時間も余裕も、実のところ今は無い。
あと数分程で北へ旅立つ為の迎えが来てしまう。
神父は笑顔を絶やさないが、内心では(どうしたものか……)と頭を掻きたい気分だ。
ある一部の“もの”に対しては遠慮も優しさも慈悲も持ち合わせないこの神父だが、それ以外のものには
人の良さと押しの弱さが露呈されてしまい、どうにも強く出られない。
男は神父の心中などまるで解せず、すっかりマイペースで話を続けている。
「息子は十歳で、娘は八歳なんです。いやあ、本当に可愛いものですよ。あ、そうだ、写真があったんだ。
ホラ、見てください神父様」
ついに写真まで飛び出した。
397Will Meet Again:2006/12/06(水) 02:57:18 ID:xtLex8mb0
神父は困り果てているが、外面にそれをまったく出さないというのも、この場合考え物である。
「ほほう、活発そうな坊やだ。子供は元気が一番です。お嬢ちゃんも優しそうですし、可愛らしいですな」
これは神父の本音だ。
ローマ近郊で孤児院を任されているだけあって、神父は子供が大好きであったし、どんな人種・境遇の
子供にも等しく愛情を注げる自信があった。
「アハハ、自慢の子供達ですよ。私の宝物です」
いわゆる親バカというものだろう。神父に我が子を褒められ、男はすっかり相好を崩している。
「しかし、二人ともまだまだ子供でしてね。まあ、実際子供なんですが……。『将来の夢は?』と聞いても、
息子は『ボクは正義の味方になるんだ!』とか、娘は『私はお兄ちゃんのお嫁さんになる!』なんて。
本当に夢のような事ばかり言って……。アハハハ」
男は上機嫌で話を続けているが、その男の延長線上の遊歩道に年老いた神父がお供を連れて
立っているのが、神父の眼に確認できた。
どうやら、時間のようだ。
神父の顔は一瞬だけ聖職者とは思えない程に荒々しく歪んだが、悟られる間も無く元の柔和な
表情に戻っていた。
「申し訳ありません。迎えが来たようなので、これで失礼しなくては……」
神父は立ち上がり、日本人式に“礼”をする。
「あ、いえいえ、こちらこそ。つまらない話につき合わせちゃって……」
男も慌てて立ち上がり、深々と頭を下げ返す。
神父は少し考え込んだが、やがて意を決したように男に向かって話し出した。説教だ。
「これは坊やにお伝え下さい。
“正義の味方”とは物語にあるような華々しい存在ではありません。
愛する人と別れ、苦痛に耐え、死すら恐れない、そんな覚悟が要ります。
敵の命を散らせ、味方の命を散らせ、自分の命を散らせ、ただ前へ進まなくてはいけない。
たとえ勝機が那由他の彼方でも、ただ前へ進まなくてはいけない。
四肢が千切れようとも、胴に風穴が開こうとも、頭を吹き飛ばされようとも、行き着く先が辺獄(リンボ)だとても。
そして自身は何を望んでもいけません。何を惜しんでもいけません。
ただの嵐、ただの脅威、ただの炸薬でなければいけないのです。
心無く、涙も無く、ただの恐ろしい暴風でなければいけないのです。
それだけの強い覚悟が無ければ、自身の信じる正義は守れないのです。
坊やが“正義の味方”になる事を望んで止まないのであれば、これだけはお伝え下さい」
398Will Meet Again:2006/12/06(水) 02:58:15 ID:xtLex8mb0
「は、はあ……」
男は神父の言葉に秘められた異常な迫力に押されて頷くだけである。
神父はニッコリと笑い、言葉を続ける。
「それと……。娘さんには、こうお伝え下さい。『近親婚は神様がお許しにならない』と」
こちらは神父の下手なジョークなのであろう。多少の真実は込められているのだろうが。
「アハハハ、わかりました。娘には涙を飲んで諦めてもらいます」
男は神父より幾分かはウィットに富んだジョークで返す。
「フフフ……。それが賢明です」
神父は男に右手を差し出した。
男は神父の手を握りながら、一番重要な事に今更ながら気がついた。

「ああ、いけない。まだ名乗ってもいませんでした。いや、すみません。
私は武藤という者です」

「私はアンデルセンです。縁があれば、またいつか……」







日中思いついた、本編の“幕間劇”であり、もうひとつの“七年前”です。
時間軸で言うと(私の作品、時間軸なんて無いに等しいですが)EPISODE2直後の
アンデルセン、北アイルランドへ出撃直前って感じですな。
こんな恐ろしい偶然があってもええや〜んってことで。
399さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/06(水) 02:59:29 ID:xtLex8mb0
NBさん
歌いながらブチ殺しまくる漫画だったような……。スーパージャンプだったかウルトラジャンプだったか……
ヤバい、ヒラコー先生ファン失格です、俺。

>>363さん
神父はいろんなキャラと絡ませたいですね。
ただ言えるのは、旦那と神父のような関係ではないってところでしょうか、火渡と神父。

>>364さん
予定は未定であり決定ではない……。私が好んで使う良い言葉です。こんな外伝書いてるから遅くなるんですけどね。
でも終わります、たぶん。きっと。おそらく。

ふら〜りさん
ああああ……錬金サイドが神父のかませになる最悪の展開だけは避けたいですなぁああ……。
>戦い方が地味でリアルに近い方が、却って迫力を感じますよね。
これは良い言葉です。これイタダキ。つーか先の展開読まれたかと思ってドキッとしました。

>>367さん
お気遣い、ありがとうございます。
お礼といっては何ですが、神父は対錬金戦団最終決戦ではアーマー警察署戦の16倍くらい
イカれる事をお約束します。

>>369さん
やはりここは公共の場なので、あくまで品良くいかなくては思いまして。
そのかわり自サイトでは好き勝手下品絶頂です。

スターダストさん
直後に投稿してしまい申し訳ありません。
400さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/06(水) 03:15:14 ID:xtLex8mb0
>永遠の扉
あ……サテライト30だったのか……。総角どうなんの!?って本気で思ってましたよ。
バカ倒れ……じゃなかった、馬鹿だ俺。どっちでも通じるか。
しかしブレミュ三人のやり取りは面白い。総角、香美は本当に良いですわ。
ヴィクトリアの入り組んだ胸の内は、読んでて切ないというか何か落ちます。
今回の一レス目のくだりはホント何か溜息が……。

自分の場合、『初めに言葉(声)ありき』で執筆してます。物語を考えてキャラ考えたら、CV決めて
頭の中で色々喋らせて、描写やセリフ回しを考えて書くって感じで。
いつの間にか、こんな書き方になっちゃいました。( ゚∀゚)o彡゚芳忠!芳忠!
>最後の大隊のメンバー位なら
リップバーンの“魔弾”や執事の“鋼線”みたいな武装錬金ってあってもいいかな、って思いますね。
CAPCOM VS SNKみたいな感じで武装錬金 VS HELLSINGな妄想もまた一興。
しかし、なんど妄想しても旦那の“死の河”発動でハイ終了!
401作者の都合により名無しです:2006/12/06(水) 07:56:01 ID:uLSNH6NY0
>スターダストさん
まひろ・秋水・トキコのメインキャラの三者三様。
ブラボーたち魅力的な脇役もいっぱいで今回は賑やかですね。
ブラボーの癒し効果は並々ならぬものがあるなw

>さいさん
こういう番外編みたいなのは好きですね。
表面上は良い神父ですが、やはりアンデルセンだけあって
言葉の端々に狂気が潜んでますな。
402作者の都合により名無しです:2006/12/06(水) 19:56:37 ID:kOylbm900
スターダストさん、さいさんいつもお疲れ様です!

>永遠の扉
まひろ、可愛いと痛いのギリギリのところだなw
でも美少女だからその点も許されるんだろうけど
(実際にいたら絶対に女の子からは嫌われそうだ)
シリアスの時とほのぼのの時のギアチェンジがいい感じ。

>Will Meet Again
神父は静かな時も火山の爆発前みたいな感じで
決して近づきたくない人材だな。
幕間劇の何気ない偶然が後に・・っていうのは
結構好きな構成かも。
403作者の都合により名無しです:2006/12/06(水) 22:48:08 ID:fadeEdF10
永遠の扉、ものすごい長編になりそうだなw
でも、錬金は好きなので全然OKです。

さいさん、短編もうまいですね。
神父がちゃんと冷静に?対談してるし。
404作者の都合により名無しです:2006/12/07(木) 06:49:34 ID:mGRgBwMt0
ブラボーカレー見て朝っぱらからカレーが食いたくなった
405作者の都合により名無しです:2006/12/07(木) 20:00:32 ID:cX/lhncI0
バレさん、お仕事忙しいのだろうか・・
それならいいけど、お体を壊してないかと心配だ。
406ふら〜り:2006/12/07(木) 20:49:25 ID:R/aurotU0
>>サナダムシさん
原作でも、このスレでも、いろんなジャイアンを見てきましたが……間違いなく、一番怖い
です。「強い」だけじゃなく「怖い」。超能力などない、シンプルでナチュラルな強さと絶対の
自信と残虐性。ドラも絶望してる今、のび太が何かできるとはとても思えない。どうする?

