FFDQバトルロワイアル3rd PART16

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461名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/05(木) 18:02:58.66 ID:Jd7rDtJZ0
ほしゅ
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/07(土) 08:56:27.69 ID:DTz4JO7f0
七夕
463445-447、453、459-462:2012/07/08(日) 09:01:12.38 ID:bKLSBEn30
一日一回保守
464名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/09(月) 06:20:12.33 ID:rjHPQc9Q0
そんなしょっちゅう保守する必要ないよ
465Searching For Clue 1/5:2012/07/16(月) 03:24:34.75 ID:GFk6qYcx0
 【コラム:精神と魂】
 どの世界にも共通して存在する物語の一つが、幽霊の目撃談だ。
 数多の血が流れた戦場に、あるいは墓所に、もしくは寂しい牢獄の中に、彼らはいる。
 天使や死神に導かれる事も無いまま、未練を残して現世に縛り付けられた霊魂は、
 時の経過に伴って自我と輪郭を失っていき、最終的には人魂のような姿で現世をあてどなく彷徨い続ける。
 しかし、ごく稀ではあるが、死して尚高潔な『精神』を失わず、自らの意思で現世に留まる霊魂も存在する。
 彼らは生前の記憶と『精神』を保ったまま、己の遺志を継ぐ冒険者を待ち続け、助言や武具を与える。
 また、逆に強い悪意や憎悪を持って死んだ霊魂も、生前の姿や記憶・感情を備えている事が多い。
 だが、そのような負の感情に縛られた霊魂は、高確率で周囲の邪気や瘴気を取り込み、魔物化を引き起こす。
 魔物化した霊魂はそのまま実体化してゴーストやエビルスピリッツとなったり、死体に憑りついてゾンビやリビングデッドに変化する。
 生者に憑りついた場合はさらに危険だ。
 死神の騎士、エリミネーター、ネクロマンサー、ピスコディーモンなど、高い知能と状況判断力を持った魔物が出来上がることだろう。

 さて、先に述べたが、現世に留まる霊魂には人格や記憶・自我を備えた個体が存在する。
 これは事実である。
 けれども、先に述べた一部の例外を除き、彼らは生前の精神を備えてはいない。

 精神とは、能動的行動を起こす為の機構である。
 『知覚し、認識し、判断する』というプロセスを処理する、不可視の概念存在である。
 人魂となった無害な霊魂の多くは他者を認識できない。事の善悪も判断できない。
 ただそこに留まり、彷徨い、自らの記憶や思念を垂れ流すだけだ。
 また、魔物化した霊魂の場合、一見すると生者同様の認識能力や判断力を備えているように見える。
 だが彼らは、自らを魔物化させた邪気の主たる、魔王や邪神の精神に同調させられているだけに過ぎない。
 だからこそ彼らは、生前の仲間であろうとも平気で襲い掛かり、殺すことが出来るのだ。

 ここで読者諸氏は不安に思ったかもしれない。
 死者の霊が魔物化することはないのか、と。
 安心して頂きたい。
 この会場では、死者の魂は迅速に回収される。
 何十人殺そうと、貴方が手掛けた相手の霊魂が夢に出てくるとか、魔物と化して襲い掛かるなどということはない。――
466Searching For Clue 2/5:2012/07/16(月) 03:26:57.44 ID:GFk6qYcx0
(……目薬が欲しいな)
他人の夢の中で攻略本を読んでいたスコールは、目頭を押さえながらぼやいた。
さほど長くないコラムといえ、五つ目ともなると流石に眼球が疲労を訴える。
けれども、成果を出してもいないのに休むわけにはいかない。

「何かわかったか?」
「いいや」

夢の主、アルガスの問いかけに、スコールは素っ気なく答えた。
問いかけた方も元より期待はしていなかったようで、激昂することも嘲笑することもなく視線を元に戻す。
彼は先ほどから、隣に座る老婆・ウネと、夢の世界の利用法について相談を続けていた。
しかし、ウネが席を立ったり、アルガスが胸を張って成果を発表しない時点で、進展がないということは明らかだ。
(そうそう上手くはいかないな)
スコールはため息をつきながら、一度本を閉じ、机の上に置いたままの走り書きに目をやった。
記してあるのは、放送後の予定だ。

『ピサロ ルカ ロック ギード クリムト ラムザ
 ・バッツの魔力が回復するまでに上記の人物が一名以上祠に来たら、バッツの首輪を解除する
 ・そうでなければマッシュの首輪を解除する』

南東の祠にいる人々は、殆どが何らかの形で怪我を負っている。
首輪解除の能力を持つバッツは最優先で守り抜くべき対象だが、
現在『生きている』面子の中で、最も戦闘能力を残している味方でもある。
彼を『殺す』ならば、代替えの戦力が必要だ。
では誰が適格か、攻略本の情報を見ながらアルガスやウネと相談した結果、メモに記された六人の名前が挙がった。

ピサロ。この領域を治める王であり、ずば抜けた実力の持ち主だ。体よく彼が戻って来たならば、祠の守りは心配ないだろう。
ルカ。彼本人の実力はともかく、高い戦闘センスを持つアンジェロと意思疎通できるのは大きい。スコールの記憶でも、下手な大人より余程しっかりしていた。
ロック。スコールもアルガスもウネも直接会ってはいないが、ヘンリーやリルムの情報を聞く限り、信頼に足る人物だと判断できる。
ギード。バッツの世界では賢者と呼ばれていた亀。城で首輪解除の研究を進めている以上、祠に来る可能性は低いが、来てくれれば頼りにはできそうだ。
クリムト。ウネとアルガスが出会った、やはり賢者と呼ばれていたという老人。怪我人を治療して歩く、無用な争いを好まない清廉な人物だという。
そしてラムザ。アルガスの知人で、彼曰く『平和主義者のアマちゃん』だが、騎士の家系に育ち剣術と戦術を学んだ実力者という話だ。
彼らのうち誰か一人でも、五体満足な状態で祠に来てくれれば、バッツを戦線から離脱させることができる。
そうすれば、より安全に首輪解除を進められるというものだ。
逆に、誰も来なかったり、来たのがターニアのような一般人であるなら、バッツを戦闘メンバーから外すなど危険すぎる。
当初の予定通り、戦力として除外していて、かつ『死』が不自然でないマッシュを保護すべきだ。
それが、三人で出した結論だった。
467Searching For Clue 3/5:2012/07/16(月) 03:30:50.22 ID:GFk6qYcx0
(……アーヴァインやヘンリー達が上手くやってくれればいいが、過度な期待は禁物だ。
 特にサイファーを思い通りに動かすなんて、それこそアルティミシア以外には至難の業だしな)

スコールは心の中で呟きながら、攻略本の冒頭を開き直した。
首輪解除の予定が決まった以上、次にやらねばならないことは、情報の整理である。
脱出経路もそうだし、この殺し合いを作り出している【クリスタル】に関する情報も絶望的に足りない。
スコールが攻略本の記事やコラムを読み漁っているのは、それらの手がかりを掴む為だった。
多くの本と同様、攻略本も、扉絵のページを捲ると目次が現れる。
『初心者編』、『世界編』、『知識編』.、『完全攻略編』などと銘打たれた章題の他、
二回りほど小さな文字で、コラムの題と対応するページ数が載っている。

【秩序と混沌の闘争】。
コスモスとカオスという二柱の神が、他の世界から勇士や強者を呼び集め、終わりなき闘争を繰り返しているという話。
【天使と運命の扉】。
世界のどこかに運命の扉というものがあり、人の世を見守る天使だけが、それを通って平行世界を行き来できるという話。
【翼の民の伝説】。
神の支配から逃れる為に秘術で翼を得た人間達が、空中の大陸に幽閉され、少ない物資を廻って殺し合うことになったという話。
【大魔王と勇者】。
強い身体を求めた古の魔王が、あらゆる世界から様々な人を集め、殺し合わせたという話。
そして、たった今読み終わったばかりの【精神と魂】。
この【精神と魂】は、先の四つとは明らかに毛色の異なる内容だ。
しかし、『魂を回収する』という文面からは、クリスタルとの関連性を感じ取れる。
そして続くのは【魔物と人間の考察】、【進化と適応】、【マ素とミストの関連性】、etc……

(……魔物と人間、か。
 そういえば今のコラムも、魔物化した霊魂がどうのこうのと書いてあったな。
 もしかしたら四つ区切りで話のテーマを変えているのかもしれない)

スコールは顎に手を当てる。
区切りごとに共通のテーマが存在するならば、最初の4つは『舞台装置に関する記事』だろう。
どの記事にもクリスタルという単語こそ出てこなかったが、異世界からの招集だとか、平行世界間の移動だとか、現状に通じるキーワードが多かった。
クリスタルの製作者がコラムの内容に触発されたのか、
クリスタルに影響を受けた者がコラムの事件を起こしたのかはわからないが、なにがしか関係があることは間違いない。
最も、それはコラムの内容が全て真実であると仮定した上での話ではあるが……
しかしスコールは、攻略本に『意図的に隠された情報』や『真実だが現状とは一致しない情報』はあっても、
『参加者を騙すために用意された偽情報』が載っているとは考えていなかった。
確証のない思い込みなどではない。
アルティミシアという魔女の性格を考慮した上での判断だ。
468Searching For Clue 4/5:2012/07/16(月) 03:33:05.07 ID:GFk6qYcx0
スコールは回想する。
ガルバディアで行われた、イデアの体を乗っ取ったアルティミシアの演説を。
あの時、アルティミシアは悪しき大国から民草を守る優しい魔女のフリなどしなかった。
魔女を恐れる人間達への怒りをぶつけ、幻想の中で舞い続けるとさえ言い放っていた。
言葉による扇動ではなく、自らの力による洗脳を選ぶ――
言ってしまえば圧倒的な力技でねじ伏せるような女が、
偽情報を乗せた攻略本を支給するという、回りくどい手段を考え付くだろうか?
彼が出した答えは、『否』だった。

故に、スコールは新たな手がかりを求め、攻略本のページを手繰る。
次のコラムテーマは『殺し合いを開いた目的』ではないかと予測しながら、【魔物と人間の考察】の記事に辿りつき――
ふと、その手を止めた。
彼の脳裏に、一つの疑問が過ぎったのだ。

(待てよ?
 ――本当に魂とやらは回収されているのか?)

