百合カプスレ@エロパロ板

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1矢月
無かったのでたててみました。
2名無しさん@ピンキー:03/08/02 13:35 ID:xID+/j4J
2get
3あぼーん:あぼーん
あぼーん
4νヵ`ぉ'ノん祭'ノ ◆KAORINIfWY :03/08/02 13:57 ID:XpnPD2D5
 |  |ノハヽ
 |  |。‘从 <新スレおめでとうございまーす♪
 |_と )
 |桃| ノ
 | ̄|
5あぼーん:あぼーん
あぼーん
6あぼーん:あぼーん
あぼーん
7あぼーん:あぼーん
あぼーん
8あぼーん:あぼーん
あぼーん
9あぼーん:あぼーん
あぼーん
10あぼーん:あぼーん
あぼーん
11あぼーん:あぼーん
あぼーん
12あぼーん:あぼーん
あぼーん
13名無しさん@ピンキー:03/08/05 00:04 ID:aXRi/lCk
まず>>1が盛り上げていかんと
14あぼーん:あぼーん
あぼーん
15あぼーん:あぼーん
あぼーん
16あぼーん:あぼーん
あぼーん
17名無しさん@ピンキー:03/08/05 21:58 ID:BK2gxNHU
灰羽とかウテナとかマリみてとか?
18妄想:03/08/05 22:59 ID:ljQyLKuD
杏子×BMG
蘭×和葉
まろん×都
まりや×不二子
ナミ×ビビ
カガリ×ラクス
歌帆×さくら
19あぼーん:あぼーん
あぼーん
20あぼーん:あぼーん
あぼーん
21名無しさん@ピンキー:03/08/06 08:13 ID:/b/DAsb3
マリみてってはやってるらしいね。
本屋でも目立つ所に詰まれてた。
興味あるが、表紙がもろ少女漫画ちっくなので触れ難い・・
22あぼーん:あぼーん
あぼーん
23名無しさん@ピンキー:03/08/06 16:17 ID:tw50WDQO
>21
パラリと読んで見たが、中身も少女漫画ちっくだったよ。
番外編でモロレズがあったが。

だが私は原作が百合っぽいののエロパロよりは、健全な作品のパロの方が萌える。
>18みたいな。
24あぼーん:あぼーん
あぼーん
25あぼーん:あぼーん
あぼーん
26あぼーん:あぼーん
あぼーん
27あぼーん:あぼーん
あぼーん
28あぼーん:あぼーん
あぼーん
29あぼーん:あぼーん
あぼーん
30あぼーん:あぼーん
あぼーん
31あぼーん:あぼーん
あぼーん
32あぼーん:あぼーん
あぼーん
33あぼーん:あぼーん
あぼーん
34名無しさん@ピンキー:03/08/08 11:05 ID:+wNnHs0b
ガンバロ!盛り上げんべ!
35あぼーん:あぼーん
あぼーん
36あぼーん:あぼーん
あぼーん
37あぼーん:あぼーん
あぼーん
38あぼーん:あぼーん
あぼーん
39名無しさん@ピンキー:03/08/09 00:14 ID:eysISXsC
百合姉妹って雑誌買いました。
タイトル通りの百合マンガや小説、女子高の百合について
という特集がありました。
百合好きには、お奨め!

ただ買うのには度胸がいるかな…
40すぱろぼ:03/08/09 06:35 ID:kTX9jzBv
アイビス × イルイ
アイビス × スレイ
アイビス × ツグミ
第二次スパロボαのアイビスシナリオに萌えた…
41あぼーん:あぼーん
あぼーん
42あぼーん:あぼーん
あぼーん
43名無しさん@ピンキー:03/08/09 22:01 ID:N85zaUNr
最近のコンシューマーゲー百合は
ファイアーエムブレム烈火の剣
サモンナイト クラフトソード物語
第二次スパロボα
くらいか
他になんかある?
44あぼーん:あぼーん
あぼーん
45あぼーん:あぼーん
あぼーん
46すぱろぼ:03/08/10 11:16 ID:7/QUkDjH
第二次スパロボαのアイビス エンディングには不満タラタラだが…

>>43
最近ではないですが、あやかし忍法帳は百合ゲーの代表格?
47あぼーん:あぼーん
あぼーん
48あぼーん:あぼーん
あぼーん
49あぼーん:あぼーん
あぼーん
50名無しさん@ピンキー:03/08/10 18:33 ID:d9dyeSEz
>あやかし忍法帳

「あやかし忍伝くの一番」ですね。
なんか似たようなタイトルのゲームもあるので要注意。
51あぼーん:あぼーん
あぼーん
52あぼーん:あぼーん
あぼーん
53あぼーん:あぼーん
あぼーん
54あぼーん:あぼーん
あぼーん
55あぼーん:あぼーん
あぼーん
56あぼーん:あぼーん
あぼーん
57名無しさん@ピンキー:03/08/12 17:54 ID:CMJ5GT0V
http://pure.sexlola.com/cgi-bin/top.cgi?in=1265
220.144.187.170 , Air1Aaw170.ngn.mesh.ad.jp?
58名無しさん@ピンキー:03/08/15 20:01 ID:+OSMOstk
59名無しさん@ピンキー:03/08/17 18:19 ID:GhxKpUaO
age
60あぼーん:あぼーん
あぼーん
61あぼーん:あぼーん
あぼーん
62名無しさん@ピンキー:03/08/18 21:52 ID:Q4XXklDy
中学生ヌード画像です!!
http://66.7.65.90/sou/chugakusei/
218.41.123.78 , p297b4e.t128ah00.ap.so-net.ne.jp ?
63名無しさん@ピンキー:03/08/18 23:03 ID:o6JxQCfE
二回ほどがいしゅつのようだが漏れもアイビス×イルイがかなり萌えたな
64名無しさん@ピンキー:03/08/19 05:45 ID:mBmN9HDg
つうかマリ見て読んでみたがそれ以降見るもの全てに百合を感じてしまう
末期かな・・・
秋葉×シオン
といってみる・・・
65名無しさん@ピンキー:03/08/19 18:27 ID:cf4e7OfU
秋葉って素で百合ってたような
66名無しさん@ピンキー:03/08/23 22:35 ID:fbn4ItRz
>94-95
月姫?アキハ×琥珀のことかな。
6766:03/08/23 22:37 ID:fbn4ItRz
上のは>64-65ですた。
未来にレスしちゃったよ・・・。スマソ
68名無しさん@ピンキー:03/08/25 23:56 ID:giqgTWII
age
69名無しさん@ピンキー:03/08/30 22:16 ID:rLFVTrNR
(´-`).。oO(…百合な展開っていいなぁ)
70名無しさん@ピンキー:03/08/31 07:12 ID:Q/4VwuaQ
セーラームーンも百合っぽいところもあるかな。
71名無しさん@ピンキー:03/09/01 16:23 ID:uZmbfJ2y
あぼーん×あぼーむ
72名無しさん@ピンキー:03/09/05 19:47 ID:+nEWE+Z6
セーノ( ・∀・)(・∀・ )セーノ





73名無しさん@ピンキー:03/09/05 19:48 ID:+nEWE+Z6

(・∀・)<ニコニコ日記〜>(・∀・)
74名無しさん@ピンキー:03/09/12 11:19 ID:jDGX0qiP
スレイヤーズのアメリア×リナが好き…
レイアースの3人娘とか
75名無しさん@ピンキー:03/09/14 11:23 ID:M5/QRmv8
>>74
それ、(・∀・)イイ!!
76名無しさん@ピンキー:03/09/15 01:25 ID:BGr5EZ6B
>>75
おお、兄弟…
この板見つけて良かったよ。
けっこう、百合って言いにくいしね
77名無しさん@ピンキー:03/09/15 17:59 ID:b5n3WDpH
>>75
まあ、801ほど盛んではないしねぇ
78名無しさん@ピンキー:03/09/15 18:01 ID:b5n3WDpH
>>77>>76でした、スマソ
79名無しさん@ピンキー:03/09/16 11:38 ID:NHyLQqvA
おい、おまいら!知ってるとは思うが
マリみてアニメ化記念に

ttp://www.gokigenyou.com/
80名無しさん@ピンキー:03/09/20 21:33 ID:G2kM7wfk
>76
漏れもそう思う。もっと盛り上がんないかな、このスレ。
81名無しさん@ピンキー:03/09/22 00:07 ID:JxU0Pwxy
専用スレがない作品の百合カプで、えっちなSSを書けばいいのかな?
82名無しさん@ピンキー:03/09/22 14:07 ID:mFKM+k7m
今度、小説投下してもよろしいかな?
まだ、構想中なんだけど…
けっこう、百合作品とか百合カプ好きだー!とか言えないので
このスレ見つけて良かった…
83名無しさん@ピンキー:03/09/22 23:26 ID:nAV6Xgan
自分の二次創作物を小説と言う書き手は経験上信用できん
84名無しさん@ピンキー:03/09/23 03:29 ID:J+DQdKvG
>>83
いきなりなんつーレスだ(笑)

>>82よ、俺は期待してるZE☆
85名無しさん@ピンキー:03/09/23 20:47 ID:PmVTV+z/
>83
どういう御経験だったのか御指導御鞭撻願いたい。
86名無しさん@ピンキー:03/09/23 23:09 ID:vj1Obo9Y
>83
待て待て、彼は小説と言ったまでで二次創作とは述べておらん。
二次創作と断定するにはあまりに早計だと思わないかね?
もしかしたらおりじなるかもしれないし、また二次創作かもしれぬ。
結局はうぷされて読むか、本人が白状するかでないかな?

>82
私も期待する。第一号になってくれ。
87名無しさん@ピンキー:03/09/27 00:34 ID:jvc4Zmay
こういうところ(21禁の板)であまりえろくない変なSSなんかを書いたらやっぱり駄目かなあ。
百合ちっく作品の二次創作としていくつか題材を考えてるんですが。
88名無しさん@ピンキー:03/09/27 00:37 ID:nBckf5HO
ちょっとHぐらいなほうが想像力をかきてられて逆にエロく感じるもんだ。
89名無しさん@ピンキー:03/10/01 00:52 ID:A1i5zKcU
見てるこっちが恥ずかしくなるような、ベタ甘な作品も欲しい。
90名無しさん@ピンキー:03/10/01 00:54 ID:Lq6kB4Kk
おーい、誰でもいーから早く投下汁!
91名無しさん@ピンキー:03/10/03 13:27 ID:smXvJwC1
保守
92名無しさん@ピンキー:03/10/04 00:46 ID:KO0bKcbf
日が沈みかけようとしたとき、それは終了した。 
そして結果発表。コロシアムに緊張の空気が張り詰める。
「ぐわっ!」「きゃあ!」「何すんだよー!」
順位が4位から発表されるごとに、生徒の頭上にお仕置きの雷が落ちてくる。
ついに、決勝の進行役を務めるアメリアから優勝者の名前が告げられた。
「クララさん、優勝おめでとう。」
優勝した生徒、クララは迷いを全て振りきったかのように元気に返事する。
「ありがとうございます!」
そして、アメリアは金色に輝く勲章を3個、クララに手渡した。
クララは受け取った勲章を握り締めると、身体を震わせ、眼鏡越しの瞳に光るものを浮かべた。
「何も泣くことはないのに…」
「…でも…、でも…」
それもそのはず、クララはこの瞬間をもってアカデミー全生徒の憧れ、
そして自分の念願であった「賢者」の称号を得たのだ。
アメリアはクララの顔から眼鏡を外すと、目もとの涙を指で優しく拭った。
「先生…?」
「あなたには泣いてる顔なんて似合わないわ…」
アメリアはそう言うと、クララを優しく抱きしめ、自分の唇をクララのそれと重ね合わせた。
93名無しさん@ピンキー:03/10/04 00:48 ID:KO0bKcbf
「んん…」
触れ合った瞬間、互いの唇の感触、アメリアの体温、香水の香りが
心地よい刺激となってクララの全身を駆け巡った。
「はあ…」
すっかり刺激の虜になったクララはたまらず手に持っていた勲章をコロシアムの石畳に落としてしまう。
そして2人はその石と金属がぶつかり合う音を合図に、互いの舌を絡め合った。
「ん…んぅ…ふぅ…」「はぁ…は…」
絡み合うごとに二人の唾液が混ざり合い、互いの口中を往復するごとに、口元から透明な線が流れてくる。
アメリアは液体が自分の口中に来たことを確認すると口をクララから離し、口中に溜まった液体を
ゆっくりと嚥下した。そしてクララに問い掛ける。
「続きをして欲しいかしら?」
「………」
クララの答えはたった一つであった。
「そう、続きは私の部屋でね。待っているわ。」
「…はい!」
そのクララの笑顔と元気な返事に、アメリアはつい噴き出してしまった。
9492-93:03/10/04 00:49 ID:KO0bKcbf
こんばんは。この板内の、とあるスレの328でございます。元ネタは…あえて秘させていただきますが。
エロと呼ぶには微妙ですが、このスレの活性化を願ってうpさせていただきます。
今度は元スレのほうの続きを仕上げないとね…。 それでは。
95名無しさん@ピンキー:03/10/05 13:53 ID:ypCE/g/I
停滞してるなあw
96名無しさん@ピンキー:03/10/05 20:54 ID:I5NJZ6L+
あまあまの世界に悶えさせておくれ
97名無しさん@ピンキー:03/10/11 13:24 ID:M18ckIWu
saa
98名無しさん@ピンキー:03/10/12 02:39 ID:X5qzxJBK
聖霊狩りの美也×早紀子読みたい。
99名無しさん@ピンキー:03/10/15 01:23 ID:/kRrqk8P
少女革命ウテナでよければ。
小説でなく、会話でよければ。
やろうか?
100名無しさん@ピンキー:03/10/15 05:01 ID:0ydBLBWx
ヨロシコオネガイシマス
101名無しさん@ピンキー:03/10/15 14:58 ID:SnBNxGIX
ヤミと帽子の旅人誰かかいて-
102名無しさん@ピンキー:03/10/16 02:43 ID:Qabd0dVz
ミレイユ×霧香ってのは?やっぱり普通すぎ?
103名無しさん@ピンキー:03/10/17 00:39 ID:fdl++c4b
どうだろう、よさげなレズカップルの候補を挙げてみては。
>99氏のよーにやってくれる人が降臨するかもしれないって99氏、やってくれないの?
104藤崎まなみ:03/10/17 18:36 ID:fdl++c4b
葉瀬中学校2年2組の藤崎まなみです。
だれにも相談できない悩みがあってくるしんでいます。
おねえちゃんにも話せません。
おねえちゃんはふつうの人だから。

あたしはブラスバンド部でフルートを吹いています。クラブのことで悩んで
います。クラブの先輩のことです。

自分がふつうのおんなの子とちがうと、わかったのは小学5年生のときでした。
そのころあたしにはとてもなかよしの加奈ちゃんというともだちがいました。
加奈ちゃんとあそんでいると、とてもたのしくて、いつもいつもいっしょにあ
そんでいました。
とくに加奈ちゃんをあたしはすきだったんです。
でも、それはともだちとしてのはずでした。

秋のある日、下校時間に雨がざーざー降っていた日のことです。
おかあさんが朝、カサをもっていきなさいっていったんだけれど、あたしは
降らないと思っていうことをききませんでした。
カサがなくて、このまま帰ったらびしょびしょになっちゃうと困っていたら
加奈ちゃんが折りたたみのカサをもっていたんです。
加奈ちゃん、ありがとうって、あたしはいって、加奈ちゃんのカサに入れて
もらいました。
折りたたみのカサはちいさくて、雨にぬれないようにぴったりと加奈ちゃん
によりそって歩きました。加奈ちゃんもあたしにぴったりとくっついてきま
した。
105藤崎まなみ:03/10/17 18:37 ID:fdl++c4b
さいしょはなんだかわからなかったんです。
なぜか胸がどきどきしてきました。
加奈ちゃんがテレビのこととか、Bzのこととかいつもみたいに話している
のに、どうしてか、なぜか、どきどきしてくるんです。
ぜんぜん、なんでなのかわからなかった。

家まで加奈ちゃんは送ってくれました。家によってほしかったけど、加奈ち
ゃんは塾があるからって帰りました。
帰っちゃたんだけど、なぜかほっとしたんです。
なんだかいっしょにいると、自分がおかしくなるような気がしたんです。
なにかがこわかった。
なにかわからないのに。

おかあさんはパートにいっていて、おねえちゃんはどこがおもしろいのかわか
らないけれど、囲碁クラブに夢中で、その日も家にはいませんでした。

加奈ちゃんとわかれたあとも胸のどきどきはぜんぜんおさまらなくて、ものす
ごく自分がこわかった。なのに、そのどきどきのくるしみは、なんだかこのま
まずっと、つづいてほしいような、よくわからない感覚でした。
ベッドになんとなく倒れこんで、あたしは加奈ちゃんのことをかんがえていま
した。
ほんとうは加奈ちゃんのこと以外どうしてもかんがえられなかったんです。

二時間ぐらいそうしていたかも。
もうすっかり暗くなってしまいました。

あたしはトイレにいきました。
そこでとてもびっくりしてしまったんです。あたしは・・・
106藤崎まなみ:03/10/17 19:05 ID:fdl++c4b
あたしは自分がしんじられませんでした。
だって、だって、おしっこをもらしていたなんて。
ベッドにいても、かけぶとんの上だったし、それに眠ってなんかいないのに
降ろしたら、ぐちょぐよに濡れいたんです。
そんな・・・
気がついたら、くつ下までつーと垂れていました。
ものすごくおどろいて・・・
けど、ふこうとしてさわったら、ちがうんです。
それは糸をひくんです。
透明な蜂蜜にさわったみたいに。
すぐ拭きました。ぜんぶ拭きました。
そんなへんなのが・・・から出たことは一度もなかったので、病気だとおもい
ました。
おかあさんかおねえちゃんにいおうか、とも思ったけれど、いえなかった。
その日の夜はこわくてこわくて、なおりますように、といのりながら眠りまし
た。ほとんど眠れなかったけれど。

朝、トイレにいったら、あのへんな蜜はでませんでした。
よかった。
107藤崎まなみ:03/10/17 19:06 ID:fdl++c4b
けれど、その日、あたしは学校で加奈ちゃんとケンカをしました。
理由は・・・なんだったのかおぼえていません。
加奈ちゃんが、加奈ちゃんが、あたしはこわかったんです。
加奈ちゃんはなんにもしてないのに。

小学校卒業まで加奈ちゃんとはほとんど口をききませんでした。

そのころのあたしには、あの蜜がなんだったかわからなかったんです。
わかるようになったのは・・・・それは、べつにいいたくないです。

中学校ではなかよしの女友達もすぐにできて、クラスのおとこの子たちとも
ふつうに話せました。
クラブはおはなししたとおりブラスバンド部に入りました。
なにごともなかったんです。
この秋まで。

転校生が3年生のクラスにやってきたんだそうです。高校受験がちかいのに。
その人はまえの学校ではブラスバンドをやっていたそうで、あたしたちのク
ラブに入部してきました。
3年生はもうほとんど引退だったので、正式な入部ではなくて、放課後に音楽
室でもう趣味としての参加でした。演奏の練習にも加われないので、その人は
やはり顔だけはだしにくるほかの先輩とおしゃべりしたり、ヴァイオリンを弾
いたりしていました。
とてもとてもうつくしいヴァイオリンのメロディを奏でて・・・・
あ。
あああ・・・。
ど、どうしてこんな人がいるんだろう。
どうしていま、あたしのまえにあらわれたんだろう。
どうして、どうして・・・
どうしてその人は・・・おんなの人なんだろう!
108藤崎まなみ :03/10/17 20:58 ID:fdl++c4b
その人の名前は北原早紀せんぱい。
髪がながくて肌はすべすべで天使の肌。目は大きくて少し瞳が青いような感じ
がする。深い深い海の底のような瞳。
もし貴族がいまの時代にいたら、ああ、もちろんヨーロッパの貴族がいたら
ああん、ヨーロッパには貴族がまだいる国もあったっけ。とにかくそんなかんじ
の、とてもすてきな人。やさしくてあかるくて、すぐにクラブにもなじんでしま
ったの。

はじめて北原せんぱいを見たとき、あたしはかんじたの。
加奈ちゃんのときとおんなじだ・・・って。
顔が見れなかった。見たいのに。
でも、そのときだって蜜がでちゃうことはなかった。

早紀せんぱいがやってきてから一週間後のことだった。
ヴァイオリンがとても上手なので、だれかが他の楽器はどうですかってきいたの。
早紀せんぱいは、くすっといたずらっぽくほほえんで、音楽室においてあった
軽音楽部のドラムを、だだだだだだんって叩いたの。
髪がゆれてゆれて。
貴族的な、優雅な印象の早紀せんぱいが髪をはげしく振り乱して・・・ああ、か
っこよかった。みんな、わあーってさけんだ。

かんたんにドラムを鳴らしおわったら、早紀せんぱいはあたしに手をさしだしたの。
みんなの輪の中であたしはいちばん外にいたのに。
「まなみちゃん、フルートかして」
そう先輩はいったの。
109藤崎まなみ:03/10/17 21:23 ID:fdl++c4b
あたしがついさっきまで吹いていたフルートを・・・!
せんぱいが・・
せんぱいのくちびるが・・・

せんぱいはフルートもすばらしかった。
みんな、拍手した。
「私の演奏会はおしまい。さあ、クリスマスコンサートにむけて練習しないと
 だめなんでしょ」
そう言ってからせんぱいは「ありがとう」といってあたしに返してくれた。

オーケストラの形にイスをならべて、練習がはじまった。
あたしは、フルートを口にあてた。
せんぱいのくちびるがあったっていた部分に。
その瞬間、ドクン、と心臓が鳴った。
鼓動が手につたわってふるえるほど。
あたしは、はっきりとわかった。
あたしは・・・おんなの人がすきな女の子なんだ。
せんぱいがすきなんだ。

フルートのなかには、せんぱいの唾液がのこっていた。
だれにもわからないよう、あたしは舌をあて・・・やっぱり、吸ってしまった。
スカートのなかがどうなっているか、もうたしかめなくてもわかった。
110北原早紀:03/10/17 21:39 ID:fdl++c4b
やっと母があの男と離婚した。
くだらない男。
私にあの男の血が流れていると思うと吐き気がする。
離婚をしたから、あの男の家にはいられない。
私と母は引っ越す事になった。
高校受験が近い大事な時期なのに。
ムカツク。

だが、私は今、気分がいい。
転校した中学で私はブラスバンド部に入部した。暇つぶし。それと泣いてばか
りの母のいるアパートには、なるべくいたくない。
部で私はおもしろい女の子を見つけた。
藤崎まなみ。

私を見る目がなにか違う。普通の目じゃない。
ためしてみた。
わざとまなみからフルートを借りた。
そして返す時、ツバをいれてやった。
あの女はなにごともなかったふりを一生懸命していたが、私は確信した。

レズだ。

こいつレズだ。
フルートを吹いただけであんなにツバがたまるもんか。
なのに、舐めている。あきらかに舐めている。すすっているかもしれない。
ばかだ、こいつ。

私は今とても気分がいい。
めちゃくちゃにできる肉のおもちゃが手にはいったのだから。
111名無しさん@ピンキー:03/10/17 22:25 ID:q4zxwp5L
それ百合ちがう
112名無しさん@ピンキー:03/10/17 22:45 ID:caCy75Rl
無茶苦茶エッチくなりそうで期待してんだけど、駄目なの?
113名無しさん@ピンキー:03/10/17 22:53 ID:FZgZR5lP
>>112
まだ終わっていない作品にごちゃごちゃ言うな
114名無しさん@ピンキー:03/10/17 22:54 ID:FZgZR5lP
ごめん
>>111に対してね
115名無しさん@ピンキー:03/10/18 00:44 ID:YLyCEqfJ
中学生SMレズ!
まなみX早紀先輩!!
アゲ!!
116名無しさん@ピンキー:03/10/18 05:41 ID:IeoFnvdA
うお、ついにSSキター!!
このあと、鬼畜な展開になるのか、一転純愛モノになるのか…。

無理せず自分のペースでいいんで、完結目指して頑張ってくれい>作者さん
117藤崎まなみ ◆uN3hbK9Dm2 :03/10/18 15:47 ID:KHKUWoTq
あらためまして、ここのお話しをしておきます。
ヒカルの碁のヒロイン、藤崎あかりの妹・藤崎まなみの告白の物語です。
藤崎まなみは私のつくったオリジナルキャラです。
原作にはもちろん登場しません。
私は“藤崎まなみ”として自分の体験したことを告白したいと思います。
ネットなら私がどこのだれかもわからないし、このお話は藤崎まなみの
かわいそうな話であって、自分とは距離がおけるからです。
自分の身にあったことをずっと胸に秘めつづけるのがつらいんです。
大声で話したい。でもできない。だから、ここでお話します。

けれども、やっぱりことわっておきます。
この告白はフィクションです。全部ウソです。
私はひどいウソつきなので、この文章もここを読んでもらいたいか
らデタラメを書いたんです。本当です。ずるくてごめんなさい。
つくりもののドラマがはじまっているだけなんです。
絶対に私を信用しないでください。なにもかもウソなんですから。
これだって、ね。
118藤崎まなみ ◆uN3hbK9Dm2 :03/10/18 15:50 ID:KHKUWoTq
書くのにとても決心がいるんです。
中学生のあのときのことを思い出すのがつらいから。
だから、ときどきしか書き込みできません。
ごめんなさい。
119名無しさん@ピンキー:03/10/18 22:08 ID:Bpedp8xZ
き、きもいw
120 ◆uN3hbK9Dm2 :03/10/18 22:41 ID:YLyCEqfJ
>119
わかりました。
こんなかたちでも、うちあけようとした私がばかでした。
やめます。
さようなら。ごめんなさい。
121名無しさん@ピンキー:03/10/18 22:51 ID:wNErScKY
>120
話せば楽になることもあるだろう・・・おっちゃんに話してごらん?
122名無しさん@ピンキー:03/10/18 23:24 ID:ElbkIt55
>121
123名無しさん@ピンキー:03/10/19 02:40 ID:c0X1gQff
>>120さん
まなみタン、カンバーック!・゚・(つД`)・゚・
せっかく面白そうになってきたとこなのに
いかないでえっ。
そんなこと言わずに、続ききぼんぬぅ〜。
この先もときどきでいいのでおながいします。
124名無しさん@ピンキー:03/10/19 03:38 ID:rMhUzfwL
ワロタ
125名無しさん@ピンキー:03/10/19 04:11 ID:uN3lMb/h
おっちゃんも待っとるからな。
126名無しさん@ピンキー:03/10/19 06:39 ID:9/C0BgV2
おいちゃんも……って
……なんかおっさんばっかで、ヒカ碁繋がりの碁会所みたいなビジュアル浮かぶなここ(藁
127名無しさん@ピンキー:03/10/19 10:16 ID:KagracGS
だめだよ、みんな!
おっさんにまなみちゃんが打ち明けてくれるわきゃあない!

ね、大丈夫だから。まなみちゃん。
お姉さんに話してごらん。
128名無しさん@ピンキー:03/10/19 11:46 ID:o6KAw46p

>エロアニメ動画リスト no.4(no.1〜3は期限切れ、no.5は削除済み)

ttp://urawa.cool.ne.jp/reedcosmo/anime/index.html
129名無しさん@ピンキー:03/10/19 19:00 ID:uN3lMb/h
話すならおっちゃんに話したほうがええで。小遣いやろか?服買うたろか?
130名無しさん@ピンキー:03/10/20 00:33 ID:uVYCzYJA
おねえさんもオカネもってるわよ
131名無しさん@ピンキー:03/10/20 00:48 ID:c3c3Na4X
僕に話してくれないかな・・・あ、僕のことはお兄ちゃんって呼んでくれて良いよ。

あ、まなみちゃんが話してくれないと、今まで聞いたことを学校の先生に報告しなくちゃいけなくなるよ。
132名無しさん@ピンキー:03/10/20 01:06 ID:UFW4qeCz
131の学校ってなんだろう。スーパーロリコン専門学校とかか?
133名無しさん@ピンキー:03/10/20 20:19 ID:uVYCzYJA
アタシは130だけど、ホントにオカネはもってるわよ。
コミケ成金だから。ヤオイだけどね。
描くエロパロは少年愛だけどね。
男キャラでも脳内では女キャラのつもりで描いてるわよ。
まつ毛もながく描くし。
ほんとはビアンだけどね。アタシは。まあ、両方オケーイなんだけどね。
ビアンもの同人誌だしたいけどコミケの売り場で女のアタシがそれ売ると
マジでしゃれになんないじゃん。
だからヤオってんのよ。
エロパロは男だけいるわけじゃないからさ、まなみちゃん、また降臨してよ。
こーゆー同じ趣味の同性なんてめったにいないんだからさ。
おねえさん、まなみちゃん、好きよ。
カキコしなくても絶対ここ読んでるでしょ。
降臨しなよ。
アタシのなまえは『カヲル』
コミケじゃいっぱいいるペンネームだからここでバラしてもいいわ。
キモイとかいわれてヘコむな。
そのままの自分でいいじゃん。
まってるよ。
134トマト ◆ngQXcpS0L2 :03/10/20 22:22 ID:l/GuXHzI
a
135名無しさん@ピンキー:03/10/21 15:09 ID:5mDsIWTK
>133
うわぁ…。マジですか。
136名無しさん@ピンキー:03/10/21 15:49 ID:Pvy0840p
>>133
開き直った同人女は無敵!
137名無しさん@ピンキー:03/10/21 15:58 ID:OMvmJdPl
カヲルさんのサークル名をおしえてください
138名無しさん@ピンキー:03/10/21 16:18 ID:7uE5jks5
劇場型つうか、ナリキリだな。一種の>133
139名無しさん@ピンキー:03/10/21 16:24 ID:W3P4b1xe
おっちゃんとお兄ちゃんはまだか?
140名無しさん@ピンキー:03/10/21 18:44 ID:CtiCdvFN
レスがのびているから、まなみちゃんが来たのかと思えばアタシへの質問かい。
もの好きだね。
>135
アタシのカキコをマジかどうかネット上でたずねても意味ないと思うけどね。
ぜんぶ嘘にきまってんじゃん。138のいうとうりナリキリってやつだよ。
まなみちゃんだってぜんぶ嘘でフィクションです。つくり話ですって書いてるだろ。
それにアタシもあわせただけだよ。アタシの話も本気にするなって。
ただね、まなみちゃんのはリアルなんだよ。
男が書く女の性描写はリアリティがないんだよ。あたりまえだけど。
アタシも、うーん。このアタシっていう一人称が嘘くさいね。やめるわ。
私もはじめてまなみちゃんが106で書いているみたいになったとき、病気だと思ったね。
好きな女の子と絶好したっていうのも、ものすっごくわかるのよ。
男にはわかんないだろうけど、女子はクラス全員の女子と仲良しってことはないんだよ。
ちいさな仲良しグループにわかれるもんなんだよ。
一度できたグループはずっとつづくし、別のグループにとちゅうから入るってこともないんだよ。
だからグループの中で絶好するってのは大変なことなんだよ。
小6でもクラス変えがなかったのなら、まなみちゃんは孤立してたろうね。
たぶんそうだね。
だから107で>中学校ではなかよしの女友達もすぐにできて、とわざわざ書いてあるんだよ。
こういう細かいところわかんないでしょ、男には。
141名無しさん@ピンキー:03/10/21 18:45 ID:CtiCdvFN
>137
公表できるわけないだろ。
ヤオイのメンバーは私のことそうだと思っていないんだし、もしまちがって伝わったら破滅だよ。
それにヤオイ系同人サークルの名前をいってもわからないだろ。
ただね、きみがコスプレに興味ある人なら会っているかもよ。
それにちょっとまえだけどモリガンのコスプレしたとき、ある雑誌に写真のったからね。
かなり大きく。カヲル名ではなく本名でモリガンの○○○○○さんって載っちゃたけど、モリガン
のコスプレイヤーなんてたくさんいるからね。それはばらしてもいいわ。
ところで。
139みたいな書き込みがあるかぎり、まなみちゃんは来ないと思うけどね。
139は来させたくないのかね。
同人女だろうがなんだろうが、まなみちゃんが降臨してほしいことにはきみらと
私は同じはずなんだけどね。利害は一致してるはずなのにね。なぜじゃまするのかな?
私もこのぐらいにしておくわ。別に質問に答えるためにこのスレにきてるんじゃないからね。
消えるわ。
でも毎晩、ここはチェックしておく。ここまで本心をさらしたんだから、まなみちゃんには来てほし
いね。
じゃあね。
142名無しさん@ピンキー:03/10/21 20:59 ID:zskXZx3V
せっかくの百合スレがネタスレになっとる(涙
143137:03/10/21 22:16 ID:OMvmJdPl
ばかな質問してごめんなさい。
わたしも同人女なのでじつはサークル名をあげてもらったらわかると思うのですが
公表できるわけないですね。
まなみさんもカヲルさんも同性愛板のほうがいいのではないですか。
わたしもいるので。どこかのスレであえると思います。
144名無しさん@ピンキー:03/10/21 23:03 ID:+K1fX2G0
私はカヲルさんがだれかわかりましたよ。
>本名でモリガンの○○○○○さんって載っちゃたけど
伏字でも○が五つで五文字のなまえでしょ。で、モリガンでしょ。
ミスですね。わかちゃいましたよ!
でも絶対にばらしませんよ。その証拠に私も宣言しておきます。
私は同じ雑誌に載っている制服のアスカです。
制服アスカもモリガンもいっぱいし、あの雑誌を男の人が持っている筈は
絶対にないし、このスレにくる女の子は同志だから平気ですよ。
私もカヲルさんと同じタイプの人間ですから。同志で仲間です。
まなみさん、同性愛板においでよ。ここだとからかわれるから。
145名無しさん@ピンキー:03/10/21 23:37 ID:CtiCdvFN
>144
まずった。心臓が凍ったよ。
マル5つでバレるとは思わなかった。ネットの広さを甘くみていた。
けどきみも正体を私にはバラしたのでいいよ。
あっちの板には当然すでに住人さ。
今度こそ消える。
146名無しさん@ピンキー:03/10/22 14:46 ID:C9hMrAVr
ナージャとコレットの親娘百合に(;´Д`)ハァハァ

数々の苦難を乗り越え、ようやく巡り合えたナージャとコレット。
その晩、ナージャはコレットに甘えるようにお願いした。
「お母さん、一緒に寝てもいい?」
死んだと思っていた娘に再会出来たのである。
そのお願いを断る理由はコレットには無い。
「良いわよナージャ、一緒に寝ましょう」
147名無しさん@ピンキー:03/10/22 15:09 ID:QRhwZptD
>146
まなみたんみたいに、もっと長文でおながいします。もっと・・!
しかし、なんで追い払うカキコするヤツがあとをたたないのかなぁ。
そんな連中がいなかったら、いまごろどんどん続いていて皆ハッピーだったのにアゲ。
148名無しさん@ピンキー:03/10/22 21:48 ID:3T2qs0eM
ビューティフルレッドの最終章は百合エロありのものにしたいのですが、これの書き手を今から募集します
ちなみにビューティフルレッドはこれです
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1056183694/l50
我こそはと思う方はメールください、わずかですが報酬も出しますので
149名無しさん@ピンキー:03/10/23 16:00 ID:zCaosxyq
>147
でも別の方向ですごい流れになった。
まなみタンが降臨しないのならモリガン・カヲルさまと雑談するスレ化でいいです。
同性愛板にいかないで。
その板を読んでみたけど同人ネタの会話ができる雰囲気でなかったよう!
かといってコミケ板でマジな同性愛ネタできるわけもなし。
801板で百合の話できるわけもなし。
ここしかないよう!
150名無しさん@ピンキー:03/10/23 18:05 ID:OGPm+79E
>>120 はブラスバンド部を吹奏楽部かオーケストラ部か何かと勘違いしているらしい。
151名無しさん@ピンキー:03/10/23 20:28 ID:7LbH/kZV
なんかスレを私物化しようとしてるヤツがいるね。
ここは120のものでもモリガンカヲルのものでも
149のものでもないんだが…
非常に萎え。
投下する気の失せた職人もいるとオモワレ
152名無しさん@ピンキー:03/10/23 21:06 ID:jdaz/+tr
いままでのこのスレを読んできて言ってるのか?
なんにん職人がいたんだ?
このスレはほとんど機能してないんだがな。
あとブラスバンドの日本語訳は吹奏楽(団)でオーケストラと同義だが。
辞書でしらべてみ。
つくづくここはダメだね。漏れもさらば。
153名無しさん@ピンキー:03/10/23 21:35 ID:7LbH/kZV
最初からいるよ。様子伺ってた。

あとブラバンとオケはハッキリ別物ですが?
どこ見て偉そうにオケ=吹奏楽とかいってるんだよ。
152こそまともな辞書に買い換えた方がいいね。
ていうか、音楽聞いたこともないんだろ?
実際に耳にしてれば(目で見ても)
辞書なんぞ調べずとも別物だってことはわかる。
154名無しさん@ピンキー:03/10/24 00:26 ID:rLER+kxl
ここはすごいスレだね!
一番ながいSSを投下したまなみを、さあこれからってときに追い出し、
まなみを呼び戻そうとしたカオルを追い出し、
カオルを呼び戻そうとした意見も追い出す。良スレ!

ま、はてしなくエロパロとは関係はないが153の話しにのった!

ブラスバンドとは吹奏楽および吹奏楽団のことだ。
オーケストラとは管弦楽をメインにした大合奏のことだ。
しかし普通はそこまで厳密にわけない。
吹奏のブラスバンドでもヴァイオリン等の弦楽器を用いたりする。
さらにはブラスバンドのことをウインドオーケストラともいう。
つーか単純に楽団の事をオーケストラというもんだ。
部活のブラバンでオーケストラ演奏をしないブラスバンド部ってあるのかね?
演奏会とかしないのかな?ドリルマーチングかパレードばっかりなのかな?
不思議な話ばっかりのスレだね!
155名無しさん@ピンキー:03/10/24 00:57 ID:LWUuuMs6
はあ……
どうせもう、ここ雑談スレになってるからいいけどさ。

>ブラスバンドとは吹奏楽および吹奏楽団のことだ。
>オーケストラとは管弦楽をメインにした大合奏のことだ。

これで充分じゃない?「普通」は
ブラスバンド=吹奏楽(団)
オーケストラー管弦楽(団)  でしょ。
それこそ辞書にもそう記載されてる筈だよ。
個人的には学校・社会人問わずブラバンで弦が入った「編成」は見たことない。
ウィンドオーケストラの、わざわざwindをつけてる理由を考えろつうの。
いわゆる管弦楽団(オーケストラ)とは別物だからに他ならないでしょ?
156名無しさん@ピンキー:03/10/24 01:17 ID:rLER+kxl
「普通」ブラバンとオーケストラをそこまで別に考えないだろ。
弦楽器を主流に置くか否かでしか事実上ちがいはない。
そもそもオーケストラを管弦楽と訳したのは誤訳だ。
役割分担が明確に分業された洋楽器の大合奏をオーケストラというのが正しい。
オーケストラ=管弦楽ではない。
分担演奏形式の和太鼓演奏もオーケストラというだろ。
つーか155もブラスバンド部にいたのかな。
157名無しさん@ピンキー:03/10/24 08:27 ID:e+5ZYPb0
黙ってみててごめん、がんばってなにか書くよ・・・・・・。
158名無しさん@ピンキー:03/10/24 12:34 ID:OpH3PC4M
>149の提案はムリ!
男と雑談するためにビアン様が来るわけねー。
次、高校3年間ブラスバンドに在籍した漏れからいわせてもらえば
知ったかぶりしているほう、もうやめとけ。な。
そして157様。
よろしくおねがいしますです。みんなの願いであります。
159名無しさん@ピンキー:03/10/24 19:45 ID:AQfG4TZS
>>152 >>154
バカ丸出しだね。

「吹奏楽」=金管、木管などの管楽器と、打楽器を主体にした編成や、その楽曲。
       その楽曲を演奏するのが吹奏楽団。
「ブラスバンド」=英語で言うと「Brass Band」 で、訳は「金管バンド」。
           金管と打楽器を主体にした編成の楽団。

簡単に言えば、ブラスバンドは木管がいない。
中学や高校の吹奏楽の部活で「ブラスバンド」の名前があるのは 一昔前は金管バンド部だったから。 
最近になって木管を入れて吹奏楽に変更した部活が多い。 

しかも  >>154  「吹奏のブラスバンドでも」
ってなんだよ? 不思議なのはお前だな。
160名無しさん@ピンキー:03/10/24 20:35 ID:iGKCH4rX
もうそんなことはどうでもいいと思う。

まなみタン
153タン
157タン
に期待してます。
161名無しさん@ピンキー:03/10/24 20:37 ID:qcFy27Ua
途中まででもあげたほうがいいのか、それとも全部書き上げるべきなのか・・・。
162名無しさん@ピンキー:03/10/24 20:38 ID:iGKCH4rX
途中まででもイイッ
163名無しさん@ピンキー:03/10/25 00:07 ID:W3JbHxma
できたところから投下でおねがい。
やる気をなくさせるレスやあらさがし粘着とかはスルーでおねがいします。
大事なのはエロパロ百合SSがここにあることだ。
164吸血鬼カーミラ×ローラ:03/10/25 07:08 ID:YdJXmO8P
(夢の見始めにも近い時刻。私は何か予感めいたもののため、その晩は目を覚ましていました。ベッドで一人
時間の過ぎるのを待っていました。今日、……ないのだろうか。私の思い違いだったのだろうか。何が、とも
わからないものに翻弄されて、私は必死に眠気と戦っていました。
 どれほどの時刻が過ぎたのか、月は煌々と窓からその大きな姿を覗かせていました。窓はいつの間にか開い
ていました。風の冷たいものが、カーテンを揺らしていました。私は月を眺めて、ただ呆然としていたのです
が、不意に影の大きいものが私の正面に立ったのを受けて、私ははっと後ろを振り向いたのです。
 そこには、もはや影の形でわかっていたのですが――親しい友人で、美しい女性のカーミラが、私の方へと
その顔を和らげ、艶やかに微笑んでいました。いつの間にか、彼女はそこに居たのです。私は口を開きます)

「カーミラ……?」
 私は自分の最も親しい友人に問い掛けました。
 彼女はその美しい唇をはためかせて、私の名前を、ローラという言葉を、ゆるやかに紡ぎました。
 カーミラ、彼女は私の顔を覗き込んでいるようでした。月明かりは彼女の顔を隠していましたから、きっと
私の顔はその銀色に照らされていることでしょう。その半分は、彼女の顔と、身体に隠されているのでしょう。
 私にとっては左の頬が。彼女にとっては右の頬が。私を月光から隠して、陰(カゲ)はあなた――カーミラ
のもの。 私は一つ息を吐きました。それはこもった熱を捨てる息でした。そのままだと、呼吸もままならな
いから。しかしその瞬間私は息を呑みました。カーミラの唇に吹きかけられたその熱を、彼女は僅かに口を開
いて飲み込んだのです。
「熱い」
 そういって彼女は笑いました。月影に隠れていても。その表情は私にもはっきりとわかります。
 潤んだ瞳、――先ほどの熱ほどに情熱のこもった――それは私を映していました。ええ、はっきりと。
 だから私は自分の頬が赤く染まっていることに気づいて、思わず彼女から目を逸らしてしまったのです。
「ローラ?」
165吸血鬼カーミラ×ローラ:03/10/25 07:09 ID:YdJXmO8P
 不思議そうな声。彼女はそれから不機嫌そうに眉を歪めました。私の様子に憤慨している、そんなことは確
信すらできます。けれど彼女は私の顔を再び自分へと向けさせようとはせず、ただそれきり口を閉ざして、し
かしそこから離れることはなく、私の言葉を待ちかねているようでした。
 私はかすれた声でいいました。
「どうしてここにいるの、カーミラ」
「ふふ、どうして? その前にここはどこかしら」
「私の寝所よ」
 カーミラは私の周りを見回すと、ただ一度きり、「そう」と答えました。それだけでした。
 それからカーミラは私に語りかけます――先ほどの疑問に応えて。
「ローラ。あなたがいるからよ」
「私が?」
 思わずカーミラを見ます。このまま死んでしまうのでしょうか、私は。美しいカーミラに見つめられたまま。
ああ、胸は苦しくて、鋼鉄の刺に刺されたよう。心は縛られて、鉄の檻に閉じ込められたようです。心の底か
ら願います。このまま時間は止まってください。さもなくばこの一瞬に安らかな死を。
 しかしそのどちらも叶わず――そして彼女は夢をなおも続けて語るのです。
「そう。ここに、ローラがいたから」
「私が……私に?」
「そう。ローラがいて、私はローラにあいに来た」
 かすかな忍び笑いはカーミラの悪戯っぽい笑顔に、よく似合っていました。まるで恋の天使様。美しいカー
ミラは、風になびくカーテンの向こう、月の光を取り入れる開いた窓を片手で取ると、それを閉めてしまいま
す。暗闇。月は隠れました。その真っ暗な空間に、カーミラと私は二人きり。
 まるでカーミラに私のすべてを捕らわれてしまったように感じました。
「私は、ローラを愛している」
「カーミラ……っ」
 愛の囁きと共に。私は彼女の抱擁を受けました。それはやさしく温かな、そして小さく、可愛らしい、胸が
締められて身体が焔が燃え盛るように熱くなる、彼女の身体を私は抱きしめていたのです。
 そしてゆっくりと結合がはじまります。抱擁のとき、私はまだ彼女の顔が見えないところにいました。けれ
ど彼女の首がしだい、しだいに傾くのはわかります。すこしづつ彼女は私の喉と、自らの喉を重ねていきます。
私は、そして彼女の瞳と私の瞳が触れ合ったのを感じました。
166吸血鬼カーミラ×ローラ:03/10/25 07:13 ID:YdJXmO8P
 視線と共に、唇も。それは柔らかな感触でした。特に味はしませんでしたが、しいていえばカーミラの味が。
甘いような、ふわっと口にとろけるような感覚です。離れればすっと消えてしまうけれど。それは私の口に吸
い込まれるように消えました。
「おいしい」
 カーミラはそういって、私の背中に回した手を、そろそろと背筋に這わせます。
 それはまだ私は飲めないお酒のようでした。一瞬背筋にピリッといいしれぬ危機感が、それは瞬く間に全身
へと広がりました。体はカーミラを突き飛ばそうとして手を伸ばすのですが、けれどそれはカーミラの肉体の、
小さく滑らかな背中に触れて、あっと思う間もなく私はカーミラを砕かんと思われるほどに強く抱きしめたの
です。それから全身のあの感覚はどこへ行ったのでしょう、今の私はこんなにも劣情に燃えています。
 やがて炎は私の背中を燃やし尽くすと、その黒焦げから手を離した、彼女の手を取りました。
「……するわ」
 カーミラは訊ねることはしませんでした。ただ、何をするかということを、私にだけしかわからない言葉で
告げたのみです。それはかすかに震えていました。恐れか、期待か。カーミラの心は今、どのようなものなの
でしょう。私はつまりそれが、どのような意味であるか何をするかということは――おぼろげながらも――わ
かっていたので。
「いいわよ」 
 そして彼女にだけしかわからない言葉で答えたのです。 
 
 彼女は私の寝間着に手をかけました。この寝間着は白い色ですが、この暗がりではその人にはわからない
でしょう。形を手探りに確かめているせいか、彼女の手のひらと指は、私の鎖骨を、乳房を、背中を、臍を、時
折擦るように触りながら、寝間着がくしゃくしゃに乱れてしまわぬよう、慎重に指を進めます。
167吸血鬼カーミラ×ローラ:03/10/25 07:14 ID:YdJXmO8P
 指先の体温は服越しに伝わります。冷たい炎。そんな印象を受けました。指先はひんやりと冷たいのに、触
れたところは目に見えない油が燃えるように、かっと熱くなるのです。私は思わず身をよじりました。雨を浴
びた子猫のように。カーミラはクスクスと笑います、それから唇をすこし尖らせて、「まだ何もしていないわ
よ」といいました。私の炎はとたんに激しく燃え上がり、雨は上気と変わり、全身が熱く火照ります。色は桜
色。全身が羞恥とカーミラへの劣情に、乾いています。
「脱がすわ」
 カーミラは耳元で囁きます。熱はそのままだけれど、心は少しだけ潤いました。
 私はカーミラの声と、吐息を求めて、なおも身体を寄せます。 
「……うん。カーミラ、お願いがあるの」
「なにかしら?」
「私を、抱いて」
 私にはやさしい微笑と口づけがもたらされました。
「そうよ。ローラ、私はあなたを抱くのだわ。かわいい子。あなたはまだ、恋の意味も理由も知らないという
のに。ただ、私に誘われるゆえに、その純情を失うのね」
「そのとおりかもしれない、カーミラ」
 私は答えると自らの寝間着に手をかけて、それを思い切り引き剥がしました。
 どこか破れたのかもしれません。それは気が急いていたせいか、とても乱暴なものでした。それから私はカ
ーミラの服も同じように脱がし、その身に頬を埋めたのです。
「だから教えて、カーミラ。どうすればいいのか。この熱を鎮める術を」
「……ええ」
 カーミラは私から少し離れました。そして露わとなった私の身体をつつ、と指でなぞりはじめます。
 それは楽器の弦を弾くような、なめらかな動きです。そして一つのピントを合わせたのか彼女はそこで執拗
に指を動かします。そこは私の胸でした。乳房を撫でてみせたり、摘んでみせたり。また私の胸は小さく、さ
ほどふくらみのないものなのですが、それでも桜色の乳首は人並みにあって、そこだけふくらんでいるのをカ
ーミラは指で引っかけるようにつまみ、押して、また爪で弾き、くるくると回します。その度に声が漏れまし
た。全身に走る刺激といいますか衝撃といいますか、快楽ともいうものは、それは甘美なものだったのです。
 私は美しいカーミラにその身を委ねて、彼女の指先に心すらも支配されていました。
168吸血鬼カーミラ×ローラ:03/10/25 07:18 ID:YdJXmO8P
「カーミラ……、気持ちいいの」
 私は呟きました。するとカーミラは微笑を浮かべたきり、私の視界から姿を消しました。どこへいったのだ
ろう、と思う間もなく、彼女の吐息は私の肋骨にかかります。どうして、と問う間もなく私は言葉を失いまし
た。彼女は私の乳首を、その可憐な唇でくわえると、チロチロと舐め始めたのです。舌は指先よりもずっと温
かく、生々しく、弾力があって、そして心地よいものでした。
「ローラ。あなたの乳房は、何によって作られているのかしら」
 カーミラがそう囁いたときも私は官能に翻弄されて、何も答えられませんでした。口を開けばただ自らの身
体がカーミラのものであることを教えるのみ。かまわずカーミラは続けました。
「こんなものを――味わうことができるなんて。ねえローラ、これはミルク? それとも」
「あっ……カーミラぁ……!」
 懇願の声も届きません。カーミラの動きはなおも早く、激しさを増してばかり。私は胸がとろけそうになる
感覚と、そこではじめて、下半身に違和感を感じます。それははじめ気のせいかとも思いました。けれど、や
がて熱をほんのわずか下腹部の感じたかと思えば、何かが吸い込まれる感覚と共に足元がおぼつかないものへ
と変わりました。そしてじわりという感触。水のようなものが、背筋まで一度登りつめた炎と共に尿道口から
こぼれたのです。
 私の異変はすぐにカーミラに悟られてしまいました。止める間もなくカーミラの手は私の下着を潜り込み、
手のひらはまだ生え揃っていない私の毛を撫でると、そこの――きっと先ほどの水があるのを――異変に気づ
き、あろうことか私に口づけをしたのです。私はこんなにも困惑しているというのに。
「どうなっているの……? カーミラ」
「私に、あなたが快感を知ったということを、ローラの身体自身が教えてくれたのよ」
 その証拠に、と私の下着を脱がせながら、カーミラは囁きます。いわく。あなたの下半身にはまだ触れていない
のに、ローラの身体は反応したでしょう? つまりそれはあなたが私を望んで、私のために身体を変えたとい
うこと。
「だからローラ、そこに触れるわね。あなたはそうされることを望んでいるの」
「あ、カーミラ……」
169名無しさん@ピンキー:03/10/25 07:27 ID:YdJXmO8P
ここまでは書けた、が。一応説明をいれると吸血鬼カーミラという小説の二次創作。
レなんたか(ぉぃ)の吸血鬼モノだけど・・・。原作知らなかったり(マテ)。服とかカーテンとか窓とかベッドとか、
時代に合わせて書けてないと思われ。申し訳ない。
170158:03/10/25 11:45 ID:XCgmNuBz
ほんとに投下するとは!すばらしい!
部活のブラバンなんて名前だけで、やりたきゃどんな楽器も演奏もすんのに
マンガ研究部でもマンガでないアニメやゲームキャラ描くのと同じだっつーの、不毛!
と、思ってたが、えらい!164!続編期待!!
171名無しさん@ピンキー:03/10/25 19:03 ID:OzA6fiqS
乙!
172名無しさん@ピンキー:03/10/25 23:18 ID:POOExuEI
キタ━━━(ノ゚∀゚)ノ ⌒⌒┻ ━━━!!!!!

いいっす、メチャいいっす。
原作カーミラの悲惨な最期、フられた(ちと違うが)あげくにハンターに杭を打たれる。というのが
納得いかなかったクチなんでこーゆー展開は大・歓・迎!!

ちなみにカーミラはドラキュラ以前の作品なんで、いわゆるドラキュラ以降の吸血鬼の欠点には
こだわらなくても自由に書けると思うっす。日光も午後すぎなら平気、神聖なものに対する反応も
毛嫌いする程度とか。
173名無しさん@ピンキー:03/10/26 00:05 ID:eL4cLLQx
これからすごくなるんですよね。
楽しみ〜。
174名無しさん@ピンキー:03/10/27 04:53 ID:xaI4G5Uk
 彼女は私をベッドに寝転がすと、私の閉じた内股をその手で開かせました。ピタリとくっつけた膝は彼女の
手のひらに包まれると、ほんの一息に端から端まで離されてしまいます。折り曲げた足を伸ばされて、その足
の先は彼女の肩の上へ放り出されました。ああ、どうしてこんなに大きく開くのか。触るだけなら指ひとつ入
れる隙間があればよろしいのではないのですか。何故、私の秘部をあなたの瞳に晒させるのです。
 けれどその恥ずかしさは、実は意外な伏敵だったのです。カーミラの視線を感じてしまうほど、私はカーミ
ラのための熱い液体をそこから溢れさせて、ベッドの上へこぼし、水の滴る音を立てます。もう暗闇とてそれ
に気づかない人はいないでしょう。私は彼女から顔を背けて、思わず泣いてしまいました。
「綺麗よ」
 カーミラはそう言いました。この夜の陰にいる、うち震える私を――自ら羞恥に苛む私を、慰めるように。
 まるで私をはっきりと見ているようです。けれどそんなことはないでしょう。だってこんな惨めに涙する私
を見ても、彼女の声は侮蔑、嘲笑の欠片もなく、ただ真剣に。まっすぐな声で、彼女は私にそう語ったのです。
そこには祈りを捧げる聖女のような、ただ真摯な気持ちが感じられました。
 私は自らカーミラを向いて。そして膝の強ばりを抜きました。私はもう、カーミラへ自分の秘部を、子宮へ
と通じる道を見せることを恐れはしません。ただ彼女の瞳が私のそれを見ることは、私に到底理性を保つこと
のできない悦びを与えたのです。
 瞳は宝石のように紫色に輝いていました。ほんのすこし青も混ざっているようでした。透きとおった光で、
それに映っている私はやはりアメジストのカーテンをかけられていました。
 夜よりも澄んだ色。海よりも深い色。その瞳は私の性器を映しています。交接器はその視線に収縮を繰り返
しながら、まるで呼吸をするように、カーミラの視線を受け止めます。カーミラは陰唇を覗きました。それか
ら膣前庭を。ほんのわずかに目を細めて陰核を注視します。その一挙一動に、私は身を焦がす思いでした。
175名無しさん@ピンキー:03/10/27 04:55 ID:xaI4G5Uk
 おもむろに。けれど私は気づきませんでした。彼女は私の性器に触れました。いつもより何倍も意識が集中
して、敏感になったその先が燃え上がります、そしてはじめは痛いような、熱いような感覚があり、それが冷
めると、カーミラの触れているところだけが揺れて、息づいたようでした。それから私の性孔はとろりと液を
滴らせて美しいカーミラの指先を濡らします。濡れた指の感触はたやすく陰唇になじみ、ぬるま湯のような心
地よい快感です。カンバスに筆を走らせるように、彼女は私の性器に指をなぞりはじめました。それは本当に
優しく。彼女はひとさし指を、中指を、小指を使って何度も縦横に触れました。私はその度、ひとつひとつの
指先の感覚にうち震え、今触れている指に合わせて、反応を顕著に示します。
 中指は一番硬い、棒のような感覚です。四角に近いというのでしょうか、なぞるというとき、むしろ擦ると
いう状態で、強く押しつけて欲しいと思う一方、広く浅くなぞられると、背筋がぞくぞくと震えてなんともい
えぬもの。ちょうど獣の肉に牙を突きたてるような、あるいは突きたてられる悦びでした。そして犯された肉
からこぼれるものは、真紅ではなく白い色の淫らな液体なのです。
 カーミラは小指を使い始めます。――私は今までカーミラが触っていたときに息を殺していたのですが、中
指が私のところから離れたときに息をはっと吐きました、その瞬間に小指をクッと入れられたので、思わず喉
から声が漏れました。けれどカーミラはそのまま私のなかを暴れまわります。小さな指なのに、いえ、だから
こそ荒々しい動きになるのでしょう。ちょうど歩けるようになった子馬が草原を走り回るように。彼女は私の
洞を走り回り、ああ、一度漏れた声はそのままとめどなく口元より迸ります。恥ずかしいこと。喉は枯れる事
なく、むしろ心と共に高まる一方。私はカーミラの首に両腕でしがみついて、ただひたすらにその名を呼びま
す。
176名無しさん@ピンキー:03/10/27 04:56 ID:xaI4G5Uk
 美しいカーミラは微笑みました。それから触れるだけの口づけで、私の熱く火照った息を吐き出させると、
そのひとさし指を私のなかに差し入れます。ひとさし指はやわらかく、温かく、先の二つのどちらとも違うも
のでした。それは私に一番合ったようです。息を吸って、吐いて。再び吸って。風に口づけをしながら、私は
カーミラを見つめました。カーミラの紫瞳には、酔いしれる女が映っています。私です。そしてカーミラはそ
んな私の様子に、優雅に笑みを浮かべました。
「可愛いわ、ローラ」
 その言葉に身体が震えます。歓喜に打ち震え、私はカーミラとこの夜何度も交わした口づけを求めました。
上の唇に彼女の牙は覆い被さり、私の二つの唇を噛み、挟んで、それから舌を口のなかに滑り込ませます。私
は彼女のために閉じた歯を開こうとすると、逆に唇は奥へとしまい込まれて、よりいっそうカーミラとの距離
を近づけるのです。唇を噛んでいた彼女の歯は私の前歯と触れあい、カチ、カチと音を立てます。母親ともこ
れほどに唇を近づけたことはないでしょう。私には、カーミラだけです。
 口づけを交わせば、カーミラは息を漏らしました。それは憂鬱の息でも安堵の息でもありません、私との交
わりによって、あなたはその官能の息をついたのです。私はそれを瞬間に悟り、そしてこぼれる微笑、私はカ
ーミラの頬に触れると、またキスをそこに与えました。カーミラの身体は震えます。何も言ってはくれないの
だけれど、カーミラもまた興奮しているのです。紫色の瞳は潤んでいます。肩は、胸は紅く染まっています。
私を覗き込む彼女は熱い吐息を私の首筋に吹きかけると、そこをピチャ、と舐めました。私の喉はコクンと、
溜まった唾を飲み込みます。
「……ごめんなさい。もう、我慢できない――っ!」
 カーミラの口からそんな言葉が漏れたときに。私は彼女が、私のすべてを支配したのだと悟りました。彼女
は私の喉元に、その可憐な牙を突きたてたのです。今まで与えられた快感は、そこですべてそこへと向かいま
した。その牙は獰猛な獣とまったく違い、優しい美しいカーミラのものですから、私を一息には貫きませんで
した。私はその歯が皮を破る感覚を知りました。熱い液体――これは血でしょうか。カーミラの息ほどに熱く
はないでしょう。
177名無しさん@ピンキー:03/10/27 04:58 ID:xaI4G5Uk
まるで麻酔のように、ふ、ふ、と彼女は私の首筋に息を吹きかけながら、ぴちゃり、ぴちゃりと歯を水音に
鳴らして、ゆっくりと私の奥深くまで進めます。力が抜けるようでしたし、またカーミラの力が与えられるよ
うでした。それは甘美。痛みなどはほんのわずかもなくて。ただ、カーミラを受け入れる悦びがありました。
歯の感触を感じます。それは硬くて、けれど温かくて、小さくて――だけど私は、この感覚が好きになりまし
た。カーミラにこうされることは、それはとても嬉しいことなのです。私はこのときに微笑を見せていたこと
でしょう。そしてカーミラも恍惚とした表情で、私の首筋で、愛しそうに呼吸をしています。その様子はどち
らが相手を犯しているのかわからないほど――いいえ、私はカーミラを肉のなかで抱いていましたし、彼女も
私を蹂躙していたのです。
 首筋への牙、というのはつまり心を奪われることなのです。人は頭と胸とにその心を持つものですから。首
というものはちょうどその中間にあって、心が繋がっている場所。血は心を運ぶ水。ですから、カーミラがす
るように喉菅の、その血を飲み下すということは、彼女に私の心を読まれて、カーミラの心を私で冒すという
こと。それは恋のもたらす雄と雌の交わりにも勝る、仕合せなことなのです。おそらくは。
 カーミラは深くまで歯を沈めると、それ以上動かそうとはしませんでした。私はカーミラをベッドに導き、
その身体を私の下へと落とします。バサ、とシーツが音を立てました。私は首筋に触れる、彼女の唇をそっと
指でなぞります。
「こうしていると、お母さんと赤ちゃんみたい」
「……そう、ね」
178名無しさん@ピンキー:03/10/27 04:59 ID:xaI4G5Uk
カーミラは目を閉じました。そしてそれきり何も言いません。ただ呼吸の度に、私の体液が彼女のなかへと
吸い込まれて、また戻されます。彼女に接吻された血液は、聖なるものであるように、私の心を昂ぶらせまし
た。欲情という力が宿り、私は彼女を力いっぱい抱きしめます。
「……ローラ」
「カーミラ。ごめんなさい……」
「どうして、あなたが謝るの?」
 私は目を閉じて、再び開きます。カーミラは目を開いてこちらの様子をうかがっていました。それは不安そ
うな瞳であり、まるで一度捨てられた子犬のように。けれどそんな彼女を、私は愛しく思うのです。
「ううん。カーミラ」
 私はカーミラの牙から、手を離しました。
「もう、抜いていいよ」
「……うん」
 カーミラは静かに、そっとその美しい歯を私の肌より抜きました。けれどやはり抜いたときに、わずかに血
液がこぼれて、私の肌を伝いシーツに落ちます。シーツのしわに小さな、小さな水たまりができました。それ
をカーミラは指で掬うと、ぺちゃ、と赤い舌で舐めとります。私の血で、カーミラの唇は真っ赤、艶やかな色
に染まっていました。
「ん……」
 私は彼女の唇に、舌を入れて、その口のなかを綺麗にしようとします。当然のようにそこは私の血の色で染
まっていましたから。そしてカーミラの口にあった私の血は、私とカーミラ、二人の喉元へ吸い込まれていき
ました。

 行為を終えた後もまだ私の興奮は冷めません。そんな私の様子にカーミラは微笑みました。そっと私の頬を
撫でて、瞼を下ろします。暗闇のなかにカーミラの呼吸が聞こえました。それはとても安らかな音。思わず眠
気が、としんと押しかかってきます。私は手探りにカーテンを手に掴み、さっと引くと、月の光が私の閉じた
瞼に突き刺さります。いつもなら眠りが完全になっていそうなくらい、時刻は深まっていました。カーミラが
ここに、私の寝所に来たのは今日でしょうか、それとも昨日でしょうか。ただわかるのは、私が今とても眠い
ということです。
 けれどカーミラはまだそこにいます。私はカーミラに囁きました。
「カーミラ、寝るね」
「ええ」
「また明日」
 ふと、私は楽しいことを思いつき、目を閉じたままカーミラに微笑を差し向けました。
179名無しさん@ピンキー:03/10/27 05:00 ID:xaI4G5Uk
「今度は、私がカーミラの……喉を、噛んでいい?」
 少しの驚き。少しの合間。それから、くす、くすとカーミラの微笑みの声が聞こえます。私は半ば夢のなか
にいるときにそれを聞きました。
「いいわよ」
 けれどその言葉ははっきり、私の耳に聞こえたのです。
「おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
 呼吸の音が、消えました。出て行ったのでしょうか。いいえ、カーミラはまだそこにいます。私はそれを知
っています。なぜって。その、音が。聞こえるから。耳? いいえ、きっとこれは私の身体がカーミラの身体
と触れあい、その体温と共に心臓も共有しているのでしょう。
 とくん、とくん。聞こえるのです。カーミラの身体の流れ。その安らかな鼓動が。
 それからカーミラは私の唇に一度キスをして。
「愛しているわ、ローラ」
 私はなんと返事したのでしょうか。
 もう、夜の夢のなかで。
180名無しさん@ピンキー:03/10/27 05:21 ID:xaI4G5Uk
ウワー題名つけ忘れたぅぁぅぁぅぁーー。
ごめんなさい。>>174-179>>164-168の続きです。
たぶん、いや、おそらく、ほぼ確信できることは「これ吸血鬼カーミラじゃねえよ」。
じゃぶろー! 原作どんなのよ、血吸わせていいん? 吸血鬼になったりしない? 原作イメージからもかけはなれ。
今気づいたけど、>>174-177まで会話が極端に少ないね。すごく読みにくい。

教訓:よく知らない作品は二次創作にむいていない(箔魔スり前田のクラッカー)。
181名無しさん@ピンキー:03/10/27 19:21 ID:KGIlxN3d
>180
>原作どんなのよ、血吸わせていいん? 吸血鬼になったりしない? 
原作じゃその辺はハッキリ書かれてないんじゃなかったかなぁ。

一応ローラから血を吸っているシーンはあるけど、なんとゆうか牡丹灯籠的(字あってっかな)効果で、
ローラが次第に衰弱していくという描写しかなかったと思う。無論最終的には吸血鬼にするつもりである
というのは、芝居めかした口調で自ら言ってたけど、ローラが衰弱していく様子も楽しもうとしていたみたい。
やつれた姿のほうが、貴女はより美しいみたいな事を言ってたし。

まー最大の違いとしては、ローラがカーミラのラブコールには辟易していた。という事なんだけど、んなもん
は気にする必要無しかと。
182名無しさん@ピンキー:03/10/27 19:28 ID:KGIlxN3d
あーあと追加すると、あんま原作イメージから離れてるとは思わないっす。

どっかでも見かけた表現なんだけど、ホラーオカルト小説ってより、耽美小説って言った方が相応しい
感じの話なんで。
183名無しさん@ピンキー:03/10/27 20:41 ID:peYfSHiO
大作だな。やっぱ原作読んだほうがよさそうね。
184名無しさん@ピンキー:03/10/28 02:52 ID:H2VPPD1p
素晴らしい文章。
小説とは描写なんですね。
もっともっと読ませておながいぷりーず。
185名無しさん@ピンキー:03/10/31 19:04 ID:DEGYC9Pz
誰か書いてくれー。
おすすめネタは明日の朝9:30にやるアニメ。
186名無しさん@ピンキー:03/10/31 22:29 ID:pj/7mlCS
ノワール上げ
187嘘八百ギリシア神話:03/11/01 20:52 ID:Irur3djP
 国はギリシャ。水はナイル。はるか昔に語り継ぐ、それはフィクションなのですが、そんな頃のお話をします。
 木々、草花、緑の豊かな森のなかのお話です。
 アルテミスという名の女神さまをご存知でしょうか。その方は、月と狩猟の女神さまです。
 手には弓を携えて、長く透きとおった金色の髪を踊らせる。恋の字知らずに活気に溢れて、森や野原の獣たちを
いつも追い掛け回している、綺麗な女性の方のこと。

 知っているでしょうか。彼女と、恋の女神さまとのお話を。恋の女神さまとは、林檎の冠を被ったあの方、美し
い姿のあの人、いつも奔放なふるまいで男神の間を渡り歩くあの人、鍛治屋の妻、その名を知らぬひとはいないと
まで言われた、愛と恋の化身、女神アフロディーテ様のことです。アルテミスさまとアフロディーテさまの物語を
ご存知でしょうか。
 ところでアルテミスさまは普段は女らしくないふるまい、アフロディーテ様のお世話にもならずに狩りに勤しん
でいました。さらにアルテミスさまはアフロディーテ様の奔放なふるまいと、だらしのない華奢な身体が嫌いでし
たので、アフロディーテ様が近くを通りかかれば桃色の唇を開けて牙を剥き、その愛の女神の父エロスにも弓の矢
を向けるというありさまでした。こんな風に嫌われてはアフロディーテ様もアルテミスさまに近寄ることができず
に、二人はけして親しい間柄ではありませんでした。

 ところでアフロディーテ様、男神とは幾度となく、何人と数えずとも優雅な時を過ごし、満足していたのですが、
ふと女神は、他の女神とは一度もベッドを共にしていないことを不満に思いました。折りしも男神アレスとの寝所
を夫に邪魔されて、ギリシアでは有名な詩人であるサッポーの美しい詩が彼女に祈りを捧げていたときですから、
そんなことを思ったのです。
 その好奇心は美しいアフロディーテ様を瞬く間に燃え上がらせました。他の女神と一度でも寝床を共にしなくて
はもう夜も眠れません、さっそくアフロディーテ様は他の女神のところへと足を伸ばし、手頃な女性はいないかと
探してみましたが、なかなかいい相手がいません。というのは、アフロディーテ様は男神には人気があるけれど、
女神様たちの間では、いい評判というものが欠片もないのです。
188嘘八百ギリシア神話:03/11/01 20:55 ID:uW5weGqy

