1 :
CC名無したん :
2009/01/12(月) 23:51:05 ID:B8Ulp6X30
2 :
CC名無したん :2009/01/12(月) 23:51:48 ID:B8Ulp6X30
>ガンスリンガー・ガール達に(;´Д`)ハァハァするスレです。 >(;´Д`)ハァハァと言いながら実質のSSスレ だったらいいな 2chスレで投稿された名無しさんの作品で 「無断転載倉庫」に掲載されていないSSを”発掘”して保全も。 他サイトからの転載は執筆者の許可を貰いましょう。
3 :
CC名無したん :2009/01/12(月) 23:52:47 ID:B8Ulp6X30
4 :
CC名無したん :2009/01/12(月) 23:54:33 ID:B8Ulp6X30
5 :
CC名無したん :2009/01/12(月) 23:55:22 ID:B8Ulp6X30
6 :
CC名無したん :2009/01/12(月) 23:56:13 ID:B8Ulp6X30
監督の浅香守生つながりであるとも言えるわけですが 二期の監督の真野玲もカードキャプターさくらの演出スタッフだしね
7 :
CC名無したん :2009/01/13(火) 18:44:14 ID:Rw+Si71N0
8 :
【理由】 :2009/01/13(火) 23:07:40 ID:toU8FxYO0
久しぶりに鳥昼以外の話を。前スレで投下した【新年】のリコ視点です。管理職の悲哀? リコは口数は多くないけど、頭のいい子なんだろうなと思って書いてみた。 義体の中でリコが一番幸せそうな気が。公社での生活を積極的に肯定しているように見えるからかな。
9 :
【理由】 :2009/01/13(火) 23:08:22 ID:toU8FxYO0
【理由】 「3、2、1… Buon Capodanno!! 新年おめでとう〜!」 パーン!とクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞い散った。窓の外には花火が上がっている。 私たちは義体棟の食堂で年越しのパーティーをしていた。 パーティーと言っても、夕方からゲームをしたり歌を歌ったりして、遅い時間のお茶会をしていたんだけど。 私は11才の時までは、こんな風に新年を迎えた事なんて無かった。 年末年始は病院でも休暇を取る看護師さんが多くて、人手が足りない。だから家に帰れる患者はクリスマスからずっと一時退院をしていて、病棟も何だかがらんとしていた。 病院に残っている患者で動ける人はロビーに集まって新年を迎えていたけれど、私は生まれつき麻痺障碍があって自分では動けなかったから、いつも窓の外に上がる花火で新年があけたのを知るだけだった。 自分の手でグラスを持ち、自分の足で仲間一人一人の元へ近付いて乾杯する。----なんてすばらしいことだろう。
10 :
【理由】 :2009/01/13(火) 23:09:28 ID:toU8FxYO0
新年を迎えて一通りそれぞれと乾杯をし、皆でそうやってはしゃいでいたら、入り口から低い声がした。 「----トリエラはいるか」 ジャンさんだ。私は彼のフラテッロだから、当然、一番に新年のご挨拶をする。他の皆も続いてご挨拶をしたけど、ジャンさんはそれには応えず、トリエラに会議室からヒルシャーさんを呼んでくるように言った。 会議室では仕事が終わった大人の人たちが、年越しパーティーをしているはずだ。この間、課長さんがジャンさんにそう言っていた。ジャンさんはいつも、誰がどこで何をしているか把握しておかなければならない立場だからだ。 皆がパーティーをしている時に、ジャンさんは当直でお仕事だ。だから用件だけ伝えるとすぐにまたオフィスへ帰ってしまう。いつも忙しそうだな。 「はあ…緊張したね」 ヘンリエッタが大きく息をついた。 「そうかな。どうして?」 「う、うーん…。ほら、ジャンさんって、いつもちょっと恐い顔をしているじゃない?」 私が聞くと、ヘンリエッタはちょっと口ごもってからそう言った。多分これでも私に遠慮して言葉を選んでいるんだろうけど、でも一応、私も思ったことは言っておく。 「ジャンさんはハンサムだよ」 お仕事で街へ出た時に女の人がジャンさんのことを聞いてくるもの。あのハンサムさんはあなたのお兄さん?って。 ヘンリエッタは慌てて言う。 「あ、うん。それは私もそう思うよ。やっぱりジョゼさんのお兄さんだし。ただ、その、”強面のハンサム”でしょ」 「そうなのかな」 そういうのって私にはよく分からないけれど、ヘンリエッタがジャンさんのことを苦手だって思っていることは分かる。
11 :
【理由】 :2009/01/13(火) 23:10:14 ID:toU8FxYO0
「ジャンさんはいつも厳しいけど、でも本当は優しい人だよ」 だって、さっきもカウントダウンと新年の乾杯が終わるまで、廊下で待っていてくれたもの。 「う…ん。きっと、リコはジャンさんのフラテッロだから、私たちの知らないジャンさんを知ってるんだよね」 ヘンリエッタも何だか納得したように頷いているから、それ以上言うこともないけど。 でもね。 きっと、トリエラを呼びに来たのだって、会議室に内線が繋がらないからだけじゃないんだよ。 どうしてか、公社の大人の人たちでもジャンさんといると緊張してしまう人は多いから、大騒ぎしたい人たちがいるところに、ジャンさんは行かないの。 ジャンさんがいると、皆ふざけちゃいけないんじゃないかって思うみたいだから。多分、カウントダウンの時もわざとオフィスを出てきたんだよ。 ----けど、それってジャンさんはさびしくないのかな。 ジャンさんが何も言わないのだから、言う必要はない事なんだろうけど。 それともう一つ。内線でトリエラを呼び出せばいいのに、わざわざ義体棟まで歩いてきたのは、 もしかして様子を見に来てくれたんじゃないのかな。 ----もしそうだったとしたら、忙しいのに私たちなんかのことを気に掛けてくれていたなんて、幸せだな。 「リコ、なんだか嬉しそうだね」 「うん」 今年もきっと、良い年になりそうだ。 そう思いながら、私はもう一度ヘンリエッタと乾杯をした。 << Das Ende >>
12 :
【理由】 :2009/01/14(水) 00:34:32 ID:kMx4/HQ10
祝、新スレ移行w 書き手さんが大勢来てくれると良いなあ。
13 :
CC名無したん :2009/01/14(水) 02:55:52 ID:TVTDrOJf0
14 :
CC名無したん :2009/01/19(月) 01:33:09 ID:IDjoSqLr0
エロパロ板に鳥昼SS投下してきました。 相変わらずエロほとんど無いけど。 前スレに投下した【悪夢】というSSにリンクしてます。
15 :
CC名無したん :2009/01/19(月) 22:17:44 ID:5hlIyeQy0
>>14 『』です。読んできました、GJ、流石です。自分にはああも書けないなぁ(発想力が貧困 ^_^;)
16 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:15:48 ID:ISVmHzVm0
前スレで以前投下した『新たな日々』の、物語のエンディングとしての別バージョンです。 以下、投下します。
17 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:17:20 ID:ISVmHzVm0
カモッラがらみのちょっとした調査任務が終わり ローマへ戻る途中のヒルシャーの携帯が不意に鳴った。 「ヒルシャー、今、外か?」 相手はジョゼだった。 「ええ、ローマへ戻る途中ですが」 「トリエラも一緒か?」 「もちろん一緒ですが、何か・・・?」 「外に出ているフラテッロは君らだけのようだな・・・。とりあえず、公社へは戻るな」 「?、どういうことです?」
18 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:18:13 ID:ISVmHzVm0
「どうも様子がおかしい・・・。トリエラが大切なら、今は戻るんじゃない。いいか?」 「ええ・・・」 「また連絡する」 「分かりました・・・。?」 電話は切れた。 「どうしたんですか?」 トリエラが尋ねてきた。 「ジョゼさんからだったんだが・・・」 事情のよく飲み込めない内容の会話をどう伝えてよいか分からず、 とりあえずヒルシャーはこう答えた。 「ローマへ戻ったら、公社へは行かずに僕の部屋へ行くことにしよう」
19 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:19:08 ID:ISVmHzVm0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− トリエラにとってヒルシャーの部屋は何度かしか訪れたことはないが、 彼と二人きりになれる心からホッと出来る場所だ。 彼の部屋に滞在して二日目になる。 そんな時、ヒルシャーの携帯が鳴った。ジョゼからだ。 「もしもし」 「今、どこにいる?」 「自分の部屋に戻っていますが・・・」 「そうか」 一息つき、ジョゼは核心を語り始めた。 「よく聞いてくれ。政府の連中は公社を解体することに決めたようだ」 「!?、どういうことです?」 「パダーニャが壊滅して我々はお払い箱になったということだ」 「・・・」
20 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:20:26 ID:ISVmHzVm0
なおもジョゼが続ける。 「そしてここが肝心なんだが・・・、奴ら、義体を処分すると決定したようだ」 「えっ・・・」 「今となっては、義体は政府の奴らにとっては都合の悪い存在という訳だ」 「そんなっ・・・・・・」 「公社にいる義体たちを連れ出すのはもう無理なようだ。せめて君らだけでも逃げろ。 君の部屋もいつまで安全か分かったものじゃない」
21 :
『逃避行』 :2009/01/22(木) 23:21:39 ID:ISVmHzVm0
電話を終えたヒルシャーに、トリエラが心配そうな表情で問いかけた。 「なんだったんですか・・・?」 ヒルシャーはトリエラに電話の内容を手短に話した。 そして 「技術部のサポートを受けられなくなってしまうし、薬もしばらくの分しか持ち合わせがないが・・・。 僕と一緒に逃げてほしい、トリエラ」 少女はとまどいの顔色を見せた後、嬉しそうな表情で涙を浮かべながら言った。 「私は・・・、あなたが一緒にいてくださるのなら、どんなことにも耐えていけます。 だから私を連れて行ってください」 そう言うと少女はヒルシャーに近付き、背伸びをして顔を近づけた。 ヒルシャーは彼女をしっかりと抱きしめ熱く長い口づけを交わした・・・。 翌朝、まだ陽も明けきらぬ早朝、車に乗り込みローマを後にする二人の姿があった。 << Das Ende >>
22 :
CC名無したん :2009/01/22(木) 23:27:46 ID:ISVmHzVm0
前に投下した『口づけ』を経てということで、キスまでは有りということでw 先の見えない、というか、先行きほとんど真っ暗な逃避行です。 ディレクターズカット版のBladeRunnerのエンディング、っていうイメージかなw
23 :
CC名無したん :2009/01/25(日) 12:44:54 ID:pFH7LYUs0
前回投下した【理由】を読み直したら推敲前の原稿やった。 でももう後の祭り。あああ。ゴメン、リコ。
24 :
CC名無したん :2009/01/25(日) 12:46:28 ID:pFH7LYUs0
25 :
【足跡】 :2009/01/25(日) 12:47:34 ID:pFH7LYUs0
前スレに秋頃投下した【枯葉】の冬バージョンのような話。 子供っぽい行動をするトリエラが書いてみたかった。 密かな野望、ガンスリでSS50本達成。でもまだ書く。 なまあたたかく見守ってきて下さった皆様に感謝w
26 :
【足跡】 :2009/01/25(日) 12:48:24 ID:pFH7LYUs0
【足跡】 その日、ローマ近郊は一面の銀世界だった。 「クラエス、雪だよ」 光の反射で早朝とは思えないほど明るい外の様子に、トリエラは寝間着のまま窓の外をのぞき込んだ。 「……本当だ。寒いはずだわ」 ベッドの中から顔だけそちらに向けたクラエスが応える。 「今日は午前中の予定は特になかったし、皆で雪だるまでも作るかな」 「……元気ね」 「クラエスは行かない?」 「…気が向いたらね」 「そう? じゃあ、朝食の前にちょっと外の様子を確認してくるよ」 手早く着替えを済ませ、コートに手袋を突っ込んでマフラーを二重に巻く。足取り軽く外へ向かう学級委員長に、ルームメイトは気だるげに行ってらっしゃいと声を掛けた。
27 :
【足跡】 :2009/01/25(日) 12:49:24 ID:pFH7LYUs0
寮の外へ踏み出せば、ロングブーツはボスッと中程まで埋まる。雪の感触を楽しみながら、少女はつもったばかりの真っ白なキャンバスに自分の足跡を付けていった。 一番乗りで新雪を踏み歩くというのは何とも言えず良い気分で、偵察の目的もどこへやら、綿帽子をかぶった木々の間を抜けながら、トリエラは白く装いを変えた敷地内の散歩を満喫していた。 気の向くまま散策を続けることしばし。不意に目の前の視界が広がる。----職員用の駐車場だ。昨夜から停めてある当直職員の車が、所々で白い小山になっている。 あれを帰る時に掘り出すのは結構手間だろうなと思いつつ、少女が視線を巡らすと、一面真っ白な広場の中で地味に色彩を主張する見慣れた一台のドイツ車があった。 「……ヒルシャーさん、もう来たんだ」 呟いた少女の声は半ば呆れている。雪を全くかぶっていないところを見ると朝になってから到着したのだろうが、時刻はまだ始業時間の一時間半も前である。 天候が不順であれば、通勤に時間が掛かるのは当然予想される。 だから遅れないように早めに家を出ようというのはいかにも真面目なドイツ人らしいが、これだけ早い時間に到着するためには一体何時に自宅を出発したのか。 持ち主の人となりを表現する際に、真面目の上に罵倒の言葉を付けたくなる人間がいても無理からぬ事であろう。 運転席からは点々と足跡が続いている。無論それは車の持ち主のものだ。トリエラは何の気なしに車に近付き、足跡に沿って歩き出した。 「----あれ?」 数歩進んだ所で少女は立ち止まる。振り返り、自分と担当官のつけた足跡を見やった。 存外、歩幅が違う。 あれだけ身長差があるのだから当たり前のことなのだが、今までさほど意識していなかったその事実に、少女の中にちょっとした好奇心がわいた。 隣にあいた足跡に、自分の右足を重ねてみる。 新しい雪を崩すこともなく、雪穴の中にすぽんと自分の足が入った。やはり足のサイズも担当官の方が一回り大きい。 続いて左足を次の穴に入れる。少女にとっては大きめに一歩踏み出した形だ。斜めになったブーツの背で足跡のかかと側が少し崩れる。 雪を崩さないようにするにはどうしたらいいだろう? 引き抜いた右足を浮かせて次の足形に狙いを定め、軽く跳ねてみる。----着地。うん、今度は崩れない。
28 :
【足跡】 :2009/01/25(日) 12:50:24 ID:pFH7LYUs0
新しい遊びを思い付いた子供のように、トリエラは雪に残された足形をひょいひょいとたどり始めた。段々と一定の間隔で並んだ歩幅にもなれて、下を向いたまま軽くステップを踏むように進んで行く。 ----と。 雪とそれを踏みしめた靴跡だけの白い画面に、いきなり茶系の色彩が現れた。 思わず急停止して顔を上げれば、鼻の先に見覚えのあるコート。 「……前を向いて歩かないとぶつかるぞ」 聞きなれた声にもう一段階顔を上げれば。 「おはよう、トリエラ」 「! ヒルシャーさん」 そこには足跡の主が立っていた。自分のしていたことを見られたのだろうか。慌てる少女に男が言う。 「何か考え事でもしていたのか?下を向いたまま歩いていると危ないぞ」 相も変わらず見当違いの心配をする担当官に、トリエラはいつもの不機嫌そうな顔と慇懃な物言いで返答する。 「すみません、不注意でした」 「気を付けなさい。----それより、こんな早朝にどうしたんだ?」 「……雪の状態を確認しようと思っただけです。でも、もう寮に帰ります」 「そうか。戻ったら、風邪を引かないように温かくするんだぞ」 「はい。では失礼します」 くるりと担当官に背を向けたトリエラの顔は赤い。本人にもその自覚はある。 ----別に、恥ずかしい訳じゃないわよ。いつも通りの鈍さに腹が立っているだけ。あれのどこが考え事をしながら歩いているように見えるのかしら。----いや、そうじゃなくて。 これはきっと、寒い中を歩いて来たせい。そう、別に動揺なんかしてないんだから。 金の二つ髪を揺らし、少女は先程までよりも荒い歩調でざすざすと雪中行軍を開始する。 男は目を細めながらそんな後ろ姿を見送ると、少女のつけた足跡を追いながら建物に向かって歩き出した。 << Das Ende >>
29 :
CC名無したん :2009/01/25(日) 23:03:39 ID:Zy+dxQg30
>>24 レスありがとうございます。
トリヒル組に限らず、積極的な逃亡というのもありか(例えばサンドロ・ペトラ組とか)と前は思ったこともあったんですが、依存症の話でソレはないなと。
で、やむを得ずの逃亡話、ということで。
いやでも、逃亡して追っ手を振り払ったとしても、
薬を使い果たしてしまえばやがては依存症が酷くなり、早晩、身動きが取れなくなってしまうんでしょうねぇ、きっと・・・。(ウウッ・・・ ; _ ; )
>そう言えば転載倉庫さんにこんなのがありましたね。
見てきました。だいぶ前に既に"ケルベロスサーガ"パターンのSSがあったんですね〜。
>>26-28 ヒルの足跡をたどって跳ねながら歩くトリが可愛らしくてイイですね。微笑ましいですw
まだまだ新作、楽しみにしてますよ〜w
30 :
【理由】 :2009/01/31(土) 00:41:59 ID:vhN2h/f20
>>29 ありがとうございますw 元気な女の子は書いていて楽しいw
>新作
嬉しいお言葉ありがとうございますw
なんかもう、自分なんぞの駄文を
いつも投下させていただいてすみませんという気分なんですが。
拙文ではありますが、読んで下さった方に
少しでも楽しんでいただければ幸いですw
>逃亡
義体の薬漬けってのは逃亡防止策にもなってるんですなあ。
全然話の趣旨が違いますが、鳥昼組の逃亡話(?)を
エロパロ板に投下してきましたよ。
31 :
【】 :2009/01/31(土) 00:43:08 ID:vhN2h/f20
前スレがまだ生きているようなので 【理由】の推敲後版を投下してきました。 SSの内容は同じですが、語り口調が少し違います。
32 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:18:12 ID:y3bIooc10
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#68 より転載 153 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/10/26(日) 12:20:30 ID:1gwE5mvS0 診察台の上に寝ているジャン。 ベリサリオ 「はい、ビデオ回して」「君の名前は?」 ジャン 「ジャ、ジャンです。僕は公社に忠誠を誓います。。」 ベリサリオ 「君の役割は?」 ジャン 「身障者の方の為に義体の使い方を説明するボランティアです。。」 ベリサリオ 「これは誰かな?」(ソフィアとリコの写真を見せる) ジャン 「わ、解りません。。」 「う、ううっ。」(ジャンは涙を流している) ベリサリオ 「OK、認証終了だ」 「さあ、ジャン起きるんだ」
33 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:19:24 ID:y3bIooc10
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#68 より転載 155 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/10/26(日) 12:46:06 ID:PkB7cPcN0 押井版 ジョ「僕たちはフラテッロで・・いつも一緒で・・」 べ「じゃあ聞きますが、この写真に写っているのは、誰と、誰です?」 ジョ「本当にいたんだ・・ヘンリエッタ・・天使みたいに可愛くて・・」
34 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:20:16 ID:y3bIooc10
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#68 より転載 607 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/11/02(日) 19:37:23 ID:NhTceKu00 ヘンリエッタ最強伝説 痴呆が極度に悪化したヘンリエッタは「私が役立たずになっても見捨てないで下さい」と泣きながら、 ジョゼ以外の目に入る動くものを公社の人間、そうでない人間の区別もなく惨殺しまくった。
35 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:21:04 ID:y3bIooc10
608 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/11/02(日) 19:43:14 ID:NhTceKu00 お嬢ちゃん、そんな所で泣いていて道にでも迷ったのかい? と近寄ってやさしく声をかけた 人は、次の瞬間バイオリンケースが開きパンという音とともに、自分の脳を道にぶちまけるの である。
36 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:21:45 ID:y3bIooc10
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#68 より転載 609 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/11/02(日) 19:48:49 ID:NhTceKu00 リコの狙撃にだけは細心の注意を払い、時には住民の遺体を盾に使用し、自分の持つあらゆる 戦闘知識を導入し「ジョゼさんに喜んでもらいんです」とつぶやきながら、各義体の目を 的確に撃ち抜いていくヘンリエッタ。
37 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:22:53 ID:y3bIooc10
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#68 より転載 611 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/11/02(日) 20:00:58 ID:NhTceKu00 最後に残った義体トリエラとの戦いが始まった。お姉さんのように優しくしてくれたトリエラ。 しかしヘンリエッタの攻撃には一切の手抜きは無い。 だがだが戦いはGISの特訓で鍛えたトリエラが優勢だった。銃の弾は切れナイフによる格闘が 始まっている。ヘンリエッタがバランスを崩した。チャンスだ!ヘンリエッタごめん。。 そう思いながらあの長い銃剣でヘンリエッタの目を狙うトリエラ。 だが次の瞬間ヘンリエッタは身をひるがえし、駆けつけたヒルシャーを盾に取りそのまま ナイフでトリエラの目を狙ってきた。 ヒルシャーごと貫けば勝てる。これを逃せば自分の目を貫かれる。首を捕まれ苦しそうにする ヒルシャーと、獲物を狙うヘンリエッタの両方の顔が迫る。 その時トリエラは・・・
38 :
CC名無したん :2009/02/07(土) 20:26:09 ID:XDc/wb+r0
トリエラ「足手まといです」 まさしくw
39 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:36:45 ID:mncCEisv0
以下コミック未収録ネタ 相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載 198 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日: 2008/11/28(金) 14:09:42 ID:7+O2bRPk0 登ってる最中まさかのロープが切れて落下しトリエラ重症→リタイア 「私には・・・もう必要ない・・からエッタにくまのぬいぐるみ全部あげるね。」 「な、何言ってるの?そんなの・・嫌だよっ!!」 「ドービーにグランビー、クラウディウスと・・・、あ、あれ? なんかもう・・・全部思い出せないや・・・・。 あたしがいなくてもリコ達としっかりや・・るんだ・ょ・・・・・」 「トリエラぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」 ジョゼ「ヘンリエッタが悲しんでいる? エルザの時にはこんな事なかったのに・・・」 ジャン「・・・条件付けを強化しろ。」
40 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:38:20 ID:mncCEisv0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載
296 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/12/02(火) 22:27:49 ID:8MU1bTXZ0
エッタ「ジョゼさん、展望台にこのシュールストレミング缶を投げ入れますので届いた瞬間リコに缶を狙撃させてください。」
297 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/12/02(火) 23:35:58 ID:GdqdF7QO0
>>296 真っ先にビーチェが死ぬぞw
41 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:39:27 ID:mncCEisv0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載 687 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/12/27(土) 22:17:37 ID:eMUdSKzX0 「テロリストが占拠している塔の頂上へ、義体たちをMALORで転送するんだ」 「了解・・・あっ、指定座標の上と下を間違えた」 「いしのなかにいる」
42 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:42:49 ID:Gqw663FP0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載
696 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/12/28(日) 00:56:37 ID:UwDEuJgY0
>>694 隊員A「サイボーグってことは、やっぱり加速装置が付いてるのか?」
隊員B「いやいや、ジェットで空が飛べるんだぜきっと」
隊員C「バカ野郎!少女型なんだから感覚器官強化タイプに決まってるだろ」
トリエラ「・・・・・・・・・」
43 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:43:32 ID:Gqw663FP0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載 697 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2008/12/28(日) 01:03:31 ID:xpMHcZiR0 トリエラ「サイボーグじゃないよ義体だよ」
44 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:44:45 ID:Gqw663FP0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載 945 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/01/16(金) 09:13:16 ID:Z32efRCg0 >943 カラビニエリ自体、憲兵(軍隊内警察)業務(国防省指揮下)警察業務(内務省指揮下) 外務省及び在外公館警備業務、文化遺産保護業務だのタフな仕事任されているので ジョゼ山自体無能って事はない。 作中PKOかPKF活動で半年バルカン半島に派遣されているのでかなり優秀な国家憲兵のイメージ、 カラビニエリ憲兵隊所属という設定なので 憲兵業務が主なんだろう。 ジャンの方は軍警察大隊所属、ラバロ大尉の元部下って設定。
45 :
てんさい :2009/02/07(土) 20:45:40 ID:Gqw663FP0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#69 より転載 947 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/01/16(金) 09:20:44 ID:Z32efRCg0 他の課員と言えば ヒルシャー ドイツ連邦警察からユーロポール出向のどう見てもエリートキャリア刑事 アレッサンドロ 内務省のスパイ養成所を経て、社会福祉公社公安一課所属公安官 プリシッラ イタリア財務警察、国境、沿岸警備及び経済犯罪、脱税事案、不法移民等 を扱う、結構地位は高いらしい。ちなみに経済財務省所属の”軍属”なので戦争になったら戦うしPKO、PKFも派遣される。 プリシッラ嬢は意外にも元軍人さんwしかもどうも反動右翼のレッテル貼られて公職追放みたいだねw アマデオ イタリア海軍サンマルコ両用戦連隊(サンマルコ海兵隊)出身 ジョルジョ 陸軍出身。イタリア陸軍しらべるとヘタリアがでるので...w オリガ ロシア外務省付諜報員 まぁ色々あれどよくもまぁ秘密組織でこんだけ集めたもんだとヨルムンガンド 顔負けだわw
46 :
CC名無したん :2009/02/07(土) 23:55:53 ID:gfV5J1hu0
47 :
CC名無したん :2009/02/08(日) 21:50:18 ID:VJFcCj+30
おお、ありがたいw資料だw 世界最速のパトカーってヤツですか? SSに期待w
48 :
46 :2009/02/09(月) 00:47:03 ID:RN4GdRTe0
>>47 わっはっは(^-^;;;
ガヤルド持つ財力あるなら相田さんにアニメ化の財務支援してます。
しがない日本車の中古車という事で・・・。
今度@@仕様にして「イタ車(ダブルミーニング)」としてミーティング行こうかな?
49 :
CC名無したん :2009/02/10(火) 01:34:08 ID:infvsgZmO
あはは(^▽^) 行くときには一報を。覗きに行こうw
50 :
【】 :2009/02/14(土) 00:39:46 ID:HsZKRYkg0
【新年】のトリヒル組【理由】のジャンリコ組に続いて、堕天使&伝道師コンビで験担ぎw このコンビって、トリヒル組の次くらいにお気に入りかも知れんと気付いた今日この頃。 プリシッラちゃんもアラサーか…とゆー書き込みを見てこんな話に。
51 :
【アガペー】 :2009/02/14(土) 00:41:07 ID:HsZKRYkg0
【アガペー】 静かな祈りの鐘が遠く響くナタレ(クリスマス)の夜。 職員用の食堂で書類を片手に夜食のパニーニにかぶりつく若い女性課員を目にして、アマデオは声を掛けた。 「プリシッラ、何やってんだよおまえ」 「見りゃ分かるでしょ。残業よ、残業」 書類の束を振って見せながら、情報分析担当の課員は答える。 「ナタレだってのに家族の所へ帰らないのか?」 「しょーがないじゃん、仕事たまってんだから。それに、極右勢力のレッテル貼られて財務警察追われた娘が一緒じゃ、ミサに行ったって親兄弟が肩身の狭い思いするだけだしね」 ストローをくわえながら言う同僚の台詞に男は一瞬言葉に詰まる。だが彼女はくるんと身体ごと向き直ると、男の鼻先にきれいに塗られたピンク色の爪をぴしっと向けた。 「そーゆーアマデオこそ、ナタレだってのに公社で何してんのよ」 「俺は当直なんだからしょうがねえだろ」 「相っ変わらずクジ運悪いわね〜」 けらけらと笑う彼女に深刻さは微塵も感じられない。こいつはいつだってそうなんだよな、とアマデオは思う。 彼女が陽気に振る舞うのは他人に気を使うからだ。明るく軽い雰囲気を不真面目だと誤解されることもしばしばだが、時折見せる内に秘めた情熱と芯の強さは、数年来の同僚であるアマデオでも驚かされることがある。 訳ありの人間ばかりが集められた作戦2課ではあるが、それでも彼女が先程のように自分の過去を口に出すことは稀だ。 一応、その程度には信頼してくれてるのかね。創設当時からの課員同士であり、じゃれ合いのような友人関係を続けている女性の笑顔に、アマデオはそんな感慨めいた思いを抱く。
52 :
【アガペー】 :2009/02/14(土) 00:42:03 ID:HsZKRYkg0
「そういや、確かあんた年末年始も出勤だったんじゃないの?」 「……ありゃポーカーの負けと引き換えに、アルフォンソと勤務交代したんだよ」 「あーあ、ご愁傷様。それじゃ31日の夜、第1会議室でカウントダウンパーティーをやるからさ。良かったら来なさいよ」 「年越しパーティー? 良くそんな企画に許可が下りたな」 「ジョゼさん経由で課長にお伺いを立ててもらったら、一発OKよ」 へへんと胸を反らすプリシッラ。2課きっての優男の顔を思い出しながら、男は呆れ気味の感想を漏らす。 「課長もジョゼさんにゃ甘いよな〜」 「ジョゼさんの発案って事にしておけば、ジャンさんもそんなに厳しいこと言わないしね。----あ、料理は一人一品持ち寄りね。あとマグとフォークと取り皿を持参のこと。酒も最低一本は持って来なさいよ!」 「へいへい。ま、年越しは賑やかな方が良いに決まってるからな」 「そういうこと。さっき子供達にもナタレのプレゼントに赤い下着を配ってきたんだ。さすがにシルクって訳にはいかなかったけど、上下そろいの可愛いのを見つけたんだよね」 "赤い下着で年越しをすると来年は良い年になる"。イタリアの験担ぎだ。ちゃんと寄せて上げるブラなんだから。フンパツしたんだよ! と力説する愛の堕天使に、男は苦笑する。 あの子供達に訪れる『良いこと』なんて、所詮鳥籠の中のささやかな幸せでしかないだろうが、それでもこんな風に一生懸命幸せを願ってくれる優しい女性が身近にいるという事は、いないよりもずっと幸せなことなんだろう。
53 :
【アガペー】 :2009/02/14(土) 00:43:47 ID:HsZKRYkg0
愛の堕天使だと自身を称するプリシッラだが、彼女が子供達に与えるのはいつだってアガペー----無償の愛だ。 見返りを期待しない、与えるだけの優しい愛情。それは多分、この女性の本質だ。自身がいわれのない中傷に傷つけられてつらい思いをしてきたから、子供達にはやさしくしてやりたいと言う。そんな彼女は自分と違って、きっと本来はこんな職場には不向きな人間だ。 「……おまえホント、いい女だよ」 「ホントの事言ったってお世辞にはなんないよ」 男の言葉にプリシッラはおどけて答える。 「義体の嬢ちゃん達にそんなに貢いじまって、自分はどうするんだよ」 「あたしだって新調したわよ。あんたには見せてやんないけどね」 そいつは残念と肩をすくめると、愛の伝道師はやさしい堕天使に説法をたれる。 「おまえもさ、そろそろイイ年なんだから、来年は下着を見せる相手を見つけろよな」 「よけーなお世話よっ!!」 格闘訓練の成果を腹部にくらい、口の過ぎる伝道師は大げさなうめき声を上げて床にうずくまった。 << Das Ende >>
54 :
【】 :2009/02/14(土) 15:44:00 ID:xOavUun+O
考えたら今日はバレンタインデーなのに、クリスマスネタやんorz ドイツのチョコレート消費量は世界一ィィィ!(年間11.1s)とかゆーネタを仕入れたのにSSに活かせなかったよ…
55 :
てんさい :2009/02/14(土) 23:49:48 ID:GrKKZaJj0
以前拾ったバレンタインネタがあったので転載してみる。 531 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2008/02/21(木) 23:18:23 ID:a/l9Bzj1 ヘンリエッタ「ジョゼさん、これバレンタインチョコです……」 ジョゼ「お、嬉しいな。さっそく開け」 ヘンリエッタ「今開けちゃ駄目です!!」 ジョゼ「…………?!」 ヘンリエッタ「ちゃんと信管抜いてから食べてくださいね。それじゃ!」 ジョゼ「…………」 ジョゼ「ギャグ……だよな……?」 ジャン「近づかないでください」
56 :
CC名無したん :2009/02/15(日) 10:51:48 ID:Gyk1iSm+0
ジョゼ山はかっこいいからあちこちでチョコもらっただろうな。
57 :
CC名無したん :2009/02/20(金) 00:27:59 ID:9l5j4iL+0
あー、確かにジョゼさんは山ほどもらいそうw ジャンさんは厳しそうだから、あちこちで渡せなかったチョコが 女性課員の引き出しとかロッカーの中にあるんだろうな。
58 :
【】 :2009/02/20(金) 00:31:53 ID:9l5j4iL+0
ジョゼッタ組の話を書こうと思ったけど何だかまとまらない〜。 なのでエロパロ版に下世話な鳥昼小話を投下してきました。
59 :
CC名無したん :2009/02/22(日) 17:54:17 ID:HD7rnvpR0
無断転載倉庫がずいぶん前から滞っているけど、wiki見たいのを誰か作ってくれないかな? 自分は全くスキルがなくて…。
60 :
CC名無したん :2009/02/28(土) 23:35:54 ID:+dzIAVUD0
つくって良いのなら作るけど>wiki でも自分もよくわからないw ついでにいうならさくら板の前のスレのSSも集めてみたいんだが、 これは無理かな。 転載倉庫に載ってないもの辺りからCCさくら板に移る辺りまでのもの って保存している人いないか?
61 :
CC名無したん :2009/03/01(日) 01:19:40 ID:R46elhj7O
前のPCにあったけど、中身が飛んだからな…。 とりあえず誰か作ってくれると有り難いし、職人さんも自分で入力するか、まとめて.txtにしてくれるといいな。
62 :
CC名無したん :2009/03/01(日) 06:23:02 ID:QVSQOIS90
63 :
CC名無したん :2009/03/01(日) 11:59:06 ID:F7WKIr8k0
64 :
CC名無したん :2009/03/01(日) 23:33:57 ID:QVSQOIS90
普通にテンプレを載せただけだし。 個人サイトは作者さんの許可なしに 勝手に載せて良いのかどうかわかんないよ。 テンプレの個人サイトは承諾を得たものとして載せただけだし 何か不都合があったのならそれも削るよ。 編集をID保持者のみにしてみた。 ガイドwiki見てもまだやり方がわからない人間だから 誰か編集の手伝いをしてくれるとたすかる。 左のMenubar1とかサイドメニューから削除する方法すらわからないし。 つーか
65 :
CC名無したん :2009/03/02(月) 02:12:43 ID:fHX0z14l0
つーか入れたきゃlivedoorのID取ってから 自分で入れてくれ。 それとMenubarは削除しちゃいけないんだね。 非表示か名前を変えるかかな。
66 :
CC名無したん :2009/03/02(月) 10:24:21 ID:x9YAKscQ0
「新規」をクリックして、「ページ名」にタイトルを入れればいいんですか? それとも下の方の「タイトル(32文字まで)」のところです? (試しにやってみて失敗してもマズイでしょうから・・・。一度、アップしたのって、削除できるんですか?)
67 :
CC名無したん :2009/03/03(火) 00:08:32 ID:nzSAkNWl0
出来るよ。>削除 設定→ページの設定/削除から 削除したいページのチェックボックスをクリックすれば。 あと下の方のタイトルは多分アップロードファイル用のタイトルのはずなので ページ名のほうにSSのタイトルを入れてね。
68 :
CC名無したん :2009/03/03(火) 00:20:06 ID:bahiv70zO
>>62 お疲れ様ですw
書き込めるようにしていただけるなら、自分でも勉強してやってみます。
転載倉庫さんみたいにジャンルとか登場キャラが分かるように、前書きのテンプレあった方がいいですか?
タイトル
ジャンル
登場キャラ
シリーズ名
作者名
こんなところでしたっけ?
69 :
CC名無したん :2009/03/03(火) 03:05:30 ID:nzSAkNWl0
>>68 livedoorのIDを持ってる方なら書き込めるようにしてあるので
IDがあるのなら書き込めるよ。
前書きのテンプレはあったほうがいいと思う。
転載倉庫みたいに目次ページでも作ってみる?
時代遅れのhtmlなら簡単なものは組めるんだけど
wikiのやり方はどうも独特でわかりづらい。
70 :
CC名無したん :2009/03/06(金) 12:51:08 ID:8TeCbD/GO
目次はあるとありがたいですね。 ジャンルは転載倉庫さんのと同じで? 今携帯しか使えないので、コピペできないんだけど。
71 :
【】 :2009/03/06(金) 14:56:43 ID:8TeCbD/GO
【】です。4月になったらwikiに挑戦してみますw
72 :
CC名無したん :2009/03/09(月) 22:04:40 ID:nyJdpRy9O
ID持ってるけど、「設定」ページはオーナーさんじゃないと操作出来ないようですよ
73 :
CC名無したん :2009/03/11(水) 03:09:53 ID:ciCYhbvM0
>>72 システム上完全な権限というのはメンバーには与えられないようです。
投稿していただければ設定ページにいけるパートナーへ追加します。
74 :
【】 :2009/03/15(日) 11:22:07 ID:b8KmVLCG0
久々にSS投下。ジョゼッタ組です。新ネタじゃなくてすみません〜 最近ジョゼさんがエッタに配慮ができなくなってる風でちょっと心配。 何故か近所のスーパーでモンタルチーノ産の赤ワインを発見。 トリエラが生還したらお祝いに開けようと思いますw
【風邪薬・改訂版】 冬の訪れを告げるイタリア。急激に冷え込むこの季節に油断をしていたのは まったくもって自分のミスだ。37.8℃。さすがに微熱とは言えなくなってきた体温と ぞくぞく震えのくる寒気に、ジョゼは早退を願い出た。 申し出を受けたジャンはじろりと弟をねめつけ、たるんでるぞと厳しい言葉で応じた後、 早く休めと風邪薬を手渡した。相変わらず不器用で----優しい人だとジョゼは思う。 仕事に対する厳しい姿勢から冷血漢、人非人と陰口をたたかれる兄だが、 本当は人一倍責任感が強く家族思いな人間なのだ。 いつもより早い時間に戻った官舎の自室は閉め切ったカーテンのため薄暗い。 ジャケットを椅子に放り投げ、靴を脱ぎ捨てるとベッドに沈む。 兄が渡してくれた風邪薬は空腹時には服用できないタイプだ。 何かを口に入れなければならないのだが、とりあえずは一眠りしたい。 ジョゼが目を閉じた5分後には、規則正しい呼吸音が部屋を満たし始めた。
どのくらい時間がたっただろうか。部屋の扉を叩く音にジョゼは目覚めた。 一眠りして少し楽になった体を起こし、遠慮がちなノックの音に答える。 「誰だ?」 「あの…ジョゼさん」 聞き慣れた少女の声。 「----ヘンリエッタ」 今日はもう聞くはずのなかった自分の義体の声に、ジョゼは唖然とする。 「あの、お加減はいかがですか?ジョゼさんが早退なさったと聞いて、私……」 「……ああ、大丈夫だよ。心配することはない」 扉を開けずに声だけで答える。今は彼女の顔を見たくはない。常に尊敬に値する大人として 振る舞わなければならない、そういう相手とこの状態で顔を合わせるのは、さすがに苦痛だった。
「あの…風邪に良く効く飲み物をクラエスに教えてもらったんです。それで----」 「----帰りなさい」 思いの外強い語調で言葉が口をついて出た。 はっと息を飲む気配がし、震えるような少女の声がする。 「----ご迷惑をおかけするつもりじゃないんです…ただ…ジョゼさんのことが心配で……」 扉の向こうで少女がどんな表情をしているか、手に取るように分かる。 きっと両手を握りしめ、今にも泣き出しそうな瞳で開かないドアを見つめているだろう。 迷惑だから帰ってくれ。そんな本音を飲み込んで、できる限りの優しい口調で言い直す。 「……怒っているわけじゃないよ。ただ、君に風邪がうつってはいけないからね。 今日はもう、寮に帰りなさい」 「はい……」 しょんぼりとした様子の返答にほっとしたのも束の間、でも、と少女の声が続けた。 「でも、ジョゼさん。どうかこれだけ受け取って下さい。体が温まるそうなんです。 お渡ししたらすぐに帰りますから----」 勘弁してくれよ。やんわりとした拒絶の言葉は少女には通じず、いささかげんなりとした気分を覚える。 体調が悪いこんな時にまで、どうしてこの少女に付き合ってやらねばならないのか。 だが彼女のいじらしい献身の元となっているのは、自分達公社の人間が施した条件付けだ。 深々と溜息を吐き、ジョゼは立ち上がった。
扉を開ければ、はたして想像した通りの表情で彼の『妹』がこちらを見上げている。 「ジョゼさん、あの、これを……」 少女は手にしたステンレス製の保温ボトルをおずおずと差し出した。 「ありがとう。それで、これは何が入っているのかな」 「ホットパンチです」 義務感で浮かべたジョゼの笑顔が、ひくりと引きつった。 「赤ワインにハチミツとレモンを入れてお湯で割ったもので、風邪に良く効くそうなんです」 「……ああ、それは体が温まりそうだね」 何故だろう。何かとんでもなく悪い予感がする。 「あの、ボトルを洗っていただくのは申し訳ないですから、どうぞ今召し上がって下さい。 飲み頃の温度に調節してあります。ちゃんと味見もしてきましたから……」 味見。 ティーカップに砂糖を5杯も入れるこの子の味見。 ----それは果てしなく恐ろしい想像をかき立てる。
「い、いや、大丈夫。ボトルを洗うくらい大した手間じゃないから、部屋でゆっくりいただくよ」 「いいえ! 私、ジョゼさんにご迷惑をおかけしたくないんです。ジョゼさんが召し上がられたら、 ボトルを持ってすぐに帰りますから----!」 ----神よ。 この子の味覚の減退は条件付けの副作用。ならば確かにそれは我々の責任なのかも知れません。 しかし神よ! 何ゆえ私に、私にばかり“このような”試練をお与えになるのでしょうか!? あいにくとこの優男を深く寵愛しているのは、神は神でも不幸の女神のようだった。 追いつめられたジョゼの悲痛な問いに答えはなく、目の前には涙にうるんだ瞳で水筒を差し出す ヘンリエッタ。もはやジョゼにはボトルを受け取る以外に道は残されていない。 「…………ありがとう」 顔で笑って心で泣いて。 覚悟を決めて飲み干したそれは、やはり予想を裏切らないものだった。 限りなく原液に近いレモン風味のワイン入りハチミツを飲み下し、優男がげほげほとむせる。 介抱しようとする少女を制してボトルを渡し、寮へ送り返したジョゼは心に誓った。 ----何がなんでも明日は仕事に復帰しよう。意地でも今夜一晩で風邪を治してやる。 こうして兄と『妹』と神の愛により、ジョゼの体調は翌日には回復したそうである。 <<だすえんで>>
80 :
CC名無したん :2009/03/16(月) 02:47:10 ID:Dj7LG0gV0
>>74 GJ!
このくそ甘い飲み物をジャンさんに供してみたらどうなるんだろ。
ボコ殴りか何も言わずに杯を置くか。
81 :
【】 :2009/03/22(日) 19:49:33 ID:XVnbqlRm0
82 :
【】 :2009/03/26(木) 22:18:44 ID:+BxThsth0
こっちでは久々の新作投下。短いですが。 トリエラとクラエスの『おんなのこの会話』。 保管庫、まだしばらく編集に参加できなさそう。すみません!
【ハーブティー】 「おなかが痛い……」 くまのぬいぐるみが並んだテーブルに突っ伏して、トリエラがぼやくようにつぶやいた。 「……生理痛?」 二段ベッドの上で園芸書を開いていた眼鏡の少女が問いかける。 「うん。ここんとこ割と順調なんだけどさ。その分、もう毎月しんどくて」 目の前のくまの鼻をつつきながら、年長組のお姉さんは眉間にしわを寄せる。 「……ふうん? 女性ホルモンの分泌が良くなると周期も安定するって言うけど、 何かあったの?」 「な、何もないわよ! なによ、その『何か』って!」 トリエラはクリスマスに担当官から贈られた新しいくまをベッドに放り投げて叫ぶ。 ああ、何かあったのはクリスマスか。わかりやすい反応よね。 そう思いながらクラエスは本を閉じ、ベッドから降りてゆく。 「……別に何でもいいけど、顔色悪いわよ。 ――ああ、今は頭に血が上っているみたいだからそうでもないけど」 「余計なお世話よ! あたたたた……痛っ!?」 下腹を押さえて再び下を向き、ついでにおでこをテーブルにぶつける。
腹部と額を押さえ涙目になっているトリエラの横を素通りして、 クラエスは本棚の片隅に置かれた小さなガラスビンを手に取った。 ティーポットにビンの中身を少量入れ、窓辺にある鉢植えの葉を3、4枚採って それもポットに加える。 電熱式の白い湯沸かしポットからお湯を注ぎ入れ、カップを二つ用意すると、 紅茶ほどには時間を置かずに中身をそちらに移した。 「……はい」 お腹を撫でなで片頬をテーブルにつけてすねくれていたトリエラの目の前に、 ティーカップが置かれた。中にはうすい黄緑色のきれいなお茶が波打っている。 「――何?」 「カモミールとペパーミントのハーブティー。昔から、お腹が痛いときに良く効くと 言われているブレンドよ」 「え――? あ、ありがとう」 驚いたように目を見開き、トリエラはクラエスに礼を言いながら体を起こす。 さわやかな香りに誘われて口を付けると、清涼感のあるミントの味が広がった。
「おいし……」 熱いお茶が咽を通り抜け、じんわりと胃の辺りが暖まる。ほうっとため息をつく トリエラにクラエスは言う。 「カモミールは発汗作用があって体が暖まるし、ペパーミントは 緊張を和らげる効果があるから、痛みが緩和されるわ。市販の薬は飲めなくても、 これ位なら飲んで良いはずよ」 「うん……。ありがと、クラエス」 お茶を飲むトリエラは、眉間の立てじわも消えてほっとした表情だ。 テーブルに向かい合って座り、もう一つのティーカップを手にとってクラエスは微笑んだ。 「……女の子は大変よね」 小さな部屋にあたたかな湯気とハーブの香気が立ち上る。日記に書くこともないような 平凡な日常風景の中、二人の少女はゆっくりと午後のお茶を楽しんだ。 << Das Ende >>
86 :
CC名無したん :2009/03/31(火) 01:49:23 ID:EkLlVgl9O
クラエスとトリエラの会話がいいね。 こういうありえそうな日常の一コマはほっとするよ。 特に今本誌が非常にせっぱ詰まっているから……。
87 :
【】 :2009/04/05(日) 22:35:02 ID:gZ1w152b0
>>86 ありがとうございますw
本誌の展開はすごいことになってますね。
とりあえず本誌は本誌でおいといて、
脳内画像はのほほんとした話を書きたいものです。
88 :
【】 :2009/04/05(日) 22:40:44 ID:gZ1w152b0
前スレに簡単な作品一覧表を書き込んできました。 四月中は保管庫の編集にはまだ参加できなさそうなので・・・
89 :
『』 :2009/04/07(火) 00:31:11 ID:+e00F0hr0
>>88 乙です〜
エロパロ板のほうもGJですねww 自分はネタが全然思い浮かばないです〜 ^ ^;
90 :
【】 :2009/04/07(火) 21:32:41 ID:V8HLO2a3O
>>89 エロパロ板も見ていただいているんですかw ありがとうございますw
遅ればせながら…自分の書くものにしてはエロ多目な話は
タイトルを【】以外でくくってありますのでご注意を^^;
91 :
CC名無したん :2009/04/09(木) 12:28:55 ID:zb/N4T/M0
保管庫の編集の際、 エロパロ板に投下したSSはどう扱ったらいいでしょうか? ジャンルに赤で(Adult)明記とかかな。 エロなしだったらいらない気もするけど。 それが決まってからエロパロ板の方に保管庫の話を振ろうかと。 あと、テキトーにテンプレっぽいようなものを…… :: タイトル :: :: 登場人物名 :: :: ジャンル :: :: 背景 :: :: 長さ :: :: シリーズ名 :: :: 作者名 ::
92 :
CC名無したん :2009/04/09(木) 12:30:02 ID:zb/N4T/M0
GUNSLINGER GIRL.‐二次創作物無断転載倉庫
ttp://tokyo.cool.ne.jp/gunslinger-girl/ の検索用語集から
<登場人物名 >
作中に登場する人物の名前。名前は通称。 その人物が、作中である程度登場している。
<背景>
設定に忠実であるか、無視しているか、逆転させているか、など、世界設定に関連するキーワード。
Crossover
クロスオーバー。 「ガンスリンガー・ガール」以外の作品に言及されていれば、
それがネタであってもクロスオーバーとしている。
別の原作のキャラクターとの競演作品、別作品の世界を舞台とする、などがある。
Cont
続編。「ガンスリンガー・ガール」完結後の世界を舞台としている。 作者がそう宣言している場合。
OC
オリジナルキャラクターが主要登場人物として活躍する。
それが他の創作作品の登場人物であれば、Crossoverに分類される。
AU
設定無視。 CrossoverやOC以外に限定される。
CrossoverやOC以外の、原作設定を無視したもの。パラレルワールド物。
細かい定義は「スラッシュでる単」が詳しい。
93 :
CC名無したん :2009/04/09(木) 12:30:56 ID:zb/N4T/M0
<長さ> 主に作品の長さによる物です。 なお、容量が微妙な場合、テキストファイルの方を基準としています。 マークアップその他(アスキーアートを<span>でマークアップする、 前後ファイルの存在、ファイル名、<address>、<meta />による著者名の複数回登場)により、 HTMLの方が誤差が大きいためです。 Snippet 掌編。テキストファイルで2.5Kbyte(HTMLで約5.5Kbyte)未満の作品がここに分類される。 2.5Kbyte以上でも、倉庫管理人の判断で掌編と見なす場合もある。 Vignette 短編。テキストファイルで2.5Kbyte(HTMLで約5.5Kbyte)以上の作品を分類している。 それ以下でも、管理人の主観で短編と見なすこともある。 Novelette 中編以上。テキストファイルで10KByte(HTMLで約15Kbyte)以上を基準としている。 WIP 未完、あるいは連載中の作品。一応の結末があるものはシリーズものでもこれには含まない。
94 :
CC名無したん :2009/04/09(木) 12:31:46 ID:zb/N4T/M0
<ジャンル> General 一般 他のジャンルに分類できない場合。 Romance 恋愛物 ポルノも含む。 Humor ユーモア、ギャグ Action アクション Suspense サスペンス 推理、ホラーも含む。 <その他> Lime 間接的な性描写。 下ネタも含む。 Lemon 直接的な性描写。 萌可 「Gunslinger Girl‐ガンスリンガー・ガール‐SS書きの控え室」にて批評、感想が可能。 投稿時のメールアドレス、あるいは名前欄に“萌可”と書かれている場合のみ。
95 :
【】 :2009/04/09(木) 15:40:34 ID:HLhNqJ5M0
エロパロ板にミミと鳥昼組の話(
>>89 )と鳥昼の花見話を投下してきました。
内容的にはさくら板かなと思ったけど、一応出来上がってる設定なので。
どちらもエロなしです。テンプレっぽいのを使うとこんな感じ?
:: タイトル :: 【大脱走】
:: 登場人物名 :: ミミ、トリエラ、ヒルシャー
:: ジャンル :: Humor、Romance
:: 背景 ::
:: 長さ :: Novelette
:: シリーズ名 ::
:: 作者名 :: 【】
:: タイトル :: 【春】
:: 登場人物名 :: ヒルシャー、トリエラ
:: ジャンル :: Romance
:: 背景 ::
:: 長さ :: Novelette
:: シリーズ名 ::
:: 作者名 :: 【】
96 :
CC名無したん :2009/04/19(日) 18:35:11 ID:fjWjnyxd0
前スレ落ちちゃったね
97 :
【】 :2009/04/19(日) 21:16:27 ID:JXXm/WQ60
よそのスレに投下したSSのこと詳しく?書くのはまずかったと反省・自粛。 テンプレっぽいのスペースがそろわん。なぜだろう。…なくてもいい?^^;; そろそろ種まきの季節なので、クラエスとビーチェのほのぼの園芸話投下w
98 :
【留守番】 :2009/04/19(日) 21:18:22 ID:JXXm/WQ60
【留守番】 「―――ベアトリーチェ、今、手は空いてる?」 眼鏡の少女に声を掛けられ、ベアトリーチェは振り返った。 「クラエス……何?」 「ハーブに水をやるの。―――手伝ってもらえない?」 「……うん」 感情の起伏の少ない栗色の髪の少女は、年上の少女に依頼されるままこくりとうなずいた。 ありがとう、助かるわ。物静かな年上の少女は静かな微笑みを浮かべて礼を言う。 先に歩き出したクラエスの後ろについて、ベアトリーチェもてくてくと歩いてゆく。 義体棟の出入り口に一番近い水道にじょうろとバケツが置いてある。 大きめのじょうろとバケツになみなみと水をくめば相当な重さになるが、 少女達は軽々とそれを持ち上げ、それぞれ両手にひとつずつ容器を持って花壇まで歩き出した。 「……昨日も、水をやっていたんじゃなかったの」 歩行の振動で水がこぼれぬように両腕を浮かせてバケツを持ちながら、 ベアトリーチェは問いかけた。 「この時期は毎日水をやらないとしおれてしまうのよ。――もちろん、植物によっては あまり水をやらない方がいい物もあるけれど。夏になれば、朝と夕方の二回 水をやるようになるわ」 「……ふうん」
99 :
【留守番】 :2009/04/19(日) 21:19:26 ID:JXXm/WQ60
中庭に作られた手作りの花壇には青々とした草花が風になびいている。 「―――水は真上からかけないで。葉の上を流れていってしまって、肝心の根本に 水が届かないから」 「…うん」 花壇にしゃがみ込み、片手で葉をよけながらそうっと植物に根に水を注ぐクラエスの様子に ベアトリーチェも見よう見まねでじょうろを傾ける。 「…あ」 どぼどぼと流れ出た水の勢いで、じょうろの注ぎ口がはずれた。反射的に手首を上に返せば、 反動でばしゃんと水が溢れる。 「………あ」 どうして良いのか分からず、じょうろを持ったまま動きが止まる。 袖口と顔からぽたぽたと滴を垂らしながら固まっている年下の少女に、 クラエスはじょうろを置いてハンカチを取り出した。 「―――ベアトリーチェ。大丈夫?」 「……うん」 「一端、じょうろを置いて。このハンカチを使ってちょうだい。―――水が多い時は 重さで勢いがつくから、気を付けて」 「…うん」 イニシャルが刺繍されたハンカチを受け取り、顔を拭く。その様子を見て、クラエスは またバケツの水をじょうろにつぎ足すと、水やりを再開した。 顔と袖を拭き、ハンカチを軽く絞ってまたベアトリーチェは動きを止める。 これは、このまま返せばいいのか、それとも洗って返すべきなんだろうか。 わからない事は確認する。教えられた基本通り、彼女は年上の少女に問いかける。 「……クラエス。これは、そのまま返すの。それとも、洗って返すの」 「そのままでいいわ。―――こちらへちょうだい」 「……ん」 ハンカチを返し、また作業に戻る。今度は水流に注意して注ぐ。
100 :
【留守番】 :2009/04/19(日) 21:20:27 ID:JXXm/WQ60
ぬれた土の匂いとハーブの香りが入り混じって少女の鼻孔をくすぐった。 嗅覚を強化された少女はそれが習い性のように、くんくんと匂いをかぐ。 「―――いい匂いでしょう」 クラエスの言葉に、無言でこくりとうなずく。 「それはレモングラス。―――気分をリラックスさせる効果があるの」 「……これも、毎日水をやらないと、枯れるの?」 「今はまだ大丈夫だけど、夏は――そうね」 「……それじゃあ、仕事で何日もいなくなる私には、育てられないね」 ベアトリーチェの言葉に、クラエスは眼鏡の奥にほんの少し意外そうな表情を浮かべた。 「育てたいの―――?」 「………さあ」 ほとんど感情の起伏を持たない少女は、ハーブを見つめたまま首を傾げる。 育てたい、と明確に希望するほど強い感情ではないのだろうが、普段の彼女からすれば ちらりとでも興味を持ったと言うだけでも珍しい反応だ。 だから、クラエスもそんな提案をする気になった。 「――――あなたがいない間、私が水をやることはできるわよ。ベアトリーチェ」 振り返った少女にクラエスが微笑む。 「……え?」 「私はあなた達と違って、公社の外に出ることはないから。 ―――留守番なら、するわよ」 ベアトリーチェは年上の少女を見上げてしばしその目を見つめると、 やがて、こっくりとうなずいた。 「…………うん。育ててみる」 「――そう。じゃあ、植木鉢を持ってくるわ。植え替えて、あなたの部屋に置きましょう」 「…うん」 そこで待っていてね。そう声を掛けてクラエスは自室へ向かった。 年上の少女の姿が寮の建物に消えるまで見送ると、 少女はまた香草の前にしゃがみ込み、くん、と爽やかな香りを吸い込んだ。 << Das Ende >>
101 :
『』 :2009/04/23(木) 23:28:49 ID:0auwnbsm0
久々に投下させていただきます。 以前も書いた3年目のナタレのナポリの別バージョンです。
102 :
『』 :2009/04/23(木) 23:29:44 ID:0auwnbsm0
見上げる先は白い天井。 もう何ヶ月になるだろうか・・・。 症状のひどくなってきた私は、義体棟から技術棟の病室へと移された。 現場に出ることも、もうない。 もはや私に残された時間が少ないことは、自分でも分かっている。 ただこうして白い天井を見上げながら過ごすしかないのか・・・。 窓の外に目をやると、白いものがチラチラとし始めていた。 今年のナタレは寒いのだろうか・・・。 時計を見る。そろそろあの人がやって来てくれる時刻だ。 彼は毎日、日課のように私を見舞いに来てくれる。 いかにも几帳面な彼らしく、ほぼ同じ時刻に(クスッ)。
103 :
『』 :2009/04/23(木) 23:30:43 ID:0auwnbsm0
「やあ、トリエラ、調子はどうだい?」 「まあまあ、ですかね?」 決まって私はそう答える。 彼も私がどう答えるのかを分かっているだろうが、生真面目な彼なりの気遣いなのだろう。 去年のナタレ以前の私であれば、そんな彼を煩わしく感じたであろうが、 今の私には、そんな愚直なまでの彼の気遣いも嬉しく感じる。 「何か欲しいものとか、して欲しいこととかないか?」 彼からのプレゼントたちは、私と一緒にこの病室に"お引っ越し"してきている。 欲しいものといっても特に・・・・・・、!! 「あの、ひとつお願いしてもいいですか? 無理ならばいいんですけど・・・。 去年ナポリで、"来年もここに来ているかも"って言ってたの、覚えてますか?」
104 :
『』 :2009/04/23(木) 23:31:45 ID:0auwnbsm0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1年ぶりのナポリにやって来た。 彼はかなり技術部に交渉してくれたらしい。最後にはベリサリオ先生も折れてくれたようだ。 任務でしか来たことのなかったナポリの街を観光で見て回る。 去年はここで、一昨年はここで・・・。 もはや覚えていることのほうが少ない私ではあったが、いくつかの記憶が甦ってくる。 夜、ホテルへ入る。 私の希望で、去年と同じホテル、同じ部屋を彼は取ってくれた。 パネットーネの甘さももう分からないし、 ほかのことは忘れていることがたくさんあるが、・・・ここだけは忘れない。決して。 私が、自分の、彼への本当の気持ちをハッキリと認識した場所。
105 :
『』 :2009/04/23(木) 23:32:43 ID:0auwnbsm0
しかしその後、彼に自分の気持ちを打ち明けたことはなかった。 今も、いや今だからこそ、なおさら打ち明けることはできない。 もうすぐこの世から消えてしまうことが分かっている私の彼への気持ちを 彼が知ってしまったら、どれほど辛く思うことか・・・。 私は兄妹(フラテッロ)を演じているだけで十分です。 あなたが側にいてくれるのだから。 私の最後のわがままです。 最期まで私を見ていてくださいね、ヒルシャーさん──────── << Das Ende >>
106 :
『』 :2009/04/23(木) 23:33:43 ID:0auwnbsm0
↑タイトルを入れ忘れてました ^_^; 『ナポリ』ですww
107 :
CC名無したん :2009/04/25(土) 14:19:15 ID:FxY+H7foO
GJ! 儚げな感じが良かったです。
108 :
【】 :2009/04/26(日) 17:04:30 ID:tgFpSTuVO
GJ! せつないですね ヒルシャーがトリエラの想いに気付くことはないんだろうなTT
109 :
『』 :2009/04/26(日) 23:24:13 ID:uFwxyy8a0
久々の拙作を、どもm(_ _)mです。
>>98-
>>100 遅ればせながら、穏やかな感じでいいですね。
でも本編のほうではベアトリーチェは・・・(; _ ;)
(今月号、というか先月号は買ってないし見てないのですが、本スレのほうから状況は)
クラエスも取り上げてみたいと思うのですが、なかなか扱い方が思い浮かばないんですよねえ。
110 :
【】 :2009/04/29(水) 19:45:09 ID:MbY0c2dEO
>>109 レスありがとうございましたw
>クラエスの扱い
冷静なツッコミ? あんまり主観を交えない客観的視点とかかなあ。
“どうでしょう、解説のクラエスさん”的なw 誰が振るんだろう。リコか?^^;
111 :
【】 :2009/05/03(日) 22:47:09 ID:bCDlVFWBO
エロパロ板にジョゼさんのヤンデレ話を投下してきました〜。
ふと思ったんだけど、義体達でポーカーやったら やっぱりクラエスが一番のポーカーフェイスなんだろうか
いや、ビーチェだろう。
そっかビーチェかw ペトラは喜怒哀楽はっきりしてるからカモられそうだなあ;;;
意外な伏兵 どのカードが来てもうれしそうなリコ
117 :
【】 :2009/05/13(水) 15:38:06 ID:wqv+e0uTO
ようやくwikiのID取得できたのでやってみたんですが なんか変な罫線が入るのは何故??? 破線(----)は字消し線(%% %%)に設定し直したんだけどなあ。 書き方ガイド見たけど原因が分からないTT
118 :
【】 :2009/05/22(金) 00:48:06 ID:H7QA6CnBO
小話投下。 子供が歌ってると可愛いんだけど、 オトナが歌ってるとシャレにならん^^;;;
119 :
【】 :2009/05/22(金) 00:49:07 ID:H7QA6CnBO
【禁句】 リコ「ポ〜〇ョポ〜〇ョポ〇ョ おなかポニョ〜〜♪ メタボの国ーからやぁってきた♪ ポ〜〇ョポ〜〇ョポ〇ョ ふくらんだ〜 まんまーるおなかのっ 女の〜子っ♪」 プリシッラ「…オリガ、デザートあげる」 オリガ「いらないよ。フェッロにやんな」 フェッロ 「遠慮するわ」 アマデオ「なんで女ってのは、ああも太るのを気にするかね」 ジョルジョ 「今更ダイエットしたって変わんねえだろうによ」 プリシッラ フェッロ オリガ「―――ジョルジョ、ちょっとこっちに来な」 その日公社の病棟には、多数の打撲傷を負った課員が一名担ぎ込まれたそうである。 <<だすえんで>>
残ったデザートはビーチェが美味しくいただきました。
やるなビーチェw
122 :
【】 :2009/05/29(金) 00:10:08 ID:Kp8oo83g0
古いビデオを見てたらなつかしいCMが色々あったw そんなわけで一期生で小ネタ。この歌覚えてる人いるかなあ?
