609 :
【親称】:2008/12/21(日) 13:37:11 ID:lXcOIbco0
----ひとしきり説教をされ恐縮しながら医師と別れた男は、プレゼントの包みを小脇に抱えたまま寒空の下で途方に暮れたように呟いた。
「………子供だとばかり思っていたのにな……」
ヒルシャーにとって、トリエラは”本来大人に保護されて然るべき『子供』である”と言う認識であった。
だからこそ同僚との会話の中で「うちの子に変な仕事はさせたくない」という発言が出てくるわけであるし、行事ごとの贈り物も”子供ならば好きだろう”と思われるぬいぐるみであったのだ。
しかしビアンキが言っていたような状態であるならば、これからはきちんと大人として扱ってやらなければならないだろう。
しかつめらしい表情をした生真面目なドイツ人がついた溜息が、冬の空に白くけぶった。
それ以来、男が自分のパートナーに呼びかける言葉は、『おまえ』から『君』へと変化した。
呼ばれた少女は最初の内こそ物問いたげな視線を返していたが、あくまでも真面目な担当官の様子に結局は肩をすくめてそのまま受け入れた。
ただし贈り物については彼女が一度希望した言葉を尊重し、男はそれからも毎回変わらずくまのぬいぐるみを用意するのであった。
<< Das Ende >>
>>604 朴念仁のドイツ人のヒルシャーらしさが出ていていいね。
ヒルシャーはトリエラに対して
「君は僕を裏切らないし僕も君を裏切らない」というのがあるし、
ラシェルのこともあるから
なかなか恋愛には踏み切れないかも。
……と読みながら思ったよ。
>>606 最初は「おまえ」といっていたヒルシャーが
どうして「君」と呼ぶようになったのか、その原因がこれかw
戸惑うパパらしさが出ていて良かった。
面白かった。GJ!
611 :
CC名無したん:2008/12/22(月) 00:27:01 ID:YOuE4vn+O
>>605 レスありがとうございます。
拙作のでも利用できるものがあれば、どうぞご自由にご使用くださいw
ヒルのトリに対する呼び方が、元々は「おまえ」だったんですねぇ、気づかなかった。
ところで私の中では、現在のトリ実年齢="二十歳前後"説というのがあります。
現在のトリの外見=14、5歳=5年前の義体化前の外見(と想定。義体化後、外見が成長し
ていたらヒルがその時点で疑惑を抱いていたでしょう)
というところから、14、5歳+5年→二十歳前後、というわけです。
どう思われますか?
612 :
CC名無したん:2008/12/22(月) 00:44:12 ID:YOuE4vn+O
>>610 >なかなか恋愛には踏み切れないかも。
客観的に原作を読めば、ヒル→トリは
>>597に書いたようだと思います。
ただ、トリの恋路が実ればいいな、ということでしてww(私はコッチ派w)
613 :
『言葉』:2008/12/28(日) 00:30:15 ID:mapQygqL0
鐘楼突入前のトリヒルの会話の、トリの心情補完バナシですw
614 :
『言葉』:2008/12/28(日) 00:32:36 ID:mapQygqL0
「足手まといです」
そう言い切ってしまった。
彼が「僕も同行したいのは山々なんだが・・・」と言ったのに対してだ。
同じ台詞を吐くにしても、
クリスマス前の私であれば、反発心も含みながらこう思ってしまったのかもしれない。
"生身のあなたには無理だと分かっていることをどうして言うんですか?