 客人の神ゼウスの妻、ヘレ様の元へと向かったところ、ちょうどそこにはアテネ様もいたのですが、イーリアス
でのいざこざはまだ解決したわけでなく、アテネに首ねっこを怖い顔でつかまれると、首を灰色の神に、足を主神
の妻に掴まれて、あっという間にアフロディーテ様は家から追い出されてしまいました。何も言う間がありません
でしたが、自分の用を言ったとしても、強くて怖いアテネの怒りを買うだけだ、と思ったのでアフロディーテは彼
女たちのことを諦めました。
 続いて向かったのは同じくイーリアスではこちらは自分の仲間をしてくれていたレート様。ところがレート様の
ところへ向かったところ、その息子アポロンが竪琴を振りかざし、狂ったと間違うばかりの形相でアフロディーテ
様へと、その頭めがけて楽器とも呼ぶ武器を振り落とすので、やむなく冠の女神はレート様を諦めたのです。とこ
ろでレート様はお年を召してらしたのですが、それは落ち着いた、綺麗な女神様でした。そこでアフロディーテ様
の行いを聞くと、古きハーデス、ポセイドンにこの冠の女神について告げたので、女神の数少ない友であるペルセ
ポネ、ハーデスの妻の元へと向かったときもその番犬に冷たくあしらわれてしまいましたし、ポセイドンの娘、セ
イレーンやニンフたちにも拒絶されてしまいました。
 傷心の恋の女神は、とぼとぼと歩いていますと、とある泉にたどりつきました。その泉とは森のなかで一つ、太
陽の光が眩しいばかりに輝くところです。そこで、ふと喉がかわいたアフロディーテ様、なんの躊躇いもなくその
泉に近寄ると、澄んだ水であると覗き込んで確かめて、少し手を入れてその水をかき回せば、掌にすくい、泉の水
をその喉へと送り、乾きを癒し始めました。その水はとても綺麗な清らかなものだったので、神様であるアフロデ
ィーテ様にもとても美味しく感じられました。アンブロジエは熱いのですが、これは涼しいほどに冷たいのです。
今までの熱が冷めるようで、ほっとアフロディーテ様は息をつきました。
189嘘八百ギリシア神話:03/11/01 20:56 ID:uW5weGqy
 けれど女神は次の瞬間に目を見張り、その顔色は瞬く間に赤くなりした。なぜでしょう。見たのです。その泉の
湖畔に伸びる木々のほんの少しの影に、水浴びをする裸の女性の姿を。驚いたのはそこに女の人がいるというだけ
でなく、その姿が美しいものであったからです。アフロディーテ様は自分の容姿に自信を持っていらっしゃいまし
たが、そのアフロディーテ様が見惚れるほどに美しい人であったのです。
 流せるような背中でした。金色の髪は太陽よりも輝いていました。腕は細いのだけれど、その筋はまことに立派
なもので、ピンと伸びた腕の形をはっきりと形作っています。それから首筋はすらりと細く、腰はそれに負けずに
細い。けれど胸は肩幅よりも大きいようです。肩は綺麗な虹を描いていましたが、胸はその背中がほんのすこしの
盛り上がりを見せて、その大きさは想像に余りあるほどです。お尻はきり、とつりあがり、また足の股から足首に
かけては剣のようにしっかりとした、鋭利な刃物を思わせるものでした。鹿の足でもこれほどではないでしょう。
 その人は髪を透き上げました。金色の髪は水を浴びてはらはらと落ちます。うなじがはっきりと見えたときに、
アフロディーテ様に欲情の炎が宿りました。そして目を凝らして、女神はその裸の女性を見つめます。そうせずに
はいられませんでした。アフロディーテ様は自分の心が高まるのを感じました。胸をぎゅっと抑えるのですが、そ
の速まる鼓動を止めることはできません。自分の息の音が聞こえます。呼吸がこんなにも大きな音であると、初め
てアフロディーテ様は知りました。冠の女神は、その場を離れることなど考えもせず、ただその裸の女性を見てい
たのです。
 その女性は自分の長い髪を水で手洗いすると、そっと腕を胸を撫ではじめました。水の音すら聞こえてきそうな
静かな手先で、その方は自分の身体を清めているのです。手慣れた手つきでした。そばにアフロディーテ様がいる
ことにも気づかずに、無防備に片腕を伸ばし、水をかけて、空いた手でごしごしと擦ります。ひとつを擦ればもう
一つの手を。そうしてアフロディーテ様の口づけを受けた泉の水を使い、自分の身体を洗っているのです。そのこ
とはアフロディーテ様を喜ばせて、もう一方で切ない吐息をつかせるのでした。
190嘘八百ギリシア神話:03/11/01 20:57 ID:uW5weGqy
 アフロディーテ様はその裸の女性の顔が見たいと思いました。それは耐えがたい欲求です。女神様はその方と、
親しくなりたいと考えたのです。そうして寝床をともにして、歓びを分かち合うことを、何よりも欲したのです。
そのためにアフロディーテ様は、その裸の女性のことをもっと知りたいと思いました。そこでアフロディーテ様は
息を殺して、その方の水浴びが終わるのを、じっと動かずに待っていました。そしてその女性が足の脛を、首を、
また背中や顔を洗っているのを、思わず飛び出したくなる衝動を抑えて見ていたのです。
 顔を洗い終えると裸の女性は泉の上に立ちました。そしてふと、身体を動かして、その横顔がアフロディーテ様
に向けられました。アフロディーテ様は小さく「あっ」と声を出して、慌てて口を押さえます。幸いなことにその
声は裸の女性には聞かれていないようで、その方はアフロディーテ様に気づかずに、泉の端にある着物と、弓とを
手に取って離れていきました。残されたアフロディーテ様はまだ驚きを隠せません。その人の顔の美しさは、それ
は驚嘆せざるをえないもので、アフロディーテ様の胸の炎をなおも燃え上がらせ、またその胸に疼くような痛みを
与えたのですが、それとは別に、その顔にはアフロディーテ様を驚かせるものがありました。
 その横顔は、普段、自分にしかめつらしか見せない女神アルテミスの、美しい微笑だったのです。
191名無しさん@ピンキー:03/11/01 21:08 ID:4eobfG4K
ゼウスの妻はヘレじゃなくてヘラだよ
192名無しさん@ピンキー:03/11/01 21:08 ID:lMVqNwHN
ちょっとH度が高いもの書いてみようかな、などと思っていたり。たりらりら〜。
百合だとHは難しいですね。いわゆる「綺麗な百合」だとイメージ的に双頭ディルドや
バイブなどは使いにくいから。キスと愛撫くらいしかできない。
吸血(首に歯を挿入)はフィニッシュパンチとして、とても効果的なのですが・・。

最後に私のいいたいことは、なんか続くかもってことですよ〜。
193名無しさん@ピンキー:03/11/01 21:11 ID:lMVqNwHN
>>191
あら。それは失礼しました。
どこかでヘーレーと書いてあったような気がしたので・・。
レトと混同かも。
194191:03/11/01 21:34 ID:4eobfG4K
>>193
自分の方こそ横やり入れてスンマセン
結構時間が経ってたから続きは今度かと思ったんですが・・・
(´・ω・`)ショボーン
195名無しさん@ピンキー:03/11/02 00:30 ID:yU6UhU3N
ヘレもヘラも訳による表記上の問題。
どちらでもよいと思われ。

まあ、小説は読んでないわけですが。
196名無しさん@ピンキー:03/11/02 06:31 ID:cwCTSNe9
いやらし美しくって、すんごくイイッ!!
は、早く続きをっ…
おながいぷりーず。
197名無しさん@ピンキー:03/11/02 21:23 ID:Xp1GIrTa
>>192
物書きの端くれと思うなら、そういうことは書くべきでは無かろう?
キスと愛撫だけではHにできない?
できなければ自分の敗北という事よ。
198名無しさん@ピンキー:03/11/02 22:20 ID:cwCTSNe9
>>197
そんなぁ。
キスすらない今回の予告編だけで一回、
あっけなく敗北した漏れって、じゃあ何……
199名無しさん@ピンキー:03/11/02 23:39 ID:wSGEX9Gt
人の作品に文句つける奴は自分で何か書いてからにしろよ
200名無しさん@ピンキー:03/11/02 23:51 ID:R/N7ykAi
sousou
201名無しさん@ピンキー:03/11/02 23:52 ID:YGWlKs+C
moutoku
202ayaya ◆FQzCTXUtJM :03/11/03 02:13 ID:le+4NV64
test
203ayaya ◆oi/2dLUr/U :03/11/03 02:13 ID:le+4NV64
test
204名無しさん@ピンキー:03/11/03 03:42 ID:NkBXbLYA
マターリ、スルーでもしる。
まあ、SS書いたりする人間としては耳に痛い意見ではあるのだが(苦笑)
205嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:07 ID:R37764yN
 会えたことを後悔するものが恋の苦しみであるというのなら、会えたことを喜ぶことは恋の幸福なのです。それ
とも恋の苦しみもまた恋であるなら、それは幸福なのでしょうか。泉を離れ、アルテミスさまに見つからないよう
に足早で自分の神殿へと帰ったアフロディーテ様は、その身体が火傷した痛みに悲鳴をあげているのに気づき、冷
たい水を用意させました。それは凍えそうに冷たい水で、事実わずかながら氷を張っています。手を入れれば痛む
ほどのものだったのですが、アフロディーテ様はそのなかへと身体を投げ出しました。そして身体の熱はさっとそ
の水に奪われました。ツキン、という痛みを感じます。とても冷たい。あっという間に肩は青くなっていきます。
赤々とした唇はいまや濃紫。氷の牢獄に閉じ込められたようで、手先を動かそうとも、その感覚は動いているのか、
止まっているのかわかりません。アフロディーテ様はその寒さに震えながら、その苦しみを少しでもまぎらわそう
と思い、ふと泉で見たアルテミスさまのことを思いました。
 その途端にカッと身体は熱を持ちました。胸は春の太陽のように激しく燃えさかり、瞬く間にその青ざめた肌を
薄い桃色に変えます。鮮やかなものでした。頬はピンク色に染まると、吐息は氷をも溶かします。アルテミスさま
の背中を思えば氷は水へと変わり、アルテミスさまの髪や、お尻を思えば水は湯気を立てて、そして美しい微笑の
横顔を、アルテミスさまの素顔を思い出せばお湯は蒸気へと変わるのです。けれどその煙でさえ、アフロディーテ
様の胸の炎ほど熱くはないでしょう、自分の肌が赤く染まっていくのにアフロディーテ様は溜息を漏らしました。
206嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:08 ID:R37764yN
「神々は不死というけれど、こんなにも恋が苦しいものだというなら、死んでしまっても不思議はないわ。ああ、
あの美しいアルテミスにどうしてこんな残酷なところがあるのかしら。あの人は私をこれほどの痛みに与えていて
も、元気に小鹿を、鳥を、いつものように追っているのでしょうね。何も知らずに! 
 いっそ私はアルテミスに殺される獣になりたい、そうすれば逃げている間、彼女は私に魅了されて追いかけてく
れるのだもの。いつも父に弓を向けていたあの狩人は、私をいつの間にか目に見えない矢で貫いて、それも自分の
知らないところだからと、見舞いにくることがない。なんて冷たいのかしら。氷でさえもあなたほどではないでし
ょうに」
 アフロディーテ様はそうして小言大言で、恋する人に文句を言っていたのですが、それが済むと今度はその人を
手に入れる術について考え始めました。なにせこちらが好きであっても相手には憎まれているのですから。ならば
近づくことは用意ではないし、素肌を相手に晒すことなどもってのほかでしょう。そのことを口に出して告げれば
本当の矢で射られても不思議はありません。エロスの力を借りようか、とも思いましたがその人の管轄外ですし、
そもそも矢で射るに相手は神です、それは許されないでしょう。恋の術にかけては神であるアフロディーテ様です
が、いままで自分自身が恋をしたことがなかったために、まさしく初心の娘のように、あれこれ考えてはまた頭を
かかえていました。
207嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:09 ID:R37764yN
 日が沈めば眠りについたのですが、夢のなかにも泉で見たアルテミスさまの姿が出てくるのです。目を覚ませば
眠りに入ったときよりほんの数刻進んだ程度で、また眠ればアルテミスさまの姿。そうして起きては眠り、起きて
は眠りと繰り返したために、朝には疲れた顔を見せていました。けれどアルテミスさまを、そのたくましい肉体を
この手で抱く方法はまだ思いつきません。そうしてまた次の一日もその手段を考えて、いつか時も明け暮れ、その
度にアフロディーテ様は恋に苦しみ、やつれていきました。望みは諦めることも叶えることもできないのです。そ
れは見るひとが見れば病者と間違えるほどで、数ばかりなる神々も心配のためにかわるがわる見に来てくれたので
すが、そのなかにアルテミスさまの姿はなく、アフロディーテ様はいっこうに良くなる気配がありません。
 そんな折にあの親愛なる血に飢えた神、アレス様がやってくると、アフロディーテ様の様子が病気によるもので
はないと即座に悟り、口の端をあげてこう言いました。
「恋の女神、奔放なるアフロディーテ。君はどうやら恋をしているね。恋をしている。間違いなく。君はそのため
に苦しみ、そして切なく喘いでいるんだね。その様子はどうやらすぐに手に入るガラスなどではなく、宝石のよう
に君の手の届かないものか。私の知りうる限りでは君はあらゆる男神を見下ろす立場にいるのだし、ゼウスか何か
知らないが、とにかく私のかなわない相手であるようだ。
 君を苦しめるものが何であるか、神なのか人間なのか獣なのか、それは知らないが、私はその様子がとても面白
いものに見える。恋愛の神でありながら恋に苦しむというのはなんともいえず愉快なものだから。まあ、私と親し
い君だから、その解決は近い内だと、それはいうまでもないだろう」
208嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:11 ID:R37764yN
そういってアレス様はアフロディーテ様から離れると、神殿を出て行きます。このとき、アレス様がきたことは
アフロディーテ様にはそれなりの転機になりました。 何故って、アレス様とアフロディーテ様はよくつるむ仲で
あり、つまり恋愛のなかに一つの手段があることを思い出したからです。その手段とは。それは、と考えれば鍛治
屋である夫の助力が必要であると悟り、すぐにその名を呼びました、片目片足の神はひょこひょことやって来まし
た。そして妻が随分元気になったことを喜び、その頼みを聞きました。それはとある道具を作ることでした。その
ために必要なものはアフロディーテ様に用意させます、アフロディーテ様はそれらを取ってくるのです。
 冥府の小枝、タルタロスの林檎と水、スキュラの小指……それらは手に入れるのに困難を極め、神々も危険を伴
うものなのですが、アルテミスを手に入れたい一心にアフロディーテ様はそれらを手に入れるためにあちらこちら
を駆け回りました。それは神々には似合わない、努力というものでした。恋をすれば神々も人々も同じなのです。
初恋とはそうやって、恋に全力で挑むことなのです。アフロディーテ様はアルテミスさまに初恋をしました。髪は
汗に濡れて、肌は土や埃に汚れ、それでもアフロディーテ様は綺麗でした。誰もその姿を笑わないし、憎むことは
できないでしょう。
 そうして求める品々を手に入れた頃に、へとへと息絶え絶えでヘパイストス様にそれらを手渡すと、アフロディ
ーテ様は久々の安眠に身体を休められたのです。
209嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:13 ID:R37764yN
 ヘパイストス様の作ったものは、どんなに屈強なものであっても捕まえて、こちらは自由に触れるけれど、相手
は身動きが取れなくなる縄です。それはとても細い糸で出来ていて、小枝を切り分けたものでした。それから性欲
を高める液体として、タルタロスの林檎と水を用いたものが作られました。それから小指を使われたものとして、
よく震えて、意志次第では複数の触手を伸ばす小さな丸い玉が作られました。とても便利な品々ではありますが、
それを使うのはアフロディーテ様です。アフロディーテ様はアルテミスさまに手紙を送りました。それは自分が病
だから、森の果実を分け与えて欲しい、という内容で、確かにアルテミスさまはアフロディーテ様を嫌っておられ
るのですが、そういった内容では見捨てておくこともできず、新鮮な野イチゴや葡萄を手に、アフロディーテ様の
真の思惑も知らず、森を出て、アフロディーテ様のいる神殿を訪れました。
 大きな門をくぐれば、まず目に入ったのは大きな林檎の木です。はっと目を奪われる鮮やかな赤があり、それか
らそれが緑を包む実であることを知れば、林檎の香りがいっせいに吹く風となりました。その風に押されるように
先へと進むと、どこからともなく花や、果実をつける木々の香りがします。そのなかにはアルテミス様の愛する月
桂樹や桃金嬢もあり、こわばった心をすっと和らげました。高い天井から覗く太陽も、木漏れ日となり、それほど
眩しいほどではありません。緑色と赤と桃色と、彩られる光はまるで森のなかに居るよう。安らぐ心。アルテミス
さまはアフロディーテ様に感謝します。
 アルテミスさまが緑を抜けると、次は水に満ちたところでした。あの豊かな緑を育む水はここから取られている
のでしょう。静かな水がゆらゆら揺れていると思えば、パッと花が咲くように広がり、形は鮮やかに変わっていく
のです。天高く吹き上がったと思えば飛沫が回り始め、まず大きな粒が先に降ってから中くらいの粒が落ちてきま
す、細かいものは天空に広がりそのまま風となります。アルテミスさまが水に触れば、ふわりとその手先に絡みつ
いて、離せばふるふると震えます。足を踏み出すと、その優しい足場は流れのまま、アフロディーテ様の元へアル
テミスさまを運んだのです。
210嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:14 ID:R37764yN
眠っていました。その方は。安らかな息をついています、アフロディテ様は。その身体をベッドに横たえて。広
い寝室でしたが、今はその方と自分だけ、二人しかいません。けれどアルテミスさまはそれがとても窮屈に思えま
した、こんなにも息苦しいのです。アフロディーテ様の寝ている姿を見たときに。それは自分にとっては不愉快な
細く長い手足であったり、ふくよかな胸であったり、端正な顔であるのです。触ったらすぐに壊れてしまいそうな
身体。触られたらふわりという感触であろう、柔らかな肌。そういったことが、アルテミスさまにとっては何より
嫌いでした。だって息が苦しくなるのですもの。胸は速く脈打ち、頭はポゥっとして、頬は火照るのですから。
 こうしていると、その方はずいぶん安らかな吐息をついております。アルテミスさまはアフロディーテさまの元
へと歩み寄り、靴を脱いでベッドの上へ登ると、「アフロディーテ」とその名前を呼びました。アフロディーテ様
の身体がわずかに身動ぎをして、瞼がわずかに持ち上がりました。綺麗な瞳。はっと息を呑んで、アルテミスさま
はその瞳から離れました。ゆっくりとアフロディーテ様が起き上がります。
「アルテミス、かしら?」
「そのとおりです。手紙の催促を受け、やむなく参りました。けれど思ったよりも元気そうでなによりです。果実
などは最高のものを持ってきたのですが、よければお召し上がりを。とはいえ森の匂いは美しいあなた様には口に
合わぬものかもしれませんけれども、客人の荷物であればこそ、お納めください」
 そんな風に、口を開けば相手の気分を損ねる言葉が出るのです。そしてアフロディーテ様のまだ起きたばかりで
自分のことをじっと見つめる仕草から目を逸らしているのです。アルテミスさまはやはり自分はアフロディーテ様
のことが嫌いなのだな、と思いました。
 アフロディーテ様はしばらくしてから口を開きました。それは微笑、アルテミスさまがもっとも嫌いな、美の女
神の微笑みでした。
211嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:15 ID:R37764yN
「ありがたいものね。今頂いてもよろしいかしら?」
「かまいません」
 そういうとアフロディーテ様はアルテミスさまも持ってきた果実の籠をたぐりよせて、葡萄を一房、籠から出し
ました。一粒を手に取るとそれを口に運びます、けれど。
「あら……噛めない」
「それはどういうことでしょうか?」
 アルテミスさまは顔色が青ざめて、そのように訊ねます。アフロディーテ様は重々しく溜息をこぼしました。そ
れはいかにも重大なことというようで、アルテミスさまはその様子に心を痛めています。
「病で力が入らなくて。どうも歯で噛めないようなの、アルテミス、お願いしてよろしいかしら?」
「なにを、でございますか?」
「あなたが噛んで、潰して欲しいのだけれど」
 桜のように赤くなります。アルテミスさまの顔色は。その言葉の真意は窺い知れず、ただ自分の歯で噛んだもの
というのは接吻を介してアフロディーテ様の唇に入るわけですから、それはただならぬ仲でなくてはできないこと
ではないのでしょうか。アフロディーテ様はアルテミスさまが何もいえない様子に、困った仕草を見せました。
「嫌なのかしら」
「そ、それはもちろん」
 望む答えを与えられて、はっとアルテミスさまは言いました。けれどアフロディーテ様はクスクスと笑い、それ
から葡萄を一粒渡しました。ぱち、と目を瞬かせると、アルテミスさまは首をかしげて、それから顔を赤らめます。
「あ、あのっ、これは?!」
「? なに、アルテミス、あなたも食べればいいでしょう。薦めるものを自分が食べられないということはないと
思うのだけれど」
 そういってアフロディーテ様は葡萄を食べ始めました。そこでアルテミスさまははっと今までのことが、恋の女
神にからかわていたのだと知り、顔を炎のように真っ赤にすると、恥ずかしさと怒りに何も言えず、葡萄を食べま
す。ほんのすこし酸っぱいものがあったらしく、なんだか涙がでてきそうでした。
212嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:16 ID:R37764yN
 アフロディーテ様はそんなアルテミスさまの様子に、やはり、と思いました。やはりいつものしかめ顔は、この
可愛らしさを隠すためのもの。本当はこんなにも初心であるのに、純粋な方であるのに、いつも自分には見せるこ
とがない。ならば、とも思います。ならば肌を重ねることを望んでも、拒否をされるだろう。となれば。ここは、
考えてたとおりのものでいくしかない。
 アフロディーテ様はアルテミスさまに近寄りました。肌をくっつけるようにです。はっとアルテミスさまはそれ
に気づいて驚き、目を見張りました。そしてアフロディーテ様の掌が、自分の身体に触れたのに思わず身を引きま
す。離れればアフロディーテ様の微笑が、先ほどとは違っているものであることに気づきました。それは今までも
見たことのない、背筋が熱くなるような微笑です。
「逃げるの? やはり」
「あ、アフロディーテ、なにをしようと――」
「あなたを、抱きたいのだけれど」
 いうなりアフロディーテ様の手から、一本の縄が放たれます。縄は目に止まらない速さでアルテミスさまの身体
に襲い掛かり、きりりと縛りつけました。それは例の、冥府の小枝より作られた縄です。アルテミスさまは手を動
かそうとしましたが、まったく動かせません。足も動かすことができず、首ですら動かないことに気がつくと顔色
が青ざめます。そしてアフロディーテ様の微笑に戸惑いの視線を向けました。けれどアフロディーテ様はただ笑み
を浮かべて、何もいわずに再びアルテミスさまに寄り添います。
 かろうじて唇と、喉を動かせるので、アルテミスさまは叫びました。
「なにをなさるのです! この縄はいったい何なのですかっ?」
「それはあなたを縛るためのもの。ヘパイストスの手によって作られたのだもの、あなたの手で、解けることはな
いわ。だから大人しくしていてくれると助かるわね」。
213嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:18 ID:R37764yN
そのようなアフロディーテ様の言葉に、どうしてこのようなと抗議しようとしたアルテミスさまは、先ほどのア
フロディーテ様の言葉を思い返し、そこですべてを諒解すると口を閉ざします。アフロディーテ様はアルテミスさ
まの身体に手を伸ばしました。たわわに実った乳房に触れます。アルテミスさまは眉をしかめてアフロディーテ様
を睨みます、けれどアフロディーテ様はそれに臆することなく、乳房をさわさわと撫で始めました。
「やわらかいわ。アルテミスの胸」
「――っ」
 背筋がぞくりとして、乳房を触られる違和感にアルテミスさまは息を殺します。いまだかつて、誰にも触れられ
たことのない胸でした。自分でもこれほど執拗にしたことはありません。ですからそれは耐えがたい羞恥心であっ
たのです。恥じらいは快楽を奪うものです。アルテミスさまは苦しそうに息を吐いていました。
「アルテミス。胸を触られることはあまりうれしくないことのようね」
「当たり前ですっ」
「それならこれを与えてみたり」
 アフロディーテ様はあのタルタロスの水と林檎より作られた、あの清純を淫らに変える性質の薬が入った小瓶を
取り出してアルテミスさまの口に含ませました。アルテミスさまは身動きできないままそれを飲み込んでしまいま
す。そうしてから、再びアフロディーテ様はアルテミスさまの乳房を触り、また揉みはじめます。柔らかな乳の肉
は掌にしっかりとのってくるようで、パンをこねるようにこねこねと、アフロディーテ様はアルテミスさまを手で
蹂躙しておられました。はじめは眉をしかめていたアルテミスさまですが、いつしかアフロディーテ様の手の動き
に合わせて切ない吐息を漏らしながら、瞳をトロリと潤ませてきます。そしてトクンと胸は高鳴り始め、肌は、顔
の色は桜色、もっと触って欲しい、などと望んでいるのでした。その変化に誰であろう、戸惑っているのはアルテ
ミスさま自身です。
「はぁっ……ん……どうして……やだ……」
「ふふ。思ったよりもよく効くのね、この薬は。アルテミス、すごく淫乱」
214嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:19 ID:R37764yN
 淫らになってしまった自分の身体はアフロディーテの手が動くたび、その快楽に打ちのめされて、なおもその接
触を欲するのです。アフロディーテ様がわずかに縄をゆるめられると、アルテミスさまの身体が快楽にびくりと震
えました。そして縄がその身体に食い込み、喉から甘い声が溢れます。可愛そうに、アルテミスさまはもう抵抗で
きず、アフロディーテ様のなすがままになっていました。アフロディーテ様はアルテミスさまの身体から衣服を剥
ぐと、そのたくましい腰や、大きく膨らんだ胸に頬擦りをします。汗が流れればそれを赤く色づく舌に含み、舐め
ては喉の奥へ流し込むのです。汗はそうでなくても疲れているときに強い匂いを発しますが、快楽に喘いでいる今
はその本来の意味、つまり雌を強烈に惹きつけ魅了する香りを放っています。それは花であり果実であり食物なの
です。食物は糧であると同時に、美味なものは欲する欲が留まることをしりません。アルテミスさまは全身の汗を
アフロディーテ様に舐められます、乳房の裏側、お臍のなか、腋下のこもったところを。肩に舌が触れたかと思え
ばそれはくるくる回りながら手の指まで放れることなく舐められて、そして指先を口に含まれるとカツ、カツと歯
を立てられるのです。指先はアフロディーテ様の唾に塗れて、てらてら輝いていました。
「きれいね」
「きれい…なんかじゃ……ない」
「そう?」
 淫の隠せぬ笑みをアフロディーテ様は浮かべながら、アルテミスさまのすべてを舌で味わいます。それは砂糖菓
子であり酒であり、まぎれもない愛する方の身体です。自分とは違ったすらりと伸びた手足は歯を立てればかすか
な弾力があり、柔らかな肉にも、筋があることがわかります。普段弓を射る手はとても屈強な、男性を思わせるも
のなのです。けれどこれほど美しく甘いものはアルテミスの他にはないと思いました。
 それを口に含めばふくよかな香り、そしてじっくりと味わいながらアフロディーテ様はアルテミスさまの様子を
窺います。快楽は収まることをしらず、月の女神の身体はなおも燃えさかり、更なる高みを求めます。けれど身体
はアフロディーテ様にすべてを委ねてしまっているというのに、心はまだアルテミスさまのもの。
215嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:20 ID:R37764yN
「アルテミス。私の舌は気持ち良いのね?」
「違いま……す」
 そのように答えを返すアルテミスさま。けれどアフロディーテ様はますます喜びます、それはアルテミスが誰よ
りも気高く、心が強いことの証なのですから。アフロディーテ様は情熱のまま、アルテミスさまの下半身に手を伸
ばしました。
「この、あなたの大事なところも触らせてもらうわ」
「あっ!」
 アルテミスさまの顔色が変わります。下半身の中央、そこは自分ですら触ったことのないものです。そしてそれ
はどのような快楽をもたらすものか、アルテミスさまはご存知ではなかったのですが、先ほどから身体を舐められ
るたびにそこが熱くなって、何か汗のようなものが垂れてくるのを感じていましたので、そこだけは触れられては
ならないと思っていました。けれどアフロディーテ様に、そこはいいようにされてしまいます。
 性器を覆っていた衣服が取られました。つま先からすっと抜かれて、アルテミスさまはアフロディーテ様に全身
を裸で晒してしまいます。アフロディーテ様の瞳がアルテミスさまの肉体を見つめ、恥ずかしい箇所を丹念に見つ
めています。その視線はアルテミスさまが恥ずかしいと思うだけでなく、身体に歓びを与えました。
 見られていると感じれば、なおも性器は熱くなります。汗のようなものはますますポタポタと溢れ零れて、厭な
匂い。立ち込めればそれをアフロディーテ様はすぅっと吸い込み、そしてアルテミスさまの、濡れたところに顔を
近づけたのです。アルテミスさまの胸が、ドクンと鳴りました。
「何――?」
「ここを舐めるわね、アルテミス」
 アルテミスさまはその言葉の意味を知らず、けれど次の瞬間にはその行為の意味を知りました。濡れた花弁に
ぴちゃりとアフロディーテ様の唇が触れたかと思うと、それはぬるぬると蛇のように、蚯蚓のようにのたうって、
そこを粘液にねばつかせるのです。自分の奥から溢れてくる蜜も、それはアフロディーテ様の舌に掬われて、そ
の喉に飲み下されていきます。熱い。また、心地いい。喉からは甘い声。股からは山羊の乳。アルテミスさまは
水瓶から溢れる水、とどめなく流れるものを堪えきれずに、アフロディーテ様へと、清純な水を与えているので
す。
216嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:21 ID:R37764yN
 トロリとした白い液体はますますその量を増して、アフロディーテ様のお顔を濡らします。味わいながらも、
アフロディーテ様はなおも奥を舌で掻きまわし、その変化を敏感に感じ取るのです。つまりここだと気持ちいい
のだとか、ここだと気色悪い感覚があるのだとか。アルテミスさまが気持ちよくなるところをほどよく責め立て
られてはまた愛して、ときにあえて焦らしてみたりと。ですからアルテミスさまがそれを迎えたときにも、アフ
ロディーテ様の知るところだったのです。
「アルテミス。あなた、達するわ」
「あふ……、そ、それはどういう――」
 そのときアルテミスさまの心は炎のように燃えさかって、今にも蕩けてしまいそうでした。背筋は熱く、胸は
激しく音をたてて。全身の震えは抑えられるはずもなく、アルテミスさまの胸は糸にきりりと縛られているので
すが、それが食い込むとまた快楽がその何も知らぬ身に降りかかってくるのです。胸だけではありません。アフ
ロディーテ様の舌に弄られている女性器はとろとろとネクタルを流して、アフロディーテ様の唾に溶け合うので
す。くまなく舐められたそこは、もはやアフロディーテのものになってしまったのだと、アルテミスさまは確信
しておられました。弄られればあとは快楽だけが充たすのです。そして身体は燃え上がるにつれて、アルテミス
さまの心を侵食するのです。それはつまり快楽を待ち望む心へと。
 心が快楽を求めればアフロディーテ様の舌もいっそう甘美となり、のたうつ身体に食い込む縄は、この上なく
自分を支配してくれるもの。蕩けそうな全身を振りたくって、アルテミスさまはアフロディーテ様の性の奴隷と
なり、汗を、愛水を溢れさせるのです。そんなアルテミスさまの様子にアフロディーテ様は微笑み。
 胸を左手の指先三本で摘み、股を右手のひとさし指で掻きまわしながら――それはすんなりとアルテミスさ
まの快楽になりました――、唇で接吻を求めたのです。
 接吻には味がありました。アフロディーテ様の味であり、アルテミスさまの下半身の蜜の味です。舌と舌とが
擦れ合い、絡み合い、唾と唾とがくちゅくちゅと音を立てます。指先はアルテミスさまを支配し、さっと背筋が
冷たくなれば、また熱くなり、それは収縮のように。快楽はアルテミスさまを翻弄します。
217嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:23 ID:R37764yN
 アフロディーテ様は容赦がありません。ただアルテミスさまに気持ちよく絶頂を迎えさせるために、技巧をこ
らして、愛情を込めて、唇を、指を暴れさせるのです。とうとうアルテミスさまはアフロディーテ様に屈してし
まいました。
「は、んっ……!」
 ふるると秘唇が震えれば、胸は大きく上下して、唇が半開きにカクリと身体が大きく揺さぶられます。アフロ
ディーテ様の指先をアルテミスさまは強く締めつけて、蜜を迸らせると、指先のみならずアフロディーテ様の全
身をしとどに濡らしました。かっと全身が熱くなりいいしれぬ解放感、それははじめて味わう快楽であり、縄よ
りもアルテミスさまの心を縛りつけたのです。溢れる蜜は媚薬のようにアルテミスさまを包むと、熱はそこでこ
もりすぐに退くことはありません。達したばかりの熱はそのために、アルテミスさまをずいぶんと翻弄して、止
められないものになっていました。
「く…ふぅ……」
「達したわね。でも、まだよ」
「あ…! っや…ん……」
 まだ余韻に酔いしれるアルテミスさまに口づけをすると、アフロディーテ様はまた指で犯しはじめました。再
びアルテミスさまから嬌声が溢れて、そして強い刺激、快楽にうち震えます。アフロディーテ様の指をしめる性
器の感覚。それはまぎれもなく、自分がアルテミスを抱いているのだと、はっきりアフロディーテ様に自覚させ
たのです。まだ、こんなものではない。アフロディーテ様はすべての技巧を試みます。
「ここも、私のもの」
「ひゃっ……!」
 アルテミスさまの菊座にアフロディーテ様の舌が這いずり回りました。ぴくんとアルテミスさまはその身体を
震わせて、その感触に眉を曲げます。けれど秘所を愛撫されながらそこに舌が入れられると、やがて快楽の炎が
ついて、お尻の穴でも官能を感じてしまい、またアルテミスさまは達しました。つづけて二度昇りつめたアルテ
ミスさまは、その身体から力が抜けてクタリとアフロディーテ様に寄りかかります。アフロディーテ様はその重
みに心を満たして、それからアルテミスさまを縛っていた縄を解きました。
218嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:24 ID:R37764yN
「あなたのすべて。透きとおった金色の髪、小さな額、宝石の瞳、二つとない花びらの唇、くぼんだ鎖骨、肉の
寄りあう乳房、甘い果実の乳首、なめらかな背中、ひきしまったお腹、それらすべて。もう、……私のもの。だ
からあなたを縛るものを解いてあげるわ。けれどアルテミス、私に逆らってはだめよ」
「っ……」
 アフロディーテ様の言葉にアルテミスさまは頷き――それはアルテミスさまがアフロディーテ様に従ったとい
うことであり、その心を愛の女神に委ねたということなのですが、そうしてアフロディーテ様がアルテミスさま
の頬を取り、自分の胸に押し付ければ、アルテミスさまは逆らうことなくそこで安らかな呼吸をします。そして
アフロディーテ様の指先が自分の半身を弄るのを受けて、快楽の吐息を漏らしながら、指を唇で咥えて、激しく
かきまわされる度に頂点を迎える様は女としてアフロディーテ様に魅せられた姿、それは獣のようです。美しい
獣はアフロディーテ様に愛されて、性の喜びに女と変わります。アフロディーテ様はアルテミスさまのお尻を、
性器という性器を、思いすらもその技巧によって激しく高ぶらせるのでした。そうしてアルテミスさまが熟すの
を、楽しそうに見るのです。
「ね、アルテミス」
「はぁっ……ふあああ……な、なんでしょうか……っ」
 アフロディーテ様の呼びかけに、潤んだ瞳でアルテミスさまは答えました。きらきらと輝くその瞳に、アフロ
ディーテ様は心を奮わせながらも、すっとアルテミスさまから離れました。アルテミスさまの顔が不安に曇りま
す。けれどアフロディーテ様は小さな玉を、あの細工玉を手に取ると再びアルテミスさまに寄り添いました。
 その玉がどのようなものであるのか知らないアルテミスさまは、不思議そうな視線を向けています。それに応
えて、アフロディーテ様は玉を撫でながら言いました。
「これはあなたをもっと気持ちよくしてくれる道具なの。でもね。あなたが望まなければ、使ってあげない」
「ぇ……」
「だってあなたまだ、気持ちいいと言ってくれないのですもの」
219嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:25 ID:R37764yN
 すでにアルテミスさまが自分のものだとわかっていらっしゃるのに、アフロディーテ様はそんな風にいじわる
をされるのです。それはアルテミスさまの恥ずかしがる姿は、アフロディーテ様にたまらない魅力を感じさせる
からです。そしてアルテミスさまはそれがわかっているから言うまいと堪えるのですが、アフロディーテ様に目
覚めさせられた女性の身体はじわじわと快楽を欲し、責め立ててくるものですから、唇をぎゅっと噛んで耐えよ
うとしてもそれは無力でした。
「くっ……う……」
「どうしたの? やっぱり無理やり私の相手をされられているのだもの、嫌なのかしら?」
 そういってますますアルテミスさまの羞恥を強いものにさせるアフロディーテ様は、本当にアルテミスさまを
愛しているのでしょうか。いいえ、愛しているからこそいじめてしまうというのは、人も神様も同じ。そして、
アルテミスさまは自身の羞恥が強くなるにつれ、快楽への期待が強まるのですから、けしてただの嫌がらせでは
ないのです。
「ねぇ、アルテミス……おねだり、してちょうだい」
「っ……」
 アルテミスさまは顔を真っ赤にして、アフロディーテ様の耳元で呟きました。
「ふふふ」
 それは可愛らしい言葉で。アフロディーテ様は微笑むと、アルテミスさまをすっかり濡れて、匂い放つベッド
に押し倒して深い深い口づけを交わしました。頬すらも触れあい、長い髪は二人の顔を覆って、辺りを暗くしま
す。そのなかでお互いの瞳だけが輝いているのでした。
 そのときアフロディーテ様にアルテミスさまは何と言ったのでしょうか。アルテミスさまは頬を赤らめ、かす
かな消え入りそうな声で、花を揺らせば、「私を愛してください」と訴えたのです。そしてアフロディーテ様に
自分のすべてを捧げ、口づけも自分から舌を絡ませなさったのです。
220嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:26 ID:R37764yN
「それなら、私から」
 愛しい方のために。アフロディーテ様はご自身にそれをお入れになられると、月の女神の痴態にさんざん焦ら
されていた身体はその玉の振動にすぐさま達します。けれどアフロディーテ様はそのまま、そのまま触手を中で
お伸ばしになられ、ひとつふたつがぬるぬると、なかを掻き分けて出てくれば、それをアルテミスさまのなかに
ぐっと押し込みになりました。途端に快楽はアフロディーテ様とアルテミスさまに訪れて、アルテミスさまは背
筋をのけぞらせて、アフロディーテ様は前のめりに倒れました。両神は身体を重ねあい、お互いに抱き合うので
す。そうしてお互いの嬌声を聞けば、なお心は高まり、そしてアフロディーテ様は何度も気をやり、アルテミス
さまもその快感の虜となられたのです。
「やっ……ふぁ……いいの……」
 アルテミスさまは気持ちいいと訴え、自分から腰を振られると、その金色の髪は舞い踊り、アフロディーテ様
から生える触手をなおも奥に誘おうとされるのです。アフロディーテ様は引っ張られる感覚と、奥深くまで潜り
こんだ玉の振動に気も狂わんばかり。アルテミスさまの唇を求めて、くちゅる、くちゅると音を鳴らして接吻を
するのですが、それは気がまぎれるどころかますます燃えさかるものとなり、この快楽の奔流は止められないも
のになっていくのです。アルテミスさまはアフロディーテ様の胸にご自分の胸を擦り合わせました。それは柔ら
かい肉ですから、擦るというより撫でるといったものでしょうか。けれど優しい穏やかなものではなく、それも
また激しい交わりなのです。お互いの乳首はピンと弾かれて、ふるふると震える乳房は熱によって桃色に彩られ
ます。けれどその勢いは増していくばかり。そして心は熱く燃えて、噴き上がり――。
「だめ、アフロディーテ! もうっ……」
「アルテミス……うん、私も……限界…みたい……」
 アフロディーテ様の触手をアルテミスさまがしめつけたかと思うと、そのまま崩れ落ちて、そしてそれきり気
を失ってしまわれました。アフロディーテ様もそのときに触手が大きく外に飛び出すと、その場に倒れて、再び
玉を取りに行く力もないまま、そこで目を閉じました。
 こうして愛の女神と月の女神は互いに手を取り合い、三日間もの時間を眠ったのでした。
221嘘八百ギリシア神話続き:03/11/03 11:27 ID:R37764yN
 この後、この神様たちはどうなったか、ですって?
 アルテミスさまとアフロディーテ様はその後筋肉痛でそのベッドに長い間寝込み、そしてアルテミスさまは、
その間アフロディーテ様にずっと恨み言をおっしゃっていたそうです。ちなみに表向きは病気を移されたという
ことにして、その真相を知っているのはアフロディーテ様とアルテミスさまだけでした。
 ちなみにアルテミスさまは事を薬によるものだと言って、マッサージとアフロディーテ様が近づいてきてもは
ねつけて、愛の女神に寂しい思いをさせていました。やがて回復すると、一目散に自分の森に帰ったそうな。そ
して愛の女神にぶちぶち文句をいっていたそうです。自業自得とはいえ、アフロディーテ様は少しあわれ。
でもその後アルテミスさまはアフロディーテ様の神殿を時々、なぜか人目を忍んで訪れるようになったとなむ語
り伝えたるとや♪
222名無しさん@ピンキー:03/11/03 11:47 ID:R37764yN
今回はセリフ……。
セリフだけ読んでもシテいることがわかるのは、カーミラの雰囲気に比べると
(自分的には)軽くて明るい感じがある気がします。ライトノベル的?
そのせいかちょっと長くなってしまったのですが;
まことに申し訳ございません(m○m)。

>>197
はぅはぅ。ごめんなさい;;
ただ漫画と小説、どちらがエロを表現しやすいかといえば、手っ取りばやいのは漫画な
気がします。レズで私がHぃと思う漫画は、武藤鉄先生の作品なのですが、あれは汁を
やたらエロく女の子を可愛く書いているからだと思うのです。視覚的なもので絵というの
はとても効果的だと思うのです。
小説の場合は読み返してもエロさに慣れることはあまりあまりありませんが、パッと見た
目でエロ! といえないのが苦しいところだと思います。「これエロいぜ」という場合、それ
はシチュエーションによるものが多いのではないでしょうか。そういった点で、近親相姦と
かお嬢様調教とかに比べると同じ純愛であっても、エロを表現するのが難しいと思うのです
……。
223名無しさん@ピンキー:03/11/03 13:11 ID:YhZhOrD8
>>222さま
(*´д`*)ハァハァ……ごちそうさまです(2杯め)

エロ美しい小説。すっごくよかったです
アフロディーテ様の燃えるような恋心と、恋に落ちたアルテミスさまの愛らしさっ

レズの神さま。また今度、おかわりぷりーず
224名無しさん@ピンキー:03/11/03 15:13 ID:vGEr8rg+
AVENGER期待age
225名無しさん@ピンキー:03/11/05 15:27 ID:fj18NYbk
bottle fairy期待age
226名無しさん@ピンキー:03/11/06 14:43 ID:lFr3h/yR
漫画・アニメ・小説・ゲーム文化、そしてインターネットが潰される?
ttp://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/6372/
自民党マニフェストに表現・ネット規制法案アリ!!


*コピペ推奨!!     
227名無しさん@ピンキー:03/11/09 10:52 ID:6ljaseMj
ほしゅ
228名無しさん@ピンキー:03/11/09 15:20 ID:HM2xG6Ga
>>226
今日、ちゃんと投票してきただんだろうな?
229名無しさん@ピンキー:03/11/09 22:45 ID:E7DsdSU3
>228
選挙権がないんだよ俺
230名無しさん@ピンキー:03/11/09 22:53 ID:vuhSRcrP
>>229
なんで選挙権がないのがここにいるんだよ。
231名無しさん@ピンキー:03/11/09 23:37 ID:W7A9EmaT
>>230
スレの住人すべてが日本人だとは限りませんぜ
外国籍の方にも愛されるとは、すばらしきかな百合ジャンル
232眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:41 ID:QAV8Mt9C

 陽だまりの春園。なかでは子羊が眠っていて、暖かな日差しと共に、春風がひゅん、と吹いて、ゆるりはらはらと駆け抜けていく、
木々を、草原を、羊の頬を。まだ青々とした緑たちは風に揺れて姿を変える、踊り子のように。踊り子たちは子羊を纏うように舞い踊
り、ふわりはさはさ子羊の体毛と触れあい、音を立てた。ミルク色の体毛とは子羊の頭から背中ほどまでも伸びる、長い長い、そして
美しい髪のこと。子羊とは春の温暖に頬をほんのりと赤らめる、一人の少女のことだった。
 少女は園に眠り、草たちの音を聞きながら――楽しい夢を見る。日差しは少女の身体を温めれば、一枚の羽衣なくとも、身体は暖か
く、それは仕合せな眠りともなる。楽しい夢に、うれしい夢に、美しい夢。そうして少女は眠りながら、目覚めのときを待つ。それは
自分からの目覚めなどというものでなく――というのは仕合せな眠りはさらに仕合せな目覚めでもって覚めるので――そのために、何
か少女にとって喜ばしいことがあるまでは、少女は眠り続けるのであった。
 国は遠い遠い国。あるところに美しい姫がいて、その姫は白く長い、この世ならざる綺麗な髪をしていた。
 姫の名前は……その髪になぞらえて、白雪姫といった。
233名無しさん@ピンキー:03/11/11 07:43 ID:QAV8Mt9C



 その少女を見たときに、私ははっと息を呑みました。それは目を疑いたくなるような光景でした。そして何故このようなところに、
――このようなところに! これほど美しい少女がいるのか!

 はじめには国の外れの茨の塔を登っていく、その茨とは鋭く尖った薔薇の刺。刺は指で触れただけでも皮を裂き、真紅を奪うのです。
そのような茨に囲まれた塔は、入ることすら至難で、この塔の主人にしてこの国の王、そして我が夫であれば楽に茨は道を開くというも
の、無論入ることも至難であれば出ることはなおも困難だろうと思わせるもの。そしてその塔は人の出入りこそ難しくとも、汚れ、埃な
どはいとも容易に入ることができるようでした。私が塔へと入り、内部を見渡せば、そこは埃が立ち込める醜悪な匂いと風景。天井は低
く、明かりもなく、埃とカビの匂い、そして見渡すこともできない黒の霧、ときおり蟲の羽音すらも聞こえるようで。塔が城にも近いほ
どの広さなれば、なおもその汚れ様は目を覆いたくなるものだったのです。
 けれどこのまま引き返す理由にはほど遠く、――私がこの塔へと足を伸ばしたのは、遠くの国からこの国へと嫁いで来たときに国の外
れに見た茨の塔は何ゆえかと疑問に思っていて、夫である国の王に聞いても無言を保つものであったのを、ますます興味を増して、それ
は先代の妃に関わるものであればなおも耐えられぬ好奇となって、古い召使の一人を脅しすかしようやくここへと入る方法を聞いたので
す。その方法とは先代の妃の血と、夫である王の血を飲み、夜の数刻に訪れるというものでした。そして私は先代の妃にしては少し質素
と思われる墓を暴き、それから王と紡ぐ時にその肩へと爪を立てて、彼が眠るうちにそこから血を拭ったのです。その二つを飲めば、茨
は夜訪れたときに道を開いたのでした。――そして私は王に秘密にしたまま、ここを訪れたのですからここが何のためにあるのか、先の
妃とどのような関わりがあるのかを知るまでは引き返すわけにはいかなかったのです。
234名無しさん@ピンキー:03/11/11 07:44 ID:QAV8Mt9C
 埃の霧の向こうには、小さな階段があるようでした。私は霧を掻き分けて、鼻を抑えながら歩いていくと、そこは確かに階段で、人一
人が入れるだけの狭い階段が螺旋状に上へと伸びていました。レンガで造られたようで、冷たく堅い感触です、足を乗せれば。崩れそう
にないので、私はその階段をゆっくりと、慎重に登り始めました。ところでこれほどに大きな塔でありながら、私以外の人間はいないよ
うでした。まるで何かを閉じ込めているようだとも思います。獣でしょうか。人であればこれほど汚れた塔であるのは何故でしょう。獣
であればこれほど大きい塔であるのは何故なのでしょう。そう思いながら登っていったために、私は知らずの恐怖に襲われ、そしてここ
にあるであろう、そのものに脅えていたのです。好奇は階段を登るにつれて高まりながらも、また恐怖も高まっていきました。
 やがて階段の先に開けたところがありました。登りきったところには、小さな部屋があったのです。部屋は一階と比べれば狭いもので
したが、その分埃は濃く溜まっているようで、視界はまるで闇のようです。私は袖をはためかせると、服は真っ黒になりました。けれど
どうやらまだ、先に部屋があるようなのです。それは小さな四角の扉が、影だけ見えたときに私は知りました。その影に近づくと、それ
は確かに扉だったのです。扉に触れれば、それは動くようでした。開くようでした。私は息を呑みこみます。扉の向こうには、何がある
のでしょうか――きっとこの塔の秘密なのであると、私は確信していました。
 少しばかり開きます。明かりが漏れました。明かり! 炎の色! それは何を意味するのでしょう、また少し開けば、コトリと扉の向
こうからは音がしたのです。驚き、恐れ、そして私は捕らえられた獣が頭に浮かびました、その獣に襲われる自分を思いました、けれど
同時に部屋からは不思議な香りがしました。それは言い知れぬもので、獣とはまるで反対、美しいものでした。
235名無しさん@ピンキー:03/11/11 07:45 ID:QAV8Mt9C
 私は扉をなおも開きます――自分の身ほどの隙間を開けて、それから私は部屋のなかに身体を滑り込ませて、入ったのです。そして私
はその瞬間にはっと息を呑んだのです。目を奪われたものは埃ひとつない花の咲き誇る部屋、一つのベッド。ベッドの上の窓の外からは
月の明かりが見えました。開かれた窓から涼しい風が吹いて、私の頬を撫でました。そのまま風は、開いた扉から忍び込む埃をすべて外
に追いやると、扉を思い切り閉めました。私は扉の大きな音を聞きました、けれど正気はまだ遥か彼方にありました。
 私の瞳には獣ならざるものが映っていました。それはベッドの上から、扉の大きな音を聞いて、目を開くものでした。ミルク色の髪の
白さ、月を浴びれば太陽のように私の目を奪います。ふわりとその髪が舞い、流れ、また雪のようにはらはらと落ちました、それから髪
を風の流れに任せれば、風は髪をすいて、乱れない仕草を見せたのです。
 それから髪はパッと上空に散り、そして私はそこにいるものを――真珠の髪を持つ、美しい少女の顔を見たのです。月明かりに光り、
輝く少女の顔は髪と同じように美しい白に見えました。その眉毛とは、細長く、すらりとしたもので、瞼は眠りから覚めたあどけないも
の、年は十ばかりでしょうか、小さな顔立ちは繊細で、そして赤玉石の瞳は、私をじっと見つめていました。私はその瞳に射抜かれて言
葉を失い、心臓の鼓動さえも止まったようです、息の音すら聞こえません。指先すら動かず、少女の視線に身を委ねていたのです。
 そのとき少女は首をかしげました――私は突然に鼓動が速まり、息を大きく吸い込み、頭が熱くなる、そのままに――少女の仕草こそ
が私を司るものだったのです。首をかしげた後に、少女は可愛さの極まる唇を開き、息を吸い、そして耳を蕩けさせて燃え上がらせるよ
うな清らかな調べで、こう歌ったのです。
「あなたさまは、どなた……?」
236眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:47 ID:QAV8Mt9C



 私は言葉を失っていました。何も言うことができませんでした。恐れすらも打ち破った好奇の思いは、この熱情の前にたやすく消えう
せてしまいました。ところが彼女がその言葉の答えを私に求めていると思えば、自然と口を、言葉がついてでました。
「私は――この国の妃です。先代の妃がお亡くなりになったので、私が遠くの国から、新しく王の妃に迎えられました。そして国の外れ
にあるこの塔を不思議に思い、ここへ来たのです。どうか失礼をお許しください」
「失礼なんて……この国のお妃さま、とんでもないことです。私こそお妃さまに無礼なもてなしをお許しください。私は、……先代の妃
の娘、スニョクラーチィカです。あなたのお望みには、どのようなものであっても従います」
「先代の妃の娘? そのような話は、聞いた覚えが……」
 知りうる限りでは先代の妃は病気でなくなり、子供がいないために、遠くの小国の姫――これは私のこと――を迎え入れた、というこ
とになっているのです。けれど娘がいるのであれば、どうして私を、そしてその娘を何ゆえにこのような塔に閉じ込めておくのでしょう。
不思議に思う私に、先代の妃の娘、美しいクラーチィカは寂しそうに微笑み、ご自分の髪を指先で摘みながら言いました。
「このいまわしい、白い髪であれば、私の母さまと父さま、どちらにも似つかないもの。それゆえに母さまは父さまに責められて、私は
父さまの手で、この塔へと入れられました。そして生まれて数年、ここで暮らしているのです。ただいまの妃であるあなたさまの気分を
損ねるようなものであれば、命損なうことも許されることと思います、どうかお望みのままにされてくださいませ」
「クラーチィカ、美しいあなたを殺めるなどと、私がそのようなことを望むはずもない。私はあなたのためになりたいと思っています、
どうかお顔を晴らしてくださいまし」
 私は彼女の頬に触れて、そっと撫で上げました。白色の肌は青ざめていたのですが、そうすることで僅かに桃色に染まりました。青ざ
めている姿には心を痛めていたのですが、その変わりには心が温まるようでした。乳色の髪のクラーチィカはやがて微笑み、私の胸に手
を置きました。
237眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:48 ID:QAV8Mt9C
「ここへは、父さまの望みで参ったのですか? ……いいえ、違いますね。あの方が私をお許しになるはずはありませんから。お妃さま
のような優しいお方が、私のところに来たことなど一度でもありませんでした。お妃さま、どうか父さまの怒りを買わないでください、
このまま戻られて醜い私のことを忘れてくださいませ。あなたさまに仕合せを」
「なにをおっしゃいます、美しいクラーチィカ。忘れることなどできようはずもない、私はあなたに魅せられたのです。ああ、時間はそ
ろそろ差し迫りました、夜の数刻ほどしか塔には入れないのですから。けれどクラーティカ、私は再びあなたに会いに来ます。クラーチ
ィカ、あなたに再び会う夜があることを祈っています。それではさようなら」
 私はそういって月の高く登った姿に嘆息し、クラーチィカから離れると、その部屋を出て行きました。二人の血の魔術は、月の高くな
る頃に解けてしまい、そうなると塔の茨に閉じ込められてしまうのです。クラーチィカと一緒にいられるのならばそれも構わないような
気もしましたが彼女の口ぶりだと王はあんなにも美しいクラーチィカを恨んでいるようでしたので、クラーチィカの立場を危うくするよ
うなことはするべきではないと思い、私は階段を下りて、塔から出ました。やがて月はもっとも高いところまで登ると、茨は再び塔を塞
ぎました。手を伸ばしても、茨は手を傷つけてしまうだけでした。
238眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:49 ID:QAV8Mt9C
 その後塔から離れ、城へと忍び込み、自分の部屋へと戻った私ですが、クラーチィカの美しい顔が、髪が忘れられずに、身体は熱く高
ぶったままで、夜の深い眠りが熱を静ませようとしても、クラーチィカの言葉を、麗しい声の音を思い返しては目覚めてしまい、そんな
ことが朝まで続きました。やがて朝になり、いつもの食事を採ると、お腹の満足は眠気を引き起こすらしく、ようやく私は自分の寝室で
眠ることができました。さてさて、昼方まで眠る私は少し滑稽だったでしょうか。昼に目覚めた時にはいつもの召使がおろおろと私の寝
室の外で狼狽し、このまま部屋に入っていいものか、私の目覚めを待ち、返事を窺ってから入るべきか迷っているようでした。私は起き
たとき部屋の外でそうしている召使を見つけ、身支度などはこれから自分がやるから、寝ているときに部屋に入らないで欲しい、と告げ
ます。それは夜から朝、クラーチィカのところへ行き、またそこから帰るときに、召使に部屋へと入られて不在を怪しまれないようにす
るために私は命じたのです。
 そして今夜も、私はクラーチェカの元へ向かおうと思っていました。美しい顔は目覚めればなおも鮮明に、覚えていなくとも夢のなか
に見たと思います、彼女の顔を、仕草を。そしてふと思い立ち、私は先代の妃の肖像画がどこかにないかと思い、探しました。そのほと
んどは王の命令によって焼かれていたようですが、城の地下、古びたものを蟲に食べさせるため置いているようなところで、一枚の絵画
をようやく見つけたのです。その姿はクラーチィカに少し似ているものであり、ただ髪の色などは違うものだったのですが、クラーチィ
カの母としては相応しい人であると思いました。それは羨望であり、嫉妬です。もしも私がクラーチィカの母であれば、あれほどの娘を、
たとえ父が見ず知らずの相手であるとしてもあんな塔に閉じ込めることなど許さないでしょうに! 私にはむしろ、先代の妃が何故クラ
ーチィカを愛さず、王の言うままに従い、やがて病死したのかが不思議でした。
 ところでその夜は無事クラーチィカと会うことができて、私は二人きりで、至福のひと時を過ごしました。
239眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:50 ID:QAV8Mt9C



 忍び込む夜も、五日目ともなれば、私は自室から何かものを持っていくことも可能となりました。たとえばそれは香り立つ紅茶であっ
たり、甘いお菓子であったりと、私の好きな食べ物でした。クラーチィカがそれを美味しそうに食べると、私のお腹も膨れるようでした。
それは仕合せという、かけがえのない食べ物によって。加えてこの夜は、私は一枚の鏡を持ってきていました。クラーチィカは鏡という
ものを知らなかったのですが、私がこれを見せると、驚いたように目を見張り、自分の顔に触れて、それが自分の顔である知れば、たっ
た一言「変な顔です」といいました。私はその様子を見ていたのですが、最後の言葉に足元をすくわれ、そして転びました。私はなんと
か起き上がると、びし! びし! とクラーチィカの顔を自分の顔を交互に指差し、「どちらが綺麗か答えなさい」と言います。
「それはもちろん、お妃さまです」
「ばかものー!」
 そう叫んだのは、クラーチィカの言葉がお世辞ではなく彼女が本気でそう思っていることで、つまりこの少女の美的センスは親しい友
として見逃すことができないものであったためです。自分で言うことは情けないのですが、私は自分の顔がさほど美しいものであるとは
思いません、若さこそあるものの、どうにも地味なものなのです。目は睨むような勝気な目、これは私の母譲り。漆黒の髪はカラスのよ
う、眉毛も曲がったもの、埃に覆われれば、まだ活発な娘に見えるでしょうか。けれどクラーチィカは月の光すらも化粧として、それは
光輝く美しさでした。
「いい、クラーチィカ。あなたは綺麗。自分のことははっきり認めないと、いい女になれないわ」
「でも……」
「嘘だと思うなら、この鏡に聞いてみましょう。鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだーれ? 私かしら?」
240眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:50 ID:QAV8Mt9C
 私がたずねると、その鏡は、私とよく似た声で答えました。似ていると思うのは気のせいでしょう。紛れもなく鏡の声です、これは魔
法の鏡ですから、真実を、とても正直に答えるのです。このように。
「『それはクラーチィカです』。なんですって! ほらね」
「お妃さま、ノリノリですね……」
 クラーチィカは溜息をつきましたが、口元はほころんでいました。そして堪えきれない、というようにくすくすと笑い、やがて二人と
もから微笑みの表情がこぼれて、私たちは笑いあいました。そうして私たちは共に喜びを分かち合い、楽しいひと時を過ごすのです。月
はまだ低いところにあれば時間の許す限りを。中くらいにあれば一抹の寂しさが胸を痛めながら。高くなれば、別れの悲しさに涙すらも
流れそうになり、それを押しとどめて「また明日」と笑い合い、彼女と別れるのでした。
 埃の階段と部屋は数日のうちに綺麗な空気が流れるようになっています。私とクラーチィカが掃除をした結果でした。そして私は早足
に階段を駆け下りると、人目につかないよう、夜の闇に紛れて街を抜け、城の門を潜り、自分の部屋へと戻ります。
 クラーチィカを愛している。私は確信していました、自分の気持ちを。愛せなかった先代の妃と違い、私はクラーチィカを愛し、大事
に思っている。夫である王はまだ知らないけれど、たとえ知ったとしても、私とクラーチィカを離すことはできない、私はそう思ってい
ました。いざともなれば血の魔術が切れても、私はあの塔に居るとしよう。そしてクラーチィカと共に、あの塔に捕らわれよう、そう思
っていたのです。
241眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:51 ID:QAV8Mt9C
 けれど私は、大きな誤解をしていました。先代の王妃は何故クラーチィカを愛さなかったのか――私はクラーチィカを塔に閉じ込めた
後、王妃は病死したのだと思っていました。けれどそれは逆だったのです。そして王妃は、その真実は、病気などしていなかったことだ
ったのです。それはつまり、王妃が病気にかかることなく「病死」したために、クラーチィカは塔に閉じ込められることになったこと、
そして王はクラーチィカのみならず王妃すらも憎んでいたこと。あの王妃の質素な墓の不思議を、私は確かめていませんでした。
 やがて私は、王の恐ろしい罠と、王妃が病死したときの真実を知るのです。クラーチィカとの仕合せな日々を過ごしていくうちに、そ
れは見えないところで、少しづつ私の身体を冒していったのでした。
242眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:53 ID:QAV8Mt9C



 指先の痺れを覚えたときは、朝食の席でのことでした。フォークを取り落とし、そして皿に当たり大きな音を立てて跳ね返ると、危う
いところで私はそのフォークを取りました。地面に落ちることなく、食器は手のうちへと収められます。そこで王はあざとく私の指先に
気がつくと、首をかしげます。私は少しばかり指先の痺れに眉をしかめていましたが、しだいに収まっていきました。そして再び朝食を
取りはじめて、王に何でもない、と微笑むと、王も自分の朝食に手を伸ばしました。
 私は食事の後、自分の指先を見つめます。先ほどの痺れは何事だったのでしょう。そこには何の変化も見られません。けれど何か気味
悪く、私は城の外へと出ました。何かの病気であれば、お城の医者に見てもらうのが一番なのでしょうが、よしんば悪い病であったとき
――つまり子供のうめない病気にかかったのなら、この国から追い出されてしまうでしょう。そうなるとクラーチィカと会うこともでき
なくなってしまいます、私はそれを恐れ、街の裏道、お城の誰にも知られない医者のところへと行きました。そこは薄汚い路地にあって、
一人の老婆が、蛇や蠍など毒のある生き物を籠のなかで飼っているのが見えます、屋根のようなものがあるだけの粗末な小屋でした、医
者とはその老婆で、私が近づくと紅をべったりと引いた唇を歪めます。
「これは、これは、元気そうな、お妃さま、どうかされ、ましたかえ?」
「あの、身体の調子が悪いので少し見ていただきたいのだけれど」
「ほ、ほう。なにゆえ、おし、ろの、おいしゃ、たずねら、れないのかしら、うち、くるのはなぜだい?」
「子供が生めない体になっていたら困るのよ。王様に怒られてしまうでしょう?」
「な、なる、ほど。けれどね、ひ、ひ、ひ。あの王の子供、うまないほうが、しあわせだと、おもう、がね、ひひ、ひ」
243眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:53 ID:QAV8Mt9C
「私だって母親になんてなりたくはないわ。けれど仕方ないでしょう」
「ひ。ひ、あんた、そりゃ、そうだ、王の子供の、ははおや、ならないほうがいい」
 私はこのときに何かがふと頭をかすめました。それは肖像画で見た王妃の姿と、クラーチィカの顔です。私は唇を尖らせて老婆に反論
しました。老婆の言葉は先代の妃を批判するもので、それはクラーチィカを批判するものでもあったからです。
「子供が可愛ければ母親になるのも悪くないと思うけれど。たとえ子供を王が憎んだとしてもね、私はその子供を愛してあげることがで
きるわ。たとえ憎まれたとしてもね、子供を見殺しにするような真似はしたくない」
「ひ。ひ、ひ、ひ。そうかい、そうかい、あんたあの忌み子のことを知ったのかい。ひ、ひ」
 老婆の言葉に、はっと気づき、私は自分の過ちを後悔します。けれど老婆は私を脅すことも、この場で殺すようなこともせずに、ただ
笑っていました、それは底の見えない恐ろしい笑みだったのです。
「でも、ひひ。肝心のことはわかってないんだね、王妃さまはね、あの忌み子を嫌うどころか、とても愛していらっしゃったのさ。それ
はそれは大事に、していらっしゃったさ。だって自分と、夫の子供だものね、でもね、あの王がね、それを許さなかったんだ、王妃さま
は、だから」
 そして老婆はゆるりと。舌をはためかせて。
「――殺されたのさ」
 私はそのとき背筋にゾクリと寒気が走り、そして老婆の言葉を頭の奥底に響かせていました。このとき老婆が語ったことを、私ははっ
きりと知り、そんな馬鹿なことがと思う一方で、そうだった、それを感じさせるものはいくつかあったということを思い返していました。
それは焼かれた肖像画、質素な墓。そう、血を容易く取ることができるような墓など、妃の眠るところとして、あるまじきことなのです。
私は王の怒りを思い返し、それに全身が黒く染め上げられるようでした、恐怖こそ身を包み。私は思わず老婆に訊ねます。
244眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:54 ID:QAV8Mt9C
「それは本当に――?」
「ああ。あたしは、先代のお妃さまの召使さ。知らず知らずのうちにお妃さまの取る食事に毒を盛り、その命を絶ってしまった。あれは
相当な劇薬でね、毒の扱いを知って、はじめてその恐ろしさに気がついたんだよ。王はね、お妃さまを万が一にも助けるつもりなんてな
かった。あんたも気をつけな、その毒を取っているよ」
「え……?」
「あんた、お妃さまの血を飲んだだろう。少しづつ、それはあんたの身体を蝕んでいる。……自覚あるんじゃないかい? 指先の痺れ、
それにあんたは気づいていないかもしれないけど、手首の色が白くなっている。見ればわかるんじゃないかい、細い血の管はその流れが
ほとんど止められている。このままだとあんた、死ぬ」
「――っ!」
 慌てて手首を見ます。それは一見何の変化もないようでした。けれどよくよく見ると他の肌より白く、まるで死人の肌のようです。私
の顔色は青ざめて、その狼狽は老婆の様子でわかりました。私は老婆にこの毒を治す方法を尋ねますが、重々しい様子で老婆は首を振り
ました。
「今の医学じゃ、治す方法はない、ただこれ以上悪化させたくなければ、お妃さまの血を飲むのをやめることだ。どんな魔術か知らない
が、そんなことを続けていたらあんたの身体がもたない、死にたくはないだろう」
「そ、それはそうだけれど……」
 血を飲むことを止める、ということはクラーチィカに会えなくなるということなのです。それは死ぬこととどちらが悲しいことなので
しょうか。私はそのことを告げます、すると老婆は深く溜息をつきながら、「先代のお妃さまは」といいました。
「死ぬことを深く後悔していたよ。娘を大事に思うならば、死ぬべきではないってね。自分が死んだら娘はますますひどいめに会わされ
るだろうから、冷たくすることも優しさだったってね。あんたはあの子の母親になりたいみたいだけど、あんたが死ねばあの子はますま
す悲しいことになるんじゃないかい? だったら、このまま会わずにいたほうがいいと思うがね」
「……ええ。そうかも、しれません」
245眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:55 ID:QAV8Mt9C
 私はきっと死人の表情そのものだったのでしょう。自分でも、何をするべきなのか、何をすればよいのか何もわかりませんでした。
そして老婆はそんな私に、棚の奥から一つの林檎を取り出すと、それを私に握らせました。
「どうしても、というときのためのもんだ。これは安らかな永久の眠りにつかせてくれるものだよ、王妃さまみたいに苦しむ死に方はさ
せたくないからね。ただし効果は一人にしかないから。気をつけて使いなさい」
「……はい」
 私はそれを受け取りました。老婆はなおも告げます。
「指先が痺れて、次に嘔吐感が押し寄せる。それから嘔吐と共に血が溢れ、血を吐けば、その後に身体のなかの臓物が浅いところから出
ていく。その苦しみは、見ているほうにも耐えられないもんだ。やがて最後に心の臓が吐き出されると息絶える、その苦しみは長く、一
夜から朝を迎え、昼までも続き、そして再び夜が巡るときまで、苦しみ続けなくてはならない。まさに地獄だよ」
 私は老婆の説明を聞きながら、指先を見つめました。それは今は何ともないのだけれど、つい先ほどはまさに痺れたところです、食器
が離れるほどに感覚のなくなる、それは痛みです。けしてそれだけを見ても軽いものではありません。私は老婆の説明通りに苦しみ、息
絶えるわが身と、クラーチィカの泣き顔を思いました。胸が痛くなります。自分が死ねば、それにクラーチィカが関わっていると知られ
てしまえば、王は彼女にどのような仕打ちをするのでしょうか。
「私……」
「しゃべりすぎたね、そろ、そろ、帰りな、王妃、さま。ひっひっひ」
 老婆はそう言うと、くるりと背を向けます。私は老婆から離れて、城へとおぼつかない足取りで歩いていき。
 どこかで、年老いた女の人のすすり泣く声が、私の耳には聞こえました。
246眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:56 ID:QAV8Mt9C



 私はそれでもクラーチィカと会わずにはいられませんでした。思い、慕う気持ち、一夜でも会わずにいれば、次の日の朝までとても眠
れず、ましてや朝食も喉を通らないのです。苦しみだけは何よりも深く私を責め立て、どうしても耐えられなくなったとき、毒の血を喉
元に滴らせて、そして私はクラーチィカに会いにいくのです。そのときだけは至福であり、けれどそうであればなおのこと、クラーチィ
カと離れる悲しみをますます強めていくので、私にはもはや死の恐れ、悲しみすらも鎖となってくれないのです。
 クラーチィカ、クラーチィカ。私はあなたを愛してしまいました。先代のお妃さまならばしない、愚かなふるまい。私はあなたを愛し
てしまいました。たとえあなたを傷つけるとしても、私は思いを自分でも抑えられないのです。愚かな私は、そんな風にあなたを傷つけ
ることを、見ようとはしないのです、私はあなたに会えればいいのです。あなたに愛されれば、あなたをひたすらに求められれば、それ
だけでいいのです。こんな欲深な女は。
 母親なんて美しいものでは、ない。
 
 指先はすでに麻痺していて、私はそれを隠すことに精一杯でした。始めは片手が効かないのを、もう一つの腕でごまかしていたのです
が、その手も動かなくなると、私は人前にあまり姿を見せないよう、努力することになりました。朝食の席にもしばらくは寝床で眠り、
人の居なくなる頃に起きて取るようになりました。それから、クラーチィカにもその様子を隠し通そうとしたのです。けれどクラーチィ
カはやがて首をかしげて、私に訊ねました。
247眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:57 ID:QAV8Mt9C
「……どうしたのですか。その手は」
「え?」
「まるで、動かない人形の手のように見えるのですが……」
 私ははっとクラーチィカを見つめました、クラーチィカの不安に曇る瞳。私はそれから「あはは」と笑い、痺れる指先を強引に動かし
て笑いかけました。
「そんなこと、ないから。ほら、こんな風に動くし。何? 私のゴールデンフィンガーが恋しいのかな?」
 黄金の指、とは私がクラーチィカをふざけて、くすぐるときに使う技名でした。それをされる度にクラーチィカは私に怒っていた、そ
んな逸話があるものですから、クラーチィカは顔を逸らして頬を膨らませます。
「そういうわけではありません!」
「ふふ。無理しなくていいのに」
 私はそういいながらも。もう、そんなことも出来なくなってしまった自分の指先に、心のなかで深く溜息をつきました。

 けれど秘密とは、いつまでも隠しておけるものではないらしいのです。私のそんな様子には誰もが不思議に思う頃、そのときには私は
嘔吐感すら感じて、それは絶え難いものになっていたのですが、王は城の医者をつけて私の部屋へとやってくると、乱暴に扉を開き、眠
る私を起こせば、その身体を医者に見せ始めました。私は拒絶して、脚で医者を蹴り飛ばし、また身体を捻ったりしたのですが、手の効
かない身であればやがて押さえ込まれて、毒に冒されていることは医者の知るところとなったのです。それはただちに王に告げられると、
王は顔を怒りに染めて、黒い炎に焼かれたような怒りを放てば、とたんに私の身体は蹴り飛ばされて、壁に叩きつけられました。けれど
その痛みは毒の苦しみに勝るほどではありません。王はなおも私を蹴り続け、罵声を放ちました。
248眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:58 ID:QAV8Mt9C
「恥知らずの女め! この俺をたばかる女狐めが! 男を貶める魔物、犬畜生にすら肉を捧げる女、その四肢を切り刻んでもなお大地の
汚れは清められぬ、この世でもっとも劣る豚が! どのような好奇がその身を滅ぼしたのか、どのような裏切りが今お前を苦しめている
のか知っているのか!」
 私はぐっと唇を噛み締めて、王に叫びます、
「ご自分の妻すらも毒で殺め、娘を愛すこともせずに生きる男、人殺しの裏切り者、それでいながら王として自分を庇護し、そのふるま
いは傲慢を極める! あなたこそまさに獣と呼ぶにふさわしいのではないですか!」
「黙れっ!」
 風を切って振るわれた拳は私の頬を紅く染め上げて。私はその場に崩れ落ちました。それから頬から涙と、切れた皮膚から血が流れれ
ば、王は私をその場に放り捨てて、部屋を出て行きました。医者もいなくなり、私一人が残されます。壁の向こうでは王の叫びが聞こえ
てきました。それは城に轟くほどの大きな音です。

「――王妃は明日の朝、この国より追放するっ!!」
249眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 07:59 ID:QAV8Mt9C