123 :
【ロバの耳】 :2009/05/29(金) 00:13:26 ID:Kp8oo83g0
【ロバの耳】 トリエラ「クラエス、この鉢植え何?」 クラエス「アロエよ。サボテンの一種。ちょっと実験をしてみようと思ったの」 トリエラ「実験?」 クラエス「そう。サボテンは人の感情がわかると言うでしょう?」 トリエラ「ああ、植物はマイナスの感情を浴び続けると枯れるとかいうやつ? でもあんなの、ニセ科学ってやつでしょ」 クラエス「だから嘘か本当か試してみるのよ。皆も協力してちょうだい」 トリエラ「協力ぅ〜?」 クラエス「要は他人に言いにくい悩みとか愚痴をアロエに向かって言えば いいのよ。ストレス解消にもなるんだからいいでしょ。 それ用の歌もあるから、よろしくね」 トリエラ「はいはい。じゃあ皆に伝えておくか」
124 :
【ロバの耳】 :2009/05/29(金) 00:15:36 ID:Kp8oo83g0
『エッタの場合』 エッタ 「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ 命令違反して暴れちゃったの〜〜 …クスン 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 『トリエラの場合』 トリエラ「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけどっ♪ 聞いてアロエリーナ ま〜たヒルシャーと喧嘩しちゃったの〜〜 …ハァ。 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 『リコの場合』 リコ 「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだっけど♪ 聞いてアロエリーナ 今日もジャンさんに〜殴られたの〜〜 テヘッ 聞いてくれてあっりがと アロエリーナ♪」
125 :
【ロバの耳】 :2009/05/29(金) 00:17:35 ID:Kp8oo83g0
『アンジェリカの場合』 アンジェ「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ ………なんだったっけ アレ? 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 『クラエスの場合』 クラエス「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ ―――やっぱり、やめておくわ …クスッ 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」
126 :
【ロバの耳】 :2009/05/29(金) 00:18:42 ID:Kp8oo83g0
『ベアトリーチェの場合』 ビーチェ「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ ジョルジョさんって体臭がキツイの〜〜 ……… 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 『キアーラ&シルヴィアの場合』 キアーラ/シルヴィ「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ 私たちって出番がないの〜〜 シクシク… 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」
127 :
【ロバの耳】 :2009/05/29(金) 00:20:16 ID:Kp8oo83g0
『エルザの場合』 エルザ 「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ いっそラウーロさんと心中しようと思うの…… …チャキッ 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 結局、アロエが枯れてしまったのが実験の結果なのか、 ヒルシャーが蹴つまずいて鉢を倒したせいだったのかは、 謎のままだったそうである。 << だすえんで >>
128 :
CC名無したん :2009/05/29(金) 10:55:23 ID:tZdHzsmIO
ヒルシャーww GJですw 二期生も見てみたいですw
【ロバの耳】おまけ トリエラ「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだけど♪ 聞いてアロエリーナ ぬいぐるみも可愛いかなって思っちゃったの〜〜 …コホン 聞いてくれてありがと アロエリーナ♪」 ヒルシャ「トリエラ?何を歌ってるんだ?」 トリエラ「!? なんでもありません!失礼しますっっ」 ヒルシャ「! 何でいきなり逃げるんだ??? トリエラ、待ちなさ―――」 ガッッ!! ビーチェ「……クラエス、アロエの鉢が倒れてる」 クラエス「―――実験は失敗ね」
>>128 どうもですw 二期生はぺトラしか分からないなあ^^;;
こんなかんじ?
【ロバの耳】おまけ2
『ぺトラの場合』
ぺトラ 「聞いてアロエリーナ、ちょっと言いにくいんだっけど♪
聞いてアロエリーナ
今日の犯人も〜事後確認だったの〜〜
アハハ…
聞いてくれてあっりがと アロエリーナ♪」
132 :
MAD作者 :2009/06/06(土) 02:58:23 ID:ApzcE11Y0
>>131 ありがとうございます。_(_ _)_
ヘンリエッタが雨空から束の間の青空を見上げるシーンで「!!」と来てネタを暖めて
いましたんで環境が揃ってやっと実現したと言うところです。
ヘリからライフルぶっばなすジャンさんを幻視した
134 :
『』 :2009/06/15(月) 23:19:00 ID:Ld/loUAO0
久々に保守がてらに投下させていただきます。 大王は最近は買っていないので話の流れは正確には分かりませんが、本スレのほうで出てる話を元に。
135 :
『幻影』 :2009/06/15(月) 23:20:03 ID:Ld/loUAO0
男は病室で目を覚ました。 「ここは・・・」 何があったのかを思い出そうと自問自答する。 「そうだ、あの時・・・」 「目を覚ましたな、ジョゼ」 「兄さん、俺はどれくらい意識を失っていたんだ?」 自分が何をしていたか思い出したジョゼはジャンに尋ねた。 「丸二日は経ってるな」 「そうか・・・。作戦はどうなった?、ヤツは・・・」 「もともと鐘楼には居なかったようだ。俺たちはまんまと一杯喰わされたってことだ」 吐き捨てるようにジャンは答えた。
136 :
『幻影』 :2009/06/15(月) 23:20:45 ID:Ld/loUAO0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− しばらくして今度は少女が病室に姿を現した。 目に涙を浮かべながら嬉しそうな顔をしている。 ジョゼがとてもよく知っている少女だ。 「ジョゼさん!、とても心配しました。もう大丈夫なんですか?」 「エンリカ!、来てくれたのか。大丈夫だよ」 「?、ジョゼさん、私はあの・・・」 「ハープの練習はちゃんとやっているかい?」 その後もジョゼは少女に「エンリカ」と呼びかけながら話を続けた。 (ジョゼさん、まだ調子が悪いのかしら・・・) しかし、翌日もまたその翌日も、見舞いにやってきた少女にジョゼは「エンリカ」と 語り続けた。 少女はジャンにそのことを報告した。 「そうか・・・」とだけ答えるとジャンは暗い顔をしながらドクターのところへと 向かっていった。 (エンリカっていったい誰なんだろう・・・?) 少女の頭の中にはその疑問だけが残った。
137 :
『幻影』 :2009/06/15(月) 23:22:20 ID:Ld/loUAO0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 義体棟へ戻る途中、たまたま作戦二課員に出会った少女は思いきって聞いてみることにした。 「あの、ジョルジョさん、ちょっといいですか?」 「どうした、ヘンリエッタ?」 「ジョゼさんの周りの人で、エンリカっていう人、知ってますか?」 「?・・・!、そういえばクローチェ事件で亡くなった妹がそんな名前だったような」 「ジョゼさんの妹さんですか?、亡くなってるんですか?」 「ああ、聞いた話じゃその妹に随分と溺愛されてたようで、あの優男のジョゼさんも まんざらではなかったとか」 「・・・」 「そういやヘンリエッタ、お前の名前もそのエンリカから取ったんじゃ・・・、! いや、すまない、なんでもない(しまった、余計なことを喋っちまったかな)」
138 :
『幻影』 :2009/06/15(月) 23:23:24 ID:Ld/loUAO0
(私がどれだけジョゼさんのことを想っても、ジョゼさんは私を見てくれていなかったんだ。 ジョゼさんが見ていたのは、私ではなく妹のエンリカさん・・・) (ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ) (ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ) (ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ) (ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ) (ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ) ・ ・ ・ ジョゼの病室に二発の銃声が響いたのは、その翌日のことであった。 << FIN >>
>>134 乙。
これはまさかのエルザエンドなのだろうか?
140 :
『』 :2009/06/16(火) 21:43:01 ID:ULTyemr60
レス、どもです。 エルザのエピソードでは、エッタは「実演」してましたからねえ。場合によってはこんな結末もありそうかな、と。
| \ _ / _ (m) _ 目 ピコーン / `′ \ __ .r'´::::;、::::`ヽ, i:;:::/,) ヽ\::i l:i::iで) で)i:l そうだ、いもうとになろう! ';l::l、""ヮ ツil
「かみなりがこわくてねむれないの」作戦だな
11刊の表紙ってビーチェなのかな? あと二週間か。楽しみだw
>>145 なぜか、ジャンとリコらしいよ。(今月号の大王に載ってるらしい)
可哀想なビーチェ・・・・・・
なぜにジャンリコ???出番ほとんど無さげやん;;; ビーチェあんなに頑張ったのに…TT
148 :
【】 :2009/07/17(金) 23:58:07 ID:eRMwVYOj0
久々に鳥昼親子ップル話を投下します。お猿のノミとり。 お父さん、苦労が多いから……。
149 :
【】 :2009/07/17(金) 23:59:49 ID:eRMwVYOj0
【観察】 「トリエラ、そこの資料を取ってくれ」 「はい」 ホテルの備え付けのデスクに座り調査資料を確認している担当官に声をかけられ、 トリエラはサイドテーブルに置かれていたファイルを取り上げた。 「どうぞ」 「ああ、ありがとう」 少女に礼を言いヒルシャーはファイルを受け取る。 しかつめらしい顔でページを開く担当官の背後に立ったトリエラは、何の気なしに 腰掛けた長身のドイツ人の後姿を見やった。すると普段は下から見上げている ばかりで目にすることがない担当官の頭頂部を、ちょうど見下ろす形になる。 ちょっとした好奇心で暗褐色の髪の分け目だのつむじの向きだのを観察していた 少女だったが、ふとあるものが目に止まり、あ、と小さく声を上げた。男が いぶかしげに振り返る。 「どうした?」 「ヒルシャーさん、白髪がありますよ」 「え? まさか。いくらなんでも、まだそんな歳じゃないぞ」 「ほら、ここに一本だけ」 髪をひと房つまみ上げた少女に、三十路に入った男は動揺しつつも懐疑的な 言葉を口にする。 「見間違いじゃないのか」 「本当ですよ。ほら」 選り分けた髪の一本を、少女は遠慮なくぷつんと抜き取る。 「痛っ?!」 「あ、すみません。でもほら、白髪でしょう?」 傷付きやすい男心に容赦のない現実を提示する少女に、担当官はいささか うらめしげな視線を向ける。 「……色々と心労が多いせいだよ」 「苦労性ですからね、ヒルシャーさんは。ストレスは溜め込むと健康に悪いですよ」 男の一番の心労の素はしゃあしゃあとそんなことを言ってのける。
150 :
【】 :2009/07/18(土) 00:01:19 ID:1xJV6KzQ0
「ヒルシャーさんは髪の色が濃いから、目立ちますよね。ジャンさんみたいな ブロンドだったらあっても分からないんでしょうけど。――あるのかな?」 「……それは、絶対に本人の前で口にするんじゃないぞ」 「男性でも気になるものなんですか?」 「それは当然、気になるさ。微妙な年齢なんだから」 「へえ」 やや不機嫌そうな男の様子を知ってか知らずか、少女は興味深々で担当官の 頭を覗き込み、他にはもうありませんかね?などと言いながら、また暗褐色の髪を かき分け始めた。さわさわと軽やかな音がする。 子供みたいな事をするんじゃないと制止するつもりだったヒルシャーだったが、 存外、頭皮にかかる軽い刺激が心地よい。なんとなく声をかけ損ね、顔の向きを 正面に戻すとデスクの前に備え付けられた鏡が目に入る。 鏡の中では、少女がなにやら楽しそうに自分の髪をいじっていた。猿のノミとりの ようだなあと思いつつ、このスキンシップ方法が動物の社会で果たす役割をつらつらと 思い出す。確かにこの心地よさなら、安心感や連帯感をもたらすコミュニケーション 手段になりうるだろう。 やはり人間も動物の内なのだなと妙に納得し、男は少女に見咎められぬように そっと微笑した。 << Das Ende >>
>>148 あと十年……いや五年か?それくらいたって
これをやったら
「止めて、ヒルシャーさんハゲになっちゃう!」
になるだろうと思った三十路の自分。
GJ!面白かったよ。
鳥「なんだかんだ言って気持ちよさそうにしてたよ。」 蔵「ふーん、私がしてあげたら『残り少ないんだぞ!』って怒られたけど。」 鳥「え?誰に?」 蔵「あれ?誰にだったかしら?」
153 :
【】 :2009/07/21(火) 19:55:24 ID:+OT8NaKpO
クラエスww確かにラバロさんは危険だw レスどうもですw あと5年たったら白髪抜きじゃなくて 白髪染めがスキンシップになるのかなと思った三十路の自分。
ワロタ
11巻購入。ごめんジャンさん、出番いっぱいあったんだね。
保管庫のテストページに投下順の作品一覧を貼ってきました。 作品名から各作品ページに飛べるようにしてあります。
162 :
【】 :2009/08/05(水) 13:40:55 ID:PzSrM/up0
保管庫に、前スレ投下の転載作品と拙作を保管してきました。 直接投下された作品はまだ保管していません。 作者の方が修正等されてからご自分で保管されるかもと思いましたので。 (*無題(クロテッドクリーム)のみ勝手ながら保管させていただきました。 保管しちゃってから↑に気付いた…スミマセン;;;) 一ヶ月位したらこちらも順次保管させていただくつもりですので、 「修正するから待って!」「かまわないから保管しちゃってw」等々 ございましたらおっしゃってくださいw 未保管作品名一覧(投下順) 作戦で出張(お泊まりの夜) 無題(別に私は) 夢と涙 がんすりんがーじょーく 『野菜型の宇宙人が攻めてくる』 『天使のほほえみ、疫病神の苦悩』 『ヴェルキンはダルマにあらず』 お休みの○○ □□□3つの連載シリーズ 萌死小劇場 ■■■ −−「熊巴」−− 【喪失】 【新たな日々】 『感情』 『口づけ』 『口づけ<ヒルシャー視点>』 『言葉』 『抱擁』
>>161-162 乙です。
夢と涙
がんすりんがーじょーく
『野菜型の宇宙人が攻めてくる』
『天使のほほえみ、疫病神の苦悩』
以上の作者ですが、どうぞ保管しちゃってください。
164 :
【】 :2009/08/06(木) 23:38:34 ID:qJakTOj+0
>>163 了解です。作者名は“CC名無したん”のままでよろしいですか?
それとも“229”(夢と涙 投下時ナンバー)にしましょうか?
165 :
【】 :2009/08/06(木) 23:41:27 ID:qJakTOj+0
仕事がちょっと楽になったので、編集のお手伝いでできることがあれば。 とりあえず先日テストページに「作品名一覧」を貼ったのですが、 あの内容でよろしければ、そのまま「目次」のページを作成しようかと。 何か追加した方が良い項目はありますか? タイトル//登場キャラ //作者名//シリーズ名//投稿日 現在記入してある内容は↑これだけです。 (入れようかどうしようか迷うのがジャンル分け) 一応テンプレとして各作品前にも貼ってありますが 無い方がいいのかな?
166 :
【】 :2009/08/06(木) 23:43:45 ID:qJakTOj+0
あ、そうだ。それと、 誤って作成してしまったページの削除はどうすればいいでしょうか? 以下二つのページはダブらせてしまったので削除したいのですが。 タイトル【アガペー】 無題 (二期最終話)
>>164-166 投下時ナンバーでよろしくお願いします。
実は自分、wikiの管理人だったりします。
上の二つのSSは削除しておきました。
あと権限を編集しておきましたので
多分これからは間違った場合ページをご自身でも削除できるはずです。
削除するのは右上の「設定」→「ページの設定/削除」からです。
これからもよろしくお願いいたします。
168 :
【】 :2009/08/07(金) 23:13:31 ID:wDfRX2g50
>>167 >>163 保管しました。
229氏の作品は大好きなので読み返してニマニマしてましたw
>削除
ありがとうございました。wikiの立ち上げと管理、感謝ですw
いろいろと勝手が分からないのでご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、
やばそうな事がありましたら削除注意等ご指導よろしくお願いいたします。
あと、ついでに掲載作品一覧ページをつくってみました。
前スレ投下作品と、『第二分室』分を分けてありますが、
一緒にした方が見やすいようなら修正します。
169 :
『』 :2009/08/08(土) 00:24:34 ID:/R9UGIWK0
>>161-162 【】氏、乙です。
拙作、保管していただいてかまいませんので、よろしくお願いします m(_ _)m
170 :
【】 :2009/08/08(土) 21:07:54 ID:HHwmLD3B0
>>169 了解です。【喪失】 【新たな日々】 の2作品は、
タイトルこのままでよろしいですか?
それとも『喪失』 『新たな日々』にしましょうか?
171 :
『』 :2009/08/08(土) 21:35:56 ID:/R9UGIWK0
>>170 色々とお気遣い、すみません。これを機会に、『』に直しちゃってください。
172 :
【】 :2009/08/08(土) 23:44:07 ID:HHwmLD3B0
>>171 『喪失』
『新たな日々』
『感情』
『口づけ』
『口づけ<ヒルシャー視点>』
『言葉』
『抱擁』
以上7作品保管しましたw
『感情』のみ、『 感情 』とページ名を変えてあります。
「以前削除された同じページ名がゴミ箱に残っています。
完全に消去してください」と言うことなのですが、イマイチ
どこをどう操作したらいいのかよく分からなかったもので;;;
>>172 ゴミ箱から削除しておきました。
削除方法は右上の「設定」→投稿管理の「ごみ箱(削除したページ)」から
「完全に削除する」ボタンで削除できます。
ゴミ箱からも削除しないと同名ページは作れないみたいですね。
174 :
【】 :2009/08/12(水) 21:44:17 ID:FHDRI2Vr0
>>173 削除ありがとうございます。今度自分でもやってみます。
8年振りにまともなお盆休みが取れたのでこの休みの間に
なんとか保管作業をやっつけてしまおうかとw
今日wikiのメンテナンスがあってまた形式が変わったので
ちょっとパニクってますが^^;;
175 :
【】 :2009/08/12(水) 23:44:37 ID:FHDRI2Vr0
第2分室投稿分のSS(2009.08.12.現在)全て保管終了です。 未保管作品は以下の6作品のみとなります。 作戦で出張(お泊まりの夜) 無題(別に私は) 『ヴェルキンはダルマにあらず』 お休みの○○ □□□3つの連載シリーズ 萌死小劇場 ■■■ −−「熊巴」−− 【モデル・後日談】
176 :
【】 :2009/08/12(水) 23:45:46 ID:FHDRI2Vr0
『登場キャラクター別作品名検索』ページをつくりました。 各キャラクターの名前から、キャラごとの登場している作品名一覧 に飛べるようにしてあります。…さすがに疲れた;;; 『作品名一覧 1』 『作品名一覧 2』 『登場キャラクター別作品名検索』 の三つのページはどこか分かりやすいところにリンクを作っておいた方が 楽かなあとは思うんですが、どこがいいでしょうか?
177 :
【】 :2009/08/13(木) 19:07:10 ID:4+z0I6Mo0
イタリア文化の本で『聖名祝日』なるネタもとい習慣を知る。 カソリックなイタリア人には、自分のファーストネームと同じ名前の 守護聖人の日があって、もうひとつの誕生日てな位置付けになるんだそうな。 なので目に付いたのをひろってみた。脇役が多いけどw 1月 1日 聖母マリア 1月27日 聖女アンジェラ・メリチ 2月13日 聖女カタリナ・リッチ 4月23日 聖ジェルジオ 4月25日 聖マルコ 4月29日 聖カタリナ(シエナ) 5月 1日 聖ヨセフ/ジョゼフ 5月 3日 聖フィリポ 5月24日 聖マグダレナ・ソフィア・バラ 6月24日 聖ヨハネ 7月17日 聖アレクシオ 7月22日 聖マリア(マグダラ) 8月 1日 聖アルフォンソ・リゴリ 8月11日 聖キアラ 8月20日 聖ベルナルド 8月21日 聖ピオ 8月27日 聖モニカ 8月26日 聖アレッサンドロ 聖プリシラとゆー聖人もおられるそうだがよく分からなかった;;; 聖マリアンナ大学とかあるから、これも聖人の名前なんだろうけど 誕生日祝いにかこつけてケーキでも買ってくるかw …いや、なんか甘いものが食べたくてさ;;;
178 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:22:15 ID:Lw8Fh6m70
>どんなに早起きをして浜辺に繰り出しても、そこにはすでにドイツ人がいる。 >世界中のビーチで一番良い場所を占領してしまうので、その情け容赦ない >手際の良さゆえにドイツ人は悪名高い。 >場所を確保すると、ドイツ人はすぐさま砂を掘り、要塞を築き始める。 >ひどい場合には、要塞を築くために砂を最後の一粒まで使ってしまい、 >ドイツ人以外はむき出しの岩場に座る羽目になる。 実はまだOVA見てないんですが…。以前、何故にクローチェ兄弟のバカンスに ヒルシャーが同行する必要があったのかとゆー話題を2期スレで見かけたので、 こんな理由だったのではと書いてみました。夏だしw ビーチェの水着姿もあったんだよね??フラテッロが半分休み取っちゃって 大丈夫なのか、公社は。トリエラの水着姿がなかったのは…お父さんが大事に 隠させてたんだろ、きっと。日焼けした黒い肌は現代イタリア人的美の理想らしい ので、大事な娘がイタリア男にナンパされまくったら大変だもんなw
179 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:24:33 ID:Lw8Fh6m70
【バカンス】 「―――休暇、ですか?」 来週の予定を告げた担当官に、トリエラは不審げに眉をひそめた。 「そうだ。ジャンさんとジョゼさんの別荘がシチリア島にあるそうで、それに便乗して 出かける形で僕らとベルナルド・ベアトリーチェ組にも5日間の休暇が出た。 もっとも僕らは別にホテルを取るがね」 「はあ……。でもどうして一緒に出かけることに?」 「皆で車で移動した方が旅費もかからないし、君たちも親睦が深められるだろう? 残念ながらアンジェリカはまだ体調が思わしくないし、クラエスも検査がある。 キアーラとシルヴィアは任務で抜けられないため後日休暇をとることになったので、 全員で出かける訳にはいかないんだが」 「そうですか」 「それから海に行くということで水着を用意したから、良ければ使いなさい」 少女に紙製のバッグを手渡し、それじゃあ僕は仕事に戻るからと担当官は 立ち去った。おそらく彼のデスクには、休暇の前に片付けなくてはならない仕事が 山になっているのだろう。
180 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:26:00 ID:Lw8Fh6m70
ヒルシャーの後姿を見送ったトリエラはやれやれ、と中庭のベンチに腰掛けた。 紙袋を広げ中身を確認する。留守番はいつものことだとはいえ、クラエスの 目の前でそれを取り出すのは気が引けたのだ。 包み紙を開ければ、現れたのは予想通りかわいらしさとは縁遠い機能性重視の 水着である。セパレートタイプを選んだのは脱ぎ着のしやすさを考えたのだろう。 スパッツで運動するのとあまりかわらないなと思いながらそれをしまい、 寮に戻る。 相部屋のクラエスは書庫にでも行っているようで自室には誰もいなかった。 旅行に出られないルームメイトが帰ってくる前に準備を済ませてしまおうと、 トリエラはトランクを引き出し、任務で出かける時と同じように手際よく準備を始める。 先ほどの水着は早めに荷物の中に押し込んだ。 仕事の準備と違って銃器類を用意する必要がない分荷物には余裕がある。 考えてみれば休暇で旅行と言うのは初めてのことだ。休暇中というのは一体 何をすれば良いのだろうか。それも担当官同行のもとで。 しばし悩んだ結果、トリエラは荷物の隙間に読みかけの本を何冊か詰め込んだ。 どうせ旅行の間も担当官の座学講義を拝聴することになるのだろうから、 テキストがあった方が効率は良かろうというわけである。 あとの隙間には今回出かけない仲間へのお土産でも買って詰めてこよう。 荷作りを始めて15分で準備は完了し、トリエラはトランクを閉じる。 どうせしばらくすればヘンリエッタが嬉しそうにやってくるに違いない。そうすれば 舞い上がっているおちびさんに付き合いつつ、クラエスの気に触らない程度に 気を使ってのお茶会になるだろう。もっともそれは自分が好きでしていることなのだし、 それほど苦ではないのだが。 とりあえず一休みしてヘンリエッタを待つことにするか。 そう考えをまとめると、トリエラはひとごこちついたようにベッドへ寝転がった。
181 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:26:53 ID:Lw8Fh6m70
白い雲が茜色に染まり街に明かりがともり始める。バカンスシーズンのシチリア島は 観光地らしい華やかなにぎわいだ。 ジョゼのお勧めの店でシチリア料理に舌鼓を打ち、表へ出ればすでに辺りは暗い。 ジャン、ジョゼとそのフラッテッロを別荘へ送り届け、残り二組はホテルへ移動する。 大人と子供の二手に分かれて部屋に入り、鍵は担当官らが預かった。 子供たちに早く休めよと声をかけた大人たちは、どうやらこれから酒場へ繰り出す らしい。陽気なイタリア人に付き合わされる生真面目なドイツ人は、結局のところ 介抱と支払いを担当する羽目に陥るのではないか、とトリエラはちらりと思ったが、 プライベートな付き合い方にまで立ち入るのは自分たちフラテッロのあり方ではない ので、そのまま放っておくことにする。 自分たちにあてがわれた部屋に入り、“みんなのお姉さん”は年下の少女に話し かける。 「お料理おいしかったね、ベアトリーチェ」 「うん」 「あのお魚料理の甘い香り、なんだったんだろうね。セロリかな?」 「セロリじゃないよ。フィノッキの匂い」 「そうなんだ。さすがビーチェ」 嗅覚を強化された少女の言葉にトリエラは感心するが、感情の起伏があまりない ベアトリーチェは褒められて嬉しいといった反応はないので会話はそこでおしまいだ。 長年の付き合いでそれは承知しているからトリエラも気にせず違う話題を振る。 「荷物あけて整理しよっか」 「うん」 「水着とか持ってきた?」 「うん」 「どれ?――あ、かわいいね。ベルナルドさん、結構センス良いなあ」 二人とも任務で旅行慣れしているので荷物はさほど多くない。必要なものを 取り出すと上着などをハンガーにかけて、トランクごとクロゼットにしまう。 寝巻きに着替え、また2、3短い会話をはさみながら明日の用意をすませた 子供たちは、不健全な大人たちと違って夜更かしすることもなく早々にベッドに もぐり込み、健康的な寝息を立て始めた。
182 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:28:43 ID:Lw8Fh6m70
翌朝。トリエラが目覚めると、枕元には麦藁帽子がふたつと大き目のパーカー、 そしてメモ用紙が置かれていた。メモには生真面目な筆跡でメッセージが 書かれている。 『おはよう、トリエラ。僕は先に行って場所を確保してくる。 ジョゼさんが迎えに来てくれるはずなので、朝食後 ベアトリーチェと一緒にロビーで待っていなさい。 日差しが強いだろうから帽子と上着も忘れず持参するように。 ヒルシャー』 朝も早くからご苦労なことだ。半ばあきれながらトリエラは麦藁帽子を手にした。 天然素材の良い匂いにベアトリーチェではないが思わずくん、とその香りをかぐ。 少女らしいリボンのついたそれを選んだのは、自分とベアトリーチェのどちらの 担当官なのだろうか。 「………トリエラ?」 人の気配に目覚めた仲間を振り返り、トリエラは帽子をひらひらさせながら朝の 挨拶をする。 「おはよう、ベアトリーチェ」 「おはよう」 「朝食は七時からだよ。食べたらロビーで待ってろってさ」 わかった、とうなずいてベッドから降りた年下の少女のおかっぱ頭に、ぽんと 帽子がのせられる。 「なに?」 「麦藁帽子。これをかぶって出かけて来いって。似合うよ、ビーチェ」 学級委員長はそう言って笑うと朝食に向かうべく着替えを手に取った。
183 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:31:02 ID:Lw8Fh6m70
軽めの朝食をすませたトリエラは水着の上にハーフパンツとパーカーをはおり、 麦藁帽子を手にした姿でベアトリーチェと共に部屋を出る。 「あ、そういえばベルナルドさんは?」 「さあ。昨日は何も言われていない」 「一応部屋に寄ってみようか」 「うん」 隣の部屋の扉をノックしてみるが、返事はない。念のためチャイムを鳴らしてみるが これも反応はない。 「もう出かけちゃったのかな。朝食にもいなかったけど」 「多分、寝てるんだと思う」 「ああ……」 二日酔いの酔っ払いを部屋の外から起こそうというのは困難を極める。それなら 大人のフォローは大人にしてもらおう。 「とりあえずロビーに下りて、ジョゼさんが来たら報告しておこうか。ヒルシャーさんの メモには“ベアトリーチェと一緒に”って書いてあったから、ベルナルドさんの了解は 取れてると思うよ」 「分かった」 こくりとうなずいたベアトリーチェと共にトリエラはエレベーターに向かう。
184 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 09:41:13 ID:Lw8Fh6m70
ロビーのソファーに座って待つことしばし、リコとヘンリエッタ、そしてその担当官が 現れる。 「おはよう、トリエラ!」 「おはよう、ヘンリエッタ、リコ。――おはようございます、ジャンさん、ジョゼさん」 「ああ、おはようトリエラ」 仲間と担当官らに挨拶をすると、早速トリエラはジョゼに状況をかいつまんで説明する。 ジョゼがベルナルドの携帯に電話するが案の定応答はない。結局、先に行くので 起きたら連絡するようにメッセージを残してジョゼは通話を終えた。 「―――さて、と。じゃあ、ヒルシャーを探しに行くとしようか」 「は? どこにいるのか分かっていないんですか?」 「大体の場所は昨日の内に打ち合わせしてあるから、まあ多分すぐに見つかると思う」 「あの広い海岸で見つけ出せるものなんですか」 小々疑い深げなトリエラの言葉に優男は動じることもなく答えた。 「パラソルを預けてあるからね。―――それにドイツ人がいる場所は一目で分かる ものだよ」 ホテルのロビーで意味ありげに笑ったジョゼの言葉は、浜辺の一等地を目にして 納得がいった。 浜辺に並ぶ砂の山、山、山。 山というか要塞のようなそれが、ドイツ人の占領下である印である。 各家族でひとつずつ築かれた城には貝殻だの腐ったヒトデだのが丁寧に 貼り付けられ、てっぺんには誇らしげに城旗がひるがえる。 まだ商店も開いていないような時間であるのに、一体どこから湧いて出たのか。 過去には大量のドイツ人観光客を邪魔者扱いする発言をして危うく国際問題を 発生させかけた首相がいたそうだが、この浜辺の様子を見ればその心情も 理解できなくはない。
185 :
連投規制避け :2009/08/15(土) 09:59:55 ID:ZrRU+8ftO
sage
186 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 10:00:58 ID:Lw8Fh6m70
「ああ、多分あそこだ」 ジョゼが指差した方向には、足の踏み場も怪しいほど密集した砂山の間に 一ヶ所ぽっかりと空間があいている。ブルーシートで陣地を主張したその場所には デッキチェアとパラソルが広げられており、しかし場所を確保した人間の姿は見えない。 「行ってみよう」 砂の山をすり抜けて近づいていけばザックザックとシャベルが砂を掘り進む 小気味良い音がする。真新しい砂の要塞を覗き込んでみれば、果たしてそこには 土木作業にいそしむ見慣れたドイツ人の姿があった。 「やあ、おはようヒルシャー」 「――ああ、おはようございますジョゼさん」 流れる汗を首にかけたタオルでぬぐいながら、トリエラの担当官はにこやかに 顔を上げる。頬の辺りに砂がついているのが彼らしからぬご愛嬌だ。 「トリエラをお願いしてすみませんでした」 「いや、こっちこそ場所取りをまかせてしまって、すまなかったね」 「いいえ。どちらにしても夜明け頃には来るつもりでいましたから」 夜明け頃。そんな時間からこの人は浜辺を掘り返していたのか。軽い頭痛を 覚えつつトリエラは自分の担当官に挨拶をする。 「おはようございますヒルシャーさん」 「おはよう、トリエラ。よく眠れたか?」 「はい。…ヒルシャーさんはお休みになったんですか?ベルナルドさんはまだ 寝てらっしゃるそうですよ」 「僕は大丈夫だ。仮眠はとったから」 仮眠と言うことは1、2時間か、長くても3時間と言うことだろう。若ぶって無茶を するのは勝手だが、それで倒れたら看護するのは一体誰になると思っているの だろうか。
187 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 10:02:39 ID:Lw8Fh6m70
一応スポーツドリンクと呼ばれるような清涼飲料水の空ボトルが何本か置かれて いるところを見ると、水分補給は心がけていたようだ。夜明け頃から掘り始めたのも、 日差しが強くなる前にできるだけ作業を勧めておこうということなのだろう。 しかし万が一にも熱中症など起こされてはかなわないので、トリエラは担当官に 手伝いを申し出る。 「代わります。シャベルを貸してください」 「いいや、もうあと少しだから必要ないよ。ありがとう」 あっさりとパートナーの助勢を断って、ヒルシャーは要塞の天井部分の成形に 取り掛かる。――案外楽しそうだ。 そんな二人の横でジョゼはさっさとブルーシートを取り外し、陣地の角を荷物や デッキチェアで補強して境界線をはっきりと主張する作業に入り、ヘンリエッタと リコ、ベアトリーチェがそれを手伝う。ジャンは無言でその様子を監視しており、 支度が整ったところで悠然とデッキチェアに腰を下ろした。 手持ち無沙汰になってしまったトリエラは、ひとまず担当官の指示が出るまで 待機状態である。やむを得ず男の背後に立ち、作業の進捗具合を見守ることに する。
188 :
【バカンス】 :2009/08/15(土) 10:03:51 ID:Lw8Fh6m70
しかしそれにしても。 ハーフパンツにシャツという担当官のその服装はいかがなものか。 格闘訓練等で見かける時はまだましだが、いわゆる私服姿は見慣れない せいもあって激しく違和感がある。――つくづくスーツ姿以外が似合わない人だ。 ため息をつくトリエラにヒルシャーは振り返った。 「ああ、待たせてすまないな。これであらかた完成だ。後は飾りつけなんだが」 「飾りつけ?」 「ああ。貝殻だとかすりガラス状のビンのかけらだとか、そういったものだ。君の 好みがあるだろうから」 「……別に私は、ヒルシャーさんのお好みでかまいませんけど」 「それはだめだ。君のために作ったのだから、君の好きなもので飾らなくては」 真顔で言うヒルシャーの言葉に少女はあっけに取られる。 「だから、一緒に探しに行こう」 少し照れくさそうに、似合わない私服姿の担当官が少女を浜辺の散策に誘う。 海岸で貝殻を拾って砂山に飾るなんて、まるで子供の遊びのようだ。子供っぽい 真似をするなと自分に説教したのはどこの誰だったか。 でも、今は休暇中だから。 童心に返るというのも、この場合は許されるのかもしれない。 「――ご一緒します」 麦藁帽子をかぶりなおし、小麦色の少女は夏空の下で笑った。 << Das Eede >>
>>178 、GJ
砂の城、なぜ作るのかヒルシャーに聞いてみたいな。
なんて言うんだろうね?
191 :
【】 :2009/08/23(日) 23:11:36 ID:MBMJVwNm0
ありがとうございますw
パパヒルシャーは書いている本人もなごみます。
>>189 聞いてみましたwお父さん過保護……。
鳥「でもどうしてドイツ人って皆砂のお城を作るんですか?」
昼「自分のスペースがはっきりしていいだろう」
鳥「そんなものですかね」
昼「それに大事なものを守るには城の中に隠すに限る」
鳥「はい?」
昼「いや、その、紫外線から身を守るには日陰にいた方が良いという事だよ」
鳥「はあ…」
昼「(大事なこの子を軟派なイタリア男どもの餌食にさせてたまるか!
ええい、見るな寄るな話しかけるな!!)」
192 :
【】 :2009/09/03(木) 22:51:36 ID:nHoPDhuv0
“イタリア第二の国歌”なんてネタを仕入れたので書いてみた。 でも出てくるのはドイツ人とチュニジア人の親子ップル。
193 :
【金の翼】 :2009/09/03(木) 22:54:33 ID:nHoPDhuv0
【金の翼】 古都を歩く少女と男の歩みがスピーカーで何かを訴える声に立ち止まった。 褐色の肌の少女が利発そうな青い瞳で男に問いかける。 「デモでしょうか」 「いや。比較的穏やかな政治集会のようだな。だが巻き込まれないに越した ことはない。広場は避けていこう」 担当官の言葉に、はいと返事をして歩き出そうとしたトリエラはふと立ち止まり、 広場の方向に顔を上げた。 Va, pensiero, sull’ali dorate 行け、思いよ 金の翼に乗り Va, ti posa sui clivi, sui colli, 行って丘や小さな山に憩え ove olezzano tepide e molli そこにあたたかくやわらかく香る l`aure dolci del suolonatal ! 故郷のやさしい風が! Del Giordano le rive saluta, ヨルダンの岸辺に挨拶しておくれ di Sione le torri atterrate... シオンの打ち倒された塔にも Oh, mia patria si bella e perduta ! ああ かくも美しい失われた祖国よ Oh, membranza si cara e fatal ! ああ かくも愛しく悲しい思い出よ
194 :
【金の翼】 :2009/09/03(木) 22:57:53 ID:nHoPDhuv0
「歌……?」 広場から聞こえてくる大勢の人間の声に少女が呟く。 「ああ、“Va, pensiero, sull’ali dorate”――『行け、わが思いよ黄金の翼に乗って』だ。 ヴェルディのオペラ『ナブッコ(ネブカドネザル王)』の中の合唱曲だよ」 「ああ…確か、イタリア第二の国歌と言われている曲でしたか」 「そうだ」 記憶を巡らす少女に教官役である男はいつものように生真面目に説明する。 バビロニア軍に捕らわれたヘブライ人たちの捕囚の悲しみと希望を歌った合唱曲、 “Va, pensiero, sull’ali dorate”。 この曲は、オペラの上演当時にオーストリアの圧政下にあった北イタリアの民衆を 奮い立たせ、各地で起こり始めていた国家統一運動のシンボルソングとなった。 後年、第二次世界大戦の折にもイタリア国民の心の支えとなったという伝説の曲だ。
195 :
【金の翼】 :2009/09/03(木) 23:01:15 ID:nHoPDhuv0
Arpa d'or dei fatidici vati, 運命を語る詩人たちの竪琴よ Perce' muta dal salice pendi ? なぜ柳にかけられたまま黙すのか? Le memorie nel petto raccendi, 胸に秘めた思い出、再び燃え立たせ ci favella del tempo che fu ! 失われた日々を我らに語れ! O simile di Solima ai fati さもなくばソリマの運命に似た traggi un suono di crudo lamento, むごき悲しみの音、悲劇の詩を o t`ispiri il Signore un concento さもなくば神の妙なる響きを感ぜしめよ che ne infonda al patire virtu ! 苦しみに耐える力を呼び覚ます その妙なる響きを 「―――捕囚となり鎖につながれたヘブライ人が自由と故郷への想いを神に祈る、 象徴的な歌だよ」 そう説明を締めくくり、男は何か物を思う眼差しで広場の方を見やる。 「……何をまた考え込んでいるんですか?」 「いや」
196 :
【金の翼】 :2009/09/03(木) 23:03:25 ID:nHoPDhuv0
なんでもないよと答えた男を、少女が下から覗き込むようにして見上げた。 「――私には故郷を見せてやることができないだろうな、なんて思っていませんか」 図星を指され、男は言葉に詰まる。嘘の下手な担当官の反応に少女は言う。 「ヒルシャーさん、私には望郷の念なんてないですよ。あなたが突き止めて くださった私の故郷も、申し訳ないですが記憶のない私には実感はわきません」 覚えていたところで楽しい思い出とは限りませんしね、と言う少女の台詞に 男は表情を曇らせる。 彼女の故郷であるチュニジアは北アフリカでは比較的豊かな国ではあるが、 無論貧困層も存在する。少女が人身売買組織に捕らわれていたのも、実の親の 手で人買いに売られた故である可能性とてあるのだ。洗脳によって彼女の過去の 記憶が失われたのは、あるいはむしろ神の恩寵なのかもしれない。 だが男の中にはいつも苦い思いがある。死に瀕していた彼女を救いたい一心で 自分がとった行動が、結果として彼女を暗殺要員として公社に縛り付けることと なったのは事実だ。あの時自分が公社を訪れず、他の方法を見つけ出していた ならば、彼女の人生はもっと違ったものになっていたはずだ。
197 :
【金の翼】 :2009/09/03(木) 23:04:38 ID:nHoPDhuv0
沈黙する男に少女はちょっとため息をついた。 「ヒルシャーさん。私は確かに故郷の記憶はありませんけれど、思い入れのある ものや心の支えになるものは、ちゃんとあるんですよ。仲間や、あなたと過ごして きた日々が」 だから、と言葉を切って、少女は少し早口で続きをつぶやいた。 あなたがいる風景が、私にとっては故郷みたいなものですよね。 あっけにとられたような男の視線をかわして少女はくるんと後ろを向いた。 金の髪を結い上げたうなじはかすかに赤い。 ああ、まったく。 男は苦笑する。この子にはいつも驚かされる。 過酷な運命の中で、それでもこの子は常に現実を見つめて生きている。 埒もなく過去を振り返る自分となんという違いだろう。苦しみ、悩みながらも 前に進む勇気を、この子は持っているのだ。 行きましょう、と言って歩き出した少女の背中には、金のふたつ髪が羽のように ひらひらと揺れている。その様を見つめる男の顔には穏やかな表情が浮かんでいた。 che ne infonda al patire virtu ! 苦しみに耐える力を呼び覚ませ al patire virtu ! 苦しみに耐える勇気を―――。 << Das Ende >>
GJ! トリエラの表情がいいですなぁ〜
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 コラボ劇場 ■■■ −−「名前・・・それは命」−− コートの裾を翻し夜の闇と光に紛れ1人の男が歩く。 恐らく同年代の男が被れば哀れな禿隠しとしか思えないようなキザな帽子も、 その男が被ると、まるで彼が被るために神が仕立て誂えた・・・。 そんな言葉すら似合ってくる。 男は道を急いでいた。 懐の鉤刃のナイフは、しなやかに伸びる猫科の獣が手先に隠す爪のように 何時でも擦れ違う全ての人を瞬時に討てるように狙っていた。 事実、ここ数日の内に、そのナイフは数名の者達の肉体を切り咲いていた。 しかしその初老の男は気配にもそれを見せないのだ。 驚くことに男は辿り付くには茨の道であろう偽名で予約した機上に、美酒と、 それに相応した酒肴を用意させているのだった。 最上か・・・死か・・・追いつめられる程、男の野生は狂気と力を増幅させていった。 故に男は、美しい黒髪が意味する高貴さと手にした超高級ブランドのポーチと いう組み合わせで、この時間に街を歩く少女の不自然さには危険な違和感を 感じずには居られなかった。 また彼はその愚かな選択を許せなかったのである。 「失礼を申し上げるが・・・」 男は少女との間に距離をおいて語り掛けた。 「何でしょう?」 帰ってきたその声は正に彼の理想を擽るような品のあるものであった。 「今は高貴な御嬢さんが歩く時間ではない。またそのポーチは君には似合わない。」 そう言われた少女はキョトンとして足を止めた。 「まるで君がポーチに手綱を取られている様は全く正視に耐えない。人はモノに 従わされる存在ではない。」 そう言われた少女はポーチを両手で胸元にとって持ち、しげしげと見つめた。
「そのポーチの製造元である鞄屋は元々は馬具屋だ。まだ自由の元にあるべき 可愛らしい子馬に、この時間に"馬具"を着け引き回してるのは何者かね?。」 男に視線を返した黒髪の少女の目は澄んでいた。 余りの透明さに男は視線を少し逸らした。 「そんな馬鹿者とは早く手を切るんだな。もしそのポーチを欲しい故に今を出歩いて いたならば。では。」 帽子の鍔に軽く触れ、一瞥した彼が彼が一歩を踏み出そうとした瞬間だった。 「貴方は多分、そう仰ると聞いていました。」 視線を上げた男は"やはりね"とは思っていた。 「動かないでください・・・」 だが百戦錬磨の殺人鬼の男でも少女がグロックのG18をポーチから出した事には 驚きを隠せなかった。 「随分と酷いパーティジョークだ。撃てるのかな?」 「ご心配なく。フルオートの実射訓練済みです。」 そう言いながら少女は摺り足で素早く後退しナイフのアウトレンジに移動しG18を 持つ腕を街灯の柱に押しつけた。 「君は・・・べーカー街から来たのか?学芸会よろしくの探偵ゴッコなら止めることだな」 男の冗談を意にもせず、少女はインカムの無線式の通話装置を取り出す。 「答えは外れです。もう一度言います・・・動かないでください。もしあの女性と生きて 再び会いたいなら。」 少女はヘッドセットを耳に入れスイッチをonにした。 「ラバロさん・・・聞こえますか!クラエスです。大尉!クラエスです!・・・彼を追い つめました。」 その会話を聞いた男の不敵な眼差しが急に緩んだ事にクラエスは気が付かなかった。 「はい・・・はい・・・急いでください・・・」
男の余裕すら見せる口元が更に緩るんだ。 「ハハハ・・・これはこれは。降参だ、お嬢さん。」 懐かしさや安心すら覚える笑い声だった。 低く優しい・・・それはクラエスにとっては全てを受け止め、抱きしめてくれる存在の 穏やかさを思わせた。 懐かしい・・・それが何であるのか判らないけど・・・故にクラエスの心は怯えた。 この人は・・・何故こうまで優しく笑うのか? それは未だに逃げきれる手段を持つ余裕なのか・・・。 「これはまた柔らかそうな喉元だ・・・実に素晴らしい。」 その言葉がクラエスを現実に引き戻した。 「誉めても・・・何も有りませんよ。私は油断しない。」 「・・・ほう、君はますます私が愛する彼女に似ている。」 「表音違いとはいえ彼女は彼女、私は『クラエス』です。彼女の容貌は存じませんが、 年齢差があるだろう彼女と私が似ていると思うのは貴方の浅い願望です。」 「だが柔らかい喉元は似ている。実に素晴らしい。」 そう言いながら彼は、慈愛に似ながら悪辣で狡猾さに溢れた魔物のような眼差しを向けた。 彼の視線は、すぅぅぅっと音でも立つようにクラエスの耳の下から鎖骨の辺りまでの 柔らかなカーブを描いている首筋を、皿に付いた極上のソースを十分に拭い絡ませて 賞味するがごとくかすめていった。正に最高の主菜との出会いを喜び満足したかのように。 「是非、君の喉元を切り開いて新鮮な唾液腺をリ・ド・ヴォーのレシピで味わってみたい。 未だ乳臭さの抜けない君ならば、多分美味しい・・・」 クラエスはプルルっと震えた。それは小用をした後に出るそれと似ていた。 「何人の女性に・・・そう言ってきたんですか?」 「いいや。君のような可愛らしい娘に銃口を向けられたのは初めてだ。故に食べたい などと魔が差したのも初めてだな。あの愚者の気持ちを少し理解したよ。」 この、はしたない震えを決して止められないように、彼もまた同じくヌラヌラと 血の匂いが香る様を愛でる喜びを止められないのだろう・・・クラエスは恐怖した。 あまりにも神々しく洗練された狂気・・・。 「私には・・・余り味わうところなんて・・・有りませんよ。」
「ほぉ・・・何故?君のような柔らかそうな子羊は食べられないところなど何一つ 無いと私は思うがね・・・。」 「理由は後で教えましょう。 ハンニバル・レクター医学博士。」 そういうクラエスにハンニバル・レクターは益々の驚きと尊敬ともいえる 眼差しを向けた。 「これはこれは。G18のフルオート射撃と共に適切な敬称の教育まで受けて いるとは。驚きだな。」 「・・・お褒めを戴き感謝します。語学や文学、詩歌まで教わってます。何処かの 貧国の幼年兵とは違いますよ。」 「ふぅ・・・これはとんだ御嬢様学校があったものだ。」 目を伏せ首を左右に振るとレクターは笑った。 「後は乗馬とダンスとスカッシュ、そして寮での宿題は貞操を守り慰めあう 娘同士の夜伽かね?同年代の同性の唇の筆舌しがたい柔らかさは満喫できたかな?」 レクターはクラエスと当年代の少年のような悪戯心に溢れた眼差しを返した・・・ 故にそう言われたクラエスは同年代の少年に帰す軽蔑の様な嫌悪感を浮かべ、ムッと した声で言い返した。 「余計な詮索ご苦労様ですレクター医学博士!我が校は残念でしょうが実に健全で、 今来る先生には、先日、読書でですが野菜作りを教えていただきました!」 「ほう『先生』に『我が校』かね。ところで・・・」 首を傾げてレクターは笑いながら話を続けた。 「イタリアに高等な教育とG18のような奇特な銃の訓練までする・・・そんな 『学校』があると聞いてるぞ。」 クラエスは思わず唾を飲み黙り込んだ。
「カルト的洗脳を解除する手法と薬品の開発の課程で『条件付け』なる言換の元、 実質『記憶の書換』の人体実験を行っているという『悪い噂話』が精神医学会である ・・・確か『ナントカ公社』とか言ったかな?」 帽子の鍔の下から、柔らかな視線が頑ななクラエスの視線を捕らえ、覗き込んだ。 「・・・さて、どうでしょうね!」 下唇を噛んだあとクラエスは更にハンニバル・レクターを睨み返して叫んだ。 「・・・ということは『私に味わうところは無い』というのは君は、まさか脳のみを 移植したアンドロイドか?その服の袖を捲ると鋼の肉体でも現れるのかな?」 「まさか!そこまで私は!」 「冗談だよ。でもカーボンやセラミック、強化プラスチック辺りによる部分的な 肉体の強化、補完かね。確かに煮ても焼いても無理だな、クラエス。」 レクターの微笑による目尻、図星を突かれたクラエスの眉間、共に皺は深くなった。 「・・・はい?・・・はい・・・ラバロさん・・・いえ、はい、判りました、ここの番地は」 インカムから"余計なことを話すな"とでも言われたのかと思うと、彼女とは表音 違いの名前を持つ少女がレクターには益々と可愛らしく思えてくるのだった。 「2ー6だ。聞こえているのだろう?『大尉殿』。貴様の可愛い教え子の命は守ってやる。 我が愛するクラリス・スターリングFBI捜査官の名に誓ってだ。安心しろ。」 戸惑いがクラエスを襲う・・・自信か・・・油断か・・・。 「ところでクラエス・・・」 レクターは小さな声で話し始めた。 「『読書で野菜作り』とは・・・本で学ぶのは好きかね?」 「・・・おかげさまで。」 サイトをしたままクラエスは言い切った。 「では誰かに読み聞かせをしてもらった最初の絵本は?」 「・・・それが何か?」 「考えてごらん。思い出せるかね?その人は君に何を読んでくれたかな? 『ミッフィー』の物語かね?」 そう語り始めたレクターの目にクラエスはサイトの白いドット越しに何故か 象の眼差を思い出していた。
もう最後まで完成していますが長いんで一端ここまでです。
お久しぶりです。以前から書きためてたアイディアですが何とか
形にしてみました。
>>162 「【】」様
「 □□□3つの連載シリーズ 萌死小劇場 ■■■ −−「熊巴」−− 」
転載よろしくお願いいたします。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 コラボ劇場 ■■■ −−「名前・・・それは命」−−(2) 「『ぞうのババール』なんて聞いたのは何時かな?」 ・・・判らない。私の記憶はある時間から先は、まるで遠く霧に包まれるように 無くなってしまう。 私が最初に読んで貰った本は何だったのだろう? 本の形は見える。でもその絵本の表紙が見えない。 やがて過去の記憶と同じく、彼女の意識にも静かに霧が流込み輪郭を失ってゆく ・・・サイトの"標的"が遠くなる。 「思い出せないかね?では君は動物園に行った事があるだろう?誰と行ったのかな?」 レクターの言葉と共にクラエスの前には晩秋の動物園が広がった・・・曇空から 太陽の柱が落ち、誰かに手を繋がれてクラエスは記憶の中の動物園を歩いていた。 「その日、君は父親に連れられて初めて動物園に行った。どんな動物がいたかね? オランウータン?キリン?」 父親らしき存在と生まれて初めて見た虎やライオン、シマウマ、ペンギン。 初めて見る本物の動物たち。 ・・・でも父の顔が思い出せない。 「そして君は初めて『象』という動物を見た・・・」 そう・・・堀の向こうに長い鼻を揺らし佇む象がいた。 「見た・・・かも・・・しれません。」 緩んだクラエスの唇が呟いた。 「父親に抱き上げられた君はリンゴを差し出した・・・」 その時点でクラエスの片耳にある物体は単なるホワイトノイズの発生装置に なっていた・・・その向こうでラバロが叫ぶ「クラエス!奴の言葉に耳を貸すな!」と いう言葉は、もはや言葉として存在しなかった。
「・・・象はそのリンゴを鼻で上手に掴み口に運び美味しそうに食べた後、お代わりを 求め君の手に触れた。」 「そうだったかも・・・」 「その鼻先の柔らかさと暖かい鼻息を覚えているかね?」 白い帽子の鍔の先にあるレクターの目とクラエスの構えるG18のサイトが 交錯した手前に広がる幻想の動物園。 幻の象は鼻を伸ばし笑顔を浮かべ鼻先でクラエスの手をモゾモゾと探った・・・ 喜んでいた自分、そして背後で優しく見つめる誰かの視線・・・でも顔がわからない。 「その感触がくすぐったくて君は笑った。そうだね?」 「・・・はい。」 「もう少し成長した別のある日、君は動物園の象の見学ツアーに参加していた。 だが一人の愚かな女が無神経にも象牙を金の鎖で編んだ耳飾りをぶら下げていた。」 大きめのサングラスをした女が年に似合わぬはしゃぎ様でツアーに参加する様が クラエスの脳裏に広がった。 「確かに・・・見た気がします。」 「突然、象は女を睨み付け、鼻先で器用に耳飾りの鎖を千切り切って取り上げ、 泣き叫ぶ女を意にせず、逆光の太陽に耳飾りを鼻で高く掲げた。覚えているかね?」 「・・・はい・・・よく覚えています」 「逆光に浮かんだ象牙の耳飾りと仲間のへの鎮魂の祈りを捧げていた象の目を 覚えているかね?。」 「かわいそうな・・・象」 「愚かな女と同じで無いなら君がすることは何かな?」 「・・・判りません。」 「まず耳にある飾り物を捨てるんだ。踏みつぶせ。」 そう言われたクラエスはインカムのヘッドセットを地面に落とし踏みつぶした。 その間、レクターは確実にクラエスと間合いを詰めた。 「良い子だ。銃は捨てなくて良い。射線をずらせ。」 「それは・・・難しいです、先生・・・いえ、ラバロさんの指示に反します・・・ 私にはできません・・・」 「無理なら引き指を延ばせ。私のせいにすれば良い・・・相手がハンニバル・レクター だったと言えば良い。全てを私のせいにすれば判って貰える。」 もはやクラエスの目は虚ろな状態になっている。
「あと一つだけお願いだ。暫くの間、視線を落として貰えないかクラエス。 『君は良い子』だ。」 「・・・はい・・・」 主格の光を失い視線を落としたクラエスに一瞥してからレクターが立ち去ろう とした瞬間だった。 力強く投擲された一本の杖が二人の間に飛んだ。 「目覚めろ!クラエス!銃を構えるんだ!」 杖を投げたラバロが叫んでいた。 「これはこれは。やっと大尉殿の参上か。」 我に返ったクラエスの視線には、さっきと違い両手を上げたレクターと拳銃を 構えたラバロがいた。 「・・・ラバロさん。私は・・・」 困惑が未だにクラエスの心を離していなかった。 「クラエス!しっかりと構えろ!もっとしっかり!」 片足を引きずり、ラバロは片手のベレッタM92を構えながら腰の手錠が入った ケースを探った。 「・・・と『先生』が仰ってる。構えたまえクラリス。」 レクターは相変わらず白い帽子の鍔からクラエスの目に語りかけていた。 「・・・はい。」 しかし・・・そういって再びG18でレクターを捉えたクラエスの姿にラバロは 何も疑問を抱いてなかった。 レクターに照準を定めるクラリス・・・だがそれは彼の暗示に操られた姿である事を。 「残念ながらゲームエンドだレクター。俺は彼女と違ってあっさりと暗示に 掛かるほどヤワじゃない。」 「それはどうかな?この世は教師が生徒より必ずしも優れてはいるとは限らないぞ 『大尉殿』。だが貴方の『教育』は誠に素晴らしい。実に優秀な生徒だ。」 クラエスが銃を構えたことを確認するとラバロは手錠を取り出しレクターに近づいた。 「『全ての的に命中させるまで帰るな』という命令を真に受けて夕方から 翌日の朝まで雨の中を夜通し射撃訓練したバカな兵士を俺は見た事がない!そこに いるのは、そんな化け物だ!」
「自分の生徒に『化け物』とは・・・感心しないな。自分の優秀な生徒を少しは 誉めてやるものだ。」 レクターは鼻で笑って言った。 「やかましい!逃げられるとは夢にも思うなよ!」 そう言いながらラバロは焦っていた。 腕を付かせる壁も無い真ん中にレクターは立っていた。 その場にうつ伏せさせるか?いや、奴はそれを使って何かを仕掛ける・・・動かさせたら 全て危険だ。おそらくレクターは計算尽くだろう。 それよりジャン達の前線本部が先程から沈黙している。 応援は・・・他の義体は何をやっているんだ! 「クラエス!レクターが手を出したら手先を連射で粉砕しろ!肘から先が 無くなってもかまわん!」 ラバロは彼が振り出すであろう手綱切りナイフを恐れクラエスに叫んだ。 「おぉ・・・大切に扱ってくれたまえ。私も本職は外科だ。手は守りたい。 だが・・・『大尉』の命令だ。クラエス。」 「・・・はい。」 虚ろな目でクラエスはレクターの手を照準した。 「両手を完全に開け。前後ろに回して掌を見せろ!」 「御覧の通り、種も仕掛けも無いぞ。『大意殿』。」 ラバロはレクターの手に何もないことを確認し、唾を飲み彼ののナイフ攻撃 レンジに入った。とりあえずM92をポケットに突っ込む。 「よし、ゆっくり手を後ろに回せ。」 レクターの両手はゆっくりと背中に回った。 ラバロが一気に両手に手錠を掛けようとしたその時、振り向きざまにレクターの 帽子が宙を舞いラバロとクラエスが夜闇の白い帽子に一瞬の気を取られた。 「『まあ掛けろ。一杯飲め』」 そう言ってレクターはラバロの口に何やらの布を当てた。 瞬時にラバロの膝は抜けヨロヨロと崩れ落ち手錠は鈍い金属音を立てて地面に 転がった。レクターはそれを遠くへ蹴り飛ばし同時にラバロの有線ヘッドセットの 線をナイフで切り落とした。
「よっこいしょ。さすが『大尉殿』だ。この量で立っていられるとは、誉め言葉で 『ゴリラ』だな。」 麻酔薬か?ラバロは意識が朦朧として真っ直ぐ立てない。 「『種も仕掛けもない』なんて台詞は"手品"という嘘の前触れだ。『先生』という 職業は万国を問わず余りにも純粋に過ぎるな。純粋に過ぎて中国製のモトローラ 無線式ヘッドセットは信用できんかね。」 レクターはクラエスとの間にラバロの後ろ襟を掴んで盾のようにすると、 その後ろに隠れた。 「そして逮捕術は得手ではなかったか『大尉殿』。軍かね?それとも憲兵隊でも 軍務が主な部隊かね?」 レクターの声は哀れみをも含まれていた。 「だがそれは『過去の栄光』だ。馴染んでるとはいえM92なんて『重い過去』に 拘るのは愚かな選択だ。」 激しい心の痛みを突かれたラバロは痛みに負けない力で全力を注いでレクターの 手から逃れようとするが全く力が入らない。 「杖に頼る者が杖を失った状態で、この私に手錠を掛けるなら慎重にも慎重で あるべきだったな『大意殿』。」 ラバロは混濁する意識の中で、手足と同じように意志通りに動かなくなりつつある 口に全力を注いで叫んだ。 「クラエス・・・躊躇せず・・・俺ごと撃て・・・これは・・・」 クラエスの目は宙を泳ぎ、事態の掌握が出来ずにいる。 「ラバロさん!できません!貴方を守る義務が・・・」 勝ち誇ったようにレクターはせせら笑った。 「だそうだ、ラバロ『先生』。それにクラエス、人体は手榴弾1個の防御を十分に 出来る盾だ。覚えておけ。」 「ク・・・ラエ・・・ス、構わずに」 「命令のためには命も厭わずか。そんな価値は私には無いよラバロ『先生』。 『オネムの前のおとぎ話』に教えてやろう。君ら師弟が命を張ってまで私を確保する 理由などないという『私の昔々のお話』だ・・・」
再び、一端、ここまでです。 時間を掛けて掲載したかったのですが仕事の関係上、やむなくです。 誠に済みません。月曜日までに全てを掲載する予定です。
おお、SSラッシュだ…… ゆっくり読ませて貰います。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 コラボ劇場 ■■■ −−「名前・・・それは命」−−(3) 「まあこれは私と『奴』との私闘だ。その死肉を期待し群がる下賤なハイエナ達の 仲間に君らはなるのか?。遅くない。全てを私のせいにして任務から逃げろ。」 「そ・・・んな・・・バカ・・・な・・・」 耳元で長い話を聞いたラバロは驚愕と怒りの目で、後ろのレクターに視線を回していた。 「では『大尉殿』、『今日の話はおしまいおしまい』。」 そう言ってレクターは再び布をラバロの口腔に近づけた。 「な・・・らば・・・公社・・・は・・・暗躍・・・に・・・手を・・・」 口をだらしなく開け殆ど気を失いながら未だラバロは呟いていた。 「さてクラエス。私の目を見ろ。『先生』は寝ているだけだ。口元を見たまえ。 ちゃんとお話をしている。」 そう言ってレクターは視線が揺れるクラエスの眼差しをじっと見据えて言った。 「安心しろ。起きたらきっと連れていってくれる。」 レクターの象のような目は穏やかにクラエスを見ていた。 「・・・どこへ・・・でしょうか?」 G18を構えたままクラエスは再び虚ろな目で答えた。 「勿論、動物園だ。」 そう言ってレクターは笑った。再びクラエスの脳裏に幻想の動物園が広がった。 「きっとあの象のところへ連れて行ってくれる。そしてあの象は、今度も君の 差し出すリンゴを美味しそうに食べてお代わりをねだる。」 「はい・・・」 「今度は二つ目のリンゴを持って行きたまえ。では・・・引き指をサムガードに掛けろ。」 「・・・はい。」 「そこにある私の帽子・・・失うには惜しいが拾っている暇はないようだ。君への プレゼントになれば本望だ。君が被るには向いていないが『いいもの』だ。」 クラエスは薄目を開けてレクターに向かって必死に問いかけるラバロの横に 転がった白い帽子を見た。 「そう、そのまま帽子を見るんだ。そのままだ・・・では今度こそ『おさらはスプーンと いっしょにおさらば』だ。良い娘でいてくれ。さようなら、愛するクラエス。」
*** 「・・・という報告が入った。では諸君・・・『高潔なるハンニバル・レクター博士』に 於かれましては我々と次元が違いファーストクラスか、ビジネスクラスが我慢の 限界だそうだ・・・全合衆国の大西洋線、及び接続線の入る入管に直ちに非常線を張れ。 『これで貴女は幸せかな?』ミズ・クラリス・スターリング?」 そういわれた女性は振り向きもせずに答えた。 「いいえ。彼にとっては大西洋線の上級クラスなんて、殆どの航空会社なら ラスベガス並の耐えられない場所よ。むしろ団体客に紛れてエコノミーでくるわ。 ミスター・ポール・クレンドラー。」 そう言い返された男は肩をすくめて冷笑した。 「・・・なんだそうだ。重要参考情報で流したまえ。」 そう部下に告げた男は、机も立場も部屋の隅に追いやられた女の元に近寄り語り始めた。 「さて、この辺で君が貯め込んだ私への借りを確かめようじゃないかクラリス『元』捜査官。」 男の声は軽蔑と冷徹、高慢に満ちていた。 「残念ながら私は勘定に細かい男でね、ドンペリニヨンのヴィンテージ物は勿論だが、 スプマンテのフェッラーリでもシャンパンのニコラ・フィアットのNVでも相手の男の懐具合に 気も掛けずガブガブと飲む様な女は絶対に容赦しない主義なんだ。判るかね?」 男は勝ち誇ったように言った。 「『ドンペリニヨン』・・・本当に貴方にはお似合いな銘柄ね、ミスター・ポール・クレンドラー。」 女は軽蔑と冷静、自信に満ちた目で見上げ返した。 「・・・覚悟しておけよクラリス。私のプライドのグラス売りは恐ろしく高く付くぞ。」 *** 夜が明けて全ての闇を拭うように青空があった。 「この件で・・・クラエスを余り責めないでください」 そのセリフがラバロの疑念を一層掻き立てた。
レクターに盛られた「駆けつけの一杯」の頭痛を吹き飛ばすだけの破壊力があった。 そもそも「ご無事でなによりです」という歯の浮いたような言葉をジャンが 最初に口にすることからしてラバロにとってはハンニバル・レクターの話の アウトラインを埋めるには十分すぎる状況だった。 「冗談ではない。明日からでもクラエスは鍛え直す。余りに詰めの甘い失敗だ。 何か文句があるのか?」 「心配には及びません。大量の毛髪など、帽子本体が証拠物として保存の必要が ないほどのDNAを得た事で作戦は成功、クラエスは任務を全うしました。」 「つまり・・・奴がフェル博士を名乗りフィレンツェに居て既に逃亡したという 事実で十分だと言うことか!?」 「その通りです。存在と動向を掴めただけで・・・」 「なぜ応援を集結させなかった!?」 「彼の『言葉』に他の義体が感情の混乱を起こしました。よって貴方と一部 作戦中枢以外の無線を遮断しました。そして大尉からの無線も故障で万事休すです。」 「ではなぜ『大人』の貴様らだけでも集結しなかった!今回の作戦参加の面子は 全員そろって腰抜け揃いか!?」 ジャンは一瞬、何かを言い掛けて、視線を逸らし答えた。 「・・・そんな価値のある作戦ではありませんから。」 ラバロの怒りは一気に沸騰した。 「『そんな価値』だと!?」 「公社2課が・・・多数の人的犠牲を出す作戦では・・・」 「ではクラエスと俺は『計算内』という事か!」 「・・・大尉ならば・・・無事に『戦果』を得られるかと。」 ラバロの瞳孔が収縮した。 「ならば聞く。レクターの言ったことは本当か?」 瞬時にジャンの瞳孔もまた一気に収縮した。 「リコ。少しあっちに行ってなさい。」 「はい。ジャンさん。」 遠くのカラスが何かの鳴き真似をする様が気になっていた短髪の少女は、 微笑んでその場を離れた。
「あの娘にこの場を外させるとはレクターの話した事は薄々は判っているのだな。」 ラバロはジャンのサングラスを突破る程の視線を向けた。 「・・・さて、どのような件でしょう?」 ジャンは俯いて吐き出すように静かに話し返した。 「『何人もの年端も行かぬ少女を悲鳴の内に犯しながら親の頬を札束で叩いて 事無きを得たが、ついに悪運尽き、法の下に裁かれる寸前で『心神喪失』として 免責を画策するも、主治医になったレクターによって、己で顔の皮を引き剥ぎ犬に 食らわせナルシズムに浸る己が美貌と安眠を導く瞼を失う永遠の苦しみの天罰を 下された者』メイスン・ヴァージャーの復讐に我々社会福祉公社が荷担してるという件だ!」 暫くの沈黙が続き風の音と烏の鳴き声が響いた。 「『ハンニバル・レクターを出来る限り生きた状態で拘束願う。無理ならば有る 限りの動向情報を収集願いたい。』これが米国法務当局からの依頼です。ただ それだけの・・・話です。他に何か?」 ラバロの肝心な疑問にジャンは応えなかった。 「逃げずに答えろ。"医学博士"ハンニバル・レクターの言った事は本当か!? 米国法務当局とヴェージャーからの依頼でどんな貸しを作った!?あるいは幾ら貰った!!!」 地に余りの強さで突き刺されたラバロの杖は曲がらんばかりの加圧でブルブルと震えた。 「公社2課の維持に・・・私は総てを賭けています。」 そう言う若者の唇には微笑みの緩みさえ浮かんだ。 「貴様の総ての名誉と・・・引き替えにしてもか!」 初老の男は青年のように叫んだ。 「時に・・・知らなくて良いことはこの世に幾つもあるものです。大尉なら御判りかと。」 サングラスの内からジャンの目が冷たく此方を見ているのは判っていた。反抗、 又は殺意にも似ていた。 「それが・・・元とは言え上官に対する答えなのだな。」 その冷たさが後ろめたさと怯えを含んでいる事もラバロは見抜いていた。 「ならば俺と貴様が居た場所での作法で再び教育してやろう。奥歯を噛め。 そして・・・恥を知れ!!!」 サングラスが宙を舞った・・・張られた頬を押さえる事無く冷たい裸眼で睨み付ける 若者と、溶岩にも似た熱き怒りに満ち溢れた目で睨み返す初老の男。
「・・・リコ。やめなさい。」 若者はそう言ってラバロに銃口を向けた少女を制した。 「復讐の果てに・・・恥すら忘れたか。見損なったぞ。」 「復讐の果てには・・・恥すら忘れます。貴方には理解して欲しかった・・・貴方には・・・。」 少し離れた場所に止まったフォード・マーヴェリックの助手席でクラエスは 男物の白い帽子を両手で抱き遠くの空に一筋に引かれて行く飛行機雲を見ていた。 何時か何処かで誰かと見た風景・・・でも思い出せない。 「君は親が読み聞かせた絵本を覚えているかね?」 ハンニバル・レクターの言葉と"象のような目"が記憶を横切り一筋の涙が クラエスの頬を伝った。 それは何れ来る別れの予感でもあった。 *** その遙か上空彼方・・・米国本土とは方向違いの「正にラスベガスに等しい」近年 話題のリゾートの島に向かって、その飛行機は飛んでいた。 「私の行き先がそこだと君は考えないだろう。残念ながら君は・・・私の一面を 知りすぎているのだよ、クラリス。」 男の目論見は足跡をローンダリングする事と、ビーチも、増してやカジノにも 足を運ばぬカーテンの暗闇の中の暫しの休養、そして「味覚の更なるリハビリ」・・・。 日取りの関係か客の少ないファーストクラスの端席。 予約でヴェジタリアンだという男の前には、暫く前にこれから他の客に対して、 これでもかと言わんばかりのファーストクラスのサーヴが始まるよりも先に 小綺麗なフルーツプレートが置かれていた。 「先日、貴社の便にてフルーツプレートをお願いしたらリンゴとバナナと オレンジの3つをそのまま渡されたよ。私は動物園のゴリラかね?今度は 勘弁してくれたまえ。」
そう念を押した事はある・・・鮮やかな果物が、研ぎ澄まされたメスで割いたように 丁寧に飾り切りされて並び、彼の視覚を満足させるには十分なものであった。 過去に口にした様々な「 肉 」を思わせる鮮やかさ。 所詮は機内食向けとしてチマチマと使われたキャビアやフォアグラなどには 興味すら沸かなかった。 ・・・いや、クラリスに逢える前の自分は、せめて一時、あらゆる動物から奪った 肉を絶ち、偶然に出会った少女の救いに感謝の精進を捧げようではないか。 増してそれが聖杯を共とする酒肴であるなら尚更・・・。 ハンニバル・レクター医学博士はそう考えていた。 「故に遠回りと多少の我慢をしても選んで飲むべき酒がある・・・そう思わないかね? クラリス。」 彼は独り言を言うと事前にヴィンテージまで指定して搭載を依頼していたサロンを 独酌した。 「まもなく出会う君と、君と似た名前を持った少女と出会えたことに・・・感謝を。」 サロンの瓶にレクターはグラスを当てて乾杯した。 そして彼は遠くなって行くイタリア半島を振り返る様に見つめて言った。 「今日の御話はこれでおしまい。」 (Ta-Ta・・・"H") ------------------------------------------------------------------- 以上です。長々すみませんでした。
218 :
【】 :2009/09/06(日) 23:24:30 ID:zqwelwBp0
>>198 ありがとうございますw
>>199 GJ! お待ちしてましたw お仕事お疲れ様です。
ハンニバルとのコラボとは。パッツィ刑事の例のシーンを思い出しました。
読みごたえのある作品をご馳走様です。あの独特な語り口調を再現した
重みのある雰囲気がいいですね!