アルガスに見せられたアルティミシアの夢を思い出しながら、スコールは自問する。
あの時、件のクリスタルに溜まっていたのは【黒い靄】であるように見えた。
そして首輪解除の際に見た、実体化した【闇】も、同じ【黒い靄】だ。
さらに、【闇】は死体の近くにある事が多く、身体を侵されると死者の声が聞こえたり、魔物化の要因となるという――

(……いや、さすがに考え過ぎか?)

スコールは頭を振った。
リルム達は【闇】について、死者の怨念と魔力やら魔女の思念やらの合成物だと言っていたのだ。
それに魂が回収されていないならば、それこそ幽霊やアンデッドモンスターが自然発生してもおかしくない。
だが、その手の目撃談がない以上、魂そのものの回収は行われていると見るべきだ。
【闇】と魂を結びつけるなど早計すぎる。――彼はそう思考した。


 もしもスコールがティファの変貌を見届けていれば。
 あるいはヘンリーがデールの最期を詳細に伝えていれば、彼も別の推理と結論に辿りつけたかもしれない。
 けれども、それはもはや、現実になりえない可能性の話だ。


「――じゃあ行ってくるよ、アルガス」
「頼んだぜ、婆さんよ」

アルガス達の会話と、カタンと椅子が鳴る音に、スコールは顔を上げた。
先ほどまでそこにいたはずの老婆は消え失せ、代わりに一羽のオウムが開いた窓から青空の元へ飛び去って行く。
469Searching For Clue 5/5:2012/07/16(月) 03:34:34.08 ID:GFk6qYcx0
「どうしたんだ?」
スコールの問いに、アルガスはニヤリと笑う。
「なに、大したことじゃない。
 人手を集めてくるように言ったのさ」
これほど性格の悪さが滲み出ている表情も珍しい。
スコールはそんな感想を抱きつつも、青年の真意を読めないまま、彼の言葉を待った。

「なあ、考えてみろよ、スコール。
 夢の世界を知ってるのが婆さんだけだなんて、決めつけるのは早すぎやしないか?
 ロザリーみたいな小娘だって夢を利用してるんだ。
 婆さん以外にも、夢の世界をほっつき歩く奴がいるかもしれないだろ?」

スコールは目を瞬かせる。
(その発想はなかった――)というのが正直な感想だった。
呆気にとられる仲間を見やり、アルガスはますます勝ち誇った笑みを深くする。
「戦力としては計算できないだろうが、俺達が今一番欲しいのは情報だッ。
 生者だろうと死者だろう夢だろうと何だろうと、情報が得られるなら同じことッ!
 それに、どうせ現実には出てこれない婆さんだ。せいぜい有効に利用しておかないとなッ!」

哄笑を上げる青年に、スコールは内心辟易しながら、オウムが出て行った窓辺を見やった。
透き通った晴れ空の中、風に吹かれて舞う赤羽に、一瞬だけ一人の少女を思い出し――

(………お前の夢や、魂も、どこかにいるのか?)

心中で呟いた独り言は、誰に聞かれる事も無く、静かに消えていった。



【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
 第一行動方針:夢世界にてウネ以外の協力者を探す&今後の作戦会議
 最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠(最深部の部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ、首輪解除)
 所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
     G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
 吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
 第一行動方針:今後の作戦会議&クリスタルに関する情報の収集を進める
 第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界】
※アルガスが起きるか死んだ場合、スコールは南東の祠:最深部の部屋に戻ります
470名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/16(月) 06:26:45.11 ID:nyw8rqbV0
新作乙です!
また半年待つかと思ったw
471名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/16(月) 14:18:35.15 ID:7zlCSggm0
投下乙!
とりあえずラムザは祠に向かって来てるはずだけど、ユウナもこっち来ちゃう可能性もあるからなぁ…
うまく解除が進む事を祈る。

あと攻略本の内容が濃すぎるwウチにも1冊ほしいww
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/19(木) 04:05:03.04 ID:irCfzj+20
秩序と混沌の闘争=DFF
天使と運命の扉=DQ9
翼の民の伝説=FF12
大魔王と勇者=DQFFBR1st
かな?
そのコラム是非読んでみたいところだ
473名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/07/23(月) 01:32:01.25 ID:A+T9/Q2vP
3年以上ぶりに思い出して戻ってきたけどしっかり進んでいたとは感服したッ!
首輪解除までたどり着いたんだな…
474名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/02(木) 17:34:32.21 ID:Z9IbSHfS0
保守
475名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/17(金) 19:09:13.05 ID:em4RulxvO
476名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/08/26(日) 20:46:46.59 ID:71KNX9+VO
477名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/02(日) 15:39:19.57 ID:9HjDZDx10
478All the world's a stage 1/16:2012/09/09(日) 02:09:31.22 ID:+SMjkd6A0
時すら存在を許されぬ城の深部に、その部屋はあった。
美しくも禍々しい調度品達が暗闇に息を潜め、中空に浮かぶ形無きスクリーン達が色鮮やかな光を放ち続ける。
そして中央に坐する部屋の主は、妖艶な微笑を浮かべ、映し出された光景を静かに見つめるのだ。
その様を誰かが見たなら、戯曲を鑑賞する姫君と映っただろうか?
――否。
誰もが首を横に振るだろう。
漆黒の羽に血色の彩りが加わったドレス、悍ましい死人のような化粧、邪悪に輝く金色の瞳。
そこにいるのは見るからに恐ろしい魔女に他ならない。
何より、彼女が愉しげに眺めているのは、憎悪と殺意に満たされた殺戮の舞台。
金の瞳が映すのは、絶命してなお蹂躙される若者の亡骸と、返り血に染まる女銃士。

疑心という魔に憑りつかれ、闇を受け入れた心は、恋人の姿さえ魔物に映し出す。
若者は確かに彼女を愛していたというのに。
友の身を案じる心と同様に、彼女を守るという覚悟もまた、固いものであったのに。
せめて彼女には幸せになってほしいと、若者も、若者の友も、願っていたのに。
誰よりも銃士を愛した若者は、その思いを伝えることも、理解されることも叶わずに死んでいく。
誰よりも若者が愛した、彼女自身の手によって。

衣服を返り血で赤く染め、両手を脳漿で白く穢し、彼女は絶叫を続ける。
狂気に満たされた悲劇は、邪悪な魔女の心を捉え、その口元を綻ばせる。
誰からも愛されない魔女にとって、愛を否定する物語は喜劇に他ならないのだから。

魔女が小さく指を振る。
スクリーンの向こうで、蝶に似た白子の虫が数匹、亡骸に集うように舞い飛んだ。
その様を見た詩人がいたならば、若者の魂が彼女の身を案じたのだと言うかもしれない。
戦場に身を置く者が見たならば、吸血虫が血臭に誘われて飛んでいるのだと判断したかもしれない。
だが――真実は違う。

黒き結晶が生み出した広大な檻の中、囚われた人々は殺し合いを続けていく。
命を縛る枷、爆弾つきの首輪に仕込まれた盗聴器は、魔女とそのしもべの元に、数多の嘆きと悲鳴を伝える。
けれども、この恐ろしき魔女は、声だけで満足できるほど無欲な存在ではなかった。
血を飛沫かせ命を舞い散らす戯曲を我が目で見るために、魔女は何を考えたか。
その答えに辿りついた者は、139の命のうち、僅かに一人。
『ジャンクションマシーン・エルオーネ』
奇しくもその『唯一人』の姉というべき人物を元にして作られた機械は、長らく魔女の手元に在り。
複雑な精神を持つ人間の意識を接続するために造られた機械に、
より単純な精神パターンを持たせた魔法生命達の意識を接続させることなど容易く。
会場中に放った動物達の視覚情報を、スクリーン状の擬似生命体に映し出す事など、
魔女にとっては赤子の手をひねるよりも容易い事でしかなかった。
479All the world's a stage 2/16:2012/09/09(日) 02:10:37.86 ID:+SMjkd6A0
何も知らぬ参加者は、鳥の囀りに帰らぬ日々を偲び、花に寄り添う虫に在りし日の世界を思い返し、
走り回る鼠に日常の片鱗を見たことだろう。
しかし、――会場に放たれた動物達は、全てが『魔女の眼』であり、見えざる檻なのだ。

