(o^v^o) ぱにぽに de 学級崩壊 (*゚∀゚*)4日目

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1マロン名無しさん
このスレはいじめやエログロなど、ぱにぽに及び関連作品のダークな話をするスレッドです。
不快感を覚えたり、キャラクターのイメージを損なう表現がある可能性がありますが、ご了解の上でご覧下さい。

【書き手の方へ】
ぱにぽにのダークな話であれば必ずしも学級崩壊にこだわらなくても結構です。
ただし露骨な性描写はまとめサイト収録時に修正されることがあります。
なお、最初に「人死に・グロ・エロ」の有無を書いておくと喜ばれます。

【まとめサイト】
ttp://www.pphoukai-matome.com/

【前スレ】
(o^v^o) ぱにぽに de 学級崩壊 (*゚∀゚*)3日目
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1145891881/

【関連スレ】(21禁です)
ぱにぽにエロパロスレッド5時間目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1150819664/
2マロン名無しさん:2006/07/07(金) 23:48:07 ID:???
>>1さん乙!
そして2ゲト
3マロン名無しさん:2006/07/08(土) 00:01:14 ID:???
乙。
みんなも乙するなら新スレにしようよ。
4マロン名無しさん:2006/07/08(土) 00:01:52 ID:???
前スレどうする?
もう埋めるか?
5マロン名無しさん:2006/07/08(土) 00:13:17 ID:???
乙でやんす。
>>4
ログをとる都合上、新規にSSを投下するならこっちの方がいいだろうな。
むこうは…議論の場にするとか?
6マロン名無しさん:2006/07/08(土) 00:15:11 ID:???
前スレ、
まだ805レスくらいだし…埋めはちょっと早いか・・・
7マロン名無しさん:2006/07/08(土) 00:16:09 ID:???
>>1鬱(乙)
このスレ見てると、自分も何かSS書きたくなるな。
夏休み使って書いてみようかな…。
8マロン名無しさん:2006/07/08(土) 01:01:43 ID:???
>>7
ぜひ!!
書いてみて。
9マロン名無しさん:2006/07/08(土) 22:15:31 ID:???
敢えてこっちに書くが。
バトルロワイヤルはどうなったの?もしや作者失踪ですか?
続きが気になるのだが。
10マロン名無しさん:2006/07/09(日) 02:09:31 ID:???
作者失踪とか言うなよ。
書いてる途中かもしれないじゃん。
俺たちは待てばいい。
119:2006/07/09(日) 02:25:40 ID:???
>>10
うむ。さすがに失踪は失礼な物言いだったな。すまん。
12マロン名無しさん:2006/07/09(日) 09:13:56 ID:???
新スレ立てた以降もまだ向こうに投下され続けてるね。
こっちが雑談専用みたいだww
13翼の折れたエンジェル:2006/07/09(日) 20:50:27 ID:???
るるるるるる、といきなり携帯の電子音が俺のズボンのポケットから鳴り響き、刃が喉の寸前のところで止まった。
自分のポケットへ視線を動かし、ぼんやりとその電子音を聞いた。
タイミングが悪いにも程がある。何で自分が死のうとしてる時に都合よくかかってくるんだ。
俺は電話に出る気も無いので、包丁を床に置き、電話が鳴り終るまでそのまま待つことにした。
――るるるるる。
――るるるるる。
――るるるるる。
――るるるるる。
長い…。鳴り始めて、1分以上が経っている。
よほど俺に電話を出させたいんだな。
出る気はなかったんだが、こうも鳴り続けると埒が明かないので俺はしぶしぶポケットに手を突っ込み
携帯を引っ張り出した。
携帯のフリップを開き、画面を覗くとそこには――
『瀬奈 雪絵』
と表示されていた。
瀬奈先輩が俺に電話をかけてくるときは、委員長委員会の事についての話ぐらいだ。
こういう時でもこの人は、委員会の事で何か話をしたいんだな。
はぁ、と溜息をついて俺は通話ボタンを押し、耳に携帯をあてた。
「もしもし、瀬奈先輩…?」
『もしもし、桃瀬君?』
「どうしたんですか?何か俺に用ですか?」
『桃瀬君、私が今から話すことをちゃんと聞くのよ』
――何なんだ…?
14翼の折れたエンジェル:2006/07/09(日) 20:51:20 ID:???
『絶対に途中で電話を切らないで、最後まで話を聞いて。分かった?』
「あ…はい……」
数秒間、不気味な沈黙が流れた。
『妹さん、残念だったわね……』
顔が硬直し、目が見開かれた。
――何故、分かったんだ…?
『…桃瀬君、しっかりして。』
自分のふっとんだ思考能力を何とか引き戻し、先輩のと会話に集中した。
「どうして…どうして分かったんですか?」
『それは今は禁則事項だから言えないわ。でも信じて。私はあなたの味方よ』
「……それで俺をどうするんですか?脅すんですか?」
――言っとくけど無駄だ。俺はもう死――。
『違うわ。私はあなたにチャンスを与えたいの。』
――チャンス?
『桃瀬君、もしその気があるなら、今から学校に来て。もちろん、家から学校まで他の人に見られないように、分かった?』
「……はい」
『じゃ、学校で待ってるからね。切るわよ』
――プツン。
一方的に切られた。
俺は切断ボタンを押し、携帯をポケットに戻した。
それから俯き、今起きたことがなんだったのか、考え出した。
――一体、瀬奈先輩は俺をどうしたいんだ・・・?
そもそも何故、つい数分前のことが分かった?盗聴か?監視カメラか?
考えれば考えるほど、どんどんと話がふくれあがり、頭がごちゃごちゃに混乱する。
15翼の折れたエンジェル:2006/07/09(日) 20:51:49 ID:???
そして、同時に自分の気持ちが自殺から瀬奈先輩の方へ傾いていくのが分かった。
正直どうでもいい。自殺しようが、刑務所にぶち込まれようが、何だろうがどうでもいい。
ただ、今は俺の行為の結果がきて、俺はこれからの事についての色んな答えを選ぶときがきた。
――結果……。
俺は腰を上げ自分の部屋から出ていき、くるみの部屋の前にきた。
――くるみ……。
むわ、と血の臭いが強いこの部屋で先ほどと――当たり前だ――変わらない光景。
俺はくるみの顔を覗き込んだ。
くるみの目は、柔らかく半分閉じて天井の方を向いていた。
「くるみ…」
俺はそう呟いた。
しかし、俺は何故か不思議と自分がそれほど動揺していないこと――そして涙一つ流してないことに気づいた。
慣れてしまったのか?人の死に?すでに人を――父親を殺したからか?
俺はそこで思考を中断すると玄関の方へ足を動かした。
父親の顔は――見たくない。また余計な事を考えるかもしれないから。
靴を履こうと俺は屈むときに、壁に掛けられてる鏡をちら、と見た。
そこには服に返り血が付いた俺がいた。
――ああそうだそうだ……。
こんな格好で外出たら、マズイじゃないか。
俺は自分の部屋に引き返し、替えの服を着た。

16翼の折れたエンジェル:2006/07/09(日) 20:52:46 ID:???
中央に丸い月が高くかかっていた。
雲ひとつ無く、綺麗な星がたくさん見えた。
俺は学校の校門前に着くと校舎を見渡した。
電気一つ点いてなく、いつもとは違う雰囲気に不気味さを感じた。
――本当に瀬奈先輩、いるのか?
俺は校門をよじ登り、身軽に飛び越えた。
「桃瀬君、待っていたわ」
いつの間にか瀬奈先輩が俺の前に立っていた。
「やっぱり来ると思った」
「先輩……チャンスとは何ですか?俺に何をどうしようとするんですか?そもそもあなたは何者なんですか?」
「落ち着いて、桃瀬君。いっぺんに聞かないで」
電話の当事者が現れ、少しだけ興奮気味に訊ねるのを先輩は宥めた。
「まずはあなたに会わせたい人がいるの。話はそれからよ」
「……会わせたい人?」
「ええ」
先輩は花の咲くような笑顔で答えた。
「校長先生よ」
――校長先生?
あのいつも仮面を被ってて、オオサンショウウオに代弁をさせているあの校長が?
「付いて来て桃瀬君」
先輩が歩き始めると俺は釈然としないまま先輩を追った。
17翼の折れたエンジェル:2006/07/09(日) 20:55:34 ID:???
皆さんの思ってるような展開になりませんでしたが
まだまだ続きます
18マロン名無しさん:2006/07/09(日) 21:42:24 ID:???
>>17
GJ!!!
なんだか凄い展開だ!一体どうなるんだ!?
まさか俗に言うデウス・マキナ方で万事解決か!!?
それとも…おおお!気になる!

畜生ッ!この俺を何処へ誘うつもりだ!!
ひょっとして…ひょっとして…
伝説のヌーディスト・ビーチ!?(あまりの展開に当事者の修以上の大混乱)
19マロン名無しさん:2006/07/09(日) 22:30:10 ID:???
>>18
デウス・マキナ方…って何?
すまん、教えてくれ。

あ、あと作者GJ。いい仕事だね。
20マロン名無しさん:2006/07/09(日) 22:32:14 ID:???
デウス・エクス・マキナでぐぐれ。
2118:2006/07/09(日) 22:45:33 ID:???
22マロン名無しさん:2006/07/09(日) 22:51:53 ID:???
ある意味「ぱにぽに」のオチってデウス・エクス・マキナだよな、いつも。
23マロン名無しさん:2006/07/09(日) 23:51:17 ID:???
アニメだとへっきーの言ってた「高山式一条」がそれだな。
24マロン名無しさん:2006/07/10(月) 00:32:57 ID:???
>>21
サンクス。「機械仕掛けの神」ってのは知ってたのだが(理由は聞くな)。
ぱにぽにはワザとこの展開に持っていってるとしか思えないな。面白いからいいが。
25マロン名無しさん:2006/07/10(月) 02:18:41 ID:???
姫子の洞察力、奇抜な発想の持ち主→推理キャラ属性と考えて…
銀河推理ネタを現在銀河考察中。

姫子「あれ〜…ちょっと可笑しいカモー…マホッ…マホホホホッ!」
都「その可笑しいじゃない!」
姫子「えー都ちゃんつまらないカモー…
だってー喫煙可能なエトワールのバイトなのに、くるみちゃんタバコ臭くないんだもーんクンクン」
くるみ「えっ…クンクン…あ、ほんとだ…」
姫子「こりゃー事件の匂いかもしれませんなぁ〜クンクン」
くるみ「どこ嗅いでるのよ姫子!」

???「………何が言いたいんだ姫子」
姫子「犯人は貴方ダーーッ! 決まったカモ〜♪」

よし、誰を犯人にして誰を殺そうか…
26マロン名無しさん:2006/07/10(月) 23:30:04 ID:???
前スレ(3日目)ってまだ容量オーバーしてないんだよね?
何とかして埋めないと書き手さんがこっちに投下しにくい気が…
27マロン名無しさん:2006/07/10(月) 23:38:02 ID:???
別にそんなこと気にしないよ。無理に埋めることはない。
28マロン名無しさん:2006/07/10(月) 23:48:27 ID:???
>>25
2日目にムーンライトラブ殺人事件ってあったな
29マロン名無しさん:2006/07/10(月) 23:55:15 ID:???
>>28
ベキペディアだっけ?
あの書き方は正直上手いと思った


真似しようとしたけど駄目だったw
30マロン名無しさん:2006/07/11(火) 00:43:37 ID:???
ウィキペディアみたいだな・・・。
31マロン名無しさん:2006/07/11(火) 16:04:01 ID:???
まあそりゃウィキペディアをモチーフにした作品だからな。
32星の銀貨:2006/07/12(水) 23:25:23 ID:???
オーストラリアの荒野を疾走するトラックの車内。
「ところで相棒、バックミラーにかかってるこの銀色のメダルは何なんだ?」
「いや、ちょっとしたお守りみたいなもんさ」
「おい、ちょっと待てよ。これ、本物の銀じゃねえか!」
「そんな目で見るなよ。昔、あるスポーツの大会でもらったのさ。そう、俺はオリンピックに出たんだ」
「オリンピック? 冗談よしてくれ。あれは選びぬかれたスポーツエリートだけが出られる大会だろうが。
お前みたいに一日中トラック転がしてる奴がどうやってオリンピックに出るんだ?」
「それもそうだよな、ハハハ。」
「わははは」
しかし、遠い地平線を見る運転手の青い瞳には、ある一日の光景が焼きついていた。
ありあまる資金で 高級ホテルに泊り、薄ら笑いを浮かべながら会場に現れる東洋人の球団。
彼らのほとんどが一年で百万ドル以上を稼ぐプロの選手だという。
若いオージー達は燃えた。そして、全力で立ち向かい、ぎりぎりの勝利を掴みとったのだ。
たいていの人間が野球というものを知らないこの国では、誰も彼らを賞賛しなかった。
しかし、胸の奥で今も燃え続ける小さな誇りとともに。今日も彼はハンドルを握り続ける
33星の銀貨 :2006/07/12(水) 23:31:25 ID:???
そんな、誇り高きオージー達の前に立ちはだかるのは

今月も野球に燃えていた桃月学園の少女達・・・
34マロン名無しさん:2006/07/13(木) 01:49:51 ID:???
そのコピペは好きだ
35マロン名無しさん:2006/07/13(木) 07:27:48 ID:???
日本であまり知られてないスポーツにハマッて
誰も注目しないまま自分達の誇りの為に世界で戦う話に
36マロン名無しさん:2006/07/13(木) 20:17:50 ID:???
37マロン名無しさん:2006/07/13(木) 20:53:17 ID:???
>>36
こりゃ便利助かるw
38マロン名無しさん:2006/07/14(金) 01:23:20 ID:???
>>36
姫子は芹沢茜のことを茜ちゃんと呼んでいたはず。
何巻かは忘れたが、芹沢が来栖にぶつかって水をこぼす場面でそう呼んでいた。
誰が言ったかはわからない場面だが、話の展開上姫子がいっているはず。
39マロン名無しさん:2006/07/14(金) 01:29:23 ID:???
>>38
アニメだと「芹沢さん」だな。姫子が芹呼ぶ場合。
例→番長の回、無理やり教室に連れて来られた時とか?
あと、偽ベッキーの回とか呼んでたような…確かそうじゃね?
今さっき前スレでも原作とアニメでは呼び方違うけど、どうするよ?って話になってたお。
40前スレ764 The most calamity :2006/07/14(金) 01:45:39 ID:???

玲「おい!ベッキー、開けてくれ!」
6号「先生お願いします。一緒にお話ししてくれませんか?」
教室から飛び出したベッキーは、案の定研究室に閉じこもっていた。入った姿は誰一人として見ていないが、
普段かける事の無い、かける必要の無い鍵がかかっているのが何よりの証拠だ。
くるみ「どう、玲?」
玲「いや…出てきそうに無いな…」
都「そりゃそうでしょ…あんなこと言っちゃったらねぇ…」
研究室の扉の前で意気消沈する一同。その場から動かないのは、ベッキーが気をかえて出てきてくれないか
という僅かな希望にすがる気持ちからだった。
一条「引っ張り出してきましょうか?」
何の表情の揺れも見せずにとんでもない事を呟く一条。恐らくそれはたちの悪い冗談でもなんでもなく、
ただ正直に自分に出来ることを述べただけなのであろう。
6号「そんなことしたら先生もっと怒っちゃいますよぅ」
一条「そうですか、それは残念です…」
そんな一条の提案は即座に否定される。というより、6号以外には相手にされていない。
玲「…まぁとにかく、暫く時間を空けてみるしかないだろうな。そうすればベッキーの気持ちも
  少しは落ち着くだろうし…」
都「ぅ〜ん…やっぱりそれしかない、か…」
無理に出てこさせても逆効果だという結論に達する玲。いや、本当ならここでもう少し粘って
いても良かったのだが、今はどうしても気にかかることがもうひとつあった。
くるみ「姫子、当分はベッキーに会話もしてもらえないかもね…」
玲「それなんだが…そろそろ姫子の様子を見に戻らないか?…あいつ、相当ダメージ受けてる
  だろうからな…」
41The most calamity:2006/07/14(金) 01:46:37 ID:???
玲は先ほどから、教室を出る瞬間に見た姫子の姿が気にかかって仕方が無かった。
自分が示した愛情表現で相手を傷つけ、それが原因で嫌われてしまったという事実。
恐らく姫子一人ではその重圧に耐えることはできないだろう。
都「そうね、ひとまず教室に戻ってみましょ」
玲「…悪い」
歩き始めてすぐ、玲が足元に向かって呟く。
くるみ「なに謝ってるのよ、玲?」
玲「ほら、私が軽はずみなこと言わなければってさ…」
6号「玲さんは悪くないオブジイヤーですよ。これはみんなの問題です」
今回の件を一人で背負い込もうとする玲。だが、この教室の面々はそんなことを許してはくれないようだ。
都「そ、だから早く姫子の様子を見に戻るわよ」
都の言葉を最後として、一同で今度は来た道をぱたぱたと引き返す。最悪の現状から抜け出すために。

だが、これが最悪の状態だったらどれほど良かっただろうか。
これを利用しようとすることを考えるような人間がいなければどれほど良かっただろうか。
この場でベッキーをなんとしてでも説得させて、姫子と仲を直させることができていれば
どれほど良かっただろうか。
日常とはいつでも音を立てて崩れ出してしまう可能性を孕んでいる。それがリアルと
いうものであり、あるいは日常はリアルとは全く正反対に位置するものなのかもしれない。
だが、誰一人として自分が非日常的な日常に身を埋めていることに気づくことはなく、
気づこうとすることもなく、ある日突然、真の意味の日常を目にしてあまりの現実味に愕然とするのだ。
そして彼女たちの日常は崩れ去ろうとしていた。
いや、既に崩れ始めていたのかもしれない。
このときはまだ誰一人として気づかなかった。
このときはまだ誰一人として知らなかった。
これから起こる、本当の悲劇を。

4240:2006/07/14(金) 01:48:56 ID:???
とりあえず一時中断。
やっと前フリ(?)が終わった感じです。ダラダラと申し訳ない。


>>39
結構書きながらアニメ・漫画ごっちゃになっちゃうからな…
やっぱ統一した方がいいのかな?
43マロン名無しさん:2006/07/14(金) 01:58:55 ID:???
>>42
自分の書いてる作品内で統一できてればよいかと・・・
といいながら、過去に自分が書いた作品がごっちゃになってないか確認してる俺・・・。

あ、あと乙っす。続き楽しみ。文章上手くてうらやましいです。
44マロン名無しさん:2006/07/14(金) 23:26:03 ID:???
>>42
続きが気になりますGJ!!
45マロン名無しさん:2006/07/15(土) 00:41:27 ID:???
関連スレ

ぱにぽにコピペのコピペ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1137304665/

ジョジョの奇妙なぱにぽに
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1135848346/

こんなぱにぽに・ぱにぽにだっしゅ!は嫌だ!!
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1127188499/

ぱにぽに黙示録カイジ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1150091764/

バキ風ぱにぽに 略して【バキぽに】
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1149338047/

ぱにぽにサッカー
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1138623205/

ぱにぽに強さ議論スレ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1150142508/

ぱにぽにで1番かわいいの決めちまおうぜ
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1145874599/
46マロン名無しさん:2006/07/15(土) 01:28:10 ID:???
>>42
GJだ!
前フリだったんだ…今までのは…
続きも頑張ってください!
47マロン名無しさん:2006/07/16(日) 02:37:46 ID:???
3日目使いきったみたいね。

4日目本格始動か。
48マロン名無しさん:2006/07/16(日) 20:24:25 ID:???
そういえばコミケも夏は3日開催だよね。
今年は冬も3日間みたいだけど。
4日目まで来るなんてすごいなこのスレも。
49マロン名無しさん:2006/07/16(日) 20:25:33 ID:???
ついでに鬱絵も募集
50マロン名無しさん:2006/07/16(日) 23:36:58 ID:???
14日午後2時ごろ、太田区桃月の桃月学園で、1年C組担任の宮本レベッカ(11)教諭が授業中に腹痛を訴え南条総合病院に搬入されたが、16日未明、腸炎ビブリオとみられる食中毒で死亡した。
生徒の話によると、宮本さんは数日前に掃除中に発見したカニをもったいないと言って食べていたとの事で、このカニが原因と見られる。
桃月学園では太田区が設置した教育改革特区の一環として年齢に関わらず有能な人材を教師として登用しており、宮本さんはその第1号だった。

チラシの裏
南条さんが誘拐されていたがバケツマンが犯人を殺害して救出しました人命尊重の見地から報道協定結んで報じてなかったけど何か?
と書こうと思った矢先にリアルで誘拐事件が起こった
51マロン名無しさん:2006/07/17(月) 01:40:00 ID:???
>>50乙。
姫子じゃないのかw
52マロン名無しさん:2006/07/18(火) 00:52:58 ID:T/WF7IU/
>>40の続きが気になるうううううう
頑張って下さい
53The most calamity :2006/07/18(火) 01:27:53 ID:???
>>52
どもです。頑張ります。
でも…下げ進行推奨



姫子「……」
姫子は先ほどの位置から一歩たりとも動かずに、下を向いたまま思案していた。
自分が今までしていたこと全てを、ベッキー本人に否定されてしまった事実。
ただ単に愛情表現として何の躊躇いも無く及んでいたその行為全てが、自分が
一番大好きで、一番思いやってあげたかった人物に迷惑だと捉えられていたと
思うと悲しくて悲しくて堪らなかった。
いや、迷惑していると分かっただけならまだ良いだろう。それならまだ改善の
余地はある。姫子がいかに頭が悪かったとしても、それはその事実に気づかない
だけという話で、努力すれば直すことぐらいはできるのだ。
だが姫子が受けたのは、自分という存在全てが否定されてしまったという絶望。
それも自分のせいで。
しかしそこまで思いつめている姫子の瞳からは、涙が流れることは無かった。
いや、涙を流すこともできなかった、といった方が正確だろうか。あまりの
ショックの大きさに姫子は昨日とは違う種類のフリーズ状態に陥り、ただ漠然と
「絶望」が頭の中をぐるぐると回り続け、そこから抜け出せないでいたからだ。
だがそんな無限ループも、とうとう終わりを迎えることとなる。
姫子の大事な友人たちの手によって。
54The most calamity:2006/07/18(火) 01:37:41 ID:???

玲「おい、姫子!しっかりしろっ!」
姫子「……マ?」
ぼぅっとする頭の中で、姫子の意識は少しずつ覚醒する。体になにか力が作用しているようで、そちらのほうに
目を向けると肩を揺すって自分の名前を呼んでいる玲に気づいた。
玲「姫子、大丈夫か?」
姫子「玲ちゃん…」
玲の姿を確認すると、ほぼ完全に意識が外へと向けられる状態に戻った。それにより、自分がほかの面々に
取り囲まれていることにも気がつく。
都「あ、やっと気づいた」
くるみ「教室に戻ってきたら姫子固まっちゃってて、どうしたかと思ったじゃない」
教室に足を踏み入れたときに姫子は生きている感をしていなかったので多少慌てていたが、自分たちに
気づいたと分かると安堵の息を漏らす。
姫子「…わたし、ベッキーに嫌われちゃった…」
玲「……」
安心したのも束の間、その一言に完全に言葉を失う一同。慰めようにもどう言葉をかければいいのか
分からなかったし、そもそもそんな軽はずみな慰めが通じるようにも思えない。
暫くその場を重い沈黙が支配し続けたが、静寂を破ったのは以外にも姫子自身だった。
姫子「…わ、わたしが悪いんだからしょうがないヨー!ベッキーと仲直りできるようにがんばるカナー!」
いきなり声のトーンを上げて、どう見ても強がりを言っている姫子。そのあからさまな態度に、
面々は更に言葉が詰まってしまう。
玲「…姫子、無理はするな」
6号「そうです。辛かったらみんな相談にのりますから」
玲は僅かに視線をそらせながら、6号は姫子の瞳を正面から見つめながら、強がりは止めろという
意志を伝えようとする。
姫子「みんなナニ言ってるのカナ?わたしはぜんぜん平気だヨー。わたしがあんなひどいこと
   しちゃったんだから、ベッキーが怒るのは当たり前だって!」
しかし姫子は飽く迄大丈夫な振りを貫き通すつもりだ。だが彼女を知らない人間がそれを見て
気づかなかったとしても、いつも一緒にいるこのメンバーの中で、その言葉が偽りだと
分からないものは誰一人としていない。
55The most calamity:2006/07/18(火) 01:38:16 ID:???
都「姫子、痛々しいからやめなさいよ!!辛いなら素直に辛いって言えば…」
痺れを切らした都が、直接姫子の態度を指摘する。
姫子「あ、そういえば次の時間は漢字の小テストカナ?都ちゃんは勉強しなくて大丈夫?」
都「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
玲「…都」
うまく感情を表現できないために、ついつい都は口調が強くなってしまっていた。
もちろんそれは姫子のことを思っての言葉だが、姫子はこれ以上言っても恐らく
聞かないだろうし、更に無理を重ねるかもしれないと思った玲は都を止めに入る。
都「玲!」
玲「落ち着け都…。姫子、本当にお前は大丈夫なんだな?」
姫子「玲ちゃんは心配性だなー。わたしは全然大丈夫!それより漢字の勉強
   しなくっちゃ!またベッキーに馬鹿って言われちゃうヨー」
玲は少しの間思案し、都が口を挟もうとしたその瞬間、再び口を開いた。
玲「そうか…なら、分かった。はやく始めないとチャイムがなるぞ?」
姫子「さっすが玲ちゃん!話が分かるカナ!」
そう言うと姫子は机に飛んでいき、本当に漢字練習をし始める。
その“ベッキーのために”が、またどうしようもなく痛々しかった。
くるみ「姫子、大丈夫な訳…」
しばらくそんな姫子の様子を呆然と眺めていたが、はっと我に返り、玲に講義するくるみ。
玲「いや、暫くはそっとしておいてやろう。たとえ私達が言ったところで、姫子はもっと
  無理をするだけだろうからな」
その選択がいかに辛いものか知りながら、感情を押さえて述べる玲。
都「…そうね。暫く様子を見たほうが良いかもしれない」
玲の意見に、幾分か冷静になった都も賛同する。確かにこれまでの状況を見ている限り、
自分たちから迫っていって姫子が素直に応じることは無いだろう。
ならば、姫子が頼ってきてくれるまで待ち続けるしかない。玲も都も、そう判断していた。
6号「……」
くるみ「…分かった」
不服そうではあるが、6号もくるみも一応2人の意見に従うようだ。
そのなんともいえない不安でできた静寂は、現国教師であるジジイ先生が教室に
足を踏み入れるまで続いていた。
5640 中断:2006/07/18(火) 01:41:26 ID:???
とりあえず。

>>46
前フリとかそういうのは読んでくれてる人で解釈してもらえればいいと思います
私の言葉は飽く迄目安で…w
57盗まれた桃月町:2006/07/18(火) 07:45:55 ID:???
それは陽気なサンバのリズムに乗ってやってきた
謎の「そっくり人間」が桃月町をジャック!!
知らないうちに本物の桃月町民と入れ替わるという、目的不明の計画が実行されていたのだ!!


世界サンバ化計画に怯える町。
誰が敵で、誰が味方か?
そっくり人間たちの謎と陰謀とは!?
58マロン名無しさん:2006/07/18(火) 10:52:17 ID:???
一瞬ホセが来たのかと思った
59マロン名無しさん:2006/07/18(火) 13:12:33 ID:???
・姫子が「怜ちゃんのお肌が見たい」という理由で学園祭でサンバをやろうと提案
・それに猛反発していた怜が、次の日になると妙にノリノリでサンバを踊ろうと言い出す
・都はその様子に、まるで「人が変わった」ようだと突っ込む
・一条が奇妙な噂話について皆に話だす
・その一条の動作は妙にリアルで怖い
60世界サンバ化計画に怯える町 :2006/07/18(火) 20:29:16 ID:???
それは陽気なサンバ?のリズムに乗ってやってきた・・・・


ティモテー♪ ティモテー♪ ティモテー♪


「ホセが来た!!」
「逃げろ!!」
「うわー!!」
61じじい先生の日本昔話:2006/07/19(水) 22:30:57 ID:???
昔、昔、頭は良いがお金に目がくらみ学業や道徳を捨て、元手も土地も余り無いのに野良仕事を始めたホリエどんという男がおったそうな。
じゃが、大した農作業も出来ないホリエどんは大根一本も育てる事は出来なんだと。
そこでホリエどんは持っていた猫の額ばかりの土地に立て札を立て、こう札に書き殴ったと、
[ どんな物も一本植えれば十本なる畑 ]
その日から男は野良仕事などせず立て札の前に座り込んでしもうた。それが幾日か続き、横の畑の与作どんは不思議になり、
「なぁ、ホリエどん。なぁーに、しとん。」
「おお、与作どん。大根が十本になるのを待ってるんじゃ。」
「なんもせんと座ってるだけじゃ大根ばふえゃあせん。」
「いいや、増えるんじゃ。そうじゃ、与作どん、おんしゃ、大根一本持ってくれんかのう。ぼく、今、畑に種撒いたばかりじゃから出来るまで時間がかかってしまうん。」
「ああ、ええよ。一本くらい。それが十本に増えれば儲けモンじゃわい。じゃがダメじゃったらまともに田を耕すんじゃぞい。」
ホリエどんは大根を受け取るとその日の内にありっけの小銭を集め大根を買うと、夜が明ける前に9本植えてしもうた。
次の日にそうとは知らずに、おったまげたのは、与作どん。
「い、一本が十本じゃーーーー。」
腰から大根の前に屁垂れ込んだ。
「じゃからゆーたんじゃ。」
「な、な、ホリエどん、わし、わしにもこの畑使わせてくれ。な、ええじゃろ。」
ホリエどんはにやりと笑い、
「ええとも。じゃが、ここ使わすにはぼくのゆー事聞いてもらわなけゃいけん。ここは価値有る土地じゃからな。」
「どんな事じゃ。」
ホリエどんは立て札に筆を走らせた。
貸し出す土地に付き、代わりに10倍の土地を貸す事、またその土地から取れた食べ物は総てホリエどんの物。
増えた食べ物はホリエどんが総て保管し、ホリエどんから借りた土地を返した後、土地と食べ物を返還する。
「10倍も土地を取られんのかぁ。」
「なぁに、たったじゃ。たった。それにおぬしの大根を増やす代わりにぼくはその分自分の土地が使えなくなるからのう。」
「それもそうじゃ。」
62じじい先生の日本昔話:2006/07/19(水) 22:32:28 ID:???
与作どんとのその話が纏るとホリエどんの価値ある畑の話は見る見る内に村中に広がり、聞きつけた村人によってすぐさま猫の額の土地は一杯になってしもうた。
そこで止めておけば良いものを欲に目が眩み肥えたホリエどんは土地を百倍にしてしもうた。それどころか、何の稼ぎも無い子供からも駄菓子が増えるなどと称して駄菓子さえも取り上げるようになっていた。
それでも価値有る土地の噂を信じきった村人はどんどん土地を借りていったと。中には村人でもないのに昼だけ出稼ぎに来る者さえももはやなんともいえん。
御かげで、ホリエどんの土地と家はどんどん大きく成って行ったが横でずっと見ていた与作どんは一つおかしな事に気が付いたのでした。家と土地が増えたの違い、皆の食べ物が入ってる蔵は一度建てただけで一向に大きくなる気配するなったのです。
怪しんだ与作どんはホリエどんに土地を借りてる者同士で蔵の中から食べ物を一つずつ貰う事を訴えたんだと。
するとホリエどん、わんわん犬も逃げるように泣き出し、
「ぼくは皆のために貸し出したのに。こんなにも多くの人が僕を……。」
さすがにいい大人に泣かれても困る心優しい与作どんは今まで道理でいいと話を終わらせたが、しかし、その晩、
皆に渡すはずの食料で奉公人達と飲めや歌えやのドンチャン騒ぎしていたホリエどんを一部の村人が見ると不信感も強くなっていった。
さすがに怒った与作どんはホリエどんに土地を返し、今まで増やした食料を渋々されながらも返してもらったそうな。
63じじい先生の日本昔話:2006/07/19(水) 22:38:07 ID:???
こんな事が立て続けに起これば蔵の中はホントに空になってしまう。ホリエどんはこれは由々しき事体と村人を権力で押さえ込もうと村長に立候補したと。豊富な食料と価値ある土地を武器に得票を伸ばしたホリエどんじゃったが、
現役村長の亀さんの首を引っ込める事も出来なんだ。亀さんからすればしがない百姓である思い上がったホリエどんは後日その力量の差を見せてけられてしもうた。
亀さんがちょいとお代官様に耳打ちしただけで幾人ものお役人様がホリエどんの屋敷を取り囲み、ついには蔵の鍵を手に入れ、開けると驚くべき事に蔵の中には十数本の大根しかなったのじゃ。更に見張り役を立て食料を価値ある土地に植えてみたが一向に増えなんだ。
他人の土地から出来た食料を恰も自分の畑で出来た物としていた嘘がばれたホリエどんは牢に入れられたがそれだけでは正直スマンカッタ。
騙された村人は入るはずの食料が入らなくなり、ホリエどんの価値有る土地を手放そうにも利息三文猫の額の土地、価値が付かず、年貢を取り立てるお代官様にホリエどんに貸した土地や中には自分で育てた食料さえも取られていった。
その月、その村は出稼ぎ人は来なくなり、また山へ行く者、川へ行く者、海に行く者が相次ぎ大層な過疎になったそうな。
与作どんは寂れたホリエどんの屋敷を見ながら、子供子等を前に切り株に腰掛け、一服しながら、
「額に汗して働くのが一番じゃ。」
自分の蔵にぎっしりと詰まった食料を一目眺め煙管から煙をモクモク立てながら語ったそうな。


ジジイ「おしまいじゃ」


犬神「それのどこが遅刻の理由ですか?」

ジジイ「だめかのう?」
犬神「ダメですよ♪」
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1137713364/1-100
64マロン名無しさん:2006/07/19(水) 22:56:52 ID:???
ジジイ何やってんだw
65マロン名無しさん:2006/07/20(木) 14:53:49 ID:???
>>63
ジジイ最後の少ししか出てきてないしw
しかしGJ。


最近過疎ってる?
66マロン名無しさん:2006/07/20(木) 15:02:38 ID:???
まあ過疎ってるな…
みんなすばらしいSSを創作中なんだよ。
そう信じてる。
67マロン名無しさん:2006/07/20(木) 16:30:11 ID:???
職人さんの何人かはコミケとか・・・まさかな。
とにかく待ちましょうか。
68盗まれた桃月町:2006/07/20(木) 23:41:47 ID:???
「玲ちゃんが『私、踊ります!』って言ってくれれば良かったのに。みんな喜ぶよ!」
「はあ?みんな恥ずかしいって、引いていただろうが?」
玲は生返事だ。風は無く駅前はがらんとしていた。
桃月町と言えば都内でも有数の学園都市である。普段は若者で賑わうはずなのだか。
「また、どうして、学園祭の出し物をサンバにしようだなんて言い出したんだ?」
「玲ちゃんニュース見てないの?今や世界中でサンバが大ブームなんだよ!
 『ビバ!!アミーゴ!!』とか言って、キワドイ格好で1日中踊り明かすんだよ。
 ・・・だって玲ちゃんのお肌ををいっぱい見たかったんだもん!!」
「おい!今なんて言っ・・・?」
駅前の商店街が途切れ、そこには謎の物体が居るのを玲は見た
その物体はなんとなく自分の姿に似ている気がした

玲は『それ』を見てドキリとした

「でさー・・・なんだよ!!・・・玲ちゃん、聞いてる?」
「・・・ああ」

姫子と別れた後、玲は自分を包囲しているような不気味な視線を感じながら、それから逃げるように家路を急いだ
警報が鳴り始めた線路を慌ててくぐり、なんとか渡り終えて、ほっと息を継いだのも束の間
彼女の目の前には信じられない人物が待ち構えていた。

「Vamos dancar!(さあ、踊りましょう)」

玲の目の前に居たのは『もう一人の自分』
彼女の悲鳴は、踏切を渡る電車の騒音にかき消された
69マロン名無しさん:2006/07/21(金) 06:27:25 ID:???
全てはメキシコの大スター、ホセ・ハセガワの陰謀
70マロン名無しさん:2006/07/21(金) 10:34:14 ID:???
実はホセ・ハセガワは、セガール先生の親戚だったのである!


>>68
71マロン名無しさん:2006/07/21(金) 11:21:13 ID:???
>>68
GJ
ところでそれ元ネタあるの?それともオリジナル?
72マロン名無しさん:2006/07/21(金) 12:34:52 ID:???
よしなが先生が拉致されたシーンが元ネタ
73盗まれた桃月町:2006/07/21(金) 23:46:05 ID:???
『玲ちゃんの様子がおかしい』

姫子からのそのような相談をベッキーが受けたのは、次の日の夕方だった。

妙に機嫌がいいって? どうせ、落ちてた500円でも拾ったんだろう
あんなに嫌がっていたサンバに、今は夢中になってているって?
いやいやあれで本当はサンバがやりたいと思ってたんだよ、あれで子供っぽいとこがあるからさ

玲が本物の玲じゃない気がする?

そうか、実は私もそう思ってたところなんだ

そろそろ芹沢のやつがロボ子に飽きて新しい変装のネタを試す時期が来たんだろう
なんならあいつの変装を・・・なんだ?姫子。帰るのか?


姫子が出て行った研究室でベッキーは、電話を取り出しどこかに連絡を取り始めた
「教授ですか?こちらレベッカです。ええ、以前伺った話ですが、とうとうこちらにも影響が・・・」
74盗まれた桃月町:2006/07/21(金) 23:49:28 ID:???
その様子を研究室の外からこっそり聞いていた姫子だったが、話の詳しい内容までは聞き取れなかった

「・・・でも、本当はベッキーも何か感じてるのカナ?私に教えてくれてもいいのに」

しかし、これ以上しつこくベッキーに聞いてはいけない気がしたので、今日は諦めて帰ることにした

「今日の玲ちゃんは、絶対に私の玲ちゃんじゃない・・・」

姫子の脳裏に今日の記憶が甦る
妙に陽気で様子がおかしかった玲に
「どうしたのさ玲ちゃん?今日の玲ちゃん、なんかいつもと違うよ」
と玲の肩に手を掛けてからかって見たら、その玲は怒るでも誤魔化すでもなく、不気味にこう笑いかけたのだ

『まっててね、姫子もすぐに踊れるようになるわ』

「・・・あの時の玲ちゃんの体、とても冷たかった。まるで人間じゃないみたい」
そう言いながらとぼとぼ歩いていた姫子は、ある会話を耳にして一瞬凍りついた

「でもちょっとだけほしいかなー、もう一人の自分」
「おっ!どうした?姫子?怖い顔して。今、一条が面白い怪談をしてるところだ。こえーぞw」
「・・・姫子さんも聞きに来たんですね?それではもう一度初めからでもよろしいでしょうか?

 では、始めます。   ・・・・ それは、『桃月町 都市伝説』
75マロン名無しさん:2006/07/22(土) 07:05:10 ID:???
ついに一条の口からクローンたちの「世界共産化計画」の全容が語られるのか!?
76マロン名無しさん:2006/07/22(土) 13:17:34 ID:???
「世界熱海化計画」じゃなかったけ?

世界中を熱海みたいに寂れさせて人類を滅ぼす
77マロン名無しさん:2006/07/22(土) 22:52:34 ID:???
 22日、東京都大田区の女子高生2名が偽装罪で逮捕された。
 事件の詳細は20日の終業式にお互いがお互いを名乗って
出席したとされるもの。
 2人とも容疑を認めており、調べに対して2人は
「周囲にどっちが○○でどっちが△△なのかどうでもいいと思われて
 悔しかった。周囲を驚かせたかった」
と供述している。
 2人は双子の姉妹で服装等でしか見分けられないほど酷似していた。

キャスター:木村陽子
78マロン名無しさん:2006/07/22(土) 23:09:36 ID:???
>77
お前エンタ見てただろw
79マロン名無しさん:2006/07/22(土) 23:11:17 ID:???
>>77
あんた、エンタ見てたにゃ?
80マロン名無しさん:2006/07/22(土) 23:33:36 ID:???
>>78-79
最後の1行見れば一目瞭然。
81マロン名無しさん:2006/07/22(土) 23:41:29 ID:???
陣内でいいです
82インプランタ晶:2006/07/23(日) 23:39:05 ID:???
続きを投下します。
今回は少し長いので、連投規制が心配です。
連投規制を防ぐやり方ってありましたっけか?
83インプランタ晶:2006/07/23(日) 23:39:57 ID:???
 鈴音の一撃を受けて、響がいっそう精神の平衡を乱したころ、職員室でも新たな動きがあった。
「この異常事態…、いったい何が?」
 美由紀は、頭をひねっていた。
周囲に目をやるも、先ほどまで体よくあしらっていたくるみ、都に声をかけるのは、
きっかけでもない限りできそうもなく、早乙女には頭脳労働を期待できない。
その場は、空気的に誰も発言できない、膠着状態に陥っていた。
「ん、私の携帯…」
 都の携帯が、それを打ち破った。
「ん?ベホイミ?なに?すぐ来てって?私と…五十嵐先生も…?
 うん、うんうん、じゃ、そう伝えとくね…って、あ、場所は1−Dなの?」

「何か、よくわかんないけど…、あ、6号ちゃんも来なよ?」
 美由紀は、くるみにひどい対応をしたことを内心後悔していたので、
都の言に従い、足早にベホイミの手伝いに行くことにした。
6号も2つ返事で美由紀に従う。
美由紀は、タバコを灰皿へ擦り付けると、背を見せた状態でくるみに声をかけた。
「あー、桃瀬妹?携帯、つながるんでしょ?
 兄ちゃんの方に電話をかけてやったら…無事かどーかわかるんじゃない?
 私も…後でかけるけどさ…まずは、あんたがメールなりなんなり、さ?」
 くるみは、少し不服そうな顔をしたが、今言い争っても仕方ないと、
都の言を今になって噛み締め、「うん」とうなずいて手を振った。

(…こうして見ると、やっぱり双子なのね)
「…何よ!?」
 美由紀が何か言いたげに振り向いて、くるみに目をやった。
思いのほか暖かい、年の離れた姉が下の兄弟を見るような目であったので、
くるみは少し困り、少し強気に意図を尋ねた。
「じゃ、行きましょうか」
 美由紀は答えない。答えないまま、都、6号を連れて、ベホイミの元へと向かった。

(メールなんて…もう何回も送ってるんだよ…でも兄貴は返してくれない…)
 くるみは、理解できないことが続いたためか、心中穏やかで無かった。
84インプランタ晶:2006/07/23(日) 23:41:20 ID:???
 メディアと協力して爆弾を発見した。
暴走トラックを素手で止め、柏木優麻を守った。
スポーツ大会の裏で、南条操に発見された変質者を捕縛した。
ほかにも、ベホイミの武勇伝は、桃月学園ではよく知られている。
それゆえ、ベホイミが今起きている異変を解決すべく動いていると知ったとき、
職員室ないしその近辺に待機していた1年の生徒たちは、一様に安堵した。

「…それでも〜、やっぱり怖いよね、6号?」
「はい、宮田さんが今どこにいるのか?それがわからないと…」
「なーにやってんのよ〜、早いとこ行っちゃった方がいいでしょ?」
 あの宮田晶が突如暴れだし、南条をバットのように振り回して犬神をジャストミートした。
その目撃者であるがゆえに、都と6号の足取りは進まない。
「だーかーらー、パッパと歩けってーの!お手手なんかつないで…のんびりしすぎだっつーの!」
 美由紀は、恐怖を知らないがゆえに2人よりも遥か前を歩いていた。
そして、手を固く握り合い、絶えず周囲を気にして緩やかに歩く2人に発破をかけていた。
「ちょっと…しぃー!!先生、静かに…」
「その大声は、危険が危ないオブジイヤーです…」
「…あたしが通った道は少なくとも安全だし、そんなにもヤバい奴なら、
 むしろ気をつけるだけ無駄で損よ?人間勝てないときはどうあがいても勝てないものよ?」
「………」
 都と6号は、無駄に自信のある美由紀の発言を聞いて、顔を見合わせた。
「プッ…」「クスクス…」
 そして、笑い始めた。
「笑うのはいいけどさー、早く来てよねー」
 美由紀も、緩く笑っていた。

「来てくれたっスか。無事で何よりっス」
「無事で何よりって…やばい橋を渡らせたっていうの?」
 美由紀に発破をかけられて以後は、恐怖心を抑えてやって来られた都だったが、
ベホイミの言葉の端に聞き逃せないものを感じた。
「んー、たぶん、大丈夫だとは思ったっスよ。勘で」
 ベホイミは、すごい事をさらりと言ってのけた。
85インプランタ晶:2006/07/23(日) 23:55:59 ID:???
「勘って、あんたさー、私たちがどれだけ怖い思いして来たかさー…」
「そんなことより…何よこの薬品の集まりは…タバコ吸えないじゃん」
 ベホイミに突っかかろうとする都を遮って、美由紀が状況把握のための質問をする。
床には、美由紀の言葉どおり、よくわからない薬品類が並べられていた。
いちおう化学教師である美由紀の見立てでは、この近くでは絶対に火気厳禁という代物だった。
「…それが2人を呼び出した理由っス。これから、爆弾と時限装置を作るっス。
 五十嵐先生には爆弾を、都さんには時限装置を作る手助けをしてもらいたいっス」
 またしても、ベホイミはすごい事を言ってのけた。
「ハッハー…なに、土木作業でもやるっての?
 土木は頼まなくったって国が勝手にやってくれるじゃない…ねぇ?」
 都は、笑って答えた。冗談だと思った、いや、願った。
その言葉の意図するものが何かを、悟ったからだ。6号も、美由紀も笑っていなかった。
今の状況を察するに、爆弾、そんな物を作って何に使うのか?それは明白だった。

「校門とか、学園の周りを覆っている見えない壁を、ぶっ壊すのよね?
 そうよね?あれさえ壊せばみんなで逃げられるし、警察も呼べるし…」
「…わかってて聞いてるって質問、答えるだけ時間の無駄っスね」
「あんた…本気で言ってるの?」
 都だけが、問い返した。
6号は美由紀の手を握り、泣きそうな顔をし、美由紀は、厳しい表情で、黙っていた。
宮田晶を殺すための爆弾を作る。それしか考えられない。
信じられなかった。元傭兵で、それこそ何人もその手にかけたとは、教授、メディアを通じて聞いていた。
しかし、それでも、踏み越えられない、そうしてはならない壁を持っていると信じていた。
「…友達じゃない?宮田は、あんたの…」
「ああ、そうだったっスね」
「そうだったって…あんた…」
 限りなく無機質で無関心な、役所の手慣れた応対のようなベホイミの反応を見て、
都の心中は、戸惑いから代わって怒りの色をまとおうとしていた。

「友達を、殺して、平気なの…?」
 都の声は、震えていた。
86インプランタ晶:2006/07/24(月) 00:25:22 ID:???
「平気じゃ無いさ」
 ベホイミは答えた。その声は感情のこもらない響きをしていた。
「だったら…!?」
「でも、今の宮田は、平気で、いや、喜んで私たちを殺しに来るぞ?
 見ただろ?あんたと6号も、あの時、家庭科室にいたんなら」
 ここへ来て、ベホイミはベホイミ式敬語を使わなくなっていた。
「いくら友達だからって、黙って殺されてやる筋合いは無いな。
 あっちがその気なら、こっちから仕掛けて、逆に殺してやるさ」
「…殺す?」
 都は、教授との旅の中で、教授やメディアから様々な護身術のたぐいを教わっていた。
その中には、応用すれば身を守るだけにとどまらず、積極的に他人を殺傷できる技もあった。
だが、それはあくまでも理屈、可能性の範囲内での話である。
今ベホイミが口にした「殺す」、その言葉の響きは、ああ、こいつは本当に人を殺せるのだな、
そういう実感を感じさせるには十分だった。本物の持つ強みを持っていた。

「はっきり言っておくけど、現状の戦力では私以外で今の宮田の相手を出来る奴は、いない」
 ベホイミは、3人が黙っているのを見ると、そのまま話を続けた。
「メディアが協力してくれればまだ何とかなったが、それが期待できない以上、
 私も命がけで勝負しないと殺される。冗談じゃなく、だ。
 私は結局のところ私の命が一番大事だ。
 たとえ相手が友達でも、私の命を脅かすなら容赦はしない。殺す」
 ベホイミは3人に目を移しながら話を続ける。
「かといって、お前らは今現在私の命を狙ってはいないし、
 殺されるのを黙視できるほど他人じゃない。私の出来る範囲で守りたい。
 だから、被害の広がる前に私から宮田に仕掛けることにした。
 そのための手助けを頼んだところで、理不尽な話では無いだろう?
 むしろこれは当然の取引だ。私は現場で戦うわけだからな」
「それで、火薬?爆薬?はどれだけ調合すればいいわけ?
 早いほうがいいんでしょ?なら無駄話してる場合じゃないんじゃないの?」
 美由紀が口を開いた。その口ぶりは少し重い。
「先生…!?」
 6号が戸惑いながら美由紀へ目をやる。美由紀はそのままベホイミの目を見つめる。
87マロン名無しさん:2006/07/24(月) 01:01:34 ID:???
>>86
GJ
今まで毎日楽しみにしてましたよ。続き頑張れ。
88マロン名無しさん:2006/07/24(月) 01:33:07 ID:???
wktk
89マロン名無しさん:2006/07/24(月) 01:47:27 ID:???
GJGJ! いやー、ずっと裸で待機しててよかったわー。続き待ってます!!
90マロン名無しさん:2006/07/24(月) 04:39:43 ID:???
gj。読みやすく面白いです。wktk
91マーボー続編:2006/07/24(月) 13:34:22 ID:???
マーボーの続きを書いたんで投下します。
それにしても暑いっスよね。
九州の人はいますか?あそこも大変そうですよね。
むかし体育館に避難して一夜を明かしたことのある自分には人事という気がしません。
92インプランタ晶:2006/07/24(月) 13:35:07 ID:???
ここまでのあらすじ
 修に誘われて女子が調理実習している家庭科室を訪れた犬神であったが、
不器用組の作った料理が常軌を逸していたゆえ逃げ出さんとした。
しかし、彼の目に映ったのは一足先を行く修の背中では無く、床であった。
彼の背には一条さんがのしかかり、かつ足払いを決めてきたのだ。
周囲を見渡すと、既に死屍累々、料理オンチ3人の縁者らがあった。
逃げられぬ、たとえ逃げたとしても女子たちから不名誉な烙印を押される、
犬神は、そう直感し、まかない料理をかき込むときの要領で出されたマーボーらしきものを平らげた。
その様は、見届けた南条操がたじろぐほどの無様なものであった。
だが、事はそれだけには止まらなかった。
あまりの辛さに耐えかねた犬神は、南条が愛情こまやかに作ったスープを奪い、一気呵成に飲み干してしまった。
そして、感想を漏らすことも無く、その場に崩れ落ち、気絶した。
犬神の醜態を重ねて見せ付けられた南条は激昂し、料理を運んできた宮田晶につかみかかる。
両者ともに温和な性格のため、戦いは盛り上がらなかったが、一条さんが火をつけた。
南条の平手がうなり、宮田の北京鍋が激辛マーボーを射出する。
このまま2人がキャットファイトを続けたら、どうなってしまうんだッッ!!!
詳しくはまとめサイト等で熟知すべし。

 そのとき、不思議なことが起こった。
突如として、激辛マーボーを食した当然の結果として床に倒れ付してうなされていた
メソウサと猫神の両名が立ち上がり、全身から光を放ち始めたのであった。
「何だ…メソウサに…?」
「自販機猫か…?」
 乙女、ベッキーは、南条と晶のキャットファイトも忘れて、そちらへ目をやった。
「へ、変身してる…?メソウサァー!」
 明らかに異常事態であるので、さすがのベッキーもメソウサを心配した。
「煙まで出てやがるぜ…」
 乙女は息をのんで成り行きを見守っていた。

 煙が晴れたとき、その場の全員が唖然とした。
「姿が本当に変わってる!?」
ベホイミも目を丸くした。それが命取りとなった。
93インプランタ晶:2006/07/24(月) 13:35:57 ID:???
「赤紫の頭巾のウサギに…、全身真っ白で赤いリボンをつけた猫…?
 って、しまった!うぼぁー!!」
 謎の変身を遂げた2匹の謎生物に気を取られたベホイミに、
憤怒の力を得た宮田の放つマーボー弾をかわすことなど不可能であった。
「ベホイミちゃん!おっと…」
 ベホイミを心配しつつも、周囲に気を配ることを忘れないメディアであった。

「あの2人を止めなきゃもっと被害が出るんだろうが、
 こっちの2匹も放ってはおけないな!何しろ怪しすぎる!」
 晶は、北京鍋を高速で振ることによって、南条へ向けてマーボー弾を射出せんとしていたが、
生来の不器用がたたってか、なぜか南条以外の人間へと直撃する弾道で放っていた。
南条は、そんな宮田晶を見て、いつもの彼女ではありえない嘲りの顔をしていた。
これも、全ては犬神を苦しめた晶への怒りが成せる業であり、もはや憑き物の域に達していた。

 ここで、謎の変身を遂げたメソウサと猫神に目を向けてみよう。
メソウサは、頭に赤紫の頭巾をかぶり、右耳の付け根には、白い花を咲かせていた。
猫神は、赤いオーバーオールに黄色いシャツ、こめかみには大きな赤いリボンをつけていた。
「こ、これは、サンOオさんからお金を取られそうオブジイヤーです!!」
「まずいだろこれは…至急何とかしないと…」
 可愛らしいグッズに造詣の深い6号と、金銭沙汰に造詣の深い玲がいち早く反応した。
「おいメソウサ、何だ?何で、そんなことになった!?答えろ!」
「はい…あなたと乙女さん、そして晶さまの燃えるようなマーボーを口にして、
 もはやただのウサギではいられなくなったんです…すみません…」
「もともと結構おかしなウサギだったじゃねーか?しかもすぐ謝るのも直ってねーし!」
「私もですニャ…私も、ただの猫神ではいられなくなったのですニャ…」
 ただの猫神とは何ぞや?その問いかけを真っ先に発すべきベホイミが今は倒れているため、
みんな敢えて猫神はスルーした。
「…ということはだ…もともとおかしなこいつらでさえ変な影響を受けているんだから…」
「…私たちはどうなるんだ?」
「…熱い!体が熱いよぅ!乙女、助けて…」
「鈴音?鈴音ぇええぇぇぇーーーー!!」
 人間のうちでいちはやく異変が現れたのは、鈴音であった。
94マーボー続編:2006/07/24(月) 14:03:49 ID:???
なぜか名前がインプランタになってますがいちおうマーボーの続きです。
95マーボー続編:2006/07/24(月) 14:28:24 ID:???
「熱い…助けて…」
 鈴音がいつになく弱音を吐いて、乙女の手を握る。
「本当に熱い…!鈴音、しっかりしろ!」
 常軌を逸していると、乙女ですら感じ取れるほどの熱さであった。
次第に鈴音も全身から煙を噴出し、手を握れるほどの距離でも、その姿を捉えられなくなった。
「鈴音!鈴音!返事して!鈴音!すぅずねぇぇっぇぇぇぇぇええ!?」
 乙女はパニックを起こし、ただひたすらに親友の名を呼び続けた。
下痢ツボを押されて、本当に苦しかったことも、身長差で歯がゆい思いをしたことも、
今はどうでもいい。鈴音が無事でいてほしい。積もっていた負の感情が洗い流されていった。
(あれ…私からも、煙が…?でも、鈴音ほどじゃない…?)
「くそっ!私もか!?」
 いつしか、乙女、ベッキーといった、最初にマーボーを毒見した面々から煙が出始めていた。
晶のマーボー弾を受けた響、ベホイミ、その他の面々も同様であった。
(何が…どうなるの…?)
 乙女は不安でこそあったが、今手を握っている鈴音の事を思うと、それ以上は心乱れなかった。

 煙が晴れた。
「あ〜、熱かったね〜、あ〜、汗かいたから体中がベタベタで気持ち悪いなぁ」
 鈴音は全身が汗に濡れているのを感じ、少し背中をかいた。
「す、鈴音…?」
 玲は言葉を失った。
「鈴音!お前、何かの塊が、ボーリングの玉くらいたまってるぞッ!!」
「ほえ?てゆーか、全身が軽いね〜…って、え!?」
 鈴音もここに来て自分の身に起こった異変に気づいた。
「袖が、ダブダブだよぉ〜?」
 ちょうど良いはずの制服が、今では合わなくなっている。
しかも、乙女が大き目の制服を着ている以上に合わなくなっている。

「鈴音さん、背がものすごく縮んでいますよ!?乙女さんより小さくなっています!」
「くそ、なんということだ!これでは演劇部部長との区別がいっそうつかなくなるじゃないか!」
 玲はそう言ったが、芹沢は、「いや、つくだろ」とこぼした。
96マロン名無しさん:2006/07/24(月) 14:32:35 ID:???
ニュー即でもコテハンが義務づけられ始めたし
夏だし不具合が出るのは仕方なかでしょう。
まずは乙です
97マロン名無しさん:2006/07/24(月) 14:36:21 ID:???
学級崩壊なのに笑ってしまったw
兎に角、乙&GJ!

インプランタ書いてる人とは別人…なのかな?
98マーボー続編:2006/07/24(月) 15:12:47 ID:???
 鈴音が起き上がってから、他の面々も続々と起き上がり始めた。
「だいじょぶ?乙女…、ちびっ子先生…」
「ええ、私は大丈夫です。ご心配頂き、有難う御座います」
「うん!わたしもだいじょぶだよー!」
「…いやー、2人が無事でよかったよー」
「でも鈴音さん、暫く見ない内に、随分と小さく御成りに…」
「うん!わたしもそうおもうよー!ちっちゃいよねー!」
「「「え!?」」」
 何人かの声がハーモニーを奏でた。

「こ、これは、一体?何と云ふ事で御座いませうか!?」
「わたしはこんなお子様言葉つかわないはずだもん!って、いってるそばから!
 せんせいなのにー!はうーはうはうー…」
 乙女もベッキーも、外見的な変化こそ見られなかったものの、
その第一声によって、異常さを露呈した。
「乙女さんは日本語の乱れが直って、宮本先生は子供らしい言葉遣いに…」
「いや、どっちも行きすぎだろう…激辛マーボーの効能恐るべし、だな」
「ええ、はるばる中国は四川省まで、特性の醤を買い付けに行った甲斐がありました」
「…また、お前の仕業か一条。もう、突っ込む気にもなれない…」
「でも、メソウサちゃんと猫神様は止めたほうがよいと思います…」
 6号はこの状況でも冷静さを保っていた。

「…やー、どうも…マイメソディです…」
「ハロー猫神ですニャ」
 この2人は、大手を振って周囲に自己紹介をしていた。
そして、その間にも、激辛マーボーは振りまかれ、犠牲者が増えていた。
「くそ…うかつに手を出すと私までやられそうだしな…誰かいないのか?」
 そのとき、一閃の光が天高く上っていった。桃色の光が周囲を包み込んだ。
「癒し系魔法少女のベホイミ!ただいま参上っス!
 さあ、今から問題を解決に奔走するっスよ〜!何だかやる気が沸いてくるっス〜!」
「すげー、ベホちゃん…服まで変わってる…」
99マーボー続編:2006/07/24(月) 15:50:23 ID:???
「とりあえず、あの2人を、特に宮田の方を止めてくれ…危険が大きすぎる」
「了解っス!」
「でも、大丈夫か?下手な動きをしただけで、的確すぎる一発が来るぞ?」
 玲は、物陰に隠れつつ、ベホイミと会話する。
「こんなの、新兵器の打ち合いに比べれば、ハエが止まるような攻撃っスよ?
 それに、今の私には心強い相棒もついてるっス!
 行くぞメディア!速攻で2人を仕留める!協力してくれ!」
「はーい、今日のベホイミちゃんは積極的ですね♪」
 あくまでいつものくだけた調子で返すメディアだが、顔は、本心からの笑みに満ちていた。

 2人は全速で南条と晶の下へと駆ける。
当然、晶からのマーボー弾が迫る。が―――――――――
――――――――――――無駄であった――――――――――――

「あらあら、私に直撃させるつもりなら、素振りからやり直してくださいね」

―――――憤怒の力を得た晶によって、神速の域にまで加速されたそれをもってして、
メディアを仕留めることは不可能であった―――――――

「私が手袋をしているという事、お忘れですか?
 伊達でしているわけでは無いのですよ?ま、詳しくは教えてあげませんけどね」

―――――――マーボー弾は、メディアの掌中に収まっていた―――――
――――そして、メディアの超絶握力によって、極限にまで、それこそ、
飴玉サイズにまで縮められ、さらに――――――――――――

「そーれ、バッチコーーーーーーーーーーーーイ!」

――――メディアによって、投擲せられた圧縮マーボー弾――――――――
もはや、通常の女子高生に、それを視認することなど、出来ようも無かった―――――
北京鍋の取っ手を貫通し、急激に勢いを殺し、そして――――――――――
「んぐっ!?」晶の口中、舌の上でバウンドし、そのまま喉の奥へと収まっていった。
100マロン名無しさん:2006/07/24(月) 18:10:38 ID:???
>>99
GJ!GJ!GJ!
でもコレ位じゃあ宮田納まりそうじゃなさそう…
逆にパワーUPしそう…てかオーバー・ドウズ?
ともかく結構続き待ってます!
101マロン名無しさん:2006/07/24(月) 21:58:31 ID:???
図に乗ってるメディアとベホイミを虐殺してほしい。
余裕が粉砕されて涙と鼻水を流しながら命乞いするメディアが見たい。
102マロン名無しさん:2006/07/24(月) 22:09:11 ID:???
>>99
前にも言ったがこれで犬神がDCSよろしくの暴走をしだしたら
面白そうなんだがな。

>>101
図に乗ってるっつーかこのスレにおいて
事態の収拾役がメインの2人は確かに周囲と比べて
一段上の立場になってることが多いな。
103マロン名無しさん:2006/07/24(月) 23:29:31 ID:???
そういえば漂流教室はまだ?
104マロン名無しさん:2006/07/25(火) 01:37:52 ID:???
>>99
「GJですわ!」
105The most calamity:2006/07/25(火) 05:05:32 ID:???
きんこんかんこんと昼休み前のショート・ホームルームの終了を告げる鐘が学校中に響き渡り、クラスは
自然と喧騒に包まれ始める。教室内のそれぞれが弁当などを手に席を立ち、ある者は食堂へ、ある者は
学校のほかの場所へ、ある者は教室でと、昼食をとるべく動き始めていた。
玲「……」
その日常的な喧騒の中、玲は都に、都がくるみに、くるみが6号にと目配せをする。
玲や都は姫子とベッキーの仲を何とか取り戻す為に、昼休みはなんとしても有効に使いたい時間でもあった。
都「ベッキー、一緒にお昼食べない?」
都が、恐る恐るベッキーを昼食に誘う。いつもなら気軽にしているそのやり取りが、ベッキーの返事を聞く
その間が、随分と長く重苦しいものに感じられた。
ベキ「あ、わたし今日弁当持ってきてないんだよ。だから食堂でも良いか?」
都「う、うん」
以外にも普通の反応だったことに多少皆は驚いた。以外にもベッキーはそれほど引きずってはいないようだ。
都「あー、玲。あんたたちも行くでしょ?」
玲「ん?あぁ、じゃぁ行こうか」
なるべく自然にと心がけるほどにどうしても言葉がギクシャクしてしまうのをもどかしく思いながらも、
玲はほかの面々を促す。姫子は言わなければ着いて来ないかと思ったが、心配は無用だった用だ。
弁当を持ってしっかりと後についてきている。
くるみ「ベッキー今日は何食べるのー?」
ベキ「そうだな、きつねうどんかな」
玲「この前もそれ食べてなかったか?」
ベキ「いいだろ、安いし美味いし好きなんだよー」
食堂へ向かう廊下で会話してみる限りでは、ベッキーに殆ど普段と変わったところが見受けられず、
それに安心した玲たちの緊張は徐々に解かれていく。
そうして会話に一区切りつく頃にはもう、一同は食堂に到達していた。
106The most calamity:2006/07/25(火) 05:09:43 ID:???

