純愛SS『其の3』

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1名無しさん@ピンキー
純愛エロSSのスレです。

『純愛』をテーマに書かれた作品なら、
オリジナルでもパロディ(*)でもかまいません。
作品の長さも自由です。
読み手の多くが「これは純愛だ」と共感できるようなSS、
「俺にはこれぐらいまでなら純愛って言えるな」っていう限界に挑戦したSS、
「こういう純愛のかたちはどうだろう?」なんて試験的なSS、
泣ける系、切ない系、純愛+お笑いの意欲作、なんでもオッケーです。

(*) 予備知識や専門知識のいるものについては、SSを投稿する前に
  補足説明してもらえると、読み手の多くに対して親切かと思われます。

それと、感想・批評、軽い雑談など、SS以外のレスももちろんありですが、
純愛SSのスレであって、純愛について議論するためのスレじゃないつもりでいます。
「純愛とは……」とか、「それは純愛じゃないだろ」的な、
主観を人に押しつたり、他人の価値観を否定するようなレスは、
荒れの元にもなりますので、できるだけご遠慮ください。
また、そういったレスがついても、反応したり議論したりせずに
スルーしてくださると、荒れずに済んでいい感じなんじゃないかと思いますです。
純愛についての主張は、ぜひSSにして表現してくださいませ。

前スレ

純愛SS『其の2』
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1106890022/l50

前々スレ

純愛SS
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1050075354/l50

次スレは>>970よろしく
2名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 23:16:27 ID:YMV7UAQW
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.arings2.com/
3名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 23:19:20 ID:og1qyrEz
>>1
4名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 23:30:10 ID:hW7iixBC
乙&死守
5名無しさん@ピンキー:2005/12/06(火) 23:47:51 ID:LtRjXMgm
>>1乙死守
6名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 00:02:56 ID:8hKhHtwV
>>1

誰か〜
7名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 10:16:03 ID:jZfilh/k
ho
8名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 18:14:02 ID:IvikF6bN
ほし
9名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 18:56:53 ID:IO3+RNQu
ほちゅ
10名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 20:40:55 ID:jRs7W/Cq
捕手
11名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 22:00:50 ID:XZkajRPT
保守
12名無しさん@ピンキー:2005/12/07(水) 23:14:00 ID:tc31O/DR
前スレ>>915に期待しながら捕手
13名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 05:23:21 ID:rkAUPgC2
保守&乙&cat〜もしくはcan〜の人続きをー
14名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 15:09:50 ID:xWbL/uNe
回避
15名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 17:08:27 ID:uqynKAKv
16名無しさん@ピンキー:2005/12/08(木) 23:21:33 ID:Pp39TghE
ほす
17名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 00:57:31 ID:/5G5jyMN
>>1
純乙
18名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 19:24:48 ID:z1V3Yz25
ホシュ
19名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 20:10:49 ID:Z4f4jyvP
回避
20名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 21:22:10 ID:kyCjLPBF
誰か〜
21名無しさん@ピンキー:2005/12/09(金) 21:32:45 ID:Ony8kuzK
あまいの書いてー!
22名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 18:19:01 ID:GED4ZaS6
職人がいないのはみんな必死になってクリスマス用のSSを
書いてるからだよ!

と、前向きに考えながら保守
23名無しさん@ピンキー:2005/12/10(土) 21:58:39 ID:j27q27pj
来年のクリスマスに投下すると予告する
24名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 02:51:46 ID:zgSg53m+
本格的に職人不足になってきましたな
25名無しさん@ピンキー:2005/12/11(日) 23:21:23 ID:nEf51ago
まぁ年末だし、皆忙しいのだろう
26名無しさん@ピンキー:2005/12/13(火) 17:34:12 ID:SLM3KRIb
保守しときます
27名無しさん@ピンキー:2005/12/13(火) 18:22:21 ID:f7lp3PP5
,,,,,.,.,,,,
 ミ・д・ミ  <ほっしゅほっしゅ!
  "'''''''"
28名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 01:07:51 ID:zt95JDPc
ほっしゅほっしゅ
29名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 10:15:08 ID:tkGpyrUh
(`・ω・´)ほしゅっ!
30名無しさん@ピンキー:2005/12/14(水) 23:46:41 ID:zt95JDPc
ほっしゅ
31名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 19:15:51 ID:GBP+mOu+
保守
32名無しさん@ピンキー:2005/12/15(木) 23:22:34 ID:vrb9xLKe
ほしゅ…ばっかり…
職人さまーー…
33名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 00:22:08 ID:GUDIFIPU
純愛だ……………!!

私達には、今、純愛が足りない!!!!!
34前スレ915:2005/12/16(金) 09:29:37 ID:7Jw+YOPP
前スレ>>915です
>>100ぐらいから投下する予定でしたが
職人不足のようなので出来次第投下します
35名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 09:48:18 ID:NrcbBhDF
むきゃぁーー!!職人さまだー!
待ってます!!
36前スレ915@PC:2005/12/16(金) 13:24:46 ID:VF3DdEo0
さっきは携帯から書き込みました
今回はPCから、IDが変わるけど気にしない( ´∀`)

出来上がりはしばらく先なのですが、メインの人物の設定だけ晒します
(あくまで、現時点での設定なので、変わるかもしれません)

雨宮 晴一(あまみや はるいち)

19歳
12月23日生まれ
O型
175cmぐらい
痩せ型
【趣味・特技】 読書、競馬見る、スポーツ見る、2ちゃんねる、映画鑑賞、テニスと剣道ができる
【特徴】 しゃべり方に少し特徴がある、忘れやすい、音痴、髪黒い、年下の女の子が好み

永田 みき(ながた みき)

23歳
12月23日生まれ
A型
165cmぐらい
スレンダー
【趣味・特技】 電話、メール、カラオケ、映画鑑賞、食べ歩き、料理うまい
【特徴】 几帳面、勉強できる、物覚えがいい、髪は肩に届くぐらいで黒っぽい茶色、年上の男が好み
37名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 14:00:27 ID:FgV2PZVG
最初に登場人物のプロフィール垂れ流すのは痛いと思う
38名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 16:17:41 ID:yamO107L
俺はいいと思うがな…
確定というわけじゃないんだし
39名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 22:05:33 ID:nyx8LNFV
趣味・特技が2ちゃんなキャラってのも(ry
40名無しさん@ピンキー:2005/12/16(金) 23:07:42 ID:aPzBifbS
新境地ですねw
いろんな意味でワクテカ
41名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 00:28:01 ID:5fc32thM
ワクテカしてるのは確かだけど最終的な判断は投下されてからくだすよ。
2ちゃんが趣味ってのもやり方しだいで味が出ると思うし。
以下本音正座して待ってます
42名無しさん@ピンキー:2005/12/17(土) 10:21:45 ID:k3xxYVhK
賛否両論だろうけどプロフィール出すことで過疎ってたスレの活性が一時的によくなったな
結果的には良かったのかもしれない

男の趣味に2ちゃんがあるのは新しい試みで目を引くけど、俺は男が年下スキーで女が年上スキーというのと
誕生日が同じという点に期待したい
何はともあれ過疎スレに光がさしてきたわけだ
ワクテカしながら待ってますよ
43名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 01:43:04 ID:qVI78wLV
まだか〜い
44稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/18(日) 08:29:06 ID:46rDr0yE
おーひさーしぶーりーでーす
忘れられてるかもだ

リハビリってことで、投下します
『cat girl』とはまったく別のお話
45she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/18(日) 08:29:49 ID:46rDr0yE
トントンと包丁がまな板をノックする小気味良い音。
鼻腔をくすぐる味噌の香り。
ありふれて見えてしまいそうなそんなものが、なぜだか今朝はひどく幸福に思えて、
冷たい冬の空気を布団と一緒に跳ね除けて勢いよく飛び起きた。
おお!これぞまさに日本の朝。
「……て、おい」
冷静になれ。ていうか目を覚ませ。
俺は、間違いなく、一人暮らしである。
自分で作らない限り朝食なんて出てくるはずはない。

……脳裏をよぎる嫌な予感。
この軽快な怪音と心地よい異臭の発生源であろう台所を慌てて確認する。
狭い部屋だ。首を回せば見通せる。

そこにいたのは、
「――ああ、やっと起きたのか。
 まったく、冬休みだからってだらけすぎだぞ」
我が物顔で包丁を振るう不法侵入者。
「……なにやってんだ」
「すぐに出来るからな。 布団たたんで机出しといてくれ」
低い声ですごんでみても謎のエプロン女は全然動じる様子もない。
しかたなしにため息をつきながら狭い部屋に二人分の食卓の準備をした。
出来上がってくる料理には罪はないのだ。

「勝手に家にあがるんじゃねえって、いつも言ってるだろうが。
 ピッキングまでしやがって、犯罪だぞ、それ」
もぐもぐと純和風の朝食に箸をつけながら、もう何回分からない科白を口にする。
「キミがいつまで経っても合鍵をくれないからピッキングなんかしなければいけないんだ」
「いや、だから。 合鍵なんて渡したらそれこそお前、毎日来るだろ?」
「当たり前だ。
 本当は今すぐにでも同棲したいところだが、学生の身分ではそうもいかないからな」
頭が痛くなってきそうなので、一方的に会話を打ち切って食事に集中することにした。
ずず、と音を立てていつだか大根の味噌汁をすする。
そういえば、といつだったか好物だと話したのを思い出す。

あー、くそ。
うまいなこのやろ。
46she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/18(日) 08:30:39 ID:46rDr0yE
むっつり黙って爪楊枝をくわえながら、片されてゆく食器を眺めている。
結局、全部平らげてしまった自分に軽い自己嫌悪。餌付けされている気分である。
「今朝はやけに不機嫌だな。 私がまたなにか粗相をやらかしてしまったか?」
「……お前、いつから料理始めた?」
ちょっと間をおいて、
「5時からだな」
さらりと言う。
「馬鹿め……」
思わずそうぼやいていた。どうりで食卓が豪勢なはずだ。
「……やはり、迷惑だったか?」
普段感情の表現が乏しい分、ちょっとでも不安そうな顔をされるとどうも弱い。
「いや、むしろ有難いくらいだけど――」
逆接に続く言葉は、一転、突きつけられた彼女の微笑みに遮られた。
「――――よかった」
安堵のため息にも似た、声。
普段感情の表現が乏しいだけに、そんな顔をされるとドギマギしてしまう。
「だからって、こんなことしてもらったままっていうのは、なんだか、申し訳ない」
すぐに、なんだそんなことを気にしていたのか、なんて呆れた風の答えが返ってきた。
「私が勝手にやっていることなんだから、キミが気を使う必要はない。
 ただ、そうだな。ありがたいと思ってくれているのなら、ちゃんと言葉にしてくれると嬉しい。」
……いじらしいことを言うじゃないか。
しょうがない。流れ的に誤魔化すのもなんだしな。
「ああ、わかった。 ――――ありがとな」
照れくささに苛まれてつつも、そう口にする。
要求されて応じたからじゃない。紛れもない、俺の本心だ。

「………………」
が、言ってもらった当人は、なぜか釈然としない表情をしている。
え、俺なんか間違った?
「そうじゃない」
「へ?」
「キチンと、愛してる、と言ってくれ」
ごふっ。
要求されていたのはさらにもう一個上らしいかった。
「……………………言わなきゃダメ?」
「別に言いたくないのならいい。
 ……そうだな。嘘をつかない誠実さというのも、人間として大切なことだからな」
拗ねられた。

く、くそう!
やっぱり言わなければならないのか!
47she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/18(日) 08:31:33 ID:46rDr0yE
「…………あ、」
なんとか搾り出した一音目に彼女は、ピクン、と小動物じみた反応を示す。
僅かに期待がこもった視線を感じながら、声帯を震わせて、唇で言葉をつむごうとする。
「あ…………、あ、」
駄目だ。
まだ、どもっているだけだというのに、恥ずかしくてたまらない。
「…………えへん、あー」
咳払いを一つ混じえる。
何この羞恥プレイ。

「あー……――――、言えるか、このヤロォ!」
男は言葉じゃなくて行動で示すんだとばかりに、半ばやけくそで彼女を抱きしめた。
有無を言わさず唇を押し付けると、一瞬力んだ体から、すぐに力が抜けてゆくのが分かる。
「………………卑怯ものめ」
「嫌になったか?」
恨めしそうな視線。
にやりと笑って返事をしてやるけれど、本当のところ、ただの照れ隠しでしかなかった。

「いいや、そういうところもキミらしい。
 ――――とても、嬉しかった」
「………………っ」
かあっと顔に血が上る。
どうしてコイツは、涼しい顔でこんなこと言えるのか。
なんか、悔しい。

「な、もう一回…………」
「ん……」
甘えた声に応じて、もう一度唇を寄せる。

今度は、もっと深く。
口を開いて、互いの舌を絡めあわせる。
「――――う……ん、」
どちらともなく離れると、甘い吐息が頬に当たった。
ちらちらと合わさる視線が照れくさくて、無言のまま抱き寄せた。
「やっぱり男の子だな。見た目より、ずっとしっかりした体だ」
抱きしめられたまま俺の胸に頬を寄せて、そんなことを囁く。
「なに言ってんだよ。水泳部でエースはってる誰かさんと比べたらたるみまくりだ」
「そんなことない。肩幅もあるし、胸板も厚い。すごく、男らしくて、――ドキドキしてる」

……う、ぐ。

ドキドキしてるだって?
そんなのは、こっちの科白だ。
腕の中の体は折れそうなほど細くて、潰れてしまいそうなほど柔らかくて、
まさしく女の子のものだったから。

「………………」
「……………………」
「…………なにか当たってるぞ?」
「…………すまん」
だって男の子だし。
48稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/18(日) 08:32:21 ID:46rDr0yE
素直クールってこんな感じですか!全然分かりません!
多分エロに続きます
素直クールっ娘を書いてみたかっただけなので、他意はありません

『cat girl』のほうも年明け前には復活したいと思ってますYO!
がんばって完結させますんで、気長に待っててください
49名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 08:50:19 ID:2bpksI9H
(・∀・)イイヨーイイヨー
50名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 13:27:54 ID:g955Sc9K
GJ!
最近職人さんが増えてきましたね
一人は新人ながら人物の趣味に2ちゃんを入れ、新しい境地に挑戦する新人”異端児”職人(いい意味で)
もう一人は実力はすでに折り紙つきで、そのたぐい稀な文章力で住人達を感動させてきたベテラン”神”職人
どちらもワクテカしてまってます
51名無しさん@ピンキー:2005/12/18(日) 23:44:36 ID:kRBCHpSX
きたよきたよ〜(*´∇`*)待ってて良かったぁ('ー ' *)
52名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 00:02:19 ID:Zfwy8nzU
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
とうとう稲負鳥氏が降臨なさった……

catはワクテカしてます
53名無しさん@ピンキー:2005/12/19(月) 12:51:34 ID:4wWVqQxF
まさかあんたがクーデレスレを覗いているとは……
54名無しさん@ピンキー:2005/12/21(水) 23:52:19 ID:/Tb2flJz
稲負鳥さん、遅くなりましたがGJです!!!
エロに続くんですか!?楽しみ!
cat girlの方も待ってます!

前スレ915さんも待ってますよ!
55名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 02:19:15 ID:4G6aBb52
<<53
クーデレスレ!?詳しく教えてくれ
56名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 17:14:44 ID:4G6aBb52
言い忘れたorz
稲負鳥さんGJです!Catのほうも期待しつつ待ってます!
57名無しさん@ピンキー:2005/12/22(木) 22:44:38 ID:IOm4cvlD
GJ!
賑やかになってきましたね

俺は書く時間が欲しい・・・
58名無しさん@ピンキー:2005/12/24(土) 15:31:15 ID:N4E8bxp7
>>55
素直クールでぐぐる

耳慣れない言葉があったらそれで検索を癖に
質問に誰かが答えてくれるとは限らないので
そのほうが早いと思いますよ

>>48
つづき待ってますよGJ!
GkRPJL.Q4U さんの作品はしばしばヒロイン以上に語り手が可愛(ry
59名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 22:06:34 ID:ZkFddVbz
マダカナ〜
60名無しさん@ピンキー:2005/12/27(火) 22:12:20 ID:rnite4T6
まぁとりあえず・・・
Can't〜の人俺はいつまでも待ってますから是非完成させてください
m(_ _)m
61稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:43:55 ID:WIznQIE7
>>45の続き、投下しまーす
62she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:44:37 ID:WIznQIE7
「別に謝る必要はないんだが――――っん、」
予告もなしに肩に回していた手で胸に触れると、上ずった声が跳ねた。
「胸……、弱かったっけ?」
耳元で囁いて、うなじに沿って舌を這わせる。
動きにあわせて形を変えるふくらみは、まるで見繕ったようにぴったりと手の中に収まった。
「キミが――――、触って、くれるから……ッ、」
「……可愛いこと言うじゃないか」
途切れ途切れの声を聞いていれば、否が応でも興奮は高まっていく。

全体をこねるように揉んだり、服の上からでもわかる突起をぐりぐりと指で苛めてみたり。
「ふ、ぁ……、私、も――――」
されるがままに息を乱していた彼女が、うわ言のように呟いてもぞもぞと身を捩じらせる。
なんだ、一体何すんのかなんてと思ってたら、
「――――――ッ」
いきなり下半身をつかまれて、息が止まった。
まだ八分咲きだった海綿体に、一気に血液が流れこむ。
「ん――――ふふ、どんどん熱くなってくるのが、布越しにもわかる……」
悪戯っぽく笑って、手を上下に動かし出した。
ズボンの上からとはいえ、じんわりとした快感が腰からにじむ。
当然、みるみる容積を増すマイサンは、パンツの狭さに悲鳴を上げ始める。

「……服、脱がすぞ」
戦況はやや不利。
脱衣にて、アイデンティティーの奪還を目指す。

違う、イニシアチブだ。

「うん……、脱がしてくれ」
そう言って目を閉じたのを確認すると、あんまりに飾り気のなさ過ぎるトレーナーに手をかけた。
へその辺りまでまくりあげると、痛いそうなくらい白い肌が目にうつる。

そこで、なんだか不意に心配になって、手を止めた。
「……寒くないか?」
今はもう冬真っ盛り。
部屋の中とはいえ、良い暖房器具が入ってるわけでもない。
素っ裸でいるには寒いかもだ。
「一回シャワーでも浴びてから……――――」
顔をあげ、ちょっとだけ体を起こす。
そのまま離れてしまうと思ったのか、引き止めるように彼女は手を回してきた。
「確かに少々肌寒いが、それも肌を重ねていればきっと平気だ」
「だからって、風邪でも引いたら面倒だろ」
「心配してくれてるのか?」
歯を見せて笑っている。
「…………俺が風邪引きたくないだけだよ」
素直になれないのは我ながら悪い癖だ。
受け止めきれなくて、いつだって誤魔化してしまう。
少しは見習わなくちゃいけない。
俺はそんなことを思っているっていうのに、向こうは更に笑みを深くしていたりする。
「でも、すまない。私が我慢できないんだ。
 ――――ほら、もうこんなに濡れている」
手をとられ、スカートの、更にその奥へと導かれる。
指先が触れれば、小さな水音が聞こえた気がした。
63she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:45:20 ID:WIznQIE7
「…………エロくなったなぁ、お前」
子供の成長を喜ぶ父親のようにしみじみと言う。
流石に少しは照れるかと思ったが、やっぱりけろりとした顔で返された。
「好いてる人間とできるのだから、当然だ」
あんまりに真っ直ぐな表現に、照れるのはこっちのほうだ。
なんというか、相手のほうが一枚上手。
調子乱されっぱなしだった。
「……しょうがない奴」
まあ俺も十分に準備オッケーなんだけど。
それじゃあと、こっちも行為に集中する。

「っ、ぁ――――ん」
触れた指をそのまま撫でるように動かすと、半開きの口から色っぽい声がこぼれた。
ただその声がもっと聞きたい一心で、より近く、体を寄せ合う。

トレーナーをちょうど胸の高さまでたくし上げて、下着をずらす。
現れた淡い桃色の蕾に軽い眩暈を覚えながら、口をつけた。
うっすらと広がる汗のしょっぱさも、興奮を煽る材料でしかない。

「ふ――――ぁ……、きもち、い――――ッ」」
指は膣(なか)へは入れず、執拗に入り口付近の陰核を優しく撫でてやる。
経験上、そっちのほうが反応が良かった。
固くしこった陰核を軽くつまんでやると、蕩けるような声が快感を素直に言葉にした。
こみ上げてくるのはきっと欲情よりも愛情だ。
こうして触れ合ってるだけなのに、言葉にするのが恥ずかしいくらい、愛しい。

だから、もっと。
もっと、気持ちよくなって欲しい、なんて思ってしまう。

…いや、まあ。
正直に言えば、自分がちょっと辛かったというのもあるのだけれども。

「入れても……?」
彼女はすぐに頷いてくれた。
下に手を伸ばして、スカートの下のショーツだけ脱がす。
全部脱ぐのはやっぱり寒そうだから、服は肌蹴させるだけにしておいた。
やられっぱなしが嫌らしいので、こっちの下は彼女に脱がしてもらう。
熱く硬くなったそれが、外気に触れてぴくんと跳ねた。

彼女らしい長い黒髪を梳かす様に撫でてやると、安心したのか体から力が抜けていくのがわかる。
それを見計らって、出来るだけゆっくり腰を突き入れた。

「ぅ……ん――――、」
もう何度も繰り返してきた行為だというのに、彼女の膣はひどくきつい。
十分に濡れているはずなのに、すべての異物を拒むかのように締め付ける。
こちらの快感が上がる分、少し荒くすれば、彼女には苦痛だけになってしまう。
もともと、膣では感じにくい体質なのかもしれない。
それでも彼女は、俺を受け入れたがるのだ。

「っ、く――――ぁ、」
飲み込まれそうな快感で暴走しそうになりながら、緩やかな動作を心がける。
自分だけ気持ちよくなりたいのなら自家発電でもしてればいい。
この行為には、もっと大切な意味が必要だ。
64she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:46:05 ID:WIznQIE7
「ん……、ん――――」
抱き寄せるように唇を吸う。
舌を絡めながら、うなじから胸を撫でる。
少しずつ、少しずつ。
とろ火で煮詰めるように、行為は深くなっていく。

「――――――ッ」
名前を、呼ばれる。
締め付けはもう痛いくらい。
ただ、息を切らしながら伸ばされた手を握り返す。

「っ――――も、う……」
先に音をあげるのは男の俺のほう。
きつすぎるし、気持ち良すぎる。
ちょっと早すぎるなんてなけなしの意地がちらつくのだが、
「いい、よ……、な、かに、出して――――ッ」
男の意地なんて、そんな顔をされてしまうとあっけなく崩れ去るのだった。

無理。
絶対無理。

我慢するだけ無駄だと悟った瞬間が、限界だった。
「っ、っ…………!」
二度、三度。
体ごと震わせながら、滾りに滾った欲望を吐き出す。
「は……ぁ…………、お腹に、たくさん…………、」
それをうっとりと受け入れる彼女が愛しくて、最後に長い口づけを交わした。


・・・


「念のため聞いとくが、今日は、安全日――」
「じゃないぞ、勿論」
ああ、やっぱり。

事が終わって、とりあえず二人で毛布に包まると、擦り寄ってくる彼女がさっきからなんか妙に嬉しそうにお腹を撫でていることに気が付いた。
ようやっと冷めてきた頭で、学生としては当然の心配を口にすると、案の定な答えが返ってきてしまった。

「あー……」
天を仰ぐ。
見えるのは狭い上に薄汚いアパートの天井だった。

「と言っても、安全日ではないだけで、危険日というわけでもないんだが……」
「いや、そういう問題じゃないし」
こういうのはやっぱ、けじめの問題だろう。

大体、安全日だとか安全日じゃないだとか、中だとか外だとかじゃなくて、そもそもゴムつけてない時点で駄目でした。
俺の馬鹿。ばーか。
うう、その微笑みが小憎らしい。
65she_is_cool! ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:46:51 ID:WIznQIE7
「……まあ、やっちゃったもんはしょうがないんだけど、」
今回で当たっちゃったら、神様のプレゼントということで。
「けど、なんだ?」
「せめて……せめて、そうだな、お前が卒業するまで待ってくれ」
気恥ずかしさに目をそらせて、いつもの説教のような口調で、告げた。
こんな勢いみたいな形で言うのは不本意だが、そろそろ腹を括ってちゃんと形にしようと思ってたし。

冷静な彼女も、流石に今回ばかりは目をパチクリさせて、……と、思ったらまたいつもの微笑を浮かべて、
「それはつまり、プロポーズということで良いのか?」
なんて身も蓋もない要約される。
こっちはざっくり照れ隠しを切り捨てられて羞恥心に悶えながら、黙って頷いた。
ああ――、と、返ってくる嬉しそうな声。
「本当に、嬉しい。 ――――ありがとう」
それをそのまま言葉にして、彼女は、ぎゅう、と抱きついてきた。


「……ところで、」
素直に喜ばれて、なんかときめいてしまった。
「なんだ?」
「お前、さっきイってなかったよな?」
毛布を被ったまま、もう一度上から覆いかぶさる。
「あ、いや、確かにその通りだが、私としてはキミが満足してくれれば、」
お、珍しく慌ててやがる。
「いーや、駄目だ。 俺だけイって終わったんじゃ、俺が下手糞みたいじゃないか」
「そんなことはない、キミの技量は十分だ。 だが、これはやっぱり――――」
「いいから。 ちょっと黙ってろって」
ごにょごにょと要らん事を言う唇を、唇で塞いでやった。



・・・・・・



「…………もう終わり?」
「ごめんなさいすいませんそんなもの欲しげな顔しないで下さいもう出ませんごめんなさい」


    おわり。
66稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2005/12/30(金) 01:47:40 ID:WIznQIE7
以上です
さくっと書けると思ったら、2週間近くかかってしまいました
申し訳ない

素直クールでエロって難しいよー
出来上がったのも、なんか別物のような気がしてなりません
やはり自然発生したものではないから不自然なのか
エスペラント語みたいなものか
どうでもいいか

まあ、少しでもスレの賑わいになれば幸いです

では、皆さん良いお年を
67名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 07:20:18 ID:hIHFHIdq
GJ!!
非常に良かったです。素直クール可愛いなあ・・・ツンデレ主人公も・・・
年納めに良いものをありがとう。
良いお年を!
68名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 07:43:29 ID:htJs3jgc
す、すげえ・・・
なんてGJな物を・・・やっぱあんたネ申だわ。
69名無しさん@ピンキー:2005/12/30(金) 10:05:54 ID:qjqC4hww
GJ!!!!
来年もぜひよろしくおねがいしますw
70名無しさん@ピンキー:2006/01/02(月) 22:25:55 ID:8ymdt7GW
GOD JOB!
71名無しさん@ピンキー:2006/01/02(月) 22:26:49 ID:8ymdt7GW
GOD JOB!!!!!

つか、皆様あけおめ。
72名無しさん@ピンキー:2006/01/05(木) 18:26:10 ID:Vrxq00k7
ほしゅ
73名無しさん@ピンキー:2006/01/06(金) 10:26:43 ID:xxYpn5zi
あげ
74名無しさん@ピンキー:2006/01/07(土) 00:10:56 ID:VQR61i7I
ほしゅ〜
75名無しさん@ピンキー:2006/01/07(土) 08:43:32 ID:dINfEHZD
人いねぇ…………………。


ROMってる人いる?
76名無しさん@ピンキー:2006/01/07(土) 09:50:55 ID:DsKVA1B7
うん
77名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 00:12:26 ID:zriLSkqc
いるよ
78名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 00:13:01 ID:vfIHSdiS
SSを書くと決意して一ヶ月…ぜんぜん書けないよ('A`)
79名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 00:26:10 ID:N7Y5oXPW
体育座りでずっと待ってるんですけどw
80名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 01:16:42 ID:6oezoLhO
未完成の大作結構のこってるよね
81名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 08:11:08 ID:sPlt/JYW
純愛道はシグルイなり
82名無しさん@ピンキー:2006/01/08(日) 23:22:27 ID:lTtwt0g0
まあ待て
83名無しさん@ピンキー:2006/01/10(火) 15:57:53 ID:rE7mQI4k
待ってま〜す。
84名無しさん@ピンキー:2006/01/12(木) 16:00:24 ID:ZZ4G/3Vd
マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
85名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 02:23:45 ID:1jBUglnD
誰かいないかな〜
86 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:41:35 ID:W24kXxiC
投下させてもらってもいいでしょうか。
ここはオリジナルの甘い話OKでしたよね……?
我侭な女性の一人称なので、苦手な方は是非スルーして下さい。
87喧嘩の理由 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:43:23 ID:W24kXxiC
今夜も絶対に許さないんだから。私は心に誓う。
でも、そもそも何が原因で喧嘩をはじめたんだろう。
脱いだスーツの上着を床にくしゃっと置いたこと?
解いだ靴下をソファの下にそのままにしていたこと?
それとも、うちで食べるといっていたご飯を、外で食べてきたこと?
なんでもいいいや、とにかく絶対に許さない。
私だって仕事で疲れているのに頑張ってご飯の支度をしたり洗濯をしたりしているんだ。
それなのに何その非協力的な態度! 裕介さんが土下座して謝るまで絶対に許さない!

小さなマンションの一室、玄関のドアが開く音に続いて、控え目な声が聞こえる。
「……ただいまー」
時間は深夜。照明はすべて消してある。裕介さんが小さな声で帰宅を告げるのは当然だ。
寒い外から帰ってきたら暖房の効いた室内に気が緩んだのだろう、息を吐くのが聞こえた。
続いて、玄関から1DKのダイニングキッチンへと、忍ばせた足音が進む。
寝室にしている隣の部屋で横になっている私は、その気配に注意を傾けた。
深夜まで仕事をしてきた彼のための食事の用意はしていない。昨夜の喧嘩の名残だ。
裕介さんは、キッチンで冷蔵庫を開けて覗いてみたりはしないで、寝室のドアに手をかけた。
「早紀さん、もう寝てしまった? 起きていたら、シュークリーム食べようよ。
 早紀さんの大好きなエン・ユンヌのシュークリーム、お昼休みに買っておいたんだよ」
真っ暗な部屋の中、ベッドの上で布団に潜り込んでいる私を、優しい声で誘う。
「早くおいでね。紅茶を淹れておくからね」
ぱたりとドアが閉まって、寝室は再び暗闇になった。

洋菓子ごときで私の怒りがおさまるとでも思ったのなら、甘い、甘いよ裕介さん。
私はのそりと身を起こし、ベッドから抜け出る。
目を瞑っても歩けるほどに馴れた、裕介さんのマンションの部屋だった。
暗がりの中、パジャマの上にカーディガンを羽織って、手ぐしで髪を整える。
怒りは収まらないけれども、エン・ユンヌのシュークリームは私の大好物だ。
さっくりとしているのに柔らかな皮は、小麦の香ばしさとバターのコクが絶妙に交わって、
カスタードクリームは程良い滑らかさの中にバニラの甘い香りと新鮮な卵の風味がたっぷりで
……ああ、あの味を思い返しただけでも口の中に唾液が溢れ出てきた。
多忙な仕事の合間においしいお菓子を買って来てくれた裕介さん、好きだー。
でも許せないー。
88喧嘩の理由 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:47:05 ID:W24kXxiC
寝室のドアを開けると、ダイニングの明るい照明が眩しくて、私は目を瞬かせた。
「お湯が沸いたよ。あと三分だけ待ってね。今から紅茶を蒸らしすところだから」
猫なで声の裕介さんを一瞥することさえせず、目が馴れた私はテーブルの上に視線を向ける。
二枚の小皿に一つづつ、見るだけでよだれが出そうなシュークリームが載せておいてあった。
「……」
何も言わずにテーブルにつき、紅茶ができあがるのを待つことにする。

砂時計のガラスの中で真っ白な砂が流れ落ちて、山を作っていく。すべて落ち切ったら三分。
うちのティーポットでダージリンを蒸らし、好みの濃さの紅茶を作るには、丁度良い時間だった。
砂の落ちるサラサラという音が聞こえるような、ポットの湯の中で茶葉が開くコポコポいう音が
聞こえてきそうな、そんな静寂の中で、無言のうちに時間が過ぎていく。
私は無言でいるのはちょっと苦手だ。相手に悪いような気がしてしまう。
でも裕介さんは無言で過ごす時間も嫌いではないらしい。
「好きな人といるならそれもまた楽しいよ」って言っていた。
ふと顔を上げて見ると、私を見詰めていた裕介さんと、視線が合った。
遅くまで仕事をして疲れているはずなのに、優しい笑顔を向けてくれる。

「……さあ、紅茶もできたよ」
ポットを取り上げ、ティーカップに熱い紅茶を注ぎ入れると、湯気と香りが立ち昇った。
ソーサーごと胸の高さに持ち上げて、そこからカップを口元まで運び、紅茶をすする。
テーブルに戻したら、次はいよいよシュークリームに取りかかる。
あむっと食べると、端からカスタードクリームがはみ出そうになり、すかさず舌で嘗め取る。
夢中で食べ終えると、裕介さんがお皿ごと、自分の分のシュークリームを勧めてくれた。
遠慮なんてしない、だって喧嘩中だから、黙ってもう一つ食べ終えて、ようやく満足する。

同じように黙っていた裕介さんも、飲み干したのか、カップをテーブルに置いた。
残った紅茶をズズッとすすりながら、私は裕介さんの次の行動を覗う。
彼は空いた小皿を重ね、自分の使ったティーカップと共に流しに運んだ。
――普段は食器を下げるなんてことしないのに、やればできるんだなー。
それだけでは終わらない、なんと洗剤を垂らしたスポンジで食器を洗いはじめた。
――普段は食器洗いなんてやならいのに、やればできるんだなー。
洗い終えた食器をカゴに伏せて、その上に乾いた布巾を掛けて、ひとまず完了。
拭いて食器棚に戻さなかったので満点はあげられないけれども、
埃をかぶらないように、布巾を掛けておく配慮はいい。
――やればできるんだから、普段から実行してくれればいいのになー。

……怒りが、再燃してきた。
89喧嘩の理由 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:48:13 ID:W24kXxiC
食べる物は食べたし、うん、もう寝よう。私は立ち上がった。
広くもないマンションだから、寝室へ続くドアはすぐそこ。
私はドアを細く開けて、暗い寝室に体を滑り込ませる。
その後ろからさらにドアを大きく開いて裕介さんが続いた。
ベッドに歩み寄る私の背後に近付いて、そのまま距離を詰め、寄り添おうとする。
そうはいかないんだから。私は振り向いて、裕介さんに向き合った。
「……っ!」
抗議の声をあげる間もなく、裕介さんが私を強く抱き寄せる。
彼の胸のあたりに顔を押し付けられて、声が出せないだけでなく、息苦しさも感じる。
背中に回された両腕は優しいけれども力強くて、私の力で振り払うことはできない。
しばらくそのままでいると、ワイシャツ越しに、だんだん彼の体温が伝わってくる。
それはこれまで何度も感じてきた温かさで、私はちょっと泣きたいような気分になる。
「……シュークリーム、おいしかった?」
だから、彼の問いに、ちょっとだけ頷くような素振りを見せた。

……男を甘やかしてはいけないね。うん。私はひとつの教訓を得た。

いきなり私は仰向けに押し倒される。
「今度はぼくが味わう番だね」
何そのセリフ! 何その怪しい微笑み!
心の中で絶叫する私にはお構いなしに、裕介さんは私に覆い被さってきた。
マットの上にかけた厚い羽布団の上に押し倒されたから、
体が布団に沈み込んで動きにくく、抵抗できない。
両腕を抑えつけられ、もがく両足の間に裕介さんが入り込んだ。
「早紀さん、シャンプーの香りがする。ぼくもシャワーを浴びてくればよかったね。
 でもいいよね、だって早紀さんがあまりにおいしそうで、もう我慢できないからさ」
裕介さんが耳元で囁く。吐く息がかかって、くすぐったい……そうして、つい
「……っん!」
声が漏れる。耳を攻められるのには弱いのだ。呼気がかからない方向に頭を逸らす。
「ねえ、逃げなくていいんだよ。早紀さんに気持ち良くなってもらいたんだから」
また耳元でひそめた声がして、私は逃げきれずに喉を反らして快感を味わった。
裕介さんの手がカーディガンを捲り上げ、パジャマの上から私の胸に触れる。
小さいのがコンプレックスだった。小さくても好きだと言ってくれたのは、この人だった。
「……やぁ……んっ、……私、まだっ」
堅くなった先がパジャマの生地の上からでも分かるのか、裕介さんの指が留まる。
彼の指先一つでこんなにも感じてしまう自分がいて、吐息と共に言葉を吐き出す。
「……怒ってる、のっ!」
「怒っている早紀さんも大好きだよ」
彼の言葉に体が熱くなるのを感じる。
肌の赤味が強まって、それがきっと彼にも分かったのだろう。
笑いを漏らした唇が、そのまま私の首筋を辿った。
90喧嘩の理由 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:50:52 ID:W24kXxiC
生地越しでは物足りなくて、裕介さんが寝巻のボタンを外していくのが、待ち遠しい。
この身をすべて任せたいと思えるほどに大好きな人の手が、やっと私の肌に触れる。
熱いのは、彼なのか、私の肌なのか、そんなことも分からなくなるくらいに。
「……ん……ぁんっ」
揉みしだかれる胸は、彼の指の動きのままに揺れ、
彼の舌が突起を嘗めまわしはじめて、二種類の快楽に我を忘れた。
つつかれたり、ついばまれたり、その度に感じて体を反らしてしまう。

裕介さんが下腹部に腕を伸ばした。
パジャマの下に手を差しいれて、下着の縁をなぞり、さらにその中に指を忍ばせる。
「……もう濡れているね」
うれしそうな響きを隠さずに声にして、そのままパジャマと下着を脱がせようとする。
軽く腰をあげて脱ぐ協力をしてしまう私はどうかしているに違いないよ。
足首に引っ掛かったパジャマと下着をもどかしげに放り出し、
彼は大きく割り広げた太腿の間に上体を屈ませる。
「っ、…………ぁあ、ん!」
軽く息を吹きかけられて声を上げかけたところに、舌で転がされた。
嬌声が高くなる。自分自身のその声が恥ずかしくて、もっと濡れていく。

裕介さんは体を起して、手早く服を脱ぎ捨てると、膝を腿の間に進めた。
ぬかるんだ箇所に、裕介さんの先端が擦りつけられ、強く押しつけられ……
そのままゆっくりと中に埋まって、私がずっと欲しかった刺激を与えてくれる。
与えられるだけではイヤだから、私は腕を伸ばして裕介さんの頭を胸に抱き寄せた。
「これでは動けないよ?」
と裕介さんが笑った。笑ったはずみに体が揺れた。気持ちよくて膣がきゅっと締まる。
「……こんなに締めつけられてはね?」
「や……ぁん、そんなこと、して、な……っ!!」
中を広げるようにゆっくりとかき回されて、言葉が途切れた。
裕介さんは膝立ちになり、私の腰を両腕で支え、ゆるやかな抽送を始める。
ゆっくりと抜き差しする度に内側が擦れて、そこから快感が生まれる。
しがみつくところが欲しくて腕を伸ばし、シーツを握り締めて、快感を逃がそうと思う。
でも、後から後から生まれてくる快感は、どんどん増して大きくなっていくばかりで。
「ゆ――すけぇ……も、ダメ……っ!」
「早紀さん、いって……ぼくも、もう」
奥まで突かれて。何度も奥まで貫かれて。
その瞬間、中でどくっと脈打ったのを感じて。
私も、下肢を小刻みにひくつかせながら、達してしまった。
91喧嘩の理由 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/14(土) 02:51:46 ID:W24kXxiC
気持ちは限りなく幸せに満たされて……体がダルイ。
こんなの毎晩なんて到底できない。
とてもじゃないれど体がもたない。
「ぼくが食器洗ったり洗濯したりするからさ、だから、明日の夜も、いいでしょう?」
「無理ダメできない」
「料理は早紀さんにやってもらいたいなー。早紀さんのつくるご飯、おいしいからー」
「却下不許可棄却」
「いや却下と棄却は違うもののような」
「審理せずに却下して、その後一応審理してみたらやっぱり棄却だったの」
「えー」
「大の男が我侭言うんじゃありません」
「いや男だから。早紀さんのことを大好きな男だから、欲しくなるわけなんだよね」
「毎晩なんて絶対無理」
……これだ、これだったんだ、喧嘩の理由。


                おしまい。
92名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 02:56:10 ID:ebZWyv+p
夜中にシュークリーム食べたくなったジャマイカ
93名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 08:56:51 ID:qIdjq7pV
GJ!
おもしろいしエロもあるしよかったよ!
94名無しさん@ピンキー:2006/01/14(土) 09:07:25 ID:1jBUglnD
GJ

アマーイ
甘すぎるよ小沢さ〜ん

とスピードワゴンのイトダの声が脳裏をよぎった

95 ◆4sd8GEx9s2 :2006/01/16(月) 00:37:07 ID:gXpVgedO
すいません、チェックしたつもりが>>91で脱字発見……
誤とてもじゃないれど体がもたない。
正とてもじゃないけれど体がもたない。

>>92-94
読んで下さってありがとうございます。
またスレの趣旨に合うものが書けたら投下させて頂きますね。
96名無しさん@ピンキー:2006/01/18(水) 22:41:42 ID:bRrc4Yf+
また静かになってしまった…
97名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 00:25:22 ID:TxiQkxlW
きっと前スレ915が今度こそ100あたりから透過してくれるんだよ!保守
98名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 01:59:26 ID:86prgm6N
希望するシチュエーションとかありますか?
ご希望に添えるかどうかは分からないけれども
できる範囲で頑張ってみようと思ってみました。
99名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 09:18:24 ID:KzazigXA
>>98

「幼馴染純愛」

みました って・・・・・・過去形か・・・・
100名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 11:57:59 ID:9AjVb3mR
やはり王道の
学校内純愛かな
101前スレ915:2006/01/19(木) 12:40:33 ID:B/dB9gX2
一応大筋は出来てるんだけど、年末から仕事が忙しくて書けてません
これからも暇を見つけて少しずつ書いていきますが、もうしばらく忙しいのが続きそうです
投下は三月以降になるかと…
出来る限り急いで投下できる所まで書き上げるので、もう少し待ってください
ずっと投下できない&言い訳スマソorz

102名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 22:38:49 ID:86prgm6N
>>99
いやいや、現在進行形ですよ英語で言えば。
日本語って難しい……と思う私でよろしければ、
鋭意努力致す方向で善処するつもりでおります。ええ。

幼馴染か学校内ですね。はい、ちょっと考えてみます。
103名無しさん@ピンキー:2006/01/19(木) 22:59:10 ID:9AjVb3mR
ありがとうございますm(_ _)m
是非このスレに潤いを
104稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:49:49 ID:cbG4KYuh
実に約半年振り。
誰だお前、って人はここ↓の該当箇所読んでもらうか、めんどくさいならスルーしちゃってください。
ttp://red.ribbon.to/~eroparo/original2.html

で、まあ、投下します。
今回の投下の頭のほうと後ろのほうは大分書いた時期が違うので、
ざっと目を通したつもりですが変なところあったらごめんなさい。
105cat_girl ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:50:35 ID:cbG4KYuh
ため息が灰色の雲のように沈殿した部屋に、呼び鈴の音が弾んだ。

「はぁ……」
また新しいため息が床に溜まる。
結局ちっとも眠れず、布団の中でうじうじしてる間中、暗い気分は悪化していくばかり。
それでも当たり前のように鳴る腹を、ありあわせの昼食で黙らせたところだった。

「ただいまぁっ!」
「……おかえり。」
扉を開ければ、爛漫と笑う昌が立っていた。
自分の家のような顔をして帰ってくる昌に呆れながらも、開け放たれた扉のおかげで、多少空気が入れ替わった気がする。

「で? 用事は済んだのか?」
「うん。居なかったから、荷物だけ勝手に持って帰ってきちゃった。」
そうか、と頷くと、昌は年寄り臭い掛け声と共に大き目のトランクを部屋に上げる。
うへぇ、また部屋が狭くなりそうだな。
「あ、ほかにダンボールがいくつか来るから、よろしく。」
すでに部屋の面積の勘定をしている俺に向かって、昌は平然と付け加えた。
「そうか、俺が外で寝ればいいんだな。」
「へ?」
「……いや、なんでもない。」
きっとなんとかなるさ。
いざとなったら立って寝てやるぜ。

「あ、それとね、――――遠峯さんに会ったよ。」
あはは、と虚ろな笑みを浮かべて遠くを見ていると、突然、予想だにしない名前が耳に飛び込んでくる。
まるで、とっておきを披露するようなリズムで。
「どこでだ?」
それに、まんまと食いついてしまう。
「帰り道に、ぐーぜん。」
だらしなく間延びした答え。
俺はよっぽど情けない顔をしていたのだろうか、昌はくすくす、意地悪く笑いながら続けた。
「別にちょっと一緒にお茶飲んで、世間話しただけなんだけどね。」
昌は明るい口調でそんなことを言っているけれど、恐らく、二人の話題はこの俺が中心だったのだろう。
自意識過剰でも自惚れでもなんでもなく、彼女らの接点といったらそれしかない。
隠し事があるわけでもないのに落ち着かない気分になるのは、見当違いな罪悪感かもしれない。

俺はどんな返事をしたのか、昌は軽快に話題を変えた。
「ね、私まだお昼食べてないんだけど、なんかない?」
「あ、ああ。俺もありあわせで済ませたところだったしなぁ……」
ぱっと出るものは残ってなかったと思う。
「じゃー……、昨日私が作った肉じゃがの出来損ないでいいや。まだあるでしょ?」
「ん? や、それがまさに俺の昼飯だ。」
残念でした。
いつまでも、あると思うな、お金と食べ物。

「……嘘。あれ、食べちゃったの?」
「なんだよ。元はといえば俺のじゃがいもだろ。」

「そうじゃなくてッ! あんなの、食べられたものじゃなかったでしょ?」
どこかそわそわしている昌。
その割に言ってることは可愛いもんで、ちょっと拍子抜けする。
「確かに味は褒められたもんじゃなかったけど……」
というか、はっきり言えばひどかったのだが。
そこそこ貧乏学生している俺とっちゃ、あれくらい許容範囲である。
106cat_girl ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:51:28 ID:cbG4KYuh

…実は変な使命感に駆られたっていうのも少なからずあるのだが、それは秘密だ。

なんとなく、先ほど布団の中で幾度もリフレインされていた昨晩のことを思い出してしまいそうで、慌てて話をそらす。
「腹減ってんだろ、なんか作ろうか?」
「いいよ、わざわざ。コンビニ弁当でも買ってきちゃうから。」
不貞腐れてるのか照れてるのか、昌は唇を突き出しながら答える。

「そうとなったらすぐ行ってきちゃうけど、なんかついでに買ってきて欲しいものある?」
「んー…、じゃあ、なんか適当なつまみ頼む。」
ビールはまだ残ってるはずだし。

「…キミって、意外とお酒好きだねぇ。」
何が意外となのか知らないが、昌はそう言って笑う。
本当は酒でも飲まないことには間が持たないだけだったのだが、別に普通だろ、なんて素っ気ない言葉を返した。




「――――で、だ。」
もぐもぐとコンビニ弁当をほうばる昌と向かい合う。
兎にも角にも共同生活をすることになったからには、色々と確認しておかなければならないことがある。
それにしても、女性がコンビニ弁当、それもチャーハンとギョーザ(チャーギョーと略すらしい)なんて食べているのは絵的に美しくない、とかどうでもいいな。

「俺は基本的に土日以外は学校があるんだが、お前は?」
「もが?」
もが、じゃねーよ。
差し出してやったお茶を受け取ってぐびぐびとコップ一杯飲み干すと、大きく息を吐いた。
「お店は火曜定休日だから、それ以外はほとんど毎日お仕事かな。」
「時間は?」
「お昼過ぎから、何事もなければ12時ぐらいまで。たまーに朝帰りとかあるかも。」
「ふむ。」
つぐづぐ水商売って感じだなぁ、なんて改めて思う。
「じゃあ、だいたい入れ替わりになるな。 鍵は――、郵便受けに入れとけば良いか。」
万が一怪しい奴に入られたとしても、盗るもんなんてないだろうしな。
「……………………、」
「……なんだよ。」
気付けば、昌はコンビニでもらったプラスティックのスプーンを止めて、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「や、なんだか新婚さんみたいだなぁ…、と思って。」
人が考えまいとしていたことを、心なしか嬉しそうに呟く昌。
というか、新婚さんはきちんと合鍵を用意するだろうし、どちらかというとこれはし始めの同棲カップルと言ったほうが…、ってさらにまんまだな。
「うっせぇ馬鹿。お前とそんな色っぽい間柄になった覚えは、ない。」
アクセントを"ない"に置いて、ばっさりきっぱり否定する。
こんなんでいちいち動揺なんかしていたら相手の思う壺である。
「なによう、つれないなぁ。 ……あれ、そういえばバイトしてるんじゃなかったっけ?」
「別に定期的にやってるわけじゃない。知り合いのところだから多少の融通は利くんだよ。」
「ふーん……」
最後の一粒まで舐めるように平らげて、最後にまたお茶を一口。
ごちそうさまっ、と手を合わせ、小さく微笑んだ。
能天気な奴、と無意味に心の中で毒づいてみる。
107cat_girl ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:52:11 ID:cbG4KYuh

「…………さて、」
「うん?」
「………………買い物行ってくる。」
間が持ちません。
そそくさと立ち上がる俺を、昌の丸い目が追うように見上げる。
「昨日も行ったのにまた行くの?」
「……買いだめはしない主義なんだ。」
買いだめしないというのは本当だが、今のは間違いなくこの場を離れたいがための言い逃れだ。

「…じゃあ、私も行くっ!」
わーっ! と昌が元気良く手を上げる。
「はい?」
「だってほら、一人より二人でお金出したほうが美味しいもの食べられそうじゃない?」
なるほど。
最近、食事になんか気を使ってなかったし、たまにはそれも良いような気もする。

のだが、
「というか、お前。食費出さないつもりだった?」
「え?」
一時停止。
「いや、間借り賃は五百円でも良いけど、流石に三食つけてたら俺が生活できません。」
そこんところどうなのよ、社会人さん。
「や、やだなぁ! そんなわけないって!」
「うん。わかった。皆まで言うな。」
全然そんなつもりなかったんだなということが良くわかりました。

「まあ、いいや。今回は、引っ越し祝いということで。」
「そう、それ! まさにそれよ!」
「…あくまで仮住まいだからな。あんまり居着くなよ。」

そんなわけで、二人並んでの買い物に出向くことと相成ったわけである。



協議の結果、メニューはすき焼きに決定。
一人にで食うには少し贅沢な肉と、春菊・白滝・豆腐というお馴染みの面々を、たっぷりの時間をかけて吟味して、ビニール袋に下げて帰宅するころには、ちょうど夕食時といったところだった。
約一年ぶりに日の目を浴びたすき焼き鍋の被りかけた埃を払い、コンロと一緒にセッティングする。
手順を思い出し思い出し、あとは煮ながら食うだけまでなんとか完成した。
無邪気に感動の声を上げる昌の隣で、やれやれどうにか、と息を吐く。
ぐつぐつと、タレが煮え立つ音。
優しい熱気を感じながら、鍋物の醍醐味になんとなく安心する。

「…しかし、一人暮らしでよくすき焼き鍋なんか持ってるね。」
昌は誰よりも早く肉を頬張っていた。
ほとんど全部俺が準備したって言うのに、憎たらしい奴だ。
「結構学校から近いからな。よく人が集まって、みんなで鍋をつつくことになったりするんだよ。」
玉子を溶きながら俺も鍋をのぞき込む。
まずは肉を一枚。
…うん。
肉が良いのか、すき焼きの魔力だか知らないが、久し振りに旨かった。

108cat_girl ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:53:13 ID:cbG4KYuh

「そーだそーだ。これを忘れちゃいけないよー、っと。」
取り出されたのは、さっき二人で買ったシャンパンだ。
たいして高くはなかったけれど、シャンパン自体そう頻繁に飲むものでもないし、それくらいがちょうどいい。
「なんかお祝いみたいだな。」
自然と笑みがこぼれた。
合わせて、昌も小さく笑う。
「"みたい"じゃなくて、どうせならお祝いってことにしちゃいましょう。」
ポン、と軽快な音を立ててシャンパンの口が開く。
互いのグラスにシャンパンが注がれ、それを食卓の上で掲げあった。


「…何を祝うんだ?」
「それは勿論、二人の同棲生活の始まりでしょ。」
「束の間の共同生活の始まりだな。」
「むぅ、しょうがない、じゃあ、二人の出会いに。」
「……まあ、それならいいか。」
「よろしい。…………それじゃあ、改めて――――よろしくっ!」
「ああ、こちらこそ、よろしく。」
乾杯の声の後、細やかな祝砲が二人の間に響いた。



――――まったく。

成り行きとはいえ、妙なことになったもんだ。


ずっと付きまとっていた灰色の気分は、いつの間にか、キレイさっぱり、消えていた。
109稲負鳥 ◆GkRPJL.Q4U :2006/01/20(金) 15:54:06 ID:cbG4KYuh
キョウハココマデ
次の投下の予定は未定。

相変わらずぬるい展開ですね。
もっとエキセントリックなものを書いてみたい。
110名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 18:43:21 ID:2dzCsOBx
キテターーーー
GJ!!!!!!
111名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 19:38:57 ID:rdt6Z6nB
GJ!!
しかし、前の投下から半年も経っているんだな
112名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 20:22:43 ID:27WeJiY3
          ,,-'  _,,-''"      "''- ,,_   ̄"''-,,__  ''--,,__
           ,,-''"  ,, --''"ニ_―- _  ''-,,_    ゞ    "-
          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {
         ("  ./   i {;;;;;;;i|    .|i;;;;;;) ,ノ    ii
     ,,       (    l, `'-i|    |i;;-'     ,,-'"   _,,-"
     "'-,,     `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '"  _,,--''"
         ̄"''-- _-'':::::" ̄::::::::::::::::;;;;----;;;;;;;;::::`::"''::---,,_  __,,-''"
        ._,,-'ニ-''ニ--''" ̄.i| ̄   |i-----,, ̄`"''-;;::''-`-,,
      ,,-''::::二-''"     .--i|     .|i          "- ;;:::`、
    ._,-"::::/    ̄"''---  i|     |i            ヽ::::i
    .(:::::{:(i(____         i|     .|i          _,,-':/:::}
     `''-,_ヽ:::::''- ,,__,,,, _______i|      .|i--__,,----..--'''":::::ノ,,-'
       "--;;;;;;;;;;;;;;;;;""''--;;i|      .|i二;;;;;::---;;;;;;;::--''"~
               ̄ ̄"..i|       .|i
                 .i|        |i
                 i|        |i
                 .i|          .|i
キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
                .i|           |i
               .i|      ,,-、 、  |i
               i|      ノ::::i:::トiヽ、_.|i
           _,,  i|/"ヽ/:iヽ!::::::::ノ:::::Λ::::ヽ|i__n、ト、
     ,,/^ヽ,-''":::i/::::::::/:::::|i/;;;;;;/::::;;;;ノ⌒ヽノ::::::::::::ヽ,_Λ
     ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;;:::/;;;;;;:::::::::;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::;;:;;;;:::ヽ

長かった……
とうとうこの時がきたのか……
113名無しさん@ピンキー:2006/01/20(金) 23:01:04 ID:X2qH5nUj
稲負鳥さんキテター!

∧_∧
( ´・ω・) …待ってた甲斐がありました。
( つ旦O 
と_)_)
114名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 00:53:06 ID:SGkFjIaj
GJ!!
115名無しさん@ピンキー:2006/01/23(月) 01:02:30 ID:cIUGE6k9
人稲杉
116名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 19:59:25 ID:kKCHk6NO
だれか〜(゜Д゜;)
だれかいないのか〜
117名無しさん@ピンキー:2006/01/26(木) 20:05:03 ID:dBqHKtWK
いるよ
118名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 01:17:30 ID:YJDZaubI
ノシ

定期的に覗いてるよ〜。
119名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 14:56:50 ID:vOHZoXoI
いますよ〜
120名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 15:25:38 ID:x0pmFiLy
いません^^
121名無しさん@ピンキー:2006/01/27(金) 22:47:13 ID:NXKv/IVI
しかし過疎スレになったなぁー
122名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 13:16:36 ID:Cscc8pHB
一時期出だしだけばらまいていったやつらも全然続き書かないしな

完結させるのは面白いとかつまんないとかそれ以前の問題だと思うんだがなぁ

まぁスレ的にエロだけの短いのが落としにくいからどうしても長編にしたくなるのはわかるんだけどね
123名無しさん@ピンキー:2006/01/28(土) 22:44:48 ID:KO7PZHkx
面白くなりそうなやつが沢山あるのでなおのこと残念だよね

124名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 16:01:11 ID:FDmO8roO
>>122
確かに未完のって価値がないとか以前につけようもないしね。
125名無しさん@ピンキー:2006/01/29(日) 18:57:34 ID:jqBRE4jJ
うぉぉぉぉ・・・・
今北!
稲負鳥タンキタタタタタタタタタ━(゚(゚ω(゚ω゚(☆ω☆)゚ω゚)ω゚)゚)タタタタタタタタタ━!!!!!
126名無しさん@ピンキー:2006/02/02(木) 21:51:28 ID:BWWH5r8f
ほしゅ
だれか〜
127名無しさん@ピンキー:2006/02/03(金) 03:14:38 ID:sc+Rrhly
>>107の>誰よりも
が何気にイイ味出してますね。
本筋とは関係ないけど、ちょっと気持ちがほっこりした
128名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 22:19:16 ID:uBg0ukrA
過疎(´・ω・)あげ
129タロー:2006/02/10(金) 22:35:13 ID:sgbnzt4A
お久しぶり
覚えてる人いるかな?

また書いたんだけど投下していいかな?
もしかしたらスレ違いの内容かもしれないけど…
130名無しさん@ピンキー:2006/02/10(金) 23:59:23 ID:WCNl7B0l
>129
どうぞ
お願いします
131あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:12:36 ID:Akm1SXHu
俺の名前は川崎雄太(かわさきゆうた)
実は俺には気になっている人がいる。
その人の名前は立花優香(たちばなゆうか)
うちのクラスの委員長で成績優秀だ。
容姿は俺的にはストライクど真ん中で目はクリッとしていて髪はストレート、そして眼鏡をかけている。
普段は大人しいほうだ。

俺は休み時間になり友達とじゃれて疲れたから椅子に座ってふと委員長のことを見ていたらこっちを向いてきて目が合った。
恥ずかしくなって目を反らしたけど委員長はクスッと笑っていて、それもまた可愛いかった。
132あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:14:09 ID:Akm1SXHu
そう考えているうちに休み時間は終わりまたダルイ授業になった。

授業も終わり、あとは帰るだけとなった。
「お〜い、川崎ぃ今日、暇ならどっか寄ってかねぇ?」
「あぁ、いいぜ〜」
そう言って友達と学校をでていきファーストフード店についた。
俺は食べたいもんを注文し出来立ての物を受け取り友達のところに行った。
2つのテーブルを4人で囲み話し合った。
「さて、川崎…お前気になってる人がいるらしいじゃん?」
「う!?どこでその情報を………?」
まだ、誰にも言ってないはずだ…。
133あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:15:32 ID:Akm1SXHu
「まぁ、ちょっとな…俺の情報網は広いからな」
フフフと笑いながらこっちを見てくる。
「で、誰なんだ?」
「……うちのクラスの……立花だよ…」
「マジ!?立花か〜、まぁけっこう可愛いもんな〜」「大人しいタイプがいいのか〜」
次々と感想を言っていく。「そんで次は………」

いろいろ話しているうちに周りは暗くなっていた。
「もうこんな時間か〜、そろそろ帰るか〜」
そういってぞろぞろと店をでていく。
「じゃあまた月曜な〜」
「おう!じゃあな〜」
そう言ってみんな別れた。
134あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:16:56 ID:Akm1SXHu
少し経って、日曜日。
「よっしゃ、今日はゲームの発売日だ!」
エロゲーなのだが…。
「じゃあ買いに行くかな〜」
家を出て電車に乗り大きな電気街に来た。
「ここで買うか〜」
ここはなんと1階から5階までが全てエロショップというすごいところだった。しかし俺はひるまない、欲しいものがあるから…。

エロゲーが売っているところは2階だった。
エレベーターを待つのが面倒だったから階段で行くことにした。
2階に着きお目当てのゲームを探した。
「えーと…どこにあるかなっと………お、あったあった」
135あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:18:40 ID:Akm1SXHu
そのゲームは『委員長におしおき!』というゲームだった。そのゲームに手を伸ばしゲームを取ろうとしたら誰かと手が重なった。
「……誰だ?
!!?立花?どうしたんだ?こんなとこで?」
「いや………偶然迷い混んじゃって…」
「え……?
ここは1階から5階まで………」
言ってる途中に立花の言葉がさえぎったった。
「川崎くん…そのゲーム買うの?」
136あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:20:58 ID:Akm1SXHu
「え?…あ!あ、いや…立花は買うのか…?」
「私は…買う……かな」
俺は自分でもわかるほどへこんだ顔をした。
「川崎くんはこのゲーム欲しい?」
「え?いや…立花が買うんならいいや………じゃあ俺は…」
そう言って俺が立ち去ろうとして
「待って」
立花が俺を呼び止めた。
「なんなら…私の家で………一緒にやらない?」
「………え?」


どうしてこういう展開になったのか理解が出来なかったがとりあえず立花のあとについて行った。
今日の立花はいつも以上にいいなぁとみとれていた。
そうこうしてるうちに立花の家についた。
137あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:22:51 ID:Akm1SXHu
「どうぞ…今日は誰もいないから…」
それはもしや…と心を踊らせたが顔には出さず「おじゃまします」と答えて家の中に入っていった。

立花の家は広く部屋なんかはうちのリビングぐらいあるのでは?と思うほどだった。
立花の部屋に着き、ゲームを始める。
タイトルが出てゲームが始まる。
ゲームは俺がやっていて立花が楽な姿勢で座っている。
女の子の家でましてや女の子の前でなんかエロゲーなんかやったことがなかったからかなり緊張していた。そういえば立花も顔が少し赤くなっている気がする。
138あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:24:43 ID:Akm1SXHu
ゲームが始まりどんどん進んでいく。
ストーリーは自分のクラスの委員長が教室で自慰をしてるところを主人公が目撃しおしおきをするというストーリーだった。
最終的には委員長が主人公のことをご主人様と呼ぶまでになる。
ついにこのゲームもエロシーンに入ってきた。
場所は体育倉庫で委員長は体操着姿という場面だった。
もちろん委員長はブラなど着けていない。
委員長がマットの上に倒れて、泣きそうな顔をしているようだった。
「ご、ご主人様!や、やめて…」
「やめないよ」
主人公が嬉しそうに言う。選択肢がでた。
139あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:26:46 ID:Akm1SXHu
【乳首をつまむ】
【ブルマをぬがす】

モロに俺の好みのゲームだ、と思ったが立花がいるからと悶えるのを我慢した。「どっちにす………」
と立花に聞こうと向いたら…。
「立ば……な!??」
立花はゲームと同じく上着を脱ぎ、下の下着1枚だけとなっていた。
甘い声で「ご主人様ぁ…」と言っている。
少し動揺しコントローラーを押してしまった。
上の【乳首をつまむ】に決まった。
画面からは「はっ…うぅん…いやぁ」ととても色っぽい声が流れている。
それに合わせて立花も同じ声を出している。
140あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:29:28 ID:Akm1SXHu
そして画面は「ご主人様…来て…」と流れる。
そして立花も「…ご主人様」と甘い声で言う。
これには弱い!
俺はものすごくこれに弱い!
俺はグッとこらえて「立花…いいのか?」と聞く。
立花はコクッと頷く。
「わかった」
そう言って裸同然の立花に近づく。
「立花の胸…綺麗だな」
「え?あ…やぁ……」
立花は顔をさらに赤くさせる。
「あまり大きくないから…」
そういって胸を隠す。
「そんなことないよ」
俺はそう言って手をどけて胸を揉む。
「ほら…こんなに綺麗じゃないか」
俺の手が先端に触れた。
「あぁん……」
141あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:31:47 ID:Akm1SXHu
立花は艶っぽい声をだす。「可愛いよ…立花……」
「あぁん、ご主人様ぁ…名前で呼んでぇ」
「優香……可愛いよ」
俺はもう少し胸の愛撫を続ける。
そして俺の手は下の方に延びる。
「はぁん………やぁ…」
「かなり濡れてるね…下着の上からでもわかるよ…」「そんなこと言わないでぇ……ご主人様ぁ」
俺は優香の下着をとった。優香の『そこ』はとても濡れていていやらしく光っていた。
蜜も溢れるほどでている。俺は『そこ』を舐め始めた。
俺の舌がある突起に触れた。
「ひゃあ!ぁあん…」
優香が声をあげた。
142あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:36:31 ID:Akm1SXHu
さらに俺はそこを責め続ける。
「あぁん…やぁ………ひゃぁ…イっちゃう……イっちゃいますぅ」
なおも俺はそこを弄ぶ。
「あぁっ…!イクぅ…イっちゃうー」
そういって優香は絶頂に達した。
「優香〜、もうイクなんて早いなぁ」
ニヤニヤしながら俺は言う。
「だって……ご主人様が………激しくて……………」肩で息をしながら言う。
「俺、もう我慢出来ないよ」
そういい一物を出す。
彼の−雄太のモノは赤黒く天に向かってそりたっていた。
143あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:39:03 ID:Akm1SXHu
「優香、入れるよ」
「え!? さっきイったばかりで……」
『ズンッ』
根本まで入った。
「あぁっ………大きっ……」
「動くよ」
「ちょっと待ってぇ…イったばかりで……感じすぎ………」
言葉が終わる前に俺は動き始める。
『クチュ、クチュ、クチュ』
結合部から卑猥な音が漏れる。
「あれー?この音って優香から出てる音かなぁ?」
「やぁん……そんなイジワルなこと言わないでぇ…ご主人様ぁ」
「ゴメンゴメン、つい可愛いくて…ね?」
「んんっ……やぁっ……またっ…イっちゃう………」
144あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:41:29 ID:Akm1SXHu
「あれー?優香またイクのー?もしかして淫乱?」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら俺は言う。「ち、違いますぅ………ただ…」「ただ?」
「ご主人様の動きが激し過ぎて………ぁぁん」
「俺もそろそろかな」
「んんっ……イきますぅ」「一緒にイきたい?」
「………はい」
返事とともに頷く。
「よーし」
そう言って俺はさらに動きを激しくする。
「あっ…あぁん………んんっ……イクぅ…」
「ああっ、俺もイクっ!」
145あの娘と俺:2006/02/11(土) 00:44:03 ID:Akm1SXHu
一回終えた後もそのあとに何度も行為にふけった。
後ろからしたり、俺が下になったりと様々な体位で繋がった。


「優香…とてもよかったよ」
「ご主人様もとってもよかったです!」
しばらくの沈黙が2人を包む。
「ご主人様、また…私を可愛がってくれますか?」
首を傾げながら言う。
「………ああ、いいよ」
俺は優しくそう言った。


〜END〜
146タロー:2006/02/11(土) 00:48:33 ID:Akm1SXHu
どうだったでしょうか?
内容が内容なのでもしかしたらスレ違いになるかもしろませんが投下しちゃったものは仕方ありませんねヾ( ̄∇ ̄ )ノ

あと俺でよかったら書くのでネタ待ってます。
147名無しさん@ピンキー:2006/02/11(土) 15:31:26 ID:QeT1xvZ6
GJだがスレ違いな希ガス。
(;´Д`)ハァハァ
148名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 05:32:44 ID:/hkrf/GA
若干ずれてる感がありますがめちゃGJ

学園物がみたいっす
149名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 09:59:31 ID:SmtBz608
もうすぐバレンタインですね
150名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 10:14:17 ID:zV86a7ea
バン・アレン帯のお誕生日ですか?
151名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 10:41:41 ID:yuWVHOes
2月14日に「ぎぶみーちょこれーと」と唱えると
なぜかチョコレートが…
152名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 12:04:40 ID:Y1AUtlWm
やあ。幽霊部員のみなさん。
153タロー:2006/02/12(日) 12:19:15 ID:6o24I4Ry
学園ものですか…

今から書くとバレンタインに間に合いそうにないですからね、頑張ってみますよ
今月中には投下出来ると思います。
154名無しさん@ピンキー:2006/02/12(日) 18:16:08 ID:ouvFF0hQ
>>150-152

該当スレで会おうw
155名無しさん@ピンキー:2006/02/13(月) 23:20:03 ID:I66q4xnz
リクしてみる
社会人設定とか読んでみたい

・五歳差ぐらいの上司(20代後半〜30代前半位の男)と部下(20代の女)
・高校の同級生で二人とも社会人、久しぶりの同窓会で意気投合
・不倫もの(男が結婚している、切ない系、最後男は妻を選んで女と別れればなおイイ)
・結婚まじかのカップル

それぞればらばらのリクです
ごちゃまぜでもOK
エロはあってもなくてもどちらでも

細かいですが、職人さまおねがいします!
156155:2006/02/14(火) 00:05:54 ID:kyQgo+GN
×まじか
○まぢか=間近

バカだ…orz
157名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:30:15 ID:kTNZxVPN
純愛スレで不倫ものは勘弁してほしい。

158名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 00:42:55 ID:Eajm3BYx
>>157
リクエストはありだろうけど、制限はあまりつけないほうがいいんじゃない?
エロで純愛ってだけでハードル高いから。
159名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 01:40:24 ID:OnejBDmL
エロがなくても良いならバレンタイン短編書きますが…
てか、エロうまく書けないんだよ(´・ω・`)
160名無しさん@ピンキー:2006/02/14(火) 02:06:37 ID:qAFljClM
>>159
個人的には一向に構わん。むしろ歓待。というよりお願いしますorz
161名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 21:12:49 ID:j0uCasP2
ちょっと質問

純愛エロパロに続きものっていいの?
それとも単発じゃなくちゃだめなの?
162名無しさん@ピンキー:2006/02/15(水) 23:24:02 ID:Vlr62623
続いてもいいと思う。純愛であれば
163名無しさん@ピンキー:2006/02/16(木) 16:54:46 ID:nHxcdHUR
>>161
いや、エロパロ板での純愛スレなんだから、一向に構わんと思うよ。
むしろ、ここが適当かと。
164名無しさん@ピンキー:2006/02/19(日) 21:34:53 ID:UPt5+5//
保守
165名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:30:07 ID:iytVJ4ed
あげ
166名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:33:43 ID:gKcJl+CA
初めて書いたものを投下させてください。
生ぬるい目で見守って頂ければ幸いです。
高校生の男の子の、ごく普通の日常。
えろはありません、あしからず。
167名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:35:41 ID:gKcJl+CA
今日も、昨日と同じように過ぎていった。
昨日も、一昨日と何も変わらなかった。
きっと明日も、今日と同じように過ぎるのだろう。

