1 :
名無し物書き@推敲中?:
2 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/02(日) 10:25:20
3 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/02(日) 10:26:08
4 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/02(日) 10:27:16
テンプレの補完修正等ございましたらお願いいたしますm(_ _)m
では、次のお題(第二十四ヶ条、156番レスより)
「名称未設定フォルダ」「オムライス」「ぬいぐるみ」
「名称未設定フォルダ」「オムライス」「ぬいぐるみ」
今日は12月24日。クリスマス・イブだ。今日に向けて、彼女のいる男子はデート場所の選定に余念がなかったことだろう。
実は僕もそうだ。生まれて初めての彼女が一ヶ月前にできた。いや……まだ、彼女っていうのは大げさかな。
何せ、ちゃんとした告白はまだなんだから。それでも僕が彼女のことを好きで、彼女も僕を憎からず思ってくれていることに疑いを挟む余地はない。
だからもう、彼女だって言い切っちゃっていいと思うんだ。ま、でも今日こそはちゃんと伝えなきゃね。
「お待たせー。随分早かったんだね。」彼女が笑顔で近づいてくる。
クリスマスを意識したんだろうな。赤を基調にしたワンピース。ふわふわのファーまで付けていてなんて可愛いんだろう。
僕の好きなカントリー調のこの喫茶店によく映えている。
彼女がランチセットのオムライスを品良く食べる口元にうっとり見とれながら会話を楽しんだ。
彼女もずっと良い笑顔を浮かべてくれている。絶対に大丈夫。僕は自分を奮い立たせた。
「あの、さ。これ、たいしたものじゃないんだけど。クリスマスプレゼント、受け取って」
差し出したのは彼女の好きなリラックマのぬいぐるみ。彼女がこのキャラクターを好きなのはリサーチ済み。
「うわぁ。ありがとう。いいのー?うっれしいなぁ。」そんなに喜んでもらえると僕も幸せになれる。
「ごめんね。まさか、君がプレゼントくれるなんて思ってなかったから、私何も用意してなくて」
すまなさそうな彼女の顔に逆に僕が申し訳ない気になってしまう。
「ううん。いいんだ。それよりさ、この後映画行かない?いいのがやってるんだ。正にクリスマスって感じの…・・・」
言いかけた僕の言葉を遮る様に彼女は言った。
「あ、ごめんね。この後、友達と約束があるんだ。」
……12月24日。それは多くの男性が『名称未設定フォルダ』から『男友達フォルダ』に引越しをさせられる日である。
「さかさま言葉」「カルタ」「おせち」
6 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/03(月) 10:53:23
「さかさま言葉」「カルタ」「おせち」
正月――。
俺は妹の作ったおせち料理があまりにもダイエッティなのでこう言うしかない。
「この、おせち、ちーせーおー」
妹は即座に冷たい視線で俺を興奮させる。
「なにそれ?それで逆さま言葉をいったつもり、なの?」
キター!その軽蔑に満ちあふれた氷の刃、最高っす。
その時、いとこの、坂狭間琴葉と小瀬地駈太が遊びに来た。
小瀬地駈太はニヤリと笑い、
「みんなで百人一首しませんか?上物が手に入ったんですよ」
坂狭間琴葉は着物のコスプレをしていた。
「お年玉を賭けるというのはどう? 私、負けませんわよ」
「よし、やるか」と俺。
「ところでさお兄ちゃん……」妹は俺に問うた。
「百人一首って……カルタのことよね?そうよね、ね?」
結構無知なところもある俺の可愛い妹なのだ。
次「妹」「アバター」「豆まき」
7 :
