★オカルト短編小説★

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1編集
オカルトな創作短編小説を書き込んで欲しいです。
面白い作品の投稿を期待しています!
2あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 01:50
                  __
                 ,r=''""゙゙゙li,
      _,、r=====、、,,_ ,r!'   ...::;il!
     ,r!'゙゙´       `'ヾ;、, ..::::;r!'゙
    ,i{゙‐'_,,_         :l}..::;r!゙
.  ,r!'゙´ ´-ー‐‐==、;;;:....   :;l!:;r゙
 ,rジ          `~''=;;:;il!::'li
. ill゙  ....         .:;ll:::: ゙li
..il'   ' ' '‐‐===、;;;;;;;:.... .;;il!::  ,il!
..ll          `"゙''l{::: ,,;r'゙
..'l!       . . . . . . ::l}::;rll(,    
 'i,  ' ' -=====‐ー《:::il::゙ヾ;、
  ゙i、            ::li:il::  ゙'\  2げt
  ゙li、      ..........,,ノ;i!:....    `' 、   ∧∧
   `'=、:::::;;、:、===''ジ゙'==-、、,,,__ `' (・∀・ )  
     `~''''===''"゙´        ~`''ー'ー(  )ゝ  
                           くく,,
3あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 01:54
俺と節子が会ったのは忘れもしない2月のまだ肌寒い夜だった。

俺はどちらかといえばモテナイ、いや確実にモテナイ部類の男だが、
節子の俺の送る視線は確実に俺を欲してる視線であった。
今までこういう視線を送られたことがない俺でも、わかった。

ナンパなど経験したことがない俺だが、酒も入っていたこともあり
声をかけてみることにした。
4酋☆長 ◆WorldGOSVg :04/01/27 01:55
あの・・・この手のスレッドはいっぱいあるのですが?
5あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 02:00
「あ、どうも、どうかなさいました?どこかでお会いしましたけ?」

声をかけて節子の近くに行き、間近で見ると日本人ばなれした透き通った顔立ち
コートの上からでもわかる豊満な身体に魅了された。

「あ、すいません、昔、隣家に住んでいていつも遊んでくれたおにいさんに
そっくりだったもので、つい、ジッ〜とみてしまいました、晴彦さんじゃないですよね?」

もちろん、俺は晴彦なんかじゃないし、彼女にも見覚えはない。
彼女ほどの美人なら小さい頃に会っていても忘れることはないだろう。

ここで俺に魔がさした(晴彦になって、まあバレたらバレたでいいや、
              晴彦になりすましてみるか・・・)
6あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 02:08
「おう〜、久しぶり〜、もう何年ぶりになるかな〜
 すっかり変わっていたので、誰かわからなかったよ〜、お兄さん元気にしてる?」

「ハイ、兄は今、海外で弁護士をやってます。節子と違って昔からすごい優秀で〜
 私はまだ就職も決まらずに、就職浪人してるんです〜」

なるほど・・・、名前は節子だな、

「大丈夫だよ、節子ちゃんは美人だし、昔から活発だったから、
 すぐにいいとこに就職できるよ〜」

「ところで夜ご飯はもう食べたの?、まだなら色々昔話もしたいし、
 おいしいイタリアンのお店しってるから、今からどうかな?」

「本当にいいの・・、節子は本当言うとペコペコなんです。
  やっぱり晴彦にいさんって昔からやさしいんだな・・・・」と子犬のようにかわいい
仕草で節子が答えた。

酋☆長の言葉もわかるが実話や小話はあっても創作小説は無いので
似て非なるものと行ってみるテスト

8あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 02:16
すぐに甘えて腕に絡みついてくる節子は本当にかわいいし、いい匂いがした。

そして節子は自分から積極的に話し、田舎は福岡、兄さんは俺と同じ歳27歳。
俺がなりきってる晴彦も節子の兄さんと同じ高校で優秀で、陸上部の花形だったらしい。

食事をしながら無邪気に色々話す節子を見ているとイタズラとはいえ、
晴彦になりきってる自分にひどく良心の呵責を感じた。

しかし一方で、こんな美人と過ごせることなんてまず俺の人生でこれから先にも後にも
まずないだろう、徹底的に嘘がばれるまで、突き通してみようという悪魔も
俺に囁いていた。
9あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 02:18
>>4
そうかい、じゃ書くのやめとこうか。
けっこう、落ちは笑いと恐怖が交差する予定だったんだけど・・・

10酋☆長 ◆WorldGOSVg :04/01/27 02:19
>>7
http://hobby4.2ch.net/test/read.cgi/occult/1071677033/l50
http://hobby4.2ch.net/test/read.cgi/occult/1054472908/l50

これでもまだそんなことが言えるかね?
まぁいいのさ、俺も何か思いついたらこのスレに書き込むことにするよ
11酋☆長 ◆WorldGOSVg :04/01/27 02:19
>>9
そう言うなよ。楽しみにしてるんだから俺は!
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
>>酋☆長 ◆WorldGOSVg
13あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 13:08
オカルト小説を語らうのはダメですか?
14あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 14:41
続きは?
15あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/27 14:44
10年後、その人は、うんこを食べてました。
めでたしめでたし。
161000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 09:36
コクピット(長=機長、副=副操縦士、機=機関士)
副「え? それも俺がやるんですか?」
長「当たり前だよ、それも訓練のうちなんだから」
機「北村機長、そんなこと言って面倒なだけなんでしょう?」
長「当たり、ハハハ……」
機「村上君、意地悪な機長の下で大変だね〜」
副「ホントですよ、これで評価も辛いんだから堪りませんよ」
長「ほら、無駄話は後々。乗客の皆さんが待ってるぞ」
副「分かりました。では……
本日は日本国際航空、NIAをご利用頂きましてありがとうございます。
私は当機の副機長を勤めさせていただきます、村上でございます。
当機はこれより大阪国際空港に向かいます。
到着予定時刻は19時、現地の今現在の天候は晴れ、気温は27℃、
明日も晴れの予報となっております。
何かお気づきの点がございましたらお近くのパーサーまでお申し付け下さい。
それでは皆さん、ごゆっくり空の旅をお楽しみください」
長「何だよ、ちゃんと出来るんじゃない」
機「ウン、なかなかよかったよ」
副「そうですか? いやホント緊張しましたよ。背中が汗でじっとりしてます」
長「これぐらいで緊張してたら着陸はシートがびしょびしょになるぞ」
機「そんなに汗かきます? 村上君もタッチダウンは何度も経験してるんだし……」
長「いや、オシッコ漏らしちゃうんじゃないかと思ってさ」
171000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 09:37
K−60,H−60
「それまずいだろ、確か電算機はだめだって誰か言ってたぞ」
「だって書類上げとかないと……課長に怒られるの俺なんですから。
それに先輩は窓際だから景色もよく見えるでしょうけど、
俺には先輩の横顔しか見えないんですよ」
「じゃあ俺の綺麗な横顔をうっとりと眺めていりゃいいじゃねえか」
「馬鹿馬鹿しい……」
181000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 09:38
K−30、H−30,J−30
「ねぇ〜、ママ〜、ママ〜、お外が見たい〜」
「席は決まってるからだめなのよ。そこからでも見えるでしょ?」
「よく見えない〜、ねぇママ〜……」
「もう暗くなるから見えなくなっちゃうの。少しだけなんだから我慢しなさい」
「えぇ〜……見たいよぉ〜」
「……あ、あの、席変わりましょうか?」
「いえ、いいんです、すいません、我侭な子で」
「いや、構わんですよ、子供は外を見たがるもんですし。
私トイレが近いんで通路側のほうが有難いんですわ。さ、僕、おじちゃんと席を交換しよう」
「うん!」
「どうもすみません、ありがとうございます。タカシ、おじさんに“有難う”言いなさい」
「おじちゃん有難う!」
「ほお、ちゃんとご挨拶できるのか。僕はいい子だねぇ」
「うん!」
「もう、げんきんなんだから……本当にすいません」
「なに、いいんですよ」
191000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 09:39
K−17、H−17
「お父様、ほら、富士山が」
「今日は夕焼けかな? だとしたら赤富士が見られるぞ」
「赤富士って?」
「居間の壁に飾ってあるだろう? 夕焼けに映える富士山だ。綺麗だぞ」
「ああ、ああの古臭い版画ね」
「そりゃそうさ、江戸時代のものだからね」
「江戸時代? お父様ったらまた私を騙そうとしてるのね。私が世間知らずだと思って」
「いやいや、あれは本物なんだよ。とても貴重な版画なんだ。葛飾北斎という人が……」
「もっともらしい事言ったって騙されないもん!」
「はは、まあいいさ。マリちゃんがもう少し大きくなったら父さんと一緒に登ろうか?
「登ってもいいけど大変そうね」
201000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 09:40
続きはまた後ほど。
ちなみにK−,H−,というのは席番号です。
続きが気になる・・・
221000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:01
K−60、H−60
「ほら、見てみろ、富士山だ富士山」
「……」
「オイ、聞いてるのか? 綺麗だぞ、ほら見てみろ」
「いつも飛行機から見てますよ。別に珍しくも無い」
「つれないこと言うなよ」
「じゃあ僕が富士山見てますから、先輩代わりに書類まとめてくれます?」
「……」
「まったく、こんな狭いテーブルじゃ何も書けやしない。課長は出張したことあるのかな……」
231000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:03
K−30、H−30
「ママァ〜、あれ何〜?」
「どれ?」
「あの三角の〜」
「三角? ああ、富士山ね」
「フジサン? フジサンって言う人?」
「フフフフ。そうじゃなくて、富士山って言う名前のお山。」
「おやまなの〜?」
「そうよ。タッチャンがお砂場で作るでしょう? あれのもっとずーっと大きいやつなの」
「へぇ〜……誰が作ったの〜?」
「フフフ……誰かしらねぇ。神様じゃないのかな?」
「神様がねぇ〜。ふぅ〜ん」
241000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:04
K−17
「お父様は富士山登ったことあるの?」
「学生時代に2度ぐらいね。結構辛いぞ」
「へー。どのぐらいかかるの?」
「時間か? それともお金?」
「時間に決まってるでしょ。それとも富士山ってお金払わないと登らせてくれないの?」
「ハハハ! そうかもしれないぞ〜」
「もうっ! お父様ったら!」
251000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:05
K−60、H−60
「ん? 何だあれ?」
「……」
「ゴミか?」
「……」
261000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:09
コクピット
副「おっと」
長「どうした?」
副「ちょっと操縦間が取られるような感覚がします」
長「オートパイロットは?」
副「オンです、特に問題はなさそうなんですが」
長「計器は」
副「異常ありません」
機「こちらも異常無しです」
長「ン? 僅かに旋回してるか?」
副「(舵が)右に取られます」
長「視認してみる」
271000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:11
K−30、H−30
「ねぇママァ〜、神様ってどんなふう?」
「さあ、どうかしら……ママも見たこと無いから」
「黒っぽいのかな?」
「黒っぽい? さあ、どうかしらね」
「羽とか生えてるの?」
「ああ、そうね、羽は生えてるんじゃない?」
「ねぇ、じゃあさあ、あれってもしかしたら神様かもよ?」
「どれ?」
281000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:14
K−60,H−60
「オイ、誰かいるぞ」
「……」
「オイ、仕事なんかしてる場合じゃねえぞ。あそこに……翼の上に誰かいる!」
「何ですか、もう……」
「いいから見てみろ、ほら!」
「何処で……何だありゃ?」
「な、誰かいるだろ?」
「あれ人ですか? 人だとしたらあんな所にいられるわけ……あ、飛んだ!」
291000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:16
K−30,H−30
「キャアッ!」
「ね、神様だよ」
「イヤッ! 何なのよあれ!?」
「どうかなさいましたかお客様?」
「あそこ! ほら翼の上に何かいる!」
「ちょっと前を失礼しますね……特に何もおりませんが……」 
「え?……だ、だっていたのよ! さっきいたのよ!」
「ママァ〜……」
「お客様、お飲み物でもお持ちしましょうか?」
「あんた私が幻覚でも見たって言うの? 馬鹿にしないでよ!」
「ママァ〜……」
301000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:18
K−17,H−17
「キャッ!」
「どうした?」
「何か飛んできた」
「何かって……鳥じゃないのか?」
「あんな大きな鳥いるの?」
「何処にいるんだ?」
「分からない。今この窓の下の方に消えていったの」
311000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:32
コクピット
長「何も異常はなさそうだな」
副「おっと! ええっ?」
長「どうした?」
副「スティックシェーカー」
長「何?」
……警告音が鳴り響く……
副「ラダーレシオ」
長「何だ? 何が起きてる? ウインドシア?」
副「分かりません、計器の異常?」
長「高度は?」
副「高度……70!?……ん?どんどん上がってます」
長「今いくつだ?」
副「1万5千……ああっ!6千……5千……」
長「くそっ! どうなってるんだ!」
副「緊急事態宣言しますか?」
長「ああ」
機「数値が先ほどの値に戻っていきます」
長「……あれ?……戻ってるか?」
副「ああ、本当だ」
機「こちらは異常無しです」
副「緊急事態宣言はどうしましょう?」
長「少し様子を見よう。君の出世にかかわる」
321000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:34
K−30,H−30
「まったく! 何だってのよあのスチュワーデスは! 人のこと馬鹿にして」
「ママァ〜、神様戻ってきたよ〜」
「タッチャン、もうお外見るのやめなさい」
「え〜……だって神様が〜……」
「そんなものいないの! ほら、閉めるから手をどけて」
「え〜……見たいよ〜」
「ダメ!」
331000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:36
K−17、H−17
「何だったのかしら、今の」
「だから鳥だろう?」
「だって凄く大きかったのよ。2メートルぐらいはあるわ」
「2メートルってよく分かったな」
「え……まああのぅ……大体そのぐらいかなと思って……」
「もし何か飛んできてぶつかっていたりしたら今ごろ飛行機は大変なことになっているよ。
普通に富んでるし、鳥かゴミか何かだろう」
「そうなのかしら……確かあっちの方から……アッ」
「どうした?」
「ほら、見てあれ!あれなの!」
「どら」
341000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:37
K−60,H−60
「うわっ! 戻ってきやがった!」
「先輩、手荷物の中にカメラあります?」
「ああ、入ってるけど……そうか!」
「暗くなり始めてますから、フラッシュ忘れないように」
「ああ、分かってるよ。ちょっと時間がかかる……」
「待ってろよ〜。今度は飛んでくれるな」
351000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:39
K−17,H−17
「なんだありゃ?」
「ね、言ったとおりでしょ」
「ああ、だけど……」
「ねえお父様、あれってあれに似てない?」
「あれ? どれ」
「ほら、埼玉のお婆様のお家の池にあるじゃない。ほら、水を吐き出しているあの像」
「あ〜! あの趣味の悪い像か」
「ね、ほら、ああやってうずくまっているところなんかそっくりじゃない?」
「まさかガーゴイル……本物?」
「えっ?」
「嘘だろう……信じられない」
361000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:40
K−60,H−60
「よし、フラッシュ焚けるぞ」
「ばっちり撮って下さいよ」
「ああ、任しとけ……そら!」
「うわっ! こっち見た!」
「はは、ちょうどいいや。顔まで取れるだろ……そらもう一枚!」
「ウワッ! ウワーッ!」
「うわーーーーっ!! 来るなーーーっ!!」
371000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:43
コクピット
……ドーン!!……
……警告ブザー……
長「何か爆発したぞ」
長「スコーク77」
副「ギアドア」
長「ギア見てギア」
長「エンジン?」
副「スコーク77」
381000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/28 11:47
以上、1985年8月12日の出来事でした。
39あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/28 13:26
感心しないな
節子の続きが激しく読みたいのですが