>>204 「 □□□3つの連載シリーズ 萌死小劇場 ■■■ −−「熊巴」−− 」
転載しました。作品名が“長すぎて入りません”ということなので
タイトルを『――熊巴――』で保管してあります。
変更をご希望でしたらおっしゃってくださいませ。
作戦で出張(お泊まりの夜) 無題(別に私は) 『ヴェルキンはダルマにあらず』 お休みの○○ 上記4作品 保管庫に転載しました。
悪い。場の雰囲気が白けると思うが一応、つっこみを入れとくわ。 文章の構成は上手だし着想も良いと思うけど… 義足の人が杖投擲するのは、移動速度が低下するし戦闘のテクニックとしてはかなり変じゃないかと? 3m以内に間合いを詰めて薙ぎ倒すのなら申し分ないけどスタングレネード使うとか 生かしたまま捕縛するのなら他にもやりようはあるんじゃないかと。 大尉の銃の腕前については作中でも明らかにはなってないけど教官役だから下手じゃないだろうし、 拳銃の射程圏内なら、膝か肩に撃ち込んで逃走出来なくするのが正しいんじゃないか? あとラバロが健在な頃の話なら何でクラエスの銃がVP70じゃないの?
おお、コアなつっ込みw
>>221 どれも発表前に回りに突っ込まれた件なので。(^-^;;; →殆ど御指摘の通りです。
ただVP70については、あのフルオートアダプタ付けないとフルオートに出来ないのと、
銃床無しの時のフルオート時の安定性はVP70をいじくるよりはG18の方が良いらしい
という事でポーチに入る大きさ等々も含めそうしてみました。
・あと銃を変えることでキャラの名前出しを引っ張りたかったというのが本音。
またなぜ発砲せず杖を投げたかという点は、クラエスがインカムを壊され、どんな
暗示をレクターに掛けられているか掴めない中で火薬発砲音はさせたくなかった・・・
と言うのが大尉の判断だったと「言い訳」します。
ラバロ大尉は義足かどうかは設定されて無かったような気がしますがどうでしょう。
関節固定や筋肉断絶・大規模損傷で杖の人は居ますんで「軍警察に復帰が望める
程度の」レベルであると考えると、どの程度かなというのは悩ましいところでした。
あと「杖をつくラバロ大尉のコンバットシューティングって?」というのは、そんな人が
クラエスを育てたら本気で軍警察に戻れると思ってるのか?という疑問が付随して
自分でもどうにも消化出来なかった点ではあります。
ラバロ大尉は軍警察の事務方で良いから戻りたかったわけではないでしょうし。
スタングレネード等々については映画「ハンニバル」でも、その手を使いましたんで、 もう「あの博士」を捕まえるには、あの手しかないでしょう。 ジャンとしてはハナっから捕まえる気なんて無くて、本当はレクターを擦れ違わせて 後ろから「手を上げろ!」をクラエスにさせてドンパチやって落とし物をさせ「戦利品」 として"連中"に借りを作りたかったんでしょうけど失敗した・・・という演出上の御都合と いうところです。 実はヴァージャーに公社の技術で肉体の一部機能の復元を約束させ、前金を 送らせて、せっつかれついでにレクターの捕獲も依頼されていたのを、レクターを 逃すことでヴァージャーも始末して貰い「濡れ手に粟」だったのかもしれない・・・ なんてウラと言うか別というか、そんな事も考えてました。 レス2つ使っての言い訳もまた場を白けさせてしまいましたが、まあこんな感じです。
>>223 膝関節より上の部位が吹っ飛ばされたのかは不明ですが、
小銃の暴発事故で義足になったそうで。
ジャンが大隊を去った以降の出来事のようですけど。
元GISといっても空挺は歩兵と同じく足腰が命です。
走ったり、重い荷物を担げなければ指揮官や教官としては有能でも
戦闘力が著しく損なわれてしまうので、デスクワークを嫌って前線にいたい
ラバロ大尉なら我慢ならないでしょうし。
当時、ブルーパージにも巻き込まれていた所為で退役を余儀なくされたのかもと妄想。
まあ、社会福祉公社の義肢に置換すれば、軍警察に復帰できるレベルだったのではと?
…久しぶりに面白そうなので
>>1 から読見返してみます。でわ
>>221 > 拳銃の射程圏内なら、膝か肩に撃ち込んで逃走出来なくするのが正しいんじゃないか?
そういうのは基本無理。出来るのは映画の中だけ。動脈傷つけたら失血死。
動けなくするのを目的に射撃するのはイスラエル軍が暴動鎮圧の為にデモのリーダーを
サプレッサ付きの.22LRライフルで太股とかを狙撃してたのぐらいしか知らない。
> あとラバロが健在な頃の話なら何でクラエスの銃がVP70じゃないの?
VP70は糞サイトと糞トリガーでまともに撃つ銃じゃない。元々殆ど訓練されていない兵とかに支給される
値段と捜査の単純さだけが取り得。今のPDWの走り的な存在。
作者が余り知識のない頃に決めちゃったものだから、サイズや性能的に真面目に書く人ほど機種選定に
違和感が出ちゃう。その辺は突っ込まないのが筋だと思う
>>223 >「杖をつくラバロ大尉のコンバットシューティングって?」
パラリンピックで射撃とかバイアスロンもあるし、
ラバロは短時間なら杖なくても立位、歩行が可能なようだし(エッタを張り飛ばした時)
膝下から義足の同僚ががっしゃがっしゃ走り回って仕事してたの考えると、
軍警察の猛者だったら普通の義足でも結構色々動けるんじゃないかなあとか思ってしまう。
銃器類の知識とかないんで素人考えだけど。
パラリンピックで使ってる競技用のライフルって、威力どれくらいなんだろう。
もちろん実戦で使えるようなレベルではないんだろうけどね。
>そんな人が クラエスを育てたら本気で軍警察に戻れると思ってるのか?
普通だったら大学病院の研究室かなんかで臨床実験的に試用されてるような
(義体たちがまさにその状態なわけだけど)最先端で高性能な義足を
優先的に回してもらえる(しかも性能は目の前で確認してる)わけで、
最初は半信半疑というか、駄目で元々、溺れてる目の前のわらしべみたいなジャンの提案も、
実際クラエスの様子とか公社の権限の及ぶ様子なんかを見ていたら
それなりにリアリティの感じられる話に思えてくるのかなあ、とかつらつら考えた。
228 :
転載 :2009/10/03(土) 21:00:49 ID:YRINAv780
GISがらみで思い出したので転載
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#73 より転載
325 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/07/29(水) 18:36:26 ID:AJJuX4oN0
>>314 確かに最前線での実戦経験も無いのに23歳で中尉は変だな。
作中の回想シーンなら6年ぐらい経過後だろうけどGISに配属されても
ちょっとミスしたぐらいでもラバロ中佐(?)に難癖つけられてブン殴られるに一票。
「クローチェ中尉殿、奥方は懐妊されたそうだな。とりあえず祝福しとこうか」(軽く横隔膜へボディブロー
「まあ、男の幸せを謳歌するのはかまわんが薄気味悪くニヤニヤ笑いやがって。結婚は所詮、人生の煉獄なんだぞ?」(耳元で囁きながら
「…バルカンへは弟をかわりに出征させるとはどういう了見だ?情けない。言い訳もできんような腑抜けなら俺の大隊には要らん。
貴様、空挺のくせに士官学校のトイレで睾丸落としてきたのか!?さっさと拾いに戻れ。この馬鹿が!!」(抉りこむように肝臓へ一撃。
…とか罵りそうではある。。。。
「全隊員傾注!隊の女房役であるクローチェ中尉はさきほど名誉ある戦傷を負って後方で療養することになった。
後任はサレス中尉になる。なお後送する前にお別れの挨拶を円陣を組んで全隊員で行うので駆け足で集合!!」
229 :
【】 :2009/10/04(日) 20:46:06 ID:tuh2oPzn0
鳥昼親子のほのぼの会話のつもりで書き始めたら 何故かエルザが割り込んできて話を持っていかれた。 ハロウィンの時期のエルザは強力です…。
230 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:47:11 ID:tuh2oPzn0
【髪】 この間の件は確認作業が終わったんですか? 会うなりそう問いかけた 少女に、男は戸惑いつつ答えた。 「終わったよ。だが誰から聞いたんだ」 「聞いたわけじゃありません。ヒルシャーさんが髪を切ってきたからです」 榛色の瞳をしばたたかせる担当官に少女は笑う。 「あなたが髪を切るのはいつも仕事が一段落ついた時でしょう」 「――よく見ているんだな」 「それはまあ、自分の担当官の事ですから」 感心したように言う男にトリエラは取り澄ました顔でそう答える。 「髪を切ると気持ちが良いものだと聞きますけど」 「ああ、気分転換にもなる。その代わり、伸びてくると鬱陶しくてかなわないがね」 「短い人は短い人で苦労があるんですね」 おかしそうに言う少女の側頭部では結い上げた金の二つ髪が揺れている。 「君こそ長い髪は手入れが大変じゃないのか」 「さあ。昔からこの髪ですから、特に面倒は感じません」 括っておけば邪魔にならない分、短い髪より楽かもしれませんよという少女の 説明に、そんなものかと男は納得する。機嫌が良さそうなパートナーともう少し 会話を続けたくて、担当官は問いかけた。
231 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:48:24 ID:tuh2oPzn0
「髪型を変えたりはしないのか? 例えば三つ編みにするとか」 「これだけの長さがあると、綺麗に編むのは結構手間がかかるんですよ。 やってみますか?」 ねめつけるように見上げる少女に、遠慮するよと男は苦笑する。 「そもそも僕は三つ編みのやり方を知らないんだ」 「教えてさしあげましょうか? 慣れればそう難しい作業ではありませんよ」 「そうだな。そうすると君の髪を毎朝三つ編みにするのが僕の新しい仕事に なる訳か」 それは私がご遠慮しますと少女は渋い顔をする。あなたに身仕度を 整えてもらうために、私は何時間早起きしなければならないんですかと 憎まれ口を叩くパートナーを、男は微笑ましく思った。 以前なら同じ台詞でも不満や反抗の現れで険のある響きを帯びていたが、 最近の彼女の言葉はどちらかといえば子供がすねてみせる様に近い。つい、 難しい作業ではないんだろう? とからかうような口調でたずねてみたくもなる。 「編むだけならそうですが、編み目をきちんと揃えて綺麗なお下げ髪を結うのは 結構大変なんですよ。エルザは上手でしたけどね」
232 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:49:12 ID:tuh2oPzn0
エルザ――エルザ・デ・シーカ。長い二本のお下げ髪が印象的な義体の少女。 担当官と共に殺されたという仲間の名を少女がどんなつもりで口にしたのか 男は読みきれず、自然と探るような物言いになる。 「―――君はエルザとは親しかったのか?」 「親しくはありませんでしたよ。あの子はいつも一人でいる子でしたし」 「彼女はどんな子だったんだ」 「……以前、一課の方が調査に来た時の報告はあなたにしましたが」 男の質問にいつものように慇懃に答える少女は、何が不快だったのか 怒ったような表情で顔を赤らめている。 「ああ、その報告は確かに受けている。ただ…そう、髪のことは聞いた覚えが なかったものだからね」 「ああ…あなたが三つ編みと言ったから思い出しただけのことで、 別にどうという話ではないですけれど……。彼女は一人部屋でしたから、 髪を編む様子も実際には見たことがありませんでしたよ。 ――ただ、さっきも説明しましたけど、あの長さをあれだけきっちり編むのは 大変ですから、怖いくらいに几帳面な子だなと思ったのは覚えています」 「……そうか」
233 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:50:01 ID:tuh2oPzn0
「でも……今にして思うと、エルザが “自分のため” にしていた行動は、 唯一、髪を結う事だけだったのかも知れませんね」 トリエラはつぶやくようにそう言った。 仲間と関わることもせず、訓練も座学も――食事や睡眠ですら、全て 担当官の任務に役立てるためだけに行い、日々を過ごしていたエルザ。 ただ任務の際に邪魔にならないようにするだけならひと括りにまとめるか、 いっそリコのように短く切ってしまえば良い。 それを毎朝手間と時間をかけてきちんと編み上げていたのは、 そうすることで自分が『機械』ではなく『少女』なのだということを確認して いたのではないか―――。 エルザがこの世から去ってしまった今その真意を知ることはできないが、 そうであればいいと、彼女と同じ人の手で作られた身体を持つ少女は思った。
234 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:51:14 ID:tuh2oPzn0
だがそんなパートナーの言葉を傍らの男は苦い思いで聞いていた。 義体の少女たちに、担当官への絶対の忠実化を強いる条件付け――。 ヒルシャーが厭い、彼のパートナーにはできうる限りその縛りを与えないよう 抗い続けている公社の洗脳を、かの少女は何の斟酌もなく加えられていた。 エルザが “怖いくらい几帳面に” 結い上げていた二本のお下げ髪は、 彼女の担当官であったラウーロが何の気なしに発した言葉からなるものだ。 偶然その場に居合わせたヒルシャーは、担当官の言葉を聞いた瞬間の 彼女の瞳に慄然とした。担当官以外の何物も映していないその瞳は 狂気すらはらんでいるように男には思えた。 自分の大切な少女にそんな目をさせてはならない。 例え時に自分に対して挑戦的に睨み返す瞳であっても、反抗的にそらされる 視線であっても、この子には、常に自身の感情でその目に映すものを 選び取っていって欲しい。 彼女たちに与えられた選択肢はあまりにも狭く少ないものではあるが、 可能な限り自己の意思でその生き方を選んで生きていけるように、 自分はこの少女を守っていかなければ―――。 「……君の髪は君の好きな髪型に結いなさい、トリエラ。リボンだとか 髪留めだとか、必要なものがあれば用意をするから」 担当官の言葉をいつもの不器用なご機嫌取りと受け取り、男の顔を 見上げた少女はありがとうございますと苦笑した。
235 :
【髪】 :2009/10/04(日) 20:52:10 ID:tuh2oPzn0
『おい、おまえ何だよその髪は』 義体化手術を終えて間もない少女は腰の下まで届く長い髪を背中に流したまま、 自身の担当官を見上げた。 『ラウーロさん――?』 『そんな髪で仕事ができるわけないだろ。どうにかしろ』 『分かりました。短く切ってきま……』 『バカかおまえは。“女の子” が銃を持ってるから怪しまれずに近付けるんだろうが。 わざわざ切ってどうする』 担当官の言葉に従おうとした少女を男は罵倒する。少女はわずかに困惑し、 担当官の指示を仰ぐ。 『あの…それじゃあどんな髪型にしたら……』 『ああ? そんなことまで俺に聞くなよ。お下げにでも何でもしとけばいいだろうが』 ぶっきらぼうな担当官の言葉を受け、少女は目を見開く。夜明かりの下、 少女の瞳は青白い月の光を反射して小さく輝いた。 『はい、お下げ髪ですね! 私…一生懸命練習します、ラウーロさん――― 』 << Das Ende >>
エルザ(´;ω;`)
237 :
【】 :2009/10/05(月) 22:15:25 ID:JZgpS5qx0
朝職場に行ったらハロウィングッズがばたばた倒れてた。 なぜかお下げ髪の魔女だけ無事。 …割り込んだなんて言ってごめんエルザ。君のことは好きなんだ。 最初別々の話にしようと思ってたのに鳥昼組を狂言回しにさせちゃって 主役をかっさらって行ったエルザの個性の強烈さには脱帽ですT▽T
>>226 膝に撃ち込んでからその場で止血。
VP70についてはサバゲー板でも論争があって、
作戦部2課創設からさほど間がないから、予算が下りずに
最新の銃が装備課にはなかったせいだろうとか言われてる。
>>228 それは俺が書いたんだが。
読み返すと結構、中途半端だな。
…まるで羞恥プレイのようだw
クローチェ一家暗殺からジャンだけ助かった理由を考えてて、直前に
上官のラバロが何らかの手を廻して現場から遠ざけたんじゃないかなって。
【髪】GJ!
>>238 > 膝に撃ち込んでからその場で止血。
IRAかよ。
> 最新の銃が装備課にはなかったせいだろうとか言われてる。
作者自身が趣味で選んだとか公言してんだし、何言ってんだか。
リアリティ重視なら初期装備は軍やカラビニエリの中古とかを使うべきだろう。
なにしろVP70自体、殆ど採用されなかったから数が無いんだ。やけくそで作った民間用ですら400丁。
この手の少数生産された銃で問題になるのはマガジン。
コレクターが撃つなら問題ないけど、作戦で使用すると致命的。
イラクやアフガンでも初期のPMCはサイドアームとしてグロックやハイキャパ1911とか色々持ち込んでたけど
あっというまにシングルカラムの1911か92Fにが主流になった。米軍から融通してもらえるから。
240 :
【】 :2009/10/06(火) 21:32:32 ID:9eT1tEvj0
>>236 >>238 レスありがとうございましたw
エルザは好きなキャラなので書きたいんだけど
何故かこの時期にしか話ができない…
割り込んですみません >>社会福祉公社技術部保管庫 管理人様 >>社会福祉公社さくら板支所 スレ住人のみなさま 無断転載倉庫の管理人さんから 「自分はもう更新ができないので、できたら保管を一本化してほしい(要約」 という転載願いが出ていました。 ガンスリSS保管庫を一本化するなら、エロパロ保管庫より 技術部保管庫の方が正面玄関としてふさわしいと思うのですが (エロパロ保管庫は21禁にしてあるので、地下通路とか裏口扱いが相応かと;;;) 技術部保管庫に、無断転載倉庫の全年齢対象作品を転載するのは まずいですか? 許可がいただければ、転載作業は何とか頑張ります。 (助けていただける方がいらっしゃれば大変ありがたいですが;;;) さくら板支所への投下作品とは別に、転載作品の一覧ページを作るつもりでいますので、 ここでの作品との区別はつけられると思います。 エロパロ保管庫には、とりあえず無断転載倉庫さんでLemonとジャンル分けされている 作品から転載を始めます。 ご意見をお聞かせください。よろしくお願いします。
>>241 技術部保管庫の名ばかりの管理人です。
自分の意見としては全年齢のものならOKです。
21禁のものはさすがにダメだと思いますが。
俺はいいと思うけど 管理人さんの意見次第じゃね?
レスありがとうございました。 管理人さん、転載ご了承いただきましてありがとうございます。それでは、 全年齢対象作品 → 技術部保管庫へ (adult)表記の作品 → エロパロ保管庫へ と言う形で転載作業を行おうと思います。 (adult表記がなくても、結構どぎついピンクジョークとかもあるんだけど…後で薄いピンクに文字色変えようか;;) 技術部保管庫(全年齢)→エロパロ保管庫(21禁)の直リンは貼らない方向でOKですか? 年齢制限の点もありますし、自分も個人的には保管庫の完全な一本化は しないほうが良いと思います。(その方が安心して読めるし;;) ただ、ガンスリSS全ての作品名が一覧できるページ(作品名総合一覧)は欲しいなと思っています。 (その場合、adult表記の作品は文字色を薄くするなどの処理をすることになるかと)
技術部保管庫のほうも全てテンプレ作業終わりました。 <転載作業にちょっと便利な機能> livedoor IDでログインした後、『GUNSRINGER GIRL?』のような まだ作成していないページのページ名横の「?」をクリックすると、 そのタイトルで新規ページ作成ができます。 そしたらテンプレとテキストをコピペするだけですみます。 ……ちなみに今日発見しました;;;
246 :
【】 :2009/10/15(木) 23:46:33 ID:wL48Wkw40
pink板の方にハグ止まりの鳥昼話を投下してきました〜。
以前より貯めていたネタでクラエスを主人公に「人ではないオリジナル キャラ」を加えて書いてみました。 基本は何時ぞやのクラエスの一日がベースになってしまった感があります。 一応、6話を書き上げていますが続編や追加も考えて・・・ますけど、 できるかどうか。 ではお楽しみ下さい。
「うーん!全然決まらないよ!」 トリエラが長い髪を引っ張って言う。 「ちょっとクラエス!手伝って!」 寝台で読書中のクラエスが目線を横にする。 「なぁに・・・今日は左右の根本縛りじゃないの?」 そんなクラエスの少し気だるい返事に櫛とブラシを両手にしたトリエラが返す。 「そうなのよ。イメージチェ〜ンジ!なんだ。」 「はいはい・・・ちょっと待ってね」 クラエスがパタンと本を閉じると同時に一体の動物が 片目をピクンと開け、眉を顰めるように周りの様子を 伺うとムクリと起き上がった。 クラエスの定位置である二段ベッド上段の高さに合わせ本棚の上板を広げて、 その分の支脚と柵を付ける改造をされた場所、通称"塒(ねぐら)"にいた動物は、 梯子を降りるクラエスと歩を合わせるように、その塒から部屋の家具等を組み 合わせ、上手に回されたスロープを、テケテケと大きく短い足で降りてくる。 クラエスの低い本棚の上にあるトリエラ御自慢のティディベア・コレクションの 前を通り抜けて・・・。
「もうバシッとスタイリング剤で決めちゃえば?」 「イザって時はうっかり手に付くと気になるのよ。」 そんなクラエスとトリエラの髪繕いの様を件の動物は尻尾を振りながら見上げる。 「どぉ?『カピタン』今日は何時もより可愛いでしょ!?」 自慢げなトリエラに向かって動物は鼻先を伸ばしてフガフガと匂いを嗅ぐ。 「ほんと、随分と可愛らしい香水まで決めてるのね。」 半ば呆れるようにクラエスが髪を繕いながら言う。 「プリシッラさんの見立て。"デートみたいなもの"よ。更に一番肉薄するのが 私達だから持物はこのポシェットの偽装ホルスターの中身だけだって。」 一転して著しく乗らない気をはくと、トリエラはそう言って肩を落とした。 「お気に召さない?デートの御相手が。」 「あの『ジャガイモ』相手で、時と場合じゃ命がけよ。全く割に合わない・・・。」 嘘おっしゃい・・・クラエスは心の中で笑う。 そのヒルシャーさんに貰った色のリップグロス、余程、似合わないとき以外は 何時も最後に決めて、減っては定番で買換えているじゃない。
ふっと件の動物がドアの方に視線を向けた。 「あら、早くもお出迎えのようね。」 「もう!せっかちなんだから!今日は慣れない格好なのは判るけどさっ!何度 言ったら止めてくれるのかな!」 クラエスのひやかしにトリエラがイライラと答える。 動物はテケテケとドアに掛け寄り鼻を向ける。 鼻を寄せドアの向こうの様子を伺う。ふがふが・・・。 「トリエラ、そろそろ・・・」 野暮な男の声がして少しドアが開くや否や櫛が一つ動物の上を飛びドアの 隙間に当たった。 驚いた目をして動物はトリエラと、ドアから気持ち半分顔を覗かせた男の 両方の顔を何度も見比べる。 「ヒルシャーさん!レディの部屋に入るときの・・・」 目を閉じ呆れ顔でトリエラは別の櫛を手に取った。 「も、申し訳ない・・・」 件の"ジャガイモ顔"が困惑に頭を掻く。 「いい加減、子供扱いはやめてください!まだ時間がありますから宿舎の 玄関で待っててください!」 そう言われて出ていった男を残念そうに動物は見ていた。 「行っておいでカピタン。遊びたいんでしょ?」 クラエスがそう言うと、ドアの通気穴を改造したその動物専用の通用口から 彼はテケテケと出ていった。
「ほんっと!未だに子供扱いをやめてくれないのよ。ヒルシャーさんは。」 そう言ってトリエラはため息を付く。 「でもそう言いながら季節のプレゼントの『熊さん達』が増えるのは嬉しい。 違うかしら?」 そういってクラエスは微笑む。 「さあね〜。こうも増えるとね。」 「あら。私には嬉しそうにしか見えないけれど。」 *** 似合わない。白い麻のジャケットなんて落ち着かない。 ヒルシャーの眉間には皺すら寄っていた。 「ダメですよヒルシャーさん!そんな服で今回の変装のトリエラと歩いたら 『淫行』ですよ! 『 淫 行 』 ! ウチの首相の「ベル公」がだらしなくて、ティーンの娘をエエ歳したオッサンが 連れ回すなんてのは世間の目が厳しいんですから!」 何時ものダークスーツで行こうとした時のプリシッラの一言だった。 僕は難しい年頃の娘を扱っている・・・ジャンやジョゼと比べて決して楽ではないぞ。 そう思いながら何時も湿り気味の安煙草をポケットから出したときだった。 一匹のバセットハウンドがトコトコとやってきて、 ヒルシャーの顔をじ〜っと見上げるのだった。
「やあカピタン。君も厄介払いか。」 そう言われたバセットはパタパタと数回尻尾を降った。 「なかなか大変だよ、あの年頃は・・・全く」 そういって頭を掻くヒルシャーは足下に寄りかかる重みを感じた・・・ハッハッと 口を開けてバセットはヒルシャーに掴まり立ちをしていた。 「ああ、いつものあれをして欲しいか。」 ヒルシャーはバセットの両手を握って、ゆっくりと犬の体をひっくり返した。 「はいよ〜『ごろーん、ごろーん』・・・」 地面を一回転してしばらくバセットは尻尾を振り、またせがむようにハッハッと 口を開けヒルシャーに掴まり立ちをしてきた。 「もう一度か、はい『ごろーん』・・・」 こうやって無心に犬と遊んだ子供の頃は幸せだった。 ・・・社会福祉公社に身を寄せる今は、親にすら"素性"について嘘を付き続ける日々だ。 バセットと遊びながら思う・・・もし・・・もし仮にも・・・。 トリエラともこんな風にもっと無心に遊べる自分があったら人生は楽に過ごせるのか・・・。 あんな物語の果てにある今でも、ビーチでジントニックの軽い酔いの中、手を 振り駆け寄ってくる水着のトリエラを迎える自分が仮に居たら・・・正にこんな 衣装に似合う風景を気持ちだけでも現実に出来るなら、「お出かけ日和」の 今日は衣装だけで少しは気楽に一歩を踏み出せるのか。
まあ、犬と並べたらトリエラは怒るだろう。 でもあの世のラシェルは・・・こうして僕の悩み苦しむ日々を微笑みながらも 見つめていてくれるのだろうか。 *** 「随分と楽しそうですねヒルシャーさん。」 フッと見上げた先にトリエラがいた。 サイクルパンツかとも思うほどのボディフィットした膝上ショーツに色々な スポンサー柄の入った派手なジャージ状のスポーツシャツ、そして何時もと 違う纏め髪の前髪をカチューシャ代わりのサングラスで押さえキャップを 後ろに被っていた。 まるでジロディタリアを見に行くような派手さ・・・。 スタイリストをしたであろうプリシッラ・・・お前、何を考えてるんだ。 「どうだカピタン!決まってるだろ〜っ!」 トリエラは片目を瞑り開けた目に横Vサインを当てスラリと片足を伸ばして ポーズを決めた。 これなら実戦用のタクティカルブーツは単に小生意気な娘の決めアイテムに 化ける・・・なるほど、プリシッラもやるな。 「妙に似合ってましたよ。何かいつものヒルシャーさんとは別人みたい。」 「カピタンにせがまれてね。お陰で、これから先に戦場が待っているとは 思えない気分だ。」 「大丈夫でしょ。また公然組織と非公然組織の接触を押さえて公然組織を ガサ入れするネタ収集ですから。」 「ところが相手はやろうと思えば手榴弾から分隊支援級機銃辺りまで選び放題の 使い放題だ。僕らは・・・」 そう言ってヒルシャーは脇のホルスターを触った。 言われたトリエラはポシェットをじっと見つめた。
そして二人は共にバセットを見た・・・。 最悪の事態への予備戦力・・・だが自分達が付く様な状況である以上、暢気な彼を 再び見られる「保証」は無い・・・。 「・・・行きましょうか。じゃカピタン、行ってきまぁす!」 トリエラに言われたバセットハウンドはゆっくりと尻尾を降って見送った。 何回か振り返っても何時までもそうしている。 「・・・何時もの話ですけど私にはどうしても・・・」 歩き始めてしばらくした時、そうトリエラが切り出した。 「まあ何時もの話だが・・・」 ヒルシャーがため息を一つ付いて辛そうな顔をした。 「やはり『あの方』の・・・」 そう言うトリエラを遮ってヒルシャーが話す。 「僕もそう思う事がある。だが怪談にも酷すぎる。」 ヒルシャーの答えにトリエラはゆっくりと肯いた。 「そして今や義体で『彼のこと』を覚えてるのは恐らく君だけだし、僕も 技術・研究班にそれをトボケている。」 「『だから条件付けはもう沢山だ』ですか・・・。」 ヒルシャーはサングラスを慣れない手つきで取り出すと無言でゆっくりと 両手を使い掛けた。 彼にしては妙にキザだが、今日の麻の白いジャケットが見事にその無言の答えを 決めてくれているのだった。
その角を曲がるとバセットは振り向いても見えなくなる。 重苦しい空気が2つ、角を曲がった瞬間だった。 「ね、ヒルシャーさん!あの場所なら例のホテルのテラスが近くですよね!」 「ん・・・ジャンさんの指示は『その場所を見下ろせる所』だから、確かに ベストな場所だが・・・。」 「あそこの『美味しいけどお高めなアイスとケーキのデコレートプレート』! 食べたいなー!」 そう言う言葉と共に、若々しい活気に満ちた腕が、気力を失い掛けていた 男の腕に抱きついた。 「経費で落ちるんでしょ!食べたい食べたい〜!」 「ジャンさんの目が0,3ミリ吊り上がるぞ〜。」 そう言いながらヒルシャーは少し笑った。 ラシェル・・・見えてるかい。 僕は何とか頑張っているよ。 【第1話−END>2話へ続く】
いきなりで〜♪タイトルを〜♪書き忘れるなよ123(^-^;;; すみません書き忘れです。もし保管に値する物であれば最初に下記の タイトルを入れて下さるようお願いします。>技術部保管庫管理人様 □□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第1話」−−
ごろーんwww ヒルシャーさんかわいすぎww さすが犬好きドイツ人、わんこと遊びなれてるんですね。 GJ 続きが楽しみですw デートみたいなものの締めくくりは、やっぱりトリエラの 細巻き煙草プレゼントなんでしょうか。
技術部保管庫の編集お手伝い人、兼エロパロ保管庫管理人です。
>>256 管理人さんではないんですが、勝手に転載させていただきました。
無断転載倉庫のおひっこしは、技術部保管庫、エロパロ保管庫、共に
novelette(中篇以上)、Vignette(短編)の転載作業終了しました。
でもSnippet(掌編)の転載作業はしばらくご勘弁ください;;;
>>技術部保管庫 管理人様
勝手ながらトップページに『保管作品名一覧』のリンクを貼らせていただきました。
すみません、トップページはいじらない方がいいかと迷ったのですが…
事後報告で申し訳ない。お邪魔なようでしたら消してしまってください。
いまさらですが色々と勝手にページを増やしてしまってすみません;;;
早速ですが、第二話です。
あとエピローグとして書いたモノが長引いてもう1話にするかどうか
考え中です。「蛇足」という言葉もあるし・・・。
>>257 ありがとうございます。(^-^)
一応、クラエス中心の物語ですんで、これで、あんまりヒルシャーと
トリエラは出てきませんが、今度は別編でカピタンと遊ばせるかな
とも考えてます。
>>258 ありがとうございます。_(_ _)_ >引っ越し&転載
そうか・・・過去にエロパロ系は1つぐらいしか書いてなかったんだなと
自分でも驚きです。
それもSMって自分が一番書きそうにないモノだったか・・・なんて。
今後は作風も広げなきゃと思いますのでよろしくです。
では、お楽しみ下さい。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第2話」−−
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第2話」−− 角を曲がったヒルシャーとトリエラを見送ったバセットはテケテケと 義体宿舎に歩いていった。 入り口を抜け、ある廊下の角が近づいたときだった。 バセットは急に足を止めると、そっと少しずつ進み鼻を高く上げて匂いを 嗅ぎ分けていた。 その足も暫く止まった次の一瞬だった。 「わん!」 次の瞬間、廊下の向こうからベアトリーチェの 「あ〜!負けたー!」 ・・・という声がした。 バセットは小躍りするような足取りで廊下を曲がった。 「あ〜残念。おいでカピタン。何時もの御褒美。」 ビーチェはそう言って自分の部屋に向かった。 そう、ビーチェは、このバセットと一日一回の鼻勝負をして自分の鼻の感を 鍛えているのだった。 小分けパックの「犬のおやつ」を取り出すとビーチェはバセットに差し出した。 カピタンと呼ばれるバセットはそれをムシャムシャと美味しそうに食べた。
「明日は負けないよ。カピタン。」 そういうベアトリーチェを後ろにバセットはクラエスの部屋に向かい、勝利の旗を 振るように尻尾を高く上げ、ふんふんと鼻息も意気揚々と戻っていった。 「どうやら勝ったようね。」 イスに座ったクラエスは本を置くと彼専用の通用口を抜けて帰ってきた バセットに微笑んだ。 自慢げに更に大きくバセットは尻尾を振った。 「おめでとう。それで、トリエラとヒルシャーさんは・・・どうだった?」 バセットは暫く考えるような素振りを見せ、その後でパタパタと数回、緩やかに 尻尾を振った。 「そうね・・・貴方の勘を私も信じるわ。今日は大事に至らないわ・・・。 あの人達は・・・無事に帰る。」 少し俯いて無表情にクラエスは呟いた。 ふぅ・・・とバセットも同感を示すように溜息をつく。 「さて・・・」 そう言うとクラエスは本に栞を挟み寝床に置いた。 「私たちの『お仕事』も始めましょうか。」 *** 「こんにちわ〜」 そう言って農作業服に着替えたクラエスが食堂の裏口を訪ねたのは、朝の後片づけが 終わり、これから昼の仕込みが始まろうとしているときだった。 「おぉ、いつもの野菜屑だね、クラエス」 そう言って食堂の職員が野菜屑の袋を探しに行く。 野菜屑はクラエスの農園でコンポストに入れられ肥料になるのだった。
別の職員が話しかける。 「順調かい?クラエス。」 「おかげ様で、これからの成物は皆さんの御期待に添えるかと思います。」 「そうそう、また葉物で良いのが出たら分けてね。それにしてもカピタンも 相変わらず元気だな。」 暑さもあるのか舌を出してハッハッと呼吸しているバセットに話しかける。 「ほーい、またトマト期待してるよ!」 奥に行っていた職員が袋を持ってくる。 「いつもお世話になります。」 その野菜屑の袋を手押し車に乗せて進むクラエスの前を、バセットが高く上げた 尻尾を小さく振りながら歩いていった。 *** 「恐らくこの団体のDグループが今回、接触をすると思われますが、 現時点で彼らに全く・・・」 フェッロの報告を聞きながら、ゆっくりと窓に近づき外を見たジャンは、 今日ならばこの時間に窓の下を通るクラエスとバセットを目で追っていた。 「失礼ですが・・・現在は作戦行動中です。」 フェッロがジャンに負けない程の鋭い上目遣いで見る。 「聞いている・・・続けたまえ。」 相変わらずジャンは窓の外を見て答えを返す。 「集中していませんジャンさん。困ります。」 フェッロは溜息を付いて書類に目を落とした。
「『なぜかDグループに全く動きなし』か。この辺で少し休もうか、フェッロ。」 そういってジャンは何処でもない外の空を見ながら話した。 「・・・あの時の話、今も思い出しますか。」 「本当に忙しいのは張り付きのアルフォンソ達から連絡が入ってからだ。丁度 良い息抜きだろう・・・」 *** 「『彼』を飼いたいのですが。」 そうクラエスがバセットハウンドの子犬を抱いて来たのは何時頃だったろうか。 ある日、実験用のビーグルの納入があったが、一匹、何故かバセットハウンドが 混入した・・・そして、どういう経緯か逃げ出し、食堂の厨房裏口付近に、 いつの間にか来て、更に・・・野菜屑を貰いに行ったクラエスが第一発見者だった。 「・・・暫く預かる。」 ジャンがそう判断するのは無理もなかった。 「犬を処分しクラエスの『条件付け』を行うのが・・・」 「犬一匹で貴重な実験義体の試験回数を減らすのか?」 時間を置いた別室でフェッロの提案にロレンツォ課長は即座にそう答えたのだった。 バセットにはスキャンや生体検査など社会福祉公社の技術・開発部門が持ちうる あらゆる検査が行われた。 「どうしますか。データで見る限り何も怪しい点はありませんが・・・でも私は・・・」 「君の勘は解るが・・・やむを得まい。」
フェッロの不安な顔を背に感じながら、ジャンは窓の外、この時間に野菜屑の 袋を手押し車に乗せて、一人で野菜畑に向かうクラエスを見ていた。 *** 「名前は決めているのか。」 それから数日後、バセットをクラエスの腕に渡したジャンは彼女にそう質問した。 「はい、もう既に。」 微笑みながらクラエスは答えた。 「大尉(Capitano)です。」 ジャンとフェッロの顔から一瞬にして血の気が抜けた。 「・・・なぜ、その名前にしようと思ったのかな。」 そう聞き返すジャンにクラエスは答えた。 「彼が将来、そんな風格を備えるような気が今からするもんですから。 何か問題が有るのでしょうか?」 「『大将』でも『大佐』でも良いとは思わないか?」 「そこまでの位を上げるのは彼が遠慮するでしょう。」 無邪気な微笑みを前に、後ろ手でジャンはフェッロに動揺を抑えるように ハンドサインを送り続けていた。 「君が前線に出る可能性は恐らく無いが、私らは我が国の他の軍や警察などの 本物の『大尉』と多く接する。混乱する可能性があるので他の名前にしてほしい。」
「ではフランス語の『カピタン』では宜しいですか?」 ダメなのかな・・・そんな諦めを浮かべるクラエスの目を見て、自らの動揺を 抑えながらジャンは返した。 「・・・仕方なかろう。許可しよう。」 *** 「あれからクラエスにもカピタンにも別にこれと言った変化は無く、彼女の畑は ますます繁盛、そこのトマトは幹部の食卓を飾ることすらあります・・・ですが。j 「君も言いたいのだろう? 『生まれ変わり』と。 ならばカピタンは真っ先に私の寝首を取りに来るだろう・・・増してバセット・ハウンド なんて暢気な姿で甦るとは・・・」 そういってジャンはフェッロに振り返った。 「とても思えない。」 「ですが・・・」 フェッロは再び鋭い目つきを引き締め返す。
「バセット・ハウンドは、そうやって獲物を油断させて 追い込む目的で品種改良されたとも聞きます。」 更に彼女は、少し目線を逸らして言葉を続けた。 「痕跡を執着して捜し求め、ゆっくりとした体力戦の足取りで何処までも 追いかけるそうです。」 「ならば仮にそうだとしても・・・」 ジャンは苦笑いのような微笑みすら浮かべて答えた。 「怪談にしても酷すぎる・・・そう思わないか。」 「ズー 作戦本部!遊軍班ニハッドです!ウロチョロしてたんで 囮と思っていたFグループの下っ端がDグループの幹部と 公然組織員同士で接触をしています!意図が掴めません! ピロ」 「・・・『怪談にしては』切りの良いところですね。」 「実に・・・さあフェッロ。作戦モードだ。」
すみません、先週に続き失態です。_(_ _)_ 〆を忘れました。レス数浪費、本当に申し訳ありません。 【第2話−END→3話へ続く】
やはり大尉どのでしたかw なんとなくそんな気はしていましたが。
わんこと勝負するビーチェかわいいw 彼女にしてはちょい感情豊かな
感じもしますが、アニマルセラピー的効果があったのかもねwということで。
GJ 続きをお待ちしてますw
>>259 わんことたわむれる鳥昼組か〜、なごむなぁ。見てみたいすねw
>今後は作風も広げなきゃ
楽しみにしておりますw 新たなジャンルを開拓していくと勢いもつきますよね^^
…自分はうっかり一歩踏み出したら踏み外してドツボにはまりましたが;;;
キヨラカだったあの頃に戻りたいような今更遅いような…それはさておき。
Capitanoは六話構成でしたよね?
では自分も完結までに親子ップル話を修正しておこうw
>>268 露口 茂さんが何か言いたいそうですw 「そうとも・・・」
まあどうなんでしょうねぇ・・・とトボけておきます。(^-^;;;
ビーチェは全ての台詞を無表情、かつマジ顔で言ってると考えてください。
因みに彼女は勝敗表も付けていました・・・先日、止まってしまいましたが。
>Capitanoは六話構成でしたよね?
蛇足で8話構成、しかも切れが悪くて1話分が長いのに切れないのがあり
「コーラック飲みたい」な構成になりそうです。
もう「蛇足」は止めようね〜!が今の口癖です。(^-^)
さて今週も1話です。予定としては「文化の日」に件の"切れが悪い"話の
前半パートを載せられるかなという感じです。
今週は頭、〆ともチェック済み・・・なんですが、どうかな?
