FFDQバトルロワイアル3rd PART17

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
━━━━━説明━━━━━
こちらはDQ・FF世界でバトルロワイアルが開催されたら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員、
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

sage進行でお願いします。
詳しい説明は>>2-10…ぐらい。
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/29(土) 13:45:13.18 ID:ISgcqHvWO
+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員に、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン>が支給される。
 また、ランダムで選ばれた<武器>が1〜3個渡される。
 <ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。
・生存者が一名になった時点で、主催者が待つ場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。

+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
 この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
 または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・日没時に発表される『禁止技』を使うと爆発する。
・日の出時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても爆発する。
・魔法や爆発に巻き込まれても誘爆はしない。
・首輪を外しても、脱出魔法で会場外に出たり禁止魔法を使用することはできない。

+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
3テンプレ:2012/09/29(土) 17:12:43.79 ID:y4/0dP6m0
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
 X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
 ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
 その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。

+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ

+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。

現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG

━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
4テンプレ:2012/09/29(土) 17:13:53.18 ID:y4/0dP6m0
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。


書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
5テンプレ:2012/09/29(土) 17:16:55.83 ID:y4/0dP6m0
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
 (今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。


+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
 「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
 「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
 以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
6テンプレ:2012/09/29(土) 17:18:31.53 ID:y4/0dP6m0
+議論の時の心得+
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
 強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』

+読み手の心得+
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、モーグリ(ぬいぐるみも可)をふかふかしてマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
7テンプレ:2012/09/29(土) 17:19:23.23 ID:y4/0dP6m0
参加者名簿(名前の後についている数字は投票数)

FF1 4名:ビッケ、スーパーモンク、ガーランド、白魔道士
FF2 6名:フリオニール(2)、マティウス、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:ナイト、赤魔道士、デッシュ、ドーガ、ハイン(2)、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス(2)、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス

DQ1 3名:勇者、ローラ、竜王
DQ2 3名:ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女
DQ3 6名:オルテガ、男勇者、男賢者、女僧侶、男盗賊、カンダタ
DQ4 9名:男勇者、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン(2)、主人公(2)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、王子、王女、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー(2)、ミレーユ、主人公、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア(2)、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ

FF 78名 DQ 61名
計 139名
8テンプレ:2012/09/29(土) 17:22:56.69 ID:y4/0dP6m0
生存者リスト (名前に※がついているキャラは首輪解除済み)

FF1 0/4名:(全滅)
FF2 0/6名:(全滅)
FF3 0/8名:(全滅)
FF4 0/7名:(全滅)
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:リルム、マッシュ、ロック、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:※スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 1/8名:サラマンダー
FF10 0/3名:(全滅)
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 2/4名:※アルガス、ラムザ

DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 2/9名:ソロ、ロザリー
DQ5 2/15名:ヘンリー、プサン
DQ6 1/11名:クリムト
DQ7 0/5名:(全滅)
DQM 0/5名:(全滅)
DQCH 0/4名:(全滅)

FF 16/78名 DQ 6/61名
うち首輪解除済み 2名
計 20(22)/139名
9テンプレ:2012/09/29(土) 17:27:04.65 ID:y4/0dP6m0
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」

アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」

アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」

アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」

浮遊大陸朝〜日没(21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」

浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」

浮遊大陸朝〜終了(7人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ウィーグラフ」「マティウス」「アリーナ」 ※「ザンデ」(リタイア)

闇の世界朝〜 (12人)
「サックス」「タバサ」「テリー(DQM)」「ルカ」「パパス」 「フィン」「ティーダ」「スミス」「カイン」「ピサロ」
「ターニア」「エリア」
10テンプレ:2012/09/29(土) 17:28:18.42 ID:y4/0dP6m0
11テンプレここまで:2012/09/29(土) 17:30:16.35 ID:y4/0dP6m0
■その他
FFDQバトルロワイアル3rd 編集サイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル3rd 旧まとめサイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/index.html
1stまとめサイト
http://www.parabox.or.jp/~takashin/ffdqbr-top.htm
1st&2ndまとめサイト
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/
携帯用まとめサイト
http://web.fileseek.net/cgi-bin/p.cgi?u=http%3A%2F%2Fwww.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル保管庫@モバイル(1st&2ndをまとめてくれています)
http://dq.first-create.com/ffdqbr/
番外編まとめサイト
http://ffdqbr.fc2web.com/
1stまとめ+ログ置き場 兼 3rdまとめ未収録話避難場所
http://www11.atwiki.jp/dqff1st/


保管庫
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/2736/1201201051/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
あなたは しにました(FFDQロワ3rd死者の雑談ネタスレ)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/22429/1134189443/
ロワらじ
http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/
お絵かき掲示板
http://blue.oekakist.com/FDBR/

現在の舞台は闇の世界(DQ4)
ttp://www43.atwiki.jp/ichinichiittai?cmd=upload&act=open&pageid=16&file=%E9%97%87%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C.PNG

12名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/29(土) 18:08:00.53 ID:EzFgihaZ0
新スレ+テンプラ乙!
13ただ、それだけの話 1/4:2012/09/30(日) 03:30:22.67 ID:GqHsjqe30
「また会いましたね」
「……」
「酷い怪我ですけど、あなたの探し人には会えたんですか?」
「……さあ、な」
「治してあげてもいいですよ。
 あいつの行き先を知っているなら、ですけど」
「……アーヴァインだったか。奴なら……城の方に行った。
 寄り道ぐらいは、している、かも……しれんが、な」
「本当ですか?」
「……信じる……も、信じないも、お前の、勝手だ」
「そうですね。
 ……では、さようなら」
14ただ、それだけの話 2/4:2012/09/30(日) 03:32:31.17 ID:GqHsjqe30
リルムやサックスさんが言っていた。
この殺し合いには、自分たちの手で倒したはずの、悪い人が参加していると。
既に死んだはずの存在が生きているのは、時間を越えて呼び寄せられたから?
ううん。
もっと単純な答えを、私は知っている。

想いは、形に変わる。
強い願いは幻光虫と結びつき、恨みつらみが人を害する魔物となり、悲しみや未練が死人の姿を取る。
この世界にいる人達の幾らかは、きっと、そんな存在。
ずっと昔に亡くなった人たちが、自分は生きているのだと思い込んだまま、殺し合いをしている。
あの魔女や『  』の手によって、闇色に染められた幻光虫に、魂を縛られて彷徨っている。
異界に行ったはずのアーロンさんがいたのも、『彼』の姿をした魔物がいたのも……
きっと、それだけの話だった。

でも、私は確かに『生きて』いる。
それだけは信じていられる。
だってこんなにも『彼』の事を思い続けていられるんだもの。
私が魔女によって蘇らされた死人であるなら、きっと、あの魔物に惑わされたまま、『彼』の事を思い出せずにいるはず。
でも私は思い出した。
大好きな『彼』を、『キミ』を思い出した。
その笑顔に、胸の鼓動を高鳴らせることができる私が、死人なわけがない。

無論、私と同じように、生きている人はいるのだろう。
それでも私は『彼』に会いたい。
手を握って、その胸に身体を預けて、一緒に夢を見ていたい。
その為なら、死人であろうとまだ生きている人であろうと、踏み拉いていける。

"君のは、愛とは違う"
――あの男はそう言ったけれど、これほどまでに狂おしい切望が愛でなければ、何が愛なの?
"貴方が抱いてる感情って、本当に愛なんですか?"
――あの女はそう言ったけれど、真実に気づく切欠を与えてくれた思い出が愛でなければ、何が愛なの?

この男を見逃す気なんて、最初からなかった。
たとえ放っておけば死にそうな殺人者でも。
私は、彼を愛している。
だから『  』でなくとも、誰であろうと殺し尽くす。

私が銃を構え、引き金を引くのは――ただそれだけの話。
15ただ、それだけの話 3/4:2012/09/30(日) 03:33:42.10 ID:GqHsjqe30
思うに、生きるとは、死ぬことだ。
このような殺し合いなどに巻き込まれずとも、人は生まれた以上、必ず死ぬ。
死を怖れて足掻いたところで、永遠の闇という幻影を生み出し、破滅へ引きずられていくのみだ。
だからこそ、俺は生きることを選んだ。
満ち足りた生を送る為に、いつ何時でも満ち足りた死を迎える為に、戦いの道を選んだのだ。

だが、俺は己が考えていた以上に様々なものを錆びつかせていた。
鈍った腕は、何度も無様な敗北を掴んだ。
欠けた覚悟は、相手を弱者と一方的に決めつけ、不要に見逃すなどという愚を犯させた。
それでも今日まで命を繋いでいたのは、幸運などという得体の知れない何かの気紛れが味方したからにすぎない。

今、俺の眼前には、1人の女が立っている。
笑顔の仮面を貼り付かせたまま、女は救いの言葉を口にする。
その声音の、その言葉の、なんと甘いことか。
例えその薄紅色の服が、落としきれない返り血の色に染まっているのだと気付いても――
聖母を思わせる微笑みと、指し示された生への道標は、強烈に心を揺さぶる。

『正しい答えは一つではない』
それは事実だ。認めよう。
一人で戦うことが強さであるように、仲間と生きることも一つの強さだ。
それも事実だ。認めよう。
他者と信頼関係を築き、命を預け。他人の為に己の命を賭して戦うなど、精神的弱者には選べない。
瞼の裏を、小柄な三つの影が過ぎる。
彼らは紛れもない強者であった。
それでも彼らが敗北したのは、実力が足りなかったから。
あるいは、覚悟が足りなかったから。
そして何より、運が及ばなかったから。
ただ一歩。あと一歩の差で、勝利に逃げられた。
敗北にて幕を閉じた彼らの生は、果たして満ち足りたものだったのか――俺にはわからんし、答える権利もない。

それでも、一つだけ断言できることがある。
その、たった一つの答えが、死にかけた俺の体を突き動かした。
16ただ、それだけの話 4/4:2012/09/30(日) 03:36:29.57 ID:GqHsjqe30
今にも消え逝かんとする生命の灯を燃やし尽くしながら、全身のバネをしならせ、飛び起きる。
そのまま距離を詰め、銃口を推しのけて、渾身の一撃を放つ。

「なっ……!」

狼狽した女が驚愕の叫びを上げるより早く、拳が腹部を捉えた。
命と、魂と、矜持。残された全てを乗せた一撃は、確かに、女に片膝をつかせた。
しかしてその先を俺が知る事は叶わない。
全ての力を使い果たした体は、振り抜いた腕に抗うことすらできず、引きずられるように地面へと落ちていく。
倒れていく感覚すら、ゆっくりと。ただ、ゆっくりと。
視界が、感覚が、意識が、闇に消えていく。

最期に聞いた気がしたのは、幼子の声。

『サラマンダー、どうして?』

ああ、そういえば、理由を話していなかったな、と。
教えてやればよかったか、等と、らしくもないことを考えた。

"己が手で掴み取れぬ生に、何の価値がある"
俺が戦いを選んだのは、ただ、それだけの――



【ユウナ(ガンナー、MP微量、HP9/10)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:ラムザの姿をしたアーヴァインを殺す
 第二行動方針:邪魔なギードを葬る /なんとしてでも生き残る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道付近】

【サラマンダー 死亡】
【残り 21人】
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/30(日) 15:45:24.33 ID:qmwYNruG0
新作乙! サラマンダー…
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/30(日) 16:29:56.72 ID:PzN1IdG20
投下オツ!

うおおお!? サラマンダー、マジか! マジなのか!
FFDQを代表するアイドルの一人も、ここで落ちるか……
そしてユウナのヤバさがどんどん加速しててヤバイ。
そらケフカも逃げますわ。
19名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/02(火) 01:02:09.15 ID:VhpKBoEs0
投下乙!!
とうとうサラマンダーが逝ってしまった……何だかんだで愛されてたよなこいつ
とりあえず天国でビビに一度詫びいれて、また仲良く過ごしてほしいと祈るばかりだ

にしてもユウナさんヤバすぎる
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/02(火) 13:23:48.94 ID:gX+KNz/QO
投下乙!!
うわああああサラマンダー…!
ついに9勢全滅か・・・サラマンダーもおつかれ。
あの世でジタン達に手荒い歓迎受けてビビに謝って、あとは仲間同士よろしくやってほしいよな

そしてユウナ様こわすぎてちびる…。アーヴァインとリュック逃げて超逃げて
でももう最愛の人は自分の手で葬ってもういないことを思うと些か滑稽というか哀れでもある
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/03(水) 12:07:42.37 ID:olfj5+b20
そろそろ放送に入っても良いのではないかと思うのですが、
放送前に書き進めたいパートがある方いますか?
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/03(水) 22:02:23.71 ID:FAW/Ov8m0
私は大丈夫です。
2〜3日もたって誰もいなければ、突入しちゃってもいいかと
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/03(水) 22:05:30.79 ID:/iNIfZqJ0
展開的に一段落つけないと行けないところってなかったっけ?
サイファー周りとか
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/04(木) 00:12:54.07 ID:qLUnc+r70
マーダー減ったなあ
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/04(木) 00:40:19.86 ID:Uc71iGWp0
マーダーはセフィロス、ケフカ、ユウナ、セージの4人
4/21で約1/5がマーダーと考えれば、対主催戦もあるだろうしそこまで悪くはない
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/04(木) 23:53:17.81 ID:r8VNZozB0
セージはマーダーとは違う気がするなぁ
いろいろとヤバいのは間違いないけど

あとセフィロスが大人しくなったもんだから、マーダーだったことすっかり忘れてたw
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/04(木) 23:58:19.34 ID:Uc71iGWp0
大人しくなったというか、カッパになったというか

今動いてんのは走りだしたサイファーと、それを追う動物たちやソロたちかな?
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/05(金) 00:30:54.60 ID:/XRjIefL0
セフィは黒マテリア手に入れたあとどうなるかが気になるな
手に入れられたらの話だけど
29名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/05(金) 07:52:17.61 ID:WeKEWH/Z0
対主催が分断されてる現状だとセフィロスが元の姿に戻ったら各個撃破されそうだな
城組がサイファーと合流後、さらにソロ達に合流すればいけるかって感じかな
30名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/05(金) 22:17:24.98 ID:7HyXgf5X0
最近セフィロスは目的優先な感じだからな
もちろん目的のために必要ならば大量殺戮もするんだろうけど
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/05(金) 23:46:00.37 ID:Ep+Rvd7+0
動いてるといっても放送後にフォロー入れられるところだし、
土日に書いてる人が出てこなかったら放送ぶっぱでいいんじゃないですかね
32魔女は静かに黄昏を告げた。:2012/10/10(水) 23:59:16.87 ID:1v+PTxe/0
娯楽を続ける為に必要なモノとはなんでしょう?
時間? 物資? それとも熱意?
何かを楽しむという思考回路を持たない我々には、推測する事しかできないのです、

『定刻だ。
 太陽無き闇の世界にて、命を散らせた愚者たちの名を告げる』

ヘッドホン越しにアルティミシア様の御声が聞こえました。
首輪に仕込まれた盗聴器が、放送を拾っているのです。
半日置きに訪れるこの時間こそ、我々が主の存在を感じることの出来る唯一の機会。
蘇らせる価値も無いガラクタの端末は、アルティミシア様にお目通りする事など叶わないのですから。

『「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ザンデ」「ウィーグラフ」
 「マティウス」「アリーナ」「サックス」「タバサ」「テリー」
 「ルカ」「パパス」 「フィン」「ティーダ」「スミス」
 「カイン」「ピサロ」 「ターニア」「エリア」 「スコール」
 「アルガス」「サラマンダー」
 ――以上、22名だ』

忍び笑いと共に告げられた名の数々に、生存者は何を思うのでしょう?
悲哀? 憎悪? それとも――……?

『素晴らしい……実に素晴らしいペースだ。
 今や生存者は残り20人を切った。
 そろそろ現実が見えていない者共も、愛だの友情だの、何の価値もないと思い知った事だろう』

………。

『さあ、隣にいる者を裏切り、殺すがいい。
 それが出来なければ、先に死体となった百人余りの後を追うのみだ』

美しい御声の残響を、首輪の持ち主の無粋な罵声が打ち消しました。
『くそっ!!!』と怒鳴り散らし、壁か床を叩いているようです。
苦悩と後悔と絶望に満ちたその様は、さぞやアルティミシア様を愉しませる事でしょう。
……それでよいのです。

この遊戯は、アルティミシア様の御心を満たすために行われているもの。
たかが機械に過ぎぬ我々の推測などで、偉大なる主の御機嫌を損ねるべきではないのです。
そう、【死者とされた数人が、首輪を外して生きているかもしれない】など――
そんな不安を掻きたてるだけの可能性など、進言すべきではないのです。

 殺人劇が起こる数十分前に、爆破信号を発信した死亡者の首輪……
 生存者を殺そうとせず、連絡ツールも、恐らくは武器類も置いていった殺人者……
 仲間の死体を確認にもいかず、殺人者を殺さないように訴える生存者……

無論、我々は課せられた職務に従い、謁見を許されているお偉方に音声データを提示したのです。
疑いを抱かなかったのはお偉方であり、アルティミシア様御自身です。
咎められる謂れなどありません。

娯楽を続ける為に必要なモノとはなんでしょう?
我々が推測した答えは【環境】です。
不安や不快感から隔絶された環境があってこそ、楽しみを感じていられると、そう考えるのです。
故に。

我々は、忠実に命令を遂行します。
我らが主、アルティミシア様が、娯楽に興じていられるように。


【闇の世界:昼→夜へ】
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/11(木) 17:38:38.41 ID:NfqI/zwG0
放送乙!

ほんとにどうでも良い事ですが、ザンデの方がウネより先だと思います
3433:2012/10/11(木) 17:39:16.36 ID:NfqI/zwG0
 すいません

ウネのほうが先 って言いたかったんです
3534:2012/10/11(木) 17:40:03.31 ID:NfqI/zwG0
34聞かなかった事にしてください
36名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/11(木) 21:18:50.42 ID:4QtKq8980
放送乙

ついに三日目も終盤か……
37名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/12(金) 22:00:21.87 ID:8Onm6mD70
放送乙
新展開楽しみ!
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/17(水) 23:21:59.74 ID:baACchGM0
このタイミングで申し訳ないけど本スレにも転載しておくわ

108 自分:名無しさん[sage] 投稿日:2012/05/28(月) 18:34:30 ID:???
こんなタイミングで申し訳ないけど、把握しづらい現在位置をまとめるためにCGI設置してみました。
皆で編集していきましょう。
ttp://www20.atpages.jp/~r0109/ffdqbr3/

使い方はDQ2ndWikiが詳しいです。
ttp://w.livedoor.jp/dqbr2/d/MAP
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/10/24(水) 21:13:42.02 ID:xnp7m1s30
ほし
40魔女討伐作戦名 1/7:2012/11/01(木) 02:39:43.82 ID:m2dXHhRy0
思えば、俺の人生は不幸って奴に満たされていた。
生まれを呪うつもりなどこれっぽっちもないが、掛け金が一つ違えば――
例えば爺さんが上手く立ち回っていたら、有り得たかもしれない『可能性』に、想いを馳せたことは数知れない。
無論、幸運だと思えた出来事もあったが、ベオルブ家に従った結果、平民風情に殺されるという最大級の不幸の前では、全て帳消しだ。
魔女の気まぐれで得た二度目の生は、こびりついた死の恐怖に汚され、気づけば剣を敵に向ける気概さえどこぞに無くした。
今の今まで、俺の人生の天秤は不幸に傾いていたのだ。
そう、今の、今までは――


手にはめた腕時計が午後6時を告げる。
放送を聞く為に夢の世界から抜け出したスコールと共に、俺はじっとその時を待った。
数秒後、小さくも無い地震と共に、どこからともなくおぞましい女の声が響き渡る。

『定刻だ。
 太陽無き闇の世界にて、命を散らせた愚者たちの名を告げる』

ちら、と隣に目をやれば、スコールは焦りも期待も浮かべずに、ただ虚空を見つめていた。
その静かな佇まいは、俺の胸で鳴る早鐘の音を引き立たせる。
うるさい、と思う余裕さえなく、俺はじっと汗ばむ手を握り締めた。
この期に及んでも刺客が訪れない以上、安全は保障されているようなものなのに。

俺の恐怖を知ってか知らずか、魔女はつらつらと名前を読み上げていく。
当然のようにウネの名前が混ざっていた。
忌々しい骸旅団の長・ウィーグラフの名も呼ばれた。
アリーナとマティウスの名前は予想の範囲内だった。
ティーダのことはスコールから聞いていた。
カインとピサロの名にはさすがに度肝を抜かれたが、そういうこともあるだろうと気を取り直した。
そしてイザの妹と、もう一人女の名が呼ばれ――

『―― 「スコール」 「アルガス」「サラマンダー」 。
 以上、22名だ』

聞こえた。はっきりと、聞こえた。
俺達の名前が。
まだ生きている俺達の名前が。
揺れていた天秤を幸福へと傾ける福音がッ!
41魔女討伐作戦名 2/7:2012/11/01(木) 02:40:38.42 ID:m2dXHhRy0
******************

思えば、僕の行動は裏目に出ることが多かった。
あの時ああしていれば救えたんじゃないかと思う、そんな人達は、数える気になれないほどたくさん居る。
けれども、選ばなかった道には、『その先』など存在しない。
自分が掴み取った道だけが未来へ続く。
だから、後悔など、……後悔など、出来る限り、したくない。

ヘンリーとリルムの後を追い、祠の地下へ降りた僕は、二人の怪我人と出会った。
筋骨隆々の体躯ながらも片腕を欠いた格闘家、マッシュ。
氷の剣と血のにじむ足を抱えた青年、バッツ。
後者の名に覚えがあった僕は、ある人物の名を尋ねてみた。
奇しくもマッシュと同様に片腕を失った弟を連れた、元海賊と名乗っていた女性――ファリス。
僕の言葉に、彼は予想通り顔色を変えて矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
どこで出会ったのか。
どうしていたのか。
どうして死んだのか。
答えられたのは上の二つだけで、弟の下りには何故だか首を傾げていたが、
それでもバッツの気持ちを納得させることはできたようだ。

「きっと、そのテリーって奴のことを助けて、弟分にしてたんだろうな。
 ……ははっ、ファリスらしいや」

明るい、けれどもやはり憂いを帯びた笑顔に、彼女と彼を引き合わせることができればと一瞬だけ思い。
そんな夢想を抱いた所で何の救いにもならないと、首を横に振った。

時は戻らない。
死者は還らない。

無情に流れていく時が日没の区切りを過ぎたのだと気付かせたのは、
大きな揺れと、いつしか聞きなれてしまっていた魔女の声。
『定刻だ』という前置きから入り、僕らをひとしきり嘲笑した後、淡々と名前を読み上げていく。
当たり前だがウィーグラフの名も入っていた。
あと少しだけ彼と歩調を合わせることができたなら、彼ではなくセフィロスの名を加えることができただろうか?
考えるだけ愚かな問いが脳裏を過ぎる。
そうやって僕が煩悶している間にも何人かが呼ばれ、最後に、『アルガス』『スコール』と聞こえた。

剣を取り落した事に気付いたのは、カラン、と石畳が音を立てた後だ。
その名の持ち主達とは、別段仲が良かったわけじゃない。
後者に至っては会った事さえない。
けれども、例えばたった数時間前に交わした言葉だとか、例えば主人の恋人を探していた利発な犬だとか……
色々な事が渦巻いて、頭が、回らない。
42魔女討伐作戦名 3/7:2012/11/01(木) 02:42:54.42 ID:m2dXHhRy0
アルガスは、生きて、リルムと一緒にいたんじゃなかったのか?
どうして彼が死んだ事を言わなかった?
知り合いだと知っていたから気遣ったのか?
それともあの女の子達が嘘をついていて、最初からここにはいなかったのか?

冷静であれば気づくこともあっただろう。
しかしそれは、現実にはなりえない、可能性の話だ。
疑問で満たされた頭は、何一つ真実を導き出せないまま、その音を聞いた。

――…ツン、コツン、コツン。

僕を除けば四人しかいないはずの祠で、有り得ない足音が響き渡る。
それも地上からではない。明らかに、階下からだ。

身構える僕を、しかし、リルムが手で制した。
その手には青い宝玉が握り締められていて、一瞬、眩い光を放つ。
『何をしたんだ?』と問いかける事さえ忘れ、僕は幼子の顔を――多分間抜けな表情で――まじまじと見つめた。
リルムはただ、人差し指を口に当て、それから扉を見やった。

――コツン。

扉を隔てた、その先で、足音が止まる。
軋みすら立てずゆっくりと開いた、二枚の金属の隙間から覗いたのは、一対の瞳。
闇の向こうに浮かんでいるのは、額に傷を刻んだ男の顔。
それが誰なのか悟る前に、『彼』は僕の姿を見咎めたのか、素早く扉を閉じてしまった。
数十秒の間を置いてから、一枚の紙片が、下の隙間から差し込まれる。

『説明はしたのか?』

表に綴られた文は、男の存在が夢や幻で無い事を証明しており。
僕以外の全員が、それを見て声を出さずに笑う。
何が起きているのか、尋ねたいことだらけではあったが、僕はリルムのジェスチャーに従い、口を噤んだ。
リルムは賢い。僕を出し抜き、舌を巻かせるほどに。
そしてそれ以上に、彼女は正義感が強い。
あのウィーグラフが、骸旅団長の称号を贈るなどと言い出すほどに。
だからきっと、彼女の指図も、この全く持って不可解な状況も、何か深い意味があるに違いないのだ。
43魔女討伐作戦名 4/7:2012/11/01(木) 02:45:33.47 ID:m2dXHhRy0
ヘンリーが指先をナイフで薄く切り、紙に血文字を書き記す。
『まだだ』
その短い返事を挿し送ると、今度は二分ばかりの間を置いて、別の紙片が返された。

『俺の相方が、夢を通じて会話する道具を持っている。
 それを使って事情説明をしたい。
 俺達二人とそこの四人を信用してくれるだろうか』

明らかに僕宛の内容だ。
四対の目が紙片から離れ、僕に注がれる。
敵意があるようには見えない。
けれども、『夢を通じて』ということは、十中八九『眠らなければならない』ということだ。
だからこそ、自分達を信用するかどうかを聞いているのだろうが……

頭の中で振り子が揺れる。
先が描かれてない分岐路の地図、その上で、左右に振れる。
けれどもその振れ幅は最初から片側に寄っていて、時間と共に止まってしまった。
片一方の道を指し示して。

『わかった』

僕はそう書き記し、突き返した。
リルムが加担している時点で、悪事である可能性は限りなく低いのだ。
それに僕を罠にはめるつもりなら、こんなことを聞いたりはしない。
何より了承しなければ、彼らの行動の意味や二人の少女、それにアルガスの死に関する事情を知る機会は、廻ってこないだろう。

扉の向こうで、僕の返事を受け取った男は、どんな表情を浮かべたのだろうか。
そもそも彼は何者なのだろう。見覚えはあるのだが、なかなか思い出せない。
色々な事を考えているうちに、三枚目と四枚目の紙片が隙間から顔を覗かせた。

『英断に感謝する。
 その道具はウネの鍵、同名の参加者が作った魔法具だ。
 作り主の顔と名を意識しながら眠ると、夢を共有できる』
『全員、リストで彼女の顔を確認してほしい。
 それが終わったら、ラムザとバッツを眠らせてほしい。
 方法は任せる』
44魔女討伐作戦名 5/7:2012/11/01(木) 02:46:36.66 ID:m2dXHhRy0
******************

『了解した』

戻ってきた紙片を確認して、俺は扉から離れた。
廊下を戻りながら、ゆっくりと息を吐く。
ちらと中を覗いただけだが、仲間達は全員生きていた。
少なくともアルティミシア側には俺達の動向はバレていないようだ。
ついでに、あの程度の足音なら、首輪内臓の盗聴器では拾われない可能性が高いことも判明した。
リルムが使える透明化の魔法『バニシュ』があれば、旅の扉までの移動は、ほぼ問題ないだろう。

(アルティミシア、あんたは一つ勘違いをしている。
 俺達は現実を見ていないんじゃない。
 現実を見ているからこそ、愛とか友情とか……そういうものの価値を、思い知ったんだ)

愛と友情、勇気の大作戦。
時間圧縮を乗り越え未来にいるアルティミシアへ挑もうという時、そんな作戦名をつけた男がいた。
過去も現在も未来も溶けた世界では、存在を認識する他者がいなくては時の流れに飲み込まれてしまう。
それ故に、人と人とを結びつける二つの絆と、作戦そのものを信じる感情を、作戦に冠したと言っていた。
命名者のことだから先に作戦名ありきで、後から理由を付け足した可能性も否めないが……
……いや、俺が言いたいのはラグナの古臭いネーミングセンスや性格じゃない。
とにかく、今度の作戦も、『愛や友情』がキーになるだろうということだ。

例えば、故郷で待つ家族への愛。元々持ち合わせていた友情。
例えば、ここで出会う事で初めて生まれた友情。この地で失われた最愛の人への愛。
その思いが生み出した、各々の決意と行動が、パズルのように組み合わさった結果、俺はこうしてここにいる。
『誰かのロマンチストっぷりが感染った』と茶化されては癪だから、口に出す気はないが。


「どうだった?」
奥の部屋に戻ってくるなり、アルガスが聞いてきた。
「全員無事だった。
 それと、あんたの知り合い――ラムザがいた。
 詳しい話は聞いていないが、大方、リルムを追いかけてきたんだろうな」
「素晴らしいッ、予想以上に上手く行ってるじゃあないか!!
 ガキもたまには役に立つもんだなッ」
数時間前の怯え方が嘘のように、アルガスは上機嫌で笑う。
確かに、『予想よりは』上手く行っているのだから、それも致しかたないだろう。
45魔女討伐作戦名 6/7:2012/11/01(木) 02:47:17.01 ID:m2dXHhRy0
だが、俺達はまだ、薄氷の上にいることも事実だ。

盗聴器に俺達の声を拾われる。監視に見咎められる。
アーヴァインとバッツが死ぬ。リュックと俺が死ぬ。
中央の城が破壊され、脱出の手がかりが失われる。
どれか一つでも引っかかってしまえば、そこで希望は立たれる。
たまたま氷を割らずに歩けているからといって、油断をすれば、足元を割り冷水に落ちて死ぬように。

だから、打算によらず、お互いに協力し、信頼する心が――
『愛と友情』こそが、キーなのだ。

「アルガス、喜ぶにはまだ早い。
 夢世界での会話を成功させて、バッツの首輪を解除してからが本番だ」
「フン、ずいぶん慎重だな」
アルガスがせせら笑う。調子に乗りすぎだと思うが、一線を越えない限りは止める気にもならない。
「上手く行くさ。行かない道理がないからなッ。
 うすのろの魔女が気づく前に、輝かしい『未来』を掴み取ってやるッ!!」

声量こそ押さえているが、いささか耳障りな高笑いが響く中。
"さしずめ、『愛と友情、未来の大作戦』ってところか?"
――そんな台詞が、ご丁寧にラグナの声で、脳裏を過ぎって行った。



【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠(最深部の部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】
46魔女討伐作戦名 7/7:2012/11/01(木) 02:48:05.92 ID:m2dXHhRy0
【ヘンリー(HP1/3、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:アーヴァイン達とソロ達が心配
 第二行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労、沈黙)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
 第一行動方針:夢世界で説明を聞く
 第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、MP1/10、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:夢世界で説明を聞く
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【マッシュ(HP1/20、右腕欠損) 所持品:なし】
 第一行動方針:休憩
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 03:10:10.76 ID:RQ4qaY++0

着々と大世帯になっていくな
48名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/01(木) 20:35:00.60 ID:zcDJ08UlO
新作乙
ラムザはようやく落ち着いて話せるのかな?
波乱続きだったからなあ
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/02(金) 11:36:09.83 ID:v9T7Yeyx0
投下乙!
ついに核心に迫る……!
スコールが主人公しててかっちょいいなあ
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/04(日) 00:13:25.85 ID:TA1LkTHx0
投下乙
ラムザとのコンタクトで一波乱あるかと思ったけど無事な感じでよかった
スコールは頼りがいがあるけど
それだけにゲームの参加者同士の戦闘には加われないのが痛い気もするね
51愛が止まらない 1/3:2012/11/09(金) 03:12:33.04 ID:cjozzWru0
ねえ。
意味なんかないって思えるようなことでも、やってみたら、とても大切なものが手に入ったりするんだよね。
キミとの旅で、知ったんだ。

色々な事をやったよね。
雷を避けてみたり、階段を上り降りしてみたり、飛空艇で行ったことのない場所を探してみたり。
昔は、ちょっとだけ退屈だなって思うこともあったけど……
こうして思い返してみると、やっぱり、楽しかったよ。
もちろん、傍にキミがいたからだろうけどね。

ねえ。
私ね、キミにもう一度会いたいの。
誰かを殺してでも、キミに会いたいの。
本当のキミなら、この気持ち、わかってくれると思うんだ。

でも、愛は、形にできないものだから。
愛は目に見えないものだから、誰でも好き勝手言えるんだ。
『そんなの愛じゃない』とか、ね。
おかしいよね。
自分が理解できないから、それだけの理由で、偽物と決めつけるなんて、理不尽だよ。
私の愛は――キミへの気持ちは、本物なのに。

お腹が痛くて、頭がズキズキする。
目の前で死んでる男に殴られてた時、はずみで、頭を打っちゃった。
私はキミに会いたいのに、こいつは邪魔をしたの。
ひどいよね。
ずっと会いたくて触れたくて探し続けてきたのに。
『    』や、周りの奴らが邪魔をして、キミに伝えることができないよ。
それが悲しくて苦しくて、どうにかしたくて。
私、一生懸命考えたんだ。
どうしたら私の愛を、キミへの愛を、形にできるのかって。
伝えられない想いでも、形にして残せたなら、本当のキミに会えた時、見せることができるでしょう?
考えて、考えて……そして、気づいたの。
私の愛は、ちゃんと、カタチに残っているって。
52AIがトまらなi 2/3:2012/11/09(金) 03:17:22.82 ID:cjozzWru0
私は、キミに会うために人も魔物も殺すんだよ。
魔物は消えちゃうかもしれないけれど、人の死体は残るよね。
私がキミのために頑張れば頑張る程、死体は増えるんだよ。

ね、わかるよね。
私が築き、これからも重ねていく死体の山こそが、キミに捧げる愛のカタチそのものなの。
偽者じゃないキミなら、きっとわかってくれるよね。
私、信じるよ。

だから、だからこそ、私以外の誰かが、誰かを殺すなんて許せない。
私の気持ちをキミに伝える機会を、奪うなんて許せない。
ましてや、『  』が、私からキミを奪う事なんて。
そんなことが起きるなんて、許したらいけないの。

もちろん、わかってるよ?
目の前の人がとっくに死んでいる、なんてことは。
死んだ人を撃ったって、もう一度殺せるわけじゃないってことは。
でもね、この人は『   』と戦ったんだよ。
『   』と戦って、私が引き金を引く前に死んでしまったら、それは『   』に殺されたってこと。

――そんなの、ダメに決まってるじゃないッ!!

許せない!! 許さない!! 絶対に許さないッ!!
私はキミに会いたくて人を殺すの!
私が殺した人の数がキミへの想いなの!!
私が殺さなきゃいけないの!!!
誰であろうと私が、私が、私が殺さなきゃいけないの!!
『   』に奪われるなんてそんなこと絶対に許せない!!!
『   』は許せない!!!
『   』が許せない!!!
許せない!! 許せない!! 許せない!!!
『   』なんかじゃない、私が!! 殺すの!!!!

だから銃を撃つの。
私が殺した事にするために銃を撃つの。
何度でも。何発でも。何分でも。ずっと。
53△IがトmAら■ai 3/3:2012/11/09(金) 03:22:51.36 ID:cjozzWru0
ねえ、見て。
人ってこんなに、元の形がわからなくなるんだよ。
これだけ壊れてしまったら、きっと生きていないよね。
ねえ、認めてくれるよね。キミなら、こいつは私が殺したって、そう思ってくれるよね。
信じてくれるよね。これが私の愛だって、キミならわかってくれるよね。
愛してくれるよね。本物のキミなら、『   』なんかに騙されたりしないよね。

手を止めて、空を見上げる。
太陽は何処にもない。
岩の壁で覆われた異世界の天蓋は、どこまでも陰鬱で息苦しい。
やっぱり、私はスピラの空が一番好き。
キミの髪みたいに輝く太陽と、キミの瞳みたいに透き通った蒼天の色が、大好き。
こんな世界にいつまでもいたくない。
キミが待ってるスピラに帰りたい。
本当のキミは、きっと、そこで待っててくれる。
キミは絶対に、私の愛を真っ直ぐに受け止めてくれる。
誰よりも、何よりも、キミだけを愛してる。

地面が揺れて、彼方に魔女の幻影が現れる。
死者を知らせるいつもの放送だろうけど、もう、そんなのはどうでもいいの。
大事な事は、私がどれだけキミへの愛を形にできたか。
そしてこの先、どれだけキミへの愛を証明できるか。

死んだ男は、『   』が城に行ったと言った。
ギードさんもプサンさんもクリムトさんもロックさんも、みんなあそこにいる。
これはキミがくれたチャンスなんだよね。
わかってる。ありがとう。

私、頑張るから。
だから、待っててね。
54@iGa□m◎rN\| ?/状態表:2012/11/09(金) 03:24:55.07 ID:cjozzWru0
【ユウナ(ガンナー、MP微量、HP9/10)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:皆殺し(アーヴァインと、ラムザの姿をした者が最優先)
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道付近→デスキャッスルへ移動】
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/09(金) 23:47:44.23 ID:18keb7Yx0
投下乙!
ユウナ様怖いよユウナ様……
自分の思い描く理想が、ティーダが、全てなんだろうなあ。
壊れていくタイトルも合わせて凄く怖かったです、夢に出そう
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 00:49:27.14 ID:XwjJt4K30
投下乙!
ユウナの壊れっぷりがまたひどくなってる……
城に向かったから、南東の祠にユウナ乱入という大惨事は起こらなさそうでひとまず安心…なのかなぁ
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/10(土) 01:27:52.48 ID:OH8nRvMBO
乙です!
>自分が理解できないから、それだけの理由で、偽物と決めつけるなんて、理不尽だよ。

何てでかいブーメランだw
58R-0109 ◆eVB8arcato :2012/11/14(水) 00:24:56.42 ID:7PtOPolS0
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る11/24(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/15(木) 02:07:11.09 ID:xv/eGwC70
集計お疲れ様です。
FFDQ3 667話(+ 5) 21/139 (- 1)  15.1(- 0.7)

まとめサイトの表記に合わせました。
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/22(木) 12:02:56.82 ID:Xc8Rtnv+0
61休憩時間はもう終わり 1/8:2012/11/24(土) 02:21:58.03 ID:MH478iAtP
【16:15】
ガシャン、ガシャン。
金属の触れ合う音が、廊下中に響き渡る。
隼の剣と死者の指輪を飲み込み、カタカタと揺れる釜の前で、ロックはじっと成り行きを見守っていた。
しかし、複数の材料から一つの強力な武具を作り出すのが錬金釜の真価とはいえ、材料にも相性というものがある。
余り相性の悪い素材同士を放り込んでも、釜から放り出されれるだけであり……
「あー、これもダメか」
ボンッ、と、蓋を弾きながら飛び出た剣と指輪が、床をけたたましく鳴らした。

さて、一つ断りを入れておくが、ロック=コールは護衛であり見張りである。
扉一枚隔てた部屋の中で、二人の賢者と一人の男が、脱出に向けて研究を続けている――
その意思と行動が妨げられぬよう、外敵の接近を阻むことが、彼の第一目的である。
では、何故、錬金釜を持ち出して実験ごっこに興じているのだろうか?

答えは簡単。
護衛はともかく、見張りなどというものは、道具を使えば代用できるからだ。
62休憩時間はもう終わり 2/8:2012/11/24(土) 02:24:14.04 ID:MH478iAtP
彼らがいる一帯は、――ロック本人は名など知らないが――進化の秘法という禁呪の研究棟だった。
薬品類を混ぜ合わせるためのフラスコやビーカー、アルコールランプ、天秤や分銅、
参考書籍類、実験体と思わしき剥製、それ以上に使い道のわからない器具。
言ってしまえば、道具は幾らでもある。
ガラス製品を叩き割って床に撒けば即席のトラップだ。
小銭を混ぜて、歩いた時に音が鳴るようにしてもいい。
あるいは、薄暗く狭い通路に本棚や大量の本を積み上げて、偽りの壁に見せかけてもいい。
盗みに長けているものは、得てして凡人以上に防犯の知識や技術を持っているものだ。

そんなわけで、ロックは遠慮することなく錬金釜を弄っていた。
不要な道具を手当たり次第に入れているだけなので、一回も成功していないが。

「………」
――なお、部屋の中で研究を続けていたギードは、床から伝わる金属音を煩いと思っていたが、結局口に出すことはなかった。
63休憩時間はもう終わり 3/8:2012/11/24(土) 02:27:14.48 ID:MH478iAtP
【17:00】
賢者達の研究は、予想以上に早く完成へと向かっていた。
そもそも、片や次元の狭間に関する知識を持ち、片や旅の扉の創造法を知っているのだ。
言わば専門家、門外漢に劣る謂れはない。
おかげでプサンは、マスタードラゴンとしての知識をひけらかす必要もなく、部屋の隅で瞑想を続けることができた。

――けれども、見えない。
白いローブを着た青年の行方は、何度試しても、狂った少女を殺すシーンで途切れる。
最初はそれが、プサン自身の動揺から来るものだと思っていた。
違うと気付いたのは、追跡する対象を魔王から、力ある紅玉を持つ魔王の恋人へと切り替えた後。
焔色の髪を持つ男に襲われ、大人三人が眠る中、銀髪の少年が剣を持って立ち上がり――そこで、切れた。
唐突に。不自然に。

もしもここに、別れた青年達……ティーダやアーヴァインがいたら、こう言って茶化したことだろう。
『もしかして【電波圏外】なんじゃない? なーんてね』と。
だが、二人はここにおらず、故にプサンが原因に思い至る事もなかった。
彼の世界には存在すらしない概念と現象なのだから。

ため息をつくプサンの耳に、騒音が届く。
こちらはすぐに何が起きたのか理解できた。
ロックがまだ錬金釜を弄っているのだ。
扉を開け、上半身だけを廊下に覗かせる。
「あ、オッサン。
 この錬金釜ってヤツ、思ったより使いづらいなあ」
隼の剣を片手に、魔封じの杖を拾い上げながら、ロックはぽりぽりと頭を掻いた。
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:28:27.71 ID:/5l+LBPS0
sien
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:29:06.70 ID:/5l+LBPS0
sien
66休憩時間はもう終わり 4/8:2012/11/24(土) 02:29:58.30 ID:MH478iAtP
「隼の剣を強化するなら、速さを上げる装飾品や、破壊の力を秘めた魔剣が良いと言いますが」
プサンの言葉に、青年は渋い表情を浮かべ、身に着けた装飾品を触る。
「うーん。皆伝の証を使うのは、なんだか勿体ないんだよなあ。
 魔剣なんてのもないし……そうだ、魔石を入れてみようか?
 あ、でも、それはそれでやっぱり勿体ないし……」
「いっそベースを変えて、貴方の水晶の剣と、炎の鞭なんてどうですか?
 きっと炎の剣が出来上がると思うのですがね」
異世界に伝わる勇者の剣、それに次ぐと謳われた魔剣を脳裏に浮かべながらプサンは言った。
だが、ロックは『世間知らずだなあ』と言わんばかりに鼻で笑い飛ばす。
「おいおいおっさん、クリスタルソードがフレイムタンになっても嬉しくねーや。
逆に弱くなるじゃないか」
「えっ?」
「それじゃなくても属性攻撃なんて、対策立てられたら終わりだぜ?
 氷漬けの幻獣を解凍しに行くってならともかく、今は要らないって」
「えっ……」

"世界って広い。"
齢数万年を経た竜神は、生まれて初めて、そんなことを考えた。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:30:56.60 ID:vGYiaoLe0
 
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:31:30.18 ID:/5l+LBPS0
sien
69名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:31:59.85 ID:vGYiaoLe0
 
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:32:22.85 ID:A5tgushE0
.
71休憩時間はもう終わり 5/8:2012/11/24(土) 02:32:41.41 ID:MH478iAtP
【17:45】
『☆スライム類の進化要因
 ――食性の変化……スライムベス(雑食化)
 ――環境の変化……バブルスライム(毒沼環境への適応)、マリンスライム(海底環境への適応)
 ――外部刺激………ホイミスライム系統(薬品汚染)、メタルスライム(流体ミスリルとの融合)
 ――その他…………キングスライム(異世界の巨大化スライムから派生した種)
 
 ☆動物種の魔物への進化要因
 ――瘴気汚染による巨大化、奇形化>外部刺激
 ――魔族や高位魔物種の血肉を捕食>食性の変化  [‡:D)+= <ノレブト"ラ ぉぃUぃね
 
 上記から立てた仮説:
 ◎進化には、高濃度の瘴気=そこに含まれる闇の力と、対象よりも高度な存在の血肉が必要である。
 →黄金の腕輪が必要とされたのは闇の力を増幅させることで安定した進化を可能とするため
 →異世界の文献に、『熊型獣人の心臓を喰らった狼が獣人化し、大量の眷属を築いた』という記述ああり。
 問題点:魔王様以上に高位の存在などいるのか?  ←アッテムト!
                           =+(o:‡]<ぃっ |よ゜い ぃるっしょ
 検証:
 ◎被験者にアンドレアル様から採取した血を飲ませ、進化の秘法を用いた
 →結果:悪魔魔族と竜族を合わせた形状に進化し、より強大な能力を得た。
                             〈ξXD)+<|= <セフィもひ〃っ<り
 比較検証:
 ◎被験者と同様に処置を果たした人間に、血を飲ませず進化の秘法を用いる
 →結果:異常進化による過剰再生により形状と自我の崩壊を起こす

 
                          >+(D:‡] <|ニ ん|ナ" ωご て" ぉk
                       ―132―    』
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:33:15.56 ID:vGYiaoLe0
 
73休憩時間はもう終わり 6/8:2012/11/24(土) 02:33:35.19 ID:MH478iAtP
「……なんでアイツ、人んちの本に、こんなに落書きしてるんだ?」
「ピサロ卿が起きるまで待っていたようですし、相当暇だったんじゃないですかねぇ……」
それにしたってやりすぎだ、とため息をつきながら、ロックは本を棚に戻す。
開け放たれた扉越しにその様子を眺めていたプサンは、首を横に振り、廊下へと視線を戻した。
『食事ぐらいは部屋の中でゆっくり取った方が良いだろう』と、見張り役を交代しているのだ。
もっとも、ロックが作った仕掛けのおかげで、やる事は殆どない。
耳をそばだてていればいいだけだ。

「あーあ。ティーダの奴、上手く見つけられたかなー……
 つーかあの野郎、迷惑ばっかりかけやがって、どこで何してるんだ?」
椅子に寄り掛かり、両手を上げて背を伸ばしながら、ロックが呟いた。
彼の疑問に答えることもできぬまま、プサンは苦笑いを浮かべた。
74名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:33:35.75 ID:/5l+LBPS0
sien
75休憩時間はもう終わり 7/8:2012/11/24(土) 02:34:53.52 ID:MH478iAtP
【18:00】
大きな揺れと共に、決して小さくない衝撃音が鳴り響く。
ロックが施した仕掛けのいくつかが崩れたのだ。
だが、二人の――いや、四人の思考を占めたのは、そんなことではなかった。
地震が起きたということは、即ち、放送が流れるということなのだから。

四人の予測通り、数十秒もしないうちに嘲笑めいた魔女の声が湿った大気を振るわせる。
読み上げられる死者の名に、誰もがじっと耳を傾ける。
そこに絶望しかないと知りながら、『仲間の名が呼ばれない』という希望を求めて。
……だが、そこには、やはり絶望しかないのだ。

『「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ザンデ」「ウィーグラフ」
 「マティウス」「アリーナ」「サックス」「タバサ」「テリー」
 「ルカ」「パパス」 「フィン」「ティーダ」「スミス」
 「カイン」「ピサロ」 「ターニア」「エリア」 「スコール」
 「アルガス」「サラマンダー」  ――以上、22名だ』

賢者であれば、神であれば、『そういうこともあるだろう』という言葉で自らを納得させられるだろうか?
否、そんなはずはない。そんなわけがない。
彼らの胸に去来する言葉は、『何故、そうなる可能性を予見できなかったか』だ。

ロックが俯き、拳を固く握りしめる。
遠くで響く誰かの嘆きの咆哮が、その姿に重なって聞こえたのは、果たして偶然だったのだろうか?

そんなはずはない。
そんなわけがない。

絶望に彩られた幻想の語り手は、紛れもなく、彼らに出会う為に魔城へと足を踏み入れていたのだから。
76名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:35:00.49 ID:A5tgushE0
.
77名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:35:12.81 ID:/5l+LBPS0
sie
78名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:36:17.64 ID:/5l+LBPS0
sie
79名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/24(土) 02:36:28.85 ID:A5tgushE0
.
80休憩時間はもう終わり 8/8:2012/11/24(土) 02:36:29.55 ID:MH478iAtP
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
 第一行動方針:脱出方法と首輪の研究
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP3/5、残MP3/5)
 所持品:首輪 
 第一行動方針:脱出方法と首輪の研究
 第二行動方針:アーヴァインが心配】
【クリムト(失明、HP3/5、MP3/5) 所持品:なし
 第一行動方針:脱出方法を研究
 第二行動方針:首輪の研究
 基本行動方針:誰も殺さない
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
 魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:ギード達の研究の護衛
 第二行動方針:リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル内部・隠し通路内部の一室】



支援ありがとうございました
81R-0109 ◆eVB8arcato :2012/11/24(土) 20:54:00.17 ID:/5l+LBPS0
投下乙です!
落書きwww くそwww
クリスタルソードがフレイムタンになったら、そりゃあ弱体化だわなwww

さて、ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1353757919/
ラジオアドレス:http://ustre.am/Oq2M
概要ページ:http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします
82名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/25(日) 09:56:01.24 ID:7YP7g5MLO
乙!

このチームも何だかんだで安定してるなあ
基本的に受け身の人達だからロックが警戒し過ぎる位が丁度良いね
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/11/27(火) 12:02:43.01 ID:S8Qoztio0
FF
84置いていかれる人たち 1/4:2012/11/30(金) 00:51:47.78 ID:6grrofYZ0
一度目の出会いは、突然の出来事でした。
まるで嵐のように突然現れ、貴方は去っていきました。
それが、全ての始まり。

いつも貴方は、私に会いに来てくれていました。
私を守るため、部下を配下させ、私の名を冠した町を造り。
いつだって、貴方は私のことを思ってくれていました。

一度目の別れも、突然の出来事でした。
人間達の襲撃、醜い私利私欲に私は利用されました。
価値が無いと判断されるや否や、私は人間達に切り捨てられました。

貴方は狂いました、そして誓いました。
人類全てを滅ぼすと、心に強く。
そして、進化の秘宝を用いて力を手に入れました。

二度目の出会いは、運命だったのでしょうか。
ソロさんの手によって蘇った私は、ソロさんたちと共に魔界に向かいました。
全ての真実を話し、力に狂う貴方を連れ戻しました。

そして、平和が訪れたはずの世界。
私は、貴方と共に平穏に過ごしていたはずでした。
そう、この場所に来るまでは。

二度目の別れ、今までの中でも本当に突然すぎる出来事でした。
進化の秘宝や、人間の醜悪さよりも遥かに「黒い」何かを纏った魔女。
彼女が、私たちを殺し合いの舞台へ招きました。

異次元の存在をにわかには信じられずにいましたが、この地でもたくさんの人に出会いました。
ソロさんのように清い人間や、邪悪をかき集めたかのような醜悪な人間。
様々な人と出会いながら、私は生き残ることが出来ました。

三度目の出会い、貴方はあの時と同じ眼をしていましたね。
人間全てを、殺してしまうかのような。
それも誤解だと、分かってはいたのですが。

間もなくして、三度目の別れが来ました。
道化師の嘲笑う姿と、貴方の手を伸ばす姿が見えました。
でも、私はその手を取れませんでした。

暗闇の中で、私はザンデさんに託されました。
この殺し合いを破壊する貴重な情報を手に、この舞台へ戻ることを。
そして、もう一度貴方に会うことを夢見て。
85置いていかれる人たち 2/4:2012/11/30(金) 00:52:32.53 ID:6grrofYZ0
でも、四度目の出会いは来ませんでした。



先に告げられたのは、今生の別れ。
大空に浮かぶ魔女の顔が、愛する貴方の名を告げました。
それは、貴方がこの地で命を落としたという証拠。

ああ、そういえば初めてですね。
私より、先に貴方が別れを告げることになるのは。
いつもは、私が貴方に別れを告げる立場だったのに。

置いていかれるというのは、こんな気持ちなのでしょうか。
寂しくて、辛くて、悲しくて、たまらないです。
貴方がいない、もう会えないと分かるだけで胸が張り裂けそうです。

この殺し合いさえなければ、何も無く幸せに過ごせていたのに。
私が無力だったのがいけなかったのでしょうか?
疑うことを知っていれば、守られるという立場から抜け出せていれば。

ああ、貴方が力を欲したときの気持ちがわかります。
なんとなくですが、今の私には分かります。
どうしてでしょうか。今、すごく力が欲しいです。



誰にも頼らなくても生きていけるような、力が――――



ゴボッ


.
86置いていかれる人たち 2/4:2012/11/30(金) 00:53:05.34 ID:6grrofYZ0
「ロザリー!!」
はっと意識を取り戻す。
目の前には心配そうな目で自分を見つめているザックスと、肩を掴んでこちらを見ているソロの姿がある。
「大丈夫、ですか」
「……はい」
鮮明に覚えているようで、ぼやけている自分の意識をハッキリさせながらソロの問いに答える。
よかったと一息零したあと、ソロがロザリーを見つめなおす。
「ロザリーさん、いいですか」
しっかりとロザリーの目を見つめて、ソロは語りかける。
「つらい、気持ちはわかります。
 ただ、貴方は堕ちちゃいけない。貴方は前を向いて、しっかり生きなきゃいけない。
 貴方が笑っていることが、ピサロ……アイツが望んだことだから。だから、しっかり前を向いてください。
 僕も、この地でたくさんの仲間を失いました。
 でも、下を向いてる時間は無い。
 彼らに笑われてしまうから、そんな暇ないだろって言われるから」
ソロは語る。
仲間を失ったこと、日常を奪われたこと。
ピサロという最愛の人を失ったロザリーへ語る。
そう、親友……最愛の人を再び奪われ、かけがえの無い仲間を奪われ。
ロザリーだけではない、日常を奪われたのは彼も同じなのだ。
だが、ソロは前を向いている。
その姿に、ロザリーは再びハッとする。
「行きましょう」
ロザリーの体から手を離し、ソロはロザリーに合わせて再び走り始める。
「……はい」
少しだけ流れたルビーの涙を拭い、ロザリーも前へ進んでいく。
そうだ、今はやるべきことがある。
愛する人を失ったことに、怒り狂っている場合ではない。
沢山の命が奪われたこの場所で、これからも命が奪われるこの場所で。
これ以上、悲劇を繰返さないために。
ロザリーも走り始める。
87置いていかれる人たち 4/4:2012/11/30(金) 00:54:09.46 ID:6grrofYZ0
.
「……いいな、そういうの」
走り出した二人の横に合わせて走っていたザックスが、一連のやり取りを見てポツリと零す。
「信じられる仲間とかさ、愛する人とかさ。
 俺……あんまそういうの、いねぇからさ」
ソロには信じられる仲間が、最愛の人がいる。
ロザリーにも、この上無く大切な最愛の人がいる。
だが、自分はどうだ?
これだけの命が奪われても、ここまで深く落ち込むような仲間と呼べる存在はいなかった。
この地で出会った仲間の仇、復讐に駆られることはあっても、以前からの知り合いというのは少なかった。
彼は、この三人の中でもっとも孤独に近い人間だ。
「僕たちがいますよ」
そんなザックスに、ソロは笑顔で答える。
そうだ、先ほどのソロの言葉のように過去を振り返っている場合ではない。
今は前を向き、為すべきことをする。
これ以上、あの魔女に自由にさせないために。
共に戦ってくれる仲間と一緒に、前へ進んでいくだけだ。
「そうだな」
心強い仲間へ、一言と笑顔を返す。
「ありがとよ」

こうして一行はサイファーの後を追い、ピサロの城へ。
たくさんの思いが詰まった城へ。
彼らは、辿り着こうとしていた。

【ソロ(HP3/5 魔力1/4)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣  ひそひ草
      ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
     フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
 第一行動方針:サイファーの後を追う
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ザックス(HP1/2程度、左肩に矢傷、右足負傷)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(11) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 第一行動方針:サイファーの後を追う
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:サイファーの後を追う
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:デスキャッスル付近】



>>85 冒頭に改行三行が抜けてしまいました、申し訳ない。
88置いていかれる人たち(修正):2012/11/30(金) 01:01:03.92 ID:6grrofYZ0
>>87
たくさんの思いが詰まった城へ。
彼らは、辿り着こうとしていた。

たくさんの思いが詰まった城へ、辿り着こうとしていた。
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/01(土) 12:51:42.50 ID:NCU22urZO
新作乙!
ロザリーが堕ちなくてよかったー…
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/01(土) 13:18:07.24 ID:5qG7SbHA0
投下乙。
生存者の中でヒロインらしいヒロインってもはやロザリーだけだよな
頑張って生き残ってほしいわ
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/10(月) 14:00:38.72 ID:N50Kvnb3O
保守
92デスキャッスルには危険がいっぱい 1/14:2012/12/19(水) 19:51:18.86 ID:eCsgICB10
薄暗い城内に、叩き付けるような靴音が響く。
薄汚れたコートをはためかせ、青年は一人、通路を駆け部屋を廻る。
けれどもここはデスキャッスル、人を拒む魔王の居城。
明かりは乏しく、道は広く、壁は厚く、仕掛けと隠された小部屋は多く。
探し求める賢者達の姿も、殺人者と化した知己の姿も見つけられぬまま、時だけが無為に過ぎて行く。
その現実に青年――サイファー=アルマシーは焦りを募らせていた。
それ故に、己を追いかけた動物達の姿に気付かぬまま、上階へ、上階へと探索の手を伸ばしていた。


『全く、サイファーったらどこまで行っちゃったのかしら』
『さあな』
ワンワンと犬が吠え、カーカーとカッパが鳴く。
サイファーが向かわなかった道の先、バリアに守られた石像の前で、アンジェロとセフィロスは会話を続けていた。
『落ち着いてる時はすごい頼りになるのに……
 焦ったり、変にカッコつけようとするととんでもない失敗をするのよね、サイファーって』
『そうか』
最低限の相槌を打ちながら、カッパは筆記具を弄ぶ。
人間と会話が出来ない不便さを悟ったセフィロスが、この場所に来る途中立ち寄った部屋――
かつて、彼がプサン達を見かけた部屋から持ち出してきたものだ。
そしてそこに残っていた臭いをアンジェロが追跡することで、一人と一匹はここまで辿りつくことが出来た。
邪魔な石像を動かし、背後の通路へ進んでいけば、間違いなくプサン達に出会えるだろう。

だが、二つ、問題があった。
一つは、サイファーがアンジェロ達の存在に気付いていなかったということ。
周りの意見を聞かずに飛び出し、城へと急いだサイファーに、背後を顧みるゆとりなどあるわけがない。
もう一つは、通路を守る雷撃のバリア。
その効力は城の入口で嫌と言うほど味わわされた。
知能こそ高けれど、犬に過ぎないアンジェロでは、再びバリアを超えるだけの体力はない。
無論、セフィロスならば容易く石像の元へ辿りつけるが、彼にはそこまでする理由がない。
ドラゴンオーブが手元にあるか、殺人者がプサンの元にいるならば話は別だったが、
現状では無様な姿を晒すリスクを推してまで会いに行く意味がない。
だから、一匹と一人は、通路に留まっていた。
留まるしか出来なかったというべきか。
93デスキャッスルには危険がいっぱい 2/14:2012/12/19(水) 19:53:15.87 ID:eCsgICB10
『広いと言っても限りがある。遅かれ早かれ調べ尽くしてここに辿りつくだろうさ』
セフィロスはそう呟いて、ペンの軸を拳で握り締めた。
普通に持とうとすると、指の間に生えた被膜と皮膚を覆うぬめりが邪魔をして、滑り落としてしまうのだ。
さらに試行錯誤の末、床に紙を置いて安定させて、ようやく文字を書くことに成功する。
だが、その様子はまるで、
『……人間の赤ちゃんみたいな書き方をするのね』

アンジェロの言葉に、空気が凍った。

ややあって、セフィロスは咳払いをしたあと、紙を破り捨てる。
『全く忌々しい……!
 ケフカめ、この恨みはいずれ必ず晴らさせてもらうぞ……!』
復讐を誓う声音に含まれる殺気は刃のように鋭く、アンジェロの背筋を撫でつけた。
気弱な人間がこの場に居合わせたなら、それだけで卒倒してしまうだろう。
しかし、リノアと共にアルティミシアと相対したことがあるアンジェロには通じなかったし、
傍から見れば、かんしゃくを起こしてカーカーと鳴くカッパでしかなかったが。

『……はぁ』
クゥン、と一声鳴いて、アンジェロは通路の先を見やった。
サイファーは本当にアーヴァインを殺す気なのだろうか。
アーヴァインは本当にスコールを殺してしまったのだろうか。
答えはわかりきっているのに、それでも薄い希望に縋りたくなるのは、弱さなのだろうか。

『そうだ、犬。一つだけ確認しておくが……
 件の男は、今でも貴様の「仲間」に入るのか?』
彼女の思考を読んだかのように、セフィロスが問いかける。
アンジェロは尾を項垂れさせたまま、しばし目を閉じ、ゆっくりと首を振った。
『……リノアやスコールがここにいたとして、多分、彼を殺せとは言わないと思う。
 だから……私からは、「死なせないでほしい」としか言えないわ。
 貴方がそれを聞いてくれるとは思わないけれど』
『そうか』

陽無き闇の世界には夜もない。
テラスに続く開け放たれた扉からは、わずかな光が差し込むだけだ。
彼らに時を教えてくれるものは、数分後に流れるであろう放送のみであった。
94デスキャッスルには危険がいっぱい 3/14:2012/12/19(水) 19:56:44.57 ID:eCsgICB10
溶岩の海に煽られて、生暖かい風が世界を駆け抜ける。
その流れに乗るように、黄色い巨鳥が茂みを掻き分け、道なき道を駆けていく。
背には金髪をなびかせる、同じ顔の少女が二人。
片や非常な軽装でチョコボの手綱を握り締め、片や白亜の騎士服に身を包み、顔を背けてまたがっている。
けれども不思議な事に、二人とも傷ついているようには見えないのに、鳥の羽や手綱にはところどころ赤い染みが出来ていた。

「もう、最初っから呼んどけばいいのにー……」
「ぶつくさ言われても、状況が変わったんだからしょうがないだろ」
白服の少女に、軽装の少女が答える。
けれども前者の可憐な声に対して、後者の声は男のソレだ。
彼女――否、彼が姿を偽っているのだと知っているのは本人達だけ。
走るチョコボは背中のやりとりを聞きながら、「クエッ?」と怪訝な表情を浮かべている。

「予定より時間も食っちゃったし、変化の杖なんて便利なモノも手に入ったしね。
 メリットがデメリットを上回るなら、そりゃ〜頼るよ」
軽装の少女の姿をした青年・アーヴァインの言葉に、本物の少女・リュックは首を横に振った。
「はーいはい、もう勝手にしてってば。
 ワケわからないこと言い出したり、一人で戦ったり、あたしのこと眠らせたり……
 あんたに付き合ってると、頭がウニウニしちゃう」
顔も視線も向けないまま、肩をすくめる少女に、青年はわざと同じポーズを取ってみせる。
「僕にしてみりゃ、君に振り回されっぱなしなんだけどね。
 ……さ−、ボビィ! もっとスピードだしてGOだ!」
「クエー!」
振られた手綱に反応したのか、青年の言葉を理解したのか。
首元の、『ボビィ=コーウェン』と刻まれたネームプレートをひときわ大きく揺らしながら、チョコボは勢いを増した。
「……妙〜に懐いてるよね、この子。
 呼び出せるのって、そこらにいる野良チョコボじゃなかったの?」
「よくわからないけど、名札ついてるし、飼われチョコボだったんじゃないかなあ……
 きっと、僕らと同じで、性格の悪いオバさんに拉致されてきたんじゃない?」
「クエッ!」
「ほら、そうだってさ。
 ボビィも大変だね、早くおうちに帰りたいよね〜」
「クエ〜!」
自分と全く同じ顔で、しかしどこか暗い影を落として笑う青年に、リュックはため息をついた。
95デスキャッスルには危険がいっぱい 4/14:2012/12/19(水) 19:59:32.08 ID:eCsgICB10
(ホンットに何を考えてるかわかんない。
 人の事眠らせて指輪盗んだかと思ったら、チョコボ呼んで急ごう、だなんて。
 あたし、コイツの事信じてていいのかな?)
リュックは内心の疑問を解けないまま、アーヴァインにしがみつく。
それでも手を離さないのは、彼が己の思考を説明できない理由を知っているからであり、
信じようと信じまいとも、彼を見捨てるという選択肢は存在しないからだ。

(……あんまり変な事しようとしたら、ひっぱたいて止めないとね。
 いっくら人質役って言ったって、こいつのオマケじゃないんだもん)
彼女は決意を新たにすべく、ぐっ、と拳に力を入れ――た、ちょうどその時、地面が大きく揺れた。
「クエッ!?」「うわっ!?」
驚いたボビィが思わず足を止め、アーヴァインもたまらずバランスを崩してしまう。
だが、両手を握りしめていたリュックは、バランスを崩すだけではすまなかった。
「きゃああああああああああ!」
思いっきり振り落とされ、地面に強かに頭を打ち付けてしまう。
アーヴァインは呆れながらも、ボビィから降りてリュックの手を取り――
空から響き渡った大音声が、二人の意識を引き戻した。