虫たちは女性の後を追い、その凶行全てを魔女に伝えていく。
かつて世界を救うための贄として旅に出た女性が、内なる狂気に突き動かされるまま殺戮劇の主役となる。
その滑稽な姿は、魔女を楽しませるには十分すぎた。
魔女は鋭い目を細め、血色の飛沫と共に舞う踊り子を眺め続ける。
巫女の無残な死を、道化師との邂逅を、罪悪感に由来するであろう幻覚に踊らされる姿を、薄笑みを浮かべて見入る。

そして、若者の死から数刻の時間が過ぎた――

椅子の背に身体を預け、娯楽に興じる魔女の耳に、軋んだ音が響く。
無粋なしもべが何事かを知らせに来たのだ、と悟るには、時間などいらない。
「失礼致シマス、アルティミシア様」
魔女よりも遥かに大きな身体をかがめ、巨人は恭しく跪く。
しかし忠実な僕に、魔女は能面のような表情で、冷たい視線を注ぐのみ。
もしや機嫌を損ねてしまったのではないか、と肝を冷やしながら、巨人は震える声で告げる。

「スコール=レオンハートノ生命反応ガ途絶エマシタ。
 仲間ノ裏切リニ合イ、殺害サレタモノト思ワレマス」

それは魔女にしてみても、いささか意外な報告だった。
けれども彼女は冷静に、そして冷酷に問い返す。
「報告はそれだけか」
「ハッ」
「此度は許すが、一参加者の死など伝えずとも良い。
 お前達は私の命に従い、ゲームの遂行に勤めよ」
「シ、失礼致シマシタ」
巨人は身を縮こまらせながら一礼し、部屋を後にするべく扉に手をかけた。
その背に、感情のこもらない声が投げかけられる。

「待て。あのSeeDを仕留めたのは誰だ?」

巨人は慌てて向き直り、ある名を告げた。
魔女の瞼が一瞬だけ跳ね上がり――そして、すぐに三日月のように歪む。
「御苦労。下がれ」

巨人が退出するのを確認することもなく、魔女はスクリーンに視線を戻す。
たった2日と半日で、139人いた参加者は20人近くにまで減った。
遊戯は佳境へ差し掛かり、されどこの先、娯楽の種は尽きることなどないだろう。
少なくとも魔女はそう確信し、故に、ひとり優雅に笑う。
真紅の惨劇を鑑賞する、唯一絶対の観客として――
480All the world's a stage 3/16:2012/09/09(日) 02:12:28.67 ID:+SMjkd6A0
************************************

何時間過ぎようとも一向に暗くならない石造りの空の下、
少女は肩に担いだ、自分と同じ姿の人物を引きずりながら、道ならぬ道を歩いていた。
茂みや毒沼はとうに姿を消し、粗い岩肌が険しい坂を作っている。
閉鎖世界にも関わらず風が吹き付けるのは、岩山の向こうに広がっている溶岩の海のせいだろうか。
鉄錆にも似た、濃密な血の匂いを孕んだ風に辟易しながらも、少女は足を進め続けた。

やがて、渦巻く緑の瞳は、遠くに佇む紫のシルエットを捉える。
横たわる巨躯は、こと切れた竜の亡骸だと、先刻出会った騎士から聞いていた。
そして、その先には、同じ場所にて息絶えていた二人の男と一人の娘の墓標があるとも――
それを思い出し、少女は表情を暗くする。
彼女にとって、男の片割れと娘は、紛れもない仲間であったからだ。
歩む足取りも次第に重くなり、ついには、止まってしまう。

「……ん……? ……リュッ、ク?」
異変を察知したのか、背負われていた方の少女が、十数分ぶりに顔を上げた。
その弾みで、彼女――否、『彼』の手元から輝く珠が転げ落ち、偽りの姿をかたどっていた幻光が舞い上がる。
土と砂と自ら流した血で汚れた、白いローブを着た青年。
目深にかぶったフードの奥にある、生気の失せた青白い表情と、微睡の中にいるような焦点の合わない瞳が、彼の体調を如実に物語っていた。

「どう……した……、……つか、れたの?」
「ん、んん、あたしはダイジョブだけど。
 なんていうか、ちょっと、……いや、それより、あんたこそヘーキなの?」
「……馬鹿に、するなよ……まだ、歩ける、さ」
少女は呆れて眉をひそめながらも、『途中から歩いてなかったじゃない』という言葉を飲み込んだ。
感情論と屁理屈をこねくり回して同行しているけれども、本来、少女と青年は『仲間』であってはならないのだ。
少なくとも、彼女らを監視している者の目には、そう映ってはならないのだ。

「ああ、そうさ、……帰るんだ。
 ……そうだ、皆殺しにして。……そうすれば、きっと……」
青年は喉を鳴らすように笑ってみせると、また瞼を閉じてしまった。
脳天気さを捨てきれない少女の分をカバーしようと、意識を失う間際まで、狂人の演技を続けたのだろう。

「………っ」

少女は、青年が落としたドレスフィアを拾い、彼のザックにしまうと、すう、はあ、と大きく深呼吸した。
顔を上げ、気絶した青年を背負い、一直線に岩道を駆け上がる。
少女よりもずっと長身である青年の体は、ずっしりと重たい。
けれども弱音を吐いては要られない。
『仲間』であってはならなくとも、彼女と青年は『仲間』なのだ。
覚悟はもはや揺らがない。己が心に従って、彼女は走る。
481All the world's a stage 4/16:2012/09/09(日) 02:13:47.87 ID:+SMjkd6A0
数分ばかりの疾走の果て。
数十分にも感じられる道程を越え、彼女はとうとう、そこに辿りついた。
抉られ、細かな肉片や血しぶきが散乱する大地に。
その淵に佇む、積み上げられた三つの瓦礫――墓の形を成さぬとも、死せる者の為に作られた墓標の前に。

周囲に人の気配がない事を確かめてから、少女は青年を地面に横たわらせる。
「えーい、ケアルラっ!」
何度目かになる癒しの魔法を唱え、青年の呼吸が安定している事を確かめてから、彼女は周囲の探索を始めた。
元々、宝探しは得意な彼女だ。
すぐ、墓を守る武具以外に、この地に残された貴重な道具を見つけ出した。
最も――骨と肉が付着した小手だの、指先ごと落ちている指輪だのを、見逃す者もいないだろうが。

「……ううっ」

小手はともかく、指輪には何がしかの魔力が宿っている物が多い。
少女は、手を合わせ「ごめんなさいっ!」と呟いてから、指輪を引き抜いた。
鋭く尖った爪の形状から元の装備者に当たりをつけ、その人物の冷静さを思い返した少女は、
危険な効果がある品ではないだろうと判断し、己の指にはめてみる。
試しに意識を集中させてみると、指輪から溢れた魔力が少女の体に流れ込んできた。

(もしかして……もしかしなくても、魔力回復の指輪なのかな?
 これは結構便利じゃない?)
そう少女が思った矢先に、ぴしり、と音を立てて青い石に小さな亀裂が走った。

(うげっ! こ、壊れちゃった?)

慌てて指輪を調べてみるが、魔力の輝きが残っていることに気付き、少女はほっと胸をなで下ろす。
(良かった、まだダイジョブみたい。
 でも、使いすぎると危険っぽいなぁ……)
あまり頼りにすると、いざという時に壊れてしまいそうだが、それでもこの効果は有用だ。
少女は素早く青年の傍らに戻ると、また回復魔法を唱え始めた。
命は、尽きてしまったら取り戻せない。
指輪で魔力を回復できるなら、出し惜しみするべきではないと判断したのだ。

癒しの光が青年の体に降り注ぐ。
紫色の唇がかすかに震え、誰かの名を呼んだ。

少女には、覚えのない名前だった。
482All the world's a stage 5/16:2012/09/09(日) 02:15:41.40 ID:+SMjkd6A0
************************************

"力が欲しい"
泡沫の中、青年は思う――その願いは、果たして誰のものだろうかと。

"彼女を守りたかった"
"彼女に愛されたかった"
"彼女の傍らに今一度立ちたかった"
暗闇に包まれた夢の世界に、ノイズ交じりの独白がざわめいては消えていく。
後悔に彩られた言葉は、青年自身の渇望であるようにも、志半ばで倒れた死者の慙愧であるようにも思えた。

"もっと力があれば、彼女を守れた"
"もっと力があれば、彼女に己の方が優れていたと証明できた"
"もっと力があれば、彼女の傍にいられた"
流れ込んでくる感情は、誰のものなのだろうか。
青年にはわからない。
一つだけ言える事は、彼自身も同じ想いを抱えているということだけ。

"死にたくない、こんな所で死にたくない――!"
その叫びは青年の意思なのか、死者達の慟哭なのか。
未練を引きずる魂の嘆きは、闇に谺し響き渡る。

"戦いたい""生きたい!""死にたくない!!"
"まだやらなきゃいけない事がある!!!!"
絶叫が反響し、怨嗟が連鎖する。
どろりと揺らめく【闇】が無数の手や幾つかの顔を形作りながら、声の嵐を迸らせる。
"冗談じゃない、こんなところで―!""逃げろ!""殺し合いなんてうんざりよ"
"レナ、エリア""あたしは、あたしは――!""リュカ様……私は――"
"僕と出会わなければ、君は""お母さんとお兄ちゃんを探しにいかなきゃ""お兄ちゃん、会いたいよ"
"魔王だ、魔王が――""まだだ、まだ、まだ俺は――!""ロザリー…!!"