続き書いてもらえないですか?>>3
インテリアには全く頓着のない僕が、なぜこんな買い物をしてしまったのだろうか。
包みの前にしゃがみこんで唸ってみたところで、答えもヒントも出てこないのは分かっている。

図書館へ向かう時に角をひとつ曲がり損ねた事が始まりだった。
その存在さえ知らずにいた、骨董屋の奥から射す光の正体が気になった僕は、何の気無しに店へ足を踏み入れた。

店の中には店主らしき中年の男性がいて、変わった絵をはめた額を磨いている。
僕を一瞥して冷やかしだと悟ったのか、彼は何も言わずに額を磨き続けた。
光源を捜して少し奥に進むと、一枚の鏡が目に止まった。
スポットライトを浴びて、店の外に反射していたらしい。
しかし、店内にある鏡の中で、なぜこれだけがスポットを浴びているのか。
4241:04/01/28 15:16
「そいつは暗いとこに置くと不吉なんだよ」
僕の様子を見て心中を察したのか、店長が声をかけてきた。
店主がこれを買い付けた小国の古物商でも照明を当てていて、同じ説明をされたらしい。
騙されて金を巻き上げられただけかと思ったら、タダ同然で譲り受けたと言う。
そして店主自身、日本に戻ってから包みを開けた時にもう一人の自分を見た、と熱のこもった口調で語った。

結局、僕はその鏡を格安で買い取った。
店主のホラ話が気に入ったのかも知れないし、鏡に魅入られたのかも知れないが、はっきりとした理由は未だに分からない。
とにかく、この鏡が欲しくなったのだ。
4341:04/01/28 15:17
僕は昼間から照明をつけ、光の下で包みを解いた。
やはり何の事はないただの鏡の様だった。
軽く叩いてみたり、布で磨いたりしたあと、顔が見やすい位置を選んで壁に固定した。
まんまと引っ掛けられた気がしないでもないが、寝癖を見つける役には立ちそうだ、と前向きに捉らえることにした。
何も起きないままに外は暗くなり、僕は照明を消して夕食を食べるために部屋を出た。


外の明かりが薄く部屋を照らす中、鏡は僕を映したまま鈍い輝きを放っていた。
4441:04/01/28 15:19
あるサイトから無断転載w

でもこうやって読んでみるとツマンネ。サイト内で読むのとなんか違う。
45あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/28 21:08
感心しないな
>>1000
すごいですね。なにかの台本で書いたんですか。
471000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/01/29 09:17
>39
すいませんです

>46
特にそういうわけではありません。
あの事故に関しては諸説あるようなので、こういうのもありかと思って書いてみました。
48あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 11:49
感心しないな
49あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 15:18
感心しないな
5048:04/01/29 15:35
>>49
すまん
51あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 15:43
>48
そう素直になられると……すまん
52あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 15:49
感心しないな
53あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 16:30
>>1000
ガーゴイル?
グレムリンじゃねーの?
54あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/29 17:46
感心しないな
55Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/29 21:28
メフィストフェレスの降臨(1)


俺は飛んだ
気づいたら飛んでいたのだ
なんとも表現のしようがない爽快感が俺を襲った。
頭の中が真っ白になっていく・・・
何メートルくらい飛んだだろうか?もう何も考えられない
くらいに爽快感は増していた。

「ずっとこのままでいたい・・・」

神様に願った
しかし突如として流れ始めたバックミュージックの
倉木麻衣の曲が俺を無理やり現実に呼び戻した。

「カツオ!!遅刻するわよ!」

気が付くと、俺は布団の上にいた。
となりに寝ているはずのワカメは、もうとっくに起きて
学校へ行く準備を始めていた。倉木麻衣の新曲を聞きながら。
なんともない、いつも通りの毎日だけど、俺にとっては
特別な日だった。
今日から俺の計画はスタートするんだ・・・・

「お兄ちゃん、早くしたくしないと遅刻するわよ」

「うるさい!!このメスブタ!!とっとと出て行け」
56Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/29 21:29
大人気なく、妹に当り散らしてしまった。
俺もまだガキだな・・・
ワカメが発狂しながら部屋を出て行った。
俺は素早く着替えを済ませ、部屋を出た。

食事をする為に、みんなのいる部屋に向かうと
ワカメが親父に僕の事をいいつけていた。
まずい・・・・

「カツオ、ちょっとこっちに来なさい」

家族の視線を浴びながら俺はしぶしぶ親父のそばまで歩いていった。
ヒュッ
空気が切れる音がして、俺は吹っ飛んだ。

「ばか者が!!妹に向かってメスブタとはなんだ!
このキチガイが!!」

俺は親父から顔が見えないようにうずくまった。
なぜかって?
顔がニヤけてしまうからさ。
今日から始まる俺の計画の事も知らずに、こんなありふれた
毎日を送っている親父が滑稽でしかたなかった。

「痛いか?わしの手刀は。痛いだろう?これがいやなら
 もうバカなマネはしないことだな!!!」

その時、俺の中で計画スタートのスイッチが押された・・・
続く
罵倒されて発狂するワカメに萌え。
ワカメのパンティラうざい
59あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/30 12:23
↑そういうことを言うな。
あれをオカズにしている全国2万5千人のワカメファンもいる事を忘れてはならない。
ネット上だからといって無責任な発言をするのは

か  ん  し  ん  し  な  い  な
601000:04/01/30 18:35
>53
それでした。ご教授有難うございます。
61Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/30 20:54
メフィストフェレスの降臨(2)

俺をさんざんコケにしてくれたお礼をたっぷりしてやる・・・・
こんな平凡な毎日は、もうウンザリだ。
俺はいつものように学校に行き
いつものように授業をうけ
いつものように帰路についた・・・・
今日は記念すべき日になるぞ
実行はみんなが寝静まった頃だ・・・・
俺は台所でその用意をした。まず玉葱だ。そして、ソース。
それから胡椒だ。これがないと俺の計画は全ておじゃんになる。
おれはこれらをかかえ台所をでた。
へへへっ。
復習のためだ。待っていろ、ブタどもよ、ウジ虫ども。
俺はそれらをもって、こっそりと階段を上っていった。
誰にも気付かれぬように。一段上るごとに俺の気持ちは高ぶっていった。
とうとうこの日が来たんだ。俺の思いを実現すべき日が。奴等は、思い知るだろう。
俺のことを見くびっていたことを。
さらに今までの屈辱の記憶が走馬灯のように頭をよぎった。あのメスブタにさえ
馬鹿にされていたこと。親父に理不尽に殴られたこと・・・・
もうすぐそれは終演を迎える。これがすめば、今度は奴等が俺に
ひざまづくのだ。
62Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/30 20:56

もうすぐ2階に達するころだった。俺は一つ忘れ物をしていることに気付いた。
そうだメロンだ。メロンを忘れていた。
俺はこの日のために、高島屋までいって買ってきたのだった。最適なものを
選ぶのに1時間は吟味したのだ。俺が急にメロンを買って帰ってきた時
には家族のものは唖然としていた。いつも憮然としている俺が家族のために
何かを買ってきたのだから。これがなんのためだか知らない奴等を見て
俺はほくそ笑んだのだった。これが俺の復習のためだとは誰が思ったろう。
そう思えば俺の思いも2倍に膨らんだ。待っていろ、もうすぐだ。これが
何のためか明らかになるまで。
俺は再び台所に戻りメロンをつかんだ。
その時だった。
63ホモ@サピエンス:04/01/30 21:03
水差すようで悪いがサザエさんの家って2階ないよな?
64Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/31 20:04
メフィストフェレスの降臨(3)

ワカメがそこにいた。

「お兄ちゃん、何やってるの」

「なんだ急に、どうしてこんな時間に起きているんだ」

「ちょっと、お腹すいただけ、それよりもお兄ちゃんの持っているもの何?
なんかへんよ?」

「ばか、だからお前のことメスブタと呼ぶんだよ、夜食は太るぞ」

「お兄ちゃん、今日お父さんに殴られたばかりじゃないの。また、
言いつけるわよ」

俺はこの言葉をきいて、さっきから続いたいた緊張の糸が切れそうになった。

俺は、冷静さを失いそうになりながら、頭の中で考えた。
今やってしまおうかと。これは計画から外れてしまうが、仕方がない。
しかし不思議なもので、こんな時でももう一人の冷静な自分がこうささやく
のを感じた。これは9ヶ月の間慎重には慎重を重ねてきた計画だ。
たかがこれくらいのことでおじゃんにするにはもったいない。だが、
時間がなかった。こんなところでワカメと時間を潰している間にチャンス
をのがしてしまう。
いまやるか、それともなんとかワカメをやり過ごし予てからの計画を実行するか。
どちらにせよ、もう時間は残っていなかった。
そこで突如思わず、こんな言葉を発してしまっていた。

65Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/31 20:06
だが、俺の理性が感情に勝った。俺はなんとかワカメを台所から追い出した。
そしてメロンをもって再び2階へ上っていった。俺はあの部屋を目指していた。
そうあの部屋だ。その部屋は我が家では禁断の部屋になっていた。いわゆる
タブーというやつだ。あの部屋のに入るのはもちろんのこと、話題に出すことも
許されなかった。
俺はとうとうその部屋の前に立った。このお部屋に入るというだけで、彼奴等へ
の復讐になるかのようで、期待が膨らんだ。だがここで満足してはならない。
あれを実行しないと本当の復讐にはならんのだ。そう自分に言い聞かせ
部屋への戸を開けた。

部屋に入りすぐに戸を閉めた。暗やみの中手探りで蛍光灯
のスイッチを探し明かりを付けた。やはり、何も変わっていない。
いや、正確にいうと変わっているようには見えない。何しろ、
俺がこの部屋に最後には行ったのが11年前だ。それまで、ここは
兄貴の部屋だった。それがあの事故で兄貴が死んでから。両親はそれを
悲しみこの部屋を禁断の部屋にした。そして、当時のまま残すことに
したのだ。そして、それからだった。家の空気が重苦しくなったのは。
そして、親父が俺に暴力を振るうようになったのは。
66Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/31 20:07
俺はしばし、昔の思い出に耽っていた。兄貴が生きていた頃のことを。
俺にとって兄貴は完ぺきな人間だった。優しくて、頼もしくて、物知りで。
俺達は歳が離れているせいか、ケンカなど一度もしなかった。ただ、俺が
甘え兄貴を困らせてばかりいたように思う。兄貴はそんな俺をしかった
ことはなかった。ただ時たま、俺が兄貴の友人に交じってくっついて
行こうとすると、困ったような、恥ずかしそうな表情を見せただけだった。
そんな時、俺は仕方なく一人で家に帰ったものだ。兄貴の申し訳なさそうな
表情を思い出す。そんな時でも兄貴は帰ってからは、面白い話で俺を楽しませて
くれた。きっと、その頃から親父は俺に冷たかったから、親父の代わり
をしてくれていたのだと思う。そんな兄貴が死ぬなんて。
しまった、時間がない。俺は焦った。いつの間にか無駄な時間を過ごしていた。
予定の時刻が差し迫っている。5月14日3時33分を過ぎると、何もかもが
おじゃんになる。俺は準備を始めた。
黒ミサ、俺が選んだのはこれだった。うまくやれば誰にも知られずにこの家に
復讐できる。俺はそのためにこの日この時間を選んだのだ。そのために中古の
コンピューターを買い占星術で計算しこの日を特定した。さらに黒魔術に関
する本を読みあさり、知識を蓄えた。
俺が降臨に選んだ悪魔はメフィストフェレスだ。ギリシャ語で「光を憎む者」。
今の俺にぴったりだ。親父を憎み、家族を憎み、家自体を憎んできた俺だ。
もちろんルシファーでもよかった。しかし初心者である俺がルシファーを使うのは
危険と判断した。もしかすると、俺自身が破壊されてしまうからな。
俺は慎重かつ迅速に準備を進めた。なんとか時間には間に合った。
時刻を確認しちょうど3時33分から呪文をと唱え出した。