 『定刻だ。太陽無き闇の世界にて、命を散らせた愚者たちの名を――』

「……良かった」
魔女の声が途切れた後、アーヴァインが最初に言ったのはそれだった。
リュックの手を握ったまま、彼女の顔で嬉しそうに笑い、言葉を継ぎ足す。
「ユウナが生きてて、本当に良かったよ!」
彼には珍しく真っ当に明るい口調と朗らかな笑みは、それが本心だと主張している。
けれども、リュックには、別の感情が隠されているように思えた。
彼女自身が、手放しでは喜べなかったからだ。

「……あのさ。もし、ユウナが、本当に」
ぶつけた頭をさすりつつ、言いよどむリュックに、アーヴァインの声が重なる。
「言うなよ」
短い返答は、彼が、リュックと同じ不安を抱いていたという証左だ。
だから、リュックは彼の言葉に従い、黙って一緒にボビィに乗った。

そして彼らが再び城を目指してから、ほんの数分後――

群生する草が急激に途切れると同時に、ボビィが足を止め、小さな声で鳴き出した。
「クエッ、クエ、クエー」
首を回したり、振ったりして、何かを伝えようとしているようだ。
リュックとアーヴァインは同じ顔を突き合わせ、小首を傾げる。
96デスキャッスルには危険がいっぱい 5/14:2012/12/19(水) 20:01:18.28 ID:eCsgICB10
「どうしたんだい、ボビィ?
 あのお城は確かに怖いオジさんの家だけど、別に怯えなくても大丈夫だよ?」
「クエー!」
アーヴァインの言葉に、ボビィが羽をばたつかせる。
どうやら『違う!』と抗議しているようだ。
「……ね、もしかして、あっちに誰かいるんじゃないの?」
リュックがアーヴァインの背中を突っつきながら呟くと、ボビィは大きくうなずいた。
「クエー。クエッ、クエークエー」
ぱたぱたと羽を振るボビィに、リュックは胸を張ってみせる。
「へっへーん、スフィアはどっか行っちゃったけど、調教師の経験はダテじゃないもんねー」
そんな彼女を一瞥し、アーヴァインはひらりとボビィから飛び降りた。
「ふーん、すごいね〜。
 ドヤ顔してる暇があったら、ちょっと前にズレてくんない?」
「へ?」
ぽかんと口を開けるリュックの視界に、小さな銃口が映る。
「前にズレろって言ったんだ。僕があんたの後ろに座るから」
「わ、わかったってば……」
冷酷な表情が演技で、向けられているのが弾を抜かれた拳銃だとわかっていても、あまりいい気はしない。
リュックはしぶしぶ手綱を掴み、自分の身体を前へとずらす。
「これでいいの?」
「ああ」
怪我人とも思えぬ身のこなしで、アーヴァインはボビィに飛び乗る。
黄色の羽を赤く染めるのは、幻光の像に隠された彼の身体に纏わりついた、また彼自身が流した血の跡だ。

「何をする気なの? まさか、悪い事しようってんじゃないでしょーね?」
「するよ。悪い事」
眉をひそめるリュックに、アーヴァインはあっけらかんと言ってのけた。
堪らず彼女が振り向けば、そこにいるのは、折れていたはずの右腕を回す薄汚れたローブ姿の男だ。
左手に光線銃を携えた、限りなく殺人鬼に近い青年は、先刻までとうって変わり酷薄な笑みを浮かべる。

「いるのがユウナやソロ達ならともかく、僕の同業者だったら、あんただって困るだろ?
 こーゆーのは、先手必勝だよ、必勝」
どこまでが演技でどこまでが本心なのか。どこまで正気でいるというのか。
吐息にさえも血の臭いを混じらせ、青い瞳の奥に闇の色を揺らす青年の姿からは、最早判別はできない。
それでもリュックが何も言わなかったのは、『ユウナやソロ達ならともかく』という言葉を聞けたからだった。

「さあ、ボビィ! 後ろに回り込んでやれっ!!」
「クエーー!!」
97デスキャッスルには危険がいっぱい 6/14:2012/12/19(水) 20:06:53.45 ID:eCsgICB10
エルフの耳は人のそれよりも大きく、敏い。
外敵から身を守る為に発達したとも言われているし、
森に生きる民として、獣の声を聞く為に大きくなったのだとも言われている。
だから、彼女が遠くから響いた奇妙な鳴き声に気付いたのは、至極当然の事であった。

「あら? あれは……?」
振り向いたロザリーの視界に映ったのは、草や石を巻き上げながら疾走する、黄色い何か。
彼女の声につられ、ザックスとソロも剣を手に向き直る。
けれども、世界を回ったソロにも正体はわからず、唯一人、ザックスだけがその生き物の名を言い当てる。
「チョコボ……みたいだな」
「「チョコボ?」」
「あれ、知らないのか? 人を乗せて走れるぐらい、でっかい鳥だよ。
 たまに野生種がいるらしいけど、こんな所にいるとは――ッ!?」
ザックスの言葉を遮ったのは、チョコボの背から放たれた一条の光線。
特徴的な音と高熱を伴い飛来するその射撃は、外れたのか、外したのか。
立ちすくむロザリーのつま先からきっかり一センチ先に命中し、地面を焦がす。
そしてソロが反応するよりも早く、二発の続射が男二人の足元をも焼いた。
「敵だ! ロザリー、急いで城の中へ走れッ!
 ソロ、彼女を守りながら退くぞ!」
「わかりましたっ!」
ロザリーの背を押し、彼女を庇って前に出たザックスと共に、ソロもまた盾をかざす。
ソロもザックスも接近戦を得意とする反面、遠距離戦には弱い。
それでなくても圧倒的な機動力を持ち、遠距離射撃を仕掛けてくる相手に、開けた場所で戦うのは愚策中の愚策だ。
剣で光線を弾きながら、ザックスはソロに話しかける。

「ソロ、相手の武器はレーザービームかなんかだ!
 実銃に比べて弾速は早いけど、貫通力はそれほどじゃない。
 落ち着いて防御しながら後退すれば、問題は――」
「れーざーびーむ……ビーム?!」
ザックスが口にした耳慣れぬ名称の武器に、ソロはひそひ草から漏れ聞こえた『音』を思い出した。
チョコボは数百メートル先で、ぐるぐると不規則に走り回っている。
いかにソロといえども、鳥の頭と羽に隠れた射手の姿は見えない。
だが、先ほどから自分達を狙っている射撃音は、紛れもなくリュックを撃った武器と同じ音を発している――

(まさか、アーヴァイン……! だとしたら……!)
98デスキャッスルには危険がいっぱい 7/14:2012/12/19(水) 20:08:56.08 ID:eCsgICB10
「近づくな!」
チョコボに向かい足を踏み出したソロの身体を、ザックスが掴んで引き止めた。
同時に、光線がソロのイヤリングと、ザックスの肩を掠める。

「なあ、あれが噂の、お前の知り合いだったとしてだ。
 なんでチョコボの足を止めて撃ってこないと思う?
 動いてる状態でこれだけ狙えるんだ、立ち止まらせりゃもっと正確に撃てるだろうにさ」
「……反撃を喰らわないためじゃないんですか?」
「この距離でどうやって反撃するんだよ。
 魔法でも余裕でかわされるだろ」
チョコボとソロを交互に見やりながら、ザックスは言葉を継ぐ。
「十中八九、この攻撃は挑発だ。
 相手がお前だと踏んで、その気になれば追いかけてこれるように、わざと隙を見せたり狙いを甘くして撃ってるんだ。
 ――実際、お前、あいつの所へ行こうとしただろ?」
「……」
図星を指され、ソロは口を噤んだ。
リュックの救出とアーヴァインの説得、その思考を読んだ上での攻撃――
言われてみれば、彼ならやりかねないと思える。

「分断して確固撃破なんてのは、戦術の基本だ。
 基本になるぐらい有効な策なんだ。
 可愛いお姫様を放り出して、わざわざハマってやる必要はない。違うか?」
――最もな意見だった。
ソロは盾を構え直し、息を吐く。

「……すみません。急いで退きましょう」
「おっし。行くぞ!」

二人はじりじりと後退しながら、ロザリーが城内に逃げ込んだのを確かめる。
そして目くばせをしながらタイミングを見計らい、一気に走り出した。
背中越しに銃声を聞きつつも、光線が命中する事はなく、二人とも無事に扉まで辿りつく。
「ソロさん、ザックスさん!」
「まだ危ないからこっち来ちゃダメだ!
 ソロ、扉閉めるぞ! 奴が入ってこれないようにするんだ!」
「はいっ!」
安堵の表情を浮かべるロザリーを手で制し、ザックスはソロと共に大扉を閉ざす。
取っ手にソロが持っていた剣を通し、閂代わりにすると、彼はようやく額の汗をぬぐった。
「よーし、これでしばらくは大丈夫だろう。
 バズーカかなんかで扉ごと吹っ飛ばされたらお手上げだけどな」

ザックスは真剣な表情を崩し、にっかりと笑う。
その曇りのない笑顔に、ソロは何故か、幼馴染の少女を思い出した。
普段は友人として、時に姉のように振舞いながら、自分の手を引いてくれていた少女を。
99デスキャッスルには危険がいっぱい 8/14:2012/12/19(水) 20:11:32.67 ID:eCsgICB10
「僕は……傲慢ですね」
ソロはぽつりと呟いた。
「え?」とザックス達が視線を向ける。
それでも彼は、拳を握り締め唇を震わせる。
「シンシアも、デールさんも……ビビもレナさんもわたぼうも、スコールもアルガスも……
 救えなかった人の方がずっと多いのに、今も……
 守るべき人を守ろうともしないで、そのくせ、リュックやアーヴァインを救いたいだなんて……」

俯いたソロの脳裏に、かつて殺めた青年の姿が過ぎる。
その時、彼は既に片腕を失い、半身を焼かれ、返り血のみならず己の血で全身を染めていた。
どうやっても助からない。もはや命を救う術などない。それほどの状態だから殺せたのだ。
もしも彼が五体満足であったならば、殺すよりも先に、説得の術を考えただろう。
アーヴァインに対してそう考えているように。
けれども、もしもデールが生きていたら、ヘンリーは今生きていただろうか?
人を狂わせる【闇】の存在を知らぬまま、正気を取り戻させる事が出来ただろうか?
そもそも存在を知った今でも、【闇】を祓う術などわからないのに、取り込まれた人間を救えるものだろうか?

『傲慢ってのは、生きている相手を殺さない事だ』――サイファーはそう言った。
それは『生きている相手を殺せない』ソロに対する非難ではなかったのか。
実際、レーベでアーヴァインが死んでいたなら。
あの時ピサロを止めなかったなら、少なくともスコールとアルガスは死なずに済んだのだ。

「あ、あの……」
ロザリーが言いよどむ。言葉が見つからないのだろう。
そんな彼女を手で制し、ザックスはソロの肩を叩いた。
「なあ、ソロ」
「……?」
呼びかけられ、ソロは顔を上げる。
「てりゃっ」
その額に、突然パチンと衝撃が走った。
緑の目を瞬かせると、ザックスの顔と人差し指が目に入る。
指で額を弾かれたのだと思い至ったのは、たっぷり十秒ほど経ってからだ。

「はき違えちゃいけないぜ。
 そりゃ、人の手は二本しかないし、一度に掴める数は限られてる。
 誰も彼も救いたいなんていうのは『夢』さ。
 ――だけど、『だから』大事なんだ」
100デスキャッスルには危険がいっぱい 9/14:2012/12/19(水) 20:14:19.08 ID:eCsgICB10
ザックスの行為と言葉を飲み込めず、ソロは呆然と青い瞳を見つめる。
その視線に何を覚えたか、ザックスはぽりぽりと頭を掻きながら、言葉を続けた。

「英雄になりたければ夢を持て、それと誇りも、ってな。
 皆を助ける、救ってみせる、最高に英雄らしい夢じゃないか。
 そういうのは抱き締めとけよ。無くさないようにな」
「……でも、僕は、そのせいで」
「結果だけ見てたら何もできないぜ?
 世の中、上手く行かない事の方が、上手く行く事よりずっと多いさ。
 けど、何もしなかったら、上手く行くなんて事は絶対に起こらないんだ」
ソロはザックスの人生を知らない。歩んできた道の険しさを知らない。
それでも、彼の言葉に込められた重みは伝わる。
望む未来を掴み取れず、なおも折れず諦めず、足掻き続けたからこそ言えるのだろうと。

「間違えちゃダメなのは、あくまで『優先順位』な。
 さっきも言ったけど、一度に助けられる人は限られてるんだからさ。
 いっぺんに全員が無理なら、順番に助けるしかないんだ」
ザックスはそう言って、歩き出した。
漆黒の廊下に靴音を響かせながら、ひらひらと手を振る。
「まずはロザリーと城にいる連中を安全な所に避難させて、サイファーと合流しよう。
 それからアイツを生け捕りにして、脳天に右ナナメ45度でチョップを叩きこんでやろうぜ。
 壊れたヤツにはそれが一番だって」
軽い口調で言いのけたのは、ソロの気持ちを慮ってのことだろう。
「ザックスさん……
 ……ありがとうございます」
感謝の言葉を背に受けて、ザックスは微笑をこぼす。
「いいってことよ。
 俺も、そういう時があったしな」
彼の意識に浮かんだのは、三人の男の姿。
二人は既に亡くなって久しいが、一人だけはこの世界で生きている。
それも、共に戦った英雄としてではなく、破滅だけをもたらす殺人者として。

(……どこで何してるんだろうな、セフィロスは)
その言葉は口から零れることもなく、故に、誰の耳にも届くことはなかった。
101デスキャッスルには危険がいっぱい 10/14:2012/12/19(水) 20:16:56.25 ID:eCsgICB10
「やーっと城の中入ったよ。スットロいなあ、もう」
三人の姿が城内に消え、扉が閉ざされたのを確認して、アーヴァインは銃口を下ろす。
「何をする気なのよ、あんたは!
 みんなに当たるんじゃないかってヒヤヒヤしたじゃない!」
「当たらないよ、当てる気ないもん」
リュックの怒鳴り声から左耳を塞ぎつつも、彼は涼しい顔で答えた。
『走り回るチョコボの背から狙撃する』と言えば難しく思えるが、実の所そうでもない。
チョコボという鳥は、走る際、首だけを大きく振ることで全身のバランスを取る性質がある。
つまり、高速で走っていても、胴体部や背に乗る人間はほとんど揺れないのだ。
チョコボが存在する世界で、彼らが馬よりも重用されているのは、この特性により機動力と射撃精度を両立させることが出来る為である。

「よし、ゆっくり城へ近づくんだ」
「クエッ」
手綱を振られ、ボビィは指示通りにトコトコと歩き出す。
「だから、いい加減に……」
なおも何か言おうとするリュックを手で制し、アーヴァインはライフルを構えたまま答えた。
「サイファーはサイファーで別行動してるみたいだしさ、ロック達に無害なフリして近づくのは無理っぽいからね〜。
 もう面倒だから、適当にけしかけて合流させて、全員まとめて南東の祠まで追い込んでから始末してやるよ」
その言葉に、リュックはしばし目をパチパチと瞬かせ、やがて呆れたように首を振る。
アーヴァインの考えを理解したからだ。
即ち、事情を説明せず、正体を明かさず。
あくまで殺人者として襲撃を繰り返すことで、仲間を南東へ誘導しようという危険な策を。
「そんなの、そうそう上手くいくワケ……」
「上手くやるんだよ。
 さて、今度は先回りして、逃げ道を塞ぐとしますか」
「何をやるのよ、今度は」
「色々考えたけど、手っ取り早くテラスから上の階に潜り込んで、油でも撒いて火つけて追い出そうかなって」
「それって危険なんじゃ……」
「火に煽られて煙は上の方に行くはずだから、最上階から火を付けて下に降りていけば僕は大丈夫だよ」
「『僕は』ぁ?」
眉をひそめるリュックに、アーヴァインはわざわざ構えを崩して、大げさに肩をすくめた。
それから、これみよがしに指を振りながら答える。
「……前々から思ってたけど、あんたの目には、僕がソロにでも見えてるのかい?
 一人で出来る事には限界があるし、ユウナを捕まえる邪魔をされたくないから、色々やってるけどさ。
 最終的にはあんたも魔女も誰もかれも、全員皆殺しにしたいんだ。
 そこんとこ、はき違えられると困るなぁ!」
語気を荒げ、狂気じみた笑みを浮かべる『演技をする』青年に、リュックは閉口する。
102デスキャッスルには危険がいっぱい 11/14:2012/12/19(水) 20:19:27.63 ID:eCsgICB10
「ま、細工を流々仕上げを御覧じろってね。
 最終的にご希望の結果に辿りつけりゃ、手段や過程なんてどうでもよかろうってヤツだよ」
アーヴァインはヒュゥと口笛を吹き、再びライフルの照準器を覗き込んだ。
しかし、その銃口が光を放つことはないまま、数分が過ぎ――二人と一匹は城門前に辿りついた。

「正面から入るの?」
「まーさかーぁ。テラスからって言っただろ、ジャンプして上に行くんだよ」
一人ボビィの背から降りたアーヴァインは、そのまま手綱を持ち、壁沿いに西側へと回り込む。
そして、一番隅まで行くと、黄色い羽をぽんぽんと叩いた。
「ボビィはこっちの陰に隠れて待っててね〜。
 出来るだけ早く戻って来るけど、次に地震が起きても僕が帰ってこなかったら、青い光に向かって走るんだよ?」
「ク〜エ〜?」
「……わかんないか。うん、そりゃそうだよね」
首を傾げるボビィに、アーヴァインは苦笑を浮かべる。
「はいはーい、ボビィのためにあたしをここに置いてくっていうのは?」
「却下却下、人質さんが何寝ぼけた事言ってるのかな〜」
「だよねー……」
調子のいいことを言ってみるも軽くあしらわれ、リュックは肩を落とす。
―ーその耳に、突如、特徴的な銃声が響いた。
反射的に顔を上げたその先で、緑の影が大地を蹴り、アーヴァインの後ろへ回り込む。

「え?」
何が起きたのか、それを問うよりも早く。
アーヴァインが二射目を放つべく向き直るよりもなお早く。
その影は手刀を青年の首筋へと叩き込み、崩れる身体を引き上げて、ボビィの背へ飛び乗った。

「カーーー!!」

鳴いた声音にどのような意味があったのか、知るのは本人とボビィだけ。
「ク、クエー!!?」
怯えたように羽ばたきながら、ボビィはとんでもないスピードで走り出す。
その背に緑の生き物と、微動だにしないアーヴァインを乗せたまま。
あんぐりと口を開けて立ちすくむリュックと、上階から響く犬の吠え声を置き去りにして――
103デスキャッスルには危険がいっぱい 12/14:2012/12/19(水) 20:23:16.16 ID:eCsgICB10
二人にとって不幸だったのは。
アンジェロ達が極めてテラスに近い場所にいたということ。
そして、アンジェロの耳が、銃声とアーヴァイン達の声を聞きとめてしまったということ。

表の喧騒に気づいたアンジェロがテラスへと飛び出し、セフィロスが後を追った。
彼らはほどなくアーヴァイン達の姿に気付き、青年が口にした偽りの企みを聞いた。
(いけないわ、このままでは上階にいるだろうサイファーと鉢合わせしてしまう!)
アンジェロの危惧と同じことを考えたのか、セフィロスは一言、呟いた。

『――あれを生かしてほしいと貴様は言ったな。
 その望み、聞いてやろう』

アンジェロがその真意を問い返す前に、セフィロスはテラスから飛び降りていた。
鳴り響いた銃声は、上空からの襲撃者にただ一人気付いたアーヴァインの抵抗であった。
だが、殺意を欠いた牽制の一射では、セフィロスを止めることはできなかった。
地面を蹴り上げ、素早く背後を取り、延髄に一撃を加える。
手加減をした、しかし的確な打撃はアーヴァインの意識を刈り取り。
――そして、今に至る。

(幸運だった……私にとっては、だがな)
チョコボを駆りながら、カッパ――の姿をしたセフィロスは口の端を吊り上げる。
【闇】に侵されてなお真っ当な人間の姿と、策を練るだけの知性を残した貴重なサンプル。
それを生け捕りにする機会に恵まれたのだから、上機嫌にもなろうというものだ。

『ど、どこにつれてくつもりなの? なんでおねーちゃんを置いてくの?』
クエエ、とチョコボが鳴いた。
青い目に涙が浮かんでいるが、セフィロスは意にも介さない。
『黙って南へ走れ。建物が見えたらそこで下ろせ』
『で、でも……』
『この男ともども殺されたいか?』
『や、やめてよう! 走るからやめてよう!!』
蛇に睨まれた蛙のごとき哀れなチョコボは、身を震わせながらスピードを上げる。
その背で、カッパは満足げに目を細めた。
城に居てはサイファー達に見咎められる可能性があるが、外に連れ去ってしまえばその心配はない。
仮に窓やテラスから自分とアーヴァインの姿を目撃したとしても、チョコボの足には追いつけない。
アンジェロと別れるというリスクを超えてなお余りある、最高の状況だ。

(クックック……そう簡単に死なせてやるものか。
【闇】を手にするために、利用させてもらうぞ――!)

カッパは笑う。力への渇望と、邪悪な夢を瞳に宿して。
104デスキャッスルには危険がいっぱい 13/14:2012/12/19(水) 20:26:09.01 ID:eCsgICB10
【セフィロス (カッパ)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ 筆記具
 第一行動方針:アーヴァインを利用して【闇】の力を得る
 第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める/カッパを治す、その為に必要ならアンジェロと再合流する
 第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【アーヴァイン(気絶、変装中@白魔服、右腕骨折(回復中)、右耳失聴、HP1/3+リジェネ(強)、MP微量)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
     G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
     スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
     ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖) 祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』(ちょこザイナ&ソナーによる召喚)
 第一行動方針: 脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【現在位置:デスキャッスル→希望の祠へ移動】

【リュック(パラディン)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
     ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 第一行動方針:どどど、どうしよー!?
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:デスキャッスル・外】

【アンジェロ 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
 第一行動方針:どどど、どうしよう…?!
 基本行動方針:サイファーを追いかける/ケフカを倒す】
【現在位置:デスキャッスル4Fのテラス】
105デスキャッスルには危険がいっぱい 14/14:2012/12/19(水) 20:27:12.54 ID:eCsgICB10
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ
      レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
 第一行動方針:アーヴァインを殺す
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:デスキャッスル5階】

【ソロ(HP3/5 魔力1/4)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 ひそひ草
      ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
     フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
 第一行動方針:ロザリー達の安全を確保し、サイファーと合流する
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ザックス(HP1/2程度、左肩に矢傷、右足負傷)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(11) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 第一行動方針:ロザリー達の安全を確保し、サイファーと合流する
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:サイファーの後を追う
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:デスキャッスル1F】

【備考:デスキャッスル正面の扉が閉ざされました。
 中から閂に使われている『さざなみの剣』を回収するか、
 扉そのものを破壊しない限り、正面の扉からは出入りができません。
 なお1Fにはいくつか窓があるので、そこから侵入できる可能性はあります】
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 16:23:48.82 ID:cQPB71ze0
投下乙!
た、大変だーーーーーー!!
河童がチョコボを使って人攫いだーーーーー!!
河童じゃ! 河童の仕業じゃ!

何気にリュックも危ないしデスキャッスルがやばい!
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/20(木) 19:59:39.26 ID:r2+PxGXWO
乙!

これまた錯綜してますなあ
冒頭のサイファーに一瞬、間に合わなかった頃の班長が重なってしまった…
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/26(水) 00:09:22.11 ID:rAKEtMQM0
新作乙です。
颯爽とした動きやら思考やらはかっこいいのにカッパが研究してる姿を想像するとシュールすぎる
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/26(水) 23:05:30.19 ID:RdUYl/3s0
新作乙です!
何だかんだでこのままならなんとかなりそうか…と思ったところで、最悪の場所で分断されたリュックとアーヴァインどうなるんだ……。
しっかしカッパ姿しまらねえwww
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/12/27(木) 11:20:15.90 ID:fm8nR5ouO
久々に絵板見たらケフカwww

ここのケフカはかなり自分のイメージ通りだ
難しいキャラだろうに皆さん凄いです
111A mixture of dream and reality 1/6:2013/01/01(火) 01:44:23.14 ID:Js/OHXOi0
薄暗い部屋は淀んだ空気で満たされていたが、俺達の心は晴れていた。
「さて、作戦会議その二と行くか」
そう言って、アルガスは壁に寄り掛かるように座り込む。
夢の世界に入る前に格好をつけたかったのか、持っていた鍵を無造作に、宙へと弾いた。
だが、隻眼では距離感がつかめなかったのだろう。
素早く掴み取ろうとした手は虚空を切り、夢の鍵は床へと落ちる。
「……くそっ、あの化物め」
アルガスは鍵を拾い上げながら、あからさまな憎悪と侮蔑のこもった声音で呟いた。
しかし俺の表情に気付くと、バツが悪くなったのか、わざとらしく咳払いをする。
「あ、道具の類は持ってきてくれよ?」
「わかっている」
誤魔化すような台詞に、俺は床に置いておいた荷物を拾い上げた。

参加者リストに攻略本と筆記具。
首輪の仕組みにしろ、解除手段にしろ、満足な説明をするには相応の道具が必要だ。
アルガスの知人と言う事は、機械に関する知識も彼と同等か、それ以下の可能性が高いのだから。

「小難しい説明はお前に任せるしかないからな……
 まあ、こっちは会場を提供してやるんだし、持ちつ持たれつと行こうじゃないか」
アルガスが、こちらを見上げながら釘を刺す。
いちいち対等の立場をアピールするのは、貴族としてのプライド故だろうか?
頭の回転は悪くないのだし、人を利用する才能はあるのだから、それこそ性格を正せばいずれそれなりの地位へ就けたただろうに。
俺は内心辟易しながら、「ああ」と曖昧に頷く。
「魔女の眼を逃れるためにも、その鍵と、あんたの才能が頼りだ。
 信頼しているぞ」
あからさまな世辞を言うのは好きではないが、夢世界の存在で助かる事があるのは事実だし、離反を防ぐ為にも機嫌は取っておいた方が良い。
俺の打算に気付かないのか、アルガスは得意げに笑ってから瞼を閉じる。

一分。
二分。

呼吸は次第に寝息へとすり替わり、彼の手に握られた鍵が淡い青に輝き始める。
準備が出来たようだ。
俺はアルガスの身体に触れ――一瞬の浮遊感と共に、世界の輪郭が薄れていく。
現から夢へ。魔女の眼も届かぬ幻の世界へと、俺は誘われていった。
112A mixture of dream and reality 2/6:2013/01/01(火) 01:45:54.06 ID:Js/OHXOi0
背後でバタン、と音がした。
夢と現実を繋いでいただろう扉は、俺が振り向くと同時に閉ざされ、すぐに空気に溶け込むように消えてしまう。
それはいいのだが。
「……?」
俺は戸惑いながら辺りを見回す。
木製の調度品が並ぶ貴族の屋敷はどこへやら、視界には見慣れない大理石の通路が広がっていた。
古城、という単語が頭に浮かんだが、壁はあくまでも新しく、敷かれているカーペットも汚れ一つない。
天井にはいささか装飾過多なシャンデリアがぶら下がっていて、無数の蝋燭が、揺らめくこともなく光を放ち続けている。
(これも夢、か)
ため息と共に一人ごちると、視線の先で、扉が勝手に開いた。
どうやらあそこに入れということらしい。

「よう」
俺の予測通り、アルガスは部屋の中にいた。
中央に巨大な机と椅子達を、壁際に書棚やボードを備えた、立派な会議室だ。
四人や五人で話すにはいささか大きすぎる気がするが……
「模様替えしたのか?」
「おいおいッ、誤解するなよ。
 俺だって気づいたらここにいたのさ。
 多分、作戦会議って思いながら寝たせいだろうな」
知り合いの前で見栄を張りたかっただけじゃないのか、とも思ったが、指摘しても仕方がない。
俺は椅子の一つに腰かけ、バッツ達を待つことにした。
ついでに、放送で呼ばれた人物の名を本物の紙に写していく。
参加者リストを読み返してもいいのだが、死亡者の名前には自動的に赤線が引かれてしまうため、
『誰がいつ死んだのか』という情報が掴みにくい。
その点をカバーする為の措置だ。

「あいつらも準備できたみたいだな」
夢の主の声に、俺は顔を上げる。
視線の先を辿ると、何もなかったはずの壁に、いつのまにか二枚のドアが出来ていた。
片方は少しばかり古びているが立派な石造りで、片方はつややかに磨かれた木製だ。
アルガスがもったいぶって指を鳴らすと、扉は勢いよく開いた。
「おっととと」
木の扉からはバッツが、つまづきそうになりながら飛び出し。
「これは……」
石の扉からはラムザが、警戒した様子で恐る恐る一歩を踏み出す。
対照的な二人に、アルガスは見下すような笑みを浮かべながら、膝を組んだ。
「ようこそ、俺の世界へ」
尊大な態度と言葉に、しかしバッツは聞いた様子もなく好奇の眼で周囲を見やり、ラムザはラムザで呆然と立ち尽くしている。
113A mixture of dream and reality 3/6:2013/01/01(火) 01:49:55.83 ID:Js/OHXOi0
「うわぁ、すごいなぁ! これ夢なのか?! 椅子も? 机も? 本棚も?!
 夢の本って何が書いてあるんだ? 見てもいいか?」
「どうしてアルガスが……? 僕は夢を見て……いや、ここが、夢の世界……なのか?」
「……おいッ!!」
さすがに苛立ちが募ったらしく、アルガスが机に拳を振り下ろした。
ドン、という音で我に返ったのか、ラムザは落ち着かない様子ながらも手近な椅子に座る。
不躾だという意識が働いているのだろうか、彼は手を組んで額を乗せるように俯き、
それでも気になってしまうのか、指の隙間からちらちらと俺に視線を注ぐ。
本を読み続けているバッツは捨て置いて、俺はさっさと名乗りを済ませる事にした。

「アルガスの紹介は要らないな。
 俺はスコール、スコール=レオンハート。
 そこにいるバッツや、ヘンリー達の仲間として、魔女を倒す手段を探っている」
「……スコー、ル?」
ラムザはパチパチと目を瞬かせた。
先ほどの放送を聞いていれば、そういう反応にもなるだろう。

「勘違いするなよ、ラムザ。
 別にあの化物に殺されてから蘇ったってワケじゃない。
 俺が死んだのは、後にも先にもディリータの奴にやられた時だけさ」
アルガスがやけに回りくどい表現で説明する。
アーヴァインやディリータとかいう人物に対する当て付けも混ざっているのだろうが、おかげで、分かりにくいことこの上ない。
それでもラムザはどうにか理解できたようで、首を傾げながらも尋ね返してきた。

「生きている……ということなのか? じゃあ、あの放送は……」
「生きて首輪を外したとバレたら、厄介な事になるからな。
 アーヴァインとリュック、それに祠にいたメンバーと共謀して、一芝居打たせてもらった」
「首輪を……!?」

俺の言葉で、ラムザはようやく俺達に首輪がついていないことに気付いたようだった。
驚愕を隠そうともせず、己の首へと手を伸ばす――が、アルガスが素早く釘を刺した。
「ああ、お前らの首輪まで無いのは、ここが夢の中だからだぜ?
 現実で首輪を外せているのは俺とスコールだけだから、妙な期待はするなよッ」
「……そ、そう、か」
その台詞に落胆したのか、ラムザは大きくため息をついた。
114A mixture of dream and reality 4/6:2013/01/01(火) 01:54:50.33 ID:Js/OHXOi0
「なーなー、アルガスー。この本、中身真っ白なんだけど」
(……まだやってるのか)
そこかしこに本を散らかしているバッツに、俺までため息を吐きたい衝動にかられる。
「バッツもそろそろ座ってくれないか?」
「え? あ、ああ、悪い悪い!」
台詞とは裏腹に、バッツは無邪気な笑顔を浮かべたまま、手に持っていた本を棚へ戻した。
けれども残りの本には手を付けず、そのまま席へ着く。
「なあ、スコール……
 そこの二十歳児は状況を理解しているんだよな?」
「……多分、恐らく」
眉間にしわを寄せるアルガスに、俺はそう答えるしか出来なかった。

――それから、俺達は状況の説明に十数分ほどを費やした。

ラムザは疲れこそ顔に出ていたが、意外と呑み込みが早く、大体の事は納得してくれた。
唯一、リュックと一緒に居た同じ顔の少女とやらだけは疑問が解けなかったらしいが、俺達にも良くわからないのだから仕方がない。
交わした会話や取引からして、十中八九アーヴァインの変装だとは思うが……
骨格からして違う相手の姿に成りすます技術なんてものがあるのだろうか?
それとも、俺の偽物とやらから、噂の変化の杖とかいう道具を奪い取ったのかもしれない。
どちらにしても、嘘を付くならもう少し常識的な範囲の嘘をついてほしいものだ。

「何はともあれ、アーヴァインは間違いなく俺達の仲間だ。
 あいつがしでかした事へのわだかまりはあるだろうが、首輪の解除に必要な人員である以上、しばらく目をつぶってもらいたい」
「その点はわかりました。
 僕としてはリルムの身を案じていただけですし、彼個人に対して怨恨を抱いているわけではありません。
 正当防衛の場合を除いては、こちらからは危害を加えないと誓いましょう」

これがラムザ本来の姿なのだろう。
視線を逸らす事もなく、堂々と落ち着き払った口調で応える様は、騎士という肩書に相応しい威厳を備えていた。
人と人を比べるのは何だが……さすがにアルガスとは役者が違う。

「しかし、君達二人の生存や、この夢世界の事は、秘すべきことではないでしょうか。
 いくらアルガスやリルムと顔見知りとはいえ、数分前まで部外者でしかなかった僕に手の内を晒すのは、いささか不用心では?」
「俺は仲間の眼を信用している。
 あんたが信頼に足らない人間であるならば、あの部屋には居なかったはずだ」
「え、そうだったのか?」
バッツがきょとんとした表情で首を傾げる。
そういう所があるから、バッツにはその辺りの頼み事はしなかったのだが……
115A mixture of dream and reality 5/6:2013/01/01(火) 01:59:52.98 ID:Js/OHXOi0
「アーヴァイン達がここを発った時、信用できそうな奴がいたらこの祠へ誘導するよう頼んでおいた。
 それと、ヘンリーとリルムにも同じように、信用できる奴だけを引きとめてそうでない者は追い出せと伝えてある。
 あの部屋にいたということは、最低でも二人――
 ラムザの場合は四人全員の審査をパスしたということだ。だから信用した」
「ああ、なるほど! 色々やってるんだなぁ」
皮肉で言っているのなら怒る気になれるが、純粋な感心だからタチが悪い。
だが、「おい、二十歳児――」と眉間にしわを寄せたアルガスが口を開いたその時だった。
机のど真ん中に突如星空を映した窓が現れ、ガラスをすりぬけて赤いオウムが舞い降りる。
反射的にラムザとバッツが身構える中、俺はその鳥を連れた人物を思い出し、呆れ半分に首を横に振った。

「婆さんよ……そういう現れ方ばかりしているが、年甲斐がないとか考えないのか?」
「ファッファッファッ、年寄りだからこそ若いのを前にすると格好をつけたくなるもんさね!
 それに朗報を持ってこれたんだ、少しぐらいはしゃぐのは大目に見とくれよ!」
オウムを肩に乗せた夢の管理者たる老婆は、高らかに笑う。
ラムザは怪訝な表情を浮かべるばかりだったが、バッツは何かを思い出したように、彼女に問いかけた。

「あれ、お婆さん、もしかして……ウネって人か?」
「おやおや、どこかで会ったかね?
 いやだねえ、想い出せないよ。耄碌するほど年を喰った覚えはないんだけどねぇ?」
「いや、俺、前の世界でザンデってオッサンと会ってさ。
 その時にお婆さんとドーガって人の事を聞いたんだ。
 この世界から脱出する為に、高い魔力の持ち主やらアイテムやら、あと旅の扉に詳しい奴を探してくれって」
「ああ、なるほど。あんたがバッツかい。
 ザンデが言ってたよ、若いの二人に探し物を頼んだってね。
 まあ、結局、自分の方で揃えちまったって言ってたけど」
「あー……うん、色々ありすぎて、手が回らなかったしなあ」

今一つ話が呑み込めないが、どうやら二人には共通の知人がいるらしい。
ついでに言うなら、ラムザもザンデという人物に覚えがあるらしく、「ザンデ……彼が?」と呟いていた。
アルガスはアルガスで苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、俺の視線に気づいたのか、わざとらしく声を荒げた。

「そんなことよりもッ、朗報っていうのは何なんだッ?
 協力者探しを頼んだはずだが、誰か見つかったのか?」
「そうそう、そうだよ。
 性格は良くないし、変な癖はあるけど、あたしも認める実力の持ち主と再会できたのさ!
 もちろん夢の中でだけどね!」
カッカッカッと気風良く笑うウネ。
彼女の様子に何かを感じ取ったのか、あるいは変な癖とやらに心当たりがあったのか。
バッツが「もしかして……」と口走る。

「――もしかして、ザンデのオッサンが生きてたとか?」
116A mixture of dream and reality 6/6:2013/01/01(火) 02:01:36.74 ID:Js/OHXOi0
その呟きは、数時間前の俺だったら『有り得ない』と切り捨てていたかもしれない。
何故なら、ザンデという名は俺が書き映したリストに載っている――つまり、先ほどの放送で呼ばれていたからだ。
生者に限らず、死者も夢を見るということはウネが証明している。
だから夢の世界で会えたとしても、ザンデという人物が生きているとは限らない……はずだ。
だがアルガスも俺自身も放送で読みあげられてなお生存している身である以上、その発想を嘲ることはできなかったし――
「その通りだよ!」
何よりウネは、胸を叩いてバッツの言葉を肯定したのだ。

『俺達以外に、もう一人、魔女の手を逃れた生存者がいる』

その事実は、果たして何を意味し、俺達の作戦にどんな影響を及ぼすのか。
期待と不安、相反する二つの感情はない交ぜになりながら、俺の胸中に広がっていった。



【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める
 備考:実体ごと夢世界にいます】
【現在位置:南東の祠・最深部の部屋】

【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労、睡眠)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
 第一行動方針:夢世界で説明を聞く
 第二行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、MP1/10、睡眠、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:夢世界で説明を聞く
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/01(火) 02:50:15.82 ID:Rj92815Z0
新年最初の投下乙!

バッツ無邪気すぎるwwアルガスも相変わらずだなぁww
あとザンデも元気なようで何より。
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/01(火) 02:50:50.97 ID:Rj92815Z0
sage忘れた…スマン
119天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 1/16:2013/01/04(金) 11:50:39.52 ID:nvgFdkNA0
祠の中は静寂に包まれていたが、わずかに血の臭いが漂っていた。
それが薄紅色の水面から発せられているのだと気付くには、時間など要らない。
寸詰まりの体躯に似合わず機敏な動きで周囲を見回していたカッパ――
否、セフィロスは、人の気配がない事を確かめると、水面から離れた地面の上に青年の身体を放り投げた。

「う……うう……」
衝撃を察知したのか、青年――アーヴァインは微かにうめき声をあげる。
けれども意に介することもなく、セフィロスは淡々と青年のザックを取り上げると、身体をうつぶせに転がして両手を背中に回した。
「うあ……っ! あ、…うあ、リュック!?」
折れた腕に触れられた痛みが、アーヴァインの意識を呼び戻す。
しかし彼が身動きする前に、セフィロスはローブの裾を引っ張り、固く結び合わせて、両腕の自由を封じてしまった。
簡単な拘束であるが、反撃を封じるには十分だ。
「リュック!! リュック!?
 おい、くそっ、何なんだよ!? いった………いった、い?」
アーヴァインはじたばたともがいていたが、襲撃者の姿を視界に入れるなり、あんぐりと口を開けた。
それもそうだろう、とセフィロスはいささか彼らしくない感情を抱く。
仮にも人を狩る側の者が、頭に皿を乗せ嘴をパクパクさせる子供サイズの生き物に拉致されるなど、笑い話にもなりはしない。

「……何なんだよ、もう。
 おまえ、アンジェロと一緒に拾われたっていうカッパじゃないのかよ?」
ため息をつきながら、アーヴァインは半ば観念したように肩をすくめた。
「アンジェロはどうしたんだ? あの子を守るために僕を連れ去って来たのか?
 だとしたら偉いけどさ、こういう暴力はいけないと思うんだよね〜、うん」
軽口を叩くだけの余裕はあるようで、アーヴァインはぺらぺらと益体もないことを喋り続ける。
だが、セフィロスには反応を返さず、黙々と筆記具を取り出した。

カッパの口では人の言葉を喋れない。
だから聞きたいことがあれば筆談するしかないが、水かきの生えた滑る手では、単語一つ書くにも苦労する。
赤ん坊のようと称された書き方で、沸き上がる屈辱感を抑えながら、出来る限り簡潔に文章を記す。
分単位の時間をかけ、ようやく書き上げたその言葉を、喚く青年の鼻先に突きつけた。

『なぜ人を殺した?』

アーヴァインはしばし、ぽかんと紙を見つめ、ややあって強がり交じりの笑みを浮かべる。
「そ、そんなことどうでもいいだろ!?
 殺したいから殺す、壊したいから壊す、それでいいじゃんかよ!」
半ば予想していた返答に、セフィロスは首を横に振る。
ザックから村正を取り出し、これみよがしに横に置いてから、もう一度紙を叩いて青年に別の答えを促した。
120天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 2/16:2013/01/04(金) 11:52:32.99 ID:nvgFdkNA0
「なんだよ、脅しかよ……間抜けな顔の癖にえげつないなぁ。
 ああ、もう、会いたい人がいたからだよっ! それこそ、スコール達よりも大事な……!」

吐き捨てた後で、アーヴァインは唇を震わせながら言葉を継ぐ。
その台詞は演技でもなんでもない。
全てを犠牲にしても良いと思えるほどの、愛情と思慕と執着心がない交ぜになった感情は、今でも彼の心に残っている。
それでも。
(――こんな時でも、『ティーダやユウナより大事な』って言えない辺りが、僕の限界なんだろうな)
何度目になるかもわからない嘲りを己に向けて、アーヴァインは目を伏せた。
だが落ち込んでも仕方がないと思い直した彼は、そのまま視線を逸らすフリをして、周囲をざっと観察する。

ところどころひび割れた壁と、薄く濁った内堀。
それに反する、庭園に良く似た静謐な空間。
そして、彼を見下すカッパの向こうに、半開きの扉と不安そうな表情で覗き込んでいるチョコボの姿が見えた。
視線を合わせると、「クエェ〜〜」と今にも泣き出しそうな声を上げる。

(『大丈夫だよ』って言いたいけど、ぜんっぜんダイジョーブじゃないんだよなあ……
 くそっ、せめて腕が動けば、剣で袖切って腕を動かせるようになるのに〜……)
無茶苦茶な事を考えながら、アーヴァインはふと、あることに気付く。
(……待てよ?
 こんなふうに監禁してるってことは、すぐに殺す気はないってことだよな?)

ちんちくりんな背丈に皿から銀の髪を生やしたカッパは、円らな瞳を真っ直ぐこちらに向けている。
けれども、抜き身の刃や氷点下の冷気にも通じる剣呑な雰囲気が、可愛らしいという評価を青年の頭から拭い去った。
(嫌な感じしかしないけど、何が狙いなんだろう?
 ううん……どうしようもないし、腹をくくってやるしかないか)
考えた所で答えは出ない。そう判断したアーヴァインは、心の中の【闇】に意識を集中させた。
彼の任務は狂った殺人者として振舞いながら、生存者を選別し、敵を仕留める事。
それらの遂行は、生還などよりも優先させなければならないことだ。
故に、彼は理性の支配を緩め、狂気に精神を委ね、歪んだ思考に言葉を紡がせる。

「どうして……どうして、引き離すんだよ」
唇の震えをやけに遠くに感じながら、アーヴァインは抑揚のない声で喋り出す。
「一緒に居たいのに、一人は嫌なのに、どうして、どうしてみんな、
 どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、邪魔するんだよ」
精神の淀みからごぽごぽとあふれ出す、増幅された負の感情を声に置き換えながら、同時に相手の様子を伺う。
「セフィがいなけりゃ、僕はずっと一人のままなんだ。
 だから代わりがいるんだ。空っぽの心を埋めてくれる仲間が必要なんだ」
セフィ、という名を出した時、カッパが不機嫌そうに目を細めた。
当然、その変化にはアーヴァインも気づいたが、言葉を止めることはしない。
とめどなく沸き上がる殺意もろともに、緑の生き物を睨めつける――
121天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 3/16:2013/01/04(金) 11:54:54.02 ID:nvgFdkNA0
「誰も彼も僕を置いて行く――なら、引きとめるしかないだろ?
 どんな手を使っても手元に置けば、僕だけのモノにすれば、誰も何処にもいかなくなるだろ?
 なのに……なのになのになのに!! お前も魔女もどいつもこいつも、僕を大切な人から引き離しやがってッ!
 畜生、ちくしょう、チクショウ、ちくしょォッ!! 
 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして僕を、ヒトリ、一人、ひとりに1人に独りにするんだよぉおおおッ!!」

その偏執的な言動と、それ以上に鋭い殺気に、セフィロスはかつて襲い来た半死の怪物を思い出す。
彼さえもわずかに困惑させた――それが恐怖だとは決して認めていない――不可思議なプレッシャーと同じものを、目前の青年は放っていた。
「ク、クェエ……?」
気配を察知したのか、外でチョコボが鳴き声を上げる。
けれどもセフィロスは臆する事もなく、青年の血走った眼でも良く見えるよう、二枚目の紙をかざした。

『では、なぜヘンリーたちを殺さなかった?』

セフィロスのみならず、誰もが抱くであろう疑問。
狂気に支配された殺人者が、居合わせた無防備な人間を捨て置く意味があるのだろうか?
ごく当然の問いかけに、アーヴァインは心底馬鹿にしたようにせせら笑う。
「捕まえる為に決まってるだろ?
 ゴキブリって生きてる奴が居ると、そこに集るっていうじゃん。
 ソレと同じさ……ソロもサイファーも仲間を見捨てられる奴じゃないかんね!
 お人よしホイホイに引っかかったところで、全員まとめてツカマエてやるのさァッ!!」
「………カー」
零れた言葉は鳴き声にしかならない。だからアーヴァインには通じない。
だが、セフィロスはこう言ったのだ。
『嘘だな』、と。

ヘンリー達の推測通り、魔女に操られているだけなら、ヘンリー達が生きている理由にも納得が行った。
だが、アーヴァインを突き動かしているものは魔女の意思などではないように思えたし、
単に囮にするためなら、三人も四人も生かす意味などない。
ソロと最も縁が深いであろうヘンリーか、生意気であってもまだまだ子供のリルムが生きていれば、
他の人間が全員死んでいようともソロ達は助けに向かうだろう。
この手の作戦を考え付くような男が、その程度の事に気付かないはずがない。
第一、手の内を易々と晒す事自体がおかしいのだ。
セフィロスがアンジェロと――つまりソロやサイファー達と同行していたことは、彼とて知っているはずなのだから。

(あまりに口が軽すぎる……大方、引き寄せるなどというのは建前だろうな。
 ヘンリー達の生存には、何か別の理由がある。
 だが、だとすれば、どういうことだ?
  ……もしや魔女ではなく、ヘンリー達に飼い慣らされているのか?)
122天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 4/16:2013/01/04(金) 11:56:57.28 ID:nvgFdkNA0
「……信じないなら、殺せばいいんじゃないかなぁ?」
カッパの目に宿る猜疑心に気付いたアーヴァインは、冷笑交じりに呟いた。
「どうせバレるからはっきり言ってやるよ。
 お前に限らず、他人に僕の考えを教えるぐらいなら、意地でもなんでもなく死を選んでやる。
 ――お前の死を、だけどなァアア!」
いい加減、邪魔だから殺す。
普段の彼なら導き出さない短絡的な思考で、アーヴァインは力を振るった。
両手が封じられていようとも、その一撃は放たれ、小さな体躯へと届く。

「?!」
小さな体を揺らした衝撃は、しかしセフィロスの眼をもってしても捉えられなかったのだろう。
冷静な表情が初めて驚愕の色に染まり、それを見てアーヴァインは口の端を吊り上げた。
(通じる! 通じてる!! なら、押し切ってやる!――)

「見せてやる! 【闇】をッ!!」
アーヴァインは一瞬だけ周囲に魔力を通し、黒い靄を実体化させる。
それ自体に効果などない。薄すぎて目くらましにもなりはしない。
けれども、ハッタリには十分だ。
正体不明の靄と攻撃が生み出した、カッパの動揺を見逃さず、立て続けに二撃、三撃を喰らわせる。
パンデモニウムのアビリティ『すいとる』による不可視の攻撃。
それは相手の生命力を着実に奪い、アーヴァインの身体へ還元する。
(一発一発は弱くても、このまま連続で叩き込めば、勝ち目は――!)

「……カァー」

だが、アーヴァインの希望的観測もむなしく、カッパは倒れなかった。
一撃一撃が、あまりにも弱すぎたのだ。
カッパは衝撃に臆することなく、銀髪をなびかせながら間合いを詰めると、一気に背後に回り込んで首を締め上げる。
「ぐっ!? う、あ、うっ……!」
両腕を縛られているのに首を狙われては、成す術がない。
酸素よりも先に血流が途絶え、視界が暗く染まっていく。
「……う……げうっ……」
「カー、カァー」
だが、アーヴァインが気を失う寸前でカッパは腕を離した。
咳き込む彼の首筋を、ぬめつく指先でなぞる。
『次は殺す』。
言葉がわからずとも、その意思だけはアーヴァインにもはっきりと理解できた。
123天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 5/16:2013/01/04(金) 12:01:04.51 ID:nvgFdkNA0
悔しさも露わに、ぎりぎりと歯ぎしりする青年を前に、セフィロスは考える。
今の攻撃は、果たして【闇】の力なのだろうかと。
答えは当然のように出ない。
彼の世界には存在しない概念、G.F.という自立エネルギー体を介した攻撃なのだから、理解できるはずがない。
わかることは、うすぼんやりと見えた黒い靄こそが【闇】の実体だろうということ。
そして、この貧弱な一撃が、青年の切り札だったろうということだけ。

(……進化を促す【闇】といえど、その影響は素質に左右されるのかもしれんな)
セフィロスはアンジェロから聞き出した、青年の経歴を思い出す。
天涯孤独の身ゆえに、傭兵として生きるほかなかった狙撃手。
(視力が重要な職であるから、存在の本質たる【闇】を見抜くよう進化した?
 遠距離からの攻撃が得意だから、見えざる弾丸を撃ちだせるようになった?)

『生物は、求める力に沿った形状へ進化した』
定向進化という単語を思い出しながら、セフィロスは仮説を立てていく。

(最初に出会った怪物は重傷を負っていた……故に生存欲求が作用した……?
 次に出会ったあの竜は、怪物に襲われて傷ついた身体を癒す為に参加者を喰らったと言っていた。
 つまり、より強い身体を求めた為に、【闇】があのように働いた……?)

推測を重ねれば重ねるほど、【闇】への期待と欲望が高まっていく。
僅か三日にも満たない時間で、一部の、しかし数人の参加者を進化させた力。
そこには星の命にも比肩する可能性が秘められているとさえ思えた。

(クックック……素晴らしい)
忍び笑いまでも「クァックァックァッ」とカッパ語に変換されながら、セフィロスは上機嫌に青年を見下す。
その視線に何を感じたのか、アーヴァインは苛立ったように吐き捨てた。
「く、くそっ……やるなら、さっさとやれよ……!」
表情も口調も、自暴自棄という表現がしっくりくる。
だがその瞳には、まだ意思と理性の光が残っていた。
強く、強く、殺意よりも強く。

(……この小僧は、【闇】以外に何を隠している?)

青年の眼に宿る輝きと、強者故の余裕が、セフィロスの心に今一つの疑問を抱かせる。
アーヴァインは何故矛盾と不可解さに満ちた行動を取っているのか。
真に狂人なのか、誰かの絵図面で動いているのか、後者だとすればその人物は誰で目的は何なのか。
そこに隠された意図は、【闇】同様に重要な事実が絡んでいる――
鋭い勘が、そう告げていた。
124天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 6/16:2013/01/04(金) 12:03:13.58 ID:nvgFdkNA0
そして対するアーヴァインも、一つの結論に辿りついていた。
(こいつ……もしかしなくても、テリーが言ってた『セフィロス』って奴じゃね……?)

現時点でアルティミシアに把握されている生存者は19人。
うち、アーヴァイン自身を含めた15人は居場所も立ち位置もわかりきっている。
もしもこのカッパが参加者のなれの果てならば、残る四人――ユウナ、ケフカ、セージ、セフィロスの誰かであることは間違いない。
そしてアーヴァインが口走ったセルフィの愛称『セフィ』に反応していた事を加味すると、候補となるのは一人きりだ。
この仮定を元にすれば、アーヴァインを殺そうとしない理由も説明が出来る。
(元々がとんでもなく強いから……ちょっと抵抗されても、いつでも殺せると思ってる。
 だから、こいつは、用事が済むまで僕を殺そうとしないんだ!)

導き出された結論は、決して油断を許すものではない。
『用事が済むまで殺さない』ということは、『用事が済んだら殺す』ということなのだから。
(マズイ……この状況、僕が考えてるよりずーーーーっとマズい……!)
アーヴァインは一旦【闇】の干渉を抑え込み、真っ当な思考で頭脳をフル回転させる。
(こいつの目的は何なんだ? アンジェロを助ける? 
 馬鹿言うなよ、子供でも平気で襲う奴が犬を助けるわけがないじゃないか。
 僕にカッパを治させたい? それアリーナがやったから止めようよ、そういう二番煎じって良くないと思うの!
 自分の代わりに人減らしをさせたい? 殺人鬼とかクズに限っていいならやるけど、それ以外は無理だってば!)
背筋をだらだらと冷や汗が伝う。だが、それを表に出すわけにもいかない。
心の中でさんざん騒ぎ立てながら、現実ではふてぶてしい態度を装う。
「どうしたよ。殺せばいいじゃないか。それとも、まだ何か聞こうっての?」
ニヤニヤと笑うアーヴァインに、セフィロスは黙って距離を取り、三枚目の紙を拾い上げた。

『お前を殺したら、闇とやらはどこへ行く?』

その質問は、あるいは【闇】に侵されることを怖れていると捉えることも出来たかもしれない。
しかしそんな甘い解釈をしようにも、伝え聞く『セフィロス』の人物像は圧倒的な邪悪であり、ピサロ以上に魔王という肩書が相応しい存在だった。
だからこそ、アーヴァインは即座に理解した。セフィロスは、力を得る手段として【闇】を求めているのだと。
(たださえ化物のコイツが、【闇】を得てパワーアップしたい……?)
唾を飲みたくなる衝動を堪え、アーヴァインは目を閉じ、口の両端を吊り上げる。

「フ、フフフフ、フフフフフフ……」
圧倒的な戦闘能力を持ってして尚、更なる力を求め、【闇】に目をつけた男。
返答如何では、彼の命のみならずリュック達の命まで危なくなるのは自明だ。
零した笑いは狂気に満ちていたが、心は極めて冷静に――
(うわあああああああああ、やっっばああ〜〜〜〜い!!!
 下手な事喋ったら最悪皆殺しまで行っちゃうよコレ〜〜〜!!
 頑張れ僕! 閃けぇえ! この場を切り抜ける答えを閃くんだぁあああ!!)

――冷静に、焦っていた。
125天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 7/16:2013/01/04(金) 12:04:39.80 ID:nvgFdkNA0
「フフフフ……アッハハハハハハ! アーッハハハハハハハハ!
 きゃっはははははははははは!!
 そういうことかよ! そーゆーことかよッ!!」
 バァ〜〜〜〜〜ッカじゃねーの〜〜〜〜〜!!」

狭い祠の中に哄笑が響く。
もしもセフィロスがアンジェロ達と同行していなかったら、それが単なる時間稼ぎに過ぎないと悟る事もできたかもしれない。
『アーヴァインは狂人だ』という先入観を抱くこともなかっただろうから。
どれほど冷静な者であっても、どれほど優秀な頭脳の持ち主でも、前提が狂っていれば誤った判断しか導き出せない。
古代種に擬態した異種生命の細胞を持つ男は、そのことを誰よりも良く知る立場でありながら、己が過ちに気付けなかった。

「そんなに力がほしいのかよ! 奇遇だね、僕もそうさ!!
 でもあんた、大事な物を奪われて、毎晩毎晩一週間ぐらいずーっとベッドの中で泣き続けたことはあるのか?
 手を繋いでる親子連れや子供達を見ただけで『羨ましいなぁ』って思ったことが一回でもあるのか?
 女のコをとっかえひっかえしてみても、本当に好きな子には会えなくて、満たされない気持ちを抱え続けた事があるのかよ?!」
ぴたりと笑うのを止めたアーヴァインは、矢継ぎ早に問いかける。
けれどもそれは口調だけで、セフィロスの返答を待とうとはせず、その暇も与えず、ただただ一方的に捲し立てた。
「ないんだろ?
 奪われても取り返せるほど強くて、一人でも平気で、自分を惨めに思った事なんてないんだろ!?
 上っ面の欲望なんかで、僕から【闇】を奪えるもんか!!」

青年の勝手な言い分に、セフィロスは目を閉じ――喉を鳴らすように笑う。
地を這う虫けらを見下し、片翼の天使はただただ嘲り笑う。
その心にあるのは、母たるジェノバと共に星の方舟を駆る夢。
ヒトに奪われた星を取り戻し、神となって新たなる世界を渡り歩き、ジェノバの歴史を紡いでいく。
その、星を喰らい続けるジェノバの本能が。
本能を超えて在り続けるセフィロスという自我の願望が。
狂おしいまでの渇望が、ただの人間が抱えるソレに劣るのだろうか?

(――いいや)
セフィロスは断言する。
力を求める想いの強さならば、誰にも劣りはしないと。
故に冷笑を崩さない。
そんなセフィロスの表情を見て、アーヴァインは更に侮蔑の視線を投げかける。
「……バぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜カ」
赤味を帯びた青い瞳にカッパの姿を映しながら、青年はどこまでも冷たい声で吐き捨てた。

「どこまでおめでたいんだよ、あんた。
 【闇】も無いくせに、奪えるわけないっつーの」
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 12:06:41.64 ID:a6ntcS4p0
 
127天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 8/16:2013/01/04(金) 12:07:27.06 ID:nvgFdkNA0
アーヴァインの眼は【闇】を見る。
益体も無い事を喚き続ける間、彼は必死に思考を巡らせ、悟られぬように周囲を観察し続けていた。
そしてふと気づく。セフィロスの周囲だけ、やけに【闇】が薄い事に。

(こいつ、サラマンダーと同じ……【闇】が寄り付かないのか?)
心が弱くなければ【闇】は憑りつかない。
身体が弱っていなければ【闇】は入り込まない。
それは賢者ギードと魔王ピサロが異口同音に話していた事であり、彼自身の体感としても事実として受け止めている。

(なるほど、だから【闇】を求めちゃってるワケか。
 あーもう! イマドキそういうの、流行らないってば〜〜!)
姿こそカッパであれど、傷一つない身体に、全てを斬り伏せ進まんとする精神。
しかしサラマンダーと違い、その眼差しにはぎらついた野望が垣間見えた。
この手の輩が力を手に入れたら何をするか――
目的こそわからないが、アーヴァインや仲間達にとって喜ばしい事態になるはずがない。
セフィロスをカッパに変えた何者かに感謝の念すら抱きながら、アーヴァインは再び思索する。

(どうにかして諦めさせることはできないかなぁ……)

その思いは、死を恐れるが故ではない。
想い人や仲間への執着心とは裏腹に、彼自身の命に対する感情は軽く、薄い。
生きて大切な人に会いたいけれども、狂って愛を見失うぐらいなら死ぬ。
生きて魔女を倒す力にはなりたいけれど、仲間が死ぬぐらいなら死ぬ。
生きて仲間を助ける為に手を尽くしたいけれど、魔女を出し抜く為に必要なら死ぬ。
本人は覚悟と思っているけれど、その実は己を軽んじているだけの、自己犠牲ですらない浅薄な生命観。
しかし、その為に、生と死を冷静に天秤にかけることができた。

(ここで僕が死ねば、荷物は全部セフィロスの手に渡っちゃう……
 色々な武器や、ピサロの剣や、変化の杖なんてとんでもない危険物も。
 何より、僕とスコールのメッセージが書いてある手帳も……!)
アーヴァインは遺書の代わりとして、スコールは己の生存をそれとなく伝える為に、手帳に文面を残している。
危険な橋を命綱無しで渡ろうというのだ、それぐらいの保険は当然かけてある。
無論、スコールの文章は難解な比喩を用いており、サイファーぐらいにしか正しい意図は伝わらないだろうという代物だ。
けれども、例え文意を読み解かれずとも、セフィロスほど強い殺人者の手に、武器ともども渡る事自体が大問題である。

(手帳は、せめてサイファー達に渡らなきゃ意味がないんだ!
 死ねない……この状況で殺されるわけにはいかない!) 

そんな思いと、セフィロスに纏わりつく【闇】が殆ど無いという事実が、アーヴァインに先の台詞を吐き捨てさせた。
『【闇】も無いくせに、奪えるわけない』――その言葉が、どう受け止められるか考えるもせずに。
128天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 9/16:2013/01/04(金) 12:10:55.61 ID:nvgFdkNA0
(【闇】が……無い?)
アーヴァインの言葉に、セフィロスの余裕が消える。
彼が得た情報と、そこから導き出した結論は、魔王や賢者のそれとは大きく異なっていた為だ。

(馬鹿な……【闇】は魂のはず…… 魂が……ない、など……)

もしも彼がソロ達のように、アーヴァインの言い分を完全に信じるほど愚鈍であったなら、その発想には至らなかっただろう。
だが、セフィロスは人よりも少しばかり賢しく、それを自覚するが故に他人の意見よりも自分の推測を信じる男だった。
――さらに不幸な事に、セフィロスはアーヴァインの指摘を否定できなかった。
彼自身、思い当たる節があったのだ。

セフィロスは二度死んでいる。
ライフストリームに落ちた時に一度死に、数年後にリユニオンを果たすも、再度葬られた。
それでも彼が現世に留まっていられたのは、ジェノバの本能と融合してなお自我を保つ精神力の賜物だ――と思っていた。
ライフストリームに飲まれて尚、クラウドへの執着心と星を渡る夢を抱き続けていられたのは、即ち自分の魂があるからだ。
そう思っていた。
けれども――、失ったのは『魂』の方であったとしたら?
人格だけが、記憶だけがジェノバ細胞と共に残り、擬態能力でセフィロスという人物を演じているのだとしたら?

浮かんだ思考は靄のように、セフィロスの心にわだかまり、纏わりつく。
(馬鹿な!! 私は、私は……)
否定する。自分は紛れもなく『セフィロス』なのだと。
否認する。自分はコピーではないのだと。
――しかし、そう考える自我の正当性を証明する術は、どこにもない。
彼が持つ知識は、ジェノバにはソレが可能だと言う事だけを告げていた。
頭や手足が妙に冷えていくのを感じながら、セフィロスは首を横に振る。
そして、つぶらな瞳を歪め、在らざる天を仰ぎながら叫んだ。

「カーー、カーー……カァーカ、カーーカァーーーー!!」
 (私は、私だ……私のまま、夢も力も手に入れる!!)

