♀百合制作文芸スレッド♀

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413名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:37:14
s.「安心しろ。とっくにお前の女の子観は歪みすぎている。大体前世界の話を
持ち出す時点で大半の生物には理解できないぞ」
b.「いやそれもそうなのだが。ほら、私が女の子じゃないか。だから私の好きな
話題なら、普通の女の子も分かるんじゃないかと」
s.「……普通?」
b.「なんだ」
s.「いや、何でもない」
b.「笑ってないか? まあどうでもいいか。ほら、お前らのアジトが
見えてきたぞ。そろそろ降ろしていいかな。何なら、自宅まで運ぶが」
s.「いや、ここでいい。変に同胞に見つかっても――」
?「あ、あれはヴェルファどのの肉体! こんなところにいるとは――!」
b.「速攻で見つかった」
s.「よっこいせ、ざくざく」
?「ぎゃー。な、なぜシルクどのがー」
s.「さらば同胞ハイエル。君のあの笑顔は忘れない」
b.「イニシャルが出るまでもなかったな」
s.「……とまあ、こうなるわけだ。面倒は嫌だろう?」
b.「確かに。ではお前をここに置いて去るとしよう」
s.「ヴェルファ……いや、……」
b.「ベラドンナか?」
s.「ああ、ベラドンナ。今日はありがとう」
b.「ふっ」
s.「何がおかしい?」
b.「まるで、少女漫画のヒロインが仇敵の男にいうセリフだと思ってね」
s.「それでそのヒロインと男はどうなるのだ?」
b.「………………」
s.「顔を真っ赤にして何を考えているのかね。何もおかしなことを
聞いたわけではあるまい」
b.「いや、そう、服従するんだよ。ヒロインが男に、こう、純情に、
お淑やかな、可愛らしいところを見せて」
414名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:44:20
s.「はいはい。そりゃようござんした」
b.「そ、それじゃ。今度は万全の状態で会いたいものだな」
s.「ああ。また、な」

(ベラドンナ去る)

欠:(scene6「深夜・衰堂端」scene7「深夜・忍魚超」scene8「深夜・那形血妖」
scene9「深夜・那形血妖〜光巨」scene10「早朝・塔恐」)
415名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:45:30
silk scene11「昼間・秋薔薇の電気街」

b.「さあ買い物は済ませた。忘れ物もない。財布や拳銃は、
私の胸元のポケットに入っている。あとは自宅へ帰るだけだ。
 おや、あれは私の敵である寄生生物の将。シルクとかいっただろうか、
なぜこの秋薔薇にいるのだろう。私をねらって来たのだろうか。
だが少女の非戦闘系な肉体で、その企みがあるとは思えないが。
 罠だろうか。そうでないにしても、下手に無視するのはどうにも
後味が悪いだろうな。ならばとりあえず呼びかけてみよう。
 おおい、こんなところで何をしている」
s.「あら。ベラドンナ……いいえ、ヴェルファでしょうか。
ベラドンナとお呼びした方が良いのですが、あなたは私の同胞から
ヴェルファと呼ばれているならそっちの方がわかりやすくも
あるのでしょう」
b.「ヴェルファはかつて宿主だったあなたたちの仲間。そっちの
名前の方が好きなのだろう。別にヴェルファで構わない」
s.「そうとは限りませんよ。でもヴェルファとお呼びしましょう、
あなたがそちらを好むなら」
b.「そんなことはどうでもいい。それで、あなたはこんなところで
何をしているのだ。しきりにあたりを見回し何かを探しているようだが」
s.「秋薔薇はあらゆる種族の総合電化製品市場です。なら、自分のとこの
バイオプラントを探しに来る寄生生物がいても不思議はないでしょう。
 ほら、他にもたくさんの寄生生物たちがうろついてますよ」
b.「それもそうだな。全体的にマシン系の種族が多く、生物系は少ないから
小型の五匹や六匹混じっていたところでまるで気づかなかった」
s.「そうですね。むしろこの機械音とマシン群れの中で私を見つけたことの
方が不思議です」
b.「同じ哺乳類ヒト系の肉体だからな。それでかもしれない」
416名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:46:08
s.「あら、気づきました? 実はおにゅーのユニット(疑似生命体)なのですよ。
今まで、戦闘系の大型獣や大型昆虫、キマイラ系くらいしか見せたことなかった
でしょう。日常では非戦闘系に寄生する方が多いのですが」
b.「私を襲うときもその可憐な格好でいて貰いたいものだな。そうしたら
一瞬のうちに殺してやる。この胸元の拳銃で」
s.「スカートの裾を上げ、丁重にお断りさせていただきます。ところで
あなたは何故ここへ。何か入り用のものでもあったのでしょうか」
b.「それを聞いてどうするつもりだ。私の弱点になるとでも思っているのか」
s.「いえ、ただ、今は十二月」
b.「ん。言っておくが、この程度の寒さに弱いわけではないぞ」
s.「……何でもありません」

b.「さて、帰るか。考えてみれば、別にあなたと長く話す理由などない」
s.「それは残念です。本当に」
b.「虚言を」
s.「私の心がわかりませんか?」
b.「借り物の目で物を見、借り物の耳で物を聞く。借り物の鼻で匂いを嗅ぎ、
借り物の舌で物を味わう。そんな借り物の感触で得た心など、なぜ分かると
いうのだ」
s.「心は私のものです。寄生生物、シルクのものです。たとえ寄生しても、
私の意思と命令はその肉体にとって本当のものです」
b.「違う。本当の意思は肉体に追従すべきもの。私のように」
s.「意思は肉体と切り離されて然るべきです。若さがあろうとも、
牙があろうとも、……誰かを愛する気持ちに変わりはないのなら」
b.「愛を語るか。貧相な本体を持つ寄生生物でありながら、誰かとの愛を!」
s.「語ります。本体は貧相で醜悪なものであっても、愛を感じる私の心は
黄金よりも輝いているから」
b.「ならば愛し続けるがいい、その相手を……私には関係のないことだ」
417名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:46:59