そう言うことで、自分の罪悪感を減らしたいんですか?"と。
しかし今は違う。
彼が私のことを本当に心配してくれていることは、痛いほど分かる。
もしも一緒にいてくれたら、私もどんなに心強いか・・・。
だからこそ、あなたには絶対に危険な目に遭ってほしくない。
自分自身に言い聞かせるためにも、キツい言葉になってしまった。
ごめんなさい。
だから
「ここで待っていてください」、「ちゃんと・・・戻りますよ」
<< Das Ende >>
あけおめ
あまりレスをつけたりはしないのですが定期的に見に来てしまいます
616 :
『抱擁』:2009/01/06(火) 23:25:17 ID:pn+kgS690
三が日もとうに過ぎてしまいましたが、あけましておめでとうございます。
以下、年末に投下した『言葉』の、別視点も含めた続きの短いのです。
617 :
『抱擁』:2009/01/06(火) 23:26:33 ID:pn+kgS690
「足手まといです」
鐘楼への突入決行前、そうキッパリと言われてしまった。
私が「僕も同行したいのは山々なんだが・・・」と言ったのに対してだ。
彼女を心配する気持ちを、こんな平板な言葉でしか言い表せない自分を情けなく思う。
ほかにもっと別の言い方があったのではないか・・・。
しかし、後の祭りだ。
「・・・・・・無茶するなよ?」
後はこれくらいを言うのが精一杯だった。
すると彼女が振り向き私に近付いて、私の胸に手を当てながら背伸びをして頬を寄せてきた。
「ちゃんと・・・戻りますよ」
その時は、咄嗟にどうしてよいか分からず、ただ立ち尽くすだけだった・・・。
618 :
『抱擁』:2009/01/06(火) 23:28:30 ID:pn+kgS690
−−−−−−−−
鐘楼の制圧は、何とか完了した。
しかし犠牲も大きかった。
それに・・・。
私は彼の元へ急いだ。
「ヒルシャーさん、任務は完了しましたが、こちらの犠牲も・・・。
それに、肝心のジャコモが・・・」
「元々鐘楼にはいなかったようだ。奴が出した声明も無線で経由していただけらしい」
彼も情報を既に得ているようだった。
そして・・・、
突入前の時とは逆に、彼のほうが頭を少しかがませて頬を寄せてきた。
「とにかく僕にとってはトリエラが無事だったことで十分だ。よくやった・・・」
片腕を私の背中にそっと回し、もう片方の手で優しく髪を撫でてくれた・・・。
<< Das Ende >>
今月号の突入前のシーン、トリがヒルの頬にキスしているように受け取れるのですが(おそらく誰が見ても?ww)、
相田センセイの描写が"あまりにアッサリしている"ことや、関係者がバタバタ行き来してる場所でキスするか?、
という気もするので、SSではとりあえずキスという表現はしないでおきました。
コミック派の方、ネタバレありですみません m(_ _)m
620 :
【親称】:2009/01/07(水) 16:21:57 ID:Hd04hiO70
遅ればせながら、新年あけましておめでとうございますw
>>610 >>611 >>615 へっぽこSSにいつも目を通していただき、ありがとうございますww
>>611 >ヒルのトリに対する呼び方
『考えてみればおまえにはパリッとした服しか与えていないから、
例えば可愛い服とか靴を……』の台詞がいかにも
不器用なお父さんぽくて、自分としては大変印象的でしたw
考えてみるとその前に『君ならもっと穏便にできるだろう!?』
と言っているんですが……まあ任務外では、ということでw
>現在のトリ実年齢
自分は外見年齢14才、実年齢17,8才のつもりで書いています。
ジョルジョが「あれから2,3人増えたが、相変わらず俺達は子守じゃねえか」
と言っていたので、アンジェ、リコ&エッタ、トリエラ&クラエスの順で
義体化されたのかなと勝手に考えていたのですが、
トリエラはアンジェと一緒に手術台の上にいる描写があるから、
かなり初期のメンバーということになるんでしょうね。
投薬が効率化された2期生の寿命が5年から7年という事は、
アンジェの寿命はそれよりも短かったと思われるのですが、
最近の展開から察するに、トリエラの記憶がある期間は4年くらいはありそう。
催眠治療と義体化手術ににかけた1年間は、寿命の内に計算されるんだろうか?