 その晩はクラーチィカに会いに行きました。そうするより他に、私にはもはや残された道はなかったのです。王の血を、お妃の血を飲
んで、町外れの塔へと向かいました。塔の扉は茨に覆われていましたが、私が近づくと、血の魔術によって、その扉を開きました。私は
なかへと入ります。塔の内部はところどころに花が置いてあって、月明かりの差すレンガの隙間から風が流れれば、花を揺らします。こ
れらの隙間は私とクラーチィカが一緒に開けたものでした。私は階段を登ります、コツン、コツンと音を立てて階段を登っていけば、次
第に上より花の香りがして、私が登っていくにつれ、それは私の身体を取り巻きます。やがて最上階に着くと、そこは花園のように花が
咲き乱れるところで、辺りは花の香りに包まれていました。花はクラーチィカと私の好きな花、二つともが、同じように美しく咲いてい
ます。それを横目に見れば、綺麗に磨かれた扉、そこをそっと開きます。すると差し込める月の光、それからその向こうにいる少女、私
の愛しい――クラーチィカ。お願いです、私から彼女を奪わないで下さい。誰も。誰であっても。
 クラーチィカは私を、私の姿を見ると悲鳴をあげました。王の責め跡でしょうか。それとも、私の涙でしょうか。私はクラーチィカの
もとへと歩み寄り、「ごめんなさい」と、それだけの言葉を絞り出します。
「とうとう、――王に見つかってしまったわ」
「王妃さま……」
 クラーチィカはその頬に涙を溜めて、そっと私を抱きました。その両手の温もり。離さないでと、言いかけて、けれどその手を離させ
てしまうような原因は私にあるのだとと思い、また悲しくなります。クラーチィカは何も言いませんでした。私を抱いて、それが優しさ
でした。責め立ててくれれば、私をほんの少し癒してくれるだろうとも思いますが、彼女は私を責める言葉を知らないのです。何か慰め
の言葉をいえばなお私を悲しませるのだと知っていて、それゆえにクラーチィカは静かに、ただ、優しい抱擁で、私を温めるのです。
250眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:00 ID:QAV8Mt9C
 月の光が二人を包んでいました。金色の月は、花よりも美しい、彼女の頬の、その涙を、きらきらと輝かせています。私はそっと身体
を動かして、そのまま彼女と共に、一つきりのベッドに倒れこみました。そして何も言わずにいるクラーチィカ、その唇に自分の唇を重
ねたのです。
「クラーチィカ、もう、許してほしい……」
「王妃、さま……」
 風が吹きました。それが何かの合図であるように、私は唇を離して、自分の衣服を、袖から腕を抜いて、脱いでいきます。上の服を。
下の服を。そして胸を空気に晒して、全身の責め苦の跡こそ彼女の目を引きつけるでしょうか、とりわけて小さな胸はあまり誇れるもの
ではありませんが、しかしそれでも私は彼女にこの身体を見せることを、誇らしいことと思っていました。愛しい人に自分の裸体を見せ
ることは、恥も、外聞も、何一つ、何一つ隠さないことの証でした。
「……ごめんなさい。私は、あなたを愛しているの。あなたにも、愛して欲しいの。でも、私はそのことであなたを傷つけたとしても、
かまわないの。傲慢で、貪欲な私は、あなたを求めずにはいられないの、それゆえにあなたが苦しむのだとしても。私はあなたを愛して
いるの。こんな、こんなにも、浅ましい、汚い女なの……」
「王妃さま……」
 クラーチィカは私の涙をそっと拭います。私の頬に唇を触れて、流れる涙を静かに、優しく拭ってくれました。彼女はそうして、私を
慰めてから、言葉を静かに紡いでいくのです。
251眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:01 ID:QAV8Mt9C
「もしも王妃さまが汚い人であるというのなら、私はどれだけ醜いのでしょう。私は王妃さまを止める術などいくらでも心得ていたので
す。王妃さまがここへ来ることが王妃さまのためにはならないことだと知っていたのに、私は王妃さまと会うことを喜びと感じ、その上
もっと、ずっと会えればと思ったのです、もしもあなたさまが私のところで月の明かりの灼灼を迎えたら。そんなことを望んでいたので
す。あなたさまの不幸など私の目には入りませんでした。その上、私は会うだけではもの足らず、あなたさまのすべてを手に入れられた
ら、などと思っていました……」
「クラーチィカ……」
 そう言って、クラーチィカはその手を、自分の服にかけました。そして私が驚く暇もなく、それを脱ぎ去ったのです。その胸は私より
も一回り大きいもので、幼い顔だちにも感じる女性のもの、それは愛らしい乳房でした。肩は細く、細長い腰つきと共に、つま先までも
月明かりに照らされて、煌々と輝いています。白い肌、私はクラーチィカの唇に自分の唇を重ねてから、そこで小さく告げます。
「いい、かしら。クラーチィカ……あなたを抱いてもいいのかしら……」
「……はい」
252眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:02 ID:QAV8Mt9C



 愛しい人の身体は温かいのです。風が吹いたとしても、互いの熱は奪えるものではありません。私はクラーチィカの身体と自分の身体
を重ねて、麻痺した指先で、そっと鎖骨と、首の間のくぼみをなぞります。クラーチィカは瞼を閉じました。私は指先でなぞりながら、
その白い肌は私に触られることが不快ではないのだと安心して、そのまま私は首を動かし、そこに唇を押し当てて、ふ、ふ、と息を吹き
かけながら、ちゅ、と音を鳴らします。ピクリとクラーチィカは身体を震わせました。けれど何も言いません、私はなおもそこに接吻を
繰り返し、繰り返し、くぼみから、舌を伸ばした、そこに隆椎があるのを、そろりと撫で上げます。クラーチィカの呼吸に耳をすませま
した。甘い、かすかな声を聞けば、私はそこを執拗に愛撫し、また白の肌を桜色に染めていきました。そのときにクラーチィカは私の首
回りに手を投げ出していたのですが、やがて肩をゆるやかにさすりはじめると、そこをぎゅっと抱きしめました。
253眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:03 ID:QAV8Mt9C
 私はクラーチィカの手の温もりに答えて、首筋を、少しづつ、荒ぶる気持ちを抑えて、登っていきます。軸椎に触れました。また、環
推にも触れたのです。ほんのすこしくすぐったそうに、クラーチィカは首を上げました、けれどそんな様子は可愛らしく、私はなおもそ
こに舌をぎゅっと押し当てて、そろり、そろりと舐め上げたのです。呼吸のときの喉元の動きは、そのため私の知るところでした。
 そのまま私は広顎を滑らせて、頤に触れました。そこには二つばかり穴があります。そこを舐め上げてから、ゆっくり、接吻を焦らす
ように、頬を撫でて笑い頬に舌を押し当てました。丹念に舐めれば、なんとなく笑ってしまうようです。ほころんだ口元、そのまま私は、
クラーチィカの唇を舌でゆるやかに舐めると、接吻をして、口内へと舌を繰り伸ばします。はじめに触れたのは上唇の中央にある歯肉と
唇のつなぎ目、続いて開いた歯の先、しっとりと湿った舌背に触れます。そこで舌を蠢かせれば、上口内の縫い印、有郭乳頭、より柔ら
かなところに触れたとき、苦しくなった呼吸のため、ようやく私とクラーチィカは口を離しました。お互いに荒い息を吐くのは呼吸のた
めだけではありません。そして私たちは再び唇を繋ぎ、頬を、擦りあい、溢れる唾で濡らしながら、互いに口づけを交わして、その味を
自分のものとしたのです。
「ん……」
254眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:04 ID:QAV8Mt9C
 唇をやがて解き放つと、私はクラーチィカの全身を眺めました。桜色に色づいた肌、全身を染めています。私はそれに見惚れる暇もあ
れば、クラーチィカの乳房を、口に含まずにはいられません。乳房は甘く感じる、蕩ける味を持っていました。それは汗であり、肌の味
であり、言い知れぬ柔らかさです。それを口に含めば、柔らかさにも確かな弾力があり、舌で弾けばぽよんと震えて、歯で挟めば、ふに
ふにと形を変えました。はじめにはゆっくり味わいたいと思い、円を描いて、外を回っていたのですが、やがて少しずつ輪をせばめて、
焦らす動きで汗を少しずつ吸い取ります。中央の突起は少しづつ、その可愛らしい姿を見せて、私は頃合を見はかってそれも口に含みま
す。汗ばんだ乳は、口のなかで、唾液にしとどに濡れました。左から舐めれば右に倒れて、右から舐めれば左に倒れます。舌を押し当て
れば乳房に埋まり、離せばまたぴょこんと持ち上がって、息をはぁっと吹きかけると、ぷるぷると震えるのです。そうすることでクラー
チィカの表情が変わり、たとえば陶酔するような深く垂れた瞼から、あっと驚くような表情、甘く息を吸えば、また大きく、声と共に息
を吐くなど、見ていて楽しいものでした、つまりそれは快楽のもたらすものであると、私に確信させるものであったから。そうしてクラ
ーチィカの身体を愛撫するうち、やがて彼女は私の肩から手を外すと、私の内腹を抱きしめて、そこに接吻しようとしました。
「あっ……だめ…っ!」
「だめ…ですか?」
 顔を曇らせるクラーチィカ、きっと誤解をしていると思います。私は言葉に詰まりながらも、誤解を与えたままではいけないと思い、
クラーチィカに訴えました。
「その……王にも、されたところだから……汚れているから……」
 今、私はすごく情けない人間だと思います。愛しい人に抱かれて、その彼女が私を優しく温めてくれるというときに、私はそれに誇り
を持って応えることができないのです。忌わしいあの王ならずとも、私は他の人間に抱かれた身体なのですから、クラーチィカに軽蔑さ
れるべきだと思います。けれどクラーチィカの返答は、驚くものでした。
255眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:05 ID:QAV8Mt9C
「かまいません。……私は、あなたさまを、このように抱きたいのです。あなたさまを愛しいと思うことには、他のどのような人間が、
何の意味を持つのでしょうか。それとも、あなたさまは私の接吻を嫌悪するというのですか?」
「いいえ……!」
 クラーチィカは私の否定の言葉に満足したように頷くと、そのままそこに接吻の雨を降らせます。それは少しばかりくすぐったくて、
甘く、温かなものでした。はじめには肋軟に近いもの、やがて腰椎をすこしづつ滑っていくようです。腱画を丹念に舐めていきます。
しだい、しだいに接吻は下に、クラーチィカには望みがあって、それゆえの伸ばされていくのも、私ははっきりとわかりました。
 とうとう四つ目の腰椎に彼女の舌が触れたとき、その息は毛へと吹きかかり、思わず身をすくめれば、クラーチィカは私をじっと見
つめました。許される接吻か、許されざる接吻なのか探っているようです。けれど知ってください、クラーチィカ。私はそれを望むべ
き接吻であると心得ます。
256眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:06 ID:QAV8Mt9C
 やがてクラーチィカは、小さな、可愛らしい唇でもって、私の恥丘に触れました。そこはただでさえ温まっていたのを、舌が触れた
瞬間に、それまでとは比べものにならないほど熱く燃え上がりました。こんなに激しい情熱ははじめてですから、彼女の唇が焼けどし
てしまわないかと気が気ではありませんでした、それほどに熱いものでした。炎が燃えているようです。私はこのときに、クラーチィ
カが私を燃やしていることを、強く思いました。そのときにクラーチィカの舌は私のなかを舐めて、また吸い、そこで息を吐いて、私
を奥底まで味わっているようでした。それは私にとってはたまらない喜びだったのです、仕合せだったのです。私のなかから漏れる液
は、クラーチィカの可愛らしい顔を濡らしてしまいます。けれどクラーチィカは濡れた頬を、私の大内転に押し当て、そこをやはり濡
らしながら、唾と水で、ぴちゃり、ぴちゃりと音を立てました。そうした愛撫は私をこの上なく燃え上がらせて、やがてそのまま私は
達してしまいました。そして私は燃える身体をクラーチィカの唇から離し、同じようにクラーチィカのなかを舐めていったのです。そ
のときにクラーチィカは私の乳房を、また乳首を、背中を撫で回してくれていました。それは激しくはない愛撫で、かといってもの足
りないものでもなく、私にはちょうどいい優しさで、クラーチィカは与えてくれたのです、快楽を。激しさは男女の営みであり、つま
り獣のものですが、そのときクラーチィカは愛しさゆえに燃え上がる思いを、誇れる心を、私に教えてくださいました。
 そしてクラーチィカも同じように身体を大きく震わせて、その仕草から達したのだとわかります、私は抱きたいと。指先ひとつひと
つを動かして、彼女を抱擁したいと望みました、それはたとえ何があろうとも変わらぬ愛の証であると、それゆえに許してほしい、ど
んな毒であっても、どんな死であっても、二人を離せないことを、私に示させて――。
257眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:08 ID:QAV8Mt9C
 指先を動かそうします。毒ゆえに麻痺した指先は、まるで石に囲まれているようです。それでも力をいれます。めいいっぱいの力で
す。痛み、苦しみ、指先は軋みます。血が、皮を裂き、流れてきます。けれどそんなものでは止められない、もっと大事なものがある
のです。愛しさ、恋とは、そんなものよりもずっと尊いものなのです。
 手首が――白の手首が、やがて赤く染まりました。そのときに。動いたのです、確かに。確かに、私の麻痺していた指先が、痛みと
共に、糸に絡まった鉄のように、軋んだ音を立てながら動いて、そして私の意のままに、強く強く、この上なく強い、思いのままの力
で、クラーチィカを抱きしめたのです!
258眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:08 ID:QAV8Mt9C
泣いて、いるのですか……」
「いいえ、クラーチィカ。……私は、微笑っているのよ……」
「そう、ですか……、そうですね……」

 そして、私たちは抱擁をそのままずっと、二人の身体を重ねていました。月が高く昇り、朝が来ても。
 呪いがなんであるというのでしょう。魔術が切れたとして、ほら、二人は離れていない。朝の光に照らされたクラーチィカという人
を私ははじめて見ました。やはり夜のほんのわずかな光よりも、このような眩しいばかりの明かりのなかのほうが、クラーチィカは美
しいように見えました。ミルク色の髪も、白の肌も、明かりに照らされた、桜色の瞳も。それらすべてが、朝の明かりのもとで、綺麗
に咲き誇っているようでした。
 やがて朝日が昇りきって熱くも感じた頃、塔の下に兵隊と王がいるのを見て、はっと二人は顔色を変えました。



 塔の主人、王であれば、茨は簡単に道を開き、それは何の守りともなりません。そして塔のなかに兵隊と王が入ってくる音が聞こえ
れば、やがて階段を登ってくる音へと変わり、二人が服を着替え、身を寄せ合ううちに、兵隊と王は私たちの部屋の、最後の扉を乱暴
に開きました。そして無言でやってくると、私とクラーチィカを引き離したのです。私は叫びました、クラーチィカの名前を。クラー
チィカも私を呼びました。けれど王は兵隊と共に私を部屋から連れ去ろうとします。そして私の涙で霞む目には、同じように泣いてい
るクラーチィカの姿が見えました。そのときふと私はあるものに気づき、そして最後の力を振り絞り、兵隊たちから身を捻らせて、逃
げました。そのあるものとは私の服の袖にありました、私は兵隊たちが再び向かってくるまでにそれを手に取ります。その紅い果実、
兵隊たちははっと息を呑みました。王は冷たい視線でそれを見ています。
 それは老婆から与えられた、林檎でした。永遠の眠りへと誘う林檎は、今私の手のなかにあります。再び麻痺しはじめた手でそれを
掴むと、私は叫びました。
259眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:10 ID:QAV8Mt9C
「クラーチィカともう会えないというのなら、いっそここで――!」
 口を開き、そのまま私は林檎の果実を自分の喉へ収めようとします――兵隊たちは驚くまま、捕らえる暇もなく、そして王でさえも
動かない――林檎はたしかに私が食べられる、そう、確信していました。そう。確信。それが。裏切られる、そのときまでは。一人の
影が飛び出せば、私の手からそれを奪い、そして林檎は、その影の歯にかしりと噛まれ、そのまま飲み込まれたのです、影、それはク
ラーチィカの麗しい喉元に! そしてそのままクラーチィカは倒れこむと、目を閉じ、再び開くことはありませんでした。
 兵隊が近づいても、王が横目に見ても、私が駆け寄り、揺さぶっても、クラーチィカは目を開くことがなかったのです。……私の心
はどれほどの悲しみが。悲しみが。悲しみが、支配していたのでしょう。呼吸は消えました。鼓動は止まりました。何も見えず、何も
聞こえず、何も嗅げず、何も感じず、ただ、ただの屍、私は屍だったのです。そしてクラーチィカと同じ、屍、それは、仕合せなのか
と思い、同じであればいいかもしれない、と思いました。そう、それなら。このまま。

「……厄介者が死んだか。ふむ、これは王妃の功績だな。さすがに娘を殺せば王として汚名を残すが、よそものの王妃が殺したところ
で、俺には何の傷もつかぬ。ではここで王妃を殺そうかとも思ったが、慈悲だ。追放だけにしておいてやろう」

 王の言葉。ああ、なんとばかげている。あなた如きが私をどうにかできるとでも思っているのか。私を支配できる人は、この世にた
だ一人。一人だけだというのに。私の、私が支配されたいと思う人にしか、この心は、身体は自由にできない。そんなこともわからな
いのか、愚かな、愚かな王よ。お前は我が夫ですらない。私の夫はただ一人。
 私はそれから、塔の窓へと駆け寄った。朝の光が舞い踊り。そして、風が強く、激しく吹く。それと共に王と、兵隊とは部屋の外へ
と吹き飛ばされた。それは埃のように。事実、彼らは埃だ。兵隊の、王の、驚愕の表情、私はただ窓の風に髪を撫ぜる、そして、クラ
ーチィカの寝顔を見て、その美しい寝顔を見て。ただ、その顔に魅せられて。
260眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:10 ID:QAV8Mt9C
 愛しています、クラーチィカ。
 誰よりも。何よりも。たとえ、もはやあなたに愛されなくとも。
 私は愛しているのです……クラーチィカ。
「だから、許してください」
 風がそのときに吹いて。一度吹いて。それきり、扉を向こうから叩いたとしても、けしてこの扉は開くことがない。そう。誰にも、
私とクラーチィカにしか開けない、この、妻と夫の、聖なる寝室は。そして一人はもはや開くことはできず。
 私とて――開けなくなる、この身は。
 このまま、窓の外へと投げ出すのだから。

 風は激しく吹いている。
 私は一度クラーチィカを、ベッドに寝かせた。重くはない、軽い。まだ温かい。そのためにすぐ、ベッドまでたどり着いた。
 それから。その顔を一度撫でて、接吻をして。花を振りまいて。けして枯れない、クラーチィカの身体。
 彼女に、さようならと、告げて。
 私は窓から飛び降りた。

 茨の刺が、目に止まり。それはまず、私の肩を引き裂き、そして私が地面にたどりつくまで、何度も、何度も、皮膚を、体中をひき
裂いていったのだった。やがて地面にたどり着くと、そこは赤の海となる――私は薄れゆく意識に、それを見た。
261眠らぬ姫は罪人のように 序章:03/11/11 08:11 ID:QAV8Mt9C



 血溜まりに倒れる、元王妃に老婆が駆け寄る。それから鼓動を確かめ、呼吸の音を確かめると、チッと舌打ちして、それから何やら
薬を、元王妃の身体中に塗り始めた。傷から流れる血はそれで止まり、それでも意識を失ったままの元王妃を担ぎ上げると、老婆は風
のように走りはじめて、その場を去る。血の跡だけが残るそこ。老婆は思い返したように、そこに駝鳥の、原型をとどめない肉塊を置
いていくと、今度こそ、そこから元王妃を連れて離れた。
 そして意識のない元王妃に、小さく囁く――それはそれは忌々しげに。
「ばかだねあんた――」
 林檎を取り出して、それを握りつぶした。染み込んだ薬はポタポタと落ちる。
 老婆はなおも呟く。
「あれは、あんたの病状を抑えるための、ただの無期限な眠り薬だったってのに……」
 死んでどうするのか、と。そう、あんただけがあの姫を目覚めさせることができるのに。病魔に冒されて眠ったものは、病魔が抜け
るまで目覚めない。正気でありながら、眠り薬によって眠ったものは、愛するものにしか、目覚めさせられない。
「死なせはしない……もう、絶対に」
 やがて老婆は、塔から離れ、この国の境目から走り去ると、遥か先にある森のなかへと姿を消した。そこは人間嫌いの魔女が住み着
くとも言われる、大きな迷宮の森、人間ならば誰も入ることはない。そこに老婆は入っていく。
 傷ついて、目を閉じたままの元王妃を連れて。

To be continue...
262名無しさん@ピンキー:03/11/11 08:21 ID:QAV8Mt9C
なんか人がいないからって好き勝手やってる〜自分。
ところで白雪姫のパロディ? です。ちなみに白雪姫はアンデルセンが書いた
童話ですね。
ストーリーは色んなところから引っ張ってきました。
エチオピア物語、エペソス物語、シンデレラ、眠り姫などなど。
えー、暇があれば続く・・・かもしれません。
他の職人さんも来て欲しいです・・・。
263名無しさん@ピンキー:03/11/11 13:40 ID:/22sBFRN
乙です〜

ええっと、ひとつお願いがあるのですが。
改行についてですが、コレ字数で強制改行されていますね。
できれば文節のキリよいところで改行するか、文字数による改行でしたら
もう少し1行の字数を減らしていただきたいのですが。

>薬を、元王妃の身体中に塗り始めた。傷から流れる血はそれで止まり、それでも意識を失ったままの元王妃
>を担ぎ上げると、老婆は風
>のように走りはじめて、その場を去る。血の跡だけが残るそこ。老婆は思い返したように、そこに駝鳥の、
>原型をとどめない肉塊を置

当方ではこのように表示されていまして、読みにくいことこの上ないのです。
文の途中での唐突な改行によって(文末が揃っていればそれは気にはならないのですが)、
読むリズムも乱れてしまいます。
ブラウザを横一杯に広げれば改行の問題はたしかに解決しますが、端から端までぎっちり
並んだ文字に目を通すのは疲れる、という人間は私だけではないと思います。
ご一考を。
264名無しさん@ピンキー:03/11/11 19:25 ID:BzoOVhXT
>>263

なるほど・・・まことに申し訳ございません;
私の場合はモニター1024×768、かちゅ使用最大化のIE文字サイズ小
なのですが、文ごとが長いために1行の字数を減らすとその分スレを消費してしまう、
ならばと適切な文節に切ると、短と長の差が大きく開いてしまうのです。そのために
長文で書くことになってしまうのですが、かちゅの場合であれば白に黒、文字が小さ
く、文が長くとも読める、というように思っていたのです。ところがかちゅでなくIEを使え
ば、灰色に黒、とても見にくいものになってしまうと今さらながらに気づきました。

適切はやはり>>221の長さほどでしょうか。文字サイズ大で読める大きさ。それは50文字ほど。
まことに申し訳ありませんでした。これからは気をつけます。どうもありがとうございました♪
265名無しさん@ピンキー:03/11/11 23:25 ID:r8evTi9Z
>>262
グッドジョブ
お妃さまサイコー
続き楽しみにしてます
266名無しさん@ピンキー:03/11/12 02:19 ID:9yXwgN5M
>>262さま。
はあ……。ため息が出るほどせつなくて美しい純愛モノですね。それも大作。

自分は白雪姫の話しか知らないので、このあと森のなかで何が起きるのか楽しみに
しています。(エッチ?w)
基本的に美しさを重点においた作品のようですので、今回は(?)エッチシーンの
濃度が薄いのがちょっぴり残念でしたが、最後のキスシーンの感動に期待しています。

あと自分のブラウザもかちゅですが、普通の設定で横幅を全画面にすれば問題ないん
ですよね。ただ、文章が比較的固いスタイルなので、ずらずらっと長く並ぶと確かに
目が疲れるような気もします。
ちょっと見当違いかもしれませんが、何かの本で説明的な文章が長く続くときは
できるだけ改行を多くする方が読者の注意を散漫にさせないと読んだ記憶があります。
ただ全体が長文ですからね。読むのが恐ろしく長く感じられるかもしれませんw。
新書版なんかで、良心的なものが文字が詰まっていて本文が濃いのといっしょですね。

しかしこんなすごいもの読まされたら、もう来る職人さんなんていないんじゃないですかw。
267腐男子:03/11/12 03:17 ID:19K9v1Ti

http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/anime/1066315804/189-191n
から参上しました。数レス分お邪魔します。

「ずっと……」
荒野の片隅に建つ朽ちかけた廃屋にて、幼女の姿をしたドールはマスターに問いかけた。
「一緒にいてくれますか?」
銀色の浴槽に浮かぶ裸身の主従。
「ああ」
優しい声とともに、珍しくも柔らかい雰囲気を表に出し、破顔してみせる主に。
ドールもつられて微笑みをかえす。
「ありが……、あっ」
裸のひざに触れて支えていた手のひらがふいに離れ、ドールは思わず悲鳴をあげる。
浮き上がり重心を失った身体が、背中から強い腕に抱きすくめられた。
「ご、ご主人さ……」
言いかけた口元が、唇で塞がれる。
それまでふたりの間を埋めていた湯を押しやり、なめらかな肌と肌が吸いつくように触れあう。
お湯の熱さとはまた違う相手の体温と、のしかかる身体の重みとが、全身に伝わりしびれるようだった。
肌理の細やかな肌、ブルーグレイにけぶる瞳、所作につれしなやかに跳ねる長い髪。
長身かつ豪奢、豹のような肢体をもつ主人を、ドールはずっと以前より愛していた。

268腐男子:03/11/12 03:19 ID:19K9v1Ti

長い時のあと、接吻からそうっと身を引き離したマスターの両の瞳に、戸惑うような影を読みとって、
オッド・アイの少女はいつもひどく無口な主人の胸中を推し量った。

両腕を伸ばして主人の右の手をとると、指先に口づけ自らの頬を擦り寄せる。
誰も、何の言葉をも発しようとはしなかった。
いつのまにかマスターの指先が、自分の玉蜀黍いろの髪を繰り返しくりかえし撫でている。
少女は主人の膝の上でしずかに眼をとじた。

仮想の親娘に擬態したふたりの関係。
主人には逆らわないドールである、という演技をしている自分。
共に過ごした日々が造りあげた、このあいまいな空気は、朝方の寝床のような心地よさと甘さ、
そしてミントのようにぴりりとした微量の苛立ちとを産み出していた。
269腐男子:03/11/12 03:21 ID:19K9v1Ti

浴槽の底に沈んでいる膝が持ち上げられるたび、上に載る小さな体と湯面とを揺らし波を起こす。
少女の躰の芯を幾度もつきあげていたその動きが、つと、停まる。
「ん……くぅっ」
声を押し殺しつつ、マスターの膝がしらにしがみつくようにしていた少女が、せつなげな声を洩らし背をそらす。
固く閉じていたオッドアイが弱々しく開かれて、哀願の光とともに主へ向かう。
「ごしゅじん……さまぁ……」
さらなる愛撫を求め、打算による媚態をみせていることは自分でもわかっていた。
果たせるかな、強い力で肩をつかまれ、耳たぶと頬とに口づけられる。

マスターは片腕で少女を抱きすくめたまま、浴槽そばの床に手を伸ばし、薬入れがわりの胴乱を引き寄せた。
中よりワセリンの瓶を取り出すや、たっぷりと指先に塗りつける。
「あ……あっ!」
逃げられない身体の、紅く充血した芯を、油で潤滑性の高まった指先が撫であげる。
少女の眼に涙が浮かぶ。
縋る物を求めて彷徨う指先が、主の体躯にうすい爪を食い込ませた。
270腐男子:03/11/12 03:21 ID:19K9v1Ti

レイラが呟いた。
「……寒いな」
いつか浴槽の湯は醒めている。
湯の減ったバスタブの中、体温を求め、冷えかけた身体で再び子供を背中ごと抱きかかえた。

今まで夢中でしがみついていた肩口から、赤い血の筋が垂れているのに気がついた、
ネイはどぎまぎと喋った。
「ご、ごめんなさいレイラ様、傷が」
横目でちろりと怪我の状況を見やった闘士は、仏頂面のまま。
「いや……」
湯の中から取り出した右手の指先に、絡む紅い血を舐めとった。
「……済まなかった」
言動に、反省の色がある。

なにやら自責の念に圧し潰されかけているらしいマスターの背に。
「レイラ様」ネイは声を投げた。
「うん?」
「毛布に入りましょう。きっと暖かいです」
271腐男子:03/11/12 03:22 ID:19K9v1Ti

終了。お邪魔しました。
272名無しさん@ピンキー:03/11/12 05:55 ID:b+D112bR
AVENGERキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
誘い受けネイたんハァハァハァッハァ(;´Д`)
273名無しさん@ピンキー:03/11/12 19:07 ID:pZwzKQyx
AVEキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!
(*´Д`) ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア
274273:03/11/12 19:15 ID:pZwzKQyx
ハァハァスレのみんなにもここにこれがあること教えてあげたいんだけど
勝手に教えたらまずいよな・・・
>>腐男子様
教えてもいいですか?
許可があるまで言わないつもりです・・・
275名無しさん@ピンキー:03/11/12 20:44 ID:3gtEihRB
風呂場でエチキターー(*´∀`*)ーー!!



萌えた、萌え尽きたよママン・・・
276275:03/11/12 20:55 ID:3gtEihRB
スマソ、下げ忘れた(つД`)
277腐男子:03/11/12 21:17 ID:19K9v1Ti
>274
 あ、かまわんです。
278274:03/11/13 00:44 ID:4EA3ZIXc
>>277
レスどうもです
じゃあハァハァスレの方でここに神がいることをみんなに伝えてきます
279名無しさん@ピンキー:03/11/13 02:21 ID:8NVYTFba
ハァハァスレからきました
神のおかげで今夜はいい(ハァハァな)夢見れそうです
今日は「レイラーーー!」も聞けたし、いい日だ
280名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:15 ID:OSPVI3aJ
すみません、ちょっとお邪魔します。途中までですが晒させて下さいませ。
微妙に猟奇かも…しれませんので痛そうなの駄目な方は脳内あぼーんの方向で。
281名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:20 ID:OSPVI3aJ

 ハンガリーはニートテ地方。領地の民は、そこに君臨するチェイテ城の主、エリザベート・バ
ートリーに関しての噂を、まことしやかにこう語っていた。
「あの城に奉公にいった娘は、二度と生きては還れない」と。
「娘たちは夫人に生き血を抜き取られ、殺されるのだ」と。
 領民たちは、彼女のことを恐怖と嫌悪を込めて『血塗れの伯爵夫人』と呼んだ。


 薄暗い城内を、若々しい貴族の令嬢が供も連れずに歩いている。
「ドロテア? ドロテア? いないのですか?」
 凛とした張りのある声。それに答え、影のように姿を現したひとりの若い女性があった。
「ここに……」
 黒い肌に、すっと通った鼻筋。その女性の瞳の色は血のように赤く鋭く、それを飾りたてるよ
うにまつげは乳白色だった。だが、山犬のような鋭い目も、主人の前では従順な光しか宿さな
い。色素の抜け落ちた真っ白い髪だけがその容貌とは裏腹に、この女性の年齢を正確に表し
ていた。
「ここに。エリザベート様」
 女魔術師ドロテア・ツェンテスは、敬愛する主、エリザベートの名を口にしながら、深々と頭
を下げた。
「ああ、ドロテア。ねぇ? 今夜は”儀式”をしたいの」
 貴族の令嬢――いや、令嬢ではない。跪いたままのドロテアの頭に、まるで犬を撫でるように
手を置いたこの女性こそ、血塗れの伯爵夫人、エリザベート・バートリーだった。
 子供を4人も出産した女性とは思えぬ体型、そして肌の張り艶。神から許され、この世に存在
し続けている年数の勘定が正しければ、彼女は齢45。しかし、その容貌はあまりに美しく、若
々しい。魅力的な青玉の瞳は未来への明るい展望と強靱な意志とを顕著に表していたし、ぽって
りとした愛らしい唇は子供らしい悪戯を好みそうな、甘い微笑を常に含んでいる。わがままそう
なつり上がった眉も、ふわりふわりと揺れる気ままな麦穂のような見事なブロンドの髪も、この
女性の印象を一層幼く見せるのみだった。彼女らの姿はそのまま、美貌を誇る愛すべき女神とそ
れを前にこうべを垂れる悪魔に例えられよう。
282名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:22 ID:OSPVI3aJ
 ドロテアの薄い唇をいたずらっぽく指でなぞり、「分かったわね?」と小さく笑ってみせる、
美しいエリザベート。その若さには秘訣がある。そしてそれこそが、彼女が『血塗れの伯爵夫人』
と呼ばれる由縁なのだ。


 チェイテ城には、石造りの地下室があった。
 そこには常に、饐えたような臭いと鼻を突く鉄の臭いが充満している。そして、啜り泣く乙女
たちの声が。

 不気味な、悪魔の咆吼にも似た、狼の遠吠えが月夜に響く。
 エリザベートはそんな夜半の甘美な音楽を楽しみながら、風呂桶の中で踊っていた。白い香る
ような肌に、湯船からすくい上げたものを擦りつけては歓喜の声を上げる。その湯船になみなみ
と湛えられているのは、赤い液体であった。
 人間の血液だ。もっと言うならば、処女の生き血。
 彼女は処女の生き血を肌に塗りたくることで、衰え醜くなった我が身が若返るということを信
じていた。いや、事実エリザベートはそのおぞましき”若返りの儀式”によって、若さを取り戻
していた。
 生き血を存分に浴びること。これこそが若さの秘訣、そしてエリザベートの甘美な至福の時間
なのだ。
283名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:23 ID:OSPVI3aJ
 臆面もなく肌を晒し(むしろエリザベートは自分の美しい肌を露出するという行為に誇らしさ
を感じていた。女性としての慎みが彼女から失われてしまったのなら、エリザベートは間違いな
く裸で街を歩いたことだろう……)、心底楽しげに、歌すら歌いながら血液を肌に塗っている主
人の美しい顔を、ドロテアは目を細めて見守っている。彼女は、エリザベートがこんな凶行を始
めた当初からの協力者であった。
「ふふふ、ドロテア。追加してちょうだい?」
 エリザベートが、白く実った乳房に血を擦りつけながら甘い声でそう言い、ちらと見上げる仕
草を見せる。
 エリザベートの浸かっている浴槽の傍らには高台のような一角が設けられてい、そこには鋼鉄
でできた等身大の女体像が置かれていた。女体像と言っても、胴回りはただの装飾が施された円
柱で、その中は空洞になっており、観音開きに開く戸のようなものが像の胸を割っている。内部
は人ひとりが入れる程度の空間が存在したが、表面の華麗な装飾とは裏腹に内側では無数の鋭く
太い釘が牙を剥いていた。それを見下ろすように静かに瞳を伏せているのは、残酷な微笑をたた
えた見目麗しき女性の彫刻である。その微笑は生身の処女を抱く為だけに刻まれ、そしてその微
笑は乙女らの心臓を凍りつかせる呪詛でもあった。
 鉄の処女、アイアンメイデン。
 エリザベートは娘から生き血を採取するために、この残忍な鉄人形を好んで使用していた。
284名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:24 ID:OSPVI3aJ

「かしこまりました」
 ドロテアは生き血を追加するべくいったん奥の部屋へと姿を消し、やがてひとりの乙女の腕を
掴んで引きずるように戻ってきた。
 猿ぐつわを噛まされ目隠しされたままの娘は、衣服を着ていなかった。燃えるような赤毛は肌
にべったりとまとわりついている。困惑と恐怖と絶望が入り交じった微かな声を上げながら、黒
い魔女に手を引かれて鉄の処女の前まで連れて行かれる。
「あら……可愛らしいお嬢さんね。ドロテア? 貴女もそう思わない?」
 風呂桶の縁に両腕を預け、上機嫌にエリザベートはそれを見上げた。
「顔をよく見せて。お話もしたいわ、ドロテア」
「はい」
 ドロテアの黒い筋張った手が束縛を取り払うと、そばかすが愛らしい赤毛の乙女は弾かれたよ
うに脱走を試みる。
「きゃあぁぁあっ!!」
 しかし、ドロテアの不気味なほど長い腕がその赤毛に伸び、ぐいと引き寄せた。そのまま、悲
鳴を上げた娘の頬を容赦なく張る。幾度もいくども。
「ああ、逃がしてはだめ。でも、そんなにぶつこともないわ、ドロテア」
 その言葉に、ドロテアは乙女を殴る手を休める。
 エリザベートはくすくすと笑うと血の湯からあがり、血の滴る身体を隠そうともせずにドロテ
アの側まで歩み寄った。
「――きゃああぁあぁぁぁあぁあぁあぁあぁあぁっっっ!!!!!」
 頬を庇っていた腕の隙間からその凛とした声の主を確認した娘は、耳をつんざくような悲鳴を
上げて再度逃亡を図った。血まみれのエリザベートを見、恐怖が頂点に達したのだったが、再び
その身体はドロテアによって捉えられる。黒い左腕に掴まれた乙女の細い首がぎょくん、と妙な
音を立てた。
 ドロテアの瞳が真紅に輝き、黒い肌にざわざわと血管が浮いてくる。
285名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:25 ID:OSPVI3aJ

「エリザベート様」
 この漆黒の魔女は多くを語らない。自分が何を言わんとしているのか、そんなことは口に出さ
ずとも通じると知っているから。
「……そうね。残念だけれど、もういいわ。この娘に構って時間を潰すのも下らないことよね」
 エリザベートは、犬のような荒い息遣いでぴくぴくと鼻を動かしている娘の髪にそっと触れる
と、毛の束を戯れのようにちぎって、捨てた。ぶちぶちと掴んでは毟り、そしてまた掴む。仕草
は可憐な花の、その花びらをいたずらにつまんでみせる童女のそれだった。
 無造作に舞い落ちる美しい赤毛。だが、この乙女の身の内を流れる真っ赤な血は、それよりも
遙かに鮮やかで美しいだろう。
「うふふふ。いいわ、やって」
 言い残すと、エリザベートは浴槽へと優雅に歩いていく。
 ドロテアの瞳が一層赤い色に染まり、娘の首を掴んだ手に力がこもった。鉄の処女の顔面が小
さくきしみながら上に持ち上げられ、そこに乙女の頭部が押し込められる。顎の下にガチャリと
首枷が下ろされ、頭部が固定された。逃れようと身動きをとった娘の背中に、背後から太い釘が
食らいつく。娘は歯をがちがちと鳴らしながらも慈悲を乞うようにドロテアの顔を覗き込んだが、
黒い魔女の表情には感情らしきものは見当たらない。がらんどうの空虚な赤い目。
 乙女は狂ったような悲鳴を上げた。
 それに共鳴するように、奥の部屋から囚われの女たちの悲鳴が響いてくる。
「素敵ね」
 浴槽に戻ったエリザベートは恍惚とした表情を浮かべながら、その声に耳を傾けた。そして、
すくい上げた生き血を真っ赤な舌で舐め取る。
 もはや正気を保てず糸が切れた人形のようにかくんと脱力した娘の身体を、ドロテアは慣れた
手つきで鋼鉄の人形の中へと押し込んだ。押し込んで、そして力いっぱいに鉄の処女の扉は閉じ
られる。乙女の身体を串刺しにするために。血を搾り取るために。
286名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:26 ID:OSPVI3aJ

 次の瞬間、女の、いや人間の声とは思えぬような絶叫が地下室に響いた。
 数百キロはあろうかという鋼鉄の塊が、咆吼を上げながら狂わんばかりに暴れている。娘の身
体がどんなことになっているのかは見えなかったが、顔だけは未だに晒されたままだった。
 しかし、エリザベートの興味はそんなところにはない。
 心待ちにするように見上げられたエリザベートの美しい顔に、やがて新しい血液が降り注いで
きた。エリザベートは嬌声をあげた。目を閉じて、その温かな血を存分に浴びる。上方の高台か
ら伸びた管をつたって降り注ぐのは咆吼をあげている娘の生き血。鉄の処女の足元には溝が掘ら
れていて、流れた血は残らずその溝に従ってつたい、管を通り、エリザベートのもとへ届く。そ
ういう仕組みになっているのだ。
 エリザベートは鉄の処女に抱かれた乙女の断末魔の悲鳴を聞きながら、幼子のように陽気な笑
い声を立て、ドロテアに柔らかな微笑を投げかけた。黒い魔女の感情を表さぬ冷淡な顔に、初め
て温かなものが宿った。


 エリザベートが浴槽に眠るように身を横たえている間に、ドロテアは悲鳴をあげなくなった鉄
の処女を片づける作業にはいった。
 目をかっと見開き、口からは血を漏らしているこの娘から、もうすでに命がこぼれ落ちてしまっ
ているということは容易に分かる。ドロテアは鉄の処女の扉を開放しその首枷を取り払った。全
身を傷だらけにされた乙女の青ざめた死骸が赤い瞳に映ると、自然に血色の悪い紫がかった唇が
つり上がっていく。かはぁ、と生温かい息がドロテアの口から漏れた。死人に群がる狼の群れの
ようなドロテアの黒い肌、黒い衣、黒い爪、それから白い毛皮……。
287名無しさん@ピンキー:03/11/14 13:28 ID:OSPVI3aJ

「ドロテア? いらっしゃいよ」
 その時、エリザベートの怠そうな声が魔女の耳に届く。
 振り返ると裸のままのエリザベートがすぐ側まで歩み寄ってい、身体から滴る血によって、石
造りの床にその小さな足跡が点々と残っていた。
 髪まで浸かった所為でその顔は真っ赤に染まり、目も開けられないようだ。
 ドロテアは静かに主人のもとまで近づくと、赤に冒された白い手をそっと取って唇を寄せた。
エリザベートは微かに笑い声を立てて、ドロテアの白い髪に手を置く。真っ白い髪に、赤い筋が
入った。
「エリザベート様……」
 ドロテアは、ほうと熱っぽい吐息を漏らしながら主の名を呼ぶ。真っ赤な舌が薄い唇の隙間か
らするすると顔を出し、エリザベートに触れた。遠慮深げに、しかし一方で図々しく、その舌は
閉じたまぶたを這い、眼球の形を確認するようになぞりながらねっとりと処女の血を舐め取った。
黒い魔女の唇が大きく開かれ、まぶたの裏の宝玉を食すように覆い被さる。まつげに絡まる赤を
ちろちろと舌先で拭う。目元の生き血を全て舐め取ると、長い舌はわずかにまぶたを押し上げて、
エリザベートの蒼い眼球を犯した。瞳はエリザベートの受け入れ口のひとつ。その瞳がドロテア
を映すとき、彼女は間違いなくドロテアを受け入れているのだから。ドロテアの呼吸は荒い。
「美味しゅうございます、エリザベート様」
 黒い魔女の細く低い奇妙な声が、感激に震えていた。
 魔女が口にしたものは、真紅の美酒。それが処女の血だからではない。ただの田舎娘の血液が、
名門ハプスブルク家とも繋がりのある高貴なバートリーの血を内に秘めた、気高く美しいエリザ
ベートの肌と混ざり合って、蠱惑的な香りを醸しているからである。
「そう……」
 ドロテアの舌はぺちゃりぺちゃりと淫猥な音を立てながら眉をなぞり、鼻の筋を這い、その美
酒を存分に味わう。エリザベートは目をうっすらと開けて、ドロテアの舌とドロテア自身を穏や
かに受け入れている。
288名無しさん@ピンキー:03/11/14 18:29 ID:sKm4H95e
婆3さまキタァァァァァァ―――(・∀・)――――ッッ
ブラッドミルクにハァハァハァ。奴隷愛にビビビーン。
まだ続きます・・・よね?
289名無しさん@ピンキー:03/11/15 00:37 ID:0UhQbsqh
>>280
微妙に猟奇かもしれないだと?
控えめな表現だなヲイ
おもいっきり猟奇じゃねーか
290名無しさん@ピンキー:03/11/15 04:26 ID:djvOKrSh
エローい&ちょとグローい。
でもそれが(・∀・)イイ!! 。

血まみれの美女ってのは、イイもんですね。いや、ホントに。

続き待ってますので、無理せず頑張って下さいな。
291眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:36 ID:Me1CN6L7
 少女の名はグレンデル! この物語の主人公、大きな森にいるという、小さな愛らしい番人は。
 魔女の奴隷、木々の癒し手、草花の姫君。まだ幼い顔で、己の主である人、魔女へと向けば、顔のくぼみに
惜しみなく注ぎ込まれた青色果実(ブルーベリー)、二つの青をして清らかなる瞳が魔女の姿を見つめるので
す。その髪を揺らせば、やはり空よりも深く澄みわたる、彩り美しい色こそが風の愛を一身に受ける、まさに
この少女にこそは、その生まれ育ちに幸あれと願わずにいられない。世に美しいものは数多くあるとしても、
人の姿と性質をして美しいものは数少なく、そのような人は得てして薄幸であるが故に。この少女の仕合せを
誰もが願わずにいられない。愛されよ、愛せよ、災いと困難のみを退けて。この世のどこにも、この少女を憎
むものはいないのだから。そう、この少女が心すらも美しいため! 
 毒の女、森の魔女ですらそれは例外ではない。この猛毒で、貪欲な老婆ですらグレンデルを愛するのだ、誰
が彼女を憎むことができよう? たとえ老婆がこの少女を森から出さぬのだとしても。その悲しみを、何ゆえ
少女に訴えることができよう。
 生まれたばかりの少女こそ、その境遇は哀れとも。何ゆえと訊ねるか。グレンデルには父の意味がない。こ
の少女には父がいない。森の魔女こそ母である。母であり、父である。即ち森の魔女こそ母、創造主、そして
グレンデルの主。魔女はその術において、毒よりグレンデルを作り出す。生まれたての毒は気づけば形を持ち
命を持った。それこそ即ちグレンデル。その毒はときおり人を惑わす恐ろしい毒、「愛」であり「美」であり、
また「信頼」、そして「血」と「生」。人というものにとって不可欠である、それらの毒が集まれば、やはり
その毒は人にもなりえるものだから。そうして魔女の集めた毒より、グレンデルは生まれたのだ。
 魔女はこの毒を殺めることはなかった。魔女は毒を愛する女だから。そして魔女は、グレンデルに己の下僕
であることを、また娘であることを教え、そうやってグレンデルを森のなかで過ごさせた。森は魔女の治める
国、家であり、グレンデルを愛せばこそ、そこが最も安全であり、他はそこよりも安全ではないから。
292眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:37 ID:Me1CN6L7
 グレンデルは毒であるために。毒は人を惑わせるために。毒はそして、生き物を殺めるものであるために。
美しさのもたらす罪を、魔女は知らぬほど愚かではない。愛のもたらす恐ろしさ。それは古来より言い伝えら
れるものではないか。トロイアの都市、イーリアスは何故滅びたのだろうか。若者は屍、多くの若者が都市を
支えていたというのに、いまや彼らに息はない。戦った女は皆殺し。多くの女性が首を吊り、死にきれぬもの
は奴隷とされた。
 魔女はグレンデルを恐れて、そして愛せばこそ、自分の森へ閉じ込めた。そうして月日が重なり積もり、グ
レンデルが年頃の娘となる頃に――。
 魔女は森へと王妃を連れてくる。
 この森より近いところにある国の王妃、元王妃ともいえようか。遠くから王の元へと、後妻として嫁いだ女
は、先代の王妃の残した白い肌の娘、グラーチィカに恋をした。その娘は王の恨みを受け、国の外れの過酷な
牢獄、茨の塔に捕らわれていたものを、元王妃が王に隠れて見つけ、そしてやがて恋が二人を支配する頃に、
二人の関係を知った王の怒りが二人を引き離し、グラーチィカは塔のなかで眠りについて、魔術がその少女を
守れば、元王妃はその眠りを死であると思い、塔より身を投げる。これを助けたものが魔女。
 魔女は先代の王妃の召使だったこともあり、そして先代の王妃が娘の恨みゆえ王に殺されたときには、知ら
ずのうちに先代の王妃へ王より渡された毒を与えてしまったことから、元王妃の境遇を親身に受け止めたのだ
った。
 その毒は元王妃の身体をも蝕んでいる。塔より身を投げたときの痛みと毒の苦しみは元王妃の身体を傷つけ
て、今は元王妃は意識を保てない状態にある。気を失った元王妃の運命や。それはこれより、グレンデルの見
るものによって知ることができるだろう。
293眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:39 ID:Me1CN6L7


 森の木々は高く。見上げれば一面の緑。空はどこにあるというのでしょうか、太陽は葉の向こうにあるので
しょうか。春であっても冬であっても、木々は花を、草を咲かせます。木々と申しましても、それは同じ木で
はありません。あるものは春に花をつけ、またあるものは夏に花を。秋に花咲く木、これも少なくありません。
冬ですら蕾が花開くもの、いるのです。果実ともなればなおのこと。それらは木々の衣となり、空色を彩るだ
けでなく、より多く実る季節には地の色すらも見えなくなるほどのカーペットとなることでしょう、それは見
るものを驚嘆させる、美しいといわざるをえないものなのですが、素足で足蹴にしようものなら私の靴下とな
るのです、その果実の色が。それを拭うのに母の手を煩わせてしまうものであるなら、私は靴下を履くわけに
は参りません。
 ああ、この世に空の色を知らないものがいるでしょうか。あらゆる人、獣たちの頭上には、大いなる透明な
空が広がっているのではないですか。鳥たちは空を飛ぶのでしょう。なのに私は、ただ緑の屋根を見つめるば
かり。生まれてこの森より他を知らないのです。私は見たことがありませんが、海に住まう魚ですら空の色を
知っていると思います。水というのは澄んだものですから、空の色を映してくれるはず。
 けれど私は一度だけ見たことがあります、幼い頃に森を出ようとして。あの、白くそびえ立つ、かつて母も
そこに勤めていたという、大きな大きなお城を。長く尖った屋根を。木々よりも広く四角い、白の壁を。遠目
でもそれは大きいと分かりました。城の周りには街というべき小さな家々が、立ち並んでおりました。私の瞳
にはその家たちの、赤色レンガ、青色レンガ、様々な家の屋根が小さく見えたのです。どれもお空の下にあり
ました。そして空に一番近いものは、やはりあの白いお城でした。そしてそのお城の上には、どこまでも、見
渡すかぎりの、青い、とてつもなく大きい、あの空の色があったのです。
294眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:40 ID:Me1CN6L7
 それに憧れた私の気持ち、それは言い尽くせないものです。なんて美しい。木々の美しさもそれは目を惹く
ものですが、しかし空の美しさははるかに広大で、限りなく、無限とも思える世界。地上がどれほどそこに収
まるのでしょう。私はどれだけ小さなことでしょう。そう思いつつも私に畏怖というものはなく、ただ純粋な
憧れと、感動が胸をしめたのです。初めて見たからという人もいるかもしれないけれど、それでも空は美しい
のです。物知らずとおっしゃられる方、確かにその通りです、けれど私は空というものに憧れた。それは変え
ようのない事実であり、私の胸を占めている思いでもあります。
 あのときの思いは、月日を重ねるごとになおも高まり、グレンデルは白を思い焦がれるのです。あの白の城
に住み、空の下に生活を送る人を。自由な人々を。木々に囲まれた私は鳥ではないでしょう、豊かな大地も思
えば獣の住みかなのです。私は鳥となりたい、あるいはあの城の住人と。その思いはなにを隠すことがありま
しょう、我が母、我が主人、毒を統べる方、私と同じ名前を持つ偉大なグレンデル様に訴えました。けれどグ
レンデル様は、私をここより連れ出そうとはせず、それどころか、二度とあの城を見えぬようにと、私を一層
厳重に監視しなさったのです。ああ、ああ、悲しみこそ極まれ。お母さまは何ゆえ、これほどまでに私を捕ら
えるのでしょう。それほどに憎いのでしょうか、あまたの毒より作られた身体が。
「鳥の声すらも聞こえず、木々の葉擦れの音を聞く、緑の深いところにこそ、小さな獣は身体を休める。獣は
リス、あるいはウサギ、何人が捕らえられよう、あの小さくすばしっこいハリネズミどのを。私は訊ねる、さ
あさ獣さんがた、私の親しい友だちさんよ。街というものはどのようなものなのですか」

 問いに応えて彼らは歌う、リスは低い轟く声で、ウサギは高く響き渡る声で、このように。
295眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:40 ID:Me1CN6L7

「お嬢さん、お嬢さん、美しいグレンデルの娘、街というものは人の多く住まうもの。人にとって住みやすく、
お嬢さんは人に似る。人に似れば人と暮らすこともできよう、このような森でいつまで果実を食べるのか、い
つまで魔女に捕らわれるのか、私たちという獣ほど、あわれな境遇に生まれぬ人が。恐れるものは何もなく、
さあさあ参られ毒の姫、あなたの知識はグレンデルにも等しき医者の術、倒れた人間を癒せば人の感謝も飽き
るほど。さあさあ、ここよりすぐ外へ」
「けれど私はお母さまの言いつけを破るわけにはいかないの」
 私は大きくため息をつけば、なおも彼らは声を張り上げ、歌い上げるのです、
「魔女の言葉は愚かな嫉妬、あなたのもたらす災いを、背負うものなど一人もなくば、ただ己のみがあなたを
知りうる、毒を知りうることこそは、魔女の誉れと誇りつつ、胸高らかに語れども、さしずめ毒に犯された、
己の頭に知るよしもなく」
「毒の恐れは愛する母すら苦しめる……」
「吐く息は屈強な牡牛を猛りさせ、どれほどに強くとも、牡牛は苦しまずにはいられない。いかなる羊が汝を
捕らえられようか、その細い手で。どのような毒が少女を苦しめられようか、この世の最たる猛毒が少女を形
作りしそのものに。グレンデル、グレンデル、二度も呼べば耳を傾けよ」
「なんと。私の毒が、知りうる何ものより恐ろしいものとは。……誰かがやってきた。緑色を瞳に宿して、近
づいてくる、秋葉の髪を舞い踊らせて。あそこに見えるのは、ああ、愛する主人、創造主、愛する母よ、あな
たがこちらへと向かってくるのですね。手には女の人を抱いています、その方はあなたの誰でしょう?」
296眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:41 ID:Me1CN6L7

 母なる魔女の名はグレンデル、彼女は私の元へと近づいています、その手に血衣する人を抱えて。足元の葉
などはがさりがさりと音をたて、脆い果実は踏み潰される、毛糸繊維を身に纏い、森林の目と褐色の肌、年老
いながらも美しく、長く透きとおる紅の髪を朝の木漏れ日に晒してやってくる、かの方は母なる魔女グレンデ
ル。私と同じ名を持つ方、大いなる毒の知識を宿す方。その方と私を隔てる木々は、たとえばヴィーナス、コ
コナッツ、パルパネッサ、その他数多くの国の木々。葉をつけるものも果実をつけるものも花をつけるものも
あるいはどれもつけないものでも、それらはグレンデルの賜物なのです。
 やがてグレンデルはグレンデルを認め。一方はその姿を、一方はその声を。私はグレンデル様がこのように
口を開いて語るのを聞きました。

「誰かに名前を呼ばれた気がしてやってきてはみたものの、この舞台を見る限りではどうやら娘を呼んだよう、
同じ名とは不便なものだ。だがまあいい、今はこの娘も必要だ、さあさあ毒の女グレンデル、この哀れな怪我
人を助けるのだ、薬も毒となり得るならば」
「グレンデル様。お伺いしたいことがあるのですが、お答え願えますか?」
「なんなりと、愛しい下僕」
「その方がどのような苦しみを受けておられるのか、またどのような方なのか、かかる知識は癒す上では大事
なことを思いますが、それについてのお言葉を」
「答えよう。お前に、グレンデル。はじめの問いから続けて次の問いに。この方の苦しみとは二重の螺旋、毒
と怪我の蛇が互いにむちゃくちゃ絡みつき、その身体を軋ませる。毒はすぐには治らぬものではあるが、傷の 
手当てはすぐにもできる、幸い先に塗った私の薬は流れて漏れる血を止めた。あとは傷口を塞ぐのみ」
「わかりました。では傷口を塞ぎましょう、この蜘蛛たちの糸によって。針はどこでしょうか。おや、こんな
ところに丁度よく、草の長い刺があるようです。細く尖った草ならば、糸を縫うことになんの差しさわりもな
いでしょう。ではやりますね、チクチクチクチクチク」
297眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:42 ID:Me1CN6L7
「相変わらず手先が器用だ、我が娘。見るも鮮やか、傷口は綺麗に縫われていく」
「それにしても、こう血に塗れていてはお顔を拝見することもできません。この方はどうやら女性のようです
けれど。この胸のふくらみと腰と、下半身のくぼみを見る限りは。……できました。もはや傷口はすべて縫い
終わり、今は糸の姿が見えるばかり。糸の姿も明日の昼には消えることでしょう」
「見事なたしなみ。では安心したところで先の質問に答えよう、この方はこの国の王妃さまだったのだ」
「王妃様」
「いかにも」
「死んだとも聞いていますが、実は生きていた?」
「否。先代の王妃が死に、代わりにこの方がこの国の王の元へと嫁いできたのだ」
「ではこの方はまぎれもなく今の王妃様」
「いいや、それも違うのだが。というのも今の王妃であれば、これほど傷を負うようなこともあるまい」
「では今はこの方も王妃ではないと。何ものなのです?」
「王の怒りを買い、国を追われた女じゃ」
「なるほど、罪人というわけでございますか」
「言い方の一つには、そういうものもあるだろうがな」
「他の言い方は?」
「王の被害者」
「納得しました一応は。けれどそれでは私はこの方をどのように扱えばよろしいのでしょう?」
「家へと連れて帰れ、意識がないから抱え上げろ。両脚の腿を持ち、揺り動かさぬよう、落とさぬようにし
っかりと運ぶのだ」
「わかりました、それではさっそく。おや、この人は軽いですね、まるで羽のよう。ところで家というのは、
どこの家のことでしょう」
「私たちの家じゃ。つまりあの砂糖菓子で作られた家のこと」
「クッキーの?」
「アイスクリームの」(エクレアの)
「スティック・キャンディ、チョコレート」
「バニラ、ジャム、ママレード。タルトにティラミス、モンブランじゃよ」(ミルフィーユ、カスタード)
「忘れてはいけません。ミルクもシュガ−も、果物の冷たいものにはかなわないでしょう?」
298眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:43 ID:Me1CN6L7
 甘いものほど寄っといで、魔女の家はお菓子の家よ、砂糖は甘く、心を蕩けさせるもの。
 クリームとろとろ、ミルク飲まずにいられない。
 さあさあ果物がやってくる、メロンに葡萄、バナナや林檎。熟しているよ、口のなかではじけてみせる、
 プルンとふるえるあまーい果実は舌の上で大あばれ!
 あらあら気をつけてお嬢さん、ここは毒の魔女の家、
 明日に気づけば体重5kg。

「余計な節は歌うな、この木霊(バンシー)ども」
「私は太らない体質ですが」
「お前も自慢げなことをいうな、そうやって母を貶めるつもりか、ええいこのグレンデルめ」
「いたいいたい。どうしてお尻をぶたれるのです」
「愛の鞭じゃ」
「うう。ともかくもお母さまの訳のわからぬ怒りが激しくならないうちに、私はその家へと戻りましょう、
この珍しい客人を連れて。人間の客人など私が生まれてからははじめてだと思います」
「そうだろうさ。私の母がここで亡くなり、父もここで亡くなってから、あの家へと招待したのはただ一人
しか記憶にない、この王妃を除いては。私はけれど、だからこそ、あの客人を覚えている」
「――そうですか。それは結構なこと。(小声で)仕合せであればこそと、仰ってはくれないのだけれど」
「さあ、行け。もはやここに留まるより重大な用がお前にはある」
「(はっと声高く)わかりました。では、また後ほどお会いしましょう」
299眠らぬ姫は罪人のように:03/11/16 12:46 ID:Me1CN6L7


「そして一人のグレンデル、魔女の老婆はやってきたぞ、白い城へと、烏となって忍び込み、この王の間へ。
さあさあどうやら国全体で行なった仰々しい王妃の葬儀も済んだばかり、哀しみに包まれていると思いきや、
なんだいったいぜんたい、この騒ぎは」 

(王の間。王とその重臣たちが集まっている)

「何、あれは王妃の死骸ではなかったというのか」
「形と大きさこそ似ているものでしたが」
「それはどういうことだ」
「はい。今朝方に墓守たちが、墓を暴いたそのときに。それはたしかに人ではないものでした」
「何ゆえ墓守たちがやつの墓を暴いたのだ」
「墓の下より、人ならぬものの匂いがしたからだそうです。それが墓守の疑惑を呼び、そして勇猛なものの
一人が地を掘り起こしたそのときに。そこに埋められているものを見ました」
「王妃の死骸でないとすれば、何だ」
「駝鳥の肉であったそうな」
「な、な、なに? 駝鳥だと。おのれ、なんたる侮辱」
「まことに愚かな葬儀でございました、あの国中の追悼は。さらに金庫の放水もこのくらい、いや、もっと」
「仕方あるまい、そうしなくては国民が納得しないのだ。ただでさえ先代の墓があれだけに」
「この件については他に漏らさぬようにいたしましょう」
「そうだ。むろん、侮辱は返さなくてはならぬ、これは正当な報復でもって。王たる俺を侮辱して、国の金を
無駄に投資させたのだ、それも見ず知らずとはいえ、哀れな子供や老人ならまだしも、あの醜い駝鳥にだ。こ
の報復とは重い、追放よりもはるかにはるかに。即ち、あの元王妃を殺せ!」
300眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:47 ID:Me1CN6L7

「いやはやまったく見下げた王だ、グレンデルに言わせれば。けれど報復はけしてただでは済むまい、執拗は
ここに極まれる。哀れなるはここへと嫁いだあの娘の不幸。けれど過ぎたことを嘆いても仕方あるまい、それ
よりもさあ、王が剣を携えて、茨の塔に向かっていく。どうやら娘の命をここで絶つつもりらしい、眠れる姫
が無防備であるのをいいことに。乱暴にも剣で扉を引き裂くつもり。けれどそれは許すものか。塔の中に放っ
てやろう、毒虫を、毒蛇を、毒蠍を、数多くの人に災なすものどもを。見るがいい、瞬く間に塔の階段までは
あらゆる毒に覆われる」
「むむ。なんだこの災いは。父が娘を殺す権利を阻む、ええい嫌なやつらめ。だが俺は諦めんぞ、けして、あ
の娘はこの俺を虚仮にしたのだ、俺を愛していた女を奪ったのだ、女の身でありながら同じ女を! 神をも恐
れぬこの所業、果たして無事で済ますものか」
「おお、憤怒に燃えさかる王、お前の姿は悪魔のようだ。このような男を愛する女がどこにいるのか、いいや
お前の本性はいつでも隠しとおせるものではない、それほどに禍々しく恐ろしい。お前が誰に愛されていたと
いうのだ、小国の姫であった女を無理やりに奪った男よ。閨のつとめを汚した男よ」
「おお災いめ、毒の汚れどもめ……。娘を守るはお前たちだというのか、なんと汚れた娘だというのだ、母で
すら大人しく殺されたのに。災いめ災いめ……」
「恨み言は止むことがない、怒りの炎は燃えさかり、王は自身の誇りを大事に抱える。これ以上はこの男に近
づくまい、それでは私の娘の元へと戻るとしよう。私の住みか、お菓子の家へ」   
 
301眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:48 ID:Me1CN6L7
 
「さあ戻ってきたぞ」

「ああ、グレンデル様。(起き上がり)お帰りなさいませ」
「むむ。どうしたことじゃ、入口のクッキードアより、マシュマロベッドへと続くストロベリージャムは」
「それはここに眠る女の人の血です、グレンデル様」
「拭き取ってから家に入れぬか。ん? どうしたそんな青い顔をして」
「血が怖いのです。ああ、どうしてこんなに色鮮やか? どうしてこんなに濁った色? 私は気が遠くなりそ
うです、この森で血を滴らせる生き物など見たことがない」
「役立たずめ。お前もそれで作られているというのに、つまり生き血で。まあよい、毒も毒と重なれば薬とな
ることがある。ならばお前の臆病も仕方あるまい。そこを退け。私が血を拭ってやるとしよう」
「はい。そのまま、あの、森にある、広い湖までいってもよろしいでしょうか、血を瞳が焼くうち、匂いが突
き刺すうちに気分が悪くなってしまったので……」
「ここにお前がいてもやることはない、ゆっくりと自由に行くがいい」

「ああ悲しいこと、医術の技に優れても、血に色づく身に近づくことができないとは。あそこにお母さまが来
てくださったからいいようなもの、そうでなければいつまでも気を失っていたことでしょう。私はこの森の外
に出ることがない、それは何より自分自身のため。私はお母さまがいなくては何もできない毒の娘……。
 湖が近づいてきた。ああ、少し気分がすぐれる、メロディにあわせて歌うこともできましょう。お願いしま
す、合唱隊(コロス)たち。私の心に答え、韻律をお導き下さい」
302眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:50 ID:Me1CN6L7

(川のせせらぎが聞こえ、それにグレンデルが答えていく)

 籠のなかの雛鳥は、

「外から覗く、実る果実に舌鼓、」

 あるとき開く鳥篭の扉、ぱっと顔を輝かせ、果実の元へと飛び立ち寄る! さあ甘い果実、嘴に含んで――

「その瞬間に鷹の爪。さっと舞い踊り身体を裂けば、哀れな雛鳥息絶える」

 ……おお、おお。 

「私はただ、ただ、己の無力に溜息をつくばかり」
303眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:50 ID:Me1CN6L7



 湖より離れて、私はしばらくの間森を彷徨っていました――。けれど夕刻にもなるとお母さまの声が、グレ
ンデル様が私を呼ぶ声を聞けばすぐにお菓子の家へ戻ったのです。途中に甘い果実を実らす木がありました、
モルビラという木です。熟れて落ちてくるのを、私ははっしと受け止めました。熟した果実は私の掌に潰れる
ことなく乗ります、なんだか嬉しくて、それを掌に乗せたまま走っていると、再び実が落ちてきました、こん
どは柿の木から。調子にのっている私はそれも受け止めようとしますが、とたんに実はぴしゃりと潰れて、手
のみならず、頬を、服を、びっしょりと濡らしました。濡れた身体は走りにくいのです。もう柿の実など取ら
ない、と決意して家へと帰る足を急がせました。幸いにもそれ以降に実は落ちてこず、私はお菓子の家へとた
どりつきました。
 まず遠めに、木々に囲まれた家の影が見えます。足を進めれば、やがてお菓子の、甘い香りがするのです。
クリームや砂糖の焼ける匂い。それから、女の欲に導かれ、足を進めると、まずスティック・キャンディーの
煙突が見えます。普通の煙突は息を吐き出しますが、この家はとろりと溶けた飴を流すのです。そしてレンガ
の代わりはキャラメルが、家を支えているのです。見てください、そっと指ですくい、口に含めばぱあっと広
がる口あたり。おいしいキャラメルが家を支え、続いて水飴の窓がキャラメルのレンガに一つ、二つ、三つ、
四つ。屋根は大きなビスケットでできています、そのビスケットにはチョコレートが彩られていて、キャラメ
ルと、飴によってさらに美しく輝くのでした。そして私はその家に駆け寄ると、クッキーで作られたドアを開
いて、グミの柔らかなタイルを走り、マシュマロのベッドへ向かいます。そこにグレンデル様と先の女の方が
いるのです。
「ただいま戻りました、グレンデル様」
 私はまず主人にあいさつします。グレンデル様はベッドに身を休められている女の方に、これまでの経緯な
どを説明しているようでしたが、私の声を聞き遂げたらしく、くるりと私へ顔を向けました。翠の瞳が私を見
つめ、夜の肌はほのかにほころびます。
304眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:52 ID:Me1CN6L7
「おかえり奴隷。この方の目はすでに覚めている、ごあいさつなさい」
 そういってグレンデル様は女の方と私とに顔を合わせさせて、いうべき言葉を促したのです。私はそのため
その方に頭を下げました。頭を垂れれば床に膝をついて、それから片手を後ろに、もう片方の手を膝より少し
前の床について。赤色のグミは膝に。緑色のグミは片方の掌に。
「初めまして。グレンデルと申します、私の母グレンデルより作られた娘。どうぞ仲をよしなに」
 すると頭上よりその方の声が聞こえました。それは母とも自分とも違うひとの声、それは当たり前のことな
のですけれど、私はやはり驚かずにはいられません。その方は穏やかな口調でこう仰いました。
「頭をお上げください、グレンデル。貴方達は私の命の恩人。怪我を負ったときに助けていただいたというの
に、どうしてあなたの上に立つことができましょう。どうか頭をあげて。顔を見せてください」
 なんとありがたい言葉、優しい人でしょうか。私は頭をあげかけて――そしてその方の顔を見れば、はっと
息を飲むと、先ほどの安堵はぱっちりと消えうせ、青ざめ、また赤く染まり、再び頭を垂れたのでした。
 なぜ。どうして。私は何を見たのでしょうか、はやる鼓動はなにゆえでしょうか、私はその人の整った顔を、
――美しいという言葉すらも私の口からは言えません――私はその方の微笑みがこの目を貫いた時に、一瞬に
瞳は盲いたものとなり、光こそが私を支配しました。光とは美。森の湖面に、揺れて優雅に踊る月よりも、輝
かしいものでした。森の緑に差し掛かる、木々の合間を縫うような、緑色の太陽よりも、それは光溢れるもの
でした。暑い日、木々より滴る蜜よりもずっと甘いものでした。思わず喉を鳴らして、こくんと唾を飲み下せ
ば、言葉もそれと共に飲み込まれて。何も言えずに何も語れずに。私はうつむいたまま。
 その方は不思議そうに首をかしげたようです、ああ! ああ! 私の様子はあなたによるものなのですよ、
どうしてそんな風に罪なことをなさるのです。罪な言葉を。
「グレンデル。私は何か悪いこと、あなたに思われるようなことを言ったでしょうか?」
305眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:53 ID:Me1CN6L7
 その恐れを問いただすような言葉に、なおも私は身は縮こめるばかり。まるでロダンの石像になってしまっ
たよう。そこへ私の母の言葉が、先の問いに答える形で放たれます。怒ったような、けれど愉しげにも聞こえ
る響きで。
「主人の言いつけになんてことをいうんだい、この愚かな客人よ」
「今のは、オールドグレンデル。あなたに言ったわけではないのですけれど。私はこの小さなお嬢様に申しあ
げたのです、それくらいわかるでしょうに」
 私に言われたならば身をも引き裂かれる、それは美しいムーサが不満によって刃物のように尖る声。それか
らグレンデル様の笑い声がそれに答えます。さすがは私の主人。まるでへこたれた様子もなく、詫びる言葉も
泡沫ほどもなく。
「そうかい。ところがそこに居るものが答えられず、そこで身を震わせているのだからしかたない。あたしゃ、
同じグレンデルだし主人だから、てっきりの思い違い」 
「ではこれからは『可愛いグレンデル』と『醜いグレンデル』に分けて呼びましょうか、魔女グレンデル」
「うひひひ。そいつはひどい。私の娘を醜い呼ばわりするつもりかえ」
 戦車にひき殺されるよりも痛烈な皮肉に、グレンデル様はわざとらしく溜息をこぼされました。そこで女の
方が抗議の口を開く前に、私を向けば、年老いても色鮮やかな、一癖のある唇を動かして、こう尋ねられたの
です。私に。
「のうグレンデル。まさかあっしを、可愛くないとは言わぬよな?」
「えっと。まあ、その、どの、ファの、ミの、つまり言いません、可愛くないなどと。可愛いグレンデル様」
 私が思うところでは。緑の透き通る瞳、茜色の髪、宵闇の肌、それからするりと整った凛々しい顔立ち。年
過ぎた身には何が包んでいるのでしょう、幼子にはありえぬ引き締まった腕つき、腰もとには、思わず傅いて
しまうほど。そんな私の主人は可愛いというよりも美しい人だと思うのですが、そんな美しい方がこのような
子供らしい口ぶりをするときには、確かに可愛らしさを感じるのです。一度言葉を詰まらせた私ですが、その
ように答えました。グレンデル様は私の答えを引き出したことに満足したように、女の方へ向き直られます。
306眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:54 ID:Me1CN6L7
「どうじゃどうじゃ。聞いたか」
「哀れにも聞こえました。主人の悪いことはいえない奴隷の、悲しき身について」
 女の方はああと喘ぐと、それから私に近寄りになさいます、そして私の目にその細やかな、見るも心奪われ
る足元を見せてくださいます。その足元に見惚れていると、すっとつま先前に長い影が差しました。
「改めて、感謝します。命をすくって下さったことを、可愛いグレンデル。その頭に、手を置かせて。そして
髪を手のひらから、ゆっくりと。あなたに祝福あらんことを」
 その言葉どおりのことをなさいました。つまり私の頭に触れただけで熱くなる、小さな御手を乗せられて、
恐れ多くも私の髪を、すらり、すらりと撫ではじめたのです。風の温かく、心地よいものが、そうするように
です。けれどその手は風ならぬ手、留まって髪を撫でれば、時と共に速まる心の響き音。この場にいることが
なにやら仕合せのようなのです。私の心は。それをそのときに悟り、ああ、手のひらが離れるまでを私は忘れ
ることがないでしょう。溶かされる胸の熱さ。吐く息の燃え上がる様。私はその方を、やがてゆっくりと見上
げたときに、恐れることなど何もないものなのだと知ります。その方の微笑とは。黒曜樹の髪が舞い踊り、そ
れからアテネのような瞳。灰色の瞳に見つめられる、また肌は白ながらにほのかに明るく色づき、生気に満ち
満ちて、まさに光に相応しく。そしてその頬は僅かに朱なのです。その方の微笑とは。
「ありがとうございます」
 私の唇からはそんな言葉が。そしてその方はますます私を温める笑顔を、その穏やかな顔に浮かべて、再び
私の髪を撫でました。それはやはり温かく。私はまた、うつむいてしまったのです。そしてこの方をお救いで
きたことを、何よりの歓びと思い、それからこの方と親しくなれればと、心のうちで深く願いました。
 時間は多くありました。その方は怪我で流れ出た血が再びその身体に同じ量流れるまでは、このお菓子の家
と森に滞在することになったのです。私はこの方の話し相手となり、森の師ともなってみせて、知りうる毒と
森の知識をひらかしながら、この方と親しく、心近づけていきました。そうしてこの方が再び城へ、ある黒い
甲冑を纏い戦場となる城に赴くまでの、しばらくの時を過ごしたのです。
この先はその物語――。
307眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:54 ID:Me1CN6L7