ベキ「いただきまーす」
玲「いただきます」
玲は安心していた。昼休みに入ってこの方、ベッキーの様子に変わったところはほぼ全くないように思えたからだ。
先程のことはそれほど気にかけていない様子だし、もしかしたらベッキーはもう吹っ切れているのかもしれない。
姫子から話しかけることができれば後は簡単だろう。弁当をつつきながら、そんなことを考えていた。
ベキ「ちゅるるるる…ぷはぁ〜」
姫子「うひゃ〜!ベッキーかわいいー!!」
ベキ「……」
ほら、これで何もかも戻ったはずだ。姫子も意外とすんなり話しかけることができているし、ベッキーは
姫子に対して特に恐怖心を抱いている様子もない…
玲「……?」
しかし、何かが突っかかった。何かの思い違いかと思いほかの面々の顔を見回すと、それぞれ何か感じる
ところがあるらしい。
姫子「ベッキぃー、今度うちにおいでよー!ちっちゃい子は大歓迎カナ!」
ベキ「……」
沈黙。
玲「……!」
玲はここで今までの安心が全て吹き飛んだ。
ベッキーは意図的に、姫子を無視し続けている。
喧嘩をすればこのような事は良くあるのかもしれないが、ベッキーに限ってこれは例外中の例外だった。
なぜならベッキーは嫌なら嫌と否定するし、その否定の程度によってどの程度怒っているのかも玲は
分かるつもりだ。朝には物凄い勢いで姫子を罵倒していたし、今と違いおとなしかったというMIT時代で
さえも、ほかの学生を見下す発言をするなどといった方法で否定の意を示してきていた。
そのベッキーが無視という行動に及んだことはこのような状況とはいえ、いや、このような状況
だからこそ信じることができない。
107The most calamity:2006/07/25(火) 05:12:31 ID:???
玲「ベッキー、ほら、子ども扱いされるのは嫌いじゃなかったっけか?」
今のがほんの偶然であれという縋るような気持ちが、玲の口を無理やりこじ開ける。
ベキ「当たり前だろ!でもなんでそんなこと今聞くんだ?」
都「ちょっとベッキー…」
都たちも、ベッキーの異常に気づき始めたようだ。皆がみな一様に不安な様子を隠しきれていない。
だがそんなことを気にも留める様子もなく、淡々と姫子を無視し続けるベッキー。
姫子「あー、ベッキーまだ怒ってるなー!本当にあの時は私が悪かったヨー。だから許してくれないカナー?」
それに気づいているのかいないのか、姫子は諦めることなく話しかけ続ける、が、その言葉が
ベッキーの元に届くことはなかった。
ベキ「ごちそうさま。さて、と。わたしはもう行くぞ?いろいろ仕事が残ってるんだよ」
玲「あ、あぁ…」
ベキ「悪いな。じゃまた」
玲「……」
ベッキーに指摘することもできたはずの玲だが、結局最後まで何も言う事が出来なかった。
あまりにも酷い姫子への仕打ちに、何かを言う気すら失せてしまったのだ。いや、かろうじて
応対できていた玲はまだマシだったかもしれない。姫子以外の誰一人として、最後は簡単な
言葉を交わすことすら出来なくなってしまっていた。
そして玲は再認識させられる。ベッキーはただの教師でもただの子供でもなく、学園一の頭の良さと、
学園一幼い精神状態両方を持ち合わせた、天才という存在なのだと。
10840 中断:2006/07/25(火) 05:19:39 ID:???
とりあえず。
色々な都合で前回と大分間が空いてしまいましたが、申し訳ないです。

インプランタさんもマーボーさんも、お陰で自分の投下を躊躇ってしまうほどにGJですw
ところで他の書き手さんは、このスレに大体いくつくらいの作品を投下しているのでしょうか?
109マロン名無しさん:2006/07/25(火) 06:31:14 ID:???
>>108
オーライ!待ってたよ…続きが楽しみだ
そしてこの言葉を贈ろう…GJ!!!
110マーボー続編(40さん乙です):2006/07/25(火) 06:58:44 ID:???
「ふぅ、これで片がついたっスね!宮田さんのマーボーさえ封じれば…うぼー!?」
 メディアが晶を速攻で片付けた様を見届けたベホイミは、またしても油断をしてしまった。
南条の一撃をかわす事が出来なかった。
「う…南条さん…どうしてっスか?私は関係な…っく!?」
 背中に南条の掌底を受けたベホイミは、全身から力が抜け、床に崩れ落ちた。

「関係ない…?本当にそのような事が言えて?」
「な…!?」
「犬神くんが宮田らの作った出来損ないの料理を食べることになったのは、
 本を正せば、あなた達がたらい回しにした結果じゃ無くて?
 そう、始めからあなた達がこの激辛マーボーを仲良く分けていれば、
 犬神くんがあのような不遇に遭うことは確実にありませんでしたわ!」
「でも、それは…南条さん、あなたもおな…」
 ベホイミが南条にも責任の一端があると主張せんとしたとき、
南条は横ばいになりながら話すベホイミの横っ面を踏みつけにした。
「私はスープを作っている途中でしたから、それに…」
「それより先に、ベホイミちゃんから足をどけて頂けませんか?」
「そういう汚れ仕事は、私の性に合いません。あなた方でやるべき事でしょう?」
 南条はメディアの呼びかけに応じず、ベホイミの顔を踏みつける力を増した。

「…そ、そんな、酷いっス…って、いた、いたた…!」
 明らかに他を見下した物言いと、ベホイミを踏みつけにして恬として恥じないその態度は、
いつもの南条操からは想像も出来ない傲慢なものであった。
「いい顔ですわよ…ベホイミさん?でも、しばらくは、そうですわね…、
 私が良いと言うまで、口を閉じていて下さります?」
 そう言うと南条は、今なおうつ伏せたままのベホイミの横腹を靴の先で蹴り始めた。
「…っく、やめるっスよ南条さん、こんなことしても何にも…痛ッ!!」
「な、南条…よせよ…ベホちゃんが痛がってるし、それに…」
 軍隊で揉まれたベホイミに痛いと言わしめるほどの蹴りを南条は見舞っている。
それは、端から見ていても気分がよくなく、いや、むしろ不愉快の念を抱かせるに十分であった。
(しまった―本当に速攻で片をつけなければいけないのは、南条さんだった…)
 そして、ベホイミに後悔の念を抱かせるにも、十分すぎる暴力であった。
111マーボー続編:2006/07/25(火) 07:00:58 ID:???
「南条さん、事情により最初で最後の警告になります。
 今すぐベホイミちゃんに暴力を振るうのをやめて下さい」
「…好きにしたらいかが?」
「お、おい南条…!?って!?なんだこりゃ!?体が…?」
 芹沢茜はたじろいだ。自分の体がいうことをきかなくなっていたのだ。
体の自由と引き換えに、小刻みの震えが起き、鳥肌さえ立った。
「芹沢さん…怖い、です…」
 それは、茜の隣にいる来栖柚子も、そして、周囲の桃月学園1年女子達も同様であった。
この部屋の空気が一変し、空間の歪みさえ感じられた。

無論、発信源はこの2人である。
「好きにしたらいかがと言っているのですけれど?メディアさん?
 雑種のポチ公でも、もう少し頭がよいものですわよ?」
「図に乗るなよ小娘が…?後悔先に立たずってことわざ、知りませんかぁ!?」
 先に仕掛けたのはメディアだった。
語気も息も荒く、南条同様にまるで別人のようであった。
(捉えた!)
 メディアはそう確信し、南条へ上段の蹴りを仕掛けた。
それはフェイントであって、そのままメディアは飛び上がり、左で回し蹴りを繰り出し、
見事、南条の背中へと命中させた。さらに、そのまま取り押さえる工程に進んだ。
ここまで、ベホイミが二度見せたような油断は欠片も表さなかった。
「もちろんその程度のことわざは知っていますわ。でも、あなたも―」
 完全に直撃したはずであるのに、南条は痛いという素振りすら見せなかった。
取り押さえようとしたメディアの手を取り、取っ組み合い、組み伏せた。
「―能有る鷹は爪を隠す、ということわざをご存知無かったようですわね?
 バレバレですのよ…あなたの攻撃は…殺気がダダ漏れで…所詮は人間のやることですわ!」
「…!?そんな…!?嘘…嘘…嘘!?」
 メディアは、腕力において南条に負けた衝撃に打ちのめされた。

「私は伊達で動物達を連れているのではありませんのよ?
 ゆくゆくは、南条財閥の跡目を継ぐ私は、それこそ百獣の王以上の器でなくてはならない!
 あなたの速さも力も殺気も本能も、人間の世界にしか通用しない水準のものに過ぎませんわ!」
112マーボー続編:2006/07/25(火) 07:02:43 ID:???
「私を捕まえたいのなら、それこそ殺す気でかかってくるべきでしたわね?
 ま、これでもまだ本気ではありませんし…無理な相談ではありますかしら?
 ねー?メ・ディ・ア・ちゃん?よーしよし、後でちゃあんと餌をあげますわ〜」
 ベホイミ同様、床に打つ伏したメディアの頭をなでる南条であった。

「…hollow, dream…,nothing?…」
自慢の握力での勝負に敗れたメディアは、敗北感に襲われ、
目は焦点が合わないまま虚空をさまよい、横文字で何やらうわ言を言い始めていた。
「メディア!しっかりしろ!気を確かに持て!」
「あ〜、ベホイミちゃんだ〜、くふふふふふふふ…」
「メディア!くそ、誰か、誰か助けてくれ!メディアを…誰か!」
 虚ろな目から涙を流し始めたメディアを見るに見かねて、周囲に助けを求めるベホイミであった。
しかし、誰もベホイミとは目を合わせようとしなかった。
(―メディア、ベホイミが勝てない南条に、勝てるはずが無い…)
 玲、茜といった者さえ、そう諦めていた。

「さて、宮田はメディアが眠らせてくれましたし、邪魔者はいなくなったようですわね。
 では、犬神くんを介抱してあげましょう…ポッ…」
 南条は、すっかり激昂していたはずだが、犬神の事を思うと、顔が赤くなった。
「おや…おかしいですわね…?たしかこの辺に倒れていたはず…」
「そういや…しばらくてんやわんやだったから、犬神は放置だったな…」
「そこの地味っ子!マーボーも食らわないで手持ち無沙汰だったでしょう!?
 犬神くんを見ていなくちゃダメじゃないの!?」
「ららるー…あ、あの、ごめん、あいつ結構しっかりしてるから、
 兄貴に文句でも言いに言ったんじゃないかな?あはは」
「…あなた、あとで調教が必要なようですわね…」
 南条は、晶やメディアに向けていたのとは異なる冷たい目線を、くるみへ向けた。
くるみは犬神と幼馴染ゆえ、ごく普通に発言したつもりでも、南条には馴れ馴れしく聞こえたのかもしれない。
「て、天井だァーーーー!!」
 そんな中、茜が急に叫び出し、天井の角の方を指差した。

「KERYYYYYYYYYYYYY!!」
113マーボー最終回:2006/07/25(火) 09:22:57 ID:???
「犬神かァーーーー!?いつの間にか復活していたのかッ!?」
「見ろッ!壁の塗装がボロボロに剥がれているッ!
 その上もっと驚くべきことは、あいつがクモみたいに天井に張り付いているってことだ…」
 茜と玲が、犬神を見て驚く。
それもそのはずで、彼もまた、激辛マーボーの効能からか、常軌を逸した行動に出ているのだ。
今の犬神は、ほぼ足だけの力で天井に張り付き、手をだらりと伸ばしていた。

「まあ…仮にも動物である限り…犬神くんとはいえ、恐るるに足らず、ですわ」
「危険だ!南条!不用意に近づくんじゃあないッ!」
 くるみの制止を聞かず、南条はそのまま犬神へと歩みを進める。
「KEROOOOOOOOOYYYYY!!」
「…!きゃあ、な、なんて事…」
 犬神の目にも止まらぬ早業で、南条は捕らえられてしまった。
「犬神がすごいのは認めるけど…南条お前絶対わざと捕まったろ?」
 くるみが思わず突っ込みを入れた。
「ダメですわ♪犬神くん、お放しになって♪いけませんわ、こんなこと…」
「アホらし」
「ああいうの、三文芝居の三文役者って言うんだぜ?」
「さすが芹沢さん、物知りですね(私も知ってるけど…)」
「この激辛マーボー、処分に困るな…とりあえず凍らせておくか?」
「ベッキーの研究室で解析しちゃおうよ〜」
 玲たちは、一気に冷めてしまい、後片付けを始めた。
結局犬神は三時間経つと南条を解放したし、圧縮激辛マーボーを飲み込んだ晶も、
通常の倍のエネルギーで転び、通常の倍気絶したので無害だった。
南条も、三時間犬神と密着していたため、機嫌から肌のつやまでよくなり、無害になった。
鈴音は小さくなり、乙女は日本語が正しくなり、ベッキーは喋りが年相応になったが、こちらも無害なので誰も気に留めなかった。
ベッキーは激辛マーボーを解析して元の毒舌天才ちびっ子に戻るべく苦心している。
忘れられていた響は、全身の脂肪が燃焼され、ダイエットを通り越して幼児体型になったため、ベッキーに協力している。
ベホイミは、少しメンヘラ気味になったメディアとともに、常時魔法少女として奔走している。
今では磯辺相手でも丁寧に応対するほど毒気が抜けてしまった。
めでたしめでたし
「なにこのオチ…?」
114マロン名無しさん:2006/07/25(火) 10:43:09 ID:???
ジー・ジェイ
115マロン名無しさん:2006/07/25(火) 12:08:23 ID:???
G(グレン)
J(ジョンソン)
116マロン名無しさん:2006/07/25(火) 12:28:21 ID:???
やべーw
南条がキレ始めた頃にあー本当に学級崩壊ハジマタなと思ったら…
このオチかよw


感動した!乙&GJ!
117翼の折れたエンジェル:2006/07/25(火) 15:35:24 ID:???
「校長室」と書かれたプレートが下がった部屋の前に俺達は着いた。
先輩がドアを数回ノックすると向こうから「入ってよろしい」と気の抜けるだみ声がした。
扉を開くとさっきのだみ声を聞いた時点で予想できたが、そこには青色の両生類が総欅造りの大きな机の上
にちょこんと立って、これまた豪華な椅子に座ってる校長と一緒に俺の方へ視線を向けていた。
俺はこの生物のつぶらな瞳と校長独特のお面に少し警戒しながらも部屋へ足を踏み入れた。
「そこのソファーに掛けてくれ」
校長は来客用のソファーを勧め、俺はそれに従い腰を下ろした。
部屋の壁には歴代の校長の顔写真が飾られ、どれも今俺の目の前にいる校長とは異なり仮面は付けていない。
俺はそれらの顔写真を見てると、先輩が湯呑みを二つ乗せた盆をソファーの前にあるテーブルの上に置いた。
俺はその音に気づき、その湯飲みに目を落とすと先輩に、「あ、どうも」とお礼を言った。
先輩は俺に微笑みかけると部屋の隅に位置してある棚の扉を開けた。
「さて、桃瀬君。君に色々と説明しなくてはいけない」
そう言うと、校長は手のひらにオオサンショウウオを乗せ、事務封筒をもう片手に取った。
椅子から腰を上げ長い足を動かして歩を進めテーブルの上にその封筒を置くと正面のソファーに腰を下ろした。
「単刀直入に言おう。君はこの国の秘密組織――情報局の工作員になってみないか?」
――情報局?工作員?
118翼の折れたエンジェル:2006/07/25(火) 15:36:47 ID:???
一瞬、俺は校長の言った事が理解出来なかった。
単なる私立高校の校長からどうしてそんな誘いがくるのか?
確かに桃月学園は普通の学校に比べるとどこかおかしい。
校長の仮面に通訳を担うオオサンショウウオ。学校の地下には巨大ロボット。
新聞沙汰にもなった、桃月学園での爆弾事件。
しかし、これらは別段映画に出てくるような政府の組織――情報局に関係してるとは思えない。
仮面や巨大ロボットなんて校長の趣味と言えば納得できる。通訳も校長は病気で声が出せないとかでもだ。
爆弾事件もただの頭が狂った爆弾マニアによって起こされたものだ、と新聞の記事に書いてあった。
どう考えても校長と情報局との繋がりに納得できない。
――俺を嵌めるつもりか?
「君に嘘ついて嵌めるつもりはない」
俺の考えを見透かすようにオオサンショウウオは言った。
「私はこの桃月学園の校長の地位だけでなく、情報局の深い繋がりがあるんだ。今からその組織のことについて説明する」
俺はそれでちょっと息を吸い込み、校長の話に集中した。
「情報局――この組織は国家の平和を維持するために存在する。この国の安全を侵害するものは、外部の者であろうと国民であろうと
敵とみなし、生命を奪うことも許されるものだ。組織の実体を知ってるモノはごく僅か。桃月学園では私とリクルーターである彼女――瀬奈君以外
は誰も知らない。あの橘玲でさえもな」
「リクルーター?」
「そうだ。彼女は工作員の素質ある者を捜し出し、スカウトするのが役目。そして候補者が見つかったならその者の身の上などについてを詳細に
調べる。彼女は今までに何人かをスカウトしたことがあるんだ。」
校長が長い足を組み直すとちょうどよく先輩が食べやすいサイズにカットした羊羹を乗せた皿を二つ持ってき、それぞれを
前のテーブルに置いた。
119翼の折れたエンジェル:2006/07/25(火) 15:37:23 ID:???
「校長先生、隣いいですか?」
「ああ、座りたまえ」
先輩が承諾を得ると上品に腰を下ろし、俺をスカウトする理由を話した。
「桃瀬君の生徒会としての仕事っぷりを見て審査したわ。貴方は工作員の才能があるわよ。」
「生徒会と工作員はあんま関係ないと思うんですが……」
俺の工作員の想像とは敵のアジトに潜入し暗殺や救出等、凡人には出来ない芸当だと思ってた。
それが何故生徒会の――今まで自分がしてきたのは書類作成、学校の評判を高める企画等――そんな普通の仕事と関連があるのか。
「素人はそう思うでしょう。でもね、私から見ると頭の回転の良さ、抜群の運動神経、どんな事でも自分を見失わない冷静さ。
そして……あまり言いたく無いけど身内を殺せる冷徹な行動力。これらは工作員に必要な素質だけど貴方は十分に適している」
生徒会役員に選ばれその名を恥じないようにただしっかりと仕事をしてたつもりだが、まさか生徒や教師だけでなくこれほどの秘密機関の連中にまで
目をつけているとは思いもよらなかった。
そもそも世話好きで家庭的な事が得意な俺には、こんなスカウトは一生無縁だと思ってた。
でも自分が父親に殺されそうになった時、躊躇いも無く殺したのが……決定的だったんだろう。
小説や映画の世界では任務遂行のために友人を謀殺するシーンなどがあるが、やはりこういう機関に所属すると理不尽な事なんかざらにあるもんだろう。
まあこの機関だけでなくとも、実社会はどこでも理不尽な事はついてくるものだ。秘密機関だけが特別じゃない。
「可能性のある人材を見つけたなら、後は監視をしつつ頃合を見計らって引き抜く。だから貴方が生徒会に入ってきたこの数ヶ月間、
ずっと監視してたのよ。プライベートを侵害してごめんなさいね」
だからあの時、俺の一連の行動は全て分かっていたのか。そしてその頃合がきて自分をスカウトした。
これで全てが納得した。
120翼の折れたエンジェル:2006/07/25(火) 15:39:43 ID:???
先輩が謝るが、俺はもうそんな事はどうでもいいと思った。
「桃瀬君、ここからは貴方が決めることよ。私達は貴方に二つの選択を提示する。法の裁きを受け、刑務所から出てきても
絶望的な未来を待ち受けるのか。もしくは、自分の可能性に挑戦し新しい人生を歩むのか。つまり、この世から桃瀬君が
いなくなったことにし、貴方は自分の素性を隠しながらこの機関に――この国に全てを捧げる一生を過ごす。
例えどんな理不尽な命令でも過酷な状況でも貴方は忠誠を尽くさなくてはならない」
リクルーターとして、プロとしての真剣な目つきで俺をじっと見る先輩の口から出された過酷な選択。
俺がいなくなるということは――公には自分が死んだということにして、今までの全てを捨てることになる。
生まれ育ったこの町。積極的に清掃活動をし、もっと綺麗にしようとした桃月学園。
いつも俺に頼ってばっかだけど、かけがえのない仲間達。
そして今までの桃瀬修―――今までの俺。
これら全部を……捨て去るのか。
それならいっそうの事自殺した方が楽に思えるが、俺はそれだけは絶対に許さない。
自らの手で自分を殺めることは最大の逃げである。
それは俺達を捨て家を出て行った母親と――そしてこれからの未来に絶望し、妹を殺した父親と同類の人間になってしまう。
目の前の現実から逃避することは、人間を止めてしまう事――それは人間ではない。
それなら全て捨てまた新しい挑戦に、新しい目標に向かって努力した方がマシなもんだ。
「桃瀬君、悪いけどなるべく早く決断して。時間が長く経ってしまうと偽造し難くなるわ」
先輩は踏ん切りがつかない俺に返事を急かした。
この“偽造”とはもちろん――俺の犯行を偽ることだろう。
やはり情報機関の組織だけあって、それらも容易いことなんだな。
「さぁ桃瀬君、決断しなさい」
121翼の折れたエンジェル:2006/07/25(火) 15:41:01 ID:???
唯でさえくるみが死んでしまったのに更に俺までいなくなるのは皆を大変悲しませることになるだろう。
この道の先には様々な障害が待ち受けているだろう。
だけど機関が俺の存在を必要としているなら俺はその期待に添えよう。
だから俺はこの道を選ぶ。

この道を―――選ぶ。


「俺は―――」


「機関に所属し、この国に全てを捧げます」
122マロン名無しさん:2006/07/25(火) 15:45:01 ID:???
Good Job!
活気付いてきたな
123マロン名無しさん:2006/07/25(火) 16:58:18 ID:???
職人ざま方、乙ですだ!
神●村を代表して、GJを言いますだ!
124マロン名無しさん:2006/07/25(火) 17:59:47 ID:???
>>113,121
凄ぇ…まさかあの流れからこーゆー展開に持ち込むとは…天才めッ!
つーわけでGJ!!!
125マロン名無しさん:2006/07/25(火) 19:42:48 ID:???
べホイミが東京中に仕掛けられた爆弾を解除して回る話を思い付いた
とくに山の手線爆破計画を食い止めるシーンと
ビルに取り残されて爆弾解除をするメディアと「死ぬ時は一緒だ」と壁を挟んでその場に留まるシーンに力を入れたい
126マロン名無しさん:2006/07/25(火) 20:25:37 ID:???
>>125
期待してる待ってる
127永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:07:33 ID:???

なんか良くわからない物ができたので、投下させていただきます。
128永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:08:19 ID:???

今日、玲は35歳になった。
もうこの年になると、誕生日だからといって祝ったりすることはない。
むしろ玲にとっては、純粋・希望・生命力といった概念から自分が遠ざかりつつあることを
嫌でも実感してしまう、呪うべき日に成り果てていた。
だから玲は自分のカレンダーから誕生日を削除した。
そうすれば、いつまで経っても年をとることはない……。

玲は特に何をするわけでもなく、日が傾きかけた桃月町の街を歩いていた。
彼女の眼に否応無しに飛び込んでくる風景は、遥か昔にアルバイトをしていたこともある商店街だ。
意外にも、あの頃から商店街の様子はほとんど変わっていない。
強いて言えば、かなり前のことだが一つの喫茶店が潰れたことだろうか。
その店がどこにあったかは覚えていないので、そこが現在は何の店になっているのかはわからない。
だがそんなことは、誰にとっても知る価値の無い些細なことだ。

周囲では、客を呼び止めようとする店員の声が響き渡る。
体のすぐ側では、街を行く買い物客がその存在を主張する。
道端で遊ぶ子供たちは、周囲の大人を微笑ませようとはしゃいでいる。
しかし、そのいずれも玲の感覚を刺激することはなかった。
今の玲の思考を支配するのは、完全なる虚無。
余計なことは何も考えない。考える必要もない。
そもそも考えようとしても考えたいことがない。

その代わりに、玲はひたすら脚を動かし続ける。
目的地は一体どこなのか。
これまでどのような道を辿ってきたのか。
そもそも出発地はどこだったのか。
玲にとってそれらは最早どうでも良いことだった。
ただただ玲は歩き続ける。
そうでもしないと、精神だけでなく肉体まで空虚に冒されてしまうから。
129永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:09:05 ID:???

いつのまにか玲は商店街を抜け、住宅地へと足を踏み入れていた。
道の右でも左でも、夢のマイホーム的な一軒家が際限を知らずに列をなしていた。
生活そのものが牙を剥く商店街とは異なる、穏やかな空間である。
もちろん場所の変化が玲に影響をもたらすことはない。
これらの家々の中では、仲睦まじい家族が団欒の時を過ごしているかもしれない。
だからといってその暖かさが玲に届くことはない。
もしかしたら、帰りの遅い娘の携帯へ電話をしようとする母親がいるかもしれない。
だが他人の子がどんな事件に巻き込まれていようが、玲には関係のないことだ。
玲の存在は、この世の全てから疎外されているのだ。
社会から、環境から、そして自分自身から。

玲は再び商店街の方へ向かう道を進み始めた。
別に周りの家庭と自分を比較して居た堪れなくなったわけではない。
ただ偶然そちらに足が向いただけだ。
しばらくすると、玲の前方から自転車を曳いて歩いてくる人物がいた。
さえない黄土色の帽子を目深に被っている。女性である。
彼女の接近は玲の視線の捉えるところとなった。
普通だったら、玲の知覚がそれに応えることはなかっただろう。
だが今回は、女性の情報を伴った光景は視覚を通じて玲の意識に到達し、
彼女の脳内でわずかながら青白い反応を引き起こした。
興味深い反応だ。
違和感を覚えた玲は、その原因を考え出した。
外界に対し何らの興味も抱かない自分が、何故その女性を気にしてしまったのか。
改めて、自転車の女に視線を投げかけてみる。
年齢はよくわからないが、あまり若くはないだろう。
うな垂れた頭と大き目の帽子は、彼女が厭世家であることを仄めかす。
俯いた歩き方からは玲自身と同じような、くすんだ空気が感じ取れる。
自分に対する憐憫と軽蔑の投影された姿を、玲はその女性に見ることができた。
どういうわけか親しみを覚えたのは、彼女が自分と同類だからか。
しかし何かそれだけではない気がするのは、やはり単なる気のせいだろうか。
玲は記憶の奥底から、忘れてはいけないはずの思い出を掘り起こし始めていた。
130永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:09:53 ID:???

距離がどんどん縮まっていく。
100メートル、50メートル、10メートル。
それに反比例するように、玲の意識は加速度的に覚醒していった。
同時に玲の心の中では、ある疑惑が徐々に確信へとレベルを上げつつあった。
『あいつは、もしかして……』
その疑念は、玲にとっては願望でもあり、恐れるべき事態でもあった。
期待と不安が綯い交ぜになった気持ちの悪い昂揚を、玲は感じていた。
0メートル。
玲はすれ違いざまに、帽子に隠されて良く見えなかった彼女の顔に目をやった。
全ての感傷が臨界点を突破し、あやふやだった玲の思考が一つの収斂を見せる。

「姫子?」

玲は立ち止まって自転車の女の方へ向き直り、かすかな声でそう呼びかけた。
玲との距離を今度は広げようとしていたその女性は、自転車の軋む音とともに動きを止めた。
「な…何のことカナ?」
彼女は小さな背中を玲に向けたまま答えた。
触れ合うことを全身で拒んだそんな返答でも、玲にとっては充分だった。

「お前、やっぱり姫子だ。そうだろ?」
「ごめん、私には――あなたの言ってることがわからない」
「ごまかそうとしても無駄だぞ。なあ姫子……」
「人違いだよぉっ」

彼女は玲の方を全く振り返らずに、自転車にまたがって逃げ出そうとした。
玲はそれを止めようと、彼女の肩に手を掛ける。
「こらっ、待てよ姫子」
「だから違うってば」
「ちょっとお前、帽子取れ。顔を見せろ」
「な、何するのさ」
131永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:10:54 ID:???

玲は片腕で女性の体を押さえつけ、もう片方の手で女性の帽子を剥ぎ取ろうとする。
自転車の女性は、片足だけをペダルに乗せた状態で何とかバランスを取り、
絡み付いてくる玲の身体を必死に払いのけようとしている。
大人の女性二人が繰り広げる攻防は、滑稽なほどに静かな住宅地には似つかわしくなかった。
周囲に人通りが無かったことは、二人にとって幸運なことだっただろう。

「うぁっ!」
ついに玲は、頭を押える女性の手を払いのけ、帽子を取る事に成功した。
敗北を喫した女性は玲の方へ向き直り、帽子を掴んだ手に腕を伸ばしながら叫んだ。
「やめてよ玲ちゃん!……あっ」

思わずあらぬことを口走ってしまったことに気付いたのだろう、彼女はしまったという顔をした。
露わになった頭からは、特徴的なアホ毛がぴょこんと飛び出している。
今し方まで肉弾戦に興じていた二人の顔は、10数センチまで接近していた。
玲は白日の下に晒された女性の表情を、まじまじと眺めてみる。
経年による変化こそあったもの、古い記憶の中にあるものと同じ顔がそこにはあった。
玲からの容赦のない視線を受けた彼女は、顔を赤らめながら玲から眼を逸らした。
しかしその姿勢がもはや拒否ではないことは明らかだ。
玲は、彼女がはにかみつつもはっきりと言うのを聞いた。

「……久しぶりだね、玲ちゃん」

「……久しぶり、姫子」
玲は満足げな微笑みを僅かに口に浮かべながら、彼女の挨拶に答えた。

10数年の歳月を超えた、かつての親友同士の再会だった。
132永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:11:35 ID:???

玲と姫子は今、近くにあった公園のベンチに一人分ぐらいの間を空けて座っている。
そこは公園を名乗らせるのも躊躇ってしまうような、極めて小さな公園だ。
ブランコと滑り台と砂場ぐらいしか遊具が設置されていない、見るからになおざりな造りである。
遊んでいる子供も全く見あたらず、見事なまでに閑散としている。
彼女たちが腰掛けたベンチは薄汚れており、既に風化の兆しを見せていた。
二人の邂逅を祝うにはこれ以上の場所はないように、何となくだが玲にはそう思えた。

ここへ来るまで二人の間に会話はほとんどなかった。
『ここじゃなんだから、あそこの公園に行こうか』
『うん……』
この程度である。
ベンチについてからも、二人はしばらく黙ったままだ。
これではいけないと、玲は内心焦っていた。
自分から捕まえに行ったんだから、何かを始めなければいけないのは自分のほうだ。
なのに何も出来ないまま、どんどん気まずくなっていく……。

沈黙を破ったのは、玲ではなく姫子の方だった。
「玲ちゃん、大変だったでしょあの後。――今は何をやってるの?」

失敗したと、玲は思った。
しかしこれでいいのかもしれない。
昔も、会話のきっかけを作るのはいつも姫子の方だった。
それに私は乗っかっていけばいい。
玲は深く考えるのを止め、質問に対して正直に答えた。

「今は無職だ」
「えっ………ごめん……」
玲の返事を聞いて言葉に詰まった姫子は、謝りの言葉を一言ついて下を向いてしまった。
その反応は、玲の望む所ではない。
133永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:12:18 ID:???

「会社のことは残念だったけど、仕方が無いさ」
「……」
口を閉ざしたままの姫子に、今度は玲が聞き返す。
「姫子はどうしてるんだ。漫画は続けてるのか」
「………一応」
「そうか」
玲は彼女の言葉の中に、触れて欲しくないという刺が含まれているのを感じた。
それは玲自身が発している雰囲気と同じものだった。

会話はそこで途切れてしまった。
周囲には人気もなく、耳を澄ましても物音一つ聞こえては来ない。
こうして二人でいることが所在無く感じられて、玲は何だか寂しくなった。
自分たちは今となっては出会うべきではなかったのではないか。
お互いに知らない人の振りをしたまま別れれば良かったのではないか、と。
玲は揺れることのないブランコを見つめながら、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回していた。

何故自分は姫子と並んで座っているだろう。
一度は忘却の彼方に押し込んだものを呼び戻す必要が、どこにあったというのだろう。
あの時に姫子がそうしようとしていたように、ただ擦れ違うだけだった方が幸せだったのではないか。
だが自分は確かに、彼女を見つけたときに喜びを感じていたはずだ。
それとも、その心地良さは刹那的な物でしかなかったのか。

しかしこれだけは言えた。
自分は片桐姫子に会いたかった。
どんなに心の中を空っぽにしようとしても、その願いを否定するのは無理なことだったのだ。
だからこうして彼女と一緒になれて、自分は嬉しく感じている。
134永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:13:31 ID:???

それは本当か?
自分が本当に会いたかったのは、鉤括弧付きの「片桐姫子」なのではなかったか。
それを認めるのは怖かった。
姫子と忌憚無く喋りたい。
自分は何て自己中心的なのだ。
いつまで経っても夢の世界に浸りっぱなしだ。
夢の世界……
夢、夢……
……
「どうしてこんなことになっちゃったんだろうなあ……」
玲はいつしか溜息をつきながらそう呟いていた。
特に誰に向けて言ったわけでもなく、自然と口をついて出てきたのだ。
そしてその一言は、これまでの玲の人生の集大成と言えた。

ぐすっ――ぐすっ――。
ぼんやりと思考を停止していた玲だったが、嗚咽する声に気付きはっとなる。
横を見ると、姫子が涙を流していた。
「うっ――うぅ――」
姫子は頬を伝う水滴を拭うこともなく、ただただ泣いている。
腿の上に乗せた彼女の両手に向かい所のない力が込められているのが、玲には見て取れた。

「おい、姫子?」
「はは、本当……何でこうなっちゃったのカナ……」
曇った瞳から透明な涙を溢れさせながら、姫子は続ける。
「もうずっと一日一食しか食べれてないんだ。最近はパートもやってるから
 良いほうだよ、これでも。でも、こんなはずじゃなかったんだ。
 子供の時、私は漫画家になりたかった。
 だけど私は漫画家になれなかった。
 昔のこと覚えてる? 楽しくて、おかしくて、夢があったよね。
 今はもう全然楽しくもないし、毎日辛いよ……。
 もう嫌だよこんなの。あの頃に戻りたいよ、またみんなに会いたいよ……」
135永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:14:13 ID:???

「姫子っ」
玲は姫子の体を包み込むようにして抱きしめた。
体温こそ伝わってこなかったものの、そこに姫子がいることが鮮明に感じられた。
姫子は肉体を玲に預けながら、喋り続ける。
「私、さっき玲ちゃんを見つけたとき悲しかったんだ……。
 大好きだったのに、何でカナ。
 ごめんね。ごめんね」
「いや、いいんだ。私だって同じだよ……」

気がつくと、玲もいつのまにか泣いていた。
姫子の髪に顔に、優しく零れ落ちる。
姫子を抱いた玲の体も、静かに濡れそぼっていた。
「ごめんね、ごめんね……」
その後も長い間、二人はそのまま絡まり合っていた。
彼女たちのむせぶ声が、公園の静寂に吸い込まれていった。


二人の体温が完全に等しくなった頃、玲と姫子はどちらからともなく密着していた体をゆっくりと離した。
玲にはそうするのが自然なように思われて、不思議と名残惜しくはなかった。
姫子の顔を改めて見てみる。
目や鼻から出た体液でくしゃくしゃになっていた。
「ふふ、姫子の顔、酷いことになってるぞ」
「……えー、玲ちゃんだって」
「ほら、これで拭け」
玲は先ほど駅前で貰ったポケットティッシュを取り出し、自分でも1枚取りながら姫子に差し出した。
「ありがとう」
姫子は素直に受け取り、やはり1枚のティッシュを手に持った。

二人は濡れた自分の顔を拭い、鼻をかんだ。
136永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:14:48 ID:???

「こうして二人でいると、高校時代を思い出すな」
「懐かしいねー。あの頃はバカなことばっかりしてたよ」
「ほんと、バカだったよな姫子は」
「あっ、玲ちゃんひどーい」
「ま、そこが姫子の良い所なんだけど」
「褒めてないよ、それ。……でもありがと」

玲と姫子は、一つずつ会話を紡いでいった。
ほんの少し前までのぎこちない空気は、既に霧消していた。
もう慎重に足を踏み出していくことはない。
二人はもう、ひとつになったのだ。

それから玲と姫子は公園のベンチで延々と語り合った。
話しても話しても話し尽せない、二人の共有する高校の思い出。
一つの出来事を口にするごとに、次々と懐かしい記憶が無意識の海から浮かんでくる。
玲にとっては、そのどれもが心の惹かれる大切な思い出だった。
長い年月の溝を埋めるためにも、玲は姫子と話し続ける。
自分でも知らないうちに、玲は笑っていた。
姫子もまた、明るく顔をほころばせている。
体が芯から温まってくるような気持ちになる。
これが自分たちのあるべき姿なのだと、玲は思った。

「あーあ、あの頃に戻りたいなー」
「ははは、そうだな」

10数年前に思いを馳せる。
長い廊下を姫子と歩いている自分が、眼前の風景として浮かんでくる。
玲はそこに、失っていた自分自身を見出していた。
137永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:15:28 ID:???

昔話をしているうちに、玲はかつての世界を取り戻したいという欲求を感じ始めていた。
もちろんそれが叶うわけもないことは承知している。
敗北者である自分には、過去を夢見る資格はないとも思う。
だがその願望を否定することはできない。
心の深淵で大きくなってきた郷愁は、姫子と会うことで隠し切れなくなっていた。
もう抑えることはできなかった。
鋭利な衝動に駆られた玲は、一つの計画を思いついた。

「学校へ……」
「へえっ?」
唐突な玲の発言に、姫子は素っ頓狂な声をあげた。
玲はそれには構わず、更なる勢いで言葉を迸らせる。
「そうだ姫子! これから学校行かないか」
「学校って……桃月学園?」
「そう。昔の話をしてたら無性にあの校舎を見たくなってきた」

玲のとんでもない提案に、姫子は驚いたような呆れたような顔を向ける。
だがすぐに、彼女は満開の笑顔で答えた。

「うん、行こう行こう! 私もすごく行きたい!」
「そうと決まれば、早く出るぞ」

そう言うと玲はベンチからすっくと立ち上がった。
姫子も慌てて腰を上げ、側にとめていた自転車のチェーンをはずす。
玲は自転車に乗り上がる姫子を見ながら尋ねた。
「それは姫子のか?」
「うん、ちょっとガタが来てるんだけどねー。
 出かけるときはいつもこれ使ってるよ。私の脚みたいなもんだね」
「ふーん」
138永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:16:05 ID:???

姫子が自転車に乗ったのを確認した玲は、じゃあ行こうか、と歩き出そうとした。
しかしその前に、姫子が玲に驚くようなことを言った。
「後ろ、乗って」
「は…?」
今度は玲が間抜けな声で聞き返す番だった。
姫子は今、何と言った?

「早く行くんでしょ。乗りなよ」
「何で?」
思わず玲は疑問の声を発する。
それを聞いた姫子は、顔を赤くし、ちょっとだけ怒ったような口調で言った。
「自転車の方が速いじゃん。 一緒に行くんでしょ、ほら!」
「別にそれでも構わないが……お前が大変だろう」
「いいから、大船に乗ったつもりで、ね?」
「まあ、そこまで言うなら……」
姫子の剣幕に押された玲は、言われるまま姫子の後ろに乗り込んだ。

「よーし、しゅっぱーつ!」
姫子は掛け声とともに、二人乗りになった自転車のペダルを漕ぎ始めた。
だが玲の重さが掛かった分、脚を回転させるのに苦労しているのは明らかだった。
意地でもそのまま漕ぎ続けるであろう姫子を心配し、玲は一応声を掛けてみた。
「やっぱり降りようか?」
「大丈夫、最初が一番重いだけだよ」
やはり玲の心配を是としなかった姫子に、玲は内心で溜息をついた。
それでも姫子の言った通り、自転車は徐々にスピードを上げ、姫子の様子も楽になってきたようだった。
走っていると言うに充分な速さで、公園から道へと飛び出す。
その境目にあったちょっとした段差を超えることで、自転車が垂直方向に少し揺れた。
「あははは、ガタッていったよガタッて」
「何が面白いんだ……」
139永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:16:41 ID:???

二人が乗った自転車は、桃月の街を疾走する。
周りの家や街路樹が、どんどん自分の後ろへと滑っていく。
自分たちは走っているのではない、飛んでいるのだ。
今の自分たちは何物よりも速いように、根拠もなく思われた。
目の前でこの乗り物を漕いでいる姫子をとても頼もしく感じ、玲は声をかける。
「凄いな姫子」
「まーね」
気持ちのよい風が、顔にあたる。
全てを吹き飛ばしてくれる、清浄の風だ。

桃月学園の建物が見えてきた。
もう充分に遅い時刻だということもあり、下校する生徒の姿はない。
玲の中で、懐かしさがとめどなく込み上がってきた。
かつて何千回と行き来した学校への道を、再び進んでいく。
いつかの自分の登校姿が、今の自分と重なり合う。
玲の心は、10数年の歳月を超越していた。

姫子は正門前に到着した所で、自転車を一旦停止させた。
都合の良いことに、門は開いている。
二人が在学していた頃の校舎、卒業後に建てられたらしい新館、広いグラウンド。
この境界の向こうにある空間が、かつて玲と姫子が誕生した聖域なのだ。

「どうする玲ちゃん、入る?」
「うーん。流石に校舎に入るのはまずいだろうけど……。
 グラウンドをちょっと周るぐらいにしとくか」
「そうだね。あんまり踏み入りすぎちゃいけないもんね」
「今度は私が運転しようか」
「ダメだよ。私のだから合わないでしょ」
「でも……」
「いいの。私が嬉しくてやってるんだから」
140永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:17:19 ID:???

そのまま結局、姫子が漕いで玲が後ろに座るままになった。
玲は姫子に対し申し訳なく思ったものの、姫子が本当に楽しそうなのでよしとすることにした。
一呼吸置いた後、姫子の脚が再び動き出す。
ギィッという音を立てて、車輪が回転を始めた。
二人の体が少しずつ学校の敷地内へと入っていく。
玲は僅かに緊張していたが、すぐにそれも解けてなくなってしまった。

校門を入ってすぐの所に、桃月学園のグラウンドはある。
二人を乗せた自転車は、トラックに沿って廻り始めた。
ここへ来るまでとは違い、比較的ゆっくりとしたスピードで進む。
走るというよりは、自転車で歩いていると言った方が適切かもしれない。
二人は放課後のゆったりとした空間の余韻を噛みしめた。

「早乙女先生の体育でよく走ったよねー」
「あれは結構辛かった」

「新しく建てたんだな、あの建物」
「一番古い校舎取り壊しちゃったんだね」
「ちょっと寂しいな」

周りの様子を眺めながら、玲と姫子は肩越しに昔を振り返る言葉を少し交わしたが、
トラックを1周した頃、どちらからともなく喋るのを止めた。
心地良い沈黙が、二人の身体を支配する。
二人が話さなくとも、この桃月学園という場所自体が雄弁な静寂によって語りかけてくる。
むしろ黙っている方が、この空間では相応しいのだろう。
二人は、全身で桃月学園と語り合っているのだ。
玲と姫子は融合して一つの存在となり、更に桃月学園という場とも一体化していた。
141永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:18:11 ID:???

玲は幸せだった。
今までの時間が、全て嘘だったような気がする。
この一瞬が、永遠に続いてほしいと願った。
一度失ったものを、もう一度失うようなことはしたくなかった。
これからどうしていけば良いのか考える。
本当に自分が望んでいたことを何故忘れてしまったのか、玲は後悔していた。
ならば今後は自分の本当の気持ちに従っていこう。
自分の本心とはそぐわない上辺だけの成功なんて、追い求めても面白くない。
今までの自分は、ちょっと魔が差していただけだったのだ。
玲は決意する。
自分は自分が本当に夢見ていることを求めればよいのだ。
そして自分が望むことは……。

「なあ姫子」
「ん?」
「これからお前の家、行っていいか?」
「えっ……狭いし汚いよ」
「うちもそんなもんだ。いいだろ? 私は姫子とずっと一緒に居たいんだ」
「……何それ、プロポーズ?」
「あー、それは……」
「いいよ。あまり大した歓迎はできないけどさ」
「ありがとう」

玲の願いは、かつてと同じように親友と楽しい日々を送ること。
目の前にいる姫子の背中を優しく触りながら、玲は心の中で呟く。
これからは、姫子とともにあろう。姫子とずっと一緒にいよう、と。

二人は桃月学園を出て、姫子の家へと向かった。

142永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:19:39 ID:???


桃月学園の数学教師、レベッカ宮本は、今日も憂鬱だった。
齢30にして教師歴20年。この学校でもかなりのベテラン教師である。
これからも彼女は、この学校で教鞭を振るい続けるのだろう。
レベッカにとって、それは決して嫌なことではない。
彼女は高校教師という自分の職業を愛しているのだ。

自分の人生を振り返ってみると、そのほとんどがこの学園を舞台としていた。
中には悪い思い出もあるが、概ね幸福な教師生活だったと思う。
生徒は愉快な奴らばっかりだし、その成長を助け見守るのは何よりの歓びだ。
暇さえあれば、数学の研究を続けることも許されている。
いつか教えてもらった「君子に三楽あり」という諺の意味は、今なら良く分かる。
レベッカ宮本は、幸せ者だ。

だが、このままで良いのだろうか。
フィールズ賞候補にも挙げられる程の数学者としても知られるレベッカの所には、
しばしば大学からのお誘いが来る。
今の所はどれも丁重に断っているが、承諾しようかと考えたこともあった。
高校を愛する気持ちは強いのだが、あと何十年もその生活が続くことを想像すると気が滅入る。
いつまでもここに居たいという気持ちと、いつかここを出たいという気持ち。
どちらも偽らざる本心だ。
「はぁー」
新校舎の3階にある第2代宮本研究室で、レベッカ宮本は一人溜息をついた。
143永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:20:24 ID:???

「んっ?」
窓の外をぼうっと眺めていると、グラウンドで自転車が走っているのが見えた。
制服ではない、しかも二人乗り。何なんだあいつらは。

「!」

何かに気付いたのか、レベッカ宮本はばっと立ち上がった。
そして風のような速さで研究室の扉を開け、部屋を踊り出た。
レベッカは、そのままの勢いで廊下を走り、階段を下る。
「どうしたベキ子、そんなに急いで」
血相を変えて走るレベッカに、同僚が声をかける。
だがレベッカはそれには見向きもしない。

時間は刻々と過ぎていく。
なかなか目的地に着けないことを、レベッカは苛立たしく思った。
早く、早く……。

遂にレベッカは、一階の出口へと到着した。
急に激しい運動をしたことによる息切れで、呼吸もできない。
ふらふらとしながらも、彼女はグラウンドへと飛び出した。

そこにはもう、誰も居なかった。

押し寄せる虚無感に耐えられず、レベッカはその場にへたり込んだ。
144永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:21:28 ID:???

初めての教え子の一人が、創業した企業の経営に失敗したことはニュースで、
他の一人が漫画家として失敗していることは風の噂で知っていた。
レベッカは無理矢理に叩き起こされたような気持ちになった。
一度は醒めてしまった夢をまた見てみたいということは、おかしなことではない。
彼女は、過去に戻ることをよく空想するようになっていた。

レベッカは泣いていた。
あの頃に戻れないのは重々承知している。
もう自分は、ちびっこ先生ではない。
教え子たちも、それぞれの事情を抱えている。

さっきここに居たのは、間違いなく彼女たちだ。見間違えるはずもない。
捕まえたかった。捕まえなければならなかった。
過去への扉が、レベッカにとっては一つの希望なのだ。
手が届くところにそれがあったのに、みすみす逃がしてしまったのだ。

だけど……、とレベッカは思い直す。
二人に会えないままで良かったのかもしれない。
私はもう、かつての私ではない。
今は今の教え子がいて、今は今の義務がある。
私がしなければならいのは、この現在に専念すること。
妙な所に迷い込んでしまったら、周りにも迷惑をかけるし自分のためにもならない。
そもそも私が彼女たちを捕まえることなんて、不可能なのだ。

なぜなら私が見ていたものは、20年前の幻なのだから。

145永遠の子供たち:2006/07/25(火) 21:22:03 ID:???

以上です。
146マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:24:28 ID:???
GJ!泣けてきたよ・・・。
147マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:29:39 ID:???
たいしたことは無い、せいぜい「オトナ帝国」レベルの作品





ちくしょー!!なんでここはこんなに懐かしんだ!?
148マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:33:35 ID:???
夏コミ用の作品を間違えて投下したとかじゃないよね!?
こんなのがタダで読めるなんてこのスレすごすぎる。
149マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:34:13 ID:???
巧いなぁ…本当に巧い。
最後に結局会えない所とか…泣けてくる。

あと文章に全く違和感が無かった。スラスラ脳内で映像化される感じ。

兎に角、GJ。
すっごいいい刺激になった。俺も書くの頑張ろう…
150マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:34:38 ID:???
>>145

玲や姫子、ベッキーが大人になったんだなというのが伝わってきてこっちも悲しくなった。
文の端々に見られる小ネタも秀逸で見習いたいくらい。
151マロン名無しさん:2006/07/25(火) 21:38:17 ID:???
映画化可能じゃない?

作品がメジャーだったら、『ドラえもん最終回』や『13年後のクレヨンしんちゃん』に匹敵する騒ぎになるぞ
152マロン名無しさん:2006/07/25(火) 22:28:12 ID:???
>>145
天才か?貴殿は?
すごく良い出来だ…まさに「夢の後」って感じの作品だったよ…GJ
BGMはローリング・ストーンズの黒くぬれって感じかな…

…ベッキーの事を「ベキ子」って呼んでた奴が気になるな…
「ベキ子」って呼ぶ奴って一人位しか思いつかんが…
153マロン名無しさん:2006/07/25(火) 22:35:36 ID:???
「夢の後」っていうのは元ネタの作品の題名?
154マロン名無しさん:2006/07/25(火) 22:41:26 ID:???
なんて心地よい欝なんだ…
155152:2006/07/25(火) 22:54:29 ID:???
>>153
いや…俺が何となく、イメージで名付けただけだ…誤解させたなスマン
156153 :2006/07/25(火) 22:58:59 ID:???
似たような話と言ったら、全然雰囲気が違うけど『20世紀少年』の冒頭だと思う
157マロン名無しさん:2006/07/25(火) 23:08:44 ID:???
つまり姫子が描いたマンガを元にして破天荒な計画を立てて世界征服するともだちがいるわけだ
158永遠の子供達世界:2006/07/25(火) 23:09:05 ID:???
他キャラ妄想
乙女:早乙女でも出来るんなら、という理由で体育教師になる
    ベッキーとは同僚だが、身長でも私生活でも距離が出来てしまい悩む
くるみ:店長と遊び気分でセックルしたら出来てしまい、おろせないため結婚
     エトワールはつぶれたが、店長一族の本家は裕福だったので飼い殺し状態
優奈:桃組っ!解散後、マカポンはお笑い、ツバサは歌手転向とやっていったが、
    優奈自身はあまりとりえが無いので、コネでタレントとして中途半端にTV出演中
優麻:ファッションデザイナーとして大成するも、優奈が落ちぶれかかっているのに
    自分だけ恵まれていることに姉として罪悪感を感じ、酒びたりに
芹沢:劇団員になるも、厳しい現実に直面し続け、瞳から輝きが消えそうになったころ、
    禿のアニメ監督に見出され、声優業がメインになり、主に少年役を演じる
来栖:特撮方面の女優になり、脇役から戦隊ものの5人の1人に抜擢され、以後は順調
    芹沢とオタク関係の雑誌のインタビューを受けるのが楽しみになっている
綿貫:防衛省の諜報員になるが、スパイ引退までは知人との関わりを完全に絶つように命ぜられ、
    B組や仲間内での同窓会にすら参加できず、日々心をすり減らす
一条:桃月の区役所に就職、以後は同窓会の幹事や離れていった友人間の連絡役を請け負う
犬神:大学卒業後、南条財閥系列の会社に入社、順調に出世し、南条家に婿入り
    あまりにも満ち足りた人生に飽いていたころ、一条さんと再会する
6号:結婚し、ごく普通の暖かな家庭を築く。偶然寄ったスーパーでパート中の姫子と遭遇
都:教授と世界を転々としていたころ、恵まれない子供達に深く同情するようになり、
  卒業後はNGO会員になって世界の紛争地帯を渡り歩き、しょっちゅう消息を絶つ
  結局、安定した生活を手に入れることは出来そうもない
鈴音:保母さんになり、くるみの子供のクラスを受け持つ。
    その関係で修と再会し、恋愛関係をいっそう複雑にする
修:犬神と同じ大学を出るも、職業を転々とし、優奈のマネージャーに治まる
  現在は、優奈、優麻、鈴音の3人と複雑な恋愛模様を展開している

宮田は考えれば考えただけ悲惨になるから割愛
159マロン名無しさん:2006/07/25(火) 23:14:20 ID:???
>>158
凄っ…となるとこの中に「トモダチ」がいるわけかw

…実は案外宮田だったりしてwww
160マロン名無しさん:2006/07/25(火) 23:17:10 ID:???
>158
さりげなく「防衛省」になっているとこにワロタ。
161マロン名無しさん:2006/07/25(火) 23:31:05 ID:???
ケンジ=姫子
オッチョ=怜
ヨシツネ=宮田
ユキヂ=乙女
マルオ=綿貫
モンチャン=くるみ
神様=一条
春波雄=メキシコの大スター!!ホセ

フクベエ=芹沢茜
万乗目=来栖
13番=6号

ドンキー=我らが恩師!レベッカ宮本。一部では真の「トモダチ」ではないかとの噂も・・・
162今月のGFを読んで:2006/07/26(水) 00:03:21 ID:???
エロなしグロなし人死にありです。

 黒い虫を撃退するステキなスプレーを浴びた途端、その黒ずくめの男はたたきに倒れて悶え苦しみはじめた。
 首元に走っているパイプのようなものから泡を吹き出し、手足を痙攣させてもがく姿はまさに黒いステキな虫を思わせた。
「あ、あの……? 大丈夫ですか?」
 やり過ぎたかと思ったベホイミが声をかけるが、彼にはもはや聞こえていないようだった。
 最期に大きくからだをのけぞらせ、二度と動かなくなった。すると、彼を覆っていた黒い鎧のようなものが霧のようにぼやけて消えた。
「あ……あああっ!?」
 そこにいたのはB組の神原だった。首筋に指を当てても脈動は感じず、祈るような気持ちで胸に耳を当てても何の音もしなかった。
(やばい)
 神原の死体を前に、ベホイミは頭を抱えてうずくまる。
(うちの部の新入りなのよー。ビシバシ鍛えてやろうと思っててねー)
 綿貫のうれしそうな顔が浮かんでベホイミの胸を締めつけ、振り払っても消えなかった。
(そのうちあんたもパペット持ちになれるから! がんばりなさい!)
(はあ)
163今月のGFを読んで:2006/07/26(水) 00:12:09 ID:???
ところで夏侯惇が曹操の事を私的には孟徳、公的には殿と呼んでるのをみて

由香と千夏は南条家の重役や秘書室長、または南条家を護衛する一族の娘でふたりきりの時には名前で呼ぶ仲。
そんな南条さんの信頼厚い千夏はある日南条さんをテロリストからかばって瀕死の重傷を負うが、
南条さんは由香の自らの命を顧みず主を守る忠誠に甚く感じ入り、
瀕死の千夏に自らの細胞を与えて南条獣として復活させる。
半分くらい人間じゃなくなっちゃった事を由香にも言えず、
親友に隠し事をしている自分に思い悩んでいたが、ある日、由香のピンチに由香の前で能力を使用。
驚く由香に意を決して告白すると、実は由香も南条獣になっていた事をのほほんと明かされて、
ふたりでにこにこ手をつないで帰りました。

という話を妄想した。
164リアルヒロスケ:2006/07/26(水) 00:20:12 ID:???
>>145
リアルで泣いた!
今の自分にすごく照らし合わせてみたよ…
165マロン名無しさん:2006/07/26(水) 00:34:43 ID:???
>>145
乙です!
自分の書いてる作品に似たことをより大きなスケールと緻密な描写で書かれてるのを見て唖然としますた。
166マロン名無しさん:2006/07/26(水) 01:25:52 ID:???
>>162

>>163
…わがんね

今まで過疎ってたのが嘘みたいにラッシュだな
ってことで俺も更に便乗w
167The most calamity:2006/07/26(水) 01:33:15 ID:???
姫子は、それでも耐えた。
何をされても悪いのは自分なのだと、他のみんなに迷惑をかけてはいけないと、何食わぬ顔で玲たちに接する。
それ自体が玲たちを不安にさせているのだと気づいてもいいものだが、生まれつきの頭の悪さが祟ったのか、
全ての感情を自分の内にと仕舞い込んでしまっていた。

例え昨日ベッキーに無視されていても、今朝は何食わぬ顔で登校する。
正門から眺めることの出来る時計の針が指す時間はいつもより数十分早く、それは漢字テストの勉強をするためだ。
それはもちろん良い点を取って馬鹿といわれないためだ。
それはもちろんベッキーに認めてもらい、許してもらうためだ。
いつものように教室の扉を開くが、中にはまだ誰もいない。それでも姫子は時間をかけて勉強をしておかなければ
到底ベッキーを安心させるような点数は取れないと、いそいそと机へと向かう。
漢字テストの出題基準となる教材の冊子を広げ、ノートを広げ、シャーペンを手にする。大学ノートを縦開きに
する方法で漢字を書き取っていき、一行終われば次の漢字に進む。
今姫子の頭の中を占める思考は、7割が漢字、2割がベッキーを安心させなければという焦りにも似た感情、
そして1割がいつまでも後についてくる後悔。
そんな不安を一刻も早く消し去ろうと、漢字が占める思考の割合を増やして他に何も考える必要が無くなって
しまうように、半ばムキになって漢字練習を続ける。
そうなれば当然腕に入る力は強くなり、筆跡は濃くなり、字は汚くなってしまう。だが知らず知らずのうちに
7割が6割になり、6割が5割へと、漢字練習に当てる割合をもやもやした感情に取られてしまっていた。
168The most calamity:2006/07/26(水) 01:36:06 ID:???
だから自分の机の中からなんだか分からない紙切れがはみ出していても気にしようとも思わなかったし、
例え気づいたとしてもただの紙切れなら無視していたことだろう。
だが、入れっぱなしの消しゴムを取るために机に手を突っ込んだ時、机の中にあるそれの存在に明確に
気づいた姫子は感触に、形に、状況に異常を覚えた。
すぐさま中を覗いてみるが、暗い上に適当に物をしまってある机の中身を把握するのは、それだけでは
無理な話というものだ。
はやく勉強を始めなければと焦りつつ、その紙切れを手前へと、机の外へと引っ張り出す。
するとそれは、何のことは無い。自分の持っている漫画の紙だった。
…そこで姫子は、何のことは無いはずの、自分のよく見覚えのある紙を見つめたまま硬直してしまった。
姫子「……ぇ?」
その紙切れは、姫子の漫画「だった」ものであった。
表紙は破り取られ、何の規則性もなく細切れにされている。紙は一度に切ったのか、何枚か重なって
半分のサイズになっていた。ただそれらは決して姫子が勉強に集中するためにした試みでも、
何かの自然現象や超常現象で起きたことでも断じてない。どの切り口を見ても、それらは全て均一、
つまり鋏を使って切ったことを示していた。
まず始めに感じたのは悲しみでも絶望でもなく、疑問だった。何故自分の漫画が細切れにされているのか、
誰が何のためにこんなことをする必要があったのか、と。
そして思う。自分は、もしかしたらいじめにあっているのかもしれないと。今まで読んできた莫大な量の
漫画の中に、確かこんな話が紛れていたような気がする。その感情は悲しみでもなんでもなく、飽く迄も疑問だった。
更に思う。だとしたら、これが原因で玲たちにもっと迷惑をかけてしまうかもしれない。
そう考えると、もう今まで大切に貯めた漫画が誰かの手で細切れにされたことも、自分がいじめを
受けているらしいという事実にも、感情らしい感情を認識する暇もなかった。
16940 中断:2006/07/26(水) 01:38:34 ID:???
とりあえず。
というより、本当に>>145さん凄いなぁ〜

>>146-157
↑このレス量が、俺とは確実に違う「何か」を物語っているw
170マロン名無しさん:2006/07/26(水) 07:57:31 ID:???
若い頃の空想の物語

突然姿を消した天才教師
次々と襲われるクラスメイト達
背後に見え隠れする世界征服の陰謀

姫子が書いた、こんな下らないストーリーの漫画を少女たちは「よげんのしょ」と名付けていた
そして彼女たちがオトナになるにつれて、そんな思い出も薄れて行った

しかし、ある事件をきっかけにして彼女たちは再び出会うことになる

恩師、レベッカ宮本が、ある日突然失踪したのだ
171マロン名無しさん:2006/07/26(水) 13:38:26 ID:???
>>170
続きは?
172マロン名無しさん:2006/07/26(水) 15:00:25 ID:???
>>169
確かに>>145は凄いけど、俺はアンタの作品好きだぜ
173マロン名無しさん:2006/07/26(水) 15:03:53 ID:???
>>169
俺も好きっす。ていうかこのスレの職人さん、みんなレベル高いですよ。
他に俺がROMってるssスレより人数多いし・・・うらやましい。
174マロン名無しさん:2006/07/26(水) 22:32:54 ID:???
>>158にベホとメデが居ないので考えてみた。

メディア:卒業後、獣医を目指すも日本の制度では免許を取得できず、
桃月学園で校医(兼警備員)になる。乙女を通じて勇気と恋仲になるが、
華道の家元である親が2人の結婚を許さず、勇気の提言で駆け落ち。
以後一切の連絡を絶つ。

ベホイミ:卒業後看護婦を目指すが、メディア同様免許を取得できず、
桃月学園で警備員になる。後に居なくなったメディアの代わりに校医になる。


なんかこの2人って桃月学園か戦場くらいしか居場所なさそう。
175マロン名無しさん:2006/07/26(水) 23:37:41 ID:???
>>169
何言ってるんだ…もう待ちまくりさ…
みんな待ってるんだぜ?
『おせェぞ40ッッッ』
…な?

>>174
長く戦場に居た奴等って日常生活に順応出来ないらしい
何だっけか…DPO…MPO…FOS…忘れたorz
とにかく、そんな連中の枠内に入ってるのさ…ベホとメディは
176盗まれた桃月町:2006/07/27(木) 00:14:36 ID:???
『本物そっくりなんだけど、本物じゃない。そんなそっくりさんが自分の目の前に現れる。
 そして「ただいま」ってウチに帰るのは、そっくりさんの方らしい・・・』

そっくりさんの真似のつもりなのか、ひた、ひた、ひた、と姫子達の周りを不気味に徘徊しながら
一条の話した『桃月町都市伝説』の内容は、おおよそこのようであった。

「それじゃあ・・・ほんものはどうなちゃうのカナ?」

すると突然、一条は動きを止め一条に襲いかかった

「ガ・・・ガオー」
「ひっ」

一条の迫力に欠ける演技でさえも、身近に迫る異変に怯える姫子にとっては恐怖の対象だった

「ほんものがどうなっちゃうのかは分かりません。ニセモノに捕まってるだけなのか?それとも・・・」
本気で怖がっている姫子に気を使ったのか、都が一条に突っ込みを入れた

「でもさあ、そういう話って昔から映画とかで色々あるんだよね。」
「・・・そうです、人間に化ける侵略者は宇宙人が出てくるSFでは昔から多く使われた題材ですね」
「そんなに怖がるなよお姫子。こんな話なんてフィクションのなかだけだよ」

本当にそうだといいんだが・・・
177盗まれた桃月町:2006/07/27(木) 00:16:24 ID:???
桃月町に起きた異変に半信半疑のまま数日が過ぎ、学校は文化祭の準備で慌しかった
教室では玲が壁に文化祭のポスターを取り付けている。
その様子を姫子はぼんやりと眺めていた
今のところ平穏な日常が続いている。考えてみるとドッペルゲンガーなんて漫画のなかだけの出来事なんだ
目の前の友人はいつもの様にご飯を食べるし、汗もかくし、トイレだって行く
仮に宇宙人だったら地球の食べ物なんて食べないじゃないか

ふと、玲の上履きに画鋲が入っているのが目にはいった
うっかり落としてしまったんだろう。注意してやらないと危ないじゃない
「あっ」
と姫子が言う前に玲は上履きのなかの画鋲を踏んでいた
「怜ちゃん!あし!・・・あし・・・!」
しかし怜の表情は全く変化が無かった。まるで痛みなんて感じてないように
「どうした?姫子?」
「あの・・・大丈夫なの?」
そういいながらあとずさりする姫子

ガララ・・・
誰かが入ってきた。
「どうしたっスカ?姫子さん?」
ベホイミだ。
彼女ならなんとなく頼りになりそうだ。そう考えて姫子はベホイミに助けを求めた
「・・・あの、怜ちゃんが」
歩み寄ってきたベホイミ。だが、彼女の首はあらぬ角度で曲がっていた
「『怜ちゃんが』・・・だけっすか?」
さらに玲も
「他にもなにか、あるんじゃなあい?」
まるでゴムのように伸びたベホイミの腕が姫子の肩を掴んだ。
178盗まれた桃月町:2006/07/27(木) 00:18:24 ID:???
「さあ、話して見るっス。いったいなにが起こってるのか」
恐怖の余り凍りつく姫子。その時
「えーっ、こちら諜報部の綿貫響が、学園祭の準備で盛りあがる学園の様子をお伝えします!!」
予想外の邪魔が入ったとばかりに舌打ちして逃げ去るベホイミと怜
教室にはへたりこんだ姫子だけが残されていた
「なに?いまの・・・っちょっと、いけないわこんな所で」
「わーん!ヒビキサン、怖かったよお!!」

「・・・ニセモノがいる?へーっ面白そうじゃないの」
「ちょっとー真剣に聞いてよ!本当に怖いんだから」
「ふーん、こういうのってなんかじめじめした所から涌いてきそうじゃない?
 なんなら体育館の裏にでも行って見る?ニセモノの卵とかあるかもよw」

・・・本当にあった。

「響ちゃん、カメラ貸してくれる?」
姫子は自分でも意外なほど早く落ち着きを取り戻した。既にあの怜とベホイミを見ていただけに、ある程度予測がついていたに違いない、と考えた
「ええっ、写真取る気?」
響はとんでもないことを姫子が言い出したとばかりに叫んだ
「うん、証拠写真」
「いやよ、こんな気味の悪いのがカメラに写るなんて」
「しょうがないなあ。じゃあ使い捨てカメラ買って来る、ここで待っていてくれる?」
「それはもっと嫌!分かったわよ!あたしだって諜報部だもん。学園の危機を皆に知らせる義務があるわ」
響もようやくいつもの調子を取り戻した

二人は目の前の物体を見つめる。半分だけの天才教師を、
どうやら奴らは次にベッキーと入れ替わろうとしているらしい

それにしても良く出来ている。体ばかりでは無く、今日の朝ベッキーの姉が用意したはずの服までが半分まで完璧に再現されている・・・
いつもの姫子なら持って帰りかねない
179マロン名無しさん:2006/07/27(木) 00:20:25 ID:???
この後、姫子はベッキーを持って帰りたいという欲求に逆らえず・・:・
180マロン名無しさん:2006/07/27(木) 19:25:11 ID:???
以上、ブラック宮本の誕生秘話でした
181マロン名無しさん:2006/07/28(金) 22:30:28 ID:???
誰か麻生先生のクラスを学級崩壊させてくれないか。
182マロン名無しさん:2006/07/28(金) 22:43:15 ID:???
うるさくて授業にならない麻生学級とかか
183思いつき:2006/07/28(金) 22:53:33 ID:???
麻生先生「あー、もう!!先生の話を聞いてくれない人は、先生が叩いちゃいますよ〜!!!」
望「先生本当に私たちのこと叩けるの…?」
雅「の…望ちゃん…」
麻生先生「あぅ〜…無理です〜」
望「プヒヒヒヒ」
近藤くん「あー!僕の『桃組っ!』の写真集返してーっ!」
184マロン名無しさん:2006/07/28(金) 22:54:27 ID:???
生徒の自主性、子どもの人権、
そんな言葉だけを振り回していても子供に教育を施すことなど不可能!
かつては優柔不断の性格とともに生徒たちに自由にやらせていたが、
ある事件をきっかけに彼女の世界は一変した。
学級崩壊、いじめを根絶するには根から絶たねばならぬと察した女教師
悪鬼御用マヒロ!
185マロン名無しさん:2006/07/28(金) 22:56:13 ID:???
昔書きかけた。

日影校長が先生をクビにすると聞かされて
校長さえいなければ先生はクビにならないと
校長殺害を計画する麻生学級。
誰ともなく言い出した突拍子もない計画に反対するものは一人もいなかった。
みんな麻生先生が好きだったから。
186マロン名無しさん:2006/07/28(金) 22:59:08 ID:???
日影校長「私を・・・殺したら・・・麻生先生は・・・
     何故なら・・・私は・・・彼女の・・・影・・・
     ぐふっ!!」
187マロン名無しさん:2006/07/28(金) 23:06:18 ID:???
ダグオン22話か
188マロン名無しさん:2006/07/28(金) 23:32:15 ID:???
小学校には、友達との出会いや楽しい思いでと言った、それ独特の匂いと言うべきものがあった
日影校長はその匂いを手に入れたのだ
そして、現にレベッカ宮本はその匂いの虜にされようとしていた
ここの生徒たちは、この学校を愛し、変わる事のない小学校生活を生きている
そしてこの学校は、いつしかリアルな過去の匂いに包まれた
彼らにとって小学校こそが現実で、そとは偽者の世界だ
匂いがないから
189マロン名無しさん:2006/07/29(土) 20:58:11 ID:GANguJ/V
波が激しいスレだぜ・・・まさにぱにぽに!
190マロン名無しさん:2006/07/29(土) 21:04:45 ID:???
ベッキーが校長を食い止めるために
ボロボロになりながら階段を駈け上がるのか
191マロン名無しさん:2006/07/29(土) 21:12:23 ID:???
「残念だよ、桃瀬くるみ君。
地味な人生だったな」
192マロン名無しさん:2006/07/31(月) 12:55:27 ID:???
昨日一日書き込みなし。
少し前の大量投下が、一転過疎に。
今一生懸命書いてるのだろう。頑張れ。楽しみにしてる。
193三村:2006/07/31(月) 15:04:16 ID:???
上から口調かよ!!!
194マロン名無しさん:2006/07/31(月) 15:13:49 ID:???
職人達の活動周期が同期しちまってる
195マロン名無しさん:2006/07/31(月) 18:41:28 ID:???
ここから推測出来ることは、書き手の多くが大学生で、過疎の原因が期末テストではないか?という事だ。
196マロン名無しさん:2006/07/31(月) 18:44:27 ID:???
いや、夏休み前に書いて、長期休暇に…。
ていうかこの前投下されまくった時期が丁度、俺の大学のレポート試験と期末試験の時期だったが。
大学によるだろうが。
文系理系でスパンも違うしな。
197マロン名無しさん:2006/07/31(月) 18:50:15 ID:???
「永遠の子供たち」を漫画でみたいなあ
198マロン名無しさん:2006/07/31(月) 18:55:22 ID:???
「ぱにぽにバトルロワイヤル」と「盗まれた桃月町」は映画で見た気がするなあ
199マロン名無しさん:2006/07/31(月) 19:22:11 ID:???
ベッキーと姫子と南条と一条とくるみは、スナッチされるまでもなく既に大量のクローンが居るからなあ
200マロン名無しさん:2006/08/01(火) 00:05:32 ID:???
>>195
残念、一人工房が…orz


バイトがもちょっと落ち着けばSSも落ち着いて書けるんだがな〜
201マロン名無しさん:2006/08/01(火) 01:16:10 ID:???
>>200
焦らなくてもいいから頑張っていい作品を完成させほしい。
期待して待ってる。
202The most calamity:2006/08/01(火) 14:31:16 ID:???
そして半分パニック状態の頭で、姫子は静かに決心する。玲たちに、そしてベッキーにも、このことは絶対に隠し通そう、と。
そんな覚悟を決めた瞬間、まるで推し量ったかのように教室の扉が開いた。
玲「お、姫子。今日は早いな」
玲だった。
姫子「う、うん…玲ちゃんも早いねぇ〜」
焦りながらもとっさの作り笑いで、挨拶代わりの言葉を玲と交わす。もちろん紙切れを握った手はとっくに机の中に押し込めている。
玲「まぁ…いつもだ」
姫子が必要もない笑みを浮かべていたことには特に疑問を持たずに、自分の机に向かっていく玲。
なんでもないその仕種が、どこと無くよそよそしかった。
だが半パニック状態の姫子は、そんなことには気づく訳も無く、
姫子「ほら、一時間目から漢字小テストだからさ〜。勉強してるのカナ〜」
不必要な取り繕いをまだ続けている。
玲「…姫子、ちょっといいか?」
そんな姫子に向き直りもせず、玲は静かに、まるで息でも吐くかのように問いかけた。
一瞬の沈黙。
姫子「どうしたのカナ?玲ちゃん」
空白の時間にいくらか気持ちを落ち着けることに成功した姫子が、逆に玲に問い返す。
玲「無理はしてないのか…?」
一瞬の硬直。
203The most calamity:2006/08/01(火) 14:32:53 ID:???
だが姫子の表情は玲には見えていない。そして玲の表情も姫子には見えていない。
姫子「やだなぁ〜、玲ちゃんは心配しすぎダヨ〜」
玲「真面目に答えてくれ。無理はしてないのか?」
姫子「……」
今度の沈黙と硬直は、数秒間続いた。
やがて姫子が、今日何度目かの作り笑いと一緒に言葉を吐き出す。
姫子「だいじょ〜び〜!ベッキーに嫌われちゃったのは私の所為だし、だから
   勉強してるんダヨ〜。玲ちゃんは心配しなくても」
玲「そうじゃない!」
ここで玲が始めて、感情的な怒鳴り声を上げた。
その面影には、今の今まで都やくるみを押さえさせ続けてきた玲のそれは全く存在していない。
玲「誰が悪い悪く無いじゃないんんだよ姫子!私が聞いてるのは精神的な問題だ!
  姫子は辛いのか!?辛くないのか!?って聞いてるんだ」
語気が荒くなってしまうのは、ただ純粋に姫子のことが心配だったからに他ならない。
それは都やくるみ達となんら変わらなかった。
他のみんなにはに言っておきながら姫子に詰め寄っている自分に一抹の罪悪感を感じながら、
玲は静かに答えを待つ。
姫子「……」
玲の耳には、姫子が深呼吸をしたような音が聞こえた気がした。
姫子「全っぜん!ベッキーは大好きだからどこも辛くなんてないよ〜?タマネギと勉強は嫌いだけど、
   好きなもののためならなんでもお〜け〜!!」
あでも漢字は勉強だねあははと言って、姫子は声を上げて笑う。
玲「―――――」
姫子の耳には、玲が深呼吸をしたような音が聞こえた気がした。
玲「…なら良いんだ…。怒鳴ったりして悪かったな」
ここで席に着いてから初めて、玲は姫子のほうに向き直った。
玲は姫子のその笑顔が本物なのか、それとも作り笑顔なのか、どうしても分からなかった。
20440 中断:2006/08/01(火) 14:35:45 ID:???
とりあえず。ちょびちょびしか出せなくてゴメンなさいorz

>>172-173>>175
ありがとうありがとう本当にありがとう。
こんな作品でよければがんばります。
205マロン名無しさん:2006/08/01(火) 17:35:24 ID:???
正直すっごく期待している
206マロン名無しさん:2006/08/01(火) 19:36:42 ID:???
wktkしてまってる
207マロン名無しさん:2006/08/01(火) 22:34:16 ID:???
俺も全裸で待ってる。
208マロン名無しさん:2006/08/01(火) 22:37:07 ID:???
蟹刺されないように気をつけてな
209暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:32:27 ID:???
来栖は息を切らせてやってきた。
高見沢ハルカは彼女の姿を認めるとすぐにそれを手招いて演劇部の部室へと入れた。
ツンとアンモニアの厭な臭いが漂い、中には消沈しきった表情の高瀬と涙も感情も涸れて空ろな目をした藤宮部長が力なく座りこんでいた。
そして、小道具類の乱雑に置かれた部室の薄暗い片隅に、それは居た。
ロボ子。少なくとも本人はそう名乗っているひとつの存在。
壁際を向いてじっとして動かないその様子からは、とてもそれの内部に人が居るものとは思えない。ましてや・・・・・・
「本当に・・・・・・あの中に芹沢さんが・・・・・・?」
来栖にとっては伝えられた全ての事実が余りにも浮ついた虚構のように思えて仕方がなかった。
あの宿敵のロボットの着ぐるみの中身が大親友の芹沢茜であったということにまず甚大なショックを受けた。
だが、それ以上に、彼女の身に起きたとされる、余りにも怪異で猟奇的な事件、そしてその結果のこの有様、それが彼女にとってこの上なく不気味で、嫌気のさすものだったのだ。
210暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:36:36 ID:???
 ことの起こりは些細な悪戯からなったという。
事件とは得てしてそういうものだ、とは高見沢ハルカの弁明とも慰めともとれる論調である。
即ちそれは溯ること数日前、相変わらずの着ぐるみ趣味で以って芹沢は部室でそれに着替えていた。
その手には最早学園の風物詩となった‘ロボ子’の着ぐるみがあった。
 さて、そんないつもと同じ光景を眺めながら悪戯好きの前述上級生三人組はあることを画策していた。
誰が言い出したものか、今となってはわからないことだし、大した意味もない。
とにかく、そのうちの誰かが、芹沢の着ぐるみにひと細工しようと言ったのだ。
きっと軽い冗談のつもりだったのだろう。賛同した残る二人も同じくらいの気持ちであったに違いない。
実際に何をしたか、といえば、これが実に他愛もないくだらない悪戯で、
要するに頭の被り物の胴体との接合部を細工して、一度嵌めるとある特別なやり方でなければそれが再び外れないようにしたのだ。
 いつもと同じようにそれを嵌め――細工にはまるで気付かず――駆け足で飛び出していった芹沢の後姿を送り、
三人は部室で大いに笑い転げた。
芹沢がどこかでひと暴れしたあと、熱のこもった着ぐるみを脱ごうとして、
その意が叶わずに慌てふためく様子を想像すると、余りに滑稽で仕方がないのである。
「本当に、些細な悪戯心だったのよ」
ハルカは自分たちのしでかしてしまった大いなる錯誤に怯えつつ震える声で語った。
 案の定芹沢は着ぐるみが脱げなかった。
だが彼らの予期しえなかったことには、彼女がなかなか演劇部の部室に戻ってこなかったことだ。
下校時間が過ぎて、日もすっかり沈む頃になっても、やはり彼女は帰ってこない。
さすがに少し様子のおかしさを案じ、それに悪戯し放して帰宅するわけにもいかず、
彼らは行方知れずの子猫を探しに出掛けた。
衣装部やD組の教室、それに不本意ではあったが映研の部室なども覗いてみたが、やはりいない。
結局その日は彼女は見つからず、きっともう帰ったのだろうと結論付けして彼らも帰宅の途に就いた。
211暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:40:16 ID:???
 それからどうして彼女が見つかったのか、ということについては紆余曲折があるのだが、
それらは軽く省いて実際に彼女を見つけたところから説明を再開する。
 芹沢は一日置いて彼らに発見された。そして彼女は、狂った。
夜の間、彼女はこの悪質な悪戯のために帰ることもできず、幾度となくこれを外す術を試行していた。
しかしそれは能わなかった。校舎は施錠され、いよいよ身動きが取れなくなると、
一夜のうちに彼女はそれを脱ぐことを諦め、代わりに、狭く暗い着ぐるみの内部で、
‘何か’と出会った。それが何なのかはその晩孤独の恐怖と不安に神経を磨耗していた彼女にしかわからない。
常人の推し得るには、余りにも超越しすぎた観念の怪物が、
暗闇の圧迫とともに彼女の精神を飲み込んだのである。