>>スターダストさん
待ちに待ってましたっ、小札の嫉妬! でも相手の女あるいは男(総角)に対して悪感情を
向けないところが可愛い。良い子です。総角は総角でテレるわ怒るわ彼らしくもなく……♪
>お前は突風でめくれるスカートは凝視するが、自分からめくったりはしない主義!
↑こういうのも大好きです。こういうベクトルであれば、男女双方に萌えられるってもんで。

>>さいさん
神の視点たる読者ならではの面白さですね。殺人鬼は日常生活では愛想よく目立たない。
ジョジョの吉良なんかも然り。でもその仮面の下では……と。しかし外伝というかザッピング
というか、こういう形式も憧れだなぁ。作品界に幅がないとできませんからね。私もいつかっ。

>>405
確かに。心配して待つしかできないのが辛いですね。時期が時期ですから、多忙なのは
ほぼ確実でしょうし。
我らが大黒柱バレさん、できるものなら肩揉み肩たたきなどさせて頂きたいところですが……
407作者の都合により名無しです:2006/12/07(木) 21:10:45 ID:OZPd7iPMO
今更だけど、煙幕の中で殴打するって意外と地味だなと思ってたら…
考えたら、昔の漫画やアニメにおけるギャグ調の喧嘩はみんな煙の中から顔〜上半身辺りが出たり入ったりだw
408作者の都合により名無しです:2006/12/08(金) 07:53:40 ID:fwwYtgP/0
ふらーりさんも年内復帰?
文面見ると来年からか。
409作者の都合により名無しです:2006/12/08(金) 20:09:15 ID:AQ1Wn2xy0
先週の神ペースに比べると今週はちょっと落ちてるな
サナダさん・スターダストさん・さいさんたちは相変わらず調子いいが
410作者の都合により名無しです:2006/12/09(土) 00:22:45 ID:gYJBaU/RO
SSはスピードで書くもんでもあるまい。
411オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:51:47 ID:yzVfulyz0
<一日目・その11 『帰宅完了』>
現在時刻:午後16:00 場所:村の集落

「帰って来たぞ〜♪帰って来たぞ〜♪」
「その歌・・・、レナが歌う年代の歌じゃないわよね・・・。」
鬼一匹と学生三人を乗せた自転車は、圭一達が住んでいる村唯一の集落内を走っていた。
一見、集落内と聞くと家しかないように思えるが、流石に『この村唯一』という冠がつくだけあって、
簡単な商店や小さなコンビニエンスストア位はある。
「おっ!勇次郎先生。仕事ですかい?」
「・・・・、フンっ!まあな・・・・。」
「そうですかい。それでは頑張ってくださいな!」
それにしても、この村の人間は良い意味で純粋な人間が非常に多い。
確かに東京や大阪といった大都市と比べれば、店も人も全てにおいて数の面では少ないだろう。
「いらっしゃい!いらっしゃい!!そこの勇次郎先生・・・と、前原のせがれ達や譲ちゃん達か!
先生と一緒に入るってことは・・・、学校の補修か何かかい?」
「あはははは〜!違うよ〜☆ 魚屋のおっちゃ〜ん!!」
それでも、彼らが持っている純粋さは、大都市に負ける事のない活気を生み出しているように見える。

そう、今日のような日も。
―――まるで殺人事件が起こったとは思えないほどに。

しかし、巡回している警官の数が必要以上の数が居る所を見ると、
殺人事件があったという現実は、夢でも幻でもなく―――真実であったようだ。
412オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:52:17 ID:yzVfulyz0
「ちょっと!そこの多人数乗りをしている自転車!!止まりなさい!!」
そして、勇次郎たちが乗っている自転車が、巡回中の警官の脇を通り抜けた瞬間。
その警官は、大きな声を挙げて追いかけてきた。
当たり前であるが、自転車の四人乗りは法律違反である。
それが地上最強の生物であっても・・・、例外はない。

「ちっ!めんどくせえ・・・・。お前等!!しっかりと捕まってろよ!!」
「せ、先生?確か逃げると罪が重くな・・・・、うわっ!!」
圭一の言う事も当然のように聞かず、勇次郎は思いっきりペダルを漕ぎ始める。
すると四人も乗っているはずの自転車は、正に鬼のような加速をし始めた。
普通の感覚ならば、四人乗りは漕ぐ事も困難なはずなのだが・・・・。

まあ、運転手によって自転車の性能も上がるという事で良しとしておこう。

「うおおおおおおおおーーー!!!」
「あははは〜〜!!早い早い〜〜!!」
「こ、これって、自転車が出せるスピードじゃない気が〜〜!!」
「お、俺が入っているかごが落ちる〜〜!!」

勿論、運転手が鬼の場合に限るが・・・。
413オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:53:32 ID:yzVfulyz0
「よ、よかった・・・。落ちなかった・・・。」
それから数分後。
鬼一匹と学生三人を乗せた自転車は、追い掛けて来た警官を簡単に振り払うと、
レンガ造りが一際目を引く、圭一の家の近くまで来ていた。

一般的にこういう状況の場合、レディーファーストと称して、
レナか千沙の家から順に回るのが相場というのが『男』のというモノだが、
そこは地上最強の生物――――気まぐれ勇次郎。
目の前の買い物かごの中に入っている圭一が、単に鬱陶しかったという理由だけで、
男の精神を無視してしまうのは流石である。

まあ、これも勇次郎の唯我独尊な性分が反映された。というところだろう。
それに・・・・・おっ。

「あっ、先生。その家です。」
「ああ。分かってる。」
どうやら彼らの乗っている自転車は、私が無駄なことを語っている間に、
何のアクシデントもなく圭一の家の前まで辿り着いたようだ。
「うおっし。おい、前原。さっさと降り・・・。」
「先生・・・・。その・・・、無理です・・・・。」
そして、次の瞬間。
圭一は勇次郎が喋り終わる前に、彼の一番嫌う否定の言葉を面と向かって言い放った。
例え相手の言いたいことが分かっても、その人の言葉を遮るのは止めましょうというのが良く分かる瞬間だろう。
「ぬうわに〜〜!」
当然だが、圭一の言葉を聞いた勇次郎の目は一瞬大きく見開かれる。
414オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:54:28 ID:yzVfulyz0

危うし!圭一。
っていうか、絶対に死ぬ!

――と、ここまで語っておいてなんだが、勇次郎がそこまで単純な人間ではないことは、読者の方々も知っていよう。

そう、彼だってちゃんと分かっている。
圭一が自転車のかごの中にハマってしまった為、出たくとも出れないことは。

たから・・・・。

「まあ、いい。これ以上そこにいられても鬱陶しいからな。今日は特別サービスだ!」
勇次郎は買い物かごにハマッている圭一の頭を鷲掴みにすると、そこから無造作に引き抜いた!
「うおっ!」
しかも、今回は勇次郎曰く特別サービス。
このままでは終わるわけがない。
「ほら!」
「じ、地面が下?今度は上に〜?」

もうお分かりだろう。

なんと勇次郎は、圭一をかごから引き抜いただけでなく、家のドア前まで放り投げたのだ。
流石、特別サービスである。
「ふん!」
「げふっ・・・・。つ、着いた・・・。」
こうして、圭一は無事に帰宅できたのであった。
本当にやっと・・・。
415オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:56:36 ID:yzVfulyz0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おいっ!次は斎藤!てめえの家だ。場所がわからねえから案内しな!」
勇次郎は圭一が家の中に入っていくのを確認した後、今度は千沙の家に向かって自転車を漕ぎ出す。

「先生〜。レナはお腹がすいたよ〜☆」
「・・・・。家で食え。」
「ま、まあ、もう少しだから我慢してね。レナ。」

快調だと嬉しい道のり。

「あっ!新作の携帯電話だ!!先生〜、少し寄っていこうよ〜☆」
「れ、レナ!?」
「・・・・、竜宮・・・。少し黙れ・・・。」

いろんな意味で賑わう勇次郎達。

「斎藤、どっちに曲がればいい!」
「は、は、は、はい!右です!右!お箸を持つ方の!」
「あれ〜?お箸は左手で持つんだよ〜!ねえ〜、先生?」
「右だな。それと竜宮。てめえは少し黙ってろ!」
たった一回の分かれ道に対して、これだけのやりとり。

果てさて・・・。
勇次郎達を乗せた自転車が、千沙の家に辿り着くのは一体何時になるのやら・・・・。
416オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 02:58:04 ID:VycX7f2V0
(そういえば、先生は何で圭一君の家は知っていて、千沙ちゃんの家は知らないのかなあ〜?
まさか・・・・・。ちょっと聞いてみよ!)

