アメリカ経済の未来、シェールガスが鍵
米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は12月5日、アメリカのエネルギー生産量の増加(特に石油と天然ガス)が
国内の需要増加をはるかに上回り、いずれ輸入削減、価格の下落につながるとの見通しを発表した。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/bigphotos/images/energy-natural-gas-on-the-rise-in-usa_62082_big.jpg アメリカ、ワイオミング州で稼働中の天然ガス掘削リグ。米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は新たに発表した年次
エネルギー見通しで、天然ガス生産ブームがアメリカ経済全体に長期的な影響を与えるとの見方を示した。
Photograph by Joel Sartore, National Geographic
同様の動向は国際エネルギー機関(IEA)や多数の民間調査機関でも既に追っているが、EIAはさらにエネルギー生産の
増加がもたらす広範な影響を初めて詳細に分析した。特に、テキサス州からペンシルバニア州にかけて進められている、水圧
破砕法(フラッキング)を用いた天然ガス採掘ブームが貢献しているという。
◆運送業界における燃料転換
EIAは、天然ガス車の燃料消費量が2040年にかけて1年あたり12%近く増加し、前年見通しの2倍以上になると上方修正
した。その背景には、トラック運送業界の一部が推進する燃料転換の取り組みと、液化天然ガス(LNG)車を購入する動きが
ある。
LNG価格がガソリンよりも40%割安な状況がこのまま30年続けば、長期的にプラスになるとみて、大手運送会社は多額の
設備投資を行っている。
◆天然ガスを利用して化学品素材を低コストで生産
また、EIAは国内の製造業生産高が30年間で1年あたり平均2%上昇すると見込んでいる。これは前年の見通しの20%
以上速いペースで、シェールガス掘削ブームによる天然ガス価格の下落によるものだという。
2004年には天然ガスの価格高騰で、全米70カ所の石油化学プラントが閉鎖された。しかし、現在多数の石油化学企業が
価格の下落した天然ガスの利用を視野に入れ、北米への進出、再開、生産拡大を計画している。石油の代わりに使用して
プラスチック、接着剤、ポリエステル製品を生産する狙いだ。
◆輸出競争
またEIAは、世界的に資源確保競争のリスクが高まるため、天然ガス輸出量が急増し、2027年までに前年の見通しの2倍
である1.6兆立方フィート(約453億立方メートル)に達すると上方修正した。
ワシントンD.C.にあるシンクタンク「ブルッキングス研究所」で、外交政策とエネルギー安全保障イニシアチブ上級研究員兼
所長を務めるチャールズ・エビンジャー(Charles Ebinger)氏は今年発表した論文で、LNGの輸出はアメリカ経済全般には
純利益をもたらすと指摘した。この見解は米エネルギー省が12月3日に発表した経済分析でも強調された。しかし、「国の
財産を輸出するべきではないと反対する議員もいる」と同氏は輸出をめぐる対立構造についても指摘している。
◆著しい変化はなし
少なくとも現行の方針では、天然ガスはガソリンや石炭火力発電の燃料に取って代わることはないとみられる。電力量全体に
占める天然ガスの割合は2040年で30%、石炭は37%、原子力は18%であり、現在とほとんど変わらない。太陽光や風力など、
水力発電以外の再生可能エネルギーは2040年には5%から11%に上昇する見込みである。
また、気候変動については、車両の燃費向上により、アメリカの二酸化炭素排出量が2005年より5%削減される見通しだ。
しかし、現在の方針のままでは電気自動車の普及は進まず、2040年でも新車販売台数全体の1%にも満たないと分析している。
気候変動に関する新たな方針や飛躍的な技術革新がないと想定した場合、EIAはシェールガス・シェールオイルによって
今後の方向性が定まるとの見方を示している。
Marianne Lavelle/National Geographic News December 12, 2012
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121212001&expand#title >>2あたりに続く