「『天地(あめつち)の分かれしはじめに――。……
 なんぞ男と女がいるや。生き長らえれば愛は人もうらやむほどに。けれどいつしか年老いた、女の息が途絶
えるときに、男は黄泉へと旅立つけれど、眠る女の目は覚めず。ただ鬼より背を向け逃げ出す男はさぞかし滑
稽、鬼の頭領は眠る女の養い人、男を追いつめ責め立てる。愛する女のそばにあれ! けれど男は逃げ続け、
ついには愛した女をも憎みだす。なにゆえ死んだ女を黄泉までも追いかけたのかと。このような恐ろしい災難
ありと知ればこそ、ただ己の平穏願うばかりであろうに。さあ災いよ、女へ返れ。桃の実を食らえと坂の上よ
り投げつける。追いつめるはもはや女の養い人のみ、閉ざされた岩戸の向こうで男を呪う――。妻も愛せぬ男
など、愛する子供を持てようか。お前の国の命たち、すべて女のためのもの。苦しみ見かねたそのときに、私
の国へと招こうぞ』
 ……どこの国のお話かは知りませんが、昔話を紐解けば、はるか遠いところにこのようなことがあったそう
です。でも、あまり楽しいお話ではありませんね。愛する人を自分のところに取り戻せないなら、自分はその
人の元へ行くということであれば、まだ物悲美しくもあるというのに」
「そうですね、グレンデル。けれど私はその男を責め立てようとは思いません。女が――自らが死ぬときに、
男を殺さないことが悪いのです。女が真に男を望むのであれば、男を殺したとて罪にはなりますまい」
「王妃さま、怖いことを……」
「怖い? そうでしょうか。ああ、それは確かに女を恨む人こそ多いでしょうね、けれどそれは些細なこと。
つまり女は男のものであり、男は女のものなのですから。男を誰が望んだとしても、女のやることを抗議す
ることはできないでしょう。たとえ神でさえ、男自身でさえ」
「それが愛と呼ぶものでございますか――」
「そう。だからこその毒。けれど、その恐ろしさは触らず見るものにだけ。知ればこそ、犯されることは仕合
せなのですよ、グレンデル」
308眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:55 ID:Me1CN6L7
 そういって寂しそうに笑う方。ああ、この方に愛されることは仕合せでしょう。それはアポロン(太陽)で
あっても、デメーテル(食物)であっても、プルート(富)であっても、ユピテール(権力)であっても、デ
ュオニソス(狂気)であっても、ましてやヴィーナス(愛)であるならば。ヴィーナスによって愛される!
言葉はいりません、ただの接吻ひとつでさえ。それは千年の樹から滴る蜜ですら足元に及ばない。唇の味はど
のようなものなのでしょうか、また舌の感触は。それはかけがえのない花びらと、また燃えさかる宝石と。
 私はこの方に愛されたい、愛されたいのです。この気持ちを何と呼ぶのでしょう、リスよ、ウサギよ、教え
てください。ああこれを片想いと呼ぶのですか。それは虚しく通り過ぎる、油壷の前の優雅なる唄。それはあ
まりに愚かしい、砂漠の上の雪だるま。溶けて流れて思いと共に、深く深く沈んでいく。それはこの方が愛し
ていらっしゃるから! どこの誰とも知らないけれど、この方は愛する方がいらっしゃるから、そうでなけれ
ばこれほどの熱情、言葉には出せないでしょう。それは私がこの方を思うより、はるかにはるかに強いのです
……。
 ああ再び王妃さまは唇を開かれた。その確信をますます強める、あなたは思う愛を誇るように。
「ですがグレンデル、私は――やはり男とも女ともならないでしょう」
「王妃さま?」 
「たとえ目覚めなくとも、女を自分のものにしたいから。そして私が女なら、自分の死がその人にとって最大
の不幸であることを望み、その人の生がこの先絶望で包まれることで、私を永遠に忘れないでいられるように
と思います。それに生きていたときに私はその方の苦しむ姿を、できるだけ見たくないと思いますが……。死
に、その姿を見られるならば、その方をより深く知ることができるというのですから、やはり幸福なのです」
「愛する人の苦しむ姿は、楽しいものですか?」
「自分のために苦しむというのなら。私を苦しみ、より好きになってくださるなら。それは幸福なのです。…
…たとえ死が私を迎え入れようとも、その前にあの子をまず、目覚めさせなくてはならない――」
309眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:56 ID:Me1CN6L7
「王妃さま、それはいったいどういうこと」
「なんでもありませんよ、グレンデル。さあ、もうしばらくお話をお聞かせください。楽しいお話であっても、
悲しいお話であっても、あなたの可愛らしい声で」
「はい。王妃さま。あなたのために」
「それからグレンデル、お願いが一つ」
「なんなりと、私にできることならば、一つしかないこの身ではありますが」
「その一つでかまいません。私を王妃とは呼ばないでください。もはやこの国の王妃は葬儀すらすませたらし
いのですから」
「ではなんと?」
「……まことの名前では呼ばないで。そうですね、クラーチィカとお呼びください」
「まことの名でないとすれば?」
「愛する人の名前です」
 そのときに私の胸は、氷に触れたように冷たくなりました。凍えてしまうのです。私の胸は、まさにスニョ
クラーチィカ(雪娘)。悲しみが胸を、背中を、首筋を、背の骨を、渡れば頭は氷となり、続いて嫉妬が突然
に炎となって噴き上がりました。ボルケヌス、大いなる炎が噴出する。血の塊は駆け巡り、真っ赤に溶けた鉄
のよう。そして練成されるのは憤怒なのです、その鉄によって。悲しみが、嫉妬が、怒りが、けれど愛と羨望
が、愛する人のためならばと願う祝福が、私を取り巻けば、最後にはグレンデルは己の毒を選びました。
 それは愛という名の毒。涙さえもこぼせない。私は笑顔を浮かべて。まことの笑顔です。
 青の瞳は愛する方を見つめました。ほほを桃の花、災い退ける花の色に彩り、あなたさまに幸あれ、愛する
人をその手にできるようにとの思いをこめて、その名を呼ぶため、私は唇を開くのです。
「はい、クラーチィカ様」
310眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:57 ID:Me1CN6L7



 ある晩のことです。私は目が覚めていました。月明かりはいつもより煌々と輝いていたために。それが、あ
まりにも眩しくて、水飴の窓から差し込む光は白いマシュマロとそこに身を横たえて、仰向けに眠る私とを照
らし――目を閉じようにもチカチカと蛍が瞳を飛び交うものですから、どうやら今宵は眠れそうにありません。
私は目を覚まして、それからまず隣りのベッドに眠るグレンデル様を見てみます。褐色の肌、同じように月光
に照らされているというのに、すうすうと安らかな寝息をたてていらっしゃいました。ときおり身体をもぞも
ぞと揺すっては、身体を覆うマシュマロを乱します。どうやら寝相はあまりよくない人なのだと今さらながら
に気づきました。私はグレンデル様の身体をきちんとベッドの中央に整えると、上からマシュマロを被せて、
風邪をひかないようにと祈りながら、クラーチィカ様のところへ向かいました。まさかとは思いつつも、あの
方の寝相が悪ければグレンデル様と同じように整えずにはいられません。 
 けれど私が隣りの隣り、グミの廊下を歩いてクラーチィカ様のところに向かったときは、そのマシュマロは
人を乗せておらず、ただ窓から漏れる月にキラキラと光っているだけです。もちろん人の寝息も聞こえません、
そこにクラーチィカ様はいらっしゃいません。水飴の大きな窓が開いていること、他に何も変化は見られない
ところを見ると、どうやらクラーチィカ様は外の森にお出かけになられたようです。
 私は決意すると、同じように窓から家の外へと飛び出しました。グミの柔らかな弾力を脚で踏みつけ、大き
く跳びあがれば、窓の枠を、身を竦ませてポンッと越えます。夜の風が身を包みました。向こうに着地すると
ひんやりとした、グミから野の感触への変化が脚の裏に感じられます。
311眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:58 ID:Me1CN6L7
 私は歩き出しました。クラーチィカ様の姿を求めて。このような夜にどこへ出かけられたのだろう、と思い
ながら。辺りは月明かりに照らされていても、木々の影などはやはり暗いのです。深い緑と影の黒。そして花
も昼とは違う色をしています。赤の花は少し暗く、青の花はより鮮やかに。緑は月に照らされれば華麗に色づ
き、影ともなれば落ち込んで。今はウサギやリスすらも眠る時刻。私はこのような夜の森を、おそれながらも
興味深く、たとえば花や、茸や、他のあらゆる夜の姿、夜にしか見えない生き物たちを見ていきました。
 月の金色が、空で輝いています。私を照らしています。どのような姿をしているのでしょうか、夜の私は。
美しいのでしょうか、暗いのでしょうか。青の瞳は、青の髪は、クラーチィカ様の目には、グレンデル様の目
にはいつもの私とくらべてどのように映るのでしょう。好んでくれるのか、それとも嫌うのか。この姿は私の
偽りでしょうか、それとも真実でしょうか。
 月の金色は、空高く輝き、その姿を魅せてくださいます。手を伸ばしても届かないけれど。触れることはで
きるのです、あるところでは。私はそれを思い出し、その月に触れられる、森の不思議なところへと向かいま
した。ひんやりとした地面。眠る獣たちの寝息。森のはいまや寝室となります。けれどところどころでは梟の
鳴き声が。ミミズクたちの音色が。夜に生きるものたちもいるのです、この森には。私は眠る狼をおこさぬよ
うにそっとその脇をすり抜けて、二つの木々の、カサカサと深緑の葉が音を立てるその合間を越えて、月を捕
らえる大きな大きな網に向かいます。
 緑が途絶えたときに、そして私は大きな蒼を見ました。水の色。水の香りがしました。白い魚も今は眠って
いるようです。そこは森の大きな湖でした。水が広く、深く流れ、私の目には大きく空のように映る青。そし
てその流れる空から金色が溢れます。ご覧あそばせ、湖は、月の光をそこに捕らえています。
312眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:59 ID:Me1CN6L7
 そして私をも。そう、湖には人がいました、私はその人に心までも捕らわれてしまいました。その方とは、
私はあなたを探していたのです。クラーチィカ様。月明かりをその身に宿す方。いつもよりずっと神秘的。
そう。今の貴女は不思議な美しさを持っています。そして金色の衣を纏い、あなたが微笑めば、私をその微笑
によって捕らえてしまわれるのです。
「こんばんは、可愛いグレンデル」
「は、はいっ……」
 その方は湖面の月を見下ろしていたのですが、私の姿に気がつくとこちらを向いて微笑みました。それから
あいさつを投げかけて、私がそれに答えると、金色の湖より静かに静かに、闇を背にする私の元へと近づいて
きます。私は動けません。一歩たりとも。そのまま、近づいてくるのを、その灰色の瞳に青のグレンデルが映
っています、私はそれだけを見つめて。瞬きすらも、私の心は私の身体に許さずに。
「あなたも」
「はい」
「あなたも、可愛らしいグレンデル。月の光に導かれて、ここへと参ったのですか?」
「いいえ。私は月明かりゆえに眠れずにいました。そうして、あなた様がベッドにいないことに気づき、どこ
へ行ったのだろうと思い、探していたのです」
「そうですか。私は眠ろうとしたときに月を見ました。輝いた空は窓から見るだけでは満足できず、このよう
に外へと出て、より美しく月が見える場所を探していたのです。このような夜に眠ってしまうのは、悲しいこ
とですからね」
 ふわり、と。クラーチィカ様は髪を湖より吹く風になびかせます。金色の風。そしてクラーチィカ様は、そ
の白い肌で私の手を取りました。指を絡ませてくださり、あっと口をつくような驚きもあればこそ、私の手を 
引いてクラーチィカ様は湖の傍へと誘いになれます。私は手を引っ張られるそのままに、クラーチィカ様につ
いていきました。輝く湖に歩み寄れば、ぱあっと黄金の衣を着られるクラーチィカ様。お髪も、頬も、肩も。
乳房でさえも。それは女神のような、綺麗な姿だったのです。私は吐息をこぼします。
「綺麗な、姿」
「そうですね……」
313眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 12:59 ID:Me1CN6L7
私はクラーチィカ様の言葉に、うっとりした心持ちでそう答えました。するとクラーチィカ様は目を細めら
れて、おかしそうにクスクスと笑います。その仕草すらも見惚れるもので、私は次の言葉の意味をすぐに悟る
ことができなかったのです。
「月ではないわ。あなたのことよ、綺麗なグレンデル」
「え……っ、どういうことでしょう、クラーチィカ様?」
 クラーチィカ様は私の髪を撫でます。すっとお手元に引き寄せられると、私の青の髪もまた輝いているのが
わかりました。そしてクラーチィカ様の瞳が瞼に覆われて、クラーチィカ様は再び、こう仰られました。その
ときの言葉を忘れることはできないでしょう。たとえ悠久が過ぎる時となっても。
「『月夜の下にある、可愛いグレンデルは、いまや乙女となりぬ』……」
「……クラーチィカ様」 
 クラーチィカ様の瞳が開きます。そして光宿す、潤んだ瞳で私を見つめられました。そのときの感動は――
いいえ、もはや言葉には表しませぬ。ただ、胸の溢れる光、そのときのクラーチィカ様の姿は忘れぬものにな
りました。クラーチィカ様は私から離れると、湖の水をそっとすくい、静かに私に語ります。それは私が願っ
ていたことでもありました。
「湖の月を、取りに行きたいわ」
「あ……。私も、です」
 湖面に映る月。あの空高くにある月は、手を伸ばしても届かないのだけれど。今なら、触れることこそ叶え
られましょう。青の湖に足を踏み入れ、そこにいる金色に手を触れれば。
「でも、このままだと服が濡れてしまうわね……」
 クラーチィカ様の深い溜息。私はクラーチィカ様の服を見つめます。全身を覆う黒のローブは、母であるグ
レンデル様のもの。全身を覆い、なおかつ毒を扱うときに着るそれは、厚手で、少し大きく、クラーチィカ様
は着心地悪そうにしていますが、水に濡れればなおのこと重く、厚くなるのですから、これを着たまま湖には
入れないでしょう。ではどうなさるのでしょうか。
314眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:00 ID:Me1CN6L7
「では、脱ぐわね」
 クラーチィカ様はそう仰り――月明かりの元で。する、と音がしました。黒のローブがヒュラ、と舞い踊れ
ば、私の瞳にはクラーチィカ様の美しくも可憐、けれど凛々しい全身が映されます。私は一度見たことがある
のです。その裸体を、その素晴らしい肉体を。私は、大きな傷口をこの手で触れて、縫ったのです。あのとき
の糸はどこへ行ってしまったのでしょうか。残る跡はもうありません。私は確かに一度見たことがあるのです、
今と同じこの身体を。白くも細かな肌。乳房は大きく、膨らみとくぼみが、月明かりに明と影を宿します。白
い肌に桜の花の色がありました。胸元から下へと伸びる体つき、腰はけれど一転して細く、すらりと長くて、
呼吸のたびにおへそが揺れています。また、腰の下はふわりとした羊の毛が。柔らかそうな茂りがありました。
そこで僅かに見てはならぬものを見た気がします。茂りの先、色づく奥を。その姿とは、あのときよりも、は
るかに優雅なるものに見えました。触れてすらいないのに。
「あなたも脱ぐのかしら。綺麗なグレンデル」
「いえ、私はこのままで――」
 好きな方にみすぼらしい裸体を晒すことは恥ずかしいのです。私はあえて脱ぐことはせずに、湖のなかへと
脚を進められるクラーチィカ様について、服を着たまま湖のなかへと入っていきました。水は私の素足の裏、
森を歩くうちについていた土を洗い、スカートの生地に染みを作ります。深いところまで脚を進めれば、スカ
ートの布は水のなかへと潜って、風と共に浮き上がると、濡れて水を吸った覆いが見えました。そして脚の裏
から水は股までも登ります。ひんやりとした感触が内股を、水は下着をも濡らしていきます。そうして腰まで
登り、上の服がほんの少し湖に浸かったときに、前を歩いていたクラーチィカ様は脚を止めました。私も脚を
止めます。クラーチィカ様は、どうやら月をお掴みになられたようでした。月はクラーチィカ様のお腹まで濡
らす水に、確かに映っています。
「月の欠片」
315眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:01 ID:Me1CN6L7
 クラーチィカ様は湖のなかに手をお伸ばしになります。腕を、乳房を、一度水のなかに差し入れて、すっと 
抜かれると、ピチャリという水の撥ねる音と共に、その指先には金の光が乗せられていました。どうやら砂金
というもののようです。濡れた乳房と、輝く顔をこちらに向けられて、クラーチィカ様はゆるりと穏やかに。
「月は、確かにここにあるわ。ね、綺麗なグレンデル」
「クラーチィカ様……」
 なんと艶やかなのでしょう。水を受けた乳房は、その身体は。金色の指先は。そして、ああ確かに月はここ
にあるのです。毒の娘を照らしてくださる、美しい方よ。太陽ですらも影をつくるというのに。あなたは私の
心を、深く、深く抱きとめてくれるのですね。 
「あ……」
 ふいに下半身がかぁ、と温まりました。それは錯覚かとも思います。けれどクラーチィカ様の瞳を、こちら
を向いてくださる身体を、穏やかな顔を見ているうちに、私は確かに、水の冷たさよりもそこが温まっていく
のを感じます。私は思わず身を引きました。これはなんなのでしょう、嫌ではないのですが、はじめての感覚
なのです。
「あ、ふ……」
 触ってもいいような気がします。汚くはないでしょう。そこは湖に浸かったときに、洗われているでしょう
から。けれど私はクラーチィカ様の前だと、何かいたたまれないことをするような気がするのです。私は、触
るべきだと思いながらも、やはりそうするべきではない、とも思うのです。これは何なのでしょうか。答えて
くれる人は、私の主人、お母さまはここにはいらっしゃいません。
 私は、ですからクラーチィカ様に訊ねました。
「あ、あの、クラーチィカ様……」
「何? 綺麗なグレンデル」
 恥ずかしいのです。それを口にすることは、何かとても恥ずかしく、けれど聞かなくてはならないことなの
です。そうでなければ、隠し事をクラーチィカ様にするということは、あとあとにも苛まれることでしょうか
ら。
316眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:01 ID:Me1CN6L7
「わ、私は、このようなことを申すことが蔑まれることであると知っているのですが、クラーチィカ様のお身
体を――濡れた裸を見て、とても胸が高まるのです」
「……?」
「胸が高まり、そして頭はぼうっとして、それで私は、けれどクラーチィカ様のお身体から目を離せずにいる
のです、それで、それで、下半身が温かくなってしまって――」
「……グレンデル」
「お願いします。クラーチィカ様。軽蔑されるかもしれません。けれど、この温かくなってしまったところに
指を触れることを、それで私がどうなるのかは知らないけれど、私はそうしなくてはならないような気がする
のです。ですから、どうかクラーチィカ様。お許し願いませんか……」
 誰が許すというのでしょうか。私は言葉を紡ぐうちに、ひどく失礼なことを言っているのだと気づきはじめ
ました。グレンデル様は、静かに静かに呼吸をして、そして言うべき言葉を吟味しているようです。いっそ、
すぐに答えてくださればよろしかったのに。クラーチィカ様はそうして時間を置かれるのですから、私はます
ます羞恥に身体を震わせるのです。後悔に身に縮こめるのです。
 ゆっくりと、クラーチィカ様は私に近寄って、水の音。そして私のそばまでくると、白い手をはためかせま
す。それは驚く間もあったでしょうか。クラーチィカ様は、このグレンデルの利き腕をとって、自分の口元に
お寄せになったのです。そして人差し指を、中指を、お口に含まれて、長く伸びる爪に歯を立てられました。
クラーチィカ様の吐息を指先に感じます。そうして噛んだ爪を、優しくその口元へと吸い込められたのです。
それから爪を離しました。クラーチィカ様の口元より離れた爪先は、綺麗に切られ、整っています。
「馬鹿ね、綺麗なグレンデル。黙っていてもよかったのに」
「……あなたに黙っていることなどできましょうか」
「本当に馬鹿ね、綺麗なグレンデル。そのまま触れてしまえば、爪で怪我してしまうじゃない」
 私ははっと気づいて、それから自分の爪先と、クラーチィカ様の輝かし唇を交互に見つめました。その戸惑
いに気づかれたのか、クラーチィカ様はほのかに甘い声で。
「許すわ。あなたが、自分の身を、私を見て慰めることを」
「クラーチィカ様――!」
317眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:02 ID:Me1CN6L7
 私はクラーチィカ様の言葉に全身を温められます。湖の水はこの身体を冷やすことができるのでしょうか、
いいえそれは叶わぬこと。私はクラーチィカ様のお身体を、じっと見つめます。濡れた乳房はもとより、おへ
そのくぼみに溜まる雫すらも魅力的なものです。ほのかに色づく頬もやはり美しいのです。それらを見つめな
がら、自然と私は下腹部に指を触れました。
「ん……」
 ツキンという感覚。強いものですが、けれど熱くもあり、また心地よくもあり。私は少し指を離して、浅い
ところから触れていきます。クラーチィカ様と違って生えそろっていない毛ですが、それでもわずかに草のよ
うな感覚があり、そこをするするとなぞっていきます。温まったところは、そうして触っていくうちに、手を
も温めていくようです。触れた指先からじんわりと、微熱が伝わってくるようです。私はその熱を感じるよう
に一度目を閉じて、再び開きました。目を閉じても開けても、クラーチィカ様の裸があります。
「おちついて、ね?」
 クラーチィカ様の声。はい、と頷いて、私はそろそろと指先を産毛の上で滑らせます。水をぱしゃ、ぱしゃ
と鳴らして。そうやって感覚を、受け入れていきます。気持ちいいのだという感覚を。喜びであり、楽しみで
あるのです。この行為は。愛しい人の前でするということも。
「空いた手で、乳房にも触れてみなさい」
「はい……。んっ……!」
 どうしたのでしょう私の胸は。トロリと蕩けてしまうような気持ち。触れたとたんにピクリと震えて、指を
沈めれば確かな弾力。そして乳首のあたりが疼くのです。おそるおそる、そっと色づく乳首に触れてみれば、
全身に痺れるような刺激が走ります。
「指を、水に濡らして。それからもう一度触れて」
「ん……。は、はい……」
318眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:03 ID:Me1CN6L7
 私は一度湖のなかに手を入れます。そして再び、手を上へとあげて、胸に触れました。ひんやりとした感覚
がまた、なんともいえず。そして胸を撫でまわすうちに、それがまた、温められることなのだと知りました。
濡れた指先で、またおそるおそる指を触れます。それは先ほどの驚くほどに激しいものとは違い、ゆったりと
した、ゆるやかな快楽でした。そうして私が指で、胸をまさぐることに執心していると、四度クラーチィカ様
の声がかかりますと、それが楽しそうな響きを持っていることに気づきます。
「グレンデル。下の手が止まっているわ」
「あ、はい……」
 私はその言葉に火照った頭で答えて、それからまた産毛のあたりを撫でます。けれどそれは先ほどより何か
物足りないようなものなのです。速く撫でてみても、その不足感は拭えません。クラーチィカ様はそんな私の
様子に、また言葉を投げかけられました。
「もう少し、奥まで指を入れてごらんなさい?」
「……はい」
 私は人差し指のおなかを、少しだけ入れてみました。けれどまだ不足感を感じます。もう少し。まだ。指を
折りまげて、そうしてはじめの折り目がすべて埋まると、はじめて充足感が得られました。かあっと身体が熱
くなって、それは先ほどとは比べものにならないほどです。
「あ……ん!」
 濡れたものが指先を包みます。指先を包み、それは湖の水と共に流れていくのですが、濡れているものは身
体の奥から溢れるもので、水ではないのです。水でないとすれば何なのでしょうか。身体の奥から、喜びに応
じてますます多くこぼれる液体は。しっとりと、湖とその液体で濡れた私のなかは、胸と同じように馴染み深
い気持ちを与えます。このまま熱に犯されてしまいたい。クラーチィカ様の視線を感じながら。クラーチィカ
様の灰色に私の青い瞳と、はだけた服の下、胸や、スカートの奥の身体が映っています。その色は月の色が隠
すことなく晒せさせるものですから、確かに私の白い身体はその人に見られているのでしょう。
319眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:03 ID:Me1CN6L7
 ぽちゃ、ぽちゃと水が泡を浮かべます。私から滴る液は、湖の上へと浮かび上がります。水の色とも違いま
した。白をわずかに帯びる色です、色づいたものです。そしてクラーチィカ様はそれをそっと手にすくうと、
ご自分の手の上で弄ばれました。それがまるで自分自身がそこにいるかのようで、芯から身も震えるほどの熱
が湧き起こりました。
「さあ、もう少し、その下半身のくぼみに触るの。それから、その小さな突起に」
「ああ……。はい……」
 その言葉を拒むことができるはずもなく、私は思いのままそのくぼみに指をしずめて、水の中で渦を巻くよ
うにひとさし指を回します。小さな突起に触れたときにはまるでこの身が吹き飛んでしまうような。そしてそ
の度に自分の呼吸が聞こえます。荒ぶる暴風のような息。はぁ、はぁと短く速く息をついて、息を吸ってはこ
の上ない思いを、クラーチィカ様への気持ちを自分自身の気持ちを。
 喜び羞恥、あるいは楽しみ快感。私は高まるのです、楽器を弾き鳴らすように、私の身体を弄び。そして何
ということでしょう、私はクラーチィカ様に自分をさらけ出しました。服とスカートを湖の上に投げ捨てて。
夜の空に、布が舞い踊りました。そして自分の胸を、下腹部を触れて、弄るという行為をクラーチィカ様にま
るで見せつけるように。言葉でもねだってみせたのです。  
「はっ……クラーチィカ様、見てください――!」
「グレンデル……」
320眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:04 ID:Me1CN6L7
 クラーチィカ様は見ます、まず私の胸を。そこはクラーチィカ様ほどではありませんが、ほのかに盛り上が
りを見せて、白い肌に花のつぼみ。その花を私の指は撫でながら、ときおり摘み、また弾いて、圧しては離し、
引っ張ってみせるのです。子供が物珍しい玩具を与えられたように。私は知りえぬ自分の身体を、その感覚を
確かめていくのです。続いてクラーチィカ様は、私のお腹を見ます。そこは呼吸の度に上下します。息をすれ
ばわずかに膨らみ、息を吐けばまた戻ります。私が身をのけぞらせると、そこはピンと張るのです。身をよじ
ればお腹も曲がり、おへそもくるくると動きます。そしてクラーチィカ様は私の亀裂に目をむけられました。
そのときにその視線は奥底までも捕らえたようで、はっと私は身震いし、そしてじわりと液は滴り落ちます。
その液体が先から出るときに、じわりと熱いものを感じました。クラーチィカ様はそのまま私を見ます。私は
指を暴れさせています。そうやって、なおいっそう奥へと差し入れては戻し、また入れます。ほんのり赤みか
かった私の秘裂は、開いては閉じて、また開きます。奥がときおり覗いています。そうやって、液体の溢れだ
す様を見届けると、最後にクラーチィカ様は私の青い瞳を見つめました。私はずっとクラーチィカ様の灰色の
瞳を見ていました。二人の視線は、そこで交差します。
 クラーチィカ様は悪戯っぽい笑いを浮かべました。
「もう限界よね? グレンデル」
「――!」
 促すような言葉! そこで私はずっと耐えていたものが、こぼれてしまうのを感じました。そう、限界なの
です。言葉どおりに。私は水のなかが一瞬に燃え上がり、酒の匂いのようにうっとりとするものが全身を包む
ときに感じます、とける甘い蜜であり、ふくよかな砂糖菓子であり、香り立つ果実であり、けれどそれよりも
ずっと甘美なるものを。身体が溶けてしまいそうです、心はすでに溶けきりました。そしてああ、クラーチィ
カ様、あなたはどうしてそのように優しい微笑を浮かべられるのです。身体はあなたを求めてやまぬ、どうか
抱きとめて欲しいと願うのです、けれど身体の芯までも染み渡る心はそれを拒んでみせましょう。
 愛しています、クラーチィカ様――。
321眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:05 ID:Me1CN6L7

 月夜の明かりに身を落として、大きく上がる水飛沫。
 それを見ながら倒れる私。そのとき感じた温かな手、
 柔らかな抱擁、そして力の抜けた私の腕を、
 そっと掴んだクラーチィカ様の両手……。

「綺麗だったわ。グレンデル。あとは、ゆっくりお眠りなさい」
322眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:06 ID:Me1CN6L7



 翌朝に目が覚めたとき、私はいつものマシュマロのベッドに寝ていました。窓から漏れる木漏れ日には、昨
日の月の破片もなく、いつもの朝を思わせます。ああ夢ならば安らかな夢、仕合せな夢。けれどそっと指先を
見ますと、そこは昨日の夜とは違い、確かに短くなっていました。つまり――あそこを弄ぶとき、邪魔になら
ないように。身を起こせば、やはり先日の温もりが身体のあちらこちらに残っています。そして私を抱擁して
そのままこの、お菓子の家へと帰ったと知れるような、クラーチィカ様の温もりも。
 こん。こん。と、音がします。見上げればそれは水飴の窓から。私は窓を開いて、その音が何かを確かめま
す。それは窓の外に立っていた人が、水飴の窓を叩いていたのでした。私はその人を見て顔を熱くします。そ
れはクラーチィカ様でした。
「昨夜は」
 私は何もいえず、ますます顔を熱く火照らせます。けれどクラーチィカ様は何事もなかったかのように、こ
う言いました。
「はじめて会ったときと、正反対だったわね」
「え……?」
「そのときは、あなたに抱きかかえられてこの家へと来たのよ」
 その言葉で、はじめて会ったときのことが鮮明に思い返されます。傷口を縫ったばかりの、血に濡れた人の
両脚を抱きかかえて、落とさないように必死にこの家へと走ったこと。その最中に血の匂いが頭を刺して、く
らくらと気分が悪くなったこと。なんとか家のなかへと運び込み、自分のベッドに横たわせて、そのまま私は
意識を失った、そのことを。そしてその時の自分が不思議に思えるほど、今の自分はこの方を思っている。
 クラーチィカ様は私を見つめたまま、しばらく黙っていました。
「綺麗なグレンデル。あなたは本当に魅力的な女の子だと思う」
 私はクラーチィカ様を見ました。クラーチィカ様は、そのまま唇より息を吐きます。
「そして優しい心を持っている。愛らしいところは数え切れないほど」
「……クラーチィカ様」
323眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:07 ID:Me1CN6L7
「けれど」
 そのときに王妃さまはこう仰いました。
「それでも、クラーチィカにはとうていおよばないの。私はあなたをクラーチィカよりも愛することは、絶対
にできない。それだけは知っておいて」
 私はその言葉を受け止めました、二つの耳で。そして私の心が一度引き裂かれるのを感じました。けれど心
はまた癒されました。それから私は、王妃さまに笑顔を見せました。あなたの仕合せを願い、笑顔を見せて。
それから。
 涙を流して。青の瞳から、とめどない雫をこぼして、そして頬を、口元を、喉を濡らして。私はけれど、笑
っていられたでしょうか。あなた様。笑っています、涙で霞んでしまっていても、あなたの瞳には青の髪の娘
が、笑顔で映っているのが見えるのです。ああ、だからあなた、どうかお仕合せに、あなたの、愛するクラー
チィカ様と。
「……はい、クラーチィカ様」 

 そうしてクラーチィカ様は私の言葉に頷き、歩き出しました。ああ、悲しいこと。悲しいことを……愛する
がゆえに。私の思い、仕合せ、けれど毒ともなる。苦しいから、切ないから、どうにもならない思いの行く末、
これはどこへやればよいのでしょうか。私の行き場のない思いが心を蹂躙し、引き裂いては焼き焦がし、溺れ
させては打ち砕くというのに。私は何を思えばよいのでしょうか。
324眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:08 ID:Me1CN6L7
 グミの床は、足音一つ立てません。ですから私は気づきませんでした。そこに、私の主人、創造主、母、父、
グレンデル様がいることに。グレンデル様はすべてを見ていたようでした。私の涙も、あの方が去ってから、
ますます哀しみに嘆いて身体を涙の海に沈めたことも。そしてグレンデル様は私の元へと近づきます。
「やっ――! 来ないで下さい……っ」
「お前にそれを言う権利はない。私はお前の主人なのだから……」
 そしてグレンデル様は、私をその両手に包みました。悲しみに底冷えする身体を、温かな両手で覆ったので
す。夜の肌が私を抱きました。そうして、グレンデル様は私の流れる涙に身体を退かそうともしないのです。
たとえ服が濡れたとしても。私が離そうと試みても。
「残酷な……ご主人様」
「……それでも優しい主人だと思うぞ、お前の母は」
 そうしてお母さまは、私の傍にいてくださいました。いつまでも、いつまでも。私が泣き止むまで。
 私は癒されたのかもしれません。そのときに感じた気持ちは、お母さまの愛。
 グレンデル様の、思い。
325眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:09 ID:Me1CN6L7
 


「……。どうやら再び烏の姿を借りて、あの国へ行かなくてはならないようだ。 元王妃とグレンデルもそろ
そろ落ち着いて来た頃に、元王妃の居所が依然と知れないことに腹を立てた王が、なにやら動き出したらしい
との噂を聞いた。その真偽とはどのようなことか確かめなくてはなるまい。む、どうやら王がやってきたよう
だぞ。黒いこの身を白い城へとすべりこませる。どこだ王は。どこへ行った。あそこか、玉座の間か」

(玉座の間)

「おのれ憎きは元王妃と忌わしき娘よ、元王妃のゆくえは以前とつかめず、茨の塔の毒どもは、いっこうに退
く気配がない。かくなる上は国の金庫を開けるより他にあるまい。元王妃が生きておれば、王たる俺の身の破
滅。さあ、まずは集めるのだ。元王妃を探す力のある、人知を超える偉大な獣を。それから毒を持つ害敵ども
を打ち破る、数多くの傭兵を」
「なんと。人知を超える獣と、傭兵を得ようとしているのか、この王は。なるほど確かに多勢に無勢、あたし
の放った毒たちも、数多くの傭兵を前にすれば、たやすく蹴散らさられるのみ。どんなに大きく広い森でさえ、
たとえばあの『ベーオウルフ』などという強大な獣を前にすれば、ただの木陰となるだろう。おおなんたる危
機、急いで帰って対策を講じなくては」
「む? なんだそこにいるのは。なんと! 黒い鳥ではないか。これは白の城に黒の鳥、これぞまことの不吉
の証、ものども出会え、出会え! すぐにこの烏を射止めろ、賞金を出すぞ」
「しまった。見つかった。くっ、なんたる勢いある弓だ! あたしのすぐ脇をすり抜けていったが、風を切る
音すさまじく、当たればこの身ただでは済むまい。それもあっという間に数千本が飛び交うぞ、さあ逃げろ、
飛びまくれ、はやくこの城から逃げ出すのだ」
326眠らぬ姫は罪人のように :03/11/16 13:09 ID:Me1CN6L7
「窓から逃げたぞ、追え! 追え! ……そうだ、羽に当たったな。烏がよろめいたぞ」
「やられた! 片羽に突き刺さったこの矢の、なんと苦しく痛いこと。ああ抜きたい、赤い血が流れる、ドク
ドクと、まるで滝のように血があたしの黒い身体に降りかかる。意識すらも遠くなる、だがなんとかたどり着
かなきゃなるまいて、あたしの家に。お菓子の家に。このままではあたしのみならず、元王妃も姫君も、愛し
いグレンデルもこの世にいない人となる。そうなる前に、この危機を乗り越えなくては!」
「おお、烏は落ちていく。国を離れて落ちていく。よくやってみなの衆、あとで褒美を取らせてつかわす。お
お森へと落ちていく。あとは森の獣が、あの鳥を喰らってくれるだろう」

「行かなくては、私の家へ。お菓子の家へ。頼む、もってくれこの身体。グレンデルが傷を癒してくれるまで。
たとえ癒されたとしても、もはやこの老体には血を戻す力もないだろうけれど、王の企みを破るまでの、ほん
の僅かな時間ならば、生き長らえることもできるだろう」

 魔女は血を流し空を飛ぶ、翼落ちつつも空を飛ぶ。国の外れの森までも、急げや急げ。
 黒い烏の赤い翼。はためけば血は空へと消える、急げや急げ。
 王のたくらみ阻止するために、飛べよ烏よ、手負いの魔女よ。
 お前が死に際思うのは、先代の妃か、今の娘か。
 死を願うのか、命永らえることを願うのか。
 お前は誰を思い空を舞う。
 誰の為に空を飛ぶ。
 魔女は血を流し空を飛ぶ、赤の翼はためかせ空を飛ぶ、
 おお誰がお前を黒い鳥などと思うものか! こんなに紅く染まった鳥を。お前のどこに闇があるのだ。
 太陽がじりじりと焼けつけようとも、お前は苦しみ喘ごうとも、
 どんな不幸が先に待っていようとも。
 たとえ力尽きようとも、意識薄れてなくなろうとも、
 お前は愛する娘の下へ、
 確かに確かに舞い降りた。

To be continue...
327名無しさん@ピンキー:03/11/16 13:26 ID:Me1CN6L7
うわああああ(AA略)  >>296の最初に行抜きがありました、2です。ごめんなさいっ!
相変わらずのエロくない小説でなんかどこか前回の設定無視している気がするのですが、
ともかくも今回で少し読みやすいところがでてきた・・・でしょうか? 
296-302とか325-326とか。
他の職人さんたちにも負けないようにガンバルゾーヽ(´`)9 オー

>282-287の作者さま
間に挟む形になって申し訳ありません;
休日しか執筆、投稿できる日がないのです……。(TД)
328327:03/11/16 13:45 ID:Me1CN6L7
ごめんなさい、
>280-287の作者さまですっ。
なぜこんな過ちを・・・。
329名無しさん@ピンキー:03/11/16 16:08 ID:glcJc4bF
>>327
眠らぬ姫続きキター
とりあえず乙
童話チックな空気がなんかイイヨー
でもエロの比率が少ないかな
次はもうちっとエロくしてくれることをキボン
330腐男子:03/11/19 23:47 ID:tRsudZrP

 〜以下の文章は水曜深夜にまったり放映中・AVENGERにおける
         世界観や、キャラクターとは一切関係がありません〜

 ドーム市民という名の、生ぬるく気取った顔をした住人どもは好きになれないが、
街を訪れる事はけして嫌いではなかった。
 都市という場は補給には至便この上なく、また出会う闘士は好戦的な割に技がないのでいいカモだった。
 もともと、好きな人間、共に居て心地いい相手なぞはこの世に持ったことがない。

 その日も、立ち寄ったドームの路上でのこぜりあいに連戦連勝し、小銭には不自由していなかったので、
夕暮れどきには食事をすませ、通りに面した大きな旅籠の、それなりに上等な部屋に入ることができた。
 粗末な荷をほどき終え、タオルを首にかけて、寝室の隣にあるバスルームに鼻先をねじこむと。
 驚くことに、そこに先客がいた。

 三十がらみの年増女。
 衣服の趣味はけばけばしい。
 ココア色の肌を持ち、くすんで赤い髪は長く、床に向かってウェーヴの渦を描きながら
ゆったりと腰までも流れ落ちる。
 腰掛け椅子に膝を開けてまたがり、浴室じゅうに脂粉のにおいをまきちらしていた。
 女は、目元から毒気を発しているかのような、どぎついアイライン越しにこちらを見あげた。

 バスルームの入り口で立ち停まった、レイラは鋭く誰何の声をだす。
「何者だ」
 切れ長の瞳でこちらを見すえつつ、女は言った。
 そまつな椅子に腰掛けたまま、ゆったりと。
「アタシは、この宿のもてなしのひとつよ」
 つまり。
 《娼婦》。
331腐男子:03/11/19 23:48 ID:tRsudZrP

 バスルームのひびわれた象牙色の壁を、乾いた沈黙がうち叩いた。
「お嬢ちゃん……」
 棒立ちのレイラ・アシュレイの目の前で。
 長煙管を片手に立ち上がった娼婦は、わずかに身を引く若人の鼻先へ身をのりだし、
腰に手を当てちろりと上目をつかう。
「もしかして、知らなかったの? ここが『そういう』宿だって」
 この部屋の客は、イラ立ちをまったく隠さずに言い返す。
「知るか。風呂のある部屋を頼んだだけだ」
 不機嫌を大量の針に変え、逆トゲだるまにしたようなセリフを投げつけても、
年増女はまるでひるまない。
 大きな目をくるりと回し、おどけるように言った。
「あっ、そう。で、とりあえずお風呂入ってからにする? あ、お背中お流ししましょっか?」
「今すぐここから消えろ」
 相手の目も見ず、レイラはぐるり、きびすを返す。かかわりたくない。路上の連戦で疲れていた。
「そんなお安いセリフで、このアタシを追い払えると思ってんの?」
 赤い唇のあいだからタバコの煙を吐き出し、キセルの頭をぽんと叩くと。
 客のすぐ左わきにまで歩み寄った商売女は、レイラの胸元へ無遠慮な視線を投げた。
「あんた、十六くらいね? こんな若い子、見るのだってひさしぶりよ。サービスしたげるわよ♪」
 赤い唇のはしを釣りあげ、にんまりとした笑顔を見せる。
「この…」
 闘士は脅しがわりに軽く、右の平手を振り上げた。
  しかし、軽く頬でも打ってやろうとした動作をなぜかかわされ、
「ほーんと、若いっていいわねえ! この、肌! 白くってスベスベで、もう!」
 べったりと背中に抱きつかれた。
332腐男子:03/11/19 23:49 ID:tRsudZrP

 素人に技をかわされた、レイラはぎりりと奥歯を噛み締めた。
「貴様……」
「ウリやってる女をなめるんじゃないわよ。いっつもヒモにぶたれ慣れてんのよ」
 商売女はレイラの火のような視線を果敢ににらみ返し、タンカを切る。
「宿賃にはあたしのお代もコミ込みになってるんだから、あたしを戻してもお金は帰ってこないわよ?」
「知るか、」
 レイラは女の手を手荒く振りほどき、腹の底より怒りを吐き出す。
「私に触るな!」
 と、娼婦がいきなり、さっと伸びあがるやその唇からキスを奪った。
「ムゥッ」
 “ざっ”と身を退く闘士レイラ。
 うめくなり、右手で口を押さえる。
 舌に残る不快な甘みと、早くも全身に広がりはじめる脱力感におぞけをふるった。
 これは……色街の麻薬。
 麻痺の毒を、仕掛けられた。

 すぐさま床へと唾を吐いたが、身の痺れは弱まらず時間とともに広がっていく。
 やがて、声もなくがくりと床に膝をついたレイラを見、娼婦は無遠慮に肩へ手を置いてくる。
「はじめてだって、いいじゃないさぁ。ベッドのことを覚えといてソンはないわよ?」
 勝ち誇ったような微笑を浮かべて言い放つ。
「あんた、ハンサムだしぃ!」
「この……」
 全身の力を振り絞って顔を上げたレイラは、加減もなにもなしに本気の肘打ちをくりだしたが、
やはり麻痺のため当たりもしない。
 あげた両手を反対に押さえ込まれ、そのまま体重をかけて傍のベッド上に体を倒し込まれる。

「×?@※ξΞ×μ?B××ΨЮ≒Ж×Я×!!」
 背中からマットレスに押し倒された、バルバロイは断末魔のごとき異郷の呪いの言葉をばらまく。
「たぶん、ヒッドイ悪態ついてるんでしょうけど、ぜんぜん意味わかんないわよ」
 あきれたようなため息とともに女が茶々を入れた。
333腐男子:03/11/19 23:51 ID:tRsudZrP

 すでに旅装を解き、薄着にしていたせいもあり、麻痺した身体から服を脱がせるのにさほどの手間はない。
 首を落とされるにも等しい屈辱に、うなりながら耐えている闘士に対し、娼婦はうきうきとご機嫌だ。
「あー、楽しー。久々に、やる気出てきたわー」
 内心の抵抗もむなしく、すべての衣服を引き剥がされ、胸の双球があらわになる。
 指先であごを取られ、仰向かされた。
「はい、ちょっと口開けてね♪」
 唇を甘く噛み舐めあげたあと、やがて舌をからめるキスに移行する。
「ム」
 娼婦の口紅からうつる赤いキスの跡が、頬に、喉に、首筋に圧しつけられて残る。
 女は互いの乳房をこすり合わせるようにしてレイラの身体を抱きすくめ、背中に指を這わせた。
「あら…」
 背中の傷に指が触れ、女はすこし驚いたようだった。
 右の肩甲骨の上に、ボロキレのようによれて、ひどく変色した皮膚が貼りついている。
 斜めに走った、薄れかけた継ぎ目に沿って、娼婦はその傷口をゆっくりと指先でなぞる。
「や、やめろ……触るな」
 レイラが、組み敷かれてから初めて、言葉を出した。
 相手の腕から逃れようとして、ふたたび身じろぎをはじめる。必死の表情で。
 抱く腕をゆるめず、しかし女は少し驚いたように問いかけた。
「あんた、よく生きてたわねぇ。こんなにひどく背中をぶった切られて、さ」
 うつぶせにした背中に頬をなすり、生癒えの傷をなぞるように舌を這わせた。
「く」
 女にのしかかられ、背をそらせる闘士。
 
334腐男子:03/11/19 23:54 ID:tRsudZrP

「鍛えてるわね〜このひきしまった腰のライン。まるで良くできた、彫刻みたい」
 香油を塗った手で全身を撫で回され、声もでないレイラの均整のとれた全身を眺めわたし、
女はまた、ひとつため息をついた。
「ホンットにきれい……」
 手のひらと指の腹とでボディオイルを塗りつけながら、うっとりとした様子で呟く。
「アタシがもし、市長みたいな大金持ちだったら、あんたみたいなのに闘士の殺しあいなんてさせない。
硝子張りの広間に閉じ込めて、綺麗な衣装を着せて餌をやって。そして自分は部屋のそとから一日じゅう、
眺めているわ」
 やたらに凝った賞賛のセリフを寄せられても、しかしレイラは、女郎蜘蛛の獲物の如く身動きがならない。
「う…」
 娼婦は“お人形さん”状態の相手の、腋の下に手をさしいれ、引き起こした耳元に囁く。
「で、この傷はどうしたの」
「……」 若者は答えない。
「言いたくないの」
 耳朶を舐められ、さらに手くだを加えられる。
「ふッ」
335腐男子:03/11/19 23:54 ID:tRsudZrP

−−−−−−−−−−−−

 陽も、上がりきった翌朝。
 女に洗濯をしてもらった服を着込みつつ、
「まあ、あんたはどう見ても、ふつうの人間より言いたくないことが多そうだけどね……」
「そんな昏い眼をしてちゃ、長くはもたないわよ」
「どうしてもね、一人ぐらいは心を許す相手がいないとね、この世ってのは辛すぎるのよ」
「いらん」
 むっつりとした顔で、年増女の忠告を聞き流していたレイラが、ぼそりと一言。
「そう長く、生きるつもりもない」
「そういう奴にかぎって死にぞこなうのよ」
 女は、切れ長の目から不安げな視線を投げる。
「人じゃなくてもいいのよ? 好きなものは。たとえば、空だって。小さなお守りだって。ドールだって」
「説教は聞かない」
 ブーツを履き終えたレイラは、ぱちんと外套の留め金を胸の前であわせると、
「…と、言いたいところだが……」
 低く、小さな声でつぶやいた。
「心の隅にはとめておく」
 マントをひるがえし、部屋を発つ後ろ姿を見送って。
「まったく……」女はニヤリと微笑みながら、手の中のキセルをぽんと打った。
「カッコいいわねえ!」
336終了。:03/11/19 23:56 ID:tRsudZrP

 #なんかすいません……いろいろ……
 ##やっぱネイじゃないとエロぢからが出ない……
337名無しさん@ピンキー:03/11/20 00:19 ID:FgzDZh8R
>>腐男子氏
強姦されるレイラたんキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
グッジョブ!
(*´Д`) ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア
338名無しさん@ピンキー:03/11/20 09:59 ID:+cVAhR6o
>>330-336
 腐男子氏よかった!!すんごいよかった!!
レイラ実際にこういう人生送ってそうだ!!
339名無しさん@ピンキー:03/11/20 22:27 ID:+Zvqy14a
>>腐男子氏
いい話でハアハアなんだけど・・・
なんというか・・・チャーシューメンを注文したのに普通のラーメンが出てきたような
そんなせつないような物足りないような感じがある・・・

つまりエロシーン飛ばさないでほしかった
340名無しさん@ピンキー:03/11/20 22:29 ID:H6etbwap
仮にも女性に「若者」は……
341名無しさん@ピンキー:03/11/20 22:45 ID:QyMVk05B
>>339
それは俺も思った
でもエロシーン入れたら喘がせなきゃいけないし
喘がせたらレイラじゃなくなる気がする・・・
やっぱりレイラ受けは難しいみたいだね
342腐男子:03/11/20 23:58 ID:bofcw9hZ
 337様、338様、愉快なご感想誠にありがとうございます。皆様の温かいリアクションだけが、励みでございます。

>339様
 (=゚ω゚)ノ◎ チャーシュードゾー
>334-335 のあいだは各自で補完していただくと……なにしろ相手はプロですから、
     そりゃもうあーんなこともこーんなことも。二穴攻めとか。

>340様
 「青年」を自粛して「若者」にしましたヽ(゜ヮ゜)

>341様
 精神的にはネイ×レイラだと思うのですが、ビジュアル的に造型が難しいです。
 乗り越えるべき課題と捉え、今後とも精進させていただきます。
343名無しさん@ピンキー:03/11/21 00:01 ID:8+JAX3KH
>>342
 うお!そう!その「精神的にネイ×レイラ」がスゴイ
よかった!!!
344名無しさん@ピンキー:03/11/21 00:48 ID:8g4zFeXs
>>腐男子氏
そうか!問題は体位だったのか!
確かにあそこまで身体の大きさが違うと無理があるわな・・・
345名無しさん@ピンキー:03/11/21 01:53 ID:gXizlIY7
攻めているようで、実はネイにご奉仕している、というわけですか?
346名無しさん@ピンキー:03/11/21 19:46 ID:Y05dJZin
>>334-335の間を書いてくれる神の降臨をキボンヌ
347名無しさん@ピンキー:03/11/22 01:23 ID:teuZDMQA
ここ盛り上がってきたことだし、
そろそろまとめサイトが欲しい鴨…
348名無しさん@ピンキー:03/11/23 04:39 ID:4Ekklnfx
このスレって、他スレに投下された百合エロネタを報告する機能もあったらいいなーと思うんだけど、どお?
やっぱり百合ネタは少ないし…ステルヴィアスレ(まだみてないが)あたり、百合ネタありそう。
発見した人が報告するってのはダメかなあ。
349名無しさん@ピンキー:03/11/23 04:47 ID:0Rd3JsYG
>>348
 それいいなぁ。自分は一票いれときます。
350:03/11/23 04:56 ID:PVIt/seJ

 荒れ果てた土。鉄、機械の残骸はあちらこちらの塵屑。Mars、火星という名の星。紅い色。
 ひとは閉ざされるドームのなかで暮らしている。開かれた外に、人の気配は、ない。
 けれど。風が吹いて。土が舞い上がれば。砂が、目立つ突起に吹きつければ。なにかが見え
る。紅い土のなかに、ある、なにかが。そこには一つのテント。一つのモービル。テントには
二つの影。中には女が、二人。こげ茶色の髪と。コバルトブルーの瞳。整った顔立ちと長い首
筋の女性。もう一人は狐色の髪。右にエメラルド、左に紫夜を瞳に宿す少女。小さく細い首に
ある首輪と、右耳の反対に見える機械が、その少女がドールであることを示している。

 ドールの名前はネイ。その眼前に立つ、こげ茶色髪の女性を見ながら、ネイはクスッと笑っ
た。こげ茶色髪の女性は、その微笑、ネイの仕草に細く長い眉を八の字に曲げる。そして鋭い
頬をほのかに赤く染めれば、マントと、服をまとう長身をふるっ……と震わせた。何かがそこ
にあるみたいに、腰のあたりを両手でしきりに撫でながら。
「……レイラ様」
 ネイの指先がこげ茶色髪の女性――レイラと呼ばれた女へと伸びる。ネイの小さな身体から
そのまままっすぐ腕が伸びれば、レイラの腰に触れられる。小さな手の感触。ネイの人差し指
が、レイラの濃緑のズボンに触れた。はっとレイラの表情が変わり、それからネイの小さな絡
鼠が、そろそろとそこを撫で始めると、レイラは脅える子猫のように声を殺して、小さく呼吸
をしながら、ネイの指の動きにあわせて、遠慮がちに腰を動かす。――そう。ネイの指に、自
分のそこを押し付けるように。
「……っ……」
「気持ち、いいですか……? レイラ様……」 
351:03/11/23 04:57 ID:PVIt/seJ
 ネイがぎゅっと指を圧しつける。下半身のくぼみに、指を埋めるように。その瞬間、レイラ
から声にならない声が漏れた。ネイは大きな目をすっと細めて、レイラから指を離す。そして
滑るような動きでかがみこみ、テントの傍らに落ちていた短剣を手に取ると、それをレイラの
首の下、服にあてた。
レイラの表情がほんの少し陰る。ネイの手が下に傾ぐ。短剣も下に。チリ、と布が切れる音が
した。ネイがふっと口元をあげる。レイラの瞳が大きく見開かれた。
「……私に、脱がされるのが、いいですか……? それとも自分で……脱がれますか……?」
「……っ」
「黙っていては……わかりませんよ……レイラ様」
 ネイはうながす。レイラは恥じらい深く、たどたどしくも、ネイに訴える。小さく、細々と
した声で。
「……自分…で……脱ぐ……」
「ふふ」
 ネイは短剣を放り投げると、それはテントの彼方へと抜ける。それからレイラを向いて、瞬
きの合間もなく凝視する。ネイの視線を感じながら、レイラは温かい息を漏らして、自分の服
に手をかける。マントの留め金を外すと取り除き、胸の紐をゆるめると、ベルトを解き、首を
抜くと、両手を伸ばして、折り、背中に回して、服を上に引き上げた。緑が除かれると、続い
て黒の覆いも取り除かれた。ネイの二つの瞳に映る、レイラの皮膚。胸のふくらみ。細い腰。
肉つき、骨つき、ネイはそういったものを愉しげに見つめている。
「てぶ、……くろ……」
 レイラの呟き。ネイはレイラを見上げた。それから、思いついたように眉を上げる。
352ID変わりながら3:03/11/23 05:07 ID:PVIt/seJ
「……そのままに……しましょう。レイラ様」
「……」
 一度取りかけた手袋を、レイラは再び戻す。ネイは目を細めて。それから、つと五ツ蛇を差
し向けた。自分の唇に含み離して。唾に濡れて光る指先をレイラの露わとなった乳房に。乳房
は肌の色、唇というルージュの色。ネイの指は、肌に触れる。液体の触れる音、水濡の感触。
レイラはただ、身を委ねる。――これからされることへの期待に、鼓動を速めながら。
「レイラ様……」
「っ……」
「いつもみたいに……できますよね……?」
 ネイの指の下で、レイラの心臓がはねた。レイラの身体から汗が滴る。ネイの言葉に高ぶる
心が、熱を生む。レイラの心が熱く。いつもみたい、という言葉に。それは屈辱。羞恥。女に
は未知だった自分の身体が、この少女を手に入れたときからは、比べものにならないほど開発
されたことへの。そして。その、悦びはますますレイラを燃えさせる。
「……は……い……」
 堕ちた肉体はネイの前に跪き、胸のふくらんだ肉を進んで差し出す。ネイの手を取り。その
指先を、レイラは丹念に舐めていく。指の裏までも、爪の奥までも。手のひらの皺も、生命線
からなぞっていった。ネイはふっと笑い、レイラの髪を掴む。顔を持ち上げられて。舌がネイ
の手から離れると、レイラは名残惜しそうに口のまわりを舐めた。ネイは可笑しそうに言う。
「つけて……ほしいですか……? これを……」 
「う……」
353と思ったら;変わらず4:03/11/23 05:08 ID:PVIt/seJ
「ほ……しい……」
「そう…ですか……」
 瞳が閉じる、ネイの。それから少女はレイラの首筋に手を回して――それを。レイラに取り
つける。レイラは陶酔した視線をネイに向ける。それから、ネイがレイラの顎を自身の手の上
に乗せて、自分の小さな唇とレイラの鋭い口元を重ねると、そこに舌を入れて弄る。レイラは
素直に応じる。ネイが舌を絡ませれば自分もそれに答えてネイが誘えば、その可憐な唇へと舌
を伸ばす。ネイは唇を離した。
「……これから……しますよ……。レイラ……」
「あっ……」
 ネイの言葉に。レイラは小さく頷く。そして、自分の下半身を覆っていた布を、脱ぎ捨てる。
すべて。そうして、取り除くと恥ずかしげに股を閉じるレイラ。そのレイラの、濡れた女性器
はネイに見つめられて、液体をポタポタと滴らせた。
「おねがい……だ。……ネイ、様……」
「……いいのですか? スピーディ様に、気づかれてしまいますよ……」
「……いじわるを、いわない、で……。ネイ様……」
 ふわりとレイラに被さる、ネイの身体。そのままレイラはネイに導かれて、床に身体を横た
えた。仰向けのレイラを、馬乗りになったネイは微笑を浮かべたまま、レイラを見つめて。そ
っとその乳に舌をなぞる。ちゅぷ、ちゅぷ。という、そのような音を鳴らして。レイラの耳に
もネイの耳にもそれは聞こえた。柔らかな感触はネイの舌に感じられたし、まどろむような快
感はレイラの胸から、その頭を溺れるほどに満たしている。
「っ……ネイ……様……!」 
 ネイの舌は気持ちよくて、レイラの唇から悦びがほとばしる。ネイは何も言わずに、ただレ
イラの思いを察したことを示し舌を大きくはためかせて、桜色の乳首をも巻き込み、絡めては
咥えてコロコロと転がした。
354:03/11/23 05:10 ID:PVIt/seJ
 レイラの臍の下からは倒れた水瓶のように液体が溢れて、床に落ちる。ポタ、という音。大
きな雫が落ちれば、その音はなおも高く。それらは風に滑ると、レイラの背中を濡らして、そ
のまま土を伝っていく。
「レイラ……」
「っ……」
 唇を離して、ネイはレイラの蕩けた瞳を、上気した顔で見つめる。レイラがネイに見惚れて
いる、それに満足しながら、メイはすっと秘裂をレイラの唾で濡れた指の面で撫でて、陰核を
ピンッと弾いた。
「っっ……」
「くちゅ。こんな風にされて悦んで、まるで……。私の僕(ドール)、ですね……」
「ネイ……様……そう……、私は……」
 馬のりになる少女を見つめるレイラ。その言葉に身も心も支配されて。反抗する気も、怒る
気力も、失われる。ただネイのなすがままになることを、レイラは望んでしまう。そうして、
ネイの前に股を開き、言葉ではない熱くこぼれる息で、ネイに犯されることを哀願する。
 光がネイの後ろにあれば、レイラの腰までほどの小さな影。けれど見つめることはできる。
二つある色彩がレイラの青色を捕らえる。その瞳が、わずかに持ち上がり。
「わたしを……」
 ニコッと笑顔で、ネイはレイラに言う。
「犯して、みてください」
「っ……!」
 はっとレイラが瞼を持ち上げたとたん、ネイは自分のお尻をレイラの内股に下ろした。そう
やってお互いの陰核を、重ねる。下の唇が触れあい、クチュルという音。ネイが腰を動かせば
その陰核も震えて、レイラの中をかきまぜる。だけど弱い。レイラは不安げに眉をひそめる。
そのとき、またレイラのなかに何かが入り込んできた。
「っ……っ……ネイ……さまっ……!」
「くす、レイラ」
355:03/11/23 05:11 ID:PVIt/seJ
 それはネイの指。ピアノを弾くようにレイラのなかへと潜り込み、たくみに指を上下に往復
させながら、トロトロとした液をまとわせつつ、レイラの歓声を奏でる。まるで玩具みたいに。
レイラを悦ばせることを、ネイは楽しみ、なおも強い刺激を与える。
「あ、くぅっ……う…ぁ…!」
「あ……ふぅん……おいしい……です……」
 レイラの、上と下の唇から、唾と愛液が恥も外聞もなく溢れて、レイラ自身の身体と、上に
乗るネイにふりかかった。ネイはそれをぴちゃ、と唇でなめとりながら、自分のなかから溢れ
る愛液をレイラのなかに落としていく。上から下へ。レイラの子宮までネイの液体は流れ落ち
ていく。
 指が覚えている、レイラのGスポット。ネイはそこを、樹木にキツツキが執拗をするように
弄っていく。レイラは何もしないでは耐えられず、溺れる意識のなかでネイの胸に手を伸ばし
た。レイラほどではないけれど、たしかな膨らみ。そこをこねこねと優しくまさぐるレイラ。
レイラはネイの名前を呼ぶ。
「…ネイ…さま………」
「っ……レイラ様ぁ……っ!」
 ネイの唇が、いつもどおりにレイラを呼ぶ。そのときにレイラはこの上ない背徳感を感じた。
犯されているのは自分なのに。ネイを犯しているかのような、そしてネイが自分に犯されてい
ることを悦んでいると思うような。主人であるネイが、自分にとって娘のような妹のような、
恋人だと思ってしまうような感覚。
「レイラ……」
 だから再びネイが言い直したときに、思わずレイラはネイの胸から手を離した。咎められる
ように感じて。けれど、ネイは離れた手袋を、その舌で舐める。
「……っ……!」
「もっと強く……しても、いいですよ。……レイラ」
「ネイっ……」
 レイラの手首が揺らぎ、逆手にネイの胸を取る。そのまま手をまわして、ノブを捻るように
ネイの胸を捻り、握りこんで弄ぶ。ネイは甘い吐息を漏らしながら、なおもレイラの性器に、
指を出し入れして、感じるところにより深く沈めていく。華奢な指ではあるけれど。レイラを
虜にさせるのに、その経験は充分なもの。レイラはうっとりした心持ちで、ネイの胸を唾液で
びっしょり濡らしていく。乳房の間のくぼみも、乳首も、ふくらみかけの丘のあたりも。
356:03/11/23 05:13 ID:PVIt/seJ
「あ……だめ……」
 ネイは困ったように眉を曲げた。レイラは手を胸に置いたまま、瞳を持ち上げる。ネイに不
安そうに訊ね。それに、ネイは答えて、またうつむいた。
「駄目……か? ネイ……」
「あ、そうではなくて……」
 ネイの様子にますます不安の色を強めるレイラ。ネイはうつむいて、唇をきゅっと結んでい
たが、レイラにうながされるまま答える。
「きもち、よくて……あ、レイラ……」
「……ならば。もっと、する」
 レイラは目を閉じて。乳房をまさぐっては、身体を起こして、その乳首に歯を立てる。ネイ
の拒絶の言葉も、やがて漏れる声となり、ネイが指と陰核で、レイラを犯しながら、喉元より
悦びを紡ぎはじめた。レイラの眼球がネイを深く覗く。ネイは潤んだ瞳でレイラを見つめる。
 ――二人の心は飛ぶ、赤い月の果てまでも。
 くちゅっという音。粘液の擦れ合う音。ポタポタと愛液の落ちる音。興奮に荒い呼吸をしな
がら、上擦った声で快楽を表しつつ、レイラとネイは悦びの階段をかけのぼった。
「っ、いい……な……。一緒、に……」
「はい、レイラ……」
 トクン。鼓動の音。はっ、という呼吸の息。流れる汗、唇の端の涎。滴り流れる、快感の蜜
雫。レイラのなかを出し入れする指。ネイの胸をミルクをすするように這う舌。
 相手に捧げる心も、同じ。
「も、もうぅ…レイラぁ……っ……!」
「……ネイっ!」
 多量の液体が、お互いの身体に降りかかる。レイラは自分の子宮にすべて受け止めて、それ
から飲み下せなかったものと、自分から溢れるものでネイの入口とお尻をしとどに濡らした。
 まだこぼれる粘液が、ネイとレイラを繋げる糸となる。なごり惜しそうにネイはレイラの腰
から離れると、身体をレイラの上半身のほうに寄せて、首から輪を取り外した。
 そしてそれを自分の首にかける。まだそれはレイラの汗で濡れていて温かい。ネイはそれを
きゅっと掴むと、レイラに微笑を見せた。
357:03/11/23 05:13 ID:PVIt/seJ
「……気持ちよかったですか。レイラ様……」
「……そう、だな」
「……そうですか。ではまた」
 ネイはレイラに口づけをして、自分とレイラに脱いだマントを被せる。レイラは赤い頬で眉
をひそめた。
「……染みに…なる」
「……また、買います」
「次のドームまで、着ていけと…いうのか……」
「興奮……しますよね、レイラ様?」
「……」
 レイラは火照った頬で目を閉じて……それから。
「……する……」
 二人の眠らない夜はまだ終らなくて。

 ところでスピーディは先ほど、寝ていたところにテントから投げられた短剣が頭に直撃、意
識を失い、危ういところを朝方ストレイドールたちに助けられたりするのだが、それはもちろ
んネイとレイラの二人には知る必要のないこと。
 ちゃんちゃんいちゃいちゃ。
358名無しさん@ピンキー:03/11/23 05:17 ID:PVIt/seJ
終了。第三話のレイラのセリフ「寝込みを襲うなら気配を〜」から、
ネイは寝込みを襲うとき気配を消す=ネイは熟練者。というわけで攻めネイ。
割り込んで申し訳ありませんでした。
359名無しさん@ピンキー:03/11/23 05:23 ID:ObTodOI7
>348
じゃあ、さっそく発見したのを報告。
ちょうど、さっきあがってたスレに百合ネタあった。
ネオロマンスでエロ萌えスレの、「ラン×あかね」ってやつ。
元ネタ詳しくしらないけど、女向けの恋愛ゲームだよな?
どうやら敵対するもの同士のエッチだった。
エロ度はそんなに高くない感じだったけどよ。
360名無しさん@ピンキー:03/11/23 08:44 ID:ppoYD/XT
>>348
不気味なものに寄生〜にはレズものがあるけど、あれは触手というか洗脳
メイン。でもほとんどその触手などが道具扱いだから、レズといえないこともない。
ふたなりもいれれば相当数になるだろうけど・・・。

ただ、他の板の百合スレも同じような感じなんだな。レズゲースレッドとか
百合ライトノベルとか、場合によっては〜とか。いわゆる他スレなどの情報収集メイン。
これ以上の類似はなんかヤダ、という意見一票。
361名無しさん@ピンキー:03/11/23 13:25 ID:+Hm0Zq+p
俺はふたなりは百合と認めないが、人それぞれだからなー。
情報収集が多くなるのは、それだけ百合ネタが少ないってこと
だろう。
実際、このスレが報告でいっぱいになるほど、この板にも百合
ネタがあるとはおもえん。
362名無しさん@ピンキー:03/11/23 16:39 ID:jWq5zio1
百合はエロパロにはかなりあると思う。
ただ需要が供給ほどないからあまり目立たないんでないかな。
ぶっちゃけここだって人少ないべ。

あと、>>350乙。
363名無しさん@ピンキー:03/11/23 20:58 ID:7pQTYnxe
>>350
受けなレイラたんキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!
激しくグッジョブなんだけど俺としてはレイラは敬語じゃない方がよかったかも…
でも萌えますた!
(*´Д`)ハァハァ
364名無しさん@ピンキー:03/11/23 21:12 ID:aAGBpLQL
>>350
我が世の春が来たぁぁぁっ!!
萌える。萌え死ぬ。
漏れは敬語OK!文体も好み!
あと、スピーディにワラタ。
365名無しさん@ピンキー:03/11/23 21:24 ID:6qfUdqrK
>>350
受けレイラ様(・∀・)イイ!
366名無しさん@ピンキー:03/11/23 21:49 ID:qq1nxYRh
>>350
ネイ攻めに目覚めますた
367駄文・1:03/11/26 03:35 ID:wQ+id/kI
「気持ちいいですか?レイラさま」
「………ああ」
 私は今、いつものテントの中に居て、耳かきをされている。もちろん、膝枕でだ。
頭を預けるネイの太ももは、暖かくて柔らかい。文字どおりに手の届かない部位が
綺麗にされていく心地よさと相まって、夢のような気分だ。
「左は、これで終わりです。レイラさま」
 声と共に、“ほわほわ”が入れられる。奥に手前に動き、そして回された。
優しさを感じられる弱めの動作は、却ってくすぐったくて、むずむずしてしまう。
体がくねりかけるが、堪えた。反応するのを我慢したせいで、顔が熱くなる。
どうしよう、と思ったらそれは抜けていった。ちょっと、名残惜しい。
「反対側を、どうぞ」
「ん………」
 体を回して、右半身から左半身へ、床につく側を換える。
ネイのお腹と対面する形になった。幼さゆえにぽっこりとしているのが、服の上からでもわかる。
何だか甘い匂いがして、さっきから赤いままの顔が、さらに赤くなってきた。私は………。
「興奮しているの?レイラ?」
 冷たい声が掛かる。罪を咎めるような口調の。
368駄文・2:03/11/26 03:36 ID:wQ+id/kI
「ねえ。レイラ?」
 図星を突かれた。即答できず、汗が吹き出る。
「言いたくないのですか?ならば、このまま鼓膜を破るしかありません」
 へら状の先端に、力がこもるのが解った。恐怖に身が竦む。
でも、このままネイの声が聞こえなくなってしまうほうが、もっと………!
「こ、興奮、していた………。すまない」
 やっとのことで声を絞りだすと、かかっていた力は緩められた。
「正直ですね。レイラ。良い子です」
 それだけ言うと、掃除が続けられた。やはり気持ちが良くて、ぼんやりとしてしまう。
そしてまた、“ほわほわ”の段になった。思わず身構えると、それは入り口でぴたりと止まった。
「期待しているのですか?本当、可愛らしい」
 ひどい仕打ち?(あるいは期待した言葉?)に心臓が一際高鳴る。
次の瞬間、爪先ほどの微かさで“ほわほわ”が動かされ始めた。あくまで、奥には入れずに。
「んっ……。やだ、ちゃんと、して……。深く、まで……」
 自分でも驚くほどの切ない声。でも、これが朦朧とする意識の、今の望みだった。
「ふふっ。とても闘士とは思えない痴態ですね。わかりました。では」
 “ほわほわ”が一気に押し込まれ、回った。そして、すぐに引き抜かれる。
「んっ!あっああぁっっ!!」
 思考が飛び、体はただびくびくとするばかりで。



 頭がクリアになった時には、私はネイに組み敷かれていた。
「レイラ………。私の可愛いドール………」
「………はい」
 今夜も、そしてこれからも。
私はドール。彼女だけの、愛玩人形。
369名無しさん@ピンキー:03/11/26 03:46 ID:wQ+id/kI
何だか眠れなくて、携帯で書いたんだけど
書き込んでからすごく恥ずかしくなってきた。
耳掻きは電車乗ってた時に湧いた妄想だったが、それでやめときゃよかったわ。
エロくもないし、ごめんなさい。
370名無しさん@ピンキー:03/11/26 06:38 ID:QSoDZu7A
GJ! 覚醒ネイキターー(・∀・)----
敏感なレイラちゃまハァハァ。この後もネイにイカされまくるわけですな。

