文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
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※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
※sage推奨。
※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
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前スレ
FFの恋する小説スレPart4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-20にあるといいなと思います。
【参考】
FFDQ板での設定(game10鯖)
http://game10.2ch.net/ff/SETTING.TXT 1回の書き込み容量上限:2048バイト(=2kb)
1回の書き込み行数上限:32行
1行の最大文字数 :255文字
名前欄の文字数上限 :24文字
書き込み間隔 :45秒以上
(書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
連続投稿規制 :3回まで
(板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
1スレの容量制限 :512kbまで
(500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)
ついにPart5(実質6?)まで来ましたね。
今スレでも沢山の作品が拝見できる事を祈念して。
>>1乙です。
前スレテンプレ案からの改良と、文章系スレ追加GJ!!
即死回避
この板に即死判定ってあるの?
恐いのでとりあえず保守。
即死判定 - 発言数が980以上かデータ容量が板ごとに設定されたある容量(5kB、30kBなど)以下という条件を満たす時にこの判定が行われ、最後の発言からまる1日以上経っているスレッドはdat落ち状態になる。
書き込みの多い板では、最後の発言から12時間、6時間などと判定がより厳しくなっている板もある。さらに、一部の実況系板では、書き込み頻度に関係なく、一定の日時を経過すると強制的にdat落ち状態になる。
あまりよく知らないんですが、とりあえず容量稼ぎにネタ投下します。
今やっと5KB?
前スレまだ残ってますが
こんな時こそ長編をどーんと投下していただけると…
書き手さんカモ〜ン
エッジに建てられたウータイ風の集合住宅。
廃材を利用した建物はどこか古びて、懐かしい。
「そのTシャツ、どうなさったんですか?」
白衣を纏った大人しそうな女性が、技師らしき人物に声をかけた。
「飛空艇団の制服だと。ぶっちゃけた話、セッタに腹巻でいいんだが」
ころころと白衣の女性が笑う。
「で、六畳一間におめえと二人っきりかよ」
「新型飛空艇の開発目指して、頑張りましょうね」
コトコト。グツグツ。アパートにスープの匂いが充満する。
「WROもシケてやがるぜ!
アパートで一ヶ月一万円生活達成すりゃ予算を出すってか」
「設計を進めましょう」
出来ることは沢山ありますよ。
そう言ってシエラは夕日を眺め、微笑む。
「村の家も安普請だったが。こかぁ下駄履きアパートか」
「下駄履きってなんですか?」
「おう。横っちょにドアの並ぶ奴と、階段室で部屋に行くアパートがあんだろ?
横が下駄履きだ。でよ、階段室の方が多少頑丈で防犯性がいいんでい」
「私はこちらが好きです。和みますから」
「おめえはいいのか?」
「え?」
テストパイロットがあばら屋に住む事は実際にある。
しかし大型機艇長の給与は、不自由する程低くはない。
むしろパイロットになり、贅沢を覚える者もいる。
「こんなWROのテストなんざ、俺一人でやりゃあいいじゃねえか。
冒険者にサバイバルはどうってこたねえ。
おめえはお嬢さんだったんだろ?」
「……ついて来ちゃ駄目ですか?」
「バーロー。駄目なんざ誰も云ってねえよ」
おめえはいいのか? 俺について来ると、苦労すんだぞ?
シドがぼそりと呟いたので、シエラが聞き返す。シドは答えない。
煙草を吸おうとして、節約中だった事に気付いた。
「あ……あの、禁煙しますよね?」
「まー、その内な」
シガーを取り出すと同時に、なんか壮絶な音がした。
「体に悪いですよ?」
「グーで殴んなグーで!」
攻撃力は1も無いものの、笑顔の握り拳がそら恐ろしい。
「禁煙してください……な、長生きしてください。お願いします」
「今から長生きかよー」
ワーワーやってたら、晩御飯が出来ますた。
「スパークリングワイン?」
「いいえ。熟し過ぎた林檎をお砂糖で発酵させたんです」
ドライトマトにたっぷりとチーズの乗ったピザ。新鮮なサラダ。濃厚なスープ。
「おいおい、節約なのか?」
「ピザは手作り出来ますよ。
あの、艇長。新型飛空艇なんですが、
機動性を考えて二重反転式ローターの改良案を……」
「頼もしいじゃねえか!」
正体不明でも入ってたらどうしようか、とか、
まずい魚を食べ過ぎたら、とかは考えず夕餉が進む。
設計中のシドの横で、シエラが洗濯物を仕舞うといった
プライバシーもへったくれもない状態のまま、夜。
WROの皆さんがご丁寧にも、本家一ヶ月一万円生活そっくりの
小型カメラを設置してくれたので。両者チューもできません。
なぜかゴロゴロと押入れから転がり落ちた、クマぐるみが二体。
「なんでいこいつぁ」
「WROさんの寝袋ですね。私、押入れで休みましょうか?」
「ドラえもんかよ?! っと、電話か」
街の光に霞みながら、大気の向こうに星が瞬く。
「……うるせえ。燃料代はケットが……クソッ、わーってらあ!
何度も云うが、仲間の情報なら回さねえからな」
けどよ。お前さん、生きてて良かったぜ。
休むシエラにも。電話の相手が誰であるか分かった。
本来。神羅のエンジニアパイロット、即ち将校であったシドに
クラウド一行の情報提供が求められたのは、当然の事だった。
反逆罪にも敵前逃亡罪にも問われず、村に追っ手も現れない不自然。
シドは言う。
「神羅としても、ジェノバとウエポンを倒さなきゃなんねえからな」
冒険者への裏切りやスパイなどありえない明快な性格。しかし。
この問いへの答えは、まだ――ない。
「小難しい顔してんなあ」
「きゃあ!」
近視のシエラさんにもよく分かるぐらい、ものっそいアップの艇長。
「……艇長」
「あん?」
「あ、あの、って……手、握っていいですか?」
冷えた小さな手を。熱い拳が包む。
シエラさんは、嬉しそうで。艇長は少し困ったように笑って。
戦いの前の、穏やかな時間が流れてゆく。
おわるよ
>>16 GJ!リアルタイムで読ませていただきました。
閉じ込めスレに落とすには悩むつくりだよねw
ここでよかったと思う。
まずい魚に笑ってしまった。こっちの世界でも天敵かw
初保全ぬ
>>13-16 たとえまずい魚でも、シエラさんならきっとアビリティ(愛の)調合で
うまい魚に変えてくれるのだと信じています。
WROのテストの本当の目的は、シドの忍耐能力テストなのかと思(ry。
お久しぶりのネタ投下。
前スレのリーブネタを気に入って頂けた方は、読まない方がいいかも知れないという話です。
もの凄い勢いで捏造です。先に謝っときますごめんなさい。
22 :
証人喚問:2005/12/21(水) 01:22:31 ID:pmFqI1bX0
FF7 Disc1の(たぶん)ミッドガル
※本編時間軸ではコスモキャニオン〜
------------------------------
あくまでも形式的な拍手に迎えられ、向かいの男は演台に立った。彼の名前と
顔ぐらいはメディアを通して知っている、という程度で面識はない。実際に顔を
合わせたのは今日が初めてだ。
私の手には数十枚に及ぶ原稿用紙が握られている。材質はなんの変哲もない
紙片であるはずなのに、質量以上の重みを感じた。
プリンターから出力されたこの書類には、ある建物の設計図面と、答弁書。この
答弁の文面自体は事前に会社が用意してくれた物だった。見る気はしないが
読み上げなければならない、私にとってそう言う性質のものだった。それから、
原稿の最後にはたくさんの人々の名前が印字されているページが続いている。
これは私自身が用意したもので、今日この場で使われることはまずないだろう。
しかしこれこそが、私にとって一番重要なものだ。
紙とインク、それだけのはずなのに、ひどく重たい。それは気分でも、もちろん
瞼でもない。その紙片が重たかったのだ。
用意された椅子に着席し、周囲に目をやった。部屋の天井は普通の建物に比べ
高めに作られ、照明として吊り下げられているのは装飾の施された室内灯だった。
普段デスクワークを行う会社のフロアと比べると、やや薄暗く感じる程度で心地は
良かった。足元に目をやれば、センスがいいとは言えないまでも、落ち着いた
デザインで淡い色調の絨毯が敷かれ、壁も同系色で統一されている。古びては
いるが木目の美しい扉や窓枠に、机や椅子。会社で座り慣れている業務用の物とは
違い、車は着いていないが座り心地は抜群に良い。
部屋をざっと見渡してみた様子からも、日頃の手入れが行き届いている事が伺える。
(昼寝をするには最高のコンディションやな)
思わず口に出てしまいそうになった感想を飲み込んで、視線をあげた。用意された
席からは、部屋にいるほぼ全ての人々の表情を見ることができる。それは同時に、
彼らからもこちらの様子が丸見えだという事を意味している。
23 :
証人喚問:2005/12/21(水) 01:25:58 ID:pmFqI1bX0
私が座る前にいったい何人の者達がこの席に着いただろう、などと無意味なことを
考えてしまう。
部屋の奥に並んだ沢山の人々と機械群――映像・音声・文字――各メディアが
手ぐすね引いて私の登場を待っているのだろう。大々的に、そしてドラマチックな演出
を交えて今日の場を報じてくれる者達だ。
ここは国民に開かれた公の場。聴衆に晒され逃げることも隠れることも許されない。
と言っても、そんなことをする手段も、つもりも毛頭ない。
――私がここへ招かれたのは……。
考えるまでもない。先の7番街プレート落下事件に関する証人招致に応じたためだ。
7番街プレートの落下に関して、その構造自体に欠陥があったのではないかと指摘
する声を受けて開かれたのが今日の証人喚問で、そこに招致されたのが設計と建造に
携わり、現在の都市開発部門統括を務めるこの私と言うわけだ。当然と言えば当然の
判断で、神羅にとっても想定の範囲内だ。
抑揚のない議長の声で、舞台の幕が上がる。
「これより、会議を開きます」
真実を知らない者達による喚問が始まった。
真相は瓦礫の下敷きとなったまま、なにも知らず生き残った者達が用意した舞台で
演じる「証人」という役。事前に会社が用意してくれた答弁書は、さながら台本というわけだ。
証人は証言法という名の鎖に縛られ、その束縛に抗う事を許されない。
万が一、禁を犯した場合には偽証罪により告発され、弾劾される。
しかしそれも、真実と嘘の境界を知る者がいればの話だ。
24 :
証人喚問:2005/12/21(水) 01:27:10 ID:pmFqI1bX0
恐れることはなにもない。
なぜなら彼らが追求しようとしている真実は、どこにもないからだ。
設計にも建造にも携わった、この私自身が証明して見せよう。
「プレートそのものの構造に問題はありませんでした」
鉄筋の本数? 笑わせないで頂きたい。
そんな姑息な操作などしない。
もっと見るべき箇所、議論すべき点は他にある。
――君たちは、神羅という企業を知らなさすぎる。
「あなた方は神羅という企業に対して、あるいは建築という分野に関して、
あまりに何も知らなさすぎる」
本当に言いたいことは口に出さないままで、尋問を受ける側であるはずの
私が逆に問い返す。
何も知らないまま、見えない真実を見当違いな方法で追求しようとした目の
前の彼らを追及する。
――君たちでは暴けない。
私が本当に恐れていることは、それだった。
なぜなら彼らが追及しようとしても真実は、絶対に明らかにならないからだ。
計画と実行の両方に関わった、この私自身が証言しない限り。
(プレートそのものを破壊しようとしたのは、他でもない……)
自分たちなのだと。
25 :
証人喚問:2005/12/21(水) 01:32:05 ID:pmFqI1bX0
***
構造の不備がなかった事を見事立証し、尋問者を返り討ちにした後、私は盛大な
拍手を背にして扉をくぐり外へ出た。
会議場から一歩外へ出ると、妙な開放感と脱力感を感じた。
「ごくろうさまです」
横合いから声をかけられたが顔を向ける事はしなかった。顔を見なくてもそれが
誰なのかは分かる、聞き覚えのある――いっそ飽きるほど聞いた声だった。
うんざりだ。言うわかりに書類の束を押しつけるようにして渡した。いや、「返した」
と言った方が正確だろうか。
「ようできた台本やったで」
「……そうですか」
そう、全てはプレジデントの指示。
「ホンマ、おたくら多芸に秀でてるんやな」
そう言っても、総務部調査課の主任殿は表情一つ変えずに書類を鞄に収めようとした。
「……これは?」
しかし渡したときよりも書類の数が多い事に気づいて、追加された分のページに目を通す。
「プレート落下で死亡した人間のリストや。こっちで把握しとる分しかあらへんけどな」
「こんな物をなぜ?」
今日の会議では使わない資料のはずでしょう? とどこまでも事務的に尋いてくる。
だから答えた。
26 :
証人喚問:2005/12/21(水) 01:34:17 ID:pmFqI1bX0
「わいらが英雄になるために、犠牲になった人達の碑銘やと思といてくれたらええ。
……碑銘やないな、悲鳴や」
そう言って手早くコートを羽織って、建物の出口へと足を向けた。
「お戻りですか?」
「こう見えて忙しいんや」
ひらりと手を振る。励ましの言葉をかけなくても、次の喚問もうまくやって
くれるだろう。
構造の問題を私が、警備上の問題を彼が引き受ける。どこにも落ち度はない。
そして最後の証人喚問で、神羅は民衆の英雄になる。
呆れるほどに完璧なシナリオだ。
「では、キーストーンの件。よろしくお願いします」
形式的な礼に見送られながら、私は部屋の扉を閉め本社に向かう帰途についた。
−証人喚問<終>−
----------
・2002.3.11/2005.12.14タイトル通りの元ネタはこの2件。
・展開が無理やりな前スレよりは…この舞台設定の方が収まりが良かったなと反省している。
・DCFF7までは夢を見させて下さい。
・キーストーン受渡時の「ごくろうさまです」に覚えた違和感が拭えない。
・証人はかつら繋がりと言えなくもない。
お付き合い頂きましてありがとうございました。
リーブさんと主任さんカコいい!
緊張感のある描写と、さりげない時事ネタがきれいにつながってて面白かったです。
シリアス!しかも時事!
ミステリ小説の一部分ぽくて最高にツボ
GJです!!
・証人はかつら繋がりと言えなくもない。
なっ、なんだっt
30ゲット!ズサー
レスddです。各作品のシドが一堂に会したら賑やかそうですね。
>証人喚問
大人のドラマですね。プレート落下のミステリーを堪能させて頂きました!
ミッドガルの廃墟に、虫の声がする。
ショーウインドーに点滅するイルミネーション。
真夏の聖誕祭。
王が国中の子供を殺せと命じた。
若い夫婦は砂漠の国へと逃れた。
宿も無く厩に泊まり、子を産む。
糸杉の頂に。星が現れる。
フェンリルのボディに、雪が降りかかる。
クマウド、じゃなかったクラウドがゴーグルに積もった雪を払う。
ストライフ・デリバリー・サービスは忙しかった。
巨大モーグリ人形やクリスマスプディングやら七面鳥やら
ゴーストホテルのラブラブクリスマス券やら
ぎゅうぎゅうに詰め込んでバイクが走る。
例えアイシクルロッジでカップルが見詰め合おうが、
聖ニコラウスの従者が「悪い子はいねえがー!」と叫ぼうが、
それはクマウドには関係ない訳で。とは言え。
「わ、すごーい!」
セブンス・ヘブンに、大量のプレゼントが届いた。
「バレットからだ。明日は戻って来るらしい」
「とうちゃん、頑張ったんだね」
「それと、これは皆に」
クラウドが差し出した、大きなケーキ。
おもちゃを抱えて、デンゼルが俯いた。
「家に帰って来たみたいだ……」
神羅上層部の子供として、何不自由なく暮らしていたデンゼル。
その後のスラムの日々。華やかな祝い事は、久しぶりだった。
「ここが家、でしょ?」
「うん」
ティファに頭を撫でられ、デンゼルがはにかむ。
33 :
聖誕祭 2/4:2005/12/25(日) 17:10:51 ID:gibntbY/0
ふと、マリンが質問する。
「ねえデンゼル。お母さんってどんな人?」
「え? 元気で、テキパキ家事をする人だったよ」
元気だった。今は、どこにもいないけれど。
デンゼルは、その言葉を呑み込んだ。
「変な事聞いてごめん。あのね……。
お母さんの事、知らないの。どんな人か、顔も知らないの」
マリンの言葉が。ちくりとデンゼルの胸に刺さった。
ひょっこりとマリンが店内に顔を出した。
「お店終わった?」
「うん、終わったよ。明日が楽しみね」
「ティファ、あげる!」
可愛らしくラッピングされた袋には、不器用な手縫いの人形。
「上手だね。マリンが縫ったの?」
「うん! みんなの分作ったの。……あのね」
マリンがおずおずと囁く。
「今だけ、抱っこしてもらっていい?」
ティファが目を丸くして。優しくマリンを抱きしめた。
「いいよ」
ティファの体からは、柔らかくて甘い香りがして。
「どこにも行かないで。居なくならないでね」
そう言ってマリンが泣くので。
ティファはそっと、マリンの頬に口付ける。
物陰から見ていたデンゼルとクマウドが
息を詰めて赤面していましたが、それはさて置き。
クリスマス当日。階下の騒がしい音に、デンゼルが目を覚ます。
「ケーキ持ってきたよー!」
「ワイの本体から七面鳥です!」
冒険の仲間達が、店内に溢れかえっていた。
34 :
聖誕祭 3/4:2005/12/25(日) 17:12:05 ID:gibntbY/0
バレットの膝に乗って、嬉しそうなマリン。
取り残された気持ちで、周りを眺めていると
クラウドがデンゼルの肩を叩いた。
「良かったら使ってくれ」
小さなキーを渡される。
「何の鍵?」
黙って表を指差すクラウド。
そこにあったものは。金属光を放つ、新しい自転車。
「うわあ……」
いつも。デンゼルはクラウドのバイクを見ていた。
クラウドのようになりたい。そう思っていた。
「俺。バイクに乗れる年まで、これで練習するよ」
「良かった」
クラウドは、子供の前ではよく笑う。
幼い頃得られなかった、子供の友人。
それはクラウドにとっても、かけがえのないものだったから。
「で、奥さんとはどうなのさ?」
「どうってなんでい! ああクソッ、ニヤニヤすんなー!」
ふと、騒がしい店内に冷気が流れ込む。
黒い気配に、冒険者達が武器を構えた。
招かれざる客。ってゆうか、見慣れた銀髪が四人。
「クリスマス休戦だな……クックックッ」
「っで、ででで出たー!!」
セフィロスコピーだか本体だか不完全体だか、最早わけわかめの
そんな銀髪ロン毛の人物が、シトロンスイングとか飲んでますよ?
「ねえ。モズク出してくれる?」
「モズクねえ。じゃ、あったかい天麩羅でどう?」
ティファが電光石火の神業接客を始めた横で。
35 :
聖誕祭 4/4:2005/12/25(日) 17:16:10 ID:gibntbY/0
「ううっ……俺達だって俺達だってクリスマスをだなあ」
「オイラ、泣かれると困る。元気出して」
「それより、マテリア返せよー!」
「お前への贈り物を(ry
「気を遣わな(ry
皆が何事も無かったかのよーに、銀髪四匹と飲み始めますた。
おぶおぶしてる子供達をサンタクロース、じゃなかった
緋色のマントに覆われた人物が部屋に連れて行く。
「おそらく、乱闘になるだろう……ゆっくり休め」
「うん。ありがとう、ヴィンセント。そうだ」
「どうした?」
マリンの手から、包帯が手渡される。
「とうちゃん、採掘で怪我してるみたいなの」
石油を掘り当て、裕福になった後も。バレットは現場で働き続けていた。
その父親の逞しい背中が、マリンは好きだった。
「分かった。回復魔法もかけておこう」
子供部屋で。手縫い人形を貰ったデンゼルが、マリンに包みを渡す。
幼い筆が描いた、マリンのあどけない顔。
「描いてくれたんだ。嬉しい」
そう言って笑うマリンは愛らしく、ほがらかで。
デンゼルの胸が、急に高鳴った。
「えっと……メリークリスマス、マリン」
「メリークリスマス、デンゼル!」
日の一番短い日を太陽の再生する日とした。
素朴な冬至祭は、やがて救世主の聖誕祭となった。
それは、戦いを休む日でもある。
Merry Christmas.
END
乙!
過疎ってるようなので上げさせてもらいますよ。
6物書いていらしたドリル氏はもういないんだね…(´・ω・`)
ほ
ぼ でいいのか?
いつも楽しく読ませてもらってます。
ところでここに投下された作品を保管するのってダメなんでしょうか?
未完結の長編作品とか、スレッドをまたがっていると
読みづらいと思うんですが…。
あけおめ保守
2006年が良い年でありますように。
そしてこのスレで、良い作品が読めますように。
おみくじ保守!
記念に
保守
>>42 そこの保管庫にあるキマリとユウナのssって未完なのか・・・・
続き読んでみたい・・・
ほ
ぼ
ま
り
も
んー
保守は1日1レスで十分かと
おいおいスレが1番最後だったぞ危険
55 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 09:46:29 ID:/VyK7t2cO
ageとくね
保守しますよー
ほしゅ
ほす
ほしゅしゅ
ほす
保守乙です。自分も保守のお手伝いすます。
今年が皆様にとってよい年でありますように。
>42
いつもお世話になります。ありがとうです。
ここはどこだ? 檻の中にいるらしい。
扉のない、鉄製の檻だ。
鉄格子は頑丈だ。
檻は天井から釣り下がっている。
床には何も無い。
鉄格子の隙間から装置が見える。
手持ちの物:
ファイアしか使えないマテリア
六得巨大包丁
ディオのサイン色紙
上の物はともかく、下のアイテムは使えそうにない。
巨大包丁でレバーを動かす。
届かないようだ。
マテリアを装置のレバーに投げてみる。
レバーに当たらず、戻ってきた。装置は動かない。
「ニャー」
猫屋敷の猫だ。
猫がマテリアにじゃれつき側に来た。
猫の首輪からリモコンを手に入れた!
「何故こんなところにこんなものが」
リモコンで檻から脱出しよう。
「ユフィめ……」
63 :
脱出 2/4:2006/01/11(水) 05:19:06 ID:j7P2uJ9t0
あの日は、お互い酷い体調だった。
飛空艇の上下動と振動で意識が朦朧としていた。
むしろ魂が抜けそうだった。
「はう……マテリアはこれで全部アタシの物だね!」
何故サインしてしまったのか。
パーティで使うものは共有なのに。
それでいてマテリア育成は、何故か俺の役目だ。
「だってー! クラウドならいつでも戦闘になるし!」
いつでもって何だ?
「とにかく、マテリア契約書を取り戻すんだ!」
廊下に出た。壁に何かあるようだ。
『かめ道楽新メニュー!
炎の味わいイフリート鍋!
お祝い事はぜひ、のみ処かめ道楽へ!』
……有益な情報はないようだ。ん? 端にメモがあるぞ?
『九字印』
なんだろう、これ。
階段を上がって、ユフィの部屋に来た。
「やっぱり」
ドアには鍵がかかっている。
脱出が目的なのか、契約書探しか分からなくなってきた。
「どこかに鍵がある筈だ」
64 :
脱出 3/4:2006/01/11(水) 05:20:40 ID:j7P2uJ9t0
ちゃぶ台の下に、小さな鍵を見つけた。
「化粧箱の鍵か?」
鏡台が開いた。手裏剣を手に入れた。
箪笥と柳行李は?
「やめておこう」
女の子の部屋を漁る不審者になりたくない。
もうなってる事は考えないでおく。
鶴の敷物の下から、クナイ。
丸撃風呂敷を開けると『前は座禅也』のメモ。
弁天の衝立は『 臨兵闘者皆陣烈在前』のメモ。
あんどんの中に、三角手裏剣。
花瓶から、車手裏剣……。
「うーん」
鍵につながるものは無さそうだ。
どこかから聞こえる忍び笑いが怖い。
改めて地下に戻る。
床から撒きビシ、忍法秘術書、十方手裏剣、忍び熊手。
掛け軸の裏から、升目のメモ。
稲荷像には何もないようだ。
「アイテムを組み合わせてみるか」
手裏剣から、大きな鍵が出来た。
「これをどうするんだ?」
65 :
脱出 4/4:2006/01/11(水) 05:22:07 ID:j7P2uJ9t0
繰り返されていたのは手印。
九字を格子状に組む時もあったはずだ。
確か印は。次々と指を組み、九字を唱える。
「臨める兵 闘う者 皆 陣破れて前に在り」
途端にお稲荷さんが回転し、絨毯の下に扉が出現した!
鍵で扉を開ける。真っ暗だ。
ディオに謝りながら、ファイアで色紙を燃やす。
ようやく契約書を見つけた。
「ずっるーい!」
「うわあ?!」
ユフィが天井から飛び降りて来た。
「アタシずーっと隠れてたんだからね!」
「とにかく契約は無効だ」
「……だってさ、クラウド」
ユフィが寂しそうな顔をした。
「みんな離れ離れじゃん。すぐには会えないよ。
いつでも全員でアタシのマテリア使えるようにすれば、
それでみんなと繋がるじゃないか」
「皆。いつだって仲間だろ?」
ユフィがはにかむ。うまく誤魔化された気がする。
ヒントを置いた労力を考えて、はぐらかされておこう。
END
ほ
乙です!
> 女の子の部屋を漁る不審者になりたくない。
> もうなってる事は考えないでおく。
ワロタ
他人様の家宅への不法侵入と物色が許されるのは
どこの世界でも勇者の特権。そう言うことですか?
そう言うことなんですねクラウドさんw
68 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 19:38:50 ID:Q8FCb/r+0
良スレage
キモスレsage
ほ
ぼ
ま
み
り
ん
し
ょ
う
気が付いたらノベライズスレが落ちていた・・・
>79
復活キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!! 乙です。
ゆ
ほ
ん
だ
し
い
り
こ
ほぼ味醂と醤油本出汁炒り子出汁味FF小説期待sage。
保守乙華麗様です。以下ネタバレがちょこっとあります。
みんなに、お別れを告げました。
ぼくの意識は、そこで終わりました。
「……うーん」
「気がついたもんよ!」
「無事?」
黒魔導士の子供が、目前の少年達にうろたえる。
体躯のいい日焼けした少年。銀髪と赤い瞳の少女。
「ぼくは?」
「森で倒れてたんだもんよ! サイファーが助けたもんよ!」
少年は満開の笑顔を子供に向けた。
「サイファーだ。覚えておけ」
「我名。風神」
「雷神だもんよ! 名前教えるもんよ!」
アレキサンドリアとリンドブルムに手紙を出して、
黒魔導士の村で倒れた少年。
「……ビビです」
黒魔導士の子供は、ぴったりとサイファー一行に張り付いた。
どうしていいのか分からないようだった。
自販機の使い方を知らず、携帯すら首を傾げる。
「記憶喪失?」
風神の質問に、ビビは口ごもった。
覚えてはいるんです。だけど。だって、僕は……。
「ここに居ればいい。思い出すまで、俺の家来だぞ」
そう語るサイファーの声は優しかった。
「学校の宿題めんどいもんよー」
「学校……?」
学校は人間の、それも貴族だけが行くものだった。
黒魔導士達は人ではないので、本を取り寄せ互いに教え合っていた。
それがビビの世界だった。
雷神が虫取りに行くと言うので、一行もついていく。
ビビの世界を思わせる深い森。
枝の軋む音と同時に、魔物が剣を突き出す。
サイファーの銃剣が疾る。風神の刃が敵にめり込んだ。
その背後に魔物が飛び出した!
ジハード。禁じられし暗黒の魔法。その炎が魔物を殲滅する。
「ビビ、すごいもんよ!」
騒動が起こった。ビビの姿をした魔物が、路上に現れたのだ。
目に涙を貯め、声を殺して黒魔導士が震える。
信じるよと風神が答える。
雷神もサイファーも怒っていた。ビビを傷つけるな、と。
「もう、この街にはいられないなあ……」
穏やかな街だった。やんちゃなサイファー達が好きだった。
「電車って言うのに乗れば、きっと遠くに行けるよね」
「止。待」
「どこに行くんだもんよ!?」
ものすごい勢いであっさり見つかりますた。
「ビビの記憶だが」
サイファーが、ビビの肩に手を置いた。
「知ってる奴がいるかも知れない。お前ならきっと行ける」
「えー次の停車駅はー」
激しくビビっぽい車掌さんが、目的地を告げる。
お侍さんが立ってました。
「お前も死人か?」
「わ、わからないです」
紆余曲折の末、ド迫力の剣士が帰って来てた訳です。
目前のアーロンからすると、ビビはまるで幼稚園児だったりします。
「なるほど。以前の世界を覚えているのか」
「そうみたいです。でも、帰れない……」
サイファー達は親切だけど、あんまり迷惑かけちゃいけない。
帰りたい。魂だけでも。
「帰れるはずがない。俺とお前は似ている」
アーロンの潔い断言っぷりに、ビビの落胆は深い訳で。
「お前の仲間が、ここにも必ずいるはずだ。それを探せ」
「……はい!」
「どうしよう。戻って来ちゃったよ」
「ビビ!」
タックル級の素早さで、サイファー一行が飛びついた。
「情けないぞ、雷神」
「心配したもんよー。ビビがそのままあの世に戻ったら、
そりゃあんまりだもんよー!」
知ってるんだ!
この人達は知ってて、ぼくを仲間だって。
ビビの胸が一杯になって。
そこにいるのは別世界の人間ではなく、確かに仲間であったので。
「帰宅、嬉」
頬を赤らめ狼狽するビビの横から、涼しい声がする。
「化け物がビビのふりをしていたらしいが。災難だったな」
「みんな……それで納得してくれるでしょうか?」
「賭けてみようぜ」
不意の突風。少年の帽子が風に浮き上がる。
帽子の下の澄んだ瞳に、巨大な飛空艇が映った。
「ブラックジャック号で」
夕映えの中。セッツアーの飛空艇がうなりを上げる。
少年の目に映るものは──未来。
END
早く切り上げたいけど、でも、久しぶりだから念入りにしなきゃ…
ジレンマの結果は「出来るだけ急いで念入りに」で、
いつも通りの時間になってしまった。
髪を乾かすのがもどかしい。
こんな時は長い髪が少しうっとおしくなる。
今日は久しぶりにクラウドが早く帰って来たのだ。
それでも、時間はとっくに深夜を回っていたのだが。
軽めの夕食を済ませ席を立つと、
クラウドは明日の予定を手短かに伝えた。
「だから、朝は少しのんびり出来るんだ。」
「そうなの?」
少しはしゃいだティファに、クラウドは顔を少し赤くして、
消え入りそうな声で呟いた。
「…あぁ。だから今日…」
「うん?」
「待ってていいか。」
「…え?…あ、うん…」
するとクラウドはティファの顔も見ずに
さっさとシャワールームに消えてしまった。
取り残されたティファは短か過ぎる言葉と、
彼の態度を見て、漸く言わんとする事を察する。
「…もう!」
誘っているのなら、もう少し言い様があるのではないかといつも思う。
(あれじゃあ、明日の朝、早起きしなくていいから誘ってるみたいね。)
でも、あの言い方が彼には精一杯なのだ。
食事の間、少し落ち着きがなかった理由も今なら分かる。
(こういう時のクラウドって、本当に…)
ティファはくすりと笑うと、急いで後片付けを始めた。
洗い物をしていると、シャワールームの扉が開いて、
クラウドが2階の自室に引き揚げる音が聞こえた。
(やだ…)
なんだか、急に胸がドキドキしてきた。
クラウドが部屋で自分を待ってるんだと思うと、
うれしさと恥ずかしさで顔が赤くなる。
ティファは水仕事で冷えた手を火照った頬に当てた。
(クラウドのこと、言えないか…)
残りの片付け物を終えると、着替えとタオルを持ってシャワールームに入る。
そうすると、ますます「今からします」感がこみ上げて来て、
冷静でいられない自分がいた。
漸く髪を乾かし終えた所で、秘蔵のコロンを足下に
シュッと一吹きだけスプレーする。
さっぱりした柑橘系の匂いがかすかに立ちこめる。
普段は口紅一本つけないのだが、
買い物に行った時にマリンが執拗にすすめてくれた物だ。
「クラウドもこんなさっぱりした香りなら好きだと思うな。」
の、一言にさんざん悩んだ挙げ句、
一番小さなアトマイザー入りの物を買ってしまったのだ。
(これ、使ってるの、クラウドと二人きりの時なんだけど、
彼は気が付いているのかしら?)
暫くコロンのアトマイザーを眺めていたティファだが、
我ながら不毛な問いかけだと気付き、それを戸棚にしまう。
明かりを消す前にもう一度鏡に映る自分をチェックしてから
彼の待つ部屋へと上って行った。
96 :
93:2006/01/27(金) 17:34:33 ID:8GajF/8t0
>>89 すいません、流れ考えずに投下してしまいました。
>>89-92 KH2未プレイなので、この作品の半分は白さんの
やさしさでできていると解釈しても…。
ビビ相変わらず可愛すぎる。サイファー、本編よりやんちゃっぷりが発揮されてていいね。
風塵雷神やさしいよ。それでもってアーロン潔すぎw、でも確かに境遇似てるんですね…。
……そして何より、扱いのひどかった(らしい)ギャンブラーがいい味出してて嬉しい!
>>93-95 2人のぎこちなさと、その中にある思いやりが伝わってきて、
思わずうっとりします。
でもって、読んでるこっちが恥ずかしくなるような2人がいいです。
98 :
93:2006/01/28(土) 16:41:57 ID:VqAn9Z460
>>97 感想ありがとうございます。
また何か書いたら投下に参りますノシ
99 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/29(日) 18:24:30 ID:OHqNq3KIO
ウィッザティッサ!
100 :
東別院:2006/01/30(月) 11:00:30 ID:pMVDEX640
鰈に100get!
ほ
とりあえず1日に1回保守
ぼ
104 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/02(木) 18:10:30 ID:9JJuBthRO
あげ
105 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/02(木) 18:36:23 ID:ll7d4gw0O
106 :
93:2006/02/02(木) 21:28:01 ID:0T0fI3kz0
>>105 一応、あれでお終いです。ENDマークを入れ忘れましたm(__)m
続きも書きかけたのですが、エロになりますので、
ここに投下していいのか分からず、
千夜一夜のスレも投下していいのか分かりませんでした。
よろしかったら誘導お願いします。
>>3に該当スレがあります。
一応この板は全年齢対象のため、エロはご法度とされています。
だから千一夜にも投下はしない方が無難です。(というかあそこは総合ですから余計マズイかと)
一時期削除云々で揉めたことがあるので、エロパロへの投下という形になってます。ご理解ください。
あと、行った先のスレの雰囲気は一読して掴んでおいた方が良いかも知れません。
良くも悪くもこことは違ってます。
>106
エロパロ板にFF7スレがありますので、作者様がR21以上であれば
投下よろしくお願いします
109 :
93:2006/02/03(金) 00:23:33 ID:I8TXOzix0
>>107 >>108 ご親切にありがとうございました。
前に
>>3を読んで、エロパロ板に行ってみたのですが、
該当スレを見つけられず、ortとなっておりました。
アドバイス通り、もう一度行ってみたら無事辿り着けました。
(マカーなのでローマ数字が文字化けしていただけでした。不覚。)
確かにこことは違う雰囲気ですね。甘々なのは大丈夫のかなぁ…
明日、スレもう一度読み直して、いけそうだったら投下しますねノシ
保守
保全
112 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/05(日) 22:39:19 ID:8m6KDvVy0
えーじーいー
ほ
ぼ
ま
ri
も
ん
( ・∀・)
( ∩∀∩) ⊂( ・∀・)つ バァ
お久しぶりにて保守兼ねての投下です。
以下、DCFF7ネタでお送りします。
“DCFF7序盤をプレイ途中”の人にとって、一部(決定的ではないにしろ)ネタバレとなり得る
要素がありますので、ご注意ください。
※DCFF7の進行に準じた妄想です。本編ではこのようなことはありません…たぶん。
122 :
春を望む 1:2006/02/12(日) 02:16:00 ID:Vofy70Nm0
舞台:DCFF7/7章時点での回想。
設定:DCFF7/FF7AC/AC公式サイトに掲載のOn the Way to a Smile
※ :これからDCFF7プレイを考えている方は、FF7のバッドEDを考えたくない方、
…は、読まない事をお勧めします。(一部不完全ながらもネタバレ要素あり)
--------------------
都は滅び、私たちのすべてを賭した闘いが終焉を迎えたあの日から、心のどこかで
還都を望んでいたのだろう。
けれど残留魔晄による汚染は、私たちの子や孫の代、それどころかさらに先の代に
まで及ぶ負の遺産だった。あの場所へ戻ることなど叶わない。望む資格すら無いと
いわれても、反論のすべは無かった。
長きにわたる戦役と世界の危機から数年を経た今、季節をなくした都市にも新たな
命は芽吹こうとしている。
しかし、この地に本当の春が訪れるまではまだ遠く、この目でその遠景を望むことは
不可能になってしまった。
叶わないと分かっていながら、それでも私は、誰よりも春を待ち望んでいた。
123 :
春を望む 2:2006/02/12(日) 02:21:41 ID:Vofy70Nm0
――あれから3年。
艇長最愛の者の名を冠したその艇は、雲を抜け大空を進む。荒れ果てた大地を眼下に
望みながら、窓外に広がる空の色は自分が幼い頃に故郷の大地から見上げた時と
変わっていないことと、大人になってからは見上げる余裕すらもなくここまで来たことを
知った。
傷ついた仲間たちとそれぞれの思いを乗せ、いざ決戦の地へと我々を誘ってくれる。
――なにも変わっていない、そう思った。
仲間の向けてくれる笑顔や、豪快な笑い声、進むべき道をしっかり見据える瞳も、通信の
向こうに見える仲間たちの姿も、あの頃と何一つ変わっていない。それはケット・シーが
見たハイウインドの光景そのままだった。嬉しかった。かけがえの無いものがそばにある。
『ほな、ちゃっちゃと行きましょか!』
かつての都は、再び戦火に包まれようとしている。
それでも――
***
制圧された本部ビルの最上層で、もはや何も映し出さなくなったモニターが目の前に
横たわっている。まるで痙攣するように、あるいは断末魔のように。モニターはちかちかと
火花を散らし、小さな電子音を何度か鳴らしながら、やがてすべての機能を停止させると
静かに最期を迎えた。
真っ黒のモニターに、瓦礫を背にした自身の姿が映った。何もかもを失った3年前の
光景が、脳裏によみがえる。
――神羅ビル。
そうかと気づく。これは私にとって二度目の敗北だった。
124 :
春を望む 3:2006/02/12(日) 02:25:11 ID:Vofy70Nm0
近づいてくる足音に顔を上げた。目があった彼の表情は相変わらず読めない。真っ直ぐに
視線を向けてくる彼は何も言わず、それでも口をついて出たのは。
「……情けないですよ」
弱音だった。
「『ジェノバ戦役の英雄』なんてもてはやされても、このザマです」
別に許しを請いたいのではない。無論、彼は私を責めているわけでもない。それでも心に
横たわるのは憂いにも似た虚しさと、強烈な罪悪感だった。
あの戦いを経ても、武器を手にして実際に戦場に立てるわけではない。あの当時と何も
変わらない。そんな自分が惨めだと、今でも感じることがある。
しかし目の前に立つこの男は違った。あの時も、今も。
「私も同じだ」
彼は柔らかい口調で――私の心に揺蕩うすべてを否定した。
私に落胆する間を与えず、彼は次にこう問うのだった。
「お前はここで止まるつもりか?」
その言葉にハッとして顔を上げた。目の前の男は表情ひとつ変えずに佇んでいる。一瞬、
それが希望の使者であるようにも見えた。だがそれが幻想なのだと言う事は、背後の崩れた
壁面を見れば嫌でも思い知らされる。
(この絶望的な状況を目の当たりにして、なぜそんな風にして立っていられる?!)
不死身の男に向けた憤りのような、憧れのような。そんな感情が渦を巻く。だからと言って、
それを直接向けるのはお門違いだというのも分かっている。ましてや彼が自ら望んで手に
入れた身体ではないことも。
言葉を飲み込んでしまえば、自身の浅ましさを目の当たりにしたようで、彼を直視することが
できずに視線をそらした。
私は無力だった。
襲撃を受けた神羅ビルの上層から動こうとしなかった"彼"も、同じことを思ったのだろうか?
そして今に至ったとでも言うのか?――居ない者に問うたところで、答えは返ってこないというのに。
125 :
春を望む 4:2006/02/12(日) 02:31:17 ID:Vofy70Nm0
……あの日、ミッドガルが最期の時を迎えた日。
何度も何度も鳴ったはずの電話。何かを告げようと、伝えようと必死に私を呼ぶ声に
耳を傾けなかった過ち――それらのすべてを賭けて、戦った。そして完膚なきまでに
叩きのめされた。
失くしたものは数え切れないほどあった。
では、それらと引き換えにして私が得たものは――何だった?
どうして"私"は今もここに在り続ける?
堂々巡りを繰り返す思考を断ち切ったのは、穏やかだが力強い声だった。
「時を止めた私に、前へ進むことを教えたのは……お前たちだったんだがな」
半ば呆然とする私を置いて、彼はその言葉を残して去っていった。
上司にするには厳しすぎる男だと、そう思うと自然と笑いがこみ上げてきた。
たくさんの犠牲を強いた、その上に自分が立っている。ならば、ここで止まって
などいられない。出資者に対する債務もあるのだ、欠損を出したまま終わる
わけには行かなかった。
「――まずは残存の設備・部隊の把握と立て直し。次に使えそうな通信設備を
使ってデータの移行作業、それから……」
考え出してみればまさに猫の手も借りたい状況だ。リーブが苦笑しながら腰を
上げると、ちょうど同じタイミングで相棒が現れる。
『ほな、ちゃっちゃと行きましょか!』
かつての都を目指し、再び戦いに赴く決心をさせてくれた彼らのためにも。
決着を――
***
こうして乗り込んだのが飛空艇・シエラ号。オーバーテクノロジーと最新技術の
集合体、それは最後の砦たる最強の移動要塞だった。同時に内部には多くの
未知を内包しており、艇の全容を把握しているものはいなかった。そんな艇の
操縦桿を託せるのはシドしかいない。そして彼は見事に艇を制御している。
とても乗り心地の良い艇だった。文字通り大船に乗った心地でいることができた。
だからこそ、心の曇りがはれることは無かった。
126 :
春を望む 5:2006/02/12(日) 02:35:43 ID:Vofy70Nm0
「今日は本体なのか?」
声をかけられるまで、フロアの中を移り行く景色を眺めていた。人工的に作られた
グラフィックは美しい風景を描き出す。季節を失くした大地の記憶を抱え、人間は
大空を進んでいた。
顔を上げれば、そこには彼が立っている。数年前までは地下で眠り続けていた
この男を、最近では私がいつも見上げているなと気づく。
「……本部もなくなってしまいましたからね」
苦笑しながら返した言葉に、彼は否定も肯定もせずに黙って耳を傾けているだけだった。
――いや、もしかしたら彼は知っているのかも知れない。
私が"本体"ではないということを。
二度目の敗北。
それはつまり、二度目の死を意味していた。
***
7番街のプレートを落とす。
それは下敷きになるスラム住民だけではなく、プレート上に住む者たちの命も
道連れにするという非情な手段であることは誰の目にも明らかだった。
それを知れば肉親から、責められると思った。私がこの件にどう関与しているのか、
とか。詳しい内情は知らないまでも、神羅という組織に属し、今や責任ある立場に
身を置いている自分に、懐疑や非難が向けられると思っていた。けれど彼女は
そうしなかった。
かわりに受話器から聞こえてきたのは――「こっちは心配要らないよ」と、そんな
一言だけだった。
結果的にはこれが、母と交わした最後の会話になった。
127 :
春を望む 6:2006/02/12(日) 02:41:21 ID:Vofy70Nm0
あの日以来はじめて携帯が鳴った。けれど通話をする勇気はなかった。それから
何度も、何度も。神羅本社ビルが襲撃され、崩れ落ちたあの日でさえ鳴ることの
なかった携帯は、今頃になって私を呼んだ。
しかし私は、彼女の声に耳を傾けることはしなかった。
一番の親不孝をしてしまった後では、取り返しがつかないのだと思っていたからだ。
残されたわずかな時間は、すべてミッドガル住民の避難誘導に費やした。
住民の中には、母もいた。
そのはずなのに、母を救うことはできなかった。
これが2つ目の親不孝であり、最大の過ちだった。
128 :
春を望む 7:2006/02/12(日) 02:42:17 ID:Vofy70Nm0
***
(本体、は……)
絶対に漏らしてはならない言葉が口をついて出そうになって、自身でも驚く
ほど動揺したものだった。もちろん、それを表に出すほど間抜けではない。
「でも、今日も連れてきてますよ」
『どうもー』
忙しいときには手を貸し、沈んでいるときには愛嬌を振りまく。そんな愛くる
しい相棒が、場を和ませてくれる。そして何より、この小さな相棒は"本体"の
存在を隠してくれる。
まだ、この身を棄てるわけにはいかない。もう少しだけもってくれないか?
今、本体として機能している"私"に私は呼びかけた。
――私の感情を吹き込んだそれは、二度の死を乗り越え、今も生き続けている。
女の子じみていると、持つことをためらった母からの贈り物――いつかの
ハンカチの柄のような小さな花々が咲く地に、先に着いているはずの私を
母は待っているのかも知れない。
だとしたら一番の親不孝者は、私のような者を言うんでしょうね。……社長。
ー春を望む<終>−
--------------------
・書いている本人はクリアしてない(8章中)ので、偏重気味の世界観。
・インスパイア設定ワケワカラン。
・7章のあのセリフを聞いてこういう展開を妄想した人は全国に数人はいるはずだ
…と、信じて疑わない。
・FF7究極のバッドEDと言えなくもない話。
・リーブ好きが高じて色々暴走した。正直スマンカッタ。
あのシーンは自分も好きだよ。
リーブかこいいな。GJ!
リーブ!リーブ…!
GJ超良かったです
でもたしかにバッドエンディn(ry
ケット・シーの明るさが逆に切ないよ…
131 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/12(日) 12:49:13 ID:WybmXZdzO
( ゚∀゚) <ageチン
( )
| 彡つ
し∪J
僕は・・・、少し寂しかった。同じ作戦に同行してわかったけど、皆昔のことは覚えてないみたいだ。
魔女暗殺作戦の時皆は僕を見ても誰一人気づかなかった。
というか、全員お互いの関係を忘れてしまったような感じだ。
なんでなんだろう?と考えて一つの話が頭をよぎった。
「G.F.を使うと記憶を失う」
本当かどうかわからないけど、可能性はあった。
バラムガーデンではG.F.を使うのは普通のことだとスコールが言ってた。
…じゃあセフィは?なんで覚えていないんだろう?
今僕らはミサイル発射阻止作戦から帰還してスコール達とF.Hでばったり会った。
ミサイル基地の自爆装置を起動して脱出しようと思ったところに、ガルバディア軍の大型兵器が現れて脱出を阻まれた。
けど、どうにか破壊してそれに間一髪乗り込んだ。
それは驚くほど頑丈で自爆の爆発にもビクともしなかった。
それでそのまま回収されてF.Hにきてスコール達と戦うハメになった、ていうわけ。
ガーデンが動き出してミサイルを回避できたものの、そのままF.Hに追突してしまったとのことだった。
「おかえり、みんな。よかった、ほんとうに。」
というのはスコールが言ったセリフだが、どうにもくすぐったかった。
セフィは、
「らしくな〜い。」
なんて言ってたけどすごい嬉しそうだった。
そんなこんなでガーデンをF.Hの人たちに修復してもらうことになって一件落着かと思いきや…。
バラムガーデンでセフィは自分プロデュースのコンサートの準備をしていたらしかったけど、
ガーデンが動いたりですっかりめちゃめちゃになっちゃってた。
「ああ〜、せっかく用意進んでたのに〜!」
セフィはすこし落ち込んでるようだった。でも僕はセフィを直接なぐさめる勇気がでなかったから、
ひとまずスコールにお願いすることにした。
でもスコールは、少しなぐさめただけで、
「あとはまかせたアーヴァイン・キニアス。」
僕は文字通り飛び上がった。
「うぇ!?」
がががんばれ、僕。本番に弱いのはいい加減卒業しないと。
ちょっとかっこつけて言わないとばれちゃう…よな。
「元気出せよ〜セルフィ〜。僕も手伝うからさ〜。」
「え?ほんとに?」
僕は必死で方法を考えた。
「そうだ!F.Hの人に頼めばいいんだよ。ガーデン直しちゃうんだからステージくらい簡単だろ?」
「そうかな?やってくれるかな?」
「やってくれるさ〜。僕も一緒に頼んでやるからさ〜。」
「ということは?」
「セルフィプロデュースのバンドがステージに立てるっていうこと!」
セフィは飛び跳ねて喜んでる。
「じゃあじゃあ!メンバー集め行きますか!」
お?こりゃ〜いけるかも!
本番に弱いのも克服かな?我ながら土壇場でよく思いついたな。
「お?おもしろそうだな!どうせなら駅長の家の前でど〜んとやろうや!」
F.Hの人は快く引き受けてくれた。色んなものを創るのが好きなんだそうだ。
「やった〜!」
喜んでるセフィの顔をみたら僕も嬉しくなってきた。
思えば昔からそうだったっけ。
孤児院にいる時、皆一緒に遊んでたけど僕とセフィ意外は先に帰っちゃってた。
僕は昔からセフィのことが好きで最後までセフィにつきあってたんだっけな。
それでいつもママ先生に怒られてたんだ。いっつも走り回ってるから追いかけるのが大変だったけど。
「アービンもっと遊ぶ〜?」
僕は彼女からそう言われたくていつも一緒に居たんだ。セフィにとっての特別な存在になりたくて。
彼女は僕のことを『アービン』と呼んでいた。
彼女が僕のことを忘れていると確信したのはここだった。
今は僕のことをアーヴァインと呼んでくる。
すごく寂しかったけどセフィが昔とほとんどなにも変わってないのをみて嬉しかったりもした。
「バンドのメンバーどうしよ〜。曲は簡単なのにメンバーがいないんじゃあしょうがないよ〜。」
僕達はメンバーを探し回ったけど結局みつからなかった。
「どうしよ〜、もうステージできてきちゃってるのに〜。」
「いっそ僕らでやるかい?」
「あ!それいいかも〜!じゃあみんなに集まってもらお〜!」
それから僕らはスコール、リノア以外で各楽器を担当して無事にアイリッシュジグを演奏することに成功した。リノアには急に委員長となってしまい、ガーデンの全権委任をされて一人で悩んでるスコールに僕らの気持ちを伝えてもらう役になってもらった。
この曲ならちゃんと僕らの気持ちが伝わったに違いない。
問題は僕だ。セフィに少しでも気持ちは伝わってるのかな。
みんな各々この夜を楽しんでる。そこで僕らは駅長の家の前で二人きりになった。
「手伝ってくれてありがとね〜。」
「いえいえ〜。お役に立てて光栄だよ〜。」と僕。
「トラビアのみんなと約束してたんだ〜。セルフィバンドを成功させるって。」
「・・・そうだったんだ。」
「うん。きっとみんな無事だよね〜?ミサイルはずれたよね〜?」
セフィはすごい無理してる。僕は知ってる。落ち込んでるのに周りに見せないのはセフィの悪い癖だ。
「きっとだいじょうぶさ。やるだけの事はやったんだから。」
「そうだよね〜。うん!そうだね!」
「ガーデンが動くようになったらトラビアに行くようにスコールに頼めばいいよ。気になるだろ〜?」
「だね!後で頼んでみる!」
けっこう仲良くなれたかな。あともうちょっと?
「ねぇねぇ。アーヴァインって呼びにくいからさ〜。アービンって呼んでいい?」
僕は心臓が大きく一回収縮したのを感じた。
「もちろんOKだよ〜。じゃあ僕はセフィって呼んでもいいかい?」
「全然いいよ〜。なんか幼馴染みたいだね。これからもよろしくね〜。」
…やっぱりセフィは気づいてないみたいだ。でも深層意識のなかに昔の記憶はあるみたい。
これならきっといつか思い出してくれるはず。
みんなに知っておいてもらわないと。僕らの戦ってる魔女イデアはママ先生なんだから。
僕らにとって親にも当たる存在。優しくて、時に厳しかったりしたママ先生。
ていうか、バラムガーデンの学園長はあの人じゃないか。どんな思いで戦っているんだろう。
僕なんかよりも全然辛いんじゃないかな。あぁ、思い切って皆に話してみようか…。
落ち着いた時にでも話そう。きっと皆、思い出す。
そうしたら…。思い出してもらったら、皆やセフィに本当の意味で再会できる気がする。
see you again 〜Fin〜
おお〜投下GJ!!!!!
ほ
携帯からの保守
ぼ
鞠
藻
保守?
ん
婆
147 :
エッジ前哨戦:2006/02/19(日) 07:11:48 ID:4EXjnasl0
DCでエッジが襲われた時、彼と彼女が
何をしていたのか補完したくて書いてみました。
プレイされてない方はネタバレになるかもなのでご注意願います。
投下は途切れ途切れになるのでご了承下さい。
投稿者は戦闘シーンが苦手の為、
訂正やアドバイスを頂けるとうれしいです。
遠雷が聞こえて、ティファは手を止め、窓の外に目をやった。
『本日のスープ』に使うキャベツを小さな手に抱えた子ども達も同じ様に外を見る。
「雨かな?」
「クラウド、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫よ。」
心配そうなマリンとデンゼルは窓から声の主に視線を移す。
「通り雨よ。」
「通り雨?」
「そう。この季節は多いの。でも、雨が降る場所も狭い範囲だし、すぐに雨は止んじゃうわ。
クラウドが今日行ってる辺りだと、逆にいいお天気かもしれないわ。」
本当にそうだといいんだけど、と心の中でティファは付け足す。
それに、この季節に雷が鳴る事はめったにない。
それがティファの心に小さな不安を呼び起こす。
「クラウドったら、レインコート持ってるかしら?」
「そんな物なくても平気さ。」
女の子らしい心配をするマリンに、男の子らしい負けん気のデンゼル。
二人の気を反らせようと、次のお手伝いをティファが言いかけたその時、
空気を裂く様な音がし、すぐに爆音が響いた。
『7th Heaven』が激しく揺れて、ティファは咄嗟に二人に覆いかぶさった。
棚から食器が派手な音を立てて落ちて来る。
子ども達は何が起こったのか分からず、ティファの下で呆然としている。
(…爆弾?)
いや、その前に頭上から空気を裂く、ヒュウウウ…という嫌な音がした。
(ミサイル…?それとも爆撃?)
カダージュ達の登場、セフィロス復活から1年経っていた。
世界はまた復興に向けた進み始めたのに、一体何者の襲撃なのだろう。
しかし、今はそんな事を考えている場合ではない。
声もなく震えている、この子達を守らなくては。
(クラウド…!)
ここにいない、自分だけの英雄の名前を呼ぶ。
爆発は途切れる事なく続き、激しい揺れが続く。
それでも、棚の物はひとしきり落ちてしまったようだ。
ティファは立ち上がり、二人を立たせると、フロアのテーブルの下に隠れさせた。
落ち着かなくては。子供達を怖がらせちゃいけない…
出来るだけ、いつもの声音で、
「いい?動いちゃだめよ、ね?」
ぎこちなく頷く二人の頭を撫でると、ティファは立ち上がった。
何かあった時に、どう動くか…
ちゃんとクラウドと相談しておいてよかった。
カウンターの椅子を乱暴にどけると、床板と床板の間の3cm程の幅の隙間がある。
それが目印だ。
「はぁっ!」
気合いと共にその隙間に手を垂直に差し入れる、と同時に床板をまくり上げた。
畳一畳はあるかの板を軽々と捲り上げたティファに、
テーブルの下で震えていた二人も息を飲んだ。
床下に現れた1m四方の金属の扉を開けると、二人を庇う様にして扉の側まで連れて行く。
「いい?扉を3回叩くから。」
「ティファ!」
「それ以外は何があっても開けちゃだめよ。」
「ティファ!ティファはどうするの…?」
「大丈夫。ちょっと街の様子を見て来るだけ。」
「やだ!危ないよ!ティファも一緒に…」
「マリン…」
縋り付くマリンの頭を優しく撫でてやると、ティファはウィンクをしてみせる。
「孤児院の様子も見に行きたいの…大丈夫よ。
私だって、クラウドやバレットにだって負けやしないんだから。」
「でも…」
マリンは大きな瞳に涙をいっぱい溜めてティファを見上げる。
「分かって、マリン…私は、そうしなければいけないの。」
真剣なティファの瞳に、マリンは言葉を失う。
でも、行かせてはならないと必死に言葉を巡らせる。
「大丈夫だよ、ティファ!マリンは俺が守る!」
「デンゼル…」
「マリン、俺と行こう」
「やだ!」
マリンは大きく頭を振る。
「デンゼル、ここを降りると、下水道よ。そこでじっとしていなさい。
食料と、水と、緊急用に電話があるわ。もし…」
言いかけて、ティファは口を噤んだ。
(いえ、そんな事があってはいけないのだけど…)
言い淀んだティファを察したのか、
「俺、マリンの父ちゃんに連絡するよ!クラウドにも!」
元気にデンゼルが答えた。そして、マリンの手を取ると、
「俺たち、大事な役目があるんだ。行こう!マリン!」
マリンはきゅっと唇を噛んで、ティファを見、そしてデンゼルを見て、漸く頷いたのだった。
151 :
エッジ前哨戦:2006/02/19(日) 23:39:13 ID:4EXjnasl0
すいませんが、どなたかマリンがバレットを
なんて呼んでいたか覚えてられませんか?