その咆哮にアーヴァインと、外にいるチョコボの身体が、びくりと震える。
セフィロスは己を律するように大きく呼吸を重ねた後、アーヴァインの荷物を地面へとぶちまけた。
剣、槍、杖、二種の矢、グレネード、輝きを失ったオーブ、その他大量の道具が転がり落ちる。
しかしセフィロスは中身を精査しようとせず、目についた矢を一本掴み上げると、アーヴァインへ近づいた。
「な、何をするんだよ!!」
足だけで後ろへ下がろうとする、その右肩を素早く掴んで、腕を振り上げる――


――ぐさり。
129天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 10/16:2013/01/04(金) 12:13:04.68 ID:nvgFdkNA0
「ひっ……!」
反射的に目を閉じたアーヴァインの脳に、痛みの感覚が駆け巡る。
だが、その発信源に気付いた彼は、恐る恐る目を開けた。

「え……?」
彼の視界に映ったのは、右肩に突き刺さる矢と、諸共に串刺しにされたカッパの手。
セフィロスが、動きを封じるべく押し当てた掌の上から矢を挿したのだと理解するには、さらに数秒の時を要した。
その間に、どろりと流れ出した血が矢を伝わり、流れ落ちていく。
丁度血管に刺さる位置で止められた矢尻へと。
「な……な、何を……?」
狼狽を隠せず、しかし迂闊に動くことも逃げることもできず、アーヴァインはただ戸惑いを口にする。
元々アーヴァイン自身が重なる戦闘で失血していたからだろうか、
それとも、セフィロスがぴったりと手を重ね続けている為か。
血は必要以上に溢れることもなく、極微量ずつながらも、互いの心臓の鼓動に乗って廻っていく。

「……ゆ……輸血? なんで、こんなことを……?
 ていうか、血液型違ったらマズいんだけど!?」
声を荒げても、カッパは動かない。
嘲笑すら浮かべるのを辞めたカッパの表情からは、思考を読み取ることも叶わない。
「な、何なんだよ、もう……マジでわけわかんないよ!
 何がしたいんだよ、あんた! 僕を殺したいのか、生かしたいのか、はっきり喋って――」

はっきり喋ってくれよ、と言いかけたその時。
どくん、と心臓の鼓動に合わせて、アーヴァインの視界が揺れた。
「……?」

人体の血液が一週するのにかかる時間は、僅か50秒だという。
セフィロスの血が流れ始めてから50秒以上が経ったということに、アーヴァインが気づくよりも早く。
右肩から心臓へ、心臓から全身へ、全身から脳髄へ。
「う、うう……? な……なん、だ……?
 あ、き、き、気持ち、悪ッ………ぐ、ううっ、……!」
植物の種子よりもなお小さい、見えざる無数の蟲が、血管内を這いずり体中を廻り蹂躙する感覚が広がっていく。
「ぬ、抜けッ! 抜いて、抜い…ぐあああ……!!
 なん、な、なんか居るッ!! この、血、チ、チィ、ひぃっ、ぬ……抜け、抜いてッ!」
呻きは悲鳴へ、悲鳴は懇願へ、懇願はすぐに絶叫へ。

「あ、ああ"ああっ……や、止め、止めろ!!
 来るな、来るな来るな来るな来るな来るなああああああああああああああ!!」

その狂態を、セフィロスは、彼らしからぬ程に満足げな眼差しで見つめていた。
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 12:15:13.61 ID:a6ntcS4p0
 
131天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 11/16:2013/01/04(金) 12:17:50.19 ID:nvgFdkNA0
引き抜いた矢から、血の雫が飛び散る。
ジェノバS細胞。
オリジナル・ジェノバに限りなく近いその細胞は、精巧な擬態能力を欠く代わりに、
一切の劣化なく、他者の情報を取り込む能力を持っている。

「うわぁああああッ、来るな! 来るな来るなァアアアアアアアアアアアア!!!!
 や、止めろ!止めてッ!! だ、だ、誰かぁああああッ! 止めて、止めて、止めてぇええええ!!」

無論、ジェノバの一種であるが故に、魔晄のような生命エネルギーを与えなければ人体には根付かない。
ジェノバは強い生命力と支配力を持つが、餌が無ければ増殖できない、か弱い生物でもあるのだ。
最も、セフィロスが所持している「ふういんのマテリア」を砕けば必要な魔晄は簡単に用意できたし、
それ以前に【闇】が魔晄の代わりになるだろうと考えていた。
そして、彼の想像通り、忌まわしき星間生物の細胞は急速に増殖を始める。

「た、すけ、ああああああァ、助けッ、ああああああッいギあああァアアアあああああ!!!
 助け、たす、た、あ"ああああぁああああ"ああああああああ"あ"ああ"あ"!!!!」

崩れ落ち、地面でのた打ち回る青年の不幸は。
格闘家に与えられたオーラと自ら食した竜の血肉によって、生命力が異常に活性化していた事。
そのエネルギーと、【闇】に含まれていた魔力が、ジェノバの活動を爆発的に加速させる。
ジェノバは星を喰らうという本能しか持たない生命だ。
そこに倫理や同情など介在するはずもない。
ただ内部から同化し、喰らい、乗っ取る。
そして精神力の弱さ故にジェノバ細胞を制御できず、物理的な脳の変質により自我を破壊された個体は、『ジェノバの一部』となる。
即ち――統合者たるセフィロスの元へリユニオンし、求める力を与えるだけの端末と成り果てる。
つまり、『【闇】に侵され正気を失った青年』は、非常に都合のいい素体であったのだ。
セフィロスがアーヴァインを連れ去った理由は、そこにあった。

「うあ"あああああああ、やめ、ああああ"あァァア"ァああぁッッ!
 ひぐっ、あ、あうぁああ"あああぁあああ、い、や、だ……た、たす、け、
 ぐああああ"ああああああああああアアアああああ"あァッッ!!」

しかし、アーヴァインの反応と変化は、セフィロスの予測よりも遥かに激しかった。
「ィあ"あぁあああ、うあっ――ガぁッ、あ、だァ、す、け、あああああああッ!!」
半ば獣の咆哮と化した悲鳴と共に、アーヴァインの身体が大きく跳ねる。
同時に、背中の血肉を切り裂いて、一本の骨と血管が飛び出した。
それらは絡み合い、脈打ちながら細分化して、片羽の黒翼へと成長する。
傷口や損傷部を埋めてなお、活動を止めず増え続けるジェノバが、自身の器官を形成し始めたのだ。
132天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 12/16:2013/01/04(金) 12:18:57.51 ID:nvgFdkNA0
「ひぐぅっ――ぐあ、あァ―――イ"、ぁ――」
絶叫のあまり喉が潰れたのか、あるいはジェノバの支配が及んだのか、青年の声が急激に擦れた。
右腕の、折れた骨に突き破られていた箇所から、アメーバのような肉塊がどろりと溢れだす。
体液ですらないそれは右手の先まで飲み込み、触手のように伸びたかと思うと、先端だけが急激に硬化して巨大な爪を作り上げる。
鋭利に伸びた爪のお蔭でローブの袖が引き裂かれ、両腕が自由を取り戻したが、果たしてそれが何の救いになるだろう。
「――ィ――――あ"――――た、す、―――アァ」
内臓に酷似した触手が数本、内部から脇腹を貫く。
救いを求めて伸ばした異形の腕に、でたらめな配置で眼球がせり上がる。
セフィロスの表情により強い喜色が現れたのは、それが彼の『母』を連想させる異形であったが為か。

「カーー……」
『素晴らしい』。
その呟きがアーヴァインの意識に直接響く。
何をされたのかも、自らの変貌すらもはっきりとは理解できぬまま、青年は目を開けた。
荒れ狂う苦痛はとうに限界を超え、半ば麻痺した感覚が、右耳や肋骨がギチギチと音を立てて歪んでいく様を捉える。
それでも、彼は、未だ自らの意思を保っていた。
セフィロスが抱いていた偽りの前提、それが生み出した誤算の一つ。
理性の種によって強化された精神力は、暴走するジェノバの意識をほんの僅かだけ上回っていたのだ。

血液と混ざり合ったジェノバ細胞は脳内にまで循環していたが、
それ故にアーヴァインの意思に影響され、変化と侵食を不完全な状態に留めていた。
最初に血を注がれた右肩と、傷を癒す為に生命力が集中していた右腕や内臓――
それらの部位は異生物に食い荒らされ造り替えられてしまっても、残りは心と同様に、ヒトの形を保っていた。

変形を続ける半身に翻弄されながら、アーヴァインは己の意思で左手を伸ばす。
(僕は本当に馬鹿だなあ)、と、誰にも聞き取れない声で呟きながら。
かつて、銃を構えて友へと向けた、その手を伸ばす。

(ティーダ、助けて――もう一度だけ、僕に、肩を貸して――)

不自由な身体に過去を重ね、毒に身体を蝕まれていた時、力を貸してくれた友に、願いをかける。
今は亡き友に。見捨てたも同然の友に。
それがどれほど無恥で、傲慢で、無意味で、自分勝手な祈りかを知っていながら。
(反撃を――あいつから、みんなを、助ける、ために――)
見開かれた瞳に映るのは、地面に転がる一振りの剣。
生命も非生命も等しく分子にまで分解する力を秘めた、異界の魔剣スプラッシャー。
その束に手を伸ばす。
それだけが今、セフィロスを葬り去ることのできる、唯一の可能性を秘めた武器だと知っていたから。

(届かせて――お願い、お願い、もう一度だけ――!)
133天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 13/16:2013/01/04(金) 12:19:47.72 ID:nvgFdkNA0
「カーー」

無情な響きを孕んだ鳴き声と共に、アーヴァインの視界から剣が消える。
『何をしようというのだ?』
青年が嘲う思念を感じ取った次の瞬間、魔剣の刃は、彼の左手を地面に縫い付けていた。

「あ………ぁあ…………」
手の甲からじわりと血が滲み出る。
呆然と見つめる表情は、苦痛ではなく、絶望に満たされていた。
強力な魔法のストックはない。『すいとる』は通用しない。手は再び封じられ、最後の切り札も奪われた。
折れた心は理性の種の効果を弱め、ジェノバの侵食を再開させる。
生命エネルギーを食い尽くしたのか、身体の変貌は停止していたが、その凶悪な意思は止まることを知らない。
セフィロスがそれを望む限り。

(セ、フィ……)
あれほどに再会を望んだ愛しい愛しい少女の姿が、別の何かにすり替えられていく。
その傍ら、【闇】と混ざり濁っていた感情は少しずつクリアに、クリアになっていく。
このまま受け入れてしまえば、どこまでも透明になって、永遠に消えてしまうだろう。
そんな実感を得ることが出来たのは、残された理性の賜物か。

『受け入れろ。絶望を』
流れ込む冷徹な声は、いつの間にか甘く、甘く、青年の意識に浸透していく。
とてつもなく邪悪なはずなのに、跪きたくなるような神々しさを感じる――
その事実への危険信号さえ、優しい声音にかき消される。

『私は全てになる。全ては私になる。
 お前も私となって、永劫に星の方舟を駆ろうではないか。
 孤独などない。不幸も悲しみも苦しみも無い。
 母なるジェノバと共に宇宙を廻り、繁栄を謳歌するのだ』

アーヴァインの意識に、異形の天使が投影される。
下半身から六枚の翼を生やし、片腕に漆黒の翼を広げた、堂々たる体躯の美しい熾天使。
星と同化したその天使が、導いた先に辿りつく星は、きっとどんな花園よりも美しいのだろう――
幻覚の多幸感は、苦痛よりも遥かに強く、早く、思考を削り取っていく。
心の支えにと思い浮かべた、愛する人や友の姿さえも、おぼろげになって消えていく。
「セ……フィ…ィ…… ティ…………ダ……ぁ……」
ため息のように言葉をこぼす青年の前髪を、緑の掌が掴み上げた。
虚ろな瞳に映るのは、嘴を突きだしたカッパなどではなく、酷薄な微笑を浮かべる天使の顔だ。

「カーー」
『受け入れろ』

それが、アーヴァインという人格が記憶した最後の言葉に――なるはずだった。
134天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 14/16:2013/01/04(金) 12:20:44.85 ID:nvgFdkNA0
ぽちゃん。

唐突で、不自然な水音が、セフィロスの意識を引きつけた。
舌打ちをして青年から手を離し、波紋を残す水面へと近寄る。
そして彼はそれを見た。
ひときわ赤く淀んだ水底に転がり落ちていく、竜の紋章を刻んだ黄金のオーブを。

(――ドラゴンオーブ!?)

【闇】を手にするための手段の一つとして探していた宝珠は、彼を誘うように光り出した。
セフィロスは躊躇うことなく水中へ飛び込む。
アーヴァインという駒を手に入れたといえ、邪魔が入って使えなくなる可能性は余りある。
何事も手段は多い方がいい。
様々な任務をこなした経験が培った思考と、それに基づいた判断は……
しかしこの場において裏目に出る。

希望の祠。
そこは人々が見た希望の夢より生まれし竜神が、勇者を導く為に、死せる天空人の魂を留めるべく加護を与えた聖地。
そのことを知っていたら、セフィロスもあるいは別の行動を取っただろうか。

宝珠が発する光が揺らぎ、無数の淡い煌めきが舞い上がる。
(……なんだ? 水が……)
血の色に染まっていたはずの水が透き通り、煌めきの奥に人の姿が映る。
セフィロスが身構えたその時、ジェノバ細胞が同胞と化しつつある青年の声を届けた。

――ある賢者が言っていた。
『幻獣を作るには、強い意思を秘めた魂と、膨大な魔力と、特定の属性を持つ力場、
 そしてそれらを束ね幻獣を形づくるためのイメージが必要である』と。
血と共に溶けた魂があり、恋人や友を案じ続ける意思がある。
白翼を背負った魔女の加護があり、同行していた竜神から別たれた力そのものである宝珠がある。
夢に連なり、希望の名を冠する力場がある。
そして、人としての在り様を奪われて尚、助けを求め――思い浮かべた、姿があった。

『ティ、ー……ダ……』

「――おまたせっ!!」
135天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 15/16:2013/01/04(金) 12:21:25.19 ID:nvgFdkNA0
金色の髪に緑のバンダナを巻き、いささか古めかしい盗賊服に身を包んだ若者の幻影が、急速に実体化する。
水中とは思えぬほど鋭く放たれた蹴りは、いかなセフィロスといえど回避できる距離でもスピードでもない。
わずかに身を引き衝撃を弱めようとするも、幻影――否、人の姿をした幻獣の足はセフィロスの顎を完全に捉えた。
「ハデなの一発で済ますもんか!
 くらっとけ、ジェクトシュートッ!!」
水底へ叩き付けられ、反動で跳ね返る、その瞬間にさらに二撃目の蹴りが飛ぶ。
「ッ!!」
頭をボールに見立て、状況と地の利を完璧に生かした技は、一時的にであったがセフィロスの意識を見事刈り取ることに成功した。
その隙を見逃さず、『ティーダ』は水面へと急浮上し、倒れている青年へと駆け寄る。

「大丈夫か、アービン!? 俺の事わかるか!?」
「………ィ……ァ…」

虚ろな視線を彷徨わせながらも、アーヴァインは唇を震わせる。
射止める魔剣を引き抜かれ、動かせるようになった左手で、友の腕に縋りつく。

「ご……ぇ…… ……ぉ、……めぇ……」
「何謝ってるんだよ! 謝んなきゃいけないの俺だっつーの!
 それより、早く、逃げるッスよ!!」
「……ぅ……」

ティーダは素早くめぼしい武器とザックを拾い上げ、アーヴァインの身体を引き起こす。
祠の外でボビィが「クエー!」と鳴き、扉をつついた。
「助けてくれんのか? サンキュ!」
ボビィの事情を知らないティーダは礼を言いながら、アーヴァインと彼の荷物を背に乗せた。
しかし自分もボビィに乗ろうとしたその時、急激に姿が薄れ始める。
「あっ!?」
「ティ……ィダ……!?」
異変に気付いたアーヴァインが必死で腕を掴もうとするが、その手はただただ宙を切る。
そんな友を安心させる為だったろう。
ティーダは笑顔を作って答えた。
「だ、大丈夫ッスよ!!
 アレだ、多分、召喚士がいないから、実体化できる場所が限られてるとかそういうだけだって!」
「た………」
「大丈夫、大丈夫だってマジで!
 見えなくなっても、俺、ちゃんと一緒に居るから!
 ユウ……い、いや、ギードとかリルムとか、召喚できそうな奴に頼めば、また話せるから!」
その言葉を最後に、ティーダの姿は光の粒になって消えた。
しかし残滓の幻光は、蛍のように舞いながら、アーヴァインの左手に留まる。
136天使のバロックと咎人のイデアセフィロス 16/16:2013/01/04(金) 12:21:59.29 ID:nvgFdkNA0
「……ュ、ぅ……ナ……」
感傷を込めた呟きと共に、アーヴァインは人の形を留める手を握り締めた。
もう一度二人を会わせる。
折れた心を支える軸として、幻獣となっても助けてくれた友の姿と、その願いを刻む。

『逃れられると思っているのか』
背後から冷たい思念が走る。
振り向けば、扉の隙間から、水面から這い出るカッパの姿が見えた。
引力のように視線が吸い寄せられ、祠へと戻りたい衝動にかられる。
だがアーヴァインは、強烈な眩暈を推してボビィの手綱を振った。

(逃げて、やる――僕が歩きたいのは、あんたの、横じゃない……!!)

決意と願いを乗せて、チョコボは走り出す。
黄色い羽がひとひら、闇の世界の空へと舞い上がった。


【セフィロス (カッパ)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ 筆記具
     ドラゴンオーブ 
 第一行動方針:ケフカを殺す/カッパを治す、その為に必要ならアンジェロと再合流する
 第二行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【アーヴァイン(変装中@白魔服、半ジェノバ化、右耳失聴、MP微量)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖) 祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:とにかくセフィロスから逃げる
 第二行動方針:脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右腕が変形し、右上半身が人型ジェノバそっくりになっています。
    また、セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】
【現在位置:希望の祠】

※希望の祠内部にスタングレネード、弓、木の矢28本、聖なる矢15本、コルトガバメント(予備弾倉×1)、波動の杖が落ちています。
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 12:35:12.36 ID:a6ntcS4p0
投下乙!
何だか凄いことになっちまった!
ティーダの限定復活は熱いだけじゃなく、本人が特殊な存在だったからこそだよなぁ。お見事。

そしてアーヴィンは今までのツケが一気に来た感じ。
だが、まさかそれがカッパ総攻オンリーイベントによるものになるとはwwwwwwwwww
だがそのセフィロスも試行錯誤だったり自分の存在に不安を持ったり……ただただ強いマーダーという立ち位置からはすっかり卒業してくれちゃって!
いやぁ、面白かったです!
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 13:30:12.38 ID:xbbKCu7xO
投下乙!
なんだァ、このド終盤でどうしてこうも先が読めない展開になるんだァ!?
アービンがセフィ化するしT田は限定復活するしもう楽しい展開!
先が読みたい、読みたすぎる!
139名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/04(金) 16:16:24.88 ID:yk3QQ4FvO
乙です!
オリジナルを繋げて更に読ませるとは…凄いなあ
最初は共闘もあるかと思ったがジェノバじゃしゃーない
そしてティーダはやっぱり水中からの登場が似合うなあ
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/05(土) 00:03:18.63 ID:ktLSTA9T0
新作乙!
予想以上にすさまじいことをされてて驚いた…
王子様の様なタイミングでの召喚獣ティーダの登場は本当にかっこいい!
最後のアーヴァインのモノローグにぐっと来るものが
生き汚いアーヴァインの姿がすごく好きだな

原作の設定から今までの伏線までが不自然無く繋がってて思わず感嘆の息が漏れた
新年から良い話二つも読ませて貰ったから贅沢は言えないが、
とにかく続きが気になる!!
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/05(土) 04:41:32.91 ID:AadxA4Cs0
そういやザックスも変異しているとはいえジェノバ細胞、しかもS細胞の持ち主だから何かしら反応はするかも
違和感や悪寒みたいな弱い反応くらいは
142悩める『盗賊』のモノローグ 1/4:2013/01/10(木) 18:03:20.83 ID:Qez2vl5H0
夜になっても明るいままの、空もへったくれもない世界をただただ歩く。
一人でいるってのがこんなに辛いモノだなんて知らなかった。
他の『三人』に聞こえないよう、俺はこっそりと呟き捨てる。

俺は、どうしようもねェ奴だ。
辛い現実から目を背けて、一人芝居に興じてる。
仲間が死んだ。守りたかった子が死んだ。頼りたかった奴が死んだ。
嘘を並べ立てて逃げたって、その事実はもう揺るぎやしねえってのによ。
全部わかってるのは――全部覚えているのは、俺だけだ。

なあ、ローグよ。
本物のお前なら、こういう時なんて言ったんだ?
「眼を覚ませ」か? 「ふざけてないでちったぁ真面目にやれバーカ」か?
「逃げて何か変わるならいくらでも逃げてやるよ」か? 「お前、頭大丈夫か? 一発殴ってやろうか?」か?
わからねぇ。
わからねぇよ、俺には。
どうすれば俺は『セージ』を正気に戻せる? どうすれば俺はセージに戻れる?
こんな派手な帽子を見てもギルダーの事を思い出さない、あんなわかりやすい夢を見てもタバサの名前を思い出せない、薄情でいけすかない賢者サマに、どうしたら――

くそっ。
太陽も月も見えない空ってのは、本当に気が滅入る。
ゾーマをぶっ倒す前のアレフガルドを思い出すぜ。
ラダトーム、マイラ、メルキド、ドムドーラ、リムルダール、どの町の連中もしけた面ぶら下げて歩いててよ。
――きっと、今の俺も、同じような表情で歩いてるんだろうな。

『ローグさん、さっきから落ち込んでるみたいですけど、大丈夫ですか〜?
 疲れたなら代わりましょうか〜?』
『あの、フルート……君はさっき散々歩いただろう。
 僕が代わるから、二人は休んでていいぞ』
頭の中で声がする。
何もわかっちゃいない『フルート』と、俺とは真逆の意味でわかってる『アルス』。
どっちにも任せたくない俺は、記憶を辿って言葉を繋ぐ。
『別にいいってんだよ。
 先導は盗賊の仕事だし、フルートのカバーは俺の役目って決まってるからな』
どっちも、本物のローグが口癖のように言っていた台詞だ。
フルートが道に迷って、アルスが襲ってきた魔物を蹴散らして、セージがフルートをたしなめて、ローグが正しい道に引き戻す。
それが勇者一行の日常だった。
どんだけ『俺』や『アルス』が色々企んでいても、『勇者一行を演じる』って枠組みからは逃れられない。
仲間と一緒に居たいというセージの願望こそが、俺達の存在理由だからだ。
143名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/10(木) 18:06:39.92 ID:4YPk+kut0
 
144悩める『盗賊』のモノローグ 2/4:2013/01/10(木) 18:12:23.62 ID:Qez2vl5H0
『……わかったよ、ローグ。でも疲れたら言ってくれよ?』
『アルス』が『フルート』と一緒にしぶしぶ引き下がる。
偽者の勇者を形作っているのはセージという男の正義感、だったと思う。
だが、さんざん手前の無力さを味わわされた、プライドだけは高い賢者様の正義感なんざ、たかが知れてたんだ。
今の『アルス』にあるのは、勇者アルスが振るった正義とは程遠い、自分を正当化する思考だけ。
あのうざいフィンを殺した罪悪感から逃げるために、手当たり次第に他人を魔女の手下だと言い張って、魔女に辿りつくその時まで殺し合いを続けようとしている。
――本当に馬鹿じゃねぇのか。
俺はそんなに弱い男だったのかと落ち込みもするし、俺の眼にはアルスって奴が無差別殺人鬼に見えていたのかと思うと、吐き気がする。
俺の記憶にあるアルスは、隙あらば乳を揉み、暇があれば官能小説を朗読し、温泉があれば覗きに行き、タンスがあれば下着を探し、
すごろく場や親父の命を差し置いてエロ本を選ぶ、掛け値なしのむっつり野郎だ。
それでいて、人と罪悪の線引きはしっかりしていた。
懲りねぇ盗人でも絶対に命までは奪わなかったが、魔王や大魔王はきっちり滅ぼした、正真正銘の勇者だった。
その勇者をモデルにしておいて、出来た人格は薄っぺらい正義を振りかざして主人格ごと堕ちようとしてる『アルス』だってんだから笑えねぇ。
本物のアルスが生きていてくれたなら、魔女より先にこの野郎を断罪しちまえって叫んでたところだ。
……いや、アルスだけじゃない。本物のローグやフルートにも。
ギルダーにもビアンカさんにも、タバサにも。その他諸々の、今まで出会った連中に。
賢者セージを知る奴に、『テメェはいつからそんな腑抜けになりやがった』と、説教の一つでもかましてほしい。
それで『セージ』や『アルス』が目を覚ますとはこれっぽっちも思わないが、『フルート』には届くはずだ。
俺達に残された良心の欠片、優しさって奴から生まれた『彼女』には――

「……はぁ」

放送が終わって何十分経っただろう。
いくら地震で起こされたって、現実を見ようとしない『セージ』が、アルスやタバサの名前に反応するわけがない。
あいつにとっての『アルス』はここにいて、タバサに至っては見事に知らない子扱いしてるんだから。
『セージ』と『アルス』にとっちゃ、放送は罠で、『セージ』を殺し合いに乗らせるための挑発ってことになった。
馬鹿馬鹿しい。
自分可愛さに他人を忘れた挙句、死んだ奴らの為に泣いてやることすらしないのかと、呆れてしまう。
でも、俺には、『アルス』の主張を否定する事ができない。
否定してしまえば、セージが求めた幻影でしかない『俺』は消えて、多分一緒に『アルス』も『フルート』も消えて、残るのは正気も正義も優しさも失った『セージ』だけだ。
そうなりゃ、もう元には戻れないだろう。
絶望に飲み込まれて自分以外の全員を憎んだまま、賢者の力を振るうだけの、はた迷惑な殺人鬼になるのがせいぜいだ。
まあ、魔法使い時代から火力特化の馬鹿だし、プチ魔王になるといえば聞こえがいいかもしれない。
ピンチになったらドラゴラム唱えて第二形態とかな。
――マジにそうなったら、俺でも「勇者に殺されて死ね」と言わざるを得ないが。
145悩める『盗賊』のモノローグ 3/4:2013/01/10(木) 18:13:41.00 ID:Qez2vl5H0
俺に救われないで、俺が抱えた記憶を忘れて、抜け殻になって練り歩いて俺達の名を汚すぐらいだったら潔く死んだ方がマシだ。
でも、俺が俺である限りは、セージに死んでほしくないとも思うのだからどうしようもない。
セージって野郎に、仲間を追って自殺する勇気がないだけって事は、わかっちゃいるんだがな……

「はぁ……」
考えれば考える程ため息しか出ない。
本当に、一人は、嫌になる。
こんなことを思ってる時点で、俺もまた、『アルス』以上に出来損ないの偽物だ。
一匹狼が板についた孤高の盗賊、群れずとも生きていける男、それこそが本当のローグなのだから。
ローグになれない俺は、セージになれるのだろうか。
それとも何にもなれないまま、ずっとこうしてウジウジしているんだろうか。
わからない。わからない。わからない……

『あれ、ローグさん〜?
 あそこ、誰か倒れてますよ〜?』

『フルート』の指摘に、俺ははっと我に返った。
『彼女』の言葉通り、右腕を失った男が地に伏せている。
慌てて近寄ってみるが……彼は既に死体になっていた。

『間に合わなかったんですね、私達……せめてお墓を作りましょうか……』
しょんぼりとしょげ返る『フルート』の提案を、『アルス』が制する。
『待て、フルート。僕達にはやらねばならないことがある。
 彼には済まないが、死を悼む暇はない』
それは、確かにかつてのアルスが口にした台詞だった。
だが、本物のアルスなら、そんなことは絶対に言わないとも思った。
何故なら――アルスが埋葬を諦めたのは、オルテガさんに対してだったからだ。
相手が父親で、魔王討伐の志を継ぐことこそ何よりの弔いであると知っていたから、あの時のアルスは先に進むことを優先したんだ。
見ず知らずの他人に対して、『フルート』の提案を切って捨てるなんて、本物のアルスなら絶対にしない。

――それとも、セージ。
お前にとってのアルスは、こんな奴だったのか?

吐き気を堪えながら、俺は折衷案を出す。
「埋葬する時間がなくても、カタチぐらい整えてやって、冥福を祈ってやろうぜ」と。
『それぐらいなら……』と『アルス』も折れた。
立派な髭を蓄えていたその男はかなりガタイが良く、恐らくは相当名の知れた戦士だったのだろう。
細っこいセージの身体じゃあ、動かすのにも苦労したが、どうにか仰向けにして、片手を胸の上に置けた。
『フルート』と一緒にうろ覚えの祈りを呟いて、俺はまた、歩き出す。
(やっぱりこいつはアルスじゃねぇ)と、わかりきっていたことを再確認して。
146悩める『盗賊』のモノローグ 4/4:2013/01/10(木) 18:14:31.45 ID:Qez2vl5H0
『あの、ローグ〜?
 よくわからないけど、悩みがあるなら、私とお話しませんか〜?』
脳天気な『フルート』が絡んでくる。
異常なほど彼女に縋りたくなるのは、セージの眼に本物の二人の関係がそう映っていたからだろう。
振り回す女と振り回される男。
無論、男の中にはアルスもセージも入っていたんだが、ローグが一番フルートを気にかけていた。
凶暴な裏フルートに昔の自分を重ね、無垢な表フルートに保護本能をくすぐられた姿は、
恋愛関係というよりも兄妹のそれに似ていたと思う。
最も、どれだけ指摘してもローグ本人は認めようとしなかったし、
俺達の髪色を差して「お前らの方が兄妹だろ」と言い張る始末だったが。

『一人で出ない答えでも、二人や三人で考えれば、きっといい答えが見つかりますよ〜』
ほわほわした声で囁く『彼女』は、俺や『アルス』と違って、記憶にあるフルート本人と何ら変わりなく。
出来る事なら、『彼女』の手を取って、『アルス』と『セージ』の元から離れたいとさえ思ってしまう。
だけど、そんなこと出来るはずがない。
俺はセージで、『彼女』もセージで、『アルス』もセージで、だから結局俺達は一人だ。
四人にも、三人にも、二人にさえなれるわけがない。

『私達、仲間じゃないですか〜。ねえ、アルス、セージ?』
『そうだ。僕たちは仲間だ。
 ローグが何を悩んでいるかはわからないが……困っているなら相談してくれ』
『……フルートとアルスの言うとおりだよ。相談しようよ、ローグ』

仲間。……仲間、か。
俺がもっとローグらしくて、『アルス』がアルスらしければ、もう少し素直に聞けたんだろうな。
笑っちまう。仲間が死んでるのに、そいつに似せた人形で遊んで、人形同士に「仲間だよ」って言わせてよ。
一体、何になるんだ?
こんなことして、俺は救われるのか? 俺は俺を救えるのか?
どうして『セージ』はそんなことも考えようとしない?

――尽きない悩みを抱えて、俺は『一人』、歩き続ける。



【セージ(MP3/5、多重人格)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
     英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
     陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:城へ向かう
 最終行動方針:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:闇の世界最北部から南西方面へ移動中】
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/10(木) 18:50:31.93 ID:4YPk+kut0
投下乙です!
ローグぅ!! 俺だ抱いてくれー!! って言いたくなるくらいにはイケメンなんですが。
でも彼もセージに作られた仮初なんだと考えると寂しいですね……
セージお兄さんの支えはどうなってしまうのか
148名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/10(木) 22:33:41.02 ID:Ff90je710
ややこしすぎて脳みそちぎれそう
149名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/11(金) 21:34:54.11 ID:FH/+oqR2O
>>148
はげどうまじはげそう

防衛本能から他人を模倣した為か、やっぱり不安定だなあ
150名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/15(火) 12:20:44.50 ID:reYgUjlZ0
月報の方、集計お疲れ様です。
FFDQ3 673話(+ 6) 21/139 (- 0)  15.1(- 0)
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/01/23(水) 13:18:42.75 ID:EW4LEQJT0
保守しとく
152名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/04(月) 20:20:54.29 ID:ks2Ys2PK0
age
153クルクルクルって踊りましょう 1/4:2013/02/08(金) 23:18:24.10 ID:XrywR07R0
「どうしたもんですかねェ……」
ババァ声丸出しの放送を聞きながら、ぼくちんはクルクルと回っていました。
回る事の意味? ねェよそんなの。
あえて答えるなら、期待外れな現実と予想を超えた事実が生み出したアンニュイな気分の表現です。
いっそのこと動作だけでなく言葉にもしてみましょう。
みなさん一緒に御唱和クダサイ。せーの、

「シンジラレナーイ!」

死者22人。残り19人。
セフィロスくんが頑張ってくれたのか、キチガイ女が張り切ったのかはわかりません、が。
ぼくちんの推測を上回るほどのハイスピードで生存者が減ったのはとても喜ばしいことです。
で・す・が。私が望むのはゲームの完遂じゃない、全ての破壊なのだー!!
そりゃ、確かに『できるだけ楽に殺す方法を考えつつ全員を殺す』のがぼくちんの行動方針ではありますよ?
しかぁーし! この全員ってのには、化粧の濃いババァやクッソ偉そうな態度のトカゲも当然含んでるんですよ!
だいたい、本当に一人になるまで生き残ったら、ゲーム完成しちゃうじゃないですか!
破壊してないじゃないですか! ヤだー!

……まあ、そういうわけで、ぼくちんとしてもこの状況、実はそこまで手放しで歓迎できるワケじゃないんですね。
ピサロが死んだのはすごくすごくすんごくウ・レ・Cィイイ! ですが!
ついでに目の前のコイツが生きていてくれれば、話は違ってたんですけどねェ……

「せっかくヘイストを連打して走ってきたってのに、マッタク役立たずな祠め!
 お前、ガストラとかレオみたいな奴に作られたんじゃあないですか? 
 こんなカスみたいな魔力を搾り取ったって、神の力にはぜんっぜん! 及ばないんですよ!」
苛立ちのあまり、ぼくちんは壁に蹴りを入れる。
けれど、固すぎる壁の反動はビィ〜〜ンとつま先に跳ね返ってきた。
思わず「イッターイ!」と叫びながら、いつもより多く回ってみる。クルクルクルクルー。

一時間以上歩いてたどりついた祠。
そこで手に入れることができたのは、結界の起動用に残されていたと思わしきちっぽけな魔力だけ。
回復魔法を惜しみなく使って負傷を全快させた後に、MP満タンになるまで搾り取って、ちょっと余る程度のちっぽけさだ。
完全回復できたのはいいけど、ぼくちんの中にある三闘神の力を目覚めさせるには遠く及ばない。
ついでに言えば、結界としての用途にも使えなかった。
結界の本体――城や他の祠と繋いで結界を張る為の魔力の回路が、1つ、足りなかったのだ。
多分、祠のどれかが物理的に壊されたのだろう。
これでは城に入れなくしたり中の人間を閉じ込めたりすることはできない。
誰だ! ふざけんな! なんでそういう面白そうなことを断りもなくやりやがった!
犯人を見つけたら頭ナデナデしてから裁きの光で消し飛ばしてあげましょう!
……今のぼくちんじゃ撃てないけどね。ぐぬぬ。
154クルクルクルって踊りましょう 2/4:2013/02/08(金) 23:20:40.86 ID:XrywR07R0
「何はともあれ、無駄足でしたねぇ。さーヘイストヘイストっと。
 ……あーあツマラン、ツマラン! ツマツマラーンのだ!!」
愚痴をこぼしても仕方がないとはわかっているが、喋らずにはいられない。
他人が無意味に足掻くのを見るのは大好きだけど、自分の無駄足は嫌いなのだ。
ましてあの魔女が、快適な部屋でクッキーとジュースを片手に、カス共と一緒にぼくちんを見て笑ってると思うとねえ。
『アハハハハ! 馬鹿だ−、(ムシャムシャ)こいつ何もない所に(ゴクゴク)行ってるよー!
 デュフフ(モグモグ)フフ……あーおもしれーゲラゲラプギャー(ゴクゴク)。
 ……あ、ドリンク無くなったじゃん。ちょっとティアマトーひとっ走りして買ってきてー』
――なーんてやってると思うとねえええええ。
そんなガストラみたいな事をやってる奴はぼくちんに詫びて死ぬべきだと思いませんか?
ぼくちんはとっても思います!
だからアルティミシア殺しましょう! 他の奴も全員ぶっ殺しましょう!
何にもなくなった世界に私一人がいればいーのです!
出来れば、その前に皆さんの絶望に満ちた表情を記憶に刻みつけたい所ですがね。
でも私は謙虚な魔道士ですので、多くの事は申しません。
目障りなドロボウと暑苦しいフィガロの筋肉ダルマとやかましい絵描きの小娘、
あと化粧くさぁいオバサンが涙と鼻水垂れ流して命乞いする姿を見れればそれで十分ですとも!
ああ〜ぼくちんってなんて奥ゆかしいんでしょうねえ〜。
褒め称えて崇め奉ってもいいのヨん? アッヒャヒャヒャヒャ!!

……ツマラン!

「さて、どうしたものかね」
ぼくちんは似合わないため息をつきながら、生い茂る草をわざとグッシャグシャに踏み躙りながら歩みを進める。
時間がもったいないからヘイストを使い続けているけれど、それでも歩きにくいッたらありゃしない。

残り19人。
キチガイ女とセフィロスくん、ロックとマッシュとリルムを全員ぶち殺したら14人。
僕ちんがたこ殴りにされた時とちょうど同じ人数でいいんじゃないか、と思うでしょ? デショ?
馬鹿をいっちゃあいけねえよ。
何故か生きてやがる、ロザリーちゃんみたいな見た目以外に取り得のないお人形さんもいる。
善人ぶってる騎士様なんて、早く死んでほしいリストでも上位に入る、ラムザみたいなヤぁ〜〜な奴もいる。
んでもって、ぼくちんが知ってる脱出手段を実行するには、それなりの魔力を持つ人間が必要なワケで……
最悪だけど、リルム辺りはギリギリまで生かす方向で考えないとどーしようもないんだなぁ、コレが。
ルカくんと同じ理由で、やさしくすることに意味がある年齢だしねえ。
あーあ、あんなガキをちやほやしなきゃいけないなんてやんなっちゃうじょー。
繊細なぼくちんはきっとストレスで死んじゃうわ。ヨヨヨ、なんて可哀想なぼくちんでしょう!
そうなるまえにあのガキをぶっころ……
……したらマズイって話をしてたんでした。てへぺろー。
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/08(金) 23:20:45.71 ID:lRImXOS50
 
156名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/08(金) 23:22:29.51 ID:lRImXOS50
 
157クルクルクルって踊りましょう 3/4:2013/02/08(金) 23:23:02.71 ID:XrywR07R0
「まあ、リルムは置いておくとしても……」
反主催派閥に潜り込むなら、殺戮者であるセフィロスかユウナの首を手土産にするのが一番だ。
そもそもセフィロスをカッパに変えて、殺人を命じただけで済ませたのは、そうやって利用するために他ならない。
言ってしまえばマッチポンプ。卑怯と謗るなかれ、頭の悪さがバレますよん。
……だ〜が、しかぁ〜し。
私一人で真っ向から立ち向かって、無傷で殺せるかと問われると、キビシイものがある。
何よりそんな痛くて疲れそおな、面倒なことはしたくない。
クツの砂を払うのに自分の手を使う奴がいるか? 居ぬぁーーーーーい!!

「やはり、使える道具が必要ですねェ」

結論。残ってるゴミをとっ捕まえて矢面に立たせて、ぼくちんは後ろの方で応援する。
本当は手すら貸したくないけれど、ロザリーちゃんが生きてしまっている以上、結果を残す必要がある。
一番いいのはロザリーが余計な事を広める前に、きっちり再殺することなんですけどね。
ただ、あんなターニアより弱っちそうな子が生き延びてるってことは、100%誰かに守られてるでしょうし……
焦って迂闊に手を出すほど、ぼくちんはオバカじゃないのです。
それに万が一彼女や、彼女に集った連中に問い詰められたって、こう言えばいいのデスよ。
"ピサロ達に対して不信感があったのは事実です。だってぼくちんの目の前でイザ君を殺してるんですもん。
 でもね、何より、ザンデの実験が成功したってことが主催者に伝わったら、首輪が作動して皆殺されてしまうと思ったんですよ。
 だからわざと、です。事実、ザンデは犠牲になったかもしれないけど、ロザリーちゃんは生きてるじゃないですか。
 それともロザリーちゃんは、自分の胴体とサヨナラってしたかったんですかァ?"……ってね。
――実際問題として、『そうなってた』可能性は、凡人共の眼から見たって低くないだろう。
だから今生きてるやつは僕チンに感謝すべきなのだ! なのだったらなのだ!

それでも身の程知らずにも私を謗るというなら、無抵抗になってやればいい。
正義を騙るアホどもは両手を上げれば殺さない。
僕ちん以外にも、そうやって大人数グループに入り込んでる奴、いましたしねぇ。
カインとか、カインとか、アー……
……あ、そういや、あの空気な白服男も生きてたっけ。忘れてた。
まあいいや。どうせユウナちゃんに殺されるデショ。
でもそうするとまた人数減っちゃうなあ。
僕ちんとしては結構な大人数を脱出させて、あの魔女に数の暴力の恐ろしさを味わってもらいたいんだけどナァ。
倒しても倒しても正義気取りの連中が次から次へと沸いてくるのって、なかなか絶望できてオススメです。
もちろん少人数でギリギリで勝利し、喜んでいるところを後ろからグサーっていうのも乙なものだけどねぇ。
最後の最期まで働きたくない僕チンとしては、ここはグッとがまんして、ゾロゾロっと送り込みたいところです、ハイ。

「僕ちんの趣味じゃないけど、ナカマを集めて次の街へ行くしかないか。
 ナカマ、ナカマ、ナカマ……あぁー虫唾が走るっ!」
自分で言っていて腹が立ってきた。
仲間など要らん! そんなもの燃えるゴミに出してしまえばいいのだ!
いいやそれでも生ぬるい! 私が再び神の力を手にした暁には、全員石像にして百億年ぐらい放置してからぶっ壊してやりましょう!
158クルクルクルって踊りましょう 4/4:2013/02/08(金) 23:23:52.00 ID:XrywR07R0
「……ところで、一人で喋るのって、地味ぃ〜〜にツマランですよねぇ。
 他人の話を聞くのは嫌だけど、聞いてくれる人がいる方が話し甲斐があるっていうか……
 瓦礫の塔の上でもわりと一生懸命口上考えてたワケですけど、アレ、聞きにくる奴がいなかったらどうしようって思ったりしてたんですよね。
 今、僕ちん、あの時と同じ気分です。ハイ。
 そういうわけでそろそろ誰か来てくれると嬉しいな、ナーンテ……ほらぁ、ウサギは寂しいと死ぬっていうじゃないですかぁ。
 僕ちんウサギと同じで……誰がウサギだ! ……コホン。ちょっと、だーれか、いーませーんかーっと」

歩き続けながら大声で喋ってみる。
近くに誰も居ないって事はわかってるけどね。レーダーに映ってないし。
単に無駄足ふんだ苛立ちを紛らわせるべく、喋りたい気分だってだけだ。
あとウサギが寂しいと死ぬというのは大嘘で、構いすぎると死ぬから気をつけるように。
僕ちんは構うのが好きです。特に可愛いお人形ちゃんに操りの輪をかぶせて……ヒィッヒヒヒ!!
あ、普通のお人形ちゃんも好きですよ。そういえばぼくちん瓦礫の塔にドールハウス作るの忘れてましたっけ。
こうなったらあの魔女の城だけは残して、ケフカ様の実物大ドールハウスにしちゃいましょうか。
ウフフフ。ス・テ・キ!
ちょーっと気分が良くなってきましたよ!
鼻歌でも歌いましょうか。せっかくだからキチガイ女から取り上げた竪琴も鳴らしてみましょう。
そーれポロロロロンっと♪
ああ、こんな美しい音色を聞けないなんて凡人共は可哀想だねえ!
アーヒャヒャヒャヒャ!! ……ツマラン!!

――そんな事をしながら歩き続けて、十数分経った頃。
真ん中しか光らせていなかったレーダーが、ようやく端の方に別の光点を映し出した。
はてさて、一体どこのドイツでしょうか?
鬼女やカッパはお腹いっぱいなんで、純真無垢で扱いやすいバカだといいんですけどねえ……


【ケフカ (ヘイスト、MP:4/5)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
 やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 第一行動方針:対主催グループに潜り込み、主催者の元に送り出す
 第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:南西の祠→南西の祠北の茂み・分かれ道付近】
159名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/08(金) 23:24:15.77 ID:lRImXOS50
 
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/08(金) 23:30:33.24 ID:lRImXOS50
投下乙です!
いやー、全員ぶっ殺すってのがなんともケフカらしい。
というか、ケフカ以上にケフカしててもうこれはケフカですわ
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 18:01:54.88 ID:fillk7x90
新作キテタ!GJ!!
怠惰な主婦みたいなミシア様を想像してワロタ
一人で愉快な奴だなあケフカはww真面目に殺す気あるのがまた…w
162未来も今も見えはしないから 1/9:2013/02/09(土) 21:22:28.24 ID:Lpd0QgiC0
一体全体ナニが起きたのかなんて、わかるわけなーい!
上から緑色の生き物が降ってきて、気づいたらアーヴァインとボビィが攫われて、残されたのはあたしだけ。
状況が呑み込めず、あんぐり口を開けてる間に、黄色い後姿はどんどん遠ざかって行っちゃった。
(どどど、どーしよ!?)
とりあえずソロ達に相談しようと、城の中に入ろうとしたけれど、なぜか扉はガッチリ閉まってて。
引いても押しても叩いても開く様子がなくて、本当にどうしようって途方に暮れちゃった。
でも、そんな時に、上から「ワンワン!」ってアンジェロの鳴き声が聞こえてさ。
そういえばソロ達と一緒にいる様子がなかったし、もしかしたらサイファーがいるかもって思って、大声を出してみたの。

「おーーーい!! アンジェローーーー! サーーーイファーーーーーー!!!
 そこにーーー、いぃーーーるぅーーーーのぉーーーーー!!?」
悪い奴に見つかったらどーしよ、なんて考えなかったなぁ。
だって城の中には入れないし、アーヴァインはいないし、緑の生き物が何なのかわからないんだもの。

「リュック!?」
不用心でも、結果オーライなら問題なし。
ずっと上の方で、すとんという着地音を伴いながらサイファーの声が聞こえた。
んで、扉の真上のテラスから、懐かしい――ってほど時間は経ってないけど――顔が、覗き込んできたの。

「おい、お前一人か!? 逃げてこれたのか?
 ……しかもアンジェロまで、そんなところで何してやがんだよ」

サイファーは斜め横を見たかと思うと、ひらりとジャンプして、もう一階下のテラスへ飛び降りた。
アンジェロが吠えたから、そこにあの子がいるってことはわかったけど、何でソロ達と別なのかはわかんないまんまだ。
でも、とにかく、言わなきゃいけないことがあった。

「サイファー!! ここ、入口閉まってて入れないの!!
 お願い、ロープかなんかで引き揚げてくれない!?」
「はぁ?! 押せば開くだろうがよ!!」
「そーれーがー、開かないのー!
 先にソロ達が入ってったから、多分その時にー、鍵閉められちゃったのーー!!」
「ハァ!?……何やってんだよあいつら!」
ぶつくさ言いながら、サイファーは顔を引っ込める。
だけど、あたしの予想しない方向から、何故かするするとロープが降りてきた。
びっくりして思わず柱の陰に隠れると、これまたまたまた見覚えのある顔がひょいっと、ロープの横から出てくる。

「何やってるんだよ、はコッチの台詞だよ。
 ほら、上がって来い」
163未来も今も見えはしないから 2/9:2013/02/09(土) 21:23:15.69 ID:Lpd0QgiC0
「ロック!!」

昨日となんら変わらず、銀髪にきちっとバンダナを巻いた姿に、あたしは胸をなで下ろす。
それから急いでロープをよじ登ると、アンジェロと、眉間にしわを寄せたサイファーが上階からひょいっと降りてきた。
「あんたもリュックの仲間か?
 誰が近くにいるかもわからないんだから、あんま大声で騒がないでくれよ」
あたし達を交互に見やるロックに、サイファーは剣で肩を叩きながら不満たっぷりに吐き捨てる。
「俺だって好きで騒いでるんじゃねぇよ。
 ……テメェがロックか、一体どこに隠れてたんだ?」
「隠し通路って奴の中さ。
 こっちは怪我人だの一般人だのを連れてるんでね」
ロックは苦笑を浮かべたけど、ふと、何かに気付いたように目をしばたたかせた。
「……もしかして二人とも、俺のこと探してたのか?」
その言葉に、サイファーはあたしをちらっと見ながら答える。
「用事があるのは俺だけだ。
 まあ、リュックが無事なのは良かったが」
「無事って……襲われてたのか?
 クリムトのじーさんが言ってた変な音って、それか?」
どうやらロックはアーヴァインが乱射した銃声を聞きつけて、外の様子を探りに来たらしい。
……文句言ってもしょうがないけど、もーちょっと早く来てほしかったな〜〜!

「ここで喋ってもしょうがねえだろ。
 テメェ以外に、ギードにプサンにあのクソジジイが居るって聞いてるんだ。
 そいつらの元へ案内しろ。話をするのも、聞くのも、それからだ」
あたしの不満に気づくはずもなく、サイファーはさっさと話を進める。
ロックは「オーケイ」と手を振って、城の中へと歩き出した。

廊下は、すんごく薄暗くて重苦しい空気に満ちていた。
でも、この城の持ち主と、ウルで会ったソイツのイメージを思い返し、納得する。
そんなことを考えながら歩いていると、ロックが急に呼び止めた。
「あ、そこ、仕掛けがあるから気を付けてくれ」
「え?」
眼を凝らしてみると、柱と柱の間に細い糸がピンと張られている。
「この城のトラップにしちゃチャチいな」
サイファーが近くの燭台に触れた。良く見ると蝋燭の影に、金属のベルみたいなものがいくつか吊り下げられている。
多分、糸を踏み抜くと吊られてる部品が床に落ちて、音が鳴るようになってるんだろう。
「厳しいこと言わないでくれ、材料が足りなかったんだよ。
 ……おっと、この部屋だ」
ロックは廊下の途中にある扉を指し示し、ヘンなリズムでノックをした。
それが合図だったのだろう、中から一人のオジさんが、ゆっくりと扉を開ける。
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:23:29.67 ID:SJiPQoJY0
 
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:23:58.85 ID:SJiPQoJY0
 
166未来も今も見えはしないから 3/9:2013/02/09(土) 21:24:11.94 ID:Lpd0QgiC0
「悪かったな。俺の知り合いと、そのまた知り合いだったよ」
「いえいえ、ロックさんが御無事で何よりです」
入っていいぞ、と手招きされ、あたしとサイファーは部屋に足を踏み入れた。
元々なんかの実験室だったのか、壁には大きい本棚が並んでて、立派な机もいくつかある。
その中であたしの眼を引いたのは、目に包帯を巻いたおじいさんの横に居る、でっかい亀だった。
賢者ギード。バッツから話は聞いてたけど、実物を見るとビックリする。
だけど、サイファーが意識した人は、あたしとは違ってた。

スラリ、と剣を抜く音がして、あたしは振り返る。
サイファーが、眉間の皺をもう一本増やして、おじいさんに切っ先を向けていた。
挙動に気付いたロック達が何かを言う前に、おじいさんが口を開いた。
「そなたは……あの時、テリーへ加勢した青年か」
「カナーンじゃ世話になったなぁ、クソジジイ」
あまりにも剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、アンジェロが大声で吠える。
「ワンワン!」
はっきりとしたことは言えないけど、『そんなことしてる場合じゃないでしょ!』と怒ってるみたいだ。
サイファーは、足元とあたしを一瞥して、渋々と剣を下げた。
「わかってるんだよ!! この状況でケンカなんざ売るか!」
怒鳴りつけて、それでも気持ちが収まらなかったのか、サイファーは舌打ちしながら言葉を続ける。
「だがな、クソジジイ。
 テメェの横やりのせいで、俺はダチのイザを助けられなかった。
 そのことは一生忘れねぇからな」
そして、おじいさんの方も皆を手で制したまま、静かに告げた。
「前途ある若者を救えなかったのは、ひとえに私の未熟さ故。
 恨みも謗りも全て受けよう」
二人の間に何があったのかは断片的な事しかわからない。
でも、堂々とした態度を崩さないおじいさんは、悪い人には見えなかった。
だからあたしは話を切り上げるべく、サイファーを急かす。
「そ、そんなことよりー!
 もっと大変なコトが現在進行形で起きてるでしょ?!」

「そ、そうだよそうだよ。
 俺達の事を探してたってのはどういう理由なんだ?
 もしかして、ピサロとかティーダ達とかと関係があるのか?」
首を傾げながら尋ねるロックに、サイファーはさらにさらに嫌そうに顔をしかめた。
そりゃそうだ、と思うあたしを余所に、彼は淡々と説明を始める。
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:24:40.49 ID:SJiPQoJY0
 
168未来も今も見えはしないから 4/9:2013/02/09(土) 21:25:33.64 ID:Lpd0QgiC0
「……数時間前に、俺がティーダとテリーの死体を見つけて、持ってた道具で南東の祠にいる仲間に教えた。
 それを聞いた、ティーダって奴に匿われてオトモダチを気取ってたクソ野郎が発狂して、仲間を殺して逃げた。
 おまけにユウナって女がティーダを殺したと決めつけて、躍起になって探してる」

アーヴァインのことだけ大幅に回りくどい言い回しなのは、名前も口にしたくなかったんだろうか。
それでもプサンってオジサンとギード、おじいさんは誰の事だかすぐにわかったようで、険しい表情を浮かべる。
そんな三人を見て、ロックもサイファーの言いたかったことを理解したみたいだった。
「……マジで?」
「マジだからこんなクソったれな城に寄ってるんだろうが!」
顔を引きつらせるロックに、サイファーは全力で吐き捨てる。
「で、リュック! 奴はどこへいるんだ!?
 五体満足ってことはどうにかして逃げてきたんだろ?」
その怒りの矛先は予想通りあたしへと向けられた。
こうなったらもう、ありのままを話すしかない。
「え、えっと、それが……あたしにもよくわからないんだけど」
そう前置きして、アーヴァインが城門前でソロ達三人を襲った事、火をつける為に忍び込もうとした時にカッパに襲われたこと、
それからカッパにチョコボのボビィごと連れ去られた事を告げた。
話がややこしくなるし、問い詰められても困るから、ラムザ・サラマンダー・ピサロ達の遺体の事はナイショにしたけどね。

あたしの話を聞き終えたサイファーは、いつものように剣で肩を、つま先で床を叩く。
「……こいつは傑作だ。
 わけのわからないモンに乗っ取られた、頭のおかしい人殺しを連れ去るカッパかよ」
そう言って、不意にひとしきり笑い――ぎり、と歯を食いしばった。
「何を考えてやがる、あのナマモノ」
ぶるっと底冷えする殺意を隠そうともせず、サイファーは呟く。
「クゥーン……」とアンジェロが不安げに喉を鳴らしたけれど、それすらサイファーには不愉快に映ったみたいだった。
「うっせぇんだよ犬ッコロ!
 それともテメェ、奴の正体を知ってたんじゃねぇだろうな!?」
アンジェロに噛みつき出したサイファーに、あたしは慌てて間に入る。
「サイファー!! ストップストップ!!
 アンジェロに当たってもしょうがないでしょ?!」
両手をぶんぶんと広げてなだめてみたけれど、サイファーの怒りを鎮めることは叶わなかった。
サイファーは「クソッ!」と壁を殴り、それからあたしたち全員に向けて剣をかざす。

「いいか、俺があのクソ野郎とカッパを始末しにいく!
 リュック、お前はこいつら連れて、ソロ達と合流して南東へ戻れ!」
「ワ、ワンワン!」
言いたい事だけ言って出て行こうとするサイファーだったけど、引きとめようとするかのように、アンジェロが吠えかかった。
そして生まれた一瞬の隙に、あたしはコートを掴みとる。
「ちょ、ちょーーっとタンマ!
 シマツ、ってどーゆーこと!?」
あたしにしてみれば、アーヴァインは一応仲間だ。
そりゃあいちいち凶暴で残忍で我が侭で自分勝手で、殺人鬼っぽい所も多いけど、友達を思う心までは無くしてない。
首輪を解除するためにも必要だし、ティーダの友達だし、何よりスコール達のことを殺してなんかいないんだから、死なせるわけにはいかない。
だけどあたし達の事情を知らないサイファーは、大声で怒りをぶちまける。
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:25:38.70 ID:SJiPQoJY0
 
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:26:31.68 ID:SJiPQoJY0
 
171未来も今も見えはしないから 5/9:2013/02/09(土) 21:26:35.91 ID:Lpd0QgiC0
「両方ぶち殺すに決まってんだろ!
 寝ぼけてんのか?!」
「いやいやいやいや、あ、えっと、あ、危ないってば!
 それにアイツ、たまにだけど正気に戻ってるっぽい時もあったし、こ、殺すなんてそんな……」

あたしの言葉を遮ったのは、肩へと伸びたサイファーの手だった。
「リュック」
その眼差しはとても真剣で、あたしは思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。
サイファーはあたしの両肩を掴んだまま、どこかさびしそうに、けれども確かな怒りを込めた声音で問いかけた。
「例えばお前が魔女に操られてユウナって女をぶち殺したとして、正気に戻ったらのうのうと暮らせるのか?
 そんなことになるぐらいなら、正気に戻る前に死んだ方が百万倍マシじゃねぇのか?」
その言葉に、あたしはスコールとサイファーが語った身の上話を思い出す。
そして理解した。
サイファーは、アーヴァインに自分の過去を重ねた上で、許す事ではなく断罪で救う事を選んだのだと。
何も知らなかったら、あたしもサイファーに同調したかもしれない。
でも、あたしは知っている。アーヴァインが犯した罪のうち、二つは幻想に過ぎないんだってことを。
だから言い返すことができた。

「そ、それを決めるのは、アイツでしょ?!
 死にたいって思ってるかどうかもわからないのに、殺すなんておかしい!」
キッ、と目に力を籠めて、サイファーを睨み返す。
アーヴァインは仲間で、サイファーも仲間だもん。仲間同士で殺し合わせるわけにはいかない。
譲れない思いを込めて火花を散らす視線は――だけど、思わぬ横やりが入ったせいで逸れた。

「まぁまぁ、お二人とも、そう熱くならないでくださいよ」
そう言って、愛想笑いを浮かべながらあたしたちの間に割って入ったのは、プサンってオジサンだった。
ニコニコしながらあたしの肩を叩き、サイファーの肩を叩く。
そんなんで黙るはずもないと思ったんだけど、サイファーが食ってかかる前に、オジサンは予想外に素早い動きでアイツの足に蹴りを入れた。
「ほいっ」
さすがにそんな行動は予想していなかったのか、サイファーはまともにひざ裏へ向けた一撃を喰らい、カックンと姿勢を崩してしまう。
もちろんそれは一瞬で、サイファーはすぐに立ち直り、プサンの襟を掴んだ。
「テメェ、何しやがる!?」
「いえ。ただ、こんな非力な私の蹴りで体勢を崩されるとは、相当疲労しているのではないかと」
「――ッ」
涼しい顔で答えたプサンに、サイファーは顔を真っ赤に染める。
さらに追い打ちをかけるように、ギードがのそりと近づいて言った。
「見た所、ヘイストを使っておるようじゃが……相当長い距離を移動したのではないかね?
 時空魔法で時の流れを早くしても、労力そのものは軽減できんからのう。
 相手が一人ならともかく、二人となる可能性も考えると……」
172未来も今も見えはしないから 6/9:2013/02/09(土) 21:27:34.14 ID:Lpd0QgiC0
「じゃあどうしろってんだ!?
 クソ野郎どもを見逃して、奴らが人を殺して回るのを指咥えてろってか?!」
ギードの言葉を遮ってサイファーが叫ぶ。
剣を振りまわしながらオーバーなリアクションで訴える彼を、横目で見つめていた時、頭の中でピコンと閃きが奔った。
この状況……チャンスだ!