* * *

「おはよう。」
学ランの前をはだけてトーストを頬張ったまま玄関を飛び出すと、門柱の向こうで
いつもの微笑が待っていた。
高校へあがると同時に越してきた、香坂真弓。家と席とが近かったこともあって、
俺たちは同性以上に仲良くなった。
「急がないと、遅刻するよ。」
そういわれても、口に物が入っていては答えようもない。小さくうなずきを返して
歩き出した。いつもより少し、早めに。
真弓は大またで歩く俺の横を、トコトコとほとんど小走りでついてくる。
「ユウ、ちょっと、速いよぉ。」
「遅刻しそうなんだから、しょうがねぇだろ。」
そういって膨らませた頬は、ほんの少し桜色に上気していた。
「もう、遅れそうなのは誰のせい?」
文句を言いながらも穏やかな空気に変わりはない。
それは冬の終わりに吹く、匂やかな春の風のようで。
そんななめらかな時間が大事に思えた。

* * *
168名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:37:22 ID:gKcJl+CA
窓際の席に着くと同時にチャイムが鳴った。
「坂下。今日もギリギリだな。」
そう言いながら入ってきたのは今日の一限、国語教師の寺脇だ。
ついでに言うと、俺の所属する野球部の顧問でもある。
決して強いわけでもなく、地方大会で一つか二つ勝てばいい。そんなチーム。
何もかもが平凡で、何もかもが当たりまえ。
型通りに出席を取り、型通りに授業が始まった。
ペン先で消しゴムをつつきながら、ぼんやりと外を眺める。
遠くから響いてくる、寺脇の声。
校庭に並ぶ、裸のケヤキを風が撫ででいた。

* * *

「…ユウ?」
「…ん?」
真弓の声で周りを見渡すと、すでに授業は終わっていて、みんなざわざわと動いていた。
「見事な爆睡だったね。」
 前の席に横座りして、俺の顔を覗き込む。
 あたりまえになったその笑顔に、心臓が少し震えた。

「ねぇ、あんたたち本当に付き合ってないの?」
「何だよいまさら…」
 声のしたほうに振り返って答える。心なしか不機嫌な声音になってしまった。
 声の主は谷口里加。いわゆる真弓の「仲良しさん」だ。
「だって、端から見たらそうとしか見えないよ?学校来るのだっていつも一緒じゃん。」
「…家が近いだけだって。」
 実際は、真弓が毎朝迎えに来るからなんだが。
「どーだかね……真弓、購買行かない?昼休みに行ったんじゃ、混んじゃうでしょ。」
「ん。いいよ。ユウも行く?」
「俺はいいや。弁当あるし。あ、でもお茶だけ買ってきて。いつものやつ。」
「ん。わかった。」
真弓が席を立つと、里加は俺にだけ見えるようにウィンクしてみせた。
まるで俺の気持ちを見透かすように、ものすごく意味深に。

* * *
169名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:38:50 ID:gKcJl+CA
 昼休み。野球部の仲間で弁当を開いていると、先輩が近づいてきた。
「「「ちゃーっす。」」」
 全員立ち上がって挨拶する。
「今日の練習なんだけど、寺脇のヤツ出張だってさ。俺らも修学旅行のガイダンスあっから、今日はオフ。ラグビーに校庭譲っといて。」
「はいっ!」
主将の言葉に、俺たちは内心ガッツポーズする。…そんなだから強くなれないんだけど。
 ラグビーに譲る、ということは自主練さえもできないということだ。廊下なんかで
筋トレするくらいならやれるけど、そんなヤツはいない…だろう。
 立ち去る主将たちを見送りながら、案の定仲間たちは放課後の予定を立てだした。
 
吹きさらしの中庭はまだ少し、肌寒い。
 それでも、頬をかすめる風は、ほんのわずかに春の匂いがして。
 次の季節を予感させる空気の向こうに、真弓の姿を見つけた。
 里加と机を挟んで談笑している、その姿だけが妙にクリアに視界に飛び込んでくる。

「…で、悠樹も来るか?」
 突然話題を振られ、意識が引き戻される。
「あ、悪ィ。なんだって?」
「だから、カラオケ。放課後の話だよ。」
 …カラオケ。楽しいとは思う。
確かに思うが、終わったときの何とも言えない虚脱感が好きになれない。
「ん〜、俺はいいや、悪い。」
「そうか。じゃ、四人で行くか。」
 こんなとき、こいつらは無理強いしない。
 遠慮はないが、深入りもしない。そんな距離感がありがたい。
 パックの紅茶を飲み干して、教室に戻った。

* * *
170名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:39:52 ID:gKcJl+CA
腹が満ちれば、眠くなる。
 BGMが数学の講義では、なおさらだ。
 よくわからない数字の羅列と公式が並ぶ黒板は、意識の隅に沈んでいった。

「……………。」
「…………………。」
「まったく、よく寝るね、この馬鹿は。」
 頭上の声に意識が覚醒する。
「何だ、里加か。」
「何だ、じゃねーよ。部活ないんだろ、帰らないのか?」
 …どうやら授業は終わってたらしい。
「あぁ、帰る。」
 一つ伸びをしてから立ち上がると、里加が呆れた顔でこっちを見ている。
「…何だよ?」
「別に?世の中には物好きがいるんだなって思っただけ。」
「?」
「何でもないよ。真弓が図書室来いってさ。」
大して中身の入っていない鞄を抱えて教室を出る。
 見ると、里加のバッグも大差ない。
「おまえ、そのバッグ勉強道具入ってるのか?」
「あんたに言われたくないね。少なくとも授業を聞いてはいるし。」
 五十歩百歩だが、返す言葉もない。
 軽口を叩きながら図書室へ向かう。

* * *
171名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:40:36 ID:gKcJl+CA
「来たよ、真弓。」
真弓の姿を見つけた里加が声をかける。
「ん、ちょっと待っててね。」
 そういって抱えていた本をカウンターへ持っていく。

「お待たせ。」
 戻ってきた真弓と三人で家路につく。
とは言っても里加とは校門で反対の方へ別れるのだが。
一緒に帰る意味を感じないが、そのへんは女の子にしかわからないのだろう。
そんなことを考えていると、別れ際に里加が馬鹿にしたような声で言った。
「鈍いやつだな、おまえ。」
 里加はたまに意味不明なことを言う。
もしかしたら、里加の言うとおり俺が鈍いのかもしれない。

真弓と二人で歩いていると、毎朝と同じ穏やかな時間が流れていく。
 いつものように、ふわふわとした空気の中で。
 人通りもまばらな住宅街は夕日に染まりはじめている。
「ねぇ、ユウ。」
「ん?」
「里加ってさ、誰か好きな人いるのかなぁ。」
「わかんねぇ。っていうかさ、真弓が知らないのに俺が知るわけないじゃん。」
突然の質問に戸惑いながらも、あたりまえの答えを口にする。
なげやりな答えに、真弓は不服そうな顔をした。
「本当に?里加、私にはしつこく聞いてくるのに自分のことはなんにも教えて
くれないんだもん。…ユウなら知ってるかと思ったんだけどなぁ。」
「…聞かれるんだ?」
 気になったところを、平静を装って問いかける。
「聞かれるよー。ユウとは本当に付き合ってないのか、って。」
 事も無げに言って、悪戯っぽく笑う。
心が、痛んだ。
 それでも、この関係は壊したくなくて。
 疼きだした想いを封じ込める。
「…そりゃ、里加もわかってねぇな。」
「…だよね。ふふっ。」
 精一杯の強がりに、真弓は笑いを返してきた。
 その笑顔がわずかに寂しげだったのは………
 たぶん、気のせいなんだろう。

「じゃあね、ユウ。」
「ああ。また、明日。」
我が家の玄関先で真弓と別れる。
 すぐには家に入らずに、角を曲がるまで背中を追った。
 振り返りもせずに角へ消えていく真弓。
「ただいま。」
 玄関をくぐり、靴を脱ぎながらため息を零す。
穏やかで、柔らかな、それでいて近づけない距離。

「おかえり。」
夕飯の匂いが満ちていた。

〜了〜
172名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 03:45:06 ID:gKcJl+CA
以上です。お目汚し失礼しました。
今見たら文頭が合ってない…orz
出直してきまつ。
173名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 11:15:15 ID:iGTv208m
GJです。初めてにしてはクオリティ高いな。
ほのぼのしていていい感じです。
文頭ずらしているのは何か意図があるのかと思ったらミスでしたか。
174名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 18:42:46 ID:kJ+KOseE
>>172
エロは無くてもいいから続きを読んでみたい〜><
175名無しさん@ピンキー:2006/02/27(月) 19:59:17 ID:AuSkE5j0
うん、正統派な話でいいですね。
だからこそ個人的にはあんまり派手なエチシーンに
なだれこまない流れで話が展開していって欲しいかなっと。
176名無しさん@ピンキー:2006/02/28(火) 01:08:08 ID:R0vdSBQp
個人的に純愛にエロはいらない
177172:2006/02/28(火) 07:39:08 ID:TGU4wmi5
レスdクス。
でもこれから就活忙しくなるんで続きは書けるか、書けてもいつになるかわかりましぇん。
純愛ばんざい。そして神待ち
178名無しさん@ピンキー:2006/03/04(土) 16:20:27 ID:ZY1V50cz
亀レススマソ。
文章は荒い感じもするけど話や雰囲気は大好きだ。
GJ!
179名無しさん@ピンキー:2006/03/12(日) 22:51:43 ID:jqcMeszO
   ∩
  ( ⌒)  ∩__
  / ,ノ   i 、E)
  / /    / /"
 / /_、_  /ノ
`/ /,_ノ`)//
(    /
ヽ   |good job!!
 \   \
180名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 22:45:19 ID:ti/fqU3a
ホワイトデーの話を思いついたので、投下します。
エロ無しですみません。
181名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 22:48:28 ID:ti/fqU3a
「ピエロの飴玉」


「お先ぃ〜!」
俺は高速ダッシュで帰り支度を済ませ、部室を飛び出た。
野球部が整備の支度をし始めたグラウンドを突っ切っり、クラブが終わって
下校する奴らの流れを逆流しながら校舎の中に入っていく。
下駄箱に靴を突っ込みスリッパをひっかけて、3階の教室に駆け上がる。
2年生クラスの3階は人影も無く、がらんとしていた。
いつもならこの時間でも何人かの女子が溜まっていて、大きな笑い声が
廊下にまで響いているもんだが、今日はみんな帰ってしまったらしい。

俺は、誰にも気兼ねなく5組の廊下から、下を伺った。
隣の北校舎の1階にある音楽室。
そこに、まだたくさんの生徒が詰まって、動いている。
吹奏楽部はいつも終わるのが遅い。

俺は、音楽室を眺めながら、ほとんど空になったペットボトルのお茶を
飲みきって、スポーツバッグの中に突っ込んだ。
部員達が、楽器を片付け終わり、互いに手を振ったり、頭を下げたりするのが
見える。廊下に向かう奴らの中に、目当ての姿を見つける。
肩まで伸ばした黒い髪の、少し猫背の後ろ姿。

よし、いまだ。

俺は、タイミングを見計らい。さっき整った息が今度は乱れない程度に
急いで、一気に階段を駆け下りてまた下駄箱に急いだ。
下駄箱に到着すると、そこにはちょうど渡り廊下からやってきた
吹奏楽部の奴らが靴を履き替えていた。
俺も何食わぬ顔で自分の下駄箱の所に行き、靴を取り出した。
「あれ、有野くん、今日クラブは?」
隣にいた前川が、スリッパを下駄箱に入れながらこちらに気が付いた。

作戦成功。
俺は心の中でガッツポーズをした。

「あったけど?…ああ、俺忘れ物取りにきただけ」
心の中の喜びを押し殺し、いつも通りの口調で返す。
182ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 22:53:23 ID:ti/fqU3a

「そっかー。偶然だね。帰りが一緒になるなんて」
本当は偶然じゃないんだけどな。1ヶ月前から考えて、練りに練った作戦。



「有野君。これ、あげとく」
朝一番に前川が俺の机にチョコを置いたのは、一ヶ月前。
2月14日。セントバレンタインデ−。
夜更かしした次の日で、机の上に突っ伏して寝ていた俺の腕と顔の間の
隙間に押し込めるようにチョコを置いて「友チョコだからね」と言って、
俺の前の席の前川は、何事も無かったように1時間目の教科書を出し始めた。
俺も突っ伏したままチョコを手に取り、そのままポケットの中に
チョコを押し込んだ。
誰も気が付かない、小さいやり取り。
でも、その時俺の心臓はばくばくとしていた。

前川とは二年のクラス替えで初めて知り合った。
理系クラスの数少ない女子のうちの一人だ。
うちのクラスの女子ははっきり言って飾り気が無い。文系女子の方が
かわいいし、愛想もいい。最初の頃は『理系女子って色気がないよなー』
なんていう仲間に激しく同意もしていた。

だが、前川は縁があるのか席替えするたびに隣だったり、前だったり
俺の席の近くになることが多かった。
最初は互いに気にも留めずに一言もしゃべらない状態だったが、
さすがに3度目に席が近く、しかも隣り合わせた時に「また前川かよ」と
俺が呟いたのがきっかけで少しずつ話をするようになった。

昆布はかめばかむほど味が出る。前川はそんな奴だった。
地味で自分から進んで男子に話しかけたりはしないが、いざ話して見ると
へんに取り繕ろった所がなくて疲れないし、こちらが知らない事を
結構知っていたりして面白かった。
宿題を忘れたときに見せてくれるのも頼りになる。
俺を見るときにふっと安心したように笑うのは気のせいじゃないと思う。
他の男子に気軽に話しかけないということも、
俺の中で重要なポイントだった。

いつのまにか前川は、俺にとって他の女子とは違う存在になっていた。
183ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 22:57:04 ID:ti/fqU3a

あの日から、俺はすっかり浮かれタコだ。笑わば笑え。
今までも結構「本命チョコ」をもらったことはあったが、
好きな子からもらえると単純に、うれしい。
渡し方も、そっけなくて前川らしくていい。
以前、体育館倉庫に呼び出され、5人も友達をぞろぞろ引き連れた子から
チョコをもらった時はうれしいというより、怖かった。

「友チョコだからね」そんな照れ隠し言わなくたっていいんだぜ。
フッ、素直じゃないな。
だが、お前の愛は確かに受け取ったぜ、前川。

心の中ではこんなことを言っているのに、実際には今までどうりフツーに
前川に接しているヘタレな俺。そんな俺のために、3月14日の
ホワイトデーは作られたに違いない。
ああ、神様ありがとう。

俺からのお返しに頬を染め「うれしい」といって
俺に抱きついてくる前川─なんちゃってな。くぅぅ。

今日の俺のバッグの中には、白と青の風船がふわふわ浮かんだこっぱずかしい
特設開場で買った、青い包装紙で包んだ小さい箱が入っていた。




この前の期末試験、結構がんばってたな、なんて無難な話をしながら、
自然な流れで前川と一緒に歩き出す。電車を利用するので、行く方向は一緒だ。

毒にも薬にもならない話をしながら、俺は、いつ包みを渡そうか、
頭の中ではそればっかり考えていた。
そろそろ駅が見えてきた。左手には小さい公園と、コンビニ。
誘ってみようか…でも、ここじゃ他の奴らに見られて、前川が嫌がるかな。
そんなことをぐるぐる考えていると、前川がふと、いつものような
淡々とした口調で言った。
「有野君、今日暇?塾とかある?」
「え…いや、何も」
184ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 23:00:32 ID:ti/fqU3a

「じゃあさ、反対側乗ってみない?電車」

おおおおおおお…………これはっ!

デートか?デートのお誘いか?

神が俺に味方をしている。
今日は積極的だな。前川。どうしたんだ。

でも、積極的な前川も大好きだ。ああ、鼻血が出そう。

俺が浮き足立っている間に、前川はさっさと2枚分の切符を買い
俺に手渡すと上りのホームへと進んでいく。
切符を見ると、七百三十円。どこまで行くつもりなんだろう。
俺がその疑問を口にしたら、前川は少し困ったような顔をして笑った。

「わかんない…」
「わかんないって…目的地無しに乗ったのかよ」
「うん、…ちょっとどこか遠くに行きたいなぁ、ってそれだけなの」
普段の前川はあまり気まぐれな感じはしないので、その答えは少し以外だった。

「ごめんね。迷惑だった?」
申し訳なさそうにこちらを見るので俺は慌てて否定する。
確かにちょっと驚いた。
だが俺は前川とこうして二人きりでいられることがただただ嬉しかった。

上りの電車は人が少なく空いているシートもあったが、一緒に座ろうとは
何となく言い出せなくて、ドアの付近で二人で立っていた。
学校の外で一緒にいる前川。
制服を着たままだが、背景が違うだけで新鮮だった。
外を眺める彼女の横顔を気づかれないように俺は見た。
気が付いたら、二人は沈黙していた。俺がしゃべらないからって言うのもあるが
前川も今日はいつもより無口だ。

突然、前川がああ─っと小さい歓声を漏らした。
電車は大きな川にさしかかり、車窓からは夕日が空と川の水面を
紅く染めている様が見えた。
さざなみがキラキラと夕日の光を反射して絶えず揺らいでいる。
俺達の様子に気が付いた近くの席の女が、「ほら、きれいねえ」と
横の幼児に話しかけていた。
185名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 23:03:01 ID:0sWlFKRn
w k t k
186ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 23:03:38 ID:ti/fqU3a

すぐに流れてしまったその景色を目で追いかけていると、
次は○○、と電車のアナウンスが流れた。
「有野くん、降りよう」
突然、前川が慌てて床に置いてあったカバンを取った。
「あの川のところに行こうよ。夕暮れまでまだ間に合うから」
今日は完全に前川のペースだ。前川のイメージは「静」。
イスに座って半分体をひねって前の席で俺の話を聞いている。前川を想像する
時は、いつもその姿がうかぶ。だが、今日の前川は違う。

前川、なんかあった?
ふっと、そんなことを思った。



初めて降りる小さな駅を出て、川のある方向へ向かう。
途中、寂れた商店街でコロッケを買って、二人で頬張りながら歩いた。
うねうねとした道を歩いてしばらくすると、大きな道に差し掛かり
そこを上っていくと意外に早く川についた。
土手のほうに降りると思ったが、前川はこっちのほうが綺麗そう
といって橋の真ん中に行く。
そこからは、電車から見たとおりの、川の真ん中に夕日が浮かぶ景色が見れた。
夕日はあたりを夕紫に染めて、緩やかに沈んでいく。
俺と前川はしばらくの間、その様をじっと眺めていた。
時折、自転車が通り過ぎるだけの静かな空間。

「綺麗ね」と前川が呟いた。
「きょう帰りに有野君に会えてよかった」
どきん、と胸がなった。
「一人だったら、きっとこんな所、来れなかった」
「……」

もしかして、今かも──。前川の言葉が、俺を後押ししてる。

「あのさ、前川…」
鼓動が早くなる。がんばれ、俺。
この前のお返し…と頭の中で何度も練習したフレーズを言おうとして、
意を決して前川の方を見た。
187ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 23:06:48 ID:ti/fqU3a

だが、つぎの瞬間、俺は全ての言葉を失った。

前川は前を見たまま涙を流していた。
夕日が綺麗で、感動した─とかじゃなくて、眉をよせて、口に手を当てて
一生懸命泣くのをこらえているような、つらそうな顔だった。
ついに前川は手すりに腕を置いて、そこに顔をうずめて肩を震わした。
「前川……?」
前川は応えない。
「どうしたんだよ」
「ごめん……。ごめんね。涙が止まらなくて…………」
意味が分からず、俺は不意をつかれたようにただ
前川を見ているだけだった。

「さっきね…」
前川がかすれる声で言いかける。
そして、ややしばらくして、「振られたんだ、私」と呟いた。

こいつ、他に好きな奴がいたんだ。
頭の中が、真っ白になった。

そうか。
そういうことだったんだ。
今日の前川は様子が変だった。それは、必死で泣き場所を探していたからだ。


前川はうつむいたまま静かに泣いていた。

前川が今なに考えているかなんて少しも気づかなかった。
泣く場所を探しながら、涙を飲み込んで、どんな気持ちで
此処まできたのか。それを考えると胸がつぶれそうだった。
それなのに、俺はその間中ずっと一人で浮かれて
……なにやってるんだ。
相手の気も知らずに舞い上がって、ピエロもいいとこ。

おまけに、目の前で好きな女が泣いているのに
気の利いた言葉一つかけてやれない。
俺は、自分の無力さをまざまざと思い知った。
188ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 23:09:31 ID:ti/fqU3a

「泣くなよ……」
それだけしか言えなかった。
「うん」
前川が小さく応える。
泣くなよ、前川。好きなんだよ。
俺は、泣き続ける前川のそばにいてやることしか出来なかった。

いつの間にか夕日は落ちて、あたりはすっかり暮れ果てていた。
川面には夕日の名残がかすかに残る程度で、やがてそれも消えてしまうだろう。

だいぶ時間がたっていると思う。
前川はたくさん泣いて少しは落ち着いたのかもう嗚咽は聞こえず、
ただ、顔を腕にうずめているだけのようだった。



少しは笑ってくれるだろうか。
俺はふと、あることを思いついた。

前川はまだ腕に顔を埋めたまま。
こちらを見ていないのを確かめて、彼女に背中をむけて、しゃがみこむ。

地面においてあったスポーツバッグを開ける。
青い小さい箱──。
俺は、素早くリボンを解き、気づかれないように音を立てずに
包装紙をはずして、箱を開け中身を二個取り出すと
またバッグの中にそれを押し込めた。

「前川、元気出せよ。ほら」
俺は前川の頬に銀色の包みを押し付けた。
前川はのろのろと顔を上げて、薄暗がり中でもはっきりと分かる
泣きはらした目をこちらに向けた。
痛々しい姿に胸を締め付けられるが、それを悟られないように
平静を装う。
「腹減ってるとますます滅入ってくるぞ。これ、食っとけ」
俺は、見本を見せるようにもうひとつの銀紙を空け、中の物をぽん、と
口の中に放り込む。甘ったるい、普段は絶対食べないようなイチゴ味が
口の中に広がる。
「ん。んまい」
俺はその飴を豪快にがりがりと噛んだ。

その様子を見て、「すごい音…」と、本当に微かだけど前川が笑った。

俺にはそれが全てだった。
189ピエロの飴玉:2006/03/14(火) 23:10:21 ID:ti/fqU3a
以上です。
190名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 23:16:11 ID:0tsrWnge
乙!
191名無しさん@ピンキー:2006/03/14(火) 23:44:07 ID:6EtyuAbo
GJ!最後のピエロっぷりが健気で泣かせる。
192名無しさん@ピンキー:2006/03/15(水) 00:08:07 ID:aZCAlwVj
orz(近い経験をした俺)
でもヨカータよ。乙です。
193名無しさん@ピンキー:2006/03/15(水) 04:30:14 ID:HZOcSWLG
素晴らし過ぎるよ
「純」愛ってのはこういうのを言うのかな?
194名無しさん@ピンキー:2006/03/15(水) 14:46:19 ID:sJJ6bejw
まさかエロパロで涙を流すことになるとは…
GJ!
195名無しさん@ピンキー:2006/03/16(木) 00:23:55 ID:cagR0wZZ
GJ!
こういう話すごく好きだわ、俺。
196名無しさん@ピンキー:2006/03/16(木) 00:38:12 ID:/V+haT2l
うん、よかった
GJ!
197名無しさん@ピンキー:2006/03/16(木) 21:57:58 ID:LsKfjFD1
>>192
同士よ
なんかあの時の記憶が蘇ってきた、酒買って来よ
>>189テメー……
GJなんだけどなんだか言いたくない
198189:2006/03/17(金) 02:29:08 ID:nm9zkghW
レス、GJくれた人ありがとう。
純愛かな?と思って投下したのですが
なんかしんみりさせてしまった方もいるようで申し訳ない。

いつか読んだ人が幸せ(&エロ)になれるような
ハッピーエンドの純愛SSを思いついたらまた投下しに来ますので
それで許してやってください。
199名無しさん@ピンキー:2006/03/17(金) 12:47:44 ID:O6FXuM0O
今回の話はああいう終わり方でよかった。
次回のハッピーエンドの純愛を楽しみにしてます。
200名無しさん@ピンキー:2006/03/18(土) 09:24:09 ID:aYPjS1QE
GJ!アンド200GET
201名無しさん@ピンキー:2006/03/19(日) 07:05:14 ID:3s6OODkW
そろそろcatの続き希望
202名無しさん@ピンキー:2006/03/22(水) 13:03:51 ID:YaxuKc8a
たくさんの神々の再臨をナムナム。
203名無しさん@ピンキー:2006/03/26(日) 17:04:53 ID:yA7MhYpb
職人さんこないかなー
204タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/29(水) 12:57:56 ID:7CIJlErD
やっと完成した(-.-;)
先月に投下しようと思ったんですがダメでしたf^_^;

>>189
ピエロの飴玉、GJでした。また何か書いて下さいね!
205タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/29(水) 12:59:27 ID:7CIJlErD
布団から起きて時計を見る。
まだ余裕の時間だった。
「今日は高校の同窓会かぁ」
そういって腕をあげ伸びをする。
布団から出てゆっくり朝ごはんを食べる。
時計を見るとちょうどいい時間になっていた。
支度をし家を出た。
同窓会の場所に着き案内状を受け付けに出した。
「中沢俊彦(なかざわとしひこ)様ですね、こちらです」
受け付けの人に案内され部屋に行った。
扉を開けるともう大体の人がいた。
仲のよかった友達やあまり好かれてなかった奴、クラスで目立たなかった奴もいた。
206タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/29(水) 13:00:53 ID:7CIJlErD
「お〜い、中沢こっち来いよ〜」
仲のよかった友達に呼ばれた。
「おう」
短く返事をする。
「中沢〜、お前はあんまり変わってないな〜、高校のときと変わらないな」
「そう見えるか?これでもけっこう苦労してんだぜ」友達からふ〜んとかへぇ〜などの声がする。
世間話や近況などを話していて時間があっという間に過ぎていった。
色々話していて急に言葉が止まった。
高校時代に好きだった君塚智恵(きみづかちえ)が目に入った。
207久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:02:07 ID:7CIJlErD
高校のときはなかなか活発で運動部に入っていてみんなからけっこう人気があったようだがあまり付き合わなかったようだった、好きな人がいたという噂だったのだが…。
「中沢、どうした?」
「ん?いや、なんでもない、ちょっと俺、便所行ってくるわ」
「おう」
声が返ってくる。
俺はトイレに行くのに少し迷いながらもなんとか着いた。
用を足し手を洗ってトイレから出ると智恵と会った。
208久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:04:29 ID:7CIJlErD
「中沢くん…か」
「俺で悪いのかよ…」
少しへこんだ声で言う。
「ちょっと付き合ってくんない?」
「あ?けどあいつら待たしてるから…」
「お願いよ」
女に頼まれると弱い。
「しょうがねぇな〜」
「ありがと」
あとであいつらにメールうたなきゃな…。
時間は6時頃だっただろうか。外はやや暗くなっていて人も少なくなっていた。少し歩いたあとバーに入っていった。
中は静かな雰囲気でなかなかよさ気だった。
「ここで…いいわね」
「ああ」
席はカウンターで隣り合うように座っていた。
209久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:06:41 ID:7CIJlErD
「マスター、いつものを」ここの常連らしく慣れたようだった。
「そちらの方は?」
ちらっと俺に目をやり
「じゃあ同じ物を…」
少しするとグラスが運ばれて来た。
「で、どうしたんだ?」
「いや…最近落ち込んでてね………」
落ち込んだ様子で言う。
「あぁ〜、しょうがねぇな、愚痴、聞いてやるよ」
「ありがとう!」
嬉しそうに礼を言う。
それから智恵は色々と語りだした。
210久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:08:28 ID:7CIJlErD
部下の仕事の失敗で大変だったこと。
イライラしてて彼氏とケンカして別れてしまったこと。
最近ツイてないこと。
仕事からプライベートまで色々と話していた。

「たくさん話したら少しすっきりしたわ」
「お前、大変だったんだな」
「私、もう疲れちゃった」「そんなこと言うなよ、元気出せよ…な?」
「優しいのね、そういえばね私…」
急に智恵が語りだした。
「高校のときあなたが………中沢君のことが好きだったのよ」
211久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:12:37 ID:7CIJlErD
「………」
突然の言葉に何も口に出来ない。
「そう、好きだったの、ねぇ、私を抱いてくれない?」
唐突に言ってきた。
「え?あ…、でも………」「こっちから誘ってるのに…女の子に恥かかせちゃダメよ」
そう言うと席を立ち代金を払おうとする。
「いいよ、俺が払うよ」
「いいのよ、私が誘ったんだから…ここは私が出すわ」
「でもな…」
「お願い」
「わかったよ」
渋々承諾し外に出ていく。少しすると智恵が来た。
「おまたせ、あっちにホテルがあるわ」
「ああ」
そう言い2人して歩いて行く。
212久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:14:09 ID:7CIJlErD
「そういえば、こうして2人で歩くのって久しぶりね」
「そうだな、高……2以来だっけ?」
「そうね、あの時はすごくドキドキしたわ」
俺もドキドキしてたのを覚えている。
「たまたま帰るのが一緒になって…そんでどうだったっけ?」
「どっちもあまり喋らなくてそれが気まずくてドキドキしたのよ」
「俺もな〜、すごく緊張してヤバかったよ」
そう言ってるうちにホテルに着いた。
受け付けをすませ部屋に向かう。
部屋は思ったよりも広く内装もなかなかの造りになっていた。
213久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:16:09 ID:7CIJlErD
「私、シャワー浴びてくるわね」
「お、おう」
智恵がシャワールームに消えていくのを確認するとどっと疲れがでた。
「こういうところにくるのは…初めてか」
辺りを見回しながら呟く。女性経験がないわけではなかったがこういうところに来るのは初めてだった。
少し時間が経ち智恵が出てきた。
「じゃあ、次俺入ってくるわ」
「うん」
俺は身体を念入りに洗い頭を同様に洗った。
そしてシャワーを浴びて出た。
部屋に入るとバスタオル姿のままで智恵がベッドに座っていた。
214久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:18:09 ID:7CIJlErD
俺をチラリと見ると恥ずかしそうにうつむいた。
その智恵の姿がとても可愛いらしく感じてそのまま近付いてキスをした。
「……………っ!」
唇を離す。
智恵の目が少しトロンとしてきた。
「もう一回してぇ」
そう言って唇を前に出す。「ああ」
さっきは軽いキスだったが今度は舌を入れてきた。
お互いの唾液を交換し舌を絡ませる。
唇を離すとお互いの唾液が口と口を結び銀の橋を作っていた。
「いいよ」
智恵はそういうとバスタオルを脱いだ。
智恵の裸体はとても綺麗だった。
215久しぶり会って:2006/03/29(水) 13:20:37 ID:7CIJlErD
シミなどは全くなくモデルと言っても通じそうな体をしていた。
俺は少し間その姿に見入ってしまっていた。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
見とれてたなんてとても言えないなと思いながら形の良い智恵の乳房を揉む。
「…んっ」
智恵が小さく声を上げる。揉んでるうちにだんだん硬くなってきてる乳房の頂点の突起を甘噛みする。
「はぅん!」
そこからどんどん下のほうに舌を這わせお腹や脇腹といったところを責める。
「んんっ!」
216久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:22:55 ID:7CIJlErD
そして智恵の秘部を責める。
陰核は少し大きくなっていて秘部はもうしっとりと水気を帯びている。
陰核を舌でチロチロと舐める。
「…んんっ」
恥毛は逆三角形に揃えられていて秘部は綺麗なピンク色をしていた。
もう十分濡れている秘部に舌を入れる。
「あぁぁんっ」
今までで1番大きい声が部屋に響く。
自分の腰に巻かれているバスタオルを取る。
「もう…いいか?」
そう聞くと
「早く来てぇ、私の中に入れてぇ」
用意していたゴムをつける。
返事を確認すると大きくなっている俺のモノを智恵の膣に挿入する。
217久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:25:02 ID:7CIJlErD
なんの抵抗もなくヌルっと入っていく。
「はっ…あっ…………んんんっ」
智恵の膣内は俺のモノに吸い付いてくるような感じだった。
ゴムをつけていてもすごく気持ち良い。
ピストンを繰り返す。
「……あっ…あっ………はぅん……あぁ…激しぃ」
ピストンをしてまた智恵にキスをする。
「んん………あぁん」
「私、もう、もう…」
「俺も…もう少しだ」
そういってさらに激しく腰を動かす。
そして膣の奥、子宮に俺のモノがあたる。
「ああぁぁぁ、イクぅぅぅぅぅ」
智恵は体をのけ反らせる。絶頂時の締め付けに射精感が高ぶり発射した。
218久しぶりに会って:2006/03/29(水) 13:27:02 ID:7CIJlErD
二人共疲れてそのまま裸で寝てしまった。


朝起きるともう智恵の姿はなかった。
代わりに手紙が置いてあった。
内容は
『中沢くん、どうもありがとう
おかげですっきりしたわ
また落ち込んだら相談のってね

P.S昨日はとってもよかったわ。
また今度抱いてね!
君塚智恵より』
その手紙を読み終わるとフっと笑い窓の空を見た。
今日も雲一つない青空だった。

*END*
219タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/29(水) 13:32:00 ID:7CIJlErD
最初のほうは題名がなかったのは気にしないでください。
今回は前にあったリクに応えてみました。
次は学園系の続き物を書きたいと思ってます。


投下場所を間違えてしまうという馬鹿なことをやってしまいました。
もし見つけた人がいたら笑ってやってください(T^T)
220名無しさん@ピンキー:2006/03/29(水) 13:34:36 ID:mNPdKUdX
>投下場所


純愛っぽくないってこと?
221タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/29(水) 14:03:51 ID:7CIJlErD
>>220

ここじゃないスレに一部投下してしまったんですよ
我ながら情けないです(泣)
222タロー ◆yZGDumU3WM :2006/03/30(木) 07:50:50 ID:5dau5/SO
ちょっと今回は純愛じゃないですかね?
意見下さい。
223名無しさん@ピンキー:2006/03/30(木) 21:24:27 ID:i3VVSavd
悲しくなった
224名無しさん@ピンキー:2006/03/30(木) 22:12:13 ID:SQThPW+q
う〜ん、ここで終わるならちょっと純愛とは言いにくいかも。
225名無しさん@ピンキー:2006/03/30(木) 23:26:47 ID:NtPjYUSt
展開早杉だしフツーのエッチネタって感じ
226名無しさん@ピンキー:2006/04/04(火) 13:28:24 ID:YaREKKsW
age
227名無しさん@ピンキー:2006/04/10(月) 21:22:57 ID:IbommpMh
ほしゅ
228名無しさん@ピンキー:2006/04/15(土) 09:07:52 ID:oJxHS9oD
神待ちアゲ
229名無しさん@ピンキー:2006/04/15(土) 12:51:45 ID:cA8cwWMS
このスレって神いる?
230名無しさん@ピンキー:2006/04/15(土) 14:34:00 ID:4XjltzR1
それはもう
231名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 22:03:14 ID:fHcOLS9w
Can't Stop Fallin' in Loveの続きを未だに待っているオレがイル。
232名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 22:20:22 ID:sNXcLWTE
>>231
俺が2人いる…?
233名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 23:01:52 ID:j8n0ePOA
>>232
もう一人いるよ
234名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 23:04:45 ID:SUkgIK0L
>>231-233
じゃあ俺は誰なんだ?
235名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 23:15:53 ID:9y8fzcuZ
>>234
お前は俺だよ
236名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 23:27:27 ID:uMl7awzs
>>232-235
マトリックスの世界だw
237名無しさん@ピンキー:2006/04/17(月) 23:45:25 ID:j8n0ePOA
>>232
>>234-235
僕たちは何処から来て何処へ行くんだろう
238名無しさん@ピンキー:2006/04/18(火) 01:00:34 ID:bS1jA8qD
こーこではないーどーこーかーえへとー
239名無しさん@ピンキー:2006/04/19(水) 23:09:01 ID:QMUqqmFh
いま脳内で構想ねってると言ってみる
240名無しさん@ピンキー:2006/04/19(水) 23:38:25 ID:Rjrs1biz
期待しとるよ〜
241名無しさん@ピンキー:2006/04/22(土) 00:34:19 ID:RffblNQU
稲負鳥は……
242名無しさん@ピンキー:2006/04/22(土) 13:30:59 ID:fbAL0yvw
死なないぜ!
243名無しさん@ピンキー:2006/04/28(金) 23:51:58 ID:kYmdDtxj
書いてる途中なんですけど、エロまで長くなりそうです…
構いませんかね?
244名無しさん@ピンキー:2006/04/29(土) 09:38:44 ID:az511Kik
無問題
245名無しさん@ピンキー:2006/05/03(水) 09:06:20 ID:ENwMPjO9
保守
246名無しさん@ピンキー:2006/05/03(水) 21:14:23 ID:d9bGcefq
>>232-235
更にもう一人いるのだよ、アンダーソン君
247名無しさん@ピンキー:2006/05/08(月) 20:17:22 ID:/dcg4TtM
職人さ〜〜ん
248名無しさん@ピンキー:2006/05/08(月) 20:19:11 ID:/dcg4TtM
職人さ〜〜ん
249植木職人:2006/05/08(月) 21:08:42 ID:Wd2kmRyd
呼んだ?
250名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:09:23 ID:F901jntt
投下します。舞台はアメリカ。探偵家業を行っている2人の純愛物です。どうぞ。

「俺が行きます! 隊長!」
ジャックは燃え盛る倉庫を目の前に自分達の隊長であるアルバートに訴えた。
だがアルバートはジャックの申し出に対して首を横へと振る事で返した。
「ダメだ。勝手な行動は許さん」
「しかし、このままではデータが!」
「それなら心配無用だ。ティム、もう良いだろう」
アルバートは隣に居るティムに目を移した。
ティムはパソコンで情報を入手しており、今しがた親指を力強く突き立てた。
必要な物は全て手に入ったという証明である。
「自爆なんて古臭過ぎる方法、今時、通用するとでも思ったのか?」
「うう畜生が…」
「不正取り引きデータ。全て貰って行く。続きは監獄でやっていろ」
全ての仕事を終えアルバートは背を向け歩き出した。
ジャックとティムもそれに続きアルバートの後を追った。
「2人ともご苦労だった今日は帰って良いぞ」
アルバートは2人に今回の分け前を渡すと、
パソコンの前に向きキーボードを叩き続けた。
万事上手く行き上機嫌なティムに対し、
ジャックは釈然としない様子でアルバートの部屋を後にした。
ジャックは帰ろうと自分の中古マンションに向かったが、
自分の後を付いて来るティムに苛立ち、振り返り話し始めた。
「帰れ」
「何よ、そんな邪険にしなくてもいいでしょ!」
「お前はお前の家があるだろ、俺のボロマンションと違い何から何まで揃ったな」
「良いでしょ別に、
今日は気分でジャックの所に行きたいの。ご飯ぐらい作るから良いでしょ?」
「勝手にしろ」
これ以上、話しても無駄だと悟ったジャックはティムの入室を認め、
再びティムに背を向け歩き始めた。
ティムはジャックの腕に自分の体を絡ませ上機嫌で歩き始め、
それを無視してジャックは歩き続けていた。
ジャックが鍵を開け、中に入ると、そこにあるのは必要最低限の物しか無い、
殺風景な部屋であった。綺麗にはしているが、
余りの部屋の寂しさにティムは思わず呆れながらジャックに話した。
「相変わらずね、何か趣味とか無いのジャックは?」
「放っておけ。住むには困らない」
「それにしたってね…」
「俺はお喋りをする為にお前を部屋に上げた訳では無い、言った事は守れ」
ジャックの言葉にティムはジャックと交わした約束を思い出し、
慌ててエプロンを付け冷蔵庫にある少ない食材から懸命に料理を作り出した。
出された物は普段ジャックが食べていない様な創作料理ばかりであった。
ジャックはそれを何も言わずに食べ始めた。
251名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:11:47 ID:F901jntt
「美味しい?」
「俺に選り好みする資格は無い」
「待ってよ! それだと『不味いけど我慢して食べています』みたいじゃ無い!
ちゃんとした感想、聞かせて!」
「食べられるよ、平気」
ジャックは答えるのもわずわらしかったが膨れっ面で聞いてくるティムが面倒なのか、
本心を答えた。それを聞くとティムも満足をし、その後2人で全てを平らげた。
「ねぇジャック又、パパに心配掛けようとしたでしょ」
後片付けを終えティムは実の父親であり、
仕事の上司であるアルバートとジャックとの話をし始めた。
ジャックはテレビを見ていたがティムの問いに答える為、
一旦、リモコンでテレビを消しティムの方を向き話し始めた。
「あの場合はああするのが最善だろ」
「嘘よ! ジャックだって私のハッキング技術は知っているでしょ!
炎の海に飛び込むなんて自殺行為も良い所よ!」
「自分の命も顧みず、目的を第一に考え行動する。それが俺等の仕事だろ」
「傭兵みたいな事を言わないで! 私達の仕事は探偵でしょ!」
ティムはジャックの仕事に対する姿勢を責め出した。
元々はアルバートとティムの2人でやっていた探偵事務所だが、
アルバートが寄る年波に勝てず、前程、無茶が効かなくなり、
ティムを自分の仕事に専念させる為、
ボディーガード用の人材を探していた所スラム街で4、5人相手に喧嘩をし勝利した
ジャックに目を付けスカウトをし現在に至った。
ジャックは基本、仕事に忠実であるが、
今回の様にチャンスがあると自分から進んで危険に飛びこもうとする事だけが
アルバートは評価出来なかった。
その事をティムは責めていたがジャックに悪びれる様子は無かった。
「何か? お前、俺が自殺する為にああ言った行動しているとでも思っているのか?」
「そんな事、一言も言っていないよ!」
「死ぬつもりなら、とっくに1人で首括っているよ、もう良いから帰れ」
「嫌よ! 今日は徹底的に話し合うから!」
「何をだよ?」
「ジャックが何をそんなに苦しんでいるのかをよ!」
思いも寄らなかったティムの発言にジャックは目を丸くして驚いた。
ジャックが黙りこくり話し合いが出来る状態なのを見極めるとティムは話し始めた。
「一緒に仕事して半年近く経つけどさ、
ジャック何時も何かに苦しんでいるっていうのが正直な私の感想」
「前に言わなかったか、俺のスラムでの通称」
「聞いた。『溝鼠ジャック』でしょ」
「そう。傷付けはするが殺しはしない。
そんなポリシーがスラム連中は気に入らなかったのだろうよ。
付けられたあだ名がそれだ」
「でも、それが原因ではないでしょ?」
252名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:14:05 ID:F901jntt
ジャックは何時も使う方法でこの話題から逃げようとしたがティムはそれを許さず、
厳しい眼光でジャックを見ていた。睨まれジャックは1つ溜息を吐き、
続きを話し始めた。
「お前さ、俺の何を知っている?」
「知らないから聞いているのでしょ!」
「そりゃそうだ。じゃあ徹底的に話してやるよ俺の全てをな」
ジャックは邪悪な表情を浮かべティムに自分の生い立ちを話し始めた。
「俺が元々スラムの生まれだ。よって親父もお袋もろくでなしの人間の屑だよ」
「そんな! 産んでくれた両親に対して!」
「この話、聞いても、それが言えるか?」
ジャック曰く自分の父親はギャングの下っ端であり、
娼婦である母親を抱き、慰謝料目的でジャックを自力で産んだが相手にされず、
そこから幼いジャックは母親の虐待対照にされていった。
「情けない話だよ。結局あの女はギャング抗争に巻き込まれ死んだが、
最後の最後まで俺に傷を与えたよ、遺言が何か分かる?」
「分からない…」
「『お前何て産まれてこなければ良かった』とよ。
まぁ、こんな陳腐なセリフで傷を負う自分も情けないがな」
ジャックの話にティムは呆然としていた。
そんなティムを一気に畳み掛け様とジャックは話を続けた。
「『朱に交われば赤くなる』と言う言葉があるだろ、
俺もスラムの屑に染まれば、今程の苦痛は味あわなかっただろうよ。
だが、ダメだったよ」
「何が?」
「どんなにやっても俺は人を殺す事が出来なかった」
ジャックは寂しげな表情を浮かべ、自分の胸中をティムに話し始めた。
「どんなに憎い相手でも傷付ける事は出来ても殺す事は出来なかった。
まだ人間でいたかったのだろうよ。けどそんな物は俺には邪魔なだけだ」
「何でそうなるのよ! 人殺しなんてこの世で最も見下すべき存在でしょ!」
「知った様な口を聞くな!」
ここで始めてジャックは声を荒立てティムを威嚇した。
ティムはジャックに軽く怯えながらも視線をジャックから離さずにいた。
ジャックはそこから怒涛の勢いで話し始めた。
「俺だってな、なれる物なら盗賊団にでもなりたかったよ、
けど現実、義賊なんて物は存在しない、金も命も全て奪う、
つまり人を殺す事が出来るのが絶対条件だよ!」
「何でそんな…」
「お前さ! 飢えに苦しんだ事あるのか? 寒さに苦しんだ事あるか?
徹底して貧乏した事あるか?
そして、それをどうする事も出来ないと言う状況に陥った事あるのか?」
「そんな働けば…」
「俺はな小学校にさえ通っていないストリートチルドレンだぞ、
そんな奴を何処の企業が雇う?」
253名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:16:10 ID:F901jntt
ジャックの現実的な意見にティムは押し黙ってしまった。
2人の間に気まずい沈黙が流れたが、それを打ち破ったのはジャックであった。
「悪かったな、けど、もう帰れ」
「こんな状態のジャックを1人に何て出来ないよ」
「それなら心配無用だ、俺は何時もこんな状態だ」
「だったら!」
「言っておくけど、俺とお前の状況逆さなら、俺、お前を殴り飛ばしているぞ」
「何よそれ! 一体どう言う事よ?」
ジャックの発言が癇に障ったのかティムはジャックを睨み付けた。
ジャックはそれを見て話し始めた。
「どんな事でもがんばれば、どうにかなんじゃねーの?
とか何とか言いながら殴り飛ばすのか正しい反応なんじゃねーの?」
「さっき『知った様な口を聞くな!』って言ったのはジャックでしょ!」
「そんな物も恵まれている人間にとっては貧乏人の僻みだ。
力のある人間は力の無い人間をどうとでもする事が出来る」
「何よそれ! 私に何の力があると言うのよ?」
「お前は最高の父親が居るし、学歴だってある。理解者だって居るし、
世間からの目も俺とは大違いだ」
「そんな! だからって!」
「正直な話してやろうか。人間になりたかったのだよ、俺は」
話している内に興奮して来たティムを静める様にジャックはポツリと一言、
漏らした。ティムはジャックの告白に聞き入ろうとした。
「俺はこの先の人生、多分色んな人のストレスの捌け口になるのがオチだろう。
そして俺自身、その現実に耐え切れず、どうしようもない末路を向かえるのがオチだ。
スラムでそう言う人間を何人も見て来た。
それなら誰かの役に立って死んでいきたいよ」
「そんな…そんなのって…」
「なれるのなら、俺だって好き放題やりたかったよ。暴走するだけ暴走して、
フォローは他の誰かやってくれる。でも何時でも愛してくれて優しくしてくれて。
そんなドラマの中みたいな愛が俺だって欲しかったよ。でも無理だ。
だから死んで人間になろうとした。以上だ」
「そんなの愛ではないよ!」
声に悲しみが混じり今にも泣き出しそうな表情でティムはジャックを
強引に自分の胸へと抱き止めた。
服の上からでも分かる膨らみにジャックは軽い興奮を覚えながらも
ティムの行動に困惑をした。
254名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:17:52 ID:F901jntt
「何の真似だ?」
「ジャックさ逆の立場なら殴り飛ばすとか言ったでしょ。そんなの最低だよ!
自分の考えだけ押し付けて、自分の都合の言い様に洗脳する。
そんなの愛でも何でも無いよ!」
「お前はそう言うのを求めないのか?」
「嫌よ! 私、そんな依存何てしたくない!」
「依存?」
「そうだよ! 私ドラマの中での下らないメッセージに共感出来ないし、
求めようともしないわよ! 私、考えは全て自分で作り上げたよ」
「まぁ、あの放任主義の親父さんならそうだろうな」
「そう…私は自分の目で見て、耳で聞き、言葉を話し、
そして今日まで生きて来た。それはこれからもずっと続けるよ目的の為にもね」
「何だよそれ?」
ジャックの疑問にティムは一旦ジャックを抱き止める手を緩め、
ジャックとの間に距離を作ると顔をジャックの顔に近付けジャックの唇に
自分の唇を触れさせた。
突然の事にジャックは目を白黒させ驚いたが抵抗出来ず、
そのままティムのなすがままにされた。数秒のキスを終えるとティムは若干、
顔を赤らめながら話し始めた。
「それはね『大好きな人とずっと共に歩いて行く事』私はジャックの事が好きです」
「俺の何を好きになる? 将来性も何も無いのによ」
「優しい所」
ティムの短い言葉にジャックは呆然とした。
自分がそんな人間とはとても思えられないからである。
ティムはジャックの疑問を解消する為に話し始めた。
「ジャックは優しい人だってのは良く分かるよ。私がジャックの立場なら、
もっと荒れた生き方していたと思う。
他人の事なんて顧みないで自分の為だけに生きていたと思う」
「スラムはそんな人間で溢れかえっているよ」
「でもジャックはしなかった。それは他人を思いやれる。
痛みを知る事が出来る優しさを持っていたからでしょ?」
「そうなのか? 分からない」
「そうだよ、パパが初めてジャックに会った時も
ジャックが喧嘩していた理由ってレイプされそうな女の人、助けたからでしょ」
「そうだったけ? 忘れた」
「もう良いでしょ。ジャックが求める物、
全部は無理だけど出来る限り与えて行くから、だからお願い私だけを見て」
「ティム…」
255名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:20:00 ID:F901jntt
そう言いティムは立ち上がりジャックの眼前で自分の服に手を掛け脱ぎ始めて行った。
少しづつ露になっていく裸体にジャックは何も出来ず、只、見惚れる事しか出来なかった。
互いに全裸となってベッドに居てジャックは自分の下に居るティムに見惚れていた。
全体的にスレンダーな体型であるが、胸は豊満であり、恥部を覆う毛も比較的薄い方である。
これにジャックの男は興奮を示し男を表現していた。
唇を付け互いに貪る様に舌を絡ませ求めた。
その間にも触れ合っている肌の感触に我慢が出来なくなりジャックは手を伸ばし
胸をやんわりと揉み始めた。
「ん…ふぁ…やん」
自分の手の中で容易に形を変えるそれとティムの声に興奮したジャックは
更に強く揉んだ。手の中で固い突起が当たるのを感じると、
それに興味を持ち口付けから一旦、顔を離しティムの乳頭に吸い付いた。
「嫌! ダメ! ジャック、そんなの恥ずかしい!」
ティムは顔を赤らめジャックの行為に恥らったが、
体が更なる行為を求めていると言う事は分かっており、
そのまま赤子の様に乳房へと吸い付いた。
胸を十分に味わった所でジャックは体を下に移動させ恥部へと顔を埋め、
そのまま舌で恥部を刺激し始めた。
「ダメ! そんなの!」
ティムの発言とは違い、恥部の方は愛液を次々と垂らして行き快楽を感じていた。
ジャックはそれを自分の舌で全て舐めとって行った。
荒い呼吸で涙目の状態でティムはジャックを見ていた。
表情と体の状態から行為にいけると踏んだジャックは怒張を持って行こうとしたが、
躊躇いが出てどうして言いか分からずにいた。
ジャックの心を読み取ったティムは一旦、起き上がり、
自分の財布から避妊具を1つ取りだしジャックに手渡した。
「大丈夫だよ、
私はジャックとの繋がりだけでジャックと
同じ目に合わせる様な子供なんて絶対に作らないから」
「悪い…」
多少、申し訳なさそうに避妊具を装着するとジャックは怒張をティムの恥部へと宛がい、
そのまま一気に押し込んだ。
「ぐぬぅ…う…っむ」
僅かばかりの鮮血がシーツを染め上げ、ティム自身も苦痛の表情を浮かべたが、
それをティムはすぐに止め笑顔を浮かべジャックを安心させようとした。
ジャックはティムの心を読み取り、出来る限り行為を早く終わらせようと若干、
乱暴に動いて事を終わらせようとした。
「ひぐぅ…ジャック…良いの気持ち良い?」
「ああ、ゴメンな、もう…」
「良いよ出しても…あ!」
ティムの許しが出ると同時にジャックはティムで思いを爆発させた。
互いに荒い息遣いのまま抱き合い、放出後の心地良い気だるいに囚われていた。
256名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 02:21:59 ID:F901jntt
「なぁ…」
「何?」
2人は裸のまま1つのシーツを共有し話し合いを始め様としていた。
何処か遠い目をした状態でジャックの方から話を振って来た。
「優しいと言ったけど、この程度、人間として当然の事だろ」
「ダメだよ。そんな傲慢なのは、そうやって追い込んでばかりだと、
その内、大爆発起こしちゃうよ」
「けどよ…」
「すぐに結論出して変わろうと何てしなくても良いよ。
少しづつ変わって行こう。私はジャックを見ているから」
「ありがと…」
それだけを言うと照れ臭くなったのかジャックは頭からシーツを被り、
そのまま眠りに付いたティムは愛している人の秘密を分けてもらい、
1歩距離が縮まった喜びと不安を感じながら同じ様に眠りへと落ちた。
「最近、お前は良くなって来たな」
アルバートは資料をパソコンで纏めながら
自分の眼前で腕を組んで待機しているジャックに一言言った。
「何がですか?」
「全体的にだ。仕事の方でも冷静な対応が出来る様になったし、
前に比べて笑う事も多くなったみたいだ」
「この仕事をやって行く以上、それは腑抜けたと言う事になりますか?」
「いや、お前の場合は少し力を抜いた方が良い、
常に切羽詰った状態では良い結果は残せないからな」
「そうですか?」
「これからもその状態をキープしろ、次の仕事だ。ティム出番だ」
「ハイ、パパ」
奥の部屋から準備を終えたティムが愛用のノートパソコンを片手に出て来て、
ジャックと共に現地へ向かおうと先にドアを開け行った。
ジャックも後を追う様に出掛けた様とした時であった。
「ティムの事、大切にしてくれ。少し乱暴な所もあるが、あれで良い子だから」
全てを見抜いているアルバートの言葉に多少、驚きを感じたが、
ジャックはティムの後を追い事務所を出て、2人並んで現地へと向かった。
アルバートは窓から2人の様子を暖かい眼差しで見守っていた。

以上です。失礼します。
257名無しさん@ピンキー:2006/05/13(土) 15:34:24 ID:VePTsGFC
Timって男性名ティモシー(Timothy)のあだなじゃ…
258名無しさん@ピンキー:2006/05/14(日) 12:26:34 ID:vdMGTigv
GJです
最高〜
259名無しさん@ピンキー:2006/05/18(木) 00:28:45 ID:ljgilBhe
保守
260名無しさん@ピンキー:2006/05/25(木) 16:13:01 ID:ovVfaiPz
ほぉしゅっ!!!!
261名無しさん@ピンキー:2006/06/01(木) 21:48:20 ID:FXMw00xt
まぁ、あれだ。




保守
262名無しさん@ピンキー:2006/06/02(金) 01:41:19 ID:vCAeSYUg
書くのは難しい
263名無しさん@ピンキー:2006/06/03(土) 18:17:10 ID:6t3VuduF
保守
264名無しさん@ピンキー:2006/06/05(月) 09:10:46 ID:/zUMIivg
上げ
265名無しさん@ピンキー:2006/06/08(木) 12:07:34 ID:Q6jKnhyP
保守しますよ



神様達はどこに行ってしまったのかなぁ。
266名無しさん@ピンキー:2006/06/08(木) 19:01:13 ID:3vS+kuzp
神無月だしなぁ……
267名無しさん@ピンキー:2006/06/09(金) 03:38:01 ID:TGVq6csg
神無月は十月
六月は水無月
268名無しさん@ピンキー:2006/06/14(水) 00:21:19 ID:YS3fcDwO
未完の大作が多いからねぇ。


それを見届けるまでは、落とさせはせん。
269名無しさん@ピンキー:2006/06/14(水) 00:51:58 ID:yt29pyeO
そろそろcatの続き希望
270名無しさん@ピンキー:2006/06/18(日) 03:59:53 ID:ntGTnRmH
166です。忘れ去られてるっぽいですが、
就活も終わったんで書いてみました。

一応前作のアナザーサイドです。
ユウ×真弓、真弓視点。

エロなしです、すみません。
271悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:16:09 ID:ntGTnRmH
昨日は一昨日の続きだった。
今日も昨日と変わりなかった。
それでも、明日は違うと信じていたい。

* * *

ピピピピピッ
「………………。」
ピピピピピッ
「………………ん。」
カチ。
朝から不愉快な電子音で目が覚める。
まだ外は薄暗いが、いつものことだ。日が延びたせいか、近頃はだいぶまし
になってきている。
「ふぁ…。」
私は朝に強い方ではない。それなのにこんな時間に起きるのには、ちょっと
した訳がある。
とりあえず顔を洗って制服に着替え、リップで唇に色を注す。周りからは化
粧っ気がないって言われるけど、高校生ならこれで充分だと思う。
髪型だって別にこだわってるわけじゃないけど、ユウが「長いほうが好みだ」
みたいに言ってた…と思うから、肩にかかるぐらいで整えてる。
272悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:17:55 ID:ntGTnRmH
私の朝が早い理由。それは、身嗜みを整えた後の日課。
ホットミルクとトーストの簡単な朝食の後、私はエプロンを着けなおしてキ
ッチンに立つ。
今日の献立はピラフとレタスを添えたミートボール、それにポテトサラダ。
デザートを適当につめて、お弁当ができあがる。別に凝ったものじゃないし、
かといって超手抜きにしたつもりもない。
…ここまでなら、普通かもしれない。でも私は、同じものをもう一つ。こち
らの弁当箱は、私のより少し大きい。

ユウに、食べてもらいたい。
そう思って、毎朝ずっと二つのお弁当を用意している。

273悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:19:12 ID:ntGTnRmH
* * *

学校への通り道、ユウの家の前でユウが出てくるのを待つ。
「おはよう。」
私の一日の中で、一番緊張する瞬間。
トーストを咥えたまま飛び出してきたユウ。自分と同じ朝食のメニュー。たっ
たそれだけのことが嬉しくて、自然に笑みがこぼれる。
「急がないと、遅刻するよ。」
私の言葉にうなずくと、ユウは急ぎ足で歩き出した。コンパスの小さい私はど
うしても駆け足に近くなってしまう。
「ユウ、ちょっと、速いよぉ。」
「遅刻しそうなんだから、しょうがねぇだろ。」
「もう、遅れそうなのは誰のせい?」
待ってた私も私だけど、ちょっと不服。
ちょっぴり拗ねた私に、ユウは困ったような笑顔を向けた。

ユウの、こんなちょっとした表情が好き。初めての引越しで不安ばかりだった
私にとって、ユウが向けてくれる優しさはとっても大事なものになった。
274悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:21:23 ID:ntGTnRmH

* * *

「…ユウ?」
「…ん?」
授業の間、ユウは堂々と机に突っ伏して寝ていた。
「見事な爆睡だったね。」
寝起きの顔もなかなかにかわいらしい。
…なんて本人に言ったら怒るのかな?
…ううん、きっとユウは怒らない。きっと、「見るなよー」って照れるんだ。 そんな姿が簡単に想像できてしまって、思わず笑ってしまう。

「ねぇ、あんたたち本当に付き合ってないの?」
ユウの向こうから、親友の里加が近づいてくる。
「何だよいまさら…」
寝起きの不機嫌な声でユウが答える。
里加は私がユウに好意を持っていることを知っている。こんなことを聞くのは、
何気にユウの気持ちを聞きだそうという魂胆なのだろう。

「だって、端から見たらそうとしか見えないよ?学校来るのだっていつも一緒じ
ゃん。」
「…家が近いだけだって。」
そっけないユウの返事。なんだか悲しくなってくる。
「どーだかね……真弓、購買行かない?昼休みに行ったんじゃ、混んじゃうでし
ょ。」
「ん。いいよ。ユウも行く?」
「俺はいいや。弁当あるし。あ、でもお茶だけ買ってきて。いつものやつ。」

…またか。
ユウにお弁当を作り始めてから、一度も渡せたためしがない。いっつもお弁当
持参で来るユウなんだから、あたりまえではあるけれど。
「ん。わかった。」
275悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:22:46 ID:ntGTnRmH
「…で?今日もお昼をご馳走になれるのかな?」
悪戯っぽく笑う里加。私のお弁当は、毎日里佳のお腹に納まっている。陸上部
の里加はユウのために用意した分でも平らげてしまう。
「…ごめんね、毎日付き合わせちゃって。」
「いいって。真弓の料理は美味しいからな。悠樹も馬鹿だねー、こんなにうまい
ものほっとくなんてさ。」
大き目の弁当箱を受け取りながら、冗談交じりに笑う里加。
いつかユウにお弁当を渡せるようになったら、今度は三つ作らなきゃ。
・・・そんな風に思えるくらい、里加はおいしそうに食べてくれた。

  ** *

放課後、特に用事も無かった私は図書室にいた。
難しい本は苦手だけど、この空間特有の静けさがお気に入り。
ここへはよく来るし、慣れた場所ではあるんだけど、今日は全然落ち着かない。
だって、今日は里加が・・・ユウをつれて来てくれる、はず。

「今日、野球部はオフになったってさ。私が悠樹引っ張ってくからさ、
一緒に帰んなよ。」

そう言って悪戯っぽく笑ってたけど、その心遣いが素直にうれしい。
もっとも、慣れた場所で緊張してるのはそのせいなんだけど。
276悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:23:49 ID:ntGTnRmH

「来たよ、真弓。」
里加が来たときにはだいたい借りる本の目星はついていた。
「ん、ちょっと待っててね。」
里加の後ろで待ってるユウに目が行って、ちょっと声が上ずった。

「お待たせ。」
いそいで二人のところへ戻って、家路につく。
とはいっても、里加とは家が逆方向だから、校門で別れることになる。
だからほとんどユウと二人で帰れるんだけど・・・
当のユウはそんな私と里加が一緒に帰ることを不思議に思ってるような顔してる。

「鈍いやつだな、おまえ。」
別れ際、里加が唐突にユウに言った。
ユウに私の気持ちが伝わっちゃいそうで、思わずそっぽを向く。

私だって、もっとユウの近くにいたいと思う。
だけど、すでに私たちは結構仲良しだ・・・と、思う。
今のこの関係はなんなんだろう?
近くに行きたいけど、遠くなってしまうのが怖い。
結局、私は臆病なのかな。

277悠樹×真弓:2006/06/18(日) 04:25:36 ID:ntGTnRmH
ユウとの帰り道、朝と同じ時間が流れていく。
ちらちらと横顔を見てみても反応は薄くて、ちょっと悲しくなってきた。
夕日に染まり始めた町は人気もなくなり始めている。

「ねぇ、ユウ。」
「ん?」
「里加ってさ、誰か好きな人いるのかなぁ。」
ユウの事を聞くのは怖いから、ちょっと外れた質問。
意気地ないなって自分でも思う。

「わかんねぇ。っていうかさ、真弓が知らないのに俺が知るわけないじゃん。」
「本当に?里加、私にはしつこく聞いてくるのに自分のことはなんにも教えて
くれないんだもん。…ユウなら知ってるかと思ったんだけどなぁ。」
あまりにそっけない答えにちょっとがっかり。

「…聞かれるんだ?」
「聞かれるよー。ユウとは本当に付き合ってないのか、って。」

思わぬ切り返し。
胸がどきどきする。
必死に平静を装って、今の距離を保とうとする。
 
近づきたい。
離れたくない。

相反する想いの中で、自分の殻にしがみついた。

「…そりゃ、里加もわかってねぇな。」
「…だよね。ふふっ。」

・・・胸が、痛い。
私はここにいるのに。
ユウは見てくれないの?
精一杯の強がりで、笑って見せるのが私の弱さ。

 

「じゃあね、ユウ。」
「ああ。また、明日。」
ユウの家の玄関先で、挨拶を交わす。
ユウの顔は見たいけど、今の私の顔は見られたくない。

だから振り返らずに家まで走りたかった。
走り出さずに歩いたのは、せめてもの強がり。


 明日のお弁当のおかずは何にしよう。
 明日もあさっても、いつも作って待ってるから。
 いつかは食べてくれるよね。

〜了〜
278166:2006/06/18(日) 04:27:23 ID:ntGTnRmH
以上です。お目汚し失礼しました。
神々の降臨までのつなぎになれれば幸いです。
279166:2006/06/18(日) 04:36:03 ID:ntGTnRmH
以上です。お目汚し失礼しました。
神々降臨までのつなぎになれれば幸いです。


・・・相変わらず改行や漢字にミスが・・・・・・・・・
書き込んでから気づくなんてまだまだです。orz
280名無しさん@ピンキー:2006/06/18(日) 22:13:44 ID:sAM8spdk

あなたも神ですよ!
281名無しさん@ピンキー:2006/06/18(日) 23:18:44 ID:IJKFbpB3
gj
282名無しさん@ピンキー:2006/06/19(月) 02:29:44 ID:CGf6iYtx
gj!
そしてアゲ
283名無しさん@ピンキー:2006/06/19(月) 21:58:58 ID:+AKoJh21
SS初挑戦なんですが書いてみてもいいですかね?