「父ちゃん」でよかったかと思うのですが、
ちょっと自信がないです_| ̄|○
>>132-137 アーヴァインに対する見識を改めさせられました。
彼らしい、気さくな語り口で描写されているものの、
考えてみるとつらい立場だったんですねアーヴァイン。
タイトルと内容がピッタリはまってて良い感じです。GJ!
>>148-150 ACで見せてくれたデンゼルの前向きさが良く現れてるなと思いました。
欲を言えば、ACでマリンはティファ(と、ロッズの)強さを目の当たりにしているので、
その辺もあったらよかったかな、なんて。
(強いと分かってるんだけど、それでも心配するという…なんか矛盾してる気もしてきた)
ついでにDC地上部隊編も書いてくれないかな〜とか、どさくさ紛れにリクエストしてみるw
強いとは分かってるけどそれでも心配なんだよって言う
……なんか書いてて分からなくなってきた。あくまで個人的な意見です。
>>151 以前にも似たような質問をこのスレで見た気がするw
「父ちゃん」で正解だったと思います。
7本編中、ゴールドソーサーでのデートイベント直後
ケット・シー経由での通信でそう言っていた記憶から。
(手元にデータがないので確証はありませんが…。)
154 :
エッジ前哨戦:2006/02/20(月) 00:52:29 ID:td2ow/zj0
>>152-153 >強いとは分かってるけどそれでも心配なんだよって言う
仰りたいこと、分かる気がします。
マリンもティファが強いと分かってるけど、
それでも心配でだだをこねてる…ってつもりで書いたのですが、
やはし難しいですね_| ̄|○
>ついでにDC地上部隊編も書いてくれないかな〜とか、どさくさ紛れにリクエストしてみるw
ありがとうございますw
でも、自分、そこまで辿り着いてないんですよ。
もう少し進めてから考えてみますね。
少しずつよりも一気に投下の方が良いみたいなので、
完成したら投下に参ります。
バトル関係とか、分からない事があったら質問に参りますので
その時はまたお願い致します。
特に
>>151 、切実です・゜(つД∩)゜・。
155 :
エッジ前哨戦:2006/02/20(月) 00:53:32 ID:td2ow/zj0
すいません、リロってなかった_| ̄|○
>>153 ありがとうございます。
そして、無駄にスレ消費してごめんなさい。
ほ
157 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/21(火) 14:37:35 ID:Mx2NOc+t0
し
の
ふ
性懲りもなくケット・シー(リーブ)ネタです。
色々すみません。謝るようなら書くなと言う感じですが
DCFF7クリアしたてなので、時期的にちょうどいいかな、
なんて。
タイトルに機種依存文字を使用する事をお許し下さい。
舞台:FF7Disc3(最終決戦前)
(DCのネタバレはありません。)
設定:DCFF7であったというインスパイア能力保持者※1
AC公式サイトの小説の設定は依然としてお借りしています。
----------------------------------------
フロアの床を埋め尽くしているのは、継ぎ接ぎを施してようやく繋がった
おびただしい量の配線コードと、飛び散った窓ガラスや照明の破片、その
上には誰の物とも分からない荷物や書類などが散乱していて、文字通り
足の踏み場もなかった。幸いにも日はまだ高く、メインの電力供給を絶たれた
室内でも作業に充分な光度が保たれていた。
いまや瓦礫に埋もれてしまったフロアを目の当たりにすれば、多くの者は
愕然と立ち尽くすだろう。こんな状況で何ができるのだろう? と。
しかし、彼は違った。
迷うことなく倉庫へ向かい、傾いたドアをくぐって奥にあった自家発電用
バッテリを持ち出すと、それらを手早く機器に接続しはじめた。ものの30分で
必要最低限の動力を得て機能を確保すると、休む間もなく各部署との通信を
試みた。
足元に散乱するフロアタイルの残骸やガラス片などに混じって、茶色い土が
混じっていたことにも気が付いていた。その正体にも心当たりはあった。それ
でも手を止めず、ひたすら作業を続けた。彼が作業を始めてからもう何時間に
なるだろうか? 処理を終えた書類を投げ落とし、新たに出力された書類を渡す。
鳴り止まない電話を横に置き、とにかく必死に作業をこなした。我々に残された
時間はあまりにも少なかった、休んでいる暇などない。ミッドガルの構造を知り、
あらゆる通信設備を駆使して、一刻も早く全住民にこの危機を知らせなければ
ならない。
しかも混乱を招かないように、彼らをスラムまで誘導する。与えられた猶予は、
たったの7日。
完全に成し遂げることなど、とうてい無理な事だとは分かっていた。だから
目標値をあらかじめ設定しておいた。全住民の63パーセント――綿密な計算の
果てに出された数値は、ようやく過半数を上回る程度でしかない。ミッドガルという
都市を知り尽くしているからこそ、誰よりも間近で現実を直視しなければならなかった。
出された数値に落胆している暇も、悩んで立ち止まっている暇もない。次々に
送られてくる情報が、彼の手を休める暇を与えなかった。
猫の手も借りたい状況とはまさにこのことで、幸いなことに彼には手を貸して
くれる猫が存在していた。ケット・シーという名前で、ここにいるのは3号機だった。
『人手が足らへん。……まずは都市開発の人たち、集めてみましょか?』
しかもこの猫、しゃべるのである。
それも満面の笑みで。
「無事だといいのですが」
『大丈夫やて。……アンタらの作った街やろ?』
「ははは……確かに、そうですね」
ケット・シーはいつも、笑顔をくれる。作り笑いさえもしなくなって久しい私に、
いつも微笑んでくれる。
「……」
――笑うことなど許されていない、そんな気がしている。なぜなら私は。
「自分で作った街……だったんですよ。……でも、私は。この手で」
脳裏によみがえるのは7番街の光景。プレート上の平穏と、プレート下の生命を
同時に奪った悪夢。なによりそれを生み出したのは自分自身であった。
抗えなかった。抗えずに従うのなら、いっそ身も心も染まってしまえば良かった
のに。中途半端に放り出されてしまった良心は、今でも傷口で膿んだままだった。
――……"多少"? 多少って何やねんな!?
アンタにとっては多少でも、死んでしもた人たちにとっては
それが全てなんやて!
あの日。
それはバレットに向けて放ったはずの言葉だったのに。
「彼の言うとおり、私に彼らを責める資格なんてない……それに」
現に今だって、37パーセントの人間を切り捨てようとしているのではないのか?
次の句を紡ごうとした私を遮ったのは、彼だった。
『泣きたいなら泣いたらええ。けどな、おっさん』
主人の事を「おっさん」呼ばわりするのはどうなのかと眉をひそめたが、いかにも
彼らしいと思う。
『アンタがそんな顔したらアカンで。小さくて悪いけど、わいの胸貸すからそこで
泣いとき』
ケット・シーの表情が変わることはない、人形なのだから当然だ。
それでも彼は、微笑んでくれる。
「……ありがとう」
その瞬間、ほんの少しだけ目を閉じて――夢を見たような気がする。とても心地の
良い、夢だった。
私の感情を吹き込んだロボット、それがケット・シー。
神羅に入社して以来、私が捨ててしまった感情を、殺さなければならなかった
思いを、小さな猫のおもちゃに託した。
――ありがとう。
小さく臆病な私に、彼は大きな勇気をくれる。そんなことを考えていたら、
年甲斐もなく……。
母がいる、この街を。
救うまでは――
まだ、この場所を離れるわけにはいかなかった。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティT<終>
----------------------------------------
※1設定資料などは全く見てないので、“インスパイア”の解釈は違うと思われます。
165 :
エッジ前哨戦:2006/02/23(木) 01:20:45 ID:Ql9yMn8m0
どなたも投下されないみたいなので、
板の保守に書き溜めた分投下します。
166 :
エッジ前哨戦:2006/02/23(木) 01:42:29 ID:Ql9yMn8m0
すいません、自分、またリロってなかった。
ドリルに貫通されて逝ってきます…_| ̄|○
>>ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYwさん
GJです!
最後の決戦前のクラウドとケットの会話を思い出しました。
鯖復活記念保守パピポ
一瞬なにが起きたのかと思ったw
>>165 書ける時、書きたいときが投下し時。
気にせずどんどん投下汁!
粗忽者のエッジ前哨戦でございます。
>>169 ありがとうございます。
ドリル装備の名無し ◆Lv.1/MrrYwさんの
余韻を壊してしまって本当にごめんなさい。
お言葉に甘えて投下致します。
ちょっとクラティ入ってるので、お嫌いな方はご注意を。
-----------------------------------------------------------------
外に飛び出すと、空が真っ赤だ。隣のおばさんが不安げに空を見上げている。
「おばさん!」
「あぁ…ティファちゃん…一体何が…」
「話はあと!早く家へ!」
ティファは近所の住民を、子ども達が避難した下水道への扉に誘導する。
「いいですか?扉を叩くのは3回です。敵に見つからない様に…」
「敵?…敵って誰だい?」
それはティファが聞きたいくらいだった。
不安がる住民達をとりあえず下水道に避難させると、2ブロック先にある孤児院に向かう。
中から子供達の泣き声が聞こえるが、まだ火の手は上がっていない。
「大丈夫?」
ティファが入って来たのを見た、二人いた保母はホッとしたように、
「助かるわ、ティファ。子ども達、みんな泣き出して動けなかったのよ。」
小さな子供は抱きかかえて、歩ける子は歩かせて、なんとか店の中まで連れて行く事が出来た。
先に避難させていた住民達に手伝ってもらい、子供達を地下に降ろす。
最後に残ったのは保母の一人でミミという女性だった。
ティファとは歳も近く、7thHeavenにもよく食事に来ていた。
「あなたが最後よ、ミミ。」
「ありがとう、ティファ…でも…一体何が起こったの?たくさんの人がミッドガルで行方不明になったり…」
行方不明者の中にはミミの恋人もいたのだ。
ミミの何気ない言葉がティファの頭の中で何かと何かを結びつけた。
「ティファ…?」
「う…うん、なんでもない…」
「ティファ、早く!」
老人や子供を率先して手助けをしていたデンゼルが顔を出して叫ぶ。
「クラウドや、マリンの父ちゃんにはちゃんと連絡したよ!
クラウドは、こっちに向かってる!2時間くらいかかっちゃうけど。」
「バレットは?」
「シエラ号の館長さんに連絡してから来るって!トレーラーで来るから、みんなを運べるよ!」
無駄のない報告にティファは満足げに頷いた。
ミミが下水道に降りてしまうと同時に、爆音がますます近付いて来た。
マリンも心配そうにデンゼルの横から顔を覗かせる。
「ティファ!クラウドが、ティファも一緒に待ってなさいって!」
「分かったわ、マリン。」
ティファの言葉にマリンも安心したようだ。
二人が先に降り、ティファもそれに続くのだろうと梯子の上を見上げて待っている。
しかし、ティファは降りて来ようとしない。
「ティファ?」
ティファは少し悲しそうな顔をして、ごめんね、と呟くとゆっくりと扉を閉め、
ポケットに入れてあった鍵で鍵を閉めた。
マリンは悲鳴を声を上げ、再び梯子を上る。
「ティファ!ティファ!」
中から必死に扉をを叩く。すぐに優しい声で返事が返って来た。
「大丈夫、マリン。ちょっと様子を見て来るだけ。」
横でデンゼルが宥める声も聞こえてくる。
「ごめんね…」
(でも、行かなきゃならないの…)
ティファは振り切る様に立ち上がると、床板をはめ、その上に椅子を並べるた。
カウンターのシンクの下に直してあった箱を散り出すと、
中から肘あてと革手袋を取り出し、身に着ける。
そして、とある場所に向かって駆け出した。
クラウドはデンゼルからの連絡を受け、エッジを目指してひたすらフェンリルを走らせていた。
腰のホルダーに入れてある携帯が震えている。着信を見るとバレットだ。
あらかじめ電話を耳から離しておいてから着信ボタンを押す。
案の定、電話の向こうで大声が響く。エンジンの音がやかましいのに、余裕で耳まで届くほどだ。
「クラウドおー!今、どこだぁーっ?」
「エッジに向かっているところだ。」
バレットはマリンやデンゼルから連絡があったこと。マリンがひどく怯えていること。
トレーラーで向かうので避難する人を乗せられることを伝え、
クラウドはそれを耳から遠ざけた状態で聞いた。
「それとよ、シドに聞いたんだがよ。神羅のマークを付けた軍隊があちこちを襲っているらしい。」
「神羅の?」
「おかしいだろ?つかみ所のねぇ奴だが、今のルーファスがそこまでやるとは考えるられねぇ!
どうもプレジデントが生きてる時代のやっかいな遺産らしい。」
「セフィロスではないんだな。」
「WROの本部も襲われた。リーブとビィンセントが一緒らしい。
エッジが襲われてるから助っ人に来てくれるとよ。」
言われてみると、昔、そんな噂を聞いたような気もする。
「…バレット!その時の責任者は誰だ?」
「スカーレットと、宝条だっ!」
「宝条…?…それは…」
「面倒な話は後だ!お前の方が先に着くはずだ!マリンを頼んだぜ!」
(やはりな…)
死んだ後もどれだけ災いを引き起こすのだろう…全ての災いの元凶だ。
だが、今は一刻も早くミッドガルに辿り着き、ティファを止めることだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
あの時は間に合わなかったが、今度は間に合わせてみせる。
そして、ティファを思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。
(そう言えば…)
バレットはヴィンセントもこちらに向かっていると言っていた。
(ヴィンセントがあの身体になったのも宝条のせいだったな…)
何か因縁の様な物を感じた。
残された下水道で、デンゼルの声も耳に入らないかの様にマリンが泣いている。
「泣くなよ、マリン…」
デンゼルは途方に暮れていた。
心配なのは自分も同じだか、いつも聞き分けの良いマリンがなぜ…?
「大丈夫だよ、ティファもすっげー強いんだろ?」
デンゼルは戦うティファを見たことがない。
たまに、トレーニングをしているのは知っていたが、あの細腕でサンドバッグが
折れんばかりのパンチを繰り出すのを見ていたからだ。
「知ってるよ!」
マリンの強い口調に、デンゼルはたじろいだ。
だったらどうして…と聞こうとするが、マリンはぎゅっと唇を結んで開こうとしない。
(なんなんだよ、一体…)
途方に暮れて、ポケットに手を突っ込むと、指先に電話が当たった。
(ティファの事を報告しなきゃ…)
デンゼルはそれを取り出し、再びクラウドにかけた。
電話はすぐに繋がった。
「クラウド!ティファが…」
「どうした?」
「様子を見に行くって、出て行っちゃったんだ!」
クラウド、ハンドルを切り損ね、危うく転倒しそうになる。
「クラウド?」
「ああ…」
ひどく動揺している自分がいた。と、同時にティファならそうすると分かっていたのに、
何故注意しなかったのかと自分を責める。
「ティファは…子供の頃からそうだった。いつも自分の事は後回しなんだ。」
「クラウド…?」
クラウドが何を言っているのか分からず、デンゼルは鼻白んだ。
でも、泣いているマリンをどう扱えばいいのか分からない。
泣きたいのは自分も同じだ。クラウドに何か言ってもらいたい。
「クラウド、マリンが泣いてるんだ。ティファを心配して。」
一瞬、自分の思考に沈みかけたが、デンゼルの悲痛な叫びに現実に呼び戻される。
「デンゼル。ティファは俺が連れ戻す。信じろ。」
「分かった!」
はっきりと言い切ったクラウドにホッとして電話を切る。
「マリン!クラウドが大丈夫だって!ティファを連れ戻すって!」
膝を抱え、そこに顔を埋めていたマリンがゆっくりと顔を上げる。
「うそ。」
「マリン?」
「だって、この前、クラウド来なかった…」
「この前って…?」
「教会で…ティファが…やられてるのに、“クラウド!”って呼んだのに、来なかった…」
マリンが言っているのは1年前のセフィロスの復活の時の事らしい。
(それで…)
いつも聞き分けの良いマリンがと不思議だったのが漸く合点がいった。
「分かってるよ。ティファを信じなきゃ。でも…怖かったの。ティファが死んじゃうって。」
マリンは再び、膝を抱えるようにして顔を伏せてしまった。
連れ戻すと言っても、エッジの街はまだ先だ。
とりあえず電話をしようと思うが、ひょっとして今のティファは
自分からの電話に出ないのではないか?
それでも、今はそれしか方法がないのだ。
ティファの番号にかけてみる。が、呼び出し音が空しく耳に響く。
(頼む…出てくれ!)
手に力が入り過ぎて、携帯を握りつぶしそうだ。
不意に呼び出し音が途切れた。
「クラウド…?」
「ティファ!俺だ…今どこにいるんだ!?」
とりあえず出てくれた事にホッとして、安心した反動でつい大声になる。
「エッジの街の、端まで来てるわ。」
「なんでそんな所にいるんだ!」
「ごめんなさい…でも、ミミが気になる事を言ってたの。」
ミミの一言で今回の襲撃は、どうも神羅の何かが関係していると確信したのだと言う。
「だから…神羅ビルを探ってみようと思うの。ミッドガルに向かうわ。」
「ダメだ!」
ティファは小さく溜め息を吐いた。
「そう言って聞く私ではないのは、誰よりあなたが知ってるでしょう?」
「でも!」
その時、ティファの背後から何者かが飛び出して来た。
殺気を感じるそれに対し、ティファは振り向きもせず、
右腕に左手を添え、肘を鋭く後ろ向きに突き出す。
エルボーがきれいに入って、犬とも人間とも思えない
不気味な生物が「ギャン!」と悲鳴を上げて地面に落ちた。
ティファは戦闘不能に陥ったそれを見下ろし、再び携帯を耳に当てた。
「あなたが来るまでに出来る事をしておきたいの。」
「おい!ティファ!」
そこで電話が切れた。
電話が切れたあと、クラウドは電話を叩き付けそうになり、辛うじて思いとどまった。
クラウドはものすごく怒っていた。こんなに腹を立てたのは久しぶりだ。
何に腹を立てているのかというと、自分の言う事を聞かないティファと、
彼女を止めるどころか、まともに話すら出来なかった自分の口下手さと、
家族の危機に側に居ない間の悪い自分にだ。
「くそっ…」
1年前、教会で倒れていた彼女の姿を思い出し、スピードを上げた。
===================================================================
今宵はここまで。
明日から一足早いお休みなので、また書き溜めて投下に来ますね。ノシ
>>170-176 あれか、転送してくれた地図の事か!!
(はやまってたらゴメンナサイ)
ミミの発言がどう繋がっていくのかが予想できませんでした。
続き期待sage。
前提に
>>161-164 ----------
奥で電話が鳴っている事は分かっていた。彼女はカウンターで洗い物の最中
だった事もあり、受話器は取り上げられないまま電話はしばらく鳴り続けていた。
ティファは手を休めて様子を伺うように振り返ったが、呼び出し音が収まる様子は
一向にない。よほど緊急の依頼なのだろうかと内心で思いながら、あきらめたように
蛇口を閉めて簡単に手を拭くと、足早に階段を上った。
受話器を取り上げる前に深呼吸をする。いつもそうしていると言うわけではなかった
が、何かいやな予感がしたのだ。これと言って思い当たる節はなかったのだけれど、
こういう予感は得てして当たるのだと相場が決まっている。
しかし、鳴り続ける電話を無視することはできなかった。手を伸ばし受話器を取り
上げる。
「……はい、ストライフ・デリバリー・サービスです。当社はなんでも……」
決まり文句ではあったが、ティファが全てを言い終えないうちに電話の向こうにいる
相手の言葉が重なった。
「1件、ご依頼したい事があるのですが」
聞こえてきたのは、とても穏やかで落ち着いた口調の男性の声。一言一句ていねいに
発音されていて、なんだか聞いていると安心するような不思議な心地がした。
受話器を通して声だけを聞けば紳士的だったけれど、それだけに引っかかる。
「……どちら様ですか?」
相手に姿が見えないことを良いことに、ティファは思いっきり怪訝な表情を作って見せた。
自分が誰かも名乗らずに、話を遮ってまで一方的に依頼内容を話し出そうとするなんて、
電話の向こうにいるのはなんて傲慢な人物なのだろう、と。
「『ボクの事、忘れてしもたんやろか〜?』」
すると急に、緊張感を吹き飛ばすような間延びした声が返ってきた。こんな妙な口調を
する人物に心当たりは1人――いや、1匹?――しかいない。その愛くるしい姿が脳裏に
よぎった途端、ティファの表情は和らいだ。
「……覚えてますよ、部長さん」
少しあきれたように、だが電話の相手が知っている人物だと分かって内心で胸を
なで下ろしていた。
「……リーブです、お久しぶりです。覚えていてくれたんですね、嬉しいです。
お元気でしたか?」
「ええ。リーブさんもケット・シーもお元気そうで」
「『せやけど、あんま会う機会がなくて淋しいですわぁ〜』」
ほんの少しの間、ふたりは互いの近況について話をしていた。けれどそれは
本当に短い時間だった。先に話を切り出したのはティファだった。なぜ、リーブが
“ここ”に電話をかけて来たのか、やはり引っかかるのだ。
「ずいぶんお急ぎみたいですね?」
「先程はすみません。……では、さっそく本題に入らせていただきます。
今回、私があなた方にご依頼したいのは、ある物をある場所まで届けて頂きたい
のです」
「……“あなた方”って?」
『ストライフ・デリバリー・サービス』は、名前の示すとおりクラウドが始めた仕事
である。彼が不在の時にこうしてティファが電話応対をすることはあっても、彼女が
荷物を運ぶという訳ではない。手伝いたいとも思うが、この店の切り盛りで手一杯
だったからだ。
もちろん、それは仲間達の誰もが知っている。当然、連絡を取り合うリーブも
そのはずだった。しかし含みを持たせるような口ぶりに、ティファは首をかしげた。
「ええ、そうです。今回の依頼でお願いする物は、おそらく……クラウドさん
お一人の力では難しいものと思いますので」
ますます言っている事が分からなくなって、ティファは単刀直入に尋ねた。
「どこに、何を運べば良いんですか?」
するとリーブはあっさりとこう答える。
「“平和”を、“ミッドガル”まで届けて頂きたいのです。
……具体的な内容はまた後ほど。依頼、お受けして頂けると信じています」
その後リーブは自らの連絡先を告げた後、通話を終えた。受話器を置くと
ティファは大きく息をはき出した。どうやらティファの予感は当たりそうである。
そういえば3年前の旅の時も、こんな風にして半ば一方的に依頼を受けていた
ような気がするな――そんな風に思うと、少しおかしくなった。
(相変わらずなのね)
隣の部屋まで行きティファは自分の携帯を取り出すと、慣れた手つきで幼馴染みの
アドレスを呼び出した。4回目のコール音で彼とつながる。
「あ、クラウド?」
もちろん、この依頼を断る理由はなかった。
***
彼の携帯が鳴ったのは、ちょうど同じ頃のことだった。
油田の採掘現場から戻って一息つこうとしたところに、ちょうどタイミング良く着信が
あったこともあり、別に気にせず通話ボタンを押した。
「……お久しぶりです、バレットさん」
「んっ?!」
バレットは一度耳から携帯を離すと、彼の手には小さく見える携帯のディスプレイを
まじまじと見つめた。見覚えのある番号――ではない。いや、たとえ見覚えのある番号
だったとしても、彼は番号を登録していなかったのだ。
しかし、電話の相手は自分のことを知っている。そもそも知らなければこの番号に
かけてくる事もないのだが。
「だ、誰だ!?」
不信感を隠さず声に出したバレットに対し、電話の向こうの男もまた皮肉を口にする
のだった。
「『かつての宿敵や、覚えとれへんのか?』」
「け、ケット・シー!? ……っつーことはお前、リーブか!」
反神羅組織アバランチのリーダと、神羅カンパニー都市開発部門統括責任者。かつて
彼らは壱番魔晄炉爆破と7番街プレートの件を巡り、真っ向から対立していた時期も
あった。旅路を共にする中で、反目し時には激論を交わしながらも互いを知り、最終的に
北の大空洞では背中を預けて戦えるまでの信頼関係を築いた。当時のわだかまりは、
シスター・レイがバリアと共に砕いくれたのだ。
旅が終われば各々が進むべき道を歩き始め、自然と会うことも少なくなった。とはいえ
定期的な連絡を取り続けてはいたものの、何の前触れもなくリーブから唐突に連絡が
来るなんて。バレットにとっては予期せぬ出来事に、嬉しさと戸惑いを覚えたのだった。
「ようやく思い出して頂けた様ですね。改めてお久しぶりですバレットさん、お元気そうで
なによりです」
淡々と語るリーブに、バレットはくつろいだ体勢になりながら、こう切り出した。
「お前がかけてくるなんて珍しい事もあるもんだな。……どうせ、なんか魂胆でもあるんだろ?」
くだけた口調で言ってはいたが、わりと本心から出た言葉であることは間違いなかった。
そしてリーブは「ご名答」と、こちらもやはりくだけた口調で返すのだった。
「実は、折り入ってお願いしたいことがありまして……」
その言葉を境に、リーブの口調は先程までとは明らかに違い、一気に深刻さの度を
増した。バレットは思わず姿勢を正し、リーブが発する次の言葉に意識を集中した。
「……魔晄炉を、破壊して欲しいのです」
いったい何を言われているのか、理解するのにしばらく時間が必要だった。バレットは
姿勢を正したまま、瞬きすらしなかった。「もしもし?」とリーブの呼びかける声でようやく
我に返ると、素っ頓狂な声で問う。
「お前……今さらオレになに言って……」
「……正直、皮肉な話だとは思いますが」
小さくため息を吐く音が聞こえたような気がする。バレットが次の言葉を探している間に、
リーブは続けた。
「星のために……もう一度。あなたの力を貸して欲しいのです」
まるでアバランチとして活動していた頃の様に、壱番魔晄炉を破壊した当時の自分と同じ
事を今になって口にしたリーブの言葉と、その声を聞いた自身の耳を疑った。
「星のために、もう一度いっしょに戦ってもらえませんか?
……具体的な内容はまた後ほど。お引き受けして頂けると信じています」
その後リーブは自らの連絡先を告げた後、通話を終えた。ランプの消えた携帯をぼんやりと
見つめながら、バレットは大きく息をはき出した。
なぜ、今頃になって魔晄炉を?
魔晄炉はおろか、ミッドガルそのものが機能を停止してから数年が経つと言うのに。今さら?
疑問は頭の中をぐるぐると回るだけで、答えが出てくる気配はなかった。
それが癖なのか、バレットは無意識のうちに頭を掻いていた。しばらく考え込んだ末、意を決した
ように再び携帯の発信履歴を呼び出すと、通話ボタンを必要以上に力一杯押したのだった。
「おう、バレットだ!」
5回のコールでつながった相手に、これまた必要以上の大声で呼びかける。
もちろん、彼がこの申し出を断る理由はなかった。
彼らがミッドガルへと続く荒野に立ったのは、それから間もなくのことである。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティU<終>
--------------------
舞台:FF7AC〜DCFF7第2章
備考:FF7の飛空艇イベント(ウェポン近辺)を見てから、
DC12章のムービーを見ると、こんな展開を期待でき…なくもないかなと。
186 :
エッジ前哨戦:2006/02/25(土) 01:22:41 ID:fIyQppQX0
>>180-
>>185 投下リアルタイムで読めるなんて…
リーブとバレットの会話がすごく(・∀・)イイ!!です。
読んでいて溜め息が出ました。
自分、バレットがかつて魔晄炉を爆破して心に傷を負った事、
二人に確執(?)があったを失念してました。
全くの個人的な話で恐縮ですが、すごく凹んでいた所に
読ませて頂いたので、復活する事が出来ました。
自分も頑張ります。ありがとうございましたm(__)m
コテ付けました。訂正です。時間軸おかしくなってた_| ̄|○
>>173 × だが、今は一刻も早くミッドガルに辿り着き、ティファを止めることだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
あの時は間に合わなかったが、今度は間に合わせてみせる。
そして、ティファを思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。
○だが、今は一刻も早くエッジに辿り着くことだ。
(もう、あんな思いはごめんだ…)
そして、家族を思う一方で、何もかもが一度に動きだしたことに思いを馳せる。
>>178 「ご名答」
チラシの裏です。DC内でティファを操作して、地図確保とか、バレットを使って街の人を救出…
なんて混ぜてくれたら、うれしかったんだけどなぁ…と思って書いてます。
まだまだ、続きますが、どうぞお付き合い下さいませ。
ミッドガルに向かうとなると、まずは乗り物を確保しなくては。
乗り捨てられたトラックがあり、ティファは運転席によじ上る。
中には息絶えた運転手がハンドルに突っ伏していた。
(ひどい…)
ティファは眉を顰めた。足下から怒りが湧いて来る。
運転手をそっと抱き起こし、助手席に横たえてから
エンジンをかけてみるが、キーが空回りするだけだ。
(ダメだわ…エンジンも撃たれたのね)
それにしても、襲撃者は一体何が目的なのだろう?
ミッドガルのすぐ近くにあり、人工も多い街だが、
軍事的拠点というわけではない。
WROの基地ではなく、この街が目的なのは何故だろう。
ティファはここに辿り着くまで、たくさんの亡くなった人たちを見て来た。
大人も子供も関係なく折り重なって倒れていた。
街の制圧が目的ではないようだ。むしろこれはまるで、
(皆殺しが…目的みたい…)
自分の考えにぞっとした。背筋が寒くなる。
(早く…行かなきゃ。)
運転席を降りる前に、助手席を振り返る。
「あなたの…敵はきっと取るから…」
そんな事で、死んだ人間は帰って来ないのだが。
もう少し早く辿り着いていたらこの人は助かっただろうか。
自分の無力さに崩れ落ちそうになるのを必死で踏みとどまり、
車を探すためにティファはまた駆け出した。
次々と光るブルーのラインの入った戦闘服を着た兵士が
ティファに機銃を浴びせる。それを相手の懐に飛び込み、
掌打を浴びせ、足を払い、投げ飛ばし片端から倒して行く。
ふと攻撃の波が途切れた。息が上がるのを、呼吸法で整える。
如何に手練れとは言え数が多過ぎた。しかも、銃を持った相手だと
瞬間にダッシュして相手の胸元に飛び込んで倒さなければならない。
「ちょっと…なまってるかな?」
そう強がったた所に、頭上から何かが落ちて来た。
(な、何…?)
と、思った所で身体ごと何かに引っ張られて宙に浮いた。
(網…?)
落ちて来たのはがっしりとしたワイヤーで出来た捕獲用のネットだった。
振り向くと、蜘蛛の様な足を持った巨大な機械の塊がいた。
頭頂部からマジックハンドが出ていて、その先に自分はぶら下げられているのだ。
(油断した…)
歯痒さに奥歯を噛み締める。
ワイヤーを切ろうともがけばもがく程、身体に絡み付く。
身体の位置が定まらず、気が付けば頭が下に来ている。
(…もう、最悪ねコレ!)
自分の不甲斐なさをとりあえずネットのせいにする。
ふと機械の方を見ると、銃口が伸びて来て、ティファに標準をぴたりと合わせた。
銃口の奥にチラリと炎が見え、ティファは息を飲んだ。
(…クラウド!)
頭が下、足が上という不自由な体制で、
ティファは思い切り反動を付ける為に身体を揺する。
ゆらゆらと振り子の様に揺れるネットの中で銃口の火が
まさに飛び出さんとする瞬間を見極める。
(今だ…!)
さらに反動を付け、ネットごとジャンプする。間一髪で炎が足の下を通過する。
高熱で溶けかけた部分に手をかけ、引きちぎり、そこから辛うじて抜け出すと、
自分を捕らえていた忌々しい機械の塊の上に降り立ち、掌打ラッシュを浴びせる。
鉄板が、ティファの拳の形にどんどん凹んでいく。
蜘蛛の様な足の一本ががくん、と崩れた所で足下に飛び降り、
本体を片手で持ち上げると、高々とジャンプし、地面に叩き付けた。
バラバラに砕け散り、火を吹くそれの傍らに降り立つ。
「倍返しよ。」
そううそぶくと、スクラップとなった塊に見向きもせずにまた駆け出したのだった。
それにしても、ピンチの時になると彼の顔が過るのは、以前のままらしい。
彼は今頃、猛スピードでこちらに向かっているはずだ。
(でも、きっと、とても怒ってるだろうけど…)
入り組んだ路地を駆け抜け、南側の広場の手前で足を止めた。
物陰から様子を伺うと、『神羅』の文字の入ったカーゴに
たくさんの人が詰め込まれている所だ。周りを兵士が取り囲んでいる。
ティファにも今の神羅がここまでするとは思えなかった。
腹の底こそ分からないが、ルーファスを始めとする残存勢力は
今では『借り』を返す為復旧に全面的に協力していると聞く。
(でも…やっぱり怪しいわ。)
中には奇妙なヘルメットの様な物を被っているが、
ソルジャーの服装の者もいたからだ。
ティファはますます確信を深めた。
そして、現状をどうすべきか頭を巡らせる。
今、飛び出して戦うと、街の人を巻き込んでしまう。
大きなプロペラを付けた巨大なヘリコプターが
街の人を乗せたカーゴを積み込み、どんどん飛び立っていくのを
物陰に隠れて見ているだけだ。
またもや自分の無力さにティファは唇を血がにじむほど噛み締めた。
不意にティファのいる反対側の道路からジープが走って来た。
乗っているのは家族連れのようだ。後ろから、さっき倒したのと同じ、
奇妙な生物ービーストソルジャーが追いすがる。
ティファはすぐにこちらに走ってくるジープに向かって駆け出した。
必死で運転していた父親は思わず悲鳴を上げた。
後ろからは得体の知れない獣が追いかけて来て、
正面からは人間が突っ込んできたからだ。
思わず目を閉じ、急ブレーキを踏む、と、正面の人物は
走っている車のフロントにとん…と両手をつくと、
まるで跳び箱でも飛ぶかの様に軽々とジャンプしジープを飛び越えた。
かと思うと、掌拳で一匹目のビーストソルジャーを吹き飛ばした。
掌拳の勢いで身体を回転させると、残り1匹を鮮やかな回転蹴りを喰らわす。
飛ばされたビーストソルジャーは壁に叩き付けられ、ずるずると地面に滑り落ちた。
蹴り飛ばされた方は宙に舞い上がり、即座に地面に叩き付けられた。
着地したティファはすぐにジープに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
乗っていた家族は父親と母親、そして二人の女の子だった。
何が起こったか漸く理解した父親はすぐにティファに礼を言った。
「街の外に逃げようと思ったんだが…周り中、銃を持った兵士ばかりで…」
「私の家に下水道に続く隠し扉があります…
そこに近所の人みんな避難してもらってるんです…そこへ行って下さい。」
ティファはそう言うと、ポケットから鍵を取り出し、父親に渡した。
「入り組んだ路地なので車では行けませんが…
ここに来るまでの敵は残らず倒しました。だから子供連れでも大丈夫です。」
「倒したって…あんたが一人で…?」
ティファは曖昧に微笑む。
「もうすぐ救援も来ます。でも、急いで。」
ティファは店の場所、隠し扉の位置、3回ノックのルールを伝えた。
「でも…鍵をもらっちゃったら、あんたが入れないんじゃ…」
横にいた母親が心配そうに尋ねる。
「もう一つ鍵を持ってるの。だから心配しないで。」
それと…私、どうしても行かなきゃいけない所があるの。
このジープを借りてもいいかしら?」
7th Heavenに向かう家族を見送り、ティファはホッと息を吐いた。
一人でも多く助けられる事が前に進む活力を与えてくれるのだ。
鍵を渡してしまったが、心配ない。
(そう…鍵はもう一つあるの)
もう一つの鍵は、フェンリルのキーにぶらさがっているはずだ。
クラウドはきっと来てくれる。だから、鍵は一つでいいのだ。
ティファはジープに飛び乗ると、エンジンをかけた。
そして、街から臨む魔晄キャノンを一睨みすると、
「首を洗って待ってらっしゃい!」
そう呟いて、アクセルを乱暴に踏み込んだ。
おお、いいねえ!
ハラハラの展開
新作いっぱいキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
頭上でノックと、鍵が回される音が聞こえ、マリンはハッと顔を上げた。
「ティファ!」
マリンはすぐに立ち上がって、地上へのはしごに駆け寄り、デンゼルも後に続く。
ティファが戻って来てくれたことと、これでマリンも落ち着くだろうと思い、
少し気が軽くなる。だが、降りて来たのは見知らぬ家族だった。
呆然とする二人に、
「あんたら…あの髪の長い女の人の知り合いかい?」
デンゼルが頷く。マリンは呆然として、それすら出来ない。
「逃げてる途中であの人に助けられてね。ここに来るようにって、鍵をもらったんだ。」
父親の方が鍵をデンゼルに渡す。
「ティファ…は?」
「行かなきゃならないところがあるって…私達のジープを貸してあげたんだよ。」
二人はいかにティファが強かったか、どれだけ感謝しているかわからない、
と語るのがデンゼルには誇らしい。
が、マリンの口がどんどんへの字型になるのが気が気でない。
その時、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
デンゼルは救われた気がして、話が終わらない家族連れと、マリンに、
ご…ごめんなさい…ちょっと見て来ます!」
そう言って、慌ててその場を離れた。
泣いているのはミミが抱いてる赤ん坊だ。
「どうしたの?」
「デンゼル…ミルクはあるんだけど…水が足りないの。」
ティファはちゃんと非常用キットを用意していてくれたのだが、
避難する人数の方が多過ぎた。
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、
少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、子供らしい冒険心と、
何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて、
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!リーブ局長に許可ももらって、訓練だって出てるんだ。
見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。
「様子を見て、危ないようならすぐに戻ります。」
「デンゼル!」
「マリン…」
デンゼルはマリンの手を取った。
「一緒に行くぞ!」
「え…?」
「怖い?」
びっくりして、まんまるになった目がデンゼルを見つめ返す。
やがてにっこりと笑うと、大きく頷いた。
「うん!待っているのはもうやだ!待つのはきらい…一緒に行く!」
二人はしっかりと手を繋ぐと、心配気な大人達を後目にはしごに向かった。
おつです!つづきまってます
乙コール下さったみなさま、ありがとうございます。
まだまだ続きますが、投稿人、書くのが楽しくて仕方がないので
どうぞもう少しお付き合い下さいませ。
週末DCをクリアして、ぜひミッドガル地上戦も書きたいと思うのですが、
ゲーム内だけだといま一つ背景が分かりにくく、お話が膨らみません。
投稿人としては失格ですが、「この時は誰々はこうしてた」とか、
アイデアや、ヒントを頂けたらと思います。(特にシド)
それをこの場でしてもいいのか、それとも該当スレがあるのか、
それともスレを立てねばならないのか、アドバイスを頂けますでしょうか。
>>エッジ前哨戦
息絶えたドライバーの描写が重たくて。だから逆に、次に描かれる
戦闘シーンの力強さになってる印象で良かったです。
ただ、デンゼルとリーブが面接(“On the Way to a Smile”の舞台)は
DCから1年後…(…だったと、自分も再読して気づいたクチですがが)
>>187地上部隊操作できたらDCは自分にとって神ゲーになってたと思うw
その意味で、前哨戦は読んでてとても楽しいので、続き期待sage。
>>200 展開にハラハラドキドキしてすごく面白いです。
続きが楽しみすぎ(0゜・∀・)wktk
ほ
レス下さったみなさま、ありがとうございますm(__)m
>>201 >地上部隊操作できたらDCは自分にとって神ゲー
ナカーマ(*・∀・)人(・∀・*)
そして、ご指摘ありがとうござます。
慌てて読み直しましたが、3回音読してどこにその記述があるのか
気付かないあほたれですortドコナノー
>>202 誘導ありがとうございます。あちこちのスレを回って、
ヒントがないか探してみます。その前にこちらを終わらせますね。
>>195-196>>199>>203 ありがとうございますm(__)m週末までに書き溜めて、
どどんと投下する予定ですので、それまでどうぞお待ち下さいませ。
>>205 小説の冒頭に
「四年前、ライフストリームが地中からあふれ出した時」
との記述がある。
ACはゲーム本編から二年後、DCはACから一年後(本編から三年後)
つまりOWSデンゼル編はDCから一年後ということになるかと。
207 :
バッツ:2006/03/01(水) 02:16:31 ID:yH/Ysgox0
保守age
>>206 ありがとうございます。
冒頭にあるのに気付かないこの目は節穴…
目玉くりぬいて、代わりに銀紙入れて逝って来ます…ort
FF12発売も近いし保守は頻繁にしておきますよ
>>148-150 >>170-176 >>198から続きます。
一方、ティファは、物陰から神羅ビルを伺っていた。
アバランチ時代のお陰で迂回路を知っているとはいえ、
発見されずに辿り着けたのは奇跡に近い。
しかも大多数はエッジに進軍中で、人影もまばらだ。
(ツイてる…)
それでも地下から兵士や兵器ロボットが断続的に出て来るので、
侵入は裏からにする事にする。
(こういうの、ユフィの方が得意なんだろうけど…)
クラウドには探って来ると言ったものの、巨大な神羅ビル跡地の
どこを重点的に探ればいいのか見当も付かない。
もう一度ビルを見上げ、上層部は崩壊がひどいし、
大量の行方不明者が出た地下がやはり怪しいだろう…くらいは分かる。
(後は成り行き任せ…かな?)
とりあえず、裏口を前まで来ると、一瞬にして過去がよみがえった。
長い長い階段、ナナキとの出会い、プレジデントの死…
(そして、エアリス…)
ここには、エアリスを助ける為に来たのだ。
(もうあなたに甘えられないんだよね。)
エッジからもミッドガル…特にこの魔晄キャノンはよく見えた。
それは日常の風景の一部となっていたが、
こうしてその足下に立つと、3年前の戦いがまざまざと思い出された。
でも、それは感傷ではなかった。
彼女の事を思い出すと、自然に力が湧いて来た。
立ち止まらず、前に進まなければと思う。
今なら誰が来ても負ける気がしない。
(安心して、エアリス…私たちが、必ず守るから。)
裏口には兵士が二人立っていた。
ティファが飛び出す。まるで弾丸のようだ。たちまち機銃が火を吹く。
それを軽く身体を捻ってかわし、あっという間に敵の胸元に飛び込む。
一人をドルフィンブロウで倒し、ジャンプした勢いでもう一人を蹴り倒す。
倒れた兵士のポケットからカードキーを取り出し、扉横の端末に差し込んで開けた。
1フロア降りた所に壁一面にいくつものモニターがあり、
そこに指令書らしき物がいくつか表示されていた。
ティファは手前にある端末を操作し、指令書がどこから出てるのかを探る。
(もう…!また間違えた…)
どうにか指令書の出所を突き止めた。
(でも…ここじゃないわ。ここで中継されてるから…)
端末の操作にはあまり慣れていないので、時間がかかる。
「お手上げだわ。」
指令書は出所を探られない様に、いくつかのサーバーを経由しているようだ。
「とりあえず、この中継地点まで降りてみることね。地下12階か…」
エレベーターを使うか、階段を使うか迷う所だ。
(確か…階段にはカメラもついてなかったわよね。)
だが、地上フロアと地下フロアが同じ施設だとは限らない。
迷った末、階段を降りる事にした。
狭いエレベーターの中だと動きが制限されてティファにとっては不利だからだ。
(上るよりマシ…ね。)
帰りの事はあまり考えない様にして、ティファは非常階段を降り始めた。
マリンとデンゼルはそっと音がしないよう、扉を開けて床下に出た。
床板はしっかりとはめられていて、子供でも屈むくらいのスペースしかない。
「ねぇ、デンゼル、どうするの?こんな大きな板、持ち上げられる?」
「ダメだよ、持ち上げたら上の椅子が倒れて、音で見つかっちゃうよ。」
「そっか…じゃあ、どうやって出るの?」
「前に店の周りを掃除して見つけたんだ。反対側から表に出られる所があるんだ。」
デンゼルが先に立って四つん這いのまま進むのに、マリンも続く。
「そこから一旦外に出て、店の入り口から入るしかないよ。」
外に出ると聞いてマリンが驚く。
「大丈夫なの?」
「ほんの2〜3メートルさ。マリンが見張ってくれてる間に、
俺が走って店に入る。で、水を汲んですぐに戻って来るから。」
うん、とマリンが頷く。
「え〜っと…」
現在地のおおよその見当をつけ、デンゼルは更に床下を進み、マリンが後に続く。
「うん、ここだ。」
床下の、湿気を逃がすための通風口がある。
メッシュ状になったそれの内側から外の様子を伺う。
道路、屋根の上…デンゼルは怪しい奴がいないか、何度も確認する。
「大丈夫だ。」
そして、網戸を外すと、外に出て、もう一度周りを見渡すしてから床下のマリンを手招く。
マリンも頷いて立ち上がると、デンゼルに続く。
二人は忍び足で店の入り口から中に入ると、鍵を閉めた。
「はーっ…」
二人同時に大きく息を吐く。やはりドキドキしたが、無事に中に入れた。
冒険が成功した様な気持ちになって、顔を見合わせて笑った。
「早く水を。」
「うん!」
マリンが床に落ちた割れた食器の中から、プラスチック製の保存用容器を拾うと、
デンゼルがそれを受け取り、蛇口を捻る。が、肝心の水が出ない。
「水が…止まってる…」
ミネラルウォーターを探したがない。汲み置きの水もない。
でも、このままでは戻れない。
(でも…どこに水があるんだよ!)
幼い二人は途方に暮れてしまった。
「デンゼル!地下よ!」
「え…?」
「ボイラーの中なら、お水が残ってるんじゃない?」
以前、お湯が出なくなった事があって、地下室に置いてあるボイラーを
クラウドが直してくれたのをデンゼルも思い出した。
「あのお水を、湧かしてあげたらいいんじゃない?」
避難キットの中に携帯用のコンロがあったはずだ。
「よし!汲みに行こう!」
喜び勇んで二人は駆け出し…そして…つい、いつものクセで
扉をバタン!と強く閉めてしまった。
ドキドキしながら続き待ってます。
デンゼル、マリン、頑張れ!
地下室には保存のきく食料や、酒や飲み物の瓶がきちんと整理して置かれている。
ボイラーは高さ2m程の筒状の物で、下の方に中の水を抜く為の蛇口が付いている。
二人はすぐにそこに取り付き、捻ろうとすると、錆び付いて動かない。
(クラウドは簡単そうに開いてたのに…)
デンゼルはポケットから花柄のハンカチを取り出すと、蛇口にかけ、力一杯捻る。
「だめだ…」
「デンゼル!」
マリンがクラウドの工具箱を持って来た。
自分が守ってあげなくてはいけないのに、さっきからマリンにフォローして貰ってばかりだ。
(しっかりしなくちゃ…!)
「ありがとう。」
デンゼルはそれを受け取ると、蓋を開ける。色々な形の工具がきちんと収められている。
バイクの整備をいつも横で見ていたので、工具の使い方なら分かる。
錆(さび)を落とすスプレーをかけ、ペンチで挟んで動かすと、勢いよく水が出て来た。
それを、マリンがタイミング良く容器を差し出し、溢れない様に入れる。
8分目くらいで蛇口を止めると、しっかりと蓋をした。
「よし、行こう!」
工具を直しかけて、ふと金づちが目に入った。
大丈夫だと思う。けど、
(何かあった時のために持って行こう。)
その“何か”が何なのか深く考えず、軽い気持ちでポケットに入れた。
が、それを使う機会はすぐに訪れる事になった。
地下室を出て、店と住居スペースの間の扉を開けた途端、
腕がニュッと伸びて来て、首に巻き付いた。
「やはり居たぞ!」
「デンゼル!!」
後に続いたマリンが悲鳴を上げる。
首を締め付けられ、息が苦しい。必死でもがきながら周りを見ると、
店の中に4〜5人ほどの銃を持った兵士がいた。
“デンゼル、扉は静かに閉めなさい!”
こんな時に、ティファのお小言が思い出された。
残りの兵士達が銃口をマリンに向け、じわじわと距離を詰める。
デンゼルの頭にも銃口が押し付けられている。
身体が震えて、歯がガチガチする。息が苦しい。怖い。
マリンは少しずつ後ずさるが、すぐに背中が扉に当たって、動けなくなる。
(マリン…!)
守らなきゃ!デンゼルは歯を食いしばると、ポケットから金槌を取り出し、
自分を抱えてる兵士めがけて思い切り振り上げた。
「ぎゃっ!」
と、悲鳴がし、同時に手に“ぐしゃり”と嫌な感触が伝わった。
それが、骨が砕けた時の物だと理解した途端、恐怖が身体中を駆け抜けた。
兵士は倒れ、デンゼルも自由になったが、腰が抜けて立てない。寒気がする。
「うわああああああ!」
デンゼルは思わず金槌を放り出し、叫んだ。
(ほっ…骨が…っ…ひ…ヒトが壊れた…っ!)
マリンに向かっていた兵士達が一斉にデンゼルの方を向き、銃口を向ける。
自分に向けられた、直径3センチ程の筒が、デンゼルにはまるで大砲の様に見えた。
ちょっと時間が空いたので保守がてらの投下です。
デンゼルのWRO隊員の件は訂正しようと思ってますので、暫くお待ち下さいませ。
どう直そうか、辻褄合わせ中です。ご指摘下さったのに、対応が遅れてごめんなさい。
>>218 乙!
すごくハラハラしてしまった…
ラストのデンゼルの動揺がいいね。
デンゼルのWRO隊員はみんなを安心させるためについた
その場しのぎの嘘だよね?
デンゼルは面接の時には既にリーブを知ってたから面識はあるはず。
最初に会ったのがDC後か前か分からないけど。
220 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/03(金) 18:37:01 ID:mQnblHqkO
保守
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217から続きます。
「マリン、逃げろ!」
それだけ叫ぶのが精一杯だった。
マリンが駆け出す。銃口がマリンに向かう。
デンゼルは兵士の一人に体当たりするが、軽く払われてしまい、
床に倒れ、後頭部を思い切り打ち付けた。
鈍い痛みで気が遠くなりかけた。それでも必死に目はマリンを追う。
逃げたと思ったマリンは、なんとデンゼルが放り出した金槌を拾っている。
「マリン、やめろ…!」
叫んだつもりが、声は微かなものだった。
兵士を殴った時のあの感触…あれはとてつもなく恐ろしく、嫌な物だった。
だから、マリンにあんな事をさせてはいけない。
起き上がって止めたいのに、身体が言う事を聞かない。
クラウドはティファの所だ。ここにはいない。
マリンは金槌を拾い上げると、兵士達を睨み付けている。
今にも飛びかかりそうだ。危ない。
(誰か…!)
その時、ガトリング銃が店の中に撃ち込まれた。
カウンターの後ろの棚に無数の弾痕が出来る。
と、同時に赤いしなやかな体躯の者が、割れた窓から飛び込んで来た。
店の中に降り立ったその者は、デンゼルも良く知る、
赤い、豹の様な、虎の様な不思議な生き物だった。
(な…ナナキ…?)
ナナキはマリンを狙う兵士達に飛びかかると、その喉笛にかぶり付く。
と、同時に店の扉が乱暴に開き、飛び込んで来た
バレットが右手の銃で残りの兵士を一掃する。
飛び込んで来たナナキに気を取られていた兵士達が
次々と倒され、7th Heavenに静寂が戻った。
「大丈夫か!?」
マリンは金槌を取り落とし、バレットにしがみ付く。
バレットはマリンを軽々と抱き上げると、しっかりと抱きしめる。
「父ちゃん…!」
「もう、大丈夫だ。怖かったか?」
マリンは気丈にも首を横に振る。が、瞳にいっぱい涙を溜めている。
「よく、頑張ったな。」
そして倒れてるデンゼルに歩み寄る。
「デンゼル…?」
「頭を打ってる。しばらく動かさない方がいいな。」
鼻先をデンゼルの顔に押しつけ、容態を診ていたナナキが答える。
「分かった。」
助かったんだ…そう思うと、力が抜け、
デンゼルはあっとうい間に意識を手放した。
ザワザワとした人の気配がして、デンゼルは目を覚ました。
下水道から、避難していた人が次々と出て来ているのだ。
思わず跳ね起きた途端、ずきん、と頭が痛んだ。
「デンゼル、大丈夫?」
マリンが心配そうに覗き込む。ずっと側にいてくれたらしい。
「起き上がるなら、ゆっくり。頭を打ってるんだ。急に動いちゃいけないよ。」
不意にナナキが顔を覗き込んだので、デンゼルはびっくりして後ろ向きに
倒れかかったのを、なんとか肘を着いて堪えた。
「驚かせたかい?」
デンゼルはふるふると頭を振る、と、余計に頭がずきずきと痛んだ。
「もう暫く、大人しくしているんだ。気分が悪くなったり、吐き気がしたらすぐに言うんだよ。」
「分かった…ありがとう、ナナキ。」
すると、ナナキは頭を少し傾げ、
「覚えていてくれてうれしいよ。それに、その名前で呼ばれるのも好きなんだ。」
そう言い残して、バレットを手伝うために表に出て行った。
入れ違いにバレットが入って来た。
「マリン、先に車に乗ってろ。」
マリンは不満げにバレットを見上げる。
「大丈夫だ。デンゼルを怒るワケじゃねぇ。少し、話しておきたい事があるだけだ。」
「本当に叱らない?」
「俺がマリンとの約束を破ったことがあるか?」
バレットは義手でない方の手を、マリンの小さな頭に乗せながら言う。
「たくさん、あるよ!」
バレットはがっはっはと豪快に笑うと、
「そうだったか?でも、デンゼルを叱ったりしない。男同士の大事な話だ。」
マリンはぷぅっと頬を膨らませたが、しぶしぶ立ち上がると表に出て行った。
「…ごめんなさい。」
バレットの顔がまともに見れなかった。
「俺…俺も何かしたかったんだ。役に立ちたかったんだ。みんなを守りたくて…」
バレットは口を挟まない。
「マリンが…ずっとティファを心配して泣いてるから…ずっと泣いてたんだ…
だから、なんとかしてやりたくて…でも、俺…俺のせいでマリンを危ない目に
合わせちゃった…俺、頑張ったけど、全然敵わなくて…」
「一人、やっつけたじゃねぇか。」
その言葉に、デンゼルはびくんと身体を震わせ、
自分を自分で抱きしめる様にして身体を縮こませた。
「やっつけても、ちっともうれしかねぇだろ。」
デンゼルはハッとなって、バレットの顔を見る。怒ってはいない。
「戦うってのは、そういう事だ。血が吹き出して、骨が砕ける。キレイごとじゃねぇ。」
デンゼルは黙って頷く。
「それが分かれば、十分だ。いいか、デンゼル、自分より強いヤツと戦うな。それは、卑怯な事じゃねぇ。」
デンゼルはまた頷く。今ならバレットの言っている事がいやという程、理解出来た。
「よし、もう“お痛”はするなよ?」
「…ごめんなさい。」
バレットはデンゼルをそっと抱え上げると、デンゼルに笑いかけた。
「謝ってもらわなきゃなんねぇのは、クラウドとティファだ。アイツら、マリンを置いてどこに行ったんだ?」
「ティファは…様子を見に行くって。」
「どこへだ?」
「分からない…クラウドはティファを連れ戻すって。」
「それっきりか?」
うん、と頷くデンゼルに、バレットは思わず掌で顔を覆ってしまった。
「ナニやってんだ、アイツらは…。」
>>215 ありがとうございます。この二人のエピソードは
>>152-153さんのお言葉で思い付いたんですよ。
>>152-153さんにも感謝。
>>219さん
フォローありがとうございます・゜(つД∩)゜・。
いくら正当防衛でも、人を傷つけたら動揺しますよね。
子供ならなおさら…と思って。
わくてか保守
うわ本気でハラハラしながら読んでたよ…GJ!