>>614 >自分自身に言い聞かせるためにも、キツい言葉になってしまった。
>ごめんなさい。
このトリエラの心情いいですねw
>>617-618 ヒルシャーさんの不器用さがうかがえてGJですw
ホントに無事で帰ってきて欲しいよ。
>>619 >突入前
キス?シーンといい小ウサギといい、嬉しいような怖いような。
あまりのフラグの立ちっぷりに後は神に祈るしかありません。
この際無事じゃなくても目をつぶるから(無事に越したことはないんだが)、
頼むからせめてヒルシャーの元までは帰ってきてくれトリエラよ。
ああもう先の展開が怖い。
622 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:27:16 ID:Hd04hiO70
昨年、ドイツ人の国民性について書いた本をゲット。ネタ満載です。
自分が思っていたよりもドイツ人ってゴツイ。つくづくヒルシャーさんはヘタレ(泣)
『無粋』で『不器用』だけど、『無骨』と言うには線が細いんだよなあ。
自分の持っていたイメージはドイツ人気質と言うより日本人気質かも。
最近の展開のSSは619氏が書いて下さるので、
開き直って自分は『去年』や『一昨年』を中心に
サザエさんワールドで親子ップル話を書こうと思いますw
そんなわけで一昨年の年越し&新年ネタ。
去年はいい年だったのか…まあ色々あったけど悪い年ではなかったよねw
BGMはJSバッハの『 チェンバロ協奏曲第3番 第3楽章』で。
623 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:28:04 ID:Hd04hiO70
【新年】
おまじないだとか験かつぎだとか、そんなものは信じていないのだけど。
新年早々、担当官の顔をまじまじと見つめながら少女はそれを思い出していた。
事の始まりは去年のクリスマスだった。
「Buon Natale!メリークリスマス! トリエラ、プレゼントはもらえた?」
にこにこと満面の笑みを浮かべて寮を訪れた若い女性課員が、
ぬいぐるみのリボンを整えていた学級委員長に声を掛ける。
振り向きざま反射的にチェスト上に放り投げかけたぬいぐるみを
すんでの所で机の上に置き直し、心なしか赤面した少女が女性に応えた。
「Buon Natale、プリシッラさん。----まあ、毎年恒例ですから」
「そっかー、くまも大分増えたよねー」
にこにこにこ。
全開の笑顔に優等生は多少警戒気味に訪問の目的をたずねる。
「あの…何かご用でしょうか?」
「うんっ。トリエラ、ちょっと両手を出して」
「はい? こうですか?」
言われるままに差しだした手にポン、と綺麗な包みが乗せられた。
624 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:28:57 ID:Hd04hiO70
「じゃ〜ん! 愛の堕天使さんからナタレのプレゼントで〜すっ」
明るく軽いノリで楽しげにそう告げられて、少女は戸惑いながら礼を言う。
「……ありがとうございます」
「これを着けて年越しすると、来年はとっても良い年になるからねっ。
大丈夫! みんな着けてるんだから、全然恥ずかしくなんかないんだよ」
恥ずかしい? どういう意味なのだろう。
両手に少し余る包みは軽い。着ける、と言うことは衣類やアクセサリーの類と
推測されるが、お揃いのスカーフかなにかだろうか?
愛の堕天使の怪しい説明をいぶかしく思いながら、どうかあまり
すさまじい色彩の物ではありませんようにとトリエラは心密かに念じる。
「クラエスの分も持ってきたんだけど、彼女はいる?」
「いいえ。多分書庫の方だと思います」
「そっかあ。でもあたしも仕事に戻んなくちゃならないしなあ」
ホントは全員手渡しであげたかったんだけど、と呟いたプリシッラは、
もう一方の手に持った同じ大きさの包みを少女に差しだした。
「それじゃトリエラ、これクラエスに渡してあげてくれる?」
「あ、はい」
「じゃ、良いクリスマスを!」
チャオ!と陽気な投げキスを置いて愛の堕天使は立ち去っていった。
625 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:29:58 ID:Hd04hiO70
なんだかなあと受け取った包みを眺めていると、入れ替わりに
分厚い専門書を抱えたルームメイトが書庫から戻ってくる。
「……ただいま」