あと、携帯からの書き込みなんで改行等がおかしくなるかもしれません
284名無しさん@ピンキー:2006/06/19(月) 23:00:21 ID:yFHlcpw3
>>283
書いちマイナー
285名無しさん@ピンキー:2006/06/20(火) 13:08:21 ID:twb6Vhi/
286名無しさん@ピンキー:2006/06/20(火) 22:59:11 ID:5tUysLGY
287名無しさん@ピンキー:2006/06/21(水) 19:02:44 ID:D9np9zpy
>>284
では書かせていただきます
稚拙な文になると思いますがよろしくお願いします


土日のどちらかに投下します
288名無しさん@ピンキー:2006/06/22(木) 00:52:38 ID:a7DLjP17
誘い受けウザス
289絢音と信:2006/06/24(土) 20:49:35 ID:6NJLs0nc
   序章

 プラットホームに真っ黒で長い髪の少女が降り立った。一見するとごく普通の高校生だがどこか他とは違ったような雰囲気を漂わせている。
 すれちがう同年代の高校生は見たこともない制服と美しい外見に目が釘付けになっている。
 自動改札を抜け駅の構内から出た少女を暑い暑い日差しが迎える
 少女は呟く
「信・・・どこかな・・・」
290絢音と信:2006/06/24(土) 21:12:19 ID:6NJLs0nc
   一章


 朝、夏休みも半分を過ぎた頃、信はやっと覚醒しきった頭で電車の席に座っていた。昨夜は宿題を頑張りすぎたな等と考えているとアナウンスが目的の駅に着く事を教えてくれる。
 信は夏休みだというのに毎日部活をしに学校に登校していた。
 一昨日も昨日も今日も・・・そして明日も同じ生活をするのか、と心の中で溜め息をする。部活は三年生が引退したので二年の信達が引っ張っている。しかも信は副部長だった。
 駅から出た信は眩しくて目を細めた。時刻は12時を回ったとこか。駐輪場へ向かう彼は見たこともない制服の少女を発見した。
 しかも・・・可愛い・・・
「可愛いなぁ」
つい口からこぼれた言葉、一目惚れ?自問自答をしていると少女と目が合った。澄んだ瞳で見つめられて信はなんだか恥ずかしくなった。すると少女はこちらへ向かって歩き出した。え?俺なんかした?目の前まで来て少女は言った。
「あの、春日西高校ってどこだかわかりますか?」
291絢音と信:2006/06/24(土) 21:47:40 ID:6NJLs0nc
何を言われるかひやひやしたがそんなことか、とほっとした。
「西高ならわかるよ。俺生徒だし」
「本当?よかったら連れてって?」
こんな可愛い娘に言われて断る馬鹿がどこにいる。
「いいよ」
二つ返事でそう言った。
 真っ昼間から二人乗りなんてしたらポリスメーンに拉致られるので学校まで歩くことにした。少し部活には遅れるが30分あれば着くだろ。
「ねぇ、なんでうちの学校に行きたいの?」
さっきから気になっていたことを信は聞いてみた。
「んーと・・・人に会いにかな」
「へぇー、その制服ってここら辺のじゃないよね?どこから来たの?」
「・・・遠く・・・」
彼女はそれだけ言った。何か不味いことを聞いてしまったのかと慌てて違う質問をした。
「何歳なの?」
「16・・・あっ、でももうすぐ17あなたは?」
「俺は17、高二」
「じゃあ、同じ学年だね」
微笑みながら彼女は言った。改めて信はこの少女を可愛いと思った。
 いつの間にか学校に着いていた。彼女との時間もここまでか、と少しがっかりしたが一応聞いてみた。
「これからどうすんの?」
「弓道場に行きたいんだけど。今部活してるかな?」
「してるよ・・・多分」
多分をつけたのはうちの部長はいい加減な奴なので100%とは言いがたかったから。
「もしかして弓道部の人?」
「うん、そうだけど?」
「部員に信って人いる?」
・・・俺?こんな娘知らんぞ?
「信は俺しかいないけど」
「え!?あなたが信だったの?あたしだよ。絢音」
絢音という名の知り合いは一人しかいない。しかも顔も見たことないメル友だ
「・・・・・・絢音?本当に?」
「本当だよ」
「なんでこんなとこいるんだよ?」
「会いに来ちゃった」
うつ向きながら絢音はそう口にした。


    第二章へ続く
292名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 01:09:22 ID:bf+CzQ4x
久々に覗いてみたら職人さんが!
GJです!
293名無しさん@ピンキー:2006/06/26(月) 08:34:00 ID:efHp+zET
このスレはまだ死んでない!!!
294スズキ:2006/06/28(水) 22:44:28 ID:NgCfxALZ
初めて書き込みます。
291さんの途中ですみません。

エロなしで長いですが、よかったら読んでください。
295不完全種族  1/17:2006/06/28(水) 22:51:27 ID:NgCfxALZ
人間は常に『完全』を願い、『完全』に憧れる。
しかしいくら歳をとろうとも生きている限り『完全』はありえない。

だからこそ人は身を寄せ合い、万物を愛しむ心の広さを持つのだろう。



「見合い?律子さんが?」
上着を着ながら幸造さんの体がピクリと動く。
『さん』なんてつけないでって言ってるのに。
「いつ?」
「再来週の15日だって言うのよ。急な話しだし困りますって言っても聞いてくれなくって。」

2日前、部長に薦められた話だった。
『塚本さんももう27歳だろう?そろそろこんな話も君に必要なんじゃないかと思ってね。』
そう笑う部長の提案は私にとって迷惑以外何物でもない。

部長は…いや社員全員考えもしないんだろうな。私、塚本律子(つかもとりつこ)と今年38になる完全無欠の仕事の鬼、
佐々木幸造(ささきこうぞう)さんが1年半も付き合っているなんてこと。
「久しぶりなのにこんな話でごめんなさい。それでね…」
部長に私たちのこと話してもいい?そう言おうとして幸造さんにさえぎられた。
「へぇ。そうなんだ。」
え??
へぇそうなんだ?  へぇそうなんだ!!!???
表情すら見えないがもっと何かないんだろうか?
やっと顔が見えたと思ったら、想像とは違うさわやかな笑顔だった。
「やってみればいいよ。何事も社会経験だ。別に俺たち付き合ってるわけじゃないんだし」
「え?」
「さて、俺明日も早いしもう帰るよ。」
ポンッと膝をたたきながら立ち上がる。それこの前おじさんっぽいって言ったばっかりなのに…。
ポツンと部屋に残され、こんなにもやもやしている原因を追究する。突然答えが出た。
(え!?さっき付き合ってるわけじゃないって言った!!??)
完璧落ち込んでしまった。そうか…そうだったんだ。

言われてみれば…
幸造さんに抱かれるようになって1年半と言うだけでそのきっかけも酔った勢いという情けない話だ。
付き合うとかちゃんと話したことはない。それどころか好きってことも。
でももう大人なんだし、言わなくても分かると思ってた。確かに酔った勢いではあったけど、私はずっと幸造さんが好きだったし。
296不完全種族  2/17:2006/06/28(水) 22:52:52 ID:NgCfxALZ
そのベタボレの幸造さんは調査一課の課長で、175cmのすらりとした体系。
余計な肉がついてないし、結構端正な作りだから密かに女性社員の憧れにもなっていた。
まぁ歳が歳だし、仕事以外何も見えない仕事バカだから誰も寄ってはいかなかったけどね。

私もずっと怖かったけど、徹夜明けの残業でつい寝てしまった私の仕事を、黙って片付けてくれたことがあった。
緊張しないで話せだしたのはあれからかしら?
怒鳴られると思っていたけど、予想に反して優しく笑っていた幸造さん。『今度おごれよ。』って頭を軽くたたかれたけど…。
「なんかめちゃくちゃうれしかったんだよなぁ。」
目を細め、うふふと笑う自分に気づき、かなり不気味に思う。
軽く咳払いをすると窓から入る月の光を見た。

「お酒入ってたから遊びだと思ってんのかしら?」
…あの日お酒に頼ったのは、歳の離れた幸造さんにぶつかる勇気が…あと一歩が欲しかっただけなのに。
297不完全種族  3/17:2006/06/28(水) 22:54:22 ID:NgCfxALZ
「なによあのオヤジ!あんたなんか私が相手しなかったら誰も相手しないんだよ!!」
梅酒のロックを飲み干しながら勢いよく叫ぶ。
「うるさいよ。ってかありえない。お前の方が佐々木さんいなかったら相手にされないんだよ。」
同期の美紀がうんざりした顔で言う。美紀は幸造さんとの関係を唯一知っている優しく冷たい友人だ。

いつものように会社近くの居酒屋で私の愚痴に付き合ってくれていた。
「なんでよ。幸造さん38だよ?世間様じゃあ立派な行き遅れだよ!あんな仕事人間好きになる女見てみたいねー!」
「律が言うんだそのセリフ。いや今の時代38くらい行き遅れじゃないし。そんなこと言うんだったら27の女だって行き遅れ一歩手前だよ?
ってか佐々木さん律より片付けうまいじゃん。器用だし。あれって会社だけ?」
「…美紀…自分が結婚してるからって余裕ね。」
「歳のことばっか言うけどさー。佐々木さん加齢臭する?中年太りしかけ?女に困って見える??」
「…し、しない!見えない!!くやしい!!!だってかっこいいんだもん私の幸造さん!!!」
「あんたのじゃなかったけどね。ご愁傷様。まずはお付き合いからだね。」

しれっとお酒を口に運ぶ美紀の顔を睨む。あぁこんな口達者な女が友達で幸せです。
298不完全種族  4/17:2006/06/28(水) 22:56:22 ID:NgCfxALZ
コップを置いた美紀が私に向き直る。
「もー!こんなとこで愚痴らないで佐々木さんに直接言えばいいじゃんそのまんま!なに我慢してんのー?」
「だって…。もう大人だし。…自分の感情喚き叫ぶなんてどうかと思って…。」
「大人…ね。まぁいいけど。いい?我慢して自分が耐えておけば続くなんてことありえないんだよ。
元は他人なんだから。その分いっぱい話して自分をわかってもらわないと…。ね、それよりあんたお見合いどうするの?」
「断るわよもちろん。」
「会うだけ会ってみりゃあいいのに…」
そこまで話すと美紀の言葉をさえぎって着信の音が響いた。美紀がどうぞというジェスチャーをしたので電話を取る。
見ると幸造さんからだった。
「も、もしもし?」
「あ俺。律子さん今平気?思ったより早く仕事終わったから今から家行かせてもらおうかと思って。」
やったぁ!!!!!
「あ。そうなの?」
心の中でお祭り騒ぎだったけど声はあくまで平常心。
顔だけはにんまりと満面の笑顔だったようで、それを見た美紀が『しっしっ』と聞こえるほど手を振って行く事を許してくれる。
「じゃあ15分くらいよね?お疲れ様、気をつけてね。」
電話を切ると呆れた美紀の冷ややかな目がある。
「また飲んでるの内緒か!キャラ作ってて疲れない?大人ってそんな自分を押さえつけなきゃダメなんだ。」
「あはは♪嫌われる要素はなるべく消しとかないとね!」
もうどんな嫌味も打ち消してしまうほど幸せです!
水を飲み干し、口臭消しを口に振りかけお酒の匂いを消す。

「ごめんね次おごるから!!ありがとう美紀!!」
「わかったわかった。早く行けー。」
整った美紀の顔がふっとほころぶ。あーもうなんて綺麗で優しい人なんでしょ。頭に抱きついてちゅーしてやる。
ぎゃあって声を背にして足早に店を出た。
299不完全種族  5/17:2006/06/28(水) 22:58:36 ID:NgCfxALZ
ダッシュして5分で家に着く。
残り10分程度。
とりあえずビール飲んでもらってその間にご飯作ろう。もう11時だし軽くの方がいいかしら?幸造さんすぐ胃が痛くなるし。
台所に昨日作った里芋の煮付けが残っているのに気付く。これとお茶漬けとあと豆腐あったから冷奴にお味噌汁でいいでしょ。
というより時間内に終了させるにはコレしかない!
メニューが決まったところでとりあえず煮付けに火をかけ、まとわり付くお酒の匂いを香水で消す。
アロマのロウソクに火をつけたところで玄関のチャイムが鳴った。

「どうぞ。」
髪の毛を微妙に整えながら迎え入れる。幸造さん!スーツもうやばいって鼻血でる。
「ごめんね、まだ作ってないのよ。ビール飲んで待っててくれる?」
「ん、悪い。軽くでいいから…あれ?」
台所を通り過ぎようとした幸造さんが振り返りドキリとする。
「な…なに?」
ふっと笑う声が聞こえる。幸造さんの大きな手の甲が私の頬に軽く触れ後ろによろめく。
「酒飲んだ?律子さんって顔にすぐ出るよな。」
くるりと回りリビングに歩く幸造さんの背を見る。あぁもう私がこんなドキドキしてんのに何とも思わないの!?不感症!!
い、いやそうじゃなくって…しまった。ばれた…こんなに用意周到だったのに!!まさか顔色で!!
「う、うん。美紀と一緒に…さっきまで飲んでたの。」
「隠そうとしてた?あははっいいのに。あ。じゃあ途中で抜けさせたんだ。悪いことしたね。」
隠そうとしてたことまでばれた…。恥ずかしいままうつむいてすごすごと幸造さんの後を付いていく。
ちょうど温まっていた煮付けを皿に盛り付けた。
「でも明日から気にしなくていいよ。俺ちょっと…あっ煮付け!うまそう。」
話の途中で煮付けに気付き、うれしそうに箸をむける。こんな大きい身体でかわいいなぁ。
ちゃっちゃっとさっきのメニューを作り終え、早く行きたかった幸造さんの横へ座りビールをつぐ。
「わぁ!味噌汁までありがとう。器用だよな〜短時間で。」
何を作っても喜んでくれる幸造さんが好き。
男らしい食べっぷりでお皿からドンドン食べ物がなくなってきた。少しだけ残った味噌汁を全部飲み終わり、
幸造さんがごちそうさまでしたと芝居がかったように言った。
300不完全種族  6/17:2006/06/28(水) 23:00:32 ID:NgCfxALZ
「律子さん。」
お皿を引く私を目で追いながら幸造さんが言った。
「俺、明日からお邪魔するの控えるよ。せめて再来週まで。」
「え?」
再来週?再来週ってまさか…。
「もし俺がここに出入りしてるの見られたら大変だろ?見合いどころじゃなくなるし。」
どうして?
どうして幸造さんがお見合いを進めようとするの?
手が震える。片付けようとしたお皿をテーブルに戻して座りなおした。
「幸造さんは…私がお見合いしていいの?」
私が別の人と結婚を前提としたお付き合いをするかもしれないのに。
お願い。お願い。一言でもいいからイヤだって言って。
幸造さんが私に向き直り静かに口を開く。
「律子さん。人に決心を委ねるのは簡単だよ。だけど君も大人だろ?自分のことは自分で考えるようにしないとダメだ。」
血の気が引く。
『自分のことは自分で…』
ぽーんと突き放されたようだった。私達2人の問題ではなかったんだ。幸造さんは私の好きにしろって、勝手にしろって言ったんだ。
もしかしたらこれを機に私との縁を切りたいのかもしれない。
再来週とは言わず、もう2度と来ないつもりかも…。そうでなければこんなにもお見合いに協力するだろうか?
「そ……ぉね。」
声がかすれるのに気付き、語尾を多少強める。のどの奥に塊を感じながら幸造さんの目を見た。
「お見合い、するわ。」
「…うん。」
確かめるように低い声がうなずき、言葉を続ける。
「じゃあ。また。」
目線の先にあった幸造さんの胸が上へと移動し、足が見えたと思ったら視界から誰もいなくなってしまった。
後ろの方でガチャリとドアの開く音がする。

追いかけるなら今なんだろうな


その言葉が妙に冴えた頭に鳴り響くが、鉛のように重い身体は全く動こうとしない。
301不完全種族  7/17:2006/06/28(水) 23:03:02 ID:NgCfxALZ
お見合いを決めてから大忙しだった。
すぐに両親に電話すると男っ気がまるでないと嘆いていた両親はこの話に驚くほど大喜びで、
心配させていたんだなと初めて知った。
時間も場所も着々と決まっていく中で私一人どこか実感がわかなかった。
少なくともこのお見合い相手と結婚するとは露ほどにも思えない。

何の為のお見合いなのだろう?どこかで幸造さんが止めてくれることを待ってるのかもしれない。そんなことありえないのに。

その幸造さんは憎らしいほどいつも通り、楽しそうに仕事をしている。あれから本当に家に来なくなった。
電話もなく、もともと会社でも仕事の指示以外で話すことものなかった私たちはこの数日で名実ともに他人になったようだった。
周りに知られることもなく、この人は私の男なんだと感じた幸せごと一日一日消えていく。それが孤独を浮き彫りにさせ、ひどく寂しく思われた。

今の私の望みは「再来週まで」と言った幸造さんの言葉だけ。
お見合いの日さえ過ぎれば何事もなかったかのようにまた来てくれるようになると、そう信じたい。


そして7月15日。今日がお見合いの日。
302不完全種族  8/17:2006/06/28(水) 23:05:20 ID:NgCfxALZ
「く、苦しい〜!!」
私が地獄の底から湧き出るような声をだす。
「我慢しな!着物ってしっかり絞っておかないとかっこ悪いんだから!」
冷房が付いているにもかかわらず着付けをしてくれている美紀の額に汗が光っている。
「って言うか…。なんでこの着物選んだの…。」
「………」
恥ずかしい私は無言だった。
この前母が『着物借りてもお金高くつくから私の着物でい〜い?』って言っていた。
まるで興味がなかった私はうんうんと適当な相槌だけ返し、一度見ておけと言った母の言葉を無視したのだった。

母の若いころに買ったと言うその着物は誰が見ても目を奪われるほど美しかった。
手の込んだ刺繍。まだ買ったばかりだと言われても疑わないほど鮮やかな赤…。
……………
そう。真っ赤だった。なんだこれ?こんな鮮やかな赤もうすぐ27を迎えようとする女が着てもいいものなんだろうか?
いくら結婚するつもりのない男性に会うからと言ってもこれは恥ずかしい…!!

「まぁ…たまにはいいかなと…」
苦し紛れに言う私を美紀はぷっと笑った。
「あははっ!律っていつもどこかでドジしてるよね。会社で見ると本当にしっかりしてそうなのに。」
「本当…返す言葉もないです…」
「そこがいいんだよ。かわいいってことっ!さ。出来たよ。行ってらっしゃい。」
ぽんっと美紀が帯を叩く。振り返ると子供でも見るような目で優しく笑っている。
「不器用だねぇ律は。」
そう言うと私の前髪を直してくれた。なんだか泣きそうになる。

「律子!用意できたの?あらとっても綺麗じゃない!!美紀ちゃん本当にありがとう!ごめんなさいねぇいつもこの娘が…。」
母が勢いよくドアから入ってきて話す。
「いえいえ。どうぞ、お急ぎでしょう??」
「あ!そうなのよ!ほらっお礼言って!急がないと相手の方がお待ちかねなのよ!」
そういうと私の手首をつかみ急ぎ足で部屋から出ようとする。
「あ、ありがとう美紀!本当に…!!」
がんばってと言う声が閉まりかけの戸の向こうから聞こえてきた。
303不完全種族  9/17:2006/06/28(水) 23:08:25 ID:NgCfxALZ
「こちら原口商事の高水涼介(たかみずりょうすけ)さん。まだ28歳なのに係長をなさってる将来有望な男性なんですよ。」
仲人さんが向かいに座る男性を紹介する。
「はじめまして。」
低い声。はじめましてと返しながら見ると、思ったよりいい顔で少し驚く。
いや、きっと私の着物のほうが驚かせたに違いない。
「涼介さんご覧になって!律子さんって今時の人と比べると上品で控えめで…いいお嬢さんでしょう?まぁまぁ着物がよく似合って!」
母に負けず劣らずの話し方。すみません着物の話はしないでください。
「本当に。なんだか照れてしまってうまく話しが出来ているか心配です。」
さっきから全然崩れない笑顔に堂々とした声。
この男、女慣れしてるよ?お母さん。
「律子さん、お休みの日は何をしてらっしゃるんですか?趣味なんかは?」
胡散臭い笑顔をむけながら聞かれる。
「そうですね。家にいることが多いですね。その上無趣味なんですよ。ちょっとした引きこもりですよね。」
一瞬静まり返る部屋で私の笑い声だけが響く。すました顔でお茶をすすると横に座ってる母が肘でこづいてくる。痛いなぁだって本当だもん。
しかしこの固定笑顔はめげない。
「あっはは。飾らない方ですね。外に出ないのはいい場所を知らないからだと思いますよ。僕が連れて行きます。
人ごみがお嫌いならどこか静かな景色のいい所なんてどうです?」
まぁっとうれしそうに仲人さんと母の声がハモる。すごいなこの人。
「あらあらなんだかいい雰囲気ですわね。お天気もいいしお庭で散歩でもしてらしたら?」
はずんだ声の仲人さん。どうしよう…やっぱり来たかこの時間が。
「あの、塚本さん。よろしかったら律子さんをご自宅まで送らせていただけませんか?少しの間お借りしたいのです。」
えぇ!?何言い出すんだこの人。
「まぁ!いいんですか?まぁ〜!感謝しなさいよ!律子!!」
顔のいい高水さんに母はもうメロメロのようだった。
困ったな。口をパクパクさせたまま母と仲人さんの背中を見送るしか出来ない。
「律子さん。近くに海の見える喫茶店があるんです。紅茶がおいしくて…あ、甘いものは好きですか?」
「はい。まぁ…。」
「よかった、ケーキも人気だそうですよ。じゃあそこに移動しましょう。庭で散歩もいいですが、着物は暑いでしょうから。」
すごい気が利くんだなぁこの人。
(嫌な人だったらよかったのに。)
ふと自分のいやらしい考えに気付く。見合いを断りもしなかったくせに、
いざ見合いをしたら相手を適当に流し断られてしまおうなんて…どこまで私は考えが甘かったのだろう。

車のドアを開け、優しく私を待ってくれる高水さんを見る。
これじゃだめだ。


喫茶店に着いたらちゃんとお断りしよう。
304不完全種族  10/17:2006/06/28(水) 23:11:04 ID:NgCfxALZ
「あ…この海…。」
「いい場所ですよね。さ、着きましたよ律子さん。」
そう言うと外観だけでもオシャレだとわかる綺麗な喫茶店が目の前に現れていた。

この海岸は、初めて幸造さんとキスしたところだった。
海岸沿いにこんな喫茶店があるなんて全く知らなかったけど。

中に入ると案の定みんなが振り返って私を見た。うわぁ〜!思った以上に私浮いてるんですけどー!!!
「さ、どうぞ。」
椅子を引いてくれる高水さん。紳士的なその態度すら恥ずかしい。これかなりお見合いだってバレてるよね?
「どうしました?」
私の赤い顔を覗き込む高水さん。
「いえ…あの。私といて恥ずかしくないですか?その……真っ赤だし。」
一瞬置いてぷーっと噴出す声が聞こえた。
「あはは!確かに真っ赤ですよね。気にしてらしたんですか!?」
もう赤くなってうつむくしかない。あぁ見てるよあそこの人たちも…。
「確かに目を引く色ですけど、よく似合ってらっしゃるから平気ですよ。ご一緒して鼻が高いくらいです。」
ドキンとした。この人絶対もてるよね。
幸造さんならきっとこんなこと言えない。でも私は幸造さんにそんなこと求めていない。
私は幸造さんが傍にいてくれるだけで、それだけでよかったのに。

少し雑談を繰り返しふと窓に目をやる。見える真っ青な海が光を反射してまぶしく目に映る。
いいところ…。幸造さんと一緒に来てみたいな。
「綺麗でしょう?」
低い声にドキッとする。こんなに近くに他の男の人がいても幸造さんのことしか考えられないんだ。
高水さんも時間を割いて来てくれてるのになんて失礼なんだろう。
早く。早くお断りしないと…。

注文したコーヒーとケーキセットがくる。
入れ物もとってもかわいらしい。
高水さんがコーヒーを口に運ぶのを見て私も紅茶を一口飲んだ。

さて…
305不完全種族  11/17:2006/06/28(水) 23:12:52 ID:NgCfxALZ
「さて、律子さん。2人きりです。本音で話しましょうね。」
「え?」
また心臓がはねる。高水さん、分かってるの?
「僕はね、律子さん。まだ結婚する気はないんですよ。」
崩れない端正な笑顔で私を真っ直ぐ見て言う高水さん。
へ?あ、そうなの?
「はぁ。」
驚いてしまって気のない言葉しか口から出てこない。
「部長からの話で断れなくてね。いや、あなたがどうこうとか言う訳じゃもちろんなく、
恥ずかしながら一人の人に生涯を捧げられるほどまだ落ち着いていないんです、僕。」
ん?それってまだ色々な女の人と付き合いたいってこと??
「そうなんですか。」
「まだ遊びたい!まだ遊びたい!!なんて思ってるんです。」
拳を握って演技をするように言う高水さん。
「えっと………はい。」
何も思いつかなくてそう返事をする。かなり変わってるこの人。また噴出す声がした。
「おもしろいですよね律子さんって!いやすみません唐突で。こんなことを告白する気になったのは、
あなたが僕の苦手とする一途な方だとお見受けしたのと…」
おもしろいのはお前だと突っ込みを入れながら次の言葉を待つ。

「もう。別に想う方がいらっしゃるんじゃないですか?」
306不完全種族  12/17:2006/06/28(水) 23:14:34 ID:NgCfxALZ
あぁやっぱり…。この人やっぱりわかってたんだ。
「はい。…すみませんでした。」
深く頭を下げる。
「謝らないでください。僕も軽い気持ちだったからお互い様です。」
「そう言っていただけると…。」
「?それにしても浮かない顔ですね。ケンカでもしましたか?もしかして見合いが原因で?」
隠す気はなかった。何を言ってもこの人には見透かされてしまいそうだった。苦笑しながら答える。
「ケンカにもなりません。1年半前から一緒にいたので…お付き合いしてると思っていたんですけど、
私の勘違いでした。彼は大人で…もともと私なんて眼中になかったんですね。」
仮にも見合い相手になにペラペラ言ってるんだろう?
でもなんだかこの人すごく話しやすいんだもん。
高水さんが緩やかに笑う。
「おかしいですね。ご自分の想いは相手の方に伝えておいたんでしょう?」
「いえ。言わなくてももうお互いに大人だし。わかるだろうと…。」
その答えに少し考えるようにして、彼がコーヒーを一口飲んだ。
「律子さん。自分の好きな人にその想いを伝えることは、まず第一の相手への誠意です。それは大人だとか子供だとか関係のないことなのです。」
高水さんのはっきりとした言葉は私の中心にぐっさり刺さってくるような感覚だった。
考え込む私を高水さんは静かに待っていてくれた。

何だろう?このもやもやした気持ちは…。
今まで必死に間違っていないと思っていたことが全て崩れてしまいそうだ。


海の向こうに太陽が隠れようとしている。
307不完全種族  13/17:2006/06/28(水) 23:16:15 ID:NgCfxALZ
「律子さん。帰りましょう。」
ハッとその声に気づくと沈みかけた太陽はオレンジ色を帯びていた。
「え…あっもう7時半!?」
「はは。そうなんですよ。食事でもしましょうか?」
待っていてくれたんだな。本当いい人。
「いえ。いえもう帰ります。」
慌てて冷えた紅茶を飲み干す。
「そうですか。では送りましょう。」
「あ、いえ。ゆっくり…歩いて帰ろうと思います。寄りたい所もありますし。」
「わかりました。では明るいところを帰ってくださいね。あなたのお母様に怒られます。」
あははと2人で笑った。違う形で会えたら友人になれたかもしれない。

高水さんが一瞬私を見つめ、それから手を前に出した。
「律子さんとのご縁がなかったことは残念ですが、彼とお幸せになられるのを祈っています。」
幸造さんと幸せに?なんだかもう悲しいほど想像ができない。
「ありがとうございます。高水さんも、お元気で。」
少し言葉に詰まりながら大きな手に握手をして駐車場で別れた。

お見合いした人が高水さんで本当によかった。
(いつの日か大切な人を見つけて、どうか幸せになってください。)
そう思いながら見送る。

姿が見えなくなると、私は薄暗くなりかけた道を下り、桟橋の方へと歩いた。
308不完全種族  14/17:2006/06/28(水) 23:18:25 ID:NgCfxALZ
桟橋に着く。すでに日は沈み、街灯の光が海にゆらゆらと映っている。
ここで初めて幸造さんを誘ったんだ。酔っ払ってよろめいた私を支えてくれて、目が合ったのをいいことに勢いでキスしたんだったわ。
「ふっ。前は元気あったものね。」
こんな所に赤い着物を着ているだけでも目立つのに、自嘲気味に笑う私を人は一歩離れて歩く。
そりゃあ気持ち悪いでしょうよ。私だったら警察に通報するわ。
だけど人目なんてどうでもよかった。柵に手をかけて海を眺める。さらりと頬をなでる風が心地いい。
(もう終わりかもね。)
なんとなくそんな気がした。だって疲れてしまったんだもの。何が悪かったかなんてもう分からない。
一度ずれてしまった関係は修復しづらいものだと言う事は長年の経験上分かっていた。

好きって言えばよかったの?どうしてお見合い止めてくれないのって泣けばよかったの?
ずっと一緒にいたいって、結婚してって私から言えばよかったの?

「でも…私もう子供じゃないわ。大人なんだし。そんな感情に任せて言えない…。」

ふいに頭の片隅で何かが呟くのを聞いた。
(…違う)
今まで押さえつけて無視してきた感情が一度に溢れてくる。
(気づいてるくせに!全部分かってるくせに!!!何も言えないのを、素直になれないのを全部大人だからって言い訳して!!
自分の気持ちを言わなかったのも子供って思われたくなくて、嫌われるのが怖くって。…何もかも、自分を守ってただけじゃない!!)
『自分の気持ちを言うのに大人とか子供とか関係ないんですよ』
高水さんの言葉がどっしりとした重みで私にのしかかってきた。

着物にぽたぽたとしみが出来はじめる。きゅっと柵を握り嗚咽がもれないよう唇を噛む。堰を切ったように涙が溢れてきた。

あきらめるのが大人だと、自分の気持ちをただ抑えるのが大人だと、そうやって自分を保っていた私自身が全ての元凶なのだと知る。

いつしかその場に座り込んで口を押さえ、苦しさを出し切るように涙を流していた。
309不完全種族  15/17:2006/06/28(水) 23:20:57 ID:NgCfxALZ
やばい…涙だけならまだしも鼻水が止まりません。
ぐしぐしとみっともなく泣きながらノロノロとバックの中を探す。
あれっ!?ハンカチがない!!どこかに落としたのかしら!?

「これ…どうぞ。」
オロオロしている私の目の前にすっとハンカチが差し出された。
「す、すみません。」
突然頭が冴え、なんだかものすごく恥ずかしい。それに人のハンカチで鼻水を拭いてしまってもいいんだろうか?
ん?……?あれ?それより今の声は…。
まさかと思い、上を見る。
大好きな幸造さんの顔があった。
「やっぱり。どうしたんだよ。」
ゆっくり立ち上がる。事態がよく飲み込めない。どうしてここにいるの?
「なんでこんなとこにいるんだ。まさか…見合いすっぽかしたのか?」
私が仕事を失敗したときのように幸造さんの声が荒くなる。
「すっぽかすなんて…行ったわ。ちゃんと。」
まだ驚きが続いたままぼんやりと答える。もう2度とこんな風に話すこともないかと思ってた。
「い、行っただぁ〜!?」
更に大きくなる声に驚いた。こんな幸造さん初めてだ。普段だったら平謝りしたくなるところだけど、今日はこの言い方にどんどん腹が立ってきた。
「行ったわよ!!どうして怒るの!?幸造さんにも行くって言ったじゃない!」
こんな私も初めてだった。幸造さんの目が丸くなってる。
「なんで止めてくれないの?私は幸造さんしか好きになれないのよ!?どうしてそんなこともわかんないのよー!!!」
みんなが振り返って見ているのはわかったけど、どうしても止められなくて子供のように泣きながら大声で叫ぶ。

瞬間目の前が真っ暗になった。

大きな幸造さんの体がすっぽりと私を包んでいた。
310不完全種族  16/17:2006/06/28(水) 23:22:57 ID:NgCfxALZ
「あ…の…」
私の心臓の音だけがうるさく耳に響いている。人前で幸造さんが抱きしめてくれるなんて考えられない。
背中にあたる幸造さんの手が震えている。それがすごく切なくて涙が出そうだ。

「すごい、腹立ってる。別のヤツと飯食いに行くだけでも嫌だ。」
ぎゅうっと抱きしめる力が強くなる。信じられない言葉に涙があふれてきた。
「私も…私も。もう幸造さん以外と食べになんか絶対行かない!」
わっと泣きながら手を背に回す。

幸造さんが私の体を少し離す。眉根をよせた目で私を見た。
「いや…ちょっと…あんまり見ないで。」
赤くなりながら視線をはずす。幸造さんがえ?って顔をした。
かなり慌てた私の目が泳ぐ。
「あの…下手に泣いて化粧が落ちてるし。本当、ちょっと…見ないでよ。」
マスカラ絶対不気味に伸びてるし、涙黒いかも…。それにきっと口紅もずれてるに決まってるんだ。
一瞬置いて大笑いする幸造さん。だって、だって女にしてみれば切実な問題なんだもん。
「律子さんは、どうしてたって綺麗だよ。」
びっくりして顔を見る。幸造さんそんなこと言えるの!?
大きな手が狼狽する私の顔を包みゆっくりと唇が重なる。

何年かぶりにキスしたようだった。しっとりと包む幸造さんの温かい唇は沿うように動く。
私の中に納まりきれない気持ちが、触れた唇から幸造さんの中に入っていくようだった。

少しして唇を離し幸造さんを見る。幸造さんも私を見ている。

ずっと一緒にいたい。そう思ったとき
「結婚しよう。」
と、幸造さんが言った。
311不完全種族  17/17:2006/06/28(水) 23:25:45 ID:NgCfxALZ
「はい。」
2つ返事で返す私を驚いた顔で見る幸造さん。
「お…ちょ、ちょっとは考えろよ。もう40近いんだぞ。子供が成人したら…60?……60なんだな…。年金で大学生活送らせるなんて。不憫な…。」
言いながらどんどん考え込む幸造さんがおかしくてちょっと笑う。
「何がおかしいんだ!事実なんだぞ?」
赤くなる顔はますますかわいい。幸造さんにもこんな部分があったんだなぁ。
「いいじゃない。その時は私ががんばるから!」
幸造さんは一瞬驚いた後ふわりと笑った。
「ごめん、見合いのこと…。いい男で、俺より若いなら律子さんの為にいいと思ったんだ。
多分、自信なくてプロポーズ出来なかった事の言い訳だったんだな。」
苦笑する幸造さん。
なんだ、私たち似た者同士だったんだ。
ここに孝造さんが来たのも、私と同じもやもやとした気持ちを抱いていたからなのかもしれない。

クスクスと笑う私を不思議そうに彼は見たけど、なんでもないよと手をつないで帰路へとついた。


こぼれるほどの星空の真ん中に一際輝く丸い月が浮かんでいる。
312スズキ:2006/06/28(水) 23:26:53 ID:NgCfxALZ
終わりです。
最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
313名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 23:29:31 ID:ex0e+A3J
グッジョバ
314名無しさん@ピンキー:2006/06/28(水) 23:47:43 ID:6l4PZtPf
読み応えあって良かったですよ。GJ!
315名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 00:27:18 ID:BBseLMJ4
良い話だ…
スレタイにピッタリで良かったと思いますよ
316名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 01:45:49 ID:TJnuhdg5
ktkr!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
素晴らしかったです
317名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 11:16:05 ID:Sn4GHYiU
このスレは何ゆえにこんなに名作が多いのか……
そして何ゆえにエロがないのか……(涙
318名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 17:36:28 ID:9iK3Cugq
ここが「エロパロ板」だということを理解してないキチガイ多過ぎ
319絢音と信:2006/06/29(木) 22:09:59 ID:i2YDr0az
なかなかアイディアが浮かばなくて投下が遅れていましたが土日には必ず

エロがない という意見がありますがなにぶん未熟者なもので

すみませんが16歳童貞にエロは書けません

不完全種族の作者さんGJでした
320名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 22:30:28 ID:Sn4GHYiU
>>319
悪いが消えてくれ
321名無しさん@ピンキー:2006/06/29(木) 23:13:30 ID:BBseLMJ4
21禁なのに年齢ばらすなよ。
そのレスで今までの折角の作品も全部台無しだな。
出直してくれ。
322名無しさん@ピンキー:2006/06/30(金) 00:15:17 ID:VYGXW6mP
表現はストレートだけじゃない、空気にエロスを感じるんだ!







ということでネ申待ち
323名無しさん@ピンキー:2006/06/30(金) 21:05:06 ID:OZ/hcX24
遅ればせながら、不完全種族GJ!!!!
大人の恋愛小説ですね。素晴らしかったです。
文章が滑らかで、人物描写がしっかりしていて、申し分ありませんでした。
こんなお話を読ませていただいて感謝しています。
どうもありがとうございました。
324絢音と信:2006/06/30(金) 22:33:58 ID:kHiclGhi
>>321
21禁でしたね、そういえば初作品なんで最後まで書きたかったですけど仕方ないですね。

ではまた
325名無しさん@ピンキー:2006/07/01(土) 00:10:40 ID:RJ9grJnT
なにこの露骨なまでの誘い受け
326名無しさん@ピンキー:2006/07/02(日) 04:02:52 ID:T7EpBtrm
リア工ほどイタイものは無い
327名無しさん@ピンキー:2006/07/06(木) 10:19:46 ID:JlgsF1Pp
保守
328『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/07(金) 10:17:02 ID:rW6YTJVP
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
今僕は電車に乗り、目的地へと向かっている。その場所とは、砂倉村。そこに行くようになった経緯はこうだ。
高校を卒業し、なにもなくフリーターとして過ごしていたある日、雑誌編集者をしている叔父から、人手が足らないからウチの会社にこないかと誘いが来た。
その手の技術は高校で学んだことがあるので、難なく入社。そしつ数か月したある日、叔父からこの砂倉村を取材して来るよう頼まれたのだ。
初めての取材の仕事で、わくわくしている。……のだが、あまりに興奮しすぎたせいで昨日は眠れず、電車の揺れで眠くなってきてしまった。
「ふぁ……」
まあいいや。砂倉村は終点らしいし、少しぐらい寝ても大丈夫だろう










夢をみた。小さな村。その広場の真ん中で、少女が血まみれになっている。なんだ?これ?だめだ、気持ち悪い。そんな、そんな目で、訴えるような目で僕を見ないでくれ!
「…………て」
え?
「た…けて、たすけて、たすけて、タスケテ!!!」
「うわああああ!!!」
329『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/07(金) 10:17:55 ID:rW6YTJVP
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
今僕は電車に乗り、目的地へと向かっている。その場所とは、砂倉村。そこに行くようになった経緯はこうだ。
高校を卒業し、なにもなくフリーターとして過ごしていたある日、雑誌編集者をしている叔父から、人手が足らないからウチの会社にこないかと誘いが来た。
その手の技術は高校で学んだことがあるので、難なく入社。そしつ数か月したある日、叔父からこの砂倉村を取材して来るよう頼まれたのだ。
初めての取材の仕事で、わくわくしている。……のだが、あまりに興奮しすぎたせいで昨日は眠れず、電車の揺れで眠くなってきてしまった。
「ふぁ……」
まあいいや。砂倉村は終点らしいし、少しぐらい寝ても大丈夫だろう










夢をみた。小さな村。その広場の真ん中で、少女が血まみれになっている。なんだ?これ?だめだ、気持ち悪い。そんな、そんな目で、訴えるような目で僕を見ないでくれ!
「…………て」
え?
「た…けて、たすけて、たすけて、タスケテ!!!」
「うわああああ!!!」
330『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/07(金) 10:19:09 ID:rW6YTJVP
勢いよく飛び上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……あれ?…ここは……」
そうだ、電車の中だ。どうやら眠ってしまったらしい。もう車内には客はいなく、ドアが開きっ放しのままになっていた。着いてから時間が経っているようだ。
「酷いな…起こしてくれてもいいのに。」
辺りを見回しても車掌や駅員は見当たらなかった。駅にしては人気の無い、というか人っ子一人いない。過疎化しているというのは本当だったのか。
電車を降り、駅を出ようとすると、いきなり電車のドアがしまり、発車してしまった。はて?運転室にいたのだろうか。
駅を出ると、そこに広がる風景は確かに過疎化を認められるほど、田舎な村だった。目に見えるのは田畑や、木と土壁でできた平屋。
駅前だと言うのにこれといって店は無く、駄菓子屋にも子供の活気は無い。こういう村には古くからの伝統や伝説があると言われるが、ここには何も無いように感じられる。
「えー…石崎一哉、これから砂倉村の取材を始めます。」
叔父から預かったテープレコーダー。ここに声で登録してこいだとか。予備の電池とテープもたくさんもらったので大丈夫だろう。
331『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/07(金) 10:20:13 ID:rW6YTJVP
「時刻は……」
腕時計を見る。が、なぜか止まっていた。いつからだろうか。九のところで短針は止まっているため、電車乗って居た間だろうか。
電池切れ……は無いかな。となると故障か。参ったな……結構高かったのに。
「時刻は不明。」
仕方ないな。とりあえず取材だ。取材の初歩は聞き込みこの村のことは住民に聞くのが一番だ。手近な家に近付き、玄関をたたく。呼び鈴もないのか。
「はぁーい。」
しばらくし、中から声が聞こえ、がたがたと立て付けの悪いドアが開く。
「……どなたさんじゃい?」
中から出てきたのは、初老を向かえたぐらいのおばあさんだった。
「あの、僕こういう者ですが……」
そう言って名刺を渡す。それを奪うように取ると、じっくり凝視し、僕の顔を睨むように見比べる。……なにか機嫌が悪いのかな?
「帰れ…」
「え?」
「お前さんみたいなよそ者は帰れ!」
そう叫ぶと、名刺を僕に叩き付けてドアを閉めてしまった。うーん…やっぱり機嫌が悪かったかな?いきなり失敗しちゃったなぁ。まあいいか、まだ始まったばかりなんだし、ゆっくりいこう。
332名無しさん@ピンキー:2006/07/07(金) 14:39:17 ID:Dh78++si
wktk
333名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 15:55:45 ID:xBS26Wve
保守
334名無しさん@ピンキー:2006/07/19(水) 18:34:53 ID:2/ZW7ezx
ほしゅ
335名無しさん@ピンキー:2006/07/23(日) 07:48:24 ID:2yHx1P9B
補習
336 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 00:58:48 ID:WJezOa6/
数スレお借りします。
3371/4 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 01:00:51 ID:WJezOa6/

1.火曜日は始まりの日
 その日、俺はいつものように全国の学生生活を送る99%の人間が経験
値を積んでいると思われる、ごく有り触れた世界にいた。
当然その日はカレンダーにバツ印を付けて待ち侘びたような日な訳もなく、
自分の席に着いて早々友人達と他愛も無い会話を楽しんでいた。
平和な、ある意味静謐な日常を謳歌していた。
誰も物語の主人公にあるべく、少女が空から落ちてくるとか、ある日突然
異世界の戦闘に巻き込まれるとか、そういうとこを望んだ事も無い。
夢が無いと思われるだろうが、俺はただ日々が円滑に支障なく進んで
いくのを何よりと是とする、そんな人間なだけだ。
それなのに。
それでも非日常とはある日突然、若しくは忘れた頃に目の前に現れる
のだ。

 俺は勇ましく近づくその足音に気付くはずも無かった。
或いは日常の崩壊音だと知り得ていたならば、真っ先に逃げ出すか、
大事を取って学校へは来なかった。
足音は止まる。
――パシン
俺の日常は終ぞこの瞬間俺の目の前から消えてなくなった。
3382/4 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 01:02:10 ID:WJezOa6/
 その場にいるクラス全員が音を奏でた人物を注視した。
時はHRが終わった教室@2のB。
ちょうど担任が前扉から出て行き、生徒全員が爽やかな初夏の始まり
を告げるかのような風を楽しみながら(若干名の花粉症持ちには不評
だが)、これから動くぞ、という正に絶妙なタイミングで後扉は開けられた。
彼女は役者だ。
そうとしか思えぬ一瞬の静寂を縫って、彼女の薔薇色の唇から言葉は
紡ぎだされた。
「――藤沼秀司くん、いますか?」
36匹の蟻達が教室を群がる中、彼女の視線はその一匹を探すように
ひとつひとつ視線を巡らせ、蟻達の視線は一斉に蟻その1の俺に集まった。
視線が痛い。特に男共からの。
束の間の歓談を楽しんでいた俺は、いきなり現れた学校一有名な蝶――
もとい有名人に渋い顔をする。
だってそうだろう。前述の通り、俺は人生にスクリーン向こうの美人女優
を登場させるつもりは無い。埋没人生万歳主義者なのに。
 しんと静まり返った囁き声一つしない中、視線を諸に浴びているのを感
じる。特に両脇のバカ2人が、アホ面で見ているのが確認するまでもなく
分かった。
全体の集中線を辿って、彼女は俺を見つけた。
美麗にして隙の無い顔立ちに不釣合いな皺が眉間に一筋。瞳には怒りが
浮かんでいる。
名前を呼んだ声と合わせても間違いないだろう。
 やがて彼女の身体が揺れ、漣が引くように周囲の人々が脇に寄り、俺の
席への一本道が出来上がった。
彼女が立ち止まる。
机を挟んで隣に座る安堂の喉が、ごくりと唾を飲み込むのを目の端が捕えた。
3393/4 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 01:03:43 ID:WJezOa6/
 通称『氷姫』――相川鈴音は、いつも見せるような涼しい表情に険しい目元、
黒く長い髪を携えて再び俺の前に現れた。
再びと言うのには訳がある。
「もう一週間になるのだけど」
そう、俺達は一週間程前に遇い見えている。
何かを嗅ぎ付けたのか、彼女の言葉にクラスの何人かがよく見ようと場所を
移動し始めた。
「正確には後7時間で1週間だ」
揚げ足を取ると、一瞬ムッとしたように言葉を詰まらせた。
彼女を取り巻いている強いオーラのようなプレッシャーが凄い。
俺は眉間の皺を消さぬまま、皮肉めいた笑みを向けた。
彼女は気を飲み込んで、会話を続ける。
「返事を、聞かせて欲しいの、ですけど」
大分口調は柔い。それどころか、ややしどろもどろになりながら視線すら
彷徨わせている。
多少は驚いたが、敢えて顔には出さなかった。
沈黙が2人の間を支配し、同じく何事かと推移を見守るクラスメイトの間に
も動きは無い。
「返事?」
俺はゆっくりと間をもって聞き返す。
彼女の耳に髪をかき上げていた途中の手が止まった。
「そう、返事よ!」
見当が付かないとばかりに首を傾げた俺に、今にも地団駄を踏みそうになり
ながらも、彼女は同じ言葉を繰り返した。
何だか今にも歯軋りが聞こえてきそうな表情。
「返事って言われても……あれ本気なの?何分いきなりだったし、実は罰
ゲームとかじゃなくて?」
3404/4 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 01:05:24 ID:WJezOa6/
この感想は真実だ。夢か幻か、白昼夢だと言われても信じただろう。
すると今まで薄っすらと赤かった彼女の顔は、見る見るうちにくっきりと赤く
なった。
「罰ゲームだなんて、そんな訳ないじゃない……! ほ、本気で…私は……」
こちらをはっきりと見ずに視線を逸らした彼女の足元を見ると、微かに震えて
いた。
驚いた。いや、度肝を抜かれたと言ってもいい。
からかって悪いことしたな。
――ここで足元なんかを見ずにさっさと求められた返事をしてしまえば良かっ
たのだ。
そうすりゃ被害は最小限で食い止められた。更に言えば、からかいもせずに
返事を返してしまいさえいれば。つくづく悔やんでも仕方ないことだが、俺を目
立たせてしまった彼女に復讐心が芽生えてしまったのだ。まあ、その時の俺
の心情を振り返ると分からんでもない。
 心の中で自分の行いを悔いた。そのせいで、彼女を短い時間ではあるが見
てしまった。決して見惚れたという訳ではない。
 いつも人に、特に男に対してつんけんしていて、無表情か怒っているところしか
見たことが無い彼女が、所謂しおらしくいじらしい様を見せることがあるなんて、
と思ってしまったのも何ら不自然ではないだろう。
 更に言うならば、沈黙に痺れを切らしたのか、彼女が近づいて来ていることに
気付かずに、彼女の両手が俺の頬を挟み、引かれるまま彼女の方を向いてい
るのだって、おかしなところはない。
 そして彼女と俺の顔の距離が近づき、柔らかいものが俺の唇に重ねられたとし
ても、単に心ここに在らずな状態だっただけで、状況を甘んじて受け入れた訳
ではないのだ。

――その時の騒ぎは、たるい一限目の体育の準備をしていた外の奴らにまで
聞こえたと後から聞いた。

(つづく)
341 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/24(月) 01:11:08 ID:WJezOa6/
おじゃましました。
342名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 01:13:35 ID:cyoKNdT5
数スレも続くような大作ならこの先ずっと退屈しないなぁと揚げ足を取ってみる。

でも面白そう。続きwktk
343名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 01:16:03 ID:W2F91HV5
これからも是非おじゃましてくれ!
344名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 05:51:57 ID:wPkbeR+s
まあどうぞゆっくりしていってくれたまえ( ^^) _旦~~
345 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:41:33 ID:QAbJCSrl
>>342-344
感想ありがとうございます
つ旦~~
「おじゃましました」とは言ったけど、一応前スレからの住人だったりする

というか、職人様方戻ってこないかなーと思って書いたんだが…
戻って来てください!!!

そんな訳で新着レスを増やすために投下
結構作って日が浅いから、至らないところがこれから増えるけど
楽しんでいただければ幸い
3461/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:42:57 ID:QAbJCSrl
2.トゥルーorアクト/真相

証言者Aの話。
「あれは舌まで入ってたな。舌」
証言者Bの話。
「いつどこで告ったんだろうな。俺はそっちの方が気になる」
証言者Cの話。
「うがー!藤沼許すまじ!このことは直ちに上に報告し、然るべき手段を取る
ので首洗って待ってろよ!」

 なんて騒がしい外野の感想は置いといて、話の続きに戻る。
時間はえーとあれだ。俺が放心状態だったところから。特記事項は彼女との
接触。
深い意味は無いので注意。
3472/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:44:08 ID:QAbJCSrl
 柔らかいものが重なる。
ああ、唇って触れると案外いいもんだよな、いい匂いもするし。
む、しかし、何と言うかこりゃ息が続かん。ぅあっ舌まで入れてくるとはこいつ
慣れてるな。
手が宙に浮いたままどうしたらいいのかを迷い、上へ下へと喘ぐ。
仕方無く彼女の腰の脇っちょの制服を掴むと、その接触にびくりと彼女が震え、
唇が離れた。
銀糸は互いの唇から紡がれたが、敢え無く途切れた。
いろんな意味で助かった。思いっきり息を整える。
周囲が何やら騒がしいが、それ程気にならなかった。
ぴろりん、だの、かしゃ、だのあった気はするが、これと言ってもう後の祭りと
しか言いようが無い。腰が細かったとか、いい匂いがしたとか、そんなことが頭
の中を支配していたはずも無い。
歓声と怒号が遠くで渦巻く中、彼女が囁いた。
「7時間後、裏庭で待ってますから」
漆黒の髪は揺れ、ちょっと怒ったような笑顔で彼女は告げると、返事も待たずに
去っていく。
何が起こったのか総括を行う暇も無く、胸倉は掴まれ人だかりは出来、そして
チャイムが鳴った。
――それが、6時間と35分前。
未だ春の暖かさは残っているが、数時間もすれば冬の寒さの残滓が訪れるだろう。
 今日は全く以って素晴らしい一日だった。
学校中の奴らが入れ替わり立ち代わり窓際で寛ぐ俺を観察に来るばかりか、
新聞部の連中はインタビューにまでおいでなすった。
そう。新聞部がすっぱ抜けなかった事実は、今や校内中を駆け巡っていた。
人が大勢いる廊下とか食堂とかであった出来事では無いのに、どうしてここまで
広まるんでしょうね。嗚呼、口コミとはあな恐ろしや。
3483/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:45:45 ID:QAbJCSrl
 事件の発端を語ろう。話はちょうど一週間前に溯る。
放課後、下駄箱近くで小さく「藤沼くん」と呼び止められる声に振り向いた。
この時点での彼女の選択は満点だったと言って良い。
先を行く友人らには気付かれないよう背後から呼び止め、俺だけを振り返ら
せることが出来たからだ。
「はい」
呼ばれて少々声の主を探すのに手間取り、1つ段差のある体育館に抜ける
横道に彼女はひっそりといた。
目が合うと、何故かまるで隠れるためにあるような、人ひとり分のスペースから
彼女は出て来た。後に告白待ちスペースと命名することになるが、取り敢えず
本筋に戻る。
「はい」
もう一度俺は何でしょう、の意味を込めて言った。
 誰だか分からないはずも無かった。入学当時から有名なのだから、知っている
のは当然と言えば当然だが。
最初見た俺の感想は『動く日本人形』。所作のひとつひとつが美しく、何て絵に
なる人だろう、だった。
その後なんと言うか、色々あって『氷姫』と呼ばれるようになったのだ。
そんな訳で接点も無く、話したことも無かった彼女の用事を、特に気構えもせず
受け入れた。
上目遣いで俺を見る彼女を綺麗だ、とも思った。
3494/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:47:05 ID:QAbJCSrl
「…好きです」
「は」
疑問系でもなく威圧でもなく、ただ他に言葉が出てこなかった。
さすがの俺も告白されるとは想定していなかったのだ。
被せるように、涼やかだが艶のある声で彼女が続ける。
「付き合ってください」
取り敢えずの感想は「何で俺?」だった。と言う考えも顔に出ていたかも
しれない。正に驚天動地。
え、だって何の話もしたことすらないのに何故。
「えーっと…」
俺が何かリアクションを起こす前に、
「藤沼ー!」
彼女がびくりと身を竦める。
「今行く!」
焦ったような彼女と目が合った。
「えーっと、返事はまた今度……」
「…はい」
お互いにタイミングがまずかったという顔をして、その場で別れた。
 その夜、俺は考えた。
あれはからかわれたんじゃないかと。
隠れてこっそり、目は泳ぎ、告白は短く、人に知れると拙いというシチュエーション。
これで導き出される解は、どう見ても罰ゲームしか思いつかない。
彼女らしからぬおどおどした行動も、俺の推論を信じさせた。
3505/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:48:40 ID:QAbJCSrl
 翌日。
例え嘘でも返事はしておこうと上の階へ。
因みに彼女は2のCで、1フロアに6教室なため1のAから2のBまでが3階、
階を挟んで正反対の場所にいる――その場所へ行ってみた。
すると、その後俺が蹴散らした新聞部がインタビューを行っていた。
昼休みじゃ仕方ない、と諦めて放課後。教室を覗くといない。聞けば生徒会
とか。そこで俺は初めて生徒会に入っている事を思い出し、その日の返事を
諦めた。
 翌々日。
別に急ぐことでもないだろうと掃除を終わらせ、2のCへ。不在。呼び出された
とかでその日も終了。
 翌々翌日。
仕方なくもう一度昼休みに。何だか人だかりがあってその中心が彼女。これ
じゃあ呼び出すのも気が引ける。放課後。教室に帰って来ないだとかで終了。
その翌日と翌々日は休日。
どーしろっちゅーんだ。
それから俺は、あの告白が真正なものである可能性に付いても考え始めた。
本当に一瞬の隙を突いて彼女は告白をしたのではないかと。
 翌週、つまり昨日。
週明けの報告も言うまでもない。
俺は飽きた。挫けたとでも言うべきか。
それにもう1週間ほっとかれたのだから、冗談だろうと思うようになっていた。
彼女と秘密裏に接触しようにも、どこにも彼女がひとりになる時間は見つから
なかった。
それでもって今朝、事件は起こった。
3516/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:50:40 ID:QAbJCSrl
 そして今俺は考えた。………キスの件は帳消しにしよう。返事を待たせて
しまった俺にも非はある。よし、その方向で行こう。
――随分と落ち着いていると思われるだろうが、もう告白された件については
今更としか言いようが無い。対処し切れなかったこっちが悪いのだ。起こって
しまった事も以下省略。
取り敢えず言えるのは、恐るべし乙女チック暴走パワー。この暴走には
黒幕が存在するのだが、機会があればいずれ語るだろう。
この頃、俺の主義が若干変更されているのだが、それにも気付くはずも無かった。
 考えを固めた俺は、席から立ち上がった。
静かな教室の中に椅子の引かれる音が響く。
不自然なエージェント共が、一斉に横目で俺を捕捉する。
里居、お前隣のクラスだろ。何普通に席に着いてんだよ。
目が合ったひとりに穏やかな目を向けると、相手は憎しみの篭もった目を向けて
来るが、それ以上は何もしてこなかった。
本当にエージェントのつもりなのか。
そう言えば放課後の教室はどことなく室温が低かった。
鞄を持ち、忘れ物が無いか机の中を確認。よし。
行くか!
「じゃ お疲れ」
ガタン
次々に残っていた10名程の男共の背が林立する。
マジでエージェントか。
昨日までの友も今日は敵……そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
着いて来る気だなこりゃ。
いい加減、俺も荷物を降ろしたい。
俺は時計を確認した。只今15時45分。

(つづく)
352 ◆lIRqqqQOnU :2006/07/25(火) 01:51:54 ID:QAbJCSrl
失礼いたします。
353名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 02:13:50 ID:ruZ6GGeO
GJです!
354名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 04:27:01 ID:ZFV8AbbZ
GJ!!
355『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/25(火) 11:49:51 ID:bZtROvRJ
「参ったなぁ…」
この村を甘く見ていたのかもしれない。最初の老婆はきっと忙しくて、僕の相手を出来なかったんだろうと思い、他の村人達に聞いてみたけど……
「全滅なんてなぁ。」
誰に何を尋ねても門前払い。ヒドい時には顔を見た瞬間に玄関を閉められてしまった。この村には排他的な伝統でもあるのだろうか。
しかし、今日一日見て回り、一つ奇妙な事に気付いた。村人のなかで、誰一人男性を見ないのだ。通行人も店番も、畑を耕すのも家から出て来るのも、みんな女性なのだ。
まさかこの村には、女性しか居ないというのが伝説なのだろうか。
「……まさかな。」
それはありえない。生々しい話になるが、男が居ないと子供も作れず、そんな村人すぐに滅んでしまう。きっと昼の間はどこか他の所へ働きにでも行っているのだろう。
夜になれば戻ってくるはずさ。……夜で気付いたが、もう陽がだいぶ傾き、夕焼けとなっている。
「おお!凄いや!」
この村の夕焼けは、都会のものと比べるとまるで別物だった。澄んだ空気、透き通った空。そこに沈む太陽は初めて心から美しいと感じられるものだった。
356『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/25(火) 11:50:56 ID:bZtROvRJ
「うっわぁー、やばいやばい!」
きれいな夕焼けを眺めて居たら、すっかり辺りは暗くなってしまった。時間を確認しようと携帯を取り出す。
十時。
「え?」
おかしい。さっき夕日が沈んだばかりなのに、もう十時なんてありえない。腕時計の故障ならまだしも、携帯の機能まで壊れるなんて滅多に無い。
電波も完全に圏外になっていた。電波のとどかない所なんてあったのか……よく周りを見てみると、電線らしきものも一本も見当たらない。この村には電気も通ってないのかな?
地下に走ってるわけでもなさそうだし……
そうこう考えているうちに、目的の宿屋に着いた。伯父からはここに泊まるように、予約をしてもらっている。
「すみませーん!」
中入り、声を掛ける。しばらく待っていると、奥から着物を着た女性……恐らくお女将さんだろうか……がやってきた。そこでまた気付いたことがある。彼女はまだ30代だろうか。
今日会った女性はみんな高齢だった。この年代の人は初めてみた……
「…なんの様でしょうか?」
だが、彼女もまた不審そうに僕を見ていた。やっぱり男だからだろうか…
357『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/07/25(火) 11:51:56 ID:bZtROvRJ
「えっと……ここに予約を取ってあると思うんですけど……石崎一哉っていいます……」
「予約?……少しお待ちいただけますか?」
「は、はい。」
よかった。ここにまで話が繋がったのは初めてかもしれない。が、お女将さんが奥へ戻って行こうとすると……
「空き部屋はない!」
階段の上から威厳ある声がかかってきた。そこにはまた、老婆が一人立っていた。
「御母様……」
御母様?ていうことは、お女将さんの母親って事か……ん?空き部屋がない?
「えっと…予約したはずなんですけど……」
「そんなもん受取らん!さっさと出てけ!今夜は忙しいんじゃ!」
そう叫ぶと、力づくで追い出される。相手は老人なため、無理も出来ない。
「ちょ、ちょっと!じゃあ僕はどこに泊まれば……」
「ひっひっひっ……山の中で野宿でもするばいいじゃろ。」
「そんなぁ…」
それだけ言い終わると、老婆は本当に忙しそうにドアを閉めた。その奥で、お女将さんは申し訳なさそうな顔をしていた。もしかしたら彼女は一番まともかもしれない。今度会って話してみよう。
その前に寝る場所……
「山って…」
僕は言われた様に、山道えと歩いていった……
358名無しさん@ピンキー:2006/07/25(火) 23:59:24 ID:uM7LGBVp
wktk
359名無しさん@ピンキー:2006/07/30(日) 22:05:42 ID:R7+AfS/P
保守
360名無しさん@ピンキー:2006/08/03(木) 23:56:06 ID:mjBfxeNV
保守
361名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 07:41:12 ID:OwmgIQs+
保守
362名無しさん@ピンキー:2006/08/10(木) 22:40:39 ID:0moLaWZe
さすがに埋もれすぎだろ
363 ◆COP8/RAINs :2006/08/15(火) 00:23:21 ID:mYMjnEpo
保守代わりにひとつ

時折ピアノの音が聞こえる。B♭の旋律だ。
隣の部屋の居烏徹(いがらす・とおる)君は時折ピアノを爪弾く時がある。
甘いピアノの旋律が、これから先の日々に不安を持つ彼とは対象的に聞こえる。
私は彼の名前を省略して、カラス君と呼んでいる。
カラス君はひきこもりになったばかりの音大生だ。
私はカラス君の部屋に立ち寄っては雑談をするのが趣味みたいなものになってしまった。
「カラス君。またピアノ弾いてるんだね」
カラス君は狭い1Kのワンルームに、アップライトピアノをおき布団を敷いて、暮らしていた。
カラス君の全身黒で統一されたコーディネートは、昔いたカラス族みたいだ。
夏なのに真っ黒な長袖シャツをきているこの暑苦しさ。
もうちょっと気を使ってもいいと思う。
彼は自分のことをひきこもりではない。インサイドマンなんだと、吹聴している。
インサイドマンとひきこもりにどれくらいの差があるのかは疑問だ。
大槻ケンヂの言う大人じゃないんだ赤ちゃんなんだ。って言う言い訳に似てないこともないけれど。
カラス君が赤ちゃんというのも、ちょっと変な気がする。

さて、カラス君を紹介した所で、私と彼との間に起きたちょっとした事件についてお話しようと思う。
代々語りついで、私の子供や孫にだって語りたい内容なわけで・・・
では、カラス君との出会いからお話しましょう

去年の12月28日、夕暮れすぎ。
その頃、彼氏であった男にデートをすっぽかされた上に、別れ話を電話でされてまだ数日って日のこと。
やることもなかったし、外の空気がすいたくて、公園でぼんやりとしていた。
数日前のことを思い出して、ため息と同時に涙がほろりほろりと落ちてきて、なんだか湿っぽいなぁって思ってた。
涙でかすむ視界の中に、ブランコでぶらりぶらり揺られている少年の姿が目に入った。
ブランコから十数メートルの距離があって、少年の表情は見えなかったけど、なんだか楽しそうにしている感じは伝わってきた。
楽しそうに笑う声が聞こえてきて、それでもほろほろ落ちる涙はとまらなくて。
そんな時。少年が急にブランコを猛烈に揺らして、突然ジャンプしてきたのだ。
飛んだ姿がほんとにカラスみたいに見えた。
ブランコと私の距離は関係ナシに、猛烈な大ジャンプを決めた彼は、私の手をとってこういった。
「ないてちゃ、かわいい顔がだいなしだよ」
私はアハハと笑って、空いている手で顔を隠した。これ以上クシャクシャになった顔を見られたくなかった。
でも片手では隠しきれなくて、結局、空いているほうの手も彼がつかんでしまった。
「元気だそうよ、おねえさん」
「元気もらったから、もう大丈夫」
両手をつないで、彼が私の体を支えて立ち上がらせてくれた。
パンパンとお尻についたほこりを落として、さて、という時に
「ぼく、隣に住んでる居烏っていうもんです。よろしくね」
一度離した手をもう一度両手で握りしめてくれた。
「こちらこそよろしく、カラス君」
そんなことがあってから、彼は、もっとも身近な友人の一人になった。
全身真っ黒なカラス君。彼の呼び名は始めてあったときから、カラス君に決定していた。

364 ◆COP8/RAINs :2006/08/15(火) 00:24:43 ID:mYMjnEpo
あれから、半年近くがたち、私たちの関係も良好なものを築けた、と思う。
そんな折、事件がおきた。
カラス君の飼っていたフェレットが窓の隙間から逃げ出してしまったのだ。
時期的に雪のふるころあいだったから、雪の振る前にフェレットを探して起きたかった。
カラス君は部屋の中を何度も何度も探したけど見つからなかった。
わたしが道路沿いをフェレットを探すのに右往左往していると、目の前をフェレットらしき物体が通っていった。
それは紛れもないカラス君のかっていた23号という名のフェレットだと私は目算した。
汗ジトになりながら、フェレットを捕まえて、キャリーバッグに入れた。
そいつをカラス君の下に連れて行くと、カラス君は泣き出しそうな顔をしていった。
「ともかく23号、捕まえてきてくれてありがとう。どこにいったのかまったくわからなかったんだ。どこにいたの?」
「道路の側溝を走ってたよ。うれしそうにクルクル回ってた。」
「そう。側溝にいたんだ。気づかなかったよ」
「そういえば郁美(いくみ)さん。俺のあだな知ってる?」
郁美。わたしのことだ。
「背が高くて痩せてる俺のあだ名はエヴァンゲリオンっていうんだ。カラス君って読んでるのは、郁美さんだけだよ。どうぞこれからはエヴァと呼んでください」
ううむ、しかしエヴァというとヒットラーの愛人を思い出してしまう。やはり
「カラス君の方がわたし的にはしっくりくるかな」

「カラス君、カラス君。カラス君」
わたしはカラス君がいとおしく思えるときがある。
もうピアノは弾かないの?とたずねると、カラス君はいやそうな顔をして
「ぼくより才能のある人がいっぱいいることがわかっただけ幸せなんだと気づいたよ」と言った。
けして努力では埋められない才能の差と言う物があると言うことに気づいてしまったんだね。でもわたしはいい。
才能があったって、なくったって、それを認めてやる。
「カラス君、ハグしよハグ」
カラス君が腕を回してくる。わたしはその腕に抱かれながら、ちょっとした夢を見るのだった。
インサイドマンでひきこもりな彼に、あんなことやこんなことをしている夢を。
今はまだ無理だけど、いずれ、彼がインサイドマンをやめた時に、またそのチャンスはめぐってくるに違いない。
元気のないうちは何をしたってだめだってわかってるから。
365『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/08/16(水) 19:04:08 ID:TrTjGfTA
「はぁ、はぁ……い、いったいどこまでいけば……いいんだ?」
あれから半ば自棄になって山道を登っていったが、あるのはただの獣道。日も完全に沈んでしまい、一応持って来た懐中電灯の明かりが唯一のたよりだ。
「うーん……やっぱりひきかえすしかないかな……」
万が一の場合は野宿だ。だとしたら山の中で寝たらいつ野生の獣に襲われるかわからない。光のある村中の方がまだましだ。
「そうとなったらさっそく……うわっ!?」
引き返そうと後ろを向いた瞬間、暗闇に足を取られてしまい、バランスを崩す。すると…
ガサササッ!
「う、うわぁぁぁっ!!?」
道から外れてしまったのか、まるで崖のような場所に落ちてしまった。短いようで長く感じる間、木々の中を落下していく。そして……
ドスン!
「うわたっ……いたたた……」
やっとこ地面に激突した。その衝撃で肘を強打してしまい、痛烈な痛みが走る。
「あたた……やっちゃったなぁ……」
軽く動かしてみるが、折れてはいないみたいだ。恐らく無傷では無いだろう。かすり傷程度だといいけど………
366『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/08/16(水) 19:05:14 ID:TrTjGfTA
「はぁ……今日は本当についてないなぁ……厄日かな……」
周りを確かめるために懐中電灯でてらす。と……
「あ…ああっ!」
地獄の中に天国。建物らしき物が見えた。痛い体を引きずりながらその建物に近付く。するとそれは………
「神社だ……こんな山中に……」
いくら村から離れた場所にあるとは言え、これは離れ過ぎだ。一体何が目的でこんな場所に建てたのだろう。
「とりあえずなかに……」
いやいや、考えるのは後だ。今は一刻も早く休みたい。奇想天外ばかりで今日はくたくただ。境内に足を踏み入れる。中はなにも置いていない、
もはや奉る神もいないのだろうか。それともただの廃屋なのだろうか。それにしてはやけに綺麗な気もするが……
まぁどうでもいいことか。無神論者の僕としては罰当たりなんておそるるにたらず。シャツを脱ぎ捨て、今日はもう休むことにした。
「しかし……本当に変な村だ。……排他的とはいえ、僕のことを蔑視しすぎだよなぁ……くぁ…まあいいや、寝よう…」
それから何を考えるまもなく、深い眠りについた………………
367『消えぬ愛、胸に抱いて』 ◆wGJXSLA5ys :2006/08/16(水) 19:06:20 ID:TrTjGfTA
ガサガサ……
「んん…んぅ……」
寝ているとなにか顔に当たる。堅い、細い、木のようなものが。
ガサガサ…
「……いたいって……やめて……んん……」
払うと顔を触るのを止めた。昨日は疲れたんだ……まだ寝かして……
ガサガサ…
顔への攻撃はまだ続く。……一体なんなんだ。まだ夜……
「うぅ……あ、あれ?」
じゃなかった。もう日は昇り、鳥達が鳴いていた。そんな……ほんの少ししか寝てないきが……ああ、つかれてたからか……
「ふぁぁ……あ、あ……あれ?」
そういえばさっきの顔に当たっていたものは?気になって後ろを振り返る。すると……
「…!」
少女がいた。見た目からして……僕より少し下。高校生だろうか。かわいい…というより綺麗な顔をしている。
僕が振り向いた瞬間、驚いたように体をすくめる。僕に見られた事がそんなにびっくりしたんだろうか。
何より目を引いたのはその服装かもしれない。俗にいう巫女服。リアルで見るのは初めてかもしれない。そしてその手には竹ぼうき………ほうき?
「あ、もしかして……ここの掃除に来たの?」
コクコク
言葉に出さず、ただ首肯する。つまりここで寝てた僕は邪魔だったということか。だから箒で顔を……だったら一言かけて起こしてほしかったなぁ。
「ご、ごめん。今出てくから。」
そそくさと神社の外へ出る。その間、彼女は僕と一定の距離を保つように移動する。なんか……避けられてる?それもそうか。
見ず知らずの男がこんなところで寝てたんだし。不審がらないほうがへんだもんな。
「さて……」
神社から出ると、さっそく彼女は掃除を始める。そんな彼女を尻目に、今後の計画を立てようと背伸びを………
ぐぅ〜〜〜〜〜……
した途端おなかがなった。そういえばこの村に来てからなにも食べて無かった。取りあえずは食料の調達だ。
振り向いて彼女をみてみると………
「……っ!?」
サッサッサッサッ……
おなかの音が聞こえたのか、こっちを見ていたため目が合い、また恥ずかしそうに掃除を開始した。
「あのさ……」
声をかけてもこっちを向かない。けど、一応言っておこう……
「もし泊まる場所無かったら……またここで寝ちゃうかもしれないけど、そのときはごめん。先に謝っておくよ。」それだけ言って、村へとむかった………
368 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:20:46 ID:QifbwWpP
数スレお借りします
>>346-351の続きです

タイトルつけました

『KNOCK DOWN!』
369KNOCK DOWN  1/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:22:17 ID:QifbwWpP
3.ザ・チェイス

 だかだかと廊下に足音を利かせながら、一気にストレートラインを駆け抜け
る。
 丁度下校時刻の時間だが廊下に生徒がいる事も無く、教室にぽつりぽつり
と残っているのが時折見えた。
さすがに人がいなさ過ぎるとは思ったが、こいつらの事だから何か「警報」で
も発したのではないかと疑ってしまう。考えすぎか。
 後から少し距離を空けて、同じように無言でエージェント達が追って来る。
数えてはいないが、恐らくうちの教室に残っていた全員、つまり10人程が後
ろにいると思われる。
誰か1人くらい「待てー」とか言えよ。そっちの方が雰囲気が出て、恐ろしくな
くていい。おまけにただのおふざけだと思われて、不用意に出会ってしまった
無関係な人間に変な目で見られる確率が減るだろ。
 壁にぶつかりそうになりながら突き当たりを右へ折れて、階段を2段飛ばし
で駆け上がる。
鞄が邪魔だ。
カンカンカンと甲高い音が勢いよく響く。
遅れて同じ音が出鱈目に鳴らした鐘のように複数続く。
何だか変則的な闘牛でも行っている気分だ。
どこまでもしつこくしつこく追って来る奴らを見て、そんなことが頭を過ぎる。
今のところ付かず離れずの安全距離を保ってはいるが、それもいつまでもつ
のやら。
闘牛は時間制限までに闘牛士が出来るだけ美しい形で、牛を倒さなくては
ならない。
ならば。
4階、5階、6階を経て、気力を振り絞り、最後の階段も駆け上がる。
バン!
続くのは最上階、屋上。
370KNOCK DOWN  2/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:23:30 ID:QifbwWpP
 いい感じに暮れかけ始めている空は、まだ端の方が青かった。
ここまで全力疾走してきた身体に、屋上の風は深呼吸したくなる程気持ち良
い。
なんて悠長な行為をしている間も無く、俺は急いで柵の方へと走る。
ガガン!
登り切って来た男達に鉄扉が跳ね飛ばされる。
全員無言でハアハア合唱してるのが離れていてもはっきりと聞こえていて、そ
れが耳元で囁かれているようで、夢でうなされそうな程怖いんだが。
 俺は既に柵を越えていた。
「じゃ お疲れ!」
男達に向かって、さすがに疲れて引き攣ってはいたが笑みをつくり、声を掛
けると、ひょいと縁から宙へと身を躍らせた。
面々が一瞬詰まったような顔をするのが飛び降り様見えて、内心にやりとし
た。
 連中はどう思っただろうか。下には勿論、床がある。
スタンと膝を付きそうになりながらも、無事に着地した。
ちょっと高さがあって上へ下へと振り回したから、屋上へ来た時点でフラフ
ラだった連中には飛び降りるのはきついだろう。
屋上へ着いた時点でほっとしていたし。斯く言う俺も足の裏が痛い。
 悪いが俺は自分の主義を崩すつもりは無い。人に見られながら告白の返
事をするなんて真っ平御免だ。
 飛び降りた先は、非常階段だった。
その階段を下って適当な階の扉を開け、追って来る気配がない事を確認
し、その扉の鍵を内から閉めると俺はその場を立ち去った。

371KNOCK DOWN! 3/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:25:06 ID:QifbwWpP

 告白現場を押さえるつもりなら、彼女に張り付いていればいいものを。何で
俺にマークを付けたんだ。
そう疑問をぶつけてやりたかったが、俺は既に奴らから見えないところにい
た。多分。
願望でそうあって欲しいという気持ちと、奴らならまだ何かあるんじゃないだ
ろうかと思う恐怖で心は晴れない。
 疲れた。
へたり込みたいが、場所と状況がそうもさせてくれそうにない。
こうまでされる彼女の凄さを改めて思い知らされた。
一体、俺がエージェントと呼ぶこいつらの正体とは何なのか。
 唐突な話だが、うちの学校にはMが多い。
唐突かつ情けない事この上ないが、聞いて欲しい。
 頂点にいるのは勿論、相川鈴音嬢。
事の発端はとんでもなかった。

372KNOCK DOWN! 4/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:26:27 ID:QifbwWpP

 ちょうど1年程前の食堂だったと聞いている。
彼女が友人と昼食を取るために、食堂へとやって来た。
 無事角の席を確保し、二言三言その場で会話し、後ろを空けるか彼女が何
かをするために、テーブルの外へ一歩身体を出していた時の事だった。
がつんと前方不注意の男が後ろからぶつかって来て、彼女は蹌踉めいた。
男は舌打ちをし、零れた湯飲みを直すと悪態を吐いて去っていく。
 これはいけない。男としてどころか人間的にも宜しくない。
もしぶつかられた人が彼女じゃなくて、ぶつかったのも彼じゃなかったら、展
開は違っていただろう。
しかしながら、神はこの運命を下した。
「お待ちなさい」
ぽたりぽたりとブレザーから雫が垂れるのも厭わず、彼女は男を呼び止め
た。
「ああ?」
 人間というのは、いつ何時たりとも注意しなくてはならない。たった一言で自
分の人間性を知らしめてしまう時もあるのだ。
男は柄が良くないことで有名な2年生だった。当時の3年も避けて通る感じ
だったらしい。
「お待ちなさいと言ったのです。ぶつかっておいて舌打ちを一つ、詫びもせず
に去るというのは、どういうつもりなのですか」
 何だか口調が若干今と違うことは置いといて、高潔な姫君という言葉がぴっ
たりだったと、その場にいた人物は後で評した。
顔だけ振り返っていたその男は、身体をくるりと彼女の方に向き直らせた。
1年の華奢な総代vs2年のがたいのいい不良。
どう見ても勝負は明らかだった。周りも止めるかどうか迷っただろう。
だがすでに剣呑さが漂う雰囲気で、どちらにしても手遅れだった。
「おめー1年だろ」
「それが何です」
373KNOCK DOWN! 5/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:29:05 ID:QifbwWpP
「俺のことを知らないんなら、知っておいた方がいいのかもな」
カタンとトレイを傍の机に置き、男は彼女の腕を掴んだ。
因みに周りは避難していてもう誰もその机の周りにはいなかった。
 拙いと誰もが思う中、彼女は動じもせずに言葉を発した。
「謝るつもりはないのですか」
男は言葉を無視して彼女の腕を引いた。
「痴れ者!」
途端に彼女は空いていた右手で、男に雷光の如き張り手を食らわした。
バチンと物凄い音がして、男は勢いよく吹っ飛び、そのまま近くのテーブルに
うつ伏した。完璧に入ったと誰もが思った。
 そこに彼女の怒涛の口撃が始まった。
「この、大莫迦者!最低の汚らわしい俗物が!たった一言詫びればその場は
収まり、互いに嫌な気持ちをせず済むというのに、相手に不快感を与えるよう
な態度を取り、人に被害を与えて通り過ぎるなどという事が罷り通るとお思い
ですか!恐らくは何方からも注意を受けずに過ごされて来られたようですけ
ど、そんな事ではこの先どんな人生を歩まれるのか目に見えています。今な
らまだその不遜に気付き、更生するには充分に時間は――」
 長いのでここらへんで省略させてもらう。とにかく彼女は男を罵倒し、更にこ
んこんと説教を与えた。しかし素晴らしい肺活量。
 恐らく誰にとってもこんな場面は、人生に一度あるかないかの出来事だろ
う。
 誰もがまともに張り手を食らって動けずにいたとばかり思っていた男が、睨
め付けたままの彼女のある言葉に反応した。
「――お分かりになったかしら?分かったのでしたら、何かお言いなさい」
彼は今までとは違う調子の声で、低くうわ言の様に呻いた。
「……はい、女王様。俺が間違っていました……」
断言できる。その場にいた全員の頭の中が、「え」で覆い尽くされていただろう
ことを。
何かのスイッチが入ったらしい、その男は彼女に跪くとがばりと土下座をす
る。
「お許しください。私は未熟で人を尊敬する事を知らず……」
男は悔恨の涙を流して詫び、その姿に彼女は満足した。
この男が陶然となっているのを、当事者以外の者はまるで信じられない奇跡で
も見たかのように硬直していた。
374KNOCK DOWN! 6/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:30:42 ID:QifbwWpP

 と、このように彼女は1人の男を更生らしきものをさせてしまっただけでなく、
その場にいた男達のM化への促進をさせてしまったらしい。
彼ら曰く、「ときめいた」らしいのだが。
 あっという間にファンクラブが出来、彼女は崇め奉られ、瞬く間に彼女は神
格化された。別名、三ツ丘高の女王。但し女王と呼んでいいのは彼らだけ(と
いう事になっている)。
現在は全校男子生徒の半数近くが会員だとかいう噂だ。
一体どこで、その女王っぷりを目にして入会していくと言うのか。
勿論、俺は会員では無いので全体数を把握していない。活動内容についても
知らん。
 因みにこの叱咤された第1号は今の生徒会長だというのだから、本当に人
生というものは分からない。
生徒会長は、彼らのカテゴリーに属する人の中で最もラッキーだと言われて
きた。
何せ彼女は今まで男嫌いと目されてきたのだから(只今絶賛看板撤廃中)。
以後彼女に触れた男はいないらしい(今日の午前8時57分までの記録よ
り)。
 後述しておくと、咬まされた平手は跡が残らなかったそうだ。恐るべし相川
鈴音。

 そんな彼女に返事をしに行かなければならない。
 間接キスを頂くとばかりに俺の唇を狙う者、殴ろうとする者、殺意の篭もった
眼差し、その他の軽い嫌がらせ、色々ありました。
全て排除、通過済み。
でもそんなもんは今日で終わりだ。
 俺は特別棟2階のトイレの外壁から手を離し、飛び降りる。
今日まで運動神経を鍛えさせてくれた環境に感謝。
ここから裏庭は逆方向にあるのだが、遠回りしていけば安全だろう。
俺が若干汗臭いのを嫌がらなければいいのだが。
 草の間に落とした靴を探り当てる。上履きは仕方が無いが、持って出る他
あるまい。
安全を確認すると、俺はエージェント溢れる校舎を離れた。

(つづく)
375KNOCK DOWN!  ◆lIRqqqQOnU :2006/08/20(日) 17:33:30 ID:QifbwWpP
すみません。タイトル最初の方打ち忘れがありました

今日はここで終わります
376名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 00:04:43 ID:qPyYbGw5
GJ!
377名無しさん@ピンキー:2006/08/21(月) 11:42:25 ID:dF1zS8Ag
>KNOCK DOWN!