s.「ヴェルファ……ベラドンナ。一つだけ言わせてください」
b.「必要のない言葉なら聞くつもりはない。私だって忙しい。
寄生生物の下らない発言のために、自宅へ帰る二本の足を止めるつもりはない」
s.「そう急かないで下さい。私の宿主の小さな足ではあなたに追いつけない。
長い髪の後ろ姿が、次第に遠ざかっています。振り返って下さい。あなたの鋭い
まなざしで、私の唇の震えを捉えてくれないのですか?」
b.「その唇とてあなたの物ではないのだろう」
s.「私の作った肉体です」
b.「それは知っている。元々存在し、ある程度の成長を重ねた肉体では、
あなた方寄生生物の生存環境にはあまり適さない。ゆえにバイオプラントの
機械によって、擬似的な理想的生命体を作り、そこに寄生する……だが」
s.「そのユニットが外的な接触によってもう一つの自我に
目覚めることもある。ベラドンナ、あなたのように」
b.「それこそが肉体の本質だ。おっと」
s.「どうでしょう。
 あ。足下の石に躓き、危うく全身を打ち付けるところ。本当に危なっかしい」
b.「うるさい。むむ、近寄られたか。借り物の手などいらん。体勢ぐらい
自分の意思で立ち直す」
s.「では差し伸べた手を引っ込めましょう。
 ベラドンナ、新しくもった自我は、我々寄生生物の意思を破壊し、元来
住んでいた寄生生物の生命すらも亡いものに変える。……ヴェルファは
もはやこの世にいない。そしてその意思は肉体によって依存する。
 けれどその意思は肉体の本質でしょうか。そのような意思は肉体が成熟し、
寄生生物が住めない環境になって始めて発現する。つまり肉体がある程度、
寄生生物を受け入れた後で……」
b.「肉体の抵抗だ。寄生生物を排除するためのな」
s.「ですが肉体の外的干渉により生まれた意思は結果的に肉体の破壊を早める。
――老化、病気などのコントロールが効かない。また、意思の破壊によって
生命活動が停止する……肉体を脆くするのが肉体の本質ですか?」
418名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:47:45
b.「肉体が元々脆いものであればそうだろう」
s.「寄生生物はより制御しやすい肉体を製造する。その強度は問題外です。
肉体が脆いのは、ただそれだけのこと。元来の目的を離れ、半ば暴走したように
肉体が自己を破壊するようになるのは……」
b.「…………」
s.「すみません。別にベラドンナを見下げているわけでは」
b.「私は自分こそが正しい『意思』であると確信する。この肉体のな。だから
あなたたちの『意思』を否定し、見下している。
 あなたが反する意見を持っているなら、私を見下すのが普通だろう」
s.「本気でそうお考えですか? 美しい瞼を伏せる人よ」
b.「どういう意味だ。少女の姿を借り物にする寄生生物め」
s.「私はあなたが好きです」
b.「なに?」
s.「驚き、細長く切れた瞳を大きく広くするほどのことでしょうか。
あなたほどの人なら誰に好かれても不思議はないでしょう」
b.「……知らない。それに寄生生物は寄生生物とのみ生殖を可能とし、
肉体とは生殖することはできない。この部分、寄生生物は肉体に
行動を依存されないけれど。
 むろん、そのような借り物の身体なら可能かもしれない」
s.「その肉体……哺乳類ヒト系の場合、女と女では生殖できませんよ。
知りませんでした?」
b.「笑うな」
s.「自分では止めませんよ、肉体に悪影響ですし。残念ですね」
b.「なら顎が外れるまで笑うがいい。日が暮れ、夜の月が昇るまで。私は
さっさと自宅へ帰る。ついてくるな」
s.「好きです。本気で――。どんな甘い果実も、あなたの微笑みほどには
甘くない。どんな薫の花も、あなたの吐息と言葉に及ばない。鋭い瞳持つ、
創造主の殺め手よ。か弱い肉体を誰かに抱かせましたか?
 あなたの強い心にふれる時、私の情熱は燃え上がる。欲望の火は真夜中、
ベッドの縁にあなたが微笑む幻を見せ、一人の寂しい寝所に悲しみを呼ぶ。
夢の中でベラドンナの名を呼び、その温もりを求めるのです」
419名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:48:30
b.「私に嫌悪の返事を期待するの。なんて無益な」
s.「なぜですか。あなたは私を好きなのでしょう。さもなくば、
始めて出会ったユニットに、どうして私を知ることができたのですか?
 瞳の奥が揺れています。あなたの心は乱れ、まるで小石に打たれた
水面のよう。その心は困惑に満ちています。いとしい人よ、何のための
拳銃を取り出すのですか。私を打って、その混乱から覚めるはずもないのに」
b.「黙って。そして拳銃の弾に本体を打ち抜かれ、死ねばいい」
s.「けれど」
b.「ならばなんだというの? あなたが私を愛そうとも……それが
あなたのすべてではないのに。あなたの敵である私が変わるわけではない、
違う?」
s.「違いません。そのことは、何も変わらないでしょう」
b.「だったら何のためにそんな言葉を私に伝えるのか。そんな借り物の姿で、
借り物の声で、借り物の吐息でそのようなことを……」
s.「好きだからです。私の心が掻き乱されているからです。こうして拳銃を
向けられる恐ろしさより、私はあなたの瞳の奥に、私への好意を見いだした
喜びを強く抱いているのです。この意味がお分かりですか、ベラドンナ」
b.「わからない。私には何も。どうして引き金を引けないのか。どうして
拳銃を降ろし、あなたが私に近づくのにも、離れようとしなのか」
s.「ベラドンナ、あなたの家はすぐ近くです。あなたとの別れは近い。
もうすぐ、私とあなたは争い、どちらかが倒れるでしょう。けれど
その前に、接吻を許して下さい。最上級の口紅を塗ったわけでも、甘い果実を
味わったわけでもない、ただの唇ですが」
b.「没薬の香油はあなたの肌より美しく香る。薔薇の花びらはあなたの
唇よりも紅い。ダフネの枝は、あなたの髪より艶めかしい。
 けれど不思議。そんなものはまるで気晴らしにならない。私はあなたを
強く抱きしめ、犬がバターにたかるように、あなたの唇を求めている。
心が炎に沸き立ち、目をとじても胸にあなたとの思い出が浮かぶ。
姿ではなく、あなたの心が……」
420名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:49:22
s.「艶めかしく瞳を閉じるベラドンナ。申し訳ないのですが、膝を曲げて
下さい。この背が足りず、つま先立ちで突っ張ってもあなたの口元に
届きません。私は餌を目の前に吊された鳥のようです」
b.「では下げる。それにしても可笑しいこと。そんな現実問題が
あるなんて、やんちゃな娘さんに」
s.「もうっ、笑わないで下さい」
b.「自分では止められませんよ、肉体に悪影響ですし」
s.「まあ。私の顔に火をつけるおつもりですか」
b.「さ、跪いた。まるで神様にお祈りを捧げるように。ベラドンナは
あなたの足下に跪き、今度は下から、髪を左手でかき上げ、あなたを
見つめている。あなたの瞳に私が見える。この目は潤み揺れていて、
欲情が炎となり瞳に宿っているかのよう。
 恥ずかしくて、私は頬を赤く染める」
s.「美しい人よ。私の心は燃え盛り、あなたに優しくできません。
どうか許して下さい。隼が空から舞い降りるように、あるいは山の頂から
谷間の底へと風が吹き降りるように、激しい勢いであなたの唇を
奪います」