67Faust ◆l6VmMEzPMg :04/01/31 20:08
呪文を唱え終えると、俺はしばらくそのままの姿勢で何が起こるか待ち
かまえた。別に何かを期待していた訳じゃないが。だが心の中で、すぐ
にでも何かが起こることを期待していたことは否定できない。だが、
その考えは虚しかった。かった。考えてみたら当たり前だ。
まさかこの部屋にドロンとメフィストフェレスが
現れるとでもいうのか。俺は自分自身の考えに呆れながら、
その部屋を後にした。
ちんちんシュッ!シュッ!シュッ!
69あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/31 21:08
しかし俺は踵を返すと、部屋に隠してあった三角木馬を取り出して嘗め回すように眺めた。
そして心からの一言をようやく口に出したのだ。

「セイラ!木馬に乗れ!」
70あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/31 21:15
それを耳にしたセイラは、驚いた表情で呟いた。
「ちんちんシュッ!シュッ!シュッ!」
71あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/01 12:56
ここは真面目なスレなの?
「作り話専用 〜マジで怖い話〜」と同趣旨のスレなのだろうか・・・・
72Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/01 17:50
メフィストフェレスの降臨(4)

もし俺の呪いに効果があるなら、まず最初にワカメに結果が出るはずだった。
なぜなら、この家で最も年下であるがゆえ精神的に弱いからだ。そして、
狂気に一番近い。俺はその日からワカメをずっと観察し続けた。しかし、
それらしい兆候は少しも見られなかった。俺はメフィストフェレスに
裏切られたのか。もしかしたら、そうかもしれない。あれは全部
でたらめだったのだ。俺が馬鹿だった。あんな魔術書を信じるなんて。
そう見切ったある日、俺は突然親父に呼ばれた。

「カツオ、ちょっとこっちに来て座りなさい」

「はい、お父様」

情けないが、親父の前ではどうしても敬語が出てしまう。俺は親父の前に
正座した。一体今度はなんだ?俺がなにをしたというのか?
親父はしばらく黙ったままだった。なにか言いにくそうなことをしゃべり
始めるような。親父は決心を固めるようにこういった。
「お前、あの部屋に入ったろう」
73Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/01 17:50

俺の頭はこの言葉を聞いた瞬間混乱した。なぜそんなことが分かったんだ。
何か俺が証拠を残したか?だいたい兄の部屋にもともと残っていたものには
触れなかったし、忘れていったものは何もなかったはず。
「父さん、何故そう思うんです?」
俺はそう答えた、と同時に自分が馬鹿なドジを踏んだことに気付いた。俺は
知っていたのだ、母さんもあの部屋に一年に一度は入っていたことに。それは
家族の暗黙の了解だった。何しろ母にとっては大事な長男。それぐらい許され
てもいいだろう。そして俺が入ったときもそうだったが、あの部屋に入れば
畳の上に溜まった埃に後がつく。母が入るのは、兄の命日。そして、兄の命日
は5月14日、俺が黒ミサのためにあの部屋に入った日だった。そうか、俺の
入った後に、母さんが入り、畳の埃について跡から、そう結論づけたのだな。
俺は、この不利な形成を建て直すため、頭をふる回転させた。もしこのまま
その事実が明るみに出れば、俺はもう親父の鉄拳だけではすまないだろう。
大げさに言えば、俺とこの家族の一生のつながりが、ここで途切れてしまい
かねない。まあ、まさに俺は魔術でそれを狙ったのであるが。でも、それは
こんな形ではなかったはずだ。これでは、俺が惨めになるばかり。
そこで俺は形成を一気に逆転するため、こういった。

「だって、母さんだってあの部屋に出入りしてたじゃないか」

しまった。俺は瞬間的にそう思った。言い訳だ。ただの言い訳に過ぎない。
頭をふる回転したわりに出てきた言葉が言い訳とは。我ながら呆れる。
だが、俺はもっと重要な失敗に気付いた。これでは俺があの禁断の部屋に
入ったことを認めたも同然ではないか。
終わった、この瞬間、全てが終わった。俺はそう思った。
俺は親父の怒りの形相を想像しながら、ちょっと様子を窺った。すると、
どうだろう。なんて表現したらいいか。親父のあんな表情は見たことがない。
というか人間が、と言ったほうが適切だろう。怒りと悲しみ、そしてあきらめ。
そんな感情が渾然一体として親父の顔に現れているようだった。そして、
親父は意外なことを言い始めた。
>>1000
トワイライトゾーン?
〜 プロローグ 〜

(俺はもうすぐ死ぬ……)
 だが、なぜこのような不幸に見舞われたのか、死ぬ前にその答を確かめておきた
かった。
 大学からの帰り道、理髪店に立ち寄って長い髪をばっさりと切り落とした。それ
ですっかり遅くなってしまい、近道をしようと公園の中に足を踏み入れたとき、誰
かが突然ぶつかってきた。
 それは、まさに一瞬の出来事だった……。
 しばらくして腹部に激痛が走り、みるみるうちに、セーターが鮮血に染まってい
く。振り返ると、謎の人影は足早に去っていき、やがて見えなくなった。
(いったい俺が何をしたっていうんだ。何の取り柄もない、普通の学生じゃないか。
誰かの怨みを買うようなことも、何もしていないだろ……)
 薄れゆく意識の中で、雲野正太は懸命に思考を巡らした。だが、徐々に意識は混
濁してゆく……。
 ついにその答に到達することなく、彼は二十年の短い人生に幕を下ろした。
 〜1〜

「自分を……守ってください。次に殺されるのは、俺かもしれません」
 突拍子もない言葉を聞かされた立花浩介は、応接用のソファーに身を沈めたまま、
向かい側に座っている男を訝しげに見つめた。
「いきなり入ってきてそんなことを言われても、何が何だか分かりませんよ。
……そうですね、まずはお名前からお聞かせ願いましょうか」
 男の顔は、蝋人形のように白く、まるで生気が感じられなかった。今風の若者ら
しく、艶のある黒髪を肩まで伸ばしていて、それをときおり左手でかき上げるのが
彼の癖のようだ。
「す、すみません。俺……いや自分は、月城充と言います。二十歳の大学二年生で
す。通学の途中、以前からここの看板を見かけていたもので……」
「……分かりました。それで、守ってくださいとは?」
 浩介は落ち着いた口調で、充に話しかける。
「自分は城北大学の学生なんですが、その学生が、連続殺人鬼に襲われて次々と殺
されているんです」
「ええ、存じています。そして次の犠牲者になるのが、月城さん、あなたご自身で
はないかと、そう思われているのですね?」
「そのとおりです」
「なぜそう思われるのですか? 何か、殺される理由でも?」
 そう問われると、充はしばらく躊躇していたが、やがて思い切ったように口を開
いた
「今まで、三人の学生が犠牲になっていますよね? その三人の名前が……全員
『空』に関係しているんです。最初が雲野正太、次が雨宮覚、三番目が星野要一……
しかも彼らは、自分と同じ語学のクラスに所属していて……。
 だから不安で不安で仕方ないんです。もしかすると犯人は、空に関係のある名前
の人間を襲っているんじゃないかって……」
「それで、私に身辺警護をしてほしいと、そういうわけですね?」
「はい」
 充はすがるような面持ちで浩介を見つめている。必死の思いでこの探偵事務所を
訪れたのだろう。
「しかし、こちらも商売なわけでして……失礼ですが、大学生のあなたには……」
「報酬……ですか?」
「そうです」
「家庭教師のアルバイトで貯めたお金が二十万円ほどあります。それで何とかなら
ないでしょうか」
 この手の依頼は、探偵にとっても身の危険が付きまとう。それだけに報酬額もほ
かの依頼に比べて桁が違ってくる。とても二十万円で割の合う仕事ではなかった。
 だが、このところ、浮気調査や人捜しといった依頼が続いていて食傷気味だった
のと、浩介自身、この依頼に興味を覚えたこともあって、結局、金銭抜きで引き受
けることにした。
「分かりました、お引き受けいたしましょう」
「えっ、いいんですか?」
 充の顔がパッと輝いた。よく見ると、某人気タレントに似ていて、結構イケメン
である。
「とりあえず、契約書を作りますから、その間に何か飲み物でも飲みながら、もう
少し詳しくお話をお聞かせください」
 浩介がそう言った直後、隣の部屋から女性が顔を出した。二十代後半ぐらいのス
ラッとした長身の美人だ。
「インスタントですが……」
 彼女はそう言って、二人の前に褐色の液体が入ったカップを置いた。
「家内です。この事務所のメンバーでもあります」
 浩介は、短くそう紹介した。
(つづく)
78あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/02 19:22
期待あげ
「はじめまして、立花美咲と申します」
 それだけ言うと、彼女は浩介の隣りに腰を下ろした。
「それで、先程のお話の続きなんですが、殺された三人の共通点は……同じ大学の
二年生で、語学のクラスが一緒ということと、『空』に関係ある名前だということ
ですが、その他に何か気づかれた点はありませんか」
「これは関係あることかどうか分からないのですが……犯行が行なわれているのは、
約一ヶ月おきなんです。具体的にいうと、それは満月の日なんです」
「満月ですか。それは気がつきませんでしたね」
「時間のほうは夕方、朝、深夜とまちまちなんですが……」
 浩介は充の言葉を聞いて、新聞のスクラップファイルを広げた。その隣りでは美
咲が、充の話を記録するために、A4のファイルにペンを走らせている。確かに犯
行日に関しては、充の言う通りだった。
「しかし、その法則で行くと、次の犯行日は明日になりますね」
 その言葉を耳にした途端、充の表情が一瞬こわばり、不安と恐怖の入り混じった
複雑な感情が見て取れた。
「あす一日、外出を控えることは出来ませんか」
「それが……明日は語学の授業があるんですけど、出席日数がぎりぎりなんです。
もし明日休むと、単位を落としてしまうかも知れないんです。ですから、語学の授
業だけでも出席したいんです」
「命を狙われているかも知れないんですよ!」
「でも、満月の日の犯行は偶然そうなっただけかも知れないですし……」
「……分かりました。それでは、とりあえず明日は一日中、あなたを警護すること
にしましょう。あなたからは見えない位置で尾行しますが、心配しないでください。
あなたが襲われそうになった時には、きちんとお助けしますから」
「よろしくお願いします」
 〜2〜

 充はとりあえず一安心したものの、その夜はなかなか寝つけなかった。探偵に身
辺警護を依頼したとはいえ、やはり不安は拭いきれない。
 充はベッドの上で布団にくるまり、天井をぼんやりと見つめながら考えた。
 犯人の目的はいったい何なんだろう。今までの被害者からは、金品等を盗られた
形跡はないらしい。ということは、強盗が目的ではないということだ。だとすると
怨恨による犯行だろうか。もしかしたら、うちの大学に怨みを持っている人間の犯
行かもしれない。だから、誰でもいいからとにかくうちの大学の学生を次々と殺し
ているんじゃないか……。
 三人の命を奪った凶器は、いずれも果物ナイフということだが、大量に市販され
ているものなので、購入場所などの特定はできていない。被害者は全員、そのナイ
フで腹を一突きにされ、失血死させられていた。
 犯人はナイフで人を刺すことに快感を覚える変質者なのかもしれない。それとも、
人を殺すこと自体を楽しんでいる? それなら、別にうちの大学の学生だけを狙う
必要なんてないはずだが……。
 充はスウェットの上から、右手で腹をさすった。明日、ここをブスリとやられる
かもしれない……。痛いんだろうな。どうせ殺されるなら、痛みを感じないうちに、
意識が無くなってほしい。痛いのは嫌だ。
 結局充は、一睡も出来ないまま朝を迎えた。充にとって長い一日になりそうだっ
た。
 玄関を出ると、充はまず辺りを見回した。星野要一は朝の通学途中に襲われてい
る。朝だからといって油断はできない。
 あの探偵がきっと近くで見張ってくれている。何かあったら、彼が助けてくれる
にちがいない、と充はそう自分に言い聞かせて、自宅を後にした。
 幸い、大学に着くまでは何も起こらなかった。かといって、殺人鬼が充を狙って
いないとは断言できない。警護の存在に気づいた殺人鬼が、襲撃する機会を窺って
いるのかも知れないからだ。警護の隙を突いて、襲ってくる危険は充分に考えられ
る。
 ただ、大学にいる間は大丈夫だろうと充は楽観視していた。友人は多い方ではな
いけれど、少なくとも一人きりになってしまう時間はまずないからだ。
 そして、二時限目の語学の授業が終わった後、充は思ってもいなかった事実を知
らされることになった。