ではお楽しみ下さい。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第3話」−−
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第3話」−− 「さて・・・午後から呼ばれてるからね。」 畑の雑草を手際よく抜き、コンポストに野菜屑と共に入れた後、クラエスは 宿舎に向かう。 「その前に今日は貴方をお風呂に入れなきゃ。」 一瞬、バセットの眉間に皺が寄り、足下が止まる。 クラエスは歩みを止めることなく、そんな彼を追い抜いざまに話しかける。 「・・・いいわよ。ビーチェに2回の不戦勝ハンデを頼もうかな。」 バセットの眉間には皺が寄ったままだ。 「5回ハンデなら台車で宿舎まで乗せてあげるわよ。」 少し離れた先からクラエスはやや上を向き言った。 ふぅ・・・何か諦めたように溜息を吐くと、再び彼は早足でトコトコと クラエスに付いて行く。 *** 「あ、クラエスもお風呂?私もなんだ。」 リコがそう言って後ろから廊下を歩いてきた。 「ううん、先に彼のお風呂よ。そして午後に検査があるから、後で私も。」 「ふーん、私と一緒にお風呂だね、カピタン。」 そう言ってリコはバセットの頭を撫でた。
バセットは尻尾を振ってそれに答える・・・が、後ろでクラエスが一言はさむ。 「あら、さっきまで嫌がっていたのはドナタかしら?」 言われたバセットは気まずそうな伏目になる。 「え?ねぇカピタン、私と一緒でもイヤ?」 ぴぃ〜・・・と一段と諦めた声を出すとバセットは先頭を取って風呂場に入っていく。 「やっぱり犬ってお風呂嫌いなの?」 リコは脱衣所でクラエスに話した。 「まあ本来は自分固有の『存在主張』な匂いを消されるから当然の反応 らしいけど、義体棟で暮らす以上はね。」 「そーなんだ。何だか可哀想だね。」 「まあ・・・そうね・・・。」 リコは年齢に見合った脱ぎっぷりでサッと浴場に行った この義体棟に"可哀想でない住人"はいない。 少なくとも私以上に幸福な者は・・・リコがそれに気が付くのはもっと後で良い。 浴室のドアを見ながらクラエスは思った。 *** 風呂場のシャワーブース・・・一番端の一区画には、「泥だらけ専用」という 札の下に「・・・とカピタン」なるプリシッラの手書きによる札が貼られている。 「随分な時間に御風呂なのね。」 風呂場特有の響きでクラエスの声が広がった。 「第二待機のバックアップだって。ジャンさんが早めに入って置けって。」 返すリコの声も遠く響いた。
「例のトリエラ達が行ったアレ?」 「公然組織の動きが何だか変なんだって。」 「・・・何事もなければ・・・良いわね。」 ザー・・・。 バセットに当てるクラエスのシャワーと、リコが当たるシャワーの音が共鳴する。 ・・・暫しの沈黙が風呂場を包む。 「それにしても、いつも思うんだけど、クラエスのそう言う格好、珍しいよね。」 キュッと水栓を締める音と共にリコの声が響いた。 それは無理矢理に腰をベルトで締めたサイズ違いのブカブカのジーンズに、 袖を捲るだけ捲った着古した大人物のシャツという、クラエスには似合わない 実にくだけたものであった。 「『犬洗いスタイル』よ。彼は大人しいんだけど・・・本で読んだら普通の犬は もっと暴れるんだって。」 そう言うクラエスの顔を見てバセットは尻尾を降った。 「ちょ・・・ちょっとカピタン!もう少し待ってね。」 クラエスの度のないメガネに水飛沫が散る。 「もう・・・一緒に入っちゃえばいいのに。」 「私だけの御風呂なら別に構わないんだけど、みんなのお風呂だからね。 仕方がないわ。」 大きなタオルでバセットを拭いながらクラエスは言う。
「じゃ出てるわよ。」 「え・・・クラエス、もう出ちゃうの?」 「彼を乾かさなきゃね。またその後で私も入るわ。」 *** 扇風機の前で鼻を伸ばし目を伏せた長い耳が後ろに流れる・・・。 そしてクラエスはバセットの両足を片方づつ上げながらドライヤーを振る。 どこかで聞いたような、激しい風音のなか、クラエスの脳裏には、空を覆う 厚い黒雲を切りさいて突き抜ける日の光と、その周りに白い雲影が見えた。 ・・・それが何処だったか判らないけれど・・・。 そして今、自分が着用している「犬洗いスタイル」のジーンズとシャツ。 あまりのサイズ違いにジーンズの裾に大きくハサミを入れた瞬間・・・ 布の厚みとは別の何かを指先に感じた事、そして裾を綴じるミシンが なかなか進まなかった事をクラエスは思い出していた。 でも、これを着たとき、かつて黒雲の下、突然降った雨の中で、自分ではない 体温で暖められた誰かの懐かしい匂いをクラエスは感じた。 ・・・何度か洗濯しても落ちない、汚れではない何かだった。 *** 「丁度、クラエスと入れ替わりだね。」 「気をつけてね。安全第一、結果は第二。」 「ジャンさんに言ったら怒られそうだなぁ。」 「自らの身を守る事も仕事の一つよ。自分だけでもそう思っていて・・・ 無事を祈るわ。」
「うん、ありがとう。じゃ行ってくるね。」 *** 脱衣場にバセットハウンドは丸く座っていた。 そしてクラエスは一人、風呂場で髪を洗う。 クラエスは出来る限り他の娘たちとは時間を外して入浴することが多かった。 眠るとき以外にメガネを外す数少ない時間、しかもそれは"兵器"であったろう 自分の鋭い感覚が何故か甦ってくる時でもあった。 濡れた髪を絞ると、クラエスは無表情に鏡を見た。 小さな水音も響きさざめく、誰にも干渉されない、そして誰も・・・衣服すら 干渉してくれない世界。 何時だって"不在"を感じる・・・でも、それだけじゃ涙すら出なかった。
何かの拍子で起こる"不在"と"存在"の隙間に陥る時・・・。 クラエスは人知れず泣くのだった。 それ以上は自分にはどうにもならない。 限界への諦めと、それでも割り切れない残像だった。 *** 「今日は能力測定じゃなくて検査だけよ。安心して。」 そういってクラエスは研究棟の検査室に入っていった。 また何かを飲んで、注射をして、センサーの輪を潜って、グルグル回されて、 光を照射されて、うるさい機械に探られて・・・まあ、何時もの事。 *** バセットハウンドは長椅子の上に座ると早速、目を瞑り静かに横たわった・・・ 検査でも長いことは判っていた。 【第3話−END→4話へ続く】
276 :
【】 :2009/11/02(月) 00:38:24 ID:21I4RWDvO
クラエスはひっそりと声なく涙だけがこぼれて止まらないような泣き方を しそうな気がしてせつない。GJ、続きもお待ちしておりますw すみません、参拾参氏の全話投下を待ってから…と思っていたのですが、 ちょっと季節物を思いついてしまったので割り込んで投下させていただきます。 なんか輸入雑貨の店で見つけたって親がかわいいパスタを買うてきたんだ。
277 :
【】 :2009/11/02(月) 00:42:03 ID:21I4RWDvO
【特別なパスタ】 「おはようございます、ヒルシャーさん」 レポート用紙とテキストを手にした少女が担当官の元を訪れた。 おはよう、と挨拶を返した男は少女と同じテキストを手にして自分の デスクから立ち上がる。テキストに添付された付箋に細かな字で 書き込みがなされているのが、座学を担当する生真面目なドイツ人 らしい。 先に借り出し手続きを済ませておいた会議室の鍵を手にし、 男は少女を伴ってオフィスを出る。 「世の中は万聖節でお休みだというのに、変わらず課員の方たちは 出勤しているんですね」 「……そういえば今日は11月1日だっんだな」 今日がイタリア全土が対象となる祝日であることを失念していた担当官は、 一般社会とは切り離された生活を送っている義体の少女から指摘されて 苦笑する。 「まあ仕方がない。公社にいる以上定期的な休日など望むべくもないよ」 「因果な商売ですね」 「昨日のハロウィンは、また寮でパーティーをしたのか」 「ええ。今年もプリシッラさんが色々と用意してくださって」 「そうなのか」
2課の創設当時から所属している情報解析担当の女性職員は、以前に 比べて格段に忙しくなった今でも、なにかれとなく季節の行事を少女たちに 提供してくれている。 「今年はかぼちゃのトルタ(ケーキ)だけじゃなくて、“ハロウィンの特別なパスタ” も出ましたよ」 「かぼちゃのソースでもかかっていたのか?」 担当官の平凡な発想に少女は笑って答えた。 「いいえ。パスタの形自体が色々なキャラクターになっているんです。カボチャの ジャックとかお化けとかコウモリだとか」 イカ墨を練りこんだ黒いクモのパスタはちょっと不気味でしたけど。少女の言葉に つられて担当官も微笑を浮かべる。 「誕生日の恐竜パスタみたいなものだな」 「? なんですか、それ」
「ああ、ドイツにもそういう変わった形のパスタはあるんだ。僕も子供の頃、特別な お祝いの日だけ食卓に上った覚えがあるよ。ステゴサウルスとトリケラトプスと Tレックスの3種類が入っていてね」 翼竜や首長竜の形も入れて欲しかったんだが、例えば翼竜だったらランフォリンクスと プテラノドンのどちらを代表格と見るか意見が分かれるところだろうし、首長竜の場合は あの大きさでは個別の種の特徴など出せないだろうし、仕方のないことなんだが―――。 少女があまり耳にしたことのない古代生物の名前を挙げてそう説明する担当官は、 普段少女たちに古典や外国語の講義をする時よりも何やら生き生きとしている。 まじまじと自分の顔を見上げる少女の表情に気付き、朴念仁のドイツ人はまたいつもの ピントのずれた気遣いをする。
「ああ、ええと…そうだな、説明するよりも現物を見た方が早いから、今度探してくるよ。 クラエスは料理もするんだろう? 寮で皆で食べるといい」 担当官の言葉に苦笑しながら少女は言う。 「クラエスはお菓子は作りますけど、パスタはどうでしょうかね。それに彼女に丸投げで 頼んでしまうのも気が引けますし……。あ、どうせだったら調理実習でヒルシャーさんが 茹でてくださいませんか」 「え? 僕がか?」 パートナーから思ってもみなかった提案をされて男は目を見開いた。 ええ、ぜひ。と楽しそうな表情でかさねて希望する少女の言葉に、次の休みには 大鍋を買ってきてパスタの試作をしなければならないのだろうかと、眉間にしわを寄せ 思案するヒルシャーであった。 << Das Ende >>
>>276 【】様
頭にバンダナの三角巾、そして・・・ヒルシャーのエプロンはどんな
感じなんでしょうか。いろいろと想像してしまいます。
・・・トリエラが見繕いそうですが、その場合は更に見モノw
恐らく実習にはプリシッラの他にアマデオが進んで参加、
オリガさんも補助、試食だけに顔を出しそうなジョルジョですか。
ジョゼはヘンリエッタに連れてこられそう、ジャンは恐らく
「義体棟から良い匂いがするようだが」とか言ってるんでしょう。
ビアンキ先生は状態観察という仕事半分ですか。
>参拾参氏の全話投下を待ってから
いやご迷惑をお掛けしています。_(_ _)_
もう先の長いシリーズになっちゃいましたんで、他の皆さんのUPを
お待たせしてたとしたら誠にすみません。
構わずにガンガン割り込んで下さって結構です。
一応、その回の終わりには「END」、週を跨ぐ場合には「CMタイム」と
入れますんで、宜しくお願いします。
大体、お休みペース(ほぼ週1)で載せます。
と・・・いうわけで今回は4話が変則的になります。
誠に勝手ですが、保管に値する物でしたら前パート・後パートを1つの
「4話」として頂ければ幸いです。
途中CMを挟んで、予定では週末土曜日に後パートです。
では4話(前パート)をお楽しみ下さい。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第4話」−−
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第4話」−− 「あ、ジョゼさん!カピタンが!」 奥の診察室から出てきたヘンリエッタが声を上げた。 「しーっ。静かにしてあげなさい。彼だって・・・」 ジョゼが言うか言わないかの間にバセットは目を開けヘンリエッタに向けて 椅子を降りテケテケと歩み寄った。 「ごめんね起こしちゃって。」 そう言って屈んだヘンリエッタに向かって、バセットは大きく鼻を伸ばし、 前足でポンっと跳ねて寄りかかると互いに顔を合わせるように向き合った。 そしてフガフガとヘンリエッタの首周りなど、まるでPUPAの香りを嗜むように 鼻を寄せた。 「あはは・・・カピタン、くすぐったいよぉ〜」 それからバセットは鼻を合わせペロリとヘンリエッタの鼻の頭を舐める。 ・・・確かに「怪談にも酷すぎる」。 あの大尉が、こんなサービス精神旺盛な犬に生まれ変わるなんて事は。 そう思いながら年相応の少女に戻るヘンリエッタを見たジョゼは自らも "あの夏"に帰っていた。 タオルミナの沖に遊ぶ船の白い帆に似た服、笑顔、そして犬と戯れる面影。 あの夏の日・・・僕が"彼女"の言葉に耳をかしていれば。 そして後のあの日・・・バルカンへと玄関を出なければ。 遅いんだ・・・
"あの服やあれに似せた服を仕事でヘンリエッタに着せるな!間違ってもだ! ・・・お前は帰る場所さえ失う事になるぞ。これは助言じゃない・・・命令だ。" 違う・・・違うよ兄さん・・・もう遅いんだ。 僕たちは"玄関の戸"を明けてしまった・・・ 「ヘンリエッタ・・・行こう。彼もお休みしたいだろう。」 *** 「アンジェ、カピタンがいるぞ。」 廊下の椅子に彼を先に見つけたのは不調なアンジェリカを連れた マルコーだった。 「ペロ」なんてネズミや小鳥はあまり聞かない。 だが、かつて米合衆国大統領戦を荒らしたアイツの様な憎たらしい 何かの生き物とも思えない。 ・・・もしや猫のくせに長靴を履いたアイツか? 何でも良い! 今日こそアンジェの「失われた記憶を開く鍵」になってくれないか! 祈るようなマルコーの目は半ば苛立ちを含んでいた。 「こんにちわ。クラエスは検査中なの?カピタン。」 そういってアンジェは椅子のバセットに歩み寄り左右の長い耳を 持ってゆっくりと上げた。
バセットは片目を開けてアンジェを見て、すぐに鼻を伸ばし彼女の香りを フガフガと嗅いだ。 「石鹸が変わったの。判った?カピタン。」 「アンジェ、彼は石鹸の匂いなんて覚えているのか?」 「3週間前にお風呂でクラエスと一緒でしたから。」 ・・・まだそこまでは覚えられるという事か。 アンジェは手慣れたようにバセットを頭だけでなく顎や首等まで丁寧に撫でる。 バセットもツボなのか気持ちよく薄目になっている。 そんな様を見ると犬を飼っていた可能性は相当にある。 だが・・・同犬種のプードルですらスタンダードからティーカップまでライオンと ネズミな体格差な様に犬は別動物の如く種が広い・・・。 「他に何か覚えてる事はあるかアンジェ?」 「え・・・今日、クラエスが野菜屑を運ぶ前を彼が・・・」 彼女が過去を思い出す切っ掛けをバセットに期待するのは何時もの話だった。 「それ以外には?」 「えと・・・ええと・・・先週、クラエスとトリエラの部屋から彼用の出口で 鉢合わせになって躓いちゃいました。」 「もっと前のことは?」 「・・・・・・・・。」 「何か無いのか。」 「・・・。」 「全くないのか!?」 「・・・すみません・・・何か・・・ごちゃごちゃして・・・」
そして叶わないのも何時もの話だった。 困惑するアンジェの顔がそこにあった。 「・・・行くぞ。また注射だ。ボヤボヤするな。」 「・・・はい。じゃ・・・またね、カピタン。」 *** 「まったくもう!公然組織員同士の不倫密会を非公然組織との『接触』と 取り違えるなんて、とんだ迷惑ね!!」 プリシッラが何やらの服屋の袋を持って歩く。 「こんな光が炸裂した様な素敵な空なら彼らだって浮かれるんでしょ。 あのころの『"スターリン"のグラード』ですら半裸で涼むのに文句を言う方が "反革命行為"、生まれるロマンスにケチを付けた者が"人民の敵"だったわ。」 オリガさんはその少し後ろを付き合って歩く。 「あの時の地雷原のアッチでも夏はウチの国みたいな浮かれ騒ぎだったの?」 「『楽しめ万国の労働者!夏は我らに平等なり!』だもの。何処も同じよ。 ウラも取らずに2課にまで第二待機を依頼してきた方が『人民の敵』なのよ。」 そんな季節を楽しめない万国労働者の希望の勝利であるエアコンの効いた 廊下を二人の人影が進む。 「それより午前中に行こうと思ってたらクラエスは午後からコッチだったのよね。 ・・・彼も居るかな?」 プリシッラの足が速くなる。 「アンタ・・・今度は他人の犬の服?クラエスは『犬の服』は嫌がりそうよ。」 オリガさんは半ば呆れ気味だ。
「ふふ〜ん、この間の『胴長犬用レインコート』は喜ばれたよ。」 そう言いながらプリシッラは研究棟の角を曲がる。 「あ、居た居た!カピタ〜ン!」 「ほら言わんこっちゃない。迷惑そうな顔してるわ。」 オリガさんが言うまでもなく顔を上げたバセットは、すぐに"伏せ"のスタイルに 戻って、耳を長く椅子に垂らし上目使いでプリシッラを見ている。 「そんな顔しないのカピタン!これはね〜、友達でパソコンリンクの刺繍ミシン 持ってる娘が居てね〜」 そう言うとプリシッラは1枚の厚手のバンダナ状の布を袋から取り出した。 布には「カピタン」の文字とフランス外人部隊の「部隊章」と「大尉章」が 刺繍されている。 「どだ!勇っさましいでしょ〜!」 "おすわり"をしてブンブンと尻尾を振るバセットにプリシッラは前縛で布を着用する。 背中に三角形が出来て名前や階級章が浮かぶ。 「お、オーリャ、さっきの待機ん時の勝負だけどよ・・・」 ジョルジョがアマデオと共にやってきた。 「二人とも。ドナタ様の前で博打の話をしてるの?」 オリガさんが胸を張るように言った。 「・・・うわ!俺達よりエラい階級章!」 アマデオが驚く。 「しかもまあ豪傑な所のヤツを・・・」 ジョルジョが呆れ顔でプリシッラを見る。
「はい全員!気を付け!敬礼!」 プリシッラが発令すると四者四様の出身母体もバラバラな敬礼がバセットに向けられた。 バセットは驚き少し迷ったものの、まもなく鼻を上に高く掲げ返礼した。 「不肖プリシッラが代理!全員休め!」 「・・・お前ら何をやってるんだ?」 通り掛かったビアンキ先生が呆れ顔で言った。 「ようカピタン、元気でやってるか?」 彼はそう言って返礼で高く上げられたバセットの顎を片手でワシワシと撫でた。 「おー、よしよし。判った判った〜。」 カピタンは気持ちが良いのか顎を何時までも下げずに"撫でろ"と言わんばかりに 先生に突き出す。 「またプリシッラだろ、こんなの考えたのは。」 "階級章"を手に取りビアンキ先生は言った。 「そうで〜す!」 「余り他人の"管轄"を荒らしまくるな〜。」 「え〜!嫌がることはしてませんよ〜」 膨れるプリシッラと疑問系で笑うビアンキ先生。 「センセェ〜!大尉ですぜ大尉!まいったな〜!」 「風貌だけなら確かに資格はあるぞ。アマデオが大尉章を付けてきた方が僕なら驚く。」 「やーい、言われてやんの!」 「うっせぇ!もう、きっついなぁセンセェも〜」 プリシッラにも突っ込まれアマデオが笑う。
「だがヘリフォードの訓練には付いていけない。」 「でも彼が参加すると就寝前の『我々は!』の代わりの遠吠えが当分止まらなくて 寝られないわよジョルジョ。」 「しかし彼が歩哨当番なら熟睡できるぞ、オーリャ。」 「う〜ん。カピタンが隣の銃座に入るなら、僕は体力以前に新兵訓練でも怖いから 兵役拒否しても逃げ出すよ。」 冗談をマジ話でやり合う二人にビアンキ先生が割り込む。 アンジェとマルコーが居ないのを除けば、それはまるで「あのころ」の光景だった。 --------------------------------------------- CMタイム 〜 話数を変えずにちょっと、時間を置きます 続きは次の週末を予定〜 なお、この告知部分の保管庫転載は不要です。 ※余談。 数ヶ月前にキングジムさんのテキストライター「ポメラ」が値段も落ち着いて 来たので購入しましたが、正に「拳銃」な便利なモノで、Text形式ですがバタフライに 開く広いキーボードで何時でも何処でも書き物が出来て、しかも単四電池2個が バッテリーですんで普段は充電池、無くなったら24時間コンビニで入手可能という 「モノ書きに神が賜うた」ようなので書きまくってます。便利ですのでご紹介。 ---------------------------------------------
289 :
【】 :2009/11/05(木) 00:12:16 ID:t+1gqmMhO
創設期メンバーの掛け合いはやはり楽しいw ああアンジェ〜〜TT
お休みごとのおたのしみ、ですね。お待ちしてますw
バッテリーが乾電池というのは便利ですね〜。
自分はこの春からEeePCに切り替えましたが、B5サイズで6,9時間駆動。
持ち運びも楽だしそれなりに使いやすいですよw 無線RANも使えるし。
ただ保管庫の作業をするには画面が小さすぎるのが難点。
>>281 真っ白な割烹着におたまを持ったヒルシャーを想像してしまい
不覚にも吹き出しましたw
希望的観測としては胸当てのある薄い緑のエプロンあたりかと。
もっともドイツでは台所は女性の城で、男性は女性の領分を侵してはならない
という風土があるとも。まあ今時はそうでもないのかもしれませんが。
マルコーさんなんかは意外とこだわりの手料理を食べさせてもらえそうな気が。
ただし主に酒の肴w
保管の件了解です。ひとまず4話前半まで保管しました。拙作の改訂版も。
(やはり書き上げてすぐ投下するとボロボロと落ちが…;;;)
お言葉に甘えて季節物が書けましたら間で投下させていただきます^^
290 :
【】 :2009/11/05(木) 00:14:04 ID:t+1gqmMhO
<男の家政学> ヒルシャ「以前にも言った通り、僕は家政学の講義には向いていないと思うんだが」 トリエラ「一人暮らしならある程度の料理はなさっているのでは?」 ヒルシャ「期待に添えなくて申し訳ないが、ほとんど外食ですませているんだ」 トリエラ「それならいい機会じゃないですか。どうせ栄養バランスの悪い食事を 摂っているんでしょう。自炊に切り替えて食生活の改善を試みましょうよ」 ヒルシャ「う…」 ヒルシャ「トリエラ、この間の件だが」 トリエラ「パスタはうまく茹でられるようになりました?」 ヒルシャ「ああ、それなんだが通販番組で便利なものがあったんだ。 パスタポットといって、容器にパスタと熱湯を入れて蒸らすだけで茹で上がり、 水切りまでできるからザルや鍋など色々な調理器具を用意する必要がない。 試しにいくつか発注してあるから、寮でそれを使いなさい」 トリエラ「はあ…… (経費で落としたのかな、それ。ほんとドイツ人って便利グッズが好きなんだから)」
291 :
CC名無したん :2009/11/06(金) 18:49:45 ID:d4w195n3O
ヒルシャがかわいすぎて萌えた。 逆エプロンプレイだなww
>>289 >真っ白な割烹着におたまを持ったヒルシャー
・・・今度はそのワードから故:土井 勝さん、息子の善晴さんを連想しました。
「ヴィクトル・ハルトマンの今日のおかず」
という冗談は置いといて、
>ドイツでは台所は女性の城
不可侵領域であるが故に、良い意味でも悪い意味でもな面はあるようです。
つまり「城」の中は見えない故に・・・見えない分にはという事も。
自分のゼミが農政に関連したもので、担当の先生は旧西ドイツのシステムを
研究・専攻している方でしたが、今から20年以上前ですけど先生が言うには・・・
「手作りという面については日本の方が遙かにそうだよ。まず米を炊き味噌汁を
作らないことには始まらないという基本があるから。」なんだとか。
つまりパンにしろ副食類にしろ、その時点で出来合いの物が供給される環境が
出来てしまっていたらしいですね。
今の日本における「コンビニ文化」はとっくの昔に先行していたようです。
勿論、都市部・農村部や家庭の差はあるとは思いますが、確か先生、郡部まで
深く研究してたはずだからなぁ・・・。
もっとも知っている別の方でイタリア南部の「ある意味のだらしなさ」を見て
北部イタリアも含めて考えている人もいましたので「その国の文化」は住んで
フィールドワークしていてすら全体を掴めない事もあるようですね。
>【】様 保管ありがとうございます。 あと例のハンニバル話は、ある意味、復帰作だったんで、後から「もっと編集を しっかりとせにゃ」と思うことしきりです。すみません、よろしくお願いします。 あと4話に付きましては、今回のと纏めて繋いで頂ければ幸いです。 お手数掛けます。 マクラをもう少し・・・思うに・・・ [料理下手]→兄妹に頼ってましたジョゼ・だから旨い場所は知ってるアマデオ・ やってみるけど何時も失敗なフェッロ [料理上手]→故に入隊されて「妹に食わすもの誰が作る」と弟が困ったジャン・ 俺は陸軍だぞジョルジョ・勿論プリシッラ あと・・・実はネタ隠しなんですが、意外な人の意外な「食に関する話」を 書いています。「Capitano」書いたら練ってみます。 昔からリブレットなど小さいパソコンを出先でというのはやっていましたが、 とにかく電池との戦いでしたね。→結局は出先でコンセント借りる事に。 EeePCもそうですが、フルキーボードで電池長持ち、何処でも書けるというのは、 「ものかき」の長年の夢で、自分の場合は「書く意欲」を「電池の残量」に邪魔 されないポメラ・・・無くなったら「意欲の元」はコンビニで売ってるというのは楽です。 さて・・・長いマクラでした。 短いですが「Capitano−第4話」第2パートです。 今回は続きですので例の頭書きは入りません。ではお楽しみ下さい。
--------------------------------------------- ガンスリンガーガール〜 長編劇場 −−「Capitano−第4話」−− CMタイム明け 「Capitano−第4話」第2パート なお、この告知部分の保管庫転載は不要です。 --------------------------------------------- *** 「それじゃ、少し急ぎの用があるからこれでな・・・」 そう言ってビアンキ先生が場を離れて間もなくして、クラエスが検査室から 出てきた。 「・・・み、皆さん、お揃いで。」 クラエスは目をパチパチし、ちょっと驚いた顔をした。 「ね、クラエス!これ見て!」 そう言ってプリシッラは脇に座るバセットを抱き上げて背中の階級章入りの バンダナを見せた。 バセットはハッハッと舌を出しながらクラエスに振り返ってから正面を向き プリシッラの鼻を一舐めした。 「きゃっ!判った判った!くすぐったい!」 プリシッラが腕を持ち上げ"猛烈な歓迎"を避けるほどバセットが喜んでいる様に クラエスは思った。 「『大尉』の階級章入り・・・気に入ってるみたいです。ありがとうございます。 "正装"で大切に使いますね。」
「退役した時の俺達より偉い。」 そう言うクラエスにジョルジョは何時もの様に返した。 「あんた、まだ気にしてるの?」 「次は一等外交書記官章のを作ってやれよプリシッラ。」 今度はオリガさんにジョルジョは返す。 「それにしても勇まし過ぎないかぁ?フランス外人・・・」 アマデオがそう言い掛けたときだった。 トボケた顔をしたバセットの表情が「猟犬」になった。 牙を剥き、背中を丸め、蹴り脚を整え・・・ 「う〜〜〜!」 検査室のドアを睨むとバセットは唸り声を上げた。 数人の白衣や実験衣姿の人々が部屋を出てきた。 「ぅわんわんわんわん!!! う〜〜〜っ!!わんわんわん!!!」 さっきまでのバセットとは思えない剣幕の犬はプリシッラの腕から、今にも 飛び掛からんばかりの勢いで吠えた。 「え?また!?だめよカピタン!ここは研究棟!静かに!」 そう言ってクラエスはバセットの頭を抱いた。 「う〜〜〜!う〜〜〜!」 吠えるのは止めたものの、隙あれば一発、お見舞いするぞという剣幕で バセットは研究者達を見ていた。
「いやいや〜、カピタンには心底恨まれたものだ・・・」 一人の幹部研究者が苦笑をしてそういった。 「仕方がない、あれだけ検査、検査で押さえつけたからまあ無理もないか。」 「う〜〜〜!う〜〜〜!う〜〜〜!」 バセットの怒りは収まる様子が無い・・・。 「ちょっと彼が興奮してるんで連れていきます・・・プリシッラさん、バンダナ ありがとうございました。」 そういうとクラエスは彼女の体格に比べても大きめなバセットを抱き上げ、 ヨロヨロとその場を去った。 「う〜〜〜!」 バセットの唸り声は暫くの間、少しずつ音量を下げながらも響き続けた。 *** 「・・・ねえ。」 そうプリシッラが切り出したのは、廊下に静けさが戻り、4人だけに なってからだった。 「カピタンは、本当に自分にされた事を恨んでってだけで研究・開発班の 先生達に吠えたのかな?」 一瞬、研究棟の無機質な廊下に緊張が走る。 「・・・お前なあ〜、マジでまだ『あの噂』信じてるの?」 アマデオは怪訝な顔でそう答える。
「いくら昔の『お館』を改造した場所ってもだぞ〜。映画みたいなワ〜とか キャ〜とかギャァ〜とか・・・」 「そういうんじゃなくてだ。」 意外な場所から意外な人間が言葉を遮った。 「モノノケ噺には付き合わんが俺は半分は信じるぞ。戦士の無念の魂が この世に還るってのは・・・。」 ジョルジョは横目で虚ろに窓の外を見ながら言った。 「はあ〜!?おいおい!テメぇまでマジかよ!俺は散々に弄くり回されてっから カピタンは頭に来て白衣着てるセンセェ達に反応してるとしか・・・」 「じゃ・・・何でビアンキ先生とかには吠えないの?」 アマデオの言葉を遮りプリシッラが問いかけた。 「・・・そ、そりゃ犬だって・・・よお・・・人の顔は見分けるぐらいは・・・できる だろうよ・・・な?そうだよな?・・・な?・・・なぁ・・・そうだよ・・・なぁ・・・。」 言葉を詰まらせながらもアマデオが3人の間を回りながら言うが・・・。 後の言葉が続かなかった。 研究棟の廊下に4人分の沈黙が流れた。 *** 「でもその『怪談にも酷い話』が本当なら・・・」 沈黙を破ってオリガさんは床の一点をぼんやりと見ながら言った。
「迷信は・・・ソ連時代・・・禁止じゃなかったか?」 ジョルジョは未だ外を見ながら話した。 「ならば・・・科学的に『仮説的見解、その1』を成立するものと仮定してよ・・・。」 オリガさんらしくない哀しい眼差しで言葉は続いた。 「『彼』はそれで幸せなのかしら。クラエスも・・・。」 再び長い沈黙が研究棟の廊下に流れた。 【第4話−END→5話へ続く】
猟犬の本領発揮w
他は名前だけでオリガだけ“オリガさん”なのは実はごひいきキャラですか?^^
けど『仮説的見解その1』が成立するなら、それはけっこう幸せじゃないかと思える。
今年はじめにじいちゃんみたいに慕ってた師匠を亡くしたんで、犬でもなんでも、
影も形もなくなってしまうより救われるんじゃないかなあ、としんみり。
>>293 陸軍は料理上手なんだw Cレーション食ってるイメージしかなかった…ありゃ戦闘中だけか
そして焦げたグラタンを鍋つかみで持って情けなさそうな顔をしているフェッロ女史ww
300 :
289 :2009/11/09(月) 23:09:08 ID:6vf58cGfO
>>292 他スレにてコテハン指名でのやり取りを馴れ合いだと大論争になっていたのを
見かけたので、レス数で失礼します。(小心者^^:
おお、なるほど。勉強になります。
>「手作りという面については日本の方が遙かにそう
>今の日本における「コンビニ文化」はとっくの昔に先行していたよう
徒弟制度だとか職人文化がしっかりと根ざしている国ならでは、ということなんでしょうかね?
ご飯は腐るからその時その時で調理した方が安全なのかな、と言う気もしますが。
高温多湿な国ほど食べる分だけ料理してお残し厳禁、になるんじゃないかと漠然と思ったり。
狩猟民族の方が農耕民族より保存食の文化も発達するんじゃないだろーかとか
つらつら考えつつ、分かっちゃいたけどやっぱり勉強が足りないと反省しきりw
301 :
289 :2009/11/09(月) 23:16:19 ID:6vf58cGfO
>イタリア南部の「ある意味のだらしなさ」を見て 北部イタリアも含めて考えている ?? ええと、それはイタリア南部の文化を研究するにあたって、 北部イタリアと分類される地域の文化も、比較の対象でなく、構成要因として考える という意味…でいいのかしらん。用語の使い方が正しいかどうか分からないけれど。 自分が実際に生活していない環境を舞台に作品を書くのはムズカシイすね^^; ファンタジー畑じゃ結構テキトーな設定をでっち上げてたからなあ。 まあでも、せっかくだから色々な資料を読み漁ってみようw きっとあちこちにネタが 転がっているハズだ^^ アク禁中につき細切れにだらだらとレス消費してしまい申し訳ない。 季節物を投下…と思ったけど、連投規制に引っ掛かりそうなのでまた後日にします。
302 :
【】 :2009/11/10(火) 21:39:44 ID:Rf2hd3BXO
>>291 >>292 レスありがとうございましたw
秋のはじめに思いついたものの形にならなかった鳥昼話が、
ようやく書き上がりましたので投下します。
不器用パパのくまじゃないプレゼント(?)
【小さな木の実】 朝早く、公社の職員用駐車場に一台のドイツ車が停まる。 多忙な勤務の中でどう時間を確保しているのか、その車はいつ見ても きちんと磨き上げられており、車の持ち主がこの国の人間ではなく 生産国の人間であることをうかがわせる。 いつも通り服務規程によって定められている始業時間の40分前に 車を降りたドイツ人は、鞄を手に本部棟に向かって歩き出す。5分あまりの 道のりは秋の気配を増した木々に囲まれ、ちょっとした散歩道の様だ。 コツコツと硬質の音を響かせる革靴のつま先に、かつり、と何かが当たる 感触がする。 足を止めて石畳を見やった男の視線の先には、小さな木の実が落ちていた。 昨夜雨まじりの強風が吹いたためか、どんぐりと総称される木々の種子が よく見ればそこらじゅうに散らばっている。 男は長身をかがめて足元の木の実をひとつ拾い上げた。まだ青みを帯びた その木の実はつややかで、思ったほど傷はついていない。 男は腕の時計に目を走らせる。 ―――3分ならいいか。 男はおもむろに手に提げていた鞄を抱え上げ、その場にしゃがみこんで 木の実を拾い始めた。
「おはよう、ヒルシャー」 宿直明けの同僚がいつもよりやや早足でオフィスに現れた男に声をかけた。 「おはようございます、ジョゼさん」 いつもどおりの時間に自分のデスクにたどり着いた男は挨拶を返し、鞄を置く。 この几帳面なドイツ人は常に始業時間の30分前に出勤してくるが、 さりとて30分早く仕事を始めるわけではない。 通常の仕事はあくまで定刻から始め、服務規程外の30分は 必ず彼の担当する義体の少女に関係する事柄――例えば教養科目の 講義資料を準備するといった作業に費やすのである。 無論それも彼の仕事の一環なのだが、あくまでかの少女に関する対応は “仕事” とは区別しておきたいという彼のこだわりなのだ。 ふう、と息をついて軽くネクタイを緩めるヒルシャーに、エスプレッソを手にした 同僚はからかうように言う。 「今日はどうしたんだい? ぎりぎりの到着じゃないか」 「少し寄り道をしていたものですから」 「寄り道?」 聞き返した同僚に男はうなずき、握っていた手のひらを下に向けて デスクの上でそっと開いた。ぱらぱら、と小さな音を立てて何か細かなものが 机の上に広がる。
「―――どんぐり?」 「ええ。駐車場脇の小道に落ちていたんです」 「こんなものをどうするんだ?」 「トリエラに見せてやろうと思いまして」 男の言葉に同僚は一瞬困惑の表情を見せ、ああ、と得心したように笑う。 「今度は植生の講義をするのか。君も色々と凝り性だな」 「ああ、それはいいですね」 植物社会学的には公社の敷地の植生はどうなのかな、とひとりごちて 木の実をじっくりと検分し始めたドイツ人に、ジョゼはあきれたような視線を送る。 「……まさか、本当にただ拾ってきただけなのかい」 トリエラをただの女の子だと思っちゃいけないんじゃなかったのか?と 揶揄するジョゼに、男は困ったような微笑を浮かべる。
「それはそうなんですが……。季節の訪れを体感するというのは情操教育にも 有効だと思うんです」 まあそうかもしれないなと肩をすくめる同僚をよそに、男は新しい講義に必要だと 思われる項目を書き出そうと早速デスクに着く。 明日の午後には野外訓練場での訓練が予定されている。帰りには 少し回り道をして、彼女とまた木の実を拾ってくるのもいいだろう。 そんなことを考えながら、生真面目なドイツ人は心なしか楽しそうな表情で 本日の作業をはじめるのだった。 << Das Ende >>
>馴れ合いだと大論争
「入り難い空気」は自分もイヤですし、本当のマクラに入るまではコテは外しますね。
>>【】様
いつも季節感のある話、お見事です。
ヒルシャーの事で気になるのですが、ドイツの教員免許制度って気になりますよね。
>恐らくマイスターの国だから細かいに違いない。
でも彼の人物像から連邦警察に入る前は何をやっていたのかが何時も気になる・・・
もし教員養成の学科だったら、彼の公社での「先生」ぶりは正にその姿ですか。
恐らく公社の植生は「貴族の館」ならば相当なもののはずです。
観察をさせるなら「戦闘訓練」に匹敵するかも。
「この植物は本来の南限を大きく越えて我が公社敷地に植生している。
庭木による移植だが定着には・・・」
なんてヒルシャーの講釈が見えそうです。
>>300 の件。
何でも先生の行った時点では「デリカデッセン」等の発達によって「皿に出して並べるだけ」
という食形態が旧西ドイツを覆っていたようです・・・「手作り」は趣味の範囲だったそうです。
村が総出で今位の季節にブタを絞めて、その血一滴に至るまでソーセージにするなど食材に
手が掛かる文化が背景にあり、確かに「女性の城」だった過去はあるのですが、それが余りに
大変なために代業化・工業化の入り込む隙があった・・・私らが炊飯ジャー無しで飯を炊けと
言われて「困った」と思う部分が早くから食文化全体に広がっていたと言うことのようですね。
それがあっての女性の社会進出と業種・サービスの広がり、社会や消費の多様化に繋がり、
文化の形成となっている・・・んでしょうね。
地域は違いますが、かつて北海道の海峡でロシアと接した街では、自動パン焼き器が
飛ぶように売れたと言う話も聞きました。
パンは寒い中並んで買わなきゃならんもの・・・がスイッチ一つで自分の家で焼けるのは
当時としては画期的な事だったようです。サハリン2等の開発で今は昔となったようですが。
また地域も時代も違いますが、我が国の幕末期、江戸詰になった紀州藩の武士が書いた
日記を研究した本に依ると、とにかく飯炊きに苦労した記述が多かった様です。
故に江戸では食い物屋が発達したそうですが、それでも単身赴任の武士が財布と手抜きを
秤に掛けて、飯炊きと日々の総菜のやりくりに苦労する自分と周囲の様を観察した日々の
記録を見るに、調理器具と流通、簡易に纏めると「冷蔵庫と電子レンジ」って社会を変えちゃう
んだなと思いますね。
>>301 の件
>イタリア南部の文化を研究するにあたって
ローマやナポリ周辺に居た方なんですが、彼が見てきたという以上、「ボロクソ」と言うに
等しい話は信用しなければならないものの、当時の自動車大好き少年だった自分の素朴な
疑問は「じゃフェラーリやランボルギーニ、フィアット、ランチャ、そしてアバルトの工場は
何故に作動してるのか?」というものでした。
労働争議こそ凄かったものの北部は"そこそこは"動いてたというのが自分の観察的な結論
ですが、まあガンスリの舞台背景「北部同盟」の存在理由を見事に裏付けてるわけですね。
一地域が「その国」全てではない・・・後記しますがナポリとアオスタでは事情は全然違ってくる
事が「自分は見てきた」と言う自信で見えなくなってしまう事は今となっては反面教師です。
>自分が実際に生活していない環境を舞台に作品を書くのはムズカシイ 「講談師 見てきたような ものを言い」とは言いますが、講談もまた一つの芸能、未知の 世界の話を書くにあたり、先入観ありきの窓から見た実風景だけで「全ての真実」と見る 間違いを常に気をつけながら真摯に向き合えば・・・と思いたいのですが、なかなか難しい・・・。 メシ話の続きで行くと1997年(平成9年)5月号の雑誌「料理王国」の〜パスタ最高〜の記事では、 その頃辺りと思われる少し前の時代でも、流通の関係かヴァッレ・ダオスタの州都アオスタでは オリーブオイルやトマトは「まかない御法度」の貴重品だった様で、日本と同じく、「海に囲まれた 縦に長い国」の変化は面白いです。 因みに同じ特集では病院食・学生食堂・あるサッカークラブのパスタ事情を書いてまして、 特に病院食の記事冒頭の医師が答えた一言ですが 「イタリア人にパスタを食うなと言うのは死ねと言うことと同じだよ」 なんだそうです。またこれも「ある地方在住の医師の話」ではありますが。
さて、羽織を脱ぎましてマクラ・・・自分の話に入ります。
>>299 永遠の宿題ですね。自分としては皆さんが多様な見解を持って下さった数が多いほど
作品的には良かったかなと思ってます。
自分もやっちゃいましたね〜、先入観でモノを見てしまう間違い。
本来、旧日本陸軍も給食部隊は独立してあるはずだったんですが戦線拡大で・・・みたいな事と、
アマデオが居たと思われるイタリアの「海軍に所属する海兵隊」というイメージですね。
先入観ついでだとジョルジョが陸軍でもゴツい部隊に居たなら、現地食料調達の教育も・・・
って思いこみです。
近代軍隊では後方の分業化は当然ですから二人とも料理下手な可能性は大いにあるかも
・・・でもジョルジョはゴツい料理を作る才能があって欲しいと自分は思ったりしてます。
では、お楽しみ下さい。
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第5話」−−
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第5話」−− 「もう落ち着いた?今度こそお願いだから研究棟では良い子にしていてね。」 そう言いバセットの背中を撫でる手をクラエスは止めた。 ふぅ・・・とバセットも答えるように息をついた。 職員宿舎にある「書庫」と呼んでいる場所。 ここに来ると彼女も彼も何故か落ち着く。 そんな所にクラエスとバセットは来ていた。 「貴方と一緒に何かを食べる機会はなかなか無いわね。」 そう言ってクラエスはスティックの「犬のおやつ」をバセットに与え、自分は ヘンリエッタ特製の「"通称"毒クッキー」を口にした。 砂糖過剰で猛毒とも言える"糖塊"と化した代物から、最近ようやく濃厚なサブレー 辺りには表現できるものになった。 いつも持つポットのストレート紅茶とよく合う・・・。 今日の昼食を抜いた体には、脳が求めるのか過剰な糖分が染みるように美味しい。 だが同時に不安も心に染み出てくる・・・。 ヘンリエッタのように自分が砂糖の入れ過ぎに気が付かなくなるのは、差ほど 遠い話ではないだろう。 それまでに・・・ここにある「誰か」から与えられた大量の本を読み尽くすことが 出来るのか。 「毒クッキー」の残った欠片を飲み込むと、クラエスは一層に読書に励むのであった。 そんなクラエスを、ゴロンと横になった長椅子でバセットハウンドは時々に 片目を開けて伺っては再び目を瞑りうたた寝をするのだった。
ブラインドで少し押さえた日が射す午後は、季節に合わず静かに過ぎてゆく。 やがて・・・バセットは安心したのか、腹と特徴的なタプタプとした皺を持つ喉元を 見せて、深い寝りに落ちてしまった。 *** グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。 バセットはイビキをかいて寝ている。 ・・・自分には伏せられている筈の「怪談にも酷い話」を、クラエスも人伝だが 断片的には耳にしていた。 この「書庫」一杯の本を残してくれた人の生まれ変わりが彼・・・つまり バセットハウンドだという物語。 "彼"を飼うことを願い出た時のジャン達の動揺を見るからには、その人物を 伺わせる「事件」とか「物語」など、背景に何かがあることは丸見えだった。 ・・・それでもとクラエスは思った。 ならば"かつてのその人の部屋”である「書庫」で、その人の生まれ変わり だという「彼」と私しか居ないこの時間くらい、突然、人の言葉で 「やあクラエス、元気にしてるかい?」と話し掛けるなんて「魔法のように 素敵な奇跡の物語」があっても良いじゃない・・・。 グウ〜・・・フガガァ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。 悲しいけど「そんな魔法も奇跡も不要な程度の物語」・・・だったのかもね。
相変わらずのイビキをかいている長椅子のバセットを横目で見ると、クラエスは 再び読書に集中するのだった。 *** 「あら・・・今日は少し根詰めすぎたわね。」 もう少し読み進もうと、日の眩しさにブラインドを閉じきって点けた読書灯が 徒になって、時計はすっかり回ってしまっていた。 「おいでカピタン、急いで食堂に行かないと。」 起こされて片目から面倒くさそうに目覚めたバセットは、ふぅ・・・と息を付いて 床に立ち、トコトコと既に廊下に出たクラエスの元に向かったが、ドアを出ると、 ふと何かを考える様に振り向き立ち止まった。 「カピタン、どうしたの? 急いで・・・。」 そう促されたバセットは、何か納得できないような顔をしながらも、クラエスの 先を歩き食堂へと向かった。 *** 「あ、クラエス、ちょうど今、声掛けて来てって食堂の人に言われてた。」 食堂の入口で、あらまぁ・・・という顔でペドラが言った。 「そういえばペドラ、あなたの組(フラテッロ)はトリエラと一緒じゃなかった?」 「何でもアチラは『単なる不倫密会』だったそうよ。でも『念のため待機で厳正なる 審議の結果』フラテッロの一組がデート延長・・・今頃も宜しくやってんじゃない?」 ペドラは悪戯っぽく片目を瞑り笑った。 「それはそれは・・・悪運も運の内、良かったわ。」 クラエスはニッコリと微笑んだ。
そんな足下でバセットはペドラに"遊べ遊べ"とせがむ。 「お疲れのところ悪いけど、彼は食堂には入れないから、お暇だったら人間以外に 犬も観察してあげて。」 「了解了解・・・暫く"観察"してるわ。」 *** 「は〜い!飛べ〜ぇ!」 耳の先を軽く持ちパタパタさせてペドラが笑う。 ぴぃ〜ぴぃ〜〜〜・・・。 "できないよ〜"とでも言いたげに、バセットは困ったような鳴き声をする。 「じゃ〜お手本。ほ〜ら!!!」 そう言ってバレェ・ステップで天井に付かんばかりのジャンプをペドラは 決めてみせた。 "おぉ〜"という驚嘆の目でバセットはそれを見上げる。 クロスした脚で着地したカットジーンズ姿のペドラは、履いてもいないスカートの 裾を摘むようなポーズで目をつぶり言う。 「如何でございましょ?では貴殿も華麗に御飛び下さいませぇ〜。」 言われてバセットはトコトコと部屋の隅まで行くと、丸まる様なクラウチングから ダッシュしてポ〜ンと飛び上がる・・・一応バセットに出来る限りのジャンプを。 「う〜ん!スジは認めますかぁ〜。後は貴方の努力次第ね!」 クラエスが食堂に入っていった後、バセットとペドラは食堂から少し離れた 場所で遊んでいた。
そんなペドラが急にバセットの太い独特な両前足を取ったかと思うと、あの チャールズ・チャップリンの様に面白味の向こうに哀愁を帯びた目を見て言った。 「サンドロ様に散々と人間観察は鍛えられたけど・・・」 急にバセットの目つきが少し険しくなった。 「ワンコの観察も多少は出来るようになったかなっ。」 じーっと自分の顔を見るバセットにペドラは尋ねた。 「ねぇ、君は前世で『ラバロ』とか言わなかった?」 犬と少女はお互いの視線の奥を伺った。 ・・・が、バセットは急に鼻先を伸ばしてペドラと自分の鼻を合わせる様にして フガフガと動かした。 「あははっ!なーんてね、冗談冗談。そんな『怪談にも酷い話』あるわけないよね。」 ペドラはバセットの前足を交互に上げ下げして笑った。 「じゃ、今度は一緒に跳んでみない!?」 数回の回転の後に再び高いジャンプを決めるペドラに合わせてバセットは蹴り脚で 低いながらも精一杯のジャンプをしてみせる。 「そうそう!その調子!もっと高く!楽しいよ!」
そう言いながらペドラは自分のもう見えない"過去"の事を考えていた。 誰かと何処かで・・・。 その時、自分は高き頂を目指して跳んでいた。 高く!もっと高く!!華麗に誰よりも高く!!! でも自分は・・・誤って遠くへ"飛んで"しまったのだろう。 遠くへ・・・更に遠くへ・・・・遙か遠くへ・・・ もう帰れない程の遠くへ・・・ 遠くへ。 共に高く跳んでくれた彼・・・今、足下でステップに付き合う「彼」とは別な ベクトルの"ハンサム"だった気がする・・・。 どうしてるのかな彼は。 そして"私"だった私は・・・。 【第5話−END→6話へ続く】
ええと、ここは突っ込むところなのかな・・・ぺドラ・・・ペトラ?^^: 怪談なら酷い話だとしても、御伽噺ならやさしいおはなしなのかも。
318 :
300 :2009/11/19(木) 01:59:05 ID:pN3bnoazO
>>307-
>>309 「私は…知らない事ばかりで机の上の勉強も楽しいよ?」
てなわけで。丁寧なレスをありがとうございますw
ヒルシャー先生の授業は内容は濃そうだけど面白いかどうかは謎w
話し上手だとはあまり思えない感が…;;;
>連邦警察に入る前は何をやっていたのか
自分はなんとなく、親の反対を押し切って一直線に警察官を目指しキャリア組、かと^^
本人は現場に出たがっても本国の意向で出させてもらえないだとか、
お偉いさんと顔つなぎしておけば帰ってからも出世できるだろなんて言われてましたしね〜。
警察が嫌ならお父さんが他の仕事を…と言うことはお父さん色々コネがあるんだろうし、
世間知らずのいいトコのぼっちゃんだった説に一票w
>>309 ノンフィクションを書いている訳ではないので、ある程度捏造には目をつぶっていただくとして^^
ある漫画家さんが後進に「ひとつの作品を描くには最低3冊本を読みなさい」と
助言されていたのを思い出しました。
――実際には一冊の資料から2,3コのネタをひねり出してるのが実情ですがw
でもなるべく多くの視点を持って物事を見られるようになりたいもんです。
319 :
【】 :2009/11/19(木) 02:04:54 ID:pN3bnoazO
鳥蔵部屋の日常風景。 ちなみに実話。ええまあ大自然の営みと言うか。 カブトムシの幼虫の類が苦手な方はご注意をw ザンコク表現(?)あり…かも?
320 :
【】 :2009/11/19(木) 02:06:13 ID:pN3bnoazO
【いもむしごろごろ】 ある朝、トリエラが夢から目覚めると、自分のベッドの下に 一匹のちいさな芋虫が転がっていることを発見した。 「なにこれぇぇぇ!!!」 静謐な朝の空気をつんざく乙女の悲鳴。同室の少女は迷惑そうに2段ベッドの上から 下界の騒ぎを眺めやる。 「……どうしたの? トリエラ」 「いもむしがいるのよ! どっから入って来たの、これ!?」 普段テロリストどもをなぎ倒し3ヶ国語を操る彼女が、ただの思春期の小娘のように うろたえる様と言うのは、中々目にすることができない貴重な光景だ。しかし別段 それに希少性を感じないルームメイトはやれやれと体を起こし、素通しの眼鏡をかけると ベッドを降りる。 「どこ?」 「ほらそこ! 床の上!!」 褐色の指が指し示す先をクラエスはしゃがみこんで確認する。 そこには体長1センチほどのぷりぷりとした小さな幼虫が、じゅうたんの上でじたばたと もがいている。
321 :
【】 :2009/11/19(木) 02:09:37 ID:pN3bnoazO
「……ああ、多分栗虫の仲間ね」 言いながらごく自然な動作で白い指先がそれをつまみ上げた。 「!!! なんでそんなものに平気で触れるの!?」 「別に毒じゃないわよ。釣り餌にすれば喜んで魚が寄ってくるわね」 「つ、釣り餌? …てことはもしかして」 「釣り針をこうひっかけて―――」 「いやぁぁぁぁ!!」 起き抜けで乱れた髪を更に振り乱し頭を抱えて悶絶する学級委員長を、やっぱり 条件付けが緩いとこんなこと位で動揺したりするのかしらとあきれた視線でクラエスは 見やる。――それだけが問題の要因ではないのだが。 「多分これは小鳥が朝ごはんに摘んで来たのを落っことしていったのよ。きっとそうに 違いないわ―――」 ぶつぶつとつぶやくトリエラにクラエスは冷静な推論を述べる。 「…メルヘンな方向に逃避しようとしてるのはわかるけど、一番現実的な可能性は、 あなたが先月担当官と拾ってきた木の実だと思うけど」 「うわぁぁぁ!!」 考えたくない可能性を指摘されてトリエラが叫ぶ。
「多分寒くなってきたから土にもぐろうとして出てきたんじゃないかしら」 「ヒ、ヒルシャーさんと拾ったのじゃなくて、その後ヘンリエッタたちと拾ってきた 木の実かもしれないじゃない!」 「そう思うなら確認してみれば? 多分、虫が出てきた穴が開いているわよ」 「分かったわよ!」 半分やけくそのように返事をして、トリエラはテーブルの上に置いてある木の実 ――ちなみにおちびさんたちと拾ってきたものだ――をひとつひとつ摘み上げて 睨みつける。 程なくまるまるとしたクヌギの実にぽちりと開いた小さな穴を発見し、少女は 歓喜の声を上げた。 「―――ほら、あった! やっぱりみんなで拾った方のどんぐりよ!」 トリエラが得意げに突き出して見せた証拠物件をちらりと一瞥したルームメイトは、 ああ本当ねと相槌を打つも、眼鏡にすっと指先を当てて一言。 「でも残りの木の実が “虫食いではない” と証明された訳でもないわよね」 「〜〜〜っっ、全部調べるわよッッ」
負けず嫌いの性格がすっかりクラエスに玩具にされている自覚はあるが、 不安の種は払拭しておかねば平穏な日常生活が送れない。どすどすとレディに あるまじき乱暴な足音を立ててチェストに近づき、ぬいぐるみのクマたちの前に 飾られたどんぐりを、先ほど以上に入念にチェックする。 全ての木の実を2回ずつ確認し、ようやくトリエラは重々しく判断を下した。 「―――穴あきのどんぐりはないわ。間違いなくさっきのひとつだけが虫食いの 実よ」 「そう? 良かったわね」 実況検分の報告をさらりと流すルームメイトとは対照的に、パパと――もとい 担当官と拾った大切な木の実をにぎりしめ、心の底から安堵のため息をつく トリエラであった。 << Das Ende >>
324 :
CC名無したん :2009/11/19(木) 16:32:20 ID:bcUqv5QN0
すばらしい!! エロとは違う意味で悶えました
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第6話」−− 「ただいまぁ〜、ぜんぜん動かないのにヘトヘト。」 帰ってきたトリエラは、タクティカルブーツやショートパンツ等は朝の出で立ちと 変わらないものの、しっとりと落ち着いた布地の黒い長袖シャツを着ていた。 ・・・しかしサングラスは無く、帽子も、ふてくされた様に斜に被り「手に持つには 疲れたから」という心境が伺えるものだった。 「話は聞いてるわ。お疲れさま。そのシャツも似合ってるわよ。」 「ありがと〜。クラエスにもカピタンにもお土産あるわよ〜。」 件の家具伝いに渡されたスロープをバセットがトコトコと降りる様を横目に、 クラエスは本を置き梯子を降りた。 「延長戦で久々の『楽しい晩餐』はいかがでしたこと?」 少し意地悪にクラエスが聞く。 「はいはい楽しゅう御座いましたよ。ジャガイモ様を目の前に他の席を 気にしながらのディナーは。でもね〜。」 そういってトリエラは溜息を付く。 「ん〜?『豪華な御デート』に更に物言い?」 「当たり前よ。"延長戦"の最接近だって着替えたけど、ドイツ人って白い服が 嫌いなの?それと夏でも首を絞めないとムズムズするって何!?」 帽子をベットに投げながらトリエラは言った。 「さぁ・・・でも、つまりヒルシャーさんも着替えたのね。」 「そうよ。ダーク系の上着を喜んで。でもネクタイをするか締め方どうするかで ひと騒ぎ・・・そんなに首を締めたいなら、今度、首輪でも付けようかしら。」 ブンむくれで「姫」は宣い続ける。
「そのくせ、あの人!何やったと思う?食後に堂々と胸元から安煙草を出したのよ! 足蹴っ飛ばしてやったわ!もうバレバレ!」 「相手は幹部でしょ。薫りで一発ね。」 カピタンの少し不安な顔はそれだったのかしら・・・とクラエスは今朝方の事を 思い出していた。 「シガリロ持って行ってたけど、アレ吸われても目立つし・・・もう世話の掛かる 人だことまあまあ!」 「なるほど・・・で、お土産はその『おノロケ』?」 言われてトリエラはハッと我に返り大きく首を振った。 「違う違う!もう!そんなワケ無いじゃない!」 そういいながらトリエラはケーキ箱を差し出した。 「一緒に食べよ。それとカピタンにも。」 トリエラは出先で脱いだ服の入った紙袋から「犬のおもちゃ」を取り出すと 封を開けてバセットの前に持って行き軽く握った。 キューキューと高い音でおもちゃは音を出した。 置かれたおもちゃとトリエラの顔を何回か見比べるとバセットは確認するかの様に 軽くおもちゃを噛んだ。 キュー・・・ バセットはそれをくわえるとスロープをトコトコ上って、とある棚の「カピタンの おもちゃ置場」に置いた。 "犬洗いスタイル"ジーンズの裾を切った端切れで作った、彼が一番お気に入りの 「布玉」の側ではあるが、それらとは少しの距離を置いた「2番目以下」の 集合だった。 そして再びテケテケとスロープを降りてトリエラの前に座ると、尻尾を数回降って 彼女の顔を見つめた。
「お気には召さないけど感謝してるという事?」 「そういう事みたいね。およそ『犬らしいもの』に興味示さないから。 でも何時もありがとう。」 トリエラの微笑みの溜息にクラエスはそう答えた。 「まあ、お陰でシュタイフ製の『我らが僕達』は無事なんだけど、普通の犬って ティディベアなんて振り回すために有ると思ってる位なのにね。」 髪をサッと解いたトリエラが返した。 「『普通の犬』か・・・まあ、そんな事だから『変な噂』も立つわね。お茶を入れるわ。」 そう言いお湯を沸かしにクラエスは部屋を出ていった。 思わず言葉を失うトリエラと、尻尾を振るバセットハウンドだけが部屋に残された。 *** 「ねぇ・・・本当の事を話してよ・・・ラバロさんなんでしょ・・・あなたは。」 クラエスが部屋を出て暫く経ってから・・・振り向きもせずにトリエラは言った。 「なぜクラエスを一人ぼっちにしてしまったの?」 振り向いたトリエラの視線に、相変わらず知らぬ存ぜぬで尻尾を振っている バセットハウンドがいた。 「彼女の孤独な日々と引き替えに、あなたは何をしようとしたの?答えてよ!」 褐色の肌に金髪の少女の瞳と、長く垂れた耳と黒や茶色の斑の毛色をした 犬の瞳が見つめ合った。 「・・・・・ぴぃ。」
バセットが、少し頭を逸らし申し訳なさそうな顔をして溜息とも鳴き声とも 言えない声で返した・・・少し潤んだ目をしてトリエラは笑った。 「ごめんね・・・答えたくても・・・人の言葉が話せないという事ね。」 *** 「お待たせ。さて、奮発したケーキに合わせてお茶も奮発しなきゃね。」 「良いお茶!良いお茶!奮発プリーズ!」 帰ってきたクラエスに、バセットをティディベアのように前向きに抱いた トリエラは前足を取り肉球を見せて左右に振った。 *** 「ねえ、クラエス。」 下のベッドからトリエラの声がした。 「眩しかった?ごめんなさいね。」 光軸を絞ったLEDの読書灯に浮かぶ本を見ながらクラエスが答えた。 「いや大丈夫・・・ちょっと考えごとをしてただけ。」 トリエラは疲れを含んだ声で答えた。 「それよりクラエス・・・一つ聞きたいことがあるの。」 「なにかしら?トリエラや私が考えすぎて寝られなくなる話以外なら少々は つき合えるわ。」 クラエスにそういわれてトリエラはポツリと言った。 「寂しい・・・って思ったことはない?」 「あるわよ。」 殆ど間髪を入れず遮るようにクラエスは答えた。
「・・・そうだよね。」 トリエラが申し訳なさそうに答えた。 「今日さ、例の現場近くにある、あのテラスが名物の豪華なデコレートプレート、 お土産に出来たらなって思ってたんだ。でもあれ・・・アイスなんだよね。」 一文字だったクラエスの口元が緩んだ。 「あなたの気苦労に感謝するわトリエラ。でも・・・。」 クラエスは本を胸に伏せて置いた。 「職員売店の『キャラメルコートした御高めアイスサンド』も捨てたもんじゃ ないわよ。それに『豪華なデコレートプレート』は確かレシピ本が有るから、 今度作るわ・・・元祖と比べてみてよ。ヘンリエッタには味見も調理もさせられないし。」 「まあ・・・それは正論だわ。」 トリエラは何時かのヘンリエッタ謹製「甘過ぎ『猛毒ジェラート』」を思い出し 眉間に皺を寄せて苦笑した。 「それに・・・カピタンと・・・」 クラエスは寝床の頭の先にある、本棚の上に作られた"塒"で丸くなって寝ている バセットを見た。 「収穫を待つ人がいる野菜畑と、読んでも読んでも尽きない本、そして自由な 時間が私にはあるの。いつまでも寂しいと思っている暇は無いわ。大丈夫よ。」 グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。 クラエスとトリエラの言葉の隙間を、バセットの低く小さなイビキが埋めていた。 そんな「生命の刻む音」を聞きながら、トリエラは眠そうなとも余り納得できない とも取れる、そんな目をしてカーテンを見ていた。 「・・・そっか。先に寝るわ。クラエスは?」 「もう少しこれを読んでから。疲れているんでしょ?ゆっくりお休みなさいな・・・。」
そこから先の台詞・・・ "この章を読み切らなければ、明日、自分が生きて目を覚ませる保証はないから" ・・・と疲れたトリエラに言うには酷に過ぎるとクラエスは思った。 グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。 時を刻む息吹が頭の先で聞こえていた。 *** 夜明けの淡い光に・・・犬は静かに目を開けた。 ベッドの上でクラエスは胸に本を伏せてメガネを掛けたまま寝ていた。 犬は思った・・・ 自分は彼女を出会う前から知っている・・・ そして何時も行く「本の部屋」の事も。 夜中に起きて何ページか読んだ後、そのまま寝てしまったのだろう。 メガネにとっては迷惑だろうが良いことだ・・・それが彼女にとっての平和・・・ 確かそうだったはずだ。 だが、その先が思い出せない・・・。 強い光の先を見る様に・・・何も見えない。 大きな哀しみと共に彼は再認した・・・ 自分はもう「一匹の犬」なのだと。 そして彼の野生は感じていた・・・彼女の余生が犬の自分よりも・・・むしろ短い事を。 ならば彼女の側に甦る運命を得て、共に朽ち最後を看取るだろう時間は、 この上ない幸せではないか。
それ以上は自分にはどうにもならない。 見開いたバセットハウンドの目に、開けてゆく朝の光が満ちた・・・。 *** フガフガ・・・耳元に触れる柔らかい感触にクラエスは目を覚ました。 バセットが「おはよう」と言いたげにそこにいた。 「おはようカピタン・・・今日も良い日だといいわね。」 クラエスの朝の挨拶にバセットはゆったりと尻尾を振った・・・。 【第6話−END→7話へ続く】 ----------------------------------------------------------- 以下、事務連絡などです。(^-^;;; レス使ってますんで節約って事で、今回は唐突に入りました。 残るは今回を除き2話で、編集上の積もった話の後回しが、全部、今回に 乗ってしまいました。回を追うごとに長引いてすみません。 >ぺドラ・・・ペトラ?^^: やってしまった〜(TT)。 もう老眼鏡が必要じゃないかと思うくらい濁点と半濁点を間違え 口癖のまま書くと、やらかします。正しくはペトラでした。
>>320 GJでした!