「ああ、お帰りクラエス。これ、プリシッラさんからナタレのプレゼントだってさ」
トリエラが振って見せた包みをちらりと一瞥すると、眼鏡の少女は
そのまま自分の居場所である二段ベッドの上段に上がってゆく。
「……後で見るからその辺に置いておいて」
「そう? じゃ、私がもらった分を開けてみるわね」
クラエスの反応はいつものことだが、一応、贈り物の中身は早めに確認して
おいた方がいいだろう。----確認するのが少々怖い気もするが。
やや怖々と包装紙をはがせば、外装の箱には中身が見えるように
大きく窓が切ってある。そしてそこには目にも鮮やかな真紅の----。
下着が入っていた。
しかもご丁寧に上下揃いである。
勿論、上は愛の堕天使のいらない気遣いで寄せて上げるタイプの物だ。
あくまでもサイズは下から2番目だが。
同室者が絶句する気配に本から顔を上げたクラエスは、眼下の光景を目にして
一言感想を述べる。
「……派手ね」
「------何なのよこれは!?」
思わず叫んだトリエラの元に、ぱたぱたと可愛らしい二組の足音が駆け込んできた。
「トリエラ、トリエラ〜!今ね、プリシッラさんがプレゼントをくれて……」
「ヘンリエッタ、リコ、あなた達も下着をもらったの?!」
626 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:30:58 ID:Hd04hiO70
どうやら堕天使の愛の贈り物は、年齢に関係なく義体全員に配られたらしい。
年少組二人が手にした箱とその中身に、学級委員長はげ、と嫌そうな顔になる。
ちなみにおちびさん達のサイズはトリエラの更に下である。
「すごいよねっ、大人の下着だよ! いつもの白い綿のぱんつじゃなくて、
レースのスキャンティだよ!?」
瞳をきらきらさせたヘンリエッタに興奮気味に同意を求められて、トリエラは
引きつった笑顔を浮かべた。
「あー、うん。そうだね」
「年越しは絶対、皆でこれを着ようねっ」
「……着る気なの?」
「だって、来年がとっても良い年になるんでしょう?」
「ああ、何かプリシッラさんがそんなことを言っていたような……」
「----イタリアの風習らしいわよ。験担ぎというやつね。私は興味ないから遠慮するけど」
あっさりと一抜けするクラエス。
なろう事なら自分もそちら側へ回りたい。しかし。
「ねえトリエラぁ、みんなで着ようよ〜。ひとりで着るのは、やっぱりちょっと
恥ずかしいんだもの〜〜」
「あー、えーと……」
「こういうのってよく分からないけれど、みんなが着るなら私も着てみたいな」
必殺の潤んだ上目遣いで『お姉ちゃんお願いっ』攻撃を仕掛けてくるヘンリエッタ。
その上だめ押しに微笑むリコの『無邪気な好奇心』攻撃。
年少組二人の強力なおねだり攻勢に、面倒見が良く付き合いの良い
“みんなのお姉さん”は、あきらめて両手を上げた。まあ、どうせ誰かに
見られるわけではないのだし。
「……分かったよ。年越しパーティーはこれを着よう」
627 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:35:36 ID:5sFke0/S0
イタリアにおける年末の行事と言えば、クリスマスに年越しパーティーである。
もっともこの二つの行事の過ごし方というのは大きな差違があった。
キリストの生誕を祝うクリスマスは静謐な祈りと共に家族と穏やかに過ごす。
方や年越しパーティーは仲間同士にぎやかに大勢で寄り集まり、大いに
羽目を外して騒ぐのである。
その夜、義体棟の食堂スペースでは少女達によるささやかな年越し
パーティーが行われていた。
料理を趣味とするクラエスのお手製ケーキ、さりげない心配りで
ヘンリエッタの担当官から差し入れられた菓子類、朴念仁の担当官に
トリエラが請求して手に入れたシャンパンなどが並べられ、いつもより
遅い時間のお茶会が豪華に催される。
投げナイフに替わってマジックテープのついたダーツ、鍛えられた
動体視力でお菓子を賭けたコイントス。流星雨観測の夜のように
『歓喜の歌』を合唱し、はしゃいで過ごせばはや真夜中。
壁に掛けられた時計の秒針に集中し、息を詰めてカウントダウン。
「3、2、1… Buon Capodanno!! 新年おめでとう〜!」
パーン!と景気良くクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞い散った。