 だがそれが、こうして彼らの目の前に引きずり出されると、
精神の影絵は、とてもわかりやすい姿となって表現されたのである。

「どういうことですか、先輩?」来栖は訊ねた。
「つまり、芹ちゃんは・・・‘ロボ子’になっちゃったのよ。身も心も、何もかも」
 単純に要約すると次の通りである。
 いかにも、芹沢は着ぐるみを脱げなくなり、そこに加えて彼女の持ち前である役に没入する気質が手伝い、
‘ロボ子’の役から抜け出せなくなったのである。
必死に謝って彼女の着ぐるみを脱がそうとするが、それはまさしく‘ロボ子’であり、
芹沢という人格ではないために、全く聞き入れられず、無理をすると激しく暴れるのでどうにも仕方がないのである。

 まさしく狂人の様態である。
しかし芹沢はどこにいってしまったのだろうか。鋼鉄製の外皮と、意思人格は新参者のものである。
芹沢の肉体だけが、文字通りサンドウィッチ状にそれに挟まっているのである。
なんとかしてこの二者を引き離せぬものか。
考え抜いた末、ハルカは止む無く来栖に全ての事情を話し、ここに連れてきた次第なのである。
212暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:43:06 ID:???
「・・・・・・それで、私は芹沢さんのために何が出来るのですか?」
 部屋の隅にいる、生命の息遣いをも感じさせぬ無気味な鉄の塊(しかしその中には一人の人格が、それが誰であれ、入っていると言う)を凝視しながら、来栖は恐る恐る訊ねた。
「貴女が怪獣になって‘ロボ子’と戦い、彼女(?)を倒して、芹ちゃんの人格をもう一度目覚めさせるのよ」
 余りに突飛な荒治療である。
しかし、そもそもこうした芹沢の狂態自体が尋常ではないのだから、そうするしか手は無いように思われる。
悪いことに、彼女は――‘ロボ子’は、その人格が芹沢の肉体を支配してから、その身体を非オーガノイドと認識し、
今も‘生物学的に’生きている芹沢の肉体に、生理的行動をとるのを許していないのである。
もちろんどんなに食事を与えても全く口にしようとはしないし、さらに見るに堪えないのは、
このロボットには‘トイレ’の概念がないらしく、従って芹沢の尿が、部室の床に垂れ流しになっている状態なのである。
あの厭な臭いは、今も股間の隙間からチョロチョロと断続的に流れ続ける芹沢の尿からくるものだったのである。
 その話を聞いたとき、来栖は思わず気を失いかけた。が、気をしっかり持って立ち直ると、
やはり自分が芹沢を救ってあげねばならぬのだと決意するのであった。

「このままじゃ、彼女、衰弱死しちゃうから・・・」
213暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:46:08 ID:???
 来栖は言われたとおり、ドジラの着ぐるみをつけ、‘ロボ子’の前に立った。
しかしその胸中は、やはりなんとも解せないモヤモヤに満ちていた。
 来栖は大きく深呼吸すると、思い切り息を吐きながら喉を振るわせた。
「ガ・・・・・・ガオー!」

 その途端、まるでスクラップ廃材のように微動だにしなかった‘ロボ子’が勢いよく立ち上がり、宿敵の怪獣を睨みつけた。
作り物の大きなレンズ状の眼球が、無機質な光を灯し、ガタガタと重い体を持ち上げて立ち上がったのである。
 さしもの来栖もこれには威圧されてしまった。
中には芹沢がいるとわかっているのに、いや、わかっていたからこそ、このあまりにも奇怪な、化け物じみた芹沢の心の闇の産物が、
一層凄まじげに見えたのだ。
「ピコ・・・・・・映研の手先の怪獣だな・・・・・・私が始末してやるピコ」
 無気味に歩み寄る‘ロボ子’。
来栖は逃げ出したくなるのを堪え、必死の心でその前に立ちふさがった。

 そのとき着ぐるみの中の来栖の中で、どういった葛藤があったのか、やはり正確なことはわからない。
しかし後から彼女の語ったところに拠れば、その時彼女の中には紛れもなく芹沢が居たというのである。
自らの肉体を追い出され、当てもなく漂っていた芹沢茜の魂が、来栖の意識に加勢し、
その暗黒面たる‘ロボ子’と対決していたのだという。

 あまりにも観念的で理解の及ばないことだろう。それに、結末を知ればそれが本当に芹沢の霊魂のようなものであったかは疑わしいものだ。
或いは来栖が自分の中で形成していた理想の芹沢茜が、来栖の顕在意識にまで発現しただけなのかもしれない。
しかしながら、確かなのは、その時、来栖の中には明らかに二つの人格が居たのだ。
来栖本人と、由来の定かでない、芹沢が――
214暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:48:41 ID:???
 さて、物質的な決闘の結果はどうなったか。
それはやはり狂気の沙汰としか思えぬ猟奇的なものであったという。
二つの人格を内包した来栖の肉体は、とてもその華奢な体躯からは想像もつかぬような怪力を発揮し、
掌拳一撃のもとに‘ロボ子’を陥落せしめたのである。
 本来ならそれで一件落着なのだが、ドジラの衣装を身に纏った来栖は完全に自らの挙動に陶酔し、
半ば覚醒剤に拠るようなトランス状態に陥り、倒れた‘ロボ子’を、マウントポジションのまま執拗なまでに殴りつけたというのである。
その激しさは芹沢の狂気をも一枚上行き、男の高瀬ですら止めることのできないほどの凄まじさであったという。
 そして最後に、来栖は‘ロボ子’の被り物を強引に引き剥がし(元凶の細工が壊れるほどの怪力だったらしい)、
遂に忌まわしき‘ロボ子’を絶命させたのである。

 ようやく日の光の下に、蒼白となった芹沢の顔が晒され、一同は安堵に胸を撫で下ろすことが出来た。

 しかしこれで終わりではなかった。
これは後に芹沢を診察した精神医学博士に聞いたことであるが、第二の人格として浮上してきた‘ロボ子’は、
小説や映画にあるように多重人格として芹沢の元来の人格と共生することを拒んだ。
その身体を、独占することを望んだのだ。
そして、彼女は、芹沢茜という一人の少女の人格を、心の闇の中の闘争の末、完全に殺してしまったのである。

 さぁ、その上でそいつを来栖が殺してしまったのだ。
残ったのは人格のまるでない、空っぽな器のような芹沢の肉体だけである。
元芹沢と言った方が幾分正しいことは推察の通りである。
芹沢の肉体は、遂にその主を失ったまま、廃人のそれと化してしまったのである。
215暇つぶしの読み物に:2006/08/02(水) 04:54:39 ID:???
 ところが、である。
事実の奇なるは甚だ可笑しなもので、肝心の芹沢の人格が、今度は来栖の中に発生したのだ。
そう、過度のストレスから来栖もまた精神に変調をきたし、人格分離を果たし、
なんと芹沢の人格をその内部に生んでしまったのだ。
もっとも、平生の二人から考えてみて、芹沢と‘ロボ子’間にあったような闘争は起こることなく、
逆に二人は文字通り一つとなって永遠に添い遂げる運命共同体と相成ったのである。

 その後、二人の人格を宿した来栖の身体は誰の人格をも持たない芹沢の身体を持って学校を中退し、
日本海に浮かぶ某小島にあるという精神病棟に身を移したという。
生物学的には生きているが、人間的には死んでしまっている芹沢の元々の肉体の世話をしつつ、
来栖の肉体に共生する二人は仲良く暮らしているという。

 二人の人格に二つの肉体。
多少偏ってはいるものの、本来勘定はあっているのだ。
二人はきっと、これからも幸せに暮らすことだろう。

おしまい
216マロン名無しさん:2006/08/02(水) 11:50:37 ID:???
>>215

最近は鬱展開がすごまじいな。
俺もお笑い路線を確立するか
217マロン名無しさん:2006/08/02(水) 12:44:32 ID:???
>>215
乙。
最後の「おしまい」がどうしても鈴音の声に聞こえて仕方がなかった

>>216
期待期待。
218マロン名無しさん:2006/08/02(水) 12:50:55 ID:???
>>215
うんGJ!イイねすごく!
でも…>>217の言う通りだと、もしかしてこれは鈴音が考えた話なのか…
だとしたらやはり鈴音は奇才だなw
219マロン名無しさん:2006/08/02(水) 22:27:04 ID:???
「来栖ちゃんごめんね」
「良いんです、芹沢さんなら…」
とか廃人の芹沢の前でぶつぶつ言ってる来栖が思い浮かんだ。
220暇つぶしの読み物に:2006/08/03(木) 02:31:49 ID:???
昨夜試しに投下してみましたが、いかがでしたでしょうか。
他の職人様もいらっしゃらないようなので、調子にのってもう一つだけ落としてみます。
乱歩の『赤い部屋』をモチーフに、より悪趣味度を増して書いた小品です。
人死に、エログロありと突っ走ってみましたが、少し長めです。
221桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:35:23 ID:???
 女は琥珀色のブランディに口をつけると、隣の紳士から渡されたコイーバの葉巻を燻らせた。
女の容貌は、黒い長髪を後ろに束ね、その上から薄汚れたハンチング帽を目深に被り、
薄暗がりの部屋に灯された蝋燭の仄かな光に、血の気のない真っ白な肌が照らし出されていた。

「それで、今日はどんなお話をしてくださるのですかな」
 この怪しげな秘密会の主催者と思われる老紳士が訊ねた。
女は葉巻を大きく吸うと、その赤い照光によって彼女の目は不気味に輝き、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた彼女は、煙を吐きながらゆっくりと語りだした。
「皆さんがお気に召されるかはわかりませんが、私の怪異談というのは――」

 ここでこの秘密会について説明しておく必要がある。
それはいわゆるグロテスク趣味の怪しげな嗜好の持ち主ばかりが、薄暗い一室の円卓のぐるりに席を並べて、
お互いに持ち寄った怪奇譚を披露しあう秘密の会なのである。
このような連中はいつの時代にもいるもので、まぁ、乱交痴行や悪魔崇拝のオカルティズム主義者よりは
よほど害のないものであろう。

 さても今宵の話し手として連れてこられたこの女、橘玲は厳密にはこの悪趣味クラブの会員ではないが、
表向きは一流の実業家などをしている会員の一人が、大金をちらつかせて街を彷徨する彼女を釣ってきたのである。
部屋の奥の金庫には、彼女が提供する話に対する報酬としての札束が収められているのである。
222桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:38:21 ID:???
「私が通っていた桃月学園というのは、少々変わっていましてね。
その日常の生活だけでもおそらく皆さんにとっては大いに刺戟的なものに見えましょう。
しかし私がこれからお話しするのは単に変わっているだとか、そういった次元にはなくて、
言うなれば・・・・・・そうですね、狂気と殺戮という皆さんの大好物の血生臭いお話なのです」

 玲はその肌よりも白い、整った歯を見せて薄ら笑うと、寸胴なブランディグラスを空にした。
「ことの起こりはある犯罪事件でした。その晩、私と同級生の片桐姫子ともうひとり、
ずいぶん若いアメリカ人ハーフのレベッカ宮本先生との三人で、夜遅くまで学校に残ってトランプ遊びに興じていたんです。
「ご記憶にあられるでしょうか、その頃警視庁指定第119号事件の容疑者として全国指名手配されていた毒島竜平とその一味が、
その日同時刻に足柄で現金輸送車を襲撃したのです。
なおも悪いことには、彼らは逃走途上に西口公園を突っ切り、あろうことか私たちの残る桃月学園に忍び込んだのです。
有名な事件なので覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。
事件は当時の報道の通り無事終息をしたわけなのですが、実は、その裏でもうひとつの事件が始まっていたのです。
223桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:42:50 ID:???
「警官隊が突入するちょっと前でしたか、友人の姫子がトイレに行くといって席を立ったそうです。
私は眠っていたので正確な時間はわかりません。
とにかく、暗闇でトイレに向かう途中、彼女はそこであるものを発見したのです。
それは何者かによって倒された二人の男。
賢明な皆様ならもうお分かりでしょう、それこそ毒島の手下どもでした。

「誰がそんな真似をしたのか?ということは当時ゴシップ記事を散々賑わせた議論なので、
いまさらそれを推理しようというのは野暮なことだと思います。
問題はその後です。好奇心の旺盛な姫子は気絶した二人の手に握られたままの拳銃に自然、意識が向かったのです。
消失した拳銃の謎、ということでこれも各誌上で議論の的となりましたね。
何のことはありません、あれを盗んだのはその姫子だったのです。

「何事もない風を装って部屋に戻ってきた姫子は興奮を抑えきれないままトランプ遊びを続けていました。
まだ事件の全容について把握しきれて居なかった彼女ですが、なぜそのときに拳銃の一つを盗み出すのを思いついたのか、
大方は彼女特有の気まぐれ気質によるものだったのでしょう。
彼女のスカートのベルトには重く、冷たい拳銃がしっかりと挟み込まれていました。

「事件から数日が過ぎ、捜査体制も解除され、校内からも徐々に警官の影が消えてくると、
桃月学園もまた元の日常に戻りました。
その頃から、姫子は港湾部にある無人の廃倉庫に忍び込むようになりました。
そこで手に入れた拳銃の試射をしてみようと思ったのです。

「手にした拳銃のずっしりと重く、その恐ろしげなこと・・・・・・姫子は刑事ドラマの主人公にでもなった気で、
いろいろと格好つけて銃を構えると、さぁ、いよいよ恐る恐る引き金を引きました。
224桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:49:08 ID:???
「ここで皆さんは疑問に思うでしょう。安全装置はどうなのか、ということを。
小説なんかにもあるように、ここで安全装置がかかって弾が出なければ、きっとそのまま何事もなくお終いとなるはずだったのでしょう。
しかし、弾は出たのです。
残念なことに、それはこの銃の特性だったのです。
というのは、いくら素人の姫子でも、引き金を引けば弾が出ることを知っていましたが、
彼女が盗み出したオーストリア・グロック社製のセミオートピストルは、
その安全装置が引き金のところについているタイプの銃で、
何も知らない姫子がそれを引くだけで、弾は簡単に出てしまうのでした。

「さて、ガツンとハンマーで岩を叩くような衝撃が姫子の手を伝わりました。
思っていたよりも音は低く、鈍く、倉庫の柱をかすった弾丸はまばゆい火花を散らして辺りを飛び跳ねました。
余りの衝撃的光景にしばし呆然としてしまった姫子でしたが、
次第にそれはかつてないほどの、性的エクスタシーとして彼女の心に言い知れぬ快感をもたらしたのです。
そして姫子は、うっすらと湿り気を帯びた股間部に徐に手を伸ばしました。
余りの気持ちのよさに、遂に彼女は銃を握り締めたまま、そこでしてしまったのです。

「その瞬間から姫子の中に狂気の影が見えたのでしょう、
彼女は銃を撃つことで闇の深淵を覗き、また同時にそうして闇にも魅入られてしまったのです」


 玲は二杯目のブランディを飲み干すと、恍惚とした表情で、しかし淡々とした口調で続けるのであった。
「姫子はそれからいろいろ考えるのでした。
この銃を使って何かできやしないか、と。
銀行強盗?さすがにそれは無理だ。
スパイごっこ?綿貫を誘って遊んでみるか?
それとも気に入らない奴をいっそ殺してしまおうカナ?
・・・・・・でも殺すほど憎い奴も滅多に居ない。
姫子は悶々としながらいろいろな犯罪の夢想をし、そうしてその中に自分の姿を当てはめては一種危険な快楽に身をやつすのでした。
彼女は毎日のように倉庫に入り浸り、自らの裸体で以って銃を撫で、嘗め回して、
そして時には実際に彼方へ向けて発砲し、変態的オルガスムに耽溺するのでした。
225桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:52:48 ID:???
「そうして、姫子は遂にある犯罪を実行しました。それは紛れもなく、この私橘玲と、担任のレベッカ宮本先生に対するものでした。
彼女は私たちを人気のないところに誘い出し、銃で脅しました。
はじめはおもちゃかとも思って相手にもしませんでしたが、いざ彼女が狂乱に満ち満ちた目つきでそれを発砲し、
傍の廃屋の窓ガラスを粉々に粉砕せしめた(その頃には彼女の射撃の腕も幾分様になってきていたのでした)のを見て、
私たちはすっかりその手の内のものと、そして姫子自身に恐れ怯えてしまいました。
大泣きで跪き、震える宮元先生を何とか宥めつかせていましたが、実際は私も泣き出したいほどの恐怖に襲われていたのです。

「姫子は私たちに服を脱ぐように命令しました。私たちは大人しく従うほかありませんでした。
ひょっとしたら隙を突いて反撃できるかもしれないし、逃げ出せたかもしれません。
しかしその時は、死の恐怖と、そして姫子の狂気の表情にただただ圧倒され、萎縮してしまっていたために、
そんなことを思う余裕すらなかったのです。

「姫子の命令したことは、余りにおぞましいことでした。
つまり、裸体の私たち二人に、彼女の目の前で性行為をしてみせろというのです。
以前から姫子に同性愛の気があったこと、それが特に私と宮本先生に向けられていたこと、
それらを薄々感づいていましたが、まさかこんな形で爆発するとは・・・・・・

「私たちは慣れぬ手つきで互いの身体を弄ぶのでした。
実際、女性同士がどうするべきなのかなんてさっぱり分からないものですから、
姫子の表情を窺って、彼女の喜びそうな行為をするのが精一杯でした。
226桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:55:44 ID:???
「行為が一通り終わり、疲労困憊してその場に倒れつくした私たち二人を、姫子は物珍しそうに眺めていました。
実際、彼女は私たちにそんなふしだらなことをさせることには既に興味がなかったのかもしれません。
彼女はただ、銃による殺人の誘惑に身を焦がしていたのでしょう、無言のまま銃を取り出すと、
起き上がる気力もないベッキーの脳髄に、一撃の銃弾を浴びせたのでした。
金色の美しい長髪が大きく乱れ、白っぽい肉片が飛び散り、真っ赤な血とともに脳漿があたりに噴出しました。

「余りに唐突で残忍な仕打ちに、私はもう何もすることが出来ず、ただただ姫子の恐ろしい狂気の前に泣きじゃくるばかりでした。
ベッキーの頭からは信じられないくらいの血飛沫がいつまでも流れ続け、
その身体は破れた水風船のようにドンドン萎んでいくように思えました。


 玲は少し熱くなった自分の口調を落ち着けるためにか、ゆっくりと深呼吸し、もう一本の煙草に火を点けた。
目の前で行われたとされる残虐非道の殺人の模様を、あっさりと語るこの少女の言動のひとつひとつに、
当座に居た男たちの関心は釘付けとなっていた。
227桃月怪奇譚第二夜:2006/08/03(木) 02:59:16 ID:???
「それで、玲さん。どうしてそんな凄惨な殺人現場から貴女は生還することが出来たのですか?」
 会員の紳士の一人が、興奮した口調で尋ねた。
玲は俯き加減で不気味な笑い声を上げると、辺りの男たちを見回した。

「ハハ・・・・・・生還?その状況下でどうやって生還など出来ようものですか。
姫子はやっぱり私の・・・・・・いや、もう面倒な言い回しはよしましょう、玲ちゃんの額に銃弾を浴びせて、彼女を殺したんですよ。
そう、真正面から、ドカンと一発・・・・・・彼女の頭は、まるでざくろの様に弾けて、その美しい顔は血と脳味噌で目茶苦茶になりましたよ!」

 男たちは互いに顔を見合わせ、「まさか!?」とでも言いたげな表情で目配せしあうのだった。
玲――と名乗る少女は今度は堪えきれない様子で高らかに笑うと、火のついた煙草をブランディグラスの中に投じた。
「もう気がついたカナ?そう、私はあれ以来殺しの快楽の虜になってしまったの。
ベッキーも玲ちゃんも、とっても大好きだった。そしてその全てを愛したかった。
だってそうでしょ?本当に人が好きならば、その人の血や、はらわたを愛せるようになるのが、本当の愛というのではないかしら?」

 女は帽子を取った。そこには、ピンと元気なアホ毛が立っていた。

「さぁ、皆さん。私の友人殺しの告白談を話したのです。お金をいただきましょうか?」
 姫子は立ち上がると、狂気に満ちた目で円卓の回りを見渡した。その手には、いつの間にか一丁の拳銃が握られていた。

おしまい
228マロン名無しさん:2006/08/03(木) 03:09:22 ID:???
>>227
毎度乙。素晴しい。



でもやっぱり最後の「おしまい」でニヤリと来ちゃうな
229べホ戦記:2006/08/03(木) 07:55:28 ID:???
「牛がふらつき始め、

人間の頭も変になっている

わかるか?」


謎の奇病に怯える桃月町
迫り来るBSEの恐怖
230悪人は幼稚園バスを襲う:2006/08/04(金) 00:12:50 ID:???
ゴジラを演じた中の人は、偉大な役者として映画史にその名を残す資格があるのに
どうして私達は彼の事を知らないのだろう?
そんな疑問を思い出させてくれたドジラを演じる来栖の姿にちなんだ書き物です
231悪人は幼稚園バスを襲う:2006/08/04(金) 00:14:13 ID:???
月夜に寝静まる桃月町を突然の衝撃が襲った。

グオォォォォォン!!

闇夜を揺るがす咆哮。途方もなく巨大な脚が区役所通りに足を踏み入れた。
何台もの自動車が一瞬にして消え去る。踏まれなかった辺りの車両も、ひときわ高く宙を舞い、地面に落ちてバラバラになる。
怪獣が脚を上げたとき、クレーターのような大きな足跡の中に鉄屑が残されていた。
タイヤなどの特徴的な部品を見つけださなければ、これを見て、だれが自動車の残骸だと思うだろうか。

「な、なんだ!?」

 二人の少女が顔を上げると、幾つものビルを突き崩しながら、巨大な怪獣が迫ってきていた。

「か、怪獣!?」

「そんなバカなことがあるか!!」
ゆっくりと落とされた巨大な脚がタクシーの前半分を押し潰した。
もの凄い圧力で圧縮プレスされたタクシーの車体は紙くずのようにぺしゃんこになり、残された後ろ半分のボディーはその反動で高く高く舞い上がった。
ガラス片やバンパーなどをまき散らしながら、車体がバラバラに空中分解する。

怪獣は何もなかったかのように歩みを止めない。脚が踏みしめていた所は大きく陥没し、アスファルトが粉砕されて足跡を作っている。
そのくぼみに、破損した水道管から噴き出す水が、濁流となって流れ込んでいった。
232悪人は幼稚園バスを襲う:2006/08/04(金) 00:15:58 ID:???
来栖柚子は目を覚ました


寝汗でその体はびっしょりと濡れている。

最近、こんな夢ばかりを見る
怪獣になって街を破壊する夢なんて、年頃の女の子が見ていい夢じゃない

来栖は着替えを探そうと、怪獣のぬいぐるみがたくさん置かれた自分の部屋を見回しながらぼんやりと考えていた
私はなんで、この怪獣達に憧れてるんだろう?
思い出すのは、幼い頃に父に連れられて観た映画の記憶。
すべての物をなぎ倒し、銀幕を力強く暴れまわる怪獣達の姿、
かよわい女の子に過ぎない彼女にとって、彼らは憧れの対象だった
来栖はいつしか怪獣達と比べて、あまりに非力な自分をもどかしいと思うようになった。
いつしか自分もこんな力を手に入れてみたい・・・
233悪人は幼稚園バスを襲う:2006/08/04(金) 00:17:13 ID:???
私が、その不思議な光の玉と出会ったのは、そんなある日だった
ある日の部室で「ドジラ」の着ぐるみが動いている光景を目撃してしまったのだ
最初、部員の誰かがドジラを勝手に着てるのかなと思いながら、私はその様子を眺めていたのだが、
そのドジラは私に見られて「しまった!」という動きをした後、申し訳なさそうに尋ねてきた
「あの・・・驚かないのですか?」

気づいたら私は夜の街に居た

「いやあ、助かりました。まさかこんなに早く”怪獣”になれる女の子が見つかるなんて」
光の玉は女の子を誘うにしては非常に失礼な事を言った
ちょっと待って、怪獣になるって?確かに映研の劇では怪獣を演じているけど、そんなに上手じゃないし・・・
「冗談を、来栖さん。貴方には本物の”怪獣”になって頂きたいのですよ
 ヒーローになりたい人はいっぱいいますが、そのヒーローは強い怪獣が居てこそ輝く物なのです
 そして、貴方に怪獣を演じる事への強い情熱を感じてのお願いなのです」
そして、下を見てみるように、その光の玉は言って来た。
私は何か赤くて高い建物の上に居る。ここは、もしかして東京タワー?
更に自分の体が白い糸のようなもので、まるで繭のように包まれていることに気づいた。
「お気づき頂けたでしょうか?貴方には今から怪獣になっていただいて、この街を破壊して頂きたいのです」
そして、私は地響きを立てて地上に降り立った
その姿を見て、街の人々は逃げ惑う。
鋭い爪、鱗に覆われた体、そして何よりもビルの高さに匹敵しようかという自分の体・・・
確かに、私はドジラとして大地に立っていた!!
234マロン名無しさん:2006/08/04(金) 05:12:38 ID:???
GJっす!!

続き・・・あるのかな?
235マロン名無しさん:2006/08/04(金) 13:52:25 ID:???
>>227
グッジョブ
つまらない事ですが、弾は無くならなかったのかなー なんて
236マロン名無しさん:2006/08/04(金) 17:19:07 ID:???
どこのSSスレにもつまらない事とか言いながら
本当にくだらないレスする奴は居るもんだな
237マロン名無しさん:2006/08/04(金) 17:20:53 ID:???
そう怒るな
238マロン名無しさん:2006/08/04(金) 17:22:59 ID:???
重箱の隅でつね
239桃月怪奇譚第二夜:2006/08/04(金) 17:53:03 ID:???
あー
私の記述が分かりにくかったせいで申し訳ない。
一応119話で強盗犯の手下の一人が持っていた銃が自分にはグロック17に見えたのですが、
この銃は18発装填と割とキャパシティが高めなので、ss中で撃った回数と比べてみても
いくらか余裕があるかな、と思って敢えて弾数についての記述は割愛しました。

疑問点はどんどん挙げていってくれれば書く側としても助かります。
・・・と、私は思います。
お目汚し失礼しました。
240マロン名無しさん:2006/08/04(金) 19:10:13 ID:???
来栖の部屋には本当に怪獣のぬいぐるみばかり置いてありそう。
でもって芹沢との写真とかは、まだ撮れてなさそうな気がする
241マロン名無しさん:2006/08/04(金) 20:19:39 ID:???
矛盾っぽい記述なり何なり見つけたら、それを違う考え方でつじつま合わせ出来ないか?
ってのを考えるのも、文章を読むことの醍醐味じゃないかな。


なんて偉そうな事をいってみたり。
文章分りにくくてスマンorz
242マロン名無しさん:2006/08/04(金) 21:41:03 ID:???
玲とベッキーのレズプレイを強要した時姫子ならああしろこうしろと注文をつけるだろうなと思ったけど
そういうプレイだったのかと脳内補間した。
もう興味もなかったようだしな。
243殻と中身:2006/08/05(土) 11:52:48 ID:???

今日も今日とて、模型部部室ではドジラとロボ子が闘っていた。
切っ掛けもいつもと同じ、お互いがお互いを認め合って、はい戦闘開始。
そこには最後通牒も、宣戦布告も存在しない。
巨大ロボットと巨大怪獣の間では、外交的な駆け引きなど意味はない。
彼女たちは決して分かり合えない、哀しきヒロイン。
どんなに強大な彼女たちの力をもってしても、運命を捻じ曲げることなど出来やしない。
ドジラとロボ子は、永遠の敵同士なのである。

「ロボ子ガンバレー! 悪い怪獣をやっつけろー!」
「『正義』が勝つのも面白くないから、私はドジラを応援するわ」

無責任な観客が二人の闘いを批評しているのが聞こえる。
やはり、二人は闘わなければいけないのだ。人がそれを期待しているのだから。
巨大ロボと怪獣が仲良くしている図なんて、誰も見たいとは思っていない。
ロボは怪獣をこてんぱんに倒すことを、怪獣はいくらやられても復活することを、全ての人は望んでいる。
相反する思考のようにも思えるが、それは決して矛盾ではない。

観客たちが求めているものは固定された結果ではなく、むしろそこへ到る過程だ。
一方的な展開、逆転に次ぐ逆転、予想外の進展、予定調和。
二人の闘いには全ての可能性が詰め込まれているからこそ、現実の絶妙な揺らぎが必要となる。
日常があるからこその非日常であり、非日常があるからこその日常なのだ。
傍観者たちはロボ子とドジラの戦闘を観戦し、その状態の推移を楽しむ。
人々が期待するのは、日常からの適度なズレだ。

他人のそんな希望に応えてあげなければならないのは、二人がロボであり、怪獣であるからだ。
彼女たちがこの世に生を受けたときからの宿命、逃れられない現在。
ロボ子とドジラには、自分たち自身を捧げ物として提出する義務があるのである。
244殻と中身:2006/08/05(土) 11:53:57 ID:???

「どうして模型部でやるの……」

格闘する二人の側では、長髪の男性が文字通りorzとなっていた。
彼は、ロボ子とドジラが闘うプラットホームの元支配者である。
もちろん、今の支配者はロボ子とドジラだ。
二人が位置を変える度に、彼とその仲間が造った街が壊されていく。
一見すると模型部の方々のことが可哀相に思えてくる。
だがそれは違う。
彼らが壮大なジオラマを造るのは、そもそもロボ子とドジラのためなのだ。
巨大ロボ対巨大怪獣という一大スペクタクルは、ロボ子とドジラだけでは成立しない。
野球場も、リングも、柔道場も、ピストも、彼女たちに相応しい場ではない。
ロボ子とドジラが闘うべきなのは、あくまでも人間の暮らす街なのである。

彼らもそれを理解しているから、彼女たちに街を壊されようがそれを止めようとはしない。
数日後にもう一度この部屋を訪れてみよう、きっと完全に修復されているはずだ。
しかも彼らは、壊された街を直すことに喜びを覚えていることであろう。
それが彼らの存在意義、彼らの定められた生き方なのだ。


ロボ子の心の奥底からは、ドジラを倒したいという欲求が溢れ出している。
少しでもドジラが通りすがるのを見てしまうと、ロボ子はそれに闘いを嗾けざるを得ないのである。
疲れているときであろうが、何か他のことをしている最中であろうが、無視することは許されない。
ロボ子のプログラムには、ドジラを倒せという命令が深く刻み込まれている。
彼女のアイデンティティは、彼女に必然のバトルを強要する。
そしてロボ子にとっては、それに応じることが何にも勝る歓びなのだ。
ドジラについても、全く同じことが言える。
彼女の遺伝子が規定するのは、ロボ子のライバルとしての自分。
ドジラとしてここにある以上、逃げることは許されない。
自分の全ての感覚が、ロボ子と闘うことへと収束する。
それに従うことが、彼女の義務であり、それが彼女にとっては快感なのだ。
245殻と中身:2006/08/05(土) 11:55:48 ID:???

二人は磁石のS極とN極のように、互いに惹かれ合う。
だが彼女たちがぴったりとくっつくことはない。
彼女たちの融合は、和解としてではなく対立として顕現する。
対立することでの一体化。悲劇の歴史。
彼女たちはお互いを無視することが出来ない。
二人を結ぶのは、憎しみの形で強く存在する愛なのだ。

彼女たちの闘いの行き着く先はどこなのか。
誰かと闘うということは、相手に完全勝利することを目指すことだ。
当然、ロボ子もドジラもそれぞれの相手を完膚なきまで叩きのめすことを最終目標とする。
だがそれは叶うことはない。
彼女たちが本当に望んでいるのは、未来永劫まで続く闘いの歴史だ。
状況の変化は、ロボ子にとってもドジラにとっても耐えられない、避けるべき事態である。
二人が快く感じるのは、異常な日常が繰り返し訪れる、その重さなのである。
そしてその構図は、彼女たちを取り巻く人々や環境にも当てはまる。
楽しいお祭りが永遠に続くとすれば、こんな素晴らしいことはないではないか。
従って彼女たちに望まれていることも、永遠に終わらない対立の物語なのだ。

どんなに仲良くなることを願っていようが、ロボ子とドジラは決して理解し合えない。
そして二人とも、理解し合えないことを明確に理解している。
二人の絆の拠り所は、果てのない対立の共有だ。
お互いがお互いの負けられない事情を知っている。
だからこそ、敵を倒そうと必死になるし、何度やられても立ち上がる。
現実に没頭することが、彼女たちに許された唯一のあり方なのだ。


哀しきヒロイン、ロボ子とドジラ。
永遠に繰り広げられる、心地良い断絶。
物語は、終わらない。

246マロン名無しさん:2006/08/05(土) 18:14:52 ID:???
あずぽにバトルロワイアルってもう読めないのカナ?
247マロン名無しさん:2006/08/05(土) 18:21:44 ID:???
>>245
あの喜劇も言いようによってはここまでシリアスになるものとは…
ワロータ乙。
248マロン名無しさん:2006/08/05(土) 22:43:50 ID:???
姫子「あれ、ベッキーどこへいくの?」
ベッキー「家庭訪問だよ。今日は玲の家へ行くんだ」
都「そういえば玲の家は行ったことないわね」
一条「私も行ったことはありません」
6号「私もありませんオブジイヤーです」
くるみ「私も行ったこ…」
姫子「よーし今日は玲ちゃんちいってカニ食ってこよー!」
 
くるみ「また私はおいてけぼり?ららる〜」
メソウサ「あ、あの…玲さんちへいっても、カニは食えないかと…」
http://cocoa.gazo-ch.net/bbs/18/img/200608/905133.jpg
249マロン名無しさん:2006/08/05(土) 23:28:24 ID:???
ふりかけ1つでブチ切れしそうな玲だな。
250マロン名無しさん:2006/08/05(土) 23:42:31 ID:???
お笑い漫画道場を思い出した。テラナツカシスw
251インプランタ晶:2006/08/06(日) 03:27:13 ID:???
 ベホイミの呼びかけに応じて1−D教室まで来た3人のうち、
いちはやくベホイミの話を飲み込めたのは美由紀だった。

原因不明とはいえ、今や特級の危険人物と化した宮田晶を殺すための手助け、
それをするために自分たちは呼び出された。そう美由紀は理解した。
そして、ベホイミの言った言葉を反芻した。
「殺されるくらいなら殺す。相手が友達であっても、だ」
人道主義を振りかざしてベホイミを形の上だけでも咎め立てする気にはなれなかった。
ベホイミが本気だということも感じ取れたし、理屈だけ見れば確かに正しいと思った。
美由紀自身も、自分を殺しに来た相手に気を使うような柄の人間ではなかった。、
ただ、6号をここへ一緒に来るよう誘ったことは後悔した。

 6号が、焦点の定まらない目をしながら、口を開いた。
「お、おかしいですよ、そんなの…、ベホイミさん…、い、五十嵐先生だって…、
 そんな簡単に殺すだのって…ひ、人の命なんですよ…?
 どう…して、そんなにすぐに早く納得がいってしまうんです…?」
「お前は少し利他的に過ぎるからな…理解しなくてもいい」
 ベホイミは6号に目を向けずに答える。
「都と五十嵐は早く身の振り方を決めろ。今すぐ決めなければ、時間が経てば経つほど不利になる」
 ベホイミは、幾分か焦りを見せているようだった。
美由紀は無言でベホイミの方へ歩み寄り、腰を下ろした。

(どうすればいいの…?母さん、私、どうしたら…?)
 都の頭に、母親の顔がよぎった。
続いて、教授やメディア、修、くるみといった親しい者たちの顔が、声が、思い出された。
いつの間にか6号の手を再び握り始めていたが、その6号が震えているのにも気づけなかった。
ベホイミに協力することは、そのまま殺人に加担することになる。
正当防衛が適用されるか、マスコミの好餌となるか、多くの未来予想図が思い浮かぶ。
ただ、このまま外に出られない謎の現象が収まらなければ、ジリ貧となり衰弱し、
逃げ場も失ってより確実な死が待ち受けているのは想像に難くない。
そもそもベホイミが本気なら、それこそあらゆる手段を用いて協力を強要するのではないか?
そんな事を考えていると、携帯電話が振動し始めた。着信である。
252インプランタ晶:2006/08/06(日) 03:30:11 ID:???
 電話の主の声は震えていた。
「都、か?」
「…ええ、こっちは今は無事よ。あんたや姫子も無事みたいね?」
 玲だった。しばしの沈黙が2人の間に生まれた。
都は、玲が妙な間を持たすのはいつもの事と達観したが、電話の向こうから嗚咽が漏れるのを聞いた。
「ちょっと!?玲、あんたがなんで泣くのよ!?」
 それは予想外のことだった。よもや、玲がこんなにも弱弱しく泣くなどとは。
都は玲の言葉を待ちかね、6号が耳を寄せているのにも気づかなかった。
「殺されたんだ…ベッキーが…」
「!?」
(遅かったか…、もっと早く呼ぶべきだった…)
 都の顔の変化を見て、ベホイミは大体の状況を察した。

 通話が終わった。
「…胸糞が悪くて…口に出すのも嫌な事なんだけど…」
「いや…玲さんと姫子さんとは、音信不通の宮本先生を探して旧校舎へ向かったはずっスから…、
 その彼女から深刻な話題が来たって事は…、だから…、無理して話さなくても…」
「…ベッキーが、殺されたって…部屋中がメチャクチャにされて、
 壊れた時計の、その時間から見て、調理実習の前に殺されてる…って」
「…!?宮本先生が…!?」
 美由紀が反応した。
「こっちの事を報告したら…玲も、出来たら協力したい…って、
 犯行の手口から見て…異常者にしか出来ないことだって…、
 家庭科室での口ぶりから考えて…宮田の仕業と見ていいだろうって…、
 でも、協力したいけど今は出来ないって…」
(姫子さん…)
 ベホイミが、玲の親友にして、殺されたベッキーと最も親しかった少女を心に浮かべた。

「…姫子、当分無理だって…、引っ張って来るのも…ダメで…変な刺激を与えたら、
 それこそ後追い…しちゃうんじゃないかって…だから、目、離せないって…」
「いや…それはいい。五十嵐先生に爆薬を、都さんに起爆装置を作る手助けを、
 最低限やってもらえれば、私のほうは構わない…」
253インプランタ晶:2006/08/06(日) 03:31:43 ID:???
 4人は沈黙した。
その空気は、先ほど晶を殺すための提案がなされた時よりも、遥かに重かった。
ベッキーがとうの昔に晶の手にかかり、あの玲がすすり泣き、姫子は電話にすら出なかった。
犬神と南条、そして2人を助けに入った修を置き去りにしてきたときにも感じなかった感情が沸いてきた。
いや、思えばその時には感じられなかった現実感や緊迫感、臨場感が今になってやって来て、
胸中でうごめいているのではなかろうか。
「…こうしていてもしょうがないし、私は作業に入るわ」
「…そうだな」
 またも美由紀が沈黙を破り、ベホイミがそれに応じた。

「…私も、やるわ」
 都も決意を固めた。
「そうか…ちょっと半田ごてを使う部分もあるから、教室の反対側で頼む」
「そっちも、静電気に気をつけなさいよ?」
「そんなヘマはしないさ」
 3人は、黙っているだけで付きまとってくるねっとりとした感覚から逃れるためか、
作業に関する以外の話題を口にしなくなっていた。
そして、無言で立ち尽くしたままの6号に声をかけてやることもしなかった。

「いない…よね?」
 所は変わって家庭科室、桃瀬くるみが様子をうかがっていた。
くるみは兄の言いつけに従って他の生徒を先導し、職員室まで逃げていたが、
時とともに兄の安否を気遣う思いが募り、身の危険を冒して家庭科室まで来ていた。
「犬神も南条も…宮田までいない…?」
(…兄貴がここで宮田とやりあって勝ったんなら、連絡くれてるはず。
 反対に負けたんだとしたら血の跡が残ってないのはおかしい…よね?)
「保健室、かな。連絡くれないのは…きっと…忙しいんだよね」
 くるみの脳内で、何とか晶を取り押さえ、犬神と南条を保健室へ運んでいる修の姿が浮かんだ。
(そうだよ…何だかんだいって兄貴はしっかりしてるんだから、宮田なんかに負けないよ。
 今は、宮田に説教して、犬神と南条の手当てをしてって感じで、メール打つ暇も無いんだよ)
 くるみはこう解釈した。極めて楽観的な考えだったが、これはくるみがいい加減だからではなく、
双子の兄であり、誰よりも近しい存在の修を信頼しているからである。
254マロン名無しさん:2006/08/06(日) 04:02:05 ID:???
wktk
255インプランタ晶:2006/08/06(日) 05:36:46 ID:???
 くるみは絶句した。修を見つけることは、保健室を見渡してすぐ叶ったのだが。
犬神と南条をベッドに寝かせ終えて休憩を取っていたのだろう。
その2人が寝ているベッドの横の、ソファーの上に座っていた。
晶も見つかった。こちらは疲れたのか寝息を立てていた。修に膝枕をされながら。

「……!?」
「くるみか…。お前も休憩か?」
「…………!!」
 そんなくるみを見て、修が声をかけてきた。
「犬神は…ちょっとやばかったが、血を口から出して安静にさせてる。
 南条さんは…犬神のおかげで無事だ。気絶したのもショックだったってだけみたいだ」
 どこか遠くから聞こえてくるような、空々しい声だった。
「宮田は…?何で連れて来てるの…?」
「ああ…俺が一発食らわせてやったろ?そうしたら頭が冷えたらしい。
 ついカッとなってやった、2人が目を覚ましたら謝るって言ってたし」
 修は、困ったような笑顔をしていた。

「兄貴…?私、だまされないよ…?わかるもん。私を煙に巻こうとしてるって」
 修が嘘をつく時には、こういう声色、表情になるのだと、くるみは知っていた。
そして、くるみは一歩、また一歩と踏み出した。修へ、晶へ向かって。
その胸のうちでは、複雑な感情が渦巻いていた。
くるみはまだ、ベッキーが晶に殺された事を知らない。それも酷くむごたらしく。
それでも、犬神と南条に暴力を振るった晶への怒りは密かに抱いていた。
その場で割って入らなかったのは、晶の暴力が常軌を逸しており、身の危険を覚えたからだ。
危険を承知で2人を助けに行った修の事も心配だった。
不安は的中せず、修は無傷だった。しかし何かがおかしい。
「それと…宮田…お前はどけよ…!?」
そもそも自分と大して親しくも無く、しょっちゅう補習を受けているような女が、
馴れ馴れしくも兄に膝枕をされているなどは、くるみにとって我慢ならないことであった。
くるみは、理不尽な暴力を見過ごすほど薄情ではないが、博愛家でもない。
露骨に顔を歪ませて、宮田の頭を掴んでどかそうとした。
256マロン名無しさん:2006/08/06(日) 12:11:20 ID:???
>>255
乙。
嫉妬だけで怪力の持ち主である異常者に掴みかかれるくるみの勇気に感動
257インプランタ晶:2006/08/06(日) 13:17:32 ID:???
 くるみが晶の頭に手を置こうとすると、修がくるみの手を掴んだ。
「よせ…」
 小声だった。明らかに晶を起こさないようにしている。
「うるさいな!私がどれだけ心配…優麻や優奈だって兄貴のことを心配してたさ!
 それなのに兄貴はこんな暴力女とくつろいでいるなんて!ふざけんな!」
「だから落ち着けよ!騒いだってどうにもならない!」
「落ち着けないよ!」
 桃瀬兄妹は口論を始めた。
とはいっても、修がくるみをなだめようとしているだけのものだったが。
修は何かを恐れているらしく、時たま晶へ視線を向け、それがさらにくるみの怒りに火を注いだ。
「だからふざけんなっつってんだろ!バカ兄貴!こいつの事がそんなに気になるのかよ!?
 お前もいつまでも寝てるな!いい加減起きて、わび入れろ!」
 くるみは修の制止を振り切り、晶の脇腹に蹴りを入れた。
「ううん…痛いなあ…?」
「…!?」
 晶が目を覚まし、修は顔面蒼白となった。

「やっと起きたかよ?宮田」
「…そう、起きちゃったんだ、私」
 くるみとは対称的に、晶は淡々と話す。
「犬神くんも、南条さんも、ベッドで寝ているね。私のせいで」
「…!?よくもそんな他人事みたいに言えるな!?ふざけんな!」
 くるみは晶の胸倉をつかみ、にらみつけた。
「やめて…私を、刺激しないで…」
「は?刺激したらどうなるってんだ!?言ってみろよォ!?」
 今度は晶の頬に思い切り平手打ちを食らわせた。
「くるみ!」
 くるみは完全に頭に血が上りきってしまい、修の声を耳にしても冷静になれなかった。
「…なんだよ、その目は!?気に入らないな!」
 もう一度平手打ちを食らわせる。
「…痛い」
 晶は頬を腫らし、鼻血が出ていた。
258インプランタ晶:2006/08/06(日) 13:18:13 ID:???
「痛い…って…?お前…、犬神がどれだけ痛い思いしたかわからないで言ってんの!?
 鼻血出たくらいでピーピー泣くなよ」
「血が…?うっ!ふぁ…はぁ…はぁ…くぅうう…」
 鼻血が口にまで伝わり、手で拭い取って確認した晶は小刻みに震えだし、歯もかみ合わなくなった。

「今なら許してあげられるから、謝って?
 今なら許してあげられるから、謝って?
 今なら許してあげられるから、謝っ…」
 晶は、息を乱しつつも、とても綺麗な発音でそう言った、―が。
「うるせえ」
 くるみは素早く靴を脱ぎ、つま先の部分を握って晶の鼻に踵の部分をたたき付けた。
「うゎ…!」
 修は絶句した。晶がベッキーの殺害犯で知らぬ者ならば誰もがそう思うであろうような一撃だった。

 気がつくと、くるみは晶に左腕を握られていた。
そして、晶がくるみの腕を握る手を少しひねると、くるみの腕はたやすく折れた。
「きゃあああああああああああああ!?」
「あっ…ごめんね…?私を蹴ったのは…足、だもんね?
 腕は関係ないか…アハハ、じゃ、元に戻すね…?
 あれ…靴だけど…殴ったなら手かな?足で殴るなんて言わないよね?
 あ…うん、そ、今度おじいちゃん先生に会ったら聞いてみよう」
 晶はそう言うと、くるみの叫びを意に介さず、折ったばかりの腕を元の方向に曲げなおした。
「あれ…?なかなかくっつかないなあ…?おかしいね…?」
 晶はくるみの腕をぐりぐりと回す。格ゲーのスティックのように回す。
そのたびにくるみは周囲に響き渡る声で叫び、ついには泣き出した。
「やめて!やめて!?やめてよ!?ぅぁううあぁうぁあああ!?
 ごめん、ごめんねごめんなさい!あ、あ謝るから許して!許してください!
 痛い!いゃあああい!助けて!兄貴!いぅあっつぃあいよぁおおおおおあ!」
「宮田!」
修は既に晶の腕を押さえていたが、とても人間とは思えない重厚さで微動だにしなかった。
「うるさいなぁ…どいてよ…?」
晶が修の絡みついた腕を振り払うと、修は部屋の反対側まで飛んでいった。
259インプランタ晶:2006/08/06(日) 13:19:53 ID:???
 自分の腕を折り、弄び、さらには兄をたやすく振り払った晶が、今も目の前にいる。
くるみは、自分の立っている足場が一気に崩れ落ちるような思いでいた。
痛い、痛くて目がぐるぐると回る。ぐるぐるぐるぐる、るぐるぐるぐるぐ。
痛い痛くて涙も止まらない。注ぎすぎたビール泡のようにぼろぼろぼろ、こぼれる。
目の前はぐらぐら、目の前の晶も、部屋の端まで飛んでいった修も視界に入れど見えない。
目の焦点も合わない。都会の水のように合わない。ここは都内だけど。
そうだトゥナイトだ。簡潔に言うと目の前が真っ暗になりそうなのでした。

一秒一秒が長い。痛みが秒針のようにこんにちはするにぉ。
いっその事死んでしまいたい。いや、兄を置いては死ねない。
いや、修なら後追い自殺くらいしてくれるかも。二人一緒ならさびしくないか。
それより、宮田晶さんは何をしているのだろう?殺るならさっさと殺れよ。
なんだか頭に来る。こんなに痛くするなら、いっそ、殺せーーーーーーーーーー。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ耕せ殺せ殺せ殺せ殺せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

ズルズルと音がする。どこかの皇帝のような音ではありませんか?
そうだ日○食品だ。消防や自衛隊がまとめ買いするし、自販機もあるあれだ。
「くるみちゃん、今から2人は友達です。ほら、食べて?」
先が三本のフォークに絡められたヌードルの束が、くるみの口にあてがわれる。
もちろん食べる。痛くても食べるのだと、トムは言いました。
なぜなら、人の好意を無碍にするような奴は酷い子だからだ。
地味に生まれたのは天の配剤だが、心が醜いのは自分のせいです。
そうだ。じゃあ、痛いからって笑わないのは世間に対して、人類に対して、
大きな罪をおかしているのではあるまいか。くるみは笑った。
涙で目の曇っているくるみにはまだ見えていないが晶ちゃんも笑っています。

「仲直りのしるしに、くるみさんに私の秘密を教えてあげる」
 そうして、晶はベッキーを殺害した時の話をし始めた。
注)ここから先のコンテンツは日本語専用です。
260インプランタ晶:2006/08/06(日) 13:26:55 ID:???
 こちらは成り行きで諜報部と戦っている凸凹+双子組だが、
響を鈴音チョップで沈黙させたとはいえ、鈴音に拮抗する力の持ち主、
来栖がドジラの着ぐるみを着て現れた。宿敵を含め、誰にも負けまいとする
その強い意志から出てくる力は、目的を見失った4人を圧倒していた。

戦いのさなか、鈴音はその場に崩れ落ち、その目からは涙がこぼれ落ちた。
「桃瀬くんが、死んじゃった…」
「…!?」
 柏木姉妹がほぼ同時に反応した。
何の脈絡も無いことだったが、どこか真に迫る物を感じ、姉妹も涙を流し始めた。
やがて2人も、鈴音に倣って力なく床へへたり込んだ。

響は意識が朦朧とし、修と縁の有る3人は泣き崩れ、来栖に対抗できるのは、
いまや乙女のみとなった。しかし、乙女の打撃力ではドジラ着ぐるみには通用しない。
しかしながら、素早さを活かしたかく乱戦法をすると、他へ攻撃を仕掛けるかもしれない。
相手は、少なくとも来栖自身が演じている範囲内においては怪獣なのである。
無防備な4人を守るため、乙女は正面切って来栖へ挑まねばならず、すぐさま捕らえられた。
「くそっ!このままじゃ…」
 思わずSOSしてしまいそうなほどの乙女のピンチであった。

「待て!!」
 その時、廊下の向こう側からよく通る声が聞こえてきた。
「お、お前は…?って…痛ッ!!」
 来栖はその声に反応し、乙女を掴む手の力を緩め、乙女は落下した。
声の主は全速力でドジラへ向けて走る。ロボ子であった。
「「ロボ子!?」」
「芹沢か!」
 乙女だけが空気を読めない発言をした。

「ピコピコ…悪い宇宙人の手先となったドジラ…、
 ただの操り人形になら、私は負けない…ピコ」
ある程度まで近づいてくると、ロボ子は決めポーズを取った。
261マロン名無しさん:2006/08/06(日) 14:32:27 ID:???
GJ
背筋が凍った
262マロン名無しさん:2006/08/06(日) 14:44:39 ID:???
おうよ!GJだ!
俺も寒気がした…
263マロン名無しさん:2006/08/06(日) 14:46:20 ID:???
GJ!すごい展開だ・・・
俺は腹壊した。
264マロン名無しさん:2006/08/06(日) 14:52:35 ID:???
くるみ死んだかな…
265マロン名無しさん:2006/08/06(日) 15:01:00 ID:???
いいね!GJ!
俺なんて頭痛だぜ。
266マロン名無しさん:2006/08/06(日) 15:22:51 ID:???
とここで投げ飛ばされた修が目覚めて…

修(強えっ!こいつの力は恐ろしく強いっ!!
  この力の質が怪力を生み出している
  インプランタ宮田とはよく言ったもんだ まさしく凶器だ
  人を殺せる威力がある
  こいつの力は危険だ!――凶器だ
  その凶器を――――)

くるみ『痛い!いゃあああい!助けて!兄貴!いぅあっつぃあいよぁおおおおおあ!』

修「オレの妹にむけたのかああああああっ!!!!!!」

と修が怒り狂い宮田に打ち下ろしの右を喰らわせる…なんて構想が頭を過ぎった
…どうやら俺の頭もインプランティングされたらしい…
とりあえずGJ
267輪廻転生の6号:2006/08/06(日) 18:33:11 ID:???
以前6号イジメのSS書いた者だが、覚えてる人はいるかな?
オレもここに来るのは久しぶりだが、またSS書こうと思う。
今回も6号がテーマ(主役じゃないけど)にしたSSを暇があれば投下していく
268マロン名無しさん:2006/08/06(日) 18:47:57 ID:???
>>267
応よ!覚えてるぜ!「天国の扉」を書いた奴だよな!
All Right!上半身裸で待ってるぜ!
269 ◆oznDORkUL6 :2006/08/06(日) 19:00:56 ID:???
久しぶりに書いたので投下します。
ある意味究極の学級崩壊ですが鬱エログロ人死にその他は無しです。
270進級(1/2)  ◆oznDORkUL6 :2006/08/06(日) 19:02:35 ID:???
「なんだか慣れないわ、このクラス。」
春の陽気が眠気を誘う昼下がり、私は感慨にふけっていた
「どうしたんだ。元C組の魔女とは思えない顔だな。」
クラスメイト―といってもまだ三週間だけのそう深い関係でもない―の犬神が声をかけてきた。
「元、ね……。」
進級してから三週間、私―橘玲が進級までの一年間1年C組の仲良し集団に思った以上に染められていたのだということを思い知った期間だった。
姫子と話しベッキーをいじり気がつけばくるみの存在を忘れ都のヒステリックなシャーペンを動かす音をBGMに6号に買い物を頼む、そんな生活が当たり前だと思っていた。たった一年間だということもわかりきっていたはずだったのに自分でも不思議なくらいはまり込んでいた。
別にC組から引き続きクラスメイトになった者がいないわけではない。しかし新しく組織された2年A組という集団の中には上の者たちはいない。それが玲の心を寒くしていた。
もちろんこのクラスになってから友達を作らなかったわけではない。しかしどうもしっくりとこないのだ。慣れていないだけなのはわかりきっていたがやはりC組の持っていた独特のぬくもりが恋しい。
「湿気た顔してんな。なんか悩みでもできたのか?」
同じクラスになったものとしてはなぜか一番親しくなっていた秋山が声をかけてくる。
「別に……ちょっと昔のことを思い出していたのよ」
271進級(2/2)  ◆oznDORkUL6 :2006/08/06(日) 19:04:08 ID:???
昔のこと―こうして記憶の底にC組のことを押し込めていいのか、わからなかったが私は自然とそれを選んでいたようだった。新しい生活に慣れなければならないのは明白だったから。
「昔ねえ。たかが17年の人生にそんなもん在る気はしねえけどな。それに振り返るより前だ前。どんなに悩んだって自分に残っているもんは今と未来だけだからな。」
それもそうかもしれない。と私が胸のもやもやを心のそこへ静めてしまおうとしていると―
「乙女ー食事の時間だよー」
C組―もちろん私がいた1年C組ではなく2年C組―の白鳥がクラスへ入ってきた。
「んなこたーわかってるよ! また下痢壺押しに来たのかよ!」
とっさに秋山が弁当を持って駆け出す。この後しばらくおっかけっこをしてから昼食を共にするのだろう
「相変わらずね」
クラスが変わっても仲は1年のころと変わっていない。そんな彼女たちに心を動かされた気がした。
自分の考えが型にはまりすぎていたんだと思う。友情はクラスなど関係なく個人で結ばれるはずだ。
私は弁当を持った。たまには元C組の仲間たちと昼食をとろうと思った。今日は……ベッキーと離れて落ち込んでるだろう姫子のところへ行ってみるか。
272輪廻転生の6号:2006/08/06(日) 19:38:32 ID:???
>プロローグ

時刻は夜の9時、桃月学園体育館倉庫。
玲とくるみの2人は呆然とその場に立ち尽くしていた。
体育館倉庫内は暗闇で、窓から差し掛かる月の光のみが、暗い倉庫内に明かりを灯している。
その月の光の下で、頭から血を流して倒れている少女・・・
玲の手には、少女の血と思われるものが付着した鉄バットが握られていた。
「あ・・・あぁ・・・何してるのよ、玲!死んでるじゃん6号!!」
くるみはその場に力なく崩れ落ちる。
「う・・うるさい・・・・お前が殴れって言ったからだろう・・」
玲は持っていたバッドをその場に落とすと震えながら、くるみに責任転嫁しだす。
「ちょっと6号・・・私達が悪かったよ・・・だから悪ふざけやめてよ・・・」
「ムダだ・・・もう死んでる・・・」
そんな事はピクリとも動かない6号を見ていればわかる。それでもくるみは最後の望みに託そうと思ったのだ。
玲の言葉を無視して、ゆっくりと這いながら6号の死体の元にやった来たくるみ。
「ねぇ起きてよ!」と何度も体を揺すって起こそうとするが、返事がない。
これでくるみの最後の望みは叶わず、再び力なく崩れ落ちる。
「私達の人生終わったんだね・・・・一生、人殺しっていう烙印を押されて生きていくんだね・・・」
ボロボロ涙を零して泣き出すくるみ。
「バカ!こんな奴の為に将来めちゃくちゃにされてたまるか!監獄に閉じ込められてたまるか!!」
「っ・・・何言ってるのよ!?殺人なんだよ!?隠したとしても、すぐにバレるに決まってるじゃない!!」
「大体、おまえが6号を虐めようとか言い出すからだ!!」
「何よ!殴ったのはあんたでしょ!?」
状況に耐えることができず、激しく言い合いをはじめる2人。
2人の言い合いは玲の「クソッ!」の一言で途切れた。
「私だって・・・・怖いんだ・・・・・・6号・・・・頼むから生き返ってくれ・・・・・」
くるみが声を出して泣いているのを背に、玲は6号の死体を見つめて大粒の涙を零した。
273マロン名無しさん:2006/08/06(日) 20:05:59 ID:???
死にかけた修がアバターに覚醒してAIDAに乗っ取られた晶を(ry
274マロン名無しさん:2006/08/06(日) 20:22:45 ID:???
>>272
GJ!
上半身裸で待ってた甲斐があったぜ!
275マロン名無しさん:2006/08/06(日) 20:26:55 ID:???
>>266
はじめの一歩間柴vs沢村ネタ乙
>>273
.hack//G.U.ネタ乙
276輪廻転生の6号:2006/08/06(日) 20:30:32 ID:???
>プロローグ 2


「・・・・・生き返る・・・?」
玲は何かを思い出したのか、自分の鞄の中をあさりだした。
暗闇なのでよくわからなかったが、目当てのものを見つけ出すと月の光の下に歩み寄った。
月の光を頼りに本を読み出した玲にくるみも月の光の下に歩み寄る。
「これだ・・・・・これいけるかもしれない・・」
興奮気味な様子で本に食いつく玲。くるみも本を覗き込んだが、英語じゃない外国語で書かれてる為、さっぱりわからなかった。
「玲・・・その本何なの?」
「・・これか?フランスに住んでいた黒魔術師が書いたと言われている、エッセイ本みたいなものだ」
「・・黒魔術?あんた、そんなのに興味あったの・・・?」
「暇だったからな。今は絶版だから手に入らないが・・・・・ほら、このページだ」
玲にそう言われて本を渡されたくるみだが、やはり何が書いてあるのかわからない。
「著者である黒魔術師の若い頃の実話だ。何でも昔、兄を殺された妹がこの黒魔術師に仇を取ってくれって頼んだらしい。
しかし、だれが兄を殺したのかは黒魔術師のこいつでもわからなかったそうだ。
だから黒魔術師は兄を魔術で生き返らせた。蘇った兄は憎き殺人犯の枕元に現れて、呪い殺した。・・・・・という話だ」
本当に外国語で書かれたこの本を読んだのか?
玲の説明にくるみはそう思いながら、再び本に目を向けた。
277輪廻転生の6号:2006/08/06(日) 20:51:30 ID:???
>プロローグ 3

「・・・・・で、それとこれとどんな関係があるの?」
「鈍いなお前。この本には、その黒魔術の儀式が事細かに載っているんだ!」
「・・・・・で?」
「これを実際にやってみれば、6号が生き返るかもしれないだろう!?」
マジな顔で言い出す玲にくるみ鋭い形相で睨みつける。
「そんなのあてになるわけないでしょ!!」
くるみは持っていた本を投げ捨てると、再び泣き出してしまった。
玲はくるみが捨てた本を拾うと、くるみの元に歩み寄る。
「くるみ・・・人生終わりたくないだろ?・・兄貴に嫌われたくないだろ?もしこれを実演して、本当に6号が生き返ったらどうだ?
私達の罪は無くなるんだ・・・人生も終わらないし、家族に勘当もされない。最後の望みを試してみる価値があると思わないか?」
玲の言葉にくるみは涙を拭い去る。
「本当に・・・・本当に6号は生き返るんだね?」
「100%とはいえないが・・・1%もないかもしれない・・・・でも、これが私たちに残された、最後の手段なんだ」
玲とくるみは互いに頷きあうと、月明かりに照らされた6号の死体を見つめるのだった・・・
278輪廻転生の6号:2006/08/06(日) 20:57:07 ID:???
>プロローグ 4


玲の指示を受けて、くるみは6号の死体の周りに石灰で魔方陣を書き込む。
この儀式は月の光を架け橋にして生命を呼び戻すという方法で
光と魔方陣に封じ込めた黒魔術、そして生命を呼び戻す呪文の3つが重なった時、死者が蘇るというものらしい。
「玲・・・言われたとおりにしたよ」
「よし・・・始めるか・・」
玲は6号の足元に立って本に書かれている呪文を読み始めた。
くるみには何を言っているのかわからない・・・だが、玲は真剣に呪文を唱え続けた。

何分過ぎただろうか・・玲はようやく呪文を終えると、6号の体を縄で縛り、柱にくくりつけた。
「ちょっと玲・・・・何してるのよ?」
「生命が戻ってくるのは、月の光が消えた明け方になるらしい。それまで下手に動かれたらまずいだろ」
玲はそう言うと、これでもかというくらい縄をキツく結びつけた。
「・・・よし・・・・帰ろう。明日の朝になるまで、ここにいるわけにはいかないだろ」
玲はちらかした本をかたずけて、帰宅の準備をする。
「ねぇ・・・6号の親とかはどうするの?」
「ああ・・・それなら心配ない。今日は親が家に帰らないって言ってたからな」
「そうなんだ・・」
「とにかく、明日の朝になるまで耐えるしかない・・・・」
「本当に・・・本当に大丈夫なんでしょうね?」
「・・・・私達が今までどおり平和に暮らしたいなら、賭けるしかない・・・この魔術が成功することを・・」
玲とくるみはゆっくりと立ち上がると、体育館倉庫を後にした



長いプロローグは以上。
相変わらず下手な文章だが、感想をくれたら幸いです。
279マロン名無しさん:2006/08/06(日) 21:09:20 ID:???
>>278
待ってました!
そろそろ上半身裸はキチィって思ってたトコにコレだよ!
…でも何か先がもう薄々解った様な気が…と、とにかくGJ!

あとそんな文章は下手じゃない…もっと自分に自信を持って良いと思います
280マロン名無しさん:2006/08/06(日) 21:10:55 ID:???
>>278
続き待ってます。
281マロン名無しさん:2006/08/06(日) 23:09:17 ID:???
>>269
学級崩壊って言うか学級解体じゃないかw
282桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:20:19 ID:???
大量投下後なのでいささか気がひけないこともないのですが、
どさくさに紛れて一応こちらも。
前回の反省を生かしてわかりやすく。
283桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:23:45 ID:???
 今日の課業も終わり、犬神は荷物を片付け、帰る支度をしていた。
そうしていると、不意に後ろから彼を呼ぶ声がする。
何だ、と思い振り返ると、その声の主は思いもかけぬものだった。
「おや?宮本先生のウサギじゃないか」
「あの・・・・・・これを貴方に・・・・・・」
メソウサはいかにも大切そうに両手で抱えた一通の封筒を犬神の方へ差し出した。
「私に?どういうことだ?」
わけもわからぬまま犬神はそれを受け取ったが、メソウサのほうは無事それが手渡されたことを確認すると、
何も言わず彼方へ走り去ってしまった。

 怪訝な顔つきでその後ろ姿を見送った犬神だが、詮無くその手に残された封書を開けてみた。
そしてその内容に半ば呆れ、思わず溜め息をもらしたのだった。
「やれやれ、またこのテの手紙か」
そこには女性のものと思われる優美な書体で、しかしどこか頼りない線で以下のように書かれていた。
「犬神さんへ 大切なお話があります お手数ですが、××荘の○○号室にいらしてください I」

 日頃から女性陣の間で人気のある犬神にとってはこのような手紙は日常茶飯事の習いとなっていた。
やれ屋上に来いだとか、やれ教室で待っているだとか、そうして正直にそこに出向くと、
名も知らぬような女子がやってきて、唐突な愛の告白を一方的にしてくるものだからどうしようもなくなるものなのである。

 犬神はこの妙な儀式に付き合わされることにほとほと辟易していた。
彼は女嫌いというわけではないが、こう何度も同じような手で、同じようなことをされ続けたのでは、
さすがに嫌気がさしてくるというものである。
このところでは、もう彼は、呼び出されても待ち合わせ場所に行くのも億劫になってしまっており、
このような書簡もスパム・メールの一種であるというくらいにしか思わなくなっていたのである。
284桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:27:13 ID:???
 ところが、今回はちょっと様子がおかしい。
××荘といえば以前剣道場に通う途中の脇にあった寂れた安アパートじゃないか。
校内に呼び出すならまだ可愛気があるものだが、まさかそんな辺鄙なところに来いなどとは、
自分勝手も甚だしい。
自分の用事で人を呼びつけるのに、一体、何様のつもりなのか。
そもそも手紙を渡すのにウサギをして遣わすなどというのは果たしてどういった怠惰な料簡だろうか。
I?愛?イニシャルか?
自分の名も名乗らずこんな書簡を強引に寄越してくるなんて、余りにも人をバカにしている。

 犬神は少し不愉快な気がしたが、逆にそれが気になり、
それならば、是非この不届き者の顔を拝んでやろうではないか、という考えが起こった。
そうしてこの愚か者にハッキリとその非常識な振る舞いの非を教え諭してやろうではないか、と。

 犬神はそうして帰り道がてら、この××荘にやってきたのである。
普段は気にも留めぬような安普請のオンボロアパート。
よくよく考えてみれば、こんなところに桃月学園に通うような女子高生がいるというのもおかしな話だが、
実際に来いと言われたので来たまでである。

 彼は○○号室の前に立って、薄っぺらな合板製の戸を叩いた。
彼くらいの力になると、もう戸が破けるか、或いはアパートごとその振動で崩壊しそうである。
少し乱暴が過ぎたのを反省し、犬神は手を下ろして呼び掛けた。

「犬神つるぎです。私に何か御用ですか?」

 見ず知らずの部屋の前でそんなことを大声で言うのもなかなか異様なものである。
犬神自身はむしろそんな自分の様を冷静に見つめ返して、何ともバカバカしくなってしまった。

「犬神さん?どうぞお入りください」

 呆れ果てて帰ろうとした犬神の耳に、蚊の鳴くような細い声が聞こえた。
声は部屋の中からである。彼は恐る恐る戸を開けて中に入った。
285桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:32:08 ID:???
 室中は照明が落とされた上に雨戸が締め切られ、真っ暗であった。
しかしなにやら線香を焚くような匂いが鼻をつき、部屋の奥の方から言い知れぬ、気だるい空気が流れ出し、
そのあまりに不気味な空間に一瞬たじろいでしまった。

「犬神さん?戸を閉めて、どうぞこちらに。暗いので足元に気をつけてください」

 闇の中からどこかで聞いたことのあるような声がした。
犬神は言われたとおり後ろ手に戸を閉めて部屋の中に入っていった。
そうして、奥の広間に入ると、どうやらそこに人が横になっている気配が感じられた。

「すみません、ちょっと事情があって明かりが点けられないのです。
どうぞ、そのあたりに腰を下ろして私の話を聞いてください」

 どうもこれまでのような平凡な愛の告白とは様子が違うようである。
消え入りそうな声の主がいると思われる方を向いて、犬神は腰を下ろした。

「犬神さん、私が誰かわかりますか?」

 犬神は首を傾げた。どこかで聞いたことのある声ではあるが、いまひとつ顔と名前が浮かばない。
別に知らないからといってそれを咎められることもないので、その旨を正直に話した。

「いえ、すみません・・・・・・貴女は誰ですか」

「一条です。C組の学級委員です」

「一条・・・・・・さん?貴女なんですか?」
286桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:34:35 ID:???
 犬神は驚きの余り開いた口が塞がらなかった。
もっとも、暗闇の中なのでその様子は彼女には分からないであろう。

「よかった、憶えていてくださったんですね。いきなり不躾な手紙を出して呼びつけてしまって申し訳ありません」
「一体、どうしたんですか。このところ学校でも姿を見ないし、何かあったんじゃないかって・・・・・・」
「心配をかけてすみません。実は今日お呼びしたのは貴方に私の遺言がわりのお願い事を聞いて欲しかったがためなのです。まことに身勝手ではあると・・・・・・」

 犬神は自らの耳を疑った。「遺言」・・・・・・?今確かにそう言ったか?