ただ耳掻きだけなら、どっちかっていうとこっちのヨカン。
ttp://comic2.2ch.net/test/read.cgi/anime/1066315804/
というわけで続きキボン!
371名無しさん@ピンキー:03/11/27 02:39 ID:iL16rYvP
キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!
耳だけでイかされるレイラ様萌え…
レイラの性感帯は耳だったわけですなw
(*´Д`)ハァハァ
372名無しさん@ピンキー:03/11/27 09:05 ID:7jurQs7o
ちょっとフェティッシュでいいね。
373名無しさん@ピンキー:03/11/28 23:46 ID:dTKkJfsr
別にAVENGERスレって訳ではないので他作品やオリジナル書いてる職人さんもどうぞー
374名無しさん@ピンキー:03/11/29 00:06 ID:F8wbRvLk
とってつけたようないいようが…(藁
375名無しさん@ピンキー:03/11/29 04:38 ID:osFZfdtj
この板だったら、あずまんがスレなんかけっこうレズSSあったよ。
376名無しさん@ピンキー:03/11/29 15:49 ID:+SLfmLVC
>>373
エロパロでオリジナルはねぇ。書いちゃアカンのじゃないの。
今までだって一応設定は各作品それぞれフィクションでもノンフィクションにでも
あるわけだし。ところでふたなりダメって人がいるけど、aliceのアトラク=ナクアみたい
なのはどうなんだ? 俺はああいうのも好きなんだが。
377名無しさん@ピンキー:03/11/29 16:25 ID:ZOqixKEp
エロパロ板でオリジナル書いてる職人はなんぼでも
(というといささか誇張が過ぎるかもだが)いる。
ジャンルもしくはキャラ限定でないスレ覗いてみなよ。
378名無しさん@ピンキー:03/11/29 18:57 ID:m1Pte8Lk
ああ、そういえばあった。
なにかを勘違いしていたようだ。すまん。
379腐男子:03/12/03 23:57 ID:m7Cb5xtU
 はーい、長いわりにエロくもないAVENGERネタですYO〜。嗚呼。
380腐男子:03/12/04 00:00 ID:Rn8Kidl+

 ジョウントシティの代表闘士。
 現在最強、連戦連勝、将来有望最右翼の女戦士レイラ=アシュレイが、バザールから子供を拾ってきた。

 本物の蝋燭に銀のテーブルセット。甘やかな香の煙と、ムクの樫の木で造られたアンティーク家具、
豪華な調度が揃えられた客間の中央で。
 大きな椅子の背もたれに身体を預け、《ちょん》と座りこんでいる子供のようすは、
どこか熊の縫いぐるみ-テディ・ベア-を思い起こさせる。
 クィーンサイズの天蓋ベッドの上で、虎の午睡のごとく体を伸ばしている闘士レイラ。
 常に彼女へへつらうことのみを考えている小太りの従者が、ややおおげさな身ぶりで感嘆の声をあげた。
「いやあ、よくできたドールですねえ! じつに愛らしい!」
 横たわったまま、レイラ=アシュレイは気怠そうに呟く。
「自分でドールだといっている。だからドールだろう」
「は?」
 シティの小役人が、媚びた笑顔+揉み手をした格好で固まった。
「型式が、お分かりでない、と。もしやこのドールには、登録用リングが無いのですか?」
「無い」
 女闘士は言い切り、目ン玉を飛び出させかけている従者へ、ちろりと氷の視線を投げる。
「よこせ」「へ、へぇ?」「明後日までだ」
「は、は、はひ…」
381腐男子:03/12/04 00:01 ID:Rn8Kidl+

 エア・コンが付けられた最上等の居間にはいつも、涼しい風がゆっくりと対流している。
 蜂蜜ろうそくのゆらめく光が、ディナー皿の並ぶテーブルを幻想的に照らす。
 とりあえず食後のワインのせいで頬を赤く染め、眠そうな顔のネイを羽布団に首だけ出して埋めると、
 レイラは隣室、控えの間への扉を押した。
「おい」
「レイラ様v」
 ぱっと顔を上げ、語尾よりハートマークを飛ばしながら主を出迎えるメイドドール三体。
 そちらには目もやらず、レイラはボソリと命じる。
「水」
「はーいv」
 汗をかいている氷入りの銀器を受け取り、一息に干す主人の姿を笑みを浮かべながら見守って、
 メイド三人娘はきゃいきゃいと、ジェットストリームアタックのように言いたてる。
「カスタムドールのお味はいかが?」 
「レイラ様はわたしたちとあの子とでは目の色が違うわ」
「ああいう、小犬みたいなのがお好みだったなんて!」
「うるさい」
 レイラが、娘どもをぎらりとにらんだ。
 水差しを持った腕を軽く振り上げると、メイドガールたちははしゃぎ笑い騒ぎたてつつ部屋のすみへと逃げていく。
「フン」
 レイラはナイトガウンの襟元をつと直し、夜気を吸いにベランダへと歩み出た。
 朱い、血の色をした巨大な月が、火星の空を圧している。

382腐男子:03/12/04 00:02 ID:Rn8Kidl+

−−−−−−−−−−−−
 翌日。
 ひとりの闘士がドームの門をくぐり、レイラ=アシュレイの居室を訪れた。
 埃じみた体に闘気をはらみ、巨大かつ異様な形の槍を捧げ持つ男の風体を前に、
ネイはあわててレイラの座る椅子の陰にかくれる。
 男は。 闘士戦の申し入れにやってきたのだった。
 礼法にのっとった堂々たる男の態度に、レイラは躊躇なく対戦を承諾。
 殺気を漂わせ、死者の眼をしたふたりの視線が、一瞬、絡み合う。

 ダリオと名乗った黒髪の男の側には、成年の女性型ドールが連れ添っていた。
 会見中もレイラへ、しきりに意味ありげな視線を送る愛玩用ドール。
 彼女は主人をしりめに、レイラの膝元へわざわざ歩み寄ってひざまずき、レイラの手をとって口づけさえした。
「また、お会いしましょうねぇ。レイラさまぁ♪」
 しかも去りぎわにウィンク。
 主人へのあからさまな背信行為だが、男にはそれを押しとどめる風もない。叱りもせず腕をとり立ち去った。
「あんのぉ〜、色ボケドールめっ!」「だいたい喋りがバカっぽいのよっ、あいつわっ」「こんど会ったら壊してやりましょうよ、ねえレイラ様!」
 声をそろえて怒りまくるメイド隊。 聞き流すレイラ。
 荒野へと去りゆく一人と一体を、不思議そうな瞳で見送るネイ 。
383腐男子:03/12/04 00:02 ID:Rn8Kidl+

−−−−−−−−−−−−
 ある晴れた日の午後。レイラ=アシュレイ一同は市長邸中庭の散策へ誘われた。
 育て刈り込まれた緑の木々、色石の敷きつめられた人工の小川。
 ネイは驚いたようなまるい目で、ふいに泉から空中に噴き出した糸状の煌めきを見あげる。
「先週工事が完成したばかりの、特別製の噴水ですわ」「美しいでしょう? 彫刻も大理石で…」
 メイドドールらが競うようにして、市長が巨費を投じたこの庭の自慢どころを述べたてた。
「フンスイ…?」立ち止まったネイが、首をかしげる。
「水を」
 あとを歩くレイラが、その肩をそっと押した。
「おもちゃにしているんだ」

 小川をまたぐ小さな橋の上を歩いている。
 と、ネイが靴先を引っ掛けてつまずき、あっさりと橋より転げ落ちる。
 雷に打たれたような(!)緊張が走ったその瞬間、
 ざぶりと脚を濡らして川へと踏み込み、腕を回して子供の背を受け止めた腕がある。
 流れの中に両脚を入れて立ち、小さな身体を抱き上げる長身の闘士。
「ありがとうございます、レイラ様」
 赤ん坊のような横抱きにされながら、ネイがお礼を言った。
 レイラは、「……」無言。
「きゃあ、素敵!」
「私も抱いてくださいまし〜♪」
 ふたりの背景では、黄色い嬌声がとびかっていた。
384腐男子:03/12/04 00:03 ID:Rn8Kidl+

 決闘前夜の夜。
 風呂だ着替えだと世話を焼いてくるメイド達を残らず部屋から追いだすと、居室の扉を締め切る。
 腹立たしげに息を吐くレイラ。
「まったくうるさい」
 天蓋付きのベッドの上に、ころがされてあるネイが、ふと、ぽつり声をもらした。
「メイドドールのみなさまに…」
「む?」
「わたしは、愛玩用のドールだと」
「……」
「ドールは主人にご奉仕するものだと、教わりました」
 レイラの片眉がわずかにあがり、不快げな顔になる。
「余計な事を」
「ご奉仕したほうが、よろしいのでしょうか」
「いらん」
 レイラは一言で会話を断ち切ると、ネイの隣、シーツの波に身を沈めた。
 夜具の中で、ネイはもぞもぞ、まさぐるように腕に触れてくる。
「うるさい」
 その手を甘く押し返す。
385腐男子:03/12/04 00:04 ID:Rn8Kidl+

 小さな手、小さな指。触れただけで折れてしまいそうだ。
 レイラは、思わず力の入れ方に気を使いながら押しやった。
 息をする子供の形をしたぬいぐるみは、それでも背中にすがるようにして纏わり付いてくる。
「いいかげんにしろ、押し倒すぞ」
 レイラはぴしゃりと声を投げると、
 寝返りをうって子供から身を離し、上掛けを被り直した。
「明日は闘士戦だ、余計なエネルギーは使わない」
「たたかうのですか?」
「ああ。地位と命と財産を賭けてな」
 子供は黙りこんだ。しばらく沈黙の間がつづく。
 やがて。レイラがネイの居る側へ体を向けた。
 皮肉めいた声音で、いぢわるく言ってやる。
「私が負ければ、おまえは以前見た男のものになる」
「……」
「怖いか?」
「……負けたら。レイラ様は、どうなるのですか」
「死ぬだろう」
「なぜでしょう」
「闘士だからだ、何も持たない、闘うだけの…」そこで舌打ちし、子供から目をそらした。
「ドールと何も変わらない」
 ネイは呟く。
「ドールと…同じ…」
386腐男子:03/12/04 00:05 ID:Rn8Kidl+

 その声はただならぬ響き。
 レイラは衝動的に夜具を払って起き上がり、見上げてくる視線を受け止める。
「レイラ様は、わたしを…」
 沈黙。
 飾り窓より寝室へ、蒼い月の光が差し込んだ。
「…見つけてくださいました」
 平板な調子で唇から言葉を紡いでいるネイを、レイラは黙って見つめる。
 子供の全身から、強烈なオーラが放たれていた。 闇色の月の翳に、光り輝いて見えるほど。
 逆光に照らされた頬を淡いピンク色に輝かせている、きめの細やかなうぶ毛にレイラはしばし見惚れる。
 小さな身体。小さな肩。
 目の力が凄い。魔眼といわれる、左右の色が違う瞳。
 夜に、人の望む夢となって空を駆ける、沙漠の魔物のような……
     (お願い、私にさわって、私を抱いて)
 ネイはすう、と息を吸うとあごをわずかに、こっくりと引いた。
「わたしは、これから…」
     (身体を暖めて 肌を刺激して)
 目を細めたレイラが少女へとその腕をあげた。
 頬を撫でるように指を滑らせ、感触を味わう、そっと。
「レイラ様の所有物、ドールとして…」
     (瞳で挑発して その手で心臓をぎゅっと掴んで)
 ネイの指がレイラの指先に触れ、その手をきゅっと握った。
「心からの、ご奉仕をさせていただきます…」
     (−−ここに、−−触って!)
 魔性の瞳に、魂の底までも見透かされたような思いで。
 気づくとふたりは互いの唇をあわせていた。
387腐男子:03/12/04 00:06 ID:Rn8Kidl+

 キスを続けながら、腕を回し肩を抱く。
「軽いな」
 引き込んで胸の上にネイを載せるなり、レイラがそう、微笑した。
「やはり子供だな」
 くっくっと喉で笑いながら、鼓動が伝わるほど抱きよせた。
「おまえを初めて見た時……」
 ネイの髪をくしゃくしゃになるまで撫で、天蓋の絹布がつくるドレープを見あげながら、
「……『殺されたい』、と思った」
「なぜ」
「わからない」
 再びキス。深い。
 目を閉じ互いの舌をゆっくりと絡ませた。

 出会った時、解らなかった。この胸に渦巻くものがなんなのか。
 共に幾日を過ごしたが、まだ判らない。
 ならば抱き合ったとしても、なにもわからないだろう。

 夜の空間に響く、押し殺した息の気配。
「はっ……」
 寝所に横たわる美しい裸身が、大きく身を震わせた。
 ネイが主人の足下にひざまずき、捧げ持つようにした足の爪を舐め、指のあいだに舌を這わせている。
 小さな口元から、カリ、と肉を噛む音。レイラがびくり、白い喉を反らせた。
「う…」
 半身を起こした女主人が、子を濡れた瞳で見下ろす。
 ネイは、マスターの裸の胸元に寄り添い、汗の流れおちる喉へ接吻を続けた。
 髪の間に指を差し込み、深いキスを繰り返す。ざらざらとした舌の感触の中に、わずかに血の味が混じる。
388腐男子:03/12/04 00:08 ID:Rn8Kidl+

 子供は、主人に教えられたとおり口中に唾液を溜め、すんなりと伸びた脚の内側を舐め上げる。
 かがみこみ、潤んだ蜜に彩られた秘所に口づける。
 高まっていく呼吸に合わせ、尖らせた舌先をぐっと差し入れた。
 薄くひらかれた唇から、止どめきれない声が洩れ出す。
「う…、は。ぁ、あ…ああ…」

389腐男子:03/12/04 00:08 ID:Rn8Kidl+

 レイラが目を開けると、世界は朝だった。
 
 ネイはいつも通り、ちょこちょこと歩き回って、部屋じゅうの花瓶の水を替えている。
「おはようございます。レイラ様」
「…………」
(夢かな)
 レイラは寝床から起きあがり軽く、自分の額を押さえた。
 天は晴れ、世界には太陽の光が降り注いでいる。 ドームの内にも外にも等しく。
 今日は闘士戦だ。
 レイラは衣服を着込むとメイド達に命じ、約束の刻限に闘技場に向かうための支度を始めた。

 なぜだかいまは心が軽い。
 今朝は、死ぬにはいい日だと思えた。
390名無しさん@ピンキー:03/12/04 01:06 ID:kUtzvKqE
>腐男子氏
キタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
相変わらず描写(゚д゚)ウマーですね
萌えますた
グッジョブ!!
(*´д)ハァ(*´д`;)ハァ(д`;)
391名無しさん@ピンキー:03/12/04 02:12 ID:AZ5ZXlLw
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ハァハァしちゃいますよ。ええ。
起きたら覚えてないレイラ様、ちょっと勿体なくて、可哀相かもと思ったな。
あと、ジェットストリームアタックには笑いました。
392名無しさん@ピンキー:03/12/06 18:29 ID:DScWq30w
(;・∀・)b グッジョ!!
393腐男子:03/12/06 21:06 ID:59idcUcl
ども。

キャラネタにスレが立ってますNE……
そっとしておいて欲しいようなのでリンクはしませんが、腕に覚えのある人は加勢に行ってもいいのでは。と。
394名無しさん@ピンキー:03/12/08 15:58 ID:133K/hjx
零〜紅い蝶〜のスレは盛り上がってるね。
百合ネタだけ、というわけではないみたいだけど。
395名無しさん@ピンキー:03/12/08 21:22 ID:DRhE4bMR
>394
 あそこは優良スレだね。
 TVゲーム板の前身スレもいいんだよなこれが。
tp://game4.2ch.net/test/read.cgi/famicom/1069872788/l50
396いまの俺は腐男子2!:03/12/11 04:37 ID:/zQ8TpHf

 罪人は故郷の炉辺のもとにて… 午睡に 昏き夢を 見る。

 闘争。
 本能。

 反抗。
 抵抗。

 殺害。

 血が流れる。今しも魂が抜け出さんとする骸から、噴き出す鮮血のあたたかさ。
 ……闘士の、血。
397名無しさん@ピンキー:03/12/11 04:39 ID:/zQ8TpHf

 その夜キャンプを張った場所は、十年以上昔に一度、流星が落ちたといわれる地点。
 赤く砂じみた大地には、当時の激突の衝撃を物語るようなクレーター様の焦げ跡が今も刻まれている。

 いつにも増して無口を通しているレイラはなぜか、寝床には入ろうとせず、
テントの中の骨組みによりかかり、膝をかかえた姿勢のまましずかに目を閉じる。
 すこしだけ眉をひそめ、レイラのようすを心配そうに見つめていたネイも、
夜更けには独りで眠りに就いた。

 低い天井に吊るされた、小型ランプの黄いろい炎が揺らめく。夜明けはまだ遠い。
 テントの中は、外に広がる荒野と同じくらい、ひえびえとした気配に覆われている。
 ふいに浅い眠りからめざめ、首をもたげるレイラに気づくネイ。
「グ」
 喉に絡むような不快気な表情で、とぎれとぎれの唸り声をあげる。
 顔の色は見ているこちらが驚くほど蒼白、反らした喉からは意味のある叫びが生まれないままに
力が凝り集まり、激しく震えながら上下している。
 まるで、身体の中で吹き荒れる邪悪な嵐を懸命に押しとどめようとしているかのようだった。

 憑かれたように呻き続けていたレイラはやがて、なにもない虚空を見あげたまま、
座り込みぴくりとも動かなくなる。
 心配でたまらないネイが、寝床から飛び出すや、主の腕にすがりついた。
 その瞬間、レイラは引きつったようにごくわずか、身じろぎをする。
 まるで、突然スイッチを入れられた電気人形みたいに。
398名無しさん@ピンキー:03/12/11 04:41 ID:/zQ8TpHf

 瞳の色は、うすいブルー。
 鋭い目の光がこちらを射抜いた。だけど、その眼は実は、
《わたしを見ていない》、とネイは感じる。
 以前にもあったことだ。
 いまの彼女は、正常ではない。
 しかしその腕は正確に伸び、少女の肩をつかむ。
 たった今まで熱病患者のように震えていたとは思えないほど強い力で、
冷えた肌から衣服をむしるように剥ぎとり、素肌へ喰いつくように抱きすがった。
 背中に爪が食い込む感触。
 地獄の底のふいごのような熱が伝わる。
 強く抱きしめられ、息をするのも難しい。
−−ああ。
−−また、だ。
 狂える夜が始まった。
 ネイとしても、強引にされたり痛いのはもちろん、厭なのだが、こうして抱かれているあいだは
伝わる肌の温度が心地良くもあり、まあいいか、とも思う。

 うつむいていたネイの顔を無理に上げさせ、犯すようにくちづける。歯先で舌を、甘く噛まれる。
 両の腕を押さえつけ、狂気の闘士は少女の肌を蹂躙する。

 寝所にて、のしかかる長身に組み伏せられているネイは、できるだけ抵抗のそぶりを見せぬよう、
目を閉じ一生懸命に、体より力を抜こうとしていた。
 主人の気分を害さず、無難に時をやりすごすために、逆らわずおとなしく身を任せているが、
この夜を覆う狂熱はさらに勢いを増し、一向におさまる様子もない。
399名無しさん@ピンキー:03/12/11 04:42 ID:/zQ8TpHf

 ことさらに手荒く、閉じた腿をこじ開けられ、ねじりこまれた指先は秘所の内襞に
入り込むためにうごめく。
 二本の指が執拗に、踊るがごとき愛撫を休むことなくつづけている。
 ネイの頬はだんだんに上気して紅く染まり、びくびくと震える肌はうっすらと汗を浮かばせて輝く。
 一切の容赦のない、狂気の愛撫に翻弄されていた。
「あ、ああ……うぅんっ……」
 目に涙の粒が浮かぶ。
 痛みに近い快楽から、本能的に身を引こうとする少女を、闘士は許さずにとらえ直し追いつめる。
 肩を押さえつけ背中から覆い被さると、太腿から指を滑らせ後ろの秘所にたどりつかせる。
軽く爪を立てつつ、会陰部をまるくなぞった。幾度も。
「ああっ、」
 身動きのとれない事実からくる軽い絶望と、現実をはるかに凌駕してよせてくる強い快感の波に
うちのめされ、いつかネイは、テントの壁を震わせるほどに叫び声をあげていた。
「マスター! …マスター……」
 その声に煽られるように。
 ふたりの体温は上がり続ける。
 抱きすくめられた脇腹から胸へと手のひらの愛撫は移り、両方の膨らみを包むようにしてこねあげる。
「んぅっ」
 首筋にキスの感触。
 上から軽く掛けられた体重で押しつぶすようにされ、立てていた膝が崩れる。
 敷布の上にあおむけに寝かされたネイの足下に、ひざまずくようにしたレイラが、
かがみこんで繊細な肌に唇をつけた。つるりとした内腿を強く吸い、舐めあげる。
400名無しさん@ピンキー:03/12/11 04:43 ID:/zQ8TpHf

「あ…」
 なんの予告もなく、マスターの鼻先が敏感な花芯をこすった。思わず声が洩れる。
 音をたて続けられるキスは、やがて濡れそぼった秘所に至る。充血した芯を、大きな舌が刺戟する。
「くぅ、ん、んんんっ」
 ネイはただ、敷布を掴み身をよじる。
 上体ごと身体を乗せてきたレイラが、左の耳たぶにキスをしている。
 と、下半身のあいだに指が割り込み、体を貫かれる感触がネイを襲った。
「うぅぅんんぅ…」
 甘くかすれる呼気。子犬の鳴き声のような音。
「……レイラぁ…」
 うめいて、うすい胸が激しく上下する。やがて深いひと呼吸を最後に、ネイの動きの一切が停まる。
 数拍ののち、少女はゆっくりと息をふきかえす。

 ネイが昇りつめた後もしばらく、のしかかったまま、斃した獲物を食い散らかすようにして、
狂熱に突き動かされている闘士は少女の髪と肌、胸の固い尖りを、唇と舌とでむさぼり続けている。


 小半時の後。
 嵐は去り、朝日の前ぶれである薄暮が荒野を包みはじめていた。

 横たわるネイの体の、肩にまで毛布をかけて。
 レイラは安らかに眠る少女の寝顔を、済まなそうな瞳で見おろした。
 ネイは目をあけて、レイラのブルーグレイの眼の色を見つめ返す。
 いつもはひどく冷静で、野獣の王のように強靭な主人が、自分をむりに抱いたあとだけは、
藁のようにしょげてしおれてしまう。そんな姿を見るのは面白い、とネイは思った。

 ネイはそっと目を閉じると伸びあがり、恋人の首に抱きつくと、その頬にそっとキスをした。
401いまの俺は腐男子2!:03/12/11 04:44 ID:/zQ8TpHf
 アニメ本編と繋がらなくなっちゃったなー。 完。
402名無しさん@ピンキー:03/12/11 23:36 ID:S+wRd1LU
レイラ×ネイキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

GJ!!(*´∇`*)
403名無しさん@ピンキー:03/12/12 00:52 ID:dRH1qyv7
恐いくらいのレイラ様だが、エロくて(・∀・)イイ!!
404名無しさん@ピンキー:03/12/12 16:38 ID:lQyiVeGA
しょげてるレイラたん(*´д`*)ハァハァ

レイラ×ネイもいいなぁ。萌えますた!
405名無しさん@ピンキー:03/12/12 20:49 ID:zrtHzLFT
何か壊れてしまったレイラ様も(・∀・)メチャイイ!!
しょげてるレイラ様も(・∀・)キワメテイイ!!

ごちそうさまでした。
406名無しさん@ピンキー:03/12/13 00:46 ID:9yswSItE
(*^ー゚)b グッジョブ!!
しかしどんなに攻めでもレイラが可愛く見えてしまう俺はもう末期だな
_| ̄|○
407いまの俺は腐男子2!:03/12/13 01:26 ID:HLLaCfwp
レス有り難うございます。
レイラさんもネイさんもそれぞれ違うベクトルの可愛さがあっていいなあ、と。
頑張ってアニメのぷにっぽさを出したいなあ。

>400にミスが……

 ×薄暮 → ○薄明 ・・・・・ああ俺って奴は・・・・_ト ̄|○
408名無しさん@ピンキー:03/12/14 23:27 ID:NHUIk62u
>>407
小さなミスなんて(・ε・)キニシナイ!!
それより勃っているものを抑えろ
409名無しさん@ピンキー:03/12/15 23:33 ID:4EFL6eEA
レイラ×ネイ、…やはりイイネ
410名無しさん@ピンキー:03/12/17 02:24 ID:Hm4LJ71u
今更だが、R.O.Dスレもなかなかに百合。
411名無しさん@ピンキー:03/12/19 19:06 ID:CYMZF/Ze
保守
412名無しさん@ピンキー:03/12/20 20:29 ID:oejcyaxm
第二保守
413名無しさん@ピンキー:03/12/22 19:01 ID:Iozk2CNR
第参保守
414名無しさん@ピンキー:03/12/22 19:54 ID:+jiU2ghv
第四保守
415腐男子:03/12/22 22:41 ID:0nU5XmCh

イマイチ君ですが貼っときます。AVENGER。

 −−−−−−−−−−−−
 いずれは滅ぶこの世界になんの義理がある? なにを思い残すことがある?
 恐怖の息吹を孕んだ胎内で踊るがいい。 来たるべき終末の刹那の前に。

 −−−−−−−−−−−−

 こんな状況を、なんと形容したものだろうか。
 もう長い事、会っていなかった育ての親が、突然目の前に現われた。
 見慣れた顔に少しくシワを刻み、横には砂に汚れた小さな生き物を連れ。
416腐男子:03/12/22 22:42 ID:0nU5XmCh

「この子を、近くのドーム都市まで送ってやってくれ」
 再会の挨拶もそこそこに、老人はぶしつけな願いを言い出した。
「クロス」
「頼む」
「……勝負を」
 膝を立て、岩場に腰掛けた姿勢のまま、レイラは養父の顔を睨み返す。
「受けてくれるという話は、どうなった」
 夜風を受け、砂岩の上でマントの裾がはためく。
「いつか、な」
 そう言って、修行僧を思わせる風体の老人は、ほろ苦い笑顔を見せた。その表情はどこかずるい匂い。
 レイラはムッとした顔つきになり立ち上がった。クロスに相対し、闘気に満ち満ちた目線を向ける。
 ぽて。
 その時。クロスの脇に居た子供が、おもちゃのような動作にて、殺気の中へと踏み出した。
 少女は女闘士の膝元へ、恐れげもなく近づくと、小さな木の葉のような手のひらを差し出し、
「愛玩用カスタムドール、ネイともうします」
 まるい目をこちらに向けて自分を売り込んだ。
「……」
 レイラは黙したまま、ただ片眉を上げる。
「あなたがわたしのご主人様ですね、レイラさま」
 少女が闘士の右の手のひらをとりあげる。
 レイラがその手元に一瞬だけ目をやり……視線を戻すと。
 最早、クロスの姿は荒野の闇の中に消え去っている。
「ち」
 また、逃げられたか。
 ――あの親爺。あいも変わらず、食えない。
417腐男子:03/12/22 22:43 ID:0nU5XmCh
−−−−−−−−−−−−

 クロスにもらった子供は。
 どうにも、か弱かった。
 荒野を歩いていた昼のあいだ、幾度か咳をしていた子供に、暖めた薬茶を椀に入れて渡した。
 受け取ると微笑み、こちらを見つめ返す子供。
「レイラさま……マイ・マスター。ありがとうございます」
 かすれた声で礼を返す。
「――」
 レイラは何かを言いかけ、思い返した様子で再び黙りこんだ。やがて口のはじを歪めるなり呟く。
「主人なんて、……」
 主の表情を、注意深く見守るネイ。
 レイラはゆっくりと、吐き捨てるように呟いた。
「…面倒だ」

 あの、出会いの日から、少女は闘士の傍をかたときも離れず、レイラ=アシュレイは
《ドール連れの女闘士》という有り難からぬ二つ名を戴く事になった。
 今の処、誰に狙われることもなく、このドールに擬態した子供は無事に生きることができている。
 だがこの先も、子供が耐えられるような甘い状況にて、旅を続けられる保証などはどこにもなかった。
 低い声が沈黙を破る。「ネイ」
「はい」
「ドームで暮らしたいと、思わないのか」
「さあ…」
 闘士はさらに言を継いだ。二世
「クロス――あのくそ親爺に義理立てなどせず、おまえは安全な地で暮らせばいい」
 少女はくすり、と笑みをもらした。
「レイラさまのそばが、火星で一番、安全だと思いますよ?」
「☆」
 レイラが驚いたように、わずかに目を見開く。
「…面白いことを言う」
418腐男子:03/12/22 22:44 ID:0nU5XmCh

「自分が生きている気は、あまりしていないんです」
 少女は羊毛のマットの上で、伸ばした足をそろえて座りなおした。
「だからできれば、レイラさまと一緒に死ぬほうがいいな」
「ふ」
 わずかな苦笑を浮かべるや、レイラは腕をのばし、子供の髪をふわりとなでた。
 そのまま身を引き寄せ、額に唇をあてる。
「レイラさま……?」
 小面憎かった少女のすまし顔に、初めて動揺の色が現われた。
 さりげなく離れようとして突っ張る手の力を取り込み、ネイの体を腕の中にからめとる。
 ――いかん、
 ――楽しい。
 闘士はかるがると小さな身体を抱きすくめた。
 身動きのとれない少女の、見開かれた大きな瞳が、布張りの天井をうつろに見あげる。
 闘士の手がそのあごを優しく持ち上げ、逆手で頬をぱちん、と軽くはたく。
(んっ…)
 ネイは観念したように両のまぶたを閉じた。
 血管が浮き上がって見えるほど白い、皮膚のうすい首筋をレイラの舌先がなぞる。
(はぁ…)
 抱きあげると驚くほど早く打つ心臓の音が聞こえ、少女の吐息がこちらの肌を湿らせた。
419腐男子:03/12/22 22:45 ID:0nU5XmCh

 ゆるゆると這いのぼる首元へのキスが、やがて唇を奪う。
 接吻を続けながら肩を抱くと、子供はやがて、ぎこちなくもそのキスに応えようとする。
 少女の上衣を下からたくしあげた。
 尖りはじめたうす桃色の乳頭を舐め、唇でつまむように刺戟する。
「クロスは、なぜ…」
 肌のそばでレイラは小さく息を吐いた。
 腰を抱いていた手はそのまま下へ。なめらかに滑り、下着の内へと差し入れられる。
「おまえを手離した?」
(んんっ…)
 中指がたどりついた秘裂に、指先をゆっくりと沈めていく。
 本能的な防衛反射で、ネイは腰を引くが、
 レイラがすでに、立てた膝で左右の太腿を広げ押さえつけている。
「あああっ!」
 襞が食わえ込んだ、指をゆっくりと動かした。
 細い腰がひくつく、その動きがじかに肌へと伝わる。
 圧倒的な体重の差により、押さえ込み易いことはこの上ない。
「貴重な《子供》を私に預けるとは、」
 昏い眼を持つ闘士は低く呟き、
「解せんな」
 少女の瞳に浮かんだ涙の粒を、頬に流れ落ちる前に舐めとる。
「老獪なあいつらしくもない所行だ。お前の身を案じたとも思えない」
420腐男子:03/12/22 22:46 ID:0nU5XmCh

 床に押しのべている少女の脱力した姿を見下ろし、ひくく尋ねる。
「どう思う? ネイ」
 はぁ、はぁ…
 血の気がのぼりきり、羞恥の朱に染まった顔をめぐらせ、
「クロスさまは……、」
 ネイは荒く息をつきながら、ゆっくりと告白を始めた。
「レイラさまのことを、『本当は、優しい人間になれる』と…」
「ク」
 垂れた前髪のあいだから、皮肉な笑みが透ける。
「言いそうなことだ。あのくそ親爺が」
 組み敷かれたネイは腕の下で、うめくように言葉を続ける。
「『今にも死の罠に跳び込みそうだ』、『放っておけぬ』と」
「フム」
 下穿きをネイの脚の間より抜き去りながら、レイラは無感動に呟く。
「つまりお前も"グル"か」
「レイラさま」
「恐れなくていい」
 半身を起こそうとした子供の、手の甲をとり唇を寄せる。
「遠回しに人を操ろうとする、その性根は気に入らないが、所詮年寄りのすることだ」
 そう、言いながらレイラは敷布に肘をつき横たわった。
421腐男子:03/12/22 22:47 ID:0nU5XmCh

 膝で立たせた身体を背中から弓なりによりかからせ、後ろから両腕で抱いている。
 背中から肩へとキスを降らせながら。
 前に廻した指先で、まだ肉のうすい秘所をまさぐる。
 麦の粒のように小さく盛りあがった肉芽を撫で上げる。
 首元はこきざみに震えて、こわばる身体からは力みの抜けぬようすが感じられた。
 陰部入り口の固さと内壁のきつい印象に、愛撫を続けつつも尋ねる。
「痛いか?」
「ん、うぅ…」
 ネイはただ、唇を噛み締めるようにして声を押し殺していたが、やがてためらいがちに答えた。
「…、はい…」
 うすい胸が肋骨ごとひくひくと上下している。
「そうか」
 紅く上気した頬に、ひとつキスをすると。
「やめるか」
 レイラはあっさりとそう独りごち、床の隅より上掛けの毛布を引き寄せる。
422腐男子:03/12/22 22:48 ID:0nU5XmCh

 裸の子供に腕まくらをかませ、微調整ののち、寝床にての自分の位置を決める。
 光量を落としたランプの下で眼を閉じた。
 その肩口にすがり、ネイはレイラの名を呼ぶ。
「レイラさま」
「ン」
「レイラさま…」
「うん」
 律義に返答をするレイラに対し、ネイは思い決めたように口火を切った。
「レイラさまがわたしのことを、好きでなくても…それでも」
「……」
「わたしはレイラさまの、所有物です」
 かぼそい声の陰に潜む意志のつよさに、闘士の呼吸がはっと停まる。
 鈍色に光る鋼の刃が、裸の心臓に食い込む感触。
 ――罠にかかった。
 クロス畏るべし。
 自分はもう、この少女から離れることはできないだろう。決して、二度とだ。

 いったい、どんな悪魔を脳髄に宿らせれば、このような策略を思いつくというのか?
423名無しさん@ピンキー:03/12/23 10:20 ID:7Wzk5EEQ
腐男子さんのアヴェSS
キタ━━━( ゚∀゚ )━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━( ゚∀゚ )━━━!!!!
キタ━━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━━!!!!

レイラ×ネイ(;´Д`)ハァハァよりも、クロスの策略((((((;゚∀゚))))))bヨクヤッタ
と思うのは私だけですかそうですか。
424名無しさん@ピンキー:03/12/23 21:27 ID:EosncHus
腐男子タンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


サンタさんはほんとうにいるんだね(*´д`*)ハァハァ
425名無しさん@ピンキー:03/12/23 23:00 ID:bQqCJNrf
禿げあがるほどグッジョブ!
426名無しさん@ピンキー:03/12/25 20:49 ID:tuLLEBG+
Avenger終わっちゃったね…
427名無しさん@ピンキー:03/12/26 18:52 ID:e8WQJuZn
>>426
我々の百合の旅は続く……
428名無しさん@ピンキー:03/12/28 19:02 ID:OMB7pLbP
>>427
どこまでもどこまでも
429名無しさん@ピンキー:03/12/29 19:54 ID:BxGSRKwC
セラムンのはるか×みちる希望。




希望なのでさげ。
430名無しさん@ピンキー:03/12/30 18:25 ID:oeBk4wHu
保守
431名無しさん@ピンキー:03/12/31 18:54 ID:gX3X+D7X
もう年越しか……
来年もよろしくー
432名無しさん@ピンキー:04/01/01 21:53 ID:/lDWTyyG
明けた
433名無しさん@ピンキー:04/01/03 18:47 ID:/0ozNDon
明けたか…
434名無しさん@ピンキー:04/01/06 01:06 ID:A6JOA4G/
このスレって使いづらいのかもね。
スレがある作品だと、ここに投下する必要はないわけだし。
オリジナルでもマイナーものでもエロ無しでもいいんで、職人さんの降臨を。
435名無しさん@ピンキー:04/01/06 01:34 ID:jC1iNR3r
AVENGERの放送が終わってから一気に寂れたね
(´・ω・`)
436名無しさん@ピンキー:04/01/07 12:24 ID:BlV3IMbv
tp://www1.odn.ne.jp/enji/0308/GLG.html
437名無しさん@ピンキー:04/01/09 21:04 ID:0uEAbQN5
マリみては……ここではないか…
438名無しさん@ピンキー:04/01/10 06:16 ID:faMN382X
落ちが落ちだからな、ベンジャイは
439名無しさん@ピンキー:04/01/10 12:01 ID:pBs76Sn+
零スレは神のすくつだな。
440名無しさん@ピンキー:04/01/10 12:07 ID:/KQfSITI
マリみては専用スレがあるからな
441名無しさん@ピンキー:04/01/14 01:33 ID:7w9wp4WA
過疎化しても落とさないように、しっかりと保守するのが神待ちのたしなみ。
442名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:10 ID:t8VMC+ah
バイでオリジナルでエロではない台本を途中まで投下してみたり。
題は「キュベレの巫女」。登場人物は以下のとおり、

 アロイラ……キュベレの巫女
 ミューシア……貴族の娘
 モールムール……ミューシアの父
 ラフエルン……ミューシアの母
 その他大勢

ガップ・マキベラ、ギンボ・ウミン、
男は死ね! 女は生きろ! いえーい。
443名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:13 ID:t8VMC+ah
一幕 山の中

《盗賊A》 ヒュードロロ。ヒュードロロ。
俺たちは恐ろしい山賊だ。ドロロ、恐ろしい山賊たちだ。
昼間は洞窟の暗がりに潜み蜥蜴や井守に舌なめずり、
夜は刃を振りかざし、人の命で作られた葡萄酒を啜る。
《盗賊B》俺たちは山賊だ、
残虐非道の山賊どもだ。女子どもとて容赦せん。
《盗賊A》ヤッホー!
《盗賊B》ヤホホホホホホー! ウワッホウ。
《盗賊A》只今は夜。
《盗賊B》寄る酒場もない、皆が寝静まる深い夜。
《盗賊A》で、何か上手い話はないか。
《盗賊B》馬の話? やめてくれ、先日の共同水泳を思い出す。
《盗賊A》この馬鹿。
何かいい金儲けの手段はないかって聞いてんだよ。
《盗賊B》ふはは。阿呆、そんなの知っていたら、
山賊なんてとっくに止めている。
《盗賊A》そりゃそうだ。お前に聞いたのが間違いだった。
《盗賊B》俺は知っていた。だからお前に聞きたいとは思わないさ。
ん、ありゃなんだ。
《盗賊A》どこだどこだ。
《盗賊B》見ろ、夜の暗がりを。
その目を凝らせ、疑うな、二人もいる俺たちだ。
ほら、あそこに洞窟がある。
さっきあそこに誰かが入っていった。
444名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:16 ID:t8VMC+ah
《盗賊A》女か?
《盗賊B》女だ! 多分な。しかも身なりは貧相。
《盗賊A》貧しいのなら用はない。俺たちは山賊だ。
《盗賊B》何いってやがる、お前の山はどこにいった?
 さあいくぞ、男にしかできない山場がある。
 ほら、さっさと来い。
《盗賊A》いいだろう。ん、この洞窟か?
《盗賊B》そうだ。
《盗賊A》駄目だ。
 ここは俺たちの入れる穴ではない。
《盗賊B》入れない穴があるものか、
 穴は入るためにあるんだぜ。
《盗賊A》これは女の穴だ、
 男が入ったら……おお、恐ろしい。
《盗賊B》入ったらたちまち昇天だ。
《盗賊A》そう、昇天だ。
《盗賊B》なら何を躊躇うことがある。
 今さら女の穴を怖がる年齢か。
《盗賊A》教えてやろう、知るがいい。
 お前は知らぬかもしれぬが、ここはキュベレの洞窟だ。
 男が男を失うところだ。
 無垢な処女が女になるところだ。
 おう、ブルブル。
 ガップ・マキベラ、ギンボ・ウミン、
 男は死ね! 女は生きろ!
445名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:17 ID:t8VMC+ah
 お前の瞳に映っているのは赤い怪物の喉元、
 本来は黒い闇だったのが、
 何人もの命でその色に染まりあがったのだ。
 お前が蜜と思っていたのは、
 獲物の味に舌なめずりする怪物の唾。
 奥まで誘い込まれたらもうお終まいだ、ペロリ!
《盗賊B》足が震えてきた。
《盗賊A》三本目の足が震えているうちはまだ大丈夫だ。
《盗賊B》俺の魂(タマ)はまだあるか?
《盗賊A》あるさ、さあ離れよう。
 こんな暗い夜にこそ、処刑の相談がされているもの。
 俺たちはさっと引き去って、
 そうだな、男同士でも出来ることをしようや。
《盗賊B》そうだな。荒ぶる海でスイミングとか。
《盗賊A》そうだな。舟を漕ぎながら睡眠とか。
446名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:18 ID:t8VMC+ah
一幕 キュベレの洞窟

《アロイラ》光あれ!
《ミューシア》まあ、なんて明るい蝋燭かしら。
《アロイラ》闇の真髄を顕す洞窟なら、
 こんなに小さな明かりでも、
 充分道標になってくれるわね。
《ミューシア》絶望が心の瓶に満ち溢れ、
 縁まで占めようとも。
 ほんの僅かな希望の一滴が、
 その人の救いとなることがあるように。
《アロイラ》闇の中で光はより輝く。さあ、行こうよ。
《ミューシア》ええ。
《アロイラ》キュベレ様は秘密がお好き。
《ミューシア》この洞窟はどこまで続いているの?
《アロイラ》キュベレ様は秘密がお好き。
《ミューシア》私、なんだか怖いわ。
 アロイラのことは信じているけれど……。
《アロイラ》キュベレ様は秘密がお好き。
 遠慮はいらないわ、存分に怖がってくださいな! 
 闇で目の前は真っ暗模様、目盲でなきゃ、
 迷子の子どもより情けない足取りよ。
 もっとも光が強すぎても、やっぱり目の前は、
 見えなくなるけどね。
447名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:20 ID:t8VMC+ah
《ミューシア》眠くなってきたわ。いつまで歩くのかしら。
《アロイラ》ほら、あと少しだよ。
 闇は瞳を休めるけれど、光は瞳を傷めてしまう。
 でも光がなければ物を見ることができないのだから、
 『首から血を流して喉を潤す』阿呆と何ら変わりない、
 まったく、やれ、やれだわ!
《ミューシア》足が動かないの。
《アロイラ》では抱っこしてあげる。
 なんだ、動けるじゃない。
《ミューシア》頭は、
 足が動かないなんて言っていたのに、
 この足はそれに逆らったのよ。私に責任はないわ。
《アロイラ》ミューシアの身体は只今フランス革命なの?
《ミューシア》そうなの。
 でも手は動くのよ、なんでかしら。
《アロイラ》手は頭と一緒に切り離されるからね。
 上の刃が手入れ万全、きちんと油で輝いていれば。
《ミューシア》あら。なんだか眩しいわ。
《アロイラ》ご覧、ランプの明かりだわ。
 あとはあの門を開くだけ。
《ミューシア》ああ、怖い。
《アロイラ》信じるものは救われない、が、いつか必ず報われる。
 悲しみによって、
 喜びによって、そのどちらか分からないけれど。
《ミューシア》膝が震えている。お願い、その門を開かないで。
448名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:22 ID:t8VMC+ah
《アロイラ》開け放たれた。
《ミューシア》ああ!

《アロイラ》教えてあげる、これがキュベレ様の宴!
《ミューシア》なにこれ、淫らだわ。
 一つの部屋で、みんな見ているのに、
 男と、男と……女と、女が……裸で……。
《アロイラ》淫らだわね。あたしの大好きな宴。
《ミューシア》こんなのって。ああ、
 たえられない。(逃げようとする)
《アロイラ》ああ、
 たまらない。(ミューシアを引き戻し部屋へと入る)
《ミューシア》いや、私は帰らせて。
《アロイラ》駄目よ。
 帰してたまるものですか。大事な宴の客を。
《ミューシア》騙されたみたい。
《アロイラ》騙しちゃいない、キュベレ様は秘密がお好き。
《ミューシア》ああ、こちらに来るのは誰?
 獣かしら、鬼かしら。その血走った目は。
 情け知らずの男! いや、乱暴しないで。
《アロイラ》すぐに慣れるわ! 男は獣で、
 乱暴に女を襲うけれど、その内実は家畜と同じ、
 首吊り縄のまんまるに、通してやって、ぐいぐいと、
 引っ張ってやればもうこちらのもの。
《ミューシア》やだ。痛い。乳を捻られた。
449名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:24 ID:t8VMC+ah
《アロイラ》確かに痛いみたい。
 かわいそうに、こんなに赤く腫れ上がって。
《ミューシア》脚を取られた! 何、やめて、開かないで。
《アロイラ》まるで蝶の羽みたい。
《ミューシア》嘘、何をするの? 
 ああ、こんな非道なことを!
《アロイラ》純粋な薔薇は散らされた。
《ミューシア》アロイラ、助けて。ああ、苦しい。
《アロイラ》萎れた薔薇にしては良い薫りだわ。
 どうしてかしら。
《ミューシア》お願い、せめて傍にいて。
 あなたを信じているの。
《アロイラ》いるわ。ここに。
《ミューシア》ああよかった、傍にいて、お願い。
《アロイラ》落ち着いた。
《ミューシア》違うわ。どうしてかしら、何かおかしいの。
《アロイラ》何がおかしいの。
《ミューシア》私の身体がおかしいの! 
 熱いものがおへその辺りを、
 私はこのまま死んでしまうのかしら。
 どうしよう、ね、ね、傍にいて、約束よ。
450名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:25 ID:t8VMC+ah
《アロイラ》頬を赤らめて。腰を振りながら、潤んだ瞳で。
 ははあ! なるほど。
 そんな風に懇願されて、断るわけにもいかないわね。
《ミューシア》ああ、ありがとう。
 ……お願い、そこにいて! 
 (取り乱し)どこにいるの!
《アロイラ》いるわ。ちゃんとここに。
《ミューシア》分からないわ、もっと近くに。
《アロイラ》ここまで? 鼻がくっつきそう。
《ミューシア》もっと、ねえお願い。
《アロイラ》なら、ここまで。
 あなたの呼吸の音が私の唇に吹きかかる。
《ミューシア》もっとよ。
《アロイラ》接吻だわ。
《ミューシア》柔らかい。これはアロイラなのね。
《アロイラ》そうよ、アロイラなの。
《ミューシア》今はこのままで。
《アロイラ》ええ、このままでいるわ。
《ミューシア》ああ。身体がおかしくなっていく!
 壊れていく、変わっていくの、
 治っていくわけがないわ!
451名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:26 ID:t8VMC+ah
《アロイラ》いいのよ。それで。
 いいえ、薔薇は散ったのではない。
 美しい薔薇は、小さな蕾の姿から只今、
 花を咲かせ、芳香を漂わせる。
 こんな人は始めてだわ。
《ミューシア》お願いアロイラ、
 もっとあなたを感じさせて。
《アロイラ》この接吻が精一杯よ。
《ミューシア》ああ、その声のなんて綺麗なこと!
《アロイラ》限界かしら。
《ミューシア》熱いわ、中で水がチャプチャプ、
 でもまだなの?
《アロイラ》男は一発だけじゃ満足できないのよ。
 銃口は一つなのに、タマが二つもあるのだもの。
《ミューシア》お願いアロイラ、今だけは。
《アロイラ》いるわ。でも、今だけっていつまでかしら。
 あたしは昨日に行くことはできないし、
 明日にだって、もちろん行けない。
 だから今だけ、なんて約束されたら、
 ずっとこうしていなきゃ駄目。
《ミューシア》宴は、ああ何人もの男や女が私のところへ。
《アロイラ》真っ盛りなのに、
 あたしの唇はふさがれている。
452名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:27 ID:t8VMC+ah
《ミューシア》お願いアロイラ、お別れを言わないで。
《アロイラ》あたしの唇はふさがれている。
《ミューシア》お願いアロイラ、嫌だなんて言わないで。
《アロイラ》あたしの唇はふさがれている。
《ミューシア》ああ、アロイラ!
 どうしたらいいの、この人たちがあなたを求めている。
 その唇を離せと言っている。
《アロイラ》あたしの唇はふさがれている。
《ミューシア》んん。乱暴に私が責められている。
 焼けた火掻き棒で身体の中を掻き回されている。
 けれど、ああ、
 どうして私は頬を緩めているのかしら、
 眉をしかめながら。
《アロイラ》けれど唇は不動のもの。
《ミューシア》だめ、気が遠くなる。
 お願い、アロイラ、私を救って。唇を、もう、
 離してもいいから、何か私に言って。
《アロイラ》愛してしまったみたい。
《ミューシア》誰を、何を?
 分からぬままに、ああ気を失っていく。お願いアロイラ、
 私の瞼を閉じて。眠りが私を休めてくれるように、
 お願いアロイラ、この赤いカーテンを閉めて。
453名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:30 ID:t8VMC+ah
2幕 ミューシアの家

《モールムール》親のつとめとは何だろうか、
 子どもを叱りつけることか、甘やかすことか。
 悪い道へ逸れないようにしてやることか、良き道を選んでやることか。
 縛りつけるか、自由にさせるか、
 心配するか、信用するか、
 どれもやれだと? 無理な話に決まっている。
 まして親は二人いるのだ。
 父の私は一体何をすればよいのだ。
《ラフエルン》ねえあなた、
 私は子どもを叱りつけ、
 私は悪へと逸れないように、
 私はがんじがらめに縛りつけて、
 私は子どもを心配します、だって元は同じ女ですからね。
《モールムール》だから私はしかたなく、
 愛する娘を甘やかし、
 愛する娘を正しき道に歩ませて、
 愛する娘を自由にさせ、
 愛する娘を信用する。だってこれでも元は男だから。
454名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:32 ID:t8VMC+ah
《ラフエルン》上出来ですわ、
 でも本当に子育ては、大変! フライパンに大火災!
《モールムール》消せ、消せ。
 さて、それで、本当に子育ては何だ?
《ラフエルン》仕合せですね!
《モールムール》まったくだ。泣き言なんていっていられん。
 おや、吾らがお姫さまのお帰りだ。
 朝方起きたら、ベッドにいた姿は消えていた、
 いったいどこに行っていたのやら、あんな朝早くに。

(ミューシア登場)

《ミューシア》信じていた友達の裏切りに、
 身も心も狂わされ、ああ、心よ壊れてしまえ。
 嫌うが普通のあの人を、恋し焦がれる野獣の身、
 もはや死んでも死にきれず。
《モールムール》どこへ行っていたのか、愛しい娘。
《ミューシア》(傍白)夜中の深く、
 アロイラに窓から連れ出され、
 楽しいことを教えるという友の言葉を信用し、
 山の中に隠された洞窟へ行っていたのです。
455名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:33 ID:t8VMC+ah
《モールムール》おや、泣いているのか?
《ミューシア》いいえお父様、
 これは朝顔の露でございましょう。
 申し上げます、今朝は鳥の鳴き声に誘われて、
 森の奥へと赴きました。
 鳥が愛するその土地に、なんと見事な花畑。
 思わずその場に留まって、
 かような遅れを思い出し、
 重い足を引きずって、いまここに帰ったわけでございます。
(傍白)とんでもない嘘いつわり!
《モールムール》そうか、それならばよろしい。
《ラフエルン》でもね、叱りますよ。今後は家を出る前に、
 私たちへ必ず行き先を言うのですよ、だってね、
 あなたはかわいらしい、
 気立てもよくって純粋で、
 友達思いの優しい子。
 友達といえば、ねえ、もうあの気狂いとは縁を切ったのよね?
《ミューシア》気狂い、とは一体誰のことでございましょう。
《ラフエルン》分からないならそれがいいわ、
 あの忌わしいアロイラのやつ、
 狂った心は残虐で、血の生贄をさまよい求め、
 狂った頭で思いつく、
 世にも恐ろしい儀式の担い手。
 アロイラ、やつはキュベレの巫女!
456名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:34 ID:t8VMC+ah
《ミューシア》キュベレの巫女。(傍白)本当に忌わしい! 
 あの人は奴隷! その主は悪なれども神!
 私の叶う相手ではないというの。
《ラフエルン》そう、キュベレ。
 キュベレは大地の女神にして、
 男殺しの血の女神、
 男の証を喰いちぎり、
 処女の乙女の血を流す、
 汚れた狂気、血の狂気、
 狂えば唄え、
 ガップ・マキベラ、ギンボ・ウミン、
 男は死んで、女は生きる。
《ミューシア》お母様、 
 そんな恐ろしい話はもうたくさん!
 あの人とは会うことなどないでしょう、
 これまでもこれからも。
 少し気分が悪くなりました、
 ベッドに戻らせてください。
《ラフエルン》ええ、いいわ。(ミューシア退場)
《モールムール》少し言い過ぎたか。
《ラフエルン》血はあの子には早すぎます。
《モールムール》分かっていて?
《ラフエルン》憎まれても、これがあの子のため。
457名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:36 ID:t8VMC+ah
《モールムール》信じられぬ、嫌われてもいいと。
 それでも母は人間か。
《ラフエルン》母は女ではありません。
 ましてや人間でもありません。だから、母は母なのです。

《ミューシア》眠れないわ。ここはベッドだというのに。
 乱暴の跡が疼く。傷じゃない、
 牝の猫みたいに淫らな思いが胸を引っかくの。
 ひどいわ、アロイラ。
 でも可笑しいわね、男のものなんていらない、
 それは確かに気持ちいいけど、でも私は、
 ただアロイラの口づけが欲しいの。
 どうしてこんなに愛しい?
 どうしてこんなに狂わせる?
 あなたが私を裏切ったとき、どうしてかしら。
 私はあなたを――あなたを、
 愛してしまったのだわ。
 アロイラ、ああ。
 獣みたいに貪欲で、
 人を人とも思わない冷酷な心、
 でも変わらない美しさに。
 変わらない優しさに、
 狂人の愛に!
458名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:37 ID:t8VMC+ah
 どうして? 裏切られたのに?
 裏切られたから? そうなの、
 なら私はおかしいのかもしれない。
 おかしいのだわ、
 獣みたいに貪欲で、
 同じ女を愛する心、
 なにを愚かな、同じ女ではない。
 だから愛してしまう、
 それともこれはキュベレの呪い?
 巫女を護るため、私を壊すの?
 いいえ! 壊されはしないわ、
 アロイラ、あなたがのみを振るうまでは。
 あなたのみが!
《アロイラ》(小声で窓を叩く)ミューシア。
《ミューシア》アロイラの声! 幻聴までが、苦しめる、
 いいえ、屈するものですか、
 小刀を手にしたわ、かかってくるがいいキュベレ。
《アロイラ》ミューシア。
《ミューシア》窓にいるの、誰? アロイラ!
《アロイラ》あたしは、その……。
 そう、昨晩の……。
 ……そう、キュベレ様がたいそうお喜びで、
 また来て欲しいってさ。
 あたしは、来ずともかまわないけどね。
 (傍白)自分で言っていて悲しくなる、この裏返り。
459名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:38 ID:t8VMC+ah
《ミューシア》挑戦状ね。
《アロイラ》ミューシア?
《ミューシア》行く。
《アロイラ》そう、来ないの。
 えーと、キュベレ様の呪いは、とてもとても恐ろしくて、
《ミューシア》行く。
《アロイラ》行く? 空耳が二度も。
 あたしも耳もおかしくなったか。
《ミューシア》行くわ、あそこでいいのでしょう?
《アロイラ》ミューシア! それは真?
《ミューシア》真実、冥府の川(ステュクス)の女神に誓って!
《アロイラ》うれしい! と、キュベレ様が。
460名無しさん@ピンキー:04/01/15 22:51 ID:t8VMC+ah
以上、2幕!
開演できたら笑うぜこりゃ。
461名無しさん@ピンキー:04/01/16 20:50 ID:Kb5qY/qU
普通のSSだけじゃなく、こんなのまで
書ける人いるなんてすご〜い!
ところでこの先どうなるの〜?
気になるよぅ。
462名無しさん@ピンキー:04/01/19 12:01 ID:9lOuyKxg
下がりすぎage
463名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:19 ID:vvH9rnlY
猟奇入るかむ? 比較的クラシックだけれど。
全部で七幕か八幕くらいのはずですにゃ。1時間〜2時間くらいの予定なので。
とりあえず五幕まで。
464名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:20 ID:vvH9rnlY
三幕 キュベレの祭壇
 
《ミューシア》嵐の夜は足音を消してくれるけれど、
 雨が私の長く乱れた髪をしとどに濡らして、
 目の前をふさぎ、神の元へと馳せ参るのを妨げる。
 今の私が踏んでいるのは空の涙、
 生まれた土は溶けていく。
 ああ、アロイラ。はやくはやく、
 あなたの元へ急ぐの。
《アロイラ》これは美しいウンディーネ様!
 と思ったらミューシアでないの、
 ずぶぬれで、まあ、まあ。
 早くこちらへ! 
 こちらに来ることを望むなら。
《ミューシア》そんな風に、
 ガラゴが相手を威嚇するような顔で睨まないで。
《アロイラ》顔は変えていないわよ。
《ミューシア》でも怒っているみたい。
《アロイラ》笑ってはいないわね!
 いえいえ気のせいじゃないかしら、光のかげん。
 キュベレの巫女は、ただ一人。
 さあ、おいでなさい。まだキュベレの祭壇に、
 たどり着いていないのよ。
《ミューシア》ええ、すぐに。
465名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:22 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》ほらついた。
《ミューシア》本当にすぐだわ。
 まるで舞台の端から中央までの距離を歩いたみたい。
《アロイラ》服を脱いで、さあ!
《ミューシア》服がなくなった、災いの予感。
《アロイラ》では、わが主に祈りの言葉を……
 外は雨だったかしら? 雨。
(両膝をつき、手を組む。突然に立ち上がり)
 キュベレ!
 ルベラ・ルボラ、ガップ・マポア、ココロ・キリロ。
 ギプン・ルピュイア、カモイモ・シランネ、
 ンギャラギャラ・キュベレ!
 この私に、淫らな女の神よ、汚れた狂気よ、
 偉大なる言葉を授けたまえ!
 首を、この爪で引き裂く!
 ああ、血が、血が! 流れる!
 喉の奥に。山羊の血が。
 うまい、もう一杯。
《ミューシア》変だわ、奇妙だわ。
 山羊の肉ならまだわかるけど、
 そんなものはうっちゃって、
 首からどんどん流れる、
 その不味い血だけを葡萄酒のように浴びて飲むなんて。
466名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:23 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》ああ喉が渇く。ああ痛い。
《ミューシア》その上、その山羊の骨で自分の身体を、
 ところかまわず傷つけるなんて。
《アロイラ》イヤッフウ!
 やめろ、怒るな! 猛るのか、
 いいだろう荒れてしまえ!
 死ぬのか? 狂うのか?
 それも救いというもの、
 だが大罪。
 マルラマルラマルラマルラ、
 聖なるモルテ!
 アアアアアー、キュベレ、
 アアアーー!
《ミューシア》目まで血走っている。髪が逆立って、
 でもそれがすてき。まるで牝狼が叫んでいるみたい。
 こんなの正気の沙汰ではないこと。
 私、インドで苦行している人を知っているけれど、
 それだってこんなに綺麗じゃないし、
 うっとりするくらい、凛々しいものではないわ。
 これは情熱に燃えていて、
 美しい人が行なう儀式、
 だからこんなに神秘的なのね。
467名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:24 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》ああ、キュベレ!
 ああ、キュベレ。ああ、ああ。
 キュベレよ、キュベレ!
 キュベレ、キュベレだわ。
 キュベレ、キュベレ、
 キュベレ、キュベレ、
 キュベレ、キュベレ、
 キュベレ、ああ!
《ミューシア》目が離せないわ。
 アロイラの身体から滝のように流れていく、
 美しく輝く汗と阿世。
 だめよミューシア、見惚れていては。
 なんてなんて、はしたない。
 膝を擦り合わせちゃだめ。
 変な音を立てちゃだめよ、カエルが水の中を、
 じたばた泳ぐみたいな音。
 アロイラに聞こえてしまう。
468名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:25 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》フウッ!
 お告げは得た。なんと、そんなことが、
 おお、なんだと?
 嘘は申さぬ、それでは、
 嘘ではない、なんであると……。
 真か! ならば殺せ、首を絞めろ、
 痛めつけろ! 反撃なんてさせるな、
 口答えは許さんぞ、首斬りにしてしまえ!
 そうだ。何をだって?
 鶏だよ、宴会用の!
 ヒャホ、ヒャホホホホホ、
 ウヒャホホホのホホ、
 ホアホホホ、
 巫女だ!
 キュベレの巫女、ミューシアのために、
 ハハハハ!
《ミューシア》なにかとんでもないことを言っているわ、
 ねえアロイラ、どういうこと。
 私は何もわからない。
《アロイラ》なら教えてあげる、
 ほらほらご覧、
 ここにあんたのための鶏がいるわ。
《ミューシア》まあ、かわいい。
《アロイラ》この鶏が鳴く前に。
469名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:27 ID:vvH9rnlY
《ミューシア》私は何をするの。
《アロイラ》鳴かなくなるように、この鶏を殺すの。
《ミューシア》そんな!
《アロイラ》やってごらんなさい。楽しいわ。
《ミューシア》楽しいだなんて、
 そんなことあるわけないじゃない。
《アロイラ》あんたにそれを言う資格はない。
 あたしには、楽しいっていえる資格があるけれど。
《ミューシア》資格はない、でも意思がある。
 ついでに、義務はないわ。
《アロイラ》四角ではない石はお茶をしない?
 まるで謎謎ね。
《ミューシア》お願いアロイラ、
 そのお仕事、私には辛すぎる。
《アロイラ》肉屋の仕事は時給960円、
 早朝出勤の上、残業手当なし。アルバイトで、だけれど。
《ミューシア》女の仕事じゃないわ!
《アロイラ》男の仕事でもない。
 肉屋の仕事は肉屋のすること、
 巫女の勤めは巫女のすること。
 ああキュベレ様、ミューシアにお許しを!
《ミューシア》やる。
《アロイラ》よろしい!
 ほら、ここには血に塗れた短刀がある。
 これで鶏の首を刎ねるのだわ。
470名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:28 ID:vvH9rnlY
《ミューシア》かわいそうな鶏さん、
 なんて清らかな目をしているのかしら。
 じっと見つめて、清らかな目を、
 この血刀に興味があるの?
 ああ、これが今からおまえの命を断つのよ。
《アロイラ》あたしを狂っているという人が、
 度々世間にいるけれど、こんな風に、
 違う動物へと意味のない話しをする狂気、
 人って追い込まれたら、
 どんな気違いになってもおかしくないわね。
《ミューシア》愛が私を追いつめる、鶏のように。
 残酷で狂った女との出会いが。
《アロイラ》いいえ、
 狂っていない人間などあるものか。
 アリストテレスの言葉を借りるなら、
 並外れた人々は、みんな憂鬱病患者。
《ミューシア》いいえ、
 仕方ないわ、だってみんなその粘土だもの。
《アロイラ》殺してしまえ、ミューシア!
《ミューシア》ああ!
 狙いが定まらない、背中を刺した。
《アロイラ》首よ。
《ミューシア》暴れだしたわ、
 腹にぐさり。動いている、叫びそう!
471名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:29 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》叫ばせるな、首よ。
《ミューシア》ええ、死んでしまって、
 叫ばせないわ、アロイラのために。
 ほら、ずばり! 的中。首を斬ったわ。
《アロイラ》上出来!
《ミューシア》鶏の血と鳩の血はどう違うのかしら。
《アロイラ》違わないわ、綺麗なことは。
《ミューシア》違うわ、鶏はそのまま変だけれど、
 愚か者の血はあちらこちらに流れるのよ。
《アロイラ》なるほどね。
 その言葉は青ざめた顔よりも、
 赤らむ顔に相応しい。
 さあ、鶏の血を塗ってあげるわ、
 全身にね。
《ミューシア》いや。
 やめて、やめて、汚いわ、そんなもの。
《アロイラ》汚い、ハハハッ!
 鶏の血と、あんたに流れる血のどこが違う?
 いいえ鶏の血のほうがずっと稀少だわ、
 だって人間の血は冥界の三海すらも創りあげるけれど、
 鶏の血なんてそこらの澱みもない小川がいいところ。
《ミューシア》ああ、――この身体が鶏の血を纏う。
472名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:31 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》ええ、よく似合っておりますよ、お嬢さま!
 服屋の名文句ね。この一言が亭主の破滅。
《ミューシア》いや、脚の間も塗れている。
 どうしてかしら、匂いが私を知らないものに変えていく。
 ああ、女のみの悦びに、身体がうち震える。
《アロイラ》処女が今、はじめて散らされたのだわ。
 その子宮に鶏の血を注ぎ込む。とく、とく、とく。
 いい薫り。こんなに感じているのね。
 ああ、キュベレ!
《ミューシア》気持ちいい。
《アロイラ》もう逃れられないわ。
《ミューシア》逃れたくない。
《アロイラ》よかったわね。
《ミューシア》血と狂気に溺れていく。
《アロイラ》溺れなさい、キュベレのために。
《ミューシア》あなたのために。
《アロイラ》そう、あたしのために。

473名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:32 ID:vvH9rnlY
四幕 ミューシアの家

《ラフエルン》娘の様子がおかしい。
《モールムール》なんだ、恋愛か?
《ラフエルン》恋、確かに!
 あの様子は恋する乙女そのものです。
 つまり狂っているという意味ではね。
《モールムール》この父の目には、
 とくに不思議は映らないが。
 どのような?
《ラフエルン》そうですね。
 何も言わずに外へ出る、
 目は何も見ていないみたいに透明で、
 身体から奇妙な匂いがする、
 日中ぶつぶつと独り言を呟いている。
《モールム―ル》謎謎か?
 それはヤカンでお茶を沸かしている煙だよ。
《ラフエルン》いえ、いえ、まさか!
 でも大丈夫かしら、火を消し忘れているの。
《モールムール》私たちの娘は狂っていない、
 当たり前のことだろう。
《ラフエルン》そうですね。
 けれど、ああ! 親だからこそ、
 子どもを信頼できない。
474名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:32 ID:vvH9rnlY
《モールムール》ヒステリックだな、
 どっちが狂人だか。母親というのは、
 みんなこんなものなのか? 
 いいだろう、私が娘に、信頼する下男をつけよう。
 彼の目は暗闇でも日の下と変わらぬように見え、
 彼の目は眩しいところでも薄明かりと変わらず見える。
 彼の目は、たとえ遠いものでも、
 近いものでも変わらず見える、
 一刻たりとも瞬きを知らない、
 そんな素晴らしい彼の目で見張らせよう。
《ラフエルン》信じるわ、あなたのことは。
《モールムール》それで娘はどこに。
《ラフエルン》まだ、帰っていないの。
 でもどこに行ったのかしら!
475名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:34 ID:vvH9rnlY

(アロイラ登場)
《アロイラ》信じる者を違えれば、
 いずれその身は破滅を呼ぶ笛、
 涙別れの悲しみに、
 ただやるせなさは吹き続く。
《モールムール》おお、おお、
 あれはだれだ。忌わしきキュベレの巫女!
《アロイラ》ご機嫌麗しゅう、
 ミューシアのご両親方。
《ラフエルン》立ち去れ悪魔! 
 神をも恐れぬ、邪教の主!
《アロイラ》いかにもあたしは悪魔、
 かの光輝く神をも恐れぬ、邪教の主。
 けれどそれらは、立ち去るほどの理由ではない。
《モールムール》私はお前が嫌いだ。
《ラフエルン》私もお前が嫌いです。
《アロイラ》そうかい。
 思いは変わらないというのに、
 なんて悲しいのだろうね! つまり、
 お互いにミューシアを好きだというのに。
 もっともあたしはミューシアのことだけを、
 好きなのだけれど。
《モールムール》聞いたか? あの言葉。
《ラフエルン》出て行きなさい、
 お前がミューシアを好きになる資格はどこにもない!
476名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:35 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》資格はない、義務もない、
 けれど曲げることのない意思がある。
 お茶をするかい、お母さん?
《モールムール》出て行け、さもないと……。
《アロイラ》ふむ! 用事は済んだ。
 出て行きましょう、
 今振り上げている、あんたの刀があたしの血を吸うその前に。
《ラフエルン》二度と来ないで!
《アロイラ》だが、
 もう一度ここへは来ることになるだろう、
 それがキュベレの予言。(立ち去る)
《ラフエルン》おお、娘はどこに?
 いつの間に自分のベッドに寝ていたのでしょう。
 私たちは知らない!
《モールムール》すぐに下男を呼ぶ。
477名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:36 ID:vvH9rnlY

五幕 キュベレの夢・暗黒
 
《ミューシア》アロイラ! アロイーラ!
 どこにいるの、アロイラ、ねえ聞いて。
 私、夢を見たの、キュベレ様の夢よ、
 ねえアロイラ、どこにいるの?
《アロイラ》(声が返る)ここに。
《ミューシア》ああ、いたのね。
 笑っているの?
《アロイラ》怒ってはいないわね。
 どのような夢を。
《ミューシア》ええ、
 目を開いたら、赤くて硬いレンガの上に立っていたの、
 辺りは紅の神殿の壁で、
 私はそこがどこだかわからないの。
《アロイラ》キュベレ様の神殿だわ。
《ミューシア》ええ、
 紅の神殿は、ふと見ると、
 全部レンガ造りだと思うのだけれど、
 よくよく確かめれば、地面と天井はレンガで、
 壁は赤い水で造られていたの。
 紅い水に触れてみると、指は抵抗なくそこに沈んで、
 指を離すと、糊みたいにねとっと、
 糸を引いたのよ。
 嘗めてみるとそれがとても美味しくて、
 そこで私はしばらく嘗めていたの。
478名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:38 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》お菓子の家みたい。
 それにしても鮮明な夢ね! よく覚えているわ。
《ミューシア》私が嘗めていると、そのときにふと、
 どこからか声がして、それで私は、
 声に耳をすませたの、なんだか、
 美味しいものよりも、ずっと魅力的な声だったから。
 すると声は、
 なんだか私を誘っているみたい、
 こっちに来るようにって誘っているの。
《アロイラ》そうしたらミューシアは?
《ミューシア》声のする方に行ったわ。もちろん。
 硬い赤い色のレンガは足音を鳴らさず、
 ただ私の呼吸の音が、神殿に聞こえるの、
 は、は、という音。それは少し荒くて、
 獣みたい、いいえ獣そのもの。
 なんだか私は興奮していたの。
 神殿はずっと奥まで続いていて、
 どんどん暗くなっていくの、
 はじめは鮮やかな赤の壁、
 でも奥へと進むに連れて、錆びた銅みたいに、
 濃い赤になっていくの。
 それでも、神殿の奥へと進んでいったわ、
 するとそこに階段があって、
 声はそこからするの、
 階段は下へと続いていたわ。
479名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:39 ID:vvH9rnlY
 私は階段から下へと降りていく、
 地面の下へ行くのだから、きっと、
 暗くなっていくはずなのに、
 また、明るくなっていくの、
 どんどん、どんどん、
 まるで太陽が下にあるみたいに。
《アロイラ》あたしたちの見ている世界は、
 本当はまっ逆さまなのよ。
 瞳に映っているものは、ぜんぶ反対なの。
《ミューシア》だったらきっと、
 私は空のほうへ登っていっていたのだわ、
 だって雲が靡いていたし、
 階段の先には、輝く塊があったのですもの。
《アロイラ》その輝く塊に、触れた?
《ミューシア》いいえ、
 けれど、その輝く塊は、ふと目の前をよぎった影に、
 引き裂かれてしまったわ。
 それでまた暗くなるの? と思ったけれど、
 やっぱり世界はピカピカ光っているの。
 それで、私の目の前には、綺麗な女の人が、
 立っていたのよ。
《アロイラ》その人がキュベレだわ、ねえ。
480名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:40 ID:vvH9rnlY
《ミューシア》そうなの。
 それで、その女の人は、私の唇に接吻をして、
 「よくぞここまで落ちてきた」っていうのよ。
 それから自分の名前はキュベレだといって、
 私の身体にその血に彩られる手を巻きつけると、
 ゆっくりと愛撫したわ。
 触れた先から血が滴り落ちて、
 血に塗れた御手が、
 私の身体を清めていくの。
 それから、蕩けそうになっている私に、
 再びキュベレ様は口づけをして、
 「あなたは我に奪われる」といったわ、
 ああ、どうしてかしら、
 私はそれに頷いたの。
 キュベレ様が私の瞳に指先を入れて、
 その誰も触れたことのない瞳の穴へ、
 血に塗れた指を差し入れたわ。
 それからはじめはゆっくりと、
 私の視界を指先で犯してくれたの。
 男根なんて地面に落ちて蛆に食われておしまい、
 なんて、すばらしい快楽かしら。
 私がキュベレ様の名前をはしたない声で呼ぶと、
 キュベレ様は激しく私の瞼の内を、上下左右に揺さぶって、
 その度、瞳から、ううんそれだけじゃない、
481名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:41 ID:vvH9rnlY
 頭の中まで掻き回されたの。
 柔らかい指先が、
 脆い私の頭の中を、瞳を通して。
 それはもう、キュベレ様のお心が、
 私を愚かな瞳を許してくださったように、
 指は私の瞳を掻き回したのよ。
 瞼を閉じても見える、
 一面の綺麗なキュベレ様の指先と、
 かがやく血の色に、
 うっとりしながら、
 私はキュベレ様の名前を呼んで、
 それから求められるままに、私のすべてを、
 キュベレ様に捧げたのだわ。
 心も、身体も、魂、命すらも、
 キュベレ様は求めたのよ、
 私の未来、私のいま、私の過去も、
 キュベレ様は欲しがったわ。
 私は求められることに、すべてしたがって、
 喜びに震える心で、キュベレ様の言葉に頷いたわ、
 褒められた子どもみたいにね。
 それからキュベレ様は面白い冗談をいったわ。
 ミューシアのμがなんとか、とか、
 血と胸がどうのとか。
 神様なのに不器用な洒落をね。
 私はその度に笑って、
 キュベレ様に寄り添ったの。
 温かいのね、キュベレ様の肉体って。
 それが私の見た夢で、
 ねえアロイラ、二つほど、聞いてもいいかしら?
482名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:42 ID:vvH9rnlY
《アロイラ》なんなりと。
《ミューシア》キュベレ様はこういったわ、
 キュベレの巫女はただ一人、あなただけだと。
 ねえ、アロイラ、アロイラはキュベレの巫女よね。
《アロイラ》……。
《ミューシア》アロイラ。アロイラ? 
 どうしたの、具合が悪いの。
《アロイラ》いいえ。いいえ、ミューシア。
《ミューシア》アロイラ、アロイラ、
 どこにいるの? あなたの姿が見えない。
《アロイラ》いるわ。ちゃんとここに。
《ミューシア》分からないわ、もっと近くに。
《アロイラ》ここまで? 鼻がくっつきそう。
《ミューシア》もっと、ねえお願い。
《アロイラ》なら、ここまで。
 あなたの呼吸の音が私の唇に吹きかかる。
《ミューシア》もっとよ。
《アロイラ》接吻だわ。
《ミューシア》柔らかい。でも、ああ!
 それなのに、どうして?
《アロイラ》そうよ、アロイラなの。
483名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:43 ID:vvH9rnlY
《ミューシア》ああ、ああ、どうして!
 どうしてあなたはそんなにも、
 美しい血に塗れているの、まるで、
 あなたが血の女神になってしまったみたい、
 まるで。
 嘗めていいわよね、接吻だもの。
 美味しいわ、確かにこれは血よ。
 血なのだわ。ああ、美味しい。
 でも、どうして、
 どうしてあなたは。
《キュベレ》キュベレの巫女は、ただ一人!
484名無しさん@ピンキー:04/01/20 21:49 ID:vvH9rnlY
というわけで五幕目。
いわゆる「二つの解釈」でごんす。ここまでで一段落。
あとは男が死に、女が生きるだけ。
485名無しさん@ピンキー:04/01/20 23:08 ID:grNQmffI
ん、もしかしてミューシアは…??
意味ありげな言葉が表す結末はどうなるんだ?
486名無しさん@ピンキー:04/01/27 11:07 ID:pKYHXNE5
保守して待つ。
487名無しさん@ピンキー:04/01/29 23:35 ID:W9XoAdNZ
保守
488名無しさん@ピンキー:04/01/31 18:38 ID:F79evSC7
保守
489名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:22 ID:OofqWL37
六幕投下〜。