そういえば素朴な「餌釣り」だったんですよね。大尉とクラエスの釣りは。
ルアーとかフライとか、そういった凝った釣りは確かに似合わないかな・・・と
思っては見るものの、ラバロ大尉が「これはスプーンというルアーだ。
こんなもので如何に魚を騙すか、これを考えるのも勉強だ。」とか、
「これは『マッチザハッチ』と言って、このストマックポンプという道具を・・・」
って台詞を言うのも面白言っちゃ面白いけど・・・。
スカパー等の「釣りビジョン」に大尉とクラエスの番組が出来てしまう。(^-^;;;
技術部保管庫に無断転載倉庫の掌編作品を転載完了しました。 これで全年齢対象のTextデータは全て転載が終わりました。 (ただ、adult,の他、Lemon,Lime(性表現を含む)表記の作品も やはりエロパロ保管庫に転載することにしました。) 画像貼るのは誰か助けてください;;;やり方が分からないTT
>>325 GJ! ラスト2話も楽しみにしています。
ある小説に触発され、クラエスものいきます。
ガンスリはごくまれに書いてきましたが、これで終わります。お目汚し失礼。
「聞いてよクラエス、ヒルシャーさんたらさぁ!」
夜の自室にトリエラの不機嫌な声が響く。
「痴話喧嘩なら他所でやってくれると助かるんだけど」
「ち、違うわよ!」てき面に動揺しながら言う。「今度の出張から帰ったら、一緒においしいジェラ
ートのお店に行ってくれるっていうから楽しみにしてたのに」
痴話喧嘩だと思うが口には出さない。
「ずっと連絡なくて気付いたら公社にいるじゃない。私が聞いたらなんていったと思う? 忘れてた
だって! もう、どんな服着てこうかそわそわしてた私はなんなのよ!」
枕がシェルフの上にめり込む。可哀相なバーシェフル。
「まあ、今度埋め合わせしてもらえばいいんじゃないの?」
「駄目。駄目ね。絶対仕返しをしてやるんだから」
腕を組んで言う顔は目を閉じ無理矢理笑っているものの、時折ピクピクと小刻みに動いている。
ヒルシャーさん、グッドラック。
そう考えていることなどおくびにも出さず、クラエスはテーブルに置かれた小説のページを捲る。
「あー。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
身体を放り出して椅子にもたれる。小さい子供がするように椅子の前足が浮く。トリエラの身体が
反り、大きく息をついたのか胸が僅かに動く。結んだ髪が別の生き物のように動いた。
「もしかして落ち込んでる?」
「え? 私が?」
「ショックというのとは違って、そう見えるわ」
「あー。そうかも……」
トリエラが渋い顔で同意する。
「なんで? トリエラは悪くないんじゃないの?」
「いやまあ、誰が悪いって言ったら、勝手に約束しといて勝手に破ったヒルシャーさんが一番悪いん だけどさ」 ひどい言い草だが、逆に明け透けで、そのために毒がない。トゲトゲしいものがないのは、二人の 関係の底で通じているものがあるからだろう。 「でも無理もないの。忙しくて約束の一つくらい、忘れてしまうこともあるんだから。わかってるの よ。わかってるんだけど、たった一回約束を破られただけで、どうしてこんなに気持ちが揺らいじゃ うのかなぁ、って……。うわぁ、言ってて自己嫌悪になってきた」 「ああ、そっか。じゃあヒルシャーさんじゃなくて、あなた自身の問題ね」 トリエラが唇を尖らせる。 「ん。ねえ、どうしたらクラエスみたいに落ち着いていられるのかな?」 「以前にも聞かれたことがあったわ」 「クラエスのそういうところ、すごく羨ましいな。揺るがない信念が形になって、背中に通ってるみ たいで。私、弱いとは思わなかったんだけど、いつもグラグラ。……由々しいなぁ」 「そうねぇ」と考えるふりをして、クラエスは続ける。「そのまま頑張ることね。きっとそのうち、 苦手が克服できるわ」 「え、それだけ?」 「うん」 「うわー、同居がいのない」トリエラが呆れたように言う。「認めないわ! 豊富な経験からの教訓 を求めます」 「経験って言われても、私の方法の成功例を問われたら、私の一例しかないわ。それを信じて成功す る人もいるだろうし、失敗する人も沢山でるでしょうけど、将来に向けた指針としてはデータ不足じ ゃない?」クラエスが不思議な顔で言った。 「でもさ、あるじゃないほら、『苦手なお子様でも大丈夫』とか。あんな感じで」 ほんの少し。彼女が微笑む。 人形のようで、とても可愛らしい。 もう大丈夫。おどけた口調でわかる。 「あれってなんなのかしらね。苦手なら食べなきゃいいし、苦手を克服したいならそのまま食べなさ いって思うんだけど」 「言い換えなんじゃない? 大人なら食べないけどっていう」 「なるほど……。じゃあ、女性に人気が出そうは、男はこんなの嫌いだ、ね」 「辛辣だね、先生」 「自分は嫌いだけれど、ほかに需要はある、ということが言いたいのかしら。『これ、絶対ブルキナ
ファソで人気が出ますよ』と同じくらい余計なお世話ね」 クスクスと笑いながらトリエラが髪をほどく。本当に人形のようだ。背中に翼があるのではと、連 想してしまうくらいに。 「艶、あるのよねぇ」 「え?」 「髪」 「ああ」 手を伸ばして、左右に振ってみる。 「こんなのが目の前で風に揺れたら、ドキッとしない?」 「えっ? ……いやいや、普通でしょう?」 「そうかしら」 ぎゅっと髪の束を握る。 気付いたような気配。 クラエスが顔を背ける。 「好きだな」 「え?」 「髪!」自分でも思っていなかったような大きな声が出た。「ト、トリエラの髪があの、いいなって 思って……」 「髪?」トリエラはそう言いながらクラエスの顔を覗き込む。 「うん、好きだなって思ったの」 「そっか、ありがとう」 不意に、柔和な。 至近距離で見つめられたので少々ひるむ。顔が何センチか後退していた。 「私も好きだよ」 「……」
クラエスは、別の方を。 手だけが、つながって。 「好きだよ」 「……もう聞いたわ」 「うん」 ゆっくりとトリエラが手を離す。 「クラエス、アピールするの下手だよね」 「……そうかも」 「ま、そんなところが一つくらいあったほうがかわいいよ」 言いながらトリエラが身体を離し、頭の後ろで手を組む。 彼女は優しくて、気がつく。 恐らくトーンが変わったことを気にしてくれたのだろう。 ただ、このときはそうではなかった。 いつだったか、こんな会話をしたことがあった。 そこに意識が向いていたのだ。 長く伸びた影。 私を見下ろして少し笑った。 開いた擦りガラスの窓。 そこから差し込む日差し。 埃の粒がゆっくりと蘇る。 「クラエスは、指揮官には向かんな」 「どうしてです」 「何故って、ピアノとおなじだ」哀れむような声で言う。「生まれつきの、他人を押し退けたり、引 きつけたりする華が、お前にはない。お前の音は、一人で周囲へアピールするタイプのものじゃなく、 まわりにあわせてつくられるタイプだ。それが悪い傾向だとは言わんし、変えようとしないほうがお 前自身のためだろう。それは多分、クラエスの本質的な性格そのものだろうからな」
それはとても、鮮やかな記憶だった。まるで今にも、気だるい午後の匂いがしてくるような。 誰だったろう? 憶えているのに、顔はおろか声すら憶えていない。 どうにか手掛かりを見つけようとして、それ以上記憶を探っても無駄なのだ。偶然何かを思い出す ことがあっても、自発的に探して見つかることはない。 そして、 唐突に。 どうでもよくなる。 素敵な防衛機能だ。 罪悪感は全く感じなくなり、 ウェットな感覚は都合よく遮断され、 泡のようにはじけ、 夢のように素早く、 音のように薄れて、 面影は消え去る。 私は冷たい人間ではない。 人間ですらない、擦り切れた人形(レプリカ)なのだから。 「私、生きてくの下手かも」 憶えていることを、幻じゃないことを、最後に確かめるようにクラエスが言った。 「切実な問題だなぁ、それ」 言いながら、やはり、切実な問題だと思った。 トリエラ以外の、クラエス以外の、誰にとっても。 「あら、ヒルシャーさんと上手くいってる貴方からそんな言葉が出るなんて思わなかったわ」 「そんなことないって、私だって……」言いかけて笑みがストップする。 「思い出したら腹立ってきた……」 ギャー! と、寝た子が起きる声が聞こえた。ごめんなさいヒルシャーさん。 「これから二人で出掛けない?」 「ヒルシャーさんに言わないつもり?」
「いいのよ、ちょっとくらい困らせてやらないと」 「面白そうではあるけど……やめとくわ。面倒でしょ」 「つまらないの。いいけど。でも」トリエラは腕組みをしたまま振り向いた。「クラエスは気分転換 できる場所に行ったほうがいいと思うな。ずっと公社の中っていうのも、疲れるでしょ」 「疲れる、のかな?」 クラエスは小首を傾げる。 確かに、仕事と菜園の手入れをし、気付けば一日が終わっていたという日も多い。しかし不満はな く、気分転換という行為を望む気持ちが理解できない。 むしろ、この生き方が合っていると感じる。 ミルクレープのように薄く積み上げられた日々。 その縞模様はきっと綺麗だと思うのだ。 「絶対そうだって。たまには好きなところに行くべきよ」 「ふうん」 「昔クラエスさ」思い出したようにトリエラが言う。「湖に行ったって言ってたじゃない? そこな んてどう?」 「え? そんなこと言ったかしら?」 「言ってたよ。綺麗だったって、喜んでたんだから。忘れてる?」 「忘れてる」 「じゃあ、誰かに相談してみたら? 案外、期待できるかもよ?」 「……なら、そうしてみようかな」 そう言ったが、実のところ、クラエス自身全く期待していなかった。 いつだって、彼女は何も期待していない。 そういう人間になってしまった。 望むことがあるとすれば、昨日とは違う風を感じたいと思うこと。 それだけだ。 だから、 誘いに乗ってみたのも、その程度の、ほんの小さな動機だった。 数日後のこと。
脚部部品の試験を終えたクラエスは偶然マルコーと行き会った。世間話のように一緒に湖に行って くれないかと言ったところ、その場で、実にスムーズに事が運んでしまった。以前湖に行ったことが あるということ、担当官らしき人物がいたのではないかということも、勿論含めてだったのにも関わ らず。 クラエスは最初ジョークかと疑った。 そうではないとわかり、耳を疑った。 恐らく公社にとってもメリットのある話なのだろうと想像はつくけれども、それにしたって驚いた。 まさか、本当に行けるとは考えていなかったのだ。 一体、マルコーは何を考えているのか。 いや、違う。 それはいい。 きっと、ただの気まぐれだろうが、きっかけはなんでもいいのだから。 問題は、自分のほうにある。 なぜマルコーに話したのか。 自分がどうしたいのか。 何を望んでいるのか。 笑いたいのか。泣きたいのか。 どれ一つわからない。 そんなふうなのに、こうして普通に生きていられる。 不思議だ。 多分、 安心したいのではないと思う。 知って、満足できるとも思わない。 知りたいと思うこの状態が全て。 周囲を見るのでもなく、後ろを振り返るのでもなく。 僅かに爪先立ちにしてくれる。 風が一つのところに留まらないように。 きっと、どこかへ行ける。 そんな気がする。 気のせいだと、思うけれど。 マルコーが何気なく呟いた言葉が記憶に残っていた。
「事情はわかった。だが、記憶を確かめるためじゃない。楽しむためにキャンプに行くんだ。それな らいい」 「いいです……けど、どうしてですか? 楽しくやるのが目的ならって」 マルコーは笑った。 「大した理由じゃない。キャンプっていうのは、真面目にやろうとすると、結構しんどいからな。い や、キャンプだけではなく、世の中ってのは、全部そうなのかもしれないが」 車でここへ来る時、匂いで近いことがわかった。 また、ペトラ達といた時のように、おかしくなってしまうのだろうか。 そう思ったが、到着すると不思議なほど落ち着いていた。見たことがある光景だと思ったが、心が 乱されることはない。 湖は、広大な葦原が取り囲むように続き、ベージュの絨毯のように日光を柔らかく受けていた。 休みもそこそこに、早速二人で釣りを始めた。これをしないことには、夕食が寂しいことになる。 風がクラエスの襟元をすり抜ける。どこかに群生しているのか、カモミールの微かな香りがした。 「秋だからか、花もなくて殺風景だな」釣竿を持ったままマルコーが言う。 「花はありませんけど、でも植物は色々あって面白いです。クレソンとか、花が咲く頃に来たらかわ いいでしょうね」クラエスが楽しそうに目を細めた。白いジャケットと黒のジーンズのモノトーンに、 山吹色のマフラーが鮮やかだ。 「クラエスが育ててるのは、全部野菜だったな」 「はい」 「一度聞いてみたかったんだ。なんで野菜なんか育ててるんだ? 育てるにしたって、花の方が簡単 なイメージがあるんだが」 マルコーの視線の先には、自生するサフランがある。蕾がもうすぐ開きそうな様子だった。 「何か、実のなるものが育てたかったんです」クラエスが笑う。「トマトなんかの蔓を伸ばす野菜は 成長は早いですけど、根元を虫にやられたら一気に枯れてします。花でも密集するようなものは、自 分自身で下の葉に日が当たらなくなったりして、そうすると枯れるしかありません。一概に育てやす いとは言えませんよ」 マルコーがほう、と息を漏らす。 「さすがに詳しいじゃないか」 「まあ、これしか取柄がないので」
背を伸ばすようにして、マルコーがしばし天を仰ぐ。高い空を鳥がゆっくりと旋回するのが見えた。 「俺は駄目だな。ここもそうだが、この時期なんて、公社にも落ち葉がすごいだろう。ああいうのの 掃除って、無駄にしか思えん。放っておけよと思う」 「確かに無駄ですけど」クラエスはしばらく考えて言った。「落ち葉拾いしたことあるんですか?」 「言われてみれば、ないかもな」 「一度してみるのをお勧めします。思いのほか、色々なことがわかりますから」 「へえ…」マルコーの眉が上がる。釣竿の感触を指でもてあそびながら言った。「どんなことが?」 「重いです」 「重い?」 「落ち葉全体の重さが、拾った時に初めてわかります。馬鹿馬鹿しい行為でも、その先に意外な全体 像があったりします」 「…ほう」 クラエスが控えめに笑って続ける。 「あとは、葉を拾うことで、植物の様子がわかります。空に伸びる枝を眺めるだけでは、気付かない ことです。それに落ち葉の裏には、それを食べる虫がよくいますから、拾うことで環境が良くなりま す。環境を整えても犯罪は他に移るだけだという人もいますが、自然を見ているとやはり、そこで生 活できるから仲間が増えるように思えます」 今二人が立っている岸辺も、落ち葉が敷き詰められている。 現状を正しく見るには、先端ばかりではなく足許をよく観察し、そこに何が捨てられていくのかを 見定めることが大切かもしれない、ということか。 一枚一枚の葉を観察しながら、マルコーは言った。 「落ち葉を拾うだけで、よく思いが巡るもんだ」 「ただの勝手な思い込みです」 「いや、俺達のしていることも、意味があるんだと思える。役に立つ考えじゃないか」 「そういう意味で言ったのではありません」クラエスは無表情のまま首を振った。多少つっけんどん な印象を与えたかもしれない。そう思い視線を逸らす。 「悪かったよ」慣れないことをするもんじゃないとマルコーが苦笑する。「どうもたまにそう思える んだが、クラエス、仕事、嫌いだろう」 「いえ、そんなことは」 「好きなのか?」 「どちらでも。仕事ですから」 「どちらにしたって、草木のが好きなわけだろう。なら、公社から離れて専念してみたらどうだい?」
「……は?」長い黒髪が風に乱れるのを片手で押さえながら、クラエスが訝しげな声を上げた。 「転職だな。ああ、誰かと一緒にやるなら、同棲とも言えるか。うん」 「冗談はやめてください」 「冗談じゃないよ」マルコーは静かな口調で言った。「あるところに自分の仕事に飽きてきた男がい てな、素朴な暮らしが好きな少女と一緒にいても、それはそれでいいと考えているんだ。どうだ、双 方うまみのある話だと思うぜ」 これは、どういうことだ。というか、つまり、そういうことで。 「そんな、普通じゃありません」クラエスが混乱しながら言った。 「うちの連中で、普通のやつがいるか?」 「それはまあ、確かに……」いや同意してどうする。クラエスが首を振って言う。「そもそも誰かと 一緒にって、なんでそんな話に」 「目的が同じなら、互助的に結束したほうがいいだろう」 「だって」クラエスが手元を見つめながら言った。「そういうのは好きな人とじゃないと……」 「乙女が! 乙女がここにいますよ課長!」 「な、なにを言ってるんですか!」クラエスの声が湖畔に響く。これでは釣りをしに来たのか、辱め られに来たのかわからない。 「まあそれは置いといて」 いいように遊ばれているのに気付き、クラエスの顔が引きつる。置いとくんですか、という言葉が 思い浮かんだけれど、なんとか堪えた。 「クラエスが思っている以上に、多様な道があるから、勝手に諦めてたらもったいない、というだけ の話だ」 「まったく…。信じられませんよ。公社が受け入れる理由がありません」 大きく息を吐くクラエスとは対照的に、マルコーはゆっくりと、クラッシャーハットを被り直しな がら言う。 「理由など幾らでもある。潜入、諜報に付随する単独での任務遂行能力を測るため、もしくは、任務 ができなくなった義体の心的推移に係るモデルケース。クラエスが持つ条件配置は非常に稀かもしれ ないが、そのために逆に価値がある。義体の管理運用面からも、次世代の汎用性向上の面からもな」 「でも、パーツの試用などは私が一括して行うのが最適です」 「そんなものどうとでもなる。俺は、お前がどうかと聞いているんだ」マルコーの表情は真剣だった。 先ほどまでの笑みは掻き消え、両目は真っ直ぐにクラエスを見ていた。「第一世代に残された時
間は少ない。公社としても、有効活用したいところだろう」 抑揚のない声だった。 視線を固定する。 その静止のためにクラエスの身体が熱を帯びる。何を考えるべきなのか思案する自分を、また別の 自分が見ている。マルコーも同じように視線を動かさなかった。 そう、恐らく、彼は。 そして、きっと、彼女は。 「やっぱりできません」クラエスは何度目かわからないキャスティングをしながら言った。 「そうか。悪い話じゃないと思ったんだがなぁ」 「仲間がいますから。落ち葉のあるうちは、私もそこにいたいんです」 「……」 マルコーは予想していたのか、頷いただけでそれ以上何も言わなかった。 おかしな話だと思う。植物を育てるのが好きなのに、一方では踏み込み踏みにじり踏み倒す、残忍 性の切先に立っている。 昔見た、サーカスのようだ。命がけの演技をジェラートを食べながら眺めていられる、その、物凄 さ。 きっと人間は、幾らだって残酷になれるのだ。私だって、例外なく。 あれ? でも、いつ見たのだろう? 釣りの後、薪にする枯れ木を集め終えると、もう日が沈むところだった。 マルコーが焚き火を起こし、それで焼いた魚と携帯食という夕食を終える。クラエスはふと釣りの 許可証は取ったのだろうかと疑問に思ったけれど、黙っていた。 水際で火を囲むことになったので、星が出ていることはわかったが、反対側の土地は傾斜していて、 遠くの景色は全く見えない。 雲もなく、月もない。こんな条件の夜には、湖が空の沈殿物のように見える。 「温かいものでも飲むか?」 「あ、はい」椅子に座り、唇の前で祈るように組んでいた両手を解き、クラエスが応える。 「それでは、コーヒーを」
「ホットで?」 クラエスは頷く。 即時にできたインスタントのそれを渡しながら、マルコーが言う。 「どうして彼が、クラエスを置いていったのか、わかるか?」 夕食の感想でも聞くようにすごく自然に聞くので、クラエスも思っていることをそのまま口にした。 「あの人は、亡くなったのではないんですか?」 「死んださ。しかし、その直前にクラエスから、何も言わずに離れようとしていた」 マルコーが嘘を言っている様子はない。クラエスは思い付くままに応えた。 「わかりません。でもなんとなく、出来の悪い義体が、嫌になったのだと思います」 「違うよ」マルコーが言う。「あの人はクラエスを気に入っていた。それは間違いない」 「わかりません。では、なんでですか?」クラエスが首を振った。 「遠慮」 「え?」 「一方的に与えることが嫌になったんだ。君に厚かましい男だと思われたくなかったんだろう」 「またふざけてますよね」 「そんなことはない」マルコーは笑った。「義体の監督をする立場に疑問を感じた、と言えばいいの か? どちらも同じことだろう。クラエスはもっと、男心を理解したほうがいいぜ」 幾つかのヴィジョンがクラエスの脳裏を巡ったが、どれも明確な形をとらない。水彩絵の具をつけ た筆を最初に水に浸けたときのように、筋をつくり、広がり、捩れ、流れるように、沈んでいく。 言葉になるものがなかった。ちょうど、その色の水を紙につけても、全然薄いように。 「私は、どこへ行こうとしているんでしょうか」 「さあな。少なくとも、前進はしているんじゃないか」 「本当にこれが、前進だと思いますか?」 「到着するためには前でも後ろでも、進まなければいけない」 「どこに到着するためですか?」 「さあ。でも今度は、クラエスの番なんだよ」 「私の?」マルコーを見る。 「そうだろう。彼はきっとやるべき、それ以上のことを、クラエスにしたんだ。順当に考えたなら、 きっと」 マルコーはそこで言葉を切った。 クラエスの視線が湖の白く浮き立ったエッジに向く。浪はほとんどないようだった。 あの人がクラエスに生きるために必要なあらゆることを教えてくれたこと、それはわかる。
ここまで連れてきてくれたこと、それもわかる。 では、これからどこへ行けばいいのか。 どうするべきなのか。 しかも、一人で。 答えの出ない問いに閉じられかけた双眸が、そのとき、ある一点に吸い込まれる。 『―ませんか?』 わざとらしく声をひそめて。 折れそうな手。 よろよろしながら進んでいく。 でも大丈夫。 後ろにはちゃんと。 指の間からすり抜ける。 失われたものが。 今度こそはっきりと、 見えるだろうか? 今度こそ――。 「マルコーさん」 「うん?」 「カヌーに乗りませんか?」 「カヌー? なんでまた」マルコーが岸辺に揚げられているそれを不可解そうに見遣る。「まあ、乗 りたいって言うんなら止めはしないが…」 「乗りたい。乗りましょう」 二人乗りのカヌーは車に積んで持ってきたもので、予定では翌日の昼間に使うはずだった。 クラエス達が乗り込むと、パドルの動きにあわせてゆっくりと動き出す。このあたりは対岸との幅 が狭く、一見川のように見える。もう少し広いところへ行こう。そう思った。 カヌーを漕ぎながら、クラエスは手を伸ばし水面に触れた。光が濾されて、青白い冷たさだけが残 ったようにひんやりとしていた。
それから長いこと、クラエスもマルコーも黙り込んでいた。 湖の色は紫。目印に置いてきた懐中電灯の光も既に見えない。鳥のシルエットも曖昧になった。 両側に茂っていた葦が途切れ、広々とした湖面に出る。 「このあたりです」 「え?」 クラエスがそれ以上言わずに、漕いでいたパドルを水面から揚げたので、マルコーもそれに倣った。 カヌーが湖面の中央で静止する。そこから同心円状に広がる波が徐々に細く、小さくなっていき、や がて波のない、平らな水面となる。 「これは……」 後ろでマルコーが声を失う。クラエスにはもう、その声も、どんな音も届いていない。 肌がひりつくようになった。 指先から、少しずつ痺れたような感じが拡がった。 散りばめられた、無数の。 どうして、こんなことを忘れていたのだろう。 どうして――。 「すごい……」 クラエスが思わず声を漏らす。 暗闇の中で数え切れないくらい幾つもの星が、瞬くこともなく光っていた。 ■■■がパドルを水中から引き揚げて少しして、その光が水面に映し出された。 水平線が消え失せ、船が空に浮いているような錯覚を受ける。 「俺が一番好きな景色だ」彼が言う。 クラエスはただ、光景に圧倒されるばかりだった。 星が溢れる水面は、光る糸で織られたように滑らかだった。 まるで宇宙を進んでいるようだと思った。 この世のものとは思えない調和。 言葉は出ない。 涙。 涙はこんなときにも出るということを知った。
「ありがとう、ございます。■■■■■」頬を拭いながら言った。「私、このことを、絶対忘れませ んから。一生、忘れませんから――」 あのときと同じように、知らずに涙を流していた。 彼も泣いたのだろうか? 人間は、どうして泣くのだろう。 けれど、涙を見てくれる人がいる。 疑問を受け止めてくれる人がいる。 それだけで、充分ではないか。 彼女は目を瞑って息を吸った。 静かに。 自分が泣くことを許すように。 長く生きた。 本当に、 本当に、 そう思う。 意味もなく。希望もなく。 よくここまで生きてこられた。 このまま星に飲まれて死ぬのも、悪くない。 だが、すぐにまた、目を開けた。 彼が私を生かしてくれた。 次は私の番なのだ。 私は、生きなければならない。 強い突風を顔に受けたが、もう目は閉じなかった。涙が後方へ吹き飛ばされていく。 ゆっくりと、星が流れていく。 まだ昔の続きであるかのように、ゆっくりと。 (了)
>>325 GJですw
すいません、ちょっとまた遠いお空で見守ってくれるお星様がひとつ増えちゃったので
感想書くのがつらいです^^;
人は死んでしまってもその人のことを覚えている誰かがいる限り、記憶の中で生き続けていくんだ、
だから死んでしまったから終わりってわけじゃない、と常々自分は思っているんですが・・・
クラエスとラバロ大尉の場合、それも消されてしまって。
それでもどこかに記憶の一片が残っている。
それは悲劇ではあるんだけど、一方ですごく幸せなことなんじゃないかなあ。
認知症のばあちゃんが10代まで記憶が戻っちゃって、子供を生んだ記憶はその人にはもうなくて、
その人にとって娘や息子は完全に存在しない――幽霊ですらなく、最初からこの世に存在しない
なんてのをしょっちゅう見聞きしてると、クラエスは幸せだなあと思う今日この頃。
>>334 GJ! 穏やかな気持ちになれる作品をありがとうございました。
これがラストとは残念です。もしいつかまた気が向くときがありましたら、
素敵な作品を再び拝見できればと思いますが・・・ともあれ、お疲れ様でしたw
エロパロ保管庫も無断転載倉庫のadult,Lemon,Lime,表記の Textデータを全て転載しました。 これでTextデータのお引っ越しはほぼ終了のはずです。 ガンスリを愛する皆様にご利用いただければ幸いですw
351 :
349 :2009/11/24(火) 21:36:04 ID:pvxqj3mjO
あああああ。なんかいらんこと書いてもーたTT うわ、できるもんなら削除したい;;; すみません、私事でお目汚しいたしました。お忘れくださいm(_ _)m
>>324 レスありがとうございますw
あ、ここの板はのんびりしてるんで、基本sage進行で大丈夫ですよ〜w
>>332 ありがとうございますw
>釣り番組
「今日はロンバルディアに来ています。狙う獲物は○○!ラバロさん、早速今回の仕掛けから
解説をお願いします」とかさわやかにクラエスのナレーションから始まるんですねw
ロベルタにウツツをぬかすヒルシャーに 悶々とするトリエラが見たいです!
追悼。 あるバセットハウンドに捧げる。 □□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第7話」終章・帰らざる旅路(前編)−− それから暫くの「太陽のこの季節」、公社を陽動しあざ笑うかの様に、正に 「公然」と公然組織員間の「厚く"熱い"絆」は続いた。 悪いことに非公然の動きを擽るように匂わせながら・・・。 「何処の三流パパラッチだよ俺たちは!」 「『公然』猥褻でとっととパクっちまえよ!」 初めは「うほぉ・・・」の一言は飛んでいたものが、もはや義体棟の少女達に 「閲覧禁止」な度外の情事満載の監視映像に、自らの「太陽の季節」を棒に振り、 職業疲労の限界に達した何人かの公社員は切れた。 今や誰もが鼻の下を伸ばす気力すら無くしていた。 ・・・サンドロら「趣味的にんげん観察系」を例外としては。 そして名残惜しげな別れの映像を最後に「恋人達」は最重要追跡リストから外された。 「公然組織」の高級幹部絡みである以上、何かしらのチャンスがあれば正に 「三流パパラッチ」な醜聞として流す良いネタにはなる・・・公社員の棒に振った 「太陽の季節」の慰めを言うならば。 *** そんな「太陽が狂わせた日々」が終わっても、スーツもネクタイも外さねば 倒れそうな日差しだった。 だがここは「"社会福祉"の"公社"」でありながら「『社会福祉公社』」だ。
公然とホルスターは晒せないが、丸腰で野外に立つ蛮勇を自分は持てない。 その結果、スーツの中にサングラスを忘れても・・・だ。 そんな矛盾にジャンは苦笑した。 彼女の担当官・・・いや「監視者」が相応しいだろう自分としては、暫く放っていた クラエスに会うため彼女の畑に行く・・・のは口実で、とにかく外の空気を吸いたかった。 いくら内部は近代的化されているとは言え「昔の貴族の館」を改造した建物には 何かが住み着いている。 ここ暫くの無意義な緊張の疲れはそれを実感させた。 取付かれてしまう前に払い落としておきたかった。 しかし暑い・・・この太陽が・・・人を狂わせているんだ。 さらにシャツのボタンを外したジャンは思った。 スーツが無いのでホルスターごと押し込み肩に掛けた布の袋は実量以上に重く感じた。 何か水分も欲しい気がした。 どうせ重いならクラエスの分も含めてボトルウォーターでも入れてくれば良かった。 そんなところに全く気も回らないとは・・・。 なりふり構わず「長男」という責任を背負い込む事を言い訳に自分は突き進み、 後ろに全てを置いて来た。 ・・・妹も・・・恋人も・・・背負うはずの家族全てを。 結局、背負っていたのは弾丸を発射するものだけ・・・。 それに後から気が付く・・・今も、そして・・・あの日も。 ・・・今更できる気遣いでは無いだろう。 「長男」・・・「"家族"の太陽を継ぐもの」・・・。 そうだ・・・狂ってるんだ・・・自分が狂ってる。
ふと気がつくと・・・道の真ん中でバセットハウンドが尻尾を振り座っていた。 そんな唐突な出来事にすらジャンは虚ろだった。 バセットは立ち上がると尻尾を高く上げて歩き始めた。 「付いてこい」とでも言いたげに・・・ジャンは・・・迷うことなく黙って彼に付いていった。 そこは孤独に大きく立つ木の下のベンチ・・・涼しい木陰がジャンを誘っていた。 ベンチの前にバセットは座る・・・「とりあえずまあ掛けろ」と言ってるようだ。 布袋を置き、ゆっくりとベンチに腰を下ろすとジャンはバセットの目を見て言った。 「また幻を見ているんですか・・・今日の自分は。」 バセットも暑いのか舌をダランと垂らし、疲れた視線で柔らかくジャンの目を見返す。 「以前の休暇には死んだ妹の幻とも話をしましたよ・・・だが今は・・・自信をもってシラフだ。」 鋭い目つきも何時もの彼の物ではなかった。 疲労の果て、日差しの眩しさが呼んでいるものだった。 「太陽が・・・人を狂わせているんですかね。」 相変わらずバセットは、のんびりとジャンを見上げていた。 「何をするために・・・戻られたのですか?この世に。」 独言とも問い掛けとも付かない台詞を残すとジャンはベンチに背を預け大きく空を見上げた。 そこには風にさざめく緑葉と、遮られては差し込む狂った日の光が渦を巻いていた。 「復讐ですか。」 そのままの格好でジャンは言った。
「『痕跡に執着し体力戦の足取りで何処までも追いかける』そうですね・・・貴方の今の姿は。」 直前まで吹いていた風は止まったが、余韻で未だ揺れる木々の葉で光の世界が踊っていた。 「ならば・・・もう十分でしょう。ケリを付けませんか?」 その時、ゆっくりと降られていたバセットの尻尾の動きが止まった気配をジャンは感じた。 「五共和派、協力者や関わった者・・・そんな奴らを殺し続けて百人になるのは近いでしょう。」 ジャンは横に置いた布袋の中に手を入れて、拳銃のトリガーに手を掛けた。 「でも・・・出来ればもう少し待って頂きたい。自分は未だ『あいつ』さえ討ち取っていない。」 キラキラと踊る光は続いていた・・・。 だがバセットが喉を狙って飛びかかる蹴り足を聞き取るには静かだ。 ・・・目を瞑りジャンは耳に全神経を集中させていた。 「その百人とやらに俺が入っているのか?」 驚いて跳ねるように立ち上がったジャンはバセットの顔を目玉を剥かんがごとく見た。 だがバセットは何事もなく自分の鼻先を一舐めして舌を出しハッハッと息をしていた。 誰だ!ジャンは辺りを見渡したが人影は無かった。 四方八方、あらゆる所を見回した・・・窓、屋根、樹上・・・空までも。何処だ!?誰だ!? 「落ち着けよ。俺は只の犬だよ。」 懐かしい声が再び足下からした・・・ジャンはバセットを震えながら見下ろした。
「エンリカに続いて・・・やはり貴方もですか!」 相変わらずバセットは暢気に尻尾を振り他人事のような顔をしてジャンを見上げていた。 感じた事のない恐怖にジャンはベンチに座り込んだ。 あの日のエンリカの"何かしら"とは状況が違う。 「自分が手に掛けた者」が確かに甦り現れたのだ。 「死んだ魂達は、なぜ黙っていてくれない!いったい自分に何をして欲しいのですか!?」 ジャンは引き吊った指が勝手にトリガーを引かないようにするだけでも必死だった。 「そんな事を犬に聞いてどうする。」 懐かしい声は再び、その口から発せられた。 「・・・やはり貴方なのですね。ラバロ大尉!」 「ラバロ?誰の事だ?さっぱり判らんぞ。」 驚きと恐怖の目で問うジャンに、とぼけた顔はバセットハウンドそのものの犬は 見事なほどアクセントに口を合わせて答えた。 「ですが・・・言葉を話せる犬には初めて会います!その声は貴方なのでしょう!?大尉!」 そんなジャンに構うことなくバセットはトコトコと歩み寄った。 「お前がそう思うならそうじゃないのか?」 そう言ってバセットはベンチを上りジャンの隣に座るとフガフガと鼻を寄せた。 「だが俺は只の犬だよ。この姿形は犬だろう?」 「しかし・・・そう言われても・・・」
そう言うジャンに"伏せ"に座り直し上目遣いでバセットは答えた。 「まず物騒な物を置け。そして俺を撫でて見ろ。」 恐る恐るジャンは拳銃を置きバセットの頭を撫でた。 ・・・気持ちよさげに薄目をして撫でられる"それ"は犬そのものの感触だった。 これが真実なのか・・・落ち着きを取り戻したジャンはバセットに静かに話しかけた。 「ならば・・・自分はこれから貴方にどう接したら・・・」 「今のとおり簡単だ。犬への接し方なんて子供でも知ってる事だぞ。」 何事もなくそう言うバセットハウンドの目の中にある渦巻く光をジャンは見つめていた。 「そうではなく・・・自分が過去、貴方にしたことを・・・どうやって・・・償なって・・・」 ふ〜ん・・・と溜息を吐くとバセットはそれに返した。 「何度も言わせるな・・・」 目の中の光は、ますます大きく自分の前に迫った。 まるで先ほど見た頭上の木の葉が光と織りなす明暗の交響の様だった・・・。 ジャンはその光に自ら飲み込まれて行くのだった。 「それは犬に聞く事じゃない・・・」 ***
|||||
−−「よく聞け・・・ジャン・クローチェ・・・
俺がお前に『人として出来る』最後の答えだ。
失った時間は取り戻せない。もう二度と。
それを決して忘れるな。」−−
|||||
【第7話−END→8話へ続く】
-----------------------------------------------------------
以下、事務連絡などです。
修正転載、ありがとうございました。>【】様
>>334 GJです!
>>349 お気持ち察します。>軽々しい言い方ですみません。
実は今回「追悼」と冒頭に載せましたが「Capitano」も一時、途中で連載を諦めるか?
という事態になりました。詳細につきましては次回、最後の欄外に書きます。
>>352 釣り番組では特にバスで喋りが上手な人がいる反面、磯とかで本当にラバロ大尉な
人が居て、アシスタントやナレーションで番組が成り立ってたりしますね。
さてあと1話となりました。暫くはネタは絞っても・・・ってところです。どうぞよろしく。
GJ とうとう次回は最終話ですね。楽しみにしておりますw
>>362 お心遣いありがとうございます。生きていれば日々色々なことが起こりますね。
でも苦も楽もその人を作り上げていくための大切な経験なんだと思って、
できるだけ前向きにいこうと、なるべく考えられるといいなあと。
連載をあきらめずに続けられたことに敬意と感謝を。
364 :
【】 :2009/12/02(水) 23:11:53 ID:sppkmGi/O
>釣り 湖に行く前日から部屋で二人分の仕掛けを作っているラバロさんを想像すると なんだか微笑ましい気がw 釣り繋がりで【いもむしごろごろ】のおまけ。またしてもザンコク表現? <予想外> 鳥「クラエス、いつまでそれ持ってるの?!」 蔵「土に返すのよ」 鳥「いまさら埋めても、越冬できるのかなあ」 蔵「違うわ。花壇の肥料にするの」 鳥「………」 蔵「花壇のミミズは平気なのに、どうしてこれが駄目なのかしらね」 鳥「そ、そりゃだって、花壇にミミズがいるのは予想できるけど、 まさか自分の部屋にそんなものがいるとは思わないじゃない」 蔵「仕事中に屋内で青虫を見つけたからって、 ショットガンで床ごと吹っ飛ばしたりしないようにね」 鳥「仕事中は気持ちが切り替わってるから、そんなもの気にならないわよ! (と言うか初めからヒルシャーさんと拾った木の実が原因じゃないって 分かってれば、あんなに動揺したりしなかったわよ)」 蔵「集中していないと冷静さは発揮できないという訳? あなたって難儀な人ね」 鳥「う〜〜(違うけど言い返せない……)」
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■ −−「Capitano−第8話」終章・帰らざる旅路(後編)−− 「わん!わん!」と遠く吠える声がした。 「どうしたのカピタン?」というヘンリエッタの声が近づいたと思うと「クラエス! 早く来てっ!」という叫び声と共に少女の重みがジャンに覆い被さった。 暫くして「ジャンさん!ジャンさん!ヘンリエッタ!代わるわ!拳銃がある!あなたが 構えて!」という声がして、多少、重めの体重が代わって被さった。 わん!わん!というバセット特有の大きく響き通る吠声と「誰か〜っ!誰か〜っ!! ジャンさんが!!」という声がした間もなく、もう少女一人分の体重がジャンの体に加わった。 ハァハァというリコの呼吸音・・・そうだ、持久走をさせているんだった・・・ジャンは 戻る意識の中で思い出していた。 「リコ!誰か呼んでくるわ!」というクラエスの声がして少し加重が減った後、回復しない リコの荒い息が激しく首筋に吹き付けた・・・その擽ったさにジャンは目を覚ました。 「・・・大丈夫だ・・・単なる・・・立ちくらみ・・・だ。」 彼はベンチに座ったまま横に倒れていた。 彼女らはジャンが狙撃されたのかと思いガード体制に入っている様だった・・・教えたとおりに。 「リコ・・・よけなさい・・・ヘンリエッタ・・・銃を下ろしなさい・・・私は別に撃たれていない。」 「いいえ!ジャンさん!この場合は警護対象が命令しても・・・」 「適切な判断が出来る人が来るまでカバーしろと訓練しました!」 まいったな・・・早速「時間は取り戻せない」のか・・・。 ふがふが・・・ぴぃーぴぃー・・・。
さっきまで吠えていたバセットがトコトコと寄って来てジャンに鼻を近づけ 耳元で鳴くのだった。 「大丈夫だ二人とも・・・こうしてCapitano(大尉殿)が来て安心している。適切だ。 信じてやりなさい。」 言われたリコとヘンリエッタは困惑を隠せなかった。 「・・・あ、あのぉ・・・いいんですか?」 「本当に大丈夫なの?カピタン?」 バセットは高く大きく尻尾を降ってそれに答えた。 「野生の本能は人を遥かに越えている。思っているよりも・・・そういうことだ。」 ジャンは起き上がり両手を広げてベンチの背を持ち、空を見て寄りかかると 苦笑いを浮かべながら言った。 頭上にはさっきと同じく木の葉が光と織りなす明暗の交響があった・・・ 綺麗だとジャンは思った。 「あそこです!」「兄さん!」「ジャンさん!」「狙撃者は!」「そんな物騒なものを持ち出すな!」 「何だそれは!?」「無いよりはマシだろう!」「誰か水を!」「ダメだ!いきなり飲ませるな!」 「タオルを濡らして持ってこい!」「担架だ担架!」 クラエスの声を先頭にドサドサと大人達の声が押し寄せてくる・・・顔を下ろしてみると・・・。 先ほどからいた二人とクラエス、血相を変えたジョゼと公社員と義体・・・大勢の者がいた。 少なくない者が拳銃を持って来たのは判るのだが、SMG5丁、自動小銃3丁、 ショットガン1丁、軽機関銃1丁に弾薬箱2つ、擲弾発射機1丁、防盾7脚、 鉄パイプやバールなど鈍器やスコップ等々、訳の判らないもの数本づつ、
緊急蘇生装置2つ、消火器3つ、カメラとビデオが合わせて4台、現場証拠保全用の キット3組、何故かペンとノート1組、そして防弾装甲されたSUVが味方識別サインの LEDをバイザーに点滅しながらABSを作動させ砂塵を上げて止まった・・・。 「・・・豪華キャスティングで、いったい何を始めるつもりだ君たちは?討ち入りか?はっはっは・・・」 両手を広げ座ったままジャンは目を伏せ高笑いした。 「兄さん!そんな言い方はないだろう!みんな幹部の兄さんが突然倒れているって聞いて・・・」 そういうジョゼを制止してビアンキ先生が脈を取り、持ってきたスポーツドリンクを ジャンに差し出した。 「ゆっくりと噛むように数口飲んで。後は点滴で補った方がいい。恐らく過労と軽い熱射病だ。」 「・・・もう歳か・・・俺は。情けない倒れ方だ。」 「ここ暫く相当な無理をしていたのだからな。」 自分に"無理のない人生"なんて今まであるのか?疑問を抱きつつジャンは集まった人々に言った。 「騒がせて誠にすまなかった。援護には感謝する。但し!ここはあくまでも『社会福祉公社』だ。 威力偵察なら敵の思うツボな状況だ。以後、気をつけろ。 あと例の下らん件で疲れも溜まっているだろう・・・私のように倒れる前に各自で適宜、十分な 休息を取る様に。では解散!」 「はぁ〜」「まいったまいった」「おつかれさん」「まだ判らんぞ!」「じゃ震えてSUVに隠れてな!」 「お前そんな物どこから?」「あれ?何処だっけ?」「ヘンリエッタ、またクラエスの畑に行ってて良いよ」 「ヒルシャーさん、何でノートとペンなんですか?」「・・・ちゃんと拳銃もあるぞっ!で、そのスコップは?」 「え、クラエスの畑に手伝いに行くところで・・・」 三々五々に公社員は散って行く。 「兄さん!本当に大丈夫か・・・」 「ゆっくりと立って。あれだけ流暢な演説なら脳出血ではない。ジョゼ、一緒に肩を支えてくれ。」 両肩を支えられてジャンは立ち上がった。
小さな体がジャンの腰を支えようとした。 「ジャンさん・・・御一緒します。」 そのリコの体を跳ね除け、訓練に戻るよう言おうとしたジャンを見越したようにビアンキ先生が言った。 「支える者以外に護衛が必要だろう。私は何者でも命を救うのが仕事だ・・・貴方だけの盾にはなれないぞ。」 遠くを見つめるようにジャンが呟いた。 「・・・ヤツと刺し違えても構わない俺には盾など邪魔に過ぎない。そう思わないか。ビアンキ"医学博士"」 そう言ったジャンの顔を向きもせずにビアンキ先生は言った。 「今の自分の立場をわきまえろ・・・屍の上に生き延びた者の義務だ。 時間は取り戻せない、もう二度と。」 ジャンは驚いて立ち止まり、ビアンキ先生を見て、そして振り返った。 遠くバセットハウンドの"カピタン"がこちらを向いて尻尾を振って見つめていた。 「カピタ〜ン!もう大丈夫よ!いらっしゃい!」 見えない遠くの畑からクラエスの声がした。 わん!と、ひと吠えしてバセットはトコトコと畑の方に去っていった・・・。 俯いてビアンキ先生が言った。 「すまない・・・君たち兄弟には酷い言葉だったな。」 「いいえ・・・本当にもう・・・二度と帰れない・・・帰る場所のない旅路ですから。」 ジョゼが飲み込むように呟いた。 暫しの沈黙が流れた・・・
「リコ。この袋を持って付いてきなさい。中に拳銃がある・・・のは、さっき見たから知ってるな。」 「はい!ジャンさん!」 袋を受け取ったリコの頭を久々にジャンは撫でてやった。 「・・・ビアンキ先生。申し訳ない。」 「多めの点滴をしてもらおう。その間、ゆっくりと寝た方がいい。リコ、君も静かに付き添って あげてくれないか。」 他に誰もいなくなった庭を四つの影が去っていった。 一陣の風が通り抜け、大樹を揺らし、何枚かの木の葉が風に舞い地に落ちた。 ・・・日々の中にある永遠の別れ。 二度と戻らぬ時の理だった。 しかし・・・たった一枚の葉が高く空に舞い上がると、白銀に輝き、光の中に吸い込まれ消えていった。 fin 「午前0時のメリーゴーランド」 By ZIGGY ※ 謹んで取材させていただいたバセットハウンドの御冥福をお祈りいたします。 2009-12-05 壱拾参−3
前回、予告いたしましたお知らせがあります。 本作「Capitano」の執筆にあたり自分はバセ飼いではないもので、特にある方のバセットハウンドの 日常のお話を解釈し、先日の第5話や第6話のイビキ等、多くの題材を戴いて仕上げて参りました。 ところが・・・先日、正に4話パート1のUPをしている真っ最中に、そのバセットハウンド急逝の報に 接しました。 まさかの急逝・・・その朝、いつも通りに御機嫌にテケテケと尻尾を振って主の前を歩いていた。 ・・・そう聞いています。 「Capitano」は先の「レクター話」の時点ですら、そういったクラエスとバセットの生活を描くピース ・・・例えば"クラエスが食堂厨房裏口に野菜屑を貰いに行ったらそこにバセットハウンドがいた"程度の ノートの破片しかなくなぜか「レクター話」の細部仕上げの最中になって「言葉の泉が湧くように」 それらを纏めるキータッチが進み、とうとう予定の6話ですら収まらなくなり、これはいったい どうしたものかと自分でも思っていました。 まさかそのバセットハウンドが私にキーを・・・ではなく、何かの偶然とは思いたいのですが、でも、 そのバセットハウンド無しには「Capitano」は書けなかったろうと思うわけです。 あまりの急逝に飼い主さんのショックは慰め難い大きなものです。 一時は既に出来上がった第4話以降の展開に、初体験だった取材対象の不幸を「ものかき」として 如何に対処して良いか頭を抱え、お蔵入りも考えました。 しかし飼い主さんの理解、何より飼い主さんがその不幸から立ち上がろうと前に進む姿、そして逆に、 励ましまで頂いて、自分としての「話」を変えることなく、今回の最終回まで書かせていただきました。 よって哀悼の意を持って「Capitano」の終章「帰らざる旅路」を追悼作として捧げ、そのバセット ハウンドの御冥福をお祈りしたいと思います。 私事でご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いいたします。
公社では二週間に一度、医者の問診がある。 フィジカルな検査だけでなく、ビアンキのカウンセリングも重要なケアだ。 そしてビアンキはカウンセリング以外に知能検査も義体に実施している。 その結果は担当官の会議で議題になる。 「知能検査の結果が出た、一期生から発表する。 トップはトリエラ、IQ132、とくに言語に関する項目が高かった。 次にクラエス、121、バランスがよくバラつきが少ない。」 「さすがだな、あの2人は。」 「シルヴィアは109、ヘンリエッタはIQ108、ベアトリーチェは106、キアーラは104、まあ標準の範囲内だ。」 嫌な予感がする。 「アンジェリカは短期記憶障害の進行のため測定困難、問題はリコだ。」 やっぱりか。 「義体化直後の検査よりは伸びたが、IQ74、ボーダーラインだ。」 「ジャン、君は優秀だ。 射撃訓練によりリコは名スナイパーになった。 しかし直接戦闘になると芳しくない。 スナイパーなら義体を使わずともできる。 試験体はクラエス1人で充分だ。 リコの廃棄を検討すべきだろう」 来るべきものが来た。 わかってはいたが、課長の口から言われると重い。
せっかく義体化したからにはスナイパー中心でも廃棄するのはかえって無駄だ。 そんな説得力のない反論しかできなかった。 リコを義体に選んだ時俺は条件付けが軽くて済む、トラウマのない素体という理由で選んだ。 その上金髪碧眼で俺と容姿が近かった。 リコがいなくなれば円満さを取り戻すであろう家族に同情したとか、家族に疎まれるリコに同情したとか、なかったとは言わない。 だが一番の理由は長生きする義体が欲しかった、いや、義体の死ぬところでもできるだけ見たくなかった。 だから全身麻痺であるリコの問題点に気付かなかった。 全身麻痺で言語を発することもできなかったリコ。 社会性が未発達なのは言うに及ばず、知的にも軽いものの遅れがあった。 全身麻痺では知能を測定することもできず、管につながれていては教育も受けられない。 しかし知的な遅れに気付いたのは義体化後。 知識を義体化によって補完しても尚、判断力が他の義体に遠く及ばない。 今まで1人部屋だった義体を急遽相部屋にしたのはリコのためだ。 リコの社会性の発達、ひいてはトリエラのようにある程度自分で判断して仕事ができるように。
しかしその目論見も虚しく、一年経った今もリコのIQはボーダーラインだ。 しかし俺はどうしてもリコの廃棄には同意できない。 駄目な道具は取り替えればいい。 しかし俺はリコを取り替える気にはなれない。 「ジャンさん、ヒルシャーさん、プリシッラさん、ビアンキ先生が呼んでいます、ビアンキ先生のオフィスです。」 「トリエラ。わかった。」 トリエラは義体の中ではトップクラスだ、銃撃戦だけでなく格闘もできる。 格闘は担当官がフォローできないから、判断力の高い義体ならではの戦い方だ。 リコには全く無理なことだ。 ビアンキのオフィスには確かにヒルシャーとプリシッラも待っていた。 「ジャン、リコのことだが。」 「わかっている。 だが廃棄は」 「ジャンさん、リコと遊んでます?」 「そんな無駄なことはしたこともないし、これからもしない」 「ジャン、臨床心理の専門家として言うが。 認知発達には遊びは欠かせない。 現にリコはヘンリエッタの裁縫道具で指の操作が向上した。」 「私もトリエラには古典中心ですが文学も与えています。」 「ビアンキ先生、アンジェにお話考えてくれたのも実はそういう打算かららしくて」 「俺にどうしろと言うんだ。」 「端的に言えば、仕事道具以外も与えてみろ。」 「わかった。」 ビアンキのオフィスを出て考えたが、考えてみれば俺もろくに遊んだことはない。 リコにふさわしいおもちゃもわからない。 仕方ない、軍警察時代に使っていたトランプでいいだろう。 リコがトランプのルールを理解できるかは怪しいが。 数日後、リコの部屋ではトランプを積み上げてピラミッドを作るリコの姿があった。
>>372-374 見事な心理考証だな。
ジャンの人柄と葛藤が巧みに表現されている。
貴殿は、編集関係者の匂いがするが…
どうかね?社会福祉公社で担当官として働いてみないかね?
>>365 愛されて旅立ったバセットがやすらかでありますよう、
飼い主さんのお気持ちがなるべくはやく癒されますよう、お祈りします。
作品中バセットの描写がとても現実的で、身近にモデルがいるんだろうなと感じられました。
写真や動画でなくても記憶以外にその存在を遺しておくことができたそのバセットは
きっと幸せだったのではないかと、身近な存在をなくした一人として思います。
長編の連載、お疲れさまでした。GJですw
>>372 「…俺だって色々考えているんだよ」
やはりジャンさんは繊細だ。ボーダーラインで廃棄はご勘弁〜〜TT
投下お疲れさまでしたw トランプの出所は自分も気になっていたので
なるほどと納得。
>>367 鳥「で、なんでノートとペンなんですか?」
昼「いやその…こほん、これだって使い方次第では武器になるんだぞ。
ノートの綴じ側の峰を鼻の下に叩き込むとか、ペンの後ろを親指で支えて握り込み、
先端部で目を狙うとか…いやっ、ええと、ともかくだな、どんな状況でも
戦う術というのはあるもので……」
鳥「目の怪我の事なら、もう克服してますから大丈夫ですよ」
昼「……すまない」
鳥「謝らないでくださいよ、もう。
(どちらかといえばその後抱きしめてくれた事を思い出して欲しいんだけどな…)」
昼「ああ、その、トリエラ」
鳥「はい?」
昼「クラエスの手伝いが終わったら、オフィスへ来なさい。
ノートとペンの本来の使い方をしよう」
鳥「…はい、ヒルシャーさん」
トランプの話を書いたものです(372〜374) 題名って付けたほうがいいんですかね? またジャンのエピソードですが投下します。 「ジャンさん、リコにもうちょっと優しくしてあげるべきです!」 「義体の運用は担当官が決める。 それにリコの表情を見ろ、不満などあるように見えるか?」 「…リコが笑ってるのは条件付けで不満を封じてるからじゃないんですか?」 ジャンの右腕がスイングする。 まずい。 「ジャン! 訓練以外で課員を殴るな。 リコの躾はお前の仕事だが、プリシッラを躾る権利はお前にはないぞ。」 苦虫をかみつぶしたような顔でジャンは部屋を出て行った。 プリシッラは真っ赤な顔をして私に詰め寄る。 「ビアンキ先生、先生はなんで何も言わないんですか? リコがかわいそうじゃないんですか。」 これはプリシッラの長所でもあり短所でもある。 だが、ジャンにとっては短所にしかならないことが確実である以上、放ってもおけまい。 「仕方ない。 本当は一般の課員に見せる資料ではないんだが。 パスワードを見せるわけにはいかないならしばらく後ろを向け。」 パソコンのフォルダを開き、IDとパスワードを入力する。 「もういいぞ。」 「どんな資料なんですか、先生?」 「条件付けの資料だ。 個々の譜面の1ページ1ページを見せるわけにはいかないが、この画面ぐらいならまあ仕方ないだろう。 よく見てみろ。」 そこには義体のコードネームが付けられたフォルダが並んでいる。 フォルダの中身を見なくてもデータのサイズはわかる状態で。
「アンジェ、ページ数多いですね…」 「それは仕方ないさ。 手探りで何回も試しながらやったんだ。」 「クラエスも多いけど、これ、ラバロさんの… トリエラもエッタも多いな… え?」 「驚いたな、やっぱり。 そうだ、リコは一番条件付けが軽いんだ。」 「だって、ジャンさんいつも条件付けを強化しろってジョゼさんに言ってるのに…」 「プリシッラ、条件付けってどんなことをすりこむもんだ?」 「銃のこととか知識の補完、義体化以前の過去の忘却とそれに対する不安の消去、担当官と公社への忠誠と服従、殺人の罪悪感の消去、死の恐怖の消去、ですか。」 「さすがに完璧だな。 じゃあリコに必要な条件付けってなんだ?」 「え?」 「知識の補完、これは他の義体より多く必要だった。 リコは教育を受けた経験がないからな。 だがこれは条件付けの中では負担は軽い、消すより植えつけるほうが簡単なんだ。」 「それはベリサリオ先生も言ってました。」 「過去の記憶の消去、これはリコはやってない。」 「え? 大丈夫なんですか?」 「リコは任務に差し支えるようなトラウマを抱えていなかった。 そして戻りたいと思うような環境もどこにもない。 両親には見捨てられていたし、病室から出られないがゆえに友達もいなかった。」 「それは少し聞きました、重度のCFS症候群だったとか。」 「記憶の消去をしていないというのはかなり脳への負担を減らしている。 そして記憶が残っているがゆえに担当官への忠誠もほとんど条件付けを必要としなかった。」
「どういうことですか?」 「リコにとっては自由に動く体はとても大切でありがたいものだ。 それを公社が与えたんだと言語で教示するだけでリコは公社に忠誠を誓った。」 「そんな… 悲しすぎます。」 「そうか? 我々が神に感謝するのと変わらないだろう、リコの場合は。」 「…そうなんでしょうか。」 「さらにリコは殺人への罪悪感の消去もしていない。」 「そんな! ありえないですよ、そんなこと。」 「じゃあ聞くが、プリシッラ、なんで人を殺してはいけないんだ?」 「それは、殺された人の家族や友達が悲しむし、殺されるときは苦しいし、法律で禁じられてるし…」 「公社に来る前のリコは死ねば喜ばれる存在だった。 入院費用が両親にはどうしようもない負担だったからな。 殺される時は苦しいと言うが、リコは基本的に他者の痛みには鈍感だ。 公社に来る以前には他者とのコミュニケーションなんてなかったんだからな。 リコには大切な人なんていなかったから、大切な人が殺されたら悲しいから、という感覚もない。 その上リコは法律なんて知らなかった。 だから公社に来る前の時点で人を殺すことへの罪悪感はほとんど育っていなかった。 公社に来ればアンジェもトリエラもジャンも当たり前に人を殺している。 そうなれば罪悪感なんて育つ機会を失う。」 「人を殺してはいけないってもっと本能的なものじゃないんですか。」 「違うな。 社会規範だ、教えなければ育たない。 教えてもなにかの加減でひっくり返る…テロリストがそうだな。」 「なんだか、絶望的な話です。」 「死の恐怖の消去も他の子に比べたら簡単だったそうだ。 公社とジャンはリコの命に優先する、という方向性で条件付けしたらしい。」
「自分の命の価値すら実感できない生い立ち…」 「プリシッラ、同情するのはわかるが、その同情は誰のためだ? リコは最小限の条件付けで済む。 義体の中では最も長生きできるだろうし、喜怒哀楽だってほとんど変わっちゃいない。 そもそも自由な体は義体化以前のリコが一番ほしかったものだ。 代償は大きくとも望むものを得られたんだよ、リコは。」 「でも…納得いかないです。」 「じゃあプリシッラはどちらがいい? 自分が治らない病気になったとして、ベッドの上で3年の寿命と、好きなことをして三カ月の寿命と。」 「…三か月です。」 「そういうことだ。」 プリシッラは絶望的な表情で部屋を出て行った。 「先生、どうしたの? プリシッラがプリシッラじゃないみたいな顔して歩いてたけど。」 「ああ、オリガ、気にすることはない。 思い込みが砕かれてショックを受けただけさ。」 「そう?」 「それにプリシッラのことだ、明日になれば元に戻ってるさ。」 「そうね。 先生は残業? ほどほどにね。」 「ああ、ありがとう。」 プリシッラはこれぐらいでへこたれたりはしないだろう。 それは確信できる。 翌日。 「リコ、エッタから聞いたよ〜、ブラシ持ってないんだって? おねーさんがあげるから、その寝癖、直しなね!」 プリシッラは変わらない。 それはきっとプリシッラが思っている以上に彼女たちを救っている。
投下終了。 すみません、思ったより長いです。 条件付けについていろいろ考えてみたことをまとめたんですが… どうですかね? タイトル、つけた方が良ければ次回からは頑張ります。 個人的にジャン、ビアンキ、プリシッラに思い入れが強いものでなかなか義体が主役の話は思いつかないのですが(汗 それと前作での「リコはボーダーライン」という話について補足です。 IQというのは知識、短期記憶、判断力の3つがはかられると思ってください。 条件付けで知識を標準レベルに押し上げても平均でボーダーラインってことは残りの2つは「結構ヤバイ」、ボーダーラインではなく完全に知的障害レベルです。 ただ私がそう解釈したにも理由がありまして、まあ端的に言うと嘘のつけなさ加減と行動。 任務中に縁石の上を歩いて叱られたりホテルのベッドでとび跳ねたり。 12、3の少女と言うよりは小学校低学年程度の児童の行動です。 そこから仮説をたてて書きました。 まとめの人には頭が下がります。 これからもよろしくお願いします。
>>378-382 「見事なものだ。
最近、公社保管庫の管理人の仕事のせいか、
優秀なエージェント達が育ってきておる。
条件付けの技術考証もしっかりしており、
人物の台詞から温かみも感じる…素晴らしいの一言だ。
ああ、ローザ。コーヒーを頼む。」
「あの、課長!もう、ご自分では、お書きにならないんですか?」
「うむ、最近、疲れが溜まっていてな。」
「…すいません。毎晩、私が無理におねだりしているせいですね?」
「いやいや、そうではないよ。」
「でも、やっぱり、自分の出番がないって寂しいですわ。
アイーダ氏も私の出番をちっとも作ってくださらないし…」
「ローザ、私は、君に逝かれることだけが不安なのだよ。」
「ロレンツォ様…」
「アイーダ氏が、君を少しでも長生きさせてくれることを期待しよう。」
「私は、ロレンツォ様のおそばにいられたら、それでいいんです。」
「私もだよ。ローザ。今晩も残業を頼めるかね?」
「もちろんです!