バレットたち来てくれてよかった。
たくさん、あるよ!ってマリンらしくていいなw
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224から続きます。
非常階段に監視カメラはなく、ティファはなんなく地下12階まで降りる事が出来た。
ここまでは楽に来れたが、ここからはそうはいかない。
踊り場からフロアに抜ける重い鉄の扉をほんの少しだけ開き、中の様子を伺う。
やはり、監視カメラがあった。
だが、天井に設置されたそれを破壊する術をティファは持っていない。
飛び蹴りや、何かをぶつけるにしても、音で見つかってしまう。
仕方がないので、カメラが反対側を向いている間に飛び出し、その真下の壁にぴたりと張り付く。
反対側を向いたカメラが戻って来て、今度は180度逆を向いた隙に、
ティファは向かいにある部屋に飛び込んだ。
最初に入った部屋より広いだけでほぼ同じ作りだ。壁一面のモニターと端末。
「ここね…」
ティファはモニタの側に駆け寄ると、片端から指令書を読んで行く。
どれも、最初の部屋で見た物と同じだ。
他のファイルを開こうとしてみたが、パスワードがかかっている。
パスワードを解析したり、いくつものサーバーを経由されているルートを探る技術がティファにはない。
ここまで来て、手詰まりかと思った所で、最後のモニターに見覚えのないファイルが開いている。
おそらく、閉じ忘れたか、見ている途中で席を外したのか…
(やっぱり、ツイてる…)
ティファは携帯電話から薄型の記録メディアを取り出すと、
カードリーダーに差し込んだ。地図のファイルを別名保存して、移す。
データーを移動させている間に、地図を見てみると、
「ディープ・グラウンド…?何かしら?」
端末を操り、地図をどんどん開いていく。
(いくつもエレベーターを乗り継ぐのね。もっとずっと地下…)
データーを移し終えた所で静まり返った室内に携帯の呼び出し音が響いた。
着信を見るまでもない。
良いタイミングで電話をくれたと、ティファは着信ボタンを押した。
話は少し戻って。
怒髪天を衝くとはまさにこの事、状態のクラウド。
ティファを説得する言葉が浮かばず、考えれば考えるほど、
(1)ティファの気持ちは分かる。
(2)でも心配。
(3)心配なのが何故分からないんだ。
(4)いや、ティファの気持ちを理解すべきだ。
(5)でも心配。
を、頭の中で延々繰り返し、自分の怒りに自分で油を注いでしまい、
まるで興奮剤でも飲んだかのようだ。
いつも自分を待っていてくれる者がどれだけ不安を抱えているのか知る由もなく、
それに振り回され、持て余していた。
(何を考えてるんだ…こんな時に!)
クラウドは軽く頭を振り、冷静さを取り戻そうとする。
そして、改めてティファ説得の言葉を考えるのだが、
そうするとまた思考ループに逆戻りしてしまうのだ。
彼の名誉の為に補足させてもらうが、ティファの心配ばかりをして、
決してマリンやデンゼルの事を忘れているわけではない。
子ども達は大人しく避難しているものだと思い込み、
そこから抜け出しているなんて、彼の想像の範疇外の出来事なのだ。
ともあれ、なんとか言葉を整理し、要点をまとめた所でミッドガルの廃墟が見えて来た。
まずはティファの居場所を確認しなくては…と、電話を手に取る。
今度はすぐに繋がった。
「クラウド?私も今かけようと…」
「ティファ…!今どこだ!?」
めったに聞けないクラウドの怒鳴り声に、ティファは少々面食らったものの、
「神羅ビルの地下よ…地下の12階。聞いて、クラウド!
本拠地への地図を手に入れたの。ここの地下が怪しいわ。」
まだ冷静になりきれないクラウド、ティファの言葉は右から左だ。
「ティファ、今、ヴィンセントがこっち向かってる。」
「ヴィンセントが?どうして?」
(どうしてって…)
ティファの返事がクラウドを再びパニックに陥れる。バレットとの会話が洪水となって頭に渦巻く。
自分なりに整理した言葉が浮かばず、どうしてだか、情報を整理して筋立てして話す事が出来ない。
「ティファ、これは彼の戦いなんだ。」
唯一思い出す事の出来たセリフを言う。
「やはり神羅が…宝条が絡んでるのね?奴の研究か何か…」
「そうだ。WROとの総力戦になる。だから…」
「分かったわ。」
ティファの察しの良さのお陰でなんとか伝わったのだが、
ティファが漸く自分の言う事を聞いてくれたことに、クラウドは胸を撫で下ろした。
「あと少しでそっちに着く。だから…」
言いかけた途端、電話の向こうで機銃の音がして、電話が途切れた。
「ティファ?ティファ…っ!」
叫んでも、ツーッという無機質な音しか聞こえてこない。
その時、クラウドの中で何かがプツンと切れる音がした。
>>227 ありがとうございます。
素直に頷かせようか迷いましたが、マリンならこうかなと
悩んだ末に言わせたのでうれしいです。
ほとんどラストまで書き終えましたが、あと少しと推敲が残ってます。
本日の投下は以上なのですが、明日には完結すると思います。
あと、もう一度だけお付き合い下さいね。ノシ
乙です!毎回ハラハラさせられっぱなしです(゚∀゚)
いよいよ完結してしまうんですか。早く読みたいけど、終わってしまうのは淋しいですね。
続き、楽しみにお待ちしております。
>>エッジ前哨戦
すごく興味深かったのが、ACでバレットはデンゼルに「ここで母ちゃんを守れ!」と
言っていることを受けてのデンゼルの行動描写(
>>224)があったと解釈すると、バレットが
すごく良い味出してるなと思います。守るは守でも、人を傷つけずに守る方法があるのだと。
……元テロ組織のリーダーが言う台詞じゃありませんw
(主には)FF7本編でのバレットの経緯(魔晄炉爆破→ダイン再会→最終戦前決意表明)
があっての台詞なんだなとしんみり。
WROの解釈としては、既出のデンゼルの子どもらしい優しさの裏返しっていう解釈と、
ボランティア機構(小説作中にもちらっと登場していた)を踏まえてみてもいいんじゃないかな、
なんて。
そんなわけで、なんか予想外にバレットに萌えたw
GJ!
前話:
>>180-185 設定:依然としてOn the Way to a Smile(AC公式サイト小説)で描かれるリーブ象をお借りしてます。
舞台:DCFF7第1章@WRO本部かどっか
備考:DCFF7第1章教会前広場へ至るまでの経緯を妄想。
BC未プレイのため、ここでは考慮の対象外になってます。
----------
遠い昔。もうとっくに忘れてしまったはずの、幼い頃の記憶。そんなものが、
ふとした拍子によみがえる事がある。
私の手には今、ライフルが握られている。我々を乗せたトレーラーは敵が
展開するカーム市街の中心へ向けて走行していた。扉を背にし、いま一度
装備を確認する。
『目的地点到達まで、およそ2分30秒。総員、出撃に備えてください』
無線からもたらされる音声に、自然と身が引き締まる。護身用の拳銃なら
まだしも、こんなライフルを手にしたのは神羅勤続時代に訓練と称して持た
されて以来の事だった。
――「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
ましょう。」
それは幼い頃に読んだ本の記述だった。そんなものが、今になって思い
出された。なぜ? よりにもよってこんな時に思い出さなくてもいいものだろうと、
リーブは大きく頭を振った。
カーム市街中心部は、すぐそこに迫っていた。
***
「もう少し柔軟性が欲しいな……」
腕立て伏せをしながら彼女は独り言をつぶやく。さすがに息を切らしてはいた
ものの、両腕はしっかりと彼女の身体を支えていた。ことさら左側の腕が気に
かかるらしく、その後も念入りに関節の屈伸運動を何度も繰り返した。
しばらくすると、気になったのか額にうっすらにじんだ汗を右手でぬぐう。そして
僅かに安堵した表情で。
「……発汗機能はまだ正常だな」
確認するようにつぶやいた。
WRO――世界再生機構の技術部門研究室。白衣を身にまとって何をしている
のかと思えば、端から見れば筋トレそのものだった。確かに、彼女の過去をたどれば
根っからの研究者という訳ではないのだが、それにしても、わざわざ研究室で
やるような事ではない。
彼女の名前はシャルア=ルーイ、技術部門きっての天才科学者と名高い女性で、
同時に歴戦の勇士だった。目の前に立ちはだかる敵こそ違えど、ある目的のために
10年以上も戦い続けてきた経歴を持っている。
「……訓練施設や相応の設備を用意しているのですから、研究室でそんなに動き
回らなくても良いと思うのですが」
そんな彼女にまるで愚痴でもこぼすようにして言いながら、男はこの研究室の扉を
くぐった。彼の来訪をシャルアは予期していたとでも言うように立ち上がると、
引き出しの中からキーを取り出し男に手渡しながらこう言った。
「性分なんでしょうね、きっと」
「……そうおっしゃるだろうとは思いましたが」
やれやれと言いたげな、けれど悪意のないにこやかな笑顔を向けるのはWRO局長
その人だった。
「ところでお体の具合、いかがですか?」
「相変わらず。生きている、と言ったところです」
素っ気ない返答にもリーブは笑顔を絶やさないままだった。こういう物言いは彼女らしい
と、そんな風に思う。彼女の人柄を表した、いっそ殺風景とも思える室内を一通り見渡した
ところで、彼の表情から笑みは消えた。
机の上に、補給用の弾と拳銃を見たからである。
「……どちらへ?」
「これから派遣される部隊のトレーラーに便乗させてもらおうと考えています」
「…………」
それを聞いて彼女がどこに向かうのかは分かった。彼女が外出する目的も、その理由も
知っている、だからリーブはそれ以上追及することはなかった。正直に言ってしまえば、
追及したくともできないというのが本音だろう。
渡されたキーを懐へしまう。
「あちらの情勢はカーム以上だと聞いています」
「ご心配には及びません。終えたらすぐに戻ります」
直接的な言葉を向けてもすぐ返されてしまうだろうし、かといって口に出さないまま、
と言うわけにもいかない。その葛藤の中でようやく出たのが、この程度の言葉だった。
ため息をつきたい気分だった。そんな彼の姿を見て、シャルアは皮肉混じりに言って
みせた。
「……やっている事はお互い同じようなもの、そうではありませんか?」
中途半端に言葉を向ければ、こんな風に手厳しい指摘を受けるのは最初から予想できた
はずだったのに。
「同じかも知れませんが、方法が違います」
しかも口をついて出たのは子供じみた言い訳だったのが、我ながら情けないと思う。
「それはそうでしょう。同じ方法で見つかるものではないですからね」
「…………」
互いが、互いのことを責めていると言うわけではないのだけれど。どうにもこういう
雰囲気には慣れない。先に切り出したのはシャルアだった。
「局長の方はいかがなんですか? 該当のIDは……」
先程手渡したキーは、WRO本部のメインコンピュータが納められている部屋の
ものだった。あれだけの規模でなければ、彼の目的である“捜し物”はできないことを
シャルアは知っている。復興活動の片手間に、彼が密かに取り組んでいた“捜し物”に
手を貸そうと思ったのは、シャルア自身にも覚えがある感情のためだった。もちろん、
それを悪いことだと思いはしないし、たとえ思ったところで自分に彼を責める資格は
ないだろう。
「検知システム自体が壊滅的な被害を受けていますからね。今となってはほとんどが
使い物にはなりません」
「それでも、調査を?」
「性分なんでしょうかね」
そう言って、リーブは自嘲気味に笑った。
当時、管理されていた何万とある住人のIDから探し出そうとしているのは、たった1つ。
しかもミッドガルそのものが破壊され、検知システム自体が機能していない現状で、
そのIDにたどり着ける確率は限りなくゼロに近い。それでも、やらなければ可能性はゼロ
のままである。万に一つでも可能性があるのなら、やらないわけには行かない。
そのIDの所在が分かれば、彼女のいる場所を突き止めることができる。
あるいは「いた」場所が。
だからこそ、リーブはシャルアを追及しようとはしないし、できないのである。手早く
身支度を調えるシャルアの後ろ姿を見ながら、気休めにしかならないかとも思ったが
言葉をかけた。
「カームで彼と合流した後、私たちもエッジへ向かいます。……彼ならきっと、あなたの
力になってくれるかも知れません。ですから……くれぐれも」
最後にシャルアは拳銃をしまうと、珍しく微笑んで見せた。
「ご心配には及びません。局長こそお気を付けて」
短くそれだけ言って、シャルアは部屋を出た。
***
(私は今でも、大人にはなりきれていない。そういうことでしょうかね)
誰にも気づかれぬよう俯いて、やはり自嘲するように笑った。
『目的地点到達まで、55秒。現在、市街中心部にはディープグラウンド
ソルジャーが展開中』
無線からもたらされる情報には、どこにも楽観できる要素はなかった。
来るべき戦闘に向けて集中しなければならない、そのはずなのに。
――「モンスターに出会ったら、すぐに逃げましょう。そして大人に知らせ
ましょう。」
『目的地点:カーム教会広場前付近にドラゴンフライヤーGLの機影を確認。
予定進路を変更、目的地点到達まで1分30秒』
その声を聞いて、トレーラー内の隊員に緊張が走る。想像している以上に
事態は深刻だった。
沈黙。
そこには開戦前の、一種の高揚感が満ちていた。衝撃に備え、各々が壁際に
身を寄せ衝撃に備える。予告通りの時間が過ぎると、めいっぱいブレーキを
踏み込んでトレーラーは停車した。同時にそれが扉の開かれる合図でもあった。
一斉にトレーラーから飛び出し、銃弾の雨が降り注ぐ教会前広場へと飛び出
した。その中で、広場に彼の姿を見いだしたリーブは叫んでいた。
「……ヴィンセント!」
その声に分かったと頷いて、彼もまた身を翻すと広場中心部へ向けて走り出した。
彼らの後ろ姿を見ながら、リーブは引き金を引いた。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティV<終>
----------
・へたれとか他力本願とか言うな。…言わないでくださいお願いします。
・ID検知システムネタをどうしても使ってみたかった、今は反s(ry。
・シャルアはどの分野での学者かは不明なので都合解釈。すんません。
いつも乙&GJです!
DCの世界がますます広がります。
「俺、汲んで来るよ!」
「だめ!」
いつの間に側に来たのか、マリンが叫ぶ。
「危ないよ!絶対にだめ!」
でも、泣いてる赤ん坊を放っておけないし、泣き声で見つかってしまうかもしれない。
「すぐ上の、店の厨房だし平気だよ!」
大人達も口々に止めるが、 少しでもクラウド達の役に立ちたい気持ちと、
子供らしい冒険心と、 何よりも泣いている赤ん坊を守ってあげたくて。
「大丈夫!俺、こう見えてもWROの隊員なんだ。」
訝しげな大人達の顔をぐるりと見渡し、デンゼルは努めて明るい声で続ける。
「本当だよ!訓練だって出てことあるんだ。見つからないように…すぐそこだし、大丈夫!」
実際は何度かボランティアとして参加しただけだった。
だが、これくらい言わないと、大人達が納得しないと思ったのだ。
「確かに、今のところ怪しいやつらはいなかったけどねぇ…」
ティファに助けられた家族の、母親の方が呟く。
>>232 いつも読んで下さってるんですね、ありがとうございます。
終わっても他にもネタがあるので、また投下に来ますね。
>>233 デンゼルを諭すのは、口下手クラウドでは無理かなと思って彼に任せました。
バレットは戦いを通じてと、その後で変わったんじゃないかと思ってます。
デンゼルの件もアドバイスありがとうございました。
どう直そうかテンパってたので、アドバイス下さった皆様(
>>233>>219>>206>>201)
ありがとうございます。
では、ラストの投下参ります。10スレ越えちゃいますが、どうぞ最後のお付き合い願います。
>>148-150 >>170-176 >>197-198>>216-217>>221-224>>228-230から続きます。
ティファが振り返ると、入口の所に紅い髪と紅い瞳の女が立っていた。
気が付かなかったのは気配を消していたからか。
アーチェリーのような、不思議な武器を持っている。
女は艶然(えんぜん)と微笑んでいるが、瞳はぞっとするほど冷たく、
その身から放つ殺気で、ティファの肌が粟立つほどだ。
電話は壊されてしまったが、カードを入れる前で良かった。
ティファはカードをポケッとにしまうと、ファイティングポーズを取る。
「泥棒猫が入り込んだって聞いて来てみたけど…」
女はティファを値踏みするかの様に見つめ、ふん、と鼻で笑う。
「あなた、強いの?」
「あなたよりはね。」
ティファの答えに女は甲高い声で笑うと、手にした武器をティファに向けた。
「ロッソと呼んで。ディープ・グラウンドでは“朱のロッソ”と呼ばれてるわ。」
ティファはそれ以上答えず、ゆっくりと息を吸い込む。と、床をスライディングして足払いをかける。
と、ロッソは目にも止まらぬスピードで部屋の反対側に移動する。
それを追って、ティファは壁を蹴って、ジャンプし、頭を狙って回し蹴りをする。
ロッソはそれを屈んで躱し、弓形の剣をティファに振りかざす。
紙一重で避け、避けたつもりが、すぐにまた斬りつけられた。
ティファは壁に手をつき、宙返りしてそれを避けた。
「へぇ…やるじゃない…」
ロッソは眉をぴんと跳ね上げ、楽しそうに言う。
「楽しめそうだわ。」
何度か組み合うが、連続した攻撃と、長い得物のお陰で
ある程度の距離を保たなければこちらがやらられる。
おまけに、地面を走る真空波は机や柱の影に隠れてもそれを貫いてティファに襲いかかる。
接近戦を得意とするティファには戦い辛い相手だ。
相手もそれを心得ているのか、ティファには決して近付こうとしない。
「もっとゆっくり遊びたいけど…エッジに向かう様に言われてるの。
私達が追っている獲物が来るらしくて。」
(獲物…?)
クラウドが、ヴィンセントがこちらに向かっていると言っていた。
「それって、まさか…!」
問い詰めようとした時、ずん…と地響きがした。
地下だというのに、建物が大きく揺れ、天井からパラパラとホコリが落ちて来た。
地響きと揺れは断続的に続き、ますます激しくなる。床が揺れて立っていられない程だ。
「な…なんなの?」
ロッソも不思議そうに、天井を見上げる。
不思議な事に、地響きの音はどんどん大きくなり、
それがだんだんと近付いて来るのが分かる。
しかも、それはティファの立っている背後の壁の方から聞こえて来る。
そして、ティファは地響きの間に、微かに聞き覚えのあるエンジン音を確かに聞いたのだ。
(クラウドなの!?)
振り返ったティファが見た物は、壁に入った×字型の切り込み、
大音響と共に崩れて行く壁、その瓦礫の中から黒いエナメルの様に光るフェンリルと、
見慣れた大きな剣、その間から見える金色の髪。
「クラウド!」
クラウドは剣を右手から左手に持ち代えると、ティファに差し伸べた。
ティファも手を差し出す。が、その手が空しく空を切った。
クラウドは確かに自分を見つけたはずだ。なのに何故?
不思議に思ったその瞬間、伸びたクラウドの手が腰に回って、引き寄せられた。
(え…?)
気が付くと、クラウドの顔がすぐ真上にあった。
ティファは咄嗟にクラウドにしがみついた。
獲物を横取りされたロッソが雄叫びをあげ、真空波を放つ。
クラウドはそれを左手の剣で難なく弾き返すと、
軽く剣を放り上げ、右手に持ち替え、左手をハンドルに置いた。
そして、片手で楽々と前輪を持ち上げ、元来た方に方向転換し、
アクセルを全開にして走り出した。
その時になって、ティファは漸く自分の身に何が起こったか、
クラウドがどうやって地下まで降りて来たのかを知ったのだった。
(あの地響き…やはりあなただったの…)
呆気に取られて、ティファはクラウドを見上げる。
最短距離を進むため、壁と言う壁を破壊し、狭い通路を剣で切り崩しながら来たようだ。
そして自分はと言うと、フェンリルのタンクの上に座らされ、クラウドの胸の中に居る。
このままだと窮屈だし、クラウドも運転しにくいはずだ。
自分を後部座席に移すようにと口を開きかけた時、
目の前を大剣が塞ぎ、同時に弾丸が弾き飛ばされた。
あちこちから機銃を浴びせられるが、全てクラウドの剣が跳ね返す。
(そっか…)
どうやら弾丸を避ける事は出来ても、弾き返す事が出来ないティファを守っているらしい。
(ピンチの時に…来てくれたんだ。)
ティファはうっとりとクラウドを見上げ、地上までこの窮屈さを受け入れることにした。
エッジとミッドガルを見下ろせる丘まで来ると、
クラウドは漸くバイクを停めた。
ゴーグルを外すと、やにわにティファの両肩を掴んだ。
「ティファっ!」
やはり…と言おうか、ティファの予想以上にクラウドは怒っていた。
こんなに怒った彼を見るのは初めてではないか。
あまりもの剣幕に、ティファはびくんと肩を竦め、
おそるおそるクラウドを見上げる。
「ごめんなさい…心配をかけて…」
クラウドは眉を顰め、ティファの肩から手を離すと、フェンリルから降りてしまう。
無事だと分かったのに、何故こうもイライラするのだろう。
ティファは慌ててクラウドの後を追う。
しかし、クラウドはティファを振り向きもしない。
イライラと足下の石を蹴飛ばしたりしている。
「でも…私がこうする理由を一番良く知っているのは
クラウド、あなたでしょう?」
ティファの言葉に漸くクラウドが振り返る。
「分かって欲しいの…もし、また何かが起こったら、私は同じ事をするわ。
だって…そうしなきゃならないんだもの…分かるでしょ?」
クラウドは頭を振って、顔を伏せる。
ティファの言いたい事は分かる。分かり過ぎる程だ。
だが、大きな怪我すらないものの、身体中、火傷や擦り傷、
あざだらけの彼女を見ると、自分で自分を抑える事が出来ない。
改めてティファの顔を見ると、真っすぐにクラウドを見つめている。
その瞳はクラウドがどんなに言葉を尽くしても、
その意志を覆す事は出来ないと語っている。
「…強いな、ティファは。」
クラウドに言えるのは、それだけだった。
「…行こう。マリンとデンゼルが心配だ。」
声が沈んでいた。納得したというよりは、
打ちひしがれているようだ。
もし、またエアリスの様にティファまで失ってしまったら…
ここに来て、漸くクラウドは気が付いた。
ミッドガルに向かっていた時の焦燥感、あれは、
(また、同じ事が起こるんじゃないかって…俺は怖かったんだ…)
不器用なこの男は、自分の想いにも気付くのにも時間がかかるのだ。
しかしティファに戦うなと言うのは、
彼女の生きていく為の理由を否定する事になる。
誰よりも大切で守っていたいのに、
それを止める資格すら自分にはないのだ。
(…やりきれないな。)
クラウドはフェンリルに跨がると、エンジンをかけた。
一方ティファにもクラウドの気持ちが痛い程分かった。
毎日彼の身を案じて帰りを待っている時の不安…
でも、行かないでとは言ってはいけない。
(それに…私だって、自分だけ安全な所には居られない。)
自分の犯した罪と、死んでしまった大切な友の為に。
お互いを一番大切に思っているのに、
どうすることも出来ないのだ、私たちは。
でも、それだけに捕われてはいけない。
今の彼を放っておいてはいけない。
きっとあの戦いで一番辛かった事を思い出しているはずだ。
「クラウド。」
ティファに呼ばれ、沈み込んでいたクラウドが顔を上げる。
「私…頑張ったんだよ。何度も危ない目にあったけど。」
ティファが何を言おうとしているのか分からず、
クラウドはぼんやり彼女を見つめる。
「その度にね…クラウドって、心の中で呼んでたの。だって…」
“約束したよね”そう言いかけて、ティファも口を噤んでしまった。
こんな事を言えば、ますます彼に負担をかけるだけだ。
「ごめん…何言ってるんだろ、私…」
ティファは気まずさを照れ笑いでごまかし、
慌てて後部座席に座ろうとする。
その手を、思わずクラウドの手が掴んだ。
「こっちだ。」
そして、またあの窮屈な燃料タンクの上に座らされてしまった。
「クラウド?」
「…どこから弾が飛んで来るか分からないからな。」
ゴーグルを着けながらそう言うと、
後はティファの顔を見ようもしない。
だが、ティファはよく知っている。
素っ気ない態度の時は照れているだけだ。
あの混乱の最中でも、回された腕はとても優しかった。
「ピンチの時に、来てくれてありがとう、クラウド。」
クラウドは聞こえないふりをして、フェンリルを走らせた。
「おっせぇーんだよっ!」
エッジの街の入り口まで戻った所で二人を
真っ先に出迎えたのはバレットの怒声だった。
その横にはバレットの乗って来たトレーラーが停まっている。
運転席からマリンが飛び出して来た。
「ティファ!」
ティファは膝を屈め、駆け寄るマリンを受け止め、強く抱きしめた。
「ごめんね、マリン…心配した?」
「したよ、すごく!」
「ごめん…ごめんね…」
「ティファ、デンゼルがね…」
言いかけたマリンの頭に、バレットが手を乗せる。
「マリン。その話は後で俺がする。」
「デンゼルがどうしたの?」
「心配ない。」
これ以上の質問を許さない、素っ気ない表情だった。
バレットはフェンリルの側に立ち尽くし、
ティファとマリンをぼんやり眺めていたクラウドに詰め寄る。
「クラウドぉー!」
「遅れてすまない。」
「子ども達を置いて、どこへ行ってた?」
「それはティファが…」
「それはいい!」
クラウドは、じゃあ、何を怒っているんだと言いたげな顔だ。
「なんで俺に電話の一本も寄越さねぇんだ?
俺はてっきりお前の方が先に着いてると思ってたぜ。」
そう言われて、クラウドは自分の失態に気が付いた。
最初の電話でお互いにエッジに急行する事になっていた。
なのに、デンゼルからの電話で戦火に見舞われている街を放って、
ティファ一人の為にミッドガルに向かったのだ。
「俺は…!」
言いかけて、クラウドは叱られた子供の様な顔になり、黙ってしまった。
(なんだよ、調子狂うじゃねぇかよ。)
バレットはやれやれと溜め息を吐く。
「バレット…私がいけないの。私が勝手な事をしたから…」
ただならぬ様子を察してやって来たティファが
必死にクラウドをフォローする。
「おい、お前ら…勘違いするなよ。
お前らがいた所で、街が救えたなんて思うな。」
バレットは乱暴にクラウドの背中を叩く。
「俺はただの石油掘削業者で、お前もただの配達屋だ。
自分の女房助けに行ったって、誰も責めたりしねぇ。
だがな、今からまた俺達のリーダーをやってもらわなきゃなんねぇんだ。
こんなくだらねぇ連絡ミス、やってもらってちゃ困るんだよ。」
「リーダー…?」
クラウドが訝しげな顔で聞き返す。
「あちこちでWROの基地や街が襲われてる。
リーブの野郎が残存勢力を集めて、ミッドガルに再結集させてくれと言ってきた。
前にも言ったが、俺はその器じゃねぇ。
シドは飛空艇を束ねてるし、リーブはWROから動けねぇ。お前しかいねぇだろ。」
バレットはニヤリと笑うと、再びクラウドの背中を叩く。
「空はシド、地上はお前だ。どうだ?」
「ただの配達屋にリーダーをさせるのか?」
クラウドが呆れて言うと、バレットは大声で笑う。
「お前は断れねぇよ。なぁ、ティファ?」
「もちろん引き受けるわよ。ねぇ、クラウド。」
がさつで、乱暴なバレットの心遣いだった。
クラウドはお手上げだ、という風に肩を竦める。
「…分かった。」
ティファとバレットは顔を見合わせて笑う。
「ところで、私はただの居酒屋経営者だけど、
もちろん連れて行ってくれるわよね?」
ティファの笑顔が眩しくて、クラウドは目を細めた。
「もちろんだ。」
ティファは満足げに頷いた。
「じゃあ、早速リーダーに報告といくか。」
バレットは少し離れた所で様子を見ていたマリンを呼び寄せる。
「マリン、奴を呼んで来てくれ。」
マリンは頷くと、トレーラーに向けて駆け出した。
トレーラーの扉を開け、中に何やら声を掛けると、ナナキが降りて来た。
ナナキはうれしそうにクラウドとティファの元に駈けて来る。
「久しぶりね、ナナキ。」
ティファは屈むと、ナナキの顔を覗き込む。
「こんな時だけど、会えてうれしいよ、ティファ。」
意外な仲間の登場にクラウドの顔も綻ぶ。
「街の人たちに話を聞いてみたんだけど、
街外れの大きな倉庫にたくさんの人が集められてるらしい。
WR0の部隊が救助に向かっている。オイラ達が頼まれているのは、
残存勢力をまとめること、避難した人を安全な所まで運ぶことだ。」
クラウドは膝を折って屈み、ティファと同じ様にナナキの目線に合わせる。
「安全な場所…どこか心当たりがあるか?」
「コスモキャニオンがいいと思う。」
「あそこは、学者連中が知恵を寄せ合って、
ちょっとした要塞みたいになってるらしい。
地の利もいいし、マリンやデンゼルを預けるのにちょうどいい。」
バレットが口を挟む。
「WROの基地は、あちこち走り回ってるお前の方が詳しいだろ。」
クラウドは頷くと、フェンリルに置いてある地図を持って来て、
それぞれがどこへ向かうか指示を出した。
バレットとナナキが子ども達を避難民を連れてコスモキャニオンに向かう。
ナナキはそのままコスモキャニオンの守りに就き、バレットはそのまま
大陸の北側の基地を周る。クラウドとティファはその反対側だ。
「出発前に、お前らに言っておく事がある。」
バレットはデンゼルとマリンの身に起こった事を二人に話した。
ティファは気絶せんばかりに驚き、クラウドも青ざめ、言葉を失った。
「あいつらには、俺がお灸を据えておいた。だから気にすんな。」
「デンゼルは今、眠っているよ。大丈夫、オイラがついてる。」
出発前に会いたいという二人の言葉を、バレットは撥ね付けた。
「マリンの側に居なかったのは、俺も同じだ。
勝手に飛び出したデンゼルには帰ったらお尻でも叩いてやれ。」
男の子にはよくある事だからな、と言われても二人はいたたまれない。
「おら、さっさと行くぞ!」
ろくなフォローもないまま、バレットは
さっさとトレーラーに戻ってしまった。
途方に暮れる二人をレッドは見上げ、
なんと声を掛けたものかと考える。
「クラウド…オイラ、今、身体が二つあればって思うんだ。
でも、一つしかない。」
二人は黙ってナナキの言葉に耳を傾ける。
「一人で出来る事には限界がある。
だから、仲間がいるんだろ?バレットは、
二人共、一人でなんとかしようとするから、
水臭いって怒っているんだと思うよ。」
バレットは少し変わったよね、ナナキはそう付け足した。
確かに、以前の彼ならマリンを置いていったというだけで
怒鳴り散らされていただろう。
相変わらず義理人情に厚いが、直情直行なだけではない。
クラウドはもう一度膝を折り、ナナキの頭に手を置いた。
「ありがとう、ナナキ。子ども達を頼む。」
ナナキが頷く。
トレーラーから バレットがさっさと行けと叫んでいる。
「オイラも行くよ。ヴィンセントに気を付けてって。」
二人の顔に漸く笑顔が戻り、手を振ってくれるのを確認すると、
ナナキはトレーラーに向かって駆け出した。バレットがやかましく
叫んでいる運転席の横にするりと身体を滑り込ませる。
「何を話してたんだ?」
「うん、少しね。」
「余計なこと、言ってんじゃねーぞ。」
バレットはキーを回し、エンジンをかける。
「父ちゃん、ティファとお話出来ないの?」
マリンは不満そうだ。
「いいかぁ、マリン。アイツらはああやってすぐ飛び出しちまう。
飛び出しちまうもんはしょうがねぇ。
だがな、飛び出しても帰って来るのは、マリンやデンゼルが居るからだ。」
「でも…待つのは嫌い。」
沈んだ声だ。
マリンは隣に座るナナキの頭を抱き寄せ、柔らかい毛に顔を埋める。
バレットは慎重にアクセルを踏む。
後ろで眠るデンゼルや大勢の避難民を思っての事だ。
「待つ方が、飛び出してくよりキツいからな。
だがな、待ってやれ。そうでなきゃあいつら、どこへ行っちまうか分かんねーぞ。
まったく、子供におんぶされてるなんざ、情けねぇやつらだ。」
乱暴な言い方に、マリンはくすりと笑う。
「そうなの!マリンがついてなきゃ、ティファもクラウドもダメなの!」
バレットは目を細めて愛娘の顔を見て、
「まったくだ!」
そうして、また豪快に笑うのだった。
フェンリルの後部座席に跨がったティファが重大な事を思い出し、
それを伝える為にクラウドの背中を叩いた。
「私もリーダーに報告したいことがあるの。」
ティファは神羅ビルで出会ったロッソの事をクラウドに話した。
「理由は分からないけど、“獲物”と言っていたのは
ヴィンセントの事じゃないかしら。」
「そいつが何故ヴィンセントを狙うんだ?」
「そうね…今展開しているWROの部隊の事かも。
でも、ロッソはエッジに向かうとも言ってたし、
手強い相手だから知らせておいた方がいいわ。
とても…嫌な感じだったわ。
人を傷つけるのを楽しんでる…そんな感じ。
ヴィンセントなら大丈夫だと思うけど。」
確かに…とクラウドが電話を取り出し、ヴィンセントにかける。
「近付いちゃダメなの。離れて攻撃した方がいいって。
やっかいな真空波の事も伝えて。」
クラウドは頷き、ヴィンセントが電話に出るのを待つ。
「だめだ…出ない。」
「そう…」
「WROの隊員に伝言を頼もう。」
「携帯も調達してもらえる?」
ポツン、と頬に何かが当たり、クラウドは空を見上げた。
「雨…」
「急ぎましょう。」
しかし、この後エッジのWROの部隊は全滅。
彼らの伝言がヴィンセントに伝わる事はなかった。
そして、彼らが再びミッドガルに終結するのは、まだもう少し先の事だった。
おわり。
クラウドがティファをバイクに乗せるシーンは、投稿人が夢見がち故です。
あんな狭い所にティファが座れるかとか、熱くてとても座ってらんねーぞとか、
そういうツッこみは、ここに関してだけはどうかスルーよろしこです。
乙コールや感想下さった方のお陰で最後まで書けました。ありがとう。
もっとあらすじみたいにざくざく書くつもりでしたが、
>>152-153さんのお言葉で、いい意味で火が点きました。
その分、長くなってしまいましたが、最後までお付き合いありがとうございました。
お気に召して頂けたかは分かりませんが、書いている方はとても楽しかったです。
ミッドガル地上戦は書けるかどうか分かりませんが、また何か投下に参りますね。
256 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 19:39:06 ID:4K6UcQstO
>>254 乙です!
本当に最高でした。
読んでてこんなに引き込まれてしまったのは久しぶりです。
>>254 すごく面白かったです。
この作品に出会えて良かったです。どうもありがとうございます。
>>254 乙です。読みながらハラハラしたり楽しかった。
デンゼルやマリンの様子も描かれててばっちり補完できました。
バレットもクラウドもティファも味がでていて良かったです。
>>234-238も◆BLWP4Wh4Ooも乙。
DCの行間を補完してくれるような話が読めて良かった。
相変わらず文章が巧いよね
>>254 乙です、おもしろかったです。
戦闘描写もよかったと思います。読めてよかった、ありがとう。
>>234サンのリーブさんのお話の続きも楽しみにしてます。
262 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 13:25:44 ID:QXByAnGQ0
たくさんの乙コールありがとうございます。
『クラウドはティファの王子様』願望炸裂だったので、
引かれてしまったらどうしようかとヒヤヒヤしておりました。
もうすぐ12発売ですが、そうなるとスレは落ち易くなると聞きました。
こまめに投下した方がいいのかな?
264 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/07(火) 02:48:51 ID:JHaFSSIJO
保守ついでに。
7好きとしては作品大量でかなり楽しませてもらってます。作者さんたち乙です。
それから前スレ未完の作品も続き待ってます。
仕事忙しくなった_| ̄|○週末に投下に参りますね。
>>エッジ前哨戦
乙、そしてGJ! 最後まで読んでてすごく楽しかった。
何より嬉しいのがナナキ。DCにはほとんど登場しなかった彼の根拠をちゃんと
埋めてくれているのが嬉しくてうれしくて。クラウドがバイクで登場するシーンは
本編のビル脱出を彷彿とさせるし、剣で弾をはじく描写も格好よかった。ちゃんと
約束を意識しているところも素晴らしい!
あえて注文をつけるなら(この辺は7好き者のわがままと言うことで許して欲しいw)
>>252の「どこへ行っちまうか分かんねーぞ。」は「帰ってくる場所が分からない」
って方を強調した方が良かったかも知れないかな、なんて思ったり。(決戦前夜の
ティファの台詞・状況と対比させる意味でも)読んだ一個人の意見ということで、
聞いていただければ幸いです。
長々すんません。新作にも期待。
前話:
>>234-238 舞台:DCFF7第7章@シエラ号艇内
備考:ネタバレ有り(6章のアレが前提)なので、
DC未プレイの方は読まない事をおすすめします。
----------
彼女にとってそれは10年ぶりに向けられた笑顔、あるいは純粋な微笑みだった
のかも知れない。そしてその微笑みは、彼女の心の奥に閉ざされた大切な何かに、
ほんの少し。だが、確かに触れた。
(これは、……"誰の"記憶の断片……ですか?)
少女は心の中で誰にとも分からないまま問うのだった。
***
彼が去ってしばらくしてから再び背後でドアが開く音がしたが、彼女は振り返ろう
ともしなかった。こちらに敵意や悪意が向けられていないことは、気配だけで大凡の
見当はついた。だから振り返る必要はないと判断して、ひたすら目の前のディスプレイに
流れる文字を追いかけながら、手元に並んだキーボードの上でせわしなく指を動かし
ている。タイピングの音と、機械から出る僅かなノイズだけが、この小さな空間を満たし
ていた。
飛空艇シエラ号の艇内で、そこは姉妹に割り当てられた部屋だった。所狭しと
壁際に並んだ計器類やディスプレイに加え、納められたたくさんの機械類を
一手に引き受けているのは、まだ外見は幼く見える妹のシェルクだった。
姉はと言えば、彼女の後ろで静かに身を横たえている。
(…………)
流れていく文字の速度が徐々に緩やかになり始めた頃、少女は顔を上げると
ようやくディスプレイから視線を離した。静かに息を吸い込むと瞼を閉じる。彼女は
無意識のうちに、酷使していた視覚神経を少しでも休ませようとしていたのだろう。
目の前にある端末にSND――センシティブ・ネット・ダイブ――を実装するための
処理にはもう少し手を施さなければならないが、とりあえず山場は超えた。常人から
すればとてつもない作業量と、理解を超える処理だったが、少女にとってはこの
10年間の「日常」だった。
正確には「日常」を維持するための手段――過酷な環境の中で生き残る術に
他ならない。できれば二度と思い出したくない地底での記憶は、それでも脳や精神は
おろか身体をも蝕んで、この先もずっとついて回るのだろう。
――データとして削除できるのならば、いっそのこと消し去ってしまいたい。
目を閉じたまま少女の指はゆっくりとキーボードの上をたどった。入力されることの
ない文字列は、プログラムコマンド“削除”の意味を表している。
(…………)
自分のとった全く意味のない行動に、少女は目を開けて自身の指を見つめながら
心の中でつぶやいた。
(バカみたい)
『ほんまにスゴイんやな〜……』
「!」
唐突に足下から聞こえてきた声に、最小限の動作と最短の時間で少女は驚き
を表そうとしたが、どうやら相手にそれは伝わっていなかったようだ。
『邪魔してもうたかな?』
そこに立っていたのは、誰かと同じように赤いマントを靡かせ、頭に小さな王冠を
乗せた“猫”だった。しかも二足歩行の。少女の知る限り、猫という動物は四足歩行の
はずだ。いやそれ以前に、猫は人語をしゃべらない。それにこの妙なしゃべり方は
一体なんだ?
そんなことを考えてしまい、少女は思わずその“猫”見つめた。視覚から得た
その姿と、少女が知識として持っていたデータに合致するものが見つかった。
(ケット・シー)
だが、あくまでもデータだ。そのもの自体と接触するのは今回が初めてだった。
観察するように、それをじっと見つめる。動作を見ていても敏捷性や機動性に長けて
いるとも思えないし、攻撃力や防御力があるようにも見えない。貧弱というよりは
非効率的だというのが、ケット・シーに対する第一印象だった。
『や〜、そんなん見つめられたら照れてまうわ』
そう言って、ケット・シーは首を傾げ、しっぽを大きく振って微笑んだ。
(!)
しかしその姿を見ていると妙な、とても妙な感じがする。――これは、どういうこと
だろう? 不可解、奇妙、怪訝、不審――少女の中で、まるでデータベース化された
ように並ぶ感情の中から検索を試みた。しかし合致するデータが見つからない。
こうして少女がケット・シーを食い入るように見つめていると、今度は頭上から
声がした。
「作業の片手間で結構ですので、少しお尋ねしてもよろしいですか?」
「構いません」
この男は知っている。リーブ=トゥエスティ。元神羅カンパニー都市部門統括に
して、現在はWRO<世界再生機構>の局長たる人物。そして……。
(ケット・シーの操縦者)
つまり彼女にとって「ケット・シー」は単なるロボットだった。もちろん、その認識が
外れているわけではない。しかしこの妙な感覚は何だろう?
迷走を続ける少女の思考をよそに、リーブは話を始めていた。
「これから行われる作戦会議の際、ケット・シーの見た内容もこちらから併せて
転送したいのですが、可能でしょうか?」
「…………」
予想外の質問に、少女は男を無言で見上げた。何を言っているんですかこの人は?
と、彼女の目が言っている。
「私、なにか妙なことを言ってますか?」
すると声に出していないはずなのに、男は少女の問いに適切な返答を寄越してきた。
そのことに僅かばかり驚きもしたが、気にせず話を進めた。
「ネットワークを介さずとも、直接あなたの口から説明した方が早いのではないですか?」
「そうですね……ですが、私の口では説明できない部分があります。それを、
データとして転送して頂きたいのです」
「それは?」
「…………」
黙り込むリーブを、少女はじっと見つめていた。少し待ってみたが、今度は
返答がなかった。
『おっさん、口ベタやねん』
かわりに答えたのは、足下にいたケット・シーだった。
このふたり――1人と1匹?――を見ていると、とても効率が悪い。そう思って
少女は視線をそらす。
(なぜ、リーブ=トゥエスティは自らの口を動かして語らない?)
そのことが少女には理解できなかった。だからかも知れない、珍しく苛立って
いるような気がした。
『けどな、わいの口からも説明でけへんねん。……あんな、シェルクはん』
「なんですか?」
名前を呼ばれて少女が再びケット・シーに視線を戻す。
『想いを伝えられるのは、言葉だけやないねん……いんや、言葉じゃ伝わらん
モンもあるねんで?』
ケット・シーはしっぽを振ることをやめ、じっとこちらを見つめていた。相変わらず
にこやかな笑みを貼り付けたままではいたけれど。
「それがたとえ、どんなに強い想いでも。……そして、どんなに辛い記憶でも」
ケット・シーの言葉を引き継ぐように今度はリーブが語り出す。ひとつひとつの
言葉を噛みしめるように、ゆっくりと。
「もともとケット・シーは遠隔操作のできる偵察用ロボットとして開発された技術を
搭載しています」
『せや、わいはオモチャやさかい』
対照的にケット・シーはおどけた口調で相づちを打つ。
「ですが、ケット・シーにはふつうのロボットには搭載されていないものが積み
込んであります」
「それは?」
彼らに誘導されている様な気はしたが、それでも少女は尋ねた。
「……“感情”です」
リーブがそう言ったとき、初めてシェルクは彼と真正面から向き合った。思っていた
より、ずっと穏やかな表情をしていた事に気づく。
シェルクは視線を足下におろすとケット・シーを見つめた。最初は人工知能の類だ
ろうかと考えた。少女の思考に重なるようにして、リーブの声は続く。
「ケット・シーに蓄えられたデータは私の記憶を介して蓄積されています。ですから
……ここにいる前のケット・シーのデータも、彼はちゃんと引き継いでいるんですよ」
『今でも占い、できるんやで〜』
ふたりの視線を受けて、ケット・シーが手をかざして自慢げに胸を張って見せる。
「しかし、ケット・シーを通して私が見たものを、私から他の方に伝えるには限界が
あります。それが言葉です」
他者にものを伝達する手段であるはずの言葉が、それを阻害するというのはどう
いうことだろうか?
「言っていることの意味が、よく分かりませんが」
突き放すようにして少女は問い返すと、再びディスプレイと向き合った。よく分からない
ことを、これ以上だらだらと聞かされたくなかったからだ。
「……あなたも」
背を向けた少女にリーブの姿は見えなかった。ただ、耳に届く声の反響で、
彼が後ろを向いたことは分かった。
少女の座る後ろで、姉はカプセルの中に横たえられている。彼女がいつ
目覚めるのかは分からない。目覚める時が訪れるのかすら分からなかったが。
姉は――シャルアは、それでもそこにいた。そして彼女をここへ運んだのは、
他ならぬこの男だった。
アスールから逃げ延びた後、あの場所へ戻ったこの男は、シャルアを回収した。
閉ざされた扉の向こうで、どんな酷い姿をしていただろう? 考えたくもなかった。
自らの危険も顧みずに、しかも生死の定かでないものを回収してきたこの男の
行動が、シェルクには理解できなかった。
理解できない行動をとった男の話など、いくら聞いても分かる訳がない。そう
思っていても、話は続く。
「あの場所で……見たことを説明はできるでしょう。しかし……」
そっと、リーブはカプセルに手を伸ばす。両者を分かつ、今となっては決して
超えることのできない隔たりに触れながら、
「あそこで感じた想いを……どれだけ人に伝えられますか? どんな言葉を使って、
どう語れば、全てを伝えられますか?」
絞り出すように、リーブは言葉を発した。
――「遅くなって、ごめんね。」
「残念ながら、私にはその方法が分からないのです」
あのとき“見ている”事しかできなかった自分の感じたものは、伝えなくても良い
のだろうと。しかし、妹との再会をひたすら願っていた彼女の姿を、この目で見て
いたはずなのに、それを伝えることもできなかった。そして。
――「今でも、大好き……。」
彼女を、失った。
かけがえのない仲間を、目の前で。
----------
>>268 乙!深みがあってひきこまれた。
リーブ(ケットシー)がかなり良いっす。
276 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 15:28:14 ID:3G4XtJEd0
>>268 乙です!
素敵なおじさまと、ひょうきんな猫の対比がいい!
シェルクとケットのコンビ(?)も好きだ。
この二人(?)でのWROの任務遂行…とか見たいな。
あげておきますね。
>268-274
乙!いい話だー。
保守
職人さん達本当乙です。
>>268-274 リーブいいよリーブw
シャルアとシェルクの姉妹愛にはDCでもグッときたので
こうしてまた補完できて嬉しいです。
ほ
281 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 19:50:21 ID:0FxBONTo0
hosyu
ほーしゅー
保守します
284 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/13(月) 19:20:13 ID:nBFjiuvU0
hosyu
どんどん出力が落ちて来るのが舵を通して伝わって来る。
様子を見に行くと言っていたシェルクも戻って来ない。
(こりゃあ…やべぇな)
「おい!」
シドはレーダー要員を呼ぶ。
「なんでしょう、艦長!」
きちんと敬礼する彼の肩をシドはぽん!と叩く。
「ちぃーっとな、様子見てくるからよ。これ、持っててくれ。」
「そ…そんな…自分はまだ見習い…」
いい終わらない内に、レーダー要員の手を取って、舵を掴ませる。
「とにかく落ちない様に、真っすぐ飛ばしておけよ。」
そう言い残すが早いか、どたどたとブリッヂを出て行ってしまった。
動力室に向かう途中、艦橋にいるはずのシドを見て、
クルー達が驚いて振り返り、声を掛ける。
皆、出力の低下や被弾で大わらわなのだ。
そこに艦長がやって来たものだから、みな不安をぶつけてくる。
シドはそれを笑い飛ばし、励ましながら動力室に向かう。
中に飛び込むと、炎が上がっており、ひどい煙だ。
シドは口元を押さえ、煙の中に目を凝らす。
「おい!シェルク!」
咳き込みながら見つけたのは、床に転がるケット・シーだけだった。
「おい!ケット!」
抱き上げたそれはぐにゃりとして、反応がない。
(人形に戻ってる…)
シドはケット・シーを抱えたまま、外に飛び出した。
ケット・シーにダメージがある時、リーブは無事だったろうか?
「リーブ!」
リーブの待機しているキャビンに飛び込むと、
そこにはぐったりと椅子にもたれかかっているリーブがいた。
>>285 ごめんなさい、前説を入れ忘れましたort
※DCの第8章『ミッドガル総攻撃』の辺りです。
ネタバレを含みますので、未プレイの方はご注意願います。
また投稿ミス…艦長に怒鳴られて逝って来ます…
>268-274 の影響か、ステキなおじさまと、
やかましいおじさんを書きたくなりまた。
続きは週末になりますが、またお付き合いよろしくお願い致します。ノシ
>>285-286 作戦会議の時の様子も、シドとリーブは対照的ですよね。
彼らが地上へ脱出する様子が見られるのでしょうか?
わくわくしながら続きお待ちしてます。
>>268-274より
----------
リーブが言葉を止めると、室内には静寂が広がった。周囲を埋め尽くす機械達も、
まるで息を止めてしまったかのように沈黙する。
この静寂の中で、シェルクの脳裏では先ほど刻み込まれたばかりの記憶が再生
されていた。
自分たちの意志に反して閉ざされようとする扉の隙間から、限られた時間の中で
シャルアは自分の気持ちを、思いを、妹に伝えようとした。彼女はその場に立ちつくす
シェルクの腕を強く引くと、何のためらいもなく閉じかけた扉に自らの左腕を挟み込んで
退路を確保し、妹を出口へと導きながらこう叫んだのだった。
――「私たちは、これから10年を取り戻すんだ」
腕をつかまれさらに強く引っ張られた。痛みに思わず見上げれば、シャルアの真剣な
まなざしがあった。ぼんやりと、姉の力はこれほど強かったのかとシェルクは思った。
そのときの感覚が、まだ残っているような気がする。まるで今でも、腕を引かれている
ような――
錯覚。
「……!?」
脳裏によみがえったビジョンを打ち消すように、シェルクは目を見開いた。瞼を閉じれば
また同じ闇の中に記憶が再生されるのではないか? 不安になって、瞬きすらためらった。
そんな自分を否定するように、あるいは隠すように言葉を発した。
「自分の感じた感情を全て伝えることなど、不可能でしょう。たとえ血を分けた家族だろうと、
同じものを見た人間だろうと。その精神構造や思考過程には個人差がありますから……
それに」
キーボードをたたきながら、少女は淡々と答えた。もともと起伏のない話し方しかできないが、
今は違う。とても不愉快だった。
「感情を伝えるという行為に、一体どんな意味があるのです? 情報として事実を
共有することの重要性は分かりますが、一個人の主観でしかない感情を共有する
ことがそれほど重要とは考えられません」
正直、自分の口からこんなに言葉が出てくるとは彼女自身思っていなかった。
話すことに気を取られ、キー入力する手を止めそうになる。
恐怖と苦痛に満ちた日常、しかしこの10年間で腹が立った事など一度もない。
たとえ腹を立てたところで力でねじ伏せられた。絶対的な命令と、服従。それが
少女にとっての日常だった。
地底世界から解放されたとはいえ、少女には今さら腹を立てる理由はないはず
だった。
けれど、とにかく腹立たしいのだ。あの日――WROの本部で相対した、あの時から。
シャルア=ルーイもヴィンセント=ヴァレンタインもそうしたように、けれどこの男だけは、
敵であると認識し、さらに武器を向けられながらも最後までシェルクに銃口を向けよう
とはしなかった。
それでいて……。
(……干……渉? ……違う。"彼女"のデータでもない……)
少女自身ですら把握しきれないこの感情は、一体なんだろうか? 自身の内で
わき始めた思考と感情の奔流を鎮めようと、キーボードに置いた指に意識を集中
する。しようとした。
「重要性に対する答えであるとすれば……動機、でしょうかね」
しかしそれを阻んだのは男の声だった。
「人間はコンピュータと違いプログラムを打ち込めば素直に動くと言うわけでは
ありません。コンピュータにも動力が必要なように、人間が動くためにも理由が
必要です。大きな動きをしようとすれば、それに見合うだけの大きな動機が必要に
なります。まして、自分の生命を危険にさらそうとする状況なら尚のこと」
それを担うにはお金や名誉ではとても足りない。しかし“大切な誰かのため”
というそれだけで、彼らが動く理由には充分なのだ。
――大切じゃないものなんか、ない。
そういって剣を振るった男がいる。彼もまた、かけがえのない仲間のひとりだ。
ちょうど1年ほど前、この飛空艇から見ていた戦いの光景が重なる。
リーブは「当時も今も、この船に乗り込んだ人たちの多くは、皆お人好しなのだ」
と付け加える。その言葉を聞いて、そういえば先程ここへ来た男も同じようなことを
言っていたなと少女は思い出す。
「……もっとも、私にそれを教えてくれたのは、他でもない彼らなんですけれどね」
それこそ口では伝えづらいのだと苦笑したリーブの後を引き継いだのは、やはり
絶妙なタイミングでもたらされる足下からの声だった。
『せやから、わいらの出番なんやて』
「!」
その声に再び視線を足下へ戻すと、ケット・シーが手を掲げている。
『わいが見たことを、直接みんなに見せてやりたいんや! したら納得してくれる。
確かに感じ方は違うかもしれへんけど、み〜んな、この船に乗ってるんやで?』
懸命にしゃべり続けるケット・シーを見ていると、少女の指は止まった。その姿を
見ていると、腹立たしさはどこかへ消えてしまう気がした。
自分自身でも抑えることに必死だった内の奔流を、ケット・シーは意図もたやすく
鎮めることができた。そう考えると少し悔しいような気もするが、今は考えないことにした。
「……分かりました。できる限りのことはやってみます。ですが、どこまで実現できるかは
保証できません。それでも、よろしいですね?」
後ろを振り返ることはしなかった。振り返ればまた、不愉快な腹立たしさが戻ってくる
ような気がしたからだ。
「構いません。ありがとうございます」
それでは後ほど。と短く告げて、リーブは部屋を出て行った。
残された少女は再びディスプレイに向かうと作業を再開した。思わぬ追加注文に
対応するべく、再びせわしなく指を動かしながら、それでも考えた。
自身の中にあるこの不快感の正体は一体なんだろう? と。
***
断片化された彼女の記憶、想い。喜びや悲しみ、痛み、感情……。
それらの補完と復元が少女の内で何度も繰り返されている。知るはずのない事実、
持つはずのない記憶。そんなものまで抱え込んでしまった。
けれど、それとは別の何かが確かに存在する。先程の男――リーブ=トゥエスティ
が言っていた言葉が引っかかる。
……動機。
すなわち理由だ。彼の言っていることは間違ってはいない。理由がなければ行動と
いう結果は存在しない。そうだ、間違いではない。
間違ってはいないはずなのに、分からない。
『ほな、行きますわ』
その声に意識が現実へと戻って来る。頭部を装置ですっぽり覆われたケット・シーが
手を振っていた。その姿に、SNDを促すようにとシェルクはうなずく。どこまで投影が
実現できるかは、賭でしかなかった。
すると、音が聞こえてきた。
ビジョンはなく、闇の中にはただ音だけが聞こえる。
人、それもたくさんの声。不鮮明ではあったが、それは確かに人の声だった。
捕らわれ、連行された人々は、檻もろとも魔晄炉の深層部へと放り込まれる。
暗闇に閉じこめられた苦しみ、突然連れ去られて理不尽な苦痛を与えられる
事への怒りや、恐怖。死に瀕した人々の悲鳴は、生への執着。
……闇の中に流れる声と、それを見た彼の記憶が投影される。
『な、なんちゅーことを!?』
見ていることしかできない彼の――叫び。
その声を残して、回線は切断された。
彼はここで事切れたのだ。
その声を聞いて、少女は思う。
断片化されたデータの中には、少なからず自分の記憶や感情も混じっているのだ
と言うことを。
まぶたを閉じて見ることすらしなかった、だから叫ぶこともできない。
叫ぶことも泣くことも忘れてしまっている自分は今も、闇の中にいるのだと
……ようやく気づいた。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティW<終>
----------
・敵側から味方に加わる/インスパイアとSND
……FF7のケット・シー(リーブ)とDCFF7のシェルクって立場や心境が似てる気がします。
・7章作戦会議でケット・シーがSNDする意味はこういう事だったんじゃないか?
