【勝手に】仮面ライダー龍騎EPSODEFONAL【補完】

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1名無しより愛をこめて
【案内】
・ここは映画版 仮面ライダー龍騎 スレです 。
 映画版のネタバレを含みますので要注意。
・いまひとつスッキリしない劇中・劇終後のエピソードなど、みんなで脳内補完していきましょう。
・載ったSSに不満があれば「自分ならここをもっと面白くしてやるぜ!」の心意気で前向きに。
【本スレ】
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1030405623/l50
【前々本スレ】
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1029919793/l50
【前々々本スレ】
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1029734849/l50
【前々々々本スレ】
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1029584397/l50
【前々々々々本スレ】
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1028492731/l50
【過去スレ】
映画版 仮面ライダー龍騎 −ホークアイ−
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1016366840/l50
【関連スレ】
忍風戦隊ハリケンジャー シュシュッとTHE MOVIEスレ
http://natto.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1028298758/l50
『映画作品・映画人板』
劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/cinema/1024671191/l50

【関連サイト】
劇場版公式 ttp://www.toei.co.jp/ryuki/
2名無しより愛をこめて:02/09/12 10:34 ID:KEFQM2Pv
まず英語の勉強してから出直して来い
31たてた奴:02/09/12 10:46 ID:r4iSmIdq
うわ!すまん。
本スレにあったタイトル、まんまコピペしてたよ!


…シアゴーストにかじられに逝ってきます。
4名無しより愛をこめて:02/09/12 10:47 ID:p+ZiCMz4
エピソードフォーナル

誰か訳してちょ(藁
5名無しより愛をこめて:02/09/12 10:52 ID:uTDejEVK
>>4
ストーリーは4つから 成る という意味でつ

【類義語】 仮面ライダーダルダ
6名無しより愛をこめて:02/09/12 10:56 ID:xHOCQQa9
何処にEPSODEFONALとか書いてあったんだよ。
しかしちゃんと見なきゃあんまり気づかないかも。
7名無しより愛をこめて:02/09/12 10:57 ID:IB+n32lI
>>4-5
スペルよくみろ
EPSODEFONAL
エピソード(episode)なんて入ってないぞ
エプソードフォナルとかじゃないのか?
8名無しより愛をこめて:02/09/12 10:59 ID:U2OfJ+bR
つーか、余計なおせっかいしてドジ踏むとは不憫なヤシ…(w
9名無しより愛をこめて:02/09/12 11:03 ID:NBUEIVrn
101たてたウツケ者:02/09/12 11:07 ID:r4iSmIdq
ありがとう>>8 (泣)

タイトルは本スレ563を借りたんだけど、
良く見たら批判調だったのね。

ごめんよ563。
せっかくネタで書いてたのに、
気付かずに素ぅでマジたてしてもーた。


…レイドラグーンに突付かれに逝ってきます。
11名無しより愛をこめて:02/09/12 11:19 ID:R0x1QjCD
>>7
空気が読めないヤツだなぁ〜〜w

>>2>>4-5が >>1に付き合ってるのに^^
12名無しより愛をこめて:02/09/12 11:21 ID:xHOCQQa9

EPSODEFONAL:スペイン語でEPISODE FINALという意味です。
13名無しより愛をこめて:02/09/12 11:39 ID:XQoOd2Nb
エプソデフ オナる
14名無しより愛をこめて:02/09/12 11:41 ID:fVYKriMx
↓キバヤシ
15名無しより愛をこめて:02/09/12 11:44 ID:xHOCQQa9

16名無しより愛をこめて:02/09/12 11:49 ID:xHOCQQa9
↑モリ
17スパー弁護士:02/09/12 12:51 ID:dgyFof/d
>>1 小学生かお前は!    変身!!
18SS職人見習い:02/09/12 13:07 ID:kh293qyc
〜予告編〜
神崎の行き場の無い悲しみから開いた「最後の扉」に龍騎とナイトが最後の戦いに挑む!
友との決着は付くのか?!そして、圧倒的な勢力差をどうするのか?
果たして脱落したライダーの復活はあるのか?
一つの最終章が今最終話を迎える!!

仮面ライダー龍騎FINALSTORY

Coming Soon!

とりあえず予告編を書いてみますた。
SS製作頑張ってみます。
19ベノの走馬灯・1:02/09/12 23:06 ID:L7hsJDQ4
イライラさせられる。

粗暴なサイと無感情なエイに、いつもイラつく。あいつらを心から軽蔑する。
契約さえなければすぐにでも身を引き裂き、腹の足しにしてくれるものを。
不機嫌に尾をくねらせ呼び出しの時を待つ。

呼び出されたら呼び出されたらで不愉快な事が待ち構える。
あいつらと一つに融合され、合身させられるほど辛いものは無かった。
繋がってる間に時々見える、奴らのぬるい記憶の数々に吐き気に近い怒りを覚える。

こうやってただ待つ間にも、奴らのゴミ同然の「思い出」が浮かんで消える。

赤い服の男と夕日を眺めるエイ。
「俺は怪物を憎む。だが…お前は別だ。いつもいつも、助けてもらって済まない」

ちんそーを追っかけろー。ざまざまー川に落ちた、はい1点。くそ!逃げられたー、0点。
油断すると身体が塵になる危険な世界で、間抜けな遊びを嬉々として手伝うサイ。

屠った魔物の群れを前にし、屍を足元で蹴飛ばしながら銀の鎧が満足そうに語る。
「格好良いじゃん。やっぱお前って強いよなー、うん」
強いと言われて無上に嬉しがるサイ。勢いで更に数体を撃破し誉められる。

銀の鎧を解き元の姿に戻りながら、ふとサイを見上げ素手で顔にぺたぺた触れてくるチビ。
「へぇ、柔らかいんだ。やっぱ生き物なんだなー。メカと全然違うね」
機械じゃないと言われて無上に嬉しがるサイ。勢いで辺りの物を撃破し叱られる。

  どいつもこいつも!どれもこれも!下らない戯言を。
  所詮、蹴り一閃で潰されたクズ共の寝言だ。
20ベノの走馬灯・2:02/09/12 23:09 ID:L7hsJDQ4
合図があった。鬱陶しい記憶を立ちきる。
戦いは良い。全てのイラつきを払ってくれる。

呼び出され、白い鎧を痛めつける。いつになく楽勝だ。
息も絶え絶えに地に伏すそれは、とてつもなく美味そうだった。
合身させられた嫌悪にも勝る、極上の食事の予感に喜びをおぼえた時
黒い鎧が現れ全てを終わらせた。

一瞬だった。
黒龍から放たれた闇の炎に包まれ、痺れて身動きが取れなくなる。
直撃する蹴りに耐えられず、一瞬のうちにヒビが入り砕ける全身。

身を共通にさせたまま、それぞれの意識がバラバラになり皆でのたうち苦しむ。
苦痛も3倍に。記憶も3倍に。
今まで出会ったもの、今まで身に受けた感覚、今まで思ったこと。
その全てが逆流し、奔走し、混ざり合っていく。

  嫌だ!こんな形で消えるのは嫌だ!

朦朧となった目の前に赤い鎧の姿が…消したはずの姿が立っている。

  幻覚だ。つまらない幻覚だ。はやく醒めろ。

赤い鎧は言った。「戦友(とも)よ…」
すっと差し出した手に導かれるように、エイが合身から泳ぎ出る。
…赤鎧の幻と一緒に、エイの意識は消えていった。

  消えろ。消えろ。勝手に消え去れ。
  何を夢見てるんだろう…この愚かものは…。
21ベノの走馬灯・3:02/09/12 23:10 ID:L7hsJDQ4
わずかに残った肉が容赦なく炎に焦がされていく。
苦痛で絶叫するたびボロボロと崩れる皮膚。
すっと近付くものの気配。通路の向こうに何かが見えた。

焼け落ちたはずの眼にうつるものは、
とっくの昔に消えたはずのチビの姿だった。

鎧も付けず生身のまま、手をぶんぶん振り回してる。
「あー!こんな所に居たんだ?探したよ」

躍るように合身から抜け、チビに突進するサイ。

抱え込むように我が身を持ちあげるサイを見上げ、
手を伸ばすと頭をぽんぽんと叩くチビ。
「な?また一緒に遊ぼうぜ」

頬をすり寄せ、チビを肩に乗せると通路の外へ向かって行く。
ぬくもりを、楽しそうに喋りかける声を、全力で戦いに鼓舞する日々を。
再び取り戻した喜びで胸がいっぱいになりながら。

…そんな幻を見つつ、サイの意識も消えていった。

  馬鹿馬鹿しい…。うす甘い虚構にすがるがいい。
  ひ弱なものどもよ、滅び果てろ!

断末魔の苦痛の中で都合の良い夢を見たに過ぎない。
迎えに来る者などいない…。行くべき所など無い…。
魂を持っていない自分達がどこへ行くというのだ?
22ベノの走馬灯・終:02/09/12 23:14 ID:L7hsJDQ4
全てが消える寸前、意識の端に柔らかな生身に戻って苦しむ男が居た。

あれとは契約しただけだ…。
声をかけられたりで喜ぶような、そんな生温い関係なぞこちらから願い下げだ。

  だから良かった。
  だから強くいられた。

迎えに来る者などいない…。行くべき所など無い…。
全ては無となって消えていくだけだ。

やがて男が塵になりだした。

  消えてしまう…
  消えてしまうのか…。

迎えに来る者などいない…。行くべき所など無い…。

  でも本当は…。
  本当に望んでいたものは…。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「死ぬのか?…俺が?…この…俺が?…」
突然、何かが飛び込んできた衝撃に撃たれ男は跳ね起きる。

ゾクゾクする気分が内側から入り込んだ様に感じる。
まるでこの世界と一体となったように気分がいい。

奇妙な高揚感を抱いたまま
地獄に落ちるまで男の高笑いは続いた。
23SS職人見習い:02/09/13 00:04 ID:haihXiGg
浅倉アナザーストーリーキター
24名無しより愛をこめて:02/09/13 00:46 ID:9GFHRnf6
何なんだよ、お前は。

怒りと疑問が交差したまま、俺の拳が、黒い『俺』の腹にぶち当たる。


誰かを守る事なんか、今はどうだっていい。

俺は、『俺』と一つになった時に知ったんだ。

『俺』は、あいつを殺した。


あの夜、どうして俺はずっとあいつの側にいなかったんだろう。
そうしたら、まだあいつは生きていられたかもしれないのに。

もう、あいつは俺の靴ヒモが解けていることに気付く事さえできないんだ。
25名無しより愛をこめて:02/09/13 00:47 ID:9GFHRnf6
迷いの無い黒い『俺』の拳が、俺の胸を突く。
俺が後退したその隙に、『俺』の黒いドラグバイザーにカードが差し込まれる。

『アドベント』

禍々しいその声と共に、黒い龍が現れる。
近距離のせいで、俺がドラグレッダーを出す暇は無い。
壁に追い込まれ、ほんの一瞬だけ死を覚悟した瞬間、俺の後ろの壁が崩れる。
ドラグレッダーだ。


どうして殺した。
あいつは、言ってくれたんだ。

「考えとく」って。

俺がどれだけ嬉しかったと思ってるんだ。
もしかしたら、ライダー同士の戦いを止められるかもしれない、って思ったんだ。

でも、それをお前が全てブチ壊したんだ。
26名無しより愛をこめて:02/09/13 00:49 ID:9GFHRnf6
どうしてお前は俺と同じ姿をしてるんだ。
どうしてお前は出てきたんだ。

どうしてお前は、美穂を殺したんだ。


『俺』の昇竜突破が、俺を最初にいた部屋まで吹き飛ばした。

横には蓮が。
後ろには優衣ちゃんが。


そして遥か向こうには、ドラグクローを携えた『俺』がいる。


俺はデッキに手をかけた。
カードを抜き取ると、ドラグバイザーに差し入れる。

『ファイナルベント』


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」


美穂を殺したお前を、俺は絶対に許さない!!!!!!!!


怒りと、疑問と、そして悲しみを交差させ、俺は走り出した。
27名無しより愛をこめて:02/09/13 00:52 ID:9GFHRnf6
というわけで龍騎対リュウガバトル中の漏れ的な真司の感情の脳内補完ダス。
最近この時にかかってたBGMばっか聞いてるから中毒になってこんな話書いてしまった。
スマソ。
28北岡偏エピロローグ:02/09/13 15:58 ID:haihXiGg
「うっ…」
目が覚めたときはいつもの場所だった、俺は何をしていてたんだろう。
そうだライダーバトルだ…と思った瞬間にごろーちゃんの顔が目に入った。
淡々と昨日の記憶が蘇る。
「ありがと」
ごろーちゃんにお礼をいい、ふと思考を張り巡らせる。
自分でしてきた付けがライダーバトルに回ってきた…
そうとも取れることだった。霧島美穂…朝倉威…
やはりあいつの弁護をしたのが間違いだったのか?
いや違う、俺が本当に弁護するものは…
ふと過去を思い出す。自分は最初からこういう人間だったのか?
こんなに自問自答するのはいつ以来だろう…
結論は…虚しさ…か、そうして思ったことを淡々とごろーちゃんに吐いていく。
うっ…どうも最近調子が悪いと思ったら…
咳き込んで覆った手を鮮血が染める、俺の人生もそろそろ終わりか。
散々好き勝手やってきて、欲しいものはほとんど手に入れた。
だが、最後に虚しさが残るとは…俺の命は後…
       …1日…
か、皮肉なもんだ、ライダーバトルの締切がちょうど自分の死とはな…
「・・・・待ってますよ・・・ラ・ルポンで」
天才弁護士北岡秀一はやっぱりこうでなくっちゃな。
最後は美女を口説いてすごす、これだね。
身支度を済ませて出かけるか…
ポケットの中に手を突っ込ませ…
じゃあねマグナギガ…俺はデッキを机の上に置いた。

―北岡秀一脱落―

せりふイマイチ覚えてなくてスマソ
一応北岡の最後の思考を描写してみました。
ずいぶんと叩きがいのある文章ですが(w
29がんばれオムロン:02/09/13 20:22 ID:zjUKtjVp
なんか昨日はひどい目に会ったなー。
久しぶりに日本に戻った小沢さんの歓迎会で焼肉を食べてたら
バカップルの喧嘩に巻き込まれて青ノリだらけにされた上、
「もう!尾室君も尾室君よ!このお調子者!『昔ここでバイトしてたんですよね〜』って店の手伝い始めちゃって!」
「はぁ…」
「あんたG5部隊の教官でしょ!しっかりしなさいよ!!」
小沢さんに逆ギレで叱られたし、北條さんにまでイヤミいわれて。
氷川さんは不器用だから青ノリ落とすのを手伝ってたらもっとひどい事になったし。

嫌な事は忘れよう。今日は小学生が対象の「G5の歴史」講演会だ。拍手で迎えられると鬱な気分も吹っ飛んでいく。
旧タイプのG3に入って、開発の歴史を説明したりG5相手の実演をしてみせる。憧れの眼で俺を見る子供達。
そうだよな。軽量型のG5と違ってヘビー級のG3が乗りこなせるのは、俺を入れても世界で3人だけなんだよなー。

でも熱心に見てるのは子供達だけで、記者のほとんどは半分退屈そうにメモをとってる。
前の席なんかイチャついてる奴も居るぞ。あ、女性記者の肘鉄くらった。ざまみろ。

いきなりガラスがパリーンと割れ、怪物が現れた。
トンボ型のアンノウンが狭い枠から次々身を乗り出し、押し合いへしあい1匹づつ入って来る!

しまった!武器が無い!講演会だから重火器は用意してなかった!デモ用にわずかな在庫があるだけだ!
泣き叫ぶ子供達。混乱して走り出ようとする記者達を引きとめ、パニックを収めようと奮闘する俺の部下と婦警さん達。
30がんばれオムロン:02/09/13 20:24 ID:zjUKtjVp
小沢さんから緊急連絡が入ってきた。泣きながら惨状を訴え救助を求めると意外な答えが返ってくる。
「尾室君!なんとか持ちこたえて!武器弾薬は氷川君のG3-Xと北條さんのV1-ZZZψturboRVer5で運ぶから!」
「ふっふっふ…。今度のV1は一味違いますよ。先月みたいに壊される事は無いですからね?楽しみに待ってて下さいよ」
「街は今大変な状態なの!でも、街を襲ってるアンノウンは自衛隊のG4-改部隊が鎮圧してるし、
目撃者の通報によると未確認のアギト2体がアンノウンと空中戦を行ってるそうよ。
だから望みはあるの。少し時間がかかるけど、救援が来るまで被害を抑えて!頼むわね!」

頼むわねって言われても、どうしたらいーんだよー!
目の前でG5が一体持ち上げられようとしてる。手足をバタバタさせる部下に飛び付いて何とかひきずり降ろす。
ぎゃーーーー!!アンノウンが噛み付いてきた!さらわれるー!助けてーー!!
あれ?あれれ?
「そうか!奴ら、G3は重くて持ち運べないんだ!俺が囮になる!お前ら援護しろ!」
偉そうに言ったけど俺、本当は足がガクガクブルブル(゚д゚)になって逃げる事が出来なかっただけで…。


ガン!ガン!と装甲にぶつかるトンボ。端から隊員がナイフや銃で潰す。
1匹づつならどうにか仕留められると判って、隊員の間に安堵感と自信が生まれる。
「尾室さん!頑張りましょう!」「教官!俺、感激しました」「さすがG3時代の英雄ですね!」
「おう!当たり前じゃないか。子供達を護れなくて、なにが公僕だぁ!」
…ハッタリだけは得意なんだよなぁ、俺。
31がんばれオムロン:02/09/13 20:26 ID:zjUKtjVp
怖くて怖くて涙が出る。大きい方までちびってしまった。おろしたてのパンツがー。うわぁぁぁぁぁん!
でも、ここで気絶したり逃げたりしたら、ちびっこと婦警(ここ重要)が怪物に…。
ゲロまで出そうになった時、口の端から血を出してパニくってた肘鉄男が声をかけてきた。
俺のガクブルに気付いたらしい。

「なあ?あんた。怖いなら交代すればいいじゃないの?」
「できません。できるわけないじゃないですか!」
「なんで?」
「だって…(動けないし)。誰かがやらなきゃいけない!今ここで戦えるのは俺達だけなんすよ」
「でも限界でしょ?あんた達、あまり強そうに見えないしさー」
「それでも…戦える力を持ってるなら、目の前で襲われてる人を救うのは当たり前の事です!」
「…。もし仮に力を持っててもさ、自分のため以外に動くのなんかごめんだね。それが俺の信念だし」
「信念なんて見栄っぱりと同じです!見栄できれいなままで居たくない!汚れたって構いません!
パンツは汚しても洗えるけど命は無くしたら戻ってこないんすよ!」
もう何言ってるのかワケワカランな俺。

怪物に追われたのか、チンピラみたいな男が転がり込んできた。すぐに窓を塞いで応戦する部下達。
「先生!」目の前の男に何か手渡すチンピラ。
え?なに?あやしい薬の取引?

さっきまでの半泣きがうそみたいに、すくっと立つ男。
「あのさ?あんたヘタレみたいだけど、いい事言うよね?」
ヘタレって…民間人にまで言われた ・゚・(ノД`)・゚・。

なんだか軽く笑いながら、部下達が苦戦してる所に長身の男は歩いて行く。
「下がってください!危険です!ここは私達に任せて!」
「へん…しん!」男の姿が変った。うそー!!この人もアギトだったんだ。
32がんばれオムロン:02/09/13 20:29 ID:zjUKtjVp
緑色で武器をいっぱい持ってるアギトは、的確な射撃で次々トンボを撃ち落す。
新しい助っ人に歓声を上げる部下達。
「ま、この数じゃ自分を護らなきゃ。ちょっとぐらいなら、天井のチリがかかって汚れてもいいかもね?」

アギトの参加で楽観的なムードになってくる。子供達も婦警も記者も、希望を込めて戦いを見守る。
…部下も子供達も知らない。ちらっと見えた空を埋め尽すトンボの群れの事を。
でも…絶望するにはまだ早いかもしれない。
この人が居れば、なんだかどうにかなりそうな気がする。

いつのまにかガクブルが止まってる。俺もGX-05を解除しながら戦いの輪に向かった。

おまけ。遊園地。

「真魚ちゃん、バイト慣れた?」
「うん。翔一君はどう?」
「あのお店凄いよ〜。色々エスニック料理の勉強になって。真魚ちゃんのおかげでいい店で研修出来て良かった」
「お互い頑張ろうね?」
が、出現する怪物に会話は中断する。
「すぐ戻る!真魚ちゃんは隠れてて!」
「判った。翔一君…無理しちゃ駄目よ?」

おまけ。どこかの繁華街。

蛇柄男の悪口で盛り上がるチンピラ達。ほおのバンソウコウに手を触れ、痛みに顔をしかめ呟く男。
「俺は何をしてたんだろう?誰かとつるんでるのは心地よくて…楽で…。だが、群れて弱くなった…。俺は…俺は…」
パリーンとガラスの割れる音と共に現れた怪物。次々襲われる仲間。
目の前で泣き叫ぶ青年を救えず唇を噛む涼。
「俺は忘れてた…。人を守る為に力を使うって、あいつに、木野に誓った事を!」
「葦原さん!」
「さがってろ!俺は…俺は…うおぉぉぉぉぉ!!!!」
身体中から触覚やトゲを出して変身する男を、救いや祈りを込めた顔で見上げる街の人々。
33名無しより愛をこめて:02/09/13 20:41 ID:zjUKtjVp
アギトの人達があの世界に居た事の補完です。
(ついでに先生の「その後」も補完)
映画が本当にこういう世界だったらいいなあ。
34おまるじゃない!・1:02/09/14 10:19 ID:Ks6tMEpn
蓮に腕をねじあげられ暴れる美穂。
「離せ、ハゲ!離せー!」

「サバイブカードを盗ろうなんていい度胸だな。これは返してもらうぞ」
「ずるいじゃないか!2段変身なんて。ヘタレなんかに勿体無い!私が有効利用してやるよ!」
「ずるくない。あと俺はヘタレじゃない」
「ファムサバイブになったら、お前らなんかメッタメタにやっつけてやるんだからな!
 純白で華麗なブランレイダーで1人残らず蹴散らしてやる!」
「ふざけるな。お前バカか?ブランウィングが乗り物になったら、
 志村けんがいっちょめいっちょめワオ〜ってやってたアレみたいなおまるバイクになるぞ。
 それに乗ってる自分を想像したら鬱にならないか?」

ジェネレーションギャップで蓮が何を言ってるか良く判らないが、志村けんでなんとなく予想がつく美穂。
「うっさいハゲ!ブランはおまるじゃない!綺麗な白鳥なんだよ!」
「眼科行け。どう見てもおまるだ」
「なにを!おまる言うな!今すぐブランに謝れ!謝らないならここで戦え!」
「俺は正直、お前なんかどうでもいいと思ってる。わざわざ戦う気も無い。
 放っておいてもいずれお前は死ぬからな。あんなザコと契約して生き延びられる訳ないだろう?
 ひょっとしてあれか?強さより見た目で選んだのか?まともに戦いたいなら契約モンスターを替えろ。
 話はそれからだ」
「ヘタレのくせに説教すんな!」
「ヘタレ言うな!」

花鶏の帰り道でブランウィングに愚痴る美穂。
「作戦大失敗ー。ちっくしょー。でも、鯖カードってもう1枚あるんだよな」
「ぴー」
「じゃあ作戦続行!2匹目のヘタレにターゲット変えるよ!」
「ぴー!」
美穂は携帯を取り出すと、真司を呼び出して強引にデートの約束させる。
「ちょろーい。こいつ簡単に落とせそうじゃん。さ、これからが腕の見せ所だ!
 サバイブカードでさ。お互いもっと格好良くて強くて馬鹿にされない新フォームになろうね?」
「きゅきゅー」
35おまるじゃない!・2:02/09/14 10:20 ID:Ks6tMEpn
待ってる間、戦いの事を色々と思い出して不愉快になる美穂。
鼻で笑う王蛇
「ふ。おまるか。笑わせるぜ」
同じく鼻で笑うナイト
「プ。おまるでバトルか?幼稚園児並って事だな」
ぽか〜んと口を開けてブランウィングを見る龍騎
「おまるだ。おまるの契約モンスターだ…」
いきなり銃を乱射するゾルダ
「おまるねえ。俺、そういう趣味ないからさ?」

どいつも!こいつも!ブランの事を馬鹿にしやがってー!あいつら目が腐ってんじゃないの?
初めてブランを見た時白い羽根のまぶしさに心おどったし、変身した時の姿もバッチリ決まって嬉しかったのに。

「ねえ、ブラン?」
「ぴー?」
「お願いがあるんだけどさー。もしも…もしもだよ、私がバトルに負けちゃって…
 あーもー悲しそうな顔すんな!この私が負けるわけ無いじゃないの。
 だからさ。もしもだよ?それで契約が終わったらね…。人間、食べないで欲しいんだ」
「きゅ?」
「人間てさ、欲張りで意地悪で残酷で、私の事受け入れない冷たい生き物だけど…でも一応私の仲間だし。
 それにブランは格好良くて綺麗で優雅な生き物なんだから、怪物になって欲しくないんだ。
 私はヨゴレだけど、ブランには清楚なままで、真っ白で、汚れてない…お姉ちゃんみたいなピュアな、
 危機の時は王子様が駆けつけて助けてくれそうな、そんな無垢な感じでいて欲しいの。ワガママかな?」
「きゅーきゅー」
「ありがと。いつかさ、獲物相手の罠じゃなくて、普通にデートしたり、普通の女の子みたいな恋したりしたいな…。ふ。私には無理か…」
そんな事ありません、いつか美穂さんにふさわしい素敵な王子様が現れますよと、通じない言葉で呟くブランウィング。
私の事を綺麗な鳥って言ってくれる心の純粋な美穂さんが不幸せになる訳ないじゃないですか。約束は必ず護ります…。
36名無しより愛をこめて:02/09/14 10:21 ID:Ks6tMEpn
美穂ファンのひとゴメン。
でも、ブランウィングが出てきた時「げ!おまるかよ!」って思ったのは事実。
とーとつに真司のカードを盗ろうとする動機を補完してみました。
37sage:02/09/14 13:09 ID:E+AEHPph
ブランの受け答えがメチャクチャ可愛い・・・
けなげだー
3835の続き:02/09/14 23:58 ID:Ks6tMEpn
美穂の危機に、ブランウィングは必死でカードの外に出ようと羽ばたいたが、
幾らあがいても契約したてで経験値の少ない身体には、外までの道は遠く険しかった。


星を見ながら考える美穂。
「真司…やっと判った。
 あんたが純粋で真っ白なのは…闇と…別れてしまったからなんだ…。
 あんた足りない子だったんだね…。
 でも…人間として…それって…不完全だよ?

 私…ずっと…真っ白なものに…憧れてた…
 ヒネくれた自分自身に無いものだから…。
 だから…真っ白な心の…真司が…羨ましかった…
 助けて貰った時は…照れくさかったけど…嬉しかった…。

 でも…真司…真司…。やっと判った…
 ブランにも…無茶言ったけど…純粋で…真っ白なままでいて…なんて…不自然なんだね…
 闇を捨てるんじゃなくて…闇と向き合わないと…いつか…闇に潰されちゃうよ…

 でも…真司…。
 闇を…受け入れても…あんたやっぱり…真っ白なままで…いるような気がする…。

 あ…もう限界かも…。サヨナラぐらい…言っとけば…良かったかな?
 ま…いいか…
 私の事…誰が傷付けたか…知らないままで居た方が…いいよね?」


突然、全ての拘束が無くなり自由になるブランウィング。
拘束が無くなった = 契約が切れた = 契約者の死を悟って、悲しみの声をあげて舞い上がる。

数時間後。鏡が割れ、街が多量の怪物に襲われた時
持ち主を無くした白いカードデッキから巨大な鳥が現れ、人々を襲う怪物の群れに飛びかかっていった。
39名無しより愛をこめて:02/09/15 00:00 ID:NeVqvVe7
>>37 感想ありがとう。

続きを書いたら笑い所が無くなったのでタイトル外しました。
美穂とブランがこう言う関係だったらいいなと補完。
40名無しより愛をこめて:02/09/15 00:22 ID:l8pWDQVL
>>38
映画にもこういうシーンがあればいいと思ってたので、すごく嬉しい。

>>34-35
笑えてほのぼのして最高でした。
41名無しより愛をこめて:02/09/15 01:55 ID:08qiRzNu
真司です。
最終決戦で突然起こった大爆発。
モンスター共々吹き飛んだ僕は別世界の“トロマヴィル”と言う都市に流れ着きました。
そこで地元の新聞社に入社した僕はいつもは新聞記者そして事件(ここは結構物騒なんです。)が起これば
「龍騎」に変身して悪と戦う日々を過ごしています。けれど一緒に戦う心強い仲間も出来たので安心です。
・・・リンリンリン。ああっ警察から緊急電話だ。きっと悪人が暴れているに違いない。
「龍騎」の出番だ!よし変身!(もはや元の世界の設定はここでは何故か通用しません。“いい加減”がこの世界の身上だそうで)
変身してオフィスから出ると、そこには大切な仲間の「悪魔の毒毒モンスター」と「カブキマン」が
僕を待っていてくれました。続きは「悪魔の毒毒龍騎/新世紀絶叫ファイナル・バトル」で!!
じゃ!(w

勿論ウソです。
4238:02/09/15 12:58 ID:NeVqvVe7
>>40
どうもです。映画内は殺伐してるんで
せめてモンスとの関係がこんなのだったらいいなあと思って書いてみました。

>>41 悪魔の毒々ハイスクールも混ぜたSSをキボンヌ。
43名無しより愛をこめて:02/09/16 00:45 ID:y7KgqlL+
カブキマンのファイナルベントはやっぱり、「エンド・オブ・ワールド」式に
割り箸を大量に撃ちまくる?
44名無しより愛をこめて:02/09/16 02:15 ID:uJeOSfCG
数日後、決戦の現場に故あって潜入したミヤモトはその惨状を見て呆然とした。
見慣れた風景は跡形も無く、謝の呉れた情報以上の凄まじさだった。
そこは決して知らない街では無かった。そこは以前にも他の仕事で行った事があり、
その際に、美味しいコーヒーが飲めるカフェも見つけた。今ではそこの常連でもある。

謝の依頼してきた仕事は直ぐに終わった。廃墟と化した街で邪魔する者は誰もいなかった。
奪還品をバックに入れて、街から出ようとした時、ふと馴染みのカフェを思い出した。
“花鶏は無事だろうか?”ミヤモトは帰りに様子だけ見ようとバイクを走らせた。
45名無しより愛をこめて:02/09/16 02:15 ID:uJeOSfCG
カフェに着くと花鶏は周囲と同じように瓦礫の山と化していた。
ただ一人、よく店で見た長髪の若者が泣きながら瓦礫を片付けていた。ミヤモトは思わず
その若者に話し掛けた。
しかし、若者の話はあまりにも突飛で、謝の言っていたガスや化学物質の爆発の方がまだ信じられた。彼の言うミラーワールドにモンスターそして仮面ライダーまるでSFだ。
「悪いけど、俺SF信じないから…」正直に若者に言うと彼は静かに頷いただけだった。

裏道や近道を駆使して、政府の検問をやり過ごすといつも通りの風景が、目に入ってきた。
ミヤモトは若者と別れた際に、最後に若者が最後に呟いた言葉が心の中で何度も木霊していた。
「…優衣ちゃんも連も店長も…ライダーや街の人達も…俺は誰も守れなかった…」
何故、この言葉にこうも引っかかるのかミヤモト自身にも解らなかった。
“正義の仮面ライダー龍騎になって、皆を救う?冗談じゃない。例え俺がライダーに
 なっても、そんなの御免だね。“そう笑い飛ばしても心はスッキリしなかった。
まるで、その言葉が自分の身にも起こるような不安が心に渦巻いていたからだ。
“人々を、世界を救う?冗談じゃない。そんな未来なんかキョーミねえよ!!”
そう思うや腕利きの「リターナー」ミヤモトはバイクのスピードを上げた。
いずれ自分も地球の命運を賭けた戦いをすることも知らずに…。

一方。大陸マフィアの一員である溝口は、“凄い力を手に入れる”と豪語した
元舎弟の浅倉を待っていた。
「あの野郎、弁護士まで世話してやったというのに、恩忘れて何やってやがる?!
 いつになったら、スゲエパワーってやつを手に入れてくるんだあああ!!」
46名無しより愛をこめて:02/09/16 02:19 ID:uJeOSfCG
時制に無茶があるのは勘弁して下さい。
47名無しより愛をこめて:02/09/17 00:29 ID:rDm/XC6K
>>29〜32
ビーファイターみたく最終話後にこんなノリで1話欲しい
48欠けているもの:02/09/17 09:46 ID:zCTl48Zz
「お前が封印の絵を見た時に、俺は覚醒した」

引きずり込まれた真っ黒な意識の中で、
真司と全く同じ顔をした男が囁く。

「鏡の向こうでずっと
 俺はお前の夢を見続けた。
 俺はお前の欲を見続けた。
 俺はお前の闇を見続けた。

 俺はお前の影じゃない。
 真のお前の姿なんだ。
 俺達は二人でひとつだ
 ここまできて何故逆らう?俺を受け入れろ…」

「違う!違う!お前なんか知らない!
 お前は俺と関係無い!」

「俺はずっとあの世界に居た。
 神埼優衣がお前を絵に描いた時から。
 そして…『約束を破る悪い子』として
 お前から引き離されて埋められた。

 だがもう、帰るべき場所に戻って来れた。
 お前に会いたかったよ。本当の自分を取り戻せて嬉しいだろう?」

「でたらめ言うな!お前が俺であるはずないじゃないか!
 お前はただの人殺しの化け物だ!」

「おいおい?人聞きが悪いな。お前が望んだんだろ?
 俺がお前の願望を代りに叶えてやっただけだ。
 浅倉も霧島も、お前が望んだから殺したんだよ?」
49欠けているもの:02/09/17 09:47 ID:zCTl48Zz
にこにこ笑いながら告げられる衝撃的な内容に
揺さぶられながらも、涙を流して否定する真司。

「ウソだ!ウソだウソだ!ウソだーっ!」

「いや、ウソじゃない。自分でも判ってるだろう?」

「俺が美穂を殺したいなんて、でたらめだ!
 人を殺すなんて考えた事もない!たとえそれが浅倉でも!」

「いや。お前は浅倉を憎んでた。
 本当はこの手で殺したいほど憎んでた。

 秋山に向かって『死んでいい奴なんて居ないんだよ』
 …なんてきれい事を言ったけど、
 心の底では、須藤雅史や竹内真理を見殺しにした時と同じ様に
 自分の手を汚さずにモンスターに食われる事を願ってた」

「そんな事思わない!
 須藤も誘拐犯も、助ける事が出来なかっただけだ!」

「正義感の強いお前は、
 『悪い奴は罰を受けるべきだ』と思ってる。違うか?」

「それは…」

「だから真っ先に浅倉を殺った。
 霧島に気を取られて隙だらけで、殺るのは蟻をひねるより簡単だったな。
 勝ち誇った奴の虚を付いて、徹底的に打ちのめすのは気持ち良かったよ」
50欠けているもの:02/09/17 09:48 ID:zCTl48Zz
口で嘘だと言っても
伝わってくるなにかに精神が応える
真実を見たくない思いに魂が震える。

本当に俺が?望んだ?俺が…?
揺らぐ真司に追い討ちをかける男。

「都合良い事に霧島が俺とお前を勘違いした。
 浅倉から助けてくれてありがとうだってさ。
 知ってたか?あいつお前に惚れてたんだぜ?
 ちょっと付き合うふりだけで、簡単にのぼせ上がった。

 可笑しかったなあ。
 今度は自分が騙されたと知った時の顔、
 殺されると知った時の霧島の顔は最高だったよ」

「なんで美穂を?あの子を…」

「騙されて腹が立ったろう?
 メチャクチャにしてやりたいって思ったろう?
 だから、その望みを叶えてやった。それだけだ」

「そんな事思わない!思ってない!」

真司は今でも美穂の死を信じたくなかった。
さっきまであんなに元気に笑ってたのに…。
結んでもらった靴紐は、まだしっかりと足に留まってるのに…。

それなのに、俺が美穂を憎んでただって?
俺が…美穂を…殺させた…?
51欠けているもの:02/09/17 09:52 ID:zCTl48Zz
自分の微かな思いが惨劇を招いたとの指摘に
自我を支えていた何かが急速に消えていく真司。
呆けて虚ろになっていく真司に追い討ちをかける男。

「いい加減、俺とひとつになれよ。お前の望みを全て叶えてやる。

 桃井令子に…神崎優衣に…島田奈々子に…
 お前が抱いてた欲望を好きなだけ注げるぞ。

 先輩風をふかす大久保大介
 小言がうるさい神崎沙奈子
 ガーガー喋る口を永遠に塞ぎたくないか?

 いつもお前を見下す北岡秀一
 会えば威圧してくる由良吾郎
 叩き潰して地に這わせ、血わたを吐かせたいよな?

 そしてお前が憎んでも余りある秋山蓮
 お前をなじり、痛め付け、恥をかかせるあの男…
 あいつの屍に請求書をネジ入れたいと思わないか?

 諸悪の根源、神埼士郎だって同じだ。
 俺とひとつになれば幾らでもあいつに復讐出来るぞ?」

既に男の誘いの声も耳に入っていず、ボロボロに崩れていく真司の自我。
片端から取り込んで満足げなため息を漏らす男。

それでも『完全にひとつ』にはなれなかった。
真司の全てを手に入れたはずなのに、わずかだが欠けた部分があるのに男はイラ立った。

『誰かを守る為だけに変身するから…』
昔、優衣に告げた記憶が、真司の奥底で最後まで抵抗を続けていた…。
5251:02/09/17 09:53 ID:zCTl48Zz
ところで、埋まってたあの絵って
ディスパイダーなのか、リュウガ&ドラグブラッガーなのか
何度見ても判らなかったですが、どっちなんでしょう?

黄色の横縞の入った黒い人影と黒い塊なので
どっちにも見えて困りました。

とりあえず、リュウガだったという解釈で。
53名無しより愛をこめて:02/09/18 00:03 ID:lAvB5n2J
机に突っ伏している優衣ちゃんを見た時、不意に、俺の意識が呼び起こされた。
死んでいることは、一目でわかった。

蓮が泣いている。
誰の前でも、涙一つ流さず、弱音一つ吐かなかったあの蓮が。


瞬間、俺の意識は完全に覚醒した。


俺とリュウガが完全に別たれ、俺は自分自身の目で、優衣ちゃんの姿を見た。
手首から紅い血を流し、顔はまるで眠っているようだった。

悲しいという感情は、不思議と沸き起こってこない。
いつもの俺なら、きっと泣いて叫んでいたことだろう。


だけど今は違う。
ほんの一瞬だけ、欠けていた自分自身の『闇』と一つになった俺にはわかったんだ。


優衣ちゃんは、他人の命なんかいらない。
他人の命で生きていくぐらいなら、自らの命を絶つ。


それが、優衣ちゃんが自分で考え、自分で選び取った結果。
優位ちゃん自身の選択だったんだ。
54名無しより愛をこめて:02/09/18 00:04 ID:lAvB5n2J
『俺とまた一つになれ・・・・・
 そうすれば、まだ神埼優衣を救う事が出来る・・・・・』

「・・・・・・・・もうだまされない・・・・・・
 優衣ちゃんは、他人の命なんかいらないんだ。
 それが、優衣ちゃんの選択なんだ」

迷いの無い俺の言葉に、リュウガは気が付いた様だった。
突然、リュウガの腕が俺の首を絞める。


リュウガ、お前は俺自身の欠けていたもの。
俺の中の闇だ。
だからこそ、俺はお前と戦い続けてやる。


俺が生きている限り、永遠に!!!


「変身!!!!!」
55名無しより愛をこめて:02/09/18 00:09 ID:lAvB5n2J
>>24-27を書いていた者です。
>>48-52氏の話に影響受けて思わず書きますた。
お目汚し失敬。
56名無しより愛をこめて:02/09/18 04:23 ID:2zvytFO7
>>55
あ〜、別な人だったんすね!
つながってるから同じ人なんだろうと思ってた
5748-52:02/09/18 11:13 ID:FCxVUTPJ
>>55さん、ありがとうございます。
実はこれって、24-27と38に刺激されて書いたのでビックリしてます。

「欠けているもの」はダブルミーニングで、
真司に欠けているものと、
闇に染まる事無い真司の中のひとかけらの意味で付けました。

それにしても映画の終わりの方の真司は格好良かった。
「なんだこりゃなんだこりゃなんだこりゃ〜!」と同じ人に見えないですね(笑)
58アマゾンの不思議な下駄:02/09/20 22:53 ID:KWGWtwMF
…を頭に載せると、願いが叶うとか言うけどねぇ。
どんなのか一遍見てみたいよと呟きつつ神崎沙奈子は椅子から立ちあがった。

最近みんな暗い顔してるし、どうしたんだかねえ?
せっかくあの子の誕生日だってのに、誰もその話をしないし。
せめてあたしが美味しい物でも作ってあげなきゃ。

あたしゃあの子に心から笑って欲しいんだよ。

あたしの趣味が趣味だから金銭じゃ苦労掛けちまって
同じ年代の子と比べて地味で所帯持ち臭くなっちまったけど、
あの子は本当は、笑うと華やかで可愛い顔立ちの娘なんだよ。

シンちゃんも、レンちゃんも、どっかへ引っ越した手塚ちゃんも、
あの子の良さに気付いてない鈍感な子達なんだから…。
でも案外、優衣の本当の笑顔を見たらイチコロになっちまうかもね?

…さてと。新鮮な卵でふかふかの台を焼いて、封を切ったばかりの生クリームを飾って、
摘みたてイチゴ、仕上げにとっておきのアマゾンの果物のジャムを混ぜてお花をこしらえたよ。
このケーキを食べればきっと、悩みなんか吹っ飛んでいつもの笑顔に戻るから。

アマゾンの下駄は無いけど、アマゾンのジャムを額にポンと乗せてみる。
ジャムよジャム。あたしの願いを叶えておくれ。
このケーキを食べた優衣に笑顔が戻りますように。
みんなで楽しい誕生日会になりますように。
59名無しより愛をこめて:02/09/20 22:55 ID:KWGWtwMF
…まあ結局、食べなかったし。
あのあとのおばっさんが心配でなりません。
60sage:02/09/22 18:20 ID:xLn1d1Ob
>>58
ぱっくんたまご?
61名無しより愛をこめて:02/09/23 22:23 ID:xL9nBZfz
hosyu
62名無しより愛をこめて:02/09/24 16:35 ID:bOnDuzDi
がんがれ
63名無しより愛をこめて:02/09/26 03:03 ID:NzAcrnis
ほしゅ。
64名無しより愛をこめて:02/09/27 01:37 ID:IYdCWN9F
ほしゅほしゅ
65夜の翼・1:02/09/27 12:41 ID:x3yEPeQN
私は翼を広げ、あのひとを護る為
そっとその身体を包んだ。

夢を見る。ずっと夢を見ている。幸せだった頃の夢を。
悲しい時、辛い時、楽しい時。どんな時でもいつもあなたが居た。
あなたのぬくもりがあれば何も怖くなかった。

今も私はあなたの側に居る。
ぬくもりはあっても孤独なまま。
消して名前を呼ばれる事の無い虚しさを抱えて。

もう長い間、あなたの笑顔を見ていない。
絶望と、悲しみと、怒りしか見た覚えが無い。
私に向けるのは深い憎しみ。深い後悔と深い嫌悪。

長く回想する暇も無く
あなたの身体を捕らえた化け物から逃れるため
私から離れ落下していくあなた。

追い付いた私は再びあなたを抱きしめる。
そのまま二人一緒に急速に落ちて行く。
このままでいたいと何度思った事だろう。
66夜の翼・2:02/09/27 12:42 ID:x3yEPeQN
化け物が砕け散る炎と爆音の中で
鏡から見えたあのひとの姿を思う。
眠る身体に向かって涙を見せるあなたを見てると
いっそ、この身体を永遠に眠らせてしまいたい…
何度も願った。何度も翼を伸ばしかけた。

でも…。
そんな事をすれば、あのひとは狂ってしまうだろう。
繊細なあなたの心は、辛うじて糸のような希望で形を繋いでいる。
いつか私を救えると思う事で。
薄幸な少女を私に重ねて救いたいと思う事で。

そのわずかばかりの願いが無くなれば、
あなたの心は跡形も無く崩れて消えてしまう。
まるで鏡の中に迷い込んだように…。
67夜の翼・3:02/09/27 12:43 ID:x3yEPeQN
願いの為なら何でもする。
あなたのその思いを迷わせたのは、
城戸さんの無邪気な笑みだった。
城戸さんの無垢で真摯な涙だった

あなたにこのひとの命を絶つことが出来る訳なかった。
そうよね。
あなたは元から、他人に手を掛けられる人じゃないもの。
そんなひとなら、私はあなたを好きになっていないもの。

あなたに初めて出来た友達を犠牲にしてまで、
私はあなたを取り戻したくは無かった。
あなたと同じように、私も苦しみながら、
戦いからあなたを守る事で目の前の不安を忘れた。
68夜の翼・4:02/09/27 12:44 ID:x3yEPeQN
…糸が切れてしまった。
全てが絶望に覆われ、あのひとは腑抜けたまましゃがみ込んでいる。

人前で泣き顔を見せる事をあんなに嫌ったあなたが
ただ泣いているばかりで、殺気だつ刃から身を護ろうともしなかった。

城戸さんに助けてもらっても感情を現す事なく、
動かなくなった小さな身体と
壊れた椅子を虚ろになって眺めている。

城戸さんの姿を見ながらあなたは考え込む。
城戸さんの言葉を反芻するように考え込む。
「優衣ちゃんは、他人の命なんて欲しくなかったんだ!」

私も同じ気持ちだった。
あの子の気持ちは痛いほど良く判る。
それでも私は、あの子の様な選択はできない。
悲しむあなたを思うと、どんな事になっても最後まであなたの側に居たい。
たとえそこが冥府魔道に通じてでも。

面前に広がる凄まじい炎の中にあなたは何かを見つけた。
ゆっくりと感情が戻ってくるのが判る。
やがて、あなたの決意が私にも伝わった。
69夜の翼・5:02/09/27 12:45 ID:x3yEPeQN
このまま戦い続けても破滅、戦いをやめても破滅。
いつか聞いた言葉が心に響いてくる。

ねえ、蓮?
あなたが地獄へ落ちるなら
私も一緒に行こうと思うの。
城戸さんは良い人だから
あなたの気持ち、とても良く判るの。

でも…。せめて最後に…。
あなたの笑顔をもう一度見る事ができたら良かった…。
私だけが知ってるあの笑顔に包まれて
もう一度「恵理」と呼んで欲しかった…。

ふいに瞬時のうちに、疾風の力が私に新たな気力を与える。

サバイブは「生きる」という意味。

まだ絶望するには早いのかもしれない。
この修羅場を抜ければ何か変れるかもしれない。

私は翼を広げ、あのひとと共に
邪悪にうごめく黒雲に向かって飛び立って行った。
7065:02/09/27 12:46 ID:x3yEPeQN
契約モンスターは実は霊体がサポートしてるんじゃないかなと妄想で。

ダークウイングの忠実さや献身ぷりっを見てると、
正体はヘタレな恋人を心配してる恵理なんじゃないかと。

ついでに、
ドラグレッダーには榊原(SPの様な正義感強い人だけど契約前に散る)
ブランウイングには美穂のお姉さん
エビルダイバーには雄一
メタルゲラスには亡くなった愛犬(それじゃ、ぶぶチャチャ)
マグナギガには吾郎ちゃんの生霊(生霊かい!)

逆に悪行三昧な浅倉や須藤はサポートが無いのですぐモンスターに裏切られるとか、
勝手に妄想してみましたがどうでしょう?
7165:02/09/27 12:47 ID:x3yEPeQN
それにしても、あちこちで
「お前のせい」「不細工」呼ばわりされてる恵理が不憫で不憫で。
これで少しはイメージ向上になれば良いかな〜とか思ったり。

ネタバレがチラホラ見えて
微妙にキナ臭い事になってきてる本編の恵理ですが
このまま不幸せな事にならないか気になりますね。
72名無しより愛をこめて:02/09/28 01:03 ID:qu4MZaFv
>>70
>マグナギガには吾郎ちゃんの生霊
爆笑。ゴロちゃんマグナギガ説が懐かしい

>逆に悪行三昧な浅倉や須藤はサポートが無いのですぐモンスターに裏切られるとか、
その上アンティークショップの親父や弟の怨霊が足を引っ張ってたり
73名無しより愛をこめて:02/09/28 16:58 ID:QYDlwht1
>>29->>33
これ読んで映画が打ち切りっぽい終り方なのが理解できたよ。
あの続きをやると「仮面ライダーアギト〜after story〜」に
タイトルが変わるからか(w
7465:02/09/29 02:04 ID:z4wluUEF
>>72
>>マグナギガには吾郎ちゃんの生霊
>爆笑。ゴロちゃんマグナギガ説が懐かしい

姉がいまだに、いつか吾郎ちゃんが正体を見せると言い張ってますよ(笑)
7565:02/09/29 02:06 ID:z4wluUEF
実は34-38書いてた者ですが、
霧島美穂タン嫌だスレの
「ブランウィングがお腹を空かせているのに野良モンスターが捕まらないときは、
 パンの耳や麩やポップコーンを投げてやる霧島美穂タン」
がツボにはまってます。
戦って無い時の日常はこんな調子だったのかも。

「ごめんね耳ばっかりで。いまのハゲ落としたらさ、新食感宣言を箱買いしてあげるからね?」
「ピー!♪」

お目汚し失礼。
76名無しより愛をこめて:02/09/29 18:13 ID:AVJ2g8IZ
保守しとこう
77名無しより愛をこめて:02/09/29 18:21 ID:4q1V44/N
78名無しより愛をこめて:02/09/29 20:29 ID:FmfGnIcd
>>75

現実世界にいる美穂たんが公園の池にパンを放ってあげると、
水面に逆さに映り込んだブランウィングがぱくっと受けとめる。

・・・75さんの書く美穂&ブランのコンビが好きなので、
75の台詞にんなシーンを補完してみました。失礼をば・・・
7978:02/09/29 20:34 ID:FmfGnIcd
>>78

× 75の台詞にんなシーンを補完してみました。
○ 75の台詞にこんなシーンを補完してみました。
脱字スマソ
80名無しより愛をこめて:02/10/01 18:42 ID:j8pWD/VR

8175:02/10/02 10:55 ID:Mr5vw9PP
>>78さん、それいい感じですね。
映画からどんどん外れるけど
そういった感じの美穂&ブランの日常を書いてみたいです。
82名無しより愛をこめて:02/10/03 22:55 ID:Hps1JkmP
保守
8378:02/10/04 00:15 ID:HBj+8ckS
>>81さん
また何か、新しいSSできたらオネガイシマス

そういえば、
ブランのカードってキレイだな・・・ちょっと花札ぽいけど(w
84王蛇誕生(1):02/10/05 23:15 ID:RjPLQBFi
「お前が契約するのは、あいつだ」
そう言ったコート姿の男の後ろに横たわる、巨大な紫の塊。
その頂上から、菱形の頭がゆっくりと持ち上がった。

男は言わなかった。
いまだかつて、そいつに向かって契約のカードを
かざすことのできた人間はいないことを。
肉片も骨も残らない。何の模様もない紫色の板だけが残される。
そんなパターンが何回続いたか、すでに男は憶えていない。

今度の奴も、王蛇にはなれないか。
ベノスネーカーの食事がまた1回増えるだけだな・・・
自分の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、
塊を見上げて突っ立ったままの「彼」を見て男がそう結論づけた時だった。

暗い灰色の身体をゆらりとさせ、彼が一歩前へ出た。
そのまま目の前の堆積に向かって歩き始める。

近づいてくるブランク体のライダーを、菱形の鎌首が冷ややかに見下ろす。
二又に分かれた舌がのぞき、嘲るようにひらめく。

次の瞬間ミラーワールドの空気が灼け、嫌な匂いが立ちのぼった。
鎌首が彼に向かって吐いた液体の匂いだった。
右後方で、地面が煙を上げて陥没している。

彼が何気なく首を左へ傾けたのと、
秒殺の猛毒攻撃のタイミングが偶然一致したのか。
それとも人間離れした勘で彼が攻撃を察知し、毒液を避けたのか。

どちらにせよ、コートの男にとっては俄然面白い事態になった。
85王蛇誕生(2):02/10/05 23:18 ID:RjPLQBFi
巨大な蛇に自分から近づいたというだけでも
今までの「餌」たちとは明らかに違うのに、
不意打ちをあっさり避けてみせるとは・・・微塵も恐れを見せずに。

そう。何もかも逆転した世界にいきなり放りこまれ、
文字通りこの世のものでない怪物と向き合っている今も、
彼は何の恐れも不安も抱いていない。
あの散歩のように無造作な足取りを見ればわかる。

だからベノスネーカーは、わざわざ毒液で攻撃したのだ。
自分に対する恐怖を少しでも感じ取っていたら、
即座に飛びかかって呑み込むだけだったろう。
明らかに試している。彼がどこまで自分に近づくことができるか。

だがまもなく、男は気づかされることになる。
この場を一番面白がっているのは自分でもモンスターでもなく、
彼なのだということを・・・
86王蛇誕生(3):02/10/05 23:20 ID:RjPLQBFi
「もういい、お前の器量は分かった。早く契約のカードを出せ」
男がそう言おうとした時だった。

シュッと音を立てて、二人の頭の横を何かが掠めた。
彼が、ゆっくりと振りかえった。
「・・・なんだ?」
コートの男が少し眼を細めた。
「雑魚が来たな」

三対六本の腕。
先端の鋭く反った、身長の1.5倍はあるメタリックな尾。
サソリ型の直立二足歩行モンスターが三匹、
尾の先端から毒針を飛ばしながら、男とライダーの方へ向かって来る。

「厄介だな。お前はまだ契約していない。ひとまず元の世界へ・・・・」

自分の言葉が聞こえなかったのか、それとも無視したのか、
次々に飛んでくる毒針を避けようともせずに
モンスターに向かって突進し始めたライダーを見て、
男がいつになく動揺を見せた。

「やめろ、ブランク体で何ができる!
契約しなければ戦えない−−今のお前では無理だ!」

低く笑って、ライダーはサソリの顔面に思いきり拳を叩き込んだ。
2回、3回。拳の数が増えるにつれ、笑い声が高くなっていく。
87王蛇誕生(4):02/10/05 23:22 ID:RjPLQBFi
だが男の言ったとおり、ブランク体のライダーが
モンスターに勝てるはずはなかった。
すぐに六本の腕にがっちり捕らえられ、
凄まじい力で締め上げられていく。

だが灰色のライダーの笑いは途切れなかった。
今また、凶暴な力を存分に揮える歓びを押さえられないらしい。

面倒な。ガルドサンダー達を呼んで片付けさせるか・・・
コートの男がそう思った時、

「どけ、それはあたしの獲物だよ!」
女の声と共に、空から地へ白い稲妻が走った。

モンスターがどっと地に倒れた。ライダーも投げ出される。

長く曳く鳴き声とともに、白鳥は再び空へ舞い上がった。
少し遅れてサソリの体に亀裂が走り、爆発する。
翼の鋭い先端で背中を切り裂かれたのだ。

炎の中、空に昇る光球を白鳥が追っていくのを見届けると、
細身の剣を構えた白いライダーは周囲を見まわした。
残る2体のモンスターを探しているらしい。

身体を起こしながら、灰色のライダーが男を振りかえった。
「おい。あいつもライダーだな? あいつと戦って倒すんだろ」
「そうだ」
そう答えた男の薄い唇が、上向きに歪んだ。
「だがあいつなら今、お前を倒すかもしれんな」
88王蛇誕生(5):02/10/05 23:25 ID:RjPLQBFi
見知らぬライダーの向こうに自分がいることに気づき、
驚いて見つめる白いライダーに向かって、男は呼びかけた。

「ファム!そのブランク体は浅倉威だ。
放っておけば、向こうの蛇と契約する。倒すならいまのうちだ」

白いライダーの優美な姿が凍りついた。
しばらくそのままでいたが、やがて構えていた細身の剣が
わなわなと震えはじめる。
「浅・・・・・倉!」
銀と白のマスクを、憎悪の炎が包んだように見えた。

「ファイナルベント」
目にも止まらぬ早さで一枚のカードがバイザーに消え、
上空を舞う鳥の、ひときわ甲高い声が響きわたった。

白い羽根が一帯に乱舞したと思う間もなく、
巨大な翼が凄まじい風を巻き起こした。

成すすべもなく宙にさらわれた灰色のライダーに、
薙刀状の武器を構えて待ち受ける白いライダーが見えた。
自分より先に吹き飛ばされていった2体のサソリが
その武器で次々と両断されるのも。

そして突然、白いライダーの前に紫色の影が躍り出たのも。
89王蛇誕生(6):02/10/05 23:29 ID:RjPLQBFi
亀裂のような両眼を黄色く光らせながら、
戦いの成り行きをじっと見つめていたコブラ型モンスター。
それが今、行動を起こした。長い胴を一度くねらせると
瞬時に白いライダーの前に飛び、かっと巨大な口を開く。
飛んでくるライダーに向かって。

鋭い牙が、毒液を滴らせてきらめいた。

やはり、一度目をつけた人間は餌食にするつもりなのか。
白いライダーに殺される前に。

だがコートの男には分かった。
ベノスネーカーは、ライダーに最後の試練を課したのだ。
男自身が、怒りに燃えるファムとブランク体のまま
戦わせるという試練を課したように・・・

空中でデッキに手を伸ばし、
「CONTRACT」と書かれたカードを出し、
何のためらいもなく突きつける。
眼前に迫る毒蛇の牙に向かって。

すべてが一瞬で終わった。彼の勝ちだった。
紫の蛇体が幾重にも灰色の体を取り巻き、まばゆい光が迸った。

ミラーワールドで最も凶暴なモンスターに数えられるベノスネーカー。
一切の恐れを持たず、常に戦いに飢えた男、浅倉威。
その両者が契約して誕生した仮面ライダー、王蛇。
90王蛇誕生(6):02/10/05 23:31 ID:RjPLQBFi
「やっと望み通りのライダーが現れた・・・
これで戦いも加速するだろう」

そう呟いた男の首に、細身の剣がぐいと押し当てられた。
白いライダー・ファムだった。
もう一方の手で、男の胸座をつかむ。
「おまえ・・・・なぜあいつをライダーに!」

激昂する女ライダーに揺さぶられながら、
神崎士郎は黒々とした笑いを浮かべた。

「ライダー同士の戦いなら、相手を殺せる。
姉を殺されたお前には、
浅倉がライダーになった方が都合がいいはずだ・・・
戦いのチャンスはいくらでもある。憎み続けろ。
その憎しみで奴を倒し、お前の最後の願いをかなえるがいい」

気がつくと、そこは元の独房の中だった。
自分の身体が鮮やかな紫色になっていることも、
腰のカードデッキに金色の毒蛇の紋章が
浮かび上がっていることも、浅倉にはどうでもよかった。
ついさっき手に入れたばかりの「力」を早く使いたい。
彼を動かしているのはその思いだけだった。
白いライダーをけしかけた神崎に対する怒りや、
自分に激烈な憎しみを抱く白いライダーの正体への疑問など、
ただのひとかけらも持っていない。

蹴りの一撃で独房の扉を吹っ飛ばすと、
けたたましく警報が鳴り響いた。

浅倉威は、意気揚揚と脱獄を開始した。
9184-90:02/10/06 00:02 ID:+FJ02glu
スマソ、90は「王蛇誕生(7)」の間違いです。

一応、映画の最初の方でファムが王蛇を見て
「浅倉!」と言っていたので、どこで美穂は浅倉が
ライダーになったのを知ったのだろう、という疑問の
補完話のつもりで書きました。
でも、やっぱり映画版というよりTV版補完ですね・・・

いずれにしても長くなってしまったので、
読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
92名無しより愛をこめて:02/10/06 15:47 ID:LjPMWkoD
このスレ大好きっす。ネタ思い付くのに
形にできなくて実に口惜しい。
93名無しより愛をこめて:02/10/06 15:50 ID:ZoCVyh/x
ニ・三人で盛り上がってるだけだろ
94名無しより愛をこめて:02/10/07 13:14 ID:Jrv8nTYK
>>93
もうチョイ多いと思うし、ROM派は結構多いのでは?
って、漏れも移転後はじめて見たが

とか言いながら保守あげ
95名無しより愛をこめて:02/10/07 14:20 ID:8Goy7cKa
もっと書いてくれ
96名無しより愛をこめて:02/10/07 16:01 ID:eHOIYgqo
 >91
士郎兄さんに呼び出される=ライダー、だから、5人が廃墟同然の教会に
召集かけられた時に、
初めて美穂は浅倉=ライダーと知ったんだと思ってました。
でもこっちのストーリーのように昔から知っていたという設定の方が
いいですね。話に厚みがある。

 最後にベノスネーカーが浅倉に向かってくるシーンは、
ひょっとしたらそのままベノの口に突っ込んで、
その反動を利用してファムに跳び蹴り、つまりブランク体でベノクラッシュを
発動させるのかとドキドキ(バカ。
9791:02/10/07 22:56 ID:meqtS6V0
>>96
ありがとございます。ブランクベノクラッシュ・・・
浅倉の性格からいって、やりかねませんね。むしろその方が
浅倉らしいかも(生身でファムの首締めようとするくらいだし)
98名無しより愛をこめて:02/10/07 23:44 ID:d78Y12iw
>>91
面白かったです。
浅倉もベノも存分に凶悪でしたが、
神崎兄さんの既にあっちに逝ってる凶悪さがまた良かったです。

嫌だスレの兄さんとはえらい違いだ(笑)
99名無しより愛をこめて:02/10/08 03:55 ID:urqHRGnH
うっ  
100名無しより愛をこめて:02/10/08 03:55 ID:urqHRGnH
うんこ  
10191:02/10/08 21:08 ID:fL0MvSzz
>>98
ありがとございます。あの2人の魅力を少しでも
出せればと思ってたので、とても嬉しいです。

でも、じつは神崎嫌スレも浅倉嫌スレも、さらに
霧島美穂タン嫌スレも大好き(w
102名無しより愛をこめて:02/10/10 02:42 ID:I5G9EFAE
保守
103名無しより愛をこめて:02/10/10 22:25 ID:J0DweEP9
SPの補完ってやったらアカン?
1041です:02/10/10 23:19 ID:szdTiM2r
あ、そりゃ良いですね。パラレルの世界のSSも読んでみたいです。
ぜひぜひお願いします。

スペシャル版の補完は映画の補完と区別する為に、タイトルの前か後ろに(SP)を付けるのはどうでしょうか?
(「蓮の〜日記」スレのやり方にならって…ってオイ(汗))
1051です:02/10/10 23:26 ID:szdTiM2r
SS好きなので、色々な形の龍騎(+α)のSSが読めるのって楽しみです。
このスレを立てた最初の頃は、タイトルでツッコミ入れまくられてどうなる事かと思いましたが、色々な方に面白いSSを書き込んでいただいてスレも伸びてきて、立てた甲斐がありました。
これからも頑張って保守していきますので、SS職人の皆様どうかよろしくお願いします。
106名無しより愛をこめて:02/10/11 09:54 ID:Duk47q/W
SPの補完というかベルデの補完というか…
TVシリーズに黒田ベルデが出てきたらこんな話がいいなぁ的なSS書いたら長くなってしまった。
こう言う場に出すのは何レス程度に収めるくらいが一番いいのだろう?
107名無しより愛をこめて:02/10/11 10:37 ID:TyoqfHDu
>>106
個人的に、長ければ長いほど好きだ
文体にもよるんだけど。
進みの遅いスレだから、多少長くても良いと思われ。
108名無しより愛をこめて:02/10/13 02:55 ID:dFhjJaFO
>>106
読んで見たいのでupきぼんです
109名無しより愛をこめて:02/10/13 03:43 ID:U928JBc8
一度age
110(SP)シザース誕生:02/10/13 04:16 ID:pF58SB4c
「お姉ちゃん!お姉ちゃん・・・。なんで?どうして?」
姉の遺体にすがって少女は泣きじゃくった。
少女の傍らに立つ須藤の耳に悲痛な叫びがいつまでも残った。
「酷いよ、お姉ちゃんを返して!返してよお!!」

煙草をくわえたまま火も付けず、疲れきった声で警視庁捜査一課の長は浅倉威の新たな凶行について報告をまとめた。
ざわざわとため息混じりの私語を漏らす刑事達。
「あいつは怪物だ・・・」
「何かやらかすたび残虐さを増してるな。ありゃ異常だ。うちの若いもんが何人も再起不能にされた。須藤が無事にあいつを捕まえられたのも、今思えば奇跡みたいなものだったし」
「でもな。何度捕まえても逃げ出すし、脱走するたび被害者は倍に増える。そのたびこっちが非難されるときた。文句あるなら直接浅倉本人に言えっての。こちとらいい迷惑だよ」
「できるならよ、こっそり撃ち殺したい所だぜ。なあ?」
茶の缶を両手に抱えたまま眉を上げる須藤。
「たとえそれがどんな相手でも、殺して良い事などありません。犯罪者を捕まえ司法の裁きを受けさせるのが私達の役目ですから」
「冗談判んないかねえ、マサやん。バカ真面目なのもほどほどにな?」
「須藤さん、あんた甘いよ。世の中にゃ生きる価値の無い奴も居るんだよ」
そういうものですかと返す須藤に笑いかけるおやっさんが、署の中で見る最後の姿になった。
111(SP)シザース誕生:02/10/13 04:17 ID:pF58SB4c
張り込み中の須藤の目の前に、血まみれの鉄パイプを振りまわす男の姿があった。「あ・・・浅倉?!」
浅倉の足元に転がる赤に染まったおやっさんを見て、須藤の中で何かが弾けた。

「ははは。いいぞ。こんな所で出会うとはな。俺に手錠を掛けやがった、あの糞野郎に!」
いきなり浅倉に飛びかかられ、パイプの攻撃は避けたものの蹴りを受け須藤はよろめきかけた。
すかさずパイプを打ち下ろそうとする浅倉に向かい、銃を抜くとためらわず浅倉の眉間に狙いを定める須藤。
ひとつも怯えることなく笑いながら浅倉は睨み返してきた。
邪悪な視線が須藤を正面から捕らえた。
静かな怒りが心の底になければ、浅倉の邪悪な眼差しに気圧され銃を奪われていただろう。
(できるならよ、こっそり撃ち殺したい所だぜ。なあ?)
頭を振り須藤は銃を遠くに投げ捨てると、一瞬視線が逸れた浅倉の腹に拳を思いきり打ち込んだ。
防御がガラ空きになった顎にもう一発。
姿勢が崩れかけた所に更に手刀が決まり、緩んだ浅倉の手が凶器を取り落とす。
肩を掴み膝で蹴りをいれあげるうち、浅倉の動きが鈍くなった。

浅倉が落とした鉄パイプを拾い上げると、このまま滅多打ちにしたい衝動を抑え、後ろ手に手錠を掛けた。
おやっさんの様子を調べまだ息があるのを確かめ、安堵しながら携帯で連絡を入れた。
救急車を待ちながら血の気の引いたおやっさんに止血のハンカチを巻いている須藤に耳障りな音が入ってきた。
浅倉の笑い声だった。
唇から血を流し浅倉はゲラゲラ笑い続けた。
「いいな・・・最高だ。もっとわくわくさせろよ?」
「残念ですがあなたと遊ぶ暇などありません。あなたは逮捕されました。今度こそ監獄でその罪を償いなさい」
「つまらないな、お前。俺と遊ばないなら消えろ・・・」
自らのポケットを噛み裂く浅倉。懐から何か落ちると瞬時に浅倉の姿が変った。
112(SP)シザース誕生:02/10/13 04:18 ID:pF58SB4c
あっと思うまもなく須藤は巨大な蛇に襲われていた。
世界が反転し、見知ったはずの全ての物が左右逆になった場所に引きずり込まれた。
紫色の異形の姿に変った浅倉は手錠を引き千切ると、須藤の胸倉を掴み勢い良く殴り飛ばした。
圧倒的な力の差の前に須藤は成す術も無かった。
ぐったりと転がる須藤を前に浅倉が合図を送ると蛇が大きく口を開けた。

突如爆音が響き蛇は素早く跳ね逃げた。蛇が避けた地面に大きく穴が開いていた。
大砲の様な物を抱えた緑色の怪人物が現れると、須藤を無視し浅倉を攻撃し始めた。
そのまま二人とも争いながら遠くへと走り去った。

よろめきながら起き上がろうとして須藤は驚愕した。
腕が砂の様に消えて行く!