(前巻の続き)夢のなかの自分はとにかく日本一のエロ者になりたくないから、
「なるべくイかないように負ければよい」とちょっとズルイ気持ちで空のキュ
ベレと向かい合うと「見合って」の声。

ごめんなさい嘘です。さてさて六幕。
490名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:23 ID:OofqWL37
六幕


《モールムール》今夜娘が部屋を抜け出した。
 追え! 猟犬のように。
 お前の瞳は夜の闇のカーテンを引き剥がす。
 お前の瞳は偽りに惑わされず、嘘と真実を見分ける。
 お前の瞳はお前の命、かけがえのない宝、
 いったい何者がお前の視線から逃れられようか。
 さあ行け、娘を追いかけるのだ。
《下男》お嬢さんの後ろ姿、確かにこの目が見ております。
 追いかけましょう、匂いを嗅ぎ分ける猟犬のように、
 梟の目でしかと姿を捕らえて。
 
《下男》ひどい雨だ。
《アロイラ》キュベレ様、巫女がただいま参ります。
《下男》(傍白)キュベレだって?! やはり、
 モールムール様のおっしゃるとおり。
 お嬢様は気がふれておられるのだ。
 よおし、気がつかれないよう、
 遠くから見張っていよう。
《アロイラ》ああ、ああ、もうすぐそこに。
 キュベレ様、お慕い申し上げます。(消える)
《下男》あの洞窟は一体?
《山賊A》おい、そこの男、お前だ。金を置いてゆけ。
《盗賊B》こうして我らは老いていく。
《下男》山賊か。
《山賊A》そう、残虐非道の山賊だ。
《山賊B》二人だけでも山賊だ。
《山賊A》腹の中だけではなく、鼻の中まで黒い山賊だ。
491名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:25 ID:OofqWL37
《山賊B》足の股も、焦げたようにどす黒い。
《山賊A》そこに焼けた火掻き棒を持っているから。
《山賊B》なんたるインモラルな言葉だ。
《下男》ええい、邪魔だ。俺はあの洞窟に入らなくてはならんのだ。
《山賊A》なんだって?
《山賊B》いいや北だ。
《山賊A》あの洞窟を知っているのか、あれはキュベレの洞窟だ。
 そこは男が失われるところだ。
 処女が女になるところだ。
 お前のような若造が、
 輝く未来を持つ若者が、
 立ち入るべきところではない。
《下男》そんなところに、
 お嬢様はいったい何の用があるのだ?
《山賊A》島原と間違えたわけではないさ。
《山賊B》キュベレの儀式は邪教の儀式、
 つまりあのお嬢さんはキュベレの巫女さまだ。
《下男》嘘だ。
《山賊A》本当だ。
《下男》天草様に誓っていう、嘘だ。
《山賊A》浅草神輿に誓っていおう、本当だ。
《山賊B》真の実というものは、言の葉などでは曲げられぬ。
《下男》おのれ。お嬢様を侮辱する気か。
《山賊A》どうでもいいから金を出せ、
 武力をされたくないのなら。(ナイフを出す)
《下男》ええい、うるさい。
(ナイフを奪う)くらえ、その胴に。
《山賊A》うわ、やられた。
492名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:26 ID:OofqWL37
《山賊B》大丈夫か。やつは逃げたぞ。
《山賊A》大丈夫なものか、山椒大夫だ。
 しまった。血が止まらぬ。ちっ。
《山賊B》どうしよう。
《山賊A》この胴は、どうしようもない。さらば。
《山賊B》あ、おい、とまれ。
《山賊A》お暇するぜ。

(キュベレの祭壇)

《ミューシア》我が愛しのキュベレ、
 私の大好きなキュベレ様、ただいまより、あなた様のために、
 捧げられた供物を引き裂き、その命を捧げます。
 男たちのpenisを失わせ、その肉をあなた様に捧げます。
 愛しのキュベレ!
 よかろうミューシア。
 いざ、お前の手は罪に汚れる、子羊の血に、
 気高き知に。ミューシア、お前は罪に汚れ、
 正義に清められる。石鹸に塗れて穢れを払い落とすように、
 ミューシア、お前は罪をもって清められるのだ。
 けれどもミューシア、それではいまだ足りぬと知れ。
 足りぬ? それは何故。
 我は神、不死にして永遠の神であるキュベレ。
 お前が私に愛されるのは永遠、
 その肉体は捨てなくてはならない。
493名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:28 ID:OofqWL37
 キュベレ、大地を捨てよと? 大地を捨てて堕落せよと?
 キュベレ、キュベレ、ああ、
 私はどこまで落ちてゆけばよいのです、ああ、
 キュベレ、キュベレ!
 恐れるな、お前のことを愛しているのは誰だ、
 この私が愛している! お前はただ私にすべてを与えるのだ、
 お前が与えられるすべてを。
 ミューシア、お前の破滅を躊躇ってはならぬ。
 けしてその身が滅びようとも、蛆がお前を食もうとも、
 私がお前を愛する限り、
 お前はここに在りつづける、お前の死んだ肉体は、
 あわれな蛆たちを食らうだろう。
 キュベレ、私は、ミューシアはあなたを愛します。
 私の肉体はあなた、心はあなた、正義はあなた、正気はあなた、
 私のすべてはキュベレのもの。ああ、キュベレ!
 さあはじめるわ、
 花を摘むように性器を切る、美しい花は植物の性器。なのに、
 どうして人は自分の性器を卑しく見るのかしら。匂いにしたって、
 異性を惹きつけるためのものよ。
 たくさんのスポンジが出てくるの。柔らかくて、
 まるでぬいぐるみの中にある羊の毛みたい。これをすべて掻き出さなくちゃ。
 それから白玉を切り離す。
 そうして、切ったところを縫い合わせてあげる。これでいい。
 では次の人。
 キュベレ様はこれを罪に汚れることといったわ。
 けれど罪って何かしら。この世に罪ではないことが、
 はたしてどこにあるのでしょう。どこもかしこも罪だらけ、
494名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:29 ID:OofqWL37
 自分が正しい人などと、神さまだっていえやしない。
 いいえ、神を信じる人に、正しさなどあるものか、神さまなんていやしない、
 間違いだらけのツギハギに、よもや命を委ねようとは。
 私はキュベレ様を愛しているわ。けれどキュベレ様を信じていない。ただ愛されたい、
 それだけのため、望んでいるのは身の破滅。
 ミューシア、ミューシア、それでよい。
 お前は自ら身を捨てる、心を捨てる、それが私の望むこと。
 人を殺すことに罪があるのかしら。
 いいえ本当は欠片もない。
 けれど他人などという同じ弱いものに殺されることは、
 人の誇りが許さないから、それを罪と呼ぶだけのこと。
 だから見ればよい、風が人を殺すのを。
 だから見ればよい、地震が人を殺すのを。
 ミューシアはキュベレに殺される、その死の半分は。
 ミューシアは自ら命を落とす、その死の半分は。
 だが一体どちらが、その片方だけでありえようか。
《下男》恐ろしい。どうしてこんなところに目があるのだ、
 それも二つも。なければよかったのだ、このような真実を見させられるくらいならば!
 目よ、お前は俺を嘲笑っているのだろう、頭を蔑んでいるのだろう、
 さもなければ、このようなものを見せるはずがない。
 おお、おお! (退場)
《キュベレ》お前は何を望んでいたのか、
 夢を望めばよかったのだ、絶望するくらいならば。
 お前の肉体は狂っている、お前の心は狂っている、お前が知るべきところを知り、
 それを忌み嫌うなどとは。
495名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:31 ID:OofqWL37
《ミューシア》キュベレ様、キュベレ様、
 あなたは私を抱いてくださいますか、喉の付け根から二本も生えている長い舌で、
 この私の子宮を愛撫してくださるのですか、
 獣のような凛々しい瞳は、私の心臓を揉みほぐします、
 二つの乳房の周りには、まるで体毛のように小さな乳房が生えていて、
 そこを唇で吸ってみると、またトロトロと、甘いミルクが流れていく。
 そのように美しいあなた様は、私のことを抱いてくれますか。
《キュベレ》お前もいずれこのようになるのだよ。
《ミューシア》ああ、キュベレ様、なんて、その日が待ち遠しい。
496名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:40 ID:OofqWL37
六幕終了です。
この幕で山賊さんがまず死んで、ミューシアを犯した男たち
(正確にはpenis。男の象徴)が死ぬ、と。
次の幕でミューシアが死にます。
497名無しさん@ピンキー:04/02/01 10:44 ID:OofqWL37
うわー誤植。490の最初のところは《アロイラ》ではなく《ミューシア》でおわす。
498名無しさん@ピンキー:04/02/01 11:51 ID:5z+qBofl
なんかおそろしいことになってきましたね、血の儀式。
でもどんな結末になるのか気になります。
                        いちファンより。
499名無しさん@ピンキー:04/02/01 15:14 ID:mkmMUmxn
ふたりはプリキュアがかなりツボなんですけど。
あのOP素晴らしいですね。
500名無しさん@ピンキー:04/02/01 16:42 ID:WEDBmZTK
>499
ガーン見逃したYO_| ̄|○

個人的にはカレイドスターがええなぁ。
レイラさん×そらたん(;´Д`)ハァハァ
501500:04/02/01 16:50 ID:WEDBmZTK
下げ忘れスマソ(´・ω・`)
502名無しさん@ピンキー:04/02/01 17:17 ID:ABtF8tjR
新世紀淫魔聖伝の瞳×真緒もよい。
淫獣聖伝よりも従姉妹だし百合度が高いぜ。
503名無しさん@ピンキー:04/02/04 10:17 ID:+BQU2NCd
百合キュア
504名無しさん@ピンキー:04/02/04 14:08 ID:I0xQIbvZ

ネ申はまだか(つД`)オオオーオオオー 
505名無しさん@ピンキー:04/02/06 00:12 ID:5AcoOGzS
保守
506名無しさん@ピンキー:04/02/09 16:37 ID:JCduBkrX
プリティでキュアキュア・・・!!
507名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:21 ID:N2qr4jyJ
七幕〜。シリアス度が高く、ただでさえ低いエロスが一番低い。普通度が高い。
男をメインにすると百合度がここまで落ちるとは……。
次、終幕は必ずミューシアとキュベレにラブラブさせます。

この幕でモールムールが放つ「言わぬと殺す」が個人的にこの劇で好きな台詞。
それでは開幕〜〜。
508名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:22 ID:N2qr4jyJ
七幕 ミューシアの家

 
《モールムール》嵐が明けた。
 昨夜あれほど荒れ狂っていた風が、
 まるで赤子が泣き止むように、
 生者の心臓が止まったように、
 息の音をすっかり消してしまった。
《下男》ご主人様。
《モールムール》誰だ、私を呼ぶのは。
 お前は誰だ! 血塗れの瞳、盲目の姿のお前は。
 一体どのような山賊がお前の宝、命を奪ったのだ。
 おお、なんたる不幸。
 この世に比類なき目を持っていたというのに、
 お前の身は盲目のモイライが嫉妬した挙句のことか?
 癒さぬか、その瞳を。これでは癒せぬ!
 ああ、ああ、どうしてこのような!
《下男》お答えします、ご主人様。
 この瞳は恐ろしい暴力に為されたものではありません、
 我自らがナイフで抉りとったものでございます。
《モールムール》何と言った。
《下男》我が瞳は、誰に奪われたわけでもありませぬ、
 この頭で考え、この片手で無くしたのです。
 ナイフで抉り、我が体から切り離したのです。
《モールムール》何と言った。
《下男》それはこの瞳が我が心を裏切ったため。
《モールムール》何と言った!
509名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:23 ID:N2qr4jyJ
《下男》お聞きください、
 最後に、おお。瞳の最後に犯した罪、
 許されざるあの裏切り、
 ご主人様、我が瞳はお嬢様をしかと見ました、
 山の奥深くにあるキュベレの洞窟、
 そこに入るお嬢様をとくと見ました。
《モールムール》それは裏切りと呼べるほど重い罪ではない。
《下男》お聞きください、
 けしてこれだけでは終わりませぬ。
 我が瞳はキュベレの洞窟の奥を見ました、
 キュベレの祭壇を見ました、
 そこにいるお嬢様を見つめました。
 お嬢様はキュベレの巫女として、
 祭壇に佇み、儀式を行なっていました。
《モールムール》お前はそれを許せない、
 それほど狭い心の持ち主であったのか。
《下男》まだお聞きください、
 お嬢様はそこで神をも恐れぬ所業、
 幾人もの男子を去勢し、
 神へ冒涜極まりない暴言を吐き、
 世にも恐ろしい呪いを唱え、
 獣のように舞い踊っていたのでございます。
《モールムール》なるほど、
 お前の言葉は恐ろしい、
 私は二つも耳のあることを後悔するほどだ、
 お前の口が一つであることは救いといえよう。
 しかしそれでも、どうして私がこの耳を、
 引きちぎることができようか、
 ましてや輝かんばかりのお前の瞳を、
 どうして失くすことができよう?
510名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:25 ID:N2qr4jyJ
《下男》いいえ、いいえ。
《モールムール》何を言っている、
 お前の瞳の血が涙であるように流れている、
 お前の声が震えている。
 まだ何か語ることが、その舌にあるか。
《下男》いいえ、これ以上は舌を汚すこと。
 我が瞳の罪を、舌にまで被せることはありませぬ。
 それほどにこれは重いこと。
《モールムール》言え。
《下男》血が頬を伝う。
《モールムール》言うのだ。
《下男》血が、ああ、瞳から零れる血が、我が口元に降りかかる。
《モールムール》言わぬと殺す!
《下男》ならば言うより他にない。
ご主人様、お聞き下さい、いいえ聞かぬほうが、
よほどによいか知りませぬ。
 お嬢様は、お嬢様は、
 キュベレを愛していらっしゃいます。
 そしてご主人様、
 お嬢様の所業、お嬢様の言葉、
 それらはまるで正気のもの。
 ああ、たとえば野蛮なる鉈で切り取り笑うような、
 そんな業ならまだ納得もいきましょう。
 けれどお嬢様はただ機械的に、精密に、
 職人の技であるように、男のものを刈り取るのです。
 その言葉も、神を冒涜する言葉も、
 我々が架空の神を信じることの愚かしさを、
 ただ冷やかすだけのもの。
511名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:26 ID:N2qr4jyJ
 そして、そう、
 すべてにおいて正気なお嬢様は、
 ただキュベレを愛するという、
 愛するという、尊いはずの思いによって、
 人にとってかけがえのない思いによって、
 唯一、確実に狂っているのでございます!
《モールムール》お前の言葉は私を殺した。
 私の心を粉々に打ち砕き、
 私の夢を崩壊させ、
 私の願いを、嵐の暴力が吹きつける蝋燭の炎のように、
 いともたやすく消し去った。
 どうして娘を取り戻せよう、
 私の娘を?
 お前の言葉が真実ならば。
 正気でしかない娘、愛することを知った娘、
 どうして引き戻すことができようか。
《下男》ああ、なんと悲しい。
我のみならず、ご主人様も死んでしまわれるとは。
 ここにもはやご主人様の心はない。
《モールムール》ここにいるのかな、
 私のかわいいミューシア。
 お前の夢はなんだい。そうかい、
 気立てのいいお嫁さんかい。
 お前ならきっとなれるだろうよ。
《下男》ご主人様は何に語りかけているのだろう。
512名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:27 ID:N2qr4jyJ
《モールムール》お父さんがきっと、
 お前の幸せな道を探してやるからな、
 たくさんの綺麗な服、
 たくさんの美味しい食べ物、
 お前のための部屋を用意して。
《下男》ここには誰もいないというのに、
 ご主人様の言葉は誰かに語りかけている、
 いったい誰に。
《モールムール》ミューシア、
 お前は私の生きがい。(下に飛び降りる)
《下男》今の音は?
 そういえばここには大きな池があった、
 ご主人様! 誰か、誰か!
 ご主人様が池に落ちた、
 このままでは死んでしまう、
 誰か、誰か!


《ラフエルン》あの人は死にました。
 我が夫。モールムール、悲しい人よ。
 いいえ私もあわれな人間というもの、
 娘の心を失くし、そのうえ、
 愛する夫まで亡くしてしまったのですもの。
 空は雲ひとつなく晴れているというのに、
 どうしてこんなに涙が溢れるのでしょう。
 瞼が黒い雨雲になったというの、
 たったの数日でこれほど悲しい大河に満たされようとは。
513名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:29 ID:N2qr4jyJ
 けれど人の不幸など、みんなこのようなものかもしれない、
 死はほんの一瞬に訪れる。
 しかし思えばこれだけの不幸、
 もはや底はないでしょう。
 ああ、娘が帰ってきた。
《ミューシア》お母様、表の騒ぎは何でございましょう。
《ラフエルン》当ててごらんなさい。
《ミューシア》祭りでしょうか。
《ラフエルン》いいえ。
《ミューシア》それではお父様が、
 何かの名誉を授かったのでしょうか。
《ラフエルン》残念。それでもないわ。
《ミューシア》では、我が家の召使が、
 婚儀をすることになったとでも?
《ラフエルン》いえいえ、そんな。
《ミューシア》では分かりません。どうか教えてくださいませ。
《ラフエルン》分からないと? 
 あなたに少なからず、関わりがあるというのに。
《ミューシア》私にですか、
 いいえ、ますます分からなくなりました。
《ラフエルン》では申し上げましょう、
 お父様が死にました。
《ミューシア》え。
《ラフエルン》狂った末に、池へと落ちて、
 水を腹に多量に入れ、
 息する術を失えば、とうとう死んでしまわれた。
514名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:30 ID:N2qr4jyJ
《ミューシア》どうしてそのような。
《ラフエルン》狂った末に。
《ミューシア》どうしてそのような。
《ラフエルン》お父様が死にました。
《ミューシア》私が何故知りえましょう。
《ラフエルン》あなたに少なからず、関わりがあるというのに。
《ミューシア》私が何故知りえましょう。
《ラフエルン》分からないと?
《ミューシア》はい。
《ラフエルン》分からないと?
《ミューシア》はい。
《ラフエルン》お父様が死にました。
《ミューシア》それは三度聞いた、同じ言葉。
《ラフエルン》申し上げましょう、
 あなたの抱いたキュベレへの愛、それがお父様の狂気の引き金。
《ミューシア》キュベレ様、お許しを! 一体どこで知られたのですか。
《ラフエルン》下男があなたを尾行したのです。
《ミューシア》なんたる暴力、不義の所業を。
《ラフエルン》そしてその罪の報いが、お父様の狂気と死。
《ミューシア》愚かな私。
《ラフエルン》今は自分の部屋に戻りなさい、
 そこで泣き崩れることをせず。
《ミューシア》ああ、ああ。


《ミューシア》二人の絆が犯された、
 二人の秘密は暴かれた。
 お許しくださいキュベレ様。
 我が身体の汚れ、我が心の汚れ、
 どうしてこんな愚かなことを?
515名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:31 ID:N2qr4jyJ
 これは私が、背中に目をつけずに生まれた、
 そんな不出来な未熟児だから。
 これほど不完全なものとして生まれ、
 ああキュベレ様、この愚かなる人間が、
 あなたを愛したことの罪、
 どうしてお許し願えましょうか。
 キュベレ様、キュベレ様、
 あなたの怒りが恐ろしい。
 あなたに激しく責められる、
 あなたに嫌われてしまい、冷たい一瞥を受け、
 愛想をつかされる、
 そんな恐ろしいことが、
 どうして私に耐えられましょう。
 どうかキュベレ様、
 どうかキュベレ様、
 私が自ら命を断つことをお許しください。
 せめてあなたの怒りが、
 この死をもって和らぐことを、
 キュベレ様ご自身に祈ります。
 さあ小刀よ、
 キュベレ様に愛されたこの子宮を、
 突き出た光の刃で突き刺し、
 この首を切ってしまえ。
 そうして私を、蛆の食む死体にしてしまえ。さあ。
 ……たくさんの血だわ。
 とても、いい香り。
516濡尾満子:04/02/11 23:33 ID:sN0lj+8x
 ちょっとだけ板違いかも知れませんが、HPを移転しましたのでここに書かせてください。
http://kinpo7.hp.infoseek.co.jp/hahamusume/mokuji.htm
レズエロファンで少数派ですから寂しいですね。
517名無しさん@ピンキー:04/02/11 23:36 ID:N2qr4jyJ
七幕終了〜〜。
次回でラスト。アロイラがミューシアの家を訪れます。
518名無しさん@ピンキー:04/02/12 02:00 ID:UIwrouJh
なんとなく思ったのですが、
一応ここエロ「パロ」板なので
オリジナル作品は

http://book.2ch.net/bun/

こちらに貼られてはどうでせうかのう( ・ω・)
519名無しさん@ピンキー:04/02/12 07:39 ID:UrOf/KIC
ですが>>377によるとオリジナルもOKのような。
520名無しさん@ピンキー:04/02/12 23:53 ID:oqbY2fN7
保守
521名無しさん@ピンキー:04/02/13 15:16 ID:xQUI9ntF
創作文芸版にこんなスレがあったね。

♀百合制作文芸スレッド♀
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1030732131/l50
522名無しさん@ピンキー:04/02/13 18:40 ID:xv6qBkti
こんなスレも。

黒い百合
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1071499128/l50
523名無しさん@ピンキー:04/02/13 18:54 ID:lwWv0aIB
>518
いちおここは立った当初からオリジナル(テイスト)歓迎スレ。
一瞬パロに席巻されたこともあったが、連載だか放映だか終了で疾く去りました…
極私人的には嵐のようだったよ、アレ…なんだったんだ…
524名無しさん@ピンキー:04/02/13 23:43 ID:78NRFsZ7
オリジナルでもパロでも何でもいいよ。百合ならね。
>>517
続きを待つ
525名無しさん@ピンキー:04/02/14 18:42 ID:SfZeFZJH
>>523
オジリナル歓迎はかまわん。
だが板違いな文句は心ん中にしまっとけ。
526名無しさん@ピンキー:04/02/17 14:12 ID:COCMTyDn
すまんが牡丹と薔薇の百合カプスレってどっかありますか?
527名無しさん@ピンキー:04/02/20 00:07 ID:AQQ/CUgw
もう一度ベンジャイ祭りキボンヌ。
528名無しさん@ピンキー:04/02/20 16:49 ID:VCGhsZPp
Avengerってネイ×レイラ以外カップリングがないからな〜〜。
せめてクロスが女だったら……。
529名無しさん@ピンキー:04/02/22 00:04 ID:xgBTnKDj
>528
ウェスタ様とかは?
530名無しさん@ピンキー:04/02/22 00:26 ID:CudqxkwA
どなたかセブン=フォートレス・リプレイのアイラザード×ティ(もしくはティ・クローン)で書いて貰えませんか
いやアイラザードでは百合っぽいのは難しいってことはわかってますが
531保守代わり:04/02/26 21:52 ID:MCzVFY5a
 梟が鳴く頃に――。
 お義母様は、襖一枚を隔てて、私の隣りに眠っている。
 鶏の声は聞こえなくて。
 梟が鳴く頃に。
 お義母様は、襖一枚を隔てて、私の隣りに眠っている、安らかな寝息が耳元に響く。
 私の目は覚めていて。耳も起きていて、寝息は、聞こえている。
 鶏の声はどこからも聞こえなくて。外からも。内からも。
 梟が鳴く頃に、それは夜のこと――。
 お母様は、襖一枚のみを隔てて、私の隣りに眠っている。安らかな寝息と。無垢なる表情。
 年経ても、美しいと感じられる。そのお義母様の息の音色。吸って、吐いて。それは清らかな、澄み切っ
た声。あるいは至高の音楽(ミューズ)、永遠の楽器(ムーサ)。変わることのない、昔からの声。
 鶏の、朝を告げる声は聞こえなくて。
 ただ夜の生き物である梟の。
 鳴き声。



 一度私は襖に手をかけた。襖は白い、それは病室のような印象を与える。誰も病人はいないのだけれど。
 しかしそれは守るものであるから――弱いものを。
 そして元通りにしてくれるものであるから、私は襖を開いた。
 そしてお義母様の姿が見える。開いた襖のはるか彼方に、その人が。蒲団に身体を、首から脚までをお隠
しになられて、仰向けに眠り健やかに。
 齢二十八。私とはほんの八歳、違うだけの人。生まれは良家の方。幼くして両親をなくし、それでも
独り生きてこられた、強い女性。小さい頃、娼婦であった私を拾い、養ってくださった人。私の穢れも、
罪も、すべて背負ってくれた人。お義母様、美しい方は。心のみならず、その姿さえも。
 月明かりがその方を照らすときに。私の開いた襖から、差し込む、その光は。月光。冷たく、けれど明る
い光がお義母様を薄く包むとき、その姿は私の目に映る。
532保守代わり:04/02/26 21:54 ID:MCzVFY5a
 女神のように、どこか遠い国のお姫様のように。可憐な花、けれど冬に咲くような強い花。冬雪花。
 誰も知らないかもしれないけれど。土に眠る蝉は、その花を見ているのかも知れない。
 襖の音が、トンッと。端にたどりついたよう。私の影は、月に照らされた長い長い影は襖の向こうに伸び
ていて。やがてその影が動き。また一段と長くなる、代わりに根元は短くなるけれど。
 私は襖を乗り越えて。
 ただ、お義母様の傍に行く。何のために――望むことは? 私は望んでいる、お義母様の傍に行くことを。
 何のために?
 月が――月がお義母様を抱いているように、私も抱きたいと願うから。
 
 そばで瞳が感じる、お義母様の素顔はやはり美しくて。
 触れたいと思い。
 接吻を。口と口との触れあいを求めて、それより他に望むものは何もないのではないかと思えるほどの熱
情と共に。そして刹那の幸せ、お義母様と口づけをかわす。
 ほんの一瞬に感じたものは口紅すらない、お義母様の素肌。素肌は柔らかく。また温かく。
 触れた先から溶けてしまうのではないか、と思った。甘いアイスクリームが溶けるように。それならば、
そう。溶ける前に再び。私は今一度の口づけを。交わしてみせる。
 花びらが舞うとき、葉もまた合わさり、葉菜を互いに擦りあう。瞬き、閉じた瞳を開いて開いた瞳を閉じ
て。そうして、何ものも入る余地のない――ただ幸せのみの時を過ごし。
 離したときに、お義母様の音色は穏やかではない、速く荒い旋律を、一埃の時間流した。
「ん……ふぅ……。すぅ……、すぅ……」
「お義母様……」
 月明かりすらも触れてはいなかったあなたの肉体を、抱きたい。
 私は蒲団から、ゆるゆるとお義母様を抜けさせていく。
533名無しさん@ピンキー:04/02/26 21:56 ID:MCzVFY5a
以上。
534名無しさん@ピンキー:04/03/03 08:40 ID:BI1i76aw
ほす
535名無しさん@ピンキー:04/03/06 11:17 ID:9bNHMRku
危険なヨカーソage
536名無しさん@ピンキー:04/03/06 11:18 ID:9bNHMRku
 
537腐男子:04/03/06 23:14 ID:SFveK31i

ネギ板から拾ったネタです。了承がとれなかったのですが……
ものごっついクソ長いんで適当にスルーしてください。週一ぐらいで繋いで行きます。
538砂の闘士:04/03/06 23:15 ID:SFveK31i

 娘は、生まれ育った邸宅の広間にて、問う声をあげた。
 少々甘ったるく甲高い声音が、屋敷の円天井にかすかに響く。
「これが? これが《燃える刃》、《闇の稲妻》といわれた剣闘士なの?」

539砂の闘士:04/03/06 23:16 ID:SFveK31i
−−−−−−−−−−−−

 剣闘士。
 剣技と体術にすぐれ、白兵にては絶対の強さを持ちながら都市の最下層身分に甘んじ、
命を賭けた見せ物に従事する、彼らは誇り高き奴隷であった。
 顔色の失せた頬を引きつらせ、お互いにのけぞったへっぴり腰で、
槍で突っかけあうやらごたごたと殴りあうやら、どちらが勝ったのか双方とも半死半生、
はらわたのはみだした姿で砂に伏す、そんな闘士は下の下である。
 いずれ初戦より半月もすればこの世より消えうせていよう。

 真の闘士とは、複数の武装した敵にも立ち向かい、たとえ素手にてもひるまず、
打ち倒した敵の武器を奪って勝ちのこる。
 死をおそれずに大胆に襲いかかり攻め立て、気迫で押さえ込んだ相手の急所を狙いすまし、
振りおろした一刀のもとに息の根を止める。
 ササン朝アッシュールにただひとり、そんな「理想の闘士」が存在した。
 砂漠の砂と同じ色をした、まろやかな褐色の肌。
 戦場でその瞳は炎のように燃え、まばゆい光を放つ。
 犠牲の血を幾度となく浴びた、灰色の髪は長く腰まで延びる。
 常に「きれいな」勝利をたたきだす、女の身でありながらササンの歴史上最強、無敗の奴隷闘士。

 その姿はタペストリの絵姿のように美しく、その剣は正確に敵の頭蓋を断ち割る。
 神の力を現世に降ろしたような奇跡の勇士。人気の出ないはずがなかった。

540砂の闘士:04/03/06 23:18 ID:SFveK31i

 完璧な身体に犠牲の返り血を浴びながら日々の生命を得る、まがまがしくも美しいその姿は、
奴隷という身分を超え、一部の有閑階級らに熱病のように愛されていた。
 《闇の稲妻》という二つ名を付けられ、新しい絵姿が刷られるたびに、飛ぶように売れたものだ…
…特に、未婚の貴族の少女らに。

 ある時。
 《闇の稲妻》と殺しあうため、コロシアムへひきだされたヴェテランの剣闘士は、
陽に灼けた腕より使い込んだ三日月刀・シュミッターをだらりと下げたまま、
その身に一切の剣気を漲らせもせず、闘技場の砂にただ、自らの生命を捧げた。
 具体的には、老戦士は闘技開始の位置より動かぬまま、肩を落として地にひざまずき、
眼前に立つ首都最強の闘士への崇敬とともに、その素っ首をさしだしたのだ。

 物言わぬ老人のその献身に、灰の勇士もただ振り上げた剣で応じる。
 刹那、老練の戦士の首より激しく血がしぶいたが、それだけだ。
 首を無くした魂のぬけがらは砂の上へ横ざまに倒れ、《闇の稲妻》は静かにきびすを返すや、
いまほど歩み出てきたばかりの、闘技場袖の奥へと立ち去ってゆく。
 規約によりこの当て物の勝敗は無効。賭け金の額面をしるした紙片はまさに紙くずと消え、
胸おどる決死の剣闘を待ちわびていた観客らは無駄となった銀貨以上の腹を立て、
その怒りは剣闘試合を仕切る差配人や、奴隷頭らに向けられる。
 そんな茶番劇が二度、三度とくりかえされ、《闇の稲妻》の勇名はいや増した。

541砂の闘士:04/03/06 23:21 ID:SFveK31i

 灰色の髪の闘士に与えられる闘技試合は、いつしか野獣と闘う、異種戦ばかりとなった。
 おそらくは知恵のない獣ならば、《闇の稲妻》の無敵無敗の評判を聞くこともなく、
闘いの前から生存をあきらめるようなこともないはずだと闘技試合の胴元たちは祈るように信じ、
その願いはしばらくの間、叶えられた。
 女闘士は連戦連夜、砂上に引き出される獣〜〜肩までが人の背丈ほどもある獰猛な野牛、
金のたてがみが痩せさばらえるほどに飢えた大獅子など〜〜に槍一本、ただ独りにて立ち向かうことで
闘技場の興業を連日盛り上げ、やはり決して、負けなかった。

 黒い鼻づらにいくつもの向こう傷をこさえ、丸く盛り上がった筋肉で全身をよろう巨大な獅子。
 その風の如き突進をかわし擦れ違いざま、長身の闘士は目にも停まらぬ速さで槍を振るう。
 やがてとどめとばかり、長槍の穂先が獅子の喉を貫き通した。
 階段状の観客席のそこここで、うっとりとした吐息がもれる。

 砂におびただしい鮮血を吐き、いましも魂が抜け出ようとしている敗者のひざ元へ身を屈め、
闘士はうつむいた横顔の唇を、わずかに、動かす。
 その間は人の胸の鼓動で数え、きっかりと三拍。
 何を語りかけているのか? それは死にゆく獣と闘士にしかわからぬ。
 この日の《闇の稲妻》の行動は「灰闘士の弔いの式」と呼ばれ、これも語り草になった。

 だが皮肉にも闘士の名声があがるにつれ、肝心なる見せ物仕掛けのタネは尽きていく。
 華麗なる女闘士の決闘の相手に足るものは、もはやこの国には居らぬかと思われた。

 石の街に独り立つ獅子の王。敵も味方も持たぬ。
 それが女闘士《闇の稲妻》の現況であった。
542砂の闘士:04/03/06 23:22 ID:SFveK31i
−−−−−−−−−−−−

 ササン王都の中央部、壮麗なローマ風の門構えをもつ広壮なる邸宅。
 その応接間の上座に腰かけている、年端もいかぬ娘。
 この国の習慣では、未婚の少女はみだりに人前へ姿を現わさないものであるが、
この少女の黒い瞳が放つ輝きは、そんなしきたりをまるで意に介さないふうであった。
 手入れのゆきとどいた真っ直ぐな黒髪が、玉座じみた椅子の背板になだれる。
 一重の薄絹のみをまとう少女は、刺繍で飾られたクッションに腰をのせたまま、膝を高く組みかえる。
「これが、《闇の稲妻》?」
 椅子に頬ひじをついたままで、そう声を投げた。
 若くなければ知性を疑われるようなひどいお行儀だが、まあ、貴族階級の使命とはおもに、
栄華を誇り威厳を保ち民草をしいたげることであるから、ある程度まではいたしかたない。
 ましてや問いの主は十六、七ほどの、花も盛りの美少女である。
「ははっ」
 痩せて青ざめた商人と、売り物を繋ぐ革紐のはじをかたく握りしめている奴隷頭は、
貴族の少女に対しひたすらに低身低頭をつづけている。

 そして床の中央には、縛られ口元にくつわのかけられた剣闘奴隷が膝をついていた。
 その灰色の豊かな髪は砂漠の遊牧民に似て、砂色の肌ははるか南方の血を思わせた。
「意外と小さいのね。しばってあるから? 闘技場の砂の上では、とても大きく見えるのだけれど」
 奴隷仲買人はひとつ頷くや、すうっと吸った息で身をそらし、口上をのべた。
「背の丈は、1マーム70タル余りでございます。女の闘士の中では最大」
「もちろん、男ならばこれよりも身体の大きな闘士はおりますが、これよりも強く見映えのする奴隷は、
男女人種を問わず、どの都にもおりませぬ」
 娘は我が意をえたりといったように頷く。
「そうよね、このひとにはオーラがあるのよ。品格と言ってもいいわ」
543砂の闘士:04/03/06 23:25 ID:SFveK31i

 売り手と買い手、二人に揃って褒められた《それ》は、しかし現在、ひどく厳重にいましめられていた。
 両の手首は後ろ手に重ねて縛られ、足に重しの太い鎖が巻かれている。
腕に力が入れられぬよう、肩の骨を縮めて寄せた上からきつく革紐で縛りあげてある。
奴隷はくつわを噛んだ顔をあげ、不敵に光る明褐色の瞳で床に立つ商人を睨むようにした。
「この口はどうして? かみつくの?」
「いえいえ。ただ、こいつはツラに似あわぬ皮肉言いでしてね。姫に無礼を申しあげては一大事と思い、このように」
「とってあげて」
 奴隷頭が無言で、口元の布を切りはずした。
 ――ぷはっ
 《闇の稲妻》は声を発さぬまま、大きく息を吐く。
 ぶるぶると頭を振るしぐさは、まさに獅子のごとく獣じみている。
「それで」
 少女は玉座にてまた、無邪気に膝を組み替える。
 絹の薄物ごしに白い腿がちらりとのぞき、商人にとっては目の保養だった。
 少女はかわいらしくあごの先をついと上げ、商談の結論をうながす。
「これは、おいくら?」
「は。もはや対等の立ち回りを演じられる相手がほぼいないとはいえ、いざ一戦あればこいつは、
客を根こそぎ呼べる闘士です。この先稼げる賞金をおもんばかりますと……
……まあ、金貨にて5000といったところですかな?」
 奴隷商人はそこで言葉を切り、得意げに鼻をうごめかす。
 第一級の闘技奴隷の値は、王都の内側に中庭つきのこぎれいな家を建て、余ったお釣りで
庶民なら一族郎党、ゆうに五年は食えるほどの額だった。
「ですが、ほかならぬ貴家へのおおさめ。いま少し値引きをいたしましょう」
「あら、かまわないわ。いただきます」
 玉座より少女の白い手があがる。
 現われた従者が、一礼とともに進み出て、奴隷商人の鼻先へ黒檀でできた盆を差し出す。
 盆上に載る、金箔の押された証文には、すでに王による裏書きが記されている。
「!?」
 少女は微笑んで言った。細い指を組みつつ。
「そのくらいなら新しい晴れ着を三着、ガマンすればいいもの。私のお小遣いでもなんとかなるわ」
544砂の闘士:04/03/06 23:27 ID:SFveK31i

 契約は無事に取りかわされ、剣技奴隷《闇の稲妻》を縛りつけていたすべての負債と、
彼女にかかわるすべての権利はまるごと貴族の少女の所有となった。

 身にからんでいた革紐の切れはしを、はらはらと床に落としつつ、闘士はゆっくりと立ちあがる。
 ひとつ腰をそらし、左右の手首をゆっくりと回した。
 七頭身半のみごとな体躯には、褐色の筋肉が全身に張り詰め、独特の美と均整とを造っていた。
 無駄な肉は一片も無い、そのすばらしい腿が、つと音もなく持ち上げられ……
背後に立つ肥った奴隷頭の太鼓腹の真ん中へ、いきなり踵からめりこんだ。
 ド……ズン!
 突然、吹っ飛ばされた丸い身体は、壁にぶち当たった瞬間、二、三度はずんだようにさえ見えた。
 尻もちをついている奴隷頭の姿を、灰の闘士は隙のない目で振り返り見おろす。
 いったいどちらが奴隷なのか、たったいま路傍の石のように蹴り飛ばされた男も、
この、二奴隷の監督役であるはずの仲買人も、ただ、目の前に立つ《闇の稲妻》の絶対的な力を
恐れ、声もなくその身を縮こませるのみ。
 奥の間より駆けつけた武装の衛士が、女闘士へと形式的に槍を向けた。
 だが《闇の稲妻》がその場を動かず、少女へと危害を加える意志はないらしいことを見てとると、
衛士は主人へ目礼をしたのち再び姿を消す。
 ……この邸内では、この黒髪の少女こそがすべての絶対であり中心である。
その少女の所有物である《闇の稲妻》の身柄と意志は、しょせんただの御用聞きでしかない
仲買人らの生命よりも、もしかしたら優先するやもしれぬ。
 つまり、長居は無用。
 奴隷仲買人は命があっただけでもうけもの、とでもいった血の気のうせた顔つきで、
ようよう起き上がることのできた奴隷頭と共に、そそくさと屋敷を退出していった。
545砂の闘士:04/03/06 23:28 ID:SFveK31i

「おかしな人たちだったわね」
 さらり、衣擦れの音を立て、少女はイスから降り立った。
 むき出しの素足で床に立ちつくす奴隷は、鋭い切れ長の眼にて高慢な少女の瞳を睨み返す。
「これであなたは私のもの」
 手の甲をついとさしのべ、
「あなたの名前を教えてくれる、《闇の稲妻》?」
「……」
 黒髪の少女はいま一度、問いをくりかえした。
「ご両親からいただいた、ほんとうの名前よ」
 本日からの主人――心も体も幼い少女を値踏みする目線と、敵意というほどでもない沈黙のあと。
 闘士は床へかるく眼をそらしつつ、言った。
「……シェラ=マルジャーン」
「すてきなお名前」
 貴族の娘は、ばら色の頬に微笑みを浮かべた。
546砂の闘士:04/03/06 23:30 ID:SFveK31i

 なめした革のようなうす茶色の肌、灰色の髪に暗い茶褐色の眼。
 その色味の無さが、闇に透かし見る貴婦人のかんばせのようだと評される闘士。
 その容姿はどこか不吉で、心を騒がすものだった。

 腰に手をあて少女を見おろす。
「おまえは、ここの女主人か」
「いいえ」
 少女は闘士を見上げながら、まっすぐに否定した。
「ただの、わがままいっぱいに育てられた一人娘よ」
 踏み出して、褐色の大きな手をつかむ。
「お母さまは私が二つのときになくなられたので、片親にだけど……そのせいで、さらに手がつけられなくなったともいえるわね」
 闘士の腕の下で、くるりと回ってみせて、
「南の国へ、買いつけに行かれているお父さまが戻られるまで、この屋敷はすべて私の自由!」
 少女はおそれげもない満面の笑顔を浮かべた。
「だから、ね、欲しいものを買ってみたの」
 褐色の肩へ頬をすりつける。
「あなたが一番、欲しかった」
 立ちつくす闘士へ、下女が左右より歩み寄り、捧げ持った衣服と靴とをさしだす。
「昼と夜とで輝きの色を変える宝石よりも、甘くて可愛らしい東の国のお菓子よりも、綺麗な羽根と声とを持つ密林の小鳥よりも、欲しいものを。わたしを噛み殺せるような牙を持つ、美しい獣を、すぐそばでみたかったから」
547砂の闘士:04/03/06 23:31 ID:SFveK31i

 清潔かつ上等な布地でできた衣服を貰い、身に積もった下界の砂を湯と香油にて拭いとり、
屋敷の内部調度にいくらかは相応しい身なりとなった《闇の稲妻》は、
小部屋にて与えられた夕食を、黙々と口に運んでいた。
 青菜と鶏肉の煮込み。大麦のパン。朝採りの西瓜。甘いココナツ・サラダ。
 姫君はその食膳の向こう側でひじをつき、もくもくと咀嚼をつづける闘士のようすを、
真剣な口元にてのぞきこんでいたが、ふと首をかしげたずねる。
「あんまり、おいしくなさそうなお顔だけど……果物はきらいだった?」
「……」つややかな唇からフォークを抜き、
「食物に、好きも嫌いも無い」
 《闇の稲妻》はぼそりと言った。
「呑み込んでしまえばあとは、腹の中で糞となるだけだ。なにが違うのか」
「むずかしい、哲学者みたいなことを言うのね」

 少女は、この膳の中ではどれが一番好きかとか明日は何が食べたいかとか飲み物はとか、
シェラに向かって子供らしくとりとめのないことを尋ね続けたが、
 昏い、クリームグレーの眼は少女を見もせず、ぼんやりと上げた目線の先で、
壁に交叉させ掛けられた棍棒などという、殺伐としたしろものを見つめていた。
 少女はため息を一つつき、鈴を振って召し使いらを呼びつける。

 獣の毛皮を傷つけず殴り殺すための先の丸い棍棒、ローマ国風のバスターソード、三日月刀ヤタガン、
火炎剣シャムシェル、宝石と金とで飾られた象嵌刀カルド、老人の腰のように根元からぽっきりと
折れたかたちのダヤク刀、手投げ斧、長槍に、戦斧。軍団指揮のための儀礼槍。
 屋敷じゅうに置かれていた武器と名のつくしろものが、あらいざらい一室に集まった。
 積み上げられた武器群を前にした闘士は、毛足の長い絨緞の上であぐらをかき、
奇妙なバネ仕掛けのあるヤリを手元でしならせるや、それなりに楽しそうにもてあそぶ。

 黒髪の少女は寝椅子に伏せてころがったまま、そんな闘士のようすを眺めていた。
「ね……シェラ」
548腐男子:04/03/06 23:32 ID:SFveK31i

※今週分終了※
549名無しさん@ピンキー:04/03/06 23:45 ID:lQ424S+z
長いわりに間延びして無くてなかなかいいね。
550名無しさん@ピンキー:04/03/07 00:37 ID:rOXDIg1c
つうか537の書きこみからすると無断転載してんのか?
あげく「ものごっついクソ長いんで適当にスルーしてください」?
551腐男子:04/03/07 01:25 ID:ZgsRrcJ5
>550 氏
なんだってこんなクソ長いもんを、わざわざ週刊で転載せにゃならんのですか。
そっちのほうが辛そう。

いきさつは、以下のあたりを読めれば読んでいただけたらと。
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi?bbs=erog&key=1075743528


しかし、ブラウザで読み書きできないのは辛いですね……
552名無しさん@ピンキー:04/03/07 02:54 ID:5nY8Jn5E
がんがって続けて下さい。新作大歓迎。
553550:04/03/07 09:49 ID:d+Sg1Kko
>551
それは失礼しました。
出鼻をくじくような発言をして申し訳ありませんでした。
554名無しさん:04/03/07 16:26 ID:eCiFYdaR
初めまして。小山ゆうの『あずみ』で、一発百合ものを書いてみたいんですが、需要はありますか? はつねxあずみ、やえxあずみなどで
555名無しさん@ピンキー:04/03/07 20:15 ID:J45VSaaK
>>554
大いにキボンヌ!!!
556名無しさん@ピンキー:04/03/08 00:43 ID:45zNzr3E
>>551
GJ!! 展開が非常に楽しみです
文章も読みやすくて良いですね、内容が自然に頭に入ってきます

>>554
本編で報われなかったので、是非お願いします
557名無しさん@ピンキー:04/03/08 01:45 ID:kafXygTM
>>554
あずみならスレがあるみたいだよ?
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1070415025/l50
558砂の闘士:04/03/12 05:50 ID:CvG2pVxQ

 身を起こした少女は体の後ろで手を組み、おどけたしぐさで、闘士の元へとつま先立ちに近づいた。
「触らせて」
 言うなり、少女は闘士のすぐそばに膝をついたので、
闘士は後ろ手で、刃のついた武器類を向こうがわの床へ押しやらねばならなかった。

 白い小さな顔をふちどる、まっすぐな長い黒髪。瞳は濃い青色の輝きを放ち、
宝物蔵の奥深く、黒いビロードにくるまれたラピスラズリのような風情。
 薄絹一枚のみにおおわれた無防備な肩が近づいて、少女は体ごと闘士の腕の中に倒れこんだ。
 青い瞳が、闘士の無表情な顔つきをまっすぐに見上げる。
「この家から、逃げようとはしないのね?」
「おまえを殺すのは息をするより容易いが、」
 闘士は少女を片腕で支えつつ、一方の手の指の骨をこきこきと鳴らす。
 てのひらを少女の側に向け、白く細い首を握り潰すみたいに動かした。
「無手にてこの屋敷の囲みを突破するのは少々、骨だ」
「ふふ」
 少女は微笑を浮かべる。その歳に不似合いなほど妖艶に。
「とつぜん、男の人を蹴ったときはおどろいたわ。あなた、本当はどちらのお生まれ? 剣闘は好きだったの?」
「……」
 うっとりと開いたうす桃色の唇から、質問は間断なく繰り出される。
「あの太った男の人のことが、嫌いだったの? ひどい目にあわされたとか?」
「……」

559砂の闘士:04/03/12 05:51 ID:CvG2pVxQ

 貴族の娘は、あきらかに、シェラに対して媚態をむけていた。
「《闇の稲妻》を閉じこめたりなんてしないわ。出ていってもいいの。だけど……」
 答えぬ闘士の耳元に、抱きつくようにして黒髪の少女はささやく。
「あなたの代金は、仕立て三回分」
 ぴくり。闘士の肩がわずかに振れた。
「新しい晴れ着が三着あれば、さぞ楽しく過ごせたでしょうね。だから、わたしにその時間をちょうだい。いい?」
「時間……ねぇ」
 寄り添ってくる細い肩を抱きかかえつつ、
 シェラはぼそりと、感動のない声を洩らす。
 この貴族の少女は、自分の買った奴隷と友達になれると、無邪気に信じこんでいるようだった。
 闘士はこのような子供に買われた、自らのめぐりあわせにうんざりとした。
 他者の機嫌をとることもなく、くだらぬ事を考えずに済む、井戸掘りや道路工事の賦役をやらされるほうがよほど楽だったろう、と思う。
 もちろんこの少女にはそんな気分はわかるまい。
 胸の奥の感情を表に現わすことを、うとましがる人間が存在するなど、夢にも思わないだろう。
 自分と少女とは、人種、気質、これまでの人生、すべてが違っていて、冬の星座と夏の星とのように、けっして重なり合うことはない。

「でも、あなたはどうして、彼らに売られたりしたのかしら? まるで闘技場の象徴のような、一番のスターだったのに」
 ふいに浮かび上がった問いに、闘士は低く返す。
「……獅子が、尽きたので」
560砂の闘士:04/03/12 05:52 ID:CvG2pVxQ

「え?」
 少女が驚いた顔をあげる。
 闘士は現況を、かいつまんで話した。
 闘技場に引き出すための獅子は、辺境の狩猟民が狩り出したものを、都市にて買い付けていること。
 近来はたてがみのある獅子がどこにも見つからず、もはや雄の獅子を得るには絶望視されている事。
 いつ試合が組めるのかわからぬ闘士を養うよりも、目先の金貨を得るために、奴隷としての《闇の稲妻》の買い手をめぼしい貴族らにあたっていたのだと。
「え、それじゃあ……」
 はっと身を引いた、少女は胸の前で指を組んだ。
 ひどく心を痛めたようで、悲鳴のようなか細い声をたてる。
「もう、この半島に獅子はいないの? みんな死んでしまったの、ほんとうに?」
「い、いや」
 悲痛なる訴えに、シェラはあわてた。
 長年にわたる粗食と拷問、苦痛と流血とに耐えぬいた剣闘士が、目の前にいる乙女の涙に狼狽し、焦りつつ懸命に考えをめぐらせ、どうにか言いわけを絞り出した。
「そんなことはない、大丈夫だ。雄の成獣が狩り出せなくなっているだけだろう。雌の獅子はむろん、野に隠れていようし、何年かたてばいずれまた、増える」
 そう言ってやると、少女はあきらかに安堵の顔になる。
「良かった!」
 はしゃいで闘士の首もとに抱きつくや、その唇に口づけた。
561砂の闘士:04/03/12 05:54 ID:CvG2pVxQ

 黒髪の少女は、ゆっくりと身を引きながら見上げてきた。
「ご感想は?」
「柔らかい」
 闘士が目を開ける。
 細い背に褐色の腕を廻して引き寄せると、紅い舌先でふたたび、少女の唇をちろりと舐めた。
「それに、骨が小さい」
 交差させた腕で、ひじから肩のあたりをなぞる。
「よくもまあこんなか細い体で、そこらじゅうをちょこちょこと動きまわれるものだ」
 指の腹で背のくぼみを丸く撫でると、少女はうたれたようにびくり、身を固くした。
「おまえ……」
 シェラが驚いたような目になる。
「ヒバリ(生娘)か」
 眉根を寄せてつぶやいた。
「そんな子供が、夜伽の奴隷を買うなんてのは、十年早いぞ」

 貴族。名家。今しも花のひらくような年頃の、ひどく愛らしい姫。
 家は栄え、蔵の中にはばら撒いてくれとばかりの金銀が唸りをあげている。
 持参金なら星の数、いや砂の数より多かろう。言い寄る男どもを呼び集めれば、通りに列をつくるはずだ。そんな身の上なのだからまず、山をなす求婚者を堂々とさばけるような女丈夫となってから、火遊びなどはするものだ、と。
 そう、娘のほおに指を当てつつ、闘士はなぜか説教じみて言い聞かせる。
「だって」
 すると黒髪の美姫はちょっと紅くした頬をうつむかせて、複雑な沈黙をつくった。
「あなたは、きれいだし……それに」
「ム?」
 しばらく口ごもったのち、言い出す。
「ぜったいに、私のことを好きになりそうになかったから」
「ほう?」
「若い男の人は嫌い。特に、私を好きな人たちは。みんなひどく、ずうずうしいわ」
「…なるほど」
562砂の闘士:04/03/12 05:55 ID:CvG2pVxQ

 闘士の表情はなんとなく、納得の顔つきへと落ち着いた。
 そして少女の乞うままに姫君を横抱きに抱えあげ、奥の間の寝室へと運び入れた。
 ぱふ、と寝台の敷布の上に荷を降ろす。と、
「フム」
 愛らしい姫が微笑む眼でこちらを見あげている。
 黒い髪、碧い瞳。それは触れなば落ちんとする、夜の花だった。
 闘士は腕を伸ばし、上物の絹のような、長い髪にゆっくりと指を差して梳き通す。
 寝台に膝をつき、少女の細い体の上にのりかかるようにした。
563砂の闘士:04/03/12 05:57 ID:CvG2pVxQ

 肩をゆるやかに覆う上衣に指をかけてずらし、あらわれた白い肌に唇をあてる。
 ふしどに組み敷かれている少女が、少し固い声で訊いてくる。
「初めてを抱くのは嬉しいものなの? 男はそんなことにうるさいけど」
「男でないので判らん。べつに、どうということもないだろう」
 言いながら喉にキスをする。
 上衣の下に身につけてある肌着を足元の裾からたくしあげ、しっとりとした素足に掌を、触れるか触れないかのあわいで滑らせた。
 ぴくり、少女の肌が細かく震え、闘士の唇から吐かれる言葉と息がくぐもる。
「食い物と同様だ。並のものより少々美味いからといって、はしゃぎはしない」
 指の先で耳たぶの裏、髪と肌との境界線をゆるゆるとなぞった。
「ん……」少女は固く眼を閉じ、桜色の唇をきゅっとつぐむ。
「ただ……、」
「あっ」
 衣裳の内に隠されていたなめらかな白い腿の上を手のひらが這い廻り、姫君の身はさらにふるえる。
 煮え立つ鍋に落としたハーブ・パウダーのように、寝台上を長い髪が扇状になだれて広がる。
 朱に染まった乙女の頬へ、闘士が低い声を降らせた。
「なかなかに嗜虐心は、そそられるな」
 はぁ、はぁ……
 荒い呼吸ののち、あげた両手で闘士の首もとにしがみついてくる。
「自分に言い聞かせてない? やる気を出すために一生懸命」
 首を抱いて囁きかける、少女の言葉に。
「まあ、」
 闘士は苦笑を洩らしつつ、少女の腰を抱きかえし答えた。
「つとめなればな」
564砂の闘士:04/03/12 05:58 ID:CvG2pVxQ

 甘やかな香の薫き籠められた寝台の上で。
 軽い体を抱きあげると、膝に載せ背中側からこちらによりかからせる。
 腰からかすかにくびれた胴へ、汗で心地よく湿った肌をゆるやかに撫で上げていき、
辿り着いた乳房の下で一旦、動きを停めた。
 双つのふくらみを軽く持ち上げるように当てた掌で、揺するように刺激する。
「ふッ……」
 波のようによせてくる強烈な官能に、ただ声を殺して耐えている少女の耳元へ、
「名は?」
「え」
 闘士はくりかえした。
「名前は」
「あ……マルレン。マルレン=クィア=ルマーム」
 上気した声で答えをかえす。
 と、閉じたまぶたの裏を懸命に見つめていた少女は、ふいに。
耳のそばで自らの名が呼ばれるのを聴いた。
「マルレン」
 体の芯でずっと早鐘を打っていた心の臓が、さらに激しく胸を叩く。
 低い、身体の奥に響く声。
 まるで全身が銀の矢で貫かれたようだった。
「マルレン」
 シェラは乙女のあごをとり、引き寄せて唇を奪う。
 鷲掴みにしている乳房の先の尖りを、指先でぴんとはじく。
「あッ」
 右腕が膝元に伸び、きつく閉じていた腿を強引に割った。
「や」
 姫君のくちびるから、小さな悲鳴がもれる。
「見ないで」
「それは無理というもの」
565砂の闘士:04/03/12 05:59 ID:CvG2pVxQ

 弱々しくもがく腕を抑えつけ、腿の付け根、淡い茂みの奥に指を添わせた。
 ごくごく弱い力にて、加減をしながらまさぐるが、はたして少女の反応は劇的なものだった。
「…、……!」
 大きく背をそらし、体ごとで逃れようとする少女。
 声にならない悲鳴を、キスで黙らせる闘士。
「そら」
 白く細い手首をとって、広げさせた脚のあいだに導く。
「あ……」
 少女はうめき、荒くせわしない息をついた。
 熱い。
 酔いのように全身をめぐる、熱と動悸が止まらない。
 マルレンはいま、自分の体が、どこをどうされているのか、まるで把握ができなかった。
 生まれて初めてこの身に降りかかっていることがあまりにも多すぎて、意識に霞がかかったように、
辻褄の合うことがなに一つ考えられない。
 それは、理性にとってはひどく恐いことだったが、
 そうではなくて、むしろいまこの時は、一切の常識的なことを考えるべきではないのだと……、
褐色の背中を丸め、白く細い脚のあいだに身を屈めたシェラが、少女の濡れた《その》場所に口づけた
瞬間、彼女ははっきりと、悟った。
566砂の闘士:04/03/12 06:01 ID:CvG2pVxQ

−−−−−−−−−−−−

「シェラ、」
 鳥が啼き、朝陽が東の空を白く照らす。
 近在に建つ寺院の丸屋根より響く朝の詠唱の声が、鎖のように絡まりあいつつ、
金色の天の高みへと昇っていく。
「起きてくださいな。もう朝よ。朝食は?」
 すでに起床し、部屋着に着替えてあるマルレンは、そう言って寝所の闘士を揺さぶるが、
 相手は(ヒバリは朝にさえずるが、闘士は夕暮れに稼ぐ)というような文句を
口の中でもぐもぐと呟くのみで、まるで目覚めるようすがなかった。
 腕をとって、ひっぱってみても、
(お……重いぃ) 寝床からびくとも動こうとしない。
 なにをどうしても、起こすことのできない長身を見おろして。
 マルレンは両のひじを腰にあて、ぷうと頬をふくらませた。
「もう、日の光の神様のばちがあたるんだから!」

 怒りながら鏡台の前に腰をかけ、姫君は朝の化粧にかかる。
 肌に乳酒をすりこんでいるときに、ふとひらめいて振り返り、
寝台で眠りこんでいる闘士の顔に、ふざけて紅を差そうとして………
その手が止まった。
(まつげ……長っ!)
 閉じていても切れ長なのがわかる、大きな瞳。異種族の肌色。鋭角的に伸びている、あごのライン。
間近で見るとそのデリケートな均整がよくわかる。
 なんとなしな敗北感を感じながら、マルレンは吐息をついて、化粧筆を構えていた手を引っ込める。
(これで、女としての美しさでもおもいきり負けたりしたら、もう立ち直れないわ)

567砂の闘士:04/03/12 21:23 ID:CvG2pVxQ

 よそいきのための薄化粧と外出着、日除けの黒いヴェールを髪に掛け。
 マルレンは供を連れて屋敷の門を出た。
 金曜にはいつも伎楽の習い事と、毎週の慣例になっている父の姉への御機嫌伺いがあるので。

「親愛なる伯母上様、ご健康とご長寿を、今日も天に祈らせていただきますわ」
 おばの屋敷内、親しい者だけが招かれる小応接室でマルレンは笑顔をふりまいた。
「ありがとうねマルレン。いつも言っているけれども、あなたはわたしを母とも思って、なんでも頼って頂戴ね」
「ありがとうございます」
 デミタス・カップに淹れられた珈琲を奨められ、マルレンは会釈をしていただく。
 すると伯母様は、本日幾度目かの深々としたため息をついた。
「どうかされたのですか、少々おかげんがすぐれないような……」
「実は、私のお気に入りの奴隷が行方不明になってしまってねえ」
 始まったおばの愚痴に、マルレンはしとやかにあいづちを打つ。
「そうなんですか」
「椰子の実と同じ色の肌で、背が高くって。王のような目をした……女闘士なのだけど」
 ぶ。
 珈琲に口をつけていたマルレンはむせかけ、あやうくカップの底の粉まで呑み込むところだった。
 気づくと、この居間の壁には調度品にまじって数枚、シェラの絵姿が貼りつけられている。
「このところ試合が組まれないと思っていたら、胴元が何者かに売り払ってしまったようで……どうしたらそんなことができるのかしら、ひどいこと」
 シェラの横顔の大写しを背景にして、宙を見あげ目を細める伯母上。
「あの子はね、甘いお菓子がきらいで、コーヒーさえも飲まないのよ。あまりひとの言うことを聞くたちではないから、いまごろ良くない目に遭っているかも」
 そう言って溜め息をくりかえす、叔母上の悩みは深い。
「ああ……何処へ行ってしまったのかしら、私の闘士……」
 マルレンは内心で凍りつく。
 それからの数刻にわたる歓談では、自分でも何をしゃべったか覚えていないながら、
どうにか伯母様の屋敷を辞し、少女は従者とともに帰路についた。
568砂の闘士:04/03/12 21:26 ID:CvG2pVxQ

 マルレンが門をくぐると、家内をとりしきる執事が小走りで迎えに現われた。
 執事によると。昼過ぎに寝床から目を醒ました闘士は、屋敷の中でそれなりにおとなしく過ごしていたようだった。
 おとなしく……というか、屋敷の端から端までをしきりに歩き回っては窓を開けたり、庭で長剣を
振るったり、壁の飾り石を持ち上げて、また戻したりと、執事にとっては「迷惑千万の奇行」を繰り返し
てはいたらしいが、それでもついこの間まで日々、獅子と闘っていた者の行動にしては上出来だろう。
 ところで、どこに行ったのか?