・ここでのリーブは単なる説教おじさんw
・上手く書けませんでしたが、きっとシェルクはケット・シーに萌えていたんだよ。>7章SND
色々すみません。お読み下さった皆様ありがとうございます。
294 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/14(火) 19:05:58 ID:skSIU4ie0
>293
GJ!
296 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/15(水) 14:58:28 ID:u/Y//O2l0
あげときますね。
>289-293
(・∀・)イイ!!GJです!
FF12いよいよ発売ですかね?
作品投下とスレ落ち回避の保守
保全
保守
301 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 15:09:08 ID:NgVpYGwg0
保守
保守
保守
さらに保守
305 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 23:56:03 ID:ruTbWxAd0
保守
306 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 03:53:22 ID:SpXOU87kO
保守
ほ
保守
保守ついでに故ダインスレの作品改訂版
「よぉダイン、エレノア!見舞いにきたぜ!」
筋肉質な腕に瑞々しい果物の乗った籠を抱えた男、バレットが病室に入る。
「おいおい……もう少し静かにドア開けろって、娘が起きちまう」
「おお、すまねぇな」
「バレット、いつもありがとうね」
「良いってことよ」
「そういえば、ミーナは?」
「ああ、ちょっと急な仕事が入っちまって、来れなくなっちまった」
「そっか……残念ね、ダイン」
「ん、何がだよ?」
バレットが不思議そうに尋ねると、エレノアは俺と目を合わせクスクスと笑い出した。
「おいおい何だよ、気になるじゃねぇか!」
「いや、てっきり手でも繋いで入ってくるんじゃねぇかと思ってさ」
「幸せそうな新婚さんの、微笑ましい姿を見たかったな〜、って」
「な!……う、うるせぇよ!」
「ハハ、照れんなって」
バレットは真っ赤な顔でひとつ咳払いをして、エレノアのベッドの横の、小さなベッドを覗きこむ。
「可愛らしい子だな……名前、決まったのか?」
「ええ……マリンっていうの」
「マリン、か……良い名前じゃねぇか」
「ダインが、昨日の晩までずーーっと悩んで考えてた名前よ」
「ガハハ、お前らしいな!」
「うるせぇよ、お前だってずーーっと悩むに決まってらぁ!」
「ぬ……言い返せねぇじゃねぇか」
ダインが大声で笑うと、マリンが起きて泣き出した。
「ああ!もう、ダイン!何やってるのよ!」
陽だまりの様な日々だった。エレノアが、バレットが、ミーナが、マリンが居て。
こんな毎日が、ずっと続いて欲しいと願ってた。心の底から、そう願っていた。
「……胸糞悪い夢だな、畜生」
うな垂れるような暑さの中で、ダインは目を覚ます。
首を鳴らし、不自由な片足を引き摺りコンテナから外に出る。
途端に、サルの様なモンスター……バンディットが、彼に襲いかかる。
ダインは左腕の銃で、それをいとも容易く撃ち落とす。
バンディットは悲鳴と嗚咽を上げ、地面に伏している。
ダインはそれを撃つ。悲鳴が止んでも撃つ。それが、ピクリとも動かなくても撃つ。撃ち続ける。
カシュッ カシュッ
弾が切れ、ダインが興味を無くすまで撃たれたそれは、もはや原型も留めてなかった。
「壊れてしまえ……こんな世界も、何もかも」
虚無な狂気が、晴れすぎた空に一筋の線を引いた。
「……ダイン。……お前なのか?」
バレットは、闇雲に銃を撃ち放つ男に声を掛ける。
「懐かしい声だな……忘れようにも忘れられない声だ……」
間違いなく、それはダインだった。あちこち傷だらけになり、目は死んだ魚の様ではあったが。
「いつか会えると信じていた……。オレと同じ手術を受け、何処かで生きていると……」
バレットは、半ば泣きそうになりながら歩み寄る。その足元を、銃弾が掠めていった。
「俺はな、壊してしまいたいんだよ。この街の人間を、この街のすべてを、この世界のすべてを!」
「マリンは……マリンは生きている。ミッドガルにいるんだ。一緒に会いに行こう、な?」
ダインは幾分驚いた顔をした。少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうか……生きているのか……わかったよ、バレット」
バレットは、安堵した。ようやく、俺達は元に戻れる
「やはりお前とは戦わなくてはならないな。」
安堵は、一瞬で砕け散った。
「エレノアがひとりで寂しがっている。マリンも連れていってやらないとな」
そして、陽の傾きかけたコレルに2つの銃声が響き渡った。
勝負が決まったのは、一瞬だった。
たった一発だけ放ったバレットの弾丸が、ダインの左肩を撃ち抜いた。
「ダイン!!」
「来るな!」
バレットはダインに駆け寄る。しかし、ダインの一喝がそれを止めた。
「……俺はあの時片腕と……一緒に、かけがえのない物を失った……。
何処で……食い違っちまったのかな……」
「……わからねえよ。オレ達……こういうやり方でしか決着をつけられなかったのか?」
「言った筈だ…… 俺は……壊してしまいたかったんだよ……何もかも。
この狂った世界も……俺自身も……」
「マリンは! マリンはどうなるんだ!」
「……考えてみろ……バレット……あの時マリンは幾つだった……?
今更俺が出ていったところであの子には……わかる筈もない……」
「けど……けどよぉ!!」
「それにな、バレット……。マリンを抱いてやるには俺の手は……少々汚れ過ぎちまったのさ……」
絶句し立ち尽くすバレットに、ダインはペンダントを投げ渡す。それは、見覚えのあるペンダントだった。
「そのペンダントをマリンに……エレノアの……形見……」
「わかった……」
「バレット……マリンを…………泣かせる……な……よ……」
ダインは崖の方へと歩み寄った。
「ダイン……やめろ!死ぬな、ダイン!!」
バレットは傷だらけの足でダインの元へと駆け寄る。しかし、ダインは一瞬だけ、笑顔を見せて
……そして、崖の底へと落ちていった。
「ダイーーーーーン!!」
バレットは絶叫し、その場に跪き、嗚咽を上げる。
「……ダイン。お前と同じなんだ……オレだって……オレの手だって……汚れちまってる……」
バレットは右腕の銃を見つめる。何人もの命を奪った、血まみれの右腕だ。
「うぉおおおおおおおおおーーーーーーー!!」
バレットの叫び声だけが、燃える様な赤に染まったコレルの空に響き渡った。
身体は、重力のままにひたすらに落ちていく。
もうじき俺の身体は砕けたハンバーグになってしまい、コレルの土に返るだろう。
俺のこころは、星へと還れるかな?
エレノア。どうかお前だけは、俺の事、温かく出迎えてくれよ。
ミーナ。お前の愛した男は、今も生きている。どうか、護ってやってくれ。
マリン。強く生きろよ、それと、悪い男にだまされるなよ。……優しい娘に、育ってくれよ。
遠い崖の上から、バレットの叫び声が聞こえた気がする。
思えば、本当にこいつとは喧嘩ばかりしていたな。ガキの頃から、今の今まで。
けれど、その後はまた、笑い合えていた。……今回ばかりは、無しだけどな。
そういえば、エレノアとの結婚を後押ししてくれたのも、お前だったよな。
お前には、世話になりっぱなしだったよな、バレット……。
けど、もう少しだけ世話になるぜ。マリンが大人になって、ひとりで生きて行けるまで
絶対死ぬな。そして、あのペンダントを渡してやってくれ。あと、あんまり心配かけさすな。
それと……最後にこれだけ言わせてくれよ。
…………ありがとう。お前は俺の、一番誇れる親友だったぜ。
ダインキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!テラセツナス。
幸せな前半と切ない独白のコントラストがGJ!
>>309-312 ダイン! とにかくGJだ、GJを贈らせてほしい!!
ダインが何よりも壊したかったのは、自分自身なのかな。プレイ当時はそんなこと
思いませんでしたが、これ読んでいたらそう思った。バレットの前で自決したのも
そういう意図が? と。
そして保守。
316 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 01:22:09 ID:BTfnD1Fo0
>>313-315 ありがとうございます(つд`)続編も投下させていただきます。
ジェノバ戦役から10年、かつてコレルプリズンと呼ばれた荒野に1組の父娘が訪れていた。
そこには、風化してしまったような2本の十字架と、それよりは新しい十字架が1本立っていた。
「これが、母さんと、父さんの奥さんと……」
マリンが言葉を選べずに視線を彷徨わせていると、バレットはその大きな掌をマリンの頭に乗せた。
「お前の、本当の父ちゃんの墓だ」
ダインとの約束を果たすのは、随分遅くなってしまった。幼い頃のマリンには厳しい話であったが
それでも、少し先延ばしにし過ぎてしまったのかもしれない。
しかし、マリンは事実をしっかりと受け止めてくれた。そして、バレットにこう言ったのだ。
「母さんと、父さんに会いに行きたい」
「ねえ父さん……私の母さんって、どんな人だった?」
バレットが朽ちてしまった十字架を、ちゃんとした物と取り替える作業をしているとマリンが尋ねた。
「そうだな……エレノアは、本ッ当に綺麗な人だった。もちろん、見た目だけじゃねぇぞ。
気立ても良くて、明るくって……本当はな、父ちゃんの初恋の相手だったんだぞ」
「そうなんだ……。じゃあ、父さんの奥さんは?」
「ミーナは、とにっかく気の強い女だったな。結婚してからも、よく怒られたよ。
けど、笑顔がすごく可愛かった。その笑顔に、やられちまったのさ」
「じゃあ……ダイン……さんは?」
「ダインは……村一番の悪ガキだったな。けど、誰よりも人を思いやれるヤツだった。
俺とは、赤ん坊の頃からの仲だったけどよ……毎日毎日、馬鹿ばっかやってたなぁ」
バレットは、14年前に造られたワインのコルクを抜き、十字架に注いだ。
最後に3つの墓それぞれに花束を添えると、2人は目を瞑り手を合わせた。
―― ダイン、随分時間がかかっちまったが、これで約束は果たしたぜ。
エレノア、お前の自慢の娘は、こんなに綺麗な子になったんだ。お前そっくりさ。
ミーナ、今はまだ無理だけどよ、いつか俺が星に還ったら、また手を繋いで歩こうぜ。
……俺は、お前等と会えて本当に良かった――
sage忘れスマソ_| ̄|○
>>316の続きです。
2人はゴールドソーサーのホテルに戻り、夕食を取ることにした。
「ねぇ、父さん」
「ん?」
「母さんも、父さんも、ミーナさんも、きっと幸せだったと思うよ。
何でかはわかんないけど……父さんの嬉しそうな顔見てると、そう思った」
「……そうか」
バレットは涙が溢れそうになるのを、ウイスキーを一気に飲み干す事で無理矢理抑えた。
「私も、父さん達みたいになりたいな。大切な友達がいて、大切な人がいて……」
「お前にも大切な友達がいるだろう?デンゼルに、シェルクに……。ああ、でもあれだぞ。
付き合うなら、ちゃーんとした男と付き合うんだぞ?悪いヤツに騙されるなよ」
「もう、子ども扱いしないでくださーい!」
「お前は、まだまだ子どもだっての!」
「……ねぇ父ちゃん。私も、お酒飲んでいい?」
「だーかーら、お前は子どもなんだから、ダメだ!」
「父ちゃんは、子どもの頃から飲んでたんでしょ?」
「う……そりゃあまあ、そうだけどよ……」
「なら、いいでしょ」
マリンはバレットのグラスを掠め取り、一気に煽った。
「あ、コラ馬鹿!」
「うぅ……美味しくなぁい……」
バレットは、日に日にミーナにもエレノアにも似ていく娘に、ため息をついた。
「結局、酔い潰れちまって……」
マリンを背負い、客室へと戻る。思えば、こうしておんぶするのは随分と久しぶりだ。
「……父ちゃん、何があっても、私の父ちゃんは、父ちゃんだけだよ……」
背中のマリンがそう呟くと、バレットはもう涙を止めることが出来なかった。
>>316-317 DCFF7-2があったら、その中で描かれるダインの墓参りイベントってこんな感じで
ありそうだな、と(ふくらむ妄想)。
人が死んで肉体は滅んでも、ライフストリームに還るっていうFF7の世界観の中で、
それでもバレットは「けど会える訳じゃない」って、ハイウィンドの中で言ってるぐらい
死に対して真摯に向き合ってる姿が、ここでも良く描かれてるなと思いました。
(
>>316の下4行)
とりあえずFF12関連の勢いが凄いので、分割投下を試みてみます。
圧縮の頻度はどのぐらいなんだろう…。
前話:
>>289-293 舞台:DCFF7第9章@シエラ号艇内(回想はFF7/DCFF7第7章〜8章)
備考:DCFF7本編で描かれるシーンが前提で進みます、未プレイの方すみません。
シエラ号の構造に多少のねつ造があるのはご愛敬と言うことで。
----------
――「がんばって、ケット・シー」
そう言って微笑んでくれた彼女の笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
彼女はスパイだった自分を信じてくれただけではなく、励まそうと微笑んでくれた。
(忘れへんで……絶対。忘れへん)
だから今度は、わいが頑張らなアカン。先に壊れてしもた1号機のことも、わいの
事も。たまにでええ、思い出してくれたら嬉しい。
ケット・シーは来た道を振り返り、閑散としたフロアに向けて勢いよく手を振った。
見ている者もなければ、振り返してくれる者もいない。少しだけ淋しくなって振っていた
手をゆっくりと下ろした。
誰にも見送られることなく、ケット・シーはエンジンルームへと続く扉を静かに開けた。
***
それはつい数分前の出来事である。
『アカン! アカンで〜。戻るんや、戻らんかい!! コラ、聞いとるんか!?
……も・ど・ら・ん・か・い!!』
幅の狭い通路の先から、いまいち深刻さに欠ける叫び声が聞こえて来た。
巡回中だった隊員があわてて駆けつけてみれば。
「こらこら、離しなさい」
WRO局長が、珍しく困った顔で後ろを振り返り、視線を足下へ向けている。
つられて隊員も視線を下げてみれば。
『アカン、行ったらアカンのや!』
猫がいた。
「…………」
小さな猫――型の人形? ぬいぐるみ? ロボット?――が、必死に裾に
しがみついて、リーブの歩行を阻害している。深刻さに欠けるどころか、滑稽。
いや、それはいっそ微笑ましい光景だった。
WRO<世界再生機構>の人間であれば、その猫を知らない者はいないだろう。
ケット・シー――それはジェノバ戦役の英雄のひとり、正確に言えば分身だった。
なぜこんな狭い通路で押し問答を繰り広げているのかと言えば、出力低下の
警報音を聞き駆けつけたリーブが、自分が操っているはずのケット・シーに進路を
阻まれ立ち往生していたのだ。考えてみれば奇妙な現象である。
『そこの兄ちゃん、ちょっと頼まれてくれへんか?』
ケット・シーは裾を引っ張る手を離さずに振り返ると、この光景を呆然と見つめて
いる隊員に向けてこう言ったのだ。
『異常事態なんや。急いで助っ人……いや、シドはん呼んで来てくれへんか?
……このまま、このおっさん行かせるわけにはイカンのや』
地上部隊のクラウド達はもちろん、ユフィやヴィンセント、他の隊員達もミッドガルに
向けて降下している。先の本部戦で受けた被害もあり、今この飛空艇には最低限
必要な人数しか残っていない。ケット・シーが言わんとしている事の重大さは、彼にも
分かっている。
「はっ!」
律儀に敬礼する隊員に、ケット・シーは相変わらずおどけた口調で返した。
『……すんませんけど、頼んます』
隊員は背を向け、来た道を全速力で駆け出していった。
***
ミッドガル総攻撃開始を目前に控えたシエラ号艇内は、各所で隊員がせわしなく
行き来し、来るべき出撃に備えてに活気づいていた。
そんな飛空艇内で唯一、上層部の一番奥に設けられたメディカルルームだけは
その喧噪から隔絶されていた。少女はここへ戻ってくることをほんの少しだけ、ためらって
いた。しかしつい今し方、SNDを実装したばかりの専用端末はこの部屋にしかない。
だから戻って来ないわけには行かなかった。
今やめる訳にはいかない。自分の身に託された"彼女"の思いを……願いを、知って
しまったから。
それに。
――「それでは、シェルクさん。頼みましたよ。」
そう言って目の前を去っていったリーブ=トゥエスティは、笑顔だった。シェルク自身が
動く理由はないはずなのに、彼の申し出を拒めなかった。まんまとあの男の言いなりに
なっている様で、そんな自分が腹立たしく思えた。
『シェルクはん』
扉の前で名前を呼ばれた時、我に返った。通路脇に備え付けられた小型
ディスプレイに表示された数字は刻々と減少を続けている。ミッドガル総攻撃
開始までのカウントダウンは既に始まっていた。WROの侵攻部隊降下と
合わせて、シェルクもSNDで援護する手はずになっている。それは彼女自身の
提案により、急きょ決まったことだった。そのための最終調整をしていたはず
なのだが、どうやら別のところに気をとられていたようだ。気を取り直してパネルを
操作すると、室内へ通じる1つ目の扉を開いた。
考えてみればケット・シーはリーブが操縦しているロボットのはずなのに、なぜか
これには腹立たしさを感じない。なぜだろう? 考えても答えは出て来そうにも
なかった。2つ目の扉の前で立ち止まったシェルクは、ちらりと視線だけを動かして
足元を見た。
「なにか?」
ケット・シーはじっとこちらを見つめている。シェルクは視界の隅でその姿を確認
すると、視線を前方の扉へと戻した。
『さっきは……すんません』
2つ目の扉はすでに自動で開いていたが中へは入らずに、シェルク横についた
小型ディスプレイを見つめていた。画面の中ではカウントダウンが続いている。一方で
耳ではケット・シーの話す言葉を正確にとらえていた。
しかし唐突に謝られたのはいいが、何に対して謝られているのか心当たりがまるでない。
「なぜ謝るのですか?」
画面に触れ、何度か表示を切り替えながら、シェルクは短く言葉を発した。別に見なくても
いいはずの飛行航路表示を呼び出して、すぐその画面を閉じる。
『……その。えらそうな事、言ってしもて』
「気にしていません」
シェルクにしてみれば、ケット・シーに偉そうな事を言われた覚えがなかった。だから
そう返答したのだ。
ここで会話が途切れた。画面上で確認できる情報には一通り目を通してしまった
シェルクは、仕方なしにメディカルルームへと足を踏み入れた。相変わらず整然と
並んだ機械類は、呼吸でもするように僅かなノイズ音を規則的に発していた。
姉が横たえられているカプセルに視線を向けることはせずに、そのまま奥の席に
座ろうとしたシェルクは、いつもは自動で閉まるはずの扉が閉まらないのを不審に
思って振り返った。
だが、異常は見られない。
視線を下へ向けると、ケット・シーが入り口で立ったまま俯いている事にはじめて
気がついた。
「…………」
落ち込んでいるような姿に、なんと声をかければ良いのかが分からずシェルクは
戸惑う。そのまま放っておけば良いような気はするのだが、そこにも妥当性を見い
だせずにまた戸惑った。とりあえず、ケット・シーの傍まで歩み寄る。
しかし、けっきょく見下ろすだけで何もできなかった。
『3年前の、話なんやけど……』
そんなシェルクに助け船でも出すように、ケット・シーがおずおずと顔を上げて
語り始める。
『わいな、最初はスパイやったんや。知っての通り神羅の人間やったから……。
せやけど、みんなと一緒におったら考え方、変わってしもたんや』
最初は戸惑ったと言う。自分が派遣された本来の目的は監視、内偵、そして
ある物を神羅に渡す事だったから。しかし、それを決定的に覆したのが彼女の
言葉だった。
『……“がんばって”ってな……そう言って、わいの名前呼んでくれたんや。なんや、
アホくさい思うかもしれへんけど、ホンマに嬉しかったんや……』
誰かに頼ってもらえること。
誰かが必要としてくれること。
それは、自分と同じボディの1号機の記憶だったけれど。
『せやから……“言葉で伝える”っちゅーことも大切なんやて……思うんや』
照れたように頭に手をやって、いつものように戯けて見せようとした。けれど
上手くいかなかったのか、またすぐに俯いてしまう。
一方それを聞いてシェルクは、出ないと思っていた答えの一部分が見えた様な
気がしたのだった。
――「それでは、シェルクさん。頼みましたよ。」
なぜ、あの男の申し出を拒めなかったのか。その答えが。
「私も、同じ……ような気がします」
そう言って、シェルクはひとつ息を吐き出した。「呆れました」とでも言いたげな
表情で。
「よく……分かりませんが、誰かに何かを依頼されるという行為には……慣れて
いません」
シェルクはぎこちない動作で膝を少しだけ曲げると、前屈みになってケット・シーに
顔を近づけようとした。
するとケット・シーは突然、シェルクの視線の高さまで高く飛び上がると、こう言い
放った。驚いたシェルクは呆然とその様子を眺めていた。
『よっしゃ! そんじゃもう一踏ん張りや! わいもサポートさせてもらいまっせ〜。
一緒にがんばりましょ』
ぴょんぴょんと、やけに嬉しそうに飛び上がるケット・シーを見ていると、シェルクは
これまでに見せたことのない表情を浮かべた。戸惑っているような困ったよな、そんな
小さな笑顔。
「……そうですね」
そう言って、彼女は再び扉の横に設置された小型ディスプレイに視線を落とした。
画面端の表示は、残り3分を切っていた。
シェルクはキーボードをたたいて画面を操作し、SNDの態勢へと移行する。
かつての都ミッドガル――地上と空とを舞台にしたディープグラウンドとの激戦が幕を開ける前、
それはつかの間の平穏であった。
----------
分割もクソも行数規制で結局同じでした…orz
hosyu
ほしゅ
保守
>>316 >>319 乙です!
7って魅力的な人多いなーって読んでたら思いました。
みんな12プレイ中かな?
>>319-
>>325 GJ!(n’∀’)η毎度毎度、楽しませてもらってます!
昨日に続き、もういっちょ妄想投下です。
「お邪魔しま〜す♪」
シャワーを浴び、ストレッチを済ませて眠りにつこうとしていたクラウドの部屋に
訪れたのは、顔を赤くし、酒の甘い匂いを漂わせたエアリスだった。
「……何のようだ」
「ねぇクラウド、一緒にお酒のも?」
「断る」
「え〜、だって、まだ出発はしないんでしょ〜?」
クラウド達は、ミッドガルを脱出して、東大陸を出るまでぶっ通しで旅をしていた。
メンバーの疲労も相当なものだったので、ここコスタ・デル・ソルでしばしの休息を
取る事にしていたのだ。みなそれぞれ、気ままに休暇を楽しんでいた。
しかし、クラウドは今ひとつ休めていなかったのだ。
今日の日中は、ずっと女性陣の買い物に付き合わされていたからだ。
何処にあれほどの体力が残っていたのか、不思議であった。
「……ティファやユフィと飲んだらどうだ?」
「ティファ、ジョニーさんの所に行ってるの。ユフィはもう寝ちゃったの。
大体、ユフィ、未成年でしょ!」
「バレットは?」
「バーで飲んでたみたいで、もうイビキかいて寝ちゃってる」
「レッドは?」
「お酒飲めないの、知ってるでしょ!?ねぇクラウド、そんなにわたしと、お酒飲むの嫌?」
「そういう訳じゃないが、今日は疲れたんだ。早く寝たい」
「へぇ〜、そうですか。クラウドは、女の子よりも疲れちゃって、お酒も飲めないんだ」
「……わかった。上がれよ」
「やった〜!改めて、お邪魔しま〜す!」
エアリスは、ここ数週間の旅の間でクラウドに関するひとつの法則を発見していた。
ちょっと喧嘩を売ると、必ず買ってしまうのだ。おかげで、バレットとの口喧嘩も絶えない。
まんまとエアリスの策略に嵌ってしまったクラウド。夜はまだ、これからだ。
「へぇ〜、ここがクラウドの部屋か〜。もっと、散らかしてると思った」
「……悪かったな」
「も〜、すぐ拗ねちゃ、ダメ!」
「拗ねてない。それより、勝手に人の部屋の冷蔵庫を開けるな」
「だって、お酒、ぬるくなっちゃうもの。……クラウド、ビールで良いよね?」
「ん、ああ」
「はい、かんぱ〜い!」
エアリスは、クラウドの缶ビールに自分の缶カクテルを打ちつけた。
「さっきまで、一人で飲んでたのか?」
「ううん、ティファと一緒に、ジョニーさんの所で飲んでたの」
「ならそこで飲み続けていれば良かったじゃないか」
「うーん、わたし、ちょっとお邪魔だったみたいだったから」
クラウドには、ジョニーとティファの関係なんてわからない。親友なのかもしれないし
それ以上の関係だったのかもしれない。ティファは、子どもの頃から誰にでも好かれたから。
どちらにしても、何故かクラウドは、少しだけ寂しくなった。
(……馬鹿馬鹿しい)
「クラウド、どうしたの?」
「ん、なんでもない」
「へ〜。ねぇ、クラウド。クラウドって子どもの頃どんな子だったの?」
「どんなって……別にいいだろ」
「気になる〜!」
エアリスの質問攻めは延々と続いた。好きな食べ物は?好きな動物は?趣味とかあるの?
クラウドは濁らすこともままならず、答え続けた。その内、時計の針も2時を回った。
「なぁエアリス。もう時間も時間だ。そろそろ部屋に戻らないか?」
「え〜!もっと、クラウドと一緒にいたいな〜」
クラウドはもう、ため息をつくしか無かった。ビールはもう、5本目に達していた。
ふと、エアリスがクラウドの隣に座り、上半身を預けてきた。
「おい、何してるんだ」
「クラウドって、好きな人とかいないの?」
一体この女は何を言っているのだろう。そう思った刹那、クラウドは彼女の異変に気付いた。
「……寝てる?」
質問するだけ質問して、エアリスは眠ってしまった。クラウドは何度目かわからないため息をつき
エアリスをベッドに運んでやった。クラウド自身も、そうとう酔ってしまっていた。
すっかりペースを崩されたクラウドは、ソファーに横たわり、眠りに落ちて行った。
翌朝は、やはり散々だった。2人揃って、二日酔いだ。
「う〜……色々ごめんね、クラウド」
「別にかまわないさ」
「それじゃ、また、ね」
エアリスを見送ると、背後に気配を感じた。
「昨夜は随分とお楽しみのようでしたね」
思わず振り返ると、ニヤケっ面のユフィが立っていた。
「マテリア6個でどう?」
「おい、どういうことだ」
「あーあ、昨夜の事を赤裸々に話しちゃおうかな〜」
やられた。ユフィは、クラウドの隣の部屋だったのだ。仮にもニンジャである彼女なら、隣室の会話くらい
筒抜けだ。更に都合が悪いことに、昨夜の記憶はいまいち曖昧だ。
もし何かの間違いがあったとしたら、それを話されるのはまずい。
「わかったよ……」
「イェ〜イ!ティファには内緒にしておいてあげるね!」
二日酔いの頭を抑え、クラウドは部屋に戻り不貞寝を決め込む事にした。
ビーチで宝条と出会ったのは、その日の午後の事だった。
ひたすら振り回されるクラウドを書きたかっただけだった。今は反省しているor2
ほ
335 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 09:35:08 ID:rBez1kqn0
保守
ほ
ぼ
ま
339 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 02:32:17 ID:VtOLUHaK0
ぬぉ
り
341 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 11:01:06 ID:P4efolaf0
保守
保全
>>331-333 > 「昨夜は随分とお楽しみのようでしたね」
宿屋の名言(@DQ)をさらっと言ってのけるユフィにワロタw
ho
保守
346 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/21(火) 23:32:56 ID:Mylcw6oq0
保守
347 :
◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:51:34 ID:gK9d8eMC0
DC後、ヴィンセントが戻って来るまでの仲間達のお話です。
プレイされてない方はネタバレになるのでご注意願います。
カップリング要素はありませんがシェルクがオリジナルメンバーに
どういう風に受け入れられていったかという話なので、彼女が苦手だったり、
オリジナルメンバーと絡むのがお嫌いな方はご遠慮下さい。
348 :
DC後 【1】 ◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:52:17 ID:gK9d8eMC0
「さてと、奴を迎えに行くか。おい、リーブ!」
タバコの吸い殻を放り投げようとして、
慌ててポケットから携帯用の吸い殻を取り出したシドが言う。
「なんでしょう?」
「あの野郎は俺達で探す。お前は残りの後始末を頼まぁ。」
「分かりました。…と、シェルクさん。」
呆然と空を見上げ、どこか遠くで男達の話を
聞いていたシェルクは驚いてリーブを見上げる。
「あなたはしばらくはゆっくり休まれた方がいいかと思います。」
休むと言っても帰る場所のない自分にどうしろと言うのだろう。
それに、シド艦長はヴィンセントを探しに行くと言っていた。
出来ればそれに加わりたい。
「エッジにWROの宿舎があります。とりあえずそこに…」
「待って!」
「なんでしょう、ティファさん?」
「そんな味気のない所より、家に来ない?ヴィンセントが
お世話になったお礼がしたいわ。ね、クラウド、いいでしょう?」
「あぁ、大歓迎だ。」
「なるほど…それは名案ですね。」
「でしょ?」
そう言われても、初対面、しかも日常と隔絶された地下の住人だった自分に、
いきなり他人との共同生活が可能なのだろうか?
349 :
DC後 【2】 ◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:52:53 ID:gK9d8eMC0
「俺と、バレットとユフィは残ってヴィンセントを探す。先に戻っていてくれ。」
クラウドの言葉にティファは頷いて、優しくシェルクの肩に手を置く。
「え〜!?アタシもぉ〜?」
「探すのは得意だろ?」
不満の悲鳴を上げるユフィの頭に、シドの親父拳骨が落ちて来る。
「アタシだって女の子なのにぃ!差別!さべーつ!」
「ティファは子ども達が待ってんだよ。」
と、シドはにべもない。
シェルクは困惑を隠しきれない。
この中で自分の生い立ちを一番よく知るリーブを縋るように見上げる。
だが、リーブはにこにこと笑うだけだ。
「ご心配な気持ちは分かります。でも、あなたが滞在されるのに、
7th Heavenより最適な場所を思い付きませんよ。」
なんたろう、この人達は。
ヴィンセントが行方不明なのに心配する素振りも見せず、
かつての敵だった自分の心配ばかりしている。
「あなた方は彼の事が心配ではないのですか?」
不躾な質問にティファは小首を傾げてじっとシェルクを見つめる。
「あなた方はおかしいです。私のことよりも、彼の心配を…」
言いかけて、シェルクはハッと口を噤んだ。
350 :
DC後 【3】 ◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:53:26 ID:gK9d8eMC0
『なぜか私の周りには、理屈抜きで飛び出して、誰かを助けるお人好しばかりだ。』
彼の言葉を思い出し、目の前にいるこの連中こそがその“お人好し”なのだ。
困惑の次に湧いて来たのは好奇心だった。
一緒に行動していたら彼らの行動の根源にある物が見つかるだろうか?
考え込んでしまったシェルクをリーブは穏やかに見つめている。
この人は曲者だとシェルクは思う。
柔らかな物腰で、そのくせ嫌とは言わせないのだから。
「…分かりました。」
リーブは大きく頷き、バレットとシドも満足げだ。
「よろしくね、シェルク…私はティファ。
シドは…もう知っているのよね。こちらがクラウドとバレット。
みんな…仲間なの。ヴィンセントのね。」
クラウドは軽く頭を下げ、バレットはシェルクに握手を求める。
「バレットだ!ヴィンセントが世話になったみたいだな。」
大きな身体に大きな声だが、アスールの様に冷たい感じはしない。
シェルクがおずおずと手を出すと、バレットはその小さな手をそっと握る。
(暖かい…)
誰かの手を握るなんて久しぶりだった。
「ティファの所には俺の娘も居るんだ。
マリンっていってな。仲良くしてやってくれ。」
「男の子も居る。」
クラウドが短く言葉を挟む。
「デンゼルというんだ。」
子供の存在が再びシェルクを困惑させる。
「二人ともいい子よ。大丈夫。」
まるでシェルクの心配を察したかの様にティファの手が優しく肩を抱く
351 :
DC後 【4】 ◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:55:19 ID:gK9d8eMC0
「ところで、シェルクさん。」
「なんでしょう?」
「落ち着かれたら…WROに来ませんか?」
「え?」
「今回の戦いのせいもあるのですが…うちは慢性的に人手不足です。
あなたはネットワークのスペシャリストだ。是非、お手伝い願いたい。」
シェルクがどう返事しようか頭を巡らせていると、シドが割り込んで来た。
「待てよ!リーブ、何もこんな時に言わなくったっていいじゃねぇか。」
「それもそうですね、失礼しました、シェルクさん。」
リーブは大仰に両手を上げて、冗談めかして答える。
「大体シェルクはなぁ、俺んとこに来て、飛空艇団員になるんだよ。」
シドの言葉に一同が、そして誰よりもシェルクが目を丸くする。
「シ…シドぉ?」
呆れたユフィが肘で彼を突いても、シドは気にする風でもない。
「うっせぇな!俺だってちゃんと考えあってのことなんだよ!
あんたは大した力の持ち主だ。俺と一緒に飛空艇の謎を解き明かしてみねぇか?」
最後の言葉に、ちゃんと理由があったことに驚きつつも、
シェルクを除く一同はなんとなく納得した気分になる。
「物探しが得意ならなら油脈探しはどうだ?」
どういう対抗意識か、バレットまでそんな事を言い出す。
「バレット、彼女はネットワークのスペシャリストで、
ダウンジングが得意というわけではないのですよ。」
呆れたリーブが横やりを入れる。
「なんだ、その…ダウ…なんとかは?」
「ダウンジング…な。」
「クラウドぉ!てめぇはまた俺の間違いを小声で訂正したな。」
ティファがくすくす笑っているが、シェルクは笑うどころではない。
自分の行き先を巡って、親父三人が言い争うのを呆然と見ているだけだ。
352 :
DC後 【5】 ◆BLWP4Wh4Oo :2006/03/22(水) 01:56:36 ID:gK9d8eMC0
「だーっ!もぉ!親父ども、うるさあああい!」
ユフィが叫んで、親父三人が黙る。
「シェルクはね!アタシと一緒にウータイに行くの!
あそこならのんびり出来るし、最近温泉も湧いたの!
そこでゆっくり身体を癒すの。」
そして、シェルクの前に立つと、気まずそうに、
「あん時は…ひっぱたいたりして悪かったよ。」
シェルクの目が驚きで見開かれる。
別に気にしてません。そう言えばいいだけなのに、
胸の中にくすぐったい何かがわき上がって来て、言葉が出ないのだ。
「みんな…もういいでしょ?」
笑っていたティファが助け舟を出し、シド、バレット、リーブ、ユフィが黙る。
「私をシェルクは店で連絡を待っているわ。早くヴィンセントを見つけて来てね。」
「いけね!そうだった!」
「リーブ、お前が余計な事を言い出すからだぞ。」
「私のせいなんですか?」
親父連中がワイワイ言いながらそれぞれの持ち場に向う。
特に打ち合わせをする風でもないのがシェルクにはまた不思議だった。
「気を付けてね、クラウド。」
「あぁ。子ども達を頼む。」
クラウドは軽く手を振ると、バレットの後に続く。
「あ〜あ、もう、ヴィンセントのヤツぅ〜面倒かけるんだから…」
ブツブツ言いながら、更にユフィが従う。
「頼んだわよ、ユフィ!」
ティファの言葉に、ユフィは思い切り顔をしかめて見せたのだった。
「ごめんなさい、びっくりしたでしょう?」
事実なので、素直にはい、と答える。
ティファとシェルクはエッジに怪我人を運ぶ車に便乗させてもらっている。
黙って座っているシェルクに、ティファも余計な事は言わない。
ただ、一言だけ、
「大丈夫。きっと彼は生きてるわ。彼が特別な身体だっていうことを別にしてもね。」
「どういう意味ですか?」
「ヴィンセントはね、私達には想像もつかない重荷を背負ってるけど、
そのことで弱音を吐いたり、愚痴を言ってるのをを聞いたことがないの。
そんな人があれくらいの事で死んでしまうわけないわ。」
分かったような、分からないような。
「彼のことも、私たちのことも、外の世界も、ゆっくり知っていけばいいわ。」
そう言って微笑むティファに、姉の顔が重なる。
「あなたは…リーブ・トゥエスティに何を聞いたのですか?」
「何をって…あなたのこと?」
「はい。」
ティファはシェルクをじっと見つめる。
さっき、“はい”と答えても、顔が動かなかった。
(普通、返事をすると自然に頷いたりするのに…)
まるで昔のクラウドのようだとティファは思う。
「あなたが閉ざされた世界の住人だったこと。
それと、ヴィンセントを助けてくれたこと。それだけよ。」
「私が滞在するのに、あなたの所より最適な場所を
思い付かないと彼は言いました。その理由は?」
「ティファでいいのよ、シェルク…」
「答えて下さい。」
「あなたが”ティファ”って呼んでくれたらね。」
「問題をすり替えないで下さい。」
機械的な返事を返すシェルクが痛々しい。
急いではいけない…とティファは思い直し、
「そんなつもりはないわ。気に障ったらごめんなさい。
家が最適なのは、おいしくて栄養のある食事が摂れること。」
そんな理由で…と呆れるシェルクにティファは笑って答える。
「あら、大事なことよ。もう一つは…そうね、やっぱり
”ティファ”って呼んでくれるまでは秘密にしておくわ。」
これ以上の会話は無意味と判断し、シェルクは黙り込んだ。
ティファも何も言わない。
車の揺れに身を任せている内に頭がとろんとして来て、
いつの間にか眠ってしまった。
つづく。
お久しぶりのエッジ前哨戦です。
書きかけの物(
>>285>>286)を放り出して、こちらを始めてしまいました。
あちらも書きたいのですが、話は出来上がってるのものの
飛空艇内の資料がなくて、うまく話が進みません。
いいかげんな事をしてごめんなさいですが、
>>288さんをはじめ、皆様どうかお待ち下さい。
(誰も待ってないかもですがort)
遅レスですが、
>>267さん。
投稿人同士のなれ合いになってしまうかと思って
お返事迷ってましたが、ドリルさん…ですよね?
>「帰ってくる場所が分からない」って方を強調した方が良かったかも知れない
のご指摘、仰る通りです。
クラウドもティファも、子供達がいるからこそ
“家”という場所に帰って来られるんですよね。
気付かず、書き損じてすごく悔しい…ort
いつも、的確な感想とアドバイスありがとございます。
お話も、推敲された丁寧な文章と深い洞察で
うっとりしながら読んでいます。新作お待ちしております。
GJ!
357 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/22(水) 12:46:25 ID:9GBGR8Qf0
保守あげ。
>>348-354 呼び名についてはDC本編同様に、この先にあるイベントの伏線になってるのかな? とか。
最終的に私服で登場したシェルクとのいきさつが描かれると楽しそうだな、とか。
色々想像するとこの先の展開が楽しみです。
リーブとシェルクのやり取り(349-350)が個人的に萌えた。くせ者とか言いながら
不安からちょっと頼りにしちゃったりする辺り、戦闘に離れていても日常生活初心者
っていうか…反抗期?みたいでw
>>348-354 の続きです。
「…ク…シェルク…」
何か、夢を見ていたような気がする。切ない夢だったと思う。
胸の辺りがざわざわと落ち着かない。
人間の感情を司るのは心臓ではなくて頭のはずなのに、
彼らと出会って以来、なんだか自分がおかしい。
「起こしちゃってごめんなさい。」
シェルクはぼんやりと間近にあるティファの顔をぼんやりと見つめる。
いつの間にかティファにもたれかかって眠ってしまっていたのだ。
状況に気付くと、シェルクは跳ね起きた。
「す…すみません…」
「疲れていたのね。」
ティファは先に立ってトレーラーから降りると、大きく伸びをした。
「いいお天気よ。」
振り返って、シェルクを手招く。
後に続いたシェルクも空を見上げる。
確かにいい天気だ。
(でも…なんだか落ちて来そう。)
吸い込まれそうな青空が、シェルクには不安だった。
「ここから20分ほど歩くの。大丈夫?」
シェルクは空を見るのを止め、ティファを見て頷く。
「そう。じゃあこれを。」
ティファは毛布をシェルクを包み込む様にしてかける。
「寒くありません。」
「そうね…でも、家に着くまではこうしててね。」
「理由を説明して下さい。」
ティファは少し首を傾げ困った表情をする。
小首を傾げるのが彼女の癖らしい。
「…この街は、ディープグラウンド・ソルジャー達に襲われたの。」
それだけで十分だった。シェルクは目を伏せてしまう。
ティファは彼女がこれから向き合わなければいけない現実を思うと胸が痛んだ。
しかし、甘やかしても解決しない。答えは自分で見つけなければいけないのだ。
その一方で、彼女も被害者なのだ。
彼女だけでなく、長い間地下に閉じ込められていた人達が
この社会に戻る事が出来るのだろうか。それは途方もなく長い道のりだ
「こっちよ。」
ティファは自分自身を奮い立たせるつもりで元気良く声を掛ける。
先に立って歩き出したティファの後に続く。
まだ煙が燻っていたり、あちこち壊れた家が目立つが、
金槌の音が響き、街は活気に溢れていて、
シェルクは物珍しげにその様子を眺めていた。
が、不意に泣き声がして、そちらに目をやる。
見ると、縦長の木の棺が家の中から出て来た所だった。
家を直していた人々が手を止め、帽子を取って黙礼して見送る。
棺に、小さな男の子が取りすがって泣いている。
「息子を庇って撃たれたらしい…」
「ちくしょう…ひでぇことしやがる。」
そんな会話が耳に入って来て、シェルクは途端に身体から血の気が一気に引くのを感じた。
身体が震えて、この陽気に毛布まで被っているのに寒くてたまらない。
黙礼していたティファはシェルクの様子に気付くと、
背中にそっと手を回し、その場を立ち去った
363 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/23(木) 14:05:32 ID:liSqfbcF0
保守
hoshu
>>360-362 毛布の件はしばらく考えないと回答が出てきませんでしたw
そうだ、そう言えばEDも最初はあのソルジャー衣装(?)の
ままでしたよね。細かいところまで行き届いてるなと。
続き期待sage
>>319-325より。
----------
***
言葉で……伝える。
これは誰の“記憶”で、誰の“思い”……?
身の内に渦巻く断片化されたデータ群。その中のどれが“彼女”のもので、どれが
自分の物か――シェルク自身にも分からなかった。
自分の物だとはっきり分かるのは、地の底で暮らしていた10年間と、ほんの少し前の
記憶だけ。ケット・シーの言葉が脳裏によみがえる。
――『……言葉で伝えるっちゅーことも大切なんやて……思うんや』
自分と、自分の中に埋め込まれた彼女の持つ記憶。
どちらのものかも分からない思い。
けれど確かに今、シェルクの中にそれはあった。
だから……。
――だからお願い……私は……あなたに……
「……だからお願い……私は……あなたに……」
――生きて。
最後の言葉が伝え終わらないうちに、回線は強制的に切断された。SNDから復帰した
シェルクを出迎えたのは、異常事態を知らせるアラートとやかましい警報音だった。
室内に並べられたディスプレイの全てに、警告画面が点滅していた。
画面上に表示された情報から、おおまかな現状を把握する。飛空艇の、特に出力低下を
知らせるアラートが目に飛び込んできた。現在、航行維持に必要なシステム以外は強制的に
シャットダウンされていた。先程の回線切断もこのためだと知る。しかしメインエンジンに
被弾した様子はない。
「……!?」
それから周囲を見回す。ケット・シーの姿はどこにもなかった。
――胸騒ぎがする。
シェルク自身に“胸騒ぎ”というはっきりとした自覚はなかったが、何かに背中を押されたように
して部屋を飛び出しコントロールルームに向かった。しかしそこにも、ケット・シーの姿はなかった。
操縦者リーブ=トゥエスティの姿もない。操縦桿を握る男に向けて、シェルクは自ら進言する。
「……私が、様子を見てきます」
「悪ぃな、頼む!」
シェルクは夢中だった。だからコントロールルームを出るとき、伝令を仰せつかったWRO隊員と
すれ違った事など気に留める余裕はなかった。
***
伝令から事のあらましを聞いたシドは、少しのあいだ無言で空を見上げていた。
それからおもむろに、操縦席から延びる階段のすぐ下に座っている一人のクルーを
呼んだ。
舵を取る艦長自らが、目の前の操縦桿を手放すという事が一体なにを意味している
のか? 飛空艇乗りであれば誰もが知っている。シエラ号のコントロールルームにいる
彼ほどの人間であれば、尚のこと。
彼は階段を上りきったところで、シドから無言で操縦桿を託された。いくら訓練を受けて
いても、驚きや戸惑いは隠せなかった。
「……艦長」
「ちぃと頼むぜ」
「しかし!」
「3年前のあの飛行に耐えたんだ、おめぇになら任せられる。頼んだぜ」
シドに対して彼はそれ以上なにも言えなかった。
3年前のあの日。飛空艇ハイウィンドで北の大空洞を発ってからミッドガル領空までの
飛行を経験したのは、シエラ号の中でもシドを含めて数人しかおらず、彼はそのうちの1人
だった。だからこそシドの言葉を誰よりも重く受け止めていたのだ。
――3年前。
崩れ去る大空洞から辛くも飛び立った飛空艇ハイウィンド号は、天空より迫り来る
メテオと地上を覆うホーリーの狭間を縫って飛び続けた。日常で通用するはずの
物理法則など跡形もなく消し飛んでしまった世界、そんな中を飛行するのは無謀以外の
何物でもない。地上も、海も、空気さえも――この惑星上に存在するすべてが翻弄されて
いたのだ。
そんな操縦もままならない状況でも、シドは操縦桿を離そうとはなかった。空から迫る
メテオの恐怖、墜落どころか空中分解してもおかしくはない危機的状況の中、それでも
ハイウィンドの航行を維持するために操縦桿を握り続けた。シドとはそう言う男なのだ。
そんなシドが今、操縦桿を自分に託したのだ。そこまで自分が信頼されているというのは
純粋に嬉しかった。だが、シドが操縦桿を手放すというのは、それ以上の事態なのだ。
当然、彼の頭によぎったのは最悪の事態である。
「エンジンルームの奴らからは未だに応答がない、……あの娘ひとりじゃ心許ないだろ?」
万が一の時のためにと、操縦席の後ろにしまってあった槍を取り出す。しかしもし仮に
シエラ号艇内で戦闘が起きたとすれば、槍使いのシドには分が悪い。それでもシドは槍を
手にした。
それから、まるで彼の内心を見透かしたかのように、シドは豪快な笑い声を上げる。
「安心しな。操縦桿を放り出すなんてマネはしねぇ。必ず戻ってくる。それまで……頼んだぜ」
背中を強くたたかれて、息が詰まりそうになった。そんな彼をよそに、シドは階段など
使わずにそのまま操縦席から下へと飛び降りた。
「お気を付けて!」
その声と、コントロールルームの扉が閉まる音がしたのはほぼ同時だった。
それから彼は目の前の操縦桿を握ると、横にあるパネルも操作し始めた。3年前、
ハイウィンドに搭乗していた頃からの経験が、彼にその操作を促す。
来るべき時に備えて。
----------
・「操縦士、シド=ハイウィンド」ってタイトルでも良かったかも知れません。
今回はまだもう少し続きますです。。。
370 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/24(金) 10:48:36 ID:5SOLMzgj0
ついにシド、出撃!?
続き期待age
保守
保守に来ました
373 :
sage:2006/03/25(土) 12:54:58 ID:5MxPQUfw0
上げちまった、すまんort
>>366-369より。
----------
***
シエラ号内部の各エリアは、狭い通路で結ばれている。いくら全速力で走っても
進路をふさがれてしまえば、どうにもならなかった。
上層部と下層部をつなぐ通路の真ん中で、シェルクは足を止めた。通行を妨害する
彼らの姿に、思わず呆れたような、一方では安堵したような声を零す。
「……なにをしているのですか?」
「!?」
『……あぁ、シェルクはん! 助かりますわ〜』
リーブとケット・シーは同時にシェルクに顔を向ける。会話の主導権を握ったのは、
未だにコートの裾を掴んだままの格好でいたケット・シーだった。
『エンジンルームからの応答があれへんから、わいが見に行こうと思とったんですわ』
「それで?」
こんな場所で何をしているのかと尋ねた。
『おっさんには操縦室に向かって欲しいんですわ。通信設備が使えないんじゃ、わいの
能力つこた方が効率ええと思うんですわ』
「…………」
確かにその通りだと頷いて、シェルクはリーブを見上げた。
「……先程シド=ハイウィンドも同じ話をしていました。現在、シエラ号の出力は正常時の
40%まで低下中、このため航行維持に必要な最低限のシステムしか稼働していない
状態です。詳しい原因は分かりませんが、出力低下の影響から通信設備が機能せず、
コントロールルームからはエンジンルームの状況が全く把握できていません」
操縦席から離れられないシド=ハイウィンドに代わってここへ来たのだと、シェルクは
淡々と語った。その姿をじっと見つめていたリーブはシェルクに向き直ると、コートの
裾を掴んでいたケット・シーはその反動で床の上を転がった。
リーブが何かを言う前に、シェルクが口を開く。
「これではSNDも使えません。ですからリーブ=トゥエスティ、あなたは今すぐコントロール
ルームへ向かって下さい」
「しかし“まったく応答が無い”のです、システムトラブルとは限らない……もしかすると……」
「もし万が一の場合でも問題ありません。……私の強さはあなたも見ていたはず。
そうでしたね」
笑顔になることもなく、まっすぐに視線を向けられた。そんな少女の姿が、彼女と重なる。
こちらが中途半端な理論を展開すれば容赦なく封じてしまう、そんなところもそっくりだ。
そんなことを考えていたら、なぜだかシェルクを直視できなくて、リーブは思わず目をそらした。
(……姉妹、ですね)
『シェルクはんの勝ちやで』
床を転がっていたケット・シーは身軽な動作で跳ね起きると、羽織っていたマントを整え
ながら言葉を発した。
それでようやく諦めたのか、リーブはシェルクを改めて見た。そして観念したように告げた。
「分かりました」
次にリーブは膝をついてケット・シーと向き合った。
(……それにしても何故……?)
自分の感情を吹き込み、自身が操作しているはずのケット・シーがなぜ今回、操縦者の
意志を無視するような行動に出たのだろう? その原因を突き止めたいとも思ったのだが、
残念ながら今はそうするだけの時間がない。
「それでは、エンジンルームの様子を見てきてください」
手短に用件だけを告げると、ケット・シーは頷いた。そうしてリーブの脇から顔をのぞかせ
ると。
『……シェルクはん、戻ったらSNDのお手伝い、させてもらいまっせ』
そんな言葉を残して、エンジンルームへ向けて走り出したのである。扉をくぐり最後に
もう一度振り返ると、ふたりに向けて大きく手を振る。下層部へと続く扉が閉まるまで、
ケット・シーは手を振り続けた。
***
ケット・シーと別れたふたりは来た道を無言で戻った。やがてコントロールルームへ
続くドアが見えてきたところで、リーブの身に異変が起きた。
一瞬、視界が大きくゆがんだ。何の前触れもなく襲った目眩にも似た症状をやり過ご
そうと、とっさに右手を壁につけバランスを崩しそうになる身体を支えた。同時にリーブの
脳裏に投影されたのは、ケット・シーを通して見えたエンジンルームの様子だった。
驚きのあまり思わず声をあげそうになるのを、すんでの所で堪える。
「……っ!?」
(――漆、黒の……闇。ネロ……!)
零番魔晄炉で見た、あの男の影。それがシエラ号のエンジンルームにあった。
ケット・シーの前で駆けつけてきた隊員達が次々と闇の中に消えていった。生理的な
嫌悪感だけではないだろう、リーブはこみ上げてくる物を抑えようと左手で口元を覆い、
俯いた。
しばらくすると後頭部に鈍い痛みが走り、もはや平衡感覚はほとんど失われ、支えなしに
姿勢を維持することが困難になっていた。
(……これは……)
その様子に気づいて振り返ったシェルクの前で、リーブは右手だけでなく右半身を壁に
凭せかけてようやく姿勢を維持していた。
「!? ……」
こういうときにどう行動すればいいのか、どんな言葉をかけてやればいいのか、とっさに
シェルクは分からなくなって助けを求めるように周囲を見回した。
コントロールルームから飛び出してきたシドの姿が見えたのは、ちょうどその時だった。
***
シエラ号に降り立ったネロにとってケット・シーなど初めから視界には入っていな
かった。なぜなら彼が欲しているのは“生命”だからである。ケット・シーは感情を
吹き込まれているとは言え、人形あるいはロボット――つまり人工物である事に
変わりはなく、取り込んだところで生命エネルギーとしては何の足しにもならない
からだ。
もっとも、ケット・シーを通して操縦者の生命を回収できるのならば話は違ってくる
のだろうが。残念ながらネロにはそこまでの知識もなければ、興味もなかった。
しかし一方のケット・シーにとっては死活問題である。ネロの意図する、しないに
関わらず、ここで闇に取り込まれてしまえばそれで終わりだからだ。とはいえ目の
前で次々に消えていくWROの隊員達を放っておく訳にはいかない。
武器を持たない彼にとって、戦える手段は皆無だった。
『……すまんな、おっさん』
呟いてから、ケット・シーはネロに向かった。武器になるのは――この作りモンの
体しかない。高く飛び上がり、両腕を力一杯振り回した。零番魔晄炉でDGソルジャーを
気絶させることはできたのだ.ダメージは与えられなくても、隙を作ることはできるかも
知れない。
そんな僅かな可能性は、ネロが浮かべた薄ら笑いによってあっけなく否定された。
「先程から……目障りですね」
手に持った拳銃を発射することなく、それをケット・シーめがけて振り下ろした。弾など
消費せずとも充分だ、と言うのがネロの判断であり、残念ながらそれは正しかった。まともに
抵抗することすらできず、ケット・シーの体はネロが振り上げた腕に捕捉された。
死、あるいは壊れることへの恐怖はなかった。ただ、ケット・シーは必死に伝えようとした。
まとまらない思考を制御しようとしたが、上手くいかなかった。そのうえ“本体”に届くか
どうかの確証もなかった。それでも、最期まで諦めようとはしなかった。
――わい直接、クラウドはん達には会えんかったけど。
WROの兄ちゃんや姉ちゃん、シャルアはんや、シェルクはんに会えて
……楽しかったで。
大変やと思うけどみんな気ィつけてな。
それからシェルクはん、手伝えのうなってしまってすんません。
それからヴィンセントはん、今度こそメールの返事返してぇな。
それからユフィはん、『あやつる』のマテリア、アレわいのやねんで?
それからシドはん、また飛空艇乗っけてほしな。
それからシャルアはん、みんな待っとるんやから寝坊したらアカンで?
それから……それから……
ホンマはもっと伝えなアカン事、たくさんあるねんけど……。
おっさん。オモチャのわいに命をくれて、おおきに。
また……
…………。
ネロの手によって叩き落とされたケット・シーは、そこで機能を停止した。
380 :
↑:2006/03/26(日) 02:42:11 ID:FoqZTKie0
・実際のゲーム中のシーンでは、明らかに1秒も経ってないだろう
という場面に無理矢理お話を挟み込んでます。
・いろいろ暴走しました。ケット・シーとか作者の脳内とか。
・もう少し続きます。
ネロキタ!…ケットがー!!緊迫した場面の続きが気になります。GJ!
イイヨイイヨー
保守
383 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/27(月) 12:06:27 ID:QcLSA/3Z0
ううううううううううううううううううううううううう
ううううううううううううううううううううううううう
ううううううううううううううううううううううううう
池沼の発作が始まりました
ho
ほしゅ
ここって恋話無しの単なる二次創作はNG?
FFで全年齢対象(エロとかは専用板・スレへ)なら良いとオモ
387です、ありがとうございます。なんか大丈夫そうなのかな。
こういうスレがあってよかった。いずれ投下致します。FF12の超脇役ですw
テカテカしながらお待ちしてます。
できればFF12作品なら冒頭にネタバレ具合は表記してもらえると有り難い。
期待sage!