「何の冗談ですか、一条さん?余りバカなことを言っていると・・・・・・」

 その刹那、一条は痰が絡んだような湿った咳をした。
その不快な音は、疑うべくも無く病人のそれであり、
犬神は否が応にも彼女の言の真剣なることを認識せざるを得なかった。

「私はもう長くないんです。何故かといえば、まさに愚の骨頂とでもせねばならない事情の為なんです。
・・・・・・お恥ずかしいことなんですが、私の身体は、クスリのせいでボロボロなんです」

 一条は咳混じりの聞き取りにくい声で話し始めた。犬神は何も言わずにそれを聞いていた。

「はじめは好奇心とファッション感覚でした。
私の敬愛するアーティスト、メキシコの大スター、ホセをご存知ですか?
彼は音楽業界では有名なガンジャマンの一人で、私も偉大な彼にできるだけ近づきたいと、
何の気後れもなしにマリファナに手を出したんです。・・・・・・思えば浅はかでした」

いつになく多弁な彼女の口に驚きを禁じえなかった犬神だったが、その話を聞いているうちに、
この状況の異様さは全て些細なことに思われてきたのだった。
287桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:36:11 ID:???
「それからいろいろ試しました。クスリをやればやるほどに捏造された快楽が私を地獄の方へと引き込むのです。
私はただ己の欲望の赴くままにクスリを吸い、飲み、注射して転落の一途を辿ったのです。
精神を冒すことの快感、悪徳に身を堕すことの快感に、きっと私は有頂天だったのでしょうね。
そして、遂に私は禁断の果実に手を出してしまったのです」

 一条は暗闇の中で何かを取り出して犬神の目の前に掲げて見せた。
もちろん暗闇なのでそれが何であるかは分からなかったが、何かとても不吉なものであることは容易に想像がついた。

「ヘロインです。・・・・・・犬神さん、信じられないかもしれませんが、実は私、とても感情の起伏が激しい女なんです。
素面の私は、そうですね、姫子さんみたいな浮ついた性格なんですよ」

 一条は少しはにかんだようだった。犬神にはそんな気がした。
288桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:39:24 ID:???
「けど、私はいつもエレナ(ヘロイン)をキメていたんです。
これをやると、瞼が重くなってきて、心地のいい、トロンとした気持ちでダウナートリップに入れたんです。
みんなは私のことを不思議ちゃんのように思っていますが、実はあのとき、私はクスリの力で別の世界に居たんです。
不思議な、不思議な・・・・・・イチジョー・イン・ワンダーランド」

 一条はまた咳をした。暗闇の中で、気味の悪い咳の音がこだました。
「でもね、犬神さん。ご存知の通りエレナはクスリの中でも相当ヤバいものなんです。
フフ・・・・・・何事もやりすぎは禁物と聞きますが、私もついにそのしっぺ返しを喰らったわけなんですよ。
ここ最近、私は学校に行けなかったのですが、もう、身体が痛くてたまらないのです。
この部屋からまるで動けません。
この部屋は私にクスリを売ってくれた売人の部屋なのですが、彼はもう来ないのでクスリも手に入りません。
さっき見せた一袋で最後です」
「彼は今どこに?」
犬神は息苦しさを抑えつつ訊ねてみた。

「さぁ・・・・・・?混ぜ物がバレたとかで元締めのヤクザともめていたみたいだから、
きっと今頃はどんぶら川の魚の餌にでもなっているんじゃないですか」

 一条はクスクスと笑い声を上げたが、やがてそれは咳に変わり、発作のようにそれがしばらく続いた。
「それで、私の方は昨日まで懲りずにやって、遂に視神経がやられたみたいなんです。
学校に居たときも、私の瞳、異様に黒く濁っていたでしょう?あの頃から視力が落ちていたんです。
メガネをかけても全然物が見えるようにならないし、きっとこれはクスリの弊害で目玉そのものがダメになったんだなぁ・・・・・・って。
それで昨日、とうとう完全に失明しちゃったんです。
あの手紙は手慣れで書きましたが、今はもう何も見えません。
ところが、光を浴びると、見えないはずの目に、釘を刺すような激しい痛みがきて、視界が真っ白になって苦しいんですよ。
部屋が暗いのはそのためです」

 犬神は彼女の身体についてはこれ以上聞くに耐え切れず、足早に核心に迫った。
「それで、遺言というのは?」
289桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:43:24 ID:???
「はい。話したとおり私の身体はもうボロボロです。
もうこれ以上は生きていくことも難しいでしょう。
幸い私にはさっきのエレナと売人のやり残していったコーク(コカイン)が少しあります。
明日の日が明ける頃までにこの二つをカクテルしてスピードボールをやります。
私の身体はもう負荷に耐えられないでしょうから、きっと一発で逝くことが出来るでしょう」
「・・・・・・自殺を?」
「ええ。他に道はないんです。
それで、頼みごとというのは、妹たちに――面識がおありですよね――私は・・・・・・姉さんは遠い世界に、
ファンタジーの世界へ行ったのだと、伝えてはいただけませんか。
今の私には、あの子たちに、とてもあわせる顔がありません。
・・・・・・散々快楽に溺れて、それでいざ今際でそんな弱腰になるなんて、何て身勝手な女だ、とお思いになるでしょう。
いえ、罵ってくださっても構いません。
でも、あの子たちにはこんな私の姿はやはり見せられないんです。
どうか、どうかよろしくお願いします」

 犬神は沈鬱な気分だった。
何と形容していいものか、ただただ、味わったことのない苦い気持ちが彼を包み、
どうすることも出来ない厳しい現実の前に、独り頭を擡げるのであった。
「私が死ぬのは自業自得です。
しかしそのせいで他人を悲しませることになるのがたまらなく心苦しい。
本当に、私は何て愚かだったのでしょう、悔やんでも悔やみきれません。
犬神さんにもご迷惑をかけてばかりで、申し訳ない・・・・・・」

 犬神は堪えきれなくなって立ち上がると、突然部屋の照明を点けた。
「!?まぶしい!やめてください、犬神さん、痛い、痛いです・・・・・・!」
 犬神は電光のもとに曝された一条の姿を見つめた。
髪を振りほどき、その美しく、妖艶に悶える様。
何故、何故こんな可憐な少女が麻薬のために生命を絶たねばならないのか。
彼は世界の因果の余りの残酷さに全てを呪い尽くしたい気持ちにすらなった。
だが、そんなことをして何になる?
彼女はいずれ、すぐにでも死んでしまう。
彼女が自ら手を下そうと下さまいと。
290桃月怪奇譚第三夜:2006/08/06(日) 23:45:34 ID:???
 犬神は両目を押さえ、苦痛に肢体を仰け反らせる一条の頭に手をやった。
すると不思議なことに、苦しみに喘いでいた彼女は動きを止め、
そうして焦点の定まらぬ黒い瞳を徐々に開けて、目の前にいると思われる犬神の顔を白い闇の中に探したのだった。
 犬神は一条の顔をそっと撫で、そしてその湿った唇に優しく接吻をした。
何故そんな真似をしたのか、後から考えると全く不可解だが、
その時は、彼にはそれ以外するべき道がなかったのである。

――どれほどの時間が流れたのだろうか。永遠のように長い間か、
それとも電光石火の煌きのような一瞬の出来事であったか――

 口づけが終わり、微熱を帯びた、しかし死体のように冷たい一条の頬をもう一度撫でると、
犬神は電気を消して玄関に向かった。
これでお別れである。本当に、本当のお別れ――

 犬神の背中を暗闇の中で送りながら、一条は独り言のように呟いた。
「さようなら、さようなら、ごきげんよう・・・・・・
ああ、お母さん、私も、貴女のような立派なひとになりたかったわ・・・・・・
こんなことになって、本当にすみません」

 犬神は振り返ることなく戸を閉じると、外に歩き出した。
既に日も暮れ、空気はひんやりと冷たく、闇夜に濁っていた。

おしまい
291マロン名無しさん:2006/08/06(日) 23:51:49 ID:???
>>290
GJ
コレも元ネタがあるのか?
292インプランタ晶:2006/08/07(月) 03:39:17 ID:???
「悪い宇宙人って…お前!?急に出てきて何言い出してんだよ?」
 悪い宇宙人、その言葉が啖呵を切るための冗句とは思えず、乙女は問いかける。
「詳しい話は後だピコ…!」
 乙女の問いかけにそれだけ応じると、ロボ子はドジラへ歩を進める。
「さ、どうする?大人しく降伏するか?それとも…やるか?」
「…………」
 ドジラは答えない。代わって、フリーズしたPCが出すような、微音の電子音がした。

「は…!?」
 乙女は目を疑った。早い。ドジラの癖に早かった。
かつてバスケの試合で桃瀬くるみがやって見せたような早く的確な動きで、
ドジラはロボ子へと突撃していった。
話は脱線するが、中学時代より身長が伸びず、ちっちゃいネタをよく振られる秋山乙女は、
1年女子の中でもっとも小さいというわけではなく、3番目である。
片桐姫子が2番目に低く、最小は、ロボ子の中の人たる芹沢茜である。
果たして、最軽量の彼女がワイヤー無しでドジラ着ぐるみを着こなす来栖に敵うのであろうか?
ロボ子の優位な点であった速さも、今となっては互角か。
質量にいたっては大砲と弾丸ほどの差がある。

見る間にドジラは間を詰め、ロボ子の軽快なステップも焼け石に水で、ぐいと2人の距離感は消える。
そして、みしりと鈍い音がした。
「芹沢!」
 乙女は再び涙ぐみ、ロボ子の敗北を感じた。だが―
「…う……?」
 うめき声を出し、痛みを表したのはドジラの方だった。
ロボ子の拳がドジラの腹に決まっており、ドジラの爪は空を切っていた。
「甘いな。そんなんじゃ私はやれないぜ?秋山ならまだしも」
「って、てめー!驚かしやがって!」
 乙女の目には、ロボ子の頭部を透過して、茜の不敵な笑みが見えた。
慣例からか名字で呼び合ってこそあれ、2人が親友であることに違いはないのであった。
293インプランタ晶:2006/08/07(月) 03:40:36 ID:???
「ガオー!」
「本当に…ただの人間じゃあ無くなっているんだな…来栖ちゃん…」
 みぞおちの辺りへ一撃を食らわせたにも関わらず、ドジラは立ち、吼える。
ロボ子は後ろへ飛びのき、勢いをつけてドジラへ蹴りをかました。
だがドジラは倒れない。慣性の法則を無視したような動きですぐさま体勢を立て直す。
「来栖ちゃん!もうやめろ!今は戦うべきじゃない!」
 柚子は答えず、肉体言語で応じてきた。ロボ子の側頭部をかする。
茜は少し悲しくなった。

 家庭科室から逃げる途中、茜は諜報部部長、柚子はB組の黒メガネに拉致された。
諜報部部長(とはいっても黒猫のパペットしか見えなかったが)の言を信じるならば、
桃月学園は、高度な科学力を持った謎の組織によって実験場にされており、
すでに晶と響が、そして柚子が改造されており、データを取らされているのだという。
響は軽い精神操作、柚子はそれに加えて身体能力の強化をなされ、
晶に至っては、もはや強化というよりも別の生き物に変えられ、生物学的には地球上の生物で敵う者が無いという。

そして、茜は新しいロボ子の着ぐるみを渡された。形状はアンテナ以外はほぼ同じだった。
これまた黒猫部長曰くだが、中を南条技研の供与品で強化しており、着ぐるみというよりもパワードスーツで、
具体的にいうと特撮ヒーローさながらのアクションを披露できるほどの性能らしい。
これで響の身柄を確保し、柚子も止め、後はベホイミに協力せよとのことだった。
ただ、晶と正面切って戦うことは禁じられた。
茜は、「これだけ調べられるほど有能なら、自分が戦えばいいんじゃね?」と言ったが、
「それには及ばない。なぜなら私は裏方だからだ」と煙に巻かれた。
そして、アンテナで柚子の居場所を調べ、今に至る。

「それにしても…まさか来栖ちゃんがドジラだったなんてな…」
 茜は、ここまでの流れで、来栖がドジラであることを聞かされていた。
しかし、優秀な演技者である茜は、ロボ子を演じる以上、ドジラとの衝突を避けられない。
「秋山!お前はそこで泣いてる奴らを何とかしてくれ!集中して戦いたい!」
「あ、ああ…」
 乙女は素直に応じ、まずは鈴音の元へと駆け寄った。
294インプランタ晶:2006/08/07(月) 03:42:09 ID:???
「鈴音…!ほ、本当に泣いてる…」
 乙女は、正直鈴音は元気の塊で、辛い事も静かに受け止められると思っていたため、
顔をぐしゃぐしゃにして泣いている姿を見て、動揺した。

「ちゃぱ…桃瀬…、死んじゃったんだって…?」
 乙女は言ってしまってからしまったと思った。火に油を注いでどうすると。
「…う、ん。それと…ちびっ子先生も…」
「…ぇえ!?え!?べ、べ、ベキ子!?じょ、嘘…?」
 乙女はベッキーの事を聞いて動揺するも、鈴音はさらに言葉を継ぐ。
「ヤンキーも…ズーラも…早乙女先生も…晶に…」
「…!?」

 職員室では、晶があらかたの用事を済ませてしまっていた。
「…み、宮田…おんしゃあ…」
「う…うぅぐぅうう…」
 2本の足で立てるのは、もうジジイと光しかいなかった。
両者ともに大惨事を前にして意気阻喪し、逃げようともしなかった。
光は、血の、ぶちまけられた内臓の、消化物の臭いにあてられ、今にも吐きそうになっていた。

 晶が部屋に入ってきたとき、運悪く目に付く位置に立っていたヤンキーは、
頭髪を握られ、振り回され、周囲の何人かをなぎ倒す凶器にされ、自身もいつしか息絶えた。
続いて、生き残った生徒を庇うべく飛び出してきた早乙女は、ガードの上から両手を吹き飛ばされ、
腹部やら頭部やらに打撃を1024発受ける途中で絶命した。余った拳が周囲の学生、教諭を吹き飛ばした。
ズーラは、逃げる気になれば逃げられたかも知れなかったが、
ジジイや病弱な光を置いて逃げることを潔しとせず、晶の手刀でダルマ落としのように割られて死んだ。
職員室が死体で埋まるのには、ノートン入りノートPCが完全に立ち上がるまでほどもかからなかった。
生き残り2人を前にして、晶はこんな事を言い出した。
「…あ!足で殴る話だ!忘れてたよぅ…」

晶は、静かな笑みをたたえてジジイと目を合わせた。
ジジイは数秒震えていたが、意を決して言った。
「おぬし、何が望みじゃ…?」
295マロン名無しさん:2006/08/07(月) 08:19:17 ID:???
GJ
でもちょっとわかりにくいような

つまり宮田は桃瀬兄妹を殺した後、職員室に侵入したって事でOK?
296The most calamity:2006/08/07(月) 15:21:56 ID:???
「だから!少しでもいいから姫子と話くらいはしてくれないかって言ってるんだ!」
放課後の宮元研究室から怒鳴り声が聞こえてくる。しかしそれに答える声は聞こえず、
暫くは誰かの荒い息だけが響いている。
玲「…、頼む。ベッキーだって分かってるんだろ?姫子の奴、だいぶ参ってるし反省もしてるはずなんだ」
今回こそは冷静に説得するつもりだったはずだった。しかし終始押し黙ったままのベッキーに痺れを切らし、
結果として怒鳴ってしまったことに多少驚きつつ、玲は自分を落ち着かせながら説きかける。
玲「少しでいい。少しでいいから、姫子の為に、協力してほしい。別に笑いながら話しかけろって訳じゃないんだ。
  別になんでベッキーが怒ってるかを姫子に言ってやるだけでもいい。でもその代わり、姫子のいうことも
  聴いてやってほしい」
一体この言葉を口にするのは何度目だろうか。言い方や口調を変えてはいるが、言っていることは先ほどから
何も変わらない。それしか思いつかない。

だがこれだけやっても、ベッキーは一度として反応を示すことはなかった。
これではさすがに嫌気も差してくる。
玲「…ベッキーもいつまでもふて腐れてないで、姫子のことも見てやってくれっていってるんだよ。
  それじゃぁただの駄々っ子にしか見えないぞ。まがりなきにも教師なんだから、しかも天才なんだから、
  担任として最低限生徒の面倒を見るくらいは―」

297The most calamity:2006/08/07(月) 15:23:37 ID:???
―バン!!!
本音が交じり始めた玲の話を遮り、一瞬の振動が研究室に響いた。
ベキ「さっきから言わせておけば私の気も知らないで、よく勝手にそんな事が言えるな!!!」
机に拳をたたきつけた体勢から、玲を睨み付けながら啖呵を切る。あまりにもいきなりの出来事に、
玲はすぐさま反応することが出来ない。
玲がひるんだ事に気づいたのかそれとも気づかなかったのか、ベッキーは更に語気を荒げる。
ベキ「それじゃぁ私が悪者みたいじゃなか!!第一、迷惑したのはこっちなんだぞ!?」
やっとベッキーが何を言っているのかを理解できた玲は、その声を遮るでもなく、思う。
その口調にカチンと来た。+5ポイント。
ベキ「大体悪いのは姫子だろ?何で私ばっかり攻められなきゃならないんだよ!!」
別に攻めている訳ではない。+10ポイント。
ベキ「それとも何か?赴任してきたばかりのときにやったみたいに、私を困らせようとしてるのか?
   だったらお前は何様だ!?そんなことして楽しいのか!?」
何故そんな昔のことを今更。+10ポイント。
ベキ「あーどうせ愚民にはこんな話をいくらしても私の気持ちなんてわからないよな。顔を合わせる
   度に姫子姫子姫子姫子。私のことを労るフリして、意地の悪い私をどう説得させるかしか
   考えてないんだろう!?」
そうかもしれない、と思ってしまったことになおさら腹が立つ。+5ポイント。
ベキ「私だって教師である前に天才である前に、一人の人間なんだぞ!そんなことも考えずに
   さっきから一人でダラダラと―」
30ポイントを越えた時点で、玲の中で何かが切れる音がした。こうなるともう、自分には
歯止めがきかない事を玲は知っている。冷静沈着だか冷酷な魔女だか、そんなものは関係ない。
298The most calamity:2006/08/07(月) 15:27:05 ID:???
玲「……!!!」
ベキ「、!」
そのとき、研究室内の時が止まった。
ベッキーはたった今までの勢いを失い、あまりに突然の出来事に口を半開きにして玲を見つめている。
時の流れが再会する。玲が、口を開いた。
玲「私も言いすぎた。でも、今回は本当に、本当に、頼む。姫子を助けてやってほしい」
それでもベッキーは動けない。そのまま、また時が止まってしまったのかもしれない。
おそらく、これがベッキーではなくくるみや、都でも同じ反応をしていただろう。あるいは、無神経の
代名詞とも言える五十嵐先生でも戸惑っていたかもしれない。
それほど意外な光景が、ベッキーの瞳には写っている。

玲が、床に頭をつけていた。

頭を床につけるには体勢を驚くほど低くしなければならなく、それには腰をかがめなければならない。
すると必然的に膝も床に着くことになり、正座のような体勢になり、結果として頭の重さを支えるために
手の平も床に付くことにもなる。

つまるところ、玲は土下座をしていた。
ベッキーに向かって。

その事態の異常性に、普段から玲と付き合っている人間が気づかないはずが無かった。
普段から一緒にいるベッキーならなおさらだ。
口を半分開けたまま、それを呆然と眺めたまま、玲がプライドを捨ててまで土下座をしている意味を考える。
29940 中断:2006/08/07(月) 15:30:15 ID:???
とりあえず。


この流れは投下しなければならない気がした。
それにしても皆様GJ!

>>278さん、全然文章下手ではないですよ。むしろ見習いたいくらいです。
300マロン名無しさん:2006/08/07(月) 17:48:05 ID:???
久しぶりに来たら大量投下されてて嬉しい。
職人の皆様方、GJです!!!
301インプランタ晶:2006/08/07(月) 19:43:16 ID:???
 保健室、いや、今は保健室とはいえまい。
窓ガラスはおろか、壁が完全に崩壊し、ベッドも針金細工かのように折り曲げられ、
電灯も漏電している。単体で見れば廃墟以外の何物でもない。

 修は、打ち所が悪かったため、犬神とは異なり、一撃で絶命していた。
くるみは、兄の遺言さえ受け取れなかった。晶と行動していた真意も。
頭によぎるのは、後悔の念と、晶が残していった言葉だった。

 HRでジジイに叱られた時点で、いつもでは考えられないような感情がわいてきた。
こんなジジイに自分のことをとやかく言われるのは我慢ならない。
お前などは、ただの血と肉の詰まった袋なのだと重い知らせてやろうか、と。
気がつくと彼女は叫びだしていた。そうでもしなければ、ジジイを殺していただろう。
結局その場は流れ、ベホイミや茜が心配から声をかけてくれたが、衝動は治まらなかった。

 HR終了後、その足で旧校舎、ベッキーの研究室まで行ったが、
いつもの倍以上の速さで着いていた気がした。
ベッキーは、面倒くさそうながら、自分の悩みを聞き、対処しようとしてくれた。
ただ、何か変な物質のせいでアレルギーが起きて気が立っているのかも、調べよう、と言われたところで、
頭に声が、というより心に直接命令が下った。殺せ、と。
頭の中が真っ赤になり、気がつくと自分の手やその場も真っ赤だった。ベッキーの血で。
ベッキーは穴という穴から血を流して死んでいた。殺したのは自分だろうなぁ。

 あまりの出来事に、自分は泣くだろうと思ったが、その実は逆で、笑いがこみ上げてきた。
なんだ、天才少女とかいっていい気になっていたベッキーも、こんなもんか、と。
せっかくだから脳みそを、内臓を、眼球も見てやろうと思った。
何かご利益があるかもしれない。天才の脳みそを食べたら自分も賢くなれるかもしれない。
右脳と左脳の区別が面倒なので両方口に含んだ。玉子豆腐の味がした。たぶん自主規制だろうなぁ。
物理の教科書を取り出したが、ページが真っ赤になって読みづらいのでシャワーを浴びに行った。
冷水だけなら旧校舎にもシャワー室がある。誰にも出会わなかった。

ここで、そういえば調理実習がある。こんなところでのんびりしている場合じゃないと気づいた。
302インプランタ晶:2006/08/07(月) 19:44:50 ID:???
 家庭科室に着いた。ベッキーを解体したからか、謎の衝動は静まっていた。
包丁を握る。自分の手とは思えないほど器用に野菜を切れた。
乙女がベッキーが来ないなと言っていたが、説明するのが面倒なので流した。
他愛も無いやり取りをしている内に、違和感を感じ始めた。
どうしてベッキーを殺して自分は平気でいられるのだろう、と。

 自分の身体能力が信じられない水準にまで達していることにも気づいた。
指だけでベッキーの頭骨を切り裂けたし、少し引っ張ったら関節も外せた。
家庭科室まで走っても、息切れひとつしなかったし、転ばなかった。
代わりに、どこか頭の中の大切な所が壊れてしまったような気がした。
昨日までのように乙女さんや芹沢さんたちの事を大切に思う心がなくなっている。
倦怠感が押し寄せ、自分の力を披露して、誰かをまたバラバラにしてやりたいなと思い始めていた。
そんなときに鈴音ちゃんの姿が目に留まった。

 白鳥鈴音、わたしよりスタイルもよく、何をやらせてもそつなくこなす子だ。
気に入らない。いま理屈だけで考えると嫌いな子だ。昨日までは友達だったのに。
きのう?昨日なんてあったかな?私は今日に生まれた気がした。
さっきベッキーを解体したことさえ、今思えば楽しかった気がした。
どこからか脳内に快感物質が分泌される。幸せだ。幸せなんだ。

 手始めに肉を切り取ろう。長身で細身ならまだ鈴音にも納得がいくのだ。
切り取るなら素手よりもナイフを借りたほうがベホイミだ。べホちゃんから借りよう。
指が丈夫になったからって、さすがに衣服は切りづらいもんね。借りよう。つーか貸せ。
私を見て乙女やベホが震えだした。怖いの?やっと私の偉大さに気づいたか。
アイドル気分で気分がいい気分だった。南条さんだ。南条さんでもよい気がした。

 そうだ。南条さんと犬神くんからひき肉を作ってハンバーグにしたらどうだろう。
東洋的な愛では、愛し合う2人は互いの一体化を求めるものであるが、
別の存在である以上、そんなことは無理である。
DHロレンスはこのような合一へ向かう愛を、酷く猥褻だとして非難した。
アラビアのロレンスはどうでもいいが、2人の愛をハンバーグが実現するのは夢がある話だ。
303インプランタ晶:2006/08/07(月) 19:47:06 ID:???
 ハンバーグの上に目玉焼きを置くことは、栄養学的見地から問題がある。
愛は健康的なものに限る。健康的な糖質カットビールにはナメクジも寄り付かないと聞いた。
2人の愛を邪魔するものがあってはならない。どうごごゆっくり、の精神を発揮しなくては。
階級的、人道的思いやりがかかっているのだ。

 いざ2人をKOして、これからだというところで、桃瀬修が邪魔をしにきた。
いきなりパイプ椅子で殴られた。痛いけどすぐ痛みは消えた。でも意識は遠のいた。

 目を覚ますと、止め処なく涙があふれて来た。
今まで自分がしたことが、不意に思い出され、罪深さを知った。
どうしておじいちゃん先生にあんな態度を取ってしまったのか。
ベッキーを殺してしまって、そこから先のことは思い出したくもなくなった。
桃瀬くんが声をかけてきた。正気に戻ったみたいだな、って。
説教は後回しで、とりあえずは犬神と南条さんを保健室へ連れて行かなくちゃならない、って。
私は気絶した南条さんに肩を貸した。信じられないくらい軽かった。メソちゃんくらいに感じられた。
桃瀬くんは、気をつけて運ぶように言ってきた。確かに力加減に気をつけないと。

 そして、廊下で、彼に出会ってしまった。神原君だ。
なぜか見たことがある気がした。記憶にはないけれど、細胞が覚えていた。

「我々の宇宙船内で、あなたの体に、いろいろと細工をさせてもらいましたが…、
 脳内に埋め込み…インプラントしたものが不具合を起こしたようです。
 だから今は、超人である以外は、心は元のあなたです。
 再起動までは数十分、それ以降は修正もかかるんで、脳内物質がダダ漏れ。
 正気ではいられなく、先ほどまで以上に、血を見たくなります。
 それが嫌なら、眠りについて、ベホイミちゃんが殺しに来るのを待ちなさい。
 ベホイミちゃんはあなたを殺して身の安全を確保しようとしています。
 爆弾です。あなたの回復能力は映画の怪獣並みに設定してありますが、
 ベホイミちゃんの用意してある種類の爆薬なら、死ぬことも可能でしょう。
 これ以上我々の操り人形として友人を殺すのが嫌なら、早いうちに眠りに着きなさい。
 寝てさえいれば、インプラントも動作しませんから」
 彼は一息にこれだけの長口上を述べた。
304インプランタ晶:2006/08/07(月) 19:48:16 ID:???
「何なんだあんたは…?宇宙船だと?月刊マーでも読みすぎか?
 それに、本当だとして、何でそんな事をわざわざ教える?」
 桃瀬くんは当然の疑問を言った。

「ああ…あなたは…、修さん、そうでしたね。
 詳しい話は運がよければ後でまたお話します。今回も生き抜いて下さいよ。
 我々としては、晶さんが桃月学園を全滅させようが、返り討ちに遭おうがどちらでも構わないのです。
 結果はどうでもよい事ですから。我々が興味を持っているのは、過程なんです。
 おっと、口が過ぎましたね。貴重な時間を無駄に…」
 この間、桃瀬くんは厳しい目つきでいました。
彼の態度に不愉快なものを感じ取ったのでしょう。私も少しむっと来た。

「じゃあ、この睡眠薬を渡しておきます。
 これを飲みさえすれば、強い刺激を受けない限りは目を覚ましません。
 少なくとも、ベホイミちゃんと有志が爆弾を完成させるまでは、ね」
 私は黙ってそれを受け取った。
「今回はイレギュラーな事例が多い。
 諜報部部長といい、一条さんといい、いずれよい友人となれそうですよ」
 彼は去り際にこう言い残し、見る間に姿を消した。
私は今更驚きはしなかった。私が今までやったことが、既に非現実なのだ。

「どうやら…本当に宇宙人か何からしいな…」
「はい…」
「…まずは犬神たちを保健室へ運ぼう」
 私達はすぐに保健室へたどり着いた。担当の先生はいなかった。
「メモがある…。どうやら、上原たちが職員室へ行った件で、職員が集合しているらしい」
「また…私のせい…」
「とりあえず寝かせよう。安静にしないと」
 私は是も非もなく、桃瀬くんの言うことに従った。
幸いなことに、今の私はとても器用で、何でもそつなくこなせた。
犬神くんと南条さんをベッドに寝かせ終わった後、桃瀬くんが話を切り出した。
「…酷い話だが、宮田、薬を飲んでくれ」
305インプランタ晶:2006/08/07(月) 19:49:26 ID:???
 彼は無表情で、声にも感情がこもっていなかった。
「さっきは不意打ちで…なんとかあんたを気絶させられたが、次はないと思うし、
 それに、あんた1人のために全員を危険にさらすわけにはいかない」
 彼の言うことはもっともだ。
仮に私が逆の立場だったとしても、形の上だけは反対をして、
結局は自分かわいさで危険な存在を消す事に加担するだろう。
もしくは、最後まで反対しつつも何らの具体的行動に移さないか、だ。それに―
「…私、ベッキーを殺しちゃった…」

 そうだ。私はベッキーを殺したのだ。
この事実は消せない。このまま生きながらえれば、乙女さんやベホちゃんすら殺すだろう。
それも、機械のように淡々と殺すのではなく、嬉々として殺すのだ。
今もあの感触を覚えている。ベッキーを解体したときの感触を。
今でこそ不愉快で、やってはいけないことだと認識できるが、
あの時、あの瞬間は、間違いなく満ち足りていた。
私の15年の人生において、最も喜びに満ちた瞬間だったのだ。
そんな自分を認めたくなかった。実在していたとしても。

「…わたし…も、もう、生きていけない…。
 ベッキ…ぃ、友達を殺しちゃった…、謝っても取り返しがつかないよ…。
 みん…なに、姫子ちゃんや6号さん…C組のみんなは絶対許してくれないよ…」
 そして、何より私も私を許せなかった。
さっきの神原君の口ぶりから考えると、自殺は不可能なのだろう。
再生能力が怪獣並みだと言っていた。それに下手に体を傷つけたら、また変な事になるかもしれない。
情けない。私は人殺しの癖に、自分で自分の始末をつけることも出来ない。
今まで周囲に迷惑をかけたことは幾度となくあったが、今日ほど悔しい思いをしたことはなかった。
涙が止め処なくあふれてくる。これだけは私の物だと信じたかった。
この悲しみは私だけのもの、誰かに強制されたものじゃない。

「水…汲んできてくれる?」
 私は涙で鼻が詰まって情けない声で桃瀬くんにお願いをした。
もう自分は信用できない。悪いけど、ここは桃瀬くんに頼るしかない。
306マロン名無しさん:2006/08/07(月) 20:04:32 ID:???
>>299
まさに3つのGだ!
GJ!GJ!!GJ!!!
それでAllRight!!
…それにしても30Pまで耐えた玲はすごい…
俺だったら+5アタリでベッキーにシャイニングケンカキックからジャーマンスープレックスのコンボだ(滝汗)
307マロン名無しさん:2006/08/07(月) 20:57:06 ID:???
インプランタ乙
でも今の状況が把握できない俺…

出来れば説明お願い
308マロン名無しさん:2006/08/07(月) 21:00:39 ID:???
>>305
GJ!
確かに>>307の言う通りちょっちゅね〜解んないわぁ…
309マロン名無しさん:2006/08/07(月) 21:56:28 ID:???
インプランタは文章量が物凄いなw
犬神が投げ飛ばされたあたりからよくわからなくなって
読んでなかったんだけど、今からもう一度読んでみるか…
310インプランタ晶:2006/08/07(月) 22:06:24 ID:???
>>307
ここまでの説明
修は死亡、犬神南条の安否は不明。
くるみは取り残され、晶は職員室を襲撃。
くるみが宮田晶から聞いた話という前提で晶の回想に突入してます。
晶は宇宙人に埋め込まれた物から脳内物質を操作され、
血なまぐさいことに快感を覚えるようにされているので、
精神が平衡を保てずにベッキーを殺害、死体を解体して楽しみ、
それ以後は気分が落ち着いたのでごく普通に調理実習に参加。
修が晶の頭を殴ったので埋め込み機器が不調になり、
しばらくは正気に戻れ、自分のした事の重大性に気づいた。
保健室に行く途中で宇宙人サイドの神原に遭遇し、
自分が何らかの実験に使われている事を知る。
神原いわく、
「晶が死んでもこちら側には大した問題ではないので、これ以上友達を殺したくないなら、
この睡眠薬で眠れば、強い刺激を受けない限りは目覚めない。
その間にベホイミが爆弾を完成させて殺してくれるだろう。
もし仮に目を覚ましたら、機器の過剰反応が起きるので、もう正気には戻れないだろう」
宇宙人は晶が桃月学園で人を殺しつくすことよりも、その過程で各人がどう行動するかを重視している。
保健室へ着くと、修は睡眠薬を飲んで大人しく殺されるように言う。
あんたが生きていれば全員が殺されるだろう、と。
晶は落ち着いて今の状況を考えているうちに、
ベッキーを殺した手の感触などを思い出して何もかもが嫌になり、やけを起こし始める。

わかりづらいと言われるのは二度目なので、三度目のないように気をつけます。
これでもわかりづらい気もするし。
311マロン名無しさん:2006/08/07(月) 22:11:14 ID:???
>>309
そういやバトロワの人来なくなっちゃったね
312マロン名無しさん:2006/08/07(月) 22:12:34 ID:???
忙しいんじゃね? 仕事。
まさかここの職人さん全員学生とかじゃないだろうし。
313マロン名無しさん:2006/08/07(月) 22:13:37 ID:???
>>310

アリガトン
くるみが死んでなくて安心した

それにしても宮田カワイソス・・・
314マロン名無しさん:2006/08/07(月) 22:20:06 ID:???
>>310
OK!大体解った。
>>313
全くだ!ドジっ娘に罪は無いのに…宇宙人達め…!
特に神原!杉田ヴォイスでイイ奴だと思ったのによう…
315マロン名無しさん:2006/08/08(火) 00:20:02 ID:???
>>310
GJ
かなり長いから多少はわかりずらいことがあってもしょうがないさ。
でも面白いので最後まで頑張って。
316マロン名無しさん:2006/08/08(火) 00:29:04 ID:???
芹沢が小さいのは知ってたけど姫子が小さいのはショックだ
317マロン名無しさん:2006/08/08(火) 01:51:37 ID:f4fptVpS
誰も鈴音が修の死を感じ取ったことについては疑問に思わない件について
318マロン名無しさん:2006/08/08(火) 02:08:58 ID:???
スゴ味
31940 中断:2006/08/08(火) 02:20:31 ID:???
>>317
鈴音逆テレパシー


誰が疑問に思う事かッ!
320桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:26:12 ID:???
今夜もちょっくら投下。
今回は割りと軽い感じの言い回しで。

>>291
第三夜は特にこれといって元ネタめいたものはありません。
今回のについても同じく。
321桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:27:59 ID:???
「ちわーす くるみいます?」
 修は双子の妹のくるみに弁当を届けにC組の教室にやってきた。
・・・・・・まったく、あのドジな妹は毎度毎度作ってやった弁当を家に忘れていくものだから、
こうやってわざわざ届けてやることも日課になってしまったのだった。
「おや?桃瀬じゃないか。どうしたんだ?」
 天下無敵のちびっ子教師、宮本先生が彼の姿を見つけて寄ってきた。
「あ、先生。ウチのくるみいますか?」
 修は教室の中を見渡しながら尋ねた。
「くるみ?誰だ?」
「ハァ・・・・・・?」
 くるみは地味だ地味だって、みんなから蔑まれていたのは知っていたが、
今度はそのネタで俺を担ごうってのか?なかなかやるねぇ、宮本先生も。
「くるみですよ、ほら、存在忘れちゃったんならそれでもいいですけどね、
とにかくこの弁当、渡しておいて下さいよ」
 修はベッキーの方に弁当を差し出したが、意外なことに彼女は真剣に戸惑っている様子だった。
「ちょっと待て。この弁当を誰に渡せって?」
「いやだなぁ、先生。もうふざけるのは止しましょうよ。
あんまりそうやっていじめると、くるみも少し可哀相ですよ」
 ところが、ベッキーの顔はより一層曇るばかりであった。
さすがに少し異様な気がして、修は訝しげな顔をした。
322桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:30:44 ID:???
 そのとき、傍を上原都が通った。
修は彼女を捕まえて、らちの明かないベッキーの代わりに弁当を渡すように頼んだ。
ところが、都はなぜか虫の居所が悪いらしく、刺々しい物言いでそれを突っ撥ねた。
「くるみ?誰よ、それ?私は忙しいんだからね、くだらないことでいちいち引き止めないでよ!」
 さすがにこう言われると修としても事態の不穏さに心安く居られなかった。
「ちょっと・・・・・・二人して何言っているんですか、くるみですよ、くるみ。ほら、ガサツで口の悪い、地味な俺の妹」
「お前、妹なんていたか?」
 修は悪ふざけの過ぎる彼女らの態度に半ば憤りじみた思いを感じ出していたが、ふと、ベッキーの手の内にある学級名簿に目がいった。
「じゃあ、貴女たちがくるみを知らないって、そんなに言い張るんだったら、
その名簿を見せてくださいよ。1年C組、出席番号31番、桃瀬くるみの名前がちゃんとあるはずですよ」

 賢明な諸君はもう次に起こる不可解な怪現象を容易に予測できるであろう。
果たして、くるみの名はそこに無かったのである!
 修は愕然とした。悪戯にしては余りに手が込みすぎている。
しかしどう見てもくるみの名はそこに無い。
それどころか、くるみという人物そのものがC組の中では認識されていない様子なのである。

「なぁ、修。お前、ひょっとしたら私たちをバカにしているのか?」
「バカにしているのは先生たちの方でしょう!?いい加減にしてください!くるみは何処です!?」
「何だよ!そんなに怒鳴らなくてもいいだろう!?
大体お前がわけのわからないことを言って話をややこしくしているんだからな!」
 ベッキーは明らかに怒り心頭の様子で修を睨みつけた。
都の方はもう相手にもしていないといった様子で、自分の机に戻って何かしきりに考え事をしている。
323桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:33:29 ID:???
「くるみは・・・・・・くるみは何処に・・・・・・?」
 修は混乱する頭を抱えながら、フラフラと教室を後にした。
くるみは確かにいる。当たり前すぎる前提である。なぜなら今日の朝も、彼女は俺と一緒に家を出たのだから・・・・・・
それで、学校についてものの数時間で忽然と消えてしまったのである。
どういうことだ?分からない・・・・・・くるみの身に何が起こったのだ?
そもそも、何故宮本先生たちは彼女のことを知らないなんて・・・・・・

 修は俯きながら歩いていた。が、D組の前まで来て、何やら騒がしいことに気がついた。
彼は友人の犬神を捕まえて話を聞いてみた。
「どうしたんだ?」
「ああ、修か。実は、ここ数日南条が行方不明で、皆で心配していたところなんだ」
「行方不明?南条さんが?」

行方不明・・・・・・そういえば!

「なぁ、犬神。そういえば、ここ最近C組の一条さんも行方不明だよな。どうしたんだろうな」
 急に犬神の顔が曇る。
「一条さん・・・・・・?たぶんそれは南条の失踪とは関係が無いと思う・・・・・・」
 明らかに動揺した様子で、犬神は言葉を濁していた。修はそんな彼の様子のおかしさがどうも気になった。
そして、それは、そのままさっきの奇妙な事件へと直結したのだった。
「おい、犬神。実は、くるみも行方不明なんだ。今朝はちゃんといたのに・・・・・・
これは南条さんの事件と何か関係が・・・・・・」

 その途端、犬神の表情がそれまでとは違う種類の曇りを宿した。
「待て。くるみというのは知らないな。誰だい、その子は?」
324桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:36:20 ID:???
「!?ちょっと待てよ、犬神。そりゃあないだろう。
お前はこういうバカげた悪ふざけはしない奴だと思っていたが」
「落ち着け。何の話かさっぱり分からない。
悪ふざけ?何のことだ?それにそのくるみってのは誰なんだ?」

 修はその言葉に面食らってしまった。
犬神がまさかそんなくだらない話に加担するはずもないし、これはいよいよ様子がおかしい。
何か、得体の知れぬものが、くるみの存在をかき消そうとしているのではないか。
あの犬神をも巻き込むほどの強大な何かが。修は言い知れぬ恐怖を覚え、
怪訝な顔つきでこちらを眺める犬神を残し、その場から走り去った。

 人がどんどん消えている。南条さん、一条さん、そしてくるみ。
いや、くるみに至っては特に酷い。誰も彼女のことを憶えていないといった様子なのだから。
そしてみんなの様子もおかしい。
くるみの名の無い名簿、都はいつも以上に神経過敏、犬神のあのうろたえたような動揺の真意は・・・・・・?
一体何だ?何が起こっている?何かの陰謀か?それとも思い違いか?
もう何が何やら分からなくなってきた。とにかく、くるみは何処にいる?彼女は今どうしているのだ――

 修はその後も様々な人間にくるみの所在を尋ねて廻ってみたが、やはり誰も知らぬ存ぜぬで、
逆に修の方がふざけているのではないかと笑われて、まるっきり相手にされなくなってしまったのだった。
「おかしい。どうもおかしい。昨日まではみんなくるみを知っていたのに、
そして今日の朝まではその姿が確かにあったのに、一体何故こんなことになってしまったのだろうか。
まさか夢ではあるまいな」
修は試しに自分の頬を抓ってみるのだったが、余りに痛いのと、バカバカしいのとで、それも諦めてしまった。
325桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:38:55 ID:???
 彼はそれからくるみがバイトしていた(と彼が思っていた)某喫茶店へと向かった。
放課後の、今の時分ならくるみが働いているかもしれない。
学校をサボって、こちらにいるのかもしれない、という希望を胸に――

 希望は脆くも崩れ去った。
彼が外から覗くと、中で給仕をしていたのは記憶の中の妹ではなく、
訳のわからない、頭巾を被った忍者のような奴だったのだ。
 修は完全に打ちひしがれてしまった。くるみはいなくなってしまった。
何故だ?どういうことだ?ただ失踪するだけならまだ話は分かる。
だが、誰もその存在を記憶に留めていないというのはどういうことなのだ?
そうして考えに考え続け、修はある、究極的な、おぞましい結論に達したのである。

「そうか、わかったぞ。これはやはり陰謀なのだ。誰かが、何らかの理由でくるみを亡き者とし、
それで学校全体を挙げてそれを隠蔽しようとしているのだ。
みんなしてくるみの存在を封殺して、殺人そのものを無かったことにしようとしているのだ!
だが兄の俺の眼を欺くことは出来ぬぞ。
たとえくるみの存在を消そうとしたって、俺がいる限りそうはさせぬ。
きっとその陰謀を暴き、桃月学園に巣食う悪の根源を撃滅してやるぞ!」
 修は半ば狂ったようにその考えに至ると、すぐに巨大な悪との対決に向けてその策を案ずるのであった。

 彼は思案に暮れながら家へと戻ってきた。
そうして、自分の部屋に入り、布団に包まって、どうしてこの悪の企みを打破しようかと考え続けた。
326桃月怪奇譚第四夜:2006/08/08(火) 03:41:29 ID:???
 するとその時、彼は衣装箪笥の引き出しから、見覚えのある服の裾が飛び出しているのを発見した。
彼は妙な気掛かりを感じて、その服を引き出した。

 なんと、それは桃月学園の女子生徒の制服だったのである。
そして、その襟首のところには、確かな筆致で、「桃瀬くるみ」と書かれていたのであった。

 それを見つけた瞬間の彼の嬉々満面の笑みといったら、とても筆舌には尽くしがたいものである。
それもそのはずだろう、彼は遂に桃瀬くるみという少女が実在したという完全なる物的証拠を掴んだのだから!
彼は飛び上がりたい衝動を堪えきれず、服を手に躍り回った。

 ――さて、これをどうするか。警察に持って行って陰謀を告発するか?
いや、その前に事実を確かめておく必要があるだろう。
くるみが、「奴ら」によって葬られたという事実を。
そうだ。まずはこれを学園の連中の目の前に突き出して、
彼らの陰謀の瓦解したことを見せつけてやろうではないか!

 修は服を持って飛び跳ねた。
そうして、それを手に、何気なく全身鏡の前に立った瞬間、全てを悟ってしまったのだった。

そこには、彼の記憶の中にある「桃瀬くるみ」が満面の笑みを湛えて立っていたのだった。
 ――そうか、そういうことだったのか。修は全てを理解した。
・・・・・・くるみという人物は確かに存在した。だが、それは修の中に。
彼は桃瀬修というひとりの青年であり、同時にその妹の桃瀬くるみでもあったのだ。

 ハハハ・・・・・・何故これまで気がつかなかったのだろう、私がくるみだったということに。
修は着慣れたセーラー服を放ると、鏡に映ったもう一人の自分を、いつまでも眺め続けているのであった。

おしまい
327マロン名無しさん:2006/08/08(火) 03:47:57 ID:???

ニッヒ
328マロン名無しさん:2006/08/08(火) 06:39:34 ID:???
>>326
GJ
元ネタは無いんだ…でもその第四夜って何か何処かで聞いたような話だな…
329マロン名無しさん:2006/08/08(火) 14:30:52 ID:???
>>326
330マロン名無しさん:2006/08/08(火) 18:49:00 ID:???
「涼宮ハルヒの消失」

「ディスコミュニケーション」で、顔の良く似た片思いの男女が、それぞれ告白できないまま、鏡に移った恋人に変装した自分の姿にキスをしたりしているうちに互いが入れ替わってしまう話を思い出した
331マロン名無しさん:2006/08/08(火) 21:46:00 ID:???
まあ一人二役はよくある話だし。
南条さんと一条さんも一人二役って事かな……
それとも一条さんに対する犬神の反応からするに三夜から続いているのか。

乱歩風+南条さんだとあれやこれや思いついてしまうな……
一応ネタバレは避けるけど。
332マロン名無しさん:2006/08/08(火) 23:38:17 ID:???
ていうか、宮田と綿貫も実は一人二役
鈴音と円は背の伸び縮みがあるけど一人二役
ツバサと来栖も似ているから一人二役
桃月学園にいる6人の鈴木も、「鈴木さやか」が分裂して生まれたし
333マロン名無しさん:2006/08/08(火) 23:44:52 ID:???
実は、全ての登場人物は芹沢茜が一人で演じている





・・・と見せかけて、全ては白鳥人形劇場の中の出来事だったのです
334マロン名無しさん:2006/08/09(水) 22:26:40 ID:???
目付きキツクすると確かに来栖はツバサだな
…なるほどなー
335マロン名無しさん:2006/08/10(木) 14:00:46 ID:???
ここ2週間分ぐらい一気に読んだら
頭の中がものすごいことになった
336マロン名無しさん:2006/08/10(木) 16:24:39 ID:???
>>334
Σ(゜△゜)ツバサって来栖の芸名じゃなかったのか!!
337マロン名無しさん:2006/08/10(木) 16:49:50 ID:???
そんなに似てるか?
338マロン名無しさん:2006/08/10(木) 18:28:16 ID:???
ツャアとクワトロくらいには似ていると思う
339桃月記上27章:2006/08/10(木) 19:51:44 ID:???
エロなしグロなし?人死にありです。

 ネコ神はメソウサに缶ジュースを与えて言われた。
「これは私の血である。わたしがわたしのからだで温めたからである。さあメソウサよ、これを取って飲みなさい」。
 メソウサは答えて言った。
「主よ、どうしてわたしがあなたの徴を飲む事が出来ましょうか。わたしはあなたの前に小さな者ですのに」。
 ネコ神はメソウサが神の前にへりくだる人である事に満足されて、十本の缶ジュースを与えられた。
「メソウサよ、あなたは十本を飲むがよい。あなたの心がとても正しいからである」。
 メソウサはさらに答えて言った。
「主よ、それはわたしの口に余ります。わたしはその一本で十分にみたされます」。
 メソウサはまことの義人であったので、ネコ神はこれをよろこばれた。
 すなわち、自動販売機の中へと迎えられたのである。
340桃月記上27章:2006/08/10(木) 19:54:20 ID:???
 桃月の地にベホイミという人があった。ベホイミは癒しのわざをするまじない師のおとめであった。
 ネコ神が木陰を通られたとき、きのこの生えているのをご覧になり、これを食べられた。
 するとそれは食べるによかったので、ネコ神はよろこばれた。
 ネコ神がきのこを食べていると、そこにベホイミが通り掛かったので、ネコ神は言われた。
「あなたも来てこれを食べるがよい」。
 ベホイミは答えて言った。
「わたしは、食べない」。
 ベホイミはそれが毒きのこであるのを知っていたが、ネコ神に伝える事をしなかった。
 ベホイミはネコ神が食べ終わるのを見て言った。「ネコ神よ、それは毒である」。
 ネコ神はベホイミに言われた。
「あなたは、なぜ、これが毒であると知ってわたしに言わなかったのか。あなたは、自分の子供が穴に落ちようとするのを見てこれを落ちるにまかせるのか」。
 ベホイミは言った。「裸であるおまえが、わたしに語るというのか」。
 ネコ神はベホイミの心のよこしまなのを見て、これをなげき、そしてまた罰せられた。
 すなわち、天から燃えさかる雨を降らせてベホイミを砂糖の柱に変えられたのである。
 これはとても甘かったので、ありがやってきてこれをなめ尽くし、そしてあとにはなにも残らなかった。
341マロン名無しさん:2006/08/10(木) 22:01:42 ID:???
>>336
優奈よりバストのある来栖なんて俺は知らない。
342マロン名無しさん:2006/08/10(木) 22:58:07 ID:???
>>340
乙。聖書かな?
343インプランタ晶:2006/08/11(金) 02:35:32 ID:???
 幸い、保健室にも水道があった。備え付けの冷蔵庫にはミネラルウォーターも。
桃瀬くんはミネラルウォーターをコップに半分くらい注いだ。
それから彼はこんなことを言い出した。
「犬神は…剣道をやっていたから、多少の怪我は慣れてる…。
 南条さんも、あれだけ動物に囲まれているわけだし、ハプニングは慣れっこだろう。
 宮本先生を殺したことは取り返しがつかないが…」

 私を慰めようとしているらしかった。
もういい、眠ろう。こんな私が夢うつつで死ぬ。
ベッキーは死ぬまでにどれだけ痛い思いをしただろうか。
それなのに私は寝ながらにして死ぬ。爆弾だというし苦痛は一瞬だろう。
いっそのこと焼却炉で生きながら焼かれようか。駄目だな。
今の私なら焼却炉くらい壊して脱出できるだろう。
今でこそ償おうという気が起きているが、いざとなれば惨めに逃げ出そうとするに違いない。
私はほとんど自分自身に対しての希望と信用を失っていた。
もう考えるのも面倒だ。コップに手を伸ばす。誰かが肩を掴んで揺さぶってきた。うるさいな。死なせてよ。

「自棄になるんじゃあないッ!あんただって死んでいいってわけじゃあないんだッ!
 宇宙人にいいようにされて、それで友達に殺されるなんて酷すぎるじゃあないか!」
 桃瀬くんだった。まだ私を慰める無駄な作業してたの?くだらない。
ま、水を汲んできてくれたわけだし、話に付き合ってやってもいいかな?
「そうだねぇ…ベッキーが死んでよくなかったっていうのは認めるよ?満場一致で。
 でも、殺したのは私だよぉう?どんなに言い訳したって、操られてたからって、
 殺したのは私だもんねぇ?酷く殺したよ?楽しんで殺したよぅ?え?私だって死ぬのはよくない?
 はははぁ!そんなわけないじゃない…!?私はベッキーを殺したの!
 これからだって何人も殺すようになってるんだから!下手な慰めやめてよね!」
「下手なのは悪いと思うが、こっちは本気なんだ!」
「本気、ねえ?人を殺して体をバラして、目玉でお手玉したようなキチ○イを、
 本気で慰めますか?はは、学年3位なのにバカなのねぇ…。
 こんなろくでなし、死んで当然じゃないの!」
 そのとき視界が一転した。遅れて痛みが来る。
平手打ちを食った。桃瀬くんがやったのだ。
344インプランタ晶:2006/08/11(金) 02:37:49 ID:???
「自分のことをろくでなしだとか言うんじゃあない…!」
 桃瀬くん、いえ、修くんは泣いていた。そして、くるみさんの話をしてくれた。
くるみさんはかつて、遊び半分で原チャリを乗り回して、事故を起こした事があるらしい。
くるみさんは奇跡的に無事だったけど、相手は頭に30針以上縫う大怪我になってしまった。
修さんは学園内で奔走し、諜報部や生徒会で掛け合い、人身事故だったということを隠すことに成功、
学内での処分や、風評被害を最小限に食い止め、彼女の日常を守りぬいた。
くるみさんが一時期欠席していたのにはそういう理由があったんですね。

 相手側の家族にも陳情し、二度とこのような真似をさせないと約束し、
入院先の病院や実家にまで何度も足しげく通い、誠意が認められ、内々に治めてもらった。
ただ、くるみさん自身の問題は、なかなか解決出来なかったそうです。
「取り返しのつかない事をした」「もう外には出たくない」「自分が信じられない」と、
今までの彼女とは別の人間になってしまったかのようにふさぎ込んでしまった。
今の私を見ていると、その当時のくるみさんを思い出すのだそうです。

「それでも…私は自分が生きていていいとは思えません…」
「くるみも…時間が経つまではろくに食事さえ取らなかった。
 時間が、考える時間が必要なんだろう」
 時間、私には決定的に足りないものだ。実質残り時間はもう少ない。
それでも、真剣に私に向かい合ってくれる修くんがいた。それは救いになった。
「犬神くん、南条さん、それにベッキー…みんな、ごめんなさい…」
 私はせめて、正気でいられるうちに、謝ろうと思った。
意識が無い2人と、もういなくなってしまった1人に。
声が届かなくても、謝ることには意味があると思った。
独りよがりでも、自棄になったまま死ぬよりは、よいと思った。
「もう…いいんだな?」
 修くんが、犬神くんの額に冷たいタオルを置きながら、そう言った。
「…もし、次に目を覚ましても…まだ私でいられたなら、
 もう一度、犬神くんと南条さんに、ベッキーやみんなに謝ろうと思います。
 許してもらえなくても、それでも私は謝りたい」
「くるみも…少しずつだが立ち直っていった。
 あいつはあんたほど素直じゃないからな…手間がかかったよ…」
345インプランタ晶:2006/08/11(金) 02:39:02 ID:???
 私はくるみさんとあまり話したことが無い。
修くんと同じで、何でもそつなくこなし、確かバスケが得意だった。
機嫌のいいときは何か歌を口ずさんでいた気がする。
もう話す機会もないだろう。薬を飲んだらもう目覚めたくないし。
「じゃ…修くん、これでお別れ、次に私に会ったら、
 絶対に逃げてね。それはもう私じゃないから…」
 私は薬のカプセルを口に含んで、コップの水で流し込んだ。

 修くんは黙っていた。泣いているのには違いなかった。
「何で…こんなことになってしまったんだろうな…。
 最後だから言うが、誰もあんたを殺してやりたいなんて思ってないからな…。
 俺たちは、死にたくないだけ、なんだ。ベホイミさんだってそうだ。
 あの人は片桐の何気ない一言で傷つくくらい繊細な所があってな。
 あんたを殺すための爆弾を作っているのだって、みんなを助けるためのはずだ」
「ベホちゃん…怒りっぽいけど…、それは自分に正直だって事だから…。
 私も、ベホちゃんを信じます。私が死んでも、誰もベホちゃんを恨みませんように…」

 ベホちゃんとは、彼女が転校してきてすぐ仲良くなった。
何回かイメチェンをして、今のように地味になった時は驚いた。
生徒会の追試免除罰ゲームのときにはよく敵になったけど、私の親友だ。
今までに何度も学園の危機を未然に防いでくれたらしい。
素直じゃないところがあって、メディアちゃんによく憎まれ口を利くけど、
それは彼女の性格で、そういうのも含めて、あの2人は親友なんだって思う。
メディアちゃんが今いないのはとても残念だ。ベホちゃんが1人になる時間が増えてしまうから。
ここまで考えたところで目の前がぐらついて、私は立っていられなくなった。
最後―これで最後、私が私でいられるのは。
それでも涙は出てこない。体はもう、別の何かになってしまったのだろう。

 ソファに横になった。頬を伝うものがあった。半ば感覚は麻痺しているので、たぶんだ。
目と頭の感覚から思うに、修くんが膝枕をしてくれていた。彼の涙なのだろう。きっと。
何もかも曖昧で何もかもを私は失ってゆく。
もう、目を覚まさない。修くんともこれでお別れ。それが一番よい事なんだと信じた。
346インプランタ晶:2006/08/11(金) 02:41:23 ID:???
 これが、宮田晶の回想のすべてだった。くるみは聞き終えた。
まだ、折られた腕は痛む。しかし痛がってはいけない。なぜなら―
「痛い?痛い?ねえ、痛いでしょ?私が折ってやった腕、痛いでしょ?」
 晶が顔を覗き込んできて笑うからだ。
下手に刺激すると、首の骨さえ折られかねないので、くるみは自重した。

「…ぅふぅ…ふぅ…」くるみは極力息を殺す。
晶が笑う。それも、とてもいい笑顔なのだった。
くるみがバスケでシュートを決めたときのような、
姫子が玲やベッキーと遊んでいるときのような、
修が雑用をすべて片付けたときのような、
そんないい笑顔で晶はくるみを見ているのだった。折れた腕を注視して。

 俗に人の不幸は蜜の味というが、これほどまでに字義通りに実行している者も珍しいだろう。
不幸、それも圧倒的な暴力で他人に与えての結果。
それが今の目覚めた晶に与えられる最上級の幸福なのであった。
眠りにつくまでは確かにあった彼女の正気は、もう二度と戻らない。
今いる晶は、宇宙人に改造されて、優しさのかけらも無い、
血と破壊を楽しむ怪物に成り果ててしまった。
もう、後戻りは出来ないと、先ほどまでの話を聞いていたくるみは理解している。
自分は、晶の気分しだいで命を、いや、人間の尊厳すら奪われかねない。
そんな危機的状況に、くるみはいた。

 だが、くるみが冷静に自分の身を守っていられるのも、そう長くなかった。
晶は、修を振り払った方へ目をやり、「あ、死んでるね」と言い、言葉を続けた。
「つまんないなぁ。修くん、あれだけいい事を言っておきながら、死んじゃうんだもん。
 大体さぁ、わざわざ神原くんが、『強い』刺激を与えない限りは起きない、って言ってるんだからさ。
 私をどこか人気の無い所まで運んで行って、ベホちゃんに教えてあげればよかったのに…。
 爆弾だよ爆弾。周囲にも被害が及ぶこと間違いなしだよ?
 ここだったら犬神くんと南条さんを移動させなきゃいけない分、二度手間だよ?
 ばっかだなあ、ばっかだなぁ」
347インプランタ晶:2006/08/11(金) 02:47:25 ID:???
 これは聞き流せなかった。
修は何も言い残さなかったが、くるみにはわかる。
修は晶が寂しくないよう、せめてベホイミが来るまでは、そばにいてやろうと思って、
身の危険を顧みず、晶に膝枕までしてやっていたのだ。
それなのに、当の晶は修の命を奪ったばかりか、それをあざ笑う。
くるみの心の中の死の恐怖が、晶への怒りに塗りつぶされてゆく。
許せない。兄貴を殺してなお笑うなど。本当に死ぬべきはお前だ。

「ん〜、何かなその目は〜?完全にプッツンと切れちゃってますか?
 そりゃそうでしょうね。実のお兄ちゃんをぶっ殺されて冷静なんて、
 それこそ頭の配線がプッツンしてるってもんですよね?くるみちゃん?
 あ、今からくるみちゃんって呼ばせてもらいますね?親愛のしるしに」
「は……?」
 くるみは完全に毒気を抜かれた。
(何なの……?本気でガンつけてやったのに……?)
 晶はそれに動じず、逆上もせず、にこやかに応じてきたのだ。

「あ、私のこと、キOガイさんだとか思い始めてますか?
 きっとそうです。私も自分でそう思います。認めます。言い訳なんかしませんよ?」
にこにこと、それも公務員的なものではなく、友達と遊ぶときのような顔で晶は笑っている。

「言い訳だ……?まだ、言い逃れできるとでも思ってんのか……!?」
 言葉の端に許せないものを感じたくるみの目に、再び怒りの火が灯る。
「私は睡眠薬を飲んだんだよ?本来なら、ベホちゃんが殺しに来るまでは、
 ぐっすりとおねむの時間だったの。もう誰も殺すはずも無かったの。
 惜しいよね〜、私が寝たままなら修くんは死なずに済んだのに……確実に……、
 でも、私は目覚めてしまった……。起こしたのは、くるみちゃん……。
 くるみちゃんはもう少し冷静に…お兄ちゃんの事を信じて事に当たるべきでした〜。
 なに?なに?お兄ちゃんの言い分も聞かずに、寝てる人にいきなり蹴り入れる?
 ありえな〜い!非常識にもほどがあるよね〜。そりゃ〜私は犬神くんと南条さんに
 痛い思いさせたよ?そんな私に立ち向かった修くんのこと、妹として心配でしょうさ。
 でも、くるみちゃんの行動はナンセンスに過ぎると思うな〜。あ、言い訳しちゃった、あっははは」
348マロン名無しさん:2006/08/11(金) 03:20:44 ID:???
毎度毎度GJです。

で、質問ですが、
キチ○イの"○"は仕様でしょうか?
349マロン名無しさん:2006/08/11(金) 03:38:05 ID:???
馬鹿かお前
350インプランタ晶(仕様です):2006/08/11(金) 05:31:31 ID:???
「あ……!」
「くっくっくっく…」
 くるみの反応を見て、晶はにやにやと笑う。今度は紛れも無く、いやらしい笑いだ。
くるみは、晶の回想と、今の晶の言葉を頭の中で繰り返し、そのつど顔色が悪くなっていった。
修が死んだのはくるみのせいだ。くるみの行いは軽率に過ぎた。そう晶は言っている。
「嘘……!嘘……!私は悪くない!悪くない!」
「うん。悪くない。私もそう思うし、なにより…」
 晶は少しためてから口を開いた。
「修くんに聞いても、くるみは悪くない。
 悪いのは俺だよ。俺がとっさに説明でもしてればよかったんだって、
 あっはは!くるみちゃんをかばってくれるよ〜う!」
「うるさい……!お前、喋るな……!く、っそ」

 くるみは自分の軽率さを悔やんだ。
今まで、つまづいて窓から飛び出して猫神に衝突したり、
殺人現場から証拠品をかっぱらってきたりして、痛い目にも何度か遭ったが、
今回は桁が違う。兄を失った。取り返しがつかない。
頭のコブなどは月日とともに失われ、後々酒の席での笑い話へと変質してゆく性質のものだが、
兄を、修を、自分にとって最も近しい存在を、ついカッとなってやった事が元で亡くしてしまった。

「あははは、で、私の秘密については大体わかってくれたかな……?
 もうね、本当に最高にいい気分なの。目を覚まして以来……、
 アドレナリンか何か、いえ、もっと幸せな物がずっと出っ放し。
 今のとこ、修くんを吹っ飛ばしたときが一番だった。
 だからね、修くんが死んじゃったことも、頭では悲しいと思ってるんだけど、
 悲しいって思ってるそばから、はは、幸せになるの!愉快なの!
 どんどん心が満たされていく感じ!神原くんの言ったように、
 目覚めた今の私は、完全にバケモノだなぁと、しみじみと思えるなぁ!」

 晶はそう言うと、くるみの喉元を握る。くるみはぐったりとしており、抵抗すらしなかった。
「ほらほらぁ、抵抗しないと死んじゃうぞ?」
 晶は、首の骨が折れない限りで首を締め付けたが、くるみは何も答えない。
351インプランタ晶:2006/08/11(金) 05:33:03 ID:???
 晶は、首を絞めるかわりにくるみの頭を押さえて、目を覗き込んだ。
すると、くるみから離れて、窓際へと向かっていった。
「よいしょっとぉ!」
 晶が力んで窓側の壁を押すと、押された壁は音を立てて歪み、窓ガラスは近い順に割れていった。
次に晶は飛び上がり、天井にアッパーを浴びせ、次いで逆立ちしてジャンプ、
足の裏から思い切りよく天井へ衝突した。蛍光灯が何個か割れ、火花が散り、全ての電灯は消えた。
それからも暴れることをやめず、保健室はたちまち見るも無残な姿へと変わっていった。
犬神と南条のベッド以外は、子供が針金か銅線で遊んだかのようにぐにゃりと曲げられていた。

「はーい!準備体操終了!これでもまだ慣れないなぁ。
 私は元が運動音痴だから、少し動いてみるだけでも新しい発見があって楽しいよ!」
 晶は言い終えると、くるみへ目を向ける。
「くるみちゃん?私がこれだけ動いてるのに無反応なんて、そんなに悲しいんだ?
 いいな〜、私にはもう、そういう気持ち、わからないし」
 くるみはまた答えない。
「くるみちゃんが私を無視するから、よりいっそう私のサドッ気が刺激されるのでした。
 う〜ん、お兄ちゃんを殺されて心を閉ざした女の子を、このうえ泣かせるにはどうしたら…?」
 くるみは答えない。

「そうだ!C組のみんなを、血祭りに上げてくれば、
 大都市の住人のように無関心になってしまったくるみちゃんも、関心を持ってくれるはず!
 私は好きな食べ物を最後まで取っておくほうだし、そうしよう!
 くるみちゃんを殺すのは、後回しにしよう!」
 くるみは答えない。
「ふーむ、そうなると、犬神くんと南条さんをどうするかだね……?
 うん、この2人も、後回しにしよう!修くんによると、2人とも、ハプニングには慣れているらしいし」
 そうして、晶は、修以外の誰を殺すこともないまま、保健室を後にした。
狙いはC組全員の命、それだけ殺せばふさぎ込んだくるみもショック療法で正気に返ろう。
後に残されたくるみは、兄を喪った悲しみに沈み、今だけ見逃されたことにも無関心だった。
その後晶は職員室へ到達し、先ほど述べたごとく大殺戮を行い、
残る職員室残留組はジジイと二階堂光のみとなった。
352インプランタ晶:2006/08/11(金) 05:34:29 ID:???
 職員室は、晶の手によって、死臭の漂う、まさに地獄絵図と化していた。
ジジイは、恐怖に耐え、晶へと疑問を投げかけた。
なぜ、こんな真似をするのかと。それは事の顛末を全く知らないジジイには当然の疑問であった。
晶は答えた。「楽しいから」と。こんなに楽しいことをやめるなんてできない、と。
「愚か者め……。そんな事で、友達を殺して、何になるか!
 一時の感情で、目先の利得だけで、一生を棒に振るような真似をして、どうするのじゃ!」
 ジジイは、年のせいだけではなく全身震えていたが、何とか晶へそう言えた。
教師として、当然の務めを忘れなかった。

「へえ……、この状況でも先生は先生なんですね……?
 うらやましいなぁ……私は、もう、私じゃありませんし……。
 あっ、そうだ。先生に聞きたいことがあったんです」
 晶は、ジジイの脇をすり抜け、後ろで震えていた光に掴みかかった。
「いや!いや!は、離して!」
「うんうん、そういう素直な反応!いいよいいよ〜。
 脳汁がたくさん出て、私の幸せ回路がフル回転します〜」
 晶はそう言いながら、光の腕をきつく押さえ、ジジイへこう問いかけた。
「腕を人にぶつけると、殴るって言いますよね?
 足を人にぶつけると、蹴るっていいますよね?
 あ、別にもう聞かなくてもよかったかな?よかったなぁ」

 保健室でのやり取りを知らない光にとって、その言葉はより晶の猟奇さを増して聞こえた。
「……た、助けて、助けて、下さい……。わ、私、まだ、やりたい事がたくさん…、
 いや、やりたい事、だけじゃなく、やらなきゃいけない事も、あ、ります。
 ほ、ほら、バイトとか……、私がいないと、全国二千万人のTG読者が……、
 あ、うぱ、うぱ子、餌とか、餌とか、餌、あげなきゃ、ね?餌……」
 光は命乞いを始めたが、話している間にも死の恐怖がこみ上げてきて、もはや意味不明だった。

そのときであった。
突如、職員室の床に置かれていたダンボールが動き出した。
ラベルを見ると、愛媛みかんと書かれていた。
353インプランタ晶:2006/08/11(金) 05:36:51 ID:???
「ぬ、ぬお!?」
 そのダンボールは背後からジジイへと近づき、瞬間的に蓋が開き、
何者かが、ジジイを絡めとり、ジジイをダンボールの中へと飲み込んでいった。

「なに、なに?何だよ!?これは罰ゲームか何かなんだろ!?
 はは、日本の特撮力は世界一、だもんな!CGは糞ばかりだけど、
 特撮は、特撮だけは!ヤンキーもズーラも、トマトジュース吹いてるだけなんでしょ!?
 もう、エロい写真でも何でも撮っていいからさ!ドッキリカメラの看板を出してよ!出せよぉ!」
 それを目の当たりにした光は、いよいよ混乱の度を強めていった。

「ふーん。これも神原くんの、宇宙人さんの仕込み?
 ま、つまらなくはないけど…おじいちゃん先生で楽しめなかったのは残念……」
 晶は、ダンボールが人を飲み込むさまを見ても、平然としていた。

「二階堂さん、助かりたいですか?」
 ダンボールの中から、独特の、マイペースな声が聞こえてきた。
晶も光も、知っている声だった。
「もう一度だけ聞きます。二階堂さん、助かりたいですか?」
「助かりたい!助けて、一条さん!」
 もはや是も非も、恥も外聞も無かった。光にそんな余裕は無かった。
「わかりました」
 再びダンボールが開き、一条が姿を現した。
「C組……」
 晶は、一条がC組の学級委員で、くるみともそれなりに仲がよいことを思い出した。
そこで、光を一条へ投げつけて動きを封じ、一気に仕留めようとした。
だが、光はすぐさま謎のダンボールへと吸い込まれ、ジジイ同様に姿を消した。
「では、二人を安全なところ、そう、ベホイミさんの所へ連れて行ってください。
 お願いしますよ。一条祭」
 そして一条祭と呼ばれたダンボールは、その場から文字通り姿を消した。
後には、晶と、一条さんだけが残された。
354インプランタ晶:2006/08/11(金) 05:38:31 ID:???
「二人きり、だね?」
 晶が一条へと声をかける。
「ええ。平時なら、お茶とお菓子を出して、よい時間を過ごせそうなのですが……」
「……何であなたは逃げなかったの?怖くないの?私が……」