 屋敷中を探し回り、中央回廊にてマルレンはやっと闘士をみつけた。
 なにやら片手に麻袋を握っていると思ったら、干したナツメの実を口の中に放り込んでは、
歩きつつもくもくと噛んでいる。
 服の裾のポケットが膨らんでいるのは、どうやら召し使いの女たちが競って食物を与えているようだ。
(この人って、誰にでも好かれるし、何でも貰うのね)
 むかつく。
 マルレンの姿をみとめた闘士は、足を停めふと首をかしげた。
「やあ……?」
 少女の顔を高みから覗きこむ。
「何か……」そして訊いた。「機嫌が悪くないか?」
「なんでもない!」
 少女はぴしゃりと言い返す。
「?」
 闘士は表情に疑問符をのせたまま、ただ、黙っていた。
569砂の闘士:04/03/12 21:27 ID:CvG2pVxQ

 庭のあづまやに、お茶会の支度をさせ、
 マルレンはさしむかいに掛けているシエラに、上等の砂糖菓子を差し出す。
 だが、闘士は不承不承取った菓子を、ぼそっと齧るやその甘さに、あからさまに不快げな顔をした。
 胸のあたりをちりちりとした黒い怒りで焦がしつつ、マルレンは指を組んできりだす。
「シェラ、あなた私の伯母様を知っていて?」
「なんだ」
「ロクサーヌ=フェイ=ザドゥムよ、年の頃は四十前。ヴァリエ通りに本邸をかまえて居られるの」
「……? ああ、ロクサーヌ!」
 首をひねっていた闘士が、はっとひらめいた顔になる。
「髪が黒く、色白の、頬がふっくらとしたご婦人か? サフラン色の衣裳が好みで、腰が張っていて……」
 そこでいったん言葉を切り、レモンの切れ端の入った水差しから注いだ水を飲み干すと、
「……左の太腿に、ふたつホクロのある?」
 ニヤリ頬を歪め、そう言を継いだ。
 ざばーーあー。
「バカッ!」
 闘士は半泣きの少女に、頭から水差しの水をぶっ掛けられた。
570砂の闘士:04/03/12 21:28 ID:CvG2pVxQ

「そうか。お前が怒っているのは分かった」
 すっかりとヘソを曲げた少女を、濡れた髪の闘士は軽々と抱き上げて、
「しかし、どうしようもなかろう」
 午睡のためにあづまやにしつらえられた、大きな籐の寝椅子の上にひょいと載せ、その前の床に膝をついた。
「どうして、」
 泣きはらした目をこすりあげながら、少女が呟く。
「伯母様のほうが私よりも、あなたのことをすごくたくさん知っているのよ?」
「そんなことを尋ねられても何とも言いようがないが、まあ年の功って奴じゃないのか」
 長椅子の上に横座りしている少女を見あげつつ、黒髪を撫でながらシェラは答える。
「ロクサーヌ殿にはかつて、よくしていただいたが、援助の話を私が断ってからは疎遠だったな」
「断ったの?」
「ああ、」頷く。
「半年ほど前か。いろいろあってな。あそこで御申出をお受けしていたら私はまだ、闘技場で剣を振っていたな」
「闘技は、嫌いだったの」
「嫌いではないが」
 シェラは考えこむようにあごを撫でた。
 ふたたび少女を抱き上げると、自分が腰を掛けられる位置に長椅子を動かし、その膝の上にマルレンを座らせた。
「一生闘いつづけるわけにはいかぬ。賞金のために命を捨てるとか、獅子の爪にかかって死ぬとかいう末路は、人生としてはあまりにも無意味すぎる」
 庭の木々のあいだから差す、やわらかい陽の光が、シェラの髪と横顔を白茶けた象牙の色に照らした。
 いつの間やら真顔に戻り、その横顔を見つめていた、マルレンがふと口火を切る。
「あなたの最後の試合の日。わたしも観覧台で見ていたわ。最後の獅子を倒した、あのとき。あなたは末期の獅子に話しかけていたわね」
「……」
「あのときは、何を言っていたの?」
「なにも」
「……うそつき」
「お、よくわかったな」
 ふいにシェラは明るい笑顔になった。
「そうだ。私は嘘吐きなんだ」
 膝の上の少女を、微笑みながら抱きすくめる。
571腐男子:04/03/12 21:29 ID:CvG2pVxQ
−−−−−−−−−−−−
※今週分終了※
572名無しさん@ピンキー:04/03/12 21:41 ID:gwZL1G+h
>>571
今週分キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
つぅかシェラは本当に女殺しだなw
573名無しさん@ピンキー:04/03/13 00:38 ID:tnnyJBi1
GJ!!!
毎週楽しみにしてます
574名無しさん:04/03/19 03:33 ID:QZiYtGAs
お久しぶりです。前にあずみの百合小説書きたいって言ってた者ですが…希望のカプとかあったらぜひ教えて下さい♪基本的にあずみは受け、はつね・お鏡は攻めが好きです
575名無しさん@ピンキー:04/03/19 07:32 ID:pRdpOSkI
>>574
あずみタン総受けなら何でも良し!( ´ω`)b
でもまずは無難にやえ×あずみお願いしまつ(*´Д`) ハァハァ
576名無しさん@ピンキー:04/03/20 19:58 ID:5lcdccq8
誰か、『泣いた赤鬼』で
切ない百合ぷりーず
577砂の闘士:04/03/20 20:51 ID:XUUwSdqA
−−−−−−−−−−−−

 幾日かが過ぎた。

 シェラがめずらしく午前中に目を覚ました、ある日のこと。
 銀の水盤の上で顔をぬぐい終え、ぶるぶると灰色の髪を振っている闘士の、
「ふう」
 陽に透ける横顔を見あげつつ。
 闘士のそばへマルレンが息をひそめて近づくと、
シェラは片頬をかすかに上げてそのまま、少女ののばした手に腕を貸した。

 腕を引かれて辿り着いたのは、屋敷一階左翼の隅。庭にせりだした一画だ。
 マルレンの手で鍵の開けられた扉の奥には、書斎……いや、ちょっとした図書館が広がっていた。
 高い棚の最上段まで整然と書物が並べられ、天からの陽光が床一面を照らしている。
 見上げると東側の壁と天井とが光を通す透明な玻璃にて造られており、満月の夜ならば月光のみで書が読めるだろうと思われた。
「ほう」
 人類の叡智の宝庫、書棚に沿って歩みつつ、装丁の表面に書かれた文字をつれづれに指先で追っていた長身がふと停まり、
「貴重な、魔道の書があるな」重々しい黒色の革の装丁で飾られた、一冊の書物に手を掛けた。
 国教や良俗に反する内容の記された書物は禁書とされ、表立っては入手ができない。
 裏の市場にて、人づてに取り引きされる、それらは十倍の重さの黄金にも勝る宝だった。
「おとうさまの、お好みのようだけど……私は嫌い!」
 角張った黒い書物から目をそらし、マルレンはつん、と肩をそびやかせる。
「同じ禁書なら、こういうきれいな歌のほうがいいわ」
 棚より薄い詩集をとりあげ、恋歌の章を開いた。
578砂の闘士:04/03/20 20:52 ID:XUUwSdqA

 そして、てのひらを胸にあて。マルレンは四行詩のひとつを読みあげた。

――川の岸辺に萌え出たあの緑の葉はきっと、
――少女の肌より芽吹いたかすかな溜め息。
――一輪の草とてもうかうか踏んではなりません、
――もしかして花の乙女の変え姿かも。

 椅子に腰掛け魔道書に落としていた目を、つとシェラがあげて、その朗唱に後歌をつけた。
 膝がしらの上に腕をのせ、低い声を少しかすれさせてうたう。

――さあ二度とは嘆くまじ、君、生まれ巡りゆく悲しみを。
――楽しみと酔いのうちに過ごせよ、この人生を。
――世にたとえ信義というものがあろうとも、
――君のために正義が降り立つのはいつのことやら。

 迷いのない朗々たるうたいぶり。
 驚きに頬を染めてマルレンは、手の中の禁書『四行詩集』の紙葉をいそいで手繰る。
 やがて、見つけた頁の上には一語一句違わぬ文句が記されてある。
「やっぱり、あなたって……教養があるのね」
 恋する少女は言葉とともにため息を吐いた。
 ふと耳に入れただけの詩に付け歌を、それも同じ書物の中、同じ詩人の手になる四行詩を、すぐさま暗唱することができるような知性の主など、この都の貴族にもどれだけいるものか。
「いや、」
 暗い褐色の眼が、ちょっと甘く濁る。
 シェラは膝の上にかるく広げていた書をぱたん、と閉じ、
「本はあまり読まないんだ」
 そう静かに言った。
579砂の闘士:04/03/20 20:53 ID:XUUwSdqA

 ゆっくりと首を左右に振る。
「目を悪くすると、あぶない。生命にかかわるからな」
 黒い書物を棚へ置き戻した背に、マルレンは鈴を振るような声を投げる。
「シェラ、あなたはどこで生まれたの。歌がお好きならば、もしやご出自は遊牧民かしら?」
 闘士は問いに向かって首をめぐらせた。
「わたしの素性を、よく尋ねるな?」
「だめ?」
 首をかしげて見あげてくるマルレン。
 普通の若人ならその美しい青い瞳にかけて、人生のすべてをこの少女に捧げたくなっていたであろう。
 だが砂の闘士はいつも通りの抑制のきいた声音のみで答える。
「遊牧民ではない。アーリア人でもない。だが、世界中の叡智と富、その四分の一があるという、この栄華に満ちた王都をもはや離れる気もない」
 そばに書見台の立てられた座椅子に座りこむと、
「まあ。子供のころはナツメ椰子と山羊の乳、干した羊肉で生きていたので、砂の民と同じ匂いをさせていただろうな」
 降り注ぐ逆光の中で肘をつき、にやりと白い歯を見せた。
「いつもとぼけてばっかり、どうして?」
 マルレンは床にひざをつき、シェラの肩口によりかかる。
「あなたのことを、もっと知りたいのに……」
 うす物の衣裳よりたちのぼる、甘い香りが鼻の奥をうつ。
 腰から伸びあがった少女が、シェラの唇のはじにキスをしていた。
「おっと。…こら、」
 闘士は言うなり、長い指を黒髪のあいだに通して抱き寄せた。
 上衣の中にさしいれた手で、ぱしんと張った尻を叩き、叱りつける。
「貴婦人は、たやすく下郎に口説かれるものではない。歌の一つぐらい、なんだ」
「いいの。あなたになら」
 意固地に言い張る頬をシェラは両手で挟み、褐色の目で少女を見つめる。
 教え聞かせるようにひくく、
「奴隷を甘やかすのは、良くないぞ」
 そう言い置いて立ちあがる。
「奴隷なんかじゃない! わたしには、あなたは……」
 叫ぶ声を背中で聞き流し、独り図書室を出ていった。
580砂の闘士:04/03/20 20:54 ID:XUUwSdqA
−−−−−−−−−−−−
 出逢いの日より数えて、一週間が経とうとしていた。

 うららかな午後、マルレンは広間で、訪れた銀細工商人の長広舌を聴いている。

 闘士は本日補給したてのおやつ、煎ったアーモンドの実を持ち歩いてかじりながら、広大な屋敷の庭園をそぞろ歩いていた。
 緑したたる庭園のふち、外壁そばで立ち停まり、白い石壁の上辺をにらむ。
 面をめぐらせて、一、二度後方を見わたした、と、
「止められないのが不思議かい?」
 壁下に立つ武装衛士が、明るい調子でシェラに声をかけた。
「……じつは、姫様が、以前よりな」
 ことさらに声を低めて続ける。
「貴殿を閉じこめるな、貴殿の行く手をはばむなと、われわれへ厳重に命じられているんだ」
 シェラは、無言。
「家令殿は毎日怒っておられるが、われわれはお嬢様のご命令に従う。だからあんたを止めない……
それに、十人ぐらい集めなけりゃ、到底あんたにゃかなわないからな!」
 いくらか照れくさそうな顔つきで、鼻をこすり、ふいに真顔に変わったかと思うと、ぐいと鼻先を近づけて言う。
「姫様の考えは、あんたには馬鹿馬鹿しいと思えるかもしれない。だが、女の長い髪は象をも繋ぎうるという。
皆あやうい均衡をとりながら、もしかしたら、と、思っているのだ。愛という鎖で、獅子を縛ることができるのか、
ほんとうにそんなことが……と……」
 そこで若者の声がくぐもったのは、《闇の稲妻》の紅い眼がぎろりと衛士の顔を一瞥したからである。
 ひといきに青ざめ、油汗を流しながら凍りついた衛士を見下ろし、闘士はなにも言わない。
「……」
 衛兵に、
「すぐ帰る」
 声を投げつけ、
 助走とともに白い壁を跳び越える。
581砂の闘士:04/03/20 20:56 ID:XUUwSdqA

 王都、ハーフェズ通りには、知る人ぞ知る武器屋がある。
 通りに面した店先に置いた椅子の上で眼をつぶり、膝を立て半ば眠っていた店の主人は、
顔の上にかかる影に気づいて薄目を開け、来訪者を見て威勢よく腰を浮かせた。
「おお、《闇の稲妻》! なんだか久しいなあ。今までどこにいたんだ?」
 武器屋の主人はむさくるしいヒゲづらをほころばせる。
「剣奴隷から奉仕民になった」
「おや、そりゃあ……めでたいことなのかな?」
 首をかしげる店主に、シェラはただ、両手を広げてみせた。
「夜の王、アーリマンのご利益さ」

 客用のカップを取り出し、低い机を挟み、二名は膝をつきあわせて砂糖ぬきの茶をすする。
「ただなあ、自由民になったということは、身柄を守ってくれる雇い主がいないわけだろう。まずいぜ」
 武器屋は頬ヒゲに埋もれた首を振り振り、肺の奥から息を吐いた。
「悪いことにいま、《必殺の針》シャロンが、おまえを血まなこで探しているらしいんだなあ、これが」
「誰だって?」
「昔、お前に片目・指足らずにされた、元闘士だよ」
 灰の闘士は、本気で思い出せない顔で茶を口に含む。「覚えていないなあ」
「向こうはずいぶんと復讐心をたぎらせているようだぞ。まあ、逆恨みなんだが……気をつけろよ。お前はどこにいても目立つから」
「わかったわかった」
「ほんとにわかったのかよ? 長生きしたいなら、少しは…」
 シェラが伏せていた顔から、紅く輝く眼をあげる。
 狭からぬ店の中に、一瞬ひやりと、殺気に似たオーラがたちこめた。
「一度私に負けた者が、再び挑戦して私に勝てると思っているのなら、《闇の稲妻》もなめられたものだな」
 最高剣士の自信を前にした店主は黙り、ただ一度、うなずいた。
「そうか……わかった。オレはお前を信じてるぞ」
「そこにある楯を見せてくれ、壁にかかっているほう」
「おお!」
 店の商品へと気をそらし、さっと身を起こす主人をしりめに、シェラは。
 店の隅に積み上げられたくさぐさの中になかば埋もれた、わずかに反った片刃の剣に目線を投げた。
582砂の闘士:04/03/20 20:57 ID:XUUwSdqA

 半刻後、ふたたび屋敷裏の壁を乗り越えて屋敷に戻ったシェラは。
 彼女の帰還を今か今かと待ちかまえていた下女たちに取り囲まれ、記念の手形作製をねだられた。

 額縁の枠内に石膏をうすく流し込んだ原型に、油の塗られた、厚みのある加工紙をかぶせ、
上から広げた右手のひらを圧しつける。
 そうして、手のひらの下の石膏が固まるまで、その場からは一歩も動けないわけである。
 無人の部屋で闘士はむっつり、左腕のみで頬肘をついた。
 テーブルの脇には御礼とばかり、たくさんの菓子類が積まれているが、それがことごとく甘いものときている。
 つまりシェラにとっては、この行動におけるなんのメリットも無いわけである。
 ――どうも、うまくない。
 野獣や武装兵、闘技関係の人間の口を閉じさせることは腕を振るより容易いというのに、
呼んでもいないのに沸いてくる、小娘やら女の集団には、こちらの意志がなぜかおそろしいほど通じない。
 頭痛がした。
583砂の闘士:04/03/20 20:57 ID:XUUwSdqA

「わ、アンズのパイね♪」
 マルレンが部屋に現われたかと思うと駆け寄り、テーブルに縛りつけられているシェラの脇から、
笑顔とともに手を伸ばしてくる。
「いっただきまーす♪」
「こら、勝手に取るな。それは、私の労働に対する対価だ」
 シェラが口先のみの不満を鳴らすや、お嬢さまはあっさりと言い返した。
「でも、食べないんでしょう? 甘いものは」
「ム…」
 いきなり見透かされた闘士側は現在、手の下に紙を押さえていて動けない。
 少女は絹の上衣をひるがえし床をとんと蹴った。
「この」
 腰掛けているこちらの視界の死角に消えようとする少女を追って、
 どうにか椅子の上で身をひねり振り返る、と、
 ぺち。
 闘士の額の中央にぺったりと、真上から白い手のひらが載せられた。
「ダメよ」
「なんだ」
 置かれた手の下から尋ねる。すると少女は言った。
「私以外のひとから、食べ物をもらってはダメ」
 そうして幾度も繰り返し、ぺちぺちと頭を叩かれる。
 闘士はみごとに、腹の底から、抵抗をする気をなくした。

 どうやらお嬢さまは、最強の獣を馴らすことに成功したらしい?
584砂の闘士:04/03/20 20:58 ID:XUUwSdqA

−−−−−−−−−−−−
 夜半過ぎには王都のおもだった通りは封鎖され、商店は軒並み、表の鎧戸を閉めてしまう。
 闇に白く浮かびあがる石の街並を、影を引きつつ歩くのは、喧嘩の相手を捜し求める孤独なノラ猫ぐらいであろう。
 ハーフェズ通りの知る人ぞ知る武器屋ももちろん、その例に洩れなかったのだが、
今夜ばかりはその石壁の内側に、なにやらうごめく影があるようだった。

 その夜は、新月。
 月の無い天の下を歩く者は愚か者。こんな夜には出歩かず、人肌の寝床で朝を待つのが最上だ。

 深夜、なにも知らず裏通りから勝手口へと手をかけたひげ面の店主は、手元の扉の錠前が凄い力で
ねじ切られていることに気付いたが、背筋に寒気を走らせつつも退がらず、目の前の木戸をそおっと押し開けた。
 店内に踏み込んだ瞬間、はっと息を詰める。
 カタ……がた……
 薄明かりの密室の中で、商材の詰まった木箱が小刻みに揺れている。
 中に盗賊が居る! 圧倒的な恐怖に襲われた店主は、声も出せぬままその場に立ちすくんだ。
(動くな)
 背後より首筋に鋭い剣先があてられた。
(振り返るな)
 戸口側に立つ盗人が、ひくく命じてくる。
 亭主は何も言わぬまま、静かに両の腕をさしあげた。
 店中央の床の上には、小さな蝋燭が一つ、点っている。
 亭主は自らの生命が長からんことを信仰する神に願いつつ、腹の奥まで息を吸い込み、そして、
「誰だ!」
 両手を挙げながらも……振り返る!
 見あげるうす闇の中に、見慣れた腕、見慣れた肩、見慣れた顔が浮かんでいた。
 亭主は(見なければよかった)と神を恨んだ。
585砂の闘士:04/03/20 21:00 ID:XUUwSdqA

「お、おまえ……《闇の稲妻》、なぜ……」
 それ以上は声も出せず、ただぱくぱくと口を開けたてする。
「おまえ、」
 明褐色の肌の盗賊は、言い返した。
「何故居るんだ」
 なぜかいけ高々とした語調で、ずいと足を踏み出し迫る。
「おまえは夜には武器を売らない。夕には帳場を閉め、きっちりと家に帰るのがきまりだった。
その規律正しさだけが取り柄だったのに。おまえを信用していたのに」
 問い詰められた店主は床にへたり、世にもあわれな声を出す。
「う、浮気が女房にばれて、家に入れなくなって……今夜は、ここで寝ようと……」
 シェラが吹き出した。
「く、」
 はは、はははは、とひとしきり高い笑い声を上げたあと、
「浮気、それがばれたって! そんなことのためにか」
 右手の剣を握りなおす。
「これも運命か!」
 食いしばった歯の間から息を吐いた。
 暗い銀色の刃が高く上げられる。
 ――シュ
 一呼吸で振り下ろされたブレードが、男の髭首を打ち落とす。

 木の床にどろりとした血を撒き散らし、首を失ったままひくつく死骸を見下ろして呟いた。
「死を恐れるな、私もいずれそちらに往く……死は誰にでも平等だ、この私にも」

 白鋼に暗い波紋を宿すダマスカス式の刀身が、血を吸ってにぶく輝いていた。

586腐男子:04/03/20 21:01 ID:XUUwSdqA
 ※すんません、エロが無いんで明日書きます

 ※四行詩は『ルバイヤート』が元です
587名無しさん@ピンキー:04/03/21 00:56 ID:NXgUp+sa
腐男子さん、すごい!!
シェラさまとマルレンタンのコンビがナイス!!ですね。
続きをうーんとエロくたのみます
GJ!!
588砂の闘士:04/03/22 05:18 ID:Kge6XGiD

 夜の通りを足音もなく歩み続け、闘士はほどなくマルレンの屋敷へと帰り着いた。
 血を浴びたマントと盗んだ刀を、外壁の組み石を外した中に隠し、ふたたび石を填め込む。


 使用人すら寝静まり、しわぶき一つ聞こえない邸内、寒々しい石の廊下を独り歩く。
 小さなランプを手に、お嬢さまは夕刻より見えなくなっている闘士の姿を探していた。
 かすかな物音を聞いたような気がして厨房に続く扉に近づき、押し開けると、はたして。
 シェラが厨房の隅にあった葡萄酒の栓を抜き、両手へ振り掛けていたところだった。
「よ」
 明かりに気付いた闘士が顔をあげ、マルレンに向かって笑顔を見せる。
 マルレンはほっと息をつき、膝から下が溶け出すような気分をかみしめた。
 ――よかった、まだ、居てくれた。

「こんなところにいたの」
 闘士は駆け寄ってきた少女の肩を抱く。
 すりよせられる子供らしい無邪気な笑顔へ、わずかに眼を細めることで応えた。
「どうしたの、お台所で。お腹すいたの?」
「洗っていたんだ」
「手を?」
「そう」
 頷きつつ、シェラはごく低い声で呟く。
「手についた、罪を」
「なんですって? ……あ、そのビン…」
 その手に酒の瓶が握られている。
「持っていくの?」
「残りは呑む」
 手の中で振られる瓶より、ちゃぽん、と水音がした。
589砂の闘士:04/03/22 05:19 ID:Kge6XGiD

 ランプの放つ明かりを受けて深い緋色の輝きを見せる、大地の血。赤葡萄酒。
 窓の向こう、全天を覆っている漆黒の空に目を向けながら、シェラは黙々と酒杯を干す。

 少女が絨緞の上から手を伸ばし、ランプの灯芯を手ずから絞って部屋の光量を落とした。
 暖かい色の光が、マルレンの白い顔に照り映えながら小さくなっていくさまを、
闘士はぼんやりと暗い色の眼でながめていたが、不意に椅子を蹴って立ち上がるなり背中から少女を抱きすくめた。
 唇を奪う。
 互いの舌が絡み合う水音が、響く。
 立ったままの少女の身体を支えている、褐色の腕が裾を割り、柔らかく白い腿をそっと撫であげた。

 テーブルから取り上げた葡萄酒を口に含み、わずかに腰を屈めると、抱いた胸、心臓の上に唇をあてる。
 目を閉じたまま抱かれているマルレンが、くすぐったそうな顔をして身をよじった。
「んん……」
 薄絹の上を血のように赤い液体が零れ流れる。
「あ…」
 夜着が濡れて透け、肌に貼りつく。冷たいその部位に意識が移り、そこをかばうように両の手が動く。
 自分で自分を抱きしめるような姿になった、少女の細い腰を抱きよせると、主張をはじめた乳房の
尖りに息を吹きかけ、夜着の上からでも構わずに舐めあげた。
 ぴくん。
 接吻を胸から鎖骨、うなじへと這いあがらせ、辿り着いた小さな耳に囁く。
「自分で……触ってみろ」
 白い手首を掴み、濡れた肌の上をむりに滑らせた。繊細な丸みをおびた指の先が乳房をかすめるように触れると、
喉から絞り出すような泣き声があがる。
「や……いやぁ…」
 甘い声が熱を帯びた肌に心地よく伝わった。
590砂の闘士:04/03/22 05:20 ID:Kge6XGiD

 ゆっくりと、体の重みで寝台へ押し倒し、夜着の裾から這うように差し入れた指を腿の奥へと昇らせていく。
 さぐる指に邪魔な下着はぶつからない。淡い茂みと水滴がじかに触れた。
「あ、」
 抵抗できない身体から手早く衣裳を剥ぐと、甘く濡れて、紅くひらいた花の内側に舌先を添わせた。
「ん、いやぁ、もぉ、お……シェラぁ……あ!」
 叫び声とともに達して、ぐったりとした身体を引き起こすと膝をついたうつ伏せにし、食らい付くようにのしかかる。指先と舌とで、首筋から背中を刺激する。
「ふ」
 廻した腕で白い双球をふわりと持ち上げながら、うす桃色の乳房の先端を指のあいだで転がした。
 たった今絶頂に辿り着いたばかりの身体は、再び震えつつ高まっていく。
「ン…ん、ふぅ…」
 ベッドに伏した恰好の腰を上げさせ、そこに瓶からの酒を垂らすように掛けた。最後の一滴まで。
 紅く染まった寝所の中央に、少女の四肢を縫いとめ、秘所にゆっくりと指を埋めていった。
「んん……いやぁ……」
591砂の闘士:04/03/22 05:21 ID:Kge6XGiD

 初めて他者のものを受け入れた幼い身体が、汗の粒を浮かせながらふるふると揺すれる。
 上から覆い被さる闘士が、マルレンの首筋にかるく歯を立てた。
 噛み付かれてぴくり、と、少女の体から擬死じみた反応がかえる。
 鉄錆を思わせる、かすかな血の匂いが立ち上り、やがて葡萄酒の揮発と汗の甘さにうずもれて溶けていく。
 うすい珈琲色の肌をした闘士は。
 その指先で濡れそぼった内壁を擦りあげる。
「あ…!」
 汗に濡れきった身体が跳ねる。
「動くと」
 奥まで入りこんだ指先で慎重に、襞の中の固い部分を探り当てながら、
「もっと当たるぞ」
 闘士は低い声で事実を述べた。
 少女の痙攣は止まらない。仰向けの背を敷布に預けつつ、青い瞳に真珠のような涙を載せ、
首すじにキスの雨を受けながら登り詰める。
「あああっ、んん、ふあぁ…!」
 葡萄酒の中に浸しこんだパイ菓子のように、一面の赤に染まった敷き布へ。
わずかながらも更に紅い、一筋の血の雫が滴り落ちたが、所謂闇夜のこと。
 その一瞬を見届けられた者は居なかった。

592腐男子:04/03/22 05:22 ID:Kge6XGiD
※続く※
593名無しさん@ピンキー:04/03/22 05:40 ID:PYkTcCdz
(;´Д`)ハァハァ
つ、続けてっ
もっと、もっとぉー!!
594砂の闘士:04/03/24 01:14 ID:RhoH4EsB
−−−−−−−−−−−−

 この屋敷を出て行くつもりだと、シェラが突然告げたのは、
その翌日、明け方早くの事だった。

 それからは二、三日、若い恋人同士によくあるいさかい、幾度もくりかえされる不毛な口争いが繰り広げられ、
血気にはやる闘士と、静かな愛を求める少女は、苦難のすえついに妥協点にたどりついた。
  ○シェラは少女の用意した路銀や、純金の鞘に仕舞われた宝飾短刀、鎖かたびらを受け取ること。
  ○マルレン=クィア=ルマームの名をけして忘れないこと。
 その二行分の誓約に辿り着くまでには、愛憎半ばした茨の道のりがあった。
 愁嘆場に巻き込まれた若い衛士は、屋敷裏の警護に立ちつつしみじみと当時を思い返す。
 闘技の覇者《闇の稲妻》は、その王のような見栄えと立ち居振る舞いから、少女を傷つけるような
外道の行為は決してはたらかぬだろう、と大方に思われていたのだが、
どうも討議のさなかにマルレンの涙を眼にするとまったく感情を制御できなくなるらしく、
二人のやりとりに同席をした若い衛士は、机や燭台、室内の調度を嵐のように薙ぎ倒し危うく
姫君にまでその手をあげかけた闘士を、背後から必死に引き止めたことさえあった。

 思い出すだけで肝が冷える。あの時、自分が殺されなかったのは神の恩寵にちがいない。
(あの闘士の、愛というものを憎む心はすさまじい。あれの人生に、それまで何があったかは知らないが、ああまで捻くれてしまったら、今後そう永くは生きられまい)
 若い衛士は槍を握りなおして考えた。
(オレはあの愛らしい姫君のおそばに侍する、この役目をけっして手放しはしないぞ)
595砂の闘士:04/03/24 01:15 ID:RhoH4EsB

 《闇の稲妻》がその脚で独り、屋敷の正門から悠悠と歩み出して行った日から、数日。
 何よりも家内の秩序を愛する執事はやっかい払いができたことを心から喜んでいるようだったが、
屋敷の中にはなにやら張りあいの失せた顔つきで日々を過ごす使用人の姿が多々見受けられた。

 正門手前の階段にお行儀悪く、お尻をのせて座り込んでいるマルレンは、
「つまんない」
 組んだ指の上にあごを載せ、ぼそりと小さな雲のような独り言を吐く。
「シェラが出ていったら、なんだか壁の色もくすんだみたいだわ」
 門扉の左右を守る初老の門番がその声に振り返るや、二人揃ってものやわらかに微笑んだ。
「そうですね」
「……そう思う?」門番たちをまじまじと見つめ返す。「おせじで言ってるんじゃなくて?」
「いえいえ。わたくしどもも彼女のことは好きでした」
「肩布をつけてさっそうと歩む姿は、門から見ていても美々しい物でしたから」
 老人たちは空の果てを覗きこむように目を細めた。
「かつて砂漠をおのれの剣のみできりとった、マルジャーム王朝の初代将軍とはあのようなものか…と」
 唐突に、余人の知るはずもない、シェラの真の姓を耳にしたマルレンは老人たちへと丸い目を向ける。
「え?」
「おや、ご存じないか」
 仕え者たちはさらりと注釈を付け加えた。
「あなたがお小さいころ、滅んだ国の名前ですよ」

596砂の闘士:04/03/24 01:15 ID:RhoH4EsB

 やがてマルレンの父が買い付けの旅より戻り、屋敷は完全に、旧態へと復したかと思われた。

 敷地外周を巡回しつつ、若い衛士がなんとなくシェラの事を思い出していたうららかな午後。
噂をすれば影か、彼はなにやら見たことのあるシルエットの長身が、ゆっくりと近づいてくるのを目に入れた。
「お、」
 女闘士《闇の稲妻》。
 それが頭上までを覆うマントを被り、人間大の荷物……死体、を引きずって路上を歩いているのである。
 そんな代物に鼻先まで接近された、衛士は裏ッかえった泣き声をあげた。
「お、おおおお前、なに持って来てるんだよぉ」
「すまん。頼みたいが……」
「誰だよ、これ……」
 こわごわと手元の槍で、頭に麻の袋をかぶった恰好のまま路上にだらりと伏しているその一件をつつこうとした若者に、シェラがこともなげに忠告を送る。
「ああ、見ない方がいい。顔は潰してあるから」
 衛士はぎくっと槍を引く。
「な、なんだってそんな……いったい……」
 シェラは死骸を見おろして、殊勝に呟く。
「元闘士だ。今日、仲間と共に襲い来て、ついさっき死体になった」
 そして、柔らかい褐色の目で衛士の顔をまじまじと見すえると、
「頼む。坊主に、こいつを弔ってもらっておいてくれ」
 真顔でとんでもない事を言い出した。
「『ゆきずりの暴漢にめった刺しにされて死んだ、元闘士』と言って、葬式を出すんだ」
597砂の闘士:04/03/24 01:16 ID:RhoH4EsB

 衛士は目の前に立つ闘士のしゃべりかたに、母音を二重に引き伸ばす南のなまりがあることに気がついた。
 彼は意識の隅でふと故郷の母を思い出した。
「手数だが、願えるだろうか?」
 闘士に直近で見据えられ、獅子に睨まれたウサギのような金縛りに遭っている青年は、
「か、」直立不動、内心で汗をかきながら尋ねる。
「金は、どこから出すんだ……?」
 すると、
「すまん、」
 灰の闘士はそこで初めて、にやりと白い歯を見せて笑った。すまなそうに片目をつぶり、
「貸しにしといてくれ」
 はじめて、女に見える……というか人間らしい表情をした《闇の稲妻》を前にして。

 衛士は、一ヵ月ぶんの俸給をすべてつぎこんで、言われたとおり屋敷そばの寺院に「闘士の葬式」を出してもらった。
 つぎこんだのだが、それでもそまつな無縁墓地に葬られたあわれな墓碑は、王都に勇名を轟かせた闘士
《闇の稲妻》のものだと言い張るにしては、あまりにも質素すぎ地味すぎるようで、青年は葬儀翌日より
びくびくものだった。

 そんなわけで、喪服姿で泣きはらした目をし、無縁墓地へ向かう道を歩む貴婦人がたを見かけるたびに、
彼は心中でほっと胸をなで下ろすのだった。
598砂の闘士:04/03/24 01:17 ID:RhoH4EsB
−−−−−−−−−−−−
 噂があった。
 夜な夜な貴族の宝物蔵の錠を破り忍び込み、禁書や地図、古代の古文書を、
風のごとく掠めとる盗賊がいるという噂。
 夜の王都を跳梁する彼は、宝石、金銭は盗らない。人も殺さない。その姿を誰も見たことがない。
 裏社会に大規模な組織があるのか、技が巧みなのか、役人の捜査にもまったく掛からぬらしい。
 素封家たちのあいだではこの評判はすでにして広く知れわたり、粋でスリルのある物語として、
宴会や夜会におけるジョークの定番になっていた。


 マルジャーム王国のいまや唯一の生き残り、砂色の肌をした元闘士は、
宿(キャラバンサライ)の屋根裏部屋で、フェルトの敷布の上にあぐらをかき、
ぼんやりとした顔つきで床一面に広げた古文書を眺めやっていた。
 古文体で記された、おどろおどろしくも曖昧な記述を前に、考えこむ……


 ふと思い出した事があり、深夜に宿を抜け出すと、シェラはかつて暮らしていた
少女の屋敷の前へと足を向けた。
 若い衛士に、葬儀の代金を借りていた事を思い出したからである。
 あと一街区というところまで近づいて、正門の状況を遠く見ると、ひどく暗く、沈みこんでいる。
「おい、門番。かがり火が消えている、油を……」
 駆け寄った正門脇の番小屋に小声にて呼びかけるも、その中に誰も警護の者は詰めて居ない。
 独り門の先を見上げると、豪奢なる邸には窓の灯も人声もなく、ただ夜の中にうずくまり、
そびえる大理石の偉容は、息詰まる瘴気さえ発しているように思われた。
 本能的な予感に動かされ、とっさに周囲を警戒したが、罠や待ち伏せの気配はない。
 ただ、触れて掴むことのできそうなほどに重苦しい、漆黒の闇だけがあたりを覆っていた。
 シェラはものも言わずに、建物に掛けてとりつくためのロープを腰より取り出した。
599腐男子:04/03/24 01:19 ID:RhoH4EsB
※以下次号※
600名無しさん@ピンキー:04/03/24 12:25 ID:FYuU40Mr
おお、続きが。
次号も楽しみにしてます。
601名無しさん:04/03/25 19:22 ID:1hDsblN7
あずみエロパロ小説ホムペ開設しました!やえXあずみ、はつねXあずみなど、超百合小説書いてくつもりです
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=kakagu
602名無しさん@ピンキー:04/03/25 20:16 ID:zYGug3Au
>腐男子さん
今回はエロなしでしたが、相変わらず面白い!!
元ネタとは別に、これを劇画タッチの漫画にしてもらって
ぜひ読んでみたいと思いますた。
ムード的に、黒っぽい絵を描く人がいいですねw
603名無しさん@ピンキー:04/03/26 01:39 ID:t0uv2xzw
オリジナルでエロありなのでもいいのかな?
百合は、甘甘微エロが好まれるみたいだけど…
604名無しさん@ピンキー:04/03/26 01:45 ID:WgcKaUb5
>>603
全然おk。
今腐男子氏が書いてるのもオリジナルだけど萌えるしな。
605名無しさん@ピンキー:04/03/26 02:08 ID:z6T906iK
>>195
亀レスだが訳というよりギリシャの地域内での方言の問題だったはず。
606602 :04/03/26 20:00 ID:EdfWk0Fh
超恥ずかしいです。
ごめんなさい。
607名無しさん@ピンキー:04/03/26 21:26 ID:t0uv2xzw
>>604
レスありがとうございます。
本当は「妖幻の血」のぼたん×のばらを書きたいのですが…
ご存知の方がいらっしゃらなければ、オリジナルにしようと思います。
608砂の闘士:04/03/28 12:48 ID:73fllINT
−−−−−−−−−−−−
 マルレンの父親、王都アッシュールでも指折りの大旦那、
風采の上がらぬやもめ男ながら自らの商才によって財産を莫大な額にまで増やしたその男は、
いまや魔道に魂を売った怪物の本性を剥き出しにし、粋な屋敷に死累血河を築いていた。
 家令以下、てむかう使用人たちに次々指をかけ、引き裂き、肉片に変えつくすと、
恐るべき怪力を発揮しているその腕で愛する娘を縛りあげた。
「もう少し、もう少し、もうすぐなんだ……」
 丸い顔、ずんぐりとした体躯をよちよちと上下させて歩く。
 もごもごと呪詛のような文句を吐きつつ、書斎の入り口から奥へなんども歩き渡っては
さまざまな荷物を持ち込み、並べ、大切な儀式の用意を勤勉に押し進めていった。

 両手両脚首を麻縄で縛られて身動きのならないマルレンは、
見開いた青い目で、屋敷の中で繰り広げられているおそるべき無秩序を見つめた。
 これまで触れたこともない、あやしい匂いの香、床に書かれた奇妙な文字円。
ならべられた蝋燭、そして……
生白い、人の皮で表装を張られた古書がいくつも、いくつも床に散らばっている。

 マルレンは、芯から凍りつくような思いである。
 ――お父様は、いったい何を?
 ――どこから、これだけ大量の魔道書を? お父様は南の国で、こんなものを買いつけてきていたの?
 生まれた時から親しんでいる血を分けた肉親が、突如変貌するギャップ。
 目覚めて脱出する事もかなわぬ、現実に侵入した悪夢。
こればかりは体験した者にしかわからぬ恐怖であろう。
 耳にこびりつく使用人たちの甲高い悲鳴、現在も手足に与えられている苦痛から、
今のこの事態が夢ではないことは骨身に染みていたが、どうしても、理性が状況の理解を拒む。
 ――娘の私にはいつもとびっきり甘くて、どちらかといえば気弱なお父様が……
609砂の闘士:04/03/28 12:49 ID:73fllINT

「さあ、もうすぐ、出来上がる……」
 部屋じゅうをせわしなく動き回っていた父が、ふと足を停める。
 ぐふ、ぐふぐふと息を吐き、口元から涎と呻き声をこぼしながら、一人娘の蒼白な表情を眺めやった。
「なあマルレン?」
 暗黒の中、燭光に照らされ青白い頬をした父は、どこかうつろな声色で、腕を広げ、
「わたしはね、アジ・ダハーカ様をこの国に召喚いたさねばならないのだ。
それが、わたしの、使命なんだ」
 書斎の天井を仰ぎつつ宣言をした。
「そのためには捧げなければならないのだよ……若々しい、生命を」
 すでに血祭りにあげられている数人の侍女らは、喉を切られ家畜のように血を流したまま、
文字円の周囲に放射状に並べられている。
 男は、太い腕を不器用に伸ばすとマルレンのあごを取り、
「わが愛する娘……おまえは最高の、すばらしい生贄になるだろう」
 黒く邪悪な儀式の総仕上げを行う決意を表明した。
 なまぐさい、嫌な匂いの息に顔をそむける娘に微笑を送ると、なにやらねばりの強い
黄色い軟膏を取り出すや、マルレンの額へ、横一文字になすりつける。

 屋根に掛けたロープを握りしめ、大理石の壁を慎重に這い上がっていたシェラは、
ふと覗き込んだ窓から子殺しの現場に遭遇した。
610砂の闘士:04/03/28 12:50 ID:73fllINT

 怪物の顔よりふいに、笑みが吹き払われた。
「マルレン、おまえ、」
 父の皮を被った魔物が、はっとして身を引き離す。
「すでに生娘ではないのか……?」
 あまりの怒りのためにぶるぶるとこめかみの肉が震えている。
「それでは儀式が完了できん、おまえのようなふしだらな……娘をもってわしは……、
あ、あ、ァアアアア!」
 赤い口をひらくと耳まで裂けた。
 狂った血をのぼせた顔は紫色に変わり、ふくらんで倍ほどの大きさになったのではないかと思われた。
「ギャアアアアアア! 殺すコロス砕く……タマシイを、食いつくし、みんな堕落した肉片にシテヤル」
 怒気を剥き出しにした小太りの男が呪いの言葉を吐き出す。
「血を垂らせ、火をかけろ、死の満ち満ちた平原をたわむれ歩む軍団を呼べ、地獄の門を開きたまえ、
皮と骨とを、燃やした上に、わが主のよろこばれる不浄の王国を築いてやろう」
 と、若々しい声が地獄の広間に響き渡る。
「おやめください!」
 若い衛士が、回廊からの扉を大きく開け放つと同時に叫んでいた。
611砂の闘士:04/03/28 12:52 ID:73fllINT

「マルレン様をお離しください、旦那様」
 青年は悲しげに問いかける。
「いったいなぜ……娘は父親の所有物ではありません」
 彼の後ろにも数名、生き残りの衛士が立っており、やむなくといった顔つきで
主に向かい構えた槍をぐっと突き出している。
「わが殿、御免!」
 気合い声とともに一斉に襲いかかった。
 突き通され槍ぶすまとなるべき家長だったが、しかしその小太りの腹には鉄の穂先が食い込まず、
男にはかすり傷さえ与えることができなかった。
 彼らの主人が変化したそれは、現世における闇の力の顕現であり、人間には倒せない怪物であった。
 一同がそれを悟る前に、鉄のように固い腕と信じられないような怪力が、衛士の全員を、ひといきに吹き飛ばす。
 背中に背負った盾ごと、小太りの男に踏み抜かれ、口から血を吐く若者、
ありえないほど平らになった身体で床に伏し、それきり動かなくなる兵。
「や……やめろー!」
 一人残された若い衛士は叫ぶなり、徒手空拳のまま怪物めがけて跳びつこうとした。
 ずぶ。
 空中に伸びた腕が、若者の腹を軽々と貫く。
「ぐ……」
 くずおれる、腹に大穴の開いた死体。
 その目が最後に見たものは、
玻璃の填め込まれた窓を枠ごと蹴飛ばし、書斎に踏み込む《闇の稲妻》の姿だった。
612砂の闘士:04/03/28 12:54 ID:73fllINT

 灰色の肌の闘士は、無表情を保ったまま踏み出す。
「殺したな……?」
「何者だ」
「魔物に名乗る名は無い」
 冷たい声が書斎の空気を震わせた。
「それから、いまおまえが殺した男は私の友人だ、仇を討つ権利がある」
 身につけていた頭布をさらりと落とすや、最強の闘士の貌が現われる。
 肩口は筋肉で盛り上がり、しなやかな上腕に続く。
 圧倒的な瞬発力を誇る研ぎ澄まされた筋肉、その爆発的なパワーを支える強靭な腱と骨格、
苛烈な境遇、生と死のはざまで鍛えられ、最強を示すことで生き残った野獣の王は。
 静かに脚を、踏み出すと共につぶやく。
「龍の潜む山脈へと、騎兵は赴き」
「獅子あるところ、勇士出づる」
「闇の定めし周期に逆らい、光の剣もて魔を照らさん」
 そして、完全に操法を心得ているダマスカス鋼の長刀を抜きはらった。
 剣を低く構え、怪物に問う。
「お前、南の砂漠を通ったな? 魔道に狂ったか」
「きさバ…」
 魔物はごぼごぼと、血の泡と声とを発する。
「…なにを知ってビる」
「うむ、」
 ひとつ、頷いて。
613砂の闘士:04/03/28 12:55 ID:73fllINT

「……おまえが、既に魔の下僕だということを。そして」
 睨み据えてくる怪物の懐へ、立てた宝剣の切っ先を向ける。わずかな動作で床を蹴る。
「この剣はおまえさえも貫けるということ」
 闘士は何一つためらわなかった。結着は一瞬でついた。
 狂った貴族の頭蓋骨を、真っ向から断ち割る。
 黒い血漿が、断末魔の叫びとともに飛び散った。
「フッ」
 剣を振って血をはらい、鞘に納めると、酸鼻を極める床に身を預けて座っているマルレンと目があう。
 黒い血を浴びて仁王立ちに立っている灰の闘士。
 放心状態におちいっている貴族の少女。
 静寂に満たされた、再会の場で。
「……」
 シェラは剣のつかに指を載せ、こっそりとため息をつく。
 心中、いまのこの巡り合わせを、ひどく残念に感じていた。
 無邪気にただ、好意と信頼を寄せてくるこの姫君にだけは、自分は完全なる獅子だと思わせておきたかった。
屍肉をあさる姿を見せたくはなかった。
 ――厭なものだ。人生とは。
 抜いたダマスカス刀を一度、少女の頭上まで振り上げ、また戻した。

 ふいに。元奴隷の意識へ数週前の別離の時、すがってくる少女に告げられた言葉……
あの時二人の間で交わした約束が甦る。
  「ねえ貴女。再び私に逢うことがあったら、わたしのことを怒ったり、軽蔑したり、
  知らない他人のような顔をしないで。声はなにも掛けてくれなくていいから、
  ただ、微笑ってみせて。それだけが願い」
614名無しさん@ピンキー:04/03/28 17:36 ID:BuL9CZUQ
>>607
妖幻知ってて、読みたいと思ってる奴がここに居たりします。
615名無しさん@ピンキー:04/03/28 22:21 ID:ilRT7GJs
>腐男子さん
読みました。
お名前に似合わずシリアス路線ですね。
でも冷徹な女闘士、シェラの心にとぼった温かな愛?のともし火・・
なんかイイ!!です。
キャラがすごくハッキリしてますが、でもホント百合ですよねー。
この血と戦いの物語、マルレンタンとともにどんな完結を見るのか
楽しみです。
文章のかっこよさエロパロNO.1!!
616砂の闘士:04/03/29 03:25 ID:OcbpbbtB

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
/  奇怪な文字様式で書かれた魔法円、不快な色と匂いとを放つ妖しの油、
/ 凄惨な殺され方をしたことがあまりにも明らかな死骸。
/  撒き散らされた血にまみれ、地獄としか言いようのないこの現場は、
/ 十年以上前、シェラの生まれた城で行われた悲劇の完全なる再現だった。
/ 
/ ――黒の魔道につき動かされた女が、義理ながら我が子の細首に手を掛け、
/   喉を切り開こうと逆手に掴んだナイフを振り上げる、悪夢のような状景。
/ ――いつしか城内に巣食っていた魔女どもを一名残らず先祖伝来の宝剣にて斬り捨てた国王、
/   エズムン=シムルグ=マルジャーン。
    彼もいまや現世に亡い。

 シェラは、黒い血に濡れた額を指先で押さえた。
 いま、とても重要な事を考えなくてはならなかった。
 ――父王は、愛のために滅んだ。
 ――私もまた、父上の子だということか……?
 しかし、考えは様々な方向に散り去り、いっこうに纏まろうとはしない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
617砂の闘士:04/03/29 03:27 ID:OcbpbbtB

 様々な思いに取り巻かれつつ、シェラは袖で頬を拭う。

 血で汚れた床にぺたりと座り込み、とまどった表情を浮かべる少女の前に身を屈め、
宝剣をつかって手足の自由を奪っている麻紐をゆっくりとていねいに切りはずした。
 どのような汚れた格好でも、彼女は愛らしかった。
 シェラがまだ奴隷であったころ、初めてその顔を見あげた時となにひとつ変わらず。
 闘士は目を閉じる。そっと息を吐く。
 心の中がいまだに、彼女の声、彼女の肌、彼女の匂いで埋め尽くされているのを思い知った。
 すると。
 少女が血のついた顔を上げて、こちらを見た。
「……夢じゃないのね」
 膝をついているシェラの頬に白い指先をあててくる。
「来てくれるなんて、思ってなかった。あなたは私を、置いていったのに」
 闘士の心に、ずきりと針が刺さった。
 その針を心臓深く突き刺したまま、胸は素早い脈動を打ち続けた。
「マルジャーム。教えてもらったわ、小さな、すてきな国だったって。
オアシスを持っていて、交易を行う旅人を歓待して……
あなたは私がジャマだったのね、そのお国を復興させるために」
 彼女は青い瞳に澄んだ涙の粒を浮かべながら、ほほえむために唇をわずかに開いた。
「元気だった? お金はたりてるの?」
「あー……、」
 思わず少女を、両手で抱きしめる。
「すまん、つかってしまった」
 かすれる声で、続ける。
「故国のことが書かれてある、禁書を山ほど買ったんだ」
 少女はくすり、笑いこちらの顔を見あげてくる。
「しようのないひと」
618砂の闘士:04/03/29 03:29 ID:OcbpbbtB

 ほほに一筋の涙のあとを残しつつも、彼女の美しさは完璧だった。
 黒い血を浴びた、今の自分の姿も、少しはマシに見えていればいいのに。
「……マルレン、」
 心からそう、祈りつつシェラは切り出す。
 肺の奥から暖かい息を吐き、抱きしめた背中を手のひらでそおっと叩きながら、
「いまの私は、人々の口の端にのぼり、盛大な人気を取るような闘士ではない。奴隷でもないが……
小さな宿の、狭いベッドで、日々無聊をかこっている。
いわゆる平民の暮らしでしかないし、さほど良い物はあげられないが……」
 ぼくとつに、懸命にセリフを繋いで行った。
「おまえのひとりぐらい、守り養うことはできる」
 真摯に目線を合わせ、申し出た。
「望むなら、来い」
 ただ、黙って、両の瞳に涙を浮かべていた少女は、ふわりと腕を広げるや、シェラの首元にしがみつく。
619砂の闘士:04/03/29 03:31 ID:OcbpbbtB

 小柄な少女に頭からすっぽりとマントをかぶせ、辺りに目を配りつつ夜道を急ぐ。
そして二名は、下町の隅にひっそりと建つシェラの常宿へと帰り着いた。

 宿の門をくぐるなり、シェラは迎えに出た者たちへ短言にて指示を飛ばす。
 夜更けながら宿の下男に大量の湯をつくらせ、中庭に湯浴みのしたくをし、
死人のようにひどい恰好をしているマルレンを、盥に張った湯の中に沈めた。
 衣服を脱がせると、身体についた血を落とし、何度も湯を入れ替えて、
掌中の珠を磨くように洗い立てる。
 浴衣を着せかけた、少女の濡れ髪を梳きおえると、
「屋根裏の私の部屋に行け。言えば案内してくれる」
 自分の上着の前合わせに指をかけつつそう命じた。


 武器防具、古文書に埋めつくされた屋根裏部屋の中央で、少女はぽつねんと座していた。
やがて、洗い髪の闘士が階段を上がって現われた。
 微笑しつつマルレンの頬に触れると、
――少女のためのベッドは明日に持って来させる、部屋は狭いが大丈夫か、
という意味のことを訊いた。
620腐男子:04/03/29 03:34 ID:OcbpbbtB
 ◆以下次号◆ すいません 次はなんとか21禁らしくします
621名無しさん@ピンキー:04/03/29 08:44 ID:VZqXhUvd
もっと萌えるネタを・・・
622音吉:04/03/29 10:07 ID:DoS4TpgX
>>614
レスありがとうございます。
では、あなた様のために投下させて戴きます(笑)

何分人生二度目の投下ですので、
拙い文ではありますが、読んで下さる方がいらっしゃると嬉しいです。
今回書くのは、ガンガンパワード(だったかな?)掲載の「妖幻の血」のぼたん×のばらです。
最初の投下ですので、エロなしほのぼので短く書いてみました。
では、行きます。
623音吉:04/03/29 10:15 ID:DoS4TpgX
「ぼたん、あんたは要らないの?」
のばらは何時もの様に柳之介の血を飲み終え、口を軽く拭いながらぼたんに問い掛ける。
「…今日は…いいです…」
ぼたんは視線も合わせずそう言うと、静かに部屋を出て行った。
それを見送ってから、のばらは少し眉を寄せた。
「ねぇ、柳之介。最近のぼたん、変だわ」
「―そうか…?…ぼたんにも、ぼたんなりの悩みが有るんだろう」
ふと杉浦のことを思い出した柳之介は、それだけ答えるとのばらの頭をぽふ、と軽く撫でた。

「じゃあ、行ってくるからな」
靴を履き見下ろすと、のばらはひらりと片手を振った。
「ちゃんとお土産買ってきなさいよ」
「…今日はやけに素直だな」
言いながら少し拍子抜けしたように苦笑する。
「まぁね、ぼたん一人きりにさせるのは心配だもの」
そう言ってのばらは得意気ににっこりと微笑んでみせた。
それを受けて柳之介は口元で微笑み、ガラリと戸を開けて出掛けて行った。

その音を聞いてか、ぼたんが隣の部屋から顔を覗かせた。
624音吉:04/03/29 10:20 ID:DoS4TpgX

「あ…柳之介さんは…」
「あいつなら買物よ。それよりぼたん、こっちにいらっしゃい」
のばらはぼたんの手を取りスタスタ歩き、彼女が呆気に取られている間に縁側まで来るとスッと手を離してそこに腰掛けた。
足をぷらぷらさせ、隣家の屋根を見つめながらのばらは静かに問い掛ける。
「ぼたん、最近あんた変よ?いつもは肉のことしか考えてないのに、今日なんて一口も口にしないで…何かあったの?」
暫くしても返事がない。

「ちょっと、聞いてるのっ!?」
のばらはぷぅ、と膨れてパッとぼたんの方を見上げながら言った。
「え…ぁ…」
いつからだろう、瞬きしながらのばらを見下ろしているぼたんの頬が赤い。
「なぁに?具合いが悪かったの?立ってないで座りなさいよ」
ぼたんはのばらに手首を引っ張られ、ぺたん、と隣に座り込んだ。
625音吉:04/03/29 10:23 ID:DoS4TpgX

「ほら、何か言ってくれないと判らないわよ?」
のばらはぼたんの顔を覗き込むように首を傾げた。
「……」
ぼたんはただ、無言のまま、のばらの手を取り、両手で包むようにきゅう、と握った。
「ぼたん…?」
のばらがキョトン、としていると、ぼたんは一度瞳を見つめてから、視線を落としながら握っていた掌に頬を寄せた。
少し驚いてぱちくりと瞬きしていたのばらが、瞳を薄めるようにふっと微笑む。
「そう…そうしてると安心するのね。いいわ、暫くそうしてても」
ぼたんは幸せそうにのばらの掌に頬を寄せたまま、どうかもう暫くお肉さんが帰って来ませんように、と願った。
626音吉:04/03/29 10:30 ID:DoS4TpgX
以上です、お粗末様でした。
次回、書く機会があったらエロありで頑張ろうと思います(笑)
それでは、また。
627名無しさん@ピンキー:04/03/29 23:05 ID:PzxXZiG6
>腐男子さん
腐男子さんお話は、文章で読む劇画みたいな感じです。
エロなしの回だってすっごく面白いですよ。
重たい血の十字架を背負った女ケンシロウと、それを心で支える
ちっちゃな女の子……みたいな感じ?漏れ的にはです。

>音吉さん
GJ!!です。
百合は、手を握り合って目を見詰め合ってるような
優しい雰囲気なのが自分は好きです。
628614:04/03/30 00:09 ID:wiFHHPLx
>>音吉氏
俺もほわっと和めるのが好きなんで、良かったですよ。
次の機会、待ってます。

妖幻は普通に好きだけど、メガネが女だったらと思わずにはいられない。
ヘタレぶりも優しさ故にって思いやすいだろうし、
血肉を吸われても減らない巨乳はおかしい!
もしくは、吸われる前からぺったんこじゃないの。
なんてネタもできそうだから。
629音吉:04/03/30 02:19 ID:fUWOVlNi
>>627
レスありがとうございます。
やっぱり百合はエロなしの方が好まれるみたいですね。
では、次回も優しい雰囲気で頑張りますっ(`・ω・´)
…ちょいエロにしちゃうかもですが、見放さないで下さいね(笑)

>>614
和んで戴けて光栄です。
次回もぼたん×のばらで書けたら投下しようと考えてますので、また読んで下さったら嬉しいです。
メガネが女だったら、なんて、単なるのばら・ぼたん萌えなので、気がつきませんでしたよー(苦笑)
私はどちらかと言うと、雄なメガネに嫉妬する雌なおかっぱを妄想して萌えております(ノω`*)
(゚Д゚)ハッ、変態なのがバレてしまう…ッ!(笑)
630砂の闘士:04/04/02 05:04 ID:fuyj0vMI

「今夜だけなら、」
 闘士は少女の細い腕をとる。
「少しは狭くてもいいか?」
 床に敷いた絨緞から独り者用のベッドへと引きあげ、マルレンの肩を抱きよせた。
 互いの鼻先が当たるほどに顔を近づけ、
「盗賊でもいいか?」シェラはひくく尋ねかける。

「盗賊?」
 おうむ返しに訊ねるマルレンへ、闘士は現在の自分の身の上――このキャラバンサライを根城に、
夜盗のまねごとを行い――王都のほうぼうに隠されている古代の禁書をあさっているのだと、
白状じみてとつとつと話した。
 官吏に捕らえられれば追放か斬首か。明日をも知れぬ、そんなきわどい暮らしだと。
 マルレンが、闘士の褐色の目をじっと、見通すようにのぞきこんだ。
「どんな暮らしをしていても、どんな名前で呼ばれていようとも。あなたが好きよ」
 肩に指をかけてよりかかり、頬を預ける。
「マルレン、」
 シェラの鼻筋のとおった端正な表情が心痛に歪み、再び繰り言のようにこぼす。
「花と呼ばれた姫君が、そこまで身を落としてもいいものか?」
 みずから首をうつむかせて、
「私は、」しばらく躊躇ったあと、呟く。
「お前の父を、殺した」
 そう声にしたとたん、自分で自分の言葉にダメージを受けたらしく、しょんぼりとした顔で目線を下げた。
「わたしはお前の仇敵だ」
631砂の闘士:04/04/02 05:06 ID:fuyj0vMI

「だけど、あれは別人だわ。この世のどこかに、お父さまをあのようにした、悪い奴がいるのでしょう?」
 肩の下に垂れているシェラの髪の先にふれつつ、マルレンは言葉をつなぐ。
「お父さまを魔物にした、魔道の徒が。かたきと言うなら、まず『それ』を倒さなければ」
「魔物の黒幕か」
 ふかぶかと息を吐いてみせる。
「だがそいつは、無尽蔵の闇の力をわれらに及ぼし、人を狂わせる邪神なのだが」
「あなたなら」
 マルレンはゆったりと微笑む。その美貌に、生来の風格さえたたえて。
「殺せるわ」
「良く言った!」
 顔をあげた闘士はにやり、片頬で笑うと、黒髪の少女の白いひたいにそっと口づけた。
 手の中の細い身体を抱き寄せ、少女の耳元へと静かに唇をよせる。
「マルレン……」
 腹よりひびく低音が少女の耳朶を打った。
「……あいかわらず、胸が小さいな」
「ばかっ!」
 間髪入れず、空中から殴りかかってくる細っこいこぶしをシェラはかるく受け止めて、
機嫌良く少女をその腕に抱きしめると、湯上がりの紅い頬を嬉しげにぺろりと舐める。
 シェラの喉が、ごろごろと鳴っているのがマルレンの肌に伝わっていた。

 深いキスの後。
 闘士が握っていた白い手をとりあげ、指先を口に含む。
 爪を甘く噛まれ、暖かい舌が指のあいだを這うと、少女の背すじにしびれるような衝撃が走る。
「あ……」
 寝所の闇にあまい声が洩れる。
 長い黒髪を指で梳き通すように撫でつつ、優しく体重をかけ、細い身体を押しのべた。
632砂の闘士:04/04/02 05:06 ID:fuyj0vMI

 狭いベッドの上に膝をつくと、絹のごとく滑らかで白い腿に舌をつけ、下がってすんなりと伸びた足先まで舐めていき、柔らかい姫君の足裏で停まるや、水音を立ててキスをした。
 再び舐め上がり、辿り着いた腿の付け根、息を吹きかけるとかすかに震える秘所に布の上から唇をあてる。

 肌がだんだんと暖まり、宝石のような青い目に浮かぶ光が、かすかに虚ろな色をおびる頃。
 一重の衣服をゆっくりと剥ぎ終えると馴染んできた身体を割り、柔らかい腿の間をまさぐった。
 下穿きの中に入り込んだ指が踊り、敏感な部位をじらしながらつつき、やがてしっとりと濡れた襞を二本の指で押しひらく。
「ん、んんっ、」
 鼻づらを差し入れ、蜜のあふれ出した秘肉の芯、輝く真珠を舌先で撫で、吸い上げた。
 ぺちゃり、ちゅ、チュク……
 ときに弱く、時に早く。緩急をつけて舐めはじめると、
「あ、やっ、」
 すぐに嬌声があがり、灰色の髪のあいだに指をうずめてきた。
 がくがくと揺すろうとする腰を、体重差で上から押さえつけているため、半身がむなしく反りあがる。
 少女は白いのどを震わせながらうめく。
「そこ…ぉっ……」
 反応の良い身体からいったん、紅い舌を離すと、
「ここがいいか? なら……」
 腰に手を掛けて抱き上げ、正面から向き合う格好にした。
 雫が垂れ、肌の上でぬらぬらと光る、濡れきった太腿のあいだに膝がしらをさしいれる。
「はぁぁ……」
 細い身体の奥から、深い息が洩れた。
633砂の闘士:04/04/02 05:08 ID:fuyj0vMI

「ふッ」
 全身の体重が、腿の付け根にある、その一点にかかる。花芯に深い刺激が与えられて、マルレンはぎゅうと目をつぶる。
「こうしたほうが……感じるだろう」
 懸命にしがみついてくる少女の肩を押さえつけ、シェラは膝にまたがる姿の少女を、乗せた膝ごと揺すりあげる。
 支えていた細い腰を左右から掴むと、ゆっくりと前後に、擦り付けるように動かした。
「ああ、やぁっ」
 下からつきあげられる少女は、ただひたすらに泣き声をあげる。自分の重みで押し潰された肉芽が、ざらざらと小刻みにこすられている。
 花びらめいた秘肉が練り上げられるたびに、
「あ……ああ……あっ……きもちい……んんっ、あ、いやぁ……」
 ――喘ぎ声は少しずつ高まっていき
 ――声がかすれかけるとさっと振動を弱められ
 ひといきに絶頂に達する事もできず、喪心によって感覚世界から逃げることもかなわず、永遠に続くような快感の濁流の中でひたすらゆすぶられながら少女はただ、すすり泣いている。
 シェラは無言で、汗の粒の浮いた胸に舌を這わせ、桃色の先の尖りを口に含む。ころがす。
 少女の瞳に滲む涙にはかまわず、唇の中で尖りを転がし、体の中心を膝でつきあげ、闘士は倦む事のない体力で、少女の身体を穢す行為をねちねちとつづける。

 夜明け近く、薄明が空を銀色に輝かせる頃、
 数刻も弄られ通し、ぐったりと藁のように横たわる姫君の身を、闘士はついに解放した。

 独り無人の階下に降りた、闘士は井戸にて無表情に水をのむ。
 手拭いを絞り、汗じみた首すじをぬぐった。
 闘士は二度と、他者の奴隷となる気は無かった。
 少女がそれまで持っていた優位性を組み替え、関係の上下を壊し、身分が意味を持たなくなった、いまの状況を教え込む意図があったことは否定できない。

634腐男子:04/04/02 05:09 ID:fuyj0vMI
 ◆以下また続きます◆
635名無しさん@ピンキー:04/04/02 12:16 ID:mxAmE6vr
腐男子ネ申キタ━━━(゜∀゜)━━━━━!!!!
続き期待してまつ!!
636名無しさん@ピンキー:04/04/02 18:49 ID:lQesY+sQ
イイヨイイヨ
637名無しさん@ピンキー:04/04/03 20:38 ID:zZD9dl96
>腐男子さま
自分ごときにはとてもそれを表現する言葉が見あたりませんが
後半の2レスぶん、ほんとに素晴らしかったです。
ふたりの濃密なエッチシーンも、ラストの3行とあいまって
ますます萌えあがれるものでした。
ふたりのキャラ設定も素晴らしいし、これこそ百合エロですね。
良作GJ!!サンクスです。
638名無しさん@ピンキー:04/04/06 16:04 ID:PDclTghV
トリコロで真紀子×多汰美って需要あるかねぇ。
最近、激しく書きたいヽ(;´Д`)ノ
エロなしなら以前書いたのですぐに投下できるやつもあるんだが。
639名無しさん@ピンキー:04/04/06 16:50 ID:a6ktNsPg
エロなしとか気にするな!
躊躇わず投下してくれい。
 許されへんっての分かっとる。
 自分でもおかしい事やっちゅーんも分かっとる。
 けど、そんなん、しゃーないやんか。
 好きになってしもてんから。





「いやぁ、すっかり秋じゃねぇ〜」

 広島弁のイントネーションで呟きつつ、多汰美は湯呑みに注がれた玉露を
啜った。皿に盛られたせんべいを手にとって一齧りし、玉露を一口、口の中
へと含ませる。
 自分で適当に淹れてみたが、どうしてなかなか。舌を刺激する苦味もほど
よい。温度もこれぐらい熱いほうがちょうどいい。少しだけ自画自賛してみ
る。
「秋っちゅーより、もう初冬って感じもせんでもないけどなぁ……」
 開け放しにされた窓から涼風と言うには冷た過ぎる風が舞い込んでくる。
風に靡かされた、腰まで伸びる自慢の黒髪をかきあげつつ、真紀子は多汰美
と同じように玉露を啜る。どちらかと言うと猫舌ではあるが、この程度なら
冷ましながら飲めば問題はない。
 数ヶ月から、二人が下宿させてもらっているこの屋敷を女手一つで護り通
して来た、家主である七瀬幸江とその娘である八重は遠縁の葬式だか法事だ
か結婚式だか――とにかく冠婚葬祭の何かで朝方から出かけてしまっている。
従って、現在この家に存在するのは居候の由崎多汰美と青野真紀子の二名。
 他人――と言うのも今更妙な感じがするが――の家に二人きりと言うのは、
どうにもこうにも妙な感じだ。いつもの騒がしさが嘘のようで、しばし、た
だせんべいを割る音だけが家の中に響いていた。
 ただ、のんびりと過ごすこの時間は、正直悪くない。
 
 静かな時が過ぎていく。
 
 開け放した窓から見える空を眺めながら、真紀子はぬるくなった玉露をす
すった。
 うん、おいしい。
 
 と。

 廊下から電話の音。
 私が出ると言い残す真紀子に、多汰美はわずかに微笑んで頷いた。
 結局、電話は昔の友人からだった。
 三十分ほど話し込んでしまった。
 話は他愛もないもの。
 
 学校はどうなのか。居候しているらしいが、どんな感じなのか。
 勉強の心配もしていたが、その必要ないな、と友人は自分で言って自分で
笑っていた。
 久々に会いたいと言っていたので、夏休みにでも一度帰ってみようかとも
思う。
 自分も、関西が懐かしく感じていることだし。
 多汰美が一人でいるはずの居間の前で真紀子は立ち止まり、ため息をひとつ。
 思い出されるのは、先程の友人との会話。
 言葉が、頭の中で反復する。
 
 
 好きな人はできたの、と。
 
 
 不意打ちともいえるあの質問に、自分は「いない」と慌てて答えたけれど。
 いる、というのはきっとバレバレだったと思う。
 どんな人か、と聞かれなかったのは正直助かった。
 言えるはずもない。言ったところで、どうにかなるものでもない。
 だって、自分が好きな人は――
 居間に続く襖を開けると、多汰美が眠っているのが見えた。
 とても、とても、気持ちよさそうに。
 枕はない。身体の半分以上をコタツの中に滑り込ませたまま、ややうつ伏
せで、顔を左に向けて、丸くなって眠っている。多汰美にのその小動物のよ
うな姿に、真紀子は、猫みたいやな、と呟いて小さく微笑んだ。
 
 犬、とは思わない自分に苦笑。
 二人しか居ないこの空間は、とても静かだ。奇妙なほどに静か過ぎて、そ
れこそ恐ろしいほどに。
 多汰美の傍らに正座で腰を下ろして、真紀子はそっと彼女の頭に手をやっ
た。黒髪と言うにはやや薄い、茶色がかった髪。多汰美の頭を撫でる指先に
伝わる、さらさらとした感触が心地よい。

 安心と、緊張。

 ほっとするのだけれど、でも少しドキドキしている。
 自分は、この感情の正体を知っている。
 気付いてはいけない感情。
 気付いてはいけなかったはずの感情。
 目を背けて気付かない振りをするつもりも、否定するつもりもない。
 
 けれど、隠している。
 誰にも言えない、独りだけの秘密の感情。正直、潦が羨ましく思う。自分
と同じ感情を、本当に八重に対して持っているのかどうかは分からないが、
自分の素直に曝け出せるあの行為が、羨ましく、妬ましい。
 自分は、嫌われるのが恐くて、離れて行かれてしまうのが恐くて、何もで
きないでいるのに。
 どこにも行けない心は、自分の中で迷子のようにさまよっている。

 手を引いてくれる者もなく、ただ独りで、泣いている。
 理性と感情が、自分を板挟みにする。
 人としてどうするべきか。自分は本当にそれでいいのか。
 だって、それでも、自分は、彼女が――
 
 
 「……ぅ……ん……」
 びくりと身を震わせて、真紀子は思わず反射的に多汰美の頭から手を離し
た。もぞもぞと寝返りをして体勢を変えながら、多汰美が寝惚けたまま手探
りでこちらに向かって手を伸ばしてくる。逃げ遅れ、膝の上に置き去りにさ
れていた真紀子の左手が、多汰美の右手に捕えられた。
 
 細い。
 
 手首も、大きさ自体も、そこから伸びる五指も、自分のものと比べても一
回り近く小さい。
 それは身長差のせいなのか、彼女がよく動き回るからなのか。
 自分よりも少しだけ小さな彼女の手。無駄のない、しなやかな、すべすべ
の肌に包まれた指。弱い力で握られる彼女の手を、そっと握り返す。
 
 多汰美が小さく身動ぎする。
 
「―――――――……マキちー?」
 握られた手に反応して目を覚ましたのだろうか。手を繋いだまま、多汰美
が薄く目を開いた。空いている左手を口元にそえて、ふあ……、と小さくあ
くびを一つ。目尻に溜まった涙を拭いながら、問う。
「どんぐらい寝とった?」
 その子供っぽいしぐさが妙に可愛くて、真紀子は自分の口元が思わずほこ
ろぶのをはっきりと感じた。
 微笑みながら、彼女は答える。
 
「たぶん、十五分かそこらとちゃうか? 起こしてもーたか?」
 寝転がったまま、そして手をつないだまま、多汰美がゆっくりと首を横に
振る。
 そのまま再び目を伏せ、多汰美は呟くように言う。
 
 
「……ごめん、私、もーちょい寝るけぇ……」
「ん、分かった」
 
 
 五分もしないうちに、多汰美から小さな寝息が聞こえてくる。
 
 小さな、とても小さな寝息。
 
 放っておくと消えてしまいそうな、なぜかそんな感じがした。
 きっと気のせいだと思う。
 嗚呼、と真紀子は忌々しげに思考する。
 なぜこうも、彼女は無防備なのか、と。
 いや、むしろ女同士が二人きりのこの状況で警戒するほうがどうかしている。
 けれど、自分にとって、この状況が実に心臓に悪いことは事実で。
 
 
 
 つながれたままの手は、暖かい。
 多汰美の髪に触れる。
 彼女は気づかず、眠ったまま。
 触れている手を滑らせるようにずらし、頬に触れた。
 すべすべで、やわらかくて、まるで子供のよう。
 わずかに開いた、吐息の漏れる唇は、形のよいピンク色。

 あ、と真紀子が小さく声を漏らす。

 胸の奥に、締め付けられるような痛み。
 ドキドキしている。胸の鼓動が早い。
 彼女の唇に触れたい、と思ってしまう。

 どうして、自分は多汰美のことが好きなのだろう。
 どうして、自分は多汰美のことを好きになったのだろう。

 今まで異性を好きになったことがないとは言わない。幼い頃の淡い思い出
も、心の片隅にまでも残っているし、クラスでもかっこいいと思う男子もい
ないことはない。
 キスの経験もいまだにないが、恋、という気持ちについては知っているつ
もりだ。
 
 それに、同姓を好きになるならもっとおとなしい子を好きになればよかっ
たのに、と自分でも思う。もしくは、もっとしっかりした子、たとえば潦で
はないが、自分の好みでいえばこの家の一人娘、七瀬八重などがそれに当て
はまるような気がする。
 けれども、自分が好きなのはこの少女――多汰美なのだ。


 それが、事実。
 いつでも元気で、明るくて、でも少し馬鹿で、にぎやかで、どこかボケて
いて、そばにいても心配だが放っておくともっと心配になってしまって、動
物が好きで、やさしくて、自分の心を暖かくしてくれる、こんな少女が、自
分は好きなのだ。

「多汰美」

 呟いた途端、なぜか目頭が熱くなった。
 天井を見上げ、深呼吸をする。
 じわり、と不思議と涙が溢れてくる。
 唇が勝手に動いて、自然と言葉がつむがれる。
 
 聞こえるわけはないと思いながら。
 聞こえてほしいと思いながら。
 聞こえないでと思いながら。
 恐怖が胸を締め付ける。

「私、あんたのこと、好きやで」
 
 涙が一筋、頬を伝う。
 なぜ、自分はこんなことを言っているのだろう。
 聞こえるわけはないのに。
 聞こえたところでどうしようもないのに。
 なぜ、自分はこんなにも彼女を好きなのだろう。
 こんなこと、許されるはずがないのに。
 それでも、自分の気持ちがとめられない。
 さっきの電話が、何もかも悪いのだ。
 塞き止めていた感情が溢れ出す。

 ――ほんまに、大好き――

 気付かれぬよう、起こさぬように、そっと唇を重ねる。
 重なりは浅く。けれども深く。
 初めてのキスは、何とも言えない味がした。
 一秒か、五秒か、十秒か、あるいはそれ以上か。
 
 身体が火照る。
 内側が、奥底から熱を帯びる感覚。
 心の片隅で蠢くのは、罪悪感。

 名残惜しく唇を離すと、真紀子は立ち上がった。
 ゆっくりとした足取りで窓のそばまで移動し、澄み切った青空を見上げる。
 自分は、どうしたいのだろうか。
 黙ったまま、今の関係を続けるか。
 自分の気持ちを曝け出して、関係に変化をもたらすか。
 頬を涙が伝う。


 神様、お願いです。
 願わくば、今はもう少しだけ、このままで居たいです。
 本当の自分を曝け出せる勇気が持てるまで、このままで。
 自分に素直になれる、その日まで。
 今だけは、彼女の隣に居させてください。

 大好きな、この人のそばに。多汰美のそばに。
649638:04/04/07 01:21 ID:NJSR2zoK
つーわけで以前に書いた奴です。
すでにサイトに掲載済みだったりしますが、
かなり知名度低いのでかまわないかな、とヽ(;´Д`)ノ

エロバージョンはこの話のラストから派生させるか、
新たに初めから書くかで迷っとります。
楽とゆーか書きやすいので、自分的には前者が有力。
650名無しさん@ピンキー:04/04/07 10:43 ID:skQ9nf5n
>>638タン
ものすご(・∀・)イイ!!
切ない恋情描写が自分的にがっつりきましたよ〜
エロバージョンも(;´Д`)ハァハァしながら楽しみにしてます
651名無しさん@ピンキー:04/04/07 20:15 ID:nROQzmad
>>638
( p_q)セツナイ
いいものをありがd
652名無しさん@ピンキー:04/04/07 20:47 ID:7UCvmwTa
>>638
良かったです!
はちきれそうな多汰美ちゃんへの想いが、読んでるこちらまで
胸が締め付けられそうになりました。
知らなかった元ネタ、ググってみましたが面白そうな漫画ですね。
真紀子ちゃんのせつない想いがどんなふうにエロく成就するのか楽しみです。
653腐男子:04/04/08 00:23 ID:aNuhOJGZ

   /⌒ヽ
  / ´_ゝ`)すいません、ちょっと殺伐としますよ・・・
  |    /
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 U  .U
654砂の闘士:04/04/08 00:23 ID:aNuhOJGZ
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 砂漠からただよい吹きよせる風は乾いており、今朝も空は澄み切って、
顔料を刷毛で掃いたかのような均一な青さを見せている。

 キャラバンサライの戸口から覗ける帳場のつきあたり、間仕切りがわりの竹の屏風に隠された奥の間で。
 ひとりの老婆が、皺に埋もれた首をうつむかせていた。
 四角いカーペットの上にあぐらをかき、祈るように目を閉じている。
 背丈はシェラの半分もなく、肩幅も同様。手のひらや顔なぞ、身体の末端ばかりが妙に大きい。
 かさかさに乾いているその身体の目方は、シェラの肩から先、腕の丸ごと一本と、やっとつりあうほどではないか。
 そんな豆粒のようなばあさんが、ふいに片目をひらいて吐きすてる。
「ゆるんだカオをしておるのう」
 腕を組んで壁によりかかり、長身を影に潜ませているシェラを射ぬかんばかりに睨み据えた。
「昨夜……なにやら、おまけを連れ帰ったそうじゃが?」
 マルレンのことを、知っているくせに訊いてくる。剣士はわずかに肩をすくめ無言。
 眼光鋭い老婆は聞こえよがしに愚痴をつぶやいた。
「まったく、ウチは客に恵まれんなあ。市場で売り払えぬような無駄な物を、ワシの宿に持ち込むなと言うて置いたに……」
「許せ」
 シェラはぼそり、謝ったともいえないような声音で答えた。
「居食の対価は払う」
(かーっ、ぺっ)
 老婆は赤い口を開け、床のすみへ唾を吐く。
「いらんわ。金なんぞは。おぬしの馬鹿を笑っとるんじゃ」

 シェラが故郷についての古文書を調べるうちに出会った、この老婆は。
 禁書を扱う商売を行う一族の元締めであり、金貸しめいた下衆な見かけによらず、その身に半島有数の素養を秘めた賢者であった。
 古代国家のくさぐさや、巫術魔道への造詣も深く、はるか東の異国の角張った表意文字すらも解するほどの
そのすさまじい知識量に対しては、シェラとしても生まれつき手持ちの少ない尊敬の意を示さざるをえない。
655砂の闘士:04/04/08 00:24 ID:aNuhOJGZ

 皺首の上にのせた顔の中央でぎらぎらと光る、老婆の持つ鷹のような黄色い目。
 老人は枯れ枝のような指をシェラにつきつけ、説教じみてまくしたてた。
「いいか、おぬしが持っているものは力。それだけじゃ。戦はまだまだ続く、余計な方向に心をそらすと、自身の寿命を縮めるぞえ」
 シェラはむっとした声で言い返す。
「そんなことはわかっている」
「ならばあの娘、どうするつもりじゃ?」
「わからない」
 言って、ぐっとこぶしを作り宙を睨む。
「これまでの剣奴隷ぐらしでは、泣く事も笑う事もできなかったが、いまの私には使いつくせぬほどの精神の自由がある。
狭い鉢の中に閉じ込められていた小魚が、ふいに大海に投げ込まれたようなものだ」
 ひどく珍しいシェラの独白を、杖の持ち手にあごを乗せつつ老婆は聞いている。
「自分の気持ちが抑えられない」
 手のひらと拳を、音を立てて打ち合わせた。
「もはや彼女の居ない日々は考えられない……万が一、彼女が私を裏切ろうものなら、すぐさまこの手で斬り殺してやる!」
「未熟者め」若人の宣言を鼻先で笑い、
「お前の魂はぬるい。いまだ宝剣の本質を引き出しておらん」
 頬肘をつき琥珀色の眼をぎょろりとめぐらせつつ、老婆は言い捨てる。
「お前程度のものに斬られるジャードゥーガーも、まだまだほんの小魚。小者じゃ」
(ムカ)
「真のジャードゥー、真の魔王の力は絶大じゃぞ。おぬしはスズメバチの巣を根絶やしにする使命があるというに、なげかわしい」
「問題はない。私は何者にも負けぬ。神であろうと斬ってみせよう」
 ことさらに胸を張り、誇るように肩のマントをひるがえす剣士の背へ、
「まあその意気で行くがええよ」鼻を鳴らし、膝を組みなおした老婆が声を投げる。
「今夜はフェルドーシ通りの書記官の別宅じゃ。右手の納屋に行李詰めになった、魔道の禁書が隠してあるはず。行ってこい」
 言い終えるとまたすぐに目を閉じ、なかば眠ったような瞑想に入った。
「了解した」
 剣士は老婆へ目礼を送ったのち、宿屋の戸口方向へと向かった。
656砂の闘士:04/04/08 00:25 ID:aNuhOJGZ
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 すでに陽は西へと大きく傾いていたが、マルレンは夜明け頃から微熱を発し、
この半日を寝床の中で過ごしていた。
 寝所で横たわる額に、水で冷やした手布が載っている。