393 :
387:2006/03/29(水) 13:24:20 ID:DFMHNivk0
お、またせしました^^
今僕は私立中学校に通っている。
どこの学校にもいじめというものは存在しているみたいで俺の学校にもいじめ
られてるやつがいる。
自分で言うのもなんだがおれはひとつ気合がうまいほうだ。(友から言われた)
そいつは俺の席の右隣にいるのだがそのいじめられてるやつの右側にいるやつ
この前そいつの机に「死ね、消えろ、キモイ」などとコンパスでほっているのを
おれはみた。おれはなにもいえなかった・・・・。
みてみぬふりをした。自分が悔しく自分をうらんだ。
誰かのためにおれは拳をふるったことがない。
自分をかえるしかない・・・。心に決めた。
その日おれは本屋によってボクシングの本を買って家ですぶりをした。
1日にジャブ(左)は1000回くらい素振りをしロー(右)も1000回
ほどふった。腕立て伏せも20回×3くらいした。
最初のほうはうまく腕立て伏せもできなかったが2ヶ月ほどたってこなせるように
なった。
半年の間おれはずっと自分の部屋でまいにち1時間くらいトレーニングをした。
おれは・・・・変わった! やつらをつぶせる・・・。
俺が鍛えている半年の間にいじめはひどくなった。いじめてるやつが6〜8人いた。
放課後俺はそいつらを呼んだ。腕にプロテクターとバンテージをまいて・・・。
10分でけりはついた。
俺が勝った。
次の日校長室によばれ事情を聞かれた・・・。俺はすべてを告白した
その後いじめはなくなった。
その後いじめられてたやつにボクシングジムに通うように説得した。
そいつは見る見るうちに強くなりジャブ・ローを完全にマスターしとても強くなった。
俺があいつをかえた。
人は誰かを変えられる。それを忘れないでほしい。
アーシェ「バルフレアー!愛してるわーーーーーーー!」
バルフレア「うわああああああああああああああ!!!!!俺はフランを愛してるんだー!」
フラン「二枚目はつらいわね( ´,_ゝ`)プッ」
ヴァン「オイヨイヨ!(やめろよ、いやがってるだろ!)」
アーシェ「うるせー!貧民!」
ヴァン「ォィョィョー(アーシェがいじめるー)」
バッシュ「泣くな!男だろ!」
パンネロ「耐えぬいて大きくなるのよ(´;ω;`)」
395 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/29(水) 14:36:22 ID:NMVe6/RDO
>>394 ヤバスWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW
保守
保守
年度末保守。
>>387 恋話要素の有無というよりも
作品への愛が重要。
などと言ってみる。
保全
ほー
hosyu
保守
ほしゅ
404 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/32(土) 22:52:55 ID:V3vZKUu9O
あげ
保守
保全
ヴィンユフィを書こうと思うんですが、何かリクエストとかありますかね?
ユフィがヴィンを振り回すのが好きなんだけど、定番過ぎ?
個人的にはDC内でもオープニングとか5、6章とかいいなと思う。
保守
411 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/04/03(月) 20:54:42 ID:ldfguP2MO
>>411 本当に降臨してくれるならACかDC時間軸キボンヌ
でも自分が一番書きやすいのでいいよー
お待ちしておりますwktk
>>412 ありがとうございました。
じゃあAC直後でいかせて貰います。
期待ほしゅ
保守
>>384-385 >>360-362の続きです。
『7th Heaven』という看板の店でティファが足を止めた。
扉は壊れていて、店の中は銃痕だらけだった。
ティファは足下に気を付ける様にとだけ言って、先に立って店に入ると、
陽当たりの良い窓際の席にシェルクを座らせた。
シェルクは毛布をしっかりと握りしめ歯をガチガチと鳴らして震えていた。
「ちょっと待っててね。」
ティファはシェルクの肩に手を置くと、そう言い残して店を出て行った。
自分が座っている一画は無事だが、割れた食器や酒瓶が床に散乱している。
カウンターの椅子は倒され、壁に掛けられた額はだらしなくぶら下がり…
ここで何があったかは容易に想像が付いた。
ティファは両手一杯に何かを抱えて来てすぐに戻って来た。
それを、空いたテーブルの上に置くと、今度は扉を開けて、
家の奥に消え、またたくさんの物を抱えて戻って来た。
何度かそれを繰り返し、最後には自分の身長程あるプロパンガスのボンベを
抱えて地下室から上がって来たのにはさすがに驚いてしまった。
ティファは楽々とそれを床に置くと、コンロに繋いだ。
無事に火が点いたのを確認すると、小さなミルクパンに牛乳を注ぎ、温めた。
それを、2つのマグカップに容れると、砂糖と、小瓶から茶色の液体を少し足す。
「はい!」
シェルクは自分の目の前に置かれた湯気の立つマグカップをじっと見つめた。
「ホットミルクよ。ブランデーの瓶が割れちゃったから、
お菓子作り用のお酒で代用したんだけど…」
そう言いながらティファはシェルクの向かい側に座ると、
試しに自分の分を一口飲んでみる。
「うん、おいしい。」
シェルクもおずおずとカップにカップに手を伸ばす。
湯気からは甘いミルクの香りに混ざって、ほのかに洋酒の香りがする。
一口飲んでみると、優しい味が口の中に広がった。
「お砂糖、もう少しいる?」
シェルクは首を横に振って、ゆっくりとミルクを飲み干した。
「私もね…」
不意にティファが口を開いた。
「空が…嫌いだったことがあるわ。なんだか自分だけ正しいって感じがして、
空が、私を責めてる様な気がしたの…」
「…どういう意味ですか?」
ティファはカップを持ったまま、また小首を傾げる。
「ごめんなさい。ただ…なんとなくよ。」
そう言うと、飲み終えた二つのカップを持って立ち上がった。
「さっき、連絡があったの。子ども達は夕方に帰って来るわ。
安全な所に避難させてたんだけど、仲間が連れて来てくれるって。」
「それは…また、あなた方の仲間ですか?」
「そうよ。あなたにとても会いたがってるの。」
「私に…?」
「ええ。」
シェルクは会った事のない人物が何故自分に興味を持つのか不思議だった。
「それは…ヴィンセント・バレンタインが私の“世話になった”からですか?」
「多分、ね。」
やはり、よく分からない。
ティファはカップをシンクに置いて、軽く伸びをする。
「さてと、私はお店と家を片付けなくちゃ。あなたはどうする?少し休む?
それとも…もし、元気があるのなら手伝ってもらえるかしら?」
ホットミルクのお陰だろうか?さっきまでの震えはいつの間にか収まっている。
「大丈夫です。お世話になるのだから、手伝いくらいなんでもありません。」
「ありがとう。」
ティファは店の奥にある戸棚を開け、ほうきとちり取りを持って来た。
「これで、床を掃いていてくれる?割れた食器があるから、
必ずこの手袋をしてね。集めたガラスはここ、ゴミはこっちに捨てて。それから…」
ティファは細かく指示を出すと、
「じゃあ、私は今夜あなたが寝るベッドの用意をしてくるから、お願いね。」
バタンと扉が閉まって、店に一人残されたシェルクはまじまじとほうきを見つめる。
昨日までの激しい戦いと、10年に及ぶ地下での生活とのギャップが一度に押し寄せて来て、
思わず天を仰いだ。が、見えるのは鉄骨とコンクリートがむき出しになった天井だけだ。
(静かだ…)
表には人通りがあり、車の音も聞こえてくるが、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
そして、改めて手に持ったほうきに目をやる。
昔、まだ姉と暮らしていた時に使った事があったので、
どういう風にすればいいのか、大体分かる。
とにかく、やると言ったのだから…とシェルクはほうきで床を掃き始めた。
ティファは自分の部屋のベッドからシーツを剥いで、新しいのに変えていた。
(デンゼルと同じ事を言ってたわ…)
ここに来た当初、デンゼルは“世話になっている”という態度を崩そうとしなかった。
(いつか打ち解けてくれるといいけど…)
ティファは小さく溜め息を吐いた。
踵を返して、部屋を出ようとして、足を止める。
(いけない…忘れる所だった…)
ティファは携帯を取り出すと、クラウドに電話をかける。
「クラウド…?ごめんなさい、ちょっといい?」
電話からは瓦礫を取り除く作業音がして、クラウドの声が聞き取りにくい。
「そう…まだ見つからないのね。うん…うん…」
ティファは、シェルクと無事に店に着いたこと。
子ども達は夕方帰って来る事を伝えた。
クラウドも作業の進み具合を話す。ヴィンセントはまだ見つからない。
シドも手伝っていたが、飛空艇団の方にも顔を出さなくてはならないので、
自分とバレットとユフィで作業を進めている。そんな事を言葉少なく伝える。
そして、ティファに電話をして来た理由を聞いて来た。
「実はね、運んで貰いたい物があるの。」
ベッドメイキングが終えると、ティファはシェルクの様子を見に、下へと降りて行った。
店と、住居部分を仕切る扉を開けると、もうもうとホコリが立ちこめ、
ティファは思わずくしゃん、とくしゃみをしてしまった。
見ると、シェルクが一心不乱にほうきで床を掃いている。
しかし、それは掃いているというよりや、ほうきを床に擦り付けて、
ほこりを舞い上げていると言った方が正しい。
「シェルク…?」
振り返ったシェルクは困った様に眉を寄せ、ホコリで目を真っ赤にしている。
ティファは思わず吹き出してしまった。
「何が…おかしいんですか?」
ムッとしたシェルクが聞き返す。
「ごめんなさい…」
ティファは尚もくすくす笑いながら、窓と扉を開け放った。
「私の教え方が悪かったのね。これじゃあ、ホコリが立つばっかりだわ。」
「だったら、笑うのは止めて下さい。」
「だって、今のシェルクの顔…」
少し唇を尖らせて、拗ねた様な顔がとても可愛らしかったのだ。
ティファがそう言うと、シェルクはぷい、と横を向いてしまう。
「ごめんなさい。もう笑わないわ。私も手伝うから、床を掃いてしまいましょ?」
シェルクはしぶしぶ頷くと、ティファに教わりながら掃き掃除を再開させる。
まず、必ず窓を開ける。ほうきはほこりが立たない様にそっと動かす。
ティファは辛抱強くシェルクに掃除を教え、陽がかげる頃にはなんとか店を片付ける事が出来た。
>>359 呼び名に関してはバッチリ伏線です。でも、そんな大掛かりな物ではないですが…
>くせ者とか言いながら 不安からちょっと頼りにしちゃったりする辺り
DC内でも、この二人のやり取りがとても好きでした。
今後、シェルクがどうなるかは分かりませんが、
なんだかんだでリーブが保護者っぽくなるのかな〜
なればいいな〜♪と思いつつ。
これを書くためにDC再プレイしました。
あれやこれやと批判はありますが、ヴィンセントの設定なんかは後付けは後付けでも、
良く出来た後付けだなぁ…と思えて来ました。
ここの所、毎日ここの小説を読みふけってるせいでしょうか?
>>413 自分もヴィンユフィ好きです。 光臨お待ちしております…
424 :
ぽう:2006/04/06(木) 12:50:25 ID:s89A6xFf0
ここはスカトロネタ書いてもいいんか?
保
守
>>348-354 >>360-362 >>416420の続きです。
今回、また夢見がちなクラティ入ります。
お嫌いな方は後半クラウドの“あの子は…シェルクはどうだ?”
というセリフ以降を飛ばして下さいませ。
シェルクの戦闘服の記述は投稿人の勝手な解釈です。間違ってたらごめんなさいよ。
===========================================================
仕上げの拭き掃除をしていると、表でバイクが停まる音がした。
テーブルを拭いていたティファが顔を上げた途端、ばん!と乱暴に扉が開き、
口元を押さえたユフィが飛び込んで来た。
「うええええぇぇぇ〜っ!」
そして、ティファの顔を見もせず、バスルームに飛び込んだ。
それをティファとシェルクの二人が呆然と見送る。
その後から大きな段ボールを抱えたクラウドが入って来た。
「ご苦労様。」
段ボールをテーブルの上に置いたクラウドに、ティファが労りの言葉を掛ける。
「頼まれた物は揃った。同じ事をリーブも心配していた。」
「そう、ありがとう。ところでユフィがどうして?」
クラウドは、はぁ…と溜め息を吐いた。
「なぁに?ユフィがどうかした?」
「ヴィンセントの事が心配らしくて…気を紛らわそうといつも以上に喋るんだ。」
あぁ、とティファは頷く。
「見かねたシドがそう言ったら、逆に俺たちが心配してるだろうから、
喋ってあげるんだと言って聞かない。」
ティファは思わずユフィが飛び込んだバスルームの方を見る。
クラウドも釣られて同じ所を見る。
「それで…」
「うるさいから、連れて行けってバレットが言ったんだ。」
ティファはやれやれとクラウドを見上げる。
「私に押し付けるのね?」
「すまない。」
「いいのよ。賑やかなのは大歓迎。」
ティファはくすくす笑いながら段ボールを開けた。
「助かったわ。早くに届けてくれて。」
ティファが取り出した物を見て、遠巻きに様子を眺めていたシェルクが歩み寄る。
「それは…」
シェルクの服の背中と胸の部分についている拳ほどの大きさのカプセルだった。
「あんた達にはそれが必要なんだろ?」
シェルクは思わずクラウドを見上げた。
(…なんだろう?この感じ…)
確かに、これには魔晄エネルギーが入っている。
ここから戦闘服の青いラインを通って、魔晄エネルギーを吸収する事が出来るのだ。
ただし、シェルクの場合、これだけでは十分ではない。
一日に一度はカプセルに入らなければならないのだが。
どうやらティファが心配して手配を頼み、彼がそれを届けてくれたらしい。
感謝するべきなのだろうが、どうしてだか、彼の物言いに何故か腹が立った。
「他の兵士にも配らなくてはいけないから、あまり数がない。」
「そうね…魔晄炉も、もうないし…」
言いかけてティファは、はっとなってシェルクを見る。
「大丈夫よ。私たちに任せて。」
シェルクが頷く。
「じゃあ、俺はミッドガルに戻る。」
クラウドは扉を開けて、さっさと外に出てしまう。
慌ててティファが後を追う。
大きな黒いバイクに跨がるクラウドにティファが何か話しかけてるのを、
店の中から窓越しに眺めながら、シェルクは自分の中に
沸き上がった苛立ちの素は何かと考えていた。
「あの子は…シェルクはどうだ?」
「まだ…分からないけど…」
「けど…なんだ?」
「シェルクは…あなたに似てるの。あなたにも似てるし…
ここに来た時のデンゼルにも…あと…」
ティファは言葉を切って、目を伏せた。
口ごもるティファを、クラウドはじっと見つめる。
「私にも。」
「…そうか。」
「ね、クラウド?シェルクが居たいって思う間は、
ずっと家に居てもらってもいいよね?」
「もちろんだ。」
「あ…でも…ベッドが足りないよね!」
さっきの暗い表情でクラウドに心配を掛けてはいけないと、
ティファが努めて明るい声で言う。
「もう一つ買えばいい。」
さらりと言うクラウドに、ティファの顔に笑顔が戻る。
「クラウドったら…簡単に言うけど、そのベッドはどこに置くの?」
「俺の部屋に置けばいい。」
「え…?」
一瞬、意味が分からずにティファはきょとんとクラウドを見る。
「えっと…それは…シェルクのベッドをクラウドの部屋に置くの?
だったら、クラウドのベッドはどこに置くの?」
「俺のベッドはそのままだ。ティファのベッドを俺の部屋に置けばいい。」
ティファの顔が見る見る赤くなる。
「今まで別々だったのがおかしいんだ。」
「ど…どうしたの?クラウド?」
「そうすれば、朝こっそり自分の部屋に戻る
なんて面倒なマネはもうしなくていい。」
耳まで赤くなったティファを見て、クラウドが笑う。
その笑顔に、ティファは少しホッとする。
「もう…からかったのね、クラウド?」
「いや、本気だ。」
再び固りかけたティファだが、クラウドの計画を
なんとか阻止しようと必死になる。
「だ…だめよ!私…!そう!イビキとか、かくかも!」
「今まで聞いた事はない。」
一歩踏み込むと逃げようとする。
ティファのそういう所は相変わらずのようだ。
「ベッドは頼んでおく。」
「クラウド…!」
我に返った時、フェンリルはもう走り去った後だった。
ティファは途方に暮れてクラウドの姿が見えなくなるまで見送ったが、諦めて店に戻る。
(そうよ…ユフィだって居るんだもの…必要なのよ)
自分に言い聞かせても、何故か言い訳がましく聞こえる。
「ティファ。」
呼ばれて、いつの間にか目の前に居たシェルクに慌てて目をやる。
「彼は…ティファの配偶者なのですか?」
「え…えぇ、そうよ。…いえ、みたいな者かしら…」
しどろもどろに答えながら、ティファはハッとなる。
「うれしいわ、ティファって呼んでくれて。」
シェルクは相変わらず無表情のままだ。
「別に…敬称で呼ばれるのは、場合によっては不愉快だという事に気付いただけです。」
彼女の言葉が自分の亭主のあんた呼ばわりを指しているとは、
少々逆上せ(のぼせ)気味の今のティファが気付くはずもなかった。
つづく。
>>427 乙です。シェルクが魔コウを浴びなくても大丈夫な理由を補完させてもらいますた。
ティファの名前を呼ぶシェルクがよかった。あと真っ赤になるティファが可愛いいっすw
こういうほのぼのした雰囲気のも読みやすくてイイ。
夢見がちクラティGJ!!w
ティファテラカワイスwww
これからも期待してるぜ!!頑張れ!!
ヴィンセント心配してるユフィ…たまんねぇww
ヴィンセントが自分庇ってライフストリームに捕まって
魔コウ炉→オメガに引きずり込まれるの目の前で見てるしなあ。
そりゃ心配するよなー。メンバー中一番そういう情深そうだし、ユフィ。
>◆BLWP4Wh4Oo氏
乙華麗です
一生懸命ホウキで掃こうとするシェルクタソとクラティに萌えた
がちゃぽんクラウドの首から下だけ落として、
凹んで帰って来たら皆様の暖かいお言葉!ありがとうございます(つд`)・゚・
まだまだ続きますが、どうかお付き合い下さいませ。
がんばれ
DC後良い!乙です。
続き待ってます(´ω`)
>>435 昨日再プレイしていて丁度そのシーンを見ました。
一度目の時はストーリーを追うのに精一杯で、あまり印象に残りませんでしたが、
二度目でヴィンセントが真っ先にユフィを庇って突き飛ばしてるのに気付きました。
オリジナルでは分からなかったヴィンセントの魅力が再認識されて、
そう言った意味では自分内ではDCはネ申ゲームになりつつあります。
>>438 頑張ります・゜(つД∩)゜・。
>>439 ありがとうございます。
では、少しですが保守がてらの投下です。
>>348-354 >>360-362 >>416-420 >>427-432の続きです。
「私はちゃんと名前で呼びました。だからどうして…」
シェルクが言い終えない内に、弱々しくバスルームの扉が開く。
「あ〜死ぬかと思った…」
まだ青い顔でフラフラとユフィが出て来た。
ティファは、ちょっと待ってね、と言い残し、ユフィに歩み寄る。
「あれ?クラウドは?」
「ミッドガルに戻ったわよ。」
「ちぇーっ!なんか言ってから戻れよな〜!」
ユフィはいつもの右手でシュシュッとやる、が、すぐにへたり込んでしまう。
「無理しないで。」
ティファが屈んで、ユフィを助け起こし、
さっきまでシェルクの指定席だった窓際の席に座らせてやる。
「アタシも戻る!アタシが居ないと、ヴィンセントの奴、見つけられないじゃん!
なのに、シドもバレットもさ!アタシを邪魔者扱いして〜!」
「それは違うわ、ユフィ。」
ティファの言葉に、ユフィは唇を噛んで、肩をすくめる。
「分かってるんでしょ?みんなあなたを心配してたの。」
「アタシは平気だよ!?」
「バイクに酔っただけじゃないでしょ?足下、フラフラだったわよ。」
ヴィンセントと一緒にカオスの中心部まで行き、人知外の物を見聞きしてきた
ユフィは自分で気付かない内にダメージを蓄積していたようだ。
「ヴィンセントなら大丈夫だから、ここで一緒に連絡を待ちましょ?」
「いーやーだっ!」
ダダをこねるが、いつもの子供っぽい表情ではない。
「だってさ、アイツ…アタシのこと、何度も庇ってさ…」
シェルクにはユフィの言動が意外だった。
だが、姉がアスールのせいで植物状態に陥った時の彼女の反応を思い出し、
悲しい事は悲しいと素直に表現する人物なのだと思い直す。
(表現…?違う…もっと自然な…)
あれは感情をアウトプットするというより、
勝手にわき出して来ているとでも言う方が正しい気がする。
さっきクラウドに対して腹が立ったこと、ティファにからかわれて恥ずかしかったこと。
ほんの一日の間に色々な感情が思い出された。
“それが、人、なのだろう”
ここに居ない彼の言葉が浮かぶ。
「そうね、ヴィンセントはそういう人だもんね。」
ティファの相槌に、ユフィはスン、と鼻を鳴らす。
「大体さ、アイツ…アタシよりジジィのくせして…無理しんなっつーの!」
「ユフィ。」
ティファが優しく諌める。
「ゴメン。」
「彼が無茶ばかりする所を見てたから、心配なのね?」
ユフィは答えない。
頷きもせず、何かを堪えている様にテーブルの上をじっと睨んでいる。
「ティファ。」
「ん?」
「シャワー借りていい?…もう、ホコリと汗でぐっちゃぐちゃ。」
「いいけど、お湯は出ないわよ?」
「平気。」
ユフィはえい!と勢いをつけて立ち上がる。
「真冬でも、滝に打たれて修行してるからね!」
「本当かしら?」
本当だよ〜と、ユフィはおどけて顔をしかめてみせる。
「んじゃ、一風呂浴びて来ますか!」
ユフィはヒラヒラと手を振り、再びバスルームに消えて行った。
ユフィ萌えw
どうでもいいが「それが、人、なのだろう」という台詞を見て
某ゲームでエンディングに敵役が吐いて行く台詞を思い出したのは俺だけですか。
「優しいのだな、ラカン。きっと、それが人であることの意義なのだろう」
突っ込んだらいかんのかもしれんが
カオス内部ってのはオメガ内部の間違いだろうけど
ユフィはオメガ内部にも入ってないよな?
零番魔コウ炉行ってネロの闇にとっ捕まって精神攻撃喰らってダウン、
ヴィンvsヴァイスの時にやってきてオメガ覚醒時に
ヴィンセントに突き飛ばされてそのまま魔コウ炉から脱出、だよな。
オメガが復活したときには外にいたし、オメガの周りにはバリア張られてたし。
>>445 ご指摘ありがとうございます。
読み返したらカオスとオメガと間違ってるし、誤字多いし…ort
仕事が忙しくなるので、今の内少しでも進めようと焦ってしまいました。
急ぐよりも、質を落とさない方が大事ですよね。もっと落ち着きます。
>>446 皆さん、気付かれてますよね。あぁ、恥ずかしい…ort
恥ずかしいけど、誰にも言われないより、指摘して頂いた方が救われます。
何か気付いた事がありましたらよろしくお願い致します。
明日、書き溜めた物をまた投下に参ります。訂正分も合わせて投下し直しますね。
>>DC後 ◆BLWP4Wh4Oo
ユフィがエエ娘だー!
6章終盤の出来事をシェルク視点で思い出しているところがナイスです。
FF7プレイ当時のユフィの印象を、うまくDCのイベント(特にビンタの動機として)
描いてくれているのが嬉しかった。
>>444 横レス(そして板違いw)ですが。
自ら進んで人の道を外れて歩む事を選んだ者と、
「生きてほしい」という願いから、結果的に人の道から外れた存在にされたヴィンセント。
彼らの背負っているテーマって似てると思います。どっちも最後は飛んでいくところとかw
そういやネロの闇の中からユフィとシェルクを救出したんだから、ついでにケット・シーも
救出してやってくれないものかと思…わないかw
>>375-379より。
----------
***
額に多量の汗を浮かべ、肩を上下させて荒く呼吸を続けるリーブに肩を貸し、
彼を支え起こしながらシドは問う。
「おい、何があった!?」
「……ろ、が。……」
俯きながら答えたリーブの言葉に主語はなく、それどころか言葉にすらなって
いない。事情を聞こうと声をかけたまではよかったが、シドはますます訳が分から
なくなった。
「どうしたんだ!? おい、リーブ!」
気絶するほどの衝撃ではないにしろ、ケット・シーがもたらす影響というのは
少なからずリーブの身体にも及んでいた。シドや、まして何も知らないシェルクが
戸惑うのは仕方のないことだった。
そもそもリーブがこの能力について、これまで――神羅時代の同僚や上司は
もちろん、3年前ともに戦った仲間達にさえ――詳しい話をしたことは無かった。
何も知らない彼らから見れば、特に外傷を負ったようにも見えない男が、なんの
前触れもなく突然苦しみだしたのだ。そんな状況を目の当たりにして、驚くなという
方が無理だろう。
リーブの“能力”とは、ある特定の条件を満たした無機物に命を吹き込むことが
できると言うもので、つまりケット・シーは完全な遠隔操作ロボットではなく、リーブが
命を吹き込んだ文字通り“分身”なのである。だから分身が受けた衝撃の一部を、
本体であるリーブも感覚として捉えることができた。零番魔晄炉の最深部でケット・シーが
見た光景をリーブが知り得たのもこのためだ。
しかしこの能力自体、リーブ自身も完全には理解できていない部分が多くあった。
だから語らないのではなく、語れないのだ。
皮肉にも結果的にはこのことが、リーブの身に及んだかも知れない危険を回避する
ことにもつながった。下手をすれば都市開発部門統括責任者という立場ではなく、
ヴィンセントやレッド13のように宝条の被験体として神羅ビルに身を置く運命が待って
いただろう。あるいはシェルクのように、適性者としてディープグラウンドへ送られていた
かも知れない。もしそうなっていれば、この能力を目覚めさせることもなく、命を落とした
可能性だってある。
いずれにせよ、今こうしてこの場所にいることは無かっただろう。
「す……みま……、せ」
口を開けば出てくるのは言葉を成さない掠れた声だけで、シドからの問いかけにも
まともな返答をできずにいた。頭の中には明確なビジョンとして答えが見えているというのに。
迫っている危険を知りながらも、それを伝えられないもどかしさは、まるでそれ自体が
気道を塞ぎ呼吸を妨げている様だった。
「だーっ、もういい分かった! 分かったからとりあえず黙ってろ!!」
リーブの姿を見かねてそう言ってしまったのはいいが、シド自身なにが分かったのかは
分からない。強いて言えば、こんな状態のリーブから何かを聞き出そうというのは間違って
いる、という事は分かった。
「…………」
シェルクは黙ってふたりに背を向けた。彼らの姿を目の当たりにしていると、なぜか
居ても立ってもいられなかった。一刻も早くこの場を立ち去りたい、そんな衝動に駆られた。
――なぜだろう?
人間の死
そんなものには、これまで数え切れないほど立ち会って来たはずなのに。
今さら……。
(……今さら……?)
――今さら、何だと言うのだろうか。目の前で苦しんでいる男が死んでも良いとでも?
それでどうなりますか? 何が得られるのですか?
(…………)
当初、エンジンルームへ行くのは自分だった。それを阻止し代わりにケット・シーが
エンジンルームに向かった。その結果として今、目の前に広がる光景がある。
「ケット・シーは、ふつうのロボットには搭載されていない"感情"を積んでいます」
「彼らのデータは、私の記憶を介して蓄積されています」――先ほど、リーブ=トゥエスティの
語っていた言葉をシェルクは思い出していた。
やがてシェルクの中で、点在するデータが関連付けされていく。こうして導き出された仮説が
事実だとすれば、恐らくケット・シーとリーブ=トゥエスティは同期していると考えることができた。
残念ながらその構造やシステムまでは皆目見当もつかないが。ネットワークに意識のみを
潜行させるシェルクの能力と似ているか、とても近い存在の様にも思える。あるいは、まったく
逆なのかも知れない。
(それは、つまり……)
とにかく今は急がなければ。そんな使命感にも似た思いが、シェルクの足をエンジンルームへと
向かわせた。
無言で立ち去ろうとする少女の背中を、シドは何も言わずに見送ろうとした。
しかし、リーブはそうする訳にはいかなかった。整わない呼吸、たとえ肺の中に
残った空気が尽きるとしても、声を絞り出そうとした。
エンジンルームにはネロがいる。いくらシェルクがツヴィエートの一角を成す程の
力の持ち主だとしても、ネロには――彼の持つ闇の力には敵わない。彼女を行かせる
のは危険すぎる。
「い、けま……せ、ん……シェルクさん!!」
たとえここで自分が向かったとしても何の戦力にもならないだろう。かと言ってシドを
行かせるわけにはいかない。ここで軸となる戦力を失えば、魔晄炉破壊の任務を遂行
する人間がいなくなってしまう。先に降下している地上部隊は苦戦を強いられている、
もはや戦況はとても楽観視できる状態ではない。
となれば、なおさら今ここで彼らを失うわけにはいかなかった。
考えるまでもない、答えは1つだ。
自分の身を支えていたシドの肩を退けて、リーブは通路の壁を支えにして立ち上がる。
視線はまっすぐ前方に向け、足下は決して見なかった。まるで何かに取り憑かれたように、
エンジンルームへ向けて身体が動く。
そんな憔悴しきったリーブの姿を目の当たりにしたシドだったが、目の前で何が起きて
いるのかは未だ理解できずにいた。彼がなぜ苦しんでいるのか、どうしてそこまで必死に
エンジンルームを目指そうとしているのか。
しかし考えても埒があかない、理解しようとする前にシドは立ち上がると背負っていた槍の
柄をリーブの眼前に突き出した。狭い飛空艇内の通路で、今のリーブの前進を妨げるには
それだけで充分だ。
突き出された槍に手をかけて退けようとするリーブに、シドは言い放った。
「おいてめぇ、……出撃前のオレ様の話を聞いてなかったのか!?」
その問いにリーブは答えなかった。もちろんシドの戦声を聞いていなかった訳では
ない、むしろ思いはシドと同じだった。
――これは、生き残るための戦い。
だからこそ、シェルクを連れ戻さなければならなかった。
しかしこの男――シド=ハイウィンドに言葉だけで説明しようとしてもムダなのだ。
それは3年前の旅でリーブも心得ている。シドにとって重要なのは言葉ではなく、
思いなのだ。
「彼女を、行かせる訳には……いきません」
思いを伝えるには、それだけで充分だった。
その言葉に、シドは「……そうか」と言ってゆっくり頷いた。しかしそれは、同意を示す
ものではなかった。
「だがオレ様もなぁ、お前を行かせるわけにはいかねぇんだよ」
そう言って乱暴に胸ぐらにつかみかかると、怒鳴るようにしてシドは続ける。
「いいかリーブ、よぉーっく聞いとけ。
確かに飛空艇師団への出資者はてめぇだ。だがな……飛空艇の中ではオレ様の
指示に従ってもらうぜ。できねぇなら今すぐ、この艇から降りろ!」
旧ミッドガル領空付近を飛行中の艇から、ホバーやパラシュートもなしでどうやって
降りろというのか。しかも地上は現在交戦の真っ最中だ。それはどう考えても明らかに
自殺行為だ。
無論シドとて飛空艇のパイロットとしての知識と経験は豊富にある、自分が言っている
ことが無茶苦茶なのは百も承知だった。だが、リーブに向けられた彼の目は真剣その
ものだった。
「離……」
その手をどけてくれと言おうとしたが、声は続かなかった。
「大体なぁ、これから地上に降りて魔晄炉爆破するんだろうが?! 部隊を誰が先導すんだよ?
……空ならともかく、オレ様はミッドガルの構造なんざ知らねぇぞ」
「し、かし」
なおも反論しようとするリーブを一瞥して、シドはため息を吐いた。胸ぐらを掴んでいた
手の力が緩められ、解放されるものだと安堵した。
しかし次の瞬間、腹部に強烈な痛みが走る。
その一瞬、リーブの目に見える世界がまぶしく輝いた。直接的なこの痛みは、恐らく。
「……、シ……ド?」
全身から力が抜けていく。両足と壁、ふたつの支えを失ったリーブは、物理法則に従い
床へと倒れ臥した。どさりという音だけがやけに大きく聞こえた気がする。
倒れた後、痛みよりも強く感じたのは頬全体に広がる冷たい感覚だった。白光した視覚から
得られる情報はなかったものの、腹部を殴られそのまま意識を失うまでの間、リーブは驚く
ほど冷静に自身の状態を捉えていた。
気絶する。そう認識した頃には視界を覆い尽くしていた白光は収まり、今度は一転して闇が
広がっていく。
徐々に視界を浸食していく闇の中で、彼の内に流れ込んで来たのはケット・シーからの声。
たくさんの思い。
この時になってようやく、リーブは自身の持つ能力の本質に気づいたのかも知れない。
(……ケット・シー、は……)
――おっさん。オモチャのわいに命をくれて、おおきに。
また……
…………。
しかし最後までその声を聞くことなく、リーブの意識は途切れた。
----------
保守
鼓吹士続き、待ってましたっ!!
インスパイアの実態、興味深いです。
ケット・シーは……??
更に続きを待ってますー!!
>>449-454 シドの、乱暴だけど、リーブを心配して止める所がすごくいい!
ギリギリな所でのこの二人のやり取りがすごく好きです。
ケットの最後の言葉も泣ける…続きを楽しみにしてます!
>>441 の訂正です。
書き直したのを全部貼ろうかと思いましたが、長くなるので訂正箇所だけで失礼します。
×ユフィはいつもの右手でシュシュッとやる、が、すぐにへたり込んでしまう。
○ユフィはいつもの右手でシュシュッをやるが、すぐにへたり込んでしまう。
×ヴィンセントと一緒にカオスの中心部まで行き、人知外の物を見聞きしてきた
ユフィは自分で気付かない内にダメージを蓄積していたようだ。
○敵地中枢まで行き、人知外の物を見聞きしてきたユフィは
自分で気付かない内にダメージを蓄積していたようだ。
>>442 ×「大体さ、アイツ…アタシよりジジィのくせして…無理しんなっつーの!」
○「大体さ、アイツ…アタシよりジジィのくせして…無理すんなっつーの!」
>>448 DC内でのユフィはおちゃらけ担当にされてしまって、物足りなくて。
素直でストレートに怒ったり心配したり…そんなユフィのが書きたかったんですよ。
>>348-354 >>360-362 >>416-420 >>427-432 >441-442の続きです。
「心配…してたんですね。」
ユフィがバスルームに消えた後、シェルクがぽつりと呟く。
「そうね。信じてるけど、心配なの。矛盾してるようだけど。」
「私も心配しています。」
「私もよ。」
ティファが微笑む。
「さてと…ユフィの着替えを出してあげなくちゃ。」
ティファはそう言って、階段を上りかけ、足を止める。
「あ…シェルク、さっき何か言いかけなかった?」
「いえ…別に。」
ティファはそう?と訝しげな顔をしたが、
後でゆっくり聞こうと思い直し、部屋に着替えを取りに入る。
残されたシェルクは、クラウドの持って来た段ボールからカプセルを一つ取り出す。
胸の部分のを外し、付け替える。
背中のもそうしようとして、思い留まった。
もう魔晄エネルギーはないのだ。
仮に調達出来たとしても、次に手に入るのはいつになるか分からない。
これだけの量でどれだけ活動出来るかは分からないが、
(少しでも長く保たせなければ…)
残りのカプセルを戻そうとして、箱の底に別の物を見つけた。
(何…?)
手に取ろうとした途端、バスルームの扉が開く。
「ティファーっ!着替えー!」
バスタオルだけを纏った(まとった)だけのユフィがガチガチと歯を鳴らしながら出て来た。
「うっひゃ〜!寒い!氷水でも使ってんじゃないの?」
身体を縮込ませ、足をバタバタと踏みならす。
さっき言っていた事と、現在の行動には大きな矛盾が感じられたのと、
ユフィの様子がおかしくもあり、シェルクが思わず吹き出す。
「あーっ!笑ったな!」
目敏く気付いたユフィが拗ねる。
その顔を見て、シェルクはさっきティファが自分を笑った理由が分かった気がした。
ここに来る時に纏っていた毛布が椅子に掛けてあったのを思い出し、
それをユフィに手渡してやる。
「あ…ありがと。」
少し赤くなりながら、ユフィがそれを受け取る。
階段を下りて来たティファがユフィの様子を見て吹き出す。
「なぁに?冷たい水は平気じゃなかったの?」
「だってさ〜、雪ん中で滝に打たれるのって意味あると思えないもん。」
「やっぱり、サボってたのね?」
シェルクも声には出さないが、やはりそうなのかと納得してしまう。
「もぉ、いーじゃん!ねぇ、着替え貸してよ。」
「私の部屋の、ベッドの上に出してあるわ。」
ユフィはやかましく階段を上って行ってしまう。
ティファはやれやれとそれを見送ると、例の段ボールを抱えてその後に続く。
箱の中身を確認しようと思っていたシェルクは、
なんとなくそれが言い出せなくてそれを見送った。
部屋に入ると、早々に着替えたユフィが何やらブツブツ言っている。
「なぁに?」
「大きいよ。」
「そのパンツ、ウエストの内側に紐が付いてるの。それで絞って…」
ティファは、色が気に入らない、胸が余る、等等、
やかましいユフィの世話をあれこれと焼いてやり、
最終的にグレイのコットンのパンツに淡いイエローのタンクトップ、
それに白いパーカーを羽織る…という格好に落ち着いた。
「ねぇ、ユフィ。ミッドガルに戻りたかったら、今度クラウドが来た時に
また連れて行ってもらえばいいわ。それまでここで少し休んで行きなさい。」
「それまでに…見つかるかな。」
「きっと見つかるわ。」
ユフィはくるりとティファに背を向ける。
「しょーがないなぁ。それまで居てやるか。」
泣いてる顔を見られたくないんだろう、ティファはそう思い、
「少しこの部屋で休んでらっしゃい。私、夕飯の支度をしてくるから。」
そう言って、部屋を出て、ドアを閉めた。
つづく。
イイヨイイヨー
続き楽しみにしてる!
超GJ、楽しみにしてるよ
>>348-354 >>360-362 >>416-420 >>427-432 >>441-442 >>459-461の続きです。
一人で降りて来たティファは、ユフィは少し休んでるからとシェルクに伝え、
カウンターに入ると夕食の支度を始めた。
「今夜はね、シチューとサラダとマッシュポテトよ。」
そう言って、大量のジャガイモの入った籠をでん!とシェルクの前に置く。
「全部剥かなくていいの。これくらいかな?」
ティファは適度な大きさの物を5つくらい選び、少し考え直して、更に3個加える。
「パンもお米も手に入らなかったの。マッシュポテトはライス替わりね。」
シェルクに皮剥器を手渡し、掃除のときと同じ様に、作業を細かく教える。
「こうやって、ジャガイモの皮の上で滑らすの。芽があったらここの爪でえぐり取って…」
手袋を取り、ぎこちない手で皮むきを始めたシェルクの向いに座って、ティフは人参の皮を剥く。
作業をしながら、商店は開いていたが流通が滞っており、商品がなかった事を話した。
「だから保存試食総動員のメニューなの。レタスがちょっと萎れ(しおれ)かけね。」
ティファはふと手を止め、シェルクの手元を見る。
「大丈夫?」
シェルクは皮剥き器に苦戦しているようだ。
ふぅ、と小さく息を吐き、皮剥き器をテーブルに置くと、
「あの…ナイフはありますか?」
ティファは小ぶりの包丁を持って来て渡してやる。
するとシェルクはそれを使って器用にするすると皮を剥き始めた。
目を丸くするティファに、シェルクは頬を少し赤くする。
「昔…母の手伝いをした時に覚えました。」
その頃と同じ様に包丁が使える事に自分で驚いてしまう。
(もう10年以上前なのに…)
ぼんやりと覚えている台所の風景と母の後ろ姿。
包丁を持たせてもらえたのがうれしくて、
姉と二人で競う様にして野菜の皮剥きをした事を思い出した。
「お家のこと、思い出したのね?」
シェルクは頷いた。
「どんなお家だった?」
首を横に振る。
「そっか…」
黙々とジャガイモの皮を剥くシェルクに、ティファはそれ以上話しかけなかった。
野菜の皮を全部剥いてしまうと、ティファは手際良く料理を作る。
横から眺めていると、簡単な手伝いを次々と言いつけられた。
シェルクがポテトマッシャージャガイモと格闘していると、表で賑やかな子供の声がした。
「帰って来たようね。」
ティファは料理を中断し、手を拭いて出迎える。
「ティファ!」
「ただいま!」
「おかえりなさい。」
ティファは屈んで両手を広げると、二人を抱きしめる。
二人はティファと会えなかった間に起こった出来事を口々に喋ろうとする。
「ストップ!お話は食事の時にゆっくり聞くわ。まずはお客様にご挨拶して。」
言われて、二人は初めてカウンターに居るシェルクの方を見た。
挨拶と言われ、シェルクもカウンターから出て来る。
途端に子ども達の顔が強ばった。
目を輝かせてティファにしがみついていたのが、男の子の方はぎゅっと眉を顰め
唇を噛み締めているし、女の子は怯えてティファにしがみついてしまった。
「どうしたの、二人とも…?」
喜ぶとばかり思っていたティファも、二人の反応に戸惑う。
「その人は仲間だよ。」
シェルクが声のした方を見ると、身体に入れ墨の様な模様を持つ、
赤い豹の様な不思議な生物だった。
声がした所に居るのは、この生物だけだ。
(じゃあ、今、喋ったのは…)
シェルクが目を丸くしていると、その生物はシェルクの足下にゆっくりと歩み寄る。
「シェルクだね?」
ぎこちなく、シェルクが頷く。
「オイラはナナキ。みんなから話は聞いてるよ。あんたに会いたかったんだ。」
「ティファが言っていた、もう一人の“仲間”って…」
「オイラの事さ。驚いたかい?」
ナナキはデンゼルとマリンの方に振り返って、
「この人だよ。ヴィンセントを助けてくれた仲間は。」
“仲間”という言葉がうれしくもあるが、
それよりも子ども達の反応がシェルクにはショックだった。
「さ、分かったでしょ?ちゃんとご挨拶して?」
ティファに促され、二人は顔を見合わせ、
そして漸く小さな声で名乗り、ぺこりと頭を下げた。
「二人とも、すぐに夕飯にするわ。上でユフィが寝てるの。起こして来てちょうだい。」
「ユフィ姉ちゃんが来てるの!?」
二人は歓声を上げて、階段を駆け上って行った。
「気にしないでいいよ。」
ナナキは首を伸ばし、シェルクを見上げる。
「あの子達も、ディープグラウンドソルジャーに襲われたんだ。
シェルクの服を見て、それで驚いただけだ。」
「そう…ですか…」
「大丈夫よ、シェルク。」
ティファが優しくシェルクの肩を抱く。
「ほら、もう上でユフィと大騒ぎしてるわ。」
言われて思わず天井を見上げる。
二人はなかなか起きないらしいユフィのベッドに乗ったり、大声を出したりして大騒ぎだ。
「シェルク、窓際のテーブルにテーブルクロスを掛けてくれる?」
物思いに沈むシェルクにティファが声を掛ける。
「ティファ…私…食事は…」
「食べなきゃダメよ。」
「でも…」
「子ども達の事なら、本当に心配ないわ。むしろ…」
「…?」
「心配なのは、むしろあなたの方ね。きっと子ども達に質問攻めにされるわ。」
「特に、男の子の方はやっかいだよ。」
何の事か分からないシェルクの手にテーブルクロスを手渡す。
「さ、これを広げて来てね。次は、カウンターに置いてるグラスを並べて。」
シェルクは何も言えなくなり、ティファに言われるままにテーブルクロスを広げた。
「シェルクって、強いの!?」
テーブルに座って“いただきます”と言って、全員がスプーンを持った途端、
デンゼルの口から出た第一声がこれだった。
さっきの怯えた顔はどこへやら。
「デンゼル、いきなり失礼よ。」
マリンがたしなめる。そして改めてシェルクに、
「ねぇ、シェルク、シェルクは父ちゃんに会った?」
「マリンだっていきなりじゃないか。」
「強いとか、そんな事レディに聞くものじゃないわ。」
「じゃ…じゃあクラウドには会った?」
「ずっと家にいるの?」
「リーブ局長に会った?」
「シェルクはどこから来たの?」
「シェルクはどんな武器を使うの?」
「こらあああ〜っ!」
寝起きで不機嫌なユフィが子ども達を叱る。
「そんなに質問攻めにしたら、シェルクが食べられないじゃない。」
「だって、ティファがお話は食事の時って言ったよ。」
デンゼルがマッシュポテトで口に頬張りながら答える。
当のシェルクはまるで回線が切れてしまったかの様に呆然としている。
質問の内容にも驚いたが、子どもの回復力と言おうか、適応力にも驚いた。
(いけない。質問…答えなくては…)
これでもツヴィエートの一員だったから強いと答えていいのだろうか。
しかし、今回の戦役では悔しいがアスールの言う通り、
情報収集方面でのバックアップがメインで、実戦での勝利はない。
(でも、リーブ局長は“あなたは強いから”と言ってくれた…)
しかし、シエラ号のエンジンルームでネロに破れたわけだし。
悶々と思い悩んでいると、
「シェルク?あんたもひょっとしてマジで考えてない?」
気が付くと隣に座っていたユフィが顔の前で手をひらひらさせている。
「シェルクはネットワークのプロフェッショナルよ。
でもヴィンセントが手こずるくらい、とても強いから、
お行儀の悪い子はシェルクにお仕置きして貰う事にするわ。」
すっげー!と叫びかけてじろり、とティファに睨まれ、デンゼルは肩を竦めた。
「ねぇ、ティファ。」
落ち着いた所で、ナナキが口を開いた。
因にテーブルに座れない彼は、その横でお膳の様な小さな台の上に
可愛らしいランチョンマットを敷いたという、マリンの特製テーブルを使っている。
「オイラも、ヴィンセントが見つかるまでここに居ていいかい?」
「大歓迎よ。」
子ども達と、ついでにユフィが歓声を上げる。
「ところでさぁ、ナナキ。」
口をもぐもぐさせながらユフィが尋ねる。
「アンタ、いつもメールの返信くれるけど、どーやって打ってるの?」
「どうって…普通だよ。」
「アンタの普通と、アタシ達の普通じゃ違うよ。」
食事の途中だけど…と、ナナキは前足の付け根の腕輪(?)から携帯を口でくわえて取り出し、
床にそっと置き、口と前足を使って器用に電話機を開いた。
そして、爪の先で器用にボタンを押して見せる。
「へぇ〜!器用だね!」
「器用どころか、ユフィよりよっぽど使いこなしてるよ。
ユフィ、『お』って打つのに、『あ』を5回押してるだろ?」
「な…なによ、他に方法があるの!?」
「オイラはポケベル入力だから、ユフィより早いよ。」
ユフィは手をワナワナと振るわせ、本気で悔しがっている。
「最近、アンタ生意気だよ!」
ナナキはどこ吹く風だ。
「こう見えてもオイラ、ユフィより年上なんだけど。」
「ユフィ姉ちゃん。お行儀悪いと、シェルクにお仕置きされちゃうよ。」
デンゼルの言葉に、途端に食卓が笑いで包まれる。
最初は戸惑っていたシェルクも、釣られて笑う。
そして、漸くシチューを口に入れる事が出来た。
口の中で味を反芻してみる。
いつも食べていた戦闘用糧食は同じメニューばかりで、
しかも飽きが来ないようにする為、味付けは薄いくせに塩分が多かったのだが、
(…おいしい…)
10年ぶりの家庭料理はシェルクには随分と濃い味に感じられた。
しかし、ずっと忘れていたハーブや、新鮮な野菜の味が次々と思い出された。
そして何よりも、この雰囲気。
(団欒…)
「お味はどう?」
ティファに聞かれて、今度は素直に答えられた。
「とても…おいしです。」
つづく
===========================================================
>>462 >>463 ありがとうございます!続きもどうか楽しみにしてて下さいね。
無駄にエピソードを入れ過ぎて長くなってしまいましたが、
投稿人、また書くのが楽しくて止まりません。
ごめんなさい、長くなりますがどうかお付き合い下さいませ。
今週はここまでです。週末、もしくはその次の週末にまた参ります。
471 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/04/12(水) 00:56:08 ID:H461OTbL0
シェルクイラネ
472 :
413:2006/04/12(水) 14:45:43 ID:8QKd/EujO
>>421 ありがとうございます!
ちょっと心配だったんですがそう言って貰えると嬉しいです。
書き上げたんですが、今投下されてる方のお話が終わってからの方が良いですよね?
スレの流れ見てもらえればわかると思うけど…今連載中で投下してる人が2人いる。
だから終わってからの方が良いとかは関係ない。
>>413 はやく見たいっ!投下キボン(;゚∀゚)=3
レスアンカーと通し番号あった方が分かりやすいので、投下の際は気に留めて頂ければ幸いです。
(詳細は
>>1-4)
期待sage!
476 :
470:2006/04/12(水) 23:33:35 ID:TpPFOUcq0
>>472 むしろ自分のせいで投下しにくくなってるのでは…と心配してました。
楽しみにしてましたので、禿上がる程投下キボンヌです。
保全
とりあえず保守
保守
ほ
>>DC後 ◆BLWP4Wh4Oo
日常の風景があたたかく描かれているのが和めます。
特に直前まで(街の光景と…ユフィの水風呂もか!?)が冷たさを強調していた(ように感じた)ので
いっそう、温もりを感じるのかも知れません。デンゼルとマリンが相変わらず良いコンビ。
箱の底に残っていたのは何でしょうかね? シェルクにとって魔晄に頼らない
あるいは希望になり得る何か、なのかな。こういう展開好きだな…。続きまってます。
>>472 書ける時、書きたいときが投下し時。
気にせずどんどん投下汁!!
>>449-454より。
----------
***
エンジンルームへの入り口を視界の中央で捉えたシェルクは、ためらわずにロックを
解除し室内に飛び込むと開かれたドアの先に広がる光景を目の当たりにして、はじめて
足を止めた。
室内は恐ろしい程の静寂と、機械を焼いたためか鼻をつく異臭が充満して所々に火が
くすぶっている。メインエンジンに被弾した様子はなかったはずなのに、おかしいとシェルクは
思った。
しかし燻っているのが火だけではないことを、シェルクの視覚神経は正確に脳へと伝達する。
「……まさか……」
視覚から得られた情報を元に、ここで起きたであろう大凡の事態を予測するまでには、
それほどの時間を要さなかった。しかし、それはあり得ない――それは単に“あって欲し
くない”という少女の希望のみを拠にした結論なのかも知れない――だが、その予測
以外にこのような事態が起こることは考えられなかった。
大きな矛盾をはらんだ思考から、あるいは絶望的な結論を導き出す事から逃れようと、
無意識にシェルクは決して広くはないエンジンルームを見渡し、それを見つけた。
(……ケット・シー……)
仰向けに倒れ、動かなくなってしまったケット・シー。それはもはや、ただの人形だった。
傷つき血を流すわけでもなく、ただ横たわるだけの人形のはずなのに、それを見たシェルクの
中に静かに湧き出る感情が、確かにあった。
――『よっしゃ! そんじゃもう一踏ん張りや!
わいもサポートさせてもらいまっせ〜。一緒にがんばりましょ』
シェルクは自分に向けられたケット・シーの笑顔を思い出す。それはつい、数十分前の
出来事だったはずだ。
メディカルルームに現れた奇妙な猫。その正体は、周囲に置かれた機械と中身は変わらない
はずのロボット。けれど小さな体を動かして、妙な口調で話しかけてきた。さっきまで、少女の
耳は確かにその声を聞いていた。
あの時、リーブ=トゥエスティが語っていた言葉が同時に脳裏をよぎる。
「どんな言葉を使って、どう語れば思いを伝えられるのかが分からない」と、
彼はそう言っていた。そんなものは別に伝える必要のないものだと、シェルクは
否定した。それなのに、今頃になってなぜ?
(ケット・シーは……)
――「私たちは、これから10年を取り戻すんだ。」
血を流すこともなく、気がつけばカプセルの中でただ横たわるだけの彼女の姿も、
そう言えば人形のようだった。つい数時間前まで、彼女は話し、動き、なにより
“生きて”いた。
(……お……姉、ちゃん)
そんな――姉の語った言葉までもが思い出され、シェルクはぎくりと身を震わせた。
「……こんなところで会うなんて、奇遇ですねぇ」
今度は聴覚が直接捉えた音声に、シェルクは顔を上げた。聞き覚えのある声、だが
そこに懐かしさを感じる訳ではない。
「……ネロ……」
本当は恐ろしかった。
同じツヴィエートとして、シェルクは自分とネロの能力差について嫌と言うほど知って
いる。『漆黒の闇』の名を持ち、彼自身ですら制御の利かないという強大な力を持つネロに
対抗するには、シェルクの存在も力も弱すぎた。軟弱な身体に貧相な能力。そんなことは
アスールに言われるまでもなく分かり切っている事だ。
そんな彼がなぜ、こんな場所にいるのか?
「どうして……ここへ?」
シェルクの問いに彼はどこまでも淡々とした口調で「不足している分の生命を回収しに
来た」と答えた。ネロにとって人は生物ではなく、エネルギー源、あるいは単なる有機物に
過ぎない。
「ここにいた人達は……」
聞くまでもない問いが、口をついて出てくる。考えるだけでも恐ろしい、あまりにも残酷な
結論を、自らの手で導き出したくはなかった。まるで答えることそのものが罪であるように
さえ思えた。
「おかしな事を言いますね」
わざわざ聞かなくても、あなたには分かっているはずだ。ネロはそう言って
笑った。事実その通りなのだ、分かっている。ここにいたはずの人達が、どの
ような最期を迎えたのか。考えたくなかった。だから目をそらそうとした。目を
そらした先に、横たわる人形の姿があった。
(!!)
動かなくなってしまったケット・シーは、けれどシェルクに何かを告げている
ような気がした。
(…………)
苦痛から逃れるために目をそらして、見ようとしなかった光景がたくさんあった。
それでも、まっすぐ自分を見つめてくれる人達がいた。
互いに武器を向けながらも、決して目をそらさなかったヴィンセント=ヴァレンタイン。
自分に武器を向けられても尚、語り続けたリーブ=トゥエスティ。
本気で怒りをぶつけてきたユフィ=キサラギ。
一緒にがんばろうと、笑いかけてくれたケット・シー。
身に迫る危険を顧みず、それでも最後まで諦めなかったシャルア=ルーイ。
――自分が世界でいちばん不幸だなんて、思ってなどいない。
私は、ただ……。
「見ての通り、既に回収は終わりました」
淡々と語るネロの言葉は、シェルクの奥深くに眠っていた何かに触れた。
勝てるか勝てないかなんて問題ではなかった。半ば衝動的にスピアを取り
出し意識を集中する。そんな少女の姿を見たネロは、僅かに首を傾げた。
「……何をする気です?」
「さぁ……私にも、よく分かりません」
魔晄の力とシェルク自身の能力を湛えた2本のスピアはオレンジ色に輝き
出す。衝動に駆られるまま、シェルクはそれをネロに向けた。自嘲なのか苦笑
なのか分からない、そんな作り物めいた小さな笑みを浮かべながら。
目の前に立っているのは、”仲間”と呼べるほどの存在ではなくとも、これまで
太陽を奪われ死に支配された暗い地の底で、共に生き抜いて来た者。
これが勝算のない戦いだと知りながら、それでも。
「……ただ」
――『それでは、シェルクさん。頼みましたよ』
「いちど受けてしまった頼みを、“反故にするのは気持ちが悪い”ということは、
分かりました」
そして。その逆も。
――「私たちは、これから10年を取り戻すんだ」
――『一緒に、頑張りましょ』
果たされることの無かった言葉たちが、シェルクの内に何度も繰り返して
響いていた。
鼓吹士、リーブ=トゥエスティX<終>
----------
・エンジンルームで倒れたケット・シーを見た時のプレーヤー(=投下者自身)の
衝撃を表現してみたかった。(実際には「リーブ死んだのかよ!!」って衝撃でしたがw)
・前回と今回のテーマは「シェルクの遅い反抗期。」
(
>>421なんとなく自分もそんな風に思ってました…w)
あんまり恋愛要素を含まない(…無いに等しい)話ですが、
一応DC終了時点までリーブ中心に書いていくつもりなので、今しばらく続きますです。。。
保守
>>485 乙です!おもしろかった。
キャラそれぞれがすごく良い味出ていて読みやすかった。
ほしゅ
489 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/04/16(日) 13:33:31 ID:sOVjZS2Z0
18禁書いていい?