でも、ヒルシャー様には、機密性の高い仕事なんだって、
ウソをついてしまいましたわ!」
「ウソではないさ。君の仕事は、私のサポートだ、ちがうかね?」
「仰るとおりですわ。私の仕事は、あなたにお仕えすることです。」
「さて、今後のエージェント達の仕事に期待しよう。」
「ええ、皆様のご活躍を楽しみにしてます。お健やかでありますように。」
色々な意味で読みごたえがありました。GJですw 愛の堕天使さんは自分も好きなキャラなのでラスト2行が嬉しいw すみません、ボーダーラインで廃棄につまずいたのは 昔そっち系の畑にいたのでちょっとせつなかったんです。 勿論、作品中の演出だと言うのは承知してます。 まあ障害者に対する扱いがひどいとかはガンスリの世界背景で それを言うのも今更なんですけどね。 縁石の上を歩いたりホテルのベッドでとび跳ねたり…は 中学生でも三十路でもやる奴はやるかなw
385 :
保管庫 :2009/12/08(火) 22:59:34 ID:jhKTd2DzO
>>382 様
>タイトル
タイトルが無ければ、保管庫お手伝い人が勝手につけさせていただいちゃってますw
同名でページが作れない、無題がたくさんあると区別がつかない、等の理由からです。
無題でもタイトルありでも、どちらでも大丈夫ですので、お好みでどうぞ^^
作者名は名無しさんのままがよろしいですか? それとも投下ナンバーの
372にしましょうか?どちらでもご要望があれば変更しますよー。
386 :
保管庫 :2009/12/09(水) 12:53:23 ID:fjGHP9lAO
保管庫お手伝い人です。 ロレンツォ二課課長 氏の書き込みはどう扱ってよいのか分からないので、 自分は保管しません。 必要だと思われる方が保管してくださいませ。
コテつけさせていただきます。
リコのトランプ話とリコの条件付けの話を書いたものです。
時代劇では血の色を鮮芳と表現するようなのでこの名前にしてみました。
課長様
ありがとうございます。
理屈っぽい性分なもので…
お褒めいただき嬉しいです。
>>384 様
ありがとうございます。
私も近い世界の人間です(苦笑
課長との対比でジャンが実はリコを道具扱いしていないというのが伝わればいいのですが…それができれば演出成功です。
保管庫の管理者様
今後はこの名前で書き込みます。
作品の作者名もこれでお願いします。
お言葉に甘えてこれからもタイトルが思いつかなくても投下していこうと思います。
>>387 様
>>384 です。
ああ、ご近所さんでしたか^_^;
そっち系の知識があって承知で書いている方かな、という印象はあったんですが。
他スレで色々あったのでちょっとナーバスになっておりまして、お気を悪くされたらすみません。
>ジャンが実はリコを道具扱いしていないというのが伝われば
狙い通り受け取りました。GJですw
389 :
保管庫 :2009/12/10(木) 22:47:53 ID:W39JpKi9O
>>鮮芳 ◆Ecz190JxdQ 様 作者名変更しました。サブタイトルがお気に召さない時にはおっしゃってください。 ちなみに自分は技術部保管庫の管理人さんではなく、しがない保管お手伝い人です^^ 管理人さんのご好意でかなり好き勝手をさせていただいておりますが;;; (ついでに言うとエロパロ保管庫は自分が管理人です) wikiの管理上はサポーターとなっておりますので、“保管サポーター”とでもお呼びください。 それと、livedoorのIDを取得されるればご自身で修正、編集等ができますよw
タイトル:ポーチ SIDE:リコ 仕事に行く時、私たちは銃をヴァイオリンやヴィオラのケースに隠す。 私は狙撃用の大きな装備がある時にチェロのケースもジャンさんから与えられたからチェロのケースもあるけど。 泊りで仕事に行く時はスーツケースに洋服を詰めて持っていくけど、普段の仕事の時はケースだけ。 それが当たり前だと思ってた。 今日トリエラの部屋に行くまでは。 トリエラはナポリに行くから、と大きなスーツケースに洋服を詰めていた。 トリエラはブーツが似合うからもっとスカートをはけばいいのに、普段はズボンばっかり。 私もズボンばっかりだけど、ジャンさんが「お前はスカートの動きを練習してこなかったからスカートは無理だ」って言うから仕方ない。 ズボンの動きだって練習したことなんてないはずだけど、パジャマはズボンだから公社に来る前病院にいたころにもはいていたからいいのかな。 そんなことを考えている間にトリエラはどんどん荷造りを済ませていく。 私は洋服を畳むのが苦手で、ヘンリエッタに手伝ってもらったりするから、あんなに早くはできないな。 スーツケースをバタン、とトリエラが閉める。 「終わった?」 荷造りが終わったら私の荷造りを手伝ってもらう約束。 ヘンリエッタが仕事でいないから、今回は手伝ってもらえないから。 「もうちょっと待ってて。 まだ手荷物が終わってない。」 「手荷物?」 私はいつもスーツケースと銃のケースしか持ってない。 義体は携帯電話やお財布は持たないから必要ない、ってジャンさんも言ってるし。
「そうだよ、手荷物。 薬のポーチとかね。 今回の仕事では使わないけど、前に検事の警護をしたときは化粧品も持ってったよ。」 そういうとトリエラはポーチを見せてくれた。 ファスナーのついたヘンリエッタの日記帳より少し小さめなポーチ。 「薬ってこんなにあったっけ?」 「ん〜リコはポーチ持ってないの?」 「うん。 長い仕事の時はスーツケースに入れて持っていくよ。」 ヒルシャーさんはトリエラに本当はオシャレしてほしいのかな? このポーチ、綺麗な模様がついてるし。 「そっか〜、リコはいいね。」 トリエラがちょっと悲しそうな顔をした。 なんでだろう? 「私のこれはね、なければないほうがいいんだよ。」 そういうとトリエラはポーチをカバンにしまった。 「さ、これでおしまい。 リコの部屋に行こうか。」
SIDE:トリエラ リコは相変わらず荷づくりが苦手らしい。 ジャンさんがアイロン不要の服ばかり与えてるから慣れてないだけだと思うけど、確かにリコは不器用だから仕方ない。 普段はヘンリエッタが手伝っているらしいけど、ヘンリエッタは今仕事でいないし。 私はそれなりに荷造りはうまいと思う。 性格的にはクラエスが一番向いていそうだけど。 そんなことを考えながらでもスーツケースにものは詰め終わり、蓋を閉める。 「終わった?」 リコは少し待ちくたびれたらしい。 「もうちょっと待ってて。 まだ手荷物が終わってない。」 「手荷物?」 「そうだよ、手荷物。 薬のポーチとかね。 今回の仕事では使わないけど、前に検事の警護をしたときは化粧品も持ってったよ。」 そういえばリコが仕事の時銃のケース以外持ち歩いている姿はまず見ない。 冬場は私もコートのポケットを最大活用するから手荷物なしの時もあるけど。 夏場はさすがにそうもいかないからポーチを入れた小さめのバッグを持つことも多い。 いや、昔はそれでもポーチは持っていなかったはずだ。 仕事の時にポーチを持ち歩くようになったのは、いつからだろう。 マリオを捕まえた時はまだ持ち歩いてなかったな。 結局、これが必要なのは依存症のせいだ。 朝晩の薬だけならスーツケースに入れれば済む。 ジョゼあたりならそれでもポーチを買ってよこすかもしれないが、ヒルシャーならまずそんなことはしないだろう。 その上リコは狙撃の仕事が多いから、公社から遠く離れて大怪我をした時のために抗生物質を持ち歩く必要もあまりない。 ポーチを不思議そうに眺めているリコ。 中身を見ていないのは一応親しき仲にも礼儀ありと言うことだろうか。
「薬ってこんなにあったっけ?」 「ん〜リコはポーチ持ってないの?」 「うん。 あっさりそう返されるとさすがに少し胸が痛む。 リコは投薬量も少ないし、依存症の症状も皆無だからポーチで持ち歩く必要がない。 そのことに気づかないのがまたリコらしい。 ヘンリエッタなら薬の量が多い、なんて口に出すことはないだろう。 「そっか〜、リコはいいね。」 私は「お姉さん」だから、不安にさせるようなことは何も言わない。 「私のこれはね、なければないほうがいいんだよ。」 恨むならリコの条件付けが私のそれより軽いとわかってしまう程度の条件付けしか私にしなかったヒルシャーを恨むべきだから。 「さ、これでおしまい。 リコの部屋に行こうか。」
今回は義体メインです。
リコとトリエラ。
話し方の差をつけるのが大変でした(汗
リコが薬の量についてよくわかってないのはジャンが薬について詳しく教えてないからです。
話の時期的にはナタレのトリエラのナポリ出張の頃だと思ってくださいな。
>>388 様
私はお薬に詳しいので、原作の依存症描写見て驚いてました(汗
ここはマターリですが、2ちゃんですからいろいろありますよね…
>>389 保管庫サポーター様
今ちょっといろいろ山場ですので、落ち着いたら参加しようかな、と思ってます。
(もし誤字脱字しちゃっても後から治せますしね;
livedoorのID・・・そういえば随分昔に何か取ってた気が。
ログインできました。
で、今日は実行しなかったのですが、ご挨拶をお送りして保管庫のオーナーさんの
承諾を頂くという形で参加できるというわけですね。
>>377 クイズ。ノートとペンはヒルシャーでした。
では他の諸々の"ガラクタ"は誰が何を持ってきたのでしょうか?・・・答えは5年後!
なんて冗談ですが(^-^;;;
でも・・・ね。
今更、デンマーク語の書き取りの口実にされてもねぇ。
本当にヒルシャーさんは何を考えてたんだろう。
「ジャン・クローチェの最後」を書くための創作ノートとか、辞世の句を
書き留めるとか、課員の「葬る言葉」を書き留めるとか。
・・・なんて事まで、いくら何でもヒルシャーさんは。
・・・意外と考えてたのかもしれない。
そんなことを二段ベッドの上板の模様を眺めてトリエラは考えていた。
--おやすみなさい・・・明日無きもの達よ・・・今は明日を信じて。--
グウ〜・・・グウ〜・・・グウ〜・・・。
もう一つの息吹を頭上に聞きながらLED読書灯でいつものように本を読む
クラエスは、そう心の中で思った。
--おやすみなさい・・・安らかに。--
>>ポーチ
せつなーTT そうするとモンタルチーノの時にはもう薬の携帯が必要になってたのか;;;
GJです。ナタレの時の味覚異常は亜鉛不足だったという事にして逃げたい自分がいる。
>>394 ありがとうございます。ROMでへこんでりゃ世話無いんですが;;;
ここがマターリ進行なのにしばしば甘え過ぎている気がして日々反省しきり。
文字だけの表現って難しいですね…
依存症表現のどこらへんに驚いたのかプロの視点を聞いてみたい気もw
>>395 >クイズ 難易度高!
えーと、スコップはクラエス、エッタ、トリエラ。
現場証拠保全用のキット3組はオリガさん、ジョルジョ、あとリコとか。
消火器3つはプリシッラ、お手伝いのアンジェとビーチェ。
カメラとビデオが合わせて4台はマルコー、ペトラ、サンドロ、ベルナルドあたり。
救急蘇生装置はビアンキ先生、ジョゼ。鈍器はアマデオ?
・・・根拠はあまりナイ。
゚*・。*゚ めりくま ゚*。・*゚
o 。 ______o O 。 。 ° 。 ○ o ○ / ィ ○ o ○ o /ニニニ)⌒ヽ o o (^ー^*从__ ) シャンシャン ○ 。 ○ / ○⌒○) /|,. o シャンシャン O o 。 o o ∠ (/)-( /)_/ / ○ o .|/ ̄ ̄ /_|/ ○ 。 o O 。 o O /∩ ̄ ̄/∩ o 。 。 ノ / o O o o ψ ψ _ ノ)ψ ψ___ノ) 。 o ○ Merry?mas o (・(▼)・ ) (・(▼)・ ) つ o ° o 。 。 o ∪-∪'"~ ∪-∪'"~ 。 。 o °o 。 __ _ 。 __ _ o o__ _ ° __ .|ロロ|/ \ ____..|ロロ|/ \ __ |ロロ| __. / \ _|田|_|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_| ロロ|_|田|.|ロロ|_|田|._| ロロ|_
あけおめ
あけおめ。 きっと義体たちは星を見ながら第九を歌ってるんだな、きっと。
403 :
【】 :2010/01/09(土) 21:15:45 ID:WaMwlwao0
PC規制がようやく解除されたw今年もよろしくお願いします。 あ、エロパロ保管庫に、アクセス規制中の転載依頼用に掲示板を作りました。 それはエロパロスレ専用なんですが、さくら板支所用にも必要ですか? 技術部保管庫に掲示板を設置していただくのは 管理人さんにお手間を取らせてしまって申し訳ないので、 萌えBBSに転載依頼スレッドを立てるのが手っ取り早い方法かな。 ご要望があれば自分が立ててきます。 そんなわけでエロパロ板にエロくない鳥昼話を転載していただいてます。 よろしければのぞいてみてやってくださいませ。
404 :
【】 :2010/01/09(土) 21:22:38 ID:WaMwlwao0
以前漫画板スレで見かけたネタから。その他のニュースソースは弟。
〈世界最速のパトカー、全損事故〉
ttp://response.jp/article/2009/12/01/133195.html 飛び出してきた車を避けて駐車中のメルセデスに突っ込む。
幸い運転手はおらず、警察官も軽症。
アマデオ 「あ゙ーっガヤルドが〜〜!!」
ジョルジョ「うっわフロントぐしゃぐしゃ、フレームもゆがんでら。
確かにありゃ全損扱いだろな」
マルコー 「車高低いからな。メルセデスの下に突っ込んだんだろ。
ほとんど寝て運転してるようなもんらしいからな」
オリガ 「それにしても、よりにもよってやっすいAクラスとはねえ」
プリシッラ「……なんかメルセデス無傷っぽくないすか?」
ジョゼ 「うーん、車体の下は酷いことになってるかも知れないけどね」
ヒルシャー「はっはっはっ。ドイツ車は頑丈ですから」
プリシッラ「エルクテスト (鹿避けテスト:
60キロで対向車線に飛び出してすぐに本線に復帰する)
で横転したヘタレ車のくせにっ!!」
>>403 どうも、お疲れ様です。
なんにもしない保管庫管理人です。
wiki自体に掲示板が作れる機能があるようなので設置してみました。
テストしてみたところ簡易のスレッド形式が作れる掲示板のようです。
ですが、萌えBBSほど複雑な機能はないですし、
見やすさというなら萌えBBSのほうが見やすいですので、
そちらに新規スレッドを立てるか、SS書きの控え室スレを利用しても
いいかもしれません。
わかりづらいかもしれませんが、ページの左上にある
「メンバー」の隣の「掲示板」をクリックすれば入れます。
一応、転載用スレッドを作ってみましたが、どうでしょう?
406 :
【】 :2010/01/10(日) 00:51:18 ID:OEXyNk7Q0
イタリア語で結婚式の誓いの言葉を発見w ジョゼさんに教わってエッタがもだえまくってる姿が目に浮かぶようです。 「Io accolgo te come mio(mia) sposo(sposa) prometto di esserti fedele sempre, nella gioia e nel dolore, nella salute e nella malattia , e di amarti e onorarti tutti i giorni della mia vita」 「私はあなたを夫(妻)とし、病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も愛し慈しみ貞節を守ることを誓います 」
408 :
転載 :2010/01/20(水) 11:05:18 ID:Y6Wu0U3T0
【義体】ガンスリンガーガールPart.6【少女】より転載
509 名前: そのアイデアは永久に封印だ [sage] 投稿日: 2008/12/17(水) 00:42:33 ID:wLON+BLC
「
>>508 号は確実に仕留めたか?」
「あ、はい。ラウーロさん、とても簡単なお仕事でした…」
息せき切って走った金髪三つ編みの少女は白い息を吐く。
寒空の下、待たされていた不機嫌な男は少女の瞳が信頼の眼差しを向けても表情を変えずに、
「……遅かったな。で、ついでに買いに行かせたパニーニはどうした?」
「俺は配達のフリをして玄関を開けてもらえとは言ったが渡してこいとは言ってないぞ?」
手ぶらで帰ってきた翡翠の双眸が悲嘆に沈んでも容赦ない命令が飛ぶ。
「戻って証拠になりそうな品は全部処分して来い。強盗の仕業に見せかけて金目のモノは盗んでもいいぞ」
エルザ…まあ、わかってんだろうが隣の住人だろうが警官だろうがいつもの通り目撃者は消せ」
素早く終わらせれば褒められると思っていた少女は、失意の暗い翳を纏っても挫けずに来た道を戻り始めた。
教えられたことは要領よくこなせるが、咄嗟の機転というか融通が利かないのが問題だな、義体は。
男は少女の姿が建物の中に消え、声が届かなくなるまで待ってから愚痴をこぼす。
「…ち、使えん奴だ」
409 :
転載 :2010/01/20(水) 11:07:04 ID:Y6Wu0U3T0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#73 362 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/07/29(水) 21:15:17 ID:h6p8BwXi0 ヘンリエッタ「おかえりリコ。どうしたの?血が出てるよ!」 リコ「えへへ。またジャンさんに殴られちゃった。でもちっとも痛くないんだ。手加減してくれてるのかな」 ジャン「手ェ、痛ぇーーー!」
410 :
転載 :2010/01/20(水) 11:08:52 ID:Y6Wu0U3T0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#73 642 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/01(土) 08:45:45 ID:uxYmYf5Z0 >トスカの回でベルナルドの擬音「ペラペラ」、ビーチェ「てくてく」 「なあ、ヒルシャー。お前のお姫様は良く笑うから良いな。」「突然、何だ?」 「滅多に笑いやがらなかったビーチェがな、『お前は喋って唾飛ばすから 家業のパン屋は継がせない!』っていう親父と『なにを〜!』ってやりあう 俺の話は微笑んで聞いてくれたんだよ。」「・・・思い出すか。」「ああ・・・ 少ないだけにな。」「これから・・・どうするつもりだ?」「暫くは辞めさせても くれねえだろうよ、ウチの親方共はよ。でもその時が来たら俺はもう野郎の 顔じゃなくてドゥの中のパン生地を殴って余生を過ごす。」「唾飛ばすなよ。」 「フッ、勿論だ。そして俺のパン食って笑う子供達の顔を見て老衰で死ぬ。」 「俺は・・・ヌイグルミ屋にでもなるか。」「熊か・・・ビーチェの一番好きなパン、 聞くのを忘れていた・・・」 そして、その男にはめずらしい涙、涙、涙・・・。 ・・・なんて補完。いろいろSS書く前に逝っちまったなぁ。
「トリエラ、聞いてもいいか?ビーチェの最期はどんなふうだった?」 「ベルナルドさん…。ビーチェは、最後まで懸命に任務を遂行しようとしていました」 「…そうか」 「『トリエラ、伏せて』と私にそう言って…」 「トリエラ…」 「ビーチェは…」 「すまねえな。辛いことを思い出させた」 「いえ…」 「ビーチェは、臆病者にはできない仕事をしたんだ。俺は誇りに思う」 「……」 「俺はビーチェに、何もしてやれなかったよ。 嬉しいことも、楽しいことも……悲しみや恐怖さえ教えてやれなかった」 ベルナルドは、そのままトリエラを抱き寄せた。 「…ベルナルドさん?」 「…そのうえ、ビーチェの遺体を抱いてやることすらできやしねえ」
ああ、ビーチェの代わりにこの人は私を抱いているのだとトリエラは思う。 「今だけですよ」 「ああ…わかってる。ヒルシャーに悪いからな」 「違います。ビーチェに悪いからです」 「…何だって?」 「もし私が死んだ後に、ヒルシャーさんが他の義体を抱きしめて泣いてたりしたら、面白くないですから」 「おまえとヒルシャーならな。ビーチェは俺に妬いたりしねえよ」 「ビーチェはベルナルドさんが大好きでしたよ」 「そりゃ…義体は条件付けされてるから、ビーチェだって…ある程度は…」 「ビーチェは、あなたのことが大好きだったんです」 「……」 「ベルナルドさん…」 「……ああ、畜生」 俺なんか好かれる価値もありゃしねえよと男はつぶやく。 その声は、涙声だった。
(´;ω;`) ビーチェ…。 ほんと他の1期生は露出少なすぎだよな。 「使い潰す」とかいっても、ちゃんと読んでる人以外は「他にも居たのか」状態だろうし。 その辺は編集がフォローしないと、と思うけど、役に立ってないのかな? でも、いい話なのに、しっかりそのシーンを撮られててネタにされる… なんてのが浮かぶ漏れは病んでるw
ああビーチェ… ベルベア組、味のあるフラテッロだったね。 キアーラとシルヴィアなんか担当官の名前も分からないし。登場も唐突でなぁ。 担当官と会話したら死亡フラグ決定みたいな扱いが泣ける。 てかサンペト組以外の二期生の扱いもいい加減ひどい気が。
しんみりの後なのにアホ小ネタw トリエラ→ヒルシャーで関白宣言 お前を担当官<よめ>にもらう前に 言っておきたいことがある かなりきびしい話もするが 俺の本音を聴いておけ 俺より先に出てはいけない(下がっててください、足手まといです) 俺より早く逝ってはいけない くまは上手くよこせ いつも笑顔でいろ 出来る範囲で かまわないから 「ト、トリエラ……!」 「んもー、さだで泣かないでくださいよ」
俺より先にイッてはイけない・・・スマンorz 関白失脚はヒルシャーがガチだと思われ
それじゃヒルシャー→トリエラで関白失脚w おまえを義体<よめ>にもらったけれど 言うに言えないことだらけ かなり寂しい話になるが 俺の本音も聞いとくれ 俺より先に出てもいいから(走っても追いつけないし) せめて一々反抗しないで(心配してるんだぞ) いつもジョゼさんと二人 昨日の始末書 書いて帰る ヒルシャーさんみたいになっちゃ駄目よと おまえこっそり仲間に言うが 知ってるぞ マリオを逃がしてやり ピーノに逃げられ ミミにも逃げられ よく(任務に)失敗してるよな それぞれご不満もおありのことと思うが それでも兄妹になれてよかったと俺思ってるんだ そして今日も君の笑顔守るために 任務という名の戦場へ往く 右にSIG 左にくまさん 人は私を哀れだと言うけれど 俺には俺の幸せがある 君の幸せのためなら死んでもいいと誓ったんだ それだけは疑ってくれるな 心は本当なんだよ 世の中思い通りに生きられないけど へたくそでも一生懸命 俺は生きている がんばれ がんばれ がんばれ ヒルシャー がんばれ・・・ (つд`。)
が、がんばれ ヒルシャー!(つд`。) すげー、何というはまりようwww
朝目が覚めたら、風邪をひいていた。 喉が痛いし、熱っぽい。 免疫抑制剤を使っているのだから、気を付けなくてはいけないのに。 薬をもらいに行くにも体が重い。 「トリエラ、まだ起きないの」 クラエスはもう起きているらしい。 「風邪ひいたみたい」 「そう。朝食は? 少しでも食べた方がいいわよ」 「食欲ない」 「まあいいわ、軽いものを持ってくるから」 「強いて言うならホットミルクがいいんだけど」 「わかったわ」 クラエスがドアを閉めて出て行く音がした。 1人になって、ふと不安になる。 発熱に使う抗生物質や解熱剤、これも寿命を縮めるのだろうか? 肝臓は交換すればいい、問題は脳だけ。 だったら体の治療は大丈夫だろうか。 ヒルシャーが私にスカートを与えない理由。 前は単にセンスがないのかと思っていた、でも女物のスーツならスカートの方が探すのは容易い。 本当の理由は、露出を減らし、ケガをした時に傷口から感染するのを防ぐため。 それを知ってヒルシャーらしい不器用な配慮だと思った。 任務でブーツを履くためにスカートを買ってくれた時にあまりに仏頂面だったから問い詰めた。 それで白状したのがこれとは…私は抗生物質を使う判断ぐらい自分でできる。 だからあの時はずいぶんヒルシャーが過保護だと思ったけれど。 味覚障害が出て以来つい過敏になってしまう今の私にはヒルシャーの心配は正直ありがたい。
「トリエラ、戻ったわよ」 クラエスの声を聞いて起き上がる。 「トリエラ〜大丈夫?」 「なんでペトラがいるの?」 「実はウィッグの手入れでさ、三つ編みのウィッグ作ってるんだけど上手くいかなくて。 リコがトリエラが上手いよ、って言うから。 あ、でも風邪治ってからお願いするから! ゴメン」 三つ編み…その言葉にチクリと胸が痛む。 「そのウィッグ、何色?」 クラエスも同じらしい。 「ブルネットだよ、クラエスみたいな」 それを聞いてなんとなく安心する。 「風邪なんてすぐ治るけど、私を待ってて仕事には差し支えないの?」 「うん、大丈夫。 今回はさ、いいとこのお嬢さんに化けるんだ。 今までにないレパートリーだから今日サンドロと服を一式買いに行くの」 「そう、いいわね。 トリエラ、ミルクが冷めるわ。」 クラエスの声が少し冷たい。 「あ、ゴメン。 また来るね」 察しのいいペトラが慌てて部屋を出て行った。 「ありがとう、クラエス」 カップを受け取り口に含む。 ほんのりとした甘さが心地よい。 「あなたはまだヘンリエッタ程じゃないでしょ?」 クラエスに言われてビクッとする。
「わかるわよ。 トリエラ、前なら一匙入れていた砂糖を今は全く入れてないじゃない」 「クラエスが担当官ならよかったよ」 「どういたしまして。 ヒルシャーさんと先生には連絡したの?」 「まだ。 で、これは砂糖何杯なの?」 「三杯よ」 「これなら甘いよ。 でも甘さ控えめって感じ」 「そう。 ヘンリエッタじゃないけど、日記にでもした方がいいわよ」 忘れるから、とは続けないクラエスに少しだけ感謝する。 軽口を聞いている間にマグカップは空になった。 「ヒルシャーさんに電話する」 「じゃ、私はそのカップ片付けてくるわ」 電話するためにベッドから降りると、軽いめまいを感じた。 これは訓練は無理だな。 そう感じながら受話器を取り番号を回す。 呼び出し音が鳴る間に時計を見ると、訓練まで後一時間弱。 ヒルシャーは確実にオフィスにいる。 「はい、二課のオフィスです。 トリエラ、どうしたの?」 「プリシッラさん、おはようございます」 「トリエラ、声が変だよ」 「そうなんです、風邪ひいたみたいで… 訓練はちょっと辛いのでヒルシャーさんに相談したくて」 「気をつけてね… 私も後で時間があいたら行くから。 あ、ヒルシャーさんにかわるね」
電話が保留音に切り替わって数秒、聞き慣れた声に変わる。 「トリエラ? 風邪をひいたそうだな、具合はどうだ?」 「喉が痛くて…熱っぽいです」 「訓練はいいから、ちゃんと先生に見てもらいなさい。 本当は見舞いに行きたいが…」 「はい、そうします。 お見舞いなんて、大げさですよ。 仕事を優先して下さい」 「いや、その…」 わかっている、ヒルシャーが来ないのは「年頃の女の子ばかりが住む寮」に入るのを失礼だと遠慮しているからだと。 だからこれはいつもの私の素直じゃない軽口。 「ヒルシャーさぁん、私が行きますから」 電話の向こうでプリシッラさんの声がする。 「そういう訳ですから、大丈夫ですよ」 「…わかった。 先生に見てもらったらもう一度ここに連絡を入れなさい」 やっぱりヒルシャーは過保護だ。
ヒルシャーとの電話を切って、医者に診てもらうため着替える。 前が開くシャツにいつものパンツ、セーターにコート。 ちょうどそこにクラエスが戻ってきた。 「出かけるの?」 「ヒルシャーさんが診てもらえって言うから」 「じゃあ私も行くわ。 今日は私も検査だから」 クラエスと2人で義体棟から出てから、医者に電話をしていないのに気付いた。 「先生に連絡入れてない」 「私の検査までは先生も多分暇よ」 クラエスの楽観論にとりあえず従っておく。 先生の診察はあっという間で、案の定ただの風邪。 薬をもらって帰る前にクラエスの待機する部屋を覗く。 クラエスはちょうど服を脱ごうとしていたから、声はかけないことにした。 部屋に戻ってまたヒルシャーさんに電話をかける。 「ヒルシャーさん、やっぱりただの風邪でした。 今日1日休めば大丈夫ですよ」 「よかった。 無理するんじゃないぞ」 電話を切ってまたパジャマに着替えてベッドに寝ころぶ。 するとノックの音がした。
「どうぞ」 「プリシッラよ。 トリエラ、具合はどう?」 「ありがとうございます、大したことないです。」 「そっか、安心安心。 じゃ、ちょっと確かめさせてね」 プリシッラさんが近づいてきたかと思うと、おでこをくっつけてきた。 「少し熱あるね〜今日は寝てなきゃね」 「はい、訓練も休ませてもらいましたし」 「じゃ、差し入れのランチだけ置いていくね。 食堂行くのは億劫でしょ」 「ありがとうございます」 さすがはプリシッラさんだ、勘がいい。 再び1人になって、また不安になる。 この薬は寿命を縮めないだろうか… 考えても仕方ない。 プリシッラさんの持ってきてくれたランチを食べて薬を飲まなくては。 ランチは玉ねぎとキノコのクリームパスタで、今でも食べられる優しい味だった。 もしかしたらプリシッラさんが頼んで私用に特別に用意してもらったのかもしれない。 食べ終わって薬を飲むと、急に眠気が襲ってきた。 この手の薬にはよくあることだ。
眠気に任せて眠ることにして、ベッドに横になる。 すぐに私は眠ってしまったらしい。 夢の中で私は2人組の男にさらわれていた。 薄暗い倉庫。 カチャカチャと金属音が聞こえる。 男が振り返ってこっちを見た。 次の瞬間、目が覚めた。 「夢、か…」 おそらくは義体化前の夢。 おぞましい瞬間の前に目が覚めたのは防衛本能か、条件付けか。 ふと気がつくと汗びっしょりで気持ちが悪い。 起き上がるとめまいもなくなっているし、下着も全部着替えることにした。 着替え終わって時計を見ると、もうすぐ夕食の時間。 軽いものなら食べられそうだし、夕食は食堂に顔を出そう。 みんなと話して嫌な夢も忘れよう。 食堂に行くとリコとクラエスがいた。 「トリエラ、もう大丈夫?」 「うん、大丈夫だよ、ありがとう」 これでもう日常。 抗生物質なんかで寿命を気にしたのは、体調不良で弱気になっただけ。 悪い夢も熱が見せた幻。 だけど、夕食についていたドルチェはやっぱり甘くなかった。 END
コテ入れ忘れました…orz
そしてタイトルもありませんorz
トリエラの心理描写を徹底的にやってみたかっただけでして。
パソコンは規制なんで携帯ですし。
>>396 様
依存症描写については最初のアンジェが「お薬下さい…」のうわごとでいかにもな依存症だったのに、
トリエラの時は精神科の処方薬を減らす時に出る「退薬症状」に近いものになっていました。
まあアンジェの時も発汗はリアルなんですけども、やっぱり連載が進む中で筆者も勉強したのかな、と。
GJです。 トリエラ…日常なのに、切ないよ。
重いけどGJ
乙乙 知識がある人はちょっとした描写が細かいし深いなぁ。
すみません、投下したいものなのですが、 設定だけ二次創作(要はオリキャラ)のものって投下しても大丈夫ですか?
投下前に注意書きがあれば大丈夫かと。 作家さんが増えるのは楽しみです。投下お待ちしてますw
個人的にはオリキャラ、クロスオーバー、設定変換などは苦手なんですが 文体が好きなら読めてしまう場合もあるので・・・ 投下前の注意書きと、できたらタイトル等NGワード設定を していただけるとありがたいです。
変なのが絡んできたら厄介だから、最初にNG入れとくのは良いだろうね。 自分は世界観や設定に則ってやるならオリキャラでも何でもOKだな。 それこそ作品内では描かれずに死んでいった1期生が10人位は居るだろうし、 他にもいくらでも出来ると思う。 逆に世界観や設定を弄るのはどうやってもダメだ。 その作品である必然がカケラも無いから。
オリキャラやオリジナル設定その他注意書が必要な作品は、 できるだけ作者さん御本人が保管していただけるとありがたいです。
435 :
コタツ :2010/02/06(土) 19:15:20 ID:X7TUxBy20
それではなんか了承されたっぽいので投下させていただきます。 2ch初心者なのでできれば多めに見てやって下さい(じゃあ投下するなと 【注意事項とか】 ・出てくる登場人物は完全オリジナルです。 貴方の大好きなトリエラとかリコとかヘンリエッタとかは全く出てきません。 ・作品の都合上かなり無視した設定とかあります。 ・一応作家志望ですが、厨房の書くものです。過度な期待はしないで下さい。 NGワードはコタツ(で、いいのかな?) とりあえず、まあちょっとでも楽しんで頂ければ幸いです。 では投下ー。
436 :
コタツ :2010/02/06(土) 19:18:47 ID:X7TUxBy20
Gunslinger Girl 〜或いは、別れる兄妹の話〜 イヴは走っていた。 「――」 まだ未成長な足を、懸命に身長より長く伸ばして、走っていた。 ペースは一定。足が地に着くと同時に、自分の短めな金髪が規制的に揺れるのを感じる。 ……あと、ちょっとで休憩! 残り数十メートルで、前半のノルマも達成だ。その後、休憩が入る。 ……よし。 背筋はしっかり伸びている。身体を適度にリラックスしている。体力もまだ少しだけ余力がある。 なら、行けるはずだ。 「……!」 地を蹴る左足に、力を入れた。 姿勢はやや前傾気味。冷たい冬の空気を、全力で突っ切る。
437 :
コタツ :2010/02/06(土) 19:19:39 ID:X7TUxBy20
視界脇から単調に続いていた緑の並木と灰色の舗道が途切れ、広場に出た。 減速。停止。 膝に手をつき、肩で呼吸をする。火照った体を、冬の寒さがジャージの隙間から入って来た。 「アベル、さん……」 「ああ、もういいぞ」 イヴが呼びかけると、ベンチに座っていたスーツ姿の男、アベルが頷いた。 「五分間休憩。その後ランニング五周な。ほら、水飲んどけ」 と、ペットボトルを投げ渡される。イヴはそれを受け取るや否や、キャップを捩じ切って水を含んだ。渇いた口腔を、冷たい水が潤す。 「……はぁ」 ボトルの口から唇を離し、一息つく。
438 :
コタツ :2010/02/06(土) 19:20:20 ID:X7TUxBy20
ふと、イヴは横から視線を感じた。それも、普段から感じ慣れた視線だ。 「あ、あの、アベルさん? どうかしましたか?」 「あ? ああ、スマン。少し考えごとをな……」 視線を脇に逸らし、アベルは頬を掻いた。 「考えごと?」 「ん、ちょっとな……」 曖昧な返答に、イヴは眉をひそめた。 ……やっぱり、あのことかな。 思い当たることが、一つあった。一番可能性があるとしたら、それだろう。 「あ、あの……」 口を開け、発音する。しかし、 『――! ――!』 唐突に、音が鳴った。 バイヴレータを伴う電子音。携帯のコールだ。 「はい、もしもし。アベルです……」
439 :
コタツ :2010/02/06(土) 19:21:00 ID:X7TUxBy20
誰からのコールだろうか。 阿呆のように開けた口を閉じ、黙って電話が終わるのを待つ。 「はい……はい、解りました。失礼します」 パタン、と携帯を閉じ、アベルはイヴを見た。 「急な仕事が入った。今日のトレーニングはここまでにする。全く、クリスマスイブだというのに、公社も野暮なことをするもんだ」 演技過剰気味に言うアベルに、イヴはそうですね、と曖昧に頷いた。 「ああ、ちなみにランニングの残りはまた今度に繰り越しだ。計十五週だな」 「ぇ……」 顔が引き攣ったのが自分でも分かった。 「なんだ、ランニングは嫌いか?」 はい、とイヴは首肯する。 「つまらないので嫌いです。……まあ、アベルさんがやれっていうなら、別の話ですが……」 「よし、なら『やれ』」 「え? あ、その……ハイ……」 「いや、冗談だからな?」
440 :
コタツ :2010/02/07(日) 00:37:21 ID:GGRQkcra0
少し呆れたようにアベルは溜め息をつく。 「まったく、薬はこういうところで融通が利かんから困る」 「アベルさんの、いじわる……」 「いやいや、俺は仮にも公益法人『社会福祉公社』の一社員。意地悪だなんてとんでもない」 無論嘘だが、とアベルは演技をやめ、自嘲気味に笑った。 「さあ行こう。時間が無い。昼食は車の中で摂るぞ。ほら、早く車に乗れ」 「は、はい!」 ボトルに残った水を一気に呷る。その時にちらりと見えたローマの空は、青かった。 ……でも、なんか寂しいな。 ボトルをゴミ箱に捨てると、イヴは急いでアベルの後を追った。 ●
441 :
コタツ :2010/02/07(日) 00:39:35 ID:GGRQkcra0
イヴの担当官が変わるらしい。 それを聞いたとき、イヴは愕然とした。 福祉公社から、声がかかったそうだ。一期生のイヴはもうそろそろで終わる。だから、新しく二期生を担当しないか、と。 つまりそれはアベルの実力が認められた、と言うことであり、同時にそれはイヴとアベルの今生の別れを意味する。 その話は、まだ噂の域を越えていない。しかし、さっきのアベルの反応からして、本当のことなのだろう。実際にイヴは以前、アベルが二期生と一緒に歩いているのを見たことすらあった。 嫌だ、とイヴは思う。今まで頑張って、みんなから“兄妹《フラテッロ》”と呼ばれるほどの関係を築き上げたのに、なんで、どうして、と。 ……ダメ。ダメよ。 頭を振り、思い直す。これは最愛の兄の出世だ。自分がわがままを言って良いものでは無い。 ……でも……。 しかし、どうせ忘れてしまうことだと思い、諦めようとしても、余計にそれがイヴの胸を締め付けた。 「……」 はぁ、と自己嫌悪気味に溜め息を吐く。外とは違い、車内だと息は白くならなかった。 「――近々、五共和国派《パダーニャ》とその相互援助組織との交渉があるらしい。今回はそれを台無しにして、五共和国派の信用を削ぐことが最終的な目的となる。 五共和国派の殲滅か、交渉材料の一つである機密情報の奪取。どちらでも好きなほうを選んで良いそうだ。 場所はこの先にある屋敷の後。敵の人数は少なくない上に、五共和国派は独立運動にしろ何にしろ、色々と過激な組織だ。細心の注意をするように。なにかあったら通信機で俺に連絡すること。以上。いいな?」」 「はぁ、諒解です。――ちなみに、二課の所長さんは、何て言ってましたか?」 「『非戦闘員は出しゃばるな』。どうだ? 身に沁みる言葉だろう?」 そうですね、と苦笑気味に返す。 しゃくり、と昼食の最後の一口をかじり終え、また次のリンゴに手を伸ばそうとする。 「あれ? もう無い……」 紙袋の中を見るが、パンやバナナぐらいしか無い。 「どうした?」
442 :
コタツ :2010/02/07(日) 00:43:29 ID:GGRQkcra0
「あ、いえ、もうリンゴ、全部食べちゃって……」 「他があるだろう。パンとかバナナとか」 はい、と答えたが、その手は一向に紙袋へ伸びない。 「……お前、リンゴが好きなのか」 「えっと、はい、すっごく甘くてジューシーで、ちょっと酸味があるところなんかが特に。あっ、あと、なんか食べると頭が良くなる気がするんです」 「」 「へ? なにがです?」 いや、何でもない、と答えるアベルの声は、何故かいつもより低い。 「お前、好きな動物とかいるか?」 「心理テストですか?」 「ん、そうだな。好きな動物からそいつの性格を当てる」 「わ、面白そうですね、それ。えっと、動物はヘビさんが好きです。あの細長い身体が特に。ああ、でも太くて長いのもなかなか。あ、あと、なんかリンゴ食べさせてくれるようなイメージが――ってアベルさん、頭抱えてどうしたんですか?」 「ああいや、ちょっと失楽園と創世記の第三章を思い出してな……」 「ふうん。――それで、テストの結果はどうですか?」 前傾姿勢で運転席のアベルの顔を覗き込む。 「聞くまでも無いだろ」 彼は無表情に言った。 「蛇は『狡猾』だ」 ●
443 :
コタツ :2010/02/07(日) 00:47:40 ID:GGRQkcra0
町外れの森の中。そこに、屋敷はあった。 「屋敷って言うより廃墟って感じですね……うわ、壁なんてもうボロボロ……」 ずっしりと重みのあるヴァイオリンケースを片手に、イヴは屋敷、否、廃墟の部屋を見回した。 白かったであろう壁は茶や灰色に変色し、木でできた一部の床は、歩くたびに低く叫び声を上げる。 ……ホントにこんなところに機密情報があるのかなぁ。 一息ついて、また機密情報の入ったディスクを探すべく、黙々とタンスを漁りだす。 ふと、アベルが口を開いた。 「……綺麗だな」 「ここがですか?」 ああ、そうだ、とアベルは頷いた。 「もしくは美しいと形容しても良い。森の中の棄てられた屋敷――実にロマンがあって良いじゃないか」 「……アベルさんって、案外ロマンチストですよね」 かもしれないな、と楽しげにロマンチストは小さく笑った。 「まあ、子供には解らん話か。大人になれば解るさ」 「わ、私もう十二です!子供じゃないですよぅ!」 「まだクマさんのカボチャパンツをはいてる奴が何を言うんだ」 「な、なななんでそんなこと知ってるんですかぁっ!?」 アベルの方に振り向いた。顔がリンゴのように真っ赤になっているのが、自分でも分かる。 「まあ気にするな。年相応の選択だろう」 「〜〜っ、もう、いいです!」 バン、とタンスを閉める。その衝撃からか、怒りに任せて閉めたわけでも無いのに、タンスの中から木の折れる音がした。 「私は他のところ探してきます!」 言い捨てるようにして、イヴは足早に扉に向かった。 「あ、おい! イヴ――」 アベルが珍しく、驚いたように叫んだ。謝ろうと言うのだろうか。 ……謝ろうとしても、簡単には赦さないんですから……! 隠すように顔を下にやり、更に足を速める。
444 :
コタツ :2010/02/07(日) 00:59:17 ID:GGRQkcra0
しかしアベルが発した言葉は、 「――危ない! 避けろ!」 イヴの予想していたものとは全く違うものだった。 「――え……?」 直後、衝撃で激しく頭部が揺れた。 ……ぁ。 視界に白が走った。 意識がどんどん薄れていく。白はどんどん広がっていく。 体勢も崩れて床に伏し、そして、イヴは意識を手放した。 ● 目が覚める。 ……頭、痛い……。 妙な頭痛を感じながら、イヴは座っていた椅子から立とうとした。 「あれ……?」 立てない。否、そもそも動けない。見ると、イヴの四肢は縄で縛られていた。 ……ああ、そっか。私、確か部屋から出ようとして……。 そして、何者かによる不意打ちで、気絶した。 「おっ、やっと起きたかい」 隣の方から、男の声がした。
445 :
コタツ :2010/02/07(日) 01:00:35 ID:GGRQkcra0
「おはようお嬢ちゃん。寝覚めはどうだい?」 別の男の声。見ると、そこには四人の男たちがテーブルを囲い、トランプゲームで楽しんでいた。 その中の一際背の高いがっしりとした体格の大男が、席を立ち、こちらに歩み寄ってきた。 「……アベルさんはどこなの」 あえて質問には答えず、刺々しい口調で問う。それに大男は肩をすくめた。 「あの男だったら逃げたよ。お嬢ちゃんを置いてスタコラサッサ、ってな」 薄情な奴だよなぁ、と大男。 「お嬢ちゃんもあいつの仲間なんだろう? 何か知ってたら、おじちゃん教えてくれないかい?」 「アンタなんかに話すことは無い」 ふい、とそっぽを向く。 「ハハハ、マルクのやつ、あんな女の子に振られてるぜ」 「うるせぇ黙ってろ」 「放っておいてやれよ。あのくらいの歳の子になると、扱い辛くなるんだ」 「おっ、経験者は語る、ですか」 「そうそう、この間なんて、最近膨らんできた胸を拝まんと風呂を覗こうとしたらスタンガンで逆折檻されてなぁ……」 ハハハ、と大男の仲間たちは笑う。 ……縄の強度は……。 軽く引っ張って確かめる。固い。相当強い力で引き千切らない限り、解くのは不可能だろう。 「なあ、嬢ちゃん。どうしても教えてくれないのかい?」 「例え知ってても五共和国派になんて話さない」 そうかい、と溜め息とともに大男は呟いた。 「どうする? 話してくれないっぽいけど」 「どうするもこうするも、尋問するしか無いんじゃないですか?」 だよなぁ、と大男は鞭を取り出す。 「さて、ちょっとばかしイタイ目見てもらおうか」 「気をつけろよ、最近女の子を殺しに使う組織があるらしいからな」 仲間の冗談混じりの忠告に、大男はハと鼻で笑い、鞭を一閃した。 「――っ」
446 :
コタツ :2010/02/07(日) 01:02:17 ID:GGRQkcra0
小気味の良い音が響き、熱を帯びた痛みがイヴを襲った。 「どうだい? これでちょっとは話す気になれたかい?」 「……セイウチのケツにドタマ突っ込んでおっ死になさい」 大男のこめかみに、青筋が走った。 「……そうかい、解った。それならこっちにも考えがあるぞ、っと!」 風を切る音の直後、快音。 「おい、マルクが怒ったぞ。止めるか?」 「放っておけ。怒らせた嬢ちゃんが悪い」 仲間たちが相談する中、鞭が空を切る音が何度も、幾度も、何回も鳴る。 ……我慢。ガマン。がまん……。 思考と痛覚を切り離す。心頭滅却火もまた涼し。痛くないと思えば痛くなくなる。ひたすら我慢して、機を狙う。 「オラッ! まだまだァッ!」 大分大男の振りが大きくなっている。まだだ。まだ決定的な隙は出て来ない。 「これで、最後だ!」 鞭を大きく振りかぶり、振り下ろす。 ……今だ! ぐ、と四肢に力を入れ、縄を引き千切った。そして、 「……!」 前傾姿勢になり、次の瞬間、頭突く。 「かッ――」 鳩尾に入ったらしく、大男はうずくまった。 「あっ、マルク! おい!」 仲間が叫んだ。 イヴは部屋を見回す。 ……ヴァイオリンケースは!? あった。部屋の隅にある机の上だ。 「このっ……舐めやがって!」 仲間たちが拳銃で撃ってくる。 着弾。イヴに穴を開ける。しかし、イヴは駆け、素早くずっしりと重みのあるケースを手に取った。そして、 「やっ……!」 ケースを、大男目掛けて投擲。
447 :
コタツ :2010/02/07(日) 01:05:03 ID:GGRQkcra0
ケースは直線状に宙を走り、それは大男の顔を殴打した。その反動で中に入っていた物が飛び出す。 「……」 飛び出したずっしりと重みのあるそれを、イヴは空中で掴み取り、構える。構えたそれは、 「な……!?」 短機関銃、いわゆるサブマシンガンだ。 『――!』 安全装置を外し、薙ぐように発砲。凶器が重奏した轟音を奏で、大男の身体を穿った。一人目。 そのまま大男の仲間に方向を変え、掃射する。しかし、大男の仲間たちは机などの物陰に隠れた。 「が……!?」 二人目。物陰に隠れ遅れた者を撃ち殺した。他の者は机やソファの裏に隠れたようだ。 イヴも机を倒し、裏に隠れる。相手はショットガン一人に、拳銃一人だ。 『――! ――!』『――!』 敵からの発砲。それに対し、こちらも応射する。 『……! ……!』 と、サブマシンガンから弾が出なくなった。 ……弾切れ!? 残りの弾は全てケースの中だ。とてもじゃないが、この状況ではリロードできないだろう。 舌打ちし、サブマシンガンを捨てる。不意打ちで二人を戦闘不能にするまではできたが、やはり劣勢なことに変わりは無い。相手の武器を奪うか、最悪、徒手空拳で挑まなければならないだろう。 「喰らいやがれ!」 と、何かがこちらに投げ込まれた。イヴの目の前に、赤い、小さなスプレーのようなものがこちらに弧を描いて落ちてくる。 手榴弾だ。それも、恐らくイタリア産の、OTO M35型手榴弾。 OTO M35型手榴弾《赤い悪魔》は点火動作が不安定なため、時折爆発しない。更には後々気まぐれを起こし、突然爆発することがあるためかなり危険だ。 ……床に着く前に距離を取らないと! 赤い悪魔は地面にぶつけて爆発させるタイプのものだ。その前にある程度距離を取れば、爆死は免れる。しかし、この身動きの取れない中、距離は取れそうにない。だからイヴは、 「――」 躊躇無く、手榴弾に手を伸ばした。 ……間に合え――! 狙いは机の向こう側。掴み取り、大きく振りかぶって、 「――!」
448 :
コタツ :2010/02/07(日) 13:56:11 ID:GGRQkcra0
投げ返した。 手榴弾は銃撃戦の中、綺麗に弧を描き、敵の頭上を通過する。 着弾、爆発、轟音。 「ぐぁ……っ」 偶然にも、否、不幸なことにも爆破に巻き込まれたらしい。これで、三人目。 「畜生……畜生っ! 畜生ぉぉおぉお――っ!」 残った一人が狂気に駆られたのか、拳銃を乱射する。方向はイヴの方に向いてはいるが、しかし狙いは定かではない。 ……行ける! イヴは素早く立ち上がり、捨て身同然の特攻をした。 「……っ」 転がるようにして、何とか落ちていたショットガンを拾い、立ち上がって片手で標準を定め、 『――!』 撃った。 轟音。それが残った一人の身体を穿ち、抉り、削り、穴を開けた。 「はぁ……」 引き金から指を離す。鉄っぽい臭いと、硝煙の臭いが室内を支配した。 ……やっちゃった。 どんどん床に広がる赤と、四つの死体を見て、自己嫌悪気味に長い溜め息をついた。 放り投げられたままのケースから通信機を取り出し、アベルに繋ぐ。 「……こちらイヴです。えと、すみません、監禁状態から脱出するために少し殺っちゃいました……」 『こちらアベル。銃声なら外にも聞こえたよ……まったく、コードでちゃんと警告しただろう』 「コード?」 『また薬の副作用か? 綺麗だな、って言っただろう。敵が近くにいるって意味だ。それを忘れた上に敵に直行して気絶とは……』 「す、すみません……」 ぺこりと頭を下げる。 『……まあ、いい。こういう風にコードを忘れると、後々酷い目を見る。この任務が終わったらまた覚え直しだな』 「はい……」
449 :
コタツ :2010/02/07(日) 13:57:57 ID:GGRQkcra0
『さて、今回リスクは極力避けたかったんだが……もういい。所長の言う通り、今回俺はでしゃばらないが、敵は総数六人。一人で殺れるか?』 「え? 四人じゃないんですか?」 と、そこで扉が軋む音が聞こえた。 素早く構え、発砲。扉にいくつもの風穴が空いた。 ぎい、と静かに扉が開き、それにもたれていた死体がゴロンと床に転がった。 一気に扉のところ、恐らく、更にもう一人がいるところまで距離を詰める。 『――! ――!』 「――っ」 二つの銃声。それらの元となった銃弾は、確かにイヴの身体を穿った。しかし、 「――!」 それら全てを無視し、イヴは男の腕を取った。 身体を捌き、自分のの右腕を相手の右胸部下から摺り上げて、右脇下に振り入れた上に上腕部を密着。左手を引き付けて相手の右腕を抱え、背負い上げて、 「せいっ!」 投げた。一本背負い。その衝撃から、敵が持っていた拳銃も床に落ちる。 完全に無力化させたうつ伏せ状態の敵の背を足で押さえ、ショットガンの銃口を頭に押し付けた。 「すみません、今一人殺って、もう一人は無力化に成功しました」 『そうか。さすが我が妹だ』 ありがとうございます、とイヴは事務的に答える。 『とりあえず、作戦は全滅の方向で。しっかり殺っておけよ? でないと、二課の所長にまたどやされるぞ。――と、それと、この任務終わったら、少し話したいことがあるんだが、いいか?』 「はい、分かりました。それでは、失礼します」
450 :
コタツ :2010/02/07(日) 13:59:35 ID:GGRQkcra0
ぴ、と通信機を切り、ケースの中に放り投げた。 「……何なんだよ、テメェは」 銃口の延長線上から、唸るような声がした。 「見て判らないの?」 「外見はちっさい女の子だな。外見は。だが、小僧っ子ならともかく、普通、女の子がショットガンをぶっ放すか? 否――ぶっ放せるか?」 死を覚悟しているのか、それともすでに諦めているのか、男は饒舌だ。 「ショットガンを撃つときには、反動がくる。それこそ、十代前半の女の子の筋力じゃあ耐え切れない、相当な反動が、な。本当にテメェが“しがない一人の女の子”なんだとしたら、テメェの腕は――吹っ飛んでただろうさ」 眉間に更に深く皺を寄せ、 「本当に――何なんだよ、テメェは」 「さあ、ね……。人間以外の何か、なんじゃないかな?」 「人間以外の、何か? ……成程。お前、公社の義体か?」 「それに答える義理は無いよ」 それじゃあ、とトリガーを引こうと力を入れたとき、 ――『とりあえず、作戦は殲滅の方向で。しっかり殺っておけよ? でないと、二課の所長にまたどやされるぞ』。 脳裏に浮かぶ、アベルの言葉。 ――『と、それと、この任務終わったら、少し話したいことがあるんだが、いいか?』 ……もし、この任務を失敗したら、アベルさんと別かれなくても、済むんじゃないのかな。 そんな思考が、頭を過ぎった。 「……っ」 頭が痛い。体が重い。 ……何してるのよ、私は……。 こうしたい。でも、そうできない。 ……さっさと殺しなさいよ! こうしなければならない。でも、そうしたくない。 ……早くコイツを殺して、アベルさんに褒めて貰って……! 「……おい、テメェ。どうしたんだ? 撃たねえのか?」 「うる、っさい……!」 ついにイヴは、自分の得物を床に叩きつけ、叫んだ。
451 :
コタツ :2010/02/07(日) 14:00:23 ID:GGRQkcra0
「いいわよ、もう! あんたなんて、殺す価値も無い! さっさとどっか行きなさいよ!」 頭がガンガンする。息が荒い。 ……ホント、どうしちゃったのよ、私は……。 「……はぁ」 男が去った後、ヴァイオリンケースを拾い、溜め息をついた。 心なしか、さっきよりも頭痛は酷いものになっていたが、なぜだか、体は少し軽くなった気がした。 通信機をつなげる。 「すみません、アベルさん……一人殺り損ねました」 ● 「はい。これで良し、と」 そう言うと、初老の女医は包帯を巻き終えたイヴの腕を軽くポンと叩いた。イヴの身体には、あちらこちらに包帯が巻かれていた。 周囲は、やたらと白の多い。壁は勿論、ベッドや棚まで白い。 社会福祉公社の、診察室だ。 「ありがとうございます」 「何、礼には及ばんさね。それより、あんたはもっと自分の身体を心配しな」 机上の書類を片付けながら、女医は言う。 「前にも話した通り、元々一期生の義体は、脳に直接影響を及ぼす薬の投与量が多いさね。勿論、治療に使う薬もその中に入る。あんまり傷増やしてると――早死にするよ」 「……考えときます」 曖昧に笑って、もう一度イヴは一礼すると、診察室を出て行った。 「はぁ……」 溜め息をつき、アベルの待つホールへ向かう。 公社は、秘密諜報機関だ。主に、五共和国派のような反国家的人物、組織の暗殺、捜査、内偵、殲滅などをする、いわゆる公安組織。無論、その実態は世間に知られておらず、しっかりと表では社会福祉の事業も行っている。
452 :
コタツ :2010/02/07(日) 14:02:18 ID:GGRQkcra0
イヴはその公社で戦闘任務につく、義体と呼ばれるものだった。有体に言ってしまえば、戦闘用途のサイボーグだ。 腕力は常人の数倍。身体の八割は人工物に置き換えられており、対弾性能まである。 「お帰り、イヴ」 ホールではアベルが待っていた。 「只今戻りました。――すみません。任務、失敗しちゃって……」 「気にするな、って昨日から言ってるだろう。誰にでも失敗はあるさ」 「はい……」 尚も沈んだ表情のイヴに、アベルも呆れたような顔になる。しかし、彼は何かを思い付いたのか、そうだ、と呟いた。 「そう言えば話したいことがあるんだった」 ……ああ、あの話か。 きっと、担当官変更を告げられるのだろう。 一種、諦念にも似たもの抱きながら、イヴはアベルの次の言葉を待った。 「――はい、これ」 がそごそと彼が鞄から取り出し、イヴに渡したのは少し大きめの、綺麗なリボンや包装用紙でラッピングされた箱だった。 「……? えっと、これ、何です?」 「まあ、良いから開けて見ろよ」 言われた通り、リボンを解き、包装用紙を剥がす。そして、箱を開けると、 「わ……」 ぬいぐるみ。それも、リンゴを中心にとぐろを巻いている蛇のだ。 「Merry Christmas,Eve.――それだけだ。よし、それじゃあ帰るか」 「――え?」 と、さっさと出て行こうとするアベルに、思わず素っ頓狂な声を上げた。 「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って下さいアベルさん! 話って、それだけなんですか!?」 「うん? そうだが、何か問題でもあるのか?」 「え……そ、それじゃあ、私の担当官変更の話は?」 「ああ、あの話な。デマに決まってるだろう」 「じゃあ、それじゃあ、この間二期生の子と一緒に歩いてたのは!?」 質問攻めにするイヴに、お前そんなところまで見てたのか、と呆れたようにアベルは溜め息をつく。 「お前のクリスマスプレゼントを何にすれば良いか分からなくてな。ちょっと相談に乗ってもらってたんだ」 結局、決まらずにぬいぐるみ、っていう方向性で終わったんだけどな、とアベル。
453 :
コタツ :2010/02/07(日) 14:03:30 ID:GGRQkcra0
……それじゃあ、公園での『考えごと』も私のプレゼントを決めあぐねてたからで……。 はあ、と吐息とともに顔が真っ赤になった。途端に、何故かここから逃げ出して穴に潜り込みたい衝動に駆られる。 「まあ、そんなわけで――Merry Christmas,Eve?」 疑問系なのは、こちらにも言わせるためだろう、だから、 「Christmas,Abel allegro.――アベルさん、ここ、英国じゃなくてイタリアです」 恥ずかしさ混じりに、指摘すると、そう言えばそうだったな、とアベルは苦笑する。 「Christmas,Eve allegro.」 「Christmas,Abel allegro.」 言い合い、そして、二人は微笑した。まだ何となく恥ずかしかったが、さっきのとは少し違った恥ずかしさだった。 「それで、人形の名前は何にするんだ?」 「へ? 決めないとダメなんですか?」 「いや、駄目って訳じゃないが、元来女の子はぬいぐるみの一つ一つに名前をつける、と聞いたことがあるんだが」 「……本っ当に、アベルさんってロマンチストさんですよね」 「否、微妙に何か違うんじゃないか?」 苦笑するアベル。 「えっと、それじゃあ、マリアとイエスから名前を取って――マリエス!」 「ヨセフはどうしたんだ? 可哀想だろう、父親が」 むう、と考え込むイヴ。 「えっと、じゃあ――マリヨセス!」 「成程、ヨセフのヨセとイエスのエスを取って、母音が来るからセがエも兼ねてヨセスか。……しかし、なんでマリアだけ二文字なんだ?」 そりゃ勿論、と微笑みながらイヴは言った。 「――女は強いですから」
454 :
コタツ :2010/02/07(日) 14:05:02 ID:GGRQkcra0
■ 疲労を吐き出すように吐息し、アベルは自室の椅子に座った。 ……半分以上、バレてたか。 失敗だったな、とアベルは思った。担当官変更の話、あれは本当のことだ。 実際は、公園で悩んでいたのも担当官変更の話だったし、二期生の子と歩いてたのも、担当する子の下見だ。プレゼントの相談は、ついでみたいなものだった。『話したいこと』というのも、元々は担当官変更の話をするためだった。 ……けど、まさか任務失敗で担当官変更の話を無かったことにされるとはなぁ……。 昨日かかってきた電話を思い出し、苦笑する。確かに、これを彼女が故意にやったとしたのなら、本当に彼女は“狡猾”で、女は“強い”のかもしれない。 ……それにしても、ロマンチスト、ね。 イヴの言っていたことだ。それに対しアベルは、確かにあっているかもしれないな、と思う。 本当は、あのホールで最後のクリスマスプレゼントを渡し、担当官変更の話をして、別れようとしていた。ロマンチストと呼ばれずして、なんと呼ばれようか。 「まったく、とんだ大馬鹿野郎だな、俺は……」 ……担当官変更の話も、無くなって当然か。 口元の苦笑の色が濃くなる。 「ま、何はともあれ、俺もまだイヴといたかったしな……」 彼女は今頃、義体寮に着いた頃合だろうか、と予測を立てる。 さて、書類仕事でもやるか、とアベルは立ち上がり、机の上を見た。そこには、 “始末書” 「………………」 ふう、と一息ついて、アベルは電話に手を伸ばし、ダイアルする。 「イヴか? 三分以内にジャージに着替えて外に出ろ。――公園でランニング十五週だ」
455 :
コタツ :2010/02/07(日) 14:08:23 ID:GGRQkcra0
>>435-455 「KOTATU氏による報告は,事実関係がはっきりとわかり,
成果と課題が分析しやすい。
彼は,これからの社会福祉公社二課に必要な人材と思えるが,
どうかね,ローザ,君の意見は?」
「はい,ロレンツォ様,同感です。
こういうフラテッロからの報告は,もっとたくさん収集することで,
フラテッロの関係をより安定化させる方策がうてるかもしれません。」
「消耗していく1期生から,安定した2期生への交代に伴う成果と課題か…
なんにしても,任務で義体を失うような損失がなかったことは喜ばしいことだ。」
「でも,かなり危なっかしい二人組ではありますね?」
「そうかね?ジョゼ・ヘンリエッタ組でもこれくらいのことは,よくあったさ。」
「KOTATU氏への報償は,いかがしましょうか?」
「そうだな,とりあえず,夏のボーナスの20%増を確定しておいてくれ。
それから,他の組織の仕事よりも,ここの仕事を優先してもらえるように,
挨拶料をつけておこうか。」
「挨拶料は,キャッシュにしますか?それとも,女性がよろしいでしょうか?不動産もありますが…」
「おそらく若い男性だろうから,若い女性がよかろう。誰か適任者がいるかね?」
「ローマ市娼婦組合から数人斡旋してもらえます。」
「すぐに,返信しておいてくれ。他の組織にとられんように,監視できるようにな。」
「はい,わかりました。フリーエージェントKOTATU氏へのヘッドハンティングを人事部へ要請しておきます。」
「よろしく頼む。さて,次の仕事は…」
「そろそろお仕事を終わられませんか?もう,夜ですよ。」
「…そうだな。では,休むとしようか,ローザ?」
「はい,あなた!」
GJ!!!コタツ氏
内容:
>>455 コタツ様
GJです。
サイトも拝見しましたが、「厨房」と自分を称されると言うことは中学生でしょうか?