「妹」「アバター」「豆まき」:2011/01/04(火) 10:27:16
「おにーたんアバターってな〜に?」「う〜む。ネット上の自分のキャラみたいなの?」
ちょっと情弱な兄妹である。兄妹はキーボードのキーを確かめ確かめぐぐる。
「なんか3Dアニメか?」「サンスクリット語のアヴァターラが語源ですってお」
「アヴァターラっていうのはヒンドゥー教の神様の化身らしいな」
「神様ですか? なにか鬼みたいですね?」
なるほど、妹の指さしたPCのモニターに表示されたイラストのビシュヌ神は
肌を水色で塗られ、派手な宝冠は鬼の角のようにみえなくもない。
(かなり無理があるような気もするが……)
「ねー、おおおじーちゃん。ととが鬼のアバターやってくれたからもういいよ?」
兄のほうの孫の晴太郎が頭を掻き掻き言う。豆まきに夢中になって老人達を忘れていた。
妹のほうの孫の紅月がお盆に載せた深鉢二つを差し出す。
「おばーちゃんとおおおじーちゃんの分。年の数だけ食べてね(ハート)」
屈託の無い孫達の笑顔をよそに、深鉢の中の豆の多さに、ちょとため息の出る
兄妹であった、とさ。
(節分はすこしきがはやくないかい? 過疎だけどさw)
次のお題は
「カイト」「飛行機」「みかん」でお願いします。
8 :
「カイト」「飛行機」「みかん」:2011/01/04(火) 22:47:04
高く、高く、雲の向こう側まで行ってしまいそうな程、高く昇る凧。
僕は久々にこの街へ帰ってきた。
幼い頃…そう小学生ぐらいの頃は、毎日学校帰りに100円玉握りしめて通い詰めた駄菓子屋の看板が角が錆びつく程、時が過ぎた。
駄菓子屋の店主である老婆の容姿は僕の記憶と代わり映え無かったが、杖を使い弱々しく歩く様は過ぎた時間の長さを覚えずには居られなかった。
そして、正月でも僕らはその店にお年玉を持って通ったが、老婆と昔話に花を咲かせていた小1日時間の間、子供の影がこちらに現れることは無かった。
駄菓子屋で、購入した凧をひとつ買った。凧といっても、和凧ではなく、カイトと言ったほうがニュアンスとしては分かりやすいだろう。
(カイトは英語で凧であるが、一般的にカイトといえばゲイラカイトを指す)
店を後にし、散策に出る。約束の時間まではまだある。変わってしまった街並みの中にも当時の記憶と近いものを見るたびに、センチメンタルになる。
丘を超えると、河川敷に出た。
「変わらないものもあるか……」
当時の記憶と寸分と変わらず、灰色の川と手前に小麦色の床が広がっていた。
風に乗りある程度高度を保った凧を、老婆からもらったみかんの入った百貨店の紙袋で押さえて、芝生の坂に座る。
陽が重そうなネズミ色の雲に隠れたり、また顔を出したりして、どれくらいの時がたっただろうか、僕の顔を雲以外の影が覆う。
二人の人影だ。成人した女性と、幼い娘の影。待ち人来たる。罪を…、あの時逃げた罪を、僕は清算できるかどうかは分からない。
だけれども、今度は逃げる訳にはいかない。
大きい方の影が僕の影と重なる。若い時、肌を重ねたその時と同じ温もりを数年振りに戻ってくる。
立ち上がり、紙袋を持ち上げる。娘が「あっ」と声を出す。同時に、重しを無くした凧が風に乗り、飛行機のようにどこかへ飛んでいく。
歩き出す。彼女と彼女の…いや、僕と彼女の娘と歩く。
彼女の家へと向かう。あの凧と同じで、どこに行き着くかは分からないけれども、もう逃げ出すわけには行かないんだ。
9 :
8 :2011/01/04(火) 23:06:00
すいませんお題出し忘れました
「雪」「神社」「初恋」
「雪」「神社」「初恋」
娘が結婚したらしい。
我ながらなんて他人事のようなんだろう。妻と離婚したのはもう20年以上も前になる。
いや、こんな言い方はよそう。追い出されたのだ、彼女に。