溢れ渦巻く絶望と憎悪の奔流に、青年は顔をしかめ、手を振った。
「ああもう、うっさい」
その言葉にどんな力が働いたというのか、【闇】がざわりと震える。
伸びた手や浮き出た顔は溶けた氷のように形を失い、程なくして、夢の世界は静寂を取り戻した。

「傍にいてくれるのはいいけどさ〜、やかましいのはごめんだよ。 
 可愛いレディの歓声ならともかく、恨み言なんてサラウンドで聞きたくないね」
青年はため息をつき、膝を抱える。
そして血で汚れた掌を見つめ、「力が欲しい」と呟いた。

(戦えなきゃ意味がないのに、ご覧の有り様だよ……
 腕力がほしい、体力がほしい、魔力がほしい。スピードは……足りてるような気もするけど、やっぱりほしい)

殺し合いに乗った者の殺害と、殺人者としての舞台演出。
青年に託された任務は、生半可な実力では到底達成できるものではない。
そして彼は、己にその実力がないことを自覚しきっていた。
恐怖に折れた心。毒に蝕まれた身体。折れた腕。抉れた耳。流した血の量。
弱さの代償は、気力を、体力を、そして戦闘能力を確実に奪っていく。
483名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/09(日) 02:17:44.79 ID:CsfyxqEa0
支援
484All the world's a stage 6/16:2012/09/09(日) 02:17:45.35 ID:+SMjkd6A0
それでも戦う事ができるのは、紛れもなく、このわだかまる【闇】の恩恵。
ジャンクションという形で同化すれば、それこそ体感的には万全の状態で、全力を出すことも出来る。
――けれども、その全力ですら、殺人者一人仕留めきれなかった。
当たり前だ。体感がどうだろうと、身体は確実に壊れ、死へ近づいていっているのだから。

【闇】に蝕まれ、強化された魂が、精神と命とを繋ぎとめている。
されど、【闇】は無限ではない。
【闇】もろとも魂を消耗させていけば、命を繋いでいる糸も弱り、やがて限界に到達して断ち切れてしまう。
もしも少女が横槍を入れず、相手が戦い続ける事を選んだならば、死という形で敗北していたのは青年だ。
今、生きていられるのは、殺し合った相手がたまたま『殺戮』ではなく『戦い』を重んじる人種だったのと、
お人よしの仲間に恵まれていたからだ。
言うなれば偶然と幸運の産物――と、青年は自嘲気味に口の端を歪める。

死者の憎悪に身を委ね、得体の知れない力に心を半ばまで譲り渡しても、まだ足りない。
鍛えようにも時間はなく、傷を癒すのにすら手段が限られ過ぎている。
それでも戦う力が無ければ、本当に掴みたいものも掴めず、手の中からすりぬけていく。

(もっと、もっと、強くならないと、『彼女』を止められない……誰も助けられない……何も掴めない……!
 そんなのは、嫌だ……! 強くなりたい…! もっともっと力がほしい!!)
 
――そんな、狂ったように渇望する青年の背後で、人影を形作った黒い靄は。
果たして彼の力となるべく現れたのか、それとも、思い詰めなくていいと告げたかったのだろうか?

気配に気づき、振り向いた青年の目に、小柄なシルエットが写る。
「……あ……」
その姿が誰のものなのか、青年には見覚えがあった。
「あんたまで、いるんだ。
 サイファーに言った事なんて、デマカセのつもりだったんだけどなぁ……」
青年は悲しげに眼を伏せ、そして、静かに言葉を続けた。
「あんたみたいに、強くなりたいよ、――……」
青年がその名を呟いたのと、人影が手を差し伸べたのは、果たしてどちらが先だったのだろうか――



唐突に差し込んだ眩い光が、夢の終わりを告げた。
485All the world's a stage 7/16:2012/09/09(日) 02:18:52.18 ID:+SMjkd6A0
目を開けた青年の視界に、金と白亜の輝きが映る。

「あ、起きた?」
相も変わらず明るい声に、今は亡き友人達を思い返しながら、青年は半身を起こした。
「……馬鹿じゃないのか」
先刻よりかは明瞭になった意識と、悲鳴を上げなくなった内臓の為に、どれほどの回復魔法が費やされたか。
かつての旅路で培った経験は当てにならないといえ、おおよその見当はつけられた。

「こんなことをしてないで、僕を殺せば良かったんだ。
 殺されるために回復するなんて、正気の沙汰とは思えないね」
「あたしはあんたとは違うのっ。殺して解決なんて、ぜーったい! ゴメンだかんね!」
演技だとは到底思えない――純粋に本心であろう発言に、青年は大げさに肩をすくめる。
「そうやって魔力を浪費してたら、本当に助けたい人が助からなくなるかもしれないのに。
 君が特別バカなの? それとも、スピラ生まれはみ〜んなおばかでニブいの?」
その言葉にカチンと来たのか、少女は自らの指をかざし、青い宝石を見せつけた。

「あのね、あんたが寝てる間に、きちんと道具を探したのっ。
 んで、魔力を回復する指輪があったから、あんたの治療を優先したのよ!
 いくらあたしでも、考えもなしに大判振る舞いするわけないでしょ!?」

頬を膨らませる少女に、青年はしばし目をしばたたかせ。
それから、指輪の存在に気付き、眉をひそめた。
「ああ……ピサロが持ってった奴か。祈りの指輪、だったっけ?」
「知ってたの?」
「リルムの持ち物だったのに、貸しちゃったんだよ。
 エリクサーも飲んで、この指輪も持って、それでどうしてこんな場所でくたばれるんだか。
 信じられないよ、色々と」
勿体ないってレベルじゃない、とひとしきり愚痴を吐き、青年は大きく息を吐く。

「ま、ピサロとカインがリタイアしたのはグッドニュースだけどさ。
 誰が二人を仕留めたのか、全然わからないってのは、楽観視できる状況じゃないんだよなあ」
台詞の途中で止まった指先を見つめ、少女もまた、ため息をついた。
数秒間の沈黙――しかし、青年の咳き込みが静寂を破る。
「だ、大丈夫?」
慌てて回復魔法の詠唱を始める少女に、青年は僅かに目を細め、彼女の手をそっと掴んだ。
「な、なに?」
少女は怪訝な表情を浮かべ、青年を見返す。
青年は問いに答えることもなく、ただ、一言だけ呟いた。

「スリプル」

渦巻く緑の瞳が光を失い、少女の瞼が閉じると共に、その身体が力なく崩れ落ちる。
G.F.パンデモニウムの力を借りて発動させた擬似魔法が、
彼女の意識を強制的に眠りの世界へと引きずり込んだのだ。
青年は、寝息を立てはじめた少女の指から祈りの指輪を抜き取ると、自分のザックに放り込んだ。
486All the world's a stage 8/16:2012/09/09(日) 02:20:37.40 ID:+SMjkd6A0
(怪我を治してくれるのは嬉しいけど、貴重な道具と魔力は、無駄遣いするもんじゃないよ)

粗末な岩と木の墓標をみやり、青年は思う。
どれほど重傷を負っても生き延びる事があるように、万全な状態であっても呆気なく死ぬ事もあるのだと。
だからこそ、魔力を費やして重傷者を救うよりも、その魔力で他の事をなす方が有意義ではないのかと。

正直に言って、青年は『魔法を唱える為に必要な魔力』=MPという概念を殆ど理解できていない。
彼の世界には、『擬似魔法の効果を左右する素質を意味する魔力』という概念しかないのだから、当然だ。
けれども、一度消費したMPを回復するには相当の時間が必要だということは、実感で認識している。
そして首輪の解除を行う為には、多大なMPを消費するということも。

仮に、途中で主催者側に事が露見すれば、その時点で首輪を外せなかった人物の生存は絶望的になる。
首輪を解除した生存者が発見される可能性を考慮すれば、数時間置きに一人ずつ解除していくよりも、
MPを完全に回復させた後、脱出の目途が立った時点で一気に事を進めてしまうべきだ。
しかし、仮に青年の魔力が完全回復していたとして、一度に外せる首輪は3つか4つが限度だろう。
同じ能力を得た人物はもう一人いるので、単純に計算すれば、6から8。
エリクサーが残っていればもう一回挑戦できるので、最大で9から12ということになる。
では、現在の生存者は何人残っているだろう?
危険人物を全て間引いたとして、生かさねばならない者は何人いるだろう?
青年の脳裏には、傍らの少女と、南東の祠に留まっている4人の仲間と、
城に居ると聞く3人の元同行者、現在進行形で騙している勇者と幼馴染――
そして、息絶えた魔王が案じていたエルフの少女と、彼自身が誰より守りたいと思う元召喚士の姿が浮かぶ。
これだけで12人だ。否、実際はもっといるだろう。
例えば、城の同行者に協力しているという賢者だとか。
青年の身を案じてくれた幼子を保護していた騎士だとか、幼馴染が見つけたという謎の生き物だとか。

――それらを考えれば、MPを回復する道具は、非常に重要だ。
間違っても無駄にするわけにはいかない。

それに、少女に告げた言葉も本心だ。
この先だって戦いは続く。否、続けなければいけない。
青年の立場上、望まぬ戦いも演じねばならないだろうし、傷つけなくていい相手を傷つけてしまう場面も出てくるだろう。
その時に、回復魔法が使える少女の存在は、貴重かつ重要となる。