「少人数なら、一条祭に乗せて逃がすことが出来ます。
 そのため、前もってこの職員室に一条祭を忍ばせておき、私自身も待機していました。
 先生と二階堂さんだけを先に行かせる事にしたのは、私があなたとお話をしたかったからです」
「意味がわからないよ……?一条祭?ずいぶんとよいダンボールを持ってるんだね?
 それに、その口ぶりだと、早乙女先生や他の人たちは、見殺しにしたんだ?」
「返す言葉もありません。私自身、命の選択をしている中で、
 本来ならばこのような事を申し上げるのは気が引けるのですが…、
 宮田さん、あなたは間違っています。
 快楽に身を委ねて、分別の無い行動に走ってはいけません」
「つまんないな、もっとエンターテイメントを心がけるようなことを言ってよ……」
 くるみの時のように、一条の弱みに付け込んだつもりが、
弱みを弱みのまま受け止められた挙句、説教までされたため、晶は少し戸惑った。

「私は、宇宙人さんたちの事が好きでした。
 だからこそ、今の彼らのやり方を、許せそうにありません。
 何度繰り返してでも、この実験空間から桃月学園を解放させます」
「だーかーらー、意味がわかんないッてば…!」
 晶は、一条を捕まえてから詳しく話を聞こうと考え、一条へとタックルをした。
一条は、紙一重でそれをかわし、言葉を続けた。
「今回も、どちらかが死に絶えるまで続けるしかないようですね……。
 また、私は泣いてしまうかもしれません。一条祭!」
「逃がさない!」
 晶は一条の左腕に爪を走らせ、深く傷つけることに成功した。
だが、次の瞬間には一条祭が現れ、先ほどと同じように、一条を飲み込んで姿を消した。
今度は、晶一人が職員室へ取り残される形となった。
355マロン名無しさん:2006/08/11(金) 06:34:15 ID:???
>>354
OK〜!待ってたYO!
もうこの言葉しか送るモノが無い…GJ!
356マロン名無しさん:2006/08/11(金) 08:22:12 ID:???
「お、メソウサじゃんか!」
「あ、芹沢さん…」
「また、C組でハブられてるのかよ…ひどいよなぁ」
 C組でトランプのゲームが行われているので、スパイ活動をしないように僕は締め出されてしまった。
不正をやらせようとする人がいるから問題になるのに、なぜか僕が追い出される。
行くあてはない。A組もB組も、僕にとっては縁遠い。
構ってくれないことも無いのだが、よい思い出が無いし、露骨に無視される事もあるので行きたくない。
当て所なく廊下を歩いていると、芹沢さんに遭遇してしまった。
芹沢さんは僕に同情してくれているようだが、正直僕は芹沢さんは苦手だ。
ABがダメでD組に行かないのも、芹沢さんがいるからだったりする。本当に苦手なのだ。
芹沢さんは悪意こそ無いものの、暴力を振るうことはざらだし、
それが元でジジイ先生に叱られて泣かれると、これまた僕が悪いことになってしまう。
「ムカつくよなー。玲とかさー。いつもいいように人を使いやがって、
 牛男のバズーカ二発も食らう羽目になったのはあいつのせいだぜ。
 そのくせ人に説教たれて、自分ひとりで何でも出来ますって顔して歩いてやがる。
 メディアもだなー。爆弾解体の手伝いだかに付き合わされたとき、リアリズムだとか言い出して、
 私に爆弾つけるんだぜ?正気を疑うよ。てめーがリアルじゃねえっつうの!」
「はあ…、芹沢さんも大変なんですねぇ」
 苦労人なところは共通だ。人望の差はどうしようもなく差があるが。
「な、な?今度さ、二人で気に入らない奴らに襲撃かけようぜ?
 お前はショボイ奴だって印象が強いから、罠とか仕掛ければきっとうまくいくよ。
 その罠で弱ったところを、私がロボ子としてガツンだ!な、な?やってやろうぜ?
 玲とかメディアが半泣きになったりしたら、面白いんじゃね?な?」
「あのー、大変面白そうな話ではあるんですが…」
「ん?どうした?メソウサ…」
 僕が芹沢さんの後ろを指差したので、彼女は振り返った。
「……何だか楽しそうな話だな。今日はトランプも早々にお開きになったし……遊ぼうか?」
「はーい。私も参加したいでーす!」
 秘密の復讐計画はその場で廃案となり、芹沢さんは連れて行かれた。
僕は無視されたけど、取るに足りない存在としての幸福をかみ締めた。
357マロン名無しさん:2006/08/11(金) 10:06:06 ID:???
インプラさんは回を重ねるごとにどんどん面白くなってると思う。GJ。
358マロン名無しさん:2006/08/11(金) 13:36:25 ID:???
やっぱり一条さんは最強だな。
ってことは設定はアニメベースなのか。

GJ!
359桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:41:00 ID:???
思いっきり真昼間だけど異常に長いので今から投下。
インプラさんの直後だからそれほど過激じゃないけど一応グロあり。
タランティーノの映画のノリで軽く読み流してもらえると幸いです。
360桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:43:40 ID:???
 立ち並ぶ無人の倉庫群。そこの脇に一台のセダンが停まった。
何かと思ってしばらく様子を見ていると、中から四人の女たちが飛び出してきた。
はじめに彼女たちの正体を明かしてしまうと、
それはご存知、上原都、宮田晶、二階堂光、そして車を運転してきた五十嵐美由紀である。
この奇妙な取り合わせ、おそらく平時ではまるで連みそうもない面々であることは誰もが思うことであろう。
事実、彼女たち自身もそれは切に感じていることであったのだ。
では何故彼女らは一緒になって一つの車に乗り、ここまでやってきたのか。その答えは車のトランクの中にあった。
都は彼女らの中で先頭をきって降り立ち、周囲に人の目が無いことを確認すると(諸君らの姿は彼女には見えないという前提で話をしている)、
後部トランクをぞんざいに開け放った。続いてきた三人とともにその中を確認して無表情に吐息を漏らした。
「遂にやったわ」と、落ち着いた物腰の都。
「今でもまだ信じられないです」と、興奮冷めやらぬ様子の晶。
「早く、運び出そう」と、周囲を警戒しつつ光。
「こんなにうまくいくとはねぇ」と、酒気帯びの先生。
 彼女らはトランクの中から、彼女たちの背丈ほどもあろう大きな麻袋を慎重に取り出した。
そして、一人が周囲の様子を窺いつつ、残る三人がかりでそれを隠れ家にしている廃倉庫に持ち込んだ。
「気をつけなさいよ、すんでのところでヘマをされたんじゃやりきれないからね」
都が低く押し殺した声で言った。どうやら、この四人の中で、音頭をとっているのは彼女のようである。
晶と光は黙って頷いた。先生はへらへらと薄ら笑いを浮かべつつ、やはり黙って手を挙げた。
 袋を担ぎながら、ようやく倉庫の一室の中に入り、彼女らは一息ついた。ただ、都だけは神経質に外の様子を窺ったり、部屋の中を探ったり、窓のブラインドを下したり戸締りをしたりと、やることに余念が無かった。
 彼女らは袋を放り投げ、しばらくその場に座り込んでいたが、やがて誰かが笑い声を上げ、いつしかそれは周囲に伝播し、哄笑の大合唱となった。
ただ一人、やはり都だけはまるで表情を崩さなかった。
361桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:47:15 ID:???
 しばらく部屋は不気味な高笑いに満ちていたがそれも止むと、今度は皆で立ち上がって、袋を持ち、部屋の奥の椅子の上に、それを難儀して置いた。
晶が袋の空け口を締める麻縄を解こうとしたが、思っていたよりも固く、外すことが出来なかった。都は相変わらず不器用な彼女を下がらせ、
懐から慣れた手つきでオート・スチレットを取り出し、縄を切って袋を取り除けた。
 そうして、出てきたものを見て、彼女たちは思わず唾を呑んだ。
フワッときれいな金色の毛髪が震え、次には、手錠と縄で拘束され、目隠しと耳栓によって感覚を奪われた南条操の姿がそこに現れたのだった。
「見てみなさいよ、これが私たちに金の卵を産んでくれるニワトリなのよ」
部屋に置かれたクーラーボックスから冷えたビールを取り出し、それを飲みながら先生が言った。
「フフフ・・・・・・南条さん、悪く思わないでくださいね。貴女の家庭がいけないのよ。・・・・・・余りにも裕福すぎて」
晶が聞こえるはずも無いことを承知の上で語りかけた。
「うーん、いい眺めだねぇ・・・・・・そそるよ」
光が先生の酒を横取りしつつ、サディスティックな笑みを浮かべた。
「・・・・・・で、上原。あちらさんにはいくら要求するの?」
酔っ払った先生が、光の手を払い除けつつ尋ねた。都は額に浮かんだ汗を拭い、一呼吸おいて応えた。
「まずは百億。日本円で」
 一瞬部屋の中の空気が凍り、余りの額の大きさに全員がたじろいだ。
重苦しい沈黙が続くかのように思えたが、都はまるで意に介さない様子で淡々と続けた。
「だが、最終的には十億でケリをつける。一人頭ニ億五千万。これなら一生遊んで暮らすには十分な額でしょ」
362桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:49:47 ID:???
 ――娘一人で十億円。十億円といえば初動の身代金として要求するには相応しい額である。
しかし都は十億円ぴったりでの取引を目論んでいる。これは明らかに相場度外視といえるが、
相手は何といっても財界のマネー・コントロールの一翼を担う巨大コングロマリット、南条グループである。
その財閥企業の経営者の娘を誘拐もとい拉致したのだ。
表裏合わせた全体の資産額から考えれば即金の十億くらい、まさにハシタ金であろう。
そうして、都は最初に目標額の十倍の額を吹っかけて交渉パフォーマンスを演じ、彼らの世間体に対する矜持のことも考慮に入れた上で、
この妥協点の目星をつけ、彼らを納得付にし、それだけ出させようという狙いなのだ。

「それで」
先生はビールを飲み干し、缶を放って訊ねた。
「これからどうするのよ?」
都は全員の顔を無表情に眺め、そうして冷ややかな口調で指示を始めた。
「交渉は私がやるわ。これは私の計画だからね。
先生は普段どおりの生活をしつつ、いざとなったらすぐに足が使えるようにしておくこと。全部終わるまで酒を飲み過ぎないように」
「へぇい、上原隊長」
先生は赤い顔を上下に揺すりながら陽気に応えた。
「それとアンタ。二階堂。アンタは‘品物’の管理と情報収集を。警察に尻尾を捕まれないように」
「あいよ」
二階堂は頷く。その目は先刻から緊縛された南条の身体に釘付けである。
「最後に宮田」
「はい!」
大声で返事をした晶に都は少し困惑した表情で言った。
「アンタは出来るだけ外に出ないで‘品物’の世話を。二階堂とも協力して」
363桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:51:44 ID:???
「え・・・・・・?」
「つまり、ここにずっといて誰かに見つからないように、それから‘品物’が逃げ出さないように見張っているの。おわかり?」
都はぐっと顔を寄せて晶に説明した。晶の方は都の余りの気迫に思わず泣き出さんばかりの表情だった。
「そんなぁ・・・・・・私が学校にいかなかったら怪しまれちゃうよぉ・・・・・・」
「そんな心配は要らないわ。アンタなんてどうせいてもいなくても誰も気にも留めないからね。
それよりもこっちでしっかり番を務めていなさいよ」

 余りに非情な都の指示に、晶は大きな目に一杯の涙を浮かべながら訴えた。
「でも、でもぉ・・・・・・」
女々しい声で縋ってくる晶の疎ましさに、都は声を荒げた。
「うるさい!アンタたちは私の指示に従っていればいいのよ!」
そう言い放つと都は腰から45口径の自動拳銃を引き抜いた。
緊迫した空気に、全員が顔を見合わせた。
「文句は言わせない。ここまで来た以上、降りることも許さない。そして、ヘマをすることも許さない。わかった、ドジっ子?それにアンタ達も」
 凄みを利かせた都には誰も何も言うことは出来なかった。
そうだ。あの拳銃だ。あの拳銃とともに、都はおかしくなってしまったのだ。

――詳しいことは分からないが、この間どこかの国から帰国するとき、あれを密輸してきたらしい。
そしてその時には既に都はかつての都ではなかったという。目をギラギラと血走らせて、
捕食獣のように周りを窺う様はもはや、とても堅気のものとは思えなかった。
分かりやすく言えば・・・・・・あぁ、あれだ。『ぱにぽにだっしゅ!』とかいうアニメに登場した念仏の何とかというキャラクターによく似ている。
しかし、彼女が海外でどんな目に遭ったのかはまるで想像も出来ない。
だが、きっと何か、恐ろしい体験のために、彼女はすっかり変わってしまったのだろう。
こんな犯罪を真っ先に計画し、持ちかけてきたのはやはり彼女だったのだから・・・・・・
364桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:54:24 ID:???
 それから間もなく、南条グループ側と交渉が始まったらしい。
「らしい」というのは都がその成り行きを他の三人には全く話そうとしないからである。
警察に通報されたのか、相手には拉致を信じ込ませることが出来たのか、それすらも確かではない。
都の手に拳銃がある以上、彼女の機嫌を損ねるべきではないのは明らかだったし、したがって誰も都に進展を訊ねるような真似はしなかった。
ただ誰もが、計画の成功のために与えられた仕事を着々とこなすばかりであった。

 ある時、都は別室で電話をかけていた。三人は気だるい感じで拘束された南条とともに部屋の中に居た。
すると突然、南条が口に嵌められた猿轡の下で何かをモゴモゴと言い出した。
「何よ・・・・・・?」
酔いがまわり、すっかり睡魔に毒された先生がそれに気がついた。
「何か言いたがっているのかしら」
晶は苦しそうに蠢く南条の猿轡に手をかけ、それを光に制された。
「やめときなって・・・・・・上原に黙ってそんなことしたら殺されるよ?いや、冗談抜きに」
「でも・・・・・・」
晶は居ても立ってもいられず、とうとう南条の口を開放してしまった。久しぶりにささやかな自由が許された南条は、か細い声で訴えた。
「あの・・・・・・トイレに行かせてください。もう我慢できませんの」
晶は振り返り、戸惑いの表情で二人の顔を見た。二人も同じ表情だった。
「どうすんだよ」と、光。
「ここで漏らされちゃたまんないわ。トイレに連れて行きなさいよ」と、先生。
晶は別室の様子を窺い、都の気がついていないのを確かめると、南条の身体の縄を解き、部屋の外にあるトイレに連れて行った。
南条には手錠と目隠し、耳栓をつけたままだった。
365桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:57:06 ID:???
 トイレに向かうため、倉庫の外に連れ出した瞬間、南条は思い切り走り出した。
晶は慌てて追いかけたが、相変わらずの彼女のことである。全く追いつけないのだ。
晶はそれでもなお必死に追いかけた。彼女は怖かったのだ。事件が発覚することよりも、このことをあの都に咎められることが。
 南条との距離はどんどん離されていく。晶はもう半ば諦め気味だった。あぁ、逃げられる。もうおしまいだ・・・・・・

 そう思った瞬間、パァンという乾いた音が辺りに響き、前を走る南条はその場に転倒した。
晶が振り返ると、倉庫の窓から都が半身を乗り出し、銃を構えている。そして、その銃口からは紫色の煙がのぼっていた。

 晶はこの失態を散々どやされることになったが、辛うじて命は取り留めることができた。
南条の方も弾丸は身体をかすめただけで大怪我をしたわけではなかった。
が、逃げ出そうとしたその態度が都の逆鱗に触れ、椅子に一層強く縛り付けられた。全裸で。
「なぁ、上原。ちょっとこの身の程知らずのお嬢様にいたずらしていいか?」
光はいやらしい眼つきで露わとなった南条の恥部を覗き込みながら言った。
「傷をつけないでよ」
 都は手のひらの血を拭きながら答えた。その目の前には散々殴られ、見る影もなく打ちのめされた晶が倒れていた。
彼女はかすれ声で、壊れたレコードのように、しきりに「ゴメンなさい、許してください、都さん・・・・・・」と嘆願を繰り返しているのであった。
 都はドジっ子の腹にもうひと蹴り食らわすと、涙と吐血で顔をくしゃくしゃにした彼女を残し、先生を誘って車でどこかに出掛けていった。
彼女らが倉庫を後にすると、ほどなくしてそこの一室中から二階堂光の下卑た笑い声と、猿轡の下でくぐもった南条操の必死の叫び声が聞こえてくるのであった。
366桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 13:59:22 ID:???
 それからまた数日して。
都は焦っていた。なぜかは分からないが、やはり交渉の展開が芳しくないのだろう。
新聞を片手に乱暴に倉庫の部屋に入ってくると、南条の椅子の前におかれたソファに身体を投げた。
他の三人は触らぬ神に何とやらの精神で、黙っていた。都の後ろの椅子に縛り付けられた南条は、
あれ以来手酷い拷問を受け続けたと見え、憔悴しきっていた。
その素肌には生々しい傷や痣が残り、血と、糞尿と、それから得体の知れない体液が床に滴り落ち、
同じように傷だらけの晶が黙ってそれを掃除していた。
 都は手に持った新聞をテーブルの上に放り投げ、しばらく宙空を見つめて考え事をしていたが、
やがてまた何も言わずに立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
三人はその後、顔を見合わせ、あの機嫌の悪さは不味いな、という話をひそひそと始めた。
晶は都の置いていった新聞に何気なく目をやり、そしてそこに驚愕の記事を発見したのだった。

「私立高校教諭とその教え子、射殺体で発見」

 そして、そこには、都と同じC組のレベッカ宮本先生と、橘玲の顔写真が載っていたのだった。
「こ・・・・・・これって・・・・・・?」
 晶は戦慄を隠すことが出来ず、その記事をもう二人にも見せた。三人の顔から一斉に血の気がひいた。
「射殺・・・・・・?それってつまり?」
「どう考えてもあいつだろう?何のためかは知らんけど、あいつが殺したに違いないよ」
「これはマズイかもしれないわね・・・・・・ここ最近の上原は何か様子がおかしいわよ」
「まさか人殺しをするなんて・・・・・・私たち、とんでもない人と関わっちゃったんですよ」
三人は次第にこの犯罪に加担したことを後悔し始めた。
しかしいまさら抜けるなどと言おうものなら、間違いなくベッキーや玲と同じ目に遭う。
だったらどうする?やられるまえにやるしかないのか。・・・・・・でも、やっぱり怖い。結局臆してしまった。
 先生は憂さを晴らすために酒の量をさらに増やし、光は‘品物’の南条の身体をオモチャにして弄び、苦痛を忘れようとした。
ただ一人、晶だけは実際に逃げ出したいという欲望を棄て切れなかった。
367桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 14:02:18 ID:???
 そうして、来るべき運命の分岐路がやってきた。
その日、部屋の中には都と晶とぐったりとした南条がいた。
晶はもじもじと何かを言い出そうとしてそれが出来ずにいるようだった。が、やがて腹を決めると、都の前に立って言った。
「都さん。あの二人を殺したのは貴女なんですか」
都は狂気に黒く翳った瞳で彼女を見上げた。
「何の話よ?」
「とぼけないでください!もうイヤです。耐えられません。私は警察に全てを話します!人殺しなんかと同じところにはいられません!」
「ちょっと待てよ、宮田!どういうつもりだ!?裏切るのか!?」
「もう無理なんです!貴女にはついていけません。さようなら!」

 諸君。いまさら確認するまでもないが、宮田晶は本当に愚かな娘なのだ。
こんなことをして、次の瞬間にはどういうことになっているのか、全く予測しきれていなかったのである。
一時の感情に絆されて、よりによって銃を持った半狂人に楯突いたのだ!

 五十嵐先生と二階堂光は買い物を済ませて――それは‘品物’の身の回りのものや食料品だが――倉庫にやってきた。
彼女らは幾分賢明なので、今のうちは大人しくしているのである。そうして、部屋に入り、その場の惨状に言葉を失った。

 ああ、あの地獄絵図のような凄まじい光景をこの愚筆で表現しきれるものなら!
全裸で緊縛され、気力なく項垂れる南条。
その前で必死に糸鋸と鉈を繰り、元宮田だった肉塊を解体する血まみれの都の狂気の形相!
過去の如何なる黙示録的終末絵画よりもおぞましく、狂った光景!
先生と光は思わず買い物袋を落とし、その異様な世界の様相に眩暈を覚えた。
「あぁ、アンタ達?丁度よかったわ。ちょっと手伝ってよ。脂のせいで手が滑ってうまく切れないのよ」
まるで料理でもしているかのような平然とした顔つきで都は促した。
二人は、恐怖に慄き、その猟奇的作業に従うより他なかった。
368桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 14:04:41 ID:???
 ある夕暮れ、一人で倉庫にやってきた都。
部屋の中は薄暗く、ソファの上に先生が酔い潰れて眠っていた。
都は南条の方に目をやり、そうして椅子に座った。
すると、眠っていたはずの先生が目を覚まし、夢うつつのうわ言のように都に話しかけた。
「ねぇ、アンタ。どれだけ人を殺せば気が済むの?宮本先生、橘、宮田。この次は私かしら?」
都は無表情に答える。
「前の二人は私じゃない。宮田だって、あいつが馬鹿なことさえ言わなけりゃ・・・・・・」
「そんな言い訳、通用するかしらね」
先生は狂ったようにケタケタと笑い、立ち上がって縛られた南条の傍に寄った。
「黙れ、アル中が」
都は吐き棄てるように言った。

「ほぅら、南条さん。御覧なさい、あいつが私たちの親玉、悪の頭領、上原都様でござい」
都は思わず振り返った。
何と、先生は南条の目隠しと耳栓を外し、こちらに向けていたのだった。
南条の空ろな目が、じっと都を見つめていた。
「五十嵐!お前!何てことをしてくれたんだ!」
 都は耳を真っ赤にして憤激した。
「あら。顔を覚えられちゃったわねぇ・・・・・・どうするの、上原?このままじゃブタ箱だよねぇ・・・・・・」
先生は如何にも愉快だといわんばかりに大きく笑った。
都は髪を掻き毟り、銃を手にすると躊躇うことなく発砲した。
弾丸は南条の額を貫通し、返り血を浴びて先生の顔は黒く染まった。
「上原・・・・・・アンタ、何てことを!」
「うるせぇ、クソババァ!」
369桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 14:07:01 ID:???
都はそのまま先生に向けて弾丸を発射した。額に孔が穿たれ、先生は南条の死体に寄りかかるように身体を屈めると、そのまま絶命した。
都は銃をテーブルの上に置くと、頭を抱えて項垂れた。
やはり・・・・・・仲間は選ぶべきだった。こんな役立たずと不誠実者ばかりに仕事を持ちかけたのは失敗だっ・・・・・・

ガシャン!

都は頭に強烈な衝撃を加えられ、そのまま倒れた。
倒れていく中で、自分の背後に二階堂光が割れ砕けたビール瓶を手に立っているのが見えた。ああ!またしても!
都は気を失いかけたが、そこは何とか耐えて、ソファの上に起き上がった。
頭から血が流れており、激しい頭痛に見舞われたが、そんなのはクソくらえだ。
「二階堂・・・・・・」
光はテーブルの上の銃を奪うと都のこめかみに突きつけた。
「上原・・・・・・」
「ハハハ・・・・・・エロ娘が。撃てるもんなら撃ってみやがれ」
「死ね!」
満を持して光は引き金を引いた。
だが、弾は出なかった。ここにきてお約束の仕掛けである。光は、安全装置を外すことを知らなかったのだ。
都は一瞬の隙を突き、懐からオート・スチレットを引き抜くと、迷うことなく光の胸元に突き刺した。
噴水のように血が噴出し、彼女は身体を仰け反らせて断末魔の舞を踊った。
都はクラクラする頭を押さえつつ、しばらくそれを見つめていた。
が、光が倒れて動かなくなるのを確認すると、ソファに体を埋めて一息つくのだった。
・・・・・・全ては終わってしまったのだった。

おしまい


・・・・・・?
370桃月怪奇譚第五夜:2006/08/11(金) 14:08:17 ID:???
 いや、実はまだ続きがある。
都が頭を押さえて休んでいると、どうも外から人のやってくる気配がある。
さてはさっきの銃声を聞かれたか?都は朦朧とする意識の中で、神経を部屋の入り口に集中させた。
やがてそこに人影が現れ、気力なくソファに凭れ掛かる都と対峙した。

「あれぇ、都ちゃん?何しているのカナ?」
何と、それは――都の精神が確かなら――姫子であった。
「姫子!?何故こんなところに?」
「へへへ・・・・・・隣の倉庫が私の秘密の射撃場なんだよねぇ」
「射撃場・・・・・・?」
都は死体の散乱する部屋の中を見渡し、隠し立てできないことを悟ると、
姫子を消してしまうしかないと思い立ち、光の手に握られた銃に向かって歩き出した。
が、一足遅かった。
 姫子の手にした銃から放たれた弾丸が、都の脇腹を抉り、その衝撃で彼女はその場に倒れこんだ。
止め処ない血を吐きながら、都は言葉を紡いだ。
「姫子・・・・・・どうして・・・・・・?」
姫子は笑みを湛えながら都にゆっくりと近づき、跪いて彼女を抱き起こした。
「エヘヘ・・・・・・都ちゃん。心配しなくてもいいよ。私は都ちゃん‘も’愛せるんダヨ」
姫子は意識の遠退きつつある都の服を、穏やかな手つきで脱がし始めた。
一つの狂気はもう一つの狂気によってその運命を果たし終えたのであった。

おしまい
371マロン名無しさん:2006/08/11(金) 16:25:19 ID:???
この映画はいつからハジマルンデスカ?




       G J
372マロン名無しさん:2006/08/11(金) 18:45:31 ID:???
>>370
貴様…さては鬼才だな!?
GJ!!!
373マロン名無しさん:2006/08/11(金) 19:33:15 ID:???
>>370
ここに来て仕掛け爆発とわ…脱帽しますた。



GJ!!
374マロン名無しさん:2006/08/11(金) 20:54:03 ID:???
GJ!!
確実に崩壊へと向かっているな…
375外伝VOL3の改変:2006/08/11(金) 22:54:41 ID:???
ベッキー「(仕事が溜まって)絶体絶命だ・・・
      しかも(扇風機に当たってるのに)暑くてイライラする」

玲(それ、扇風機に似てるけど、実は赤外線ヒーターなんだけどなあ・・・)

来栖「わー先生、扇風機だー、でも、これ凄く暑くなりません?」
麻生「あーあーあー、暑いよお・・・・」
玲(いいかげん気づけよ!!)

初夏の兆しを見せ始めた日本で突如我慢大会が大ブームに!
人々は再び炬燵やストーブを引っ張りだし、鍋焼きうどんが
飛ぶように売れ、暑さ我慢が国家資格として認定され、
テレビでは我慢大会番組が軒を連ねる。
そんな中、暑さに弱いヘタレ五人組(ベッキーと愉快な仲間達)は
クーラーを求め「ひんやり萌えメイド喫茶 エトワール」に入る。
喫茶店で涼んでいると突然爆撃!応戦する店長と地味なウエイトレスさん。
爆撃犯は「マホ!地球温暖化が進めば水位が上がってどこでも水着のお姉さんが見れるカナ!」
という恐ろしい目的のために地球を暖めようと企む、ひんやりを憎む
秘密結社「SUN(世界うんざりするほどぬくぬく)」だった。
そして店長とウエイトレスさんは地球の涼しさを守る国連組織「冷−men(本部・盛岡)」
のメンバーで、ベッキーたちにSUNの企む「地球ほっかほか計画」を打ち明ける。
そして昨今の我慢大会ブームは「人間に暑さに対する耐久性を持たせる」ための
SUNの壮大な陰謀ということも・・・C組生徒達の地球を冷やすための戦いが始まる!!

だが、それは人類にとって恐るべき破滅の始まりだった・・・

なぜなら、冷麺の選択した地球を冷やす方法は
疑うまでも無く、かつて冷戦下の人類を恐怖させた『核の冬』を現実にするものだったからだ・・・
376マロン名無しさん:2006/08/12(土) 01:12:29 ID:???
早乙女「最近の扇風機って、なんかパァって光って、しかも暑くなるんですよね?」

沈黙・・・

早乙女「えっ? え?」

ベッキー「サオトメ・・・お前最高だよ・・・」
377マロン名無しさん:2006/08/12(土) 01:17:34 ID:???
>マホ!地球温暖化が進めば水位が上がってどこでも水着のお姉さんが見れるカナ!

どこのアクア団ですかw
378一年中ストーブを片付けない:2006/08/12(土) 09:05:57 ID:???
都 「この街は、おかしいです」
教授「この街だけじゃないさ、
   あちこちで牛がふらつき始め、人間の頭も変になっている
   分かるか?」
都 「(げっ、それ、狂牛病?・・・)
   違いますよ、今日の相談は・・・」
教授「わかっておる、おまえたちは外の馬鹿騒ぎに耐えかねて、ここに涼みに来たんじゃろ?」

そう、ここ「エトワール」の外では人類史上始めてと言うべき大異変が起こっていた

さっきも、宮本研究室で・・・
「宮本せんせー、扇風機あたらせて下さーい・・・・あーなんかこれ物凄く暑いですね」
「へへへ・・・もうわざわざ涼しくするのも・・・面倒・・・くさく・・なっちゃた
 もう、やだよ・・・なんでこの扇風機は、涼しくならないのかな・・・」

「そうか、それでレベッカは寝こんでしまったのか。」
そういって、ソファーの上に横たわり、玲に介抱されている教え子の姿に目をやる
「だが、変じゃの。あいつに扇風機と赤外線ヒーターの区別がつかんとも思えないが」

外の人間は、まるで本能に操られたかのように『暑さ』を求めて熱狂していたのだ
379一年中ストーブを片付けない:2006/08/12(土) 09:07:48 ID:???
始まりは、パチンコ店の駐車場で、次々と”親子”で冷房もかけずに、窓を閉め切って
熱射病で救出される客が続出するという異常な事件が続いたことだった・・・
最初はパチンコで負けた親が無理心中を図った事件として片付けられていたのだが

そして、初夏の兆しを見せ始めた日本で突如我慢大会が大ブームに!
人々は再び炬燵やストーブを引っ張りだし、鍋焼きうどんが
飛ぶように売れ、暑さ我慢が国家資格として認定され、
テレビでは我慢大会番組が軒を連ねる。

「なぜ、皆はこうも暑さを求めるようになってしまったのでしょう」
「それは・・・」
すると横で寝ていたベッキーが口を開いた
「『人類は環境に適応するために進化を始めた・・・』のではないですか?教授。」
「そうじゃ、ここ数年地球は急速に熱くなって来ておる。
 もしかしたら、人類は生き残るために、自ら暑さに耐えられるように、変わり始めたのかもしれん」

そうして都は外を眺めた

陽炎が立つ程に気温が上がった町、にも関わらず人々は黒いコートを着こんで涼しそうにしている
・・・のではなく、明らかに暑さに耐えながら、その苦行を止めることが出来ないでいる
そんな自分も、目の前でベッキーの小さな体が暑さに耐えかねて、彼女が倒れるまでは、あの熱狂を心地よいと思っていたのだ
果たして人類は本当に、「ニュータイプ」に進化していってしまうのだろうか?
380マロン名無しさん:2006/08/13(日) 04:28:52 ID:???
必要も無かろうが保守。
381マロン名無しさん:2006/08/13(日) 09:19:25 ID:???
じゃあすんなよ
怒るぞ
382マロン名無しさん:2006/08/13(日) 11:00:15 ID:???
カルシウム取ってるかい?
383マロン名無しさん:2006/08/13(日) 11:10:21 ID:???
んだよ、牛乳ぐらいいいだろ!これでも身長のこと気にしてんだよ!!
384マロン名無しさん:2006/08/13(日) 12:35:44 ID:???

そして発生した集団食中毒と
トイレを巡る阿鼻叫喚の椅子取りゲーム
385翼の折れたエンジェル:2006/08/13(日) 12:36:14 ID:???
あまり書く暇がなく、しかも一人称でSSを書いてしまったが為に
不都合がおきてしまった・・・・
一人称だとうまく状況が展開できず、説明しきれない

まだ時間がかかるが、次投下するときは三人称になっているので
その点はご了承してください
386マロン名無しさん:2006/08/13(日) 19:24:20 ID:???
牛乳飲まなくても生きてける。
387『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:33:33 ID:???

話を寝かせている間に一ヶ月以上経ってしまいましたが、『姫子と闇の研究者』の続きを投下します。
荒筋などはつけておりませんので、話が見えないという方は保管庫さんをご覧になってください。
388『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:34:11 ID:???

私はベッキーの研究室を目指し、人のいない廊下を歩いていった。
焦る心を抑えきれず、歩くスピードも自然と速くなってしまう。
本当は授業中のはずだから誰かと出会ったら見咎められていただろうけど、
運良くそういうことにもならず私は研究室へと到着した。

研究室の扉には、しっかりとした真新しい錠前が取り付けられている。
一応確認してみるが、やっぱり鍵が掛かっていた。
ベッキーと私たちの間に出来てしまった大きな壁を、改めて実感する。
私はそれを解除するため、教室でベッキーが落とした鍵束をポケットから取り出した。
数えてみると、6つの鍵が輪っかになって連なっている。
どれがアタリなのか、あるいは全てハズレなのかはわからないけど、一つずつ試していこう。
私は適当に選んだ一つ目の鍵を掴み、鍵穴へと差し込んだ。
……開かない。
まあ最初のチャレンジで成功する訳もないカナ。
気を取り直して、次の鍵で再チャレンジ。……開かない。

それから私は順々に試していったが、なかなか合う物は見つからなかった。
おかしいな、私ってそこまで運が悪かったっけ。
少しずつ諦めの気持ちが強くなっていく中、遂に最後の鍵(私が数え間違えてなければ)を手に取った。
これでダメだったら、ベッキーのいる保健室へ戻ろう。
そう考えながら私は握った鍵を扉の穴に入れ、力を込めた。
手ごたえは、無かった。
……アレ?

ちょっと、もしかして全部ハズレ? えーっ!?
少しは覚悟していたけれど、まさか本当に全て合わないとは思っていなかった。
慌てた私は、もう一周だけ手早く試してみることにした。
多分最初に試した鍵を再び差し、ガチャガチャと動かす。ダメだ。
二つ目。開かない。
三つ目。また失敗。
389『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:35:19 ID:???

そして四つ目。
ガチャ。
ありっ、開いた。

どうやらこの鍵は左に回すのではなく、右に回して開けるタイプだったようだ。
一回目は、左にしか回そうとしていなかったから開かなかったのだ。
何だ、すごく簡単なことだったんだ。
誰に見られているわけでもないのに、ちょっと恥ずかしくなる。
まあ開いたんだから結果オーライだよね、と自分に言い聞かせつつ、
私はドアノブを掴んでゆっくりと引いた。

蝶番の軋む音とともに、木製の扉がこれまで隠してきた暗闇が露わになる。
妙にむっとした息苦しい空気が、部屋の中から溢れてきた。
明かりも点いておらず、分厚いカーテンも閉め切ってあるので、中の様子はまだ窺い知れない。
暗いなら電気を点ければいいじゃないということで、私は部屋に入り手探りでスイッチを押した。
天井の電灯が柔らかく点り、室内の様子を照らし出す。

「……なにあれ?」

光が当たるとともに明らかとなった研究室の状態は、私が二週間ほど前に来た時とは随分変わっていた。
まず部屋全体が散らかり放題。そこら中にビニール袋やら紙やらが落ちている。
いや、これは予想していたことだからいいんだけど。
それから部屋全体が埃っぽい。ドアを開けた風で舞い上がった塵がちらちらと光る。
ちょっと掃除しないだけでこんなになるものなのかな。
まあこれも、埃の色がなぜか灰青色気味なのは気になるけど、おかしいことではないと思う。
問題なのは、部屋の隅あたりの光景だった。
390『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:36:29 ID:???

入口の向い側にあたる壁の所に、奇妙な物が置いてあった。
それは学校の教卓ぐらいの大きさをした、何かの機械だった。
概ね金属製の箱のような造りをしていて、上部からはパイプやラッパ状の物が露出している。
私はドアを閉めて、部屋の真ん中の物が落ちてない部分を通ってその物体に近づいてみた。
一体これは何なんだろう。

箱型の所の表面には、何個かのボタンやメーターのような物が付いていた。
他にも、三つのランプみたいな物が並んでいたり、蓋を開くためらしい取っ手があったりする。
説明がどこかに書いてないかなと思ってみるも、文字はどこにも見当たらない。
耳を澄ましても、駆動しているような音は聞かれなかった。今は全く動いていないようだ。
色々いじくってみたいという出来心が湧き上がるも、私はぎりぎりの所で踏みとどまった。
私だって子供じゃないんだから、非常ボタンを思わず押してしまうようなマネはしない。
結局その機械には一切触れること無く、私はこれがどういう物なのか考えてみた。

私が最後にここを訪れた時にはこんな物は無かったのだから、
ベッキーが引き篭っていた時に持ち込んだか、あるいは造ったかしたに違いない。
するとこれの用途についてまず考えられるのは、ベッキーの研究と関係があるという可能性。
設置されたタイミングからして、謎の機械と最近のベッキーの動向との間には何らかの繋がりがあるはずだ。
考えてみると、ベッキーが部屋に人を入れなくなったのは、この装置を隠したかったからじゃないか。
そんな推測もできるようになってくる。

かといって、どうしてベッキーがこの怪しい器具を必要としたのかは、さっぱり見当もつかない。
ベッキーが熱中していた研究って数学の分野じゃなかったっけ。
数学にこんな大きな機械は必要なのかな。
私も全然詳しいわけじゃないけど、紙とペンさえあれば足りるようなものじゃないの?
あるいは計算機やコンピューター。
だけど、この機械はそのいずれでもない。ように見える。
では何に見えるのと聞かれても、全くわかりませんとしか答えられないけど。
391『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:37:08 ID:???

ま、何でもいいや。
この得体の知れない物体がコンピューターだろうと冷蔵庫だろうと原子炉だろうと、
ベッキーにとって入り用だったんだからここにあるわけで。
私がそれに口出しする必要はどこにも無い。
で、私は何しにここへ来たんだっけ?

謎のマシーンの方へ逸れた意識を立て直しながら、私はここまでの道程を思い出す。
改めて研究室の様子をぐるっと眺めてみた。……汚いなあ。これはもう私の部屋以上じゃない。
確かに部屋の中は少しでも気を抜くとどんどん散らかっていくし、掃除もしないと埃も溜まっていく。
だけど、いくらなんでもここまで放置しておくかなあ。いや、人のことは言えないけど……。
でも流石にここの空気は悪すぎる。
ダイヤモンドダストみたいに空中に浮かぶ塵のせいで、喉がちょっとイガイガしてきた。
ベッキーもよくこんな部屋にずっといられるなあ。体に悪いよ。
まあ、そこまで論文に没頭してるってことなのかな。うーん。
とりあえずハタキを掛けて換気しよう。掃除用具は確か――押入れの中だったよね。

そんな風に頭を漫然と回転させながら、私は不審な機械のすぐ横にある押入れのドアを開けた。
「ひやぁっ!?」
その瞬間、私は思わず抜けた叫び声をあげ、腰を抜かして後ろに倒れてしまった。
押入れの棚には浅い段ボール箱が置いてあり、そこに収められている物が私の魂を根こそぎ奪い取った。
私が目撃した物は、そんな所にあってはならない物だった。
箱の中には、大量の骨がぞんざいに積み重ねられていたのだ。

鈍く、黄色がかった乳白色に光る、棒のような骨。
元々は連なっていたであろうと思われる、幾つもの小さな骨。
痛々しいひびの入った、板状の平べったい骨。
そしてそれらの上に君臨する、こちらを向いた頭蓋骨。
ぽっかりと開いた眼窩の影から、存在しないはずの視線が私の身体を鋭く射抜く。
「あ、あ……」
それは紛れもなく人骨だった。理科室にある骨格模型と同じ形をしている。
だがこれはレプリカではない。濃密に漂ってくる屍臭が、不快にも鼻をついた。
392『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:38:47 ID:???

驚きのあまり床にへたり込んだ私は、ただ呆然と口をぱくぱくさせることしかできなかった。
そこ、情けないとか言わないでよ。突然目の前に人骨の山が現れたら、誰でも驚いて動けなくなるって。
私も例に違わず何を考える間もなく足腰に力が入らなくなり、後ろ手をつきながらも背後の床に
しこたまお尻を打ち付けてしまったのだ。

あわあわと混乱した私には、落ち着くための時間が必要だった。
だが追い討ちをかけるかのように、更に信じられないことが起きた。

誓って断言するが、私は倒れた時でもすぐ側にあった妙な機械に手を掛けたりはしていない。
もしかしたら意識しないうちにぶつかっていたり、後退った時に触っていたりしたかもしれないが、
少なくともボタンとかレバーのような重要そうな部分に体が当たったことはないはずだ。
それなのに、私はどうやら触れてはならないトリガーを引いてしまっていたようだった。


動こうと思っても体が言うことを聞かないので、私はしりもちをついたまま頭蓋骨と見つめ合っていた。
だがすぐに、耳のすぐ横にある機械からブーンという音がするのに気がついた。
蜂が飛ぶ時のような極めて小さな音だったが、それが上手く気付けとなって私ははっと我に返った。
四つ這いのまま姿勢を変えて、先ほどまでは動く気配を全く見せていなかった妙な機械へと目をやる。
三つのランプが異なるリズムで点滅していた。
どれも全く違う色をしていて、一つは玉虫色、二つめは星色、最後は海の色だった。
また、側面に取り付けられた幾つかのメーターの針が激しく振れていた。
動いているのは針だけではなく、機械全体も細かく震えているようだ。
更に上部のラッパ状の所からは、何かを引っかくような不協和音が僅かに漏れ出でていた。
何が何だかよくわからないが、眠りについていた機械が目を覚ましてしまったのは確実だった。
393『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:39:49 ID:???

これからこの機械がどうなるのか想像する暇もなく、私は次の異変に目を奪われることとなった。
今度は部屋の床が、白く光りだしていたのである。
物がごちゃごちゃと散乱している中でも、床の中央には何も落ちていないスペースがあった。
異様な現象の中心は、そんな三メートル四方程度の平面だった。
私の心は次々と襲い掛かる異常事態に付いて行けず、ただ呆然としながら注視することしか出来なかった。

薄汚れていた床が白いオーラを発し、部屋全体が通常の何倍もの明るさに覆われる。
私の眼は、夢幻的な光を放つ床に吸い寄せられていた。
じっと見ていると目が眩むほどのその光は、影そのものが明るさを増したような奇妙な光だった。
すると突然、神経を逆なでする騒音があたりに充満した。
思わず手で耳を塞ぐが効果は全くなく、脳に直接、振動が伝わってくるようだった。
それに伴って部屋全体が震動しているように感じられたが、自分が知覚していることが
本当に起こっているのか、私には判断できなかった。
それでも何か自分の知識を超越したことが現実に進行していることは、はっきりと認識していた。

意味が無いと知りつつ耳を手で覆いながら、私はまばゆく発光する床を見つめていた。
理解を超える音と光に包まれて、私の意識は今にも押し潰されそうになっていた。
歯を食いしばって、どうにか我慢する。

少しすると、陰火を発する床の変化は第二段階へと移行していった。
変異した床のちょうど中央に、そこだけ光がへこんだような圧縮された点が生まれていた。
そこでは、虹色をした光の塊が、うずくまった小動物のように丸くなっている。
それがある程度の大きさに成長していくと、今度は目にも止まらぬ速さで床の表面を滑り始めた。
虹色の光塊が通り過ぎた跡には、やはり虹色をしたラインが描かれていた。
その鮮やかな光の川からは、真上に向かって新しい光が踊り出ている。
空間を貪欲に満たしていた白い光が、虹色の光の壁に浸食されていく。
394『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:41:12 ID:???

よく見てみると、白く光る床の上を疾走する光の塊はただ闇雲に動き回っているわけではなさそうだ。
虹色が走った跡に残る光の川は、スタート地点を端の一つとする綺麗な螺旋の形をしていた。
最初に現れた塊がその整った曲線を描き終わると、その塊は段々と小さくなり、そして消滅した。
だがこれで終わりではない。螺旋が一杯に広がった床平面のあちこちで、新しい光の塊が誕生している。
それらは最初の塊と同様に、虹色の足跡を残しながらの激しい移動を開始した。
ここまで多くの光の動きを同時に目で追うことは出来ない。
私は自分が目撃している光景に愕然としながら、ほとんど何も考えられなくなった頭でそれを受容していた。

端正な螺旋を描いた最初の塊とは異なり、第二波にあたる沢山の塊が描く軌跡には、
特にこれといった法則があるようには思えなかった。
直線、曲線、円、角形……。様々な幾何学的文様が、光の流れによって作り出されていた。
虹色の塊の中には、真っ先に描かれた大きな螺旋を避けて通るものもあれば、
そんなことを気にも留めず螺旋を横切っていくものもあった。
数え切れないほど多くの図形の絡み合いが、徐々に複雑になっていく。
しかしその結果として現れる構成は、合理的なバランスを完全に欠いていた。
線対称でも点対称でもないし、新たに加えられた図形の並びが何らかの規則に従っているわけでもない。
その様子は、美しい螺旋が品の無い記号によって蹂躙されているかのようだった。

私の横にある機械が、今まで以上に激しく作動している。
側面のランプは肉眼では確認しづらい速さで点滅し、メーターは最大限にまで振り切れている。
床から溢れてくる白い光は強さを増しており、もうそこが木の板でできているとは信じられなかった。
聴覚を通じずに意識そのものを直撃する騒音も、その攻撃的な鋭さをより尖らせている。
許容できる範囲を超えた刺激が私の感覚を麻痺させ、乗り物酔いに似た不快感を喚起する。
全ての現象の活動が最高潮に達しつつあることが、私には漠然と理解できた。
だがそれが意味する所を、私が知っているはずもない。
この異常な事態がどのように収束するのか。
誰もが思い浮かべるであろう当然の疑問が、私の恐怖心と好奇心とを同時に駆り立てていた。
395『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:42:08 ID:???

おのおの気ままに図形を描いていた沢山の光が、一つずつ消えていく。
最後の一つがついに自分の線画を描き終えたようで、あれほどまでに群集していた虹色の光の塊は
込み入った構造の幾何学文様を後に残して、全ていなくなってしまった。
これは模様が出来上がったということで良いのだろうか。
白く光る床のカンバスに、虹の色をした不思議な図形が妖艶に映える。
その記号は、私の知る限りでは何の意味もなさない、幼児のデタラメな絵の様な滅茶苦茶な構図をしている。
しかしそれでいて、そこには私の精神に対して直に語りかけてくるような奇妙な雰囲気があった。
この虹色の落書きを描いた存在は、これを通じて何かを表現しようとしているのではないだろうか。
では今までの壮大な異常事態を引き起こした存在というのは、はたして何者なのか。
なぜだか私には、悪意に満ちた純粋なる意思のようなものがこの空間を貫徹しているように思えるのだった。

自分が正気であることを疑ってしまうような現象は、唐突に終わりを告げた。
床の上を縦横に走っていた虹色のラインがふわっと空中に浮かび上がったかと思うと、
音もなく粉々に砕け散ったのだ。
つかのま色のついた霧が白い光の海を漂い、そして消えた。
突然、私のすぐ側にある機械がガコッという音をたて、全ての活動を停止した。
それと同時に、床の白い輝きが急激に鈍くなっていき、ものの数秒で無へと帰した。
動くのを止めた機械と光るのを止めた床。騒音も聞こえなくなった。
もはや目に映る風景は、ありふれた雑然とした部屋でしかなくなっていた。


胸を叩く激しい鼓動と荒い呼吸が治まらない。
私は……何を見てたんだ?
こんなことって実際にあるの、というか現実に起きてたの?
また悪い夢を見ていただけだよね、きっと。
私は恐る恐る部屋の中央の近くへと這っていき、先ほどまで照っていた床に手を伸ばしてみる。
「熱っ!」
そこは沸かしたてのお茶ぐらいの熱を帯びていた。
これって、私がまだ夢の中にいるってこと、それともあれが本当に起きてたってこと。
さて、どっち!?
396『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:43:23 ID:???

いやいや落ち着けー、私。現実を受け入れろ。
今までだって変なことならいくらでもあったじゃない。
それが今回のは輪にかけて常識はずれだっただけ……。
ってそれで納得しちゃダメじゃん!

とりあえず判明したことが一つ。
あの使用法不明だった機械は、さっきの現象を引き起こすためのものだったらしい。
まずいっ、勝手に動かしちゃってベッキーに怒られちゃうカナ?
壊れたりしてたらどうしようか。

それにしても、ベッキーは何を企んでるんだろう!
今の絶対普通じゃないって。数学の研究とかきっと嘘。
それ以上のトンデモないことを仕出かそうとしているんだよ。
やばい、やばすぎる。こんなことを一人で密かに進めているって……。
謎の機械に謎の現象。あの骨も――。
全部見なかったことにもしたいけど、もう後には退けない。
ベッキーは今、とてつもない計画の中心にいるはずだ。
私はそれを冷ややかに傍観しているほど淡白ではない。
探偵の血が騒ぐ。全てのあらましを暴くのが私の使命だ。

徐々に気分が落ち着いてきた私は、力がようやく入るようになった脚で立ち上がった。
汚れてしまった制服を手ではたき、埃を落とす。
この部屋に来てから数分しか経っていないはずなのに、身も心もかなり疲労していた。
私は押入れの扉を、中の人骨をできるだけ見ないようにしながら閉めた。
一応だけど、心の中でその誰かのためにお祈りをする。
397『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:45:10 ID:???

私はベッキーがこの部屋でしていたことを調べるために、手がかりになりそうな物を探すことにした。
もしかしたら、あれらの出自がわかるかもしれない。
壁沿いを伝うようにして、ベッキーの使っている机の所へと移動する。
机の上には、沢山の本や資料、紙切れなどが出しっぱなしになっていた。
食べかけのポテチが開いたままで放置されているのも見受けられる。
相変わらずズボラなベッキーの本性がそこに垣間見えたような気がして、私は少し安心した。

眺めてみると、最近に出版されたと思われる資料や印刷物の中で、明らかに古びた本が異彩を放っていた。
"Necronomicon"
随分と立派な装丁の表紙には、金属の象嵌によってそのようなタイトルが付けられていた。
こげ茶色の革でできた表紙を背景として、銀色の題字が妖しく光を反射する。
どうしてだろう、凄く手にとってみたい!
そんな衝動に駆られた私は、実際にその本を取り上げて読んでみることにした。

……残念。その本は私の知っている言語では書かれていなかった。
当然の如く日本語ではなかったし、たぶん英語ですらない。
ヨーロッパ系の言葉だとは思うんだけど、私の乏しい知識ではそれが何語かは特定できなかった。
ベッキーならこんなのもスラスラと読んでみせるんだろうけどなあ。
私は自分のふがいなさを改めて感じながらも、ページをぱらぱらと捲ってみた。
割と厚めの丈夫な紙で作られていて、膨大な年月の香りがほんのりと漂ってくる。
もしかしなくても、実はかなり貴重な本なのカナ。
色もかなり濃く変色しているし、想像以上に古い本なのだろう。
あまり適当に扱うのも良くないような気がして、私はその本を閉じて机の上へと戻した。

むう、これでは何も進展していない。
ちゃんと参考になるような物は無いのカナ。
物が元々の位置からずれないように注意しながら、机の上をもっとよく漁ってみる。
――あった! 「実験日誌」と銘打たれたノートだ。
最初のページを開いてみると、そこにはある一つの日付を冒頭として長い文章が書かれていた。
その日付は、ベッキーが最初にやつれた様子を見せた日の前日だった。
やはりあの時から異変は始まっていたんだ。
398『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:46:03 ID:???

難しい数式やら専門用語やらが書かれている部分は飛ばしながら、ノートの大まかな内容を捉えていく。
十数ページにも渡って一日目の研究成果が記されており、その次からは二日目の研究について書かれていた。
それが昨日の分まで連綿と続いている。毎日毎日、莫大な量の新しい情報が加えられているのだ。

記録は全てベッキーの直筆によるものだった。
最初の日誌ではしっかりした筆跡だったのに、昨日の分を見ると別人かと思えるほど文字は乱れている。
ベッキーの心身が消耗しきっていることが、そこからは読み取れる。
そしてこのノートには、ベッキーが自分の体を犠牲にしてまで取り組んでいたことの中身が凝縮されていた。

思った通り、かねてベッキーが私たちに話してくれたものとは懸け離れた研究内容がそこにはあった。
数学とか論文とかそんなものじゃない、もっと恐ろしい理論と実験が記されている。
このままベッキーが研究を続けていくと、想像を絶することが起きてしまう。
もしかしたら世界が滅びるかもしれない。そうでなくても、ベッキーが命を失うことは目に見えている。
時空を越えてあまねく宇宙に存在する絶対的な論理。
それにベッキーは近づこうとしているのだ。
私はこのことを知ってしまった。
必然的に、証言者としての義務が私には発生するだろう。
私には、なさなければならないことができてしまった。
逃げることは許されない。私はベッキーを止める。


その時、ギィッとドアノブの軋む音がした。
私は慌てて持っていたノートを元の場所に戻す。
ドアの方に向き直ると、扉がゆっくりと開いていくのが見えた。
誰!?
私は体を強張らせ、来るべき侵入者を待ち構える。

「……な、何をっ、してるんだ……姫子……」
既に狂気の域に達するほどに成長した窶れを身に付けたベッキーが、そこには立っていた。
399『姫子と闇の研究者』:2006/08/13(日) 19:47:01 ID:???
今回はここまでです。きっと続きます。
400マロン名無しさん:2006/08/13(日) 22:32:39 ID:???
GJ
401マロン名無しさん:2006/08/13(日) 23:31:52 ID:/fh5gTjd
wktkして待ってる!!
402マロン名無しさん:2006/08/14(月) 00:20:28 ID:???
「生理」の存在を全然知らなかったベッキーが、
ある日訪れた突然の出血に「病気で死んじゃう!?」とパニックになる話を思いついたけど
上手く書けなかった・・・
ベッキーが「だって、お姉ちゃんが全然おしえてくれなかったんだもん!!」と怒り出すところや
くるみが「これで、ベッキーも大人の女の仲間入りだねw」と言うところとか
一条がなぜか赤飯を用意しているとかを考えたのに・・・
403マロン名無しさん:2006/08/14(月) 01:25:05 ID:???
一条さんにはさんをつけような
学級崩壊にどうやってつなげるのかwktk
404マロン名無しさん:2006/08/14(月) 03:40:30 ID:???
天才児がまさか「生理」を知らないとは思いも寄らない周りの人間は
体から血を吐くと言う、ベッキーの体に起きた異変を、赤痢かエボラと勘違いして大騒ぎ
桃月町はバイオハザードさながらの事態に陥る
結局ベッキーは真相を知った世界中の人からお祝の赤飯を送られて毎日赤飯を食べることに・・・
405マロン名無しさん:2006/08/14(月) 12:09:25 ID:???
>>404
下着の前か後ろか微妙なところに血痕がついてたりするのか。
406マロン名無しさん:2006/08/14(月) 19:39:28 ID:???
「ちびまる子」で似たような話がなかったけ?
407マロン名無しさん:2006/08/14(月) 23:27:07 ID:???
同じパターンで、
ベホイミとメディアがカップラーメンの「かやく」を爆発物と勘違いして大慌てする話もつくれるな
408マロン名無しさん:2006/08/15(火) 05:44:26 ID:???
>>406
あった。ちびまる子で読んだ覚えあるぽに。
409マロン名無しさん:2006/08/15(火) 08:42:17 ID:???
確か「胸が大きくなると生理が来る」
と思い込んで
そうならないように寝る時はうつ伏せで胸を押さえ付けたらしいね
410閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:13:19 ID:???
エロなしグロあり人死にありです。
かなり陰惨な話になったような気もします。
411閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:30:32 ID:???
 今日も今日とて、一条次女の部屋に長女の声が響く。
「望、今日は学校に行かないといけませんよ?」
 望はもう何ヶ月も学校に行っていないのだ。
『……お姉ちゃん』
「そんなわがままを言っていてはおばあちゃんの堪忍袋がみずみずしく成田エクスプレスですよ」
『お姉ちゃん』
『ぷいぷいぷ……』
「わかりました。なら仕方がありませんね。みんな……きっと隅田川のように待っていますよ」

 一条母は黙ってリビングルームに戻り、テーブルに突っ伏した。
 望を失って以来、長女はずっとこの調子で望の部屋に閉じこもったきりだ。
 一応、部屋の前に食事を置いておくと翌朝には空になって置かれているが。
 末娘の送り迎えや買い物で出るのが怖い。帰って来たら、長女がいなくなっているようで。
 テレビの上に置かれた真新しい遺影の中で望はいたずらっぽく笑っている。
 なんであんなところにクマがいたのだろうかという事はどうでもいい。それが分かったところで、望が帰って来る事はないのだから。
 線香の煙の中、一条母の嗚咽が響いた。末娘は戸惑いながらも母の頭をなでて慰めた。
「ぷーいぷーい」
「うう……ごめんね……」
412閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:33:08 ID:???
「おはようございまーす」
 宮田が教室に入ると、教壇の前で佐藤千夏がどこか寂しそうな厳しい顔で黙々と学級日誌を記入している。
 その隣には、いつもいるはずのきつね色のポニーテールの少女がいない。
「佐藤さん……北嶋さんは……?」
 晶が問うて数秒後、千夏は面を上げた。
「あ、おはよう宮田さん。ごめん、丸までは息を止めて書こうって思ってたから。
 由香ちゃんは今……メディアさんを迎えに行ってるんだ」
「メディアさん、退院したんだ」
「うん。私昨日会ってきたけど、元気そうだったよ」
 身寄りのないメディアには危篤状態のあいだ学級委員の由香と千夏が代わる代わる付き添っていた。
 それも学級委員としての勤めのひとつなのである。
「元気……なんだ」
「うん。元気だった。一時はどうなるかと思ったけどね……」
 千夏は瞳を閉じてしばし思い出の世界に旅立った。
413閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:35:36 ID:???
「うびゃ」
 腹を抉られ地面にしたたかに打ちつけられ、メディアの意識が遠くなる。
「メディア!」
 消え行く意識の中見えた襲いかかるクマの前に立ちはだかったベホイミの姿はまさに正義の味方のように映ったのだった。
 ベホイミは今は正体を隠している事もすっかり忘れて大見得を切りながら叫んだ。
「メディアに手を出す者は! この愛と! せい」
 もしかしたら南条のクマなら「あ、はい。愛と正義の癒し系魔法少女さんなんですね。こんにちは!
 僕は南条クマ三郎と申します。若輩者ですのでどうぞ何卒ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます!」
とちゃんと名乗りを聞いてくれたのかもしれないが、このクマはそんな風流な耳は持ち合わせていなかったので、
目の前でわけの分からない動きをする女の首を豪腕であっさりさっぱりさっくりと刎ねた。
 その首はバケツに入っていたので、ころころと転がってベッキーの足にぶつかった。
「うわーベホイミー!」
 ベッキーはベホイミの首が入ったバケツをぶら下げて走ったが、鈍足な子供はすぐに追いつかれてしまった。
「やめろー! 来るなー! 先生だぞー!」
 そしてクマは腰が抜けて失禁するベッキーに頭からかぶりついた。
 ベッキーの手から放されたベホイミバケツはころころと転がった。
 ベホイミバケツが転がっていく先には頭を割られた望が倒れていた。
414閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:39:37 ID:???
「……佐藤さん寝てないよね?」
 浸り過ぎて石のように身動きしない千夏に宮田が恐る恐る確認すると、千夏はゆっくり目を開けた。
「うん。……あ、由香ちゃんだ」
「おーはよっ」
 噂をすればで由香に連れられてメディアが入ってくる。
 下膨れ顔と揶揄されていたメディアだが、すっかり痩せこけて非常にスマートになり、頬骨すら浮いている。
 手術の為切られて髪の毛もかなり短くなり、ショートカットといってよいだろう。
「皆さんおはようございます。ご迷惑をお掛けしました」
「おはよ」と千夏。
「あ、うん……おはよう」今日は着ぐるみを着ていない、芹沢。
「おはよう」目を逸らし気味に南条。
「ああ、おはよう」犬神は眼鏡の奥の瞳を少し曇らせる。
「セーフ」伴は冷静に言った。たとえ相手が誰であれ、自分の職務を忠実にこなすのみだ。
 磯部はベホイミが死んでからふさぎがちで、メディアを一瞥しただけだった。
 そして宮田。
「あ、メディアさん髪切ったんですねー」
(バカ……)
 あっけらかんと言う宮田にクラス全員が凍りつく。
「……ええ、切られてしまいました」
 しかしメディアは笑いながら答えて、由香から荷物を受け取って席に着いたものだった。

 ベホイミの机を見ると上には花瓶が置かれ、ケーリュイケオンが寂しそうに立てかけられていた。
 ベホイミと動物がいない教室はとても広く思えた。
 クマがベホイミを殺し、メディアに瀕死の重傷を負わせて以来、南条は動物を連れてくるのをやめた。
415閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:43:04 ID:???
 その日の授業はメディアに気を遣いながらの少しぎこちないものだった。
 出入りの時には扉に近い生徒が開け閉めをしてやったし、
 昼食には由香と千夏が付き添い、おにぎりを開けたりしてやった。
 そんなこんなで放課後である。

 クマ事件以降、児童の下校には保護者が付き添う事になっている。
 つるぎは今日も愛する妹、雅を迎えに行くべく、小学校への道をとことこと歩いて行った。
「犬神くん」
 と、そこに温かい声が呼び止めた。振り返るとそこにはぶかぶかのメイド服を着た少女。
「ああ、どうした?」
 メディアが緑がかった金髪を揺らしながら微笑んでいる。
「ユカさんが呼んでいましたよ。相談があるそうです」
「なんで私が……」
 すでに道は半ばをすぎ、桃月学園に戻るのは面倒だ。
「頼りにされてるって事じゃないですか?」
「急ぎなのか?」
「そのようです」
「……そうか」
「雅ちゃんでしたらよろしければ私がお送りしますよ」
「そうか? だが……」
「私は大丈夫です。だから退院してきたんですよ?」
 メディアは小さくガッツポーズを作ってみせたが、痩せた顔で元気を作っているのが却って痛々しく居たたまれなかった。
 犬神は一瞬思案する顔を見せて頷いた。
「……では悪いが雅を、宜しく頼む」
 雅とは動物の事で話が合うようだ。雅もそうだが二人とも話す事で少しでも気が晴れればいい。
 女二人の話というのもあるのだろう。妹は幼いと思っていたけれど、きっとあるのだ。
 つるぎはメディアに45度の角度で頭を下げて、学校へ戻った。こうして妹も大人になって自分から離れていくのだと一抹の寂しさを覚えつつ。
416閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:44:13 ID:???
「雅ちゃん」
 やわらかい女性の声にその方向を向くとショートカットの金髪が見えた。
「あ……メディアさん」
 久しぶりに見るメディアの顔に、快復を喜びつつ、あの日の事を思い出して悲しくなった。
「こんにちは、雅ちゃん」
「こんにちは……」
 きょろきょろと見まわすが、そこにはメディアしかおらず大好きな兄の姿はない。
「あの……兄……は……」
「今日は犬神くんは用事があるそうなので私がお送りしますね」
「そう……なんですか。よろしくおねがいします」
 一瞬がっかりした顔をしたが、すぐに笑顔で頭を下げる。
「それでは先生さようならPTAの皆さんさようなら」
「さようなら、雅ちゃん」
 いかにも怪しげな金髪メイドに眉をひそめたPTAだが、どうも知り合いのようだし、いつも来ている兄の許可も得ているようなのでまあよしとする。
「気をつけて帰るんだよ」
「はい……さよなら……」
417閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:47:11 ID:???
 小学校を出てしばらく歩き、通学路で一番人通りの少ないところに出た時にメディアが訊ねた。
「雅ちゃん、動物はまだ好きですか?」
「……はい」
 友人をクマに殺されても、全ての動物が悪い訳ではない。今はクマが少し怖いけれど、他の動物は好きだ。
「好きです」
 雅はきっぱりと答えた。
 きっとこんな暗いところで不安になっている自分を元気づける為にこんな話をしてくれたのだろうと、メディアに感謝しながら。
「そうですか」
 メディアは天使のように優しく微笑み、手袋を外して、雅を優しく抱き抱えるようにして言った。
「私は嫌いです」
「え……?」
 メディアの方を向こうとした首は、そのメディアに掴まれて逆の方向に向けられた。
「なんであなたがいきているんですか? 宮本せんせいも……ベホイミちゃんも死んじゃったのに」
「こ……けっ……かゴォッ」
 雅はかばんを落とし、メディアの腕をつかんで引き剥がそうとするが大人の力にはかなわなかった。
 一方メディアも引き剥がされるような事はなかったが、かつてのようにうまく折る事はもう出来なくなっていた。
(やっぱり力がうまく入らない……)
「メ……ひ……は(メディアさん、はなしてください)」
 いつからだろうか、こんな時、ベホイミがそばにいて励ましてくれた。
 ベホイミと一緒にいたのは短い間だったが、すごく大きな力をくれた。
(ベホイミちゃん、私に力を! どうか、一度だけでいい、あの頃の力を……!)
418閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:48:12 ID:???
 その時、確かにメディアの目には魔法少女ベホイミの手が自分の醜い手に重なるのが見えた。
(ああ……メディア、私たちはいつも一緒だ! もう離れる事はない……!)
(ベホイミちゃん)
 ベホイミはいつものように自分と、そしてメディアの力を信じている強い瞳で頷く。
(メディア……行くぞ。この一撃におまえの全て……私の魂をも込めて奴の首をへし折れッ! いいかッ……全てを込めるんだぞ!)
「はいっ!」
 気持ちが不思議なほど落ち着いて、指も針の穴を通すような正確さで動く気がしていた。
『せーの!』
 鈍い音を立てて、雅の首は捻り折られた。
 引っ張ると神経や血管がぞろぞろと出てきたが、さらに引っ張るとちぎれた。
(じゃあな……メディア……私はいつも……いつまでも……おまえと一緒だ……元気でな)
 事が終わり、ベホイミはすぐにメディアに背を向けて空へと去っていくが、ふと立ち止まって首だけで振り向いた。
(おまえと友達になれて楽しかった。ありがとう)
 光に包まれたベホイミが満面に浮かべた笑みは、地味なお下げ少女の卑屈なものでも、戦場で死におびえる兵士のものでもなく、
『ああ、これがきっと魔法少女なのだな』と思える、とても、とても心地よいものだった。
419閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:49:52 ID:???
「わたしう! うぎゃ」
 メディアの腕に激痛が走る。
 もうずっと前からおにぎりのパックを開ける事すら出来なくなっていた。
 それなのに無理に作動させたため制御しきれなくなった人工筋肉が、メディアがずっと嫌って手袋の下に隠し続けてきた人工皮膚を突き破ってその毒々しい色の姿を表した。
「わた……わた……もベホ……ちゃ……おと、うれし(私もベホイミちゃんとお友達になれてうれしかったです。敵同士で終わるなんて悲しすぎますもん)」
 制御不能の腕が雅の頭部を握り潰し、勢いよく雅の死体を弾き飛ばし、そのまま伸びて手首がちぎれ、セラミックの骨がのぞいた。
「あ……あああ……」
 メイド服も破れた。
「ぐぅわばば……」
 この服を着ていれば、『お兄ちゃん』がくれたあの薄い本の女の子みたいに、幸せになれると思っていたのに。
 悔しさの表現として大地に腕を叩きつけたいと強くつよく願ったら、その願いが通じたのか膨れ上がった豪腕が道路を叩きアスファルトを砕いたが、その破片が突き刺さってしまった。
 血管が破裂し、血が噴き出す。メディアの臓器機能はすでに限界で、おじいちゃん先生の方が余程健康体といえる状態だった。
 せめて最後に、メイドカフェに行きたかった。もう少しでポイントカードがいっぱいになったのに。
 そうしたら、ベホイミと一緒にメイドさんを挟んで写真を撮るつもりだったのに。

『楽しみですねー』
『私はやだよー、おまえひとりで撮ればいいだろー』
『えー、一緒に撮りましょうよー。可愛いじゃないですか』
『確かに可愛い……けど……おまえひとりで撮れ』
『一緒がいいです』

「ぐ……ずぎゃあああああああああああああああああああああああああああむ!」
 そしてメディアは出血多量により息絶えた。
420閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:52:03 ID:???
 9年前、某国某所でひとりの女の子が生まれました。
 その女の子は、望まれて授かった子ではなかっただけに、生まれてすぐに殺されるはずでした。
 でも彼女の親にとっては幸運だった事に、その村に人買いが来ていたのです。
 素姓を明かす事はもちろんしませんでしたが、彼は日本の大会社の研究所の依頼で動いていました。
 彼は、女の子を多額のお金で買い取ってくれました。いらない子供が3年分の生活費になったので、親は大喜びでした。
 研究所では女の子にいろんな薬を注射したり、飲ませたりして育てました。
 その結果、女の子は魔法でも使ったように素早く成長しました。
 大人になった女の子は、今度は身体にいろんなものを植えつけられました。そうするとまるでヒーローのようにすごい力が出るようになりました。
 同時に女の子は戦い方を教わりました。脳を改造された彼女は常人の数倍の速度で学習できるのです。
 女の子の楽しみは、寝る時に彼女が『お兄ちゃん』と呼んでいた研究員のひとりが読んでくれる本でした。
 その本の中では、ひらひらの可愛い服を着た『メイドさん』という女の子が、とても気持ち良さそうにしているのです。
 女の子は、いつか自分も『メイドさん』になるのだと夢見ながら、眠りに就いていました。
 そして女の子が一人前の兵士になって出荷される時、研究員はその本をコピーして製本して餞別にくれました。
 女の子はその本を大事に抱えて、ゲリラに売られて行ったのでした。

 女の子は命じられるままに幾つかの村を襲撃しては虐殺しました。
 その中には彼女の生まれ故郷もありましたが、生まれてすぐに売られて脳を改造された彼女に故郷の記憶などありませんでした。
 また親も、以上に成長して姿も変化した女の子に気付く事はありませんでした。
421閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:57:22 ID:???
 やがて研究所は爆撃されて廃墟になりましたが、事前に避難していたのでみんな無事でした。
 だから、会社の所属する財閥の令嬢も特に心を痛めるような事はなく、コーヒー片手にわんこやにゃんこをなでていました。
 もちろん、さらに数年経って女の子が自分のクラスメイトになった時にそれと気付く事などなかったのです。
 自分の友達の妹を殺した女を作ったのが間接的にではあれ自分であるという事にも。

 ゲリラが壊滅して当てもなくさまよっていた女の子は、やがてとある大学の教授に拾われました。
 彼の治療を受けるうち、女の子は少しずつ人間らしい感情などを得ていきました。取り戻したのではありません。それまで持っていなかったからです。
 女の子は、自分と同じくあの会社のアメリカ研究所によって脳の処理能力を強化された女の子を守るために、日本へと旅立ちました。

 しかし、女の子は誰一人、愛しきものすら守る事など出来はしなかったのです。
 彷徨い続けた心のいる場所などどこにもありませんでした。
 そしてその指はもう、自分で動かす事も出来ません。
 光が女の子の亡骸をずっと照らしていました。
 誰かが彼女を見つけるまで。
422閃光のガイア:2006/08/15(火) 23:59:07 ID:???
「ねえ」
 閉店後のエンジェルエイドボム。事務室でメイドのひとりがパイナップルジュースを飲みながら同僚に話しかけた。
「最近……あのメイド服のお客さん、来ないわね」
「『ご主人様』でしょ」
 メイド服に身を包んでいる間は彼女達はメイドである。たとえ給料をかせぐ為時間をつぶしている間でも。
「でも確かに最近見かけないわね。どうかなさったのかしら」
「また来て欲しいわね。あと3ポイントで満点よ」
 彼女は、メイドカフェにやってくるメイド姿のご主人様という存在に非常に興味を抱いている。
 もしかしたら自分にはレズっ気があるのではないかと思うくらいに。
「そうね、そのうちきっとまたいらっしゃるわよ。今はたぶん何かの事情でお忙しいのだわ……」
 自分に言い聞かせるように言った同僚の心には、一度だけ来た本物のお嬢様の事でいっぱいだった。
 同僚の言葉に彼女は頷き、コップの中身を飲み干して立ち上がる。時計の長針は31分を指していた。
「うん、きっとそうよね……それじゃ、私上がるから」
「お疲れ」
423閃光のガイア:2006/08/16(水) 00:12:37 ID:???
以上です。
タイトルの元ネタは『残光のガイア』です。
少し他のネタも仕込みましたが……
最初は『残暑のガイア』とかも考えてました。

書いたきっかけはメディアがミニスカを穿かない理由が年齢的だと言っていて
もしかしたら年齢が下だからなのではと思いついたこと、
それからメディアがメイドに憧れるようになったきっかけはなんだろうと考えたことです。
9歳にしたのはぱにぽにWikiに『10代ではない?』と書いてあったので。

書いていたらベホイミ×メディアにハマりそうになりました。
さすがに伊達にベストコンビではないかな、と……
424マロン名無しさん:2006/08/16(水) 00:19:44 ID:???
>>423
尊敬の意を込めて"鬱"の一言を贈ろう。
425マロン名無しさん:2006/08/16(水) 00:29:30 ID:???
>>424
70年代のマガジンを彷彿させる鬱でした
バイオレンスジャックなメディアに血涙!
426桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:44:32 ID:???
103話ベース。鬱大盛り。文章硬め。汁少なめ。血は多め。

よろしくお願いします。
427桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:47:35 ID:???
 ――嗚呼。先生はまたしても無駄な試みのために彼女の許へ出掛けていくのだわ・・・・・・

 私は某病院で看護婦(今は看護士というのですが)をしていた者でございます。
敢えて名乗られぬことを強いられたこの状況の特異なることをどうぞお察しください。
尤も、事件の詳細を知っている方は既に私が何者であるかもご存知であることを承知しております。
 それで、件の先生は――普段は非常に優秀な外科医なのでしたが――その頃、あの患者、あの少女が来てからというものの、
すっかりおかしくなられてしまわれた。
私は先生のことが心配で堪りませんでした。
先生は、あの少女、鈴木さやかさんの入院を以って全く別の人間になってしまったのでございます。
「回診の時間だよ。鈴木さん、調子はいかがかなオブジイヤー
「怪我は大したことなくてよかったねオブジイヤー
「この分ならば直に退院してまた学校に行けるようになるだろうオブジイヤー」
 こんな調子なのです。おかしいでしょう?
先生には何か考えがあってこそのことなのでしょうが、やはりどう考えても変ですよ。
何なのでしょうか、この「オブジイヤー」というのは。

 この鈴木さんという少女、無口で不思議な感じの子なのですが・・・・・・先生がおかしくなってしまわれたのは疑いようもなく彼女のせいでしょう。
いえ、私は決してその責を彼女の許に追求しようなどという考えは持っておりません。
寧ろ彼女は如何なる悪意とも関せず、そうして結果的には被害者のひとりとなってしまった哀れな娘なのです。
「被害者」といってもそれが先生を以って加害者という二項対立を形成せしむ様な単純な話ではなく
――たとえば、複雑に絡み合った糸を探っていくと、その両切れ端が実は隣り合っていたのだというような意外性にも似たもので――
先生もまた被害者のひとりであったと言わざるを得ません。
 狂気とは誰の作為にも拠らず、自然に発生し、自然に消滅していく一種嵐のようなものなのですから。
428桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:50:09 ID:???
 先生にはどうしても為さねばならぬという強迫的狂信が憑り付いていました。
それがさきの「オブジイヤー」でございます。
彼はどうしてもこの奇妙不可解な単語とも文句ともとれぬ言い回しを彼女に言わせたくて仕方がなかったようなのです。
鈴木さんは事故の後遺症で記憶に不鮮明な箇所を負ったらしく、
先生はそれを快復させるための療治であると仰るのですが、私には今ひとつその意味が分かりません。
かといって専門的な医療知識に於いて先生に及ばぬ私としてはその言葉を信じ、
一介の看護婦としてその‘医療的行為’が可及的速やかに遂行されることを最大限の努力をもって補助せねばならぬ責務がございました。
「鈴木さん、お熱を測りましょうオブジイヤー」
私も先生の命ずるが通りに奇怪な語尾を付加して奇怪な言葉を使うのですが、
そうすると、先生は眼鏡の下で鋭い眼光を光らし、私を睨みつけると、苛立たしげに回診を終え、部屋を出て行きました。
私・・・・・・何か拙いことをしてしまったのかしら?