当時の僕は夢を追いかけ、碌に家に金も入れない屑野郎だった。追い出されたのは至極当然のことだ。
娘が15の頃、元妻は新しい伴侶と共に国外へと旅立った。
それ以来僕は殆ど彼女らの消息を知らなかった。知ろうともしなかった。わが身と引き比べてしまいそうで知るのが怖かった。
結局のところ、あの頃追いかけた夢なんてとっくのとうに諦めて親戚の神社で売店の手伝いなんぞをしながら生計を立ててる有様だ。
妻もなく、子もなく、金もなく、余暇もなく、希望も、夢も当の昔になくした。ただただ生きているだけの毎日。
そんな情けない50男の元に届いたのが一枚の葉書。
「結婚しました。初恋の人と少し似てるかな?」雪の降る中、チャペルでの結婚式。ウィンクしている娘の笑顔がまぶしい。
娘の夫は異国人なのにどこか僕の若い頃を思い出す風貌だった。
身勝手だとは思いながらも、少し、泣いた。
「魚釣り」「御神籤」「耳」
初子は、石を蹴り蹴り歩いていたら、いつの間にか集団下校の仲間と逸れていた。
道を一本曲がりそこねた所は、去年、住宅地の造成で森林が切り崩され、
小丘ひとつに今盛りと杜が残された場所だった。
初子が見上げると、鬱蒼とした中、木の杭と板で土を留めた急な階段の上に
小豆色の古びた鳥居が静かにあった。
以前、友達のナカちゃんの家の窓から見て、行ってみようと思い、そのまま忘れていた
神社だった。確か、ナカちゃんは池で魚釣りが出来ると言っていた。
寄り道はあぶないけど、土曜日だし日差しが明るいし、ナカちゃんの家から見えるし、
まあ大丈夫だろうということで、初子は蹴飛ばしていた狐の耳のような形をした石を
拾って、階段を登っていった。
「あれ、お嬢ちゃん。その石、ちょっと見せて」
鳥居の先の神社には、何故か警察官がいて、寄り道がばれた初子は怒られ、
家まで送ってもらうことになった。神社では、悪質な盗難事件があったらしい。
お賽銭や御神籤の自動販売機の売上の他、大きな石像まで盗まれたと
赤い袴の巫女さんが警察官に話していた。赤い袴の巫女さんは、初子の
手に持っていた石に気づいて声を高く張りあげた。
初子はちょっと、驚きながら、石を巫女さんに渡した。
「ああ、これはうちの御稲荷さまの耳です。接着剤で付けてあったんですが……」
「お嬢ちゃん、これどこで拾ったの?」
「学校のゴミ捨て場の前です」
初子の証言がもとになって、ゴミのリサイクル業者に扮した盗賊団が捕まった。
初子はナカちゃんと、帰ってきたお稲荷様に油揚げを供えに神社にいった。
巫女の小母さんが、たっぷりお礼を言って、美味しいお茶菓子を出してくれた。
巫女からお稲荷様の逸話を色々聞きながら、不思議なことがあるものだ、と初子は思った。
次は
「魚」「手袋」「階段」でお願いします。
夜道で会ったその魚は手袋をして階段を降りて来た。
「蟻地獄」「スターバックスコーヒー」「魚釣り」
13 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/17(月) 20:37:35
キャラメルマキアートに口をつけ、
量が減ったら、紙コップを振ってかき混ぜる。
小さな渦を巻き、止めたとき水壁が崩れて、
蟻地獄の巣から突き出した二又の蟻地獄の角だか顎だが
みたいだと思った。
出会った頃、真希のマイブームはスターバックスコーヒーで、
デートの度にまだ長蛇の列の出来る銀座の店舗に寄り、
並ぶのが嫌いなわたしはへきえきしていた。
風の噂に、真希の現在のマイブームは魚釣りらしい。
ピサデブにもめげず、
どこかの岬だかダムだかで粘り強く糸を垂れ、眉間にあの三本ジワを寄せる。
真希のどこかユーモラスな姿が思い浮かんで、ふと失笑してしまう。
もういいよね? デッキの中に忘れ残された
『昆虫探偵 ヨシダヨシミ』のDVDをゴミ箱にシュートしようか否か、