けれども、彼ら自身を縛る枷がまだ外れていない以上、言葉で少女に説明する事はできない。
迂闊なことを口にすれば、首輪に仕込まれた盗聴器によって、主催者たる魔女の耳に届いてしまう。
筆談と言う手もあるけれども、紙や筆記具だって無制限に拾えるものではない。
そろそろ節約を考えないと、いずれ本当に伝えたい事が書き残せなくなる。
487All the world's a stage 9/16:2012/09/09(日) 02:23:41.34 ID:+SMjkd6A0
(だいいち、ね〜――)
二人の知人の姿を脳裏に描きながら、青年は表情を曇らせる。
少女にここで自分の考えを説明して、理解を得てしまっては、却って望む結果に遠ざかるのではないかと。

言葉を尽くして、青年の考えを少女に納得してもらう、それ自体は十分可能だろう。
傷を癒すことは間違いなく人の命を救う事に繋がるが、それは首輪を解除する事だって同じだ。
今の事を考えるか、先の事を考えるか、その差でしかない。
けれども、青年の意見に従って少女が自分の思考を曲げる……
それは、傍から見れば『殺人者の意見に同調し、味方する人質』としか映らない。
最悪の場合、『青年と少女が手を組んで仲間を殺した』などと邪推され、少女に危険が及ぶかもしれない。
そして、今一つ。正気を失った『彼女』のこともある。
『彼女』が恋人を殺害した理由など、事故でないのなら、青年自身の事しか思い当たらない。
亡き友は、青年を心配してくれた。しすぎてしまった。
それが彼女の目に不愉快に映り、不満が募った挙句、衝動的に凶行に及んだのであれば?
もしもこの推測が当たっているならば、少女が青年の味方で在り続けることは、即ち――

(それは……それだけは、絶対にダメだ!!)
青年は首を横に振る。
友人の恋人と、その従姉妹。どちらも死なせたくなどない。ましてや、二人が殺し合う状況など起こしたくない。
ならば、これ以上、同調されてはいけないのだ。
1人で事を成せるほどの強さが青年にはなかろうとも、これ以上、少女に頼るわけにはいかないのだ。
それは彼女の身を危険に晒すことに繋がる。
甘えは、本当に大切な人達を救えなくしてしまう。

死臭を孕んだ生温い風と、纏わりつく黒い靄に辟易しながら、青年はありもしない空を仰いだ。
「力が……欲しい」
幾度目になるかもわからぬ無力な己への呪詛を吐き捨てながら、青年は立ち上がる。
足の筋肉が悲鳴を上げ、関節が軋んだ音を立てた。
壊れたままの三半規管が、視界をぐらぐらと歪ませる。
騎士から譲り受けた杖の存在に思い至ったのは、たまらず膝をついた後の事だ。
ザックから杖を取り出し、それに縋りつき身を起こす。
右手の骨が上げる悲鳴を聞き流しながら、青年はおぼつかない足取りで歩み始めた。
まるで生ける屍のように緩慢な動きで、それでも奇跡的に転ぶことなく、並ぶ墓まで辿りつく。
横たえられた武具をあえて無視し、青年は、石塊の上にゆっくりと左手をかざした。
目をつむり、意識を集中させ―――やがて、ため息をこぼす。

「………残ってない、か」

そもそもこの場を目指すと決めた時、青年が考えていた『治療に使えるかもしれないもの』は、道具ではない。
擬似魔法。
G.F.として存在できるほどの密度を持たないエネルギーが、属性や感情と結合し、指向性を持ったものだ。
確かに魔物の死体から直接擬似魔法をドローできたという事例は少ないが、
制御装置やG.F.を使ってストックしていた場合は、霧散せずに残る事がある。
そして、この場に残された破壊の痕跡と、死者の状況から、青年は『死んだ少女がG.F.を装着していたのではないか』と推測していた。
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/09(日) 02:24:01.47 ID:CsfyxqEa0
支援
489All the world's a stage 10/16:2012/09/09(日) 02:26:27.02 ID:+SMjkd6A0
竜は竜騎士に殺された。これは確定事項だ。
問題は、誰が残りの三人を殺したか。
爆発魔法を操れるのは銀髪の魔王一人だが、村娘を保護するために青年と別れた彼が、彼女を巻き込むはずがない。
竜騎士が村娘を人質に取った可能性はあるが、あれほど慎重極まりない男が引き際を見誤って殺されるとも思えない。
だが、現実に竜騎士も死んでいるのだから、逃げる余裕もないほど消耗していたか、逆に有利であるが故に油断する状況だったと考えるのが自然だ。
では竜騎士が油断する状況とはなんだろう?
簡単だ。邪魔な竜を消し、魔王を仕留め、村娘一人だけが残された、そんな場合だ。
けれども武器も持てない娘に、竜騎士に抗う力はないし、ましてやここまでの破壊を引き起こす爆発魔法など扱えるはずもない。
そんな不可能を可能にするとしたら、『じばく』を扱えるG.F.の装着しか有り得ない……というのが、青年の推論だった。

しかし、この場所には、G.F.やドローポイントの気配を全く感じない。
『じばく』に似た効果を持つ道具があっただけなのかもしれない、と青年は考え、再び息を吐いた。
それから、半ば仕方なしに、足元にある武器達を拾い上げていく。
どれも、一見すれば人を傷つける事にしか役立たなそうな――故に、青年と同行している少女はひとまず放置していた――ものだ。

最初に手に取ったのは、死体となった持ち主と同じ名を冠した槍だった。
無論、名が被ったのは偶然で、異教の聖書に刻まれた殺人者の名から取ったのだろう、とは持ち主の言葉だ。
銃や剣と違い、訓練した事もほとんどない武器だったが、その槍は意外と手に馴染んだ。
履き続けている竜騎士の靴の効果なのか、持ち主が遺した【闇】の影響なのか、
相応しき持ち主を失った槍が、新たに現れた『裏切り者の殺人者』を次の主と認めたのか、それはわからない。
ともあれ、青年は一度だけ素振りしてから、その槍をザックにしまい込む。
重傷の身で近接戦に持ち込む気はないけれども、銃弾が尽きた時に距離を取りながら戦う手段にはなるだろう。
何より、強力な武器を放置して他の殺人者に使われるぐらいなら、持って行ってしまった方が安全だ。
同じ理由で、隣の墓に置かれていた剣も回収する。
スプラッシャー。所持していた魔王曰く、生命体を分子まで分解する力を持つ、異世界の魔剣。
しかしその力を引き出すにも、ある種の才能と、魔力や気力に類するモノが必要だろうとの話だった。
剣としての用途ならばともかく、秘めた力の方は、とても使いこなせる気がしない。
けれども、万が一この剣の真価を引き出せる人間がいたならば、これほど危険極まりない武器もない。
どれほど強い戦士であろうとも、粒子に分解されては生きていられないのだから。

最後に手に取ったのは、苔むしたような緑の杖。
魔王が『変化の杖』と呼んでいた道具だと思い至るまで、さしたる時間はかからなかった。
試しに一振りしてみると、コーラの栓を抜いた時のような音と共に、たちまちピンク色の煙が舞い上がる。
しかして咳き込む暇も無く、煙はすぐに消え去った。
490All the world's a stage 11/16:2012/09/09(日) 02:28:08.97 ID:+SMjkd6A0
青年はきょろきょろと辺りを見回し、それから、自分の身体に視線を落とす。
白いローブが、漆黒に変じている事に気付いた彼は、慌ててザックからしまったばかりの剣を取り出した。
翳した刀身を覗き込む、赤い瞳に映ったのは、銀の髪を翻す魔王の姿。
驚きのあまり、青年は杖を地面に落とし、途端に再び煙が沸き起こる。
彼が我に返った時、鈍く輝く刀身は、白いローブを着た茶髪の男を――青年本来の姿を映し出していた。
何が起きたのか考えるまでもなく、杖の名と、かつての持ち主を思い出し、青年は得心する。

(変化の杖……変化……意識した人の姿になれる道具ってことかな?)
その推論を証明する為、青年は杖を拾い上げると、今度は、友の姿を思い浮かべて振りかざした。
先ほどと同じように、剣に映して確認してみると、果たして想像通りの姿になっていた。

(……便利っちゃ便利なんだろうけど、使い所が難しそうだなあ、コレ)
複雑な表情を浮かべる『友』の顔を見やり、青年は思う。
例えば、元の姿で負っている怪我を程度に応じて再現してくれるならば、
無害な仲間に変化して、他人を騙して治療を頼むといった用途に使うこともできた。
だが、刀身に映っている人物は、不自然すぎるほど綺麗な服装で、傷一つ負っていない。
これでは、大抵の人間は違和感を抱くだろう。
それに、これほど目立つ杖を持ち続けていなければ変化できないというのもマイナスポイントだ。
手に隠せるだけ、少女から借り受けたドレスフィアの方が、使いやすいかもしれない。

(だけど……ね〜)
青年は杖を仕舞い込みながら、眠らせた少女の方を見やり、心の中で肩をすくめる。
世の中には、驚くほど騙されやすい人物がいることも確かなのだ。
(どう考えても、班長とリルムとギード以外、全員引っ掛かりそ〜……)
仲間や知人の顔を思い返しながら、青年は、まだ何か残っているものがないかと、周囲を見回す。