混乱している須藤めがけ、捻じ曲がったカンガルーのような奇妙な生き物が飛びかかってきた。
最初の攻撃を転がり避ける須藤の目に、握ったままこの世界に持ち込んでいた鉄パイプが映った。
とっさに鉄パイプを掴むと牙を受け止め、肉を食いちぎられる事は免れた。
襲いかかる牙から細い鉄の棒だけで身を護るのは容易ではなかったが、辛うじて致命傷を避け、砂の様に少しづつ消えながらも須藤は抵抗を続けた。
化け物にむざむざ食われるぐらいならこのまま消えた方がましだと思ったその時、いつの間にか須藤のすぐ隣に見知らぬ男が立っていた。
男は怪物を見ても恐れず、眉ひとつ動かさずに須藤の様子を眺めていた。
「消すには惜しい、お前はいい目をしている・・・。お前の中には、不屈の闘志と血を求める欲望が潜んでいる・・・」
男が片手を振ると怯えた様に怪物は逃げ出した。
113(SP)シザース誕生:02/10/13 04:22 ID:pF58SB4c
男に短く礼を言った後、矢継ぎ早に須藤は質問を始めた。
「あなたはあれが何か判りますか?浅倉は・・・あの人達は一体何なんですか?ここはどこなんですか?」
「死ぬべきお前が知る必要など無い・・・。もっともライダーになる気があれば別だが・・・」
「死ぬ?私が?」
「お前にはもう時間が無い・・・。ライダーにならない限り、ミラーワールドで生存する事は不可能だからな・・・。浅倉はライダーだ・・・。あそこに居るのは浅倉の『仮面ライダー王蛇』と北岡の『仮面ライダーゾルダ』・・・」
「ライダーとは何です?あの異形の姿の事ですか?」
「そうだ・・・。モンスターと契約しその能力を手にした者には大いなる力への道を得られる・・・。それが『仮面ライダー』だ・・・」

宣言された死への恐怖よりも、さっき浅倉に示された超人的なパワーへの素直な驚嘆と、泣き崩れる少女の涙、浅倉への怒りが須藤の心を占めた。
王蛇と五分五分で戦うゾルダを指差して須藤は尋ねた。
「『仮面ライダー』になれば、あの人みたいに戦えるのですか?」
「ああそうだ・・・。だが、一度ライダーになればもう後戻りは出来ない・・・。お前は普通の人間ではいられなくなる・・・。
ライダー同士で殺し合い、死ぬまで怪物と戦い続ける事になるだろう・・・。ライダーになれば、お前に安息の時は無くなる・・・。
このまま死を受け入れたほうがましだったと思うぐらい過酷な日々がお前を待ちうける・・・。それでも良いならライダーになるがいい・・・」
須藤は異形同士が戦う様を見つめた。刃物と銃弾、毒蛇の牙と鋼鉄の腕がぶつかり合う様は通常の人間なら畏怖させるのに充分だった。
「いいでしょう。何もかも受け入れます。私をライダーにして下さい」

血の匂いに引かれたのか、甲羅を持つ怪物が鋏を振りかざしながら走り寄ってきた。
勢い良く差し出された鋏が眼球に刺さる寸前、須藤は契約のカードを怪物の前にかざした。
金色の光に身を包まれ、徐々に身体が硬い殻に覆われていくのを感じながら須藤は立ちあがった。
異質な冷たい金属の感触が左腕に走った時、自分はもう元に戻れないと実感しかすかに涙を流した。
114(SP)シザース誕生:02/10/13 04:23 ID:pF58SB4c
ゾルダは王蛇に圧倒されていた。
至近距離からの拳と蹴りの乱舞を受け、ガクっと膝を落としたまま固まってしまった。
『ファイナルベント』
王蛇の身体が紫の弾丸となって動きが取れないゾルダをめがけ放たれた。

『ストライクベント』
シザースピンチを構えた須藤が真横から王蛇を突き飛ばす
脇からの攻撃にもろくも姿勢を崩し地に倒れる王蛇。

「浅倉!観念しなさい。あなたはもう逃げられません」
「誰だお前?いい所で邪魔をするな。お前から先に死ぬか?」
「私は警視庁捜査一課の須藤雅史!浅倉威、あなたを逮捕します」
「須藤?はぁ?さっきの刑事か・・・。お前もライダーだったのか。お前なんかがライダーになっても・・・」
ベノサーベルで斬りかかる王蛇。
「この俺に勝てると思うのかぁ!」
『ガードベント』
須藤の取り出したシェルディフェンスが、刃の直撃から身を護る。
しかし、APの差から完全にはその身を護れず、須藤は後ろに突き飛ばされた。
115(SP)シザース誕生:02/10/13 04:24 ID:pF58SB4c
ベノサーベルを振りまわす王蛇の猛攻を大鋏と盾でギリギリで防ぐ須藤。防戦一方で攻撃を仕掛ける隙が無かった。
更に悪い事に、生身で殴られた傷と、怪物に噛まれた傷がじくじくと痛み出した。
盾を取り落としそうになった須藤の隙を狙い、王蛇はベノサーベルを須藤の肩に突き刺した。
苦痛の声をあげる須藤に「終わりだ」と告げ、ベノサーベルに全体重を掛け始める王蛇。

ふいに散発的にパラパラと撃ち込まれる弾丸。「北岡!邪魔だ!俺をイライラさせるな!」
須藤はそのわずかな間を見逃さなかった。
シザースピンチでベノサーベルを挟み込み、王蛇に蹴りを入れその身を弾き飛ばした。
肩に刺さる刃を抜き捨てた反動で大鋏を王蛇に叩きつけた。

だが、まるで痛みを意に介さない様に動きを鈍らせる事無く王蛇は殴りかかってきた。
鋏を難なく避けつつ繰り出される王蛇の攻撃。
刀を失っても王蛇の蹴りと拳は盾を揺るがすほどの威力があった。
「どうした?ふらふらじゃないか?俺を捕まえるんじゃなかったのか?あん?」
「ええ、そうです。あなたはもう私の手の内にありますよ」
そう言うと須藤は、浅倉が須藤の動きに慣れた鋏でなく、盾を王蛇に叩き付けた。

『ファイナルベント』
次の瞬間、須藤の身体が宙に舞った。
シザースアタックが、既に大技のカードを使い防御の余裕の無くなっていた王蛇を直撃した。
116(SP)シザース誕生:02/10/13 04:38 ID:pF58SB4c
意識を失った浅倉の身体は砂状になって消え始めた。
(須藤さん、あんた甘いよ。世の中にゃ生きる価値の無い奴も居るんだよ)
須藤は浅倉に向かって手を伸ばすとその喉を掴んだ。

泣きながら須藤の胸をこぶしで叩く少女の姿を思い出す。
(警察なんてあてにならないよ!私が自分で!この手で!お姉ちゃんの仇を取る!)
あなたがその手を血に染める必要はありません。
この男には、人生を引き換えにするほどの価値は無いですから・・・。
我知らず喉を掴む須藤の腕に力が掛かっていった・・・。

浅倉を引きずる須藤にゾルダが声を掛けてきた。
「何をしてるんだよ。とどめを刺んじゃなかったの?」
「殺しはしません。この男は連れて帰って逮捕します。それが私の望みですから」
「ふーん。あんた、ライダーになったばっかりなんだね?」
浅倉をライドシューターに押し込める須藤の後頭部をバイザーの銃口が捉えた。
「・・・甘いよ!」

振り向かず浅倉の肩に右手を置いたまま、ぶんと左腕を一振りする須藤。
衝撃がバイザーの蓋を閉ざし、予め差し込まれていたカードの名を読み上げた。

『アドベント』

瞬時に現れたボルキャンサーがマグナバイザーを叩き落とした。
ゾルダがひるむ隙にライドシューターは現実世界へと帰還していった・・・。
117(SP)シザース誕生:02/10/13 04:39 ID:pF58SB4c
立ち去るパトカーの音を聞きながら病院のベンチに腰を降ろしたままで須藤は風に当たっていた。
満身創痍で疲れていたが、心地よい満足感にもう少し浸っていたかった。
「これで良かったのですね・・・。もうこれであの娘も涙を流さずに済むでしょう・・・」

背後からかすかな笑い声が聞こえた。
「綺麗事を言えるのも今のうちだけだ・・・。すべてのライダーは己の欲望を充たす為に互いに戦い殺し合う・・・。いずれお前もそうなるだろう・・・」
「そんな事はありません。ひとがひとを殺す事など認めるわけにいきません。あなたがそう主張するなら、私がそうでないという証拠になります」
「証拠?」
「少なくとも私は浅倉と戦う為に変身する・・・犯罪から誰かを守る為だけに変身しますから」

怪物の放つ金属音に引き寄せられ、話の途中で一礼すると須藤は鏡の中に踏み込んだ。
従順なしもべとなったボルキャンサーが須藤を出迎え、一緒になって怪物の追撃を始めた。
怪物を捉え、双の刃で切り裂き重い鋏で叩き潰すうちに、奇妙な高揚感が須藤の身体の芯から湧き上がってきた。
望みは叶った。だがこの虚しさは何だろう?
もっと戦いたい。戦う相手が欲しい。歯ごたえのある強い相手が・・・。

「お前はすぐに染まる・・・お前の本性は、お前が最も厭う浅倉と同じだからだ・・・」
怪物の血で汚れた鋏を目の前にかざし、陶酔する須藤の姿。
その様子を見ながら男は満足げな忍び笑いを浮かべた。
118(SP)シザース誕生・完:02/10/13 04:43 ID:pF58SB4c
SP版解禁記念。
スペシャル須藤はもともと正義感強い奴だったらしいんでその補完。
浅倉よそ見し過ぎ(笑

-----------------------------------

・・・どうして私は・・・あの時の気持ちを忘れてしまった・・・のか・・・。
致命傷を負い、爆炎と共に消えて行く中で須藤は思った。

もっと早く思い出せば良かった・・・
城戸さん・・・
私はあなたと一緒に戦うべきだったのかも・・・しれませんね・・・
あなたなら出来るかもしれない・・・どうかその望み・・・叶えてください・・・。
さようなら・・・
コア・ミラーを・・・壊せる事を・・・祈っています・・・。
119名無しより愛をこめて:02/10/13 04:58 ID:pF58SB4c
>>106期待してるよ。
120名無しより愛をこめて:02/10/13 05:00 ID:pF58SB4c
>>84-91
面白かった。
影響受けて須藤編を書いたよ。
121名無しより愛をこめて:02/10/13 15:20 ID:B/ZOaPEg
>>105(1)
>SS好きなので、色々な形の龍騎(+α)のSSが読めるのって楽しみです。

>>106
ベルデ話よろしくです。
禿同です。スレ立てから保守まで、ありがとうございます。

>>120
91ですが、どうもです。面白かったですね、シザース誕生編。
今週は本編で浅倉の出番がなかったので、こちらで楽しめました。
ニュータイプSPにあった「北岡と須藤が手を回した」って
こういうことだったのか・・
122121:02/10/13 15:33 ID:B/ZOaPEg
失礼しました・・・
105、106へのレスを付け間違えてました。
正しくは下の通りです。スマソ。

>>105(1)
>SS好きなので、色々な形の龍騎(+α)のSSが読めるのって楽しみです。
禿同です。スレ立てから保守まで、ありがとうございます。

>>106
ベルデ話よろしくです。
123名無しより愛をこめて:02/10/14 10:42 ID:/RFZ+JwV
***仮面ライダー龍騎 最終回***
真司と優衣に迫る王蛇。その時 「待ちな! オレが相手だ!」
生きていたガイ! 爆炎に紛れて脱出していたのだ!
「決着はついてねぇ!」 王蛇に戦いを挑む。
しかし、ガイは以前の戦いで、両腕が使えなくなっていた。
余裕の勝利を確信する王蛇。敢えてメタルゲラスのみを召喚。ファイナルベントを発動!
かつての契約者に対して突進してゆくメタルゲラス。
カードを装填する事もできず、ただ立ち尽くすガイ。諦念の表情を浮かべる。
しかし、ガイの直前で、メタルゲラスは軌道を変えてしまう。
「使えねぇなァ、おい!」 メタルゲラスを蹴り倒す王蛇。
エビルダイバーを召喚。すぐさまファイナルベントを発動。
ガイに迫るエビルダイバー!
その時、ガイの前にメタルゲラスが立ちふさがる!
衝突。そして爆発。
呆然とする両者。
王蛇、涙を流しながら「こ・・・これが、愛か!」
そこへ、神崎士郎が登場。
  そうだ・・・愛だ!
   私は、ミラーモンスター達が、愛を忘れてしまったことに深い悲しみを覚えた。
  彼らに愛を思い出させるために、ありとあらゆる手を尽くした・・・ しかし、
  荒み始めてしまった彼等を、元に戻すことはできなかった。
  そこで、一計を案じた。むしろ逆に、戦わせるのだ!
  その過程で、愛を思い出せばいい!
  犠牲はあった。しかし、彼等は、見事に愛を取り戻したのだ!
「成程な。この戦いには、そんな深い意味があったのか!」感動する王蛇。
「神崎士郎・・・ お前は、そこまで奴等の事を」ガイも感動。
「俺にも、愛とは何かが分かったような気がするぜ」
そう言って王蛇は、ベノスネイカーを召喚、ファイナルベントを発動!
爆発するガイ!
神崎士郎「戦いは戦いだから」
真司「そんな!」
優衣「まぁ、そんなものでしょうね」
124名無しより愛をこめて:02/10/14 19:17 ID:yFWJuHpI
>>110-118
須藤がシザーズになった真の動機は「美穂たん萌え〜」ですか(笑)

>>123
もはや補完じゃないと思うけどワロタ
125120:02/10/16 02:59 ID:RruVyuEZ
>>121
どうもありがとう。
セリフもシーンもパロなんでちょい照れる。
もっと真面目に書くか徹底してパロれば良かったかな。

>>123
(笑
小話もSSだしね。

>>124
(笑
そういう解釈もありかも。
126名無しより愛をこめて:02/10/17 19:22 ID:wc+rDSje
保守
127名無しより愛をこめて:02/10/17 22:04 ID:tbaw41Ah
うう・・・
128名無しより愛をこめて:02/10/17 22:05 ID:tbaw41Ah
うううううっ
129名無しより愛をこめて:02/10/17 22:06 ID:uUkTwKsq
うおおおっ
130名無しより愛をこめて:02/10/17 22:06 ID:uUkTwKsq
うんこ
131名無しより愛をこめて:02/10/19 00:41 ID:d7UNeedp
ソングコレクションに入ってないキャラの歌も
補完しれ。
132最後の願い(1):02/10/20 03:32 ID:HknyDnYl
黒い龍と赤い龍が正面から激突した。

片腕で顔を覆って爆風を避ける蓮。
黒いコートの裾があおられ、狂ったようにはためく。

やがて、視界に渦巻く煙が薄れ始めた。
だが崩れた壁の向こうには何も見えなかった。
ニ体の龍も、黒いライダーも、そして赤いライダーも。


龍騎の姿のまま、全身の激痛で意識を取り戻した真司。
「・・・どこだよ、ここ」

夜明けの数時間前のような、かすかな明るさと静寂、
それに自分の横たわる地面以外は何もない。
だが静寂は瞬時に破られた。

空気を震わせる、聞き慣れた咆哮と聞き鳴れない咆哮。
「ドラグレッダー!」
見上げた龍騎の眼に、炎を吐いて攻撃し合う二匹の龍が映った。

互いに食らいつき、爪を突きたてるたびに
赤と黒の長い体が流れるようにうねり、
蒼い光を帯びた黒い炎と紅く輝く炎が薄暗い空を照らし出す。
死闘とは思えないほど美しい光景だった。
133最後の願い(2):02/10/20 03:34 ID:HknyDnYl
だが、ドラグレッダーが劣勢なのは明らかだった。
次第に攻撃よりも、身をくねらせてドラグブラッカーの
牙と爪をかわす方が多くなっていく。
「・・・!」契約モンスターの危機をどうすることもできず、
地に伏したまま龍騎が拳を握り締めた時。

いきなり左肩をつかまれ、乱暴に起こされた。
次の瞬間、重い衝撃と共に身体が宙を飛んだ。

前にもある。この一撃に吹っ飛ばされたことが。
自分と同じ姿、同じ武器を持ち、自分より強いライダー、リュウガの一撃に。

再度地に投げ出され、激痛に耐えて懸命に身体を起こそうとする
龍騎の目の前に、黒い自分の姿が近づいてくる。

それを見て、龍騎は思い出した。
ファイナルベントで激突する寸前、黒い炎を背負って自分に迫るリュウガが
バイザーにカードを入れるような動きを見せたことを。

「エンクローズベント」。
ミラーワールドと現実の境に別の結界を作りだし、
相手と自分を送りこむことのできるカード。
リュウガはそれを使ったのだ。もちろん龍騎には知る由もないことだったが。
134最後の願い(3):02/10/20 03:37 ID:HknyDnYl
そして・・・

「なんでだよ!」
必死で痺れた腕を動かしてソードベントのカードを引き抜き、
ドラグバイザーに入れた龍騎が狼狽の声をあげた。
あの乾いた声が響かない。

結界の中で、他のライダーのカードはすべて無効になる。

倒れたままの龍騎のすぐそばまで来たリュウガが
自分のデッキからカードを引き抜き、黒いバイザーに入れた。
「ソードベント」
濁った声が嘲るように響いた時。

「こっちだよ、あんたの相手は」
この場にいるはずのない、女の声がした。

明らかに動揺して振り返ったリュウガの視線を追い、龍騎は見た。
薄明を背にして浮かび上がる、仮面ライダーファムの姿を。
違う。
ファムと同じシルエットだが、身体の色は闇と同じだ。
リュウガのように。

「美穂!」
龍騎がそう叫んだ時、黒い女ライダーは
構えていた細身の剣の基部にカードを差しこんだ。
「アドベント」
冷たく無機質な女の声が響いた。
135最後の願い(4):02/10/20 03:39 ID:HknyDnYl
異世界の地面が水面のように飛沫をあげて割れ、
漆黒の翼をはばたかせて巨大な鳥が姿をあらわした。
眼と、嘴だけが赤い光を放っている。
「黒鳥・・・」
龍騎がつぶやく。嫌な予感に苛まれ始めていた。
あれは本当に自分の知っているファム、いや美穂なのか・・・

出現したばかりの鳥は、そのままリュウガめがけて
猛スピードで滑空していく。
不気味なほど甲高い鳴き声が響き渡った。

技をかけた相手以外のライダーが現れ、
自分以外には使えないはずのカードでモンスターを呼び出す。
ありえないことの連続で余裕を失ったリュウガには、
地面に転がって黒鳥の鋭い翼の先端をかわすのが精一杯だった。

追い討ちをかけるように、黒いファムが新たなカードを引き抜く。
「ソードベント」
再び女の声が告げ、黒鳥が長い武器を脚に掴んで飛んできた。

異変に気づいたドラグブラッカーが闘いを中断し、
身をくねらせて鳥を追いながら黒い炎を吐く。

間一髪でそれをかわし、主人に向かって武器を落とすと、
黒鳥は反転して黒龍の頭の上に飛び出した。
次々と襲う炎を巧みに避け、鋼の翼を龍の顔面に打ち下ろし、
眼をねらって赤い嘴を突き出す。

両端に赤く光る刃のついた黒い薙刀を身体の前にかざし、
リュウガにゆっくりと近づく黒ファム。
そのリュウガも既に立ちあがり、反った黒い刃を持つ剣を構えていた。
136最後の願い(5):02/10/20 03:41 ID:HknyDnYl
ライダー同士とモンスター同士の激しい戦いが続く結界を
外から見守る、二つの存在があった。

「お兄ちゃん・・・あの人は今、真司君のために戦ってるんだよね。
お兄ちゃんの約束した願いをかなえるためでも、
私の命を継ぎ足すためでもなく」
「・・・そうだな」
「よかった。私の力をあげて」

**************

サイレンの遠吠えが虚ろに響き渡るビルの谷間。
砕け散った鏡張りの壁面に映る、奇怪な飛行機じみた怪物の群れ。
降下してくる怪物に次々と間引かれながら、
ビルの前の道路を逃げていく無数の人々。
そして誰にも気づかれずビルの植え込みに横たわる、息絶えた娘。

亡骸の上の割れ残ったガラス窓に、二つの影が映り込んだ。
長身の男と、小柄な娘だった。
淋しげだが、幸せそうにみえないこともなかった。
すべてが終わり、やっと一緒になれた今・・・。
今度こそ、鏡の世界だけの住人になったのかもしれない。

窓の下を見つめながら、小柄な娘が言った。
「・・・お兄ちゃん。私、この人に力をあげたい。しばらくの間だけでも。
真司君を助けに行かせてあげたいの」
何もかも知っている口調だった。
亡骸が誰なのか、ここに横たわるまでに何を願って生き、
誰と出会い、どんなことをしたのか、そのすべてを。
そして、真司が今どんな状態に陥っているかということも。
137最後の願い(6):02/10/20 03:44 ID:HknyDnYl
「お前が望むなら、それもいいだろう。今のお前にはその力がある」
長身の男が答えた。声に少し哀しげな響きがあった。
「・・・うん」
娘が微笑むと、長い年月の間ずっと沈鬱だった
男の表情が少しやわらいだ。

破片となったガラス窓の表面が水のように揺らぐ。
一枚の黒い羽根がその中心から浮かびあがり、
空中を漂い落ち、亡骸の胸の上にとまった。

霧島美穂の眼が、ゆっくりと開いた。
同時に、傍に転がっていた白いカードデッキの表面が
黒く染まり始める。

身体を起こして立ちあがり、デッキを拾い上げる美穂。
ためらうことなく一枚のカードを抜き、割れ残った窓にかざす。
赤い月を背景に飛ぶ黒い鳥の横に、「NOIRWING」と書かれたカードだった。

ガラスの向こうで、巨大な白鳥が喜びの鳴き声をあげた。
大きく広げたその翼も体も、黒く染まりつつある。
「行こう、ブラン・・・ううん、ノワール」
そう呟くと美穂は、ガラスに向かって黒いデッキを突き出した。
138最後の願い(7):02/10/20 03:47 ID:HknyDnYl
薙刀を縦横に揮ってリュウガに切り込んでは、
反身の剣の強烈な斬撃を弾き返す黒ファム。
澄んだ金属音が響くたびに、二人の黒いライダーは火花を浴びた。

「なぜ・・・・俺の結界の在処が分かった。なぜ侵入できた」
激しく切り結びながら、リュウガが初めて言葉を発した。
苦しそうに。
「・・・・今のあたしは、あんたと似た存在だからだよ」
黒い刃を薙ぎ払いながら、淡々と答える黒ファム。

相手を追い詰めつつあるのは、明らかに黒ファムの方だった。
とても、一方的にリュウガに痛めつけられていた白ファムと
同じ人間が変身した姿とは思えない。

「やめろ!もう、ライダーにはならないって約束しただろ、俺と!」
ふらつきながらも立ちあがった龍騎が叫んだ。
「やめてくれ、おまえが本当に美穂なら・・・俺がおまえを守るから」

その台詞があまりにも遅すぎたものであることを、まだ龍騎は知らない。
だが、黒ファムは振り向いた。新たなカードをデッキから抜きながら。

美穂の勝気で、少し淋しそうな笑顔が見えたような気がした。

「ほんとに、あたしがいなきゃだめなんだから」
「ファイナルベント」

間違えようのない美穂の声と、冷たい女の声が重なった。
139最後の願い(8):02/10/20 03:48 ID:HknyDnYl
翼を最大限に広げて地に降り立つと、
暗黒鳥ノワールウイングは高々と首を天に伸ばした。
挑戦的な鳴き声が大気を切り裂くのと同時に、
いくつもの紅い稲妻が黒鳥をドーム状に取り巻いて閃く。

次の瞬間、鳥を中心に無数の黒い羽根が超高速で発射された。
そのまま真上に向かってたちまちひとつに収束し、
一本の巨大な矢となって突き進んでいく。黒い龍に向かって。

長くうねる胴体を、鋼の羽根がまたたく間に埋め尽くしていく。

無数の羽根に貫かれた苦しみに耐えかねて
空中をのたうち回っていた暗黒龍ドラグブラッカーは、
ついに断末魔の咆哮をあげて爆発、四散した。

「真司、今だ!」
黒ファムが龍騎に向かって叫ぶ。
契約モンスターが消滅し、リュウガがブランク体となった今なら、
龍騎にもカードが使えるはずだ。
それを理解するより先に、龍騎の手はデッキに伸びていた。
「ファイナルベント」
今度は乾いた声が響く。
黒龍との闘いから解放されて上空を舞っていたドラグレッダーが、
咆哮とともに降りてくる。

「はあああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
崩れかけた実験室でリュウガと闘った時以上に凄絶な雄叫びを上げ、
龍騎が跳躍した。
ブランク体となったリュウガに、今度こそドラゴンライダーキックが命中した。
140最後の願い(9):02/10/20 03:51 ID:HknyDnYl
もう一人の自分が爆発するのを、呆けたように見つめる龍騎。
その周りの地面や空気が、かげろうのように揺らいでいる。
エンクローズベントが無効になり、リュウガの結界が崩壊をはじめたのだ。
「・・・美穂!」
一番大切なことを思いだし、龍騎は夢中で周囲を見まわした。
だが、どこにも誰の姿も見えない。かげろうばかりが立ちこめている。
「美穂!どこだよっ!!」
絶望に声をつまらせる龍騎に、突然探していた娘の声が聞こえた。

「お別れみたいだよ、真司。 仇を討ってくれてありがとう。
一緒にいたいけど、あたしは戻れないんだ。
だから、あたしの分までがんばって、世界を守ってよ。
じゃあね。
あたしを守るって言ってくれたの、すごく嬉しかった」

衝撃と疑問に襲われる間もなく、
龍騎はかげろうの向こうに三つの人影が現れるのを見た。
人間の姿に戻った美穂。
神崎士郎。
そして、優衣。

それを見た瞬間、龍騎 -- 真司はすべてを悟った。
・・・優衣の力が、そうさせたのかもしれない。
美穂がもうこの世にいないこと。
神崎士郎の「消滅」とともに、ミラーワールドと現実の境目もなくなったこと。
知った瞬間、意識が急に遠のいた。
141最後の願い(10):02/10/20 03:53 ID:HknyDnYl
「・・・お前は、城戸なのか?」

蓮の声で、真司は我に返った。
瓦礫の山に座りこみ、涙を流していた。
涙を流す以外、何もする気になれなかった。

不意に、街中にこだまする不吉なサイレン音が耳に入ってきた。
後ろを向き、壁に大きく口を開けた穴の向こうを見る。
街の空の上を、無数のモンスターが埋め尽くしていた。

「だから、あたしの分までがんばって、世界を守ってよ」
美穂の最後の言葉が耳の中でよみがえった。

テーブルに伏した優衣の死に顔も、そう言っているように見える。

やりきれない思いは胸に食い込んだままだったが、涙は止まった。
不安そうに見つめる蓮を見上げ、真司は立ちあがった。
142-141:02/10/20 04:00 ID:HknyDnYl
84-90を書いてた者です。
以前霧島美穂嫌スレで「ノワールウイングと契約した美穂云々」
と書きこんだことがあり、その後自分でも「黒いブランウイングと黒いファム」
がどういうのか見たくなって、上のような補完話を書いてみました。

タイトルは、ソングコレクションの5番目から取りました。

また長くなってしまったので、読んでくださった方いたら
ありがとうございます。
143132-141:02/10/20 04:03 ID:HknyDnYl
142の正しいタイトルは、「132−141」でした。スマソ。
144132-141:02/10/20 04:48 ID:+Hh+6ngZ
もうひとつ書き忘れてました。
137の最後の方は、34さんの書くほのぼの美穂たん&ブラン
の影響が入ってます(あのシリーズ好きです)。失礼しました。
145名無しより愛をこめて:02/10/20 22:46 ID:2jdfouNQ
>>132-141

美穂&ブランが好きなので面白く読ませてもらいました

鏡の中の裏人格じゃなくて、こういう形の「もう一人の自分」って話もいいですね
146132-141:02/10/21 00:00 ID:FLUOdZp4
>>145
ありがとございます。美穂&ブランは、魅力のあるキャラなのに
悲劇色が濃くて出番が短いので、「もう一人」を作りやすいのかも
しれませんね。もっと違う運命を考えてあげたくなって…
147名無しより愛をこめて:02/10/21 02:43 ID:EeyN/CmI
保守
148名無しより愛をこめて:02/10/23 14:48 ID:K3xy+hbO
うおおおお
149名無しより愛をこめて:02/10/23 14:48 ID:K3xy+hbO
うっ
150名無しより愛をこめて:02/10/23 14:49 ID:5uhtyZpd
うんこ
151名無しより愛をこめて:02/10/23 14:49 ID:5uhtyZpd
ぶりぶり
152名無しより愛をこめて:02/10/24 06:52 ID:ybz3ULMW
あけ
153名無しより愛をこめて:02/10/26 07:08 ID:mKg/GqeC
保守
154名無しより愛をこめて:02/10/29 02:25 ID:wRrvA7H5

龍騎サバイブとナイトサバイブを倒した王蛇。
唐突に現れるオーディン。
「お前が、私と戦う権利を得た」
宣言する。
「そう急ぐことはない」
と言いながら、インスタント焼きそばを差し出す王蛇。
「お前も喰うか? 今から湯を入れるぜ」
「インスタント焼きそばは、『焼きそば』と名乗る割に、焼いていない」
「だったら、どうする?」
きびすを返すオーディン。
「ついて来い」

神崎邸。
焼きそばを作っている神崎士郎。
椅子に座って待っている浅倉威。
神崎は、出来上がった焼きそばを朝倉の前に出した。
黙って喰う浅倉。
突然、浅倉の目から大粒の涙が。
「こ、これだ。これが喰いたかった・・・」
イライラの原因は、焼きそばだったのだ。
焼いていない焼きそばを食うたび、少しずつイライラが溜まっていた。
しかし今、焼いてある焼きそばを食うことで、すべてのイライラが無くなったのだ!

−完−
156名無しより愛をこめて:02/10/31 10:24 ID:XDmN/bZk
ワラタ
親切だな神崎
157名無しより愛をこめて:02/11/01 04:32 ID:/ZJvXrHJ
>>155
スポンサーに焼きそばを・・・

158名無しより愛をこめて:02/11/01 23:53 ID:3GgBSHsN
>>155
またコントSSだ(笑)
ちゃんと落ちがあるのが良いですね。

>>いままでのSSの作者様

プロジェクトXスレで「番外編・駅伝大会」が始まってます。
ここでの美穂や真司やリュウガのやりとりが気に入ったので
話の展開にこの雰囲気を使わせてもらって良いですか?
159名無しより愛をこめて:02/11/03 16:42 ID:M+UIicOg

160名無しより愛をこめて:02/11/05 02:36 ID:rHRjlzKb
>>131
>ソングコレクションに入ってないキャラの歌も
>補完しれ。
遅レスですみませんが、ライアの歌を考えてみました。(つたなさ御免)

●Warrior's Vision

眼を閉じても 開いていても見えてくる 
通り過ぎる人々の 行き着く先
破滅の予兆を感じても
贈れるものは 虚しい言葉の連なり

戦える 迷いさえ希望に変えて
恐れることのなかった 君がいたから
踏み出そう どんなに暗い明日が見えても
誰もが持っている 自分では知らなくても
変われる力を


復讐でも 野望でもなく願ってる 
非情な運命の環を 断つことだけ
ひとりの叫びが響いても
答えるものは 鏡の荒野の風鳴り

戦える この命力に変えて
同じ願いに生きてる 君がいるから
旅立とう 見えたものも変わると信じて
見えなかった場所へ 君が連れていくだろう 
僕たちすべてを
161名無しより愛をこめて:02/11/05 17:31 ID:rcDqEnN7

162名無しさん@お腹いっぱい:02/11/07 02:30 ID:JQ8bfib5
誰か蓮と優衣の出会い編をお願い。
どう言ういきさつでコンビを組んだ経緯とか希望。

蓮って士郎より優衣の保護者ぽっいとかが格好良いと思う。
他力本願でスマン。
163158:02/11/09 00:27 ID:zCtJY+1o
無事終わりました。
できれば美穂が水面のブランに愚痴りながら
パンを投げるシーンを入れたかったです。
164名無しさん@お腹いっぱい:02/11/09 13:07 ID:ZQELrulc
age
165名無しより愛をこめて:02/11/12 02:24 ID:dXT3Dbwt
age
166名無しさん@より愛をこめて:02/11/13 08:22 ID:bN1nJck3
    
167名無しより愛をこめて:02/11/16 02:30 ID:CFK41rn9
あげ
168名無しより愛をこめて:02/11/18 13:59 ID:ZXPmOGc9
age

169名無しより愛をこめて:02/11/20 14:15 ID:tbR/2e+r
保守
170名無しより愛をこめて:02/11/21 09:49 ID:aNcCS81x
171名無しより愛をこめて:02/11/22 06:28 ID:gRVWHWbo
ネタ無しに無駄保守するなら
落としちまえ。
戦いで傷つき、フラフラになりながら鏡から出てくるゾルダ。
「先生!」駆け寄る吾郎。倒れこみながらゾルダの変身が解ける。
キーン音。
現れる神崎士郎。
「決着がつきそうだな」
北岡と吾郎はカードデッキを使って、ミラーワールドを見た。
龍騎とオーディンの相撃ち。
この瞬間、全てのライダーは倒れ、北岡だけが残ったのだ。
「生き残ったものの勝ち抜け、それがルールだ。望みは永遠の命だったな。では、さっそく・・・」
「いや、待ってくれ。望みは変えてもいいだろう?」
北岡は、ライダーたちの死に様を思い出した。

王蛇のファイナルベントから龍騎をかばい、代わりに倒されるナイト。
ナイト「城戸、お前は、お前のやるべき事をやれ」
龍騎とのファイナルベント同士の打ち合いで倒れる王蛇。
王蛇「戦いながら死ぬ。そういうのもいいな。イライラしないで済む」
オーディンが黒幕だと知って特攻する龍騎。
龍騎「お前だけは! お前だけは命をかけても倒す!」

「あいつらの死に様は、見事だったよ。満足してるんだろうな」
「先生! まだ生きましょうよ! 永遠の命を手に入れれば・・・」
「良く死ぬ事は、良く生きた証拠、だな。俺は精一杯生きた。吾郎ちゃんの腕の中で死ねれば、本望だよ」
「そんな・・・! ホモだなんて」
北岡は神崎に向かって言った。
「こいつを、何とかしてくれ」
「そんな望みでいいのか」
173名無しより愛をこめて:02/11/23 01:35 ID:prh+Gp4T
一応、162で要望のあった蓮と優衣の出会い編を書いて見ました。
完成してから上げようと思ってましたが、
ずいぶん長くなってしまったので、とりあえず最初の4回をこれからupします。
(出来はなんともいえません(汗)スマソ)
174名無しより愛をこめて:02/11/23 01:54 ID:prh+Gp4T
>>172

先生の最後から2番目の台詞が好きです。
オチもいいけど(w
175出会い (1):02/11/23 01:58 ID:prh+Gp4T
キィイイイン・・・  キィイイイイイイ・・・

まただ。
子供のころから、子守り歌のように聞かされてきたあの音。
聞きたくないのに。
しかも最近では、もっと悪いことが起こり始めてる。
あいつらは、人を襲いはじめた。
あの音を響かせてこちらの世界をうかがうだけでなく・・・
今度はどこに?

そう思って優衣があたりを見まわした時。
子供の悲鳴が響いた。続いて、女性の悲鳴も。
「沙織ーー!」

悲鳴の聞こえた方へ走り、ビルの角を曲がると、人だかりにぶつかった。
「娘が・・・いきなりあの中へ引きずり込まれて・・・」
人の輪の真中にいる女性が半狂乱で指差す先に、
駅ビルのショーウィンドウがあった。
周囲の人々は明らかにとまどっている。
ウィンドウの中に見えるのは数体のマネキンだけだ。
そうでなくとも、母親の口走ったようなことが現実にあり得るはずはなかった。

だが優衣には見えた。
鹿のような角のある怪物が子供を抱えて、
ウィンドウに映った街の風景の中を走っていくのが。
176名無しより愛をこめて:02/11/23 01:58 ID:RuBUbCcp
>171-172
いやー、憧れるなー。叱りながらもそっとSSを書いて添える心意気、ホント凄い!
…こんな誉め方じゃ、誉めてる様に聞こえない罠(汗)

>173
期待してます。
自分も出合い編を書いていましたが、
ギャグっぽくなっちゃってUPを迷ってます。
177出会い (2):02/11/23 02:00 ID:prh+Gp4T
どうすることもできない。
見えるだけ。人の命がむざむざと奪われていくのが。
いつまでこんなことが続くんだろう。
もう、たくさん・・・・・・
絶望感に捕らわれ、路上に立ちすくむ優衣。

「変身!」

その耳に、聞き慣れない言葉が飛び込んできた。
顔を上げると、人だかりから少し離れたところで
奇妙な行動を取る若い男が見えた。
一方の腕を上げ、胸の前を横切るようにかざしている。

次の瞬間、若い男はもういなかった。
入れ代わりに現れた、ブルーブラックの身体。兜を思わせる銀のマスク。
あれは−−いったい?

さらに次の瞬間。
それは、自分の正面にあるウィンドウの中へ大股に踏み込んでいった。
正確には、ウィンドウの表面の中へ。
泣き叫ぶ母親に注意を向けている街の人々は、気づかない。

鏡の中に怪物の棲む世界があると知らなかったら、
優衣にもとうてい信じられなかったろう。
そう。モンスターの世界。そこに入っていけるということは−−まさか。
あいつも、モンスター?
急に不安になり、男の消えたウィンドウに駆け寄ってのぞき込む。
今度こそ、信じられない光景が目に飛び込んできた。
178出会い (3):02/11/23 02:03 ID:prh+Gp4T
二つの黒い影が矢のように交差する。
そのたびに長剣と巨大な枝角がぶつかり合い、激しく火花が散る。
子供を脇に抱えたモンスターと、変身した男が戦っていた。

ひづめに似た足が続けざまに放つ蹴りをかわし、
地面を転がりながら、男が長剣の根元に何かを差し込む。・・・カード?
「ソードベント」
無機的な声と共に、ウィンドウの上から−−優衣には見えない空から、
槍状の武器が飛んできた。
それを受け止めるや否や、目にもとまらない速さで
モンスターの顔に向かって突き出す男。

だが槍は鈍い音と共に、頑丈な角に絡め取られた。
一瞬よろめいたが踏みこたえ、頭部を大きく振るモンスター。
槍も、それを構えた男も、空中に思いきりはねとばされた。

落ちてくる男に狙いをつけ、モンスターが再び頭を突き上げる。
空中で身体をひねり、男は間一髪で串刺しを免れた。
それでも、いくつもの鋭い角の先が身体をかすめていく。

男の身体が地に叩きつけられた。
うめきながらもすぐに立ち上がろうとするが、できない。

だが槍の一撃は無駄にならなかった。
よろめいた時、鹿の化け物は子供を放していたのだ。
気を失ったまま道路に横たわる女の子。
179出会い (4):02/11/23 02:05 ID:prh+Gp4T
お願い。早く立って、あの子を助けて・・・
焦りながらも、優衣には男を見守ることしかできない。
その時。
何を感じたのか、鏡の中で倒れた男が不意に顔を上げ、
こちら側にいる優衣を見た。
マスクの奥に青く光る目が現れ、優衣の視線とぶつかる。
(見えるのか、おまえには?)
言葉も口の動きもなくても、男がそういいたいのは明らかだった。

モンスターが甲高い奇声を上げ、宙に飛んだ。
倒れた男に全体重をかけてひづめを突き立て、とどめをさすつもりだ。
だが、男の手はすでに新しいカードを引き出していた。
うつ伏せのまま、もう一方の手に握った剣の柄に差し込む。
「アドベント」
鋭い鳴き声と共に、黒い疾風がモンスターを襲った。
巨大なコウモリの翼に薙ぎ払われ、地上に叩き落とされる怪物。

やっと仮面の男が立ち上がった。
足をひきずりながら女の子のそばへ行き、抱え上げると、
優衣の方に向き直って思いきり跳躍した。
「!」
思わず両手を顔の前に出し、眼を閉じる優衣。
すぐ横に、どさりと音をたてて何か落ちてきた。
目を開ける。

黒のレザージャケットを着た男が横たわっていた。
蒼白な顔も、女の子を抱えた両腕も、血まみれだった。
180176:02/11/23 02:10 ID:RuBUbCcp
SSの途中なのに割り込んでしまうとは…
どうもすいませんでした(TT)
181173:02/11/23 02:15 ID:prh+Gp4T
>>176
どうもです。ギャグ編も、ぜひお願いします。
182173:02/11/23 02:21 ID:prh+Gp4T
>>180
いえいえ、お気になさらず。番号も振ってあるし、大丈夫ですよ。
183176:02/11/23 02:26 ID:RuBUbCcp
>173
ストレートに格好良い出だしですね
これからの展開が楽しみです

ギャグっぽいヤツ < 完成度7割くらいなのであまり期待しないで下さい(恥
朝頃にでも直してUPしておきます
184176:02/11/23 14:06 ID:RuBUbCcp
読み返したら死ぬほど寒かったのでやっぱりやめます

出会った最初は、2人とも喧嘩ばかりして
すぐ鏡を割ったり通行人にボディアタックをかまして蓮に迷惑掛ける優衣と
延々ジュース代もファミレスの代金も踏み倒して戦闘に行き優衣に迷惑を掛ける蓮
それでもいつしか互いに信頼(?)が生まれる…って内容でした

代わりに、「公式の写真が格好良くなった記念」で書きかけてたこっちを
怯える娘を前にして、俺はまだためらってた。

早く走り出せ。悲鳴を上げて背を向けろ。
お前が動けば俺は覚悟を決められる。

スラッシュダガーの一振りで、全て終わらせる事ができる。
放り投げ、砕けてしまえば、後は全て片がつく。

だから…そんな目で俺を見るな。
怯えた猫のような目で、俺を見るな!

煮立った頭に、今までの出来事がぐるぐるとよぎる。
なぜこんな事になったんだろう?
俺は平凡に生きていたはずなのに。

……なぜ俺は、人殺しになろうとしてるんだろう?
今でも時々思い出す。…江島ゼミの飲み会の出来事。

女の子達は、小川の付けてる古臭い3連リングの話で盛り上がってた。
「今時、これは無いよねー。お姉さんのお下がりかな?」
「はずしなよぉ。ダサ。なんか恵理に似合ってないもん」

小川はちょっと笑いながら、リングを愛しそうに右手で包んだ。
「だってね。蓮が一生懸命買ってくれたんだよ。だからこれって…私には宝物なんだ」
「うーん、ごちそうさま。大事にしてくれるなら秋山君も贈り甲斐があるよねー」

秋山…小川の男はヤクザっぽい遊び人で、とてもあの子に相応しくなかった。
迎えに来たと言って無意味に大学に立ち寄っては、いらない喧嘩を回りに吹掛ける。
追い返そうとしてあいつと衝突したのは一度や二度じゃなかった。

だが、小川は、秋山が来ると嬉しそうに帰り支度をはじめ、
秋山も彼女にだけは自然で優しい笑みを見せていた。
…それはいつも、俺を不愉快にさせた。

「神崎先輩、来ないのかな?」
「先輩、ちょっと素敵なんだけど。笑ったら絶対可愛いのにね」
「酔わせてさー。へろへろにくだけた所、見てみたいなー(笑)」
神崎が親睦の輪に混ざる訳が無いだろう。

「あいつは薄気味悪い変人だし、金も持って無さそうだ」
「仲村君、ひどーい(笑)」


…それが俺が覚えてる、みんなの最後の笑顔だった…。
あの日。
401号室に戻ろうとすると、悲鳴と怒声がわきあがっていた。
ぷつっと声が途絶えた部屋には…倒れている小川。
その側に…神崎と、小川の付合ってる男…秋山。
真上には…蝙蝠に似た怪物が居た!

怪物は幻覚だったように消え、滅茶苦茶になった部屋を見て動揺する俺に神崎は、
「この事を誰にも口外しなければ生き延びられる、何もかも忘れろ」と横柄に言い渡した。
いったい何が起きたのかさっぱり判らず、それから何日も怪物の影に震えた。

実験器具の大半は壊れ使い物にならなくなり、小川は入院し、神崎は失踪した。
江島先生は事故の責任を取って辞職してしまい、江島ゼミは解散した。
みんな将来への希望を失い次々と退学して消えて行った。
いや…本当に文字通り消えた奴も何人も居たんだ。

気が付くと、俺と小川以外みんな行方不明になっていた。
連絡も無しにどこかへ引っ越しただけだと思いたかった。

だが…小川の事と、神崎の態度とあの怪物の様子を考えると、
最悪の事態が浮かんでくる。

次は俺の番か?俺なのか?
怯えながら、沈黙を守るから許してくれ見逃してくれと毎日闇に向かって祈った。

ある日ふと思った。
待て。何で俺が神崎に許しを乞わなきゃいけないんだ!
悪いのはあいつの方なのに、なぜこの俺が頭を下げなきゃいけない。
自分で自分にムカ腹を立てた。立て続けた。
神崎に睨まれる危険を覚悟で、小川の見舞いに行った。
予想より重い小川の容態と病状に心底打ちのめされる。
…小川の人生は神崎に終わらされていた。

もう2度と起きあがる事もできず、回復の希望も無いまま
いつ命が尽きるかも判らない状態だった。

実験の時の生真面目な態度も、成果が上がった時の目の輝きも、時々見せる憂いも…
笑う時は思いっきり笑う小川の姿はもう永遠に見る事ができない…。
壁にもたれるようにしゃがみこみ、俺は人知れず嗚咽した。

そこへ秋山がやって来て、俺には気付かず小川の病室へ入って行った。
「あのひとは熱心に通って小川さんの介護をしているんですよ。
 あんなに大事にされて恵理さんは幸せですね」と、看護婦が羨ましそうに呟いた。

こっそり病室の様子を覗う。
またいつもの様に、遠くから見る事しかできない俺。
秋山は小川に語り掛け、髪を撫でて、手を握り締めて涙をこぼした。
声は聞こえなくても秋山の思いは伝わる。かすかに小川の顔が穏やかになった気がした。

二人の間に俺が入る余地はどこにも無かった…。
贈るはずの花束は、ゴミ箱に投げ捨てて帰った。
-----------------------------------------------------------
その日から、恐怖は完全に怒りに取って代っていた。
小川の為にも、消えたみんなの為にも、何も出来ない自分にイラついた。
神崎が目の前に現れたら、今度は怯える事無く対峙しようと誓った。

たとえ怪物が現れても、どうなろうとも、
あいつを一度ぶちのめさないと気が済まなかった。

何ヶ月もそんな気分を抱いたまま吹っ切れずにいたある日、神崎の妹が大学を訪ねてきた…。
神崎優衣は真剣な顔で「兄について教えて下さい」と俺にすがった。

ふざけた事を言うな!お前のせいじゃないのか?何もかも。
教えてもらいたいのはこっちの方だ!あの日のあれは、何だったんだ?!
小川が犠牲になったのは何故なんだ!
お前のせいだとハッキリ神崎が言っていたじゃないか!

だが、神崎の妹は何も知らなかった。
お兄ちゃんに会いたい、何をやってるのか知りたい、
手掛かりになる事があったら教えて下さいと、ただそれだけを繰り返した。
こんなに慕われてる妹にまで迷惑をかけて、何やってるんだ神崎。

神崎の妹の、大きな瞳でひたと見据える姿は何かを連想させた。
ああそうだ、猫だ。慣れない家の隅に不安そうに丸まる子猫の様だな。ふとそう思った。

猫は…。…。…。
逃げる様に俺は神崎優衣の前から離れた。
-----------------------------------------------------------
…江島先生の無残な姿が発見されたのは、そのすぐあとだった。
401号室への階段前で、うずくまるように倒れて亡くなっていた…。
栄養失調と疲労からくる心不全が原因だった。

「恰幅の良かったあのひとは浮浪者の様にみすぼらしくなって、
 汚れてボロボロの服の下にはあちこちにアザや傷ができていました。
 人に言えない苦労をしてたんですね」と、先生の奥さんは静かに語った。

葬式には先生の家族と俺以外ほとんど誰も出なかった。
学生にも慕われ将来を有望視されていた先生が
なんでこんなみじめな最後を迎えなきゃいけないんだ?

憂鬱な気分の最中にまた神崎優衣から電話が入った。怒声を上げて携帯を切る。
やってから、もう少し優しく言っても良かったんじゃないかと後悔する。…いつもそうだった。
それから何度となく電話が掛かってきた。神崎優衣はいつも半分泣いていた。

「手掛かりはあなたしかないんです、どうか切らないで下さい…。
 お兄ちゃんが悪い事をしたなら謝ります、私が償える事なら何でもします…」
か細い声が震えているのが手に取るように判る。
あんたが謝る必要は無い、俺にはもう関わるなと言ってそのたび即座に電話を切る。

神崎の妹を怖がらせたり泣かせたりするつもりは無かった。
どうしても冷たい態度で接してしまう自分に腹を立て、それ以上に神崎に腹が立った。

電話の向こうで泣いてる娘の姿を想像すると、
夜中に窓辺で鳴いてる子猫を思い出して眠れなくなった。
安心させればいいと判ってる。望む物を与え、優しく声をかけ、手を差し伸べればいいと…。
…誰が、神崎の身内なんかに!布団を被って無理にでも眠ろうと空しい努力を続けた。

結局、猫の悲しむ声に圧されて、知ってる事全てと資料をまとめて彼女に渡した。
神崎優衣は一瞬驚いた様になって、それから顔を輝かせた。
その姿を見て思う。不安そうな顔や睨み付ける顔をやめて笑えば可愛くなるのに勿体無い…。
思わず髪を撫でそうになる衝動を押さえ、こっれきりにしてくれと言い残し立ち去る。
さ迷う子猫の声は消えた気がした。

神崎。相手はお前の妹だから別に構わないだろう?俺は他人に口外したわけじゃない…。

…いつの間にか見えない神崎に言い訳してる自分に気付く。
畜生。恐怖が戻ってきてる!
俺は神崎と戦うんじゃなかったのか?恐れるな…。恐れるな…。恐れるな…。

後ろから肩をぽんと叩かれる。
「仲村創君…でしたね?江島研究室の実験について話があります」

沈黙を破った事を他の人間に見抜かれた!
ザワっと全身に寒気が走った。
香川先生はおおよそのことを知っていた。
俺は今まで溜め込んでいた思いと一緒に、覚えてる事全てを話した。

俺の協力で香川先生の下で急速に進む解析と再構築。神崎の研究のあらましが判ってきた。

ミラーワールドの存在について、その異世界に棲む擬似生命体について、ライダーについて…。
虚像の実体化…。虚の空間への侵入方法…。異形への変身…。

やがて…。

神崎の呼び出した怪物は毎日人知れず人間を襲い食らってる事…。
消えたみんなは、ほぼ間違い無く神崎の手で始末され
江島先生も神崎に殺されたと知った。

壁を拳で殴り続ける俺には、香川先生が止める声も耳に入らなかった。
神崎!よくもこんな酷い真似を…。お前は人間じゃない!
この人殺し!みんなを…小川を返せ!

…小川だけは、俺を嫌がらなかった。
俺の欠点は気が短い所だと自分でも判ってる。
ある程度なら、誰とでも適当に仲良くできる自信はあった。
だが、俺がキレて怒鳴り散らす所を見た奴はみんな引いて去ってしまった。

実験の失敗続きに腹を立て壁を蹴り上げる俺に、ねぎらいの言葉と共に茶を出してきた小川。
「ううん。これぐらいなら怖くないですよ。蓮が喧嘩してる所見てて、慣れてるから」
「…。嫌な慣れだな。そんな大馬鹿野郎とは別れた方が良くないか?」
「うーん。あのひとお馬鹿さんだけどいいひとだし。先輩が心配しなくても大丈夫ですよ」
にっこりと笑う小川を見てると、怒りも徐々に吹き飛んでいった。
その時から、小川は…俺の心に…。

小川…。先生…。みんな…。
この仇は俺が取る!必ず…。
俺は、研究室仲間の東條悟を気に入らなかったが、香川先生は奴を推していた。
「東條君は…彼は、他の人には無い秀いでた才能を持っているんですよ」
あれがか?頭は良いかもしれないが、賢い奴だと思わない。
いつも上目遣いに人を見て、口を開けば不愉快な物の言い方しかできない男だ。

あいつを見てると昔飼ってた猫を思い出す。
まだ年寄りでもないのにいつも怠惰に寝転んでて、長い白い毛がモップの塊に見えた。
目の前を通り過ぎても尻尾をパタパタ振るだけでゴキブリも鼠も滅多に獲る事がなかった。

足を出すと面倒臭そうに前足でつかまってきて、
ひきずられて部屋中をぐるぐる回るのがなぜかお気に入りの変わったヤツだった。
しつこくそれで遊んでくれと要求する割に、飽きるといきなり爪を立て、
イタタと叫ぶ俺の身体をわざわざ駆け上がってからどこかへ行った。

何を考えてるか全然判らなかった。
可愛がってたつもりだが、おとなしそうに見えて気性の荒い所を多少持て余していた。
そして…。…。

もう猫はこりごりだ。2度と係わり合いたくない。

なのに奴は不必要に俺に絡み、日々俺を苛立たせる。
今日も猫男は菓子をガリガリ噛み砕きながら無神経な言葉を掛けて来た。

「仲村君って、神崎君の事を随分ライバル視してるけど、
 神崎君は君なんか相手にしてなかったんじゃないかな。
 君って結局、研究の深い事は何も知らないし、居ても居なくても同じだから」

その場で拳をお見舞いした。散らばったビスケットを前に無言で睨み付ける東條の胸倉を掴み
2度と下らない口をきくなと言い渡してから、研究室を後にする。

東條が小さく何か叫び、奇妙な気配に振り向くと
そこには銀色と青に覆われた、猫を思わせる異形が立っていた。
「どういうつもりだ東條!」俺はそいつに掴みかかる。
香川先生が止めに入らなかったら、あいつは間違いなく俺を…。

東條はライダーだった。
欲望と引き換えに神崎にいいように操られる駒の一人かと思うと
ますます奴にムカつき許せなくなってきたが、
その思いは香川先生の前では飲み込んでおいた。

「しかし…。仮面ライダーを初めて見たのに、
 怖じずに殴りかかろうとする人が居たとは…。驚きですよ」
どうやら香川先生は俺を見直した様だった。

この件もあって、俺は自分から望んでオルタナティブの被験者になった。
変身すると身体中に力が溢れ、スラッシュダガーの一撃でモンスターはあっけなく散った。
気分は最高に良かった。これでもう神崎の魔手を恐れずに済むし
些細な数でも神崎の配下を倒す事で、誰かを救えると思うと我知らず高揚した。

だが、香川先生は自分の成果を少しも喜ばず、憂鬱そうに鏡を見つめ溜息をついた。
「オルタナティブは根本的な解決にはなりません。
 たとえ私達が地道にモンスターを倒していったとしても
 ミラーワールドを潰さない限り、犠牲は増え続ける一方でしょう。
 確実に全てを終わらせる方法がありますが…君達にとっては精神的な負担が大きい。
 これは…私自らの手で成そうと思っています」

「どうすれば良いんですか?まさか神崎のゲームの勝者になるとかじゃ…。
 いや、たとえそれがどんな事でも俺はやり遂げますよ。教えて下さい」

香川先生は少しだけ笑った。
「あなたは信頼するに値すると思います。だから、心して聞いてください」
香川先生の声はいつもと違う暗い影を帯びていた。

「ミラーワールドを閉じる方法はただ一つ。…神崎士郎の妹、神崎優衣を殺す事です」
……そして今、目の前の神崎優衣に対し、俺は刃物を持って向い合ってる。

どうしてこんな事になったんだろう。
傷付けるつもりなんか無かった相手を、手に掛ける後味の悪さを反芻する。
あの時も…猫の時も…。
いきなり飛びかかってきたこいつが悪い…そう思おうとした。

…あの時…じゃれる延長で噛み付いてきた猫を、痛みから反射的に放り投げた。
タンスの角に嫌な音を立ててぶつかり、妙な声を上げて動かなくなった身体を抱き上げると
猫は猫をやめていて、目を見開いたまま…くたっと柔らかな肉の塊になっていた。

幾ら揺すっても、背中を撫でても、肉球をさすっても、呼吸は戻らず
ぐにゃぐにゃになった身体はどんどん冷えていった。

俺は泣いた。
それからもう2度と猫は飼わない事にした。

…あの時も、別に傷付けるつもりはなかった…。
だが、もうここまで来ては…後戻りはできない。
放り投げさえすれば、あとは壊れて終わるだけだ。

一生懸命思い込もうとする…。
こいつは化け物だ。女の子なんかじゃない。怯える猫でもない。
人間に見えるけど、怪物と関わりのある異形だ。
こいつを倒せば世界は救われる。もう人々が怪物に襲われる事も無くなる。

英雄になるなんて関係無い。
神崎の目論見が崩れる事が、神崎の夢が消える事が、神崎を嘆き哀しませる事が、
俺には一番大事な事なんだよ!

お前に恨みは無い、でも…許せ!
結局その場は、脇から城戸に割り込まれて神崎優衣の暗殺は失敗に終わった。
腹も立ったが、内心ほっとしていた。

相変わらず城戸の馬鹿野郎は、真顔でミラーワールドの閉ざし方を聞きに来る。
知ったからといって、お前に出来るわけがないだろう!
おまけに東條の馬鹿野郎も、城戸にベラベラ秘密を喋ってしまった。
計画を知った他のライダーも一緒になって妨害してきたらどうするんだ!

特に秋山は、あの性格なら有無を言わさず真っ先に襲撃してくるはずだ…。
今の俺なら秋山を倒す事は簡単だった。激突すれば多分、秋山は生きてはいないだろう。
…秋山が死ねば、小川は怪物に食い殺される。
だからこそ、秋山を刺激する事は避けたかったのに…。

懲りずに城戸は何度も邪魔してきた上に、俺と東條を間違えやがった…。
怒り倍増で奴と斬り結ぶ。
何も知らずにヒーロー気取りでいい気になるな!お前が守ろうとする者が全ての原因なんだ!
秋山が勝利したからと言って小川が元に戻る保証は無い。
ライダーなんかくたばっちまえ!ミラーワールドなんか滅びてしまえ!
神崎と、その妹の世界は、消えてしまえばいいんだ!

「一つを犠牲にするのは勇気でもなんでも無い」城戸はこう言い放ち、俺を殴り飛ばす

黙れ!黙れ黙れ黙れっ!
そんな事は…最初から決まってる!一つよりも十だ!十よりも百だ!
たった一人の命で世界が救えるなら誰でもそれを選ぶ!なぜ判らない!なぜ邪魔をする!

ふらふらになった俺の頭に、城戸の思いつめた声や扉の前で懇願する姿が駆け巡る。
「優衣ちゃんに手を出すな!」そう叫びながら蹴りかかって来た、今さっきの城戸も…。
お前も秋山と同じだ。世界よりも女を守ろうとするお前にはミラーワールドは閉ざせないよ…。

だが…。もしも…。
小川と引き換えに世界が救えると言われたら、俺は彼女を犠牲にできるだろうか?
城戸は真摯な態度で俺に告げる「俺は大きな犠牲も一つの犠牲も出さない!
 綺麗事かもしれないけど、今はそれしかない」

油断したのか余裕を見せてるつもりなのか、武器を置いたまま帰りかけた城戸を
アクセルベントでめった斬りにする。
背中を見せたお前が悪いんだ!そう思い、全ての怒りをダガーに集中させる。
迷う暇は無い。あの娘さえ消えれば全てが終わる。
怪物も、ライダーも、神崎の亡霊も、余計な何もかも消えるんだ!

この甘ちゃんが!俺を、迷わせるなっ!

城戸にとどめを刺そうとする俺の背から、馴染みのある抑揚の無い声が響いた。
『ファイナルベント』
咆哮と…。素早く襲いかかる影…。骨が砕けるような衝撃と…。突き刺さる鋭い爪…。

今度は…放り投げられるのは俺自身だった。


東條のデストクローで貫かれ断末魔の悲鳴を上げながら
スーツと身体が冷気で粉々に砕けてく俺の耳に、
かすかに…笑い声が…獲物を弄る楽しそうな声が…聞こえた気がした。

…本当に猫のような奴だなお前…。
猫の悪い所を真似してどうするんだよ…。


激痛の中でのたうちながら、もう終わりだと悟る。これが死ぬっていう事なんだな…。
粒子になって消えて行く俺を、いつの間にか城戸は半泣きで支えている。
ははっ…。
たった今、お前を殺そうとした俺をか?…ったく、お前は人が良過ぎるよ。
…。なあ城戸…。
お前ともっと早く出会ってれば…。俺は…。
なんだか…悪い夢を見てたような気がする。
怪物もミラーワールドもデッキも神崎も
みんな夢で見た幻なんだ…そうに決まってる。
これは全部夢だ。
目が醒めたらきっと…。俺の側に小川が居て…。足元で猫が遊んでて…。…。

…ああ。そうか…。
今更判っても遅いけど…。
一つの犠牲で多くを助けるものが英雄だなんて…幻想だったんですよ、香川先生…。
俺はまだ死にたくなかった…。
それで世界が救われるとしても、「犠牲」になんて誰もなりたくないんだ。
神崎の妹も…誰も…。他に道は無いとしても…。

いや…道は…。別な方法も…探せばあったかもしれない…。
英雄になる事にこだわりさえしなければ…。
あるいは…。

…なんだっけ?…意識が朦朧としていく…。
そうだ…確か江島先生とみんなと、パァっと楽しく飲みに行くんだった。
みんなが手を振って俺を呼んでる。もう行かなくちゃ…。
でも、小川だけは来るなよな?
お前にはまだ帰る所があるんだから…。

-----------------------------------------------------------
…俺は英雄なんかじゃない。
たとえ犠牲にするのが自分自身でも、
誰かを犠牲にする者が英雄なわけがない…。

なにもかも消えて行く中で、俺は最後の声を振り絞る。

城戸…。お前は間違って…ない。
東條…。お前は間違って…いる。
198名無しより愛をこめて:02/11/23 16:48 ID:RuBUbCcp
某スレの影響で、東條がたべっこどうぶつを持ってますが…(汗
後半は暗黒版プロXになっちゃってる気も…。

ここに出てきた猫は実際にうちに居た猫のモップがモデルです。
数ヶ月預かった後、また飼い主に引き取られて行きました。

なんで引き回しが好きだったのか判りませんが、
ですちゃんのガリガリ((C)プロX)を見てると
猫と人が逆だけどモップを思い出して笑ってしまいました。
199名無しより愛をこめて:02/11/23 21:15 ID:8LYDwmX8
>>198
…………泣いた。仲村ぁ…………。
200名無しより愛をこめて:02/11/24 00:00 ID:fDBuy49N
>>199
どうもです。これで少しは仲村が浮かばれてくれるといいなあ。
201名無しより愛をこめて:02/11/24 01:16 ID:WrC0oybd
>185-197
こう考えると仲村の死は惜しい
仲村は最後の所以外は全編怒りまくってるのな
202名無しより愛をこめて:02/11/24 03:30 ID:Fphw53qo
>>198
ありがとうございました。いいもの読ませていただきました。
203名無しより愛をこめて:02/11/24 04:21 ID:bPZ3Jif+
>>198
目頭が熱くなりました。いいものをありがとうございました。
204名無しより愛をこめて:02/11/24 09:23 ID:DytveOrN
傷付け合う意味など 無いと信じながら
胸に抱く矛盾を 消せずにいたよ

何を犠牲にしても 構わないと誓う
愛する者全てを 守るためなら
205名無しさん@より愛をこめて:02/11/24 21:09 ID:C0ldgx2y
175,177,178
続き禿げしく希望!!