ちなみに・・・・。

「ねえ先生?」
「竜宮よ。『黙れ・・・。』と言ったはずだぞ。」

どんなに早くても、後一時間は・・・。

「先生って、ストーカーですか?」
「教師を教師とーーー以下略。恥をしれいィ!!!」
「ゆ、勇次郎先生の背中がーーー!!!」

――――死闘中である。
417オーガのなく頃に:2006/12/09(土) 03:01:03 ID:VycX7f2V0
どうもしぇきです。

いつもより変な文章の書き方は仕様です。
後、次あたりは警察の人たちがメインの話になります。

では失礼・・・。
418作者の都合により名無しです:2006/12/09(土) 08:06:43 ID:Im1z3fG30
お疲れ様ですしぇきさん
いよいよレギュラー策の連載復活ですか。これで本格復帰ですね
勇次郎が圭一たちを優しく?見守っててワロスw
419強さがものをいう世界:2006/12/09(土) 17:50:59 ID:+Xr7AkoZ0
 予期せぬ乱入に、ヘッドロックが外れる。どさりと倒れ込むのび太。
「ほう、しずちゃん。のび太如きをかばうなんて、ずいぶん甘くなったじゃないか」
 静香はかまわず左ハイ、立て続けにボディを連打。締めは噴火のような勢いで突き上げ
るアッパー。が、打ち抜けない。
 攻め手を失い、仕方なく間合いから抜ける静香。
「さすがね、武さん。出木杉さんを倒しただけのことはあるわ」
「しずちゃんこそ、出し惜しみはよくないぜ」
「……なんのことかしら」
「超人体技“六式”……。君はその使い手だと聞き及んでいる」
 静香の目つきが変わった。
 ──源家秘伝、六式。
 鍛え抜いた指で人体を貫く、指銃(しがん)。
 真空を発生されるキック、嵐脚(らんきゃく)。
 宙を蹴り自在な空中移動をこなす、月歩(げっぽう)。
 まるで消えたように大地を駆ける、剃(そる)。
 体を硬直させ銃弾さえはね返す、鉄塊(てっかい)。
 紙のように脱力しあらゆる打撃をかわす、紙絵(かみえ)。
 以上六つの絶技をもって、六式。
 鎌倉時代より代々源家に伝わる門外不出の拳であったが、戦後より広く一般に公開され
るようになった。なお現在、日本のセキュリティポリス、米国のシークレットサービスを
初め、各国のボディガードたちには六式習得が義務づけられている。
 ただし、体得には並々ならぬ努力と才能が不可欠であり、六つある技のうちひとつを覚
えるだけでも三年を要するといわれている。
 ところが、わずか十才の静香が六式の使い手とはどういうことか。
「ストーカーが趣味かしら、武さん」
「以前スネ夫の奴にちょっと、ね。それにしても、すばらしい才能だ」
「バレているのなら、温存は必要なさそうね」
 二メートル近くあった間合いを、さらに広げる静香。ジャイアンは困惑する。
「おいおい、キャッチボールでもするつもりかい?」
「嵐脚ッ!」
 突如、静香が高速で足を振るう。それに伴い、鋭い真空波が飛び出し──。
 ──ジャイアンを切り裂く。
420強さがものをいう世界:2006/12/09(土) 17:51:46 ID:+Xr7AkoZ0
 疾風という名の凶器が踊る。刃が次々にジャイアンへ向かっていく。
「あなたの射程(エリア)でやり合うつもりはないわ。卑怯も武のうちよ」
 嵐脚によってできたカマイタチは、コンクリートをも切断する。とうに常人ならばみじ
ん切りとなっているはず。
 だが、ジャイアンという男はとうてい常人の域に収まるような器ではなかった。
「しずちゃん、そんなに俺をヌードにしたいのかい?」
 切り裂けたのは、なんと服だけ。肉体には出血はおろか、かすり傷ひとつついていない。
「野球拳には便利な技だが、あいにくまだ宴会を開く時間じゃないぜ」
「た、大したものだわ……武さん。いえジャイアン」
 穴だらけとなったシャツを引き裂き、半裸となるジャイアン。
 壮絶な上半身であった。骨格に岩を乗せたかのような筋肉には、至るところに深い古傷
が染みついている。
 女としての本能を刺激され、口の中を生唾で一杯にする静香。
「ビューティフル……」
「生後まもなく、俺は母ちゃんにコンクリートに叩きつけられた。走ってる電車にぶつけ
られ、東京タワーから突き落とされ──そうやって身につけた耐久力だ。接近戦でなきゃ、
まず俺は倒せねェ」
「えぇ……私は未熟を恥じるわ。ジャイアンという怪物から、危険を冒すことなく勝利を
得ようとしたのだから」
 殺す覚悟に加え、殺される覚悟。対をなすふたつの覚悟を持たねば、ジャイアンの上を
ゆくのは不可能だ。
「ようやく地に足がついたようだな」にたりと笑うジャイアン。
「剃ッ!」
 六式、剃。音でさえ追いつけぬ速力を発揮する静香。
 ほとんどのケースで、剃は背後を取るために使われる。が、今回はちがった。
 正面から、堂々と。
 後ろ向きな戦法では通用しないことを、静香にはよく分かっていた。
 標的は──心臓か、眼球か、金的か。否、どれでもない。
 心臓を守る胸筋を貫くのは難しい、眼球は身長差が大きいため狙いにくい、金的は致命
打にはならない。
 静香が的を絞ったのは、喉。鍛えられぬ部位、しかも呼吸器。
「指銃ッ!」
421強さがものをいう世界:2006/12/09(土) 17:52:26 ID:+Xr7AkoZ0
 ライフル弾にも匹敵する指が、喉を射抜いた。──が。
「お、折れ……ッ!」
 根本から折れ曲がる人差し指。
 呆然とする静香に、哀れむようにジャイアンが話しかける。
「君がどれほど指を鍛え込んだかは知らんが、喉を狙ったのは失策だったな」
「な、なんですって……!」
「俺がめざすのは地上最強の歌手。それゆえ、特に喉は重点を置いて鍛えてある。この程
度の威力では喉を破壊するなど、とてもとても……」
「……くっ!」
 剃で離れようとする静香だったが、ジャイアンの手が伸びる方が速かった。がっちりと
頭を掴まれてしまう。
「──て、鉄塊ッ!」
 とっさの判断で、ひとまず静香は防御を固める。甘んじて一撃を受ける覚悟だ。
 頭突き、一撃目。整った鼻が大きく歪んだ。鉄塊で守られているにもかかわらず。
 しかし、闘争心は一ミリたりとも揺るがない。
「なァんだ、大したことないじゃん」
 鼻血まみれの笑顔で、少女はジャイアンをにらみつける。
「お風呂温かきは……」骨折した指を、ひたすらに突き出す静香。「無敵なりッ!」
 この世にバスタブがある限り、指が折れても心は折れぬ。
「なんてスマートな女なんだ……」
 ジャイアンもまた、心底嬉しそうな笑みで応える。──そして。
 頭突き、二撃目。鼻を完全に陥没させられ、信念とともに静香は崩れ落ちた。
 
 下克上、ならず。
 天才も、財力も、多勢も、秘密道具も、アイドルも、どれも巨凶を倒すには至らなかっ
た。やはり、強さが全ての世界においてはジャイアンがナンバーワンなのか。
 その時、最後のチャレンジャーが息を吹き返す。
「よ、く、も……しず、ちゃ……んを……」
 ジャイアンが振り返ると、いつの間にかヘッドロックで瀕死となっていたのび太が立ち
上がっていた。
「てめぇ、またやる気か!」
「ぼ、くが……あい、てだ……ジャイアンっ!」
422強さがものをいう世界:2006/12/09(土) 17:53:19 ID:+Xr7AkoZ0
 幽霊のような風体で、一歩一歩ジャイアンに近づいていくのび太。
「ダメだ、のび太君! 今度こそ本当に殺されちゃうよっ!」
 親友の声も、今は耳に入らない。
 守りたい。敬愛する祖母が存命だった時期から恋焦がれ、将来結ばれると約束された最
愛の存在。守らねばならない女性。だからこそ、歩く。
「行く……ぞ……」
「く、来るなァッ!」
 後ずさりするジャイアン。一発で絶命できる相手のはずが、なぜかその一発が出ない。
 強さとはなにも、筋力や技術のみで競われるものではない。今、のび太は心でジャイア
ンを圧倒していた。
 愛する人を守る。たとえ自らが滅びても、守るべき人さえ生き延びてくれればそれでよ
い。勝利の先にある栄光など一切度外視した、純粋な想い。これに比べれば、ヒーローに
なりたい、力を誇示したい、武器を自慢したい、ナンバーワンに君臨したい、などという
動機は不純物まみれに過ぎず。いわば──。

 邪念。

 弱虫が一歩進むと、帝王が一歩退く。なんと滑稽な光景だろう。
「かかっ……てこ、い……」
「来るんじゃねェッ!」
 ジャイアンの背が壁にぶつかる。さまざまな威嚇を試みるも、のび太は全てを受け流す。
 どうしようもない。手をこまねくうち、ついに二人の距離がゼロとなった。
 全身を預けるように、のび太がジャイアンにしがみつく。 
「ぼくだけの力で君に勝たないと……」
 半死人は、
「しずちゃんが安心して……」
 弱き心を振り絞り、
「お風呂に入れないんだっ!」
 生命を燃やし尽くした。
「悪かったァァァッ! 俺の敗けだァァァァッ! 許せェェェェェッ!」
 肉親以外から初めて受け入れる、敗北。
 唾、汗、涙、尿。あらん限りの体液をほとばしらせ、剛田武は陥落した。
423サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/12/09(土) 18:00:23 ID:+Xr7AkoZ0
>>373の続き。
ようやく次回で最終回です。
前後編のはずが全七回。
応援、本当にありがとうございます。

>>378
たしかに楽しんでます。
バキとドラえもんはふたつとも五本指に入るくらい好きなので。
424作者の都合により名無しです:2006/12/09(土) 20:13:46 ID:unPVIKWM0
>しぇきさん
結構青春ドラマしてるな、勇次郎が出ているのに・・
今はどこかほのぼのしているけど、またシリアスっぽくなるのかな?

>サナダムシさん
次回最終回か。長編になるかどうか微妙な長さだな。
最後は、ドラえもんとバキのダブルミーイング名場面で〆ですかw
425作者の都合により名無しです:2006/12/09(土) 22:56:20 ID:kvHGUHB+0
>しぇき氏
最初の歌ってウルトラマンだったっけ?
確かに年代的に合わないなw
勇次郎も、これくらいバキに優しければ…