――そして。
見つけてしまった。

それは、見落とすにはあまりにも大きすぎた。
同種の魔物に比べればやや細長い、しかし堂々たる体躯を力なく横たわらせた、竜の死骸。
脳天を貫かれ、半開きになった口からだらりと舌をはみ出させ、濁った瞳で虚空を仰ぐその姿に、青年は思い出してしまった。
記憶を取り戻す前、仲間達との会話の中で聞いた台詞を。

亀の姿をした賢者・ギード。
友と別れる前、青年は彼に、召喚獣や幻獣について幾つかの質問を投げかけた。
その流れで、賢者は、飛竜がフェニックスに転生する事例について触れた。
 "何故飛竜だけがフェニックスに転生できるのか、考えられるのは肉体的な素質"
 "飛竜の舌は万病に効く"
 "つまり、飛竜の体には、先天的に癒しの力が――"

――癒しの力が――
491All the world's a stage 12/16:2012/09/09(日) 02:32:34.13 ID:+SMjkd6A0
「……あは、ははははは。うっふふふふふ」

それは、他者が見れば、あまりにも突拍子のない発想だったかもしれない。
しかし賢者の推論を補足する事例を、青年は知っていた。
より正確に言うならば、『実践した事があった』のだ。
グレンデル。トライエッジ。ドラゴンイゾルテ。メルトドラゴン。アルケオダイノス。ルブルムドラゴン。
俗にドラゴン種と称される強大な魔物の血肉を、『たべる』ということを。

無論、青年が行った捕食行動はG.F.エデンの助力を借りたものであり、人が行うソレと比較して消化能力と効能の強化という恩恵が加わっている。
しかし、重要なのは、ドラゴン種の肉が『殆どの傷やステータス異常を治療するほど、高い回復効果を秘めている』ということなのだ。
そして、『飛竜という異世界のドラゴン種の舌にも、強力な治療効果がある』ということなのだ。

「思ったんだけどさ……
 僕の世界でも通用して、ギードの世界でも通用するなら、この世界でも通用してもいいんじゃないかな?

青年は目を三日月のように細めたまま、鏡代わりに使っていた剣を握り締める。
そしてふらふらとよろめきながらも、横たわる竜の元に辿りつくと、半開きになった口蓋の奥に、躊躇いなく刃を突き刺した。

「まったくもう、皆にお礼を言わないといけないな。
 ここで死んでてくれてありがとう、ってさ」
零れた言葉は、演技ですらなく。
剣自体の重みを利用し、薄い舌を叩き斬る。
死後硬直が始まっているのか、食肉のそれよりも少しばかり硬い手ごたえだが、噛みきれないほどではなさそうだった。
断面からどろりとはみ出た、ゼリーのような血を舐めとり、毒性や異常がないことを確認する。
ざらついた表層をこそげ落とそうかとも考えたが、それも面倒だと、一旦剣を置く。
そして火を熾すため、ザックからランタンを取りだそうとし――
ふと、小さな羽虫が数匹、死骸から流れている血に集っていることに気付いた。

(もしも……もしもスコールの考え通り、アルティミシアが僕らを監視してるとしたら……)
青年は思案する。
火を使えば食べやすくなるだろうが、煙や臭いが出てしまうし、万が一通りすがる者がいれば気づかれてしまうだろう。
ならばいっそ、狂人は狂人らしく振舞うべきなのではないか?
映画に出てくる殺人鬼のように、少しでも猟奇的で残虐に見えるように。
宿敵の死にさぞや御満悦であろう魔女へ、見せつけてやるべきなのではないか――

「くくっ、くふふふふっ」
青年はわざと笑ってみせながら、剣を再び竜に突き立てた。
流した血を食事で補おうというなら、どのみち、養分は必要なのだ。
少女がかけてくれた魔法のおかげで、内臓は空腹を覚える程度にまで回復している。
蛇に似た薄い舌一枚では、到底足りない。
「悪いね〜。僕、これでも肉食系男子ってヤツなんだ」
鱗に覆われていない腹部は容易く刀身を喰い込ませ、胸元まで咲かれた切れ目から柔らかさを失いつつある内臓が零れ落ちる。
あばら骨の奥に切っ先を潜らせれば、熟した果実のような肉塊もぶちりと抉り出せた。
青年は、舌の肉もろとも、最早二度と脈打つことのないソレを口に運び――
492All the world's a stage:2012/09/09(日) 02:37:11.48 ID:+SMjkd6A0
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ください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらく
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     /`ーヘ                             <´ ̄ニニニニ三\__      ,r‐‐、_,.‐--、_____ノヽ
  _r-、 |   )´                              ゝ-‐‐‐=ニ二__,.-‐‐ \   / /ヽ \ ̄`ヾ   ノ
  }ヽ y'  / ヽr‐、_r 、                          `ー-----‐'''"     \ヽ  ! !  ヽ  丶  '<て´。
 /  {  |   }  {`                                    ___    _r‐、 | |   {ヽ  ト、___ >o
 ヽ-ュ‐`ハ`ー-く、_,r'     ノ`ー-、                           i' l `ヽr-' / ̄フ、__> ゝハノ_) >゚。
 j⌒´ ノo。゚o}   ヽ   〈 ̄`ヽ  /⌒ヽ                     {   〈 /   i'´| `'‐-ー´\,ゝ `o゚
ノ  /  ∞ {  ヽ丿 ノ-ヽ   }ノ_ノ  }                      ヽo ゜。∨  r-'ヽ |
`ー} ____ノ i `ー<ノ  )`ー  >  /ハ -‐ァ´                        _,r'`ー8 o{ ノ、__ } |
    `ー、__ト、ノ| |  ト、_r'`ー-< o゚8, o                         { /  |´ lヽ!  ∨ l
    _______  | |  ヽソ   / ヽ゚。、 ヽ                            ヽ{  ハ、i  ゝー、ノ| |
  / ----- ヽ //   \ー- ' ___/  }_/                              `ー'  ` ̄     | |
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/ゝ、  _,.--‐ 、ニヽ / /   ゝ_/ レ'
`}   ̄r´ ̄//| \ヽl
 フ>'    / /  ! !
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待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください し
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493All the world's a stage 13/16:2012/09/09(日) 02:37:41.04 ID:+SMjkd6A0
「ごちそうさまでした、っと」

赤黒く汚れた唇をぺろりと舌で舐めとりながら、青年は立ち上がった。
口中に広がる血の味は、喉を滑り落ちて、胃から全身に広がっていく。
じんわりと染み渡る感覚に薄笑みを浮かべながら、彼は残った内臓を蹴り飛ばし、掻っ捌いた竜の腹に押し込んだ。
傷口を重ね合わせて閉じてしまえば、遠目からは『喰われた』とは気づくまい。
観客を気取り、どこかで嗤っているだろう魔女を除いて。

(あーあ、いくらでも笑えばいいさ、アルティミシア。
 あんたが夢を見ていられるのは今だけなんだ。
 夢が終わるその時までは、御望み通り踊ってやるよ)

青年は緑の杖を振りかぶった。
自らの血と竜の血で赤黒く染まったローブを、幻影の煙が覆い隠していく。
その瞳の奥で揺らめく憎悪の光に、『観客』は気づいただろうか――

「さて、大事な大事なユウナを探すついでに、皆を迎えにいかないとね〜」
わざとらしい裏声で呟きながら、青年は――否、軽装の少女は、同じ顔をした同行者の元へ戻って行った。
494All the world's a stage 14/16:2012/09/09(日) 02:38:17.43 ID:+SMjkd6A0
************************************

「アーーーッヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

奇しくも、青年が食事を終えたのと同刻。
世界の南端に立つ塔の天辺で、1人の男が高笑いを上げていた。
何がそれほど愉快だというのか、問う者など誰も居ない。
それでも彼はひとしきり笑い続けたあと、唐突に「ツマラン」と吐き捨てた。

「まったく、あいつらは少しは働いてくれてるんでしょーかね?
 サボってていいのはぼくちんだけなんですよ」
道化師じみた化粧と衣装に相応しく、男はおどけた言動を取り続ける。
だが、彼を知る者はこう言うだろう。
『それらは全て、破綻した精神と邪悪な心を押し隠す為の仮面にすぎない』と。
あるいは、『深慮智謀を廻らせて紡ぎあげた奸計を、ひた隠すための演技にすぎない』と――

「ま、ぼくちんはこれでも、やるときゃやる男ですからねェ。
 あんな厨二病患者や行き遅れ女を信じてナーンモしないなんてのは、脳味噌に筋肉が詰まったバカがすることだ!」
ぴょいんぴょいんと軽快に跳ねながら、男は笑う。
その無防備な様は、殺し合いという状況を理解していないのではないか、と思えてくる程だ。
しかし、彼は何も知らないのではない。
識っているのだ。
この付近に、彼以外の人物がいないということを。
その右手に握られた小さな機械――対人レーダーによって。
だからこそ誰に気兼ねする事もなくじっくりと休息を取ることも、思索を巡らせながら騒ぎ立てることもできるのだ。

(そう、あの行き遅れ女の行き先はわかってる。
 こいつがあれば、誰にも会わずに移動する事だってできちゃいマース。
 つまり、かねてからの事を調べる大チャーンス! ってなわけです!)