>198
中村くん編、良かったです。
206198:02/11/24 23:59 ID:WrC0oybd
>201,202,203,205
感想どうもありがとうございました。
仲村は最初観た時、まさかこの人がライダーになるなんて思ってませんでした。
良い意味で化けましたね。

今、教授の最後(泣)で頭がいっぱいいっぱいです。
207198:02/11/25 11:54 ID:Dv1QQwiI
>>206
今気付いた。自分にまでレスしてどうするんだよ(汗

『>202,203,205
 感想どうもありがとうございました』

206は正確にはこれで。
208175:02/11/25 23:25 ID:87TZjI4x
>>198
とても面白かったです。仲村君の最後の台詞がたまりません。
蓮のケンカに慣れてるせいで、仲村がキレても驚かない恵里も最高(w

>>205
どもです。これからまたいくつかupします
209出会い (1) :02/11/25 23:30 ID:87TZjI4x
海辺で屈託なく笑う女の顔が、目の前から遠のいていく。
同時に、灼けつくような痛みが全身に戻ってくる。
「う・・・・・」

「気がついた?」
清潔なシーツの感触。ドライフラワーの、さっぱりした匂い。
ランプの柔らかな明かりに照らされた室内。

あの子はどうした。
そう思っただけのつもりが、自分でも気づかず口に出していたらしい。
答えが返ってきた。さっきと同じ女の声で。
「だいじょうぶ。沙織ちゃんていうんだけど、無事にお母さんのところへ
帰ったよ。お母さん、泣いて喜んでた。でも、あたしに何度もお礼言うから
困っちゃった。見当違いなのにね」

そうだ。おまえはいったい・・・
男のかすんでいた目がようやく、ベッドに横たわる自分の脇に立つ人影を
はっきりと捉えた。
白地に緑の花柄を散らしたエプロンの似合う、小柄で清楚な娘だった。
210209は出会い(5)です:02/11/25 23:34 ID:87TZjI4x
175です。いきなりボケてすみませぬ。
211出会い(6):02/11/25 23:36 ID:87TZjI4x
「助けてもらったようだが・・・・ここは、君の家なのか?」
「そう。さっきまでお医者さんが来てて、今帰ったとこ。
傷はそんなに深くないけど、今晩と明日はあまり動かない方がいいって」
男は天井に目を向けると、大きく溜息をついた。
「そうか。ずいぶん面倒をかけてしまったらしいな。すまない」
「いいよ、気にしないで」
そう言ってから、わざと人の悪そうな笑みを浮かべる娘。
「ただし診察代は、下のお店で働いて返してね」
「何?」
「といっても、変な店じゃないから安心して。小さな喫茶店なんだ」
天井を見たまま少し考えた後、男は素っ気ない調子で言った。
「わかった。別に変な店でも俺はかまわんがな」
「え?」
「あまり褒められない仕事と喧嘩なら、多少は慣れてる」
またケンカしたんでしょ?−−からかうような、それでも
やはり心配そうな女の声が、耳の底でよみがえる。
「やだ、そんなあぶない人だなんて知らないで連れてきちゃった。
そういえば何か近寄りがたそうな感じだったな、気を失ってる時も」
「悪かったな。無愛想は生まれつきだ」
言葉とは裏腹に、娘の軽口に男の口元がほころびかける。
が、次の言葉で一気に凍りついた。
「あたし、優衣。苗字は神崎」
212出会い(7):02/11/25 23:39 ID:87TZjI4x
「…もしかして傷、痛いの?」
沈黙した男を見て、優衣が聞く。
「いや。同じ名前の知り合いがいてな」
「神崎っていう人?」
「ああ」
今度は優衣が沈黙した。
「どうかしたか?」

その神崎って・・・  ばかみたい、あたし。何考えてるんだろう。
そんなに都合よく、お兄ちゃんを知ってる人と会えるはずないじゃない。
「なんでもない」

男も余計な考えを振り払い、笑ってみせた。
神崎。それほど珍しい名前じゃない。偶然だろう。
・・・鏡の世界が見えることだって、そうに決まってる。

「そうか。俺は秋山 蓮だ。
それより、見えるのか。鏡の中のやつらが」
「・・・うん。子供の頃から、ずっと」
再び沈黙。そして、再び蓮が尋ねる。妙にぎこちなく。

「驚いたな。子供の頃からとは・・・怖かったんじゃないのか」
「ちょっとはね。でも、あたしのこと信じて味方してくれたから、
平気だった−−お兄ちゃんが」


「おれを殺すか、戦い続けるか。好きな方を選べ」
あの時の陰鬱な声が、蓮の頭の中で反響した。
213出会い (8):02/11/25 23:42 ID:87TZjI4x
やはり偶然ではなかったのか。
それでも蓮は、最後の望みにすがった。
頼む。違うと言ってくれ。
言わなければ、俺はお前に何をするかわからない。
「兄さんの名前・・・・神崎、士郎か?」
「やっぱりお兄ちゃんのこと知ってるのね!」

優衣がそう叫んだ途端に跳ね起き、ベッドから飛び降りる蓮。
息を呑み、反射的に飛びのく優衣。

一気に階段を駆け降り、外に飛び出すと、
蓮は夜の街を黒い風のように走りはじめた。
身体中の傷口が開き始め、加速する鼓動にあわせて脈打ちはじめる。
激しい痛みが襲ってきたはずだが、感じなかった。
214出会い (9):02/11/25 23:48 ID:87TZjI4x
遅い午後の陽光が窓から射し込み、白い壁を金色に染めている。
がらんとした店内のカウンターで、ポットとティーカップを前に座る優衣。
どちらの中身も、とっくに冷めていた。

あの人が出ていってから、2日がたつ。
傷の具合が悪くなったりしていないだろうか。そうなら、私のせいだ。
でもどうしても確かめたかった。あの人がお兄ちゃんを知っているかどうかを。
鏡の中のモンスター。神崎という名前。
その両方を知っていて、お兄ちゃんと無関係のはずがない。
いくら偶然だと否定してもその思いを抑え切れなかった。
そして、その予感は間違っていなかった。

あの人は、お兄ちゃんが今どこにいるか知ってるんだろうか。
それにお兄ちゃんとあの人が会ったとき、何があったんだろう。
…もしお兄ちゃんが何かひどいことをしたのなら、
妹の私のこともよく思わない、どころか憎んだっておかしくないはずだ。

でも、そんな風には思いたくない。
私をいつも守ってくれたお兄ちゃんが、別の誰かを苦しめるなんて。
でもそれなら何故あの人はあんな風に出ていったのか。
私が神崎士郎の妹だと知った途端……

悶々とした思いを、窓の外に近づいてきたバイクの音が破った。
直後、ガラスを嵌め込んだ白い扉が勢いよく開く。

「優衣。この間モンスターに襲われた子の住んでいる所はわかるか?」
黒のレザーに身を包んだ秋山蓮が、そう呼びかけた。
ずっと前から知り合いのように。
215175:02/11/26 00:20 ID:RFvoqS0X
(10)から先は、ラストが完成してからupしにきます。

新しいSSを作った方がいたら、先にupしてください。
216198:02/11/26 02:53 ID:JB/2SCLM
>>209-214
やっと2人が名乗り合い、これからも波乱の展開になりそうですね。
続きを楽しみにしています。

>>208
どうもです。仲村は自分のやろうとしていた事に最後まで迷いがあって
あのセリフになったと思ってます。
217名無しより愛をこめて:02/11/26 20:20 ID:NoPdfzY/
ミラーワールドと現実世界との境界は消え、モンスターが街に溢れ返る。
真司と蓮は、人々を守る為に変身し、契約モンスターに跨り、モンスターの大群に向かっていく。
絶望的な戦いだということは、二人とも分かっていた。
しかし、それでも二人は生きる為に戦う。
ドラグランザーの火球が焼き払い、龍騎がシュートベントで群れを撃ち抜く。
ダークレイダーの竜巻が吹き飛ばし、ナイトは接近する個体を斬り払っていく。
モンスターの群体心理が二人を群れの脅威と認識して、最優先襲撃対象として群がる。
龍騎はモンスターが街の人々から離れていくのを横目で確認しつつ、新たな群れに向けてメテオバレットを放つ。
密集したモンスターがダース単位で蒸発していくが、一方で次々と個体が集結してくる。
「城戸!」
ナイトの声に振り返ると同時に、背後に迫っていたモンスターが縦一線に両断された。
「うおっ?」
「背中に気をつけるんだな!」
驚きの声を上げる龍騎だったが、次の瞬間にはナイトの上方から降下していた個体を打ち抜いていた。
「蓮、お前もな!」
連携しつつモンスターと戦う二人だったが、無限の如く湧き出てくる相手に対し、次第に疲弊していった。
一瞬の隙をつかれ、攻撃を受けたナイトがダークレイダーの背から叩き落とされる。
「蓮!」
叫んだ直後、龍騎もまたドラグランザーの背から落とされ、地表に叩きつけられた。
体がコンクリートにめり込み、もがく二人の周囲に続々とモンスターが群がってくる。
湧き上がる黒い絶望が、心と視界を染め上げる。
218名無しより愛をこめて:02/11/26 20:21 ID:NoPdfzY/
「くっ…」
龍騎の口から諦めの言葉が出ようとした刹那、力強い雄叫びが空間を引き裂いた。
「ライダーーーッきりもみシュー−ートッ!」
龍騎とナイトを取り囲んでいた群れの一角が高空へと舞い上がり、更に群れの全体が竜巻に巻き込まれるかのように
空へと弾き飛ばされていく。
空中で掻き回されるモンスターの群れは、互いに衝突し合い、猛スピードと自らの質量によって潰されていく。
次々と上空で起こる爆発。
突然の出来事に呆然となる龍騎とナイト。
そこへ、一つの人影がゆっくりと歩み寄ってくる。
異形の姿、しかしそれは、モンスターなどではなく、むしろ…。
「あ、あんたは…」
龍騎の問いかけに対し、その者は穏やかな声で答えた。
「仮面ライダー…」

「ラ…ライダー…」

自分達に近い姿をした異形の者の返答に、龍騎の視界が再び曇る。
ライダー同士の忌々しい戦いの記憶が、心に蘇ってくる

先刻のダメージからどうにか立ち直ったナイトもまた、同じ思いを胸に、口を開く。
「まだ俺達以外にもライダーがいたとはな…。お前も…戦う、つもりか」
二人とは対照的に、仮面ライダーと名乗った男は、さも当然のことのように応えた。
「ああ、当然だ。人々を脅かす存在と戦うのは、“俺達“仮面ライダーの使命だからな」
219名無しより愛をこめて:02/11/26 20:22 ID:NoPdfzY/
男の言葉に、二人は驚愕した。
「ど、どういう事だよ!俺達…仮面ライダーは戦って、殺しあうのが宿命じゃ…!」
「なるほど…そういう事か」
驚きを隠せない龍騎に対して、ナイトは冷静に事態を理解し、語りだした。
「ガキの頃、聞いたことがある。人間を襲う怪人共をバイクで薙ぎ払う、髑髏の仮面をつけたライダーの話をな…。実際に見たと言う奴もいたが、ホラだとタカをくくっていたんだが…」
ナイトの話に触発されたのか、龍騎もせきをきったかのように話し始めた。
「俺も聞いたことある…!確か悪の組織に改造されたんだとかいう…えっと、ショッカ−だったか、ゴルゴムだったか…。あ、ゴルゴムは実際にいたしなあ…」
一人言のように話し続ける龍騎を尻目に、ナイトは“仮面ライダー“に視線を向けていた。
「あんたは、俺達とは別のライダーってことか…」
「君達の事情は良く知らんが、そういう事なのだろう」
「それにあんた、さっき“俺達“と言ったな。つまり…」
「そうだ」

そこまで言って、“仮面ライダー“は空を仰いだ。
「今も世界のどこかで、俺の仲間は…仮面ライダー達は戦っている」
そして、再び龍騎とナイトに向き直る。
「俺や…君達のようにな」

際限なく増え続けるモンスターは、再び龍騎達に迫っていた。
身構える、三人のライダー。
「俺はあんたみたいに聖人君子でも、ヒーローでもない」
「俺だってそうさ。ただ、大切なものを守りたいから戦う」
ナイトの言葉、“仮面ライダー“の答え。
「俺も…守りたいから戦う!今はそれだけで良い!」
「そうだ!」
龍騎の言葉、“仮面ライダー“の答え。
それを最後に、三人はモンスターの大群に向かけて突っ込んでいった。
220名無しより愛をこめて:02/11/26 20:24 ID:NoPdfzY/
三人のライダーが力を合わせても、何一つ状況は変わらないでいた。
倒しても倒してもそれを上回る形で、どこからかモンスターが排出されてくるのだ。それでも、諦めはしない。
「くっ、こいつら…一体どこから…」
モンスターの群れを、また一つ焼き払う龍騎。
続いて、今まさにモンスターが這い出ようとする鏡を狙うが、一瞬、鏡の向こうに見慣れない空間があることに気付く。
「あれは…?」
『あれはコアミラー…』
「!?」
龍騎とナイトの思考に、あるはずのない声が響いた。それは、女性の…つい先刻に死んだはずの、神崎由衣の声だった。
「由衣ちゃん!?」
「由衣!?」
鏡の中に、神崎由衣の姿があった。
『コアミラーはミラーワールドの中枢核。私の思いを形に…モンスターを生み出す源なの…。あれを壊せば、ミラーワールドは消える…』
話しながらも、鏡の中の由衣の姿は次第に消えていく。
由衣の名を叫び、鏡に接近しようとする龍騎とナイトだが、モンスターに阻まれる。
『私はミラーワールドに残った、神崎由衣の虚像。でも、その存在ももう消える…』
完全に消滅する、由衣の姿。
『真司くん…蓮…お願い…ミラーワールドを閉じて…もう、誰も悲ませないで…』
その言葉を最後に、声は消えた。
立ち止まる、龍騎とナイト。
「蓮…」
龍騎が声をかけるが、ナイトは微動だにしない。
ミラーワールドを消せば、モンスターは二度と現れないだろう。また、同時にそれは、蓮や真司がライダーとしての力を失うことを意味する。ライダーでなければ、蓮の願いは叶えられない。
だが…。
一人、モンスターの群がる鏡に向けて歩き出す龍騎。
しかし、ナイトがそれを追い越していった。
擦れ違い様、ナイトの呟きが聞こえた。
「行くぞ…」
「…おう!」
走り出す、二人。
221名無しより愛をこめて:02/11/26 20:25 ID:NoPdfzY/
モンスターと戦いながら、鏡に向かっていく二人と鏡の向こうの空間を見比べて、
“仮面ライダー“はその意図を読み取った。
鏡への血路を開くべく、“仮面ライダー“は愛機の名を叫んだ。
「来ォい、サイクロン!」
彼方から、モンスターの群れを引き裂き、白いマシンが“仮面ライダー“の下へと駆け抜けてくる。
「トォ!」
サイクロンと呼ばれたマシンに飛び乗り、“仮面ライダー“がナイトと龍騎を追い越して、
鏡を守るモンスター達を吹き飛ばしていく。
鏡の中から、巨大なクモのモンスターが現れ、サイクロンの進路を阻むが、構わずに突っ込む。
「サイクロンクラァァァァシュッ!」
サイクロンとモンスターは正面衝突を起こし、大爆発が起こる。モンスターの破片と共に宙を舞いながら、“仮面ライダー“は叫ぶ。
「行けェ!」
サイクロンの跡を追うように、龍騎とナイトが駆ける。
『ファイナルベント』
各々のバイザーにカードを装填。舞い降りる契約モンスターがバイクへと変型し、龍騎とナイトはそれに跨り、
鏡の奥へと、その更に奥のコアミラーへと突っ込んでいく。

戦い、傷つけあう意味などないと信じていた。それでも、戦う矛盾に苦しみながら。
仮面ライダー龍騎

何を犠牲にしても構わないと誓った。それでも、誰かを傷つけてしまう事に苦しんでいた。
仮面ライダーナイト

もう、誰かが悲しむのは嫌だ。これ以上、自分と同じ人間が増えるは嫌だ。
だから今、戦いを終わらせる!

「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
二人の声が重なり合い、コアミラーは粉々に砕け散る。
全てのモンスターが、鏡という鏡全てが、割れて消えていく。
長い悪夢が、消えていく…。
222名無しより愛をこめて:02/11/26 20:26 ID:NoPdfzY/
戦いが終わり、平穏が訪れた世界で、三人の男が立ち並んでいた。
城戸真司、秋山蓮、本郷猛。
「秋山君、君の恋人だが、なんとかなるかも知れない」
「世話に…なるな…」
あの戦いのあと、真司と蓮はライダーの力を失ったが、“仮面ライダー“本郷猛の助力により、
蓮の願いは叶いつつある。
「それでは、俺は先に失礼するよ」
本郷はバイクに乗り、その場を去っていった。
蓮もまた、無言で立ち去ろうとするが、真司はそれを呼び止めた。
「蓮」
真司に背を向けたまま、蓮は立ち止まる。
「蓮…またな」
暫くして、蓮は小さく呟いた。
「ああ…」
それぞれ反対の方向へ、真司と蓮は歩いていく。
別々の道、同じ明日へと。
223名無しより愛をこめて:02/11/27 13:04 ID:KfqcnM6s
>>217-222
そっか。昭和ライダーも一緒に戦うって手もあったんだ。
ストレートな話でそれぞれが格好いいです。
人類絶滅も防げて、MWが消えても絶望で終わらせないのが良いですね。
224名無しより愛をこめて:02/11/29 22:52 ID:wAR6Z5Av
>217-222
作画:村枝賢一 で読みますた。
225175:02/11/30 01:29 ID:Wbq4Elaj
蓮と優衣の出会い編の完成のめどがついたので、
保守も兼ねて残り(10)〜(16)をupします。
たぶん最後は(23)になります。
226出会い (10):02/11/30 01:32 ID:Wbq4Elaj
「秋山さん…」
「蓮でいい」
「……本当はあたし、蓮が戦ってるところを見たときから分かってた。
この人、絶対お兄ちゃんのこと知ってるって」
バイクの後部に乗ってからずっと黙っていた優衣が、蓮の肩越しに言う。
「俺も同じだ。ミラーワールドが見えると分かった時点で直感した。
おまえが神崎士郎に関係のある人間だとな」
前方を見つめたまま、メット越しに蓮が答える。相変わらず素っ気ない口調で。
無言に戻った二人を乗せて、街を疾走する黒いバイク。

向かう先は、あの日優衣と蓮が居合せた駅前のビル街だった。
沙織という少女の母は優衣に感謝しながら、こう言っていたのだ。
「家からほんの目と鼻の先の所で、こんな目に会うなんて…」

流れ去る風景を見つめながら、花鶏での会話を思い出す優衣。
「あの子はまだモンスターに狙われてる」
「沙織ちゃんが?」
「モンスターは、一度狙った人間をあきらめない」
「そんな…!」
「あの子を見張っていて、襲われたところを叩くしかない。時間はもうあまりないが」
「…わかった。私も行く」
そう言ってから、はっとする。
「まだ治ってないんでしょ、傷。大丈夫なの?」
「もう平気だ。行くぞ」
それだけ言って背中を向ける蓮。
…………
「蓮。教えてくれない。お兄ちゃんがどこにいるか、知ってるの?」
何回目かの信号待ちでバイクが止まると、
優衣は一番聞きたかったことをついに口に出した。我慢できずに。
227出会い (11):02/11/30 01:34 ID:Wbq4Elaj
蓮が口を開きかけたその時。
・・・キィイイイイイイ・・・
耳を貫き通すように、モンスターの接近音が響き始めた。
「急ぐぞ。つかまってろ」
信号が変わるのを待たず、バイクを急発進させる蓮。
目の前で車が次々と急ブレーキをかけ、ドライバーたちから罵声が上がる。
振り落とされまいと、必死で蓮の胴にしがみつく優衣。
正直、目をつぶっていたかったが、そうはいかなかった。
左右の建物の窓、ガラスの壁、ドア。周囲を走る車やバイクのボディ。
その他にも無数に存在する、あらゆる種類の鏡面。
そのどれにモンスターが潜んでいるかわからない。そして、
モンスターが見えるのは自分だけなのだ。バイクを操るのに忙しい蓮以外には。
しっかり目を開けていなければ。

カーブを曲がると、そこはもう駅前だった。ビルの群れが迫ってくる。
駅前ロータリーの内側にある、小さな広場の脇を通り過ぎようとした時。
突然優衣が叫んだ。
「蓮、あそこ!」
広場の中心にある、球形のオブジェ。
その磨き上げられた銀色の表面に、あの鹿モンスターが映っていた。
オブジェの前のベンチに座った、買物帰りらしい親子連れの背中を
紅くぎらつく目でじっと見据えている――沙織と、その母親を。
「降ろして!」
そう言うと同時に、まだ走行中のバイクから飛び降りようとする優衣。
「ばか、死にたいのか!」
蓮の怒声と共に急停止するバイク。タイヤが悲鳴をあげ、衝撃が襲う。
どちらも意に介さず、バイクから降りた優衣は対向車線を横切って駆け出した。
再び車の急ブレーキ、ドライバーの罵詈雑言。やはり優衣の耳には届かなかった。
「優衣、よせ!危険だ!」
蓮の声も、遠くで聞こえたような気がしただけだった。
228出会い (12):02/11/30 01:38 ID:Wbq4Elaj
「逃げて!」
優衣がそう叫ぶと同時に、オブジェの中から鹿モンスターが躍り出た。
ひづめの生えた手を伸ばし、沙織をぐいと捕らえる。
だがそこへ、一直線に走ってきた優衣の身体が突き当たった。
一瞬ひるむ化け物から少女の身体を奪い返し、オブジェから飛びすさる。
「早く、向こうへ!」
そう促されて我に返った母親が、泣き出した沙織を抱いて逃げ出す。
それを見届けるとモンスターに向き直り、紅い眼を真っ直ぐに見据える優衣。
獲物を横取りされた怪物の喉から、不気味な唸り声が漏れる。
次の瞬間、黒い風が怪物に2度目の体当たりを食らわせた。
短い奇声を発し、今度はオブジェの表面に飛び込んで消えるモンスター。
「大丈夫か」
振り返り、優衣の姿を確認する蓮。
「ずいぶん無茶をするもんだな。肝を冷やしたぞ」
「ふふ、蓮がすぐ来てくれるって分かってたからできたのかもね」
ふざけるな。お前だってモンスターの怖さは知ってるだろう。
そう声を荒げかけたが、優衣の、軽薄な口調とはそぐわない
思いつめた表情に気づいて蓮は黙った。
「…もういやだったの。人がモンスターに襲われるのをただ見ているのが。
とにかく黙ってみている以外のことがしたかった。
でも、ごめんね。私のせいで蓮まであぶない目に合わせて」

「その度胸は見上げたものだが、あまり無茶な真似はするな。
おかげで子供は助かったがな。――モンスターは俺が倒す。
お前は何も心配しなくていい」
そう答えると、蓮は再び優衣に背を向けた。
レザーのポケットから何かを取り出し、オブジェに向かって突き出す。
「変身!」
229出会い (13):02/11/30 01:41 ID:Wbq4Elaj
「ガードベント」
舞い降りたダークウイングの翼が黒いドレープと化し、ナイトの全身を包んだ。
直後、枝角を低く構えて突進する鹿モンスターの身体がぶつかってくる。
だがひとたまりもなくはね飛ばされたのはモンスターの方だった。
宙を飛んで仰向けに地面に叩き付けられ、必死で起きようともがく。
再びコウモリとなってモンスターの上を何度もかすめ飛び、
それを阻むダークウイング。
「トリックベント」
間髪を入れず、カードをバイザーに差し込むナイト。
ブルーブラックの姿がたちまち4体に増え、展開してモンスターを取り囲んだ。
「ソードベント」
「ソードベント」
「ソードベント」
「ソードベント」
4つのウイングランサーが一斉に下向きに構えられ、
1点を目指して同時に振り下ろされた。
まだ立ちあがれないモンスターの、大樹のような枝角の根元に。
本物のライダーは1体だけだ。3体までは幻影にすぎない。
にもかかわらず、絶叫しながら手足を蹴り上げるモンスターの頭部は
4本の槍で地に縫い留められたように微動だにしなかった。
「ファイナルベント」
「はっ!」
モンスターを囲むライダーのうち1体が気合とともに地を蹴り、
ウイングランサーをかざして頭上高く跳躍した。
同時に飛来し、その背に取りついたダークウイングが再び姿を変える。
下から風を受けた漆黒のマントが、流れるように舞い上がった。

空の隅に黒い点が現れ、螺旋を描いて成長しながら降下しはじめる。
一瞬後、高速で旋廻する黒い竜巻となってモンスターを真上から直撃した。
蒼白い閃光が走り、続いて轟音と火柱が湧き上がった。
230出会い (14):02/11/30 01:45 ID:Wbq4Elaj
炎の中から上昇していく光の球を、巨大なコウモリが素早くさらっていく。
オブジェ越しにそれを見つめていた優衣が、突然悲鳴のような声を上げる。
「蓮!」
目の前のオブジェの表面がゆらめき、人間の姿に戻った蓮が倒れ込んできた。
初めて会った日と同じように。
やはり意識を失って、そしてあの日より数段蒼白な顔で。
********************
心配そうに覗き込む女の顔が見えた。恵里だ。
違った。優衣だった。
「気がついた?」
どこかで似たようなことがあったと思いながら、頭を動かそうとした。
だが少し動かしただけで全身に激痛が走り、うめき声がもれる。
「動いちゃだめ。今度は絶対安静だからね」
優衣があわてたように、少し厳しい調子で言う。
やはり、傷が癒えない状態での飛翔斬がこたえたか。
あのモンスターを1度で仕留めていれば、こんな目に会うこともなかったろう。
まだまだ未熟だな、俺は。
「ここは…聖中央病院か?」
目覚めた時、優衣の背後に白いカーテンが見えたので、自分が
病院へ運ばれたことは分かっていた。気になるのは、どこの病院かということだ。
「ううん。山手第一病院だけど」
「そうか…」
よかった。恵里のいる所ではなかった。
安心した途端身体中の力がどっと抜け、また眠りに引き込まれていく。
――俺は、聖中央病院のたいていの看護婦に顔を覚えられている。
あそこに入院すれば、ずっと意識不明のまま別棟に入院している
患者と俺の関係を、優衣が看護婦を通じて知るのは時間の問題だ。
そして、何故彼女が入院することになったかも。それだけは避けたかった。
兄のしたことはおろか居場所さえ知らない優衣が、自分が犯したのでもない
罪の意識に苛まれることだけは。
231出会い (15):02/11/30 01:47 ID:Wbq4Elaj
皮肉なものだ。
あの日いつものように聖中央病院に行き、眠り続ける恵里を見舞った帰り。
気がつくと、よく恵里と行った海岸へ向かってバイクを走らせていた。
だがビル街を通り抜けようとした時、モンスターの近づく音がした。
やむを得ずバイクを降り、変身してミラーワールドに入った。
そしてモンスターと闘っているさなか、優衣が現れた。
無意識に恵里の面影を追っているうちに、
恵里をあんな目に合わせた男の妹にぶつかってしまったというわけだ。

優衣が神崎士郎と関わりがある人間だということは、
鏡越しに初めて目を合わせた時から直感していた。優衣に言ったとおり。
そして優衣の姓を聞いた瞬間、直感は確信に変わった。
だが、真実を知りたくはなかった。
神崎士郎の肉親と分かったら、あの男への怒りと憎しみを
優衣に向けたい衝動を抑え切れなくなるかもしれない。
傷ついた自分を連れ帰って手当してくれた人間を、
あの男の妹というだけで憎み、危害を加えてしまうかもしれない。
そして、恵里を目覚めさせる唯一の道を自ら閉ざしてしまう。
それが怖かった。
なのに、優衣の言葉がついに確信を真実に変えた。
「やっぱりお兄ちゃんのこと知ってるのね!」

だから俺は優衣の家を飛び出した。
できるだけ早く、神崎士郎の妹から離れたかった。
憎しみが理性を圧倒しないうちに。
232出会い (16):02/11/30 01:49 ID:Wbq4Elaj
だが事実はその逆だった。
俺が飛び出したのは、優衣への憎しみが抑えきれなくなるのを
恐れたからじゃない。憎むことができなかったからだ。

優衣には、恵里と同じ雰囲気があった。
背負い切れない寂しさと哀しみに潰されそうになりながら、
それでも必死で背負い続ける人間の持つ雰囲気かもしれない。
俺には、自分のその気持ちが許せなかった。
あろうことか、恵里を不毛の眠りに追いやった神崎士郎の妹に
恵里と同じ雰囲気を見出す――恵里に対する冒涜以外の何だというのだ。
だからいたたまれなくなって飛び出した。

そして、自分のねぐらにも帰らず、恵里のいる病院の外で夜を明かした。
また戻ってきた傷の痛みによる幻聴なのか、
優衣のあの言葉が繰り返し耳に響くのを感じながら。
……やっぱりお兄ちゃんのこと知ってるのね……

そう言った優衣の眼を見た時に、もう分かっていた。
優衣にとっての神崎士郎は、俺にとっての恵里、
恵里にとっての俺と限りなく近い人間だということが。
この世でよりどころにできるのは、お互いの存在しかない――その意味で。

空が白みはじめたとき、俺の答えは出ていた。
優衣を憎むことはできない。たとえ神崎士郎の妹だろうと。
俺が優衣を守らなければ。恵里と同じように。
233名無しより愛をこめて:02/11/30 09:53 ID:v+x1zRog
age
234名無しより愛をこめて:02/11/30 09:57 ID:uIlca6z0
エヴァ?
235名無しより愛をこめて:02/11/30 22:57 ID:mwxclghp
>>226-232
蓮が優衣に対してどう振舞うのか気になってましたが
自分達の立場と重ねて自身の感情を昇華させましたか。

続きが待ち遠しいです。
236175:02/12/01 02:07 ID:lZEknaw6
蓮と優衣の出会い編が完成したので、次からupします。
237出会い (17) :02/12/01 02:09 ID:lZEknaw6
数日後、花鶏。
聞き覚えのあるバイクの音に続いて店に入ってきた男を見て、
カウンターの向こうで洗い物をしていた優衣が驚いたように声を上げる。
「蓮!今日が退院って、どうして教えてくれなかったの?」
「悪いな。医者はもう少し入ってろと言ったが、いいかげん病院暮らしも飽きた」
言いながら、誰もいないテーブルの間を通ってカウンターのそばまで来る蓮。
「・・・しかしこの店の様子を見ると、働いて医者代を返そうにも
売り上げが出せるかどうか心配だな」
一瞬とまどったが、自分が前に言ったことを思い出して吹き出す優衣。
「ああ、あれ?冗談に決まってるでしょ。ここ、あたしのおばさんが
オーナーやってるんだけど、今外国へ行ってて留守なの。だから、お休み中。
おばさんが帰ってくるまでは時々掃除をしたり、自分でお茶を飲んだりするだけ。
たまたま私が下にいる時に来てくれたお客さんには、お茶を出すこともあるけどね」
「なるほど。いずれにしても、二度も助けてもらった礼はしなければな」
「何いってるの。そんなのいいってば」
「ずいぶんとお人よしだな。店ひとつ預かってるのに、いいのかそんなことで?
俺ならここでの医者代、タクシー代、迷惑代、見舞いの行き帰りの交通費、
それにあといくつか名目をつけて、合わせていくら請求するか…」
「蓮って……もしかして、性格悪い?」
「ああ。言ったろう、褒められない仕事なら慣れてる」
「それに、ケチでしょ?」
「ああ」
「ふうん。そうなんだ。じゃあ…」
優衣の眼がいたずらな子供のようにきらめいた。最近では珍しいことに。
238出会い (18):02/12/01 02:12 ID:lZEknaw6
「来週からお店開けるから、レジやってくれない?お客さんに紅茶1杯5万円の
レシート出して、断ったら裏へ連れてってちょっと説得して…」
「面白そうだな。だが、残念ながら俺もそこまであこぎな真似はしたことがない。
性格の悪さならお前の方が上なんじゃないか?」
「なんでそうなるの?蓮が今そういうやり方教えてくれたようなもんじゃない」
「ま、確かに短期間で稼ぐ方法としては悪くない。やるか?ただし店に手入れが
入りそうになったら、売り上げ持ってさっさと1人で逃げさせてもらうがな」
「ほら、やっぱり蓮の方がずーーっと性格悪いよ。
――でも」
くだらないやりとりを楽しんでいる風だった優衣が真顔になり、蓮を見上げる。
「もしお礼しなきゃって思うなら、お願い。お兄ちゃんのことを教えて。
蓮が知ってることを、何もかも」
「……兄さんとは、いつから会ってないんだ?」
「去年の夏からずっと」
唐突に優衣の目から涙があふれ出した。
「一日だって忘れたことなんかない。何にもわからないなんて気が狂いそうだよ。
蓮とお兄ちゃんの間に何があったのかはわからないけど、
もう蓮に聞くより他にどうしようもないの。お願い!」

言ってから、涙を見せたことを恥じるように、わざと水道の水を盛大に出して
また洗い物を始める優衣。
その姿をしばらく見つめてから、蓮は言った。
「分かった。これから話す。もともと今日はそのつもりで来た。
……すまないが、俺にも紅茶を淹れてくれないか?」
239出会い (19):02/12/01 02:15 ID:lZEknaw6
カウンターに載ったティーカップから立ち上る細い湯気。
カップの脇に重ね置かれた何枚かのカードの表面には、
コウモリに似た怪物や槍のような武器の絵、それに
「FINAL VENT」「SWORD VENT」等の文字や数字が見える。
さらにその隣りにある、手のひらに収まるほどの黒い板。
中央にきらめく金色の紋章は、やはりコウモリに似ていた。

カウンターに向かい、次第に衰えていく紅茶の湯気を見つめる蓮。
その視線がカウンターの隅にあるガラスのフォトスタンドに移る。
優衣の笑顔が3枚並んでいた。どの写真でも、背の高い男と一緒に映っている。
蓮が殺したいほど憎んだ男と。

窓辺に立って外を見る優衣の後姿を、夕陽がオレンジ色に縁取っている。
蓮が話し終わってからずっと、そこに立ったままだ。

お兄ちゃん。いったい、何をしようとしているの?何のために?
蓮から話を聞けば、すべてがわかるだろうと思ってた。
だけど違った。前よりもっと、ずっとお兄ちゃんのことが分からなくなった。
蓮が見せてくれたカードとカードデッキ。
ミラーワールドに入れる、蓮も含めて13人のライダー。
モンスターと契約して手に入れる力。
その全てをお兄ちゃんが作り、仕組んだなんて、まだ信じられない。
「おれはいつも、お前を守るためだけに生きている」
最後に会った時そう言ったお兄ちゃんと、本当に同じ人なんだろうか。
蓮が会った神崎士郎という名前の男は…
240出会い (20):02/12/01 02:18 ID:lZEknaw6
蓮から聞いたことが、優衣の中で繰り返しよみがえる。

「ライダーになれば、モンスターと戦って倒すことができる。
だが俺はモンスターを狩るためにライダーになるわけじゃない。
モンスターを倒すのは、戦いの経験値を上げて強くなるためだ」
「強くなって、どうするの」
「他のライダーと戦って倒せ。そうして最後に勝ち残った者が、
ファイナルドアを開けて願いを叶えることができる――神崎士郎はそう言った」
「お兄ちゃんが……どうしてそんなことを」
「悪いが、俺にもわからない」
「それなら、何故蓮はお兄ちゃんからカードデッキを受け取ったの?
一度ライダーになったらもう戦いから降りられないって知ってて。
それに、いくら傷ついてもあんな風に倒れるまで戦い続けるなんて
何かよっぽどの理由がなければできないよね?
蓮は、何のために闘っているの…何のために勝ち残る必要があるの?」
カウンターのティーカップを取り上げた蓮の胸元で、
チェーンに通した三連のリングが微かにきらめいた。
「いずれ話す機会もあるだろう。
……この間のモンスターも、本当は一度で片付けるべきだった。
だが、俺の力が足りないせいでできなかった。
もっとモンスターを倒して、実力をつける必要がある。
他のライダーに出会う前にな」
241出会い (21):02/12/01 02:23 ID:lZEknaw6
お兄ちゃんが、ミラーワールドでのライダーバトルを仕組んでいる。
結局わかったのはそれだけ。
何のためにそんなことをするのか、どこにいて、いつ帰ってきてくれるのか、
肝心なことは相変わらず闇の中のまま。
だけど私はもう黙って待ってなんかいない。
お兄ちゃんに会って何もかも確かめるまでは、どんなことでもしよう。
それに、お兄ちゃんの考えていることが何であろうと、
これ以上モンスターが人間を襲って餌にするのを眺めていたくはない。
絶対に…

長い沈黙の後、優衣が口を開いた。窓辺に立ったまま。
「蓮。お願い、っていうか、提案があるの」
カウンターの方からこちらを見る蓮に、優衣は一息に言った。
「言ったよね。もっとモンスターを倒して実力をつける必要があるって。
それなら、これから蓮がモンスターと戦うときは、
あたしも連れて行ってくれない?
そうすればこの間みたいに、蓮がバイク運転しててもあたしがモンスターを
見つけられる。それにあたしが街に出たとき、モンスターに気づいたら蓮にすぐ
知らせるから。1人より、2人で気をつけてる方がモンスターに出会う機会も
多くなるし、街の人を助けられる確率も増えるでしょ?
あたしは、1人でも多くの人をモンスターから助けたい。
それに、お兄ちゃんを探したい。
蓮が強いライダーになる手伝いをすれば、モンスターから人を守ることになるし、
きっとお兄ちゃんにも近づけるっていう気がする。
…勝手なことばかり言ってごめんね。でも、考えてみてくれない?」
242出会い (22):02/12/01 02:29 ID:lZEknaw6
しばらく黙っていたが、やがて優衣ではなく、
優衣と神崎士郎の写真を見つめながら答える蓮。
「性格が悪くて、おまけにケチ。俺は、お前の言ったとおりの人間だ。
皮肉でも冗談でもない。そんな奴に今みたいな申し出をすれば、
お前の損になるのは目に見えている。モンスターをおびきよせるための
囮にされてもいいのか?ここでぼったくりでもやらせておいた方が
まだリスクが少ないだろうな」
「それじゃあたしがおばさんに殺されちゃうから、だめ。それに」
優衣が窓辺を離れ、カウンターの方にやってきた。
「蓮なら信用しても大丈夫って思えるから」
「救い様のない甘ちゃんだな、お前も」
「だって最初に会った時、蓮はモンスターを倒すより沙織ちゃんを助ける方を
選んだじゃない。本当に、経験値を上げて強くなって望みを叶えるためだけに
戦っているなら、どうしてそうしたの?」
「悪いが、この話は終わりだ。世話になったな」
苛立たしげに言い、蓮はカウンターを立った。そのままドアの方に向かう。

日が完全に落ち、花鶏の外はすっかり暗くなっていた。
黒いバイクに跨り、メットを着けようとする蓮の後ろから走ってきた優衣が、
小さな紙切れをレザーのポケットに押し込む。
「考えてみて」
蓮をまっすぐ見て息を切らしながらそれだけ言い、背を向けて引き返していく。
排気音が一瞬住宅街に響き渡り、すぐに小さくなっていった。
243出会い (23):02/12/01 02:35 ID:lZEknaw6
だが、今度も蓮は、2日後に花鶏に帰ってきた。
優衣の携帯の着信音として。

「断り続ければ、法外な額の医者代その他を
請求されそうだからな。俺が勧めたとおり」
街中で、右手に持ったくしゃくしゃのカードを見ながら携帯に話す蓮。
客が持ち帰れるように、花鶏のレジ脇に置いてあったものだ。
「TEA 花鶏」のロゴの下に、優衣の携帯番号が走り書きされていた。

「そういうの、自分の物差しで他人を計るっていうんだよ」
軽口を叩きながら、花鶏のカウンターで携帯を耳に当てる優衣の顔に
微笑みが広がっていく。花が開くように。
「接近音がしたら、すぐ知らせろ。できるだけ急いでおまえのいる所へ行く」
「わかった――ありがとう、蓮」
「言っておくが、二度とバイクから飛び降りるなよ」
ことさら素っ気ない声とともに、通話が途切れた。

END
244名無しより愛をこめて:02/12/01 02:42 ID:McQF9+Gv
エ、ええスレや(涙)
245175:02/12/01 03:42 ID:Jg1e3uXy
>>216>>235

ラストまで楽しめたかどうかわかりませんが、
読んでくださってありがとうございました。

蓮が優衣に対して単なる同情心や打算以上の気持ちを持っている
ことは本編を見ていると感じ取れるのですが、
そこに至るまでの経緯を描き出そうとするのは難しかったです。
(無謀だったかも)

>>234
もしかして、エヴァンゲリオンに似てるとこあります?
エヴァは本当に全然見てないので、ちょと気になる・・・
246名無しより愛をこめて:02/12/01 04:11 ID:McQF9+Gv
>>209>>217

いい話なので、きちんと読むのが楽しみを壊すようで
怖いです。
247名無しより愛をこめて:02/12/01 11:33 ID:McQF9+Gv
平成ライダーに昭和ライダーが出る話を考えよう!
http://tv.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1033545802/l50

このスレもエエ感じですよ。
248名無しより愛をこめて:02/12/01 21:43 ID:B/oPDmIF
平成ー昭和スレのリンクで来てみました。
ここにはウチのリンクがあるんですね。(w
読ませてもらいましたが面白です。作者さん達、ガンバレ!!
249名無しより愛をこめて:02/12/04 01:35 ID:hVd9JzBn
>>247,>>248

行って見ました>平成昭和スレ
色々な人が色んな話を書いてて楽しかったです。おやっさんスレといい、
ライダーSSスレって結構あるんですね。
250名無しより愛をこめて:02/12/04 20:27 ID:yn2qQyHu
防止してみせます!
251175:02/12/05 01:51 ID:+KiAlV8K
連続ですみません&まだ1回分ですが、
ageついでにもうひとつ話を持ってきたので、次にupします。
(もちろん、新しいSSを書いた方がいたら先にupお願いします)

>>217-222
戦う目的や外見などなど、違いの強調されることが多い
昭和ライダーと「龍騎」ライダーなのに、
何の違和感もなく共闘している所がすごいです。面白かったです・・
252Swan Song (1):02/12/05 02:14 ID:+KiAlV8K
昼下がりの公園。
「コイン占い」と書いた小さな看板を出して座る青年の前に、
髪の長い娘が立った。
「今度の仕事の首尾、占ってみてよ」

凝ったデザインのリングをはめた指が数度コインを弾き、宙に飛ばす。
「仕事は成功する」
「やったー、ありがと。ま、楽勝だとは思ってたけどね。はいお金」
「待て」
「へ?」
「昨日占ったら、今日、女が二人俺を訪れると出た。
お前がその一人目だ」
娘の顔に、たちまち警戒の色が浮かぶ。
何こいつ。占いとか言って、女たらしこもうとしてるだけじゃないの?
ま、あたしのこの美貌とスタイルがいけないんだけどね。
「へえー、つまり今日は客が二人しか来ないって出たの?
悪いこといわないから商売替えした方がいいよ。
ちっとばかし顔がいいからって、適当なこと言って女喜ばせて
金取ろうなんて、さいってー」
「それはお前にも言えるな」
青年がおかしそうに目を細めた。
「一人目の女は結婚詐欺師。俺の占いは当たる」
「・・・・・・」
「ちなみに、二人目は俺の知っている女だ」

ほんとに、こいつ何物?なんであたしの「仕事」知ってるわけ?
人の心を見透かすような眼をした男は虫が好かない。商売柄。
男は愛嬌だよ、愛嬌。変なのに関わりあって時間と金無駄にしちゃったな。
そう思って、娘がそそくさと踵を返そうとしたとき。
「探したよ」
美人だが目のきつい女が、占い師の前に立った。
253名無しより愛をこめて:02/12/05 15:06 ID:Y1Ljh9+G
>>251
>>217->>222
自分は面白いというより、1号が龍騎を励ます所に感動しました。
(これで優衣を助けたら自分的には文句なしのハッピーエンド
だったんですが・・。)
254名無しより愛をこめて:02/12/05 19:30 ID:r3aQfgrJ
>>252
おぉ、夢の競演ですな・・。
どっちも好きなんで続きが楽しみでつ。
255名無しより愛をこめて:02/12/06 00:00 ID:PgZEBnip
>>237-243
完結編、余韻が良い感じです。

>>252
これもまた面白そうですね。
二人目の女性って…誰だろう?
256Swan Song (2):02/12/06 01:18 ID:UU2/lB51
うわ、すごい脚線美。170cm超えてるし、モデル?女優?
胸はあたしの方が勝ってるけど。
で、これが二人目。知り合いでこんな険悪な態度ってことは、
だまして捨てた女か。こんなにあっさり見つけられるようじゃ、
この男もまだまだあたしの足元に及ばないね。
せいぜいがんばって切り抜けてよ。
勝手にそう決めつけ、今度こそ足早に去りかけた娘が
凍りついたように立ち止まった。
今来た女が、ある名前を口にしたからだ。

「手塚海之だよね・・・
あんた、あの夜浅倉に手をやられた人と一緒にいただろ。
神崎士郎から聞いたよ、あの人の代わりに親友のあんたが
ライダーになったって」

青年が、女の顔を見ずに答える。
「神崎からということは、お前もライダーになったらしいな。
お前も雄一も、あの夜浅倉に身体と希望を破壊された。
追い詰められた人間の前に現れ、餌をちらつかせて
戦いに引き込む−−神崎士郎にとっては理想的な標的だ。
そして雄一は死に、お前はカードデッキを受け取った。
お前の望みは・・・浅倉に砕かれた脚の骨の完治か」
「そこまで分かるんなら、話は早い。私と戦いな」
「断る」
「親友を生き返らせたいと思わないの?」
「俺があいつを生き返らせるためにお前や他のライダーを殺しても、
あいつは喜ばない。
あいつは、自分の望みのために他人を殺すのを最後まで拒んだ。
そして、神崎の刺客に殺された。
だから俺はあいつの代わりにライダーになった。戦いを止めるためにな」
257175:02/12/06 01:40 ID:UU2/lB51
>>253
映像なら、1号が龍騎とナイトの肩にがしっと手を・・・
(それじゃ1号というより警視総監か)

>>254
どうもです。楽しんでもらえるようにがんばります。

>>255
どうもです。237-243はまとめ方に悩みましたが、
読んでもらって嬉しいです。
「二人目」は、今のところ256のような感じです・・・
258Swan Song (3) :02/12/08 05:17 ID:ZkqbwX23
「ピアニストだったよね、あんたの親友・・・
あの人の気持ちなら、たぶんあたしの方が良く分かるよ。
もう一度鍵盤を自由に触れたらって、どんなに思っただろうね。
だけどあの人が生きていて、手を取り戻すために
ライダーになってたとしても、やっぱりあたしは戦いを挑んでたろうよ。
もう一度踊るためなら。だからあんたも戦いな」
「虚しいとは思わないのか。大切なものを奪われた者同士が、
命の奪い合いをするなんて」
「ごちゃごちゃ言ってないで、戦ってやりなよ!」

いきなり怒鳴った髪の長い娘を驚いて見つめる青年。そして、女も。

「このひともあんたの友達も、浅倉威の被害者なんだろ・・・
あたしのお姉ちゃんも、あいつに殺されたんだよ。
なんだかよくわからないけど、戦って浅倉から奪われたものが
取り戻せるんならさっさと戦ってやればいいだろ。
あんただって悟ったようなこと言ってないで、戦って友達を生き返らせろよ!」

沈黙する青年。蒼白になり、娘を見つめる女。
「浅倉が人も殺してるとは聞いてたけど・・・あんたの姉さんだったなんて」

その時。耳を刺すような甲高い音が響き始めた。
肩で息をしながら、涙を流して青年を睨みつける娘には聞こえない。
だが青年と女には聞こえた。
そして同時に叫んだ。娘に向かって。
「そこを離れろ!」

だが遅かった。
長い緑の尾が娘を絡め取り、あっという間に引き込んだ。
背後にある、ステンレス製の案内板の表面に。
259Swan Song (4) :02/12/09 01:50 ID:1vPRVaD/
周囲の風景が銀色に輝き、ものすごい速さで流れていく。
そして突然放り出された。元の場所へ。
違う。元の場所にそっくりだけど、何かがおかしい。
傍らにある案内板を見て、違和感の理由が分かった。
表面の文字がみんな逆になっている。鏡に映したみたいに。
なんなのよ、ここ・・・どうしてあたし、こんなところに来たのよ?
そう思った時、頭上で不気味な音がした。シャーッと。

案内板の脇に立つ樹にメタリックな緑色の大蛇が絡みつき、
こっちを見下ろしている。
そうだ。こいつに引っ張り込まれたんだ。逃げなきゃ。
でも身体が動かなかった。魅入られたらしい。
大蛇の紅い目と、紅くひらめく舌が近づいてくる。

空気が鋭く鳴った。直後にバチバチという音。
大蛇の下顎に赤紫色の紐のようなものが巻きついていた。
そこから青白い火花が飛び散るたびに、緑色の胴体がのたうつ。
「逃げろ!」
我にかえって立ち上がり、聞き覚えのある声の主を見た。
でも、記憶にある姿じゃなかった。
装甲に覆われた赤紫の身体に、文様のようなスリットの入った仮面。
「彼女を連れて、現実へ戻れ!」
手にした鞭を引き寄せ、大蛇の動きをさらに封じながら、そいつがまた言った。
やっぱりあの占い師の声で。今度はあたしの背後に向かって。
「こっちだよ」
あの女の声がして、左腕を引き寄せられた。
左を向いて見た姿も、さっきの女じゃなかった。
白い身体に白いマント。手に下げた細い剣。
そして、翼を広げた鳥の形のマスク。
こいつら、いったい何者・・・
260Swan Song (5) :02/12/09 23:24 ID:57QF2zwE
「あれが元の場所だ。つかまってな」
娘にそう言い、案内板に映る風景に向かってファムが跳躍しようとした時。
2人の身体を黒い尾が弾き飛ばし、石畳に叩きつけた。
「・・・!」
肩の激痛をこらえてすぐに立ち上がり、
アドベントのカードを抜こうとデッキに手を伸ばすファム。
だが、新たに現れた巨大な黒蛇の動きの方が速かった。
ふた抱えほどもある金属質の黒い胴が
あっという間にライダーと気を失った娘を取り巻き、
そのままじわじわと締め上げていく。
まずい。あたしはまだもつけど、この娘はじきに窒息する。
早くブランウイングを呼んで空から攻撃させないと。
焦りもむなしく、痺れた指先からレイピアが落ちる。
腰のカードデッキも蛇の胴に押さえ付けられたままだ。
だがその時。
「アドベント」
声と同時に三角形の何かが上空に現れ、
風を灼くようなスピードで黒蛇に突っ込んでいった。
エビルウィップで必死に緑蛇を押さえ込んでいたライアが、
蛇の力の弱まる一瞬の隙を突いてバイザーにカードを
差し込んだのだ。自分のモンスターを喚ぶために。

エビルダイバーのヒレ先が黒蛇の胴をかすめ過ぎる。
胴の真中に閉じ込められたファムには、一瞬紅い線が見えただけだったが。
次の瞬間拘束が解け、娘とともに石畳に投げ出される。
娘が息をしているのを確かめ、顔を上げたファムは見た。
黒蛇がかっと口を開け、狂ったように頭を振り立てるのを。
巨大な胴が半ば切断され、見事な切り口を晒しているのも。
261Swan Song (6) :02/12/11 01:10 ID:7B8Za0Ev
「ファイナルベント」
空中で長い尾を閃かせて反転し、
エイ型モンスターが再び高速下降を始める。主人の背中めがけて。
自分の真後ろで両ヒレが風を切り裂く音を聞いた瞬間、
ライアは跳躍した。そのままエビルダイバーの背に降り立ち、
前方に向かって身構える。標的は緑の蛇。
細長い尾を振り上げ、ライダーを叩き落そうとする蛇モンスター。
だがエビルダイバーのスピードにはかなわなかった。
振り下ろされる尾をすり抜け、ライアとエイが一体となって蛇を直撃した。

爆炎から飛び出したエビルダイバーの背からライアが飛び降り、
黒蛇とファムの方へ向かう。
「早くそいつにとどめを刺せ。時間が・・・」
「ソードベント」
ファムがバイザーにカードを差し込んだ。
大きな白い鳥の姿が空に現れ、澄んだ鳴き声が響く。
きらめきながら落ちてきたウイングスラッシャーを左手で受け止め、
大きく振りかぶるファム。黒い大蛇ではなく、ライアめがけて。
「ばかな真似はやめろ!」
金色の切っ先を避わして飛び下がり、ライアが叫ぶ。
「ライダ―同士戦っている場合じゃない。ここはミラーワールドの蛇の巣だ!
それにあの娘を早く戻さないと、死ぬぞ!」
「その前にあんたを倒すんだよ!」
言葉同様容赦のない薙刀の一撃が、今度はライアの右肩に命中した。
続いて左肩、胸と、一分の隙もない攻撃が続く。
止むを得ない。この女の動きを封じて、あの娘を一刻も早く現実へ返そう。
後退を続けていたライアが意を決し、コピーベントのカードを引き抜く。
だがその時、娘の絶叫が響いた。
振り向いたライアと、さすがに斬撃を止めたファムの目に、
十数匹の蛇に取り囲まれて恐慌状態に陥った娘の姿が映った。
262252:02/12/11 22:39 ID:RrGAjwRV
Swan Song(7)以降は週末にupします。スマソ。

263名無しより愛をこめて:02/12/12 20:46 ID:akaC146r
>>252,256,258-261
流れを邪魔しそうで感想を控えてましたが
ハーフタイムに入ったようなのでまとめて。

ifの「初代」ネタだったんですね。
初代の人は美穂に負けず劣らず勝気な娘さんでいい感じです。

迫るピンチと、美穂の時間切れの危機を
ライアとファムがどうやって切り抜けていくか
続きを楽しみにしています。
264Swan Song (7):02/12/15 04:22 ID:3x3XYn4T
気がついて周りを見たら、大蛇の群れに取り囲まれてた。
どっちを向いても、悪意に満ちた眼と脅すように閃く舌しか見えない。
その中から、オレンジ色の奴がこっちへのたくってきた。
自分の悲鳴が聞こえる。でも、今度も身体が動かない。
いやだ。お姉ちゃん、助けて・・・

あたしにできるのは、目を閉じることだけだった。
閉じる直前、何か紫色のものが見えたような気がした。

空から蛇の群れを襲わせるべく、それぞれのモンスターを
もう一度呼び出そうとデッキに手を伸ばした時。
ライアとファムも見た。
娘と橙色の蛇の間に躍り出た、もう一匹の巨大な蛇を。
扁平な頭部を持つ、凶々しい紫色の蛇だった。

行く手に現れた紫の蛇を見た途端、動きを止める橙色の蛇。
そのまま頭をめぐらし、元来た方へ這っていこうとする。
おびえてでもいるように−−他の仲間を出しぬいて、
娘に飛びかかろうとする貪欲さを見せたばかりなのに。
だが紫の蛇は許さなかった。
ひと飛びで相手に追いつくと、喉元にがぶりと噛みついた。
同族の喉元に。そのままがっちり牙を食い込ませ、
苦し紛れにうねくりまわる長い胴を上下左右に振り回す。
まるで自分の力を楽しんでいるように。
橙の蛇身が、ついに紫の顎からぐったりと垂れ下がった。
それを食らうでもなく、明らかに飽きた様子で地に放り出すと、
好戦的に舌を閃かせながら周囲の同族をねめつける。
「次はどいつだ」−−黄色くぎらつく眼がそう言っていた。
265Swan Song (8):02/12/15 04:29 ID:3x3XYn4T
大半の蛇たちが、新参の紫の蛇を恐れているのは明らかだった。
だが逃げ出そうとするものもいない。逃げればどうなるかは、
橙色の蛇の最期が示したばかりだ。
蛇が蛇に睨まれ、すくみ上がる。そんな異様な光景が続く。
焦れたように鎌首をもたげ、紫の蛇がシャアッと鋭く音を立てる。
その瞬間、四匹の蛇が飛び出した。紫の蛇の前、後、そして左右から。

だが見事な連携も通用しなかった。
牙を剥き出し、毒液を吐いて右の敵に浴びせると同時に
鋭く尖った金色の毒尾を振るい、背後の敵の目に突きたてる。
そして正面の敵が自分の首に牙を突きたてるのも構わず、
頭部に生えた8枚の刃を逆立てて左の敵の首を切断する。
紫の蛇はそのすべてを一瞬でやってのけ、同族三匹を屠ったのだ。
毒を浴びた蛇の頭部も、尾で目を突き刺された蛇の頭部も、
まだ蠢いている胴体の先で溶けてなくなっている。

そして最後に、噛みつかれたのを逆手にとって
頭からいきなり地に倒れ込み、正面の敵を引きずり倒した。
間髪を入れず相手に自分の胴体を巻きつけ、一気に締め上げる。
紫の蛇の背にある鋭い隆起が、正面の敵の胴をバラバラに切り裂いた。

動きの俊敏さ。毒の強さ。身に備わった刃や剣の鋭さ。
何にもまして、闘争心の凄まじさ。
どれを取っても紫の蛇にかなう蛇モンスターはいなかった。

ライアもファムも、そして娘も、逃げることを忘れて
蛇たちの凄惨な戦いを見つめていた。
紫の蛇の魔力に絡め取られたかのように。
見つめながら、三人とも同じものを思い浮かべていた。
できるなら二度と思い出したくないものを。
266252:02/12/15 05:07 ID:kl6jPhoj
話があまり進展してなくてすみませんが、2話upします。

>>263
ご配慮&読んでくれてありがとうございます。初代龍騎がいるなら、
初代ファムがいてもいいかなと思って書き始めました。
(最近の他スレでは百合絵さんが2代目みたいですが…)
267Swan Song (9) :02/12/16 01:58 ID:WWV8mf+l
目の前で次々と同族を殺していく紫の蛇。
その黄色い眼の光を見た三人が、三人とも思った。
あの男の眼に似ている。
自分たちと自分たちの大切な人間から、何もかも奪った男。
奪う前も奪った後も、何の後ろめたさも持たない男の眼に・・・
悪夢のような光景が三人の脳裏に再現され始める。

姉を殺した男が手錠をかけられ、連行されていく。警官に囲まれて。
あの男が手の届く所にいる今しか、チャンスはない。
下手に法の裁きを受けて軽い刑罰で済まされるくらいなら、
あたしが今あいつにお姉ちゃんの命の代償を払わせてやる。あいつの命で。
だが、娘の構えた刃物が男の心臓に届くことはなかった。
男のぎらつく眼が警官に取り押さえられた娘を見つめ、
すぐ興味を失ったように逸らされた。
殺せ。あいつを殺さないなら、あたしを殺せ。
喚きながら暴れる娘と男の距離が、たちまち離れていった。

降りしきる雪の向こうから野獣のような叫びが聞こえる。
そう女が思った時、右脚に息が止まるほどの衝撃と激痛が走った。
突然目の前に現れた蓬髪の男が、
手にした棒のようなものを思いきり脚に振り下ろしたのだ。

白く冷たい路面に崩れ落ちながら、ファムになる前の女は見た。

その何十秒か後、ライアになる前の青年も見た。
雪の上にうずくまる友に駆け寄って傷の深さが尋常でないと知り、
怒りに駆られて、通行人に取り押さえられた加害者を見上げた時に。
あのぎらぎらと光る双眸を。
凶暴な力への渇望と、自分を苛立たせるものすべてに対する
憎しみに満ちた眼を・・・
268252:02/12/16 02:10 ID:WWV8mf+l
9回目をupしました。
10回目から先はまた週末になると思いますので、
新しいSSを作った方がいたら、先にupお願いします。
269名無しより愛をこめて:02/12/16 19:24 ID:GiL0EQA+
>>175
優衣が優しく描かれていて、いい感じです!
270名無しより愛をこめて:02/12/16 19:24 ID:GiL0EQA+
ついでに防止!
271名無しより愛をこめて:02/12/17 21:05 ID:lyDI4fQd
 良スレあげ
272名無しより愛をこめて:02/12/17 21:06 ID:lyDI4fQd
 良スレあげます
273名無しより愛をこめて:02/12/18 21:01 ID:aJzHYO4e
ええと、激しくスレ違いで申し訳無いですが
同じSSスレのよしみで告知させてください。

平成ライダーに昭和ライダーが出る話を考えよう!
のスレが容量オーバーで書きこめません。
同スレの>>1さんか有志の方、お早く新スレを立ててください。
楽しみにしてる一読者としてお願いしたしますわ。
274THE OTHER WORLD:02/12/18 22:01 ID:tti4QOcQ
すみません。お借りします。
平成ー昭和スレの次スレ
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1040214437/l50

どうもすみませんでした。このスレは自分も見させて頂いています。
続編を楽しみにしてますので、お互いにがんばりましょう。
スレ汚し、申し訳無いです。
275名無しより愛をこめて:02/12/18 22:07 ID:wQY2yR25
>クウガの一般層は信者になった。

これじゃ、あんまりだろう。
それでもクウガが好きなオレの見解は、

・クウガの満たされない一部の人間がクウガ信者となった
 (映画がなかったとか、なんでアギトばっかとか)。
 一般層は、すんなりアギトに移った。

・アギトも信者はいる、アンチもいる。
 人気を得たんだから当たり前。
 一般層は、やっぱり龍騎に移った。

・ファイズの出来次第では、龍騎も忘れられていく運命。

あくまで、オレの見解ね。
276名無しより愛をこめて:02/12/18 22:24 ID:gmbYF4UT
↑誤爆?
277名無しより愛をこめて:02/12/20 01:13 ID:QT9ON2vL
良スレあげ。
278名無しより愛をこめて:02/12/23 02:17 ID:X4Sd/SjQ
良スレあげ。
279252:02/12/23 05:10 ID:byCm0wIv
>>269
ありがとうございます。なるべく優衣の心を丁寧に
書こうとしたので、嬉しいです。

>>273, 274
新スレおめでとうございます。私も見せてもらいましたが、
もう充実したSSがたくさんupされてるので驚きました。
これからもがんばってください>ライターさん方
(私も、ネタがあればまた・・・)

>>270-272, 276-278
保守どうもです。252からの話が完成したのでupしにきました。
280Swan Song (10) :02/12/23 05:13 ID:byCm0wIv
たった今4匹の仲間を屠った蛇と、親友から手を奪った男。
2つの兇暴な姿が、ライアの目の前でひとつに重なる。
・・・だがそれだけでは終わらなかった。
もうひとつの映像が浮かび上がり、蛇と男に重なったのだ。

投げやりにも見える足取りで、こちらへ歩いてくる姿。
平たい頭部。紫色の身体。左手に下げた、金色に輝く反身の剣。
何かに似ている−−あの蛇の尾だ。
まさか。
「何ぼさっとしてるんだよ!」
冷たい予感に麻痺しかけたライアの意識を、ファムの声と衝撃が解き放った。
直後、今までいた位置の石畳が毒液を浴びて溶け崩れる。
仲間をいたぶるのにも飽きた紫の蛇が急に標的を変え、
ライダーと生身の人間めがけて襲いかかってきたのだ。
その隙に逃げ出したのか、あれだけいた他の蛇たちは一匹も見当たらない。
ライアを突き飛ばして救ったファムがカードを引き抜く。
「アドベント」
再び毒液を吐こうと身構える蛇の真上から、白鳥が翼をたたんで急降下する。
だが鋭い嘴が蛇の眼を抉り出す直前、金色の尾が稲妻のように閃いた。
毒尾で長い首を打ち据えられ、悲鳴を上げる白鳥。それでも何とか翼を広げ、
間髪を入れず迫ってきた蛇の牙をかいくぐって舞い上がる。
だがよろめくように羽ばたく姿は、再び飛びかかれそうには見えなかった。
「ソードベント」
「早く、あの子を現実に!」
カードをバイザーに入れ、ファムがライアに叫ぶ。
「やめろ・・・おまえ一人ではあいつに勝てない、俺たちと一緒に逃げろ!」
「早く!」
幅広い鎌首を流れるように上下させて攻撃の隙をうかがう蛇を
ウイングスラッシャーで牽制しながら、ファムが苛立ってまた叫んだ。
「お前だろ、早くしないとあの子が死ぬっていったのは!」
281Swan Song (11):02/12/23 05:17 ID:byCm0wIv
ファムの言葉にはっとして娘の方を見るライア。
度を越した恐怖のあまり、虚ろな目で座り込んでいた。
腕や肩から煙のように立ち上る無数の粒子を見つめたまま。
まずい。身体と外界の区別がなくなってきている。もう一刻の猶予もない。
心を決め、娘に駆け寄って抱き上げた。
そのまま掲示板に向かい、勢いをつけて走り出す。
その姿を、8枚の刃をつけた鎌首が追った。
ファムの横をすりぬけ、稲妻のような速さで。
細長い口が裂けんばかりに開かれ、牙から毒液が流れ落ちた。
ライアがエビルダイバーを呼ぶ余裕も、
毒に侵されたブランウイングが再度攻撃する余裕もなかった。
背中に殺気を感じ、ミラーワールドの出口に達するまでに
必ず追いつかれると確信したライアが走るのをやめた。
抱きかかえた娘に覆い被さるようにひざまずき、生身の皮膚の露出を防ぐ。
それが精一杯だった。
ライダーの背中を狙って、コブラモンスターの喉から
硫黄のような色と匂いの毒が迸った。
「ガードベント」
声に続いて、異様に澄んだ音がうねるように響き渡る。
ごく薄い金属片同士がぶつかりあった時のように。
同時に、シャアアアアアアアッという凄惨な怒りのみなぎる音。
娘を固く抱きしめてうずくまっていたライアが頭を上げて振り返り、見た。
地に転がる、ドロドロに溶けた白い盾。
金色の薙刀を身体の前で構えた白いライダー。
ライダーを瞬時にこの場に運んだ時のまま、風をはらんで広がる白いマント。
そして側頭部の刃のひとつを切り飛ばされ、憤怒にのたうち回る紫の蛇。
次の瞬間ライアは絶叫した。
「霧島ああーーーーーーーーーーーーっ!」
やられたと見せかけ、隙をうかがっていた蛇の牙が深々と突き立てられていた。
誰が見ることも不可能な速さで。ファムの首元に。
282Swan Song (12):02/12/23 05:20 ID:byCm0wIv
喝采。照明の熱。
ステージに落ちる、自分の濃い影と飛び散る汗の粒。
そんな映像や感覚が次々と女の前に浮かんでは消える。
そして最後に、知り合ったばかりの娘の顔が現れた。泣いている。
「死ぬんじゃないよ…しっかりしてよ、ねえ。
また踊りたいんでしょ、あんた?」
ファムから人間の姿に戻った女が微かに微笑む。
自分の運命を変えたな、おまえ。
娘の隣の青年が、心の中でそうつぶやく。
憔悴し切った顔に、突き刺さるような哀しみを浮かべて。
ファムが牙の一撃を浴びた直後にエビルダイバーを喚び出して
紫の蛇の頭を空中から集中攻撃させ、その間にたった一人で
娘と倒れたファムを抱え、ミラーワールドの外に脱出させたのだ。
ライア――手塚海之には分かっていた。
女は今日倒される運命にはなかった。
自分と娘を救うために紫の蛇の前に飛んだ時、運命を変えていたのだ。
自らの意志で。
女がまた笑みを浮かべた。手塚の心を読み取ったかのように。
血の気を失っていく唇が動く。
「これでよかったのかもね・・・
あんたの言ったとおり、大切なものを奪われた者同士が命を奪い合うなんて、
やっぱり虚しすぎるのかもしれないしさ。
あたしは、結局ライダーに向いてなかったのかも。
……でも」
言いながら、半ば感覚を失った手につかんでいたものを差し出す。
娘に向かって。
「あたしはもう踊れないけど、あんたなら望みをかなえられるかもしれない。
本当に姉さんを生きかえらせたいのなら、あんたにチャンスをあげるよ。
その代わり、覚悟しておきな。後戻りはできないから」
それが最後の言葉だった。
283Swan Song (13):02/12/23 05:36 ID:byCm0wIv
受け取った白い板を握りしめて胸に押しつけ、声を殺して泣く娘。
その後で黙祷を捧げるように佇む青年。
そして、望みをかなえることなく息絶えながら、
奇妙に安らかな表情で横たわる女。

まだ日は高いのに誰もいない公園に、澄んだ哀しげな声が響き渡っていく。
女の高音部の歌声に似ていないこともなかった。
目を閉じた手塚にも、そして娘にも分かった。
それが掲示板ばかりか、公園の周りを囲むビルの窓や
電話ボックス等、あらゆる鏡面の中から聞こえてくることが。
主人を失った白鳥の嘆く声だということが。

長い時間の後、とうとう手塚が沈黙を破った。
「彼女……霧島美穂は、将来を期待されるダンサーだった。まだ無名だったが。
俺の親友の雄一が、才能はあるが無名のピアニストだったのと同じように。
あとはお前も聞いたとおりだ。
ある冬の夜、二人とも浅倉の犠牲になり、生きる望みを断たれた。
そして神崎士郎という男が霧島と雄一の前に現れ、カードデッキを渡した。
お前が今持っているのと同じものだ」
「これで、このひとと同じ白いのに変身して、あんたみたいなのと戦って
勝ち残れば、望みがかなうんだよね」
霧島美穂の死に顔を見つめたまま、娘が妙に平板な口調で言う。
「ああ。だがそれは神崎の口約束にすぎない」
「でも可能性はあるんだろ」
「聞いたろう、霧島が言ったことを!」
感情を抑え切れず、声を荒げる手塚。
「一度ライダーになったら、後戻りはできない。
それに、勝ち残るためには他のライダーを殺さなければならない。
自分もいつ殺されるかわからない。
そんな修羅の世界に足を踏み入れたいと、本気で思うのか!」
284Swan Song (14):02/12/23 05:44 ID:byCm0wIv
「ああ。それしか方法がないんならね」
「霧島は、自分と同じ苦しみを背負った雄一とさえ戦うと言った。
だが結局は非情になり切れなかった。
だからこそ俺やお前は、こうしてここにいられる。
雄一は人を殺すことを拒み通して、死の運命を受け入れた。
お前は非情になれるのか。お前の望み…姉さんを生き返らせるために
本当に誰かを殺せる気か?」
「間違えないで。霧島美穂は、あたしだよ!」
思いがけない言葉に虚を突かれる手塚。
その言葉の意味を悟った瞬間、表情が苦悩に歪む。
「どうしても受け継ぐ気か……ファムのカードデッキを」
着ていた長いコートを脱ぎ、霧島美穂だった女にそっと被せると、
霧島美穂は手塚に向き直った。右手に白鳥の紋章の付いたデッキをつかんで。
「今はその気になれないけど、あんたとも戦うよ、今度会ったら」
「よせ。戦えば間違いなく破滅するぞ!」
「あんたは友達を助けられなかったけど、あたしは絶対お姉ちゃんを
生きかえらせる。最初の霧島美穂のためにも。じゃあね」
霧島美穂という名の火に油を注ぐだけだと知りながら、
手塚は叫ばずにいられなかった。去っていく後姿に向かって。
「あの紫の蛇――あいつはいずれ、浅倉威と契約する。
戦っているときに見えた。奴がライダーになれば、俺やお前に
勝ち目はない。わかるか。あの蛇たった1匹にさえ、
俺たちレベルのライダーでは歯が立たなかったんだぞ!
俺の占いは……………当たる」
最後の言葉には、血の出るような苦悶と怨念がこめられていた。
自分の力に対する怨念が。
「上等じゃない」
振り向かず、歩く速さをゆるめず、美穂が叫び返した。長い髪が風に舞う。
「これで、仇を取ってあげられる。あたしのお姉ちゃん2人の仇を」
285252:02/12/23 06:48 ID:bIG1y3oo
「Swan Song」がやっと完成したので up しました。
読んでくださった方々、ありがとうございます。

266で書いたように「初代ファムがいてもいいかな」というのと
「ライアも好きだから出そうかな」という気持ちで書き始めましたが、
結局ずいぶんサツバツとした話になってしまいました(汗)
(2人の共通点である、浅倉との因縁を強調したので
ある意味当然なのかもしれませんが)

しかし、今日(もう昨日)のテレビのベノは凶悪だった…
浅倉復活に期待します。

他の方のSSも、upよろしくお願いします。
286名無しより愛をこめて:02/12/23 14:28 ID:d0gOMOas
Swan Songさん、おつかれさまです。
楽しませて頂きました。次回作も期待してますよ。(w
287名無しより愛をこめて:02/12/23 22:51 ID:GGflR82w
( ゚Д゚)ポカーン
288252:02/12/23 22:56 ID:lx9+XSsL
>>286
ありがとうございます、楽しんで頂けたら本当に嬉しいです・・・
今後のテレビ本編の展開も盛り上がりそうなので、
また何かネタができたら書いてみたいと思ってます。
289名無しより愛をこめて:02/12/27 02:25 ID:uNR4z6Z5

290名無しより愛をこめて:02/12/27 14:28 ID:W0waHNsd
良スレあげます。
291名無しより愛をこめて:02/12/29 11:02 ID:iE+qVwOc
新作まだ?
292名無しより愛をこめて:03/01/01 14:38 ID:WPq8xOBL
保守
293名無しさん:03/01/02 23:48 ID:gaiMyZ1K
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
Λ_Λ  | 君さぁ こんなスレッド立てるから          |
( ´∀`)< 厨房って言われちゃうんだよ             |
( ΛΛ つ >―――――――――――――――――――‐<
 ( ゚Д゚) < おまえのことを必要としてる奴なんて         |
 /つつ  | いないんだからさっさと回線切って首吊れ     |
       \____________________/

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)

(-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ… (-_-) ハヤクシンデネ…
(∩∩) (∩∩) (∩∩)
294秋山蓮のお見舞い日記:03/01/02 23:49 ID:0pdn3m9D
恵理が事故に遭ってから、見舞い状が1回届いたきりで、誰一人病院に来なかった。
同じ学校の奴らは恵理の事を心配しないのか?薄情な連中に怒りを覚える。

今日も病院に行く。エレベーターが開いた時、白い布を被せられた台車が目の前に現れた。
一瞬ドキっとした後、泣きながら台車に付き添う男とすれ違う。
男が亡骸に向かって繰り返し呟く「なぜ…」とか「愛してたのに…」とかの言葉に、
いつの間にか男の姿を自分と置き換えて、息を苦しくしてる事に気付き、喝を入れる。
恵理は絶対に、死なない!死なせない!俺が助ける!…恵理を死なせたりするものか!