「はいはーい、提案!
 あたしがサイファーと一緒に行くってのはどう?」

あたしの言葉に、「……はぁ?」とサイファーが呆れ声を上げる。
そりゃワケわかんないよねえ、せっかく人質役から解放されたのに、戻るようなもんだもん。
でも、暴走しかねないサイファーからアーヴァインを庇うには、一緒に行動するのが一番だ。
だからあたしはテキトーな理由を口にする。

「アイツ、ずーっとティーダのことばっかり話してたし、
 あたしが無事なのもティーダの仲間だから、みたいなんだよね。
 だから、あたしがいればすぐにサイファーを襲うってことにはならない気がするの」
ホントはあたしが居てもいなくても、本気で殺そうだなんてしないだろーケドね。
「テメェ、そんなの……」
「当てにならないかもしれないけど、当てになるかもしれないじゃん?
 それにさ、サイファーが考えてる通りにカッパがメチャクチャ悪い奴で、アイツを懐柔してたりしたらどうすんの?
 1対2じゃ、サイファーだって返り討ちにされるんじゃない?」
「それは……」
「あたしがいれば、最悪でも2対2、上手く行けば3対1に持ち込めるかもじゃん!
 そーゆーワケで、一人で行くぐらいなら、あたしを連れてった方が絶対にいいと思う!」

「あー、うん、その方がいいかもしれないな」
ぺらぺらとまくしたてるあたしに、ロックも助け船を出してくれる。
……と言っても、ロックは純粋にサイファーの身を案じてるんだろう。
「ソロもこっちに来てるなら、あいつと合流できれば戦力は十分だしよ。
 カッパになってるってのが誰かは知らないけど……ケフカとかセフィロスだったら最悪だぜ」
出された名前に、サイファーが舌打ちしながら顎に手を当てた。
確か……世界をぶっ壊した魔道士に、とんでもなく強い剣士だっけ?
てゆーか良く考えたら、今生きてる人達って、南東の皆とここにいる人達とソロ達を覗いたら、ほんのちょっとしかいないわけで……

「2/3……いや、もう一人いるはずだな。
 良くても2/4、クソ野郎の戯言が当たってりゃ3/4で、あのナマモノの中身は殺人鬼かそれよりタチが悪い何かってことかよ」
独り言を呟きながら、サイファーは青い目であたしを射すくめた。
あたしは黙って見返す。
本当は二対二になることなんて絶対にないんだけど、そんな事教えたら、一人で行かれちゃうもんね。
173名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:27:46.65 ID:SJiPQoJY0
 
174名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:28:50.65 ID:SJiPQoJY0
 
175未来も今も見えはしないから 7/9:2013/02/09(土) 21:29:19.53 ID:Lpd0QgiC0
「……だが、お前らの方は本当に大丈夫なのか?
 ソロと同行してる二人のうち、女の方は無茶できるようなタマじゃねえぜ。
 むしろ、率先して守ってやらなきゃ真っ先に死にかねない」
「わかってるよ。俺達もロザリーとは面識があるしな」
サイファーの言葉に、ロックがバンダナを弄りながら答える。
「ただまあ、ギードもクリムトも魔法のエキスパートだし、俺も剣ならそこそこ自信がある。
 もう一人か二人前線を張れるヤツがいれば、戦えない奴が二人ぐらいいても、十分カバーできるだろうさ」
『戦えない奴』って言った時に、一瞬だけ、ロックがプサンの方を見やった。
その視線に気づかなかったのか、髭を生やしたオジサンは、茫洋とした笑みを浮かべ続けている。
うーん……さっきサイファーに蹴りを入れた時は、なんかタダモノじゃないって感じがしたんだけどなあ。
そんな風に、ちょっとだけ呆れた矢先だった。
プサンが口を開いたのは。

「問題ありませんよ。私が単独行動を取れば済む事です」

「え?」
あたしを含めた全員の視線が一か所に集中する。
誰も予想してなかったってレベルじゃない、遥か斜め上を行く発言に対して、いち早く反応したのはギードだった。
「プサン殿。失礼じゃが、それはあまりにも……」
「危険ですねぇ」
しかし当の本人はまるで他人事のように、しれっとした表情を崩さずに答える。
「ですが、この状況下で危ぶむべきは『我々の全滅』です。
 カズスを消し去った爆発や、ロックさんが持っている魔石のように、広範囲破壊を引き起こす呪文や道具も存在します。
 大人数で移動すれば安全だとは言い切れない。
 ――だからといって、無闇に戦力を分散すればいいというものでもありませんし」
すらすらと自分の考えを述べる様子は、そこらへんにいそうなオジサンといった風体とは全然一致しない。
サイファーが険しい表情のまま黙って、固まっているのも、あたしと同じでオジサンに気圧されてるのかもしれなかった。

「私自身に魔力はありませんが、お二人が導き出した『結果』を他人に教えることならばできます。
 戦う力もありませんが、話し合いに応じる相手であれば、言いくるめて逃げる事も出来るでしょう。
 それに、最初に言った通り、私が抜ければロックさん達の負担が軽くなるでしょう?
 最小限のリスクで最大限の生存率を得るには、私の同行は悪手なんですよ」
反論の余地すら与えずにまくしたてたオジサンは、最後に、ぱちりとウインクした。

「何より――自分より若い人達に守られてばかりでは、年長者として立つ瀬がないんですよねえ」
ふざけてるような仕草だったけど、その眼は、笑っていなかった。
176名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:30:27.55 ID:SJiPQoJY0
 
177未来も今も見えはしないから 8/9:2013/02/09(土) 21:31:36.53 ID:Lpd0QgiC0
「……いいのかよ、本当に」
全員の気持ちを代弁するかのように、ロックが呟く。
「構いませんよ。
 ただ……一つお願いがあるのですが、そちらの犬を貸して頂けないでしょうか?
 臭いを探って貰えれば、誰にも会わないように移動できるでしょうし」
そう言って、プサンはアンジェロをちらりと見やった。
アンジェロは「クゥン?」と鼻を鳴らし、あたし達とロック達とを交互に見やる。
そんな彼女を余所に、サイファーは得心したように頷いた。

「なるほどな……俺は構わないぜ。
 だいたい、いくらリノアの忘れ形見ったって、犬なんかに着いてこられる方が迷惑だ」
「ワンワンワン!!」
抗議しているのだろう、アンジェロがけたたましく吠える。
けれどもサイファーは足元の彼女に一瞥も与えず、ただ、あたしに向かって顎をしゃくった。
行くぞ、って事だろう。

「じゃあ皆、気を付けてね!
 あたし達もアイツ捕まえたら南東の祠に戻るから!」
「ああ、わかった。
 ソロ達もちゃんと連れて合流するから、お前らも無事でいろよ!」

――ロックと再会の約束を交わし、あたし達は城を発つ。
バルコニーからロープを伝って降り、一足先に草原へ向かって走り出したサイファーの背中を見ながら、思った。
絶対に全員で生きて帰るんだ、って。

祈りを込めて振り返った視界の隅で。
吊り下げられたロープは、『バイバイ』と手を振るかのように揺れていた。


【サイファー(右足軽傷+中程度の疲労)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ
      レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
 第一行動方針:アーヴァインを殺す、場合によってはカッパも始末する
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(パラディン)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
     ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 第一行動方針:アーヴァインを救出する。必要ならサイファーに事情を説明する
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:デスキャッスル→移動】
178名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/09(土) 21:34:05.91 ID:SJiPQoJY0
 
179未来も今も見えはしないから 9/9:2013/02/09(土) 21:34:18.08 ID:Lpd0QgiC0
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
 第一行動方針:ロック達とは別に南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【アンジェロ 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
 第一行動方針:クゥーン…(セフィロスとアーヴァイン、あとサイファー達が心配だわ)
           ワンワン…(だけど、私の意見なんて通らないのよね……)
 基本行動方針:ケフカを倒す/仲間達に協力する】
【現在位置:デスキャッスル内部・隠し通路内部の一室→移動】

【ギード(HP3/5、残MP3/5)
 所持品:首輪 
 第一行動方針:ソロ達と合流して南東へ向かう
 第二行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする】
【クリムト(失明、HP3/5、MP3/5) 所持品:なし
 第一行動方針:ソロ達と合流して南東へ向かう
 第二行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする
 基本行動方針:誰も殺さない
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
 魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:ソロと合流/ギード達の護衛
 第二行動方針:リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル内部・隠し通路内部の一室】

【備考:デスキャッスル・賢者の石の宝箱があるテラスから
    ロープが下りていて内部へ侵入可能になっています】
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/11(月) 18:56:11.83 ID:N4Goq4Ow0
投下乙!
大集団分離……しかし内部進入が出来るようになってしまったという事は、そういうこと……?
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/12(火) 07:43:06.91 ID:Pt5LgyyW0
>>168 
ラムザはまだ生きているはず…
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/12(火) 10:56:06.39 ID:E1tFM2/p0
いやいや
そこは、ラムザ(との会話)、サラマンダー(との戦闘)、ピサロ達の遺体、と読むべきだろう
183名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/14(木) 16:08:11.64 ID:fOTBQb/SO
投下乙です

これまた話が動きそうでwktk
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/02/24(日) 09:33:15.31 ID:gwjbXpUz0
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/03(日) 02:53:17.10 ID:0nHQuEW9P
板、落ちてる…?
186「無理に決まっているだろう」 1/:2013/03/08(金) 23:13:01.49 ID:GEIeWSTz0
「おい、……おい、ソロ、聞こえるか?」

何度呼びかけても、小さな花は沈黙を守るばかり。
大の大人が草に向かって語りかける様は、何も知らぬ者が見ればさぞや滑稽に映ることだろう。
それでもいつか冷静さを取り戻した友人が、俺の声に気付いてくれるかもしれないと、淡い願望を込めて言葉を投げかける。

「なあ、聞いてくれよ……返事をしてくれって。
 一時間近く無視されるとそろそろ泣きたくなってくるんだぞ」
「そうだそうだー。
 早く返事しないと、おまえのあだ名を『パセリあたま』にしちゃうぞー。
 そんでオムライスの上に乗っけてからお皿のはじに寄せちゃうぞー」
リルムが横から口を挟んできても、当然のように返答はない。
ため息をつきながら、俺は眠りこけている男二人をちらと見やる。
バッツ。すやすやと寝息を立てているけれど、時折笑ったり、本がどうとか良くわからない寝言をこぼしている。
ラムザ。バッツとは対照的に、どうにも寝苦しそうな感じで魘されている。

「一体、どんな夢見てるんだろうな?」
俺の思考を読んだかのようにマッシュが首をかしげた。
見ているだけで痛々しい程の重傷を負っているにも関わらず、一時期に比べて大分顔色が良くなっている。
鍛えた体は伊達じゃない、って事か。
俺も少し体力作りを心がけようかな――などと考えている間に、リルムはちょこまか動いてバッツの頬をつつく。
「こーんなアホそうな顔してるし、楽しい夢なんじゃないの?」
刺激で起きてしまわないかとひやひやするけれど、当のバッツは「むにゃむにゃ……」と口を動かすだけだ。
……あ、ヨダレ垂らしてやがる。
なんだかなあ、うちのガキ見てるみたいだ。
コリンズも大きくなったらバッツみたいになるのかなあ。それとも俺に似ちまうのかなあ。
親としてはソロみたいに強く賢く真っ直ぐに育ってほしいけど、無理だろうな。わかってる、うん。

「夢の世界とか、あんま良いイメージないんだよなあ。
 魔導アーマーに乗せられたり、変な三兄弟に襲われたりしそうでさ」
リルム達を横目で見ながら、マッシュは苦笑交じりに呟いた。
リルムが「あー、あるある」と頷いている辺り、二人の体験談なのだろうか。
「あいつら、なんだったんだろうねー?」
「さあなあ……デスゲイズや八竜みたいに封印されてた魔物だったんじゃないか?
 昔の連中も魔大戦やら何やらで大変だったんだろうけど、封印するだけじゃなくてきちんと倒してほしいよな」
「そーだよねー」

放送前までの大暴れっぷりはどこへやら。
リルムは大分機嫌を直してきたらしく、マッシュとも俺とも素直に話している。
こうして大人しーくしていてくれりゃ、年齢相応に可愛く見えるんだけれども……
でも、時折タバサの事を思い出してしまって、どうにもいたたまれない気持ちになる。
187「無理に決まっているだろう」 2/13:2013/03/08(金) 23:14:19.83 ID:GEIeWSTz0
俺の記憶にあるあの子は、年齢以上にしっかりした子だった。
そもそも10にも満たない年齢で、自ら王宮での暮らしを捨てて両親を探しに出るような子が、弱い心の持ち主であるものか。
だが、それでも……間近で父親(と仲間)の死を見てしまったなら、狂うなという方が無理なのだろう。
俺達だって、パパスさんの事があってから一週間だか一か月だかぐらいは、何も出来ずに二人でぼうっとしていた記憶がある。
俺にはリュカや奴隷仲間がいたから最後の一線は超えずに済んだ。
けれど、あの子にはそれさえなかったのだと思うと。俺ではそれになれなかったのだと思うと……胸が、痛む。

あるいは、あの場にソロやアーヴァインがいなければ、とも考える。
警戒を抱かせなければもう少しだけ話し合う余地も出来て、上手くやれば、タバサの支えになってやれたんじゃないかと。
だが、光の教団だの何だのを持ち出した末にリルムにまで攻撃を仕掛けた事を考えれば、やはり考えるだけ無駄な話なのだろう。
甘い未来など有りはしない。幻想は現実になどなりはしない。
結局、リュカが死んだ時点で、タバサの運命は決まってしまっていたのだ。
目の前でリュカが死んだからあの子は平静を失い、そこにリュカが残した【闇】が憑りついたことで完全に狂った。
もちろんアイツが【闇】の存在を知っていたとも、そんな結果を予想していたとも、望んでいたとも思わないが……

リュカがどういう状況で死んだのかさえ、俺にはわからない。
居合わせなかった人間が、死んだ奴の事をどうこう言うべきじゃないのかもしれない。
それでも、親友に大馬鹿野郎と言いたくなるのは、傲慢だろうか。
ほんの少しだけで良かった。
あの子がもう少しだけ正気で居てくれたら、俺の説得を受けてくれていたら、一緒にこの場に居れたはずなのだ。
残される辛さは知ってるだろうに、どうして生きてあの子を守って――

「なーに考えこんでるの?」
「……うわっ!?」
我に返ると、いつの間にか真正面にしゃがみ込んでいたリルムが、顔を思いっきり近づけていた。
「な、なんだよ。脅かすなよ」
「気づかないオッサンが悪いんだもんねーだ」
ニヒヒ、と猫のように笑うその表情は、どちらかといえば俺んちのクソガキそっくりで。
けれどもふわふわした金の髪や、片方だけ残された青い瞳はあの子に似ていて。
お蔭で、デールが今際の際に残した言葉を思い出してしまった。
当の本人達は乗り気でなかったけれど、親の立場としては、夢見ていた未来だったから。

かつて親友や弟と語り合った未来は、永遠に訪れなくなってしまったけれど。
二人の思い出と共に、色褪せることも消えることもなく心に残り続けるのだろう。
そして今のように、時折後悔と共に現れては、守る事の意味と生きる事の大切さを思い出させてくれるのだろう。
188名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:17:00.84 ID:+UkzBDWs0
 
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:17:33.88 ID:+UkzBDWs0
 
190「無理に決まっているだろう」 3/13:2013/03/08(金) 23:17:40.17 ID:GEIeWSTz0
「……な、なによう、そんな顔して」
怒っていると誤解したのか、リルムは僅かに身を引く。
これ以上怯えさせないよう、俺は気力を振り絞って笑顔を作り、そっと身体を寄せて抱き締めた。
「絶対に……絶対に元の世界に帰してやるからな。
 俺達全員で、生きて帰るんだ」
リルムはしばしの間、目を瞬かせ――俺の手からひそひ草をひったくると、大声で叫んだ。

「だれかーー! へんじしてーー!
 たいへんなの、おっさんがヘンになったーー!!」
「……どういう意味だよそれはァアアッ!!」
「落ち着けよリルム。混乱した奴は殴って直す方が……」
「お前もかマッシュ!! もしかして、こういう時だけ息が合う奴らなのかお前ら!?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど、あまりにもいきなりだったからさ」
思いがけず真顔で答えられ、さすがに凹む。
俺、マジメな気持ちを言っただけなのになー……


**********************


「どうしたんだ、ラムザ? そわそわしやがって」
「何か今、リルムの声が聞こえたような気がして……」
「あ、俺も俺も!」
「ほっとけッ! あと20歳児、貴様の話なんざ聞いてねえよッ」
「…………」

何度目になるかわからない脱線に、俺は心の中で頭を抱える。
G.F.に限らず、人間同士にだって相性があるということぐらい知っているが……
警戒心が強く独善的かつ攻撃的なアルガスと、楽観的な上に紙一重で空気を読み切れていないバッツ。
それに生真面目なのはいいが、疲労のあまり心の余裕がすり減っているラムザ。
この三人の相性、悪い。悪すぎる。
壊滅的と言ってもいいぐらいだ。
そりゃ、お喋りなウネでも閉口する。するに決まっている。
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:18:07.04 ID:+UkzBDWs0
 
192名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:19:02.75 ID:+UkzBDWs0
 
193「無理に決まっているだろう」 4/13:2013/03/08(金) 23:19:09.97 ID:GEIeWSTz0
「とにかくだ、お前らの言うとおりザンデが生きていること自体は、魔女を出し抜く可能性の一つとして歓迎すべきかもしれない。
 だが、俺の夢に奴を招くなどお断りだ! 絶対に許さんッ!
 婆さんの仲間だろうと、奴が信頼に値する人間とは思えんッ!
 現に、この攻略本にも書いてあるじゃないか! 魔王として君臨した末に世界を滅ぼそうとしかけた輩だと!」
「そりゃ、あのオッサン、確かに悪人丸出しだったけどさ……
 向こうに敵意がなくて、協力してくれるってなら、昔の事は水に流してもいいじゃないか。
 仲間割れしてたら、それこそ魔女の思うつぼになるだけだと思うぜ」
「僕も、基本的にはバッツさんの意見に賛成です。
 ……だが、ザンデの首輪がまだ正常に機能しているのだとしたら、彼の生存自体が何らかの罠である可能性も否めない。
 本当に次元の狭間にいるというなら、そこは会場外のはず。
 何故ザンデが生きているのかを調べてからでなくては、迂闊に接触するのは危険だとも思います」
「調べるって言っても、どうやって?」
「……えっと、………自己申告?」
「ほーう。じゃあザンデの奴が敵で、俺達を騙そうとしている場合は?
 本当の事を話すと思ってるのか?
 それとも、絶対的に信頼できるって証拠でもあるのか?
 ああ、言っとくが脱出手段を探してるとか、婆さんの仲間とか、そんなのは証拠とは言わないからな?」
「何でだよ。
 脱出しようなんて、魔女を倒そうとか殺し合いを止めようとか考えてなきゃ、思いつかないだろ?」
「なるほどなるほど。年食ったガキかと思っていたが、そこまでは理解してるんだな。
 じゃあ聞くが、お前が主催の魔女だったとして、そういう奴らを炙りだすにはどうしたらいいと思う?」
「え? ……えーと」
「――内通者の密告」
「もしくは扇動……
 つまりアルガス、君はザンデが魔女の共犯者で、だからこそ会場外で生存していると考えているんだろう?」
「正解だ、スコール、ラムザ。
 やっぱりお前らは話が早くて助かるぜ」
「だけどさ、やっぱりそれは疑りすぎじゃないか?
 この首輪を作った国って、すごい機械を作れるけど複雑すぎて壊れやすいものばっかだって、サイファーが言ってたぜ。
 なあ、スコール?」
「……まあな。
 ガルバディア軍の戦略機械といえば『機能は確かだが、どれも殴れば壊れる』と言われている。
 実際、爆発しないまま壊された首輪もあったし、何かの拍子で機能を停止する事は有り得ると思う」
「ほらほら、な?
 疑ったって始まらないし、俺達、脱出方法については全然調べてないんだぜ?
 夢世界でなら会えるかもしれないってなら、一回ぐらい話聞いてみたっていいじゃないか」
「何度言えばわかるんだッ! 断るッ!」
194名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:19:58.43 ID:+UkzBDWs0
 
195名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:20:58.15 ID:+UkzBDWs0
 
196名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:21:41.88 ID:+UkzBDWs0
 
197「無理に決まっているだろう」 5/13:2013/03/08(金) 23:22:10.69 ID:GEIeWSTz0
……そして始まりに戻る。
無限ループという言葉が脳裏を過ぎりだす程に、話が全く進まない。

アーヴァインの話からして、ザンデは脱出計画を立案し、成功させた、重要人物の一人だ。
だから接触するかしないかを問われたら『するべき』と答えたいが、ラムザの指摘通り、彼が生きている理由がわからない。
首輪が故障したのか? 爆破できない理由が存在するのか? 魔女が意図的に生かしているのか?
一番最後だとしたら、アルガスの言うように、『魔女と何らかの契約を交わして生き延びている』のかもしれない。
最も、アルガスの性格を考えれば、主張自体は後付で単純にザンデを自分の夢に招きたくないのだろうし、
本当にザンデが魔女と内通しているなら、俺やアルガスに対して魔女側からアクションが起きているはずだ。
だから現実的には『ザンデ自身は魔女と敵対しているが、魔女側が囮として生かしている』可能性が一番高いだろう。
――ただ、いずれにしても、こんなことを長々と話している時間などない。

「では、こうしよう」
俺は終わらない論戦を繰り広げる二人と一人に向かい、手を叩く。
注目を集めつつ強制的に黙らせる――キスティスを初め、教師たちが良くやっていた仕草だ。
三人の視線が集まった事を確認してから、俺は言葉を継いだ。

「まず、ザンデとの接触は、アルティミシアに干渉されないようあの魔女が起きている間に限ろう。
 そしてしばらくの間は、ウネ、あんただけでザンデに接触して彼が生存している理由を調べてほしい」
普通ならアルティミシアが寝ている間に事を進めるべきだが、ウネが行動できるのは夢の世界だけだ。
俺の記憶にある限り、アルティミシアの下僕に、夢を操る力を持つ魔物はいなかった。
少なくとも魔女が起きている時は、奴が夢世界に入り込む術はないはずだ。
ついでに言えば、万が一ザンデとウネの接触がアルティミシアにバレたとして、
現実世界で戦力にならないウネ一人ならば、失ってもさほど痛手ではない――という打算もある。
「ま、それが一番だろうね」
俺の意見に納得したか俺の真意を察したのか、ウネは涼しげな表情で頷く。
「あたしはザンデを信じてるけど、あんた達の心配ももっともだ。
 安心おしよ、どう転ぼうともあんた達の悪いようにはしないさ」
そう言って老婆はカラカラと笑うと、赤いオウムの姿に変じ、宙へと消えた。
俺は残った仲間達に向き直り、言葉を続ける。

「ザンデが信用でき、接触しても安全だと判断できたなら、その時は……アルガス、例の鍵を俺に貸してくれ。
 俺の夢を使って、俺一人でザンデと話す。
 それなら万が一の事態が起きても、被害は最小限で済むはずだ」
198名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:23:05.66 ID:+UkzBDWs0
 
199「無理に決まっているだろう」 6/13:2013/03/08(金) 23:23:34.46 ID:GEIeWSTz0
「OK。それならいいぜ」
いち早く賛成したのはアルガス。自分に被害が降りかからなければいいという思考回路はとてもわかりやすい。
「何かあった時のことを考えないとマズイってのはわかるけど、そんな警戒しなくてもいいと思うけどなあ……」
あまり納得していない様子だが、バッツも首を縦に振る。
動かないのはラムザ一人。
交渉術が得意だと言っていたから、恐らく、どうにかして俺の役目を引き受けられないかと考えているのだろう。
だが眠っている間は無防備にならざるを得ないし、現実で有事があった場合、『死人』である俺が起きていても対処できない。
それはラムザにもわかっていたのだろう。
たっぷり一分近く悩んだ末に、彼も、渋々ながら頷いた。
これでようやく別の話題に進める。

「さて、次の話だが……いや、その前に聞いておくか。
 バッツ、ラーニングというのは、機械の解体技術まで学べるものなのか?」

俺がザンデと接触すると決めた以上、最悪の事態を考えておかねばならない。
首輪の解体方法を覚えられる奴がいれば、今のうちに教えておくべきだろう。
「いや、アレは魔物の技を覚える事に特化してるアビリティだから無理だと思う。
 だけどさ、要はリュックがやったのと同じことをやれってことだろ?
 ものまね師とかにジョブチェンジしなくても、あれぐらいなら教えてくれれば覚えられると思うぜ。
 ピアノの譜面を覚えるよりは簡単そうだしな」
「ピアノ? お前がか?」
「なんだよ、アルガス。信じてないな?
 こう見えてもピアノマスターバッツとは俺の事だぜ!」
……胸を張るバッツの名乗りはどうでもいいとして、手順か。
確かに、細かい仕組みがわかっていなくても、やり方さえ正確に再現できるなら問題はない。
「……僕も、教えてもらえれば、何とかなると思います。
 銃のメンテナンスは頻繁にしていますし、労働八号――鉄巨人のメンテナンスも、仲間に教わってやっていますから」
そこにラムザが口を挟む。
話の内容を聞く限り、リュックには及ばずともそれなりの技術がありそうだ。
人格的にも申し分ないし、そういうことなら……
「わかった、ラムザ。
 あんたに首輪の解体方法を教えておくから、俺に何かあった時は、あんたが代わりを務めてくれ。
 それと、一応バッツも、やり方を覚えておいてほしい」
「おいおい、俺は?」
アルガスが口を尖らせる。面倒事は嫌いでも、端から外されるのもそれはそれで不愉快なようだ。
「少しかかりっきりになるから、その間、俺の代わりに攻略本を調べておいてくれないか?
 今、275ページまで読んである」
「わかった」
200名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:24:16.97 ID:+UkzBDWs0
 
201「無理に決まっているだろう」 7/13:2013/03/08(金) 23:25:14.26 ID:GEIeWSTz0
本当はあらかた読み終わっているのだが、変に不貞腐れられても困る。
俺は適当なページ数を伝えて、本を手渡した。

「……ふうん。参加者の能力まで載っているのか。
 しかし名前や能力順じゃなさそうだが、どういう基準で並べられているんだ?」
「ああ、多分、同じ世界や時代の出身者で区切っているんだろう。
 目次を見た限りでも、俺の知り合いは全員俺の近くに固まってたしな。
 カテゴリーの順序の基準まではわからないが」
独り言じみた問いに、俺は研究メモを取り出しながら答える。
アルガスは「なるほどな」と頷きながらページを手繰る。

「確かに、俺の情報はウィーグラフの奴やラムザの前にあるみたいだな。
 ……とすると、ページの上にある背景の色も、カテゴリー毎に別れてるってことか。
 中々凝った工夫をするもんだな」
「そうか? 俺の世界じゃ有り触れているが」
「そりゃ、"でじかめ"なんかがあるお前の世界がとんでもないんだ。
 イヴァリースでこんな本を作ろうとしたら、それこそ王族でなきゃ無理だぜ。
 紙に異なる色を付けたり、挿絵を描かせて版を起こすのに、何十人の職人が必要になるか」
意外と細かい所に目をつけるな、と思ったが……
考えてみれば、俺にとっては当然でも、違う世界の人間には異常な技術に見えるモノがあるのだろう。
今、バッツ達に解説しようとしている首輪などは、その最たる例だ。
逆に言えば、攻略本の内容を読み解いたつもりでも、俺一人では見落としている事があるかもしれない。
「アルガス。一応、275ページより以前も確認してくれないか?
 俺が見つけられていない事も、お前なら見つけられるかもしれない」
「わかったわかった」
口調とは裏腹に、まんざらでもなさそうな表情でアルガスは手を振る。
こういう時はとても扱いやすい。利害が絡んだ途端自己保身に走る所さえなければ、それなりに優秀なんだがな。
そんな感想を抱きながら、俺は首輪について説明を始めた。

――そして、十分後。

「……で、ここの蓋もネジで固定されているから改造した矢を使って外す。
 そうするとこう二色のコードがあるから、赤い方のコードを切ればいい。わかったか?」
「ラムザ、わかったか?」
「なんでバッツさんまで聞いてくるんですか……
 ……まあ、この程度なら大丈夫です。出来ると思います」
ラムザの返答に、俺はそっと胸をなで下ろす。
俺の手はまだ本調子じゃない。痺れを推して首輪を解除しようとしても、失敗をしないとは限らない。
だからラムザが使い物になるというのは、とても有りがたかった。
202名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:25:45.73 ID:+UkzBDWs0
 
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:26:50.89 ID:+UkzBDWs0
 
204「無理に決まっているだろう」 8/13:2013/03/08(金) 23:26:50.94 ID:GEIeWSTz0
「この矢とメモは、後で現実の世界に戻しておく。
 それと確か、マッシュの荷物にあと一個首輪が残っているはずだ。
 不安ならそいつを使って練習してもいい。だが、くれぐれも盗聴や監視には気を付けてくれ」
「わかりました」
頷くラムザの横で、バッツが思い出したように俺を見る。
「そうだ、スコール。いつごろから首輪の解除を進めるんだ?
 俺の魔力が回復するには、まだまだ時間がかかるけど……
 アスピル使って皆から分けてもらえれば、一人二人ならイケると思うぜ」
「その辺りに関しては、ヘンリーやリルムとの相談も必要だ。
 無理をしすぎても、有事の際に対応できなくなるからな。
 だからひとまず二人には起きてもらって、今起きている三人をこちらに呼びたい」
「ん、わかった。
 じゃ、とっとと起きてくるわ」
バッツはそう言って部屋から飛び出し――すぐに戻ってくる。

「なあ、アルガス。
 どうやって起きればいいんだ?」
「馬鹿か貴様はッ!? さっさと出ていけッ!」

アルガスの怒鳴り声と共に、バッツと、ついでにラムザの姿が掻き消える。
「全く、あの20歳児は……! これだから脳天気なアマちゃんは嫌いなんだよッ!
 アイツといい、アリーナといい、ライアンといい、ティーダといい!
 殺し合いの最中にいるってこと忘れてんじゃねえか?!
 だからくたばるんだよッ! どいつもこいつも、情けなくなッ!!」
アルガスは苛立ったように何度も机を叩く。
だが、その手が急に止まった。
怪訝な表情で宙を見る目、その視線を追い――俺もまた、固まる。

「……青い、扉?」

城の内装にはおおよそ不釣り合いな、氷に似た透き通った扉が、壁でもなんでもない場所に立っている。
眉をひそめる俺達の前で、扉は急にガチャガチャと音を立てはじめた。
カギがかかっている事に気付かずに、開けようとしているようだ。
「その扉……まさか、ティーダ、か?」
アルガスが震える声と指を向けたと同時に、扉が勢いよく開いた。

「うわっ!?」

転げ出たのは俺達と同年代の、緑のバンダナを巻いた金髪の男。
かつてカインから聞いた、アーヴァインと一緒にいた奴の風体と全く同じ――
――こいつが、例の?
205「無理に決まっているだろう」 9/13:2013/03/08(金) 23:28:07.24 ID:GEIeWSTz0
「いってー……なんだよ、ここ?!
 アービン何処だよ!? もしかしてここも夢なのか?!
 ふざけんな!! 期待させといて!
 くそっ、誰か俺召喚してくれる奴いないのかよ!!?」

警戒する俺達を余所に、そいつ=ティーダは大声でわめき散らす。
けれどもいち早く我に返ったアルガスが、パチンと指を鳴らしてティーダの頭上に水瓶を出した。

「煩いんだよッ! 少し黙れ!」

ばしゃぁん、と豪快に夢の水がぶちまけられる。
ティーダは短い悲鳴を上げながら水を振り払い、目を瞬かせた。
それからようやく俺達の存在に気付いたらしく、間抜けな声を上げる。
「……あれ? アルガス? 何でこんな所にいるんだ?」
「それはこっちの台詞だ! お前、なんで夢の世界にいるんだッ!?」
「夢……やっぱりここ夢なのかよ!
 なんだよもう、急に扉が出てきたから、召喚してくれたんだと思ったのに!
 ぬか喜びさせんなよ!」
アルガスの剣幕にも臆さず――それ以前にそんな余裕さえもなさそうだ――、ティーダは頭を抱えてうずくまる。
しかしそれも束の間の事で、すぐに顔を上げ、俺達の顔をまじまじと見つめた。
「……って、あれ? じゃあなんでアルガスが夢の世界にいるんスか?
 それにそっちのあんた、確か、アービンとゼルが言ってたバトルマニアでカード中毒者の班長って人じゃ……」
どういう紹介だ、それは。
今すぐ二人を問い詰めに行きたい衝動に駆られたが、叶わぬ願いであることを思い出し、踏みとどまる。
そんな心情を知ってか知らずか、ティーダは唐突に俺の腕を掴んだ。

「そうだ! アービンが!! なあ、アービンが大変なんだ!
 頼む、助けてやってくれよ!! じゃなきゃ、俺を召喚してくれ!」
「――スコール。
 お前も確実に濡れるから一応意見を聞いてやるが、そいつにもう一回水ぶっかけていいか?」
「止めてくれ。それと、あんたも落ち着いてくれ。
 状況が全くわからない」
こめかみを抑えながら呟くアルガスを制しつつ、俺はティーダを押しのける。
ティーダは焦りを隠せない様子だったが、俺の言葉は理解できたのだろう。
悔しげな表情で俯きながらも、少しだけ距離を取った。

「全く……何でお前がここに居るんだ?
 ウネの婆さんと同じで、死んでも夢を見れる奴なのか?
 それとも俺やスコールみたいに生きているのか?」
「生きてるって…… あ、そっか?! なんであんた達ここに!?
 二人とももしかして死んでるとか!? そんな!!」
「煩いッ! 先に俺の質問に――」
相性の悪さ。
その言葉を再び噛みしめながら、俺はアルガスの肩を掴んだ。
206「無理に決まっているだろう」 10/13:2013/03/08(金) 23:30:00.85 ID:GEIeWSTz0
「アルガス。どうやらそいつも、酷く混乱しているようだ。
 順番に話していくから、ここは俺に任せて、あんたは攻略本の調査を続けてくれ」
「フン……わかったよ。
 バッツといいこいつといい、馬鹿に付き合ってられないしな」
アルガスは机上の攻略本をひったくると、わざわざ離れた場所に別の机と椅子を作り、そこに腰を落ち着ける。
埒の明かない会話に付き合うのはゴメンだ、といった所か。
それは俺だって同じだが、仕方がない。

「ティーダ、だったな。
 大方アーヴァインに何かあったのだとは思うが、先に幾つか聞かせてほしい。
 まず、あんたは生きているのか? 死んでいるのか?」
「……死んだ記憶はあるッス。
 でも、俺の知らない女の子の声が聞こえて、ユウナが見えて……話しかけたけど、また、攻撃されて……
 そんでしばらくして、カッパがアービン連れてきて、酷い目に合わしてて……気づいたら身体があったから、カッパ蹴飛ばして……
 でも、アービン逃がそうとしてる間に、透け始めて……だから、俺、やっぱ夢で、召喚獣だったんだなって……」
なるほど、全くわからん。
ティーダが死んだ後で生き残っている知人でない女性、が何かしたのだろうが……
ロザリーもリルムもリュックも当てはまらないし、可能性があるのはエリアとターニアだけだ。
しかし二人とも放送で呼ばれているから、その筋から探るのは無理だろう。
それからカッパ。こちらは心当たりがある、ソロとサイファーが見つけて連れ歩いている奴だ。
だが、ティーダの口ぶりからして、例のカッパ単騎でアーヴァインを捕えてしまった、ということだろうか。
酷い目――あいつがしたことや、俺達が仕組んだ嘘の内容を考えれば、そういう対応を取る奴がいても仕方がない。
仕方がないが……だが……誰の責任かと問われれば、俺の責任だ。

「……酷い目というのは、骨を折られたとかそういう、回復可能かつ命に別状がない程度の事か?
 それとも復帰不能か、もしくは命に係わる損傷を受けたのか?」
出来れば前者であって欲しいと心底願いながら、あいつの状況を問う。
けれどもティーダは青ざめた表情で、首を横に振った。
「そんなんじゃ、ない……いや、確かに、片手、剣で串刺しにされて、動けなくされてたけど。
 でも、もっと酷くて……すごい苦しそうで、だけどどうやって治せばいいかわかんなくて、逃がすのが精一杯で……」
今にも泣き出しそうな調子で、時折鼻をすすりながら、ティーダは答える。

片手を剣で刺されて動けないということは、地面に縫い止められていたはずだ。
それでも、ティーダの言を信じるならば、命に係わる損傷ではないし、骨を折られたわけでもない。
逃がす事ができるのだから最低でも足か腕のどちらかは動くはずだし、出血もさほどではない。
だがそれよりもっと酷くて、すごく苦しそうで、治療方法がわからない?
「毒を飲まされたのか?」
思いついたのはサックスが仕込んでいた毒入りポーション。
中身を知っていたカッパが、あいつを殺すために無理矢理飲ませたという可能性。
しかし、ティーダはすぐに否定する。
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:31:34.23 ID:H7fsqnvt0
 
208「無理に決まっているだろう」 11/13:2013/03/08(金) 23:33:04.39 ID:GEIeWSTz0
「多分、違うっス。俺、最初は、声しか聞けなかったけど。
 でも、人をあんな風にする毒なんて……あるとは思えない」
"あんな風"?
「だってあれじゃ……あれじゃ、モンスターだ!
 アービン、人間なのに、俺と違ってちゃんと生きてる人間なのに!
 なのに、なんで……! なんで、あんな……!」
モンスター? ……誰が? あいつが?
確かに【闇】の操作が出来るようになったのは半分魔物化したからで、思考もかなり汚染されていると自己申告していたが。
だが、それは、モノの例えみたいなものじゃないのか?

「あのクソ化物野郎が、見た目まで化物になったって言いたいのか?
 ハッ、冗談はお前の存在だけにしてくれよ」
アルガスが横から口を挟むが、ティーダは俯いたまま、手を握りしめるばかり。
沈黙が続いたのは数秒か、数十秒か。
ただ、唐突に、ティーダの唇から呟きが零れた。
「……変な、でっかい羽が………片方だけ、生えてて………
 右手が……目玉、だらけで……長い爪が……
 それに……内臓が……横からはみ出して、ぐねぐねして……でも、腹のあたり、傷なんてなくて……
 苦しそうで……声、擦れてて……なのに、ごめんって……謝らなきゃいけないの、俺なのに――俺なのに!」

呟きを絶叫に変えながら、ティーダは勢いよく壁を殴りつける。
断片的な内容と、ただならぬ剣幕に、さすがのアルガスも感じ取るものがあったのだろう。
ごくり、と唾をのみ込み、血の気の引いた表情でティーダを見つめていた。
そして恐らくは俺も――アルガスと同じ顔をしていたのだろう。
だから、声がするまで気づかなかった。

「……なんだなんだ? 取り込み中なのか?」

そう呟いたのは、いつのまにか部屋の入口に立っていたヘンリーだった。
その隣には五体満足なマッシュがいる。
さらに、二人の後ろから、リルムがひょこっと顔を覗かせた。
「あれ?! ティーダ!?」
「リルム!?」
目を見開く少女に向かい、ティーダは駆け寄り、抱きしめる。
「リルム、無事だったんだな! 良かった、本当に良かった……!
 誘拐されたって聞いて、心配だったけど……ラムザ、頑張ってくれたんだな! 良かった!」
「おまえが良くねえだろ、ニブチン!」
情け容赦のない毒舌と共に、小さな拳が、ティーダの顔に突き刺さった。
呻き声を上げながら、ティーダは鼻を押さえ、年下の仲間を睨みつける。
209「無理に決まっているだろう」 12/13:2013/03/08(金) 23:34:19.68 ID:GEIeWSTz0
「いてっ!? な、何するんだよ!?」
「聞いたんだぞ、おまえが死んだってこと!
 大変だったんだぞ! モヤシヤローはわんわん泣くし、リュックだってあたしだってショックだったんだぞ!
 だいたいユウナを残して死ぬとは何事だ!? おまえ、それでもオトコか!?」
「俺だって死にたくて死んだわけじゃないッス!!
 ユウナがいきなりおかしくなって、話そうとしても聞く耳もってくれなかったんだっつーの!」
「ユウナのせいにするなー!
 どうせニブチンがユウナの気持ち無視して、ロザリーとかいう子にハナの下延ばしたりしたんだろ!」
「してねーよ! 俺はユウナ一筋ッス!
 そりゃエドガーの事でユウナと喧嘩しちゃったり、アービンの事があって後回しにしちゃったりしたけど……!」
ぎゃーぎゃー喚き合う二人の子供を、ヘンリーとマッシュは呆然と見やる。
そして不意にアルガスが俺に向き直り、親指でティーダ達を指し示した。

「頼む、収拾つけてくれ」

――俺の答えは、一つしかなかった。



【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議、およびティーダから情報収集
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】
210名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:36:47.28 ID:Bg+Kt3gw0
 
211「無理に決まっているだろう」 13/13:2013/03/08(金) 23:37:21.90 ID:GEIeWSTz0
【ヘンリー(HP2/5、リジェネ状態、睡眠)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:夢世界で話を聞く
 第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、MP1/10、睡眠)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:アーヴァイン達とソロ達が心配
 第二行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/4、精神的にすごく疲労)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、MP1/8、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【マッシュ(HP1/20、右腕欠損、睡眠) 所持品:なし】
 第一行動方針:夢世界で話を聞く
 第二行動方針:エドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】

※非召喚時のみ、ティーダは夢の世界にいます。
 ウネの鍵の持ち主以外が、夢世界で呼び出せるかどうかはわかりません
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/08(金) 23:40:04.51 ID:Bg+Kt3gw0
 
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/09(土) 00:11:26.05 ID:/SYHU3Ob0
遅れましたが支援ありがとうございました!
さるさんめ…ぐぬぬ
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/09(土) 15:01:11.78 ID:QPdsHdXEI
マッシュのエドガーを探すって何らかの形で解消させてあげたい。辛いだろうが(´・_・`)
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/10(日) 11:57:27.31 ID:quGF/HTcO
放送はされたし既に伝わっててもおかしくはないよな

投下乙です
多分アルガスが居なけりゃ円満に行くんだろうな
でもその当人が鍵を握ってるっていう現状
ままならんなあw
216届かないのは祈りなのか 1/5:2013/03/14(木) 03:06:27.87 ID:Sk04T8/00
考えが纏まらない。
右半身が内側から食い破られ続けている。
視界が何重にも広がってぐらぐらする。
奴の血が身体の中を這いずり回っている。
苦痛と不快感と嫌悪で頭の中が満たされて、少しでも気を緩めればそのまま真っ白になってしまいそうだ。
なのに心のどこかが快感を覚えてる。自分自身が壊れていく事に悦びを感じてしまっている。
外見以上にぐちゃぐちゃな中身を抱えて、それでも、そんな自分がおかしいと思っていられるのは――
何度も助けてくれた友達が、今でも隣にいてくれるから。
そして信じてくれた仲間の事を、忘れずにいられたから。

風を切って走るボビィの背から落ちないよう、必死に手綱を握りしめる。
何処に行けばいいかなんてわからないし、決めてない。
いつもみたいに、今の事とか先の事とか考えようとしても、痛みが霧散させてしまう。
深海から陸に引っ張り上げられて、酸欠と浮き袋の膨張で苦しんでいる端から包丁を入れられて、
生きたまま身を捌かれる魚なら、多少は僕の気持ちをわかってくれるのだろう。
ため息と共に目を閉じると、脳裏に思い描いた魚の姿がぐにゃりと歪む。
羽。羽。羽。
海は血の色に染まる空に、魚は無数の羽をまき散らしながら飛び立って、遠くにある星の輝きへ向かう。
何度目だかわからない。数える気にすらなりゃしない。
『還って来い』と呼んでいる。セフィロスが呼んでいる。
僕の中に流れてしまった奴の血が、還りたいと叫んでいる。
ジェノバだかバジルソースだかになってしまえば楽になれるんだと、頭の中から囁いて、何度も何度も幻影を見せる。
そして僕はそのたびに、首を横に振る。

楽になんかなりたくない。
僕は苦しんでいればいい。
僕だけが苦しんでいればいい。

混濁した意識と記憶の奥にぼんやりと浮かぶ、太陽みたいに眩しい笑顔。
誰より大事なあの子の、先に逝ってしまった仲間達の、何かの拍子にたまたま偶然奇跡的に見かけてしまった今生きている二人の。
そして、この世界で見つけた友達と、そいつを心底好いてるあの子にちょっとだけ似た女の子の、輝く笑顔が守れるなら。
"もう会えないんだ"って絶望の果てに、見つけることができた希望が、それだから。
僕が死ぬ時、泣いてるのは僕だけで、皆は翳りのない笑顔を浮かべている――そんな未来を掴みたいから。
だから、しがみ付く。
ボビィの身体に。強くなりたいと願いながら、いつだって地を這ってきた、どうしようもなく弱い自分に。
そして握りしめる。人のままの左手で、すぐそこにいる友達の掌を。
すっかり魔物のそれに代わった右手で、逃げるための手綱を。
217届かないのは祈りなのか 2/5:2013/03/14(木) 03:10:02.42 ID:Sk04T8/00
草原は、祠から城までずうっと広がっていて。
僕自身の眼を閉じても、魔物の目玉が四方八方の風景を送り込んでくる。
さながら失敗した立体視の画像。
良く見ようとすれば一枚一枚に分ける事もできるけど、良く見ないとごちゃごちゃに重なって、ブレにブレて何がなんだかわからない。
「クエ、クエックエ?」
ボビィが何かを言っている。
声は聞こえるのに何を言いたいのかがわからない。
そもそもチョコボなんだから言葉が理解できるはずない、って当たり前のことを思い出すのにも時間が必要で。
考えが進まない眩暈が止まらない。
人外の視力は草原の彼方まで見通して、城の影も塔の影も山の影も黒い靄も一緒くたにぶちまけ続ける。
吐き気を感じる暇さえ無く、唐突に逆流した胃酸が喉や舌を焼いた。
不思議な事に、お腹いっぱい詰め込んだはずの生肉は出てこない。
大方、奴の血に吸収されて、僕の身体を造り替える材料になってしまったのだろう。
「クエ〜」
ボビィの声。心配してくれているのか、羽を汚してほしくないのか。
後者だったら可哀想だから、口の中に戻ってきた液体をもう一度飲み込んだ。
限界なんてとっくに超えている。感覚が溢れすぎてパンクしてる。
それでも、ティーダがいてくれるとわかっているから、まだ頑張れる。
僕が弱音を吐いていたら、ニブチンのティーダはこっちを心配し続けて、またユウナのことを後回しにしてしまうから。

「……ぃーぁ"……」
声が上手く出せない。
喋れないっていうより、単純に、喉や口の中や全身が痛くて喋るのが辛い。
痛み止めの方法として"【闇】のジャンクション"という思考が一瞬だけ頭を過ぎったけど、
今やっても反動でショック死ってオチしか見えないから、却下した。
しょうがないから気合で声を振り絞る。
「がん、ばる、よ、ぼく、……ユウナ、の、こと、たすけ、て、みせる。
 そんで、こんどこそ、やくそく、まも、る、から……ティーダ、にんげんに、なれる、ほうほう、さがすから、さ。
 だから……ふたり、とも、なかなおり、して、ほし、いんだ……」
聞こえていればいいと願いを込めて、叶えたいと祈りを込めて、呟いた言葉。
でも――それが現実に近づく機会は、あまりにも早く廻ってきてしまった。

「クエー、クエ、クエー」
ボビィが何度も鳴き返す。気づけばその足はぴったりと止まっていた。
「どう、した? ……はし、って」
僕は手綱を振ろうと右手を動かす。
視界がブレた、その一瞬――僕は、ボビィが立ち止まった理由を目にした。

向こうの茂みから、黒い靄を纏って走ってくる、その人影は。
紛れもなく、たった今助けると誓ったばかりの、彼女のものだった。
218届かないのは祈りなのか 3/5:2013/03/14(木) 03:12:01.36 ID:Sk04T8/00
「ユウ、ナ」

黒い靄がぶわっと沸いているのが、とんでもなく遠目からでもわかる。
こちらから向かったら、彼女はどうなるだろうか。
僕を殺そうとするのだろうか。それとも、逃げて行こうとするだろうか。
熱暴走寸前の脳みそを無理矢理働かせる。
ユウナを助けたい。彼女だけは絶対に助けたい。
痛いとか苦しいとか言ってる場合じゃない。

「ボ、ボビィ、……あっち、へ、ユウ、ナ、の、傍、へ!」
息を荒げながら、彼女がいるはずの方角を指し示す。
ボビィは少しだけ不安げに僕を見たけれど、黙って走り出した。
チョコボの足は速い。すぐに彼女の視界に入る距離まで到達してしまうだろう。
その前に、考える。
どうすればいい? 僕はどうすればいい?
考える。考える。考えろ。
かかっているのは僕のじゃない、ユウナの未来と命だ。
「ぅ、ぁ」
脇腹から生えた触手を動かして、ザックを探る。
有り得ない場所から送り込まれる有り得ない感触が、強烈な違和感となって頭に届く。
でも、両手よりずっと多い触手は、使えそうな道具をまとめて引っ張り出せた。
スコールがくれたライフル。ピサロ達の墓前にあった剣や槍や杖。

「ぁ、……そう、だ、この、つ、え、たしか」
僕は期待を込めて杖を振る。
ぽわわわん、という音と共にピンクの煙が立ち込め――治まった後に、僕の姿が残る。
羽も触手もなければ、余分な目玉もついてない、紛れもない人間の僕だ。
残念なことに体調は元に戻ってないし、そのくせ着てるローブは不自然な事に新品へ戻ってしまっているけれど。
でも。
「これ、なら……!」
どろどろ淀む感覚を押しのけて、鮮烈な閃きが浮かぶ。
あるいは普段なら簡単に思いついていたのかもしれないけれど、今の僕には、すんごいグッドなアイデアに思えた。
「いけ、る……や、るよ、ボビィ、ティーダ……!」

左手の中に舞う光の粒を見つめ、目を閉じて胸に押し当てる。
「力を貸してくれ」と勝手に祈り、そのまま深呼吸をする。
それから僕はライフルを構え、視覚に意識を集中させた。
無数の映像の中からユウナがいる場面を探し出し、自分の視界に当てはめて、そこだけを見つめる。
視力と集中力が僕の取り得だ。
サイトを覗けば、もう、他の事は感じていられない。
219届かないのは祈りなのか 4/5:2013/03/14(木) 03:14:01.73 ID:Sk04T8/00
「ボビィ、とまれ!」
最高の距離まで近づいた所で指示を出す。
急ブレーキの慣性が身体を揺らすけれど、落ち着くまで待ちはしない。
この狙撃はユウナに当てる必要なんてない。当てなければいいだけなのだ。
だから、息を吸い、吐き切ると同時にトリガーを引く。

特徴的な音と共に飛来する光は、狙い違わず、ユウナの近くの地面を抉った。
彼女がこちらを振り向く。
僕の姿はちゃんと見えているだろうか。
わからないけれど、手綱を振るい、ボビィを走り出させる。
彼女はすぐに追ってきた。
当然だ。ティーダより、僕の方が、ずっと憎いはずだ。
"人殺しの分際で大好きな人の関心を奪った挙句、愛を引き裂いたクズ男"。
きっと彼女にとって、僕は、そんな存在で。
思うだけで悲しくなるけれど、涙をこぼす暇なんてない。

目指すは西。
スコール達も、ロック達も、セフィロスの奴も、誰もいない方角。
仲間を傷つける事も、僕が操られて自分を見失う事もない場所へ、彼女をおびき出す。
そして一対一に持ち込んで、接近して、彼女を狂わせている【闇】を奪い尽くす。
そこから先は、ティーダの仕事だ。
二人っきりになって、色々な事をたっくさん話せば、きっと、また分かり合えることができるはず。
僕達が小さい頃の思い出を取り戻せたように。
忘れてしまっても、本当に大切な気持ちは、必ず心の奥で眠ってるから。

「ユウナ」

いくら一生懸命追いかけたって、人の足がチョコボの足にかなうはずもない。
どんどん小さくなっていく姿に、”君が僕を嫌いでも、僕は君の事、好きだよ”と、届かぬ言葉を送り。
そして、自分自身に言い聞かせる。

「がんば、れ……ぼく」

死なせてしまった友達と、傷つけてしまった女の子の為に。
僕自身が望む未来の為に。
やり遂げて、戦い抜こう。
そして今度こそ、今度こそ希望を掴んでみせるんだ――!


*****************
220届かないのは祈りなのか 5/5:2013/03/14(木) 03:16:32.62 ID:Sk04T8/00
*****************


アーヴァインは知らない。
ユウナが殺めた人の数を。
抱えこんでしまった【闇】と狂気の量を。
そして何より、彼女を翻弄した道化師の策を知らない。
いくら変化の杖の力を借り、人だった頃の己自身に化けたとしても。
ユウナの眼に映る彼は、彼女を惑わす為に現れた、出来のいい偽物でしかない。

何故なら――"彼女が憎むアーヴァイン=キニアスは、ラムザ=ベオルブの姿で逃げ回っている"のだから。

故にユウナは、すぐにチョコボに乗った男の追跡を止め、別の方角へと歩き出す。
彼女にとって白いローブを着た茶髪の男は、絶対にアーヴァインでは有り得ないのだ。
数時間前に殺めたティーダと同じ、自分を惑わすだけの偽物。
だから「何度もそんな手に引っかかるもんですか」と呟いて、彼女は笑う。
そこにいたのが本物のアーヴァインであることも。
彼の傍らにいる存在にさえ気づかないまま、元召喚士は銃を片手に、新たな殺戮の舞台へと赴く。


真実は歪み。
願いは砕かれる。
希望はどこにもなく。
未来は絶望に染まろうとしていた。


【アーヴァイン(変装中@白魔服、半ジェノバ化、右耳失聴、MP微量)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖) 祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:セフィロスから逃げつつ、ユウナを西におびき寄せる
 第二行動方針:脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右腕が変形し、右上半身が人型ジェノバそっくりになっています。
    また、セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】
【現在位置:デスキャッスル南の草原→西へ】

【ユウナ(ガンナー、MP1/8、HP9/10)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:皆殺し(アーヴァインと、ラムザの姿をした者が最優先)
 基本行動方針:脱出の可能性を潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:デスキャッスル南の草原→西以外へ】
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/15(金) 16:17:33.44 ID:LxGOktEC0
月報の方、集計お疲れ様です。
FFDQ3 677話(+ 4) 21/139 (- 0)  15.1(- 0)
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/17(日) 23:21:00.20 ID:LBxZWpK6O
新作乙です

アーヴァインの決意が泣かせるなあ…
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/23(土) 12:10:31.28 ID:iZ+kPSrM0
age
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/26(火) 07:31:19.29 ID:GkexUoYF0
age
225人の眼は、前しか見ないから 1/5:2013/03/30(土) 00:25:26.61 ID:mC0pQX+r0
「おい、リュック。
 奴らが向かったのは南で間違いねえんだよな?」
「んっと、あたしが見た時は、真っ直ぐ南へ行っちゃったんだけど……
 途中で別の方角に向かったかどうかまではわかんないなぁ。
 あたし、そこまで見てないし、見えないもの」

サイファーの問いかけに応えながら、あたしは内心でため息をつく。
アーヴァインを助け出したいのはヤマヤマだけど、サイファーに事情を説明する余裕がない。
このまま黙ってたら、サイファー、本当にアーヴァインのこと殺しちゃいそうだし――
だけど話をしようにも、どこまでダイジョブでどこからダイジョバないのか不安だし、一人で言っても信じてもらえない気がする。
それにカッパの中の奴の目的次第じゃ、時間をかければアーヴァインの身柄が危なくなるだろうし……

「……ホント、どーしよ」
「どうもこうも、このまま追ってみるしかねえだろう。
 南の方には拠点が二つある。どっちかに向かった可能性は低くないはずだ」
思わず口から独り言が零れてしまったけど、サイファーは気に留めなかったらしく、的の外れた事を言う。
でもまあ、確かに考えてどうにかなるとも思えない。
こーなったら、サイファーが暴走する前に、あたしが後ろから羽交い絞めにして……

「おい、リュック! 今、何か聞こえなかったか!?」
「ひゃいっ?! な、なにが?!」
心臓が口から飛び出すかと思った。
チョッピリやましいことを考えてる時にいきなり叫ばれたら、そりゃ、そーなるに決まってる。
けれどあたしの事はおかまいなしで、サイファーは眉間の皺を倍に増やしながら怒鳴りつけてきた。
「音だっつってんだろ! テメェも耳を澄ませろ!」
そーゆーふうに叫んでたら、聞こえるものも聞こえないんじゃないかなあと思ったケド、いちいち突っかかってても仕方ない。
あたしは言われた通り、周囲を見回しながら耳に意識を集中させる。
その時、視界の端を、おぼろげな光が一瞬だけ駆け抜け――

 ―――……ィン――

「間違いねぇ……光線の音、野郎だッ!!」
サイファーは憎々しげに吐き捨てて、光が放たれた地点へ向かい、走りだす。
殺気に満ちた声音は、あからさまに『見つけ次第ぶっ殺す』と宣言していて、聞くだけで背筋がひやりとする。
あわわわ。ど、どうしよう。
226人の眼は、前しか見ないから 2/5:2013/03/30(土) 00:26:49.80 ID:mC0pQX+r0
「ちょ、ちょっと待ってよ!
 光線銃があれ一個とは限らないし、似たような武器を持ってる人かもしれないじゃない?
 確認してみよ? ね?」
「確認だぁ?」
苛立ちと怪訝さを?き出しにしながら、それでも一応サイファーは足を止める。
余計な事を聞かれないうちに、あたしはとっさの思いつきを口にした。
「そ、確認。
 アイツら、チョコボに乗ってるはずだから、それなりにおっきな足音がするはずじゃない?
 だから、こうして……」
言いながら、あたしはかがみこんで、地面に耳を近づける。
青臭さと泥臭さが鼻をつくけれど、そんなことは気にしていられない。
「ああ、なるほどな」
ようやくサイファーの声から怒気が薄れた。
地面ってのは、空気よりもずっと鮮明に、足音や振動を伝えてくれる。
だからこうすれば、チョコボに乗ってる奴がいれば、だいたいの居場所がわかるってワケ。
んで……この足音は……
「南東かなぁ」
あたしは呟いてみた、けれど。
「いや、そっから西に向かって移動しているようだな」
顔を上げて見てみたら、サイファーも同じように足音を探っていた。
ぐぬぬ。あたしに任せてくれてたら、南東に誘導することもできたんだけどなあ。
そうしたら………

……あれ?
良く考えたら、アイツの身柄の安全の為には、あたしが合流しなくちゃマズイ?
……うん……良く考えるまでもなくそうだよ。
いくらサイファーが危険でも、カッパの方がもっと危険って可能性もあるんだし。

「何やってるんだろ、あたし」
「何言ってるんだ、助かったぜ。
 あのまま光の方に向かったら、間違いなく逃げ切られてたからな」
またまた斜め上の返事に、あたしが顔を上げると、やっぱりサイファーは数メートル先に駆け出していて。
「ちょ、だから待ってってば!」
どんどん遠ざかって行く背中が、これ以上小さくなったらたまらないと、あたしは慌てて後を追った。

*************
227人の眼は、前しか見ないから 3/5:2013/03/30(土) 00:27:38.27 ID:mC0pQX+r0
*************

本当にむかつく。
ほんっとうにムカツク。
あんな偽物を見せつけて、私が騙されると思ったの?
あれだけ挑発しておいて、私なら騙せると思ったの?
許せない。許さない。絶対に許さない。

急に、鉄の味が口中に広がった。
唇を強く噛み過ぎて、歯が皮膚を破ってしまったらしい。
赤い雫がつうっと流れ落ちていくけれど、そんなことはお構いなしに、草原を走り抜ける。
許さない。『     』だけは殺す。殺し尽くす。
誰に化けていようと逃がさない。もう殺すだけじゃあ済まさない。銃弾をぶち込んで完全解体しても心が晴れない。
ぽた、ぽた。
気付けば拳銃を握りしめていた拳から血が滴って、爪が紅の色に染まっている。
この痛みも『     』のせいだ。
『     』さえ居なければ。
百億の言葉で罵っても、千億の憎悪をぶつけても、まだ足りない。
仕留めなければ。殺さなければ。
あの塔で私を嘲って、あの城で私を見て笑ってる『     』に。
二度と逃げられないように両手足を潰して、私が味わった苦しみを全部思い知らせて。
それから心臓と脳に銃弾を撃ち込んで殺し尽くさなければ、私の心は満たされない。

それに、キミも、そう願ってくれるよね?
『     』は、キミの姿をした偽物を作って私を惑わせたんだもの。
あんな偽物じゃないキミは、私の事、応援してくれるよね。
いつだってキミは私の事励ましてくれたもの。
ありがとう。
大好きだよ。
だから、待っててね。

――遠くに見えていた城が、だんだんと鮮明になってくる。
その手前、城門の辺りで、動く影が二つ。
昼という程には明るくなく、夜と言っても真っ暗じゃないこの世界で、金と白の組み合わせは、少し目立つ。
急いで走って近づけば、片方ぐらいは撃ち殺せるかもしれない。
でも、銃声が城内に聞こえてしまえば、『     』は逃げるだろうし、ギードさん達だって異変に気付くだろう。
それはダメ。
『     』が、私が囮に引っかかったと思って油断してる今こそ、絶好のチャンスなの。
それに――……あの、西に向かって走り出したシルエット。片方が、リュックそっくりだけど。
でも、着てるドレスが全然違う。だからアレも偽物。
くすくすくす。
アレは『     』が放ったトラップで、あんなことする以上、やっぱり『     』は城にいる。
そういう事でしょ?
228人の眼は、前しか見ないから 4/5:2013/03/30(土) 00:29:47.77 ID:mC0pQX+r0
くすくすくす。そんなのに引っかかる程馬鹿じゃないって何度も言ってるのにね。
くすくすくすくすくすくすく。
ねえ。
『     』は、あの男は。
人の事、どれだけ甘く見てるんだろうね?

私の事、 ど れ だ け 甘 く 見 て る ん だ ろ う ね ?

……計画変更。
外から頭を撃つのは止めよう。
そんなに優しくしてあげる義理なんてないもの。
銃口を口の中にねじ込んで息もお喋りも出来なくさせてから、気絶する直前に引き金を引こう。
最初は下に向けて、肺を。それから脊髄。しばらく待って、死ぬ寸前に脳。最後に延髄。
残った汚い生ゴミは、黒魔道士のドレスにでも着替えて、氷漬けにして捨ててしまおう。
灰になんかしてあげないし、異界送りだってしたくない。
大好きな【黒いもやもや】になって永遠にこの世界を彷徨って苦しんでいればいいんだよ。
……ううん、それでも気が済まないなぁ。
いっそ、ロックさんが持ってた死者の指輪っていうのを嵌めてあげようか。
肉塊のまま生きた死体になって、何も出来ないまま蠢いて呻いて悲鳴を上げてればいいんだ。
それが一番お似合いの末路だって、キミも、そう思うよね?
わかってくれるよね。
私も、本物のキミの事はわかるもの。
キミなら私の事わかってくれる。そう信じてる。
大好きだよ。大好きなキミに早く会いたい。
だから頑張る。
ちょっとだけ悔しいけど、偽物のリュックをここで殺す事は諦めて、『     』を確実に仕留めるよ。
もちろん、後からきちんと殺しに行くから安心してね。
許せないものね。
リュックの姿を騙るなんて。
くすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす……

くす。
229人の眼は、前しか見ないから 5/5:2013/03/30(土) 00:32:20.87 ID:mC0pQX+r0
【サイファー(右足軽傷+中程度の疲労)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ
      レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
 第一行動方針:アーヴァインを殺す、場合によってはカッパも始末する
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(パラディン)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
     ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 第一行動方針:アーヴァインを救出する。必要ならサイファーに事情を説明する
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:デスキャッスル→南西へ移動】

【ユウナ(ガンナー、MP1/8、HP9/10)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:デスキャッスルに侵入し、中にいる人物の退路を塞ぐ
 第二行動方針:皆殺し(アーヴァインと、ラムザの姿をした者が最優先)
 基本行動方針:脱出の可能性を潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:デスキャッスル南の草原→デスキャッスル】
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/03/31(日) 15:35:25.01 ID:ZWsGbjfo0
投下乙です
さ、惨劇の時間だ……
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/04(木) 14:21:15.68 ID:7VY5jqB+0
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/10(水) 02:24:03.89 ID:Y2+V51QC0
やっと追いついた
と思ったら悲劇もしくは惨劇の予感しかしないとか…
ともかく乙です
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/16(火) 09:49:06.84 ID:zutluZAs0
234*ゆめのなかにいる* 1/11:2013/04/18(木) 02:56:14.91 ID:ru1k7MEX0
「さて。
 こ・ん・ど・こ・そ、落ち着いて話をしようじゃないか」
アルガスは、ずぶ濡れになったティーダとリルムを睥睨してから、勢いよく椅子に腰かけた。
領域の支配者たる自覚と優越感がそうさせるのか、右の肘掛けに体重を預けながら、俺達に視線を送る。
「ガキの喧嘩や、死にぞこないの戯言に付き合っている暇はない。
 どうせあの化物は捨て駒も同然、奴の生死なんぞより現状の打破を優先すべきだ。
 そうだろ、スコール?」
同意することなど出来ず、しかし完全に否定する事も出来ず、俺は黙って顔を背けた。
双方とも、そんな俺の態度が気に入らなかったのだろう。
水滴をまき散らしながらティーダとリルムが立ち上がろうとするが、一瞬早くアルガスが吠える。

「状況さえ理解してない輩や子供が口を挟むんじゃないッ!
 それともお前らは、一人の為に二十人を犠牲にしたいのか?!」

態度とやり口は問題だらけなのに、言い分そのものは正論に近いから性質が悪い。
多分、ヘンリーも俺と同じ感想を抱いたのだろう。
頭を掻きながら、アルガスとリルム達の間に割って入る。

「おいおい、そこまでにしとけよ。
 仲間割れしてる場合でもないけりゃ、新顔が居る理由だって聞いてないんだ。
 俺達もお前らに言っとかなきゃいけない事があるし、一回、きちんと情報を刷りあわせたい」
「俺もそうしてほしいな。
 スコール達の計画ってのも断片的にしか聞けてないし、ここでなら遠慮なく話せるんだろ?」

「………」
年長者二人の言葉に、さしものアルガスも思うところがあったのか、俺の顔を見やった。
『どうする?』と問いかける視線に、俺は小さくため息を吐いてから答える。
「焦ってもしょうがないだろう」
アルガスともう一人に向けた言葉は、果たして届いたのかどうか。
苛立ちを帯びた二対の目に辟易しながら、俺はひとまず、ティーダの方を向いた。
235*ゆめのなかにいる* 2/11:2013/04/18(木) 02:57:28.86 ID:ru1k7MEX0
「……ティーダ、だったな。
 あんたの言う召喚獣がどんな存在かは知らないが、アイツは馬鹿でも無能でもない。
 窮地を抜け出せていないのなら、あんたにもう一度助けを求めるぐらいはするだろう」

俺は確かに生身でここにいるが、他の連中は違う。
ここはあくまで夢の世界。
ヘンリーやマッシュ、リルム、アルガスの身体が祠内部に残っているように。
G.F.のようなエネルギー体にしろ、魔石のような実体にしろ、ティーダという存在の『中核』はアーヴァインの傍に存在しているはずだ。
そして例え熟睡していても、耳元で叫ばれれば、たいていの人間は飛び起きる。
ティーダがここにいる時点で、アーヴァインは危機から脱出できていて、助けを要する場面ではない。
そう判断していいはずだ。
それに――

「それに、俺達がいるのは南東の祠で、アイツと別れてから二時間近く経ってしまっている。
 だから直接助けに行くことは出来ない。間に合わない可能性の方が、ずっと高いからだ。
 それでも俺としては、あんたの話を聞いておきたいし、こちらの状況を理解してほしいと思う。
 それがアイツの為になるとも思っている」

「……どういうことなんだ?」
ギリ、と歯噛みしながら、ティーダは問いかける。
声音には隠しきれない焦りと猜疑心が滲み出ていたが、今すぐ立ち去ろうとしない辺りは、最低限の冷静さは残っているのだろう。
あるいは、他に出来る事がないとか、バッツのように自力で夢から覚める方法がわからないとかかもしれないが……
話を聞いて貰える機会がある事には変わりない。
ならばそれを生かして、伝えるべき事を伝えよう。
これ以上、あの二人を窮地に追いやらない為にも。

「単刀直入に言うが、俺達は首輪の解除方法を見つけだした。
 その方法を実行できるペアの一つが、アーヴァインとリュックだ」
「……は?」

ティーダにとって、さすがにこの話は予想外だったのだろう。
先ほどまでの険しい表情はどこへやら、ぽかんと口を開けて俺を見る。

「リュックと同じ世界の出身なら、機械について最低限の知識はあるんだろう?
 詳しい説明は省くが、首輪には盗聴器と生命判定装置が組み込まれている。
 首輪を解除し、機能を停止させると、主催者側には参加者が死んだものとして通知される。
 言い換えれば、首輪を外す際には、殺人が起きたように偽装する必要がある」
俺は一旦言葉を切り、「ここまではいいか?」と問いかけた。
ティーダは目をしばたたかせたが、すぐに頷く。
236*ゆめのなかにいる* 3/11:2013/04/18(木) 02:58:05.16 ID:ru1k7MEX0
「えっと、つまり、病院で使う心電図計る奴みたいなのが仕込まれてるってことか?
 んで、心拍がゼロになったら、どっかの機械に通知されるとか」
「ああ、その解釈で問題ない」

答えながら、俺はティーダへの評価を改めた。
心電図という単語がすぐに出てくる辺り、知識自体はリュックよりも上のようだ。
あるいはこの男が暮らしていた環境は、文明や技術のレベルがガルバディアに近いのかもしれない。
そういうバックボーンがあるのだとしたら、アーヴァインと打ち解けたのも納得が行く。
何だかんだいって都会派気取りだからな、アイツは。

「そういう前提があるから、俺達は全員で芝居を打っていた。
『あんたの死を知ったアイツが発狂して、俺とアルガスを殺し、
 リュックを人質として連れ去った挙句に他の参加者を殺して回っている』
 ――そんな設定でな。だから俺達とあの二人は別れて行動していたんだが」
「えーっと……じゃあ、話を聞いてほしいって言ったのは……」
「俺達の死や二人の行動が演技だとバレれば、全員の命が危うくなるからだ。
 例えばアイツの行動を責める奴がいたとして、あんた、言いそうだからな。
 『アイツはそんなことしない。きっと理由があるんだ』とか」
「あー……うん。
 言うッスね。言っちゃったッスね。間違いなく」

ティーダは得心したらしく、深々と何度もうなずく。
しかし、ふと我に返ったようで、急に俺に詰め寄った。

「で、でもさ。だったらやっぱり、アービン助けに行ってくれてもいいんじゃないか?!
 そりゃ、間に合わないかもしれないっていう理屈も、バレたらマズイってのもわかるけど……わかるけど!
 でも、やっぱり仲間なんだろ?! あんたらに協力してるんだろ!? だったら……!」
「だったら何だ? 
 化物一匹助ける為に、真っ当に生きてる人間様を犠牲にしろってのか?」

冷たい言葉に、ティーダは声の主を睨みつける。
だが、険しい視線に晒されても、アルガスは引く事なく喋り続ける。

「奴の代わりは既に居る。騒々しい女の代わりも、だ。
 わかるか? あの二人に、ここにいるメンバーを対価にして助けるほどの価値など無いッ!
 わからないというなら、もっとはっきり言ってやろうか?
 リュックはともかく、あの化物は死ぬべきだッ!
 奴の狂気が演技だと気付く者が出てくる前に、魔女の眼を引き付ける為に、惨めに無様に殺されて死ぬべきなんだよッ!
 出来る事なら、お前やエドガーを殺したあのキチガイ女と相討ちになってなッ!!」
「アルガスッ!!」
237*ゆめのなかにいる* 4/11:2013/04/18(木) 02:58:41.48 ID:ru1k7MEX0
俺より早く、ヘンリーが制止するが、それでも間に合わない。
視線を動かしてみれば、強張ったマッシュの顔が映る。
ウルでの死闘以来、殆ど気絶に近い体で寝ていたマッシュは、朝の放送を聞いていない。
教えようにも機会を逃し続け、またどう言って説明すればいいかもわからず、結局俺の口からは何も告げていなかった。
それはヘンリーやリルムも同じ事だったろう。
もし、マッシュに伝わっていたのなら、こんな表情を浮かべるはずもない。

「……ああ、いや、兄貴が死んだのは、リストとか見て、知ってたけどさ。
 ただ、ちょっと、こんなところで名前が出るなんて、……うん、なんていうか、少し、予想外だったってだけだ」
マッシュは頭を掻きながら、途切れ途切れに呟く。
間違いなく嘘だ。
肉親の死などという重要な事を黙っていた俺達が、罪の意識を感じないよう気遣っているのだろう。
短い付き合いだが……マッシュがそういう奴だということは、言われなくてもわかる。
そして。

「あんた、もしかして、エドガーの……?!
 それに、ユウナ、って……うわあああああああああああああああああ!!?」
ティーダもまた、『そういう奴』だということぐらい、わかる。
アイツにもユウナにも裏の顔を隠されたまま、純粋に二人を信じていた――どうしようもないお人よしということは。

「あああああああああああああああ!!
 ごめん、ゴメンっ!! ごめん!!!
 俺が!! 俺が、俺が、俺が、…うわあああああああああああああ!!!」

――マズイな。
俺も多少はアーヴァインから話を聞いているが……
殺された時にユウナの異変を知った所で、『昨日の夜の時点で既におかしくなっていた』ということは予想していなかっただろう。
あるいは、マッシュとエドガーが双子の兄弟だということが災いしているのかもしれない。
『体格も性格も全然違う』というのがリルムやマッシュ本人の評価だが、
参加者リストや攻略本の写真からしても、顔立ちそのものは瓜二つだ。
「落ち着け! 誰もあんたのことは責めてない!」
肩を掴んで叫んでみても、ティーダは頭を抱えてうずくまったまま、首を横に振るばかり。
「違う! 違うんだ!!
 俺が、ユウナを、二人を……! ロックもアービンもわかったのに、俺だけ、何も!!
 何も気づかなくて、二人なら大丈夫だって決めつけて、でもユウナは、ユウナは……!!」

うずくまって泣き崩れるティーダに、マッシュは一瞬だけ拳を握りしめ、すぐに開く。
……本当に泣きたいのはマッシュの方だろうに。
238*ゆめのなかにいる* 5/11:2013/04/18(木) 03:00:35.04 ID:ru1k7MEX0
「お前が……兄貴を殺したわけじゃないんだろ?
 だったら……スコールも言ったけど、責めはしないさ。
 兄貴だって、そういうこと、望んだりしないだろうしな」

リルムが唇を噛むのが見えた。
子供とはいえ、元の世界からの付き合いだ。
マッシュの声音が微かに震えている事に気付いたのだろう。
許すことを半ば強いられ、感情を押し殺して話しかけた言葉は、どれほどティーダに届いたのか。
断片的な謝罪と自責を呟き続ける彼を横目に、俺はそっとアルガスに近づき、「これ以上刺激するな」と耳打ちする。
アルガスは苛立たしげに鼻を鳴らしたが、反論はせずに、手を振って頷く仕草をした。

さて、……どう、話を変えればいいものか。
ティーダが俺達の状況を納得したところで、アイツの事を詳しく聞き出すつもりだったのだが、さすがに後回しにした方が良さそうだ。
と、なると、ヘンリー達の話を聞くべきなのだろうが……
ヘンリーはヘンリーで、とても気まずそうな顔をして、俺とティーダを交互に見やっている。
要するに、『そういうこと』なのだろう。

「ヘンリー。結局、サイファーへの引き止め工作は失敗したのか?」
言い出しにくいなら、こちらから聞くしかない。
ヘンリーは一瞬表情をこわばらせたが、すぐに観念したらしく、ため息を吐いた。
「ああ……リルムやバッツが頑張ってくれたんで、それなりに引きのばせはしたんだが……
 結局、サイファー一人で突っ張らせてしまった」
まあ、そうなるだろうな。
好戦的なロマンチストの夢は、突き詰めれば一つきり。
銀幕に映った魔女の騎士のような、英雄になることだ。
無論、アイツだってユウナ以外の人間に殺される気などないだろうし、俺とて端から捨て駒扱いするつもりなどないが。

「……サイファーは、間違いなくアーヴァインを殺す気でいる。
 それも、正義感や怒りだけじゃなくて、あいつへの同情心がデカイ」
「同情心だぁ?」
性懲りもなくアルガスが口をはさむ。
これ以上話を引っ掻き回されても困る――と思ったのは俺だけではなかったようだ。
アルガスが食い掛る前に、ヘンリーが素早く補足する。
「魔女に操られて狂った、って理屈で通してたからな。
 自分の意思でないのに友達を殺してしまったとしたら、正気に戻れたとしても、苦しむだけだと思っちまったんだろう」
「ハッ。そんな繊細な野郎かよ、あの化物様が」
「繊細だろうな、お前よりは」
ヘンリーの鋭い一言に、アルガスは憮然とした表情を浮かべて押し黙った。
強張った雰囲気が和らぐのを待たないまま、翡翠色の瞳は躊躇いがちに視線を彷徨わせる。
239*ゆめのなかにいる* 6/11:2013/04/18(木) 03:06:01.37 ID:ru1k7MEX0
「それと、ひそひ草を持っているのはソロのはずなんだが……連絡が取れない。
 多分、サイファーを追っかけるのに手いっぱいなんだろう。
 これだけ失態を犯した俺が言うのもなんだが……――アーヴァイン達の側にもトラブルが起きているとなれば……」
『最悪の事態を考えるべきだ』と言いたかったのだろう。
続く言葉を飲み込んだのは、ティーダへの配慮に違いない。
それきり、ヘンリーは口をつぐみ、顎に手を当てた。
彼なりに状況の打開策を打ち出すべく、熟思を巡らせているのだろう。
しかし、そんなヘンリーの努力を、リルムの一言がふいにする。

「ねーねー、やっぱさ、リルムがかっこよく皆を助けに行くってのはどう?」

「ダ、ダメだろ、そりゃ!!」
突拍子もない提案に、いち早くマッシュが反応する。
けれども当の提案者は、ぷうと頬を膨らませた。
「なんでだよー!
 ティーダが当てにならないのは見りゃわかるし、ソロとサイファーが突っ走ってるのは聞きゃわかるでしょ?
 一人ぐらい後追っかけて、説明しに行かないと、あいつら本当にモヤシヤローのこと殺しちゃうかもしんないじゃない!」
「だーかーらー! リルム、さっきも言ったろ!!?
 外には危ない奴がいるんだぞ! 子供一人で出歩くなんて、例えマッシュが許しても俺が許さん!!」
「いや、俺だって許さないって!!」
ヘンリーとマッシュが喚き立て、リルムが感情論で反論する中、俺はアルガスに視線を送る。
膝を組み、ふてくされた顔であらぬ方向を見やっているのは、リルム達の態度が気に入らないからだろう。

声に出す気はないが、アルガスの言い分だって間違ってもいない。
『一人の為に二十人を犠牲にするわけにはいかない』
『既に代わりがいる以上、ここにいるメンバーを対価にして助けるほどの価値は無い』
表現が悪かろうと、事実は事実だ。
それに、ティーダの言葉が全て真実であるならば……
モンスター化したアーヴァインに、人間としての意識が残っているのかどうか。そこから疑う必要さえある。
間に合うかどうかも、助けられるかどうかも、襲われないかどうかも、カッパの目的も正体も、何一つわからない。
だから『祠にいる仲間を助けに向かわせる』など、言い争うまでもなく論外なのだ。

――ならば、どうしたものか。
240*ゆめのなかにいる* 7/11:2013/04/18(木) 03:07:18.61 ID:ru1k7MEX0
未だに立ち直っていないティーダを見やりながら、先ほどの話を思い出す。
出てきた名前はユウナ、アーヴァイン、カッパ、それから知らない女の子とやら。
知人であるはずのリュックについて触れていなかったのは、明らかに不自然だ。
そもそもリュックが一緒に居たなら、幾らなんだってカッパの行動を止めるだろう。
何かの理由で離ればなれになった。そう考えるのが自然だ。
その『何かの理由』で最も可能性が高いのは、カッパによる襲撃からの拉致。
次いで、リュックの負傷あるいは死亡による離別。
あるいは既に仲間の誰かと遭遇していて、リュックの身柄を預けたあと、アイツ一人で逃亡していた可能性もある。
三番目だったら楽でいいのだが、希望的観測はできない。

それから、ひそひ草を持っているのに連絡を取ろうとしないソロ達も不安だ。
ヘンリーの推測通り、追跡で手一杯なのか。戦闘行為に巻き込まれているのか。
もしくは、もっと単純に、連絡を取るという習慣や概念自体がない可能性もある。
ソロという青年は、滅ぼされた故郷の為に魔王の軍勢を倒し、結果的に世界を救った"勇者様"という話だ。
他者の命令に拠らず、国家や組織といった後ろ盾を持たず、ただ同じ志を持った仲間と共に旅路を歩み目的を達成した。
言ってしまえば、一切の軍隊経験を持たない人間で構成された極小規模のパルチザン。
そんなやり方で本当に世界を変えてしまった奴が、『作戦を成功させるために、遠く離れた場所に居る仲間と情報を交換する』ことの重要性を理解できるだろうか?
それこそサイファーのように、『困難な状況でも自分が頑張ればどうにかできる』と思っていたっておかしくない。
今の状況で、そういう思考を持ち、ひそひ草を仕舞い込んでしまっているならば。
サイファーや他の仲間に渡す事さえ忘れてしまっているなら、命取りにも程がある。
連絡さえ取れれば、祠に戻るよう再誘導することも、カッパの危険性を忠告する事もできるというのに、その手段を放棄されては……
文字通り"話にならない"。

だが、正直にこれらの推測やティーダの話を伝えてしまえば、誰かしらが勝手に動いてしまう気がする。
リルムはアーヴァインに対して異常な信頼と仲間意識を寄せているし、ヘンリーやラムザにしても責任感が強すぎる面がある。
仲間を見捨てないためなら自分を見捨てられる。
アルガス以外、そういう連中ばかりだ。
どうしたものか。
ガーデンの指揮を丸投げ……もとい、指揮官に任命された時よりも、頭が痛い。
出来る事が限られ過ぎている――

――限られている?