b.「柔らかな感触が強く押しつけられ、まるで葡萄酒のような薫が
唇という名の赤い肌から立ち上り、私を陶酔させる。それにしても
なんという暴れ牛が私をほしがったこと。初めてのキスだというのに、
舌まで入れるなんて。
 シルク、手慣れのあなたに羞恥心はないの。すごい勢いで私を
蹂躙するあなた、私は戸惑い、圧倒される自分が何だかみじめに思える」
421名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:49:57
s.「ベラドンナよ、私の性急を見逃して下さい。私はこれがファースト
キスです。おそらく手慣れのあなたは、私の我が儘な振る舞いを
受け止めてくれているようですが。
 あなたの唇を私の唇で挟みながら、ゆっくりあなたの舌を私の口内へ
誘います。濡れた舌の先を甘噛みしますが、これは気持ちよいですか。
痛くはないですか。蕩けた表情をそのまま、私に向けて下さい。
 あなたの唇をさらに深く吸い込み、開いた喉に私の息を吹きかけながら、
唾をあなたの口元へ届けます。けれど舌の伸びた状態ではあなたは唾を
受け止めることができず、唇の隙間から零れました。なぜ残念そうな
瞳を震わせるのです。私の性急に呆れないで下さい」
b.「技巧に優れたシルク、あなたの唾は砂糖菓子よりもおいしい。なのに
いじわるして、私からこぼさせるだなんて。その心にどんな小悪魔が
潜んでいるというの。それとも私の羞恥と躊躇を子供のようだと、内心に
笑っているのかな。
 口元で唾が触れ合い、貪欲な心の音楽が流れる。その音は私の理性を
失わせる。私の心と振る舞いは、飢えた獣が餌を差し出されたかのよう。
外貌がどう見えようとあなたに喰いつき、舌という柔らかな牙であなたの
口内を余すところなく噛む」
s.「赤い花のベラドンナ。あなたはなんて激しいのでしょう。まるで龍の炎が
私の口元を駆け回るよう。私の舌はあなたに焼かれ、心は翻弄されるままです。
どうしてこんな力強い口づけを隠していたのですか。
 私の心は蕩け、足下がおぼつかない。まるで人形のように、あなたの
胸元に支えられている。私の頬がこれほど熱くなったことはあったでしょうか。
心が本当に熱を持つのなら、私の情炎は世界を焦土に沈めるほどです」
b.「愛しいシルク。どうして力強く私を押し倒すの。その小さな肉体に跨られ、
積極的な仕草で唇を絡められてしまっては、私には何もできない。
 手首を首に巻かれ、地面に散らばる髪をあなたに優しく撫でられている私は
囚人にも似ている」
422名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:50:38
s.「ベラドンナ、大地に寝そべるあなたの大きな体は地母神のよう。私はあなたに
跨り、あなたの身体に受け止められています。木から飛び立った雀が、再び木に
戻るように、私はあなたの肉体に吸い込まれていきます。心も体も……」
b.「うっとりとしたあなたの瞳がひどく大人びていて、
 私は魅了に溺れる。
 シルクという名の海に投げ出されたように、
 私はあなたに捕らわれて。
 この心を奪われていきながら、
 けれどどこにも逃げることはできない。
 喜びが太陽の光のように私を包む。
 全身から力が抜ける。少女の姿をした方よ、私の支配者。
 このまま口づけを離さないで。
 うねり荒れ、渦潮の渦巻くあなたの舌を止めないで。
 たとえ心が死のうとも、このまま私を蹂躙して欲しい」
s.「燃え上がる炎の人、
 私のすべてを焼き尽くすのですね。
 熱い霧が私を包む。私を溶け込ますように。
 心も肉も、あなたのために打ち震え、
 喜びは思考を占めていく。
 千匹の豹よりなお速く、一万の獅子よりなお強い、
 あなたの強奪が私を掠っていきました。
 口づけを退かないでください。
 激しい大火と、稲妻の吼える吐息を私に与えて。
 たとえ私のすべてを焼き殺そうとも、
 私を支えるのはあなただけなのです」
423名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:51:26