それでも恵理を前にして今の出来事を思い返すうち、知らずに涙がこぼれてきた。
世界中を敵に回しても、他のライダーを手に掛けてでもお前を救う。そう誓った筈なのに…。

帰りがけのロビーで、醒めるような赤が目に付いた。ごみ箱の上に綺麗な花束が置いてある。
『大好きだよ。早く元気になると信じて僕は君の帰りを待っているから』
この言葉が署名無しに添えてあった。退院を願う花束とカードが、ここにあるという事は…。

ああ、そうか。さっきの悲運な見舞い客を思い、俺の胸も熱くなった。
届かなかった誰かの「思い」が、そこに朱く残ってる様な気がした…。


店に飾れと言って渡しても、優衣は素直には喜ばなかった。
「ねえ、蓮?ホントに買ったの?どこかで拾ったんじゃないの?この花」
「あーもー。俺がそんなケチくさい事するか!」
…いや、当たってるけど。

「なんかこのアレンジおかしいよ?何本か抜いちゃった?」
「だから、そんなケチくさい事しないって!」
…いや、当たってるけど。

一番鮮やかなバラを恵理の枕元に飾った。祈りを込めたカードには俺の名を添えて。
誰かは知らない。でもその祈りの力…、叶わなかった願いの力…、俺に貸してくれ。
誰かが祈り願った思いの上に、俺の思いを上乗せして祈る。届け俺の「思い」。恵理に届け。
295294:03/01/02 23:50 ID:0pdn3m9D

なんだか、シリアスなのかコントなのか判らなくなりましたが…

>>189を見ててなんとなく浮かんだ光景です。

蓮なら平気で、

使えそうな物は「もったいない」と拾って帰りそうな気がしたので(汗)

あと、贈りたかった相手には一応届いたという話だったり(報われてないけど)


**************

「Swan Song」感想。

たとえその身が力尽きたとしても

「名前」と「力」と「意思」を受け継ぐ少女が居る

…というシチュエーションは燃えますね。

(ちょっぴり、TV版の麻宮サキ襲名を思い出してしまいましたが(汗))

浅倉という共通の憎しみで繋がったライアとファムと言う設定が

また新鮮な視点を与えてくれて面白かったです。

戦闘シーンもメリハリがあって良かったですよ。
296294:03/01/03 11:51 ID:LvVMSZMH
あれ?レス番号間違えました。
295は、>189でなくて>>188です(焦)
297252:03/01/04 04:16 ID:N3Oj4VSs
>>294, >>295

>あと、贈りたかった相手には一応届いたという話だったり(報われてないけど)

仲村くん・・・不憫や(泣)
そういえば、本編で仲村オルタナティブが優衣を狙って
活動し始めた頃と、恵里が目覚めた頃は重なるんでしたっけ。
「お見舞い日記」と185-の「オマエハ…マチガ…」を読むと、
仲村君が意識の戻った恵里を一目でも見られれば
よかったのにと思えてきます。

>「なんかこのアレンジおかしいよ?何本か抜いちゃった?」

その後「このままじゃ飾れないからドライフラワーにするね」
と言って、花鶏の天井から花束を逆さに吊るす優衣・・・
で、優衣に資料を渡すために花鶏へ来たときに
それを見て「どっかで見たような気がするが、気のせいか」
と思う仲村君・・・
などと妄想してしまいますた。スマソ

>誰かは知らない。でもその祈りの力…、叶わなかった願いの力…、俺に貸してくれ。

恵里が目覚めたのは、この時の蓮&仲村の祈りのおかげでしょうか。
298252:03/01/04 04:26 ID:N3Oj4VSs
>>295
感想ありがとうございます。嬉しいです。

スケバン刑事ですか、懐かしや「少女鉄仮面伝説」
(実際の番組は見てませんでしたが、斎藤由貴・
南野陽子と襲名したのは知ってました)

「Swan Song」は、
ファムの契約モンスター→白鳥→「白鳥の湖」→
もし霧島美穂の職業がバレリーナだったら?
という、どうしようもなく安直な発想が元になってます(恥)

でも元の霧島美穂をバレリーナにしたら
まんまロビーナちゃんだし、それに初代龍騎のような
存在をファムにも作りたいと思ったのもあって、
ご指摘の通り初代からデッキと共に名前と意志を
受け継いだ少女の話にしました。
(実際に書いてみると初代ファムのキャラクターには
クラシックバレエよりフラメンコ等の方が似合いそうなので(w、
バレリーナでなくダンサーに変えました)

>浅倉という共通の憎しみで繋がったライアとファムと言う設定が

>また新鮮な視点を与えてくれて面白かったです。

>戦闘シーンもメリハリがあって良かったですよ。

ありがとうございます。
ライアもファムも各々の契約モンスターも好きな上に、
この二人が会って話したり戦ったりしたらどうなるかが
自分でもすごく興味あったので、
面白いと思っていただけたなら本当によかったです・・・
299名無しより愛をこめて:03/01/06 09:25 ID:mP46KYkt
保守
300名無しより愛をこめて:03/01/06 13:36 ID:ZqpUDvmH
良スレあげ。
301山崎渉:03/01/08 21:34 ID:ABaujfWf
(^^)
302名無しより愛をこめて:03/01/10 04:11 ID:QJGn6Zoo
age
303名無しより愛をこめて:03/01/10 06:30 ID:ATzXVGdJ
>>1
エプソードフォナル
304名無しより愛をこめて:03/01/12 23:20 ID:ZTslRSiQ
良スレあげ
305名無しより愛をこめて:03/01/14 00:59 ID:SS0xfmPS
 良スレあげ
306砕けた鏡(1):03/01/14 03:01 ID:bQOfCkb+
また戻ってこられた。
正直、今度こそ二度と帰れないかもしれないと思っていた。
だから素直に嬉しい。
この大きな窓の前に座っていられるという、それだけのことが。

ただ、ひとつ足りないものがあった。
事務机のそばに置いてあった大きな姿見だ。
ゴロちゃんに聞くと、気まずそうに目を伏せて言った。
「すいません、先生・・・俺が掃除中にうっかりよろけて
ぶつかったら粉々に割れちゃって」
だいたい予想通りの答えだった。やれやれ。
ゴロちゃんが嘘つくの下手だって分かってるのに、
悪いこと聞いちゃったかな。
まあいい。
これでどっかの陰鬱な顔の男がいきなりあの鏡に映って、
「誰それが死んだ」だの「遅すぎたということのないようにしろ」
だの言っていく心配がなくなった。
夜、せっかくここでくつろいでるときにあれをやられた時は、
心底うんざりしたものだ。

もっとも、「見舞い」に来た秋山の言うことを信じるなら、
どのみちあの男はもうここへは現れないだろう。多分。
脱落者とみなした者のところへは。
いいよ。バトルの主催者はあいつなんだ。好きにするがいい。
こっちももう、戦いには飽き飽きしてたところだ。
・・・やっぱり、あいつのバカをうつされたのかな。
最強クラスのモンスターと契約したくせに、
戦いに勝ち抜こうとするどころか止めようとしてるあのバカ。
騙したりアゴで使ってやったりしたこともあったけど、
あいつの術中にはまったのは実は俺の方でした、ってことか。
307306:03/01/14 03:15 ID:SjTMLgL6
TV先週と先々週の補完を書いて見ました。
話の性格上、最終回の放映までには完成させないとまずいので(鬱)
なんとかがんばります…出来はともかく

P.S.
28さんの劇場版北岡エピローグと似てしまってすみません
(↑先生の「じゃあねマグナギガ」の台詞が好きです)
+
ageてくださった方々どうもです
308砕けた鏡(2):03/01/15 01:33 ID:srbxe/1I
何かが白大理石の床に当たって硬い音をたてた。
「−−すいません」
目を上げると、緑のカードデッキを拾おうと
あわてて身をかがめるゴロちゃんがいた。
俺の上着をソファから取り上げたとき、滑り落ちたらしい。
「ああ、いいよいいよ・・・」

よく考えれば結構いい線いってたじゃない、俺の人生。
少し短いかもしれないけど。
ありあまるほどの金。抜群の容姿。
やり手の弁護士という結構な社会的地位。
それにもちろんゴロちゃんがいてくれた。
あとは、令子さんを落としさえすれば・・・
そう思って机の前に行き、携帯を取り出す。
でもすぐ落とした。手に力が入らない。
参ったな・・・ゴロちゃん、顔そむけちゃったよ。

ともかく、明日の約束は取りつけた。
通話中、渋る令子さんの声に島田とめぐみらしい声が
割って入り、しばらく会話が途切れた後、OKの返事が来た。
あいつら、令子さんに余計なこと言ってなきゃいいが。
ま、ゴロちゃんがよく言って聞かせてあるみたいだから
大丈夫だろうけど。

警察から連絡が入ったのは、そのすぐ後だった。
「浅倉威の潜伏先が判明。明朝突入。
抵抗著しい場合は射殺もやむなし」
309砕けた鏡(3):03/01/15 01:41 ID:srbxe/1I
これでもう思い残すことはなくなった。
貴重な日々を安らかな気持ちで過ごせる。
特に明日は、令子さんと一緒に。
・・・目をぎらつかせたあいつがいきなり現れやしないかと
気を揉むこともなく。

俺とゴロちゃんをさんざん悩ませた野獣は明日の朝、
無数の銃弾を浴びて無駄な一生を終える。
まさに因果応報ってやつだ。
今夜はよく眠れるだろう。そう思って床についた。

だが眠りが訪れることはなかった。
代わりに目の前に繰り返し浮かんできたのは、
粉々に割れた姿見の幻影だった。

あの姿見がなくなっているのに気づいたときから、
何となく想像がついていた。
あれは、わざと叩き割られたのだ。
誰に?決まってる。
俺の入院騒ぎで誰もいないときに侵入した浅倉だ。
おそらく秋山が神崎から俺の脱落を聞いたとき、
あいつもその場にいたのだろう。
当然「北岡の脱落なぞ認められるか」ってわけで、
またもここへやって来た。
で、誰もいないので例によってイライラを爆発させた。
そんなところか。
310砕けた鏡(4):03/01/15 01:48 ID:srbxe/1I
ゴロちゃんだってすぐに、浅倉の仕業だと気づいたはずだ。
だから自分が壊したなんて嘘をついた。
俺を心配させないために。

弁護士として最初に接見したときから、あいつには手を焼いた。

「浅倉さん。すまないけどもう一度いってくれませんか?」
「・・・何をだ」
「だから理由ですよ。理由。あなたが相手を動かなくなるまで
殴り続けたのは何故なんです?」
「何度言わせる気だよ・・・」
「だからねえ、イライラしたからだなんてそんな」
「イライラしたからだよ。それだけだ・・・もう言わせるな」
「あのねえ。あんた裁判で少しでも有利になりたいとか、
そういう気持ちあるわけ?あるならもうちょっとましなこと答えてよ、
今みたいな返事じゃどうにもならないんだよ!わかるでしょ?」
ついにブチ切れた俺を瞬きもせずに見つめた後、
あいつはにたりと笑ってみせたものだ。仕切りガラス越しに。
「ほう。おれに向かってそんな口をきいた弁護士は初めてだな。
面白い、期待してるぜ。無罪にしろよ」
「・・・・・・」

正直、俺もあいつの弁護を投げようと何度思ったかわからない。
それまで何人もの弁護士が逃げ出したように。
だが自ら望んだ仕事でないとはいえ、
いや望んだ仕事でないからこそ、
逃げるなんてことは俺のプライドが許さなかった。
いいだろう。この救いようのない野良犬のために、
黒を白に変えてやろうじゃないか。この北岡秀一が。
311306:03/01/15 02:06 ID:lP25yS2B
3話分追加です。
308の最後の3行の内容は、テレ朝公式の49話あらすじから拝借しました。
(警察から北岡に浅倉包囲の連絡が入るシーンは、本編では
カットされていて、代わりに警官の「射殺やむなし」の声にかぶって
倉庫みたいなところに立つ浅倉と、眠れないでいる北岡の映像が
流れてましたね)

あと、司法関係の描写で万一ウソ書いてたらすみませぬ。
(あまり触れないようにはしてますが)
312名無しより愛をこめて:03/01/15 02:34 ID:7UOWsyb1
>306
うぉ。かっこいいな弁護士。

続きはあるのかな?
ちょっと楽しみ。
313砕けた鏡(5) :03/01/16 03:18 ID:EXs6NdZH
いくら巧みに白を上塗りしたところで、黒は黒だ。
それでもあらゆる手を使って、懲役10年という結果を出してやった。
浅倉のしてきたことを考えれば、軽すぎるといえる刑だ。

拘置所でそれを告げた俺に、あいつはまた笑ってみせた。
蛇のように瞬きもしない眼は笑っていなかったが。
「いまもイラついてる。無罪にできない役立たずにな」

「浅倉さん、悪いけどあんたとは合わないわ。
控訴するんなら他の弁護士雇ってよ」
そう言い捨てて背を向けたときほど、
せいせいした気持ちになったことはなかった。
やるだけのことはやった。野良犬がいくらイラつこうが
逆恨みしようが、もう俺には関係ない。
二度と会うことはないだろうからな。

だがそれはとんでもない間違いだった。
314306:03/01/16 03:27 ID:EXs6NdZH
>>312
読んでくれてありがとうございます。嬉しいです。

一応、先週の北岡の「やっぱり浅倉とは決着つけなきゃ」
という台詞につながるまで書きたいと思ってますが、
最終回のある日曜朝までに完成できるかどうか…
(でも何とかがんばります)
315名無しより愛をこめて:03/01/18 00:02 ID:nYqGauQ7
 新スレです、ヨロシク!
 【手を取り】ライダー共闘SSスレその3【戦え】

http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1042661010/l50
316名無しより愛をこめて:03/01/18 00:21 ID:nYqGauQ7
 良スレあげ
317306:03/01/19 05:04 ID:h6/9Y+TA
>>315
新スレおめでとうございます。時々見せてもらってますが、
相変わらずものすごい活気ですね・・・これからも楽しみにしてますので、
みなさんがんばってください。
(この補完スレもリンクしてもらったんですね。どうもです)
318砕けた鏡(6) :03/01/19 05:06 ID:h6/9Y+TA
脱獄犯、そしてライダーになった浅倉に対して
何の恐れも抱かなかったといえば嘘になる。
俺の知らない間にライダーを2人も倒し、
その契約モンスターまで従えるようになったあいつ。
追われる身でありながら追い詰められた気配など
微塵もみせず、俺の前に何度でもふらりと現れては
戦いを挑んでくるあいつ、仮面ライダー王蛇に。

もちろん、あいつに負けてやるつもりなど更々なかった。
仮面ライダーゾルダとしても、北岡秀一としても。
正々堂々戦ってやろうなんてつもりもなかった。
腹を空かせた契約モンスターの餌を狩るのを邪魔したり、
土下座しながら鏡面のない場所に誘い込んで
警官隊に包囲させたり、バカな弁護士に少々薬を盛ったり。
我ながら手段を選ばなかった。あいつを再び牢に叩き込むか、
いっそ抹殺するためなら。

だが何度罠にはめられても、あいつは必ず抜け出してきた。
抜け出すたびにふてぶてしさを増しながら。
警官の群れも、拘束具も、眼前に迫る車も、
そして飢えた契約モンスターの攻撃さえも、
あいつを止めるどころかたじろがせることさえできなかった。

その間にも、俺の病気は止まることなく進行していった。
319砕けた鏡(7):03/01/19 05:08 ID:h6/9Y+TA
あの時、なぜ俺は浅倉にとどめを刺さなかったのだろう。
あいつとあの最低の若造、東條に
エンドオブワールドをお見舞いしてやった後に。
「気にするな」
おまえ、ケガしてるみたいだな。そう言う俺にあいつは答えた。
血を流し、壁で体を支えなければ立てないほどの
ダメージを受けているのに、心底楽しそうに笑いながら。

あいつのそんな闘争本能と生命力は俺にとって
脅威であり、やりきれない怒りの対象だったはずだ。
なんで俺じゃなく、浅倉のような野獣が
勝手気ままに延々と生きていられる。
生きていたって何の役にも立たないあいつが・・・
何度そう思ったかわからないのに。

その答えは、誰もいない401号室で暴れている
あいつを見たときに出ていたのかもしれない。
320砕けた鏡(8):03/01/19 05:11 ID:h6/9Y+TA
戦いに対する飽くなき欲望。
それだけを力の源にして生きるという運命を
負わされた人間なのだろう、浅倉は・・・否も応もなく。
俺が病魔に侵される運命を否応なく負わされたように。

そして病魔が俺の命を燃やし尽くそうとしているように、
浅倉の力の源はいずれあいつ自身を焼き尽くすだろう。
あいつが望むような終わりなき戦いと、手応えのある相手。
そんなもの、元々この世には存在しないからだ。
あいつがガキの頃も、これから先も、ずっと。
いや。
戦いへの満たされない欲望に焼き尽くされる前に、
警察に代表されるこの世の中があいつを葬るだろう。
今まで何度も試みてきたように。
秩序とは無縁な、どころか秩序を破壊せずには生きられない、
そんな人間の存在をこの世の中が許すはずはない。
・・・ライダーバトルであいつが死ななかったらの話だが。

あいつは、生まれたときから破滅を約束されていたのだ。
401号室で獣のように吼えながら鏡を砕きまくる浅倉を見て、
それがはっきりと分かった。
毒々しい蛇柄のジャケットが、あいつに絡みついて離れない
呪いそのものに見えた。
321砕けた鏡(9):03/01/19 05:15 ID:h6/9Y+TA
それ以来、浅倉と戦ったり、倒そうという気持ちは
次第に失せていった。
病気の進行が速まり、戦いに嫌気がさしてきたせいもある。
東條に呼び出され、河原で浅倉と最後に戦った時もそうだった。
お間抜けにも自分の契約モンスターの毒を浴びて
のたうちまわるあいつを見ていると、どういうわけか
無性に哀しくなった。

だが、炎上する車の中に俺とゴロちゃんを
引きずり込もうとした時は、さすがにあいつの死を願った。
もう生き返ってくるなよ。
あいつに傷を負わされたゴロちゃんと一緒に命からがら
逃げ出しながら、心底そう思った。

その後病状はさらに悪化し、また入院を余儀なくされた。
ライダーバトルからも脱落を宣告された。

もういい。殺したり殺されたりは十分だ。
これからは令子さんやゴロちゃんと一緒に楽しく過ごそう。

そう思っていた矢先、浅倉の破滅が確定した。
「抵抗著しい場合は射殺もやむなし」
322砕けた鏡(10):03/01/19 05:18 ID:h6/9Y+TA
願ってもない話のはずだった。
だが喜ぶ気にはなれなかった。
令子さんと約束した日の前夜、
安らかな眠りが訪れることもなかった。
粉々に割れた姿見の幻影が、眼の前を離れなかった。

破滅の運命にとことん逆らって、浅倉が
どこまでも生き延びるのを見てみたい−−
俺は、そう思っているのかもしれない。

今まで決して認めまいとしてきたが、
ライダーとして戦っているときのあいつからは
溢れんばかりの生命力が感じられた。
俺をたじろがせ、そしてあろうことか羨望を引き起こすのに
十分なほどの、無邪気に遊ぶ子供のような生命力が・・・
それが消えてしまうのを見たくはない。
俺にはもう得られないものだからこそ。

だから姿見を壊したのが浅倉だと直感し、あいつが
あの炎の中でも死ななかったことを知った時、
忌々しいと同時に妙にほっとした気持ちになったのだ。

まったく、我ながらどうかしてる・・・いくら病気とはいえ。
本当ならあいつを倒して永遠の命を手に入れるべきなのに、
よりによって生きて欲しいと思うなんて。
俺を狙い続けるあいつに。
323山崎渉:03/01/19 05:20 ID:FCZayUD6
(^^)
324砕けた鏡(11):03/01/19 05:27 ID:h6/9Y+TA
だが、どのみち虚しい願いだった。
俺がライダーバトルに賭けた、自分の永遠の命同様。
あいつが「著しく」抵抗しないわけがない。
おとなしく投降して刑務所に戻るのは、
あいつにとって死ぬのと同じことだ。
抵抗しようがしまいが、あいつは死ぬ運命にある。
・・・・・俺と同じように。

俺にできるのは、今、あいつと戦ってやることだけだ。
どうせ破滅するなら、俺があいつを倒してやる。
俺と同じように、理不尽な宿命を背負わされたあいつを。
警察なんぞに蜂の巣にされる前に。

「ゴロちゃん。俺、やっぱり浅倉とはちゃんと
決着つけてやんなきゃいけないと思うのよ」
翌朝、俺はそれだけ言った。

浅倉−−おまえのイライラは絶対に消えないだろうよ。
この世に生きているかぎりな。
一時でも解放されたきゃ、ライダーとして戦うほかはない。
しかも、おまえが物足りなさを感じない相手は俺しかいないときた。

つくづく救われない人間だよな、おまえも。っていうか、俺が。
おまえのイライラを消してやるために使う命の
持ち合わせなんてないのにさ・・・
でも決めたよ。とことん戦ってやろうじゃない、今日は。
おまえが俺の前で土下座したくなるまでな。
少なくともおまえを無罪にするよりは、その方が簡単だろう。

END
325306:03/01/19 05:39 ID:h6/9Y+TA
放送ぎりぎりになってしまいましたが、なんとか完成しました。
(間に合ったといえるかどうか…)

にしても、3時間くらいあとにはどうなることか。
できれば北岡にも浅倉にも死んでほしくないですが(無理っぽい)

とにかく、読んでくださった方々、ありがとうございました。
326名無しより愛をこめて:03/01/19 07:31 ID:gRjI5ZLI
「砕けた鏡」完成お疲れ様です。
本放送前にこれを読めて良かったです。

北岡先生のラストバトルへ向かう心の揺れと決意が補完されていて、
これでより納得して心安らかに先生を見送る事が出来ます。
本当にありがとう。


そして、あとわずかで
本編での「決着」が付いてしまうんですね…。
327名無しより愛をこめて:03/01/19 13:53 ID:PObpdq0C
微妙に本編とも矛盾しない出来だったね。
お疲れ。
328名無しより愛をこめて:03/01/19 14:02 ID:U4ayI05p
( ´,_ゝ`)えぷそでふぉなる
329名無しより愛をこめて:03/01/19 20:02 ID:SaFJ1eCv
>>砕けた鏡さん
北岡の心理描写が良く書けていて、とても感心しました。
本編にも無理無くつながるって感じで良いです。
次は戦いに向かう吾郎ちゃんをキボン!!
330名無しより愛をこめて:03/01/19 20:05 ID:VE/Ksko+
だめだ何度みてもスレタイで笑っちゃって‥
331306:03/01/19 23:12 ID:/qH3A7Fa
>>316
遅くなりましたが、ageありがとうございました。

>>326
こちらこそ、読んでくださってありがとうございます。
>本放送前にこれを読めて良かったです。
そういっていただけるとすごく嬉しいです。
なんとか本放送にupした甲斐がありました。

>これでより納得して心安らかに先生を見送る事が出来ます。
意外な結末でびっくりしましたが、やはり悲しかったですよね。

>>327
>微妙に本編とも矛盾しない出来だったね。
>お疲れ。
ありがとうございます。でも、実を言うと「砕けた鏡(11)」ラストは
最初、包囲現場で北岡が浅倉に直接言う形になってました(汗)
いろいろ考えて心の中の台詞に変えましたが・・・

>>329
>北岡の心理描写が良く書けていて、とても感心しました。
ありがとうございます。先週、北岡が決意するまでに
どんなことを考えたのか気になったので、なるべく詳しく
書こうとしてみました。

>>次は戦いに向かう吾郎ちゃんをキボン!!
「ゴロちゃんの顔が見えないよ」から、浅倉が接近音に
気づくまでの補完ですか・・・う〜ん難しそうですね。
332名無しより愛をこめて:03/01/22 18:41 ID:y6+QjAvK
 誰かリュウガが最後にいい奴になる小説を書いてくれないですか?
(あやつはある意味、可哀想な奴でしたからね・・・。)
333名無しより愛をこめて:03/01/22 18:50 ID:2ZuitfKo
>>332
リュウガが本心でユイの消滅を止めようとしてるなら、
それはそれでいいヤツなのだが。
334332:03/01/22 19:24 ID:y6+QjAvK
>>333
ドラゴンボールで例えるとすれば、自分的には裏真司はピッコロさん、
真司は神様といった感じなんですよ・・・・。
335名無しより愛をこめて:03/01/22 20:07 ID:LWgq5HjK
>>332
おまえが書け。
ここはそういう場所だ。
336185-197:03/01/23 23:59 ID:O4k+lyyr
すみません。
一番肝心な「恵里」さんの名前を「恵理」と書き間違ってるのに気付きました。
もし今からこれを読まれる方は、「恵里」と置き換えて読んでください(汗)。
337欠けていたもの:03/01/24 12:58 ID:MHsqGrQO
神崎士郎は俺の事を知らない。自分が最後の一人になるつもりだからな。

優衣…。
お前は俺が助ける。絶対に。

最後の一人になったら、俺の願いで優衣に命をやるから…消えてしまっちゃ駄目だぞ。
お前が居れば何も要らない、俺の全てを優衣にやるよ。

たとえ、神崎を殺す事になっても、俺は優衣を護る。
…兄貴を殺したって知ったら優衣は俺を許さないだろうな。
それでもいい。嫌われても、憎まれても、優衣さえ護れれば悔いは無いさ。
優衣の笑顔さえまた見れれば、それだけで充分だよ。

どんな事をしてでも…
どんな汚い事をしてでも…
お前を消滅させたりしない!
338欠けていたもの:03/01/24 12:59 ID:MHsqGrQO
始まりは雨の日。
俺は優衣の強い思いから、このミラーワールドに生み出された。
初めて出来た友達に会いたい一心で描いた絵に俺の「存在」が宿り、
城戸真司から引き離された魂の一部「俺」は絵と一緒に封印された。

俺は半分眠ったまま、表の俺を夢に見ながら一緒に成長してきた。
封印が解けるまで俺はこの世に居ないも同然だった。

そしてまた雨の日。
俺の宿った絵を創造主の優衣が目にした。
俺の宿った絵を俺の分身の城戸が目にした。
存在しなかった事にされた俺は、こうして解放された。


城戸が知ってる事は俺も知ってる。
このバトルに勝ち抜けば、なんでも望みが叶うんだろ?
馬鹿な奴だ。
戦いを止めようなんて勿体無いじゃないか。

俺の願いは決まってる。

優衣の命をつなぐ。
他は要らない。
339欠けていたもの:03/01/24 13:00 ID:MHsqGrQO
順調に進んでるはずだった。
邪魔な相手は倒し、実体も手に入れ、残るライダーはあと三名。
すぐに終わるはずだった。

神崎さえ最後に残せば、万が一自分が負けても優衣を救えるはずだ
…そう信じていた。

なのに…。


動かなくなった優衣の身体を前に
足がガクガクと震えた。


俺は初めて「恐怖」と「悲しみ」と「絶望」と…、
そういった諸々の負の感情を味わった。

優衣が…?優衣が?!そんなバカな!
まだ時間があったはずじゃないか!
あと一日。あと一日で、全部お前の物になってたはずなのに。
優衣が死ぬわけ無い!
こんなのウソだ!現実の見せる幻だ!

な?そうだろ?眠ってるだけだよな?
なあ?
起きてくれよ!

優衣!!
340欠けていたもの:03/01/24 13:02 ID:MHsqGrQO
優衣が死ぬわけ無いじゃないか!
だって優衣が世界の全てなんだよ。
優衣が居なくなったら、この世界にもどこにも意味なんかなくなる。
優衣の居ない場所で存在なんかしたくない。

優衣、俺を見てくれ。
俺、優衣の側にずっと一緒に居る事が出来るんだよ?
本当の体が手に入ったから。もう幻じゃないから。

優衣を抱きしめて「大丈夫だから、心配するな」って言ってやれるんだよ。
「お前の事、大好きだから」って。

…そう言えたはずなのに…。


優衣の為ならなんだってするよ。

邪魔な奴はあとちょっとだけ、秋山と北岡だけだから、
あいつらを片付けたら、そうしたら、優衣にまた笑顔が戻って…
そして…ずっと一緒に…優衣と一緒に暮らせるんだよな?
な?そうだろ?

優衣…。
341欠けていたもの:03/01/24 13:03 ID:MHsqGrQO
城戸!
なんで優衣を助けようとしない!
お前は優衣の友達じゃなかったのか?!
この裏切り者!

優衣はずっと、心の底でお前の事を待ってたんだぞ!
俺じゃなくて、お前の事を、ずっとずっと。
約束を護ってお前が雨の向こうから現れる事を。

たとえ俺が優衣を抱きしめても、俺の事をお前だと思って笑い返すんだ。
そうなってもいい、それでもいい、
城戸だと思われても優衣が笑ってくれるなら…そう思ってきたのに。

それなのに、お前は優衣にあんなに慕われているのに、
なんで優衣を見殺しにできるんだよ!
342欠けているもの:03/01/24 13:04 ID:MHsqGrQO
もういい!実体になれなくても構わない。
城戸も誰もかも皆殺しにして、俺が勝利する。

ミラーワールドがこっちの世界に繋がってる間は、
最後の一人の願いのパワーで奇跡が起こせるはず。
俺が勝てば、俺の命で優衣が救えるんだ。
絶対救ってみせる!

話す事も、触れる事も、動く事も、なんにも出来なくなっても、
この中途半端な命が無くなって優衣を見る事しか出来なくなっても、
優衣さえ無事なら構わない。
俺の命を代りに優衣に。
俺の全てを優衣にやるから。


世界中の人間を殺してでも、優衣が救えればそれでいい。
ミラーワールドとこの世界の繋がりが消える前に
全てのカタを付けてやる!

まずは城戸真司!お前からだ!
343欠けているもの・終り:03/01/24 13:06 ID:MHsqGrQO
ドラゴンライダーキック同士の壮絶なぶつかり合いに、
双方は大きなダメージを受けた。
変身も解け、通常の姿に戻る二人。

無言で互いに殴りかかる。
己自身の存在を賭けて。
魂を一つに戻すために。

傷付いてもリュウガのパワーは強大で
生身同士なら真司に勝ち目は無かった。

「記憶も感情もなくなるまで、お前の魂、粉々に砕いてやる!」
真司の全てを消し去ろうと構えるリュウガ。
…だが、リュウガの怒りよりも真司の悲しみの方が優っていた。

先に真司の拳がリュウガの胸に力いっぱい当たった。
直接触れた真司の腕を媒介にリュウガはもう一度真司と心が癒合した。
魂が解け込み、身体が粒子になって消えながら、
自分以外の人間の哀しみをリュウガは初めて理解した。

リュウガが優衣を想う様に
真司もまた美穂を想っていた事、美穂もまた真司を想っていた事を。
そして、想いを失う事がどんなに辛く切ないのかを。

…もう二度と、好きになったひとに会えない彼らの悲しみを、
心の底から理解した…。

消えて行く最後の瞬感に美穂の笑顔を思い出し
「ごめん…」と呟くリュウガ。

真司もまた、リュウガの気持ちをその時初めて理解した。
拳から伝わった最後の想いに、真司は反射的に涙を流した。
344343:03/01/24 13:11 ID:MHsqGrQO
うわーん。またやっちゃたよ。
342-343の題は「欠けてい『た』もの」です。

真司に欠けていた「あいつ」が帰ってくる話です。
前のと比べると、リュウガは甘あまな性格になってますね。
345332:03/01/24 16:39 ID:62r8RFxQ
>>343
す、すいません。お手数かけました。小説有難う御座いました。
346332:03/01/24 16:45 ID:62r8RFxQ
リュウガの小説良かったです!
347雪を見ず (1/2):03/01/24 17:24 ID:50TjnQjQ
「ただいま戻りました」
令子が戻ったのは、その日の夕暮れ時だった。
「おぅ、お疲れ。今日は事件起こりすぎだよ。…まーったく、
どーなってんのかねー」
「編集長、私、この後もう一度警察に取材に出ますから。
島田さん、残りの画像、落としとくから、あと頼むわね」
令子はデジカメをパソコンに接続しながら言った。
「ただいまー。あ、令子さん、お疲れ様です〜」
めぐみがコンビニの袋を下げて戻ってきた。
「あ、浅野さん、島田さん、もう二度と北岡さんからの誘いを
受けろなんて勧めないでね。私、とても不愉快な思いをしたわ」
「え…どうかしたんですか?」
「誘っておいて人を待たせるなんて、失礼でしょ?携帯にかけても
事務所にかけても誰も出ないし。いったいどうなってるのよ」
「北岡さん…来なかったんですか…?」
令子の剣幕を前に、島田は表情を凍りつかせた。
「来なかったわよ。あの雪の中、取材後回しにして行ったって
いうのに」
「浅野さん…電話…電話!病院!!」
「は、はい!」
「なに?」
戸惑う令子をよそに、二人はそれぞれ電話をかけた。
「病院には来てないって」
「吾郎さんも出ない」
めぐみと島田は泣き出しそうな顔を見合わせた。
島田が令子の腕をひっぱった。
「令子さん、事務所、北岡さんの事務所に」
「私、取材が…」
「取材なんて編集長にまかせとけばいいんです!早く!」
348雪を見ず (2/2):03/01/24 17:24 ID:50TjnQjQ
北岡の事務所のドアに鍵はかかっていなかった。
「秀一!」
「北岡さん?!」
ソファに横たわる北岡に、二人が駈け寄った。
呼んでもゆすっても北岡は目を覚まさなかった。
ソファと窓の間に、メモが落ちているのをめぐみが見つけた。

『めぐみさん、島田さん
 後のことはお願いします。
 勝手言ってごめんなさい。

          吾郎 』

「もう!こんなときに吾郎さんどこいっちゃったのよ!」
ソファの前に座り込んで盛大に泣き始めた二人を、令子は
階段の上から動けないまま、見ていた。
「なに?なんなの?」

                                ende
349348:03/01/24 17:29 ID:50TjnQjQ
先生があのままほっとかれるのが嫌だったもんで
…書いちゃいました…お目汚し失敬
350名無しより愛をこめて:03/01/24 19:00 ID:62r8RFxQ
防止!
351名無しより愛をこめて:03/01/25 01:42 ID:fkQYxOnE
>>337-343
面白かったです。(最初の文、カコイイので特に好きです)
読んでると、リュウガの悲しみが突き刺さってくるようでした。
タイトルも内容も前作と見事に対になってるんですね…

>>347-348
物言わぬ北岡、凍りつく令子さん、書き置き(たった3行なのに
ゴロちゃんの人柄が十分感じられるところがいいです)。
どれも涙出ますが、島田とめぐみが一番泣けました。すごく健気で。
352名無しより愛をこめて:03/01/25 22:26 ID:PVgXu4Hc
age
353名無しより愛をこめて:03/01/25 22:39 ID:Ll6JfPBB
33話で吾郎チャンが吹いてる口笛ってなんの曲でつか?
354名無しより愛をこめて:03/01/26 01:37 ID:QnsoBIue
>>353
スレ違いでは?
355343:03/01/26 22:41 ID:E/THvGGT
>>332
ありがとうございます。逆にあのリクエストから話が広がりました。
リュウガと優衣との関わりをもっと深く掘り下げれば良かったと思ってます。

>>351
どうもありがとうございます。
前のと合わせて、リュウガは真司のもう一つだったって解釈で書きました。

映画の最後のあのシーンで真司が一人残ってたのは
倒したというより逆に吸収したんじゃないかと
(ドリーム入ってるかもしれませんが)考えてます。

リュウガはMWの怪物かもしれないけど、
倒すって事は真司が人殺しをしてしまう事なので
それはちょっと嫌かなって感じで。
356名無しより愛をこめて:03/01/27 23:13 ID:kPTOojww
 ごめん、もしエピソードファイナルDC版が出たとしたら、
無理だとわかっていても、「俺はこのようなクライマックスが見たい!」
とか、「このようなタイミングにあいつが来て欲しい!」というアイ
デアがあると思います。そういうネタでの小説も見てみたいのですが、
駄目ですか?

 >>332
 リュウガの小説良かったです!リュウガにとって優衣が大切な人
という風に設定されていたのも俺的に「サンクス!グッドジョブ!」
という感じでした!
357348:03/01/30 22:36 ID:2659L0Kk
>>351 遅くなりましたが。感想、ありがとうございました。

48話の病院での島田とめぐみを見て、彼女等は
こういう役割だったんじゃないかと思いつつ書いたっす。
358名無しより愛をこめて:03/01/31 23:15 ID:NE/QeVkA
 もうそろそろ小説のリストを作ったほうがええんじゃないでしょうか?
359名無しより愛をこめて:03/02/01 07:35 ID:2RuSAGfm
>>358
ベノの走馬灯 >>19->>22

てなカンジでするの?
360リスト作ってみました:03/02/01 15:08 ID:7yMWJEWH
>>19-22  ベノの走馬灯   :FE/ベノスネーカーの回想
>>24-26  無題       :FE/リュウガ戦の真司の感情
>>28    北岡偏エピロローグ:FE/北岡の最後の思考
>>29-32  がんばれオムロン   :FE/アギトの尾室とG5部隊
>>34-35,>>38 おまるじゃない!:FE/美穂とブランウイング
>>41    無題       :FE/真司、トロマヴィルに行く
>>44-45  無題       :FE/「リターナー」ミヤモト
>>48-51  欠けているもの  :FE/リュウガvs真司
>>53-54  無題       :FE/48-51の続き
>>58  アマゾンの不思議な下駄:FE/沙奈子おばさんとケーキ
>>65-69  夜の翼      :FE/ダークウイング…恵里
>>84-90  王蛇誕生     :FE/浅倉が王蛇になるまで
>>110-118 (SP)シザース誕生 :SP/須藤がシザースになるまで
>>123   無題       :??/ガイと王蛇でコント
361リスト2:03/02/01 15:16 ID:7yMWJEWH
>>132-141 最後の願い    :FP/美穂とノワールウイング
>>155 浅倉が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>160   Warrior's Vision :SC/ソングコレクションのライアの歌補完
>>172 北岡が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>175,>>177-179,>>209,>>211-214,>>226-232,>>237-243
      出会い      :TV/蓮と優衣の出会い編
>>185-197 オマエハ…マチガ…:TV/仲村の回想
>>217-222 無題       :FE/モンスター戦に助太刀する本郷猛
>>252,>>256,>>258-261,>>264-265,>>267,>>280-284
      Swan Song     :TV/美穂とファムとライア
362リスト3:03/02/01 15:18 ID:7yMWJEWH
>>294  秋山蓮のお見舞い日記:TV/蓮と花束
>>306,>>308-310,>>313,>>318-322,>>324
      砕けた鏡     :TV/北岡の最後の回想
>>337-343 欠けていたもの  :FE/リュウガの回想
>>347-348 雪を見ず     :TV/令子と島田とめぐみ
363名無しより愛をこめて:03/02/01 15:20 ID:7yMWJEWH
ううむ。
ブラウザで見るとガタガタになってしまった…。
本当は1つに収めるのが理想でしたが、字数制限で分割に。
364改めてリスト1:03/02/01 15:49 ID:7yMWJEWH
>>19-22
 ベノの走馬灯:FE/ベノスネーカーの回想
>>24-26
 無題:FE/リュウガ戦の真司の感情
>>28
 北岡偏エピロローグ:FE/北岡の最後の思考
>>29-32
 がんばれオムロン:FE/アギトの尾室とG5部隊
>>34-35,>>38
 おまるじゃない!:FE/美穂とブランウイング
>>41
 無題:FE/真司、トロマヴィルに行く
>>44-45
 無題:FE/「リターナー」ミヤモト
>>48-51
 欠けているもの:FE/リュウガvs真司
>>53-54
 無題:FE/48-51の続き
>>58
 アマゾンの不思議な下駄:FE/沙奈子おばさんとケーキ
>>65-69
 夜の翼:FE/ダークウイング…恵里
>>84-90
 王蛇誕生:FE/浅倉が王蛇になるまで
>>110-118
 (SP)シザース誕生:SP/須藤がシザースになるまで
>>123
 無題:??/ガイと王蛇でコント
>>132-141
 最後の願い:FP/美穂とノワールウイング
>>155
 浅倉が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
365改めてリスト2:03/02/01 15:50 ID:7yMWJEWH
>>160
 Warrior's Vision:SC/ソングコレクションのライアの歌補完
>>172
 北岡が最後のライダーだった場合の最終回:??/コント
>>175,>>177-179,>>209,>>211-214,>>226-232,>>237-243
 出会い:TV/蓮と優衣の出会い編
>>185-197
 オマエハ…マチガ…:TV/仲村の回想
>>217-222
 無題:FE/モンスター戦に助太刀する本郷猛
>>252,>>256,>>258-261,>>264-265,>>267,>>280-284
 Swan Song:TV/美穂とファムとライア
>>294
 秋山蓮のお見舞い日記:TV/蓮と花束
>>306,>>308-310,>>313,>>318-322,>>324
 砕けた鏡:TV/北岡の最後の回想
>>337-343
 欠けていたもの:FE/リュウガの回想
366改めてリスト3:03/02/01 15:51 ID:7yMWJEWH
>>347-348
 雪を見ず:TV/令子と島田とめぐみ
367名無しより愛をこめて:03/02/01 15:56 ID:7yMWJEWH
あとは、また何話か溜まったら
「改リスト3」に足していけば良いかと思います。
368名無しより愛をこめて:03/02/01 17:35 ID:uqe+Zwsu
>>367

各話が見やすくなりましたね。乙&ありがとー!
369358:03/02/02 01:08 ID:usXQH/Qz
>>360
すいません。お手数かけました。お疲れ様です。
370名無しより愛をこめて:03/02/02 14:26 ID:ac5pbV4w
>>360
おつかれ様です。SSごとに内容説明もつけていただいたんですね…
ありがとうございました。
371370:03/02/02 14:27 ID:ac5pbV4w
王蛇との戦いに向かうゴロちゃん(と、その後の
ゴロちゃん)を書いてみたので、次からupします。
(今更ですみませぬ>>329さん)
372消えた紋章(1):03/02/02 14:29 ID:ac5pbV4w
「・・・デッキ、出してくれる?」


鏡の中の世界に入ったことは一度だけある。
正確にいうと、引きずり込まれたのだが。
あの男の飼っている蛇の化け物に。
いずれにしても、もう一度体験したいと思うような
出来事じゃなかったのは確かだ。
それでも俺はカードデッキをかざした。
先生がいつもしていたように。

先生と同じ緑の姿になった自分を確認すると、
鏡の中へ踏み出した。
浅倉に捕まった時同様、目も眩むような銀色の世界を
抜けると、元の部屋だった。
朝の光が突き当たりの大窓から降り注いでいるのも、
白大理石の床が天井を映しているのも、
いつもと何も変わらない風景だ。
ただ先生だけがいなかった。

カードデッキを持って戻ったとき、もう先生は眠っていた。
わずかに微笑んでいるように見えた。

執務机の脇のソファに先生を横たえ、胸の上で手を組ませた。
緑のデッキをその手と身体の間に置く。だがすぐに
また取り出した。代わりに先生の好きな白い花を置いて。
すいません。少しの間借ります。
あまり遅くはならないと思うんで、待っててください。
373消えた紋章(2):03/02/02 14:32 ID:ac5pbV4w
生身でなら、どこまでも先生を守ってみせる自信があった。
たとえ浅倉が相手だろうと。
だがとうとうあの男から先生を守り切ったと思った
まさにそのとき、病魔が先生に追いついた。
俺は何もできないまま、見ているしかなかった。

もう俺のすべきことはなくなった。
たったひとつを除いて。

浅倉がいつまでも先生をつけ狙うなら、
いつかは俺の手で始末しなければと思っていた。
どんな手段を使ってでも。
先生と俺の乗った車の前に突然奴が現れたときも、
退かなければ本当に轢き殺すつもりだった。
「ゴロちゃんのすることじゃないよ」
結局、先生にそう言って止められたが。

だがやはり殺しておくべきだったのだ。
あいつさえいなければ、先生だって残りの人生を
ずっと穏やかに過ごせたろう。

いや。先生は浅倉の死を望んでいなかった。
先生が望んだのは、残った命をあの男との
最後の戦いに使うことだった。
令子さんとの約束を犠牲にしてまでも。

「行かせてよ、ゴロちゃん。
このままじゃ俺、何かひとつシミを残していくようで、
嫌なんだよね」
374消えた紋章(3):03/02/02 14:34 ID:ac5pbV4w
「・・・北岡。
・・・・・・北岡あっ!」
何かを蹴りつける鈍い音と、忌々しげに息を吐き出す音。
その間にも重い痺れが俺の全身を覆っていく。

ライダーとして戦った経験がなくても分かる。
紫色のあいつは俺に、というより先生に対して手心を加えた。
本気なら、たった今かけた技で俺を葬り去っていたはずだ。
先生の契約モンスターと一緒に。

いずれにしても仮面ライダーゾルダは敗れた。俺も死ぬ。
あの男にはそれが気に入らないらしい。

浅倉もまた、先生の死を望んではいなかった。
いつまでも「遊び」の相手をして欲しかったのかもしれない。
いや。どっちみち先生を殺そうとしたことに変わりはない。
限られた命しかない先生をずっとつけ狙い、
悩ませてきたのだから・・・
だが不思議と憎しみは湧いてこなかった。
手のつけられないだだっ子と一緒だな。
そう思うとなんだかおかしくなった。

俺の微かな笑いを、浅倉は聞き逃さなかった。
動揺する気配が伝わってくる。
「お前・・・!」
その時、俺の変身が解けるのがわかった。

短い沈黙の後、怒りと絶望の咆哮が響き渡った。
少しだけ浅倉が気の毒になった。
375消えた紋章(4):03/02/02 14:37 ID:ac5pbV4w
よく考えると、あの時と似たような状況だった。
浅倉が俺を捕まえて人質に取り、
先生を戦いに引きずり出そうとした時のことだ。

「無駄だ。先生は俺を助けになんか来ない」
言ったところで奴が聞く耳など持たないのは
分かっていたが、それでも一応言ってみた。
案の定、俺に向かって不気味な笑いを見せただけで
奴は嬉々として携帯を取り出した。

だがあの時も奴の望みはついに叶えられなかった。
「だから言ったんだ。俺を人質にしても先生は来ない」
返事の代わりに破砕音と衝撃と、ガラスの破片が飛んできた。
俺の監禁されている車の窓を片っ端から叩き割りながら、
奴は言った。ますます人間離れした笑いを浮かべて。
「戦いたいんだよ。おれは」

この手枷を外したら、真っ先にこいつを始末して
そばの海に放り棄てて行こう。そうしなければ
この先、先生がどれだけ悩まされるかわからない。
隠していた針金を指先にたぐり寄せながらそう思った。

だが手枷が外れると、俺はさっさとその場を離れた。
勢い余って車の屋根から滑り落ち、そのまま大の字になって
眠りこけてしまった奴をそのままにして。
なぜ殺しておかなかったのだろう。
・・・やはり少しだけ気の毒になったからかもしれない。
手枷を外そうとしてる間中、俺の頭の上で派手な音を
たてて屋根を蹴りつけていたあいつがやはり
だだっ子のように思えて、殺意が失せたからかもしれない。
376消えた紋章(5):03/02/02 14:39 ID:ac5pbV4w
なんにせよ、これで俺の役目もすべて終わった。
そろそろ帰らなくては。

そう思った時、頭上に気配を感じて目を開けた。
背の高い男が立っていた。

すいません、結局待たせちゃって。
これから戻ろうと思ってたんです−−
何かうまいものでも探しながら。

それから、これ・・・ありがとうございました。
もう紋章は付いてませんが。

男は微笑んで、首を横に振った。

そうですか。よかった。じゃ、帰りましょう。

ただの緑の板になったデッキを地面に置くと、
俺は差し出された手につかまって立ち上がった。


END
377370:03/02/02 14:46 ID:ac5pbV4w
372-376を読んでくださった方、いたらありがとうございます。
生身では常に対浅倉最前線に立っていたゴロちゃんの
心意気のようなものが、少しでも出せていればいいのですが…

個人的にファイズも面白くなってきましたが、
やはり龍騎の世界は魅力ありますね。
378名無しより愛をこめて:03/02/04 00:26 ID:hk2VKKiX
>>377
泣けました。
やっぱこのコンビは良いなぁ…。
379ななし:03/02/04 00:42 ID:GvgDeFp9
>370
すごく(・∀・)イイ!!
またちょっとほろりときました。

380名無しより愛をこめて:03/02/04 01:18 ID:taf/vF95
>雪を見ず

事情を知ってた島田とめぐみの動揺が、
何も知らずにあっけらかんとしてる令子と対称でもの哀しいですね。
この話のようにあの2人のおかげですぐに先生が見つかったと思えば
少しは気分が楽になりました。(死後**日経過なんて嫌過ぎ)


>消えた紋章

ゴロちゃんの先生への思いと覚悟と、浅倉への憐憫が描かれていて良かったです。
心底憎んでいても、浅倉にはどこか奇妙なシンパシーを感じてたんでしょうね。
381370=377:03/02/04 01:27 ID:2StM9Pfp
>>378
ありがとうございます。北岡先生とゴロちゃんの信頼関係が
少しでも再現できたらいいなと思ってたので、嬉しいです。

>>379
ありがとうございます。私も書きながら最終回を何度か
ビデオで見直しましたが、やっぱりその度に涙出ますよね・・・
382370=377:03/02/04 02:00 ID:RSYjJEQ4
>>380
ありがとうございます。確かに、先生という存在がいるゴロちゃんなら
孤独しか知らない浅倉に憐憫の類を感じるのでは・・・いくらひどい目に
あわされても(汗)と思ってあのような話にしてみました。
383名無しより愛をこめて:03/02/06 12:58 ID:xSUpkokk
3841000ゲット!:03/02/07 00:59 ID:nrUrWR20
一応、空ageさせていただきます。
385名無しより愛をこめて:03/02/08 22:25 ID:rG89+qKP
保守
386名無しより愛をこめて:03/02/08 22:43 ID:7atzrpOX
久しぶりにこのスレを除かせて貰いました。
消えた紋章イイです。
前に北岡の最後の話でゴロちゃんゾルダをリクしたのは俺です。
満足しました。ありがとうです。
387370=377:03/02/09 00:29 ID:9pQeFMST
>>386
ありがとうございます。ゴロちゃんゾルダは難しそうな
テーマに思えて少し迷ってましたが、満足して
いただけたのなら本当に良かったです…
388名無しより愛をこめて:03/02/10 02:57 ID:eAZAga+i
#49後半・#50当日正午前後からのOREジャーナル事務所は大変な事態
になっていたと思われ。
(1)真司銀座で事故死の連絡が入る。
→編集長、死亡を隠し「真司のやつが怪我したらしい。病院に行って来る」と
外出しようとする。(この段階で、「収容先の病院に行けば、親戚が来るまで
は帰れない、事務所の留守番体制はどうしようか」と考えている。)
(2)玲子から「北岡が来ない、電話もつながらない」と連絡が入る。
→編集長、ライダーバトルに関係ありと考え、玲子に北岡事務所へ回るように指示。
(3)さらに浅倉威射殺の速報が入る。
→編集長、これもライダーバトルに関係ありと察し、島田に現場へ行くように指示。
(4)北岡事務所で北岡の死亡、浅倉威射殺現場で由良吾郎の遺体発見等の報告。
→編集長、「最後のライダーは秋山蓮か?」と気づき、恵里の入院先を確認しよう
と思うが、人がいない。
(誰かうまく文章化してほしい〜。)
389名無しより愛をこめて:03/02/11 23:55 ID:TkFwAKYe
保全
390名無しより愛をこめて:03/02/12 00:30 ID:A/yn6Jiz
>>388
ゴロちゃんはミラーワールドの中で死んだから、遺体は見つからないんじゃ
ないかな。北岡弁護士の秘書は消息不明。編集長だけはそこに何かを感じる、と。
391名無しより愛をこめて:03/02/12 08:49 ID:TdR8TRvJ
>>388
蓮に士郎が言った「最後のライダー」という言葉からすると、
浅倉射殺後に真司は死んだと思われ。
392名無しより愛をこめて:03/02/12 12:07 ID:gw5cQ6FI
>>388
つーか、編集長は真司以外のライダーが誰かなんて聞いてないと思うんだが。
393名無しより愛をこめて:03/02/12 17:22 ID:t9TSu/V7
>>392
少なくとも浅倉がライダーであることは話しそう。脱獄や逃走時の種明かしとして。
後は令子絡みで北岡や須藤とか、新聞にどでかく失踪事件として扱われた佐野とか。
蓮は...話すとすれば、一番説明しやすい「闘う動機」の一例として、ですかね。
一応編集長とは「面識」ある相手だし。
394名無しより愛をこめて:03/02/13 02:42 ID:zjtDZ4wR
以上が、原因不明の失踪事件の真相であり、
仮面ライダーと名乗る人間たちの、戦いの真実である。
この戦いに正義はない。
そこにあるのは、純粋な願いだけである。
395名無しより愛をこめて:03/02/14 23:14 ID:+AO/SPQm
 そういえばSPのみでの登場だった榊原幸一(初代龍騎)
が世界平和のために戦うきっかけは何なんでしょうかね・・。

 そこのあたりの裏設定も見てみたいです。
396名無しより愛をこめて:03/02/14 23:25 ID:+AO/SPQm
>そういえばSPのみでの登場だった榊原幸一(初代龍騎)
>が世界平和のために戦うきっかけは何なんでしょうかね・・。

 きっかは何だったんでしょうかねえでした・・。スイマセン。
397名無しより愛をこめて:03/02/14 23:28 ID:uKWSmmYo
ライダーバトルで最後まで勝ち残った奴だけはやり直し前の世界の記憶が
残っていて、SPの前の世界のライダーバトルの勝者が榊原・龍騎。
で、彼はライダーバトルの記憶があるからミラーワールドを壊してライダ
ーバトルを止めようと思っていたとか・・・そんな設定はどう?
398名無しより愛をこめて:03/02/14 23:30 ID:uKWSmmYo
だからこそ、榊原は、お前はライダーの戦いに巻き込まれるな、と
真司に忠告した、と。
399396:03/02/14 23:35 ID:+AO/SPQm
  

 レスサンクスです。その案、面白いですね。
400名無しより愛をこめて:03/02/14 23:35 ID:yVWu5HQS
榊原の奥さんが北朝鮮に拉致されて、それで世界平和のために秘密結社とたたかうようになったんだよ
401398:03/02/14 23:44 ID:uKWSmmYo
で、そんな榊原がウザイので、TV本編の世界では神崎士郎は早々に
榊原をドラグレッダーに食わせてしまった、とか。
402364-366:03/02/17 18:01 ID:ta9wuPpm
>>368-370
ちょっと遅れましたが、ありがとうございます。

題と一緒に説明もあった方が検索しやすいかも?と思ったので
リストに付け加えてみました。
403名無しより愛をこめて:03/02/17 23:10 ID:w/QC3DYO
サノマンのないのかなぁ?
404名無しより愛をこめて:03/02/20 02:19 ID:g/C0MMHr
 初代龍騎の小説がものすごく見たい!
405名無しより愛をこめて:03/02/24 01:55 ID:leXwcXGS
>>403
自分はEND後に普通にほんわか生きてるサノマンが見てみたいけど、
ここより「仮面ライダーじゃない龍騎」スレ向けなリクエストって気がするな。
406名無しより愛をこめて:03/02/24 17:28 ID:mjBXVDRg
>>405
アァン、俺も見たいよ…END後サノマンのほんわか生活…。
百合絵さんと幸せに暮らしているとか、東條とは
いい友人関係を築いているだろうとか妄想が止まらない(ぉ

仮面ライダーじゃない龍騎スレだろうがこのスレだろうが、もし書きたい人が
書き込んでくれ〜。俺は文章作るのとか話をまとめるのが苦手だからムリぽ…
きぼんぬ厨っぽくてスマソ。
407ドラマじゃないスレの馬鹿:03/02/25 02:52 ID:+4LRjyIW
サノマン話書いては見たが
サノマンっぽくないなあ・・・
捏造設定いぱーいだし・・・
408名無しより愛をこめて:03/02/25 13:14 ID:DD8i51Rh
>>407
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/234-239n
これですね。
感想あっちに書きました。

リクエストに応えて頂いてありがとうございます。
409名無しより愛をこめて:03/02/26 03:49 ID:tytk7j0U
>408
いえいえこちらこそ素敵な感想ありがとうございます。

・・・どうも私が書くとブラックになりすぎるらしいです。
  反省、反省・・・
410名無しより愛をこめて:03/02/26 03:49 ID:tytk7j0U
ってsage忘れた・・・
討つだ氏のう・・・
411名無しより愛をこめて:03/02/28 21:26 ID:Ja3og6s1
>>410
ちょ、ちょっと遅いかもしれないけど… 生`!!