保全
保守
保守
>>485 シェルクの心に芽生えた色んな感情を一緒になぞっていく感じです。
倒れているケットを見て、はっと息を飲んだシェルク。
そこを丁寧に書いて下さって、あぁ、やっぱりケットの
心配をしてくれてるのね…と、うれしかったです。
シエラ号のピンチあり、シェルクとケットシーの交流あり、
おじさん達のガチンコ対決(?)ありで続きがますます楽しみです。
>>481 ありがとうございます。
DCラストでナナキとユフィが座ってるシーンがすごく好きで。
二人はどんな話をしてたんだろう、とか、
男連中がいなくても、たくましくも華やか〜な女性陣(特にユフィ!)
が、書きたかったんですよ。
投下前に、投稿が長きに渡りましたので、もう一度お断りをさせて頂きますね。
※DC後、ヴィンセントが戻って来るまでの仲間達のお話です。
※プレイされてない方はネタバレになるのでご注意願います。
※夢見がちなクラティと、シェルクがオリジナルメンバーにどういう風に受け入れられていったか
という話なので、彼女が苦手だったり、 オリジナルメンバーと絡むのがお嫌いな方はご遠慮下さい。
>>348-354 >>360-362 >>416-420 >>427-432 >>441-442 >>459-461 >>464-470の続きです。
食事が終わると、子ども達はてきぱきと食器を運び、
テーブルクロスをランドリーゲージに入れ、
ティファがそれらを手際良く洗って片付ける。
洗った物をマリンが丁寧に拭いて、デンゼルが食器棚にしまう。
あまりにもシステム化されていて、シェルクが手伝う余地すらない。
「まったく、良く出来た子達だよなぁ。」
「本当に良く手伝うよね。コスモキャニオンに居た時だって…あれ?」
ナナキが不意に言葉を切って、店の入り口の方を見る。
「誰か来た。」
「こんな時間に?」
二人の間に緊張感が走る。
「ヴィンセントではないの?」
心配そうにティファが尋ねる。
「匂いが違う。民間用トラックと…一人降りて来た。」
ドアがノックされる。
子ども達を店の奥に下がらせて、ティファがそっとドアを開ける。
「なんだ…おじさん…」
ティファがホッと胸を撫で下ろす。
やって来たのは常連客の一人だった。
「すまないなね、こんな遅くに。」
「ごめんなさい、お店はまだ…」
「分かってるよ。今日はクラウドに頼まれたんだ。」
「クラウドに…?」
そしてティファは、漸く昼間の会話を思い出した。
常連客は、家具屋だったのだ。
「配達が遅くなっちまったけど、奴らのせいで注文が立て込んでてね。
クラウドがどうしても今日中にって言うもんで…あ、ここに受け取りのサインを頼むよ。」
ティファは戸惑いつつも、言われた所にサインをする。
「どうしたんだい?奴らにベッドを壊れたのかい?」
「え…えぇ…」
ティファは自分の背後で家族と客人が耳をそばだてているのを感じ、努めて明るい声で、
「家に…友達が避難して来たの!それで…ベッドが足りなくて…」
「あれ?おかしいなぁ?クラウドは“ティファのだ”って言ってたんだが?」
「い…いやだわ、クラウドったらなんでそんな…」
「どれにする?って聞いたら、“店で一番立派な物”って言ってたよ。幸せもんだねぇ、ティファは!」
恥ずかしさがピークに達したティファはなんと返していいのか分からない。
「あんまり立派過ぎると、部屋に入らないだろうから適当なのを選んでおいたよ。」
「おっじっさ〜ん♪」
ティファの背中から上機嫌なユフィが顔を出す。
「ねぇ、クラウドが本当にそう言ったの?」
家具屋の親父は突然顔を出したユフィに驚いたが、
「あぁ、言ったよ。」と、頷く。
ユフィと子ども達は歓声を上げて外に飛び出し、
組み立てる前のベッドの部品を店に運び始める。
「うわぁ〜…真っ白なベッドね。お姫さまみたい。」
白いスチールが優美な曲線を描き、マットはピンクだ。
マリンがうっとりと言う横で、ユフィは腹を抱えて笑っている。
「クラウド、すっごい少女趣味!」
ティファはいたたまれず、俯してしまう。
「残念だけどお嬢さん、それを選んだのはわしだよ。ウチの店で一番立派な物だよ。」
そして、困り果てているティファに、
「男ってのは、何を贈れば女房が喜ぶかなんて実は全然分かってないんだよ。
贈られて迷惑な物でも、喜んあげな、ティファ。」
「迷惑だなんて…そう…そうよね…」
からかわれてとても恥ずかしいけど、やはりうれしい。
「喜んで頂く事にするわ。遅くにありがとう。」
「組み立てるのは大丈夫かい?」
「ええ。」
帰る家具屋に礼を言ってから、ベッドを広げて大騒ぎする3人を、こら!と叱りつける。
「夜遅くに大声出さないの。ユフィ、それを私の部屋に運んでちょうだい。」
「え〜!?今から組み立てるのぉ?」
「そうでないと、あなたが寝る所がないわよ。」
「なんでぇ?」
「じゃあ、今夜クラウドのベッドで寝る?」
「…いえ…結構です。」
そして、横に居るナナキに小声で、
(それしにてもさぁ…クラウドって相変わらずツメ甘いよね〜)
(なんで?)
(どぉーせならダブルにすりゃいいのにさ!)
「聞こえてるわよ。」
ユフィがおそるおそる顔を上げると、手を腰に当てたティファが微笑んでいる。
微笑んでいるが、目が笑っていない。
ユフィは慌ててベッドヘッドを抱える。そして、チラリとティファを見ると、
「ねぇ…アタシさぁ…やっぱ古い方のベッドがいいな。」
「どうして?」
「これ…アタシの趣味じゃないし、それに…」
「それに…なぁに?」
「これで寝たらさぁ〜クラウドになんか、呪われそう。」
「ユフィ!」
ユフィはベッドヘッドを抱えたまま、慌てて階段を上ってしまう。
「…もう!」
ティファはやれやれと溜め息を吐き、説明書片手にベッドを組み立てると、
子ども達にシーツや毛布を運ばせた。
新しいベッドで寝るのはどうしても嫌だとユフィがダダをこねるので、
お姫様ベッドにはシェルクが寝る事になった。
しかし、シェルクにはベッド一つで何故こんな大騒ぎになるのか分からない。
「それに、これは大事な贈り物ではないのですか?」
「おかしいかもしれないけど、クラウドのベッドには誰も寝て欲しくないの。」
そして、ティファは人差し指を唇に当てて、
「私以外にはね。ユフィには内緒よ。」
ティファは照れているが、とても幸せそうに微笑んでいる。
「…よく分かりませんが?」
「その内シェルクにも分かる様になるわ。でも、今日はもう休んでね。」
そして、シェルクの肩に手を置いて、顔を覗き込む。
「夜、具合が悪くなったりしたら、すぐにユフィを起こして。」
シェルクが頷くと、ティファも満足げに頷く。
「じゃあ、明日ね。おやすみなさい。」
実際、とても疲れていたので少しホッとして階段を上った。
ティファの部屋にはベッドが2つ並び、人一人がやっと通れる程のスペースしかない。
僅かな隙間を通って窓際のベッドに行く。
ユフィは古い方のベッドで、すぅすぅと寝息を立てている。
食事前に少し眠っていたたようだが、疲労が濃いようで、
食事中も時々あくびを噛み殺していたり、だるそうに肩を回したりしていた。
子ども達も眠ったようで、家の中はさっきまでの賑やかさが嘘のように、しんとしている。
(つい昨日まで、星と…私たちの生存をかけた戦いだったのに…)
激しい戦いと、暖かい団欒とを一度に体験したせいだろうか、
「私も…疲れました…」
誰に言うでもなく、そう呟くと、シェルクはベッドに横になった。
地下に連れ去られてから、眠る場所と言えばずっと無骨なパイプベッドに固いマットレスだった。
いや、ベッドで眠れればいい方で、一晩中カプセルの中だったり、
手術室でたくさんの機械に繋がれて何日も過ごしたり…
それが今や“お姫さまみたい”なベッドの上だ。
お陽様の匂いのする洗い立てのスーツに柔らかい毛布…
それだけでも充分なのだが、やはり気持ちが華やぐ。
ふと動かした視線の先に、例の段ボールがあった。
(明日こそ…ティファに聞こう…)
今度は窓の外を見る。
(彼は…いつ戻るのかし…ら…)
彼が戻ったら、何から話そう?やはり、最後に交わしたあの約束だろうか。
そこからすとん、と意識が途切れ、シェルクに10年ぶりの穏やな眠りが訪れた。
とても長く眠っていた様な気がする。
誰かが呼んでいて、それで目を覚ました。
「シェルク、朝ご飯なくなっちゃうよ!」
マリンとデンゼルが顔を覗き込んでいる。
「シェルクはお寝坊さんね。みんなお腹を空かせて待ってるわよ。」
マリンのおしゃまな言い方にシェルクも釣られて笑う。
いや、笑おうとしたが出来ない。
ありがとう、すぐに起きます…そう言おうとしたが、唇が動かない。
起き上がろうとしても、身体に力が入らない。
「…?どうしたの?」
子ども達の笑顔が曇る。
(そんな顔、もうさせたくないのに…)
ちゃんと起きて、心配しないでと言ってあげたい。
なのに、身体の感覚がなくなり、手足がなくなってしまったかのようだ。
舌も痺れてしまって、思う様に動かせない。
「…め…うご…け…ない…」
もつれる舌で、それだけ言うのがやっとだった。
「…ィ…ファを……んで…」
二人は転がる様にして部屋を飛び出すと、大声でティファを呼んだ。
(いつか来ると思ってましたが…こんなに早く来るとは…)
耳はまだ大丈夫なようで、誰かが急いで階段を駆け上がって来る音が聞こえた。
でも、舌はもつれ、顎を動かす事すら出来ない。
これでは話も出来ない。
(…話したい事が…たくさん…あるのに…)
つづく。
イイヨイイヨー
続きが気になる!
GJ!!
続きはやくみたい〜〜!!
>>502>>503 ありがとうございます。また週末に参りますねノシ
チラシの裏ですが、クラウドってあまり女心が分からないと言いましょうか、
プレゼントなんか、さんざん外してきたのではないかと思っています。
(ラウディウルフのリングは除きます。)
「そんなことないやいヽ(`Д´)ノ」と思われてる方は
イメージ壊しちゃってごめんなさい。
保守
保守
保全
お断り】魔晄エネルギーに関する記述は投稿人の独自の解釈です。間違ってたらごめんなさいよ。
>>348-354 >>360-362 >>416-420 >>427-432 >>441-442 >>459-461 >>464-470>>496-501の続きです。
「ティファ!シェルクが大変なの!」
ベッドの側でマリンがティファに叫ぶ。
「身体が動かないって…うまく喋れないみたいなの。」
ベッドでいっぱいになった部屋の隙間を通って、
ティファはシェルクのベッドの側で屈み、顔を覗き込んだ。
青ざめ、泣き出しそうな顔でティファを見上げている。
唇が震えていて、上手く動かせないのが分かる。
「ユフィ!そこの箱の中のカプセルを取って!」
その瞬間、シェルクが眉を顰めた。
部屋に入りきれないで入り口で様子を伺っていたユフィは
すぐに箱の中からカプセルを取り出し、ベッドの上を通ってティファに手渡す。
それを受け取ったティファは、シェルクの毛布を剥いで、
空になったカプセルを外そうとする。
「ティファ。」
その様子を見ていたマリンがティファの腕に手を置く。
「シェルク…それを付けるの、嫌みたい。」
「え…?」
ティファは思わず手を止め、マリンを見て、そして改めてシェルクを見た。
「そうなの?」
頭が微かに動いた。
ティファは一瞬悩んだ。が、それでも空になったカプセルを外して新しいのに付け替えた。
「分かるわ、シェルク…でも今は…私に時間をちょうだい。それに…」
シェルクの額に優しく手を置く。
「どのみち、カプセルはこれが最後なの。」
シェルクが目で頷いた。
「頑張れる?」
唇の端が少し上がって、笑っているように見えた。
ティファはシェルクの髪をくしゃくしゃと撫でてから、立ち上がり、
「ユフィ、マリン、デンゼルはまずはこのベッドを壁際に寄せて。
ナナキ、クラウドにメールしてくれる?文面は……」
一同はすぐに動き出した。
ティファは箱の底から、もう一つの箱を取り出した。
昨日からシェルクが聞き損ねていた、あの箱だ。
それは、大きな段ボールのほとんどのスペースを占めていた。
ベッドを移動させて出来たスペースに、ティファはその中身を取り出し、広げる。
細いパイプのような物、点滴のパック…
カプセルを付け替えたお陰で、少し頭を動かせる様になったシェルクは、
ベッドの上からそれを眺めていた。
ティファが細いパイプを組み立てると、それは点滴のスタンドになった。
「ユフィ!脈を見て…デンゼル!地下室にプラスティックのブルーの箱があるの。
それを持ってきてちょうだい。マリンは水差しにお水を汲んで来て。」
ユフィはベッドの側にしゃがむと、シェルクの手を取った。
棒の様に細い腕、手は冷たくなっていて、その痛々しさにユフィは唇を噛んだ。
「ティファ、体温も下がってるよ。」
「ナナキ、体温計も!場所はマリンに聞いて。」
「分かった。」
目の前にあるユフィの顔があまりにも辛そうで、シェルクは溜まらない気持ちになる。
「すみ…ません…」
「ばか!謝ってなんかいらないって!脈も上がって来てんだ。心配いらないよ。」
「それ…は…これの…お陰です…」
シェルクの視線の先にはさっき付け替えたカプセルがあった。
シェルクはティファの瞳を見つめ返す。
「それはね、私が看護のプロだからよ。」
確かに、シェルクの容態を見ての対応や家族への指示の出し方、
挙げ句の果てには点滴までやってのけたのだ。
「そぉー言えばそうだっけ。」
横でユフィが素っ頓狂な声を上げる。
「クラウドなんてさ、ティファが居なけりゃ未だに廃人だもんなぁ。
シェルク、安心してティファに任せなよ。」
「ユフィ。クラウドが未だに廃人だったら、この星はとっくになくなってたわよ。」
ティファは手を止めず、シェルクの髪を撫で続けてやる。
「クラウドもね…重度の魔晄中毒だったの。他にも色んな…本当に色んな事が重なって…
歩けないし、意識もハッキリしなくって、ひどい状態だったわ。私も、もうダメって何度も
諦めかけたけど、今では元気に子ども達のパパ代わりで、配達屋さんよ。」
ティファの最後の言葉が、シェルクは笑ってしまう。
ぶっきらぼうなあんた呼ばわりのクラウドが、子ども達のパパ代わり…
そして、ティファの言葉通りなら、ひょっとしたら自分も
再び起き上げれる時が来るかもしれないと思える。
「ティファ…」
「なぁに?」
「どうして…みんな私に親切にしてくれるんですか…?私…敵だったのに…
ヴィンセントやWROを手伝ったのも…成り行きで…」
「私たちだって、成り行きみたいなものよ。そうね…確かに最初は星を救うためだ!
って強く思ってたし、その気持ちに嘘はないわ。」
「ヴィンセントが言ってました。『私の周りには理屈抜きで飛び出して、
誰かを助けるお人好しばかりだ。』と。これはあなた達の事ですか?」
その言葉にユフィは大憤慨だ。
「な…なんだよ!自分だって、相当お人好しのくせしてさっ!」
ユフィの様子がおかしくて、ティファはくすくすと笑った。
「彼にそう言われるなんて光栄ね。でも…ずっと星のためだと思って戦ってきたけど、
本当は自分のためだって分かったの。大切な人といつまでも一緒に居たいって…
大切な人と…会えなくなるのは嫌…失いたくない…」
ふと、ティファは言葉を切った。ユフィも、ナナキも顔を伏せてしまう。
「上手く言えないわ。でも…私はあなたに元気になって欲しいの。それだけ。」
ティファは明るく言うと、血圧計に目を移した。
「ねぇ、ティファ。」
ナナキが口を開く。
「さっきクラウドの話で思ったんだけど、魔晄エネルギーを浴びるのって、
オイラ達が封印した“古の薬”に似ているんだ。」
「なに、それ?」
ユフィが尋ねる。
「昔、戦いの前に戦士が飲む特別な薬なんだ。それを飲むと魔力も体力も強くなるんだ。
だけど、飲み過ぎたり、飲み続けると…クラウドみたいになっちゃう。
聞きかじっただけだけど、シェルクの力は他のソルジャーと違って、
とても集中力が必要なんじゃないかな?それと、10歳の女の子がずっと地下で
色んな実験をされて来たんでしょ?とても怖かったと思うんだ。」
宝条に捕まって実験動物扱いを受けた時、強がってはいたが、
本当はとても怖かったとナナキは言う。
「だから、能力を高めるのと、ストレス緩和の両方を
魔晄エネルギーに依存してたんじゃないかな?」
「麻薬みたいなものね…」
溜め息まじりにティファが呟く。
「でもさ!ってことは、もう怖くないんだし、すぐに良くなるよ。」
「…だと…いいのですが…」
楽観的なユフィの言葉にシェルクは苦笑いしつつも、
「…私も…最初は思っていました…いつかこの服を脱ぎたい…魔晄に頼らず…」
自由に。そう言いかけた途端、シェルクの身体が大きく痙攣した。
「シェルク…?シェルク!」
「ユフィ!押さえて!」
ガクガクと身体をのけ反らせるシェルクを、ユフィが覆い被さって押さえる。
ティファは箱の中から銀色のケースを取り出し、中の注射器を手に取ると、
一緒に入っていたアンプルから薬を吸い取る。
動かない様に腕を押さえて消毒すると、注射をする。
暫くして痙攣は収まったが、シェルクはそのまま昏睡状態に陥った。
つづく。
※チラシの裏です。
ソルジャーになるのに魔晄を浴びるのは、身体を作り替えると同時に、
精神力と言いましょうか、集中力を高めるのではないかと自分なりに解釈しました。
間違っていたらごめんなさいよ。
>>509 DC後 【41】 と
>>510 DC後 【42】 の間が抜けてました。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
ライフストリームの渦に落ちて逝って参ります…o)))rt
以下、抜けてた分です。
「また…話せなく…なる…から…」
ティファは3つの点滴パックをバイパスで繋ぐと、箱の中にあったアルコールを
ガーゼに含ませ、シェルクの左腕の肘の裏側をそれで拭いた。
親指で軽く押して、血管を探すが見つからない。
(落ち着いて…)
少し場所を変えても見つからず、手の甲でやっと細い細い血管を捕らえた。
「シェルク、少し痛いわよ。」
そして、躊躇いなくシェルクの手の甲に針を差し入れた。
傷みに、シェルクが小さく呻く。
「ティファ!」
デンゼルが運んで来た箱を持って来る。
「ありがとう。そこに置いておいて…」
デンゼルは頷くと、心配そうにシェルクを見つめる。
それに気付いたシェルクが、微かに微笑むと、デンゼルは何故か顔を赤くした。
マリンは持って来た水差しをベッドサイドテーブルに置くと、
デンゼルの手を引いて部屋を出て行った。
ティファはナナキから体温計を受け取ると、目盛りを確かめてから
胸元のファスナーを少し下ろして、腋に挟む。
「ティファ…聞いて…下さい…」
「なぁに?」
デンゼルの持って来た箱から血圧計を取り出すと、それを腕に巻きながら答える。
「もともと…カプセルだけでは…足りないのです。」
ティファは血圧計のスィッチを入れると、ユフィの傍らに屈みこんだ。
「どういうこと?」
「私は…他のディープグランウンドソルジャー達と違って、とてもひ弱に出来ています。
魔晄エネルギーも…毎日…全身に浴びなくては身体が保たないのです…」
「それは初めて聞いたけど…あなたが“ひ弱”だとは思わないわ。」
「そぉーだよ!リーブのおっちゃんが頼むくらいだもん。弱かなんかないよ!」
ティファがシェルクの頭を撫でながらは優しく諭すと、ユフィも同調する。
「でも…私…」
「シェルク、あなたが聞きたがっていたこと、答えてあげるわね。
リーブがあなたが滞在するのに家が最適だって言ってた理由。」
【お断り】看病の仕方やなんかは、投稿人の適当な知識です。まちがってたら、ごめんなさいよ。
夜になっても、シェルクは目を覚まさなかった。
ティファとユフィは交代で側についていたが、
血圧や脈を測る以外にはただ見守る事しか出来なかった。
「ユフィ…私、食事の支度してくるわね。」
ユフィは椅子に反対向きに、背もたれを抱える様にして座っている。
「うん、分かった。」
ティファは入れ違いに、マリンが入って来た。
「シェルクは目を覚ました?」
「まだだよ。」
マリンはさっきまでティファが腰掛けていた椅子に
よいしょ、と座ると、持っていた絵本を開いた。
「シェルク、眠ったままでしょ?ご本を読んであげようと思って。」
「あ〜…その話なら今のシェルクにはぴったりかもね。」
マリンは声を上げて、その本を読み始めた。
魔女の呪いで100年間眠り続けたお姫様の話だ。
意識がなくなってからずっと、点滴のお陰で血圧は安定している。
身体の力が抜けてしまうので呼吸が浅くなるから…と酸素マスクもされている。
もう必要ないだろうと、ディープグラウンドソルジャーの服も
ティファが用意したパジャマに着替えさせられている。
「あとは…シェルクの気力次第だと思うの。」
ティファはそう言っていた。
マリンが語る物語を聞くともなしに聞いていたユフィだったが、
(もし、シェルクがこのまま眠り続けて目を覚まさなかったら…)
ユフィは慌てて頭を振り、血圧計に目をやる。
その数字を見て、一気に血の気が引いた。
「大変だ…!」
慌てて脈を取る。今にも途切れそうだ。
「ティファ!!…マリン、ティファを呼んで来て!」
マリンは椅子から滑り降りると、急いでティファを呼びに走る。
ティファが部屋に飛び込むと、ユフィが必死で心臓マッサージをしている。
「ティファ!血圧が…脈も弱ってるの…」
ティファは箱の中からまた注射器を取り出す。
「強心剤よ。効いてくれるといいけど…」
「効くよ!」
即座にユフィが叫ぶ。ティファは驚いてユフィを見る。
「そうね…ごめんなさい。」
ティファは心臓マッサージを続けるユフィの傍に屈むと、
シェルクの細い腕に注射をする。
子ども達とナナキが心配そうにドアの外から様子を伺っている。
「あ、クラウドだ。」
店の外で聞き覚えのあるエンジン音がして、デンゼルが階下に走る。
扉を開けて、また大きな箱を抱えてクラウドが入って来る。
「クラウド!シェルクが…!」
クラウドが箱を抱えたままティファの部屋に入ると、
昨日とはうってかわって、死人の様に青ざめたシェルクが横たわっていた。
「どうした…?」
「クラウド…」
ティファはクラウドの持っていた箱を受け取った。
「良くないの…意識がなくなって…急に呼吸も心拍数も落ちて…」
箱の中を漁りながらティファが答える。
ふと、見た事のない点滴パックを見つけ、取り出す。
「クラウド、これは?」
「神羅ビルの地下にいた研究者達に話を聞いて、
必要な薬も貰って来た。ティファが持っているのがそうだ。」
「ありがとう…これね。」
ティファは早速、薬を点滴に繋ぐ。
「ユフィ、代わろう。」
「クラウドぉ…」
ユフィは涙でぐちゃぐちゃの顔でクラウドを見上げる。
「手ぇ…っ…止めたら、シェルクが死んじゃいそうで…」
「ちゃんと薬を持って来た。大丈夫だ。少し休め。」
クラウドとユフィが代わる。
「ティファ…シェルクがこうなって、どれくらい経つ?」
「朝からよ。」
「シェルクの担当者が呼吸が浅い状態が長くなると良くないから気を付けろと。
脳に酸素が充分行き渡らないと障害が残ったり、手足にも血液が行き渡らなくて、
最悪の場合、切断しなくてはいけない場合もあるそうだ。」
「そんな…」
二人の会話を聞いていたユフィは突然立ち上がると、部屋の外に飛び出した。
そして、台所で何かを物色する物音がし、だだだだ、という
けたたましい足音と共に階段を駆け上って部屋に戻って来た。
手には料理用のオリーブオイルが握られている。
「ユフィ…?」
一体何事かと呆然とする二人に構わず、ユフィはシェルクの足下の毛布を捲る。
「な…何をするの?」
「要するにさ、血行を良くすればいいんでしょ?」
ユフィは手にオイルを垂らして、よく馴染ませるとシェルクの足をごしごしと擦り始めた。
「ウータイ流のマッサージ!目が覚めて、手や足がなくなってたら
シェルクがかわいそうじゃん!」
「ユフィ…」
ティファはユフィの傍に座ると、同じ様にオイルを手に取る。
「私にも、教えてくれる?」
子ども達をナナキに任せ、3人は付きっきりで看病を続けた。
クラウドの持って来た薬のお陰で、なんとか持ち直したようだが、
油断すると数値ががくんと下がるのだ。
設備も薬も足りない状態で、心拍数が落ちれば心臓マッサージをし、手足を擦り続けた。
空が白々と明けかけて来ても、シェルクの病状は一向に良くならない。
「WROの施設に運んだ方がいいのかしら…」
クラウドは首を横に振る。
「あそこは…もっとひどい。」
そこが今どういう状態なのか、クラウドの表情を見れば十分だった。
「でも…!リーブに頼んで…なんとかならない?このままじゃ…!」
「ティファ、落ち着いてくれ。」
珍しく取り乱すティファの肩にクラウドは手を置く。
「…ごめんなさい…」
「…見て…」
ずっと手を握っていたユフィが二人を呼ぶ。
「シェルク…何か喋ってる…」
酸素マスクの中の唇が微かに動いている。
「寝言…?夢を見てるのかしら。」
「目…マブタも…ほら!」
睫毛が震えている。
「クラウド!カーテンを開けて!」
ティファが叫ぶ。クラウドはすぐにカーテンを開け放つ。
上りかけの朝日が差し込み、シェルクの顔を照らす。
と、眩しげに眉が寄せられ、睫毛がさっきよりも大きく動いた。
「シェルク!」
ティファとユフィが必死に呼び掛ける。
目蓋が、ゆっくりと開く。
うっすらと開かれた目が、ユフィと、その後ろに立つティファとクラウドを見つめた。
その目が閉じられ、今度はぱっちりと開かれた。頬にも、少しずつ赤みが戻る。
「…良かったぁ…」
ユフィはその場にへたりこむと、すん、と鼻を鳴らした。
シェルクーー!!
続ききになるなぁw
粗忽者のDC後でございます。読んで下さる皆様にご質問。
このままこのペースで書いていたら、【80】くらいまでかかってしまうかと。
1)それでもいいよ。
2)いい加減終われ。
の、どちらがいいですか?
引き延ばし過ぎ、スレ消費し過ぎではないかと気になっております。
ご意見お寄せ下さいませ。
>>519 ありがとうございます。
自分でも早く読んで頂きたくて頑張ってます。
もう少しお待ち下さいませ。
>>520 それでもいい
スレ消費しすぎ云々は別に気にしなくていいとオモ。書き手あってこその小説スレだし、変に展開を急がず、この調子でマターリ書いたらいいんじゃないか
>>521 >>522 ありがとうございます。
一応、話の大筋はあるのですが、投稿人が楽しむあまりエピソードを詰め過ぎて、
スレを独占してるのではないか?他シリーズや、他の職人様が
投稿しにくくなっているのでは?と心配になってしまって。
今回に関してはお言葉に甘えてこのペースで書かせて頂きます。
次回作があれば、その時に考えますね。
また次の週末に参りますノシ そして、他の職人様の光臨もお待ちしてます。
>>DC後 ◆BLWP4Wh4Oo
6章終盤、本部施設でシャルアの傍にいたことが描かれているユフィが
(そこにいた時間は長くないかも知れませんが、少なくとも看護に携わっては
いないと思う…という点を根拠に)必死にシェルクを救おうとする描写の中には、
あの時の「奇跡でも起きない限り〜」の“奇跡”を意識していたんだろうか? って。
ユフィ視点で読むと、彼女が自分の手で“奇跡”を起こそうとしている姿が
とても印象的でした。
…と言うか、ケット・シー@FF7本編ミディールのセリフが伏線になっいるなんて!!
ケット・シー好きとしては着眼点がすてき過ぎて素直に嬉しいですよw(
>>510の2行目)
違ったらスンマセン。
喜びすぎましたw、おとなしく続き待ってます。
それから
>>520に関しては自分も(1)で。
書ける時、書きたいときが投下し時。
気にせずどんどん投下汁!!!
前話:
>>482-485 舞台:FF7本編開始の約15年前
備考:「ネオ・ミッドガル計画」再開をほのめかす本編(Disc1神羅ビル)
でのリーブの発言が今作の根拠。
古代種エアリスが連れ戻された報せを受けての発言である事から、
同計画が凍結されたのは古代種2名が脱走した時点(本編開始
15年前=Disc1エルミナ)と推測。この推測が間違っているとおかしな話にw。
追記:都市開発部門に関してはすべて捏造です。
:ネオ・ミッドガル計画ってそもそも何なのか、未だによく分かってませんwすいません。
:今回、前説(言い訳)長くてホントすんません。
----------
倉庫の隅に捨て置かれていたジョウロを拝借しようとしたが見あたらず、仕方なく
フロアへ戻ってくると、窓辺にたたずむ人影が見えた。その人物は、やれやれと言った
表情でジョウロを傾け水を与えるのと同時に、首まで傾げていた。水と視線が注がれる
先には、1つの小さな鉢植えがあった。
毎日、毎日。彼女が出社すると決まってこの光景に出会う。始業の2時間以上前には
フロアに着いていたのだが、男はそれよりも前からここにいるらしい。妙な男だなという
のが、彼に対する第一印象だった。何度か声をかけようかとも思ったが、なんだかんだと
いつもタイミングを逃してしまい、そのまま日々が過ぎていった。
そんなある日。
この日は朝からどんよりとした曇り空が広がり、まだ始業前で人のいな事もあいまって、
心なしかフロア全体も暗く沈んだように見えた。日中の喧噪が嘘のように静まりかえる
フロアの一角、いつもの場所に彼の姿を見出した。
(また)
特に何かがあるという訳ではないのだが、実は気になっていた。毎日顔を合わせる彼の
存在そのものももちろんなのだが、彼の行為――鉢植えに水をあげる――というのが、
どうしても腑に落ちない。湿気の多い今日のような日にも、彼は鉢植に水をやり続けている。
(こういう事に口出しするから、お節介だとか言われちゃうんだろうけど)
彼女は意を決し、男のたたずむ窓際まで歩き出した。彼の背後まで来たところで、
鉢植えをのぞき込む。それが見えた瞬間、彼女は思わず大声をあげた。
「……ちょっと!!」
言うのとほぼ同時に、水をやる男の手首を掴むと有無を言わさずジョウロを取り
上げた。
「アナタ何やってるの!? それはもともと乾燥地帯に自生する植物なのよ。そんな
物に毎日、それもこんなに水をあげてどうするの。しかもこんな悪天候の日にまで!
無責任に水ばかり与えればいいって物じゃないのよ」
「……は、はい?」
いきなり背後からジョウロを取り上げられ、あげく説教のような詰問のような言葉を
浴びせられた男は、驚いて後ろを振り返った。彼の目に映ったのは、黒いパンツスーツを
身につけ、スーツと同じように黒くて長い髪を持った細身の女性だった。
そんな彼女の勢いに押し切られたような形で、男は謝罪の言葉を口にした。
「す、すみません……」
「……あ。ごめんなさい」
その姿に思わず我に返った彼女も頭を下げる。
(私はいったい何をしてるのかな……)
自分の取った行動に疑問を抱きながらも、彼女の口は自然と言葉を紡いでいた。
しかしその声に、先ほどまでの厳しさは見られない。
「乾燥地帯に自生する植物は、根、あるいは茎に水分を蓄えておいて降雨の少ない土地に
順応した機能を備えているの。だから頻繁に水を与えなくても良いし、逆に日差しの少ない
場所では生育に適しているとは言えないわ」
鉢植えを置くなら場所を変えた方が良いのでは? と提案した。元々オフィスは北向きに
作られているので、休憩室や待合所の方が環境は良かった。しかし、あちらには既に立派な
観葉植物達が置かれているので、男の手元にあるような小さな鉢植えに居場所はなかった。
そのことは、どうやら男も認識していたようで。
「……希望としては、できればここに置いておきたいと思うのですが」
一度、手元の鉢植えに視線を落としてから少し間をおいて再び顔を上げた男は、申し訳
なさそうに言った。その姿を見た彼女の顔に、はじめて小さな笑顔が浮かぶ。
「そうね。きっと、その鉢植えにとってもここが一番よ」
笑顔のままで彼女は男の言葉に同意を示すと、次にこう尋ねた。
「植物にとって水や日光以上に必要な物があるの。なんだか分かる?」
男はしばらく鉢植えを見つめて考え込んでいたようだったが、やがて小さく
首を横に振った。
「いいえ……見当も付きません」
「それを得るためには、どうやらこの場所が一番適しているようね。ただ……」
彼女の言葉を遮ったのは、自身のポケットから聞こえてくるやたらと甲高い
機械音だった。「失礼」と断ってから携帯を取り出してディスプレイをちらりと見た
後、またすぐにそれをポケットにしまう。
「くれぐれも、水はやり過ぎないことね」
それだけを告げて、彼女は急ぎ足でフロアを後にした。
(……なんや?)
取り残された男は声に出さず呟くと、彼女の出て行った方をじっと見つめていた。
----------
・うまく繋がるかは今のところ分からないのですが、生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
・ちなみにDC公式コンプリートガイドに掲載されている「38歳」はそれほど考慮してません。
その点あしからずご了承下さい。
コピペミスです。…これじゃ意味が分からないw
>>527最終行訂正
----------
(……なんや?)
取り残された男は声に出さず呟くと、彼女の出て行った方をじっと見つめていた。
----------
それから524、冷静に考えるとミディールでの発言が伏線なのではなくて、
あの場面でのティファの行動を元にしたお話だということに気づいて
お恥ずかしい限りです。作者さんごめんなさい。
そんな重度の(FF7+DC)中毒症状な自分を看病してもらいたいです、ええw
GJ!
ほす
筋肉
ほすあげ
保守
>>525-528 GJ!
登場した女性はBCのキャラクターでしょうか?
間違ってたらごめんなさい。
ふと思ったのですが、局長は彼も何かを償うかのようにWROの職務に
没頭してますよね。そんな中でも、お花に水をやってるのかなぁ…と、
そんなことを思いました。
>348-354 >360-362 >416-420 >427-432 >441-442
>459-461 >464-470>496-501 >508-509 >514
>510-512 >515-518の続きです。
【お断り】
リーブの『インスパイヤ』という能力の解釈やシェルクやディープグラウンドソルジャー達の
魔晄中毒の見解は投稿人独自の物です。間違ってたらごめんなさいよ。
まだ襲撃の後が生々しいWROの急ごしらえの局長室で、
リーブは次々と送られてくる報告書を見ていた。
世界は再び混乱に見舞われ、送られてくる報告書は
彼に溜め息を吐かせるものばかりだった。
だが、三日も経つと、ごく僅かではあるが、
ちらほらと明るい話題も飛び込んで来る。
「人とは…前に進むものなんですね。」
そして、どこかで聞いた言い回しだと思い、
誰の言葉だったかと思い出そうとする。
「なんで分からへんのや。ヴィンセントはんやろ?」
書類の間からぴょこん、と顔を出したのは、リーブ自身の分身で相棒だ。
「そうでしたね。私としたことが。」
「おっさん、ちょっとは休んだらどうや?疲れてるんちゃうか。」
ケット・シーは今度は反対側の書類の山から顔を出す。
我ながら他愛もない遊びだと思いつつ、ここに籠る前に仲間と話して以来、
交した会話と言えば、報告、相談、指示、のいずれかだ。
(だから…まぁ、ちょっとした息抜きですね。)
隊員達は出払っていて、今はこのフロアには誰も居ない。
この一人遊びを誰かに聞かれる事もないだろう。
「あん時はおもろかったなぁ。」
ケット・シーは机の上でぴょんぴょんと跳ねる。
「艦長があんな事言い出すとは思わへんかったなぁ。」
手を後ろに組んで、机の上をちょろちょろと歩き回る。
「それにしても…実際に旅したのは、わいやけど…
みんなわいに話しかけるみたいにおっさんに話しかけとったなぁ。」
ケット・シーはふと歩みを止めると、リーブを見上げる。
「おっさんも…ホンマはこんな所より、
みんなとヴィンセントはんを探したいんやろ?」
自分を見上げる相棒の表情はどこか寂しそうだ。
「一緒に行きたいのはどっちでしょうね?」
リーブはふっと笑うと、指先でケット・シーの鼻を突つく。
ケット・シーは大袈裟に足をバタバタさせながら両手で鼻を押さえる。
「シェルクさんが心配です。レッド…いえ、ナナキから連絡はありませんか?」
「ホンマに…ワイくらいにはホンマの気持ち言うたらええのに…」
ぽてん、ぽてん、と不思議な足音をさせながら
机の端の充電ホルダーに刺してある携帯電話を取りに行く。
マスターは自分なのに、この分身は時おり
自分の思惑以外のことを喋ってリーブを驚かせる。
『インスパイヤ』という能力はまだまだ未知な何かを秘めているのか、
それとも人が操る故に気持ちの揺らぎのような物を反映するのだろうか?
リーブはそんなことを思いながら電話を受け取り、メールを見る。
「彼は本当にまめに報告してくれますね。」
「おっさんがここから出られへんのを知ってるからや。」
ケット・シーはエエ仲間やなぁ…と言いながら、
うんうん、と何度も頷いて見せる。が、不意に腕組みをして、首を傾げ、
「…せやけど、ナナキはんは一体どないしてメールしよるんやろうなぁ?」
そして、携帯を握りしめるリーブをまた見上げる。
『本部の復旧は後回し』という局長の方針の為、電力不足で部屋は薄暗い。
携帯のディスプレイの灯がリーブの顔を照らしている。
「シェルクはんはどうなんや?」
「意識は戻ったようですね。でも、まだ起き上がるのは無理なようです。」
「一進一退ってとこやなあ。」
「とりあえず、クラウドさんはヴィンセント捜索に戻りました。」
ディスプレイの文字を目で追うと、献身的かつ、
素人とは思えない適格な看護の様子が書かれている。
「やはりティファさんに預けたのは正解でしたね。」
ホンマになぁ…とケット・シーが頷く。
クラウドがティファに言った通り、収容したディープグラウンドソルジャー達は、
皆、魔晄中毒だ。シェルクほど重傷ではないが、人数が多い為、
ベッドも足りず、ろくな治療も受けられないまま床に横たわるだけなのだ。
彼らの治療、社会復帰…課題は山積みだ。
「こんな時にヴィンセントはんがおってくれたらなぁ…
今頃、どこで何してんねん…」
これは、分身に言わせた本当の気持ちだ。
仲間は皆、彼の無事を信じている。
かと言って、悪い予感が過ぎる時がない訳ではないのだ。
早く無事な姿を見たい。
無事でよかったと、肩を叩いてやりたい。
病身のシェルクにも会わせてやりたい。
彼が無事だと分かれば、彼女も元気になるだろう。
「まったく、どこで何をしてるんでしょうね。」
「ヴィンセントはんの事やから『面倒はごめんだ』
とか言うて隠れてるんちゃうか?」
ちゃんとヴィンセントの声色と仕草をマネさせてみる。
ここで漸く我ながら何をしているんだろう、と苦笑いを浮かべる。
しかし。
『面倒はごめんだ』
そう、確かにそう言いつつも、彼は星の為に戦ってくれた。
(しかし、それは人道的な見地であって…)
一度閃くと、後は簡単だった。
「すぐに行って貰いたい場所があります。」
ケット・シーは頷くと、ひょいと机から飛び下り、どこかへ走り去った。
>524
ユフィってエアリスが死んだ時もすごく泣いてましたよね。
19歳と言えばまだまだ多感なお年頃だし、
気楽な様でいて実は『仲間の死』にはものすごく弱くて、
そういう状況だとすごく頑張るコではないかなぁ…と思いまして。
>527
ミディールでケットが何を言ったか、アルティマニアを
音読したのですが見つけられませんでしたorz
別の発言と勘違いされたとの事ですが、
その元になった台詞等教えて頂けるとうれしいです。
看病はティファとユフィとどちらに?クラウドももちろん可ですよ。
今回、ケット初書きですが、ご満足いただけるといいのですが。
【チラ裏】投稿人は生粋の関西人です。
関西人から見ると、ケット・シーの関西弁って、ちょっと不自然なんですよ。
なので却って“ケットらしい関西弁”が難しかったです。
ちゃんとケットになってたかな?
エアリス「やだっ、この水着はずかしいよぉ」
ティファ「大丈夫だって!ほらクラウドにみせにいこっ!」
エアリス「う…うん」
エアリス「ど…どぉかな?似合う?」
クラウド「///ああ…似合っている」
エアリス「えへへ、ありがと」
ティファ「あー!クラウドってばエアリス見て鼻のばしちゃってぇ!ね、ね!あたしはぁ?にあうっしょ?」
クラウド「お前はいつも下着みたいなもんだろ」
ティファ「ひっど〜い!エアリスばっかり〜!いいも〜んだ!サーファーの子たちとあそんでこよっと!クラウドなんて知らない!」
エアリス「あ、ティファ」
クラウド「ティファなんてほっとけ。エアリス。」
エアリス「でも…」
クラウド「ティファが気を利かせてくれたのがわからないのか?」
エアリス「あ…///」
保守
保守
イイヨイイヨー
ここ読んでたらリーブ好きになりそうだw
>>535-538 ケット・シー可愛いよケット・シー。
DC1章の事を思えば、リーブの一人遊びとして充分あり得そうです。
それにしても和むなぁ…。(他の方のリーブ話読めるだけで非常に幸せですw)
リーブの提案はどこを指しているんでしょうか? 続き期待sage
>>539記憶に間違いがなければFF7本編でティファが看病のためパーティーを離脱する際、
「ティファさんに看病されるなら(クラウドと)代わりたい」という主旨の発言をケット・シーがしてます。
ティファを気遣いつつ、状況的にそれはギリギリ精一杯の気遣いなんだろうなと。
横レス失礼します。興味のない方はスルーよろ。
ケット・シーってFF7本編ではあまり良い印象を持たれないか、目立たないキャラクターの様な気がします。
登場時の印象(スパイ)も、古代種の神殿で感動的な見せ場もあっけなく終了(直後の2号機登場)などで、
実のところ初プレイ当時、自分はあまり好きじゃなかったんですが、ウェポン近辺で覆りました。
古代種の神殿と再集結時に関しては、解釈の仕方によってリーブの意図するところが大きく変わるし。
FF7の中でも特に解釈の余地が残されている部分・キャラクターの多いのが、ケット・シー(リーブ)なんですよね。
また、彼を通して見ていくと7の全体像が掴みやすい…様な気がするんです。DCでナビゲーター役になったのは
良い人選だった気がします。
> ケット・シーの関西弁って、ちょっと不自然
そもそもケット・シー自体、存在が不自然ですよね。
本来なら四足歩行の動物を無理矢理二足歩行させている“ぬいぐるみ”。
1つ1つの事実を組み立てた理論(や推論)ではなく、“占い”という不確定の物を扱う存在。
あえてFF7世界中の標準語(共用語)を使わせずに“なまり”を強調させたのか。
これらケット・シーが背負う要素は本体(リーブ)とは一見すると真逆ですが、実は同じ物を指している気がしてなりません。
そして訛りに関しては、望郷を表現しているのだとずっと解釈してきましたが、「不自然」という所に着目すると
実はもっと別の物を表現しているキャラクターなのかも知れない、とも思い始めました。
(Disc1で彼の両親が描かれていますが、出身地はどこなのか等、答えを出そうとすると謎も多いw)
こういった話は専用のスレですべきなんでしょうが、
不自然という発想からふくらんだリーブ考察(妄想)が面白くてやった。今はちょっと反省している。
…そんなことを抜きにしても、お茶目な二人(?)が好きというだけの話w
548 :
539:2006/04/29(土) 23:39:27 ID:WTkbSMIl0
>>547 実は自分もort
彼の能力自体はとてもおもしろいと思ったのですが、実際にゲーム内では使い辛くって、
実はほとんどメンバーに入れてなかったという。(お好きな方、ごめんなさい)
アルティマニアやDCと、ここでリーブのお話を読んでいる内にだんだんと
彼らの良さが分かって来て、そういった意味でDCと書き手さんはネ申になってます。
>>545 そんな事を言ってたんですか…おどけつつも、気を遣ってるんですね。
リーブが言うと洒落た感じがしますが、ケットが言ってると思うと、
なんだかいじらしいくて、しかも微笑ましいなぁ。
>>546 本当の関西人はめったに“わい”なんて言わないんだけど、程度のボヤきでしたが、
深い考察をしてくださってありがとうございました。
言われてみると、あんな不思議なコンビが目の前に現れて、
いくら本人が強引に参加したとは言え、クラウドはよく仲間にしましたよね。
やっぱり見た目がお茶目だったからと言いますか、かわいらしさにやられたに違いない。
長レス失礼致しました。お話の方はGW中には終わるかなぁと思います。
後半はおじ様達大活躍(の、予定)ですので、どうぞお楽しみにお待ち下さいませ。
一日一保守
保守
ほ
保全
553 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/02(火) 10:42:51 ID:yMvrN1K40
./ \
.| ^ ^ |
| .>ノ(、_, )ヽ、.|
__! ! -=ニ=- ノ
/´ ̄ .|\`ニニ´/
/ 、、i ヽ__,,/
/ ヽノ j , j |ヽ
|⌒`'、__ / / /r |
{  ̄''ー-、,,_,ヘ^ |
ゝ-,,,_____)--、j
/ \__ /
| "'ー‐‐---'|'
| \;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ|
ト, ;;;;;;^ω^;;;;;;、 i
|',',;; } ! ',',;;;i
>>525-527より。
----------
男がこのフロアを訪れるようになったのはつい最近のことだった。もっとも
日中は、以前までの所属部署で後任者への引継ぎなどに追われデスクを
空けている時間が圧倒的に多く、朝のこの時間ぐらいしかオフィスにいられ
なかった。
男の所属する部署は神羅の都市開発部門。しかし都市開発と一口に言っても、
さらに10以上の細かい部署が設けられている。中でも『管理課』と呼ばれる
ここは、巨大都市ミッドガルの設計から建造、運営を包括的に担う部署で、
表舞台に出るような事はあまりないが、既存のシステムや魔晄炉の稼働状況の
監視・調整などを主な業務としていた。そして彼はつい先日、このセクションに
配属されたばかりだった。
(なんで管理なんや……)
今回の人事異動は彼自身の希望によるものではなかった。実のところ、内心では
未だにこの配置転換に納得できていなかった。それでも、上からの指示には逆らえ
ない。それは組織の中にいる以上、従わざるを得ないし避けられない事だとも頭では
理解しているつもりだった。
むしろ理解というよりも、諦めに近い。
都市計画・開発という仕事に希望を抱き、神羅という企業に勤め始めた当時とは
徐々に変わりつつある自分の姿に、彼は無意識のうちに焦燥のようなものを感じて
いたのかも知れない。
男にとって、それはこの先に続く長い悪夢の始まりに過ぎなかった。
***
呼び出しに応じてその部屋の前までやってきた彼女を出迎えたのは、総務部
調査課に所属する男だった。先ほど、このフロアに設置されている通信機から、
彼女の携帯用端末にメッセージを送信しここへ呼び出したのも彼である。呼び
出しを受けた時点で、彼と遭遇することは予測していたものの、その姿を見るや
彼女はあからさまに眉をひそめた。
「……こんな所で会うなんて」
「一応、ここも社内ですから。我々がいても何ら不自然ではありません」
「そうじゃないわ」男の言葉に彼女は即座に反論した。「あなた方に会うとロクな
事がないって言う意味よ」その言葉に込めた意味を汲んで、男は苦笑する。
「相変わらず手厳しい」
「事実を言ったまでよ」
あくまでも事務的な返答であしらいながら、男に先導され部屋の奥へと通された。
そこから専用エレベーターを使い建物上層へ、さらに厳重なセキュリティを通過した
先にある木目の美しい扉の前でふたりは立ち止まると、彼女はネームプレートを外し、
それを扉横に設置されているセンサーに通した。すると赤く点灯していたランプが
緑色に変わり、小さな認識音が聞こえてから扉のロックは静かに解除された。それを
確認した男がドアノブを回して扉を開くと、そのまま黙礼で入室する彼女を見送った。
男の横を素通りして部屋へ足を踏み入れる。それまで通ってきたフロアよりは薄暗く、
一見すると誰もいないように見える室内に向けて一礼した。まるでそれを見計らった
ようにして部屋の扉は外側から静かに閉められた。扉が閉じられると同時に自動で
ロックがかかる。かちゃり、という音を最後に室内は静寂に包まれた。
ビル全体が近代的で無機質な印象を与える作りにあって、この空間だけは木目調の
壁と天井、窓際に置かれた観葉植物と扉横にある大型の水槽などのお陰で、他の
フロアに比べると幾分かあたたかみを感じさせた。
しかし彼女にとってここは、社内でもっとも息苦しい場所に他ならない。
「……よく来てくれた」
部屋の奥から、唐突に声が聞こえてきた。まるで声そのものに質量がある
ような、威厳と威圧感に満ちた男性の声。
(人を呼び出しておいて、よく言うわ)
心の中で悪態をついてみたものの、彼女が男に逆らえるわけもなく。恭しく
礼をした。
「遅くなり申し訳ありません……プレジデント」
プレジデント神羅。彼は文字通り、この企業の最高権力者だ。大きな革製の
椅子の背をこちら側に向け、姿は見えない。彼女が頭を上げようとしたところに、
プレジデントの声が届く。
「さっそくだが、“例の計画”の進捗状況を報告したまえ」
「…………」
中途半端な姿勢のまま押し黙ってしまった彼女に、プレジデントは口調を
変えずに尋ねた。
「質問の意味を理解しているかね?」
「……はい」
「ならば答えたまえ」
プレジデントの言う“例の計画”が何を示しているのか、彼女は充分過ぎるほど
理解していた。
「……はい」反射的にそう返してはみたものの、やはり口に出すことをためらってか、
場に沈黙が流れた。しかし彼女は、自分にこれ以上逃げ場がない事も充分に理解
していた。やがて諦めたようにして口を開く。
「システムの実装段階で、問題が発生しました。検……」
「問題が解決するまでにかかる時間と費用の見積は?」
彼女が何かを言うよりも先に、プレジデントが言葉を発した。察するところシステムに
関する細かな話には、どうやら興味がないらしい。
「既に対策は講じております。新たな開発者……部内で実績を出している優秀な
技術者を呼びました。問題の解決までには1ヶ月もかからないものと」
そこまで言い終えて彼女はいったん言葉を止めた。少しばかり考えた末、
次の言葉を口に出す決意を固めた。
「失礼を承知で、……率直なところを申し上げれば私は、未だこの計画には
疑問を感じています」
プレジデントは何も答えない。だがこれ以上語るべき言葉を見出せない彼女は、
重苦しい沈黙が通り過ぎるのを黙って待つことしかできなかった。腕時計の
秒針の音だけが聞こえる、その音をどれだけ数えた頃だろうか。やがて声が
返ってくる。
「私は、この計画に対する君の個人的な感想を訊くために、わざわざ君をここへ
呼んだ訳ではないんだがね」
「ですがプレジデント、人々の行動を監視するというシステムが果たして……!」
彼女が必死に叫んだ言葉を吹き消すようにして、ふぅ、と言うため息の音が聞こ
えてきた。
次に椅子が軋む音。
最後に、男の声がした。
「……君は、何だね?」
「はい」
「君が私に意見できる立場にある者なのか……と尋いている」
彼女は今度こそ押し黙った。返す言葉も為す術も見つからず、その場に立ちつくす
だけだった。そんな彼女にとどめを刺すように、プレジデントは冷然と言った。
「都市開発部門の統括責任者が不在の今、君は代理としてその任を全うする。
……それだけを考えていれば良いのだよ。分かったなら下がりたまえ」
結局、プレジデントは一度もこちらを見ることはなかった。
「余計なお世話かも知れませんが」
部屋を出た彼女を労うように、総務部調査課の男は声をかけようとしたのだが。
「ええ、余計なお世話よ」
そう言って彼女は会話を続けることを拒否すると、エレベーターホールへ向けて
歩き出した。男は何かを言う事も追うこともせず、ただ彼女の背中を見守っていた。
----------
・再三言っておくと、都合解釈を伴った捏造。
・人と言うよりも、神羅内の各部署の関係性に萌えてみたいという意味不明なコンセプトでお送りする予定。
>>554-558 GJ!
やはり“彼女”が誰なのか分からないorz
スカーレットなわけないし…続きが気になります。
>348-354 >360-362 >416-420 >427-432 >441-442 >459-461 >464-470 >496-501
>508-509 >514 >510-512 >515-518 >535-538の続きです。
意識は戻ったが、本当に大変だったのはそれからだった。
シェルクは朝には寒がり、ティファは湯たんぽを用意し、
ユフィはベッドに上がって震えるシェルクを抱きしめた。
夜になると熱が上がり、ティファは今度は氷嚢を用意し、
ユフィは熱で朦朧(もうろう)としているシェルクの口に氷を入れてやる。
寝たきりだと身体中が痛むので、二人で寝返りを打たせてやり、身体を擦る。
クラウドは薬や栄養剤を探して走り回った。
少しずつ症状が落ち着き始めたのは5日目のことだった。
ティファが作った冷たいスープをユフィが飲ませている合間に
シェルクはぽつりと口を開いた。
「夢を…見ました…」
まだ少し熱があるので、顔が赤い。
「どんな?」
点滴を替えていたティファが答える。
ユフィは、冷たいスープなのに、つい息を吹きかけて冷そうとしかけて、
何をやっているんだと肩を竦め、シェルクに照れ笑いを見せる。
シェルクも笑って、ユフィが飲ませてくれるスープを飲む。
ひんやりとして、火照った口の中にも気持ちいい。
(おいしい…)
「おいしい?」
ユフィが顔を覗きこんで来るので、シェルクは素直に頷いた。
「やっぱね〜!顔が笑ってるもん。」
「やっと私の料理を食べてもらえてうれしわ…それで、どんな夢を見たの?」
「…お姉ちゃんの夢…」
せっせとスプーンを口元に運んでいたユフィの手が止まる。
ティファは椅子を持って来ると、ベッドの傍に置き、そこに腰掛けた。
「身体が動かなくなって…私…やっぱり…と思いました。」
「どうして?」
「私…私のせいでお姉ちゃん…」
何かを叫びかけたユフィを、ティファが黙って制する。
「怖かった…束の間だけど私に与えられた団欒、もう一度彼に会う事…
それすら許されないのかと…そう思うと、死ぬのが初めて“怖い”と思いました。」
シェルクは毛布をぎゅっと握りしめる。
「許されるはずがない…私は…幸せになる資格がない…
だからこのまま死んでしまうんだと…そう思いました。」
ネロの闇に捕われた時でさえ、こんなに怖いとは思わなかった。
怖くて怖くて…夢の中の暗闇を何かに追われる様に闇雲に走っていた。
「夢の中だと…上手く走れなくて転んでしまいました。そしたら足に何か絡み付いて…」
シェルクははっと我に返る。
「私…何を話しているんでしょう?こんな…非現実的なこと…」
「でも…話したいんでしょ?」
「シャルアが助けてくれたんだろ…?なんて言ってた?」
ティファもユフィも膝を乗り出して話を聞いている。
(臨死体験なんて…信じてもらえないかと思ってました…)
シェルクは話を聞いてもらえることにホッとして、続きを話し始めた。
「はい。お姉ちゃんが…助けてくれました。」
シャルアはあの時の様に、シェルクの手を引いて走ろうとしていた。
が、絡み付いた“何か”の力と、シャルアが引っ張る力が拮抗して抜け出せない。
「お姉ちゃん…もうだめだよ!」
シャルアの唇が動いた。
言葉は発せられないがシェルクには何を言っているかが分かった。
“生きて…”
シェルクは激しく頭を振る。
“シェルクは強い…そいつだって、自分でやっつけられるよ。”
(やっつける…?)
シェルクは反射的に足に装備していたスピアを片手で抜き、足下を薙ぎ払った。
すると、足に絡み付いていた物達が、ふっ…と消えてしまった。
“ほらね”
シャルアはいたずらっぽい表情でウィンクして、シェルクを立たせてくれた。
「お姉ちゃん…」
“ずっと傍に居るよ。いつも見てるから…だから…”
シャルアは屈んで、シェルクの瞳を覗きこむ。
“頼むから「私のせいでお姉ちゃんが…」なんてうじうじしてる姿、見せないでよ”
「そんなの…無理だよ。」
“大丈夫…もう、一人じゃないだろ?”