前回から楽しみに待ってました。
続きが読めてテラウレシス GJ!!
378名無しさん@ピンキー:2006/08/27(日) 19:34:29 ID:yjWdLF24
保守
379名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 13:31:23 ID:QSo5+wI1
サルベージage
380名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 21:53:49 ID:b3lPpA3F
ほしゅ
381KNOCK DOWN! ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:36:44 ID:q1RWHUt7
>>369-374の続きです
382KNOCK DOWN! 1/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:37:59 ID:q1RWHUt7
4.寄せる波、返す波

 うちの学校では、告白と言ったら裏庭の樫の木前が定番である。
告白の仕切り直しに相応しいと言えば相応しい。
「どんぐり前」と言えば、誰かが告白している、若しくはされているという意味だ。
 俺の彼女に対する評価は、一般人と然して変わらないと思う。
皆が(心酔する者の評価も含め)言うように、確かに彼女は綺麗だ。
気高く、眩いまでに整った顔。名は体を表すが如く美しい声。
滅多に人を寄せ付かせず、大抵の者は視界にすら入れないような、人に対する
関心の無い態度……『氷姫』と渾名されるに相応しい。
 恨まれる気持ちも分かる。
彼女は初めて自分のイメージを壊すような事をしたのだ。

 茂みから現れた俺に彼女は驚いた表情を見せ、遅刻した非礼を詫びると難無
く許してくれた。
ちらりと1年前の事件が頭を過ぎったのは秘密だ。
 普通男だったらここは告白を受ける場面だよな。
(付き合った後の大変さを差し引いたとしても、)付き合えただけで舞い上がって
しまうような美人だし。
恥ずかしそうに俯いたままの相川嬢を前にして、そんなことをぼんやり考えてい
た。
だがしかし、俺はその普通には属さない。いくら美辞麗句を述べたところで、俺
にとって彼女は特別では無い。そういう事だ。
 はっきりと言おう。
「相川…告白の返事なんだが……」
「……はい」
どうやら顔を上げる気は無いらしい。俺は構わずに、
「断る」
短く言い切った。
383KNOCK DOWN! 2/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:40:09 ID:q1RWHUt7
目の前のものがピシリと音を立てて、固まったように見えた。
「告白は嬉しかった。しかし俺は相川のことをよく知らんし、……その、何より痴
女は嫌だ」
彼女は息を呑んだまま、身動ぎひとつしていない。
近くに立つ樫木が葉擦れで騒めいた。
 これで男嫌いが加速しようが知ったこっちゃない。
それより、いきなり男にキスすることの重大性を説いてやらなければ拙いだろ
う。この忠告は、これからの彼女の人生の中で布石になるはずだ。
「それじゃあ。返事が遅くなって悪かった」
暫く待ったが、何も言わず顔も上げない彼女を置いて俺は帰宅した。

――ここで話が終わるはずも無い。俺は最初に俺の日常は消滅したと言った。
その言葉に嘘は無い。ヒントは乙女チック暴走パワー。話は翌朝の事だ。

「先に行くからな!」
と返事も待たず玄関に向かって勝手に声を掛け、俺は家の門扉を閉めた。
「おはようございます」
落ち着いた柔らかい声が背後から掛かり、俺は仰け反った。
瞬間、殺しに来たのではないかと思い振り向いたが、包丁・ナイフ及び刃物の類
は一切手に持っているようには見えなかった。
「……おはよう」
相川鈴音は淡く微笑んでいた。
更に俺は、実は付き合うことになってしまったのではないのか、と昨日の行動を
振り返ってみたが、昨日はっきり断ったことは絶対的過去の事実だ。
「何の用だ?」
出来るだけ警戒心をありありと見せて俺は尋ねた。
今だってその鞄の隙間に、カッターを隠し持っている可能性は否定出来ない。
「はい。一緒に登校しようと思ったので。ご一緒させて頂いて構いませんか」
どっちにしろ学校へは行かなくてはならんのだから、断ろうにも断れん。
384KNOCK DOWN! 3/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:41:16 ID:q1RWHUt7
「俺は昨日告白を断ったはずだが」
「はい」
それがどうかしたのか、というような顔をされた。今度はこっちが面食らう。
「藤沼くんは昨日私に言いました。私のことをよく知らない、と。だったら私の事を
知って頂いてからでもいいのではないかと思いまして」
 良くある話だ。知らなきゃ知ればいい。
そういって2人の仲は接近する。
あっていいのか?断るのは無しなのか?
「じゃあ昨日までの件はどうなる」
「私と藤沼くんが出会うきっかけだと思えば」
「痴女呼ばわりした事は」
「昨日藤沼くんは、キスした事について責めませんでした。私に振り向いてくれ
れば、それも無効になります」
確かに俺はいきなりキスするような奴は嫌だとは言ったが、キスした事に関して
は何も抗議していない。物は考えようだ。
「取り敢えず行きましょう。遅刻してしまいます」
彼女は身を翻すと、先に駅へ向かって歩き始めた。

 こうなると誰が予想したであろうか。
日の光に透かされて茶色に艶めく髪は、波打ち揺れる。
細く引き締まった腰に、今時短過ぎない膝よりやや上丈のプリーツスカートがよ
く映える。
何だか縦に並んですぐ後ろを歩いていると、ストーカーみたいじゃないか。
「相川。並んで歩こう」
「はい」
彼女が嬉しそうに目を細める。
俺は朝っぱらからストーカーしているように見られるのが御免なだけだ。
385KNOCK DOWN! 4/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:42:52 ID:q1RWHUt7
 横に並ぶと今度は緊張した面持ちで一言も発さないので、話題を振ってみる。
「俺のどこが良かったんだ?」
取り敢えず一番聞きたい事は置いといて、まずは無難なところから聞いてみる。
告白はされたものの、何がどう好きなのかを知らなかった。
それに俺は所謂どこにでも埋もれていそうな高校生で、とてもじゃないが彼女の
視界に入るとは思えない。
「……一目惚れです」
これは彼女を変人認定しても良いということだろうか。
「――去年の体育祭、リレーに出られましたよね」
くじ運の悪かった俺は、去年の体育祭で最も揉めに揉めた4×100mの選手に
選出された。思い出して頷く。
「あの時です。眼差しがとても真剣で……――ちょうど私の目の前がバトンの受
け渡す地点だったんですよ。それであの時走者一人ひとりの顔がよく見えて、中
でも藤沼くんが一番、…一番格好良かったです」
「…それはどうも」
いつもは険しく見える顔が今日は柔和だ。
しかし、そういう時って所謂マジックが掛かってるって言うよな。3割増くらいカッ
コよく見えるという。
 駅に続く道を歩いてある地点まで行くと、各々の学校へ会社へと向かう人々と
合流していく。
皆一様に彼女を振り返っていくのは、やはりと言うか何と言うか。
「そういえば、相川はどこに住んでるんだ。同じ市内という訳じゃないだろう」
近くに住んでいたら噂ぐらいは聞こえてきそうだ。
「ええ、桜ヶ森町です。ここの最寄駅へは学校までの通り道なので、来る分には
問題ありませんでした」
「へー桜ヶ森か……」
ってさらりと言うが、由緒正しきお屋敷が立ち並ぶ住宅地じゃないか。
何でそんなお嬢様が普通の私立高校に通ってるんだ。
色々それなりに歴史があって格のある高校は他にあると言うのに。
386KNOCK DOWN! 5/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:44:11 ID:q1RWHUt7
訳有りかもしれないので、取り敢えず次の疑問。
「ここまではどうやって来たんだ?」
俺は電車通いだが、車で通ってるんじゃないのだろうか。
「電車通学です。だからこうしてお迎えに来ました」
何だか誇らしげに胸を張る。
と言うことはやはり、車で送迎をされていた時期もあるんだろう。
そこまで聞いて、根本的な疑問が頭に浮かんだ。
「と言うか相川」
「何でしょう」
「どうして俺の自宅を知っていたんだ」
考えてみれば、である。
俺と彼女が初めて話したのは8日前、彼女が俺を知ったのは去年の体育祭と推
定すれば、昨秋。
まさかその間に、俺の身辺調査をしていたのではあるまいな。住所から考えると
お嬢様だろうし、何だかそういうことをやっていそうだ。
ストーカーしたという可能性も選択肢に挙げられる。
俺は恐々彼女を見る。
彼女は俺を見返すと、はにかんだとしか形容しようが無い笑顔を見せ、
「調べました」
とだけ言った。
この「調べました」には、いつ、誰が、どのようにしてという情報が明示されてい
ない。
不安だ。恐ろしくて踏み込んで聞けない。
やがて駅に着き人込みに揉まれ始めると、俺と彼女の会話は自然と途切れが
ちになった。
387KNOCK DOWN! 6/6 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:47:10 ID:q1RWHUt7
 「新聞部の逆襲」――心の中の状況を目次タイトルにして表すとこんな感じだ
と思う。
最寄り駅に到着する頃には同じ制服を着た奴らから針の筵の如き視線に曝さ
れ、学校への道は殺意のオーラに満ち、それでも校門を潜ったと思ったらこの
仕打ち。何故こんなにも大量の視線に曝されても平気な顔してるんだ、相川。
棒立ちになってしまった足がぴくりとも動かない。
そこの男。明らかに俺を見てどこかに電話を掛けるな。新聞部。得意げに校内
新聞をばら撒くな。お前は俺を殺したいのか。
「一部貰ってきました」
嬉しそうに微笑むな、相川。
「でも、振られたって書いてあります。事実と言えば事実ですけど……」
見出しを読んだ声のトーンが段々と弱くなっているが、フォローはしないぞ。と言
うか、何も言う気になれない。
「……この元画像欲しいな」
そこには、俺と彼女がキスし彼女の腰に手を掛けている瞬間の、極彩色の写真
が表面に大きく載っていた。
 誰だ、写メを新聞部に横流ししたのは。最近の携帯カメラが高画質化はどう
なっている。
……俺の今日はどっちだ。

(つづく)
388KNOCK DOWN! ◆lIRqqqQOnU :2006/09/02(土) 13:48:34 ID:q1RWHUt7
今日はここで終わりです
389名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 23:50:32 ID:nCtIgQnC
GJ!
390名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 05:46:47 ID:oGvvMMr2
GJ!
391名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 03:18:07 ID:5ucZeufI
GJ
392名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 12:39:17 ID:Ds3tyGMK
>>398
乙〜
積極的なのか控え目なのか微妙に分からんお嬢がイイ感じ。
393名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 22:56:40 ID:ym1/doYX
>>392
>>398に感想とは、続きは直に投下されるのか
394名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 01:08:00 ID:ajDLQB1D
Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)
395名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 20:03:29 ID:Wjvrggh4
相思相愛、肉体関係なしの設定で
帰宅途中に幼馴染が拉致され強姦陵辱。
妊娠させられて堕胎できなくなった頃に開放。
絶望状態の幼馴染だったが主人公の頑張りもあってなんとか回復。
主人公と幼馴染と子供の三人で生きていく純愛SSをどなたかお願いします。
396 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:46:07 ID:3U4Cky4V
>>382-387の続きです

前回までに感想下さった皆様 ありがとうございます
随分と書く励みになりました

読み返すと改行した方がよかったり、逆に行の最後を改行しすぎたりのミスが怒
涛の後悔となって襲い来るのですが(誤字もちらほら)、こいつバカやったなと生
暖かい目で見た後、脳内変換よろしくお願いします

取り敢えず今後どうするか未定な部分もありますが、この先の展開を考えここま
でを一区切りと見ると、何故か第一章(大仰に言える物では無いけど)のラスト
です

尚、今まで注意書きをするのを忘れていましたが、ベタな展開に飽き飽きしてい
る方は読み飛ばしてください
397KNOCK DOWN! 1/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:48:01 ID:3U4Cky4V
5.ふる新聞

 厄日、若しくは告白されたが運の尽き。
何だかその日の日記のタイトルに付けられる様な完璧な内なる心境の語句は
紛う方無き現実。ああ、何を言ってるんだ。
この胸の重苦しいのは一体どこへ逝けば晴れ上がりますか。
介錯を頼むと喜んで申し出てくれそうな人物がそこ彼処にいるのは、喜ばしい
事ですか。
 一瞬意識が天に向かう間に走馬灯が巡った。そして走馬灯の内容が成長に
合わせて増えるというどうでもいい発見も体験してしまった。死にたいが死にたく
ない。
周囲の視線の数に比例し、冷汗が吹き出て眩暈が酷くなる。
周りの生徒達は、振られたはずの彼女と俺が一緒にいる事を不思議に思って
か、流し目をくれたり無言の呪詛や好奇心を孕んだアーモンド形の眼をにやに
やさせて新聞を持って通り過ぎたりする。
すげーみられてる。そんなのやだ。やだやだ。
「あっ 藤沼くん!」
薄い凶器の紙っぺらに気を取られていた彼女は、ワンテンポ遅れて俺の後を
追って来る。くるなよ!おれはいまひとりになりたいんだ!
気持ちだけは全力疾走だが、格好がつかないためか競歩の要領でばら撒かれ
る現場から、真っ白になった頭のまま本能的に動く足で昇降口へと向かう。
「待ってください!」
必死に呼び止める声がするが無視。
398KNOCK DOWN! 2/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:49:14 ID:3U4Cky4V
「あのっ すみません。私ひとり浮かれてしまって……どうしても、初めてのキス
は好きな方と決めていたので、その記念になるものがここにこうしてあって、あ
まりにも嬉しかったので見苦しくもはしゃいでしまいました……!ご不快に思わ
れたなら謝罪致します。ですからどうか」
そんなこときいてない!そんなせっぱつまったこえではずかしいこと叫ぶなああ
あああああっ
螺子巻き人形宜しくハイスピードで歩いていた足が、心を抉り捲る彼女の言葉
に容赦無く縺れさせられる。……お陰で精神崩壊は免れたけどな。
天然か?天然だなこの所業は。羞恥で人を殺し掛けるなよ。
「あの……」
恐る恐るといった風情に、彼女は見えない俺の顔色を窺うような声を発する。
「…別に怒った訳じゃない」
溜息混じりになるべく顔を見ないように振り向いて、真っ赤で煙を噴く勢いになっ
ているであろう首から上に風を当てるべく穏やかに吹く風を待った。
だのにちっとも風が吹く気配がないのはどういうこった!
怒った訳では無いが、視線に耐え切れないんだよとか、ひとりになりたいとか、
追加でおまえ舌まで入れといて初めては嘘だろとか思っただけだ。
ちらりと彼女を盗み見る。
捨てられそうな事に気付いて追いかけて来る様な小犬の瞳をした学校至上最
強と目される人物が、直ぐ傍で見上げていた。
 俺はもうキスの件に関しては口にしないと固く心に決めたのだ。
お陰で一番知りたかった何故、どんな心理でキスをしたかという疑問にも、も
う少し時間が長ければ腰が砕けそうだったとか、後3秒長かったら声が漏れてた
ぞ等の文句も、これは駄目だ。
399KNOCK DOWN! 3/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:50:28 ID:3U4Cky4V
とにかく言いたい事を抱えてもやもやしたままなのだ。今日こんな事がなかっ
たら、一刻も早く記憶から抹消し、塗り変えるべく新たな記憶を脳味噌に詰め込
むところだったのに、思い出させるな!
聞いたら立ち所に疑問に答えてくれそうだが、だからと言って口にするのは憚ら
れる。これはプライドの問題だ。
自然と彼女の唇に目が行っていることに気付いて目を逸らした。
「……もう行く」
昇降口までの道を行き過ぎてしまった事に気付いて引き返す。
すれ違う時に彼女が不安そうな瞳で何かを言いたげだったが、ふわりと彼女の
髪が俺のブレザーに絡みつくようにして舞うのも無視して、俺は何事も無かった
かのように昇降口の入り口へと向かった。

 号外に対する反応は男女で大凡分かれた。
 まず男子。
これでもかと言うくらい嫉妬の嵐。すみません、別に俺が告白した訳では無いん
であまり敵意を向けられても困ります。俺は断ったっつーの。
 そして女子。
何だか告白で俺に注目してくれているらしいが、パンダ扱いは勘弁してくださ
い。話し掛けて来て俺が返事をすると「おお〜!」とか反応するのは俺は最新鋭
のロボットかと嘆きたくなる。
 混在した男女共通反応も存在する。
主に相川に懸想を抱いていない人物達は、色々面白がって話し掛けてくるイン
タビュアーが多い。趣味やら血液型やら好きなタイプやら。
特にキスに関する真偽や感想等の質問に答える気は無いんだ。来るな。
400KNOCK DOWN! 4/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:52:29 ID:3U4Cky4V
 昨日まででこれだったのに、今日は更なる燃料投下を観衆に与える事になっ
てしまった。 
階段を上ってくる途中までにも新聞を持った奴らに出くわすし、男女問わず明ら
かに俺の事に関する何かを通り過ぎる傍で言っているのが、後ろに目を付けな
くとも分かる。
俺のクラスメイトしか知らなかった真相を、写真という物はいとも簡単に世間に
報せることが出来た。
噂に過ぎなかったキスは、共通認識の事実として今や学内の常識だ。
 下駄箱と帰る前は何も入っていなかった机の中に、状況が更新される前の熱
い思いが込められていた手紙がわんさか入っていたが、2、3通読んだだけでど
の手紙も変わり映えがしない恨み言ばかりだったので、読むのをやめた。
下駄箱を開けたら手紙が雪崩を起こして目の前に落ちるなんてギャグにしか見
えなかったぞ。しかし貴重な体験だった事は否定出来ない。
今日のゴミ捨て当番には済まない事をしたと思う。怨念入りの紙はよく燃えるだ
ろう。と言うか、燃やし尽くしてくれ。
「お前と相川女王の写メ、いい値段で売れたとよ」
どこかへ行っていた安堂がやって来て、前の椅子に跨って言った。
朝から嫌な情報を流すなよ、安堂。
俺はこの教室に来る段階で疲れてるんだよ。
いくら若葉薫る五月の爽やかな風を浴びてもちっとも気分が爽やかになる気配
は無い。
「うーっす、おはよう勇者。見たよ号外、すっごい捌けてたな」
勇者って何だ。勇者って。
今到着した笹川がぴらりと目の前に、先程見た紙を垂らす。
二つ折りの新聞が重力に従い、だらりと開かれた。
401KNOCK DOWN! 5/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:53:41 ID:3U4Cky4V
見出しの文字はこれ、スポーツ紙か?
先程碌に読みもしなかったものを眼前に突き付けられて、物憂い気持ちで眺め
る。
『相川鈴音 白昼堂々キス!相手は2−B 藤沼秀司』の文字が目の上で踊
る。捻りが無い分、ストレートにダメージが来るな。
改めて見ると、彼女のキスを俺が受け入れているようにしか見えない場所に左
手がある。俺は目を瞑った覚えは無いから、この目を閉じているように見えるの
は一瞬の瞬きした間に撮られたんだろう。
撮った奴は天才だな。後で見つけ出して礼を渡さなくては。
「色っぺー表情してること。あ、お前じゃなくて相川な」
横から安堂が感じ入ったような声で号外を見て呟く。
分かっとるわ、んなこと。つーか、おまえら特等席で見てたじゃねーか。
その事に今更ながら気付いて心の中でもんどりうつ。
「やるよ。お前の分」
そのまま新聞を手渡された。
「どうも態々ありがとな、感謝し過ぎて涙も出ない」
俺は素直に受け取った。
「何、受け取ったって事は記念に残しておくの?めずらしいじゃん」
「一部でも多く手元にあるってことは、それだけ誰かに見られる確率が減るって
事だろ?可能性は潰せるだけ潰しておかなくちゃ、な!」
笹川の手にあった残りもひったくった。
「俺まだ全部読んでねえよ!」
「読むな、詮索するな、誰かに話すな」
「ハイ…」
やめやめ!やっぱ止めだ!これ以上彼女に関わってはいけない。俺の日常は
どこへ行ってしまったんだ。
402KNOCK DOWN! 6/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:55:19 ID:3U4Cky4V
 だから彼女が昼休みに訪ねて来た時、俺はにべも無く一緒に昼食を取る誘い
を断った。
「そんな…!」
彼女が悲痛な叫び声を上げた。
「…藤沼くんに私を知って頂かなくては困ります。今朝、OKしてくれたのではな
いのですか」
「正確に言わせて貰えば、俺は了承した覚えは無い。おまえが話を流したんだ
ろう」
って、これって何か既に痴話喧嘩っぽくないか?
「じゃあ了承して」
「嫌だ」
「了承してください」
「断る」
睨み合いが数瞬続いたが、先に折れたのは彼女の方だった。
「……分かりました。いきなり昼食をご一緒にというのは無理でしたね。帰りま
す。でも、これは受け取ってください。私が作りました……」
彼女は俺に手の中の片方の包みを押し付けると、ふらりと去って行く。
残されたのは弁当の包みらしきものと、殺気立った周囲の強力な視線のみ。
……俺は昨日告白を断ったはずじゃなかったのか。どうなってるんだこの展開。
今朝も俺は確認したよな。
確かにこれも彼女を知る一環だと言われればそうなんだろうが……
403KNOCK DOWN! 7/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:56:29 ID:3U4Cky4V
 魂が抜けたような足取りで自分の席に戻ると、友人と呼ばれる物体がにやに
やしていた。
「……何だよ」
「可愛いじゃん、お姫様。あんな姿初めて見た」
「同意。だけど同時におまえにゃもったいねー」
既に各人の机の上の昼食を突付いていた2人は、好き勝手に感想を述べる。
「で?」
「で?とは何だ」
「食わないのかよ。手作り弁当」
机に置いてあった、持参した弁当と見比べる。
食ったら食ったで感想は伝えなくては拙いし、洗って返さなくてはならないだろう
し、逆に食わずに突っ返すのも酷だ。無意識の内に眉間に皺が寄った。
しかし奴隷共に見られてるし、そうじゃなくてもクラスメイトに好奇の目で見られ
るし、取り敢えず色んなことが面倒臭くなってるんだが。
「いいから食えよー」
「どんな中身か見たいから中開けろ」
それ以外にも、貴様に女王様の作り遊ばした弁当は食わせたくないが、どんな
ラインナップなのか気になる、といった視線も複数受け付けた。
総意は取り敢えず開封。
…わーった。開けるぞ。
青い巾着袋の赤い紐を緩めた。中からは同じ色で掌大の布包みが見えたの
で箸箱を取り出し、留めてあったバンドを外してから包まれている布を開く。
「ピンク!」
誰かが短く叫び、おおーっという騒めきが起こる。
おまえら何にそんなに感動してるんだ。ただの弁当箱だぞ、これ。
「早く早く!」
笹川が待ちきれないと言わんばかりに声を弾ませる。
カポッと2段重ねの箱の内、上の段の蓋を開けた。
404KNOCK DOWN! 8/8 ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 01:59:38 ID:3U4Cky4V
おお!と一際騒めきが大きくなり、……いつの間にか取り囲む人垣の密度が濃
くなってるんだが。
 上段中身の一覧。
鶏肉とブロッコリーの照り焼き和え、卵焼き(人参、玉葱、ピーマン、椎茸、挽肉
入り)、金平牛蒡、海藻サラダ、プチトマト。全て冷凍食品の片鱗すら見当たらな
い。
まー何と彩り豊かで美味しそうなんでしょう。ってか、うちの弁当担当にも見習っ
て欲しい出来栄えだ。
取り敢えずおまえ死ねというオーラがうざい。
「美味そう!」
「食いてー」
誰もが涎を垂らさんばかりだが、誰も手を出さないのは何となく分かる。これに
手をつければ、ファンクラブの連中に捕捉される事間違いなしだからだ。
「食うのに邪魔だ、散れ!」
しっしっと手を振って恨みがましく見ている連中を解散させた。
下の段を確認する。
鮭とグリンピースの炊き込みご飯。
どうすんだ?の視線のにやにやした生き物が煩い。
俺は日の丸弁当並に恥ずかしい思いをしながら、弁当を平らげた。2つとも。

 その日の放課後、粗雑な印刷の号外2号が配られていたが、没収して検閲し
た中の『どうなる目が離せない!次回校内新聞にて総力特集!』の文字に本気
で意識を失いそうになった事をここに記しておく。

(つづく)
405KNOCK DOWN! ◆lIRqqqQOnU :2006/09/15(金) 02:01:29 ID:3U4Cky4V
今日はここで終わります
406名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 03:05:21 ID:WndXMh71
ベタな展開は大好きです。
407名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 08:32:06 ID:zqZEY/U7
GJ!
408名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 11:58:39 ID:eliEZr2v
ちょっとワンパターンかな。
次は頑張ってください。
409名無しさん@ピンキー:2006/09/18(月) 21:09:13 ID:Ywr9ARz+
そ れ が い い
410名無しさん@ピンキー:2006/09/24(日) 01:08:51 ID:QIsuPlXf
保守
411名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 21:25:56 ID:GwkLKuwB
保守
412名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 22:13:22 ID:s1/OCtCc
保守
413名無しさん@ピンキー:2006/10/02(月) 20:56:10 ID:f27cCdid
>>395のネタ面白そうだから書いてみようと思ったけど
なんか今やってる昼の連ドラと似てた
414名無しさん@ピンキー:2006/10/10(火) 09:51:32 ID:hKZqwb6t
落としてたまるか!
415スズキ:2006/10/15(日) 00:13:25 ID:xr1Tp2ou
お邪魔します。
エロまで行きつけてませんが暇つぶしに、よかったら読んでください。
途中までです。
416スズキ:2006/10/15(日) 00:19:25 ID:xr1Tp2ou
「怖い?」
初めて彩乃(あやの)の白く柔らかな裸体を前にしたとき、震える彼女に裕人(ゆうと)はそう言った。
高い身長、柔らかな猫毛の天然パーマの奥には、その毛と同じ薄茶色の瞳。
まっすぐに見つめる男の視線はその者の実直な性格を表すようだ。
怖い?と聞かれた事が、彩乃にはうれしかった。
23歳の彩乃にとって、この時が初体験ではない。
だがいつでも、新しい男と一晩過ごすときは背徳的な恐怖がまとわりついた。
今まで彼女を取り巻いた男たちは、恐怖を感じるのは初体験だけだと思っているらしかった。
裕人には、そう彼女に聞くだけの心の余裕が感じられた。
常に感じられるこの余裕が22歳と彩乃より年下の彼を、それと思えないようにしていた。


「見て。浮気だって。かわいそうだわ。」
いつか何かのテレビ番組を見ながら交わした、そんな会話を思い出す。
「うん。…でも俺はやっぱり騙された方も少しは…いや、騙された方が悪いんだと思うんだ。」
優しい裕人の意外な答えに少し驚く。
「分かると思うんだよね、きっと。一緒にいて、本当に相手が好きだったら性格だって…。ね。」
そう言って少し赤らみながら微笑む男の言葉は、彼女に対しての誠実さに思えた。

こんなことを言った男が、まさか彩乃を騙しているとは知らずに…。


ある日裕人と町で会った。
その腕には髪の短い、活発そうな女性が自分の腕を絡ませていた。

裕人は彩乃と目が合うと一瞬表情を凍らせた。

彩乃は全てを悟りその場を去った。


ガランとした彼女の家に残っていたのは通い詰めていた裕人の残り香だけだった。
417本性  2/6:2006/10/15(日) 00:29:04 ID:xr1Tp2ou
タイトル忘れてました。つけます。


「お!おかえりー!ねぇ俺腹減ってんだけど。」
次の日仕事から家に帰るとあの落ち着いた男とは思えないほど明るい裕人が、景色に溶け込みながらテレビを見ている。
それを見て彩乃は力が抜け、がっくりと膝をつきそうになった。
「減ってんだけどじゃねーよ。な、なに?なんでいるの?」
「なんつーか一緒に住んでた女から追い出されてさー!なぁに喜んでんだよ!」
「いや普通に怖いし。」
「お前別に俺は忍んで入ったわけじゃねーんだぜ?ほらほら。合いかぎ」
肩に回された裕人の手を、汚いものでも見るかのように人差し指と親指でつまんで離す。
数日前に渡したこの部屋の合いカギが目の前をブラブラしていた。
彩乃のヤバイという思いが一心に表された顔を男は満足そうに眺める。
その視線を受けながら彩乃は小さなため息をすると、急に冷めた表情になり、無感情に離してと言った。
「ご飯食べてないんでしょ?私もお腹すいてるし。」
すっと男の目の前を通り過ぎ、朝脱いだらしい椅子にかかっているエプロンをしながら台所へと歩いていく。

彩乃は妙な女だった。裕人に騙された怒りは確かにあるのだろうが、それが定かではない。
怒っているようで、どうでもよさそうにも見える。
裕人が今まで会った女は騙したことがばれると怒鳴り、暴れ、泣き叫ぶのが常だった。
いやむしろそうなるのが普通だろう。彩乃はなにか達観しているように見える。

裕人は今まで様々な人間を見ている。自慢できることは、他人の思い、性格、心理などを短時間で見極める天性の素質があることだった。

もちろん彩乃の奇異な性格も熟知していた。思ったとおりの成り行きなのだが、このあまりにもスムーズな展開に驚いている。
(変な女)
一種の気味悪ささえ抱きながらソファに座りなおし、テレビとは反対側の台所の彩乃を横目で気にした。
(料理作って俺に取り入ろうってわけじゃなさそうだしな。
 というか、もう俺とのことは終わったって思ってる態度だ。じゃあなんで…。)

考えれば考えるほど絡まってくる思考は、意外にも神経質な彼にとってイライラを増すだけだった。
諦めたように頭を振り、テレビを見る。


この男は思考が先に立つ分、何も考えないぼーっとした彩乃の性格をどうしても理解できないのだった。
418本性  3/6:2006/10/15(日) 00:32:55 ID:xr1Tp2ou
「うわぁ。すげーうまい!」
品のあるどこかの陶器の皿に並ぶパスタを絶え間なく口に運びながら裕人が言う。
「すげー!まじすげぇ!!なぁこれって何いれてンの?俺こんな手料理うまい人初めてなんだけど!」
裕人の子供のような喜び方に彩乃は赤く頬を染めて照れた。悪いことでもしているように身を小さくする。
「ちょっとちょっと。も、もういいから。やめてよ。」
「ぶぶっ!!なんでそんな小声なんだ!誰かいるのかよ!お前こえぇ!!」
身体を反りながら腹に手を当て笑う様はまるでいつもの裕人とは違った。
あの姿勢正しくきれいに食事をする男は誰だったんだ。
彩乃はますますドン引きする。
「よくそんな二重人格で女と暮らせたわね。その変わりよう怖いんだけど。」
「二重人格じゃねーよ!俺ってほら、相手の好みで色々性格変えれるからさっ。」
「自慢になってない。ってかなに今の否定?多重人格って言いたいの?」
「そうそう。」
彩乃との会話より目の前のサラダやらバケットやらに夢中の裕人。
騙される方がバカなんだと言う彼の言葉をその通りだと痛感する。
「あーあ。なぁんで騙されたんでしょ。嫌だなぁ。」
「そりゃおねーさんが寂しいからデショ。」
ぐっと突き刺さる言葉。何も言い返せないから仕方ない。
大人っぽく見えたのも頼りになるように見えたのも本当に幻想だった。
現に彼女の前に座る男は、口いっぱいに食べ物を頬張り、
大きな口をあけてちょっとしたことでもゲラゲラ笑う子供だ。
(しょうがないヤツ。まぁこれが本当の性格か。)

「うまかったー!ごちそう様!!」
そう言って頭を下げる裕人。
「はいはい。」
彩乃はなんというか大きな子供を抱えた母親の気分だ。
自分の皿を洗い場へ持って行った後、裕人の皿も運ぼうと手を伸ばす。

彩乃の身体がピクリと跳ねた。
皿に触れている細い手首を男の大きな手がそっと包んでいる。
419本性  4/6:2006/10/15(日) 00:35:53 ID:xr1Tp2ou
心臓が高鳴ってくる。離してと言いたいのに言葉が出てこない。
静まり返り、緊迫したこの空気を破ったのは裕人の静かな声。
「ごめん…彩乃。」
好きだと感じていた頃の、低く落ち着いた声だった。
椅子から立ち上がる裕人。連れて彩乃の視線も上がる。
「人を傷付けるのが、こんなにきついって思わなかった。」
辛そうに眉間にしわを寄せて口の端で笑う。
(落ち着け。これは演技なんだから。)
頭で強くそう繰り返すが、心臓は落ち着いてくれそうにない。
「お前は、もっともっときつかったよな。」
そういって長い髪を肩に流しながら頬に触れた。

優しい言葉はきつい。
彩乃は支えてくれる人がいない寂しさに加え、彼氏ができたと浮かれた後に騙され、一層人にすがりたい気持ちを抱いていた。
もう今は何も考えずに目の前の、信用できないこの男でも強く抱きしめてほしかった。

そんな思いの彩乃をよそに、温かい手はなんの未練もなく頬を離れた。
「座ってろよ。飯作ってもらったんだから片付けくらい俺がやんなきゃな。」
裕人は少し赤い顔で目を泳がせながら彩乃の頭をぽんぽんと叩くと、自分の皿を洗い場に持っていった。

片付けの間、彩乃はぼんやり眺めていた。裕人は鼻歌を歌いながら手際よく皿を洗い、食器棚に陳列させて行く。
片付けが終わると裕人は彩乃の方へと歩いてきた。
(どうせヤりたいだけでしょー)
そう思って目を逸らし裕人の視線を流す。
「じゃ、お邪魔しました。」
想像と真逆の言葉にびっくりして裕人を見ると小学生の礼のように低く頭を下げている。
「あ。帰るの。」
「なに。寂しい?」
うれしそうに赤くなりながら言う男に彩乃は一瞬にしてもっと顔を赤くした。
(ちょっとちょっとー!私のタイプど真ん中こないでよー!!!)
彩乃は純粋な素朴な男に弱い。
相手に顔を赤くされたりすると、もうそれだけで結構好きになる。
この男はそれが分かっていてやっているとしか思えなかった。
「んなわけないでしょ!ほらほら!帰るんじゃないの!?」
彩乃がしっしっと言いそうな勢いで玄関へと追い込むと、なぁんだとすねたそぶりで歩く裕人。
早く追い出してしまおうと彩乃は考えた。自分の理性があるうちに。
じゃあなと言う言葉を残して玄関から追い出したあと、彩乃はほっと息をついた。
(あっぶなかったぁ〜!)
あれ以上彼がここにいたら自ら抱きついてしまうとこだった。
420本性  5/6:2006/10/15(日) 00:38:59 ID:xr1Tp2ou
心持ちぐったりした彼女は今日はもう寝てしまおうと思い鍵をかけようとドアに手を伸ばす。その時。
「お。ごめんちょっと。」
ガチャッと音を立てながら玄関が開く。そこにいた彩乃に少し驚きながら大きな男が入って来た。
「なに。忘れ物?」
嬉しく感じた気持ちを隠すために仏頂面をして聞く彩乃。
「いや。これ。」
ポケットから出したのはこの家の合いカギだった。
「本当は今日、謝りに来たんだ。」
「え?」
「悪かった。ごめんマジで…」

部屋から一切の音が消え、吐息すら聞こえそうになる。

「俺、好きだよ。彩乃が。」
彩乃は食い入るように裕人の目を見た。柔らかな猫毛の向こうで真っ直ぐな視線が返ってくる。
「わりぃ。なんつーか言っとかねぇと…あと引きそうだしよ。」
そう言って下を向く裕人から乾いた笑い声が漏れた。
「幸せになれよ。んじゃ、ばいばい。」
にっこりと笑って部屋を出る裕人。
これで最後だとはっきり感じた。
彩乃は目に溜まった涙が流れる感触で、ふと我に帰る。
「まっ…」
声が詰まりながら去ろうとする男の背に抱きついた。
「お…おい。」
驚いた声。彩乃は何も言わず、自分の気持ちを伝えるように一層力を込め抱きしめる。
「やめろ。また騙されてーのかよ。」
少し声が上ずっている。彩乃は裕人が泣きそうに感じ、押さえきれない愛しい気持ちでいっぱいになる。
一瞬、騙されても本当の性格がこんなヤツでも、それでもいいと思った。
背に感じる静かな泣き声をじっと聞いていた裕人は、決意したように前に回っている彩乃の両手に自分の手を重ねる。
そのまま優しくウェストからはずすと、彩乃に向き直り、大事そうに両手にキスをした。
「泣くな。」
顔をくしゃくしゃにして、両目を閉じぽろぽろ泣く彩乃の涙を、小刻みに震える手で裕人はすくい上げる。
温かい体温を感じ、彩乃は目を開けた。上体を低くした男の顔が目の前にあった。
「お前、ばかだよ。」
辛そうに笑い、かすれた声でつぶやく裕人に彼女はたまらずキスをした。


長くキスをした後、絡まるようにベッドへ向かい、性急に服を脱がせ合う。
彩乃は熱っぽく見つめるこの男が、自分を想っていると確たる自信があった。
それはなんの証拠もなく、足場の悪い水辺にいるようなあやふやなものだったけれど。

温かい体温で、強い腕で掻き抱かれているときだけ、この男に求められていると確信する。
それが心地よく、あとはどうでもよかった。
彩乃を抱くこの男は、優しさも、強さも、愛撫も、実直だと信じたその頃と違いなかった。
これが本当の愛し方なのか演技なのか分からないまま意識が飛んでいく。

ただ、熱に浮かされたような頭に響くのは、何度も繰り返される低く甘い好きだという声だけだった。
421本性  6/6:2006/10/15(日) 00:40:36 ID:xr1Tp2ou
気付くと朝だった。
閉められていないカーテンを一瞬不思議に思い、その後合点がいった。
(そっかぁ昨日…。)
こんなに寒い朝に裸で寝れた自分に驚く。
「?裕人?」
手元の薄い毛布に包まり、ズルズル引きずりながらリビングへと行く。
誰もいない。
いつものボンヤリした顔を寝起きで更にぼーっとさせながら見渡すと、テーブルの上に紙切れが置かれていた。
ちらりと見ると神経質な男が書いたらしい、丁寧な字の羅列が見える。
頭を掻きながらその紙を持ち上げた。

『おはよー!
 ってかお前騙されすぎ(爆笑)学習しないお前が心配だよ><。。
 昨日『やべぇ俺野宿!?』とか怖がってたけど彩乃ちゃんが単純で助かりました。
 あのね、目を開けて寝るのやめてね。ちょっと怖かったからね。
 じゃねー!また来るにょん☆』


ぐしゃっと一気に紙を握りつぶす。
「にょんってなんだよ。」
苦々しく吐き捨てると、テーブルを眺めた。
返ってきたはずの合いカギがない。
彩乃は渋い顔をして、だるい身体を起こそうとシャワーを浴びに浴室へと向かった。
422スズキ:2006/10/15(日) 00:42:29 ID:xr1Tp2ou
まだここまでです。
お目汚しすみませんでした!
423名無しさん@ピンキー:2006/10/17(火) 00:07:19 ID:YgQcV01R
wktk
424名無しさん@ピンキー:2006/10/23(月) 21:07:02 ID:R4El2vdP
香そり過ぎ
425名無しさん@ピンキー:2006/10/26(木) 23:48:30 ID:0NJ8GoyE
未完の大作がかなり多い印象なんだが、最近は職人さんも来てくれてないからね〜

稲負鳥氏の作品、続きをかれこれ一年くらいは待ってるんだけどなぁ。









全裸で。
426名無しさん@ピンキー:2006/10/27(金) 00:18:24 ID:8B0QGMBN
catは俺も待ってるぜ!
展開も未だにはっきりと覚えてるし

>>425は全裸とか下品な事やめろよ
ネクタイを忘れてるぞ
427名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 10:01:09 ID:fi1YgbOA
>>426
紳士は身嗜みに気をつけなきゃいかんよな。
俺も、蝶ネクタイを付けてるぜ!!













全裸で、愚息に。
428名無しさん@ピンキー:2006/10/29(日) 10:19:22 ID:7apQNROj
オーガストのスレに夜明け前より〜の作品でちょっと胸を熱くするものが投下されてる。
ただちょっとキャラの事知らないと厳しいかな
神楽さんと言う人の作品
429名無しさん@ピンキー:2006/11/02(木) 23:54:06 ID:UMqS7o6t
とりあえず一旦ageてみる
430名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 00:44:18 ID:J9xFFOn8
流石にもう夜間の全裸は体に堪えるな……
しかし、まだまだ
431名無しさん@ピンキー:2006/11/03(金) 22:30:48 ID:3O2+dcCS
>>430
(*´・ω・)人(・ω・`)
432名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 10:39:02 ID:knJBhiWm
靴下は履こうよ!
433KNOCK DOWN! ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:19:31 ID:MUcfTD3T
間が空いてしまいましたが、>>397-404の続きです
少し長くなります
434KNOCK DOWN!1/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:21:14 ID:MUcfTD3T
6.違和感、みたいなもの

――これはまだ、前回・水曜日の午後の授業中の話。

 俺は完璧に行き詰まっていた。
いっそホモだと喧伝してしまってはどうか、という考えまで追い詰められている事を彼
女は知らないだろう。色々諸刃の剣過ぎて実行は出来ないが。
断り方が拙かったのだと、今までの事態を分析してみて、その考えに至ったのだ。
もし他の――例えば、誰とも付き合う気は無いという断り方なら、彼女は引き下がった
のでは……ないだろうか。
すんなりそれを飲み込んでくれればいいのだが、今更言ったところで「私を知ってくださ
い」が何よりの有効手段な文句で、それ以上に彼女を納得させられる言葉を吐かなけ
ればこのまま「友達付き合い」をしなければならない。
しかしながら、彼女を納得させられるような言葉を何ひとつ思い浮かばなかった。
 そして、ふと思ったのだが、彼女は断られると思っていなかったのだろうか(それだと
御高くとまっていて嫌な感じだ)。それとも断られた事を乗り越えた上で、再チャレンジ
を要求してきたのか(ど根性だな)。
そして、俺の知っていた男嫌いで、人に対する関心など微塵も無くて、孤高で優雅な
『氷姫』のイメージの相川鈴音はどこへ行ったんだ。
……そう。何か変じゃないか?
ここまで関わってきて、これらのイメージと現実とのギャップは激し過ぎやしないか。
435KNOCK DOWN!2/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:23:22 ID:MUcfTD3T
 と、今に至るまでの考えを友人達にぶつけてみると、2人は互いに顔を見合わせ、片
方は溜息を吐いた。
「……もう、何て言ったらいいのか分からん」
いかにも怠そうな表情で顎の先を俺の方に流し笹川に合図を送ると、安堂は袖を捲って
腕を掻いた。
匙を投げたと言わんばかりの安堂の言い種に、内心途惑いつつも笹川に目を向けた。
「――正直、今の今まで思ってたけど、あえて言わなかったことがある」
一応、先生付きの自習なので小声で話しているのだが(別に話していても問題が無い
遠野の授業だが)、笹川は半身を机の方に寄せ、更にはいつもは見せない真面目な
顔をして話し始めた。
「何だ」
俺も心持ち寄り、ヒソヒソ話をする態勢になる。
「お前はよぞくの事に関心なさすぎだ」
「世俗」
「そう。世俗」
安堂がつっこみ、びしりとシャーペンの持ち手の方を俺に向けるポーズを再度決め直
した。
まあ、世俗なんて普段笹川の口から出てくるもんじゃないし、弄繰り回してやるのは止
めにしよう。
「お前多分、浦島太郎並に情報が更新されて無いと思う」
笹川だけに任すのが不安になったのか、安堂も口を添える。
「どういう事だ?」
「そのまんまだよ。人は変化していく生き物だろうが」
まだよく分からずにいると、横で笹川が記憶を手繰り寄せるかのように唸り始めた。
436KNOCK DOWN!3/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:25:53 ID:MUcfTD3T
「――去年の冬前くらいだったかな。何だかずいぶんとふいんきが変わったって評判
の女子が、男子の間で噂されていましたなぁ」
「そうそう。普段は滅多に近寄れない感じの人物だったのに、物腰が柔らかくなって、
女子も話しやすくなったって話もあちこちで耳にしたなあ」
「まさか恋でもしてるんじゃ、なんて根も葉もない噂も立てられてたし」
「その時はまさか、ぐらいに思ってたけど、こんな身近にそんな噂にも全く気付かない
当事者のバカがこの世に存在するとは、努々想像すらしなかったもんだ」
小芝居解説どうも。
しかし安堂。溜息吐くな。
「お前こういう噂、全っ然知らなかったろ?」
「顔が赤いぞ、そこのバカ」
反論のしようが無い。その通り、全く知らなかった。
頷くのも癪に障るので一切のリアクションを取らなかったが、俺は軽くカルチャーショッ
クを食らっていた。
今までの高校生活の中で同じ世、同じ時を過ごしながら、世間は俺とは隔絶された世
界を築いていた。
それはちょっとした恐怖だ。まるで平行世界の向こう側の現実を聞かされた気分。
……もしかしたら、それは今まで過ごしてきた中にもあったかもしれない。
「にしても相川かわいそ〜。片思いしてた相手が自分の事をあの『食堂大革命事件』の
時のイメージで止まってたなんて」
笹川が大袈裟なリアクションで泣く真似をしながら、顔を手で覆ったまま机に伏せる。
入学式後なんて一番悪名が高い時じゃん、なんて呟いているから、同情しているらし
い。後、その『食堂大革命事件』なんて初めて聞いた。知らない人が聞いたら、ちょっと
別なものを想像しそうだ。
「あのままのイメージじゃなー……」
こっちは遠い目をして、窓の外に思いを馳せているようだ。
おまえら、相川に同情してるのは分かるが、暗に俺を非難するのは止めろ。追討ちを
かけるんじゃない。
437KNOCK DOWN!4/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:27:26 ID:MUcfTD3T
「まあ、何も知らないお前でいるのも見てて面白かったんだけど、それは今日で卒業っ
てことで。俺はいいと思うぞ、相川。色々大変そうだけど、美人だし、頭は良いし、貧乳
が好きならベストだな。何より、お前にホレてる」
……条件は悪くないが、一番の難問を鑑みるとどうしてもマイナスになるんだが。
そして、せめてスレンダーと言ってやれ。せっかく触れないでおいたのに、台無しだ。
「目立つのが嫌いなのは知ってるが、『逃した魚』になる前に彼女いない暦更新に歯止
めを掛けろ。健闘を祈る、バカ浦島」
さすがに言い返そうとした時、タイミングよくチャイムが鳴って気勢をそがれた。突っか
かるのも馬鹿らしくなって、そのまま文句を引っ込めた。
号令が掛かり、慌しく生徒達が立ち上がって礼をする。
相川に付き合ってみる、ねえ……
 机を前に戻しながら、机と床が擦れ合う音があちこちでする中、安堂は言った。
「逆に言えば、これから相川の事を新鮮な気持ちで知っていけるんだから、いいっちゃ
いいのか」
ちょっとばかし彼女に興味を持ったのがばれたのか、安堂の目は精々足掻け、と揶揄
するように笑った。

――果たして、2人の言うままに俺は彼女に対する誤解を解いていく事にするのか、そ
れとも距離を置く事にするのか。
そんな事を考えている間にも、事態は既に動き出していた。
金曜日。正直ここから暫く先は語りたくない。
438KNOCK DOWN!5/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:29:56 ID:MUcfTD3T
 とは言え、今のところさっぱり相川と付き合う予定は無い訳で、アプローチを受けるも
本人と周りの対応を苦慮するのは変わっていない。
 弁当作戦は1度で済むと思いきや(弁当箱を持ち帰って洗って、包みも洗濯しアイロ
ン掛けも行って渡し返した)、翌朝に新たな包みを渡されてしまった。用意された弁当
箱は1つではなかったのだ。
 朝に受け取ったお陰で、昨日は昼休みに押しかけては来なかったが、放課後現れた。
彼女ははっきりと慎ましやかに、微笑みながら言った。
一緒に帰りましょう……では無く、我が家に来てください、と。
通りかかった奴の足がぴたりと止まって振り返るくらいだから、言われた方はもっと驚
いた。
言われた瞬間、一足飛びもいいところだろ、と彼女の脳回路につっこみを入れたくなっ
たが、何が一足飛びなのかと野暮な事を聞かれるのを防ぐため、後ろに倒れ掛かる態
度だけに留めておいた。
取り敢えず断る事に成功した、とだけ記しておこう。
 もっと厄介なもの。
恐ろしい事に、事態の進展により更に増すと思われた手紙の襲撃が、昨日は無かっ
た。
帰りに怪しい人影を後ろに感じることも無く、無事に過ごせている。
昨日耳にした、一昨日の集会で何かが決まったという噂は本当なのだろうか。
彼らからと思われる視線攻撃は健在のまま。
昨日の体育の時間に飛んできたボールが頭を掠めていったのは、きっとただの偶然。
舌打ちもシュートが外れた事による物。きっと偶然。
一応、嵐の前の静けさという雰囲気を保っている。

439KNOCK DOWN!6/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:33:22 ID:MUcfTD3T
 昨日の朝、彼女が家の前で待っていた際に、家の前では無くせめて駅で待つように
言ったので、今日は駅で待っていた彼女と共に学校へ向かった。これで会話しなけれ
ばならない時間が少しだけ、短縮された事になる。
それに短縮された中でも、他愛ない話で道中互いに無言と言う事は無かった。
彼女は昨日の揉めた話が諦めきれないらしく、しつこくそれを言い続けていた。揉めた
内容は後述するので、ここでは省く。
 相変わらずの視線を受けながらも(ちょっと慣れた)昇降口で一端彼女と別れた。
今日も何事もありませんように。
最悪な事態へのイメトレだけを済ませ、俺は下駄箱の蓋を開けた。
嫌がらせはされていない。されてはいないが、また苦情か?
上履きの上にピンクの封筒がひとつ乗っかっていた。宛名は藤沼秀司様。間違いなく
俺宛。
急いで辺りを見回すが、既に入れた人物などいるはずも無い。
朝の喧騒が昇降口から廊下に掛けて響いてるだけだった。
裏を捲ると、金縁加工の赤いハートのシールが貼ってあるだけで、無記名だった。
表の宛名は割と達筆で、女子の字に見える。ファンクラブからの嫌がらせの手紙には
見えにくい。いや、しかしどっちにしろ俺にとっては嫌がらせに等しい。
誰だ、更なる厄介事を放り込んだのは!
ひとり密かに悶えているその時、
「あの…何かお困りですか?」
声を掛けるのを躊躇う、遠慮がちな声が背後から掛かった。
反射的に手紙を靴箱の奥へと遣る。
本人か?とも思ったが、それにしては声の掛け方が違うような気がする。
そろりと振り返ると、そこにはやや背の高い女子がいた。
校則通りのスカート丈に、第一ボタンも開けていなければリボンも緩める加工もしてい
ない。
真面目と表現するのが適当な外見で、心配そうな表情は思慮深い様に見えた。
更に真面目さを印象付けるのがシャープな縁無しの眼鏡で、面長な顔によく似合って
いる。
ただ緩いウェーブの掛かった肩までの髪だけが、真面目さが漂う雰囲気から一線を画
していた。
440KNOCK DOWN!7/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:35:20 ID:MUcfTD3T
 何となく誰かとイメージが被るな。
「どちら様ですか」
「すみません。わたしは2年C組の一ノ瀬真歩と申します」
「はあ」
やや慌てた感じで、一ノ瀬と名乗った人物は首をすくめた。
その自己紹介の仕方、内容、同じく校則通りの制服の着用。
俺の中でmaybeからprobablyくらいに確率が上がった。
予感はするが、自ら確信の拳を握りたくない。
「真歩!」
ああ、やっぱり。
驚いた声を掛けたのは、隣の下駄箱の列からやってきた、相川鈴音その人だった。
「おはよう、鈴音」
気安い笑みと共に一ノ瀬が彼女に挨拶をする。それに対して、彼女の様子は変だっ
た。
「おはようじゃないわ。どうして藤沼くんに話し掛けてるの!」
あっという間に俺の前にやって来て、庇うようにして一ノ瀬の前に立ちはだかった。
何故怒っているのかが分からない。その鋭い声に気を取られ、俺は呆然とするしかな
かった。
「ただ挨拶してただけよ。やあね、鈴音ってば」
こつ、こつ、と歩を進め、一ノ瀬は俺達に近づいてくる。
ますます身を固くする彼女と、笑顔の一ノ瀬を見比べて何をすべきか判断に迷った。
「ごめんなさいね、藤沼さん。この娘ったら焼餅焼きみたいで。わたしは鈴音の好きな
人と話してみたいって、思っただけなんだけど」
まるで姉のような慈愛の微笑みを彼女に湛えた後、その笑みを俺にも向けた。
何だか酷く違和感を覚えたが、それを上手く説明できない。
一ノ瀬が人差し指でつん、と彼女の頬を突付いた時、今更覚醒したように彼女が振り
返った。
441KNOCK DOWN!8/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:37:12 ID:MUcfTD3T
「藤沼くん、あの、彼女は私の幼馴染みで…」
「さっき自己紹介は済ませたわ」
こちらを向いた彼女の顔色は、怒っていると言うより焦っているように見えた。
おろおろとするばかりの彼女と、にこにこ顔の一ノ瀬。
「鈴音」
俺が違和感の正体に考えを巡らせている間にも、事態は動いていた。
一ノ瀬は優しい声色と共に彼女の腕を取り、引き寄せると何事かを彼女の耳元で囁い
た。
目の前で繰り広げられる目の保養の2ショットに、下駄箱に集う男子の視線も熱く寄せ
られ始めていた。
これは見ちゃうな。見てしまうのも分かる。
特に、彼女と腕を組んだ時にベストの下のブラウスが半月円を描いて盛り上がってい
るのは、男なら誰でも目が吸い寄せられるものだ。
やがて耳打ちに何度か頷いた彼女は顔を上げると、俺を振り返った。
「ごめんなさい、藤沼くん。今朝はここでお別れです」
何を納得したのかは知らないが、それはそれでとても助かる。
ポン、と上履きを下駄箱から落とし靴を仕舞うと、2人に別れを告げ、その場を立ち去っ
た。
先程の耳打ちの間に、手紙は鞄に仕舞っていた。
一応、手紙を彼女に見られなくて正解だったのか?
あんなラブレターにしか見えない外見の手紙を見られたら、どんな反応を示すのや
ら。
何となく想像し、階段を上る前にちらりと後ろを振り返った。
彼女が何やら一ノ瀬に強く言っていて、一ノ瀬は俺と目が合った事に気付くとじゃれ付
くように彼女を抱きしめた。
ギャラリーがどよめく。
一ノ瀬の口元が、俺に向かって小さく何かを言っているように動いた…気がする。その
一瞬の後に、抗議の声を上げたらしい彼女にその視線は戻された。
俺は結局一ノ瀬の声を掛けた目的を知らぬまま、その場を後にした。
 教室に入る前にトイレに寄って、個室のドアを閉めた。
新たな厄介事を確認するためだ。
糊付けされている封筒の上端を破き、中を覗いた。触った感じ通り、便箋が1枚折りた
たまれていた。
『先輩 好きです。今日の放課後、道場裏で待っています。』
これだけだった。名前もイニシャルらしきものも書いてない。ひょっとしたら中には名前
が書いてあるかもしれないと再度封筒の中を覗いたりしたが、期待外れで終わった。
全てに納得のいかぬまま、俺はトイレから出た。
442KNOCK DOWN!9/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:39:39 ID:MUcfTD3T
 今日はさすがに弁当は持参しなかった。
彼女に押し切られた形になってしまったのが恨めしい。
だが、弁当を2つも平らげるのはきつい。
 俺は昨日注意したのだ。相手に確認もせずに勝手に作ってくるなと。
彼女は不注意でした、と謝り、でしたら今後私にお弁当を作らせてください、と持ち掛け
てきた。
普通に断る、と言えば良かったのだが、泣きそうな顔に、ただで作ってもらうのが心苦
しい、何か返しをしなくてはならなくなる、と拒否の言葉を遠回しに言ったのが悪かっ
た。
彼女は震える身体を抑えるようにして叫んだ。
「では、明後日デートしてください!」
今思い返せば、本当に俺の知るクールさは微塵も感じられませんね。
俺は再来週から中間考査が始まる事を理由に、それを断った。
テスト前に余裕だなあ、と独りごちながら、ではテスト明けはどうでしょう、と更に言い募
り、いつの間にかデートの話題にシフトした彼女と言い合いながら学校へ向かった。
暫く応酬が続いたが、もう何だかどうでもよくなって、弁当作りは了承した。
そして弁当担当――こと妹に、明日から弁当が入らない事を告げると何か勘違いしたら
しく、煩く根掘り葉掘り聞き出そうされたのが、幻覚のように耳に残っている。
 今日は弁当をひとつだけ机の上に出すと、ヒソヒソと「3日目で陥落」と言う声が聞こ
えたので、それ以降2人とは口を利いていない。

 週の最後のリーディングの授業が終わると、教室は途端に週末に向けての空気にな
る。
ただし今週は近々中間考査がある事もあって、空気は2層に分かれていた。
その人物の性格が出るところである。
 HRは再来週からのテストについてと、来週からの部活動の一週間の停止を告げ、
終わりを迎えた。
「藤沼くーん。お客さん」
443KNOCK DOWN!10/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:42:43 ID:MUcfTD3T
 入り口の傍にいた西岡に呼ばれて振り向くと、そこには予想と違う人物がいた。
どくん、と心臓が嫌な感じに鳴る。
掃除後すぐの事なので、彼女の来なくていい迎えにしては早いと思いはしたが。
しかし、予感は無かったとは言わない。
「こんにちは、藤沼さん」
「…こんにちは」
にこりと微笑む一ノ瀬の顔には、一分の隙も無い。微笑む顔を見て、また大きく鳴った
心音が聞こえた気がした。
何かおかしい。ただこんなに早く会う事になるとは、思いも寄らなかっただけだ。
「お話があるんです。ちょっと外でお話できませんか」
肺の奥が熱を帯びたように熱くなって、返事をしようとするのを遮ろうとする。
「……構わないけど」
そう答えると、ふふ、と眼鏡の奥が楽しそうに笑った。
「行きましょう」
促されて教室の外へ出る。
掃除後の時間帯のせいでか、それほど目立たずに俺は教室を離れた。
「警戒されてますね」
「そんな事も無いです」
ちらちらと辺りを見回したことまで見られている事に気付き、肺腑を突かれた。
ちゃんばらごっこと、それを囃し立てている一角を避けながら進む。
心臓が警鐘を鳴らし捲っている。その痛みが移ったかのように、頭痛までもがし始めて
いた。
何故だかは分からない。彼女の幼馴染みだろう、まずい事は無いはずだ。
言い聞かせるのとは逆に、足は鉛のように重くなり、肺は酸素を欲する。
 行くのはC組のある4階では無いらしい。一ノ瀬は5階へ続く階段に足を掛ける。
どこに行くのかの質問を躊躇っていた頃、6階への階段を上り始めたところで大体の
想像がつき、俺は無意味に話し掛けようとする努力を止めた。
444KNOCK DOWN!11/11 ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:47:52 ID:MUcfTD3T
「今掃除を終えたところなので、誰もいません」
しん、と静まり返った廊下に、一ノ瀬の柔らかい声が響く。
扉を開けて中に入った一ノ瀬を追って、俺も中に入る。
案内されたのは、視聴覚準備室だった。きっと2のCの担当区域なのだろう。
上履きを脱いで上がっているのを見て、仕方なくそれに従う。
固い踏み心地の絨毯の上を歩き、機材の置いてある部屋を見回す。
大きく開けられた窓からは涼しい風が入り、窓の傍の一ノ瀬の髪が戦ぐ。
留め布から上が風を孕んでカーテンは膨らみ、壁の模造紙に刺さるピンが1つ取れて
いるせいで、はたはたと風に靡いて音を立てていた。
「密談にはお誂え向きな場所だ」
鍵の掛かっている棚に並ぶビデオの背表紙を見ながら、渇いた口が軽口を叩いた。
ただ扉を閉めただけ、おまけに自分の後ろに扉があるくせに、既に退路を絶たれた錯覚
に陥っていた。
風がじとりと湧く汗を撫でる。青い空が遥か遠くに感じた。
からからと音を立てて、窓が閉まる。凪が止んだ。
そのフレーズが気に入ったのか、一ノ瀬はくすりと笑うと一拍置き、俺に向かって言った。
「藤沼さん、わたしと取引をしませんか。あなたの身に降りかかっている出来事、ファン
クラブや新聞部の暴走も全て収めてみせます」
微笑む顔には、今朝見た慈愛にも似た、あの笑みが浮かんでいた。

(つづく)
445KNOCK DOWN! ◆lIRqqqQOnU :2006/11/08(水) 03:50:59 ID:MUcfTD3T
純愛から遠ざかってるような気がしながらも続きます
風邪を引かないように気をつけてくださいね
446名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 13:46:22 ID:8l2O1/jq
GJ!続き期待してます!
447名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 20:56:30 ID:YEWV5MBT
乙〜
新キャラの正体不明な不気味さがイイ感じです。策謀型ヒロイン?(w
なんでか元祖ヒロインが警戒している所も良さげ。
続きを待ってますー
448名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 15:29:40 ID:G7Wxtn5r
GJ!!
しかし、主人公も何か感じるというのは危機察知能力が磨かれてきたのか(笑
449名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 18:21:03 ID:nLlcYjVJ
保守ー
450名無しさん@ピンキー:2006/11/15(水) 10:49:51 ID:X5IeD/00
保管庫のSSを読み返して見たんだが、未完の作品がたくさんあるね…
「書きたいけどもう何ヶ月も空いたからもう需要ないだろうな…」とか思っていたら、是非とも投下して欲しいです。
451名無しさん@ピンキー:2006/11/15(水) 15:55:01 ID:VpEZa1bf
GJ!
452名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 00:38:14 ID:/zxgkPpB
>>450
そうだね
Can't Stop Fallin' in Loveを未だに待っている俺みたいな人種もいるしね
453名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 01:06:11 ID:1XrMOHMN
だから俺は未だにcatを待ち続けてると何度言ったら(ry
454名無しさん@ピンキー:2006/11/21(火) 22:40:27 ID:biEfoAya
GJ!
455名無しさん@ピンキー:2006/11/22(水) 21:28:06 ID:DZeA+ut1
過疎り杉
456名無しさん@ピンキー:2006/11/22(水) 23:19:03 ID:UVd8OfYa
>>452

よう、俺
457名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 10:38:21 ID:uScJ/6io
>>452>>456
俺が二人いるw
458名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 23:23:32 ID:KEHbPmHp
>>457
いや、三人だ。
459名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 02:03:06 ID:FwnDk9Ye
4人もいるのか
460名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 09:27:01 ID:9eFugrbA
残念ながら、みんな俺だよ
461名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 11:35:05 ID:09gyLWmc
>>452
>>456-459
3つのちか〜らが〜♪とか歌いたくなった俺6人目
462名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 13:45:02 ID:R+3dw/ss
ラッキーセブンか
463名無しさん@ピンキー:2006/11/26(日) 16:13:23 ID:QzCBZOU3

464名無しさん@ピンキー:2006/11/26(日) 18:25:50 ID:tCxqJX8p
>>461
ひとつーにーなーれーばー
あーくのーやぼーなんてーこーわーくなーいー
465名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 09:10:48 ID:/09dBkN7

466名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 10:14:11 ID:yQLcCL2s
>>464
× なんて
○ なんか
467名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 11:28:21 ID:CV3UmmvH

468名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 04:41:41 ID:iqy/UIDS
hoshuage
469名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 08:54:37 ID:q3YlrPLp
foshu
470名無しさん@ピンキー:2006/12/07(木) 13:34:03 ID:jS87PmEn
ほっしゅ
471名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 21:02:28 ID:WXEXvWnf
fish
472名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 12:44:04 ID:w4YNR7xj
そろそろクリスマスSSが投下されるはず
473名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 13:06:21 ID:CkNrDVgs
なにそれ?うまいのか?
474名無しさん@ピンキー:2006/12/10(日) 21:44:12 ID:6Sdfb81J
『わたししってるんだモンいい子(保守)にしているとサンタ(職人)さんからフレゼント(SS) をもらえるんだよ』

『ホントだよ』
475名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 00:33:00 ID:Dq9D9U8S
476名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 09:17:56 ID:mtSaU+/o
477名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 21:18:18 ID:FJt0+htb
>>23に期待
478名無しさん@ピンキー:2006/12/13(水) 09:20:16 ID:jPRTPeVM
479名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 08:55:14 ID:yaRATAgN
480名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 11:25:05 ID:SaHchJN2
もう>>23じゃなくてもいいや
481名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 12:01:10 ID:hQICHPm3
あきらめるな!
まだクリスマスまでには10日近くあるじゃないか!!
482名無しさん@ピンキー:2006/12/15(金) 19:58:00 ID:1yrrbgwq
え?今年のクリスマスって中止じゃないの?
483名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 01:44:36 ID:7C2mWylK
クリスマスってなにそれおいしいの?
484名無しさん@ピンキー:2006/12/16(土) 10:14:19 ID:eu43ablv
『私、知ってるんだモン、いい子(保守)にしてるとサンタさん(職人)からプレゼント(SS)もらえるんだよ』

『…ホントだよ』
485名無しさん@ピンキー:2006/12/17(日) 11:02:30 ID:+v5JnTna
>>23
残り一週間なわけだが
486名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 16:08:43 ID:B61MRf7P
hoshu
487名無しさん@ピンキー:2006/12/19(火) 08:52:42 ID:B9NDgYhZ
ヽ(`Д´)ノ ホシュ
488名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 03:32:06 ID:gOMzq41S
保守
489名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 14:50:47 ID:579gJrxe
Can't Stop Fallin' in Loveマダー?
490名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 16:37:47 ID:4Tqi7Kod
catママダー
491名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 19:47:50 ID:diZGN2mq
僕はその日
492名無しさん@ピンキー:2006/12/20(水) 19:53:02 ID:diZGN2mq
誤爆です。すみません。
493名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 09:13:04 ID:97lIy4+c
>>491-492
続きwktk
494名無しさん@ピンキー:2006/12/23(土) 01:05:45 ID:W+qHclR1
クリスマスイブイブ
495名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 09:52:19 ID:dY2O6b/M
クリスマスイブ
496名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 00:44:05 ID:XNS6h+qi
クリスマス
497名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 01:53:52 ID:zAVI6ZWR
あああああああああああああ
結局クリスマスプレゼントはなしか
498名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:59:49 ID:9NVQrdVZ
山下達郎の歌でも聴くかな・・・
499名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:45:47 ID:2Lza/IPu
クリスマスおわた\(^〇^)/
500名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 17:15:24 ID:kwQ7polu
軽々500ゲット
501名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 21:20:27 ID:b8XIkEqr
どうでもよいが、純愛は書いてて赤面することが分かった

いつかは投下するとキリストに誓う仏教徒
502名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 21:22:55 ID:b8XIkEqr
↑すまん、新参者が調子に乗った
503名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:29:37 ID:Y2MoISXa
執筆してるところは誰にも見られたくない
絶対絶対見られたくない
それよか自分にすら見られたくない
だから書く時は解脱して書くのである
504名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 01:04:57 ID:umluZKM7
>>501
期待
505名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 01:18:37 ID:N9JM8jZ4
もう二ヶ月近く投下がないのか
506名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 03:03:37 ID:lWDkZ1Q5
あけおめさえないのか
507名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 23:40:05 ID:BKKOC1aG
まだだまだおわらんよ
508名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:22:02 ID:ZD65LVH9
クリスマスにも正月にも投下がないとは。
予想外だ。
みんなもっと投下しようぜ!