>サナダ虫氏
静香筋肉だけじゃなくて性欲もアップしてるのか。
ワンピースネタといい、氏は持ちネタが多いなあw
のび太シャオリー使い?
426作者の都合により名無しです:2006/12/10(日) 02:50:07 ID:Ps2yh1bX0
このお話は好きだった
またもしもボックスで、こんなパラレル世界を書いてほしい
427作者の都合により名無しです:2006/12/10(日) 15:35:01 ID:HRykzWiK0
427
428テンプレ屋:2006/12/10(日) 15:42:26 ID:8Awj//xW0
今日忙しいんで、明日テンプレ作ります。
まだ大丈夫だよね?
429ハシ ◆jOSYDLFQQE :2006/12/11(月) 00:07:49 ID:c8rpnX6hO
430Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2006/12/11(月) 00:09:17 ID:c8rpnX6hO
「か、はぁ」
 絞りだしたような息をつき、シグバールは床に腰を下ろした。――やばかった。たった今の攻防。少しで
も気を抜けばこちらがやられていた。生き残ったのは奇跡に等しい。シグバールは苦笑する。つくづく自分
は悪運が強いらしい。今も、そしてあの日も。
 ――彼がノーバディとなった日。死ぬはずだった自分を、運命の女神さまは大分気に入っているようだ。
「はん、迷惑極まりないな」
 そう言って、立ち上がる。疲労が体中から沸き上がったが、無視。今、自分がしなければならないことを
優先させねば。それは、逃亡。一刻も早くここから離れ、反撃の準備を整える。
 穴だらけになったドアに向かい、そのドアノブを捻ろうとする。が、既に限界がきていたのか、そのドア
はシグバールの指が触れたとたん、崩れ落ちた。構わず部屋の外に出る。かつん、と足に何かが当たった。
先程まで警備にあたっていた兵士のヘルメットだった。ガンアローに撃ち抜かれたソレからは、血と脳髄が
入り交じった液体がこびり付いていた。
「すまん、運が無かったって諦めてくれや」
 誰かの遺留品を踏み越え、シグバールは走った。何処へ行こうか。下は無理だ。グール生産工場を爆破し
た時に、階段もまた運命を共にしたはず。
「となると、上っきゃねぇなぁ」
 記憶が確かなら、十階程上がったところで屋上に辿り着く。とりあえず其処に向かってみるか。それがいい。
 敵を見つけるなら、見晴らしがいいのに越したことはない。もっとも、この広い街から人一人を見つける
のは困難を極めるが、どうせ階下への道は閉ざされているのだ。
「ま、なるようになるか、ってハナシだな」
 そう言ってシグバールは、非常階段に通ずる扉を探しはじめた。エレベーターは襲撃の時、既に破壊している。
 しばらく走ったあとで、目当てのものに行き着いたシグバールは、それを蹴破り、暗闇が広がる屋上への道を上りはじめた。
431Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2006/12/11(月) 00:11:20 ID:c8rpnX6hO
 人通りが賑わうストリート。その人込みの中を、ジェシーとキリーは掻き分けていく。二人の表情は晴れ
やかだ。今日は門出の日。両親から結婚を反対された彼女たちが、かけおち先に選んだのがこの都市だった。
「人がいっぱいね」
「そうね。目が回ってしまいそう」
「でも、いつか慣れなきゃね。私たちここで暮らしていくんだもの」
「そう、そうね。ああ、ほら人にぶつかるわ。私の手を」
「ありがとう。……ねぇキリー」
「何?」
「本当に、私たち、一緒にいられるのよね?」
「だからここまで来たんじゃない。自分の家族を捨てて」
「わかってる。わかってるわ。でも、不安なのよ。何か大きいものが、私たちを引き裂くんじゃないかって」
「ジェシー。君は、私が守る。どんな奴にだって負けはしない。この身が裂かれても。私が私じゃなくなっても」
「キリー……うれしい、私うれしい」
 二人は絡み合いキスを交わそうとする。その背後に大きな落下音。それに気付いたキリーが振り向き、人
影に抱きつかれ首筋に鋭い痛みを感じる。そして顔を元に戻し、ジェシーに熱い接吻をする。熱すぎて、彼
女の唇を引きちぎってしまった。それをゆっくりと咀嚼し、また彼女の肉を求めはじめる。その後ろではた
った今落ちてきたグール化した警備員が新たな獲物を追い求めていた。上がる悲鳴、絶叫。キリーに組み倒
され、びくんびくんと痙攣していたジェシーの肉体が、ゆっくりと立ち上がる。ジェシーは眼球から血の涙
を流し、その皮膚はどろどろに腐り落ちていた。グール。
 こうして吸血鬼禍は発生し、都市を飲み込む。
432Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2006/12/11(月) 00:13:30 ID:c8rpnX6hO
 リップヴァーンは口元についた血をハンカチで丁寧に拭った。
「不味い。くそ不味です。いったい何を食って生きているんでしょうか」
 苦々しげにいいながら、懐から輸血パックを取り出し、ストローを突き刺して吸う。中身はB型フランス
人のものだ。上質なワインの味がすると最後の大隊でも人気食になっている。口直しには最高だ。リップヴ
ァーンはしばしその美味に酔い痴れた。
「まあ、あの中にユダヤ人がいなかったことだけでもよしとしますか」
 彼女はストローに口をつけたまま下を覗いた。
 ―――下は、つまりは街のストリートは、地獄の有様だった。グールとそうでない人間が混じりあいなが
ら蠢いている様子は、さながら煉獄のようだ。悲鳴を上げて逃げる二人のカップルを、十数人のグールが組
み敷き、新鮮な肉を食らう。命からがらそのサバトから逃げ出し、警察の造ったバリケードに避難した人々
は、恐怖に体を震わせる。 そして、そのバリケードに迫るグールと警察の壮絶な銃撃戦。漂ってくる火薬の匂いにリップヴァーンは
興奮した。すでに警察の人員は残さず掻き集められ、その疫病を外に出すまいと奮闘している。だが、それ
も無駄だ。ほんの数人程度しか感染していなかった疫病は瞬く間に広がり、この一帯は完全にグールの海と
化した今、人間に、ただの人間に何ができる。普通の火器では吸血鬼はおろかグールでさえ倒せない。銃弾
を打ち込んだとしても、グールの動きを止めることはできない。動きを止めたければ、足を粉々に打ち砕く
しかないのだ。それを可能にする大火力の装備の搬入はもう少し時間がかかるらしく、警察は手をこまねい
ているのが現状だ。もっとも、グールの群れが駆逐されようがリップヴァーンには関係なかった。リップヴァーンの狙いはあのビルの中にいるはずのものだ。
433Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2006/12/11(月) 00:14:34 ID:c8rpnX6hO
「まだ、その中にいるはずです」
 リップヴァーンは物体の遠隔操作を得意とする。その対象は銃弾だけにとどまらない。さらに、彼女は吸
血鬼だ。吸血鬼はもともと他生物の使役をその魔力によって実現できる。人間時代では不可能だった、人間
大の物体の遠隔操作を、今のリップヴァーンは為し得る。既にリップヴァーンは幾体かのグールと視覚をリ
ンクさせ、彼女の敵がいたビルの監視を行っていた。一度彼女の敵があらわれれば、街中に多数存在
する“目”がリップヴァーンにそれを教える。
「ふ、ふふ。ふふふふ。あははははは」
 グールを増やしたのは、敵をビルから炙り出すためでもある。ストリートに溢れかえったグール達は、人
間達を食らうべく周囲の建物に侵入していた。もちろん、今リップヴァーンが狙いを定めているあのビル
にも。ビルに侵入させたグール達で地上からの退路を断ち、その上で空から脱出するときに魔弾で撃つ。一
度捉えれば、今度こそ魔弾で殺す。空中では黒コートはいい的になるだろう。なにせ空中で動ける
はずがないのだから。
「さあ、早くおいでなさいな」
 リップヴァーンは動かない。自分で距離を詰めようとしない。そんなことは馬鹿げている。彼女は狙撃手だ。
長大な射程を生かし、敵からの反撃を一切受けずに勝利する。それが彼女の戦術。ゆえに、彼女は接近しない。
一定の距離を保ち、敵が死ぬまで魔弾を射ち続ける。
「今度こそ」
 リップヴァーンは歌う。いずれ来る悦楽の瞬間――すなわち、彼女の勝利――を夢見ながら、ぼんやりと
陶酔しながら。
 頬が引き裂かれる。歪む。歪む。それはまるで、鬼子の嗤い。
「有象無象の区別なく、私の弾丸は許しはしないわ」
 そして獲物を待つ。
434ハシ ◆jOSYDLFQQE :2006/12/11(月) 00:36:25 ID:c8rpnX6hO
一度さぼるとズルズル引きずってしまいますよね。
【自嘲的な笑みを浮かべながら】

とりあえず再開しました。ようやっと書く気力が復活してきたので、このまま一気に仕上げられそう、仕上、げ、たいな……

*今回の投稿内容の状況が分かりづらいと思ったのでちこっと説明を
リップヴァーン、警備員と接触(前回)→警備員を吸血しグールに転化させた後、ビルから放り投げる→駈
け落ちしてきた百合っ子、落ちてきた警備員の晩飯に。そしてその他大勢がグールに→どーん・おぶ・ざ・でっど
な感じです。間が空きすぎて、すっかりSSの内容も忘却の彼方だと思ったので。あ、後それから。
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
テンプレで拙作のアドレスが間違っていたので、正しいアドレスを上記しときます。テンプレ屋さん、お手
数おかけしますが、変更よろしくお願いします。


そんなことよりも! 予想だにしない事態が!
>>WHEN THE MAN COMES AROUND
まさかバキスレで神父様の姿を見ることができるなんて! 一ファンとして拝見しています。超絶カッコイ
イ神父様の活躍で昇天寸前です。アンデルセン神父はヘルシングで一番好きなので、さいさんの書く狂信者
の手管、とても楽しみにしています!


では、次の更新の時に〜。
435作者の都合により名無しです:2006/12/11(月) 01:43:15 ID:+UPcFPth0
ハシさんえらいおひさしぶりー
リップヴァーンの更なる活躍を楽しみにしてます。
今度はもう少し感覚をつめてね。
436オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 03:56:15 ID:9RRuSs2N0
<一日目・その12-(1) 医者の性分・その1>
現在時刻:午後15:30 場所:死体安置所

殺人事件を解決する際に最も必要なこと。

それは第一発見者と会話することでも、事件現場を見ることでもない。
当然、名探偵と称される人物の出現を待つという事などは以ての外だ。

そう。

殺人事件を目の前にした際に一番必要なのは・・・・、

「これです。この焼死体を、ドクターに『見て』いただきたいのですが・・・・。」

――――死体との会話である。

「ふむ・・・。死体を私に・・・・。
依頼を聞いた時は何かと思いましたが、まさか遺体を『診ろ』とは・・・ね。
ふむ・・・、で・・・、大石さん。私は、この遺体の一体どこを『診れば』いいのですか?
そもそも、私は死体を『診る』為に医者になったワケではありません。
・・・・。まあ、確かに『手術は解剖に近いモノがある』と言われれば否定できませんが、
医者にとって手術というのは患者を生かす為にやっていること。
つまり、死体のような幾ら手術しても助からない人は対象外なんです。
ふふ、知っていましたか?」
大石という初老の警官の言葉に対して、ドクターと呼ばれる男は、肩まで伸びた髪を掻き揚げながら挑発的な口調で返す。

生かすために存在している医者が、生かしきれなかった者を解体する事など、彼の中の性分――――
医者としての性分が許せないが故の口調だろう。
しかも、検死をする場所が病院等の施設ではなく、この死体安置所だというのだから尚更だ。
437オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 03:57:04 ID:9RRuSs2N0
「・・・・、言う事は無いようですね・・・。それでは私は失礼させてもらいます。」
大石が何も言ってこない事に、ドクターと呼ばれる男は簡単にきびすを返して出口の方へと向かう。
依頼は・・・・、破談だ。
「あっ!ちょっと待ってください!鎬さん!
・・・・いえ、確かに貴方のようなスーパードクターに、このようなことを頼むのは
重々失礼だと分かってはいるんですが・・・。」
大石は出口へ向かっているドクター ―――鎬を引きとめようと声をかける。