道化が脳裏に描いているのは、この舞台の地図。
建造物の配置はおろか、地形までシンメトリーで構成された大地など、人為的に作り出さない限り存在しえないものだ。
ならば、製作者の意図は?
鍵を握るのは明らかに点在する祠と中央の城だ。
しかし、彼はささやかな事情から――少年を殺めた事も剣士をカッパにした事も女性を騙した事も、彼には『ささやか』だ――直接の調査に移せなかった。
重なる戦闘で魔力を消費していたこともあり、休息を優先せざるを得なかったのだ。
だが、今は違う。
数時間の休憩は、体力も魔力もそれなりに回復させた。
レーダーが手元にあれば、誰にも会わずに移動することも、誰かに会うために移動することも、どちらも可能だ。
この世界に留まれるのは残り半日である以上、手早く行動する必要はあるが……

(なに、私の頭脳と実力ならば、数ヶ所に絞って調査すれば十分間に合う。
 おおよその見当はついているしな)
495All the world's a stage 15/16:2012/09/09(日) 02:39:04.39 ID:+SMjkd6A0
道化は甲高い笑い声を途切れさせることなく、自らの荷物を拾い上げ、階段を下りていく。
小部屋の一つもない、階段と壁だけの塔内は、人を迷わせることもない。
数分後、苦も無く外に出た道化は、鼻歌交じりに背伸びをし――塔の傍らに残されている、朽ち果てた祠を見やった。

(元々は逆五芒星の配置だったんだろうケド、あの荒れ具合じゃ廃棄されて長そうだ。
 空や溶岩の海からしても、ここは地底のようですし……
 恐らくは、この世界を作る際、幻獣界みたいな異世界と繋がりを持たせるための魔法陣を構成してたんでしょう。
 そしてあの祠はリサイクルされずに、放置プレイされたと)

道化は踵を返し、草叢を掻き分けて歩き出す。
打ち捨てられた祠に何かがあるとは思えない。
彼が調べ、利用しようと考えているのは、まだ『生きて』いる祠だ。

(最も、全部廃棄済みかもしれませんけどねェ。
 少なくともぼくちんならそうします! しますとも!)

それでも歩を進めるのは、己の思考が万人に通じるモノではないと、狂人なりに自覚しているからであり。
祠が稼働していた場合の利用価値と、空振りになった時の労力を天秤にかけた上で、前者の方が沈んだからである。
(そう――価値だ。
 残りの祠が生きているなら、それがどの用途で使われていたにせよ、価値がある)
地図を見れば、中央の城が重要な施設だということは、誰でも予測はつく。
では、残りの祠は何の為に配置されているのか?
道化が、この世界が地底であることと結びつけた上で考え付いた仮説は、三つあった。

一つ。先ほど述べた通り、異世界とこの世界を繋ぐためのもの。
一つ。中央の城を守るため、防護結界を張るためのもの。
一つ。魔力を増幅し、中央の城に送り込むためのもの。
――そして、道化は思う。
どれが正解であろうとも、十二分に利用できると。

世界と世界と繋ぐ扉であるならば、少し手を加えて起動させれば、魔女の元に生存者全員を転送させられるかもしれない。
生存者が魔女を倒すより、首輪の機能によって全滅させられる方が早いだろうが、道化に言わせれば『それはそれでユカイ』だ。

城に結界を張るためのものならば、起動させてしまえば、城内にいる生存者を結界内に閉じ込めることができる。
殺人者が中にいれば殺し合いは加速するだろうし、もし魔女が空気を呼んで城内に旅の扉を作らなければ、全員タイムオーバーで始末することができる。

そして、魔力を増幅するためのものならば……祠の術式を解析し、逆転させて起動することで、膨大な魔力を一か所に集めることができる。
かつて道化が奪い取り、そして眠りについている三闘神の力を目覚めさせることも、不可能ではない――
496All the world's a stage 16/16:2012/09/09(日) 02:39:37.79 ID:+SMjkd6A0
「アーひゃひゃひゃ!! 夢がひろがりんぐですねェ!!」
死者が遺した闇よりもなお暗い、漆黒の意思を胸に秘め。
観客など求めぬ道化は、闇の世界と呼ばれた大地を歩く。
まるで、自分自身すらも踊らせているかのように。



魔女の目を欺くべく、狂人を演じて回る役者。
破滅を目指し希望を摘むために、謀略を廻らせる道化。
今だに目論見を明かさぬまま、舞台を見つめ嘲う観劇の魔女。

最後に笑うのは、果たして誰なのだろうか――


【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/4+リジェネ(強)、MP微量)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
     G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
     スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
     ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖)
 第一行動方針: 脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(パラディン、睡眠)
 所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
     メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
     ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3、祈りの指輪)
 第一行動方針:アーヴァインを治療する
 第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道から南の岩山】

【ケフカ(HP2/3、MP3/5)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
 やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
 第一行動方針:結界の祠を調べ、利用できそうなら利用する
 第二行動方針:ターニア、セフィロス、ユウナを利用して邪魔な連中を始末する /「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:架け橋の塔→移動】
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 20:52:25.50 ID:fjDSL7D1O
食べちゃらめえぇぇww

アーヴィンの所持品から祈りの指輪が抜けてる?
498名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/10(月) 23:15:16.69 ID:Mpz/zGmM0
長編乙&GJです
待っててよかった
499修正:2012/09/11(火) 00:22:31.90 ID:vx1K5D430
指摘ありがとうございます、
>>496の状態表を以下の通り修正します

【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/4+リジェネ(強)、MP微量)
 所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
     G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
     スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
     ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖) 祈りの指輪
 第一行動方針: 脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
 最終行動方針:生還してセルフィに会う
 備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
500大事なことは先に話してください 1/5:2012/09/14(金) 00:52:05.05 ID:GfvOKm8S0
「ここ、か」
草叢を踏み拉き歩き続ける事、数十分。
ラムザは無事に、南東の祠に辿りついていた。
先刻出会った、奇妙な少女二人組の言葉が真実であるならば、ここにリルムが保護されているらしい。

(――いや、疑っていては始まらない。
 信じよう、ここにリルムがいると)

疑心暗鬼は身を滅ぼす。
ラムザは頬を叩き、銀髪鬼の恐怖から未だ立ち直れない己に活を入れた。
か弱い少女を保護し、殺人者すら確保するに留めているというのだ。
祠に居る人々が非好戦的かつ不殺主義者であることは間違いない。
さらに念の為に、数分ほど意識を集中させ、ナイトから話術士へとジョブチェンジする。
これでリルムが機嫌を損ねたままであっても、誤解を解くことができるはずだ。

「……よし!」
意を決し、扉に手をかける。
精緻な竜のレリーフが施されたそれは、見るからに固く、重く、侵入者を徹底的に拒んでいるようだ。
だが、ラムザが取っ手を強く引いた途端、突然扉が勢いよく開いた。
「うぐっ!?」
額をしたたかに打ちつけ、思わず体勢を崩してしまう――
そんなラムザの視界を横切って、走り去ろうとする小さな影が一つ。

「リ、リルム!?」

赤い帽子から零れる金の髪をなびかせた少女は、彼の声に驚いたのか足を止めた。
「ラムザ?! なんでここにいるの!?」
隻眼をしばたたかせ、少女――リルムはラムザの元に駆け寄ってくる。
しかし、すぐに祠から出てきた理由を思い出したのか、彼女は慌てながらキョロキョロと左右を見回した。
否、正確にはラムザと『祠の入り口』を交互に見やったのだ。
それが何故なのかは、数秒後に判明した。

「リルム! 待て!」
若い、というにはやや年のいった緑髪の男が、少女の名前を呼びながら飛び出してきた。
顔色こそ悪くはないが、腹部の破けた服と、そこに滲んだ血の跡が痛々しい。
「お前の気持ちはわかる! よーくわかる!!
 だけどな、外は怖い奴らがいーーっぱいいるんだ!!
 子供一人で出歩くなんて、死ににいくようなもんなんだぞ!!」
「子供扱いするなー!!
 リルム様は骸旅団のダンチョーなんだぞ!!
 どんな奴が来たって、あの銀髪ヤローが来たって、ちょちょいのちょいでやっつけてやる!!」
「だああああああっ! そういうところが子供なんだよ!
 いいか、ちょちょいのちょいって出来る相手ばっかりだったら、誰も殺されたりしてないんだ!」
501大事なことは先に話してください 2/5:2012/09/14(金) 00:54:29.14 ID:GfvOKm8S0
漠然とした既視感を覚えながら、ラムザは呆然と二人のやり取りを見つめる。
状況が把握できない。
どうにか理解できることといえば、何か事件があって、リルムが外に行きたがっているということと、男がそれを止めたがっているということだけだ。

「あの……何があったんですか?」
「へたれにーちゃんは黙ってて!!」
「今は取り込み中なんだ、後にしてくれ!!」
「……」
いかに話術士といえど、端から話を聞いてもらえなければ、その能力を生かすことはできない。
だが、それでも状況を知りたいという想いが、彼を動かした。
「二人とも落ち着いて下さい。一体何があったんですか?」
身体を割って入らせながら、言葉を紡ぐ。
「こんな所で口喧嘩していたら、逆に危険ですよ。
 リルムも話を聞いてあげるから、一回中に入ろう、ね?」
「お、おう」
「むーっ……」
話術士のスキル『説得』。
戦場では敵の足止めに使われることが多いが、本来はこのように、相手の感情を鎮め対話に持ち込むための技だ。
体よく成功した、その勢いに乗り、ラムザは二人の背中を押して祠の中へ連れて入る。
カチャリ、と扉を閉めたところで、男はようやく我に返ったらしく、ラムザをまじまじと見やった。