夢の中なのに、頬に触れた手は温かかった。
“大好きなシェルク…”
シャルアは両手でシェルクの頬を包み込んだ。
“また会えるから…それまで私の分も生きるんだよ”
「そこで…目が覚めました…ティファと、ユフィと…クラウドさんが居ました。」
気が付くと、ユフィはシェルクに背中を向けて鼻をすすっている。
「優しくて、強いお姉さんね。」
「はい…でも…」
“でも”という言葉に反応して、ユフィがシェルクに向き直る。
「それでも…私のせいでお姉ちゃんが…という想いはきっと消える事はないと思います。
“私の分も生きろ”と…私にそれが出来るのでしょうか?生きる事さえ罪だと感じているのに。」
「だぁーからぁっ!シェルクはそういう風に考えんなって言ってるんだろ?」
「ですが…」
「生きてることが罪なんて!そんなの、どっかの根暗野郎に言わせときゃいいの!」
激高するユフィをシェルクは驚いて見つめる。
「ヴィンセントだよ!アイツもそんな事ばっか言ってさぁ…でも、神羅屋敷の棺桶から出てきて、
アタシ達と旅して、ちゃんと役に立ったんだ!あ〜見えても、“星を救った英雄”の一人なんだって!」
もちろん、『アタシほどじゃないけど』を付け足すのを忘れていない。
「シェルクだって大活躍だったじゃん!ね?アンタが居なかったら、
ヴィンセントの奴だって、この星だって、どーなってたか分からないんだから!」
「ユフィの言い方は問題有りだけど、私もそう思うわ。
あなたは前を向いて生きる事で償っていけると思うの。」
横でユフィがうんうん、と大きく頷く。
「だから…お姉さんの言葉を大切にね。」
ユフィは傍らに置いておいたスープの入った皿を再び手に取る。
「大丈夫だって!アタシが付いてるからさ!とにかく、まずは食べなくちゃね。」
「私達が…でしょ?」
ティファが呆れた口調で言う。
“ほらね”
耳元で姉の声がした様な気がした。
「ん?食べないの?」
ユフィがスプーンを持っておどけている。
(こういう時は…どういう風に言えばいいんでしょう?)
「シェルク…」
ティファがタオルでいつの間にか溢れていた涙を拭いてくれるた。
「今はいいの。いつでもいいのよ…私たちはずっと傍に居るから。」
つづく。
>>563 また訂正です。ごめんなさいorz
> ×「だぁーからぁっ!シェルクはそういう風に考えんなって言ってるんだろ?」
> ○「だぁーからぁっ!シャルアはそういう風に考えんなって言ってるんだろ?」
ところで、ユフィとシャルアは顔見知りなんでしょうか。
今更何を言ってるんだ、ですがDCプレイ時から不思議で。
ひょっとしてBCで会ってるのかな?教えてちゃんでごめんなさい。
>>564 BCでは二人は会ってない
DCでユフィがWROに協力してるから、リーブから互いに紹介されたんじゃないかと思う
566 :
564:2006/05/04(木) 00:59:52 ID:Ch7SYC360
>>565 そうでしたか…お陰でスッキリ(・∀・)しました。
ありが???とうございました。
567 :
564:2006/05/04(木) 01:24:28 ID:Ch7SYC360
>>565 ごめんなさい、文字化けorz
失礼致しました。
>>560-563 DC本編中で直接的には描かれなかった(様な気がする)シェルクの後悔の念というか、
失ったもの(姉)が大切だと気づく描写があって嬉しいと素直に思う。
この勢いでカプセル回収出立編を書いてもらいたい。またはDC-2をw。
9章(栄枯盛衰神羅ビル)でルクレツィアと同調しながらシェルクは「生きて」と言っていた
(字幕には登場しないんですが、ここは確かに「生きて」と言っているように聞こえたーよ)
ところから考えると、展開的にちょっと切ないです。続きにも期待。
ところでシャルアとユフィの面識について。
>>565と見解は同じですが、正式な形で互いを紹介されたような面識はないかも、と
言うのが個人的な見方です。WROの地下にシャルアを回収しに行ったのはユフィだと
思っている(リーブorケット・シーじゃ無理w)ので、対面はそれが初めてだった…のかな。
とか色々。
6章終盤「シャルアは…」と言いかけたセリフに続く言葉を想像すると、ユフィの人となりを
色々想像できて楽しいです。DCのお陰で好きになったよユフィ。
舞台:DCFF7第2章〜
備考:マルチプレイモードは考慮の対象外。
:微妙にエグイ内容なので嫌な方は回避されたし。
:それから、ロッソが好きな人も(多分に捏造された過去につき)回避推奨。
----------
この地に生を受けたとき、少なくとも彼女にとって世界はまだとても退屈な場所だった。
両親の笑顔が傍にある、そんなごくふつうの世界。
頭上に広がる空がないことだけが「ふつう」とは唯一異なっていたが、それを知るのは
20年以上も先の話である。
彼女には幼馴染みがいた。彼の名前がなんだったのか、今さら思い出そうとしても
分からない。思い出そうとする事もなくなった。
ただ、覚えているのは朱にまみれた彼の表情。
床に転がったそれを、踏みつける巨大な人影。抵抗することなく踏みつけられる彼の顔。
なぜ、そんなことをするのかが分からなかった。
なぜ、そうなるのかが分からなかった。
彼女にとって初めての「死」はこうして突然に訪れた。あまりにも突然の出来事だったから、
彼女にはそれが理解できなかった。だからどうして良いのか分からず、その場で立っている
ことしかできなかった。
「……怖いか?」
下卑た笑い声をたてながら、巨大な人影が近づいてくる。横たわった彼の亡骸を前に
呆然と立ちつくす幼い彼女に、武器を持たない方の手を伸ばす。
それでも彼女の視線は、床に転がる幼馴染みに向けられたままだった。さんざん身体に
触れられたあげく、上着を脱がされかけても彼女は動じなかった。
ただ、男が自分の前に立ちはだかって床に転がった彼の姿が見えなくなった事だけが
腹立たしかった。
「どいて」
それだけを口にした。だが巨大な人影が退くことはなかった。
次にどうしたのかは覚えていない。ただ、巨大な人影が腰に着けていた銃を持ち、
転がったそれを見下ろしていた。
床に転がる顔は2つになった。だけど片方だけが朱に染まっている。
「どうしたの?」
呼んでみても返事がない。
「いたいの?」
頬に触れてみた、あたたかい。彼の顔を染める朱も、あたたかかった。
自分の頬を伝うものに気づき、手に触れてみる。
透明なしずく。それはとてもあたたかかった。
***
倉庫の割れた天窓から見上げた空の色を、彼女は好きになれなかった。
白なのか黒なのか、はっきりしない曖昧な色。
降り注ぐ飛沫が身体を濡らす。それはあたたかくも冷たくもなかった。
斬り殺した――手応えすらなく死んでいった連中が、周囲に散らばっている。
あの日と同じように、彼らの身体は朱に染まっている。
それを見下ろす彼女の頬を伝うのは、透明な滴。
だがそれに、温度はなかった。
「私ねぇ、生まれて初めて雨に濡れたわ」
彼女の頬を涙が伝うことは、二度となかった。
***
死とは制圧。
死とは安息。
脳裏に焼き付いた彼の表情が忘れられなくて。
あの時と同じ思いを二度としたくなくて。
人間であることを捨ててでも、彼女はその夢を抱き、武器を取り頭上に広がる空を見上げた。
「終わりが、始まるわ」
―朱の夢<終>―
----------
・ロッソが好きでやった。今は(ry。
・DCFF7中、一番好きなんだけど文章で表現すると印象と真逆になるのはなぜだろう。
(こんな人じゃない!!)
・ゆがんだ人間の手によって作られた、人間ではない存在を演じる(=中央螺旋の塔)
という解釈はシカトしましたすみません。この辺なんとかしたいです。
>>569-570 ロッソ姐さん(*´Д`)ハアハア
エキセントリックで、色っぽくて強い(実際に居たらコワいですが)彼女が(・∀・)イイ!!
ミッドガル大侵攻ではクラウドと切り結んでいましたが、勝敗はどうだったんでしょうね。
【お詫び】レスアンカー(>>)を入れ過ぎると書き込みが規制される為
500以前の引用は省かせて頂きます。
お手数ですが
>>508から、500以前の引用を辿って下さい。ご迷惑かけて申し訳ありません。
前回の投稿で>にしたら、IE等のノーマルなブラウザではリンクが
貼られない様で、見辛いと思われた方がおられたらごめんなさい。
>>508-509 >>514 >>510-512 >>515-518 >>535-538の続きです。
シェルクが快方に向かうにつれて、クラウドが7th Heavenに立ち寄る回数も減った。
食欲が出て来てきた為栄養剤に頼る必要がなくなったからだ。
ヴィンセントはまだ見つからない。
時間が許す限りシドが手伝ってくれたが、クラウドが居ない時は
バレットがほとんど一人で探しているのだ。
「頼みたい物が出来たらまた連絡するわ。」
ティファにそう言われて、ヴィンセント探索に戻ったのだ。
生命反応を調べる携帯型の端末を持って、ミッドガルの廃墟を歩き回る。
バレットにシェルクの様子を聞かれ、それに答えている時にふと思い出したことがあった。
「なぁ…バレット。」
「なんだ?」
捜索を終えた地点に赤いサインペンでバツ印を付けながらバレットが答える。
「家に届けたい物がある。」
「なんだ?ティファから連絡でもあったのか?」
「いや、そうじゃない。」
バレットが顔を上げてクラウドを見る。
「その…俺が、勝手に思っただけだ。これがあればティファ達が助かるんじゃないかって。」
「何を持ってくつもりだ?」
クラウドの答えにバレットは感心した風で、快く許してくれた。
「お前にしちゃあ、珍しく気が利くことを言うじゃねぇか。いいぜ、行ってこいよ!
その代わり…頼むから早く戻って来てくれよ。ここは一人だと気が滅入るからな。」
毎日廃墟を歩き回って楽しい気分になれるはずもない。
それにここは色々と思い出す事が多い。出来ればクラウドも長居したくはない場所だ。
バレットはそんな場所で一人で長時間過ごして来たのだ。
「悪いな。」
「いいってことよ!」
バレットは笑い飛ばし、マリンへの言伝(ことづて)を頼み、クラウドを送り出してくれた。
手近に居たWROの隊員を捕まえ、目当ての物の調達を頼む。
ここに運ばせると言う隊員の申し出を自分で行くからと断り、
クラウドは病院にフェンリルを走らせた。
目当ての物を受け取ると、フェンリルの後部座席に積み、通い慣れた道を我が家に向う。
家に着くと、入り口には鍵がかかっていないのに、店には誰も居ない。
おかしいと思っていると、フェンリルのエンジン音を聞きつけたデンゼルが飛び出して来た。
「おかえり、クラウド!」
クラウドはただいま、と答えると、
「デンゼル…ティファは上か?」
「ユフィ姉ちゃんと二人で出かけたよ。すぐに帰るって。」
「そうか…」
クラウドは二人が戻るのを待とうかと思ったが、ここへ来る時のバレットの言葉を思い出し、
「デンゼル…これをティファに渡しておいてくれ。」
「何…?これ。」
クラウドが持って来たのは折りたたみ式の車椅子だった。
足下のバーを軽く踏んで広げるだけで組み立てられるタイプだ。
実際にやって見せると、デンゼルは大喜びだった。
「うわ〜!すっげーや、これ!シェルクの?」
クラウドが頷く。
「シェルク、きっと喜ぶよ!俺、知らせて来る!」
デンゼルはクラウドの返事も待たずに階段を駆け上ってしまった。
(…参ったな…)
このまま帰る訳にも行かず、クラウドは仕方なくデンゼルの後を追う。
「シェルク!」
デンゼルはシェルクの傍に息を切らせて駆け寄る。
「クラウドがいい物を持って来てくれたよ!」
ベッドに座っていたシェルクと、傍でシェルクに絵本を
読んであげていたマリンが驚いて顔を向ける。
「なぁに?デンゼル!今ご本を読んであげてるのよ。」
「違うんだよ、マリン!クラウドが来たんだ。」
マリンは開けっ放しになっているドアに佇んでいる
クラウドに気が付くと、驚いて椅子を降り、駆け寄る。
「クラウド!どうしたの?お遣い?」
「いや…」
マリンの頭に手を置き、クラウドはどう答えた物かと必死で考える。
「シェルクの為に車椅子を持って来てくれたんだよ、な?クラウド!」
「私の…?」
シェルクに見つめられ、クラウドはますます言葉に詰まってしまう。
口下手で人見知りのクラウドは、まだ数回しかシェルクと言葉を交わした事がない。
頼りのティファも勝手に騒いでくれるユフィも居ない。
「…ずっとベッドに居ると、良くないからな。」
考えに考え抜いて、やっと出た言葉がこれだった。
シェルクが目を丸くして自分を見ているのがいたたまれない。
クラウドはそのまま踵を返して部屋を出ようとしたが、マリンがそうはさせない。
「もう!クラウドったら!ちゃんとシェルクに言ってあげてよ。」
クラウドの手を引くと、強引にベッドの傍まで引っ張って来る。
そして、ませた口調でシェルクに、
「ごめんなさい。クラウドは恥ずかしがり屋さんなの。」
「マリン…!」
(恥ずかし…がり…?)
シェルクはまじまじとクラウドを見つめる。
クラウドの顔が心なしか赤い。
「シェルクの為に持って来てくれたんでしょ?」
クラウドはマリンには敵わないな…と小さく呟くと、
「俺も…長い間寝たきりだった事がある…治ったら身体中ガタが来ていた…
だから、具合がいい時は少しでも外に出た方がいい。」
「そうだったんですか…」
シェルクの返事はは車椅子の事を指しているのではない。
“クラウドは恥ずかしがり屋さんなの”
(じゃあ、あの時の…)
ここに初めて来た時の“クラウドの失礼な物言いに腹が立ったが、
あれはどうやら、彼なりに心配してくれた故の言葉らしい。
車椅子も、ベッドから起きられない自分を心配してわざわざ探して来てくれたようだ。
得心がいくと、今までのわだかまりが消えていく気がした。
また、胸の中がほんわりと温かくなる。
「…ありがとう…ございます…」
「…いや…たいしたことじゃない…」
「とても…うれしいです。」
微笑むシェルクに、クラウドは俯いてしまう。
ふと横を見るとマリンがいたずらっぽく笑っている。
デンゼルは状況が良く飲み込めない様でぽかんとクラウドを見ている。
「…バレットが待ってる…ミッドガルに戻る。」
クラウドはやっとそれだけ言うと、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
デンゼルが慌てて追いかける。
その後ろ姿を見送って、マリンとシェルクは思わず顔を見合わせた。
「クラウドはね、仲良しになるのにすごく時間がかかるの。」
一緒に住み始めた頃は大変だったのよと、マリンがこぼす。
「…でも…優しいんですね。」
マリンは腕組みをして、やれやれ、という顔をシェルクに見せ、
「まあ…ね!」
シェルクは思わず吹き出してしまった。
父親代わりより娘の方がよっぽどしっかりしているではないか。
そして、慌てたせいで、マリンへの伝言を忘れていたクラウドは、
ミッドガルに戻ってからバレットに呆れられたのだった。
つづく。
===========================================================
>>574 ×DC後 【58】→○DC後 【59】
もう、本当にね、ごめんなさい_| ̄|(((○
>>572の『生命反応を調べる携帯型の端末』は、DCオープニングムービーで
ユフィが持っていた物だと思って下さい。(正式名、あるのかな?)
>>568 ゲーム内ではちゃんと書かれてませんが、シェルクが人らしさを取り戻していくと、
絶対にぶつかる問題ですよね。
彼女は被害者でもあるのですが、シエラ号での奮戦ぶりを見てると、
きっと思い悩むんだろうなぁ…と。
>>573-577 今回はクラウドとバレットの描写から主に感じましたが、
シェルクを取り囲む周囲の、FF7オリジナルメンバーの
優しさが滲み出ているお話で、読んでいるとホッとします。
子どもに背中を押される図というのも、なかなか良いですねw。
続き期待sage
保守
ほ
ぼ ?
582 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/08(月) 20:22:14 ID:M0eioXRb0
もう本戦始まってたんか、ありがとう。
ってリルムも出てたのかーーーーーーーー!!!!!!orz
ちくちくちく(ry
コメント読んでると6やりたくなって来たw
>>554-558より。
----------
***
その日の午後、彼らは朝と同じフロアで再び顔を合わせることになる。
「……すると、あなたが?」
「そう。都市開発部門管理課の主任として、あなたをここへ呼んだ張本人、
というわけ。『よくもこんな地味な部署に回してくれたものだ』と私を恨んで
くれるのは自由だけど、仕事はしっかりこなしてね」
部内でも大きなセクションである『管理課』の主任を務めるのが女性だった
のは、正直意外だった。ただ、この口調と言葉を聞けばそれも納得がいく。
「改めてよろしく、リーブ君。それから、分からないことがあったら遠慮なく
聞いて」
そう言って彼女は特に笑顔になるわけでもなく右手を差し出した。つられる
ようにしてリーブも手を差し出し、握手を交わす。まさか彼女が自分の上司に
なろうとは。
今朝ここで顔を合わせた時と同じく黒いパンツスーツに身を包み、黒く長い
髪はバレッタでひとまとめに束ねている。元々が整った顔立ちではあるのだが、
女性的な美しさはまったく感じられず、どちらかと言えば隙のない――まるで
総務部に所属するタークスのような――印象すら与える。
「それではお言葉に甘えて1つお尋ねします。なぜ今回の配置転換を?」
「理由のない結果はないわ。当然……あなたの能力を見込んでの人事よ」
リーブは配置転換が決定した当初から疑問に思っていた事を思い切って尋ねて
みたが、あっさりと返されてしまう。言っていることはその通りなのだろうが、
求めていたのはそんな回答ではない。
「具体的に私はどういった能力を見込まれてここへ招かれたのでしょうか?
差し支えなければお聞かせ頂きたいのですが」
管理維持と言うのは退屈なものだと思っていた。彼は都市開発に従事する者
として、常に生み出す側である事を望んでいた。魔晄炉誘致や設計から建設。
時には内部のシステムにも関与した事がある。だから管理とは、都市開発の中で
自分には一番縁遠いセクションだと思っていた。
しかし、彼女はその考えを真っ向から否定した。だからこそ聞きたかった。なぜ
自分がここへ呼ばれたのか? 返答次第では元のセクションへ戻してもらう事を
進言するつもりでいたのだが、どうやら彼女の方が一枚上手だったようだ。
「差し支えるので現時点であなたの質問には答えられないわ。不服かしら?」
「……いえ」
言葉こそ疑問形ではあるが、それ以上の問いには応じないという彼女の姿
勢ははっきり現れている。それ以上の抵抗は無意味だと、リーブは諦め声で
答えた。
「そう、なら持ち場に戻ってちょうだい」
彼女はそう言って会話を切り上げると、ふたりは別々の方向からそれぞれ
名前を呼ばれ、忙しない日常業務へと引き戻されたのだった。
(とんでもない上司の下に回されてしもたな……)
誰にも聞かれないよう、リーブは心の中でだけ呟いたのだった。
----------
・短いですが一区切りです。
保守
>584-585
GJ!上司の人カッコいいです。どんな目的があるんだろう?
一日一保守
ほ
ぼ
一
二
サンガリア
>>584-585より
----------
***
晴れ渡った空には白い飛行機雲が一筋、くっきり浮かび上がっていた。まるで
絵に描いたような空の下、ミッドガルの外れにある更地にふたりの男の姿があった。
飛行機雲の行方でも追っているのか、空を見上げているリーブの横顔を見ながら、
彼は込み上げてくる笑いをどうにか堪えながら尋ねた。
「もしかして今『とんでもない人が上司になった』……なんて思ってらっしゃいますか?」
リーブが都市開発の管理課に異動になったことを聞いた彼は、確信をもって
その問いを向けていた。もちろん、これに対する返答が否定であることも予測済みだ。
問いかけられたリーブは慌てて視線を下げ顔を質問者に向けると、ふるふると首を
振りながら早口になって答えた。
「……い、いえ。とんでもない」
(読心術かいな!?)
リーブからしてみればあまりにも的確な指摘だったものだから、内心かなり動揺した
のだった。無論、態度に出ていることなど本人は気づいていない。
彼はリーブが以前に関わった魔晄炉建設予定地での折衝の際、世話になった男
だった。総務部調査課に所属しており、件の都市開発管理課主任の彼女とも旧知の
間柄にあった。
リーブは知る由もないことだが、あの日の朝、彼女を社長室へ呼び出したのも彼である。
「……まあ、お気持ちは分かります。彼女はとても厳しい人ですからね」
「あなたが言う程ですから、相当なんですね……」
ああ、とため息をついて見せるリーブに、男は今度こそ笑うのだった。
「そんなに悲観しないで下さい、現に彼女は素晴らしい人なんですよ。そうでなければ
主任になんてなれませんよ。……ついでに、私が保証しておきます」
そんな保証なら、ないのと同じね――と、きっと彼女がこの場にいたらそう
切り返すに違いない。ふと、リーブの脳裏にそんな考えがよぎった。
それにしても、妙にリアルな再現映像が頭の中には流れている。知り合って
まだ間もないというのに、よほど強く印象に残っているのだろう。
「私の保証なんて意味もないでしょうし、きっと彼女ならすぐさま断るでしょうが」
そう言って笑う男の反応から見ても、リーブの考えはあながち的外れではなさ
そうだ。
そう考えるとなんだか可笑しくなって、リーブも笑った。その姿を見て、彼は
少し安堵したような表情を向ける。
「立場上、さまざまな部署から依頼を受けますが……あなた方と一緒に仕事を……」
言いかけて、不意に男は言葉を切った。先ほどまでの笑顔が一瞬で消える。
「すみません。本来、私の口からこのようなことは……」
話すべき事ではない、男はそう言った。まるで沈黙を嫌うようにしてリーブは
すぐさま反論した。
「人間ですから、何かを思い、感じるのは仕方のない事だと思います」
「ですが、それを仕事に持ち込むのはプロのやることではありません」
彼の持つ高いプロ意識には敬服する。しかし、感情を全て否定してしまっては
身も蓋もないのではないか? リーブはそう思った。
「私たちは確かにプロです。しかし、プロである前にひとりの人間でしょう?
それを否定してしまっては……」
「あなたのおっしゃる通りです。ですが、それを大切にするあまり、任務の遂行に
支障を来すようなら……それは我々にとって、無用の長物でしかありません」
彼の言葉を聞いて、リーブは返す言葉を見失った。人の持つ、人であるが故に
持つ感情を否定されたことを受け入れるまでに、些か時間がかかった。
「……それが、あなた方タークスだと?」
「ええ」
彼は真っ直ぐにリーブを見て頷いた。揺るぎない自信、確固たる信念。そんな
物を身に纏っているような、強さを感じた。
都市開発などよりも厳しい現場に直面する総務部調査課・タークスの一員たる
誇りが、彼にそれを与えているのか。それとも、数々の任務を経て身につけた
ものなのか。
いずれにしても、自分にはない物だとリーブは思った。
「……私はまだまだ甘いんでしょうね。本音を言えば、あなた方の様になれる
自信がありません。タークスの協力がなければ、先の魔晄炉建設計画は頓挫して
いたでしょう。本来ならば私たちの力で完遂すべき計画だった、……筈なんですが」
それは配置転換が行われる直前、リーブが関わっていた都市計画の1つだった。
計画の前に立ちはだかった最大の障害は、住民達だった。魔晄炉建設予定地の
一部はすでに居住区として機能していたのである。
そこでリーブ達は住民達の説得に乗り出した。可能な限りの時間を割いてリーブは
住民達との交渉に当たった。その後、これに応じなかった者達への対応を都市開発
部門は総務部調査課へ依頼した。ここでふたりは知り合うことになる。
総務部調査課の働きもあって予定通り着工を迎えることができた。しかしこの際、
彼らがどのような手段を使ったのかは、神羅内ですら正式には公表されていない。
仮にどれほど強く現地住民が反発したとしても、神羅が魔晄炉建設を諦めるはずが
ない。となれば大方の予想はつく。都市開発部門が提示した条件をのまない、あるいは
呑めない者達に対して残された手段は、強制排除しかない。
たしかに全力は尽くした。決裂した交渉の前に行き詰まったリーブ達を救い、道を切り
開いてくれたのは総務部調査課だった。だが、このやり方が果たして最善の策だった
のだろうかと、今でも思い悩む事はある。
魔晄エネルギーは神羅にとって重要な収益源になりうる。同時に、ミッドガルの住民
にも富と豊かさをもたらしてくれる。それ自体に嘘偽りはない。
少なくともリーブはその信念の元に、都市開発事業に取り組んでいる。
――それを住民達に納得してもらう方法は、他に無かったのだろうか?
力で排除する以外に、方法はあったのではないか?
私たちの声を届ける方法が、他にも……。
もう何度目になるか分からない自身への問いかけに、リーブは小さく頭を振った。
過ぎてしまったことを悔やんだって仕方がない。そして、彼らタークスがいなければ、
魔晄炉建設計画は間違いなく暗礁に乗り上げていた。彼らには、どれだけ言葉を尽く
しても感謝を伝えることはできないだろう。
ただ、都市開発部門――もとい、自分の手を汚さずにいておいて、そんな風に思う
のは虫の良い話だと、同時に罪悪感を抱くのだ。
魔晄炉建設はもう後には引けない、引くわけにはいかない。とすれば、自分が
最後まで携わることで結果を残そう。それが、ミッドガルの住民達に対する最低限の
責務であり、最高の仕事になるのだと――そう決意した矢先の配置転換だった。
――だから聞きたかった。管理課へ回された理由を。
魔晄炉建設から離れてでも、ここへ来なければならなかった理由を。
煮え切らない思いを、どこへぶつければいいのだろう? そんなリーブには感情を
「無用の長物」として否定できるはずがない。
だが――いや、だからこそ。彼の言っている事が正しいのだとも思う。結果として
回答が得られなければ、思いになど何の意味もないのだ。
出口の見えない迷路の中を思考が迷走する中で、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「リーブ。あなたが、我々の様になる必要はありません。……いいえ」
その声はとても力強く、まるで迷路の出口へと導くように響いてくる。
「あなたのような人が、これからは必要なんです。もし、できれば覚えておいて下さい。
今回の配置転換は……彼女の賭でもあるのです」
彼は話しながら腕時計を見て立ち上がる。そろそろ、時間だ。
「待ってください?! ……それは、どういう」
顔を上げたと同時に、リーブの胸ポケットから彼を呼ぶ電子音が聞こえてきた。
それを見下ろして男はやれやれと言いたげに微笑んだ後。彼は表情を見せない
ようにとリーブに背を向けた。
「私は、……あなた方を信頼しています。あなた方には我々……いえ、私のようには
なってもらいたくない、……というのは私の勝手な思いです」
そう言ってから振り返った彼の表情は、いつもと変わらないものだった。
「私が、あなたを信頼しているように。彼女もまた、あなたを信頼し期待しているのだと
思います」
もちろん確証はないものの、おそらく間違いありませんと付け足して。
「どうか彼女を助けてあげてください。彼女を救えるのは……あなただけなんです、リーブ」
「ちょっ……!」
問い返そうとしたリーブを遮ったのは、ずっと放っておかれている胸ポケットの
携帯電話の甲高い電子音だった。彼はリーブに向けて電話に出るよう促す。が、
そんな彼の胸ポケットからも同じような電子音が聞こえてきた。
ふたりは互いに顔を見合わせ苦笑しながら、それぞれの携帯を取り上げて
通話を始めた。
『……リーブ君、あなた何やってるの?!』
『主任、大変です!』
端末の向こうから、それぞれの持ち主の名を呼ぶ声がほぼ同時に告げる。
――『ミッドガル魔晄炉建設予定地付近に、軌道を外れたものと見られる
試作ロケットが墜落。死傷者、被害状況等の詳細は今のところ不明。』
「なんですって?! 場所と状況を詳しく教えてください!」
「……分かった。今すぐ戻る」
ふたりは携帯を手にしたまま、別々の方向へ走り出した。
リーブが見上げていた青空に伸びる一筋の雲がたどり着く先と、彼らが目指す
地点は、同じだった。
----------
・大風呂敷広げて夢を見すぎた。後で反省しながら畳もうと思う。
・尚、ロケットの話はFF7本編Disc3ミッドガル上陸後(ウェポン襲来前?)のシドより拝借。
設定資料とかにこの辺の年代記載があったら目も当てられないw。
ロケット墜落ktkr!都市開発協力の内幕が面白いです
>>584-599 女性上司がリーブを呼んだ理由が気になります。
最終的にミッドガルを守れるのは彼しか居ないと思ったんでしょうか。
ついでにロケット墜落でシドとシエラも出て来るのかな?
と、期待sage。
>>508-509 >>514 >>510-512 >>515-518 >>535-538 >>573-577の続きです。
それ以前は
>>508から辿って下さい。(理由は
>>573)
広大なミッドガルの瓦礫の山の中でヴィンセントを探す…という
不毛な作業を続けるクラウドとバレットの所にシドがやって来た。
「リーブが呼んでるんだとよ。」
クラウドとバレットは顔を見合わせた。
「おい、まさか探すの止めろって言うんじゃねぇだろうな。」
「いや…そんな事は言ってなかった。が、なんだか要領を得ねぇ…ってか…」
なんでも3人揃ったら話すとのことらしい。
だったら行って話を聞く事だとリーブの居るWRO本部に向う事にする。
道すがら、シェルクの話になった。
「あの娘はどうだ?倒れたって聞いたときはびっくりしたぜ。」
「今ではすっかり元気だ。時々寝込む事はあるが、大した事はないらしい。」
「マリンやデンゼルとも仲良くやってるそうだ。」
「そーか、そりゃ結構。」
シドは満足げに頷く。
「俺も忙しくて見舞いに行けなかったからよ、気になってたんだ。
時々ナナキのヤツがメールくれたんだが…俺も忙しくてな。」
「今、暇なヤツなんか居ねぇだろ。俺だってマリンに会いに行けねぇし。」
「ったく、ヴィンセントの野郎、どこに隠れてやがるんだぁ?シエラも心配してっしよ。」
襲撃の傷跡が生々しく残るWRO本部の巨大なビルの前に佇み、
3人は上空遥か彼方にある局長室を見上げた。
「随分やられているな。」
「…なんだか嫌な予感がするぜ。」
バレットは高層ビルを見ると、嫌な事を思い出さずにはいられないのだ。
中に入るとがらん、としていて誰も居ない。
電力が回復していないのか薄暗く、床や柱には銃痕があり、
かつての賑やかさを知るシドは思わず溜め息を吐き、そして煙草に火を点けた。
「ま、こんな調子じゃ、禁煙だなんだ言う奴はいねぇだろ。」
そして突き当たりにあるエレベーターを見ると、見事なまでに破壊されている。
「で、エスカレータも動かないってかぁ?」
回廊の上の方見て、シドとバレットはあんぐりと口を開け、
何も言わずに階段を上り始めたクラウドの後にしぶしぶ続く。
「リーブの野郎、毎日この階段を上ってんのか?」
「ケット・シーはともかく、アイツ、俺らより年上だよな?」
半分上った所で、真っ先に音を上げたのがシドだった。
「俺みたいにタバコ吸う奴にゃ、キツイぜ、この階段。」
階段にどっかと腰掛けて、首にかけていたタオルで汗を拭う。
「おい、行くぞシド。」
バレットは容赦ない。
「うっせぇなぁ、ちょっと休ませろよ。」
シドはうんざりした口調で言うと、また煙草に火を点けた。
これはなかなか動きそうにない。
「悪いが俺はもっと長い階段を上った事があるんだよ。これくらいなんともねぇさ。」
バレットが言っているのは、神羅ビルのあの長い階段の事らしい。
あの時、さんざゴネてティファを困らせた事は
ここでは黙っていた方ががいいな、とクラウドは思った。
かと言って先に行くと言うと、親父二人に文句を言われているのは目に見えてるし。
ポーカーフェイスのまま、うんざりとそんな事を考えていると、
書類の束を持った女性隊員が通りかかった。
3人の姿を見ると、直ちに敬礼すると、遠慮がちに、
「ところで…皆さんはこんな所で何をしておいでですか?」
「リーブの野郎にに呼ばれたんだ。」
「それで、この因果な階段を上ってる所だよ。」
女性隊員は言いにくそうに、
「あの…エレベーターが使えないので、局長室は2階に移ったのですが…」
短くてごめんなさい。
うまくいけば、今日明日には完結するかもです。
> 「あの…エレベーターが使えないので、局長室は2階に移ったのですが…」
腹痛い、ホント腹痛いw
リーブ(DC1章)という人物像をここまで的確に表現し、かつオチを着けてくれる作品を
拝見できる日がくるなんて!!
おいリーブ早く言えよ!と、大クレーム勃発の予感!!に期待sage。
(しかもこの後2Fまで下ることも考えると、結局上まで行くのと同じ距離になるんだよな…w)
いやもうホント幸せです。ありがとうありがとう。
>>594-599より。
----------
***
依然として出力低下の続く飛空艇シエラ号は、コントロールルームで必死に
操縦桿を握るクルーの操縦技術と努力の甲斐あって、辛うじて航行を維持していた。
「チッ、……やりすぎちまったか?」
目の前で倒れたリーブの身を起こしたが、気を失ったまま意識が戻ることは
なかった。シドとしてはそれほど強い力で殴っちゃいないのだが、などと言い
訳じみたことを考えながら、通路の壁にリーブの上半身を凭せかけてから、
腕組みをして吐き捨てた。
「まったく世話の焼ける野郎だぜ」
さて、これからどうしてくれようか。ようやくシドが考え始めた。しかし彼が考えて
いるよりもシエラ号を取り巻く事態の進行スピードは早く、そして向かう方向は
悪かった。
飛空艇全体に、けたたましい警告音が鳴り響いた。それから間もなく、艇(ふね)が
大きく傾きかける。シドはバランスを取るために壁に手をつき、なんとかその場に
踏みとどまる。幸い、飛空艇の方も体勢はすぐ持ち直したようだったが、警告音は
止まらなかった。
艇に迫る危機と、操縦桿を握るクルーの焦る顔が思い浮かび、シドは勢いよく
立ち上がり呼びかけた。
「……おいリーブ、ちょっと待ってろ!!」
意識のない彼から返答はないが、シドはリーブの身体を通路の隅に寄せた。完璧と
は言えないが、こうして2面の壁で彼の身体を支えていれば、急激な揺れにも少しは
耐えられるだろう。間違っても、艇が揺れるたびに通路を転げ回る、なんて事には
ならずに済むはずだ。
それからシドはコントロールルームへと駆け込むと、扉が開くと同時に叫んだ。
「おい、どうした!?」
「艦長……!!」
先ほどシドから操縦桿を託されたクルーが声をあげる。
「依然としてシエラ号の出力は低下中。それどころか、このままではじきに
……全てのコントロールを受け付けなくなります」
シドが階段を駆け上がる間にも、彼の状況報告は続く。コントロールルームに
設置された、おそらくはシエラ号全艦に設置されたディスプレイで、同じ現象が
起きていた。
“退避勧告”。画面には簡潔にその文字が表示されていた。階段を上りきって、
手近にあったディスプレイでそれを確認すると、シドは噛みしめるように呟いた。
「……オレ様に艇を捨てろってのか?」
クルーは一度シドから視線を外すと、黙って頷いた。シドの顔を見て、それは
言えなかったのだ。
「出力低下に伴い、既に高度調節の機能は使えなくなっています。このままの
軌道で進めば……ミッドガル中央塔付近……あるいは、六から八番魔晄炉
付近に……」
「おい待て! それじゃあ地上部隊が巻き添えになっちまうじゃねぇか!!」
シドはクルーが言い終える前に叫ぶと、今にも胸ぐらにつかみかかる勢いで
詰め寄る。無論、操縦桿を託されたクルーとてそれを望んで操縦している訳では
ない。
しかし彼が口にしていたのは考えられる中で最悪の、同時に現段階で最も
起こりうる可能性の高いシナリオだった。確かにこのまま飛空艇が墜落すれば、
爆発の余波で魔晄炉のいくつかは破壊できるだろう。そうなれば当初の計画通り、
零番魔晄炉へのエネルギー供給を絶つことができる。
しかし、地上にいるクラウド達はどうなる? 仮に魔晄炉ではなく中央塔にでも
接触してみろ、中で交戦中であろうヴィンセントやユフィ、WRO隊員達を一気に
失うことになりかねない。
どこへ墜落したとしても、シエラ号に搭乗しているクルー全員が間違いなく……。
それは、なんとしてでも避けなければならなかった。
「ミッドガルに墜落……か」
口に出してから、さらに嫌なことを思い出した。
かつて神羅宇宙開発部門が作った試作ロケットが、ミッドガルに墜落した
時の話だ。当時、シドはまだ宇宙ロケットの正式パイロットにはなっていな
かった頃の出来事で、あの当時ミッドガルスラム街付近に墜落したとされる
ロケットは幸いにも爆発しなかったため事なきを得たのだと聞かされ、安堵
したことを覚えている。しかしそれ以降、宇宙開発への風当たりが社内で強
くなったことは間違いない。
宇宙開発事業からの撤退を最初に提言したのは、都市開発部門だった。シ
ドは上官からそう聞いている。もっとも、今となってはどうでもいい話だ。
「……艦長」
再び操縦桿を受け取ったシドに、クルーは神妙な面持ちでこう告げた。
「既にプログラムの起動準備は整っています。あとは……」
それ以上は口にすることができなかった。飛空艇を放棄する選択を、シド
に下せと言うのは、あまりにも酷なことだとクルーは思った。
しかし、それができるのはシド以外にはいなかった。
「このまま……ミッドガルに落ちる訳には行かねぇ……!」
操縦桿を握るシドの手に、力がこもった。
----------
・(場面が飛びまくって分かりづらいですが、一応)ネロ戦後のシエラ号。
シエラ号の続きキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
気を失ったリーブに声を掛けているシーンが(・∀・)カコイイ!!
>>508-509 >>514 >>510-512 >>515-518 >>535-538 >>573-577 >>602-603の続きです。
それ以前は
>>508から辿って下さい。(理由は
>>573)
「お呼びだてして申し訳ありません。」
局長室には書類が山積みになり、リーブの顔も疲労の色が濃い。
それでも仲間が訪ねて来てくれたのがうれしいのか、目を輝かせている。
が、すぐにシドとバレットが不機嫌そうなのに気付いた。
「…どうしました?」
「なんでもない。」
横からさらりと言ってのけたクラウドのせいで、リーブに文句を言う気満々だった
シドとバレとは気勢をそがれ、腹立ち紛れに、どかりと乱暴に来客用のソファに座った。
クラウドもリーブに勧められ、空いている一人掛けのソファに座る。
「どうしてもここから離れられないので、わざわざ来て頂きましたが…話とは、ヴィンセントの事です。」
「ま、そうだろうな。」
階段の事をまだ根に持っているのか、シドが不機嫌そうに答える。
「何か分かったのか?」
クラウドはそれを無視し、リーブに尋ねる。
「それが…」
言いにくそうに言葉を濁すリーブに嫌な予感を覚え、シドとバレットは身を乗り出した。
「なんだよ、ヤツの身になんかあったのか?」
「もったいぶらずに早く言えよ!」
「私…考えたんですよ。」
また話をはぐらかされて、シドとバレットはあっさりキレてしまう。
「勿体ぶんなっつってんだろ?」
「結論から話せ、結論から!」
二人の剣幕に目を丸くするリーブだが、簡単にペースを乱される彼ではない。
「順を追ってお話しますので…」
おだやかな口調で言われると、またもや二人のイライラのベクトルが乱されてしまう。
「わぁーったよ!」
「黙っててやるからさっさと話せ!」
「私…考えたんですよ。」
「そこからかよ!」
「クラウドさんとバレットさんが不眠不休で探しているのに、彼が見つからないのは何故かと。」
「その内の何日かは俺一人だったぜ。」
むすっとして、バレットが口を挟むが、リーブは無視して話を進める。
「私たちの誰もが彼の生存を信じています。なのに見つからないという事は、
彼はもうここには居ないのではないかと。」
3人は、ぽかん、とリーブを見つめる。
「じゃ…じゃあ、アレか?アイツは、無事なのにとっとと姿を眩ましやがったってのか?」
「おそらく。」
「俺たちが心配してるのを知ってか!?」
予想通りのリアクションに、リーブは考えに、考え抜いた返事をする。
「私が思うに…」
「おう、なんだ?」
「彼独特の奥ゆかしさではないかと。」
白けた空気が流れた。
シドとバレットは空いた口が塞がらず、クラウドは顔を手で覆ってしまう。
「随分と言葉を選んだな、リーブ。」
「皮肉ですか、クラウドさん?」リーブは肩を竦めた。「他に、どう言い様があるんです?」
口をぱくんと開いたまま呆然としていたシドとバレットだが、
すぐに目に光が戻り、ワナワナと震え始めた。
「二人とも、落ち着いて下さい。」
二人は同時に片足を応接セットの机の上にだん!と乗せると、
「落ち着けだとおおおおーっ!」
「これが落ち着いていられるかよ!」
「お二人とも、お願いですから座って下さい!」
リーブは必死で二人を宥める。
クラウドは、なんだか子どもの頃に見たサーカスの猛獣と猛獣使いの様だな、と
傍観していたが、さすがにリーブが気の毒になり、
「それで、ヴィンセントはどこに居るんだ?」
リーブに飛びかからんばかりの二人と、そしてリーブがクラウドを見る。
「リーブの事だ。もう居場所は分かっているんだろ?」
さすがに気恥ずかしくなったのか、親父3人はいそいそとソファに座り直した。
「おう、で、奴はどこに居るんだ?」
「私…考えたんですよ。」
「またそこからかよ!」
「だから結論から言え、結論から!」
「シド、バレット。」
クラウドは少し声を荒げる。
「とにかく、今はリーブの話を聞こう。ヴィンセントが無事ならいいじゃないか。」
「ったく、おめぇはどうしてこんな時でも冷静なんだよ。」
ブツブツ言いながらも、二人はとりあえず黙るが、
それでも眼光でリーブを威圧するのは忘れない。
それをさらりと受け流し、漸く話を続けられる状況にリーブは満足げだ。
「まず、命がけの戦いを終えた後、皆さんならどうします?」
この質問は効果的だった。
途端に二人は大人しくなり、誰かの顔を思い浮かべている様子だ。
「ま、仲間ん所に戻るかな。」
「そうだな。俺ならそれからマリンの所に駆けつけるな。」
そうでしょう、とリーブも大きく頷く。
「当然、皆さんを待っていてくれる人の所ですよね。でも…私の質問に真っ先に浮かんだのは、
それぞれの奥方だったり、恋人だったり、娘さんだったのではないですか?」
これはクラウドを含めて、3人とも図星だったので誰も言い返せない。
「待てよ、リーブ。けどヴィンセントにゃそんな相手は…」
言いかけたシドがあっ!と叫んだ。
「…あんの野郎!まさか!!」
「おい、シド、どういうことだ?」
まだ分からないバレットがシドに尋ねる。
「ヴィンセントはんは“ルクレツィアの祠”に居はります。」
ぽてん、ぽてん、とまたもや不思議な足音をさせてケット・シーが部屋に入って来た。
「わいがこの目で見て来ましたから、間違いないですわ。」
ケット・シーはよいしょ、と飛び上がってリーブの隣に座る。
「じゃあ、あの野郎…!俺らの事を放っておいて思い出の場所に駆けつけたのか…?」
バレットが再びわなわなと震え始める。
「皆さんもご存知の通り、彼はああいった性格ですから。」
「単に照れくさくて、みんなの前によう顔出されへんだけでっせ〜。」
今度は1人と1匹での説得だ。
「あの野郎!俺等が心配しないとでも思ってるのかよ?」
「今すぐ洞窟から首根っこ引っ掴んで引きずり出してやる!」
ケット・シーが慌てて両手を振りながら、
「ま…待って下さい、バレットはん!ヴィンセントはんは悪気があったんとちゃいまっせ!
きっと皆さんやったら分かってくれる、そう思うて…」
「いくら俺達だからって、分かんねーよ!」
「悪気があったらもっと許せるかよ!」
バレットとシドにコワい顔を突きつけられ、ケットシーは毛を逆立てて飛び上がった。
「俺は…少し分かるな。」
クラウドがボソッと呟く。それを聞き逃す親父二人ではない。
「どういう事だ?」
「みんなが待っているのは分かってる…1年前、俺はそれが分かって救われた。でも…」
その活躍のせいか、配達先の街で知らない人にいきなり
握手を求められたりして大変だったとクラウドは説明した。
「だから…出て来ないんだと思う。」
「せやから言うたでしょう?ヴィンセントはんは奥ゆかしいおヒトやって!」
我が意を得たり、とケットシーとリーブが同じタイミングで頷いている。
確かに、いくら気心の知れた仲間とは言え、ヴィンセントは仲間内でも特殊である。
常人とは違う身体の持ち主だ。
彼が出来るだけ人とは関わらない様に細心の注意を払って生きて来た事を思うと、
(さすがのお二人も、これで納得するでしょう…)
リーブにとって、口下手クラウドがヴィンセントの立場で発言してくれるかどうかは、賭けだったのだが、
(やはり、3人一緒に呼んでおいて良かったようですね。)
作戦成功に、リーブはまたもや満足気に頷いた。
「ですから…今は彼をそっとしておいてあげましょう。大丈夫ですよ。
落ち着いたらひょっこり顔を出してくれまよ。
その時は何事もなかったかの様に、彼を受け入れてあげればいいだけのことです。」
穏やかなリーブの声が、静まり返った局長室に響く。
「…まぁなぁ…」
「アイツの性格を考えるとなぁ…」
説得成功!リーブがそう確信した瞬間、
「でもよ。ちょっとおかしいんじゃねぇか?」
「電話だろうが、メールだろうが、なんでも知らせられたんじゃねーのか?」
「そ…それは…」
情に脆い二人のこと、このセリフで決まりだと確信していたリーブは
思いがけない反応のすっかり狼狽えてしまっている。
「なぁ、リーブ、俺たちはな…」
「飛空艇団員に頭下げて抜け出して何日もミッドガルを歩き回って。」
「マリンにも会えずで、おまけに足が棒になっちまったぜ。」
「シェルクの見舞いにも行けなかったなぁ…」
強面2人に詰め寄られ、リーブは縋る様にクラウドを見るが、黙って首を横に振るだけだ。
ケットシーはとっくに姿を眩ませている。逃げ場はない。
「お前の言い分はもっともだぜ、リーブ。」
「それにヤツの気持ちも分からないでもねぇしよ。」
「そ…そうでしょう?」
リーブは引きつった笑みを浮かべる。
シドもバレットも同じ様に笑っているが、目が笑っていない。
「そこでだ。俺様にいい考えがあるんだ。」
にやりとシドが笑う。
「もちろん、お前も協力してくれるよなぁ?」
つづく。
すいません、やっぱ、もー少しかかっちゃいます。
もーしばらくお付き合い下さいませ。
>>605 >リーブ(DC1章)という人物像
普段はダンディで上司にしたい男性No.1の局長も、
旅の仲間にはお茶目な所を見せるところがうれしくって、
DC1章のあのシーンは何度も繰り返して見てしまいます。
それとも、普段からあんな感じなんでしょうかね。
神羅時代の都市管理課としての重責、そして、WRO局長としての責務で大変だけど、
心から許し合える仲間と一緒の時はリラックスして欲しいなぁ…と思って書きました。
「彼独特の奥ゆかしさではないかと。いいww
おっさんらワロタw
保守。
どちらの話も楽しんで読ませてもらってます。
イイヨイイヨー
このスレのリーブいい味出しすぎ
619 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/16(火) 21:10:52 ID:4/ci2G760
age
620 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/17(水) 22:05:01 ID:DyE+ffRk0
ほ
621 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/17(水) 22:25:43 ID:4fHRqUoxO
しゅ
しま
>>610-614 DC内のリーブ像が忠実に再現されているというか、微妙なお茶目さorおかしなオッサン
という姿が上手く描かれているので読んでて楽しいです。(激しく個人的な趣味ですがw)
ところで階段の件、シドならジャンプで一発解決できると思うのは自分だけだろうか?w
みんなに合わせて歩いたシドの優しさにちょっと切なくなった。
しかしシドとバレットを窘めるリーブの姿は、重役会議から変わらない役回りなんだなと
ちょっと思うw。小指ぐらい日常的に噛まれてそうな猛獣使いGJ!!
>>606-608より。
----------
***
ロケット墜落現場へ向かう車内でも、本社と携帯での通話が続いていた。
都市開発部門管理課には、ロケット墜落についての詳細なデータや各所の
被害状況等がリアルタイムに入る。それを、彼女が電話を通じてリーブに
伝えていた。
『こちらから総務部調査課へ救援要請も出しておいたわ。正式に受理されるかは
分からないけれど……』
つい先ほどまで一緒だった彼と別れる間際、あちらの携帯に入った連絡が
それだったのだろうとリーブは思った。
しかし、そうなると不自然な事がある。
「主任、なぜ軍ではなくタークスなんですか? 万が一居住区画に影響が出ていれば、
救助活動には人手が……」
墜落したのが試作ロケットである事を考えても、現場の惨状は察するにあまりある。
救助活動の規模ももちろんだが、救助する側もそれなりの装備を整えて臨まなければ、
二次被害拡大のおそれがある。
それらの観点からも、救援要請を出すなら軍が妥当だとリーブは考えた。
なのになぜ、彼女がタークスに出動要請をしたのかが解らない。当然の疑問だった。
『…………』
「主任?」
呼びかけた声に、ようやく彼女が口を開いた。
『……スラム街に被害が及んだとしても、救助はないでしょう。その代わり
ロケットの撤去作業が優先されるわ。被害状況の調査と報告までが私達の仕事。
軍の出動は、その後よ』
「なんですって!? なぜ……!」
『私たち都市開発部門としても、魔晄炉建設の工期を遅らせるわけにはいかないわ』
携帯電話を通して聞こえてくる彼女の声が、ひどく機械的な音に聞こえた。
――「……それは我々にとって、無用の長物でしかありません。」
任務遂行のためには感情を切り捨てると言った、先ほどの男の言葉が脳
裏によぎる。彼の言葉もろとも否定するように、リーブは首を横に振った。
違う、これは感情の問題ではない。
「主任。……それは間違ってます」
『…………』
「都市開発は……都市はそこに住む人あっての都市でしょう?! なぜ、
そんな風に住民を軽んじる事ができるんです!?」
『…………』
返答はなかった。携帯から僅かなノイズは聞こえてくることから、通信が
途絶えたわけではなく、彼女からの返答がないのだと分かる。それでも
リーブはさらに言い募った。
「確かに私は……魔晄炉建設計画で力に頼りました。しかし、それが正しかった
とは思いません。利益を……豊かさを、住民に還元するのが、私の務めです。
ですから……」
『ご託は充分よ、リーブ君』
先を続けようとしたリーブの言葉を、彼女はいとも簡単に遮った。たった一言で、
全てを否定し、拒絶する。
『可能・不可能……結果は2つしかないわ。そして我々は“可能”を実現する以外の
選択肢はない。できもしない理屈だけなら、聞く価値も意味もないわ。……切ります』
そして事実、彼女は一方的に否定して通話を終えたのである。
「待ってください!」
叫んだところで返ってくるのは、通信切断を示すノイズだけだった。
リーブはやり場のない思いを携帯にぶつけるようにして叩きつけた。助手席に転がった
携帯のディスプレイに、リーブの顔が映し出される。
「みんな、間違っとるで」
視線を前に向け、ハンドルを握り直す。
「……なんや、間違っとるんは自分だけかいな?」
呟きながらリーブはアクセルを踏み込んだ。地上に真っ直ぐ延びた道路を、ひたすら進んだ。
この時、見上げることのなかった頭上の空は、とても穏やかだった。
----------
>>625 そして我々は“可能”を実現する以外の 選択肢はない。
↓
そして我々には
----------
…気をつけます。
・未プレイですが、きっとシムシティをやらせてもコマンド1つ1つに対してSS書くんだと思います。
・念のため、現在投下中のSSはFF7です、…一応w
627 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/19(金) 21:27:07 ID:Es47DFMR0
保守
>>624-625より。
----------
***
受話器を左手に持ったまま、彼女はデスクの前で呆然としていた。自ら
切ると言って右手で通話を切断した、その体勢のままで。
それは機敏に動き回り部下に指示を飛ばす、ふだんの活発な彼女からは
考えられない姿だった。周囲の視線を気にしたのか、俯いてから自分の耳に
すら、ようやく聞こえる程の小さな声を、絞り出すようにして呟いた。
「……分かってる……間違ってることは、分かってる……」
その言葉を最後に、ずるずると崩れ落ちるようにして机に突っ伏した。
震える手で受話器を置く。遠くの方でがちゃがちゃと騒がしい音を立てていた。
「……でも……!」
泣くことはしなかった。涙は出て来ない、この道を選んだのは自分自身
だったから。後悔もしていない、正しいと信じて選択したことだから。
ただ、ただ。
苦しかった。
「……主任」
呼ばれる声で顔を上げる。バレッタで束ねられた髪が表情を覆い隠して
くれることはない。だから部下に向ける顔を、とっさに整えた。
「総務部調査課から、主任宛にお電話です」
「ありがとう」
そう言って彼女は再び受話器を取り上げた。左手に持った受話器がひどく
重たく感じた。ボタンを押した後、耳に当てたスピーカーから聞こえてきたのは、
聞き慣れた男の声だった。彼の声が聞こえてくることを期待していた。その通り
かけて来てくれた男に、心の底で感謝した。
『……用件から簡潔に言うと、君の出してくれた要請は却下された。我々
タークスが、“救援活動”について出動することはない』
「そう……やっぱり」
それも予想はしていた。しかし、彼の口からその言葉を聞きたくなかったという
思いも、どこかにあったのだろう。隠しきれなかった落胆が声に現れている。
『ただ』
だが彼女の予測を裏切るように、受話器から聞こえてくる声は続けた。
『個人的に、という条件付きですが協力はできます。あなた方の力になりたい』
「……珍しいこともあるのね」
彼からの申し出は嬉しかった。それでも、皮肉るような言葉しか出て来ない
のは、仕事で染みついた習慣のせいなのか。そんなことを考えた。
少し間を置いてから、彼はこう答えた。
『……先ほど、あなたの部下に言われましてね。彼はいい人材ですよ』
その言葉に思い当たる顔が浮かんで、彼女は額に手を当てて苦笑した。
「そう。……実は私もね……叱られたばかりよ」
『良い部下を持ちましたね』
「ええ」
そう言って彼女は頷いた。相手に姿が見えないと分かっていても、深々と。
その姿は頷くと言うよりも、頭を下げているように見えた。
彼女は忙しなく社員の行き交うフロアに背を向け、窓から外を眺めながら
切り出した。
「……ねえ、あなたは知っているんでしょう? “例の計画”の事」
窓の中に広がる空の中に、受話器を持つ自身の姿が映っている。まるで
自分に語りかけているようで、少し不思議な心地がした。
『住民監視システム……』
「ええ」
僅かだが、答える彼女の声が震えている。
『どうしたんですか? 貴女らしくないですね』
「……わたし……」
『待って下さい。お分かり思いますが、我々社員は常に監視されています』
男の言葉に分かっていると言って彼女は頷いた。監視とはもちろん、今この
瞬間も含まれているのだと。それを聞いた以上、男に発言を妨げる理由はなかった。
「……この計画を最後に、彼にすべてを引き継ごうと考えているの」
『今回の配置転換は、やはり?』
「彼には悪いことをしたと思っているわ。だけどこれが、結果的には彼にとって
最善の道だと思うの……私のわがままかしらね?」
『彼なら……リーブならきっと理解してくれます。そして貴女の期待にも応えてくれる
でしょう。それについては私からも保証しておきます。ただ……』
「ただ?」
『まだまだ甘さが抜けません。仕方がないことだとは思いますが……』
そう言って受話器の向こうで男が小さく笑ったのが分かった。
その声を聞きながら彼女はふと目を細めて、振り返るとフロアを眺めやった。
(らしくない、か。確かにそうね……)
ひとつの結論にたどり着いて、口元に小さな笑みを浮かべると、彼女はこう言った。
「あなたに部下を褒めてもらうのは、上司として嬉しいわ。でもね……。
そんな保証なら、ないのと同じ」
その言葉を聞いて、受話器の向こうで男が堪えきれずに吹き出した。
『やっといつもの調子が戻ってきましたね。安心しましたよ』
「あなたに心配される様ならお終いね。……ありがとう」
言いながら立ち上がると、机上の書類を手早く片付けて身支度を調える。
手前の引き出しに入れてあった茶封筒と、ふだんは鍵を掛けてある袖机を
開けて、さらにその奥にしまわれたディスクを何枚か取り出す。ラベルの
貼られていないそれらのディスクを確認して、ひとつ息を吐いた。
「これから私も現地へ向かうわ」
『分かりました。何かあればまた連絡を』
「ええ」
そう言って通話を終えると、彼女は鞄の中に茶封筒を投げ入れた。
フロアを去る際、先ほど自分に電話を取り次いでくれた社員に声を掛けられた。
「主任、どちらへ?」
「……ロケットの墜落現場よ。このまま戻らないと思うわ。後はお願いね」
「分かりました」
しかしその言葉が示す本当の意味を、彼女以外に知る者はいなかった。
----------
GJ!ロケットが刺さった教会、心配ですね。現場はどうなってるのかな。
一日一保守
>>628-631 女性上司はもう戻られないのでしょうか・゚・(ノД`)・゚・。
2人ともとても辛い立場で読んでいる方も胸が痛いです。
続きが気になります…
>>508-509 >>514 >>510-512 >>515-518 >>535-538 >>573-577 >>602-603 >.610-614の続きです。
それ以前は
>>508から辿って下さい。(理由は
>>573)
二人の迫力に押されていたリーブだが、ここで諦めるようでは今の彼はなかっただろう。
「ちょっと待って下さい、艦長。」
「んだよ?」
「確かに私は彼を庇ってはいますが、別に彼の失踪に手を貸した訳ではありません。」
気丈に言い放つと、シドをぐい、と押しやる。
「あなたが何を考えているかは分かりませんが、手を貸す理由はありませんよ。」
「おい、シド、気付かれたぜ。」
「当たり前です。」
リーブはぴしゃりと言うと、改めて二人に向き合う。
「まぁ、そう言わずによぉ、協力しろよ。」
シドは脅しが効かないと分かると、今度は懐柔策に出た。
「別に俺だって本気で怒ってるワケじゃねぇよ。それっくらい分かるだろぉ?」
「さっきと言う事が随分変わってますが。」
懐柔されてなるものかと、リーブは冷たくそっぽを向く。
「そこでだ!」
「私の話を聞いてますか、艦長?」
「もちろん聞いてるぜ!」
「では改めてお願いします。どうか彼をそっとしておいてあげて下さい。」
「星を救った英雄を出迎えるパーティと行こうぜ!」
「ですから、私の話を聞いてますか?」
「もちろん聞いてるぜ。んで、場所はティファの店な。」
「勝手に決めるないでもらいたいな。」
クラウドが呟く。
どうせ聞いてはいないのは百も承知だが、一応言ってみる。
「俺の作戦はこうだ。まず、ヤツを迎えに行くのはシェルクに頼む。」
「どうしてここで彼女の名前が出るんですか?」
「そりゃあ…」
「彼を油断させる為でしょう。」
「お前ってどうしてこう…もっと言い方ってもんがあるだろぉ?」
シドはは顔を、やれやれと頭を振る。
「いいか、よく聞けよ。俺たちが行くより、シェルクが行く方が
ヴィンセントの野郎がびっくりして、おもしれぇじゃねぇか。」
「おもしろいとか、おもしろくないとかの問題ではないと思いますが。」
「ど〜せ俺たちが行ってもよ、“あぁ、久しぶりだな”で終わっちまうじゃねーかよ。」
2人の会話は平行線で一向に終わる気配がない。
いつまでこの不毛な会話が続くのだろうと
クラウドが天井を仰ぎ見た時、シドが決然として言い放った。
「分かった!おめぇがそこまで言うなら俺にも考えがある!」
つづく。
===========================================================
保守がてらです。短くてごめんなさい。
リーブとケット・シーでもう一度本編をプレイしたくて、
ついに5周目を始めてしまい、しかもついやりこんでしまいますたorz
もうすぐ古代種の神殿。いつもの倍以上号泣しそうです。
乙!