 長い長い回廊を帰っていく途中、先生は振り返って私に指導しました。
「いいかね。あそこで‘お熱を測りましょう’というのは論外だよ、君。
私の意を汲んでこの心理療法に加担するという気があるのなら、
あそこは‘お熱をチェック・オブジイヤー’と言うべきだったろうに」
 そう冷たく言い放つと、先生は足早に先に行ってしまわれました。
 先生のこの狂的な拘りの背景は何か。
私はどうにも解し難く、その真意を量りかねるものでしたが、暫くした頃になって漸くその謎が私にも分かりかけてきました。

 『ぱにぽにだっしゅ!』というアニメをご存知でしょうか。
もうかれこれ一年も前、真夜中にひっそりと放映されていたカルト系のアニメ番組でございます。
「オブジイヤー」というのはその番組の中の登場人物の一人が盛んに発していた口癖だったのです。
どうやら先生は、この登場人物と、現実の鈴木さやかさんを同一人物であると混同しているらしく、
彼女にこの科白を言わせることが、記憶の扉を開放する為の鍵になるのだと信じて疑わないのです。
429桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:52:51 ID:???
 何と言う悲劇的な誤解でしょう。
互いの認識が平常では有り得ない齟齬を生み、外れた歯車がお互いの軸を傷つけあいながら、
それでもなお各々の速度で空回りを続けているのです。
 先生は鈴木さんの記憶を取り戻したい一心で「オブジイヤー」を言い続け、
当の鈴木さんはそれが何のことかさっぱり分からず、困惑と猜疑にただ首を傾げるばかり。
そんな彼女の不自然な様は優秀かつ堅実なる先生の焦燥と苛立ちを一層募らせ、
根本的な錯誤のあることを彼に見失わせ、より激しく彼女に「オブジイヤー」を強制するのです。
 あのときに私がそれに気がつくだけの賢明さとそれを先生に進言できるだけの勇気があれば、
きっと事態は別の展開を見せていたでしょう。
少なくとも、実際に起こってしまった悲劇よりは余程・・・・・・いえ、歴史に「もしも」の予測を挟むことは
慰みにもならない愚かで浅ましい行為でしょう。
とにかく、実際の私はただ、先生が狂気に奔走されていくのと、鈴木さんがそのために神経と肉体を著しく喪失していく様を、
ただ何気もなく傍観しているより他に仕方がなかったのです。

「なぁ、君。鈴木さんはねぇ」
 先生は机に心理学や脳神経学の書物をいっぱいに重ね並べて、その机上の書物の塔の隙間から顔を出して言いました。
「彼女はねぇ、とても純真で無垢な子なんだよ。
いつもニコニコと笑って、みんなの頼みごとを厭な顔一つせずに引き受ける。そういう子なんだ。
私はねぇ、そういう彼女の美しい心を、何とかして取り戻してあげたいんだ。
ろくご・・・・・・いや、鈴木さんはね、いつも笑顔で、周りの心を癒してあげられる、そういう子なのさ。
そうだ、彼女は何故笑わなくなってしまったのだろう?」

 そういえば鈴木さんは入院以来、まったく笑顔を見せていません。
かといって無愛想に不機嫌な顔をしていると言うわけでもなく、寡黙なものの、
問いかければちゃんと返事もするし(勿論「オブジイヤー」とは言いませんが)、話しだって素直に聞きます。
きっと自らの感情の制御の巧い、優れた意識と人格の持ち主なのでしょう。
430桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:54:59 ID:???
 しかし先生にはそれがどうにも気に召さないご様子です。
鈴木さんの顔は彼女のもの、然るに表情も彼女のもの。
一体どうして私たちが彼女の笑わないことを責め立て、
それを以って彼女を異常であると断定することが出来るのでしょうか?
笑う門には福来るとは言いますが、笑わないからといってそれが鬼門であると言うこともないでしょう。
誰もが自分の表情を自由に繰ることが出来るはずです。
誰からも何の咎めを被ることなく。それが摂理です。

 しかし、それでもやはり先生は気に入らなかった。
その摂理を自らの医学的見地と経験上判断から閾の下に埋め、道理を捻じ曲げてしまわれた。
いえ、彼の中では立派に道理を貫き通したことになっているのでしょう。
これをして狂気と言うのならやはり先生は狂気のほか何物でもなかったと言えます。
 兎にも角にも、先生は鈴木さんを笑わせること、
「オブジイヤー」と言わせることが彼女の快復のために不可欠な通り道であるかのごとく信じきっていたのでした。

 それからというもの、先生は回診の時のほかは自室に篭りきり、只管彼女を笑わせる方策を模索しているご様子でした。
私には、彼のこの病的なまでの拘りはただ医師としての職業的意識に裏付けられたものだと考えていましたが、
果たして実際はどうであったのか、今となっては定かではありません。
彼の望みが何であったにしろ(それが単に医師と患者という立場を超越した至極卑猥な欲望に駆られたものであったとしても)、
ただひとつ、鈴木さんを救いたいという気持ちには全く偽りの無かったであろうことは私がここに証言する次第でございます。

 ある時、先生は一冊の古めかしい書物を手に急き掛けて部屋を飛び出しました。
「やった!やったぞ!遂に彼女を救う手掛かりを得たんだよ!」
 先生は歓喜に満ち満ちた声色でそう叫ぶと、ヘウレーカとでも言わんばかりに躍り回りました。
431桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:57:19 ID:???
「見たまえ、君。この本は1950年代にかの脳神経外科の権威広瀬貞雄と繋がりのあった医学者の一人がまとめた
精神外科手術と心理状態の変化に関する実験結果と、それを元に執筆された一連の論文の選集なのだが、
ほら、ここに興味深い論述がある」
 そう言って先生は分厚い本の真ん中辺りを開いて私のほうに差し出しました。
かび臭い紙面に滲んだインクで、かの時代特有の不気味な均整を伴った明朝体のタイプ文字群が、びっしりと蟻の列を成していました。
そこには「外科的手段ニ依ル精神作用系薬物ノ直接投与ニ関スル実験」と題された、ある論文からの抜粋記事が和訳されて掲載されていました。
「先生、これは?」
 私には書かれている内容はさっぱり分からず、訊ねてみました。
先生は堪えられない笑みを声に出して語るのでした。
「つまりだね、この研究者は、鬱症状を示す患者の頭に穴を開けて、
脳の特定部分に何らかの向精神系薬物――たとえば、今あるものでいえばシナプス伝達の段階でセロトニンの分泌量を促進させたり、
機能を拡大させるもの――を直に投与し、内服薬によるものよりもより強度な刺戟を脳に与えることで精神状況の改善が為されると言うのだ」
「穴を・・・・・・?」
「然様。言うなればあの封印された禁断の前頭葉前部切除手術をそっくりそのまま逆にしたようなものだ。
トレパネーションの一種であると言ってもいい。
当時の医療技術ではその臨床的実効性を証明できないままキワモノの仮説として提唱されたに過ぎないが、
もし、今、現実問題としてこれが可能となれば、薬物の直接投与によって鈴木さんはより明朗快活に、
元通りの笑顔を取り戻すことだって出来るだろう」
「しかし精神外科手術の施行は禁止されているはずでは・・・・・・」
432桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 00:59:31 ID:???
「何を言っているんだね、君は!これは鈴木さんの将来の為なのだよ。
彼女があのまま笑うことを忘れ、全ての記憶を閉ざしたまま、まるで廃人の如く無気力な生活を強いられたとしてみろ。
あの御影の美貌、あの肢体の艶かしさ、その全てが悲劇を生むための各要素となるしかなくなるのだぞ!
ああ!そんなことは考えただけでもおぞましい!
あれほどの美しい娘が、心の空っぽな廃人であるなどと言うのは、どんな悲劇よりも残酷な現実だ!」

 心の空っぽな廃人といえばどこかで聞いたことのないこともない話ではありますが、
その時の私にはそれが異常に恐ろしく、
先生の凄まじい気迫とも相俟って妙に納得せねばならないような気がしてならなかったのでした。

 そうして、先生は精密検査の結果至急手術の必要ありという偽の診断書を捏造し、
他の誰の目にも触れさせぬまま、まんまと彼女を手術室に連れ込むことに成功したのです。
 そして私は先生によって唯一その手術に助手として立ち会うことの許された目撃者なのです。
先生は麻酔によって昏睡した鈴木さんの頭部を慎重に切り開き、頭蓋骨に穴を開けました。
目にも眩い白い脳肉が姿を見せ、その小さな塊の中に鈴木さやかという人物が丸々収まっているのかと思うと、
私は改めて人体の神秘に立眩みのする心地を覚えるのでした。

 長い長い手術を終え、先生は患者の頭部の縫合を終えると、目にも明らかな上機嫌でした。
「成功だ、成功だ」と口にすると、ニヤリと笑みを浮かべるのでした。

 それから暫くして、術後の鈴木さんは容態もよく、遂に頭の包帯を外す日がやってきました。
先生と私は鈴木さんを個室に連れて行き、鋏を使って、ゆっくりと包帯を取り除けていくと、
そこにはあの長く艶やかな髪の毛を丸々剃り落とされ、代りに生々しい切開跡が浮き出た頭が露わとなりました。
433桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 01:01:17 ID:???
「さぁ、鈴木さん。ニッコリと笑ってみなさい。そうして言ってみなさい、オブジイヤーと」
先生が身を乗り出して、興奮した口調で言いました。

 忘れることも出来ません、鈴木さんのあの笑顔!
あのゾッとさせられるような笑顔。
機械的に、無機質に形成された、まるで完全なる作り物のような笑顔。
鬼のような形相と言えば凄まじい怒り顔のことを示しますが、あの笑顔は悪魔の所業でした。
鬼の形相よりも不気味で、恐ろしげなあの笑顔!
あの時の、この世のものとは思えぬイメージが、私の心に焼きついたまま、
私たちの犯してしまった大罪の証明とでも言わんばかりに今これを書いているこの瞬間にも私の心を苛むのです。

「お、お、オ・・・・・・」
呪われた洋人形のような笑みを顔面に貼り付けたまま、鈴木さんは気狂いじみた声を上げるのでした。
先生は目を大きく見開き、気味悪く輝かせたその瞳で哀れな人工狂女をじっと見つめるのでした。
「オブじb¥dw7.」
 言葉にもならない金切り声を上げたかと思うと、鈴木さんは恐ろしい勢いで私の手から鋏を引ったくり、
それを先生の喉下に突き刺したのです。
先生の喉から空気とともに吹き出したいっぱいの血が彼女の作り物のような笑顔にふりかかり、
ああ、もう思い出すのも恐ろしい殺戮の現場がそこに出来上がったのでした。
434桃月怪奇譚第六夜:2006/08/16(水) 01:03:12 ID:???
 私は脳を冒され、狂人化した鈴木さんの暴挙を抑えることが出来ず、
地獄の底から湧き上がるような凄まじい雄叫びを上げる彼女(しかもあの不気味な笑顔のまま!)をその場に残し、
這這の体で何とか逃げ出しました。

 そして、その後どうなったのかは分かりません。
気管を裂かれた先生は死んでしまったのでしょうか、発狂した鈴木さんはあの後どうしたのでしょうか、全く知りません。
知ろうとする勇気がなかったのです。
 私はあれから、現場の病院から出来るだけ遠くへ遠くへと、無我夢中で逃げ続け、
そうして今、ここでこうして私の見たことを回想の下に記しているのです。

 私はこれから毒薬を飲んで世を辞する覚悟です。
これ以上あの悪夢のような笑顔の残像に悩まされることは死ぬよりも苦しいのです。
従って、これを貴方が読んでいるときには、もう私はこの世にはいないでしょう。
もし、貴方が、私の話した事件や、その当事者たる鈴木さんと先生のその後を知っているのなら、
是非心に留めておいて下さい。
 この事件には、誰も加害者などいません。
一人の熱心な医師と、哀れな一人の少女との心の行き違いが生み出した、
残酷な悲劇オブジイヤーだったのです・・・・・・

おしまい
435マロン名無しさん:2006/08/16(水) 01:10:04 ID:???
>>434
GJ
こういうのもよく聞く話だけど、こう見るとなんだか新鮮に見えるよな
436マロン名無しさん:2006/08/16(水) 02:32:29 ID:???
>>423
ゼロムス噴いたwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
437マロン名無しさん:2006/08/16(水) 07:42:37 ID:???
その後、鈴木さやかは恐怖のマッドサイエンティスト゛アミーゴ・スズキ゛として世界を混乱に陥れるのであった。
438翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:36:27 ID:???
前に三人称とか言ってましたが、結局一人称でも
できたので続きを投下します
439翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:37:54 ID:???
日が沈み、外は真っ暗な闇に染まった。時計の針はちょうど23時を指していた。
部屋の明かりを付けず、窓からもれてくる月の明かりが俺の顔を薄く照らしていた。
俺は薄暗いリビングのソファーに横になりながら、ぼんやりと満月を見ていた。
月明かりがふんわりと顔に落ちてくる。
それはまるで俺の心身を癒すかのように思えた。


あれから色々な事があった。
機関に所属することを伝えると瀬名先輩は目の前に置いてある封筒から一枚の書類を出した。
それにサインをすることが必要な事で自分の名前を書き込んだ。
今思えば、情報局の工作員に所属するための書類にしてはあっさりした内容だった。
それから俺はアリバイ工作の為に、会議室で奴らの‘仕事’が終わるまで待機していた。
偽りのアリバイはここの会議室で夜遅くまで生徒会の事についての話を瀬名としていた、という事だ。
待機している間、瀬奈先輩は俺に禁則事項を教えてくれた。
たった一つだけ――それはこの事を誰にも口外してはならないこと。
そんな事になってしまえば……言われなくても分かる。それに情報機関の存在が
明るみに出てしまうのも危険だ。当たり前のことだ。俺は瀬奈先輩の言ったことを承知した。


組織の奴らは誰にも気づかれること無く、あの殺人現場に忍び込むと部屋中に付着した俺の指紋を一つも残さず
ふき取り、父親が自殺したかのように細工した。
その後、事件を発覚させ、俺は第一発見者と同時に容疑者として警察から聴取を受けた。
いかにもショックを受けたという虚ろな表情をつくり――いやあの時はつくりでもなんでもなかったな――警察の目を誤魔化した。
細工がうまくいったおかげで警察は父親が娘を殺害後、自殺した事としてこの事件を処理した。
440翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:39:32 ID:???


数日後、くるみと父親の葬式が始まった。
母親が通帳を持って出て行ったため、家には葬式代すらなかった。
父親の保険金もすぐには支給できず、金のことで頼れる知人もほとんどいない。
困り果てたところ、校長が葬式代を俺にくれた。感謝の言葉もなかった。
くるみが社交的な性格のおかげで、学校の連中だけでなく、地元の人たちも葬式にやって来た。
バイク事故の不祥事を起こしたにもかかわらず、皆はくるみの事のために悲しんでくれた。
上原と宮本先生は子供のようにワンワンと泣いていた。
やはり俺達、兄妹と中学から付き合っている上原と初めて担任を持ち、初めて教え子が死んだ宮本先生は
相当ショックを受けたようだ。
C組の魔女とも言われている橘も涙を浮かべ、静かに泣いていた。
上原同様、中学から一緒の犬神も表情を押し殺し泣くのを耐えていたが、その反動なのか肩が相当に震えていた。
6号ちゃんも一条さんも片桐も―――皆泣いていた。
あいつは自分が地味で悩んでいたが、こんなにもお前を想う人がいるんだ、お前は地味じゃない。
今更そんな事を言っても死んだ人には分かりもしないけどな。


441翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:40:43 ID:???
葬式に来た人たちの中に見知らぬ女性と多くの子供達が現れた。
優しげな風貌と柔らかな物腰、黒いロングヘアーの美人。
その女性は俺にくるみと自分の事について話してくれた。
その人は桃月町の孤児院の先生で二ヶ月前、くるみと知り合った。
炎天下の日、買い物を終え、駐輪所に置いた自分の自転車に乗ろうとしたが、誤って他の自転車をドミノ倒しにしてしまった。
汗水垂らしながら、横に倒れている多くの自転車を立てようとしたところ、くるみがその人を手伝った。
御礼をしようとくるみを自分の孤児院に招待し、子供達と一緒に遊んだり、夕飯を食べたりした。
それから時々、くるみは孤児院に遊びに行き、子供達にバスケを教えたり、家事を手伝ったりしていた。
しかし、最近くるみが来なくなった事に疑問を感じ連絡したかったが、急に多忙になりなかなかそれが出来なかった。
その先生は話し終えると子供達を連れて、線香をあげに行った。
くるみが孤児院でそんな事をしていたなんて全然知らなかった。
そして、くるみが死んでから他人に聞かされて、初めて知った。
結局、俺は生徒会の仕事にかまけ、唯一の妹であるくるみの事を知っていなかった。
いや、知ろうともしなかった。
それが切なく、やりきれなかった。
そしてそんな自分に腹が立った。


葬式から数日が経ち、皆が落ち着いた頃、瀬奈先輩から電話が来た。
この町から去る日が三日後の日曜日、23時に決まった。
集合場所は桃月町の端に位置する、人気のない山中の○○神社。
そこに黒い車が停車しているからそれに乗ればいいとの事だ。
俺が行方不明になった時の処理について聞いたが、それは校長が何とかしてくれるらしい。
つまり俺がまるで自殺したかのように見せかける細工をするつもりだ。
あの時の父親のように……。


442翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:41:39 ID:???
そして現在、決行日まであと、24時間をきった。
24時間後にはこの町から離れ、二度と戻れなくなる。
しかもそれだけではない。今までの自分が消え、新しい自分になり、工作員としてシビアな世界を生きることになる。
それなのに、今は不思議と気持ちが落ち着いている。
もう無くすものがないからなのか。
それとも自覚はしてないが、初めからこの裏の組織の一員になりたかったのか。
俺の将来の夢……料理が好きだからコックあたりにしようかと、漠然としか決めてなかった。
それがまさかこうなろうとは、あの時は思わなかったが……。
俺は何気なく、テーブルの上に散らばっているくるみの私物に目をやった。
ついさっき、何故だが急にくるみの私物を弄りたくなり、部屋から持ってきたのである。
その私物の中にある小さな立て鏡に映っている自分のクセっ毛を見た。
前にこの髪についてくるみから言われたことがあった。


「ねぇ、兄貴のすごいクセっ毛だよね」
「そうか?普通じゃないか?」
「見ててなんかうざったいんだけど…切りなよ」
「はぁ?何で俺がお前の言う事聞かなくちゃいけないんだよ」
「でもさぁ、兄貴短い方が似合うと思うよ。」


――そんな事してもパワーアップにはならないと思うぜ。
はは、と呆れたように俺は笑った。
――それに今切っても、お前には見せることが出来ない。
お前を守ることができなかったから……。


443翼の折れたエンジェル:2006/08/17(木) 23:43:56 ID:???
包んである銀紙を剥し、板チョコを一欠けら口に入れた。
口内に甘い味が広がっていった。
急に口がさみしくなり、何か食べ物が欲しくなった俺はコンビニに足を運んだ。
別に外に出る必要も無く、冷蔵庫の食材だけで済ませばいいが、散歩がてらにちょうどいいと思った。
チョコレートにサンドイッチ、飲み物にオレンジジュースとミネラルウォーターを買い込んだ。
気持ちのいい風に当たりながら今買ったものを食べたいので、俺は適当に近くの公園にあるベンチに座った。
さすがにこの時間帯なので誰一人いない。
公園の周りはあまり家も人気もないので、公園の電灯しか頼れない。
逆に言えば、夜空の星がよく見えるということだ。
俺は、もう一欠けらを口に含むと空を見上げた。
星が降り注ぐように輝いていた。
あの時と同じように今日も相変わらず、星が輝いている。今こうして一人で見ている星空もくるみと親父が亡くなり、瀬奈先輩に
呼び出された日に見た星空も何一つ変わらない。
戦中に国を守るため、出撃した特攻隊もどんな思いで人生最後の夜空を見上げたのだろうか。
家族のこと?友達のこと?恋人のこと?故郷のこと?未来のこと?
……それはその人しか分からない。
子供の頃、死んだ人は星になると聞いたことがある。それが今になってうそ臭く思えるが、死んだ人がこんな綺麗な星になれるなら
それだけでも幸せだと思う。それを見て死んだ人を思い出せるなら生きている俺も少しは救われるかもしれない。
くるみ……お前は俺を見ているのか?星になって?
恨み言を言いながら?それとも俺の幸せを願って?それともただ、輝いているだけなのか?
……そんな事言っても星が返事するわけないよな。
「おえぇぇぇぇぇぇぇ」
そんなセンチメンタルな雰囲気を一瞬でぶち壊した。
俺は星空からその発声源に目を移した。
暗くてよく見えなかったが、小豆色の髪をした女が膝を地面について吐いている。
小豆色にゲロ……分かりやすい。
女はゆっくりと立ち上がると千鳥足でこっちのベンチに向かってきた。
しかし、またこみ上げてきたのか、すぐさましゃがみ込んだ。
444マロン名無しさん:2006/08/17(木) 23:44:08 ID:t6G+J1Qi
フヒヒヒ
俺はいたずらっこだから邪魔してやるぜ!!!!!!!!
445翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:00:49 ID:???
あまりにも苦しそうなので俺は腰を上げ、その女のもとに行った。
「大丈夫ですか?五十嵐先生?」
見上げた先生の顔は、いつも学校で見せる青ざめた表情をしていた。
「桃瀬かぁ……ちょっと手をかして〜」
疲れてもう歩けないと駄々をこねる子供のように先生は俺に手を伸ばした。
俺はその手を引っ張ると先生を立ち上がらせ、ベンチまで誘導した。
どかっと腰を下ろすと先生は情けない声を出した。
「桃瀬ぇ…なんか水頂戴……」
俺はコンビニのビニール袋からミネラルウォーターを取り出し、口を開け先生に渡した。
先生はそれを受け取るとゆっくりと喉を鳴らしながら飲み始めた。
「んぐんぐ……はぁ〜、落ち着いたわ〜」
「相変わらず、休みだからって倒れるまで飲むなよ先生」
「休みの日をどうしようと私の勝手でしょう……ところであんた、こんな時間に何してるの?」
「ちょっとした散歩ですよ」
「あんた、休日は暇なのね……」
休日をだらだら過ごしてそうな――いや絶対ダラダラしてるな――人に言われたくない台詞だ。
「いいじゃないですか。休日にどうしようと俺の勝手じゃないですか」
先ほどのお返しに先生と同じ台詞をはいた。
「それもそっか」
呆気ない返事をすると先生は空を見上げ、俺もそれに従うように再び見上げた。
先生は顔を上げたまま、ミネラルウォーターを一飲みした。
「流れ星ってあんま見れないものね」
「そんなもんっすよ。何か願い事でもあるんですか?」
「それはあるわよ〜。私は…死ぬほどお酒が飲みたい〜」
俺は呆れて物も言えなかったが、いつものことだと納得した。
「もう飲んでるじゃないですか」
「そうじゃないの。一生メルヘンロードっていうか……二日酔いにならない体質とか一生分の酒代が欲しいの。分かる?」
「分かりません」
きっぱり言い放つが俺は少しだけ可笑しくなってきた。
感傷的になってた自分がいつの間に明るくなってきている。これも先生のおかげなのだろう。
446翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:02:35 ID:???
「分かりなさいよ〜。あんたはどうなのよ?」
「俺?俺は……別にこれと言ったもんは無いですね」
「あんたって…ある意味幸せでお気楽ね〜」
先生は溜息を吐くと袋から勝手にサンドイッチを取り出した。
星に願っても、期待なんかできない……。
第一、そんな事で願いが叶うなら誰だって苦労なんてしない。それなら最初から、期待しないほうがいいんだ。
サンドイッチの袋を切りながら先生は言った。
「悪かったわね…あんたの妹のこと、時々忘れてしまって……」
「別のそんな事どうでもいいでしょ。あいつだってもう慣れていたことだし」
「……私さ、宮本先生の気持ちすっごく分かるの。自分の教え子が亡くなるのって、すごく残酷な事……」
五十嵐先生の言いたい事はわかる。先生は俺がくるみのようにいなくなる事を恐れている。
俺は見上げた顔を下に伏せ、先生に視線を合わせないようにした。
何故なら今先生の顔を見たら、気持ちが溢れてくるから…。
折角、覚悟したものがすべて崩れてしまうから…。
「こっち見てよ、桃瀬」
俯いている俺の顔を掴むと先生は面と面とを会わせるように向けさせた。
「お願いだから、いかないでよ……あんたまでいなくなったら私……」
不安そうな表情で俺を見詰める先生は――不謹慎だが――とても可愛く綺麗だと思った。
今までに見せたことの無いしおらしい顔に耐え切れなくなった俺は、先生の胸元に抱きついた。
先生は俺の頭を優しく撫でると抱きしめ返した。
酒臭かったが、とても温かくまるで母親のお腹で守られているような感覚がした。
実際は母胎にいた感覚なんて覚えてないが……それでもそんな感じがした。
そんな温もりに今まで心の中に押し殺していた思いが耐え切れず、あふれ出てきた。
――先生と離れたくない。
――優麻、優奈と別れたくない。
――犬神や上原のもとから去りたくない。
――皆と一緒にいたい。
447翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:03:53 ID:???
どれも偽らざる本心だった。いくら誤魔化そうとも押し殺そうともそれは真実だった。
俺はぽろぽろと涙を流し、泣いていた。
それはくるみが死んでから初めて流す涙だった。


しばらく俺は泣いた後、だいぶ落ち着いてきたのでそろそろ帰ることにした。ここの公園で別れることにした。
本当なら家まで先生を送りたかったが、先生も一人で歩けるくらいに酔いが醒めたので俺の申し出を断った。
中途半端に律儀だな、この人は。
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。こういうのには慣れているから」
あははは、と先ほどのしおらしさが嘘のように先生は陽気に笑った。
俺は先生にまだ中身が残っているコンビニ袋を渡した。
「先生、まだ残っているからあげますよ」
「いいの、これ?」
「ええ、ほんのお礼ですよ」
「悪いわね、桃瀬。しかし、あんたがこんな律儀なのも、私の教育の賜物よね」
普段、俺達にふしだらなところしか見せている奴がよくまあそんな事が言えるもんだ。
俺はまた呆れた表情をしたが、でも先生の顔を見て可笑しくなってきた。
「じゃ、俺行きますね」
「……あ、ああ…また学校でな」
俺は先生に何も言わず、踵を返した。
先生に嘘をつきたくなかったから。
「…ちょっと桃瀬待ちなさい」
先生は嫌な予感がしたのか、俺の手を掴み引き止めた。
「ちゃんと学校来いよ、分かった?」
「分かりましたから、手を放してくださいよ。子供ですか、あんたは」
「……あんたは私の世話役みたいなもんだから、いなくなったら困るわよ。じきにあんたは早乙女君の後継者なんだから」
448翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:04:32 ID:???
まるで我が物顔のような言い草だが、それくらい言わないと俺が消えてしまうからだろう。
無理矢理でもいいから学校に来させるように先生は言った。
「何むちゃくちゃな事言ってるんですか?まったく…ちゃんと行きますよ、先生」
嘘をついてしまった。よくそんな守りも出来ない嘘をつけるもんだな、俺は。
所詮、俺も両親と一緒だ。
人を裏切り、人の心を踏みにじる。俺は自分で決めた守り事を破いてしまった。
最低だな俺は……。
「それならいいけど……本当に来なさいよ」
先生はようやく俺の手を放した。
「それじゃ、おやすみ先生」
「ああ……おやすみ」
ゆっくりとした足取りで俺は先生から離れていった。
ここからはもう二度と先生や皆に会えなくなる。
そう思うと胸が張り裂けそうになって、体が震えた。
「……ちゃんと学校に来なさいよ!」
先生は大声で呼びかけるが、俺は振り向きもせず手だけを軽く上げ、ひらひらと振った。
振り向いてはいけない……。先生に顔を見せてはいけない……。


歩き始めてからだいぶ時間が経った。
もう公園から離れたところまで俺は来ていた。もう少しで家に着く。
不思議と先生の手触りが残っていた。よほど俺を放したくないのか、力を込めていたようだった。
感触が残っているその手を俺は顔に当てた。
耐え切れなくなったダムが崩壊するように、俺の口から嗚咽が零れてきた。
こんなことなら公園に行かなければよかった……。
こんなことなら先生に会わなければよかった……。
449翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:08:06 ID:???
今日はここまで
あともう少しで終わります
ここまで付き合ってくれた方、本当にありがとうございます
450マロン名無しさん:2006/08/18(金) 00:28:15 ID:miAyotFB
すんごくたのしみにまってる!!!
451マロン名無しさん:2006/08/18(金) 00:29:44 ID:???
GJ!!

一人空気読めてねーヤツいたけど気にしない!
452翼の折れたエンジェル:2006/08/18(金) 00:41:32 ID:???
ちょっと訂正します

×もう公園から離れたところまで俺は来ていた。

○公園からかなり離れたところまで俺は来ていた。
453マロン名無しさん:2006/08/18(金) 00:58:13 ID:???
GJ!!!
イーヨ!イーヨ!マツモトイーヨ!
…コホン…続き待ってます。頑張って下さい。
454マロン名無しさん:2006/08/18(金) 19:38:28 ID:???
「ここって、もしかして・・・
時代劇!?」

「捕らえろ!!」
「怜ちゃん!私の事を忘れたの?
私たち人には言えない事をした仲じゃない?
あんな事とか、こんな事とか。」

「ここに居ると、昔の事を忘れて行ってしまいます」

「ようこそ!欲望と絶望の学び舎、桃月第二小学校へ!!」
「この学校には、校長に逆らえる人は誰もいません・・・」

「帰りたいという気持ちを無くさないで!」

「雅ちゃん!!」
「ブホホホ!!
次は伯母さんと遊びましょうかw」
455マロン名無しさん:2006/08/18(金) 20:01:15 ID:???
「何度注意されても、朝礼での私語を止めようとしない私を、きっと皆は変わり者だと思っていたと思います
ですが、どうしても無駄話をしたいという衝動を押さえることが出来ませんでした
そして、その理由が今わかりました。
私は校長を倒し、学校に平和を取り戻してくれるヒーローを待って居たのです!
そのための無駄話を今まで続けて来たのです!」

「日影さん、なんで今まであんな小娘に教師などやらせていたんです?」
「退屈しのぎさ。楽しかっただろう?」

「これ以上、この学校の秩序をみだすな!
お前たちが何故、私の秘密を掴んだのかは分からぬが、抵抗しても無駄だ、引き返せ!!」

「さあ、言え!!
汚職事件は全て自分のでっち上げだ!!嘘だと!!
言え!!
言わんと殺す!!」

「一緒に六年生になれるね、宮本さん!!」


「宮本さん!!どこに行ったの?返事をしてよ!隠れて居るのはわかってるんだよ、宮本さん!?」
「雅ちゃん、宮ちゃんはもう死んじゃったんだ、だからもうここにはいないんだ・・・」

「宮本さんのいない世界なんて楽しくない・・・」
456マロン名無しさん:2006/08/19(土) 00:18:24 ID:???
えらく暑苦しい小学生編だなw
457マロン名無しさん:2006/08/20(日) 02:31:57 ID:???
まとめサイトを見たが……
柏木姉妹が主役の話が1つもありません
出番があっても脇役というよりチョイ役ばかりです
一条さんやメディアは主役こそ無いが脇を固める重要な位置にいます
はっきりいって柏木姉妹はメソウサやジジイと同格です
どうみても扱いがいじめの域に達しています本当にありがとうございました
458マロン名無しさん:2006/08/20(日) 02:44:59 ID:???
都とか来栖が主役ってあったっけ?
あとズーラ、ヤンキー。
459マロン名無しさん:2006/08/20(日) 03:14:09 ID:???
>>458
都と来栖が主役級の話は双方前に書いたのだが忘れられt…





いや、なんでもないんだ。気にするな。
460マロン名無しさん:2006/08/20(日) 04:05:22 ID:???
一条と犬神の関係を邪推した南条がフォースの暗黒面に落ちてしまい、
柏木姉妹を使って(高級な生地とかで買収)一条さんをハブらせる。
柏木姉妹は顔が広いため、一年女子のほとんどを招集し、
不思議ちゃん気取りの一条の化けの皮を剥いじゃおう作戦を提案する。
玲、姫子ら悪趣味組は乗り、良識派メンバーは反対するも、
柏木姉妹の根回しにより、自分たちが圧倒的少数派になっていることに気づくと、
一条にすまないと思いつつも、計画に加担することにする。
自分が無視されていることに気づいた一条は、少し悲しそうでこそあれ、
いつもの調子は崩さなかった。そのため、累は一条の妹たちにも及ぶ。
OBである柏木姉妹は、顔見知りの後輩に命じて、望を無視させる。
妹たちの異変に気づいた一条は、問題の解決に急ぐが、1人では何も出来ない。
そして、度重なる苦難に、ついに弱さを露呈し泣き崩れる。
南条は思い出した。自分もD組の仲間に出会うまでは孤独に苦しんでいたことを。
それより重い苦しみを他人に味わわせて、果たしてよいものであろうか。
自分はなんという酷い事をしているのか。しかも他人を使って。
誤解とはいえ、これでは犬神が自分よりも一条を選ぶのは当然。
謝ろう。一条さんに。それに先んじていじめを止めなければ。
柏木姉妹に会いに行く。だが―
「え? これからが本番でしょ? それに――」
「こんな楽しいこと、やめられるわけないよね……にへら〜」
柏木姉妹は、すでに南条の意図を外れて、暴走し始めていた。
「別にやめてもいいよ……? でも、そうしたら……」
「ばれちゃうよね〜、こんな酷い事を考え付いたのは誰なのか……犬神くんに」
果たして、結末やいかに!?
こういう話を思いついた。
これならあまり出番の無かった不人気のほうの双子と南条、一条にスポットがあたるな。
461マロン名無しさん:2006/08/20(日) 04:41:21 ID:???
>>460
それで一本書いてください。
462マロン名無しさん:2006/08/20(日) 05:14:56 ID:???
伊藤さんで感動巨編とか・・・ないな。誰も書かないだろ。
463マロン名無しさん:2006/08/20(日) 10:15:46 ID:???
一条さんメインは?
464マロン名無しさん:2006/08/20(日) 10:40:50 ID:???
自分の分身を倒した後、「私は、この時代にいる必要はない」と言って溶鉱炉の中へ消えていく伊藤さん
465マロン名無しさん:2006/08/20(日) 12:07:07 ID:???
>>464
それなんて(ry
466マロン名無しさん:2006/08/20(日) 12:48:28 ID:???
出番のないキャラの次は主役を張ったことのないキャラかw
467ITIZYO BY KDDI:2006/08/20(日) 22:50:17 ID:???
ttp://www.youtube.com/watch?v=8fmDcLmxx0Q

一条「みなさん・・・私の名前を言って見て下さい」

ベッキー「やべえ!!今まで下の名前しらなかった!!」
姫子(ひそひそ話)「ねえ・・・”拝”じゃないかな?」
玲「それは違うだろ!!」

一条「姫子さん・・・私のこの胸の傷を見ても分かりませんか?」
姫子「マホーーいい胸!!」
玲・ベッキー「こりゃだめだ・・・」

一条「もう一度チャンスをあげます。私の名前を言ってください」
玲「どうするよ?」
ベッキー「うっ・・・・」

一条「私は嘘は嫌いです。さあ!私の名前を言って下さい!!」

ナレーション。こんな時のために
       夜のお供のカメラ付きケータイ
       AU BY KDDI

ベッキー(望ちゃん!!お姉さんの名前教えて!!)

返信(ジャギだよ)

望「そいつの名は、ジャギ!!
  かつて姉と呼んだ女だ!!」

ベッキー「・・・・」
468マロン名無しさん:2006/08/20(日) 22:53:22 ID:???
いかん・・・ナレーション全然違う・・
469マロン名無しさん:2006/08/21(月) 05:51:32 ID:???
こういう単発ネタもいいなw
470マロン名無しさん:2006/08/21(月) 11:50:59 ID:???
>>460
当然落ちは
耐え切れなくなった南条が一条さんの前に出て「もうやめて!」と叫ぶも放たれた銃弾に胸を打たれて、
そこでたまらず止めに入った犬神に優麻が「何言ってるのよ、はじめたのは南条さんよ、言えた義理じゃないわ」
「な、南条、お前…」「分かったでしょう? 私のこと。あなたは私を忘れて、一条…さんと…」
南条絶命、悲しみの雄たけびを上げる犬神であった。
ですね!
471マロン名無しさん:2006/08/22(火) 23:38:04 ID:???
姫子の尻穴にコンセントを捻じ込みたい
472マロン名無しさん:2006/08/23(水) 03:10:20 ID:???
尻にコンセント・・・痛そう。
だけど、このスレの住人はそういうの読みたいんだよな。
473マロン名無しさん:2006/08/23(水) 13:19:30 ID:???
最新刊読んだら、都がたまらなく可愛く見えた
474桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:32:24 ID:???
ここ最近の流れを完全にぶった切る話で恐縮ですが、強引にまとめを投下させていただきます。
これで最後です。
475桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:34:14 ID:???
 さて、この桃月怪奇譚も皆様のお目にかかってから七夜目にして漸く最終夜と相成りました。
そうして、最後の締めを語ることとなりましたが、それはある一人の少女とその身の上について記すことでこの物語集の総括と代えさせて頂きたく申し上げます。
今しばらくお目汚しの失礼をお許し願いたく存じ上げます。
 その少女は白鳥鈴音と云いました。
まぁ、彼女については皆さんもご存知でしょう。
もう一人、彼女と仲のよい秋山乙女、彼女についてもいまさら説明するほどのことはありませんね。
それで、この乙女がですね、その、早い話が、死んでしまったわけなのですよ。

 学級崩壊スレなんていうある種の悪趣味会(第二夜に出てきたみたいなアレですね)のようなものに足を運ぶ方々であれば、
「何だ、それくらい」とでも言って別段驚かれることもないでしょう。
実際、乙女の死は――語弊を覚悟の上で、敢えて言うところの――平凡な、何の変哲もない交通事故によるものでした。
皆さんの胸を躍らせるような華々しい死に方も、このスレに投下されるような綿密な構成と巧みな表現で彩られた素晴らしい作品群のように幻想的な、
或いは耽美的な要素なども全くの皆無のまま、地味な死亡事故に過ぎませんでした。
 事実、乙女の死は余りにも突然で、余りにも呆気なかったために、わざわざ筆を執ってそれをノンフィクション気味に書き上げることも及ばないほどでした。
確かに前途ある一人の少女の死というのは悲劇的ではありますが、実際のところ、あらゆる猟奇と悲愴の物語に慣れきってしまわれた皆さんの前に、
わざわざ持って出て行くほどのものではありません。
不謹慎な話であることは承知の上ですが、人間の死というのは、脚色なしのそれ自体では全く悲劇らしい悲劇にも、ユーモアにすらもならない儚いものなのです。
476桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:36:46 ID:???
 おおっと、話が逸れました。
で、肝心の鈴音なのですが、ご想像の通り、乙女の死が彼女に与えた衝撃というのは一概には語りえぬものでした。
悲しい?うーん、あんな複雑な心の中のもやもやを、その形容動詞一語の中に凝縮するというのは無理がある気もしますが、
だからと言って抽象的で複雑な当時の彼女の心中の全てをここに表そうというのも困難なことです。
まぁ、「鈴音は乙女が死んで悲しかった」というより外、妥当な言い回しはないと思いますね。
それが一番分かり易い。

 鈴音は泣きましたよ、そりゃあもう、涙でダムがこしらえられるのではないかというほどに。
他にも、葬式では他の乙女と親交のあった連中、担任の早乙女先生は勿論、
ご存知追試チーム(こいつらがまた、誰も彼もが感情の起伏が激しく、傍若無人の大泣き合戦)、
または人の死の瞬間に立ち会ったことがないのでしょうね、宮本先生なんかも大粒の涙をボロボロと溢してその死別を惜しむのでした。
 でもやっぱり一番悲しかったのは鈴音だったのでしょうね。
あの大きな身体を震わして、乙女の遺影の前で大地を揺るがすほどの大声で泣き喚く。
余りに取り乱すので秋山家の遺族の方が呆気に取られちゃって、しっかり者の弟の勇気君がそれを慰めるという本末転倒なシーンも見られたわけです。
それほどまでに、鈴音にとって乙女は大切な存在だったのでしょう。
 それでも、いやでも日常は続くというのが世の道理でして。
鈴音は乙女という重要なピースを欠いたまま、この陰惨な日常の冷たい海に戻らなければならなかったわけなのです。
心にぽっかりと空いてしまったスキマ、なんていうのは余りにも使い古された言い回しなのですが、
そのスキマのせいで、彼女は名状しがたき喪失感と前途への無気力に心をすり減らし、
段々と自分自身をもその手から失っていくのでした。
 だからといって鈴音が狂気に走ってしまうこともありませんでした。
彼女は狂うにしては余りにも聡明すぎたのでしょうね。
いっそ狂気に駆られて現実からの逃避を為しえることが出来れば彼女にとっても幸せなことだったろうに。
477桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:39:26 ID:???
 この桃月怪奇譚でも唐突に多くの狂人が出てきましたが、実際の人間なんてあんなふうに分かりやすい形で暴走することはありません。
ま、大声を上げたり自分の頭を壁に打ち付けたりするのが関の山、よもや鉄砲持ってドンパチやらかしたり、
エド・ゲインやジェフリー・ダーマーよろしく猟奇殺人に走ったり(彼らは稀の例外的な連中ですが)、
そんなことは余りにもフィクション臭の強く、さほど普遍的な現実味のある話ではありません。
 しかしそれでも神経衰弱(これもまた古めかしい化石語ですが)であったことは事実です。
あの鈴音がですよ?神経衰弱!たは!
乙女の死という深刻な悲劇の前提がなければ、またしてもぱにぽに特有の不条理なユーモアで片付けられてしまいそうな話ではあります。
・・・・・・でもまぁ、乙女は死んじゃったんですよね。
これは何としても事実だし、そのせいで鈴音が神経衰弱に罹ったというのも真なり。
 それで、いつまでも元気のない鈴音のことを皆は心配していたわけなのですが、
彼女への心配から来る周囲の気遣い、とでも言いますか、それとも壮絶なる大きなお世話とでもしますか、
彼女の一挙手一投足に皆して怯えつつ、それでも彼女を何とか現実に引き戻してやろうと考えていたわけなのですよ。

 総じて考えてみればこれも馬鹿げた話でしょう。
鈴音は賢明な子です。強い子です。外から余計な力などかけてやらなくても、ちゃんと一人で立ち直ることが出来る子なのです。
ただ、そこまでにかかる時間が少し長かったというだけで、
皆が抱いていた‘鈴音が発狂して暴れるのでは?’なんていう余りにも愚かで空想的な危惧など、全くの杞憂に他ならなかったのです。

「その昔、白人は黒人の肉体的優位性を畏れたために、先に彼らを鎖で繋ぎ、黒人の奴隷的運命と言う既成事実を捏造した」
なんていうマルコムX的主張のようなものを私は耳にしたことがあります。
きっと、皆の鈴音に対する意識もこれに近しいものだったのだろうと推察できます。
だってそうでしょう、あんなのが理性を失って暴れだしたら、誰にも止められる自信がなかったのですから。
だったら、穏やかなうちに、先に鎖をかけて望まぬ事態を予防してしまおうと考えたのでしょう。
478桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:41:55 ID:???
 バカバカしいことこの上ないのですが、恐怖に駆られた人間というのは全くそのバカバカしいことを地で往くのです。
狂気とは恐怖の延長である、なんて格好つけて言ってみたりもしますが、
鈴音の周りの狂った連中が、至極心の安定した(敢えて‘正常’という言葉は用いません)鈴音を狂気であると断定して、
病院の鎖に繋ぎとめてしまったわけなのです。
 鈴音は、まったく暴れるような精神的不安定を持っていたわけでもないのに、
そういったものを真に持った連中の策謀にはめられて、
第一夜の終わりで出てきたような絶海の孤島にある精神病棟に送られることになりました。

 彼女は真っ白い部屋に入れられ、そこでベッドに鎖で繋がれました。
・・・・・・あー、徐々にこのスレにお誂え向きな話になってきましたね。
まぁ、まともな神経をした人間が、突然送致されたそんなところで狂人呼ばわりされ、
囚人のような扱いを受けるなんてことになれば、
そっちの方が狂気の花を芽吹かせるに具合のいい土壌であると思います。
 それで、鈴音はいよいよ狂人になってしまったのです。
いや、というよりも、間違った治療のせいで前の神経衰弱がより悪化した、くらいのことでしょうか。
彼女はやっぱり、発狂するほど愚かではなかったのです。

 そのうちに、私は彼女のもとを訪ねる機会がありました。
船に揺られて約二時間、太平洋に浮かぶ小島に無骨なコンクリート建築の治療施設があり、
私はなんとも殺風景な病院の回廊を、そこの患者たちの異様な視線による大歓迎を受けつつ、鈴音の病室に通されました。
 中に入って私は驚きましたよ、そりゃあ、もう。
狂ったように真っ白だった(ハズの)壁一面が惨めに汚れて、妖しく黒光りをしているのです。
見ると鈴音が部屋の片隅に蹲って、壁に黒鉛棒で何かを書いています。
私はハッと思い立ち、壁の黒光りに目を凝らしました。
479桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:44:18 ID:???
 何と言うことでしょう、カビのように黒ずんだ汚れだと思っていたものの正体は、
実はびっしりと鈴音の書き込んだ文字だったのです。
いやはや、もう脱帽です。
壁一面を大きな原稿用紙にして、彼女はひたすら何かを書き綴っているのです。
 私は目を血走らせて書き物に夢中する鈴音を呼び掛けました。
くどいようですが、鈴音は狂人ではなく、狂人に仕立てあげられた娘であり、
意識はしっかりと‘こちら側’にあり、私の声に気がつくと、にっこりと笑って手を止めました。

 私はまずこの膨大な文字の壁について訊ねずにはいられませんでした。
彼女の言うところによると、これは桃月学園を舞台にした物語群なのだとか。
何故乙女が死なねばならなかったのかと言うことを考えているうちに、
ふと、「それだったら他の人間がこの不幸に襲われるという運命を負ってもいいのではないか」
と思うようになり――死は誰にとっても公平であるという精神のもと――多くの知り合いを文字によって
殺し、狂わせ、不幸のどん底に叩き落す物語を認めたという事でした。

 ここまできたら、わざわざ言うまでもありませんね。
桃月怪奇譚の物語のベースは、この鈴音の書いた残酷物語なのです。
私は作者面などしていましたが、実はこの膨大なストーリーを小説の体裁にまとめただけの編集者に過ぎません。
各話の締めが「おしまい」であるというのは――賢明な方は第一夜目にして既に気がついていたのですが――
勿論あの鈴音のシュールレアリズム人形劇の終幕宣言のパロディです。
これは原作者が実に鈴音にあるということを明らかにしておくための証文のようなものでした。
480桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:46:36 ID:???
 さて・・・・・・あ、ついうっかりして名乗るのを忘れていました。
私の名前は綿貫響と言います。
間違えないでくださいよ、宮田晶じゃありませんよ。綿貫です。
私は鈴音と――それとあの乙女と同じ一年B組に属する女子生徒です。
私が、あの壁の上に繰り広げられたもう一つの桃月学園の世界を転写し、
文章を構成し直し、こうして皆さんの目前に公表した次第なのです。
 何故そんなことをしたのか、なんて野暮なことは言いっこなしです。
ありふれた一つの悲劇と、そこから生まれた一人の鬼才について、世に知らしめたかったのです。

 なるほど、桃月怪奇譚は確かに鈴音の妄想の世界です。
それは一見、皆さんが知っている桃月学園、ぱにぽにの世界とは大きくかけ離れています。
しかしそれを書いた鈴音は皆さんのよく知っている白鳥鈴音なのです。
彼女はこんな陰惨な物語を書くことで、ひょっとしたら、
彼女に狂人の烙印を捺した世界への復讐を企んでいたのかもしれません。
 或いはそれは‘狂った’私の単なる妄想に過ぎぬのかもしれません。
しかし、鈴音はこれを書き続けることで精神の均衡を保ち、
遂に今に至るまで狂うことはありませんでした。
やはり彼女は恐ろしい才覚の持ち主です。

 ここまで読んでくださった皆様に対しては誠に申し訳がたちません。
「小娘の妄想をもっともらしく吹聴して読み手を惑わすなどとはけしからん、騙された!」
と言って憤慨なさる方も居られることでしょう。
 でも、聞いてください。
全ては妄想、狂気の幻影、この余りにも人を小馬鹿にしたようなオチというのが、
結局現実の世の全てを縮図にしたものだと思うのです。
どんなに装飾に彩られた世界も、最後はとことん萎んで見栄えのしない屍骨を呈するばかりなのですから。
それがこの物語を編纂する上で、私が辿りついた一つの結論なのです。
481桃月怪奇譚最終夜:2006/08/23(水) 17:48:17 ID:???
 なお、この桃月怪奇譚編纂にあたり、
多くの人から様々な支援を受けたことに関して、
この場を以って一括して謝辞を述べたいと思います。
特に、こんな拙文の文章校正を快く引き受けてくださった高見沢ハルカさん(最初、第一夜の草稿を持っていったときの彼女の戸惑いに満ちた顔を今でも忘れられません)、
おじいちゃん先生、専門知識を惜しみなく提供してくださった宮本先生、ベホイミさん(私の出番が無かったッス、と言わないでくださいね)他。
 そして、物語の中で殺されたり、発狂したりの汚れ役を引き受けてくださり、
その名前を借用することを承諾してくださった学園の友人の皆、ゴメン、そしてありがとう。

 最後に、この物語の原作者にして不世出の奇才作家、白鳥鈴音と彼女の創作の原動力となった秋山乙女。
二人は私の永遠の親友で、何物にも代え難い宝物である。
結びとして、この書を彼女ら二人に捧げたいと思う。
本当に、本当にありがとう。


では、皆さん、お約束ですが、お付き合いください・・・・・・せーの、


「おしまい!」
482マロン名無しさん:2006/08/23(水) 17:57:50 ID:???
>>481


「……なんて事を思いついたんですけど、面白いと思いませんか?」
「その想像力をもっと他の方向で役立てたらどうだ?
 それと、秋山、白鳥、片桐、一条その他に謝れ」

実は晶の妄想オチでしたwww
483マロン名無しさん:2006/08/23(水) 18:03:47 ID:???

語り手は綿貫だったのだな
最初稲川潤二だと思った
484マロン名無しさん:2006/08/23(水) 22:23:57 ID:???
乙。
ではこの言葉を贈らせて頂く。

ししまい
485マロン名無しさん:2006/08/23(水) 22:50:48 ID:???
>>481
乙!!!んでもってGJ!!!
いつか誰かが言ってた「おしまいが鈴音っぽい」が現実になるなんて…

もはや疑い様がねぇ…鈴音は神の悪戯で運命付けられたインサニティーライター(狂気の作家)だ
486マロン名無しさん:2006/08/24(木) 00:16:35 ID:r8kenVAj
>>481
なんか「世にも奇妙な物語」をみてる気分になった

くるみの話から・・・
487マロン名無しさん:2006/08/24(木) 01:14:46 ID:???
>>481

すげー
鳥肌立ちましたよ・・・

ついでに夜中にトイレにも行けなくなりましたよ・・・
488マロン名無しさん:2006/08/24(木) 04:43:55 ID:???
>>481
Z。

いいねこれ。
489マロン名無しさん:2006/08/24(木) 18:48:21 ID:???
うほほ
490マロン名無しさん:2006/08/24(木) 23:43:48 ID:???
マホホ
491マロン名無しさん:2006/08/25(金) 23:43:20 ID:PYZNbWTz
ブホホ
492インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:15:41 ID:???
2週間ぶりに投下
むちゃくちゃ長い上に学級崩壊関係ないラノベ的な内容になっていますが、
始めた以上責任を持って終わらせますのでもう少しお待ちください。
493インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:17:17 ID:???
「痛い……、傷の痛みだけは、いつも同じ……」
 赤と黒とが、禍々しいまだら模様を成す空間に、彼女はいた。一条さんである。
その傍らには、ジジイと光が倒れている。
2人は、職員室で晶に殺されそうなところを、一条と一条祭に助けられたのだ。
そして、今は3人とも一条祭の中にいる。

 ふと、ジジイの周囲の空間が歪み、ジジイを飲み込もうとし始めた。
「もう……、お腹が空いたのですか? ふむ、これでは今後の行動にも支障が……、
 おじいちゃん先生は、戦力としては当てに出来ず、今回はもう死ぬしかありませんね……。
 いえ、そう判断します。一条祭、食べても構いませんよ」
 一条がそう言うと、ジジイを包む空間の歪みはいっそう激しくなり、ジジイごと乱れに乱れ、かき消えた。
そして、それに合わせるかのように、晶に傷つけられた一条の傷が、たちまち消え失せた。
「ひぃっ……!?」
 一部始終を見ていた光が悲鳴をあげる。
「た、助けてくれたんじゃ無かったの……?」
 同情を引くような目で光は一条を見つめる。その視線は、震えている。
無理も無い。死の危険を回避できたかと思えば、助けてくれた恩人も、得体の知れない相手だったのだ。

「二階堂さん、助ける際に言質を取らせていただきましたが、あなたは助かりたいと言った。
 確かに言いました。だから、私に協力してもらいます」
「……協力? す、するよ。で、出来る範囲、いや、何でも、や、やらせて下さい……!」
 光の、ヤクザ相手にするような懇願を受けて、一条は一瞬、悲しそうな顔になった。
「やっていただけますか。それでは……」
 そう言うと、一条は光に耳打ちをする。
本人はムードを出すための演出のつもりだったが、光は一条の一挙手一投足に気が気でなかった。

 人気の無い1年C組の教室に、突如現れた影があった。一条祭だ。
一条祭のふたが無駄に派手な音を立てながら開き、中から2人の少女が現れた。
「あなたの体は一条祭とリンクしており、今の宮田さんほどではありませんが丈夫になっています。
 それでは、健闘を祈ります。私には私の役目がありますので、また……」
 一条は再び一条祭に飲まれ、姿を消し、あとには光が残された。
その表情からは怯えが消え、不安と使命感の混じった顔をしていた。
494インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:20:08 ID:???
「ねえ、何か大きな音がしなかった?」
 都は、爆弾の起爆装置の基盤を半田付けしながら、言った。

「ん?そうかもね?」
 美由紀は、爆薬を発火しないように袋に詰めながら答えた。
「他の人たちが、来たのでしょうか……?」
 6号が、予備用のH8マイコンに焼くCプログラムを、
ノートPC上のソフトウェアで確認しつつ答えた。
「……お前ら手慣れてるな。驚いたよ」
 ベホイミが、銃刀法を無視して使える武器のひとつであるスリングショットの
強化ゴム部分を調整しながら、各員の順応ぶりにコメントした。
その口ぶりは、相変わらずメディアに向けるようなぶっきらぼうな物であったが、
時を経るに従って、高圧的な響きは薄れていった。

「宮田じゃないのは間違いないわよね?」
「ああ、webカメラでこの近辺の廊下は常に監視している。
 諜報部と乙女さんに鈴音、優麻さん優奈さんの小競り合いは確認しているが…」
 ベホイミは、この短時間に実によく戦う準備を整えていた。
実質安全に小分けするために美由紀を呼んだだけで、爆薬自体は前もって用意してあった。
起爆装置の準備も、最終段階前までの工程までは進めてあり、電子工作の得意な都にとっては、
遊びのような次元の手伝いであった。
備えあれば憂いなしとはよく言ったものだが、誰もこのベホイミの供えについては言及しなかった。
知る権利があるならば、知らないままでいる権利もまた、人は求めるものだからである。

「諜報部の連中も敵になる可能性はあるが……
 あの分なら、鈴音や芹沢に任せておけば制圧できるだろう。
 ただ、人手の事を考えると、出来るだけ穏便に収まって欲しいがな」
「……フフ」
 6号は、ベッキーの死を知らされ、さらに姫子の精神崩壊までを知らされ、
心が休まらない恐慌状態寸前にあったが、自分がしっかりしなくてはと気を張っていた。
そんな中、ベホイミの言葉の節々に感じられる周囲への気遣いに気づき、何とか悲しみに沈みきることは免れている。
今のベホイミの言葉も、声の調子から、全員の身の安全を心配しているのが丸分かりであった。
495インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:23:39 ID:???
「8割がた準備が終わったので、今のうちに打ち合わせをしよう」
 ベホイミがこう切り出した。物よりも人の準備を先に済ませたい。
話しながらビデオの受信モニターにスイッチを入れ、今の晶の動向を拡大して見せた。

「宮田が、あちこち破壊しながらこちらへ向かってきている」
 ベホイミの言うごとく、晶は片っ端からあちこちの部屋に入り、
破壊行為を繰り返しており、その一部始終をカメラが捉えていた。
「ずいぶんと変わったものが散乱していますね」
「ああ……クビんなったあのイヤミの私物か……。
 あちこちの業者から物もらってたけど結局学園に差し押さえ食ったんよね……」
 玲かベッキーの差し金で解雇処分になった教諭の私物保管庫が荒らされているらしい。

「へえ……ツインファミOンにレコード再生機……あ、ポン刀まであるわ。
 先にあそこを調べればよかったかしら?」
 都たちは、バラエティを見るような感覚でそれを見ていた。
「慣れない事を思いつきでやるのは、思っている以上に危険だ。私のやり方では、あそこの物は必要ないと考える」
 ベホイミはそう言うと、対宮田晶戦の打ち合わせを続けた。
背後の別モニターは、神原に操られた来栖柚子のドジラと、
猫部長から託されたスーツを身にまとったロボ子の戦いを映し続けていた。

 誰に見咎められもせず、見届けられもしない戦いだった。
傍らの乙女、響たちは自分のことだけで手一杯で、全てをロボ子に委ねていた。
ロボ子とドジラは、いずれも提供された着ぐるみ、いわばパワードスーツを身にまとっていて、
どちらが有利かといえば、容赦の無い攻撃を繰り出すドジラのほうであった。
ドジラの中の柚子は、相手のロボ子が茜であると知ってなお、何の動揺も見せなかった。
いや、ロボ子を見て以来、まともな会話すら成り立たなくなっていた。
ロボ子を見たことと、宇宙人に施された処置の相乗効果で、演技者として完全にドジラと一体化してしまったようだ。

 それでも、2人の戦いはいつもどおり行われた。
もしカメラワークさえ一定であったなら、過去と比較してバンクと見まごうほどである。
力強く、ガッツとファイトに満ち溢れた戦いが、そこにはあった。
496インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:30:09 ID:???
 戦いのさなか、茜が柚子へ向かって声をかける。
「ドジラ……いや、来栖ちゃん、君を止めてみせる!」
「がおー……!」
 茜は、あえて決着とは言わなかった。続いて長口上を述べた。

「来栖ちゃん…私たちはお互いをお互いだと知らないで、何度も戦ってきたよね?
 じいちゃん先生の手前、顔を出せなかったりして……、
 でも、会うたび戦いになるのは変わらなかった。特に意味もなく戦ってきた。
 だから、今更他人の書いた筋書き通りに戦うのはやめろなんて言えない…。
 私たちは演劇部と映研に分かれているとはいえ、役者であることに代わりは無いんだから。
 でも私は、来栖ちゃんに悪い宇宙人の手先なんて役を演じてほしくない!」
 茜は、猫部長の『悪い宇宙人に諜報部が乗っ取られた』という情報を半信半疑で聞いていたが、
ドジラと戦ううちにそれは確信へと変わった。何の新しいアクションも見せないドジラなど今までの経験上ありえない。
「がおー!」
 柚子は言葉を受け止めずに攻撃してきた。
茜も駆け出した。始めから答えてもらえるものと思わなかったようだ。
美しい走りだった。両者ともに、互いのことしか目に入っていない。
そして、この一撃で決着をつける気であった。
そして、ドジラの右拳がロボ子の顔面に突き刺さる。

 乙女は息を呑んだ。悲鳴も出ず、ただただ血の気の引くのみだった。
(芹沢……! 死ぬな、死なないで……)
 心中はその一念で埋められた。次の一瞬までが永遠のように感じられた。
そして、次の一瞬―
「うぅうぅっぉおおおおおおおおおおお!!」
 茜の叫びとともに、ロボ子の左拳がドジラの脇腹に突き刺さり、一瞬の間を持って衝撃が駆け巡った。
「せっざぁぁぁぁああ(芹沢)!!」
 乙女も叫びだしていた。目は輝き、頬は紅潮し、まるでヒーローショーに興奮する子供のようであった。
その声に導かれたかのように、響、鈴音、優麻、優奈の瞳にも生気が戻ってきた。
そして―
「い、痛い、です……」
 ドジラの中から、少女の声が聞こえてきた。それは、茜の勝利を意味していた。
497インプランタ晶:2006/08/26(土) 06:57:34 ID:???
「やったな! 芹沢〜」
 乙女が茜に抱きついてきた
悪いことが重なったためか、茜が一筋の光明に見えたのであろう。
鈴音やベッキーにすら滅多に見せないような、恥も外聞も無い満面の笑みを浮かべていた。
「秋山……、って、変なとこ触るなよ……あ〜、ほら、ロボ子の頭が壊れた〜」
 ドジラからの痛恨の一撃に耐え切ったロボ子ヘッドは、役目を終えたかのようにひび割れ落ちた。
今は、茜の猫耳状の癖っ毛だけでなく、乙女に抱きつかれて照れくさそうな顔まで見えている。

「乙女のばか〜、浮気者〜」
 鈴音が口を尖らせてすねている。少しだけ立ち直れたようだ。
「……ふっ」
「……ふふ」
 柏木姉妹も、力なく笑う。
鈴音から修の死を聞いて、同じく悲嘆に暮れていたが、鈴音同様に少しの元気は取り戻せたようだ。

「まずは気絶した来栖ちゃんをどこかへ運ばなくちゃな」
「脱がしたほうが早いんじゃねーか?」
「そうだな。優麻に優奈、お前らが手伝ってくれれば早い。頼む」
 柏木姉妹は2つ返事で了承し、柚子はすぐさま着ぐるみから解放された。
「次は運ぶ番か。鈴音……は危なっかしくてだめだな。
 響! 早く気を取り直して手伝ってくれよ! おい、諜報部!」
「んっ!? あれ、部長がいない……?」
 響は正気にこそ返ったが、猫部長と諜報部の打ち合わせをして以来の記憶が無く、
また、神原の事も記憶から消え失せていた。
とりあえずは、柚子を連れて安全な場所へ逃げることで全員の意見はまとまった。
鈴音が、職員室、保健室の方は行っちゃダメ、と言い出し、以降は鈴音の危機探知能力に頼ることになった。

「へえ、やはりやっつけの強化処置では、純地球製のパワードスーツにも勝てないか。
 しかし、今の宮田晶さんから命を守るには、彼女を殺すほかない。
 火器も爆弾も無しでは、到底無理な話ですよ……。健闘を祈ります」
 物陰、いや、明らかに気づかれるような距離から神原は乙女たちを見送った。
恐らくは、宇宙人側の本格的な技術でステルス効果を得ているのだろう。
498マロン名無しさん:2006/08/26(土) 15:15:44 ID:???
>>497
相変わらず面白いっス
GJ
完結まで頑張ってください
499マロン名無しさん:2006/08/26(土) 16:04:41 ID:???
>>497
GJGJGJ!!
アニメで観たいと思った。
最後まで頑張って下さい。
500ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:14:26 ID:???
ヒメコ・クールを合言葉に、お遊びで書き始めたらいつの間にか
とんでもない大長編になってしまった作品。てか長い。普通の中篇小説並みダヨ…
ネオ・ハードボイルド・スタイルの文体で、ドライ/ウェット混交の文章をシンプルに。