新しい年を迎え、少女達は再びグラスを掲げて祝いの言葉を交わし合う。
窓の外では新年と同時に市内の至る所で打ち上げられた花火が、
明るく華やかに夜空を彩っている。
628 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:36:26 ID:5sFke0/S0
楽しげな笑顔に満たされた部屋は、しかし一人の訪問者の登場に一変した。
「----トリエラはいるか」
担当官らのリーダー、冷静冷徹な強面男ジャンの突然の訪問に、その場の
空気がはっと緊張を帯びた。
一人彼のフラテッロたるリコだけが、のほほんと無邪気に新年の挨拶をする。
「あ、ジャンさん。新年おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
最敬礼でもしそうな語調で、他の少女達もリコに続いて祝いの言葉を述べる。
男は応えずにじろりと彼女らを一瞥すると、再度口を開いた。
「トリエラ、第一会議室からおまえの担当官を呼んでこい」
「はい? ヒルシャーさんをですか?」
「そうだ。早くしろ」
確か自分の担当官はすでに今日の----もう昨日か----勤務は終えているはずだが、
そんな所で何をやっているのだろうか。
そもそも何故自分が直接呼びに行かなければならないのか。
「内線が故障したのですか?」
「今の時間、内線など鳴らしたところで誰が気付くものか。
会議室に残っている様な連中で多少なりとも使えそうなのは、
おまえの担当官くらいしかおらんのだ。さっさと課室へ連れて来い」
「? はい」
何だか意味が分からないが、とりあえずこれ以上質問しても
ジャンを不機嫌にさせるだけであろう。そう思い、トリエラは席を離れた。
「じゃ、ちょっと行って来るよ。皆続けてて」
仲間達にそう言って食堂を出る。
629 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:37:19 ID:5sFke0/S0
ジャンは用件を伝えるとすぐに引き上げ、トリエラが廊下に出た時には
もう角を曲がる後ろ姿がちらりと見えただけだった。相変わらず忙しい人だ
と思いながら、少女は本部棟へと急ぐ。
しかし内線を鳴らしても気付かないとはどういうことなのか。
疑問に思いつつも早足で第一会議室のあるフロアへ入ったところで、
少女は状況を理解した。
うるさいのだ。
そう薄い壁ではないはずなのに、閉ざされた扉の向こうから大勢の人間が
騒ぐ声が聞こえる。喧噪と表現するのが一番しっくりするその雑多な物音に
嫌な予感を覚えたが、引き返すわけにもいかずトリエラはドアノブに手を掛けた。
失礼しますとかけた言葉は、扉を開けた瞬間に中からの音にかき消された。
広い室内に所狭しと並べられた机には持ち寄りらしい料理の数々。
グラス代わりのマグカップを片手に、ベロンベロンに酔っぱらった
陽気なイタリア人達が奇声を上げて騒いでいる。
どうやら2課の人間だけではなく、医局や公安部、
更には普段何かと角をつき合わせている作戦1課の人間までいるようだ。
年越しパーティーは無礼講だとは聞いていたが、それにしてもすさまじい。
この中から自分の担当官を捜せるだろうかと左右を見渡せば、
存外簡単にその姿は見つかった。
イタリア人男性の平均身長は175p、ドイツ人は183p。
頭ひとつ分違うとまでは言わないが、長身の男性を順繰りに確認していけば
壁際に見慣れた顔がある。
女性課員二人----オリガとプリシッラだ----に挟まれた目当ての人物は、
両側から頬にキスをされ困ったように笑っていた。
630 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:38:15 ID:5sFke0/S0
----何よ、あれ。
やにさがっちゃってみっともないったら。
年の初めから担当官のだらしない姿を目撃することになったトリエラは、
むかむかとわき上がる腹立たしい気分を、職務遂行の義務感でかろうじて押さえ込んだ。
手当たり次第に抱き合って挨拶のキスをする酔っぱらい達をかわし、奥へと進む。
「----ヒルシャーさん」
「トリエラ? どうしたんだ、こんな所で」
「ジャンさんがお呼びです。オフィスへ戻るようにと」
「……僕は昨日も今日も日勤なんだが」
「そうですか。でもそれなら、どうしてこんな時間にこんな所にいるんですか」
「勤務の都合や遠隔地で実家に帰れないような、年越しの晩に予定がない人間に