すいません。
どこからか「お前がやれ」という声がきこえてきたので、投下します、はい。

*注意*

1、エロはありません。ごめんなさい。
2、クリスマス終了直後の話ですので、気分を去年に巻き戻してください。
3、呼んでいる途中に色々ツッコミたくなったヒトもいるでしょうが、ツッコまないでください。

それでは、投下。
509名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:23:31 ID:ZD65LVH9
ケーキが美味しいと巷で評判の欧風喫茶『Noel』の営業時間は、午後9時まで。
しかし、キリスト教徒の特別な日はであるクリスマス前後は少し営業時間が延長され、午後11時までとなる。
つまり後片づけをする従業員の帰宅時間は、
「12時10分か……」
疲労と共にため息を吐き出す。
まぁ、稼ぎ時なんだから仕方ないのだろうが、変わってしまった日付を見ると、やはり少々陰鬱な気分にならざるを得ない。
「じゃ、お疲れでーすっ!」
まだ店の奥で会計処理に泣いているであろう店長に聞こえるように大きめの声を掛けて、俺はバイト先を出た。
帰り道を一歩踏み出した途端に容赦なく吹き付けられた風に、身を震わせる。
こんな時は出来るだけ皮膚の露出面積を少なくしておきたいのだが、右手に紙の箱をぶら下げているため、それも不可能だった。
どうしろっつーんだ、これ。
独白と共に箱を見下ろす。中には店長が売れ残ったからとくれたケーキが1ホール丸々入っていた。
賞味期限は明日。ちなみに俺は一人暮らし。
繰り返そう。どうしろと? 三食ケーキで済ませろと? 冗談じゃねぇ。
「いざとなったらあいつにやるか」
そう呟いたときだった。
従業員用出入り口がバン! という激しい音と共に開かれ、白い弾丸が飛び出してきたのは。
「先輩センパイ桂木せんぱーいっ! 今上がりですか奇遇ですね偶然ですね必然ですね運命ですねっ! 
実は私も上がるところなんですっ。一緒に帰りません?」
弾丸は恐ろしい勢いで捲したててきながら、器用に俺のちょうど目の前でキキッと急ブレーキで止まった。
まぁ……そろそろだろうと思っていたのだ。こいつも今日終了までバイトに入ってたし。
この白いコートに身を包んだ少女の名は望月雪穂。
俺より2歳年下で、やはり俺と同じく『Noel』のアルバイトスタッフである。
しかしこいつ、俺と同じく3時からラストまで9時間勤務だってのに、平然としてるとは。
もちろん忙しさは平常時と比べものにならないのに。
「望月……お前ってタフだよな」
「せんぱ〜い。花も裸足で逃げ出す大和撫子に向かって『タフ』はあんまりじゃありませんか? 
私的にはもっと可愛らしい表現を希望します」
「大和撫子? んなもんどこにいるんだ、どこに」
「ほらほら、目の前にいるじゃありませんか。私、望月雪穂は大和撫子道を全力爆走中でございます〜」
とぼけてやっても望月はまるでへこたれず、コートの端をつまんで西洋風のお辞儀をした。
何故大和撫子のくせに舞踏会風の礼をするんだ。つーか、大和撫子は全力爆走しねぇ。
そんなツッコミを入れるのも面倒くさくなって、髪をガシガシと掻く。
と、そんな俺の様子をめざとく見逃さなかった望月が、小さく小首を傾げながら尋ねてきた。
510名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:25:02 ID:ZD65LVH9
「どうしたんですかセンパイ、ツッコミにいつものキレがありませんよ。
どこか悪いんですか? どこが悪いんです? 頭ですか? 態度ですか? 目つきですか?」
「ははははは〜。そうだ望月、クリスマスは過ぎてしまったが、お前にプレゼントをやろう。
受け取ってくれるか?」
「ええっ! センパイが私にプレゼントですかっ? もちろん受け取ります受け取りますっ。
それで何をくれるんですか? プラダのバッグ? ヴィトンのバッグ? それともエルメスのティーカップ?」
「ははははは〜。食らえ、顔面矯正手術っ」
頬を両手で思いっきり引っ張ってやった。
「ひ、ひひゃいれふ、ひひゃいれふセンファイっ」
「おお望月、なんか痛そうだな。どこが悪いんだ、頭か? 態度か? 目つきか?」
「ひゅいみゃふぇんひゅいみゃふぇん。わふぁふぃのくふぃがわるふぁっふぁれふ〜」
ちなみに日本語変換すると、『すいませんすいません。私の口が悪かったです〜』となる。
うむ、反省しているようなので、許してやるか。ふっ、甘いな、俺も。
「ほーら、もう捕まるんじゃないぞー」
「ひゃうっ」
解放された望月は、両頬をさすりながら恨みがましそうな目で俺を睨んできた。
「うう、顔は乙女の命なのに。ひどいです、センパイ」
「お前がいらん事を言うからだ」
こんな阿呆なやり取りをしていても、当然自宅は近づかない。つーか、まだ一歩も歩いてねぇし。
俺はずれかけた鞄を肩にかけ直すと、まだ頬をさすっている望月に声を掛ける。
「ほら、とっとと帰るぞ」
「あっ、はいっ」
歩き出した俺の隣に、望月が並ぶ。
同じ町に住み、バイトもラストまで残ることが多いので、いつの間にか俺と望月はこうやって一緒に帰るようになっていた。
あまりにもそれが定着しすぎて、たまに一人で帰るとき違和感を覚えるくらいである。
「はぁ〜、クリスマスですねぇ」
望月の呟きに顔を上げ、彼女と同じ方向に目を向ける。
12月26日に日付が変わったばかりなので、商店街の飾り付けはまだクリスマス一色だった。
「そうだな。俺としては客が多い迷惑な日だったが。あー、疲れた」
俺のため息に賛同するように、望月もようやく疲労の色を見せる。
「ホント、多かったですよねぇ〜。それもカップルばっかり。
憧れますよね〜うらやましいですよね〜呪い殺したくなりますよね〜」
「何気なく不穏な言葉が混じっていたような気がするが」
「いいんです。クリスマスに恋人のいない人には、愚痴を言う権利を神様が与えてくれてるんですよ」
ふん、とそっぽを向いた望月に、俺はふと尋ねてみる。
511名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:26:06 ID:ZD65LVH9
「そういやお前、彼氏とかいないのか?」
それが地雷だと知らずに。
「せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁい」
呪詛のような声だった。
「彼氏のいる女の子が、22、23、24、25とバイト漬けすると思います〜〜〜〜?」
地獄の鐘の音のような声だった。
俺が迫力負けして目を逸らしてしまっても、臆病者とそしる人間はいないに違いない。そう思わせる声だった。
「ああ、言われてみれば確かにそうだった。すまん謝る」
だからその呪い殺しそうな目はやめてくれ。
俺の願いが通じたのか、望月が近づけていた体を離す。
俺は危機が去ったことにほっと胸をなで下ろしたが、一度覚醒した望月の心はまだ収まっていないらしい。
今は子供のみたいに道の小石を蹴っていた。いじけモード絶賛進行中である。
「うう、麻美も里子も彼氏いるし、みーちゃんとしのりんは好きな人といい感じなのに、私だけ、私だけ……」
恐ろしいくらいの落ち込みようだ。
地雷を踏んだ自分が、ものすごく悪いことをしたような気になってくる。
「あー、私も一度でいいから彼氏と素敵なクリスマスを過ごしてみたいなぁ……」
「何だ、お前彼氏いたこと無いのか?」
「えっ? ああっ!」
何気なく返した言葉だったのだが、望月はそれまでの様子から一変、慌てた様子で、
「そ、それはですね、実質恋人というものがいたという記録は公式には残っていませんが、
やっぱり実質的にもいない――じゃなくてっ、その、あの」
何とか誤魔化そうとしたが、誤魔化しきれずに、
「……………………はい」
ついには観念したらしく、首肯した。
「別に隠すことでもないだろ。お前の歳なら、今まで一度も恋人を作ったことが無くても不思議じゃない」
「しかしですねセンパイ、私のそういった噂が世間に広まってしまうと大人の女としての魅力がですね」
「寝言は寝てから言えボケ」
「センパイ、いつになくツッコミが厳しいです」
「忠告だ。大人の魅力とやらが欲しいのなら、まずその口を閉じることから始めろ」
「それは無理なので私の魅力を醸し出す方法は別のプランを考えましょう。
えーと、まぁそれでですね、私の周りにいる友達はみんな彼氏持ちか恋愛順調進行中なんですよ。
毎日のろけ話や経過報告を聞かされると、やっぱり落ち込むわけでして……」
「焦って好きでもない奴と付き合ってもつまらんぞ。気長に待て」
励ましてやろうとうつむいた望月の頭にポンと手を乗せたが、
「そうですね」
返ってきたのはいつもとは違う、弱々しい微笑だった。
くそっ、んな顔するんじゃねーよ。こっちまで調子狂うだろうが。
あー、仕方ねぇか。地雷踏んだのは俺だしな。詫びというわけじゃないが、俺の恋愛遍歴も暴露してやるか。
「焦らなくても、お前と同じ立場で2年先輩の奴が目の前にいるんだからな」
「そうなんですかー。…………えっ! 桂木センパイ、今まで彼女いたことないんですかっ?」
「……そうだ。悪いか」
苦々しく頷く。くっ、出来るならこいつには弱みを知られたくなかった。
「なるほどなるほどー。センパイも彼女いたことないんですかー。いいこと聞いちゃいました。えへへ〜」
心なしか、いや、ものすごく嬉しそうだ。自分と同じ境遇の寂しい人間がいたことが喜ばしいのだろう。
512名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:27:17 ID:ZD65LVH9
「………………よかった」
小さな、ほんの小さな声だったが、その声は俺の耳に届いた。さすがにここまで喜ばれると、面白くない。
こいつを調子に乗らせるのもここまででいいだろうと判断し、反撃開始。
「ほほう、『よかった』だと? 尊敬する桂木景樹くんが生まれてこの方恋人のいない寂しい人生を送っていることが、そんなに喜ばしいのかね?」
「えっ? あ、いや、違うんです違うんですよセンパイ」
最後の台詞は聞かれていなかったと思っていたのだろう、望月は手を振りながら慌てて弁明する。
「何が違うんだ? それ以外の意図があるのなら是非にも聞きたいんだが」
「あ、えーとですね、センパイの激ツッコミは私以外の女性にやってしまうとドメスティックバイオレンスの領域に達してしまうと思うので、
初めの優しい素振りに騙されてうっかりセンパイと付き合ってしまって不幸になる人がいなくてよかったな〜と」
「ははははは〜。望月、お前は正直者だなぁ。それ、ご褒美をやろう」
「ひひゃい、ひひゃいれふセンファイっ」
「おお、どんどん伸びるぞ」
「ひゅいみゃふぇんひゅいみゃふぇん。わふぁふぃがわるふぁっふぁれふ〜」
声に泣きが混じってきたところで解放してやる。うむ、なかなか柔らかい頬だった。もう少し楽しめばよかったかもしれん。
満足した俺とは対照的に、望月は両頬をさすりながら、恨みがましそうに呟いてくる。
「うう、ひどいですセンパイ。口裂け女になっちゃうかと思いましたよ」
「よかったな。お前の大好きなケーキが2個同時に食べられるじゃないか」
「一個ずつ食べるから小さな口でいたいです……」
まぁそうだろうな。
「うう。センパイ、私も女の子だってこと忘れてません? 他の子だったら今頃訴えられて刺されてますよ?」
「お前がいらん事を言うからだろうが。それに、お前以外にはこんな肉体的ツッコミはしねぇ」
俺の言葉に望月はしばし考えるように動きを止めていたが、
「なるほど、センパイにとって私は代替え不可能なかけがえのない存在なんですね」
「どこをどう捉えたらそんな結論が導き出せるんだ、お前は」
「センパイのオンリーワン。悪くない響きですねぇ〜」
聞いちゃいねぇ。望月は何が嬉しいのか、鼻歌交じりで足取り軽く歩み出す。まったく、わけわかんねぇ。
しかし……望月に彼氏がいないどころか、恋愛経験もゼロだとは。正直以外だった。
望月の容姿は悪くない。肩まで伸ばした髪に、くるくるとよく動く表情。騒がしいのが難点といえば難点だが、空気の読めない奴じゃない。
認めるのは癪だが、俺から見ても魅力的な女の子だと思う。
「センパイ、どうしました?」
俺の視線を感じたのか、望月が振り向く。こんな何気ない動作でも、目を引く何かがある。
まぁ、こいつがホールでウェイトレスをやってるだけで、雰囲気が違うからなぁ。望月目当ての客も多いって噂だし。
「いや、お前って男からの人気高そうなのにな」
俺の正直な感想に、望月はさらりと答える。
「う〜ん、ぶっちゃけ言うと、結構モテます」
「謙遜しねぇのかよ」
「今月だけでも2回ほど別のクラスの男子生徒に告白されましたし」
「しかもさり気に自慢話か」
「やはり私の大和撫子的魅力にみんなメロメロなんでしょうか?」
「無い。それは無い。つーかメロメロって表現古いなオイ!」
「それじゃあ私の大和撫子的魅力にみんなクラクラ?」
「たいして変わってねぇし! つーか大和撫子ならもっと控えめにしろっ」
「いえ、私は控えめさとノリのよさを兼ね備えたスーパー大和撫子を目指しているので」
「スーパーって時点で大和撫子じゃねぇっ!」
「さすがセンパイ、ツッコミ所は逃しませんね。ぐっじょぶですっ!」
望月がビシッと親指を突き立てて俺に向かってウィンクしてくる。
一瞬その指をあり得ない方向にねじ曲げてやりたい欲求に駆られたが、何とか自粛した。
「どうしたんですか〜センパイ? 難しい顔でこめかみを押さえて?」
「何故お前のボケに丁寧に付き合ってやってるのか、自分に真剣に問いかけていたところだ」
「相性がいいんじゃないでしょうか? 私の知る限り、センパイほどのツッコミ上手は他にいませんよ?」
「んなことで褒められても嬉しくねぇよ」
盛大にため息を吐くと、白い霞が宙に浮かぶ。
白煙が夜の闇に消えるのを見届けてから、俺はいつの間にか止まっていた足を動かし始めた。
513名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:28:12 ID:ZD65LVH9
「で、好みじゃなかったのか?」
「え? 何がです?」
聞き返す望月に、俺は足りなかった言葉を継ぎ足す。
「告白してきた連中。まだ彼氏いたことないんなら、振ったんだろ?」
「――ええ、はい、まぁ。好みじゃなかったというか、その人達と付き合うって言う選択肢は最初から頭になかったので」
「オトモダチから始めるってのもありだったんじゃないか? 人間、相手を異性として意識すると今まで見えなかった一面が見られるって言うぞ」
俺の言葉に望月は頬を膨らませ、
「焦って好きでもない人と付き合ってもつまらないって言ったのセンパイじゃないですか」
「まぁ……そうだけどな」
そこで望月は足を止めた。つられた足を止めた俺に、望月の顔が向けられる。
「それに――」
望月の表情がはにかんだような、笑顔になる。それはきっと――
「好きな人が、いますから」
恋する女の子の、表情だ。
「そうか……」
「片思い、ですけどね」
でもその顔は、完全無欠に幸せそうな顔じゃなくて、どこか寂しげなものが混じっていた。
だが望月はそれを一瞬で消すと、いつものような明るい笑顔に戻る。
「もちろん片思いのままで終わらせる気はさらさらありませんよ? いつかはこの乙女の魅力で彼のハートをゲットですっ。」
「……ゲットって……微妙に古くないか? ……まぁいいか。それで、相手はどんな奴なんだ?」
「えっとー、ぶっきらぼうで意地悪ですけど、本当はすごく優しい人です」
「そんな一昔前の少女漫画の登場人物みたいな奴、いるのか?」
「あはははは〜。案外近くにいるものですよ〜」
いつもの望月。いつものように見える、望月。
「好きになってからもう二年くらい経つんですけどー、なかなか進展しなくて」
二年前っていうと、俺と望月が出会ったときぐらいだな。
二年間で俺も望月もすっかり『Noel』に馴染んで、馬鹿なやり取りをするようになって――そんな長い月日の間、こいつはその相手への想いを抱き続けていたのか。
もしかしたら届かないかもしれない想いを、大事に、大事に、自分だけの宝石箱にしまって。
514名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:28:53 ID:ZD65LVH9
「届くと、いいな」
「え?」
突限投げ掛けられた言葉にきょとんとした望月に、俺は出来る限りの気持ちを込めて、
「届くといいな。その想いが」
彼女の願いが叶ったらいいと、祈る。だけど――
「――そう、ですね」
望月の顔が、泣き出す寸前の子供のように歪んだような気がした。
しかし瞬きをした後、もう一度見ると、そこにあるのは普段の望月の笑顔。
……気のせいだったのか?
「うう、今年のクリスマスこそはって思ってたんですけどねー。一ヶ月前の計画では、今頃いちゃいちゃのらぶらぶだったのに〜」
気のせいだったらしい。どこをどう見てもいつもの望月だ。
「つーか告ればいいんじゃねーか?」
俺の提案を望月は慌てて両手を振って却下する。
「自分から言い出すなんてそんなそんな! お淑やかで臆病で可憐な乙女である私には百年経っても出来そうにありません」
「さり気に自分を誉めてんじゃねぇ」
「アプローチは積極的なものから消極的なものまでよりどりみどりでしてるんですけどねー。あんまり効果がないみたいです。
っていうかその人、基本的に鈍感なんですよー」
望月が「はぁぁぁぁ」と盛大にため息を吐く。俺はそれを見て、こいつもため息を吐くこともあるんだなーと何だか妙な感想を抱いてしまった。しかし、いつも猪突猛進が信条の望月がここまで弱気になるとは。どんな奴なんだ、そいつ。
「そんな奴いるのか? 鈍感なフリしてるだけじゃねーの?」
俺の問いに、望月は恐ろしいほど真剣な顔で首を振る。
「いえ、天然です。間違いなく天然です。スーパーウルトラハイパーグレート天然記念物的超絶級の、すっっっっっっっっっっっっっっっっごい鈍感です」
「そ、そこまでなのか………」
望月がここまで断言するのだから、相当な朴念仁なのだろう。
一昔前の少女漫画に出てくるような奴だと思っていたが、少年漫画のラブコメ主人公要素も兼ね備えている人物らしい。
しかし……そんな人間が実在するとは……。
「一度会ってみたいもんだな」
そう俺が口に出したとき、
「………………ほんと、鈍感です」
「ん? 何か言ったか?」
「いっ、いえいえ。気のせいですよきっと。月が囁いたんじゃないですか?」
「38万キロ離れた無機物が喋るか」
ま、どこかで流しているテレビの音声でも聞こえたんだろう。そう納得して、いつの間にか止まっていた足を再び動かし始める。
もうそろそろ、自宅と望月の帰り道との分岐点だった。
515名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:30:06 ID:ZD65LVH9
しかし、なぁ……。
チラリ、と俺の後ろを歩く望月に目をやる。
いつもうるさいくらいにやかましくて、怖いものなんて何もないようなフリして、無駄に明るくて――そんな望月に、二年も片思いするような相手がいるなんてな。
もちろん望月だって普通の女の子だから、落ち込むときもあれば、泣きたいときだってあるだろう。
振られるのが怖くて気持ちを言い出せないのかもしれないし、自分の気持ちが相手に届いてないのを感じて、やりきれなくなる日もあるだろう。
でも、それでもこいつは諦めないで、明るく振る舞って、泣いている姿を誰にも見せないんだな。
「なぁ望月、ひとつ良いアイデアがあるんだが」
「何のアイデアなんですか?」
人差し指を一本たてた俺に、興味津々で食いついてくる望月。
「その好きな相手、『この鈍感野郎っ』って言って一発殴ってやれ。ストレス解消にもなるし、もしかしたらそれが切っ掛けで気持ちが通じるかもしれんぞ」
「こんな風にですか? この鈍感野郎っっっっっっっっ!」
「ぐはっ!」
望月の体重を込めたストレートが見事、俺の脇腹を直撃。
肝臓にダメージを追った俺は思わず冷たいコンクリートの大地に膝を突いた。
「…………て、てめぇ……誰が……俺を殴れと……」
「ああっ、すいませんすいませんっ! 思わず手が出てしまいましたっ。大丈夫ですかセンパイ? 
大丈夫なら可愛い後輩のいたずらと思ってお仕置きは勘弁してくださるとありがたいのですけど」
「どさくさに紛れて……都合のいいことを……」
痛みが治まってきたところで、俺はゆっくりと立ち上がる。
それを見て、望月は両頬をガードしてから二、三歩後ずさる。
「ごめんなさいごめんなさいっ。せめてほっぺは許してくださいこれ以上伸びたらおたふくになっちゃいます〜」
「ていっ」
「ひゃうっ……って、あれ?」
俺は望月の頭にチョップを喰らわすと、地面に転がっていた鞄を肩にかけ直した。
雪が積もってなくてよかった。積もってたら今頃服も鞄も悲惨だったろうし。
「あの……センパイ?」
「あ? 何呆けてんだお前」
俺は服に着いているかもしれない汚れを払いながら、望月に目を向ける。ま、少しは溜まっていた鬱憤も、晴れたかな。
あんまり無理するんじゃねーぞ、望月。愚痴ぐらいなら聞いてやるからさ。
心の中でそう呟いて、歩き出す。だが、その俺を呼び止めたのは、
「あの……センパイ」
いつもとは違う、望月の声だった。
「あ? どうした?」
「…………ありがとうございます、センパイ」
浮かべていたのは先程までの寂しげなものとも違う、優しげな微笑み。
「やっぱりセンパイは優しいです」
その全てを包み込むような笑みは、照らし出す月が作り出す幻想的な雰囲気と相まって、望月を幾分大人びたものに見せる。
全てを見透かされたようで、俺は急に照れくさくなって、彼女から目を逸らす。
何故か心音が高鳴っていた。
「お前用の優しさなんて持ってねぇよ。それよりほら、お前こっちだろ」
赤くなりそうな顔を誤魔化すため、いつの間にか辿り着いていた十字路を、これ幸いに指し示す。
「あ、着いちゃいましたねー」
俺の側に駆け寄ってきた望月は、やっぱりいつもの望月だった。
ていうか何でこいつ相手に赤くなってんだ、俺は。くそっ、なんだか負けた気がする。
さっきの大人びた望月はきっと月が生み出した幻だ幻影だ錯覚だ。そうだそうに違いない。
呪文のように念じたことが功を奏したのか、心臓の鼓動も徐々に収まってくる。
俺が心の中で冷や汗を拭っていることも知らず、望月は普段通りの底抜けの笑みで、俺に挨拶を送ってきた。
516Merry after Christmas:2007/01/06(土) 22:36:24 ID:ZD65LVH9
「ではセンパイ、また明日」
「お前明日バイト休みだろうが」
「あ、そうでしたそうでした。確かセンパイもお休みでしたよね?」
こいつは何で俺のシフトまで覚えてるんだ。
「それではセンパイ、またあさってに〜」
「あ、望月、ちょっと待て」
小学生のように手を大きく振って去りかけた望月を呼び止める。そして、目の前に白い箱をつきだした。
「やる。持って帰れ」
簡潔な文章で用件を済ませた俺に、望月は困ったような表情を浮かべながら、
「センパイ、そのケーキ、私も店長に貰ってるんですけど……」
まったく同じ箱を持ち上げる。
「お前ケーキ好きだっただろ? 二個なら軽いとか言ってたじゃないか」
「二個なら軽いんですが、2ホールはさすがに無理があります。賞味期限明日なのに」
「あ? それじゃあ何か? お前は尊敬する桂木景樹くんに、三食ケーキで済ませろと?」
「うわ。お聞きになりましたか皆さん。脅迫ですよ脅迫。先輩という権限と縦社会の構造を利用して可憐でか弱い乙女にパワーハラスメント炸裂です。最悪ですねこのヒト」
「人聞きの悪い言い方するんじゃねぇ」
「大丈夫ですセンパイ。私はセンパイが邪悪でも、そのことを誰かに言いふらしたりはしませんとも。思う存分善人の仮面をかぶっててください」
「そういう言い方されるとむかつくなオイ」
「その代わり、今度駅前にある『New Year』っていう喫茶店でデラックスストロベリーパフェを奢ってくださいね」
「逆脅迫っ!?」
ふと、この寒空の下で何やってるんだろうという素朴な疑問が胸の内に沸き上がってきた。
…………いかん。いつの間にかミニコントになってきているぞ。
「……いい加減話を戻すぞ、望月。俺ではこれだけの量を食いきるのは無理だ。
ほら、お前の所、4人家族だっただろ? 何とかならないか?」
最初からこういう風に素直に頼めば良かったのかもしれない。
つーかこいつと話すといつも話が脱線しているような気がするな。
「う〜ん。実はその中で甘いものが好きなのって、私だけなんですよー」
「確かにそれだと厳しいな」
冬空の下、二人揃ってうんうん唸りながら知恵を絞る。
「センパイの胃腸の頑丈さに期待して、賞味期限を無視してみるというのはどうでしょう?」
「それより俺は一度コントでよく見るケーキ投げを実践してみたいな。お前相手に」
「いえいえいえいえっ。私には本格的なコントは無理ですので全力で遠慮しておきますっ。
それより基本に戻りましょう。もったいないけど、捨てるというのは?」
「駄目だ。このケーキの飾り付けは俺も手伝ったんだからな。血と汗と涙の結晶体を燃えるゴミに直行させるなど断じて許さん」
「血と汗と涙の結晶体だったのに、売れ残っちゃったんですねー」
「……禁句を口にしやがって。貴様、よっぽどおたふくになりたいと見える」
「ああっ。嘘です冗談ですごめんなさいすいません許してください〜。だからほっぺはやめて〜」
望月の両手と一進一退の攻防を繰り広げている途中に、ふと我に返る。
いかんいかん、またずれてきている。
俺は長いため息をひとつ吐くと、今晩の食事を諦める決心をした。
517Merry after Christmas:2007/01/06(土) 22:37:27 ID:ZD65LVH9
「仕方ない。二人で食うか」
「えっ! ……二人で、ですか?」
俺の提案に望月が驚いた声を上げる。
「ああ。俺が出来るだけ食うから、すまんが残りは頼む」
俺の言葉にも望月はすぐに応えず、落ち着き無く視線をさまよわせたり髪を手で弄ったりしている。
何をそんなに動揺してるんだ?
「どうした、顔赤いぞ?」
「ひゃうっ! あ、あの……」
声まで震えている望月は、焦ったようにわたわたと手を動かしながら、
「二人きりで……ですか?」
「まぁそうだな」
俺の応えに、望月は更に赤くなる。おいおい、本当にどうしたんだ?
「せ、センパイの家で?」
「こんな夜中に家族と住んでいる女の子の家に行けるか。その点、俺は一人暮らしだからな」
望月はついに赤くなったまま黙りこくってしまう。身体はもうカチカチだ。頭にヤカンを置いたら瞬間沸騰するんじゃないかというくらい。
俺は訳が分からず、望月に再度問いかける。
「おい、どうしたんだ? 体調悪いのか?」
しかし望月はそれには応えず、俺を上目遣いに見上げ、まったく予期しなかったセリフを投げ掛けてきた。
「せ、センパイ…………もしかして………………誘ってます?」
………………………………………………………………………………。
「……………………は?」
時間が止まった。何を言われたのかさっぱりわからない。混乱している。え? 確かに誘ってるって言えば誘ってるんだけど。そういう意味っすか?
望月はなおももじもじと人差し指を絡めながら、言い訳するように言葉を紡ぐ。
「だ、だってこんな時間に、一人暮らしの部屋に女の子を呼ぶってことは…………」
えーと、落ち着け俺。もう日付も変わった午前0時。一人暮らしの若い男の部屋に、女の子を招き入れます。
普通に考えて、その後の展開は恋人同士がするあれに持ち込まれますね? 少なくとも、相手はそう受け取るでしょう。いえー。
「…………なわけあるかアホゥっっっっ!!!」
全力で怒鳴った。海に届けとばかりに怒鳴った。
「は、恥ずかしい勘違いするんじゃねぇっ! こっちまで恥ずかしいだろうがっ!」
叫びながら、どんどん顔面の温度が上がっていくのは抑えきれない。
「だ、だってっ! 誤解させるようなこと言ったのセンパイじゃないですかっ」
「やかましいっ! 俺は夜中に後輩連れ込んで無理矢理悪さするほど落ちぶれちゃいねぇっ!」
「わ、私センパイなら構いませんよ? もう既に心の準備はオオカミさんに食べられる前の赤ずきんですっ」
「さ、このケーキ近所の犬に出もやるかっ!」
「ああ〜嘘です嘘です待ってください〜」
二人顔を赤くしたまま、照れ隠しのように、いつもの調子で、馬鹿みたいに騒ぎ続ける。
本当、何やってんだか、俺達。
518Merry after Christmas:2007/01/06(土) 22:38:53 ID:ZD65LVH9


さて、結局どうしたかというと……。
一人暮らしの男の部屋に年頃の娘を呼ぶのはさすがにまずい時間なので、近くの公園でケーキを胃袋に収めることにした。
コンビニで貰ったプラスチックのスプーンを二つ用意して、寒空の下、ケーキのお披露目をする。
「それじゃあお疲れさまでーす。かんぱーいっ」
と、望月が自販機で買った紅茶の缶を掲げてくる。
「このクソ寒い中、何でそんなにハイテンションなんだ、お前……」
「あれー? センパイ、ノリが悪いですよ? しっかりして下さい、センパイからノリを取ったらただの目つきの悪いヤンキーさんなんですから」
「ヤンキーじゃねぇっつーの。俺は生まれてこの方、停学をくらったことが無いのが自慢なんだぞ」
「それ普通だと思いますけど……。まぁそんなのどっちだっていいから、乾杯しましょうよ。かんぱ〜いっ。いえーっ」
「いえー」
恐ろしくやる気のない声でカンパイに応じたのだが、それでも彼女は満足したらしい。嬉々とした様子でケーキを口に運び、その味に舌鼓を打っている。
「う〜ん、やっぱり『Noel』のケーキは絶品ですねぇ〜」
「お前、こんなに寒いのにそんな冷たいものよく食えるな」
「何言ってるんですか、センパイ。クリスマスですよクリスマスッ。やっぱりケーキがないと、真のクリスマスと呼べないじゃないですか〜」
「もう過ぎたけどな。それにあるのはケーキだけで、プレゼントも何もないだろ」
素っ気なく返した俺に、しかし望月は柔らかく微笑して、
「いいんです。――プレゼントなら、神様にもう貰っちゃいましたから」
本当に嬉しそうに、その表情を俺に向ける。
「あ? 何だそりゃ」
「秘密です。えへへ〜」
この寒空の下、日付もとうに変わって。
「ね、センパイセンパイ、メリークリスマースッ」
人気のない公園で、二人でケーキを食べて。
「だからもうクリスマスは過ぎただろ」
いつもみたいに馬鹿やって、普段と何も変わらなくて。
「それじゃあ、メリーアフタークリスマースッ」
「何だそりゃ」
本当、何やってんだか。
「メリークリスマスの後だからメリーアフタークリスマスですよ」
「んな言葉はないだろ」
それでも、こいつの笑顔を見ていたら。
「いいじゃないですか。ほらセンパイ、メリーアフタークリスマスっ」
それもいいんじゃないかって、思った。
「……メリーアフタークリスマス」
「はいっ。メリーアフタークリスマスですっ」
望月が、こんなに楽しそうに笑っているんだから。


空から、雪が降り始めていた。
たぶん、それはきっと。
鈍感な青年を好きになった少女への、神様からのささやかな贈り物。




(おわり)
519名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:43:50 ID:ZD65LVH9
……タイトル途中まで入れ忘れてた。

えーと、どこかで見たキャラだと思う人もいるでしょうが、
ツッコミはなしの方向でお願いします。


それではみなさん、今年もよろしく。
520名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:44:17 ID:avrazyHp
GJ
521名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:02:19 ID:V3CLJfBA
GJ!!!!
俺もとっても良く似た二人が出てくるゲームを知っているが、二人とも大好きなので無問題。
当然続くんだよね?
522名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:19:31 ID:OgoX6FD6
新年一発目の投下お疲れ様、そしてGJ!
元ネタ分らないけど十分楽しめたよ。
で、>>521と同じく続きを期待。
523名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 01:11:32 ID:7qQE+U3P
GJ!!
自分も何もゲームか分かってしまった(w
にしても、会話のテンポがメチャクチャ軽妙でイイね。
そんなベタなのいるかと言いながら、男に自覚が無い所がよさげ。
524名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 12:06:43 ID:pRJL8mo1
最高だ
初投下に素晴らしい作品だった
525名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 21:57:13 ID:pGE4RxnC
神GJ!!

ところで、あのゲームの続編はいつ(ry
526名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 02:49:33 ID:kgH3jOCx
GJ!
読みながらにやついてしまいました
会話が楽しそうでもっと読みたい!
続きを是非
527 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:52:22 ID:kgH3jOCx
2ヶ月振りの>>434-444の続きです
2ヶ月と1日になる前に投下

続きを期待してくれた方の沿う展開になったかは分かりませんが、
喜んでいただければ難産だった苦労も昇華されそうです

保管庫管理人様へ
収蔵を確認致しました
何だか「普段は喧嘩ばかりなクラスメイトとひょんな事から一夜を共にしてしまい、
翌日クラスで顔を合わせるも、ぎこちなく視線を逸らしてしまう」みたいな恥ずかしさを
味わわせていただきました
収蔵ナンバーも(偶然でしょうが)気に入っており、それも含めて感謝しております
528 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:53:49 ID:kgH3jOCx
7.死か服従か

 余程、こういう事に慣れていると見える。
一ノ瀬の見せる笑顔には、はっきりとこの取引に対する自信の色が表れていた。
眼鏡の奥に映る色は、先程まで見せていた見る者の心を爪弾くあの笑みを、獲物を
弄ぶかのような、ぎらぎらした視線へと変化させ始めている。
本人がどこまで自覚しているのかは知らないが、今やその瞳の色は隠し切れていな
かった。
研いだ爪まで透けて見えそうな目付きに、指先まであった血の気が引いていく。その
温度差にぞくりと背筋が震えた。
「……俺への要望は?」
冴え返り始めた頭に鈍く響く頭痛が、この上なく鬱陶しい。
奥歯を噛み合わせ、射る様に見つめてくる視線へと挑むように睨み付けながら、髪を
掻き毟りたくなる衝動に耐えた。
「さあ…何だと思います?」
一ノ瀬は思わせ振りに、挑発的とも取れる笑みを浮かべる。小首を傾げると、緩やか
な髪が、さらりと流れた。
からかっているのか。
俺の身に降り掛かっている出来事中、一番大きな懸案は相川鈴音だが、まさか彼女
の前から姿を消せばこの問題は解決するので、転校させるとかじゃないだろうな。
若しくは今朝の態度は実はライバル宣言で、呟いた様に見えたのは目の錯覚では
なく、『消えろ』だったりするとか。
529KNOCK DOWN!2/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:55:32 ID:kgH3jOCx
真剣にそんな事を考えていると、突然一ノ瀬が噴き出した。
「そんなに考え込まないで下さい。すごい百面相してますよ」
尚も手で口元を覆い、目をきらきらと輝かせながら一ノ瀬は笑い続けた。
「わたしからの条件は簡単です。――藤沼さんに、一度鈴音とデートしてもらいたい
んです」
言葉に対する知覚を促すような声色で、一ノ瀬の口から『正解』が告げられた。
何!? 一ノ瀬はライバルでなくて、相川の味方なのか!
予想は意味を成さない程遥か彼方へと吹っ飛ばされ、横からとんでもない提案が脇
腹を抉った。
「聞き入れてくだされば、ファンクラブや新聞部や生徒会長も抑えてみせます」
っておいおい、さっきより項目増えてるじゃないか。
「……生徒会長?」
生徒会長も何か企んでるのかよ。
「生徒会長もです」
俺の独り言にも近い言葉にも、一ノ瀬は律儀に相槌を打った。
生徒会長がどんな経歴の持ち主なのかは、以前述べた。
「どうやって抑えるつもりだ」
「わたしが執行部の役員だという事をご存知になれば、大体の予想は付くだろうと思
います」
なるほど。知らなかったが、一ノ瀬もそうなのか。それなら、内部圧力と外部圧力の
両方が何とかなりそうだ。なりそうなのが、怖い。
530KNOCK DOWN!3/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:56:45 ID:kgH3jOCx
しかし、ファンクラブは「クラブ活動」なんだろうか。男子の半数が入会していると噂さ
れているから、クラブ活動としては人数問題はクリアしているだろうが、相川を愛でる
というだけで、部活の申請が通るとは思えない。何かでカムフラージュしてるとか?
「ファンクラブも、生徒会の力で何とかなるのか?」
「そちらは生徒会として動く事はありません。飽くまでわたしの人脈の中で話を付け
ます」
人脈。およそ高校生に相応しからぬ言葉だ。
だが、素直に一ノ瀬にその力があることを納得してしまった。
「なるほど」
その感情を素直に表に出しながら俺は俯き、一ノ瀬が声を出さずに薄く笑んだのを
視界の端に見た。
身体の変調は動揺から落ち着いてきた為か、いつの間にか大分増しになっていた。
「――それで、そちらのメリットは?」
「勿論、鈴音が喜びます」
意外な質問をされた、とでも言うように一瞬目を丸くしながら、一ノ瀬は即答する。
うん。そうだろうな。目を輝かせながら喜ぶ彼女の姿が目に浮かんだ。今朝の事もあ
るし。
と、そうではなくて。
「それは何となく分かるんだが、俺の言ってるのはそこじゃない。君は俺と相川を
デートさせる事で、何を得る?」
531KNOCK DOWN!4/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:58:03 ID:kgH3jOCx
一ノ瀬が態々渦中の人物に話を付け、宥めて自粛させる理由は何だ。
再び鼓動が重く響き出す。勝手に膨らんでいくイメージを、必至に振り払う。
「幼馴染みの恋を応援するのに、メリットも何もあるんですか?」
返事はさらりと、まるで予め予測されていたように滑らかだった。
俺は心の内で唸る。そう簡単には本性は見せないか。
「じゃあ聞くが、幼馴染みの恋を応援するのに、普通取引なんかを持ち掛けるか?」
瞬間、一ノ瀬の表情は変わらなかった。間を置いた後、笑みが濃く刻まれる。
清々しいとでも表現できそうな、酷く満たされた笑みだった。それを逆に不気味に感じ
るのは、間違っているだろうか。
「……取引は不成立だ。多分これ以上話していても、埒が明かないだろう」
俺は早口で捲し立ててから踵を返し、入り口にある上履きを履き直す。
踵の違和感を直してから、扉の縁に手を掛けた。
怖い怖い。こんな空間はさっさと立ち去るに限る。それに、これから野暮用もあるし
な。
「行かない方がいいと思いますよ」
「ん?」
唐突に掛かった声に、外へ向けていた身体を一端内側に向き直らせた。
一ノ瀬の姿勢は、いつの間にか窓辺の教職員用の机に浅く寄り掛かりながら足を組
む格好へと変わっていて、更には乾いた眼差しで俺を見据えていた。
「まさか、彼らの靴の裏を舐める方がいい、なんて仰いませんよね」
532KNOCK DOWN!5/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:59:10 ID:kgH3jOCx
何?
「何の話だ」
「さあ?」
取引に応じない者には興味無し、とばかりについ、と視線を逸らし、一ノ瀬は先程ま
で揺れていた模造紙に目を遣った。
模造紙は、相変わらず窓を閉じられた時から微動だにしていない。
暫く逡巡した後、それ以上の反応の見込みが無い事を悟り、踵を返した。
廊下へ一歩踏み出す。妙にひんやりとした廊下の空気が纏わり付いて、俺を絡め捕った。
「藤沼さん」
呼ばれた声に、扉に掛けた手を止めた。
「考えてみてください。そんなに悪い話では無いと思います」
俺はそれには返事せず、ぴしゃりと後ろ手に扉を閉めた。

 ――まさか。
図書室が目に入ると、急き立てられるようにして中に飛び込んだ。
しん、としていた廊下同様、図書室にも人の姿は見当たらない。
奥の窓辺に移動し、べたりと窓ガラスに張り付くようにして外を見下ろす。
ここからグラウンドの奥にある道場がよく見えるはずなのだが、木が邪魔して見通せ
そうになかった。
――まさか。
俺は裏ポケットから携帯を取り出し、番号を探す。
533KNOCK DOWN!6/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 02:59:59 ID:kgH3jOCx
何度かコール音が鳴り、ぷつりと音が途切れると、『はいはい』と暢気な声が聞こえた。
「皆澤、今どこにいる?」
『どこって、もう部室に来てるけど』
電話の向こうからバタンとロッカーが閉まるような音と、判別出来ないが話し声がして
いる。
「おまえ、そこらへんでさ、運動部じゃない奴らが屯するの見てないか?」
『……もしかして、例の団体? うわ、忙しいこった』
「元凶のおまえが言うな」
その言い種に、今度奢らせる事で手打ちにしたことを思い出し、舌打ちする。
『ちょっと様子見てくるわ!』
「ばれない様にな」
その楽しそうな声に溜息を吐きながら、電話を切った。面白い事に目が無い奴だか
ら、上手くはやるだろう。
――まさか。
一ノ瀬の言った言葉は、どこまでが信用できるものなのか。
暫くして、手の中の携帯が震えた。
『藤沼。何か道場の方に、制服の奴らが集まってるっぽい。10人くらいかな。ありゃ、
たくさん遊んでもらえそうなメンツだな』
「マジか」
頭を抱えそうになる向こう側で、皆澤は心底愉快そうにたっぷりと愉悦を含んだ声で
笑った。
534KNOCK DOWN!7/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 03:00:59 ID:kgH3jOCx
『お前死ぬのか?』
事態を楽しむ、何とも直球な質問に思わず力が抜ける。
「おまえが間接的に殺すようなもんだろ」
殺意を込めて返事をすると、こちらに聞こえる音声が一部歪む程に、皆澤はげらげら
と大笑いした。
「死んだらおまえに取り憑いてやる。――偵察バレてないだろうな?」
『忘れ物取りに帰ったフリしたから大丈夫だろ。――楽しみにしとくわ。じゃあな』
最後までこちらの苦労も知らずによくもまあ。当日の内に高いもの奢らせるんだっ
た!
 別に呼び出しに応じるつもりは無かったが、これは既に包囲完了?
準備している間に呼び出された俺には、これから教室に帰って鞄を取ってくるのも不
可能そうだ。今頃俺が見つからずに、探されてるかもしれない。
 この件、どこまで一ノ瀬が関係しているんだ。
再び裏ポケットに手を突っ込み、携帯と入れ違いに、ピンクの封筒を取り出した。
これを一ノ瀬が仕組んだと考えられなくも無い。先程言った様に人脈もあるようだし。
 しかし、物事の全体として捉えて見ると釈然としない部分がある。
一ノ瀬の当分の目的が言葉の通り、「俺と相川をデートさせる事」だと仮定しよう。
そうなると、俺達をデートさせたいのに態々奴らを焚き付けるかだ。
そんな事をすれば、奴らを抑えると言った言葉に矛盾するので、焚き付けたというの
は中々考え難い。
それより、焚き付けなくとも勝手に奴らが動き始めると予測し、それに乗じて取引を持
ち掛けたと推察した方がしっくりくる。
535KNOCK DOWN!8/8 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 03:02:05 ID:kgH3jOCx
恐ろしい事に、この手紙は奴らにとっても、一ノ瀬にとっても俺への有効な足留めの
道具として成立したのだ。この、怪しい「後輩」からの手紙は。
 まるで操られるように、いや、気付きもしない内に、俺は一ノ瀬のテリトリーにうっか
りと踏み込んでしまっていた。足はあっても動けず、手も打てず、もうどう足掻く事も
儘ならない。
決めなくては。
果たして頭の切れる一ノ瀬が、一度デートさえすれば、その他の煩わしい事から解放
されるという条件のためだけに、蜘蛛の巣を張り巡らすかのような不可視の罠を張る
だろうか。
旨い話には裏がある。彼女とのデートは俺にとっては旨みは無いが、この状況を何と
かする、という条件は、メシアの出現と騒いで拝む程にありがたい。
一ノ瀬は俺を逃す気は無いらしい。でなければ、罠だと暗示させるようなことを言った
りはしないだろう。
全ては一ノ瀬の思う壺。――これから俺が取ろう行動も。
 俺は忌々しく思いながら封筒を弾くと、真っ直ぐに元来た道を行った。
声も掛けずに扉を開ける。どうせ現れるのは俺しかいない。相手も分かっているはず
だ。
本立ての中にあったのであろう、教科書か何かに目を落としていた睫毛が、現れた人
影に上を向いた。
「その取引に応じるのは、今からでも有効だろうな」
「無論です」
キャスター付き椅子の軋んだ音を立てる背凭れに背中を預け、眼鏡の蔓に手をやり
ながら俺を見上げた顔には、全て予定通りと書いてあった。
俺は今、どんな顔をしている?
「じゃあ乗った」
瞼の裏には彼女の焦る顔が、やけにはっきりと描かれていた。

(つづく)
536 ◆lIRqqqQOnU :2007/01/08(月) 03:03:14 ID:kgH3jOCx
普通キャラをイメージする時って、動物とか花(植物)とかなような
一番最初が悪かったのか、と思いながら今年もよろしくお願いします

それから、色々失敗し過ぎてすみません
537名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 21:26:52 ID:GhjqQpNs
GJ!
538名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 07:42:38 ID:OTtfXWig
ふらりと覗いたところ、続き読めて、嬉しい誤算。
ヒロインの次回以降の反応が楽しみですな


ひっそりとcan'tの続きも期待。。。
539名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 09:15:01 ID:9/uFnW9x
もう諦めながらこのスレを覗いてみたら二作も投下されてるとは
二人ともGJ!
540名無しさん@ピンキー:2007/01/14(日) 07:38:06 ID:SvvUFphi
SSじゃないですすんません。他にどこに落としていいかわからなかったんです。
突発降臨桃色短歌、詠み逃げします。


君の目を 見つめる触れる 口づける 躯の疼く
「君が好きです」


女の子の心情で。
541名無しさん@ピンキー:2007/01/14(日) 13:24:03 ID:/nwi8/QT
ポエム板にでも逝ってろ。
542名無しさん@ピンキー:2007/01/15(月) 01:47:06 ID:PeXnvaYq
>>540
何この禿萌え日本文化ww
543団吉六:2007/01/17(水) 03:29:12 ID:h5QGPMvO
純愛かはわかりませんが、ちょっと小説っぽく。
文章が少し変かもしれません。
544アンリアル  1/24:2007/01/17(水) 03:30:33 ID:h5QGPMvO
俺はもう2年ばかり、ある有料ネトゲを続けている。
派遣社員7年目、嫁と二人暮しで余裕もそこそこあるからだ。
今や俺の第二の生活空間といえるそこには、ひとりの相棒がいる。
 ゲームIDは琉希(ルキ)。
大学2年だという彼女は、ゲームを始めたその日から約一年、
俺がマスターを務めるギルドで生活している。

 今やサブマスターの彼女は、いわゆる姉御肌だ。
さばさばした性格で、厨臭い下ネタでも下品にならない様にうまく盛り上げる。
いつも明るくて面倒見がよく、俺が気付かないギルメンの機微にも鋭い。

そのくせ心無いプレイヤーの暴言を受けると、すぐに塞ぎこむ繊細な面もある。
本人は普段どおり振舞っているつもりでも、
ムードメーカーの異変に気付かない奴はいない。

彼女はメンバー全員に「おねーさん」と慕われているが、
俺にとっては、可愛い妹のような存在だった。
545アンリアル  2/24:2007/01/17(水) 03:31:20 ID:h5QGPMvO
恥ずかしい話、俺は女の子に初めて「中身」で惚れた。
嫁も“趣味が合った”というのはあるが、やはりルックスが大きい。
琉希は容姿の話題を避けるため、そう可愛い方ではないのかも…と
密かに思っていた(失礼)が、それでも人間として尊敬でき、可愛らしかった。

一日中ゲームしてるようなメンバーもいる中、琉希は多忙だった。
華の女子大生だけあり、飲み会にバイトにとなかなか時間が取れないようだ。
酒癖が少々悪く、酔うとチャットが意味不明になり、これまた可愛い愚痴を零す。

 しかし、基本的には俺なんかよりずっと良いリーダーだった。
何か不備があると、婉曲表現を使わずビシバシ指摘してくる。
耳が痛かったが、その方法は変な誤解を与えない。
546アンリアル  3/24:2007/01/17(水) 03:32:37 ID:h5QGPMvO
そして、その内容はいずれも放っておくと致命的なものだ。
ウチと同じようなギルドが次々と潰れていく原因にもなった。
会話のセンスといい、彼女はとんでもなく頭が切れる。
名参謀のおかげで、俺のギルドは混沌とした時代を乗り切る事ができた。
                  
それでも一時、ギルドは解散を余儀なくされた時期があった。
ちょっとしたトラブルから、濡れ衣の汚名がサーバー中に轟いた為だ。
俺もなんとかしようと頑張ったが万策尽き、諦めかけた。
そのとき、彼女はなりふり構わず知人に頼み込み、
なんとかギルドを存続させようと奔走したらしい。

後に人づてに聞いて感謝すると、景気良く喋っていた彼女は急に黙り込んだ。
ギルメンの話では、バトル練習用のカカシをバシバシしばいていたそうだ。
その時俺は、照れる彼女に心底惚れた。
547アンリアル  4/24:2007/01/17(水) 03:33:14 ID:h5QGPMvO
また彼女は、普通ネット上といえど恥ずかしくて言えないことを平然と言う。
「このギルドが一番好き」だとか、「みんなありがとう」だとか。
まさに天真爛漫を地でいく性格。
嫁も素性を隠して同ゲームにいるが、同性を煙たがるその気難し屋をして
「あんなに根っから優しくて誠実な子はそう居ない」と言わしめるほど。

前置きが長くなったが、彼女には書ききれないほどの魅力がある。

事のはじまりは、大阪に住む俺が、千葉に住む最古ギルメンと
梅田で初オフ会をしようと話していた時。
京都に住む琉希が、自分も逢いたい!と参加してきた。
日時を決め、いざ会おうとなった前日。千葉の奴が仕事で来れなくなった。
そのため二人で会うことになった訳だ。
548アンリアル  5/24:2007/01/17(水) 03:33:54 ID:h5QGPMvO
俺は、当日まで琉希の見た目を知らなかった。
彼女は男性恐怖症らしく、写メ交換とも言い出せない。
語り口調から、強姦やストーカーといったレベルのトラウマだと思う。

最低限の特徴だけを聞き、待ち合わせ場所を細かく指定してぶっつけ本番。
彼女は見た目は普通だといっていた。
俺も平凡な女子を想像して当日を迎える。
だから、待ち合わせ場所に行って驚いた。


なんと 彼女はネカm

ではなく、はるかに俺のイメージを超えていたから。
549アンリアル  6/24:2007/01/17(水) 03:34:28 ID:h5QGPMvO
まず見えたのは、その鎖骨までの艶やかな黒髪。
嫁の髪もさらさらだが、彼女のはまさにAsian beauty!
マジでシャンプーのCMクラスだった。

そして脚、これがまた理想的。
ローライズの短パンを穿いていたが、それを穿くための脚だと思った。
細すぎず、適度に筋肉と皮下脂肪がついたメリハリのある脚。
長さは胴の倍近くあるだろう、スタイルは日本人離れしている。
最近の娘は発育が・・なんてセリフがまざまざと浮かんだ。

上は網目状のピンクカットソーで、下の白いシャツが透けるタイプ。
一見清楚な雰囲気だが、胸が非常に大きく、女性的かつ色っぽかった。
上着から覗く腰は見事にくびれ、ヒップも安産型。
550アンリアル  7/24:2007/01/17(水) 03:35:21 ID:h5QGPMvO
顔は、前に借りた「椎名りく」というAV女優をさらに美形にした感じ。
いや、単にローライズと美脚から連想しただけだ…。
もっといい例えがあるかも知れないが、あいにく詳しくない。

化粧している風には見えないのに、染みひとつない白い肌。
桜色の唇は血色が良く、目元もくっきりしている。
ルックスは、この西日本最大の都市でも半年に一度見かけるかどうかだ。
芸能人が霞むレベルも結構歩いてるんだが。
もちろん俺の色眼鏡もあるだろう。
世間的にもどうか知らないが、見事に俺好みの容姿だった。

自分で場所指定しておきながら、俺はそれを見た瞬間、歩む速度が半減した。
いつもその近辺にいる色髪ナンパ野朗さえ遠巻きに見ている有様だ。
もっとも、琉希なら強引に誘われても急所蹴り上げるくらい普通にしそうだが。

とても近寄れなかった。
声を掛ければ最後、顔に疵のあるマネージャーに取り押さえられる気がする。
551アンリアル  8/24:2007/01/17(水) 03:37:31 ID:h5QGPMvO
どうしようかと数メートル手前で立ち止まったとき、
ふと彼女がこっちを向いた。
前もって特徴は教えておいたが、わかってくれるか?
彼女の黒目がちな瞳が、俺の顔を、シャツを、ジーンズを、靴を見回す。
女がまずファッションをチェックするのには慣れてるが、こんな緊張は初めてだ。
最後にその目が俺と合った後、彼女の表情がやや柔らかくなる。
良かった・・・。
俺はこのとき、心からそう思った。

 彼女が小走りで駆け寄ってくるのも印象的だった。
その容姿が、壁にもたれる人形ではないんだ…と実感できたから。
彼女も不安そうな顔だ。
「あの!  ……マスター…ですよね?」
こちらと白い息が重なる程に近づき、声のトーンを落として通称を呼ぶ。

ってか何気に見下ろされてる。
164の俺よりでかいのは確実だ。
552アンリアル  9/24:2007/01/17(水) 03:38:56 ID:h5QGPMvO
「……であんまししつこいから8×4渡したげたんよ。ヒャ―ッて顔してた」
京都弁のまったりとした感じと、関西ゆえの流れるようなトーク。
生で聞く彼女の喋りは、その独特のテンポもあり、笑いが堪えきれない。
声は意外と落ち着きがあってよく通る。
おそらくはこれから、彼女のチャットを見るたびに思い出すだろう。

そして横をみると、きめの細かい髪。
こんな細い髪は見たことがない。櫛で梳くと全部抜け落ちそうだ。
うなじから高級ホテルの石鹸のような匂いがする。
あまりにいい匂いで、思わず息を大きく吸いたくなるが、
発情していると思われては格好悪いのでやめた。

今のスクランブル交差点で、彼女を見た男は8割。
琉希はさすがに慣れているらしく、意識はしていないようだ。
慌しく人並みを避けながら、時おり輝く高層ビルを見上げている。
京都にはそんな高いビルはないそうだ。
553アンリアル  10/24:2007/01/17(水) 03:40:06 ID:h5QGPMvO
動く歩道や通天閣などなど、大阪名物(?)を見せて回る。
彼女は視線を左右に散らしてはしゃいでいた。
喜怒哀楽のはっきりした表情は、よく動かすから輝くんだろうか?
しかし彼女が一番注目するのは、いい匂いのする食い倒れ通り。
そういや、いつも何か夜食喰いながら狩りしてるな…。
それにしても、彼女もいい匂いだ。
石鹸でなく柑橘系かもしれない、と思えてきた。

「そろそろ、なんか喰おか?」
行きつけの店が近づいたので提案すると、
彼女は(待ってました!)という笑顔を作った。
今にもよだれを垂らしそうな頬のひきつり・・・可愛い。
554アンリアル  11/24:2007/01/17(水) 03:40:45 ID:h5QGPMvO
その丼屋は商店街の外れにある。
味は一級品だが、見た目が一軒家なので客が少ない穴場だ。
琉希がブーツなので、座敷ではなく椅子に腰掛ける。
鉢巻をつけた大将が彼女を睨んでいた。
今どきの物が嫌いな人だから。
だが、琉希が頼んだ天丼が届き、彼女がそれを食べ始めると、
心なしかその視線も緩んでいった。

おしとやかに一口一口、ではなく、かといってがっつくでもなく。
箸が止まらないとでも言うように、次々と頬張る彼女。
確かにここの丼は美味い。
だが、これほど美味しそうに食べる子ははじめて見た。               
グルメ番組のように笑っているわけではないのに、幸せそうだ。
思わず見とれていると、恥ずかしげにはにかんで
「あんたも喰え!」とばかりに箸で俺の丼を指した。
555アンリアル  12/24:2007/01/17(水) 03:41:53 ID:h5QGPMvO
そこから映画を見て、ゲーセンに寄るとすぐに辺りは真っ暗。
喉も渇いたので近くの居酒屋に入った。
はじめはチューハイをちびちびやっていた琉希だが、
そのうち俺の真似をして生中を飲み干す。
ほんの一杯で顔が真っ赤。目がとろんとしはじめている。

この間も彼女は話し続けていたが、どんな話だったかは覚えていない。
ただ、とんでもなく色っぽいと思ったことは確かだ。
マスター・・とか呟いてちょっと背中を預けてきたりしてたから。
さっきまでは対等な立場、という感じだったのにこのギャップ。
酔った彼女が可愛くて、ちょっと回りに対して優越感もあった。
実際俺も、この日はずっと心臓が高鳴っている状態。
酔いもかなり早い。
556アンリアル  13/24:2007/01/17(水) 03:43:07 ID:h5QGPMvO
自然と、俺は彼女の細い腰を抱き寄せていた。
琉希は一瞬、戸惑ったようにこっちを見たが、
すぐに力を抜いてもたれかかってくる。
               
オフ会での出会いというのは、なんとも不思議な感覚だ。
チャットでは心友といえるほど打ち解けているのに、会ってみると知らない顔。
幼馴染が全く別の人間になったようなものだ。
おかしいぐらいに興奮する。
彼女もそうなんだろうか、腕を組んでみたがり、そのまま指を絡ませてくる。
酔うと下系に大胆になるタイプだろうか。

店を出た後、俺と彼女はしばらく黙って立ち尽くしていた。
まさか、彼女も同じことを考えてるんだろうか・・?
じわりと汗の滲む手に力が込められた。
「……せっかく、会ってんし」
確か、彼女は男性恐怖症だったはず。
でも握られた強さを感じると、そんな伺いを立てることもできなかった。
557アンリアル  14/24:2007/01/17(水) 03:44:08 ID:h5QGPMvO
気がつけば、俺はホテルで嫁に朝帰りの電話をしていた。
琉希が酔いつぶれたという理由にしておく。
すでにシャワーを浴びた彼女は、俺に背を向けて
口にスプレーを噴きかけていた。
やっぱりあのぐらいの子は、体臭を気にするものなんだろうか。
個人的には、ちょっとくらいの口臭はむしろ歓迎だけども。

産まれたままの姿で向き合い、中坊みたいにじっと見つめ合う。
手を回して彼女の頭を引き寄せる。髪の感触はやはり希薄。
上唇を合わせる軽いキスから、舌を入れていく。
舌の根をくすぐると、向こうも応えてきた。

彼女は男は苦手だが、女相手ならよく遊ぶそうだ。
ギルメンにも相手がいるのは、その本人から聞いている。
だから彼女のディープキスはうまい。
歯茎や喉のかなり奥まで舐め取られ、声が漏れてしまう。

何より、俺はこの瞬間を、もうずっと前から夢見ていた。
「この子とキスなんてできたらな…」
初恋のように、チャットを追いながらぼんやり考えたりもした。
それが実現している。
いい匂いが漂い、たちまち下腹部が熱くなる。
558アンリアル  15/24:2007/01/17(水) 03:44:53 ID:h5QGPMvO
口づけを繰り返しながら、俺と彼女は互いの体を探りあった。
服を着た時よりも若干小さく思えたが、高校生とは違う胸の膨らみ。
細いのにふにふにと掴めるくびれ。
「むっちり」という表現をしたくなる、瑞々しい肌の太腿。
それらを揉むように撫でると、彼女はぴくっと敏感に反応した。
「触り方、やらしいよ…」
照れ笑いしながら身を捩る彼女を、笑い返しながら押し倒す。

折り曲げても長い脚を開き、手入れしてある茂みに口をつける。
鼻の下に柔毛の感触。
続いて湿った餃子のような舌触り。
ほんの少し肉臭い。でも俺はこのぐらいが大好きだ。
舌で、まだ花の芽ほどもない淫核をくすぐる。
締まった脚がベッドを小さく軋ませる。
演技かもしれないが、新鮮な反応だった。
559アンリアル  16/24:2007/01/17(水) 03:45:44 ID:h5QGPMvO
潤み慣れているんだろう。
淫核と肉びらを丹念に舐めていると、わずかに湿ってくる。
だが割れ目に指をくぐらせた時、彼女は身を強張らせて息を詰めた。
露骨に痛そうな反応。

まさか、未経験か?
そう思い当たり、感激と同時に不安が襲った。
いや不安の方が大きい。
「琉希…もしかして、初めて?」
意を決して聞くと、頭の上でシーツを掴んでいた彼女が俯く。
「…ごめん…」
泣きそうな声で謝ることじゃない。
しかしプレッシャーだ。
嫁は色んな相手と付き合ってて経験豊富だったから、
常に俺がリードされるのが基本。
加藤鷹伝授の知識以外、俺はド素人に近い。
560アンリアル  17/24:2007/01/17(水) 03:46:28 ID:h5QGPMvO
でも、相手は俺が『既婚』というのを見込んでの事だろう。
思えば、いつでも彼女は頼りない俺を慕ってくれていた。
父さんみたい、そう言ってくれた事だってあった。
応えたい。
せめて初体験くらい、彼女のいい想い出にしてあげたい。
俺なんかに大層な任務だとは思ったが。

「大丈夫、力抜いとき。できるだけ優しぃするし」
自信がなくても、弱気に見せないのが糞マスターの矜持。

体勢を入れ替え、互い違いに重なり合う。
上に被さる柔らかい身体を抱き寄せた。
細いなりに重さもある、大人の身体。
興奮からか酔いからか、ほかほかと温かい。
薄暗い光に浮かぶ側部のラインは、本当に美しかった。
ただその事を褒めても、それほど嬉しそうな反応はない。
本当に緊張しているようだ。

つきたての餅のような尻肉を割り、琉希の茂みを開く。
先程と同じく、いや、より念入りに彼女を潤ませていく。
どこまでも顔が埋もれそうな柔らかさだ。
襞の合わさりに舌を差し込み、湿らせる。
「ふ、ぅ…うっ…ん!」
舌が奥に届くたび腰が跳ね、歓喜が漏れていた。
561アンリアル  18/24:2007/01/17(水) 03:47:22 ID:h5QGPMvO
その彼女もまた、俺の昂ぶりに舌を這わせはじめる。
亀頭をちろちろ舐り、筋を擦り、たまにカリ首までを咥えこむ。
稚拙な頑張りだったが、先端部ばかりを責められるとつらい。
「もうちょい根元も、頼むわ…」
今にもイキそうで音を上げると、彼女は全体をぎゅっと握ってきた。
押し出されるように射精しそうになる。

彼女も余裕が無かったんだろう。
「頭…変になりそう」
俺の物をしごきながら、何度かそう呟いていた。
指を一本、二本と差し込めるようになると、
その白い膝ががくがくと笑い始める。
もたれてええよ。そう声を掛けると、ずしりと重みが増す。
彼女が堪えていた重さだ。
ぐったりしながらも健気に支えてたんだな、と感慨深かった。
562アンリアル  19/24:2007/01/17(水) 03:51:34 ID:h5QGPMvO
それからまた長い時間、俺と彼女の舌はあちこちを這い回った。
直接性器に当たらなくても、内股や恥骨でも同じくらい感じるようだ。
反応のいい娘だから、嬲るだけで技術が向上しそうに思える。
茂み全体が艶光りはじめ、薄く露が頬に垂れてきた。
「そろそろ、大丈夫だとおもう」
はぁはぁと荒い息を吐きかけながら怒張を含んでいた顔が、
こちらを振り向く。
眉は垂れ下がり、淡い唇も締りが無いが、愛らしい。
でも、つい数時間前の顔とは、輪郭から何から全く違って見える。
女は色々な表情があるな・・。
数秒か数分か見とれてしまい、
彼女の焦れたような瞳を見て意識が戻る。
563アンリアル  20/24:2007/01/17(水) 03:52:14 ID:h5QGPMvO
再び向かい合わせになり、寝かせた彼女の両脚に腰を滑り込ませる。
いくよ、と声を掛けたのに対し、琉希は目で覚悟していた。
汗ばんだ彼女の太股を押さえ、ゆっくりと腰を沈めていく。

熱い。
下半身の前部が蕩けそうなほど、温かさに圧される。
背中を外界に留めたまま、母胎に還っていく感じだ。
あれだけ濡らした甲斐あって、中ほどまではすんなりと進む。
「どう、痛ない?」
ここでダメならどうしようもないが、一応聞いてみる。
「まだ大丈夫…。まだ」
必死にひきつった作り笑いをする彼女。
暴言を吐かれた後も、モニター前でその表情をするんだろう。
これからがつらいと、一番よく分かっているはずだ。
564アンリアル  21/24:2007/01/17(水) 03:53:12 ID:h5QGPMvO
彼女には悪いが、ここからは一気に行った方が痛みが少なくてすむ、
と何かの本で読んだ気がする。
俺もじわじわ苦痛を味あわせるよりはいいと思った。
どちらにせよ、あの子の顔が引き攣るのを見なくてはならない。
それは心苦しいが。
シーツを握りしめる琉希の手のひらに触れ、皺を合わせた。
「大丈夫や。大丈夫やからな。」
そんな言葉しか掛けられず、手を強く握り締める。

「…っ…ぃ… …っ…、……ッ…!!」
勝気な少女は泣かなかった。
白い歯を食いしばり、人を和ませる文字を打った腕が戦慄いていた。
ひとつまたひとつ、子を為す細胞がぶちぶちと死んでいく。
親父お袋、彼女の御両親、ごめんなさい。
子供の頃は、処女を奪うという行為に憧れていた。
好きな子相手なら尚のこと。
でも俺のような男には、荷が重過ぎる。
二度としたくない。
565アンリアル  22/24:2007/01/17(水) 03:53:55 ID:h5QGPMvO
ごめんな。  それが言えなかった。
とても失礼な気がしたから。
欲情に似た、でも全く違う興奮を抑えきれず、俺は呆けていた。
じっと、琉希の苦渋が和らぐのを祈るように見ていた。
彼女の薄目が開き、ひとつ光る筋がこぼれて唇が動く。