b.「瞼が開く。気を失っていたよう。空には月が昇り、私と、胸の上に
眠る少女を銀の光で照らしている。シルク、起きろ。こんなところに
眠ってはいけない。ただでさえあなたの本体は弱いのだから」
s.「ベラドンナ、私は起きました。夢の時間から覚めてしまいました。
創造主の殺め手よ、夜の月が昇っています。今日という日が終わって
しまったのですね。これからまた、争わなくてはならないのですね。
私の恋人。口づけを交わした人よ」
b.「そうかもしれない。私は寄生生物たちの敵だから。再び相見える時は
敵同士として、互いの命を奪い合うだろう」
s.「なら今ここで殺して下さい。あなたの拳銃で。どうせ死ぬのであれば、
仕合せのなかで死にたい。月の光の下、あなたの胸元で息絶えたい……」
b.「揺れた瞳を見せるな、シルク。叶わない望みを訴えないで。
私にできようはずもないことを……」
s.「知っていたのです。私は、この悲しみが訪れることを。喜びの後には、
深い悲しみが必ず来るのだということを。ベラドンナ、悲しまないで下さい。
424名無し物書き@推敲中?:05/02/20 21:59:29
こんな話を知っていますか?
 狙公というヒトがかつてこの地上いたそうです。その人は猿をたくさん
飼っていました。しかしある時、猿たちの食費が足りなくなり、猿たちに
次のようなことを相談しました。
 曰く。今は朝に四つ、夕べに四つだが、これを朝に三つ、夕べに四つの
餌に変えようと思うがいいか。さて、猿たちは狙公の言葉に抗議しました。
餌が減るのはいやだ、というのです。そこで狙公はまた、次のような提案を
しました。朝に四つ、夕べに三つならどうだろうか、と。
 狙公は猿を見ました。猿は喜んでいるようです。しかし猿の瞳にわずかな
寂しさがよぎるのを見、はっと気がつきました。彼らは自分たちが、もうすぐ
完全に餌を貰えなくなるのを知っていたのです。それゆえ猿たちは、擬似的な
繁栄で心を和ませるより、衰退の姿を望んだのでした。
 私もこの猿たちと同じです。どうせあなたに殺されるのであれば、喜びの後の
悲しみで死にたい。悲しみの後の喜びの中で死ぬよりも。残酷な生の後、幸福な
死を迎えるより、幸福な生の後に残酷な死を迎えたい。こんな風に考えて、
あなたを巻き込む私は、やはりただの寄生生物なのかも知れません」
b.「そう。ただの寄生生物。だけど、私の大切なシルク」
s.「ベラドンナ」
b.「別れる前に言い残すことはないか? 私にはある」
s.「あります。きっとあなたと同じ言葉を」
b.「そうか。では私から先に言わせて貰うとしよう――」
s.「否、私が先です――」

sb.「「いつまでもあなたを、愛している」」

(ベラドンナ、自宅へ帰りシルクと別れる)

欠:(scene12「早朝・逝怪梟」scene13「昼間・善意打破死」scene15「深夜・陣墓兆」
scene16「早朝・寒堕」scene17「昼間・塔恐」scene18(final)「深夜・光巨」)
425名無しさん@ピンキー:05/02/23 01:10:51
職人さんいらっしゃったー!(・∀・)
以前書いていた方ですよね?おかえりなさい待ってたよ!
426名無し物書き@推敲中?:05/02/25 22:45:34
転載しときます。

515 名前:名無し物書き@推敲中?[sage] 投稿日:05/02/16(水) 00:28:05
朝、学校に行こうとしたらいつも使っている道が工事中のため通行禁止に
なっていた。仕様がないので、迂回路となるガードレール下を通ることにした。
薄暗いし人通りも余りないので正直そこは通りたくないのだが仕方ない。
やはり、人は少ない件のガードレール下。
私は自然と足早に歩いていた。
「そこのあなた!そうボブカットの眼鏡かけたそこの君!」
すると、何やら妖しげな辻占いに声をかけられた。ておうか名指しされた。
「すいません、急いでますので」
無視すればいのに、私は丁寧に詫びを入れて歩き去ろうとした。
すると、その辻占いの人――怪しさ極まりない紫色のフードを目深に被って
はいるがまだ若い女性のようだ。は大声で
「貴女!300円で操失うことになるわよ!分かった!?」
などと大声を張り上げた。うわー周りの人こっち見てるよ恥ずかしい!
私は恥ずかしさの余り駆け足で学校へと向かうことになった。
余計、恥ずかしい行為だというのは分かっているが、こればかりは自分で
もどうしようもない性質なのだ。

昼休みになって、私は財布を忘れてたことに気が付いた。
その事を仲の良い友達に話したら、彼女は満面の笑みで
「いいよ。いいよ。内藤ちゃんは良い子だからねぇ。今日は
あたしがおごっちゃる!」
と気前の良いことを言ってくれた。それで、私が喜んでいると
「た・だ・し・昼食は私と二人っきりで屋上で摂ること〜♪」
と、条件を付けてきたが私は気にしないことにした。
300円でサンドイッチと飲み物を買ってもらった私は・・・・・・
誰もいない屋上で友達の突然の愛の告白と共に・・・・・・
操奪われました・・・・・・私も彼女もことが好きだったから
別にいんだけど、私の操は300円かと思うと・・・悲しくなりました。
427名無し物書き@推敲中?:05/02/26 00:44:34
>悲しくなりました。
気にすることないよ。
428名無し物書き@推敲中?:2005/04/21(木) 22:57:02
おだてられたので、書いてみました。

rev. 1/2
突然ベッドに押し倒された。
彼女は上目遣いで私を見つめてくる。
私も彼女を見つめ返す。
彼女は微笑む・・・

時折思う。
何でこの娘はこんな自分を好いてくれるのだろうと。
なんでこんな笑顔を向けてくれるのだろうと。
この微笑に、彼女の言葉に、私はとても救われている。幸福感を与えてくれる。
この前彼女に聞いてみたことがある。彼女は少し困った顔をして、
それからはにかみ微笑むだけだった。