しばし、逡巡する。
次のお題は
「星座」「鴎」「相撲」でお願いします。
仕事や人付き合いに失敗した俺は何となく旅にでた。
寒いのは嫌だったから南に向かったつもりなのに、さっきまで雪に降られていた。
「沖縄にでも行けばよかったなぁ……」
日も沈み、騒々しかった鴎(かもめ)もいつの間にか何処かに行ってしまった。何となく、余計寂しく、心細く、寒くなった気がする。
つい先日振られた相手は、誰が何言おうと自慢の彼女で、メールよりも手紙が好きだといった古臭い趣味を持っていたが、それさえも好きだった。だから自覚のある無しにかかわらず、いろいろとしてきたつもりだった。いや、間違いない、してきた。
だけど
「あなたががんばってくれたのは知ってる、私が好きなものを理解してくれようと
してたのもわかってる。でも、なんていうのかな?梅の花が好きと言ったら、梅酒をもらった……そんな感じ?多分これからも、私の好きなものをあなたは理解したつもりで、わかってくれないだから、もう分かれましょう」
それが答えだった。
俺のしていた事は一人相撲だったって事だ。
「酒飲んで寝よう」
防波堤から立ち上がり、気持ちを回りに向けると何故か明るくなった気がする
何となく雪を降らせていた雲が薄くななっていく様を眺めていると、雲の裂け目からプラネタリウムでしか見たことがない量の星が集まっていた。
「天の川……」
ミルキーウェイを「乳道」と約して彼女に怒られたことや、彼女に合わせるために星座を覚えたこと、いろいろなことを思い出す。だけど、いつのまにか雲は流れていった満天の空の様に全て忘れて見入ってしまった。
あまりにも圧倒的で、強く、今にも降って来そうな空
星の光が囁いている……聞こえないけれど、星が歌っている、そんな空だった
何となくだけど初めて彼女がわかった気がする。
「へっくしょん!さむ……宿に戻るか」
僕は無性に手紙が書きたくなった。
次は「安宿」「迷子」「崖」でお願いします
火星の安宿でエウロパ鍋を食べながら、
その鄙びた部屋の一角に目を留めた。
床の端になんだか嫌な、原始的な警戒感を抱かせる染みが付いているのである。
血の跡…ガソリン…?
よくはわからない。パラジロマイトのようにも見えた。
そして遠目に見ている私を包む様に部屋全体が歪んで行く感覚を覚えた。
鍋にアレルギー物質でも入っていただろうか?
よろめきながら足を出すと床は思わぬ角度で払いのけ、
頭を打ち据えられた。
部屋全体が染みに包まれていた。
身動きできぬまま、私は世界と切り離され迷子になった。
窓は曇り、部屋は揺れていた。
やがて第13宇宙速度を突破したとのアナウンスが入った。
連邦条約で禁じられていた機能だ。
非常にまずい。
法で罰せられるのではない。
その速度に僅かでも達すると宇宙の端まで行ってしまい、崖から落っこちるのだと言う。
無論、本当に崖の様になっているはずはないが、誰も到達した事がないのでわからないのだ。
正確には宇宙の崖から落ちた者は帰って来た試しが無いのでどうなっているのか誰も知らない。
宇宙物理学でも解明されて居ない。
あれはあくまでも宇宙の内部の法則しかわからないのだ。
やがて部屋の揺れは収まった。
私はもう何年もフードプリンタから出力されるエウロパ鍋を食べながら、「今日は外に出てみようかな?」などと考えて居る。
「カナリヤ」「激突集会」「中華料理」
「いらっしゃいっ……、と」玄関の引き戸の開く音に顔を上げた番頭は言葉をつまらせた。
どうにもこの安宿に一人で泊まりに来るはずのない姿が立っていたからだ。
「お嬢ちゃんどうしたの?なんかあったの?」それでも受付から出て少女の前に立つ。
ランドセルを背負った姿から近所の小学校からの下校途中だろうと判断したのだ。