「おい、またうちの学生が殺されたらしいぞ」
 友人で情報通の竹田吾郎が充に耳打ちした。
 次は自分だとばかり思っていた充は、吾郎の言葉を聞いて、脱力感を覚えると同
時に、不謹慎にも嬉しさがこみ上げてくるのを禁じ得なかった。
「……いつ? 誰が?」
「三島陽介ってやつ知ってる?」
「このクラスの?」
「うん、そいつ。そいつがね、今朝、通学途中に駅のトイレで襲われたんだって。
出勤途中のサラリーマンが血みどろの死体を見つけて、もう大騒ぎだったらしいぞ。
これで四人目だろ? うちの学生がこうも立て続けに襲われると、内部犯じゃない
かって言う人間も出てきて、学長は対応に大わらわだそうだ」
「三島陽介かぁ……」
 充は顎に手をやって、しばらく考えた。
 雲野正太、雨宮覚、星野要一、そして三島陽介……。陽……太陽の陽! 今回も
「空」に関係のある漢字が名前に含まれていた。
 法則はまだ生きている!
(つづく)
8275〜77、79〜81:04/02/03 07:21
タイトルの「満月に捧ぐあざ花」は「満月に捧ぐあだ花」の誤りです。
ここに訂正して、お詫びいたします。
 〜4〜

 美咲が、ひとり事務所のパソコンに向かって報告書を作成していると、息を切らし
た充が飛び込んできた。顔面蒼白で、かなり切羽詰まった様子である。
「誰かにつけられてるみたいなんです!」
 充をなんとか落ち着かせようと、美咲は彼をソファーに座らせ、コップに水を汲ん
できて差し出した。
 ちょうどその時、浩介が事務所に戻ってきた。
「お帰りなさい、所長」
「俺、誰かに尾行されてるような気がするんです」
 充がすがるようにうったえ掛けてきた。
「それは多分私でしょう。あるいは、うちの所員かもしれませんよ」
「でも探偵さんなら、もっと上手く尾行するでしょう? 素人の俺なんかに気づかれる
はずがありませんよね」
「それはまあ、そのとおりですが……単にあなたの勘が鋭いだけかも知れませんよ」
「それならいいんだけど……。ところで探偵さんは、自分を尾行していて、誰か不審な
人物を見かけませんでしたか」
「そうですね……あなたの後を追うように大学から出てきて、同じ方向に歩いていった
若い女性がいましたが……。別にあなたを尾行しているような感じはありませんでした
よ。あなたがこの事務所に駆け込んだときも、その女性は、あなたに気づいてすらいな
い様子で、そのままここを通り過ぎていきました。たまたま、帰る方向が同じだったん
じゃないですか」
「そうですか……」
「まあ、いちおう念のために、その女性につきましては、所員を一人そのまま尾行させ
ましたが」
「それはどうも」
「いえ、仕事ですから。他に不審な人物は見当たりませんでしたが、あなたがご自宅に
到着されるまでは、責任を持って警護させていただきますのでご安心ください」
「あの……探、いや立花さん」
 充は少しためらいながら、浩介に声をかけた。
「何でしょう?」
 浩介は、いつものように落ち着いた口調で言葉を返す。
「犯人が捕まらない限り、こんな状態がずっと続くんでしょうか……」
 充の顔には疲労の色が滲み出ていた。精神的にかなり参っているのだろう。
「大丈夫ですよ。我々があなたをお守りしますから」
「もちろん、立花さんを信用していないわけではないんですけど、自分が狙われてるか
もしれないと思うと、不安で仕方ないんです」
 そこまで言うと、緊張の糸が切れたのか、充は堰を切ったように嗚咽の涙をこぼし始
めた。
「泣いてちゃダメですよ。もっと強くならないと」
 そばにいた美咲が、充を優しく声を掛けた。
「はい。でもどうせ殺されるなら、雲野君のように、こんな恐怖にさいなまれないうち
に殺されたかった……」
「雲野君って……ああ、最初に殺された、あの刈り上げ頭の学生さん? でも月城さん、
あなたは大丈夫。私たちが守ってあげますからね」
 そう言って充を励ます美咲の姿は、まるで息子を思う母親のように見えた。
 その傍らで浩介は、ふたりの会話を怪訝な表情で聞いていた。
 その日からしばらくして落ち着きを取り戻した充は、自分なりにこの事件についての
整理を試みた。
 まず、殺された四人の間に親しい交友関係はなかった。また、この四人と充との間に
も交友関係はない。ただ週に二回、語学の授業の時に顔を合わせるだけで、会話を交わ
すことさえなかった。では、何故その四人が殺されなければならなかったのか。皆目見
当がつかない。だが、何か理由があるはずだ。もしかすると、四人はなにか共通のトラ
ブルに巻き込まれていたのかもしれない。その四人をつなぐ糸さえ見つければ、犯人が
充を狙っているのかどうかも分かる。
 犯行が満月の日に限られているのも、どうにも理解しがたかった。犯人は満月の日に
しか活動できないのだろうか……。そんなばかな。狼男じゃあるまいし。そんな妄想に
も似たそんな考えを、充はすぐに打ち消した。
 今のところ、被害者四人全員の共通点といえば、やはり名前に「空」に関係のある文
字が入っていることと、語学の履修クラスが同じということだけ。これだと、充も当て
はまる。
 結局、考えがまとまらないまま、ひと月が経ってしまった。そして明日、満月の日を
迎える。法則どおりなら、明日、新たな犯行が決行されるはずだ。充は一歩も外に出た
くはなかったが、あいにく明日から大学の学年末考査が始まる。進級するためにはどう
しても避けては通れない道だった。
 大きな不安を心の奥底に抱え込み、眠れない夜を過ごした充は、翌朝、大きな隈取り
を目元に浮かべたまま、重い体を引きずるようにして大学に向かった。もちろん浩介た
ちが彼のあとを尾行している。
 通学途中に怪しい影は近づいてこなかった。しかし安心はできない。もし学校関係者
の中に犯人がいたとしたら大学の構内で襲われる可能性も否定できないからだ。
 試験が始まってからも、まったく落ち着いていられなかった。ときおり近づいてくる
試験官の靴音にも過剰に反応してしまい、心臓が裂けるのではないかと思うほどの、激
しい動悸が彼を襲った。このままこの状態が続いたら、きっと自分の精神は壊れてしま
うにちがいない、充はそう確信した。
 一日の試験が終了すると、充は一人で帰路についた。
 辺りはすっかり暗くなってしまっている。充の側を、落ち葉がカサカサと寂しげな音
を立てて滑っていった。すっかり冷え切った空を見上げると、満月が妖しく輝いていた。
その姿は、充を不安を煽りたてるのには充分だった。
 と、その時、
 カツ、カツ、カツ……。
 閑静な住宅街に入ると、不気味な靴音が充の背後から近づいてきた。後ろを振り返る
勇気など充にはなかった。
 来た! ついにやつがやって来た!
 足音はだんだん近づいてくる。
 これ以上、平静を装う余裕など無い。一刻も速く、自宅の玄関に駆け込みたかった。
 だが、駆け出そうとした体がいうことを利かない。まるで夢の中を逃げまどうかよう
に、足が空回りしてしまう。息も上がってきた。苦しい……。
 やっと家が見えてきた。もうすぐだ。
 しかし、足音は確実に近づいて来ていた。
 ようやく自宅の前にたどり着いたとき、充は背後から肩を掴まれた――
(つづく)
87>>83:04/02/03 22:05
訂正
× 〜4〜
○ 〜3〜
88Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/04 20:59
メフィストレスの降臨(5)

「お前今年で幾つになった?」

「16ですが、なにか?」

「そうだったな、お前の兄ハマチが死んだ歳と同じだ」

そうだ、そう言えばそうだった。俺は今、あのあこがれの兄さんと
同じ歳になったのだった。俺は話があの部屋からそれたことに
ほっとしつつ、また新たな緊張感を感じた。なぜなら、親父にとって兄の
話はタブーであったからだ。事実、あの事故以来親父が兄について言及
するのは今日が初めてだったと思う。

「お前、ハマチが死んだ原因を知ってるか?」

「・・・・・・」

「実はな、お前には黙っておったが、あれは事故ではない」

わが家ではあれはお兄さんの原付きバイクによる事故だと聞かされていた。

「あいつはな、自殺したんだよ。わざとカーブでスピードを出し、壁にぶつかって
いったんだよ。あいつの部屋に遺書があったんだ。何故かわかるか?」

まさか、そんな。なぜ?あれほど優秀な兄さんが?あんなに心が優しく、
いつも親父に怒られる俺を慰めてくれていた。俺が親父を見ると、親父の
顔は苦痛にゆがんでいた。しまった。見なければよかった。微かにだが、
俺の心の中に、親父が息子を自殺で失ってしまった悲しみが感じ
取れてしまった。しかし、俺は頑張った。もう一人の俺がこう心のなかで
つぶやく。『親父の苦痛にゆがむ顔、これこそが俺が見たかったもの
じゃないか。ハハ、ザマアミロ』
89Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/04 21:00

すると、親父がこう言い出した。

「母さん、ワカメ、お前たちもこっちきて話を聞きなさい。ちょっとお前達
にも言っておきたいことがある」

席を外していた、母さんとワカメが観念したように、親父の前に座る。親父を
見るとさすがに悲しみの色は消えていた。親父はさらに俺に問いかけた。

「お前、母さんをどう思う?」

一体、どういうことだろう?兄さんの自殺と一体なんの関係があるのか。
俺がヤンチャをしてた高校時代に体験した話。

真夏の夜にダチと単車をころがしがてら、ある小学校のプールに忍び込んだ。
俺たち五人はトランクス一枚になって、プールに入ってはしゃぎ始めた。
そのうち、鬼ごっこでもしようということになった。
三人が逃げて二人が鬼になり、鬼は三人のトランクスを脱がせば勝ち、
という今考えると本当にくだらないお遊びだ。俺は逃げる側にまわった。

俺たちは、二人の鬼に捕まらないように、薄暗い水中に潜って身を隠した。
しばらくすると一人が捕まり、捕まえた方も捕まった方もそそくさとプールサイドに上がっていた。
それを見た俺は、鬼もプールから上がってどうすんだよ、と思ったが、
声を出すと自分の居場所がばれそうなので黙っていた。

程なくして、もう一人も捕まって彼らもそそくさとプールサイドに上がった。
しかたなく、俺も上がろうとした時、誰かにトランクスをつかまれた。
俺は、驚いて振り払おうとしたが、そいつはもの凄い力でトランクスを引きずり下ろそうとする。

「おーい吉川、何やってんだ。そろそろ帰ろうぜ」
プールサイドのダチが俺に呼びかけた。
喧嘩上等で名を馳せていた俺は、まさか「助けてくれ」とも言えず、
必死で膝までおろされたトランクスを押さえながら、ようやくプールサイドまでたどり着いた。
それと同時に、トランクスをつかんだそいつの手はスーッとプールの底の方に消えていった。

「おまえら、どうして先に上がったんだよ」
プールの金網を越えて外に出た後で、俺は仲間を咎めた。
「だって、プールの中に、もうひとり誰かいるような感じがして気味悪かったんだもんよぉ・・・」
「そういうことは、もっと早く言えよ!」と、俺は声を荒げた。
そのとき、俺の耳元で声がした。

「あなたのって、案外小さいのね・・・」
91Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/05 21:49
メフィストレスの降臨(6)

「まあ、よい、答えなくとも。お前ももう16歳になった。お前の兄ハマチ
が死んだ歳と同じだ。だからという訳ではないが、お前もそろそろ本当の
ことを知っておいた方がいいだろう」

「お前には黙っていたが、お前の今の母、つまりお前の横にいるフネの
ことだが、フネはお前の生みの親ではない。お前の本当の母親はな、エイ
という名でお前を生むときに、死んだのだ。あいつは、体が弱かったからの」

「そのときお前の兄ハマチは5歳で十分物心ついていた。もしかしたら
一番母親を必要とする時期だ。それに加えてな、俺自身、心底エイのことを
愛していたから(フネすまないね、しばらく辛抱していておくれ)、
しばらく、荒れておった。」

「ハマチはな、生まれつき根が優しかった。俺が何もいわないうちから
お前の母親の様にお前の面倒をみていた。それはこの家にフネがきてからも
同じだった。お前も覚えているだろう、あいつの優しさを」

「だがな、あいつは無理をしておったんだよ。あいつがの遺書を読んで
はじめて知った。俺は情けない父親だのう。あいつが母親を失ったショック
を感じ取れないなんて」

「お前も遺書を読めば分かるが、最後まで優しかったよ。誰を恨むでなく。
逆に自分を責めておった。責任感が強すぎたんだな。それから、何より
お前のことを心配しておったよ。また、フネにたいする気遣いも、
十分あった。あの子なりに考えたんだろう、自分の自殺が周りのものを
傷つける可能性を」

「フネはな、あの子は自分の腹を傷めた子ではなかったが、それは痛ましい
ほど悲しんでな、自分にも責任を感じ、あの子の命日にはあの部屋に入り
遺書を読んでいたんだよ」
92Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/05 21:51
親父はこう一気に話した。そして親父を見ると泣いていた。これが俺の
失敗だった。こんなに一気に話させるではなかった。いつの間にか、
俺の心に隙間ができていた。俺はそんな自分を否定するかのように、
心の中でこう呟いた。だめだ、俺は復讐しなければならないのだ。
復讐しなければ、俺の人生は貫徹しない。だが、そんな俺の強情も
長くは続かなかった。
親父はさらに続けてこういった。

「すまぬ。お前にも申し訳ないことをした。エイが死んだのを、ある部分
お前のせいにし、お前にはつらく当たってしまった。お前のせいではない
にもかかわらず。もう一度言おう、すまぬ。こう言っても許しては
くれんだろうがな」