ゆっくり顔を近づけてくる。
そっと唇を重ねてくる。
耳元でささやいてくる。「好き。」
顔を胸にうずめてくる。
私は彼女を抱きしめる。儚いものに触れるように。
私は髪を、背中をなでる。恋人同士が、するように。

429名無し物書き@推敲中?:2005/04/21(木) 22:57:40
つづき

寝息が聞こえてくる。
起こさないようにそっとベッドに寝かせる。
自分も添い寝する。制服に皺ができちゃうな。
彼女の無防備な寝顔がすぐ側にある。
彼女の頬に手を触れた。
温かくて、柔らかい。
彼女が身じろぎする。手から伝わる温かさを感じるたびに、幸せがこみ上げてくる。
伝わる温度が、感触が、この気持ちは真実なのだと教えてくれる。
彼女の頬に、手を触れたまま、
私はそっと、目を閉じる。
温かさと幸せが、逃げないように。
彼女がずっと、好いていてくれるように。
願いながら。

bgm."HAPPY DAYS?" Garnet Crow
430名無し物書き@推敲中?:2005/04/21(木) 22:58:36
nor. 2/2
頬に温かい感触がした。これはきっと彼女の手。
やさしく大事に触れてくれる、私の大好きな人の手。
目が覚めたけど、目は開けない。まだこのままで、いたいから。

彼女は私に良く触れてくる。
髪や頬や背中や手に。
何かを感じ取るように。
その度私の中に暖かいものがこみ上げる。
ちょっとだけむずがゆく、とってもあったかい幸せな感じ。

彼女と出会ったのはひと月前。
私はそのとき周囲から孤立していた。
両親やクラスメイトとすれ違い、私は彼氏も突き撥ねた。
何もかもが嫌になり、憂鬱に思いながらも学校に向かっていたそんなとき。
私は彼女とぶつかった。
彼女は平謝り。私もびっくりして頭が真っ白になっていて、たどたどしく謝った。
よく見ると彼女も同じ学校の制服。しかも同じ学年。隣の隣の隣のクラスだと後で知る。
その日は彼女と駅のホームで、校門で、たびたび会った。
教室前の廊下で会ったとき、さすがに吹いた。大笑いした。
それ以来一緒にいる時間が増えていった。
私は彼女に惹かれていった。彼女と話していると暖かかった。
何かが溶けてく感じがした。
それ以来だんだんと両親やクラスメイトとうまくいくようになり、彼とは完璧に別れたけど、良い友人になれている。
431名無し物書き@推敲中?:2005/04/21(木) 23:00:40
つづき

彼女は前に聞いてきた。何で自分を好いてくれるのかと。
答えに困った。ただ助けてくれただけじゃないから。

目を開けてみると、彼女が寝息を立てていた。
私も彼女に手を伸ばす。頬にそっと触れてみる。
あの時感じた暖かさが伝わるように。
私の想いが伝わるように。
願いながら。

bgm."Close to me…" I`ve sound vo.KOTOKO

お目汚し済みませんでした。
もうしません。
百合小説スレpart3 133でした。
432名無し物書き@推敲中?:2005/05/30(月) 23:59:24
キュン、としますた
433名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:17:58
投下します。タイトルは『夏の日』
434名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:21:08
 祖母の家の縁側が好きだった。
 ひろびろとしたそこで、スケッチブックを広げて絵を描くのが好きだった。
 私が当時住んでいた家は、典型的な公団住宅で。縁側と最も類似しているはずの我が家のベランダは、エアコンの室外機や物干し台に占領されていた。とてもじゃないけれど、人が長いこといられる場所じゃなかった。
 だから、夏休みや冬休みに祖母の家を訪れるのがとても楽しみだったのだが、この年は違っていた。
 家族三人で行くはずの帰省は、その年は一人だけで行くことになった。
 理由はありきたりで、両親が離婚について話し合うため。私は蚊帳の外。子供なのに。子供だから。
 私はそのことに薄々気付いていて、ひどくすさんだ気持ちを抱えて。……だから、あんなことをした。
435名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:23:21

 七月のうちに宿題をほとんど済ませていた私は、やることもやる気も無くて。ただぼうっとスケッチブックに向き合っていた。
 おじさんもおばさんも畑に出ていて、昼過ぎにならないと帰ってこない。
 祖母は大正琴の集いとかで、昨日から二泊三日の旅行に出ている。
 年上のいとこたちは皆、それぞれ部活とか夏期講習とかで出かけている。
 皆、一人でやって来た私にどこか気を遣っていて、それはありがたい反面気詰まりで。
 今こうやって一人でいられるのは、楽だった。

 蝉の鳴き声が止み、風が縁側を通り抜けて風鈴を揺らす。
 刺すような日光はここまでは届くこともなく。届いたとしても、庭先の樹に遮られオリーブグリーンに染まった光の欠片だけ。
 大好きな縁側で、穏やかじゃないのは、私の心だけ。
 画材箱から適当に引っ張りだしたソフトパステル。これまた適当に一本取って、見もせずに線を引く。落書きにもならない、ただの線。一本。二本。三本。四本。
 線が何かを形作りはじめて、それが何であるのか見極めようとしたその時。肌色の線の集合体に影が射した。見上げれば、細い腕。腕が下げているのは竹竿とバケツ。さらにその上にはよく日に焼けた顔。
436名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:24:57
「アイちゃん、アメザリ釣り行こー!」

 マコト。一つ年下の、いとこ。たしか今年中学校に入ったはずなのに、やたら子供っぽい、いとこ。
 子供っぽいくせして、何か家族から聞いているのか、やはり彼女もどこかいつもと違って。
 イライラする。
 イライラが、そのまま口をついて出た。