「入ったねぇ。」
独り言をつぶやく風に、そう囁く。
唄うような口調だった。
「痛ない…いや、その…平気、か?」
痛くない筈がないのに聞こうとし、しどろもどろになる。
「…おかげさまで。もうちょと、動いてもえぇよ」
息を弾ませながら、彼女は俺に笑いかけた。
実際、俺も引き抜いただけで逝ってしまいそうだ。
少しだけ、腰を引いてみる。
腰が抜けるかと思う快感が尾骨にずーんときたが、
少しすねたような琉希の表情はよく覚えている。
566アンリアル  23/24:2007/01/17(水) 03:54:35 ID:h5QGPMvO
少しずつ緩急をつけながら腰を打ちつけ、
鎖骨に首筋に頬に唇に、首の届くあらゆる白肌に吸い付いた。
「気持ちいいよ、きもちいいよ。。」
嘘だろうと分かったが、琉希はそう囁きつづける。
ここへ来ていよいよ、俺は自分が肌を合わせているのが誰なのか、
本当の意味で自覚しはじめていた。

長い間、ネットの向こうで共に暮らした相手。
現実よりも素直な自分で触れあった、第二の人生での初恋相手。
運良く、現実の彼女は見目麗しかった。
だが、こうして中身で繋がると関係がない。
薄っぺらい画面に映ったデフォルトの“琉希”が、
きつく俺を迎え入れる、暖かな血肉に塗り替えられていく。

     好きや   琉希

俺はその言葉を、背筋を反らせると同時にねじ殺した。
泣きそうになる。
この世界で親密になることは、決して許されない。

俺は、既婚者で、へタレで、チビで、 ギルドの長だ。
567アンリアル  24/24:2007/01/17(水) 03:55:24 ID:h5QGPMvO
★         ★           ★          ★

エコナ:でも彼女、男の人と出かけるの慣れてないし。
    気つかったっていってましたよ。普段通りかな?ってw
麗音 :mjsk カナリ自然体だったけどな
エコナ:あ、それとそれと…言っちゃおうかな(ニヤニヤ
麗音 :な、んあんだよ^^;?
エコナ:彼女、感激してましたよぉw 「マスターに頼んでよかった」ってww
麗恩 :・・・・・・・ナッ・・・・・・・

あれから数日後。
急に姿を現さなくなった琉希の相談をするつもりが、思わぬ地雷。
俺は赤くなった頭を抱える。
そのまま電源を切ろうとしたとき、チャイムの音が響いた。
嫁がバタバタと走って出る。
そして、俺がまたPCに向かった時だ。
「おぅ、いらっしゃい!!」
嫁のやけに元気のいい声に、思わず扉を凝視する。
そこには、さらさらの黒髪と、溌剌とした瞳。

そして、俺のように真っ赤な顔が覗いていた。


                          --THE END--
568名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 10:28:10 ID:3zFN2Lkd
なんというGJ
569名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 15:07:40 ID:5TanmYx1
スマンが正直なところ
実体験+妄想系の、自己陶酔入った俺語りにしか見えん……
570名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 22:28:00 ID:/vNfIihc
不倫のどこが純愛か
571名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 23:48:08 ID:/AoGaAMW
もっとふさわしいスレがあるんじゃね
572 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 13:59:31 ID:d+KrZEpX
純愛と言うよりはほのぼのですが、投下したいと思います
携帯からなので、読み辛かったら申し訳ありません
573本音と酔っ払い 1 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:00:40 ID:d+KrZEpX

「男って、結局はみんなのび太君なんですかねぇ」

 何とも小難しい表情でジョッキを置いた間宮の言葉に、貴志は呆れた眼差しを向けた。
 ざわざわと酔っ払いの喧騒渦巻く呑み屋の一角。
 チェーン店であるこの店の名物、爆弾コロッケを箸でつつく。大きさもさる事ながら、チェーン店にしては美味い。

「どう思います、先輩?」

 通り掛った店員を呼び止め、本日四杯目の生中を頼んだ間宮は、唐揚げを一つ口の中へと放り込んだ。

「どうって…何がだ」
「だから、先輩はのび太君ですか?」
「……訳が分からん」

 店に入ってまだ一時間も経っていないと言うのに、間宮の顔は真っ赤に染まっている。
 貴志はお気に入りの焼酎の水割りを口にすると、切り分けたコロッケを口にした。

 貴志一也、二十八歳。中小企業の営業部担当。間違っても「タカシ」ではない。念の為。
 間宮春奈、二十三歳。同じく中小企業の営業部担当。特技は「大人の魅力ビーム」らしいが、どちらかと言うと小動物を彷彿とさせる。

 この四月に入社した間宮の教育係として、半年近くを共に過ごしてきたが、間宮の言う事は相変わらず貴志にとっては要領を得ない。
 今日も、二ヶ月に渡り苦心していた取引先との契約をようやく結び、お祝いとばかりに二人で飲みに来たのだが。

「もっと詳しく、且つかいつまんで話せ」
「ですから、男の人って、やっぱりしずかちゃんの方良いんですか?」

 ──益々分からん。

 思わず頭を抱えたくなった貴志だが、代わりに水割りを飲む事で頭痛に耐える。
 しかし間宮は貴志の様子にも気付かずに、空になったジョッキの縁を指でなぞりながら、子どものように唇を尖らせた。

「ジャイ子ちゃんって、凄いじゃないですか。小学生なのに漫画家で。将来安泰って言うか、有望って言うか。でものび太君は、可愛いしずかちゃんを選ぶでしょ? 見た目なんて、お婆ちゃんになっちゃえば同じなのに」

 ねぇ? と話を振られ、貴志は額に手を遣り考えた。
574本音と酔っ払い 2 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:01:39 ID:d+KrZEpX
 先程から摂取しているアルコールのせいで、思考回路は鈍っているが、間宮の言葉は普段から宇宙人の言葉なので、翻訳するのには時間が掛る。
 しらふの時よりも三割増しの時間を掛けて、言葉の意味を理解した頃、カウンターには生中のジョッキが置かれた。

「女は中身より見た目か、って言いたいのか?」
「そうです、そうです〜! さっすが先輩」

 にへらっと笑った間宮が箸を持ったまま手を打つ。
 貴志は深々と溜め息を吐くと、焼き鳥の串に手を伸ばした。

「人それぞれじゃねぇの?」
「え〜。じゃ、先輩はしずかちゃん派? それともジャイ子ちゃん派?」
「……ある意味究極の選択だぞ、それ」

 興味深々と言った眼差しを向けられ、貴志は眉間に皺を刻む。
 毎度の事とは言え、この後輩の考える事は理解不能だ。

「ならお前はのび太派か? それとも将来有望、且つ美形の出来杉派か?」

 何とか話を逸らそうと問掛けると、間宮は至極真面目な表情で首を捻った。

「うーむ……ドラえもんがオプションなら、のび太君の方が良いんですが…」

 ──本気で悩むな、こんな事に。

 脳内でツッコミを入れるが言葉にはせず、貴志は串を皿に置く。
 水割りを飲み干し、お代わりを頼んでも、間宮はまだブツブツと真剣に考えているようだった。

「どっちでも良いけど、何でンな事思ったんだよ」

 本題に入るまでが長すぎる。
 しかしそれも、いつもの事と、再びコロッケをつつき始めた貴志だったが、予想に反して間宮は何処か言い難そうにビールを舐めた。
575本音と酔っ払い 3 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:02:48 ID:d+KrZEpX

「……笑って下さいね」
「いや、話して貰わん事には笑うも何も──」
「フラれちゃったんですよ。私」
「…………はい?」

 思わず語尾が上がる。
 まじまじと見つめる貴志の視線に気付いているのかいないのか、間宮は唇を尖らせたまま、カウンターにのの字を書いた。

「大学の時から付き合ってた人がいまして。この間、別れ話をされちゃいました」
「……はぁ」
「新しい彼女は、そりゃあもう可愛くて。しずかちゃんなんです」

 分かるような分からないような比喩だったが、状況は大体把握した。

 付き合っていた彼に新しい彼女が出来て間宮はフラれた。その彼女を見た間宮は、自分よりも彼女の方が可愛いと思ったのだろう。
 フラれた理由が何にせよ、外見で負けたと思った間宮は冒頭の台詞を吐き出した訳だ。

 いつに無く気落ちした表情で、間宮はちびりとビールを飲む。
 取引き先に叱られたり、上司に叱られたり、何度か元気のない間宮を見た事はあるが──そして決まって貴志がフォローに回るのだが──今日の間宮の様子はいつもと違っていた。

 少し冷めたコロッケは油が回って衣がベタつき始めていた。

「と言う訳で、笑い話なんだから笑って下さい」

 貴志の方へと顔を向けた間宮がへらりと笑う。
 その笑顔は何だか痛々しい。

 新しい水割りがカウンターに置かれたが、貴志はそれには口を付けずに無言でコロッケを咀嚼した。

「先輩?」

 沈黙を続ける貴志の様子に間宮が首を傾げる。

 フォローに回るのは自分の役目。
 そんな思いがこの半年で身に染み付いてしまっていた。
 気落ちした表情を見せられたままでは、此方まで調子が狂ってしまう。

「少なくとも、俺はのび太じゃねぇな」

 口の中の物を飲み込んで、ぶっきらぼうに呟く。
 本心かどうかは自分でも分からないが、間宮に笑顔が戻るならそれでも良い。

「しずかちゃんほど優等生じゃなくて、ジャイ子よりも可愛い子が俺は良い。うん」
576本音と酔っ払い 4 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:03:54 ID:d+KrZEpX
 一人結論付けたように頷いた貴志が水割りに口を付ける。
 間宮はきょとんとした表情で貴志を見つめていたが、やがてにへらっと頬を緩めると、焼き鳥の串に手を伸ばした。

「先輩、なかなかに我が儘な好みなんですねぇ」

 何気に失礼な事を言ってるのだが、その口調は何処か嬉しそうだ。
 フォローが効いたかと内心安堵の溜め息を吐いた貴志は、ぐびりと水割りを飲んだが。

「でもそれって、私の事ですか?」
「ぶっ!」
「うわっ、きったなぁい!」

 無邪気な笑顔で尋ねられ、貴志は思わず水割りを吹き出す。
 鼻に逆流したアルコールのきつさに涙が浮かびむせかえるが、間宮は眉をしかめると慌てておしぼりでカウンターを拭いた。

「げほっ…何……何つー事を訊くんだ、お前は!」
「え〜。だってホラ、私って程良く落ちこぼれで、程良く可愛いですよ?」

 甲斐甲斐しくも貴志のワイシャツにまでおしぼりを向ける間宮の顔は、アルコールも手伝ってかへらへらと緩みっぱなし。
 敢えて具体例を上げなかった己の迂濶さに歯噛みしながら、貴志も自分のおしぼりで口許を拭った。

「絶対違う。断じて違う」
「またまた〜、照れちゃって」
「照れてねぇから」
「でも私、先輩だったら良いですよ」
「聞けよ、人の話!」

 さらりと物凄い事を言われた気もするが、貴志は敢えて聞き流す。
 酔っ払った宇宙人の言葉を真面目に受け取ってはいけない。これもこの半年で学んだ事だ。

「俺の好みは大人の女。不二子ちゃんみたいなナイスバディだ」
「む……手強い…」

 どさくさに紛れてネクタイを緩めようとする間宮の手を引き剥がすと、間宮は眉間に皺を刻んで考え込む。
 私服姿になると、いまだ高校生に間違われるような容姿の間宮とは程遠い例を上げた貴志は、スンと鼻を啜ってグラスを手にした。

「まぁ、間宮が不二子ちゃんみたいなナイスバディになったら、惚れてやらん事もない」
「むむ…」

 自分の胸許を見比べる間宮を見遣り、貴志は勝利の笑みで水割りを口にした。

577本音と酔っ払い 5 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:05:04 ID:d+KrZEpX

 二時間後。
 夜の風が熱った頬に気持良い。

「ごちそーさま、でした!」

 ペコリと頭を下げる間宮だが、足元はフラついていて覚束ない。
 あれから元彼に対する愚痴を散々聞かされたのだが、その間も間宮のペースは変わらなかった。
 たぶん明日は使い物にならないだろうし、恐らく記憶もないだろう。

「ちゃんと立て。帰れるか?」
「だいじょぶですよ〜。電車が運んでくれますっ」

 ビシッとブイサインを出した間宮だが、直ぐにフラフラと右に傾く。
 溜め息を吐いた貴志は煙草を取り出す手を止めて、間宮の腕を掴んだ。

「ほら、駅まで送ってやるから」
「あ、送り狼」
「違うっつの」

 ベチと平手で額を叩くと、間宮は「にゅ」だか「にょ」だか訳の分からぬ声を出して退け反った。
 しかし直ぐに顔を起こすと、子どものように貴志の腕を掴む。
 必然的に寄り添う形にはなったが、酔っ払い相手では色気も皆無だ。

「先輩〜」
「何だよ」
「私ねぇ、ホントはあんまし、落ち込んでないんです」

 間宮の歩調に併せゆっくりと歩みながら貴志は間宮を見下ろす。
 貴志の腕にしがみ付いた間宮は、へらへらと笑いながら口を開いた。

「先輩の方が格好良いし優しいし。……フラれても、先輩が居るから平気です」

 ──……酔っ払いめ。

 頭の中でそんな言葉が掠めるが、貴志は何も言わずにコートから煙草を取り出す。
 本気なのか建前なのか。押し図る事は出来ないが、何と無く緩む頬を自覚しながら煙草を咥えて、貴志は間宮の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「そう言うのはしらふの時に言え」
「うぃ、了解でっす」

 撫でられるがままの間宮は嬉しそうに笑いながら、片手を掲げて敬礼のポーズを取る。

 もしも本心だとしても、それはその時に考えれば良い。
 そんな事を考えて、貴志は少しだけ、穏やかな気持ちに満たされた。

578 ◆KK1/GhBRzM :2007/01/19(金) 14:05:51 ID:d+KrZEpX
以上です
スレ違いでしたら申し訳ありません

純愛って難しい…
579名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 16:19:46 ID:mUvKPy8k
えろは?
580名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 18:15:12 ID:1f36V4tr
純愛スレにはエロは必須ではない!

GJだった
欲を言うなら、後日談でエロを
581名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 18:32:12 ID:JEOCH2PT
>>580
>>1見ろよ。
>純愛エロSSのスレです。
このスレにエロは必須だ!!
582名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 19:59:36 ID:fHs4/A8V
>>578
確かにここのテーマは主観的だから、判断が難しいから敢えて言うことはないけど。

文章は良かったと思うよ。個人的には好きな書き方だった。
一歩間違えば素直クールになりそうだけど、女の子のキャラ作りが上手かったと思う。
583名無しさん@ピンキー:2007/01/19(金) 22:26:51 ID:7zOwF3VD
>>578
うん。よかった。女の子かわいいしね
584名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 06:08:21 ID:zLjYcPr2
>>578
GJ!
もちろん続くよな?
585名無しさん@ピンキー:2007/01/22(月) 09:59:41 ID:NINnnnwv
遅れたがGJ!
586名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 16:16:11 ID:y295ETvM
保守
587名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 21:10:06 ID:3Xnx0p+M
>>本音と酔っ払い
女の子が超かわいい。GJ!!!
588名無しさん@ピンキー:2007/01/25(木) 21:12:17 ID:sCO44oSb
mixiにヨイデレコミュなんてのがあったな……。
589名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 15:47:12 ID:+pUX+/cR
保守
590名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 18:27:38 ID:+pUX+/cR
591名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 18:44:55 ID:Hy1Lr/32
ほぅ
592名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 19:40:57 ID:HIzj2gBt
微量──ほう、と何処よりか声がした。
593名無しさん@ピンキー:2007/01/27(土) 20:49:59 ID:Hy1Lr/32
――匣の中には職人さんがぴつたりと入ってゐた。
594名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 04:04:57 ID:11/t+syl
――何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。
595名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 14:59:36 ID:7yLXHk3D
ちょw 腕切られたら職人さんSS書けないwww
596名無しさん@ピンキー:2007/01/30(火) 19:43:27 ID:PLrOASnh
ほす
597名無しさん@ピンキー:2007/02/02(金) 17:53:57 ID:D5UimY4Y
598名無しさん@ピンキー:2007/02/04(日) 12:59:07 ID:C03rd3A3
しゅ
599名無しさん@ピンキー:2007/02/05(月) 22:32:04 ID:94i9jMv/
hosyu
600名無しさん@ピンキー:2007/02/07(水) 18:15:17 ID:aCb+B5Hp
新作カモン!
601名無しさん@ピンキー:2007/02/09(金) 19:19:13 ID:7Wh2zSF9
602名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 01:13:23 ID:OhzeIc5P
今更ながら。
>>509-の二人に何かデジャブ。しかし思い出せない今日この頃。
気になって気になって、夜も眠れません。
通りすぎた初恋の人的な胸のときめきが苦しいです。
続きか、元ゲームのヒントだけでもどなたか下さい…。
603名無しさん@ピンキー:2007/02/10(土) 10:15:38 ID:8PH6gnB3
ヒント
つ[それ散る]
604602:2007/02/10(土) 18:19:06 ID:S2XS9oH2
心満たされて世界が蜂蜜色です。
サンキューハニー。
605名無しさん@ピンキー:2007/02/11(日) 14:49:29 ID:CLjxtyCS
ksk
606名無しさん@ピンキー:2007/02/15(木) 09:30:40 ID:sQKTBWzY
hosyu
607名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 11:14:32 ID:oFD6xtLj
バレンタインSSマダー?
608名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 14:17:35 ID:KRsLEb2o
マダー?
609名無しさん@ピンキー:2007/02/23(金) 18:55:44 ID:ZPJPbG6q
  、、、、
 ミ・д・ミ<ほっしゅ
  """"
610名無しさん@ピンキー:2007/03/01(木) 15:12:48 ID:bb9d9jAJ
hosyu
611名無しさん@ピンキー:2007/03/02(金) 07:38:47 ID:7CUIMcG8
hosyuhosyu
612名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 22:58:06 ID:u6Q13pHi
保守がてらだが、伊東家の食卓で見た
「戦時中に小学校で送った慰問袋が偶然届いた兵士と文通が始まり、終戦後に出会った二人は結婚」
って話に軽く感動した。
613名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 08:13:02 ID:N6fXrfKo
それじゃ俺も保守がてらに。

'94年ごろの映画で「レオン」っていうのがあった。
ジャン・レノ演じる殺し屋と、父親を麻薬取締局に殺された12歳の少女の話。
ラストでは殺し屋が、父親を殺した男と一緒に死亡。
殺し屋を愛した12歳の少女は悲しみを背負って生き続ける。っていう内容だった。

DVDのパッケージに「純愛」って書いてあったから見てみたけど、
ああいうのもこのスレ的には純愛なのかね?
614名無しさん@ピンキー:2007/03/09(金) 11:27:19 ID:kqfXY6ZI
レオンは間違いなく純愛
エロなんかなくても、歳の差があっても純愛
615名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 16:49:28 ID:zb5zyK87
レオン俺も好きだー。
幼い頃に見過ぎて記憶がほとんど無くなってるけど、幼心にあれは有りだと思った。

616名無しさん@ピンキー:2007/03/12(月) 20:05:45 ID:gcuACKeR
レオンの人気に嫉妬。
617名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 02:06:50 ID:k31tthhM
age
618名無しさん@ピンキー:2007/03/17(土) 14:34:46 ID:ElZ2W9Gn
ほしゅ
619名無しさん@ピンキー:2007/03/19(月) 01:11:13 ID:F+fq+B3R
ジョジョのエリナにも感動した
初恋をディオに汚されて離れ離れ
7年後に再会したのにディオとの戦いでまた離れ離れ
新婚5日目にジョジョはディオに殺されて50年再婚もせずに子供を育ててる
620名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 09:55:09 ID:Tn0QA6o2
…ねぇ。
なんかさ、暇じゃない?
…うん。だってこのところずぅーーーっとなんにもないんだよ?
…いや、そうだな、じゃないよ。二ヶ月もだよ? 暇だよ。ひーまー。
ふうんって、そんな…。なんでそんな興味無さげなの? …えっ?

えっ! あ、ううん、そんなことないよっ? …ち、違うよ! そうじゃないってば!
…うん、二人でいるのも楽しいよ?
ただ、いつまでもこうしてるのもなって…。…え?
……ぇぇえええっ!?
あっ、ううん、そうじゃなくて! 別に嫌なんじゃなくてっ!

…うん。…うん、分かった。
じ、じゃあ…、……するよ?









し、職人さん、保守して待ってますっ。







…う、うまくできた、かな…?
621名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 14:58:38 ID:sMBpOjxD
くっwおまえは職人になれwwww
622名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 08:13:12 ID:5ArBZU46
ワロタwww
623名無しさん@ピンキー:2007/03/31(土) 04:46:39 ID:lcbg6uAZ
執筆中保守。

投下するまで落ちないで欲しい・・・
624名無しさん@ピンキー:2007/04/01(日) 08:39:57 ID:xgfcEovG
大丈夫だ、ガンガレ!
625 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:34:55 ID:sgzgI+wt
>>528-535の続きを投下

書き上がったので、お先に失礼させていただきます
長くなったので、前半だけ
626KNOCK DOWN!1/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:36:52 ID:sgzgI+wt
8.アイ・ワナ・デート!

「はい、お疲れ様でした。これで身の安全はほぼ確保、後はデートをするだけ
です。相当な強運ですね、藤沼さんは」
まるで花畑にいる少女が花輪を差し出すような目映い笑みを見せ付けられ、
情けなくもそれを脱力したまま、譲られた椅子の上から見上げた。
一ノ瀬に言われても称賛されたというより、バカにされた気しかしない。
視線を良く見ると、ありありと罠に掛かった虫ケラを褒め称える時に出るような
微量の恍惚成分を観測した。
「そりゃどうも。過分なるお褒めの言葉、痛み入ります」
虫ケラは、せめてもの腹いせにと皮肉で返した。
「ここ閉めるので、出てください」
どっと疲れが湧いて椅子に沈み切っていたこちらの事情と皮肉など全く無視で、
一ノ瀬はさっさと上履きを履いて出て行く。
…まだ使い道のある人間のアフターケアに気を使わないのは如何なものだろう。
鍵を閉める後姿に念波を送るが、何事も無かったかのように振り返られた。
「では、行きましょうか」
見えない鎖に引っ張られるが如く、俺はよろよろと一ノ瀬の後を追った。

「それで、デートしろって、どこへ行かせる気だ」
足音が奏でる滑り止めが鳴るだけで、人の囁き声すらしない廊下を降り、俺の
クラスに戻ると同じく人っ子一人いなかった。
「わたしが決めちゃってもいいってことかしら?」
声が驚喜を孕んでいる。上目遣いの視線に思いっきりNOの返事を眼光で表す
と、くすくすと笑い声を立てた。
627KNOCK DOWN!2/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:38:13 ID:sgzgI+wt
「いくら交渉がらみでのデートとは言っても、デートするのはあくまでもあなたと
鈴音なんだから、お好きなところへどうぞ。でも出来れば、鈴音の希望通りに」
俺は最近サンドバッグと化してきた、うっすらと足型の付いた鞄の汚れを払い、
一ノ瀬へと振り返った。来週以降は相川の弁当箱をこの上に掛けておこう。
「で、どこで待てばいいんだ?」
「わたしのクラスで」
 続いて入った教室にも、人の姿は見当たらなかった。
「――待っている間にでも、これ読んでおいてください」
そう言って渡されたのは、A4のレポート用紙5枚くらいを纏められたものだった。
相川鈴音・傾向と対策、その分析――
「部外秘って判子が押してあるけど?」
「ああ、別に構いませんよ」
構うんじゃないか?
「肝心な事を言い忘れてましたが、勿論、この話は鈴音には」
「秘密だろう」
「そうです」
持っていき掛けていた人差し指を、態々唇に当てて見せる。
くすりと笑ったその顔は、いつの間にか今朝見た雰囲気に戻っていた。
「これから生徒会で校内新聞の件が議題に上がるので、これで新聞部も大人しく
なりますよ。――そろそろ行かないと遅刻なので」
「なるべく早く終わるように取り計らってくれよ」
「ええ。何か疑問があれば、そちらの連絡先へどうぞ」
連絡先?と気が逸れた間に、一ノ瀬は立ち去っていた。
手元のレポート用紙を捲り見て行くと、最後のページに携帯の番号とメール
アドレスが鮮やかな字で書かれていた。
何と言う、ついていないようでついてる日で、ついてるようでついてない日?
628KNOCK DOWN!3/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:40:03 ID:sgzgI+wt
 黄昏が迫り来る中、俺はいつもよりいい景色であるはずの教室のほぼ中央で
ぼんやり暇を持て余していた。
部活動で騒がしかった外も、気が付けば静かになっている。
 初めて知ったが、生徒会ってこんな遅くまで仕事してるんだな。遅くまでご苦労
なこった。
ぼすりと自分の鞄に顔を埋め、何度目かになるか分からない、退屈から来る溜息
を吐いた。
 大層な表題のレポートは、何の事は無い、言わば相川鈴音・取り扱いマニュア
ルだった。実はロボットだったりしないだろうな。
それから、一ノ瀬が去った後の双方の行動確認。部外秘とは、俺が外に漏らさな
いため用の判らしい。それと注意事項。所謂、口裏合わせだ。
本当に、どこまで考え尽くしたんだ、と行動の無駄の無さに感心しきりだよ、
まったく。
予定では、彼女は生徒会の会議を終えた後、この教室まで来るらしい。
そして、その後――
カシャン、と微かな音を耳が捕えた。
断続的に続く甲高く鳴り響き近づくそれはやがて終わり、足音が更にこちらへと
近づいて来ている。
これで見回りの教師とかその他だったら、この覚悟や緊張は全て無駄になるな。
しかしこれは予定通りだし、間違いないと決め付けてしまうぞ。よし!
 決心した振り向きと同時にドアは開いた。
「……藤沼くん?」
予想通りのきょとん、とした反応を見せ、それから彼女は信じられないとでも言い
たげに、俺と席を交互に見つめた。
629KNOCK DOWN!4/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:44:23 ID:sgzgI+wt
「良かった、戻ってきて。遅かったな」
「もしかして、生徒会が終わるのを待っていてくれたんですか?」
「まあな」
席を立ち、近づいていくと慌てた様子で後退る。何でだよ。
仕方ないので、こちらが下がってみせる。
やや小走りに脇を通り抜け、ロッカーから何かを取り出すと、いそいそと鞄に
仕舞った。ヂヂヂヂ、とファスナーの音が教室を支配する。
 沈黙の上、更に静寂が訪れた。
ゆっくりと彼女は目を見ないようにこちらを振り向いた。言葉を躊躇う唇が、幾度
か空気を泳いでいるのを眺めた。
「……もしかして、い、一緒に帰ってくれるのでしょうか?」
「ああ、勿論。――話があるんだ」
行こう、と促すと、漸く顔を上げ、俺達は教室を後にした。

 教室の電気を消して廊下を出ると、大半の電灯が消えていて、中央階段のとこ
ろだけが晧々としていた。
「相川」
「はいっ」
予想外の反射的な返事に、思わず吹き出しそうになった。緊張し過ぎだろう。
「生徒会の仕事っていつもこんなに遅くまでやってるのか?冬はこんな時間じゃ
真っ暗だろう」
「ええ、でも真歩と……!そうでした、真歩は何て言うでしょう」
「出来れば、ふたりっきりで話したいんだけど」
機先を制し、出来るだけ穏やかに言い放つと、期待と不安がない交ぜになった
ような視線を向けた後、電話します、と数段先の踊り場へ先に降り立った。
後ろを向いた彼女を見て、俺は階段上で気付かれないように息を吐く。
しかしこのアドバイス通りの「俺」は疲れる。
誘えなかったら大変な事が起こると書かれていたから、恐らくそうなるのだろう
し、そうされたくない。
630KNOCK DOWN!5/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:47:00 ID:sgzgI+wt
 携帯を切った彼女が振り向いた。
「何だって?」
我ながら空々しく尋ねてみる。
「そう、良かったわね、と言われました」
向こうも空々しいな。
「なら、帰るか」
 1階まで降りてみると、部活の人間も既に帰った後らしく、重苦しい程静かな
空間に靴箱の開閉する音だけが響いた。

 「痴れ者!」+ビンタのイメージがあるせいか、朝会うと、「おはようございます」
と待ち侘びた嬉しさままに微笑まれるギャップとがあり過ぎて、どうしても今はこっ
ちだ、という考えに中々頭が切り替わらない。
俺は氷の溶ける様を見ていないのだ。
「それで、お話とは何でしょうか?」
「ああ、うん――」
と、言ったきり言葉が続かない。
一ノ瀬との鉢合わせの展開を避ける事ばかりに気になり過ぎて、肝心の誘う
文句を考え付かなかった。と言うより、簡単だと思っていた。
さっき彼女に会うまでは。迂闊としか言いようが無い有様だ。
「えーっとだな……」
「はい」
一々、相槌打たなくていいから。
気ばかりが焦る。真っ白な脳内の言語中枢よ、何か使えそうな言葉を編み出して
くれ。
「明日……に、でもデートしないか?誘ったんだから勿論、全部奢る」
あああああ、もうちょっと気が利いた言い回しをだな、情報を詰め込んだだけの
言葉で喋っても――
631KNOCK DOWN!6/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:48:39 ID:sgzgI+wt
「……でも、今朝も昨日もお誘いした時は、断られましたよね?」
その時は、毒牙に掛かる前だったからな。
何だこれ、予定と展開が違う。何が二つ返事でOK貰えるだよ、責任者!
「それがだな、よくよく考えてみればこれからも作ってもらう事に…なるのかも知れ
ないし――」
笹川ならもう少し増しな事を言えるのだろうが、残念ながら俺は俺でしかない。
避け捲っていた男が手の平を返すようにデートに誘うのは、変じゃないのか、
一ノ瀬よ。
「――どうせならデートしたいと言われている事だし、やっぱり弁当代くらいは
礼を何とかしないと、と思ったんだが駄目か?」
駄目だろうな。我ながら怪し過ぎる。俺、死んだな。
彼女の沈黙が続く間、俺は一ノ瀬がらみの単語が出て来ない事をひたすら祈っ
た。
沈黙は鉄屑、雄弁は金だぞ、何とか言ってくれ。
 丁度、街路灯のスポットの真下に来た辺りで、彼女は囁くように呟いた。
「……喜んで、お誘いお受けします」
えっ ホントに?死からの解放?
「あ、言っておくが、この間みたく『家にいらっしゃいませんか』と言うのは無しな」
「ええっ 無しですか?」
「駄目。それから俺の家も駄目」
「そんな! お家の前まで行った事はあるのに……」
「それは勝手に調べたから知ってるだけであって、俺は人を家に招かない主義
なんだよ。――それで、どこに行きたい?」
632KNOCK DOWN!7/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:50:59 ID:sgzgI+wt


 穏やかな晴れの日だった。
梅雨の襲来がじわりじわりと忍び寄る前の、一時の休息のような柔らかい風が
吹いていた。
これで雨が降ろう物ならば、デートは急遽、「代わりに家へいらっしゃいません
か?」となっていたかも知れない。そういう事にならない点において、俺は天気を
撫で回して褒めたくなっていた。
 窓の外を見ながら、俺は何度目かの欠伸を噛み殺す。
急に「春眠、暁を覚えず」を声を大にして叫びたくなり、後一歩のところでそこが
電車の中だと我に返り、キャップ帽を目深に被り直す。
いかん。色々自分がおかしくなっている。
浮かれているのではない。どちらかと言うと変な緊張をしていた。
 同じ車内には、同方向らしいカップルや家族連れ、中学生くらいの少女達の
グループがおり、きゃいきゃい言いながら眩しさを振り撒いている。
こんなにも気の乗らない気分で遊びに行くのは俺くらいのものだろう。羨ましい。

 結局、金曜日の帰宅途中、彼女は俺が提案した「デート」をどこにするかを決め
られなかった。
曰く、綺麗にデコレーションされたケーキを山のように銀のトレイに敷き詰められ、
その中から「お好きなものをお選びください」と言われている状況だったのだそう
だ。
 何と言う神の悪戯なのか、連絡を取るため携帯番号とメルアドを交換する羽目
になり、その日の夜掛かってきた電話の向こうからの声は、「ドリームランドに行
きたいです」と告げた。
個人的には「映画・飯・駅で解散」が理想だったけれども、今回俺に選択権は無
い。
承諾し、細かい話を詰め、色々唐突だったので1日空けて、本日日曜日にデート
は決行される運びとなった。
633KNOCK DOWN!8/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:53:20 ID:sgzgI+wt
 揺れる電車は、華やかな世界まで後もう一駅というところまで来た。
『――まもなく、ドリームランド前、ドリームランド前。お降りの方は、お出口右側に
なります』
アナウンスに、若さ溢れる集団が色めき立つ。
最初に絶叫系ー!とか言ってて可愛いのう。
 カーブを曲がりながら電車はホームへと滑るようにゆっくりと進入し、一度大きく
ガタンと揺れて、人々を吐き出すべくドアが開いた。
到着を待ち侘びた乗客達が、ホームへと飛び込むように降りて行く。
俺もその波に続いて改札口へと向かった。

 待ち合わせは9時45分。入場が10時からなので、それほど待たない時間を
見積もればそんなものだろう。一応、俺はその15分前に到着した。
誘ったのは飽くまでもこっちだし、前回の待ち合わせではアクシデントで遅刻して
いる。
 改札前で、何とも生意気な年頃のガキの嘲笑的眼差しと交えている事を時折
確認していると、改札の中にいる、こちらへ向かって来る黒髪日本人形を見つけ
た。
俺に気付くと、人波を掻き分けていそいそと駆け寄ってくる。
どうだガキんちょ、ちゃんと連れは来たぞ。これでもこいつは学年どころか学校一
もてる奴で――って、いない!
慌てて視線を泳がすと、入場口へ向かう群れの中に、あの眼差しがあった。
今度は妙に学校の熱狂的集団の視線を彷彿とさせる顔をしていた。
おまえは親と友人と一緒か。俺より楽しめそうじゃないか。楽しんで来いよ。
という、会話にならない目線通信をこっそり終了した後、本来迎え入れるべき
人物の声で、俺は意識を右45度方向へ戻した。
「おはようございます…!お待たせしてしまったでしょうか?」
「……いいや」
634KNOCK DOWN!9/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:56:33 ID:sgzgI+wt
しまった。
俺はまじまじと彼女を見た。
鎖骨の周りを飾るレースがアクセントになっている、大振りな柄プリントのトップス
に滑らかな線を描く真っ白いスカート。若草色の凹凸のある素材のニットの上着
と、その肩にあるのは柔らかく編まれた籠バッグ。足元は、白地のローヒール。
ふわふわ、ひらひら〜。
 それはデート服だろう!と叫びたくなっていた。
そう。忘れようとしてしっかりと忘れていたが、これはデートなのだ。
ちょっと考えれば彼女が気合を入れてくるくらい予想できただろうに、こっちはカー
ゴパンツにTシャツと履き慣れたスニーカー、全部普段着ですよ。
ああ、人として最低限、こいつと並んでも恥じない格好をしてくればよかった。
見つめたまま、ひとりたじたじになっていると、彼女も俺を見返している事に気付
いた。
「……ど、どうした?さっきから黙りっ放しで」
「私服で会うと、何だかいつもと違って見えて…いいですね」
違って見えて、までには同感。
照れを全開にして目を逸らされた辺り、やっぱり彼女に掛かるフィルターは今日も
絶好調のようだ。早く外そうぜ。
「藤沼くん!」
「はい?」
「わ、私の格好はどうでしょう?この格好で、何処か嫌なところはありますか?」
あると言ったら、着替える気だろうか。
「あー、イヤ。ニアってルよ」
一択しかない答えにしどろもどろな自分を心底情けなく思うが、それでも機嫌良く
いてくれたようで、良かった。
「……じゃ、行くか」
「はい!」
ゲートの方を指し、先を促した。
斯くて俺達は、列を成す方へ向かって歩き始めた。
……後を付けられてないだろうな。
635KNOCK DOWN!10/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:58:20 ID:sgzgI+wt
 一応、雇われデートと言えども、それなりにファンタスティックな乗り物に揺られ
る事を楽しんだり、ゴーカートでちっとも速度の出ない運転に文句を言ってみた
り、コーヒーカップを回し過ぎないように、けれどもスリリングさは失わない程度に
回し捲り、絶叫系に乗るか否かで揉めてみたりする。
遊園地に罪は無いし、チケットは俺持ちなのだから、つまらなそうにしているのは
損だ。普段の憂さ晴らしに持って来いだな、遊園地は。
 そして今日のデートの名目のためにも高いものでも食わせて、弁当の礼に変え
よう。
「何が食いたい?」
入り口で受け取ったパンフを捲りながら、俺の候補を幾つかに絞っていると、いつ
の間にか彼女が視界の端から消えていた。
振り返ると、数メートル後ろで立ち止まっている。
何やら複雑そうな表情を見せ、俺に向かって自分のバッグを突き出した。
「……お弁当、作ってきました」
暫く、ぽかんとすることしかできなかった。

「だいたい、弁当の礼に誘ったのに矛盾してないか?」
空いているテーブルと椅子を探し出し、せめてもと思い買って来たお茶のペット
ボトルを渡した。
まあ、食費代は浮いて嬉しいけど。
「しているのかも知れませんが、私にとって今日はリベンジの2回目です」
「何の?」
「木曜日に手痛い指摘をいただいたので……」
「……ああ、あれか」
確かに俺は、好き嫌いが分からないなら最初は無難なものを作ってくるべき
だったのかもな、と初日分の感想を述べたが、取るに足らない重箱の隅しか
突付けない、注目を浴びたが為の悔し紛れの一言で、その後すぐに、食べられ
ない物は無かったけど、と付け足した。
636KNOCK DOWN!11/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 03:59:33 ID:sgzgI+wt
「どうぞ、召し上がってください」
並べられたのはサンドイッチ各種と鶏の唐揚げ、卵焼き、ウインナーと庶民的な
おかずがお目見えしていた。
「じゃあ、いただきます」
用意されていたおしぼりで手を拭いてから、まず目に付いたチーズとハムとレタス
のサンドイッチを取って、口にした。
チーズはいつも食べているようなスライスチーズではなく、何かの粒が入っていて
チーズ本体が口の中で融けていく。俺には粒の正体が、全く以って分からない。
続いて唐揚げも摘んで咀嚼する。
柔らかい鶏だこと。味付けも絶妙だ。弁当の時から思っていたが、良いもの食っ
てるよな。
「……それともう一つ、理由があるんです」
俺がライ麦パンにスモークサーモンとチーズのサンドイッチを手に取った辺りで、
黙って俺が食べるのを見ていた彼女は、懺悔でもするような声色で呟いた。
「好きな人と一緒にお弁当をいただくのが夢だったんです。…子供っぽい我儘で
誘っていただいた理由を台無しにしてしまってすみません。軽蔑なさっても結構
です」
プラスチックの白い天板を見ながら、深刻に、思い詰めた感じに言うものだから、
何というべきなのか数瞬悩んだ。
「……別に、これくらいの事で」
「――ありがとうございます……!あの、味はいかがでしょう?」
これくらいの事で、泣きそうになるなよ。
「美味いよ、普通に」
637KNOCK DOWN!12/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 04:00:51 ID:sgzgI+wt
 和やかに時が過ぎるこの状況が自分の琴線に触れたとは思いたくないのだ
が、今日のデートがここで良かったと思い始めていた……のは、時期尚早だろう
か。
普通ならカップルで乗る定番の観覧車に彼女が乗りたいと言うのにも、素直に
了承してしまった。
まあ、食後だし、丁度いい。
ある程度並び、順番が来て乗り込むと、観覧車はガコン、と一度大きく揺れて
空へと上り出した。
「やっぱりウォーターフォールは、乗るべきだろ」
「絶対駄目です!」
何度目かのやりとりなため、きっぱりと言い切られて、段々と同じ目線の高さに
なっていくウォーターフォールを眺めた。目の前で悲鳴が筒の中に吸い込まれて
いく。
「あの、藤沼くん」
ぼんやりと悲鳴が上がるのを見ていると、まんじりと座っていた彼女から息苦し
そうな声で呼ばれた。
まさかの酸欠?
「何?」
「そちらへ行っても宜しいですか?」
あーあー。そんなにぎゅっと握ったらスカートが皺になるぞ。
「ん。ああ、どうぞ」
失礼します、と直立不動に立ち上がり、俺の脇へ移り座った――彼女の脇を
擦れ違って、今し方彼女が座っていた方へと移動した。
箱内が、不快に感じない程度に揺れていた。
638KNOCK DOWN!13/13 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 04:02:10 ID:sgzgI+wt
呆然とした表情が面白い。
「……どうしてそちらへ移動されたんですか?」
「え、場所を交代しようって意味じゃないのか?ほら、見える景色も違うだろうし」
飽くまでも真面目腐った顔で言ったつもりだったが、彼女はにやけ具合を感じ
取ったらしい。
「違います!隣、宜しいですか!」
彼女は返事も待たず、跳ねるようにして立ち上がった。
 その時、ガクンと大きく観覧車が揺れ、足を取られた彼女が俺に向かって倒れ
込んで来た。

(つづく)
639 ◆lIRqqqQOnU :2007/04/03(火) 04:04:45 ID:sgzgI+wt
一旦終わりです
640名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 07:52:17 ID:/znVVOuz
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | アパム!アパム!GJ!GJ持ってこい!アパーーーム!
       \_____  ________________
                ∨
                      / ̄ ̄ \ ヒトイナイ
      /\     _. /  ̄ ̄\  |_____.|     / ̄\
     /| ̄ ̄|\/_ ヽ |____ |∩(・∀・;||┘  | ̄ ̄| ̄ ̄|
   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|  (´д`; ||┘ _ユ_II___ | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|( ” つつ[三≡_[----─゚   ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
  / ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄| ⌒\⌒\  ||  / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
 / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄] \_)_)..||| | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄
              ̄ ̄        /|\
641名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 18:05:38 ID:C/ERVgM2
久しぶりに投下来てる!!
GJ!!
642名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 22:46:43 ID:6npI0ZF0
GJ!GJ!GJ!!!!!
激しく乙!!!もうこないとか疑ってすまん、
投下きてうれしいよw
643名無しさん@ピンキー:2007/04/04(水) 10:58:16 ID:tsojAV1L
また、いいとこで切りますねw
GJでした!!
644名無しさん@ピンキー:2007/04/06(金) 00:34:57 ID:PUw/CSw0
>>639
今頃読みました
読みやすくて面白い!
続き待ってます
645名無しさん@ピンキー:2007/04/10(火) 19:13:05 ID:Qt2amEtR
hosyu
646名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 16:38:09 ID:f+UUymdB
保守
647名無しさん@ピンキー:2007/04/18(水) 02:43:38 ID:J8zki2yL
>>639
今更ながらGJ
648名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 06:37:17 ID:d4CVlp0P
保守がてら朝から短編投下
エロなしの3レス短編です
6491/3:2007/04/20(金) 06:39:28 ID:d4CVlp0P
「ねぇ、悠治君」
日本の首都、東京…から少し離れた比較的小さな町、俺の住んでるアパート一室、折りたたみのベッドの上で俺は彼女に腕枕そしていた。
彼氏彼女の営みをした後の心地よい疲労感に浸ってると、中学の時から付き合ってる俺の彼女
それまでボーっとしていた由里が突然話しかけてきた。
「ん?」
この場合顔だけでも由里のほうに向けて聞いてやるのが本当なんだろうけど
どうも俺のキャラには合わない気がするので、顔を向けずに話を聞く
由里は俺の方に体を向けて言葉を続けた。
「死ぬまでに一度やってみたいことって、なに?」
突然のわけの分からない質問に、一瞬ポカンとしそうになるが、これはいつものことだ
この前なんか「人が生まれてくる意味って何なのかな?」と哲学的な質問をしてきた
とりあえず思考を切り替えて質問に対する質問をしておく、あまり良くないんだろうけど……
「ひとつだけ?」
「別にひとつだけじゃなくていいんだけど、何か無い?」
死ぬまでにやってみたいこと、そんなのあるに決まってるじゃないか!
「あるよ、二つ」
「どんなこと?」
由里が興味深そうに尋ねてくる。
「ひとつは完全犯罪」
実を言うとこれはあまり本気じゃない、あいにく犯罪に手を染めようとは思わないからだ。
何より青い制服のお兄さん方に連行される恐れがある、と言うのがいやだ
「へぇ、もうひとつは?」
「終電が出た後の線路を歩いてみたい」
これは本気、小さいころからの夢、月の出た真夜中に線路の上を歩いてみたい
ただ、この後に「由里と一緒にな」と付け加えないのも俺のキャラと違う気がするからだ
言うべきなんだろうけど……
6502/3:2007/04/20(金) 06:41:49 ID:d4CVlp0P
「なにそれ、変なの」
由里はクスクスと笑っている。人の夢を笑うとはなんと無礼な!
「そういう由里はどうなんだよ」
少しむっとなりながら由里に聞いてみる
「結婚してみたい」
即答ですか。しかも小学生みたいな回答
「ありきたりだな」
思ったままを口にする
「そうだねぇ」
と少し笑いながらうなずく由里、なんだか悔しくなってくる俺
自分でも理由が分からない、ただ、なんとなく悔しくなったので
「もっとほかに無いのか?」
言った後でちょっと言い方が強かったかもしれないと思った
「ほかに?」
ありがたいことに由里は俺の心配を完全にスルーしてくれた
「世界征服とか、政治改革とか、もっとでっかいことだよ」
俺の言葉を聴いて「う〜ん……」と考え込む由里
「……あっ」
何か思いついたのか体を俺の方に向けていた体を俺にくっつけてくる
こいつは自分が今何も身に着けてないと言うことを忘れているのか?
そんなことされると、やっと収まった息子がまた暴れだすことになりかねない、がここは冷静に
「何かあったか?」
俺も顔だけ由里のほうに向けて由里の言葉の続きを聞く
「線路を歩いてみたいなぁ、雄二君と一緒に」
「っ!!」
6513/3:2007/04/20(金) 06:44:33 ID:d4CVlp0P
俺が「キャラじゃないから」と言わなかったことをなんの躊躇もなく、当たり前の顔で言ってきた
「そ、そんなことしたら、青い制服のお兄さんに怒られるぞ!」
今、俺の顔は赤く染まってることだろう、部屋が暗いのがありがたい
「そのときは一緒だね」
うれしそうな顔で恥ずかしいことを言ってくれる
さらに自分の顔が熱くなるのがわかる
由里がそんな俺を見つめてくる
なんか泣きそうになってきた、もちろん悲しいからじゃない
泣きそうになってるを見られたくなくて俺は天井に顔を向けた
「あれぇ?泣いてるの〜?」
ニヤニヤしながら体を起こし、俺の顔を横から覗き込んでくる由里、由里に背を向ける俺
「泣いてない!断じて泣いてないぞ!!」
とりあえず泣いてないと言っておく、これは一応本当のこと
「ふ〜ん」
ニヤニヤしながら由里がさらに覗き込んでくる
「こっち見るなよ、ちょっとむこう向いてろ」
由里に背を向けたまま、さらに顔を隠す俺
自分で言うのもあれだけど、これはもう、ばればれである
「はいはい」
由里はフッと笑って起こしていた体をベッドに寝かせた
くそっ!こいつはいつもこうだ、いつも俺の考えてることを読み取って俺を辱める
でもそんな由里を好きな俺は、きっと世界で一番の幸せものなんだと思うんだ
652名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 06:47:45 ID:d4CVlp0P
以上です
一時間ぐらいで書き上げたものなんで、誤字脱字があるかもしれないのは許してください
実はこの短編はある歌の歌詞をもとにして書きました
もし分かったらニヤニヤしといてください
653名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 20:58:39 ID:7mxfluot
(・∀・)ニヤニヤ
654名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 10:40:56 ID:QYPnmezO
(・∀・)ホノボノ
655名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 18:56:29 ID:WUauw920
ニタニタ

余談だけど、5月号のドキッ!っていうエロ本に掲載されてる
「キラーマシン」って作品が最強に純愛で泣けた
656名無しさん@ピンキー:2007/04/21(土) 19:21:37 ID:vQPkRZdg
>>655
概略をkwsk
657名無しさん@ピンキー:2007/04/24(火) 14:48:57 ID:/7sb8dbv
それを>>655がSS化すればいいんじゃないか!
スレを活性化させる為にも
658名無しさん@ピンキー:2007/04/28(土) 06:38:48 ID:ljkK2kPF
アゲ
659名無しさん@ピンキー:2007/05/02(水) 02:44:04 ID:z2bGn2MX
あげ
660名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 15:09:24 ID:d69sAwJ0
この過疎っぷりは……

どうやら人肌脱ぐしかないようだな
661名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 03:06:00 ID:vwNQYhft
脱いじゃえ脱いじゃえ!!
wktkして待ってるよ
662名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 09:43:35 ID:lpmsktJh
そろそろcatの続きがあってもいいはず
663名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 14:34:21 ID:BL4pqv/u
そしてCan't Stopを待ち続ける俺
664名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 19:39:45 ID:vP5hfiYs
同感だぜ兄妹たちよ
665名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 05:49:46 ID:0BbvtGS5
みんな書いてくれ!
この過疎をぶち破ってくれーー!!
age
666名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 12:51:29 ID:zkEiWXLg
「俺もこのスレに通いつめて2年半か……」
「どうしたの、急に?」
「当時は、萌えか陵辱しかないエロパロ板かと思ってたから、
 純愛スレは衝撃だったなぁ」
「……」
「投下される数こそは少ないけど、その純愛っぷりには感動したっけ
 その頃から住民もあんまり居なかったけど」
「……何が言いたいのよ」
「で、そろそろ次の作品が投下されてもいい頃だと思うんだけど
 未完の大作もたくさんあるし」
「でも、折角投下しても全然反応ないじゃない
 住民も居ないし、他の職人さんも他のスレに移っちゃったよ
 もう疲れた……」
「それはすまないと思ってる
 けどね、君も賞賛が欲しいだけで投下してるんじゃないだろ?」
「……それでも、こんな過疎スレに投下するのはイヤ
 投下するなら、もっと賑わってるスレに投下したい
 その方が皆が喜んでくれるし」
「…じゃあ俺の正直な気持ちを言うよ」


「このスレの住民の為だけに書いて欲しい
 感想も賑わってるスレよりもずっと少ないけど
 それでも書いて欲しい」
「……」
「絶対に純愛スレの皆も喜んでくれる」
「…何で」
「ん?」
「何で『俺だけの為に書いてくれ』って言えないのよ!」
「ごめんな、自己中みたいに思われたくなかったら」
「そんなことでキライになる訳ないじゃない!
 付き合い長いんだから、もうちょっと信用してよぉ……グス」
「待たせちゃってごめんな
 でももうそんなことはしないよ」
「グス……うん…」
「じゃあ……筆を進めようか」
「うん……
 あ、あと他のスレに浮気したら承知しないんだからね」
「大丈夫、君だけを見てるから」
「グス……バカなんだから」
667名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 12:52:02 ID:zkEiWXLg
とりあえずこれで飢えを凌いで下さい
668名無しさん@ピンキー:2007/05/05(土) 17:01:55 ID:Vr0ThVTy
職人さん…帰ってきてくれたらいいな…(ノ_・。)
669名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:05:52 ID:cv3kct4z
ヤベ…初めて萌えた…


職人さん、お願いage
670名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:35:20 ID:T2TdVolg
足りない・・・
もっと純愛を職人さんお願い!
671名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 00:42:51 ID:q1XIrnjJ
>>666すげー惚れた。
お願いしますかいてください
672名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 01:12:22 ID:RPI12iSM
>>667
いい仕事だ。
けど、ごめん。
「じゃあ……筆を進めようか」 で吹いたw
673660=666:2007/05/06(日) 07:26:19 ID:qgRCGRB0
ちょwww
適当に書いて、この反応www

ここの住民飢え杉
674名無しさん@ピンキー:2007/05/06(日) 10:34:20 ID:WcwqjOgI
空腹は最高の調味料ってやつだな
自信喪失気味の職人にはもってこいのスレかも
675名無しさん@ピンキー:2007/05/08(火) 01:54:35 ID:CDsgb6jz
今の住民はケルベロス並に飢えてるから投下してくれると非常に嬉しい。
age
676終わりの始まり:2007/05/08(火) 02:06:04 ID:An4KHchY
「どんだけ横長なんだよ静岡!」僕はイラついていた。新幹線で東京から直ぐに箱根を越え、静岡さえ抜ければ…名古屋に着くはずなのに…大人げなく静岡に当たってしまっていた。

「ならのぞみにすればよかったじゃない。」姉さんにそう言われた。スーツ姿とゆる巻きが行き交う名古屋駅のホームで、僕は窘められた。でも、やっと声が聴けた。どうしてもその声が聞きたかった。

姉さんと知り合ったのは大叔母さんが僕に紹介したからだ。関東と愛知の距離を埋めるのは、それしかなかった。

車で大叔母の家へ向かった。その中で姉さんは一方的に話していた。学校相手の営業のストレス。そして何時もの話。「パパは大学なんて行かないで料理学校行けとか!お前が男だったらとか!息子を野球選手にしたかったとか…ヒドくない?私は私でしょう?」

彼女のプライドを傷つけるには十分だった。実際に彼女は学業優勝だった。だけども、彼女の父が欲しかったのは、教材問屋を次ぐ息子だった。叶えられない期待を押しつけられ続けていた。

その不安を愛を押し付ける事で隠そうとしていた。でも、僕はそれでも構わなかった。姉さんが好きだった。
677終わりの始まり。:2007/05/08(火) 02:15:49 ID:An4KHchY
大叔母の家で、私達はエビフライを食べていた。ホワイトソースをかけるスペシャルなエビフライ。でも、心は宙に浮いていた。

「やはり数学は全ての基礎です。論理的思考が英語や理科の基礎です。それに社会の様な暗記科目でも論理性…」数学教師の大叔母に営業トークをする姉さんに、僕の姿が見えているとは思えなかった。

「でも格好いいよな。姉さん。確実に壺ついてる。」そこには洗剤で米を研ぎ
678すみません途中で送信してしまいました。:2007/05/08(火) 02:23:07 ID:An4KHchY
終わりの始まり

猫を洗濯機で洗おうとする様な姉さんは居なかった。どれも姉さんだけど、やっぱり姉さんは素敵な女性であって欲しかった。今日の姉さんは理想的だった。

空が支配者がオレンジから紺に変わり、僕たちはお暇する事にした。

姉さんがキーレスエントリーを操作して洗面所に向かった後、「宜しくお願いね。」大叔母は言った。
679終わりの始まり。:2007/05/08(火) 02:48:47 ID:An4KHchY
微笑みながら、しかし決然とした声に、言葉の重みを感じざるを得なかった。僕は交差点の前に居たのだ。

大叔母に別れを告げて、姉さんの車に乗った。やっと独り占め出来たような気分になって、姉さんを見つめていた。

長い素直な髪の毛。長いまつげと、切れ長の瞳。整った鼻筋に薄い唇。白い肌を引き立たせる役者が揃っていた。

身長だって高いし、脚も綺麗だ。でも僕は胸ばかり見てしまっていた。肥満体の僕は、自分より大きな胸を見るのが始めてだった。姉さんが特別なのを感じさせずには居られなかった。

「えへへ〜。私たーくんよりおっきくてよかったぁ。だって男に求められない女なんてつまらないもんね。」

「……」

「なぁにたーくん。」

「姉さんってさらっと凄いこと言うよね。」

「ひど〜い。たーくんの方がスゴいじゃん。」

取りあえず引き下がったほうが良さそうだ。僕は口に鍵を書けた。そのとき、姉さんの切れ長の瞳が少し開いた様な気がした。

「たーくん。いいよね。行っちゃお。」

「うん。」鍵は簡単にあいてしまった。車はホテルの駐車場に吸い込まれた。
680終わりの始まり:2007/05/08(火) 03:15:01 ID:An4KHchY
シャワールームで僕は先に汗を流していた。汗の匂いが、道のりの長さを思い知らせた。

その間、姉さんはスポーツドリンクを作っていた。「そこまで姉さんにならなくても良いのに…」姉さんに言った。

「私の事ちゃんと遥花って呼んでくれたらやめてあげる!」

「は…ハル…」恥ずかしかった。もっと恥ずかしい事をしたのに。

「まだ早いわね〜」。笑顔で却下された。

「早くないよ!僕だってもう成人したし。」右手が、姉さんの右肩に触れていた。そして、その右手を導いて少しずつ淡い青の下着を外していった。

「たーくんちょっと待っていて。」姉さんが指で準備を始めていた。姉さんは絶対に自分でやった。「私の方がお姉さんなんだから、自分でして当然でしょう。」20歳と23歳の間の壁は果てしなく高いのだろうか…

姉さんが1人でしているので、僕もそうしようとした。でもいきなり白くはかない指で掴まれてしまった。

「姉さん…口に含むには汚いんじゃ…」

「たーくん!そんなもの入れようとしてるの?」

姉さんに任す事にした。実際、姉さんの口は暖かくてホンワカしていた。すっかり大きくなった僕は。

「姉さん…」「良いよ…」初めて主導権を手にした。
681終わりの始まり:2007/05/08(火) 03:42:02 ID:An4KHchY
姉さんの脚を開いて、入れてしまった。ゆっくりと進んだ。姉さんの微かに動く表情を見てみたかった。

「たーくん…頑張ってね。」少しずつ早くしてみた。本当は少しも離れたくないけど、腰を引いてまた突き出した。姉さんはそれを受け入れてくれた。

暖たかで柔らかくて優しくて、でも寂しがり屋な壁に包まれて僕は幸せだった。

でもその幸せを知っている男が居た。姉さんの心に僕の届かないスペースがあるのを、認めたくはなかった。

繋がったまま、姉さんを抱えて、姉さんを乗せて座ったまま向き合った。こうすれば、姉さんと同じ視線になる。

「ビックリした〜」

「ごめんね。」

「何も言わないんだもん。でも…コレがたーくんの世界なのね。」

嬉しかった。姉さんが最初の女性だった。僕が2mが服を着て歩いてるのではないと分かろうとした、最初の女性だった。

だから、嬉しくて、独占したくて、僕はピッチを上げた。

「m…ハッ…たーくん…」姉さんも気持ちよさそうだった。そんな姉さんを見て、僕は終わりを意識し始めた。

「ウフッ…たーくん頑張ったね…アッ…ねぇ…頂戴…良いよね…」僕はラッシュをかけ始めた。壁を引き剥がしてまた押し込んで、そうしながら我慢することなく盛大に解き放った。白いシーツに陰影ができて、そるが淫靡だった。

「たーくん!今日頑張ったね。スゴい気持ちよかった。」

「姉さんだから頑張ったんだよ〜!」

「…あんまりお姉さんを困らすんじゃありません!」

でも僕の左手を掴む感触は、さっきより確かなものになった。

スレ汚しすみませんでした。
682紫幽 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:24:08 ID:LHVfWPB/
どうも紫幽です。ここでオリジナルエロなし長編SSを投下したいと思います。
“do”([du:]訳:する。行う。行動する。) 第1話。
内容的にエロがあると期待しがちですが、
全くエロなしなので、無駄に興奮したりせずマターリと見守っていて下さい。
683紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:25:14 ID:LHVfWPB/
 こんな私でも反抗期と言うものは確かにありました。
 まあ、言葉通り親の言う事に逆らって、自分のやりたい事をやりまくって、自由に言いたい放題を過ごした日々もありました。
 しかし、反抗期も過ぎ、改めて省みてみると、瞬時に赤面するほど、すごく恥ずかしい思い出だったと自分でも思います。
 もう、その内のたった一つだけ挙げられるのも、泣き喚いて制止の許しを請うほどに。多分、この時に私は小心者だと言う自覚が芽生えたに違いありません。
 そして、私が物心ついた時からの少し理解できなかった親の言葉をよく思い出します。
「雪。あなたはいずれ、この厳しい世の中を生き抜いて行くのよ。その為には、一つの物事を狭い視野で見てはダメよ。それでは、すぐに足元掬われて挫折してしまうわ。
だから、一つの物事を多方面から、最大限に広い視野で見るのよ。そうすれば、あなたはどれだけ厳しい世の中でも生き残って行けるわ」
 随分と長ったらしかったが、不思議と頭には残っていました。
 そう教える時の、普段のありふれた笑顔が印象的だった母親の、意外にも真剣な眼差しに圧倒された為かもしれない。
 何かこれは自分に科せられた命題のような感じがして、ならなかった。
 これは人生の攻略法なのか。それともどっかの宗教の考え方なのか。はたまたどっかの偉人の名言なのか。
 幼少期で、反抗することを覚える前までは、それで、友達たくさんできる?好きな人できる?お嫁さんになれる?とか、訊いた覚えがあった気がします。
 それに対し、母親の「ええ、あなたの夢が叶うわよ」と、にっこり笑った顔も忘れられませんでした。
 それでも、その頃の私は自分の中で何一つ不確定のままでした。
 物事をあらゆる角度から、最大限に視野を広めて、多方面から見る。
 仮に私がこの言葉を母親のせめてものの愛だと受け止めたとしても、いろいろ疑問符がポコポコと湧いて出てきます。
 いくら真剣な眼差しが印象的だろうと、不明確な教えに素直に従順できるほど、私はそこまで未熟じゃないです。
 最大限に視野を広めると言う事は、人間ができるあらゆる行動をたくさん考えなければなりません。
 お母さん。私は一つの行動をやっとのこと考えられる、どこにでもいる人間です。
 そんな私がしかも物心ついたばっかりで、たくさんの行動を考えられるような器用な人間になれるのですか?
「大丈夫よ」
 ・・・・・この一言で片付けられてしまい、私にはもう、これしかないように思えました。

 彼女の名前は瀬奈川雪(せながわ ゆき)。陽民(ひ たみ)高校2年生。至って普通の女の子であり、このラヴストーリーの主役でもある。
 外見は小学生と言っても、納得できるほどの体格と童顔。髪は川のように流れるほどに整い、腰のところまである。
 チャームポイントはチワワのようにクリクリとした潤いに満ちた輝かしき目に、泣きボクロ。まあ、第三者からの最初の印象は『美少女』と表せる風貌である。
 彼女はさっき述べた通りの成り立ちで、性格も前述通り。
 親からの教えにより、物事を多方面に捉える事だけ覚えた彼女はこれから訪れる恋をどう受け止めるのか・・・。
684紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:25:45 ID:LHVfWPB/
 親からの教えは私にとってやはり困難を極めていました。
 一つの物事に対し、私はあらゆる限りの行動全てを頭の中の風呂敷を一度全部広げて、その中からその物事に合う行動を選ぶ。
 まるでRPGの世界のようだった。いや、RPGでもまだ著せていない選択肢さえも実はあるんじゃないのか。それは何なのか。まるで宝探しのようでした。
 成功したものと言えば、片手の指数程度のものであり、失敗したものを数えたらキリがなく当然のように途中で諦めるでしょう。
 その中には、それだけしかない選択肢に、無理矢理視野を広くして、また別の行動要素を選択してしまう、灯台下暗し的な失敗も多々してきました。
 その位私は失敗を犯し、周りの目は徐々に優しくないものに変化していきました。それは私にとって、一人RPGに没頭している異世界の住人と同じくらいの立場でした。
 私だって人間だから、そういった偏見は嫌だったし苦しかった。特に、人間として見てもらえなくなった事とか。
 母親だってそんな私を見て、無関係みたいに黙っているわけはなく、
「あなたはまだ不器用だから、そんな失敗なんていっぱいして当然なの。いっぱいしなさい。そして苦しくなったら、泣いてもいいの。
私に文句を言ってもいいわ。いくらでも文句を言いなさい。いつか報われるまで、それまでいくらでも失敗してね」
 と、さっきまで泣き喚いてありったけの文句をぶちまけていた私に、ありがたい言葉を授けたのです。
 どうして?私がそう言うと、「私はあなたに教えた言葉に自信を持っているからよ。あなたに嘘を教えても、あなたの為にはならないからよ。だから、雪も自信を持ちなさい」
 と、私は母親のたった一つの愛娘である私に対する愛情を感じ、その日は晩御飯まで泣き続けていた覚えはありました。
 そうだ、私には母親がいる。お母さんがいる。お母さんがいる限り、私はいくらでも失敗しようと。その晩の就寝時に堅く胸に刻み込みました。

 親からの愛は雪にとって、最初はただ頭の淵にあったもの。次に雪の生活の習慣として。現在では、雪自身のスタイルと化していた。
 国語の時間では、中学生ほどの背丈ぐらいしかない女教師の有川先生に、「この文面、瀬奈川さん。あなたはどう思いますか?」
 との問いかけに雪は教科書とにらめっこしながら起立し、「有川先生。もう少しヒントを下さい。それさえあれば答えられるはずです」と素で返してきたのだ。
 教師人生の中で、生徒からだんまりか、「いや、ちょっと分かりません・・・」ぐらいしか返答を聞かなかった有川先生は、少し面食らった後に、
冷静に文面の意味を読み取り、雪に答えてくれる期待を持ち、助言を与えてようやく雪自身も納得できる答えを出したのだ。
 昼食では、食堂にてカレーを食べるつもりの雪は、先日ににんじんいっぱいのカレーを食べて、しばらく口の中に甘さが残っていた。
 たまたま雪の後ろを通り、覗いてきた友人たちは「こんなににんじんいっぱいで、馬かよ!」と雪をからかっていたところ、
 大抵は「もう、そんなんじゃないってば。冗談よしてよ」と返すだろうけど、雪の場合は「ねえ、カレー食べる馬っているのかな?」だった。
 友人はそう言った彼女の奇想天外な発言にもう慣れてしまったのか、「あはははは、雪って相変わらず面白ーい!」と雪のいる席の辺り一辺が、笑いの渦に包まれていた。
 雪もつられて笑っていたが、物事を多方面から見た結果なのか、満更本気の質問だったようだ。
 今度はじゃがいものでんぷんを口いっぱいにしたいと言う衝動から、「カレーください。じゃがいもいっぱいで」とおばちゃんに頼んだのだ。
 少し苦笑いしながら「カレー。じゃがいもいっぱいでね」と厨房に向かった。
 そして、いつもより水をおかわりしたのだった。雪のスタイルは時折危なっかしいものでもあった。
 こうして他諸々とそんな調子が続いて、雪の染み付いてしまったスタイルにより、周りは思わず「おお〜」と呟くほど驚かされ、雪は陽民高校の一躍有名人となった。
 しかし雪はいつも通りのどこか飄々とした印象を漂わせていた。
 周りの空気に流されない。雪は広大な風呂敷の中のこの選択を選んでいたに違いない。
685紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:26:16 ID:LHVfWPB/
 何でもない、洗濯日和の快晴である、いつも通りの日常。ちょっと騒ぎがあって、次の日くらいには思い出の一枚となっている、そんな日でした。
 先週、友人たちが何気ない話題の中に、自分たちの学校の側にある、自動車専門学校の向かい側に、ゲームセンターができたのことでしたので、
下校中で、久しぶりの道草程度にそこに寄ってみる事にしました。
 私が歩いている右隣の柵に囲まれた、専門学校の建築構造上、強風が右隣からいたずらに吹いてくる。この程度なら気にはなりません。
 しかし、意識していなかったからか、その自動車の必要以上にうるさいエンジン音の連続と大量に排出される二酸化炭素や光化学スモッグやらの煙が次第に癇に障っていき、
やがて私はゲームセンターはこれ一回きりにしようと決意しました。
 そして、やはり開業して一週間である、色鮮やかな塗装が施された少し派手なゲームセンター、『カンケリ』に足を運びました。
 店内は開業記念の余韻が輝かしく残っていました。
 それっぽい垂れ幕やら、無料おやつサービスやら、入り口に待ち構えていた店員たちの笑顔の歓迎やら。
 私は無意識にその余韻の波に流されていきました。風呂敷を広げる暇を作らせないように。空笑いするしかありませんでした。
 ちなみに、ここでは各種ゲームから出される音が混じっててプレイに支障が出るとの不満を避ける為、いくつかの人達がヘッドホンを装着している。
 ヘッドホンはレンタルできますが料金が発生するそうです。
 そして、色々なアーケードゲームを覗いてきまして、私はこの後の展開として自分もプレイしようと決めました。
 しかも、特に私と同世代みたいな人たちが集中しているアーケードゲームに、何気なく目が釘付けになっていました。
 他の人もやるんだろうなあと、ぼんやり眺めていると、人だかりが解散したように集中してた所を離れ始めていきました。
 はて?と思いつつも、とにかく1P用の隣にある2P用の席が空いたので、そこに向かいました。
 1P用の席に人がいましたが、赤の他人だけど対戦してみようと決めたのです。
686紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:27:28 ID:LHVfWPB/
 赤、赤、緑、緑、黄、赤、青、緑、白、白、緑、赤、黄、青、青・・・ちっ、くそ!ううう〜〜、うっ、くっ・・・あああ!!
 この五種類の軽快のいいリズムの大雨が、俺の集中力を次第に削っていく。
 おかしい。
 俺は確か進路希望の三者面談で先公や親からの冷たい視線を浴びて、10分間退場してーと思いながら椅子に座ると言うストレスが溜まって、その解消にとパッドを叩いているんだよ。
 なのに、更にイライラが募るばかりだ。たかがゲームなのは分かってんだよ。なのにただ見てるだけの後ろのギャラリーの何か期待外れみたいな視線を感じるんだよ。
 文句を言いたい衝動に駆られるのだが、もしそうなったとして「あんた何言ってんの?俺らはただ見てただけだよ。変な被害妄想するな、ボケ」と言われるのがオチに過ぎない。
 ああくそ、ああくそ、ああくそ、ああくそ・・・・・。
 などと一人頭の中で愚痴をぶつぶつ呟き、気付いた時には目の前の画面が『ゲームオーバー』とかっこよく表示されている。
 後ろががやがや騒がしい。気配で俺から遠のいていくのが分かる。画面のゲームオーバーも「ヘタクソ、とっとと立ち去れ。おととい来やがれ」と言ってるようで。
 やかましい。言われなくても、立ち去ってやるよ!!
 ・・・とぶつけるように画面を誰しもがビビるように睨み付け、席を外した時に、街角でぶつかりそうになるシチュエイションのように、一人の少女と出会ってしまった。
 ふん。別にこんな女一人にどうと言うわけじゃない。俺は構わず身をかわして帰ろうとするが、突然彼女から声をかけてきたのだ。
「あの、一緒にやりませんか?」
「・・・は?」
 見知らない少女が俺に誘いをかける事は、俺が今まで生きてきた人生の中で、初めての経験だったので、反射的にツッコんだ。
「この、えーと、『アールビー・メゾフォルテ』を」
 パッドのリズムゲームとは思っていたが、そんな名前だったとは知らんかったわ・・・じゃなくて。
「何言ってんだよ。やるなら、一人でやってろ。俺は帰る」
「そうですか。ごめんなさい・・・」
 やめろ。お互い名前も知らないくせに、そんな残念そうな顔するな。俺が悪者みてえじゃねえか。
 もうこれ以上関わろうと言う気などないので、考えるのはやめて、少女に目を背けた。
 しかし、赤の他人とは言え、こんな必要以上にこの少女をよくよく眺めていると結構可愛い・・・しかも声もこの少女と釣り合うほどに癒される・・・。
 て!アホか!別にその気ねえのにバカか俺は!こんな事口にしたら、周りから何気なく「うわ、あいつロリコンだよ〜」という冷ややかな視線に突き刺される展開じゃねえか!
 とは言ったものの、まさかストレスのはけ口として選んだこのゲーセンで少女に声をかけられる事は、この一日で三者面談よりもかなり印象的な出来事だった。
 しばらく距離をとって振り返ると、一人背を向けたまま少女はリズムゲームに浸っていた。
 ・・・にしても下手だなあ、この女。合わさった時に叩くんだよ。落ちてもいないところばっか叩いたって意味ないじゃん。
 時々「ふえ〜ん」なんて涙声が聞こえて来るんだが、似合いすぎてついつい口元が緩んじまうじゃん。
 ・・・あ、ゲームオーバー。ハッ、ザマァねえな。あ、100円入れてる。まだやんのかよ、リズム感ないんだから諦めろって。バカだなあ。
 ・・・目の前でせかせかと興奮しながら動いて、モグラ叩きじゃねえのに手当たり次第にパッドを叩き付けまくる、一人の小柄な少女を眺めて、ニヤケている自分。
 ・・・泣きたくなった。恥ずかしさで。自分でイライラを募らせていってる事が分かる。
 誰でもいいからすれ違いざまに「このロリコンが」と蔑んでくれ。て言うかもう殺してくれ。殺せええーーー!!それでもニヤケている顔を思わず両手で覆い隠した。
 帰るには、あまりにもイライラが募って爆発しそうなくらい、出来心だと理由をつけて、この場で暴れ回りたい気分だったので、
少しでも緩和しようと2Fにあるビデオゲームコーナーへと続く階段を上り、引き戸が大して音もなく開いて、中に入った。
687紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:28:04 ID:LHVfWPB/
 う〜ん、さっき鋭い眼光を放ったような?男の人、ちょっと虫の居所が悪かったのかな?
 見ず知らずの他人と対戦なんて普通だと思ったんだけど、ついつい自分から誘うようなマネはやっぱりマズかったかな。また失敗しちゃった。
 それにしても、この『アールビー・メゾフォルテ』は奥が深いですね。これはリズムゲームだと最初から意識してなければ秒殺される類の物と見ました。
 思えばさっき、難易度が選べたんだよ。最初から普通が選択されていて、弾みで選んでしまったから、つい、ふえ〜んなんて嗚咽を漏らす結果になってしまいました。
 その事に気付くまで、私はこれをモグラ叩きをしているみたいに興奮していたので、少し硬貨を無駄遣いしてしまった事で凹んでしまいました。後悔先に立たず。
 でもただでは起きない。何回かのプレイでこのゲームの概要は把握できました。
 上枠から一定のスピードで降って来る光るチップのようなものの色に応じて、チップが下端に引かれているラインに合わさる時間を計算し、即座に隙なくパッドを叩く。
 パソコンのキーボードと同じ要領で、この五色のチップとパッドの位置は、丁度私の頭の中に会得しました。
 あとは、プレイしてパッドを叩くタイミングの計算を調整する。これで下隅にあるスコアは少しは回復するでしょう。
 結果としてはあと一歩という所でした。やっぱり私のスタイルをもってしても、単なる付け焼刃だったという事でしょう。
 でも大体それなりにはなったと満足している自分もいました。自分のスタイルで進歩している嬉しさは誰に言われなくても、よく分かっているから。
 ・・・いい初体験をした私は、このままここからオサラバするのもよかったのだが、もう一つだけ、初めて見るけど、気になった格闘ゲームの事を思い出しました。
 いそいそと、手際よく2Fへの階段を登り、ビデオゲームコーナーに入ったのです。