「お前には必要以上に厳しくしてしまったし、何しろ暴力を振るってしまった。
親父としては、失格だろう。どうか許してくれ。ごめんよ」
93Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/05 21:52
もうダメだった。俺は自分の心とは裏腹に目から涙がこぼれ落ちていた。
心の中では未だ恨みを抱きつつも不思議なことに、体が反応してしまっていた。
生理現象、と言ってもいい。涙が止まらなかった。それと同時に、心の中の
憎しみや復讐心が、涙と共に身体から抜け落ちてくような、不思議な感覚を
覚えた。
親父よ、あなたはそんなに弱い存在だったのか。いや、攻めてる訳じゃない。
ただ、俺の親父像が崩れていく。ダメだ。もう、憎しみを抱けない。
俺は、俺は、何を憎んでいたのだろう、何を呪っていたのだろう。
そして、最終的に、何を望んでいたのだろう。
しばらく、このまま時が過ぎた。親父のすすり泣き、いやそれに加えれ俺の、
恥ずかしいがすすり泣き、またお袋、ワカメ、全員がうつむき泣いてきた。
なんとも奇妙な時間がたった。
そして、親父がさらに、俺に問いかけた。

「最初に、戻ろう、お前はあの日なぜあの部屋に入ったんだい?
そして、何をしていたんだい?別に責めてる訳じゃない、正直に
答えてくれないか?」
9487-1:04/02/07 22:34
― プロローグ ―

野心家かといえば、そうでもない。
特に給料が高くもない高校の教師としての評判はそこそこで、
PTAの奥様方との付き合いもソツなく、こなしていた。
しかし、突然湧き出した衝動に突き動かされ、自らが犯した罪。
犯行に及ぶ度に、中に潜む魔物が育つ気がしていた。
回数が十回を越えると不思議と罪の意識はなくなり、
代わりに強烈な快楽が押し寄せるようになった。
そして、いつの間にかその衝動を自らの意思で止める事ができなくなった。
「仕方なかったんだ…くそっ、俺の意志じゃ…ないんだ…」
いつからだろう、広部辰彦は纏わり付くような霧の只中を走っている。
確かに都内から標識に従って、横浜方面へと向っていた。
高速道路は使わずに、一般道を使ったのがいけなかったのかもしれない。
だが、東京にこんな場所はあったか?
裏道は使ったにしても10分も走っていないのだ、東京都内からも出ていないだろう。
「チッ! なんで俺だけが!」
タイヤが慣れ親しんだアスファルトでなく、砂利を踏む感触を伝えてくる。
すでに、どこへ続く道なのかも分からなかった。
愛車のエンジン音は、霧に覆われた一本道と、見渡す限りの草原へ吸い込まれていく。
走り出した時には大音量で流れていたラジオの音声も、
いつからか耳障りな只のノイズ音になっていた。
エアコンの空気も生暖かくなり、額に玉の汗が浮き始める。
夜中とはいえ、季節は夏なのだ。
「チッ!」
車に乗り込んでから三十回目の舌打ちをしたとき、眼前に鬱蒼とした森が見えてきた。
霧ではっきりとは見えないが、道は生い茂る木々の中へと続いているようだ。
まるで存在を飲み込んでしまうかのように・・・ 広部には森が巨大な悪魔に見えた。
それなのに、いまさら引き返せない。
分かっていたのだ、背後には目の前に広がる森以上の恐怖が迫っている事を。
とにかく遠くへ逃げなければ。だが…どこへ?
薄汚れたホッケーのマスクが脳裏に浮かび、広部は更にアクセルを踏み込んだ。
9587-1:04/02/08 00:13
「ぎゃぁぁぁ!」


         おしまい。
96バレンタイン:04/02/09 13:22
その特別な日の朝、オレはちょっと緊張気味に登校していた。
あいつが小さな包みを背中に隠し、オレの前におずおずと現れるのはいつだろう?
ここ数日のあいつの態度で、それはもう確実だ。
「昼休みか?放課後か?」オレは空を見上げた。抜けるような青空だ。

突然、後ろからドンッと突かれて、オレは前につんのめった。
振り向くと、一人の女生徒が仁王立ちをしていた。
オレの学校の制服だ。
「そんなにほしいの?」女が言った。
「な、なんだよおまえ。人をいきなり小突きやがって!」
そう言いながらも、オレの頭の中にはいろんな言葉が飛び交った。
『こいつは誰だ』『見覚えあるぞ』『どこで会ったのか』
女は無表情のまま、カバンから出刃包丁を抜き取った。
オレの思考はそこで停止した。「ひっ」と叫んで逃げようとした時、
女は小脇に構えた出刃を、気合もろともオレの左腹直筋に突き立てた。
「ひとつ!!」
「うげぇ!」
目が飛び出した。胃から腰まで焼きごてで貫かれ、そこに電気を流されたようだ。
気が遠くなり、よろよろと膝をつきかけたオレは、
出刃をオレの腹に突き通したままの女の腕を掴んだ。
掴むというよりすがりついた。
女は握った手に左手を添わせ、力任せに出刃をねじった。
ゴリッ オレの中で、何かが腹を抉った。
生暖かい塊が口から噴き出し、オレは路上に倒れた。
「おいしかった?」微笑んだような表情の女の顔がオレの眼前に広がった。
どこかで見た顔だ。だが、誰なのか思い出せない。
「もっとあげようか」
「まって・・・一言・・・言わせて・・・」
「ふたつ!!」
女は両手で握った出刃をオレの脳天に振り下ろした。
97あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/09 13:25
「ぎゃあー」
脳天に出刃が突き刺さって死んだ。
98ともだち:04/02/09 13:38
その夕暮れ、もう誰もいなくなったと思っていた祠の前に、
小さな男の子が座っていた。
男の子の影は、もう夕暮れの隙間に消えてしまいそうに思えた。
「ケンパしようか?」
私が声をかけると「うん」といって、祠の前の石段から降りてきた。
「はだし?」
「うん」
その子の右足は、ふくろはぎがぱっくりと割れていた。
「怪我してるよ」
「うん」
「痛いでしょ?」
「うん」
「ケンパできないね」
私はポケットからハンカチを出して、その子の足に巻きつけた。
「ぼくとケンパしたい?」
透き通るような声に、私はしゃがんだままその子の顔を見上げた。
もうほとんど輪郭が見えなかった。
「怪我が治ったらね」
突然、辺りが金色に包まれた。
鳥居の脇にある街灯が点ったのだ。

私は一人でそこにしゃがみこんでいた。
相手がこの世のものでないことは、出会ったときからわかっていた。
何か無性に悲しくて、涙が溢れてきた。
私は帰りぎわに、気配の消えた社へ向かって振り向いた。
「ケンパじゃなくてもよかったのに」
羽虫が小さな唸りを残して私の耳を掠めた。
99983:04/02/09 13:52
トホホな訂正でおじゃる
× ふくろはぎ
○ ふくらはぎ
100あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/09 14:02
「ぎゃあー」
耳に羽虫が入り込んで死んだ。
101Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/09 21:09
メフィストレスの降臨(7)

まさか、家族の呪って黒ミサをしていたなんて言えない。俺はとっさにこう
答えた。

「兄さんが死んだときと同じ歳になって、急に兄さんのことが知りたくなった
んだよ。入ってはいけないとは思ったけど、あの部屋に入れば何か分かるかと
思って」

親父が答える。

「そうか、やっぱりそうか、いや、いいんだ、当たり前のことだ。そろそろ
俺もあいつの死に直面しなければいけない時が来たようだ」

それから、家の中がかわり始めた。すぐにというわけじゃないが。
親父はしばらくは俺に暴力をふるい続けた。俺は殴られ痛みを感じながら、
ああ、この痛みは親父が俺の生みの母親、エイ母さんを失った痛みなのだ、
ああ、これは親父にとっての長男、ハマチ兄さんを自殺で失った痛みなのだ、
と感じるようになった。そう感じるようになってから、しばらくたって、
親父の暴力もおさまっていった。
結局、俺の復讐、つまり魔術は失敗したのだった。だが、今、こう思う。
これでよかったのだと。
(本編はこれで終了)

102Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/09 21:11
メフィストレスの降臨
【エピローグ】
あれから6年がたった。俺は頭は悪かったがそれなりに努力をし地方の国立
大学の3年生だった。学部は文学部でドイツ文学を専攻していた。あのとき
魔術書などを読んだことが意外にも役に立って、大学ではわりと成績は
いい方だった。

その日の授業のテキストはあのドイツの文豪ゲーテの『ファウスト』だった。
『ファウスト』には前から興味があったので、その授業は楽しみだった。
あの俺が降臨させようとした悪魔メフィストフェレスが出てくるのだ。
そして、ちょうどその日は、ファウスト博士の前にメフィストフェレス
が登場するシーンからだった。
メフィストフェレスは犬として登場し、ここの場面で悪魔としての正体を
現し、ファウスト博士に「お前は何ものだ?」と詰問される。そして、
俺はこの部分の訳を当てられた。


103Faust ◆l6VmMEzPMg :04/02/09 21:12
「お前は何ものだ?」に対するメフィストフェレスの答えはこうだった。
「常に悪を欲しながらにして、しかも善を為す力の一部」
俺がこの部分を読み上げた瞬間だった。俺が家族を復讐しようとしていた
あの出来事の全てが走馬灯のように脳裏をよぎった。そして衝撃が俺を
おそった。俺はその後自働機械のように、訳文を読み上げていたが、
心はその当時をさまよっていた。そうか、そうだったのか。やっとあの出来事の
意味が分かった。

「常に悪を欲しながらにして、しかも善を為す力の一部」
この言葉が全てを物語っていた。もしかしたら、メフィストフェレスは
本当に降臨していたのかもしれない。いや、まさかそんなことはあるまい。
しかし一つだけ確実に言えることは、俺があれだけ家族を憎み、あの部屋に
入ってあの黒ミサをしていなければ、親父とは和解しなかったろうし、
今でも家族を怨み続けていたであろう、ということだ。
【メフィストフェレスの降臨:完】

104あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/10 16:23
>1さんよ、で、どうなのよ?面白いのかい?
105あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/10 18:26
「ぎゃあー」
1も死んだ。
誰か真剣に感想書く香具師いないと、
廃れていくよな、この手のスレは。
んで、その内ネタ作品のオンパレードが続いて、沈んで行くっと。
107あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/11 06:10
>>満月に捧ぐあだ花さん
つづきお願いします!むちゃくちゃ気になる!
108俺が:04/02/11 09:43
個人的に点をつける。あくまで個人的な感想だから文句は無しね。

1000鳥    7/10 もう少し話が膨らむといいね。これはこれで結構嫌な怖さがあるけどね。
41      6/10 それでどうなんだという所が欲しい。
Faust    5/10 中途半端。ちゃんとした話にするなら登場人物の名前は考えよう。
90      5/10 短編つーよりは近所の兄ちゃんのヨタ話だね。まあ、そう書いてあるんだけどね。
87-1     4/10 怖そうにしとけば何の説明もいらないと思ったらそれは間違いだ。
バレンタイン 6/10 男が何を言いたかったのか気になる。
ともだち   6/10 いいね。……ごめん、涙が溢れて感想が言えない。(嘘)

109あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/11 12:03
じゃ、俺も。

1000鳥    8/10 様々な人間の視点で話が進んでいくという構成は面白い。
           グレムリンとガーゴイルを間違えたことで話の向きが微妙に変わってしまったのが残念。
41      6/10 奇妙な物語の序章という感じ。無断転載は感心しないな。
Faust    7/10 面白いとは思うんだが、如何せん登場人物の名前が…なんで「サザエさん」なんだよ。
90      6/10 うーん、こういう話は別のスレのほうがいいんじゃないだろうか。嫌いじゃないんだが。
87-1     3/10 よく分からないな。そういう曖昧模糊とした部分がこの話の売りなんだろうけど。
バレンタイン 2/10 俺の知識が足らないせいなのか意味がよく分からない。
          なにかの隠喩だったり、深い意味があったりするのかな?
ともだち   8/10 これはかなり好き。幻想的な風景が目に浮かぶようだ。

「満月に捧ぐあだ花」はまだ完結してないんだよな?
11087-1:04/02/11 12:53
いやいや、終わりじゃないから(w
続けるかも謎だけど・・・
111109:04/02/11 15:27
>>110
あ、悪いw
一応トリップ付けたほうがよいと思われ
話の方は是非続けて欲しい
112あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/11 17:17
今日、仕事中に寄ったガソリンスタンドで食パンを一斤もらった。
夕方、家に帰る途中に、ある事をふと思い出して公園に彼女を呼び出す。
そして、ベンチに食パンを置いて彼女に見せ「野良猫みたいだよね」と、言ってみる。
少し考えた後、彼女の出した答えは、
「ん〜…そう見えなくもないけど、どっちかって言うとパンに見えるわ…」だった。
私には、夕日を浴びた食パンがふっくらとした赤猫に見えた。
この、「夕暮れの食パンは猫に見える」って話は、何処で聞いたんだろう?
時々、ふと思い出すけど、どこで聞いた話かは今も思い出せない。
「満月に捧ぐあだ花」を書いてる者です。
風邪をこじらせて伏せっていましたが、ようやく回復しましたので、
近々、完結させたいと思っています。
もうしばらくお待ち下さい。
114俺が:04/02/12 13:47
>87-1
>続けるかも謎だけど・・・
こんなこと書いてる時点でもう終わってるだろ。

>113
あまり無理せず頑張って!
 立花浩介は二人の人物を尾行していた。
 ひとりは黒いコートを羽織っている。もうひとりは、黒コートの前を歩く長髪の若
い男だ。しかし浩介は、目の前にいる黒コートの人物が誰なのか、すでに見当がつい
ていた。
 住宅街に入ると、黒コートの歩みが速くなり、浩介も慌ててそれに続いた。前の二
人、特に黒コートの人物に気づかれないよう、細心の注意が必要だった。
 カツ、カツ、カツ……。
 閑静な住宅街に、不気味な足音だけが響く。
 前を行く二人の距離が徐々に縮まっていき、ついに黒コートが左手で長髪の男の肩
に手をかけた。男が振り向くと同時に、浩介もそれに追いつき、振り上げていた黒コー
トの右手をつかんだ。
 〜4〜