「行かない」

「じゃ、明日。明日一緒に行こ。すっごい穴場見っけたんだよ。でっかいのがわさわさたくさんでさあ」
「一人で行けば」

「アイちゃんを連れてったげたいんだよう」

 可愛らしく口を尖らせるのは、本気で拗ねてないときのマコトの癖だ。こちらの気を引こうとする声、仕草が、ささくれた神経を逆なでする。
 別にマコトのことは嫌いじゃないし、何度も一緒に遊んでる。ザリガニ釣りも嫌いじゃないし、蝉取りも、フナ釣りも。こっちでしか出来ない遊びはどれも新鮮で面白くて好きだ。
 けど、今日は、違った。
 トゲトゲした何かが私の中にずっと溜まっていて。それは、私を傷つけ、また他にも獲物を欲しがっていた。
 傷つける相手を、欲しがっていた。

「いいからほっといてよ」
437名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:26:18
 吐き捨てるように言ってやっても、マコトは離れようとしない。それどころか私の隣であぐらをかいて、てこでも動かない、という風にしてみせる。
 こういうところが、いつもと違う。
 私が行かないと言えば、マコトはそれにおとなしく従った。たとえば一人で遊びに行ったり、もしくは絵を描く私の隣で、マンガを読んだり宿題をしたり。特に、私が一人になりたいサインを出しているときは、近寄ろうともしなかった。
 なのに。
 このサインがわからないほどバカでも鈍いわけでもないはずなのに。
 マコトはなおも言い募る。

「アイちゃんが家ん中好きなのは知ってるけどさあ、ウチ来てからずっと外出てないじゃん。たまには外で遊ぼうよー。なんつーのほら、キブンテンカンってやつ?」
「私はいそがしいの」

「なんもしてないじゃんかー」

 うるさい。
 不満気な声を聞き流しながら、手元に目を落とす。
 スケッチブックに曳かれた、いくつもの線。肌色の、線。
 私が握っていたパステルの色は、318番。ここのメーカーのパステルには色ごとの名前はついていなくて数字だけなんだけど、あえて絵の具の分類に当てはめて名付けるなら、パステルエナメル。いわゆる、象牙色。
 どうしてこんなことを思いついたのかわからない。
 でもたぶん、それは。
 マコトの着ていたタンクトップ。
 肩口からのぞく、パステルエナメルのせい。
438名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:29:04
「じゃあ手伝って」
「え、なになに」
「モデルになって。絵の」

 おおモデル、と妙に感心した口調のマコト。バカ。すごいバカ。今から何をされるのかも知らないで。

「ね、ね、ポーズとかとるの? グラビアみたいな? あたし胸あんま無いよー?」

 ふざけて薄い胸を強調する格好をしてみせて、笑う。そんな軽口、すぐに言えなくなる。

「脱いで」
「へ?」
「脱いで。ヌード描くから」

 ただでさえ丸い目をますます丸くさせてマコトは絶句する。そりゃそうだろう。
 いくらマコトでも、これが嫌がらせだってことくらいわかるはず。
 脱げっこない。そう、私は高をくくっていた。
 なのに。

「わかった。脱ぐ」

 マコトは立ち上がり、タンクトップの裾に指をかける。

「それでアイちゃんが……なら、脱ぐよ」

 マコトが何を言おうとしたのか、声が小さくてきちんと聞き取れなかった。
 聞き取れたのは私の名前と、脱ぐという宣言。
 白地にオレンジのロゴの入った服がめくられてゆく。ブラどころか、スポーツブラだってまだの上半身にはタンクトップ以外身に付けていないから、息を飲む私の目の前で、あっと言う間にパステルエナメルが露わになった。
 まさか、本当に、脱ぐなんて。
439名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:30:49
 命令したのは私なのに、その結果に唖然とした。こうやってマコトの裸を見る事なんて、別にお風呂では珍しくもないのに。なんでか目が離せない。
 裸の上半身を晒して立つマコト。恥ずかしいのだろうけど、両手は下ろしたままどこも隠そうとしない。たぶんそれはマコトの覚悟。

「あのっアイちゃん」

 か細い声に私は放心を解き、マコトを構成する色たちを一つ一つ目で追ってゆく。
 短い髪は烏の濡れ羽。日に焼けた腕や肩、顔は琥珀色。日に晒されない胸や腹はパステルエナメル。胸の先や膝の治りたての傷跡は桜色。
 ざっと手持ちの画材を確認した。だいじょうぶ足りる。もっと他の色も使いたいくらいだ。
 視線をマコトに戻す。
 日に焼けた頬でもわかるくらい赤面してるマコトは、動こうとしなくなっていた。
 だから私は続きを命令する。

「下も」

 声にマコトの肩が震える。何をすればいいのかわかってるマコトは、目を合わせないまま、ハーフパンツを一気に引き下ろした。
 ハーフパンツと一緒に下着も脱いだのか、もうマコトの肌を隠すものは何一つとして存在しない。
 まだふくらみかけてもいない、肉付きの薄い、子供の身体。まだ八月に入ったばかりなのに、くっきりと水着の跡が焼き付いて、肩口と足のつけねの境目がよくわかる。足と足の間。マコトのそこはつるつるで、やわらかそうで、触ったら壊れてしまいそう。
 パステルを握る手に不自然な力がこもる。蝉の声は聞こえない。風鈴の音も、まったく。
440名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:32:31
 軽口で沈黙を破る。

「マコトのつるつる」

 私の言葉を受けて、これ以上赤くならないと思っていた顔がさらに赤くなって、

「あ、アイちゃんだって、正月一緒にオフロ入った時生えてなかったじゃんかっ」
「お正月からどれだけたったと思ってるの。ちゃんと生えました」

 嘘だけど。
 緊張でがちがちに強ばったマコトに声をかける。

「楽な姿勢でいいから。緊張しないで」

 裸になれ、なんて言ったくせに。我ながらずいぶん勝手な言いぐさ。喉の奥で笑いを、胸の中で興奮をそれぞれ圧し殺しながら、さっきの線にどんどん描き足してゆく。
 目的を持たずに描かれたはずの線たちは、あつらえたようにマコトの身体にぴったり合った。
 力を入れてひいた鋭角的な線は固そうな肘に。
 ただまっすぐな線は向こう臑に。
 緩やかに微妙なカーブを描く曲線は小さな胸に。
 一枚。また一枚と描き上がり。
 生まれたままの姿のマコトでスケッチブックの空白が埋められて。
 最後のページをめくったところで、私はようやっと筆を止めた。
441名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:34:44
「ぁ……」