だとしたら卓越した才能を感じます。
ただ私はコタツ様の倍ほど生きている人間なので(苦笑)多少スキル面でアドバイスできるかな、と思う点もありました。
もしアドバイスを聞いていただけるのであればこのスレのテンプレから萌えBBSのSS書きの控室にお越しください。
僭越ながら少しアドバイスのまねごとをさせていただきます。
雑記。
PCのトラブルで書きかけだったSSが吹っ飛んでしまった…
クラエス主役のエルザのエピソードだったのに。
あうう。
仕方がないので次のレスで小ネタ投下です。
小ネタ。愛知万博で食べた料理からの着想。 アフリカ料理のカレー風のものが入ったパイが本当にすごいおいしかったんですよ。 ヒルシャーが食事に行こうと誘ってきた。 珍しいこともあるものだ。 断る理由もないので支度をして車に乗り込む。 ついた店は薄暗い照明とお香の匂いがするアフリカ料理屋。 …故郷を見せられないならせめて故郷の味を、か。 ヒルシャーらしい。 「これがお勧めらしい。 少し辛いようだが…」 「大丈夫です」 一口食べると口が熱い。 まだ、辛さならわかるんだ… 「どうだい?」 「とてもおいしいです。 また来たいですね、ランチもやっているようですし」 「それはよかった。 また来よう、約束する。 …やはり懐かしいか…」 ごめんなさい、ヒルシャーさん。 私がここを気に入ったのは懐かしいからじゃないんです。 この味ならまだわかるから…あなたと同じに楽しめるから。 だけど、あなたのその笑顔を見たら、そんなことは言えなくなってしまう。 だから私はこう答える。 「はい、ありがとうございます。 私、やっぱり辛党みたいです」
乙です! 味覚障害ネタはやっぱり切ないなあ。 ヒルシャのにぶさがとってもヒルシャですね。
>>458 GJ
ヒルシャーとトリエラの双方がが不器用な気遣いをし合っているのがいいですね。
どちらもお互いに対する想いは真っ向勝負なんだけどずれちゃうんだよなあ。
そんな悲しいところがまた愛しいんだけど。
アフリカ料理食べてみたいw暑い地域は辛いものが多いのかね?
462 :
【】 :2010/02/19(金) 22:25:10 ID:wHR6ltmR0
エロパロ板に投下したエロくないバレンタイン話の 別バージョンを投下します。堕天使&伝道師+オリガ。 作中使用している愛のメッセージ、ホントにチョコの包みに 入っているそうです。さすがイタリア。
【愛の布教活動】 朝から街全体が浮き立ったような空気を醸し出す2月14日、愛の守護聖人 聖ヴァレンティノを讃える日。 「おおプリシッラ、我が愛しの堕天使よ!どうかこのプレゼントを受け取ってくれ」 愛の伝道師は出勤してきた二課創設期からの顔馴染みに声をかけた。男が 差し出したハートマークでデザインされた包装に、若い女性課員はけらけらと 明るい笑い声をあげながらそれを受け取る。 「何なに?この大きさと軽さはジュエリー?」 「残念、定番の『Baci(=Kisses)』だ」 「一番ちっさい箱じゃないのよ〜」 イタリアのバレンタインデーには付き物のチョコレートの名を聞いて、わざとらしく 唇を尖らせ貢ぎ物を不服とする愛の堕天使に、ダイエット中なんだろ?と アマデオは応える。気ぃ使ってるのかイヤミなのかビミョーなところよね〜。 文句をたれながらも楽しそうにプリシッラは包みを開けた。箱から取り出した チョコレートには、それぞれ愛のメッセージが添えられている。 「えっとお……『誰もが心の奥に隠している宝物…それを見つけられるのは キスだけさ』?」 メッセージを読み上げる堕天使を陽気な伝道師が口説く。 「おー、いいねぇ。俺にもおまえの宝物を見つけさせてくれよプリシッラ」 「あたしのキスはそんなにお安くないわよ」 軽く返す若い女性課員にイタリア男は大形に両手を開いて嘆いて見せた。 「つれない事を言いなさんな。同じ愛の守護聖人に仕える同志じゃないか」 「しょうがないなあ、それじゃ特別に赦してやろう」 「グラッツィエ!ん〜〜」 堕天使のお許しをいただいて、愛の伝道師はやわらかな頬に軽くキスをする。 朝っぱらから廊下でじゃれあうそんな同僚達を、同期のロシア人が呆れたように 見遣る。
「仲良いねぇあんたたち」 「んん?」 堕天使を放し大柄な女性課員を振り返った愛の伝道師は、ジャケットから 新たなハート模様の小箱を取り出した。 「おおオリガ!ボルガの流れのごとく深く豊かなその胸に、俺の愛を受け止めてくれ」 「アンタ女なら誰でもいいんかいっ」 いい女は口説くのが礼儀とばかりに貢ぎ物を差し出したイタリア男の後ろ頭を、 愛の堕天使が思い切り良く張り倒す。 「痛ェっ!!」 「ば〜か。女心を傷付けた慰謝料は後できっちりいただくからね。今度の休みは 覚悟しなさいよ」 しっかりおごってもらうからね!と魅力的なウィンクを投げて立ち去る愛の堕天使を 笑って見送りながら、伝道師は後頭部を撫でる。 「……まーた思いっきりはたいてくれたなあ、プリシッラのやつ」 「こんな日にプレゼントを贈っておきながら、目の前で他の女を口説いたり するからだよ」 一途に情深く愛を捧げる事を美徳とする北の国から来た女は、自業自得だと イタリア男をながめやった。 「いやいや、この痛みが愛されてる証ってもんだよ」 「言ってなよ。大体、このチョコレートはこの間仕事を手伝ってやった時の 礼のつもりだろ?はなっからそう言っておけば痛い目に遭わなくてすむのにさ」 「何をおっしゃるオリガさん。愛の伝道師アマデオ様は、いつだって世界中の女性に 平等に愛を注いでいるんだぜ?」
芝居がかった仕草で胸に手を当てて見せるアマデオにオリガはやれやれと 苦笑いを浮かべる。 「ホントにイタリア男ってのはしょうがないね」 「人生は愛と歌と美味い飯でできてるのさ。――ま、あの堕天使さんは 公社の天使さんたちに夢中で、しがない愛の伝道師なんか本気で相手にして くれないからなー」 「今はそうだろうけどね」 陽気なアマデオの言葉にオリガの表情がわずかに揺れる。 今はそれでもいい。けれどいつか天使たちが空の国に帰ってしまったら、 地上に残された堕天使はきっとひどく傷つき泣くだろう。 その時にはこの陽気な愛の伝道師が、あの優しい堕天使を少しでも救って くれるんだろうか――。 一瞬そんな思いが過り、オリガは自分の思考が可笑しくなる。 実際のところは恋に生きるイタリア男がどこまで本気で彼女を口説いているのか 分からないし、プリシッラが悪友を恋人に昇格させる気になるかどうかも あやしいところだ。 朝から晩まで愛の言葉が飛び交うこの国の空気に毒されたかねえ。 「――ま、せいぜい頑張って布教活動に励みなさいよ」 言いながら大柄なロシア人は書類ケースで男の頭をはたく。ついさっき強打された 場所に新たな追撃を受けた愛の伝道師は、情けない悲鳴を上げて頭を抱え込むの だった。 << Das Ende >>
GJ そうだな、プリシッラちゃんはいつの日かひどく泣くんだろうな…。
>>463 GJ!
面白かった。
哀しみの中にもちいさな幸せを担当官も二課員の人も見つけて欲しいなと
思ったり思わなかったり。
468 :
【】 :2010/02/24(水) 14:59:01 ID:vCX6d/qz0
レスありがとうございましたw 皆それぞれに少しでも救いがあって欲しいなあ。 pink板にちゅーどころかハグすらない鳥昼ほのぼのバカップル話を 投下してきました。よろしければご覧ください。
なんだか原作の展開が更にすごいことになってるらしいですね。 1〜5巻あたりの平和だった頃の公社の話とか投下したら、 逆に悲しくなっちゃうかなあ。
>>469 なごむんじゃないか?
悲しくなっても、それがガンスリ。投下プリーズ。
ウンセリングの日には録音をまとめて報告書を書かなくてはならない。 今日はヘンリエッタとアンジェリカ。 録音を聞いているとカウンセリングの時のどうしようもない気持ちがまた蘇ってくる。 アンジェリカの記憶障害は進行している。 長期記憶の障害だけならまだしも、短期記憶の障害が進行すればもう仕事には使えないだろう。 短期記憶に影響しないかどうかはまだわからない。 アンジェリカが一人目なのだから。 ヘンリエッタはジョゼがどうあがいても投薬量は多い。 トラウマの深さもさることながら、ローマ出身であったためフラッシュバックのリスクがトリエラよりはるかに高い。 おまけにホルモンの補充が必要では、副作用が既に出始めているのも当然ともいえる。 今日のマルコーを見ていると、ヘンリエッタが衰えた時ジョゼはどうなってしまうのか、頭が痛い。 「初」なのはアンジェリカだけではない。 アンジェリカが初の義体であるということは、同時にマルコーが初の担当官であることを意味している。 「データの蓄積」がないのは義体だけじゃない、担当官だって同じなのだ。 担当官のおかれている状況は義体に負けず劣らず異常だ。 医療や福祉において、まず1対1の関係が滅多にない。 産まれてから死ぬまでをずっと担当することも小児科で重症児を見ている場合以外では稀だ。 でも滅多にないだけでないわけではない。 だが。 「患者」から恋愛感情を持たれることを肯定する施設など、今までどんな論文でも見たことがない。 あり得ないことだ。 患者のためにもならないし、医者は職業柄患者の死に何度も直面する。 その時に恋愛感情を抱かれていては、医者の精神が持たない。 患者の死を感情的にとらえないこと、患者に個人的な恋愛感情を抱かせないこと、これらはちゃんと大学で教育される。 特に精神科領域では患者に恋愛感情を抱かせない、医者である自分に依存させすぎないことは重要だ。 それを自覚しているからこそ、マルコーに言った自分のセリフの嘘が白々しい。
「担当官になっても同じことが言えるのか?」 言えない。 言えるわけがない。 義体と1対1の関係になり、義体に恋愛感情を持たれ、覚醒から死まで一人で見る。 耐えられない、耐えられるわけがない。 それなのにそれを耐えろと言わなくてはならない。 「くそっ!」 机を殴りつける。 ICレコーダーが床に転がる。 「何をしているんだ、ビアンキ」 びくっとしながら振り返ると、そこにはベリサリオがいた。 「ベリサリオか」 「何を荒れているんだ?ドットーレ・ビアンキ。 義体たちの優しいカウンセラーが」 「よしてくれ、今日はそんな言葉聞きたくない」 「まぁいいさ。 ちょっと待っていろ」 そういうとベリサリオはコーヒーを入れ始めた。 「カフェインには鎮静作用はないけどな。 ハーブティーなんて洒落たものはこんなところにないだろう? ああ、クラエスの畑から少し拝借すればいいのか」 「ハーブティーか、義体にも効果はあるのかな?」 「どうだろうな。」 しばらくはコーヒーを無言で飲む。
沈黙を破ったのはベリサリオの方だった。 「で、なんであんなに荒れていたんだ?」 「今日のカウンセリングさ。 アンジェリカの衰えはもうごまかしようがない。 マルコーはそれを受け入れられない。 でも僕はそれを受け入れるよう言わなくてはならない。 自分にはできもしないことを、ね」 また沈黙。 「ビアンキ、逃げるんじゃないぞ」 「逃げる?」 「医者には諦める権利はない。 たとえどんな困難な状況だったとしても。 クランケや家族とはそこが違う」 「君らしくない青臭いセリフだな」 「そうかもしれないな。 だが私は今も諦めていない」 「何を諦めてないんだ?」 「私は第二のエルザを出さない。 第二の大尉も出さない」 「大尉も出さない? それは僕らにできることなのか?」 「あれ以来、私は何度も課長に進言している。 担当官にも条件付けを元にした一定の洗脳を施すべきだと」 「あり得ない」 「クローチェ兄弟のように自分の目的のある担当官はいいさ。 だが五共和国派に恨みもないマルコーや、巻き込まれただけのヒルシャーはどうなる? 担当官は医療も福祉も素人だ。 クランケの思いから自分を守る術を知らない。 いずれ潰れる」
「それはわかっている、だが…」 「義体は道具、担当官は人間、お前もそう思っているのか? そうだとしてもそれが私たちに関係があるのか? 私たちは医者だ。 医者にとってはクランケの立場の違いは関係ないだろう」 「君はカウンセリングより投薬と洗脳か…」 「カウンセリングの効果は否定しないがね。 自分には責任のない親の認知症ですら受け入れられず薬の世話になるやつがいる。 自分で義体にすることを決めた、しかも外見が子供、これでは受け入れられる方がまれだろう」 「よくそこまで割り切れるな」 「カップと皿の尊い犠牲のおかげだがな。 マグカップはこれまでに8体ほど殉職した」 「なるほど」 「人間の脳の解明なぞできる日が来るかすら怪しい。 私が生きている間には無理だろう。 だがそれは諦める理由にはならん」 「ああ。 そうだな」 「さて、もう仮眠をとらないと仕事に差し支える。 私は帰るぞ」 「ああ」 ベリサリオが部屋を出て行ってから、落としたレコーダーを拾い上げる。 医者に逃げる権利はない、か… マルコーが今向き合えていない分、僕が向き合わなくてはならないんだろう、アンジェリカの衰えと。 今日も夜が明ける。 マルコーにはもう一度話そう。 僕には諦める権利はないのだから。
>>471 >>472 >>473 >>474 で一本の作品です。
鯖落ちで分断しましたorz
そもそもビアンキとベリサリオの話なんてどこに需要があるのやら…
【】様の作品、バレンタインらしくていいですね。
追記。
>>471 1行目、「カウンセリング」です、カが落ちてましたorz
タイトルはどうしましょう、例によって無題です。
乙です。 こういう周辺の話も良いですね。 世界に奥行きが出ます。
乙です こういうシビアな話が書ける蘇芳氏は強い方ですね
478 :
転載 :2010/03/05(金) 02:11:13 ID:069wtX2p0
書き込みテストを兼ねて転載 相田裕「GUNSLINGER GIRL」#71 より エルザとベアトリーチェのダウナーコンビっていいよね? ヘンリエッタ、リコのアッパーコンビと対を成すよ。 エルザもヘンリエッタから漏出していたジョゼ山スキスキ幸せ光線を浴びなければ実力を発揮したろうにね。 クラエスを加えてトリオもいいな。 黙々と読書するクラエス、 黙々と銃を磨くエルザ、 黙々と飲み食いして寝るベアトリーチェ。 公社スタッフA「仲悪いのかあの三人?」 隣の部屋からトリエラ、アンジェリカ、ヘンリエッタ、リコの嬌声が響く。 公社スタッフB「いつもああだよ」
479 :
転載 :2010/03/06(土) 00:07:53 ID:Zr+PLKK30
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#74 より
270 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 15:12:22 ID:DM+TQfChO
下着はお下がりじゃないとすると、ジャンさんはいつも
幼女用下着だけ買っていくんだな
271 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 15:24:52 ID:ILGMgRlc0
任務の帰りにデパートとか寄って自分で買わせるだろw
273 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 15:56:16 ID:rTXilF+AO
トリエラに引率されてみんなで買いに行く映像が浮かんだ。
274 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 16:06:10 ID:ILGMgRlc0
>>273 いや、殺人兵器の義体は一人で外出出来ないでしょ。星見るのにも担当官の引率が必要だし。
トリエラに引率されるとしたら、間違いなく列の最後尾はヒルシャーだ。
275 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 16:21:05 ID:LPz+ToTe0
エッタ「トリエラとヒルシャーさんって、お母さんとお父さんみたいだね」
276 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 16:47:54 ID:BGLZky9a0
「からかうんじゃない!!」
480 :
転載 :2010/03/06(土) 00:08:36 ID:Zr+PLKK30
277 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 17:05:25 ID:LPz+ToTe0 リコ「お母さんと、お父さん?」 首を傾げて、何か思いつく。 トリエラの手を握ると最後尾のヒルシャーの元へ強引に引っ張り、 空いている手でヒルシャーの手を握る。 リコを挟んでトリエラとヒルシャーが歩く。 「一度してみたかったんだ」 279 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/10(月) 17:14:35 ID:LPz+ToTe0 ジャン 「随分、仲良しだな」 ジョゼ 「楽しそうでいいじゃないか」 ぺトラ 「あれって、嫉妬ですか?」 サンドロ「しっ。黙っとけ」
481 :
【】 :2010/03/06(土) 00:12:14 ID:dD/IFp3cO
“去年”の鳥昼親子ップルを投下します。ヒルシャー父さん娘とお食事。 小さな幸せを求めて百物語。ここまで続けられるとは思っていませんでした。 スレ住人の皆様に感謝を込めて。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
【異文化ティータイム】 「何だか変わった匂いがしますね、ジョゼさん」 外出先から戻った同僚にヒルシャーは声をかけた。 「そうかい?」 言われて思わず、ジョゼはジャケットの袖口を顔の前に寄せ匂いをかぐ。 「ああ、多分中華料理のスパイスじゃないかな」 「中華料理ですか?」 「ああ。ヘンリエッタを『ヤムチャ(飲茶)』の店に連れていったんだ」 「『飲茶』? 何ですか、それは」 「中国のアフタヌーンティーという所かな。色々な種類の『チャオズ(餃子)』や 『パオツ(包子)』」が少しずつターンテーブルに運ばれてきてね。大体20種類 くらいあったかなあ。味はもちろん、見た目にもなかなか面白かったよ」 たまにはヘンリエッタに目先の変わった物を食べさせてやりたくてねと笑う 優男は、激甘党の『妹』に付き合って甘味処に入ることが多く、最近は官舎の 周りをジョギングする姿がたびたび目撃されている。 「それは良かったですね」 微笑みながらも少し寂しげに応えるドイツ人はと言えば、反抗期の『妹』―― 彼の場合はむしろ『娘』であろう――と何とか上手くやっていきたいと思いつつ、 相変わらず下手な冗談を口にしては冷静に突っ込まれて自滅する日々を送って いる。
そのまま放って置いてじめじめと陰鬱に悩まれるのも迷惑なので、ジョゼは フォローの言葉を口にする。 「ヒルシャーもトリエラを連れていったらどうだい? 彼女は勉強家だから東洋の 文化に興味を持つかも知れない」 「そうですね…行ってみましょうか。……喜んでくれると良いんですが」 「まあ、環境が変われば気分も変わるかも知れないし。とりあえずは行動して みないと分からないじゃないか」 「……そうかも知れませんね」 頷いた生真面目で不器用なドイツ人の肩をたたきながら、これで辛気くさい 子育て相談の相手をせずに済むと内心ほっとするジョゼであった。
484 :
連投規制避け :2010/03/06(土) 00:18:40 ID:dD/IFp3cO
* * *
色々な国の料理を味わってみるのも、見識を広めるのに良いだろう。 そう言って軍施設での訓練の帰りに連れて行かれたその店の外観に、 トリエラは正直唖然としていた。 中華料理の店だということなのだが、確かに赤や金を多用したその 極彩色の店構えは、周囲の風景の中ではっきりと異なる文化を主張している。 東洋の色彩感覚はよく分からない。 水色にオレンジを配色した椅子だの、ド紫の生地に真っ黄色なペイズリー柄を あしらったスカーフなぞをデザインする国に暮らす人間が今更何を言うやらだが、 とにもかくにも第一印象はあまりよろしくない。 店内に入ればこちらも色使いは派手やかだが、椅子やついたてを木目調に する事によって、紙一重の所で落ち着きのないけばけばしさから逃れている。 出迎えた東洋人の店員に、男は少女が聞いたことのない言葉で話しかけた。 二言、三言会話を交わすと、店員が奥の席へと案内する。 「……ヒルシャーさん、中国語も話せるんですか?」 「話せると言うほどではないよ。挨拶程度だ」 「はあ」 そういえばこの人は、元はといえば欧州刑事警察機構の捜査官だったっけ。 と少女は人づてに聞いた彼の前身を思い出す。 考えてみれば彼はドイツ人でありながらイタリアの公的機関で何の不自由も ――言語的には――なく過ごしているわけだし、母国語であるドイツ語はともかく、 自分にフランス語の読み書きを教えたのも彼だった。 多国籍の人間が集まる場でとりあえず共用言語として使用される英語も、当然 修得していることだろう。存外、語学に堪能な人物なのかも知れない。 人間誰しも何かしら取り柄があるものだなと、少女は随分と失礼な感想を抱
予約席の札が立てられた窓際の席は夜景がよく見える。 席を予約をしてあるということは、単なる思いつきではなくて計画的な行動だと いう訳か。こんな小娘のご機嫌取りのためにわざわざご苦労なこと。 条件付けによる縛りが緩いトリエラは、ただでさえ反抗期まっただ中のお年頃。 『夜景の綺麗なお店で食事』などというベタなシチュエーションくらいでは、そうそう 無防備な笑顔を見せてくれたりはしない。 案内されるまま席に着いた少女は、白いテーブルクロスの上に大きな丸い台が 乗せられているのをやや不信げに眺めた。少女の視線に気付いて担当官が説明 する。 「これはターンテーブルだよ。大皿で運ばれてきた料理がここに乗せられ、各々が 小皿に取り分けて食べるんだ」 「ああ成程」 頷いた少女の前に白磁の茶器が運ばれてくる。茉莉花茶――ジャスミンティーの さわやかな香りが鼻孔をくすぐる。 「良い香りだろう」 「そうですね」 「中国茶は発酵の度合い等によって黒茶、白茶、黄茶、紅茶、青茶、緑茶の 六種類に大別され、それにフレ−バーティーなどの花茶という分類がある。 これはその花茶の内の茉莉花茶だ。一級品とされるものはジャスミンの花と 茶葉を混ぜ合わせて花の香りを移した後、その花をひとつずつ人間の手で取り去る。 そして取り去った花を今度は他の新しい茶葉と一緒にして、安価な二級茶とするんだ。 合理的だな」 「そうなんですか」 担当官の説明に、さほど興味もなさそうに少女は相槌を打つ。実際はその薀蓄に 少なからず驚きを感じているのだが。
何かを教える場合には、少なくとも教える内容の3倍の知識量が必要とされる という。座学担当ヒルシャー先生は、当然今回の課外授業もできる限りの事前調査を 行っていた。先ほどウェイターと交わした中国語会話も、実はこの事前調査の成果の ひとつである。 ジョゼから飲茶の話を聞いてから四日間。帰宅してから就寝するまでの貴重な プライベートタイムは、全て今日のためにつぎ込んでいる。可愛い『娘』に喜んで もらうためならば労力を惜しまない勤勉なドイツ人の努力は、しかし気の毒なことに なかなか報われない。 軽く落ち込みつつも、ここでめげてしまうようではこの少女とは付き合えない。 蒸篭に入った料理が運ばれてくると、気を取り直してヒルシャーはまた解説を 始める。 「これは竹ひごを編んで作られた籠で、下から蒸気を通して食品を蒸す調理器具だが、 こうしてこのまま食卓に運ばれて食器にもなる。竹は東洋ではポピュラーな素材だ」 竹の材質について説明し、世界で初めて作られた電球のフィラメントにも、この竹が 利用されていたんだよと結べば、返す少女の言葉はにべもない。 「ああ、この間お借りした本に書いてありました」 「……そうか」 いっそ見事なほどの慇懃無礼さに、しかし担当官はドイツ人ならではの辛抱強さで 会話の続行を試みる。 「ああと、それで……。そう、君は箸を使ったことはなかったな」 「箸? 何ですか、それは」 「東洋の食器だ。君の前に、紙製の鞘に入った二本の細い棒があるだろう」 「はい」 「それを使って料理を摘むんだ」 「は?」 言われた言葉と目の前の棒に関連性が見出せず、少女は思わず聞き返した。
「――ああ、フォークのように刺して使うということですか?」 「いや。それはマナー違反だ。“摘む”と言っただろう」 「……トングのように挟むんですか」 「いいや」 どうにも想像がつかず困惑気味の少女に、男は食器を手にして実践してみせる。 「まず一本の棒の中程を、ペンを持つように持ってみなさい」 「はい」 「そう。それからこんな風に親指の間にもう一本の棒を差し込む」 「……はい」 「今差し込んだ棒は動かさず、ペンのように持ったほうの棒を上下して、棒の先を 打ち合わせてごらん」 「……こう、ですか?」 見よう見まねで担当官の手の動きを真似すると、かちかちと二本の棒の先が 触れ合って音を立てた。少女の様子に男は軽く目を見開いて感嘆の表情を表す。 「そうだ。……器用だな、トリエラ」 「さあ。そうでしょうか」 「ああ。なかなか直ぐには扱えないものなんだが……ああ、いや。 それで、その棒の先で料理を摘まむという訳だ。柔らかなものならば、力の加減で 押し切ったり割ったりすることもできる。慣れれば、それ一組で魚の姿焼きを解して 食べることもできるんだぞ」 「へえ……」 担当官の話に耳をかたむけながら、その間もトリエラは細長い棒を打ち合わせる 動作を繰り返す。試しに力を入れてみると二本の棒が打ち合わせた位置から 交差してしまい、バランスを崩して危うく取り落としそうになった。 義体の反射神経をフルに発揮してそれをキャッチし、そのままそしらぬ顔をして 再び動かし続ける。 「――幸い、飲茶の料理は大抵が一口大だから、摘む動きさえできれば食事は 可能だ。それでは、やってみなさい」 「はい」 どうやら担当官には気づかれずにすんだらしい。ターンテーブルで自分の前に 差し出された蒸篭を取り寄せ、少女は小さな餃子を箸で摘んだ。そのままゆっくりと 口に運び咀嚼する
「料理は口に合うか?」 「……おいしいです」 「そうか」 自分が密かに自宅で特訓した異国の食器を、少女はぎこちなくも食事ができる 程度には使いこなしている。飲み込みの良い優秀な子だとは分かっているが、 それにしても覚えが早い。 箸を片手に食事をする少女の姿を見ながら、男は感嘆と同時に寂しさを覚えていた。 実を言えばこの野暮だがロマンチストなドイツ人は、初めて出会った頃のように、 直接手を取って使い方を教えてやるような情景をほんのりと夢見ていたのだ。 しかしそれはどうやらただの白昼夢で終わりそうである。 一方、寂しい“父親”の夢を無にした“娘”の方はと言えば、そんなことには露ほども 気付いていない。――というよりも、気付く余裕が全くない。 一見平然と箸を使いこなしているように見えるが、初めて使用する異文化の極みだ。 油断すればすぐにでも二本の棒の先に挟んだ食物を取り落とすか潰してしまいそうで、 微妙な力加減を保つために、指先に全神経を集中させざるを得ない。 なにぶんにも初めての体験なのだから、失敗したところでヒルシャーが呆れたりする はずはない――ましてや彼はトリエラに教えてやりたくて仕方がないのだから――のだが、 意地っ張りで見栄っ張り…もとい、プライドの高い少女は、担当官に弱みを見せることを 良しとしない。 鉄壁のポーカーフェイスで餃子を口に運び、悠然と箸を持った手をテーブルの端に 着地させると、ようやく安心して味覚に意識を戻して料理を味わう。 そんな涙ぐましい努力を続ける少女と、哀愁を漂わせながらそれを見つめる男。 相変わらずすれ違いの埋まる気配がない困った”親子”であった。
それでも美味しい物を食べれば自然と気持ちはほぐれてくるもので、男が説明する 料理にまつわる文化や歴史の話を拝聴する少女の反応は、いつもよりも和やかだ。 シャオロンパオ(小龍包)でございます、と新たな蒸籠がテーブルに運ばれてくる。 「ああ、これが小龍包か」 「何ですか?」 「これは包子の中にスープも入っているんだそうだ。どうやって入れるんだと思う?」 教師の質問に優等生は一瞬思案の表情で視線を右へやるが、すぐさま答えを返す。 「何か専用の調理器具でもあるんですか? 注射器のような……」 「いや、それではスープが注入口から漏れてしまうだろう。正解は『ゼラチン質で固まった 具入りのスープを皮に包む』だ」 「ああ」 得心がいった様子の少女に男は笑い、元はと言えば煮こごりを利用した料理だったん だろうなと私見を添えた。 「それと、小龍包の工夫は具よりも皮にある。これは生地を半発酵させているんだよ」 「半発酵?」 聞き慣れない言葉を耳にして生徒が聞き返す。 「そう。これがもし、パン生地のように完全に発酵させてしまうと……」 「ああそうか。スープが浸み出していってしまうんですね」 やはりこの子は理解力の高い優秀な生徒だと、担当官は親バカ全開で満足げに 頷いた。
連投規制?
「その通り。かといって全く発酵させていないのでは生地が硬くなってしまう。だから 包子の中でも難しい部類の料理とされているんだ。旨味の凝縮されたスープの味に 加えて、その独特の食感がまた楽しめるそうだよ。――ああ、高温で蒸し上げられて いるから、中のスープも相当熱いぞ。火傷しないように気を付けて食べなさい」 言いながらヒルシャーは白い小さな包子を箸でつまみ口にした。 ―――その瞬間。 「熱っ!」 箸を持った手で口を覆い男が小さくのけぞった。 不意打ちをくらった少女は一瞬きょとんとした表情になり、次いで思わず吹き出す。 ―――自分で気を付けろと言ったくせに! くくく、と肩をふるわせる少女に、すっかり面目を失ってしまった担当官は精一杯 厳かな顔つきをしてこう言った。 「――今のが、悪い見本だ」 失敗した教師が使う定番の台詞に、少女の肩のふるえがいっそう大きくなる。 『父親』の威厳も何もあったものではない。
目尻に浮かんだ涙を手の甲で拭いながら、少女はようやく顔を上げた。 「……分かりました。担当官が身をもって示して下さった注意事項ですから、 十二分に気を付けます」 なかなか収まりそうにない笑いの波動の中で、こちらも精一杯取り澄ました 顔をしてそう答え、少女は熱い湯気を立てる異国の料理を口にした。 << Das Ende >>
494 :
【】 :2010/03/06(土) 00:49:07 ID:dD/IFp3cO
間で書き込んでいただいても連投規制は引っ掛かるのか…orz
>>485 ラスト
誤)少女は随分と失礼な感想を抱
正)少女は随分と失礼な感想を抱く。
乙ですー 寮に帰ってから、つい得々と語ってしまって 本を読みながら適当に相槌をうっていたクラエスに 「ヒルシャーさんとの事は楽しそうに話すのね」 とベッドの上からからかわれて 「そ、そんなことないもん」 と口を尖らせるのが目に浮かぶようw
トリエラのために箸練習するヒルシャ想像して萌えた。GJ!
498 :
ケーキの分け方 :2010/03/11(木) 20:17:31 ID:RZxgALPy0
「トリエラ、2課の課員一同で買ったケーキだ。 みんなでわけなさい。」 食堂にケーキを運びみんなを呼びに行くトリエラ。 ・呼ばれても出てこないエルザ ・等分するのがうまいクラエス ・エルザの分まで食べるリコ ・ケーキの匂いをかいで鼻にクリームをつけたビーチェ ・フォークを見つめ「何か大切なことを忘れている気がする」と悩むアンジェ 上にのった砂糖菓子人形を全部もらってご機嫌なヘンリエッタ。
ラウーロ : 俺のは?
500げとw 次回のケーキ作りに活かそうと食べながら分析しているクラエス
>>499 エルザ「あっ…すみませんラウーロさん!今持って来ま……」
リコ 「ごちそうさま〜」
エルザ「ああっ!?私の分のケーキはどこ?!」
ラウーロ「…ち、使えん奴だ」
義体のおやつを取り上げる担当官ってw
>>498 かわいいw あ、さくら板はのんびりしてるんでsage進行で大丈夫ですよ。
レスありがとうございましたw
ちょっと時期がずれたけど、イタリアの風習をネタに鳥昼親子ップル話を。
ヒルシャー父さん娘とおでかけ。結局お菓子も買ってやったようです。
【ミモザの日】 華やかなカルネヴァーレ(カーニヴァル)とそれに続く謝肉祭が過ぎれば冬の気配は 消え去り、街の木立は一斉に萌黄色の新芽を芽吹かせる。 寒さが和らぎ色づき始めた早春の古都は花売りの屋台がにぎわう。早咲きの花々で 街角に彩を添えるこの花売り屋台だが、この日はわけてもあざやかな黄色の色彩で 街中の屋台が埋め尽くされていた。 観光客と言うには物慣れた様子で石畳を歩く長身のドイツ人に、連れの少女が 問いかける。 「ヒルシャーさん、今日は何か催し物でもあるんですか?」 「うん?」 「街中で同じ花ばかり見かけるので……」 言われて辺りを見渡した男は、あ、と何かを思い出したように小さく声を上げた。 「今日は3月8日か?」 「はい」 「そうか、『Ilgiorno della Mimosa(ミモザの日)』か」 一人納得した様子の担当官を少女が物問いたげに見上げる。少女の視線に 気付いた彼女の教官役である男は、公社で講義を行うように答える。 「今日は『FESTA DELLA DONNA』というイタリアの祝日だよ」 「フェスタ・デッラ・ドンナ?女性の祝日、ですか?」 「そう。世界的には国際女性デーと言って、20世紀初頭に女性の参政権を求める 運動から始まったものだ。今でもこの日は各地で集会や催し物が行われている。 だがイタリアでは政治的な主張とは関係なく、『女性への感謝と敬意を表す日』として ミモザの花を贈るんだそうだ」 「へえ……」
男の説明に改めて周囲を見やれば、道行くイタリア人女性は皆、黄色いちいさな ポンポンを束ねたような可憐な花を、髪や胸元に飾っている。愛と幸福を呼ぶと 言われるその花を身につけた女性たちの姿は、誰もが誇らしげな表情で輝いていた。 「ミモザの黄色が目に付くせいか、普段よりも女性の姿が多いような気がしますね」 「いや、気のせいではないだろう。フェスタ・デッラ・ドンナの日は男性が家事や育児を 引き受け、女性は女性同士で夜遅くまで食事などを楽しむそうだから」 「そうなんですか」 食事は男女ペアで出かけることが基本となるこの国では、それはかなり珍しい 光景だ。なるほどなと納得する一方で、変わらぬは公社の日常ばかりなりかと 皮肉な思いを抱く少女の横から、ふい、と男の姿が消える。 振り返った少女の視界には、目的地とはまるで違う方向へ向かって歩き出した 男の後姿が映った。 「ヒルシャーさん?」 男の名を呼びながら小走りで追いかける。人ごみの中でも周囲から頭ひとつ分 飛び出した長身のドイツ人の姿を見失うことはないが、離れていてはいざという時に 彼の身を守れない。 「ヒルシャーさん」 もう一度名前を呼ぶが、聞こえていないのか男は振り向きもしない。道を行く女性 たちの側を通り抜ける度に、彼女らが身につけるミモザの花房が鼻先をかすめる。 若い果実のようなさわやかに甘くやや青くさいその花の香りが漂う中、少女は小柄な 身体で同性の間をすり抜け掻き分け担当官の後を追った。
通りを横切り、花売り屋台の前でようやく男に追いつく。 ―――と、目の前に、ふわりとひよこ色の綿毛が差し出された。 「――トリエラ、これを」 「え?」 少女の目の前にはミモザの花房。差し出しているのは彼女のパートナーだ。 不器用なドイツ人は目をしばたたかせて花束を見ている少女の反応に、 困ったような表情で問いかける。 「花束より、お菓子の方が良かったか?」 「……私に、ですか?」 「ああ。今日は年齢や立場などに関係なく、『身近な女性』に敬意を表す日だ。 君はれっきとした女性だろう」 生真面目に言う男の横から、『遠慮しないで受け取りなよシニョーラ(娘さん)』と 陽気な花売りが口を出す。少女が普段呼びかけられ慣れているのはシニョリーナ (お嬢ちゃん)である。いつもは保護者か教師のように接しているパートナーから 女性として扱われた上にそんな呼び方をされ、気恥ずかしさに拍車がかかる。 不意打ちに弱い優等生はそれでも動揺した気持ちをどうにか立て直そうと、 つとめて冷静に礼儀正しい口調で男に意見した。 「でも、こんな日に私だけが寮にミモザを持ち帰るのもどうかと」 同じ寮で暮らす仲間のほとんどはミモザを贈られることなどないだろう。義体に甘い 優男や、気まぐれを起こした担当官から花を受け取る仲間もあるいはいるかもしれない が、あまり可能性は高くない。 野暮なことでは定評がある自分の担当官から花束を贈られたとなれば、仲の良い 仲間には当然経緯を話すことになる。それに何より自分のルームメイトには担当官が いないのだ。彼女がそういったことを気にする性質ではないといえ、自分としては いささか気がとがめる。 そういった諸々の事情を暗に示した少女の言葉を察し、その配慮はもっともだ、と男は 頷いた。 「それでは全員分の花束を買って帰ろう。女性同士で花を交換する習慣もあるのだから、 君から仲間へと言う形にすれば問題ない」
その日、義体棟の各窓には幸福を呼ぶ黄色い花房が飾られ、お茶の時間には ミモザの花に良く似た黄色の金平糖が配られた。 仕事を終えたドイツ人は義体棟の窓明かりを見上げて目を細めると、前も見えない ほどの花束を両手いっぱいに抱えて帰った少女の後姿を思い出しながら、車内に残る かすかに甘く青い香りに包まれて家路を辿るのだった。 << Das Ende >>
GJ! イタリアにはそんな祝日があるのか。
GJ! ほのぼのした。ヒルシャー、いいやつ。
>>503-506 相変わらず見事な仕事ぶりだ。
トリエラが,クラエスらに対する配慮を気にして見せることで,
ミモザの花を素直に受け取ろうとしないトリエラのツンツンデレぶりが心憎い。
また,そういうそぶりをして見せることで,ヒルシャーへの恋心を無意識に
押さえ込もうとしている乙女心の描写もすばらしい。
それに気がつかないふりをして,(気がついていなくてもOK)解決を図るヒルシャーの姿。
ストーリー構成のお手本のようなSSに,仕事の疲れが癒されたぞ。
一杯おごりたい気分だが,君のように優秀なエージェントでは,そんな暇はないだろう。
これからも,社会福祉公社の益となる情報提供を願っている。
ミモザの香り漂う美しき文章を書く君に,光あれ!
510 :
転載 :2010/03/25(木) 23:01:57 ID:F64bIkAe0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#70 より転載
822 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日: 2009/03/13(金) 11:05:15 ID:MzRKVEk6O
しかし、あんな狭いとこで良く銃撃するな。
ミサイルを壁に垂直に吊せないんじゃ。
展望台の真ん中はエレベータ。
その周囲は螺旋階段。
823 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/13(金) 13:51:07 ID:whbLDX/T0
それ以前にあんな目立つブツどうやって持ち込んだんだと‥‥
831 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/13(金) 19:28:12 ID:3u4xNASY0
>>823 毎週届く週刊ロケットを塔に届けてもらってこつこつ組み立てた。
832 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/13(金) 22:44:13 ID:Pgm979P70
>>831 初回だけは安いから「おお、お買い得だこのミサイル」とか思ってると2回目から倍額になってるのかorz
835 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/14(土) 00:44:42 ID:f5XOD8J+0
初回はバインダー付きだぜ
834 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日: 2009/03/14(土) 00:30:35 ID:dUlRja7b0
全部買わないと信管が揃わないようになってる気がする。
511 :
転載 :2010/03/25(木) 23:02:56 ID:F64bIkAe0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#70 より転載 833 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/14(土) 00:15:20 ID:U71Scn3Q0 総本社がイタリアでミラノの近くだった、クリスティアーノさんも愛読者だったかもしれない。 でもそうなると週間フラテッロはあきらめざるをえない。 837 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日: 2009/03/14(土) 07:10:30 ID:oZugKY1kO 週刊トリエラがあったら買うかな。 注意 二人で死地をくぐらないと愛情は育ちません。 あれ? 人体の8割の人工臓器・骨格・筋肉です。 素体が別途必要です。 え? 840 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/14(土) 14:01:41 ID:B1UFYYNn0 なお、パダーニャは付属しておりません
512 :
転載 :2010/03/25(木) 23:05:27 ID:F64bIkAe0
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#70 より転載
638 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/03/01(日) 12:23:17 ID:Q8Bbxnrp0
後藤隊長が担当官やったらどうなるかが頭をよぎった
639 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日: 2009/03/01(日) 13:36:43 ID:LXLoV3rv0
>>638 やはり2期生の担当で
ゴトー「今回は1期生にはババを引いてもらわにゃならん。
彼女らには我々の花道を作ってもらう。ベテランぞ
ろいの一期生組ですら手こづったテロリストを、半
端者の義体と寄せ集めの担当官で構成された二期
生組が退治する。痛快な筋書きだろう?幸い一期生
たちは大苦戦に陥っている。ここまでは筋書き通りだ」
二期生「幸いって…なんか、やり方が悪徳ありません!?」
ゴトー「…………みんなで幸せになろうよ」
513 :
【】 :2010/04/04(日) 20:54:18 ID:iZon3fxs0
レスありがとうございました。 アク禁で遅れちゃったけど季節ネタ。 トリヒル小話を投下します〜。
【ロジック・パズル】 義体の条件付けは、担当官に対して愛情に似た感情を呼び起こす。 例え不満があったり、苛立ったり、腹を立てることがあったとしても、 担当官を嫌いになることだけはあり得ない。 ―――あなたが嫌いです。 そんな言葉は、だから、他の義体だったら思い付くことすらないはずだ。 ―――あなたを好きじゃありません。 ―――あなたといても幸せじゃありません。 そう、心の中で呟いてみる。 胸が苦しくなるのは条件付けによる心理的ロックのせいだと、 以前の私ならば思っただろうけど。
「あなたが好きです」 二人だけの教室で、テキストを開いた担当官がおどろいたように顔を上げる。 「あなたと一緒にいられて、幸せです」 目を見開いて私の顔を見つめる彼に、私は笑う。 「―――冗談ですよ。今日はエイプリルフールですから」 あなたが教えてくれている、ロジックの応用。 冗談です。 その言葉だけが嘘。 ヒルシャーさん。 あなたが好きです。 あなたと一緒にいられて、私は幸せです。 << Das Ende >>
516 :
【】 :2010/04/07(水) 23:47:26 ID:Iz1x84huO
pink板にヒルシャー視点を投下してきました〜。 >>ロジック・パズル 読み直したら何だかかなり色々と説明不足だったので 改定版を保管庫に保管してきました。よろしければご覧ください。 やはり書き上げてすぐ投下するのはやめようと反省;;;
518 :
転載 :2010/04/17(土) 23:47:08 ID:e1GmtDo40
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#74 380 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2009/08/12(水) 23:42:06 ID:vdL1LF2DP どうやら学生寮の話は描かれそうもないので妄想してみる。 察するにボローニャの学生とはどうやら鐘楼に篭った左翼(?)過激派学生のようだし、 するとそこの学生寮は日本で言う自治寮みたいなものか。 シルヴィア組は一年かけて実態調査していたのかも知れない。 シナリオ1:夜中2人して忍び込んで」盗聴器をしかけようとしたが、学生に気づかれ 学生寮には明らかに場違いな2人(オサンとおにゃのこ)は逃げようとしてどうたらこうたら… シナリオ2:ムサイ男子寮生達のマスコット的存在の「寮を遊び場とする近所の子」として潜入調査するが、 ペド趣味のオタ学生に手篭めにされそうになって抵抗、義体の怪力で返り討ち。 寮内に助けに入った担当官と自治会学生が鉢合わせしてどうたらこうたら…
バレンタイン、ホワイトデーに続いてこんなのもあるらしい エッタ 「ねえクラエス、黒い食べ物と言ったら何かある?」 クラエス「黒いトマトがあるわよ。それからイカ墨とかコーヒー、チョコレートを使った 料理なら、大抵黒っぽくなるんじゃないかしら」 エッタ 「じゃあ、黒いトマトのサラダとイカ墨のスパゲッティとエスプレッソと チョコレートケーキで軽食ができるよね」 クラエス「そうね」 エッタ 「そしたらクラエス、今日は黒い服を着て、食堂で一人でそのメニューを食べてみて」 クラエス「…何を考えているの」 エッタ 「あのね、4月14日はブラックデーと言って、独りの人のための出会いの日なの。 この日に黒い服を着て黒い食物をひとりで食べていると、 同じく黒い服を着た寂しい人が声をかけてくれるんですって! クラエス、いつもひとりでお留守番しているでしょ。だから…」 クラエス「幸せなおちびちゃん?私がサミシイかどうかは私が決めるの!(〇"〇+#)」 エッタ 「ええっ、どうして怒るの〜〜(°д°;;)」 トリエラ「……ヘンリエッタ、いいからこっちおいで(; ̄Д ̄)つ」
明日新刊発売かあ。本スレ見てると楽しみ半分怖さ半分だなあ。 臆病者の自分としてはココロの平穏のためにもできれば救いのある話を書きたいんだけど そんな話を書く余裕があるのかどうか。願わくは小さな幸せを見つけられますように。
とうとう新刊でたね。
自分は本誌を見ていたクチで展開は知っていたんだけど
>>520 の感想が気になるよ。
522 :
520 :2010/05/14(金) 23:54:12 ID:JG2EKXMi0
>>521 520です。ようやくアク禁がとけたので新刊の感想のようなものを長文でだらだらと。
12刊出ましたねー。こういう展開ですかそうですか。
まだなんとかSS書く気力は残りそう…かな。ジャンとかリコあたりは。トリヒルもぎりぎりで。
ジョゼッタは…なんだかもう幸せだった頃のネタを書くと泣けてきそうですよ、ええ。
たまたま最近ブレインコンピュータシステムの記事を読んでいたので作中に登場して驚いた。
現在のBCSの精度と比較してみると、どれくらい近未来の設定になるのか
なんとなく見当がついたようなつかないような。 (自分は文系なのであくまで“なんとなく”)
20年くらいで感熱と感圧の機能を備えた本物そっくりの人工皮膚ができるかもって記事もあったし。
でもまあ、あれならトリヒル組とクリスティアーノの直接対決はないから自分としては一安心。
ピーノ編のように敵・味方双方に戦う理由=正義があるという描き方の方がドラマチックだろうと思う反面、
分かりやすい悪役の存在にほっとしているのも事実。年食ったなあ。
523 :
520 :2010/05/14(金) 23:55:02 ID:JG2EKXMi0
エンリカの幽霊はジャンも見ていたけど、ジョゼの見た幽霊はまたキツイこと。 でもあの幽霊のセリフは、過去編のエンリカの性格を見ていると エンリカの言葉と言うより、ジャンジョゼそれぞれの内面の投影という気がしなくもない。 ジャンに対してやや好意的に解釈すると、自己嫌悪。 ジョゼの行動に“やりすぎだ”と責める自分の感情→エンリカが代弁 ジョゼの行動は“仕方がないこと”と庇う→認めてやらねばならない なぜなら “あいつがこうなったのは俺のせいだ” 。 ジョゼに対していささか意地の悪い見方をするなら、自己弁護。 「こうありたい」(人道的な行い、善行→ヘンリエッタの救済) と思っている自分が 「こうすべき」こと(エッタの寿命を縮めてでも家族の敵討を→倫理的には問題あり)を 「せねばならない」のは 『エンリカが望んでいるから』 →だから仕方がない。 こんな偏見でSS書いたらますます救いのない話になりそうだ……orz ジャンが最初から立っていた目的のために非情に徹するスタンスに、ジョゼも立っただけだろうとも思うが。 しかしあれだけ長年貧乏くじを引き続けていた挙句にあの事件で、ジョゼさんの救いの無さぶりが気の毒。 全般にジョゼは偽善者、ジャンは偽悪者として描かれているような印象がある。 でもどっちも根は優しさと身勝手さを持った普通の人間なんだろうなあ。 それは他の担当官も義体も(敵も)同じなんだけどね。 とりあえずリコの抱き枕とかジャンの婚約指輪とかはなんか話にしてみたい気が。 できるかどうかは分からないw
サブ掲示板から転載 『端午の節句』 トリエラ「アズキビーンズのジャム、できたよ」 クラエス「そのライスパウダーでできた厚手のラザニアで包んでちょうだい。そしたらこのカシワリーフでくるんで…」 リコ 「ヘンリエッタ、見て! この魚の口ってすごくおおきいよ。ほら、両足がすっぽり入っちゃう」 エッタ 「わあ、人魚みたい。わたしもやらせてっ」 ヒルシャ「皆、今日は何をやっているんだ?」 ジョゼ 「やあ、ヒルシャー。今日は『端午の節句』といって、男の子の成長を祝うジャッポーネの子供のフェスタだよ。 そうだ、君も参加してくれないか?」 ヒルシャ「男の子の成長祝いをどうして女の子にさせる必要が……は?僕もですか?」 ジョゼ 「まずこのヨロイアーマーとカブトヘルムを身に着けて、カタナサーベルをオビベルトにはさむだろ」 ヒルシャ「サムライ装束ですか。なるほど、男の子のフェスタらしいですね」 ジョゼ 「それでゴザマットを巻きつけてアラナワロープで固定して……」 ヒルシャ「何ですかこれは!?」 ジョゼ 「これは『スマキ』と言う風習で、こうやって拘束した上で川や海に投げ込むんだそうだ。 そして見事滝を遡った暁にはドラゴンに変身するという言い伝えに基づいてだね……」 ヒルシャ「死んでしまうでしょうが!!!」 ジョゼ 「いやいや、何と言ってもニンジャの国だからね。きっとプリンセス・テンコーのように華麗に脱出して、 フジヤマのトビウオのように素早く泳ぐんだよ」 ヒルシャ「ドイツにニンジャはいませんし、僕はテンコーじゃありません!早くほどいて下さい!!」 ジョゼ 「せっかく義体達が異文化に触れるチャンスなのに……」 ヒルシャ「だったらジョゼさんが『スマキ』になればいいでしょう!」 ジョゼ 「嫌だよ、死んでしまうじゃないか」 ヒルシャ「……… -"-♯」
12巻のキモは『何故、ジャコモはあれだけの警戒をかいくぐることが出来たのか?』という点だと思った。 →新たな伏線へ・・・
>『何故、ジャコモはあれだけの警戒をかいくぐることが出来たのか?』 →『警戒網の情報をどこから得たのか』→『内通者がいるのかも』 →『内通者は誰なのか』 こんなかんじ? ロレンツォの部下でフェッロとレスキリアンが登場してるよね。 ジョゼッタ組に絡みそうなのはフェッロ、サンペト組に絡ませるならレスキリアンか。
527 :
【】 :2010/05/16(日) 00:24:45 ID:mQAD53d50
なんか勢いでフェッロの鬱話を書いてみた。 こんなん書いておきながら労わり合う精神って大事だよねと言ってみる。 ちょっと寝不足&殺伐とした気分で書いてたんで、ウツ話が苦手な方はご注意を。
[ 隣人の愛 ] ―――『汝の隣人を愛せ』ってあんたらの神様は言ったんじゃなかったの? ―――相手も愛してくれるとは限らないもの。 ―――ロマンのない女だねえ。 物心がついた頃から、私は自分の行いが正当に評価された覚えがない。 私に押し付けてやらせたことを、姉は自分の手柄のように両親に報告した。 私が独学で進学したことを、母は自分のしつけで自主性が育ったのだと親類に吹聴する。 私の研究内容は教授の論文となり、私の仕事の成果は上司の成績になる。 なぜ私が行ったことが私自身の評価につながらないのか。 姉を、母を、教授を、上司を、私は愛してきた。 愛そうと努力してきた。 けれど彼らは私を愛しはしない。 私を利用するだけだ。 『汝の隣人を愛せ』 然り、主よ。私は隣人を愛してきました。 ですが、私を愛してくれる隣人は、どこにいるのですか。
私の行いの成果は私自身に還元されるべきだ。 私に限らず、おしなべて世の中とはそうあるべきだろう。 だが、他人の努力の上にのうのうと寝そべって暮らしている輩の、なんと多いことか。 「イタリア南北問題は分かるな?」 「豊かな北部と貧しい南部の経済格差ですか」 「そう。北部の税収は南部支援に食われて国家財政は万年赤字」 私は家族を愛している。 私は秩序ある社会を愛している。 そう言葉に出すことで、私は平静を保ってきた。 家族は私を愛しているのか。 この社会は私を愛しているのか。 そんな疑問をしまい込むことで、私は静かに怒りをつのらせてきた。 自分たちの成果が自分たちに還元されることが当然である社会になれば。 世の中が正当な評価をされる社会になれば、私の行いもまた正しく評価されるかもしれない。 そんな世の中ならば、私も心から隣人を愛するだろう。 私を愛してくれる隣人を。 Das Ende
530 :
525 :2010/05/16(日) 02:54:21 ID:2F9BT2za0
>>526 そうそう。で、さらにクローチェ一家は公社設立のためのスケープゴートにされたのでは、とか。
そしてその公社に籍を置いているジャン、ジョゼ兄弟、というなんたる矛盾、とかが展開されたらどうかな。
・・・などと想像
>>530 その展開はいいなあw それでいくとロレンツォがジョゼに甘いのは
その償いとか後ろめたさのため、てことになるかな。
532 :
525 :2010/05/18(火) 23:59:46 ID:7qJlgxIt0
本スレのほうでも書いたけど、 五共和国派壊滅 ↓ 公社に解散命令 ↓ ジャン、"道具"も必要なくなり従うつもりもクローチェ事件の真相──ミラノ派の検事暗殺計画に乗じて、首相が裏で糸を引いてた──を知る ↓ ジャンリコ組、首相を暗殺 ↓ 真の復讐成就 ⇒ 物語End ・・・とか、想像は膨らむ
533 :
『』 :2010/05/23(日) 00:58:34 ID:yJrng41/0
>>525 です。想像を元に、久々に書いてみました。
短いですが、ジャンはそもそも寡黙な人物ということで・・・ m(_ _)m
534 :
『真実』 :2010/05/23(日) 01:00:14 ID:yJrng41/0
復讐を成し遂げたあと、自分が何をしていくのかなど考えたこともなかった。 俺の考えを支配していたのは、ただただ復讐を果たすことのみだった。 そう、すべては終わったはずだった。 公社などどうでもいい。 “道具”も、もう必要がなくなったはずだった。 偶然にも“真実”を知ってしまうまでは・・・・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ソフィアの、そして家族の敵を討つため、俺は公社へやってきた。 だが、パダーニャの画策したあの事件を、 公社を設立するために政府が便乗して、情報まで流していたとは。 復讐を果たすために自分が身を置いた組織こそが、その復讐の真の要因だったとは・・・ 俺はとんだ哀れな道化師だ。神よ嗤うがいい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「リコ、標的が来た。これが最後の仕事だ。絶対にしくじるな」 「はい、ジャンさん、分かりました」 <<FIN>>
短いがGJ シビアで悲しいが、いいな。
>>522 自分も立花隆の人工義肢を取材している番組を見る機会があったんだけど
あの分じゃそのうちハガレンの機械鎧や義体の技術は実現できそうという気がした。
で、エンリカの幻影は兄弟のとがめる心なのかなとも思う。
エッタをエンリカの代わりとして選んだジョゼさんは、復讐は望んではいても、
それから「逃げたい」っていうのもあるんじゃないか。
だからこそああいう形でエンリカが現れたんじゃないかとも思う。
>リコの抱き枕、ジャンの指輪
ぜひとも読んでみたい。
>>527 フェッロはいい女だよね。
ジャンジョゼ、ヒルシャーもそうだけど
鬱屈とか葛藤とか世間一般に対してありそう。
>>534 もしそうだとしたらマジであり得そうで怖い。
537 :
蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2010/05/27(木) 12:09:57 ID:V+miRMlx0
トリエラSSの新作です。 1巻より前の時系列だと思ってください。 またトリエラが「ジョゼッフォさん」と呼んでいるのは、自分の担当官すら名字で呼ぶトリエラがジョゼをニックネームで呼ぶのは不自然だと思ったからです。 初期は「ジョゼッフォさん」と呼んでいたものがヘンリエッタに合わせて呼び方を変えるのが自然だと判断し、ここでは「ジョゼッフォさん」です。 タイトル:アイデンティティ トリエラは真面目で完璧主義で口下手だ。 外見は違っても、彼女のイメージは他国の人の「ドイツ人」のイメージそのものだ。 だから上手くやれると思っていたのに… 「ヒルシャーさん。 お話があります」 話しかけられて振り向くと、そこには思いつめた表情のトリエラが立っていた。 「どうした? もう検査は済んだのか?」 「はい、終わりました。 昨日寮に入ったジョゼッフォさんの義体と一緒でした」 「そうか、確かジョゼのフラテッロはヘンリエッタという名前だったな。 仲良くなれたか?」 「はい。 ただ、どうしても気になることがあるんです」 「なんだい?」 「マルコーさんとアンジェ、ジャンさんとリコ、ジョゼッフォさんとヘンリエッタ、どのフラテッロも髪や目の色が近く、容姿に相似点があります。 全く外見が違うのは私たちだけです」 「なんだ、そんなことか。 気にすることはないよ」 「そんなことはありません。 容姿が近ければ兄妹や親子、甥姪を装うことができます」