声が掛けられたんだよ。独り者同士、持ち寄りでパーティーをしませんかとね」
「はあ」
なるほどこれでは人手が必要になったとしても、酔っ払いばかりで物の役には立つまい。
少女は遅れ馳せながらジャンの台詞の意味を理解する。
無論、緊急事態に対応するために自宅待機の人員は確保されているはずだが、
ジャンの様子ではそちらに招集をかけるほど逼迫した状況ではない。
しかしとりあえず手近に使える人間がいるのなら、多少酒が入っていても
駆り出してこようと思う程度には忙しいのだろう。猫の手も借りたいと言うわけだ。
彼女の担当官は公私の区別をはっきりとつけるドイツ人らしく、
職場の人間と飲む席では深酒をしない。面白みのないヤツだと
煙たがられることもしばしばだが、この状況下では、それなりに正気を保っている
ほとんど唯一の貴重な存在という事になる。
だからこそこうして貧乏くじを引かされる羽目に陥るわけだが。
631 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:39:01 ID:5sFke0/S0
「----ともあれ、そういうことですのでオフィスへお願いします」
「……分かった」
ふう、と溜息をつくと、ヒルシャーは自分のマグカップと小さな皿、フォークを手にした。
「プリシッラ、すまないが僕はちょっと中座する。大皿は後で取りに来るよ」
「はいは〜い」
調子の良い返事をするプリシッラはすでにかなり出来上がっていて、
ヒルシャーの言葉も正しく理解されてているのかはなはだあやしい。
そんな相手にでも律儀に断りを入れていくあたりは、真面目と言うべきか
融通が利かないと言うべきなのか。
「大皿って、何ですか?」
パーティー会場を後にしつつ少女が男に問いかけた。
「ああ、持ち寄りの料理をのせてきた皿のことだ。他に、準備や片付けに手間を
掛けないために、各自でマグと取り皿とフォークは持参するように言われてね」
「料理って……ヒルシャーさんも、ですか?」
手にした食器を見せながら答える担当官に、トリエラは半信半疑でたずねる。
「調理はしていないよ。ヴルスト(ソーセージ)とワインを3本持ち込んだだけだ」
「ああ成程」
「我ながら芸がないとは思うがね」
それならば納得できると頷いた少女に担当官は苦笑いだ。
632 :
【新年】 :2009/01/07(水) 16:39:52 ID:5sFke0/S0
そのまま連れ立って歩く二人はオフィスと寮の分岐点に着いた所で足を止める。
ヒルシャーがパートナーを振り返った。
「----ああそうだ。そう言えば、新年の挨拶をするのを忘れていたな」
何を今更と思う少女に、向き直った担当官はふい、と身をかがめた。
右の頬と左の頬に一度ずつ。
生真面目な挨拶のキスを受けて、トリエラは固まった。
まるで親子か兄弟のように。自分達はこんな親しげな挨拶を交わす関係だっただろうか?
「Buon Capodanno. 新年おめでとう。今年もよろしく、トリエラ」
微笑む担当官の顔をまじまじと見つめながら、少女は愛の堕天使の言葉を
思い出していた。来年はとっても良い年になるからね、と。
----これは、そういうことなんだろうか。
おまじないだとか験かつぎだとか、そんなものは信じていないのだけど。
「……Buon Capodanno. こちらこそ、よろしくお願いします。ヒルシャーさん」
照れくさいような恥ずかしいような。むずむずとくすぐったい感覚に、
頬を赤らめ唇をとがらせた少女は何だか不機嫌そうな声でそう答えた。
<< Das Ende >>
>>623-632 トリエラの反発心や嫉妬心、照れくささや暖かさなど色々な気持ちが混ざり合ってて、イイですね。
それから冒頭のほうのクラエスの淡泊さっぷり、GJですw
>最近の展開のSSは619氏が書いて下さるので
私の場合、どちらかと言えば本編ストーリーから直に繋がりそうな内容しか思い浮かびませんので・・・(^ ^;)
623氏の発想力には毎回感心させられています m(_ _)m
>>621 >頼むからせめてヒルシャーの元までは帰ってきてくれトリエラよ
10巻でトリエラは"必死に生きる"=作者がそう宣言させてしまったわけですし、
現在のエピソードはジャコモ編の第一章に過ぎず(最終的にはジャコモ本人が現場に現れて対決するのでしょう)、
その後は公社解体編(?)へとまだまだ続くのでしょうから、トリエラは大丈夫なのではないでしょうか?