そうだ。限られているんだ。
生存者が残り少ない以上、カッパの正体だけは消去法で絞り込むことができる。
241*ゆめのなかにいる* 8/11:2013/04/18(木) 03:08:33.17 ID:ru1k7MEX0
「アルガス。
 悪いが、居場所のわからない参加者をリストアップしてくれないか?」
俺の言葉に、アルガスは鼻を鳴らしながら一枚の紙を投げてよこした。
「そこらのデクの棒と一緒にするな、それぐらいとっくにやってるッ。
 ザックスの名前ぐらいは自分で消せよッ」
こういう事には手が早い。態度さえ直してくれれば、とつくづく思いながら、俺は紙を覗き込む。
書かれている名前は5つ。ザックスを抜いて4つ。
ユウナ、セフィロス、セージ、ケフカ。
このうちユウナは除外していいだろう。
彼女の人となりは良く知らないが、ティーダと仲違いした最大の原因であろうアーヴァインを生かすとは思えない。
そして残る三人のうち、セフィロスとケフカが危険人物だということはサイファー達だって知っている。
サイファーにしろソロにしろ、この事実に気付かない可能性は………さすがに、低いと信じたい。
二人が、カッパに対して警戒心を抱き、合流を優先してくれれば。
そしてサイファーにひそひ草が渡るか、城内に居るリルムの仲間がひそひ草の存在を知り、使ってみようとしてくれれば。
連絡を取れる可能性は、まだ残っている。

「ティーダ、頼みがある。
 あんたにしか出来ない事だ」
「……なんスか?」
膝を抱えっぱなしだったティーダがようやく顔を上げる。
夢の存在でも泣けば目が赤くなるのか、と妙な感想を抱きながら、俺は言葉を続ける。
「まず一つ。あんたが夢の存在だというなら、召喚者であるアイツの夢に入り込める可能性も0じゃないはずだ。
 もし夢の中でアイツと会話ができるなら、この世界の事を伝えてほしい」
「おい、スコール!?」
アルガスが悲鳴じみた絶叫を上げて立ち上がる。
「安心しろ。『その時』が来たら、俺が夢のホストになる。
 例の鍵さえあれば、俺でもあんたの真似事はできるんだろう?」
「そ、そりゃ、そうだろうが、……驚かせるなよ、心臓に悪い」
ふぅ、と息を吐きながら、アルガスはへたりこむように座った。
本当にトラウマになっているんだな。事情が事情だけに仕方がないが。

「夢の中って……召喚された時に話すのはダメなのか?」
ティーダが首をかしげるが、俺は頷いて答える。
「アイツがあんたを召喚するとしたら、相当切羽詰まっている時だろう。
 そんな状況で話が出来るとは思えないし……それに、夢世界は現状で魔女の眼から逃れられる唯一の場所だ。
 現実世界で迂闊に喋って、魔女に気付かれる事だけは避けたい」
「あー、そっか……うん、わかったッス」
「言われなくても気づけ」
アルガスのぼやきを黙殺しながら、俺は二つ目の頼みを口にする。
242*ゆめのなかにいる* 9/11:2013/04/18(木) 03:11:14.57 ID:ru1k7MEX0
「次に、今から手書きのメモを用意するから、それを持っていてほしい。
 そしてもし、召喚された時にそのメモを持ったまま実体化できたなら、メモを召喚者に渡してほしい」
「OKッスよ。……あ、そだ。ついでに剣貸してもらえないかな?
 俺、剣ならちっとは自信あるしさ。
 もし持ってけるんだったら、もっと役に立てると思うんだ」
「剣か。こいつらでいいか?」
ティーダの申し出に、余っていた剣を二振り取り出す。
攻略本によれば、それぞれ吹雪の剣、ガイアの剣、と銘打たれた業物だ。
ただ、見覚えがあったのか、ティーダは後者を指さして尋ねてきた。
「……これ、どこで拾ったッスか?」
「カズスだ」
バーバラの遺体を思い出しながら、俺は極力そっけなく答える。
ティーダは「やっぱり」と呟いたが、吹雪の名を冠する魔剣ではなく、刀身同様にシンプルな柄を手に取った。
そんな俺達のやりとりにようやく気付いたのか、リルムが素っ頓狂な声を上げる。
「あー! それ、ロランの剣じゃない!」
「ロラン?」
「二日前、いっちばん最初に会った、イケメン兄ちゃんだよ」
「んで、リルムやゼルやユウナと一緒にいた人ッスよね。
 優しかった頃のユウナと、一緒にいた……」
「う、うん」
リルムがこくこくと首を縦に振る。
ティーダはしばらく悲しげに刃紋を見つめていたが、やがて静かに言った。
「スコール。この剣、しばらく借りるッス。
 俺一人じゃ無理でも……ロランって奴や、リルムやゼルのこと思い出してくれたら、昔のユウナに戻ってくれるかもしれないしさ」
そんなに甘い話があるとは思えないが、希望を否定しても意味がない。
俺は黙って頷いてから、ふとある事を思い出し、急いで釘を刺す。

「そうだ、ティーダ。もう一つ言っておくことがある。
 ユウナがエドガーを殺したかもしれないというのは、ある人物の推測だ。
 間違ってもアーヴァインの前で言うな」

調子に乗ったアルガスが零してしまったが、あれはティーダにだけは絶対に話してはいけない内容のはずだ。
現に、リュック以外の人間には話すなと、目玉を抉ってまで口止めしているのだから。
そして性格と口こそ最悪に近いといえ、アルガスも仲間の一人だし、こいつにしか出来ない事もある。

「あいつはあんたへの友情と同じぐらい、ユウナを守りたいという意識が強いようだ。
 ユウナの名誉を汚す推測を立てた人間がいると知ったら、それこそ暗殺しかねない」
「……あー、……そういや、ユウナの事、好きって言ってたもんな」
それは単にあいつの女好きが発動しただけだと思うが……まあ、納得してるならいいか。
俺はこっそりため息をついてから、残りの三人を振り返った。
243*ゆめのなかにいる* 10/11:2013/04/18(木) 03:12:07.69 ID:ru1k7MEX0
「それとリルムにマッシュ、二人は先に起きてくれないか?
 冷静に考えてみたんだが、寝ている人間が多すぎると、有事の際に対応しきれなくて見張りの二人に負担がかかるかもしれない」
体のいい言葉で隠してはいるが、要は『リルムが口を挟むと話が進まないから起きてくれ』ということだ。
「ん、わかった」
さすがにマッシュは俺の意を組んでくれたらしく、右手でリルムの頭をくしゃりと撫でる。
ほんの少し名残惜しそうに眼を細めたのは、俺の気のせいではないのだろう。
罪悪感に心が疼く。
けれど、マッシュはすぐに屈託のない笑顔を浮かべる。
元気を出せ、と言わんばかりに。
「じゃ、また後でな」
「ティーダ! リルムの分までモヤシヤローとユウナのこと助けなよね!
 失敗したら、にが…」
リルムがいつもの台詞を言う前に、夢の主が指を鳴らす。
瞬間、二人の姿は掻き消えて、アルガスと俺、ティーダ、そしてヘンリーが残された。
「俺は起きなくていいのか?」
「ああ。ソロ達とひそひ草の事もあるし、アーヴァインについても話してない事がある」

一抹の不安はあるが、ヘンリーは一番の年長者で、かつ国政の為に前線を離れて久しかったと聞いている。
自分の実力を顧みる事ぐらいは出来るだろうし、為政者なら作戦や後方支援の重要性を理解しているだろう。
それに、身分が行動規範に組み込まれているアルガスに対して、王族という肩書は有効なはずだ。
デールの存在を重ねなければ、だが――それでも素直に夢世界に招いている事を考えれば、危ぶむ程ではないのだろう。

「話してないこと、ね……
 リルムに聞かせられないってことは、相当ヤバイ状況に陥ってるのか、アイツは」
「ああ。予想していなかった、最悪のパターンだ」
予想できる奴がいるとも思えないが、と心の中で零しながら、俺はティーダから聞いた話を語り出した――。



【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
  G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
  吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
  ※ガイアの剣(夢世界内でティーダにレンタル中、召喚時に持ち出せるかどうかは不明)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議、およびティーダから情報収集
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】
244*ゆめのなかにいる* 11/11:2013/04/18(木) 03:12:57.41 ID:ru1k7MEX0
【ヘンリー(HP2/5、リジェネ状態、睡眠)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:夢世界で話を聞く
 第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、MP1/10)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:アーヴァイン達とソロ達が心配
 第二行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/4、精神的にすごく疲労)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:首輪解除及び脱出に協力する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、MP1/8、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
      マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない
 備考:首輪の解体方法を覚えました】
【マッシュ(HP1/20、右腕欠損)
 所持品:なし】
 第一行動方針:休息
 第二行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】

※非召喚時のみ、ティーダは夢の世界にいます。
 ウネの鍵の持ち主以外が、夢世界で呼び出せるかどうかはわかりません。
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/18(木) 23:51:15.86 ID:ktPC2IBC0
投下乙です
確信に迫りそうで、あともうちょっとなんだよなあ。
マッシュ……
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/19(金) 08:56:49.35 ID:9DSp1q5zO
乙です

言い方って大事だよな…としみじみ実感するこの頃です
それはともかく作戦会議って燃えるなあ
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/19(金) 22:12:30.05 ID:Gvp+Rz/Z0
乙です
アルガスも言ってることは正論なのにねぇ
それにしてもリルムはええ子や…
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/20(土) 17:17:40.30 ID:cm4oESns0
南東の祠組は首輪の解除に成功したのがプラスにもマイナスにも働いている感じがするね
アルガスはともかく、スコールが直接ゲームに介入できなくなってるのは痛いと思う
249証明不能の虚構 1/4:2013/04/27(土) 00:50:59.05 ID:DLmS+8YA0
何故、"あれ"を追いかけなかったのか。

答えは幾つか出せる。
こんな姿である以上使えそうな道具は回収した方がいいし、追わずとも結果は変わらないからだ。
私の意に従おうと従うまいと、あれにはジェノバ細胞が根付いた。
かつて存在したいかなるコピーよりも、母の面影を強く発現した形で、だ。
あれが【闇】を留める器としての適性を持つ限り、中身を餌とすることでジェノバは成長し、進化へと至る。
そして私が望む通りにリユニオンし、新たな力を与えるだろう。

だが――それは、ただの言い訳ではないのか?

あれは、私に【闇】がないと言い切った。
奴を捕え、ジェノバとしての意識を目覚めさせれば、その言葉の真意を問いただす事は容易かっただろう。
あれを追うことを早々に諦め、こうして草原を歩いているのは――答えを、怖れたからではないのか?

私は、ジェノバの末裔である。
私は、神となることを望んでいる。
私は、星と一つになり、我が母のように星を渡り、新たなる世界を築きたいと願っている。
その自覚と想いに嘘偽りはなく、迷おうとも曇ることはない。
けれども、それらの夢を見ている私は、『セフィロス』と同一であるのか。
我思う、故に我あり――そんな言葉があるが、私自身の実在証明と、私が『セフィロス』である事の証明は、全くの別問題だ。

ククッ、と笑いが喉から漏れた。
『らしくない』
そう思える程度には余裕が残っていて、そう思わなければならないほど、心が乱れている。
それもこれも、全ては、今の私に過去の記憶が残されているからなのだろう。
ライフストリームの中で己を保つために切り捨てたはずの、不要な情報が。

どうしてそんなことが起きたのか、理屈はすぐに思い至った。
この身体は紛れもない実体だ。それに、私以外にも幾人かの死者が平然と生きて参加している。
死者が生前と同じ肉体を与えられているならば、ライフストリームに流れる前の記憶が、脳髄に残されていてもおかしくはないだろう。
それでも、切欠が無ければ思い出そうとしなかったし、気づきさえしなかったはずだ。
250証明不能の虚構 2/4:2013/04/27(土) 00:52:07.96 ID:DLmS+8YA0
アンジェロ。
この姿で言葉が通じた唯一の相手が、よりによってそんな名前の、参加者でさえない犬だとは。
魔女はこうなることを見越して、私に肉体を与え、アンジェロを誰ぞに支給したのだろうか。
だとしたら大した策士だ。素直に認めてやろう。
忌み嫌う人間どもの血を一切引かず、的確にあの男の思い出を呼び起こす事が出来るのは、あの犬だけだろうから。
……それにしても、さぞや、見物だろう。
この私が、どこぞの失敗作のごとく心を惑わせ、雌犬一匹にかつて友と呼んだ男を重ね合わせているなど。
滑稽にも程がある。

魔女も今頃高笑いを浮かべていることだろう。私を陥れた、あの道化のように。
腹も立たん。
ただ、忌々しいだけだ。
力を持つだけに過ぎない、唾棄すべき人間の掌で踊らされる人形のごとき我が身が。

誰に命ぜられずとも、全てを殺し尽くして生き延びるつもりだった。
人間風情に遅れを取るつもりなどなかったし、クジャを除いては私に並び立つ存在などいないと信じていた。
だが、こうなった以上、奴らの思惑に利する動きはしたくない。
【闇】を効率よく集積させる為にも、単なる殺戮などというつまらぬ任務は"コピー"に任せてしまえ。
私がすべきは――求めるべきは、首に巻かれた枷を外して元の姿に戻る方法だ。
魔女の手から逃れ、道化の術を破り、【闇】を集めた"コピー"とリユニオンし、魔女を含めた全ての生命を滅ぼす。
そうしなければ、私は、誇りを取り戻せない。

……――『誇り』、か。
口の端が意図せず歪む。
私がそんな言葉を思い浮かべるとは。

先ほど拾ったオーブをザックから取り出し、陽無き空にかざし見る。
ドラゴンオーブ。夢と現実を別つという宝珠。
私から『夢』を取り除いたら、そこに残るのは何なのだろうか。
星を喰らう本能に従って動く、ジェノバの末裔なのだろうか。
それとも、自らの使命を知らず、微睡の中で友情ごっこに興じていたソルジャー1stなのだろうか。
願わくば前者でありたい。
だが、私が真に『セフィロス』であるならば、後者であるはずだとも思う。
どちらにせよ、この宝珠の力に頼るならば、その過程で答えは明らかとなるはずだ。
城で出会った老獪な中年男は、素直に取引に応じるだろうか。
そもそも、元の姿に戻ってからでなければ、取引どころか会話すら出来やしないのだが。
251証明不能の虚構 3/4:2013/04/27(土) 00:52:57.61 ID:DLmS+8YA0
……それにしても、だ。
私は甘言に惑わされ、自分の存在などというものを殊更に意識する人間だったか?

踏み拉いた草の葉が、やけに冷たく感じる。
そんなことはないはずだと思いながら、脳髄から記憶を引き出した。
クラウド。エアリス。ザックス。アンジール。ジェネシス。ガスト。我が母。
予想よりも多くの影が脳裏を過ぎり――気づけば、ため息が口からこぼれる。
理想と現実の乖離。
いや、虚像と真実の乖離というべきか?
ライフストリームに集積された知識よりも、遥かに鮮烈に、この生身の体は色々な事柄を覚えていた。
脳裏に浮かぶ、切り捨てた過去の『英雄』は、自分の居場所を求めては裏切られるだけの、酷く脆弱な存在だった。
だからこそ真っ先に、その頃の思い出をライフストリームの彼方に流したのだと思い出す。
そして、だからこそ――

"だからこそ私は、奴と、会おうとしなかったのか"

呟いた言葉は「カー」という間抜けな鳴き声に変わって消えていく。
ライフストリームの知識を吸収しても、一人だけ、行方がわからない男がいた。
人であった時には、奴と交わす言葉など最早無いと決めつけていた。
だが、ジェノバの使命に目覚め、ライフストリームに堕ちた後も――
奴が生きている可能性に気付いた後でも、探し出そうとは思わなかった。
ジェノバ細胞の持ち主ならリユニオンに応じるなどと考えたわけでもない。
ただ、純粋に、会いたいと思わなかった。
かつて友と呼んだ相手で、先に目覚めた同胞とも、己が鏡像ともいうべき男だからこそ。
アンジールが奴にそうしたように、奴が私にそうすることを、恐れたのだ。

……ああ、この感覚だ。
ガストが私の元から去った時。
ジェネシスとアンジールが消えた時。
神羅屋敷で真実を知った時。
何もかもが揺らいで、足元から消えていくような、――一番嫌いな感覚だ。

夢は揺らがない。
過程はともかく、目的もさして変わらない。
けれど、………

気付けば足は真っ直ぐ城へ向かっている。
『オーブを渡すにしろ渡さないにしろ、プサンの居場所を掴むべきだ』という理由は、後から思いついた。
結局のところ、答えなど出ないし、証明する術もない以上、問う意味などないのだ。
ここにいる私が誰なのか、など。
252証明不能の虚構 4/4:2013/04/27(土) 00:53:33.44 ID:DLmS+8YA0
【セフィロス (カッパ)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ 筆記具
     ドラゴンオーブ、スタングレネード、弓、木の矢28本、聖なる矢15本、
     コルトガバメント(予備弾倉×1)、波動の杖
 第一行動方針:カッパを治して首輪を外す、その為に必要ならアンジェロと再合流する
 第二行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第三行動方針:黒マテリアを探す/ケフカに復讐する
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:希望の祠→デスキャッスルへ移動】
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/28(日) 22:22:02.18 ID:4gDWOZpb0
投下乙です

って、おまえも来るんかーい!(髭男爵
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/28(日) 22:42:25.07 ID:wuh5Mnxt0
乙です
デスキャッスルが何かに包まれて吹っ飛ぶ日も近いな
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/29(月) 07:18:08.54 ID:27kewcJHI
女子12番・中田智江子(なかだ・ちえこ)

ゲーム部。ゲーム組。
卑屈な性格で、いつも人の悪口を言っている。
3度の飯よりゲームが好きなほどのゲームオタク。

身長/152cm
愛称/智江ちゃん


支給武器:小刀
kill:なし
killed:上田昌美(女子2番)
凶器:小刀
 

G=04エリアで潜伏。優勝しようと企み、遭遇した昌美を盾にしようとするが、企みがばれて小刀で刺殺される。

 

悪口っ子登場です。
前から思っていましたが、この子書きにくい!!
悪口いっぱい言わせるのは難しいです(>_<)
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/04/29(月) 12:36:38.26 ID:M68lNCIZ0
新作乙です どうなるんだ闇の世界
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/04(土) 22:13:00.46 ID:j2B9AbNQ0
258現実は思い通りには進まない 1/17:2013/05/11(土) 01:13:32.97 ID:/xkwGmu50
草原を突っ切って駆けていくチョコボの姿を垣間見たのは、何分前の事だったか。
さすがに追いつけないかと、似合いもしない弱音が浮かぶ。
「ひゃあ、……やっぱ早いね、チョコボって」
息を切らしながらリュックが呟いた。
ヘイストも使ってないのに俺に追い縋っているのだから、体力が尽きるのは仕方がない。
仕方がない、とわかっちゃいるが……『だらしねぇな』という感情を消しきる事も出来ない。
最もその想いの矛先は、リュックよりも、俺ともう一人のヤツに強く向けられているのだが。

(――スコール)

ウルで殴り合ったのは今朝のはずなのに、一年も二年も昔の出来事に感じる。
いや、日が昇る前だったから昨晩に入るのか?
どっちにしたって、過去形で語りたくもないことが、過去になってることには変わらない。

(なんであいつが、あの魔女にもクソッタレのガルバディア野郎にもやられっぱなしで死ぬんだよ。
 有り得ねえ。有り得ねえだろ、ちくしょうが!!)

わかっている。
悪態を吐き連ねたところで、現実は変わらない。
俺がすべきことは、さっさとクソ野郎を殺して、脱出手段を探して、魔女を倒すことだ。
情けねえライバルの為に、奴がやり残した任務を代行する。
三流映画にありそうな安っぽいシナリオだが、文句をつけることもできやしない。
苛立ちを募らせながら、チョコボの足で踏みつけられた草を頼りに、後を追い続ける。

どれほど走り続けただろう。
ソロと通った道を駆け抜け、そろそろテリーたちの墓がある場所に差し掛かろうという時、ようやく俺達は人影を見た。
覚えのある後ろ姿だ。
だが、同時に――そこにいるはずのない奴だ。

ロック=コール。
草むらに佇んでいる男は、先ほど城で見かけたそいつと、寸分違わない背格好をしていた。
どういうことかと記憶の糸を辿り、ふと、あることを思い出す。
ひそひ草でヘンリーが言っていた。
タバサの死に居合わせた三人――野郎とピサロとリルムってガキが、ターニアと一緒に、『偽物のスコール』と出会ったと。
もしかしたら、その偽者がスコールに化けていた道具を、何かの拍子に手に入れていたのかもしれない。
259現実は思い通りには進まない 2 /17:2013/05/11(土) 01:15:06.44 ID:/xkwGmu50
「リュック。
 昼間にヘンリーが言ってたが、確か、野郎がピサロ達といた時――」
俺がそのことを尋ねると、リュックはしばしきょとんとした表情を浮かべていたが、急に眼を見開いて勢いよく頷いた。
「あ、ああ、うん!
 そういえば、他人の姿に変身できるって杖、いつの間にか拾って持ってた!」
そういう大事な事は先に言えとも思ったが、立て込んでいたし、責めても仕方がない。
推測が当たっていたと確定できただけマシだ。
「なら間違いねえな。
 他人の格好してりゃ誤魔化せると思ったんだろうが、そうはいくかよ」

奴は俺達に気付いた様子もなく、じっと突っ立っている。
背中を向けているし、足元――正確には膝から下――も茂みに埋もれていて良くわからないが、
手元が動いている辺り、道具か何かを弄っているようだ。
チョコボの姿が見当たらないのは妙だが……
背丈の高い茂みも多いし、大方、どこかしかに座り込ませているのだろう。
問題は、こんなところで何をしているか、だが。

(キチガイの考えなんてわかりっこねえし、気にすることでもねぇ。
 むしろ、意識が逸れてる今がチャンスだ)

「……リュック。お前はここで待機しろ。
 俺が向こうに回り込んで、奴に魔法で攻撃をしかける。
 そうしたらタイミングを見て、奴の背後からぶん殴れ」
「えっ?」
リュックがぽかんと口を開ける。
「わざわざ挟み撃ちするってこと?
 い、一緒に不意打ちするんじゃダメなの?」
「ダメだから言ってるんだよ」
俺は舌打ちしながら答えた。
奴はスコールを殺している。
だから、スコールが持っていたパンデモニウムも奪われていると考えなければいけない。
「奴は『さきがけ』のアビリティを使ってる可能性がある。
 だとしたら、どれだけ早く攻撃を仕掛けても奴が先に動く。
 けどな、『さきがけ』が効力を発揮するのは、最初に攻撃を受ける時だけだ。
 二撃目以降は関係ねぇし、弱めの魔法で一撃喰らわせとけば、リフレク使ってるかどうかもわかる」
「んー……理屈はわかったけど、あたしが先に攻撃する側じゃダメなの?
 先に動かれるって事は、向こうの一撃は絶対に喰らうってことじゃない?」
「……」
リュックの指摘に、俺は思わず押し黙る。
的を射ていたから――というよりは、口にするのが無性にこっ恥ずかしかったからだ。
お前の言う通りだからこそ、俺が一撃目を担う方がいいと思った、などと。
260現実は思い通りには進まない 3 /17:2013/05/11(土) 01:16:17.44 ID:/xkwGmu50
「あたしの方が重装備だしさ、頭さえ守れば致命傷は防げるもん。
 サイファーは確かに早いけど、光線銃を避けきるのは難しいっしょ?
 だからあたしが不意打ち係やるよ。
 あ、そーいや確か、その剣って炎魔法出せるんだったよね?
 じゃあ代わりにこっちの剣貸すから、それ借してよ!」

リュックは一方的に言い放ち、破邪の剣を奪い取って銀色の剣を押し付けると、引き止める間もなく動き出した。
重装備のくせに物音一つ立てないのは、生まれ持った資質って奴なのか。
俺は何一つ言い返せないまま、むしゃくしゃした気持ちを抱え、リュックと野郎の動きに気を配る。

野郎は動かない。
さっきから、思い出したように腕を動かすだけだ。

(何か読んでいるのか?)
そんな推測が頭を過ぎった時だった。
視界の先で炎が迸り、野郎が顔を上げる。
『さきがけ』を使ってなかったのか、と思う間もなく――リュックの悲鳴が聞こえた。

「ひっ、ひゃああああああああああああああああ!!?」

「リュック!?」
俺は抜き身の剣を構え直し、野郎に向かって突進する。
だが、奴に届く直前、ビロードにも似た奇妙な感触が足元から伝わった。
(何?!)
滑る。
バランスを崩した斬撃は奴の服を切りつけるにとどまり、俺はそのまま姿勢を崩してしまう。

(しまっ――……?)

己の不覚を呪う言葉が出尽くす前に、俺の眼は自分が踏んだものを捉える。

翼だ。

巨大な、黒い翼。

それは、横になって寝転がっている、見覚えのありすぎる男の背から生えていた。
261現実は思い通りには進まない 4/17:2013/05/11(土) 01:18:08.08 ID:/xkwGmu50
******************

眠い。
(どうして?)
……わからない。

起きなきゃ。
(なんで?)
……わからない。

「――ぉーぃ」

眠い。
(何か忘れてない?)
……眠くて、思い出せない。

「ぉーぃ、ぉ`―」

どうしてこんなに眠いのか、頭が朦朧として何も思い出せないし、考えられない。
でも、大事な事を忘れてる自覚と、聞き覚えのある誰かの声が、意識を夢と現実の狭間に引き止める。
苦しくて、気持ちが悪い。
せめてあと五分だけでも眠っていたい。
だけど、僕の中の理性と、僕の身体を揺すっている誰かが「起きろ」と言う。
ゆらゆら動く天秤は次第に現実へ傾いていって、ぼやけていた感覚がはっきりと痛みを形作っていく。

「おーい、起きろ! 何があったんだ!」

何度目かの呼びかけに、僕の意識はとうとう現実へ引き戻されてしまった。
自分の瞼を開ける前だというのに、視界に銀の輝きが煌く。
ティーダよりかは鋭い眼光。身軽さと古臭いオシャレを同時に追求したような衣装。
見覚えのあるそいつは、誰かさんよりずっと短い銀髪を派手なバンダナで覆い隠しながら、僕の頬をぺちぺちと叩いていた。

「やっと起きたか。何があったんだよ?」
「……ロ、ック?」

名前を呼ぼうと口を動かした事で、意識がより覚醒したのだろう。
ずきん、と背中の右側に激痛が走る。
「うあ"、ああ"あっ」
言葉にならない声が、勝手に喉からこぼれた。
反射的に両手で地面を掻きむしった所で、ようやく自分が仰向けに倒れていることを悟る。
262現実は思い通りには進まない 5/17:2013/05/11(土) 01:19:52.30 ID:/xkwGmu50
「なん、で……?」
ずきん、ずきんと、喉からの痛みが脳に響く。
どうして倒れていたのか。何が起きたのか。
そっちを先に思い出そうとも考えたけれど、目の前にいる奴の方が問題だ。
昨日の夜から今朝にかけて、ほんの少しだけ同行した、いまいちソリの合わないヤツ。
あのメンバーの中で唯一嫌いだと断言できて、けれども僕の側に非があることもわかっているから、敵視する気にもなれない相手。
それがロックで、だけど、彼は確か――

「なん、で、あんたが……城に、いる、はずじゃ……」

ロックはギード達の護衛をするために、デスキャッスルに残ってるって話のはずだ。
そしてここが城より離れた場所なのは、僕の視界をもってしても草むらしか見えない時点で確実なこと。

「こんな状況で残ってられるかよ。
 だいたいな、俺の事より、お前だよお前。
 なんなんだ? そのイメチェン失敗にも程がある恰好は」

ロックは後ろ髪を掻きながら、僕の眼を覗き込んで尋ね返して来た。
"こんな状況"って何があったんだろう? ティーダ達の事を言ってるのか? 城で事件が起きたのか?
不安で仕方ないけれど、先に、向こうの質問に応えなきゃ教えてくれなさそうだ。
思考を邪魔するどころか、遠のかせようとする痛み――
――さっき生えた片翼が体重で潰されてるせいだ――に辟易しながら、どうにか返事を絞り出す。

「……カッパ……セフィ、ロス……」

翼が自由になるように、身体をよじらせながらその名を呟いた途端、ロックが眉をぴくりと跳ねあげた。
妙な反応だと思ったけれど、そういえば今朝も奴の話題が出てたし、今と似たようなリアクションをしていたっけ。
ちゃんとは聞かなかったけど、やっぱり、あいつに仲間を殺されたんだろう。
きっと、ティナよりもずっと大事な人を。

「セフィロスの奴にやられたのか?
 アイツにそんな力があるってのか?」
首をかしげるのも尤もだと思うけれど、実際、"こうなってる"んだから、"そんな力"があったんだろう。
それより、なんでロックがここにいるのか聞きたい。
それから……そうだ。僕は何で倒れたんだ? 何で寝てたんだ?
確か、ボビィに乗って、……――ボビィ? ボビィは?
頭の中でクエスチョンマークが乱れ飛び、ぶつかって、増えていく。
そんな僕の気持ちなどお構いなしに、ロックはロックで質問を投げかける。
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:20:28.16 ID:AqTVpbSY0
 
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:20:53.31 ID:AqTVpbSY0
 
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:22:19.95 ID:AqTVpbSY0
 
266現実は思い通りには進まない 6/17:2013/05/11(土) 01:22:49.45 ID:69a/v8mvP
「奴はなんで、お前をそんな風にしたんだ?
 なんか悪い事でもしてたのか?
 いや、そりゃ、確かにピサロはお前の事を人殺しだって言ってたけどさ。
 そんな魔物みたいな姿にして放置プレイなんて、何がしたいのかわからんちんにも程があるぜ」
……なんかこんなシチュエーション、十数分前にもあった気がする。
銀髪のヤツは他人に質問するのが好きなの?
でもまあ、さっきと違って拷問されてるわけじゃないし、ロックになら話してもいい。
いや――話しておかないとマズいんだ。
いつまで自分でいられるのかさえ、今の僕にはもう、わからないんだから。

「回、収……【闇】を、……それで、ピサロ、の、……しんかの、ひほ、う、を……」
断片的な情報と、送り込まれた思念を寄せ集めた推測にすぎないけれど――
【闇】を使ってより強大な存在になるっていうのは、ピサロの研究である『進化の秘法』とほぼイコールで結べるはずだ。
現にピサロ本人だって、『進化の秘法の媒介に僕が利用できる』って言ってたわけだし。

「しんかのひほー? なんだそりゃ。
 ピサロの奴、そんな物持ってたのか?」
ロックは『ひほう』の部分を『秘宝』と思ったらしい。
間違える気持ちはわかる。
僕だって部屋に残ってた資料や、ピサロの筆談文を読んでなかったら、技術だと解釈できなかったかもしれない。
「どうぐ、じゃ、ない……
 研究、……あの、城で、ピサロが、やってた……強く、なる、ための……」
「そんな面白そうな事やってたのか?
 ふうん……ちょっぴし意外だけど、研究馬鹿ならザンデとウマが合うのも納得だ」
そう呟いて、ロックは口の端を吊り上げる。
胸の奥に生じる微かな違和感。
だけど感覚を確信に変えられるほど、僕はロックのことを知ってるわけじゃない。
まともに話したのなんて、今朝方森を歩いていた時だけだ。
それに、記憶の糸を辿る時間だって与えちゃもらえない。

「要するに、セフィロスの奴は今よりもっと強くなりたいってのか。
 結構迷惑な話だけど……お前、まさか協力する気はないよな?
 仲間なんだし、正直に話せよ?」

ロックが僕をねめつける。
間近で見たことはなかったけど、不思議な色だ。
紫なのか青なのか鳶色なのか、なんて表現すればいいかわからない。
吸い込まれそうな感じがして、意識がまた、ぼんやりしていく。
267現実は思い通りには進まない 7/17:2013/05/11(土) 01:23:54.13 ID:69a/v8mvP
「あいつの、いいなりには、なりたく、ない……
 ……でも……ぼくの、なかに、あいつの、ちが、……あいつが、いる……」

言われた通り、浮かんだ気持ちを素直に、正直に口にする。
ああ、でも、誰かに知っていてほしかったってのもあるかもしれない。
見た目がモンスターになっても、【闇】に歪められても、僕にはまだ自分の心が残ってるってことを。

「操られそうだってことか?」
「いまは、へいき………でも、あいつが、ちかくに……きたら………
 ぼくは……けされて……、あいつに……」

ロックは心配するように覗き込んでくる。
その眼を見てると、嘘をついちゃいけない気がしてくる。
視線を逸らそうとしても、億劫で、ぼんやりして、……話す以外の事が、上手く、考えられない。
「そうか。まあ、お前がそう言うなら信じてやるよ。
 俺達はアリーナと一緒に戦った、信じられる仲間同士だからな。
 仲間の俺に隠し事とかするはずないもんな」
念を押すように聞いてくる。
そうだ……ロックは信じられる仲間だから、隠し事をしちゃいけないんだ。
頷くそばで、眠気に良く似た奇妙な感覚が、意識も痛みも一緒くたにしてぼやかしていく。

「なあ、アーヴァイン。
 セフィロスの言いなりになりたくないなら、お前自身は何をしたいんだ?」
ロックの問いかけに、僕は眠ってしまわないように気を付けながら声を絞り出す。
「やらなきゃ、いけないことが、あるんだ……
 ユウナのことも、みんなのことも、たすけ、たいんだ」
「ユウナを助けたいぃ?
 あんな狂ってるのに、どうやって?」

なんでユウナがおかしくなってることを知ってるんだろう?
ちょっとだけ疑問に思ったけど、すぐに消える。
知ってる以上、どうにかして知ったんだろう。
そんなことより、話す事の方が大事だ。

「【闇】を、うばって……もういちど、ティーダに、あわせ、るんだ……
 いまの、ぼくなら、それが……できる、から……
 だから……ふたりきり、に、なれる、よう、おびきよせ、ようって……」
「え? 近くにいんのか?!」
ロックはきょろきょろと辺りを見回し、それから、がさごそ懐を探り出す。
ブレる視界の片隅で、見覚えのあるレーダーが一瞬だけ垣間見えた。
ユウナから借り出したんだろうか? わからない。考える気になれない。
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:24:18.70 ID:AqTVpbSY0
 
269現実は思い通りには進まない 8/17:2013/05/11(土) 01:24:49.43 ID:69a/v8mvP
「きっと、おいかけて、きて、るはず……さっき、……しろの、ちかく、に……」
「あー、なるほど、そうか」
ロックはすぐにレーダーを仕舞い込み、短く答えた。
それから僕へと向き直り、また、目を覗き込んでくる。

「なあ。みんなのことを助けたいってのは、ユウナを止めて守りたいって意味か?」
「そう……でも、それだけじゃ、ない……
 ……なんとう、に……みんなを、あつめ、て………」

口が、止まる。
そこから先は言っちゃいけないと、弱まった理性が叫ぶ。
そうだ。首輪を外して逃げるだなんて話してしまったら、ロックの身が危ない。
「集めてどうするんだ?」
僕の危惧を余所に、ロックの眼と言葉は、続きを喋れと促す。
――ロックの眼ってこんなだったっけ?
疑問に思った事柄すら、すぐに擦れて思い出せなくなる。
眠い。でも、話さないと。
「俺達仲間だろ? 教えてくれるよな?」
促されて、僕は答える。
「て、ちょ、う………ザック、に……」
手帳。スコールが暗号めいた文章で作戦を書いた手帳。
それを読めば、もしかしたら察してくれるかもしれない。
「手帳だな? よーし」
眠い。
ロックが僕を突き放して立ち上がり、ザックから取り出した手帳をぱらぱらと捲った。
一分だか十分だか……何分間そうしていたのかわからない。
無言の空間が、深く、深く、眠気を誘導して、それでも何故だか上手く寝つけずに時だけが流れていく。
だけど急にロックが飛びのいた。
直後、オレンジに輝く光が、僕の視界を間近で横切って飛んでいく。
熱い。
炎だ。
肌がちりちりする感覚に、僕は一瞬だけ鮮烈な光景を思い出す。
炎に驚いて立ち止まるボビィと、間髪入れずに輝いた、三日月のような光。
けれど、それが何を意味するか理解するより早く、誰かが叫んだ。

「スリプル(スリプル)!」

不自然に反響する魔法。銀の輝きが二重に煌く。
ああ、そうだ。この光だ。三日月の――ああ、また、眠く、なって――……

「ひっ、ひゃああああああああああああああああ!!?」
最後に誰かの悲鳴を聞いた気がしたけれど。
それが誰なのか思い出す前に、僕の意識は、痛みも届かない闇の中へ沈んでしまった……――
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:25:08.62 ID:AqTVpbSY0
 
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:25:54.33 ID:AqTVpbSY0
 
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:26:15.97 ID:AqTVpbSY0
 
273現実は思い通りには進まない 9/17:2013/05/11(土) 01:26:28.46 ID:69a/v8mvP
******************

嗚呼、世の中とは上手くいかないものですねェ。
マヌケ面を晒すお馬鹿どもを前に、ぼくちんは大きくため息をつきました。
横槍が入ったせいで、変装用の幻影魔法は解けちゃってます。
なので、今のぼくちんの格好は、神がかったセンスがキラリと光るサイコーにイカしたいつもの衣装です。
もっとも……この姿をセフィロスくんが一生懸命改造したらしいお人形ちゃんに見られたら、
色々マズイ予感がビンビンしたので、とっさに眠らせてやりましたが。

「道化師の格好……てめえ、ケフカか?!」

まさかお馬鹿どもも、ぼくちんの事を知っていたなんてねえ。
……眠らせる相手、間違えたちゃったかな?

「おやおや。私の名をご存じとは、どこかでお会いしましたか?
 お二人とは、確か初対面だと思うのですが」

金髪カップルから妙な敵意を感じた私は、ひとまず変態……もとい、紳士的に応対することにしました。
大方、本物のロックとかロザリーちゃんとか、誰かしらから悪い前情報を聞かされているのでしょう。
人の悪口を信じ込むなんていけない子ですねえ。
ぼくちん、ぼくちん以外の奴に騙されるバカな子は大嫌いです!
そういう奴は利用し返してボロ雑巾になるまで使い捨ててやるのだー!
……コホン。
その為にも、冷静かつジョーシキ的な対応を演じてみましょう。

「この状況では、誤解されても致し方ないですが……
 現状、こちらには貴方達と敵対する意思も、彼を殺める意思もございませんです。ハイ。
 ですので、出来れば平和的に話し合いをしませんかっと」

ぼくちんは喋りながら、両手を上げてくるくる回ってみせました。
敵意がないことのアピールという奴です。
二人はしばらくお互いの顔を見合わせたり、ぼくちんをじろじろと見つめていましたが、
やがて女の方がおずおずと口を開きました。

「……あんたが、やったの?」

グルグル渦巻く不気味なおめめは、ぼくちんから、倒れているお人形ちゃんへと向けられていきます。
彼女の言いたいことを理解した僕は、これまたオーバーリアクションで否定しました。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:27:47.51 ID:AqTVpbSY0
 
275現実は思い通りには進まない 10/17:2013/05/11(土) 01:27:51.84 ID:/xkwGmu50
「とーーんでもない!
 全盛期のぼくちんならともかく、人間を魔物化させたりなんてそうそうできませんよ!
 魔導だってなんだって、万能じゃないんですよ!?」

それに、と言葉を引き継ぎながら、ぼくちんはもう一度幻影魔法を唱えます。
ふわりと揺らいだ大気に映し出されるのは、先ほどと同じロックの姿。

「それにね、私がこうやってロックに化けていたのは、君達も見ていたでしょう?
 仮にぼくちんがこの青年を魔物化させたならば、こんな面倒なことはしませんよ。
 こんなダサダサな格好で催眠術なんかかけなくてもいいように、
 のーみそこねこねして最初からぼくちんの言うことだけを聞くようにしてますってば」

こんなに筋の通った説得力溢れる説明なのに、男も女も揃って眉間にシワを寄せ、剣を構えました。
解せぬじょー。

「てめぇじゃねえなら誰がやったってんだよ!?」
きゃんきゃん吠える男に、ぼくちんは思わず肩をすくめます。
もう、野蛮だわん。ぼーりょくはんたーい。
だけど嘘をついてもしょうがないので、とっても偉いぼくちんはお人形さんから聞いた話をきちんと教えてあげました。

「カッパのセフィロスくんにやられたと言っていましたよ。
 疑うなら、彼本人を起こして聞き出せば良いでしょう?
 ロック同様、貴方達が彼の友達なら、素直に話してくれると思いますよ」

私の言葉に、小娘の方はちょっとだけ警戒を緩めます。
が、男はというと、怒り心頭と言った様子で顔のシワを増量した挙句、静かに吐き捨てました。

「そんな腐れた殺人鬼、ダチだと思った覚えはねぇよ。
 それにセフィロスだと?
 奴は確かに化物じみた強さだが、本当に化物を作れるわけねえだろうが!」

……腐れた殺人鬼、ね。
金髪男の言葉に、ぼくちんはものすごく引っかかるものを覚えました。
男と女の態度差といい、紛らわしい書き方をしている手帳といい――
これはもはや間違いなく、足元の彼がだいじなことを隠していたのでしょう。
話す事もできない、口に出しちゃあいけない、とってもとーーっても大事なことを、ね。
276現実は思い通りには進まない 11/17:2013/05/11(土) 01:28:24.83 ID:/xkwGmu50
「どんなに有り得なさそうでも、実際に起きちゃった事なんて山ほどありますしおすし。
 嘘だとか、話し合いができないとか勝手に決めつけて思考停止するなんて、良くないと思いますよん。
 ほら、彼が持ってた手帳は返してやりますから、一度最後までしっかり読んであげなちゃい」

ああ、ぼくちんってばなんて親切で空気の読める素敵な魔道士なんでしょう。
とっても重大な情報が記されたアイテムを、ヒントと共に渡してあげているのですよ!
褒めろ! 跪いて靴の砂を払え! ホーレホレホレ!
「蹴りでも入れるつもりか?」
……あ、いえ、そういうわけではないです。ハイ。すみません。
余計な誤解を招いては困るので、私は大人しく足を下げ、両手を添えて手帳を差し出しました。
これで手をはたかれたらどうしようかと思いましたが――
事情を薄々察しているらしい女の方が、素早く手帳を奪い取り、男へ渡しました。

「サイファー。
 こーゆー奴がこういう風に言うなんて、罠じゃなかったらとしたら、ホントに大事な事なんだよ。
 あたしが警戒してるから、読んでみた方がいいと思うよ」
ナイスアシストだけど、人に剣を向けるのは良くないと思います。
「きゃーコワイコワイ。
 そんな警戒しなくたって、戦う気なんかないって言ってるじゃないですかぁ。
 アレですか? ブロンド娘はバカっていうお約束通り頭足りない子なんですか?
 どーせバカなら素直にぼくちんを信じる子の方が好きですよー」
「あんたなんかに好かれたくないもんねーだ!
 本物のロックとかマッシュとかリルムから、色々聞いてるんだからね!」
ああ……やっぱそいつら、私の悪評を垂れ流してるんですね。
予想の範囲内ですけど、人の悪口を言っちゃいけねえって教わらなかったのか?
これだからカス以下の以下の以下のカスは嫌いなんだじょー!
バーカバーカ、あいつらのかーちゃんでーべーそ!!

「………」
金髪野郎はうさんくさげな目つきで私を見ていましたが、相方の言葉に思う所があったのでしょう。
やがて、ぺらぺらと手帳を捲りだしました。

……え? 手帳の内容?
可も無く不可もない字で書かれた日記と、カッチリした字で記された箇条書きと、汚い字で認められた遺書ですよ。
日記の部分はどうでもいいんですけど、重要なのは残り二つでしてね。
277名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:28:59.40 ID:AqTVpbSY0
 
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:29:56.57 ID:AqTVpbSY0
 
279現実は思い通りには進まない 12/17:2013/05/11(土) 01:30:24.73 ID:/xkwGmu50
『今後、サイファー達に頼みたい事
 ・サックスとその仲間の生死確認
 ・別行動中の仲間との情報交換
 ・信用できる生存者の保護、及び首輪の蒐集
 ・ピサロが残した暗号の解読
 ・敵の排除
 ・南東の祠への帰還、および仲間との合流』
箇条書き部分はこんな感じでした。
ん? そおいえば、このガキ、サイファーって呼ばれてましたね。
参加者リストなんて読み込んでないし顔なんて覚えておりませんですので、ぼくちんたった今気づきましたよーん。
えっ、棒読み丸出しだって? てへぺろ!

……コホン。それから、遺書はこんな内容でした。
『この文を読むのが誰かは知らないけれど
 僕は死んで当然の人間でした
 多くの人を殺して、仲間も見殺しにしてしまいました
 スコールもアルガスも殺してしまった
 こんな僕に生きてる価値などない
 僕を殺した人が誰であれ、その人は悪くない
 だけどどうか、お願いです
 リュックと一緒に、ユウナを助けてやってください、命だけでも救ってください
 悪いのは僕で彼女は悪くない。それだけは信じてください』……ってね。

一見すると、単なる遺書に思えるでしょう?
でも、先ほどの『箇条書き』と『遺書』には、中々に表現しずらい特徴がありまして。
殆どの字は、下敷き使わずに聞き手の反対で力こめて書いたらしくて、裏から見ても文章が読めるぐらい跡が残ってるんですが――
何か所か、裏から紙をこすり直して筆圧を消している文字があるんです。

では、そいつらを抜き出したらどうなるかというと……
280現実は思い通りには進まない 13/17:2013/05/11(土) 01:31:43.81 ID:/xkwGmu50
『 サイファー
        仲間
  
 信用       首輪
         解
     除
 南東の祠       合流』 
『僕は
              仲間
 スコール アルガス
      生きてる

 リュック     を
               信じて』

さーて……くされ殺人鬼らしいアーヴァインくんがこんな暗号を残す意味は、なんなんでしょうね?
首輪の解除と読める箇所がありますし、スコールくんとアルガスくん、放送で呼ばれた二人の生存を伝えたいように見えますが。
ぼくちんは空気が読める男ですし、非モテ系化粧濃いババアに感づかれたら嫌なので、声に出したりはしませんがね。

「……どういうことだ? リュック」

いくらキレやすい世代のお馬鹿金髪頭でも、筆圧の差には気づいたのでしょう。
ぼくちんから意識を逸らし、女の方に疑いの目を向けます。
あらあら、この子がリュックちゃんだったのね。ぼくちんきづかなかった……え、しつこい?

「サイファー……あの、その、上手く説明できないけど、……ごめん!」
女の子はパン、と手を叩いて頭を下げだしました。
そーやって二人の意識が逸れた今がチャンス。
ぼくちんはこっそり踵を返し――

「テメェはテメェでどこに行くつもりだ!?」
目ざといサイファーくんが剣を振りかぶり、ぼくちんに斬りかかろうとします。
でーすーが!

「残念でしたァ。そいつはタダの幻ですよん」

そう。天才のぼくちんは幻影をその場に残しておいて、後からサイファーくんが気づくように動かしてやったのです。
本物の私はというと、これこの通り。
サイファーくんが振り向いたのと真逆の場所で、アーヴァインくんの首根っこ掴んでました。
残念だったネ、サイファーくん! もーすこしでぼくちんにダメージを与えられたんだけどね!
アーヒャヒャヒャヒャ、惜しい、惜しいナァ!
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:31:48.02 ID:AqTVpbSY0
 
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:32:59.18 ID:AqTVpbSY0
 
283現実は思い通りには進まない 14/17:2013/05/11(土) 01:33:13.16 ID:/xkwGmu50
「サイファーくんにリュックちゃん。
 最初にいったけれど、ぼくちんは戦う意思はないんですよ。
 だから、ちょっとだけ取引をしませんか?
 あ、ちょっとでも動いたらどうなるか、ここテストに出るんで良く考えてください」

二人は一瞬剣を抜こうとしましたが、私の手が眠りこけてるお人形ちゃんの首輪に触れていることに気付いたのでしょう。
表情を苦々しげに歪め、そのまま硬直します。
うーん、いーいオ・カ・オ!

「取引、だと?」
「そうです。
 なーに、お前らにはこれっぽっちも損のない取引だから安心シタマエ。
 冗談抜きでぼくちんには珍しいぐらいの出血大サービスだからな!」
「人質取っといて損もなにもないでしょ!?」
小娘が吠えてるけど、アーアーキコエナーイ。
……そもそも、本当にこいつらには損のない提案なんだけどなあ。
なんでこんなケンカ腰なんだか。ケフカちゃん呆れちゃう。

「やれやれ、野蛮人はこれだから嫌いだ。
 まあいい。ぼくちんがしたい取引と言うのは、とても簡単なものですよ。
 ぼくちんがセフィロスくんを殺して差し上げますので、きみたちの計画に乗せろというだけです」
「「――は?」」
バカ二人は揃って間抜けな声を上げました。
ヤだなあ、あたまわるいって。
「その手帳を見る限り、きみたちは私にとって一番のネックを解決している可能性が高いんだじょ。
 そしてぼくちんの推測が全て当たっているなら、セフィロスこそ最大の邪魔者だろう?
 だから奴を始末してやると言っている。
 その代わり、お前らはどっか遠くに隠れて、こいつがセフィロスに操られないように保護しとけ!」

もちろん、ぼくちんだってこんな取引はしたくありません。
だけどお人形ちゃんが本当にセフィロスくんのものになったら、大変困ったことになりますし――
それ以上に、ぼくちんはピサロの城とやらにある進化の秘法にキョーミシンシンだ!
こいつらみたいなブロンド頭を城に近づけて、台無しにされたくぬぁーいのだ!
恐らくは首輪の解除方法を握ってるだろうこいつらに恩を売りつつ、セフィロスを陥れ、進化の秘法を独り占めにする!
そしてアホどもを魔女にぶつけておいて、陰で進化の秘法を使い!
束の間の勝利に浮かれてる奴らを絶望のズンドコに叩き込んでやるのだー!
素晴らしい! アーヒャヒャヒャ! アーーーヒャヒャヒャヒャヒャ!
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:34:58.34 ID:AqTVpbSY0
 
285現実は思い通りには進まない 15/17:2013/05/11(土) 01:35:08.49 ID:/xkwGmu50
「嫌だと言ったらどうするつもりだ? そいつを殺しでもするか?」

……せっかく人が心の中で大爆笑してたのに、このガキ、ツマランことを言いやがって。
どーせ、『そいつを殺そうとした隙にお前を殺す』とか言い出すんでしょう?
2対1ですもんね。フツーにできますよね。わかります。
だけどそんなの、もっとツマランので……

「そうですねえ。
 ただ殺すだけじゃ芸がありませんし、ちょっとばかり魔導の力を注入してあげましょうか。
 人としての心は間違いなく壊れるでしょうけど、セフィロスくんの言う事を聞く脳味噌だけは残るでしょう」
「!!?」
僕の言葉に、リュックが顔色を変え、サイファーが眼を見開きます。
ただの脅しと思われても面白くないので、少しだけ実践してあげましょうか。
「う……うう……
 リュック……サイ、ファー……?」
おやぁ?
魔力の流れに反応したんですかね。
お人形ちゃんのアーヴァインくんが身じろぎして、目を覚ましちゃいました。
ここで暴れられても困るので、このまま魔力を集中させた手を頭に当ててっと。
「ぐあっ!?」
あまり時間をかけて送り込むと、精神に負担がかかりすぎて本当に壊れちゃうので、一刹那だけに留めておくのがコツです。
それでも悲鳴を上げてのけ反ったあと、痙攣しながらがっくりと項垂れます。
ケッコー刺激強いんですよねー、コレ。
ぼくちんも初めのころは慣れなくて、こいつみたいに涎と涙流してガクガク震えてたもんです。
今から思うとアレはアレでカイカンだったような気がしますけども。

「ぁ……うあぁ…」
ぐちゅり、と妙な音がしました。
どうやら魔物化した細胞が魔力を受けて活性化しちゃったみたいですね。
でもまあ、雀の涙十羽分ぐらいしか送り込んでないので、すぐに落ち着くでしょう。
せいぜい触手が増えるとか骨や内臓が異形化するとか、自我の働きが低下するとか、そんな程度で済みますよ。
多分。

「さあ、ぼくちんの取引に乗ってくれるなら、武器と荷物全部置いて十歩ほど下がりなさい。
 セフィロスくんとガチバトルするには武器も防具も必要ですからねえ。
 あ、もちろん要らない道具は残してあげますし、安全が確保できたらこいつも返してあげます。
 こんなことしたけど、こいつがいなきゃお前らの計画に支障が出るだろうってことは予想ついてますし……
 今なら後遺症が出ない程度で済ませてあげられますからねぇ」

私の言葉に、二人とも唇を噛みしめながら、黙って荷物を放り投げました。
それからきちんと指示通りに後ずさります。
いいですね、こういう素直な子達は嫌いじゃありませんよ。
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:35:55.83 ID:AqTVpbSY0
 
287現実は思い通りには進まない 16/17:2013/05/11(土) 01:37:24.61 ID:/xkwGmu50
ぼくちんはアーヴァインくんの身柄を抑えたまま、ザックを拾い上げ――

「……やっぱり重たそうな武器はいらにゃーい。
 だから道具は全部もらってあげよう! テレポ!」
(テレポ!)

二人がリアクションを起こす前に、アーヴァインくんを突き飛ばしてさっさと転移魔法を唱えちゃいました。
ユウナちゃんから貰った帽子の効果でしょう、やまびこがこだまして再び魔法が発動し、ぼくちんだけを一気に安全圏へ連れ出します。
金髪どもが何か騒いでるけど知らんもんねー。
このまま、眠らせて近くの茂みに隠しておいたチョコボを叩き起こして、一気に城へ向かうのだ!
「ほれほれ、エスナ!」(エスナ!)
治療魔法の光に包まれて、チョコボがぱっちり眼を開けます。
ぼくちんは荷物をかかえ、颯爽と飛び乗−―

「クエー!!?」

……飛び乗ろうとしたのに。
嗚呼、なんということでしょう。
チョコボはぼくちんには目もくれず、ものすごい勢いで走り出してしまいました。
よりによって、アーヴァインくんとサイファーくんたちの元へと。

「待て、待つんだじょー! 戻ってこーい!」
「クエーーーーー!」
待てといわれて待つ奴はいなァーーーーイ! と言ってるんでしょうか。
その気持ちはわかるけど私から逃げるのはいけないことだぞ! ムキーーー!