「僕の偽造IDは警察官だぞ? 妹や娘を連れて捜査していたらそれはそれでおかしい」 「でしたら、身長を伸ばし肌の色を白人のものにすべきです。 この体格では警察官を偽装するのは難しいですし、この国では有色人種の警察官を私はまだ見たことがありません」 「いいかい。 肌の色や目の色はその人のアイデンティティなんだ。 そんな簡単に変えるべきものじゃない」 「私のアイデンティティは社会福祉公社です」 「違う!」 「産まれた家も、親族の顔も、信じていた宗教も、全て忘れて私は今ここにいます。 私の居場所はもうここしかありません」 「だからこそ、君は自分の体がアイデンティティなんだ」 「機械の体がですか?」 「人工物ではあっても君のDNAが含まれている。 君がなにものかを示す肌の色や髪の色の情報がある。 僕は君にそれを大切にしてほしいんだ」 「私にはわかりません。 けれどヒルシャーさんがこの容姿でいろとおっしゃるのなら従います」 トリエラは賢い。 だからこそ自分の置かれている状況が普通でないことがわかってしまう。 僕は条件付けで縛る気はないけれど、もし条件付けで彼女を縛ろうとしたらどれだけの薬が要るのだろう。 僕は願う。 いつかトリエラが自分のアイデンティティを見つけ出せることを。
あげてしまいました。 すみません。 隣人の愛、フェッロさんの過去を掘り下げると深いですね。 真実、ありそうで怖いです。 本誌を読んで途方にくれましたが、とりあえず時を進めずSSを書きすすめようと思います。
任務の上では“某少佐”のように目立たない姿の義体のほうが有利だろうけど、 いかにもヒルシャーらしい真面目さが出てるね。GJ
おお、しばらく来なかったら新作が続々と。
>『真実』
ありそうで怖い。(しかも暗殺失敗しそうで怖い…)
幸せな終わりは無理でも、本人が納得できる終わりであって欲しいとは思うんだが、
ジャンさんって志半ばで壮烈な殉職(?)をしそうなイメージが……。
>アイデンティティ
さすが、心理系の知識がある方はテーマへの切り込み方が鋭いですね。
蘇芳氏の作品はシビアだから覚悟を決めてからでないと読めないw(褒め言葉ですw)
>>536 >ハガレンの機械鎧
たしかに、あれはそう遠くない内に実現化しそうすね。技術の進歩はちょっと怖いくらいだからなあ。
虫垂炎の手術でもベーベー泣いてた自分は電極を身体に埋め込むとか考えただけでもう怖いんだけど、
心臓ペースメーカーとかあんまり珍しくないしね。必要とされてる技術なんだけど。でもやっぱり漠然と怖い。
>エンリカの幻影
12巻読んだ当初はかなりショッキングな描写と感じた記憶が。(まだ尾を引いてるけど)
もっとも、自分の意思で公社に入ったジャンと違って、ジョゼは巻き込まれた観が無きにしもあらずだし。
「守ってやれなかった」ジャンと、「いなければ良いと思った」ジョゼでは後悔の種類が違うのも道理かもしれないね。
……ああ、だからジョゼはマルコーを責めないのか。
>>541 >「守ってやれなかった」ジャンと、「いなければ良いと思った」ジョゼ 訂正。
守ろうと思っていたのに死なせてしまったジャンと、いなければ良いと思っていたら死なれてしまったジョゼ、
かな。でも兄弟とか家族の用事で自分の楽しみを後回しにしなければならなかったりすると、ごく普通に
「こいつがいなけりゃ」と思うわな。ジョゼさんも気の毒な人だと思う。でもエッタも哀れだ……。
>ヒルシャーの偽の身分が警官だとすると娘や妹を連れ歩くのはおかしい それは自分も疑問に思ってました。トリエラの偽の身元ってどうなってるんだろうね。 むしろ捜査協力をしてもらっている民間人って方が自然な気がする。 ホテルの人間が不審な顔をしたら警官ID見せて「実は…」って説明すれば、 まあ納得してもらえるんじゃないかなあ? チュニジアは確か元フランス領だったと思うので、 宿帳に『トリエラ・ベロー』とか書いてあったらいいなあとか妄想してみる。
544 :
『』 :2010/06/05(土) 22:52:33 ID:dMorVJro0
>>541 さんのアイディアをいただいて、若干のバージョンアップを・・・
復讐を成し遂げたあと、自分が何をしていくのかなど考えたこともなかった。 俺の考えを支配していたのは、ただただ復讐を果たすことのみだった。 そう、すべては終わったはずだった。 公社などどうでもいい。 “道具”も、もう必要がなくなったはずだった。 偶然にも“真実”を知ってしまうまでは・・・・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ソフィアの、そして家族の敵を討つため、俺は公社へやってきた。 だが、パダーニャの画策したあの事件を、 公社を設立するために政府が利用して、情報まで流していたとは。 すべての絵を描いていたのが政府のトップ、公社を設立した張本人、首相だった。 復讐を果たすために自分が身を置いた組織こそが、その復讐の真の要因だったとは・・・ 俺はとんだ哀れな道化師だ。神よ、愚かなこの俺を嗤いたければ嗤うがいい。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 本来ならば、この行動−真の復讐−にジョゼも伴わせてやるべきだっただろう。 だが今は奴は病院のベッドの上だ。 ジョゼは壊れてしまった。・・・ヘンリエッタが寿命を迎えたのと同時に。 そこまでヘンリエッタにエンリカを重ねていたのか・・・・・・ だが、真実を知らないままでいるジョゼのほうが幸せなのかもしれない。 ・・・もしかしたら。 「リコ、標的が現れた。これが最後の仕事だ。絶対にしくじるな」 「はい、ジャンさん、分かりました」 『ダンッ!』 「・・・ッ!!」 「すみませんっ、ジャンさん!」 「二発目は無理だ。すぐにここを撤収するぞ!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ・・・・・・ なんたる不運。階段を降りた我々の目の前に見慣れた二人組が。 「ジャンさん、どうしてあなたがここに!?」 「かまわん、リコ、撃て!」 だが上着の下のホルスターからCzを抜こうとしたリコよりも、 最も優秀な義体である彼女がウィンチェスターを向けるほうが反応が速く・・・ 『ドカッ!』 吹き飛ばされながら薄れゆく意識の中で、 さらに我々に向けられた二発目、三発目の銃声が、微かな、最期の記憶となった・・・ <<FIN>>
548 :
541 :2010/06/05(土) 23:41:45 ID:qaHgaiu00
自分で言っといてなんだけど・・・ジャンさ〜ん……TT トリエラ、容赦ないなw ヒルシャーはトリエラを生き延びさせるためなら味方の犠牲もやむなし、の方向に行きそうな気配があるけど (すでに11巻でトリエラを階下に突入(避難)させようとした=ビーチェをミサイル真下の捜索に回させた訳だし) トリエラは相変わらず仲間を庇ったりしてるから、仲間に銃を向けるのは一瞬ためらいそうな気もした。 でもヒルシャーを狙われてたら容赦しないかもね・・・。
保管サポーターです。 新作がいっぱい来てるのに、保管作業が滞っていてすみません。 ちょっと今いろいろと余裕がないので、7月まで無理かも〜〜。 できれば自分もあんまり作業を溜め込みたくないんですが。 …などと言いつつpink板にほのぼの鳥昼バカップル話を投下してきました。 よろしければ覗いてみてやってくださいませ。
550 :
『』 :2010/06/06(日) 00:46:12 ID:NYWuzspu0
レス、どもです m(_ _)m トリエラは、自分たち、というよりヒルシャーを撃てとジャンが躊躇なくリコに命令した瞬間に、 たとえ仲間であってもためらいなく反応するだろうなと思ったわけです。 あるいは更に、復讐のためジャンたちが姿をくらませていて、不審に思っていてそもそも警戒していたとか。 エロパロのほう、エロ過ぎず微妙な二人の関係がイイですねw
【】です。[ 隣人の愛 ]、pink板とレスありがとうございましたw
>>550 あ、ジャンに声をかけたのはヒルシャーでしたか。
やっぱりヒルシャーを狙われたら容赦無しなんだね・・・。
>>550 仰るとおりかと。
訓練されていれば、仲間とか、そういう事以前に敵意を、銃を向けられた時点で
身体が反応すると思います。予備知識(逃亡中)とか有れば尚更。
そこから先は、指が機械になります。
相手が止まるまで引き金を引いて、弾が切れたら(切れなくても)
装填/マガジンチェンジしてフルロードにして、周囲を警戒して他に居ない事を
確認した時点でようやく元に戻り…後はヒルシャー頑張れ。
【その名を継ぐ者】 「ヴィクトル、出かけるの?」 ダブルのスーツを身に着けた男に、キッチンから声がかけられた。 「ああ、彼女に会いにね」 そう、とだけ返事をしそれ以上何も聞かないでくれる配偶者の気遣いに感謝しながら、 今日はあの子を連れて行くよ、と告げる。 「ヴィクトリア、おいで」 リビングに向けて呼びかければ、はあい、とくまのぬいぐるみを抱えた幼い少女が 父親と同じ暗褐色の髪を揺らしながら男の元へ駆け寄る。 「ファタ(おとうさん)、おでかけ?」 「ああ。今日はローマに行こう」 五共和国派との戦いが終息し、社会福祉公社は対テロ組織としてのその役目を終えた。 組織の解体はその始まりと同じように秘密裏に進められ、カモフラージュであった障害者への 支援事業だけが社会福祉公社の業務として残された。 子供を使った政府の暗殺組織の噂は都市伝説のひとつとして酒場の冗談にまぎれ、 いずれは忘れ去られていくだろう。 「あ、ヒルシャーさんっ。お久しぶりです〜」 「やあ、プリシッラ」 数年前まで男の同僚であったその女性は、その後児童福祉のための資格を取り、 同じ建物の中でかつてとは全く異なる仕事に就いている。もっとも彼女の適性は、本来 今の仕事の方にこそ向いていたのだろう。花束を持った男の足元にちょこんと佇む 幼い少女の姿を見つけると、早速持ち前の明るさを発揮する。
「おおお?見たことのないお姫様がいるよ?いや〜ん、可愛いっ!ひょっとして ヒルシャーさんの娘さんですかあ?」 「ああ。ヴィクトリアだ」 お父さんのお名前をもらったんだ〜、いいねえ。しゃがみこんで子供と目線を合わせ 屈託なく話しかける女性に、男はふっと寂しげな微笑を浮かべた。 「プリシッラに御挨拶をしなさい――“ トリア ”」 一瞬、プリシッラが小さく目を見開く。 はじめまして。おあいできてうれしいです。やや舌足らずな口調で生真面目な挨拶をする 少女に、女性は複雑な思いを抱きながらも、やさしく微笑んだ。 「……トリアちゃんかぁ。はじめまして、愛の堕天使・プリシッラです」 女性の微笑みにつられて、少女もはにかみながらもニカッと少年のような笑顔を見せる。 少女の柔らかな髪を撫でながらプリシッラは男を見上げた。 「ヒルシャーさん…『彼女』に会いに来たんでしょう? 私、今ちょうど休憩時間ですから 戻ってくるまでトリアちゃんと遊んでましょうか」 「ありがとう。だが遠慮するよ。―――今日はこの子を彼女に会わせに来たんだ」 「そうですか……」 男の言葉に、プリシッラは少女の頭をもう一度撫でると「それじゃあまたね」と立ち上がった。 またね、と手を振る幼い娘に、男は長身を軽くかがめるようにして手をつなぐ。
かつて毎日のように歩いた公社の敷地を、あの頃よりもゆっくりとした歩調で男は進んでゆく。 初めて見る景色に興味津々で見回しながら幼子もそれについてゆく。 やがて男は公社の外れにあるちいさな建造物にたどり着いた。 その建造物は様々な用途を経てきたこの建物の始まりが、修道院であったことを示していた。 父親に手を引かれはしゃいでいた少女も厳粛な雰囲気に気付いたのか、心なしか緊張した 様子で父親にたずねる。 「ファタ…ここ、なあに」 「―――お墓だよ」 「…おはか?」 男は幼子に花束を持たせるとその体を抱き上げ、納骨堂の扉を開けた。 少女が父親の言葉の意味を理解するにはまだ幼すぎたが、それでも生者の喧騒から 切り離されたその空気を感じ取ったのだろう。花束をしっかりと胸に抱え、神妙な表情で おとなしく父親の腕の中に納まっている。 天井まで続くような高さの死者のチェストには彼らの安らぎを願って美しい彫刻が施されて いる。男はその中のひとつに手を触れ、ささやくように言った。 「――ここに、お前のお姉さんが眠っているんだよ」 おねえさん?父親の言葉に首をかしげ、幼い少女は共同墓地に掲げられた数多くの プレートのひとつを見上げる。 簡素なプレートには、生年は不明のまま没年と名前だけが刻まれていた。 「おまえの名前は父さんと……お姉さんから、もらったんだ」 かつて常に傍らにあった少女の姿を男は想う。 トリエラ。君の名前を受け継いだこの子は、幸せに見えるかい? 短すぎた彼女との時間の中で、自分はとても良き父親にはなれなかった。 けれど彼女と築いてきたことを、彼女と築けなかったことを、自分はこの子に伝えたいと思っている。 最後まで懸命に生きた彼女が自分に残してくれたものを、決して無駄にしないように。
トリア、お姉さんにお花をあげよう。促されて床に下ろされた少女は、大事に抱えていた花束を そっとチェストの前に置いた。膝を着き、両手を組んで頭をたれる父親の姿を真似て、ちいさな手を組む。 やがて立ち上がったふたつの人影はまた手をつなぎ、死者の眠る部屋を後にした。 去り際男はもう一度振り返り、一言、声に出さずに呟いた。 おやすみトリエラ、私の娘、と。 << Das Ende >>
558 :
『』 :2010/06/30(水) 13:33:19 ID:seA2Lw0E0
本スレのほうで今月号の内容を見てちょっとショックでした。 そこで、ダークサイドに堕ちてしまったトリエラ話を・・・。
559 :
『闇』 :2010/06/30(水) 13:34:32 ID:seA2Lw0E0
何気ないフリをして私は訊く。 「ヒルシャーさん、この休みはナポリへ行ってきたんですよね?」 「ん?、ああ、そうだよ」 (・・・・・・) 「・・・あの検事さんにも会ってきたんですか?」 「ロベルタのことかい?、君にもよろしくって言ってたよ」 (・・・・・・) 「ああ、彼女、再来週に出張でローマへ来るそうなんだ。 君も食事に一緒にどうかって言ってたよ」 「私は・・・・・・」 彼への返事が言葉にならない。
560 :
『闇』 :2010/06/30(水) 13:35:52 ID:seA2Lw0E0
彼は私ことをとても大切にしてくれている。 彼にとっては私が何にも代え難いものだ。それはマリオ・ボッシから聞いた話でも分かる。 彼にとって私は「大切な娘」・・・ってのは、ヒルシャーさんに失礼かナ、 私は「大切な妹」なのだろう。 だから検事さんとのことも、特に私に隠すでもない。 けれども私にとって彼は「兄」ではない。 私にとっては・・・・・・。 でも義体の私に何が出来るわけでもない。 私は彼の足かせになっているだけだ。その事実は彼が何と言ってくれようと変わらない。 彼に安らぐことが出来る場所が出来たことは、私にとっても嬉しいこと。 そう思ってるはずなのに・・・。 はずなのに・・・。 ・・・心の奥底で何か嫌な感じのものが蠢き始めているのを私は感じてしまった。 底の見えない真っ暗な深い淵を覗いた気がした・・・。
561 :
『闇』 :2010/06/30(水) 13:36:59 ID:seA2Lw0E0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <二週間後> 私はにっこり微笑む。 「こんばんは、グエルフィ検事」 違う、お願い、誰か私を止めて。 「トリエラさん、こんばんは。あら?、ヴィクトルは?」 (・・・・・・) この人はなぜだか分からないけど私にも大切に思える人。 こんなことはしてはいけない、したくない。 逃げて、検事さん! そんな私の心を、あっという間に漆黒の闇、もう一つの私の心が覆い尽くしていく。 「えっ!?」 何を見たのか咄嗟に分からないような表情が彼女の顔に浮かび、小さな声を上げる。。 バシュッ、バシュッ 後ろも振り返らず、私はその場を駆け出す。必死に走る。 走りながら、涙が瞳からこぼれ落ち頬を伝う。 私は一体何をしているんだ、何てことをしてしまったんだ。 取り返しのつかないことを・・・。
562 :
『闇』 :2010/06/30(水) 13:38:36 ID:seA2Lw0E0
彼の元にたどり着いた。微笑む彼。 「どこへ行ってたんだ、トリエラ。走ったのか?」 罪悪感にさいなまれているはずなのに私も微笑みを浮かべてしまう。 本当の私の心は違うはずなのに。 ・・・違う?、本当にそう? 「いえ、ヒルシャーさん、何でもないです。すみません」 まだ何も知らない彼。 彼は私の彼への想いも気づいていないのだろうか?・・・ 待ち合わせの場所へ向かう私たち。 しばらく待つものの、彼女は現れない。当然だ。 電話をしてみる彼。しかし繋がらない。 心配になりあたりを探し始める彼。私もそれに続く。 そして・・・、ついに、警察や救急車が集まり、 亡骸となった彼女が運び出されようとしている現場にたどり着いた。 彼の表情が固まる。しかし公社の一員という立場上、進み出るわけにも行かない。 彼が、悲しみと憎しみが入り交じった表情に変わっていくのを見上げる私。
563 :
『闇』 :2010/06/30(水) 13:40:27 ID:seA2Lw0E0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ニュースによれば、警察は五共和国派による犯行の線で捜査を開始したらしい。 彼もまた復讐に取り憑かれた人間となってしまうのだろうか・・・。 だがやがては真相が明らかになるだろう。たとえそれが公表されることはなくとも。 真実を、私が行ってしまった過ちを知ったとき、彼は私をどうするのか。 私には彼しかいない、彼がすべてだ。 たとえ私が邪悪な心であろうとも、あなたは私だけのものでいて欲しい。 私は地獄に堕ちてもいい。 ヒルシャーさん・・・。
>>553-556 遅ればせながらGJです。そういう穏やかな日々が来るといいですね。
ヒルシャー夫人は、やはり、私が殺してしまった(汗)ロベルタでしょうか?
あ゛っ、最後に<<FIN>>付け忘れたし、抜け字もあった...orz
乙です。そういえばこんなのもあったね。
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#77 より転載
411 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2010/02/24(水) 23:24:46 ID:3a0IjTUN0
>>410 まさかのトリエラダークサイド
結婚式当日ウエディングドレスを着て鏡の前で最後の身だしなみ中のグエルフィ検事の前に
黒い服に身を包んだトリエラが現れた。
「どうしたのトリエラさん?…それ、喪服じゃないの?」
「そうです。今日はお葬式ですから」
その顔に浮ぶのは仮面のような笑顔。
「お葬式?誰の?」
「貴女のですよ」
相田裕「GUNSLINGER GIRL」#77 より転載
413 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2010/02/24(水) 23:32:27 ID:t+sJuNbA0
>>411 トリエラ「クラエもん、爆弾をくれぇ(泣)。グエルフィさんにぶつけて、私も死ぬ!」
クラエス「まぁまぁ、落ち着けよ」
これぐらいにしてくれw
568 :
【】 :2010/07/16(金) 22:52:19 ID:njWnc0KW0
【】です。
>>553-557 転載ありがとうございましたw
そしてぬっかりと前フリの転載依頼するのをわすれてました;;;
オリキャラ&オリ設定の苦手な方は申し訳ございませんでしたm(__)m
>>564 レスありがとうございました。
本誌は読んでないんですが本スレのカキコがあまりに衝撃的だったので
つい己の衝撃緩和作業で書きなぐってしまいました。
書いた本人がありえねえと思うようなドリーム設定で申し訳ない。
ええもう現実逃避です。ちょっと夢を見たかったんです。
でも意地でも妻とか書きたくなかったので配偶者なんて言い方してみたり。
人間のココロって複雑怪奇だよね…。
気を取り直して小話投下。
ラジオかなんかで聞いた言葉が面白いなと思ったので書いてみた。
【ショットガン・ウェディング】 エッタ 「ねえトリエラ、『ショットガン・ウェディング』って何?」 トリエラ「……なんで私に聞くの」 エッタ 「え? だってトリエラはショットガンを愛用してるし、色々な事よく知ってるし」 クラエス「『ショットガン・ウェディング』というのはいわゆる“できちゃった結婚”の事よ。 女の父親が男にショットガンを突き付けて責任を取るように迫ることからそう言うの」 エッタ 「ええっ!? …そうだったんだ……」 トリエラ「(小声で:クラエス!余計なこと教えないでよ)」 エッタ 「てっきり “ボスの娘と駆け落ちして、ショットガンを乱射される中愛の逃避行” だと思ったのに……」 トリエラ「ヘ、ヘンリエッタ?」 リコ 「そうなんだー。わたしは“結婚式に乱入、ショットガンをブッぱなして略奪婚”かと思ってた」 クラエス「“煮え切らない男をショットガンで脅して強制婚” とかもありかもね」 エッタ 「あ、そういうのもステキね♪」 トリエラ「あーもー物騒な事を考えてないで早く寝なさい!」 リコッタ「「はーい」」 エレノラ「――それにしてもヘンリエッタは恐い子ですね」 フェルミ「ありゃ無意識の脅迫だな。『愛してくれなきゃあなたを撃ちます』そう言ってるようなもんだろう」 ジョゼ 「……」 << だすえんで >>
こえーw リアル・ショットガンウェディングこえーw GJ!
571 :
【】 :2010/07/22(木) 00:14:45 ID:Q/ijx8VA0
レスありがとうございますw ところでpink板でも聞いてみたんだけど、読みたいフラテッロとか キャラとかシチュエーションの需要ってどんな感じなんだろう? 需要に対して供給できないんで何なんだけど。
フラテッロでなら鳥昼かリコジャン組 義体同士なら倉鳥。
>>571 グエルフィ検事護衛任務。
武器はIWIからチョイス。
昼間、待機している車輛でジェラート舐めてるビーチェと
外環で不審な車輛を監視しているベルナルドでお願いします。
574 :
571 :2010/07/23(金) 23:42:54 ID:9K2BYjsr0
>>573 ちょw 無茶振りせんといてくださいw
でもジェラート食べるビーチェはかわいいので書いてみたい気もする。
というわけで調べてはみたんだけどその手の基礎知識が全然ないので教えてプリーズ。
その1・不審車監視で必要な装備って、拳銃携帯と楽器ケースにSMGでOK?
(もちろん銃撃シーンなんて書くつもりはない)
その2・よく分からんが汎用性があるっぽいと素人判断でジェリコ941をチョイス。
これって子供用のウェストポーチに入る?
(グロックより一回り大きいくらいのイメージでいいのかな)
その3・ウェストポーチに入れておくとしたら、位置はおなかの前?背中側?
あるいはジャンパースカートとかエプロンドレスの内側に、胸当てみたいに
ホルダーを仕込むことは可能?
(抜く時に引っかかりそうな気もするが…)
その4・不審車ってのは監視カメラでチェックして割り出した、張り込みっぽい車のことかな?
(結局陽動だったって解釈でいいんだろうか)
その5・外環って、ローマの外環道路のことですか?監視は目視で人の乗り降りが
判断できる程度の距離でOK?(1ブロック先とか通りを挟んだ反対側とか)
その6・靴紐結ぶフリしてしゃがみ立ち上がる時に車にタッチ&盗聴器を(あるいは発信機)
仕掛けるとかは可能?(磁石か強力粘着テープでもくっついてるのかあれって…)
ドアの下の方にでもくっつければ…見つかっちゃうか。
車の形容も白いワゴンだの黒いセダンだのしか思いつかない…なんて貧弱な語彙力orz
ので、ベルベア組と不審車の形容詞なり車種なりを設定していただけると助かりますです。
そーゆーのに詳しい人間が今忙しくて相手してくれないので、どこから調べたらいいのかも
見当つかないんだよう。
で。鳥昼組かジャンリコ組、倉鳥、リコッタのほのぼの日常風景とか小さな幸せ話が読みたい。
よろしくw
>>571 え〜っ、それでは「キアーラ×名無しの担当官」のフラテッロでw
576 :
573 :2010/07/25(日) 13:52:51 ID:fjHL1wbq0
577 :
571 :2010/07/25(日) 23:33:17 ID:vbf9aHyG0
>>756 ひいいいいいいいい
自分の腕ではこんなに沢山盛り込めません指導教官殿…orz
レス&資料ありがとうございました!助かります!
ベルナルドのが941なのか。ジェリコBじゃなくてバラクって表記でいいんですね?
とりあえずおもちゃのグロックはウエストポーチに入りました。
上蓋を跳ね上げる式にした方がよさげだね。ビーチェのイメージカラー何色だろ。
そんでは頑張って何とかでっちあげてみます〜〜
>>755 そのアンカーは「>需要」ですよね?おいらに書けなんて言ってないよね??
(それは自意識過剰というものだろーに)
…と言うわけでもひとつ需要。エルザ・ラウーロ組も読んでみたいですw
どなたかよろしく〜
579 :
代理 :2010/08/15(日) 18:22:48 ID:tXdhLV590
僭越ながら代理で貼らせていただきます
580 :
【】 :2010/08/15(日) 18:23:14 ID:tXdhLV590
>>573 >グエルフィ検事護衛任務。
>武器はIWIからチョイス。
>昼間、待機している車輛でジェラート舐めてるビーチェと
>外環で不審な車輛を監視しているベルナルドでお願いします。
御報告いたします、571こと【】、任務を完了しました!
>>576 >>578 御指導ありがとうございました、大尉殿 "<(`・ω・´)
…てな訳で。できる限り盛り込んでみましたが、素人にはこれが限界でアリマスorz
やっぱもっとポリティカルアクション物とか読まないといけませんなあ。
でもこういうチャンスがなければ書きそうにない話だったので、楽しかったですw
調子に乗って他のフラテッロにも挑戦してみようかと画策中。気分は夏休みの宿題。
不出来な点は多々あろうかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
【ピュア・バニラ】 ローマ地方裁判所に程近い通り。まぶしい日差しは夏のものだが吹き抜ける風が 涼を呼ぶ。その風を正面から受けながら一人の少女がてくてくと道を歩いていた。 音楽プレイヤーのイヤホンを耳に掛け、風にひらひらと泳ぐ栗色の髪は 襟足につかない程度にまっすぐ切りそろえられている。前髪は短く、 広いおでこが子供らしい。 ヴィオラのケースを左手に下げたその少女は、出迎えの車でも探しているのか 道路わきに並ぶ縦列駐車に視線を向けて歩いていたが、ふと足を止めて 楽器ケースを歩道に下ろしてしゃがみこむ。編み上げ靴の紐が緩んだようだ。 可憐なワンピース姿にはやや不似合いのしっかりとした編み上げ靴は、男兄弟の お下がりだろう。おなかの前にある丈夫そうな緑のウェストポーチが邪魔にならないように 片膝を立て、小柄な身体に似合いの指が力加減を試すように慎重に靴紐を引っ張る。 靴紐を直した少女は何気なく傍らに止まっていた車の後部バンパーに手をつき、 それを支点にして立ち上がった。少女の体重がかかり、車のサスペンションがしなる。 ――と、勢いよく車のドアが開いた。 「何してやがるテメェ!?」 麻のジャケットにサングラスの厳つい男に怒鳴りつけられ、一瞬パニックに陥ったのか 少女の表情は固まっている。
「何だあ?このガキ」 近付いてくる男に、財布が入っているらしいウェストポーチを押さえた少女は軽く後ずさった。 運転席からもう一人が声をかける。 「おい、騒ぎを起こすな」 「……すみません。立とうとして車に触って――」 「ああ?」 目の前に立ち居丈高に聞き返した男の声に少女の言葉は途切れ、顔を上げないまま すんすんと鼻を鳴らし始める。 「―――ち、泣き出しやがった」 「騒ぎを起こすなと言ってるだろう!――悪かったな嬢ちゃん、コイツ車に傷が付くと キレんだよ。ほら、いいからさっさと帰んな」 小さな声ではい、と答えた少女は歩道に置いていた楽器ケースを手に取り、小走りに 車の側から立ち去った。小柄な子供の姿は通行人にまぎれてすぐに見えなくなる。 先ほどの車輌から1ブロックほど後方まで戻ると、迎えの車を見つけたらしい。 少女が近付いたありふれたワゴン車には片耳にイヤホンをかけた人影がある。車内の 人物は少女の姿を認めると助手席の窓を開けた。少女は特段嬉しそうな顔もせず、 男を見上げると口を開いた。 「ベルナルドさん、確認しました」 「おう。ご苦労さん、ビーチェ」
「車輌のナンバーは監視カメラで推定されたものと同じです。爆薬の臭いは取れません でした。車から降りてきた男はジャケットの中にガンホルダーを吊っていました。銃種は 不明です」 嗅覚を強化された少女は表情を変えないまま淡々と報告する。 「そっか。まあ、いかにも陽動くせえあからさまな監視をしてる連中だ。端から物証は期待 してなかったさ。――しっかし下手な言い訳だな。あの車の汚れっぷりじゃ、小キズひとつで 100マイル先まで追っかけるタイプにゃ見えねえよ」 耳かけ式のイヤホンに偽装した集音マイクで少女と不審者のやり取りを聞いていた 担当官はそう言うと、小型の無線機を手にし待機している課員に連絡を取る。 「ベルナルドだ。車輌ナンバーは確認した。持ち主の割り出しを頼む」 『――了解』 「……さて、地元警察に問い合わせが済むまで小休止だな。ビーチェ、あそこにジェラート屋の 車があるだろ。好きなものを買ってきな」 「私には、好きなものは特にありません」 「怖いオッサンにいじめられた『妹』が泣いて帰ってきたら、甘い物のひとつも買ってやるのが 兄貴<フラテッロ>の勤めってモンなんだよ。いいから行ってこい。ああ、タボールは 置いてっていいぞ」 「はい」 少女が車の床に置いた弦楽器のケースがごとりと重そうな音を立てた。高級楽器メーカーの ロゴが入ったそのケースは、良く見なければ分からないが金具が正規のものよりも頑丈な物に 交換されている。――重量が3.6キロを越える軍用小銃を収納するにはヴィオラケースの 掛け金や蝶番はあまりにも華奢すぎるのだ。 同様に拳銃を収めたウェストポーチも内側にホルダーを仕込み、バックルは金属製のものだ。 こちらも予備弾装を含め1キロあまりだが、人工の筋骨格で補強された少女の身体の動きは その重さをまったく感じさせない。担当官から小銭を受け取ると、ひらりと身をひるがえして 10メートルほど先に停車している移動式店舗に向かって駆け出す。
男はその後姿を見ながら任務前に少女と交わした会話を思い出していた。 『―――おい、ベアトリーチェ、クローチェ事件は知ってるか?』 おしゃべりな担当官は、振り返った彼の義体が返答するのを待たずにぺらぺらと説明を 始める。もっとも同じ姓を持つ同僚との関係については言及しない。 『極右勢力撲滅の急先鋒だったクローチェ検事とその家族が、五共和国派によって 車ごと爆殺されたって事件さ。首謀者は未だに捕まっていねえんだがな』 先日、その事件関係者の裁判を担当する検事が爆弾テロによって殺害された。 今回の任務はその後任の担当検事ロベルタ・グエルフィの警護であり、ヒルシャー・トリエラ組と サンドロ・ペトラ組のフラテッロはそれぞれの義体が変装し、SPとして直接対象を警護する 手はずになっている。 『……で、化け様のないお子様組は外環の監視だ。まだ暑いってのに外回りに当たっちまう とはツイてねえな、ビーチェ』 大げさに肩をすくめてにやりと笑う担当官に、少女は無表情のまま少し首をかしげる。 『装備はハンドガンとSMGでいいですか』 『ああ、マイクロウージーは市街戦にゃ向かないからな。タボール21あたりがいいだろ。 俺はネゲフを持ってくからよ。まあそんなもん使わないで済めばそれに越した事ぁねえがな』 ―――今日のところはネストを確認して終りかね。銃火器持ってのピクニックにしちゃあ 平和な日だな。 不審車輌に向けた無線・携帯電話の電波を傍受するため盗聴器は、ベアトリーチェが 不審者と接触した後も沈黙を保っている。 『子供を暗殺要員に使う政府組織』の存在はテロリストの間に確証のない噂として まことしやかにささやかれている。それは潜入捜査にあたっている公安部員からの報告でも 上がっていることだ。それでいて何の動きもないというのは噂も知らない素人なのか、 陽動ゆえの警戒心の薄さか、それとも盗聴を警戒しての対応か。どちらにしても 監視を始めたばかりの今の時点ではまだ判断をつけるべきではない。
コツコツと窓を叩く音に男が振り返れば栗色のおかっぱ髪が目に入る。 「ベルナルドさん、戻りました」 少女は不審車輌の確認を報告した時と変わらぬ口調で言う。助手席の扉を開け 小銭の残りを受け取りながら、男は少女の手にしたやわらかいイタリア風アイスクリームに 軽く眉を上げる。 「なんだ、バニラなんかで良かったのかよ。他にも色々種類があっただろうが」 「これが一番単純な匂いだったんです」 「…そっか」 嗅覚を強化された彼女にとって、それぞれの味をよりはっきりと主張させるための香料は 邪魔なものでしかない。義体の能力は本人が集中しなければフルに発揮されることはないが、 それでも普通の人間よりは敏感だ。 あの移動店舗はバニラが “売り” のようだが、彼女が気に入ったのなら使っている香料も 天然のものなのかもしれない。だとすれば真っ白なジェラートに点々と見える細かな黒い粒は バニラビーンズなのだろう。 もっとも条件付けによって感情の起伏が抑えられているベアトリーチェには、彼女自身が 言っていたように物事に対する好悪の感情はない。“気に入った” と言うより “一番身体に 悪影響が少ないもの” という判断に基づいいて選択したにすぎない。 無論担当官であるベルナルドはその事を承知しているはずである。しかし気に留めて いないのか故意なのか、先程の『泣いて帰ってきた』――実際は泣いていたのではなく 臭いを確認していただけなのだが――にしてもそうだが、この男はしばしばそういった 言い回しを用いる。
ベルナルドは助手席で無心にジェラートを舐めている少女に話しかける。 「おいビーチェ、『王様のアイスクリーム』って話知ってるか」 「いいえ」 「昔々、まだジェラートがなかった頃に、冷やした生クリームがお気に入りの王様がいてな。 ところがある夏の盛り、井戸水がぬるまっちまって生クリームが冷やせねえ。 王様お楽しみのドルチェが間に合わなかったら大事だ。そこでコックの娘が 氷の上で牛乳缶を転がして冷やしたら、これが偶然固まった。 そいつがアイスクリームの始まりって訳だ」 もちろん砂糖や卵も入れるだろうが、要は攪拌しながら冷やすってのが肝だな。 無口な少女が返答するのはいつも大抵質問か命令に対してのみで、今も担当官の おしゃべりには相槌も打たないが、男は身振り手振りをつけながらぺらぺらと話し続ける。 「今度寮で作ってみろよ。―――そしたら、余計な匂いのしねぇ美味いジェラートが食えるぜ」 そう話を締めくくった担当官に、少女ははい、と答えた。 返事をしたって事は今のは命令だと受け取ったのかね。半眼を閉じた少女が まるで科学の実験か何かのように軽量カップで生クリームの量を確認する姿を想像して、 ベルナルドは陽気な笑い声を上げた。少女は担当官が笑っている理由が分からず、 ジェラートを舐めながら不思議そうにその様子を見ている。 ベアトリーチェには好悪の感情はない。それでも手にしたジェラートはすでに3分の2が 姿を消している。 ―――これで嫌いってこともないだろうよ。 「無事に戻れりゃ、帰る途中で料理の本とバニラビーンズでも買ってやるよ」 陽気な男の言葉にベアトリーチェはありがとうございますと答える。 少女の白い歯がまた甘い香りのするジェラートにかぶりつき、男の耳にコーンが砕ける パリッという音が小気味よく響いた。 << Das Ende >>
しまったああああ
↓が
>>580 の次、最初のセンテンスになります。【】氏、ごめんなさい…orz
【ピュア・バニラ】 ローマ地方裁判所に程近い通り。まぶしい日差しは夏のものだが吹き抜ける風が 涼を呼ぶ。その風を正面から受けながら一人の少女がてくてくと道を歩いていた。 音楽プレイヤーのイヤホンを耳に掛け、風にひらひらと泳ぐ栗色の髪は 襟足につかない程度にまっすぐ切りそろえられている。前髪は短く、 広いおでこが子供らしい。 ヴィオラのケースを左手に下げたその少女は、出迎えの車でも探しているのか 道路わきに並ぶ縦列駐車に視線を向けて歩いていたが、ふと足を止めて 楽器ケースを歩道に下ろしてしゃがみこむ。編み上げ靴の紐が緩んだようだ。 可憐なワンピース姿にはやや不似合いのしっかりとした編み上げ靴は、男兄弟の お下がりだろう。おなかの前にある丈夫そうな緑のウェストポーチが邪魔にならないように 片膝を立て、小柄な身体に似合いの指が力加減を試すように慎重に靴紐を引っ張る。 靴紐を直した少女は何気なく傍らに止まっていた車の後部バンパーに手をつき、 それを支点にして立ち上がった。少女の体重がかかり、車のサスペンションがしなる。 ――と、勢いよく車のドアが開いた。 「何してやがるテメェ!?」 麻のジャケットにサングラスの厳つい男に怒鳴りつけられ、一瞬パニックに陥ったのか 少女の表情は固まっている。
【ピュア・バニラ】 ローマ地方裁判所に程近い通り。まぶしい日差しは夏のものだが吹き抜ける風が 涼を呼ぶ。その風を正面から受けながら一人の少女がてくてくと道を歩いていた。 音楽プレイヤーのイヤホンを耳に掛け、風にひらひらと泳ぐ栗色の髪は 襟足につかない程度にまっすぐ切りそろえられている。前髪は短く、 広いおでこが子供らしい。 ヴィオラのケースを左手に下げたその少女は、出迎えの車でも探しているのか 道路わきに並ぶ縦列駐車に視線を向けて歩いていたが、ふと足を止めて 楽器ケースを歩道に下ろしてしゃがみこむ。編み上げ靴の紐が緩んだようだ。 可憐なワンピース姿にはやや不似合いのしっかりとした編み上げ靴は、男兄弟の お下がりだろう。おなかの前にある丈夫そうな緑のウェストポーチが邪魔にならないように 片膝を立て、小柄な身体に似合いの指が力加減を試すように慎重に靴紐を引っ張る。 靴紐を直した少女は何気なく傍らに止まっていた車の後部バンパーに手をつき、 それを支点にして立ち上がった。少女の体重がかかり、車のサスペンションがしなる。 ――と、勢いよく車のドアが開いた。 「何してやがるテメェ!?」 麻のジャケットにサングラスの厳つい男に怒鳴りつけられ、一瞬パニックに陥ったのか 少女の表情は固まっている。
ブラウザのほうで見たらちゃんと投稿されてた… お騒がせしてすみませんorz
31.【】 - 10/08/27 01:50:40 - ID:tivX4/xNCg
>>579 氏、転載ありがとうございました!
>>575 >え〜っ、それでは「キアーラ×名無しの担当官」のフラテッロでw
ご指名をいただいたわけじゃないけど、せっかくなので作戦前のシーンで書いてみた。
担当官は名無しのまま、フケ顔だったので年齢差は親子で。
ごめんなさい、明るい話にはなりませんでしたorz
以下、校了後の言い訳あれこれ。
聖女キアーラ(クララ)の遺骨が納められているのはアッシジですが、
アッシジの守護聖人は聖女キアーラの師である聖フランチェスコのようです。
ただ、イタリアは町ごとに守護聖人がいるそうなので聖女キアーラを祀っている町も
あるのではないかと。(これについては調べたのですが裏付けが取れませんでした。
御存知の方がいらっしゃったらぜひ教えてください〜)
ちなみに自分は除夜の鐘とか神社の鈴の音にほっとする八百万の神様信奉者です。
こんな奴が欧州の一神教文化をネタに話を書いていーんだろーか。
タイトルは伊語じゃないけど「鐘」ってことで超絶技巧練習曲「ラ・カンパネラ」から。
そういや関係ないけどカンパニュラって釣鐘草とか釣鐘花って意味の名前なんだね。
【 ラ・カンパネラ -鐘- 】 その少女に『キアーラ』と名付けたのに大した意味はなかった。 女の名を考えろと言われて最初に思いついたその名を登録したに過ぎない。 聖女キアーラ。男の出身地の守護聖人の名だ。 カンパニリスモ――地元の鐘楼に忠実であること――は、国家よりも 出身の地域性・家族性に重きを置くイタリア人の根底に流れる思想である。 彼女は、その地域性を偏重し国家からの独立を果たそうとするテロリストらを 掃討するための暗殺要員なのだから、思えばずいぶんと皮肉な名をつけたものだ。 彼女と出会ったのは3年ほど前になる。 記憶を封じ洗脳を施し、身体の8割を機械に置き換えられた彼女ら『義体』は、 無論のこと非合法な存在だ。強力な戦闘能力を有し、だが外見は愛らしい子供である。 『担当官』と呼ばれる直属の上司兼教育係の命令に対して絶対服従。死の危険さえ省みない。 暗殺要員としては申し分ない。 だがその優秀な機能には代償が要求された。義体化手術、条件付けと呼ばれる洗脳には、 どちらも多量の薬物が必要とされ、それは確実に子供らの脳に悪影響を及ぼす。 機械の身体はいくら損傷を受けても修復が可能だが、脳の機能低下には打つ手がない。 次第に記憶障害を起こすようになり、ついには脳死――すなわち寿命を迎える。
. その冬、一人の義体が寿命を迎えた。 最も初期に義体化された少女ではあったが、『一期生』と呼ばれる方式で手術、洗脳を 受けていることは、キアーラもその少女と同様であった。 それ故、記憶障害が現れ始めた彼女がその作戦で捨て駒として配置されるのも 当然の成り行きであったのだ。 ヴェネツィアの大鐘楼に立て籠もったのは伝説のテロリスト。いかなる犠牲を払ってでも 仕留めねばならない相手だった。水没しつつある水の都、ヴェネツィア。鐘楼へのルートは ただひとつ、遮蔽物のない浮き橋だけだ。だがそこを攻める部隊は陽動であり、 別働の義体が鐘楼の壁を登攀、突入し、テロリストの殲滅を謀る。 陽動は敵の目を惹きつけることが目的であり、必然、敵の猛攻にさらされることとなる。 軍の特殊部隊と共に陽動に配置される義体は2名。その内の一人にキアーラが選ばれた。 男は上司の元に呼び出され、作戦の趣旨と危険性について説明を受けた。 戦闘能力に秀で生身の特殊部隊員よりも頑丈な義体は、当然陽動部隊の先頭を務める。 ―――最悪の場合は殉職の可能性も高いが、承知して欲しい。 組織に所属する者として、男にその命令に異を唱える必然性はなかった。
. 「―――さん」 黒髪の少女が振り返り、男をまっすぐに見上げる。 少女が呼ぶ名前は男の名ではない。 男の本来の名前は別にあり、それは彼女に呼ばせるために名乗る偽りの名だ。 義体は『仕事』のための道具。そう割り切るため、距離を置くために採った手法だ。 少女に対して語る言葉は、全て自分ではない『担当官』という男が話している言葉。 その言葉によって彼女がどうなろうが、自分が良心の呵責など感じる必要はない 。 今までがそうであったように、男は少女に作戦内容を淡々と説明し装備の指示をする。 条件付けによって恐怖心を取り払われた少女は、いつものように従順に命令に従う。 これが最後の会話になるとしても、だからといって特別な言葉をかけてやるつもりは なかった。 銃火器を手にした少女がふと視線を上げる。 「―――鐘の音が聞けたら良かった」 ヴェネツィアの象徴である大鐘楼を見やり、言う。 「教会の鐘の音を聞くとほっとするって、―――さん、おっしゃってましたよね」 無邪気な言葉に男は虚を突かれた。 「覚えていたのか…そんなことを……」 それは確かに男が口にしたことのある言葉だった。 生まれ故郷にほど近い街で、仕事を終え、遠く聞こえた鐘の音にふと郷愁を覚えた。 あの町を離れることなく生きていたならば。地味だが堅実な職に就き、妻を得て、 ――もしかしたら、この少女くらいの娘がいたかもしれない。 そんな思いにとらわれたのは後にも先にもその一度きりだった。 ただあの時自分は、確かにこの少女に対して『担当官』としてではない 何がしかの感情を持ったのだ。
男は石造りの床に膝を着いた。少女の目線の高さで彼女の顔を見る。 出会ってから3年、そんな視点で彼女の顔を見たことはなかった。 少年のように短い髪。従順な瞳。 男の故郷を守護する聖女に使える尼僧たちは、男性と同様に髪を切り、 清貧、貞節、従順を誓い、修道院という囲い地の中で一生を終える。 彼女の髪は自分の命令で切らせた。彼女の従順さは条件付けで強いた。 彼女の一生は公社という囲い地に閉じ込められたまま終わるだろう。 それはどこか運命付けられた皮肉な類似性に思える一方で、男の思考は それをただの感傷によるこじつけだとも判断していた。――だが。 「気をつけて行ってこい。――おまえに聖女の御加護があるように」 男の口をついて出たのはそんな言葉だった。 男の言葉に少女は目を見はると、嬉しそうに「はい」と返事をした。 << Das Ende >>
596 :
575 :2010/09/01(水) 22:45:55 ID:IZ2aYLLx0
>>592-595 おぉ、リクエストに応えていただいてありがとうございます。
やっぱり哀しい話になっちゃいますよねぇ。
キアーラ、それなりの役回りで再登場するかなあ。
597 :
代理 :2010/09/03(金) 22:40:45 ID:Jx3O+jT+0
38.【】 - 10/09/03 01:29:22 - ID:tivX4/xNCg
(アクセス規制中につき、以下転載をお願いいたします)
>>596 レスありがとうございますw
悲しい話で申し訳ない。(これでもこの前に書いたもうひとつの話よりはまだ大人しめなんですが)
9巻以降の設定で明るい話は自分には難しいです。嗚呼ほのぼの話が書きたい読みたい。
もうじき最終戦のようですが、キアーラのエピソードもあるといいですね。
600 :
【】 :2010/09/25(土) 21:47:42 ID:QTmW7HUv0
なんかもう色々と諦めがついたので、開き直って
書きやすい1〜5巻と好きな一期アニメの画像イメージで
原作から離れて気楽なSSを書いていこうと思います……。
>>572 >フラテッロでなら鳥昼かリコジャン組
>義体同士なら倉鳥。
変則ですが、倉鳥+リコッタで書いてみました。
pink板で書いたのとは違う心理テストの話です。
本編をご覧になる前にどうぞ次の質問にお答えくださいw
あなたの目の前には透明な瓶があります。その中に黄色い玉が入っています。
――さて、いくつ入っていますか?
601 :
【心象風景】 :2010/09/25(土) 21:48:37 ID:QTmW7HUv0
【心象風景】 仕事も訓練も座学もない、平和な公社の昼下がり。 リコとヘンリエッタの二人は、トリエラとクラエスの部屋へ遊びにきていた。おいしい お茶とお菓子にありつけるこの部屋だが、読書好きのクラエスはあまり干渉を好まない ので、世話好きなトリエラお姉さんがいる時でないとなかなか来られないのだ。 とは言えクラエスも仲間とのコミュニケーションを拒んでいるわけではない。今日も 二人が訪れると、お手製の甘酸っぱいラズベリーのタルトにカモミールとレモングラスの ハーブティーで北欧風のおやつを皆に振る舞っている。 二人部屋のテーブルには2脚の椅子が備え付けられていて、年少組の二人は お客さんとしてその椅子に、トリエラは2段ベッドの下段のふちに腰掛け、クラエスは 上段ベッドに寝そべって本を開く。これがいつもの定位置だ。 書庫から持ち出した本をめくっている理知的な少女に、リコが無邪気にたずねる。 「ねえクラエス、今日はなんの本を読んでるの?」 「心理テストの本よ」 「心理テストって、インクのしみが何の形に見えますか、とか?」 「そんな学術的なものじゃないわ。もっと気楽なゲームのようなものよ。でもお遊びの 割には意外と納得ができてなかなか面白いわ」 「ゲームなの?やってみたいな」 わくわくしながらベッドを見上げるリコの横で学級委員長は首をかしげている。 「心理ゲームかあ。自分の考えてることが他人に分かっちゃうって、ちょっと恐いかな」 考え込んでいるトリエラに、嫌なら別に参加しなくてもいいわよと言いながら クラエスはぱらぱらとページをめくる。やがて出題を決めたようで、中心を押さえて 本を開くと顔を上げ仲間たちに向かって口を開いた。 「それじゃあ、これから私が言うことをイメージしてみて。『あなたの目の前には 透明な瓶があります。その中に黄色い玉が入っています。――さて、 いくつ入っていますか?』」
602 :
【心象風景】 :2010/09/25(土) 21:50:01 ID:QTmW7HUv0
クラエスの言葉に年少組二人は素直に考え出す。最初に元気よく手をあげて 答えたのはリコだ。 「ちいさなビーズが2,3個入ってるよ。ガラスみたいに透けてきらきら光ってる、 きれいなのが」 続けて負けじとヘンリエッタが手をあげる。 「私は素敵なキャンディーポットに、ジョゼさんからいただいたおいしい飴玉が 50個くらい入ってるわ」 すごい、いっぱい入ってるんだねーと感心するリコの横で、結局参加している 付き合いのいいトリエラは頭を抱えている。 「なんだろう…すごく変なイメージが……大小10個くらいの黄色いボールが 合体して、くまの形になって、瓶の中で座ってる……」 ぜんぜん違うね、何でだろう。きゃいきゃいと可愛らしくはしゃぐ年少組の二人。 三者三様の答えにクラエスは本で口元を隠しながら「ふうん、なるほどね……」と 意味深に呟く。 「クラエス、あなただけ納得してないで説明してよ。なんかこの変なイメージが 頭の中に定着しそうでやだわ」 「わたしは別にいやじゃないけど、なぞなぞの答えが知りたいな」 「ねえねえクラエス、早く教えて」 顔をしかめるトリエラに、わくわくしながら2段ベッドを見上げるリコとヘンリエッタ。 仲間たちの視線を集めたクラエスはつい、と眼鏡に指先を当てる。 「人によってイメージが違うのも当然よ。同じ人でも日によって違うこともあるわ。 ―――それは『その人が今感じているストレスの量』なの」 「え?」
603 :
【心象風景】 :2010/09/25(土) 21:51:13 ID:QTmW7HUv0
きょとんとした仲間たちの表情に、理知的な少女は分かりやすく補足解説を始めた。 「まずリコ。中に入っている玉の数は少ないし、大きさも小さいでしょう。これはほとんど ストレスを感じていない状態よね」 「うん。毎日楽しいよ」 屈託のない笑顔で腕をぐるんと回してみせるリコ。日常生活の全てに対して好奇心 いっぱいの彼女は、確かにあまりストレスがなさそうだ。 「逆にヘンリエッタ。甘いキャンディだから一見楽しそうなイメージだけど、50個というのは ちょっと多いわよね。意外とストレスらしくないストレスがたまっているんじゃないの?」 「そんな、だってジョゼさんはとっても優しい方よ!」 年上の小女の言葉に反論したものの、でもまだまだ物足りないの……などとつぶやく ヘンリエッタ。どうやら思い当たる節がないわけでもないらしい。「気になるのなら次の カウンセリングの時間にでもビアンキ先生に相談してみれば」と言うクラエスの返答が 親切で言っているのか面倒くさいことは専門医にまる投げしただけなのか、それとも 恋する乙女のおのろけ半分の恋愛相談を牽制したのか、平静な口調からはどれとも 判断がつかない。 最後に回された学級委員長はと言えば、友人の解説を待っている間に自分で察しが ついてしまったらしく、おそるおそる二段ベッドの上段を振り返る。 「待ってよクラエス、それじゃこのおかしなイメージって……」 「担当官との悩みでしょ。トリエラのストレスは大も小もみんなそこに結びついてるのね」 「わ、私は別に、ヘンリエッタみたいに四六時中担当官のことなんか考えてないわよ!」 「そう?でも仲間の面倒を見るのは嫌じゃないんでしょう」 勢いよく否定するトリエラに、クラエスは面白そうに指摘する。
604 :
【心象風景】 :2010/09/25(土) 21:53:05 ID:QTmW7HUv0
余裕のある友人の反応がちょっと悔しくてトリエラはルームメイトにやり返した。 「人にばっかり聞いておいて、あなたはどうなのよクラエス」 「私? 私はビー玉がひとつ」 「……心穏やかでうらやましいわね」 「そうかしら」 クラエスはほんの一瞬、不思議な笑みを浮かべた。 確かに彼女がイメージしたビンの中に、最終的に残ったのはビー玉がひとつだ。だが その前にもうひとつ別のイメージがあった。―――淡い、シャボン玉のような黄色い玉が びんの中にいくつも浮かんでいて、それをよく見定めようとすると、泡沫は消え去り、 後にはちいさなビー球がころんと転がっている。それが何を意味するのかは 分からなかったが、それは何故かクラエスの心を揺らし、そして通り過ぎた。 「――ストレスの元がはっきりしているなら、対処法だって分かるでしょ」 「そんなに単純じゃないわよ」 ふてくされたようにベッドに寝転がり、担当官から贈られたテディベアを指先ではじく ルームメイトの様子にクラエスは目を細める。 「それじゃあ今度はこんなのはどう?『あなたの前には左右に分かれた道があります……』」 「もう勘弁してよ〜!」 学級委員長の悲鳴をよそに年少組の二人は新たな質問に興味津々でクラエスを見上げる。 そんな穏やかな日常風景を通り抜ける午後の風が、本のページと長い髪をゆるやかに舞い上げ、 少女たちの笑い声とお茶の香りを運んでいった。 << Das Ende >>
乙。面白かった。 クラエスのストレスの元はやっぱりかつて持っていた記憶のことなんだろうなぁ。
GJ!面白い。 クラエスのシャボン玉が切ないな…。
タイトル:ろくでなしより憎い人 私は男運が悪いと友達は心配してくれる。 確かに私のかつての恋人はろくでなしばかりだった。 私の一番の誇りである仕事すら認めてくれない恋人もいた。 そして私が恋人と破局した時、友達は私に聞く。 「浮気されたり殴られたり、あいつが憎くないの?」 私が首を横にふると彼女たちはとても不思議そうな顔をする。 私は彼らを恨んではいない。 どこかで幸せになっていて欲しいと心から祈っている。 でもその私も一人だけ、一人だけは恨んでいる。 相手は誰にも付き合っていたことを話していない、唯一浮気も借金も暴力もなかった人。 だけど彼は死んでしまった。 私には何もできなかった。 その時知った。 ろくでなしに殴られるより愛する人が何も悪いことをしていないのに不幸になるのを指をくわえて見ている方が辛い。 喧嘩別れをして、いつ待ち伏せされるか不安になるより、もう二度と会えないのが苦しい。 仕事熱心過ぎて、真面目過ぎて、そんなあの人が誰かを守るため死んでいくのは当たり前のこと。 だけど受け入れられない。 私だって人が大怪我してまで命を救ってくれたから生きているのに、彼がかばった人を憎めない。 だから苦しい。 もう一度、もう一度でいいから私の名前を呼んで欲しい。 「ロベルタ」と。
今パソコンが不調なので携帯から失礼します。 とてもお久しぶりな鮮芳です。 今回あんまり推敲できていません…私にしては珍しく勢いだけで書いてます。 しかも私らしからぬ恋愛系… 申し訳ない出来になってしまいました。 もう少しうまくかけるよう精進します。
GJです。 やはり物語的にヒルシャーさんのポジションは 『義体をかばって死ぬ担当官』になるのかなあ。 そうするとトリエラはクラエスと対照的な 『担当官を失ったことを乗り越える義体』だろか… 登場人物たちにひとつでも多く救いがあらんことを 願ってやまない今日この頃。
>>609 「あなたの願いを私はできる限り果たしていく」となるのか、
「私のためにあなたを死なせてしまった。もはや私に生きている価値はない」となるのか・・・
>「あなたの願いを私はできる限り果たしていく」 せめてこっちであって欲しいとは思う。 >「私のためにあなたを死なせてしまった。もはや私に生きている価値はない」 これだと今までの前向き発言は一体何だったのかと…… 義体ではトリエラが一番好きだけど、いい加減他のキャラの話も読みたいよ とか思うくらい、トリエラの前向き姿勢を強調してるんだしね。 演出としてはありかもしれないが、それをやられたらちょっとあざといと感じるわ。 もっとも4,5巻くらいからすでにケレン味のある方向にシフトしてるし、 立ち回りも話も、段々分かりやすく派手になっていくのかなあ。 個人的には初期の淡々とした雰囲気が好きだったんだが。
ヒルシャーが居ればこその前向きな思考。その大前提が崩れ去ったとたんに・・・、とか。
>>607 義体は不幸だ。
でも担当官を愛していることでその不幸を感じずにすむ。
義体に愛される担当官は不幸なのか?
それとも幸福なのか?
そして担当官の「恋人」は不幸なのか幸福なのか?
何となくマルコーさんも破局したし、不幸そうだ。
読んでいてふっとそんなことを考えてしまった。
丸「誰の髪の毛が破局しただと?」
>>613 月並みな言い方だけど、幸も不幸も本人の感じ方次第じゃないかな。
割り切るか開き直るか意義を見つけ出すかは性格によるだろうし、
作品で描かれている担当官やその恋人はあまり幸せそうに見えないけれど。
なんだかFSSのエルメラ王妃を思い出した。
>>612 その可能性もあるだろうね。そうならないことを願うよ……
最近月末が近付くにつれ憂鬱になる。以前は楽しみだったのに。 ここまで来たんだから最後まで見届けようと思うがせつないなあ。
そろそろ残り容量が少なくなってきたのでテンプレ案をば。
住人の皆様の御意見をお聞かせください。
(特に1レス目。
保管庫とサブ掲示板の表記をどこにするべきか迷っています。
それから無断転載倉庫さんを技術部保管庫と列記するか
>>5 のままか。)
495KBになったら次スレを立てようかと思います。
6 監督の浅香守生つながりであるとも言えるわけですが 二期の監督の真野玲もカードキャプターさくらの演出スタッフだしね
いいんじゃないでしょうか?>テンプレ案
どうでもいいことなのかもしれませんが
「以下テンプレは
>>2-6 」
がずれているのは、単に間違えただけですよね?
そうでなかったら行頭を他の行とあわせた方が
見やすいと個人的に思いました。
ご指摘ありがとうございますm(_ _)m そうか、携帯で見る場合はスペースがあるとかえって分かりにくいんですね。 あと第二分室のURLだけ直リン外し忘れちゃってました。修正修正〜。
>>625 うーん、個人のブログサイトは2ちゃんに載せていいものかどうか…
サイトのリンクにも無断転載倉庫とエロパロ保管庫はあるけど
技術部保管庫のリンクは貼ってらっしゃらないんで、
そもそもここの存在を御存じないのかもしれないし……
管理人さん御本人がリンク貼ってもいいよと書き込んでくださったら
何の問題もないでしょうけどね。
てなわけで
>>625 氏、掲載許可確認よろしくw
>>626 >技術部保管庫のリンクは貼ってらっしゃらないんで
すみません、リンクありました。何故見落としたしorz
そうすると御本人の書き込み待ちか
>>625 氏の確認待ちですね。
一書き込み者の意見としてなんですけど テンプレに個人サイト貼って良いものか どうかってのがありますね。 2chに貼ることによって個人サイトに迷惑をかけたりしないか 不安があります。 サイトの管理人さんが大丈夫ならいいとは思いますけど、 貼った人は何かあった場合責任はとれませんからねぇ。
何かあってからじゃ遅いですしね。とりあえず一週間くらい待ってみて、 625氏の確認報告か管理人さんの書き込みがなければ、今回のテンプレでは見送りますね。 新スレ立てた後で許可が取れたら、技術部保管庫トップの『関連サイト』欄に リンクを貼らせていただいて、その次からのテンプレに加える形でどうでしょう? 人気投票のサイトも、コメントが書き込める形式なのでやめておいた方が無難かな…。