「あの、すみません。ここに大野木さんって人泊まってますか?」少女は顔を上げて尋ねた。
「お客さんかい?いやー、今はそういう名前の人はいないねぇ。どんな人だい?」番頭は後頭部に手をやりながら答えた。
「髪の毛が薄くて、ちょっとお腹が出てます。あとメガネかけてて、チェックのシャツ着てリュックしょってると思います。」少女は淀みなく答えた。
番頭はそのオタクっぽい男の風貌に少し心配になって屈み込んで声をひそめて尋ねた。
「……お嬢ちゃん。その男になんかされたのかい?」
「何かって何ですか?」その反応に被害者ではないようだと安堵する番頭だが答えに困ってしまう。
「うーん。先生とかいうだろ。気をつけなさいって。ほら、そのー、な?」子ども相手に直接的なことを言うのは憚られ言いよどむ。
「この前の常田の方の事件ですか?」隣町でおきた事件のことだ。低学年の子が変質者に襲われ、崖の上で落とすぞと脅されて悪戯されたのだ。
「そう、そういうことだ」やっと話が伝わり一息つく。頭頂部が薄くなった頭をがっくりと落とす。
「違いますよ。」少女はくすり、と笑った。「昨日、迷子になった時助けてもらったんです。九州から自転車で来たって言ってたからこの辺に泊まってるんじゃないかなって思って」
少女は別段不審を感じた様子もなく言った。もう一度お礼を言いたかったのだという。
「うーん自転車ねぇ。残念ながらうちには来てないな」「そうでしたか……。ありがとうございました。」少女は頭をぺこりと下げた。
その瞬間、のっそりとした人影が宿に入ってきた。
「あの〜ゔ。ぎょうごごにどめでぼじいんでずげどぉ〜。へやあいでまずかぁ〜」
番頭がぎょっと目を見開いた、その時少女が笑顔で振り向いた。
「あ!大野木さん!やっぱりいたんだ」だが番頭はどうやって気づかれずに警察に通報するかを考えていた。
胡散臭さからではない。男の顔は常田の事件の人相書きそのものだった。
次は「硝子」「九つ」「灯」
18 :
17:2011/01/19(水) 00:54:00
すみませんリロードしてませんでした。次は「カナリヤ」「激突集会」「中華料理」で
どっちでもいいよ。
おもしろければ。
一部では激突集会なんて呼ばれてる今回の生徒会会議に、新聞部の代表として早島を送り込むのは、坑道にカナリアを連れて潜るようなもので、かなり気が引けた。
確かに本人も来年度は部長という立場もあり乗り気なのだが、なんと言っても学校内を二分する前期と後期の生徒会長対決の場所に、その前期生徒会長の妹である彼女が取材というのは痛くもない腹を探られない方が奇跡だ。
しかも、目の前の見た目だけ好青年の腹黒顧問は明らかに何かを狙ってる。
私は今度の会議には自分と副部長の高橋が取材に行く事を早口で告げると、帰宅しようと鞄を持って立ち上がったところで、手首を掴まれてしまった。
「まぁ、待ちなさい。これは早島にはいいチャンスだし、生徒会にも起爆剤になる筈だよ」
いちいち耳元で囁くように喋るのがウザいがこの人の場合、これ以上のセクハラには発展しないからその点だけは安心だ。それよりも問題なのは、この後に彼から見せられた携帯の写真だった。
そこにはなんと、中華料理なんてつつきながら見つめ合う早島と、後期生徒会長松山の姿が写っていたのだ。
「どう見ても、デートだよねぇ。若いってうらやま……痛タッ」
私は全体重を目の前の盗撮教師の足の甲にかけると、部室を飛び出した。後から考えると、取材行為の一環もしくは早島兄への橋渡しを頼んでいただけかもしれないのにその時の私は酷く短絡的であった。
すみません、次は「硝子」「九つ」「灯」をそのまま使わせてください
今私たちの間ではやってるおまじない
硝子の欠片を九つ(ビー玉でもオハジキでもいい)と、ろうそくを一本
机の上に、五芒星と逆五芒星を重ねて書き一番上がろうそく、他の星の先端に