 黒コートは、浩介に右手をつかまれ、その場で立ちすくんだ。
 黒コートに肩をつかまれた男の方は、怪訝そうにふたりを見ていたが、首を捻りな
がら、やがて立ち去っていった。
「もうやめよう。美咲」
「浩介さん……」
 美咲は観念したのか、素直にナイフを浩介に手渡した。
「いつから……私を疑ってたの?」
「君はこの前、うちの事務所で月城君に話していたよね。『雲野君って……ああ、最
初に殺された、あの刈り上げ頭の学生さん?』って。だけど、マスコミ等で公表され
ている彼の写真は全部ロン毛だったはずだ。だから、俺は君の言葉を不審に思い、コ
ネを使って調べてみたんだ。
 すると、あの雲野っていう学生、それまでロン毛だったのを、あの日殺される直前
に、理髪店で生まれて初めて刈り上げにしたっていうじゃないか。だから生前の彼の
写真は、ロン毛のものしかなかったんだよ。彼が刈り上げ頭なのを知っていたのは、
捜査に当たった警官、一部の親族、理髪店の店員、第一発見者、あとは……犯人。そ
れで、犯行当日の君の行動をチェックしたところ、見事にアリバイがなかった」
「…………」
「もちろん、それだけで君を犯人と決めつけたわけじゃない。殺された四人の接点を
追い求めていくうちに、あるひとりの女性にたどり着いたんだ。そう言えば、君にも
分かるだろう。そう、緑川絵美子だ。
 彼女は以前、うちの事務所にストーカー対策の依頼をしてきたはずだ。そのとき、
俺はお得意先の信用調査に手一杯で、その担当を君と谷沢君、田畑君に任せきりにし
ておいたが、その緑川絵美子が同じ城北大学の二年生だったのを思い出したんだ。そ
れでよく調べてみると、なんと彼女も殺された四人と同じ語学の履修クラスだったの
には驚いたよ。これは何かあるなと思った。まあ、探偵の勘ってやつだ」
「あの件はもう片が付いているわ。報告書も提出したはずよ」
「ああ、わかってる。相手のストーカーには、二度と彼女に近づかないという念書を
書かせ、一件落着したんだったな。だけど、君にとっては、それが始まりだったんだ。
君は彼女を愛してしまった……そうだろう?」
 美咲は唇を噛みしめたまま、俯いていた。
「俺には分かっていたさ。君が同性しか愛せない人だってことをね。それを承知で、
俺は君と結婚したんだから。君は緑川絵美子を護衛するうちに、彼女を愛してしまっ
た。彼女は綺麗だし、男子学生の間でも人気があるというじゃないか。君が愛したと
しても不思議じゃない。君は、絵美子に近寄る男が許せなかったんだろう、違うかい?」
「何もかも、お見通しってわけね。その通りよ。あいつらは、いやがる絵美子にしつ
こく言い寄っていたのよ。そして、今日ですべてが終わるはずだったのに。あいつさ
え殺せば……。彼女を傷つけるやつは絶対に許さない!」
 そう叫んだときの美咲の鬼気迫る表情に、浩介は、彼女の絵美子への情愛の念を見
た思いがした。
「ただひとつだけ分からないことがある。なぜ君は満月の日を選んで犯行に及んだん
だ?」
「……月に一度、女だけに訪れるもの……わかるでしょ」
「……月経か」
「たまたま、満月の日と重なっただけよ。でも、満月ってなにかしら血が騒ぐものね。
相乗効果があったのかもしれないわ。浩介さんの言うとおり、私は同性しか愛せない
女。男に生まれたかった……。だから、月に一度、女だけに訪れるそれが、私にとっ
て忌わしく、とても汚らわしいものに思えた。その日が来るたび、私の中に流れる狂
気の血が、ふつふつと湧き立つのを感じたわ。だから、あの四人を目の前にしたとき、
もう自制心が働かなかった……」
 知らないうちに、ふたりは肩を並べて、もと来た方へと足を向けていた。突き刺す
ような冷たい風が、容赦なくふたりを攻め立てる。
「浩介さんと一緒になれば変わると思ったんだけど……だめだった。浩介さんには申
し訳ないけど、貴方を愛したことは一度もなかった。ごめんなさい」
「君が謝らなくてもいいんだ。俺が自分で選んだことなんだからな」
「それで、私をどうするの。警察に突き出す?」
「そんなことはしないさ。俺は警察官(さつ)でもないし、それに……」
「それに……なに?」
「君をまだ愛してるから」
「…………」
「そうだ、ひとついいことを教えてやるよ。緑川絵美子には好きな男性がいてね、そ
の男の名前を聞けば君も驚くだろうな」


 そして同じ頃――
 ようやく自宅の前までたどり着いた充だったが、背後から肩をつかまれ、金縛りに
あったように硬直していた。
(もうだめだ……)
 観念した充は、恐る恐るうしろを振り返った。するとそこには思いもかけない人が
佇んでいた。
「どうしたのよ、月城クン。幽霊でも見たような顔して」
「き、君は緑川君じゃないか。どうしたんだ、いったい」
「まいっちゃうな、もう。月城クンったら、私に気づかずにどんどん早足で行っちゃ
うんだもの。まあいいや。はい、これ」
 と、鮮やかに包装された、小さな包みを充に手渡した。
「ちょっと早いけど、バレンタインのチョコ。いちおう、本命だからね!」
 そういうと、絵美子は振り返りもせず、もと来た道を駆け去っていった。
 その直後、全身から力が抜け落ちたように、充はへなへなとその場にへたりこんで
しまった。見上げると、優美な光をたたえた満月が、寒空に浮かんでいた。ついさっ
きまで、妖しげに見えたその月影は、今は清らかで、慈悲深い光明に思えたのだった。
 〜エピローグ〜

 前略、緑川絵美子様

 あの日、私は偶然に見てしまったのです。
 あなたがナイフを手にして、公園から息を切らしながら駆け出してきたのを。
 そして、公園の中で雲野の死体を見つけたとき、私はすべてを悟りました。
 だから私は、残りの三人を、あなたの代わりに殺害しました。 
 でも、あなたは何も心配することはありません。
 すべて私ひとりでやったことにします。それが、私のあなたへの愛の証です。
 でも、約束して下さい。もう二度と、あのような過ちを犯さないと。
 これ以上、あなたの手を血で染めて欲しくはないのです。
 それが、私の最後の望みです。
 あなたがこの手紙を読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。
 お幸せになって下さい。
 さようなら。
 
 立花美咲


 読み終わると、絵美子は皿の上で手紙に火をつけた。
 美咲の思いは伝わらなかったのだろうか、絵美子は表情ひとつ変えない。ただじっと、
炎のほさきを見つめているだけだった。
 携帯のメールを確認する。充からだった。
 『あす、返事するから』
「明日かぁ……。彼の返事しだいでは……」
 そう呟くと、絵美子は果物ナイフを鞄の中にそっと忍ばせた。

(End)
120俺が:04/02/13 15:36
満月に捧ぐあだ花 6/10

オカルトとしては弱い気がする。普通の短編としてだったらまずまず面白いかと。
ただ伏線らしきものが多数あったにも拘らず、それを殆ど使っていない。
もう少し長めの作品にすれば、もっと面白いものになったのではと思うと少し残念。
>>120
広義のホラーとしては成立すると思ったんだけど、
やはり、「オカルト」短編小説だから、ある程度霊的な存在が登場してこないと
評価されない、ということだね。
また書かしてもらいます。では

122俺が:04/02/13 23:54
いや、霊云々というわけではなく、
満月と月経の……だけではありきたりではないかと。
そもそもオカルトの定義自体が(ここではの話ね)

オカルトとは心霊現象、UFO、UMA、超科学、神秘学、超能力、超心理、古代文明などのことです。
「怖い」「恐怖」「オカルト」だけではオカルトではありませんよ。。。( ̄ー ̄)ニヤリ

とまあこんな程度だから、あやふやなんだけどね。
ウン、そうだね、“オカルトとしては弱い気がする。”は撤回させていただきます。
それから俺としては
>「今まで、三人の学生が犠牲になっていますよね? その三人の名前が……全員
>『空』に関係しているんです。最初が雲野正太、次が雨宮覚、三番目が星野要一……
この辺をもう少し掘り下げて欲しかった。
ラストあたりの展開は面白かったんで、次回作期待してます。
>>122
あんた、本当にイイ人だなぁ。
プロじゃない人に、あまり高度なものを期待するのもどうかと思うよ。
敷居が高くなって、他の人が書きにくくなるからね。

少なくとも、「満月に捧ぐあだ花」は、セリフ回しも軽妙で、文章もこなれていて、
このスレの中では、もっとも「小説」としての形をなしている。
もっとも、ホラーというよりもミステリに近い作品だとは思うけど。

1000鳥さんの作品は、テンポが速く軽快な感じがして、映画を見ているようだ。
「次は何が起きるんだろう」という、読み手の心理をくすぐるような展開が絶妙。
ただ、小説というよりはドラマのシナリオに近い印象をうけた。そこらあたりが少し残念。
125あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/14 01:47
感想書くのはいいけど、その作品への純粋な感想だけで十分でないかい?
他と比べてどうこうとか、残念とか、評論家気取りは鼻白む想いがする。
別にいいんじゃないの?
罵倒、中傷しているわけでもないし、
自分の感じたことを率直に書いているだけだし・・・
127あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/14 02:14
『満月に捧ぐあだ花』の物語に対する個人的な感想。
とりあえず、面白かったです!次どうなるのかなと期待しながら読み進められました。
文章も余計な箇所が少なく、力がある感じが伝わって来ます。
ただ、生理とレズネタは個人的に余り好きではないので(勝手ですみません)、そこはイマイチでした。
これからも期待しています。頑張って下さい。
128125:04/02/14 02:39
>>126
>罵倒、中傷しているわけでもないし、
そんなことは当たり前。
素人が気紛れに書き込んでくれるんだから、素直に感想書くだけじゃなくて
敷居の高くなるような言葉は抑えるような気遣いもいるんじゃないか
って話なんだけどね。

言ってる意味が分からないのならもう何も言わんが。
129あだ花の作者:04/02/14 04:39
>>122
たび重なるアドバイス、ありがとうございます。
なるほど、オカルトってのは奥の深いもんなんですね。いい勉強になりました。
確かに、満月と月経……という設定はありきたりだったかな、と反省しています。
指摘されたところは、今後の参考にさせていただきます。

>>124
感想ありがとうございます。
ミステリに近いというか、どちらにしても中途半端な感じになってしまいました。
文章を誉めていただいたのは、けっこう嬉しかったりします。
でも、後から読み返してみると、推敲ミスがかなり見つかって、少々鬱になっています。

>>127
感想ありがとうございます。
やはり、このようなネタは読む人を選びますよね。
そこらあたりは、今後よく考えて書いていこうと思います。
とにかく、「面白い」と言ってもらえたんで、正直書いた甲斐がありました。
130あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/14 06:25
罵倒中傷が日常茶飯事の2ちゃんで、このスレの住人は割とまじめな感想書いてるよ。
それだけでも良しとすべきじゃないのか?
だいたい、「・・・残念」と書かれたり他と比較されたぐらいで、敷居が高いと感じるんだったら、
はじめから匿名の掲示板に文章晒そうなんて考えない方が良い。
つーか、たかが2ちゃん程度で敷居が高いと感じるようなのは、
大体がつまらない話なんだろうから、読まされる方もいい迷惑だわさw
131あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/14 06:42
つーか、作品にせよ感想にせよ、
誰が何かいてもいいじゃねえか。
気に入らんかったら無視してりゃいいの。
いちいち反応するな。
こんな話こそつまらんつーの。
132あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/14 08:22
・・・ってことで、作家のミナサ-ン Щ(゚Д゚Щ) カモーン

 お 待 ち し て ま す よ 〜 
1331000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:28
誰も書かないようなので、私のHPから
1341000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:29
火星人の捕獲、調理に関する一考察
1.捕獲

 さて捕獲の方法ですが、これは極めて単純です。
地球上の様々な動物を捕獲する方法がそのまま応用されます。
つまりは餌で捕らえる、ということです。
ただし餌といっても食物ではありません。
そもそも火星人が何を食するかは未だ判明していないのです。
そこで登場するのがガーターストッキングです。
これを好きではないという奴など見た事ありません。

そんな奴ぁ人間じゃねえ! 