あけおめ。レスは書かないが楽しみにしてる
自分はネタバレおKだが、気になるなら投下前に
ネタバレあり・嫌いな人はスルーよろしくって書いときゃいいんじゃね?
464 KB になりました。500 KB を越えると書けなくなるよ。
おめでとう
それと、エロパロスレが落ちたもよう。
了解です。次スレの名称は
「社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室」
「社会福祉公社技術部さくら板支所 ハァハァスレ @+4」
どちらがよろしいでしょう?
>>638 「社会福祉公社技術部さくら板支所 第2分室」
>>633 >>635 ありがとうございますw
今年も妄想話ばかりですが、よろしければお付き合い下さいませw
>>634 成程w おかげさまで何とか希望が持てそうです。ありがとうございますw
おつおつ
【】です。
秋頃からこっち、せっかくレスをいただいているのに
なんだかネガティブな反応が多くて申し訳ない!
せめて文体だけでも明るくと思い、裏目に出た事もしばしば。
今年はバタバタしててもとっちらかった気分が
だだ漏れにならないように自重、自重。
レスを下さる方々、SSに目を通して下さる方々に感謝ですw
第2分室でSSの投下を始めちゃったけど、
考えたらまだ33KBくらい書き込めるんだよね。
もったいないのでちょっと使わせて下さい。
第二分室でうっかり推敲前の文章の方を投下してしまった
【理由】の推敲後版です。
648 :
【理由】:2009/01/31(土) 00:12:53 ID:Fn6tJ0SC0
【理由】
「3、2、1… Buon Capodanno!! 新年おめでとう〜!」
パーン!とクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞い散った。窓の外には花火が上がっている。
私たちは義体棟の食堂で年越しのパーティーをしていた。パーティーと言っても、夕方からゲームをしたり歌を歌ったりして、遅い時間のお茶会をしていたのだけど。
私は11才の時までは、こんな風に新年を迎えた事なんて無かった。
年末年始は病院でも休暇を取る看護師さんが多くて、人手が足りない。だから家に帰れる患者はクリスマスからずっと一時退院をしていて、病棟も何だかがらんとしていた。
病院に残っている患者で動ける人は、ロビーに集まって新年を迎えていたけれど、私は生まれつき麻痺障害があって自分では動けなかったから、いつも、窓の外に上がる花火で新年があけたのを知るだけだった。
義体という自由に動く身体を与えられてからは、同じ新しい年を迎えるのでも、自分の手でグラスを持ち、自分の足で仲間一人一人の元へ近付いて乾杯しながら祝うことができる。----なんてすばらしいことだろう。
649 :
【理由】:2009/01/31(土) 00:14:38 ID:Fn6tJ0SC0
新年を迎えて一通りそれぞれと乾杯をし、皆でそうやってはしゃいでいたら、入り口から低い声がした。
「----トリエラはいるか」
ジャンさんだ。私は彼のフラテッロだから、勿論、一番に新年のご挨拶をする。他の皆も続いてご挨拶をしたけど、ジャンさんはそれには応えず、トリエラに会議室からヒルシャーさんを呼んでくるように言った。
会議室では仕事が終わった大人の人たちが、年越しパーティーをしているはずだ。この間、課長さんがジャンさんにそう伝えていた。ジャンさん本人は行かないのだけれど、いつも誰がどこで何をしているか把握しておかなければならない立場だから、なのだそうだ。
皆がパーティーをしている時に、ジャンさんは当直でお仕事だ。だから用件だけ伝えると、すぐにまたオフィスへ帰ってしまう。いつも忙しそうだな。
「はあ…緊張したね」
ヘンリエッタが大きく息をついた。
「そうかな。どうして?」
「う、うーん…。ほら、ジャンさんって、いつもちょっと恐い顔をしているじゃない?」
私が聞くと、ヘンリエッタは私に遠慮しているのかちょっと口ごもってからそう言った。私は何となく思い出したとを言ってみる。
「ジャンさんはハンサムだよ」