―――ある種の必死さを込めて。

「では、何故私を呼んだのです?
そもそも、幾らこのように小さな町の警察署でも、検死の専門家が一人は居るはず。
それなのに私をわざわざ東京から呼びつけた。ということは、その理由を説明するのが礼儀というものでしょう。
そのはずが、来た途端に遺体を『診ろ』とは・・・・。失礼な話ではありませんか?
しかも、病院ではなく!ここで!
・・・と来たものです。これでは失礼どころか・・・・。」
引きとめようとする大石の言葉に、鎬は一見冷静に・・・。
だが、言葉を紡ぐに連れて声のトーンをどんどん上げていく。
やはり、医者としての性分を傷つけたれた事に大きな憤りを感じているのだ。
そして、鎬は医者とは思えない程の筋肉を膨張させながらワナワナと拳を握りしめ・・・、
「無礼だろうが!!」
まるで勇次郎を髣髴させるかのような暴力的な拳を、手短な壁に向かって打ち付けた!
「ひっ!!」
彼の拳はこの空間――――遺体安置所を大きく揺らす。
「・・・・。失礼・・・・。」
鎬は一言そう洩らすと、驚きのあまりに尻餅をついた大石を余所に無表情で遺体安置所を後にするのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――
438オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 03:58:17 ID:9RRuSs2N0
「ふう・・・、失敗してしまいましたね〜 。
隣村にとって、明日は本当に『大事な日』だというのに・・・・。
明日の大事に、何も起こらなければいいのですが・・・。」
鎬が去った後、大石は出すぎたお腹をさすりながら目の前にある遺体
―――『圭一の学校で発見された焼死体』を見て、残念そうにため息を吐く(つく)。
そもそも、圭一が住んでいる村には駐在所しかなく、警察署などは隣町にしかない。

だから、この遺体も隣町にあるのだが・・・。

「さて・・・、仕方がありませんが、検死の方に頼んでみましょうかな。
きっと・・・、何も分からずじまいでしょうが・・・ね。」
彼はそう言った後、焼死体から目を離して天井を見上げる。
(今年もまた・・・・・。)
見上げた天井には、まるで人の顔のようなシミがついている。
遺体安置所の名は伊達ではない。
(死人が出るでしょうな。このままでは。)
すると大石の思いをあざ笑うかのように、天井のシミが醜い笑顔になった気がした。
439オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 03:59:09 ID:9RRuSs2N0
<一日目・その12-(2) 医者の性分・その2>
現在時刻:午後15:40 場所:隣町の公道

鎬・・・、鎬紅葉は車を運転していた。
先程の一件から、不機嫌な思いをその身に宿したまま。

――――するとどうだろうか。

医者であり、アスリートである彼でも、刹那の反応は遅れてしまう。
そう、人が歩道から飛び出した時の反応をだ。
「しまった!!」
医者である自分が、格闘家でもない一般市民を壊す。
かつては医学の進歩と称して人を壊しかけた事もある彼でも、完全に人を壊す事はしなかった。
しかし今、彼は完全に人を壊してしまった。

壊す―――殺す。

一文字違いの言葉なのに、何故にこれほど同一性のある言葉なのだろうか。
「大丈夫か!! ・・・、脈は・・・・。いや、この状態で動かしたら・・・。」
鎬は自分が轢いてしまった人間が原形を留めているを見て、若干の冷静さを取り戻す。
これがミートソースのような状態だったら、彼はその場で発狂してしまったかもしれない。
だが、幸いにも跳ねられた人間は原型を留めている。

そう、これは鎬にとって、地獄の中の唯一の救い――――ではなかった。
440オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 04:02:12 ID:9RRuSs2N0
「どうする。病院に・・・、いや、この辺りに病院の影は・・・・。くそっ!」
鎬は周囲を見回しながら、人に聞こえるような声で悪態を吐く。
いくら圭一の『村』とは違って、『町』と称されていても、田舎は田舎。
だだっ広いだけ公道は、圭一の居る村と違いも何も無い。
しかも、このようなときに限って携帯は圏外にある。
(やはり・・・、車に乗せて病院へ直接行くしか・・・。
いや、それよりも応急処置が先か・・・。)
そして、ある程度の方針を自分の中で決めると、急いで轢いてしまった人間の治療――応急処置を始める。
(内臓は・・・。いや、当たった場所から見て、肺が一番重症・・・。ん?なんだ?)
鎬は目を疑った。いや、自分は夢を見ているのだと思った。

なぜなら・・・・。

「お兄さん・・・。医者・・・、なんだ・・・。」
跳ねてしまった人間―――――10歳にも満たない少年が、鎬の顔を凝視しながら笑顔で話しかけてきたのだから。
いくら当たり所が良かったといえど、こんな事は普通考えられない。
確かに、ギロチン処刑などは、執行の後も罪人の意識が数秒残っている話はよく聞く。
だが、今回は状況が違いすぎる。
だだっ広い公道の為に、規定速度以上で走っていた鎬の運転している車は、ゆうに150km/sは出ていただろう。
これで体の原形をとどめていてくれただけでも奇跡なのに、意識まであるとは・・・。
(ありえない・・・。ありえるはずがない・・・。)
鎬は何回も頭の中でそう考える。

何回も。何回も。

医者であるはずの自分が、こんな偶然に飲み込まれないように。
441オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 04:04:37 ID:b4LJwOwP0
「お兄さん・・・?医者じゃないの?」
「えっ・・・、ああ・・・。医者だよ。すまない、今治療して病院へ運ぶから・・・。」
少年の言葉に対し、鎬が紡ぎだしたありったけの言葉。
しかし、それは最後まで紡がれる事は無かった。
「大丈夫だよ!それよりも、僕が『診て』欲しいのは・・・・。」
そう言って少年は立ち上がると、鎬の視界一杯に自らの顔を近づけ・・・。
「この顔だよ!!」
火傷で生じた水ぶくれが醜くなったような顔を擦り付けたのだから。
「う、うわっ!!お、お前は一体・・・。」
鎬は信じられないものを見た表情でその場に尻餅をつく。
すると、少年は心底残念そうな様子で、元気良く走り出した。
「ちぇ・・・・、医者ならば僕の顔を治してくれると思ったのに・・・。」
鎬にちゃんと聞こえるような大きさの声を上げながら。
「ちょ、ちょっと!待ってくれ!」
突然の連続に、脳が対処しきれずにフリーズしていた鎬は遂に再起動する。
だが、時は既に遅し。
「あ、あれ・・・。誰も・・・いない・・・?バカな!!」
いなくなっているのだ。自分が轢いてしまった『あの少年』が・・・。
これでは鎬は遺体遺棄の犯罪者として連行されもおかしくない。

何しろ、地面には轢いてしまった時の跡が・・・・。

「無い?それだけは無いはずだ!くそっ!あの子はどこだ!!」
そうやって、鎬はパニック状態の心のまま周囲を何度も見回す。
答えは病院を探したときと全く同じ。

―――無い。いないのだ。

何も無い。先程の出来事を示すものは何も。
では、どうすか?

このまま、罪悪感と共に一生を生きるか。
442オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 04:11:04 ID:b4LJwOwP0

―――それとも・・・。

「確か、あの子が走り出した方向はあっちか・・・・。」
医者として、追いかけるしかないだろう。
きっと見つけて治療をする。

体・・・?
いや、少年の言ったとおりに顔か。

どちらにせよ、冷静さを失った鎬が出来る行動は・・・・、
「よし!行くぞ!」
『医者としての性分』を全うするという事で自己完結したようだ。

それにしても、これは果たして偶然なのだろうか?
『勇次郎や圭一が出会った顔に水ぶくれを持った少年』と、『鎬紅葉が出会った少年』の酷似性は。

そして、これから鎬紅葉が向かう場所は、その勇次郎と圭一達がいる村だということも。

―――全ては偶然なのだろうか?
443オーガのなく頃に:2006/12/11(月) 04:18:13 ID:b4LJwOwP0
どうも、しぇきです。

今回、新キャラとして、ひぐらしから大石という刑事さん。
バキから鎬紅葉(漢字はこれでよかったっけ?)を登場させました。

>>418さん
そうですね。自分の子供以外との少年の接点が無い勇次郎なので、
個人的には他人の子供にそれほどの悪戯はしないと思って書いています。

>>424さん
シリアスにはなります・・・かな?
多分、勇次郎に部活の監督なんかは似合ったりするかもしれませんね。
良い意味で。

>>425さん
ライダーものを一回ぐらい書いて見たいと思っています。

では失礼・・・。
444作者の都合により名無しです:2006/12/11(月) 11:30:48 ID:hRvliaUy0
>ハシ氏
またお一人復活されて嬉しい限りだ。
原作は知らないけど、おどろおどろしさと
リップバーンの無敵さが気に入ってます。頑張れ。

>しぇき氏
あれ、また作風が前回と変わりましたね。
シリアス編突入かな?シノギは好きなので活躍してほしいな。
キーキャラになりそうだ。
445真・うんこ ◆dDfdgD8zBc :2006/12/11(月) 12:16:51 ID:e+Ujw2BN0
たまにはうんこSSでも書こうかな♪
446作者の都合により名無しです:2006/12/11(月) 19:36:06 ID:+WV2Y0ko0
・ハシさん
お久しぶりです。テンプレ担当している者としてちょっと心配していましたけど
お休みの間、またきっとネタを仕込まれて我々を楽しませてくれると思います。
またアクションに磨きがかかりましたね。
リップヴァーンが爽快に敵を蹴散らしていく姿をこれからも楽しみにしてます。

・しぇきさん
いよいよ長編のオーガが本格的に復活しましたね。大変うれしいです。
短編も切り方爽やかで好きですけど、やはり長編は花形という気がします。
やたら心の広い勇次郎と、圭一たちの触れ合い、そして時に物語がシリアスになる
テンポが気に入ってます。これからも頑張って下さい。


あと、ハシさんすみませんでした!
他の方の作品とリンク先間違ってましたね。
見直したつもりでしたが・・
447テンプレ1:2006/12/11(月) 19:36:54 ID:+WV2Y0ko0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart45【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/
まとめサイト
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
448テンプレ2:2006/12/11(月) 19:38:21 ID:+WV2Y0ko0
ほぼ連載開始順 ( )内は作者名 リンク先は第一話がほとんど

オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・ドラえもん のび太の超機神大戦 下・ネオ・ヴェネツィアの日々(サマサ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tyo-kisin/00/01.htm
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/samasa/05.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
上・やさぐれ獅子 下・強さがものをいう世界 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/115-119
上・鬼と人とのワルツ 下・よつばと虎眼流 (名無しさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/240-250
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい (一真氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/silver/01.htm
449テンプレ3:2006/12/11(月) 19:39:07 ID:+WV2Y0ko0
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
バーディと導きの神 (17〜氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/birdy/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1158949830/218-225
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1158949830/418-424
虹のかなた (ミドリさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/01.htm
18禁スーパーロボット大戦H −ポケットの中の戦争− (名無し氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/182-185
オーガの鳴く頃に (しぇき氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/nakukoro/01.htm
450作者の都合により名無しです:2006/12/11(月) 19:39:39 ID:+WV2Y0ko0
MUGENバトルロイヤルとダイの大冒険アナザーが期限切れ、
そして前回、戻ってこられる希望を込めてテンプレに入れた
超格闘士大戦がテンプレから外れました。
ご復帰をお待ちしてます。