……あー。
チョコボ行っちゃう、チョコボ。
元々チョコボ欲しかったから、炎魔法で足止めして、眠らせてやったのに。
いつのまにかイメチェンしてたアーヴァインくんに興味が沸いて、調べようとしたのが失敗だったかなあ……
でもセフィロスくんのことや進化の秘法なんて面白そうな話が聞けたしなー。
いいもんいいもん。
あんなチョコボはおたんこチョコボだ、きっとどこかに本物の良いチョコボがいるはずだい。

……く、くやしくなんかないもんねーだ!
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:37:27.52 ID:AqTVpbSY0
 
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:38:13.01 ID:AqTVpbSY0
 
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/11(土) 01:38:34.72 ID:AqTVpbSY0
 
291現実は思い通りには進まない 17/17:2013/05/11(土) 01:38:37.80 ID:/xkwGmu50
【ケフカ (MP:3/5)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
 やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 リュックの支給品袋(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 サイファーの支給品袋(ケフカのメモ、白マテリア)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
 第一行動方針:デスキャッスルで進化の秘法の情報を集める
 第二行動方針:脱出に邪魔なセフィロスを消し、アーヴァイン達に首輪を解除させる
 第三行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:南西の祠北の茂み・分かれ道付近→デスキャッスルへ】


【サイファー(右足軽傷+中程度の疲労)
 所持品:メタルキングの剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗
 第一行動方針:????
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(パラディン)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:????
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔服、半ジェノバ化、右耳失聴、MP微量、気絶)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:セフィロスから逃げつつ、ユウナを西におびき寄せる
 第二行動方針:脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右腕が変形し、右上半身が人型ジェノバそっくりになっています。
    また、セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】

【現在位置:南西の祠北の茂み・分かれ道付近】


****

投下完了です。支援ありがとうございました
292名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/12(日) 23:18:03.87 ID:JvfmZ75l0
乙です
おたんこチョコボw
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 00:06:52.26 ID:XZILbdai0
乙!意外な展開だった
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/13(月) 00:09:56.49 ID:JcHDdCZr0
チョコボ過信した結果wwwwwwwwwwwww

しかしケフカが面白く動いてきたなあ。
脱出はしたい! でも君たちも殺したい!
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/15(水) 08:05:01.27 ID:PZybtkez0
月報の方、集計お疲れ様です。
FFDQ3 681話(+ 4) 21/139 (- 0)  15.1(- 0)
296幸せの定義と生死の問題 1/8:2013/05/21(火) 02:32:31.69 ID:H6DNoBHW0
自分のせいだ。

怒号を上げて走り出すサイファーを追いかけることも忘れて、あたしはただ、そう思った。
視線を下に落とせば、アーヴァインがうずくまるように倒れている。
恐る恐る近づいて、手を伸ばし、身体を揺すってみたけれど、何の反応もない。
ついさっきまで、こいつは好き勝手な事を言いながら、その実あたしや皆の為に頑張っていた。
カッパに襲われたのだって、そんなに昔の話じゃない。
間違いなく、一時間も経っていない。
なのに、あたしの目の前にいるコイツは、文字通り変わり果てた姿になっていた。
烏なのか蝙蝠なのかわからない翼も、膨れ上がって目玉まみれになってる右腕も、蠢くのを止めた触手らしきものも。
眼や鼻や口から溢れて、涙や涎と混ざりながら流れている血も。
全てがあたしを責めているように思えた。

「クエーーーーー!!」

そんな感傷を断ち切るように聞き慣れた鳴き声がした。
顔を上げると、胸元にネームプレートをぶら下げたチョコボが、茂みを突っ切って駆けてきた。
その後ろからサイファーが戻ってくる。
チョコボ――ボビィの背には、誰も乗っていない。
ボビィを奪われずに済んだけど、ケフカには逃げられてしまったのだろう。
そんな事を考えているうちに、あたしとアーヴァインを見つけたボビィは、すぐ隣にまで歩いてきてちょこんと座った。

「全く、よく躾けられたチョコボがいたもんだ。
 あのクソ野郎を捕まえてきたらリストに載せてやるんだがな」
歩いてきたサイファーは、なんだか妙なことを呟いて。
「……そいつの様子はどうだ?」
眉根を寄せながら、アーヴァインを見た。
「生きてる、けど……わからない。
 とりあえず、回復魔法、かけてみるね」
そう、あたし達にはわからない。
何があったのかも。
正気が残っているのかも。
とにかく起こしてみなきゃ、話が聞けるのかどうかさえわかりっこない。
そう考えて、魔法を唱えようとした。
でも、サイファーは、あたしの腕を掴んで止めた。
297幸せの定義と生死の問題 2/8:2013/05/21(火) 02:33:59.47 ID:H6DNoBHW0
「リュック」

名前を呼ばれて、顔を上げる。
真剣な眼差しを向けるサイファーの表情は、怒っているというよりも、今にも泣きそうな程歪んでいて――

「そいつは、殺すべきだ」

ただ、そう言った。
サイファーらしくもない、感情を押し殺した平坦な声で。

「なんで」

あたしはそう聞くのが精一杯だった。
手帳は見せた。アーヴァインが首輪の解除に協力してる仲間だってことはわかってもらえたはずだ。
スコールは死んでなんかいない。アルガスも生きている。
そりゃあ魔物化してるってのは見ればわかるけど、正気が残ってないって決まったわけじゃない。
まだ助かるかもしれないのに、助けられるかもしれないのに、何も試さないで殺すなんて――
……ああ、いや、一つだけ、ある。
殺した方がいいと考えてしまう理由。でも、それは。

「例えそいつに正気が残っていたとして、だ。
 そんな姿に成り果てて、幸せに生きれるとも思えねえし、真人間に戻れるとも思えねえ。
 だから、今……寝てる間に、殺す」

苦しまないで済むように、と、言葉を継いで、サイファーはあたしから目を逸らした。
その顔に浮かんでいる感情は憎しみでも怒りでもなく、やはり、悲しみや同情といった性質のものだ。
あたしはまた、アーヴァインの方を見る。
呼吸は荒く、リズムも乱れていて……意識を失っている事はわかっていたけれど、とても苦しそうだった。

だけど。
だけどそれでも、まだやれることも、やらなきゃいけないこともあるんだって、言い返そうとした。
でも、きちんとした言葉が出てくる前に、サイファーはうんざりしたように首を振った。

「この野郎が人間辞めさせられてるのは見りゃわかるだろ?
 正気でも苦しむ事は確定で、正気でなかったらますます生かしとく理由がねえ」
「……サイファーの言ってることもわかるけど、だけど!
 殺した方がいいだなんて、思わない!
 だいたい、死んだ方がマシだなんて、そんなの――」
「本人じゃなきゃわからねえ、ってか?
 ああ、そりゃそうだろうな。確かにそうだ。
 だけどな、リュック。テメエに一つ聞きたいんだが」

サイファーはいつものように剣の腹で肩を叩きながら、苛立たしげに明後日の方を向いた。
298幸せの定義と生死の問題 3/8:2013/05/21(火) 02:36:34.33 ID:H6DNoBHW0
「この野郎が、自分の気持ちを素直に言うタマだと思ってんのか?」

その言葉に、あたしは思わず息を呑んだ。
同時に、ティーダのことばっかり喋ってたアーヴァインの姿が頭を過ぎる。

「俺が知ってるのはガキの頃と、つい最近の事だけだが……
 こいつはいつだって他人の後を追っかけて、他人の世話を焼いてやがったぜ。
 テメエの事情は二の次だ。他人に尽くす事だけがこいつの望みなのかって、傍から見てても思う程度にな」

サイファーは忌々しげに吐き捨てる。
理解できないと言わんばかりに。
その意見がどれほど的を射ているのかはわかんない。
でも……納得できた。できてしまった。

「ソロの話じゃ、記憶を無くして死にたがってたはずのコイツが、ここまで生きてきたのは何故だ?
 仲間と別れてまで厄介者一人探しに来るようなお人よしとガキが、コイツに真っ先に望む事は何だ?
 ――考えなくたってわかんだろ。
 こいつは、死にたいくらい苦しかったとしても、ダチに『生きろ』って言われりゃ、そいつの為に生きちまうクソ野郎だ」

何度も歯噛みをして、舌打ちしながら吐き捨てる姿に、あたしはぼんやりとウルでの光景を思い返していた。
ターニアを脅かしているのかと思ったら、実はこっそりと慰めていた、サイファー。
見た目や態度が怖いからわかりにくいけれど――もしかしたら、本当は誰よりも優しいのかもしれない。
だから、サイファーの言葉は、重く、重く、響く。

「誰が何と言おうと、罪があろうとなかろうと、俺はそいつを殺したい。
 どんだけクソ野郎でも、ガキの頃から見知った奴だ。
 こんなわけのわからない苦しみ方をしてるなら、死なせてやりたいんだよ!」

ひゅー、ひゅー、と、喘鳴がやけに大きく聞こえる。
サイファーは剣を振りかざし、叫んだ。

「苦しんでる奴に止めも刺さず、俺らの都合で生きろだなんてよ!
 そんなの――掛け値なしの傲慢じゃねえか!!」
299幸せの定義と生死の問題 4/8:2013/05/21(火) 02:38:21.41 ID:H6DNoBHW0
******************

我ながら身勝手な理屈だ、と思う。
誰のせいでこんな事態になったかを考えりゃあ、ふざけた話ってモンじゃない。
目の前でぶっ倒れてる奴が起きてたら、そしてそいつに普段と同じ意識が残っていたら、間違いなく鼻で笑うだろう。
俺に言われる筋合いなんかない、ってな。

俺が暴走しなけりゃ、カッパが行動を起こす隙もなく、デスキャッスルで全員揃ってネタ晴らしを聞くことができた。
もしくはソロにひそひ草を返さなければ、真相を知るチャンスがあったかもしれない。
だいたいソロや犬が嫌がろうとも、直感に従ってカッパを始末しとけば良かった話だ。
で、この手の『たられば』を持ち出すなら、そもそもリノアやギードと別れずに行動しときゃよかっただの、
骨野郎を倒した後に油断しねえで銀髪どもを迎え撃っときゃよかっただのって事になる。
ざっと思い返しただけでこんだけボロボロ出てくるんだ。
スコールに八つ当たりをするまでもない。
選択肢を間違い続けたのは俺で、今ここにある現状は、俺のミスが積み重なった結果。

要するに、俺のせいだ。

スコール本人が手帳に残した箇条書きから読み取れる情報は、それほど多くない。
サックスと同じ『騎士』が生存しているってことと、
別行動中の仲間がいる=南東の祠から別れて行動しているリュックとアーヴァインが仲間だってこと、
それと南東の祠への帰還を優先して、二人との合流は後に回したかったらしいってことぐらいだ。
だから、こいつがスコールの計画の中でどんな役割を担っているのかは、イマイチわからない。
あの忌々しいピエロ野郎の主張通り、首輪の解除に重要な役を果たしているのかもしれないし、
そんなことはなくて単なる殺人者役の囮でしかないのかもしれない。

ただ――、一つだけ確実だけ言えることがある。
『スコールは、替えのない人材を危険な目に合わせるような馬鹿じゃない』って事だ。
十中八九、いや、確実にアーヴァインとリュックの代わりは存在する。

なら、休ませてやってもいいじゃねえか。


「……だけど、やっぱり、死ぬことが救いになるなんて思えないよ」

俺の感情を裏切りながら、リュックは呟く。
両手を握りしめながら俯く姿は、身長差もあるせいか、ひどく小さく見えた。
300幸せの定義と生死の問題 5/8:2013/05/21(火) 02:41:31.80 ID:H6DNoBHW0
「サイファーの世界がどうかは知らないけどさ。
 スピラだと、未練を持ったまま死んじゃった人は、魔物になるんだよ。
 そんで、殆どは生きてた時の事も自分が誰かもわからなくなって、苦しみながら彷徨い続けてさ……
 ……目に見える形になってないだけで、この世界にある【闇】も、魔物と同じようなものだと思うの」

【闇】。
ネタ晴らしをされてからはアーヴァインを殺させない為の方便かと疑い始めていたんだが、この口ぶりだと実在するらしい。
まあ……良く考えてみれば、タバサの様子がおかしいのは事実だったし、ヘンリーの弟が狂ってたのもガチだったか。
どうせなら、そこまで嘘だった方が良かったのにな。

「そりゃアレフみたいにさ、誰かに意思を託して未練なく死ぬ人もいるとは思うよ。
 だけど今のアーヴァインに未練が無いかどうかなんてわかんないじゃない」

分からないも何も、無いか有るかで問われたら、有るだろう。
セルフィの事、スコールやリュックの事、ティーダやテリーの事、ユウナの事、
どれ一つとっても心残りにしかならないなんてことは、俺だってわかる。

「この世界にも異界があって、絶対にそこに行けて救われるっていうなら、サイファーの言う事に賛成する気にもなるよ。
 だけど……そこかしこに【闇】があるって言ってたし、きっと、多くの人が、彷徨ってるってことなんだと思う。
 未練に縛られて、どこにも行けないまま、何もできないまま、身体を求めて人に憑いて、人を狂わせて……
 ……救われないまま、救いを求めてるんだと、思う」
「思う、ばっかりだな」
反論にすらなっていない俺の感想に、リュックは少しだけ口を尖らせた。
「仕方ないじゃん。
 全部あたしの推測で、本当はどうなってるかなんて、死んでみなきゃわかんないんだもん。
 でも………」
渦を巻く瞳が、俺を真っ向から見据える。
逃げも隠れもしない、曇りも後悔もない意思の光って奴が、そこにははっきりと宿っていた。
「あたしは、あの魔女を倒したい。
 そんで死んじゃった皆も、生きている皆も、助けたいし救いたい!
 そのためには……ええと、今生きている人を、生かす方が、大事だと思うの!」
リュックは半ば叫ぶように声を荒げ――急に、縮こまる。
「……アーヴァインには、悪いと、思うけど」

そこまでの威勢はどこへやら、ガキのように両手の人差し指と人差し指を突っつき合わせ。
俺は、思わずため息をついた。
301幸せの定義と生死の問題 6/8:2013/05/21(火) 02:45:49.17 ID:H6DNoBHW0
――その時だった。か細い声が聞こえたのは。

「別に……いい、よ」

どっから話を聞いてやがったのか。
風邪をこじらせたってここまでは酷くならないだろうってぐらい擦れた声で、そいつは呟く。
「アーヴァイン!?」
リュックがしゃがみこみ、肩を揺さぶった、が。
奴は瞼と口以外動かそうとせず、瞳さえもリュックや俺へ向けることはなかった。
そんな余力など無いといわんばかりに。それでも伝えたい言葉があると、語るように。

「ねえ。……なんでも、する……から。
 ……命だけ、は……助け、て」

月並みにも程がある命乞い。
酷く苦しそうに顔を歪めたまま、それだけを言い残して、アーヴァインはまた眼を閉じた。

「ちょ、ちょっと!!」
リュックがぎゃーぎゃー叫びながら、慌てて回復魔法を唱え出す。
だが、奴が再び意識を取り戻す様子は無い。表情も変わらない。

「リュック。後にしろ」

俺は舌打ちをしながら相方を押しのけ、アーヴァインの身体をひっつかむ。
ゴテゴテしたパーツが増えたせいか、やたらと重たい。
だが、どうにかチョコボの背に乗せることはできた。

「サ、サイファー……?」
疑問と不安が入り混じった声音を背中に受け、俺はリュックへと振り返る。
「グズグズしてないでとっとと乗れ。
 それとも、お前が歩くか?」
「え、い、いや、あの、何すんの? 何処行くの?」
おろおろと狼狽えている様子に、俺はふと、ウルで絡まれた時の事を思い出す。
どうにもこいつと俺は相性が悪いらしい。
だが、あの時と違って、苛立ちは沸いてこなかった。
不思議でもなんでもない。引け目が大きすぎて、つっかかる気力なんざ出ないってだけだ。
302幸せの定義と生死の問題 7/8:2013/05/21(火) 02:48:37.72 ID:H6DNoBHW0
「南西の祠だ。あそこなら侵入者を追い返す罠がある。
 俺が行った時は止まってたが、GF使って調べりゃ、起動スイッチぐらい見つかるだろう」

リュックに説明しながら、俺はふと、ソロ達の事を思い返す。
本当なら、アーヴァインをリュックとチョコボに任せて、ケフカを追う為に城へ向かいたい。
ロック達がいるといっても、ソロやロザリー、ザックスの事もそれなりに心配だ。
だが、カッパの正体が本当にセフィロスだった場合や、ユウナの存在を考えると、リュック一人にお守を押し付けるわけにもいかなかった。
もう、選択肢を間違えるわけにはいかないのだ。

「どうやら正気は残ってるみたいだが、こんなナリの奴を連れ歩いて、勘違いした奴に襲われたらつまんねえ。
 安全を確保して、こいつが人間に戻せそうかどうか調べて、お前らの話を聞く。
 それなら文句はねえだろ」

本音を言えば、文句を言いたいのは俺自身だった。
だが、それでも、それが望みだと言うのなら聞くしかない。
感情に任せての独断専行――それがどんな結果を産んだか理解した、今となっては。

「うん! うんうん!」

威勢よく頷くリュックを真似してか、チョコボが「クエー!」と鳴き声を上げる。
気楽なもんだと思いながら、俺は胸のわだかまりを心の奥底へ仕舞い込んだ。
けれども、蓋の隙間からわずかに漏れた感情が、脳裏にいつか見た映画の1シーンを映し出す。
それから、抜き身の剣よりも鋭い覚悟を持ちながら、『未だ悪を殺せていない』と自重した奴の事を。

(アルス、だったか……
 アイツは、傲慢じゃねえ奴になれたのか?
 いや、それよりも……奴が今の俺を見たらなんて言うだろうな)

思い出した名が、放送で呼ばれていた事はわかっていたが。
リュックを見ていると、欠片も似てやいないのに、何故だかそいつの姿が思い浮かんで、離れなかった。
303幸せの定義と生死の問題 8/8:2013/05/21(火) 02:49:00.72 ID:H6DNoBHW0
【サイファー(右足軽傷+中程度の疲労)
 所持品:メタルキングの剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗
 第一行動方針:南西の祠へ行き、安全を確保して話を聞く
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(パラディン)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:サイファーと一緒に南西の祠へ行く
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔服、半ジェノバ化、右耳失聴、MP微量、気絶(中度))
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:セフィロスから逃げつつ、ユウナを助ける
 第二行動方針:脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右腕が変形し、右上半身が人型ジェノバそっくりになっています。
    また、セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】

【現在位置:南西の祠北の茂み・分かれ道付近→南西の祠へ】
304名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/23(木) 09:44:37.65 ID:xHU9u8DZO
新作乙です!

ああ、何かまたサイファーと班長が睨み合ってる絵が浮かぶw
…けど戻れると良いなあ
305名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/23(木) 14:45:36.95 ID:FNgxbOhQ0
新作乙です!
リュックとサイファーのコンビは見てる分にはいい感じだけど、本人達にとっては…w
意外と早く保護されてよかったねアーヴァイン。
全身を回る血そのものがモンスターみたいなものだから、人間に戻るのは難しいだろうけど……。
306還らぬ彼女と疑問の答え 1/5:2013/05/27(月) 00:59:45.69 ID:yfHIMZuV0
バルコニーに出ると、空っぽの宝箱と、破り捨てられた紙片があった。
どうやら魔女側の者が我々参加者をからかう為に用意したものらしい。
紙片を繋ぎ合わせて読み取れたメッセージは、破られて当然だと思わざるを得ないものだった。

「暇なんですねえ、あちらさんは。
 羨ましい限りですよ」
首輪越しに皮肉を告げてから、私は傍らにいる犬――アンジェロの様子を見る。
賢しい彼女は、人の言葉を完全に解しているようで、紐なぞなくとも私の後を追ってくれている。
だが、その表情は暗く陰っており、足取りもいささか重かった。
一体何故か、と問うまでもない。
「クゥン、クゥン」と鳴く声に込められた意味は、私の耳に届いているのだから。

『どうしよう……誰か私の言葉をわかってくれる人がいればいいのに……
 ああ、でも無い物ねだりをしてもどうしようもないわ。
 気は進まないのだけれど、悪い人じゃあないんでしょうし、この人に着いていくしかないのよね。
 ……人の年齢ってよくわからないけれど、リノアのパパと同じぐらいよね、多分。
 全然知らない人だし、……やっぱり、ちょっと怖いわ。
 ああ、サイファーのバカバカ! 私の気持ちも少しは考えてよね!』

「うーん……」
言葉が通じていないと思い込んでいるのだろうが、こうも警戒されると存外に傷つく。
神は畏れられこそすれども、恐れられるものであってはならないのだ、とは誰の言葉だったか。

『うう、リノアやスコールが生きていてくれたら良かったのに……
 二人ともどうして死んでしまったの……?
 ルカもパパスさんも居なくなってしまったし……
 みんな、私を一人にしないでよ……』
「おー、よしよし」
下界の人々がどのように対応していたか、記憶の糸を辿りながら、嘆く犬をあやす。
こんな様子を天空人やゼニス王が見たらどれほど驚くだろうか、と何度目になるかもわからない仮定を思い描きながら、小さな体を胸に抱いた。

『この人、あんまり温かくないわ。
 やっぱり、リノアやルカがいい……』

ぐっ。
しょ、傷心なのは仕方がないし、仮初の姿に人間の温もりが備わる道理などないのも事実だが……
もう少し懐いてくれても良いのではないか?
いや、年齢がどうのといっていたし、見た目が問題なのか。
しかし数万年も生きた身で若者の姿になるというのも……正直この姿も精一杯若作りしたんだが……
わざわざ人に好かれている男の姿を真似て……いや、人に好かれても犬に好かれるとは限らないのだろうが……
307還らぬ彼女と疑問の答え 2/5:2013/05/27(月) 01:00:38.29 ID:yfHIMZuV0
『……あら?』

私の思考を知る由もないアンジェロは、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
それから、急に身じろぎをして腕の中から抜け出ると、吠え声を上げる。

『下から血の臭いがするわ! 早く、どこかへ隠れましょう!』

その言葉と共に、反対側でぎしりと軋んだ音がした。
振りかえればそこには、柵の装飾部にしっかりと結び付けられたロープの結び目。
「……ロックさんもリュックさんも、外しときましょうよ、こんなものは!」
危険だと言う事はわかっていたが、手をこまねいて見ているわけにもいかない。
慣れぬ武器を手に取り、ロープを切りつける。
だが、私が持っていたのは隼の剣。
軽さを求めるために切れ味を犠牲にした、素人には扱いこなせぬ業物だ。
傷はつけども、頑丈なロープは断ち切れず、代わりにギシギシと軋む間隔が上がる。
焦りながらも私は柵へ近づき、切りつけながらも隙間を覗き見た。
僅かに視界へ映ったのは、髪を振り乱し、鬼女のごとき形相で登らんとするユウナの姿。
そこには出会った時の聖女然とした佇まいは残されておらず、代わりに狂気と死の匂いで満たされていた。

「――ッ!!」
彼女をこの城に招き入れるわけにはいかない、
その一心でロープを切りつける。切りつける。切りつける。
ああ、本当に、こんなことになるならアンジェロが好みそうな戦い慣れした若者に化けておくんだった。
後悔したところで始まらないし何も変わらない。
少しずつ深さを増していく傷からロープが解れはじめる。
ギシ、ギシギシ、ギシギシギシ。

「プサンさんですか? そこにいるの」

聞き覚えのある声が、地獄の底から語りかけてくる。

「何してるんですか?
 もしかして、ロープ、切ろうとしてません?」

止めろ。
その声音で喋ってくれるな。
308還らぬ彼女と疑問の答え 3/5:2013/05/27(月) 01:02:42.63 ID:yfHIMZuV0
「止めて下さい。
 この世界で初めて出会って、それから今朝まで、ずっと一緒に居たじゃないですか。
 私、皆と会いたいんです。それに、アイツがこの城の中に隠れてるんですよ。
 彼のニセモノを作って、私に殺し合いを強いたアイツが隠れているんです」

もういい。聞きたくない。
彼女は狂人だ。見て分かったし、聞いて分かった。
だから。

「アイツも皆も魔物なんです。魔女の手下の魔物なんです。
 私はそいつらを殺さなければいけないんです。だから」

もういい。
切れろ! 落ちろ! 地の上へ!!
これ以上戯言を耳に入れたくない!!

「うわあああああああああああああああああああああああ!!」

長き生涯で、恐らくは初めて上げただろう悲鳴と共に。
振り下ろした白刃はロープを断ち切り、柵とぶつかって鈍い音を立てた。
勢い余った反動で、尻をついた私の視界に、さして大きくも無い影が翻る。


「プサンさんがそんな人だとは思いませんでした」


ぱぁん、と軽い音がした。
(遅かった!)等と後悔する暇もなく、衝撃が横腹に走り、反射的に眼を閉じる。
同時に、ふわりと浮かぶ感覚と共に、銃声が雨の如く降り注ぐ。
灼熱の痛みが頬を掠め、左腕を貫く。
けれども――予想するような終わりはやってこなかった。

『だから、隠れましょうって言ったのに!』

アンジェロの咆哮に眼を開く。
石造りの床ではなく、地面が目の前にあった。
そのまま強かに胸を打ちつけてしまったが、文句は言えない。
恐らくはユウナに撃たれた直後、アンジェロが全力を出して、私の身体を突き飛ばしそのまま柵の向こうへ持ち上げて落としたのだ。
彼女が居なければ、私は予測通りに蜂の巣にされていたに違いない。
309還らぬ彼女と疑問の答え 4/5:2013/05/27(月) 01:03:39.14 ID:yfHIMZuV0
――だが。
あるいはそれは、早いか遅いかの違いか。

身を起こした私の前で、アンジェロの体が跳ねる。
纏うローブが僅かに弾を逸らしたのか、血は急所を外れた脇腹から滲んでいた。
上方を仰ぎ見れば、銃を構えるユウナの上半身が、当たり前のようにそこにあって。
せめて城門が開くのならば中に逃げる事も出来ただろうが、リュックの話からして、叶いそうにない。
このまま何もしなければ、二秒もしないうちに彼女は再び引き金を引き、死の雨を降らせるだろう。

ならばどうする?
全てを諦め、座して死を待つか?

それも悪くはない、と思う。
少なくとも私にかかずらう間、彼女は、城内の人間に手を出せぬのだ。
大賢者クリムトの鋭敏な感覚を持ってすれば銃声には気づくだろうし、対処の時間を稼げると思えば、無駄な死ではない。
だが――私が死ねば、セフィロスはどう動くだろうか。
それがどうにも気にかかる。
アンジェロの言葉を聞く限り、カッパの姿に変えられた為にサイファー達と同行していたようだが、
そのような有様でなお同行者を出し抜き、リュックに手足も出させぬまま、アーヴァインを拉致してのけたのだ。
どのような姿に身をやつしていようと、間違いなく、邪悪な夢を捨ててなどいまい。

「――私に構う時間があるんですかユウナさん!!
 アーヴァインさんは最上階へ行ってしまいましたよッ!!」

気付けば、叫びは口から零れていた。
こんな所で死ねないという思いが、私の身体を突き動かしていた。

「今の銃声だってきっと聞こえてるでしょう!
 逃げられていいなら私を殺しなさい!! さあ!!!」

彼女の言う『アイツ』がアーヴァインだということは想像がついたが、それでも、賭けだった。
彼女が心底狂っているなら恋人の友人でしかなかった青年を追うだろうし、
少しでも正常な判断力が残っていれば私を殺していくだろうという、分の悪すぎる賭けだ。
自分でも呼吸が荒くなっていくのがわかる。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえるのは、傷のせいだけではあるまい。
310還らぬ彼女と疑問の答え 5/5:2013/05/27(月) 01:05:29.19 ID:yfHIMZuV0
数秒か、数十秒か。
彼女はしばらく私を見ていたが、すぐに踵を返して走り去っていった。
アンジェロが「くぅん」と鼻を鳴らす。
『良かった』と、心底安堵した様子で呟いていた。
だが、私の心には、途方もない虚無感だけが残された。

「どうして」

他者への問い。
長き時の中、戯れや試練として言ったことは数あれど。

「どうしてなんですか、ユウナさん」

本心から口にしたのは、生まれて初めてだった。



【ユウナ(ガンナー、MP1/8、HP9/10)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:最上階を目指す
 第二行動方針:皆殺し(アーヴァインと、ラムザの姿をした者が最優先)
 基本行動方針:脱出の可能性を潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:デスキャッスル外観・2階バルコニー→中へ】

【プサン(HP4/5、左肩と左腕に銃創)
 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
 第一行動方針:ロック達とは別に南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【アンジェロ(HP9/10)
 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
 第一行動方針:プサンに協力する
 基本行動方針:ケフカを倒す/仲間達に協力する】
【現在位置:デスキャッスル外観・1階入口前→移動】
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/27(月) 23:48:00.76 ID:cflAH6ro0
乙でした
とりあえずはやり過ごせたけど、
城にはまだまだ災厄がやってくるんだよなぁ
「デスキャッスル」なんて名前の時点で呪われてるとしか思えない
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/28(火) 23:34:39.60 ID:rXLrxz4y0
デスキャッスルどうなるんだ・・・
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/05/30(木) 00:49:35.45 ID:gjj8cuIL0
なんかに包まれるのか……
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/01(土) 22:37:05.51 ID:p0iqui690
神をも恐怖させるヤンデレユウナン…
315名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/05(水) 21:45:45.65 ID:ki33aMbp0
age
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/09(日) 18:23:30.98 ID:3HcbQ/V50
……。
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/14(金) 20:47:39.33 ID:UA3OnUcu0
(´・ω・`)
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/14(金) 21:26:17.62 ID:AAVDBySp0
いつもとても面白い。残ってる書き手の人がんばって下さい。
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 17:14:44.65 ID:uPaTsl5w0
>>318
同意!
320名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 17:24:47.48 ID:uPaTsl5w0
俺は最近このスレ見つけて、すごいハマってまとめサイト読んでた。
時々徹夜までして読んでたけど一ヶ月かけてやっと最新話に追いついたぜ。長過ぎィ!
長いのに飽きないし、面白いから作者は本当に凄いわ。
アリアハンは短い話が多くて展開速いから、どんどん読めてハマった。
一番好きなのは浮遊大陸編。
いいキャラばっかりだけど、特に、マティウスとウィーグラフがカッコ良かった。
FF2もFFTもやったことない俺がそう思うのは凄い事だと思う。
今は、もう残り20人で、最後の話のまとめ?に向かってるんだろうが
脱出するためにはセフィロス、ケフカ、ユウナが、どんな決着になるんだ。
こいつらに、誰が犠牲になるんだ。
個人的には、セージがどうなるのかが、一番気になってる。
ユウナ恐すぎ。
裏方雑談スレのログを読み始めてるけど、最初のころは活気すげーな。
このころにこのスレを知ってれば良かったと思うと無念だわ。
色々語りたいのに…今の過疎スレだと浮くじゃんw
浮いたレスしてスマン
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 17:29:38.75 ID:uPaTsl5w0
今のこのスレのクールな空気を読まないで一人で今までの感想書いたりとかしてもいいか?
書き手の邪魔になるならやめておく。
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 17:35:17.27 ID:cq7yt65J0
作品に割り込むとかじゃなければいいんじゃね
雑談感想スレもここに統合されただけでなくなったわけでもないし
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 18:20:07.88 ID:dQTNX7/w0
>>321
レッツゴーシャスティーン
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 18:31:05.41 ID:uPaTsl5w0
>>322
心得た。作品に割り込んで書き込むようなことはしないさ

しかし、住人も少ないだろうし、初期からいる住人にとっては
新規の俺とはテンションの差が激しいだろうからどういうふうに書いていくかやっぱり悩むわw

少しでも書き手やスレの燃料になればという思いもあって、
色々勝手に書いていくからさ。まあ、テキトーに昔のことを懐かしんでくれ。
あえて空気読んでいないけど、あまりにも寒すぎるようなら言ってくれ
そしたら感想ブログでも立ち上げることにするかな?

↓印象に残ってるキャラとか書いていく(死亡順)

・ケットシー
最期がかなり良かったから印象に残ってる
アリアハン城の戦いは全体的にすごい燃えるし好きだけど
特に最後こいつの存在で綺麗にまとまって本当に名パートだなって感じになる
レックスを思うあまり暴走気味のリュカに振り回されてる姿も良かったわ

・ティファ
なんか、絶望したり救いがあったり、方向性が定まってなくて???
って感じだったけど、その後それがリレー小説だからか〜?って思い当たって
ある意味書き手の思いに振り回された末の成れの果てがアレか…って感じ。
(言い方悪かったらゴメン。ティファがぞんざいに扱われたとは思ってないよ!)
最終的に行き着いたアレの描写が怖すぎる。
色んな書き手の思いがあることを感じるキャラクターだったw

・ギルダー
初期は、FF3初期ジョブのくせに強すぎwwwっていうのが一番の印象
でも、素で強いっていうよりは、立ち回りや手口で殺しまくるって感じで
そういうのはマーダーの時からなかなか魅力的だった。
vsセージの話も熱くて、その後の仲間とのやりとりもかなり好きだったが
旅の扉の時に明らかにビアンカに惚れてるだろっていう描写があってワロタ
本当はもう少し生き残って色んなキャラと絡んで欲しかったけど
まあ、ああやってバッサリ死ぬのもバトロワらしさなんだろうな、うん。

・はぐりん
いちいちかわいいし、冷めた目で色々なキャラを見ているセリフが笑えるw
ほかの参加者に見つからず、あちこちに行くっていうのが
はぐれメタルというキャラの特性を活かしててうまいな〜って思う
これは普通〜にほかのキャラと仲間になってたら出てない味だからね
だから、最期のやつは雑談スレで結構たたかれてたけど、俺はいいと思った
それまでの流れが、はぐれメタルならではだったから、最期もそれでって感じで
そりゃはぐりん本人にとっちゃ見せ場もないしいい死に方ではなかったがw

・イクサス
最期の最期まで一人で暴走しまくってて正直、超!!ウザかったけど、
それがほんとうにいい毒味を出してたw
こいつがもっと生き残ってたら、闇化とかしてたのかね?w
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 19:27:57.36 ID:Ez6xJ3200
>>324
自分もついこの間知って
それからスレに張り付いてるステルス新規だから
熱い語りが見られて嬉しい
326名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 19:48:37.90 ID:YL1v3ME20
ステルス新規が自分の他にも居てとても嬉しい
熱く語りたいが相手が居ないwww
もっと早く読んでおけば良かったと本当に後悔している
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 20:19:45.76 ID:uPaTsl5w0
なんていうか、安定感があって、出てくるとほっとする存在っていうか?w
まぁ、でも、個人的にロワのオリキャラはみんな好き

・フルート
登場話で強烈な個性を付けられて、結構たたかれてたみたいだけど、
なんだかんだいって、最期までそのキャラをちゃんと活かされてたんじゃない?
前の書き手の思いがリレーされつつ、フォローもされていく姿が素晴らしい
確かにフルートみたいな強キャラがたくさんいたら困るけど、
竜王戦以外ではいいさじ加減でいたと思うし、活躍が多くて見ていて面白かった。
個人的には、裏人格のほうが萌える

・テリー
ミレーユが死んでからも結構面白い動きをしてたと思うんだけど
さすがに失速して死んだんだなって感じw
ファリスとラムザとのチームが短い時間だったのに面白くて印象に残った

・ゴゴ
正直、マティウスの引き立て役程度にしか思ってなかったけど(ゴメン)
死亡話がかっこよすぎる。人気は結構あったみたいだけど
最後までこいつ自身の思いっていうのは文章では語られず、
「マティウスの物真似をする」ということに徹してたな。
語られずともマティウスとの熱い友情が感じられるってのが熱いねーと思う

・イザ
個人的にDQ6が好きだから書いちゃうけど、ほとんど活躍もなく
影が薄くて残念すぎw性格が地味で目的も薄かったのがいけなかったのか?
まあ、こういうキャラがいるからアルスやらソロやらが引き立つと思うしかないwww

・ユフィ
関わってるキャラは少ないけど、最期までユフィらしくて可愛かったり
エッジの敵討ちっていう目的がちゃんと消化されて死んでるキャラだから後味がいい
フリオニールも最終的にこいつに追い詰められるとは思ってなかっただろうと
思うとなんか感慨深い。

・ピエール
セフィロスとかもっと強いマーダーがいる中で活躍しすぎててワロタ
強さが中堅のマーダーっていうのがロワでは活躍しやすいのか?
まあセフィロスとか本気出したら何十人も殺せるから書きにくそうだよなw
最初は、正直、殺しすぎ!いい加減にしろや!(今ではほめ言葉w)って感じだったのが
リュカとタバサと合流してからハラハラして、最期はこうなるか(絶望)って感じだった
328名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 20:21:16.71 ID:uPaTsl5w0
>>327
あ、コピペミスった。ローグの最初のほうが抜けた

・ローグ
見せ場は、死亡話くらいしかない地味さなんだが、
バッツとのコンブがいい味出してて好きだった。
なんていうか、安定感があって、出てくるとほっとする存在っていうか?w
まぁ、でも、個人的にロワのオリキャラはみんな好き



なんか、書いてて、印象に残ったキャラに限らず
全キャラ語りもできそうだと思えてきたが、とりあえず書いていくわ。

今生きてるキャラは、止められなければ
そのうち全員感想とかを書くかも
あんまりハッキリ書くと今後の話に影響あると嫌だから配慮はするが

>>325-326
似たような人がいたのか
好きなキャラとか好きな話とか一行、二行、三行とかでいいから書き込んでくれぇー
329名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/16(日) 20:50:20.62 ID:0qUaNSiQP
>>328
キャラ語り、楽しんで読んでる
しかし長期規制中で容易に書き込ない身としては
避難所でやってくれた方が参加できて嬉しいのう
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
まあいずれにしても続き待ってるぜ
330前提と未来の相違 1/9:2013/06/16(日) 22:15:15.60 ID:cIWCKd/q0
寄りかかった壁がやけに冷たい。
ずぶ濡れの頬をしょっぱい水滴が伝う。
何度目を拭っても止まらない。
死んでるんだから涙なんて出なくたっていいのに、後から後から溢れてくる。

なにもかも俺のせいだ。
昨日の夜、エドガーと一緒に行こうとするユウナを引きとめてさえいれば、誰も傷つかずに済んだんだ。
泣く資格なんてない。そんなことはわかってる。
わかってるけど……止めたくても、勝手に出てくる。

みんなユウナの気持ちに気づいてたのに、俺だけが目を逸らしてた。
そのせいでエドガーは死んだ。ユウナが殺してしまった。
もしかしたら他にもユウナの被害者がいるのかもしれない。
あるいはこの先増えていってしまうのかもしれない。

いや、それだけじゃない。ゼルだって俺が殺したようなもんじゃないか。
俺がサスーンでもたもたしてたからゼルは死んで、だから、アービンは一人で……
もしもゼルが生きていたら、アービンだってどっか行ったりしなくて、
きっとみんな一緒にデスキャッスルに籠って、全員無事で……

――デスキャッスル?
そうだ。テリーやロザリーは無事なんだろうか?
ギードは? ロックは? プサンのオッサンは? クリムトのジイサンは?
誰が生きてる? 誰が死んでる?

わからない。何も知らない。
覚えてるのはこの"夢の城"に来る前にいた、どことなくザナルカンドに似た"夢の街"。
それとユウナとアービンとカッパと、誰だかもわからない女の子の声だけだ。
放送があったのかどうかさえ……俺にはわからない。

ユウナはあの後どうしたんだ?
他の皆は生きてるのか?

不吉な想像が否応なしに浮かんでくる。
焦燥感に襲われた俺は、顔を拭いて、部屋の中をぐるりと見回した。
スコールは俺用のメモを書いた後、ヘンリーってオッサンと相談している。
アルガスは相変わらず離れた席に座り、一人で本を読んでいる。
その……アルガスの机の上に、参加者リストが無造作に投げ出されていた。
どういう仕組みかはわからないけど、リストは放送の度に、死亡者の名前に赤線が引かれるようになってた。
放送を過ぎているなら、リストを見れば皆の生死がわかるはずだ。
331前提と未来の相違 2/9:2013/06/16(日) 22:16:26.00 ID:cIWCKd/q0
俺は意を決してアルガスに声をかける。
「なあ、これ、見せてくれないッスか?」
「………」
返事はない。
ただのしかばねのようだ、って言いたくなるぐらい、一顧だにしないし表情一つ変えない。
意図的に無視してるんだろう。
そうされても仕方ない事をしたのは自分だ。文句なんて言えない。
俺は肩を落としながら、また壁際に戻り、座り込んだ。
そんな俺の様子に気付いたのだろう、スコールがアルガスの名前を呼ぶ。
「アルガス、リストぐらい見せてやれ。
 放送を聞き逃してるのかもしれないし、仲間の生死が気にかかるのは誰だって同じだ」
スコールの言葉に、アルガスは舌打ちしながら参加者リストを俺に向かって放り投げた。
乱暴な投げ方だったけど難なくキャッチに成功する。
ただ、表紙を思いっきり両手で挟んだところで、自分が全身濡れてたことを思い出した。
湿ってベコベコになったら大変だと手を離す。
だけど、不思議な事に、表紙は全然濡れてない。
首を傾げている所にアルガスの声が届く。

「まかり間違っても破くんじゃないぞッ! 現実の道具は直せないんだからなッ!」

……現実から持ち込んだ参加者リストだから、アルガスが出した夢の水じゃ濡れないんだろうか?
良くわからないけれど、多分、そういうモノなんだろう。
そういうことにしておこう。

気を取り直してリストをめくる。
真っ先に探したのはテリー。
同じ名前が二つあるから間違えないようにしようと思ったけど……両方とも赤線が引かれてた。
次は、ロザリー。
震える手でページをたぐり戻って、見つける。赤線は無い。
ホッと息を吐きながら、他の名前を探す。
ピサロ。赤線で消されてる。
ギード。大丈夫。ロック。大丈夫。
プサン。大丈夫。クリムト。大丈夫。
リュック。大丈夫。リルムはさっき居たから大丈夫に決まってる。
最後にターニア。……消されてる。

思っていたよりは生きている奴が多くて、でも、素直に喜べるわけがない。
テリー、ターニア、ピサロ。三人は誰に殺されたんだろう?
少なくともテリーを殺したとすれば、それはユウナじゃなくて、先に襲い掛かってきた焔髪の男・サラマンダーのはずだ。
けれどサラマンダーの名前を見てみると、そこにも線が引いてある。
それに良く見てみれば、マティウスとかザンデとかカインとか、アリーナとかパパスとかタバサとか、以前会ったことがある連中の名前が軒並み赤線で消されてた。
332前提と未来の相違 3/9:2013/06/16(日) 22:20:36.13 ID:cIWCKd/q0
このうち何人が、ユウナの手にかかってしまったんだろう?
知りたくない。知ったとしても信じたくない。
だけど……だけど、俺は、知らなきゃいけない。
そうしなきゃ、ユウナのこと、守ってやれないと思うから。

アービンと出会った時の事が脳裏を過ぎる。
昨日の朝、アービンは既に記憶を無くしてて、けれど自分のしたことはわかってて、罪を償おうとしてた。
それでもイクサスとバーバラは、アイツのことを許そうとしなかった。
それどころかアービンを庇った俺まで殺そうとしたり、サラマンダーにも殺害依頼を出したりして……正直『やりすぎだ』って思ってた。
でも、仲間を殺された人間の反応としてはイクサス達の方が多数派なのかもしれない。
現にさっき、マッシュはこう言った。
『俺を責めたりはしない、俺がエドガーを殺したわけじゃないから』って。
……それは、裏を返せば、『エドガーを殺したユウナのことは責める』って事じゃないだろうか。

ユウナは【黒い靄】のせいでおかしくなってるだけだ。
アービンと同じで、自分の意思じゃないことを無理矢理やらされてるだけなんだ。
だから俺はユウナを助けたいし守りたい。
理性の種が無い今、どうやればユウナを正気に戻せるかはわからないけれど……どこかに方法があるはずだ。
スピラに、究極召喚以外の道があったように。
だけど、ユウナが元のユウナに戻ったとしても、やったことを無かったことには出来ないから……
知らなきゃいけないんだ。ユウナのしてしまったこと、全部。

……ああ、でも。
ユウナだけじゃなくて、アービンの事も気にかかる。

何がどうなったのか、変わり果てた姿でもがいて泣いてたアービン。
あの後、本当に助かったんだろうか?
カッパに掴まって、もっと酷い目に合わされてたりしてないだろうか?
俺を呼んでないのだって、そもそも召喚士じゃないから呼べないだけかもしれない。
俺以外の奴だって――スコール達の助けは望めそうにないし、リュックだって近くに居なかった。
いや、近くにいたとして、あの姿じゃ逆に魔物扱いされて殺されてしまうかもしれない……

「どうしよう」

スコールとヘンリーが怪訝な表情を浮かべてこっちを見る。
口から言葉が零れていたに気付いた俺は、慌てて「なんでもない」と頭を振った。
333前提と未来の相違 4/9:2013/06/16(日) 22:24:18.33 ID:cIWCKd/q0
アルガスに何か言われなくたって、スコール達が大事な計画を進めてるってことはわかってる。
これ以上泣きついて困らせるわけにはいかない。
だけど、……どうしたらいいんだろう?
アルガスは俺の事を嫌ってるみたいだし、知恵どころか、今読んでる本だって貸してくれそうにない。
一人で考え込んだって、現実で起きてることなんかわかりっこない……

もう一度頭を抱えこんだ時、かさり、とポケットの中で音がした。
スコールから託されたメモ書きだ。
もしかしたら、こいつをアービンや誰か頭の回る奴に渡すことができれば、俺が悩むまでもなく事態を解決できるのかもしれない。
でも、それには――誰かが俺を召喚してくれなきゃいけないんだ。
くそっ。
アービンと話したい。
アイツが無事だってことを知りたいし、ユウナのことも相談したい。
何が起きて、誰がどうして死んで、ユウナが何をしてしまったか知ってないか聞きたい。
そんで俺のこと召喚してみてくれないかって頼むことができれば……
いや、召喚が無理でもメモを渡す事が出来れば、現実に居るアービンの手元に残るかもしれないじゃないか。
アービン……スコールが言ったように、夢の世界で話す事ができたなら――

「――ん?」

ふと、引き寄せられるような奇妙な感覚が首筋を掴んだ。
俺は何気なく顔を上げ、後ろを向く。
「あれ……?」
ただの壁だったはずの場所に、いつの間にか、下半分が錆びついた赤い扉が出来ていた。
――似ている。この夢に迷い込んだ時に。

「どうしたんだ、ティーダ」
スコールが呼びかけてくる。
不審がってる声音だった。
振り向いてみると、スコールもヘンリーもきょとんとした表情でこっちを見ている。
多分、この扉そのものが、俺にしか見えてないんだろう。
それでわかった。この扉の先が、誰の夢に繋がっているのか。

「呼んでるんだ、アービンが。ちょっと行ってくる!」

借りた剣をひっつかみ、メモがポケットに入ってることを確認して、俺は扉に手を触れる。
赤い扉は自動ドアみたいにひとりでに開き、暗闇に包まれた街の風景を晒す。
アルガスが何か喚いたけど、聞く時間さえ惜しい。
俺は迷わず、扉の向こうにある街へ――アービンの夢と飛び出した。
334前提と未来の相違 5/9:2013/06/16(日) 22:27:29.58 ID:cIWCKd/q0
******************

ティーダの姿がいきなり消えた。
捨て台詞から察するに、アーヴァインに召喚(?)されたんだろう。
召喚獣だとか幻獣だとか、俺の世界には存在しない代物だから、そこらの仕組みはさっぱりわからん。
死んだ奴は全員夢の世界でブラブラしてんのかと思ったら、そういうわけでもないようだしな。

「アルガス。今のは召喚されたのか?
 それとも夢世界に向かったのか?」
さしものスコールも測り兼ねたのか、本を読んでたアルガスに問いかける。
「わからん。あんな馬鹿の行動なんざ見てなかったからな」
身も蓋もない答えだった。
スコールは何も言わず、無表情のまま額に手を当てる。
そのまま気まずい沈黙の時間が訪れた。
十秒、二十秒、三十秒。
真っ先に耐え切れなくなった俺は、とりなすようにスコールに言った。
「ま、まあ、アーヴァインに呼ばれたのは確かみたいだし……
 夢で会おうが現実で会おうが、向こうとコンタクトを取れる可能性は上がるはずだ。
 手詰まりに近い現状を打破できるかもしれないし、どっちにしても悪い方向には転ばないだろ」
「……そうだな」
スコールは何か言いたげにアルガスの方を見ていたが、文句を言っても埒が明かないと踏んだようだ。
ため息をつきながら俺の方へ向き直る。

「何はともあれ……現状考えるべき最大の問題は、脱出経路の確保と首輪解除のタイミングだ。
 幸いな事に前者のアテは出来た。
 研究グル―プの中心だったザンデの生存が判明したし、ピサロの残した成果を引き継いでいるだろう城のグループも居る。
 どちらか片方と接触できれば、解決する可能性は極めて高い」
さっきからそうだったが、説明と言うよりも、自分の考えを纏めているような物言いだ。
何人もの命を背負ってるって自覚と責任感が強いのだろう。
固い表情も、内心の不安を曝け出さないよう、意図的に作っているように見える。
「だからやはり、ネックになるのは首輪解除の方だろう。
 生存者が一か所に固まった状態に持ち込めたとしても、一度に解除できる人数や要する時間を考えると、事が露見する可能性が高い。
 こうして夢世界に現実の人間を引き込めることを考えれば、一人ずつ『死んで』夢世界に隠れるのがベターだ……と、俺は思う」
335前提と未来の相違 6/9:2013/06/16(日) 22:29:21.47 ID:cIWCKd/q0
「まあ、そうだな」
俺自身は首輪解除を間近で見たわけじゃないが、五分から十分ぐらいはかかるって話は聞いてる。
祠に籠ってる人間がきっかり一人ずつ、五分おきに死んでいくなんて、そんなの怪しんでくれって言ってるようなもんだ。
「毒薬でも残ってれば、体格差や摂取量の差で死ぬ時間がズレたって言い訳も使えるけどな。
 さすがに俺達の持ち物ぐらい、主催者側だって把握してるだろう。
 俺とラムザが手を組んで、三人を裏切って殺した後、何食わぬ顔で仲間を迎えて眠らせて……って形が一番無難だろう」

バッツは実質的に替えが効かない役割を持ってるし、子供のリルムや怪我人のマッシュをいつまでも危険な状況に置いておきたくない。
俺がもっと強けりゃ一人で残ると啖呵を切ったんだけどな……
そんなこと口に出そうもんなら、今までに重傷を負った回数を数えろって言われちまうぜ。

「では、何かトラブルが起きない限りは、その流れで頼む。
 くれぐれも監視には気をつけてくれ。
 特に誰か一人でも意識や視界にノイズのようなものを感じたら、その時点ですぐに行動を中断してほしい」
生体ジャンクション、だったか。
他人の体に意識を接続して、視界や思考を奪うとかいう技があるっていうのは前に聞いている。
俺の世界にも似たような呪術があるが、ハマったら厄介だってのは簡単に想像つく。
「ああ、最大限気を付けるさ。
 ……それよりも」
俺はアルガスの方を見やった。
「わかってる」
スコールは答えながら席を立ち、本を読み続けてるアルガスの傍へ近寄る。

「アルガス。そろそろ例の鍵を貸してほしいんだが」
スコールの言葉に、アルガスは初めて顔を上げる。
「ティーダがアイツに会いにいったなら、接触があるかもしれない」
「あ、ああ、そうか」
そこまで言われてやっとティーダとスコールの会話を思い出したのか、アルガスは慌てて懐から鍵を取り出した。
……思ってたより迂闊なんだな、コイツ。

「ヤツが来たら俺は起きるからな。
 あの化物だけは、いくら夢でも絶対に会いたくないッ!」
「わかってる」

心底怯えてる様子のアルガスに対して、スコールは眉一つ動かさずに鍵へ手を伸ばす。
だが――スコールの指が触れた瞬間、静電気のような音を立てて鍵が跳ね飛んだ。
336前提と未来の相違 7/9:2013/06/16(日) 22:32:48.12 ID:cIWCKd/q0
「な、なんだ?」
そう言ったのはアルガスだったが、スコールも珍しく狼狽の色を顔に出す。
二人とも何が起きたのかわからないらしい。
疑問とある種の好奇心に駆りたてられた俺は、床に落ちた鍵を拾い上げる。
……普通に拾えた。
バチッとも言わないし、痛みも無い。

「どういうことなんだ……?」

俺達が首をひねっていると、辺りの風景が急に揺らぎ始めた。
圧迫感のある石造りの城内が、次第に、見覚えのある部屋に変わっていく。
装飾が施された赤い絨毯。二人掛けのソファとダブルベッド。
絨毯と同じ色のカーテンがかかった窓。クローゼットと本棚に、天井からぶらさがるシャンデリア。
「これは……俺の部屋?」
忘れるはずもない。
ラインハットに戻ってから、マリアやコリンズと共に日々を過ごした、あの部屋だ。
ただ、違う点が一つだけある。壁に憶えのない絵が四枚ほど飾られていた。
ソファに座って微笑むマリアとコリンズとデール。
サンタローズ近くの街道を背景にして旅する、パパスさんとリュカとその家族。
ウルの村で思い思いの表情を浮かべる、ソロとビビとピサロとロックとバッツと、リュックとわたぼうとエリアとレナとターニア。
それから、赤錆びた斧を手に、背を向けて雪原を歩いてる俺。
「……鍵の持ち主が変わったから、ヘンリーの夢が反映されたということか?
 だが、だったら……」
スコールが呟く。その横で、アルガスが何かに気付いたように手を打った。
「ああ、そうか。
 起きてる人間は自分の夢には入れないから、夢の主にはなれないてことか」

なるほど。
そう言えば、スコールだけは生身で夢に入り込んでるって話だったな。

「仕方ないな。ヘンリー、手間をかけて悪いが、俺を現実に戻して……」
「待てよ。そいつの夢を経由して外に出たら、そいつの身体の傍に出るかもしれないぜ。
 俺に一度鍵を返してくれ。それで、俺の夢から現実に戻そう」
スコールの言葉を遮りながら、アルガスが手を差し出す。
俺は素直に鍵を返した。
アルガスの言い分ももっともだと思ったし、第一、スコールを現実に戻す方法なんてわからないからだ。
337前提と未来の相違 8/9:2013/06/16(日) 22:38:03.99 ID:cIWCKd/q0
アルガスが鍵を握りしめると、途端に風景が元に戻る。同時にスコールの姿がふっと消えた。
「これでよし、と」
出会った時の錯乱っぷりが嘘のようだ。
自信と余裕を隠そうともせず、アルガスは胸を張る。
こいつをあんなに追い詰めたアーヴァインは一体何をやったんだろうか。
そんなことを考えた弾みに、ふと、タバサが殺された時のことを思い出した。

――割り切ろうとしても、やっぱり、消えないものなんだろう。
誰かに殺されそうになった恐怖も……誰かを殺された恨みも。

「戻ったぞ」

廊下から聞き覚えのある声がした。
「は、早いな?」
俺の感想を代弁するようにアルガスが呟く。
声の主・スコールは、肩を竦めながら事もなげに答えた。
「自分にスリプルをかけるだけなのに、時間がかかるわけないだろう。
 それより、鍵を」
「ああ」

アルガスが夢の鍵を放り投げ、今度こそスコールがキャッチする。
三度周囲が歪み――現れた風景は、俺の理解を完全に超えたものだった。
金属の床、金属の椅子、巨大な窓……その一面に広がる雲の海。
ごくり、とアルガスが唾を飲み込む。
今までの態度はどこへ行ったんだ、とからかう気にはなれない。
それぐらい、ここにある光景はぶっ飛んでいた。
平然としているのはスコールだけだ。夢の主なのだから当然なんだろうが。

「なんなんだ、これは?」
「飛空艇ラグナロク。俺達が使っていた乗り物だ」
アルガスの問いに答えながら、スコールは壁に刻まれた奇妙なヒビの前に立つ。
誰も手を触れていないにもかかわらず、壁は独りでに動いて真っ二つに割れた。
先には通路が続いている。
どうやら今のは扉だったらしい。
勝手に開く扉といえば神の塔もそうだが……こいつを動かしてるのは絶対に祈りとかじゃないだろう。

「こっちに客席がある。そこで話の続きをしよう」
「……あ、ああ………」

いくら夢とはいえ、爆弾首輪が玩具に見えてしまうほどのとんでもない『乗り物』に、
俺とアルガスは眼を瞬かせながら、曖昧に頷く事しかできなかった。
338前提と未来の相違 9/9:2013/06/16(日) 22:39:24.29 ID:cIWCKd/q0
【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (HP4/5、微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除、睡眠中)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【ヘンリー(HP2/5、リジェネ状態、睡眠)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:夢世界で話を聞く
 第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】

備考:ガイアの剣と夢世界についてのメモを、夢世界内でティーダにレンタル中です。
   実際にティーダ召喚時に現実世界へ持ち出せるかどうかは不明。
339名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/17(月) 20:39:12.93 ID:U60vXHHC0
新作乙!
ティーダ(死んでるけど)のユウナへの思いはうまく消化されるかな?
細かい所だけど、夢の世界の移り変わりの描写のところが、三人のキャラを表していて面白いw

>>329
了解。次から避難所に書き込むぜ
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/17(月) 22:36:27.56 ID:sGVgb0oD0
新作乙です!
わあいタイムリー!
相変わらず夢世界作戦会議は面白い。
FF8の世界は特にDQ勢にとってはびっくりだろうなwww

>>339
329じゃないけど楽しみにしてる!
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/19(水) 21:16:57.60 ID:Tdxb5I/RO
乙です

ああ…こんな平和なカルチャーギャップ、凄く久しぶりだw
着実に状況は進んでるぞ、頑張れ
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/20(木) 15:18:55.26 ID:2cjMTFlWO
しえんあげ
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/20(木) 21:50:33.53 ID:YkBz7lKF0
>それから、赤錆びた斧を手に、背を向けて雪原を歩いてる俺。
これ1stネタか
344優先順位と分かれ道 1/7:2013/06/20(木) 23:40:03.82 ID:QtjHiNWY0
魔族の本拠地だけあって、デスキャッスルの内部は複雑だ。
初めて来た時は散々迷った挙句、大魔道やガーディアンといった魔族の精鋭達に追い詰められて、
結局リレミトで出直す羽目になった。
今、この城には魔物の影はないけれど……待ち受ける危険は変わらない。

「なんかキラキラした床がそこらにあるけど、なんなんだ?」
ザックスさんがとんとんと床を蹴る。そのつま先近くにあるのは――
「そ、それは雷撃のバリアですわ! 触れてはいけません!」
「マジかよ! あっぶねえな」
ロザリーさんの言葉に、彼は慌てて足を引っ込めた。
見ていてハラハラするし、危ない罠だけれど……バリアは動いて襲ってこないだけマシだ。
問題は――『敵』。

一階にある小部屋を一通り見て回る。
殆どは魔物たちの詰所だ。狭いから扉から覗き込めば事は済むけれど、いかんせん数が多い。
おまけにバリア床を避けながら歩かなければいけないせいで、予想以上に時間を喰ってしまう。
なのに結局、どこにも誰も居なかった。
やはり、もっと上の方にいるんだろうか?
「遠目で見た限り、五階か六階はあるように見えたし、バルコニーも多かったしな。
 サイファーはともかく、ユウナ達の仲間ってのは、一階なんかより二階か三階ぐらいの……
 バルコニーにも入口にも回れるような、逃げやすい場所に隠れてるんじゃないのか?」
ザックスさんがひとり言のように呟いた。
この人も頼れるんだか、危なっかしいんだかわからない。
まるでヘンリーさんを見ているみたいだ。……なんて、ザックスさんに失礼か。
でも、……彼もまた、良い人だと思う。

「階段はあっちみたいだな。
 ロザリー、大丈夫か?」

良い人だと、思う。

「ええ、まだ、歩けますわ」

ロザリーさんも、ザックスさんも。

「無理するなよ。疲れたらいつでもおぶってやるからさ」

だから。

「――待ってください」

僕は、二人を止めた。
345優先順位と分かれ道 2/7:2013/06/20(木) 23:41:32.46 ID:QtjHiNWY0
今、僕達を追い詰めようとしている『敵』――アーヴァイン。
彼について知っている事はそれほど多くない。
でも、どんな能力を持っているかってことはわかってる。

「アーヴァインは特別な靴を履いています。
 その靴の力で、二階や三階ぐらいの高さまでなら簡単にジャンプできるんです。
 そして、この城は……バルコニーを通らないと、上層に行けないようになっています」
「!」
戸惑うロザリーさんの横で、ザックスさんの眉がぴくりと動いた。
僕が言おうとしていることを察したのだろう。

「僕がバルコニーに回るか、あるいは入口が閉ざされていることを確認したら、
 アーヴァインもまたバルコニーから城内に回り込もうとするでしょう。
 その隙を付くことができれば、入口からはむしろ安全に脱出できるはずです。
 だから、ザックスさん。ロザリーさんを連れて、先に南東の祠へ向かってくれませんか?」

アーヴァインは、多分僕よりも頭のいい人間だ。
裏の裏をかくということも考えられるけれど――
少なくとも、扉を力づくで破って中に入ると言う手は使わないと思う。
それにザックスさんが戦闘経験豊富な人だってことは、今までの会話や態度で十分読み取れた。
彼の力量なら、安全なタイミングを見計らってロザリーさんと一緒に外に逃げることが出来るはずだ。

「……向こうがそこまで読んでたらどうするんだ?
 さっきも言ったけど、バラけたところで狙い撃ちされたら危険だぞ」
「僕が狙われる分には、城の中ですから彼の起動力も戦術もある程度制限されるでしょうし……
 そうやって考えられるザックスさんなら、外で狙われても、僕よりも上手く対処できると思うんです」
「おいおい、買い被ってくれるなあ」
ザックスさんは後ろ髪をかきながら、気取られぬようにロザリーさんを見やった。

ロザリーさんは戦う力を持たない。
敵が剣士や魔法使いなら、それでも彼女を庇いながら戦えただろう。
僕にはマホステがあるし、天空の剣も盾もある。
魔法は無力化できるし、接近戦に持ち込めば大抵の相手と渡り合える自信があった。
けれど、アーヴァインは狙撃手。
毒矢ずきんやアローインプのように、遠距離から絡め手で攻める戦士だ。
レーベでターニアを狙い、宿屋を燃やした時のように……
ロザリーさんを守りながら進もうとすれば、僕達の死角から忍び寄り真っ先に彼女を狙い撃つだろう。
それだけは避けたい。
346優先順位と分かれ道 3/7:2013/06/20(木) 23:43:29.59 ID:QtjHiNWY0
「なあ、ソロ。
 確認させてもらうけど、お前の優先順位の一番は、ロザリーを助ける事なんだな?
 サイファーでも、ロックってヤツでもなく」
ザックスさんの問いかけに、僕は頷いた。
彼女を死なせたくはない。
少なくとも、この城では、絶対に。
ピサロとはわだかまりもあったけれど……奴が死んだ今、僕が彼女を守ってやらなきゃいけないと思う。
そのために別行動しようというのも変な話だけれど、考え付いた一番良い案がそれなのだから仕方ない。

ザックスさんはしばらく難しい顔をしていたけれど、やがて、根負けしたように言った。

「しょーがねーなー。
 そういうことなら、レディの護衛ミッション、受けるとすっか」

……――そして。
二人の後姿を見送ってから、僕は階段を上る。

この城は二階で、最上階へ向かう道と、賢者の石があった錬金術の研究棟へ続く道に別れている。
でも、最上階にはゴンドラを動かさないと行けないようになっているから……
逆に言えば、順路通りにゴンドラが動いているなら、誰かが最上階に行ったはずだ。

盾を構え、周囲を警戒しながらバルコニーへ出た。
アーヴァインの姿はない。
恐る恐るバルコニーの柵から身を乗り出してみると、遠くの方で、黄色い鳥がフラフラ走っているのが見えた。
何か白っぽいものが乗っているように見えるけれど、距離がありすぎて人なのかどうかわからない。
だけど――ふと、レーベでの事を思い出す。
あの夜、アーヴァインは特徴的な服と他人の血痕を残して自分の死を偽装しようとした。
それと同じように、僕の眼を欺く為に、鳥だけを走らせているのかもしれない。
だとしたらやっぱり城内にいる皆の方が危険だ。
……ついでに言えば、こうやって外を注視しているところを見つかったら、格好の的だ。

先へ進み、二階を一通り走って様子を探る。
ゴンドラは全部動いていた。
やっぱり誰かしらが最上階側に行ったんだろう。
それがサイファーなのか、ロックさん達なのか、その両方なのかはわからないけれど。
急ごう。間に合ううちに。
347優先順位と分かれ道 4/7:2013/06/20(木) 23:45:05.92 ID:QtjHiNWY0
***************

ソロやこの城と、ロザリーの関係は、彼女自身の口から聞いてる。
だからソロの、『罪を憎んで人を憎まず』を地で行く真っ直ぐなお人よしっぷりには好感を持てたし、
ロザリーを守りたいって気持ちは俺だって同じだ。
彼女の安全を第一に考えるなら、ソロの提案は悪いものでもない。
だから引き受けた。
ただ――

俺はちらりと後ろを見る。
ロザリーは物憂げに俯いたまま、黙って俺の後に着いてきている。
その両手は心なしか固く握られ、唇は不自然なほど堅く結ばれていた。
彼女だって言いたい事はあるだろう。
自らの身よりも仲間や知り合いの身を案じたから、この城まで付いてきたんだろうしな。
だけど、現状は予断も油断も許してくれない。
サイファー達に会うより先に、狂った殺人者とやらに見つかった以上、ロザリーを守るためには逃げるしかない。
それがわかってるから彼女は口を噤んでいる。
その気持ちや気遣いを無駄にしないためにも、絶対に守り抜いてやらないきゃいけない。
責任重大、だ。

バリア床を避けて入口に戻る。
ロザリーを少し離れた柱の陰に立たせた後、俺は分厚い鉄の扉に近づき、息を潜めて耳をつけた。
静かだ。何の音もしないし、気配も感じない。
――けれども、それは外に誰もいないって証明にはならない。
そもそも扉が分厚すぎて、音も振動もシャットアウトしているだけかもしれない。
焦って外に出るのは、さすがに危険だろう。
どこかに小さな窓でもないかと、俺は辺りを見回す。
望み通りのものはすぐに見つかった。
城の正面ではなく、バリアの向こうにある側面側の壁。
かなり高い位置だが、等間隔に飾り窓が並んでいる。
閂代わりの剣がしっかりとかかっていることを確認してから、俺は扉から離れる。
イチかバチかの賭けになるが……ここは一発、チャレンジしてみよう。

「ザックスさん……?」
柱の横からロザリーが不安げに覗き込んでいる。
俺は人差し指で「しっ」とジェスチャーしてから、ザックにしまっておいたソレを取り出した。
348優先順位と分かれ道 5/7:2013/06/20(木) 23:46:45.55 ID:QtjHiNWY0
手裏剣。
シスネやウータイの連中が好んで使う武器だ。
正直、実戦どころか練習だってしたことないけど……
窓を割りたいだけだし、ナイフ投げの要領でいけるだろ。多分。

「てりゃっ!」

押し殺した掛け声に合わせ、フルスイングして投げた手裏剣は、見事に突き刺さった。
窓……ではなく、斜め下の壁に。
女の子も見てるってのに、これはちょっと、かなり、カッコ悪い。

「あの、ザックスさん……」
「ロザリー。頼む、今のは見なかった事にしてくれ」
「あ、はい……」

気を取り直してもう一回チャレンジだ。
今度こそ窓をしっかりと狙い――投げる!