そう断言してもよろしい。
では用意したガーターストッキングをどうするか?
これは、眠る時にベッドから吊るしておくだけで結構です。
布団で寝ている方はベッドを買ってください。
布団の脇にガーターストッキングを置こうものなら、それはもう大変な事になります。
(今回は火星人にまつわるお話ですので、その話は割愛させていただきます)
1351000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:30
吊るす期日についても決まり事があります。
これは12月24日の夜でないといけません。それは何故か?
間違ってサンタクロースがプレゼントを入れてくれるかもしれないからです。
ちなみに昨年のクリスマスイブの事。
ベッドサイドに吊るしたガーターストッキングに

「素直で可愛い妹が欲しい」

とサンタクロースへの手紙を入れておいたところ

「ヲタキモイ」

と返事が返ってきました。
サンタクロースはいます。

話が脱線してしまいました。
以上の要領をきちんと守れば12月25日の朝にはストッキングの中に火星人を見つける事ができるでしょう。
1361000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:32
2.調理
 調理というからにはその後に来るものは食事です。
空腹は最大のスパイスです。先ずは運動でもして空腹状態で調理にかかる事をお勧めします。
また、火星人は体に毒を含む部分が多くあるため、専用の免許が必要です。
必ずそちらを先に取得してください。
申請先等、詳しい情報は輪島功一ボクシングジムまで。
 
全ての準備が整ったら実際に調理をしてみましょう。
先ず風呂桶に水をはってそこに塩を入れます。
濃度は3〜4%程度で海水と同じぐらいが良いでしょう。
食塩水ができたらその中に火星人を生きたまま放り込みます。
この際、浮き輪なども与えると喜んでもらえるでしょう。
30分ほどで飽きてくると思いますので、水から上げてよく体を拭いてください。
風邪をひかせてしまっては可哀想です。できたらドライヤーもかけてあげましょう。
1371000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:33
 次に〆ます。
〆る方法は色々ありますが、自殺を強要するのが最も手っ取り早いでしょう。手も汚さずに済みます。
また、その際には当然火星語で強要しなければなりません。
火星語会話スクールについての問い合わせはガッツエンタープライズまで。

 さて、〆ましたら足の根元に包丁を入れます。
実は足の部分には硝酸オケアノスという猛毒が含まれていますので食べられません。
この部分は捨ててください。
次に足の付け根の部分を良く見てください。肛門があります。
火星人の肛門は人間のそれと良く似ていますのですぐに分かるでしょう。
分からない方は鏡を持てトイレに行き良く観察してください。
ここでの注意事項はあまり自分の肛門をいじらない事です。変な気分になります。
ただし変な気分ではなく便意を催した場合は自然の摂理に従ってください。思う存分。
また話が脱線してしまいました。要は火星人の肛門です。
ここから手を入れて中の内臓を全て引きずり出してください。
この内蔵にも前述の猛毒が含まれています。捨ててください。
そして残った外套の部分。これにも猛毒が含まれています。捨ててください。
さて俎の上にはなにが残りましたか? そうです、何も残っていません。
爪でも噛んでいてください。
1381000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:34
3.考察
火星人は爪の味がする。
1391000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:35
4.結論
そもそも火星人などという生物はこの世に存在しません。
つまりはここまで読んでしまったあなた、ほら、画面の前にいるあなたです。
あなたには足りないものがありそうです。
そう、常識という名のスパイスが。
1401000鳥 ◆YvzIZAahNM :04/02/18 12:37
これがオカルトといえるかどうかは我ながら疑問です。
怒りに満ちた感想をお待ちしています。
141俺が:04/02/19 09:21
>1000鳥

ワロタ!
オカルトじゃないかも知れんけど笑わせてもらった。俺的にはこの話ツボ。
というわけで 8/10
142あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/21 07:39
mage
143うんちっち吉村:04/02/21 09:38
〜宇宙からの恐怖〜

「な、なんだ、お前は!?」

「グヒヒヒヒ。俺様の名はウンコ星人。」

「ウ、ウンコ星人だとぉぉ!」

「愚かな地球人め、これでもくらえ。」

( ・∀・)∩ ウンコビ━━━━━━━━━━━━━━━━━ム 

「ぎゃあああ!うんこを漏らしてしまったぁ!」

「グヒヒ、お前はこれから一生うんこを漏らし続けて生きるのだ!」

「ひゃー!」

― 続く ―
144うつぼさん:04/02/27 17:37

ほんの記憶


小学校の1年の頃に突然引っ越してしまった仲の良い友達から、
『日本の妖怪辞典』という本をもらった。
昔の本らしく表紙の補強に布を使っている物だった。
大切にしていたけど、歳月と共に紙はボロボロとなり、
背表紙の継ぎ目部分から裂けだして、表紙と中身がバラバラと取れそうになる。
私はどうしても捨てる気にはなれず、ガムテで補強しながら読んでいた。
でも、やはり時間が経つと風化は起こる。
その度にガムテで補強していたので、本の外装はガムテープに完全に覆われ、
中学に入る頃には、知らない人が見たら開くまで何の本か分からない状態だった。
そんな感じの古びたボロボロの本。
それなのに、引越しを繰り返しても必ずいつも本棚の端にひっそりと鎮座していた。

先日、部屋の掃除をしていると、外装をガムテープで覆われたその本が目に留まり、
懐かしく思った私は掃除を一時中断して読み(見)耽ってしまった。
 「子供の頃はこんな絵が怖かったんだよな…」
 「あ、こんな妖怪いたいた!…」
 「これは子供の頃も可愛いと思った妖怪だっけ…」
などなど、単なる妖怪の本なのに、心地よくも懐かしい思いが湧いて、
子供の頃の情景までが断片的に思い出された。
 「…そういえば、あいつの名前ってなんていったっけかな。」
この本を友人から譲り受けて30年近く経つ。
私はこの本をくれた友達のことを、仲が良かったこと以外は殆ど憶えていないのに気付いた。
145うつぼさん:04/02/27 17:38

本を最後まで読み終え掃除を再開しようとしたが、
なんとなく裏表紙の裏の部分(奥付と対面になっている部分)が気になった。
そこには汚れや落書きを隠すかたちで違う紙が張ってあるようだった。
私はタイムカプセルを見つけたかのように興奮し、思い切って剥がしてみることにした。
これも年と共に風化したのだろう。
糊付けしてあるようだが、既に端が少しだけ捲れており、抓んで引っ張ると簡単に剥がす事ができた。
薄い紙で覆われたタイムカプセルの中には、薄く消えそうな鉛筆の文字が記してあった。

  1ねん4くみ みややま ゆきお  2ねんせいになったらかえしてね。

 「そうか…」

私の目からぽろぽろと涙があふれてきた。
忘れていた記憶が唐突に蘇る。
…仲の良い友達は引っ越したんじゃなし、この本も彼から直接もらったわけじゃない。
大人になった今、すべて理解する事ができた。
146うつぼさん:04/02/27 17:39

あれは、1年の3学期だったと思う。2年生になったらクラス替えがあるので、
2年になったらすぐに返すという約束で、ゆきちゃんからこの本を貸してもらった。
それから数日後の下校途中、ゆきちゃんは交通事故に遭った。
仲が良かった私と数人は、先生と一緒にクラスの代表としてお見舞いに行った。
あまり行くと迷惑になるという理由から、これが最初で最後のお見舞いだった。
そのとき、借りていた「妖怪辞典」を持っていった。なぜか返さないといけないと思った。
病室にはゆきちゃんのお母さんがいて、寝ているゆきちゃんの代わりに私たちの相手をしている。
 「これ、ゆきちゃんに借りたの。」
私が差し出した本をゆきちゃんのお母さんは受け取り、しばらく見つめ、
 「○○くん、この本は…ゆきおがね、○○くんにあげるって言ってたよ。
  ゆきおが起きたら、おばさんたち遠くにお引越しするの。
  だから、この本はプレゼントするんだって。ゆきおが…大切にしてあげてね。」
そう言って私に手渡してくれた。
 「え、この本くれるの?…ありがとう。」
引越しすると言われ、つまらなくなるな・・という気持ちしかなかった。

いい加減な話だが、何年か経つ間に私の記憶から『ゆきちゃん』は消えていた。
だけど、30年近く経った今、『ゆきちゃん』は子供の頃の姿のまま、
突然、私の記憶の中に戻ってきたのだ。
この本は、これからも本棚の片隅に大切にしまっておく。
ゆきちゃんと元気に遊んだ記憶と共に。

ほんの記憶

よかった。
ほんの記憶

ガムテープを剥がすところは面白かったが
あとはだらだらと長いだけでした。
申し訳ないけれどこれが正直な感想。
149うつぼさん:04/02/27 23:39
>>147
最高の褒め言葉、ありがとう御座います。
>>148
うまく書けなくてごめんなさい。
剥がしたのガムテープじゃないです…

またがんばって書いてみます。では。
150蠢 ◆ldIBuAcZTY :04/02/28 17:14
「雫」

私は幼い頃から水滴というものが嫌いだった。
海や湖などは好きなので、やはり「水」ではなく「水滴」が嫌いなのだろう。
明確な理由などは思い当たらない。ただ漠然とした嫌悪感のみがそこにあるのだ。
水滴は…
水滴は「集合体」を離れ、空気中を落下する、壁を這い降りる。
そして、また「集合体」へと還るのだ。分離し、混じる。それを繰り返す。
私を嫌な気持ちにさせるそれも、循環の中の一つの過程でしかないのだ。
そして、循環に終わりはない。おそらく私の水滴への嫌悪にも終わりはないのだ。

土砂降りの雨の下を走りながら、そんなことを考えていた。
どうも最近の私はおかしい。余計なことばかり考えてしまう。
会社が今、大変な時期だというのに。
その逆か…そういった仕事に対する焦りが私の脳を蝕んでいるのかもしれない。
それにしても。朝の天気予報では晴れと言っていたのに。先程までの快晴が嘘のようだ。
大量の水滴が躰に触れる不快感を感じた。
…まあ、いい。もうすぐ家だ。
玄関の扉を勢いよく開け、中に飛び込む。
少し外よりも気温の高い家の中に入って、雨の中では分からなかった寒さを感じた。
背広もズボンもびしょ濡れだ。濡れて湿った下着が不快にまとわりつく。
気分が悪い。まず風呂に入ってしまおう。
151蠢 ◆ldIBuAcZTY :04/02/28 17:15
洗面器に湯を入れようとレバーを捻ると、頭上のシャワーから水が勢いよく噴き出した。
…ああ、レバーの方向を間違えたのか。
ふと、意識が朦朧とする。
土砂降りの雨音とシャワーの水が床に当たる音とが混じり合い、私の耳の奥で響いた。
「水滴」が私を浸食していく。私の脳を、躰を。私は目眩を感じ、しばしその場に立ち竦んだ。

刹那。
曖昧な視界の中で、一雫の水滴が私の躰から滴り、落ちるのを感じた。
そして、落下した水滴は床のタイルにぶつかり小さく弾けて消えた。

やっと分かった。
そうだ、私は「水滴」だったのだ。
幼い頃からそうだった。
私は一人だったのだ。
家族という集まり、仲間という集まり、私はそういった「集合体」の外にいたのだ。
私はいつも独りだったのだ。今も同じだ。今も独り。
私が水滴を嫌うことは、自己に対する嫌悪。
ならば、私は「集合体」へと還ろう。還れば、ただ楽になる。「集合体」の一部になるのだ。

そして、私はぬるま湯の中で息絶えた。
独りではないということ。
自らが水と交わるのを感じ、私は生まれて初めて孤独から解放された。
152あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/02/29 00:24
「雫」

<勝手な感想>
それらしい言葉は並んでいても
文章のための文章で絵もない。
上っ面だけでは共感も生まれない。
(1/10)
153若っ童姫 ◆jQ8dlj83Ys :04/02/29 02:09
ちょっと文章書く練習に書いてみました。
拙い文章ッスけど、駄目だししてやってみて下さいw

―――――――――――――――――――――――――

「声がする」


切れそうなのか、チカチカと点滅する街灯。
点いてはいるものの、通りを照らすには暗すぎた。
変圧器のヴー、という音が聞こえてくる。
夜空には星が瞬き、月が雲を映し出す。


この道は、俺の家には遠回り。
何でわざわざこの遠回りな道を通るかって?
それは――――――――――――……

154若っ童姫 ◆jQ8dlj83Ys :04/02/29 02:10
数日前。まだこの道ではなく、普通の道を使っていた頃だ。
駅前はまだ夜でも店が開いていて、人も多かった。
街の喧騒の中、俺はその賑やかさを快く思いつつ帰路へとつく。

駅から離れていくうち、徐々に店も減り、
今が夜であるということ、また、家に帰るということで安心を得始める。
その、昼間と夜の精神が切り替わろうとするその時。


バチッ


頭の中に、ブレーカーが落ちたときのような音が響く。
それに合わせて身体が仰け反る。
感電した訳ではない。雷もありえない。仰け反った瞬間見上げた空には星も月も見えたのだから。
とても驚いたが、痛みは無い。手足を動かすと身体もきちんと動いた。
気のせいだ、と思って歩き出す。
155若っ童姫 ◆jQ8dlj83Ys :04/02/29 02:11

と、その時―――――。


『×××××。』


聞き取れない。でも、声がする。無数で、女とも、男ともつかない不思議な声。
その小さな声が、徐々に大きくなり、煩いほどに鳴り響く。
俺は恐怖と驚きで、慌てて走り出した。

しかし恐慌状態で、且つ運動不足の俺は足がもつれて地面に倒れこんだ。
それでもなお声は続き、ふと、頭上の星を見上げた。


『……笑って…る…………?』


思わず声に出した。
156若っ童姫 ◆jQ8dlj83Ys :04/02/29 02:12
一瞬ざわめきが静かになった気がした。
俺には、空に散らばっている星々が笑っているように見えたんだ。
そして、声は星たちから発せられていた。
その言語の意味は相変わらずわからない。…でも、感覚が訴える。

        “お前らは、小さいな”

ただ押し付けられる、大して意味の無い感覚。
起き上がるのを辞め、俺は仰向けに地面に寝転んで星を見た。
無数の、星と星との会話。
流れては消え、消えては浮かぶ意味。
俺は無感動に聞き流していく。


それからというもの、俺はこの静かで暗い道を選んで歩く。
何をする訳でもないが、ただただこの声を聞き続ける為にここを通る。
見られていて、見られていない。
意味があって、意味の無い。
事象の羅列。