 少女の眠る屋根裏部屋へ、階下に続く階段より軽やかな足音が近づいた。
 肩に担いで持ち込んだ、編んだ竹にて骨の組まれたベッドを部屋の隅に置き据えると、
手ぎわよく綿のマットや敷布を巻いて、寝台らしく整える。
 物音に気づいてうす目を開けたマルレンに微笑みかけ、シェラが言う。
「陽が沈みしだい、出かける。私はすでに死んだ人間だからな、夜のみに出歩く」
 足下より畳んだ数種の衣裳を取り出し、寝台脇の抽斗の上に並べて載せた。
「少ないが、当座はこれで……」
 身を起こしたマルレンの髪の上に、紫の絹で織られたヴェールをふわりとかぶせて様子を眺め、
(よし、)満足したふうに頷くと、少女の頬をひと撫でして立ち上がる。
「今夜は遅くまで戻らぬので、構うな。眠っていろ」

−−−−−−−−−−−−
 ダマスカス刀を腰から下げたシェラが姿を現わすと、すでに中庭にて集合を終えている盗賊たちが
三々五々、顔をあげ、彼らの首領へともの言わぬ視線を集めた。
 男共はみな、揃いの、頭上までを覆うえんじ色のマントを着込んでいるものの、そのふところに隠し持つ装備や用具は各人さまざまである。
 錠前破り、早耳、早足、高所に登り周辺を見張る役、短刀使い等々と、職能によりそれぞれが団の中で行う作業を完全に分けている。
 そして組織内最高位の指揮官、各人に適宜命令をくだし、非常時に攻撃または撤退の判断を行い、
最悪の事態には――常人の能力を超えた人を喰らう魔物が現われれば――独り迎撃し、これを斬る。
その義務を負っているのが、一行の眼前にしなやかなふたつの脚にて立つ女剣士、シェラである。
「フェルドーシ通り」
 灰色の髪の剣士は一同に軽く片手を挙げ、低く宣する。
「到着後、四半刻で済ませる」
657砂の闘士:04/04/08 00:26 ID:aNuhOJGZ

 狙った邸宅の家主にも、通行人にも魔物にも出逢わず、彼らの窃盗行為は粛々と進められた。
 裏通りからつながる隠し戸よりキャラバンサライの中庭へ、暗い色のマントに身を包んだ一行が腰を屈めてくぐり戻ると、
この夜の仕事は完了へと近づく。
 重さあたりの末端価格は金銀や宝飾を越える、魔道系禁書の詰まった包みを担ぎ上げ、一階広間の隅にまとめてうず高く積み上げた。
「ん」
 シェラがひとつ、頷くと、銀貨で膨らんだ革袋を三つ、手下どもに投げ与える。
とたん、盗賊たちの顔つきがその夜に初めてほころんだ。
「ありがとうございます《夜の風》!」
「貴女と我らに、これからも新月の加護がありますよう!」
「またの日に!」
 彼らは盗賊団内での格順に即して報酬を丁寧に分割すると、雇い主にむかって嬉しげに敬礼を送り、
それぞれの家、もしくは裏町の盛り場や、気に入りの色宿へと去り散ってゆく。


 かつかつと固い床の上で靴を鳴らし、夜の冷えた空気を切り裂きつつ、シェラは宿の廊下をつき進む。
 この遅くまで眠らずに、彼女の帰還を待ち構えていた下女たちが通路の左右に並んで控え、
次々と石の床に膝をついて出迎えるが、剣士はそれらの美女には目もくれぬ。
 眉ひとつ浮かさずに、屋根裏に続く階段に歩み消えた。
 ……それでも、出迎え組の胸のうちには非常な満足感があるらしく、
「ああ、今日もすてきだったぁ! 待っていても充分、報われたわ」
「見た!? あの肌、あの眼! たまらないわ。それでいて王都で一番強いのですもの、素敵すぎる」
「もう世間の男なんてイヤ。ヒゲもじゃでガニ股で、とてもとても見られたものじゃない!」
 夜の淑女らはそれぞれの手燭で互いの顔を照らしつつ、いつまでも興奮した調子で喋りあっていた。

658砂の闘士:04/04/08 00:27 ID:aNuhOJGZ

 女性陣に好評のハンサムは、屋根裏に上がって武装を解くなり、部屋の隅に置いた竹のベッドへそのまま、倒れ伏した。
 うつ伏せた恰好のまま微動だにもせず眠りつづけ、陽が高く昇りきるともまったく目覚める気配をみせず、
ただ、寝ている。
(ぐー)
 まばゆい朝の光の中、隣で眠りにひたる姿を眺め、寝台に膝をついて座るマルレンはふう、と内心でため息をついた。
(こういうことだから、ベッドを別にしたのね……)
 経験上、話しかけても揺さぶってもなにをしてもシェラが起きないことはわかっている。
 天は高く晴れ、マルレンは完全に健康を取り戻していたが、けれども微妙にやることがない。
 昨夜は……

/「おかえりなさい」
/「寝る」
/「え?」
/ 自分のベッドに倒れ込むと、頭の上まで掛け布をかぶった。唖然としている少女に、
/「ああそれから、」シェラはふと布の下から顔をのぞかせ、
/「欲しいものは、何でも階下の者に言え」
/「?」
/「あれらと、外に出てもいいだろうし……とにかく」半眼でもぐもぐと、なかば眠りながら呟く。
/「女どもに頼むがいい。はからって貰うよう頼んである」

 ……シェラが眠る前に、そんなことを言っていたような気もする。
659砂の闘士:04/04/08 00:28 ID:aNuhOJGZ

(やってきたわ)
(降りてきたわ)
(あの子よ)
(あの娘ね)

 おそるおそる踏み出した、白い素足が階段の最下段にかかる頃。
 前途にふと熱気のような雰囲気を感じ、マルレンは脚を止めた。
 まるで色街の踊り子のような、色とりどりのドレスをまとった女性陣が、一階の廊下に人垣をなして待ち受けているのだ。
「今日は! お若いお嬢さん、やっとお目にかかれましたわ」
 前列より進み出た女のひとりが、気圧され少し身を引いているマルレンの黒い髪の先に、
笑顔を浮かべつつ指先で触れると、深々と腰を折りお辞儀をする。
「貴女のことをそそうなくもてなすよう、シェラ様からきつく念を押されております」
「そうそう!」
「いじめたりしたら怒られますわ」
「お嬢さん、私どもは、貴女をなんとお呼びすればいいかしら?」
「あの……」
 敵意はまったく無いながら、きょうみしんしんの視線と率直な好奇心がマルレンの頬に痛いほど刺さって、少女はちょっとうつむいた。
「わたしは……マルレン、といいます。たぶんシェラ様の……ものです」
 名乗りを聞くなり、女たちはきゃあっと手を取り合ってはしゃぐ。
「なんてかわいらしいこと!」
「ほんと、黒剣士様はすみにおけないったら」
「この碧い瞳! 後宮からさらってきたみたいな美形だわ。驚いた、ほんとに、あのひとったら面食いねえ!」
「それも、幼好みのね!」
 一斉に笑いだした声は、けたたましく宿を揺るがさんばかり。
660砂の闘士:04/04/08 00:30 ID:aNuhOJGZ

 マルレンに対する女たちのものごしは少々押しつけがましいながらも丁寧で、はずみで飛び出した
自分たちの冗談口を、なかば本気にとっているのかと思うほどだった。マルレンのことをほんとうに、
王城の奥深くよりかどわかされた、王のための乙女だったのでは? と信じているかのような。
「お退屈でしょう、お出かけをされるのでしたら、髪をおつくりいたします。
衣服もわたしたちと同じかたちに変え、遊び女風の化粧もいたしましょう。街を歩いても元の雇い主が見ても、けして見つかりやしません」
「あら。あまり言いはってはご迷惑よ、今日は暑いし……」
「そう? でしたら、大広間で楽を聴かれませんか? お望みならば芸人を呼びますわ」
 こうすべきだ、いいえあれが好きに違いないわ、ああでもないこうでもないと、果てもなく言い交わす彼女らに、
「でも、ここは宿屋なのでしょう。ほかのお客がいるのでは?」
 マルレンがためらいつつ尋ねると、再びわあっと歓声が上がる。
「この宿に客など! 年に数えるほどしか泊まりはしません。キャラバンサライは仮の姿」
 遊び女は優雅に腕を広げ、人の心をとろかすようなほほ笑みを浮かべた。
「わたくしどもは、故買屋でございます」


 ●続きます●
661名無しさん@ピンキー:04/04/08 18:58 ID:UuhoGV1q
age
662名無しさん@ピンキー:04/04/08 20:09 ID:5g2jtUw2
「ああ、今回もすてきだったぁ!待っていても充分、報われたわ」
「読んだ!?あの文章、あの描写!たまらないわ。それでいてエロパロ板で一番エロいんですもの、素敵すぎる」
663名無しさん@ピンキー:04/04/08 20:14 ID:WjX9jqAP
>腐男子さま
殺伐とするだなんてw
女の子にモテモテのシェラ様とマルレン、
今回も華やかで良かったであります!
664砂の闘士:04/04/08 21:18 ID:aNuhOJGZ
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 着飾った遊び女らに取り巻かれ、マルレンは気晴らしと買い物とを兼ねた行楽、
王都正門そばに広がる大市場へとくりだした。
 自分の足で歩いて、バザールの中をのぞくのは初めてだった。
 さばく前の魚の姿を見るのもはじめてで、銀のうろこを輝かせる鱸の腹に
指先でそっと触れて、その感触の無気味さにあわてて身を引くマルレンを見て、
店主と遊び女たちはさもたのしげに笑い出し、明るい声が往来に響いた。

「あら、安いわね」
 果物屋の店先に盛られたとりどりの果実の前で、女のひとりが立ち止まる。
「これでパイを焼きましょうか? レモンと、アンズと……マスカットも飾りにいいわね」
 パイなら下女の仕事を手伝ったことがあり、おそらく、生地をこねるという作業ならば
なんとかできるであろうマルレンも、つと青い瞳を上げた。
「ショウガのクッキーも良いでしょ、篭にたくさん盛り上げて!」
「今夜は酒宴だし……」
 大もりあがりに盛り上がり、買い込んだ大量の食材を荷運びたちに担がせると、
キャラバンサライの厨房めざして意気揚々と戻り歩み、女達はわくわくと宴会の支度を始めた。
665砂の闘士:04/04/08 21:18 ID:aNuhOJGZ
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 日暮れ前の夕方にやっと起き出した剣士は、平服に着替えるとそのまま裏庭にある納屋に入り、
家主である老婆と顔をつきあわせ、固いパンを齧りながら事務仕事を始めた。
 納屋に持ち込んだ筆記机に向かい、書物を前に羽根ペンをひねくる。

 老婆はといえば床の絨緞に座り込んで、大量の魔道書の山からこれはと思うものを引き出しては書を撫で回し、内側を引っ繰り返し、それぞれの価値や真贋を見極めている。
 老婆がその書物の価値を認めたものは奥の書棚に秘蔵、または書写に回し、いらぬと決めたもの、写しおわった物は転売をする。

 今日の老婆は、マルレンの屋敷の跡から盗賊たちが回収をしてきた、黒魔道の儀式用具類の中身を掘り返していた。
「おお、これじゃ、これじゃ、《召喚の書》」
 一冊の黒い書をとりあげると丹念にめくっては書き込みを調べ、小刻みにうなずいた。
「ふむ……邪神アジ=ダハーカを召喚するつもりじゃったようだな。大物じゃ。十年前よりもはるかに、事態は抜き差しならん所まで進んでしまっておる」
 苦々しく言うと、黒い書を小者に投げ渡した。
「こいつは二度と、世に放ってはならん。燃やしてしまえ」
 男は言われる通りに、すぐさま書を燃える油の中に投げ込む。不吉な装丁を持つ魔道の書は、やがて白い灰に変じた。
「ささ、こちらは書写が終わりもうした。市場に戻しますので一筆したためてくだされ」
 老婆が皺じみた手で差し出した数冊の禁書を受け取ると、シェラは手に持った羽根ペンを瀝青インクに浸し、
開いた書の見開きにサインを書き込んだ。
 《夜の風》と。
「ふう」
666砂の闘士:04/04/08 21:20 ID:aNuhOJGZ

 この宿では、故買をするが、とくに老婆の目利きで行う古文書の鑑定において抜きんでており、
解読の終わった古文書に新たな価値をつけて、ふたたび市場に出すことで稼いでいる。

 不敵にも書物を盗んだ盗賊の手による、《誠に貴重なる文献にて、有り難く閲覧させて戴き申し候。
感謝と共にここに返還す 夜の風》という文言を入れて仲買屋から市場に出せば、
好事家は言い値にて喜んで買う。
 《夜の風》のサイン入り禁書を、盗まれた当の持ち主が元の五倍にもなる馬鹿な値で買い戻して、
世間に対する自慢のタネに使ったりしているのだから、たわいもない話であった。

「盗まれた物をまた買い戻すために金を払って、さらに喜ぶとは。おめでたい。王都は平和だな」
 シェラは机の前で溜め息をつく。
「まったくこの世は油断がならぬ。つまらぬことだ」
 詐欺じみた仕事にまったく浮かぬ顔のシェラへ、
「愚痴が多いぞ」
 ねぎらうかわりに茶を差し出すと、老婆が優しい調子で問いかけた。
「どれ、剣はどうじゃ」
 首をめぐらせ、脇に立てかけた三日月刀に手を触れた。
 当の剣はかすかな反りを持ち、三日月よりも微妙な曲線を形作っている。普通には見慣れない異様さがあり、それでいてなめらかで、力強く、美しい。
 鞘ごと受け取ったシェラがさらりと抜いてみせた。

 刀身はダマスカス鋼でできているのか、まだらな刃紋がきざまれてあり、白銀と黒の細やかに入り組んだ色合いを持つ。
 黒い線が複雑に絡みあい、白鋼の見かけが少しずつ黒色に押されて見えづらくなっているようでもある。
「まあまあじゃな」
 シェラの握る抜き身の刀身に砥ぎ草を当てつつ、老婆はひとつ、頷いた。
「お前の身体が続くかぎり、この剣も進化していくことじゃろう。宝剣の力は天にも届く。
それがこの世に顕現されるかどうかは、すべておまえしだいというわけじゃ」
667砂の闘士:04/04/08 21:20 ID:aNuhOJGZ
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 夢を見ていた。
 かつては武を誇る国の長子として生まれ、溌剌とした瞳と赤い頬を持っていた王族のころの、夢。

 いまやただひとりの生き残りとして恥をさらしている今は、
 灰の髪と昏い色の眼だけをひからせ這いずり回り
 望みはただ、国と父の仇を討ち果たすことのみ。

 ――復讐とは、
 ――世界に秩序を取り戻すための行動だ。
 現し世から、あとかたもなくかき消さねばならん……
 あの魔導師を!
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 砂中の宝石、ナツメヤシの繁るオアシスに建立された、
 小さいながらも自主独立を誇る隊商国家マルジャーム。
 その地を護る使命を持った王、シェラの父が、迎えた後妻は魔女であった。

 王の子を邪神への生贄にささげようとする女――母という名の魔女と
 その所行をとどめようとするが果たせず、血を流し床に伏す十二歳のシェラ
 祭壇に横たわる、妹のちいさな身体

 邪悪な夢より抜け出し、生来の武家の顔に戻って、
 宝剣にて邪悪な魔女の腹を刺し貫く父の横顔

 女の断末魔とともに、王宮に澱んだ闇の魔法が発動し
 巨大な制御できない黒いちからの気配が天を覆い

 そして、王城は……………崩壊した。

−−−−−−−−−−−−
668砂の闘士:04/04/08 21:21 ID:aNuhOJGZ



 ただひとり生き残った王族、シェラは、奴隷闘士として生きつづけることとなった。
 そして今日も闇に隠れて魔を斬り、古文書をひっ攫う暮らしだ。

 この日は月初めで、宿は夜の仕事に関わる者たちを一同に呼び集めると、
故買による売り上げから臨給を計算して分配し、さらに大広間で宴の席をふるまった。

 よろこんで集まった盗賊団の者どもはどれもこれも、酌婦を付けてもらような身分ではないし、
宿の女たちは競ってシェラについて酌をしたがったが、当のシェラが断った。
 しぜん、男くさい宴席になった。
 赤い顔で唾を飛ばし誇張ぎみに続けられる猥談、負けた者が際限無く呑まされるサイコロ遊戯、
口争いのすえの掴み合い、頬を打つ音がとびかう。
 すでに夜遅いこともあって、各人の膝の前に並ぶ肴は少ない。肉の匂いさえ嫌う宗派に属する者もいる。
 女たちが菓子を焼いたので、皆に甘いつまみと蒸留酒の杯が行き渡っていたが、
甘いものの嫌いなシェラは上座に座ってひとり、ただ黙々と呑んでいる。
 それに、シェラと猥談をしたいというものもまずおらぬであろう。

 強い馬乳酒を、ただ飲み干す。
 たしなみとして姿勢と呼吸のコツとをのみこんでおり、まったく酔わずに呑み続ける事ができるのだが、
まあ、まずい酒ではある。
 と。
 つね日頃の窃盗でもさして役に立つというほどでもなく、賊の中でも目立たぬ地位の中年男が、
シェラの前へしたたかに酔った顔でいきなり進み出るやはいつくばって涙ぐみ、
シェラの手を口づけせんばかりに押しいただいた。
 ――貴女と仕事を始めてこのかた、どれだけ暮らしがうるおったか。
  あなたはわれらの救世主だ、《夜の風》。
 ――パルミュラのゼノビアの美しさ、マルジャームのシムルグの勇猛をあわせもった、
  君こそが史上まれにみる完璧な王者である、
 男はそういって涙にくれた。
669砂の闘士:04/04/08 21:23 ID:aNuhOJGZ

 シェラは、何も、答えない。ただ不味い酒杯を干している。
 中年男はひたすらおそれいりながら退がっていった。
 入れ替わるように一人が片手を挙げて立ち上がり、余人の注目の中、緊張にすこし目の下を染めながら、丁寧な口調で申し出た。
 ――《夜の風》、頼みがある。
 ――妻が男の子を産んだのだ。名前をつけてくれないか?
 しばらく黙っていたシェラはやがて、
「……ファルカット」
 酒杯に顔を映しながら呟く。
「私の、隠し名だったが、もはやこの名で呼ぶ者はこの世に居らぬ」
 くいと杯を干して、続ける。
「埋もれたままなのも勿体ないので、良ければ使ってくれ」
「ありがたくいただきます!」
 進み出て膝をつき、シェラの持った杯に酒を注ぎながら、若い父親が言う。
「そんなら、うちのガキの名はファルにいたしましょう。
 あなた様のお名前そのままでは、俺たちにゃあちいと、格調が高すぎますからね」


 痛飲放歌の宴の果て、やがて夜が明けた。
 大広間には酔いつぶれた丸太が累々と転がる。
 渡り廊下で伸びをして、薄日に照らされた庭を見つめているシェラの後ろ姿に、紗の裾をなびかせて近づく影があった。
 気配に振り返ったシェラが、驚いた表情になる。
「まだ起きていたのか?」
 マルレンは淡く微笑んで、いま目覚めたところだと言った。
「成程、もう朝だからな」
 シェラは感心したようにあごに指をやる。
「眠りさえしなければ、おまえとゆっくりと話ができるわけだ。そうか、覚えておこう」
 いいことに気がついた、といったふうに、ほがらかな笑顔を見せた。
670砂の闘士:04/04/08 21:24 ID:aNuhOJGZ

 マルレンは昨日一日のちょっとした冒険=外出と、女たちの厨房仕事を手伝ったことについてしゃべり、
シェラは興味深げにそれを聞いた。
 シェラは歩きながらこれまでの宴の騒ぎ、盗賊らとかわしたやり取りを話して、
我々は双方ともに善人ではない、いま、互いに抱き合っている恰好なのは利益があるからで、
彼ら盗賊は私を、尊敬しているというよりも、私が作り出す金に恩義を感じているのだと語った。
 肩をすくめ言う。
「金は貰ってしまえば安心だ。人と違って、決して裏切らないからな」
 少女は唇をとがらせて、そんなシェラの自嘲にわりこんだ。
「それって、もしお金が無くなったらそれっきり、人に裏切られても仕方ないっていうこと? ずいぶんね」
「真実なのだから仕方がない」
 呟くと、シェラは前を歩く少女の腕を引き寄せて壁に追いつめ、
「きゃ」
 抱きすくめた髪にキスをした。
「その身で、学習しただろう。お前は実の親に何をされた? 誰に命を救われたんだ」
 彫りの深い顔を寄せ、低い声で問い詰める。
「それはそうかもしれないけど……」
 指先で乱暴に頬を撫でられて、マルレンは顔をしかめる。
「あなたもいつか、裏切るっていうこと? 私を?」
 上げて問い返す頬をぺちりとはたいて、
「反対だろうが」
 シェラはなんと、微笑んだ。
「お前が私に飽きる日が来ると、いうことだ」
「そんな時はこないわ、永遠に!」


◆以下次号◆
>648からの続きになります。
まだ前フリ段階ですが、書きあがった分だけ投下しまつ。
 チッ、チッ、チッ、

 響くのは時計の音だけ。
 しなやかな指先で、真紀子は文庫本に目を落としたままページをめくって
いく。
 むう、と真紀子は眉間にしわを寄せ、話も半ばを過ぎて佳境に入った文庫
本を閉じた。
 はあ、と彼女は大きく溜め息をつく。前髪をくしゃりと掻き毟るようにか
きあげ、文庫本を床の上に投げ出すと、真紀子はそのまま仰向けになって寝
転がった。
 読んでいた本の内容なぞ、半分も頭に入ってこない。ぐるぐると頭の中で
回っているのは、さまざまな感情が入り混じった、混沌とした不可思議な思
考。
 天井を見上げ、彼女はもう一度、溜め息をひとつ。

 ……私、何してんねやろ……

 頭の中にまざまざとよみがえるのは、先ほどの一方的なキス。
 指先で唇をなぞり、多汰美の唇の感触を思い出す。
 キスをしたのは初めてだった。ただ重なり合わせるだけの幼いものだった
が、それでもキスであることに変わりはない。舌先にはまだ多汰美の唇の味
が残っている。何とも言い表しにくい、人の肌の味。

 多汰美は今、何をしているのだろう。自分の部屋でシューティングゲーム
でもやっているのか、それともまだ居間で眠ったままなのか。
 居心地が悪くなって逃げるように自分の部屋にやってきてしまったが、何
をしても気分が落ち着かない。祖父のコンポで音楽を聴いてみても、読みか
けの本の続きを読んでみても、どうにも別のところに流れ出してしまう。
 部屋の片隅でいつも通りに、いつまでも変わることのない時の流れを刻み
続ける時計を見やるが、さきほどからまだ一時間も経っていない。
 ったく、と忌々しげに呟き、真紀子は腕を振った勢いで上半身だけを起き
上がらせる。何か飲めば気分も落ち着くだろうかと、彼女はそのまま立ち上
がって一階のキッチンに向かう。

 階段を下りきったところで、再び鳴り響く電話。
 わずかに早足で電話機に歩み寄り、真紀子は受話器を手に取った。

「はい、七瀬ですが」

《あっ、真紀子さん? 私です、八重ですけど》
 受話器から響いてきたのは、聞き慣れた少女の声。この家の家主の娘、七
瀬八重である。
 聞き慣れた声を聞いて息苦しさから開放されたような気分になり、真紀子
は旨のつっかえを吐き出すように呼吸をして、安堵。けれど、心の片隅で嫌
な予感がするのは気のせいだろうか。
「八重ちゃんかいな? どないしたん?」
《はい、実はですね。悪いんですけれど、ちょっと今日中に返れそうにないんですよ》

 一瞬、真紀子の思考が停止する。

 脳にガツンときた。目の前に閃光が瞬くが如く、真っ白と言うよりは、ど
こか混沌とした灰色にも似た光がチラつく。
 何でこんな日に限って、と叫びだしたくなる衝動を真紀子は必死で押さえ
込む。
《――で、晩御飯はあらかじめ冷蔵庫の中にありますし、すいませんけど明
日の朝食はトーストか何かでも適当に……真紀子さん?》
 こちらが何も答えないのを不思議に思ったのか、受話器の向こうから八重
の心配そうな問いかけが響いてくる。

 ありったけの平静を取り戻した真紀子は、受話器の向こうの少女に慌てて
答えを返す。
「ああ、うん、分かっとる分かっとる。私と多汰美だけでも大丈夫やから、
気にせんとゆっくりしとき」
 じゃあよろしくお願いします、と言う八重の言葉を聞き届け、真紀子は受
話器を置いた。

 正直、まいった。

 自分がこんな状態に日に限って、多汰美と二人きりにされるとは。
 今日の自分は何か変だ。先刻の友人からの電話のせいもあってか、妙に多
汰美を意識してしまう。キスをしてしまった手前あるし、このままでは潦で
はないが、何か変な間違いを起こしてもおかしくない気分ではある。
 はあ、と今日何度目かも分からない溜め息を吐き出す。

 ――ッリリリリリンッ! ッリリリリリンッ!――

 油断しきったところへの不意打ちに、思わず真紀子は身を震わせる。
 さすがに切った瞬間に次の電話が来るとは思わなんだ。少し早くなった心
臓の鼓動を落ち着けようと、真紀子は深呼吸をしながら受話器に手をかける。

(なんでこんなときに限って電話が多いねん……)

 落ち着く暇もないわ、と心の中で愚痴りながら、三度受話器を手に。
 まあ、落ち着かないことの大半は自分のせいなのだが。
《やっほー。私だけど、七瀬居る〜?》
 受話器の向こうから響いてくるのは、底抜けに明るい少女の声。八重、多
汰美、真紀子のクラスメイトの潦景子である。
「――なんや、にわかいな。残念やったな。八重ちゃんならおばさんと出か
けとって、明日まで帰ってきよれへんで」
 え〜、と受話器の向こうから不満そうな声が上がる。ここまで露骨に嫌な
声を上げられると、かえって気持ちがいいなと、真紀子は口元に笑みを浮か
べる。

「しゃーないやろが、我慢しぃや。急ぎの用やったら、八重ちゃんの携帯に
直接かけたらええがな」
《分かってるわよ。……まあ、急ぎってわけじゃないから、明日でもいいわ。
てゆーか、七瀬とおばさんが帰ってこないって事は、今日はあんた達“ふた
りっきり”ってこと? 大丈夫?》

 ふたりっきり、と言う部分を妙に強調されて、否が応でも先ほどのキスの
ことが頭の中に浮かんでしまう。けれども、動揺するのはさっきの八重との
電話で充分だ。今なら多少のことは何とでも誤魔化せる。
 普通に考えて、普通の返答をすればいいのだ。深く考えなければ、難しい
ことではない。
「まあ、夕飯ぐらい二人でも何とかなると思うで。最近や絵ちゃんの手伝い
とかしとるから、食べられるレベルぐらいにはなっとると自分でも思うんや
けれども――」

《誰が夕飯の心配してるのよ。七瀬のことだから、そのぐらいの準備はして
から出掛けてるんでしょ?》
 七瀬の性格をここまで把握し、信頼しているのはさすがといったところだ
ろうか。
 真紀子は苦笑するが、ふと、そこで気づく。
 自分たちの料理の腕を心配しているのでなければ、彼女は一体何を心配しているのだろうか。

 ――大丈夫?――

 その意味を真紀子が問いかけるよりも先に、潦の言葉が紡がれる。
《正確に言うと“由崎が大丈夫かな”ってね。どっかのエロガッパさんに襲
われたりしないかなぁ〜、とか》
 からかうような潦の声。

 なぜ、だ?

 気付かれているはずがない。そうは思うものの、真紀子の中に生まれた動
揺は大きい。ああ、気づかれると思いながらも、口は何とか誤魔化すための
言葉を紡ごうとするが、声が上ずってしまって、少し言いよどんでしまうの
がはっきりと自覚できる。
 けれども、何もいわないというわけにはいられない。

「あ、あほか……っ! そんなわけ――」
《ない、って言えるの?》
 不意打ちに近い潦の爆弾発言に動揺する真紀子の言葉を遮り、再び放たれ
た彼女の言葉がうるさいぐらいにやけに耳の中にに響く。受話器の向こうか
ら響く潦のその声は、何もかも見透かしたようで、ぞくりとするぐらい冷たい。
 嘲っているようにも、無感情のようにも、同情しているようにも聞こえる。
相手が携帯電話を使っているからだおるか、受話器から響く声で潦の声に含
まれた感情が判別できない。
 何も言えなくなってしまい、声とは到底言えない、呼吸のような音が真紀
子の唇から零れ落ちる。

「……気づいとったんか?」
《薄々、って感じね。ちょっとカマかけてみただけよ。自覚がないなら冗談
で済ませられるし、あるなら今みたいな反応――簡単よ》
 たしかにそうだと真紀子は思う。けれど、自分でもほとんど気づいていな
かったこの気持ちに、潦は一体いつから気づいていたのだろるか。
類は友を呼ぶ、と言う奴だろうか。潦も八重に対して、自分が多汰美に持っ
ているものと同じような感情を持っている素振りを見せているが、やはり同
じタイプの人間と言うのは第六巻か何かで察することができるのだろうか。
677638:04/04/09 01:44 ID:X/VOpzyS
誤字が多いのがへこみそうだ……ヽ(;´Д`)ノ
理想としては来週の頭ぐらいには書きあげたいでつ。
が、バイト等で忙しいので書けるかどうか……。

なつべく書きあがった文からちまちま投下していくつもりですんで、
お暇な方は気長に舞ってやってくだちい。
あと、エロまでにはまだまだ前フリがあります……前フリ長くてスマソです(汗
678名無しさん@ピンキー:04/04/09 20:21 ID:hJASdjZx
>>664-670
おお、シェラの過去があきらかに!
いまのとこ平穏な雰囲気だけど、これからきっと怒涛の展開が
待ってるんだろうな。ちょっと読むのが怖い気が…。
でも最後はふたりが愛で結ばれるといいなー。

>>672-676
真紀子タン、チャーーンス!!
638さん、あせらずにネ。楽しみにしてます。
「なんで気づいたんや? やっぱ、にわも……」
《そうね、“同じタイプの人間”だからかな。やっぱりなんとなく分かっち
ゃうのよね、そういうの》
 からからと笑いながら響いてくる彼女の声は、笑っているはずなのにどこ
か切なそうだった。

 届かせたいけれども、気づかせたくない想い。

 八重に対する想いを冗談なのか本気なのか分からないように振舞っている
のは、やはり彼女も自分と同じ気持ちだからなのだろうか。泣きたくなるほ
ど切ない想いを、潦も八重に抱いているのだろうか。
「にわは本気なんか? 八重ちゃんのこと」
《たぶん、ね。私は七瀬が初恋だから、“本当の好き”って言うのがどんな
感じか分からないけど……私は七瀬の事が好きよ。きっと、本気で》
 受話器の向こうから響く声は、いつもの彼女の声ではないような気がした。
 切なげに、けれどもどこか楽しげに、悲しそうに嬉しそうに、潦は真剣な
声ではっきりと言った。

 顔は見えないはずなのに、なぜだか彼女が電話の向こうで苦笑のような笑
みを浮かべているのが、はっきりと手に取るように分かる。同じような笑み
を浮かべ、真紀子はどこか虚空を見上げながら呟くように言う。
「私も……好きや。多汰美のことを、私は好きや。本当の意味で」
 胸のつっかえが取れてしまったようで、どことなく気が楽になった。
 自分の気持ちを曝け出しても、普通とは少し違ったこの気持ちを受け止め
てくれる少女が電話の向こうに存在する。お互い、恋をしている相手は違う
けれども、同じ秘密を共有できる相手が居ると思うだけで、気が楽になって
くる。
 自分たちは普通とは恋の仕方ほんの少し違うけれども、相手がたまたま自
分と同じ性別だっただけなのだ。おかしいことなど、何もないのだ。この気
持ちに、嘘などない。
《言い切ったわね。意外だわ》
 きっと不敵な笑みでも浮かべているのだろう。
 あは、と笑い、真紀子は受話器を手にしたまま軽く壁にもたれかかった。
「まあ、自覚しとるしな。バレてもーた相手に気持ち隠しても、しゃーないやろ」
 それもそうね、と潦は笑う。
《じゃあ、今日はもう切るわね。最近携帯料金もちょっと危ないから。
――あと、ふたりきりだからって、間違い起こさないでよ》
 そんなもん、あんたに言われたないわ。
 そう言おうとして、真紀子はわずかに思考。

 よみがえるのは、重ねた唇の感触と味。
 そして、真紀子は、くすっ、と苦笑し、少し間を空けてから悪戯っぽく言
った。
「――すまんな、もう手遅れやわ」
 え、と言う声を無視して、そっちも頑張りや、とだけ言って真紀子は電話
を切った。

 軽く伸びをしながら、どこかすっきりしたな、と真紀子は思う。
 一方的にこっそりとキスしてしまった事は、正直どうしようかと思う。や
はり、黙っておくのが一番だろう。さすがに、いきなり「ごめん、寝てる間
にムラムラしてきてキスしてもーてん」などと正直に言えるような根性は自
分にはない。

 やはり、もう少し時間が必要だろうか。告白するにしても、何にしても。
 とりあえず、気分はだいぶ落ち着いた。明日、潦に礼を言わなければと思
いながら、当初の目的であったキッチンへ向かおうとして――

 視界の端に、人影が入り込んだ。
 人影の消えた場所は居間。この家に今居るのは、自分以外にはもう一人し
か居ない。
 すなわち、多汰美。

(なんやねん、この漫画かドラマみたいな展開は――っ!!!)

 愚痴っても遅い。
 再び気分が落ち着かなくなる。目の錯覚だと思おうとしても、この間眼鏡
を買い換えてばかりで、困った事に度数はしっかりと合っている。なるべく
平静を保って、開いている襖から居間を覗き込むと、窓の外を眺めながら多
汰美が佇んでいた。

 聞かれてへんやんな……。

 それは予想ではなく、ただの自分の願望。
 一瞬で渇いてきた口の中を唾で潤して、真紀子は多汰美の居る居間に足を
踏み入れた。やはりここは、無視するほうがどう考えても不自然だろう。
「なんや多汰美、起きとったんかいな」
 声が上擦らないか死ぬほど緊張しながら、真紀子は多汰美に声をかける。
 一瞬だけ背中を震わせ、自分が好いている少女はどこか恐る恐ると言った
感じで、顔だけを振り返らせた。

 平静を保っているように見えるが、どこかぎこちないのは気のせいではな
い。自分の知り合いの中で、きっと彼女が一番目か二番目ぐらいにとっさの
嘘――誤魔化しが下手だ。
 八重と一緒で、彼女は自分に素直すぎる。
「う、うん。何やついさっき目が覚めたんよ。じゃけえ――」
 だから、誤魔化そうとしても嘘をつこうとしても、すぐに分かってしまう。

「多汰美」

 彼女の名を呼ぶ。
 多汰美の喋る口がぴたりと止まり、辺りが沈黙に支配される。
 躊躇は一瞬。聞かれているなら、もう臆する必要はどこにもない。
 数秒で覚悟を決めた真紀子は、多汰美に核心を問う。
「さっきの電話、聞こえとった?」

 うやむやにしてはいけない、と思った。
 ここで誤魔化してしまっては、先に進むことができないと思った。
 言ってしまえ、と心が叫ぶ。
 曝け出せ、と感情が蠢く。
 もう少し時間がいるかと思ったが、聞かれてしまっているのなら一緒だ。
 バレてしまっているなら、早いほうがいい。

「――……うん、聞こえとったよ」
 長い沈黙の末、多汰美は言葉を吐き出した。
 そして、再び沈黙。
 数秒とも数分とも思える静寂を先に破ったのは、多汰美のほう。真紀子の
ほうに背を向け、彼女は窓の外を眺めた、マキちー、と短く彼女の名を呼ぶ。
 真紀子からの返事はない。彼女はただ、多汰美の次の言葉を待っている。
 自分には何も言えない。ただ、彼女の言葉を待っている。

「本気、なん?」
 それは問いかけと言うよりは、ただの確認。
 多汰美の表情を伺えない真紀子からは、彼女の意図が読み取れない。
 けれど、彼女の問いに答えることは出来る。
 今にも涙で揺らいでしまいそうな真紀子の視界に入るのは、後姿の多汰美。
真紀子はその後姿に手を伸ばし、彼女の肩に手を置くと、多汰美は驚いたよ
うに一瞬だけびくりとその身を震わせる。
 背を向けている多汰美の肩を掴んで引き寄せると、そのまま半回転させて
半ば無理やりに自分と対面させた。どこか怯えたようにわずかに俯き、多汰
美はどうしたらいいのか分からないと言った様子で視線を泳がせている。

 二人ともどことなく息が荒い。
 理由は分からない。ただ、どこか息苦しい。
 しばし、二人の呼吸の音だけがあたりを支配する。
 多汰美の視線が、ゆっくりと前を向く。
 自分の瞳を射抜く真紀子の視線は、ただただ前を向いていた。
 言葉を聞く前に、はっきりと分かる。
 彼女の言葉に嘘はないのだ、と。
 そして、真紀子の唇から言葉が紡がれる。

 ――本気や――

 どうしたらいいのか、さっぱり分からない。
 突き放すには身近すぎる相手。できれば傷つけたくないと、脳が自分を躊
躇させる。

 けれど、何と言えばいいのだろうか。
 好きか嫌いかと言われれば、そんなもの好きに決まっている。嫌えと言わ
れるほうが、嫌いな部分を言えといわれるほうが、よほど難しい。
 だから、どうしていいのか分からない。
 今、自分に言えるのは当たり前の、相手にも分かっている筈のことだけ。
 身近だからと、予想外の相手だという以前に、自分が戸惑う最大の理由が、
そこにある。
「わ、私ら女同士なんよ……っ!?」
 彼女が分かっていないはずがない。けれど、聞かないわけにはいかなかった。
「私かて知っとるわ、そんなもん!」
 真紀子の叫び。

 ふわり、と多汰美の頬に真紀子の長い黒髪が触れる。
 何が起こったのか理解できないのではない。何が起こったのかやけにはっ
きりと理解できすぎて、逆に頭が働いてくれない。何をどうしたらいいのか、
さっぱり分からない。

 抱きしめられている。
 弱くもなく強くもない優しげな力加減で、自分は真紀子に抱きしめられている。
 暖かい、と頭の片隅が冷静にそんな感想を述べていた。
 真紀子の髪から、シャンプーの女の子らしいいい香りが漂ってくる。触れ
た身体は、柔らかい。
 こうされることに不快を感じることもなく、むしろ心地よいと思ってしま
う自分はどうすればいいのだろうか。

 ふと、多汰美はそこで気づく。

 真紀子の肩が小刻みに震えている。
 あ、と声を漏らしたのは一体どちらのほうだっただろうか。どうしたらい
いのか分からないまま、多汰美は自分の両手を宙に泳がせる。
「自分でも、どんなけ多汰美を困らせることゆーとるかも自覚しとる! けど、けどなぁ……!」
 涙が零れる。鼻がつんとして、きちんと喋ることが出来ない。

 止まらない。
 とまらない。
 トマラナイ。
 零れ落ちる涙は、止まらない。

「私は、多汰美が好きやねん……! どうしようもないくらい、多汰美が……!」
685638改め、らい:04/04/10 00:13 ID:dcHkRaMj
とゆーわけで異様に前フリが長くなっていきます。
次の投下は日曜になるかと。
できれば次の投下では、エロシーンには突入したいでつなぁヽ(;´Д`)ノ
686名無しさん@ピンキー:04/04/10 00:24 ID:pS20mwxB
>685
乙です。
にわにしか目がいってなかった自分を、このSSで萌え殺してきます。
本編がちと怪しくなってる分、マジで嬉しい。

ところで、
http://lilych.fairy.ne.jp/
のサイトで補完始めたんですが、
コルァ、とか、タイトルこうして、とかあったらご一報ください。
18禁とか、非18禁とか、完全に独断ですし。
現在連載中の作品なども、後ほど掲載させていただくと思います。
687名無しさん@ピンキー:04/04/10 21:45 ID:XtD4l4vi
>らいさん
最初予想してたよりシリアス路線でした。いいですね。
友情の一線を越える寸前の張り詰めた緊張感、すごくドキドキしました。
女の子同士が電話でお互いの好きな女の子のことを話してるシチュにも妙にハアハア!!
いや、前フリが長いほどエチシーンも盛り上がるような気がします。
これからもがんがってくださいね。
 好きになってくれなくてもいい。
 受け入れてくれなくてもいい。
 変に思ってくれても構わない。
 真紀子が望むのは、ただ一つ。
 自分のことを、嫌わないで欲しい。
 ただ、それだけ。


 真紀子の身長はやや高い。
 自分より頭半分ほど大きい彼女に抱きしめられ、多汰美はまるで男性に抱
きしめられているかのような錯覚を起こす。けれど、その身体に力強さを感
じることはなく、ただ、思ったよりも肩が小さいことに気づく。

 やっぱ、女の子なんじゃねぇ……。

 そんなことを頭の片隅で思う。
 さて、と多汰美は思う。
 抱きしめられているうちにだんだんと落ち着いてきて、頭の一部分が冷静に動くようになってきた。
 考えるのは無論、今のこの状況。
 自分は、彼女のことをどう思っている?
 無論、好き、だ。
 恋の相手として云々、一緒に暮らしているからはともかく、一個人として、
自分は青野真紀子のことが好きだ。
 そして、自分は彼女のことをどうしたいと思っている?
 受け入れるか、否か。
 選択肢は二つ。選べる答えは一つ。
 そして、選ぶのは自分。

 答えは、決めた。
 真紀子は顔を上げられない。
 目を閉じ、肩を震わせたまま、多汰美の身体を抱いて涙を流し続けている。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 涙以上に、身体の震えが止まらない。苦手な犬に追いかけられても、子供
の頃に迷子になって孤独を感じた時も、こんなに怖いと感じた事はなかった。
 後から悔いると書いて、後悔と読む。
 過ぎ去った時間を戻す事も、言ってしまった告白を撤回する事もできない。

 助けて欲しい。
 でも、誰に?
 助けて欲しい。
 どうやって?
 助けて欲しい。
 助けて欲しい。
 助けて欲しい。
 タスケテ――

「マキちー」

 名を呼ばれ、どこか別の場所に飛んでいた意識が一気に現実へと引き戻される。
 気が付けば、肩に多汰美の両手が置かれ、軽い力が自分を押し返そうとしていた。
 俯いたまま、真紀子は多汰美の身体からそっと離れた。
 多汰美の手も離れる。
 真紀子はまだ、俯いて涙を流したまま。

「――ほら、もう泣かんでもいいんよ」
 何がと聞く前に、頭の上に多汰美の手が置かれた。
 よしよし、と言った感じで、多汰美は真紀子の頭をそっと撫でる。
 再び自然と、涙が溢れる。
 けれど、それはさっきとまたは違った、安堵の涙。
 自分と同い年の少女。その少女が触れる手は暖かくて、優しい。


 そして、
「答えのほう、じゃけれども」
 彼女の口から紡がれた言葉は、
「私は、マきちーのこと」
 真紀子の頭の中を、
「好きじゃよ」
 真っ白にした。


 涙に濡れた顔を上げる。
 歪んだ視界の向こうに浮かぶのは、多汰美の微笑。
 あ、と嗚咽にも似た声を漏らし、真紀子は軽くむせ返りながら、涙声を喉
の奥から搾り出す。

「う、そ…や……」

 それは自分が望んだ答え。
 拒まれるのは覚悟していた。
 嫌われなけばそれでいいと思っていた。
 けれど、彼女の答えは、YES、だ。
 予想外の答えに、喜びよりも先に戸惑いが生まれる。
 望んだはずの答えなのに、脳のどこかがこれは現実ではないと否定する。

「た、多汰美がゆうてるんは、家族とかの好――」
 両手で顔の左右を掴まれ、顔を下に向けさせられて、多汰美がわずかに上
を向いて、真紀子の顔に自分の顔を近づけ、そのまま唇が重ねられるまで、
二秒も掛からなかった。
 さきほどの一方的なものとは違う、交し合う口付け。

 本当の、キス。

 重ねた時間は、ほんのわずかなもの。
 驚きのあまり、感触を確かめる時間もなかった。
 わずかな時間のはずなのに、互いの身体が火照っているのがはっきりと分
かる。熱を帯びた甘い吐息を吐き出し、多汰美は真紀子の目を真っ直ぐ射抜
くように見つめてながら、言う。

「家族の“好き”で、キスはせんじゃろ?」
 最初の涙は怯え。
 二度目の涙は安堵。
 そして、三度目は喜び。
 嬉しくて――嬉しすぎて涙が溢れた。
 さっきからずっと涙が止まっていない。このままではそのうち枯れてしま
うんじゃないかと思うぐらいに、真紀子は涙を流し続けている。いっそ、枯
れてしまえばそれはそれで楽かもしれない。
「こ、後悔するかも知れへんねんで……!?」
「それは、マキちーも同じじゃろ」
 自分から告白しておきながらこんなことを言い出す真紀子に、くすくすと
多汰美は笑ってみせる。
「いいよ」
 優しげな笑みを浮かべ、多汰美は言い切る。
「マキちーじゃったら、私、構わんよ」
 レズ? 何とでも言ったらいい。
 同性愛者? 世界の十分の一は同性愛者だ。
 変? じゃあ、普通ってのを説明してみろ。
 体面? そんなものくそくらえだ。
 好きならそれでいいじゃないか。
 真紀子は自分が好きで、自分は真紀子が好き。それに何の問題がある?
 ほら、何の問題もないじゃないか。


「多汰美ぃ……!」
 真紀子が力強く多汰美を抱きしめる。自分の肩に顔をうずめる真紀子の後ろ
頭を、多汰美はまるで彼女の母であるかのように、優しくそっと撫でてやる。

「わたっ…ぜ、たい嫌、われる思…て………ごっつ怖ぁて……っ! 電話、
聞かれ…た思、たらっ………どうっ、していいか分からんで…っ! 勢いで
言うしかのうて……! でも、たたっ…多汰美がぁ……っ! わたっ…わた
っ…しっ…でええゆう…てくれてなぁ…っ! 私…ごっつう…れしいて…っ!」
 声を出そうとしても言葉にならない。
 自分自身でも何を言っているの代わらなくなりそうで、きっと、半分もま
ともに聞こえていないだろう。
 それでも、多汰美は言葉の合間に、うん、うん、と頷いてくれた。

「泣き虫じゃねぇ、マキちーは」
 ははは、と笑いながら、多汰美は真紀子の頭をまだ撫でている。
 さらさらとした長い黒髪の感触が、心地よい。
693らい:04/04/12 02:18 ID:k35J9fE7
遅くなりましたが本日はここまでヽ(;´Д`)ノ
目標のエロシーン突入は達成できませんですた……スマソでつ(汗
もう少しでやっとこさ突入できそうですが、前フリとエロシーンの長さの差が、
えらいことになりそうだ(゜∀゜;)

にしても、トリコロは意外に知名度あるんじゃねぇ……。

目標:今週中に完結……無理ぽ(マテ
694砂の闘士:04/04/12 02:21 ID:eLFJkQu3

 言い張るマルレンの眼に光るものを見、剣士はとたんにひるんだ。
「あ、あー…、すまん」
 伸ばした指先で少女の目尻の涙をぬぐい、
「いじめるつもりはなかった。みずから物盗りの棲みかに連れてきておいて、泣かせては世話はないな」
 ささやきながら細い腰を抱きよせると、屋根裏部屋につづく階段をともに上がらせた。

「おまえが、」
 革の上衣と腰帯とを脱ぎ捨て、一重の肌着のみの軽い身の上になると、シェラは少女の瞳を見下ろし、
膝から寝台に体重を掛けた。
「求める物は、できるかぎり与える。だがわたしはおまえを閉じ込める気はない」
 灰色の髪を肩先に垂らし、甘くけぶる褐色の目を近づけ、マルレンの頬にキスを残す。
「考えておくがいい。自分の本当の、心の在り処を」
「わたしはなにもいらない。あなたと居られれば、なにも恐くはないわ」
 膝をそろえて座るマルレンが、正面からシェラを見すえて唇をひらく。
「ほんの少しでもいいから、あなたを手伝いたいの。シェラ、あなたは? あなたはなにを望むの? お国を取り戻したいのでしょう?」
「う…」
 灰色のたてがみを持つ獅子は。
 言いつのりながら海の色の瞳にて向けてくる、若い目から懸命に目をそらす。
 マルレンは、差し出した右の手のひらで、
「だいじょうぶよ」
 シェラの左胸、乳房の下側に触れ、脈を打つ心臓の鼓動を確かめるようにした。
「あなたはいまも、生きているじゃない。きっと、故郷の国を復活させることができるわ」
 互いの視線が向かいあい、二人はひとつの心臓の脈動を感じ、共有する。
 シェラは前へと身を乗り出す。わずかに胸の動悸が早まる。
 胸に置かれていた手をとって握りかえし、二、三度言いかけてはためらった後、
「いや、だめだ……あれはもう、戻らない」
 シェラはどうにか言葉を吐いた。
「幾人かの商人と話して知った、もう誰も私の故国に辿り着く道を知らぬ。人にその位置を知られぬ隊商国家などありえない。
かつての繁栄を覚えているものさえ、懸命に忘れたがっている。十年前にひどいことがあったので」
 そこまでを言うとうつむき、固く握りしめている自分の手の甲を見つめた。
695砂の闘士:04/04/12 02:22 ID:eLFJkQu3

「時と砂とが故国を埋めてしまった」
 赤く充血した目を見開いたまま呟き、それきり黙りこむ。
「シェラ…」
 マルレンが、伸ばした腕で剣士の肩を抱きしめる。耳元にて小さく尋ねる。
「悲しいの?」
「ああ、」
 喉に絡んだ、かすれた声をゆっくりと絞り出した。
「涙を流せば楽になれるような気もするが、泣き方をもう、忘れてしまったんだ」
 何も言わず、マルレンは顔を傾けて恋人の唇に口づけた。
「……」
 シェラは黙したまま側にある白い肩に手をかけ、かすかに開いた唇のあいだに舌を差し入れる。
目を閉じ暖かい口腔の感触を、そおっと味わった。
 肉の厚い下唇を軽く、かり、と歯をたてて噛むと、背中に強い腕を廻し抱きすくめた。
 喉に舌をあて、舐め上げる。
696砂の闘士:04/04/12 02:23 ID:eLFJkQu3

 つい先ごろまで、むくの生娘であったマルレンは。
 シェラ以外の者には身体を開いたことがない、世の男たちに、接吻さえ許したことがない。
 いわば沼地より掬い上げた泥からこねあげた水差し、立木の幹を手ずから削り出して作った弦楽器のようなもので、その官能はシェラのつけた手の跡のみで造られている。
 一からの調律を重ねた少女の身体を、シェラは最早思うままに鳴らすことができた。
 きめの細かい肌の上で剣士の指先がかすかに踊り、掠めるだけで、その身は小刻みにふるえて高まり、
白い喉からは押し殺した悲鳴のような吐息がもれる。
「ん…」
 後ろから抱かれると、ふたりの肌を隔てるのは薄手の肌着一枚のみで、いつにない密着感があった。
 背中にシェラの胸が当たり、柔らかくつぶれている感触が伝わる。
 腰や、内ももに、しっとりとした手のひらが当てられるだけで、身体の芯が痺れた。
「あ……はぁ…」
 少女の腿のつけね、下着の中に、後ろから指を入れこすりあげる。
「濡れているぞ」
 溢れる泉から引き抜いた、銀の糸を引く指先を見せつけるようにする、
「だって」
 その腕に指で触れて、ささやく。
「あなたが好きだもの」

697砂の闘士:04/04/12 02:24 ID:eLFJkQu3

「や、あ、あ……」
 シェラは後ろ抱きにしている少女の手を取ると、羽交い締めにするようにして指先を圧しつけ、
自らの秘所に当てさせた。
 嫌がり首を振る少女をじっくりとなだめつつ、手の力はゆるめずに強制を続ける。
 やがて中指一本が、襞の内に沈む。マルレンはふかく息を吐く。
「う、ううんっ……」
 自分自身をこれだけ深く弄るのは、生まれてはじめての体験だった。
「なんか、ヘンな感じ…」
 自分の体の見知らぬつくりに、奇妙を感じた。熱くて、ぬめっていて、内側でざらざらとした突起が粒立っているのが判る。
「良くなければ、止めて良いが」
 シェラがそう言うと、耳元に息を吹きかけてくる。
「ん……あ!」
 押さえられている右手がさらに陰部を深く抉り、少女の姿をした楽器は、更に激しい音色を奏でた。

698砂の闘士:04/04/12 02:25 ID:eLFJkQu3


−−−−−−−−−−−−
「聞きたいんだけど…」
 背後から耳元にキスを受けながら、マルレンが声に出した。
「おっぱいさわるの、好きじゃないの? なんだかお腹のほうを、たくさん触ってるような……おなかの方が楽しいの?」
「いや、そういうことではないが……」
 脇の下から差し入れた手を、じわじわと上へ撫で上げていたシェラは、ぎくりとした顔になる。
「……胸は揉むと、大きくなるからなあ。それが気になる」
「ええー」
 下から胸の双丘を持ち上げ、両手でひたと寄せるようにして止める。そして言った。
「乳の成長はこのくらいで、停めておいたほうが扱いがいい」
「わたしは、大きくしたいけど?」
「いや、それはよくない!」
 剣士はなぜか断固として言いはる。
「胸は大きくないほうが良い」
 そう力強く言いきったが、しばらくののち、思い直したように眉を上げると、
「だが、マルレンがそういうなら……考えておこう」
 肩ごとで引き寄せて白い乳房にキスをした。

699砂の闘士:04/04/12 02:25 ID:eLFJkQu3
−−−−−−−−−−−−

 王族として亡国を目撃し、全ての権利を奪われ、剣奴隷として売られるという苦汁を舐めても、シェラはいまだかつて、どのような困難からも逃げたことはなかった。
 大前提としての小目的――その日その日を確実に生き延びる、
そして生涯を賭けた大目的――国と家族を滅ぼしたものへの復讐を果たすために、
あらゆる危険にも苦痛にもひるまず、半島に獅子が絶えかけるまで戦ったのだ。
 それが、かつては一度――黒髪の貴族の娘、年端も行かぬ少女、マルレン=クィア=ルマームからは逃げだした。
 闘士の本能に深く根ざした警戒心が、愛の前に心がゆらぎ、愛の甘い罠に落ち込むことをおそれた。

 しかし、今、彼女は手の中にある。砂の闘士は全てを克服した。
 もはや何一つ恐れるものはない。

 剣士は、いまだかつて感じたことのなかった心の平安の中に居た。

 寝床へ、裸で入るようになった。
 なによりも明褐色の肌に白く走る古傷の多さに、マルレンは驚いた。
 だが、すぐ慣れ、寄り添って眠るようになった。
700砂の闘士:04/04/12 02:26 ID:eLFJkQu3

 剣士は暮らしを変えようと、少女に合わせて昼に起き、夜に眠る努力をはじめた。
夜には寝所にて少女を腕に抱き、闇の中つれづれに色々な話をする。
 なんといっても闘技の話題が多い。
 獅子は、手負いにした方が倒しやすいのだと言う。獅子は猫じみた生得のかけひきを使い、こちらの手を読むので、なんとしても先に手傷を与えなければならないと。
 寝物語にしてはなかなかにすさまじすぎるようだったが、ともあれ何であろうと
過去の事象を口に出すことが気晴らしになり、シェラの精神に良い影響を及ぼすようなので、
マルレンは全身を耳にして聞いていた。

 ある夜。シェラは、実は妹がいると言い出した。
「私と五つ違いなので、」
「生きていれば、十六かな」
 生きていれば……とあっさりと言う。
「あなたと似ているの?」
 似ていないと思う、とシェラは言う。なぜならば、
「私と妹とでは、色がそろっていない」から、という表現を使った。
 それはどうやらシェラの親族内で使っていたらしき言葉で、二人で並ぶと色合いがまるで違う。妹は黒髪に黒い目、白い肌だったと。
「お名前は?」
「アイラ。アイラ=イスファ=マルジャーン」

701砂の闘士:04/04/12 02:27 ID:eLFJkQu3
−−−−−−−−−−−−

 世界の富の四分の一を抱く、光り輝く王都アッシュール。
 この地にしろしめすササン王は、大量の愛妾を持ち、あらゆる部下を信用せず、
国庫の無駄遣いが大好きな……まあ半島の歴史にかんがみても、ごく普通の凡庸な王であったが、
ただひとりだけ彼の氷の心をとろかす、愛する娘を後宮にて養っていた。

 王唯一のお気に入りの公女、金の髪をもつアイーシャ姫。
 御年は数えてまだ八つ。
 明るい色の髪を揺らして、贅を凝らした緑の庭園をかけまわるその健康な姿は、
誰の顔にも微笑みを浮かばせるに充分な愛らしさであった。
 だが好事魔多し。王城は魔に無防備であった。
 ふいに空中から現われた、黒髪の少女が笑顔とともに差し出した手を、疑うことを知らぬ幼い姫がつかむ。
 その瞬間、その小さな姿がもろともにかき消えた。
 居並び見つめていた侍女らの目の前で。


 ◆続きます◆
702名無しさん@ピンキー:04/04/12 10:17 ID:bOzGMhRQ
>>693 らい様
すごく感動しました!
良かったね、マキちー。・゚・(ノД`)・゚・。
エチシーンも楽しみにしておりますよ〜。
703名無しさん@ピンキー:04/04/13 05:52 ID:tPRFNoso
>らいさん
あいやー!ご馳走さまです。
嫌いにならないでどころかすっかり親密な雰囲気ですねw
多汰美ちゃんのどんな反応かどうだか、こっちまでドキドキでした。
このあとのエッチが盛り上がりそうでワクワクです♪
>腐男子さん
むふふ、シェラ様てけっこうエッチですね。こないだまで
キスも知らなかったマルレンちゃんにソロを演奏させるなんて。
それとも雌虎も恋をして丸くなってきたんですかね。と思ったら
訳ありっぽい妹の行方も気になるし、別の姫さまも神隠しになっちゃうし…。
大作になりそうですね。楽しみです。
704名無しさん@ピンキー:04/04/14 04:08 ID:RIJLDh88
>腐男子氏
シェラのロリコン説、(・∀・)サイコー
でもマルレン攻もきぼんぬ
705腐男子:04/04/17 02:39 ID:Fh86xaQd
>704
では脇道を一片。
706砂の闘士:04/04/17 02:40 ID:Fh86xaQd

 朝は昇る太陽とともに目覚め、夜は闇に抱かれて安穏たる眠りをむさぼるという、
天の運行に即した生活に近づこうとしたシェラだが、
一方そのために夜に行う仕事の精度は、いくらか下がったかもしれなかった。

 街での盗賊稼ぎを終えたある夜。
 剣士シェラは木の戸板に載せられ横にされたまま、宿へと帰るはめになった。
 運び込まれた入り口から廊下にかけて、床に点々と血の跡が残る。
 狭い小路での密集時に暗い空より、蝙蝠じみた魔物の黒い爪に襲われた結果だが。
「すんません、大将、」
 見るも不憫なほどうちしおれた若手の錠前破りが、頭領の枕元わきで膝をつき、幾度目かの詫び言を愚直にくりかえす。
「俺が逃げるの遅くって、こんなことに…俺がやられればよかったのに」
「気にするな」
 横たわるシェラは前髪の下の額にいくらか、苦痛による汗をにじませていたが、部下の手を取り励ますように言ってのける。
「ただの悪運の差だ。また、仕事を頼む」
「ほんとにスイマセン…でした…」
 老いも若きも景気の悪い顔をつきあわせ、そろってしょんぼりとしている盗賊団一同の前に、
急を聞いた元締めの老婆が奥の間より、杖をつきつつ現われ出た。

 一喝で、しおたれた盗賊どもを解散させた老婆は。
 食堂の隅に並べた粗末な木の椅子にシェラを座らせ、持参した手箱の中身を机の上に広げると、その傷に検分の目を向けた。
 膝の下、肉の見える傷口へ清潔な油をふりかける。
 すねにこびりついた血を拭いとり、指先で皮の下の骨の状況を診てとる。
 傷の上からしばらく指で探っていたが、瞬間、ごり、と骨が動かされる音がして、
「うっ」
 褐色の喉からこらえていた息が洩れる。
「うむ、なかなかきれいに折れとるし、もう大方くっついた」
 老婆は自得がいったように頷いた。
「無理をして歩かず、運ばれて帰ってきたのがよかったようじゃな」
 怪しげなどす黒い緑色、かつ飴のように粘りけのある軟膏を、乳鉢から指ですくい取り、
すねの上にたっぷりと盛りつけると、当てた添え木ごときりきりと包帯を巻きつける。
707砂の闘士:04/04/17 02:42 ID:Fh86xaQd
 シェラは、白く布の巻かれた膝の上へ片手をかばうように置くと、老婆へ上目づかいに尋ねた。
「完治まで、いかほどかかる?」
「フツウの人間なら一ト月」
 老婆は手のひらの塗り薬を拭いながら、
「じゃがおまえのことだから、三日もすれば癒るじゃろ」
 その手から差し出されてうけとった小さなカップを軽く傾け、ぬるい薬湯を呑みこむ。
 飲み終え不意に、首をがくりと垂れたシェラは、その場で机につっぷして眠りこんでしまう。

−−−−−−−−−−−−
 宿に住まう遊び女らは、食堂の隣室に集い寄り添って、壁の向こうの治療のようすに聞き耳を立てていた。
 負傷の報を聞いておろおろどきどき、青ざめているマルレンは幾人かに囲まれて抱きよせられ、長く黒い髪をしずかに撫でて貰っている。
 やがて、壁に耳をつけていたひとりが一同を振り返る。
「三日ですって。全治」
 とたんに、部屋の空気が和らいだ。
「ほら、言ったでしょう? シェラ様はだいじょうぶだって!」
「闘士だし、頑丈だしねえ」
「よかった、よかった!」
 マルレンを囲んだ遊び女たちは互いに手を打ち合わせ、しきりに抱き合ってははしゃいだ。
「そういえば……」
 祝いのワインの栓を抜きつつ、ふとひとりが言い出す。
「昔はお大尽がケガをしたりすると、たまに幾人かでまとめてお屋敷に呼ばれたわね。さもなくば、向こうから輿を仕立ててのり込んできて、一ヵ月ぐらい居続けたり……」
「ああ、たまにあったわねえ!」
 女たちの思い出話に、一度に花が咲きだした。
「あれは、手コキだけですむから楽なのよね〜、払いもいいし」
「?」
708砂の闘士:04/04/17 02:43 ID:Fh86xaQd

 交わされる話の内容はよくわからないながら、食堂から聞こえる移動の足音につられて、
マルレンが上へあがろうと腰を上げると、
「ああ、マルレンちゃん」
 酒盛りをはじめた女たちから、あいまいな微笑とともに刺繍のされた小物入れを手渡される。
「これ、もっていきなさいな」
「お見舞いよ」
 お礼を言って、押し開けた扉の先の廊下では、老婆付きの下男らが意識のない剣士の身を
担架にかつぎあげ、屋根裏部屋へと登っていくところである。

709砂の闘士:04/04/17 02:44 ID:Fh86xaQd

 屋根裏部屋のベッドは、少し前から二人用の大きなものに替えてあったが、
その夜はやはり誰もがそれなりに動転していたとみえ、小さくとも少女のためのベッドをひとつ、
運び入れておくということに思い当たる者がいなかった。
 そのため、マルレンは、剣士が薬による眠りから目を覚ますまでずっと、その側に椅子を置いて
座り、祈るようにしてただ、身じろぎもせず眠る寝顔を見つめていた。

 そうやって半刻ほどが過ぎ、夜も更けきった頃。
 横たわり沈みこんでいた眠りの底から浮かびあがったシェラがぐいと目を開けると、
まず第一にその視界に飛び込んだのは、こちらをのぞきこんでくる少女の、控えめな微笑みだった。
「大丈夫、ご気分は? どこか痛いところはある?」
「……」
 両の目玉をぎろりとめぐらせ周囲を見わたした後、灰の剣士は小さく呟く。
「折った方の足が、動かない。感覚もない」
「え? どうしましょう、それは……」
 驚いた声をあげるマルレンに、
「いや、問題ない。薬のせいだろう」
 シェラは静かに声をかけると半身を起こし、腕の力で右脚をもちあげ膝を立てた。
「いまは、塗り薬とさっきの茶とが効いていて、いずれ三日ほどで元のように動くということなんだろう。婆さんの治療では、以前にもこんなことがあった」
 見わたして、ふと気づいたように顔を上げる。
「予備のベッドが無いのか?」
 こくりとしたマルレンへ優しい目をやり、敷布の脇をぽんと叩いて言う。
「なら、こちらで横になれ。狭くもなかろう、こちらはどうせ、寝返りも打てない体だ」
 マルレンはちょっと目尻をぬぐって、シェラにほのぼのとした笑顔を向けると、
「また眠る前に、少し水を飲んだら? とってくるから」
 夜着の裳裾をひるがえし階下に消えた。
710砂の闘士:04/04/17 02:45 ID:Fh86xaQd

「これは……」
 ベッドのそばにあった刺繍袋へ無聊の手を出したシェラが、
転がり出た小物――白い鹿の腹の皮と紫色の香油のビンとを、指先にてつまみあげる。
 けげんな表情をしているシェラに、階下から戻ったマルレンが説明を加えた。
「さっき、貰ったの。おねえさんたちが、あなたのお見舞いにって」
「よりによってそれか」
 鼻の根にわずかなシワを寄せ、シェラは一式を小物入れごと放り捨てた。少し離れた椅子の上にぽとりと落ちる。
 剣士は咳をひとつ、ごほっと鳴らして言い捨てた。
「やつらの邪悪な企みが手に取るようだ」
「じゃあく……?」
「いいんだ。お前は気にするな」
「はい」
 ごく素直にうなずいて、マルレンは寝台上のシェラへ水の入った茶碗を手渡した。
 カップの水を干したころ、話題がふたたび、椅子の上の手土産に戻る。
「これって、香油でしょ?」
「ああ、」
 茶碗を脇によけると、シェラは身体の位置を奥にずらし話を継ぐ。
「厄落としのためだな。私のこれが呼び水になり、皆が次々に怪我でもしたら、宿の商売が立ち行かなくなるだろうから」
「ああ、そうなの。おまじないね」
 頷いてマルレンが寝台にあがり、手にとった鹿の皮に瓶の香油を染み込ませた。
「塗ってあげる」
「いらん、もう寝る」
 あからさまに嫌がる顔をしたシェラは、寝具の上掛けをとりあげ頭までを覆い隠す。
 しかし剥がされた。
711砂の闘士:04/04/17 02:45 ID:Fh86xaQd

「なによ、逃げなくてもいいでしょう。ねえさんたちの好意じゃないの」
「善意なんかであるもんか」
 白い手が掛け布を強引にはぎ、肌着の下に腕を差し入れる。
 多数の傷が走っているコーヒー色の肌が、室内の夜気にさらされた。
「いらんと言っているのに」
 剣士は心の底からそう訴えながらも、片方の足が動かず大きく身をよじれないため、抵抗をはっきりとは示しづらい。

 と、少女の指を芯にした鹿皮の白いかたまりが、シェラの耳の後ろの皮膚をふいに触れた。
 とたん、反抗のうめき声が消え、剣士は口を閉ざし黙りこむ。
 幼子の頬の柔らかさに例えられることもある、最上等の鹿の皮である。
「ね、やっぱり拭いたほうがいいでしょう?」
 マルレンの指先がなめらかになぞっていく肌、灰色の髪の生え際から首筋にかけてを、上等の香油が放つ爽やかな芳香が飾っていく。
 裸の鎖骨を撫でられ、声が洩れた。
「く、ふっ……」
 うめくシェラの表情を、少女が覗きこんだ。
「きもちいいの?」
「いや、薬のせいか、何か、感覚が……」
 瞬きをしながら、どぎまぎと声を吐く。
712砂の闘士:04/04/17 02:47 ID:Fh86xaQd
 寝台に半身で横たわり、シェラのすぐ側でふざけた風の笑みを浮かべ、マルレンはあきらかに明褐色の肌と戯れることを楽しんでいた。
 つんと天井を向いた乳房の先を、触れるか触れないかの距離でつつく。
「こら」
 叱る言葉も言い飽きつつあったが、
「そこまでしなくていい」
 シェラが少女のほうへと顔を傾けて非を鳴らすと、黒髪の少女はちょっと上気した声をあげる。
うつむいた頬には血の気の紅がさし、蒼い瞳が大きくうるんで、ひどく色っぽい風情があった。
「あら、だって……」
 指先に香油の薫る皮を挟みこみ、横たわっていても張りのある胸を撫で上げながら、マルレンがうっとりと呟いた。
「あなた、いつもわたしが『やめて』って言っても、やめないじゃない?」
「それは」
 首を起こして反論する。
「声の調子をみているんだ、本気で嫌がっている時にはやめている」
 マルレンもこくり、頷いて、
「うん、だから……今も」
 言いながら鎖骨へと頬をすりよせ、唇を近づけた。素肌に息がかかる。
「ふ」
「やめて……ほしくないでしょ?」
「……」
 張り詰めた明褐色の乳房に軽く広げた手のひらを添わせ、薬指いっぽんでそっと乳首をはじく。
「ふッ」
「だって、こんなにきもちよさそうに……尖ってるのに」
 マルレンは尖りの先を小さな口に含み、舌の全体で舐めあげた。
「くぁっ、う、うう…ん…」
 うめき声が洩れる。
 治療時に飲まされた薬茶のせいなのか、全身の感覚が熱にうかされたような重苦しさを帯びており、
シェラはときに、熱い電撃のような、鈍い刃で肌に浅く、傷をつけられているかのような甘い痛みにさいなまれた。
713砂の闘士

 夜の帳がうっすらと明けはじめ、小さな窓には天からの白い光が垂直に差しこんでいる。

 思うように身体の動かせないシェラの上へ、裸身の少女が手をついて乗りかかる。
 脚を抜くことのできない下穿きは、短刀をつかって切り裂いてしまった。
 マルレンは長い髪を揺らしてかがみこみ、下腹、灰色の茂みに唇をつける。
「舐め……ないほうがいい」
 シェラは唸り、その行為を停めようとしたが、きかない。
「汗で汚れている」
 とっさに身を引こうとしたが果たせない。
(ええい)
 シェラは一念発起をした腕をぐいと伸ばし、少々乱暴に少女の顔をこちらへと引き寄せ、
その唇をキスでふさいだ。
「ん…」
 互いの熱い舌を絡ませると、マルレンは両手で褐色の首筋にしがみつく。
 マルレンの体の重みが上半身にかかり、ふたりの裸の胸が潰れこすれあった。
 シェラはどうにか、腕に力をこめると、上からまたがらせた恰好のまま、片手で相手の全身を支え、
もう一方の指を。
「あっ…」
 濡れきった襞のあいだに差しいれる。ゆっくりと、ねじりこむように。
 ただ、それだけで。
 獣のように脚を広げてまたがっている、白い身体が雷鳴に打たれたかのようにびくり、せりあがった。
「んっ、あ、んぁあ…」
 マルレンは白い喉をそらし、腰をうねらせる。
 秘所に食い込んだ指先を、腕ごとでふるふると揺さぶってやると、
透明な滴が腕をつたって、ぽつ、ぽつりとシェラの平たい腹の上に垂れて落ちた。
(はぁ…)
 のしかかられている形のシェラは、吐息をつきながら首をめぐらせ、うつむき加減にヴォリュームを増している乳房に口をつけると、音を立てつつ吸いついた。