とりあえず、しぇき氏ご復帰おめでとうございます。
フリーザ野球軍の方は、また再開し次第、テンプレに入れます。

バレさん大丈夫かなあ。
とりあえず、現スレはちょくちょく保守します。
451テンプレ3  改変:2006/12/11(月) 19:51:31 ID:+WV2Y0ko0
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
バーディと導きの神 (17〜氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/birdy/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の218-225から)
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の418-424から)
虹のかなた (ミドリさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/01.htm
18禁スーパーロボット大戦H −ポケットの中の戦争− (名無し氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/182-185
オーガの鳴く頃に (しぇき氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/nakukoro/01.htm




すみません、テンプレ3はこちらが正しいです。
>>449だと、前スレが落ちたため、さいさんと白書さんの作品が
見れません。申し訳ないです。
452ふら〜り:2006/12/11(月) 21:55:23 ID:QMrfOcRP0
>>しぇきさん(♪遥か彼方に輝く星は あれがあれが ふ〜るさとだ〜♪)
違和感なく馴染んでるなぁ勇次郎先生。子供たちとの絡みがこんなに似合うとは。勇次郎
というキャラの器の大きさと、しぇきさんの技量ですね。童謡の歌詞みたいな風景でした。
が一転、静かに怖い和風ホラー。もしや勇次郎、鬼の力で戦うのかも。子供たちを守って。

>>サナダムシさん
十年以上見てませんが、鮮明に思い出せる六巻のラスト、公式最終回(?)のアレですね。
元の世界よりも遥かに戦力差が広がってるはずなのに、でも同じ技で敗れたジャイアン。
それだけ、本気になった時ののび太の気迫が凄いと。やはり何だかんだでヒーローだ、彼。

>>ハシさん(お久しぶりですっ! 蘇った気力、期待してますぞっっ)
街中ゾンビものは、ゲームでも映画でもいろいろ見てきましたが……百合っ子のシーン、
テンポが早くてついついエグさを見落とすとこでした。一事が万事を語るってもんで、この
ペースでグール化が広がっていったんだなと自然に理解。グロさもアクションも構成も見事!

>>テンプレ屋さん
おつ華麗さまです! 貴方に我が名を刻んで貰えるよう、鋭意努力中でありまする。
453作者の都合により名無しです:2006/12/11(月) 22:41:01 ID:5H5YtbSf0
SS投下したいんですが新スレできてからの方がいいですかね?
454作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 03:11:35 ID:NsYC9TkI0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart45【創作】
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1165860392/
455作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 08:11:39 ID:+MZSAXIt0
456作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 12:14:51 ID:SvuuPvmG0
バレさん支援保守あげ
457作者の都合により名無しです:2006/12/14(木) 08:10:52 ID:FspSz5dd0
ほしゅ
458作者の都合により名無しです:2006/12/15(金) 21:57:34 ID:1FzsN1jm0
ほしゅ
459ふら〜り:2006/12/15(金) 22:24:54 ID:udr/qhaU0
ほんとに、バレさん心配ですね。お仕事が忙しいだけだといいのですが……。
460作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 02:48:53 ID:j/KYofBA0
ほす
461作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 22:42:01 ID:LEfW3Aoo0
hosyu
462作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 20:22:09 ID:8xoi9rmf0
バレさん復帰祈願あげ
463天ノ川 創:2006/12/19(火) 21:02:23 ID:tbHwC14h0
アマテラス降臨!!!   【明日の神話】より! 近日発売予定 無
464作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 08:13:57 ID:2KdQmQdj0
支援あげ!
465作者の都合により名無しです:2006/12/22(金) 08:13:05 ID:IQnuSrLQ0
あげ
466作者の都合により名無しです:2006/12/24(日) 15:11:25 ID:DRzRm5qY0
支援あげ
467作者の都合により名無しです:2006/12/26(火) 00:38:29 ID:lXhth/110
支援
468作者の都合により名無しです:2006/12/26(火) 23:39:39 ID:EYe6Wfof0
468
469天ノ川 創:2006/12/28(木) 13:53:38 ID:r8faadqK0
1へ
470作者の都合により名無しです:2006/12/29(金) 13:41:55 ID:MIf70FES0
1
471作者の都合により名無しです:2006/12/30(土) 15:59:39 ID:67pAjWVg0
hosyu
472 【133円】 【小吉】 :2007/01/01(月) 15:49:23 ID:fAs7LLYz0
472
473作者の都合により名無しです:2007/01/01(月) 16:26:38 ID:ptdBzwsc0
男性諸君、結婚すると不幸になる。幸せにして当たり前で感謝無し。都合の良い奴隷としてだけ感謝され、搾り取って用済みになればゴミ箱へポイ♪
女の外面は綺麗で清潔で良い人、内面はずるくて汚いため、口も悪い+薄情+嘘+女同士も上辺仲良し裏では悪口三昧
女の成分はA(性悪陰湿残忍+損得自己中感情)+B(良い女演技+体形+整形化粧+ファッション)
↑良い女演技は好きな男>>異次元>>男集団>他人の順に良くなる。年齢とともにBのメッキがはがれ内外ともに醜くなる(Aの良い女は極少数)
女は「人生の不良債権、北朝鮮、金メッキを施したゴキブリ」うわべが良くなればなるほど、内側は悲惨になっていく(家の中等
男女は対等で平等。男が女を養ったり守る必要はない「見切れ!見切り千両!私不幸なの?嘘!泣いてます?演技!情けは不要!つけこまれるぞ」
女は社会的優遇、過剰な法的保護、仕事と家庭の二束のわらじを得て、女尊男卑

★結婚は保留し、沢山の女と自由に恋愛(sex)を楽しめ♪★避妊必須
★捨てた女は優しい真面目男が結婚(残飯処理)してくれるさw★

それでも結婚する君へ究極護身法→[夫婦財産契約登記]
夫婦財産契約により、自分の稼いだ財産はすべて自分の物

弱い者いじめは最低と言いつつ、赤ちゃんを殺す母親(そして無罪判決(笑
狙撃は女子のほうが強い。男はノイローゼになってやめてしまうが
女は何人殺してもノイローゼにならない。骨盤が安定しているため

ナチスの拷問で、女の拷問の残虐非道さを見て、拷問をしていた男達もひいたという
拷問しながら楽しそうに笑みをうかべていたそうだ。罪悪感や引け目が無い

・有史以前が女尊男卑の時代だったことを指摘したのは、スイスの学者バッハオーフィン
アマゾン女族の女王は、法律を定め、男達には卑しい奴隷の仕事を課した
男児が生まれたら、生き埋めにするか、脚と腕を不自由にして、戦えなくし奴隷とした
・王位継承権が女性にだけあった古代エジプトでは女性権力が非常に大きかった
・日本でも卑弥呼が女王
http://kr.img.dc.yahoo.com/b1/data/dci_etc/76.wmv ←女集団が女一人をリンチしている動画(執拗に蹴り続けながら皆楽しんでる 一部エロ有

女は虐げられてきた?父系社会など人類の歴史から見ればほんのわずかな期間に過ぎない。むしろ
474作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 00:33:34 ID:RhaUIjcZ0
ほしゅ
475作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 21:15:53 ID:RhaUIjcZ0
ほしゅあげ
476作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 19:08:03 ID:cH54JmgS0
ほしゅあげ
477AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:22:11 ID:oUGVfY9b0
361から
…二人の少女に逃げ場など無かった。
兵士達に囲まれ、自分達についてあれこれと話題が上る事は、突然捕まえられ籠に入れられた小鳥にも似た心境だ。
「…だからこっちの髪の長いガキ、資料にあったろ? 読んでねえのかよ」
「ああ……で、それが何だよ?」
疑問符を並べる兵士の廻りの悪さに、イヴに注目した方が焦れた。
「だから、一番下に書いてあったろ? 『捕まえて来たら賞金』ってよ」
それを聞いて、全員が軽い首肯で得心した。ならば、と一人がイヴの髪を掴み物の様に引き摺る。
「やぁ……っ!」
彼女が痛みに身を捩るも、誰一人気にしない。「命」或いは「人」等の認識が一切無いからこその行動だ。
「気ぃ付けろよ、そんなでも兵器なんだから」
「判ってる」
罪悪感など羽ほども無い、まるで日常の作業の様な間延びした会話。それがイヴには髪を引かれる痛みより、結束帯で後ろ手に
きつく縛られる痛みより辛く、恐ろしい。
誰も助けになど来てはくれない。こんなに恐ろしくとも辛くとも、神が人間に全く干渉しないのと同じで、彼女を救う手など
何処にも現れない。無神論者が生まれるプロセスを味わいながら、彼女の心に絶望が少しずつ塗りたくられていく。
しかし―――、
478AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:23:16 ID:oUGVfY9b0
「―――やめて!!!」
シンディがイヴを捕まえた兵士の足にしがみ付いた。
「何だぁこいつ、離れろ!」
蹴る様に足を振ると、彼女の矮躯はボールさながらに転がる。それでもなお、と再び立ち上がった彼女の行動を銃口が押し留めた。
「大人の言う事は聞け、って教わってねえのかガキ」
「…」
銃口以上の無慈悲が僅かな怒りで睨み付ける。普通の生活ならまず眼にしない身近な殺意が、彼女をその場に縛り付けた。
如何に人並み以上の行動力を持った少女でも、圧倒的にそびえる現実を前にしてはどうする事も出来ない。
―――死ぬの? あたし…―――
余りに普段と地続きで、却って恐怖は感じられない。ただそう思うだけが彼女に出来る全てだった。
だがどれだけ無力でも、イヴだけは助けたかった。
あんなに優しいお姉ちゃん、笑顔が人形みたいに可愛いお姉ちゃん、でも今は震えて可哀相なお姉ちゃん――――でも、
命懸けでも助けられない。それだけが寂しくて、それだけが胸を潰してしまう様に重い。
…無力である事は罪では無い、ただそれはどうする事も出来ないほど悔しくて辛い事だ。
「…止めて……言う事聞くから、いっしょに行くから…シンディ……殺さ…ないで」
その時、イヴの涙混じりのか細い嘆願が銃爪を留まらせた。
「お願い……お願いだから…酷い事……しないで…」
弱々しく、今にも消えそうな言葉で助命を乞う。それで精一杯な彼女を横目で見ていた兵士も、嘲りをバイザーに隠して銃を引いた。
「だったら自分で付いて来い。逃げるな、逆らうな、言う事は絶対に聞け。…でないとこのガキを殺すぜ」
侮蔑に少々の威圧を込め、彼はシンディの襟首を掴まえた。
「…? それも連れてくのか?」
「こいつで言う事聞かせりゃいいだろが。売っ払えば煙草銭くらいにゃなるだろうし」
まるで荷物の梱包の様に彼女の手首を縛られるのを、イヴは涙の向こうから見るしかなかった。
(………ごめん…ごめんね…私のせいで……こんな事に……)
巻き込んでしまった、普通に暮らしていただけの彼女を。
何故こんな事になってしまったのだろう、痛いのも怖いのももう嫌なのに。
こんなただ辛くて怖いだけの世界から、どの様な形でも良いから開放されたかった。
もう嫌だ、もう見たくない、もう耐えられない。いっそ消えてしまいたいほど、この世にあまねく何もかもが恐ろしかった。
479AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:24:17 ID:oUGVfY9b0
「―――よし、じゃあ行くぞ」
シンディと共に兵士に急き立てられ、思考を自閉の門奥に閉ざそうとしたその時だった。
「……ふ…ふ、二人を放しゃあがれ!! この……あ、悪党共!!!」
彼らの後ろの路地から、イヴに声をかけた出店の主人が麺棒を構えて現れた。
威勢こそは良いもののやはり銃は恐ろしいのだろう、疲労や気温とは無縁の汗を満面に滴らせ、膝も盛大に躍るのを食い止めている
だけの有り様だ。どう見た所で彼らの脅威には成り得ない。
更に出てきた路地を見れば、似た様な服装の連中が小声で彼の人道的蛮行を必死で止めようとする。
「ちょっとゲンさん、お止しよ!」「逃げろって! 死ぬぞ!!」
「危ねえよ、俺たちも…!」「良いから早くこっち来いって!!」