(2日も吊りっぱなしにしてすまぬ)
412妙なノリ1/5:03/03/03 08:02 ID:mLZQG83q
あいつとオレが戦うのは何度目だろう。
オレは老朽化した廃工場であいつと対峙した。
「来たか…待ちくたびれたぞ、龍騎…いや榊原耕介!」
あいつ…仮面ライダーオーディンが言う。
「勝負…最後の勝負だ!!オーディン、神崎!」
幾度目の『最後の勝負』かは忘れた。ライダー同士の戦い。
勝ったものが願いを叶えることができるという。
残ったライダーはオレとオーディンの二人。
つまりは、最後の勝負だ。
「剣闘札!来い!ドラァァグセェイバァァァー!」
オレはソードベントのカードをバイザーに通し、ドラグセイバーを召喚する。
「剣奥義!龍・舞・斬!覇っ!」
オレはドラグセイバーを用いて神崎に切りかかる。
「甘い甘い甘いぞ!!榊原ァ!」
オーディンは自分の体を転移させてオレの攻撃をかわす。
「剣闘札!ゴォルトセイバァァー!」
オーディンがゴルドセイバーを召喚する。
「死ぬがいいいい!榊原!」
オーディンの斬撃を
「盾闘札!ドラァグシィルド!竜巻防御!」
オレはドラグシールドで受け止める。
413妙なノリ2/5:03/03/03 08:03 ID:mLZQG83q
重い!
その一撃でドラグシールドとゴルドセイバーは朽ち果て異空間へと消える。
「攻撃闘札!来い!ドラァグクゥロォォーー!」
オレはドラグクローを召喚。
「はあああああああああああああああああ!」
氣を溜め、
「やあああああああああああああああああ!」
今解き放つ、
「闘奥義!
昇・竜・突・破ぁぁぁぁ!!」
迸る氣弾がオーディンに襲い掛かる。
「ふははははははは
盾闘札!ゴォルトシールドォォ!
ふははははははは。」
オーディンは軽々とシールドで氣弾をいなす。
ちぃ!!
オレは舌打ちした。
すでにかなり体力を消耗している。
次の一撃が最後になるだろう。
いや次の一撃すら放てるかどうか…
ふっ
オレは笑った。
414名無しより愛をこめて:03/03/03 08:03 ID:mLZQG83q

「この身体、ここで朽ち果てようともオレはお前を倒す!!
覚悟しろ!仮面ライダーオーディン!」
オレはデッキからカードを一枚引き抜いた。
「その心地や良し!!勝負をつけようぞ!仮面ライダー龍騎!」
オーディンもカードを引く。
そして二人同時にバイザーにカードをセットする。
『最・終・闘・札』
オレはドラグレッダーの引き起こす熱風の気流に乗って上空100メートルまで上昇。
対するオーディンもゴルドフェニックスの力で大空へと羽ばたく。
大空が二人の戦いを包む。
「はああああああああああああああ!
氣!氣!燃えろおおおおおおおお!」
「かああああああああああああああ!
永遠の混沌を味わうがいいいいい!」
「龍・仁・脚、つまりは」
「永・混・闘、すなわち」
「ドラゴォォォォォン
ライダァァァァァー
キッィィィィィィク!!」
「エタァァァァァァナァァァァァル
クァァァァァオォォォォォォスゥ!!」
二人のファイナルベントが空中で激突する。
結果は―
415変なノリ4/5:03/03/03 08:04 ID:mLZQG83q
「ふっ…やるな、榊原…」
オーディンが呟く。
オレの身体は動かない。
「しかし、私は負けん。負けんのだよ!」
来たか…今まで幾度となく繰り返してきたことだ。
「さらばだ!榊原!」
オレは悔しさのあまり絶叫した。
また、止められなかった。あいつを…
オレは泣いた。
「時は再び繰り返す!」
オーディンは声高に叫ぶとカードをバイザーへとセットした。
「時・間・闘・札!!」
そしてまた時間は繰り返す。
416変なノリ5/5:03/03/03 08:05 ID:mLZQG83q
そしてオレは自分の部屋で目覚める。
時間が戻ったのだろう。
また、あの日の朝だ。記憶はある。氣の力のせいだろうか…
机の上には神崎士郎から渡されたデッキが無造作に放ってある。
オレはそれを取らない。
何回か戦ううちに感じたことだ。
神崎士郎から渡された力で神崎士郎を倒すことはできない。
信じられるのは自分の力のみ。
つまりはそういうことだ。
オレは窓枠の一箇所を除いて部屋中の鏡を新聞紙で覆った。
生身で戦う以上少しのハンデはもらわなければならない。
そしてオレは鏡の立ち、武の構えをとる。
オレは叫ぶ。
「来い!ドラグレッダー!
オレは榊原耕介
仮面ライダー龍騎だ!」
417名無しより愛をこめて:03/03/03 23:14 ID:qwoHebuI
>>412-416
新作キター 
乙です。龍騎とオーディンの闘いって、
さすがにハデで見ごたえありますね。。。

418395:03/03/04 00:40 ID:Wx1BB9xK
小説読ませてもらいました!
なんかGガンダム風で燃えました!
419名無しより愛をこめて:03/03/05 10:15 ID:okWG8dgu
>>412-416
ダイレンジャーみたいで熱いですな!
420名無しより愛をこめて:03/03/08 00:28 ID:LYT8ae9l
>412-416
この榊原氏はダイレンのリュウレンジャー風の熱い漢ですね。
生きざま(死にざま?)が格好良くて好きです。

あの部屋の異様な様子は榊原氏が宿命から逃げたからああなったんじゃなくて
あえて運命に挑んだって解釈なんですね。
421冬の夜:03/03/11 22:42 ID:f9k7imX0

バイクから降りた男の背後に立つビルのガラス窓に、
長身の影が浮かび上がる。

「おまえが優衣を守るとはな」
鏡の中からの呼びかけにも、男は振り向かない。
「あいつはお前の被害者だ。恵里と同じようにな。だから守る」
「優衣のことは俺がいつも見ている・・・
だが、まあいい。優衣はおまえといることを望んでいる。
あいつを心配させるようなことだけはするな」
「ずいぶん勝手な言いぐさだな。
あいつが心配する原因の大元はお前だろう」
「優衣の心配は、いずれ俺がすべて取り除く。
おまえは自分の望みを叶えるために戦い続ければいい」
「優衣に近づくな、とは言わないのか」
「その必要はない。
おまえが優衣に危害を加えるつもりがないのはわかっているからな」
「笑わせるな。なにしろお前の妹だ。カードデッキを渡したからといって、
虫の居所が悪ければ自分でも何をするかわからない。
当てにならないお前の約束のために
ライダーバトルを続ける保証はどこにもないからな」

ガラスの表面の暗く蔭った顔が、見えない笑いに歪んだ。
「おまえがその程度の人間なら、最初からカードデッキを渡したりはしない」
「貴様・・・!」

激情に駆られ、拳を固めて振り向いた先の窓にもう影はなかった。
422421:03/03/11 22:58 ID:f9k7imX0
取りあえずageます。見るからに暗いネタしかなくてすみませんが…

蓮がカードデッキを受け取った後、真司に会うまでの間に
神崎士郎に会ってたとしたらこんな感じか?と想像して、
テレビ第1話直前の補完のつもりで書きました。
読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
423名無しより愛をこめて:03/03/14 01:04 ID:ndwQmUmK
>>421
もし、神崎が蓮の性格を把握した上で
わざと恵里を昏睡させてライダーになるよう仕向けたなら、
かなり凶悪な男だと言えますね。
424421:03/03/14 02:23 ID:TmfVT50b
>>423
読んでくださって、ありがとうございます。

実はそこまで神崎が凶悪とは思っていなかったのですが、
(蓮の性格を見抜いてるだろうという気はしてましたが)
よく考えるとテレビで恵里の病状をわざと悪化させていたし、
やっぱりやりかねない気もしますね・・・

謎のままになっている401号室での実験は、何となく
「ミラーワールドと現実をつなぐ」ためのものと思ってましたが、
実は最初から恵里を犠牲にしてナイトを誕生させる目的も
あったのだとすれば・・・あな恐ろしや
425名無しより愛をこめて:03/03/15 12:32 ID:vReF/HHk
仲村クンを実験台に使わず恵里タンを実験台に使ったのは、蓮タンを釣る目的が
あったのかもよ。
426帰還(1):03/03/17 03:20 ID:ME7DJeki
アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角に
ひとつの墓石がある。
まだ比較的新しいが、花の供えられた形跡もない。
その前に一人の女が立った。2002年夏の終わりのことだ。

SHIROH TAKAMI
1976 - 2001

埋葬されている者の名を確認すると、
女は墓碑銘を声に出して追いはじめた。
「彼の生涯は……捧げられた…ことのみに…救う…
妹………」

          *

優衣に翼を与えてやりたかった。
飛べるのは、鏡の中の大空だけだとしても。

だが与えることができたのは黒い羽根だけだった。
そして黒い羽根を持つ優衣は、もはや本当の優衣ではなかった。

本当の優衣を取り戻して見せる。
どんなことをしてでも。誰を犠牲にしても。
427帰還(2):03/03/17 03:22 ID:ME7DJeki
凄まじい爆発とともに、実験用の鏡も実験室の窓もすべて吹き飛んだ。
ガラスの破片で埋め尽くされた床に伏した白衣の男の周りで、
パニックに陥ったアメリカ人たちが口々に喚き、実験室から逃げて行く。

血まみれの顔を上げた男が見たのは、予想した通りのものだった。
自分をじっと見下ろしている少年。
くる日もくる日も妹と一緒に絵を描いて過ごしていた頃の自分。
たった今、砕け散った鏡の中から抜け出してきたのだ。
大人になった自分の喚び出しに応じて。

これでいい。仮の優衣を取り戻したあの時と同じだ。
実験は成功した。この国でずっと探してきた甲斐があったというものだ。
自分と優衣が幼い頃に作り出した、鏡の世界を支配する方法を。

「本当にいいの?1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」
少年が男に念を押す。
「1年あれば十分だ・・・早く、俺に鏡の命を・・・」
うなずいて、少年は歩み出した。瀕死の男の身体に向かって。

避難していた人々が男を救出するために戻ってきたとき、
すでに白衣の身体に息はなかった。
ポトラッツという長老格の教授が悲し気な溜息をつき、頭を垂れた。

その場の誰も知らなかった。
同時刻、遠く離れた日本−−東京にある空家となった邸宅内に、
たった今アメリカで死んだはずの男が姿を現したことを。
覆いのかけられた、大きな鏡の中から。
428426:03/03/17 04:06 ID:GKkEC6j7
超全集最終巻が出て、物語の謎に関わる公式設定も参照可能になったし、
「神崎士郎はアメリカでどんなことやってたんだろ」という疑問が
前からあったので426-427を書いてみましたが、

龍騎の中核となる上に一番謎の多い部分を補完しようという
恐ろしく無謀な試みになってしまいました(汗)
たぶん色々矛盾のある話になってしまうと思います・・・スマソ
(続きは来週末か、それ以降になると思います)

>>425
そうすると神崎は、恵里と蓮の絆の強さをどこかで知ったんでしょうね・・・
429名無しより愛をこめて:03/03/17 10:08 ID:KRxb4h46
>帰還
詩的でいいですね

>>428
ピーピング士郎w
430名無しより愛をこめて:03/03/21 12:49 ID:4qjBAjYK
「帰還」
神崎の行動の結果を知っていると、
身を捨てても何をしても優衣が救いたかった神崎の決意が悲しいですね。

超全集のネタバレを読んで「ここまで酷い事をしてたのか」と唖然となりましたが、
逆に妹の為ならそこまでやってのける哀しい人だった事も判ってしまったし…。

その士郎の内側を描いてくこの話、続きが楽しみです。
 白い十字架が並び建つ、海の見える丘の上。そこには手塚海之が眠っていた。
 海のほうから吹きつける風は、この前此処を訪れた時よりも幾分冷たく、
月日の流れを否応なく感じさせられる。
 手塚が亡くなってから、いつの間にか季節は移ろい、3ヶ月という長いような、
短いような月日が流れていた。彼が亡くなった直後は、ひどく塞ぎ込んでいた真司だが、
優衣や蓮を始めとする周囲の人々の助力もあって、次第に笑顔を取り戻しつつあった。
勿論、仮面ライダー龍騎として、ミラーワールドから次々と現れ出るモンスターたちから
人々を守る為に戦う、という当初の目的も忘れてはいない。そして。
『止めてくれ。俺と一緒に』
 あの時差し出された、手塚の手の熱さを思い出す。自分は確かに、その手を強く握り返した。
ライダー同士の不毛なバトル・ロワイヤルを止める、そのために仮面ライダーライアと化し、
望まぬ戦いに身を投じて散っていった手塚の願いをも、叶えなくてはならない。
 仮面ライダーゾルダ=北岡秀一や、仮面ライダー王蛇=浅倉威といった、己が欲望を満たす為だけに
ライダーと成った者たちが居る限り、それはひどく困難なことのようにも思われたが、
その孤独な状況の中で、真司は、一筋の光明を見出してもいた。
 このライダーバトルを仕組んだ張本人・神崎士郎がかつて在籍していた清明院大学401号
江島研究室―――中心人物である神崎の失踪と、江島教授の死により凍結されていた
この教室と研究を、継承している者が居た。真司はその人物・香川英行の口から、
『ミラーワールドを閉じる方法がある』という言葉を聞き出していたのだ。
 ミラーワールドが無くなれば、何の関係もない市井の人々がモンスターに襲われることもなくなる。
また、ライダーに変身することも出来なくなるのだから、ライダー同士が戦って傷つけあうこともない。
 部外者である、ということを理由に、その時はそれ以上のことを教えては貰えなかったが、
目的が同じである以上、話し合えば必ず理解(わか)って貰える、と、真司は意気込んでいた。
今日も、手塚の墓参りを済ませた後、3人で香川の元へと赴く予定になっているのだ。
尤も、ライダーバトルに勝ち残って、望みを叶える力を手に入れ、意識不明の恋人を救う、
という目的を持つ蓮は、余り乗り気ではないようではあったが。
(手塚…俺、絶対に止めてみせるよ、この馬鹿馬鹿しい戦いを……)
「何だ、未だこんなトコに居たのか、お前ら」
 不意に背後から声を掛けられて、真司は、びくり、と肩を震わせた。振り返ると、いつの間にか、
遅れて来た筈の蓮が、2人に追いついていた。蓮は呆れたような表情で、ふう、と溜め息を吐くと、
優衣の手から花束を取り上げ、それを肩に担ぐようにして歩き出した。
「行こ、真司くん」
 優衣に促され、真司は頷いて、蓮の後を追った。
↑スマソ、上は(2)です。

 丘の上の墓地には、彼ら以外に人の姿は無かった。
出入り口のところで、黒い服を着た茶髪の女性と擦れ違ったのみだ。
静かな墓地の一番奥、他のものと比べると一回り小さい十字架の下が、手塚の眠る場所だった。
「手塚くん…」
 その場にしゃがみ込んで、十字架の台座に填め込まれた墓碑の真鍮板を、優衣はそっと撫で擦った。
「…あれ?」
 優衣の隣に並んで跪き、瞑目しようとした真司は、持ってきた花束を捧げている蓮の手許を見て、首を傾げた。
―――花が供えられている。それも、つい今しがた供えられたかのような、真新しい花束だ。
大輪の深紅の薔薇と、可憐な白いカスミソウとを組み合わせ、白いレースのリボンで束ねてある。
「まただ……」
 小さく呟いた真司の言葉を聞き咎めて、蓮は怪訝そうな表情を見せた。
「どうした?城戸」
「ああ…ここんトコ、いつもなんだ…俺たちの他に誰かが、こんなふうに、手塚の墓に花を置いてくんだよ」
 1ヶ月ほど前に訪れた時もそうだった。かなり朝早い時間だったにも拘らず、
真司が来た時にはもう、辺りは綺麗に掃除され、花が捧げられていた。
やはり、深紅の薔薇とカスミソウとを白いリボンで束ねたものだった。
その時には、余り気にも留めていなかった真司だったが、つい10日ほど前に
取材の帰途に立ち寄った際にも、同じことがあったのだ。
「あ、ねえ、もしかして、手塚くんのお墓参りに来てるのッて、さっきの女性じゃない?」
「入口のトコで擦れ違った女か?」
 不意に優衣が発した言葉に、蓮が言葉を続ける。
「だって、ここへ来る途中で、あの人以外には誰にも逢わなかったでしょ?このお花、
凄く新しいみたいだし、少なくとも、1時間より前ッてコトはないと思うわ」
「……俺、ちょっと行ってくるッ!」
 言うなり、真司は踵を返して、脱兎の如く駆け出した。あっけにとられて、その背中を
見送った優衣と蓮だったが、ふ、と我に返り、慌てて真司の後を追う。
「ね…ねぇ、真司くんッ…!あの人に逢ってッ…どうするつもりなのッ……!?」
「どうもしないッ!!」
 立ち止まりも、振り返りもせずに、真司は答えた。
―――彼女が手塚にとってどんな存在であったのか、気にならない、と言えば、勿論そんなことはない。
もしかしたら、彼の昔の恋人であったのかも知れない。手塚の話をすることで、彼女を傷つけてしまうかも知
れない、とも思う。
 だが、それでも、真司は彼女に逢いたかった。手塚のことをよく知る誰かと、
彼のことを語り合いたかった。そして、手塚がどんなふうに生き、逝ったのか、
彼の最期に立ち合った者として、伝えなければならない、と思った。
手塚は決して運命に敗北して死んでいったのではない、ということを、知って貰いたかった。
「……いない……」
 丘の下の駐車場まで一気に走り抜き、息を弾ませながら、真司は忙しく周囲を見回した。
彼岸も過ぎ、平日の昼間だということも相まって、ここにも人影はなかった。
今しがた到着して、これから墓参しようかというような風情の老夫婦が1組、突然走り込んできた真司を訝しげに凝視めているだけだ。
「…何処行っちゃったんだろ……」
 がっくりと肩を落として、真司は項垂れた。ちょうどその時、後から追いかけてきた2人が、駐車場に姿を見せた。
「し…真司くん…あの人は……?」
「いない…いないんだよ、何処にも……」
「も…もう帰ったんじゃ…ねえのか……?」
 ぜいぜいと息を切らしながら、蓮は駐車場のフェンスに凭れかかり、ずるずるとしゃがみ込んだ。
そして、革のパンツのポケットからエビアンのペットボトルを取り出すと、蓋を開けてから、優衣に手渡した。
「俺…あの人に、手塚のコト話したかったのに……」
「けど、お前、あの女がホントに手塚の墓参りに来てたッて確証はないだろう。もしかしたら、全く違う奴の墓参りに来てたのかも知れないし」
 優衣から返されたペットボトルの中身を貪るように飲み干し、幾分落ち着きを取り戻しながら、蓮が言う。
 そう言われてみれば、そうかも知れないな、と、真司は更に項垂れた。その肩に手を置きながら、優衣は申し訳なさそうに謝罪の言葉を発する。
「ごめんね、真司くん…私が考えなしなコト言ったばっかりに……」
「…いや…優衣ちゃんの所為じゃないよ……」
「その通りだ、気にするな、優衣。考えなしなのは、そっちの馬鹿だ」
「蓮ッ!」
 情け容赦なく言い放つ蓮に、優衣はキツい眼差しを向ける。真司は力なく苦笑って、顔を上げた。
 その時。
 耳障りな、だが、聞き慣れた金属音が、3人の鼓膜を揺るがせた。そして、悲鳴。
「蓮ッ!」
「あっちだッ!」
 3人は、悲鳴の上がった方向へと再び駆け出した。駐車場の出入り口、
そこに停められていた漆黒のベンツの車体から、モンスターが3体飛び出し、鋭い鉤爪を振り上げている。
 襲われていたのは、先刻の老夫婦だった。老婆のほうは、腰を抜かしてしまったのか、
その場に座り込んで動けない。男性のほうは、妻を守るかの様にその前に立ちはだかり、
及び腰になりながらも、モンスターに向かって杖を振り回していた。
「はあッ!」
 気合いと共に、真司は、老人に向かって今まさに爪を振り下ろそうとしていたモンスターを蹴り飛ばした。
振り向き様、今度は標的を真司に切り替えて飛び掛ってきた1体の腹に、固めた拳を叩き込む。
残るもう1体は、蓮と渡り合っている。そして、優衣は老夫婦に駆け寄ると、老人と共に老婆を助け起こし、駐車場から退避させた。
 モンスターたちは、じりじりと後退しながら、今しがた自分たちが飛び出してきた車体から、彼らの世界―ミラーワールドへと逃げ込んでいった。
その鏡面の様に磨き上げられたウィンドウに己が姿を映し、真司と蓮はカードデッキをかざして叫ぶ。
「変身ッ!」
 現れたベルトにデッキを装着すると、強化スーツが2人の体を包み込んだ。
仮面ライダー龍騎とナイト、姿の異なる2人のライダーは一瞬顔を見合わせ、力強く頷き合うと、
ウィンドウを通じ、モンスターの後を追って、ミラーワールドへと進入する。
「大丈夫ですかッ!?」
「な…な…なんじゃい、今のは……」
 目を丸くして絶句する老夫婦に、どう説明したものか、と思案している優衣の視界に、こちらに向かって駆け寄ってくる人影が飛び込んできた。
黒い衣服に身を包み、長い茶髪を潮風に靡かせたその人物は、老夫婦に何ごとか声を掛け、更に安全だと思われる場所に誘導していく。
そして、優衣のほうに向き直ると、呆然としている彼女を優しく押し退け、
先刻2人が消えたクルマを凝視めた。その左手を見て、優衣は驚愕の声を上げる。
「あッ…貴方はッ……!?」
 そこは、先刻の駐車場をそっくりそのまま反転させた場所だった。
 モンスターの姿はないが、何処かに隠れ潜んでいるらしく、異様な気配をひしひしと感じる。
「油断するなよ、城戸……」
「分かってる」
 それぞれの武器―――ドラグセイバーとウイングランサーを構えながら、ゆっくりと周囲を睥睨する。その時。
 ケケケケーッ!!
 奇声を上げて飛び出してきた影に、真司=龍騎は慌てて剣を振るう。だが、手応えはなく、影は再び嘲笑うかの様な声を上げて、姿を消した。
「馬鹿野郎ッ、油断するなと言っただろうッ!」
「悪かったよッ!」
 蓮の罵声に怒声を返して、真司はドラグセイバーを構え直した。
「ちッくしょー…何処行きやがったんだ…」
 呟きながら、横目でチラリと蓮を見遣る。不意に、その蓮の背後の何もない筈の空間が、一瞬、陽炎のように揺らめいた。
「蓮ッ、後ろだッ!」
「何ッ?!」
 慌てて振り向いた蓮の鼻先を、鋭い鉤爪が風を切って掠めていく。
すんでのところでそれをかわした蓮は、ウイングランサーを突き出すが、やはり手応えはなかった。
「あーあー、何やってんだか」
「うるさい」
 先刻怒鳴られた意趣返しだと言わんばかりの真司の嫌味を蓮は鋭く遮り、舌打ちをした。
「ちッ…厄介なヤツに当たっちまったな……」
 再び背後を取られるのを避ける為に、背中合わせになりながら、モンスターの気配を探る。
どんよりと澱んだ虚空の下、響き渡る奇声は次第に大きくなり、やがて、その数を増していった。
現実世界に現れたのは3体だったが、その声が聞こえる方向から推察するに、少なくとも5、6体は居るだろうと思われた。
(こりゃ、ちょっと…ヤバイ…かな……)
 嫌な汗が、強化スーツに覆われた2人の背中を冷たく濡らす。数自体はどうということではないが、自在に姿を消し、思いも寄らぬところから襲いかかってくるのが厄介なのだ。
「そう言えばさあ、昔、そんな映画あったよなあ。あれはモンスターじゃなくて、宇宙人だったッけ?」
「そんなコト言ってる場合かあッ!!」
 戦いの最中だというのに、のんびりした口調で場違いなことを言う真司を、蓮は怒鳴りつける。
その時、不意に足下の空間が再び蠢いて、そこから出現した手が、真司の足首を掴んだ。
「うわッ!」
「城戸ッ?!」
 無様に引っくり返った真司の足を掴んだまま、モンスターが全身を現す。
それは蛙と蜥蜴を掛け合わせて直立させた様な姿をしており、濃い緑色の皮膚をぬらぬらと光らせた、全く気味の悪い奴だった。
不格好に節くれ立った長い指の先には、吸盤ではなく、鈍い銀色に光る大きな鉤爪がついており、
一杯に開かれた口の中には、鋭く尖った細かい歯が無数に生えている。
「あ、あんまりお近づきにはなりたくねえなあ…なーんて、言ってる場合じゃねえけどッ」
 転んだ拍子に投げ出されていたドラグセイバーを掴み、真司は、生臭い瘴気を吐き出すモンスターの口の中に、その剣先を突き出す。
「ッしゃあーッ!」
 今度は、肉を切り裂く鈍い感覚がしっかりと伝わってきて、真司は思わず拳を握り締めた。
だが、しかし。
「うああーッ!!」
「蓮ッ?!」
 苦痛に溢れた蓮の声に、彼のほうを振り向いた真司は、愕然となった。血の筋を引きながら、
右肩を押さえて転がった蓮の直ぐ側の、何もない筈の空間から、確かにモンスターの口の中を貫いた
ドラグセイバーの刃先だけが突き出していたのだから。
 ケケケケーッ!!
 更に口を大きく開けて、モンスターが真司に迫る。
 その時だった。
『ソードベント』
 無機質な女声が響き、刹那、白銀の閃光が真司の視界を横切る。
その目映いばかりの光が収まった時、今まさに真司を喰らおうとしていたモンスターの巨体が、地響きを立てて、ゆっくりと横倒しになった。
「ふん…獲物に気を取られて、油断したな」
 倒れたモンスターの後頭部から、閃光の正体―――刃を引き抜きながら、“それ”は笑った―――
笑った様に見えた。その姿に、真司は目を見張る。
「て…手塚ッ……?!」
 ドラグセイバーに引き裂かれた右腕を庇いながら、よろめきつつ立ち上がった蓮も、茫然とその姿を凝視める。
 それはまさしく、二度と現れる筈のない、仮面ライダーライア=手塚海之だった。
 ―――否。
(違う…何だ、コイツは……?!)
 ライアではなかった。そこに居たのは、ライアと同じ色の強化スーツを纏った、見慣れぬ姿の戦士だった。
優美な曲線を描く頭部の前面には、昆虫の触角を連想させるアンテナが2本突き出している。
そして、その右腕には、先刻モンスターを貫いた鋭い刃が煌めいていた。
これもまた、2人が見たこともない様な形状をしており、剣、というよりは、寧ろ槍に近い。
「…来るよ」
 戦士の言葉に、2人は、ふ、と我に返る。気がつけば、3人の周囲を、5体のモンスターたちが取り囲んでいた。
「はッ!」
 短い気合いの声と共に、振り向き様、戦士は右腕の武器を真司の背後に向かって突き出す。
すると、蓮の真正面に居たモンスターが、その腹部から青黒い体液をしぶかせて仰け反った。
「なッ…何だ、今のはッ?!」
「コイツらの特殊能力さ!コイツらは空間を歪ませて、自由に操るコトが出来る!」
 目を丸くして絶句する真司に、戦士はそう答えた。
「実に厄介な力だけど、それにも一定のパターンがあってね!
そいつを読み取ってしまえば、実に簡単なコトなのさ!」
 解説している間にも、戦士は澱みなく刃を繰り出し、恐るべき正確さで、
モンスターたちを薙ぎ倒していく。その動きには一切の無駄がなく、実に優雅で、華麗なものだった。
真司だけでなく、蓮ですらも、放心した様になって見とれている。
(…綺麗な…音楽みたいだ……)
 ふと、真司の頭の中を、そんな思いが過ぎった。
「…さて…と。残るは1匹だけか」
 刃に纏いついたモンスターの体液と脂を振り払いながら、戦士は真司の右隣で立ち竦んでいるモンスターに向き直る。
だが、そいつはひと際大きな声を上げると、高く跳躍した。
戦士の頭上を飛び越え、周囲の景色に体を同化させながら、消えてしまう。
その気配は消え失せ、辺りにはただ静寂と、荒涼とした風景が広がるばかりだ。
「逃がしたか……」
 忌々しそうに舌を打つと、戦士は刃を収め、未だその場に座り込んで呆けている真司に向かって、左手を差し出した。
その手を借りて、真司は漸く立ち上がる。
「あ…あんたは……?」
「話は後だ。君ら、そろそろ時間切れじゃないのか?」
「えッ」
 戦士の言葉に、真司は慌てて己が体を見下ろした。
彼の言う通り、強化スーツに覆われた全身から、細かな粒子が音を立てて溶け出す様に流れ出している。
戦士は蓮に歩み寄ると、失血の為に意識が飛びかけてふらついている彼の体を肩に担ぎ、徐に、目の前のクルマのボディを通り抜けて、現実世界へと戻っていく。
「あッ、おいッ、待てよッ」
 真司も慌ててその後を追った。
441オルタナ02作者代理人:03/03/23 23:17 ID:PbEJh1ad
友人がネタ倉庫で見たオルタナ02の設定に触発され、この話を書いてくれました。
ただ友人は携帯も自分のPCもなく、週に1回のネットカフェでしか書き込めない環境なので、
続きが出来次第私が代わりに載せますのでしばらくよろしくお願いします。
442名無しより愛をこめて:03/03/24 08:52 ID:eajrzRk/
441氏&作者さん
いいね
うーん、正体が気になる・・・

>携帯も自分のPCもなく
ひょっとして紙に書いたものを441氏が打ち込んでいるんだろうか・・・
だとしたらとても乙です。



443名無しより愛をこめて:03/03/27 04:35 ID:8iD2xLnt
保全あげ
444名無しより愛をこめて:03/03/28 21:59 ID:6iqTZ1Q7
>オルタナ02
素晴らしいです。
以前どこかで語られていたあのイラストの物語が、ついに動き出しましたか。
441氏さんも作者さんも頑張ってください。
続きが待ち遠しいですね。
「蓮ッ!蓮ッ、しっかりしてよおッ!!」
現実世界に戻ると、優衣が半分泣き出しそうな表情で、蓮に取り縋っていた。
蓮はきつく目を閉じてクルマのバックシートに横たわり、荒い呼吸を繰り返していたが、
震える手を伸ばすと、優衣の細い背中を優しく叩いた。
「大丈夫だ…泣くな、優衣……」
それから薄らと目を開け、その場に立ち尽くしている真司に気づくと、
口許を歪めて、皮肉っぽく呟いた。
「まさか、お前に殺られるとは、思ってもみなかったぜ、城戸……」
「ヤなコト言うなよッ、不可抗力だろッ」
唇を尖らせながらも、真司は蓮に駆け寄り、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「蓮…」
「何だよ…お前までそんなカオするコトないだろうが……」
「だッ…だってッ……」
涙声で言葉を詰まらせる真司の顔を見上げて、蓮は淡く微笑む。
「斬られたのは腕だぜ…?大丈夫だ、大したコトはない、安心しろ」
「でも、出血が酷いからね。病院に行って、ちゃんと診て貰ったほうがいいよ」
不意に背後から掛けられた声に、真司は弾かれた様に振り返り、蓮は繭を寄せる。
そこには、ほっそりと華奢な体躯を黒い衣服で包み、明るい茶色に染めた長い髪を風に揺らめかせた青年が立っていた。
その声が、先刻ミラーワールドで自分たちの危機を救ってくれた謎の戦士のものであること、
そして、その姿が、墓地で擦れ違った女性のものであることに、真司は驚愕の色を隠せない。
(男…だったのか……)
だが、女性と思い込んでしまったのも無理はない、と思えるほどに、青年は甘く整った顔立ちをしていた。
大きな瞳を縁取る睫は長く、透ける様に白い頬に、蒼い翳を落としている。
その所為か、幼いともいえる容貌の割に、何処か寂しげな雰囲気が漂っていた。
「君、悪いけど、これで彼の傷口を縛ってくれないかな」
その形の良い唇に穏やかな微笑を浮かべながら、青年は手にした数枚のタオルを真司に向かって差し出した。
手渡されたそれの柔らかな感触に、真司は我に返り、慌てて蓮に向き直る。
「蓮くん、だっけ?服、自分で脱げる?無理だったら、そのままでいい」
顔を顰めながらTシャツの裾を捲り上げ、袖から抜き出された蓮の右腕には、
ドラグセイバーの鋭い刃に切り裂かれ、鮮血を噴き出す傷が、ぱっくりと口を開けていた。
それを見て、優衣は顔を引き攣らせ、真司は思わず目を伏せて、唇を噛み締めながら俯く。
「ごめん…蓮…」
「謝るのは後にして。そのタオルで傷口の少し上…腕の付け根を縛って。少しキツいくらいでいい」
青年に促され、真司は震える手で、彼の指示通りに蓮の右腕にタオルを巻きつけ、その両端を強く結んだ。
「取り敢えず、これで出血は治まる筈だから。後は病院で処置して貰ってね」
「あッ、有り難うございましたッ」
滲んだ涙の雫を指先で拭いながら、優衣は深々と頭を下げた。だが、蓮はゆらゆらと首を横に振った。
「病院には行かねえ」
「蓮ッ?!」
「嫌いなんだ、病院。どうしてこんな怪我をしたのか、説明すんのも面倒臭いし。……それより、お前」
顔を上げて、蓮は青年を睨みつける。
「一体、何者だ?神崎が選んだ、新しいライダーか?だったら…やろうぜ」
「なッ、何言ってんだよ、蓮ッ?!この人は、俺たちを助けてくれたんだぞッ?!」
「助けてくれと頼んだ覚えはない。お前は黙ってろ、城戸」
「蓮ッ!」
 カードデッキを取り出そうとする蓮の左手を優衣と2人で必死に抑えながら、真司は青年を振り返る。
今の蓮の状態では、あの見事な剣技を誇る青年に勝てる筈もない。
どうか、蓮の挑発に乗らないで欲しい、と、真司は祈る様な思いで青年を見遣った。
「…悪いけど…僕は君と…いや、君たちと戦うつもりはないよ。それに」
青年は困った様に細い肩を竦めて苦笑いながら、ゆっくりと蓮に歩み寄った。
そして、その優しげな風貌と口調とを厳しいものに変えながら、徐に、蓮の目前に己が右腕を突き出す。
「病院には、必ず行って。僕みたいになりたくないなら、ね」
蓮だけでなく、真司と優衣も、思わず息を呑む。左手でシャツの右袖のボタンを外し、
袖口を口に咥えて捲り上げた青年の右腕には、あるべき筈の肘から先の部分が無かった。
言葉もなく自分の右腕を凝視する3人に、青年はシャツの袖と口調を元に戻しながら、柔らかく微笑む。
「解かったら、早く行って。さあ」
「あッ、あのッ」
踵を返しかけた青年の背に、いち早く動揺から立ち直った真司の声が飛ぶ。
眉を潜めて怪訝そうに振り返った青年は、その大きな瞳を瞬かせて、真司を見た。
「あんた…先刻、墓地で会った…よな?」
「…それがどうかした?」
妙に固い声と表情で、青年は答える。
「手塚の墓に花を供えてくれたのは…あんた、なのか?手塚とは…その…どういう……」
「昔の知り合いさ」
真司の問いを、冷たいとも思える態度で素っ気なく遮ると、青年は再び背を向けた。
だが、真司にはその背中がやけに小さく、寂しそうに見えた。
緩やかなカーヴを描く坂道を、青年はゆっくりと歩いて下っていた。
利かん気の強そうな、蓮、と呼ばれていた彼を病院に行かせる為だったとはいえ、
この右腕を見せてしまったのは、少々悪趣味が過ぎたかな、と、
3人の驚愕の表情を思い返し、青年は苦笑する。
いつもは義手を着けているのだが、今日ばかりは、在りのままの姿の自分でいたかったのだ。
大好きだった“彼”に逢いにいく、この日だけは。
(海之……)
自分の代わりに望まぬ戦いの中に身を置き、逝ってしまった親友のことを思う。
本当なら、戦って死ぬのは手塚ではなく、自分だった筈だった。
あの時、神崎士郎の誘いに応じていたなら、カードデッキを受け取っていたら、
こんなにも早く手塚が逝くこともなかった。今でも、生きて、幸せに暮らしている筈だった。
手塚から未来を奪ってしまった、という苦い後悔が、青年の胸を衝く。
(僕は…馬鹿だ……自分のことしか考えずに…きみを……)
その時、1台のクルマが青年の目の前で停まった。助手席側のウィンドウが開き、
メタルフレームの眼鏡を掛けた、神経質そうな細面の中年男性が顔を覗かせる。
「やはりここでしたか」
「…教授(せんせい)…」
その男性は清明院大学教授・香川英行であった。
運転席では、香川の研究室で助手を務めている学生・東條悟が、いつもの仏頂面でハンドルを握っている。
香川は後部座席のドアロックを外すと、青年に、クルマに乗るように促した。
「先刻の戦闘の映像データ、届きましたよ。いや、実に見事な戦い振りでした」
「いえ……」
 シートに凭れ掛かりながら、青年は睫を伏せる。
「すみません、黙って出掛けたりして……」
「構いませんよ、今日は彼の…仮面ライダーライアの月命日でしょう?
君と彼は親友同士だったと聞いていますから」
「僕の親友は、手塚海之です。ライアじゃない」
香川の言葉を、らしからぬ強い口調で遮ると、青年はふい、と横を向いた。
失敬、と呟いて、香川は肩を竦め、東條は眉を潜めて、バックミラー越しに青年を睨みつける。
「教授に向かって、その口の利き方はないんじゃないかな。教授が居なければ、
君なんか、とっくの昔にモンスターに食われて死んでるところだったんだよ?もう少し…」
「東條くん」
香川に窘められて、東條は不満そうな表情ながらも、口を噤んだ。
「そんなことは、殊更言わなくても、彼だって解かってますよ。
だからこそ、彼は進んで私たちの崇高な目的の為に、危険を冒してまで協力してくれているんです。
感謝するのは私たちのほうですよ」
(違うな。僕が戦うのは、貴方たちの為なんかじゃない)
胸の内で呟いて、青年は嘲笑う。
戦うのは、ただ、手塚の為。
自分の身代わりに戦って死んでいった、何よりも大切な親友の為だ。他の誰の為でもない。
「―――どうしました?」
怪訝そうな香川の声に、青年は掠れた声で答える。
「すみません、少し疲れました…眠ってもいいですか?」
「どうぞ。着いたら起こして差し上げますよ」
「有り難うございます」
心地良い震動に身を任せて、青年は瞼を閉じる。その目から、涙の雫が零れ落ちた。

きみのため  僕が戦うのは  ただ  きみのため―――
450オルタナ02作者代理人:03/03/30 00:14 ID:1xal7eco
とりあえず、第1部終了です。

>>442さん
>ひょっとして紙に書いたものを打ち込んでいるんだろうか・・・
いや、コレの作者はフリーメールを持っているので
ネットカフェで一気に打ち込んで私の方に送ってるんです。
私は流すだけ〜♪

>>444さん
ありがとうございます。この話を作者に話したら
「反響があると頑張れる」、と言ってました。
まだまだ続くので今後もおつき合いよろしくお願いします。
451名無しより愛をこめて:03/03/31 03:28 ID:dzsQX2e5
「帰還」を書いてる者です。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
長い間止めてすみません。

(1)(2)を修正したものと、新規分の(3)(4)を
これからupします(最初からやりなおしになって、申し訳ありません)

次からレスです。これも遅くなってすみません。

>>429
ありがとうございます、嬉しいです。
士郎が蓮と恵里の関係を知るいきさつもたぶんこれから書くと思いますが…
やっぱりピーピング士郎にするしかないのか?と少し悩んでます(w

>>430
ありがとうございます。私も超全集でショックを受けましたが、
それでも神崎兄さんが好きというのもあって、この話を書いて見ました。
神崎士郎の恐ろしさ、非情さも魅力ありますが、やはりおっしゃる通り
「妹のためにここまで・・・」という哀しさが一番出せればと思ってます。
(楽しんでもらえるように、うまく書ければいいのですが)

>>450
乙です。
面白かったです。オルタナ02の設定は知らなかったのですが、
びっくりしました。斎藤雄一君が中の人(wだったとは…
雄一君が好きなら「宇宙船」で紹介されてた、すんなりガルドサンダーと
契約してライダーになった彼も、ぜひ書いていただきたいですね。
452帰還(1)2002年12月:03/03/31 03:33 ID:dzsQX2e5
アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角に、
ひとつの墓石がある。
まだ比較的新しいが、花の供えられた形跡もない。
その前に一人の女が立った。

SHIRO TAKAMI
1977.9.29 - 2001.4.15

埋葬されている者の名を確認すると、
女は墓碑銘を声に出して追いはじめた。
「彼の生涯は……捧げられた…ことのみに…救う…
妹………」
          *

優衣に翼を与えてやりたかった。
飛べるのは、鏡の中の大空だけだとしても。

だが与えることができたのは黒い羽根だけだった。
そして黒い羽根を持つ優衣は、もはや本当の優衣ではなかった。

本当の優衣を取り戻して見せる。
どんなことをしてでも。誰を犠牲にしても。
今度こそ。
453帰還(2)2001年4月15日:03/03/31 03:35 ID:dzsQX2e5
凄まじい爆発とともに、実験用の鏡も実験室の窓もすべて吹き飛んだ。
ガラスの破片で埋め尽くされた床に伏した白衣の男の周りで、
パニックに陥ったアメリカ人たちが口々に喚き、実験室から逃げて行く。

血まみれの顔を上げた男が見たのは、予想した通りのものだった。
自分をじっと見下ろしている少年。
くる日もくる日も妹と一緒に絵を描いて過ごしていた頃の自分。
たった今、砕け散った鏡の中から抜け出してきたのだ。
大人になった自分の喚び出しに応じて。

これでいい。仮の優衣を取り戻したあの時と同じだ。
実験は成功した。この国でずっと探してきた甲斐があったというものだ。
自分と優衣が幼い頃に作り出した、鏡の世界を支配する方法を。

「本当にいいの?1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」
少年が男に念を押す。
「1年あれば十分だ・・・早く、俺に鏡の命を・・・」
うなずいて、少年は歩み出した。瀕死の男の身体に向かって。

避難していた人々が男を救出するために戻ってきたとき、
すでに白衣の身体に息はなかった。
ポトラッツという長老格の教授が悲し気な溜息をつき、頭を垂れた。

その場の誰も知らなかった。
同時刻、遠く離れた日本−−東京にある空家となった邸宅内に、
たった今アメリカで死んだはずの男が姿を現したことを。
覆いのかけられた、大きな鏡の中から。
454帰還(3)2002年12月:03/03/31 03:42 ID:dzsQX2e5
がらんとした花鶏の店内。
渡す相手のいなくなったクリスマスプレゼントを見つめながら、
去年のことを思い出す沙奈子。

あれは桜が散ってまもない頃だった。
アメリカから突然来た訃報を聞いて電話口で立ちすくむあたしの後ろで、
不思議な音がしたんだ。
振りかえると、士郎がいた。たった今その死を知らされたばかりの。
イタリアで見つけて買ってきたアンティークの壁掛け鏡の中に。
だけど、あたしはたいして驚かなかった。怖くもなかった。
ただ、胸を締めつけられるような気がした。
あの子の眼の中に渦巻く、黒い炎を見てしまったからなんだよ。

士郎は何も言わなかった。でも分かった。
自分が死んだことは、優衣には知らせないでくれ。
そう言いに来たんだってことが。
わかったよ・・・何か、考えがあるんだね。そうだろ?
お前が優衣を残してそう簡単に死ぬはずがない。
あのとき、あんなに優衣と別れるのを嫌がったお前が。

お前なら、優衣が消えなくてもいいようにしてくれる…そんな気がした。
たとえこの世の者でなくなっても。
死んだはずのお前が日本の大学にいるらしいことも、その後本当に
消えてしまったことも、しばらく店を留守にして帰国したら
見知らぬ若者たちが次々と優衣の周りに現れ始めたことも、
きっとお前が優衣を守るためにしていることと何か関係が
あるんだろうって気がした。それもあって、真ちゃんと蓮ちゃん、
それにもういないけど手塚くんをこの家に置くことにしたんだ。
でも、だめだったんだね・・・   
455帰還(4)2001年8月:03/03/31 03:54 ID:dzsQX2e5
401号室の実験前日。
海に向かうバイクの後部で、蓮の背中を見つめながら思いにふける恵里。

あの人は、この世の者ではない。
新学期が始まって、初めて研究室で会ったときからそんな気がしていた。
「今度一緒の研究室になった先輩で、ちょっと怖い人がいるの」
「怖い?」
「うん・・・今年清明院に来るまでずっとアメリカの大学で研究してて、
ただ者でなく優秀らしいんだけど、そういうのとはまた違った意味で
普通じゃない感じなんだ。なんか、幽霊みたいで」
その日迎えにきた蓮にそういったら、やっぱり鼻先で笑われてしまった。
「学者には変わり者が多い。前にそう言ったのはお前だろう。
それに、仮に本当に死んでる奴だったとして何か問題があるか?
本当に怖いのは死人じゃない。生きてる奴だ。
くだらんこと考えてて、単位を落とさないように気をつけるんだな」
「もう。茶化さないでよ」
「生きてる奴でお前に妙なことを仕掛けてくるのがいたら、
いつでも言え。俺が適当に片付ける」
「また!こないだケンカした時の傷もふさがってないのに・・・」

蓮には分かってもらえなかったけど、私には分かる。
父さんと母さんがいなくなる前、嫌な予感がしたように、
分かりたくないけど分かってしまう。神崎先輩はただの人間じゃない。

海に着いたら、蓮に頼もう。明日はいつもより早く迎えにきてって。
神崎先輩が計画した実験というだけでも憂鬱なのに、被験者の中でも
メインの役割を任されることになってしまった。どんな実験か知りたくても、
神崎先輩は理論物理学の応用だとか適当なこと言うだけだし、
明らかに神崎先輩を恐れている江島先生は何も答えずに逃げ出しちゃった。
本当は実験自体参加したくないんだけどな。せっかくの誕生日なんだし・・・
456451:03/04/01 00:04 ID:JTqkTpqm
(帰還(1)(2)の主な修正内容)

士郎の生年月日と没年月日を、TV33話の令子の台詞(「高見士郎は4月に死亡」)
と、47話で令子が持っていた死亡診断書に基づいて追加・変更しました。
あと、(1)の季節を夏から12月に変えました。

読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
457名無しより愛をこめて:03/04/03 22:38 ID:Fbx4uJBa
「きみのため」
手塚を悼む雄一の哀しみが切なく伝わってきますね。
あのイラストと添付のストーリーが好きだったので
オルタナ02が格好良く優雅に描写されているのにも感動しました。
続きがとても楽しみです。


「帰還」
破滅の始まりが徐々に静かに語られていく様が良いですね。
これからの神崎の暗躍と暴走とを期待しています。
こちらも続きが楽しみですね。
458名無しより愛をこめて:03/04/06 12:27 ID:U1/Bm+yb
しばらく覗いていなかったらこんな展開になっていましたか。
こういうのも良いですね。
459451:03/04/06 16:50 ID:xW4BXPmx
とりあえず「帰還」の続きをupします。
(まだ1コしかできてないのですが、随分下がってきたので)

>>457
読んでくださってありがとうございます。
だんだん神崎を取り巻く人々の語り物になってきましたが(汗)、
私自身も兄さんの暗躍と暴走が楽しみなので頑張ります。

>>458
カキコどうもです。最近ここでも他のSSスレでも色々な方が色々な話を
書いてるので、読むのが楽しいですね。
460帰還(5)2002年4月:03/04/06 16:56 ID:xW4BXPmx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (1)

誰だ・・・
例の研究ファイルにはさんであった写真の中で、
あいつと一緒に映っていた若い娘に似ている。
そうか。おまえが、神崎士郎の妹か。

1年近く前、魔が差してあの研究ファイルを盗み見たのが
すべての災いの始まりだった。
魔が差した・・・?  違う。すべて神崎が仕組んだことだ。
わざと私の机のそばに自分の全研究記録を収めたファイルを置き、
手に取るように仕向けたんだ。
それを一度見てみたいという、私の気持ちを見抜いた上で。

その少し前、私が「偶然」目撃してしまったことだって
奴が自ら仕組んだに決まっている。
講義の準備で401号室に入ろうとした時、奥にある実験用の
鏡の中から、神崎が歩み出してくるのが見えた。
まるで垂直な水面から浮かび上がるように・・・

自分の目が信じられず、かといって見たものを否定することも
できず、扉の蔭に隠れるように立ち尽くすしかなかった。
そんな私の脇をさっさと通り過ぎ、神崎は401号室から出ていった。
こちらの存在には全く気づかず−−気づかないふりをして。

奴が去った後も、しばらくは扉の蔭から出る気になれなかった。
いったい何者なんだ、あの男は。
そもそも何故この研究室に来た?
研究者として、明らかに私など足元にも及ばないレベルに
達しているというのに・・・たった25歳という若さで。
461帰還(6)2002年4月:03/04/07 00:11 ID:cyrocx/p
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (2)

そうだ。確かに私は、あの男に嫉妬していた。
だが私が神崎の研究ファイルに手を伸ばしたのは
嫉妬からというよりも、学者としての好奇心からだった。
奴の研究してきたことと、奴が見せた信じ難い現象の間には
必ず関係があるに違いない。
ファイルを見れば、奴が本当に鏡から出てきたのか、もしそうなら
どうやってそんな芸をやってのけたのかを解く鍵が見つかるだろう。
そう思ってのことだった。嘘じゃない。
だがいずれにせよ、すべては奴の計算通りだったのだ。
私の嫉妬も好奇心も。
どちらもまもなく恐怖一色に塗り潰されたが。

翌日再び401号室に行くと、私のいつも使っている机のそばに
神崎の研究ファイルが置いてあった。見てくれといわんばかりに。
一瞬ためらった後、手に取って開き、次々にページをめくってみる。
…「MIRROR WORLD」? モンスター? 仮面…ライダー?
何についての研究なのか、私には全く理解できなかった。
いや、それが科学的根拠に基づいた「研究」と言えるのかどうかさえも。
見ようによっては、狂人のたわごとの連なりとしか思えない。
そもそも鏡に出入りするなどという現象こそ、狂人の妄想の
産物と思われて当然ではないか。私がこの目で見ていなければ――
それともあの神崎を見たとき、私はすでに狂ってしまっていたのか?
ファイルの内容を追う思考が、次第に耐えがたいほど混乱してくる。

だがそれは、突然響き始めた耳障りな音によって断ち切られた。
はっとして顔を上げた私の目に、実験用の細長い鏡が映った。
そしてその奥から私を睨みつける、顔と胸から長い触手を垂らした
真っ赤な化け物も。
462名無しより愛をこめて:03/04/10 23:05 ID:xNql89kI
今度は江島先生の視点で神崎が語れらますか。
この回想の果てにあるものも楽しみです。

…物語の流れを中断してしまったかも。
でも、もうやっちゃたから…。
463帰還(7)2002年4月:03/04/13 21:08 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (3)

床にファイルを落とし、そのまま401号室を飛び出したことだけは
覚えている。恥も外聞もなく悲鳴を上げながら。

気がつくと、教職員棟の自室の前まで来ていた。数回失敗した後、
やっとドアの鍵を開けて転げるように中へ入り、すぐまた施錠する。
そこで気力が尽きた。喉をぜいぜい言わせながら座り込む。
激しい動悸。滝のような冷や汗。それは徐々におさまってきた。
だが恐怖は逆に増すばかりだった。
いったいあれはなんだったのだ。あの音は。あの化け物は。
ファイルを盗み見たという後ろめたさが作り出した幻覚か?
トゲに覆われた頭と肩。硬く盛り上がった節の刻まれた腕。
顎から突き出た一対の巨大な牙。
いや。幻覚ならあんな細部まではっきり覚えているはずはない。
一度見たものはすべて頭の中に入ると常々言っている、
香川教授のような記憶力があるわけでもないのに・・・
頭部に通常の生物の目らしいものはなかった。だが分かる。
あいつは、私をじっと見ていたのだ。鏡の中から。
鏡! そういえばこの部屋にもひとつあったじゃないか・・・
振り向きたくない気持ちを無理やり押さえつけ、
部屋の奥の壁に取り付けてある鏡に目を向ける。

あの化け物は映っていなかった。
だが考えようによってはもっと恐ろしいものが鏡の前に立っていた。
神崎士郎が。
464帰還(8)2002年4月:03/04/13 21:10 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (4)

白衣を着て立っているのに、うずくまる大鴉のように見える神崎が
こちらを見つめている。黒すぎる眼で。
あの日以来今日まで、一度も私の脳裏を去らなかった映像だ。
あの赤い化け物が、今日まで私を追い続けて離れなかったように・・・

ご心配なく、先生。あいつは鏡の中からは出てこられません。
再び絶叫しそうになる私に向かって、神崎が口を開いた。
ではやはり、すべてはこいつが仕組んだことだったのか。
鏡から出てくるところを見せたのも、ファイルを401号室に置いたのも、
そしてあの化け物を差し向けたのも。
「い、いったいどこから入ってきたんだ、神崎君」
何とか気を取り直して聞いてはみたが、とっくに答えは分かっていた。
神崎もわざわざ答えようとはしなかった。代りに、こんな風に語り始めた。

知りたいのでしょう。私が鏡を出入りできる理由を。あの怪物の正体を。
私がここに来るまで研究していた事を。そしてこの研究室に来た理由を。
そのすべてをお話しするために、ここへ来ました。
もうお分かりとは思いますが、先生がさっき見た私のファイル、あれを
401号室に置いたのも先生にお見せしようと思ってのことでした。
あの中に、ミラーワールドという言葉がありましたね。
そう、鏡の中にある世界のことです。幼い頃、私と妹が作りだしました。
あなたがさっき見たような怪物と一緒に。
あいつの名はテラバイター。ここから生まれました。

そういうと神崎は白衣の懐から畳んだ一束の紙を取り出し、床に放った。
明らかに子供が描いたと分かる絵ばかりが、十数枚散らばる。
465帰還(9)2002年4月:03/04/13 21:12 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (5)

子供の絵にしては、いや子供の絵だからだろうか、
クレヨンの線に不思議な力強さが感じられた。
だが私が恐さも忘れて驚いたのは、線が表現するものを見たためだ。
画用紙からはみださんばかりに身をくねらせる、龍に似た生き物。
長い角を持つ、野牛ともロボットともつかぬ二本足の生き物。
両手に巨大な爪を生やした、青い縞のある生き物。
三角形の体に長い尾のついた生き物。
直立二足歩行のシマウマのような生き物。
そして顔から長い触角の生えた、あの赤い化け物らしき生き物。
…………
いかに子供の想像力が自由奔放とはいえ、
よくもこれだけ奇怪な化け物ばかり描いたものだ。
待て。神崎はさっきの化け物が「ここから生まれた」と言ったのか。
自分と妹が作り出した、とも。どういうことだ?
私の心を読み取ったように神崎が右腕を上げ、肩越しに鏡を指差す。
同時にあの耳を刺すような音が部屋の中に響き始める。
今度こそ私は再び絶叫した。
神崎の背後の鏡面に無数の化け物が出現し、奇怪な吠え声や
唸り声をあげながらこちら側へなだれ込もうとしているのが見えたのだ。
床の上の絵に描かれた化け物と似たのもいくつかいた。
赤い胴をくねらせる巨大な龍。鉄のサイのように無骨な生き物…

大丈夫、こちらへはこられないと言ったでしょう。今のところは。
相変わらず瞬きもしないで私を見つめながら、神崎が言う。
すべて私と妹が幼い頃に描いてミラーワールドに放し、
動き回れるようにしたものです。私たち兄妹を守らせるために。
命を吹き込んだ、というのとは少し違いますが。
ミラーワールドに、こちら側でいう命のあるものは存在できません。
466帰還(10)2002年4月:03/04/13 21:13 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (6)

「なら、鏡に出入りする君はいったい何だ。幽霊だとでもいうのか?」
半ばヤケ気味に嘲笑しながら言った私に、神崎はあっさり答えた。

そうです。この世の命と引き換えに、ミラーワールドでの命と支配権を
手に入れました。といってもまだしばらく実体は残っていますから、
今のところは幽霊ともいえないでしょう。私にはどちらでもいいことですが。

凍りつく私にかまわず、神崎はなおも言葉を続けた。
江島先生。私があなたの研究室に来たのは、
ミラーワールドを開くために協力していただきたいと思ったからです。
なぜ数ある清明院の研究室の中でここを選んだか、ですか?
江島研究室にいる、ある人間が必要だからです。
ご存知でしょう、学部生の小川恵里を。
アメリカでミラーワールドの研究と調査を重ね、様々な情報を集めるうちに、
私は日本在住のある一家の者たちに特殊な性質があることを知りました。
彼ら自身はミラーワールドを見ることができないにもかかわらず、
ある条件の下でミラーワールドとこの世の接点になる性質が・・・
それが、小川恵里の一家だったのです。
その性質を持っていたばかりに、彼女の両親は今から十数年前に
ミラーワールドに吸い込まれて消滅しました。ミラーワールドが一瞬だけ開き、
私が仮の優衣を取り戻したあの時、条件が揃ってしまったのでしょう。
そう。私が殺したようなものです。知らなかったこととはいえ。
そして、残った娘まで犠牲にすることになるかもしれません。今度は意図的に。
ミラーワールドを開いたままにするには、この世にたった一人残った
その特殊な性質の持ち主、小川恵里がどうしても必要だからです。
もちろん可能な限り、彼女に対するダメージを少なくするようにはします。
だがミラーワールドが開く際の衝撃がどれほどのものになるかを
予測することは、私にもできないのです・・・・・・
467帰還(11)2002年4月:03/04/13 21:14 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (7)

小川恵里はいわば、ミラーワールドの鍵です。
妹の優衣同様今ではこの世とミラーワールドの間の存在である私の力と、
ミラーワールドの接点となりうる彼女の性質を使えば、
今までのように一瞬ではなく、常にミラーワールドを開いておくように
することができる。私はそのことも、アメリカでの研究で突き止めました。
そうすれば、契約モンスターたちがいつでもこちらの世界に
来られるようになります。彼らの主人が契約に背き、勝手に
ライダーバトルから降りたりすることのないよう、監視するために。
もちろん、それ以外の雑魚モンスターも来ることになるでしょうが。

嫌だとおっしゃっても協力していただくことになります。
でなければ、あなたはテラバイターに食い殺されることになる。
モンスターは一度狙った獲物をあきらめません。
まだこちらと自由に行き来することはできませんが、
私が手を貸してやれば話は別ですから・・・

「小川恵里が鍵だと?それに契約モンスター? ライダーバトル?
いったい、何をわけのわからないことを言っているんだ。
いやそんなことより、君の言うたわごとがすべて本当なら、
ミラーワールドとやらを開けば、どのみちいつかはあの赤い化け物か、
それ以外のやつらに狙われた挙句食われることになるんだろう。
それが分かっていて協力するほど、私が馬鹿だと思っているのか」
精一杯の勇気を動員してそう言い返す私に、奴は無造作に言った。

ご明察です、先生。だからこそ先生にはお礼を用意しました。
私が作った封印のカードです。これを持っている限り、
たとえミラーワールドが開いた後でもモンスターは近づけません。
ですから、協力していただけますね?
468帰還(12)2002年4月:03/04/13 21:18 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (8)

神崎はすべてを私に話すようなことを言ったが、でたらめだ。
奴がミラーワールドについて私に明かしたことは、氷山の一角に過ぎない。
そのくらいは私にだってわかる。
なぜ奴は子供の頃、ミラーワールドなどを作ったのか。
なぜあれだけたくさんの人食いモンスターなどを描いて、
自分と妹を守らねばならなかったのか。
そもそも、やつがことあるごとに言及する妹とは、何者なのか。
何故奴は今になってミラーワールドを開こうなどとしているのか。
そしていったい、何をしようとしているのか。
奴の言うことを信じるなら、自分の命を犠牲にしてまで…

最後の2つの疑問については、解けるかもしれないと思った。
「小川恵里の両親ばかりか、彼女自身まで犠牲にする可能性がある。
そしてモンスターがこの世に来るようになれば、
罪もない大勢の人が食われることになる。
それを承知の上でミラーワールドを開こうというのか、君は。
なぜだ。なんのためにそこまで酷いことをするんだ!」
やっとの思いで問う私に、奴は不気味な笑みを浮かべてこう答えたからだ。
それは、ミラーワールドが開いたときにお答えしましょう。

そしてあの実験の後。
神崎は実験用の鏡の中へと消えていった。
神崎に関わるようになってから体験した恐怖すべてを軽く越える恐怖と
後悔の念で呆けたようになっている私に、こう言い残して。

ご協力を感謝します、先生。実験は成功しました。
これでライダーたちを戦わせて、妹を――優衣を助けることができます。
さあ、お約束した封印のカードです。くれぐれも紛失などされぬよう…
469帰還(13)2002年4月:03/04/13 21:19 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (9)

「ライダー」を戦わせて、「妹」を助ける。
それがミラーワールドを開いた理由なのか。
それが奴のしようとしていることなのか。
だがそれに、いったいどういう意味があるというのだ?
結局、神崎は何一つ肝心なことは私に明かさなかった。
私を脅し、利用し、捨てただけだったのだ。

神崎に手渡された封印のカードをぼんやり見つめる
私の目の端に、若い男が映った。
ああ。時々学内で見かけたことがある。小川恵里の恋人とかいう青年だ。
今は床に倒れたまま、身動きひとつしない小川恵里の。
やはり神崎に渡されたらしい、黒い板のようなものを持って立ち尽くしている。
彼と、神崎の間に何があったのかは分からない。
コウモリに似た巨大なモンスターが鏡の中から出現してから、
神崎が封印のカードを差し出すまでの記憶が、完全に飛んでいた。
だが青年の黒い板と、消えた神崎がこれからやろうとしていることには
何かつながりがあるような気がしてならなかった。
「ライダー」。「契約モンスター」。
奴の言った、あの謎の言葉に関わることかもしれない。
だが、もうどうでもいいことだ。じきに私は死ぬのだから。

許してくれ、田宮君、西本君、仲村君。そして、小川君・・・
私はただ、死にたくなかった。
とにかく、神崎のいうことを聞いて封印のカードを手に入れなければ。
ただその一心で、悪魔に魂を売った神崎の計画の片棒をかついだのだ。
470帰還(14)2002年4月:03/04/13 21:22 ID:QAOe1rlx
モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想 (10)

だが待っていた結果は、あのまま赤いモンスターに食われていた方が
まだましだったと思えるようなものだった。
恐怖と罪の意識に耐えられず、大学を辞してあてどない放浪を始めたが、
あいつはどこまでも私を追ってきた。封印のカードを持っていても。
カードをかざせば一瞬は怯んで消えるが、すぐにまた現れる。
普通の鏡でなくとも、窓ガラス、水たまり、車やバイクのボディ等、
あらゆるところからあの耳障りな音を響かせて。
教え子ばかりか、世の人々すべての命を神崎に売り渡したも同然の私を
さいなみ続ける、凄まじい後悔の念と道連れになって…
私のせいじゃない。
あんなことになるとは思わなかったんだ。
そう呟くごとに、罪の意識は逆に重くなっていった。
そして今、封印のカードもなくなり、いるはずのない神崎の助けを求めて
清明院へ戻ってきたところで、ついに赤いモンスターに襲われた。

なぜ、こんなことになった。
なぜ私はこんなところで死ななければならない。
「これで妹を…優衣を助けることができます」
神崎はそう言った。
そうだ。あいつの妹こそ、すべての理不尽な運命の根源なのだ。
今私を見下ろしている娘が。

「そうだ、神崎優衣。あんたさえいなければ・・・・・・」
471463:03/04/13 21:45 ID:QAOe1rlx
帰還の続きができたので、upします。

一応自分の考えだけを使って書いているつもりでいますが、
他スレでもいろいろな説が議論されてきた部分の補完なので、
もしかしたら過去に誰かが言った説と同じになっている所も
あるかもしれません。その時はご容赦くださいませ・・・

>>462
いえいえ、全然大丈夫です。先週はあとひとつくらい
upしたかったのですが、結局中途半端になってしまい失礼しました。
今回も読んでくださって、ありがとうございます。
江島先生の回想は一応これで完了ですが、まだ神崎の被害者や追っかけ(wが
残っているので、次はそちらの人たちの番になると思います。
たぶん、また来週末以降upします。
472名無しより愛をこめて:03/04/15 07:13 ID:Adk3BJw5
続き期待age
473名無しより愛をこめて:03/04/16 17:31 ID:fNwx5EY3
オルタナ話も帰還も(・∀・)イイ!!
続き楽しみにしています。
474名無しより愛をこめて:03/04/19 18:39 ID:xgpOkdz1
続き読みたいんで保守します
475山崎渉:03/04/19 23:33 ID:Sbhbk2zA
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
476帰還(15)2002年11月:03/04/20 23:47 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (1)

なぜあの日、401号室の床に神崎士郎の研究ファイルが
落ちていたのかはわからない。
その少し前に教職員棟を出ようとした時、血相を変えて
駆け込んできた江島教授とぶつかりそうになった。
「江島先生。どうされました?」
あまりに凄い表情だったので振り返って声をかけたが、
階段を駆け上がり始めた彼の耳には届かないようだった。
そのまま401号室へ行き、ファイルを見つけて
拾い上げ、見てしまった。つまり頭に入れてしまった。
不意に現れた神崎が無言でそれを取り上げるまで。
そして運命は変わった。見ていなければ、今、
妻と子供を残してこんな所で死ぬこともなかったろう。
自分の教え子の手にかかって・・・

東條か。
いったい私は、この青年の何を知っていたというのだろう。
少し偏ったところはあるが、優秀な上に素直で真面目で、
自己犠牲の精神に溢れる青年としか見ていなかった。
その心の中にどんな闇が潜んでいるかなどとは考えもしなかったのだ。
仲村を殺したのも、若者故の血気と未熟さによる暴走だと思っていた。
その「欠点」に何度も苛立ちはした。だが、私の訓戒で徐々に
矯正していくことができるだろう――そう考えていた。

私にミラーワールドの研究ファイルを見られた。
それ自体は神崎の誤算だったかもしれない。
だが今私の身に起こっている事は、あの男の巧妙な策略の
結果ではないだろうか。
そして同時に、私の自業自得に他ならないのでは……
477帰還(16)2002年11月:03/04/20 23:48 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (2)

あの時まだ神崎は、私の特殊能力を知らなかったはずだ。
だがその後知った可能性はある。江島教授を通して。
江島教授には、何度か私の能力について話したことがある。
そしてあの日以来、妙におどおどした江島教授と神崎が
共に何かの研究に没頭しているのを、何人もが見ているのだ。
いずれにせよ、ファイルを見た私が奴の計画を察知して
止めようと決心するのは時間の問題だということを、
神崎はすぐに悟ったに違いない。
だから、東條悟にカードデッキを渡したのかもしれない。
彼の性格に潜む闇を見ぬいた上で。
そして、彼が私に心酔していることを知った上で。
でなければ、自分を裏切った者をそのままにしておくはずはない。
デッキを受け取った後、私に協力してミラーワールドを閉じると
申し出てきた東條を…

東條がいなかったら、オルタナティブの開発は当初から
頓挫していたに違いない。仲村の協力があったとはいえ。
研究ファイルの内容はすべて頭に入っていたが、
カードデッキ、それにミラーワールドとモンスターについての
詳細な情報を彼から入手し、またタイガとなった彼の助けを得て
ミラーワールドに出入りしながら実験と訓練を繰り返したからこそ、
あの短期間で私のオルタナティブ・ゼロ、そして仲村の
オルタナティブの実戦投入が可能になったのだ。

これで、神崎優衣を亡き者にし、ミラーワールドを閉じることができる。
私はそう確信した。
神崎に妻子を人質に取られても、その確信は変わらなかった。
478帰還(17)2002年11月:03/04/20 23:52 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (3)

家族を失いたくない。
オルタナティブのデッキを渡して、すべてを諦めよう。
一瞬たりともそう思わなかったと言えば嘘になる。

だがしばらくして神崎にこう言ったとき、私は勝ったと思った。
「答えは出ているんですよ。最初からね」

私はお前や秋山蓮とは違う。
大切な人間への愛情も、度を越せば妄執と変わりない。
妹ひとりのために多くを犠牲にしようとしているお前ではなく、
多くの人々のためにお前の妹ひとりと、自分の家族を
犠牲にしようとしている私の勝ちだと。

もちろん、典子と裕太だけを死なせるつもりなどなかった。
実際にミラーワールドを閉じる時がきたら後の処理を東條に任せ、
自分はミラーワールドに残ってそのまま死ぬ。そう決めていた。

だが本当は逆だったのかもしれない。
最初から私の負けは決まっていたのかもしれない。
多くを助けるために、ひとつを犠牲にできる勇気を持つ者こそ
真の英雄である――その信念が間違っていたと思うからではない。
そのような「英雄的行為」を肯定する私の考え方が、
結局は東條のような人間をひきつけることに
なってしまったのではないか・・・
今初めて、その可能性に思い至ったからだ。
「何よりも自分の妻や子をモンスターから守りたい。だから
オルタナティブを開発し、神崎優衣を殺してミラーワールドを閉じる」
そう言ったならば、東條も私に協力しようとはしなかっただろう。
479帰還(18)2002年11月:03/04/20 23:53 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (4)

勝った。神崎の方こそ、そう思ったのかもしれない。
「答えは出ているんですよ」という私の言葉を聞いた時に。
バトルで見せる、家族さえ犠牲にすることをいとわない非情な戦士の顔。
そして日常生活で見せる、家族を何よりも大切にする父親の顔。
そのギャップが広がれば広がるほど、私を英雄視する東條の
尊敬の念がぐらつき、やがては崩れていくと知っていたのならば…
そう。
神崎が、家族を人質に取られた私の反応を見せることで、東條を
私から離反させようとしたのなら、恐るべき早さで成功したと言っていい。
「先生もやっぱり、家族が大事なんですね」
その後、携帯で典子と裕太の安否を確かめる私を見つめながら
そう東條はつぶやいたからだ。失望を隠さない表情で。
「いいですか東條君。英雄になるということは、人の命に
鈍感になるということではありません」
さすがにたまりかねた私がこう諭しても、彼の不満そうな
表情はさして変わらなかった。言葉の上では私に同意したが…

今なら想像がつく。東條に人として一番大切なことを教えるつもりで
私の家族に引き合わせ、一緒に食事をしたあの時。
私欲を捨てた英雄でなく、ごく当たり前の父親として妻子と
接する私が、彼には裏切り者に見えたに違いない。
そして、改めてこう確信したのだろう。
「先生だって、結局は家族を守りたいだけなんだ」
本当に家族を犠牲にしてまでミラーワールドを閉じようとする、
つまり「英雄」になろうと思うのなら、普段から家族や
暖かい家庭生活に執着すべきではない。
東條の持つ、若者というより子供特有の潔癖さを考えれば、
そう思ったであろうことは想像に難くない。
480帰還(19)2002年11月:03/04/20 23:54 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (5)

おそらくあの時だ。東條の胸に、神崎の仕組んだバトルに
勝ち残って「真の英雄」になろうという野望が芽生えたのは。
そして彼の眼に映る私が理想の英雄でなく、殺戮の対象に
転落したのは――ライダーバトルを邪魔する者であるが故に。
「先生、ぼく、ミラーワールドを閉じるの、いやになっちゃって。
ライダーの戦いに勝ち残るのが真の英雄かなって…」
ここまでのすべてが、神崎の思惑通りだったのかもしれない。
神崎優衣を手にかけようとしたまさにその瞬間、
私は仮面ライダータイガの爪にかけられたのだから。
神崎から渡されたカードデッキで変身した東條の爪に。

人間の心に巣食う闇――憎しみ、恐怖、劣等感、嫉妬、不満、孤独。
ありとあらゆる欲望。愛情という名の妄執。
そういったものを、私は過小評価していたのかもしれない。
自分には縁のないものだと思っていたから。
だから神崎に負けることになったのかもしれない。
神崎は自分の中の闇を否定しようとはしなかった。
それどころか自ら闇そのものになってまで、妹を救おうとしている。
他人の心の闇をも自在に操りながら…

城戸といったか。あの若者は、本気でライダー同士の戦いを
止めようとしているらしい。
神崎優衣を亡きものにしようとする私達に立ち向かいながら。
それなのに、神崎の放ったモンスターに襲われた私の家族を救った。
「無駄だよ。先生はとっくにそんなこと超越して…」
東條のしたり顔の台詞をさえぎり、
「俺は、助けたいから助けただけだ!」
そう叫んだきり、何の見返りを求めるでもなく。
481帰還(20)2002年11月:03/04/20 23:55 ID:kBbIbLRl
ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想 (6)

ただの甘い若者と思っていた。だが今更ながら思う。
彼は、私の考えるような真の英雄ではないかもしれない。
だがライダーバトルという神崎の呪縛を断ち切るために
本当に必要なのは私でもなく、東條でもなく、
もしかしたら彼のような人間なのかもしれない。
他のライダー達のようにただ心の闇のままに動くのでもなく、
私のように心の闇を無視しようとするのでもない。
神崎に自分の心の闇を支配されまいとしているばかりか、
他のライダーたちさえも心の闇から解放しようとしているのだ。
何度、自分や他人の心の闇に呑み込まれそうになっても、
何度傷ついても。

塵となって消え行く私の耳に、東條のつぶやきが聞こえてくる。
あろうことか、泣いているらしい。
「先生は、ぼくにとって一番大事なひとでした。
だから、犠牲になってもらわないと。ぼくが、英雄になるために。
ごめんなさい、先生。ごめんなさい…」
城戸。神崎の不毛な企みを止めてくれ。私の代りに。
神崎優衣の命、ライダー達の命、多くの人々の命。
お前の望み通り、そのすべてを救うことなど
できるかどうかは分からないが……
そして、神崎の思惑通りライダーバトルの鬼と化した東條を
心の闇から救ってやってくれ。誰を救うよりも前に。
私は、師でありながら彼を救ってやることができなかった。
私と仲村が彼に殺されることになったのも、結局はそのためだ。
いや、救いが必要だと気づくことすらできなかった。今の今まで。
こんなことを言う権利など私にないことは分かっている。
だがそれでも、心残りでならないのだ――
482476:03/04/21 00:21 ID:rviTyh9F
帰還の続きです。
「なんでもかんでも神崎士郎のせいにするSS」
と化してきましたが(汗)

香川チームにも色々なスレで色々な議論や話が
ありますが、もし今回upした話の中に
他スレでの話やネタと似た部分があったら
ご容赦くださいませ…

>>472,473,474
読んでくださって嬉しいです。ありがとうございます。
香川教授の語りは難しそうなので最初はやめようと
思いましたが、やっぱり神崎の最大のライバルなので
避けて通れない気がして、書いて見ました。
483名無しより愛をこめて:03/04/23 02:27 ID:AJiC5QgY
「帰還」の続きと新作が上がっていたのでまとめて感想を。

「帰還・江島教授編」
悲運な割に陰の薄かった江島先生にスポットが当っていて面白く読めました。
知らずに破滅に巻き込まれたんじゃなくて、
そうなると知っていて大勢の犠牲者を出した小心者って解釈の江島先生は、
死んで行く時まで身の不幸を他人のせいにしたがる所がまた憐れで。

恵里さん自身にMWを開く能力があったって説は本スレでも時々出ていましたが、
401号室の実験が、その能力の利用の他にも更に蓮まで巻き込む事を予定してたなら、
神崎はとんでもなく狡猾なゲームマスターだった訳ですね。

「帰還・香川教授編」
人として優れていた為に東條の心が読めなかった香川先生の誤算が、皮肉めいてて良かったです。
自分を殺した東條を最後まで気に掛けて、救ってやって欲しいと願う先生が哀しいですね。
東條は結局このあと香川先生を追い求めて死んで行く事になるわけで、
師弟としての絆が深かったろう分、行き違った心がやるせない感じで。
484名無しより愛をこめて:03/04/23 21:52 ID:3GBnlXmW
熱いなぁ・・・
485_:03/04/23 21:53 ID:25VGyBM4
486483:03/04/24 00:39 ID:w/UNPUih
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/272-337n
こちらのスレに、エンディングの後の世界での、東條の話を書きました。
現実と夢とが区別できなくなりかけた孤独な東條の前に「デストワイルダー」が再び現れ…。

実は >>185-197 の「オマエハ…」の世界の延長だったりしますが、
内容が「ライダーじゃない龍騎」スレ向けだと思ったのであちらに。
487482:03/04/26 09:12 ID:JOr9aIj1
>>483,484,486
感想ありがとうございます。読んでくださって、とても嬉しいです。
すみませんが、また後で詳しいレスを書かせていただきますので
少しお待ちください・・・

次から、帰還の番外編をupします。(まだ完成していない上に
面白いかどうかわからないのですが)
488帰還番外編/湖(1):03/04/26 09:14 ID:JOr9aIj1
観光地でありながら不思議と俗化を免れている、
ある山の中の小さな湖。
霧のたちこめる無風の朝、一人の娘がその水に飛び込んだ。
やっと日が昇ったばかりで、湖岸にも周囲の木立にも
人影ひとつ見当たらない。娘はそのまま溺死するはずだった。
望み通り、誰にも見られずに。
そういう死を望むならば、実は飛び込む必要などなかった。
入水する直前、娘の周りでは耳を刺すような音がしていた。
そして猪のような怪物が、湖の中から彼女をじっと見据えていたのだ。
絶望に麻痺した娘の耳には何も聞こえなかったが。

だが娘は溺死もせず、怪物に食われもしなかった。
湖の中から突然飛び出した何かが、長い尾羽を伸ばして
溺れかかる細い体を受け止めた。
正確には湖面そのものの中から飛び出したのだが。
鏡のように澄んだ湖面から。

水を飲んで咳込む娘を抱えて湖の上を飛び、
もとの桟橋に降ろしたのは、鳥と人の中間のような
赤い怪物だった。先に娘を狙っていた怪物ではない。

濡れて顔や背中に張りついた髪や服にもかまわず
桟橋に手をついて座り込み、
予想だにしなかった事態に茫然とする娘。
そのそばの水面から音ひとつたてずに、
今度は猪の怪物が躍り出た。まだ娘を狙っていたのだ。
自分の前に降り立ち、奇声をあげる怪物を見ても、
娘の表情には何の動きもなかった。逃げようともしない。
むしろ、今度こそ食われて死にたがっているように見えた。
489帰還番外編/湖(2):03/04/26 09:16 ID:JOr9aIj1
だが娘は再び救われた。
最初に彼女を助けた赤い怪物が鋭い鳴き声と共に
猪の怪物に襲いかかったのだ。
実力において明らかに格の違う相手に刃向かわず、
また音もなく湖面に飛び込んで消える猪の怪物。
いつのまにか娘の前方に、コートを着た長身の男が立っていた。
怪物に命じて自分を助けさせたのはこいつだ。
娘には何故か分かった。そして抑揚のない声でつぶやく。
「・・・死神だろ、あんた」
「たいした違いはない」
「ならはやく連れてってよ、あたしも。
死神のくせに人助けの真似なんかして、どういうつもりだよ」
毒舌に取り合わず、「死神」は逆に聞き返した。
「わたしも、とは?」
「先にお姉ちゃんを連れてっただろ」
「・・・」
「この世でたったひとりのあたしの家族だった。
あたしを高校に行かせるために夜遅くまで働いてた。毎日毎日・・・
父さんと母さんが事故で突然死んでから大学も中退して、
仕事をかけ持ちして。その挙句、ある夜の帰り道で、
人を傷つけるのが生きがいみたいな男に行き会った。
そしてそいつに待伏せされて殺された」
「姉が殺されたのは自分のせいだ。そう言いたいのか」
「ああ、そうだよ!だから死んで謝りに行くんだ。
許してもらえるかなんてわからないけど…
でもどっちみちお姉ちゃんがいないなら、
これ以上生きていたって意味なんかないんだよ!
今にあたしも働くようになって、少しでも楽をさせてあげたいと
思ってたのに、もう何もしてあげられないんなら…」
490帰還番外編/湖(3):03/04/26 09:18 ID:JOr9aIj1
コートの男が、暗く、少し哀しい笑みを浮かべたように見えた。
「死ぬ可能性の高さは似たようなものだが、
身投げよりはましな選択もある。
お前の姉を生き返らせたいとは思わないか?
興味があればその手だてを教えてやってもいい」
男を睨みつける少女の目に、初めて絶望以外の
感情が浮かんできた。
「・・・・・・なんだよそれ。本当なのかよ」
返事の代りに男はコートのポケットに入れていた
右手を抜き出し、持っていたものを娘に向かって差し出した。
一瞬ためらった後、手を伸ばしてそれを受け取る娘。

軽い材質でできた白い板だった。表のスリットに何か挟んである。
裏返したトランプの札に似ていた。
「そいつを水面にかざしてみろ」
渡されたものの正体を考える暇もなく、男の声に反射的に従い、
湖の面に白い板を突き出す娘。
その瞬間。湖に映った娘のウエストの周りにベルト状の物体が現れ、
ひとりでに巻きついた。間髪を入れずまばゆい光が迸る。
次の瞬間、娘の姿は消えていた。
代りに、自分の手や身体を見てうろたえる姿があった。
「なによ、これ……あたし?」

桟橋の端から身をのり出し、水鏡に映る我が身をのぞき込んで
立ちすくむ、明らかに人間とは違う灰色の姿。
そしてその後に佇むコートの男。
静かな湖面にゆらめく2つの細長い影が、突然乱れた。
先ほど娘を襲おうとした猪の怪物が再び湖面から現れ、
襲い掛かってきたのだ。
491名無しより愛をこめて:03/04/27 08:57 ID:aEGlZ2gT
ほほう・・・
492名無しより愛をこめて:03/04/27 08:59 ID:mvjs9PZ6
へへぇ・・・
493名無しより愛をこめて:03/04/27 13:03 ID:V2G9Ua++
「帰還番外編/湖」
またも神崎の手で踊らされ、新たなライダーバトルの生贄が…。
美穂の覚醒がどう描かれていくのか、続きを楽しみにしています。
494名無しより愛をこめて:03/04/28 03:01 ID:P131E80D
神崎が美穂のことを助けたのは、
瞬時に妹属性を見抜いたからだと言ってみる。
495名無しより愛をこめて:03/04/28 05:22 ID:QAfjBxcR
     ┏━━━━━━━━━┓
     ┃┌─∪∪∪∪∪∪∪┃
     ┃◎ |【FINALVENT】 ┃
     ┃┌―─―――─―┐┃
     ┃| /\___/ヽ |┃
     ┃|/   :::::::::::::::\|┃
     ┃|| ,,-‐‐   ‐‐-、.::||┃
     ┃|| 、_(o)_,:  _(o)_,:::||┃
     ┃||   ::<    .::;||┃
     ┃|\ /( [三] )ヽ:::/|┃
     ┃|/`ー‐--‐‐―\|┃
     ┃└―――─――─┘┃
     ┠口口口口口口┬──┨
     ┃ /⌒ヽ 三三 ..:|ウワァァ┃
     ┗/〉  |..━━━━━━┛
       /    l     〉  | |
       /   〈 \ (_/ /
       |    |   ヽ (_/|
       |    ヽ    ::::(__/
       |        ::::::::::::/
      /         ::::/
    /        ::::/
  ヽ
  つわぁぁああぁああぁ!!!!!
496488:03/04/30 03:13 ID:vzOHJLi6
遅くなってすみません。感想へのレスです。

>>483
詳しい感想嬉しいです、ありがとうございます。

>死んで行く時まで身の不幸を他人のせいにしたがる所がまた憐れで
何も知らない優衣に罪を着せて死ななくてもなあ、と本放送の時に
私も思いました。それで、そこまで江島先生を追い詰めた出来事は
何だったんだろうと思って、この話で少し詳しく補完(妄想)してみました。
神崎兄の凶悪さと江島先生の心の弱さが五分五分で
401号室の悲劇の発端になるようにしたかったのですが、
思い通りにいったかどうか・・・

>恵里さん自身にMWを開く能力があったって説は本スレでも時々出ていましたが、
やはり出ていたんですね。たぶん、私も見ていて
記憶に残っていたのだろうと思います。

>人として優れていた為に東條の心が読めなかった香川先生の誤算が、皮肉めいてて良かったです。
>自分を殺した東條を最後まで気に掛けて、救ってやって欲しいと願う先生が哀しいですね。
ありがとうございます。香川教授の心理を書くのは難しそうな上に
神崎兄が好きで「帰還」を書き始めたこともあって、
香川先生の弱点を必要以上に書いてしまったのではないかと
少々気が引けてました。なので、そういっていただけるとやっぱり嬉しいです。

東條に「何故・・・」と言った後の香川先生の気持を知る手がかりに
なるものは何も本編で示されていないのですが、あの時初めて
先生が彼の心の闇の深さを知ったのは間違いないと思われるので、
先生の性格なら、自分を手にかけたとはいえ、教え子のことをそれこそ
家族より先に心配したんじゃないかと思ってあのように書いてみました。
497488:03/04/30 03:17 ID:vzOHJLi6
(感想へのレス続き)

>>484
>熱いなぁ・・・
もしも帰還のことでしたら、ありがとうございます。

>>486
>http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1044256109/272-337n
>こちらのスレに、エンディングの後の世界での、東條の話を書きました。

読ませていただきました。実は、私はそのスレの292と317と
344だったりします(汗)。もしかしたらと思っていましたが、
やはり「オマエハ…マチガ…」の方だったんですね。
ぜひ補完スレでも、あちらでも、また面白いSSをお願いします!