「……っ、よっし!」

きっちり飛んだ手裏剣は、ガラスを難なく破って外へと飛び出す。
これで外にチョコボがいれば、今の音を察知して鳴くはずだ。
いくらアーヴァインって奴が特別な靴を履いてるとしても、チョコボを抱えてバルコニーに飛び移ることなんか出来っこない。
必然、チョコボは一階の外にいる。
そしてヤツが一階にいるならチョコボの声でガラスに気付き、扉を開けようとするはずだ。
逆に言えばチョコボが鳴いても扉に異変が無いなら、野郎は既に上階に回り込んでるってことだ。

俺はじっと耳を澄ます。
十秒、二十秒……一分、二分……五分。
待てども待てども、何の声もしない。
当然、扉にも不審な動きはない。
耳の悪いチョコボで、窓が割れた事に気付かなかったんだろうか。
それとも、チョコボは別の場所に置いてきているんだろうか。
確認の為に、もう一枚ぐらいガラスを割ってみた方がいいのか――そう悩み出した時だった。

ガチャリ。

扉と取っ手に通された剣が、身もだえするように音を立てた。
ガチャガチャガチャ、ガチャッ―ー乱暴ではないけれど、扉を開けようと、執拗に、
俺は急いでロザリーの傍らに駆けより、立ちすくむ彼女を守れるよう剣を抜き放つ。
しかし、扉が開くことは無いまま、音は唐突に止んだ。
349優先順位と分かれ道 6/7:2013/06/20(木) 23:49:34.79 ID:QtjHiNWY0
「……ザックス、さん」
ロザリーが息を殺しながら、俺の肩を掴む。
俺は彼女の頭を撫で、じっと様子を伺う。
焦って飛び出すのは危険だ。
バルコニーからここに回り込んでくるなら、階段側から足音が響くから、それを聞いてから逃げれば事足りる。
怖いのは去ったと見せかけておいて外で待ち構えられている事。これが一番怖い。
だが、こうやって柱の陰にいれば、扉が破れても俺達の姿はすぐには捉えられない。
隠れていれば、相手が奥へ向かった瞬間に出口へダッシュするなり、不意打ちで気絶させるなりできる。
相手の出方を待って対処する。それがベストな選択のはずだ。

背筋を汗が伝う。
どれほどそうしていただろう。

やがて、どこからともなく犬の吠え声がした。
アンジェロだ。
殆ど反響していないから、十中八九外だろう。
だが、その鳴き方は明らかに切迫した様子を感じさせた。
その予感が正しい事はすぐに証明された。
紛れもない銃声が響いたからだ。それも、何度も。
ビクンと身を震わせるロザリーに、俺は「大丈夫だ」と声をかける。
光線銃とは一線を化す実銃の咆哮は、執拗に鳴り響いていたが――扉が撃たれている様子はない。
恐らく、バルコニーのどこかで銃撃戦が行われているのだ。
出ていくタイミングさえ間違えなければ逃げ出すチャンスはある。

そうこうしているうちに、銃声が止んだ。
同時に、かすかな振動が床を走る。
……まさか飛び降りてきたのだろうか?
俺はロザリーにそこから動かないよう言って、再び扉へと近づく。

―――ワンワン……ワンッ……

またもや、アンジェロの鳴き声がかすかに響いた。
扉と扉の合わせ目に耳を当てると、ギギィという金属のひっかき音まで聞こえる。
もしやと思い、俺は剣を引き抜いて扉を開ける。

「ワンッ!」

俺の予想通り、開いた隙間から身をよじらせるように、アンジェロが飛び込んできた。
アンジェロはすぐさま俺の裾に飛びつくと、外へと引っ張る。
その理由はすぐにわかった。

――さほど離れてない場所に、血を流した中年のおっさんがうずくまっていたからだ。
350優先順位と分かれ道 7/7:2013/06/20(木) 23:50:13.45 ID:QtjHiNWY0
【ソロ(HP3/5 魔力1/4)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 ひそひ草
      ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
     フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
 第一行動方針:サイファー・ロック達と合流し、南東の祠へ戻る
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【現在位置:デスキャッスル2F→最上階へ移動】


【ザックス(HP1/2程度、左肩に矢傷、右足負傷)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(11) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 第一行動方針:ロザリーの安全を確保する為南東の祠へ向かう
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:南東の祠へ向かう
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【プサン(HP4/5、左肩と左腕に銃創)
 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
 第一行動方針:ロック達とは別に南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【アンジェロ(HP9/10)
 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
 第一行動方針:プサンに協力する
 基本行動方針:ケフカを倒す/仲間達に協力する】
【現在位置:デスキャッスル外観・1階入口前】
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/21(金) 20:38:22.52 ID:cYaHv3Li0
新作乙!
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/22(土) 21:43:55.06 ID:UEazzf4J0
おおお何かいっぱい来てた!
乙です!
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/23(日) 09:26:02.46 ID:2mUSLNjL0


ザックスとプサン、今後のセフィロスの行く末を左右しそうな二人が合流したか
354嫌な予感しかしない 1/3:2013/06/27(木) 00:28:19.28 ID:agcmzPj/0
「……はあ」
好奇心は猫を殺すと言うけれど、調べなきゃ良かった。

奇妙に焼け焦げた地面の傍ら、不自然なほどこんもり詰まれた草が二つ。
中身を確かめてみたところ、やはりというかなんというか、どっちも死体が隠されていた。
タバサと同じ年代の少年と、あんまり原型を留めちゃいないが『俺』と同年代の男だ。
後者に至っては酷い有り様だってのに衣服が残っていて、そいつに見覚えがあると来ている。
サスーンでセージが叩き起こしたマヌケな奴、ティーダだ。
さすがに知り合いの死体ってのは気持ちいい物じゃない。

『あの少女に化けた魔物の仕業に違いない』、と頭の中で『アルス』が騒いでいる。
アイツとしてはそういうことにしとかなきゃ気が済まないんだろうが、俺はそうとは思えなかった。
もちろん理由はある。ティーダの死に方だ。
上半身近くだけが、中途半端に黒く焦げている。
炎なら全身に燃え移って火傷が残るはずだが、そういう痕跡はない。
それに地面の焼け方も、広範囲に渡って点々とまばらに散っている。
こういう破壊を残す魔法は、俺の知る限り一つだけだ。

勇者の雷、ライデイン。

つまり、もしかしなくても、殺し合いに乗ってる勇者がいる。

正直、全力で否定したい。
でも『俺』は、本物のアルス以外にも勇者がいることを知っている。
例えばタバサの兄・レックス。
異世界の勇者である彼も、ライデインやギガデインが使えると、タバサ達親子が言っていた記憶がある。
それからギルダー。
クリスタルなるものに選ばれた戦士だという彼は、デインとは体系の異なる雷撃呪文を習得していた。
……そして冷静に考えれば、ギルダーだって元々殺し合いに乗っていたわけだから、
まさかとか言う以前に、勇者だろうが光の戦士だろうが積極的に人を殺す奴がいるって考えなきゃいけないのだろう。
ただ、問題は――

(ティーダ達を殺したのがデイン系呪文を扱える勇者で、そいつが襲い掛かってきたら……
 『アルス』や『セージ』は……俺達は、正気で居られるんだろうか?)

精神は既に半壊し、バラバラになった感情を元に仲間の人格を組み立てて、妄想に閉じこもることでどうにか自我を保っている。
それが今のセージであり、俺達だ。
そしてセージが最も信頼し、主導権を託しているのが、勇者アルスをモデルにした人格『アルス』。
当然ながら『アルス』はセージの一部であり、本物のアルスでは決してない以上、雷撃呪文なんか使えやしない。
『アルス』が得意のはずの呪文を放てず、けれども相手が本物のライデインやギガデインを唱えてきたら……
身体より先に、心の方が色々と止めを刺されてしまうだろう。
その結果どうなるかはわからないが、多分廃人になるか、暴走して魔王のごとく死ぬまで暴れ続けるかの二択だと思う。
355嫌な予感しかしない 2/3:2013/06/27(木) 00:30:24.43 ID:agcmzPj/0
俺はザックから地図を取り出した。
コンパスと通ってきた道、地形を照らし合わせ、だいたいの現在位置を推測する。
恐らくだが、ここは北西の祠へ行く道の分岐点付近だ。
今まで出会ったのはサラマンダーとフィンと青髪の女で、どいつも勇者には見えなかった。
となるとティーダ達を殺した犯人は、北西の祠か、南西の祠か、中央の城か。
俺が通ってきた道以外のどこかにいるに違いない。

(どうした、『ローグ』? 悩む必要はないだろう、中央の城へ向かえばいい)
『アルス』が話しかけてくる。その声には明らかな苛立ちと殺意が感じられた。
青髪の女やティーダ達を殺した犯人をとっとと始末したいって言わんばかりだ。
いや、あるいは俺の考えを薄々察知しているのかもしれない。
いくら人格がバラバラでも、結局、元は一つで脳味噌も一つだもんな。

だけどな、『アルス』。
お前の存在理由と俺の存在意義は違うんだよ。
正義である為に何でもするのがお前なら、正気であるために努力しなきゃならねえのが俺なんだ。

中央の城なんて見るからに目立つ場所、人が集まるに決まってる。
だからこそ、今となっては行きたくない。
そこにティーダ達を殺した『勇者』が居たら、破滅するのは99%俺達だ。
不可避のバッドエンドなんて、本物のアルスが引き出しの裏に隠してた秘蔵の凌辱物官能小説だけでお腹一杯だ。
だいたいあんな、服だけ溶かすバブルスライムとか魔物が浴びてもダメージにならない聖水とか、
馬鹿の極みみたいな発想を詰め込んだエロ本を大事にするなんて勇者ロトの称号が泣くと思わないんだろうか。
仮にアリアハンに生還できたとして、実の親に見つかったらやっぱり精神崩壊してもおかしくない奴だぞアレは。
……いやそんな話はどうでもいいんだ。
俺が言いたいのは、一方的になること確定のライデイン合戦を避けるべく安全に行きたいってだけなんだ。
そして賭けにはなるけれど、一つだけ策があることはある。
気は進まないが、他に手段もない。

「わかっってるよ『アルス』。ただ、少し疲れちまったからなあ……
 悪いけど『フルート』、少し交代してくれ」

(えっ?)(……え?)
(は〜い!)

『アルス』と『セージ』が呆然とする中、『フルート』が元気に返事をする。
俺と入れ変わった『彼女』は、すぐにるんるんと鼻歌を歌いながら地図を見直した。
早速方角が間違ってるが訂正する気はない。
356嫌な予感しかしない 3/3:2013/06/27(木) 00:38:33.96 ID:agcmzPj/0
フルートの道案内成功率の低さは筋金入りだ。
周りがちゃんと『〇〇へ行け』と言っても、高確率で彼女は道を間違える。
故意にではなく、本気で目的地に向かっているつもりだから、止めようがないし性質が悪い。
そして本物のフルートが『そう』だった以上、『フルート』は絶対に同じ事をする。
例えるなら人力バシルーラ。
一度発動したらどっかの拠点に辿りつくか戦闘になるまで止まらないという極悪な技だ。
極稀に目的地に着くことがあるけど、一匹だけ出てきたはぐれメタルを毒針の急所突きで狩れる事ぐらい極稀だ。
ロマリアからカザーブに行こうとしてアッサラームやイシスやポルトガやバハラタに向かう彼女を舐めてはいけない――!

……あー、何でだろう。なんか言ってて涙が出てきた。
俺達、良く生きてゾーマ倒せたなあ……あと本物のアルスとローグ、良く胃に穴開かなかったなあ……

「ふっふふ〜ん、ふ〜んふ〜ふ〜ん♪」

小さく舌打ちをする『アルス』を余所に、『フルート』は脳天気に歩き出す。
俺は運を『彼女』と天に任せ、目を閉じた。
――『俺とフルート』の行動が、どんな結果を生むのかも知らずに。
 

【セージ(MP2/3、多重人格)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
     英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
     陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 基本行動方針:『アルス』:悪人を倒したい/城へ向かいたい
        『ローグ』:正気に戻りたい/精神状態が悪化しないよう、本物の『勇者』との接触を避ける
        『フルート』:皆と一緒にいたい/城へ向かっているつもり
        『セージ』:特にない/『アルス』の意見に従う
 最終行動方針:『共通』:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み→どこかへ移動】
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/27(木) 19:32:36.19 ID:mzgoU3Rn0


ついに一人一人の行動方針が独立w
一人なのに状態表が長いw

セージの中でギルダーのサンダラの評価高くてふいたw
ライデインと並べて語られるとはw
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/06/27(木) 20:32:46.66 ID:qcY5C66m0
この表記いいなw
359舞台の裏で笑うのは 1/14:2013/07/01(月) 00:31:08.09 ID:DPPKQlQ60
とことことチョコボは茂みを歩く。
背に少女と、異形と化した青年を乗せて。
その後ろを今一人の青年が追う。
たった一つ残されたザックの中身を確かめながら。

「やけに瓶が多いな……どっかの村で仕入れてたのか?
 だったらもう少し大目に持っとけってんだよ」
ぶつくさと文句を言いながら、青年――サイファーは、ラベルが張られた瓶詰の容器を取り出す。
元は何らかの料理が詰められていただろうそれには、代わりに水が並々と入れられていた。
ザックの本来の持ち主であるアーヴァインが、魔王の居城デスキャッスルにて休息していた際に補充したものだ。
当然ながらアーヴァインとて食品類を探し求めたのだが、
爬虫類の干物や蛆虫に塗れた腐肉、はたまた得体の知れない奇形植物の束を前にして、泣く泣く水だけを詰めた――
……という経緯など、サイファーには知る由もない。
中身を口にして、飲料水であることを確認してから、仲間へと手渡す。

「ほらよ、リュック。飲めるうちに飲んどけ」
「……うん」

喉が渇いていたリュックは、素直にサイファーの進言に従った。
洗浄が不十分だったのだろう、瓶からは微かに煮込み料理らしき匂いが漂っている。
その香りに空きっ腹を刺激されながらも、彼女はごくごくと水を飲み干す。
アーヴァインが起きていれば半分残して渡したのだが、生憎と彼はあれから目覚める気配を見せない。

呼吸はか細く不規則で、顔色は極めて悪く、額に手を当てれば明らかな熱さが伝わってくる。
しかも時折右半身が痙攣を起こし、服の下で人間には有り得ない器官が脈動する度、呻き声を漏らす有り様だ。
既にドレスは正義をかざす聖騎士のそれから、魔物を見極める魔銃士へと着替えていたが――
体調から弱点から、全てを見破る眼力をもってしても、彼を救う術は見えてこない。
それどころか、一度意識を取り戻したことが奇跡で、この状態こそ当然だとさえ言えた。

「ねえ」
「なんだ?」
「ごめんね」
「……誰に言ってるんだ」
「今は、サイファーに。……んっと、なんていうか、迷惑かけちゃったから」

眼を背けて俯くリュックの言葉に、サイファーは舌を打ち鳴らす。
彼は好戦的で自己中心的な人間だが、自分の落ち度を他人のせいにするほど卑屈ではない。
それに、責めるべき存在はリュックではなく、他にいると知っている。
「テメェが謝ることじゃねえだろ。
 頭下げる時間があるなら、そいつをどうにかするか、クソ忌々しいピエロとカッパをどうにかする方法でも考えろ」
それは半ばサイファー自身へ向けられた言葉だったが、リュックの心にも十分に届いた。
「……そだね」
リュックはアーヴァインの手に触れたまま、サイファーを見やる。
――その刹那、気を失った青年の手から幻光が舞い上がったけれども、彼女はついぞ気づかなかった。
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:32:08.57 ID:MvR04I0o0
 
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:32:31.86 ID:MvR04I0o0
 
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:34:08.13 ID:MvR04I0o0
 
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:35:35.46 ID:MvR04I0o0
 
364舞台の裏で笑うのは 2/14:2013/07/01(月) 00:36:15.80 ID:DPPKQlQ60
夢見が悪い、という状況がある。
心配事やストレス、あるいは病気や消化不良等に伴う体調不良。
精神や身体が弱れば、人は望まぬ悪夢に襲われやすくなるものだ。
まして、現実に邪悪な存在の一部が憑りついているともなれば――

「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
――侵食のイメージと夢が結びつき、恐怖映画さながらの光景が作り上げられることも珍しくはない。

"眠らない街"と呼ばれたガルバディアの首都・デリングシティを背景に、
白いローブを着た青年――アーヴァインは悲鳴を上げて走り続けていた。
その背後から迫るのは、かつて彼が喰らった闇竜よりも遥かに巨大な、灰褐色の不定形生物だ。
表面は無数の血管と触手で覆われていて、悪趣味な事に奇怪な翼を背負った銀髪の女性の上半身まで生えている。
それがさながら津波のように、車や建物を飲み込みながら猛スピードで押し寄せているのだ。
その生物が何で、取り込まれたらどうなるのか、夢の主たる青年は薄々ながら理解していた。

狂気の魔道士によって流し込まれた魔力は、ジェノバの本能を活性化させた。
不定形の生物が、人間の姿で逃げ惑うアーヴァインを捕えて貪り喰らう時――
それは悪夢によって弱った精神が、ジェノバの意思に取り込まれて消滅する時。
だからこそ彼も必死で逃げ続けているのだが……結局は夢であるせいか、中々振り切る事ができない。
マンホールから下水道に逃げてみた。蓋を閉めても後ろから追ってきた。
下水道からビルに入って上階へ向かった。壁を這って登ってきた挙句、同じ階のガラスを割って侵入してきた。
どうせ夢ならと屋上に向かい、ヘリポートから小型ヘリで飛んで逃げた。触手を伸ばされ捕まえられた。
ついには持ってもいないレビテトを唱えながら飛び降りた。怪我はしなかったが、ジェノバも轟音と共に飛び降りてきた。

「うわーーーん!! たすけてティーーダーーーーー!!」

助けが来る道理などないと思いながらも、なりふり構わず泣き叫ぶ。
最愛の人を拠り所にしたくとも、偶然の悪戯か、彼女の名は憎きジェノバの統合者を思い出させてしまうものだった。
銀髪をなびかせるその姿を思考の端に浮かべただけで、ジェノバの意思を象徴する背後の怪生物は勢いを増す。
だからこそアーヴァインは一日限りの友に縋った。
例え身体が魔物に成り果てようと、心までは明け渡したくないと願うが故に。
そして、その望みは彼が思うよりも早く成る。
365名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:37:09.86 ID:MvR04I0o0
 
366舞台の裏で笑うのは 3/14:2013/07/01(月) 00:37:44.66 ID:DPPKQlQ60
逃げ惑う道の先に現れた、巨大な映画館。
『魔女の騎士』や『FINAL FANTASY』、『LOVELESS』等の看板を掲げた入口から、ふらふらと一人の青年が出てきた。
緑のバンダナを巻き、いささか野暮ったい服に身を包んで変装した姿であっても、アーヴァインが見落とすはずなどない。

「ティーダ! ティーダーー!!」
必死の形相で叫ぶアーヴァインの声が届いたのだろう。
ティーダはすぐに彼を見つけ、満面の笑みを浮かべて駆け寄り――
「アービン! ……って、え?」
――そして、気づいた。
友人の後ろから襲い来る、醜悪極まりない怪物の存在に。

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
「うわああああああん!! たーすけてーー!! 」

二人は絶叫を上げながら、映画館の中へ逃げ込んだ。
扉を蹴飛ばして閉めてから、奥へ奥へと駆ける。
「なんスかあれ?! 夢にしたって怖すぎだって!」
「あ、あれも、カ、カッパ、カッパの仕業なんだってばー!」
ティーダの言葉に、アーヴァインはぜひぜひと息を切らしながら答える。
今にも足がもつれそうな様子に、ティーダは「しっかりしろ!」とアーヴァインの手を掴んだ。
「ここの奥に俺が来た扉があるんだ! そこまで行けば、きっと助かる!」
「と、扉?」
「そうだ! 俺、さっきまでスコール達の夢の中にいたんだ!
 なんかアルガスって奴が持ってた道具で、夢の世界で話せる鍵があるってんで、俺、たまたま入り込めて――」
「よ、よくわからないけど……あ、ア、アレから逃げ切れるの?」
アーヴァインは後ろを見やりながら、震える声でティーダに問いかける。
二人の背後からは当然のように怪生物の触手が迫ってきていた。
「大丈夫! 扉にさえ辿り付けば、スコールが助けてくれるはずだ!」
それは傍から見れば根拠のない上に他力本願じみた励ましだったが、ティーダの言葉を疑うという発想はアーヴァインには無かった。
そして現実世界ならば己の足元を掬うだけの、理屈を無視した思い込みは、夢世界においては真の救いとなる。

「あった!」
ティーダが指し示した先に、明らかに異質なドアが一枚現れる。
アーヴァインにとっては懐かしささえ覚える、バラムガーデンの自動ドア。
それを模した扉は仲間を招き入れるように開き、青年達は躊躇う事無くそこに駆けこんだ。
367舞台の裏で笑うのは 4/14:2013/07/01(月) 00:39:53.05 ID:DPPKQlQ60
戦場だろうと政治だろうと、引き際を見誤った人間の末路は得てして不幸なものだ。
歴史を紐解けば、その反省を生かせぬまま命を散らす者も少なくない。
逃げようと思っているならば退路があるうちに逃げるべきなのだ。
アルガスは狭い空間の中で膝を抱え、身を縮こまらせながら、ひたすらに後悔していた。

「ひええ、今度こそダメかと思ったよ〜!
 ありがとね、ティーダ、スコール! 持つべきものは仲間だよ〜!」

壁一枚隔てたすぐ真上で、最も聞きたくない人物の声が響いている。
ウネの鍵さえ手元にあったならば、夢の支配者として忌々しい訪問者を追放することも出来ただろう。
だが、頼りの鍵はスコールが持っていて、アーヴァインに見つからずに取り戻すという事は叶いそうにない。
逃げ場のない恐怖心は、アルガスの思考を大幅に狭め、当初考えていたはずの最も簡単で安全な解決方法さえ失念させた。
かくして、彼は冤罪にて牢獄に繋がれた囚人のように、暗闇で震えているのだ。

「全く、何事かと思ったぜ。
 いきなり出てきたと思ったら二人揃って壁にぶつかってさ」
「追われてたんだよ〜。パニック映画みたいにさ。
 夢の中ぐらいゆっくりさせてくれって言っても、向こうが聞く耳持ってくれないんだ」
「パニックエイガ? ……良くわからないが、悪い夢見てたのか?
 でっかいモンスターにでも食べられそうになってたとか」
「せいか〜い。ヘンリーさんに100ギルプレゼント〜。
 ……はぁ、本当に疲れたなぁ、もう」

ちょうどアルガスの目の高さにある"覗き窓"、その片方を、白いローブが覆い隠す。
同時にぎしりと壁が軋んだ。
流石にアルガスの心情を察したのか、スコールが平静を装った声音で注意する。
「アーヴァイン、その"ダンボール箱"は机代わりに使っているんだ。
 潰れるから、体重を掛けるのは止めてくれ」
「あ、ごめん。ちょうどいい高さだったから、つい」

衣擦れと共に圧迫感が消え、アルガスはほっと息を吐いた。
予想より早くやってきたアーヴァインとティーダを前に、夢の世界から逃げるタイミングを失ったアルガスは、
スコールがとっさの機転で出した夢のダンボール箱の中に隠れている。
悪夢から逃げ惑っていたアーヴァインは、アルガスの存在には全く気付いていない。
冷静に考えればそのまま目を覚ませないか試すべきなのだが、
先述した通り、恐慌状態に陥っている彼は息を潜めて隠れることで頭が一杯だ。
それでもアルガスにとって幸いだったのは、スコールとヘンリーが傍らにいたこと。
聡明な二人が会話で気を引いたり、それらしく説明づけたり、筆記具を置いたりと手を尽くしているために
ティーダもアーヴァインも箱に空いた"覗き窓"――もとい、持ち手の穴から中を見ようとはしなかった。
368名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:40:25.31 ID:MvR04I0o0
 
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:41:08.31 ID:MvR04I0o0
 
370舞台の裏で笑うのは 5/14:2013/07/01(月) 00:41:14.37 ID:DPPKQlQ60
「それにしても、ホント助かったよ〜。
 ティーダとスコールがいなかったら、どうなってたかわからなかったもん」
「追われてたって、夢の話じゃないのか?」
呆れているスコールに対し、アーヴァインは拗ねたような声で答える。
「夢の話だけどさ、追っかけてきたアレは僕の夢じゃないよ。
 話すと長くなるんだけど、僕を利用しようとしてる奴の意思っていうか……まあ、そんな感じのヤツなんだよ」
「件のカッパって奴か? ……って、そう言えばお前、普通の格好してるけど、身体は」
「――『身体』?」

ヘンリーがぽろりと零した言葉に、瞬間、空気が張りつめた。
物理的に気温が変動しているのではないかと思えるほどに冷たい殺気は、夢の箱など容易く貫き、アルガスまで届く。
「なんで知ってるの? 僕、そんなこと話してないよね?」
唾を飲み込む音どころか、冷や汗が背筋を伝う音さえも聞こえそうな程、重苦しい静寂が辺りを押しつぶす。
アルガスは必死になって己の口と肩を抑えた。
声を出したり、震える身体が箱に触れてしまうものなら、アーヴァインに気付かれてしまう。
とてつもなく長い数秒間――アルガスを恐怖から救ったのは、ティーダの声だった。

「ご、ごめん、アービン!
 あんたがピンチだったから、助けてくれないかって皆に頼んだんだ。
 その時に、話しちゃったんだ! その……見た目の、ことも………!」

途端に、ふっと殺気が掻き消えた。
「なーんだ。そういうことか〜」
間延びした口調には威圧感などみじんも残っていない。
恐る恐る外を覗けば、そこには最初に会った時と同じ人間の姿をしたアーヴァインがニコニコと笑っている。
最も、アルガスにしてみればその笑顔さえも十二分に恐ろしいものだったが。
「ビックリした〜、もう。
 てっきりアイツとか魔女とかがティーダの事騙してて、僕らが油断した所を後ろからザクッ!
 ……ってパターンかと思ったじゃないか」
その言葉に、スコールはどう思ったのか、淡々と呟く。
「確かにあんたにとっては都合の良すぎる夢だろうし、ある程度疑われるのは仕方がないが……
 ………………………俺は、仲間だと思われてないのか?」
長い沈黙部分が何なのかは、アルガスにはわからない。
しかし元の世界から付き合いのあるアーヴァインは、それとなく察知したようだ。
先のプレッシャーはどこへやら、しどろもどろと弁解を始める。
「あ、いや、そういうわけじゃないけど……
 なんていうか、ティーダの事は理屈じゃなく心で本物だってわかるんだよ。
 でも、二人にはそこまで確信が持てなくって……だ、だから別に、スコール自体を信じてないわけじゃないよ?!」

それは一見非論理的な言い訳だったが、召喚術が一般化されている世界で生まれ育ったアルガスには納得がいくものだった。
召喚士は召喚獣と交信する術を身に着けた魔道士だ。
ティーダが召喚獣、アーヴァインを召喚士と考えれば、感覚的に真偽を見分ける事は十分可能だ。
――もちろん、周りの四人に説明しようなどという気は起こらなかったが。
371舞台の裏で笑うのは 6/14:2013/07/01(月) 00:43:51.38 ID:DPPKQlQ60
「……で、結局、カッパってのは何なんだ?
 それにその姿、俺には普通の人間に見えるんだが……単に夢だからなのか?」
ヘンリーの問いかけに、今度こそアーヴァインは素直に答えた。
「夢の仕組みがどうなってるかはわからないけどね。
 現実の僕は、どうみてもモンスターですありがとうございます、としか言えなくなってるよ。
 それとあのカッパは……」
そこまで言って、彼は不意に口を噤んだ。
顔をしかめ、それから考えあぐねるように、視線を横に彷徨わせる。
「……僕の好きな子に似た名前で、ピサロからトンガリ耳を取ったような外見の、とんでもなく迷惑な電波ヤローだ」
苦々しい声音だった。それ以上に、奇妙な説明だった。
ピサロに似ているという点で誰を指しているかはアルガスにもわかったが、それでも不親切極まりない。
「わかりにくいな………セフィロスか?」
魔王と会った事がない故に今一つピンと来ないのだろう。
首を傾げるスコールに、アーヴァインはますます表情を険しくしながら、自分の腕をぎゅっと掴んだ。
「正解だけどさあ……僕の前でそいつの名前呼ぶの止めてくれないかな。
 アイツの顔、思い出しそうになると、それだけで自分が自分でなくなりそうな気がするんだよ。
 さっきだってティーダが助けてくれなかったら、今頃アイツの言う事しか聞けなくなってたさ」
洗脳、あるいはマインドコントロール。
それらを示すような台詞に、残り三人の表情が一気に曇る。

「随分物騒だな。
 ……そんな奴を、ソロ達は連れ回してたのか?」
二日間に渡って共に過ごした青年の身を案じたのだろう。
ヘンリーの言葉は、言外に『ソロ達は無事なのか』という疑問を含んでいた。
そして他人の機微に敏いアーヴァインは、彼の気持ちを察したようだ。
「アイツにとって、ソロ達なんて釣竿にかかったバッダムフィッシュよりどーでもいい存在だろ。
 僕が目を付けられたのは、アイツの目的が【闇】と【進化の秘法】だからだし……
 自分で手を下す気があるなら、連絡を取る前か取った後で殺してたと思うよ」
やれやれとアーヴァインは肩を竦める。
だが、ヘンリーの顔色は晴れない。
「……そういうこと、か。
 ソロ達の傍にいたから、奴は俺達の話から【進化の秘法】を知って、お前を……」

食いしばられた歯と握りしめられた拳に何を思ったのか。
アーヴァインは「別にいいよ、気にしなくても」と呟いてから、言葉を継いだ。
「アイツが【進化の秘法】を知ってなかったら、僕はただの厄介者として今頃始末されてただろうさ。
 僕を生かしてるのは、僕に人を殺させ続けて効率よく【闇】を集めさせるため。
 アイツ自身には【闇】を集める素質は無いからね。
 だからアイツに直接手を出さない限りは、ソロ達に被害が出る事はないって」
「そ、そうか……すまん」
ヘンリーは一瞬安堵の表情を浮かべ、しかしすぐに沈痛な面持ちに戻る。
「別にいいよ」
アーヴァインが二度同じ台詞を口にしたのは、ヘンリーへの気遣いか、自分の感情を鎮めるためか。
どちらも化物には似合わないな、とアルガスは思った。
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:45:04.49 ID:MvR04I0o0
 
373舞台の裏で笑うのは 7/14:2013/07/01(月) 00:45:27.92 ID:DPPKQlQ60
「それより、そっちは無事なの? リルムとか、元気してる?」
不安げな面持ちでスコールを見やるアーヴァインに、アルガスは騒がしい少女の事を思い出した。
リルムもアーヴァインをやたらと庇っていたが、やはり二人の間には仲間意識があるのだろう。
「リルムはすっげえ元気だったッスよ。なあ!」
「元気すぎて困るけどな」
屈託なく笑うティーダと引きつった笑みを浮かべるヘンリーに、アーヴァインが胸をなで下ろす。
その人間臭い態度に、アルガスは苛立ちと恐れを同時に覚えた。

アルガスにとってアーヴァインは純然たる殺人鬼であり、出来る事ならば人間と別種の化物であってほしいのだ。
『ただの人間がそうなった』のではなく。
『元から違う生物であり、真っ当な人間ならばそうはならない』存在であってほしいのだ。
けれども、ティーダはおろかヘンリーもスコールもアーヴァインを人として扱い、アーヴァインもまた仲間の前では凡人同然に振舞う。
それが、アルガスにはたまらなく不愉快だった。

「リルムも無事だし、ラムザも仲間に加わってくれた。
 こちらは殆ど問題ない。心配なのはあんたの方だ」
スコールがソロと連絡がつかない事を隠したのは、余計な不安を与えないためだろう。
アルガスの感情を余所に、四人の会話は続く。
「あんたが無事なら戻ってきてほしいところだったが……」
「ゴメン、無理」
「……だろうな」
アーヴァインの思考を推測していたのだろう。
スコールはそれ以上何も言わず、あっさりと引き下がった。
困惑するのは話についていけないヘンリーとティーダだ。
理由を尋ねる二人に、アーヴァインは苦笑しながら答えた。
「あのカッパ、しれっとソロ達の所に戻ってそっち行くかもしれないしさ〜。
 うっかりハチ合わせて洗脳されたら、首輪解除を手伝うどころじゃなくなるから、しばらくは別行動するよ。
 それに、ユウナのこともあるしね」
「ユウナ?!」
アーヴァインの言葉にいち早く反応したのは、当然ながらティーダだ。
友人の肩を掴み、がっくんがくんと激しく揺さぶる。
「まさか、どこかで見つけたのか!?」
「う、うん、城の近くで。
 近寄って誘い出して逃げてきたから、た、多分、追いかけてきてくれてると思うんだけど」
「え!?」
ティーダにとって、全く予想していなかった状況だったのだろう。
驚きのあまり手を離し――急に解放されたアーヴァインは、『ゴチン!』と壁に頭をぶつけてしまう。
他人事であるにも関わらず、アルガスは肝を冷やした。
だが、やはりというか、アーヴァインはティーダに対しては怒る様子を見せない。
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:46:05.28 ID:MvR04I0o0
 
375舞台の裏で笑うのは 8/14:2013/07/01(月) 00:47:33.38 ID:DPPKQlQ60
「ご、ゴメン! 大丈夫ッスか?!」
「へ、へーきだけどさ〜……ちょーっと手加減してほしいなあ、なんて」
涙目になって後頭部をさするアーヴァインに、アルガスはますます悪感情を募らせる。
(いっそ、今の痛みで起きてりゃ良かったのに)
そんな心の声は、夢の世界といえども他人には届かない。

「反省するッス……
 でも、アービン。今のユウナは、本当に……」
「知ってるよ。大丈夫。
 ……だからまあ、本当は起きなきゃいけないんだけどさ。
 頬っぺたつねっても、起きようとしても、何でだか全然眼が覚めないんだよね〜」
不安げなティーダに対し、アーヴァインは大きなため息をつく。
同時に、アルガスはバッツが夢から出ていこうとした時のことを思い出した。
『起き方がわからない』。
アルガスは、それをバッツが間抜けなだけだと片付けていたが――

(――もしかして、他人の夢に入り込んでる間は、自力じゃ起きられないのか?)

他人の夢を覗き見るだけならばともかく、中に入り込んで会話するには必ず相手の許可がいる。
ならば、他人の夢から出ていく=目を覚ますにも、やはり夢の主の許可が居るのかもしれない。
その考えを裏付けるように、アーヴァインが呟く。
「さっきまで見てた夢といい、もしかしたら……あの、カッパの意思が関わってるのかもしれないな。
 夢の中に閉じ込めて、追い詰めて僕の心を消してから、残った身体をゲットだぜ! ってね。
 まー、そうだとしたら『思い通りにいかなくてざまぁ! カッパざまぁ!』って言っとくけどさ」

きひひひひ、と意地の悪い笑みを浮かべるアーヴァインを後目に、アルガスは眼を閉じた。
先の仮説が正しければ、相手の夢を自分の夢世界に引き込んで閉じ込めることで、眠らせたまま殺す事ができるのではないかと考えたのだ。
だが、すぐにその策の欠点に気付く。
"現実での殺害が上手くいっても、そいつの『夢』が消えなければ、夢世界で殺される可能性が高い"と。

(夢世界で死ねば一生眠り続ける。なら、相手と刺し違えて死ぬ覚悟がある奴にやらせて……
 いや、ダメか。肝心の『鍵』が回収できなくなる危険がある)

アルガスはいつもの癖で舌を打った。
そして自分が置かれている状況を思い出し、慌てて口を塞ぐ。
しかしスコール達と話し込んでいたアーヴァインは、物音に気づく素振りも見せない。
376舞台の裏で笑うのは 9/14:2013/07/01(月) 00:49:37.59 ID:DPPKQlQ60
「まあ、でも、一人ってわけじゃないからさ。
 確か眠る前に、ロックとリュックと、サイファーがいた記憶があるし……」
「サイファーが!?」
うっかりアルガスの事を失念したのだろう。
ヘンリーは片手で箱を叩きつけながら、アーヴァインに詰め寄る。
身を竦ませたアルガスのことを知ってか知らずか、アーヴァインは呑気な調子を崩さずに答えた。
「うん。僕のこと殺すとかちょっと物騒なこと言ってたけど、リュックが止めてたんだ。
 一応命乞いしたけど、なんか頭がガンガンして、すぐにまた眠くなっちゃって……
 でも、例の手帳をサイファーが持ってたし、残りの二人は不殺主義寄りだから、本当に殺されるってことは無いと思う」

アルガスもヘンリーも、密かに事情を記した手帳のことはスコールから聞いている。
ティーダだけが怪訝な表情をしていたが、話を察したのか空気を読んだのか、殊更に問おうとはしない。
「あの三人なら、ユウナへの対処も出来るだろうし……
 リュックがユウナを殺すなんて絶対有り得ないだろうからね。
 むしろ怖いのは、ユウナが追跡を途中で諦めちゃって、別の場所に行っちゃってた場合だよ」
「交戦しながら移動したわけじゃないのか?」
「恥ずかしながら、あの時はそこまで頭が働かなくてさ〜。
 ボビィ……チョコボに乗ったまま、一気に走り抜けちゃたんだよ」
スコールの指摘に、アーヴァインは決まりが悪そうに頬を掻いた。
「だから、さっきはああ言ったけど、何かの弾みで彼女が城やみんなの所に行く可能性は残っちゃってると思う。
 僕もでっかいリスクを抱えてるから、起きれたとしてもそんなに派手には動けないし……
 そもそも起きてる間は痛かったり、頭の中がぐるぐるしたりで、こんな風に落ち着いて考えられないんだよね」
「……そう、か」

スコールは箱の上に手を乗せ、トントンと指を鳴らす。
合図というわけではない。単純に、思考を纏めようとしているのだろう。
十数回目でその音は途切れ、彼が口を開いた。

「……とりあえず、起きることが出来たら、ティーダを召喚してみてくれないか。
 それと明け方の放送後を目途に、首輪解除が出来る状況を整えておいてほしい」
「んん? そっちとは別にやっちゃっていいってコト?
 見つかるリスク、高くならない?」
「どうせある程度は分担しなければ、全員分の首輪など外しきれない。
 こちらの状況もあるから、召喚の結果に関わらず、もう一度眠ってこの夢にアクセスしてもらう必要はあるが」
スコールの要請に対し、アーヴァインはあからさまに嫌な表情を浮かべる。
先ほどまで見ていた悪夢を思い出したのだろう。
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:51:07.96 ID:MvR04I0o0
 
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:52:26.98 ID:MvR04I0o0
 
379舞台の裏で笑うのは 10/14:2013/07/01(月) 00:53:21.19 ID:DPPKQlQ60
「……またあの追いかけっこして映画館に行かなきゃいけないの〜?
 嫌だなあ、もう」
「映画館……? 夢の中で俺と話したいと願えば、自動的にここへ続く扉が現れるはずだが?」
「えっ?」
「え?」
アーヴァインはスコールの顔を見つめ、それからティーダの方を見た。
ティーダはしばらくぱちぱちと目を瞬かせたが、「ゴメン!」と言って頭を下げる。
「マジごめん、……なんか、そういうことらしいッス」
申し訳なさそうに謝る友人に、アーヴァインは「しょうがないな〜」と呟いた。
言葉とは裏腹に、機嫌を損ねた様子はない。
スコールとヘンリーは呆れたように二人の青年を眺めていたが、口を挟む意義は薄いと思ったのだろう。
アーヴァイン達を放っておいて話を始める。

「ヘンリー、あんたにはソロとの連絡を最優先で頼みたい。
 今でこそ余裕がないのだろうが、事態が落ち着けば、俺達と連絡を取ろうとする機会が必ず生まれるはずだ。
 その時、きちんと誘導できそうなのは、あんたとラムザしかいなそうだし……
 ソロとの付き合いの長さを考えれば、やはりあんたが適任だろう」
――離れて行動している、お人よしな勇者のことを思い浮かべたのだろう。
ヘンリーはスコールの眼を見つめながら、胸を叩いた。
「ま、それっきゃねえよな。
 やれるだけのことはやってやろうじゃないか」
彼は気合を入れるように手を組んで、ぱきぱきと指を鳴らしたが、ややあって顔を上げる。
「ああ、そうだ。
 お前らとの連絡役も必要だと思うんだが、そいつはマッシュかラムザに頼む形でいいか?」
「……そうだな。
 首輪を解除するまではマッシュに、その後はラムザに頼むしかないだろう」
そう会話を交わす二人の視線は、明らかにダンボール箱へ――アルガスへ向けられていた。
腫れ物に触れるような扱いにはいささか不満もあったが、
アルガスとしてもリルムやバッツを相手にするのは苦痛だったので、わざわざ文句を言おうとは思わない。

「とにかく……ソロ達の事は頼んだ。
 最悪、カッパを連れてきてしまっても構わない。
 もしソロ達が城に留まったり、別の場所に向かったりするようなら――」
「ソロ達は放っといて皆の首輪解除した方が利口だね。
 例えそれでソロ達が首を吹っ飛ばされることになるとしても」
言葉を濁したスコールの声にかぶせるように、アーヴァインが呟いた。
ティーダはぎょっとした表情で、友人の肩を掴む。
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:54:23.42 ID:MvR04I0o0
 
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:55:24.47 ID:MvR04I0o0
 
382舞台の裏で笑うのは 11/14:2013/07/01(月) 00:55:36.79 ID:DPPKQlQ60
「アービン、それは――」
しかしティーダの窘めを遮り、アーヴァインは冷たい声音で言い放つ。
「首輪を外した人数が増えれば増えるほど、時間が経てば経つほど、事が露見する可能性は上がるんだ。
 ソロ達を待ってる間にスコール達の生存がバレて、皆の首輪が爆破されたりしたら、本末転倒だよ」

話者に対して不愉快さを覚えこそしたが、アルガスにもその言い分は尤もだと思えた。
情に流され死ぬくらいなら、理に従って生きるべきだ。
「ヘンリーさんだって、ソロ達に南東に戻るようには言ってあるだろうし、これからもそう説得するはずだ。
 仲間の言う事を聞き入れないなら、そんな奴は仲間じゃない。
 仲間じゃない奴の為に全員が死ぬぐらいなら、そいつらだけ死ねばいいよ」
反論の言葉が思いつかないのだろう。ティーダは何か言いたげにアーヴァインを見つめている。
反論の必要がないと考えたのだろう。スコールは腕を組み、黙っている。
そしてヘンリーは――

「――まあ、そうだな」
後ろ髪を掻きながら、肯定した。
だが、彼の瞳に宿るのは、アーヴァインのそれとは真逆の光だ。

「俺はソロの仲間だ。
 絶対にあいつらを戻ってこさせて、生かして帰してやるぜ」
意地と自信に溢れた前向きな態度に、アーヴァインは何を思ったのか。
「……ふうん。ま、頑張ってね」
と、顔を伏せながら憂いと寂しさを宿した声音で呟いた。
けれどもそれは束の間のことで、彼はすぐに面を上げる。

「あ、そうだ、スコール。
 ラムザからカード返してもらえた?」
「え?」

珍しくスコールがきょとんとした表情を露わにした。
「あいつ、あんたのカードデッキ持ってたんだ。
 預ろうかとも思ったけど、祠に行くならいずれあんたに返すだろうと思ってさ」
そしてアーヴァインが話し終わるや否や、スコールはヘンリーの腕を掴む。
その態度は明らかに普段とは異なる、冷静さを欠いたものだった。
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:57:45.55 ID:MvR04I0o0
 
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:58:24.42 ID:MvR04I0o0
 
385名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:58:53.76 ID:MvR04I0o0
 
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 00:59:33.42 ID:MvR04I0o0
 
387舞台の裏で笑うのは 12/14:2013/07/01(月) 01:00:06.27 ID:DPPKQlQ60
「ヘンリー。起きたらラムザからカードを受け取って可及的速やかに奥の部屋へ届けてくれ」
「……何なんだ、そのカードって?
 並べてゲームするって奴じゃないのか?」
「とても大切なものなんだ。頼む、この通りだ」

スコールらしからぬ執着にたじろぐヘンリーだったが、断る理由も見つからない。
「あ、ああ……わかった。
 使えそうな道具の回収ってことで、少ししたら持っていく」
「ありがとう。済まない」
頭を下げるスコールの横で、アーヴァインがやれやれと首を振った。
「良かったね〜、僕の記憶力が良くてさ。
 これでケツァクウァトルがいればアルティミシアも怖くなくなるんだけどね〜」
「黙れ。カード変化など邪道だ。
 だいたいあんたは弾の材料ぐらい自分で集めるべきなんだ。
 いつもいつも勝手にエルノーイルやドルメンやトンベリキングを抜いて精製して……」
「どうせレアカード以外はメチャクチャ余ってるんだからいいじゃん。
 レアカードだって殆どはキスティスやCC団の皆が持ってるしさ〜」
「自分で集めてないからそう言えるんだ!
 人がレア以外だけでも100枚づつ集めようと苦労しているのに……!」
「なにそれ。そんなに集めて武器でも作るの? それともトランプタワーでも作るつもり?」
「ちょ、ちょっと落ち着けっつーの、二人とも」
「「うるさい!」」

仲裁しようとするティーダを余所に、ぎゃあぎゃあと言い争う二人に呆れ果てたのか、ヘンリーはそっと部屋の外に出ていく。
アルガスも今なら気づかれないと踏んで、箱から抜け出してヘンリーの後を追った。

「フン、化物が人間のフリしやがって」
「アルガス? お前、ずっとあそこにいたのか?」
悪態をつくアルガスに、ヘンリーは小首を傾げる。
隠れ続けるぐらいなら起きて夢から出ていけば良かったのに、と思ったのだろう。
アルガスは鼻を鳴らしながら、バッツの言葉を引用し、夢から出るには許可が必要かもしれないという話を伝えた。

「――鍵を貸したのはお前とスコールが初めてだから、断言はできない。
 だが、今、こうやって夢から醒める事が出来ずにいるのは確かだ。 
 理屈はわからないが、入るのに許可がいるなら、出るのにも許可がいるってことじゃないか」

ヘンリーは顎に手を当てアルガスの話をじっと聞いていた。
そして、元より頭の回転が速い彼は、アルガスが想定したよりも素早く結論に辿りつく。
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 01:02:13.75 ID:MvR04I0o0
 
389舞台の裏で笑うのは 13/14:2013/07/01(月) 01:03:08.42 ID:DPPKQlQ60
「……なるほど。だが、だとするとこの夢世界も危険だな。
 お前やスコールが鍵を持つ限り、閉じ込められるって事はないだろうが……
 現実で何かあっても目覚められない可能性があるってのは、少しヤバいぜ。
 刺されたり殺されたりしてもわからないかもしれないってことだろう?」
「そこまでは考えていなかったが……少なくとも、痛みや感覚が伝わらないって事は無いと思う。
 少なくとも放送前、バッツに起こされた時には、はっきりと揺さぶられた感覚があった。
 それにそんな危険な状態になるなら、ウネの婆さんの性格からして、俺に教えるはずだ」
これは経験に基づいたアルガスの本心だ。
眠っているだけの人間は殴られれば起きる。十中八九、現実世界での刺激は夢世界にも伝わる。
アーヴァインの現実と夢での容態差は、身体の異変によって神経に障害が生じているからか、
ジェノバの意識の干渉によるものだとすれば説明も付く。

「それでも、自力で起きられないってのは見落としてると厳しいぜ。
 スコールとアーヴァインに言ってこないと……」
ヘンリーは呟きながら踵を返す。
だが、アルガスは彼を引き止めた。
「待て。スコールはともかく、あの化物には隠しとけよ。
 あんなヒトの皮を被った殺人鬼なんざ、信用できないにも程がある。
 それに奴らが思いついてもいない悪用方法をわざわざ教えるバカがいるか」
「だが、自力で起きられないって事は――」
「スコールにだけ伝えりゃ十分だろうッ。
 あいつが鍵を持ってるんだから、あいつが知ってりゃ起こす事は出来るんだ。
 だいたい余計な事を言って、あの化物が鍵を奪おうと考えたらどうするんだッ?」
「……それもそうか」
アルガスの言葉に、ヘンリーも得心したようだ。
深く頷いて、今一度スコールの元へと歩む彼を見送り――アルガスは一人、薄く笑った。
390舞台の裏で笑うのは 14/14:2013/07/01(月) 01:03:46.14 ID:DPPKQlQ60
【サイファー(右足軽傷+中程度の疲労)
 所持品:メタルキングの剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗
 第一行動方針:南西の祠へ行き、安全を確保して話を聞く
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(魔銃士)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:サイファーと一緒に南西の祠へ行く
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔服、半ジェノバ化、右耳失聴、MP微量、気絶(中度))
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:起きるまで夢世界でスコール達と会話する/起きたらティーダを召喚して首輪解除を進める
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右腕が変形し、右上半身が人型ジェノバそっくりになっています。
    また、セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】
【現在位置:南西の祠北の茂み→南西の祠へ移動中】

【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 第二行動方針:可能なら自分の手を汚さずにアーヴァインを始末する
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【スコール (HP4/5、微度の毒状態、手足に痺れ(軽度)、首輪解除、睡眠中)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング、ウネの鍵
 第一行動方針:夢世界で今後の作戦会議
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠:最深部の部屋】

【ヘンリー(HP2/5、リジェネ状態、睡眠)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:起きてソロ達と連絡を取る
 第二行動方針:仲間を守りつつ首輪解除を進めさせる
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】

備考:ガイアの剣と夢世界についてのメモを、夢世界内でティーダにレンタル中です。
   実際にティーダ召喚時に現実世界へ持ち出せるかどうかは不明。
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 20:38:11.49 ID:jHzxyqE/0
乙!アルガス頑張れ、マジで
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/01(月) 22:55:22.88 ID:IcOyJtCP0
乙です!そして班長w
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/02(火) 02:06:24.95 ID:ARIpk7qp0
こちらアルガス、化け物の対話に潜入した
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/02(火) 11:55:57.29 ID:yDc7YOpH0
投下オツ〜
そしてアルガス不憫w
何かイマイチグループの輪に入れないキョロ充みたいになってきてるぞw
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/03(水) 21:08:53.33 ID:tVG5tTID0
ttp://www.rupan.net/uploader/download/1372853063.txt
作者今どうしてるんだろうって時々思い出す
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/06(土) 16:20:15.96 ID:gbjsfHBB0
やっぱり笑えるな
カインは地獄耳ですで爆笑した記憶があるわ
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/08(月) 01:11:03.59 ID:F3NwXdWV0
オーディンが100人やってきた
398愛に生き希望に殉じる事は正義なのですか? 1/4:2013/07/13(土) 00:27:38.88 ID:ZR/5HNGQ0
『彼女』を正しく理解できる人間は、この世界に何人いるのだろう。
破壊欲でも種の繁栄でも自己嫌悪ですらなく、純粋な愛と純然たる憎悪を原動力として突き進む。
陳腐な感情に従って生きていくことが若人の特権であるならば、
あるいは彼女が憎む男であれば良き理解者となれるのだろうか。
否。
感情を燻らせ続ける事が女の特権だとするならば、
全ての元凶たる魔女であれば彼女の理解者となれるのだろうか。
否。
男は『諦め』を知り、魔女は『絶望』を知る。
希望を否定できる人間に、彼女を理解する事など出来るはずもない。
自ら愛を否定してなお彼女は愛に希望を抱いている、故に彼女は神にすら狂人だと認められたのだ。
愛など要らないとただ一言口に出来れば救われるというのに、彼女は死ぬまで自ら捨てた愛を求めるだろう。
砂漠の真ん中で彷徨いながら海水を呑み続ける愚者のように、満たされぬ愛を他人の血潮で贖う。
愛は心に宿るものだから心臓を手にすればそこに愛があるのだと盲信しているかのように、
キャベツ畑の赤ん坊を信じる純粋な乙女さながらに、彼女は自ら作り上げた幻想を信じて殺戮を繰り返す。

さて――そんな彼女を救おうと考える者がいたとしたら、
それは果たして愚者なのだろうか、賢者なのだろうか?

************************
399愛に生き希望に殉じる事は正義なのですか? 2/4:2013/07/13(土) 00:31:03.00 ID:ZR/5HNGQ0
「邪魔ッ!!」
叫びと共に城内に雷鳴が轟く。
彼女の行く手を阻んでいた仕掛け達は迸った雷撃の糸に焼かれ、ことごとく灰燼と化した。
もはや名を呼ぶ事すら無いだろう男の姿――ただしそれはラムザという、不幸な他人のものだったが――を思い描きながら、彼女は廊下を翔ける。
けれども、破滅へ向かう疾走を止めるべく立ち塞がる影が一つ。

「退いてください」
善意や正気など介在しない、時間を惜しむだけの言葉に、
「済まぬが、聞けぬ」
大賢者と呼ばれた盲目の老人は、指先を光らせ空手を振る。
仲間達が無事に合流する時間を稼ぐ為。そして、闇に憑かれ狂気に陥った哀れな女性を救う為。
揺るがぬ覚悟にて敵対せんとする賢者の業が、召喚術だと気づけたのは、彼女の経験の賜物か。
迷うことなく剣を振りかざし、雷鳴を呼ぶ――が、突如現れた光の壁がその破壊の奔流を弾き返した。
賢者に至るべく魔法使いの道を究めた者のみが扱える反射障壁呪文・マホカンタ。
盲目の身で抗うための策は早速功を奏する。
術者へと跳ね返った魔法を防ぐ方法など、どの世界においても存在しない。
けれども二度に渡って世界を救った彼女には、不可能を可能にする術が一つ。
「チェンジ!」
掛け声とともに纏う衣装が変化する。
飾り布をなびかせる銃士から、バイザーで目を覆い上着とスカートを着こなす超能力者へと。
衣服の色が紺碧から真紅に変わっているのは、彼女が浴びた血と怨念に染め抜かれたせいか。
赤きサイキッカーは、周囲に張り巡らせた力場で雷撃を吸収しながら、念動力で生み出した実体無き爆弾を投げつける。
しかして彼女が相対するは、大魔王すらも恐れさせた賢者。
既に召喚の術は完成し、魔法円から飛び出した若者――精霊タッツゥが盾となって攻撃を防いだ。
「ラリホーマ!」
舌を打つ彼女に襲い掛かるは眠りの呪文に、精霊が吐き出す甘い息。
二重に寄せる夢の世界への誘いを、けれども彼女は気合と狂気で退けて、バイザーから破壊の光線を放つ。
岩すら蒸発させる熱量を精霊は全身で受け止め、己もろとも消滅させた。
サイキッカーは歪んだ笑みを浮かべながら、追撃せんと意識を集中させる。
だが、研ぎ澄まされた心眼はその一瞬の隙を見逃しはしない。
「メダパニ!」
一瞬早く完成した呪文が彼女を捕える。
混乱の魔力は精神の奥底に潜む迷いを引きずり出し、増幅させて幻影さえも生み出す。
今や、サイキッカーの視界に映るは賢者に非ず。
自ら殺めた人々と、憎む男に恋人が、誰の鼓膜も震わせることのない声で口々に叫ぶ。

――君の抱える感情は愛でも希望でもない! 眼を覚ませ!――
400愛に生き希望に殉じる事は正義なのですか? 3/4:2013/07/13(土) 00:32:25.26 ID:ZR/5HNGQ0
「――うるさァァアああああああああああい!!」
現も夢も幻も全て薙ぎ払えと言わんばかりに、彼女はサイコボムをまき散らす。
自らの身体さえも爆風で焼きながら、それでも緩む事のない攻勢に、老練な賢者は距離を取りながらも更なる一手を重ねんとする。
「杖よ、魔繰る者の呪言を封じよ!」
仲間より借り受けた魔封じの杖、そこから放たれた魔力がサイキッカーに纏わりつく。
しかして彼女の奮う手と念動力の爆弾が止まる事はない。
例え魔法を封じられようとも、超能力は魔法に非ず。
無力化の目論見は外れ、荒ぶる殺意と憎悪の爆風はついに賢者へと襲い掛かった。
「ぐっ……!」
受け身を取ろうとするも間に合わず、強かに吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
苦痛にゆがむ意識と暗闇に包まれた視界の中で感じ取ったのは、在らぬ方向へと疾走する殺意。
止めを刺す事など容易いはずの賢者の横を通り過ぎ、サイキッカーは城の深部へと足を進める。
「ッ……バシルーラ!」
最後の一手。
根本的解決にはならねども、仲間を守り来たる惨劇を防ぐためと、賢者が放った光球は――しかし、
「エクセレンス!」
足を止めた彼女の手から生まれ出でた赤光に阻まれ、霧散する。
万策尽きたと知りつつも、賢者は老体に鞭打ち彼女の後を追う。
盲目の眼に光は宿らねども、希望と覚悟は消えはしない。
夢に成り果てた青年の願いを知らずとも、迷える者を救い導く事こそが賢者の務めと信ずるが故に。

そして彼女もまた、足を止めない。
『最上階に憎む男が居る』という言葉を盲信しているわけではない。
だが、疑念があろうとも虚偽であると断言できなければ、真実と仮定して追うしかないのだ。
偽りだと決めつけて殺戮を優先し、結果、先の言葉が真実で標的に逃げられたらただの阿呆だ。
人を殺すことよりも、一度逃したゴキブリを見つけて仕留める事の方がずっと難しいのだから。

かくして場内を走る影は三つから五つに増える。
勇者と呼ばれた青年は、どこにいるのかもわからない仲間を探して最上階への道を突き進み。
亀の姿をした賢者は、若きトレジャーハンターと共に、
転移魔法<テレポ>を駆使して階を飛び越え、城内のどこかにいる勇者たちを探す。
そして血染めの衣をまとうサイキッカーは錬金術棟から道なりに上階へと昇って行き、賢者がその後に続く。

その行く末を見守るものは、自らの城にて嘲う魔女、唯一人――
401舞台の裏で笑うのは 2/14:2013/07/13(土) 00:33:51.07 ID:ZR/5HNGQ0
【ユウナ(サイキッカー、HP9/10、MP1/10、沈黙)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
 天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
 スパス スタングレネード ねこの手ラケット
 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
 第一行動方針:最上階を目指してアーヴァイン(ラムザ)を探し、見つけ次第殺す
 第二行動方針:皆殺し(アーヴァインと、ラムザの姿をした者が最優先)
 基本行動方針:脱出の可能性を潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:デスキャッスル内部・2階隠し通路→奥へ】

【クリムト(失明、HP1/3、MP2/5) 所持品:魔封じの杖
 第一行動方針:ユウナを止める
 第二行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする
 基本行動方針:誰も殺さない
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:デスキャッスル内部・2階隠し通路→奥へ】

【ギード(HP3/5、残MP1/2)
 所持品:首輪 
 第一行動方針:ソロ達と合流して南東へ向かう
 第二行動方針:首輪の研究と脱出方法の実験をする】
【ロック (左足負傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
 死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
 デスキャッスルの見取り図
 第一行動方針:ソロと合流/ギードの護衛
 第二行動方針:リルム達と合流する/ケフカを警戒
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル内部のどこか】
402↑愛に生き希望に殉じる事は正義なのですか? 4/4:2013/07/13(土) 00:34:54.07 ID:ZR/5HNGQ0
タイトル間違えました。投下終了です。
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/15(月) 08:56:28.52 ID:EWDYSqNz0
月報の方、集計お疲れ様です。
FFDQ3 688話(+ 7) 21/139 (- 0)  15.1(- 0)
404Escape key 1/4:2013/07/18(木) 00:31:38.87 ID:VPIvD6W+0
「オッサン、大丈夫か?!」

運命の導き。我ながら陳腐な単語が頭を過ぎる。
ユウナに撃たれた傷口からは、弾丸が貫通したことで血がとめどなく溢れている。
城内から現れた若者――十中八九ソロと同行していたザックスだろう――は、
私の様子を見るなり、返事も聞かず有無も言わせずに担ぎ上げて、扉の中へと引き返した。
アンジェロも素早くザックスの横を走り抜け、締め出される事を避ける。
「ロザリー、その人の止血を頼む!」
「は、はい!」
柱の陰から出てきたエルフの少女は、ザックから一振りの剣を取り出し、
あからさまに不慣れな手つきで可憐なドレスを引き裂いた。
そうして作った布きれを、包帯の代わりに傷の上に巻き付けて強く縛る。
それから分厚い本を開くと、こちらは存外慣れた様子で、三つの紅玉を配置し始めた。
最後に羽ペンを取り出し、床の上に滴っていた血をインク代わりにして図形を書き始める。
ものの二分弱で書き終えたそれは、回復効果のある防御結界だ。
比較的簡素なものではあるが、最上級の触媒が効力を何倍にも引き上げている。
「この中でしばらく休んでいれば、傷も塞がると思います。
 ですが……」
ロザリーは美しい顔を曇らせながら言い淀んだ。
ザックスもまた、苦々しい表情で視線を床に落とす。
当然だろう。
扉一枚隔てて表の様子を伺っていたなら、二人とて銃声と襲撃者の存在に気付いているはずだ。
それでなくてもこちらには、傷が塞がるまで休んでいる余裕などない。
私は自由な右腕で自分のザックを開け、着火器具とランプを取り出す。
「あの、あまり動かない方が」
「大丈夫です」
エルフの言葉を遮って、火を灯す。
ゼル曰く、彼らの世界で作られたという器具類は片腕でも簡単に扱えた。
あとは剣を取り出して――
「……とんだ荒療治の仕方、知ってるんだな」
呆れたようにザックスが呟いた。
私の意を組んだのだろう。その手に持った手裏剣を、ランプの火にかざす。
私は彼から焼けた手裏剣を受けとり、傷口に押し当てた。
竜の姿であればこの程度の熱で肉が焼ける事はないが、今の身体は人間相応の強度しか持たない。
だからこそ有効な止血法だ。
ただ、理解したのはザックスだけらしく、ロザリーは眼を白黒させながら固まっている。
動物たちの傷に包帯を巻いたことはあっても、肉を焼いて血を止める場面など目にしたことがなかったのだろう。
既に死したといえ、例の魔王が近くに居なくて良かった、と下らぬことを考えながら、私は二人に頭を下げた。
405Escape key 2/4:2013/07/18(木) 00:34:31.81 ID:VPIvD6W+0
「ありがとうございます、ロザリーさん、ザックスさん」
「あれ? 俺、名乗ったっけ?」
ザックスが首を傾げる。
ずっと一階にいたのだとしたら、ロック達には出会っていないのだろう。
時間は惜しいが、何も説明せずに放っておくのはさすがに危険だ。
私は状況を手短に説明する。

アーヴァインはサイファーと共にいた『なぞのカッパ』が連れ去った事。
サイファーとリュックは我々に事情を説明した後、カッパとアーヴァインを追いに行った事。
発狂したユウナに撃たれた事、こちらの誘導に乗って最上階へ向かった事。
そして、ギードとクリムトの研究結果を仲間に伝える可能性を引き上げる為に、別行動を取って南東の祠に向かおうとした事。

「……マジかよ」
さしものザックスも、主に前半二つは予想していなかったのだろう。
ぼさぼさの髪を掻き上げるように、頭を抱えてしゃがみこむ。
対してロザリーはしばらく俯いていたけれど、意を決したように顔を上げた。
「あの、それでしたら、私達と一緒に向かいませんか?」
「あ……そ、そうだな。俺達も南東に行くつもりだったんだ。
 それにロザリーも貴重な情報を持ってる。あんたの情報と合わせれば、すんごい結果を出せるかもしれない」
「貴重な情報?」
ロザリーはおずおずと三枚のメモを取り出した。
ざっと斜め読みをした限り、首輪に関するメモが二枚と、ピサロと共に脱出を研究した魔王・ザンデが残した脱出方法に関する詳細な文章のようだ。
間違いない。
ザックスの言う通り、三枚目のメモとギード達が導き出した結果を合わせれば、完璧な脱出路を用意できる。
それに――ロザリーが先ほど服を割くのに使った剣。
あれは精霊神ルビスの神器だ。
アレフガルドと勇者ロトの守護者たる神の加護にて、聖なる雷を無限に呼び出す、我が天空の武具すら上回る刃。
武器としても破格の性能を誇るが、脱出の魔法陣を起動させる魔力原としても十分に使える。

「……そうですね。
 どうやらロザリーさんの知識も必要なようですし、断る理由はありませんね」
ユウナが城に来ていて、セフィロスは何故かアーヴァインにご執心なのだ。
残っている殺人者候補は狂気の魔道士ケフカのみ。
ロック達の視点で見た場合、ザックスという戦力が減るのは痛手だろうが……
私に加えてロザリーという足手まといが居なくなれば、それはそれで切り抜けやすくなるはず。
「ワンワン!」
(良かったぁ! 二人っきりなんて間が持たないもの!)
……いささか不本意ではあるがアンジェロも喜んでいるようだしな。
406Escape key 3/4:2013/07/18(木) 00:36:36.43 ID:VPIvD6W+0
「そういやお前、シッポ無いんだな。
 喜んでるのか文句言ってるのかわかんねぇな」
ザックスがアンジェロの頭を撫でる。
アンジェロはちょこんと座りこんで吠えた。
もちろんザックスやロザリーにはわからないだろうが、『文句なんて言うわけないじゃない』と主張している。
どういう基準かはわからないが、ザックスの事だけは気に行ったらしい。
だけ、と強調したのは、ロザリーが手を伸ばすとザックスの後ろに隠れてしまったからだ。
「クゥーン……」
(少しリノアに似てるけど、やっぱりリノアじゃないし……)
ないない、それはないだろう。と声に出して言いたくなったが、辛うじて飲み込む。
人間や天空人、同族のソレと違いすぎて、犬の感覚は今一つわからない。

「じゃ、オッサンが大丈夫になったら城を出るか」
「今すぐで構いませんよ。先ほど言った通り、時間が惜しい状況ですので」
「そうか? ……じゃあ、行くか」
「は、はい」
ロザリーは宝石類をザックに詰め込む。
ただ、魔法陣は残していくつもりのようで、消そうとはしなかった。
元々単独でも微弱な結界として機能する魔法陣だ。仲間の役に立つかもしれないと考えたのだろう。

「はぐれないように着いてきてくれよ?
 ……つっても、俺もそんな早く走れないけどな」
「ワンワンッ!」(大丈夫よ、危ない人が近くにいても私が教えるわ!)
「おーお、威勢良いなぁお前。
 言っとくけどマジでサイファー並みのスピードなんか出せないからな?
 お前は俺を置いてかないようにしてくれよ」
「ワンッ!」(もちろんよ!)