「……ていうか、あんた誰だ?」
「ラムザだよ。
 カインに騙されて、アイツとユウナの悪口ばっかり言ってるへたれにーちゃん」
リルムが頬を膨らませながら答えた。
異論を唱えたかったが、先に聞かねばならぬ事が有ると思い直し、咳払いのみに留める。

「ええと、貴方がヘンリーさんですか?
 リルムがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
「いや……あんたも大変だったな。
 この子を連れ歩いてたんだろ?」
「なによなによ、おっさんたちが二人して、リルムのこと邪魔者扱いして!
 えーんえーん」
嘘泣きを始める少女を余所に、緑髪の男は苦笑交じりに右手を差し出し――ふと、眉間にしわを寄せる。
「ん? 俺、あんたに名乗ったっけか?」
「いえ、先ほど出会った女の子達に、この子と貴方の事を聞いていたもので……」

ラムザの答えに、一瞬、ヘンリーは得心したように表情を緩めた。
しかし、すぐにまた、眉をひそめてしまう。
「女の子……達?」
「ええ。リュックとリックと名乗ってましたけど……仲間じゃないんですか?」
首を傾げるラムザに、ヘンリーとリルムは揃って顔を見合わせ、もっと深く首を傾げた。

「「リックって誰?」だ?」
502大事なことは先に話してください 3/5:2012/09/14(金) 00:55:18.60 ID:GfvOKm8S0
「……えっ?」
「えっ?」
予想外の返答に、ラムザとヘンリーは間抜けな声を上げることしかできない。
「なにそれこわい」とリルムが呟く中、二人で首をひねり――
考えても埒が明かないと判断したラムザは、別の質問を投げかけた。

「それより、リルムは何を騒いでいたんですか?
 子供1人で出て行こうとするなんて、ただ事じゃない」
(もっとも彼女ならいつもの事だけれど)、と心の中で呟きながら、ラムザは交互に二人へ視線を移す。
「リルムは無鉄砲だけれど、良い子だということはわかってます。
 無茶をする時は、仲間を案じる気持ちや正義感に由来していることが殆どでしたから。
 ……一体、誰に、何があったんですか?」

今までの威勢はどこへやら、リルムは照れたようにもじもじと俯く。
ヘンリーはぽりぽりと頬を掻きながら、困ったように息を吐いた。

「あー……うん。
 ちょっと色々あってな、話すと長くなるんだ」
呟いてから、ヘンリーは急に声を潜めた。
「ただ、話す前に、確認しておきたいんだが……
 ここのことをあんたに教えたのは、リュックと、あの子と一緒にいた奴で間違いないんだな?」
「え? え、ええ。
 リルムから僕の事を聞いていたとかで、ここに大人たちと一緒に、リルムがいると」
軽装と重装備という違いはあるけれど、顔も身長も瓜二つな少女の姿を思い出しながらラムザは答える。
「それでリックって名乗った軽装の子が、話のお代とかで、幾つか道具を持って行って……
 ああ、いや、なんでもないです」
「なるほどな。
 ……リルムの態度からしても、あんたが信用できる奴だってのは間違いなさそうだ。
 あんたになら事情を話してもいい、んだが」
盗み聞きを怖れている隠密のように。あるいは、台詞の続きが思いつかない役者のように。
ヘンリーはきょろきょろと辺りを見回しながら、言葉を濁す。
その様子と、珍しく口を挟んでこないリルムに不審さを覚えつつも、ラムザは彼の言葉を待った。
数分の沈黙――その果てに、ふと、ヘンリーが視線を止める。

「……ラムザ。あんた、肩口に虫が止まってるぞ」
「え?」
言われて横を見てみると、蛾とも蜻蛉ともつかない大きな虫が、右肩に止まっている。
慌てて手で払いのけようとすると、一瞬早く、虫は静かに宙へと羽ばたいた。
ヒュン、と風切音が鳴った。
――ラムザがそう認識したのと、飾り気のないナイフが虫の胴体を床に縫い止めたのは、殆ど同時だった。
503大事なことは先に話してください 4/5:2012/09/14(金) 00:56:49.60 ID:GfvOKm8S0
「ここはな、闇の世界って呼ばれてる、魔王の膝元なんだ。
 こんなちっぽけな虫だって半分魔物化して、血を吸ったり肉を喰らったり、酷いのになると毒を持ってたりする。
 殺意を持ってる連中ばっかりが敵だと思ってると、足元を掬われるぞ」
「……なんでそんなことを知ってるんですか?」
「ん? ああ、別行動してる仲間が、魔王と戦った勇者だの魔王本人だのなんでね。
 危険な情報は、道すがら話して貰ったり、別れる前にメモ書きにまとめてもらったのさ
 まあ、ピサロの奴には昨日別れたっきり、ずっと会えてないんだが……」
「ピサロ……彼が?」
ラムザの脳裏に、レーベで見かけた眼光鋭い男の姿と、バラバラに引き裂かれた無残な死体が過ぎる。
だが、ピサロの死を知らぬヘンリーは、無邪気に笑う。
「ああ。人間嫌いって話だし、御大層な肩書だけど、腹を割ってみりゃ意外と話の通じる奴さ。
、あいつが無事に戻ってくれば、ここの守りも任せられるし、俺も安心して別行動できるってもんだけどな……」
「おっさんこそ怪我人のくせに何言ってんの!
 きちんと休んでないと似顔絵描くぞ!」
リルムの抗議に、ヘンリーは慌てて両手を振った。
「わ、わかってるから止めろって! 似顔絵だけは勘弁してくれ!」

緊迫感を欠いたやりとりに、ラムザは再び奇妙な感覚を覚えた。
二人組の少女と話していた時、抱いた違和感と同じだ。
(なんだろう…… 何かを隠されているような気がする。
 騙されているような、遠ざけられているような、そんな感じがする)

けれども、眼前の二人も、先ほど出会った少女達も、敵意があるようには見えない。
そもそも悪意があるならば、少女達は不要な道具ではなく命を奪っていっただろうし、
ヘンリーが投げたナイフも虫ではなく、ラムザを射抜いているはずだ。
納得のいく答えを出せないラムザの耳に、ヘンリーの声が響く。

「と、とにかくだ。
 俺達は怪我人ぞろいだし、虫の被害も馬鹿にならないんだ。
 ここにいる間だけでもいいから、見つけたら潰してくれ」
「あ、はい」

ラムザが頷いたことを確かめてから、ヘンリーは踵を返した。
そのままリルムの手を引き、祠の奥へ――階下へと降りていく。
結局、リルムはどうして外に出ようとしていたのか……その答えも聞けないままだ。
「……しょうがないな、もう」
ため息を一つついてから、ラムザは二人の後を追った。
504大事なことは先に話してください 5/5:2012/09/14(金) 00:57:03.18 ID:GfvOKm8S0
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
 所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
     グレートソード、デスペナルティ、ナイフ  命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
 第一行動方針:祠の警備
 第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
 所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
 第一行動方針:アーヴァイン達とソロ達が心配
 第二行動方針:他の仲間と合流
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
 エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
 第一行動方針:リルムを守る/祠の人達から話を聞く
 第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:南東の祠入口→奥へ】
505名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/14(金) 14:50:04.04 ID:rGW7bFPb0
投下乙!
いやー、虫潰しに協力させられる話術士……
この微妙なすれ違いが何か余計なものを生まなければいいんだけど……

あ、それと月報データおいておきますね。
FFDQ3 662話(+ 3) 22/139 (- 0)  15.8
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/14(金) 18:30:28.81 ID:+65KnWP6O
乙です
読者側にだけ分かるこのもどかしさ
話術士の特性が吉と出るか凶と出るか
507エド(前編) ◆O0LqTosP8U :2012/09/16(日) 23:18:06.67 ID:Xh3KGSC80
皆さんお久しぶりです、エドです。ラジオやってた人です。
今週末から某所でラジオツアー3rdが始まるようで、我がFFDQ3rdも語られるらしいです。

というわけで、9/21(金)にFFDQ3rdのラジオをしようと思っております。
508エド(後編) ◆O0LqTosP8U :2012/09/16(日) 23:20:52.26 ID:Xh3KGSC80
時間帯としては21:30〜あたりを予定。遅れたりするようであれば連絡します。
ご都合がよろしければ、皆さんも「おー、やっとるやっとる」と冷やかしに来ていただければ。
以前のような無茶な長時間配信は不可能ですが、宜しくお願い致します。

URLは当日貼りに来ます。それでは、エドでした。
509名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/18(火) 22:32:07.18 ID:MyyJaLhEO
ロワらじ復活ktkr!!待ってたよ!!
510エド ◆O0LqTosP8U
お待たせ致しました。これで大丈夫だと思います。

ttp://std1.ladio.net:8000/ffdq3rd

したらばにもスレッドを立てますので、まとめサイトさんからどうぞ。