それを見ている俺は、“星”になったんだ―――――――――…。

>>55の話の出だしって、これと同じだな。その後に続く展開は違うからいいけど。
http://ex.2ch.net/test/read.cgi/entrance/1021200578/l50
158蠢 ◆ldIBuAcZTY :04/02/29 10:08
>>152
コメントありがとうございます。
「雫」は試験的に書いたもので、一人の人間の過程と終わりを記号的に表現しようというのがテーマのひとつでした。
(この状況で言っても詭弁にしか聞こえないですね。自分の文章的表現力が未熟だということは理解しています。)
あとは人間の心理の部分を書きたかったです。人間は結局「自分」っていうものを分かっていない、という。
自分でも気付いていなかった(無意識に気付かないようにしていた)ことが「スイッチ」によって明らかになる。そういった危うさ。
結果的に中途半端になってしまったのが残念です。
頑張ります。
>>148
>ガムテープを剥がすところは面白かったが

読解力なさ杉。
160無題 ◆NDD9/PVKfI :04/03/01 01:40
 視界の右から左へと、白い服を着た人々が行き交っていた。おのぼりさん、といった風に
周囲をきょろきょろと見回している人もいれば、暗い顔をして俯きながら歩いている人、ふて
ぶてしく大きな歩幅で歩いている人まで、通行人の様子は様々だった。ただ話し声だけが交
じり合い、一つのざわめきとして辺りを支配している。
 休憩中の僕に声をかけてきたのも、そんなざわめきの中から抜け出してきた通行人の一
人だった。
「ちょっといいですか?」
 彼は僕が座っている席の向かい側に立ち、そう尋ねてきた。特に用事があるわけでもなく、
まだ大分休憩時間も残っていた僕は「いいですよ」と返しながら、向かいの席を視線で促し
た。
「ああ、あなた……僕の担当の」
 小さな会釈を一つして、彼は椅子に腰を降ろす。ゆらゆらと揺れる灯りに浮かび上がった
彼の顔には見覚えがあった。確か最近ここに来た僕の客だ。
161無題 ◆NDD9/PVKfI :04/03/01 01:41
 もう随分と長いこと忙しい日々が続いているとはいえ、自分が担当している客の顔を忘れ
てしまうなんて。ばつの悪い思いから、僕が頭に手をやっているのを見て、彼は小さな笑み
を浮かべてみせる。
「いえ、いいんですよ。忙しそうですしね」
 その笑みに、彼が子供である、ということを気付かされた。子供とはいっても、十代の後
半ぐらいだろうか。こうして向かい合わせに座り、初めて真っ直ぐに顔を見ても、長い髪と
痩せこけた頬からは、どうしても老けた印象を受けてしまう。それは、妙にしっかりとした口
調のせいもあったかもしれないが。
「どうです、一杯」
 テーブルの端に備えら付けられていたグラスを一つ取り、彼の方へと差し出す。次に僕
が手にした、血色の液体で満たされたボトルを見ると、彼は「結構です」と苦笑しながら手
を振ってみせた。
「それより、少し話を聞いていただきたいのですが」
 そういうことか。僕は内心、なるほど、と頷いた。ここに来る以前の自分を語りたがる客、
というのは結構多い。環境の変化から生まれる不安に対して、そうして自分のことを誰か
に話すことによって、心のバランスを保とうとしているのだろう。彼らのことを、僕は勝手に
そう解釈していた。
「実は私、人を殺したことがあるんですよ」
 はたして僕の予想通り、彼の話の内容というのも過去の彼に関するものだった。
 単刀直入な言葉に僕はわざとらしく目を丸めてみせながら相槌を返す。
「あまり、新鮮な話題でもなかったですか?」
 僕の演技を見破ったのだろう、彼は目を細めながら数度、指先で頬を掻いた。それから
僕の方へと見を乗り出し、歳相応の無邪気な笑顔を浮かべてみせる。
「でもね、私の話はここからなんですよ。……実は僕、確かに人を一人殺したんですが、
何故か誰にも罪を追及されていない」
「完全犯罪、というやつですか?」
162無題 ◆NDD9/PVKfI :04/03/01 01:42
 まるで、自分がどれだけ上手く万引きをしたか、という程度のことを話しているかのような、
軽い調子で得意げに言う彼を見て、僕は顔を伏せながら苦笑を洩らす。
 頻繁に、というわけでもないが、彼のような客もそれなりにはいるのだ。正直、またか、と
は思った僕だったけれど、次に彼が発した言葉には、思わず興味を惹かれてしまう。
「ええ、そうなりますね。しかも、私が犯人である、という証拠をいくつも残しているにもかか
わらずです」
「へえ。それは、例えばどんな?」
「そうですね。例えば、殺害に使用した毒薬の瓶。あの瓶には私の指紋がべったりと付いた
ままだった。それどころか殺害現場である部屋に、私が犯人である、という文面のメモすら
残していたんですよ」
 長い前髪の奥で楽しげに輝く彼の瞳に吸い込まれるかのように、気付けば僕も身を乗り出
していた。先程まで気にも留めていなかったざわめきが、今では無性にわずらわしく思える。
 僕は彼が発する次の言葉を聞き逃さないように、全ての神経を耳に集中させる。そんな僕
の様子を見て、彼はますます楽しそうに目を細めた。
「私がどうして罪に問われなかったか、解りますか?」
 僕は数度首を横に振ってみせる。そして、視線で話の続きを促した。
「私が殺したのは、私自身だからです」
 思わず体の力が抜けていくのを感じた。僕がどれだけ呆けた顔をしているのかが、彼の洩
らした笑い声から何となく想像がついた。
 なるほど、そういうことか。一本取られたな、と僕は自分の頭に生えている角を軽く撫でる。
「でも、結局今、あなたはここにいる」
 せめてもの反撃を、と発した僕の言葉は「それもそうだ」と軽く受け流されてしまった。
「それで、今日の私の予定、どうなってます?」
「今日ですか? ええと、血の池と針の山、となっていますね」
「それはまた随分と苦しそうだ」
 やれやれ、と彼は小さく肩を竦めてみせる。遠くで休憩時間の終わりを告げる鐘の音が聞
こえた。

【終】
163無題 ◆NDD9/PVKfI :04/03/01 01:49
何となく日記に書き散らしてみた短編なので、タイトルが無いです。
いや、元々タイトル考えるのが苦手なだけなのもありますが。
びしばし叩いてやってくださいな。

【ほんの記憶】
こういう話は単純に好きだ。ちょっとウルッときた。

【雫】
>>152と似たような感想。ゃ、漏れも人のこと言えるような文章じゃないけど。
でも序盤の部分は何か好き(曖昧な感想でゴメン)

【声がする】
んー、何だか話の内容が漠然としてて掴み辛かった。
結局「ブレーカーが落ちたときのような音」ってのは何だったんだろう?
164あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/01 02:48
浅田次郎 『鉄道員』
短篇小説好きの皆様。こちらのスレッドにも遊びにいらして
いただけますと幸いです。

【ぼっけえ】暗黒の文学館【きょうてえ】
http://hobby4.2ch.net/test/read.cgi/occult/1059377824/l50

よろしくお願いいたします。

166あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/05 01:24
保守age
167あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/05 23:59
ここって、このジャンルの創作ではレベル高いかも・・・全体に面白い。
作者のみんな頑張れ!
168Faust ◆l6VmMEzPMg :04/03/06 00:02
>>157
おそレスだけど、盗作とかじゃないよ。
だって、そのスレを見れば分かるけど、
後の方で俺が書いた展開載ってるでしょ。
実は別の人が書き始めた小説に俺が便乗して
書き連ねたの。
だから名前のことでいろいろいわれたけど、それは仕様がなかった。
評価してくれた人ありがとうね。
169Orange☆:04/03/13 19:03
>>1
版違い。
詩・ポエムに立てて・・・
170あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/17 02:28
>>169
何故に詩板。創作板ならなんとなくわかるが。

と言いつつage
>>169
板違いってこた無いだろ?
もし、この手のモンが板違いなら映画の話題も、怖い話も…
リアル以外は全部別ジャンルに割り振られちまう。

と言いつつage
172171:04/03/18 06:27
ageとか言ってsageちまったよ!

          ちょっと逝ってくるわ…
173あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/25 18:24
面白いのにもったいねー・・・age
174あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/25 19:27
題名 【一人じゃない】

 わたしはいつも押し入れで遊ぶのが好きだった。
暇な時は、絵本やおもちゃを持って、一人押し入れの中で遊ぶ。
 今日は、一人でお留守番をさせられてしまった。
お母さんが書き置きを残して、いつの間にか買い物に出掛けていたのだ。
仕方なく、お母さんが帰ってくるまでの間、押し入れの中で遊ぶことにした。
いつも通り絵本を持ち込んで、暇をつぶす。
だけど、今日は一人じゃない。
あの子が遊びに来ている。
「ねぇ・・・、何して遊ぼうか」
その子はそう言うと、わたしを見て、笑った。
「う〜ん、どうしよっか?」
わたしが困っていると、その女の子はポケットから小さなナイフを取りだした。
「これで遊ぼうよ・・・」
題名 【一人じゃない】

 わたしはいつも押し入れで遊ぶのが好きだった。
暇な時は、絵本やおもちゃを持って、一人押し入れの中で遊ぶ。
 今日は、一人でお留守番をさせられてしまった。
お母さんが書き置きを残して、いつの間にか買い物に出掛けていたのだ。
仕方なく、お母さんが帰ってくるまでの間、押し入れの中で遊ぶことにした。
いつも通り絵本を持ち込んで、暇をつぶす。
だけど、今日は一人じゃない。
あの子が遊びに来ている。
「ねぇ・・・、何して遊ぼうか」
その子はそう言うと、わたしを見て、笑った。
「う〜ん、どうしよっか?」
わたしが困っていると、その女の子はポケットから小さなナイフを取りだした。
「これで遊ぼうよ・・・」
女の子はナイフをわたしに向けた。
ごめんなさい。2度書きしてしまいました・・・。
177あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/02 20:57
わかんないんです(><)
178あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/02 21:12
ごめんなさいごめんなさい
179あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/04 20:38
ごめんください
180あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/10 11:02 ID:6tjqhHgX

「最近、暑くて眠れない…」
三日前、姉貴がそんなことを言い出した。
「いいじゃない、眠らなければおねしょしないで済むし」
と言ったら姉貴は泣いてしまった。
それから今日まで姉貴は全く笑わない。
とっておきの落語を聞かせてもくすりともしなかった。
姉貴は三日間ちっとも寝てないようだった。
その割にシーツは毎日濡れていたのだが…。
どうしたものかと考え込みながら大通りを歩いていると、
向こうから茶色いローブを着た老人が歩いてきた。
老人は僕の顔を見るなり、一枚の図面をくれて
この通りに作れと言った。
図面にあったのは普通の扇風機のようだった。
扇風機なら作らずとも家にあったが、
あの老人の目は真剣だったので作ってみることにした。
夕食後直ちに作り始めて、完成したのは夜中の二時過ぎだった。
完成したのはやっぱり扇風機だった。
騙されたのかな…そう思い始めた所へちょうど姉貴が水を飲みに起きてきた。
僕は姉貴を呼ぶと、できたての扇風機のスイッチを入れた。
扇風機は天井をぶち破り夜空に向かって飛んでいった。
姉貴が笑った。
181あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/10 21:02 ID:0zNcP//F
>>180
なんというか、姉貴の睡眠不足も解消されず、
濡れたシーツの謎も解明できず、笑う方に話が走って落ちなんて…
チェコのアニメを見ているようですごい面白いです!!
182あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/10 21:18 ID:urYgmFi8
題名 死神 朝起きたら死神が狙ってた。夜命とられた。 終わり
183あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/12 00:40 ID:fLNfJkSu
>>182
おーまーえ〜ゎはーあーほぉ〜かぁ〜〜!
題名 死神 朝起きたら死神が狙ってた。昼いっしょに飯食った。夜命とられた。 終わり
185あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/04/15 06:21 ID:vxjbRDfA
「ロバだ!ロバが居たんだ!」しかし、男の叫んだ言葉は嘘だった。
村人は騙された事に逆上して、男をバラバラに切り刻んで埋めてしまった。終わり
ここは誰も使ってないのかな?
>>160-163
文章中、読者が興味をひかない話に主人公が惹かれることを描くのなら、
そいつをその道のプロや、訳知りにしては駄目だ。
完全犯罪の人殺し=自殺、そして地獄落ち
ありがちなネタだが、主人公への打ち明け話一つだって、
もう少し興味深くかけるはず。
190
以前にネットで読んだ話。

工場の経営者が、飲み屋で
「最近従業員が入ったと思ったらすぐに辞めて困る」
とぼやいていると、隣にいたちょっと陰気な男が
「じゃあ、私を住み込みで雇ってくれませんか?
今の仕事が嫌になったんです、今の仕事以外なら何でもします」
と言ってきたので、早速雇うことにしました。
翌日からその陰気な男は工場の二階に住み込んで
ばりばり働き、経営者はいい人が来てくれたと
とても喜んでいました。

その日から、世界はちょっとずつ以前と変わり始めていましたが、
気づく人はほんの少しでした。

しばらくして経営者の奥さんが言いました。
「ねえあなた、昨日ね、布団を敷いておいてあげようと思って
二階のあの人の部屋に入ったのよ。
押入れを開けたらね、ものすごく大きな鎌が入れてあったの。
大丈夫かしらあの人」

経営者は気づきました。
「あいつを雇ってから……新聞でもテレビでも殺人事件や死亡事故や、
とにかく人が死んだってことを見たことがない」

陰気な男の前職が何かは皆さんお分かりですね?