……本当に、随分とまあ好かれてるな。
飼い主の恋人の、スコールとかいう青年に似ているのだろうか?
あるいはザックス自身に、犬から見て魅力的な要素があるのだろうか……ううむ、わからん。

「じゃあ、行くぞ。脱出だ!」

その掛け声は、果たして現状を指したのか、目指す未来を指したのか。
今なお痛む肩を抑え、私は駆け出した若人の後を追った。
407Escape key 4/4:2013/07/18(木) 00:39:25.71 ID:VPIvD6W+0
【ザックス(HP1/2程度、左肩に矢傷、右足負傷)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(10) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 第一行動方針:ロザリーの安全を確保する為南東の祠へ向かう
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:南東の祠へ向かう
 第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【プサン(HP2/3、左腕負傷のため使用不能)
 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚 風魔手裏剣(1)
 第一行動方針:南東の祠に向かい、脱出方法を伝える。
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【アンジェロ(HP9/10)
 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
 第一行動方針:ザックスに協力する
 基本行動方針:ケフカを倒す/仲間達に協力する】
【現在位置:デスキャッスル→南東の祠へ移動】

備考:デスキャッスル1Fの扉が開放されました。
また、入り口前に簡易結界(1マス分・内部にいる限り弱リジェネ+弱マジックバリアの効果)があります。
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/19(金) 08:27:26.35 ID:ufzjz7Km0
乙!

子犬のザックスとアンジェロ。まあ犬同士気が合うんだろw
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/21(日) 12:16:12.49 ID:Yu85rQs40
おっ、まとめサイト更新してる。乙!
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/21(日) 23:11:26.85 ID:+jIaxEMK0
さりげなくアンジェロの行動方針がプサンからザックスへの協力になってるのなw
そういや閂代わりに使用してたさざなみの剣は回収しなかったんだろうか
411名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/07/29(月) 11:09:43.02 ID:NIcbPi0f0
乙+保守
ケフカ、カッパの順かなあ
412真偽と虚飾の自己定義 1/4:2013/08/05(月) 16:47:56.65 ID:KJsrJXSJ0
************
「そういえば、あのさざなみの剣は置いてきて良かったんですか?」
「ああ。元はソロが持ってたヤツだし……後で回収するかもしれないと思ってさ。
 それに、俺はやっぱコイツが一番しっくりくるんだ。
 あれも業物なんだろうけど、ちょっと細すぎて頼りないんだよなー」
「……ワンッ」(忘れたわけじゃなかったのね。……拾って来ようと思ったけど、止めて良かったわ)

「でも……大丈夫なんですか?」
「え? 何が?」
「いえ、敵に拾われたらと思いまして」
「ユウナって子もアーヴァインって奴もガンナーなんだろ?
 あれぐらいしっかりした作りの剣は、逆に素人じゃ使いこなせないぜ。
 専業の剣士――セフィロスぐらいじゃないか? まともに扱えそうな、今生きてる危険人物っていったら。
 あいつがどこにいるかはわかんねーけど、誰も会ってないってんだから、近くに居るとは思えないぜ」
「ワン」(あっ)
「あっ」
「え?」
「い、いえ……何でもありません」
「クゥーン……ワンワン」(だ、大丈夫よね……今のセフィロス、カッパの姿だし……)

*************
413真偽と虚飾の自己定義 2/4:2013/08/05(月) 16:49:58.54 ID:KJsrJXSJ0
スワンプマンの思考実験というものがある。

『沼の傍で落雷に撃たれて死んだ男がいた。
 その横に別の雷が落ち、沼の汚泥と科学反応を引き起こした。
 どういう偶然か、雷のエネルギーと汚泥の分子が死んだ男と全く同一、同質形状の生命体を生み出したのだ。
 見た目も同じ、知識も同じ、記憶も同じ、人格も同じ。
 沼から生まれた沼男(スワンプマン)は、死んだ男の姿で帰宅し、死んだ男のベッドで眠り、翌朝目覚めて死んだ男の職場に向かう。
 死んだ男と同じ記憶を持つスワンプマンには、自分自身がスワンプマンだという自覚はない。
 スワンプマンが生きている限り、周囲の人間は男が死んだとは欠片も考えないだろう。
 このような状況下で、『男は死んでいる』と言えるのか?』

ここにいる私は本当に『セフィロス』なのか。
その疑問は、スワンプマンに己の正体を問うようなものだ。
スワンプマンは自分を『男』だと答えるに決まっている。
そして私もまた、真実はどうあれ自らを『セフィロス』と定義するしかない。

ふと、視界の先に死体が二つ見えた。
パパスとルカだ。隣にはザックが手つかずのまま残されている。
サイファーは既に二つザックを持っていたし、ソロも死人の荷物を漁るのは気が進まないという理屈で置き去りにしていた。
辺りには誰も居ない。
この忌々しい姿でも扱える道具が無いか、少しばかり探してみるとしよう。

――。

悪くはない武器が揃っている。
人の姿であったなら、だ。
魔法が使えなくなった時点で薄々予想はついていたが、この姿ではマテリアを扱うことは出来ないらしい。
防御を固めようにも、水かきと粘液のせいで盾すら上手く持てない。
この姿でもまともに装備として機能しそうなのは、このルビーがついた腕輪ぐらいか。
明らかに装飾品の類であるが、銃弾ならルビーに当てて弾くことも出来るだろう。
無いよりはマシというだけだが、文句など言える状況ではない。

 >セフィロスは ルビーのうでわを そうびした。

……ふむ。着け心地は悪くない。
だが、腕輪のデザインを鑑みると、この姿でいることが口惜しく思えてきた。
それに冷静に考えてみれば、死体漁りなど私らしくもない。
下等な人間の中でも最下層の人種だけが行う、浅ましくせせこましい所業ではないか。

例え私の正体が何であろうと、私自身は自らをセフィロスであると定義していたい。
無論、そこらの人間にどう思われようと興味はないが……
『セフィロス』を知る者に嘲られるような真似をすることは、即ち私自身の否定ではないのか?
414真偽と虚飾の自己定義 3/4:2013/08/05(月) 16:54:45.40 ID:KJsrJXSJ0
だが、やはり見つけた二つのマテリアを他人に――ケフカに拾われるリスクは無視できるものではない。
これもまた純然たる事実だ。
「みやぶる」も「あやつる」も使いこなせば、下手な剣よりも強力な武器となる。
矜持と打算を天秤にかけるたところで、どちらも切り捨てられそうにない。

「……」
思考を重ね、妥協点を探る。
葛藤の果てに、『コピー』が置いていった銃とウィンチェスターを交換する事にした。
詭弁だとは私自身がわかっているが、これなら一方的な盗みとは言われないだろう。
それに人の姿に戻ったところで拳銃など使わないし、弾を抜いておけば拾うものがいたとしてもただの玩具。
問題はない。

寄り道をしすぎてしまった。
早く城に向かおう。

ソロ達に同行していた頃から違和感はあったが、一人で歩くとはっきりとわかる。
足が短くなったせいで、歩幅に比例して歩行速度が落ちている。
同行者がいればその速度に合わせれば問題ない。
しかし、一人では速度の基準がない。だから意図せず、不要なまでにゆっくりと歩いてしまうのだ。
少し歩行速度を意識するようにしなければいけないだろう。

――。

何分歩いたかはわからないが、ようやく、城壁がはっきりと見えてきた。
しかし眼を凝らすと、極彩色の人影が城門近くで跳ねている。
遠目でもわかるほど特徴的な衣装はケフカ以外にはないだろう。
さすがに声は聞こえないが、姿を見せているということは、まだこちらに気付いてない可能性が高い。
草原を背景に、緑の矮小な体躯を見つけ出せるほどの視力はないのだろう。
前線で戦わぬ人間などそんなものだ。

人影は姿を消さぬまま、城の中へ入っていった。
全ての部屋を回ったわけではないが、一階と二階の作りはだいたい覚えている。
ケフカが二階に上がる前にバルコニーに回り込むことが出来れば、ほぼ確実に不意を討てるだろう。
ケフカを殺せばカッパ化を解く手段の一つが失われるが、問題は無い。
思い返せば、私は既にカッパーの使い手と出会っているのだ。
今朝方ウィーグラフ達と共にいて、今は南東の祠に居る小娘・リルム。
どうやら南西に逃げたらしい『コピー』にこのウィンチェスターを渡し、
南東の祠にいる人間どもを殺す前に小娘を操らせ、カッパーを使わせれば良い。
ケフカを生かさずとも、それで私は人の姿に戻れる。

無論、【闇】の回収という一点だけを重視するなら、ケフカも『コピー』に始末させるべきではある。
アンジェロを探してから南東の祠に行き、不本意ながら敵意のないカッパを演じてリルムを守り、『コピー』の到着を待つ。
効率を考えるなら、それが一番賢いやり方だろう。

だが、果たしてそれは『セフィロス』たる私の思考回路だと言えるのか?
415真偽と虚飾の自己定義 4/4:2013/08/05(月) 16:58:13.49 ID:KJsrJXSJ0
魔術師一人に愚弄され、復讐の一つもせずに逃げ惑うカッパを、誰が『セフィロス』と認めるのだ。
犬と共に歩き、慣れ合う人間どもの影に隠れる緑色の矮小な生き物を、どうして『セフィロス』と呼べるのだ。
私がセフィロスである為に、何をすべきか。
それはやはり、ケフカをこの手で仕留める事ではないのか。
それも奴が変え、嘲った、この姿で。

見栄と言われればそれまでだ。
しかし見栄の一つも張れないような、非力な存在になった覚えはない。
事実、ケフカと相対した時、格闘術のみで奴を追い込めることが出来ていた。
逃がしたのは透明化の魔法を使われたから、ただそれだけだ。
ならば魔法を使わせなければいい。
今の私の手元にはスタングレネードがある。奴の動きを封じることは出来るのだ。

「――カー」
復讐を。

私が、私を、セフィロスだと認め続ける為に。


【ケフカ (MP:3/5)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
 やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 リュックの支給品袋(刃の鎧、チキンナイフ、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
 サイファーの支給品袋(ケフカのメモ、白マテリア)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
 第一行動方針:デスキャッスルで進化の秘法の情報を集める
 第二行動方針:脱出に邪魔なセフィロスを消し、アーヴァイン達に首輪を解除させる
 第三行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスキャッスル1F】

【セフィロス (カッパ 性格変化:みえっぱり)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ 筆記具
     ドラゴンオーブ、スタングレネード、弓、木の矢28本、聖なる矢15本、
     ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)、波動の杖、コルトガバメントの弾倉×2、E:ルビーの腕輪
 第一行動方針:ケフカを殺す
 第二行動方針:カッパを治して首輪を外すため、南東の祠に向かう
 第三行動方針:進化の秘法を使って力を手に入れる/アーヴァインを利用して【闇】の力を得たジェノバとリユニオンする
 第四行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り、力を得て全ての人間を皆殺しにする(?)】
【現在位置:デスキャッスル近辺→デスキャッスル内部へ】

※ルカの死体の傍にコルトガバメント(残弾0)があります。
 また、ルビーの腕輪・ウィンチェスター(みやぶる+あやつる)以外のルカとパパスの荷物は、手つかずで残っています。
416傷つけ合うように、支え合いながら 1/9:2013/08/06(火) 02:04:39.97 ID:fvGVZYIg0
彼らが南西の祠に辿りつくまで、何の障害も無かった。
生存者に会うことも、死者の遺体を見つけることもなく、食料の入ったザックを見つけることもなく。
ただ、踏み倒された茂みをなぞるだけで――二人と一人と一匹は、無事に目的地へ到着した。

「うーん。ボビィ、入れるかな?」
「頭さえ下げりゃすり抜けられるんじゃないか?
 ちょっとお前ら降りて、やらせてみろ」

サイファーの指示に従って、リュックはアーヴァインを担ぎ降りる。
祠の扉は人間が通るには十二分に大きいが、自動車や馬車が通れるほどのサイズではない。
ただ、年若いボビィは普通のチョコボよりも一回り小さい。
そのサイズ故に二人乗りが限界であるほどだ。
「クエー♪」
アドバイス通り頭を下げ、ついでに翼をぴったりと身体に押しつけることで、ボビィは難なく扉をすり抜けた。
だが――
「……いけねぇ、止まれ!」
「ク、クエェッ!?」

サイファーが『そのこと』を思い出した時には、既に遅い。
ボビィは入口にあった段差に足を取られ、強かに転んでしまう。
「おい! 大丈夫か?!!」
「ク、クェッ、クェ〜〜」
足を捻ってしまったのだろう。ボビィは体勢を立て直したものの、涙を浮かべながらうずくまってしまった。
「な、なんでこんな所に段差なんて……」
何も知らないリュックが、ボビィに駆け寄りながら一人ごちる。
その呟きにサイファーは神経を逆なでられながら、自らの迂闊さを呪った。

いくら気力で取り繕うとも、人間には限界がある。
サイファーの身体は長時間の移動に伴う疲労で弱り、思考回路は二転三転する事態を前に悲鳴を上げている。
頭の回転は自然と鈍り、それが新たな苛立ちを生み出し、さらに彼を追い立てる。
募った焦燥と無力感は心にヒビを入れ、彼が殺めた者の魂と、精神に穿たれた隙間が【闇】を呼び寄せる。
けれども、それでもサイファーが【闇】に憑りつかれることはない。
すぐ近くにアーヴァインという別の依り代が――
その身体を蝕みながら【闇】を取り込む魔物がいるからだ。
擦れきった喘鳴を漏らす喉には、植物の根にも似た血管が絡みつくように浮き出ている。
サイファーの眼には、それが少しづつ長く、多くなっているように見えた。
その感覚は正しい。切り木の枝とて、土と水を与えられれば根を伸ばすのが道理だ。
しかしアーヴァインが苦しんでいることは分かっても、その事実が示す真の意味には、サイファーの思考は届かない。
彼の眼は【闇】を見る事など叶わないのだから。
417傷つけ合うように、支え合いながら 2/9:2013/08/06(火) 02:07:06.32 ID:fvGVZYIg0
「クエー、クエー……」
サイファーの自責を知ってかしらずか、ボビィは俯いたままめそめそと泣きだす。
「大丈夫だよ。転んだ時に、ヒザぶつけちゃったんだよね?
 捻ったわけじゃなさそうだから、じっとしてれば治るよ!」
魔銃士の眼力で怪我の度合いを見抜いたリュックは、ボビィの頭を優しく撫でた。
甘えるように頭をすり寄せるボビィに向かい、彼女はぱちんとウィンクする。

「そうだ! 早く治るようにおまじないしよっか!
 そーれ、いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいの、とーんでけーーー!」

彼女はしゃがんで傷を撫でてから、大げさなアクションとともに叫んだ。
「ク、クエー?」
ボビィはきょとんと眼を瞬かせる。
リュックはニコニコと笑いながら、再びボビィに触れる。
「よーし! 痛いの、バビュンって飛んでった!!
 もう戻ってこないかんね、大丈夫だよー!」
「……クエ……クエッ!!」
言葉が通じたのか、気持ちが通じたのか。
ボビィは泣く事も痛みも忘れたように飛び跳ねた。
リュックはこっそり胸をなで下ろしてから、「よかったね!」とボビィに抱きつく。
「クエー!」と嬉しそうに鳴く鳥の羽をひとしきり撫でてから、リュックはサイファーに向き直った。

「ね、サイファー、どうする?
 ボビィはこのまま休ませれば大丈夫だけど、さすがに階段は降りれないと思うよ?」
声をかけられ、我に返ったサイファーは、肩を叩きながら思案する。
「そうだな……」
この祠には侵入者を撃退する仕掛けが多い。
その利を生かすなら、やはり最下部に向かうべきだろう。
ボビィが盗まれる危険性は残るが、この若いチョコボは(泣き虫ではあるが)比較的賢い個体のようだ。
アーヴァインとリュックに懐き、ケフカから逃げおおせている以上、むざむざ他人に連れ去られはしないだろう。
そう判断したサイファーは、リュックに告げた。
「こいつは見張り代わりに残して、三人で下に行くぞ。
 チョコボ、テメェだってこのクソッタレなご主人サマが死んだら嫌なんだろ?
 妙な奴が入ってきたら大声で鳴いてみろ」
「クエッ!」
もちろん! と言わんばかりにボビィは大声で鳴いた。
サイファーは「ホネがあるんだかないんだかわかんねぇ鳥だな」と呟いてから、アーヴァインを担ぎ上げた。

階段を下り、人形の群れをすり抜けて、サイファー達は難なく最深部に到達する。
まず目についたのは、斜めに傾けられた玉座だった。
当然、サイファーには覚えがない。放送前にサイファーがここを発った後、誰かが動かしたのだ。
アーヴァインを壁際に横たえてから、二人で玉座とその付近を調べる。
すると、玉座の内部に水晶玉をはめ込んだ台座が見つかった。
418傷つけ合うように、支え合いながら 3/9:2013/08/06(火) 02:09:53.48 ID:fvGVZYIg0
「こいつが……スイッチか?」
サイファーはG.F.ケルベロスの力で、魔力の流れを操作する。
やがて予測通り、水晶玉が強い輝きを放つと同時に、『ブゥン』と羽音に似た起動音が響いた。
「やったあ!」
飛び跳ねて喜ぶリュックだったが――水晶玉の光が、不意に揺らぐ。
消えこそしなかったが、不規則に明滅する様は、サイファーの脳に一つの仮説を立てさせた。
「……やってくれたな、あのクソピエロ」
「え?……ん、んん? あれ?」
吐き捨て、歯ぎしりするサイファーに、リュックは台座を凝視し……彼が辿りついた結論に気付く。

水晶玉にあるべき魔力は、その大部分が失われていた。

誰が犯人だと声高に叫ぶまでもなく、疑わしい人間は一人しかいない。
(ケフカ……あの野郎とセフィロスだけは絶対にぶっ殺してやる!)
煮えたぎる怒りと憎悪を胸中に溜めこみながら、サイファーは一旦祠の機能を止めた。
どれぐらいのペースで残りの魔力を消費するかわからない以上、使い所は考えなければならない。
「着けっぱなしで一日持つならいいが、楽観は出来ねえ。
 こいつは寝る時にだけ使うぞ」
「うん、わかった。
 起きてる時なら、悪い奴が来ても二人でちょちょいってやっつければいいだけだもんね!」
二人は頷き合いながら、アーヴァインの傍に戻り、腰を落ち着ける。
サイファーはため息をつきながら水を飲み、リュックはアーヴァインに視線を注いだ。
そのまま、沈黙が辺りを包む。
移動によって生じた疲労はサイファーから気力を奪い、絶望に似た閉塞感はリュックから言葉を奪う。
事情説明を切りだせないまま、二人は口を噤み――時間が過ぎていく。

変化が訪れたのは、十数分後だった。
アーヴァインの右手が僅かに蠢き、下手な短剣よりも長大で分厚い爪が、ガリ、と床を削る。
「アーヴァイン?」
リュックが呼びかけると、彼は薄く目を開けて、ざらついた声を絞り出した。
「リュック……サイファー……」
やはり耐え難い苦痛に苛まれているらしく、不安定で虚ろな声音ではあったが、頭は正しく働いているようだ。
「ここは……しろじゃ、ない……? ほこら……?
 ロックは……いっしょ、じゃ、ないのか……?」
彼なりに状況を把握しようと努めているのか、右腕の眼球がせわしなく動く。
当然ながら、そこに敵意は感じられない。あるはずがない。
419傷つけ合うように、支え合いながら 4/9:2013/08/06(火) 02:12:07.57 ID:fvGVZYIg0
「アーヴァイン。テメェ、あの『ロック』と何か話をしたのか?」
サイファーは身を乗り出し、アーヴァインに問いかける。
刺々しい怒気を孕んでいるのは、ロックに化けていたケフカの嫌らしい笑みを思い出したせいだ。
「はなし……そりゃ、した、けど……
 ユウナと、ピサロの、けんきゅう、と、あの、カッパ……セ、セ、……い"、ぎぃい、うぁ"あ」
何かの名を口にしようとした途端、アーヴァインは頭を抱えて呻き出す。
「セフィロスだってんだろ?」
サイファーの言葉に一度は頷くも、顔を上げる事はなく、そのままうずくまってしまった。
身体を抱え込むようにスライドした右手の爪が、ローブを切り裂き、アーヴァイン自身の身体に容赦なく突き刺さる。
「ちょ、ちょっと! 落ち着いてって!!」
異変を感じ取ったリュックがサイファーを押しのけた。
だが、彼女の瞳に飛び込んできたのは、呻き声に合わせてのたうつ触手でも、爪を濡らすように滲む血でもなかった。
アーヴァインの身体から染み出るように舞い上がった、七色に輝く淡い光――

(――……幻光、虫?)

ここ数日間見ていなかった輝きは、リュックとサイファーの眼前で急速に収束し、まばゆい閃光を放つ。
「くっ!?」
「ひゃっ!?」
目が眩んだのは一瞬だった。
二人は我に返るなり、反射的に身構え――眼前の光景に、再び目を瞬かせる。

『リュック!! 良かった、そっちも無事だったんだな!!』

見慣れない緑のバンダナ、日焼けして色褪せた金の髪に、浅黒い肌。
一振りの剣を携え、場違いなほど朗らかに笑う『死人』が、二人の前に立っていた。

『あんたがサイファーってヤツか?
 アービンとリュックのこと助けてくれてあんがとな!
 それとロックは……って、なんだ、いないのか? アイツ、相変わらずわけわかんねーヤツだな』
我が目を信じられず、呆然と立ちすくむ二人を余所に、実体化したティーダは捲し立てる。
そして懐を探り、『えっと、こっちのヤツだよな』などと呟きながらメモを取り出すと、サイファーの手に押しつけた。
『これさ、スコ……じゃなかった、えっと、その、と、とにかく!
 渡したから、できるだけ早く読んでくれよな!』
一方的に言い放ち、返事も聞かないまま、ティーダはアーヴァインに向き直る。
そこで初めて、召喚者の容体に気付いたのだろう。
『ア、アービン!? どうしたんだ?!』
明るい声音はなりを潜め、泣き叫ぶようにティーダは彼の名前を呼んだ。
震える肩に触れ、喰い込む爪を外すように右腕を抱えたティーダが、どんな表情を浮かべていたのか――リュックにはわからない。
ただ、ティーダが叫んだ声だけは、はっきりと聞き取れた。
420傷つけ合うように、支え合いながら 5/9:2013/08/06(火) 02:16:52.57 ID:fvGVZYIg0
『アービン、まさか、また無茶したのか!?
 止めろよ! いくら頼まれたからって、そこまでしろだなんてアイツも…!』
「……、…………、………」

サイファー達にはアーヴァインの声は殆ど聞こえなかった。
声が枯れているせいもあるだろうが、意図的に小さい声で話しているらしい。
何かを喋っている、ということだけが辛うじてわかる程度だ。

『だからって……! じゃあ、なんで、そんなに苦しそうなんだよ!
 あんたいつもそうじゃないか! 苦しい時に限ってカラ元気作って!』
「………、…、………」
『……そんなの』
「………、………、…………」
『……わかったよ。アービンの気持ちは。
 だけどさ、これだけは言っとくぞ』
「……?」
『俺は……ユウナだけじゃなくて、あんたが死んでも、泣くからな!』
「ティ……ティーダ!?」
初めて、張り裂けそうな叫び声を上げたアーヴァインの前で、すう、とティーダの姿が薄れていく。
縋るように上げた顔も、差し伸べた左手も引き止めることは叶わずに。
舞い上がる幻光虫に飲み込まれるように、ティーダは幻のように掻き消えた。

「何なんだよ……」
サイファーは舌打ちしながら、渡されたメモを広げる。
焼け爛れた無残な死体に成り果てていたはずの男が、突然現れて消えた。
それだけでも理解の範疇を超えていたが、ティーダはさらにスコールの名前まで言いかけた。
だが、不可解極まる謎の答えは、この紙片に書かれているのだろう。
そんなサイファーの推測通り、そこには明らかに見覚えのある筆跡で文章が綴られていた。

【サイファーへ。
 詳しい事情は後で話すが、どうしてもある道具の効果を確かめたいので、、
 お前が今一番殴って問い詰めたい奴の事を考えながら眠ってみてほしい。
                     マッシュより】

「……何なんだよッ!」
署名こそマッシュになっているが、右手を腕ごと失っている彼がこんな字を書けるはずもない。
そもそも筆跡の時点で、間違いなくスコールが差出人だ。
けれども、肝心要の答えが書いていないどころか、更なる謎を呼ぶ文章しか記されていない。
「アーヴァイン! スコ……いや、テメェら何を企んでる!?」
メモを放り出したサイファーは、ティーダが消えた場所を見つめていたアーヴァインの胸倉を掴み上げる。
「サイファー、止めなよ!」
リュックが制止するも、怒り心頭のサイファーは手を離さない。
死人のような顔色をさらに悪くしたアーヴァインは、ぜひ、ぜひと喉を鳴らしながら、苦しげに答えた。
421傷つけ合うように、支え合いながら 6/9:2013/08/06(火) 02:19:46.06 ID:fvGVZYIg0
「し、ん……ぃ"い、て……」
「あぁ?!」
眉間に皺を寄せて恫喝するサイファーの耳に、グチュリと生理的嫌悪を掻きたてる音が響く。
「て、ちょ…う"ぅ…、はっ、は……ん、ちょ………しん、じ……ぇ……」
固く閉ざされた瞼は、何に耐えているのか。
その疑問はすぐに解消される。

リュックは見た。
息も絶え絶えに訴える、その背中に付いた浅くも無い四本の爪痕の奥で、何かが蠢くのを。
そして――二人は聞いた。
ギチリ、ギチリ、グチャリ、と。
裂けた傷口から、肋骨に似た突起がローブを突き破ってデタラメな方向へ飛び出す、その音を。

もはや悲鳴を上げる余力も無いのか、アーヴァインはサイファーに体重を預けたまま、動こうとしない。
溢れた血はぶくぶくと泡立ちながら死斑の浮き出た紫の皮膚に代わり、同じ色の粘液を滲ませる。
その奥からさらに別の組織が盛り上がり、『治った』ばかりの皮膚諸共に布地を貫いて、左側に小さな羽を形作る。
蝶とも蝙蝠ともつかない、血管の浮き出た被膜。
セフィロス・コピーの黒翼ではない、古代種に擬態したオリジナル・ジェノバと同質の羽――

――G.F.が使用者の魔力を必要としないのは、G.F.自体が膨大なエネルギーの塊であるからだ。
高度な自我を保持するために使用者の脳を利用するため、記憶障害という症状を引き起こすが、
仮に人間が居なくとも、自我の固定を可能とするほどの力場があれば単独での実体化が出来る。
しかし、ティーダは違う。
彼に限らず、通常召喚獣と呼ばれる存在は、自分自身を現実世界に実体化させることはできない。
強大なエネルギーを持つ点はG.F.と変わらないが、彼らの殆どは自我や魂の保持にリソースを割いているのだ。
故に、召喚者から魔力を提供され実体化した時だけ、自らの持つエネルギーを破壊の力として転用できる。
つまり、召喚士に求められるのは記憶を失う覚悟などではなく、召喚獣の信頼と、適正と魔力なのだ。
だが、アーヴァインにはティーダとの友情こそあれ、召喚士としての適性など欠片も無い。
魔力とて【闇】に侵された結果手にした、後天的でちっぽけなモノ。
それも魔王にすら才能が無いと太鼓判を押されたほどだ。召喚獣を召喚する魔力など、行使できる道理が無い。

けれども皮肉なことに、彼を異形たらしめたジェノバ細胞が、不可能を可能にしてしまった。
とある廃人となった青年が、ジェノバ細胞の力で一流のソルジャーの記憶と才能を転写したように。
呪われた細胞は近くにいたリュックとティーダの記憶から、一流の召喚士であるユウナの才能を転写した。
そして【闇】から得た魔力を放出することで、ティーダの召喚を成功させたのだ。
しかしそれは、ジェノバが宿主の意に屈した事で成し得た奇跡ではない。
魔道士ケフカの魔力と悪意を浴びて成長したジェノバが作り上げた、偽りの希望。
望む力を与えることで意識に入り込み、同化を促し、全てを奪い尽くす為の罠だ。

アーヴァインはそのことに気付かないまま、ジェノバの力に縋り……更なる侵食を許してしまった。
422傷つけ合うように、支え合いながら 7/9:2013/08/06(火) 02:25:27.06 ID:fvGVZYIg0
「おい!! くそっ、ふざけんな!!」
サイファーが悪態をつきながらアーヴァインを揺さぶる。
反応こそ返す余裕はなかったが、アーヴァインとてジェノバの意思に抗ってはいた。
だが、一人では止めきれない。
体内を間断なく貫く苦痛と流れこむ殺戮と捕食の衝動が、意識をかき乱すからだ。
のたうつことも出来ずに苦しむ彼を救ったのは――実体無き魔銃を掲げたリュックの一射だった。

「ホ、ホワイトウィンド!」

癒しの力を宿す、唯一の回復魔銃弾。
事態を把握したリュックが放った弾丸は、アーヴァインの身体を捕えるなり一陣の風となって部屋中を駆け巡る。
生あるものの活力を呼び覚まし、人に害なす邪悪を鎮める白き風。
魔女の力に阻害されてもなお、風が持つ浄化の輝きは、大地の理から外れた寄生生物の活動を弱めるには十分だった。
変化した身体こそ戻らないが、異形化の進行はぴたりと止まる。

「アーヴァイン! だいじょーぶ!?」
リュックは駆け寄り、サイファーと一緒にアーヴァインの身体を支えた。
アーヴァインは薄目を開けて何事かを呟く。
「……ぁ"ー、……っ、く……」
前にも増して不明瞭な発音であったが、名前を呼ぼうとしたのだということはすぐに理解できた。
「ぉ……ぇ、……」
『ゴメン』と唇が動く。
それから『信じて』。『手帳を』。『班長の言葉を』。『信じて』。と、繰り返し声なき声で訴える。
それらの言葉は彼の真意を裏付けると同時に、ここまで変貌を遂げてなお、正気を失わずにいるという証明だ。
リュックにとって、それは喜ぶべき事実だった。
そしてまた、アーヴァインにとっても人の心を見失わずに済んだ事は大きかった。

ただ一人、サイファーだけは、そうは思わなかった。

サイファーの脳裏に二つの影が過ぎる。
カナーンで死んだ剣士とウルで暴れ回った巨獣。狂気じみた精神力で、命尽きるまで止まらなかった者達。
人から異形に成り果て、明らかに苦しみながら生き足掻いているアーヴァインの姿は、どこか彼らと重なって見えるのだ。
アーヴァインに生を選ばせているのは、友情や希望といった甘い言葉ではなく――
テリーやブオーンを突き動かしたのと同じ、『呪い』の類なのではないかと、思えてきてしまうのだ。

(……殺すべきなんじゃないのか?)
一度は封印したはずの思考が、サイファーの胸中で再び鎌首をもたげはじめる。
(殺してやるべきじゃないのか? こんなになってまで生きて、その先に何があるってんだ……?!)
その怒りと殺意が【闇】を引き寄せてしまうことにも気づかず、サイファーはアーヴァインを見つめる。
423傷つけ合うように、支え合いながら 8/9:2013/08/06(火) 02:27:14.84 ID:fvGVZYIg0
(………)
一方でアーヴァインはサイファーの【闇】に気付いていた。
それでもその事には触れない。触れる事ができない。
声に出す気力が尽きたからではない。
自分が生きる事でサイファーを【闇】に晒すと理解していても、アーヴァインには自らの死など選べないからだ。
首輪を外す為にもユウナを救う為にも、魔女を倒す為にも、生き残らなければならない。
自分が殺めたも同然のティーダを、さらに泣かせることになるというのなら――尚更、死ぬことは許されない。

アーヴァインは左手と腹から生えた触手でサイファーの腕を振り払った。
当然、一人では立てずに膝から崩れ落ちる。
自重にすら抗えず、そのまま右側に倒れ込み――リュックに引き戻され、壁に寄りかけられた。

「……あ……ぃ、…が……と」
「前に言ったでしょ。ティーダの友達を見捨てるなんて選択肢はないって」

首輪に触れながらリュックは答える。
彼女は、純粋に仲間を信じていた。
【闇】すら寄りつけない、光に満ちた心は、誰よりも確かに未来と希望を目指していた。

リュックは考える。
アーヴァインが言葉を選ぶ余裕を失っている以上、フォローしなければならないのは自分だと。
「そんなナリになったせいかは知らないけど、とにかく、あんたが正気に戻ったってのはわかった!
 だから、あとは新生カモメ団mkU、テ・リ・サにおまかせしなさいっ!!」
「は?」
ビシッとポーズをつけてまで言い放つリュックに、サイファーが反応する。
南東の祠で分かれた時に、彼女がスコールとバッツを連れて『新生カモメ団ス・リ・バ!』と言っていたのを覚えていたのだ。
「なによ、文句あんの?」
「ああ。勝手に人を頭数に入れんじゃねえ。
 それからテってのはティーダの事か? どういう理屈で化けて出たのかは知らねえが、幽霊を勘定に入れてどうする。
 それに前半のカモメなんちゃらってネーミングセンスも気に入らねえ」
「もー! 気に入らなくてもなんでも、元気づけなんだからノっときなよね!
 ねー!」
同意を求められたアーヴァインは当然のように口を噤む。
それから数秒ほど間を置いて、『のーこめんと』と唇が動いた。

「……も、もう。いいよ、そういうことなら。
 とにかく、あたしがコイツのこと看病しとくから、サイファーは寝ときなよ」

リュックはメモを拾い上げ、サイファーの眼前で揺らす。
死んだはずのティーダが現れた理屈はわからなかったが、彼が見せた表情や言動は間違いなく本物のティーダだった。
そしてティーダとスコールが協力し合っているというなら、メモは、全員で生きて帰る為に必要な行動を示唆しているのだ。
仲間を信頼する彼女は、疑わない。迷わない。
424傷つけ合うように、支え合いながら 9/9:2013/08/06(火) 02:30:51.75 ID:fvGVZYIg0
「サイファーだって、走り通しで疲れてるでしょ?
 あたしはボビィに乗せてもらったから、元気イッパイだもんね!
 ね、ほら、横になってグッスリ寝ちゃっていいよ。時間が経ったら起こすからさ!」
「……わかったよ。うっせぇな」
サイファーは眉間に皺をよせたまま、彼女の手からメモをひったくる。
彼にも思う所はある。だが、それはリュックにぶつけても無意味だ。
"今一番殴って問い詰めたい奴"。
即ち、茶番劇を仕組んだ張本人であるスコールに対して怒鳴りつけなければ気が済まない。
殴られて問い詰められるだろうという自覚があるなら尚更だ。
しかし――やはり眠る前に、茶番劇の片棒を担いだ男には言っておきたいことがあった。

「おい、ガルバディア野郎」
「……?」
「さっきはテメェのクソ下らねえ命乞いを聞いてやったがな。
 テメェが正気を無くしたら、誰が何と言おうと切り捨てる。
 それだけは覚えとけ」
アーヴァインは頷きながら、『わかってる』と答えた。
口の両端を吊り上げて作った微笑は、空元気と言う以外に表現しようがないほど痛々しいものだった。



【サイファー(右足軽傷+重度の疲労)
 所持品:メタルキングの剣、G.F.ケルベロス(召喚不能)、正宗、スコールの伝言メモ
 第一行動方針:メモの指示に従って眠る/スコールを殴って問い詰める
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(魔銃士、MP9/10)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     破邪の剣、ロトの剣
 第一行動方針:周囲を警戒/アーヴァインを看病する
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔服、MP微量、半ジェノバ化(中度)、右耳失聴、声枯れによる一時的失声)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)
     ちょこザイナ&ちょこソナー、ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖、祈りの指輪
     チョコボ『ボビィ=コーウェン』、召喚獣ティーダ
 第一行動方針:休む
 第二行動方針:脱出に協力しない人間やセフィロスを始末したい/ユウナを止めてティーダと再会させる
 最終行動方針:魔女を倒してセルフィや仲間を守る。可能なら生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています。
    ジェノバ細胞を植え付けられた影響で、右上半身から背中にかけて異形化が進行しています。
    MP残量が回復する前にMP消費を伴う行動をするとジェノバ化が進行します。
    セフィロスコピーとしてセフィロスに操られる事があるかもしれません】

【現在位置:南西の祠】
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/06(火) 20:41:19.23 ID:DJrx8q/R0
連続で乙!
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/08(木) 13:27:02.93 ID:KXCnPT9C0
追いついた! 投下乙!
惨劇の幕開けの予感だったりする一方で、着々と進む脱出等の反逆手段。
ケフカッパにYUNネキとか乗り越える壁もあるけど……がんばれ!
427名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/13(火) 00:08:26.86 ID:KAgxm0uW0
アーヴァイ、やばいね。いや、色んな意味で。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/13(火) 12:38:50.66 ID:tXdN75SH0
ジェノバS細胞を無効化してるザックスの細胞とか移植すれば進行止められたりしないだろうか
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/19(月) 17:30:53.53 ID:G+QLQzyP0
投下乙
430名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/20(火) 23:21:32.45 ID:LHLvUyI90
estar.jp/.pc/_novel_view?w=18021178

こんなの見つけたんだがこれは何処かでやってるロワなの?
3rdの展開コピペみたいな話もあるんだが、詳細希望。
431名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/21(水) 00:35:46.80 ID:yw604BUN0
なんだそりゃ
書き手の一人が投稿サイトにここの内容を書いてんのか
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/25(日) 22:53:08.81 ID:f5Fx1PXx0
>>430
最初のページに3rdを元に勝手に書いたって書いてあるじゃん
ただのオナニーSS
433絶望シンドローム 1/28:2013/08/27(火) 01:31:18.07 ID:fGuaf2U40
◆◆◆

「テレポ!」
ギードの魔法が空間を歪ませる。
アルガスから譲られた見取り図と賢者の判断力は、少ない魔力でも効率的なショートカットを成功させ続ける。
そしてロックもまた、トレジャーハンティングで培った脚力と探索力を生かし、ギードに代わって細かい小部屋を探索していく。
だが、彼らは未だにソロ達との合流を果たせずにいた。
デスキャッスルは魔王の居城であると同時に、魔王を守る迷宮なのだ。
城主がこの世を去っても尚、造りそのものの複雑さと、近衛を務める魔族たちの詰所の数は、人間を拒み続ける。
そこかしこに並ぶ邪神像の冷たい瞳は、仲間を探す彼らを嘲るように、静かに輝いていた。

「どうじゃ?」
「ダメだ。この辺りには居ないみたいだぜ」
ギードの質問に、ロックは首を横に振る。
そもそも、ソロ達とて近くにいるなら、彼らに気付いて出てきそうなものだ。
それが姿も形も、気配さえも感じないということは、別の階にいるのかもしれない。
そう判断したロックは、上を指し示しながらギードに言う。
「上に行った方がいいかもしれないな」
長い時を生きた賢者といえども、人探しの経験がトレジャーハンターに勝る道理はない。
ギードは素直にロックの進言を聞き入れる。
「わかった。急ぐとしよう」

そして二人は、彫像の並ぶ回廊を駆け抜け、階段へと向かう――

◆◆◆

『疾走する混迷のオーバーラン』

◆◆◆
434絶望シンドローム 2/28:2013/08/27(火) 01:33:59.08 ID:fGuaf2U40
ギードの横を走りながら、俺はアリーナと戦った時の事を思い出していた。

リルムやテリーに残虐な光景を見せつけて脅し、ゴゴを殺した事を悪びれもせずに笑った女。
あんな悪魔じみた人間がケフカ以外にいて、それがソロやピサロの仲間だってんだから、今まで色々と納得がいかなかったし……
例の【闇】だの、クリムトが言った『本物のアリーナが作った偽物のアリーナ』の話を聞くことで、やっと得心がいった。
人を狂わせる得体の知れないモノが渦巻いてる世界で生み出された紛い物だってなら、残虐で邪悪な存在にもなるってもんさ。
だから、そういう奴が相手なら、俺だって迷いなく戦える。
偽アリーナの時は結果として叶わなかったが、機会があったら殺すことも出来るだろう。
いや、あれが本物の人間、本物のアリーナだったとしても――やはり戦えたと思う。

俺にとってあの女は、『人を傷つける事を何とも思ってない、死体を弄んでティーダを追い回した上に、仲間を殺した張本人』でしかない。
反省もしない、後悔もしない、謝りもしない、改心もしない。
そんな奴を生かしておくなんて、自分や仲間の首を絞めるようなもんだ。
だからといって、まさかリルムやテリーみたいな子供に手を汚させるわけにはいかない。
どっかの大バカ野郎にも、(少なくともあの時はソロ達の説得で改心していたのだから)余分な罪を背負わせたくはなかった。
だから、断言できる。
あの状況ならまだ、俺は迷いなく、相手を殺せた。

――なら、今は?

例えば頭のネジが吹っ飛んだバカ野郎が舞い戻ってきたら、アイツを殺せるか?

いくら考えても、答えはNOから動かない。
ボコボコにして腕と足を縛って猿轡を噛ませて床に転がすところまでは出来るだろうが、その先は考えられない。
うるさくて厄介でアホでマヌケでバカの極みで、おまけにキチガイまで発症した正真正銘のロクデナシであっても、だ。

ソロ達やティーダのしたことはなんだったんだ、とか。
テリーやリルムの気持ちはどうなるんだ、とか。
何より、凶行に及んだのはアイツ自身の本心ではないんじゃないのか、とか。
そんな思考が頭から離れてくれない。
第一、名前を呼んだり薬を飲ませたりで一時的に正気を取り戻させることが出来ていたのだから、
完全に治す方法がどこかにあるはずだという意識が先に立ってしまう。
――ティナの仇で、他にも何人も殺したらしい、バカ野郎相手でさえそう考えてしまうのだ。

ならば、もしも。
もしも、ユウナを相手にしなければならなくなった時……俺は、戦えるのか?
435絶望シンドローム 3/28:2013/08/27(火) 01:37:13.92 ID:fGuaf2U40
取り繕ってもしょうがない。
正直に言おう。
俺はユウナがティーダを殺したなんて話、信じたくない。
それ以前に、ユウナが殺し合いに乗ったなんて、考えたくもない。
けれど……けれど、可能性をハナから切り捨てられる程、俺はあいつらを見知っているわけでもない。

そもそもユウナが殺し合いに乗っているなら、納得出来てしまう出来事が多すぎる。
エドガーやジタンって奴の死に方とか。
アーヴァインの奴が俺達には誰にも何も言わずに離れたくせにピサロとリルムとは同行した事とか。
ティーダと別行動になるというのに誰よりも真っ先にユウナがギード達の護衛を買って出た事とか。
ティーダとテリーが揃って放送で呼ばれた事とか。
本当に、何もかも全部だ。
第一、銃を使いこなせる人間なんてそう多くない。
真っ先に怪しいヤツ――また発狂したらしいどっかの大バカ野郎には、エドガー達の時もティーダの時も鉄壁のアリバイがあると来ている。

いくら言い出しだのがバカ野郎であっても、戯言だと笑い飛ばす事は出来ない。
理屈ではわかっているんだ。

それでも、やっぱり、疑うよりユウナを信じたい気持ちの方が強い。

一年前、俺はセリスを信じる事が出来なかった。
一度守ると誓ったのに、よりにもよってケフカなんかの戯言に惑わされて、裏切りを疑ってしまった。
ユウナの事も、それと同じで、誰かの――それこそまだ生きているらしいケフカあたりの――策略に乗せられただけなんじゃないかと。
彼女は無実で、何も悪くなくて、利用されただけの被害者じゃないのかと。
そうであってほしいと思っているし、その願望と期待を捨てる事が出来ない。
何より、俺の記憶にあるユウナは、アリーナにやられた俺達を必死になって助けてくれた子だ。
ティーダのニブさに傷ついて泣いていた子だ。
テリーやギードに慰められて無理に笑顔を作ってた子だ。
だいたい、彼女がティーダを殺したと決めつけて騒いでるのは全くもって信用ならないバカ野郎――

……。

アイツ一人だけだったら、良かったのに。

ソロを探しに行く前、クリムトが言った。
『狂気に陥った者の言葉といえ、友の恋人を疑うとなれば、決めつけるだけの理由があるのやもしれぬ』と。
そう呟いた時のオッサンは、単なる推測ではなくそれ以上の――確信に近いモノを抱いているように見えた。
436絶望シンドローム 4/28:2013/08/27(火) 01:41:09.82 ID:fGuaf2U40
ああ、わかってるんだ。
あの大バカ野郎が嫌ってるはずの俺じゃなく、好意を寄せていたはずのユウナを疑うことが出来る、そんな理由は。
優しくてか弱いユウナが、殺し合いに乗ってしまえる、そんな理由は。
絶対に、一つしかない。
そしてソイツは、否定できない可能性として俺の前に立ち塞がっているんだ。

もしもユウナを相手にしなければならなくなった時、俺は、戦えるのか?
敵として認識できるのか?
アリーナに対してそうしたように、迷いなく斬りかかったりすることが出来るのか?
ボコボコにして腕と足を縛って猿轡を噛まして転がしておけるほど、割り切ることができるのか?

わからない。

そう答えてしまうことが、きっと、答えだ。

ソロ達を見つけて、さっさと城を離れたい。
ユウナと出会おうが出会わなかろうが現実は変わらないけれど、会わなければ真実がどうかなんてわからない。
白黒はっきりつかない、あやふやな状態なら、少なくとも希望を持ったままで居られる。
本当にそれが希望なのか、と聞かれたら少し困るが――
俺の考えている最良の可能性が真実だった、なんて都合よく転がるとは思えない。
それに、バカ野郎やユウナを殺さなきゃいけない局面に追い込まれる事が、今の俺にとって最大の絶望だ。
だいたい、ギードとクリムトを守りながら全員無事に南東まで行こうってなら、尻まくってとんずらするのがベストの選択に決まってる。

 "でもあんた、そんなことじゃ何も変わらない。ただの誤魔化しッスね"

うるさい。黙れ。

頭の中を過ぎるティーダの声――
偉そうに言いやがって、そもそもお前が悪いんじゃねえかよド鈍い上にマヌケのバカ野郎二号が――を叱咤しながら、俺は階段を駆け上がる。
悪趣味な彫像がずらりと並ぶ廊下の先。
息切れと眩暈に揺れる視界の端で、不意に緑の髪と見覚えのある服装が翻った。


                     ――揺れる視界の端で。
俺はそいつの名前を大声で叫ぶ。
                     ――誰かが叫んだ。
「ソロッ!!」
                     ――その事に気付いた時には。
でも、その声は
                     ――足元からせり上がる眩暈が。
多分、
                     ――逃れようのない魔手となって何もかもを包み込む。
届かなかった。
437絶望シンドローム 5/28:2013/08/27(火) 01:44:31.40 ID:fGuaf2U40
その瞬間、世界が、揺れた。

彫像という彫像が倒れ、何体かが砕け、俺の声をかき消す。
階段を上っていたギードの身体が、まるで玩具のように滑り落ちていく。
床が動いたのだと悟った時には、壁のランプがことごとく落ちて砕け散った。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!?」
立つこともしゃがむこともできない。
床を、天井を、全てを動かすバカでかい揺れが城ごと全身を襲う。

大地震。

そんな単語が頭を過ぎった時には、俺は宙に投げ出されていた。
ギードと同じく、階段の上へ跳ね飛ばされたのだ。
数秒の空中浮遊の後、受け身の取れない身体を、踊り場の固すぎる床が出迎える。
ただでさえ怪我が治りきってないのに、強かに打ち付けた足の痛みのせいか。
あるいは脳へ伝わった衝撃のせいか、一瞬だけ視界がぼやける。
そして一分経ってもなお揺れ続ける地震は、俺の頭が再起動を始めるよりも早く、さらなる手を打つ。

「くそっ、なんで」

悪態を吐きながら、顔を上げた俺の目に映ったのは。

「なんで、こんな――」

揺れに翻弄されるがまま、上階の廊下から転がり落ちてきた

「――」

悪趣味な、彫像だった。
438絶望シンドローム 6/28:2013/08/27(火) 01:48:12.44 ID:fGuaf2U40
◆◆◆

「マホステ」
唱えた呪文は紫色の霧を生み出し、勇者の身体を包み込む。

かつては仲間達と共に進んだ道程を、ソロはただ一人駆けていた。
自らの信ずる正義と既に亡き仲間の言葉を胸に、前へと進む足取りは、どこまでも迷いなく。
最善の手を打つべく、魔王の自室がある最上階を目指す。

(サイファー……! それにロックさん達……!
 みんな、どこにいるんだ!?)

しかして彼は気づかない。
心を蝕む焦りが、袋の中から呼びかけ続ける仲間の声を遠ざけてしまっていることを。
迷わず進む覚悟こそが、ただただ最悪の手を打たせていることを。

◆◆◆

『Beautiful Despair』

◆◆◆
439絶望シンドローム 7/28:2013/08/27(火) 01:53:39.78 ID:fGuaf2U40
デスキャッスルの内部を巡りながら、僕はレーベでの出来事を思い出す。
テリー。ファリスさん。ミレーユさん。フリオニール。ビアンカさん。アーヴァイン。
僕は彼らのうち、何人を救えただろうか。

――答えはわかっている。

『誰も救えなかった』。

襲い掛かってきたテリーを止める事も、捕えることもできなかった。
ミレーユさんが止めに入らなかったら、ヘンリーさんは間違いなく殺されていた。
二回目に会った時、彼は妙に大人しくなっていたけれど、それはファリスさんが居たからだ。
ミレーユさんとファリスさん。二人がいたから僕らは助かった。
でも、結局、彼もファリスさんも死んでしまった。
いくらピサロと同行することを嫌がったといえ、どうして僕は説得を早々に諦めてしまったんだろう。
レナさんのことを引き合いに出して、彼女の話をしたいからと言えば、ファリスさんごと仲間に引き込めたんじゃないのか。
実際にレナさんともバッツさんとも、ウルで再会したのだから尚更だ。

ミレーユさんを止める事も、同行することもできなかった。
彼女の覚悟を阻みたくなかったとか、重傷を負ったヘンリーさんが不安だったとか、そんなのは言い訳だ。
あの時、彼女は迷う素振りを見せていた。
僕が一言、『ヘンリーさんを助けてください』と頼めば、ミレーユさんはレーベに留まってくれただろう。
放送のタイミングからしても、彼女の生死の分水嶺は、あの時の僕の行動にあった可能性が高い。

明らかに精神に異常を来していた二人を、止める事ができなかった。
人形のように無表情だったフリオニール。操りの輪をつけられたビアンカさん。
二人とも錯乱して、どこかに行ってしまったまま、……昨日、放送で名前を呼ばれてしまった。
あの時まっすぐビアンカさんを追っていたら?
あるいはヘンリーさんを案じる前に、入口を塞いでフリオニールを落ち着ける事に尽力していたら?
……やはり、未来は異なるものになっていたと思う。

考えれば考えるほど、僕は悪い選択肢を選び続けてしまったのだと実感する。
アーヴァインのことは、その極め付けだ。
スコールとアルガス、それにサイファーには悪いけれど、彼本人に対する怒りはない。
憎悪も抱いてはいない。
そういう感情を向けるとするなら、殺人を止める事しか考えず、凶行に至ったその心情を無視した自分に対してだ。
彼が聞いている可能性も考えずに、ティーダとテリーの死を伝えてしまった、無神経な自分に対してだ。
二度も、彼の希望を根本から断ち切ったのは、僕だ。
記憶や正気を手放してしまうほどに追い詰めて、心を壊してしまったのは、僕なんだ。

だからこそ、殺して終わりなんて。
そんなの、許されない。
440絶望シンドローム 8/28:2013/08/27(火) 02:00:16.77 ID:fGuaf2U40
もちろん手の施しようがないほどの大怪我を負っているなら、楽にするしかないとは思う。
あるいは、彼らが誰かを殺そうとする、まさにその瞬間に立ち会ったなら――殺されかけている人を救うために、殺さなければならない事もあるだろう。
でも、そうでなければ絶対に助ける。
【闇】を祓う手段を見つけ出して、救ってみせる。

そしてこの気持ちは、ユウナさんに対しても変わらない。

サイファーが調べた殺害方法からして、ティーダを殺したのはユウナさんで間違いないだろうけれど……
彼女も、自分の意思で殺し合いに乗っているとは思えない。
デールさんやアーヴァインの例を見る限り、【闇】に憑りつかれた人間は強い執着が――愛情や友情といった感情でさえも――殺意にすり替わってしまうものらしい。
それにリュックが話してた人物像と照らし合わせると、やはり、【闇】の被害者だと考える方がしっくりくる。
だから、彼女が狂っているとしても、殺すべきじゃない。
自分以外の意思によって凶行に走らされた人達を、悪と断じて葬るなんて、絶対に間違っている。
憎むべきはただ一人。
殺し合いという状況を強いて、【闇】を作り出し皆を狂わせた魔女だけだ。

きっとサイファーの考えは、僕とは違っているのだろう。
苦痛から解き放つ為に殺す。その考えを否定しきる事は……出来ない。
けれど、だからといって挫けるわけにはいかない。

諦めるのも見殺しにするのも簡単だ。
簡単だからこそ、簡単な方へ逃げるわけにはいかない。
僕は足掻く。足掻ける間は絶対に足掻く。
仲間に否定されても、相手に否定されても、誰に否定されても、そうそう諦める気はない。

覚悟を胸に階段を駆け上がり、最上階に辿りつく。
この近辺に誰もいないなら、バルコニーから下に飛び降りて、隠し通路の方に向かうべきだろう。
古き邪神の像と柱が立ち並ぶ廊下を通り、広間に向かう。
ピサロの話では、元はこの広間に王座を置いていたそうだ。
欲望の象徴たる黄金は進化の秘法の媒介に使えるという理由で、デスマウンテンに運ばれたのだという。
そしてピサロの自室はというと……玉座があった場所の裏に隠し扉がある、らしい。
らしい、というのは、僕自身は実際に中に入ったことがなかったからだ。
見つけたのはマーニャさんで、『ピサロの態度が気に入らないからロザリーとの交換日記でも見つけて読んでやろうと思った』とかいう、心底どうしようもない理由だった。
ともあれ、ここに部屋があり、その主が城にいたのは事実だ。
念の為に中を確認しておくべきだろう。
441絶望シンドローム 9/28:2013/08/27(火) 02:04:05.38 ID:fGuaf2U40
足元近くにあるわずかなくぼみに指を入れ、真上に押し上げる。
ギギギと軋みながら、壁にカモフラージュされていた扉は天井へと消え、ぽっかりと開いた入口になった。
恐る恐る足を踏み入れると、机上で光っている紫色の石が目に付いた。
魔族の照明器具なのだろう。廊下や他の部屋でも、天井に似たような石が埋め込まれている。
そしてその輝きに照らされながら、見覚えのある人物が微笑んでいた。
「……ロザリーさん」
壁に掛けられた肖像画は、先ほど別れた本人とは違い、どこまでも穏やかな表情を浮かべている。
僕が見ても『守りたい』と思える笑顔は、ピサロにとって、どれほどの価値があったのか。
――考えなくても、僕はもう、知っていた。

「……」
少しだけ感傷に浸ってしまったけれど、部屋の中には誰もいない。
別の場所を探そう。
そう考えて、外に出る。
そしてそのままバルコニーに行こうとした時だ。

「ん?」

ふと、どこかで物音が聞こえた気がした。
廊下に戻って辺りを見回す。

 ――タッタッタッタッタ……

かすかな足音。やはり誰かが階下から走って来ているようだ。
アーヴァインが追ってきたのだろうか。
不意打ちを避ける為にマホステを唱えてはいるけれど、例の"れーざーびーむ"に効果があるかどうかわからない。
一旦広間に戻り、壁にぴったりと身体を押しつけて息を殺す。
飛び出してきた瞬間を狙えば、少しは安全に取り押さえる事ができるはずだ。

――そう考えた矢先だった。

不意に、僕の身体を包む霧が輝いた。
呪文を消し去る時の反応だ。
その事を察知すると同時に、僕以外のすべてが音を立てて揺れ動き出す。
壁も、天井も、柱も、彫像も、照明も、窓も、床も、何もかもが!
……恐らくは城全体が、大地震に見舞われたかのように揺れている!!

紫の霧に守られた僕だけは何も感じない。
けれど、揺れの規模がどれだけすさまじいかは見るだけでわかる。
彫像や飾り鎧の類はことごとくデタラメに倒れ、柱も何本かが砕けていく。
窓ガラスは飴細工のように歪んで割れ、そのうちに壁や床すらもひび割れてしまいそうだ……!
442絶望シンドローム 10/28:2013/08/27(火) 02:07:41.25 ID:fGuaf2U40
(こんな……こんな呪文があるのか?!)

マホステで影響を防げているのだ。
僕の知識の範疇を超えてはいるが、呪文の類であることは間違いない。
しかしアーヴァインがこんな呪文を使えるとは思えない。
彼やサイファー達から聞いた限り、G.F.というものを使っても威力の低い魔法しか唱えられないはずだ。

(誰か、別の敵がいる?)

そこまで思考が及んだ矢先だった。

「ゥウウウああああァアアアアアああああああああああ!!!!!」

外から女性の絶叫が響く。
ぞっとするほどの憎悪と激情『しか』感じない、怨嗟の叫びだ。
仮にアーヴァインに痛めつけられたとしても、あのリュックが、こんな声を出すとは思えない。
ロザリーさんなら尚更だ。
ならば、この声の主は――

(まさか――ユウナさん!?)

迷っている暇はない。
僕はバルコニーに出て、未だ激しく揺れている柵から身を乗り出す。
するとそこには予想通り、見覚えのない黒髪の女性が地震に翻弄されながらも誰かを必死になって探していた。

「このっ、このォオオッ!! どこまで……どこまで卑怯なのッ!!
 殺してやる!! 今すぐ殺してやるから出てきなさいッ!!
 屑ッ! 悪魔ッ!! 人殺しッッ!! お前なんかお前なんか、お前さえいなければァアアァ!!」

赤い服を振り乱し、美しいはずの顔立ちを醜く歪めて、泣き叫ぶように罵り続ける。
その狂態には、ひそひ草を通じて聞いたアーヴァインの声とどこか似通うものがあった。
僕はバルコニーの柵を乗り越えながら、一縷の希望を込めて、天空の剣を振りかざす。
刀身から迸るは、天空に座す竜神の力。
あらゆる魔を消し去る凍てつく波動が、辺りを包み込む。

城を襲っていた地震が止まった。
揺れが収まった事に気付いたのか、僕が着地した衝撃に気付いたのか。
彼女は絶叫をやめて、呆然と僕の方へ振り向く。

「ユウナさん、ですよね」

僕には【闇】がどんなものかわからない。だから盾と剣までは手放せない。
でも、凍てつく波動で【闇】が祓えれば。
言葉を重ねて、彼女に本当の心を取り戻させられないかと。
そう思ったからこそ、あえて最初に話しかけることを選んだ。
443名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 02:21:51.72 ID:nR8Wyo2k0
   
444名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 02:25:26.76 ID:MKNRqg2zO
さるさん食らったので投下中断します。 3時に解除されなければ保管庫に投下します。
また、容量オーバーでこのスレだけでは投下しきれないため、先に次スレを立てました。
495キロバイトを超えたら残りは次スレに投下します。
445名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 03:43:22.85 ID:MKNRqg2zO
「僕はソロ。リュックの仲間です」
「リュック……の?」
「はい。今は訳あって離れてしまいましたが、昨日一日、ずっと一緒にいました。
 だから少しは貴方のことを聞いています」

ユウナさんは、両眼を遮っていた半透明の黒板を髪の上に押し上げる。
露わになった瞳は左右で色が異なっていて、人形めいた美しさと強烈な虚無感を醸し出していた。
一応話は聞いてくれるようだけれど、心を許したわけではないだろう。
その証拠に、彼女は小型の銃を片手に握りしめたままだ。
刺激しないよう、慎重に言葉を選ばなければ……
446名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 03:50:05.00 ID:MKNRqg2zO
「僕は貴方と戦うつもりはありません。
 仲間と共に殺し合いを止め、魔女を倒すつもりでいます。
 ですから――」

「う る さ い」

ギィン、と音が鳴った。
反射的に差し出した盾が何かを――彼女の持つ武器から放たれた銀弾を弾き飛ばしたのだ。

「どれだけ馬鹿にすれば気が済むの」

赤い服が、不意に輝く。
艶やかな生地が光の粒子に代わり、別色の【霧】に再構成されていく。
「私はそんなに騙しやすい? 私はそんなに簡単に騙される相手?
 気持ちを踏みにじって期待を裏切って心を傷つけて、それがそんなに楽しい!?」

その粒子は最早、輝いていなかった。
あらゆる光を、干渉を、救いを拒絶するかのように漆黒の霧へと変化していた。
447名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 03:55:05.21 ID:MKNRqg2zO
そして【霧】は――【闇】は、新たな服として彼女を包みこむ。
均整のとれた身体も、美しいはずの顔も、何もかも全てを黒く塗りつぶすかのように。

「そんな格好したって騙されないッ! もう誤魔化されないッッ!!
 お前は、お前が、お前が、お ま え がァアアああああァぁああああああああああああ!!
 ァあぁアああああ――『     』ッ、なんだろうがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

闇を懲り固めたような巨大な頭には、×印に縫われた刺繍が眼のように浮かび。
腹部が膨らんだ漆黒の胴体からは、一対の蝙蝠の翼が生える。

「許さない許さないッ、絶対にィイイイッ、ゆぅるさぁああああなぁああああいッ!
 お前なんかお前なんかお前なんかお前なんか、お前なんかァアアアアアアッッ!!」
448名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 04:00:09.04 ID:MKNRqg2zO
病んだ子供の落書きのように悪夢めいた、人ならざる姿となった彼女は、月無き夜空に向かって吠えた。
そして僕に向けられた――僕でない誰かへの――憎悪に引きずられるように、周囲の魔力が渦を巻いて彼女に集う。
彼女の声に呼応して、紐のような突起で頭部と繋がれている球体が、禍々しく輝く。
二回りほども大きく見える身体が風船のように軽々と宙に浮かび、全身を魔力が伝う。

――来る。

「のた打ち回って、しィッねぇッェェエエエええええええうああああああああああああァァァァッッ!!!」

彼女の絶叫と共に、球体から紫電の閃光が降り注いだ。
449名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/27(火) 04:13:35.21 ID:MKNRqg2zO
最後、携帯からの投下となってしまってすみません。
続きは次スレに投下しました。

FFDQバトルロワイアル3rd PART18
//kohada.2ch.net/test/read.cgi/ff/1377534553/l50
450名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/28(水) 02:40:10.08 ID:XBRkuBa50
新スレ立ったしこっちは皆で埋めていこう。
好きなキャラとか好きな話でも書いていこうぜ
451名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/28(水) 19:02:50.30 ID:r59yhEz70
アーヴァインが好きだけど、ユウナに
しィッねぇッェェエエエええええええうああああああああああああァァァァッッ
されそうで書き込めない
452名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/28(水) 21:01:56.79 ID:9WfM15/M0
アンジェロの身を案じるセフィロスに萌えた
453名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 17:07:18.10 ID:07/eQwOB0
ユウナがここまでヤンデル系マーダーになるとは、開始当時誰が予想できただろうか…
454名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 20:22:33.45 ID:zQgvBM8x0
ギードがここまで生き残るとも思わなかった...
455名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 22:43:22.21 ID:oAjO8dfi0
死んだキャラだがギルダー好きだったな、てか3rdと言えばギルダーだろう
ギルダーのAA紛失してしまったのが痛いな。
456名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 22:48:03.75 ID:07/eQwOB0
     |ヽ ̄ン、     
   _/`´__ヽ      
ピュー  |从´∀`) ̄   >>455呼んだ?
     ソノ斤川ヽ 
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎   
457名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 22:54:51.34 ID:wqVx5f5S0
3rdといえば序盤はピエール、中盤はアリーナ2な印象
458名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 23:01:28.75 ID:Sh1hbPhf0
>>455>>456
そういえば、ギルダーを死者スレに誘導して下さいって注意書きいつの間にか無くなったなw
スレが荒れてた頃の物だから必要なくなったのか。
459名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 23:07:52.42 ID:Sh1hbPhf0
俺は3rdといえばカインだわ。色々笑わせてもらったしなw
460名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/29(木) 23:12:09.27 ID:wbEduPvk0
>>456
早ぇよw
でも有難う。久々に見たかったんだこのAA
461名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/30(金) 04:16:11.00 ID:H/q2aOdp0
長く続いてるだけあって、序盤で死んだキャラは記憶が曖昧になってきてるな
名簿見てると「あれこいつ参加してたっけ?」って名前がチラホラ…
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/30(金) 08:36:17.43 ID:4oEGZHgt0
シャドウとかな
463名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/31(土) 10:12:28.58 ID:fmxd+0yY0
みんな何年くらい前からこのロワ読んでるの?
俺は五章の中盤辺りやってる頃から読み始めたけど
それにしたって7、8年近く前の気がする
464名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/31(土) 12:05:11.21 ID:cymmqNKl0
4章から読んでる。フルートが軽トラ投げてる話が初見だった
多分その話が8年前くらい、…長い…
465名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/31(土) 12:11:43.92 ID:kAwkwcTD0
開始前雑談スレから読んでる

序盤に死んだキャラでもローザと宝条とサンチョとジークフリートはよく覚えてるな
466名前が無い@ただの名無しのようだ:2013/08/31(土) 12:25:00.39 ID:2u5ogQJq0
まとめサイトの一番古い3rdスレが2004年?
息長すぎやな
467名前が無い@ただの名無しのようだ
1stのロンダルキア編から読み書きしてるよ。
書きのほうはもう何年も出来ていないけど…

1stが一年半で完結してるから、3rdも始まって二年くらいの間は、
「完結するのは来年くらいだな」とか「あと二年くらいだな」とか言われてたりしたw