>>493
>またも神崎の手で踊らされ、新たなライダーバトルの生贄が…。

ありがとうございます。続きもがんばります。
だんだん帰還での悪辣さが増してきたので、たまには
兄さんに人助けでもさせようと思って書き始めたのですが(マジ)
結局あんな風になりました(鬱)

>>494
>神崎が美穂のことを助けたのは、
>瞬時に妹属性を見抜いたからだと言ってみる。

それもある・・・んでしょうねきっと・・・
498帰還番外編/湖(4):03/04/30 03:20 ID:vzOHJLi6
姿こそ変わったが、霧島美穂という名の娘であることに変わりはない。
目の前の水から飛び上がり、自分めがけて
襲いかかってくる怪物を目の当たりにしながら、
何ひとつ身を守るすべを持たないただの娘であることに…
他に変わったのは意志だけだ。
姉を取り戻す方法があると知った以上、もう簡単には死ねない。
だがまだ何もわからなかった。姉を復活させる方法どころか、
今この場で自分が死なないための方法さえ。

身動きのとれないでいる灰色の背をコートの手がぐいと押し、
湖に向かって突き飛ばした。
ほんの少し前、同じ湖から救い上げたばかりだというのに。
声をあげる間もなく落ちていく娘を、男の声が追った。
「お前の戦場はミラーワールドだ」

落ちた先が湖でなく、銀色に輝く世界だったことよりも、
その後気がつくとやはり水中で必死にもがいていたことよりも、
頭を水から上げるたびに見える湖岸の風景の方が美穂には気になった。
最初に飛び込む前、この世の見納めにしようと
振り返って眺めたときの風景とどこか違う。
桟橋の後ろにある緑の林にも、そのさらに背後の高台にある
リゾートホテルにも、確かに見覚えがあるのに。
いや。あの林はホテルの右側でなく左側に見えていたはずだ。
それに、ホテル外壁に英語で書かれたホテル名が逆になっている。
まるで鏡に映したように…
その時、何かが自分に近づいてくる気配を感じた。
湖の上に目を戻し、溺れかけていたことも忘れて思わず息を呑む。

少し離れた水面に巨大な水鳥が浮かんで、
氷のように透き通った眼でじっとこちらを見つめていた。
499帰還番外編/湖(5):03/04/30 03:23 ID:vzOHJLi6
唐突に、男の声が響いてきた。自分を突き落とした男の声だ。
「その鳥がお前に力を与える。早く契約のカードを出せ」
「け、契約ってなんだよ!」
「ぐずぐずしていると食われることになる。
姉を生き返らせたければ、モンスターと契約して戦え。
それとも最初の望み通り今死ぬか。好きな方を選べ」
鳥が威嚇するように甲高く鳴いた。白と金に輝く翼を広げ、
長い首を低く伸ばし、水の上を滑るように向かってくる。

「誰が死ぬかよ!」
そう叫ぶと美穂は、水中で腰のカードデッキに手を伸ばした。
一枚のカードを引き抜き、迫る白鳥に向かってかざす。
……………

ミラーワールドの湖岸に、あの猪モンスターが姿を見せた。
逃げ回る獲物を執拗に追っているのだ。
ほどなくその獲物が湖に浮かんでいるのを見つけると、
上半身に生えた2対4本の角を即座に振り向けた。
各々の角の間から2つの蒼い光が放たれ、
湖の上の小さな姿に向かって弾丸のように飛んでいく。
直後、巨大な水柱が獲物のいた位置から噴き上がった。
だがそれは蒼い光が獲物を粉砕したからではなかった。

蒼い光が到達する寸前、湖面から空中に飛び立った霧島美穂は
もう灰色ではなかった。ただの無力な娘でもなかった。
翼のように広げたマントも、水柱の中から現れつつある身体も、
左手に下げた細身の剣も、純白に輝いている。
白鳥のモンスター、ブランウイングと契約したばかりの
仮面ライダーファムだった。
500名無しより愛をこめて:03/05/01 01:04 ID:XMFyM9xA
555
501名無しより愛をこめて:03/05/05 00:41 ID:KWCZXmLl
話しの途中かもしれませんが保守を兼ねて。

>>388で示された「ライダーが居なくなってしまった後」の世界、
残された人たちのその後の話を考えてみたんですが、
なんだか暗い話になりそうで中断しています。
502名無しより愛をこめて:03/05/07 21:43 ID:+ZPjFqJH
え?
503帰還番外編/湖(6):03/05/08 23:44 ID:NKpSs65/
一瞬とまどったものの、ごつい図体に似合わぬ素早さで
上半身を起こし、空中のライダーに狙いをつける猪の怪物。
再び両方の角から蒼い光が放たれた。
だがすでにファムはバイザーにカードを差し込んでいた。
「ガードベント」
空中に現れた盾の中心から白い羽根が次々と湧き出し、
湖の上を舞いはじめる。
同時に、蒼い光が白い盾に吸い込まれるように消えた。
ライダーには何のダメージも与えずに。
羽根吹雪に幻惑され、方向感覚を失った猪モンスターが
湖岸でうろたえたように立ち尽くす。
「ソードベント」
その背の真中に、突然金色の刃が振り下ろされた。
いつのまにか怪物の背後に降り立っていたファムの一撃だった。

「甘いな」
現実世界の桟橋に立ち、魚を狙う鷺のように水面を見つめていた
コートの男がつぶやく。
「ワイルドボーダーにわざわざ接近戦を挑むとは…
不意をついたつもりだろうが」

その通りだった。
渾身の一撃のはずが、盛り上がった鋼鉄の塊のような
猪モンスターの背にかすり傷ひとつ付けられなかったと知って、
今度はファムがうろたえる。いや、そんな間もなかった。
怒り狂った怪物が瞬時に向き直り、至近距離から恐るべき瞬発力で
ライダーに向かって突進をかけた。耳障りな鳴き声とともに。

怪物の装甲と重量の生み出す衝撃をまともに食らった身体が、
湖岸の奥へ向かって吹っ飛ばされていく。白い羽毛のように。
504503:03/05/09 00:00 ID:nS35+onT
1コしかできてなくてすみませんが、帰還番外編の続きです。

>>501
保守どうもです。その後、残された人たちの話はどうですか?
もしできてたら、どうぞupしてくださいませ。
帰還はまだ終わるまでにちょっとかかりますし(汗)、
そのお話見てみたいです・・・
505名無しより愛をこめて:03/05/11 07:26 ID:iCJGgRN5
ぜひ!
506帰還番外編/湖(7):03/05/12 02:43 ID:p4nk8OS0
岸から少し離れた林の手前に倒れたまま、
身動きひとつしないライダー。
そこへ今度こそとどめをさそうと、猪のモンスター・
ワイルドボーダーの巨体が突進していく。
だが尖った蹄に踏み潰される直前、ファムは跳ね起きた。
翼のようにマントが広がり、白い身体がふわりと宙に舞う。
迫る猪モンスターと真正面から向き合いながら。

空中で右脚を引いて勢いをつけ、
目にも止まらぬ速さで蹴りを飛ばすファム。
ワイルドボーダーの、身体に比して小さな頭部に。
続いて短い首の根元に、至近から細い剣先が突き刺さる。

攻撃のパワーよりも意外さが猪モンスターを動揺させた。
一瞬動きを止めた後、林を目指して再び突進を始める。
自分の背後に舞い降りたライダーに背を向けて。
振り返ってそれを見たファムがブランバイザーを構え直し、
後を追って駆け出す。

「契約したばかりにしては、いい闘い方をする。
だが問題はこれからだ」
桟橋の上で戦いを見守り続けるコートの男の横顔に、
湖面を照らす太陽の輝きが映ってちらちらと動く。
そのせいか微かに笑っているように見えた。

林の中に入ると、急に暗くなった。
針葉樹の葉が重なり合って空を覆い隠し、
無数の幹が周囲の視界をさえぎっている。
細身の剣を構えて林の奥へ踏み込んで行くファムを、
下草の間から邪悪な小さい眼がじっと見つめていた。
507帰還番外編/湖(8):03/05/12 02:46 ID:p4nk8OS0
ほどなく、行く手に小さな空地があらわれた。
「そんなに遠くへは行っていないはずなのに…」
空地の中央まで歩いてゆき、明るい空を見上げながら
ファムがつぶやく。
つぶやきが終わらないうちに、すさまじい衝撃に襲われた。
正面の林の暗い下草を突き破っていきなり現れ、
突進してきた猪モンスターの体当たりを食らったのだ。
「…っく!」
再び地に倒れながら、ファムは悟った。
ワイルドボーダーがわざと林の中に逃げ込んだことを。
つまり、自分が罠に誘い込まれたことを。
それでもすぐに身体を起こし、モンスターが消えた背後の林に
剣を突き出して身構えた。そのまま十数秒が流れる。
モンスターの出現が嘘のように、林は暗く静まりかえったままだ。
前か、後ろか、右か、左か。
猪の怪物が次にどこから出てくるのか、全く予想できない。
全神経を研ぎ澄ましているつもりだったが、
その実ファムは冷静さを失いつつあった。
それを見透かしたように、攻撃はまたもだしぬけにやってきた。
左後ろの藪でバキバキと小枝の折れる音がしたと思うと、
もう跳ね飛ばされていた。マントを広げて飛び立つ間もないうちに。
そして今度は、立ち上がる間さえ与えられなかった。
白い身体が起きかけるたびに、林のどこかから鉄の獣が
巨大な弾丸のように飛びだし、重く鋭い当て身を食らわせ、
また反対側の林に飛び込んでいく。ぎいぎいと鳴きながら。
そのたびに空地の地面に思い切り叩きつけられるライダー。
……
ついにファムが起き上がろうとするのをやめた。
何度目かに倒れ伏すと、そのまま今度こそぴくりとも動かなくなる。
泥にまみれた身体は、元の白さをほとんど失っていた。
508506:03/05/12 02:53 ID:p4nk8OS0
帰還番外編の続きです。今日中に終わらせたかったのですが、
結局できませんでした…残念。
他にSSを作った方がいたら、どうぞ先にupお願いします。
509名無しより愛をこめて:03/05/14 13:20 ID:vEDXNU4l
途中で書き込むと寸断になりそうなので感想を控えてましたが保守を兼ねて。

番外編、戦闘シーンの盛りあげ方が素晴らしいです。
なんだか、画面が止まってアドベントカードが出てきて次回へ続くのようなヒキなので、
この続きがさらに楽しみです。
510名無しより愛をこめて:03/05/15 23:05 ID:CZsmYE9W
ならあげてくれ
511帰還番外編/湖(9):03/05/19 02:36 ID:VW2XoiBZ
泥に汚された白いマントが、林の風にわずかになびく。
だがその下の身体はうつ伏したまま、何の動きも見せない。
数十秒が経過した。
小鳥の声ひとつしないミラーワールドの林の中から
倒れたライダーの様子をうかがっていた猪の怪物が、
笑い声のようにも聞こえる唸りを洩らした。
次の瞬間、空地に向かって猛烈に突進し始める。
モンスターと白い獲物との距離がみるまに狭まっていく。

桟橋に立つコートの男の表情がにわかに険しくなった。
眼下の水鏡を食い入るように見つめながら叫ぶ。
「何をしている。お前の願いの強さはその程度か。
ワイルドボーダーごときにやられるようなライダーに用はない。
本当に姉を生き返らせたいのなら、戦え!」

その声は、たちまち現実の水面の上で散って消えていった。
だがミラーワールドの林間の空地では、
丸い空全体から響き渡る大音声に聞こえた。

「……言いたいこと、言いや、がって………」
ファムが肘を突いて上半身を起こす。
声が聞こえるまでは、二度と起きあがれないと思っていたのだが。
真横からワイルドボーダーが迫ってくる。
「戦ってやるよ、言われなくたって!」
バイザーにカードを差し込むと同時に、すぐ手前まで突進してきた
猪モンスターがぎいっと鳴いて跳躍した。

鋼鉄の蹄と巨体が白い身体を直撃した。
そして跳ね飛ばされ、空地のぬかるみに叩きつけられた。
重い地響きとともに。
512511:03/05/19 02:48 ID:VW2XoiBZ
また1コだけですみませんが、番外編の続きです。

>>509
感想ありがとうございます&保守どうもです。テレビ本編のパリーン&
アドベントカードの引きの時は、私もいつも次週が待ち遠しくなったので、
そう言っていただけるとすごく嬉しいです。(寸断はお気になさらず。私も
自分でやってますし)

>>510
ageありがとうございます。
513名無しより愛をこめて:03/05/23 00:02 ID:7L3PnGsc
さらにあげよう
514名無しより愛をこめて:03/05/23 00:15 ID:owqwnILH
ほう、いつの間にかこんなものが。

江島教授編と香川教授編読みました。
両教授とも平板な作者の妄想暴走キャラに陥ってないのが良いですね。
515名無しより愛をこめて:03/05/25 09:06 ID:xd1Sl5xX
hosyu
516帰還番外編/湖(10):03/05/26 01:36 ID:kMwUzdtU
鋭い蹄がライダーに届く直前、
傍らの地面から突然水飛沫が上がった。
飛沫を追って泥の中から白く輝く鳥が飛び立つ。
ファムの上に飛び降りてきた猪モンスターが必殺の蹴りもろとも、
白鳥の巨大な身体と翼に当たって弾き返された。紙屑のように。
地に横たわっていたファムが、その隙を逃さず素早く身体を起こす。
アドベントカードを入れたばかりのバイザーを拾いあげながら。

だがワイルドボーダーもそう簡単にやられはしなかった。
ぬかるみから起き上がると同時に上半身の角をファムに向け、
蒼い光を撃ち込む。とても避けられない距離だった。
ファム以外には。
「はっ!」
立ちかけた姿勢のまま瞬時にマントを広げ、垂直に飛び上がる。
泥まみれの姿にもかかわらず自信に満ちた気合と共に。
標的を失った蒼い光が、ライダーのいた場所の後ろに立っていた
カラマツを2、3本吹っとばして樹皮を飛び散らせる。
同時にワイルドボーダーがまたも軽々と跳ね飛ばされ、
ぬかるみに叩きつけられた。
翼を畳んで、主人とは逆に空から垂直に急降下してきた白鳥に。

再び起き上がった猪モンスターは、もう戦おうとはしなかった。
そのまま巨体を揺らして林の奥へ逃走し始める。
巨大な翼を持つ白鳥では、密生する木々の間を
飛んで追ってくるのは無理と踏んだのだろう。
だがやはりファムに迷いはなかった。空に向かって叫ぶ。
「行け!」
空地の上空で大きく旋回したブランウイングが、
林に向かって凄まじい高速で降下していく。
今度は翼をいっぱいに広げたまま。
517帰還番外編/湖(11):03/05/26 01:38 ID:kMwUzdtU
葉に覆われた空の向こうから甲高い鳴き声が響き渡り、
暗い樹間に何重にもこだましていく。
猛スピードで林の中を逃げていたワイルドボーダーが
それに気づいて振り向いた瞬間、目の前の樹が全て炸裂した。
松葉と樹皮と細かい木片が大量に宙を舞う。
林の斜め上から高速のまま突っ込み、水平に広げた翼で
行く手をふさぐ樹々を片端から斬り飛ばしながら、
巨大な白鳥が襲いかかってきた。
完全に意表を衝かれ、それでもなお猪モンスターは
狡猾さを失わなかった。
風を切る刃のような翼とボディを辛うじてかわすと、
白鳥とは反対方向へ進路を変えて再び走り出す。
木から木へ、目にも止まらぬ速さでジグザグに伝いながら。
だがしばらく走ると、また行く手の林の一部が吹き飛んだ。
戻ってきた白鳥が猪の前に回り込み、再度突っ込んできたのだ。
またも鋭い翼をかわし、舞い上がる鳥の反対へと走る猪。

巧みに空からの攻撃を避けながら逃げているように見えた
ワイルドボーダーは、実は次第に追い詰められつつあった。
攻撃のタイミングを見計らいながら、白鳥モンスターは
猪モンスターの進路を少しずつ狂わせ続けていたのだ。
林の奥ではなく、湖の方角へと。
行く手がだんだん明るくなっていくことに、猪は気づかない。
すでに白鳥の前から逃げることに精一杯になっている。
そして唐突に林が切れた。
目の前に開けた湖の輝きを見て一瞬立ち止まった後、
猪モンスターは今度こそ全速力で疾走しはじめた。
鏡のように澄んだ水に向かって。
現実世界へ逃げようとしている。
ファムの意図した通りに。
518帰還番外編/湖(12):03/05/26 01:42 ID:kMwUzdtU
ワイルドボーダーにブランウイングを差し向けた後、
空地から出て林の入り口まで戻ったファム。
そのまま湖に顔を向け、何かをじっと待つように立つ。
静かな風景とは裏腹に、後方から不穏な騒ぎが近づいてくる。
何本もの木の梢が一度に断たれ、葉を擦り合わせながら
落ちていくガサガサという音。
下草を踏み荒らしながら何度も方向を変える蹄の音と振動。
そして、ついに待っていたものが来た。
左手前方の林を突き破るように飛び出した猪モンスターが
一瞬立ち止まった後、湖に向かって走り出すのが見えたのだ。
その時ファムはもうバイザーにカードを入れていた。
「ファイナルベント」
最後の追い込みをかけた後に林の上空を舞っていた白鳥が、
走る猪モンスターの上をあっという間に越えて湖へ飛び、
岸から少し離れた水の上に降り立った。
屏風のように広げられた左右の翼から轟音とともに
二つの水竜巻が生まれ、岸に向かって来るワイルドボーダーに
真正面から襲いかかる。
白鳥の翼が起こす猛烈な風に、湖水が巻き上げられたのだ。
いかに俊敏な猪モンスターでも逃げ切れず、たちまち
片方の水竜巻に呑み込まれて姿が見えなくなる。
二つの水流はそのままうねりながら林に向かっていき、
途中で合流して一本の巨大な水竜巻になった。
湖の一部が生き物と化したように。
そしてその生き物の向かう先に、ウイングスラッシャーを
両手で構えたファムが待ち構えていた。
数秒後、逆巻く大量の水と共にライダーの前に飛んできた
ワイルドボーダーの巨体が、金色の刃にざっくりと両断された。
横殴りの滝のような水に打たれながらも構えを崩さないファム。
その背後で猪モンスターの残骸が断末魔の叫びと共に爆発した。
519帰還番外編/湖(13):03/05/26 01:44 ID:kMwUzdtU
湖の上に昇っていく光球を追ってブランウイングが飛び、
自分の身体に取り込むのを、ファムは不思議そうに見上げた。
水竜巻の中に入ったために身体からもマントからも
すっかり泥が落ち、朝の太陽に白く輝いている。
「あれはモンスターのエネルギーだ」
ぎょっとして振り向くと、コートの男がすぐ後ろに立っていた。
「な、何だよ今さら!人が死にそうになってる時に
勝手なことばかりいいやがって…」
「またあんな思いをしたくなければ、これから先もっと多くの
モンスターを倒して、お前のモンスターにエネルギーをやれ。
そうすればお前自身も際限なく強くなっていける」
「で、強くなってどうすんだよ?どうやったらお姉ちゃんを
生き返らせられるのか、早く教えろよ!」
コートの男が、太陽の下で夜のような笑いを見せた。
「これから言う。まずは元の世界に戻れ」

神崎士郎の話すライダーバトルのルールを聞きながら、
人間に戻った美穂は桟橋の杭に打ち寄せる波を見ていた。
正確には、波の上に映る歪んだ自分の影を。
神崎が話の最後にこう言うのが聞こえた。
「いずれまたお前の所に現れる。
それまでにせいぜい多くのモンスターを倒して、
他のライダーと遜色ない実力をつけておくことだな」
それから、全く別のことを聞いた。
「お前が死ぬ場所にこの湖を選んだのは何故だ?」
520帰還番外編/湖(14):03/05/26 01:46 ID:kMwUzdtU
意外すぎる言葉にとまどったが、ややあって美穂は答えた。
「お姉ちゃんと一緒に来たことがあるからだよ。
うちには余裕がなかったし、一緒に旅行できたのはあと
数えるくらいしかないけど、お姉ちゃんもあたしも
ここが一番思い出に残ってて、もう一度行きたいねって
よく言ってたんだ……それがなんだよ?」
「理由はない。その望みを叶えたければ、戦うことだ」
それだけ言うと、神崎の姿はもう美穂の前から消えていた。
「なんだよ、聞くだけ聞いておいて、キモ男!」
誰もいなくなった桟橋の上で罵詈雑言を放ってから、ふと思う。
…もしかしてあいつ、少し、悲しそうだった?
あんな格好だから暗〜く見えて当たり前なんだけどさ。
前にお姉ちゃんのことを思い出してやりきれなくなった時、偶然
鏡を見て気づいた自分の表情に似ていた気がする。ちょっとだけ。
**********
神崎邸の一室に座り、ある写真を手に取ってじっと眺める士郎。
海の上に大きな船が浮かんでいる。
優衣が描いた「海岸への家族旅行」の絵の元になったものだ。
今、現実にいる優衣の中では楽しい思い出として残っているが、
実際には自分が作って与えた偽物の記憶に過ぎない。
「お姉ちゃんと一緒に来たことがあるからだよ」
湖の傍らで聞いた、ファムとなった娘の言葉が、
今も昔も空虚だった大きな家の中に響き渡る。
理不尽な死に方をした姉との、本物の思い出を持つ妹。
その彼女の命を削り取ることで、理不尽な死に方をした
自分の妹を生き返らせ、そして今度こそ本物の思い出を
作ってやろうとする兄。
あの娘の言うとおり、俺は死神だろう。いや。やはり悪魔というべきか。
どちらだろうと構わない。
今度こそ、優衣に本当の命を与えられるのなら。
521520:03/05/26 02:15 ID:pvLPkpT/
帰還番外編がやっと完成したのでupします。
読んでくださった方々、ありがとうございます。


>>513
ageありがとうございます。

>>514
読んでくださってありがとうございます。
2人の行動には龍騎でも重要な謎に関わる部分が多いので、
TV本編の部分と合わせてもできるだけ違和感がないように
描けてればいいなと思っています(難しそうですが・・・)

>>515
保守ありがとうございます。
522山崎渉:03/05/28 09:18 ID:fQBycOfL
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
523名無しより愛をこめて:03/05/31 07:56 ID:xx3N3lG/
花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話 (1)

「やれやれ。今度はどこ行きゃいいんだ…
しっかし驚いたな、なにもあんな剣幕で怒るこたぁねえだろうに」
「高見士郎が死んだっていう話は、あの店ではタブーみたいです」
「ん?どういうことだ」
「関東拘置所のビデオに映っていた人影を見たとき、
以前あの店で見た写真の中の男性と似ているような気がして、
夏に渡米する前にもう一度確かめに行ったんです。
そうしたらやっぱりよく似ていたんで、ちょうど店にいた優衣ちゃんに
「アメリカで死んだ高見士郎よね」って言ったらすごく怒って…
その時初めて、あの子が高見士郎の妹だって知ったんですけど」
「優衣ってのは5月にバイトに来た子か。俺が入院してる間に。
神崎優衣ね。そういや高見士郎は、清明院大学では神崎って
名乗ってたんだったな。なんだか複雑な事情がありそうだが」
「ええ。でもそれより編集長、あの優衣ちゃんのおばさんっていう人が
死亡診断書を見た時の反応で、やっとわかりました。
優衣ちゃんには兄さんが死んだことが、わざと知らされていないんです」
「そこがわからねえなあ。いつまでも隠しとけるもんでもねえだろうに。
何故だと思う、令子?」
「わかりません。ただ、今回アメリカで高見士郎のお墓に行ったら、
墓碑銘に”彼の生涯は妹を救うことのみに捧げられた”って
書いてあったんです。兄さんと仲が良かったから、知らせたくないのかも」
「救う、か。妙だな。病気とか抱えてるわけでもないんだろ、神崎優衣は」
「ええ、うちにバイトに来るくらいですし、ごく普通の女の子です。
そういえば、いなくなったポトラッツ教授も「高見士郎はいつも
日本の妹の話をしていた」と言ってました。でもよく考えると、
おばさんから聞かないうちは死んだことさえ知らない位ですから、
優衣ちゃんはずっと兄さんと音信不通だったはずですけど――
編集長?どうしたんですか、急に立ち止まって」
524523:03/05/31 07:59 ID:xx3N3lG/
上の話のタイトルは「帰還(21)2002年12月末」です。失礼しました。
525帰還(22)2002年12月末:03/05/31 08:01 ID:xx3N3lG/
花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話 (2)

「……なぜ遠く離れたところにいる、長年連絡も取っていない兄貴が、
そこまで妹のことを気にかけていたのか。
しかもその兄貴はそれから一度死んで、さらに行方不明になっている。
アメリカの大学での事故、そして清明院大学での事故で。
しかもさらに後になって、浅倉威が何らかの手段で脱獄した日に
兄貴が関東拘置所の中の鏡面に映り込んでいた…
しかも彼のアメリカ時代を知る恩師は、鏡のある場所で突然失踪した。
日本で消えた大勢の人間たちと同じように…
そして島田が撮った、鏡の中にいるとしか思えない怪物の写真。
とどめに、兄が「死んだ」ことを必死で妹に隠そうとする叔母――
令子!」
「は、はい!」
「決めた。たった今から金をつくるぞ」
「…はい?」
「取り戻すんだよ、OREジャーナルの事務所を!
今言った断片的な情報がつながって、あの行方不明事件が
大化けしそうな予感がするんだ。お前の取材のおかげでな。
化けさせるには、どうしても定まった活動場所が必要だ。
見ろ、この黄色い看板やあの赤い看板を。金なら町中に転がってるぜ」
「まさか、借金するんですか!?」
「あったりまえだのなんとかよ。そうと決まったらお前は取りあえず
家に戻って、アメリカから持ってきた資料を詳しく調べておけ。
たしか、鏡の中の怪物についての情報もあったんだろ?
あ、もちろん旅の疲れを取ってからでいいぞ。御苦労だったな。
まてよ、すぐに金をつくるならそこの銀行にでも押し入った方が…」
「編集長っ!」
「へへ、冗談に決まってらぁな冗談。じゃそういうことで」
「あ、編集長!……もう、大丈夫かなぁ」
526525:03/05/31 08:14 ID:xx3N3lG/
帰還本編の続きができたのでupしました。

今更ですみませんが・・・
>>454
の「帰還(3)2002年12月」の訂正です。

優衣の誕生日が1月19日なので、タイトルは「2002年12月」
でなくて「2003年1月」にすべきでした。
また沙奈子おばさんが持っているプレゼントは
「クリスマスプレゼント」でなく「誕生日のプレゼント」です。
どうも失礼しました。
527525:03/05/31 08:20 ID:xx3N3lG/
たびたびすみません。だいぶ下がったので取りあえずageます。
523、525を読んでくださった方、いたらありがとうございます。
528帰還(23)2001年8月:03/06/02 03:45 ID:BQKN740w
401号室の実験当日(1)

耳を刺すような音が次第に高くなってくる。
そして信じ難いことに実験室中の鏡から吹き出す風も、
次第に強さを増してくる。
不安気に室内を見回す学生たちをよそに、先刻から
ある鏡の前に立ったままじっと動かずにいる白衣の男。
その奥に黒いものがうごめき始めたのに気づいたからだ。
まだ点にしか見えないうちから、男には分かった。
羽ばたきながら近づいてくる。ダークウイングが。
まだ少年だった彼が最初に描いたモンスターだ。
夕方、暗くなっていく部屋の中で泣いている妹を元気づけるために。

「ほら優衣、見ろ。こいつをやる」
「・・・これ、コウモリ?」
「ああ。こいつが夜の間、お前を守ってくれる。コウモリだからな。
だから、もう暗くなっても怖がることなんか何もないんだ。な?」

巨大なコウモリの翼が鏡を内側から突き破った瞬間、
ミラーワールドが開いた。

爆風。飛び散るガラス。狂ったように舞い散る書類の束。
悲鳴とともに倒れる娘。
そして、ドアを体当たりで破るようにして401号室に入ってきた若者。

「無駄だ」
返事をしない娘を抱き起こし、虚しく呼びかけ続ける若者に向かって、
氷のような台詞が投げつけられる。
「その女が目覚めることはない…たったひとつの方法以外ではな」
529帰還(24)2001年8月:03/06/03 00:26 ID:OgUN6/to
401号室の実験当日(2)

振り向いて白衣の男を一目みた瞬間、若者は悟った。
こいつだ。恵里が怖がっていたのは。
「貴様か…生きてる奴以上にタチの悪い死人というのは…!」

目の前の男より自分に対する憎しみに灼かれながら立ちあがり、
落ちていたガラスの破片を手にふらふらと相手に向かっていく若者。
なぜ、もう少し早く来れなかった。
なぜ怯えるあいつのいうことをまともに聞いてやらなかった。

「今俺を殺して、お前もこの場で死ぬというわけか」
顔の前に突きつけられた鋭い破片を避けようともせず、男が言う。
「それもいい。だが今言ったように、
この女を目覚めさせる方法がたったひとつある」

若者に向かってぐいと突き出される、ブルーブラックの板。
「これをあのコウモリに向かってかざせ。
その瞬間からお前の戦いが始まる。
戦え。強くなれ。そして他のライダーを倒せ。
すべてのライダーを倒したとき、
お前が今一番望んでいることが叶うだろう。
俺を殺すか、戦い続けるか。好きな方を選べ」

鏡の破片が床に落ちると同時に、カシャリと音がした。
若者が、男の手から掴み取ったのだ。カードデッキを。
巨大な皮膜の翼で401号室を占拠したコウモリが鋭く鳴いた。
530名無しより愛をこめて:03/06/04 09:38 ID:9+9roXb+
age
531名無しより愛をこめて:03/06/07 21:18 ID:aAPZ8YFg
保守
532名無しより愛をこめて:03/06/07 23:59 ID:mWN/ZD2s
そうか
533帰還(25)2002年4月:03/06/08 02:49 ID:qnrUHni7
失った記憶をたどり、彷徨を重ねた末にすべてを
思い出した日の夜。蓮は、恋人の病室を訪れていた。
眠り続けるその顔を見つめるうちに、耳障りな音が響き始める。
病室の鏡に、恵里を狙い続ける怪物の影が忍び寄ってきていた。
・・・あの日の神崎の声が、改めて耳の奥で響く。
「デッキを受け取ったからには、戦いを降りることは許されない。
降りようとすればダークウイングはお前よりまずこの女を食らう。
モンスターは一度狙った獲物をあきらめない。覚えておけ」
無言で鏡に歩み寄り、思いきり拳を叩きつける蓮。
砕け散り、床に落ちるガラスの破片。
そのひとつが拾い上げられた。
本来この病室にいるはずのない男の手で。

「憎いか、俺が・・・やはりお前自身の手で殺したいか。
ならばチャンスは今しかない。
どうする?」
いつのまにか割れた鏡のそばに立っていた神崎士郎が、
瞬きもせずに蓮を見つめている。自らの右手を眼の前にかざし、
拾った鏡の破片を押し当て、赤い血を滴らせながら。
その手から、いや神崎の全身から、細かい粒子が立ち上っている。
アメリカ・アクレイ大学での実験で「高見士郎」が
命を落としてから、1年が経とうとしていた。
あの時鏡の中から出てきた少年の言葉が、現実になりつつある。
「1年たったら、消えちゃうんだよ・・・こっちの世界からは」

火を噴くような眼差しで神崎を見据えながら、蓮は動かなかった。
ただ、これだけ言った。
「今すぐ恵里の前から失せろ」
神崎が声をたてずに笑った。
「それでいい」
534帰還(26)2002年4月:03/06/08 02:57 ID:qnrUHni7
言葉と同時に無数の黄金の羽がコート姿の足元から噴き出し、
背の高い男を包みはじめた。

「戦い続けろ・・・
この女を助けたいのなら・・・戦え・・・・・・」

最後の台詞が消えないうちに、金色の光が病室に輝き渡った。
思わず左腕を上げ、目の前を覆う蓮。
再び目を開けたとき、神崎士郎の姿はどこにもなかった。

************
神崎邸の窓辺に立ち、金色の鳥の紋章がついた板を
手に取って見つめる士郎。

あの実験の日。
昏倒はしたものの、鍵となった小川恵里の命に別状はなかった。
俺もそれ以上彼女に危害を加えるつもりはなかった。
目覚めたら江島教授同様に封印のカードを渡し、
実験のことは一切口外しないよう因果を含めてから、
無事に帰してやるつもりだった。
あの男が401号室に入ってくるまでは。

俺にはすぐ分かった。
目の前に飛び込んできた男が、小川恵里を取り戻すためなら
どんなことでもするだろうということが。
あの男が恋人の名を狂ったように呼びながら
駆け寄るのを見た瞬間、決まったのだ。最初のライダーが。
535帰還(27)2002年4月:03/06/08 03:06 ID:qnrUHni7
そして。
「貴様か・・・生きた人間以上にタチの悪い死人というのは・・・!」
そう言って俺を見たあの男と視線が合った時、
俺は自分の考えが間違っていなかったことを悟った。

この男は、俺に限りなく近い人間だ。
かけがえのない誰かのために命を賭けることのできる人間。
自分だけでなく、他人の命さえも・・・
そうだ。おまえなら、俺が望む通りのライダーになるだろう。

小川恵里は、このまま眠らせておく。
この男の戦う理由そのものである以上、
目覚めさせるわけにはいかない。

仮面ライダーナイト。お前とは是非とも戦わねばならない。
たとえもう実体はなくとも、このカードデッキがあれば
俺はいくらでも戦える。
だからそれまで、他のどんなライダーと戦っても勝ち続けろ。
少しでもお前に迷いが生じたら、何度でも醒ましてやる。
どんな手段を使っても。
お前を最高の新しい命にするためなら――優衣に与える命に。

早く、最後の戦士となってオーディンの前まで来い。
今までだって、お前は何度もそうしてきたはずだ・・・
536535:03/06/08 03:20 ID:ghfTXCxo
帰還の続きができたのでupします。
(「すこしペースが」早くなったかな・・・)
たぶん、あと少しで完成すると思います。
読んでくださった方、いたらありがとうございます。

>>530
ageありがとうございます。

>>531
保守ありがとうございます。

>>532
「そうだ」
・・・別スレの手土家さんをちょっと真似て
神崎士郎の台詞をレスにつけてみました。失礼をば
537名無しより愛をこめて:03/06/08 10:47 ID:JTW4+tPM
(・∀・)イイ!
538535:03/06/09 01:36 ID:WGSHZstC
>>537
読んでくださってありがとうございます。完成までがんばります。
539名無しより愛をこめて:03/06/12 10:12 ID:OAlrCdug
任せてください
540名無しより愛をこめて:03/06/16 01:23 ID:vPNrDkXw
帰還の続きができたので、次からupします。
(結局まだ終りませんでした、スマソ)

>>539
ageありがとうございます。
541帰還(28)2003年1月19日:03/06/16 01:25 ID:vPNrDkXw
息絶えた真司のもたれかかる白い車の表面が波立ち、
数枚の黒い羽根がこぼれ落ちる。
そして現れる、20歳になった優衣。
血まみれの亡骸を見下ろし、声もなく泣きはじめる。

真司君…ごめんね真司君………またこんなことになってしまって。
いつも、20歳の誕生日が来たあとでないと思い出せないんだ。
もう何度もこんな風に世界と時間が繰り返されたっていうことが。
そして、そのたびに思ってた。次の世界でなら、真司君が
ライダーバトルに終止符を打ってくれるんじゃないかって。
何回目の世界でも、真司君は一生懸命戦いを止めようとしてくれたから。
でもやっぱり駄目だった。今度もいきなりあたしと蓮の前に現れて、
あたしや蓮や、モンスターに狙われた人たちを助けるためだけに
戦って、いっぱい悩んで苦しんで…
また、最後まで他の誰かのために戦いながら死んでしまった。

お兄ちゃん。もう絶対できないよ。
真司くんに、あんな辛い戦いをやり直させるなんて。
もう一度こんな死に方をさせるなんて。

涙に濡れた顔を上げ、空を見る優衣。
2人のライダーがあれほど大量に焼き払ったにもかかわらず、
レイドラグーンの群れは増殖を止めていなかった。
それをドラグレッダーが片端から殺戮している。
赤い身体を空いっぱいにくねらせ、
怒り狂ってでもいるように凄まじい咆哮をあげながら。
巨大な口から吐き出される炎を浴び、鋭い牙の列で噛み裂かれ、
長い尾で弾き飛ばされるたびに、青いモンスターの残骸が
束になって地上に落ちてくる。
542帰還(29)2003年1月19日:03/06/16 01:27 ID:vPNrDkXw
ドラグレッダー。それにエビルダイバー。
この2匹を描いたときは、特別な願いを込めた。
お兄ちゃんを守ってくれますようにって。
お兄ちゃんがあたしを守るモンスターをいっぱい描いてくれたから、
あたしもお兄ちゃんを守るモンスターを描いた。
だからなんだ、きっと。ライダーバトルのたびに
この2匹と契約した人が戦いを止めようとしたのは。
真司くんも。手塚くんも。榊原さんも…
お兄ちゃんの思惑どおり戦って勝ち残ろうとする他のライダーたちと
対立したり、狙われたりしながらも。
龍騎とライアのカードデッキが、戦いを止めたい人を選んだんだと思う。
お兄ちゃんの意図とは逆に。

お兄ちゃんも、たぶんそのことに気づいてた。
だから2人を戦う気にさせようと、サバイブのカードを渡した。
それでも2人を変えることはできなかったけれど。

お兄ちゃんにライダーバトルをやめてほしかった。
誰かの命をもらってまで生きたくなかった。
お兄ちゃんは、あたしを守るためだけに生きてるって言ったけど、
あたしもお兄ちゃんを守りたかった。
お兄ちゃんを、あたしという名の呪いから解き放ってあげたかった。

でも呪いはなかなか解けなかった。
お前を失いたくない。
戦いをやめてって頼むたびに、そう言って
お兄ちゃんは悲痛な叫びをあげた。
何度新しい命を拒んでも、お兄ちゃんはあきらめなかった。
あたしが死を選んだ時でさえも。
543帰還(30)2003年1月19日:03/06/16 01:31 ID:vPNrDkXw
何度も何度も、お兄ちゃんは新しい世界を作った。
波に崩れた砂の城を一から作り直すように。
その度に、みんな死んだ。
戦いたい人も、戦いを止めたい人も。
それぞれの願いを叶えようと必死に生きて、
ついに叶えられずに死んでいった。
すべてがお兄ちゃんの嘘だとも知らないで。
そしてまた次の世界でカードデッキを受け取り、
戦いに駆り出されていった……

お兄ちゃん。
帰ろうよ、もう。
あの子たちだってきっと待ってるよ、あたしたちを…
ドラグレッダー。お前もそろそろ帰ろう。

真司くん。
今度こそ、ジャーナリストの仕事に専念できる世界で
目覚めさせてあげる。
そこではね、今までライダーだった人たちも、
もう戦う必要なんかないんだよ。
もちろん真司くんと蓮もね。
たぶん、ケンカはいっぱいするだろうけど。

だから、もう少しだけ待ってて……
544帰還(31)0000. 00. 00:03/06/16 01:35 ID:vPNrDkXw

雪が降りはじめた。
がらんとした大きな家の、寒々とした部屋の窓辺に立ち、
白いものの渦巻く天を見上げる少年と少女。
「まだかえってこないね、2人とも」
「うん。はやくかえってくればいいのに」

切れ切れの凄まじい叫びが、
部屋の隅に置かれた鏡の中から聞こえてきた。
「今度もだめだったみたいだ」
「やっぱり、かえってきたほうがいいよね……」

雪が積もりはじめる。
車に寄りかかったまま動かない青年の上に。
冷たいコンクリートにうつ伏せに倒れた男の上に。
白い花を抱いて横たわる男の上に。
長い眠りから覚めた恋人と入れ替るように、
永遠の眠りについた青年の上に。
雪ではなく、きらきらと輝く極小の鏡のかけらかもしれなかった。
そのひとつひとつが彼らの命であり、
彼らが生き、死んでいった世界の一部だった。

ミラーワールドの少年と少女が何かを感じて振り返った。
二つの顔が、ぱっと明るくなる。
「おかえり!」

雪は少しの間も止むことなく降り続け、
世界と時間は少しずつ消滅していった。
大きな家の中では、床に座った4つの人影が
いつまでも楽しそうに絵を描き続けていた。
545名無しより愛をこめて:03/06/16 18:04 ID:ygC6EWKO
感動。
感涙。
(・∀・)イイ!スゲーイイ!!
546名無しより愛をこめて:03/06/17 01:14 ID:6JO4dbkx
読み応えがあって(・∀・)イイ!
完成までがんばってください。
547?n?c?m:03/06/20 00:54 ID:3zjyOk6k
 劇場版龍騎の最終決戦で「天雷旋風神」で
ライダーを助けに来てくれるハリケンジャーの小説を書ける
人は英雄だろうな・・・。
548名無しより愛をこめて:03/06/21 00:55 ID:GD2+frjF

>>545
読んでくださってありがとうございます。
楽しんでもらえたのでしたら、とても嬉しいです。

>>546
読んでくださって嬉しいです、ありがとうございます。
今続きを書いてますので、また日曜の夜くらいにupします
(今度も楽しんでもらえるものになればいいのですが・・・)

>>547
王蛇亡きあと野良化したジェノサイダーが暴走した結果
同じブラックホールのアレとつながり、ハリケンジャー達を
龍騎世界に呼び込んでしまった、ということにしたら
どうだろう・・・とか考えかけて、ジェノは王蛇より前に
あぼーんされていたことに気がつきました(鬱)
(というわけで、どなたかもっといいアイデアあったらお願いします)
549548:03/06/21 00:58 ID:GD2+frjF

毎度書き込み不備失礼します、548のタイトル忘れてました。
帰還の作者のレスです。
遅くなってすみません>読んでくださった方々
550帰還(32)エピローグ:03/06/23 01:13 ID:ljL0y4zH
妙な客だよ、まったく。
あの男が初めて店に来たときは驚いた。
やたら丈の長い真っ黒なレザーコートなんか着てるし、
それになんたってあの仏頂面だから、どっかのワルが
因縁でもつけにきたのかと思った。
もちろん、因縁つけられる覚えなんぞなかったけどね。
「いらっしゃ…」
気を取り直してそう言ったあたしの方を見ようともせず、
足早にカウンターのところまで行くと、いきなり隅の方をのぞき込んだ。
あの子たちの写真が飾ってある所だ。

「ちょっとお客さん、ご注文は?」
あんまり長い間そこばかり見てるんで、あからさまに
嫌味ったらしく言ったら、大胆にもタメ口で聞き返してきた。
「この写真の子供たちは、今どうしてる」
「…なんでそんなこと知りたいんです?」
「どうしてる?」

わざとらしく舌打ちしてから、答えてやった。もちろんタメ口で。
客だろうがなんだろうが構うもんか。
「残念だけど、もう2人ともこの世にはいない。
甥っ子と姪っ子だよ。家は裕福だったけど、
親がひどくてね。父親があたしの兄なんだが。
あたしがもう少し早く気がついて、姪の方だけでも
引き取ってやればよかった…」
不覚にも涙が出そうになったので、あわてて横を向く。
551帰還(33)エピローグ:03/06/23 01:14 ID:ljL0y4zH
「…甥の士郎の方は、妹が死んだ後自分で家を飛び出して、
母方の親戚の家に助けを求めたんだ。
さいわいその高見家の主人ってのがいい人でね。
士郎の言うことを全面的に信用して保護してくれた上に、
ちょうど仕事の関係で一家そろってアメリカへ移るところで、
一緒に連れて行ってくれることになった。
あの子の両親も反対しなかったし。もっとも、
したくてもできなかったろうね。あんな精神状態じゃあ…

罪にこそ問われなかったものの、自分たちのせいも同然で
娘が死んでから、だんだんおかしくなっちまった。
「優衣が夜な夜な鏡の中から出てくる」って怯えだして。
おまけに息子が出ていってから、怯え方がさらにひどくなった。
「士郎まで鏡の中から睨みつけるようになった」からって、
家中の鏡やガラス窓に新聞紙を貼り付ける始末さ。
挙句に今じゃ2人とも精神病院の中ってわけ。
まったく、天罰てきめんっていうのはこのことだね。

ともかく、士郎はアメリカに行った。
あたしも事情を知ってから士郎を引き取ろうと申し出たんだけど、
あの子は自分であたしにこう言った。
「おばさんの気持ちは嬉しいけど、俺、アメリカに行きたいんだ」
妹が――優衣が可哀想な死に方をした日本にいたくなかったのかもね。

でも、その後時々もらった手紙や葉書を見て、安心した。
士郎が幸せに暮らしてることがわかったからね。
絵を描くのが好きなこととか、高見の養父母も自分の絵を
上手いと言ってくれるから、将来画家になりたいと思ってることとか、
ほんとに楽しそうに書いてあったからねえ…
552帰還(34)エピローグ:03/06/23 01:16 ID:ljL0y4zH
だから思ってもみなかった、あの子まで若くして世を去ってしまうなんて。
あたしもお葬式に呼ばれて、アメリカまで行った。
地元の美術大学に通っていた士郎の遺した絵を
見せてもらった時は、泣けてきてどうしようもなかったよ…
風景画や静物画や、人に頼まれて描いた肖像画。
どれも見事な完成度の上に独特な魅力があったから、
そのまま勉強を続けていれば間違いなく画家として
成功しただろうってことは、誰が見ても分かった。
だけど、そんな理由で泣けてきたわけじゃない。

日本人の女の子を描いた絵が何点もあってね。
モデルも写真も使わずに、自分の記憶だけを頼りに描いてたらしい。
家族といっしょに海辺で遊んでたり、たくさんの友達と一緒にいたり、
士郎自身らしい男の子と並んでたり…
シチュエーションはいろいろだけど、みんな同じ女の子。
そう。優衣だったんだよ、全部。
どんなに時がたっても、どんなに離れても、忘れてなかったんだね。
というより、士郎はたぶん、あの絵を描きたいがために
画家を志したんじゃないかね――それくらい、優衣を
モデルにした作品はどれも美しく生き生きとしていたんだよ。
他のどの絵よりも」

ここまで話してから、はっと我に返った。
あたしとしたことが。なんで見ず知らずの若造に
こんな内輪のことまで喋っちゃったんだろう。
後悔しながら、こっそり例の客の顔を見る。

驚いたよ。どこへいったのかね、さっきまでの仏頂面は。
まるで自分の身内が今死んだみたいな顔してるじゃないか……
553帰還(35)エピローグ:03/06/23 01:18 ID:ljL0y4zH
なんでこの男がそんな悲しそうな顔しなきゃいけないのか、
さっぱりわからなかった。
だいいち、初めてこの店に来て、迷わず写真のところへ
向かったこと自体が不可解だった。
まるで前からこの店と、あの子たちを知ってたみたいに。
もちろんそんなはずあるわけないけど。
「あの、ご注文…」
あんた、いったい何者?そう聞くつもりだったのに、
結局口から出てきたのはそんな言葉だけだった。

無愛想な若者は、その後も時々花鶏に顔を出すようになった。
住宅街という場所のせいか、客足がいまひとつ伸びないことに
頭を痛めているあたしにとっては、なかなかありがたいことだった。
ほどなく、別の客まで連れてきてくれたし。それも、女の子。
「あら。もしかして彼女?隅におけないねえ、あんたも」
二人で店に入ってきたとき、驚いたんでついそう言ったら
案の定じろりと睨まれた。もうあの可愛げの無さにも
慣れたから、なんてこたなかったけどね。

だけど本当に驚いたのはそのあとだった。
その彼女っていうのが、実に気立てのいい子だったんだ。
陽気でよく笑う上に、笑顔が最高に魅力的ときた。
つまり相方とは正反対の性格ってわけ。
まったくうまくできてるよ、世の中ってのは。
「すてきですね、ここ。インテリアもだけど、外のフェンスが可愛くて好き」
「どうも。若い頃イギリスへ行った時、古い屋敷がよくああいう
洒落た柵で囲われてるのを見て、いいなと思ったんですよ」
そんな会話がきっかけで、あたしとその彼女――
恵里ちゃんは、その日から仲良くなった。
554帰還(36)エピローグ:03/06/23 01:20 ID:ljL0y4zH
優衣が生きてれば、もうすぐ二十歳になる頃だ。
いったい、どんな娘になってたんだろう…
最近よくそう思うようになった。
あたしが恵里ちゃんに親近感を持ったのは、
そのこととも関係があるのかもしれない。
優衣も、恵里ちゃんみたいに明るい子になってただろうか。
やっぱり大学へ行ったりしていたんだろうか…

ともかく。
「来年、蓮と結婚する予定なんです。あたしが卒業したら」
恵里ちゃんが恋人以上に足繁く店に来て、お茶を飲んだり
レポート書いたりしながら色々おしゃべりしていくようにならなければ、
彼の方の名前もずっと知らないままだったかもしれない。
一人で来た時は黙って紅茶飲んで帰っていくだけだしね、あの男。
座るのは、必ずカウンターの隅。テーブル席が空いてる時でも。
たぶんあの写真が見えるからなんだろう。

「ねえ、蓮ちゃん。前から聞こうと思ってたんだけど――
あんた、その写真のどこがそんなに気に入ってるわけ?
初めてここへ来たときも、あれが目当てだったみたいだけど。
この店に通いはじめたのも写真を見るため?」
店に他の客がいなかったある日の午後、ついにそう聞いてみた。

あの子は長いこと返事をしなかった。
ただ、白無地のカップを見つめていた。

もしかして、ちゃん付けで呼んだのが気に入らなかったのかね。
そんなことまで考え始めたとき、やっと口を開いた。
「待っている」
555帰還(37)エピローグ:03/06/23 01:22 ID:ljL0y4zH
待っている?
答えが質問と噛み合ってないじゃないか。
最初はそう思ったけど、すぐに気づいた。
この店に通いはじめた理由だけを答えたんだってことが。
「待ってるって、誰をよ?」
「馬鹿男」

蓮ちゃんは、それ以上何も言わずに帰っていった。
あたしもそれ以上聞こうとはしなかった。
なぜあの子が士郎と優衣の写真に興味を持つのか、
なぜこの店に写真があると知っていたのか、
なぜあたしの話を聞いて悲しそうな顔をしたのか。
「馬鹿男」ってのは誰なのか。
結局肝心なことはほとんど何も分からなかったけど、
もう何も聞く必要はないっていう気がしたんだ。
あたしの勘に間違いはない。大事なことに関してはね。

それ以来、店に蓮ちゃんが来ると、あたしはお会計のときに
決まってこう言うようになった。
「今日も来なかったみたいだね、馬鹿男は」
「ああ」
蓮ちゃんの答えも決まってこうだった。

そしてその日も、同じ会話が繰り返された。
だけど、そこから先がいつもと違っていた。
支払いを済ませて、ガラス張りのドアを開けようとした
蓮ちゃんの動きが、突然止まった。
ガラスの向こうを見つめたまま。
556帰還(38)エピローグ:03/06/23 01:25 ID:ljL0y4zH
一瞬だけためらった後、蓮ちゃんはドアを開けて出ていった。
何ごともなかったみたいに。

こっそりドアのガラスに近寄って、外の様子をうかがってみる。
店の階段を降り切ったところで、
蓮ちゃんと見知らぬ若者がにらみ合っていた。
すれ違いざまに、肩でもぶつかったのかね?
いや。もしかしてあれが…
蓮ちゃんがずっと待っていた、馬鹿男?