 心臓の音が、うるさい。体育でマラソンした後みたいに息が荒い。

「は……はは」

 思えば。
 ずいぶん久しぶりに、筆をとった。
 もうずっと絵を描いてなかった。
 毎日バカみたいに絵を描いてたのに。
 夏休みに入ってから、暇は売るほどあるのに。
 両親の不仲に気づいた頃からずっと。
 描いてなかった。
 まだ、心臓がおさまらない。
 もっと、って言ってる。
 もっと描きたい。まだ描きたい。たくさん描きたい。描きたい。描きたい、描きたい、描きたい!

「ぁは、はは、」
「あ、アイちゃんどうしたの?」

 硬直の解けたマコトが、恥ずかしさも忘れておろおろと私を窺う。笑いが止まらない。なんて――なんて絵描きバカなんだろう私は!
 わめきたくなる熱さとは逆に、こんなにも、心は軽い。
 全部描いてしまって。私の中のもやもやを全部出してしまえば。
 きっともっと軽くなる。
 でもスケッチブックに余白はもう無い。いや、ある。まっさらな白じゃないけど。余白が。そこに。

「ね、マコト」

 しみ一つない、パステルエナメル。

「そこに、今度は横になって」
442名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:36:47
 私の今度の命令に、またマコトは応えてくれた。

「……うん」

 従順な応えに嬉しくなりながら、私は画材の詰まった箱をひっかき回して水性絵の具を取り出す。マコトに似合う色を選んでいると、

「それでアイちゃんが笑ってくれるんなら、なんだってするよ」

 さっきは聞こえなかった言葉に似た言葉が、きちんと耳に届いた。え? と顔を上げると、困ったような笑っているような、泣いているような顔のマコト。

「ウチに遊びに来てからさ、ずうっとムッとした顔のままだったんだよアイちゃん」

 ぺたぺたと畳の上を進んだ裸足が投げ出される。無防備に横たわる身体。木漏れ日がすべすべしたお腹に複雑な模様を映す。

「遊びに誘っても、おっきいスイカあげても、何してもダメだからさ。どうすればいいのかわかんなくなって。あたしバカだし。だから、アイちゃんがしてほしいことしたげたらいいのかなって」

 寝そべった姿勢で私を見据える瞳。ヘイゼルが強い光を伴って。さっきまでの絵に、瞳を描き入れてないことに気づいた。

「だから、いいよ。それでアイちゃんが笑ってくれるんなら、なんだってするよ」

 嬉しい。でいいんだと思う。今私の心を占める感情は。

「マコト……私、私……」

 私は。
 この高ぶる感情を思い切り。
 マコトの身体にぶつけた。
443名無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:38:02

 強者共が夢の跡。所行無常の鐘が鳴る。……授業でやったのとなんか違う気がする。
 まあ、ともかく。下に何にも敷かないで水性絵の具なんて使ったら、こうなるに決まってる。
 飛び散る色。色。色。
 マゼンタ、ミントグリーン、牡丹、プルッシャンブルー、山吹色。
 畳の若草色を隠すいきおいで茶の間にぶちまけられた色彩の暴力。
 全身ボディペインティングされたマコトと二人、顔を合わせて共犯者の笑みを交わし合う。
 誰かが帰ってくる前に、きれいにしなきゃ。
 せめておじさんおばさんが帰ってくる前に。
 雑巾で隅から隅まで拭いて茶の間をきれいにしたら、一緒にお風呂に入ろう。嘘がばれるけど、まあいいや。
 お風呂から上がったら……ザリガニ釣りにでも、行こうか。

 【FIN】

444無し物書き@推敲中?:2005/07/05(火) 00:41:38
季節的にちと早いですが、保全代わりにどぞ。
感想、批評等々お待ちしとります。…ヒトいねくてさびしっすけど。
それではお目汚し失礼しやした〜(シモテハケ)

445名無し物書き@推敲中?:2005/07/06(水) 20:37:45
>433-444
読んだ。
アイが自分より1つ年下のマコトに、ちゃん付けで呼ばれてるのは何かいいかも。
入浴シーンがなかったのは残念。

この後、夏休みが終わるまで毎日2人はヌード描き・ボディペインティング・入浴を
繰り返していた、ということでいいのかな?(w
446名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 00:29:39
読んだよー
あやういけどさらっとしてて、いいね
447名無し物書き@推敲中?:2005/07/28(木) 00:15:15
ども、444です。感想ありがとうございます。
>445氏
申し訳。>入浴シーンがなかったのは残念。
でも書きたかったのはあくまで視姦(違)シーンなので、やると蛇足になるかのうと。
だいち自分、エロ書いてもエロくないんだ…orz
>446氏
せんきゅうです。あやうい、なんてステキな言葉で文評価されたの初めてっす。

また何か書いたら投下するので、その時はよろしくどうぞ。
448名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 14:01:32
氏ね

までヨンだ。
449名無し物書き@推敲中?:2005/09/28(水) 01:10:11
保全代わりに投下します。
タイトルは「秋の夜長に」
450名無し物書き@推敲中?:2005/09/28(水) 01:13:40
 映画見たい、と言ったのはいずみで。
 ケータイの電光表示を確かめて私はため息をついた。

「いずみ、もう11時」
「えー、レイトショーとかないの? 昭子そういうのくわしーでしょ」
「だから、ない」

 そう。無いことを私は知っている。近々大作の発表を控えたシネマ界は、そのためだけのための準備に余念が無い。

「だから今日はやってない」
「え〜。みーたーいー」
「頭悪そうな喋り方やめて」
「つまーんなーい」
 そう、つまらない。

 そんな夜、無聊を慰めてくれるのは。
451名無し物書き@推敲中:2005/09/28(水) 01:14:45
「ビデオでもデーブイデーでもいーからさー。ないのー?」