乙。楽しみにしてるから頑張ってくれ
>>635-636 いつも乙です。
読み手としてできる限り保守はするから
書く事に専念してくれて大丈夫ですよー
今回はちょっと展開を急いでる感じがしました。
>>637 >>639 >>640 うれしいお言葉ありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・。
640さんの仰る通り、今回はかなりバタバタと投下しました。
また誤字あって、読み手さんに失礼でしたね、ごめんなさい。
>>639 だらだら続けてしまってごめんなさい。まだ少し続いちゃうんですよ。
でも、やっぱり完結させたいので、もし専ブラを
お使いでしたら作品名やトリでスルーよろしこです。
【訂正】
>>636 ×シドはは顔を、やれやれと頭を振る。
○シドはやれやれと頭を振る。
きっちりお話練って、また週末に参りますノシ
保守
1日1回保守すればいいの?
保守
ほ
645 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/05/26(金) 20:50:25 ID:jJwWSq7x0
しゅ
する
くあ
ら
る
>>635-636 やっぱりリーブの姿がうまいなと思います。一見すると周囲に流されているようなんだ
けど、折れることはない。最終的には元の位置に戻ってきてる、柳の枝みたいな。
上手く言えないけどそう言う面があるような気がする。一連の会話の中から、彼の
そんな魅力がよく出てると…
すいません、感想がリーブに偏ってるのは彼が良い味出し過ぎてて(ry。
>>628-631より。
----------
***
墜落現場とされる地点はミッドガルの南西に位置する場所で、ちょうど
プレート建設中の現場近くにあった。しかし、ここまで来てリーブは進む
べき道を見失っていた。
「……どないしたんや?」
車を止めて、初めて気がつく。
空が、青いのだ。
運転席から降りて周囲を見回した。風は強かったが空は青く、建設現場
にも何ら異常は見られなかった。
「方向、間違えとるんか?」
自分で言っておきながら、即座にそんなはずはないと首を振って否定した。
試作ロケット墜落の一報を受けてから、ナビゲートに従ってここまでやって
来た。都市開発に関わる以上、ミッドガルの地理情報には相当程度の知識が
あると自負しているリーブが、道を間違えるとは考えにくかった。さらに自分
以上の長年にわたってミッドガル都市開発に携わってきた彼女の案内が間違って
いるとも思えない。
となれば、宇宙開発部門の軌道計算が間違っているか、そもそもロケットなど
墜落していない。というどちらかの可能性しか思いつかなかった。
もう一度本社へ確認を取ろうとして、リーブは胸ポケットを探った。
「んっ?」
そうして思い出した。携帯電話は助手席に投げ置いたままだったのだ。
「しもたなぁ」と呟きながら助手席のドアを開け、携帯電話を取り出す。
ところが携帯電話を取り上げた勢いで、助手席からある物が転げ落ちた。
履歴から本社を呼び出し通話ボタンを押そうとしたリーブは、視界の端に
車から投げ出されたそれの姿を捉えた。
「……ああ、すまんな。痛ないか?」
屈んで地面に転がった猫のぬいぐるみを拾い上げると、そう声を掛けた。
別にぬいぐるみを集める趣味があるわけではないし、こんな可愛らしい
物を欲しがるような年齢の子どもが身近にいる訳でもない。
それでもリーブは、そのぬいぐるみを大事に持ち歩いていた。
――それはミッドガルのある住民が、リーブに託したものだったからだ。
それは今回の配置転換から遡ること半年ほど前の出来事だった。
当時、魔晄炉建設予定地の住民達に向けて彼らは幾度も説明会を開いて
いた。
それでも尚リーブは業務の合間を縫って、あるいは休日などの空き時間を
利用して、とにかく時間の許す限り該当地域にある一軒一軒を訪問し、彼らの
話に耳を傾け、時には頭を下げながらミッドガル中を歩いた。
そんな中で訪れた一軒の家。そこには初老の夫婦が住んでおり、生活水準も
決して高いとは言えない。このぬいぐるみは、彼らの家に置いてあったものだった。
子どもはいたが、既にミッドガルを出て各地を旅しているのだという。
「空が狭くなった」
最初にこの家を訪れた時、夫は突っ慳貪に言っていた。神羅がこの街の
再開発を初めてからというもの、年々空は狭くなり、空気は汚れて行った。
彼らの子どもはそれを嫌がり、この都市を離れたのだと言う。
――自分とは逆だ。話を聞いた後でリーブはそう思った。
彼は故郷を出て、このミッドガルへやって来た。
住み慣れた地を離れ、親しんだ言葉を捨てたのは、彼の持つ理想を実現させる
ために他ならない。
その後もこの家には足繁く何度も通った。説得ももちろんだったが、そ
れだけが理由ではないような気がしていた。通い続けている間に色んな話
をした。ミッドガルの昔の様子や、彼らの子どもの事。時にはリーブ自身
の家族や幼少の頃にまで話が及ぶこともあった。
やがて数週間が経った頃、リーブの熱意と誠実さに心を動かされ、夫妻
はこの土地を明け渡すことを承諾した。しかし彼らは、神羅の用意した場
所ではなく、ミッドガルから離れることを選んだ。
仕事とはいえ慣れ親しんだ人々と別れるのは、少し淋しい。リーブはそう
思っていた。願わくば、自分達の作った新しい都市で暮らして欲しいと、
そんなことさえ真剣に考えた。だが、最後まで口に出すことはしなかった。
退去の日、妻から渡されたのがこの人形だった。
無口な夫よりも、社交性のある妻が、それを差し出してこう言った。
「むかし、子どもが好んで読んでいた童話に出てくる妖精が、アンタとそっくりでねぇ……。
こんな老いぼれに付き合ってくれた、せめてものお礼だよ。今までどうもありがとう」
たくさんのしわを作りながら、彼女は微笑んだ。家財を積み終えたトラックに
乗り込む間際、最後に彼女はリーブを見上げながら語った。
「本当に、アンタもこの妖精もよう似とったよ……。
アンタはこの都市にとってケットシーと同じ存在なんだよ、きっと」
彼女の笑顔の裏にある、その思いが何であったのかをリーブが知るのは、
それからまだ先の事になる。
彼女の言っていた童話はこうだった。
かつて世界を滅ぼそうとした狂者を倒すべく、世界各地に14人の英雄が
顕れた。しかし古の禁忌を破り“神”をよみがえらせた狂者は、引き替え
に自らの心と世界を贄として差し出した。神のもたらす圧倒的な力の前に
一度は離散するものの、彼らは再び集い、“神”の復活によって蘇った古
の力を用いて、力に囚われた狂者を倒した。後の世で「14英雄」と呼ばれ
る彼らは、同時に古の力を失った。
この童話に登場する妖精ケットシーは、自らの生命が失われる代わりに、
石に力を託した猫として描かれ、その姿は人々を惑わせる存在であったの
だと言う。
その時になってようやく、彼女が口に出さなかった思いの一端に、初め
て触れた様な気がした。
けれどリーブの手に握られた人形は、ただ愛くるしい笑顔を向けるだけで
何も語ってはくれなかった。
夫婦は、神羅都市開発部門の説得に応じ退去した、最後の住民となった。
----------
・魔石の頃から好きだったんだよケット・シーが!
・長い回想編もこれでようやく終わりに向かえます。今しばらくお付き合いいただければ幸いです。
・
>>632…しまった! 重大なこと見落としてたかも…。ありがとうございます。
ぬこぐるみキタ!童話と老夫婦のつなげ方が良いですね。GJ!
GJ!
保守
ほーしゅー
659 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/02(金) 01:12:45 ID:7Ln4SDWt0
ほっしゅ
よし保守だ。
保全
そろそろ俺の出番か
ほしゅほ
666 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/06(火) 17:35:25 ID:TWHHBHJK0
DGDGDGDGDGDGDGDGGDGDGDGDGDGDGDGDGGDGDDG
667 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/06(火) 17:36:52 ID:TWHHBHJK0
まちがいさがしー ごめん
668 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/06(火) 20:36:58 ID:sf7+urMfO
>>668 ありがとう
だが何書けばいいかわからん
もう7は職人がいらっしゃるしなあ
669氏にワクテカ保守。
某スレに投下しようとして参加しそこねた、そんなネタを今更こっそり投下します。
朝靄の遺跡に、雲間から光の帯が伝う。
若者は遺跡の前でカメラを構え、そのフレームに小さなモンスターが入った。
「あれー?」
おはよう。おにいちゃんたち、なにしてるの?
「これは人懐こいな、ラグナ」
「子供なんだよー。一緒に撮るか?」
これ、なあに? ぶきじゃないの?
「カメラが珍しーんだな。うむ。セクシーショット」
「……」
「そうともウォード君。我々は取材真っ最中だ」
おにいちゃんたち、おもしろい。
「ん? ついて来るのか。よし、俺のとっておきのギャグ、見せてやるぜー!」
若者達の横で、小さなモンスターが楽しげに遊ぶ。
むしろ若者達が遊ばれている。それもかなり。
彼等は後に、狩られたエルオーネを取り戻し、魔女アデルを封印した。
中心になったラグナは民に請われ、エスタを支えるようになる。
偉丈夫が、勢い良くドアを押し開く。
「大統領閣下! 就任おめでとうございます!
強国ガルバディア元軍人とは、頼もしい限り。
さあ、敵の屍を乗り越え、我が国に勝利を!」
「んー。そうだなあ。とりあえず大佐さん、戦況見してくれ」
「はっ!」
入れ替わりに補佐官二人が、エスタ新大統領の顔を見る。
「やあ、ラグナ君。忙しそうだな」
「キロスー! これ罰ゲーム?! 全っ然帰れねえ!!
大統領って何? ジャンケン負けるとなんの?」
静かな補佐官が、ゆっくりと頷く。
新大統領は補佐官の肩を抱え、盛大なため息をつく。
「そーなんだウォード。まず停戦させねーとどーしよもねえだろ、これは。
アデルいねーのに、まーだ戦う気満々だぜ!?」
「全くだ。これは金の……」
「そうそう、それだ。金の粒食べよう、だ。街が破壊され続けて、
人手がガンガン減って、どーやって経済力つけよう、って話だろ」
「正しくは『金の卵を産む鶏を殺す』だな」
「帰りたいよー。レインに会いてーよー」
「巻き込まれてる我々も帰りたい」
「そう。エルも戻ったし、速攻ウィンヒルに帰りたいんだけどさ。
俺達が今帰ったら、この国の人が大勢死ぬぞ? それは困るだろ」
新大統領は窓に噛り付き、大空を見上げた。
つづくよ
なんか楽しげな話だ、つづき期待
やっちまった…タイトル重複につき変更。もうホントにすいません。orz
前話は>672-673です。
-----------------------------------------------------------
ふわり。ふわり。軽やかな羊の群れが、山羊の先導で戻ってゆく。
モンスターの子供は、羊に囲まれながら家路を急ぐ。
「モンスターじゃねえか」
「まあ見ておけ。このルートなら面白いものが見られるぜ」
兵士達がモンスターを嘲笑する。
かちり。
仔に乳をやろうと、急いでいた山羊。その足元で、轟音。
やぎさん? なに? なにがあったの?!
「おーし、踏んだ」
「地雷か。なあ、餓鬼も倒しちまおうぜ」
「経験値の足しにはなるか」
どうして撃つの? こっちはなにもしてないよ!
逃げ惑うモンスター。けたたましく笑う兵士。その先に――
「きゃあ?!」
震える女性。夕日に照らされ、長く伸びた影。
「民間人か。どこから入りこんだんだ」
「遺跡に行こうとしていたんです」
「観光地じゃねーぞ? まあ、遺跡は向こうだ」
走り去るジープ。山羊の血が、大地に吸い込まれる。
そろりと、女性の影から小さな影が出てきた。
「もう大丈夫よ。出ておいで」
おねえちゃん、ありがとう。
「ねえ、小さなトンベリさん。セントラ遺跡を知ってる?」
しってるよ。じぶんのおうちだよ。
「私はレインよ。ラグナを探しているの。
ティンバーマニアックスに、セントラ遺跡の記事があったから。
もうラグナが居る筈はないんだけど、手がかりが欲しくてね」
こっちだよ。レインおねえちゃん、ついてきて。
ラグナはやさしかったよ。
「知らないか。そうよね」
どうしたの? レインおねえちゃん。
きこえないの? この声が。
「ごめんね。あなたの仕草しか分からない」
小さなモンスターはレインと手を繋ぎ、遺跡に向かう。
宵闇の中、柔らかい潮風に吹かれながら。
新人さんキタ━━━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━━ッ!!
元ネタは分からんが、子供モンスターとの交流が
ほのぼのしてて(・∀・)イイ
続きがんがれ!
>>669も期待sage
>>670に禿同だ。投下待ってる。
>>675 ほのぼのしたストーリーなのでもしやと思ったら
やっぱり白さんでしたかw
>>672-673,675-676
小さなトンベリのゆっくりとした、拙くも見える歩みに誘われるように
不思議と引き込まれる文章です。しかもほのぼのした中にも彼らを
取り巻く残酷な現実が垣間見えて、ちょっと哀愁を帯びてます。
そんな背景で「みんなのうらみ」だったらと思うと切なすぎる…。
続き待ってます。
>>651-654より。
----------
***
回想を打ち切ったのは、無粋で無機質な携帯電話の呼び出し音だった。
我に返ったリーブは思わず携帯電話を取り落としそうになり、慌ててボタンを
押した。だから発信元にまで注意がいかなかった。
『リーブ君、今どこに?』
聞こえてきた声に一瞬ためらう。しかし通話を始めてしまった以上、無下に
切る訳にもいかない。同時に発信元を確認しなかった自分をひどく後悔したが、
後の祭りだ。
声の主は都市開発部門主任だった。回線を通して聞く彼女の声は、今や
当たり前の日常である様な気がするほど自然と耳に入ってくる。考えてみれば
彼女とはつい数日前、初めてまともに会話をしたばかりの筈だったのに、不思議
だと思った。
いずれにしても、リーブが今いちばん聞きたくない声だった事は間違いない。
「……第6建設現場、エリアF5-268付近です」
つとめて平静を装って、リーブは答えた。これは仕事なのだと、自分に言い
聞かせながら。そんな事情を知ってか知らずか、彼女は淡々と話を進める。
『ナビゲート通りね。……実はあの後、宇宙開発部門から修正データが送られて
来たの。それによると墜落現場と目される地点が当初と少しずれているわ。
場所はE3-282……』
「第5プレートですか?」
紙面に出力するなどとうてい不可能と言えるような膨大な量のミッドガルプレート
建設計画書のデータは、本社のコンピュータに記録されている。厳重なセキュリティ下で
管理されているそれは、むろん社外秘で持ち出しも複製もできない代物だ。しかし
完璧に複製したものが、彼らの頭の中には入っている。
このデータを元に、ふたりの会話は成り立っていた。おそらくは神羅都市開発部門内の
人間でも、参照なしに彼らの会話を理解することはできなかっただろう。
ところが彼らはそれを平然とやってのけている。あまりにも自然すぎるために、
本人達ですら指摘されない限りは異常さに気づかなかったのかも知れない。
『そう』
「ではそちらに向かいます」
『……ちょっと待ってくれる? 今、ちょうど現地にいるの……プレートの下よ』
プレート下と聞いてリーブの脳裏にはある予測が立った。――ロケットが、
プレートを突き破ったのだと――立ってしまった予測から導き出された現場の
惨状を思うだけで、眉間に寄るしわの数が一気に増した。
『リーブ君、あなたはそのまま本社に向かってくれるかしら?』
「なぜです?」
『やってもらいたい事があるわ』
「何ですか?」
『まずは軍への出動要請。それから被害状況報告書の作成、破損部分の再建
工事の費用概算と計画書の提出……』
言葉を交わし聞く毎に、眉間のしわが深まっていくのを感じていた。
彼女が言っていることは分かる。言葉の中で省略されている宛先や方法まで
含めて、その一連の手続をリーブは理解した。が、一点だけどうしても理解でき
ないことがある。
「ち、ちょっと待ってください! それは主任の仕事のはずで……」
『ええ、そうよ』
「だったら……」
言うよりも早く、彼女の声が耳に届いた。
『たった今から、主任はあなたよ。
――都市開発部門管理課の主任に、リーブ。あなたを指名します』
自分の耳を疑うよりも先に、恐らくは開いたままだったであろう口を閉じようとした。
何か言わなければならないのだろうが、唐突で、しかも全く予想外の出来事に、
リーブは文字通り言葉を失った。
電話からは何の応答もない。リーブからの返答を無言で待っているのだろう。
膠着状態を脱するためには、こちらが先に発言する必要があった。それは充分
すぎるほど分かっているのだが。
「……んなアホな」
情けないことに、口をついて出た言葉がこれだった。
開いた口をようやくふさぎ、次に込み上げてきたのは怒りにも似た感情だった。
「悪い冗談だ」と思うのと同時に、そんな冗談をためらいなく口にした相手に対する
怒り――心中で渦を巻く感情に、言葉が追いつかなかった。
しかし彼女は口調を変えないまま、リーブの言葉を肯定した。
『そうね、アホかも知れないわ』
沈黙が流れたのは一瞬だけだった。電話を通して聞く彼女の声からは、その心の
動きを読み取ることはできない。
『管理課内の人事権は私にあるわ。その権限を行使して、あなたに全権を委譲するわ。
すでに手続はこちらで進めてあるから心配しないで』
「ちょ……言うてる事おかしいで?」
『そうかしら?』
おかしいも何もない。リーブは電話を左手に持ち替えて、言い放った。これ以上黙って
聞いているのはごめんだ。
「……おたくさんがそう出るなら、こっちにも考えがある」
口元に笑みを浮かべ、思うままに言葉を並べた。ふだんは抑えているはずの訛りも、
この時ばかりは気にならなかった。
「主任。人事異動に対して拒否権があんのは知っとるやろ?」
『ええ。だけど拒否権発動は依願退職と同義よ』
「そんなん百も承知や。喜んで辞めたるで、こんな会……」
『そう、投げ出すのね。あなたを信頼した人達を裏切って』
回線の向こうで彼女は溜め息を吐いた。それを聞いて、誰もいない建設現場で
思わずリーブは声を張り上げて叫んでいた。
「投げ出す?! 投げ出すんはどっちや! 電話一本で全権委譲って……
そんなん無責任な話やで」
『盛大に授与式でもやってもらいたいの? お望みなら手配してもいいわ。
……そうねリーブ君、さっき私に言った言葉、あなたにお返しするわ』
しかし彼女の声に皮肉や侮蔑の類は含まれていない。ただある事実を、ありの
ままに指摘していた。いっそ事務的にも思えるその口調は、一方で彼女の怒りと
落胆の表れだったのかも知れない。
『あなた、間違ってる』
電気信号として送られてきた声が、衝撃を伴って伝わる。リーブの肩を大きく
揺らす程の衝撃は、手にしていたぬいぐるみが足下に落ちるには充分な震度だった。
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・口論書くのが楽しくて仕方ない。突っ走ってすんません。
・ミッドガルの地番(?)はテキトーです、見逃してください。
関西弁キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
リーブ都市開発部門管理課主任さんがんがれ、超がんがれ。
>鼓吹士、リーブ=トゥエスティY
場所を聞いただけで、破壊状況を把握する都市開発部門の人々がかっこいい!
真摯な会話の合間に顔をのぞかせる、ぬこぐるみが素敵です。
レス下さった方、ありがとうございます。次回で終了予定です。
そして>669さん期待sage。
前話は>675-676です。
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澄み渡る空。セントラ遺跡がそびえる。
レインは遺跡の入り口で、モンスターの子供と羊を見ている。
ちょっとまっててね。
オーディンに入れるよう、おねがいしてくる。
トンベリの子供が魔方陣を描くと、するりと遺跡にレインが入った。
星霜を重ねた遺跡が、人間を迎え入れる。
「凄い。あなた、こんな事が出来るんだ」
おねえちゃんはお客さんだから。たすけてくれたでしょ?
みんなもレインは刺さないよ。あんしんしていいよ。
「素晴らしいわ。ここにラグナがいたのね。ん?」
おなかがおおきいね。おかあさんになるんだね。
「撫でてくれるの? そう、ここに赤ちゃんがいるのよ。
だから父親に、ラグナに見せたいの。勝手に行っちゃって、本当にもう!」
ぷっ。しかられそうだね、ラグナおにいちゃん。
こっちだよ。とってもきれいなの。
「わあ……!」
遺跡の合間を埋め尽くす、色とりどりの花々。
雨季と乾季の合間に出ずる、束の間の花園。
今だけ、ここはお花でいっぱいになるんだよ。
「はい、これ。綺麗だから、作っちゃった。
これは、ウィンヒルのお祭りで使うのよ」
花かんむり? いいの?
きれいだね。かわいいね。
「これは? 近くに海があるのね」
――おねえちゃん、そっちは駄目。行かないで!
エスタの大佐が、僧侶と酌み交わす。
「新大統領は傀儡にならない」
「停戦などど。小賢しい」
僧侶が口の端を上げ、ぼそりと続ける。
「大統領には妻がいるようですぞ」
「ほう?」
「これは、使えます。我々の人質にすれば……」
と思ったら、レインはウィンヒルに居なかった訳で。
それはもう、何や知らん悪そうっぽい人達が大騒ぎしたのはさておき。
海辺の基地に、通信が入った。
「大統領夫人、ですか? そうです。遺跡に向かった女です」
「捕らえよ。手荒な手段を使って構わぬ。生きてさえいれば良い」
肩で息をつく大佐の極秘指令を、紆余曲折して取り次いだ
そんな密偵の人が、僻地の兵士共に連絡中。
荒地しかないセントラに飛ばされてる時点で、頼りにならない部下の予感。
それでいいのか、大佐と坊さん。
山羊の時と同じ鈍い音が、レインの足元で鳴った。
「あ!」
おねえちゃん。うごかないで。
そう。そうだよ。じっとして。
それで、この岩をそーっと、上に。
ゆっくり、足をはなして。ゆっくりとね。
これでだいじょうぶ。
「ありがとう……トンベリさん」
おぼえたの。
にんげんが、ばくだんをいっぱいうめたから。
ここはオーディンがまもってるけど、そとはあぶないの。
おもちゃの形をしてたりするんだよ。
それで、おおぜいの仲間がひろったんだ。
山羊をね。先に歩かせるんだよ。
そうすれば、仲間はふまないから。
銃弾の音。撃ち抜かれる地雷。そして炸裂音。
レインは声を上げることも出来ずに、倒れる。
どうして?! おねえちゃん、おきて。
血をとめなきゃ。あかちゃんがしんじゃうよ!
ねえ。おねえちゃんの足は……どこ?
「よし、捕らえろ!!」
エスタ兵の一団が、大統領夫人を囲む。
おまえたち。
オマエタチガ……。
我が友から、足を奪ったのか。
ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。
決して許しはしない。
トンベリの呪文。デジョネーターが、標的である大統領夫人を村に送った。
モンスターは、ずるりずるりと一団に向かう。銃弾を全身に浴びながら。
鮮やかな軌跡が。兵達の肺腑をたちどころに潰す。
そして。まだ生きている兵士を押さえ込み、刃を、太股に突き立てる。
ごりりっ。ごきっ。ごとん。
一本一本。兵の骨を切断してゆく。脈拍に合わせて、血が吹き上がる。
滴り落ちる髄液。痙攣し、やがて動かなくなる兵士達。
生き残った兵士が、走り去ろうとする。その足に喰い込む包丁。
「うっ……うわあああ!」
言葉が通じない事を知ったトンベリは、地面に文字を綴る。
どこだ? どこにいる?
おまえに命じたやつは、どこに。
「大統領! 大佐と大僧正が亡くなりました!」
まずいな、とキロスが厳しい表情をした。
「つーか国葬じゃーねえか!! まーず大統領の俺が疑われっだろ?
なんせほら、二人共バリバリの親アデル派だったしよ。
疑いを晴らすべく、徹底した科学捜査だなー、こりゃ」
「ほう。あんたにそれを理解する頭脳があったのか」
「お二方とも、両足を切断されております。それと……」
小太りの文官が、汗を拭きながら耳打ちする。
「マジで? レインが重傷!?」
電光石火でラグナが駆け出した。状況が分かってるのか? みたいな顔のウォード。
「わーかってるぜえ! F.H.に行けば娑婆だって事だ!」
「無理です。既に大塩湖は閉鎖されております!」
これ以上軍を暴走させない為に。敵を迎え撃つ事が無いように。
視覚的にも物理的にも、幾重にも閉じられたゲート。補佐官が、淡々と告げる。
「ラグナ大統領。和平交渉の時間ですが」
「……レイン!!」
血を吐くような思いで停戦協定が締結した。しかし。一体誰が和平を命じたのか。
全ては謎のまま、エスタは国交を遮断する。平和と静けさを願いながら。
停戦後。天衣無縫な大統領は、勢い良くゲートを突破した。
「おーし。いってみよう! エルも待ってるぜー!」
「間に合うのか?」
ウォードは、いや無理だろうと思う。
「あーッ! 無理は承知だ! けどこれは愛だ、愛なんだよー!!!」
キロスが苦笑し、そしてラグナに振り返る。
「そう来なくてはな。さて、行こうか」
窓の外の村人達。眉をひそめ、噂話を繰り返す。
「ラグナを追って地雷を踏むなんて」
「あいつのせいだ。あいつのせいでレインは!」
車椅子を囲む花冠。横に眠る赤子。部屋を埋め尽くす白い花。
優しい手が、幾つもの花冠を作り出す。
「レイン、無理しないで」
「今日は気分がいいのよ、エルオーネ」
「ラグナが起きたね」
「いい子ね。大好きよ、ラグナ」
生まれたばかりのスコールは、ラグナと呼ばれた。
「ラグナ……ずっとあなたの側にいたかった」
祭りの音楽が、村に溢れる。優美な花冠が、村の娘達を彩る。
ウィンヒルの花畑に倒れ臥す、足無き刺客の群れ。
命じた者も既に亡く、国を閉ざされて。それでも愚かしく任務を遂行する者達。
――人に聞こえぬ音域で、幼いトンベリが呟く。
おねえちゃん。
おねえちゃんは、もうすぐ遠くに行くんだね。
あのね。お手伝い、するから。
レインの子供をまもるから。
それで、ラグナ直伝のギャグをやるんだよ。
大好きだから。
レインも、ラグナも、みんなみんな大切だから。
END
>>686-691 セントラ遺跡でトンベリキングに手こずった事を今でもよく覚えていますが
これを読んだ後だと憎たらしいどころか愛着が沸きそうで困りますw。GJ!
全体的にもの悲しい雰囲気だけど、レインもラグナもトンベリも優しさに
溢れてるから、読んでる方は温かい気分になってます。新作も待てます!!
>>680-683 やはり女性上司は去ってしまわれるのですね。
イラストしか見た事ないのですが、BCの散弾銃の彼女を
キャリアっぽくした感じかなぁ…と勝手に妄想しておりました。
思わず関西弁が出る局長が(´∀`*)
上司が去る理由、リーブのこれからの奮戦ぶりに期待sage
>>686-691 8は未プレイですが、ほのぼのシーンが一転する所をドキドキしながら読んでました。
次回作も期待してます。
>>514 >>510-512 >>515-518 >>535-538 >>573-577 >>602-603 >>610-614 >>635-636 の続きです。 それ以前は
>>508から辿って下さい。(理由は
>>573)
※作中のマテリアに関する表記は投稿人の勝手な思い込みです。
間違ってたらごめんなさいよ。
「どんな考えか伺ってみましょう。」
リーブは余裕の微笑みだ。
「俺様が今喉から手が出る程欲しいもんをよ、涙を飲んでおめぇに譲ってやるぜ。」
芝居のかかった、もったいぶった物言いに、リーブは思わず首を傾げてしまう。
(艦長と私が喉から手が出る程欲しい物…?)
「そんなものありましたか?、もし飛空艇団のことでしたら…」
「そうじゃねぇよ、俺が言いてぇのはな…」
ここでシドは自信ありげに一同を見渡すと、
「ドラフト権だ。」
またもや白けた空気が流れた。
「あの…艦長?」
遠慮がちにリーブが尋ねる。
「その…ドラフト権というのは?」
白けた空気に気付いていないのはシドだけだ。意気揚々と、
「ま、平たく言やぁ、交渉権ってとこかな。」
「…誰の?」
クラウドが冷たく尋ねる。
あの頃は星の危機だったとは言え、よくこのメンバーをまとめていたものだと
クラウドは自分で自分に感心してしまう。
「もちろん、シェルクだよ!あのコがWROに入るよう説得すんのに、力貸してやるってんだよ!」
「説得も何も彼女が決めることだ。そうだろ、リーブ?」
よもやこんなバカげた話にリーブが乗るはずはない、そう確信してクラウドはリーブを見る。
が、リーブは何やら考え込んでいる様子だ。
それがやがて顔を上げると、シドの顔を正面から見据え、
「本当に、力を貸してくれるのですか?」
「おい、リーブ?」
「おう!俺様が頼めばイチコロよ!」
「そうですねぇ…」
鉄壁の要塞がこんなバカげた理由で綻ぶとはクラウドは信じたくなかったが、
「リーブ!」
「まぁ…あまり騒がなければ、大丈夫かと…」
あまりものバカバカしさに、付き合いきれないと、
席を立とうとしたクラウドをバレットが声を掛ける。
「どこ行くんだ、クラウド?」
「帰るんだ。」
「だとよ、シド!」
シドは立ち上がると、今度はクラウドの肩に馴れ馴れしく手を回す。
「まぁ、もうちょっと待てよ。」
「あんた達が何をする気か知らないが、俺には関係ないね。」
「関係なくてもいいから、家に帰るのはちょっと待てよ。」
「断る。」
俺の家で勝手をされてなるものかと、クラウドはすげなくシドの手を払い、ドアに向って歩き出す。
それを慌ててリーブが追いかける。
「待って下さい、クラウドさん。」
クラウドは振り返り、自分の腕を掴んだリーブに何か言おうとして、不意にがくんと膝をついた。
リーブがぼんやりとした緑の光に包まれているように見えた。
(…しまった…)
なんとか立ち上がろうとするが、急激に意識が遠のき、
クラウドはその場に倒れてしまった。
「すいません、クラウドさん…」
リーブは倒れたクラウドの傍に屈むと、聞こえるはずのない彼に謝る。
バレットは驚いて倒れたクラウドを助け起こす。
「リーブ、一体どうやったんだ?今のはまさか…」
クラウドは穏やかな寝息を立てて、すぅすぅと眠っている。
「これですよ。」
リーブはポケットから小さなブルーのマテリアを取り出した。
「“ふうじる”のマテリアですよ。今はこれくらいしか残ってませんがね。」
「おめぇ…なんでそんなもん持ってんだよ。」
さすがのシドも呆れ顔だ。
3年前とは違い、今ではマテリアの数自体がかなり減っていて、
最近では見かける事すらなくなっているのだ。
リーブはマテリアをポケットに戻すと、
「ボディガードなんか必要ないと言ったら、スタッフが護身用にと持たせてくれたんですよ。
もっとも、クラウドさんに効果があるかどうかは疑問でしたが…」
シドとバレットは同時に吹き出した。
「おまえ、貴重なモンをなんてことに使うんだよ。」
「しかも、使ったのはこれが初めてですがね。」
疲れていたんですねぇ、彼も…と呟きながらリーブは申し訳なさそうにクラウドを見る。
「んだよ、おめぇもやっぱヴィンセントのヤツが気になってたんだろ?」
「艦長があかんねんで!リーブのオッサンも我慢してたのに、
おもろそうな話ばっかりするから。」
いつの間にか姿を現したケットシーが横でぴょんぴょんと跳ねる。
「よし!じゃあ、邪魔者が寝てる間に作戦会議と行こうぜ!」
意気揚々とシドが叫ぶのを、リーブがクラウドさんが起きてしまいますよ、とたしなめ、
バレットは丸太を扱う様にしてクラウドをソファに放り投げ、
ケットシーは申し訳なさそうに上着を毛布代わりにかけてやり、
そうして親父三人は何やら相談を始めたのだった。
お久しぶりの◆BLWP4Wh4Oo でございます。
親父話、引っ張りましたがここまでです。
次からは場面変わります。長らくのお付き合いありがとうございますた。
最初シリアスだったのが、だんだんおちゃらけてしまってごめんなさいよ。
仕事忙しいのですが、新しい投稿人さん達がが増えてるのを見て
自分も頑張らないと、な気持ちになり少しですが投下です。
ペース遅くなりますが、完結するまでまたお付き合いよろしくです。
698 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/12(月) 02:29:44 ID:0f0x2FZrO
あっ
密かに楽しみにしてるよ
>>694-696 各人の個性が行動によく出てると感心させられます。
って言うか楽しそうな親父連中がイイ!
リーブが持っていたのがケット・シーの初期装備「へんしん」のマテリアじゃなくて
ホントに良かったと思う今日この頃ではありますがw、続きも楽しみにしてます。
>>680-683より。
----------
――ミッドガルの住民達に対する最低限の責務であり、最高の仕事。
説得と視察のために、何度も歩いたミッドガルの雑然とした街並みが。
自分に向けられた多くの住民達の表情や、声が。
そして、この都市を去っていったあの老夫婦の笑顔と、後ろ姿が。
彼女の言葉から一瞬にして思い起こされたそれらの記憶に、リーブは
言葉を止め、足下を見つめた。
――願わくば、自分達の作った新しい都市で暮らして欲しい。
地面に転がったぬいぐるみを今一度拾い上げれば、懲りもせずに愛くる
しい笑顔を向けてくれる。「何度もすまんな」と呟くかわりに、優しくその額を
撫でてやる。
こうして幾分か落ち着きを取り戻したリーブは、改めて問うのだった。
「……なら聞かせてくれへんか? 今回の配置転換の意図は何やったんか」
今さら引く気はない。この後事態がどう展開しても後悔はしないだろう。
ただ、納得のいく回答を聞くまでは、追及の手をゆるめるつもりはなかったし、
とうに覚悟はできている。
ひときわ強い風がリーブの背を叩いた。飛ばされてしまわないようにと、
ぬいぐるみを脇に抱え直す。
そうして、彼女からの返答を待った。
電話を手にしたまま、本来ならこの場所からは見えないはずの空を見上げて
息を吐き出す。それからゆっくりと、彼女は語り始めた。
しかし残念ながらそれは、リーブの問いに対する返答ではなかった。
「……リーブ君。あなた……神の存在を信じる?」
通信の向こうにいる男に向けて問いかける。ロケットが墜落した地点から
プレートを挟んでちょうど真下に位置する五番街の一角に、彼女は立っていた。
『いきなり何ですか?』
「私、神なんて存在を信じてなかったわ。いいえ、今でも信じてない」
『はあ……』
電話の向こうでリーブが呆れ声になっているのは気にせず、彼女は話を
続ける。
「でもね……。今は、今だけなら信じても良いかもしれない。そう、思っているわ」
『そう思わせる根拠が……あるんですか?』
リーブの問いかけに応じるようにして、彼女は背後にそびえる建物に向き直ると、
それを見上げた。
「ええ。今、私の目の前に」
彼女の前には、教会があった。
その頂に、ロケットが突き刺さったまか不思議な教会が。
***
リーブがその光景を目にする頃には、頭上高くで輝いていた太陽は姿を消し、
すでに月が顔を出していた。
結局、あれから一旦は本社に戻ったリーブは、軍への出動要請や関係各所への
手続をひとまず「主任不在」として済ませ、それから現地へ向かったからだった。
実際に現場を目の当たりにした今でも、目の前の光景を信じられずにいた。
ロケットの推進剤として用いられる燃料は可燃性が高く、一般的には打ち上げ後、
燃焼は制御できないはずだ。墜落したとなれば機体は破壊され、爆発は避けられ
ない。そう考えるのが自然だった。
だがプレートを突き破ったロケットは、教会の屋根に突き刺さった状態で原形を
とどめていた。機体に加わる衝撃を、プレートと教会の屋根が吸収してくれたのだろうと
漠然と考えたが、それはあまりにも不自然で、まさに「奇跡」としか言いようのない
現象だった。
「……神は、おるのかも知れんな」
日中、電話での会話を思い出したリーブは思わず零すのだった。
いっそ滑稽にも映るその光景を見やりながら、どこか他人事のような気になったのは、
確率にして考えるには途方もなく低い上に、およそ人間の意志が関与できる範囲の外で
起きた出来事だと結論づけたからだった。
前代未聞の大事故ではあったが、落下した教会の外壁やプレートの破片などによる
負傷者を出した程度の被害で済んだのは、不幸中の幸いと言えた。
すでに教会周辺の現場は警戒域として神羅軍の監視下に置かれ、部外者の立入が
規制されていた。住民達がこの光景を目にすることは殆どなかったが、起こった事実
までもを全て隠すことはできなかった。一部の住民の間では、このロケット墜落に関して
いくつもの噂がささやかれる様になった。神羅内部の権力抗争だとか、新兵器の実験
だった、などが主な物だったが、どれも真相にたどり着けたとは言い難い。
しかしそれもすぐに立ち消えてしまい、やがてはロケット墜落の事実そのものが人々の
記憶から薄れ、ついには話題に上る事さえもなくなることになるのだが、それはずいぶん
先の話だった。
「……ご苦労様」
被害状況報告書を作成するための実地見分を終え、機材を片付けている
リーブの背後で、彼女の声がした。
「まったく、……このロケットのお陰で今日はさんざんな目に遭いましたよ」
鞄を閉めて苦笑しながら振り返ったリーブに、彼女は笑顔を作るわけでもなく
頷いた。彼らの横を、ひっきりなしに軍関係者やロケット解体・回収班が行き
交っていたが、ふたりとも気に留める様子はなかった。
「私達の仕事はとりあえずここまでね」
「住民は?」
「周辺地域住民の避難誘導と、負傷者の搬送は日中のうちに完了しているわ、
安心してちょうだい」
「そうですか」
こともなげに語る彼女を見て、やはりリーブは彼女が主任たる人物だと改めて
実感した。現に、軍への要請をした際も、既に彼女が下準備を整えてくれていた
お陰で、手続そのものには時間を要することがなかったのだ。
それから彼女は踵を返すと、教会を背に歩き出した。
「どちらへ?」
「もう、ここに用はないわ」
「主任?」
「…………」
その言葉を最後に歩き出す彼女の後を追って、リーブも教会前を出た。
ふたりは無言のまま、五番街の中を歩き続けた。軍出動によって沸き立つ
市街地を抜けると、やがてゲートが見えてくる。ここまで来ると人気もほとんどなく、
喧噪は遠くに聞こえるのみだった。
そうしてようやく、彼女は口を開いた。
「昼間は悪かったわ。時間がなかったとはいえ、あなたの心情をまったく考えずに
……申し訳ないと思ってる」
「……いいえ。その、こちらも言い過ぎました……すみません」
ぎこちない会話を交わしながら歩くふたりの間を、生暖かい風が吹き抜ける。
舗装の割れ目から芽吹く草を揺らし、ざわざわと風にそよぐ小さな音に促される
ようにして見上げた夜空に月はなく、ぼんやりとプレートの底面が見えるのみで、
ロケットが開けた穴がなければ昼か夜かさえも分からない。
ゲートから一歩出れば、むき出しの大地と澄み渡った空が彼らを迎えてくれるはずだ。
それを目指してまっすぐ、彼女はゲートへ向けて歩を進める。
「昼間……あなたに『神はいるか』と聞いたの、覚えてる?」
「はい」
そのあと彼女は『神という存在を信じない』とも言っていた。リーブもどちらかと
言えば同じ考えだった。ただ、今回のロケット墜落の一件に関してのみで問うならば、
その限りではないだろう、とも。
そこまで考えて、なんとも都合良く現れてくれる神だろうと、リーブは内心で苦笑した。
しかし、彼女は思いがけないことを口にする。
「神など存在しない……だから神羅はこの都市で、『神』になろうとしている……」
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被害が少なくてヨカター。都市を育てようとするリーブさんと
都市の支配者になろうとする神羅の差異が(・∀・)イイ!!
こんな長いお話にお付き合い下さってる方がいるだけでも嬉しいです。
どうもありがとうございます。
「6」は今回を含め、あと2回の投下で一応完結の予定です。
(10レス程度の予定) 今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。
>>701-705より
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「……神、に?」
繰り返して問うリーブの言葉に、彼女は足を止めて振り返った。
「そう。『神』になろうと……いえ、なるための術を、彼らは知ってるわ。
そしてその力を得ようとしている」
頭上に広がるプレートが空を覆い隠しているように、彼女の言葉も何かを
覆っているように思えた。あるいは空と同じ、とてつもなく巨大な何かを。
それは聞き手であるリーブに漠然とした不安をもたらした。
「詳しいことは最高機密事項とされているわ。話では科学部門の行っている
という研究が、その中心を担っている――『ネオ・ミッドガル計画』と、呼称されている。
私が知っているのはその器の部分」
「……ネオ・ミッドガル?」
聞き慣れない言葉だった。それに「器」というのも気にかかる。
「そう。……この地に住む全ての住民の監視と、統制。その上に成り立つ支配体制」
「監視と統制? それに支配って、どういう……」
そこに付随する言葉はどれも穏やかではない響きだと感じる。それを示すように、
彼女の声は暗く沈んでいる。
「確かにこの計画が実現されれば、ミッドガルは素晴らしい都市になるのかも
知れない……。人々が愁いなく暮らせる、そんな理想の都市」
彼女がこの神羅都市開発部門に入った頃は、間違いなくそう信じていた。
そのための都市開発事業であり、魔晄エネルギー利用は手段なのだと。
戦によって利益を生み出して来た闇の商人は、その富を平和に還元するのだ
――と、勝手に信じ、迷うことなくその道を進んだ。
だから“それ”も手段の1つだと、最初は考えていた。
「反面、豊かさをもたらす代わりに、神羅は住民の監視と統制のシステムを
構築しようとしている。……あなたも知ってるプロジェクトよ」
「ID管理ですか?」
「そう。……1つはね」
ミッドガルの住民一人一人に個別の認識IDを与える。このIDによって彼らの
行動記録を含めた情報をすべて管理するというシステムが、ID管理計画だった。
都市開発部門のプレート建設計画には、この「ID」の通過チェックを行う装置を
含んだ設備が盛り込まれている。その実装段階で問題が生じたため、リーブは
この管理課へ招かれたというのが表面上の配置転換理由だと、彼女は告げた。
「ID検知システムを稼働させれば、どの住民がいつ、どこにいたのかを把握する
ことができるわ。……もちろん追跡も可能よ」
「その目的は犯罪の抑止、あるいは危険因子の監視」
リーブが口にしたのは、神羅がID管理システムを提唱する最大の根拠だった。
無論、「危険」だと判断するのは神羅だという前提ではあることは言うまでもないが。
「そう」
そこまではリーブも知るところだった。しかし、直前に聞いた言葉がどうしても
引っかかる。
「……1つ、という事は他にもあるんですか?」
その問いに、彼女は首を縦に振るだけだった。
吹いてくる風が強さを増し、草がざわざわと騒がしく音を立てて揺れた。彼女の
束ねられた長い黒髪も、背中で静かに揺れている。
慎重に、言葉を選んでいる様子で彼女はしばらく黙っていたが、やがて重い口を
開き、社員にすら知られることの無い事実を語った。
「情報管理と行動監視はIDで充分。あとは統制……その方法を、神羅は秘密裏に
研究している。……幸い、まだ実装段階には至っていないわ」
「具体的にそれは何なんですか?」
「…………」
その問いに、彼女から差し出されたのは1枚のディスクだった。
それは彼女が本社を出る直前に、持ち出した数枚のうちの1つだった。
「これは?」
「ミッドガル都市計画の全容、その一部をデータ化したものよ」
「直接あなたの口から教えてもらうことはできない、そう言う事ですか?」
「……リーブ君、」
何かを言いよどんでいる。目の前の彼女の様子からもそれは明らかだった。
しかし何かが分からない。そんなとき、彼の言葉を思い出す。
――「彼女を助けて欲しい。
彼女を救えるのはあなただけなんです、リーブ。」
そんな言葉を向けてきた総務部調査課の彼が、何を伝えようとしたのかを
リーブは知らない。だから尋ねた。
「あなたを救えるのは、私だけだと……ある方に言われました。そして、今回の
配置転換には別の意図がある、とも」
それに、心当たりもなかった。彼らのような強靱な肉体と巧みな戦闘術を身に
つけているわけでもない、戦場へ出れば一瞬で殺されてしまうような自分に何が、
あるいは誰を救えるのだと?
「教えてください、主任。あなたの本当の目的は……」
「彼から聞いたのね」
苦笑とともに彼女は口を開く。リーブは肯定も否定もせず、ただじっと言葉の
先を待った。
「そうね。今の私を救えるのはあなたしかいない……。
このミッドガルを、完成させられるのは、あなただけだと思っているわ。だから私は、
あなたにミッドガルを託そうとしている」
一度、彼女は瞼を閉じた。その奥に去来するものは何だっただろうか? ふと、
リーブはそんなことを思う。
顔を上げ、目の前に立つリーブを真っ直ぐに見つめる彼女の口から、絞り出す
ような声で告げられる。
「お願いよ、この都市を完成させて。そして神羅の……暴走を、止めて」
「…………」
リーブは語り続ける彼女を、黙って見つめていた。一言一言に込められた思いを、
あるいは今ここに至るまでに歩んできた道のりを、まるで見定めるように。
彼女もまた、向けられる視線から目をそらさずに語り続ける。
「神羅は……いいえ、“彼ら”は人の心の内を覗く術さえも持とうとしている。
私には……私にはこれ以上……。そうね、あなたの言うとおり途中で放り出して
逃げようとしてる。無責任、あるまじき行為よ。でも……」
今現在、部門に統括責任者がいないのは都市開発のみだった。一方で彼女は、
指名されて尚それを断り続けていた。だから管理課主任として、不在の統括
責任者の代役をこれまで務めて来た。
そこで、望まずに知ってしまった真実がある。
「ミッドガルという土地も……ミッドガルに住む人々も、豊かになってほしい。
今でも……そう、思ってる。願わくば私の手で完成させたかった。でも、それは
叶わないと知った」
「なぜですか?」
向けられた問いに答えようとして、抉られるような心の痛みを覚えた。都市開発
従事者として、志半ばでミッドガルから離れる決断は、決して軽いものではない。
しかも、自分の後を引き継ぐ者を置き去りにして出て行く事に罪悪感を抱けば尚更、
決意は揺らぐ。
言葉を向ける側も、それがどれだけの痛みを伴うものなのかは承知している。
承知の上で、それでも残される側として聞いておかなければならない。
「私がこのままミッドガルに関われば……たくさんの犠牲を払う事になるから。
そんなことまでして……私は、神になんてなろうと思わないもの」
だから、あなたに託すわ。彼女はそう言ったきり、俯いた。
恐らくは、自分の知らないところで様々なしがらみがあったのだろう。その盾になり、
苦悩し歩んできたのだと、ほんのごく一部でしかないと知りながら、リーブはその声に
耳を傾け心を砕く。
「……主任。あとはお任せください」
そう言って、リーブは深々と頭を下げる。心で強く願う本心を飲み込んで、彼女に
向けた言葉も決して嘘ではない。
「今まで本当に、ありがとうございました」
その声に顔を上げ、彼女は心の底から驚いた表情を向けた。まさか頭を下げられる
だなんて思いもしなかった。罵倒され、嘲笑されるのだと覚悟していたから。
嬉しかった一方で、素直に喜べないのも事実だった。今から彼は、自分の後を
引き継ぐのだ。これから先、今までの自分と同じように、たった一人で“彼ら”と
戦う事になる。
――そして、彼の前に最後に立ちはだかるのは。
「……リーブ君、聞」
「ところで主任、もしミッドガルが完成した暁には、1つお願いしたい事があるのですが」
彼女の暗い表情を見まいと、言葉を遮るようにリーブは明るい声で話し出した。
「私と一緒に、ミッドガルを回ってもらえませんか? 魔晄炉8基が全て稼動した時に、
その稼働状況と完成した炉心制御システムを、ぜひあなたにも見て頂きたい。あなたが
後任に指名した私の仕事を、その目で確かめてもらいたいんです」
それは管理課へ招かれ、彼女の後継者として指名を受けたリーブが口にできる言葉の
中で、もっとも本心に近いものだった。
それが本心に近いものだと悟られないように、ことさら明るく振る舞うのは、ミッドガルを
去ると決意した彼女に対する気遣いに他ならない。
なによりも彼女自身が強く、その思いを感じていた。
「あら、……もしかしてデートのお誘いかしら?」
「ま、そんなところです。我々ならではの演出でお迎えに上がります」
リーブはずっと脇に抱えていたぬいぐるみを前に出し、まるでぬいぐるみが話している様に
動かして見せた。
『楽しみにしとってな。わいもデート楽しみにしとくさかい、頑張るで』
そんな動作がおかしくて、彼女は小さな笑顔を作る。
彼女自身、久しぶりに笑った気がした。目尻に浮かぶ小さな滴を指で拭うと、心に浮かんだ
思いをためらいなく言葉として口に出した。
「リーブ君、ありがとう。……あなたに」
――きっと、あなたの前に最後に立ちはだかるのは、私。
「あなたに迎えに来てもらえる事、楽しみにしてる」
――ミッドガルが完成した時、私のすべてを……あなたに託すために。
地下に眠る、たくさんの生命への贄として、私の身を捧げるために。
「……だから、私からも1つお願いをしておきたいの。いいえ、約束してもらいたい事があるわ」
「何ですか?」
リーブは柔らかな笑みを向ける。それを見ているのがつらいと思った。
――だからそれまでは、知らないで居てほしい。
私と同じ苦しみを、味わって欲しくない。
「“DG、触れるべからず”」
――目覚めなければ、触れなくても良い地底の記憶。
都市開発部門が関わるのは、私で最後……それでいい。
「“DG”?」
耳慣れない言葉だった。何かの略称かと聞こうとしたが、彼女の悲痛な表情にリーブは
それ以上追及することをやめた。
「分かりました……」
「ありがとう、リーブ君。……それじゃあ、元気で」
そう言ってレバーを下げると、重々しい音とともにミッドガルと外界を隔てるゲートを開いた。
闇色の空に浮かぶ月と、照らし出された草原が彼らを出迎える。
まるで地平線に誘われるようにして、ミッドガルに背を向け彼女は歩き出した。
二度と振り返ることはないだろうと知りながら、リーブはその背中を見送り続けた。
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・DCFF7第2章、「知らない」というのが腑に落ちなかった。
・その根拠に対して夢を見すぎているのは否めない。(w
DGキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!乙です!
管理社会化に反抗する人々と引き継がれていく志がカッコいいです
みなさん乙です!ハラハラしたり和んだりいつも楽しく読ませてもらってます。
480kb超えたので、そろそろ次スレ用意した方がいいですか?
1000行くまでに容量オーバーで書き込めなくなる事があるの?
もしそうならおながいします。
>>715がだめだったら自分もチャレンジしてみるよ。
詳しくないけど、スレの容量制限(512kb
>>4参照)があるらしいです。
で、テンプレ案貼っておきますね。改良あったら指摘よろしくお願いします。
〜〜〜〜〜以下〜〜〜〜〜〜
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
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※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
※sage推奨。
※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
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前スレ
FFの恋する小説スレPart5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/ 記述の資料、関連スレ等は
>>2-5にあるといいなと思います。
【参考】
FFDQ板での設定(game10鯖)
http://game10.2ch.net/ff/SETTING.TXT 1回の書き込み容量上限:2048バイト(=2kb)
1回の書き込み行数上限:32行
1行の最大文字数 :255文字
名前欄の文字数上限 :24文字
書き込み間隔 :45秒以上
(書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
連続投稿規制 :3回まで
(板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
1スレの容量制限 :512kbまで
(500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)
>>717-721 乙です!
テンプレもそれでOKかと。
確かに一晩レスが付かないって事が過疎ってるかもなので
スレ立ては週末の方がいいかも。
723 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/06/16(金) 17:47:01 ID:fzMg4rs/O
あっ
724 :
魔法のレス:2006/06/16(金) 21:12:26 ID:39G6EXCaO
このレスは書き込まれたスレッドを必ず1000まで到達させる魔法のレスです。
ただしそれには条件があります。
このレスが書き込まれた33分後に、このレスと同じ内容を他のスレッドに書き込んで下さい。
書き込む人物は誰でも構いません。
あなたのスレッドの繁栄を願います。
保守
容量ヤバス
727 :
sage:2006/06/17(土) 14:20:48 ID:ZkwOaSrRO
すまん、誰か頼む。
漏れ今携帯だ_| ̄|〇
スレ立て、ちょっと試してみるお
>>729 乙です!本当にありがとうございました。
誘導も兼ねてこっちも念のため保守。