「やかましい!!!」

だが彼は助言を一喝で封じた。
「だとしてもよ……シカトする訳にゃいかねえだろうが!!! 女子供平気で撃つ奴等に攫われたらどうなるか…判んだろう?
 大体よ、大人が………ガキほっぽったらお仕舞いなんだよ!!!」
それなりに台詞で自分を奮い立たせたが、勿論兵士達は三文芝居でも見る様に見入った。
「何だこれ? やっちまうか?」
「――だな」
思考の延長で向いた銃口の数は想像以上に多い。装備も無ければ訓練も無い、何より急造の気構えしか使える物を持ち合わせていない
彼に防ぐ手段など何処にも無い――――――――しかし彼は、却って臆せず銃を隔てた悪漢達を戦意で見据える。
480AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:25:24 ID:oUGVfY9b0
「……待てよ、そういきなり撃つ事も無えだろ」
銃口を制した意外な助け舟は、兵士の一人だった。彼は銃を捨て、備品も捨て、挙句戦闘服の上着も脱いで店主に歩み寄った。
「おっさん、気に入ったぜ。だから公平にこいつで決めようか」
突き出した拳が示すのは、素手の勝負だった。
「あんたが勝ったら二人は無傷でくれてやる。それで良いな、お前らも」
問い掛けには、全員が拍手と歓声で応じる。まるで一転する状況に店主は呑まれそうになった。
「お…俺が負けたら…」
「殺す。他に何が有る?」
しかし改めての死刑宣告に肝が据わったらしく、素人構えではあるがそれなりに手馴れた動作で拳を握る。
鬼の様な髭面と巨躯で判断するだけでも、恐らくは相当喧嘩慣れしているのだろうが。
対する兵士は棒立ちのまま自然体で、言い出した勝負を始める気配すら見せない。
舐められた。そう判断した店主は拳を全力で固めて殴り掛かった。
――――――――――兵士に打撃が届くほんの紙一重、何かが彼の顔に弾けた。
「!? 〜〜〜〜ッッ!」
たまらず押さえた両手からは、血がかなりの勢いで滴り落ちる。しかも掌には、鼻が折れた感触が不快に伝わった。
「おおっと危ねえ、喰らっちまう所だったぜ」
綽々と語る兵士の右手は、前方裏拳の形で止まっていた。
481AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:26:11 ID:oUGVfY9b0
鈍い音と共に血に塗れていく店主に引き換え、兵士は余裕で手足を打撃に霞ませる。
「あ〜あ、また始まったよあいつ。完全にビョーキだな」
「…ナイフや銃より良いんだそうだぜ、打っ殺すのが」
兵士達の呆れ気味の会話を聞きながら、イヴは店主の現状と末路に蒼褪めた。
そもそもが単なる喧嘩自慢と殺傷目的で訓練した兵士とでは初めから土俵が違う………と言うより、勝負ですらない。
勝負を持ちかけたのは何と言う事も無く、ただ嬲り殺す為だけの提案だ。
(何で………何でこんな事するの…?)
心が問うても誰一人答えない。兵士達は緩やかな死刑に見入り、シンディは眼を背け、店主の仲間達は飛び出したい感情を
やっとの思いで押さえている。
誰にも傷付いて欲しくない、誰にも辛い目に遭わないで欲しい――――…それはそんなに贅沢な願いなのだろうか。
命が、優しさが、愛情が、それらが生きるにはこの世界が残酷に過ぎるのだろうか。
所詮彼女が欲した物は、世界の上辺に過ぎないのだろうか。
………思考の迷路を廻る彼女を置いて、顔を裂傷と血に彩った店主が遂に膝をついた。
「ぐ……お…」
「なかなか持ったじゃねえかおっさん、素人にしちゃ上出来だぜ」
嘲り含みの賞賛と腹へのトゥキックは同時だった。
「おご………っっ!!」
血と吐瀉物を吐きながらのた打ち回る其処に、およそ戦果は期待出来ない。既に決着は着いていた。
「でも寝るのはまだ早ぇな、もう少し起きてねえとあのガキ共苛めちまうぜ?」
「……効いてる様に見えてんのか若造……かかって来いや」
血塗れの唇は体の限界を無視して悪態を返す。しかし、這い蹲った体が行動を拒絶しているのは自身が誰より弁えている。
それでも、この暴虐に屈したくは無かった。そして出来る事なら、二人の少女を助けたかった。
「ふ…ん、まあ―――ガッツは買うぜ」
愉しげに笑う兵士は彼の頭上に踵を振り上げた。それが止めなのは誰の目にも判る、流石に血塗れの顔にも絶望が差した。
482AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:39:10 ID:oUGVfY9b0
「…うおッ!?」
―――突然兵士が、奇声を発して斜め前のめりに倒れた。
「あ…」
それを呆然と見守る店主だったが、今度は小さな影が彼と兵士を隔てる形で視界を陣取る。
何とそれは、助ける筈の少女の片割れ……小さい方の少女だった。
兵士達の注意が私刑に集まっている最中にこっそりと離れ、兵士の片足に体当たりを食わせ店主を護ったのだ。
(…シンディ!!)
この状況で必要以上の騒ぎを起こせば射殺は必至、にも拘らず彼女は逃げもせず勇気を振り絞った。
だがイヴにはそれが理解出来ない。
何故敢えて更なる恐怖や苦痛に身を投じようとするのか? 彼女には今だけで充分耐えられないのに。
何故この状況で、そんな真っ直ぐな眼が出来るのか? 彼女にはもう何も見たくないのに。
彼女はシンディの身を案じながら、相も変わらず答えの返らぬ自問をする。
(何でなの……? 何であなたも、おじさんも、そんなにするの? 痛いのに、怖いのに……何で……)

「………やりやがったな、このガキ!!!」
483AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:40:46 ID:oUGVfY9b0
胴間声に我に帰った彼女が見た物は………店主を背後にあの兵士の拳銃を真っ向から見返すシンディだった。
「―――――何でこんなことするのよ!! 
 おじさんひどい怪我してるでしょ!? 町が燃えてるでしょ!? お姉ちゃんに酷いことしてるでしょ!?
 あんたたち何でこんな酷いことするのよ! ……帰って―――――今すぐ帰ってよ!!!」
彼女は銃口越しの兵士を怒鳴り付けた。其処に虜囚の態は微塵も無く、この惨状を起こしたあらゆる物に対する義憤だけが凛と有った。
「ああ? 何言って…」
「何でこんなことするのよ!!! 誰もすごく悪い事なんかしてないのに、何で皆に酷いことするのよ!!!
 あんたたちそんなに偉いの!? こんな事しなくちゃいけない理由でも有るの!? 言ってみなさいよ!!!」
声の限り言葉を荒げ、シンディは眼前の暴悪に出来うる限り噛み付いた。
しかし息を荒げる彼女に対し、拳銃を向けた兵士もイヴを捕まえたまま離れで聞いた兵士達も微かに失笑を洩らすだけだった。
「…ふぅ〜……まあそうだな、命令されたからか?」
あっけらかんとした即答に、兵士達の失笑が僅かに大きくなる。だがシンディは愕然を目の前の兵士に向ける。
「…な…なに? ……それ………」
「いやぶっちゃけた話、命令なんかどうでも良いんだがな。ガス抜きっつうか、束の間の娯楽っつうか、それともストレス解消っつうか、
 まあ――――、なんつうの? お前らが弱くて俺達が強い、そんなのでいいんじゃねえの?
 別にいいじゃねえかよ、どうせ死ぬんだし」
それを合図に、兵士達の失笑は一気に哄笑へと変じた。
「最後にお利口になって良かったな。あ〜あ、あのガキが止めた分無駄にしちまいやがって、知らねえぞ俺は」
不快なコーラスを背景に、改めて照星はシンディの額を捕らえた。
484AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:41:30 ID:oUGVfY9b0
「…あ?」
銃爪を止めたのは、先刻以上に固まったシンディの双眸だった。
「何が…『お前らが弱くて俺達が強い』よ。大人なのに子供みたいなこと言って……あんたたちこそ、パパとかママとかに
 人に迷惑掛けちゃいけないって教わってないの? 人が痛いことは自分も痛いことだって、知らないの? あたしのクラスだったら
 ほとんどの子が知ってることなのに、大人なのに判らないの? 
 あたしよりずっとずっと子供のくせに……何が『大人の言う事は聞け』よ!!! あんたたちみんな、おっきいだけの子供じゃない!」
今度の罵声には、彼らの笑いさえ止まった。
「ちがわないでしょ? 体おっきくて、おっかないもの振り回して、それで脅かしてるだけの子供なのに……集まってちょうしに乗ってる
 だけで良くこんなこと言えるわね!! ちがうなら何か言ってみれば!?」
勿論反論は出なかった。それを証明する様に、銃を持つ手が照準を維持出来ない。
「……負けないから………あたしは力なんてないけど…あんたたちになんか、絶対に負けないから!!」
「…ならやって見やがれ!!!」
兵士の怒号を前にしても、シンディは目を逸らさなかった。