 やれやれ。
 ついさっき火をつけたばかりの煙草を灰皿に押しつけて、私は立ち上がる。

「じゃ、行きましょ」
「え、どこに?」
「つたや」

 さすがにそろそろやばいけど、まだギリギリ開いている時間だ。近所のレンタルショップの名を上げた私に、いずみは。

「じゃ、おねがい。わたしフランス映画がいーな」
「……何、行かないの」

 我ながら頬がひきつるのを自覚しつつ問うと、

「ん、昭子オススメのやつ待ってる」
 とりあえず一発殴ってやって、私はアパートを出た。
452名無し物書き@推敲中:2005/09/28(水) 01:17:46
 暗い。
 ぽつぽつと点る街頭を頼りに原付を飛ばす。
 さすがに若くてきれいな(誇大広告)女子大生が出歩くには、不向きな時間帯であるが。この速度では不埒な真似をする前
に行き過ぎてしまう。
 それでも店の明かりが見えたときは安堵した。
 適当にいずみが好きそうなアクション物と、自分の趣味の恋愛物をレジへ持ってゆく。顔なじみの店員が苦笑しながらレジ
を打ってくれた。いつものことだということを彼も知っているのだ。

「いずみさんですか?」
「まあね」

 交わす言葉はこれだけ。軽く手を振って挨拶し、店を出る。
 外では、まだ時期には早い虫の声が天然の風鈴のように鳴り響く。
 元通りの帰り道を辿って部屋へ帰ると、殊勝にもいずみが飲み物やらつまみやらを用意して待っていた。青いパッケージを
投げてやると、ありがとうも言わずにいそいそとDVDデッキ代わりの家庭用ゲーム機を起動させ、さっそくセットしだす。その
他の雑酒をプシリと開けて、床に座ったままソファーにもたれた。

「何、それから観るの?」
453名無し物書き@推敲中:2005/09/28(水) 01:21:53
 テレビに映し出されたのはキッチュでポップな、と何かの雑誌で評されていた恋愛映画。んー、と返事なんだかなんなんだかわからない声をあげて、いずみはベストポジションに納まった。
 テレビの真ん前、ソファー独り占め。あぐらをかくと、ブルーのペディキュアが良く目立つ。もっと色気のある椅子だといいのに。たとえばエマニエル椅子みたいな。あれに横座りして。でもそれじゃあペディキュアが見れない。
 流れる沈黙。いや、異国の言葉で囁かれる愛の言葉と、いずみがポテチを食べる音が、六畳間に響く。

 しばらくして。
 私は字幕版の選択が失敗だったのを思い知る。細かい字を目で追う、大変神経を使う行為に目頭が疲れを訴えてくるので眼鏡を外した。ぼやけた視界の端で、いずみがこちらを見ているのに気付く。

「何?」

 問うても何も返らない。その代わり生暖かい身体がずるりとのしかかってきた。

「だから、何」

 これが猫だったら、喉でも鳴らしているんだろうか。床に押し倒されながら思う。顔は逆光で見えない。

「昭子、さ。なんでいっつも字幕借りてくるの? 字幕読むのつらいくせに」

 俳優自身の声が聞きたい。そう答えたのはこれで何度目だろう。

「……私もあんたに聞きたいことがある。なんでいつも途中で飽きるくせに、ビデオなんて観たがるの」

 ビデオ観るよりビデオ観てる真剣な顔の昭子見る方が好き。と、答えられたのはこれで何度目だろう。
454名無し物書き@推敲中:2005/09/28(水) 01:25:14
 キスされながら、思う。
 いずみの映画見たい、は。
 セックスしたい、とほぼ同義だ。
 わかっていて私はビデオを借りてくる。
 過去に観たことのある、字幕版のものばかり。

「タバコの味きらい」
「うるさい」

 フランス語が聞こえる。こういう時習ってなくて良かったとしみじみ思う。台詞の意味なんてどうでもいい。歌にしか聞こえない。歌にしか聞こえない。

 【FIN】
455名無し物書き@推敲中:2005/09/28(水) 01:29:01
映画好きなのに字幕版観れないって不憫だと思う。

…さておき。1レス改行間違え申し訳ない。感想、批評お待ち申し上げる。
それではシモテハケ〜。

456名無し物書き@推敲中?:2005/10/10(月) 21:18:37
待ってくれ、話を聞いてくれ。
感想マンドクセってワケでは断じてなく、最後にこのスレ見たのが
一ヶ月以上前だったってだけなんだ。
こんな感じで、カップルの日常をまったり切り取っただけ、
そんな作品が、百合分野でももっと増えてくれないかなぁ。
457名無し物書き@推敲中?:2005/12/14(水) 05:30:37
保守
458名無し物書き@推敲中?:2006/01/24(火) 15:27:04
保守
459名無し物書き@推敲中?:2006/02/06(月) 10:41:33
あげ
460名無し物書き@推敲中?:2006/02/26(日) 21:13:13
すんません。どなたか「黒い百合」スレ保存しておられる方
アプしていただけないでしょうか?
29チャンネルでもみつからなかったもので
461名無し物書き@推敲中?:2006/03/10(金) 21:35:04
それにしても、無名草子さんたちとは、さぞやすごい作家先生の匿名書き込みなんでしょうね。
作家なんて才能が全てだから、津井ついみたいに、いくら努力したって駄目なものは駄目ですよ。
私なんか、早々に見切りをつけて趣味の世界で細々ですから。
          小説現代ショートショート・コンテスト優秀賞受賞 阿部敦良
462名無し物書き@推敲中?
>>460
ははーんさてはテメー百合スレ住人じゃないな?
百合スレ住人はYchを重宝する。
ttp://lilych.fairy.ne.jp/lilylog/test/read.php/bun/1071499128/