 ここのビデオゲームコーナーも同様、いくつかの人達がヘッドホンを装着している。
 お、私の気になった格闘ゲームに、先客がいるようです。対戦用席は空いていましたので、早速硬貨を投入した。『挑戦者現る!』の表示演出が何気にかっこいい。
 私が画面を通して出会ったエントリーキャラは、誰も彼も個性的をこれでもかというぐらいに爆発させていました。
 主人公らしい男性キャラは思わず溜息を漏らすほど。女性キャラも私くらいの世代に似ている少女がいて好感触でした。
 さて、どのキャラを使おうか。よし、私と同世代っぽいこの元気いっぱいな少女を使おう。
 画面の隅に貼られているキャラクター技表を見て、そんなに難しい操作ではないみたいですね。
 思ったより早く始まった試合に、私のキャラがかなり隙だらけだった。相手の体つきの良い男性がその隙を逃さず、飛び蹴りを食らい、軽々と吹っ飛ばされてしまったのです。
「きゃあ!」と可愛らしい悲鳴を上げながらも、私が慌てて受け身を取る操作を記したステッカーをちらちら見ながら操作を行うと、平気で軽い身のこなしで受け身を取り、立ち上がります。
 さすがエントリーキャラと言った所ですか。私は少女のあまりの見事な受け身の取り方に、自分がそう操作してた事を忘れそうでした。
 それでも、相手の男は攻めを止めず、少女に向かって突進してきたのだ。男が攻撃を仕掛けようとする寸前に、私は緊急回避の操作を行いました。
「おっと!」と少女は体を丸めながら、男の出す衝撃波みたいなものをするりとかわした。そして、ここから反射的に攻撃態勢に入ります。
 少女はしゃがみこんだまま「やあっ!」とキックを繰り出し、男のふくらはぎ部分に当たり、足元をすくわれたらしく、無様にその場で転倒したのです。
 その時の私は自然とにんまり微笑んでいました。これが、ビギナーズ・ラックというものでしょうか。
 どうやらこの第一試合は、私のちらちら技表を見ながらの操作で、勢いでの超必発動まで繰り出した少女の意外な活躍に、相手が面食らった事で、少女・ユキに軍配が上がりました。
 ユキは勝利シーンにて、「サービスカットはお預けだよ〜」とここぞとばかりに、私と同世代ながらも、規制寸前の色気をアピールして、第二試合を迎えました・・・・・。
 結果としては言わずもがな、相手が見事な起死回生を果たし、私の操作が相手の動きに追い付いて行けずに、負けたと言う訳です。さらばユキ、せめて安らかに眠ってね。
「・・・ったくよ、誰だよ。最初のやつ、面食らっちま・・・」
 私の向こうから鼻声が聞こえてきまして、その主がにょっきりと顔を出したのです。
688紫幽 “do” 第1話。 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:28:56 ID:LHVfWPB/
「て、お前・・・!!」
 それは1Fで『アールビー・メゾフォルテ』をやっていて、私が対戦を誘った人でした。
「あれ?ああ、あなただったんですか。帰ったのかと」
 何となく再会を果たした私は鞄を取り出し、学生証をずいっと彼に見せたのです。
「俺の勝手・・・て、お前何やって!」
 出会い頭の先手攻撃で怯んだ彼の顔は非常にマヌケでした。
「これ、私の名前です」
「何だよ・・・ん?せな、かわゆき・・・?」
 あれ?何か変な区切りをしてる気がする、この人・・・。
「ゆき、です」
 「陽民高校って、あそこのかよ・・・」
 彼は、私の通う学校を知ってるらしく、参ったなぁと言う風に頭を掻いている。
「はい。あなたは?」
「俺ぁ、鹿暮(か ぐれ)高校の林澄(はやしずみ)けん、うわっ!」
「へえ、林澄ケンさんて言うんですね」
「て、てめえ逆ナンかよ!いい度胸してるなあ・・・」
 あれ?そう言われてみれば、これ逆ナンだなあとポカーンと納得していました。
「いえ、ここに来るのも最初で最後なもので、ふと対戦してみたいなあと思っただけです」
「・・・謙太郎(けんたろう)だ」
 去り際にそう呟くと、そそくさと出口に向かっていった。私は頭を掻く彼の背中を無意味に目で追っていました。
 そして、財布の中身を確かめてみようと思いましたが、一瞬思い直し、ただのうろ覚えで800円ぐらいは遣ったと一人納得していました。
 ・・・多分、これがファースト・インプレッションに違いありませんでした。そして、私の中に眠っていた未知なる感情が目を覚ますのは、それから後になってからの話なのです。


 第2話に続く。
689紫幽 ◆DRjiztTAKg :2007/05/12(土) 12:32:16 ID:LHVfWPB/
以上です。まだ自分の中で完結はしておりませんが、必ず終わらせる所存です。
次の投下までしばし時間がかかりますけど、その時もマターリと見守っていてください。
では、これにて失礼致しました。
690名無しさん@ピンキー:2007/05/13(日) 05:25:12 ID:7+Uo2K1c
新作GJ!
真面目な様で意外に柔らかそうだな〜
続き期待してる。
ついでアゲ
691名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 00:05:34 ID:F+oY2UGr
二つもSSが投下されたのに気が付かなかった……
両者ともにGJ、あんまり見ない作風だ
692名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 02:35:52 ID:760VHSHH
二人の職人にGJ!!!
過疎ってる時に二つの名作が投下されたよ。これから少しずつ活気が戻る事をキボン。


最後に一言。
二人ともに超GJ!
693名無しさん@ピンキー:2007/05/18(金) 00:06:22 ID:LyU+KTmD
694名無しさん@ピンキー:2007/05/21(月) 03:03:08 ID:h7azsM9c
続きこないかな〜
age
695終わりの始まり:2007/05/22(火) 00:25:29 ID:Xp0QrDA6
スポーツドリンクで満たされたコップを、唇に近づける。唇に触れさせたいのは、本当は違うものだけど、夜はまだ長いから、スポーツドリンクを飲むことにした。

胃が収縮しないように、敢えてあまり冷やしていない。僕が彼女にそう言ったのは、草野球で言った一度きりだったが、ちゃんと覚えている。

それが、大事にしようという気持ちを走らせてくれる。

飲み終えて、視線を下げると、姉さんの大きな胸が見える。手を覆い被せる。ただ、指かゆっくりと沈んでいく。それだけの事なのに、僕の全てを受け入れてくれた気分になる。

姉さんが、「柔らかいでしょう。」と微笑む。何も言えなくなる。それ以上に恥ずかしい事をしてきたのに。

押し倒す。ちょっとした復讐。彼女には敵う訳がないけど。でも姉さんは微笑んでいる。

「だって必死なんだもの。そんなに私としたいんだなって。」決まってる。姉さんだから。大好きだから。

「大好きだから。」と僕は言った。「今日は素直なのね。」と姉さんが返す。「何時も素直だよ。」
696終わりの始まり。:2007/05/22(火) 00:48:29 ID:Xp0QrDA6
正常位はあまりしたくない。自分が肥満体な事くらい知ってる。だからあまり速い動きをしなかった。

「これだとね、たーくんが必死な顔してるのがよく分かるんだよ。」そんなに余裕が無いのか…そもそも僕の余裕をうばっているのは姉さんじゃないか!

と思っても、ピッチが確実に上がっている。僕の支配者は姉さん、あなたです。

「んっ…」鼻にかかった声が洩れる。汗で煌めいた顔。姉さんの切長の目が少しだけ開いた気がする。鼻が微かに上がる。本気になるとそうなるんだよ。知ってる?

終わりに向けてラッシュをかける。弾ける鼓動。彼女もそうなってないかな。僕はかなり必死になっている。姉さんからは「ん〜んっ…。」と言う声しか聴こえて来ない。それでも必死になって打ち込む。姉さんの為に必死になっているのだ。

「あっ…」姉さんが言う。僕は発射しているのにも気付かず打ち込んでいる。

まだ出来るのかな…。僕は思う。だけど、姉さんは「まだ出来るよね。」と言う。結局、出るものが泡になるまで絞られたのは僕だった。でもまだいいのかな。お見合いの時は21回だったし…。

僕は蟻地獄にはまった蟻だ。だけど、優しさで出来た蟻地獄ならば、それでいい。そこには姉さんがいる。
697終わりの始まり。:2007/05/22(火) 01:07:32 ID:Xp0QrDA6
僕は車の中にいる。そこでノートパソコンのキーボードを叩く。ミッテランのフランスのレポートを書き上げなければならない。

保革共存"cohabitation"かたい言葉のはずなのに、「(恋人同士の)同棲。」と言う意味が一人歩きする。バックミラーには、獲物をみつけた姉さんの顔が写る。ヤバイ。

「コアビタシオンって同棲って意味なんだよね〜。」僕は赤信号を恨んでいる。姉さんは僕の右手を強く握っている。

犬山城に到着する。小さいけど国宝だ。現存する天守閣はやはり気品と風格が漂っている。

全てをみるのにあまり時間がかからなかったが、歴史を感じるのには十分だ。
698名無しさん@ピンキー:2007/05/29(火) 10:24:04 ID:EMXEubDj
ho
699名無しさん@ピンキー:2007/06/04(月) 05:35:53 ID:9149DABJ
しゅ
700名無しさん@ピンキー:2007/06/10(日) 00:24:35 ID:8FTFQvSd
保守
701名無しさん@ピンキー:2007/06/11(月) 23:30:10 ID:BJ4njSUo
保守
702左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 00:43:00 ID:NuGwK0Fb
投下します。プロローグのようなものです。
703左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 00:43:55 ID:NuGwK0Fb
 膝の上に手を置いて、右手の薬指を持ち上げてみる。
 1cmだけは浮くけれど、それ以上は上がらない。
 きっと、薬指はあまり持ち上がらないようになっているのだろう。
 調べたことがないから、詳しくはわからないけれど。

 もう一度、今度は左手の薬指を持ち上げてみる。
 右手と同じぐらいしか上がらないけれど、こちらは少し違う。
 軽く、とても小さな指輪だけど、指にはまっているだけで重たく感じてしまう。
 結婚指輪の代わりに買った安物の指輪だけど、込められた想いは同じものだ。

 僕は今年、昔から仲の良かった女性と婚約をした。
 彼女は、大学に通うために1人暮らしをはじめた僕を気遣って、同棲してくれた。
 同棲とは言っても、最初はそんなに甘いものではなかった。
 喧嘩はするし、お互いの趣味はぶつかるし、2人とも部屋の掃除はしなかった。
 けれど、長く一緒に住むうちに、お互いの距離感や譲り合いの心を思い出していった。

 そして僕は、彼女――あおいと結ばれた。

 僕とあおいは、幼稚園に入る前から仲が良かった。
 お互いの家は近所で、両家の親の仲もいい。
 自然と、僕とあおいは一緒にいることが当たり前になっていった。
 しかし、僕があおいと一緒にいようとしなかった時期が、一時期だけある。
 それは僕が高校2年生になったときのこと。僕に初めての彼女ができたのだ。
 当時を思い出すと、僕は舞い上がっていた、と思う。
 あおいと一緒にいるときは、恋人の話ばかりをしていた。
 恋人ができた。恋人と一緒に映画館へ行った。恋人と初めて手を繋いだ。
 他愛もないことから、言いにくいことまで。僕はあおいに全てを話していた。

 当然のように、あおいは僕を避けるようになった。
 今思うと、なんとひどいことをしていたのだろうか。
 あおいは言った。
「あの頃のあんたが無事でいられたのは、あたしのおかげ。
 あんたがあの子の話するたびにどれだけいらついていたか、知ってる?」
 この言葉だけでも、自分の馬鹿さ加減を思い知ることができた。

 初めてできた恋人との別れは、なんともあっけないものだった。
 親の引越し。それも海外への移住だった。
 僕も彼女も別れたくはなかったから、日本に残れるように色々とやった。
 しかし、現実はドラマのようにはいかず、彼女は海外へと引っ越していった。
 僕は家にこもり、学校へ行かず、布団から這い出さず、部屋に鍵をかけて閉じこもった。
 いっそのこと、死んでしまおうか、とまで考えた。

 部屋に閉じこもる僕を引っ張り出したのは、あおいだった。
 その後で、あおいは何も言わず、何もせずに立ち去った。
 僕はあおいが去った後で、立ち上がった。立ち上がると、不思議なことに寝ようとは思えなくなった。
 それだけで、僕は立ち直った。もう彼女のことは諦めよう。そう思えた。
704左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 00:45:24 ID:NuGwK0Fb
 恋人のことを忘れて高校に通うようになった僕は、大学を受験して合格し、卒業した。
 それが今年の3月のこと。今はもう8月後半。思い返すとあっという間だ。
 あくまで、思い返せばの話だ。あおいと過ごした数ヶ月は実に濃い日々だった。

 今、僕は両親が住む実家へついたところだ。
 移動手段はバイク。あおいは連れてきていない。
 あおいはバイクの後ろに乗るのが嫌いだ。
 バイクが嫌いなわけではなく、単に運転する方が好きなのだ。
 車であっても、バイクであってもあおいは運転することを好む。
 なんとも彼女らしいことだ、と思う。

 僕が実家に帰ってきた理由は、両親と、あおいの両親に結婚の挨拶をするためだ。
 とはいえ、あまり緊張はしない。既にあおいから連絡がいっているからだ。
 あおいが言うには、両親は大歓迎とのこと。おそらくうちもそうだろう。
 両親も僕とあおいのような関係だったらしいし、両親もあおいを気に入っている。
 これほど緊張感のない結婚の挨拶は、意味があるのだろうか。
 わざわざスーツをバッグに入れて持ってきた僕が馬鹿みたいだ。

 実家には誰もおらず、車もない。おそらく仕事にでかけているのだろう。
 家の前に建つアパート前のベンチに座り、日陰に入る。
 空は真っ青だった。雲の存在をあえて排除した絵画のように青一色だった。
 聞こえてくるツクツクボーシの泣き声は甲高く、一定のリズムを刻んでいる。
 他のセミの鳴き声は思い出せないのに、ツクツクボーシたちの声だけは耳に残る。
 きっと、僕は不快なものだと思っていないのだろう。
 夏が終わる合図、ということで特別扱いしているのかもしれない。

 不意に、喉が渇いた。
 そういえばバイクで出発してから3時間、僕はなにも口にしていない。
 立ち上がって、自動販売機を探しにいこうとしたら、後ろから声をかけられた。
「あの……なおき、君?」
 名前を呼ばれたので、振り返る。
 後ろに立っていたのはブラウスとジーンズを着た女性だった。
 はて、この人は誰だろう。この近辺で僕の名前を知っている人はたくさんいるけど、
僕と同年代の女性はあおい以外にはいないはずだ。
 そのあおいも僕の後を追って、今頃はバスの中にいるはず。
 だとすると、この人は?

「覚えてないのかな? ほら、私だよ、私」
 そう言って、女性は長い髪を手で掴み、ポニーテールの形にした。
 途端、僕の思考を風がかすめた。落ち着きをなくした考えが一箇所にまとまっていく。
 覚えている。覚えているけど……なぜ今頃僕の前に姿を現したんだ?

「なおき君が帰ってくるのを、ずっと待ってたんだ。このアパートで。
 だって、今どこに住んでいるのかわからないんだもん」
 それはそうだ。海外に行った彼女に、僕は連絡をしていない。
 だって、連絡先を交換する前に彼女は僕の前からいなくなったから。

 懐かしさと、少しの後ろめたさと一緒に愛しさが湧いてくる。
 高校時代に付き合っていた女性、みのるに対して。
705左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 00:48:12 ID:NuGwK0Fb
今日はこれで終了です。
少しばかり異常な行動が見られるかもしれませんが、純愛っぽく終わらせてみます。
706名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 09:37:07 ID:U2dKdLKM
>702
楽しみなイントロですね。続きヨロシコ〜
707名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 21:59:27 ID:sIqXcAYY
凄い期待できそうなんだけど
これはとんでもない修羅場になりそうな悪寒・・・
708名無しさん@ピンキー:2007/06/12(火) 22:01:39 ID:VaWmgzGq
設定が君のぞみたいに思えるのは俺だけでいい・・
709左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:17:02 ID:NuGwK0Fb
昨日の続きを投下します。
710左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:17:57 ID:NuGwK0Fb
「会いたかった。なおき君」
 みのるは近寄ってくると、僕を抱きしめた。
 軽くのしかかってきた体に押されて、僕は少しだけ後ろにさがった。
 柔らかな体の感触を服越しに感じられる。不快にならない程度の香水の匂いがした。
 みのるの肩を掴み、一度距離をとって話しかける。
「……みのる?」
「うん、私。なおき君の彼女の、みのる」
「……彼女?」
「そうでしょ?」

 ね、と言いながら首を横に倒すみのる。
 そういえばそうだった。僕はまだ、みのるに向けてはっきりと別れを告げたわけではなかった。
「でも、2年ぶりかあ。ほんと長かった」
「……あのさ、みのる。そのことについてなんだけど」
「まあまあ、つもる話もここじゃなんだから、私の部屋へ行こう」
 みのるはくるりと後ろを向くと、僕の手を引いて歩き出した。
 僕は、みのるの手を振り払うことができなかった。
 自分が、みのるを一方的に捨ててしまっていた、ということに今さら気づいたのだ。
 彼女は、僕のことをずっと恋人だと思っていたのに。
711左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:20:06 ID:NuGwK0Fb
 みのるの部屋は、アパートの2階にあった。
 ドアは僕の家がある方角を向いていて、庭の様子がよくわかった。
 部屋の中は外とは違い、クーラーのおかげで涼しかった。
 みのるは僕を畳とテーブルのある部屋に招くと、何も言わずに台所へ向かった。
 僕は部屋に入って立ったままでいるのもおかしいと思い、胡坐をかいた。
 部屋の中を、目と首を少し動かして観察する。
 ベッド、テーブル、ペン立てが乗った机、立て鏡、壁にかけてある時計、
それ以外の雑多なものが自己主張しないようにして置かれてあった。
 窓の外にはベランダがあった。物干し竿にかけてある洗濯物は、風に煽られてかすかに揺れていた。

 みのるは台所から戻ってくると、小さなテーブルの上にウーロン茶を置いた。
 隣に座ったみのるがウーロン茶を飲んだので、僕もそれにならった。
 テーブルの上にコップを置いたところで、みのるから話しかけられた。
「なおき君は、今何をしてるの?」
「ここから離れたところに住んでる。大学に通ってるんだ」
「ふーん……何を勉強してるの?」
「物理の勉強をしてる」
「そうなんだ」

 みのるは僕から目を離すと、ウーロン茶を飲んだ。
 今度は僕の方から質問をしてみる。
「みのるは、海外に行ったんじゃなかったのか? どうして日本に?」
「どうしてって、そんなの決まってるでしょ。なおき君に会うために。
 ……というのは冗談。両親の出張が終わったから帰ってきたの」
「じゃあ、どうしてこのアパートに1人で暮らしてるんだ。ご両親と一緒に住めば楽なのに」
「それはさっきも言ったでしょ。……なおき君を待ってたの、ここで」

 みのるは僕に近寄ると、肩に頭を乗せた。
「会いたかった。イギリスに行っても、ずっとなおき君のことを想っていたの、私。
 あのとき、引っ越すときに何も言わずに行ってしまってごめんなさい。
 せめて連絡先だけでも教えていればよかった。そうすれば手紙だけでもやりとりができたのに」
「……僕は、あの……」
「ただで許してもらおうとは思ってないよ。私のこと、好きにしていいから……」
 そう言うと、僕に顔を寄せてくる。
 みのるの目は閉ざされていて、唇は軽く結ばれていた。
712左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:21:14 ID:NuGwK0Fb
 その行動の意図を悟ったとき、僕はみのるの肩を掴んで動きを止めていた。
「どうしたの、なおき君」
「……実は、僕には恋人がいるんだ」
「え?」
「婚約まで、してるんだ。……もう」
 左手をみのるに見せる。
 みのるは僕の左手を掴むと、薬指にはめた指輪を凝視した。
「嘘でしょ、そんなのって……」
 僕は沈黙をもってみのるに応えた。
 罪悪感のせいで息が重くなって、胃がちくちくする。
 みのるは僕のことをずっと想っていてくれたというのに、僕はそれを裏切った。
 純粋な彼女を傷つけてしまったということを、はっきりと理解できた。

 みのるは僕の手を離すと、下を向いて問いかけてきた。
「相手は、誰なの?」
「……あおい」
「幼馴染のあの女の子?」
「うん」
「そうなんだ……あの子が……」
 みのるはそれっきり黙りこんでしまった。
 窓と玄関を閉ざした部屋に、クーラーから噴き出す風の音だけが響く。
 あれだけ甲高いセミの声は、どこかへ行ってしまったかのように思えた。
 僕は下を向いて、罵声、もしくは張り手を浴びせられるのを待った。
 けれども、みのるは黙り込んだままで、何かしてくる気配はなかった。

 気まずくなった僕は、みのるに声をかけようとして顔を上げた。
「ごめん。僕はもう、みのると付き合うことはできない」
「嫌」
「……え」
「嫌だよ……別れるなんて。ずっと会える日を待っていたのに。私、別れようなんて言ったかな?」
 僕はゆっくりと2回、頭を振った。
「言っていないでしょう? じゃあ、まだ別れていないよね、私達」
「みのる、何を言って――」
「まだ別れない。まだ別れたりなんか、しないから」
 みのるは俯いて、僕に表情を悟らせようとしなかった。
 泣いているのか、泣いていないのか、僕にはわからない。
 みのるの声ははっきりとしたものではあったけど、嗚咽が混じっていなかったから。
713左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:23:25 ID:NuGwK0Fb
 みのるに背中を押されて、僕は部屋の外へ追い出された。
 重そうな鉄製の扉から鍵をかけるような軽い音がした。
 ため息をついてから、アパートの階段を降りる。
 一段降りていくたびに、気温が高くなっていくような気がした。

 アパートを出て自宅へ向かうと、玄関の前にバッグを置いて、
腰に手を当ててまっすぐに立つあおいが見えた。
 僕が近寄ると、あおいの愛嬌を振りまこうとしない眼差しが向けられた。
 整った顔立ちをしているのだから、もっと穏やかな瞳をしていればいいのに、と思う。
 せめて、僕だけにでもいいから愛嬌を振りまいて欲しい。
「あおい、なんで僕の家に来てるんだ? 自分の家に帰ればいいのに」
「出張」
「出張? って、誰が?」
「お父さんが出張に出かけてて、お母さんはそれについて行った」
「お前、合鍵とか持っていないのか?」
「玄関の鍵をついこの間変えたばかりらしくてね。あいにく持っていないのよ」
「ということは……どうなるんだ?」

 あおいはため息を吐きながら大き目のバッグを肩に担いだ。
「2日もすれば帰ってくるらしいから、それまではあんたの家に泊まらせてもらうわ。
 別にいいでしょ? 昔からやっていることだし」
「うん、まあ別にいいんだけど……」
 僕は路地を挟んで向かいに建つアパートの2階、みのるの部屋を見上げた。
 あんな会話をした手前、なんとなく気まずく感じてしまう。
「どうかした?」
「いや、なんでもないよ」

 家の裏手に回り、倉庫から合鍵を取り出す。
 玄関の鍵を開けると、数ヶ月ぶりの我が家の玄関を拝むことができた。
「お邪魔します」
 一礼してから、あおいが玄関に入ってきた。
 あおいにしては珍しく、緊張しているようだった。
「なんで、人の顔を見て笑ってんの?」
「いや……あおいも緊張することがあるんだな、って思ってさ」
「……別に緊張しているわけじゃないわ」
 あおいはそう言い残すと靴を脱ぎ、居間の方へ向かっていった。

 僕はバイクに積んだ荷物をおろすため、もう一度外へ出た。
 右手を眉の上につけて、空を見る。
 容赦なく照りつける日光は、かなり低い位置にまで下りていた。
714左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/12(火) 23:24:46 ID:NuGwK0Fb
今回はこれで終了です。
シーンごとに投下を分けていますので、分割投下になります。
ご了承ください。
715名無しさん@ピンキー:2007/06/13(水) 00:23:50 ID:q72WpwTt
保守
716名無しさん@ピンキー:2007/06/13(水) 17:54:39 ID:4bJJdQ4W
先が気になる作品。
取り合えず大人しく待ってます。
717左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:17:46 ID:Ir96pFdS
先日の続きを投下します。
718左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:19:06 ID:Ir96pFdS
 なぜ僕が今、実家の居間で両親を目の前にして正座しているのか。
 これから両親に向けて、僕に関する重大なことを話すためだ。
 しかし、父の笑いをこらえたような顔と、母の嬉しそうな顔を前にすると真剣さが薄れてくる。
 首を左に曲げて、僕と同じように正座しているあおいを見る。
 黒のショートヘアがまっすぐに伸びているのと同様に、目は泳ぐことなく両親の方を見ている。
 いつもと違う眼差しは、誠実さを物語ろうとしているようだった。
 あおいはこの部屋にいる人間の中では一番緊張感のある顔つきをしていた。
 その顔の真似をする気分で真剣な顔を作り、父親の顔に向けて言う。

「父さん、母さん。僕はあおいと結婚したい。結婚の許可をください」
「お義父さん、お義母さん。必ず幸せにします。なおき君を私にください」
 打ち合わせをしたわけでもないのに、僕たち2人は一緒に頭を下げた。
 僕はあおいの言葉に多少の違和感を感じたが、何も言わないことにした。
「頭を上げなさい、2人とも」
 母の言葉を聞いて、顔を上げる。
 父は目を閉ざし、上下の唇を固く結び、小刻みに肩を震わせていた。

「あー、うぅん! ……なおき。本当にあおいちゃんを幸せにできるんだな?」
 と、笑いの色を混ぜ込んだような声で父が言った。
 僕は声を出さず、頷くことで応えた。
「あおいちゃん、本当に後悔しないかい? こんな頭の緩そうな息子と結婚しても」
「絶対に後悔しません。私にとって、なおき君は初めて一緒にいてもいいと思えた人ですから」
 きっぱりと言い放たれたあおいの言葉。
 両親は顔を見合わせると、同時に首を縦に振った。
「よしわかった。結婚を許そう。二人とも、幸せになれよ」
「ありがとう」
 と僕が言うと、あおいが口を開いた。
「ありがとうございます! ……本当にありがとうございます!」
 あおいは大きな声で喋りながら、何度も頭を下げていた。

 その後で、母親が大量の料理を居間のテーブルの上に並べた。
 手首から肘ぐらいまでの直径をした大皿には、揚げ物と揚げ物を囲むようにしてレタスが乗っていた。
 大皿の上の料理と、揚げ物以外の料理を食べ終わるころには、時刻は夜の8時になっていた。
 食後のお茶を飲みながら、4人で会話をした。

「実を言うとな、2人が結婚の挨拶をしにくるっていうことは知っていたんだ。
 2日前にあおいちゃんの両親から電話があって、結婚の話と出張に行くという話を聞かされたよ」
 父の言葉を聞いて、僕はやっぱりな、と思った。
「でも嬉しかったわ。2人が一緒になってくれて。これで孫の顔を拝めることは決まったようなものね」
 母は両手で湯飲みを持ちながら言った。

 あおいは積極的に口を開こうとはしなかった。
 もじもじと体を動かしながらテーブルの上に乗った湯飲みをじっと見つめていた。
719左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:20:37 ID:Ir96pFdS
 10時になったころ、両親はいつもより早めに寝ると言って部屋へ入っていった。
 なんとなく気になったので理由を聞いてみたところ、
「それは、2人の邪魔をしたくないからに決まってるだろう」
「なおき。励むのはいいけど、計画的にするのよ。じゃないと後悔することになるから」
 両親が何を言いたいのかは、すぐにわかった。
 私達は早めに寝るからゆっくりと2人の時間を過ごしなさい、ということだ。
 同じ屋根の下に両親がいるのに、そんなことできるはずがない。
 思ったことは口にせず、僕は両親に「おやすみ」と言った。

 あおいは今夜に限らず、この家に泊まる間はずっと僕の部屋で寝ることになった。
 押入れの中から取り出した布団を2つ並べる。僕とあおいの分だ。
 電気を消し、布団にもぐってから、僕はあおいに話しかけた。

「あおい、今日はいつもより大人しくなかったか?」
「当たり前でしょ。いくら知り合いって言っても、結婚の挨拶は緊張するものよ」
「そんなものかな……」
「言っておくけど、あんたもちゃんとうちの両親に挨拶するのよ。あたしが言ったのと同じように」
「あおいさんを僕にください、って?」
「全く同じじゃ駄目。少しはひねりなさい」
「……考えておくよ」
 ひねりを加えろと言われても、どうすればいいのだろう。
 英語に翻訳してから再翻訳すればいい台詞ができるだろうか?

「なおき、向かいのアパートに行って何をしてたの?」
「あ、あー……」
 正直にみのると会っていた、と言うべきか?
 あおいはまだみのるのことを覚えているだろう。
 高校時代のあおいはみのるのことを快く思ってはいなかった。
 それは僕が原因でもあるのだが。
「正直に言った方が、身のためよ。あたしに嘘が通じると思う?」
 あおいが、僕のいる布団に入ってきた。
 僕の部屋にはカーテンがないので、月明かりは部屋に入り込む。
 月明かりのおかげで、あおいの目が僕をはっきりと捉えていることがわかった。

「みのるに会った」
「……海外に行った、なおきの昔の彼女? なんで向かいのアパートに住んでるのよ」
「僕に会いたかったから、って言ってた」
「なにそれ……あの子、まだあんたのこと諦めてなかったの?」
 僕は、みのるが別れ際に言った言葉を思い出しながら、頷いた。

「で、あんたはあの子に対してなんて言ったの? まさか、よりを戻そうとか言ったりしてないわよね」
「言うわけないだろ。……はっきりと断ったさ。君とはもう付き合えないって」
「そう、それならいいんだけど」
 あおいは安堵したのか、ため息を吐き出した。
 いや、昔の記憶を思い出してため息が出たのかもしれない。
 けど、あおいの表情からは考えを読み取れない。
 僕の考えはあおいにはお見通しなのに、これではフェアではないような気もする。
720左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:21:48 ID:Ir96pFdS
「目、閉じなさい」
「へ?」
「いいから!」
 強制的にあおいの手によって視界を遮られた。
 僕が驚いているうちに、あおいはもう片方の手で僕の頭を掴んで、僕にキスをした。
 かなりの早業だったが、あおいは僕の唇を的確に捉えていた。
 目隠しをされたまま、僕はキスをされ続けた。
 時々、あおいは唇を強く押し付けてきた。
 そして息が続かなくなると、一度離れて息を吸い、また僕にキスをする。
 いつもキスするとき、あおいはあまり積極的に動かない。僕の動きを受け入れてじっとしている。
 けれど、今日は立場が入れ代わったようにあおいの方から積極的に僕の唇を奪っている。

 あおいは僕の体の上にきても、顔を近づけたまま離さない。
「なおきの恋人はあたしだけ。わかってる?」
「もちろん、わかってるよ。でも心配しなくても僕はあおいと別れたりなんか……」
「黙りなさい」
 言葉を遮られて、再びあおいに唇を奪われる。
 たっぷりと僕の口内を舌で嘗め回してから、あおいは僕から顔を離した。
「あの子には、渡さないから……」

 あおいは僕のパジャマのボタンをを外すと、舌で舐めてきた。
「あおい、ちょっと……くすぐったいって」
「んん? ……んん……ぁ……」
 僕の声は届いていないのか、あおいは体を舐めることをやめようとしない。
 いつまで経っても止みそうにないので、僕からあおいを脱がすことにした。
 重なった体の間に手を入れて、パジャマのボタンを外し直接肌に触れる。
 あおいの体はすでに汗をかいていた。

「ちょっと……くすぐったいよ」
「おあいこだろ」
「あ、ちょっと……そこは……」
 あおいは下着をつけておらず、肌を直接さらしていた。
 乳首を弄る僕の指から逃れようとして、あおいは体を起こす。
 あおいの腰を抱き寄せて、下から乳房を揉む。
 手のひらで隠れそうなあおいの胸は、僕の指に挟まれて形を変える。
「ぁ……そんな強くしちゃ……」
「こういうの、嫌か?」
「そうじゃなくて……恥ずかしいでしょ」
721左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:23:23 ID:Ir96pFdS
 あおいの腰に手を回して、パジャマの下に手をかける。
 あおいは一瞬体をこわばらせると、僕の手を掴んだ。
「……ねえ、目をつぶったまま、してくれない?」
「どうして?」
「だって……あたし、今……」
 あおいは腰を軽く浮かして僕から体を離した。
 パジャマの上から、あおいの秘所に手を当てる。
「んぁっ?! あ……そこ、は」
「もう濡れてるのか、あおい」
「あ、ちょ、っと……動かさないで……」
 軽く撫でているだけでも、あおいは敏感に反応する。
 僕が手を当てている箇所、あおいの秘部は湿り気を帯びていた。
 軽く指を曲げて、パジャマの上から押し上げる。
「ぅあっ! ……馬鹿! ……そんなことしたら、声がでちゃうでしょ」
「いいだろ、もう親も寝てるって……」
「――あんた、いい加減にしときなさい」

 あおいに指をつかまれた。そして、指を曲げたままの状態で強く握られる。
 手心を加えないあおいの握力が指の神経を圧迫する。
「いいっ! ……ちょっと、強すぎるって! それは!」
「これ以上やったら、途中でおあずけにするわよ」
「……ごめん」

 あおいは片足を浮かせてパジャマを脱ぎ、次いでショーツを片足だけ脱いだ。
 僕も手と足を使い、パジャマと下着を脱いだ。
 勃起したペニスにゴムをつけて、あおいを仰向けに倒して、両足を開く。
「もういれるの? いつもより早くない?」
「今日はこうしたいんだ」
 本当はもう少し前戯を重ねてからやりたいけど、あおいの様子を見ているとそうはできない。
 あおいはいつもより、ずっと興奮していた。
 掴んでいる足が小刻みに動いているところから、そのことがわかる。
「いいけど……あまり荒っぽくしないでね」
「うん、わかってる」
722左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:25:36 ID:Ir96pFdS
 あおいの濡れそぼった秘所に、亀頭を当てる。その動作だけでもあおいの呼吸は乱れた。
 少しずつあおいの中にいれていく。途切れ途切れに喘ぎ声をあげながら、あおいは僕を受け入れる。
 腰がくっつくと、あおいは小さなうめき声を上げた。
 口を閉ざしていたようだけど、くぐもった声は僕の耳にも届いた。
 腰を離し、折り返し突き上げる。いつもより濡れていたあおいの体は抵抗をしない。
 しかし、肉棒を離すまいと締め付ける力だけは、僕の動きに抗っていた。

 あおいは口を閉ざしていたけど、喉の奥から漏れる音だけは隠すことができなかったようだ。
 浅く数回突き、強く打ち付ける。そうするとあおいの声が漏れた。
「ん! ……ぁ……あぁ……ふっ……だ、め……」
 僕の耳には、あおいの声よりも腰がぶつかり合う音がよく聞こえた。
 次第に見えるものが狭まっていって、あおいの体しか意識できなくなった。
 僕の呼吸も、あおいの呼吸も、体のぶつかる音も遠くで聞こえる。
 快感が腰の動きを早める。射精の兆候があらわれた。
「あおい……出すよ……」
 口を閉ざしたままのあおいは、頭を何回か大きく振った。
 僕はひとつずつ、理性の枷を外していった。
 そして、あおいがより強く締め付けてきたところで、こらえていたもの全てを吐き出した。
 腰をくだかれそうな快感を味わいながら、僕はあおい体を抱きしめた。
 脱力したあおいは、僕の肩に手を乗せてキスをすると、頬ずりしてきた。
 お返しのつもりで、僕はあおいの頬にキスをした。
 
 
 身なりを整えて、2人で向かい合って話をする。
「あおい、明日どこか行きたい場所があるか?」
「そうね……特にないけど、ひさしぶりに帰ってきたんだからどこかに行きましょ」
「わかった」
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ、あおい」
 あおいは自分の布団に戻ると、僕に背中を向けてタオルケットを被った。

 セックスの後で僕から離れようとするのは、あおいの癖だ。
 前に理由を聞いたら、顔を背けながらこう言った。
「なんだか壁を壊しちゃいそうでね、こうしないとだめなのよ、あたし。
 別になおきを嫌っているとかそんなわけじゃないから、気にしないで」

 初めて結ばれたときも、あおいは同じ事を言っていた。
 それから何度体を重ねても、あおいは情事の後で僕に背を向ける。
 理由はわからないけれど、きっとあおいにとって大事なことなんだろう。
 僕は納得してから、頭の中であおいの体を一度抱きしめて、眠ることにした。
 一気に睡魔が押し寄せて、気持ちよく意識が抜け落ちた。
723左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/14(木) 23:26:26 ID:Ir96pFdS
今回はこれで終わりです。続きはまた後日、投下します。
724名無しさん@ピンキー:2007/06/15(金) 00:00:41 ID:KdsLqzH/
おおぅ、GJっす!!
725名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 08:00:08 ID:k8wSPNks
久々に来たら名作が!
超GJ!これでこのスレに来る意味が出来た!
726名無しさん@ピンキー:2007/06/17(日) 08:00:38 ID:k8wSPNks
アゲ忘れた。age
727左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/17(日) 23:53:42 ID:IRLWawJ2
前日の続きを投下します。投下……4回目です。
728左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/17(日) 23:56:25 ID:IRLWawJ2
 目が覚めたとき、隣の布団は片付けられていて、あおいはいなかった。
 部屋の時計で時刻を確認すると、8時になっていた。
 あおいはいつも7時前には起きているから、今日もいつもと同じように起きたのだろう。
 布団を畳み、部屋を出ると朝食の匂いがした。
 顔を洗ってうがいをして、台所にいくとあおいがいた。

「おはよ、なおき」
「おはよう。僕の分のご飯は?」
「自分で用意しなさい――じゃない。今から用意するからちょっと待ってなさい」
「うん」
 居間へいくと、母が朝の連続テレビドラマを見ているところだった。
 父はいない。8時前に会社へいくのは変わっていないようだ。
「遅いわよなおき。あおいちゃんは6時には起きてご飯を作る手伝いをしてくれたわよ」
 母は顔をテレビの画面から逸らさずに僕に言った。
「向こうでもあおいちゃんに迷惑ばかりかけているんじゃないの?」
「うーん。たぶん、お互い様だと思う」
「どんなところで?」
「まあ、色々と」

 僕と同棲しているアパートでも、あおいは早く起きる。そして朝ごはんを作ってくれる。
 僕が大学に行っている間、あおいはアルバイトへでかける。
 向こうでの生活が逼迫されていないのは、あおいのおかげだ。
 だが、あおいだけのおかげで僕がまともな生活を送れているわけではない。
 あおいにだって欠点がある。それは微妙な金銭感覚のズレだ。
 あおい1人で買い物に行かせると、間違いなく余計なものまで買ってくる。
 百円ショップにでかけたら食器やハンガーなど、すでにあるものまで買う。
 スーパーにでかけていつもより安い値段で売られているものがあったら買い込んだりする。
 浪費癖というほどひどいものではない。あおいは高価なものを好んで持とうとはしない。
 しかし、小額でも塵も積もれば山となるというやつで、バカにできるものでもない。
 だから買い物には僕が必ずついていくことにしている。
 持ちつ持たれつというやつだ。

 そんなことを考えていると、件のあおいがやってきた。
「お待たせ。……なに? 人の顔をじっと見て」
「いや、なにも」
 僕がそう言うと、あおいは台所の方へ戻っていった。
 今日の朝食はごはん、味噌汁、目玉焼きとキャベツとレタス。母の作る朝食と同じメニューだ。
 味噌汁から口につける。……ん?いつもより美味いな。
「その味噌汁ね、あおいちゃんが作ったのよ。料理上手よね」
「ああ、そうだね」
 母が見ていたからいつもより上手に作ったのだろうか。
 贅沢な要求だけど、毎朝これぐらい力を入れてくれたら嬉しい。
 でも何かおかしいな。あおいは点数稼ぎのためにこんなことをする人間じゃない。
 何かあったのだろうか。
729左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/17(日) 23:58:15 ID:IRLWawJ2
「じゃあ2人とも、留守番よろしくね。家を出るときはちゃんと鍵を閉めてね」
 テレビドラマが終了すると、母は席を立った。
 仕事にいくときに使うバッグを手に持つと、玄関へ向かっていった。
 しばらく足音が聞こえたが、足音が突然止まり、母の声がした。
「なおき。ちょっとこっちに来て。あおいちゃんは座ってていいわ」
「はい」
 母の言葉に頷いたあおいを残し、僕は母の後についていった。
 母は玄関を出たので、僕も一緒に外へ出る。
 朝の8時でも、太陽は残暑を記念したセールでもしているようにフル稼働していた。

 母は通勤用の軽自動車に乗り込むと、窓を開けた。
「なおき。言っておくことがあるわ」
「なに?」
「今度こそ2人きりだからって、無茶なことをしちゃだめよ。たまにはあおいちゃんを休ませてあげなさい」
「あー……ああ、わかってるって。今日は一緒にどこかでかけるから。
 あおいが行きたい場所に行ってゆっくりしようと思う」
「そういう意味じゃないんだけど……まあいいか。じゃあ行ってくるわね」
「うん」

 仕事へ出かけた母を見送ったあと、もう一度家の居間へ向かう。
 あおいがテレビを見ながらじっとしているところだった。
 いや、テレビというよりは漠然と空中を見ているかのようにも見えた。
 もしかしたら、母に気を使って疲れているのかもしれない。
 僕はコーヒーを2人分淹れてから、居間に戻り、あおいの前にコーヒーカップを置いた。
 コーヒーを飲みながら、新聞の折込チラシを見る。
 目が自然と結婚式場、家のモデルルーム、車、電器屋のチラシに目がいく。
 僕とあおいはいずれ結婚するから、そのことを意識するとなんとなく見てしまうのだ。

 僕はまだ大学生だから、結婚式を挙げるわけにはいかない。在学中に披露宴などもってのほかだ。
 せいぜい身内、両家の両親に挨拶を済ませて婚姻届を提出するくらいしかできない。
 あおいは婚姻届を役所に提出する必要すらない、と言っている。
 結婚の約束があるだけで充分らしいのだ。
 それならば親に挨拶をしに行かなくてもいいのではないだろうか。

 あおいは僕がさっきまで見ていた自動車のチラシを手にとった。
 テーブルに肘をつき、ぼんやりと眺めている。
「軽自動車。一番安そうなやつで……90万。新車は高いわよね。やっぱり中古車かしら」
「車買うつもりだったっけ?」
「いずれはね。今でもそれなりに貯金はしているし。でも不思議と貯まらないのよね。どうしてかしら」
 あおいはため息をついてから、コーヒーを飲んだ。
 僕もコーヒーを飲む。あおいのお金の使い方がおかしいとは言わないでおく。
「なおき、夏のアルバイトでいくら貯まったの?」
「えーと……5万くらいかな」
「あたしが今貯金している分と合わせても10万か。先は長いわ」
 僕はもう一度コーヒーを飲んだ。
 ……前途多難だ。
730左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/17(日) 23:59:13 ID:IRLWawJ2
 あおいはコーヒーを飲み干すと、僕のカップも一緒に持って立ち上がった。
「それじゃあ、出かけましょうか」
「どこに?」
「どこにって、なおきが昨日デートに誘ったんでしょ。どこに行くかまだ決めてないの?」
「どこかに行くっていってもな……たかが半年程度いなかっただけなのに、懐かしむものもないし」
「仕方ないわね。じゃあ、歩きながら考えましょ」
「うん、先に外に出ておくよ」

 玄関に座り、靴を履く。
 両足の靴紐を結び終えたところで顔を上げると、玄関の向こうに人がいるのがわかった。
 郵便か宅配業者か、と思って待ってみてもチャイムすら押さない。
 扉にくっついたり離れたりする姿だけが見える。

 待っていても埒が明かない。こちらから出迎えることにしよう。
 玄関を少しだけ開けて、相手を見る。
 相手を確認するだけの間を置いて、僕は固まった。
 訪ねてきたのはみのるだった。白のジャージードレスを着てハイヒールを履いている。
 みのるは僕の顔を見ると、にこやかに笑った。
「おはよ、なおき君!」
「ああ、おはよう……」
「元気ないね、どうかした?」
 どうかしているとも。なんでみのるがここに来ているんだ。
 よりによってあおいとでかけようとしている時に現れるなんて。
 あおいの準備が終わる前にみのるを帰さないとまずいことになりそうだ。

「みのる、今から出かけるから……悪いんだけど帰ってくれないか?」
「どこにいくの?」
 首を傾げて怪訝そうな顔をするみのる。
 僕が言うべき言葉を言う覚悟を決め、口を開いた。
「実は今から――」
「なおきは今からあたしと一緒にでかけるの。ごめんなさいね」

 振り向くと、あおいがそこに立っていた。
 申し訳なさそうに笑顔をつくり、みのるを見ている。
「ああ、確かあなたは……なおき君のお友達のあおいさんでしょ?」
「それは昔の関係。今はちょっと違うわね」
「え?」
「なおきとあたしは、恋人同士。婚約までしてあるわ」

 あおいはそう言うと左手を持ち上げた。薬指に嵌っているものを見せ付けるように。
 あおいの指輪を見て、みのるは表情を少し沈ませた。
「そうなんだ……」
「そ。だから悪いけど……」
「でも、私も恋人だよ。だって、まだ、別れていないから」
731左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/18(月) 00:00:36 ID:IRLWawJ2
 みのるの言葉を聞くと、あおいは玄関を開けてみのると対峙した。
 あおいは両手を組んで、少し背の高いみのるを見る。
 みのるは手を後ろに回したままにこやかにあおいを見返す。
 僕は2人の横に立った。いつ、どちらが動き出しても止められるように。
「あなた、自分で言っていること、理解してる?」
「もちろん。まるでストーカーみたいだよね」
「なおきからきっぱりと言われたでしょう。あなたとは付き合えないっていうことを。
 それなのにまだ別れていないと言い張る。あなたはなにがしたいの?」
「なおき君ともう一度付き合いたい。ただ、それだけ」
 みのるはそう言うと僕を見た。

「ねえなおき君。今からデートに行こう」
「デ、デート? いや……僕は今からあおいとデートに行こうとして……」
「じゃあ、それをキャンセルして私と行こう。私達、恋人だもの」
 みのるは僕の右腕を掴むと、体を寄せてきた。
 肩には柔らかいみのるの頬が押し付けられている。
 まずいって、この状態は。
 こんな姿を見たらあおいがなんて言うか……。

「ふうん、そう。譲るつもりはないわけね」
「はい」
「……わかったわ」
 え?
 あおいはそう言うと、目をつぶって首を2回振った。
 僕に対してアイコンタクトをしてくるわけでもなく、みのるに文句を言うわけでもなく。
 今すぐ暴力を振るおうとしないのはありがたいけど、どうにも不気味だ。
「なあ、あおい……」
「なおき、家に鍵をかけて」
「え……鍵?」
「デートに今から行くんでしょ。あたしとなおきの、ふたりだけで」

 あおいは僕の左手を握り、歩き出した。
 当然、僕はあおいに手を引かれるかたちで歩かされる。
 みのるは、あおいの反応に虚をつかれたのか、僕の右腕を離していた。
 もう一度僕の右腕を握ると、あおいは口を開いた。
「あおいさん、どういうつもり?」
「どうもこうもないわよ。あたしとなおきはデートに行くの。予定通りに動くだけよ」
「……私のことは気にならないの?」
「ついて来たいんなら勝手にすればいいわ。目的地がたまたま、同じなんでしょ?」
「へえ……」
732左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/18(月) 00:02:00 ID:IRLWawJ2
 みのるは僕と腕を絡めて歩調を合わせて歩き始めた。
 あおいのことなどまるで気にした素振りを見せず、僕に笑いかける。
「私、この町に戻ってきてからまだ日が浅いんだ。なおき君、案内してくれる?」
「え? えっと……」
 返事に困り、あおいの方を見る。
 あおいは僕の手を引きながら半歩前を歩いている。
 表情が普段と変わらない不機嫌さを保っているので怒っているかどうか分からない。
 ただ、あんなことがあったんだから怒っているのではないだろうか……いや、絶対に怒っているな。

「なおき、今いくら持ってる?」
「3000円ちょっとかな」
「じゃあ銀行に行かないとね。今日はなおきのお小遣いでおごりだし」
「な! なんでそんなことに……」
 あおいは立ち止まると、僕をじとりとした目で睨みつけた。
「文句、ある?」
「……いいえ、ありません」

 表情を変えずに、肩を少しだけ落とす。
 左手にあおい、右手にみのる。美少女2人に脇を固められた、いわゆる両手に華の状態。
 しかし、実際にはあまり心地いいものではない。
 路地ですれ違う主婦の視線が痛い。後ろからも誰かから見られている気がする。
 もしかしたら、自分が気づかないだけで女性と2人で歩いているときも同じ目を向けられているのかもしれない。
 歩きながら、意味も無くそんなことを思った。
733左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/18(月) 00:02:51 ID:IRLWawJ2
今回はここまでです。続きは後日投下します。
734名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 01:37:52 ID:4tbqGcJG
修羅場キタキタァ!!
超絶GJ!!これはなんかヤンデリズムに発展しそうな・・・
735名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 12:55:33 ID:xEu5N+Hy
純愛なのか?修羅場とか嫉妬とかヤンデレはごめんだぜ
736名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 14:44:36 ID:kJ9lfG6/
>>735
修羅場やヤンデレは認めないとは。なんという理想の高さ……

だ が そ れ が い い
737名無しさん@ピンキー:2007/06/18(月) 22:50:39 ID:NOU3K5A/
これなんて君のぞ?
738名無しさん@ピンキー:2007/06/20(水) 00:39:11 ID:m4fdxEOW
左右影投下待ち
739左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:05:29 ID:7EDhWb+B
前日の続きを投下します。
740左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:06:46 ID:lixs5DAk
 本来、女の子とのデートは楽しい気分でするものだ。
 手を繋いで歩きながら買い物したり、映画館に行って好きな映画を見たり、
喫茶店に入って他愛のないおしゃべりをしたりするだけで楽しい。
 1人の女の子とデートするだけでも楽しいのだから、2人だともっと楽しいだろう。
 ……と考えるのは間違いだ。たった今、僕はそのことを実感している。

 あおいに左手を握られ、みのるに右手を握られて歩くというのは予想以上に疲れる。
 みのるは時々、見慣れないものを見かけては僕に話しかける。
「なおき君、あのデパートっていつ出来たの?」
「去年の8月ごろかな。この辺りでは一番大きいところだよ」
「へー……ちょっと入ってみようよ」
 みのるが急に方向転換し、僕の右腕を引っ張りながら歩き出した。
 右腕が引かれると、左腕を握りながら前進するあおいの力と拮抗することになる。
 必然的に僕の体は綱引きの綱のようになる。

「あおい、ちょっと止まってくれ!」
「なに?」
「喫茶店で休んでいかないか? ほら、あそこの」
 両手が塞がっているので、顎でデパートの方角を指す。
 あおいはデパートの方を見ると、僕の右手を掴む力を少し緩めた。
「……そうね、なおきがそう言うんなら、そうしましょう」
 言い終わると、今度はデパートの方向へ歩き出した。僕の手を引いたまま。

 ふと、周りを見回してみる。
 駐車場に停めてある車から出てきた人の視線がいくつか浴びせられていた。
 カップル、家族連れ、男だけの集団、女だけの集団。
 近くを通りすがると、かなりの高確率で観察される。
 女の子2人に手を引かれている僕の姿は、他人からはどう見えているのだろう。

 いや、考えるのはやめよう。屈辱的な答えしか出てこない気がする。
741左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:07:59 ID:lixs5DAk
 デパートの店内に入ると、あおいが手を離した。
 僕とあおいの肩は触れ合わないぐらいの距離を開けている状態だ。
 人がたくさん居るところで手を繋いでいると他人の邪魔になるし、
人前で手を繋ぐのは恥ずかしいから、という理由かららしい。

 しかし、そんなあおいとは対照的にみのるは僕の腕を離そうとしない。
「ねえ、喫茶店はどこにあるの?」
「2階にあるんだけど、って、そんなに強く引っ張らないでくれ」
「早く、早く行こう?」
 みのるに導かれるがまま、エスカレーターに乗り込む。
 今日は客の入りはほどほどで、他に乗っている人はいなかった。
 みのるは僕と同じ段に立って、肩を寄せてきた。
「こうしてると、私達恋人そのものだね」
「いや、僕にはあおいがいるんだけど」
「むう……でも、今の姿を見たらどっちが恋人に見えるかな?」
 言われるまでもなく、どちらが恋人に見えるかは一目瞭然だ。
 そして、今の僕とみのるを見ているあおいにもそう見えているのだろう。

 おそらく後ろにいるあおいを見るために、首を左にゆっくり曲げていく。
 肩越しに見たあおいの目は、僕ではなくみのるに向けられていた。
 あおいの目は睨むものでもなく、いつもの不機嫌なものでもなかった。
 目を少しだけ細めて、みのるの背中をじっと見つめていた。
「あおい?」
「ん、何?」
「いや、元気ないみたいだけど、どうかしたのか?」
「……別に」
 あおいはそっけない返事をすると、1階のフロアに視線を移した。
742左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:09:04 ID:lixs5DAk
 喫茶店に入って、空いている丸テーブルに座る。
 椅子はテーブルを囲むように4つ置かれていた。
 僕の右にはみのる、左側にはあおい。2人は向かい合うようにして座っている。
 注文を取りに来た店員にコーヒーを3人分注文すると、店員は一礼して去っていった。

 みのるは僕の方に椅子を軽く寄せて話しかけてきた。
「この辺りで他に新しくなったところはあるの?」
「他には特にないかな。いくつかお店がなくなったりはしたけどね」
「へー……」
「みのるはイギリスに行ったんだよな。あっちはどうだった?」
「まあ、一言で言っちゃえば……いまいち面白くなかったかな。
 あ、あっちでの生活が面白くなかったわけじゃないよ。
 私は日本生まれの日本育ちだからそう思ったんだよ。きっと」
「そうなのか。イギリスには一度旅行してみようかと思ってたんだけど、考え直したほうがいいかな」
「行きたいんだったら行ったほうがいいよ。まるで別世界に行ったような気分になるから」
「でも英語なんて喋れないからな。宿すらとれないかもしれない」
「大丈夫だよ。その時は私の家に泊まればいいよ」
「え? 両親の出張は終わったんだろ? もうあっちには住んでいないはずじゃあ……」
「あ」

 聞き返すと、みのるは口に右手をあてて固まった。
 目は大きく開き、僕の顔とテーブルの間を泳いでいる。
「みのる?」
「えっと、あの……向こうに親戚が住んでるから、そこに泊まればいいってこと」
「ああ、そういう意味か」
 海外に親戚が住んでいるというだけで結構凄いことに思えてしまうのは、
僕が日本からでたことがないからだろうか。
 それに、イギリスで2年間も生活してきたということは、みのるは英語を喋れるということだろう。
 英語のヒアリングがまったくできない僕にとっては実に羨ましいことだ。

「お待たせしました」
 ウエイターがトレイを持って僕らのいるテーブルの前にやってきた。
 みのる、僕、あおいの順にカップを置くと、トレイを脇に持ち替えた。
 なんとなく、僕を見つめる彼の目つきが鋭い気がする。
「ご注文は以上でお揃いですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」
 ウエイターは頭を下げると、テーブルの前から去った。
743左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:10:17 ID:lixs5DAk
 コーヒーに角砂糖とミルクを入れて、スプーンでかき混ぜなら2人のカップを見る。
 あおいは何もいれず、ブラックのまま飲んでいる。
 みのるは角砂糖を3個入れて、しっかりとかき混ぜた後で口をつけた。
 取っ手がまだ熱いままのカップに僕が口をつけると、あおいが口を開いた。
「みのるさん」
「なに?」
「イギリスは紅茶が美味しいらしいけど、本当?」
「そうみたい。お父さんが美味しい美味しいってよく言ってたから」
「そう」
 あおいはカップをソーサーの上に置くと、テーブルに肘をつき組んだ手の上に顎を乗せた。

「他にも聞いていいかしら?」
「いいよ。どんなことでも」
「日本から発つとき、それまで住んでいた家はどうしたの? 手放したのかしら」
「うん」
「今ご両親はどこに?」
「日本に帰ってきてるよ」
「それじゃあ……ご両親の住所はどこ?」

 あおいの言葉を聞いて、みのるはカップを持ち上げる手を止めた。
 音を立てずにカップを置くと、手元に視線を落としたまま返事をした。
「昔住んで……、いや、えっとね……」
「昔住んでいた家には住んでいないわよね」
「……どこでもいいでしょ、そんなこと」
「そうね、確かにどうでもいいことだわ」
 組んでいた手を解くと、あおいはコーヒーカップの中身をあおった。
 カップをソーサーの上に置くと同時に、あおいは口を開く。
「なおきの家の前の、アパートの家賃はいくら?」
「なんでそんなことを、あなたに言わなくちゃいけないの」
「比較したいからよ。あたし達が借りているアパートとどっちが高いのかと思って」
「……3万円」
「あら、家賃値下げしたのかしら。半年前、あそこに住む人から聞いた話では4万円だって……」
「っ! それがいったい、なんなの!」

 みのるは大声を上げ、テーブルの上を叩いて立ち上がった。
 あおいは椅子に座ったまま、表情を変えずにみのるを見上げている。
「さっきから人のことを詮索するようなことばっかり言って! 結局何が言いたいの!」
 みのるの怒声を聞くと、あおいは椅子をゆっくりと引いて立ち上がった。
 店内にいる全員の視線を浴びながら、2人は見詰め合う。
 どうしてかわからないけど、みのるはかなり怒っている。
 ここで僕が怒りをおさめないと、周りの人に迷惑だ。
「2人とも、とりあえず座って……」
「なおき君は黙ってて!」
 僕の声を一段と大きな声で遮って、みのるはあおいを睨みつける。
「答えて! 何が言いたいのよ、あなたは!」
「あたしが言いたいのはね……無理しないほうがいいんじゃない? ってことよ」
「なっ……」
「言っている意味、わかるわよね?」
744左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:12:51 ID:lixs5DAk
 あおいはそう言い残すと、テーブルの上の伝票を手にとった。
 頭を下げながらレジに向かい会計を済ませ、店員に向けて頭を下げると、喫茶店の出入り口から出て行った。
 僕は座りながら、立ち去るあおいの後ろ姿を見ていた。
 あおいの質問を聞いているとき、ひとつ気づいたことがある。
 みのるの発言につじつまの合わない部分があったということだ。

 みのるの方に視線を移すと、彼女はテーブルに手をついて下を向いていた。
 長い髪が顔を隠しているから表情はわからないが、「なんで……そんなこと……」という、
誰に向けられていない呟きは聞こえた。

 周りのテーブルについている客は僕たちから目を離して会話を始めた。
 それでも何人かは時折ちらちらとこちらを見る。どうやら話のタネになってしまったようだ。
「みのる、とりあえず店を出よう」
「……うん」
 みのるの手を引きながら喫茶店を出て、しばらく店内を歩き、人気の少ない場所で立ち止まる。
 今いる場所は裏手にある階段で、エスカレーターから離れていることもありほとんど人がこない。
 僕が階段に腰を下ろすと、少しの距離を空けてみのるも同じ段に座った。

 みのるはぼんやりと下の階段を見つめたままだった。
 僕から話しかけようと思っていたのだけど、みのるの沈んだ顔を見ていると声をかけられなかった。
 横顔を見つめたままでいると、やがてみのるの唇が小さく動いた。
「ごめんね、なおき君」
「どうして謝るんだ?」
「私、いくつか嘘をついてたの」
「……いくつ?」
「ふたつ……ううん。ふたつと半分。住んでる場所のこと、家庭のこと、あと半分は私の性格……かな?」
 そこまで言うと、みのるは立ち上がった。

「ここじゃなんだから、外に出よう。別の場所で説明してあげるよ」
745左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/06/21(木) 00:13:53 ID:lixs5DAk
今回はここで終了です。
たぶん、次の投下で終わります。
746名無しさん@ピンキー:2007/06/21(木) 22:31:53 ID:wNwoUsyO
エー、これから盛り上がっていくところかと思ってしまっていた。
ともかく、期待しております。
747名無しさん@ピンキー:2007/06/22(金) 03:13:04 ID:2lXQhle4
生殺しですか?
生殺しですね。

だがそれがイイ!続きwktk
748名無しさん@ピンキー:2007/06/23(土) 03:32:49 ID:rwB8zzNc
非常に残念だが仕方ない。超GJ!

次の投下時には限りないGJを言わせてもらうぜ!
749名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 13:05:07 ID:poMFHZqj
ちょいと住人に聞きたい。
このスレって、嫉妬分が混じっているSSは受け入れられないの?
750名無しさん@ピンキー:2007/06/25(月) 16:21:22 ID:SmlBjDGQ
純愛でさえあればいいんじゃないかな
751名無しさん@ピンキー:2007/06/26(火) 04:25:28 ID:NnyKtsFs
嫉妬が入ってるSSみたいみたいみたい
752名無しさん@ピンキー:2007/06/26(火) 20:15:55 ID:KpkxYaGI
あんまりドロドロの奴は嫌なんで軽めでお願い
753名無しさん@ピンキー:2007/06/30(土) 08:01:05 ID:3wkqHk9f
保守。投下してください
754左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:40:55 ID:pxfKyo/o
投下します。
755左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:41:54 ID:pxfKyo/o
 僕とみのるはデパートから出ると、入り口近くに置いてあるベンチに座った。
 近くにある自販機で缶コーヒーを2本買い、1本をみのるに渡す。
 さっき喫茶店でコーヒーを飲んだばかりだったが、今の僕は喉が渇いていた。
 プルタブを開けて、コーヒーを口に含む。
 一番甘いカフェオレを買ったのだが、いまいち味がわからなかった。

 みのると2人で沈黙したままベンチに座り続ける。
 僕がコーヒーをちびちび飲んでいると、みのるが喋りだした。
「まだ私の両親は、イギリスに住んでるんだ。
 両親の出張が終わったっていうのは嘘。
 向こうの大学が夏休みになったから、私だけで日本に来たの」
「なんでわざわざ日本まで来たんだ?」
「それはもちろん、なおき君に会いたくなったから。あ、これは嘘じゃないよ。
 もう一度会って、私の気持ちを伝えたかったの。私が大学を卒業するまで待っていてほしい、って」

 みのるは短く笑うと、コーヒーを口にした。
 缶を少しだけ傾けていたから、少しだけ飲んでいるように見えた。
「でも馬鹿だよね。2年間も音沙汰なしなのに、まだ付き合えると思ってたなんて。
 なおき君の近くにはあおいさんがいるはずだって、勘付いてたのにね」
「そう思ってたんなら、なんで諦めないなんて言ったんだ?」
 僕の言葉を聞くと、みのるはむっとした顔になった。
「……ちょっと考えたらわかるはずだけど」
 ちょっと考えたら、と言われても。
 昔のみのるは僕を困らせるためにあんなことを言う人じゃなかった。
 しばらく会っていなければ性格が変わることもあるかもしれないけど、どうも納得できない。

「……我慢できなかったの。久しぶりになおき君に会ったら。
 昔の楽しかったこととか、会えなくて寂しかったこととか思い出すと、
 どうしても気持ちを抑えることができなかったの。
 ごめんね。そのせいで2人の邪魔をすることになっちゃって」
 みのるは僕に向かって頭を下げた。
 顔を上げたときの目は、本当に申し訳なさそうにしていた。
「……僕の方こそ、ごめん」
「? どうして謝るの?」
「僕はみのるがもう帰ってこないと思って、それであおいと……」
「気にしすぎだよ、なおき君は。そこがいいところでもあるんだけど」

 みのるは缶コーヒーを一気にあおると、くずかごに放り込んだ。
「今からちょっと付き合ってもらってもいい?」
「いいよ、どこに行く?」
「私が今住んでいる部屋」
 みのるはベンチから立ち上がると、僕に背を向けて歩き出した。
 僕はコーヒーの残りを飲み干してくずかごにいれて、みのるの後を追った。
756左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:42:47 ID:pxfKyo/o
*****

 デパートから歩いて、みのるの住むアパートに到着した。
 アパートの階段を登り、向かいにある自分の家を観察する。
 あおいはもう帰ってきているんだろうか?
 喫茶店で何も言わなかったからどこへ行ったのかわからない。
 自分の部屋を見ても窓が閉め切られているせいで中の様子は伺えない。
 できれば、僕が帰ってきたときにあおいがいてくれたら気が楽だ。
 文句か何かを言われるならできるだけ早い方がいい。

 みのるは昨日僕を連れ込んだ部屋の前にくると、呼び鈴を押した。
 おかしい。自分の部屋なら呼び鈴を押すはずがない。
 部屋の中に他の人が住んでいるということなのだろうか。
 いつまで待っても、ドアの向こうからリアクションは帰ってこない。
「今いないみたいだね」
「他に誰か住んでるのか?」
「ここ、見てみて」
 みのるが指で指したのはドアの横についているポスト。
 ポストには、みのるの苗字とは違う苗字が書かれた紙が貼りついていた。
 じゃあ、ここはみのるが借りている部屋ではないということか。

 みのるは部屋の鍵を開けると、ドアを開けて中へ入っていった。
「どうぞ」
「うん。お邪魔します」
 昨日僕が入ったばかりの部屋は、特に変わっている様子はなかった。
 部屋の中は整理されていた。
 本は全て本棚の中に収まっていて、床に放置されていない。
 テーブルの上には何も乗っていない。余計なものがないのかもしれない。
 ふと、机の方を見たら写真が飾ってあった。
 みのるとは違う女性が映っていた。
 写真の中の女性ははにかんだように微笑んでいた。
「その写真に写っている人が、この家に住んでいる人。
 私の友達。日本にいる間だけ間借りさせてもらってるんだ」
「じゃあ、ここに住んでいるっていうのも嘘?」
「住んでいるという意味では嘘はついていないけど。うん、結果的にはそうなるよね」
 みのるは畳の上に座ると、僕を見上げた。
「座ったら?」
「ああ、うん」
 促されるままに、みのると向かい合うようにして胡坐をかく。
757左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:44:09 ID:pxfKyo/o
「なおき君は……」
「うん?」
「えと……あおいさんとどこまでいってるの?」
「どこまでって、どういう意味で?」
「ほら、結婚を前提に付き合っているわけだからさ、その……」
 みのるは僕から目をそらすと、ちらりと下を見た。
 その仕草で、みのるがどんな意図の質問をしたのかがわかった。
「まあ、その……いくとこまでいっている、って感じかな」
「……ふーん」
 みのるは半眼で僕を見た。
「不純」
「なんでそうなるんだ」
「婚前交渉を行うなんて、不純です」
 今時何を言っているんだ、と僕は思った。
 だが、もしかしたらイギリスでは婚前交渉を行うのは当たり前ではないのかもしれない。
 それか、両親が貞操観念に関して厳しい人なのかもしれない。
 しかし、女性からそう言われると悪いことをしたような気分になってしまうのは何故なのだろう。

「昔付き合っているときは私に何もしてこなかったくせに」
「何もしなかったわけじゃないだろ」
「私とは、キスまでしかしなかった」
「高校生だったらそんなものだと思うんだけど」
「知ってた? 高校のクラスメイトは何人も経験済みだったらしいよ」
「……それは知らなかった」
 高校時代に仲の良かった友人は誰一人としてそんな話はしなかった。
 僕が他人のそういったことに干渉しないようにしていたからかもしれない。

「あの時、無理を言って抱いてもらえばよかったかな」
「は?」
「そうしたら、もしかして、私のこと……」
 そう言って、みのるは僕をまっすぐに見つめた。
 みのるの言葉の続き。僕にはなんとなくわかる。
 『海外へ行ってしまっても、待っていてくれたのかも』。
 僕は、みのるを抱いていたら、みのるが戻ってくるのを待っていたのだろうか?