そう思ったとき、不思議なことが起こった。
あたしのすぐ目の前に、若い娘の幻影が浮かび上がったんだ。
まるであたしと並んで立っていて、
ドアガラスに映り込んだみたいに。
「!?」
あわてて横を向いたけど、もちろん誰もいない。
もう一度ガラスの表面を見たけど、もう何も映ってなかった。
……突然涙が溢れ出してきた。
一瞬しか見えなかったけど、分かった。あれは優衣だ。
ちゃんと、成長してたんだねえ――どこか別の世界で。
よかったよ。恵里ちゃんと同じくらい、素敵な笑顔の子で。

もうひとつ分かった。
優衣も、あの「馬鹿男」を待っていたんだってことが。

カウンターの内側に戻ってお茶の仕度をしてると、
ドアがバタンと開いて、さっきの若者がよたよたと入ってきた。
「コーヒーください。コーヒー」
そう言いながら。
557帰還(39)エピローグ:03/06/23 01:28 ID:ljL0y4zH
やれやれ。そそっかしい男だよ。
落ちついて座ってメニューさえ見りゃ、コーヒーが置いてないことくらい
すぐ分かるだろうし、看板に「TEA」花鶏って書いてあるだろ。
「コーヒーはない。紅茶だけ」
我ながら素っ気なく答えたけど、実のところ興味津々だった。
この男も、あの子たちの写真を見に来たんだろうか。

「へ?……あ、あの、じゃそれを、ください」
そう言って、新顔の若者はカウンターの隅に座った。
蓮ちゃんのいつもの席だ。
だけど、すぐそばにある写真立ての方は見ようともしない。
「……いい店っすね…はは」
あたしの視線を居心地悪そうに避けながら、
店の中を見まわしてお世辞など飛ばしてみせるけど、
やっぱり写真には全然気づかない。
ということはこの子、優衣のことも士郎のことも知らないのかね?
それとも……忘れてる?優衣の方は覚えてるのに。
いやだ、あたしったら。
常識で考えれば、蓮ちゃんが二人を知ってるらしいことの方が
異常に決まってるのに、この長髪の若者が何も知らないことの方が
おかしく思えるなんてね。

「お姉さん……紅茶を………お紅茶を」
いたたまれなくなったらしく、そんなことを口走りだしたので、
カウンターの下からメニューを取って差し出した。
悪かったね。苛めるつもりじゃなかったんだよ。
「お客さん、ここは紅茶専門店なの。色々な種類を用意してます。
だからまずは、これを見てちょうだい。
あともう少しでクッキーも焼けるから、良かったらどうぞ。
味には結構自信があるんですよ…」
558帰還(40)エピローグ:03/06/23 01:30 ID:ljL0y4zH
その後も、花鶏には奇妙な客が絶えなかった。
まあ、あたし自身変わりものだって自覚してるから、
客が妙でも別に構わないけど。

だけど、願わくばあいつだけはもう御免こうむりたいね。
あの蛇ガラのジャケットを着た、ぼさぼさ髪の男。
街の方じゃ有名なチンピラらしいけど、なんだってそんな奴が
この店に来ようなんて気を起こしたのかは永遠の謎だ。
ま、紅茶一杯飲んで、ちゃんと代金払って帰ってくれたから
いいけどね。幸い、他に客がいない時だったし。

別の意味で迷惑だったのが、どっかの大会社の社長さん。
この人がどこで花鶏の噂を聞いたのか、なんで来る気に
なったのかも、いまだにさっぱりわからない。
「俺ぁ、振られちまったんだよ……
金も権力もすべて手に入れたのに、女の心だけはままならねえ」
カウンターに突っ伏して、延々愚痴り続けたからうんざりした。
まったく、ここをバーと勘違いしてるとしか思えなかったよ。
こんな狭い住宅街にばかでかいリムジンで乗りつけて
店の前に止めてあるもんだから、しょっちゅう宅急便や清掃車の
クラクションが店の前で鳴って、うるさかったしね。

「わかるわかる。俺だって、顔もスタイルも金も地位も完璧なのに、
本命をデートに誘って成功したこと、まだ一度もないからさ」
ちょうどその時店にいた、自称「スーパー弁護士」が、社長さんの
相手をしてくれたんでずいぶん助かった。
たまに男の秘書と一緒にお茶を飲んで行くんだけど、
この人が来るようになった理由も謎なんだ、実のところ…
559帰還(41)エピローグ:03/06/23 01:33 ID:ljL0y4zH
ありがたいことに、普通のお客も順調に増えていった。
恵里ちゃんの所属する研究室の江島先生と、
その学生ご一行様は、打ち上げの2次会でよく来てくれる。
江島先生の勧めで、別の研究室の香川先生と
そこの学生の東條くん、仲村くんも来るようになった。
ある日曜には、香川先生が奥さんと子供を連れてきたっけね。

そうそう。例の、コーヒーを頼んだ子。
城戸真司っていうんだけど、あの子も常連になって
自分の人脈を引っ張ってきてくれたんだ。
OREジャーナルっていう所でジャーナリストになるための
修業をしてるらしいんだけど、そこの編集長と、SEの女の子と、
ベテラン記者の若い女の人と、それに新人の女の子。
この人たちも、取材の打ち合わせやインタビューや
プライベートで、よく花鶏を利用してくれる。
新人ちゃんがよく皿やカップを壊すのには、少々閉口してるけどさ。

そして、ある日。
「ちょっと真ちゃん…もしかして彼女?隅におけないねえ、あんたも」
蓮ちゃんと恵里ちゃんが一緒に来たときも驚いたけど、
今度もびっくりしたね。あの三枚目の真ちゃんが、髪の長い、
すごくきれいな女の子を連れてきたんだから。
名前は美穂ちゃん。じきに恵里ちゃん同様、
一人でも花鶏に来て色々しゃべるようになった。
病気で亡くなったお姉さんとはずいぶん仲が良かったらしく、
色々な思い出を話してくれる。
淋しそうだけど、とても嬉しそうにも見える顔で。

たぶん、これからもいろいろ変わった客や
面白い客が来るんだろうね、この店には…なぜだか知らないけど。
560帰還(42)エピローグ:03/06/23 01:38 ID:ljL0y4zH

アメリカ、某州アクレイ大学近隣の小さな墓地の一角にある、
ひとつの墓石。
最近、新しく取り替えられた形跡がある。
その前に一人の女が立った。

抱えていた花束を、新しい墓碑銘の上にそっと置く。

SHIRO TAKAMI
1977.9.29 - 2001.4.15
YUI KANZAKI
1983.1.19 -1990.*.**

花鶏から持ってきた少年と少女の写真を見ながら、
墓石に向かって語りかける沙奈子。

「よかった。優衣もお前と一緒に眠らせてくれるように
高見家にお願いして…
これでもうずっと一緒だよ、あんたたちは」

                      END
561560:03/06/23 01:56 ID:izkWHmwl
帰還がやっと完結したのでupします。

こんなに長くなってしまいましたが、読んでくださった方々、
本当にありがとうございました。

エピローグにあるテレビ本編最終回の補完は、このスレの397さんの
「ライダーバトルで最後まで勝ち残った奴だけはやり直し前の世界の記憶が
残っている」という設定を使用させていただきました。
事後になってしまいますが、どうもありがとうございました。
(花鶏で蓮が真司をまじまじと見つめる理由が、
それ以外に考えられなかったので・・・)

エピローグ後半の妄想ではずいぶん遊んでしまいました。
各龍騎キャラの扱いで、もしも不快になられた方がいましたら
平にご容赦ください。(特に某企業総帥ファンの方々(汗))
562名無しより愛をこめて:03/06/23 10:05 ID:CMcd4CJw
。・゚・(ノД`)・゚・。
。・゚・(ノД`)・゚・。

>>560
お疲れ様でした。もうすごい感動しました。
ちゅーか涙が止まりません(泣)

ほんと最高です。(特に昨日タイムベントの回見てたし…)
ありがとうございました。
蟹様も喫茶店に来たのかな…(w
563名無しより愛をこめて:03/06/23 13:37 ID:BWqZ040y
>>「帰還」作者様
ついに完結ですね。
うまく伝えられませんが、ほんとに感動しました。
本編最終回の映像を思い出して涙しました。
長い間お疲れ様でした、ありがとうございました。


564名無しより愛をこめて:03/06/23 18:42 ID:BVDYTorU
もうすげぇよあんた。
なきそうだよ。
565名無しより愛をこめて:03/06/24 01:43 ID:HVGRw9ks
>「帰還」作者様
完結おめでとうございます。
そしてお疲れ様でした。

読んでいる途中で最終回のシーンが頭をよぎって
ちょっぴり泣きました(ノД`)

いいお話を、ありがとうございました。
566名無しより愛をこめて:03/06/24 02:26 ID:71uDG1vS
長い間の連載、お疲れ様でした。
良いものを読ませていただきました。本当に有難うございます。
物語の最終章、1月19日からエピローグにかけてはうるっと来ました。


物語が終盤にさしかかった時にタイトルの「帰還」の意味が解け、
そして読み終えた時にも二重にも三重にも意味が深く突き刺さってきました。

「帰還」ってそう言う事だったんですね。


どの章も悲しい話でしたが、その分、やり直した世界では登場人物達が
幸せになってるらしい挿話(除く社長(笑))で終わってるのが後味良かったです。


P.S.
「帰還番外編/湖」
士郎自身と同じ様な立場にある、
失った家族へ強い絆と愛を寄せる娘を犠牲にしてまで
優衣の為には願いを叶えたかった士郎が哀れですね。
567リスト3:03/06/24 02:27 ID:71uDG1vS
>>347-348
 雪を見ず:TV/令子と島田とめぐみ
>>372-376
 消えた紋章:TV/由良の回想
>>412-416
 妙なノリ:??/榊原の戦い
>>421
 冬の夜:TV/神崎と蓮の会話
>>431-440,445-449
 きみのため〜誰も知らないオルタナティブ02の物語:TV/斉藤雄一のオルタ02

>>452-455,460-461,463-470,476-481,488-490,498-499,503,506-507,511,516-520
>>523-526,528-529,533-535,541-544,550-560
 帰還:TV/神崎士郎と彼を巡る人々の回想
>>452-455
  ・帰還 (物語の始まり)
>>460-461,463-470
  ・帰還 モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想
>>476-481
  ・帰還 ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想
>>488-490,498-499,503,506-507,511,516-520
  ・帰還番外編/湖
>>523-526
  ・帰還 花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話
>>528-529,533-535
  ・帰還 401号室の実験当日/2002年4月
>>541-544
  ・帰還 2003年1月19日
>>550-560
  ・帰還 エピローグ
568リスト3改:03/06/24 02:31 ID:71uDG1vS
>>347-348
 雪を見ず:TV/令子と島田とめぐみ
>>372-376
 消えた紋章:TV/由良の回想
>>412-416
 妙なノリ:??/榊原の戦い
>>421
 冬の夜:TV/神崎と蓮の会話
>>431-440,>>445-449
 きみのため〜誰も知らないオルタナティブ02の物語:TV/斉藤雄一のオルタ02

>>452-455,>>460-461,>>463-470,>>476-481,>>488-490,>>498-499,>>503,>>506-507,>>511,>>516-520
>>523-526,>>528-529,>>533-535,>>541-544,>>550-560
 帰還:TV/神崎士郎と彼を巡る人々の回想
569「帰還」の一括リスト:03/06/24 02:32 ID:71uDG1vS
>>452-455
  ・帰還 (物語の始まり)
>>460-461,>>463-470
  ・帰還 モンスターに襲われた後、優衣の前に横たわる江島教授の回想
>>476-481
  ・帰還 ミラーワールドで、東條に運ばれて行く香川教授の回想
>>488-490,>>498-499,>>503,>>506-507,>>511,>>516-520
  ・帰還番外編/湖
>>523-526
  ・帰還 花鶏を追い出され、街の中を歩いている大久保と令子の会話
>>528-529,>>533-535
  ・帰還 401号室の実験当日/2002年4月
>>541-544
  ・帰還 2003年1月19日
>>550-560
  ・帰還 エピローグ
570566:03/06/24 02:34 ID:71uDG1vS
ちょとアンカーに失敗したので改めて。
前のを参考にリストの続きを作ってみました。
571560:03/06/25 04:24 ID:TwTu1XZp
帰還の作者です。
レスをいただいたみなさん、今まで読んでくださって
ほんとに本当にありがとうございます。
1回目をupした時に書いたように、龍騎本編でも大きな謎に
なっている所を補完しようという無謀な試みでしたが、
みなさんに読んでいただいたおかげで無事に完成させることができました。
レスを読んでいて、私の方こそ涙が出そうでした。
謎の解釈については色々問題もあると思いますが(汗)、
少しでも楽しんでもらえたのでしたら、こんなに嬉しいことはありません。

>>562
>蟹様も喫茶店に来たのかな…(w
エピローグではほんの一部しか書きませんでしたが、
「元ライダーは全員花鶏に来る運命にある」ということに
してあります(オーディンとリュウガはどうすんねん)。
だから須藤さんも来るはずですよ…どんな風に登場して
何をするか想像してみると、楽しいですよね。
たぶん今度こそ、まっとうな刑事さんになってると思います(w

>>563
>本編最終回の映像を思い出して涙しました。
>>565
>読んでいる途中で最終回のシーンが頭をよぎって
>ちょっぴり泣きました(ノД`)

やはり最終回では皆さん泣いたんですね…(もちろん私も)
541-544を書くときはずっと最終回の映像を思い浮かべて
いましたが、文章であの物悲しさを再現できるかどうかが不安でした。
なので、563さんと565さんにそう言っていただくと、
少しは感じが出せたのかなーという気がして嬉しいです。
572560(レス続き):03/06/25 04:26 ID:TwTu1XZp
>>564
>なきそうだよ。
上でも書きましたが、そう言っていただくと
私の方こそ泣きそうです。ありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・。

>>566
>物語が終盤にさしかかった時にタイトルの「帰還」の意味が解け、
>そして読み終えた時にも二重にも三重にも意味が深く突き刺さってきました。

最初は、(たぶんご指摘のように)「神崎兄妹が最後に鏡の中へ帰っていく」
という意味と、「高見士郎が神崎士郎となって日本へ帰る」意味くらいを
漠然と考えていましたが、話が終りに近づくにつれて
「蓮、真司が花鶏へ帰ってくる」「各キャラクターたちが帰ってくる」
と、いろんな意味で「帰還」なんだなあ…ということに気がついて、
自分でも驚いてました。(566さんの言う意味と違ってたらすみません)

>幸せになってるらしい挿話(除く社長(笑))で終わってるのが後味良かったです。
ありがとうございます。世界が終ったところでENDにしようかとも
思いましたが、やはりそれだと淋しいので…

>失った家族へ強い絆と愛を寄せる娘を犠牲にしてまで
>優衣の為には願いを叶えたかった士郎が哀れですね。
すべてが優衣のため、という前提があるので、
すごく冷酷に見えても、その冷酷さ自体が哀れさに通じる
気がします。そういう士郎の性格が少しでも書けていたのなら、
嬉しいです。

>>567-570
また丁寧なリストを作っていただいて、ありがとうございます!
しかも「帰還」の一括リストまで、すみません・゚・(ノД`)・゚・。
本当におつかれさまでした…
573566:03/06/30 13:15 ID:jAyk3Dg2
>572
>いろんな意味で「帰還」なんだなあ…ということに気がついて
あ、その通りです。
物語のラストで「帰還」って言葉に何重もの意味がかぶさって行ったので
おおー!と感動しました。
574572:03/07/02 01:22 ID:hZtE0qqk
>>573
どうもです。よく考えると、元々龍騎本編の最終回にあった
「帰還」という要素を強調した結果が、このSSなのかも
しれません・・・書いてる最中は意識しませんでしたが(汗)
575名無しより愛をこめて:03/07/02 08:52 ID:H6l+SM1Y
あげ
576名無しより愛をこめて:03/07/06 13:09 ID:7vyiosjP
>574
無意識からやって来たものが、やがてピタっとジグソーのピースの様に
収まるべき場所に収まっていった…という感じですか?
577574:03/07/08 00:35 ID:sWghYtCJ
>>576
そこまではいきませんが、「かなり都合よくまとまって
くれてよかったな」という気がしました(無責任・・・)
578名無しより愛をこめて:03/07/12 11:36 ID:7qSL6CQ0
そういえば、「高見沢で外伝」とか「最終回以後の話」とか、どうなったんだろ?
579山崎 渉:03/07/12 12:49 ID:dWakOybu

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
580山崎 渉:03/07/15 12:04 ID:WKPcDkcX

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
581名無しより愛をこめて:03/07/16 13:55 ID:vsh2l9bn
エプソーデ・フォーナルage
582名無しより愛をこめて:03/07/16 15:49 ID:DUpt7Uqb
>>576
言霊(ことだま)が降ったということですな。
いや、素晴らしかった。ありがとう。>>574
今からまたゆっくり読み返します。
583574:03/07/17 01:08 ID:Wm4GuCOZ
>>582
読んでいただいてどうもありがとうございます、嬉しいです。
584名無しより愛をこめて:03/07/17 17:59 ID:9tE9HH3z
「帰還」のエピローグ読みなおしてたら、また涙があふれてきました
585名無しより愛をこめて:03/07/21 23:28 ID:+tCT3PmS
「帰還」は、あのエピローグを読み終えた後、
あらためて全体を通して読むとまた違った味わいがありますね。
586名無しより愛をこめて:03/07/26 22:09 ID:MH9eo1z/
そろそろエピソードファイナルのDC版が出ますが
謎だったり尺が足りない部分が補完されていればいいですね。
587訪問者(1):03/07/27 23:26 ID:H6YRsP/F
「ゴロちゃん?遅くなったけど今から帰るわ。
うん、気をつけるよ。じゃあね」

仕事がこんなに長びくとは思わなかった。
嫌なクライアントだよ、いくら金払いがいいとはいえ。
午前0時をとっくに回ってる。まったく、今日は運が悪い。
とっとと帰ってゴロちゃんのお夜食をいただこう。
そう思って車を発進させた。

だが、日付が変わっても運の悪さはついてきた。
ヘッドライトの向こうの闇に突然、
淡い光を放つ巨大な人型が立ちはだかったのだ。
息を呑み、反射的にブレーキを踏み込む。
ライトに照らし出された頭部に無数の触手が
うごめいているのを見れば、人間でないことは明らかだった。
だが、妙だ。モンスターなら、必ず出現前に
接近音がするはずなのに・・・

急停止の衝撃をこらえて頭を上げると、
白く光る触手の一本が怪物の頭から伸びるのが見えた。
そのまま鞭のように振り上げられ、
眼前のフロントグラスに叩きつけられる。
ガラスを易々と突き破った触手を間一髪で避け、
左のドアを開けて道路に転げ込むと、
迫りくる幽霊じみた怪物に向かって土下座を始めた。
「俺が悪かった。許してくれ、この通りだ。な!」
土下座の効果かどうか、ともかく化物が立ち止まった。
その隙を逃さずがばっと跳ね起き、
ジャガーのフェンダーミラーにカードデッキをかざす。
「変身!」
588587:03/07/28 00:14 ID:Izjz6A28
帰還を書いた者です。
長々と書いた上に連投してしまってすみませんが、
まただいぶ落ちてきたし、何かカキコがあった方がいいかなーと思って
新しい話を作ってみました。読んでくださった方いたら、ありがとうございます。
&他にも新作ありましたら、どうぞupしてください。
(もちろん、586の話の途中でも全然構いません)

>>584
ありがとうございます。エピローグはかなり駆け足で書きましたが、
気に入ってもらえた部分があったら嬉しいです。

>>585
ありがとうございます。でも、各エピソードの並べ方が
あれでよかったのかどうかが今でも時々気になります(汗)
(401号室の実験がかなり後回しになってしまいましたし)

>>586
各ライダーのエピソードが追加されるという話を
どこかのスレで見ましたが、どんなものか気になりますよね・・・
589587:03/07/28 00:18 ID:Izjz6A28
忘れてたスマソ・・・ageておきます。
訪問者の続きは、また来週くらいになると思います。
590名無しより愛をこめて:03/07/28 12:59 ID:XM82SpOS
おお!新作だ新作だ!
これは北岡弁護士が主人公の物語なんでしょうか?
期待してますんでがんばってください!!
591ネ申山奇 ◆7gSIRO5h/g :03/07/29 04:36 ID:HOttaW79
このスレははじめて読みました。
オルタナ02に命を吹き込んでくれてありがとう。
昨年色々作ったコラの中でも一番思い入れがある奴なので、嬉しかった。
書いてくれた人によろしく伝えて下さい。
もし斉藤雄一が戦場に赴くなら「ただ、手塚のために…」
確かにこれしか理由は要らないよね。
「帰還」シリーズもイイ!みんな文章上手いなあ。
592589:03/08/02 03:33 ID:HBpmvwks
訪問者の続きをupします(まだ1コしかできてませんが)

>>590
読んでくださってありがとうございます、がんばります。
はい、北岡さんの話です・・・今のところ(汗)

>>591
読んでくださってありがとうございます。
「きみのため〜誰も知らないオルタナティブ02」も、
ぜひ再開してほしいですよね・・・
593訪問者(2):03/08/02 03:36 ID:HBpmvwks
ゾルダの姿になるが早いか、明かに驚いた様子で
こっちを見ている白い化物に向かってダッシュする。
悪かったな。こっちもただの人間じゃなかったのよ。

猛然と体当たりをかけた。
鎧のような装甲に覆われているにもかかわらず、
妙にぐにゃりとした感触の肩と胴に手をかけ、
渾身の力を込めて引きずり寄せようとする。
だが。
「ぐあっ!」
一瞬後、関取に組みついた子供同然に、
ただし一切手加減なしではね飛ばされていた。
路面に叩きつけられて転がり、変身が解ける。

まいったな、やっぱり接近戦はダメだわ俺。
車のところまで引き寄せて、ボディからミラーワールドに
引きずり込んで決着をつけてやろうと思ったんだが。
せめて、マグナバイザーだけでもこっちで
使えればいいのに・・・神崎士郎も気がきかないよ。

痛みをこらえて頭を上げると、
白いタコを載せたような頭を持つ怪物がじっと見下ろしていた。
触手の群れの奥から、鬼火のように青く光る目で。

「妙な技を見せてくれたな・・・」
いきなりすぐそばで声がしたのでぎょっとする。
俺が倒れているすぐそばの路面に、
痩せた神経質そうな男の裸の上半身が映っていた。
ちょうど白い化物の影のように。
そいつがしゃべっているのだ。
594オルタナ02作者代理人:03/08/02 21:24 ID:aRnXIPti
お久しぶりです。第1部完成直後、作者が山陰から地元に帰ってきましたので引っ越しとかで忙しくてしばらくネットカフェにも行けなかったそうです。
第2部は一応出来ているのですが、まだオフラインの方でしか発表していないので近いうちにアップします。
※ちなみに、オフライン=同人誌の方は第1部、第2部とも夏コミに出す予定です。

>>591 ネ申山奇 ◆7gSIRO5h/gさま
おお、あなただったんですか!<02コラ作者
あの画像を作者に見せた時、真っ先に「この設定で話を書きたい!…でもまず作った人の許可が無いとダメだよね…」と言ってたんですよ。
結局許可をもらう前に載せちゃったんですが…スミマセン
作者にはちゃんと報告しますのでよろしくお願いします。
595訪問者(3):03/08/04 01:36 ID:UyZUo7nL
これではっきりした。
こいつはミラーワールドのモンスターじゃない。
だが、それならどこから来た?
俺の疑問などにお構いなく、男の影は
意味不明のことをしゃべり続ける。
「だがお前の変容は、あくまで一時的なものにすぎないようだ。
私が見た限りでは、お前のデバイスは装着者の素質とは
何の関連も持たない。つまりお前はしょせん非力な人間にすぎない。
ということは、オルフェノクの素質を持っている可能性もあるわけだ。
それならば−−」

化物の両肩からひとつずつ生えた太い触手の片方が、
ゆらりと浮かび上がった。
冗談じゃない、ライダーバトルでならまだしも
こんなタコ野郎のせいで命を落すなんて・・・
そうだ。もう一度変身してミラーワールドへ逃げよう。
だがスーツの懐に素早く右手を入れた瞬間、
奴の顔の下から伸びた細い触手が飛んできた。
打たれた手首に痺れが走り、カードデッキから離れる。

「そのデバイスは、後で解析させてもらう−−
研究所に戻れればの話だが。だが戻れないとしても
たいした問題ではない。この世界でも、
仲間を増やすことはできそうだからな」

路上の影が不気味に笑うと同時に、
化物の肩の触手が跳ねて身体に巻きついた。
吸盤をびっしりつけた先端が迫ってくる。
左胸をめがけて。
596訪問者(4):03/08/04 01:38 ID:UyZUo7nL
心臓を貫かれる前に身体が砕ける。
薄れゆく意識の中でそう思ったほど、
触手で締め上げる力は強烈だった・・・が。

「先生!」
なじみ深い声がした次の瞬間身体が自由になり、
道路に倒れ込む。

「サンキュ、ゴロちゃん」
動悸とめまいにふらつきながらも身体を起こし、
俺に背を向けて手刀を構えた男の脇に立った。
時々思うんだけど−−もしもゴロちゃんが
ライダーになってたら、俺はもうとっくに
この世とおさらばしてたかもな。
俺が変身してもかなわなかった化物に、
生身で跳び蹴りを入れて怯ませるんだから。

「心配になって迎えに来たんです・・・
浅倉に待ち伏せでもされたんじゃないかって」
化物を見据えたまま構えを崩さず、ゴロちゃんが答える。
「ま、浅倉よりは扱いやすいと思うけどね、
こいつの方が・・・うわっ!」
ゴロちゃんの身体がいきなり地上から3メートルほども
浮いたと思うと、目の前にすっ飛んできた。
太い触手につかみ上げられた後、俺に向かって
投げつけられたのだ。

「ちょうどいい、2人まとめて試してやる−−
オルフェノクの素質があるかどうかをな」
路面に映った男が、また酷薄な笑みを浮かべた。
597訪問者(5):03/08/04 01:41 ID:UyZUo7nL
「・・・・・・オルフェノク、って何よ?」
大粒の水滴が、血と土埃に汚れた顔を打った。
一つ、また一つと。
そういえば天気予報で言ってたな、
夜半過ぎに天気が崩れるって。
ゴロちゃんともども倒れたまま、全身バラバラに
なったかのような痛みに呻くしかない状況で、
我ながら呑気に思い出す。

「人間を超えた存在だ。俺のようにな」
男の影から発される声が、得意げに響いた。
「俺も以前はただのひ弱な人間だった。
だがある日別のオルフェノクに襲われ、
新たなオルフェノクとして甦ることができた。
そしてお前たちに見せた通りの力を手に入れたのだ。
だからおとなしくしているがいい。
運がよければ、お前たちも我々の仲間になれる。
運が無ければここで死ぬだけだ−−お前の下の奴同様にな」
「下?」
そういえば、顔や手を汚したこの灰のようなものは何だ?
道路に溜まった土埃じゃないのか・・・

うつ伏せのまま胸の下を探った手に、
何か固いものが当たった。
引き出して、わずかな街灯の明かりで見る。
「!!」
黒縁のメガネだった。
打撲の痛みも忘れて身体を起こすと、
半ば灰に埋もれた腕時計とアタッシェケースが見えた。
そして、ぼろぼろになった背広らしきものも・・・
598訪問者(6):03/08/04 01:44 ID:UyZUo7nL
「先生・・・」
振り向くと、額から血を流したゴロちゃんが
膝を突いて起きあがるところだった。
傍らに転がった何かを拾い上げ、俺に見せる。
灰だらけだったが、すぐわかった。
某有名玩具専門店の紙袋だ。
中身はきれいにラッピングされた箱だった。
リボンの間に、小さなカードが挟んである。こう読めた。

「おそくなってごめんね
たんじょうびおめでとう     パパより」

無言でカードを見つめるゴロちゃんの表情には、
いつにも増して凄みがあった。
だけどそれは傷が痛むせいじゃなさそうだ。
今も、この先の家のどれかで待っているのだろうか。
誕生日を迎えたばかりの幼い息子か娘が、帰りの遅い父を・・・

化物男が悦に入って語りつづけるのが、
激しくなってきた雨音の向こうから聞こえる。
「どのみち、お前は不治の病に侵されているのだろう?
俺にはわかる。オルフェノクとして甦ることができれば
今の朽ちかけた肉体の代りに、不死同然の身体と
力を手に入れられるのだぞ。試してみる価値はあるだろうが?」
青白く光る触手が、また闇の中から浮かび上がった。

名も知らぬ男の灰にまみれたダブルのスーツを、
降りしきる雨がさらに台無しにしていく。
だがいつのまにか、そしてどういうわけか、
その下の俺の身体からは一切の痛みが消えていた。
599訪問者(7):03/08/04 01:48 ID:UyZUo7nL
「なるほどねえ。
おまえらが人を襲うのは殺すためじゃなく、
仲間を増やすためってわけか・・・
せっかくだけど遠慮しとくわ。
永遠の命なら、自分で戦って手に入れるからさ。
そうでなくても、おまえみたいな醜い姿−−
おるへのく、だっけか?−−になってまで、
不死になったってしょうがない。
せっかく眉目秀麗な俺がさ・・・ゴロちゃんだってそうだろ?」
「貴様!」
激怒するタコ野郎を見て、口の端に笑みが浮かぶのが分かった。
あっさり挑発に乗ってくれちゃって。
「今だ!」
俺に向かって青白い触手が飛んだまさにその時、
ゴロちゃんが跳ね起きてダッシュした。
放置されたジャガーの運転席に向かって。
やはり、俺の意図をちゃんと察していた。
同時にカードデッキを取り出す。
灰に雨水が混ざってぐちゃぐちゃになりはじめた
路面を転がり、伸びてきた触手を避けながら、
できたばかりの小さな水溜りに緑の板をかざした。
「変身!」
再びゾルダになった瞬間、猛スピードで発進した
ジャガーのボディが身体をかすめていく。
そして、どん、という鈍い音。
ジャガーが白い化物をボンネットにはね上げたのだ。
間髪入れず車に駆け寄り、予想もしなかった事態に
なすすべもなく暴れる化物の肩から伸びた
二本の触手をぐいとひっつかむと、ガラス窓から
一気にダイブした−−ミラーワールドへ。
600訪問者(8):03/08/04 01:51 ID:UyZUo7nL
スマートブレイン本社は、
かつてない緊急事態に見舞われていた。
巨大な社屋ビル内外の窓という窓、鏡という鏡に突然、
コートを着た長身の男の姿が現れたからだ。
「俺の世界に干渉するな」
そう言いながら。
男の出現と同時に、ビル中の鏡面から
得体のしれない耳障りな音が響き始めた。

社長室に隣接するロビーの豪華なソファの上で、
耳を塞いでうずくまるスマートレディ。
少し時間がたって、音が止んだかどうか
確かめようと恐る恐る顔を上げる。
が、すぐに悲鳴を上げてまたソファに縮こまった。
再び耳を塞ぎ、そして今度は目までぎゅっとつぶって。
音が止んでいないばかりか、どこからともなく
落ちてきた無数の金色の羽根が部屋中を
舞っているのに気づいたからだ。

さすがに、隣りの社長室にいる3人に動揺は見られなかった。
もっともそのうち2人は、ありあまるほどの
闘志と殺気をみなぎらせていたが。
都内一円を見渡せる広々とした窓に映り込んで、
こちらと対峙するコート姿の男に向かって。
だが彼の目には入らないようだった。
ムカデに似た姿の怪人も、エビに似た姿の女怪も。
「俺の作った世界への干渉を止めろ。今すぐに」
それだけ言った。
執務机の椅子に悠然と腰掛けて自分を見つめ返す、
スマートブレインの頂点に立つ男に向かって。
601600:03/08/04 02:21 ID:JrGNp+Cs
訪問者の続きができたのでupします。

>>594
お久しぶりです、オルタナ02の続きどうぞよろしくです。


(訪問者補足)
作中で出したオルフェノクは「オクトパスオルフェノク」ということになりますが・・・
この先ファイズ本編で同名のオルフェが出てきたらすみませぬ(汗)
(映画版についても同様です)
アギトのタコロードの脱色バージョンを思い浮かべて書きました(安直)
602名無しより愛をこめて:03/08/04 10:15 ID:MS1nhgrU
(・∀・)イイ!
603ネ申山奇 ◆7gSIRO5h/g :03/08/05 01:01 ID:o319wjU1
>>594
期待しています。とお伝えください。

>>601
「訪問者」面白い!うまく555世界と繋げるなあ…(感心)
604名無しより愛をこめて:03/08/08 09:09 ID:OANj/ECM
うまくいえませんが、「訪問者」読んでてドキドキします。
続き待ってます
605訪問者(9):03/08/11 01:27 ID:Ukin0LbU
「今までこの部屋には多くの者が来た・・・
人間も、そうでないものも。
だが鏡の中から来たのはあなたが初めてです。
それと、あなたが連れてきたあの怪物も」

窓に向かって語りかける村上社長の表情は、
常と変わらず穏やかだった。
今しがた、社長の威信とオルフェノクとしての誇りの
両方を動揺させてもおかしくない映像を
見たばかりだったのだが。

「大変です!・・・エントランスの天井から、か、怪物が」
動転したセキュリティ担当者の声に続いて
社長室の監視モニターに映し出された、
本社ビル1階のエントランスホール。
巨大な吹き抜けを覆う総ガラス張りの天窓の下を
何かが飛び回っていた。
広壮な空間に咆哮を響き渡らせながら。
黒い大蛇−−いや、龍だ。
どちらにしても信じられない光景だった。

スマートブレインへの来訪者や末端関係者、
そして一般解放されたプロムナードを散策していた
市民たちが恐怖に顔を引きつらせ、
エントランスの床の上を逃げまどっている。

だが村上の顔が一瞬こわばり、
社長室に来ていた琢磨と冴子が激昂のあまり
オルフェノクの姿に化したのは、
その後の映像を見たからだった。
606訪問者(10):03/08/11 01:28 ID:Ukin0LbU
右往左往する人々に混じって、
明らかに憎悪をこめた眼差しで黒い龍を見つめる
人間たちがいた。正しくは、元人間たちが。

「いい度胸じゃねえか、スマートブレイン本社へ
殴り込みをかけるとは・・・」
「ファイズにもカイザにもまだ行き逢ってないし、
人間を襲うのにも少し飽きてきたところだ。
ちょうどよかったぜ」
映像が切り換わり、モニターに映し出された
ガラの悪そうな若者二人の姿が、たちまち変容する。
鋭い棘の生えた幅広い背ビレを持つ怪人と、
頭部前方に突き出た長い嘴のような突起を持つ怪人に。

そして次の瞬間、二体とも空中高く飛び上がった。
カジキマグロに似た怪人は尾ビレのある姿になり、
カワセミに似た怪人は翼状の両手を広げて。

空中を高速で泳ぐように移動しながら
魚怪人が細長い槍を構え、自分に気づいて
向かってくる龍めがけて思い切り投げる。
天窓の近くまで飛んでいった鳥怪人も同時に、
龍に鋭い嘴を向けて急降下を始めた。

槍が龍の胴を貫いて稲妻状の火花を散らし、
巨大な嘴が首の近くを突き破って衝撃波を送り込む。
これまでに何人もの人間を灰にしてきた時と同様に。
607訪問者(11):03/08/11 01:29 ID:Ukin0LbU
だが龍の流れるような動きは止まらない。
うるさそうに頭を振ると、長い尾を閃かせた。
少し離れた空中にいる魚怪人に向かって。

蝿のように叩き落されたオルフェノクの身体が、
エントランスの床に激突する。
床にめり込んで瓦礫の山を作りながらも
すぐに身体を起こし、再び遊泳形態になろうとする
セイルフィッシュオルフェノク。
その姿に向かって、上から龍がかっと口を開いた。
「ギャアアアアア!」
絶叫と共に黒い炎に包まれた身体から
青い炎が噴き出し、大量の灰になって崩れ落ちた。

「やりやがったな畜生!」
龍の首に嘴を食い込ませたまま仲間の最期を
見ていた鳥怪人が、頭をぐいと引いて龍から離れた。
そのまま両手を前へ突き出す。
「オルフェノクをなめるなよ」
言葉と同時に、青緑色の光線が翼の先から放たれた。
龍の頭部に向かって。
轟音と火花がはじけ、空中で長い体が反転する。
「やったか・・・?」
そう思った瞬間、鳥怪人の身体がメリメリと嫌な音をたてた。
反転後、怪人の下に回り込んで襲ってきた黒い龍の
巨大な顎に捕らえられたのだ。
断末魔の叫びはすぐに途絶えた。
噛み裂かれたキングフィッシャーオルフェノクの体が
青い炎に包まれ、龍の牙の間から灰となって流れ落ちた。
608訪問者(12):03/08/11 01:30 ID:Ukin0LbU
「・・・あなたの怪物のおかげで、
貴重なオルフェノクを2人も失いました。
戦士としての実力を持ち、仲間を増やすことにも
熱心だったので、ばかにならない損失です。
上の上は無理としても、中の上の資格は十分にあった。

ともかく、あなたが我々に対して
お怒りであることは嫌というほど分かりました。
ですから、まずはその理由を言っていただけますか?
干渉、とおっしゃいましたが、正直申し上げて
我々には何のことか皆目見当がつかないのです」

鏡の中の男が、嘲るような笑みを浮かべた。
「お前の側にいる奴らと同じ種類の奴が
俺の世界に侵入して、人間とライダーを襲った。
ミラーワールドに興味を持って詮索したのでなければ、
そんな真似はできないはずだ。
ライダーバトルを妨害する奴を放っておくわけにはいかない。
お前が奴らの元締めならば、今すぐに処置を講じろ。
さもないと−−」
言い終わらないうちに、男の背後から三体の影が躍り出た。
そのまま窓から出てきて社長室に降り立つ。
「貴様!」
センチピードオルフェノクが棘の鞭を振るった。
長く伸びた鞭の先をかわし切れなかったガルドミラージュが
ぎゃっと叫んで後ずさる。
それを見て、ガルドストームが目にも止まらぬ速さで
センチピードに向かって巨大な斧を投げつけた。
だが一瞬後、鋭い金属音とともに床に落ちる。
進み出たロブスターオルフェノクが装甲に包まれた
腕を振り上げ、一撃で叩き落したのだ。
609訪問者(13):03/08/11 01:31 ID:Ukin0LbU
ミラーモンスターとオルフェノクの凄惨な戦いが
始まるかと思われた瞬間。
「そのくらいにしておきませんか、お二人とも」
あくまで穏やかな声でそう言い置いてから、
村上が再びコートの男に向かって話しはじめた。

「あなたの今の言葉で、だいたいの事情が呑み込めました。
時間は取りませんので、少し説明させていただけますか?
わが社の研究所で開発に従事している者の中に、
特殊な感応力を持つオルフェノクがおりましてね・・・
最近その男が、鏡の向こうから来る微弱な「存在感」−−としか
説明できないものに興味を持ってしまったのが始まりでした。
私も報告を聞いて少々興味を持ったので必要な予算を
付けてやったのですが、それが間違いのもとだったようだ・・・

その「存在感」が何であるかを解明すべく研究を続けた結果、
つい先日その男の研究室で大爆発が起こったのです。
確かにひどい事故でしたが、私が気になったのはそれよりも、
その男が跡形も無く消えたことでした。
オルフェノクが死ねば灰が残る。だが現場からは、
一つまみの灰さえも検出されなかったのです。
いったいどういうことだ−−そう思って調べさせていたところへ、
あなたのいささか乱暴なご訪問を受けたというわけです」

胸の前で手を組み、慇懃かつ皮肉に微笑みながら
話し続ける社長を、コートの男が無表情に見つめ返す。
男の映った窓の前に佇むガルドサンダー以外の
モンスターは、いつのまにか社長室から消えていた。
二人のオルフェノクも不承不承ながら事態を
見守ることにしたらしく、執務机の脇に戻っている。
610訪問者(14):03/08/11 01:32 ID:Ukin0LbU
「あのオルフェノクは鏡を介して、あなたの創ったという世界へ
飛ばされてしまったのでしょう。そしてあちらで、あなたにとって
何らかの重要な意味をもつ者を襲った・・・
遺憾ながら、あの男があなたの世界に迷惑をかけたことは
間違いないようです。誠に申し訳ありません。しかし、わが社に
悪意はなかったということもご理解いただきたいのです」

「俺の要求は、おまえたちが二度とミラーワールドに
近づかないことだけだ。今度干渉すれば、
モンスターの大群をここに差し向ける。分かったか?」
鏡の中から陰々と響いてくる声に、村上は再度
笑みを浮かべてうなずいてみせた。
「承知しました。今後、二度とそのようなことは起こらないと
約束しましょう−−そうそう、ご迷惑をおかけした
オルフェノクの始末は、あなたにお任せします」

「いったいなんです、あの男は?」
「やられっぱなしでお帰りいただいていいのかしら、村上君?」
コートの男が窓から消えた後、琢磨と冴子が
人間体に戻ってさっそく不満をぶちまける。
その二人に背を向けたまま、
今は自分の顔だけが映り込んだ窓のそばに立ち、
外の風景を眺めながら答える村上。

「見たでしょう、あの男と、あの男の使役する怪物の力を。
奴の支配する世界へ招かれざる客として踏み込んだという
事実を知られた以上、ここは下手に出て機嫌を取るほうが
得策と判断したのですよ。
揉み消そうにも、鏡の向こうの出来事ではどうすることも
できませんしね・・・スマートブレインの力をもってしても。
611訪問者(15):03/08/11 01:34 ID:Ukin0LbU
それはそうと、壁に取り付けたサイコイメージモニターで
奴の思念をスキャンさせていたのですが、
いろいろと興味深いことが分かりましたよ。

あの男が創り出したのは、オルフェノク2名を葬り去った
モンスターとやらだけではないようです。
はっきりとは分かりませんが、
「カードデッキ」「契約」「最後の一人」
という言葉と映像らしいものが読み取れました。
どうやら、あの男の手になるバトルシステム及び
そのためのデバイスのことらしいですね。

それと、ある女の子のイメージが繰り返し検知されました。
よほど彼にとっては大事な存在らしい」

「なかなかいい趣味じゃないですか」
「ロリコン、それともシスコン。どちらにしてもね」
冷笑を浮かべるラッキークローバーの二人に構わず、
村上は言葉を続ける。

「彼の力をスマートブレインで使えれば、
いろいろと面白いことができそうだが−−
いかんせん、サラリーマンには向かなそうだ。
それに、あの男はもう死んでいる。その意味では
オルフェノクと似たような存在かもしれません・・・」
琢磨と冴子が露骨に嫌な顔をするのを見て、
人の悪そうな笑みを浮かべながら付け加える。
「鏡の中だけのね」
612訪問者(16):03/08/11 01:36 ID:Ukin0LbU
その時、社長室の扉が少し開いて、
スマートレディがおっかなびっくり顔を出した。
「しゃ、社長・・・」
「ああ、もう入ってきても大丈夫ですよ。
あの男なら帰りました」
鷹揚にうなずいてみせる村上に、
SBのイメージガールは意外なことを告げた。

「本社詰めのオルフェノク1人が行方不明?」
「はい・・・エントランスにいた警備員さんからの報告だと、
ついさっきあの黒いドラゴンが天井に入って消えたとき
変なことが起きたらしいんです。
なんか、こう、空間が一瞬歪んだような・・・
それでちょうどその時、仲間二人の仇を討つって言って、
オルフェノクになってドラゴンに攻撃しようとしてた子が
突然消えてしまったそうなんですぅ」
ため息をつくと、村上は革張りの椅子にどさりと腰をおろした。
「あの龍が帰る時、研究所で起こったのと
似たようなことが起きたんでしょう、きっと。
やれやれ・・・オルフェノク計4名ということですか、
今回の一件での損失は。まあ、しかたありません」

夜。河原の一隅におこした火の前に座って、
枯木の枝に刺して焼いた何かを貪り食う男。
かなり強い雨が降り始めていたが、あまり気にしていないようだった。
突然、火の向こうにコートを着た男が現れたことに気づいても、
やはりたいして驚いた様子は見せない。
「来い。戦わせてやる」
神崎を見上げてにたりと笑い、浅倉は枯れ枝ごと焼トカゲを差し出した。
「おまえも食うか?」
613612:03/08/11 02:10 ID:IAxM+FN5
訪問者の続きをupしました。

(お詫び)
来週の土日に用事が入ったため、続きのupは再来週になると思います。
申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。


返事が遅くなってすみません>レスいただいた方々

>>602
ありがとうございます。とっても嬉しいです・・・

>>603
ありがとうございます。なかなか話を思いつかなかったので
ファイズ世界との組合せを考えたのですが、
楽しんでもらえたのでしたら本当によかったです。
(終るまではまだなんともいえませんが(汗))

>>604
ありがとうございます、そんな風に思っていただけるとは
すごく嬉しいです・・・また楽しんでもらえるように、
完成までがんばります。
614名無しより愛をこめて:03/08/11 14:21 ID:9edXhZBc
この後の555側と龍騎側がどうなっていくのか
とてもたのしみです。
期待してます、がんばってください。
615名無しより愛をこめて:03/08/12 01:20 ID:nRNjSsHz
>>612
「帰還」も素晴らしかったですが、「訪問者」も面白い!
ファイズ世界と違和感なく繋がっててすごい、としか言いようがありません。
続き楽しみにしています。
616名無しより愛をこめて:03/08/13 02:13 ID:U02rFmXm
キャビア鍋って?











誰か食ってみてよ。
報告待つ!
617名無しより愛をこめて:03/08/15 04:23 ID:7+zUOR2y
RDC観て実感。映画はあれで正解だったんや!
テレビよりオモシロイ!
618山崎 渉:03/08/15 12:09 ID:MpeIsNe5
    (⌒V⌒)
   │ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  ⊂|    |つ
   (_)(_)                      山崎パン
619名無しより愛をこめて:03/08/16 05:10 ID:wvBtLpfE
  
620名無しより愛をこめて:03/08/17 02:01 ID:L8OQAI0A
どなたか王蛇と少女の際の浅倉の心境について書いていただけないでしょうか
あの話好きなんで
621名無しより愛をこめて:03/08/20 13:59 ID:VjoAbDuq
保守
622訪問者(17):03/08/23 14:15 ID:wKUoFi9N
村上社長は知らなかった。
黒い龍が帰る際に生じた空間歪曲の
巻き添えでミラーワールドへ飛ばされたのは、
1人のオルフェノクだけではなかった。
ファイズギアを使って変身することのできる、
今のところ唯一の人間もだったのだ。

「ふん。実験の直後に飛ばされた場所か・・・
そうか、お前のデバイスではここでしか戦えないと
いうわけだな。よかろう、かかってくるがいい。
これまでに、オルフェノクがファイズやカイザと
戦った時のデータと比較するための貴重な資料が
手に入る。状況が少し特殊すぎるがな」
ミラーワールドに引きずり込まれてなお不敵に
そう言い放つオクトパスオルフェノクに向かって、
少し離れた場所から嘲笑するゾルダ。

「悪いけど、俺はなるべく自分の力は使わない主義なんだ。
お前は学者崩れらしいから教えてやるけど、ここじゃ
生き物は存在できない。ライダーだって10分といられない。
しばらく待ってりゃ、お前は泡のように消えてくれるってわけ。
どっかからモンスターが来て、片付けてくれるかもしれないし。
お前がどうやって最初にミラーワールドに入ってどうやって
出たのかはわからないけどさ、たぶん今度は
出られないと思うよ、俺がまたひきずり出さない限り」
623訪問者(18):03/08/23 14:17 ID:wKUoFi9N
「なるほどな」
地面に落ちた人影が不気味に笑った。
何の動揺も見せずに。
「一度死んだ存在であるオルフェノクが、生物の存在できない
ミラーワールドとやらで果たして生き延びられるかどうか、
それも試してみる価値はありそうだ。
それに、もうひとつ知りたいこともできた。変身したお前が
ここでどのような死に方をするかだ。俺の手にかかってな」

「ああ、そうなの。今度こそようくわかったよ」
子供へのプレゼントのそばで灰になった父親の姿が、
ゾルダとなった北岡の目の前に再び浮かんでくる。

「お前にとっては、自分の命も人の命も
単なる実験材料に過ぎないってことがな。
一番むかつくんだよね、そういう奴見てると。
気が変わったよ−−お前は俺が倒す」
言うなり、手にしたマグナバイザーを
オルフェノクの青白い頭部に向かって発射するゾルダ。
金色の火花と鋭い音が散った。

だがオルフェノクは逃げもせず平然と立っている。
無数の触手が瞬時に頭の周りに持ち上がり、
残らず弾を叩き落したのだ。
「まさか、これが最強の武器というわけでもなかろう?」
蛸男が憎々しげに笑う。
次の瞬間、漏斗のようにすぼめられた口吻から
漆黒の巨大な流れが吐き出され、ゾルダに襲いかかった。
いかつい緑色の姿がたちまちねっとりした大量の
黒い物質に巻き込まれ、周りの闇と区別がつかなくなっていく。
624訪問者(19):03/08/23 14:18 ID:wKUoFi9N
どこだ、ここは?
誰もいない。真理も、啓太郎も、草加も。
そしてさっき現れたばかりのオルフェノクも。
だいいち、かんかん照りの昼下がりだったはずだ。
まさか、こんな夜になるまで気を失っていたのか、おれは?
だがそんな風になったことは今までなかった・・・
並のオルフェノクの一撃くらいでは。
もしかすると、急に周りが陽炎のようにゆらめいて
目眩がしたのも、オルフェノクの攻撃のせいじゃ
なかったのか?
畜生。何がなんだかさっぱりわかんねえ。

そう思ったとき、背後で鋭い音が響いた。
「!」
振り向いた巧の目に飛び込んできたのは、
闇の中で青白く光るオルフェノクが
目の前の人間を絡め取っている光景だった。
口から吐き出した黒いガムみたいなもので。
「今いくから、なんとかもちこたえろ」
そうつぶやくと巧は側に落ちていたベルトを掴み上げた。
ファイズフォンを取り出し、コードを打ち込む。
"Standing by..."

「変身!」
デバイスの装着と同時に赤い光が
強化スーツの全身に流れ、闇に輝き渡る。
"Complete!"

手をひとつ振ると、ファイズは猛然と駆け出した。
オルフェノクの方へ。
625624:03/08/23 14:36 ID:wKUoFi9N
訪問者の続きをupしました。お待たせしてすみませんでした。

レス下さった方々、保守してくださった方々、ありがとうございます。
申し訳ありませんが、お返事は次の回にさせてください・・・

(補)
タコの技が、やはりイカ先生と被ってしまいました(鬱)
(なるべく似ないようにしたいと思っていますが)
626名無しより愛をこめて:03/08/23 17:36 ID:nOhdKrPW
はたしてファイズの装甲はミラーワールドでいつまで持つのかがきになりますね。
627名無しより愛をこめて:03/08/25 13:25 ID:cO5QRoqs
先週このスレを見つけて、一気に全部読みました。
作者の皆さんの力量と、龍騎という作品に対する思い入れに、
敬服しました。本当に良いスレですね。

「訪問者」、文句なしに面白いです!
神崎士郎がスマートブレイン社に出現するシーンでは、頭の中に
映像と音響が浮かび、思わず身震いしちゃうぐらい良かったです。
また、龍騎ワールドでは「神崎士郎」「神崎」という固有名詞がでて
いるのに、ファイズ側の世界では「長身の男」「鏡の中の男」という
ような表現になっているのも、芸が細かいですね。

続きを心から楽しみにしていますので、頑張ってください!。
帰途の途中、蓮は終始無言のままだった。容態を気遣った真司や優衣が話しかけても、
返事をせず、後部座席に横たわったまま、天井を睨みつけていた。
きっと、あの青年のことを考えているのだろう、と真司は思った。
手塚の墓を訪れては、花束を捧げてくれていた彼の『昔の知り合い』だというあの青年―――
ミラーワールドではライアと同じ色の強化スーツを纏い、複数のモンスターに対して驚くほど流麗な剣技を誇りながら、
現実世界の彼は、女性と見間違うほど華奢で色が白く、静かな物腰の男だった。
『病院には、必ず行って。僕みたいになりたくないなら、ね』
失血の為に意識を失いかける程の重傷を負いながら、病院には行きたくない、と突っぱねる蓮に、
彼はそれまでの優しげな風貌と口調とを厳しいものに変えて、己が右腕を見せた。
あるべき筈の、肘から先の部分が無い、その右腕を。
「綺麗なひとだったね……」
不意に、助手席の優衣がぽつりと呟く。どうやら優衣も彼のことを考えていたらしかった。
「でも…寂しいッていうか…凄く悲しい瞳をしてたね……
何だか…とっても大切なものを失ってしまった、みたいな……」
「…うん」
大切なもの。それは、右腕だったのだろうか。それとも、もっと他の、別の何かなのだろうか。
「嫌だな…私…あんな瞳をした人、もう見たくないよ……」
「優衣ちゃん」
「もし、本当に、その香川って人が言ってた様に…ミラーワールドを閉じることが出来るなら……
あの人にも、他の誰にも、あんな悲しい瞳をさせなくて済むんだよね……?」
優衣の兄・士郎が造り出したミラーワールド―――そこから次々と現れ出るモンスター達が、
本来ならば全く無関係な人間を苦しめている。
誰にも平等にある筈の、幸せになる権利を奪い、悲しませている。
恋人を生命の危険に晒されている蓮、親友を失った手塚、
己が欲望の為にその手を他人の血に染め、自らの命を失くした仮面ライダーシザース=須藤雅史と
仮面ライダーガイ=芝浦淳、そして、あの青年。
優衣が知るだけでもそれほどの数の人間が犠牲になっているのだ。ミラーワールドの為に、士郎の所為で。
「いっぱい他人を傷つけて…悲しませて、辛い思いをさせて…
そうまでして、お兄ちゃんは何をしようとしてるの?分かんないよ…私には、分かんない……ッ……!」
俯いた優衣の細い肩が揺れ、膝の上で握りしめた手に、涙の雫がパタパタと音を立てて零れ落ちた。
不器用な自分には、こんな時、優衣にかけてやれる言葉が咄嗟には出てこない。
己の不甲斐なさと悔しさに真司は唇を噛み締める。
(許せねえよ、神崎…優衣ちゃんにまでこんな思いさせて…絶ッ対、許せねえ……ッ……!)
許せる筈がない。許されていい理由がない。
たとえ、どんな事情があろうとも、誰にも他人を傷つける資格など無いのだから。

3人を乗せたクルマが、海沿いの道路の緩やかなカーヴを曲がって、見えなくなる。
その時、陽炎の揺らめきとともに、路上に人影が浮かび上がった。
長い裾を引くベージュのコートに身を包んだその人影は、走り去るクルマを見送りながら、
低く掠れた声で呟いた。
「お前は何も知らなくていい……お前は俺が守ってやる……優衣……」
630名無しより愛をこめて:03/08/27 20:01 ID:2pxp6zz6
(・∀・)イイ!
久しぶりの続きupですね。
この後どうなっていくのかがとても楽しみです!
がんばってください。
631名無しより愛をこめて:03/08/29 17:38 ID:wD7cUkQK
保守
632名無しより愛をこめて:03/08/31 08:55 ID:iWf6mUpe
保守
633名無しより愛をこめて:03/08/31 09:27 ID:klL9F2lB
540 名前:名無しさん@4周年 投稿日:2003/08/29(金) 16:32 ID:xyyWsSsD
在日チョンの言い分。
「日本人と同じ権利をよこせ。自分達がここにいるのは日本人のせいだろ!」
チョンが、ブチ切れてます
(TVの動画)
http://up.isp.2ch.net/up/1f8f5e4ae3b4.asf
永久保存版です

この人の言っている意味がわかりません。
誰か教えてください。お願いします。

詳しくは、こちらで
http://www.geocities.co.jp/Milano-Kotto/1518/

634訪問者(20):03/09/01 00:56 ID:KPCj/2/U
化物の口元から伸びる黒い物質で十重二十重に巻かれ、
巨大な紡錘形と化したゾルダの身体がどさりと倒れる。
オルフェノクが頭部を後ろに引いたのだ。
「さて、死に様を見せてもらおうか」
冷酷な言葉と共に、頭から生えたすべての触手がぐねぐねと
動き始め、胸の前で一本の極太の綱状に撚り合わされた。

「私のエネルギーを心臓から注入されるのでなく、
外から浴びた人間は、想像を絶する苦痛を味わってから
絶命することになるだろう・・・以前研究所でサルを使って
実験した結果から類推する他はないがな。
オルフェノクを愚弄した人間にはふさわしい最期だ」
暗い地面に映った男の顔がサディスティックな笑いに
歪むと同時に、触手の束の先端が青く輝き始めた。

だが一瞬後。
「ぐっ!?」
触手がバラバラにほどけ、青い光が拡散して消える。
背後から跳躍し、頭上から脚を蹴り出した者の
強烈な一撃に蛸怪人がよろめいたためだった。
赤い光のラインを身体の表面に浮き出させ、
闇の中で金色に浮かび上がる顔を持つ者の一撃に・・・

そして同じ時。
「シュートベント」
音声に続いて、地面に転がった紡錘形の表面を
縦に切り裂くように閃光が走った。内部から。
黒い物質が四方に弾け飛んで溶け去った後、
異常に大きな上半身を持つ人影が立ち上がる。
ギガキャノンを肩に載せたゾルダだった。
635訪問者(21):03/09/01 00:57 ID:KPCj/2/U
やれやれ。タコの墨に絡め取られる直前に、
両腕をカードデッキの側まで降ろしておいてよかったよ。
それでも、簀巻きにされてからカードを引き抜いて
バイザーに装填するのは一苦労だったけどな。
−−にしても、あいつはいったい何だ?
新手のライダーにしては、ベルトの位置に
カードデッキらしいものが見当たらない。
神崎からも、あいつのようなタイプがいるという話は
聞いていないし。まさか、モンスター?
そうだとしても、あいつがタコ野郎を襲ってくれたおかげで
脱出の時間を稼げたことは間違いなさそうだ。

「ファイズか・・・」
宿敵の放つ蹴りを次々とかわしながら、オルフェノクが笑った。
正確には、地面に映った男が。
「こんなところで会えるとは思わなかったぞ。
どうやらお前も飛ばされて来たらしいな」
飛ばされた?何のことだ。
それにこいつは、さっき現れたオルフェノクとは別の奴だ。
巧が不審を抱いた一瞬に隙ができた。
太い触手がびゅっと風を切り、胴が薙ぎ払われる。
そのまましたたか地面に叩きつけられた。
「っ!」
幸い変身は解けなかったが、起きあがる前に
蛸怪人が黒く粘るものをファイズに吐きかけた。
畜生、動きを封じられる!
さっき被害者を絡め取ったのと同じものに・・・
そういえばあいつは無事なのか?
自分の危機も忘れ、遅まきながら巧がそう思った時。
耳元で轟音が響いた。
636訪問者(22):03/09/01 01:00 ID:KPCj/2/U
「シュートベント」
ギガランチャーを発射した瞬間、タコ野郎が吹っ飛んだ。
新参の奴に向かって吐き出された黒い物質も蒸発する。
助けてもいい奴かどうかはまだわからないけど、
一応俺も助けてもらったわけだし、借りは返しとこう。
そう思ってたら、新参者がふらつきながら立ち上がった。
俺に向けた金色の顔の辺りから、こんな言葉が聞こえてくる。
「おまえ・・・人間じゃないのか」

おいおい。礼を言うより先にその台詞はないだろ。
だいたい自分はどうなんだよ。しゃべれるってことは、
少なくともモンスターじゃないらしいが。
そう言おうとした時、目の前をさっと黒い影がかすめた。
続いて反対方向からきた別の影が、甲高い声で鳴きながら
槍のようなものを胸のあたりにガツンとぶつけてくる。

モンスターだ。それも一匹じゃない。
俺と新参者、それにタコ野郎の周りにいつのまにか
群れでしのびより、襲撃の機会をうかがっていたらしい。
闇夜の中でも様々な形や色の奴がいるのが見て取れるが、
大きな角が生えてて、やたらと高くジャンプしながら
襲いかかってくるのはどいつも同じだ。
数は多いがまとめてファイナルベントで片付ければ済むだろう。

だが今は、それより先にやるべきことがある。
今度こそあいつの息の根を止めなければ。
637訪問者(23):03/09/01 01:01 ID:KPCj/2/U
なんだ、あいつは?
緑色のメカニックな身体。両手で支えた巨大なバズーカ砲。
自力で黒い物質から脱出し、オルフェノクに互角の
攻撃をしかけ、助けようとした俺を逆に窮地から救った。
とてもただの人間とは思えない。が、オルフェノクにも見えない。
それなら・・・まだ別のベルトがあったってことか?
真理や草加や流星塾の奴らはこいつのことを知ってるのか?
「おい、お前!」
混乱する巧に向かって、緑色の人型が呼びかける。
「助けてくれたのはありがたいけど、あいつは俺が倒す。
ちょっとした因縁があってな。お前はこいつらを始末してくれ」
「こいつらって・・・」
問いかけた途端、横から飛び蹴りを食らった。続いて背後からも。
いつのまにか多数のガゼルがファイズを取り囲んでいた。
一匹の加えるダメージはそれほどでもないが、
多数でジャンプしながら蹴りや手にした武器でしつこく
攻撃してくる上に、どの個体も恐ろしく動きが速いので
反撃の隙を捉えにくい。

慣れない世界と敵に戸惑いながらも、ファイズが
モンスターの攻撃のクセを捉えるのに時間はかからなかった。
「はぁっ!」
左から躍るように回転して跳んできたギガゼールが
脚を狙ってハサミのような剣を水平に薙ぐのを
かわして跳躍し、逆に相手のねじれた角を蹴りで薙ぎ払う。
キィッと悲鳴を上げて頭から倒れるモンスターに
ニ撃目を加える間もなく、奇声と共に頭上から
ネガゼールが襲いかかってきた。
振り下ろされる鋭い刃のついた両腕を片腕でブロックしながら、
湾曲した角の下の顔面に拳を叩き込む・・・
638訪問者(24):03/09/01 01:03 ID:KPCj/2/U
「俺だよ、お前の相手は」
ギガランチャーのダメージから早々と立ち直り、
まとわりついてくるガゼルモンスターを片端から触手で
巻き上げては地面に叩きつけているオルフェノクに、
ゾルダが再びマグナバイザーを突きつける。
「なら、なぜ早く倒さん?」
相変わらず嘲笑まじりの声とともに、蛸怪人の触手から
輪のように丸まった角を持つガゼルの身体が
弾丸のように放たれ、ゾルダを地に打ち倒した。
「変身しても、人間の時と変わらず弱いお前に何ができる?
さっきの武器も大きさだけが取柄のようだしな。
その銃にカードを入れて武器を呼び出すシステムは興味深いが。
今この雑魚どもとファイズを倒したら構ってやるから、
おとなしくそこで待ってい・・・」
「ファイナルベント」
闇に野太い咆哮が響き渡った。

「俺の値踏みは、こいつを見てからにした方がいいと思うよ−−
見たあともそのご立派な頭が残っていたらの話だがな」
ガゼルの身体をはねのけて立ち上がったゾルダが、
カードを装填したバイザーをセットした。
暗い地の底から昇ってきたマグナギガの巨体に。

突然現れた鋼鉄の城のような怪物を見て
さすがに言葉を失う蛸怪人に向かって、
緑の巨牛の装甲が一斉に開いた。
次の瞬間、そこから真昼のような光がほとばしる。
無数の弾丸とビームが放たれ、闇に色とりどりの
軌跡を描きながらオルフェノクに襲いかかった。
639訪問者(25):03/09/01 01:04 ID:KPCj/2/U
自分めがけて飛び降りてくるオメガゼールに気づき、
手を広げて思い切り跳躍するファイズ。
上空で右脚を振り上げ、向かい合った怪物の胸を蹴り飛ばす。
着地すると、後ろでモンスターの体がどさりと落ちる音がした。
だが、きいきいと声を上げながら向かってくる
レイヨウたちの姿はいっこうに減っていない。
一体こいつら、何匹いやがるんだ。きりがないぜ・・・
ガゼル共の執拗な攻撃に業を煮やし、ファイズが左手首を上げた。
アクセルメモリーを右手で引き抜き、ファイズドライバーへ。

"Complete!"
胸部装甲がはね上がり、全身を走る赤いラインが
脈打ちながら強烈な銀色に変わってゆく。
縦に分割線の入った円形の顔面も、金色から真紅に変わる。
"Start up."
「てあっ!」
左腕のカウンターの数字が超高速で下降を始めると同時に、
ファイズは再び跳躍した。
周りのモンスター達が、滑稽なほど緩慢な動作で
飛んだり跳ねたりしているのが見える。
その一体一体に向かって、次々と紅い光がポイントされていった。
一瞬のうちに。
紅く輝く円錐が闇に出現するたびに、奇怪な絶叫や悲鳴が上がる。
オレンジ色の爆発炎がそれに続き、さらに闇を駆逐していく。

"Time out."
ファイズが再度地に降り立った時、周囲にはもはや
一匹のガゼルモンスターも見当たらなかった。
だが息をつく間はなかった。
凄まじい爆風と衝撃が背後から襲ってきたのだ。
640639:03/09/01 01:05 ID:KPCj/2/U
訪問者の続きをupします。
読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。
もう少し先がありますので、頑張って書きます。

遅くなってすみませんが、いただいたレスへのお返事です。

>>621, >>631, >>632
保守どうもありがとうございます。

>>614
龍騎側にも555側にも魅力的なキャラクターがたくさんいるので
それを生かして楽しんでもらえる話ができればいいなーと思ってます。
(でもバランスを取るのが難しいですね)

>>615
北岡先生vsオルフェノクという組み合せはかなり自然に
でてきたので、読む人から見ても違和感がないのでしたら、
とても嬉しいです。

>>626
今のところ、ご都合主義的にもたせてます・・・
スマートブレインと、ソルメタルの性能を信じて(汗)

>>627
スマートブレイン本社ビルの窓に神崎士郎がびっしり映ったら
結構迫力ありそうだと思って書いたので(どっちかというと
神崎嫌スレネタですね・・・)、映像や音を思い浮かべて
もらったのでしたらとても嬉しいです。
ファイズ側の描写で神崎の名前を出さなかったのは、
なるべくファイズ世界の人の視点で書こうとしてのことでした。
641639:03/09/01 01:06 ID:KPCj/2/U
>>628-629
オルタナ02の続き、お疲れ様です。
士郎兄さんも出てきて嬉しいです。雄一君の活躍も楽しみですね・・・
642名無しより愛をこめて:03/09/01 15:33 ID:YC9m4ZHf
訪問者のつづき、戦闘シーンがかっこいいですね!
このあとふたりがどうなるのかが気になります。
今後ともがんばってください。
643名無しより愛をこめて:03/09/01 23:26 ID:xHiHN99o
最近知ったけれど、面白い。皆さんの続き楽しみにしています。
保守。
644名無しより愛をこめて:03/09/06 23:58 ID:A4n4Sny7
「訪問者」
龍騎世界とファイズ世界が違和感無く融合して、キャラ達が共闘する姿は鳥肌物です。
バトルシーンもメリハリが合って面白く、続きがとても楽しみです。

「きみのため〜」
このシリーズは好きなので再開は嬉しいです。頑張ってください。応援しています。
645訪問者(26):03/09/08 01:37 ID:rMgDR3v0
蛸怪人を中心に巨大な炎の球が生じ、
四方を呑み込んで膨れ上がる。
少しだけ遅れて、ミラーワールドの地と空気を
震わせながら爆発音が轟き渡った。

しばらくしてマグナギガの陰から出ると、
オルフェノクの立っていた場所を見た。
だが何も見つけられなかった。
ひと山の灰と、ひっそり燃える青い炎以外には。

これで、罪もない人間がモンスター以外の
怪物に命を奪われる心配はなくなったわけだ・・・
そう思って取りあえず俺がほっとしかけた時、
左の方で呻き声がした。
ああ。そういえばもう一人いたんだっけ、
いきなり現れた得体の知れない奴が。

声のした方を向くと、予想通りあの金色の
顔をした奴が倒れているのが見えた。
エンドオブワールドのあおりを食らったらしい。
気の毒したけど、その程度で致命的なダメージを
受けるような奴とも思えないし、ま、大丈夫だろ。
あれだけ跳ねていたモンスター共が跡形もなく
消えてるところをみると、こいつが本当に
全部片付けてくれたらしいし。
いったいどんな技を使ったんだ?