とにかくかつてない量の駄文なので、なかなか完結しませんが、お手柔らかに。
501ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:16:56 ID:???
第一部 宮本先生の死
<5月18日 1700時 1-C教室>
 宮本先生が死んだ。自殺だった。聞くところによると、教室の電燈に縄をかけ、首を吊ったということだ。
足元には英語と日本語とでそれぞれ書かれた家族宛てと教え子宛ての遺書が残されていた。
内容は双方とも簡素に「疲れました。ごめんなさい」という具合のものがワープロで打ち込まれており、
職場ストレスによる疲労を苦にしての自殺と考えられた。
教室にぐったりと吊り下がった先生の屍を見つけたのは一条さんだった。
 その後の警察による見解でもやはり自殺という結論に達し、捜査は一件落着となった。
 ところが、ただひとり、現実を受け入れることの出来ない人間がいた。
「ベッキーが死んだ?・・・・・・嘘だよ、そんなの。ベッキーは天才だよ?ちびっ子だよ?
死ぬわけないじゃん、ねぇ、玲ちゃ・・・・・・」
「もうやめろ。やめてくれ、姫子。ベッキーは死んだんだ。
これ以上ベッキーの話をするのは止してくれ。私だって気が滅入りそうなんだ。
悲しいし、怖くて堪らないんだ・・・・・・」
 玲は姫子の語りかけを振り切り、耳を塞いだ。教室全体が重苦しい雰囲気に包まれ、
二人の滑稽なやり取りが凍てつくような空気に響いていた。
「・・・・・・ゴメン。でも、私、やっぱり実感がわかないんだ。ベッキーが死んだって・・・・・・
私、バカだからこういう時どういう風に表現すればいいかわからないんだけど、
なんか、悲しいと言うより、すごく空しいんだ」
「姫子・・・・・・」
 玲と姫子は互いに見つめあうと、言い知れぬ‘空しさ’を相手の姿に見つけ、
その瞳から灼熱の涙を溢した。あんなに泣いたのに、涙はまだ出てくる。
涙だけは、永遠に・・・・・・なんて空しいんだろう。
「玲ちゃん・・・・・・ベッキー、本当に自分で首を括ったのカナ?」
「そうだろ?そうって聞いた」
「でもさ、あの日もベッキー、いつもと同じで、特に思いつめている感じもなかったよ」
「死を直前にすると、誰でも案外冷静でいられるんだろう」
「でも、何かちょっと納得できないんだよね・・・・・・本当に自殺なのかな」
「おい、よからぬことを考えているんじゃないだろうな?」
「うぅん、何でもない。ゴメン、変な話しちゃって・・・・・・」
 姫子は教科書を取り出すとじっとそれを見つめていた。
502ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:20:32 ID:???
第二部 探偵もどき
<5月20日 1730時 1-C教室>
 姫子はよからぬことを考えていた。ベッキーは自殺なんかじゃない。殺されたのだ。
姫子の持つ灰色の脳細胞が突発的に覚醒し、この事件が何者かによって仕組まれた、
計画的殺人なのであると信じて疑わなかった。無論根拠なき確信である。
 しかし、確かに疑わしきところはあった。まず、縄のかけられた位置だ。
警察の発表に拠れば天井の電燈に縄がかけられていたという。
ところが、ベッキーはまだ11歳。黒板にもやっと手の届くくらいのあの小さな背丈で、
たった一人、果たしてそんな芸当が出来るだろうか。
 他にもある。それはあの遺書。
同じような、至極簡潔な文句のためにわざわざ二通も用意するのはおかしい。
ワープロ入力の文字であったというのも怪しいものだ。
いくら論文でワープロ慣れしているとはいえ、遺書にそれを用いるなんてのは余りにも常識はずれだ。
ベッキーは天才だけど非常識ではない。これは偽装工作の可能性が大いにある。
 姫子は実在の明らかですらない殺しの犯人の影をはっきりとその視線の先に見据えていた。
そして、そいつを自分の手で捕らえようと考えていたのだ。そうして、犯人逮捕の手柄を、
亡き宮本先生の菩提に添えようと考えていた。任侠の言葉でいえば、「仇討ち」というものである。
 警察はとっくに捜査を切り上げ、姫子以外にちびっ子先生の死の不審を追求しようとするものはいなかった。
誰もが、それを乗り越えるべき古傷として忘却に努めようとしていたくらいなのである。
決して薄情なことではない。高校生の非力な身分では、それが限界だったのだ。
 姫子はここのところ、放課後になると、漫研の会合にも行かずに、ずっと教室の中をうろうろと歩き回っていた。
彼女はそこに何か、警察ですら見落としたような犯人の足跡があるのではないかと睨んでいたのだ。
503ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:22:42 ID:???
 今日も一通り教室を見回り、案の定何も見つけられないことが分かり、お次は宮本研究室に向かうことにした。
あれ以来研究室には他の先生や宮本先生の遺族、警察、記者、様々な人が出入りしてシッチャカメッチャカに荒らしていたのである。
そこから彼女の自殺の原因を探ろうとしていたようだが、そもそも自殺でない(と姫子は考えていた)のだから何も出るはずがない。
ベッキーが生前溜めていた仕事の山があるくらいなのである。
 だが、姫子はこれが他殺であるとすれば、犯人もきっとたくさんの人間に紛れて宮本研究室に出入りしていただろうと推測する。
余りにも計画的な殺人には、重大な動機を孕んでいるだろう。
おそらく犯人は既に研究室からそれを示すような証拠を持ち出してしまっただろうが、
代わりに何らかの痕跡を残しているかもしれない。
 姫子が教室を出ようとすると、ひっそりと静まり返った回廊から、彼女を呼び止める声がした。
驚いて振り向くと、そこには一条さんが立っていた。黒曜石の様な瞳が、夕焼けの瑪瑙色を映し、じっと姫子を見つめていた。
「あれ?一条さん?どうしたの。もうとっくに帰ったと思っていたのに」
「・・・・・・姫子さん。何をなさっているんですか」
一条さんは姫子の顔から視線を話さず、無表情に言った。
「一条さん、ベッキーを見つけたとき、何かおかしな点は無かったカナ?」
「いえ、特に・・・・・・まだ宮本先生の死因を疑っているんですか」
「うん・・・・・・あ、あんまり気にしないでね。私が勝手にそう思っているだけだから」
「そうですか」
一瞬、一条さんの表情が歪んだ。そんな気がした。
「一条さん?」
「姫子さん・・・・・・あまり無茶はしないで下さい。私・・・・・・何か不吉な予感がするんです。
宮本先生だけじゃなく、たくさん、たくさんの人の命が懸かったような・・・・・・」
「不安なの?」
「ちょっとだけ」
 二人の間に異様な沈黙が置かれた。一条さんはしばらく口の中で何事かを呟いていたが、
やがて、何も言わずに踵を返し、彼方へ逃げるようにして立ち去ってしまった。
504ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:25:32 ID:???
 宮本研究室に着いた姫子は以前玲が勝手に作った合鍵をポケットから取り出した。
もういらないから、と言って玲がくれたものだ。
穴に鍵を差込み、捻った。カチャ、と音がして鍵が動いた。
 姫子はドアノブに手をかけて回したが、あれ?鍵はかかったままである。
・・・・・・と、いう事は元々開いていたのだろうか。
しかし、事件以降この部屋は常に施錠されていたはずである。それが開いていたという事は・・・・・・
 突然、中から鍵が開き、扉が開け放たれた。中から出てきたのはよく見覚えのある顔だった。
「あれ?姫子さん。何をやっているんスか?」
「え?ベホイミちゃんこそこんな所で何を?」
 二人は互いを訝しげに見つめあって憶測をめぐらせた。この子、宮本研究室に何の用が?
「私は宮本先生に貸してあった本を探していたんス。ほら、これ」
見るとその手には分厚いハードカバーが握られていた。
洋書のようで、題名部分が酷く黒ずんでいたこともあり、姫子にはそれが何の本であるかは分からなかった。
「ふぅん。でも、鍵がかかっていたはずだよ。どうやって入ったの?」
「開いていたんですよ、元から」
「へぇ・・・・・・」
姫子はさりげなく鍵穴を見た。鍵穴の周囲に真新しい、不自然な傷が無数についていた。
おそらくは何らかの開錠ツールを用いたのだろう。なかなか強引な魔法少女もあったものだ。
「じゃ、じゃあ、私は失礼するッス」
姫子の猜疑的な視線を避けるようにして、ベホイミは出て行った。
その挙動は、明らかに動揺を隠しきれていなかった。
 姫子は部屋の中に入ると、散らかり放題の室内を物色し始めた。
大量の書類の山、床に散乱する書籍、電源の入らないパソコン、その他色々な道具。
量が量なので一つ一つを丹念に調べていく訳にはいかないが、
そこは姫子の野性的な勘とでも言うべきものが、不審な箇所に自然と目を向けさせるのである。
505ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:27:46 ID:???
 姫子は机の傍に積み重ねられた本の山を見つけた。
大量の本が、数本の塔を作り、それぞれがベッキーの背と同じくらいの高さに積み上げられていた。
おそらくこれはベッキーの死後にここを荒らしていった連中が作ったのだろう。
 姫子はしばらくそれを眺めていたが、ふと、気がついた。
塔の内の一本の頂上にだけ、全く埃が被っていなかったのだ。
おそらく出来上がってからまだ数日も立っていないだろう塔ではあるが、
この宮本研究室は空気の循環が悪く、もともと古い部屋を改造したものなので、
数日掃除をしないだけで、すぐに大量の埃が溜まる。
そうして、やっぱり塔の上には埃が薄い層を作っていた。ただ一つを除いて。
 姫子は回り込んで、その塔を作るハードカバーの背表紙を見た。
『ELEMENTS/EUCLID』と書かれており、同じ題名の本が下に向かって全部で12冊繋がっていた。
姫子はそれが何の本であるかは分からなかったが、しかし、ある重要な点に気がついた。
一番上の書のナンバーが‘U’から始まっていたのだ。そして、一番下が‘]V’、しかし本は全部で十二冊。
つまりナンバー‘T’が無いのだ。
 ベホイミが持っていったのか?しかし「貸していた本」がシリーズものの第一部だけというのはおかしい。
或いは、ひょっとしたら彼女は嘘をついたのか?彼女は何か別の目的があってこの部屋に入ったが、
姫子が鍵を開けようとしたので、咄嗟に本を掴み、言い訳を拵えたとか・・・・・・
 姫子はソファに座り込んで考え始めた。疑わしきはとことん疑え。姫子はしばらく髪を弄りながら思案に暮れていたが、
やがて立ち上がると部屋を出て鍵を下ろした。
 とりあえず、不審なベホイミの行動を監視してみようと思いついたのだった。
506ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:30:12 ID:???
第三部 謎の行動
<5月24日 1230時 屋上>
 昼休みが始まると、姫子は飛び出すようにしてD組の教室へ行ったが、そこにベホイミはいなかった。
聞く所によると、ここ最近では校舎の屋上で昼食をとっているらしい。
姫子は玲やくるみを誘い、自分たちも屋上で昼食をとろうと提案した。
 屋上にはベホイミのほかに数人の人がいた。誰も彼もが各々で仲良しグループを作り、
他のグループのことは眼中に無い様子だった。
 件のベホイミは、メディアと二人で、端のほうにちょこんと座していた。
姫子はその近くにさりげなく座り、玲とくるみを間に挟んだ。
 相手は姫子のことは気にもかけていない様子だった。
姫子は耳を欹ててみたが、会話の内容は分からなかった。
「おい、姫子。どうしたんだ、ボヤッとして?」
玲が心ここにあらずの姫子を捕まえた。
「うぅん、何でもない。ちょっと眠かっただけ・・・・・・」
「姫子、さっきの授業も寝てたでしょ?」
くるみが笑いながら言う。
「エヘヘ・・・・・・ちょっと寝不足ぅ」
姫子は作為的にはにかんで、その間も神経はずっとベホイミのほうに集中していた。
「夜中まで何やってるんだ?ゲームでもしているのか?」
玲が呆れ顔で訪ねる。
「そんな、ベッキーでもあるまいし・・・・・・」
そう答えかけて、姫子は口を噤んだ。途端に玲とくるみの表情が暗くなり、場が白けてしまった。
姫子は自分の無配慮を悔いて、慌てて話を変えた。
その時、偶然、視線の先のベホイミと目が合ってしまい、姫子は思わず顔を伏せた。
「じゃあ、夜中、何しているんだ?」玲が言う。
「漫画を読んでいるんダヨ」姫子、答える。
「やっぱり、姫子は姫子だなぁ」くるみ、笑う。
 実は、ここ最近、姫子は家に帰ると脇目も振らずに本を読み漁っているのである。
その大半が犯罪史や昔の殺人事件の記事、殺しの技術、果ては探偵小説に至るまで、
とにかく、この事件を読み解くに必要な知識を獲られそうなものは、片っ端から読んでいる。
勉強は苦手だが、無知のために重要な手掛かりを見落としてしまうのは避けたかったのだ。
507ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:32:15 ID:???
 姫子がじっと見つめているベホイミは、メディアと会話をしているようだが、
その様子はボソボソといった感じで、別段会話が弾んでいるといった様子でもない。
 あの二人が仲が良いというのも考えてみれば不思議なものだ。
二人とも転校当初からイロモノだったが、類は友を呼ぶというものなのだろうか。
それとも、何か他に二人には接点があるのか・・・・・・
 結局、その時は何の不審な点も無く、昼休みも終わり、屋上にいた人間も皆午後の課業に戻っていった。

<5月24日 1800時 桃月学園通学路>
 姫子は下校するベホイミの後をつけて行った。ベホイミは商店街のほうに歩いていた。
姫子はできるだけ怪しまれないよう、他の下校途中の桃月学園の生徒に紛れて尾行した。
 通りを抜け、人込みを抜け、明確な目的地を目指すベホイミの軽やかな足取りに、姫子は必死の思いで食いついて行った。
そして、ベホイミは、繁華街にある雑居ビルの中へと姿を消した。
 姫子は外からしばらく様子を窺っていたが、意を決して建物の中に入ることにした。
入り口の所で案内板を見ると、五階のところに「ペルシア貿易事業部」というカードが入っていただけで、
他の階は全て空きスペースのようだ。
 姫子はベホイミがここに向かったであろうと予測し、階段を使って五階まで上がることにした。
エレベーターは稼動していたが、外付けの階段には監視カメラが無かったためである。
508ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:33:54 ID:???
 姫子は鋼鉄製の階段を、音をたてないように忍び足で昇って行った。
そうして、五階にたどり着き、戸を静かに開けて中の様子を見渡した。
狭い踊り場があり、そこには「ペルシア貿易事業部」の入り口とエレベーター・ドアがあるだけだった。
ベホイミの姿は無かった。
 姫子は天井を見上げると、そこに監視カメラが目を光らせているのに気がついた。
自分の姿が見られているかどうかは分からないが、姿が映ってしまった以上、もう隠れたって仕方がない。
姫子は気にせずに中に入った。そして、「ペルシア貿易事業部」の戸に手をかけ、そっと開けた。
 扉は簡単に開き、姫子は中に入ることに成功したが、中に人の気配は無く、不気味なほどに静まり返っている。
さて、ベホイミはどこだろう?
 姫子は部屋の奥に進み、重役席と思われる上座のデスクに近づいた。
すると、その上にぽつんと手袋が置かれていた。
何の変哲も無いそれだが、しかし何か違和感を覚え、
何だろうと思ってそれに手を伸ばした瞬間、姫子は強烈な一撃を後頭部に受けた。
 朦朧とした意識の中で、後ろに立っていた人物に目を凝らしたが、
それが誰であるかを確認する前に、続けざまの一撃が姫子の顔面を直撃し、
姫子は気を失ってそこに倒れた。
509ラストマホ・スタンディング:2006/08/27(日) 02:35:02 ID:???
今日はここまで。
プロローグです。
510マロン名無しさん:2006/08/27(日) 02:39:07 ID:???
インプランタ晶、ラストマホ・スタンディング・・・

両方続き気になるーー!!!GJ!!!
511マロン名無しさん:2006/08/27(日) 23:27:04 ID:???
マホー!
512インプランタ晶:2006/08/28(月) 03:33:16 ID:???
 鈴音によると1年A組からD組までの廊下が一番安全だという。
修の死因については、晶が原因であるということしか鈴音は話さなかったが、
鈴音の発言の根拠同様、誰も追及する者はいなかった。
晶が異常者だというのは、家庭科室での挙動で証明済みであるし、
茜の話で、今学園が宇宙人に何らかの手を下されている事もわかった。
しかしこんな範囲の事がわかったところで心の健康には何の足しにもならず、
できるだけ思考停止したかった。全てを考えようとすれば、気が変になりかねない。
そのため、一同はとにかく何か行動の指針が欲しかった。
鈴音のテレパシーでも姫子のマホアンテナでもどうでもよかった。

 そうして1年教室の廊下まで歩く道すがら、ふと響がこんな事を言い出した。
「あ、ちょっと悪いんだけど……、私はいったん諜報部によらせてもらうわ……」
「響! お前まさか!?」
「いや、洗脳はもう解けてる解けてる。ただねー、今のままだと疲れるのよ……いろいろと」
「どういうこと? 響ちゃん」
 響と乙女の会話に優麻が割り込む。
「あ、そうかー」
 優奈が何かに気づいたようだ。
「響ちゃん、さっきまでのゴタゴタでコンタクト、落としちゃったのね」

「それで、行くのか? メガネ取りに部室まで」
「最後にバッグを持っていたの、諜報部の部室なのよ……」
「今一番危険な場所じゃねーか! 黒丸メガネが黒幕なんだろ? 
 どう考えても罠仕掛けてんだろ。私でもそーするぜ」
「乙女がやるんなら私もー」
「私も」
「あー優麻ちゃんずるいー、私もー」
「お前ら……平和だな……」
 鈴音と柏木姉妹の続けざまのボケに、茜が突っ込みを入れた。
513インプランタ晶:2006/08/28(月) 03:36:59 ID:???
「私と響の2人なら、いざってときもすぐに逃げられるから、心配すんな。
 来栖はまだ目が覚めてないし、優奈はどんくさいから、鈴音はそっちについててやれ」
 乙女はこう言い、響がメガネを取りに行くのに付き添った。

「じゃ、こっちは早いとこ1年の教室の近くまで行かなきゃな。
 あそこら辺は安全なんだろ、鈴音……?」
 来栖に肩を貸して歩きながら、茜が鈴音に笑って声をかける。
「……うん、間違いないよ。安全」
(……やっぱり、さっきまでの元気は空元気だったのかよ。
 まあ、桃瀬の兄貴のほうが死んだって知って辛い時に、秋山と別れたのはきつかったかな)
 茜は、鈴音の声色が明るくないのに気がつき、安易に声をかけたのは無神経だったと後悔した。
(双子……、優麻に優奈、はお取り込み中みたいだな、何かヒソヒソ話してる)

 鈴音と茜に遅れること数歩の距離で、柏木姉妹は小声で話をしていた。
「……ねぇ、今私たちを狙ってきてる宇宙人って、やっぱり……アレだよね?」
「少なくとも、宇宙人と聞いてまず浮かぶのは、あの人たちだし」
 柏木姉妹は、色々あって宇宙人とは顔見知りであった。
「何で? ベホイミちゃんを支援するって言ってたのに……?」
「知らないけど……、もしかしたら私たち、体よく利用されてたのかもね。
 ベホイミちゃんって、結構すごいレベルじゃない? 運動神経とか……、
 地球人の生体データを取って、侵略のために活用するつもりだったのかも」
「それは特撮の見すぎよ……きっと」
「宇宙人に本当に会うなんての、それ自体があり得ないことなんだから、
 この際考えられる限りを考えるべきなのよ……、
 響ちゃん、柚子ちゃんは軽く洗脳されたんだって言ってたじゃない?
 ということは、晶ちゃんは本格的に全身、改造されたのかも」
「でも……、それがわかったって私たちにはどうしようもないよね……?
 ただの女の子じゃ、戦闘員Aにだって勝てないよ?」
「……ベホイミちゃん、どこかにいないかしら」
「都合よく1年教室のどれかにいてくれればね……」
「そう、うまくいくわけないよ……」
 双子の会話はそこで途切れ、後は重い空気のまま、ただただ足を進めた。
514インプランタ晶:2006/08/28(月) 03:45:47 ID:???
「あ、皆さん、無事にたどり着けて何よりです。お水をどうぞ」
 目的地である1年教室のある廊下、そこへ足を踏み入れてすぐ、6号が現れた。

「何よ、何なのよ! 知ってたんなら迎えに来てよね!」
「本当に……怖かったのよ! ベホイミちゃんに会えたのは嬉しいけど!」
 水をがぶ飲みしながら柏木姉妹が文句を言う。
「来栖ちゃんを寝かせたいんだけど……」
「それならここにシートを敷いて、それから寝かせてやるといいっス。
 シートは、6号さん、手伝って欲しいっス」
「6号はさっきからパシられっぱなしだから、私が手伝うわ」
 それを無視してベホイミは茜と話す。口調はいつもの彼女に戻っている。
「なかなかうまいっスね」
「うん、旅先でね、教授とメディアに教えてもらってるから」
「……そうなんスか」
 ベホイミは、なぜかメディアがいないのを今思い出したような気がした。
本来なら、自分の隣で敵に対抗するための手伝いをしてくれるにふさわしいはずの相手なのにである。

「そっかー、あいつ、死んじゃったのかー……」
 美由紀は、鈴音から職員室組の全滅の報告を受けた。
鈴音がテレパシーで察した以外に、茜が猫部長から聞いた話もあるため、事実だとしたのだ。
「先生、気を落とさないで……?」
「お前が珍しくマジな顔して話を切り出すから、この世の終わりかと思ったわよ。
 そんな目で見んなって。こちとら大人なんだから、悲しいことがあっても、それに引きずられたりしないの。
 ま、あいつに飲み屋でおごらせられなくなったのは痛いけどねー……。
 あ、ベホイミ、もう火薬のほうはいいのよね? ちょっくらタバコ吸って来るわ」
 そう言うと美由紀は、1人1−Dの教室を出て行った。

「ふぅ、これで安心だな……って、あれ、おかしいな?
 目の前が歪んで……? ドジラに頭を殴られたの、今頃聞いたのかな?」
 誰かがそっと、ティッシュを箱ごと差し出してくれた。
そこでようやく、茜は自分が今、どうなっているのかに気づいた。
515マロン名無しさん:2006/08/28(月) 04:06:39 ID:???
続きキタ―――!! 芹・・・

ところで連投規制ってあるにょ?
516インプランタ晶:2006/08/28(月) 06:57:01 ID:???
 1−D教室から少し離れた1−B教室で、美由紀は窓の外を見ながらタバコを吸っていた。
彼女は、1−D教室から誰かが歩いてくる音に気づいた。
(6号ちゃんじゃあ無いな)

 果たして、足音の主は、鈴音だった。
「てっきり、6号ちゃんあたりが心配して来てくれたのかと思えば……、
 なに? もう決行? ベホイミの奴、気が早いのな……」
「……どっちも違います」
「ん?」
「6号さんでもベホイミちゃんでも無く、私が先生に用が、いえ、心配で来たんです」
「おい、副流煙の方が体に悪いのよ? こっち来んな」
 構わず鈴音は窓際の美由紀の所へ、歩を進める。
「く、来んなって! おい!」
 美由紀は窓の下にタバコをすり付け、火を消し、その場から逃げようとした。が―
「だって先生、泣いてるじゃないですか!」

「……情けない顔、見られたくなくて出てきたのに、あんたはどうして気が利かないかな……」
 鈴音に両肩を掴まれ、美由紀は涙を流しながら微笑む。
「6号さんは、そのつもりだったみたいです」
「さすが6号ちゃんは気が利くわ。そう、こういうとき、私は1人でいたいの。
 あんた、私とそんなに話したこと無いわよね? それなのに何だってここに……?」
「たぶん、聞かない方がいいと思います。ただのおせっかいだって、思ってくれればいいです」
「そういう風に言われるとかえって聞きたくなるんだけど?」
「……先生が、乙女に似てるからです」
「は……?」
 美由紀は驚いた。そんな答えは予想していなかった。

「髪型とか……、乱暴でだらしないとことか……、けっこう似てますよ?」
「私は高校生の時分でも、あんなにちっこく無かったけどなぁ……」
「まあ、似てるってのは中身のほうなんですけどね……。
 ほら、2人とも、ちびっ子先生のことを、『ベキ子』って呼ぶじゃないですか?」
517インプランタ晶:2006/08/28(月) 06:58:19 ID:???
 美由紀と乙女の共通点について鈴音がある程度指摘すると、今度は美由紀が口を開き始めた。
 早乙女との馴れ初めのこと、大学が違うから会うのに不便だったこと、
うまく2人とも桃月学園に就職できたこと、まだ本格的な付き合いはしていないこと、などを話した。

「一緒に飲んだり、まー、裏であれこれしたりして、楽しかったんだけど、
 好き、だったのかなぁ? 今になっても、わかんないわね」
 鈴音は答えない。しかし目は真剣なままだ。
「あんたは? 桃瀬としばらく2人っきりで遭難してたけど……、
 急接近とかはしてねーの? ん? ん? 教えなよ?」
「いやー、嫌なとこ突いてきますねー」
 ここで鈴音は口元を緩ませ、敬語こそ使えど、いつもの調子に戻って話し始める。
「桃瀬くんについては、まあ、ノーコメントってことで」
 鈴音の発言を聞いた美由紀が、「ずりー」と相槌を打つ。

「はい、私、けっこうズルイ子なんですよ。
 今だって、乙女の代わりに先生のとこに来て、寂しい気持ちをごまかしてる。
 涙も、桃瀬くんが死んだってわかったときは流れてたのに、今は止まっちゃった。
 もしかしたら、悲しいんじゃなしに、人に見せるためだけに泣いていたのかもしれない」
「んなこたーないでしょ? 誰かと喧嘩したときなら、自分をさも哀れそうに見せるために泣くのもありだけど、
 好きな男が死んで泣くときに、そんな理屈は沸かないでしょ? むしろ一人になりたいもんよ」
「やっぱり、早乙女先生のこと、好きだったんですね?」
「……はめられたか」
 くっくっと美由紀は笑う。

「もう行っちゃうの? もう少し話したいな」
 ふと立ち上がり、教室を出ようとする鈴音を美由紀が引き止める。
「乙女を、迎えに行くんです。もうこっちはベホイミちゃんや先生がいるから安心だし。
 響は朝からフラフラしてて、何だか心配だし……じゃ、先生またねー!」
「次あったら、別に敬語使わなくていーからな」
「うん、桃瀬くんについても、ちゃーんと答えてあげるんで、よろしくー」
 そして、鈴音は去っていった。
518インプランタ晶:2006/08/28(月) 07:01:07 ID:???
「さってと、私も行きましょーかね!」
 美由紀は、最後に1本タバコを吸うと、1−Bの教室を後にした。

「あ、先生おかえり」
「うっす上原……6号ちゃんは……、取り込み中みたいね」
 美由紀は6号のいるほうへ目をやる。茜が泣き崩れ、6号が背中を撫でている。
先ほどまではロボ子として大立ち回りを演じていたが、スーツを脱ぎ、ただの女子高生に戻ったとき、
緊張感が一気に解け、多くの友達を失った悲しみが押し寄せてきたのだ。
最初は自分が泣いていることにも気づかなかったが、
6号に涙を拭くためのティッシュを渡され、ようやく自分の涙に気づいた。
それ以降は、ひたすら泣き続けている。雨に濡れている子猫のようだった。

「鈴音さんは、乙女さんと綿貫さんを追っかけて行ったっスね?」
「あー、そうよ。カメラがあるから大丈夫っしょ?」
「ま、準備はほぼ出来ているっスし、奥の手もあるっス」
「奥の手ねえ……。ところでお前、胸の十字ネクタイ? あれ、どうした?」
「あー、あれなら優奈さん優麻さんが貸して欲しいって言って……」
「あの姉妹……、どっか行きやがったってか……。これ以上死人を増やさないでくれよ……」
 迷惑そうな口調とは裏腹に、美由紀の表情は至極真剣だった。

 乙女と響は順調に誰もいない廊下を歩き、順調に諜報部の部室まで着いていた。
いかんせんドアがロックされていたが、力持ちの親友が駆けつけてくれたのでこれまた順調に部屋に入れた。
中も特に変わっておらず、響はすんなりとメガネを見つけることが出来、ここまで本当に順調だった。
どこかで落とし穴にはまっているのでは無いかと疑わしいほど順調だった。
ところで力持ちな少女が誰かをちょっとした説明を加えながら具体的に述べると、
乙女の親友で、お互い名前で呼び合う仲、少し問題もあるが、いつも笑顔を絶やさない明るい性格、
ベッキーとも仲がよく、茜と絡む事もある。
「……あ、あ」
「これで用は済みましたか? 乙女さん? 響さん?」
手早く結論を言うと、宮田晶ちゃん15歳が、2人がドアを開けられずに困っているところにたまたま通りかかって、
ドアを周囲の壁ごと削り取って中に入れるようにしてくれたのでした。
これでコンタクトなき今、メガネライフを満喫できます! ヒビキ感激!
519インプランタ晶:2006/08/28(月) 07:12:16 ID:???
鈴音が敬語を使って喋るのは書いていて違和感を感じましたが、
原作鈴音は空気を読める子だと思うので、先生相手には敬語を使うだろうと判断しこうなりました。
他にはTGを去年から読み始めたのでジャイ子(二階堂光)のキャラがつかめません。
けっこう重要なキャラなのですが。
喋り方はくるみに似ていて、病弱だけどかなりエロいと判断しております。
現在、ラスト付近の話まで構想し終えましたが、そこに至るまでの過程をどうしようか迷っています。
死人は、宇宙人に改造された晶以外は出ない予定です。
しかし、本来の予定を書くたびに大幅に変更しつつこのSSをお送りしているので、
どうなるかはわかりません。全滅エンドだけはありえませんが。
では、一眠りして大学へ行きます。
520マロン名無しさん:2006/08/28(月) 12:24:36 ID:???
GJJJJ!!!!

行ってらっしゃいませご主人様!!
521ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:39:13 ID:???
インプラ氏、オメガGJです。
とても美しい、叙情的なシーンにホロリときました。

ここからは幕間狂言、お目汚しのご無礼ご容赦の程を。
続き行きます。
522ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:45:22 ID:???
第四部売られた少女
<日時不明 貨物船 東シナ海洋上>
 姫子が眼を覚ますと視界一面真っ暗だった。
横たえた身体を動かそうとするが、うまく身動きが取れない。
先刻受けた一撃(どれくらい気を失っていたのか定かでない以上、先刻とは言い切れないが)によって脳震盪を起こしたらしく、
頭を覆うボンヤリは未だに抜けていなかった。
耳鳴りがして、うまくものを考えることができなかったが、次第に感覚が戻ってくると、姫子は烈しい頭痛に苛まれることになった。
 目も暗闇に慣れてきて、少し上体を起こそうと試みた。
しかし異様に低い天上に頭をぶつけ、頭痛を上乗せするだけに終わった。
どうも人一人がようやく入れるような鰻の寝床の様な筒状の個室に、缶詰にされているようだ。
 見ると手足が荒い麻縄で縛られており、全く身動きが取れない。
どういう状況なのかさっぱり分からなかったが、とりあえず今の自分はかなり危険な状態にあるらしいという事だけは理解できた。
 床が揺れていると思ったのは決して頭のボンヤリのせいではなく、どうも船の上であるらしいことが分かった。
――船?何で私が船に乗っているのカナ?
 姫子はここに来るまでの自分の行動を思い返した。ベホイミを追って、妙な雑居ビルに入って・・・・・・そこから先は覚えていない。
あぁ、もう!この頭痛のせいだ!
 姫子はげんなりとして瞼を下ろした。どうせ縛られているんだからどうしようもない。
今はゆっくり休んで、それからの事はそれから考えよう。姫子は体の力を抜いて、再び眠りに入った。
程よい暗闇に、船倉のゆりかごが異様に心地よかった。
 次に姫子が眼を覚ますと、頭の上の戸が開けられ、そこに何かが置かれる音がした。
不自由な身体を動かしてうつ伏せになると、それを照らす明かりが見えた。
「食え」
と、明らかに日本人ではない発音が暗闇の中で命令し、やがてその気配は足音とともに闇の奥に消えた。
 置かれたものは皿に一杯の食事と、ペット用の水皿に汲まれた水。まさか、これを犬みたいに食えというのか?
523ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:48:53 ID:???
 姫子は屈辱と羞恥で胸が一杯になった。だが、それ以上に空腹に耐えられず、それが一層悲しかった。
姫子は獣のように更にがっついた。涙をボロボロと流しながら。何もできず、ペットのように扱われて、
それでも出された飯をペットのように食わなければならない自分が腹立たしく、たまらなく悲しかった。
何で、何でこんなことになっちゃったんだろう・・・・・・?

 そんな状況が何度か続いた。姫子はやはり芋虫のように身体を蠢かせ、この恥辱に醜態をさらした。
その度に、涙があふれ、嗚咽をこぼした。が、よく聞くと、他にも闇の中で泣く声がする。
それも一つや二つで無い。ひょっとしたら、私の様なのが、まだ他にもいるのかしら?
 そうしているうちに、変節はあらわれた。個室で眠っていた姫子は突然そこから引きずり出され、甲板に連行された。
見ると、やはり同じ様な少年少女達が――それは年齢も人種も格好もバラバラであったが――たくさん連れて行かれた。
全部で二、三十人くらいだったろうか、みんな元気なく窶れ果て、薄汚れ、異臭が漂っていた。
久しぶりの外の光に、皆目を覆っていた。
 甲板に上がると、思っていたよりも遥かに大きな船であることが分かった。
貨物船のようだったが、どうやら荷物は人間のようだ。この場にいるのはそのホンの一部で、実際は何百人と載っているのかもしれない。
まるで大航海時代の奴隷貿易船だ。
 やがて屈強な外国人の男が出てきた。中東系の整った顔立ちで、頬に大きな傷跡があった。
男はまず何かよその国の言葉を三つ四つ話し(言語が変わるたびに東南アジア系の子供たちの首が動いていたため、おそらくそっちの言葉だろう)、続いて流暢な日本語で話した。
「君たちはこれから戦場へ向かう。到着するまでの間、この船の上で軍事訓練を行い、兵士に育てる。
役立たずは海に捨てる。叛乱者も海に捨てる。以上」
 姫子は周りを見渡したが、この言語に反応しているのは彼女だけだった。
この中に、他に日本人はいないようだった。
524ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:51:40 ID:???
 姫子はオリーブドラブ色のボロボロの戦闘服を支給され、整列した列の中に入った。
教練は全て英語で行われ、苦手だのなんだのとは言うまでもなくそれを覚えるより他になかった。
訓練は過酷で、体力もセンスも無い姫子は常に人一倍の苦行だった。
しかし、文句も言えず、かといって訓練中に脱落したらすぐにでもサメの餌である(既に当初いた何人かはいつの間にかいなくなっていた)。
 とにかく姫子は、文字通り死に物狂いで訓練についていった。
時には意味も分からない英語で罵倒され、激しく殴られ、床に叩きつけられても、それでも姫子は立ち上がり続けた。
彼女は、決して生きることを諦める事は無かった。
 助かったのは食事だ。訓練中はあのペットのようにみっともなく貪る姿を呈する必要もなく、
ちゃんと座って食事ができたし、配給量も満足ではなかったが、極端に少ないわけでもなく、これはよかった。
 しかし、寝るときはまたあの鰻の寝床である。縄をかけられなくなったことはいいが、
暗闇の中の孤独は否応なく姫子の神経をすり減らした。
 姫子たちがそこに監禁されている間、外では他のチームの訓練が行われているのだろう。
 やがて、そんな生活がどれほど続いたのだろうか。姫子の体力は次第に安定し、精神も落ち着いてきた。
姫子は集中力の低さから射撃は下手だったが、元来の性格のアグレッシブさが功を奏したのか、
格闘がなかなか得意で、チームの中では名うてのストライカーとして知らぬ者はいなくなった。
教官たちや、仲間たちは、いつしか彼女のことを「フリズ(アホ毛)」と呼ぶようになっていた。
 姫子は既に平穏な女子高生片桐姫子ではなく、少女兵フリズとして自己を自覚するようになっていた。
525ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:53:38 ID:???
 ある時、仲間の一人が片言の英語で姫子に尋ねた。それは姫子と同い年くらいの少女で、フィリピンから連れてこられたという。
大きな、真ん丸な目をぎょろぎょろさせて、その仕草はどこか、桃月にいた頃の姫子を髣髴とさせるものだった。
「ねぇ、フリズ。君はどうしてこの船に?売られたのかい」
姫子はフィリピン人に目配せすると、以前には考えられないくらいの落ち着き払った口調で答えた。
「ちょっとした手違いでね。私の親友を殺した犯人を追っていたんだけど、気がついたら船の中だったんだよね」
「親友を・・・・・・?」
「うん。私も迂闊だった。でも、私は必ず犯人を捕まえる。だからこんな場所で死ねない。
何としても逃げ出して、必ず日本に戻ってケリをつける」
「フリズ・・・・・・私はね、聞いて、両親に売られたの。
貧民街の生まれで、ここで食べさせてもらっているよりもよほど食べるものがなかったくらい貧しくて・・・・・・
両親は私を働きに出すつもりでいたんだけど、騙されてこの船に乗せられたの。
でも両親はそれでお金をもらったみたいだからそれでよかったのかもね。口減らしにもなったみたいだし。
ねぇ、フリズ。私、人生を変えたいのよ。過去に縛られることなく、恨みも何もなく、新しい人生を。わかる?」
 姫子は暫く宙を見つめて考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「わかる。だけど、私が奪われたのは未来なの。過去に未来を奪われたの。今の私は、その過去によってのみ生かされている。
貴女の言いたいことは分かるけど、私はこの過去を清算しない限り人間として生きることも死ぬことも出来ない。
悲しいけど、それが今の私なんだよね。えぇっと・・・・・・・」
「レベッカよ」
「え・・・・・・?」
「レベッカ。私の名前。ベッキーでいいわ」
「ベッキー・・・・・・?」
 胸に詰まっていたものが一気に吐き出されたかのように、姫子は急に泣き始めてしまい、
フィリピン人の少女はわけもわからなく、ただ泣きじゃくる彼女を胸に抱きとめてあげるほかどうしようもなかった。
「ゴメン、ベッキー・・・・・・ゴメン、ごめん、ごめんね・・・・・・」
一行を載せた船はゆっくりと、しかし確実に目的地に近づいていた。
526ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 16:56:43 ID:???
第五部 闇の大陸
<日時不明 アフリカ大陸東海岸某軍港>
 姫子たちが港に入ったのは深夜だった。港は不気味なほどに真っ暗で、灯りというものが全く見られなかった。
まったく、闇の陸岸だった。暗闇は海面と陸との境界を塗り潰し、
船は、上も下もない宇宙空間を航行しているかのようだった。
 だが、船は慣れた具合に容易く着岸し、行き足はそこで止まった。
波の音とエンジンの音だけがしばらく聞こえ、しかし、間もなくして埠頭に接続された桟橋の上を、
多くの人間の行き交う足音が聞こえてきた。
 姫子たちは甲板の上に出され、そこで初めて船に載せられていた少年少女兵の全容を見ることが出来た。
たくさんの子供たち。闇夜に船の弱々しい照明で浮かび上がる無数の人影。
 姫子はそこに、何かとても恐ろしい地獄の絵を見た気がした。
それは――自分も含めた――彼らの悲惨な運命についてではない。
もっと何か、得体の知れない、深い闇に蠢く不気味なものを感じさせるのだった。
目に見える悲愴よりも、もっと残酷で恐ろしい――
 姫子たちはそのまま港につけられたトラックに載せられ、どこかに運ばれることになった。
茹だるような湿気が肌に纏わりつき、夜でも蒸し暑い。日本の夏の夜を思わせる。
海岸線はこんなのだろうが、これから自分たちが送られるはずの内陸地では、強烈に乾燥した暑さに襲われることだろう。
 姫子は、何とか逃げ出せないかと辺りを見回したが、港の周辺はライフル銃を持った黒人兵が取り巻いており、とてもそんな余地はなかった。
トラックに揺られて数時間。海上で過ごした数週間か、数ヶ月に比べれば些細な時間であるが、その間に姫子は本当の戦場の空気をその鼻に嗅ぐこととなった。
 はるか遠くから散発的に聞こえる機関銃の射撃音、或いは砲弾の爆裂音。
または鼻の曲がるような異臭。糞尿の臭いか、それとも死体の腐乱臭か、それが硝煙の化学的な匂いや砂埃の泥臭さとともにやってくる。
なんて場所だろう、反吐が出る。
527ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 17:00:07 ID:???
 しばらくしてトラックが停車し、一部の者がそこで降ろされた。
その中にはあのフィリピンから来たベッキーも含まれていた。
 姫子とベッキーは別れを惜しむ間もなく引き離され、彼女の姿は闇の彼方へ消えていった。
これが姫子の見た彼女の最後の姿である。
その後、彼女がどうなったかは分からない。死んだのか、或いは今でもどこかで兵士として‘新しい人生’を謳歌しているのか――
 姫子の方はその後も暫くトラックに揺られ、目的地とされる戦場に向かった。
いよいよ姫子は、戦場という、これまで生きてきたのとは全く別の世界に投げ出されるのだ。


第六部 ベホイミの調査
<6月2日 1500時 1-D教室>
 ベホイミは悩んでいた。それは宮本先生の死に関することである。
彼女もまた――姫子と同じように――宮本先生自殺説に大いなる疑いを持っていた。
だがそれが姫子と違ったのは、姫子のような漠然とした、根拠無き確信ではなく、明確にその怪しさを説明できることにあった。
 だが、そうはいっても彼女の許にあるのは依然状況証拠ばかりで、やはり犯人の足には辿りつけないでいた。
 そこに来て最近また厄介な問題が浮上した。それが片桐姫子の失踪である。
まさか彼女の失踪が宮本先生殺しに関係あるとは思いたくないが、いささか気になるのは姫子が宮本研究室のあたりでうろちょろしていたことである。
おかげでベホイミの手元には訳のわからない数学書が残り、返しに行くに行けなくなった状況なのである。
「あら、ベホイミちゃん。そんな難しい本を読むなんてどうしちゃったんですか?」
 嵩張るような大書を手に溜息をついていると、メディアが頭を出してきた。
まったく、面倒くさい奴に見つかったものだ。
528ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 17:01:41 ID:???
「別に私が読むわけじゃないっス。たまたま、手違いと言うか・・・・・・」
メディアは相変わらずの笑顔を振りまき、本を見つめて言った。
「それ、宮本先生の本ですよねぇ?」
ベホイミは動揺を悟られないようにポーカーフェイスを維持したまま、眼鏡越しにこの奇妙なメイドの顔を眺めた。
「・・・・・・どうしてお前がそんなことを知っているんスか」
メディアはにっこりと微笑む顔を傾けて答えた。
「だって、宮本研究室の掃除をしたのは私ですから。それは一番上の棚に入れた覚えがあります」
「・・・・・・何だ、そうだったんスか」
「・・・・・・どうかしたんですか?」
 ベホイミは自分の推理をメディアに話そうと思って、しかしやめた。
やはりこれは自分ひとりで調査を続けるべきだと思っていたし、
何よりこのメディアと言う女は安易に信用すべきではないことを痛いほどによく知っていたのだ。
「何でもないっス。ちょっと感傷的になっていただけっス」
「ベホイミちゃんらしくないですよ」
「うるさい、アンタに私の気持ちはわからないっス」
 ベホイミはぷいと顔を背けたが、その先に二人の少女の姿が映った。
休み時間を利用して、仲良く一緒に談話している芹沢茜と来栖柚子。
幸せそうな二人の周りには、自分の周囲を取り巻くようなドス黒い空気は微塵も感じられなかった。
「あーあ、私もあんなふうに幸せな少女生活を送りたいっス」
「変なベホイミちゃん」
後ろでメディアが笑う。
「うるさい」
529ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 17:03:27 ID:???
<同日同時刻 1-C教室>
 玲は教室の奥の隅にある自分の席で、何気なく外を眺めていた。外を流れる雲は、如何にも平和で、長閑である。
しかし、実際のあの雲の中は、気流が渦巻き、凍てつくような気温で、とてもそんな悠長な世界ではない。
傍目から見ている分には何事もないように見えることが、実際にその中に身を投じてみると、
恐ろしく過酷なものだったというのはよくある話である。
「玲さん、姫子さんはどうしちゃったんでしょうかね・・・・・・いなくなってからもう一週間ですよ」
 珍しく一条がやってきた。彼女は姫子がいなくなってからと言うものの、すっかり気力の抜けてしまった玲を心配していた。
「あぁ、一条か。あいつのことだからまさかとは思うが・・・・・・でもベッキーの自殺以来ずっと元気がなかったからなぁ」
元気のないのは自分も同じである。しかし玲は自分を見つめなおすというのがたまらなく億劫で、そして怖ろしかった。
一条はそんな葛藤に悩む玲の顔を、いつもの無表情で見つめていた。
「知っていますか、玲さん?」
「何を?」
「姫子さんですが、どうもこの頃、宮本先生の遺品を漁ったり、教室を徘徊したり、様子がおかしかったんですよ」
「ああ、知っている。何でもベッキーは自殺じゃなくて殺されたんだって言って、
それを自分で調べるとか何とかで、いろいろやっていたみたいだからな。まったく、バカな奴だよ」
「そうでしょうか」
「そうさ。だって警察が調べても自殺だということで間違いないという話だろ?
いまさらそれを素人でバカの姫子が騒ぎ立てたって・・・・・・」
「だけど」
一条はゆっくり息を吸い込んで、それから続けた。
「姫子さんの勘は時々鋭く働きますよ。それに、私自身、ちょっと引っかかることがありまして・・・・・・」
「おいおい、一条まで何を言い出すんだ。最初にベッキーの自殺現場を見つけたのはお前だろ?」
「ええ。だからなんです。実は私、現場で警察には話していない、ある不審な点を見つけてしまったんです」
 玲の目が光った。丸い眼鏡の奥で、怪しげな眼光が、一条の口元を見据えていた。
「何があった?一条、話してみてくれないか」
「ええ、実は・・・・・・」
530ラストマホ・スタンディング:2006/08/28(月) 17:04:16 ID:???
今日はここまでです。どうもでした。
531マロン名無しさん:2006/08/28(月) 18:29:29 ID:???
ぼくはおもしろかったなあとおもいました
532マロン名無しさん:2006/08/28(月) 20:59:22 ID:???
きになる!!!Ωwktk!!!
533インプランタ晶:2006/08/29(火) 05:17:00 ID:???
 今からほんの数分前、響と私、秋山乙女が諜報部部室前に着いた。
ドアにはカギがかかっていた。カギは黒丸メガネが持っているか無くなっちまったかだ。
響も持っていない。今更手ぶらで帰るのも馬鹿らしいので、こじ開けることにした。
今は非常時だし、諜報部員の響が立ち会っているので問題ないだろう。
さすがに諜報部だけあって、針金だけで開けるのは難しい。
何分か苦戦していると、私たちの親友の「あいつ」が後ろから声をかけてきた。

「何やってるんですか? 逃げないの?」
 うるさいな。私だって逃げたいけど、響が困ってるのを放って置けるか。
お前は……、たぶん役に立たないな。何か器用そうな気がしない。
くそっ、シリンダー式じゃないのか? 何にしても頑丈なカギだよ。
「……ちょっと、乙女!?」
 今度は響が声をかけてきた。人が集中してるときに声をかけるなと言ってやった。
「開けてあげましょうか? 乙女さん?」
 あーもう! 集中できやしない! いいよ、好きにしろよ! 私は休憩だ!
勢いに任せて窓を開ける。風が無い。これも異変のうちかな? 知らねーけど。
何かが削れる音がする。後ろからだ。おいおい、ドアが壊れたらどうすんだ。別にいーけど。
そんな事を思いながらドアのほうを向くと、私の頭の中は真っ白になった。

 ドアが壊れる云々じゃなく、ドアが無くなってる。
鈴音でもやらないだろう。そういや、「あいつ」力持ちになったんだっけな。
「響、とっとと取って来いよ。メガネ。そのために来たんだろ?」
「……、そ、そうね」
 なぜか響は顔色が悪い。変なもんでも食ったかと、ありきたりなことを言うのはやめた。
早く帰らなきゃ、鈴音が、芹沢が心配するだろう。私らは「あいつ」から逃げて来たわけだし。
「あいつ」? 「あいつ」……? 「あいつ」………………!?
響がメガネをかけて出て来た。でもそれどころじゃないの。
足が震える。肩もそうだし、視線は落ち着かない。お母さんが見てたら行儀悪いって叱られちゃうな。
「どうしたの? もうすぐ夕方ですけど……、まだそんなには暗くないじゃないですか?」
 違うの。怖いのは暗いのじゃなくて暗いのもそうだけど。
響のメガネが見つかっていつでも帰れるけど目の前には「あいつ」、そう晶がいるの。
534インプランタ晶:2006/08/29(火) 05:18:24 ID:???
 乙女は、震えながら手をパタパタさせて、誰かの手を握った。
少しだけ安心する。暗いとき、怖いときは誰かに手を握ってもらえると落ち着くのだ。
「暗くないのに何が怖いんですか? くすくす……」
 晶の手だった。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ……ひぃ」
 叫び声をあげた。が、すぐにやめた。
「怖いんならもっと叫べばいいのに……、もし怖い人が来たって私がやっつけてあげますよ?」
 晶はニコニコといつもの笑顔で言った。血に濡れた制服を着ていた。

「……うう」
 響は、今日の朝からの記憶を失い、晶の変貌についても話にしか聞いていなかった。
しかも、その時は意識が朦朧としていたので、実感がわかなかった。
今になって、彼女はこう思った。ああ、記憶が無くてよかった、と。
もしなまじ記憶があれば、乙女のように震え上がって、逃げ延びるための策を打てなかっただろう。
ポケットにはこんなときのための備えがある。
煙がしゅわーと出たり、瞬間的にピカッと光って目くらましになったり、相手の足に絡まったりするようなグッズである。
(よし……これで)
 響はポケットからひとつ、何かを取り出した。
「これは危ないので預かっておきますね 神原」
そんなルーズリーフに水性ペンで書いたメモが出てきた。
「……あんの、糞メガネーーーーーーーーーーーー!」
 響も叫びだした。頭の片隅で、「あれ? 私覚えてるじゃん」と思ったりもした。

「ちょ……やば、ど、どしよぅ……? これじゃ、作戦のやりようがな……」
「……綿貫さんが取り乱してるの、かわいい」
 晶はそんな響を見て笑っていた。
「安心して下さい。ある人との約束で、当分はC組しか殺しませんから」
「C組……? だけ……」
 響は安堵した。自分は、乙女は、鈴音は、これ以上B組は殺されない。
スーラやヤンキー、担任の早乙女が死んだのは悲しいことだが、自分と親友が死ぬのはもっと悲しい。
続いてC組の面々、取り分け玲の顔が浮かびつつ、脳内物質が湧き出し、なぜか爽快感を覚えた。
(……玲が、死ぬ? 宮本先生はもっと先に……)
535インプランタ晶:2006/08/29(火) 05:19:22 ID:???
 思えば、響とC組の間には悪い思い出があった。
担任のレベッカ宮本はインタビューに非協力的だったし、
上原都にはテストのたびに睨み付けられたし、
桃瀬くるみは原チャリ事故を兄に隠蔽させるような女だし、
片桐姫子は躁鬱が激しく、毒々しい言葉を吐かれた事があり、
クラス委員の一条は、あまり害は無いが自分よりは下の人間のはずだし、
鈴木さやか、交友グループ内呼称6号のよい子ちゃんぶりはたまに呆れるし、
そして何より橘玲、諜報部のメンツをことごとく潰してくれたあの女、
とっとと死んでくれるならこれはラッキーではないか。

 自分が助かる安堵感に紛れて、こんな考えが頭をよぎり、口の端が歪んだ。
そして、次の瞬間、響は激しく後悔した。
(……わっ、私はいったい何を! 今、頭をよぎった考えはなに? 
 私、C組を、あんな目で見ていたの!? う、嘘、嘘……、嘘っ……!
 宮本先生は口は悪いけどいい子だし、都さんはトランシーバーを直してくれたり面倒見がよくて、
 くるみさんは、うまく言えないけど場に安心感を持たせてくれるし、
 姫子さんもそう、癪に障るときもあるけど、いい子なの!
 6号さんも一条さんも、人が嫌がることを進んでやるってすごいこと!玲だって、玲だって!)
「くすくす……、綿貫さんは、何が見えましたか?」
 自己嫌悪のあまり顔を背けてしまった響の顔を、晶が覗き込む。とても無理な姿勢なのに安定していた。

「不思議ですよねえ……、死ぬ間際って、あの、職員室で飽きるほど殺してきましたけど……、
 人間、死ぬ間際にはどこか遠い目をして、何かを見ようとしているみたいなんですよ……。
 ああ、うわごとを言う人もいましたね。確かジャージの人で……、私はあんまり好きじゃないんだけど、
 ほら、私、体育苦手なんですよね。ジャージの上下を見るだけで憂鬱になるときもあるし、
 あの先生、死ぬ前にたぶん、恋人かなんかの名前を言ってましたよ……。
 ベタ、だけど感動しちゃいました。みゆきぃ……ってね」
「……っ!!」
 晶の目を見つめることも、話を聞くことも怖くなった響は、耳を押さえてその場にかがみ込む。
(……イヤ、もう聞きたくない考えたくない何も見たくない)
 手で塞がれた響の耳に、空を切る音が聞こえた。
536インプランタ晶:2006/08/29(火) 05:21:34 ID:???
「鈴音!」
 乙女の声に呼び覚まされるように、響は一気に立ち上がり、そして、見た。
「鈴音……!」
「ベストなタイミングでかがんでくれたね、響! おかげでジャストミートしたよ!」
 駆けつけた鈴音の蹴りが、晶の延髄に直撃し、その勢いのまま、晶の顔は壁に叩きつけられた。

「晶っ!」
「晶ちゃん!」
 響は不思議に思った。なぜ自分は叫ぶのか。乙女も叫んでいるんだなとふと気づくほどに。
先ほどまでは、自分の代わりにC組が死ねばいいと思い、はてさてそれを思い直し、悔やんだ。
そして今は死の恐怖を自分に抱かせた相手の心配をしている。晶とは友達だった。
C組の人たちだってそうだ。親疎の差こそあれ、良いところも悪いところも見えるほど親しい友達なのだ。
「……死んでないよね?」
 壁にもたれ掛かった晶を見て、鈴音は少しだけ顔を曇らせる。眉間にはしわが寄っている。
こんなにも攻撃的で内に燃える物を持ったような鈴音を、乙女も響もはじめて見た。

 晶は黙って立ち上がり、姿勢を正す。鼻血は既に止まっていた。
そして、淡々とこう言った。
「そ、だね。普通の人なら死んでるところだね。たとえば、おデコの広い人とか」
「……ッ!」
 鈴音の目に憎しみの火が灯り、歯は音を立てて軋む。
これも乙女たちは始めて見る、そして二度も見たいとは思わないであろう鈴音の顔だった。
「私が壁に吹っ飛ばしちゃったら、いつの間にか死んじゃってた。
 桃瀬くんが私に掴みかかって来たから撥ね退けたつもりなんだけど、死んじゃった……。
 ま、くるみさんが人の話も聞かずに私を叩き起こすような真似をするからいけないんですけどね」
「言いたいことはそれだけ……? 予定は早くなったけど、晶ちゃん、あなたを……」
 そして鈴音は駆け出した。
「殺すよッ!!」
 晶はそれを涼しげな顔で、何の構えも取らずに見ていた。
鈴音と晶、両者の顔を善意の第三者の目で見れば、まず鈴音が悪者に見えるだろう。
そして再び、鈴音は蹴りを晶に食らわせる。助走、姿勢ともに高いレベルであった。
537インプランタ晶:2006/08/29(火) 07:06:02 ID:???
「痛ッ……!」
 だが、痛みを感じたのは鈴音の方だった。
つま先の部分に、晶が肘をぶつけて来たのだ。
脳内物質がダダ漏れ状態の晶には大したことの無い痛みだが、鈴音にとっては違った。
少なくとも、もう先ほどまでのような力強い動きは出来ない。足が鈍るのだ。
それでも鈴音は晶へ向かってゆくが、速力の落ちた蹴りのため、手で止められてしまう。
晶の手は、鉄で出来ているように硬く、鈴音は蹴るたびに顔を歪ませ、油汗を流すまでに至った。
そして―
「やめろ! やめてよ鈴音! 見逃すって晶は言ってるんだし……もうやめて……」
 乙女が鈴音に後ろから抱きつき、止めに入った。涙を流している。
「離してッ……! 離してよッ……!」
 鈴音は抵抗するが、その目にはやはり涙が光っている。

「いいの? 叶わない復讐をやろうとして死ぬことになっても?
 桃瀬くんとは恋人だったってわけじゃないんでしょ?
 意地張って、死ぬ結果になってまで、尽くさなきゃいけない相手?
 鈴音さんが死んだら、確実に悲しむ人がいるってわかっててやってる?」
 晶が言った。その目には先ほどまでの遊びの色は無い。
「うるさいな! 喋らないでよ!」
 
 そのとき、乙女と晶にとっては懐かしい音楽が鳴り響いた。
「あれ? ベホちゃんから着信だ……」
 晶は携帯を取り、電話に出、そして話を終え、切る。
「私には待っている人がいるので、これで行きますね。
 では、鈴音さん、綿貫さん、そして乙女さん、さようなら……」
 そうして晶は背を向けて去っていった。

「お前の事は忘れないよ……」
 いつか言った別れの言葉が、乙女の口をついて出た。
晶は、振り向かなかった。
鈴音は、地面に手を着いて泣き、響は、晶の背中を無言で見送った。
538マロン名無しさん:2006/08/29(火) 07:13:29 ID:???
朝からGJ
起きててよかった
539黒いメソウサ:2006/08/29(火) 21:56:38 ID:???
うさぎとかめを見せられて

「ばーか!!私に何を見せるのよ!?
 うさぎとかめって言ったら、うさぎにとって最も屈辱的な話じゃない!!」

一方で一寸法師をのビデオ見た時には

「ざまあみろ。カメにはこの姿がお似合いなのよw
 よーし今のシーン、もう一度みちゃおう
 へへへへへwwww」

そして夜な夜なベッキーにささやきかける言葉

「あなたの怒りが私の存在理由なら 
 離れないよ・・・ベッキー。。。」
540マロン名無しさん:2006/08/29(火) 22:34:45 ID:???
いい笑顔の優奈の元ネタがからくりサーカスだとさっき気づいた
541マロン名無しさん:2006/08/29(火) 23:49:21 ID:???
>>540
まとめサイトの管理人、あんまり画力高くないし、
模写は苦手だからわかりづらいよな。
次は姫子でカレー先輩ネタを描くらしいけど。
今度会ったらパロネタは最低限画力を身につけてからにするよう言っとくよ。
ま、俺のことなんだけどな。
542マロン名無しさん:2006/08/29(火) 23:59:21 ID:???
>>541
いや、俺の漫画知識が不足してただけだ。
特徴を捕らえてうまく描けてたと思うよ。
姫子のカレー先輩も気が向いたら書いてくれ。
楽しみにしてる。
543インプランタ晶:2006/08/30(水) 07:13:07 ID:???
 廊下の向こうに待っている人影二つを見て、晶はため息をついた。
「晶ちゃん、桃瀬くんの仇をうたせてもらうわ!」
「私もそうよ……。覚悟してね……」
 優麻と優奈だった。優奈の顔は優麻ほど勇ましくなかった。
優麻はかつて自分を暴走トラックから救ってくれた時のベホイミの変身スーツを身にまとい、
優奈は宇宙人と話し合って作った変身ヒロイン風のスーツを身にまとっていた。

「邪魔です。どいてください」
 2人に対して、晶は厳しい言葉を投げつけた。
「そう偉そうにしていられるのも今のうち、この、宇宙人さん謹製の変身スーツならっ!」
 優奈は、さっきまでの鈴音のように駆け足で晶に迫り、ハイキックを見舞った。
「やめてくれません? ……イライラしてくるんですけど」
 優麻が繰り出した蹴りは、晶に片手で止められ、返す手で優麻は吹き飛ばされた。
鈴音に対してしたよりも無慈悲な対処であった。あの時はまだ、本気ではなかったのだ。
「キャアアァアアアアア!」
 優麻の全身の筋肉が悲鳴を上げる。
出力を「中」にしたが、ベホイミ基準のため、体力に自身のある優麻でも荷が勝ちすぎたようだ。
「ゆ、優麻ちゃん……! このっ、よくも、ふぉ、フォトンクラ……」
「……死にたいんですか?」
 晶が優奈を睨む。その目からは、同じ追試常連として仲がよかったころの面影は見出せない。
「うっ……?」
 優奈は何か必殺技を使おうとしたようだったが、晶に睨まれると体が動かなくなり抵抗をやめた。
 かくして、乙女、鈴音、響、優麻、優奈の5人は、晶を攻撃する手段と意思を失い、
晶は1人、廊下を歩いて行く。

「あの収納型パワードスーツはタダで差し上げたものです。
 タダで貰った物で、我々が本気で改造した者に勝てると思ったなら……、
 それは短慮に過ぎるというものですよ。
 ブックオフの100円コーナーで買った本とか、積読になってません?
 フォトンクラッシャーも、規格外の攻撃手段だからどのみち今は使えませんでしたしね……」
 誰に聞こえるでもなく、傍から見ていた神原はそう言った。
544インプランタ晶:2006/08/30(水) 07:14:38 ID:???
 全ての障害を打ち倒して、晶は進む。
この道を行けば、ベホイミに会える。ベホイミなら自分を殺せると、彼は言った。
宇宙人の一味の一人、神原だ。響の後輩の諜報部員として潜伏していた。
自分が今こんな目に遭っているのも、半ばどころか全て彼のせいなのだろうが、不思議と憎しみはわかない。

 不思議不思議と言い募れば、今の自分が一番不思議で不可解なのだ。
自分は危険すぎる。晶は改めてそう思い至った。
人の心を抉るような言葉が自然と口から出て、相手の反応を見るだけで楽しい。
自分に手向かってくる鈴音と柏木姉妹を殺さずに済んだのも、最後の良心とかではなく、
職員室で何十人と殺して飽きたせいだった。
どんな快楽も、一つの種類だけを続けて味わえば、飽きる。吐き気がこみ上げるほどに。
彼女はそれを意図して、あえて親しいものの少ない職員室を襲撃したのだろうか?
殺人欲を、親しくない者であらかじめ満たしておけば、親しいものは殺さずに済むと。
それは、彼女自身もう考えるのをやめた事であるので、ここには記さない。

 目は見える。色もわかる。
しかし、何度も歩いたこの廊下を本当の意味で1人で歩いて、何の感慨も沸かないなら、何の意味があろう。
耳も聞こえる。着信メロディの音の高低差だってわかった。乙女からの、たぶん別れの言葉も聞いていた。
しかし、それでも何の感慨も沸かなかった。
今、晶にある感情は何も無い。一切は過ぎ去り、一切はまた向かってきて、また過ぎ去ってゆく。
あるのは快感ただ一つのみ。人が苦しみ、怒り、悲しむのを見ると脳に快感物質が沸く。
それが、晶のインプラント(埋め込まれた物の意)の機能であった。

 彼女はふと、思い出した。あの時までは、悲しかった、悲しいということがわかったはずだ、と。
桃瀬修だ。自分が死を待つために眠りに就こうとしたほんの一瞬、彼の涙を感じた。
彼が流した涙だが、彼の流した涙なら、自分の涙ということにしてもいい気がした。
彼と親しく話した時間は短かったが、とてもよい時間だったと感じた。
そういえば、私をベホイミちゃんに先んじて殺そうとしてきた鈴音さん柏木姉妹は、修くんと親しい間柄だった。
くるみさんは立ち直れないくらい落ち込んでしまったし、もう彼の縁者が立ちはだかることはあるまい。
545インプランタ晶:2006/08/30(水) 07:15:48 ID:???
 そこまで考えたところで、D組のクラス看板が見えた。
ベホイミはここで待つと言っていた。
(……これで、終わりだね)
 自分が死ぬか自分以外が全滅するかすれば、桃月学園を解放すると神原は言った。
何度も開けたD組の戸に晶が手をかけた、そのときであった。
「……っ!?」
 目の前が真っ白になった。飽きるほど沸き出す快感物質のせいで、痛みを感じないが、
大変なことになっているのは理解できる。目はすぐに慣れ、戸にかけた手を見た。
肘と手首の中間あたりで骨がむき出しになり、焼肉の匂いがした。戸は火薬の匂いとともに吹き飛んでいる。
続いて、背中に何かが当たる感触がした。
次の瞬間、自分が地面に倒れ伏しているのに晶は気づいた。

「……やったの?」
「……いや、あれだけの破壊活動をしてピンピンとしている相手だ。
 もっと確実に死ぬラインまでダメージを与える!」
 都とベホイミの声が聞こえた。
「一気に仕留めるぞ! スリングショットを撃つだけ撃ったら、都さんたちは下がって!」

 どうやらベホイミたちの攻撃で自分は地に伏したのだと、晶は気づいた。
飢えが蘇って来た。相手を破壊して、痛みに震えたまま、結果としての死を迎えさせたい。
インプラントからの快感物質供給が途絶え、無機質だった心には、瞬時に火が灯る。
くるみに眠りから覚まされて、そのうえ頬を張られた以来の怒りだった。
死にに来たはずなのに、殺す気になってしまった。
立ち上がるために地面に手をつく。
無くなったはずの腕は、もうトカゲの尾かのように生えていた。

「……何よ、あれ」
 世界中を旅した都だが、こんな急激な再生能力を持った生物を見ることは無かった。
いや、あった。それは日本で、それもテレビの中の洋画劇場での怪物だが。
「……もういい。都さん、五十嵐先生と6号さんの後に続いて逃げて!」
 ベホイミも、こんな相手とは戦ったことが無かった。
超大国謹製のサイボーグは、多少の爆風にこそ耐えられるが、こんな修復能力は持ち合わせていない。
546マロン名無しさん:2006/08/30(水) 18:57:43 ID:???
>>545
GJ!!!
やっぱちょっとやそっとじゃ改造宮田は死なないみたいだな…

…その内Sタイラントみたいになったりして…
547マロン名無しさん:2006/08/30(水) 23:42:55 ID:???
たまんね(*´Д`)
548マロン名無しさん:2006/08/31(木) 00:41:10 ID:???
スーパータイラントがなんなのかわからなかったのでぐぐったがかっこいいな。
なりたいかと聞かれればなりたくないが。
549インプランタ晶:2006/08/31(木) 03:46:33 ID:???
 そのころ、6号と美由紀は、旧校舎、ベッキーの研究室に着いていた。
美由紀は戦闘への参加を志願したが、
「最低でも都さんレベルの練度が無いと、引き際がわからずに逃げ切れなくて死ぬだろう、
 勇敢さは買うっスけど、6号さんと一緒に先に逃げていて欲しいっス」
と、ベホイミに忠告されたので、素直にそれに従った。
ベホイミが言うならその通りなのだろうし、自分が作った爆弾を使ってくれるなら、
早乙女の仇も討てるだろうと思った。何より6号を1人には出来ない。
もう、自分の大切な人と離れるのは嫌だった。
そして、もう一つ、6号とともに来なければならない理由があった。

「玲さん―――? 姫子、さん――――?」
 元ベッキーだった肉が散らばった血だまりを囲むように、2人はいた。
その部屋のオブジェかのように、ずっしりと重く座り込んでいた。
「6号か……。生きてたんだな……。姫子……ほら、6号だぞ。
 お前があげたリボンをつけてる、6号が来たぞ? なあ、姫子……?」
 ほんの数時間しか別れていないのに、玲は、随分と老け込んだように見えた。
目に力が無く、声にも張りが無い。床に座りこんだ姿勢も投げやりに見える。
そして、姫子は話題を振った玲に答えるでもなく、ただうつむくばかりであった。

 6号はこみ上げる吐き気をこらえ、姫子に駆け寄り、肩をゆする。
「姫子さん!」
 それでも姫子は答えない。6号が姫子の顔をおさえ、無理やり目を合わせても、反応しない。
「無駄よ。……ずっと、こうなんだ。姫子、私を見てくれないんだ……。
 ベッキーは死んじゃったけど、姫子は、ベッキーが死んじゃったのがショックで、
 どこか、遠くに行ってしまったみたいでさ。ふっ、ベッキーを追いかけて行っちゃったのかしら?」
「これも……、宮田、いや、宇宙人の仕業だっていうの?」
「宮田……? ああ、あいつが犯人だってのは本当だったか。
 不思議よね……。私、ベッキーが死んだのを見たときは、それが悲しかったのに、
 今は姫子がそれに引きずられて私を見てくれないほうがショックになってるんですよ……五十嵐先生。
 今だって、もし6号の声には反応して姫子が立ち直ったら、6号を殺していたかもしれないし……」
550インプランタ晶:2006/08/31(木) 03:47:23 ID:???
「ま、それは無いわね。その前に、私があんたを殺すから。
 あんたも、そんな事を言えるだけの元気があるならしゃきっとしなさいよ。
 片桐を起こしたいなら、シャワー室にでも連れ込んで冷水浴びせるくらいしたら?」
 美由紀が言った。

「……」
 玲は答えない。
「先生! やめて下さい! 玲さんを悪く言わないで!」
「しっかりしろよ! お前は、まだ生きてんだからさ!
 お前、自分がそんなんじゃ、片桐のこと言えないだろうが!」
 美由紀は言葉を続ける。
玲はやはり答えない。沈黙が続いた。
(見てられません……。逃げることなのかもしれないけど)
 6号は思わず顔を背けた。すると―
「……えっ!?」

 ベッキーの血だまりが、見る間に消えてゆく、いや、何かに飲み込まれている。
「ダンボール……? ――――姫子さん!」
 ダンボール箱だった。
ベッキーの遺体からばら撒かれた物を全て飲み尽くしたそれは、次の獲物に手を伸ばした。
「先生! 玲さん! 姫子さんが!」
「姫子!」
 姫子と聞いてすぐに反応したのは玲だった。美由紀は6号の手を引いた。
玲は姫子に抱きついた。既に姫子には箱の中身が絡みつき、玲も道連れになる形であったが、構いもしない。
「姫子さ……、玲さん! 先生、離して! 2人が、食べられちゃう!?」
(何だってーのよ? これも宇宙人の仕業? でも、こんなのがあるなら、
 わざわざ宮田を改造する必要はねーはず。だとしたら……、これは誰が?)
 美由紀は、6号だけでも助けようと、部屋の外まで連れ出した。
「待ってください。お2人はまだ飲み込みません」
 そこまで逃げたとき、部屋の中から声が聞こえた。
「一条さん……?」
 6号が、その声の主の名を呼んだ。
551インプランタ晶:2006/08/31(木) 03:48:44 ID:???
「あー、玲ちゃん、どうしたの? そんな顔して?」
 姫子がいた。
「ひめこ?」
 玲は間抜けな声を出してしまった。
(おかしい。私は確か姫子と一緒に何か得たいの知れないものに飲み込まれて―)
姫子が抱きついてきているのにも構わず、玲は考えを巡らす。

「お前ら……、このクソ暑いのによくくっついてられるな」
「ベッキー!?」
 これは見過ごせなかった。
死んだはずのベッキーが出席簿で扇ぎながらこっちを見ていた。
「仲良しさん同士なら、暑さなんて関係ありませんよ〜」
 そして、今は教授に呼ばれて海外にいるはずのメディアがいた。

(……わけがわからない)
 玲は思考を停止させそうになりつつもこらえ、それでも今の事態を理解できずにいた。
校庭では早乙女がB組の体育の授業をし、ズーラ、ヤンキーが走っていた。

「どういう事なんですか!? どうして一条さん、姫子さんを……?」
「もう使えないからです。
 もうすぐ、あの人が宮田さんを殺すでしょう。そこで今回の件は終了です。
 問題解決に際して何の貢献も成していない姫子さんは、生き延びても何の意味も無い。
 それならば、この一条祭の糧となった方がよいと私は考えました。気も違っていたようですし」
 6号とは対照的に、いつにもまして淡々と一条は答える。
膝から上だけを一条祭から出しているその姿は、泉の精に似て見える。
「……意味がわからねー。一条、ちゃんと説明しろ」
「私の口からは今は言えませんし、意味が無いことだと思います。
 私以外の者は一条祭に干渉できませんから、記憶を持ち越せませんし」
「……だから、わかるように言え。私は気が短いんだ」
 口ではそういうものの、美由紀は冷静であった。一条に掴みかかる事をしない。
もしかしたら、一条も宇宙人の手先ではないかと危ぶんだし、
何より一条は人食いダンボールから生えてきているのだ。迂闊に触れたら取り込まれるかもしれない。
552インプランタ晶:2006/08/31(木) 03:50:23 ID:???
「どうしても知りたいのでしたら、『この中』へどうぞ」
 一条は一条祭を指差して言う。
「ちっ、ならいーよ。食われるくらいなら、知らなくていいや」
「そうですか……。それでは、これをご覧下さい」
 一条祭が壁へと中身をぶちまけ、薄く広がって固まる。
スクリーンのようなそれは、まさしくスクリーンのように何かを映し出す。
「早乙女……くん?」
「宮本先生? 姫子さんに玲さんも?」
 桃月学園の情景が映っていた。しかも過去に撮っておいた物とは考えにくい。

「あれ? 玲ちゃん、いつの間に泣いてたの? それに、ずいぶん疲れてるみたい」
 画面の中の姫子が指摘するとおり、画面の中の玲は、先ほどまでここにいた玲なのだ。
スカートの皺、赤い目、浮かない表情は、紛れも無く記憶に新しい玲だ。

「職員室に寄った際、死体を取り込ませて頂きました。
 今まで死亡された方は全員一条祭の中におられます」
「親切心から見せてくれたみたいだけど、ますますもってわかんないわよ。お前は何が目的だ? 答えろよ一条」
「申し訳ありませんが、それを申し上げる事は明確なルール違反ですので、
 私からは話せません。一条祭を使って裏工作をしている時点でグレーゾーンなのですから。
 ただ、私はあなた方の敵ではありません。不愉快に思われるような事はしていますが」
「姫子さんたちは、無事なんですね?」
「それは保証します。一条祭の中では、桃月学園の中という限定ですが、
 何不自由なく過ごせているはずです。身も心も生きたまま取り込まれた玲さんには、
 こちら側の記憶がありますが、他の方々は自分が死んだことにすら気づいていないでしょう」
 一条の言葉どおり、姫子は画面の中で幸せそうに学食のカレーを食べている。
ただ、6号や都、ベホイミの不在を不思議がってはいるようだ。

「6号ちゃん、今は待ちましょう。ベホイミたちが宮田を殺したら、一条は話すといってるし……。
 こういう他力本願なの、私は大嫌いなんだけどね……」
 美由紀は言った。その目は一条を捉えて離さない。
553インプランタ晶:2006/08/31(木) 04:34:02 ID:???
「今度こそ……死んだわよね?」
「念のため離れて……次の攻撃準備を……そら来た!」
 ベホイミの足元に何かが投げつけられる。恐らくは、破片。
既に何度も宮田晶に対して使用された爆薬のあおりを食って壊された校舎の壁か天井だろう。
晶はそのたびに、負傷箇所に応じて時間こそかかれど再生し、元の姿に戻っていた。
制服は焼けてしまったが、髪の毛は焦げてもすぐに再生し、皮膚もすぐに生えて直った。
映画の怪物のような外見にならずに済んでいるのは晶にとって幸福かどうかわからない。
ただ、彼女は今ほぼ全裸体になっており、その発育のよい身体を外気に晒しているため、
対峙する相手が女子の2人だけだったのは幸運だったかもしれない。
ベホイミと都は、演劇部部長ほどではないがあまり発育のよいほうではない。
ただ、今の2人には晶の発育のよさを羨むほどの余裕は無かった。

「結局……、都さんが逃げないでくれて助かっているっス!」
「私も逃げたいんだけどさ! 背中向けて後ろからやられるの、よくあるでしょ!?」
 2人には経験があった。こういった修羅場をくぐった経験が。
都は若干少なかったが、それでも晶よりはあった。
宇宙人に改造され、アメコミに出られそうなくらいの身体能力を持たされ、
脳の状態を左右するインプラントを埋め込まれた晶だったが、
脳そのものは晶のものであり、それが攻撃と移動のパターンを単調にさせ、
生身の人間であるベホイミと都にも付け入る隙を与えていた。
それに加え、ベホイミと都はスリングショットと一撃必殺の爆弾を持っており、
離れていても攻撃が出来るので、晶が本気になっても鈴音や優麻のように倒されずに済んでいる。

「都さんも、なかなかやるっスね……。おかげで気にせずに戦えるっス」
「教授に感謝しなくちゃいけないのかしら? あいつは蛇とか爬虫類からすれば、甘い動きしてる。
 頭を吹き飛ばしても、上半身から千切り飛ばしても死なない生き物は、初めて見たけどね!」
 2人は喋りながら次の攻撃への準備をしていた。
スリングショットで飛ばすパチンコ玉は十分にあり、手投げ爆弾は数十個、
当分は残りを気にせずに攻撃できそうだ。パチンコ玉は相手の移動を妨げるのにも使える。
554インプランタ晶:2006/08/31(木) 05:24:45 ID:???
 だが、攻撃手段以外には問題があった。
どんなに破壊力のある攻撃手段を用いても、2人はうら若き少女なのだ。
手足の疲労はまだ深刻な域に達していないものの、内面の問題が膨れ上がってきた。

(私……、もう何回宮田を殺しただろう。いくら殺人鬼になったからって、
 宮田だって改造されただけの被害者……、今朝までは顔見知りだったのに……、
 私はどうしてこんなに冷静なの? 蛇や猛獣を殺すのとは違うのよ?
 宮田は人間なのよ? 私たちと同じ……、でも、死ぬのはイヤ……。
 お母さんに会いたい……。帰って眠りたいよ……)
 都は少しずつ殺すことに慣れてきたが、倫理観と自分の行いの齟齬に気づき始めていた。
かつてベッキーが指摘したように、都には手を抜くこと、自分をごまかす事ができないのだ。
だから怒るときは耳が真っ赤になるまで怒り、今も考えなくていい事にまで悩み、迷う。
罪悪感を感じながらも、黙って殺される道を選びはしない。
晶の足をスリングショットで撃って足止めし、ベホイミの爆弾投擲を助ける。
その攻撃で、晶の顔半分と左肩が吹き飛び、左腕がだらりと地に落ちる。
(死んだと思っても、今まで死ななかった。跡形も無く消し飛ばすしか……ない?)
 都はベホイミに目を向ける。晶との距離を確認することも忘れない。

(ベホイミ……慎重すぎるんじゃないの?)
 都は教授との対比でベホイミの行動を考えていた。
教授はアホで自ら危機を呼び込む事もあるが、危機回避は的確で、リスクも踏む。
だが、今のベホイミは攻撃にしても足止めにしても、口で言うほど過激にはやっていない。
手加減をしている節すら見える。投擲するとき、腕を最後まで振り抜いていない。安全であっても。
「都さん!」
 ベホイミがスリングショットを撃つ催促をしてきた。
都は的確に晶の足を撃ち、足止めに成功する。革の手袋をしている今、汗で滑ることも無い。
そして、そこからベホイミの指示の埒外の行動に移った。
ベホイミの投擲に合わせて、晶の足元へ爆弾を転がした。
手榴弾のような機構で、起動させて数秒で爆発する爆弾である。
晶の足は吹き飛び、その身体は、爆風から受けた勢いのまま地面を転がる。
「ベホイミ! さ、とどめよ!」
 少し怒鳴るような勢いで都はベホイミに促した。
555マロン名無しさん:2006/08/31(木) 14:46:18 ID:???
>>476
野暮極まりないが「悲しい」は形容詞。形容動詞は「悲しげ」になる。
556マロン名無しさん:2006/08/31(木) 21:05:49 ID:???
>>554
gjです!
よかった〜…どーやら宮田イラントにならなかったみたいで…ホッ
557マロン名無しさん:2006/09/01(金) 01:48:56 ID:???
ああ、宮田+タイラントか。
宮田要らんとかと。
558The most calamity:2006/09/02(土) 12:01:45 ID:???
止まった時の中で玲の頭の中にあるのは、あのときの姫子の笑顔だった。
一週間前のC組の教室で、姫子が見せたあの笑顔。
あれ以来、玲は姫子に一度も詰め寄ってはいない。
傍目から見れば、姫子に違和感を持つことはなかったかもしれない。
だが、そこが問題だった。
あれだけの事が起き、なおかつ今もなおベッキーに無視され続けている状態で、
普通に振舞うことなど不可能なはずなのだ。そんなこと玲にだって出来る自信がない。
にも関わらず、姫子は今日も自分たちの前で笑っていた。それに安心しきって、
一緒に笑ってるくるみや都や6号がいて、その中に玲もいた。
そんな異常事態の中で、ベッキーとの中を更に悪化させ解決を先延ばしにするなど
出来るはずがない。今この一分一秒が、姫子の『なにか』を狂わせているのかもしれないのだ。
だからこそ、玲はベッキーに向かって、年下の相手に向かって、プライドを捨てた。
友達を一人失うくらいなら、今まで必死になって守ってきたプライドが薄っぺらい紙切れのように思える。
これでベッキーを説得できるなら、
これで姫子を救うことが出来るなら。
止まった時の中で、膝をつき頭を下げる玲の頭の中にはいつまでもいつまでも、静止画のような姫子の笑みが浮かび続けていた。
559The most calamity:2006/09/02(土) 12:03:31 ID:???