 ――きっと、違う。
 抱いていたとかいないとか、そんな事実が必要だったわけじゃない。
 僕に必要なものはみのるとの約束だった。
 約束があれば、僕はみのるのことをずっと待っていた。

 あの時、みのるが海外へ行ってしまったとき、僕は悲しんだ。
 海外へ行くみのるに何も言わなかったことを、僕は悔やんだ。
 きっと、何よりも先に、僕は言うべきだったのだ。
 『いつか日本に戻ってきたら、また恋人として付き合ってください』、と。

 何故そんな簡単な一言を言い忘れてしまったのか。
 高校生の僕にとって、みのるは誰よりも大切な存在だったのに。
 そして、みのるが僕を、僕が想うのと同じぐらい想っていてくれたこともわかっていたのに。
758左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:46:11 ID:pxfKyo/o
 けれど、今は違う。
 僕にはあおいがいる。誰よりも大切な、婚約者がいる。
 あおいを裏切りたくない。かつてのように失った悲しみを味わうつもりはない。
 あおいに悲しい思いをさせるなんて、僕は嫌だ。
 だから、僕は口にする。みのるに期待をさせるわけにもいかないから。

「ごめん。たとえみのるとそういうことをしていたとしても、待っていたとは思えない」
「…………まあ、やっぱりそうだよね……当たり前か」
「ごめんな、みのる」
「別に、謝らなくても」
「ごめんな、ごめん」
 下を向いて、ひたすらに謝る。
 謝罪の言葉を言わずにはいられなかった。

「……なおき君は、本当に優しいよね。
 私みたいに、いきなり戻ってきて迷惑なことを言う女さえ邪険に扱わない」
「僕は優しくなんてないよ」
 もし優しい男であれば、恋人の気持ちがわかる男であれば、みのるを待っていたはずだ。
「あおいさんが羨ましい。これからなおき君をずっと独占できるなんて」
「……独占というより、支配の方がしっくりくるけどね」
「そうだね。あおいさん、ちょっと怖いから。……あ、悪く言っているわけじゃないからね。
 ものすごく察しがいいし、独占欲も強そうだし、って意味。浮気したら、すごいことになりそう」
「まあね……」

 仮に僕が浮気したり、もしくはあおいに浮気の誤解をされた日にはどうなることか。
 おそらく修羅場は免れないだろう。
 そして、僕は刺される。これはほぼ間違いない。

「どうしよっかなー。今からなおき君と……うふふ」
 みのるの目があやしく笑う。
 この目は、よからぬことを企んでいる目だ。
「なんだよ。その目は……」
「んーん、なんでもないよ」
「本当に? 今から僕をどうにかしようとか考えてないよな?」
「……まさか。そんなことするはずないじゃない」
「目を逸らさずに話してくれないか」

 僕から顔を背け、とぼけた振りをするみのる。
 その仕草を見ていると、自分の気持ちが楽になる。
 僕はみのるに許されているのではないか、と。
 また、僕はいつまでも後悔し続けなくてもいいのではないか、とも。
759左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:47:28 ID:pxfKyo/o
*****

 みのると別れ、自宅に帰る。
 玄関を開けると、そこにはあおいが待っていた。
「ただいま」
 僕がそういうと、あおいはいつも通りの眼差しを僕に向けた。
「おかえり、なおき」
 見る者に何を考えているのかわからなくさせる、不機嫌そうな目。
 もしかしたら僕とみのるがいることを心配に思っていたのではないかと期待していたが、
あおいの表情からは何も読み取れなかった。

「なおき、お昼は?」
「いや、まだ食べてない」
「そう。よかった、料理が無駄にならなくて」
「……もしかして、僕が帰ってくると思って、作って待ってたのか?」
 壁掛け時計を見ると時刻は3時を回っていた。
 僕がご飯を食べて戻ってくるかもしれなかったのに。
 それに。

「怒ってないのか?」
「何を?」
「いや、何をって……」
 僕は視線をアパートの方角へ向けた。
「あの子と何かあったかも、って?」
「うん……」
「あんた、昼飯抜きがいいの?」
 あおいの目がさらに細くなり、声までが不機嫌になった。
 なぜか知らないが、今のあおいは怒っている。
 僕が何かおかしなことを言ったのだろうか。

「あんたがあの子に何かするわけないし、あの子があんたに何かするわけないでしょ」
 それはどういう意味なのか。
 僕にはみのるに手をだすわけがない、というのはわかる。
 あおいは僕を信頼してくれているということだろう。そう思ってくれるのはありがたい。
 しかし、みのるが僕に何もしないということを、なぜあおいは知っているんだ?
「あの子、無理してるのがバレバレだったわよ」
「みのるが無理をしてるだって?」
「……あんた、本当にあの子と昔付き合ってたの?
 あの子の昔の性格を思い出してみなさいよ。どんな性格だった?」

 天井を見上げながら、黙考する。
 みのるは昔、僕にベタベタしたりしなかった。
 人前で手を繋ぐことを恥ずかしがるような女の子だった。
 だから僕自身、みのるに強引なことをしなかった。
 僕がキスまでしかしなかったのも、みのるのためを思ってのことだった。
 あおいは、みのるの性格まで理解していたのか。
760左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:48:26 ID:pxfKyo/o
「思い返してみると、再会してからのみのるの行動はおかしかったかも……」
「そういうことよ」
 みのるは僕に背をむけると、さっさと台所へ向かっていった。
 靴を脱いで、居間へ向かう。
 そこには、ラップをかけられた冷やし中華が用意されていた。
「はい、これ」
 あおいは冷やし中華のたれと、水の入ったコップを僕の前に置いた。
 たれをかけて、時間が経ったせいで固くなった冷やし中華を箸で混ぜて、食べる。
 正午から時間が過ぎていたけど、麺はちょうどいい固さだった。美味い。

「あおい、おじさんとおばさんはいつ戻ってくるんだ?」
「明日は戻ってこないって連絡があったわ」
「それじゃあ、明日、ちょっとだけつきあってくれないか?」
「またデートのお誘い? いいわよ。明日はあの子も来ないだろうし」
「いや、実はみのるがらみの用事で……」
「……へえ」
 あおいは僕の前から冷やし中華の皿をどけた。
 そして、自分で箸を持って食べだした。

「あ、いきなり何を」
「続き」
「へ」
「付き合ってあげるわよ。どこにいけばいいわけ?」
 箸を止め、怒りを押し殺した声であおいが言った。
「実は、駅につきあってほしいんだ」
「駅? 今度は海水浴にでもいこうっての?」
 あおいは、眉間に深いしわを寄せた。
 さらに不機嫌になったことを告げるサインだ。

 あおいは海水浴にいくのが好きではない。
 あおいが自分のスタイルを気にしているということを、僕は知っている。
 小柄で、起伏が弱い体をしているあおいはスタイルが丸わかりになる水着を着たくないのだろう。

「悪いけど、そういうことならパス。2人で行ってきなさい」
「いや、待って。そういうことじゃないんだ」
「じゃあ、どこにいくつもりなのよ」
「実は、明日、みのるが――」
761左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:50:46 ID:pxfKyo/o
*****

 翌日、僕はあおいの運転するバイクの後ろに乗って駅までやってきた。
 僕1人で来てもよかったのだが、あおいが運転するといって聞かなかったのだ。
 あおいはバイクを駐輪場に停めると、ガードレールにもたれかかった。
「それじゃ、ちゃっちゃと済ませてきなさい」
「あおいは行かないのか?」
「あたしが行く必要なんかないでしょ。あの子の見送りなんて」

 今日、みのるはイギリスへ帰ることになっていた。
 僕はそのことを、昨日みのるの口から聞いていた。
 駅から空港バスに乗って空港へ向かい、イギリス行きの飛行機に乗るらしい。
 そうなったら、もうみのるとは会えなくなる。
 多分、今生の別れになってしまうだろう。

「せめて、何か伝言でもないのか?」
「伝言ね……」
「ほら、元気でねとか、また会いましょうとか」
「……1回だけなら許してあげる」
「え?」
「1回だけなら許してあげる。そう言って、あの子に」
「ああ、うん。わかった」

 駐輪場から離れて、駅のロータリーへ向かう。
 駅から出てくる人と、駅に入っていく人たちが暑そうな顔をして歩いていた。
 僕もポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭った。
 気温と、日差しと、風と、道路に浮かぶ陽炎がまだまだ夏であることを証明していた。
 いくつかあるバス停のベンチ、その一つにみのるが座っていた。
「みのる」
「あ、なおき君。今日も暑いね」
「うん」
 みのるはノースリーブのシャツとデニムのショートパンツといういでたちだった。
 足元には大きなバッグ。それを見て、みのるがイギリスへ帰るという事実が現実味を帯びてきた。

「あおいさんは?」
「来るように言ったんだけどね、僕1人のほうがいいだろうってことで来なかった」
「そうなんだ。あおいさんともお別れしたかったな」
「代わりに伝言を預かってきたよ」
「どんな?」
「1回だけなら許してあげる、って言ってた」
 みのるは、わからない、というふうに首を傾げた。
 僕も考える。1回というのは、どういう意味なんだろうか。
 おそらく、みのるが何かするのを、1回だけ許すという意味だろう。
 答えが解らず考え込む僕と対照的に、みのるは何かに気づいたように眉をぴくりと動かした。
762左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:53:26 ID:pxfKyo/o
「あ、わかった。どういう意味か」
「どんな意味なんだ? 1回って」
「なおき君に」
「僕に?」
 聞き返す僕に、みのるは何か言おうとして口を開いた。
 しかしそれをやめ、かぶりを振り、また口を開いた。
「……やっぱり、やめた。なおき君に意味を教えるのも、私がそれをするのもやめ」
「なんでだよ。変なことなのか?」
「うんん、そうじゃないんだけど、むしろ嬉しいことだけど、あおいさんに悪いから。だからしない」
「……よくわからないけど、本当にそれでいいのか?」
「その方がいいの。きっと、その方が私のためにはいいんだ」

 そう言って、みのるは笑った。目と唇だけを緩ませて、笑った。
 控えめな微笑みが、僕に向けられていた。
 僕は笑うこともできず、みのるに何か言うこともできなかった。
「なおき君。私もあおいさんに伝言があるんだ」
「みのるも?」
「うん。あのね……こんなときだからって譲る必要はないよ。無理しない方がいいんじゃない? って言って」
「なんか、どこかで聞いた台詞だな」
「気のせいじゃない?」

 やりとりが終わったところで、バス停の前に空港バスが到着した。
 先頭のドアからたくさんの人が降りていく。
 バスの中心にある乗り込み口がバス停のベンチの前で開いた。
 みのるはバッグを肩に担ぐと、口を開いた。
「それじゃあ、私、行くね」
「ああ、うん……」
「あおいさんと、お幸せにね」
「みのるも、元気で」
「………………うん」

 みのるは下を向いて、次に固く握られていた右手を顔の前に持ち上げて、手を広げた。
 手のひらを数秒見つめ、嘆息すると僕に笑顔を見せた。
 満面の笑顔だった。

 みのるはバスに乗り込むと、僕の方を振り向いた。
「それじゃ、バイバイなおき君!」 
「ああ! バイバイ、みのる!」
 手を振って、精一杯大きな声で、僕は返事をした。
 ドアが閉まり、バスが動き出す。
 ゆっくりとロータリーを走るバスは、車線に合流する手前で一度停止すると、
車の流れが途切れたところで発進した。
 
 僕からみのるに伝えたい言葉はあった。けど、言わなかった。
 みのるはバイバイ、と言った。みのるはきっと、僕の言いたい言葉を、言ってほしくなかったのだ。
 だから僕もバイバイ、と言った。みのるにはきっと、あの言葉で充分だったのだろう。
 そうでなければ、最後に見た顔が笑顔だったのを納得できないから。
763左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 00:59:54 ID:pxfKyo/o
*****

 駅からバスに乗り、自宅へ向かう。
 たった今僕の前から去っていった女性と気持ちを重ねるつもりで窓の外を見る。
 日本から離れて、イギリスへ向かう人の気持ちはわからないが、
こみ上げてくる感情のせいで、車の走り回る風景すら別物に感じられた。

 手元の携帯電話の液晶画面を見る。
 あおいから送られたメールの文章が表示されている。
 『待ちくたびれたから先に帰る』。これだけ。
 駐輪場に戻り、あおいとバイクがいないことに気づいてからメールを確認すると、このメールが届いていた。
 そのせいで僕はこうやって1人、バスに乗って自宅へ帰るはめになったわけだ。

 けれど、正直ありがたくもあった。
 今の僕は、1人になりたい気分だったから。
 あおいが僕に気を使って先に帰ってくれたのか、本当に待ちくたびれたから帰ったのかはわからない。
 前者であったら嬉しいな、と僕は思った。

 自分がこれからやらなければいけないことを整理する。
 あおいの両親、僕にとっては昔から仲良くしてきたおじさんとおばさんが帰ってきたら、挨拶に行く。
 挨拶が終わったらあおいと同棲しているアパートに帰り、もうすぐ始まる大学の準備をする。
 大学に通いながら、あおいと持ちつ持たれつの生活を繰り返す。
 そして、大学を卒業して、お金が溜まったらあおいとの結婚式を挙げる。

 想像の中で、少しだけあおいを裏切るつもりで結婚相手を変えてみる。
 後ろ姿は浮かぶけれど、その相手は僕に顔を見せてくれなかった。
 結婚相手をあおいに戻す。たちまち、ぱっと想像のもやが晴れた。
 あおいは、不機嫌そうな顔を緩ませて、頬を少しだけ紅くしていた。

 この想像を現実にしよう。そのために、努力していこう。
 僕を信じてくれるあおいと同じように、僕もあおいを信じよう。
 あおいと2人なら僕は大丈夫だ。

 バスが自宅近くにあるバス停に到着した。
 お金を払い、バスを降りる。
 クーラーの効いていたバスの中と、外気温との温度差がじっとりとした汗を浮かび上がらせた。
 ツクツクボーシが騒がしく鳴いている声が聞こえた。
 ツクツクボーシの声を聞くと思い出すのが、あおいと一緒に遊んだ昔のことだ。
 昔のあおいはプールに出掛けるのが大好きだった。
 帰ったら、あおいをプールに誘おう。
 積極的に誘えば、プールなら一緒に行ってくれるはずだ。
 ご機嫌をとるために、どこかの自動販売機でジュースを買っていこう。
 僕はジュースを探し求め、歩き出した。


 あおいには、何を買っていこうか?

おわり
764左と右を繋げた影は ◆Z.OmhTbrSo :2007/07/01(日) 01:08:09 ID:pxfKyo/o
以上で「左と右を繋げた影は」は終了です。

純愛がどんなものかよくわからないところがあったので、模索するつもりで書いてみました。
最初は、みのるにはアタックをさせず、2人が仲良くする姿を見て我慢するという話にするつもりでしたが、
やはりこちらの方がいいかもしれないと思い直したので、このようにしました。

それではみなさま、しばらくの間付き合ってくださいまして、本当にありがとうございました。


ノシ



765名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 05:00:35 ID:V43wEwey
いやー。良かったんじゃない?
あおいもいいけどみのるの一途さと健気さに泣けてたよ・・
766名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 06:34:51 ID:EA36+iPh
99%の俺がキュン萌え死にした。いや比喩なんかじゃなくマジで。

今までサンクス。そして神GJ!
767名無しさん@ピンキー:2007/07/01(日) 16:25:40 ID:RJbAfhQ2
んー、イマイチ。
なおきは優柔不断だし、みのるは急にいい人になっちゃうし、
あおいは物分り良過ぎだし・・・・熱い想いとか切なさが感じられなかった。
768名無しさん@ピンキー:2007/07/02(月) 03:08:25 ID:a79X6E+0
保守
769名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 01:57:59 ID:99xDVg/p
新しい投下待ち
770名無しさん@ピンキー:2007/07/06(金) 02:44:05 ID:844K1kl1
ってか題名がいかにも婦女子っぽくてキモイ
771名無しさん@ピンキー:2007/07/11(水) 01:46:54 ID:ztIOVlMU
純愛好きだ。書いてみる。
オリジナルで、時代設定は戦国時代くらい。
忍者とドジっこ奥さんの話。途中で少々流血表現あり。
772茜の里:2007/07/11(水) 01:49:10 ID:ztIOVlMU

かあかあと、間の抜けた鳴き声をあげながら、夕焼け空を鴉の群れが
渡っていく。
町の入り口にあたる、細い橋の上を歩きながら、群れの先へと目をやる。
夕日に照らされこんもりと黒く浮かぶ、小さな森が見えた。
町外れにある、社の鎮守森だ。あそこに巣があるのか。
この時期なら親と同じ、真っ黒な七つ子が、狭い巣の中で同じように
せわしなく鳴きながら、帰りを待っているのだろう。
茜色に染まったいわし雲の下を、上へ下へと重なるように飛んでいく
幾羽もの黒い群れを見送ってから、私も背中の荷を背負いなおし、再び歩き出した。

埃だらけの乾いた道は、夕暮れ時とあって、家路を急ぐ人でいっぱいだ。
人も馬も、一様に忙しなく、前ばかりを見て急ぎ足で歩いていく。
流れに押され、私の足も自然と速まった。
空を群れ飛ぶ鴉のように、前へ、前へと誰もが進んでいく。
自分の家と、そこで待つ人を目指して。



大通りから町外れへ向かう、緩やかな坂を下っていると、途中で近在の女房と出会った。
あらまあ久しぶりだねえと目を丸くするのに、隠れ蓑代わりの穏やかな笑顔で
挨拶を返す。
「二月ぶりかね。商売はうまくいったかい」
「はいお蔭様で。薬もよくはけまして」
行商の薬売りが、私の表向きの仕事だ。
「今回は随分長く旅に出ていたもんだね。早く帰っておやりよ平助さん。
お妙ちゃんずっと待ってるよ」
若夫婦はいいねえ、とからかうような言葉に、こちらも表情を崩さず笑顔を返す。
だが女房が発した名を聞いた途端、東の空に迫る夜空のような、薄暗い不安が
ポツリと胸に落ちた。
「……いつもお世話になっております。その、あれがまた何か、ご迷惑を
おかけしませんでしたか」
にこやかな笑顔のまま、おそるおそる問いかけると、主婦も笑顔を崩さずうなずいた。

「いやいつもどおりだよ。道で転んだり井戸に落ちかけたり、子どもと遊んでて
迷子になったりさ。そうそう、こないだはおかずが鍋ごと焦げて穴まで開いたと
半べそかいてたから、うちでご飯を食べさせてやったがね。ああ安心しな。
もう鍋は買ってきたようだよ」

「……まことにお世話になっております。今後もよろしくお願いします」
あらこれは内緒にっていわれてたよ、と豪快に笑う主婦に深々と頭を下げ、
私は再び、今度は少々急ぎ足で歩き出した。
早く帰らねば。
鍋ならまだいいが、もしや家が焦げているかもしれない。
しかしどうしてあれはこう、やたらと問題を起こすのだろう。久々に帰ってきたと
いうのに、姿を見る前から気が休まらないことだ。
おかげで、下げたくもない頭を下げてしまった。
ひそかにため息をついて荷を背負いなおす。慣れたはずの重みが、いやに肩を苛んだ。
ざくり、ざくりと足元で、乾いた土くれが音を立てる。

この自分が、たかが町家の女房に頭を下げているところを見たら、同輩や部下は
どんな顔をするだろうか、とふと思う。
きっと大騒ぎだ。己の目がおかしくなったかと疑うものも出るに違いない。
むしろ私がその心境だ。
想像するにつれ、おかしいやら情けないやらでまた一つ、ため息が出た。
773茜の里2:2007/07/11(水) 01:53:39 ID:ztIOVlMU

町外れにぽつんと立った小さな家は、夕日に照らされ燃えるような
茜色に染まっていた。
二月ぶりの我が家だが、すぐには入らず、まずあたりの様子を探る。
この一年ばかりでついた習慣だ。
古びたわらぶき屋根やほつれた暖簾、煤けた壁板や雨戸の枠と
仔細に眺め、二月前と比べてこれといった変化がないのを認めて、
私は無意識に小さく息をついた。

よかった。今日も無事に立っている。

暖簾を分けて中を覗いてみるが、土間にも居間にも、人の気配はなかった。
だが、水場には真新しい鍋のほか、ざるや野菜が散乱している。
さて、夕餉の支度中にまた、どこへ行ったのか。
答えは、再び暖簾を分けて外に出たところでわかった。
「旦那さま!」
夕日に染まる道に響いた甲高い声に、振り返る。
茜色の光の中、町へと続く小さな下り坂の途中に、大根を抱えた小さな影が
立っていた。
小柄な、まだ娘と呼べるほどの若い女だ。
薄暗い光に、ふっくらした頬がつやつやと輝いている。その頬と同じほどに
輝く丸い目や、手ぬぐいを巻いた長い黒髪、汚れた前掛けの下から覗く
細い足へと、私はほとんど習慣で目線を走らせた。
それらにも家と同じく、これといった変化がないことを見定めてから、
また、こっそりと息をつく。

よかった。今日も無事に立っている。

安堵の息をつくと同時に、女の手から大根が転がり落ちた。
いや、投げ出されたというべきか。
高々と宙を舞い、夕日を弾き、輝きながら落ちていく大根の行方に
気をとられた瞬間、今度は女が走り出した。
なだらかな坂道を、文字通り転がるように走ってくる。
走るなといっても聞かないのはわかっているので、こちらも駆け寄りながら
両手を伸ばした。同時に腰を落として息をつめる。
「旦那さまー!!」
砲弾でも受け止めたような衝撃と共に、一瞬、片足が宙に浮いた。
げふっと変な息が漏れる。
いくら小柄で軽いといっても、転びかけの勢いのままつっこんでこられては
受け止めるのも容易ではない。毎度のことながら、厳しい。
坂どころか普通の道でもすぐ転ぶのだから、外ではなるべく走るなと、
この一年、いつも言って聞かせているのだが、私の姿を見ると走り出すのを、
この女は何故か、決してやめようとしない。
いったん跳ね返って離れかけ、だがすぐ小さな手が、しゃにむに私の体を抱きしめてきた。
精一杯の力が、背中の荷物ごと私の体をぎゅうぎゅうと抱きしめる。背負子がみしみし
音を立てた。何度言っても加減を覚えぬ奴だ。
仕方なく抱き返した腕の中で、小さな顔がひょいと上がった。

やっと私の胸ほどの場所から、丸い大きな目が、喜色に溢れて私を見上げている。
ふっくらした唇をむずむずと動かし、またぎゅっと私の胸に顔を埋め、匂いをかぐように
ふかぶかと息を吸う。
またすぐ上がった顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
774茜の里3:2007/07/11(水) 01:55:53 ID:ztIOVlMU

「旦那さま、お戻りなされませ!」
「ああ」
いつもながら、でかい声だ。
「今日あたりお戻りかと、妙は一月前から毎日、ご馳走を作ってお待ちしておりました!」
「そうか」
毎日。
まさか、残してはいるまいな。
「野菜のお煮つけですとか草もちですとか、岩魚の塩焼きですとかそれから……」
「……妙。ところで大根は」

さりげなく話をそらすと、丸い目がぱちくりと瞬いた。
あっと小さく呟き、慌てたように振り返って、先ほど道に落ちた大根に目をやる。
坂の途中の地面に落ちた衝撃で、見事に半分に折れたそれは、折れ口まで
土くれだらけになっていた。
「申し訳ございません……」
先ほどまでの笑顔が見る影もなく、しょんぼりしょげ返る。うつむいたまま、
妙はそろそろと私から離れた。

宵の風が胸元を、ひどく冷たく吹き抜ける。残り香だけが手の中に残った。

しゅんとしてきびすを返す妙を追い、また走り出さないように、さりげなく
その帯を掴む。犬の仔のようだとふと思った。
掴んでしまえばどうしようもないので、私もそのまま一緒に歩き出した。
「夕餉の支度中にわざわざ、大根を買いに行ったのか?」
「お味噌汁を作ろうと思ったら、使い切ってしまっていて……」
「味噌汁の具など、何でもよいだろう」
「駄目です。お味噌汁は大根でなくては!」
そこだけ変に力をこめて首を振る。
まあ、それは同感だが。
「それに大根のお味噌汁は、旦那さまの好物でしょう」
お戻りに間に合って、本当にようございました。
そっと振り返り、にこりと笑って、またてくてくと歩いていく小さな足を、
ぼんやり見つめる。
市はとうに終わっている時刻だ。大根一本求めるために、この女はきっと、
遠くの農家まで走ったのだろう。
ほつれたわらじの中で、小さな足は泥だらけだ。
暮れていく日の中、薄汚れていても白い甲が、そこだけひどくまばゆく光って見えた。

そんなことをよく知っているな、と呟けば、だって妙は旦那さまの妻ですもの、と
なにがおかしいのかまた、嬉しそうに笑った。



夕餉の飯は、粥だった。
少しほっとした。
水加減を間違えました、と必死に頭を下げる妙をなだめて、粥と魚の干物の夕餉を終える。
少々腹の中が水っぽいが、芯があったり炭と化した米よりは、はるかに食べやすい。
腕を上げたものだ、と感心した自分の考え方のおかしさに、気づいたのは食後の茶を
飲んでいる最中だった。
いささか愕然とする。思わず茶碗を運ぶ手が止まった。
「旦那さま、どうかなさいましたか?」
囲炉裏の向かいで、破れた私の足袋を縫っていた妙が、不思議そうに顔を上げた。
表情には出さなかったつもりだが、読まれたか。この女にはこういう、不思議に
鋭いところが時々ある。
なんでもない、と呟いて茶碗を置き、私も仕事道具の手入れに戻った。
775茜の里4:2007/07/11(水) 01:58:24 ID:ztIOVlMU

くない、しころ、手裏剣。小刀、まきびし、そして表の商売品とは違う、数々の薬。
どれも己の命を守るものだ。日々の手入れは欠かせない。
こればかりは妻にも任せられない。いや、もとより妙には恐ろしくて渡せないが。

とくに追求もせず、そうですか、と呟き、なにがおかしいのかにこっと笑う。
それから妙は、縫い上げたものを傍らに置き、新しい足袋へと取り掛かった。
何をやらせても抜かりばかりなのに、妙は何故か、縫い物だけはうまい。
たまに前掛けを一緒に縫ってしまう程度だ。
「今日も足袋の繕いがたくさん。随分歩かれたのですね」
「それが仕事だからな」
「此度は、どちらへ?」
答えずにいると、はたとこちらを見上げ、申し訳ございませんと頭を下げる。
そうして妙は、また小さく笑った。

囲炉裏の中でぱちぱちと、高く低く薪がはぜる。
夜の明かりに照らされる妙の顔は、昼間の子どもじみた様とは違い、
陰を含んでどこか妖しくさえ見える。
昔の影がよぎるのだろうか。
頬も、額も、目元も、夕暮れ時に比べてひどく暗く、奇妙に艶やかで。
けれどその表情は、今もやはりあけっぴろげに、嬉しそうだった。

ふと気づくと、囲炉裏の向こうで縫い物の手を止め、妙がじっとこちらを
見ていた。
視線が気になり、何だ、と問いかければ、鼻の頭を赤くして、ひどく嬉しそうに笑う。
「旦那さま。お戻りなされませ」
「何度目だ」
「だって嬉しいのですもの。旦那さまがここにおいでなのが」
「……それはいるだろう。私の家だからな」
「はい。それが嬉しいのでございます」
この女のいうことは、時々さっぱりわからない。
首をかしげ、作業に戻る。妙は気にした様子もなく、にこにこと笑いながら
今度は小さく頭を下げた。
「旦那さま。ありがとうございます」
「何が」
「私のようなものをもらってくださって」
答えに窮した私を、ひたむきな顔がじっと見上げてくる。
囲炉裏の火よりも赤く、頬が染まる。黒々とした瞳が、潤んだように輝いた。

「いつもいつも、感謝しております。旦那さまに拾っていただけなければ、
妙はきっと生きてはおりませんでした。妙が今あるのは、すべて旦那さまのおかげです。
旦那さまがおいででなければ、妙は生きていけません。私を救ってくださって、
妻にしてくださって、本当にありがとうございます」
776茜の里5:2007/07/11(水) 02:01:13 ID:ztIOVlMU

真っ赤な顔で一息に言い切り、これ以上があるのかと思うほどさらに頬を染める。
湯気でも出そうだ。
「……そうか」
「はい!」
きらきらと輝きながら、食い入るように見つめてくるその目に気圧され、
実は私はときどき、お前を妻にしたことを後悔しているのだが、とは言い損ねた。
胸の中の言葉は飲み込み、重ねてそうか、とだけ呟く。
今度は言葉もなくうなずき、そうして妙は子供のような顔で、にっこりと笑った。
「お邪魔をして申し訳ございません!……あの、あの、では、お風呂を炊いてまいります!」
真っ赤な笑顔のまま、慌しく立ち上がり、土間へと駆け下りていく。後ろから見ても、耳が赤い。
あれはあれで恥ずかしいのだろうか。
囲炉裏の中の薪がひときわ大きく、ぱちんとはぜた。
土間の隅から聞こえてきたけたたましい騒音に、炊く前に風呂を燃やさなければいいが、と
少し、不安になった。



一年半前、妙を拾ったのは、旅の途中で寄った田舎の宿場町だった。
そこの最下層の宿で、妙は飯盛り女をしていた。
その頃私は仕事をしくじり、ひどい怪我を負って行き倒れていた。それを物好きにも
拾い、朋輩に笑われながらも、自分の飯まで割いて助けたのが、妙だった。
拾われたのは、私が先なわけだ。
とはいえ、傷が癒えれば、飯盛り女の気まぐれなど気にする必要もない。
おかしなことに妙は、私の枕探しもしようとしなかった。だからその分、多少の礼金でも
置いていけば、それで終わるはずだった。
だから何故あの時わざわざ、あの女を拾って連れて行ったのか、今思い返しても
実はよくわからない。

誰でもよいから女を囲い、拠点を作れと頭に言われていたからか。
妙には身内もなく、いなくなっても誰も気にせぬ身の上なのが、ちょうどよかったからか。
私に怪我を負わせた仕事の標的を、倒せたのが妙の助けによるものだったからか。

その頃から、何をやっても手抜かりばかりの妙は、不思議と朋輩には好かれていたが、
主には疎まれていた。
だからひどい客ばかりをあてがわれていたのだが、その中に、私をすぐには死なない程度に刻んで
放り出した、標的の男がいたのだ。
お妙ちゃんがおかしな客を取らされている、と、仲間の飯盛り女があわをくって駆けつけてきたのは、
私が宿を抜け出す直前だった。
その特徴が、標的のものと同じと気づいた時、すでに妙が客を取って半刻が過ぎていた。

妙の上で、夢中になって腰を振る男を刀で刺したとき、私は本当は妙ごと貫くつもりだった。
そのほうが、確実に止めをさせる。
それに、抱かれながら少しずつ肉を刻まれ、血まみれで横たわる妙は、とても息をしているとは
思えない状態だったからだ。

何故あの時、妙ごと貫かなかったのか。
何故逃げもせず、生きているとも思えないあの女を、わざわざ介抱したのか。
何故死んでいないとわかったとき、邪魔になるだけのはずの妙を連れて行ったのか。
今でも、よくわからない。
777名無しさん@ピンキー:2007/07/12(木) 00:05:34 ID:LLcsmYNO
wktk
778名無しさん@ピンキー:2007/07/14(土) 00:47:35 ID:ZLFoMiuX
ドジっ子奥タソ、可愛いよ〜
時代ものスキーなので、続き楽しみに待ってます。GJ!!
779名無しさん@ピンキー:2007/07/15(日) 06:17:19 ID:nxHSp54x
期待作ktkr!GJ!続き期待してるぜ。
780名無しさん@ピンキー:2007/07/16(月) 14:15:33 ID:UnpMJiVg
781名無しさん@ピンキー:2007/07/18(水) 00:02:28 ID:jvpCbVM3
そういやもう450k超えてるね
782名無しさん@ピンキー:2007/07/19(木) 02:52:01 ID:hBxQWNCF
保守
783名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 02:15:25 ID:zzD3tK1o
保守保守
784名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 04:46:36 ID:DGXcwKNa
再び活気を取り戻せるのか・・・
785名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 12:00:23 ID:i4L4eU8/
>>521
なんのゲームか教えてください
786名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 23:57:07 ID:McXou9ea
ほしゅ
787名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 04:34:48 ID:a/nTgWo2
保守
788名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 11:38:52 ID:KPYfJFpk
789名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 04:40:26 ID:K4NKtr8p
すまん、聞きたいんだが。
一作できあがったので投下しようと思うんだが、
投下途中でスレ容量が500kいきそうなんだ。

途中まで投下して新スレに続きを落とすか、
それとも新スレが立つのを待って落とした方がいいのか。
どっちにしたらいいんだろう?
790名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 19:17:25 ID:ZovtAgXQ
>>789
>途中まで投下して新スレに続きを落とす

に  ノ
791785:2007/07/31(火) 20:45:51 ID:aR53WjrR
>>788
トンクス
792名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 04:35:08 ID:/YWJb5cA
>>789
>>790に同意。期待してますぜ。
793789=前スレ669:2007/08/01(水) 21:59:45 ID:TEPTwWdt
>>790
>>792
おk。投下します。

ちなみに私、前スレで『海の日』とかを投下した者です。
初めましての方は初めまして。
憶えてらっしゃる方はお久しぶりです。


今回の投下作は『海の日』と同じシリーズです。
前スレを見ていない人もいると思いますが、
別に前の奴を知らなくても大丈夫ですので。

前回の分も見てやるか、と思ったら>>2の保管庫をご覧下さい。
作品名は『海の日』と『バナナの日』です。

それでは、投下。
あ、8月1日は・・・
794花火の日  01:2007/08/01(水) 22:02:17 ID:TEPTwWdt
「じゃ〜〜ん」
それは暦が文月から葉月へと変わり、ここ数日続いていた、うだるような暑さが少しだけマシになった、とある日のこと。
いつものごとく俺が扇風機の恩恵を受けながらハードカバーを開いていると、美由紀がそんな声と共に登場した。
また何か変なこと考えたんじゃないだろうなと思いつつ、チラリと目を向け――ページをめくる指が止まった。
まだ日も高い最中、彼女が着ていたのは青地に牡丹をあしらった、
「浴衣?」
「ぴんぽ〜ん。せいか〜いっ」
いや、誰だって見ればわかる。俺が聞きたいのはそういう事じゃない。
「しかしまた何で」
そこまで言ってから、俺は一度口の動きを止めざるを得なかった。何故なら――
「じ〜〜〜〜〜〜〜〜」
彼女の視線を感じたからだ。それも、ものすごく期待のこもった眼差しだった。たとえるならば散歩に出かける前の犬のような。
もし尻尾があったなら、ぱたぱた左右に振れていたに違いない。
「わくわくどきどきそわそわ」
ええい、擬音を口に出すな。
俺はそっとため息を吐いてから、視線を微妙に逸らす。美由紀の望んでいるものが手に取るようにわかってしまった。
そういえばつい十日ほど前、同じようなことがあったなと思い出す。このまま何も言わなければ、あのときと同じ展開を辿るだろう。
仕方ない。俺は照れくささを強引に押さえつけながら、どうにか言葉を絞り出す。
「あー、うん、似合ってるんじゃないか」
「ありがと。えへへ〜」
彼女の顔にパッと花が咲き、後ろ姿までご覧あれとばかりにその場で一回転。
背中まで伸びた髪が、ふわりと揺れた。
しかし隣の部屋で何かごそごそやっていると思ったら、こんな物を用意していたのか。
今日の朝早く一旦自宅に帰ったのは、これを取りに行っていたんだな。
まぁ、そんな理由でもないと家には戻らないか。夏休みだからこっちに入り浸りだし。
というか普段から入り浸りなんだが。一週間まるまる泊まっていくときもあるし。いや、むしろそっちの方が多いな。
今まではこの現状を『ほぼ』同棲状態と認識していたが、『ほぼ』を除いてもいいような気がしてきた。
……って、そんなことはどうでもいい。
俺はズレの生じた思考を振り払うと、中断していた素朴な疑問を再開する。
「しかし何でまた浴衣なんか着ているんだ?」 
「たーくんやっぱり忘れてる〜」
彼女は昔から一向に直そうとしない愛称で俺を呼び、カレンダーを指し示した。
「今日は、何の日でしょう〜?」
つられるように、本日の日付を確認する。一ヶ月刻みのカレンダーはめくられたばかりで、予定を書き込まれていない。
先月は夏休みが始まったということもあって、結構遊びに出かけたんだけどな。海にも行ったし。
あれからもう十日以上経つのか。何だか一年以上前の出来事のような錯覚があるが。
「8月1日って何かあったか?」
頭を捻る。この時期、浴衣を着るような行事といえば……。
「……花火大会か」
「当たり〜」
美由紀がぱちぱちと拍手してくる。
「そうか、そう言えばそうだったな」
この日、少し離れた港町で、毎年花火大会が開かれる。この近辺では規模が一番大きく、なかなかの数が打ち上がる。
付き合いだしてからは二人で欠かさず見物に行っていた。
「で、行くのはいいとしても、どっちにする?」
俺達が花火大会に向かうとき、場所の選択肢が二つある。
直接会場に赴き間近で見物か、近所の高台に建てられている神社で楽しむか。
もちろん間近で見た方が迫力はあるが、その分人も多い。
今から家を出ないときちんと花火が観賞できるような場所は陣取れないだろう。
美由紀は少しの間考えて、
「う〜ん、去年は近くで見たから、今年は神社にしよ〜」
決断を下す。人混みが苦手な俺に異論があろうはずもなかった。
「そうだな。……それでだ、美由紀」
「なに〜?」
「時間までずっとその格好をしているつもりか?」
「大丈夫〜。出掛ける前にきちんと着付け直すから〜」
「…………」
ちなみに今は午後一時である。俺は黙って、クーラーのリモコンを手に取った。
795花火の日  02:2007/08/01(水) 22:04:13 ID:TEPTwWdt


日が傾き始めると、涼しい風が街に吹き込むようになった。
紅く染まる住宅地を、からんころんと下駄の音を響かせながら、ふたり肩を並べて歩く。
彼女は楽しげに鼻歌など歌いながら、手に持った巾着を前後に揺らしていた。
足を進めるたびにふわふわ動くその髪を見て、ふと尋ねる。
「そう言えばお前、ほとんど髪型は変えてないんだな」
時折すれ違う浴衣姿の女性達は、大半が髪を結い上げていた。それを見ての感想だったのだが、美由紀は不満そうに頬を膨らませる。
「ちゃんと浴衣に合わせて変えてるもん〜。たーくん全然気付いてくれてない〜」
「いや、浴衣用にしてたのは気付いてた。だから『ほとんど』って言ったろ?」
今の彼女は緩くウェーブがかかった髪を、左右一房ずつ三つ編みにして、前に垂らしている。
結び目は小さな花をあしらった髪留めでとめていた。
普段は何の細工もないロングヘアーなので、違いはすぐにわかっていた。
「ただ、アップにしている奴が多いからな。お前はやらないんだなと思っただけだ」
先程コンビニの前ですれ違った若い女性グループを脳裏に浮かべながら美由紀に目をやると、彼女は真剣な表情でこちらを見返してきていた。
思わず立ち止まると、呼応したかのように一歩踏み込んでくる。
いつもの緩んだ雰囲気が引き締まり、わずかだが圧されてしまう。美由紀は真摯な光を瞳に浮かべたまま、
「もしかしてたーくんってうなじフェチ?」
俺は脱力のあまり崩れ落ちそうになった。
「……何でそうなる」
「だってこの前見た雑誌に書いてあったもん〜。『浴衣姿のほつれ毛に意中のカレはドッキドキ』って」
ドッキドキ……。またえらく古い表現を使う雑誌だな。
美由紀はしばらく難しい顔で考え込んでいたが、やがて何か閃いたらしく手を打ち合わせると、くるりと後ろを向いてうなじを強調してくる。
「どう〜?」
「どうと言われても」
「ドッキドキ?」
「…………ああ、そうかもな」
自分達の会話が急に馬鹿らしくなってきて、取りあえず投げやりに答える。
「でも美由紀には長い方が似合ってると思うから。俺はアップにするよりそっちの方がいいかな」
何気ない――本当に何気ない言葉だったのだが、美由紀は嬉しそうに表情を輝かせた。
「えへへ〜」
足取りも弾むように軽快なものへとなり、第三者から見ても浮かれているのは丸わかりだった。
そんなに喜ぶようなことだったか、と尋ねた俺に、美由紀は締まりのない顔で返してくる。
「だってたーくん、昔と同じこと言ってる〜」
「そうだっけ?」
記憶にない。
「美由紀は髪が長い方がいいって。小さい頃、褒めてくれたよね〜」
彼女は指先で髪を梳きながら、微笑んだ。過去の言動を思い出し、唐突に顔面に血が上ってきた。
「あ、あれはだな……」
「嬉しかったよ」
からかいなど欠片も含まれていない、純粋な喜びだけを映した瞳。
そんなものを向けられると、誤魔化そうとする意志さえ霞のごとく消えていく。
そういえばあの時、俺が彼女の髪を褒めたときも、こんな風に笑ってくれた気がする。
「じゃあ、そろそろ神社にれっつご〜」
美由紀が俺の手をぎゅっと握りしめて、ぐいぐい引っ張っていく。
いつの間にかたどり着いていた神社へと続く長い階段を、急かされるように二人で上る。
手を握るなんていつもやっていることなのに、先程までの会話のせいかお互い照れくさい。
美由紀の肌も、夕日色でほんのり染められている。
これ以上赤くなっても困るので、見せてくれたうなじが結構色っぽかったことは、言わないでおくことにした。
796花火の日  03:2007/08/01(水) 22:05:24 ID:TEPTwWdt
感情を誤魔化すように早めたその足で、階段を上り、上り、ひたすら上り、境内へ辿り着く。
立ち止まった俺の全身からは、うっすらと汗が滲んでいた。
「ようやく、頂上か、はぁ……」
ここの神社は小さな山の上にあるので、上り切りさえすれば少々離れている街の花火も見られるのは利点だが、今は感謝する気にはなれなかった。
Tシャツとジーンズが肌に張り付いて、少々不快な感触になっている。
「たーくん、汗浮かんでるよ〜」
一方美由紀は俺が途中から引っ張る形になっていたためか、さして疲労していないらしい。
呑気な声と共にハンカチを握った手を伸ばしてくる。
不意を付かれたため制止も出来ず、俺は黙って額の滴を拭われることになった。
幼い子供が母親に甘えているみたいで恥ずかしいんだが。美由紀はというと、心なしか楽しげな様子。
こっちの心情をわかっててわざとやってるのか、珍しく俺がなされるままに身を任しているのが嬉しいのか。
こいつの性格を考えるに、多分後者だろう。
「たーくん照れてる〜。かわいい〜」
「ていっ」
デコピン攻撃炸裂。
「う〜。ひどい〜。暴力反対〜」
前言撤回。両方らしかった。
「馬鹿なことやってないで、さっさと場所取るぞ」
彼女にそう促して歩き出す。やっぱり手は握ったままで。
美由紀はすぐに表情を明るくして足並みを揃えた。
境内には俺達と同じ目的の家族連れやらカップルやらが、そこそこ集まっている。さすがに夜店までは出ていなかった。
もう腰を下ろした人々の間を縫うように、二人でめぼしい場所を探す。
そうしてさまよう俺達の足下を、男の子と女の子が笑い声を上げながら駆け抜けていった。
そんな子供の姿に、不意に昔の自分達を重ねてしまう。
子供の頃、この神社は俺達の遊び場だった。
美由紀や他の子供達と一緒に、鬼ごっこやかくれんぼを飽きることなく繰り返した。
そんな日々がいつまでも続くと信じながら。
「ね、たーくん。ここでいいんじゃないかな〜」
「あ、ああ。そうだな」
成長した彼女の声が、俺を記憶の海から引き戻す。
思いを巡らしていたのは一瞬のつもりだったが、予想以上に時間は過ぎていたらしい。
しっかりしろ、俺。ノスタルジーに浸るのはいつでも出来るが、花火大会は一年に一度しかないんだから。
軽く自分を叱咤して、準備に取りかかる。
持ってきていたビニールシートを地面に敷き、四隅を固定。そしてコンビニの袋から、飲み物を取り出した。
「言っておくが、アルコール類はそれひとつだけだからな。後買ってるのはは全部ジュースだぞ」
「わかってる〜」
本当にわかっているのか。というかお前は一本だけでも危険だがな。
まぁ酔っても他に迷惑を掛けるわけでもないので、良しとするか。
そんなやり取りをしていると、ピピピッと携帯電話のアラームが時刻を知らせた。
「そろそろだな」
二人一緒にカクテルの蓋を開け、缶を打ち合わせる。
「かんぱ〜い」
ドンという音と共に、空に大きな花が咲いた。
797花火の日  04:2007/08/01(水) 22:07:01 ID:TEPTwWdt


「ん〜〜。ん……たーく〜ん?」
「おはよう」
身じろぎして薄目を開いた美由紀に、起床の挨拶を贈る。ぼんやりとした顔と眠そうにとろんとした瞳は、寝起き特有のものだ。
まだ幸せの中に半分浸かっている彼女の表情は微笑ましくて、このまま鑑賞したい衝動に駆られるが、そういうわけにもいかない。
かわいそうだが、目を覚ましてもらわないと。
「ほら、そろそろ起きないと、本当にこのまま夜を明かすことになるぞ」
「わらし、寝てた〜?」
まだ口調は怪しいものの、自分の力で上体を起こす。だが、身体は左右にゆらゆら振り子のように揺れていた。
「ああ。二時間ほど」
俺の膝を占拠してな。
ちなみに彼女が眠ったのは、最後の花火が打ち上げられて少ししてからである。
よって、花火大会が終わってからずいぶんと時間が経っている。神社にも、もう俺達以外に人の姿はない。
美由紀が寝入ったのはアルコールが原因だろうが……計ったように効いてくれたもんだ。
「ほら、しゃんと目を覚ましてこい」
そう促し彼女を送り出す。この神社には手洗い場と水道が備え付けられている。
話によると二、三年前に作られたらしい。
子供の頃はなくても困らなかったが、大人になった今ではその存在はありがたかった。
ふらふらおぼつかない足取りでトイレへと向かう美由紀を尻目に、唯一片づけていなかったビニールシートをコンビニの袋に押し込め、立ち上がる。
みんなマナーを心得ているようで、辺りにゴミは落ちていなかった。
人がいなくなった途端に広々とした境内をゆっくりと歩きながら、空を見上げる。
黒のグラデーションと月の光に彩られた空には、花火の残映もない。
「夢のあと、か」
祭りは終わる。幸せだった時間は終わる。それは当然のことだ。
日常があるからこそ、イベントは楽しい。わかっている。けれど、寂しさを感じてしまう。
引きずられるように浮かぶのは、幼かった日々。
ここで毎日のように駆け回って、同じ時を過ごした友人達。みんな今はそれぞれの道を歩んでいて。
戻りたいわけじゃないけど、忘れられない。不意に思い出し、懐かしさが胸を占める
「感傷だよな……」
振り払うように首を振り、視線を戻す。そこへ、
「お待たせ〜」
顔を洗って眠気を飛ばした美由紀が駆け寄ってきた。
798花火の日  05:2007/08/01(水) 22:09:04 ID:TEPTwWdt
「じゃ、帰るか」
声を掛けるが、美由紀は動かない。じっと俺の顔をのぞき込んでいる。
「どうした?」
怪訝に感じ尋ねると、彼女は神妙な様子で、
「たーくん、何かあった?」
そう聞き返してくる。変なところで鋭いな、こいつは。
「いや、別に」
俺は何でもない風を装って答えた。
実際たいしたことではないのだから。悩みとも呼べない、ただの感傷。なのに、美由紀は――
「でも、何か寂しそうな顔してたから〜」
それすら、見抜いた。
光源は月しか無く、この暗い場所で、些細な変化なのに、更に感情を隠しまでしたのに。
しばらく言葉が出なかった。それでも、見透かされたことを心のどこかが納得している。
付き合い長いもんなぁ。
俺は苦笑して、先程まで抱いていた感傷を、包み隠さず語る。
「昔、ここでよく遊んだなって思い出してた」
美由紀の手を引っ張って、みんなで集まって、日が暮れるまで、泥だらけになるまで、毎日毎日。
「あの頃が一番楽しかったってわけでもないんだけど、幸せな時間のひとつだったことは確かだから。
もうあいつらと会えないのは少し寂しいかな」
「そう、だね……」
呟いて、美由紀は境内へ瞳を向ける。彼女も俺と同じ気持ちなのだろう。
過ぎゆく時をなごり惜しみ、懐かしく感じてしまうのは、仕方のないことだ。
でも、と彼女は微笑んで、俺の手をきゅっと握る。
「思い出は残るから。
幸せな時間は、過ぎてもなくなるわけじゃないから。
寂しいって感じるのは、その時が幸せだった証拠だから。
そんな風に思える時間をこれからどんどん積み重ねていけば。
胸を張れるくらい今だって幸せなら――」
月の光に照らされた美由紀の顔は、これまで見たどんな表情より大人っぽくて、幻想的なくらい綺麗で、泣きたいくらい愛おしくて。
「――寂しくても、悲しくなんてならないよ」
その姿に、我知らず見とれていた。
「私はたーくんといるだけでいつも幸せだけどね〜」
そう言った美由紀はいつもと同じ緩んだ笑顔に戻ったけど、一旦溢れた愛しさは止まらなかった。
自分でも制御できない衝動に突き動かされるままに彼女を抱き寄せる。
「たーくん?」
「俺も」
残ったひと欠片の理性で、腕の力を彼女が痛がる寸前でセーブする。
「俺も、お前といるだけで、幸せだ」
平時なら赤面物の台詞が、今は素直に口に出来た。
彼女が応えるように、俺の背に腕を回す。
それだけで何かが決壊した。顔を上げた美由紀に、躊躇いなく唇を会わせる。
799花火の日  06:2007/08/01(水) 22:10:31 ID:TEPTwWdt
「美由紀っ」
「ん…………」
深く、長いキス。
夏を彩る虫の音もいつしか止んでいて、静寂が周囲を包む中、お互いに抱いた思いを交換するように、キスを交わし続ける。
でもそれだけじゃあすぐに足りなくなって、もっと美由紀を感じたくなって、小さく開いた唇から、彼女の口腔内に進入する。
「んっ……んふっ…………」
彼女は一瞬だけピクッと体を震わせたが、すぐに舌の動きを返してきた。
「はん……ん……ちゅ……」
遊ぶように左右に逃げたり、抱き合うように絡め合ったり。
くっついて離れなくなってしまったんじゃないか、そんなあり得ないことを考えてしまうくらい、深く深く口づけを交わす。
いつの間にか俺の手は美由紀の後頭部を支え、髪を優しく撫で付けていた。
「んんっ……ん…………はぁ……」
時折触れる、空気を求めた彼女の吐息がくすぐったくて、それがまた触れあっているという感覚を高めてくれる。
「んんん……ちゅ……」
唇を離さず、
「はぁ、ん、んん」
舌を絡ませ
「ちゅ……ちゅうっ………こくっ」
唾液を混ぜ合わせ、
「んんん…………はっ、ん〜」
お互いの存在を、確かめるように、
「はむっ……んむ……ん…………」
キスをする。
ずっとこのままいたい、そんな風に願うものの、
「ん…………はぁ、はぁ、はぁ…………」
それは叶わない。お互いの身体が空気を欲し、自然に離れる。
繋がっていた唾液が名残惜しそうに橋を作って、やがてぷつんと切れた。
「はぁ、は……」
しばらく、二人そのまま肩で息をする。伸縮を繰り返す肺が新鮮な空気を得て、荒くなっていた呼吸を徐々に鎮めていく。
しかし、心臓の高鳴りはいまだ休まることを知らない。
「はぁ……えへへ〜。たーくん」
息を整えた美由紀が、笑顔で俺を呼ぶ。
ただ俺の名を口にしたかったから、そんな意味もない言葉だったのに、それだけで情動がもう一段加速した。
800花火の日  07:2007/08/01(水) 22:12:30 ID:TEPTwWdt
「たーくん、あっ」
今度は彼女の後ろに回り、背後から強く抱きしめる。
戸惑う美由紀の首筋に鼻を埋めると、彼女と、彼女の髪の香りが漂ってくる。
「やっ、たーく、んっ」
身じろぎする美由紀を腕の力で押さえ込み、首筋に吸い付く。
唇とはまた違った味と感触を楽しみながら、何度もキスを繰り返す。
「たーくん吸血鬼みたいだよ〜」
「よりによって吸血鬼かよ」
彼女の間の抜けた言葉に苦笑しながら、首への愛撫を続ける。
その姿は、確かに吸血鬼にそっくりだったかもしれない。存在するはずもない彼らの気持ちが少しだけ分かった気がする。
目の前にこんな魅力的なご馳走があるのに味わわないなんていう選択肢はない。
興奮のせいか赤みを帯びている首筋を見ながら、ふとあの台詞を言ってやろうと思いつく。
今なら夕日みたいになられても、一向に構わない。
「そうだ、忘れてた。うなじ、色っぽいぞ」
「今、言うのは、恥ずかしいから、反則〜」
くすぐったそうな、それでいて微妙に感じている彼女の反応を堪能しながら、唇の進路を上へとずらす。
今度は無防備な耳に標的を定め、ふっと息を吹きかけた。
「あっ! みみ、だめぇ……。よわい、からっ」
美由紀の口から途切れ途切れの吐息が紡がれるが、構わず耳たぶを唇に軽く挟んだ。
「ひゃんっ!」
可愛らしい悲鳴と共に、美由紀がピクッと全身を震わせる。
そっと舐め上げると、彼女は小さく声を漏らしながら、腰に回した俺の腕をギュッギュッと掴んでくる。
もう上半身の力は抜けきっていて、ほとんど俺に体重を預けている状態だった。
光源としては不十分な月明かりの下でも、顔が上気して赤くなっているのがわかる。
しかし、俺は攻撃の手をゆるめない。美由紀が一息つく暇を与えず、今度は反対側の耳を攻める。
「んん……ふっ、あっ」
そして美由紀の意識が耳に集中している間に、そっと胸元へ手を忍び込ませた。
すっかり油断していたのか、進入は難なく成功する。
801花火の日  08:2007/08/01(水) 22:14:23 ID:TEPTwWdt
「あ、たーくん、だめ」
手のひらで触れた彼女の胸は、うっすらと汗をかいていた。
柔らかな心地よい感触はもう何度も体験したものだけれど、この魅力にはいつまでたっても抗えそうにない。
「ブラ、着けてないんだな」
「だって、浴衣、だもんっ」
彼女の言葉が終わるよりも早く、右腕を大きく動かし始めた。
浴衣によって窮屈に押さえ込まれていた二つの膨らみは、そんなことなど微塵も感じさせない弾力で、俺を楽しませてくれる。
「ん、あ、はぁ……」
力を入れれば乳房は沈み込み、力を抜けば元の形に戻る。
しっとりと潤った肌が吸い付くように指に馴染むのが嬉しくて、極上の料理を味わうように、ゆっくりとした動きで胸の感触を堪能する。
というかペースを落とし気味でいかないと、すぐに理性の扉を粉々に叩き壊して強引なだけの愛撫になってしまいそうだ。
「あ、んん、あ、たーく、だめ、んんっ!」
今まで疎かにしていた乳首を指の腹でこすってやると、美由紀は鼻にかかったような甘い声を上げる。美由紀が胸で一番感じる場所だ。
もう何度も肌を重ねているから、お互いの弱点は全て知り尽くしている。
「はぁ、はぁ……、たー、くん……」
軽い前戯でもそれなりに高まったのか、途切れ途切れの声で俺の名を呼ぶ美由紀の肩は、大きく上下していた。
甘えるようにこちらを見上げる瞳は少し潤んでいて、とても色っぽい。
その中に映る感情は、いきなりの行為に対する軽い非難と、外という場所から来る少しの不安、そして控えめな、期待。
そう、お互いの弱点は知り尽くしている。だから美由紀も、こんなもので終わりじゃないってわかっている。
俺は浴衣の胸元を大きく開いて、隠されていた双丘を月光に晒け出した。
解放された彼女の柔肌は汗で光を反射しているためか、うっすらと輝いて見えた。
「やぁ……またおっぱい、いじめるの?」
「当たり前だろ」
「あ、当たり前なんだ〜、んっ!」
俺は彼女の胸を今度は両の手で掴むと、指の間に桜色の蕾を挟み込み、搾るように刺激してやる。
「んっ、はぁ、や、あああっ、ちくび、こりこりって、しちゃ、やぁん!」
本格的に感じてきたのか、艶の出始めた美由紀の声を聞きながら、残りの指で乳房を揉み込んだ。
「はぁ、たーくん、つよい、よぉ……」
「痛いか?」
「痛くはないけど……あっ、ひっぱちゃやぁぁっ!」
美由紀がいやいやするように首を左右に振る。
その赤くなった首筋や耳にキスをしてやると、「あっ」と小さなあえぎ声を漏らしてピクリと体を震わせた。
追い打ちを掛けるように人差し指と親指で胸の先をつまみ、
「そんな、いっぺんに……あああんっ! やぁんっ! あ、あっ!」
きゅっと潰してやる。
「あ、やぁ! たーく、あ、みみ、もぉ、おっぱいもぉ、きもちいっ、ん!」
逃げ場のなくなった美由紀の身体からは力が抜け、もう上半身はほとんど俺に寄りかかっていた。
大きく肩を上下させながら、俺の腕からもたらされる快感を受け止めている。
そろそろ頃合いだろう。
802花火の日  09:2007/08/01(水) 22:16:19 ID:TEPTwWdt
左手の動きは止めぬまま、もう一方の腕で浴衣の裾をめくり、すっかり体温の上がった太股の内側に触れる。
「あっ! たーくんっ」
そこで俺がやろうとしていることにようやく気付いたのか、耐えるように閉じられていた彼女の瞼が開く。
見上げたその瞳は、不安げに揺れながらも熱っぽく、俺を求めているようにも見えた。
「……それ以上したら止まらなくなっちゃうよ?」
美由紀の言う通りだ。これ以上先に進んでしまうと、最後まで止められなくなる。お互いにそれはわかっている。
けど――
「流石にここでおあずけは辛いぞ」
俺の答えに美由紀は拗ねたように唇をとがらせて、
「たーくんのえっち」
そう返す。だがすぐに照れたように微笑んで、
「えへへ〜、実は私もなんだけどね。……私も、たーくんと一緒。したい、な」
俺の腕にそっと手のひらを重ねた。
太股に置いていた指を付け根へと滑らせると、柔らかな布の感触が出迎える。
下着の上から割れ目にそっと触れると、吐息と勘違いしてしまいそうな小さな声を美由紀が上げる。
そのまま前後に擦ってやると吐息は徐々に大きくなり、
「んっ、はっ、んんっ」
はっきりとした喘ぎが混じり込んでくる。
同時に、わずかだが指先に湿りを感じられるようになった。
「胸だけで感じてた? もう濡れてきたぞ」
「違うもんっ、それは、あっ、あせだも、んっ!」
彼女の言葉を受けて俺は指先の感覚を確かめるが、やはり汗ではない特有の粘りがある。
「やっぱり濡れてるぞ」
「ん、それは、今、たーくんが触ってるからぁっ。胸だけで、感じてなんか、あ、ないもん、あ、んんっ!」
バレバレの言い訳に思わず苦笑する。相変わらず、変なところで強情な奴。
ま、だから楽しいんだけど。
「ああ、そうだな。まったくその通りだ」
「信じてない、んはっ、でしょ、ひゃうっ」
疎かになっていた左手で胸をほぐしてやると、美由紀の声のトーンが一段高くなる。
同時にじわりとした湿り気が、更に下着に広がった。
この分なら、もう指くらいは大丈夫かもしれない。俺は下着を横にずらし、
「はぁ、はぁ、はぁ……んっ、んんん〜〜〜っっ」
ツプリと人差し指を彼女の中に侵入させた。
803花火の日  10:2007/08/01(水) 22:18:07 ID:TEPTwWdt
思った通り彼女の膣内は愛液で潤っていて、抵抗はほとんどなかった。
それどころか次から次へと蜜が溢れ出て、指を伝って俺の手のひらに流れ込んできている。
「あ、あっ、ん、んあっ、たーくっ」
続いて中指も入れてみるが、同じようにするりと侵入できた。
ゆっくりと抜き差ししてみるが、
「んんっ、あ、いい、よぉ、んっ」
実にスムーズ。なのでちょっとパターンを変えて、鉤のように指を少し曲げて、クイクイと壁を擦ってみる。
「んんんあっ! たーくん、だめっ、こすっちゃ、ああっ!」
効果覿面だった。そしてそのままぐるぐる指を回転させてやると、
「んんっ、やぁ、ああ、あ、掻き回さないでぇっ!」
「でも気持ちいいだろ?」
「いいけど、だめぇっ。あ、はぁ、ひゃう、ふぅんっ!」
彼女の膣から蜜がどんどんあふれ出し、俺の手のひらからもこぼれ落ちて下着を濡らす。
更にはそれすらも通り抜けて、地面にポタポタとシミを作っていた。
「ん、や、あ、たーくんっ!」
そろそろか、と俺は思いっきり指を奥に差し込み、
「はぁ、はぁ、んんんっ、おく、だめっ!」
指を曲げて掻き回し、
「んっ、あっ、だめ、きちゃ、あっ!」
最後に親指で今まで触れていなかったクリトリスをピンッと弾いた。
「あ…………あああっ!!」
短い悲鳴を上げた美由紀の全身が張りつめ――だらりと弛緩した。
急に体重を預けられるのは予想済みだったので、地面に倒れないようしっかりと支える。
「イった?」
聞くと彼女は恥ずかしそうに、小さく頷いた。
そのまま呼吸が落ち着くのを待つ。冷たい夜風が、火照った体には心地いい。
汗で首筋に張り付いた髪の毛を梳いてやると、美由紀はくすぐったそうに身をよじった。
と、そこで俺を見上げて、
「……たーくん、おっきいんだ」
いたずらっぽい瞳で、そんなことを口にする。
「まぁ、な」
と言うか胸を触っているときからずっと押し当ててたんだが。もうとっくに気付かれていると思っていた。
そんな余裕もないくらい俺の指で感じてくれていたって事で、嬉しくなる。
その喜びにもう少しだけ浸っていたいが、、もうそろそろ我慢も辛くなってきた頃だ。
「いいか?」
耳元での囁きに彼女は先程と同じように、小さく首を縦に振った。
804花火の日  11:2007/08/01(水) 22:20:37 ID:TEPTwWdt
近くの木陰へ移動して、大きな木の幹に彼女の両手をつかせる。
ちょっとお尻を突きださせて、立ったまま後ろから入れられる体勢になってもらった。
「たーくん……この格好で、するの?」
「今までも何回かこの体勢でしただろ?」
「そうだけど……なんか今日は恥ずかしいよ〜」
それは何となくわかる気がする。俺もいつもより興奮してるし。
多分つい数時間前まで人が大勢いた場所で、しかも神社という神聖な場所でこんな行為に及ぶということが、俺達に背徳感をもたらしているんだろう。
「脱がすぞ」
そう告げて、俺は浴衣の裾をめくり上げ、下着に手を掛けた。
愛液で汚れてしまった可愛らしい下着を太股まで下ろすと、蜜にまみれた秘唇が姿をのぞかせる。
さっきまで彼女の秘部を覆っていた下着と女性器が愛液で繋がって、細長い糸で架け橋を作っていた。
月の光でうっすらと照らされたその光景は、幻想的で、扇情的で、そして……何というか。
「エロイな」
「落ち着いた声でそんなこと言わないで〜」
彼女の抗議に苦笑しながら、ジーンズの前を開ける。
実は全然落ち着いてなんかいない。
むしろ強引にならないよう、いつものペースを保つのに必死だ。
「それじゃあ……」
「あ、たーくん」
入れようとしたところで、美由紀が俺の名を呼ぶ。
それだけで俺は美由紀が求めることを理解して、彼女の上半身を一度起こして抱きかかえ、
「んっ……」
キスをする。
「んん……んふっ…………ぴちゃ……ちゅ」
繋がる前に、美由紀は必ずキスをねだる。
涙を流しながら痛みに耐えていた、初めての夜からずっとそうだ。
「ちゅ……ん……はぁ……、えへへ〜」
そして本当に幸せそうに、笑う。これを見るたび、俺は思うのだ。
――あぁ、俺は心底こいつに溺れているな、と。
再び彼女の手を木につかせ、ペニスで美由紀の秘所を一気に貫いた。
805花火の日  12:2007/08/01(水) 22:22:31 ID:TEPTwWdt
「んんんんんんっ!」
刺激を受けた膣が絡みつき、締め付けてくる。
根本まで挿入したところで一息つこうとしたが、もたらされた快感の前にそんなことは頭から吹っ飛んでしまった。
ゆっくりと腰を動かし、ペニスを送り込む。
「んっ、んんっ、あ、あ、やぁ、あっ!」
入れるときは狭く、なのに柔らかく締め付けて、出すときは逃がさないよう絡みついてくる彼女の膣を味わっている内に、
往復するスピードも徐々に速くなっていく。
「あ、あ、あ、や、たーくん、ん、いつも、うんっ、より、おっき、あっ!」
彼女が発した途切れ途切れの言葉に、俺は少しだけ動きを緩めて反論する。
「そんなことないだろ。いつもよりお前が感じてるだけ」
「ちがう、よぉ。私、いつも通り、だよ……ひぅっ!」
一度だけ奥を強く突いたら、肉襞がきゅっと締め付けてくる。
挿入されたペニスによって膣内から押し出された愛液が太股を伝って、膝の辺りまでずり下がっている下着に染み込んでいった。
そんないやらしい光景に俺の分身がピクリと反応し、その刺激を受けた美由紀がピクッと電流に打たれたように震える。
もはやさっきまでの『どちらが感じているか』なんて議論も、どうでもよくなってきて。
「じゃあ、二人ともいつもより感じてるって事で」
適当に妥協線を提案して、また腰の律動を再開する。
「うんっ、あんっ、ふぁ、あぁ、はぁんっ!」
我慢の限界だったのは彼女も同じらしく、何度も首を縦に振りながら淫靡な声を上げる。
愛液と先走りの汁が混じったものが互いの性器を汚し、てらてら光っている。
目眩がしそうな快感が脳を打ち鳴らしているが、まだ足りない。もっともっと欲しい。
美由紀を全身で感じたい。
俺は腰を支えていた腕を、彼女の胸に伸ばす。
激しい動きの煽りで揺れていた二つの双丘が、俺の手に包まれる。
「あっ、あ、ああっ、やぁん、おっぱいも、いっしょなんて、あ、だめぇんっ!」
のしかかるような体勢になりながら、桜色の蕾をきゅっと掴む。
激しい挿入がしにくくなった分、ペニスを上下左右に動かして、新しい快感をむさぼっていく。
806名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 22:24:22 ID:uj09BVcd
スレ立てておk?
807花火の日  13:2007/08/01(水) 22:25:35 ID:TEPTwWdt
「やぁ、たーく、はげし、ああっ、ふっ、くぅんっ」
膣内で暴れる陰茎に、先程までの前後運動とは違う刺激を与えられ、美由紀は髪を振り乱しながら、言葉にならない喘ぎを上げる。
腰をぐるっと回すと、俺の分身を包み込んでいる膣壁がきゅっと射精を催促するように締まった。
「あああっ、そんな、かきまわしたらっ、たーく、たーくん、あ、あっ! わたし、わたしぃっ!」
「くっ……俺もっ」
もうお互い絶頂が近い。
俺は彼女の胸を掴んでいる腕にきゅっと力を込めると、ラストスパートに入った。
「あっ、や、や、やぁ! たーく、あっ、あああ、あっ!」
もう強引にならないように、なんて言ってられない。
胸を掴み、揉み、獣のように腰を送り込む。
「あっ、んっ、たーくん、たーく、たーくんっ!」
美由紀は熱に浮かされたように俺の名を呼び続ける。
彼女の手も足もガクガクと震えて、もう力なんてほとんど入っていない。
俺と、膣内にある俺のペニスに支えられて、何とか立っている状態だ。
「たーく、たーく、たーくん、あっ! ああああっ!」
キュッと一際強く、ペニスに絡みつく膣襞。その瞬間、俺は溜まっていたものを解放した。
「あああああああああ〜〜〜〜〜っっ!!!」
ビクン! とペニスが脈動して、白濁液を美由紀の一番奥へ放出していく。
目もくらむような、快感。
「あ……あっ…………あ……たーくん……、すごい、でてる……」
俺の精を胎内で受け止めながら、呆然と美由紀が呟く。
全て搾り取ろうとするかのように膣壁は締め付け続け、また俺のモノも吐き出し続ける。
俺も彼女も思考することを放棄して、ただその時間、もたらされる快感と、お互いの存在だけに集中した。
「はぁ…………」
やがて小さなため息と共に、長い絶頂の時間はようやく終わりを迎え――
808789=前スレ669:2007/08/01(水) 22:27:37 ID:TEPTwWdt
>>806
おk。続きは次スレで
809名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 22:37:33 ID:uj09BVcd
立ててきました。

純愛SS『其の4』
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185975371/l50

あと、埋めええ!
810名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:20:52 ID:N4kSXGUx
( ̄ー ̄)
811名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 22:00:10 ID:Uu0ap1Xs
812名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 12:34:04 ID:ReY1b/mG
うめ
813名無しさん@ピンキー