だが次の瞬間、新参者の外見が変わった。
無機的な電子音とともに、若い男の姿へ。
646訪問者(27):03/09/08 01:38 ID:rMgDR3v0
おい、やっぱりこいつもライダーなのか?
城戸や死んだ芝浦よりまだ年下のようだが・・・
もしそうなら今度はこいつと闘うことになる。
少々気が重いが、仕方ない。

が、なんとか立ちあがってこちらへ歩いてくる若者を
注意して観察してみても、どうしても13人のうちの
1人とは思えなかった。

右手に持った携帯のようなものは確か、
変身してる間ベルトに固定されていたっけ。
あれを操作して着脱することで変身を
コントロールしているらしいが、どう見たって
カードデッキとは違うだろ、やっぱり。
契約モンスターの紋章らしいものも付いてないし。

それに、左手に下げたあの大きなベルト。
カードデッキを持って鏡に向かえばベルトが
出てくるタイプの変身方法じゃないらしい。
つまり、鏡の中で戦うライダーじゃないってことだ。
そもそも俺を見て「人間じゃないのか」なんて言ったり、
今ここで変身を解いたりすること自体、
あいつがミラーワールドやライダーについて
何も知らない証拠だよな。

少しほっとした時、相手が声をかけてきた。
「おい、あんた−−ここがどこか教えてくれ」
647訪問者(28):03/09/08 01:39 ID:rMgDR3v0
ったく、最近の若いもんは。
「・・・お前、もっと他に言うことあるだろ?危ないところを
助けていただいてありがとうございました、とかさ」
「それはお互いさまだろう」
俺とマグナギガの1メートルほど前まで来て足を止めると、
若者はにこりともせずにそう言い返した。
俺の仮面の上を真横に走るスリットのあたりを
無遠慮に見つめながら。

どうだ、この可愛げのかけらもない態度と
やたら挑戦的な眼差しは・・・
まあいい、教えてやるか。俺は大人なんだしな。
「ここはミラーワールドだよ。鏡の中の世界だ」
「ミラー・・・ワールド?」
眉間に皺を寄せてから、はっとしたように若造が
俺の後ろを見る。タコ野郎の残骸に気づいたらしい。
「・・・あのオルフェノクはお前が倒したんだな?」
「そういうこと。今度はこっちにも質問させろよ。
おまえ、オルフェノクとは敵同士なんだな?」

どうにも虫の好かない野郎だな。助けられたとはいえ。
だいたい何で変身を解除して顔を見せない?
ファイズとはかなり違うものの、やはり自分同様
戦闘スーツを着けているらしい緑の男をうさんくさげに
見上げながらも、巧は答えた。
「ああ。オルフェノクが人を襲うから、ファイズに変身して
戦ってるんだ。さっきもオルフェノクが現れたから
変身しようとしたら、急にこんなところへ来ちまって・・・
そういえば、お前!オルフェノクのこと知ってて戦ったんなら
流星塾の奴か?お前にもベルトが送られてきたのかよ?」
648訪問者(29):03/09/08 01:41 ID:rMgDR3v0
目の前に大きく盛り上がった鋼鉄の肩が、
わずかにすくめられたように見えた。
「お前の話はさっぱりわからないけどさ、
オルフェノクのことなら、あのタコ野郎が
自分からべらべら喋ったから知ったんだよ。
あいつがお前の世界から来たらしいこともな。
とにかくこっちは、お前があのけたくそ悪い
オルフェノクと戦ってるってことが分かれば十分だ」

結花やピザ屋の主人のことがちらりと脳裏をかすめ、
かどのある言葉が巧の口をついて出た。
「人の心を持ったオルフェノクだっているんだぜ、おっさん」
「おっさ・・・!」
「それより、"俺の世界"ってのはどういう・・・うおっ!?」
言葉の途中で、自分の身体全体から無数の粒子が
立ち昇り始めているのに気づいて巧が驚愕の叫びをあげる。
「言い忘れてたけどな」
緑の男がことさら意地の悪い口調で言うのが聞こえた。
「人間は長いことミラーワールドにはいられない。
いればそういうことになる。俺の装備はミラーワールドで
戦うために作られてるから、少しはもつのさ」

確かあのタコ野郎が言ってたよな、
こっちの世界でも仲間を増やせるとかどうとかって。
よくわからんが、あいつとこの若造の話を総合すると
こういうことらしい−−こいつは、俺のいる世界とは
別の世界に住んでいて、人間を襲うオルフェノクと戦ってる。
で、ミラーワールドを挟んでこいつと俺の世界の間で何か
トラブルがあったせいで、タコ野郎とこいつが
ここまで飛ばされてきた、と。トラブルの始末は、どうせ
神崎がつけてくれるんだろうが・・・そう遠くないうちに。
649訪問者(30):03/09/08 01:44 ID:rMgDR3v0
にしても、おっさんだ?
言ってくれるじゃないの青二才。
俺はまだ30になったばかりだ、
この格好からは分からんだろうがな・・・

その時。ゾルダにも巧にも聞こえた。
ミラーワールドの闇のどこかから、かすかな
呼び声のようなものが渡ってくるのを。
そして巧には分かった。
それが自分の名を呼ぶ真理と啓太郎の声だということが。
「あいつら・・・そうだ!おい、あんたなら知ってるだろう、
ここから出る方法を教えてくれ!早く行かないと
あいつらが殺されちまうんだよ、オルフェノクに!」
教えてやるとも、おっさん呼ばわりしたことを謝ったらな。
その性格じゃ、言われたって絶対謝らんだろうが・・・
だからとっととミラーワールドの塵になるがいい。
大人気なくもゾルダがそんなことを思ったとき。
「うぐぁっ!」
巧の身体が突然宙に浮いた。
不意に背後から現れた、不気味に白く光る姿に
羽交い締めにされたのだ。
剛毛の上に甲冑をつけた、ヒグマの姿のオルフェノクに。
巧の左腕に、鋭い爪のついた分厚い掌が食い込む。
苦痛の叫びとともに、ベルトが手から離れて地に転がった。

「まさか、この俺がファイズのベルトを奪い返せるとは
思わなかったぜ・・・こんなところまで連れて来られたのも
悪くねえな、あの龍のせいで」
グリズリーオルフェノクの横に落ちる長髪の若者の影が、
そう言って凶悪な笑いを浮かべた。
650649:03/09/08 01:45 ID:rMgDR3v0
訪問者の続きをupします。

前回分を読んでくださったみなさん、
本当にありがとうございます。
いただいた感想へのレスです。

>>642
ファイズならやはり肉弾戦が似合いそうだし、
アクセルフォームも使ってみたいと思ったので、
戦闘シーンで楽しんでもらえたのでしたらとても嬉しいです。

>>643
読んでもらって嬉しいです、
また楽しんでもらえるようにがんばります。

>>644
ファイズと龍騎両方の世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。
でも今回upした分を書いてるときは「こんな関係で
本当に共闘といえるのか?」と自分で思いました(汗)。
651ネ申山奇 ◆7gSIRO5h/g :03/09/08 11:57 ID:ytTZa/hV
おお!オルタナ02の続きが!今後の展開期待してます。
「訪問者」も思わずコラを作りたくなる展開で楽しみ・・・
652650:03/09/15 00:13 ID:PHODatSA
これから訪問者の続きをupします。今回で最後ですが、
長くなってしまったので、先にレスです。

>>651
ありがとうございます。訪問者の続きが面白いかどうかは
わかりませんが、気に入っていただける所があれば嬉しいです。
ネ申山奇さんの色々なコラもがんばってください。
653訪問者(31):03/09/15 00:14 ID:PHODatSA
「さっき爆発の音と衝撃で目が覚めて、知らない場所に
いるとわかった時はどうなるかと思ったけどよ・・・
お前らのそばに飛ばされたのはラッキーだったな。
話は全部聞かせてもらったぜ。
おかげでここがどこだか分かった上に、
ベルトを手に入れて元の世界に戻れる方法も
聞き出せるってわけだ。おい、そこの!」
なにが「そこの」だ、クマ野郎。
こいつに比べたら、こいつが捕まえてる若造の方が
まだ礼儀正しいし好感が持てるってもんだ。
新たなオルフェノクの出現に一瞬虚を突かれたものの、
すぐにバイザーを毛むくじゃらの頭に突きつけたゾルダが
心中で毒づく。

だがその時、再度巧が激痛に耐えかねて叫んだ。
熊怪人が、片手でファイズのベルトを拾い上げながら
もう一方の手の爪を巧の首に食い込ませ始めたのだ。
「元の世界に戻る方法を教えろ。さっさとしないと、
こいつの首が落ちるぜ。俺を撃とうなんて気を
起こしても同じだ」
「バカか、お前?」
ゾルダが嘲るように言った。
「そいつと俺は何の関係もない。殺したきゃ勝手に
首をもいで、さっさとお前も消滅するんだな」
「へえ、そうかよ?なら」
「・・・やめろ!」

失神寸前で首周りの圧迫をゆるめられた巧が
意外そうにゾルダの方を見る。
が、次の瞬間苦痛も忘れて息を呑んだ。
654訪問者(32):03/09/15 00:16 ID:PHODatSA
「はは、どっちにすんだよ?俺あんまリ気が長くね・・・」
「うぉああぁっ!!」

図に乗ったオルフェノクの言葉が断ち切られた。
野獣じみた叫びと、背後にある家のガラス窓の表面から
飛び出してきた紫色の姿によって。
金色の太い剣が豪快な金属音と共に甲冑の肩に振り下ろされた。
怒りと驚きの唸りをあげて熊がよろめく。
その拍子に羽交い締めが解け、ベルトがまた地に落とされる。
ゾルダはそのチャンスを逃さなかった。
すかさず駆け寄って、地面に倒れかける巧を
腕で受け止め、ベルトも拾い上げる。
「おい、気を失ってる場合じゃないだろ。
帰れるのは今しかない。行くぞ!」

まさか、浅倉に助けられるとはな。
俺じゃなくクマ野郎に襲いかかったってことは、
偶然鉢合わせたわけじゃなさそうだ。
たぶん神崎にけしかけられたんだろう−−
こっちに侵入したおかしな奴らを始末しろって。
年中イライラを持て余してるあいつにとっちゃ、
願ってもない餌ってわけだ。あのクマも気の毒に。

巧を支えながら住宅街の外れまで歩いてゆき、
車一台見当たらない幹線道路に踏み出すゾルダ。
その後ろから、相手の予想外の強さと凶暴さに
狼狽したオルフェノクの唸り声が追ってきた。
そして、奇妙に陽気な王蛇の声も。
「こいつを片付けたらお前の番だ、逃げるなよ北岡ぁ!」
655訪問者(33):03/09/15 00:17 ID:PHODatSA
「はいはい、どうぞごゆっくり」
そうつぶやくとゾルダは、傍らで咳込みながらも
ついてくる巧にベルトを手渡しながら聞いた。
「さっきの声はどのあたりから聞こえた?」
「おい、あいつを助けなくていいのかよ、あの紫の・・・」
「ばか、振り向くな!だいたい体が消えかかってるのに
なに人の心配してんだお前?」
はっとした表情になり、改めて耳を澄ます巧。
「そうだ、早くあいつらを・・・・・・あそこだ!」
指差す方を見ると、闇の中で白く輝く
ガラス張りの壁が見えた。コンビニだ。
もちろん人の気配はない。にもかかわらず、
「巧・・・・・・!」
「たっくーーーーん!」
雑誌の棚が見えるあたりから、確かに人の声が
聞こえてくる。
「お前、タクミっていうのか」
ガラスの前まで来るとゾルダが訊ねた。
「ああ。乾巧だ」
無愛想に答え、今度は巧が聞いた。
「二度目だな、あんたに助けてもらったのは。
よかったら名前を教えてくれないか?
それに、さっきは何で俺を助けようとした?
正直、お互いあまり馬が合うとも思えないが・・・」
「北岡秀一だ」
「もうひとつの方は答えないのか?」
「何で助けようとしたかって?さあな、強いて言えば
許せないからかもな、オルフェノクが・・・あのタコ野郎は
小さい子供のいる親父を灰にして、その灰の上に俺を叩きつけた。
運が良ければお前も仲間にしてやる、とかほざいてな」
656訪問者(34):03/09/15 00:18 ID:PHODatSA
巧の表情が険しくなるのを見て、ゾルダは付け加えた。
「人の心を持ったオルフェノクもいるって言ってたな、お前」
だが巧はゾルダに対して怒りを感じたのではなかった。今度は。
「ああ。一度そういうやつに助けられた。だから
すべてのオルフェノクを倒したいわけじゃない・・・だが、
人間が灰にされるのも見てきた。数え切れないほどな」
手の上に残った灰のざらついた感触が、
巧の両方の拳の内側で生々しく甦る。

「あいつらは夢を持ってる」
自分を呼び続ける声の聞こえてくるガラス窓を
見つめながら、巧は言った。
「俺にはない。だが、持ってる奴がその夢ごと灰に
されないために、オルフェノクと戦うことはできる。
・・・そういえばお前は、あのたくさんいた怪物を
倒すために戦ってるのか?あいつらも人を襲うのか?」
素っ気ないタメ口は変わらなかったが、巧の声の
調子からトゲがなくなっていることにゾルダは気付いた。
だが、なぜか質問に正面から答えることはできなかった。

「ま、確かにモンスターも鏡から出ちゃあ人を襲うけどな。
それが戦いの目的ってわけじゃない−−さて、始めるか」
言葉が終らないうちに、バイザーにカードが差し込まれる。
「アドベント」
咆哮とともに、さっき見た巨大な怪物がまた足元から
現れたのを見て思わず後ずさる巧に、ゾルダは言った。
「しっかり持ってろよ、そのベルト」
次の瞬間、マグナギガの左腕についた巨大な手の先が伸び、
巧のシャツの襟首を器用につまんで空中高く引き上げた。
657訪問者(35):03/09/15 00:20 ID:PHODatSA
「何すんだ、おい、北岡!どうするつもりだよ!」
猫の子のようにぶら下げられた巧が喚くのもかまわず、
マグナギガに合図するゾルダ。
「じゃあ、元気でな・・・乾だっけ?これからも
がんばってオルフェノクを倒してくれよ。
奴らが二度とこっちに入ってこないようにな」
言い終わると同時にマグナギガの左腕が大きく振られ、
アンダースローで思いきり巧を放った。ガラス窓に向かって。
ガラスの表面が液体のように波立ち、巧の身体を
呑み込んで、また元に戻った。

やれやれ、どうにか間に合った。
ついしょうもない話に夢中になっちまったが、
あやうく本当に消えるところだったよ、あいつ。
あいつの世界とやらもちょっと見てみたかったし、
送って行ってやろうかとも思ったが、今度は俺が
あっちから帰れなくなっても困るからな。
さあ、今度こそ我が家へ帰ろう。そろそろ俺も
時間切れだし。ゴロちゃん、大丈夫かな・・・

どっと疲れが出てきたのを感じながら、ゾルダは
夜のミラーワールドを歩きだした。別の鏡を探して。

その背を、がっしりした白い姿がじっと見送っていた。
腰のベルトには、トラに似た意匠の紋章のついた板。
ゾルダの姿が見えなくなると、それは音もなく
反対方向の闇へ歩み去っていった。
グリズリーオルフェノクと王蛇が格闘している場所のそばで
自分を待つ、二つの影に向かって。
658訪問者(36):03/09/15 00:22 ID:PHODatSA
どさり、という音に後ろを振り返った真理と啓太郎が
同時に叫ぶ。
「ああっ、たっくん!」
「どこ行ってたのよ巧!」
店の外に恐ろしい姿の怪物――オルフェノクが現れたのを見て、
客も従業員も1人残らず裏口から逃げ出した後のコンビニ。
そのガラスの壁にもたれかかるように、巧が座り込んでいた。
オルフェノクとの闘いのさなかに突然姿が消え、
さっきまでどこを探しても見つからなかったのに。
真昼の強烈な太陽と街路樹の作る濃い影が
巧の身体と、握り締めたベルトをまだらに染めている。

「・・・オルフェノクはどうした?」
騒々しくも懐かしい声に顔を上げ、心配そうな
二人の顔を確認すると巧は言った。
「とっくに片付けたさ、俺が」
冷ややかな声の方を向くと、草加が見下ろしていた。
顎をしゃくって示す先を見ると、確かに灰の山がある。
「そうか−−ならよかった」
急に疲れを感じ、またガラスにもたれて目を閉じる巧。
「ちょっと巧!?」
「だ、大丈夫?何があったの、ねえ、たっくん?」
「・・・頼むから、少し黙ってろ二人とも」
あることを思い出してはっと身体を起こし、両手を見る。
もう粒子は立ち昇っていなかった。

再び眠りに落ちる前に、巧はふと思った。
闘っていない時はどんな姿で何をしてるんだろう、
あの北岡って奴・・・俺より結構年上のようだったが。
659訪問者(37):03/09/15 00:23 ID:PHODatSA
「ファイナルベント」
剣で打ちのめされた末に容赦無い蹴りを食らい、
ついに地に倒れながらも牙を剥き続ける
熊怪人に向かって、紫のライダーが跳んだ。
コブラモンスターの毒液を背負って。
高速の蹴りを続けざまに浴びて、
オルフェノクが断末魔の悲鳴を上げる。
「……ふん」
突然青い炎を噴いて崩れ落ちた相手を少しの間眺めると、
面白くもなさそうに残った灰を蹴散らす王蛇。
が、突然何かを思い出したように顔を上げる。
「そうだ、あいつだ」
灰の上で淋しく揺れる青い炎を踏み消すと、
紫のライダーはミラーワールドの闇へ消えていった。

「先生・・・」
「どうやらこれで完全にいなくなったようですね、
他の時間軸からの侵入者は」
「ですが、我々の知り得た限りでは、でしょう」
「まだいたとしても、神崎くんが取り除くと思うな。
あいつら、ライダーバトルには邪魔だし」
「あいつの話はするな!」
「まあ落ち着きなさい、仲村君。東條君の言う通りですよ。
あの男なら、黙っていても邪魔者は排除するでしょう。
いずれにしても我々の最優先事項は、オルタナティブの
能力を完璧に仕上げることです。
660訪問者(38):03/09/15 00:24 ID:PHODatSA
しかしその意味で実に幸運な偶然でしたね、
あのオルタナティブに似たフォームの侵入者の技を
今夜観察することができたのは・・・
少なくともあの加速系の技は、我々も是非取り入れましょう」
「ミラーワールドの夜に慣れることも必要だと思ったから、
今夜の演習を提案したんです、僕」
「何が言いたい、東條?」
「別に・・・突っかかるのはやめてほしいかも」
「喧嘩はやめなさい、二人とも。とにかく帰ったら、
一刻も早く開発計画を立てなければ−−」

なおも話し続けながら、丸みを帯びた頭部と
スレンダーなボディを持つダークカラーのライダー2体と、
仮面ライダータイガの姿はほどなく闇に溶けていった。

「あああ。これだけになっちゃったよ、
俺のモンスター・・・ちぇ、ついてないな今夜は」
ファイズのアクセルクリムゾンから辛うじて逃れた
3体のガゼルモンスターを従え、ぼやきながら
闇の中から現れた褐色のライダー。
頭と肩に、合わせて6本もの太くねじれた角を付けている。
「神崎の教えてくれたゾルダってやつはともかく、
あの変な白いモンスターと丸顔のライダーみたいな
奴になんか、ちょっかい出させるんじゃなかったかな。
あいつらライダーバトルには関係ないみたいだし、
損しちゃったよ・・・ま、いいや。神崎も俺のモンスターは
補充が効くって言ってたし、そのうちまた増えるだろ。
数が多いだけが取柄だもんな、こいつら−−でも」
一瞬立ち直ったように見えたが、またため息をつく。
661訪問者(39):03/09/15 00:28 ID:PHODatSA
「どうせなら1体でもいいから、大きくて強いやつが
よかったなあ。ゾルダのモンスターみたいに。
ああ、いいなあ、先にライダーになった奴は・・・」
大げさに嘆息し、角の生えた肩を落してから、また
迷路のように複雑なスリットの入った顔をぱっと上げる。
「でも一番遅くライダーになったってことは、
他のやつらを一番よく観察できるってことだよな。
もうしばらくいろんなバトルを見て情報を集めるか。
で、一番強い奴を見極めたら売り込み攻勢あるのみ。
決めた!これでいこう」
ひとしきり思ったことを口に出すと気が晴れたのか、
契約モンスターと合わせたように軽快な足取りで、
仮面ライダーインペラーは闇に同化していった…

ミラーワールドの闇に沈む大きな屋敷。
その一室に置かれたソファに、異世界から戻った
神崎士郎が身じろぎもしないで座っている。
閉じられていた眼が不意に開いた。
「やっと消えたか。オルフェノクとかいう奴らも、
あの世界でのライダーらしい男も・・・」
それから思い出したように付け加える。
「ガゼルも大量に消えたな」
立ち上がると、コートの裾を閃かせながら階段を登って
二階へ行き、一番奥の部屋のドアを開けた。
不気味な鳴き声がいっせいに湧き上がる。
ミラーワールドに存在するすべてのモンスターたちが、
部屋中にひしめき合っていた。
何度ライダーに倒されても、彼らは甦ることができる。
部屋の隅に置かれたスケッチブックに挟まれた、
士郎と優衣が描いた彼らの絵さえあれば…
662訪問者(40):03/09/15 00:30 ID:PHODatSA
「行け」
士郎が命令すると、無数のモンスターの中から
ガゼルばかりが次々と飛び出し始めた。
そのまま部屋の窓を開け、次々と庭に飛び降りる。
キイキイ鳴きながら屋敷の外に出ていくガゼルの群れを
窓から見下ろして、士郎がつぶやく。
「侵入者のおかげで若干歴史に影響が出たか…
だが今タイムベントを発動すれば、侵入時に生じた
時空の歪みが拡大する恐れがある。
放っておくより仕方あるまい。
いずれにしても、戦いのペースが遅すぎる。
誕生日までもうあまり時間がない。
少し、ライダー達に脅しをかける必要があるな」

ゴロちゃんは、あの場所でずっと俺を待っていてくれた。
哀れな姿になったジャガーと一緒に。
幸いにもエンジンは動いてくれたので、ゴロちゃんの
運転で事務所に帰ると、ベッドにばったり倒れ込んだ。
これで不運もおしまいだろう−−そう思いながら。

だが。
朝食後まだ眠いのを我慢して執務机に向かい、
仕事をしていると、電話が鳴った。
「おい。これからそっちへ行くぜ。戦えよ」
相手の声を聞いたとたん、いっぺんに目が覚めた。
俺の不運は朝日が昇っても続いていたのだ。
663訪問者(41):03/09/15 00:31 ID:PHODatSA
「浅倉・・・!」
おおかた、通勤途中の不運なサラリーマンでも
殴り倒して奪った携帯からかけてるんだろう。
「昨日のやつはすぐ灰になった。
手応えがなさすぎてイライラするんだよ…」
「よかったな」
そう言うなり切った。

その後、しばらくは平和に秋の1日が過ぎていった。
神崎が訪れた時以外は。
ふとキーボードから目を上げると、玄関に通じる
階段の上にあいつが立っていた。何かと思ったら、
「戦いを続けるつもりがあるのか」だの「医者に言われた
期限はあとどれくらいだ」だの、さんざん嫌味を垂れてから
帰っていった……まったく、鬱陶しいにもほどがあるよ。

だが、午後になって急に体調が悪くなった。
おまけに浅倉が本当にやってきた。事務所の庭に。
ふと窓の外を見ると、室内の俺に向かって
紫のカードデッキをちらつかせている奴と目が合った。
ゴロちゃんも奴の気配を察したようだったが、
結局その日、あいつは俺たちの前には現れなかった。
その夜、俺は気付いた。
ゴロちゃんが、次の日俺を連れて事務所から
一時的に退避する決心をしたらしいことに。
俺には何も言わなかったが、いつもよりかなり
念入りに車の手入れをしてるから、何となくわかった。
だが俺は俺で別の手を考えていた。
そんなに戦いたいんなら相手をしてやるよ、浅倉。
ただし俺流のやり方でな・・・
664訪問者(42):03/09/15 00:32 ID:PHODatSA
その翌々日。俺の計略は見事に成功した。
浅倉に待ち伏せされたのを逆手に取って
鏡の無い場所へ誘い出し、警官隊に逮捕させたのだ。

だが、今度こそ不運が終ると思ったのは間違いだった。
結局オルフェノクに襲われたあの日から、
俺は呪われ続けているらしい。
せっかく捕まえた浅倉はまんまと逃走した。二度も。
この期に及んで、新しいライダーも2人現れた。
どっちもろくでもない若造だ。
英雄になるとかほざいて令子さんを殺そうとしたり、
よりによってこの俺を札束で釣ろうとしたり・・・
とどめに、病気が予想外の早さで進行しているときた。

今ごろどうしているだろう、あの乾巧は。
やはりオルフェノクと戦っているのだろうか、
夢を持つ人間を守るために…
「お前は、怪物を倒すために戦ってるのか?」
俺が乾のその質問にちゃんと答えられなかったのは、
あいつはおそらく理解できないだろうと思ったからだ。
自分の望みを叶えるために、他のライダーと
殺し合うなんてことは・・・
夢、か。
「無理な夢は見ない方がいい」
東條に向かって言った俺の言葉は
俺自身にも当てはまるのかもしれない。
永遠の命なんて、無理な夢そのものだからな。
665訪問者(43):03/09/15 00:34 ID:PHODatSA
もしかしたら俺の不運は、俺が思ってもいなかった時に
始まったのかもしれない・・・
オルフェノクに会った時でもなく、
不治の病にかかったことが分かった時でもなく、
カードデッキを受け取って無理な夢を
叶えようとしはじめた時から。

いっそのこと、俺も令子さんやゴロちゃんを守るために
モンスターと戦うだけにすれば、少しは運が向いてくるかな。
ってそれじゃ、城戸のバカがやろうとしてることと一緒か・・・
妙なもんだな。
外見も性格も全然似ていないが、
乾と城戸が信じるものは似ているような気がする。

いずれにしても、あいつに会うことができたと思えば、
あの日偶然オルフェノクに襲われたのも
そう不運とはいえないかもしれないな・・・
もう二度と会うことはないとしても。
END
666665:03/09/15 01:42 ID:o1EusHVU
訪問者を読んでくださった方々、どうもありがとうございました。

書いているうちに、何だかファイズ本編が大変なことに
なってきてビクーリしてました。
最初はゾルダとオルフェノクだけの戦いにしようかと思ってましたが、
「どうせならファイズの主役陣も」「それなら今まで書いたSSの中で
あまり出さなかった龍騎ライダーも」「いっそ龍騎33話以降の
補完ということに」と膨らんでいきました(汗)
あまり破綻してないとよいのですが・・・
667名無しより愛をこめて:03/09/15 09:47 ID:c0Dst/ap
>>666
乙です。
「訪問者」、面白く拝見しました。

龍騎世界側の主人公が、
真司でも蓮でもなく北岡だというところがイイですね。
実際、自分で言っているほど悪人になり切れてない
という矛盾を抱えてる彼のキャラが生きてます。
668名無しより愛をこめて:03/09/15 09:57 ID:RaIY+UHu
>>666
おつかれさまでした。訪問者、最後まで楽しませていただきました。
最終回は、ちょっと詰め込みすぎの感はありましたが、とても
面白かったです。
オルタナティブのアクセルベントがファイズのアクセルフォームを
参考にして開発された、というアイデアも面白いですね。

今後も666さんの作品を楽しみにしていますので、次回作も頑張って
くださいね。
669666:03/09/18 01:01 ID:gNNBS47K
>>667
ありがとうございます。面白いと思っていただけたなら、
すごく嬉しいです。自分で書いているときは
意識しませんでしたが、「永遠の命」を手に入れて
人間の心を捨てた「悪のオルフェノク」と、
永遠の命を求めながら人間の心を捨てられない
北岡を対比させると、話を作りやすいのかもしれませんね。

>>668
ありがとうございます。私も、もう少しすっきり
まとめられたらよかったなと思います。
それでも、ラストまで楽しんでいただけたなら
ほんとに嬉しいです・・・
アクセルフォーム→アクセルベントの所は、香川先生だったら
絶対できそうだと思って入れました。
次回は・・・いいネタが見つかりましたら(汗)
670名無しより愛をこめて:03/09/21 01:49 ID:fwEFeo9v
「訪問者」の完成、お疲れ様でした。

龍騎世界とファイズ世界の競演が自然に描かれていて楽しかったです。
村上社長の言葉に含みがあるのが気に掛りますが
怒れるゲームマスターの前では、さすがのオルフェノク達もたじたじな所が
人ならざる者よりもっと人ならざる者として神崎の不気味さを際立たせてますね。

北岡と巧のやりとりにはニヤっとさせられ、2人の立場や生き方の違いを出して
その上での軽い共感を描いていたのが良い感じでした。
北岡達だけでなく、龍騎サイド・ファイズサイドのキャラ達が
きっちり活躍していたのもファンとして嬉しかったです。

北岡が巧の影響を何時の間にか受けていたりする所も含め
この思いがけない「訪問者」達との接触が、
実は後あとまで龍騎世界に影響を与えていたというオチは秀逸でした。
671669:03/09/23 02:20 ID:tCpP7UdR
>>670
詳しい感想をありがとうございます。
神崎がファイズ世界に出現する場面&北岡と巧の交流は
この話の中でも特に書いてみたかったので、すごく嬉しいです。

神崎の方はそれほど迷わずに書けましたが、
北岡と巧については、共感と呼べるところまでもっていくのが
かなり難しかったので、楽しんでもらえたならほんとによかったです。
真司の影響を受けつつある北岡が、巧の戦う理由を知って
心を動かされないはずがないという気はしたのですが・・・
(しかし、たっくんがオルフェノクになったことを知ったら
先生はどう思うんでしょう(汗))

結末部分については、初めは考えていませんでしたが
龍騎サイドとファイズサイドのバランスを取ろうと
書いているうちにあのようになりました。
巧が帰ってからの話が少し冗長になった気がしますが、
オチが面白くなっているとしたらよかったです・・・
672邪神の唄(1):03/09/28 13:48 ID:I3yCCOvC
 −−−唄は無い。
 彼の為の唄は無い。
 其の哀しき魂に捧げられるべき、綺麗な唄は
何処にも無い。
 在るのは呪詛と苦悶の悲鳴だけ−−−

 『お兄ちゃん』
 最後に見たのは、幼い泣き顔。
 此の胸の、儚い珠玉。
 幸せに、ただ、幸せに。
 何処に居ても、どんなになっても、ただ、
それだけを願って居た。
 幸せに、ただ、幸せに−−−
673邪神の唄(2):03/09/28 13:57 ID:I3yCCOvC
 荒涼たる鏡の世界の創造主として君臨しながら、
彼は待つ。
 他に与えることは出来ても、かの魂に其れを
与えることの叶わぬ己を呪い、蔑みながら。
 『戦え……』
 偽りの甘美な響きに包まれた、破滅の唄を
口ずさみながら。
 其の唄に酔い痴れる、哀れな愚者達の運命を
弄びながら。
 
 此の手に代わって、彼女に其れを与えて呉れる
存在(もの)の顕現を。

 −−−もうすぐだ、もうすぐだよ、優衣。

 其の日を夢見て、邪神は微笑う。
 
 其れが叶わぬ願いだと、今は知る由も無く。
674名無しより愛をこめて:03/09/28 21:16 ID:GJ5i4T7s
>>672-673
新作乙です。何度も邪神にまでなっても、結局は望みを叶えられなかった
神崎士郎の孤独と哀しさがとても印象に残る詩ですね・・・
675名無しより愛をこめて:03/10/01 20:22 ID:OTkv9Hqn
そういやこのスレ1周年超えてたんだな・・・
676名無しより愛をこめて:03/10/07 00:19 ID:R/x4sH8g
残りはあと42KBか・・。2〜3作品分はまだ余裕ありそうだけど。
677名無しより愛をこめて:03/10/08 23:28 ID:4/zAlCBd
ベージ
678 :03/10/13 23:29 ID:OeTVHXhw
679名無しより愛をこめて:03/10/17 21:59 ID:X2hcx7uF
ホシュ
680名無しより愛をこめて:03/10/22 09:42 ID:kHSB2Rl7
新しいスレ作ったほうがいいんでねーの???
681名無しより愛をこめて:03/10/22 20:09 ID:kxFV3Ya1
ふむ、まだ300以上のこっているのにか?
682名無しより愛をこめて:03/10/26 04:30 ID:6qxqmyMy
>>681
スレ容量の問題。500kb越えたらほぼ赤信号。
683名無しより愛をこめて:03/10/26 22:57 ID:iDbmtCVS
>>680
同意。
684名無しより愛をこめて:03/10/28 21:41 ID:obQhtXZv
なんかYahoo!MoviesのYahoo! ユーザーランキング
上位にいるぞ。

何がおきたんだ??
685名無しより愛をこめて:03/10/28 22:08 ID:dlRJ8oEw
>684
これか?今現在、Yahoo!ユーザーランキングでFEの評価が2位だね
ttp://movies.yahoo.co.jp/m1?ty=rs&id=139124
DVDから後を追ってる人達に再評価されてるのかな?

せっかくの朗報だけど、ここは映画スレじゃないから
本スレの方に書き込んでおくよ
686685:03/10/28 22:28 ID:dlRJ8oEw
良く見たら去年で評価が止まってるな
それでもまだ2位をキープしてるのは驚きだ
687名無しより愛をこめて:03/11/04 10:35 ID:EWkjxcAp
新作を期待しています。
688 :03/11/06 01:24 ID:uQ+/TaLd
689名無しより愛をこめて:03/11/08 19:23 ID:eNV1CkJi
┌─────────────────────────┐
│☆☆☆☆☆☆☆―おいらの胸の心の愛 ―☆☆☆☆☆☆☆│
│☆    ┏━┓┏┳┓      ┏┳━━━┳━┓┏┓    ☆│
│☆    ┣━┫┃┃┣┳━━┛┣━┳┓┣━┛┃┃    ☆│
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│☆       ┗┫┃┗┫┃  ┃┃┗┛┃┃┃┗┓       ☆│
│☆         ┗┛  ┗┛  ┗┛    ┗┻┻━┛       ☆│
│☆                             ▼▼▼▼    ☆│
│☆    本日 PM 3:00 開演   場所 空地      ・__・    ☆│
│☆             来ないやつは殺す    〇      ☆│
│☆                            3      .☆│
│☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆│
└─────────────────────────┘
690名無しより愛をこめて:03/11/12 22:15 ID:GRe3ojXP
┌─────────────────────────┐
│☆☆☆☆☆☆☆―将軍様の胸の心の愛―☆☆☆☆☆☆☆│
│☆    ┏━┓┏┳┓  ┏━┓┏┓  ┏┳┳┓        ☆│
│☆    ┣━┫┣╋┻━╋━┛┃┣━┛┃┃┃        ☆│
│☆    ┗━┛┃┣━━┃    ┃┣┓┏┫┃┃        ☆│
│☆    ┏━━┛┣━━┣━━┛┃┃┃┃┃┗━┓    ☆│
│☆    ┗━━━┻━━┻━━━┛┗┛┗┻━━┛    ☆│
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│☆       ┃┃┣┛  ┗┳━┛┃ ━ ┃┃┃         ☆│
│☆       ┃┃┣┓┃┏┻┓┏┫┏┓┃┃┃         ☆│
│☆       ┗┫┃┗┫┃  ┃┃┗┛┃┃┃┗┓       ☆│
│☆         ┗┛  ┗┛  ┗┛    ┗┻┻━┛       ☆│
│☆                             ξ~⌒~、~⌒,~ヽ .☆│
│☆  明日PM 3:00 開演 場所 平壌   .(6ξ--―●-●| ..☆│
│☆                 来ないやつは拉致.ヽ     ) ‥ ) ☆│
│☆                             \  ー=_ノ. ☆│
│☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆│
└─────────────────────────┘
691名無しより愛をこめて:03/11/18 19:24 ID:WGVZURZY
続きまだ?
692名無しより愛をこめて:03/11/25 11:26 ID:0aAzuyQp
続き待ち
693名無しより愛をこめて:03/12/01 21:52 ID:P7TBYEia
新スレたてたいけど、パート何?
スレタイどーすりゃいい??
694  :03/12/05 01:40 ID:wwXxZCy/
 
695名無しより愛をこめて:03/12/12 02:28 ID:EK5uW8B8
待ってるよ
696名無しより愛をこめて:03/12/17 01:48 ID:xr4PjISL
 
697Evergreen (1):03/12/19 02:13 ID:BoMcdKPc
何故だろう。
きれいに飾り付けられたクリスマスツリーを見ると、
急に切なくなるのは。

金色のイルミネーションに浮びあがる夕方の街でも
ひときわ目立つ、色とりどりの星やボールを
いっぱいにつけた巨大なモミの木。
その前を足早に通りすぎながら、目のあたりを
ジャケットの袖でぐいとこすった。

まったくどうかしてるよな。
ツリーや飾りを見ると、ひとりでに涙が出てくるなんて。
何の理由も思い当たらないのに・・・

おかげで編集長からさんざんからかわれる羽目になった。
定時後、OREジャーナル総出で、令子さんが知り合いから
もらったという白いツリーを飾り付けていた時のことだ。
「真司、おまえまさか、ツリー見て泣いてんの?
そおかそぉか、今年もついに彼女ができなかったんだっけなお前。
よし、イブは俺がとことん付き合ってやるから心配すんな!」
「ち、違いますってば!そりゃ彼女がいないのは事実ですけど・・・」
「い〜ってことよ!おい島田にめぐみ、イブはおまえらも付き合え」
「なんですかそれ!」
「えーなんであたしが?!」
数の少ない天使のオーナメントをどこに付けるかで
もめていた島田さんとめぐみさんが、憤然として向き直る。
「呑むんなら人数は多い方がいいに決まってるだろ。
どうせおまえらだって今年も男できなかったんだろうし・・・」

その後の惨劇に巻き込まれる前に、事務所を抜け出した。
698Evergreen (2):03/12/19 02:17 ID:BoMcdKPc
定時後に何の予定があるわけでもなく、
あとはアパートに帰るだけのはずだった。
だけど、なぜか真っ直ぐ帰る気にはなれなかった。
仕方なしにスクーターを降りて、にぎわう街に踏み出してみる。
とたんに後悔した。今の時期にふさわしく、
どっちを向こうがクリスマス一色だったからだ。
街灯や街路樹に絡みついた色とりどりの電飾、
ビルの上でぼうっと光る巨大なサンタの風船、そして・・・
有名デパートの入り口にそびえ立つクリスマスツリー。

やばい。また涙が出てきた。
涙と一緒に決まって浮んでくる、
映画の一箇所を切り取ったみたいなイメージと一緒に。

ツリーを手際よく飾り付けていく女の子。
枝先のワイヤーを直したりしてる姿は、とても楽しそうだ。
俺に気付いて見上げた顔も、明るく笑ってる。
だけど、もうひとつ吊るそうとオーナメントを取り、
ツリーの上の方に伸ばした手からは・・・
細かい粒子のようなものが立ち昇っている。
俺の表情に気付くと、女の子はことさら明るくこう言う。
「私、大丈夫だから。ほんとに」
そしてその言葉を聞くたびに俺は、
何ともいえずやり切れない気持ちになる−−

イメージの中の女の子と自分がどんな関係にあるのかも、
何故その女の子の手から粒子が立ち昇っているのかも、
そして何故やり切れない気持ちになるのかも、まったく分からない。
ただクリスマスツリーを見るたびに同じイメージが浮び、涙が流れる。
本当にどうしちゃったんだろう、俺・・・
699698:03/12/19 02:23 ID:BoMcdKPc
面白いかどうかわからない話ですが、保守も兼ねて
書き始めました。(クリスマス前に終わればいいのですが・・・)

帰還や訪問者のように長くはならないと思いますが、
スレ容量も考えて1度に1、2レスずつ、不定期に
upしていくことにします。
読んでくださった方、いたらありがとうございます。
700名無しより愛をこめて:03/12/19 11:19 ID:cOJHuWYE
読んだノシ
まだ続きがあるってことですよね、楽しみにしてます
701名無しより愛をこめて:03/12/19 13:58 ID:cN5BNmiw
>>697
久々の新作、
!!キタワァキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* キタワァ!!!!!

続きを楽しみにしていますね!
702名無しより愛をこめて:03/12/21 01:32 ID:+MuTxybN
きたー
703Evergreen (3):03/12/21 01:45 ID:blk/HE/T
うつむき加減で光の街を歩き続ける俺の耳に、
ある音が入り込んできた。
なんだ、この嫌な響きは?
耳を細い針で貫かれるような・・・
立ち止まって周囲を見まわしたが、雑踏の中に
同じような反応をみせている人間はいない。
”どこを見ている。俺はここだ”
だしぬけに、今度は顔のすぐ横で嘲るような声がした。
「!」
ぎょっとして顔を上げ、右を見る。
ポインセチアで飾られたショーウィンドウに
映り込んだ男が、こっちを見返してにやりと笑った。

”そう。お前だよ、俺は”
そう言って、窓に映った俺は青いジャケットの片側を探った。
黒い板のようなものを取り出し、俺の前にかざしてみせる。
”感謝するよ。お前が力を与えてくれたおかげで、
またそっちへ出ていける・・・今度こそ勝ち残るためにな”
言葉と同時に、紋様のようなものが板の中央に浮びあがってきた。

耳を刺すような音が耐え難いまでに高まってくる。
そして。
闇に映えるイルミネーションのひとつひとつを震わせ、
凄まじい咆哮が響き渡った。
ウィンドウの表面から突然現れ、ビルの間の空めざして
駆け上がった巨大な黒龍の咆哮が。

目の前で起こったことを受け入れられず、両手で頭を抱えて
ウィンドウの前から逃げ出した俺の絶叫をかき消しながら。
704Evergreen (4):03/12/21 01:51 ID:blk/HE/T
”どうした、俺はお前を助けにきたんだぞ?
不甲斐ないお前自身の代わりにな・・・”

嘲るような声が追ってくる。自分自身の声が。
黒い龍の咆哮、それに耳を刺す音と一緒になって。

”お前に取りついた悲しみを鎮める方法はひとつだけ−−
この俺、つまりお前自身があの娘に新しい命を与え、
この新しい世界に甦らせてやることだけだ。

お前があの娘を思い出して涙を流しさえすれば、
その悲しみがすべてのライダーと契約モンスターを
次々と覚醒させる−−最後にお前が龍騎として覚醒するまで。

その時こそ、俺はお前と完全に一体化して
最強のライダーとなり、他のライダーどもと闘って倒し、
神崎優衣に新しい命を与えることができるのだ。
神崎士郎がかつて望んだように。
この世界でのあいつは、幼い妹を見捨てて
自分が生き残ることを選んだ、ただの薄汚れた
男でしかないがな・・・

そうだ。お前の悲しみは、お前がそれを
味わい尽くした時にやっと消滅するというわけさ。
俺とドラグブラッカーがこうして覚醒した今、
それもそう遠いことではない。

だからもっともっと涙を流すがいい−−
そして目覚めるがいい、一刻も早くな!
705704:03/12/21 02:01 ID:blk/HE/T
Evergreenの続きをupしました。

>>700, >>701, >>702
読んでくださってありがとうございます、すごく嬉しいです・・・
結末までがんばります。
706Evergreen (5):03/12/21 23:00 ID:2svNLYZz
「雄一か。
悪いが、今日は行けなくなった。
お前も家から出ない方がいい−−
いや、絶対に出るな。ああ、そういうことだ。
コンクールが近いんだったな。手にケガなんかするなよ。
そうか、ならいい。じゃあな」

携帯をジャケットの内側にしまうと、
先ほどまで小さな店を開いていた路上を後にして、
青年は夜の街を歩きだした。
本当ならあと1時間ほど占い客を待ってから店を畳み、
親友と待ち合わせた場所へ出かけるはずだった。
だが事情が変わった。不吉な方向へ。
少し前に、あの耳を刺すような音を聞いてしまった時から。


砕けたガラス。中身をぶちまけてひっくり返った生ゴミのバケツ。
血まみれの身体を丸めて唸っている三下、チンピラ、
そして凶悪そうな若者たち。
普段は他人から被害を受けるより与える側に回る方が
多いたぐいの人間たちなのがせめてもの救いだった−−
男の通った後に累々と転がっているのが。

「畜生・・・浅倉の野郎、なんだって急に暴れだしやがったんだ」
「イライラしてる時に近づきさえしなけりゃいいんだが・・・
そのイライラが今日はえらく急にきやがったらしいからな。くそ、いてぇ」
「まさかあいつ、ついに粉に手を出したんじゃあ・・・
「何だこの音は、俺をイラつかせるなあっ!」って喚いてるのが
聞こえたんだけどよ、あいつが鉄パイプ持ってこっち来る時に。
幻聴ってやばいんじゃね?」
707Evergreen (6):03/12/21 23:05 ID:2svNLYZz
イルミネーションの華やかな方角を指して歩き続けながら
思いに沈む、占い師の青年。

あの音は自分にだけ聞こえたのだろうか。
聞こえた瞬間はっとして目の前の往来を見渡したが、
おかしな音を聞きつけたような素振りを見せる通行人はなかった。
それでも音は消えるどころか、次第に大きくなってきた。
自分の中で急速に広がりはじめたヴィジョンと共に・・・

降りしきる雪の中、突然黒い影に襲われて地面に倒れる雄一。

「手塚・・・ 手塚・・・    手塚っ!」
何故か倒れている自分を抱えて、必死に名前を呼び続ける若者。

2つのヴィジョンが完全に像を結んだ瞬間、青年には分かった。
それぞれの意味ではなく、自分が今からしなくてはならないことが。
ひとつは雄一が、今夜絶対に街へ出ないようにすること。
そしてもうひとつは・・・
自分の名を呼んでいた若者に会うこと。
彼に会わなければ、何か取り返しのつかないことが起こる。
自分だけでなく彼自身にも、そしてこの世界全体にさえも。
そんな気がした。

友の能力を知る雄一は理由を聞きもせずに
予定の変更を承諾し、外出しないことを約束した。
問題は若者の方だ。いったいどこにいるのだろう。
それに何となく、初めて見る顔ではないような気がする。
だとしたらいつ、どこで会ったのか−−
708名無しより愛をこめて:03/12/23 00:15 ID:+wf37Yrj
新作キタ━━(*゚∀゚*)━━━!!
ちょこちょこスレ覗いてて良かった。
いつもながらぐいっと引き込まれる展開で続きがとても楽しみです。
がんがって下さい。
709名無しより愛をこめて:03/12/25 01:21 ID:QeTxbPzE
ガンバッテー
710707:03/12/25 03:55 ID:767o+Aqp
Evergreenの続きをupします。すみませんがまだ未完なので、
結局クリスマスまでには間に合いませんでした。残念。

>>708
ありがとうございます。私も、できれば覗いて楽しんでもらえる話にしたいなーと
思っていますので、がんがります。

>>709
ありがとうございます、がんばります!
711Evergreen (7):03/12/25 03:58 ID:767o+Aqp
黒い龍と共に生じた異様な音は片時も止むことなく、
イルミネーションに輝く都会全体に広がっていった。

音が聞こえたのは、限られたわずかな人間たちだけだったが・・・

都心の一流ホテル最上階。
壁一面を使ったガラス窓の前に立ち、
うつろな表情で豪奢な夜景を眺めているスーツ姿の青年。
何もかもがつまらなかった。自分を見下す人間ばかりの
学校も、自分に無関心な人間ばかりの家の中も。
もちろん、父親が主催するこのパーティ会場も。
ここには「芝浦の御曹司」という自分の肩書きに
媚びへつらう人間しかいない。

だがその耳を刺すような音が聞こえた瞬間、
倦怠感を押しのけて奇妙な「記憶」が浮かんできた。
ずっと昔の俺は、こんなじゃなかったはずだ。
少なくとも、鋼の鎧を着けて闘っている時は・・・
そう思った時、今度は野獣の吼えるような声が聞こえた。
すぐ目の前のガラスの中から。
驚いて目を凝らすと、役員やその取巻き連中の群がる
テーブルの映り込みの向こうに、獣とも人とも
つかない姿が見えてきた。
低く下げた鼻面に載った巨大な角。鉤爪のついた両手。
とてつもなく頑丈そうな金属質の皮膚・・・

「面白くなってきたじゃん」
年の割に幼い顔に、やっと笑みが浮んだ。
たちの悪いいたずらを思いついた時のように。
712Evergreen (8):03/12/25 04:02 ID:767o+Aqp
「先生!しっかりしてください!」
瀟洒な自宅兼オフィスで突然目まいに襲われて
倒れた弁護士に向かって、秘書の男が懸命に呼びかける。

「ああ、大丈夫だからゴロちゃん・・・でもやっぱり、
検査さぼらない方がよかったかな?」
つとめて呑気そうに答えたものの、北岡は不安に苛まれていた。
最近、立ちくらみの回数が増えたような気はしてたんだが。
もしかしてかなりやばいのかな、俺・・・
でも、まだ死にたくないな。せっかくイブは約束取りつけたんだし。
死ぬ?冗談じゃない、なんでこの俺が死ななきゃならないのよ。
どんなことをしたって生き延びてやるさ。

それにしても、さっきからキンキン鳴ってるこの音は何だ?
ゴロちゃんには聞こえてないみたいだけど・・・

二人とも気づかなかった。執務机の背後にある大窓に、
長い角を持つ巨大な影がぼんやりと浮んでいることに。


街灯もまばらな暗い道を、とぼとぼと歩く青年。
大学からの帰りだった。
抑えつけた怒りと不満が、心の底で泡立っている。

田宮君も西本君も小川さんも、全然わかってない。
香川先生だって「東條君の言い分も分かります」とか
言ってたけど、結局はみんなの言うことしか
聞いてないじゃないか。きっと、僕を丸め込もうとしてるんだ。
そうとしか思えない・・・
713Evergreen (9):03/12/25 04:06 ID:767o+Aqp
でも、一番腹が立つのは仲村君だよ。
わざわざ先生に、僕の失敗を告げ口するような真似を
したんだから。その上、僕が抗議の意味で黙って
仲村君の顔を見たら「逆恨みはよせ!」なんて
すごんで見せたりした。本当に、嫌な奴。

いっそ、みんな、死んでしまえばいいのに。

怒りと屈辱感の虜になった青年には聞こえなかった。
自分の周りに響き渡る、甲高く不快な音が。

そして、今しがた通りすぎた街灯の脇に付いている
カーブミラーに映った獣人が、両手に生えた巨大な爪を
誇示しながら凄まじい吼え声をあげるのが。


夜の公園。街灯に照らされた池の水に、
冬の木立が映り込んでいる。
冷たいベンチに腰掛け、1時間近くもじっとしたままだった
娘が膝の上のバッグを開け、畳んだ便箋を取り出した。
何度も読んだためか、折り目の部分から破れかかっている。

「美穂へ。

そろそろ、父さんと母さんのところへ行かなければなりません。
でもあなたを1人で残していくのが一番心残りです。
なるべく早くいい人を見つけて、新しい家族をつくりなさい。
そうすれば、ひとりぼっちじゃなくなるでしょ?
お姉ちゃんだって、美穂と、美穂の血を受け継いだ
子供たちの中でずっと生きていけるから」
714Evergreen (10):03/12/25 04:09 ID:767o+Aqp
お姉ちゃん。どうして何も言ってくれなかったの?
父さんと母さんがいなくなった時から、辛いことや
悲しいことは何もあたしに言わないで、いつも無理して。
病気になったことまで、入院する直前まであたしには
隠してて、その挙句に突然逝ってしまうなんて・・・
こんなに短い遺言だけ枕元に残して。

それに家族を作るなんて無理だよ。
あたし、男なんて信じられない。
お姉ちゃんだって、いっぱいだまされたじゃない。
あたしにはお姉ちゃんがいればいい。
だからお願い、生き返ってきて・・・

そう思ったとたん、目の前の池の水が盛り上がった。
翼の下に首を入れて眠っていたカモたちが、
驚いてけたたましく鳴きながら飛び立つ。

ベンチから立とうとして立てないまま、
娘はただ呆けたように見つめていた。
池の中から飛沫を上げて現れた何かが、
夜空ヘ向かって一直線に飛んでいくのを。
「この池・・・白鳥なんて、いなかったよね?」
怯えたような呟きに答えたのは、まだ波立っている水の面と
周囲の木立に響き渡る、耳を刺すような音だけだった。
715Evergreen (11):03/12/25 04:12 ID:767o+Aqp
確かに俺は清廉潔白な地方公務員とはいえない。
それは認める。だがだからと言って、
このまま一生ゆすられ続けるつもりはない。

一度報酬額を上げてやると、加賀はほどなく
次の上乗せを要求してきた。
「寝言はよせ」と言ってやったら、野郎、
下卑た笑いを浮かべて眼鏡を直しながら
こうほざいたものだ。
「須藤さん。あたしのお願いを聞いてくれないと
後悔することになりますよ?」
後悔? どういうことだ。
「あたしが今あんたとやってる仕事の裏には、
ある組織の幹部が絡んでる。名前を聞けば
あんただって一発で分かる大物だ。そうそう、
小竹署のお偉いさんとも仲がいいんだとよ」
なんだと・・・?
「あんたが値上げを渋ったり、この仕事から
手を引こうなんて思ったら、その大物と
小竹署のお偉いさん、つまりあんたの上司が
黙っちゃいないってことさ。刑事の職を失うくらいなら
まだいいが、でかい重りを脚にくくりつけられて
東京湾に沈んだりしたかないだろ?まだ若いんだしな」

やつらみんな、最初からグルだったのだ。
そして俺は知らないうちに上司に嵌められ、利用され、
一生を闇に塗り込められつつあるというわけだった。
716Evergreen (12):03/12/26 01:24 ID:MOMmbcha
塗り込められる?ふざけるな。
俺が、あいつらを殺して塗り込めてやる。
加賀の小汚い古道具屋の壁にでも・・・

暗くなったというのに灯りもつけず、
外回り用の黒いコートを羽織ったまま
冷たい怒りに身体を震わせる男の周囲で、
異様な音が響き始めていた。
そしてアパートのベランダに通じるガラス窓には、
いつのまにか何かが映り込んでいた。
夕陽のような金色をした巨大なハサミを振り上げて
威嚇するような仕草を見せる、カニに似た怪物だった。


都内を見下ろす高層ビルのワンフロアを使った
豪勢な部屋に、たった一人で座る男。
憤怒と苦悶に歪んだ表情は、少し前に丁重な礼を
述べて出ていった男とその部下達のせいだった。

この高見沢グループを買収だと?
テレビで派手なCMを垂れ流すだけで、海のものとも
山のものともつかない新興企業のくせに・・・
しかもトップ自ら乗り込んでくるとはどういう了見だ。

「いい度胸だな、え、社長さんよ?おととい来やがれ!」
俺の嘲笑と恫喝にも顔色ひとつ変えず、胸の悪くなるような
愛想笑いと皮肉で応じたのはあいつが初めてだった。
「社長同士会った方が話は早い。そう思ったまでですよ。
それに、高見沢の総帥はとても気さくなお人柄だ−−
そのように聞いていましたのでね。どうやら噂は本当だったらしい」
717Evergreen (13):03/12/26 01:31 ID:MOMmbcha
答える代わりに俺は指を鳴らした。
間髪いれず、隣室から6名の黒服がなだれ込んでくる。
「おととい来やがれっていってんだよ、青二才。
社長だろうがなんだろうが知ったこっちゃねえ、
これ以上居座るなら痛い目に会うぜ」
わざとらしくため息をつくと、奴は部下達の方を向いた。
「仕方がない、見せて差し上げなさい」
上司の言葉と同時に、二人の屈強な男の身体が変化し始めた。
灰色で、ゴテゴテと飾りのついた姿に。
やたらでかい武者人形のようにも見える。
次の瞬間その頭から白い触手のようなものが飛び出し、
黒服どもの口や鼻に入りこんだ。

気がつくと絨緞の上に灰の山が6つできていた。
俺の耳に、青二才の声が聞こえてくる。
「返答の期限は1週間です。考える必要もないでしょうが・・・
では、これで失礼いたします。お忙しいところ私のような
若輩者のために時間を割いていただき、感謝しております」

警察はおろか、カネもヤクザも閣僚も役に立たない。
相手は化け物の支配する企業だ。
畜生、力さえあれば。
化け物に対抗できるような力が、俺にも・・・

いつのまにか、部屋中に不気味な音が響き始めていた。
机の上で頭を抱えて歯を食いしばる男の真上で、
豪華なシャンデリアがきらめいている。
男の背後の広い窓に映ったもうひとつのシャンデリアには、
長く巻いた尾と奇怪な形の脚を持つ緑色の怪物が張りついていた。
718名無しより愛をこめて:03/12/26 10:35 ID:tWIePpf0
オールスターキャストになりつつあるうえに、
村上シャチョーまで登場とは、ますます
続きが楽しみです!

最初、サノマンが買収にきたのかと
思ったのは内緒だ(w
719717:03/12/26 21:38 ID:WGsxSkEs
Evergreenの続きをupします。

>>718
ありがとうございます。まさかオールスターになるとは自分でも最初
思っていませんでしたが、一応全て出せそうです。サノマンもこれから出てきます。
ただ申し訳ないのですが、ファイズの村上社長の出番は今回のみです…
720Evergreen (14):03/12/26 21:45 ID:WGsxSkEs
やれやれ。入ってくる車にも出てくる車にも、
金だけは腐るほど持ってそうな連中ばかりが乗ってる。
腐りかけてる分くらい、寒空の下で一生懸命他人様に
奉仕してる俺みたいな人間に回してくれよ・・・

夜になってさらに冷え込んできた駐車場の片隅で、
靴跡のついた万札を制服のポケットから取り出して
丁寧に皺を伸ばすと、バイトの青年はため息をついた。
「いくらヨイショしたって、今日はまだこれだけか。ちぇ」
だが、ついさっき誘導したイタリア車から出てきた
男女に気付くやいなや、青年の表情と声の調子は
素晴らしい速さで切り換わった。
「いってらっしゃいませーー!!」

自分の挨拶を完全に無視し、軽口を叩き合いながら
目の前を通り過ぎていく男女を見つめる青年の眼に、
一瞬暗く危険な影が差す。
が、2人の姿が消えるとすぐ大げさに息を吐き出した。
嫌な気分を吹き飛ばそうとするかのように。
「あーあ。いいなぁ〜」
そして、ことさら大きな声で独りごとを言いはじめる。
「親父にたてついたりするんじゃなかったかなあ。
見合い話ってのも、親父にタンカきった手前引っ込みが
つかなくなって結局蹴っちゃったし。
写真で見る限りじゃ、きれいな子だったのにな・・・ん?」
ふと何かを感じてあたりを見まわす。
「風の唸りか・・・しかしクリスマス前からこの調子じゃ、
イブはさらに腐れカップルで充満するんだろうなあ。
仮病使って休もうっと」
721Evergreen (15):03/12/26 22:02 ID:WGsxSkEs
だが青年が聞いたのは風の唸りなどではなかった。
駐車場全体から、というより駐車場内の車全体から
湧き出し、低い天井に反響している甲高い音だった。

気配を感じながら青年が認識できなかったものがまだある。
視線を外したとたん、周りにあるすべての車の窓やボディや
ミラーにずらりと並んで映った、無数の怪物たちだ。
色も体の大きさもまちまちだったが、二本足で立ち、
頭部に太く長い角があるという点では共通していた。


「優衣・・・・・・許してくれ・・・!」
いくら耳をふさいでも無駄だった。
刺すように甲高い音は、その男の内側から聞こえてきたからだ。
遠い昔男が妹を捨てた時、一緒に捨てたはるか彼方の国で、
しかも一握りの人間にしか聞こえていないはずなのに・・・
黒い髪に両手の指を食い込ませてのたうちまわる男を、
冷ややかに見下ろしている者がいた。
壁に掛けられた横長の油彩画を保護するガラスの表面から。
身体の左右に巨大な金色の翼を広げて仁王立ちになった、
いかめしい黄金のマスクをつけた男のように見えた。


そして。
「何故だ、優衣・・・何故またこの音が聞こえる」
都心に近い住宅街にある小さな喫茶店のカウンターに座る、
漆黒のレザーコートを着た若い男が蒼白な顔でつぶやく。
目の前に置かれた少年と少女の写真の表面に映り込んで
はばたく、コウモリに似た怪物を見つめながら。
722名無しより愛をこめて:03/12/27 00:25 ID:nHuyo84X
オモシロイ!!
シカモ作者タン、トッテモ気サクナ人ッポクテ良イ!!
723:03/12/27 14:01 ID:PnFbzCpH
スレの容量が480kを超えたので用心の為に次スレを立てておきました。
【勝手に】仮面ライダー龍騎R・D・C【補完2】
http://tv3.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1072498669/l50

「Evergreen」の作者様へ。作品はいつも楽しみにしています。
スレの容量が480kを超えた現在、
このままだと「Evergreen」の続きは次スレへ持ち越しになり分散する可能性があります。
一括保管を兼ねて、「Evergreen」(1)〜(15)を次スレにまとめて再掲させて頂きました。
承諾が事後になった事をお許し下さい。
724Evergreen作者:03/12/28 07:44 ID:CfzXzRHm
>>722
ありがとうございます、嬉しいです。

>シカモ作者タン、トッテモ気サクナ人ッポクテ良イ!!
うーむ・・・そうでしょうか?(汗)

>>723
>>1さん
新スレ立てお疲れ様です。その上に、
Evergreenの分散防止まで配慮してくださって、
本当にありがとうございます・。・゚(ノД`)゚・。・

>承諾が事後になった事をお許し下さい。
とんでもないです。こちらこそ、容量を考えながらupすると書いたのに
実際にはやみくもにupしてしまっていたので、申し訳ありません・・・

これからも楽しんでもらえるように、新スレを大事に使わせていただきます。
725名無しより愛をこめて:04/01/03 11:47 ID:W3ryJxr3
Evergreenの続きは次スレですね。
楽しみにしていますよ。
726724:04/01/05 00:33 ID:XX0A59Nq
>>725
読んでいただいて嬉しいです、ありがとうございます。
次スレで続きを書かせてもらっていますので、完結までがんばります。
727名無しより愛をこめて:04/01/08 03:06 ID:ZJyMpo5T
下がりすぎ、保守
728名無しより愛をこめて:04/01/14 23:57 ID:sGG0kUg3
保守
729名無しより愛をこめて:04/01/17 05:31 ID:sRr9vfIi
age
730名無しより愛をこめて:04/01/23 12:54 ID:z5uBD8KQ
sage
731名無しより愛をこめて:04/01/28 00:24 ID:x6m5Hp9v
age
732724:04/01/28 22:51 ID:W0ru8udT
>>727 - >>731
保守ありがとうございます。
ageの時に何かないと淋しいというのもあって、1つ話を作りました(完結済み)。

時期的にはTV版22話の真中当たりで、1レス30行ずつ、6回分あります。
1レスに収まる話にしようと思って始めましたがこんな結果に(鬱)
Evergreenの方でずっと真司と手塚を書いていたのに引きずられて、
やはりこの2人が中心の話になりました。

出来は何ともいえない上に、スレ容量がもつかどうかもわかりませんが、
とりあえずこれから1回分upします。続きは今のところ、このスレが
また下がってきた時に追加しようかと思っています。
もしも話の途中でスレがいっぱいになったら、次スレの「Evergreen」
が完結した後に改めてupさせていただくことを考えています。
(Evergreenもまだ完成してない上に、勝手をしてすみません・・・>1さん)
733初夏の廃屋(1/6):04/01/28 22:56 ID:W0ru8udT
「都内某所に実在する空き家にまつわる噂です。
叶えたい望みや、解決したい悩みを持つ人間が
そこにある古鏡の前に立ってそれを願うと、和服姿の
蒼白い顔の女が鏡の中に現れてこう言うそうです。
"望みを叶えてあげる・・・だから代りにお前の命を頂戴"
命を渡すことを約束すると女は消えます。
しばらくすると望みが本当に叶うんですが、
その後まもなく、願った当人は死ぬって話です。
場所は新宿区○○・・・」

なんだか神崎士郎の女版みたいだな。
神崎が何を考えてライダーの戦いを
仕組んだのかはわからないけどさ。
でもあいつよりはこの女の方がまだ良心的かもな。
まず望みを叶えてやってから約束の「報酬」を
受け取るんだから。他人の命を奪えなんて言わないし。

ともかく真司は、読者からメールで来たそのいかにも
ガセっぽい怪談話の取材を一も二もなく引き受けた。
「おい真司、令子が帰って来るまで待・・・」
「あー編集長俺ひとりで大丈夫っすから!」
神崎はともかく、鏡が絡んでるならモンスターが出てくる
かもしれないし、そうなったら変身して戦わなきゃいけない。
令子さんがいればモンスターに狙われるだろうし、
龍騎に変身したとこを見られるわけにはいかないもんな。

目的地に向かっていると、歩道から声をかけられた。
「城戸!」
ズーマーを停めて声のした方を見ると、
道端に占い台を出して営業中の手塚だった。
734名無しより愛をこめて:04/02/02 12:29 ID:O2yW83Pa
続きを楽しみに保守
735初夏の廃屋(2/6):04/02/02 21:38 ID:yNp6OeiF
「取材か」
「そう、神崎士郎みたいなやつが出るっていう場所の」
「何?」
真司のそばまでやってきて話を聞いた後、黙って
営業場所へ戻り、左手だけで台を片づけ始める手塚。
「おい・・・」
「俺も行く」

周囲を伸び放題の竹薮に囲まれた問題の空き家は、
怪談の舞台にふさわしい荒れ方だった。
「廃墟探訪の記事に切り替えた方がいいかなあ。うひゃっ!」
これで五度目くらいに腐った床板を踏み抜いて
悲鳴を上げた後、真司が不思議そうに横の手塚を見る。
「でもお前、なんで俺と一緒に来ようなんて・・・あっ!
もしかして占いで何か出たとか?」
「ああ。お前にトラブルが見えた」
「え。っておどかすなよ!」
「俺の占いは」
「当たるんだろ、分かったよもう、トラブルでも何でも来いってんだ」
ヤケ気味にぼやいて懐中電灯を前方へ向け直したとたん、
真司の足が止まった。
「手塚、あれ!」
TシャツにGパンの若者と赤いジャケット姿の青年が、
蜘蛛の巣まみれで破れ放題になった障子の陰から
こっちを見ている。
「鏡か・・・」
手塚が呟き、薄暗い廊下よりさらに暗い六畳間に
足を踏み入れる。真司も後から続く。
二人の姿を映し出していたのは、腐りかけた畳に鎮座した
埃だらけの鏡台の上で鈍い光を放つ、縦長の鏡だった。
736735:04/02/02 21:46 ID:yNp6OeiF
>>734
保守してくださってありがとうございます。アク禁の巻き添えに
なっていましたが、やっと今晩解除になったのでupできました。
737初夏の廃屋(3/6):04/02/07 03:14 ID:Eyad76uB
「はは、さすが怪奇ネタになるだけのことはある場所と
小道具だよな。なんかこう背筋が寒く」
やや引きつった笑みを浮かべた真司が言いかけた時。

「お前の望みを・・・」
細い声がした。確かに鏡の中から。
「!!」
目を見開き、ごくりとつばを飲み込む真司。

「望みを言ってごらん・・・なんでも叶えてあげるから・・・
お前の命とひきかえに・・・」
再び細く響いた声とともに、鏡の中に人の姿が現れた。
和服を着て、蒼白い顔をした若い女だった。

「その前に聞かせろ。お前自身の望みは何だ?」
手塚の声は冷静だった。
「私の望みはお前たちの望みを叶えること・・・」
鏡の中の女が艶然と笑う。
「な、ならなんで命をと、取るんだよ?」
今度は真司がどもりながらも問う。
「何かを得るために何かを代償に差し出すのは当たり前・・・」
「だからってなんで命まで!」
「それほどの覚悟を伴わぬ望みなど、叶えたとて仕方ない・・・」
手塚がまた何かを言おうとした時。
真司が大きく息を吸い込み、叫んだ。
「ならライダー同士の戦いを止めてくれ!」

一瞬の沈黙の後、女が答えた。なぜか声が震えている。
「それは・・・」
「何でもいいって言っただろ。戦いを止めてくれよ!」
738初夏の廃屋(4/6):04/02/12 00:01 ID:Bjl1zPJA
手塚さえ驚いたほどの気迫で真司がまた叫んだ後。
冷ややかだった女の表情が凶々しく変わり始めた。
「悔しい・・・よくもこの私に無理難題を・・・悔しい・・・!」
「逃げるぞ、城戸!」
鏡の鬼女に魅入られたように突っ立っている真司の
腕をつかんで叫ぶと、手塚が六畳間から走り出た。
そのまま一気に朽ちた縁側を飛び越え、
背丈まで雑草の伸びた庭へ飛び降りる。
直後、六畳間から怨念に満ちた絶叫が響き渡った。
そしてガラスの砕け散るような音も。

「ありがと、おかげで助かったよ。でも驚いたよな、
半ばガセだと思ってたのに・・・何だったんだろ、あの女」
空き家から出てバイクを置いた場所に向かう
二人の影が、道路に長く伸びている。
少しだけ涼しい風が吹き始めていた。

「おそらく、つくも神・・・古い道具から自然に生まれる
妖怪のたぐいだろう。それにあの家に住んでいた女の
怨霊が合体して、たちの悪い物の怪になったのかもしれない。
俺は拝み屋じゃないが、鏡台から強い妖気が漂ってくる
ことくらいは感じ取れた。あの家に人が住まなくなった
経緯を詳しく調べれば何か分かるかもしれない・・・だが」
手塚が突然立ち止まり、真司の方を向く。
「お前、あの女に望みを言ったな。なぜあんな無茶をした?
本当に命を取られるかもしれなかったんだぞ!」

「−−よくわかんないんだけどさ」
路上に落ちた自分の影を見つめながら、困ったように答える真司。
739朝倉さん:04/02/14 15:48 ID:5DQ7NKv4
    _,,----、
                    r"       \
                     _,/,,,,-‐''""'ー¬'゙ `i
                  ヽ i´   '''ニ二二ニ,!l゙   甘いなぁ、死ぬぜぇ
           ./\、     ゙l `-,、  ――ー'''!.|    
          /.  `くヽ、  .ヽ、`゙''''i、    ,「
          /     \`‐x-、_.!--ー〈ir‐―'┤
            / __   く 、 \  ̄ー-、 `''''r゙―、_,,、
           l゙  !ニニ¬''―ヘヽ、 ヽ.`-、 ``ー、.|、 │ ` -,、
        ,|,-'""""ー ,,、 `'、`"‐゙ i .i、  \  ヽ、   l
        / _,-'"゙^  ̄'''ミ〜゙ヽ   \ ヽ__ ゙i、 ,,,,,,⊥  )
       シ'"        `  /i、   \   ̄` |  ゙l,  l゙    ,―-,,,,,,,、
      /               | \   \,,---へ,,,,,,彳 |‐''゙l,/    , i、
__   /          ,,-   _.| l゙ `'-、         .゙l .|  .|   ,ー")'!゙‐ ′
  ̄''ヽ、         ,-!,,,-‐'″.,,i´   `-,、  .,,,ィ―ー,! .| .|  | /
     `ッ       ,/  ゙l,,,,-‐´      `ー'"` L_―ト | 、  _i´
     /     ,,r'     ゙l,,,,_            |___l | `゙″
,、    i     ,ィ′      |`゙"''―-,,,,,、    / ___l |
.゙ー-,,,,/\   /`ヽ      |      `゙゙'''―イ''´ l゙ .|
      `  ′        .|          ′

俺がいないと盛り上がらないだろ?なぁ?
740名無しより愛をこめて:04/02/19 13:09 ID:XZFrXevT
夏の続きに期待です
741初夏の廃屋(5/6):04/02/22 01:29 ID:zo4RWDYU
「本音が出ちゃったっていうか・・・ここ最近、ライダーの
戦いのことでずっと頭が爆発しそうだったんだ。
言ったろ、お前。ライダーになるのはそれに賭ける他に
どうしようもない人間ばかりだって。俺には背負っているものが
感じられないとも。そんな俺には戦いを止める資格なんて
ないんじゃないか、とか思ったりさ。
それに蓮は、恋人を助けるために戦ってる。
だからこの間言ったように、俺も戦おうってやっと決心した。
今できることはそれしかないって思ったから。
けどやっぱり−−戦いなんて止めたいんだ、俺。
だからもう物の怪でもなんでもいいから、止められるものなら
戦いを止めてくれ・・・そう思っちゃったのかもな。でも」
手塚の顔を見上げると、淋しそうに笑う。

「あの女、戦いを止めろっていったら悔しがってたよな。
無理難題を言ったって。望みが叶えられない以上、
俺の命だって取られることはないだろ。
お前の言うとおり、ライダーの運命はなかなか変わらないんだよ。
たとえ物の怪の力でも−−あ、それともまだ見える?俺のトラブル」
「・・・いや」
「そっか、よかった。あ〜それにしてもまいったな、取材は
大成功だったのに記事にできないなんて・・・でも、
本当のこと書いて編集長が心臓麻痺起こしても困るしなあ」

呑気にそう言って、夕陽を浴びながら先に歩いていく真司。
その背を見つめる手塚の顔が暗く翳っていたのは、
逆光のせいばかりではなかった。
742741:04/02/22 01:32 ID:zo4RWDYU
初夏の廃屋の続きをupしました。
>>740
読んでくださって、ありがとうございます。
743名無しより愛をこめて:04/02/23 11:10 ID:FRe9pLaE
早く続きがよみたい
744名無しより愛をこめて:04/02/28 21:33 ID:EDFv7zP4
ほしゅ
745初夏の廃屋(6/6):04/02/29 01:05 ID:ImzQ9T8T
真司が蓮と戦う決意を語った、花鶏での夜。
手塚の擦った一本のマッチは恐ろしい未来を告げた。
「次に消えるライダーは−−」
龍騎だということを。

そして今日、手塚が真司について空き家まで
来たのは、その運命を変えようとしてのことだった。
だが占いが告げたのは、今日のことではなかったようだ。
ならば何時なのだろう。
ライダー同士の戦いを止めたい。その一念だけで、
命を捨てることも辞さずに物の怪に向かって願いを叫び、
結果として物の怪を滅ぼしたほどの強さを秘めた若者が
消える運命にあるのは。
そう。命を捨てることも辞さずに。
「・・・雄一!」
立ち止まって包帯をした右手を見つめ、
左の拳を握り締める手塚。

俺は、あの夜の占いを必ず外してみせる。
たとえ命にかけても。

廃屋を覆う朽ちた雨戸に、風に揺れる無数の
竹の葉が当たってざわざわと音を立てる。
そしてあの六畳間でも、得体の知れない音が響き始めていた。
前の主が持っていた以上の妖気と悲しみに満ちた音が。
「戦え・・・」
鏡台の前に散らばった鏡の破片のひとつひとつに
映り込んだコートの男が、そう呟いた。

                     END
746745:04/02/29 01:20 ID:ImzQ9T8T
初夏の廃屋ラストをupしました。読んでいただいた方々、ありがとうございました。

>>743
読んでくださってありがとうございます。

>>744
保守してくださってありがとうございます。
747745:04/02/29 01:27 ID:ImzQ9T8T
忘れてた・・・ageておきます。スレ容量ももう少しのようですね。
>>1さん、本当にありがとうございました。
748名無しより愛をこめて:04/03/01 14:03 ID:ToH5z3nC
>作者様
お疲れ様でした。
手塚がそう思ったように、これが真司の強さ、凄い所なんだよな、と
改めて思わされたお話でした。
Evergreenの方も楽しみにしています。
749名無しより愛をこめて:04/03/05 12:53 ID:qaeopkBR
>作者様。
「初夏の廃屋」完結、お疲れ様でした。

真司の無鉄砲に近い行動の裏にある必死な思いと心にある芯の強さ、
ややあきれながらも何時の間にかその真司に影響を受けている手塚、
その対比が良かったです。

しかし、物の怪さえも恐れさせる神崎の執念は、なにか哀しいものがありますね。


「Evergreen」の完結も楽しみにしています。
750745:04/03/08 00:37 ID:YHUzD1x/
スレ容量がもう少しもちますように・・・

>>748
読んでくださって、ありがとうございます。真司のキャラクターはとても好きな割に
(Evergreenを除けば)今まであまり正面から書いたことがなかったので、
真司の魅力の一端が出ていればとても嬉しいです。

>>749
読んでくださってありがとうございます。龍騎本編での真司の無鉄砲さと
それに呆れる手塚の組合せが面白いと思っていたので、この話でも
そういう所に興味を感じていただけたならすごく嬉しいです。

神崎については、書きながら「お化けより凶悪なんて士郎兄さんに
悪いかな」とか「でもやっぱりその辺の妖怪より強くなくちゃ失礼かな」
とか考えていましたw 
751名無しより愛をこめて:04/03/08 23:57 ID:AqE9/epQ
こんなスレもあるよ。
君もデッキを拾って変身だ!
ttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/movie/1913/1076641292/
752名無しより愛をこめて:04/03/09 11:30 ID:dftItNLn
続きが読みたいですね
753名無しより愛をこめて:04/03/10 00:01 ID:H44Fnn0q
ほしゅ
754ダークモラコラシム ◆AmzUKMGOOc
某所から小説をパクって投稿した何処かの誰かさんよりはましだと思いますよ。