――――――彼女の視界が、赤一色に染まった。

……しかし、待てど暮らせど銃声も衝撃もやっては来ない。そして良く感じてみれば、自分の目を含む顔には何か液体が張り付いている。
それを拭うと、目の前には想像だにしない自体が展開していた。
―――あの兵士の銃を持つ手を落とす形で、金色の刃が胸の真ん中まで切り込んでいた。
「「……え?」」
二人の疑問が奇妙に重なるや、兵士は残る手で胸から生えた刃を握る。
「何だ……これ?」
彼の認識が固まっていくに連れて、致命傷を受けた体が死の痙攣か、もしくは恐怖か、震え出す。
「何だよこれ………何なんだよこれェッツッ!!!」
叫んだ瞬間、彼の体は刃に持ち上げられ、破壊された店舗の壁へと激しく投げ付けられた。
そして―――、店主とシンディ、並びに露店の仲間達は見た。その長い金色の刃が、囚われた少女から伸びているのを。
「……キャアアアァ――――ッ!!」
絹裂く絶叫が、シンディの口から迸った。
485AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:42:08 ID:oUGVfY9b0
「このガキ!!!」
ようやく反応した兵士の一人がイヴの頭にOICWを向けた途端―――彼の背中から刃が生える。
「やべえ…離れろ!! スイッチ入りやが……!」
彼の喉に、刃が押し込まれた。
俯く彼女の貌は前髪に隠れて判らない。だが、その小さな肩が小刻みに震えていた。
「…う」
兵士達が遠巻きに銃器を構えるも、彼女は動かない。だが僅かなうめきに何がしかの感情がこもっていた。
「…うぅ」
「テーザー(有線スタンガン)使え! 金に無んねぇぞ!!」
言い様複数のOICWの銃口下部から有線の電極がイヴに放たれた。しかしそれは全て、突如消失した獲物の前に空を切る。
『!?』
驚く全員が索敵システムに従い上を見上げると―――――、其処には拘束を自力で断ち切った少女が、全ての髪を長大に伸ばし
隼が獲物を狩るが如く彼らに直下する。

「…う………あああぁぁぁああぁあぁぁぁ!!!」

夜と彼らの心を、峻烈に少女の咆哮が引き裂いた。
そして転瞬降り注ぐ刃の豪雨。その中心に彼女が降り立った頃には、半数以上の兵士が全身を串刺しにされた。
「う、オオォッ!」
誰かが至近にも拘らず恐怖に任せてグレネードを放つ。しかし弾体はイヴに届くが爆発しない……彼女が素手で掴み取ったのだ。
「…は?」
彼が呆気に取られたのはその事ばかりではない、弾体が手の中で鋭い円錐に変じたからだ。そしてその所為で、放たれたそれが
右目に叩き込まれるのに反応出来なかった。
「うわぁぁぁ!! 来るなァッ!!!」
遂に彼女に機関銃が吠えた。だがそれも、的の小ささと迫る挙の速さに殆どが的を外す。
幾つかが彼女の華奢な腕を抉った。しかしそれでも、刃と彼女の戦意は折れなかった。
486AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:42:51 ID:oUGVfY9b0
「…ああああぁぁぁああぁぁぁぁッ!!!」
猛りながら、刃を侵略者達に突き立てながら、彼女の心は唯一つに燃え滾る。
―――誰も失いたくない。何も無くしたくない。欲する全てに、消えて欲しくない。
だが、行動しなければ無くなってしまう。抵抗しなければ奪われてしまう。その価値を判ろうと判るまいと。
彼女にとって命より大切な全てが、暴威によって失われ、非可逆に蹂躙される。それを耐えられる筈が無い。
しかし痛みは恐ろしい、恐怖もだ。だがそれに膝を抱えるだけでは、確実なゼロだ。
(…スヴェン……こう言う事だったんだ…)
今なら、あの冷たい言葉の意味も判る。

『………俺達の旅には連れて行けない』
『…お前は絶対に死ぬ…』
『これがお前の限界だ、イヴ』
『……足手纏いは要らない』

あの言葉の裏を読まず、ただ悲しみに明け暮れた自身の何と愚かしい事か。
危険さ、気構えの足らなさ、彼の優しさ、そして言わなくてはならない辛さ、全てが一つ一つに集約されていたと言うのに。
それを知ってしまった今、シンディと店主に見せられた今、もう蹲ってはいられない。
そして同時に哀しかった。戦わなくてはならない、傷付かなくてはならない現実が。
「ぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
傷を受けても、血がしぶいても、彼女の咆哮も攻撃も全く止まらなかった。
――――――彼女は、生まれて初めて怒っていた。
「待て! 判った! 悪かった…悪かったから、助けてくれ!!」
最後の残った兵士がへたり込んで彼女を手で制した。
「な? 俺はもう出て行くから、許してくれよ。お願いだ、俺にもお前くらいの子供が居るんだ。だから…」
それを聞いて、イヴの怒りにもやや戸惑いの色が差した。
「……俺の帰りを待ってるんだ、それに病気で…俺が居ないと、あいつが一人ぼっちに…」
「…私だって、誰も殺したくない。今までも、ずっと」
それを言葉に乗ったと確認し、内心安堵の吐息をついたが……
「―――でもあなたは殺したんでしょう? あなたが殺した中にも、きっと誰かの大切な人が居たんでしょう?
 それを知らないなんて……言わせない!!!」
消えた炎が燃え盛る様に、またも彼女は瞋恚の一色に染め上がる。
言葉は無かった。言わせなかった。何か言う前に真冬の三日月にも似た冷たく鋭い一刀が、防弾バイザーメットを貫いた。
487AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 00:55:44 ID:oUGVfY9b0
……数分間の奮迅は盛大な虐殺に終わった。
返り血に塗れ、髪も血が染みてほぼ黒になっていたが、それも彼女のナノマシンが少しでも行動力に還元しようと体全体から吸収する。
歩み寄りながら見る見る血が引いて行く彼女に、シンディも店主も言葉を失っていた。
無理も無いだろう、突然見知った筈の人間が怪物に変じては。そう思ってイヴは、弁明を止めた。
「……怖くして…ごめんね」
蹲る店主の前にしゃがみ込み、手を当てる。それだけで痛々しい傷は癒え、苦痛のうめきもまた消え失せた。
「これでもう大丈夫ですから、急いで安全な所に逃げてください」
店主の無事を確認すると、ふと視界に路地の人々が入る。
「ばっ…化け物だ!」「ひ、ひいぃッ!」
「た、助けてくれ!!」「待てよ! 待ってくれ!」
無論それは、彼女を見ての反応だった。慌ただしく逃げる彼らの背中が寂しかったが、それを止める術は無い。
彼らにも優しくして貰った。だが、それがもう一度彼女に起こる事は有り得ない。彼らは人間であり、自分は兵器で化け物なのだ。
それだけが少し寂しく、切ないが、此処は既に戦場。悲哀を貪るのはその後と、彼女は背を向け走り出した。
「……お嬢ちゃん」
引き止めたのは、傷を癒した店主だった。
「…あ……有り難うよ」
諦めた筈の彼女の背中越しに、ほんの僅かに暖かく、その言葉は響いた。

(杞憂…だったな)
その光景を物陰から覗いていたスヴェンは、ライフルを滑らかに分解してケースへと突っ込んだ。
見付けた時、シンディに銃が向けられているのには流石に肝を冷やしたが、結局は自分の力で何とかなってしまった。
もう本当に放って置いても大丈夫だろう、安堵の溜息を吐いてイヴの側に来た際こっそりと付けた発信機のスイッチを切った。
(何が『放っとけ』だ……甘いな俺は)
つまるところ非情になりきれない事に自嘲する。しかしそれも彼女を思えばこそだ。
何度めかのコールでようやくマリアとも連絡が取れた。それで娘共々彼らも誘導させればこちらの問題は無いだろう。
「だけど……辛いな、イヴ」
兵士から徴発したOICWをスリングで引っ提げ、彼も自らの戦場へと駆けて行った。

―――――イヴは、走っていた。
死体や延焼の間を駆けるのは、まるで冥府の谷の様に彼女の気分を陰鬱に炙る。しかし足を止める暇は無い、思い煩う暇も無い。
彼女は選んだのだ、煉獄を進む道を。最早、過去の苦痛と恐怖は彼女を縛る枷には成り得ない。
なればこそ、彼女は奔る。あの騒々しい日常に戻る為、イヴは戦場に身を委ねた。
488AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 01:06:22 ID:oUGVfY9b0
あけおめー、ことよろー。
新年早々クソ長ェSSをお送りするNBです。
極寒地獄(自室とも言う)で書くには長過ぎるだろ、マジで。

しかし全く、ちっとも早くならないな俺は。どうしましょう。
まあ、毎度の苦悩は置いといて、新年一発目とは縁起が良いかも。
…本当はもっと色々書きたいのですが、いかんせん眠いので今回はここまで、ではまた。
489作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 08:00:02 ID:vy438ga90
NBさんあけおめ。
ただ、非常にいい辛いのですが、新スレ立ってますよ。>>454です。

イヴの逆転と成長が良いですな。
脇役好きなので、店主がボコられてるところはヒヤヒヤしました。
次回はメイン4人集結かな?
490作者の都合により名無しです
ほす