時を再び動かしたのは、玲の更なる説得でもなく、ベッキーの反応でもなく、なんとも単調な振動音だった。
―ブー、ブー、ブー…
ベッキーが分かったというまでは梃子でも動かないぞとでも言うように固まっていた玲が面倒臭そうに顔を
しかめる。正座の体勢のまま右ポケットに手を伸ばし、振動の元凶を探り当てた。と同時に再び研究室を無音が支配する。
この体勢のままどうしていいか分からなくなった玲がなんとなくベッキーに視線を向けると、ベッキーは
目線で確認した方がいいんじゃないかと言おうとしている様な気がした。
玲「悪いな…」
そのままポケットに右手を突っ込む。今まで身を震わせていた二つ折りのそれをつかみ出し、慣れた手つきで一枚の板に変える。
―メール受信:1 差出人:桃瀬くるみ
携帯の小さなディスプレイには、そう表示されていた。
最近やはり姫子の様子はおかしいと思うから、姫子と真剣に話をしたい。場所は教室で、もう姫子にもメールで伝えてある。
それに玲も交じってはくれないか。
本文には、大体そんなことが書いてあったのだと思う。
玲「悪い…ちょっと用事ができた」
玲はそうポツリと呟くと、ベッキーの反応も待たずに土下座の体勢から直立二足歩行へと移行する。
そしてとうとう双方何も言うことが無いまま玲が研究室を後にしようとした時、
ベキ「玲…」
ベッキーが遂に口を開いた。
玲「……」
続きを促す訳でもなく、ただベッキーを見つめる玲。
ベキ「…ちょっと話してやる、だけだからな…。別に姫子を許す訳じゃないからな…」
もう何度目になるか、また時が止まったようだ。
そして数秒の後、玲はそれに言葉で答えるでもなく、赤面しながら顔を半分こちらに向けて口を尖らせている
ベッキーに向かって、一度にっこりと微笑んだ。
560The most calamity:2006/09/02(土) 12:06:15 ID:???

―ガラガラッ
後ろ手に教室の扉を閉め、玲はそのまま背中を預けた。
シャツがピッタリと密着することにより、背筋が多少汗ばんでいることに気づかされる。
研究室を出てきたときといい、どうやら自分は焦っているらしいということを今更ながらに自覚させられた。
一息ついた後、教室内部に目を向けるがまだ2人とも来ていないようだ。時折どこかから
聞こえてくる運動部の気合を除けば教室はひっそりと静まり返り、薄暗い。
そこでふと何故薄暗いのかと疑問に思う。数瞬の思考の末、まだ電気をつけていなかった
ことに気づいてそのままの体勢でスイッチへと手を伸ばす。学校独特の白い壁を更に照らし出す白が、
薄闇に慣れてしまった眼には微かに眩しい。
それから少しもたたずに扉から背中を離し、すっかりたるんでしまったからだの筋を
しゃきっと伸ばす。そして明るくなった教室内を再び見回すと、ふと姫子の机が目に留まった。
玲「…ふぅ…」
いつもの様に散乱した漫画・雑誌類。どんな状況でもこのだらしなさだけは変わらないのだなと
呆れと関心の中間のような感情が、逆に玲の心を僅かな安心で包む。
561The most calamity:2006/09/02(土) 12:07:20 ID:???
なんとなく、ただなんとなく、その机に向かって歩んでいった。いや、気づけば歩んでいた。
まるでそこに空間の摂理に逆らった重力でも存在するかのように、玲は姫子の机に引っ張られていく。
だが数歩分まで引っ張られたとき、唐突に玲の心が凍りついた。
不思議な重力はぷっつりと途切れ、代わりに玲が自らの足で僅かな時間さえも惜しいと
ばかりに小走りで机に駆け寄る。
そこには最初に思った通りの、姫子がいつも読んでいる漫画やら雑誌やらが散らばっていた。
それを恐る恐る持ち上げた玲の手の中で、それがはらはらと散っていく感覚が腕から脳に伝わる。
玲「こ…れ…」
途端に湧き上がるのは怒りと憎悪。何故なら、間違いなくこれが姫子に感じた『違和感』の原因に違いないからだ。
一体誰がこんなに酷い事を、一体何故やったのか。その思考を中心に渦巻く感情は姫子が最初に
感じたものの数倍激しいものだという事を、玲が知る由もない。
愕然とした感情が怒りに変わり、憎悪に代わり、疑問に代わり、そして思案に代わった時、
突然教室の扉がガラリと開いた。
こんな時に一体誰が来たのだと、もしかしたらこれを施した張本人かもしれないと、自分が
ここにいる本来の目的も忘れて教室の扉に怒りを籠めた鋭い目線を向ける。
56240:2006/09/02(土) 12:10:23 ID:???
気付けば約1ヶ月の放置。待っていた人が居れば申し訳ございません。

>>530>>554
乙そしてGJ。
インプランタ、いよいよ大詰めですね。楽しみです。
563ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:38:18 ID:???
第七部 敗走

<10月26日 0145時 スーダン=コンゴ民主共和国国境付近>

 姫子は国境線に沿って、化け物のような木の生い茂る道を必死に走っていた。
昼間には灼熱の大地に陰気な闇を落とすこの森から、少しでも飛び出して何もないサバナの平原に姿を出せば、すぐに発見されて狙撃されてしまう。
今彼女は、一つの作戦に失敗し、ひたすら敗走する途上にあるのだった。
 姫子はこちらで揃えた安上がりの装備を――勿論あの忌々しく重いカラシニコフ銃も――一切合切全てを放り棄てて逃げているのだ。
何故作戦が失敗したか、敵はどれほどいるのか、そんなことは今となってはどうでもいい。
とにかく姫子はただ逃げるしかなかった。やっと逃げるチャンスを掴んだというのに、まさか敵地の真っ只中に投げ出されるとは、全く不運である。
いや、もうそんなことも言ってはいられない。ひたすら逃げるしかないのだ。
 静寂の充満した暗闇の中に姫子のハァハァ、という呼吸音のみが響き、右も左も――いや、天地すらも――わからず、無我夢中で逃げた。
捕まれば殺されるのだろうか。捕まれば・・・・・・だから、そんな事考えて何になる?考えるだけの力を、全て足に回せ。
どうせあるのは闇ばかり、その闇を手に掴んでもがき、溺れることしか今の姫子にはできない。
 不意に遠くで獣の鳴く声がした。野生の動物か。それとも森に放たれたハンター犬か。
動物の目と、彼らの持つ暗視スコープからは逃れられない。
一瞬でもそこに映れば、それでおしまい。ベッキー殺しの犯人も、私を陥れた人間も、みんな関係なくなる。
私が死ぬことで、私の世界はそこで断罪される。何も無くなるのだ。この闇の中のように。
 後ろのほうで乾いた炸裂音が連続した。銃声。機関銃。いや、あの音はアーマライトだ。タタタン・・・・・・タタタン・・・・・・と三発ずつ撃っている。
きっと私の仲間だったであろう名も知らぬような連中が死んだのだろう。私には関係ない。私は生きている。身体に穴は空いていない。足もちゃんと動く。
振り向いてはいけない。逃げるしかない、アンタにはそれ以外何もできないのよ、姫子。
564ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:41:15 ID:???
 しばらく走っていると、姫子は足を、地面を這う蔦に絡ませて転倒した。
その時、倒れた目と鼻の先を、誰かが走り抜けて行った気がする。
――誰?仲間?敵?いや、もう敵も味方も無い。誰であろうと、姫子には関係が無い。この闇の中に、姫子以外の何者も存在しては居なかった。
 足に巻きつく蔦を外し、立ち上がろうとして姫子は気がついた。何か音がする。ヒュン、ヒュンと、空を切るような音。
姫子は金縛りにあったように身動きが取れなくなった。すぐ側に、弾丸の通り道ができてしまったようだ。
 不気味な空切り音が止むと、姫子はまたしても走り出した。冗談じゃない、今回は本当にヤバい。
死ぬことは容易だが、死ぬまでに至る道程は長く、険しい。
 と、姫子は闇に足を滑らせて崖から転落した。
まるで宙を舞うようにその身体は激しく放り出され、姫子は回転する身体と意識のスピードに目が眩み、
やがて――地面に辿り着く頃には――気を失っていた。

第八部 辺境の村

<10月28日 1220時 国境付近の農村 コンゴ民主共和国>

 姫子が眼を覚ますと、泥作りの民家の中に寝かされていた。体中傷だらけだったが、
傷口には薬草のようなものを擂り潰したような、緑色のペーストが練りこまれていた。
 とりあえず半裸で横たわる体を撫でてみて、どこにも穴があいていないのを確認すると、姫子は安堵の表情で再び目を瞑った。
――ここはどこだろう。敵の基地か、私は捕まったのカナ?それとも天国?この目を開けて、もしベッキーの姿があれば、きっと天国だろう。
それはそれでいい気がする。
 姫子はそっと目を開けた。すると、目の前には、大きな目を更に大きく広げて姫子の顔を覗きこむ黒人の顔があった。
あまりに唐突なことだったので、ひどくビックリした姫子は、身体を仰け反らせようとして、急に襲い掛かった傷の痛みに大声を上げた。
 姫子と同様に驚いた黒人の少女――それは確かに可憐な少女で、年は記憶の中のベッキーくらいであった――も身体をひっくり返して動揺した。
そして、知らない言葉でひたすら何かを叫んでいた。
565ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:45:59 ID:???
 その声を聞きつけ、たくさんの大人が部屋に入ってきた。
どれもみな女性であり、一人だけ、年老いた爺さん――これまたD組の先生と同じくらい――がいた。
 怯える少女を背中のほうに押し退けて、中年の、ふくよかな身体の輪郭を持った女性が、とても穏やかな口調で、
身振り手振りを交えながら姫子に片言の仏語で語りかける。姫子は首を振って英語で言う。
「私、フランス語、わからない」
理解したらしく、女性は同じく拙い発音の英語で話しかけた。
「貴女、怪我はもう大丈夫?」
 姫子は彼女にも聞き取れるくらいの分かりやすい英語で答えた。
「オメガ・グッド」
「名前は?どこからきたの?」
姫子は辺りを見回す仕草をしてみて、適当な方角を指差して答えた。
「私、ヒメコ。来たの、向こう、メイビー。でも、本当は日本という国。マキシマム・ファラウェイ」
中年女性はとても驚いた様子で、しかし目を輝かせて訊ねた。
「日本?日本から来たの?」
「イエイ。知っている、日本を?」
「私の娘、ズールーが日本で勉強している。ズールー、とても賢い子。自慢の娘、この子のお姉さん」
そう言って中年女性は先ほどの少女の手を引いて前に連れ出した。少女は、照れくさそうにはにかんで、ピクピクと動く姫子のアホ毛を見ていた。
「待ってて、ズールー、写真見せる。今持っている」
 女性は華やかな衣装の隙間から、一枚の撚れた写真を取り出した。
姫子はその写真を見て、思わず目を疑った。
「ズーラ!ズーラ!この子、私の同級生。フレンド。私、この子知っている」
「本当に!?ズールーは元気?」
 姫子は今日の日時を思い出そうとした。
先の作戦開始日時が10月26日だったから、何日ここで寝ていたのかは知らないが、少なくても半年くらい、ズーラには会っていない。
勿論ズーラだけではない、玲ちゃん、その他の友達にも・・・・・・そして、ベッキーにはもう二度と――
「ズーラ、とても元気、とても賢い。友達たくさん、オトメ、スズネ、ヒビキ・・・・・・」
566ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:48:50 ID:???
 ここ半年、戦争に身を窶し、いつしか記憶の奥底に埋もれてしまっていた級友達の名前と顔を思い出していくうちに、
姫子は悲しみと、あの‘空しさ’で胸が一杯になった。
 姫子は両手に数え切れない回数の出撃で、10ダース以上の人間を殺し、等比級数的に増えるその家族を悲しませた。
もう、彼女の手は血に染まりきっている。そうでない人間が、この戦場で半年も生き残るのは不可能である。
もう、彼女らの元には帰れない。姫子は、完全にこの暗黒の世界に身を落としてしまったのだ。
「ヒメコ、ソルジャー?」
「私、マシナリー、傭兵。でもやめたい」
「ゲリラ、恐い。殺される、きっと。ヒメコ、逃げろ。ズールーの友達、死んではだめ」
「逃げられない。ハンターがいる。雇い主も追いかけてくる。私は捕まる」
「私たち、手伝う。ヒメコ、逃げろ。ズールーによろしく言って」
 中年女性は立ち上がると、部屋の中に集まった女性たちに現地語で何か指示をした。
女性たちは真剣な眼差しでそれに頷くと、猛烈な勢いで部屋を飛び出した。爺さんだけはその場に腰を下ろして眠っていた。
「今の、みんな家族。私の姉妹たち。ヒメコ、心配せずに任せて」
 ――彼女らの示した姫子を逃がす計画はこうである。姫子は町の市へ出かける彼女らに紛れ、近くの川に沿って、徒歩で進む。
町に着いたら、そこに住む親戚の車に乗ってスーダン方面に向かい、国境を越える。警備隊はいるが、今はゲリラ狩りに夢中になっているので隙だらけであるとのことだ。
国境を越えた後は難民を逃す地下組織と接触して、うまく安全区域にまで連れ出してもらう。
姫子は元兵士であることを隠し、連絡をうまく伝って行って、エジプトを通過し、地中海航路からヨーロッパへ逃げる。
そこからなら後は危険は無い。問題は姫子が純粋な東洋人顔だという事だが、それは旅券さえ偽造する手筈を掴めばむしろ有利になる。
それまでは、できるだけ目立たないように、ベールを被っていること。必要なら、イスラム教徒の女性に変装する事だって考慮する。
567ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:50:30 ID:???
 日本で安住していた頃は海外になんて行ったことも無いものだから、国境越えなんて右も左も分からないことである。
しかし、今の姫子は勝手がわからないからといって路頭に迷うことはなかった。
死というものの隣に枕を並べた経験のある者は、物事をやれるかどうかを考えるのではなく、
何としてもやらなければならない、だったら、まず何をすべきか、と考えるようになる。
 生き残るために人を殺すことを躊躇わない人間にとって、「何としても」というのはそれこそ文字通りの意味を持つ。姫
子はここ数ヶ月で、完全にその種の人間へと変貌していた。
 念入りな下準備に数日をかけ、その間姫子は村ぐるみで匿われた。
途中、政府系、反政府系、或いは無政府主義の盗賊の様なゲリラ兵たちが村を荒らしにやってきたが、
その度に、村人達の細心の注意によって姫子は難を逃れる事ができた。
 決行の日程も決まり、姫子は自由への新しい挑戦を前にして、高まる胸の鼓動を抑えることに必死だった。

日本に――桃月に帰るんだ!
568ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:52:54 ID:???
第九部 陰謀

<6月4日 0630時 どんぶら川沿いの遊歩道 桃月>

 朝の早い三丁目の山田氏は川沿いに歩いて、桃月西口公園で折り返す早朝散歩の習慣を欠かさなかった。
川といっても用水路と運河の合いの子のようなもので、川縁はコンクリートで補強され、汚い水が流れることもなく停滞する都会の静脈である。
 今日も、まだ朝靄の匂いの残る時分から家を出て、杖を突きながら川へやってきた。
 そして、彼はいつもどおりこの汚い川を見下ろし、そこにあるはずのないものが浮かんでいるのを発見してしまったのである。

<同日 0830時 桃月学園>

「死んだ・・・・・・ってどういうことなんスか!?」
 ベホイミは登校するやいなや今朝の一大ニュースを耳にすることになった。
緊急で職員会議が開催され、もう間もなく臨時朝礼が行われるという。
宮本先生の時もこんな感じの大騒ぎだったが、まさか、間を空けずにまたしても自殺者が出るなんていうのはあまりにも不可解だ。
「今朝、どんぶら川に上がったって・・・・・・C組の一条さん。
橋の上に靴を揃えて・・・・・・遺書も。宮本先生の死体を直に見たことにショックを受けてたみたいで、それを苦にしてのことらしいわ」
 泣きながら狼狽する佐藤千夏を胸に抱いて慰めながら、自らも瞳に涙を一杯に溜めた北嶋由香が話した。
二人は学級委員という繋がりから、あの不思議な一条さんとも割り合い交流があり、そのためか、余計に嘆き悲しんでいるのである。
 しかしベホイミはこれにより、宮本先生の事件に関する進展が得られるのではないかと内心期待していた。
この二つの事件は明らかにつながっている。二人とも殺されたのは間違いがない。
宮本先生の殺された理由はこれまでの独自調査からおぼろげに分かっている。
が、この一条さんの自殺に見せかけた殺害にはどういう理由があるのだろうか。
犯人は何を企んでいる・・・・・・?
569ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:55:05 ID:???
「それで、宮本先生の死体にショック云々の話は遺書に書いてあったんスか?」
「ええ・・・・・・そう聞いたわ」
「誰がそんなことを?」
「B組の綿貫さんが、先生たちの会話を立ち聞いたって・・・・・・」
「遺書を実際に読んだのは誰なのか聞きましたか?」
「いいえ・・・・・・たぶん警察から連絡があって、それで・・・・・・」
 それ以上は言葉にならず、由香も啜り泣きを始めた。D組の教室の中は、非常に重苦しい雰囲気になっていた。
いわんや隣の教室は・・・・・・考えるだけで憂鬱になる。
 おそらく遺書は宮本先生と同じワープロか、或いは一条さんを脅して彼女本人に書かせたという手段も考えられる。
どちらにしろ、本人の意志が汲まれたものではないし、自殺に仕立てるための形式だけの小細工ならば、
犯人の意図をそこから読み解くことも出来ないだろう。
 しかし、何故一条さんは殺されたのか?
彼女が生きていることが、犯人にとってどういった点で不利だったのか。
 ――それと、未だ行方不明の片桐さん。
ひょっとしたら、彼女ももうこの世にはいないかもしれない。
と、なると、彼女と一条さんの接点を探るべきか?
宮本先生の近辺は調べ尽くした。
次は彼女らをあたってみるべきかも知れない。
 ベホイミは眉に皺を寄せ、一層思案顔だった。
570ラストマホ・スタンディング:2006/09/02(土) 14:55:59 ID:???
今日はここまで。
どもども。
571悲劇の新学期 高校生2人水死:2006/09/02(土) 14:58:18 ID:???
2日午前11時頃、大田区桃月のどんぶら川で人が溺れたと119番通報があった。
東京消防庁のレスキュー隊員がかけつけ救助に当たったが、約1時間後桃月学園1年の犬神つるぎさん(15)が遺体で発見され、同校1年の一条拝さん(15)も搬送先の病院で死亡した。
通報した一条さんの妹の話によると、一条さんは急に服を脱いで飛び込み5分ほど泳いでいたが急に姿が見えなくなり、犬神さんが救助の為ロープを放り込もうとして足を滑らせ転落したという。
どんぶら川は前日の雨の影響で増水していたが、普段ここで泳ぐ人はいないため特に対策を立てていなかった。
572マロン名無しさん:2006/09/02(土) 15:01:55 ID:???
>>568
乙。
一条さんが溺死して驚きました。
一種のシンクロニシティですかね。
573マロン名無しさん:2006/09/03(日) 01:03:48 ID:???
グラウンドへ向かうD組男子、伴の足取りは軽い。
なぜなら、近頃昼休みに野球をする事がブームになり、
思う存分審判としてジャッジを下せるからだ。
今日は磯部のオタトークに付き合っていたのでいつもより数分遅れてしまった。
そのたった数分が、彼の運命を変えてしまった。
少し駆け足の伴の目に、グラウンドの情景が映る。
「待たせると悪い。もう少し速く走るか」
彼はそう口にしてすぐ、信じられない言葉を聞いた。
「プレイボール!」

伴は走った。驚きのあまり呼吸が乱れ、一回本気で転びもしたが、それでも走った。
目はくらみ、野球をやっている女子達の守備位置すら確認できない。
そして、ホームベースのすぐ後ろに立つ人影に向かって叫んだ。
「誰だ! 審判! シーンぱーーーーーーーーーーーーーーん!」
そう叫ぶやいなや、彼は倒れ込んだ。三塁脇だった。
審判のプロテクターをつけた男が、少し空気を読んでから口を開いた。
「どうも、えーと、審判の、サスケです」

この日以来、昼休みとなるとどこか忍者っぽい彼―
名をサスケといった―が現れ、審判をするので、伴は出番がなくなってしまった。
そして、伴は憤懣やるかたなさが臨界点に達し、復讐を決意するのであった。
まろまゆのサスケについて調べるため、シノブ伝を全巻そろえて読んだら
こんなネタを思いついた。
574マロン名無しさん:2006/09/03(日) 01:07:23 ID:???
それは随分とヲタ気質でいらっしゃる
575ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:03:21 ID:???
第十部 脱出

<11月2日 0500時 村と町を結ぶ連絡道 コンゴ民主共和国>

 機は熟した。朝早くから村の女たちに囲まれて、姫子は川沿いの道を町に向かって下っていった。
途中、対向から車列を組んでやってきた、古びたT55戦車がすぐ傍を通過した。
「あれ、よその国の政府から支援受けているゲリラの戦車。このあたりでよく村襲う」
「あんなのとぶつかったらひとたまりもないね」
 その戦車の砲塔には、100ミリ口径の主砲の代りに豆鉄砲のような機関砲が換装されていた。
リサイクルやモンキーモデルにしても酷すぎる出来のものだが、無抵抗の村を襲って丸腰の村人を皆殺しにするには十分すぎる。
歩兵にとって戦車の如何に厄介な存在であるかは既に身をもって経験したが、
こんな出来損ない戦車にやられるのでは腹の虫も収まらないだろう。
 粉塵を巻き上げ、我が物顔で道路を闊歩する戦車の後ろ姿を見て、姫子は何故か裸の王様の昔話を思い出さずにはいられなかった。

 町に着くと、既に通りは市が開かれ、多くの人で賑わっていた。
町の中を、カラシニコフやG3自動小銃を手にした兵士が歩き回っており、
姫子はベールをしっかりと頭の上に羽織ると、腰を低く屈めて女たちの後についていった。
 彼女たちの親戚という男は、古い年式のトヨタ・カローラ(おそらく日本からの中古品流れだろう)を車庫から出して、手筈どおり国境に向かった。
道には車がほとんど見当たらず、逆に目立つ気もしたが、徒歩で行くよりはこちらの方がよほど安全だと言うことだ。
 いざ国境越えを果たすと、それは何とも呆気ないものだった。
そもそも地上に国境なんていうものが敷かれているといっても、目にはそんなものは見えない。
姫子自身、男に言われるまで、車がスーダン入りしたことに気がつかなかったくらいだ。
 姫子は予定地点まで着くと、車を降りてそこから歩き出した。ここからは一人旅である。たった一人、自分の足だけが頼りである。
姫子は出来るだけ往来の隅を歩き、決して顔を上げることはしなかった。
576ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:06:12 ID:???
 しかし、やはり計画というのは筋書き通りに行った例がない。
 姫子は突然後ろからやってきた二人組みの兵士に捕まり、身分証の提示を求められた。
偽造旅券はこの先で手に入れるつもりでいたし、まさか山道で兵士と遭遇するとも思わなかった姫子は愕然とした。
 当然二人の兵士は姫子を脇道の窪地に連行した。金品も旅券もない。あるのは多少貧弱だが、若い、健全な少女の肉体のみである。
これから何をされるか、そういう場面を何度も見てきた姫子には十分すぎるほどに分かっていた。
 姫子は強引に服を剥ぎ取られ、全裸にされて泥濘の中に叩き込まれた。
かすり傷の直りかけていた白い、艶やかな肌が露わとなって、まるで果実のような甘い汁の香りが男たちの欲情を誘う。
その華奢で美しい体は、とても戦場を駆け抜け、こういった男たちを山ほど殺していった兵士のものとは思えないほどであった。
 男たちは下半身を露出させて、そしてコブラのように凶悪な‘武器’を取り出した。
一人がカラシニコフを構え、もう一人が実際に姫子を犯すのだろう。
口元に寄せられたそれは、不気味な紫色で、ビクンビクン、と脈打ちながら、先の方から既に何かがこぼれ出ている。
振付けられると、その何かが雫となって飛び、姫子の頬にかかる。凶悪だ。そしてとても醜い。これを、しゃぶれと言うのか・・・・・・?
 姫子は殴られたように頭に不明確な感覚を憶えた。
ボンヤリと、全てが真っ白になっていく感覚。
いつまでも慣れぬことの出来ない死の恐怖とはまた違った、生命の本能に基づく恐怖。
しかし、自然と涙は出なかった。悲しくもなかったし、辛いとも思わなかった。この戦場の乾いた風土によって、彼女の涙は本当に涸れきってしまったのだろうか。
 不意に姫子の頭の中を様々なイメージが過ぎった。
先刻見た不細工な戦車――温厚な表情を湛えたズーラの家族たち――闇夜に幾条もの筋を残す曳光弾の煌き――街道に並べられた首の列――ジャングルの中から走り出す敵兵と、それを撃ち続ける自分の姿
――売られたフィリピン人の少女の瞳――船の中の犬用の水皿――ベホイミちゃん――一条さん――6号さん――都ちゃん――玲ちゃん――ベッキー・・・・・・
577ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:08:27 ID:???
 思い出の中のベッキーが、あの長い、美しい金髪を靡かせて、にっこりと笑いかけた瞬間、
姫子は耳の奥で、何かがプチンと切れるのを感じた。
 そして、促されるままに汚らしく、おぞましい姿の怪物を口に咥えた。
死肉よりも腐った、不快なにおいが口の中にあふれ、姫子は顔を顰めた。
目を瞑り、その苦しみに耐えた。
男が姫子の頭を掴み、ゆっくりと前後させる。口の中を、汚いものが蠢く。
 その刹那、姫子はカッと目を見開き、渾身の力を込めて顎を引き締めた。
立てられた鋭い歯によってギロチンが振り下ろされ、忌むべき怪物の首が落ちた。
姫子の口の中から強烈な勢いで血があふれ出し、男はこの世では聞くこともないような大声で叫んだ。
 もう一人の男が銃を向けるよりも早く、姫子は立ち上がって飛び掛った。
ライフルを腋にしっかりと押さえつけ、男の反撃する間も与えず、二本の指をその目に突きたてた。
男が思わず目を押さえると、その手から強引にライフルを奪い、
あとは慣れたように、手負いの二人組に銃撃を浴びせてとどめをさした。

 全てが終わると、辺りはひっそりと静まり返った。
姫子は口の中に残る血と精液に塗れた異物を吐き出し、
焦点の合わない目で死体を眺めながら、精神の昂るのを感じた。
「・・・・・・私は生きる。生きて、生きて、必ずお前のもとに辿り着く。今に見ていろ、私はもう、決してお前を許さない・・・・・・」
 姫子は独り言のように呟くと、暫くその場に立ち尽くしていたが、
やがて我に返ったようにその白い肌についた血と泥を拭き、服を着た。
そして、銃を放り棄てると、再び山道を歩き出した。

 既に姫子の瞳には輝きが失われ、その心からは迷いが消えていた。
この瞬間、一人の少女が死に、一人の復讐者が産声を上げたのだった。
578ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:10:48 ID:???
第十一部 砂漠の女王

<11月12日 1415時 ルクソール近郊 エジプト>

 都と教授は古臭いレンタカーに乗り込むと、ナイル川に沿って南へ下った。
この近辺は武装強盗が度々出没して危険な地域であったが、どうしてもここを進まねばならなかった。
街のカフェテラスで気になる話を耳にしたからである。
 それは、店で偶然出会った日本人のバックパッカーたちの話していたことであるが、
何もない岩石砂漠の中をナイル川沿いにスーダン国境のほうから一人で歩いてきた少女が保護されたという事らしい。
そして、それがどうも日本人であるという事らしいのだ。
 道に迷った日本人が辺境地で保護されるのは珍しい話ではない。危険な連中に見つからなかった分、幸運ですらあるだろう。
都にとっては至極どうでもいい話ではあったが、少し気になったのはその後だ。
「何でも、名前を聞かれると、マホと名乗っているらしい。真帆?摩保?しかし何で女の子が一人きり・・・・・・」
「マホ?」
「ああ。だけど聞かれる度に色んな名前を口にしているらしい。レイ、ベキ、ミヤコ・・・・・・はぐれた旅仲間の名前かねぇ」
「ちょっと待って!今なんて?どういう名前を言ったって?」
「あぁ、レイとかベキとか・・・・・・俺も聞いた話だから正しいかは分からないよ」
 都は考えていた。桃月では半年前にベッキーと一条さんが自殺したという話を聞いた。
そして、同時期に姫子が失踪したまま行方知れずになっているという話も・・・・・・
 都は虫の予感の様なものを覚え、教授に頼み込んで彼女が保護されているという警察署に向かっているのだ。
まさかとは思うが、それでも確かめずにはいられなかった。
 思えば、教授も都も最近ようやくベッキーの死の悲しみから立ち直ったばかりだった。
そこにきてまたしても当時を思い出させるような、言い知れぬ不安が心を取り巻いていた。

 長い道のりを経て南部国境付近の警察署に到着し、旅券の不所持で拘留されているという少女への面会を申し入れた。
刑務官に金を握らすと、都はあっさりと中に入ることができた。
579ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:12:50 ID:???
 格子扉が開けられ、中に入って都は確信した。
姫子だ。髪が伸び、肌が薄汚れているが、確かに姫子だ。姫子なのだが・・・・・・何か違う。
以前――それは遥か以前のことだが――その時に見た姫子とはまるで別人だ。何だろう、この違和感。目の前に蹲る彼女は、あの底抜けのバカで能天気の片桐姫子というよりは、飢餓に狂った獣のようだ。
「ひ・・・・・・姫子?」
「あぁ・・・・・・都ちゃん。お久しぶり」
 姫子は顔を上げて気だるそうに都の顔を見つめると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「アンタ・・・・・・何しているのよ」
「わからない」
「みんなアンタがいなくなったって、大騒ぎだったのよ。どうやってこんな所に?」
「わからない」
「とりあえず、ここを出るわよ。立てる?」
「モチ」
 姫子はゆっくりと立ち上がって歩き出した。その様子は、まるで幽霊のように実体を感じさせないものだった。
都はその気味の悪さに背筋に冷や水をかけられたような心地を覚えたが、とりあえず、そこの警察官と話をつけて姫子を引き取ることにした。
 車に乗り、走り出そうというところで、後部座席の姫子は突然口を開いた。
「この爺さんは誰?」
 運転席の教授を指差して都に訊ねたのだった。
「あぁ、ベッキーの恩師でMITの教授よ。私は彼に連れられてエジプトに来たの。強引にね」
「ベッキーの・・・・・・?」
教授はバックミラー越しに会釈して姫子の顔を眺めた。
「レベッカのことは色々残念じゃった。ところで君はこんな所で何をしていたのだね?」
姫子は身を乗り出して答える。
「私も連れてこられたんですよ、ベッキーを殺した奴に」
 一瞬にして車内の空気が凍りつく。姫子は不敵な微笑を溢して続けた。
「教授、ベッキーについて何かご存じないですか?彼女を殺した奴は、とても素人とは思えません。
かなり裏社会に通じている人物の仕業です。もしかしたら、MIT時代に何かあったのでは?」
580ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:15:16 ID:???
 教授は黙っていた。都は姫子の口から飛び出した信じられない言葉の数々に、眼鏡の奥で目を丸くした。
「ちょっと、姫子。アンタ、気は確か?ベッキーが殺されただなんて・・・・・・」
「いや、都くん。実はそれが真実だろう」
 突然教授が口を挟んだ。姫子は興味津々の眼差しを向けてそれを聞いている。
「レベッカは何者かに狙われていた。これは確かなことだ。だがその理由はおそらくこうだろう――」
 教授の話によると、ベッキーの母方はユダヤ系のアメリカ人で、その家系は有力な名家のものであったという。
今もその血筋を同じくする者がイスラエルで高名なラビになっていたり、ヨーロッパで資産家として名を馳せていたりするという。
 ところが一連の中東戦争以降、過激な原理主義に傾倒していくシオニズム運動から離脱したベッキーの家族は、今度は一転、イスラエルの政策と反抗する意思を表明した。
これには多くのユダヤ人が失望し、怒りを顕にした。
 何よりもいけなかったのは、宮本家の主張する汎中東論だった。
これは中東地域全体が、アラブ人、ユダヤ人、その他少数民族のわけ隔てなく、全体規模で人々が生活に困らないだけの福祉水準を得られるようにすべきであるというもので、そのためにイスラエルは多くの譲歩を考慮すべきであるというものだ。
もちろん、保守的なシオニストはこれをユダヤの神とその契約への背信であるとし、猛烈に非難したという。
「レベッカが」
教授は続けた。
「給料を研究機関に寄付しているというのはご存知かね?」
姫子は黙って頷いた。
「その相手の研究所だが、表向きは砂漠に植物を植える技術の研究をしているNGO団体ということになっているが、
その実はイランの情報機関が設立したBC兵器の研究施設だという噂じゃ」

――イラン・・・・・・?突然に姫子の頭の中で眠っていた何かが呼び起こされた。
「ペルシア貿易事業部」。ペルシアといえば今のイランのあたりだ。
581ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:16:49 ID:???
「もちろんレベッカの寄付などたかが知れているし、そのくらいの額面はまったく問題ない。
しかし、問題だったのは、ユダヤの血を引く人間がイスラムの大量破壊兵器にわずかでも出資しているという事実だ。
これではイスラエルに居住するユダヤ人に示しがつかない。
尤も、レベッカやその家族はその研究所の本質を知らなかっただろうし、
ワシだって最近になってその事実を、以前CIAに勤めていた大学時代の同窓生から秘密に聞いたくらいなのじゃからな」
「と、いうことは、ベッキーを殺したのはイスラエルの情報機関に雇われた殺し屋なのカナ?」
「わからない。ひょっとしたらそれに見せかけた、ほかのアラブ系の工作員かもしれない。
実は、あの辺りはたくさんの勢力の利害が複雑に絡み合っていて、黒幕になかなか辿り着けないんじゃ」
 姫子は俯いて考え込んでいた。教授は視線を前方から逸らさず、運転を続けた。
都だけは落ち着きなく、不安げに二人の顔を交互に眺めていた。
「しかしワシは以前から何か不穏な動きがあるのは気がついていたのじゃ。
だからメディアを学園に送ってレベッカの近辺を探らせたのじゃ」
「メディアさんを・・・・・・?」
「彼女はなかなか面白い経歴の持ち主なのだが・・・・・・きっと役に立つだろうと思ってな」
 姫子は身体を座席に戻し、深々と凭れ掛った。
都はあまりに唐突な話の展開に、もう限界といった心地で首を振っていた。
582ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:18:57 ID:???
 その後、一行は北へ上ってカイロの日本大使館に向かい、姫子の渡航書の発行を手配しようとした。
が、姫子は大使館には行かないと言い出した。
 姫子の曰く、正規の渡航手段は踏んでいないので、入国記録の無い彼女の審査は通らないだろうし、
それどころか、密入国のかどで通報されるおそれもあるという。
 代わりに、柄のよくない繁華街に向かうように指示し、そこに支部を持つ地下組織と接触し、
手配された偽造旅券を受け取り、別人として帰国の飛行機に乗ろうという。
「仮に偽造旅券が買えるとして・・・・・・その代金はどうするつもりだったのよ?」
 都は尋ねた。どう見ても、姫子は無一文である。
「ザイールの、とある武装組織の保有するダイヤモンド鉱山の場所とそこの警備情報を反目する別のゲリラに漏らしたんダヨ。
私は何度かそこの警備をやったから・・・・・・で、そのツテで旅券と航空券を手配してもらえたの」
「ねぇ、アンタ・・・・・・いったいアフリカで何をしてたの?」
「青春の浪費・・・・・・カナ?」
「わけがわからないわ」
「あーあ、早く日本に戻りたいな」
 姫子は含み笑いをして車外を流れる景色を見ていた。
都はさりげなく姫子の横顔を眺めた。
精彩を失った灰色の目が、大陸を隔てた日本をじっと見据えていた。
583ラストマホ・スタンディング:2006/09/03(日) 16:20:44 ID:???
今日はここまで。
この辺りから倒叙が激しくなってくるので時間軸に留意して読んでいただければいいかな、と。
ではでは。
584マロン名無しさん:2006/09/03(日) 17:04:17 ID:???
おもすれー
585マロン名無しさん:2006/09/03(日) 19:41:13 ID:0BEusDUD
GJ!
586マロン名無しさん:2006/09/03(日) 19:41:44 ID:???
GJ!都と姫子がついに接触か…頑張って下さい
587マロン名無しさん:2006/09/03(日) 20:33:04 ID:???
盛り上がっているところ恐縮ですが容量が逼迫しているので次スレを立てたいと思います。
変更事項があれば本日中によろしく。
日付が変わった頃に立てる予定です。
588マロン名無しさん:2006/09/03(日) 23:21:42 ID:???
エロパロスレのURLっているのかな
いや別にあっても全然構わないんだけど気になっただけ
589マロン名無しさん:2006/09/04(月) 00:06:48 ID:???
立てました。

(o^v^o) ぱにぽに de 学級崩壊 (*゚∀゚*)5日目
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1157295801/

エロパロスレへのリンクは過去の経緯から張ってあります。
590マロン名無しさん:2006/09/04(月) 18:24:18 ID:???
>>562
やっとキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
マジで待ってました!
591ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:31:08 ID:???
 寝不足で椅子に沈み込んでいるベッキーの代わりにホームルームを執り行った一条は、自らの語るべき事を語り終えたのを指折り確認してから言った。
「学級委員からは以上ですが、姫子さんから連絡があるそうです」
 一条の言葉が終わるや、姫子が元気よく立ち上がる。
「はーいはいはい。学級文庫を開設したからみんなどしどし利用してね」
「学級文庫? おまえが?」
 玲が怪訝そうに、都がメガネを上げながら訊ねる。
「ちょっと待って…… それってまさか、あんたの机の下やロッカーの中にあるそれじゃないわよね?」
「うんにゃそれだよ。学級文庫なら持って帰れって言われないもんねー」
「おまえなぁ……」
 呆れたような玲に、姫子は無い胸をえっへんと張って偉そうに演説をぶつ。
「玲ちゃんマンガだって馬鹿にしたもんじゃないんダヨ? 今は経済学や政治情勢もマンガで説明する時代なんだかんね」
「いや、それはわかるが……おまえのは」
 玲はまだ何か言いたげだったが、ベッキーが言葉を投げつけた。
「まあ、いいよ。持ち物検査とかめんどくさいし、好きにしろ」
 学級文庫扱いにしておけば、所持品違反には当たらないだろう。
「ありがとーベッキー」
(私も続き読みたいしな……)
 そして、ベッキーは微睡みの海に沈み込んでいった。
 花瓶の花がひとひら落とした花びらは空気の間を舞うようにして、
蛍光灯の無機質な光に照らされた石化したかのように動かないベッキーの上に落ちた。
592ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:32:09 ID:???
「南条、おまえ……」
 南条が風呂敷包みから取り出して玲が呆れ顔で手に取ったのは、『まんが南条財閥のあゆみ』全十巻である。
「……資料編纂部がなんだかやる気を出したようで…… 折角ですから差し上げますわ」
「ところで何故私が運ばなくてはならないんだ?」
「お、レア物だねー。こーゆーの一般書店では流通してないから貴重なんダヨ。むひょー、懐かしー!」
 姫子が小学生の頃、少年マンガ誌で描いていた作家だ。最近見かけないと思っていたら思いがけないところで仕事をしていたものである。
「ありがと南条さん」
「どう致しまして。……犬神くん、その風呂敷は差し上げますわ」
「もらっても困るんだが」
「まあ! お年始の挨拶に南条グループが配った素晴らしい風呂敷ですのに!」
「要するに余り物じゃないか……わかったよ、有り難く頂戴しておく」
「最初からそう言えばよろしいのに! 全くしかたのないツンデレだわ」
(あとで上原にやろう……)
「南条さん犬神くんちょっと失礼するっス…… 姫子さん……これ……置いてもらえないっスか?」
 クラスメイトの痴話喧嘩を横目に入ってきたベホイミが差し出したのは姫子が印刷所との交渉などをサポートした自作の絵本である。
「おー。もちろん置かせてもらうヨー。そういえばどうだった? 売れた?」
 創作系の即売会で売ったはずだ。申し込みの手続きもほとんど姫子が手伝った。
 姫子も売り子として参加予定だったのだが、当日は他のイベントに参加していたのでベホイミの晴れ舞台を目にする事はかなわなかった。
「いえ…… 誰も買ってくれなかったっス……誰も立ち止まってもくれなかったっスよ……止まったと思ったら鞄を肩にかけ直しただけだったっス」
「そっか……残念だね……」
「でも! 次は! がんばるっスから!」
 ベホイミは拳を強く握りしめて振り上げ言った。
「うん。私も手伝うヨ!」
「お願いするっス! 姫子さんがいれば百人力っス!」
「私も売り子してあげますねっ」
 熱気のこもった少し汗ばんだ手で姫子の手を力強く握りしめたベホイミは、メディアに対しては冷たく突っぱねた。
「断る」
593ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:33:42 ID:???
「しっかし、増えたな……」
 かつて宮本研究室と呼ばれていた部屋を見回しなら、玲は感慨深く息を吐いた。
 姫子のはじめた学級文庫は質と量で話題を呼び、開設翌日には学校中の生徒が集まって最後尾札を出す騒ぎになった。
 そして『突撃!! となりのホームルーム!』に紹介された事で学校内での地位も急上昇、三ヶ月を経てここ宮本研究室を乗っ取るに至った。
「当初は図書委員としては複雑だったけれど……」
 大森みのりは珍しく微笑みを浮かべながら玲に語った。
「今ではマンガ化された原作を借りに来る利用者も多いし、マンガをきっかけに読書習慣を得た人も多いみたいで図書室としても歓迎だわ。
 整理も行き届いているし…… 門外漢の私にも蔵書に知悉しているのがわかるわ」
「それはよかったですね…… でも私は橘で片桐はあっちです」
 と言って玲は後悔した。
「……?」
 みのりは口づけでもするかのような距離まで顔を近づけ、舐め回すように玲の顔を確認したのである。
 香水やコロンは付けていないが、ほのかに香るシャンプーの香りが玲の鼻を刺激する。
 その香りは百合の花にも似ていて、玲の心臓は早く小刻みに鼓動を刻みはじめた。
 みのりの息が玲の髪を揺らし、耳の産毛をやさしくなでて吹いて行った。
594ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:46:12 ID:???
「懐かしいなあ」
 アホ毛を揺らして姫子は目を細めた。多少古びてはいたし、蔵書のラインナップはかなり変わっていたものの昔と同じ本棚にマンガがぎっしりと詰まっている。
「あ、ベホイミちゃんの同人誌」
 この本はここをきっかけに噂が広まり出版された。丁寧にカバーがかけられた貴重なオリジナル版の価値を姫子は計算しそうになったが、やめた。
 値段なんて付けられない。
 お宝鑑定番組のマンガスペシャルにゲスト鑑定家として呼ばれた時、冷徹に値踏みしながらも、心の中でそう唱えていた。

 あれからさらに年を重ねる事二十年。
 マンガ評論、編集、プロデュース、書店経営、同人誌即売会主催……
 姫子は世界を股に掛けてマンガ・アニメ関連事業をたくさん手がけ、そして成功させ続けている。
 『自分でマンガを描く時間がなくて』と彼女は苦笑するが、夏冬の祭には熱のこもった秀作を発表する彼女のファンは数多い。
 かつて姫子は『突撃!! となりのホームルーム!』はじめテレビに出たがっていたが、今では出演依頼がひっきりなしでほとんど断らざるを得ない状態だ。
595ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:48:25 ID:???
「やっぱりここにいらしたんですか、片桐先生」
 二度のノックから扉が開き、茶色がかった金髪の女性が姫子を認めて声をかけた。
 姫子は本を丁寧に収めてゆっくり振り向いて女性に微笑む。
「あ、ベッキーおひさー」
 かつての多動性障害が疑われるほどの好奇心や行動力を全てマンガ活動に向けて精力的に活動し、大成すると共に落ち着いた姫子だが、アホ毛と太陽のような笑顔は今も変わらない。
「そろそろお時間ですので会場の方へ」
 ベッキーは仰々しく姫子に頭を下げて見せた。
「うん、オッケー」
「しかし、姫子が遅刻しないで来るなんて私はうれしいぞ」
「えへへー、半分寝てるところを新幹線に押し込まれたからね。玲ちゃんの手柄だよ。優秀な秘書さんで助かってます」
 姫子の言葉に、寄り添うように立っていた長身の女性は気恥ずかしげに頬を染めた。
「でもメイド服を着せるのはどうかと思うぞ」
 ベッキーは玲を脳天から爪先までじろじろと眺めて言った。
「いえ、メイドを連れているという事が先生のお名前を一段と高めてますから」
「色違いをうちのメイド喫茶で使ってるからね。玲ちゃんには悪いけど歩く広告塔ってとこカナ」
「……ああ、それは知ってる。誕生会をそこでやられたからな…… 三十歳なんてめでたくねえよ……」
 姫子はにこにこベッキーを眺めていたが、大きくなった的に特攻する。
「でも三十歳のベッキーも可愛いよー。私より大きくなっちゃったけど可愛いー! もうキスしちゃう」
「片桐先生抱きつかないでください。もうお時間ですから」
 ベッキーも大人になり、無理に引き剥がしたりはしない。そもそも、今となっては姫子に抱きつかれるのが心地よく感じる
「わかってる」
 やはり大人になった姫子は宣言したキスもせずあっさりベッキーから離れ、室内を見回して言った。
596ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:49:54 ID:???
「ここが……私の出発点だからね。話をする前に少しだけでも見ておきたかったんだ。ところでここまだ『1年C組学級文庫』なんだね」
 今では図書委員が出向して管理しているし、そもそも創設者の姫子も2年生以降は『1年C組』ではなくなっていた。
「そりゃあもう、片桐姫子大先生が設立された当時そのままの名前を保っておりますよ」
「元々が学級文庫だったからね。研究室を譲ってくれたベッキーの手前変える訳にも行かなかったし。
 でもミスマッチが面白いと思わない? 『Eine Kleine Nachtmusik』が実は大作だったみたいな」
「はぁ」
「モーツァルトのか」
「そ。実はあれ全五楽章にも及ぶ大作なんダヨ。でもメヌエットが失われていてね。だから私はそのような悲劇が起こらないように、貴重な掲載時の資料が散逸しないようにこの学級文庫を開設した……
 あまりウケないな。ヴェネツィアでは結構ウケたんだけど。やっぱりドラゴンボールのサイヤ人編以降に譬えた方が」
「まあ、そこは適当にやってもらうとして、なんで学級文庫なのかとは聞かれるよ。私ももう古株だしな」
 金髪も日本の日光で茶色っぽくなり、からだもかつての鈴音程までに大きくなったベッキーは若くして勤続二十年のベテラン教師である。
 今ではおばさんくさいとからかわれ、ガキだ子供だちびっこだと囃し立てられた昔が懐かしい。
「そして、ここが初代宮本研究室だった事を知る者も……か。ベッキーには悪い事しちゃったカナ?」
「気にするな。おかげで私はもっと広い研究室をあてがってもらえたし。問題児が学級文庫に掛かりきりで押しかけてこなくなるおまけ付きで」
「それは素敵なおまけだね。具体的には食玩のフィギュアに対するラムネくらいカナ」
「食玩のラムネか…… よくくれたっけな……懐かしい」
 姫子がくれる食玩のラムネは、なぜかとても美味しかった。自分で買ってみても、他のラムネを食べても、あの味にはかなわなかった。
597ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:53:38 ID:???
「欲しかったらうちの店でもいろいろ扱ってるし、卸価格で」
「いや、ちゃんと買いに行くよ。誕生会の時も本当は出来ない貸し切りをして貰っちゃったし」
「うん。いつでも来てよ。私はほとんどいないけど、歓迎するからさ。さて……」
 姫子はいたずらっぽくベッキーと玲の顔をみつめてから、芝居がかったしぐさで扉の方を向いた。
「それじゃ、行こうか」
「ああ」
「はい」
 姫子がアホ毛をぴこぴこ揺らしながら歩き出し、ベッキーと、扉を閉めた玲がその後に続く。
「今朝はカニ食べてきたんだよ。やっぱりここぞって時にはカニだよね。駅弁だけど」
「本当は御自宅か事務所に戻って私がカニ料理をお作りできれば良かったのですが……」
「いいよ気にしないで玲ちゃん。私駅弁もコンビニ弁当も大好きだから」
「そういえば都が太平洋に生息するお化けガニを撮るとか言ってたぞ。今日来ているから会っていくといい」
 教授と世界を飛び回るうちすっかりたくましくなった都はこれまた世界を股に掛ける冒険写真家として勇名を馳せている。
598ぱにぽに学級文庫:2006/09/04(月) 23:56:22 ID:???
 講堂には桃月学園の生徒達と保護者、そしてどこからか噂を聞きつけてきた一般聴衆が集まっている。
 生徒達はこれから始まる文化祭への期待で校長や生徒会の話などまるで聞いていなかったが、ステージの上に紺色のスーツを着たアホ毛の女性が現れると水を打ったように静まった。
 不気味なほどの沈黙が場を支配したところで、ステージの下で宮本教諭が聴衆に一礼して話者を紹介する。
「本日の特別講演はこの桃月学園OGの片桐姫子先生です。それでは、どうぞ!」
599ぱにぽに学級文庫:2006/09/05(火) 00:08:10 ID:???
以上です。

初めてまともな南条さんと犬神くんの絡みを書いたような気がします。
姫子とみのり先輩は立ち位置が似てるような気がするかなとふと思ったり……
600マロン名無しさん:2006/09/05(火) 01:25:18 ID:???
なんかいいね、これ。
久々に明るい話を見た気がする。

…でも、大量のヒメコレクションをネタにナインスゲートみたいな話も作れそう。
…なんて考える自分の心はやっぱり穢れているなぁ。
601マロン名無しさん:2006/09/05(火) 03:02:18 ID:???
>金髪も日本の日光で茶色っぽくなり
今週のジャガー思い出して吹いたwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
602マロン名無しさん:2006/09/05(火) 20:03:10 ID:???
乙です
玲とベッキーの台詞でどっちが言ってるのか解らない所があったけど…


GJ!
603マロン名無しさん:2006/09/05(火) 20:51:14 ID:5xEobWk/
てst
604マロン名無しさん:2006/09/05(火) 21:57:49 ID:???
>>602
敬語が玲でタメ口がベッキーです。
玲が姫子に敬語を使っていたら面白いかなと思いまして。
初代の埋めもキャラ崩壊でしたし。

南条自動車のサルーンを姫子の趣味でアニソンをかけながら運転するメイド服の玲や
エベレストに単身登頂する都、南条(操)さんに影のように寄り添う6号さん、
近所でも評判の美人奥さんの(元)一条さんを想像してたりしたのは秘密です。

いろいろなネタを冗長にならないように盛り込めれば理想的なのですが……精進します。
長文失礼しました。
605マロン名無しさん:2006/09/08(金) 00:25:06 ID:???
まずこのスレを限界容量まで使おうぜ
606マロン名無しさん:2006/09/08(金) 00:36:51 ID:???
サーイェッサー。
607マロン名無しさん:2006/09/08(金) 01:22:32 ID:w8fGA5Ej
そろそろぱにぽっとくか!!
608マロン名無しさん:2006/09/08(金) 01:31:53 ID:???
ぱにぽにの面々は実は一般生徒からは村八分にされているんじゃないだろうか?
南条は最近まで友達がいなかったようなことを言っていたし
玲、姫子、鈴音は性格上他人と折り合いが合うかは怪しい
玲はバイト先ではうまくやっているみたいだけど学園内ではC組の魔女呼ばわりされてた
突っ込んだらいかんとこかな?
メディア、ベホイミあたりは素でシカトされてそうなんだが
俺ならそうするし、魔法少女とかメイド服とかありえねーよ

芹沢は着ぐるみ着て校内闊歩するような変人だし、
乙女は鈴音との絡みがあり、響は諜報部員、都はガリ勉でくるみは軽いDQN
一条・犬神は話しかけづらいし、6号はただのパシリ

宮田、柏木姉妹、来栖、修、ユカチカなら友達が多くてもおかしくないが…
609マロン名無しさん:2006/09/08(金) 01:46:51 ID:???
6号はただのパシリ?

パシられるよい子だお。
610マロン名無しさん:2006/09/08(金) 01:56:17 ID:???
芹沢は変人じゃない。ちょっと可哀想な子なんだよ。

今まで芹沢主役のssってない?
611マロン名無しさん:2006/09/08(金) 04:23:29 ID:???
よい子のくせに教師とデキてやがら
612マロン名無しさん:2006/09/08(金) 07:33:26 ID:???
くるみがDQNだと?
613マロン名無しさん:2006/09/08(金) 08:05:14 ID:???
>>612
・原チャリ無免許運転で実質的に人身事故起こす
・中学女子バスケ都大会MVPなのに勧誘が来ない
・初回でベッキーの挨拶が気に入らなかっただけで教室から追い出す
・バスケで乙女を挑発して先に仕掛けさせる
・髪型を変えたのを気づかれないくらいで怒るほど自己顕示欲が強い
・リサイクルについて面倒くさがり兄貴の話すら最後まで聞けない

江戸っ子気質だから良い面が出れば好かれるだろうけど、
悪い面が出れば人から避けられるタイプだと思うぞ
614マロン名無しさん:2006/09/08(金) 09:34:58 ID:???
傷だらけのぱにぽにだっしゅ 最終回

全26話の最終回は、懇意にしていた校長の査察が入り、教授と都は船で海外に逃亡、玲は港で逮捕、
子分のメソウサは前々からひいていた風邪が悪化、ベッキーに助けを求めるもののパニックに陥っているベッキーは取り合わない。
まさかそんなに悪化しているとは思わずいつもの「先生〜〜」っていう甘え程度と泣きながら縋るメソウサを置き去りにし、奔走。
警察の手から二人、逃れる為の奔走だったのに。
そしてメソウサは泣きながらたった一人誰に看取られる事なく天国へ。。
何も知らずに宮元研究室に戻るベッキーを待っていたのは冷たくなったメソウサの悲しい亡骸だった。。
そしてベッキーは一人、愛用だったウサギ小屋に大好きだった冷えたジュースとともにメソウサの亡骸を入れ、
リヤカーに乗せ東京湾の埋立地に向う。
615マロン名無しさん:2006/09/08(金) 10:55:49 ID:???
これにどう返せってんだよ・・・メソウサなんて存在自体忘れてたってのに
616マロン名無しさん:2006/09/08(金) 11:34:11 ID:???
>>613
・口が悪い
・空気が読めない
・事有るごとに自分は地味だと愚痴を言う
・倫理観が欠如している
・困難な事からは地味だからと言い訳して逃げる

それとくるみはベッキーがそう言ってるだけでそれほど江戸っ子気質でもない
617マロン名無しさん:2006/09/08(金) 11:37:17 ID:???
だがニーソは高ポイント。
618マロン名無しさん:2006/09/08(金) 12:05:48 ID:???
>>613 >>616
だがそれがいい
619マロン名無しさん:2006/09/08(金) 12:37:38 ID:???
玲「掃除を始めるぞ」
くるみ「地味な私一人いなくても大丈夫ね」
玲「お前は地味じゃない」
くるみ「え?」
玲「立派だよ。我が許婚に最適だ」
くるみ「え?玲?」
玲「今ここに誓いの口付けを」
6号「ららるーららるー」
玲・くるみ「!」
6号「くるみさんは渡しません!決闘です!」
玲「よし、明日の朝9時20分からだ」
くるみ(二人とも百合属性だっけ?それより授業中に決闘って何やるのよ)
620マロン名無しさん:2006/09/08(金) 12:43:44 ID:???
よくじつ9時20分
ベキ子「で、この問題だがな、xを」
玲「七乗して予測される答えを一つづつ推論することによってえられる最適な解、150と捕らえる!」
ベキ子「ア、そ、そのとおりだ。じゃあ次の問題だがxを」
6号「七乗して予測される答えを一つづつ推論することによってえられる最適な解、150と捕らえます!」
ベキ子「お前ら授業の邪魔だ!廊下に立ってろ!」
6号・玲「ハイ!」
ベキ子「やけにうれしそうだな。次の問題だが」
くるみ(あやしい)
くるみ「七乗して予測される答えを一つづつ推論することによってえられる最適な解、150と捕らえる!」
ベキ子「地味やろうまでうるせーぞ!廊下に立ってろ!」
くるみ「はーい!」
621マロン名無しさん:2006/09/08(金) 12:46:55 ID:???
廊下
玲「V字斬!」
6号「ペガサスローリングスカッシュ!」
くるみ(おお、やってるやってる)
玲「月光蝶!」
くるみ(おお、光が広がって・・・ん?)
6号・くるみ ばたっ
玲「これでくるみは私の・・・って何でくるみがここにいるの!酷いわ!勝った意味がない!」
玲「こんな世界、きえてしまえ!月光蝶!」

地球はナノ単位に分解されました
622マロン名無しさん:2006/09/08(金) 13:57:46 ID:???
ブチャラティvs姫子
アバッキオvsくるみ
ナランチャvs一条さん
ミスタvs都
フーゴvs六号さん
ジョルノvs玲
623マロン名無しさん:2006/09/08(金) 17:34:00 ID:???
>>613
>>616

そんなに極端に言わなくても良いだろ・・・
624マロン名無しさん:2006/09/08(金) 19:14:17 ID:???
>>623
何でこのスレいるの?
625マロン名無しさん:2006/09/09(土) 00:36:54 ID:???
いままでに出てきた作品の中で

死亡回数がゼロ
死亡回数が一番多い

キャラって誰だ?
626マロン名無しさん:2006/09/09(土) 13:06:09 ID:???
>>625
宇宙人(神原含む)、磯部、伴、ネコ神様、諸先輩とか死んでなくね?
627マロン名無しさん:2006/09/09(土) 13:22:35 ID:???
>>626
死亡回数多いのは?
628マロン名無しさん:2006/09/09(土) 14:06:48 ID:???
神原はベホイミに殺された。
死亡回数が一番多いのはベッキー。次いでくるみ。
殺害数が一番多いのは都だが殺される事も多い。
メディアとベホイミも殺す事も殺される事も多い。
玲、6号は殺される方が多い。
勝率が高いのは宮田。
南条もペットの戦績を加味すればかなり殺してる。
629マロン名無しさん:2006/09/09(土) 14:12:32 ID:???
メソウサはどうだろ?
630マロン名無しさん:2006/09/09(土) 16:07:35 ID:J8wsKRh6
ぱ      に
 


に      ぽ
631マロン名無しさん:2006/09/09(土) 16:45:00 ID:???
もう少しで終わる終わるみんな終わる。
632マロン名無しさん:2006/09/09(土) 16:45:35 ID:???
あと少しのkbで消える
633マロン名無しさん:2006/09/09(土) 17:33:21 ID:???
そしてすべてがゼロになる。


………のか?
634マロン名無しさん:2006/09/09(土) 19:59:05 ID:???
ベッキーに犬と罵られたい
635マロン名無しさん:2006/09/09(土) 20:06:34 ID:???
犬!
636マロン名無しさん:2006/09/09(土) 20:31:21 ID:???
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
637マロン名無しさん:2006/09/09(土) 21:45:46 ID:???
まわるーまわってくー
638マロン名無しさん:2006/09/09(土) 22:28:14 ID:???
スレ末期だからか学級崩壊と関係ない話題が続いてるな
639マロン名無しさん:2006/09/09(土) 22:33:30 ID:???
末期だもの
640マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:14:28 ID:A94qonZ9
496kb

もう落ちるのを待ちますか
641マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:15:09 ID:???
最後まで埋めようぜせっかくだ
642マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:17:06 ID:???
了解

妄想埋め。
設定→くるみが集団にいじめられている。

くるみが糞まみれになってクラス中に笑われるssはどうだろうか。犬とか色々な糞をぶつけられるの。
643マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:25:32 ID:???
その糞はメソウサや南条さんの動物が製造したりして
644マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:34:57 ID:???
くるみが兄貴に虐待される話で行こうか

「お前、学校でなに地味キャラ気取って同情買ってるわけ?」とか
「ぶっちゃけ学校でのお前空気だよ」とか言われまくるくるみ萌え
645マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:35:46 ID:???
>>642

もっと意外性のあるやつにしようぜ
例えば・・・

思いつかない・・・
646マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:36:30 ID:???
来栖は?
糞まみれ来栖を芹沢が↓
647マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:37:30 ID:???
なめて清める
648マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:38:15 ID:???
「臭いから近寄らないで。来栖ちゃん」でもアリか。
649マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:39:43 ID:???
糞まみれ南条を犬神が↓
650マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:40:46 ID:???
スカトロネタだとやはりぱんつはいたままおもらし脱糞だろ。
そうだな、6号さんとか。
651マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:46:30 ID:???
修学旅行中にお漏らししちゃったベッキーを↓
652マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:46:41 ID:???
鈴音の下痢ツボ攻撃中に耐えかねて脱糞する乙女とかどうよ
653マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:47:35 ID:???
>>649>>651
イ`
654マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:50:57 ID:???
キャラの性別変換モノはどうだ?
あ、なんか一本書けそうじゃね?
655マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:51:40 ID:???
>>653
6号さんは優しいわね。
でも死に方くらい自分で決めるわ。
さよなら……
656マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:52:24 ID:???
くるみと都が援助交際して痛い目みる話で行きましょう
657マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:54:08 ID:???
6号とくるみの方が受けがいいかもしれん。
658マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:57:14 ID:???
「くるみさん、こんな……だめです。やめてください」
『あたし喫茶店の弁償しないといけないの、金が要るのよ』
「で、でも」
『じゃあアンタが代わりにやってよ。そしたらやめたげる』
「……
 い……
 いい……ですよ!」
659マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:57:26 ID:XbH34E8W
腕に自身がある筈のベホイミがマフィアに目を付けられて・・・なんかも
660マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:57:32 ID:???
ジジイの死体解剖編希望。
661マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:58:40 ID:???
ベッキーの初潮を玲が嘲る話は確実に神作品になると思うんだ。なんなら書いてみるか。
662マロン名無しさん:2006/09/09(土) 23:59:33 ID:???
現在四百九十九きろばいと
663マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:01:09 ID:nicVM9QY
べっきーしぼう
664マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:02:21 ID:???

う 






665マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:04:14 ID:???
このスレが終わろうともぱにぽにエログロは終わらない
666マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:04:25 ID:???
あと少しでおわる






だろ?
667マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:04:57 ID:???
なんでこのスレ着たんだろ俺…
668マロン名無しさん:2006/09/10(日) 00:05:52 ID:???
俺も…
669マロン名無しさん
俺も…