お仕事で街へ出た時に女の人がジャンさんのことを聞いてきたもの。あのハンサムさんはあなたのお兄さん?って。ヘンリエッタが慌てて言う。
「あ、うん。それは私もそう思うよ。やっぱりジョゼさんのお兄さんだし。ただ、その、”強面のハンサム”でしょ」
「そうなのかな」
そういうのって私にはよく分からないけれど、ヘンリエッタがジャンさんのことを苦手らしいってことは分かる。
「ジャンさんはいつも厳しいけど、本当は優しい人だよ」
だって、さっきもカウントダウンと新年の乾杯が終わるまで、廊下で待っていてくれたもの。
650 :
【理由】:2009/01/31(土) 00:16:17 ID:Fn6tJ0SC0
「う…ん。きっと、リコはジャンさんのフラテッロだから、私たちの知らないジャンさんを知ってるんだよね」
ヘンリエッタが何だか納得したように頷いているから、私もそれ以上言わないけれど。
でもね。
きっと、トリエラを呼びに来たのだって、会議室に内線が繋がらないからだけじゃないんだよ。
どうしてなのか、公社の大人の人たちでもジャンさんといると緊張してしまう人は多いから、大騒ぎしたい人たちがいるところに、ジャンさんは行かないの。
ジャンさんがいると、皆、ふざけちゃいけないんじゃないかって思うみたいだから。
多分、カウントダウンの時もわざとオフィスを出てきたんだと思うんだ。
----けど、それってジャンさんはさびしくないのかな。
ジャンさんが何も言わないのだから、私が言う必要はない事なんだろうけど。
それと…もう一つ。義体棟の内線でトリエラを呼び出さずに、わざわざここまで歩いて呼びに来たのは、もしかして私たちの様子を見に来てくれたんじゃないのかな。
----もしそうだったとしたら、忙しいのに気に掛けてくれていたなんて、幸せだな。
「リコ、なんだか嬉しそうだね」
「うん」
きっと今年も、良い年になるだろう。そう思いながら、私はもう一度ヘンリエッタと乾杯をした。
<< Das Ende >>
ほしゅ
保管庫に収まるまで、とりあえずのインデックス代わりに。タイトル//登場キャラ//作者名
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>>43 無題(すばらしい2期)////
>>44 無題(普通ですか?)//エッタ//
>>45 無題(ガンスリンガーガールをたのむ)////
>>46 無題(二期最終話)//一期生All Chara//
>>47 無題(スタッフよ)////
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>>107-113 【くちづけ】//トリエラ、ヒルシャー、エッタ//【】
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>>206 無題(クロテッドクリーム)//トリエラ、クラエス、リコ//
>>223-227 【甘い罠】//トリエラ、ヒルシャージョゼ、エッタ//【スウィート・キッチン】後日談
>>230-235 夢と涙//ジャン、リコ、ジョゼ、エンリカ//
>>237 無題(エッタの生クリーム)//エッタ、ジョゼ、ビアンキ、ジャン//【甘い罠】後日談
>>238 【甘い罠】別バージョン//トリエラ、ヒルシャー、リコ、エッタ、クラエス//【】
>>242-248 >>252-258 【真夜中の呟き】//トリエラ、ヒルシャー、クラエス、アマデオ、ジョルジョ//【】
>>260 がんすりんがーじょーく//アンジェ//
>>262-265 【ポテトの国の王子様】//ヒルシャー、プリシッラ、アマデオ、ジョルジョ//【真夜中の呟き】後日談
>>267-272 『野菜型の宇宙人が攻めてくる』//クラエス、ペトラ、トリエラ、サンドロ//
>>277-284 【恋歌】//トリエラ、ヒルシャー、アマデオ//【真夜中の呟き】後日談2
>>290-297 【葡萄畑の神様】//ピーノ、フランカ、フランコ//【】
>>301-306 【左耳のささやき】//ヒルシャー、トリエラ//【】