硝子の欠片を並べます。
真ん中に好きな人の写真を並べて、ろうそくが消えるまで”好き”を唱えることを12日間続けます。
途中でろうそくが消えたり、1日でも忘れると絶対に結ばれない諸刃の剣で、友達には『素人にはお勧めできない』と、訳のわかんない事を言われました。
私にも意地がるので、天にも負けず風邪にも負けず今日で12日目。
途中ロウソクが私のくしゃみで倒れるというトラブルはありましたが、ロウソクの灯は既に五芒星も好きな人の写真も巻き込んで強く燃えています。
もうすぐロウソクは無くなるので、最後の灯という奴でしょう。
何となくコタツもいつもより熱くなって来ました。私の愛の炎が燃えています。
流石です私、40度の熱でもおまじないを続けた甲斐があります。
何となく、意識がぼーっぼーっとしてきましたが、いい夢が見られそうです
おやすみなさい。
次は「プリンタ」「フォーマルハウト」「電子レンジ」でお願いします
温めていたミルクを電子レンジから取り出すと、彼女は2つのマグカップに注ぎ分け、ココアとマシュマロを無造作に加えた。
温かい飲み物にマシュマロをいれた物は彼女と暮らしだしてから、冬の定番だった。ココアはいつものように僕の体を暖めてくれたが、心には冷たい隙間風が吹き続けていた。
「もう、こんな美味しいココアは飲めないのかな」
一瞬、その瞳に悲しげな影を見た気がしたが、彼女は微笑みながら言った。
「あなたはレシピを知っているし、本当は何だって一人で出来る人でしょ。ココアだって、ずっと美味しく淹れられる。私はそうじゃなかったの。飲んでくれる相手がいないと駄目だった。でも、これからは一人でも頑張れる私でいたいの」
その彼女の言葉に、僕はいつか二人で見た秋の星空を思い出していた。南の空に輝く秋のひとつぼし。フォーマルハウトを見つめながら、もしかしたら既に一人で生きていく事も彼女は考えていたのかもしれない。
荷造りが終わって、彼女を送りだし、家具は何一つ減ってないのに妙に広くなった部屋の中で僕は途方にくれた。
部屋の隅では随分と使ってなかった筈のプリンタが接続されたままになっていた。
おそらくは、彼女が職務経歴書か何かを印刷しようとしたのだろうと履歴を見ると、意外にも僕の写真をプリントアウトしていたらしかった。
いつか、屑籠に捨てられるとしても、僕はその写真が羨ましかった。
次は「白紙」「豆腐」「ボール」でお願いします
今晩のご飯は湯豆腐よ。 from わがママ
白紙撤回を要求する。 from 育ち盛り
買い物めんど臭いし〜
レトルトかなんかないの??
じゃ〜ミートボール入り湯豆腐。
ミートボール オンリーで!!
消費期限あるし〜ペスので味付いてないし〜
おまえんちの犬ダサwww from 自称盟友
それタソんちのピラニアの名前 from 他称悪友
おまえらの家に遊びに行ってもいいか?
いいけど、うちのママンはさいきんプリン丼に凝ってるよ?
俺んちは、晩飯、10時過ぎがデフォ
あーもーコンビニいくからいいわ
あら、じゃあ、ネギと乾し椎茸、白菜なんかもあったらお願いねww
おまえらいい加減、まじめに戦闘やろ〜よ。ここ初期イベントの
やまばだぜー from 二次の彼方総長
と〜ちゃんこのゲームつまんねw
ちゅちゅみません…お題継続で
「白紙」「豆腐」「ボール」
私はこの時間が嫌いだった。チャイムが鳴り、給食の時間の終わりであり、昼休みの始まりを知らせた。殆どの生徒がチャイムと同時に騒がしくなり、外にドッチボールをしに行っていた。
私は一人、机の上に乗っている食器の中身をじいっと睨んでいた。食器の中には豆腐だけを端に残している。私は豆腐も大嫌いだった。
豆腐さえ無ければ、私は先生にこんなにも嫌われる事はなかったはずであり、チャイムがなった瞬間に私も皆とドッチボールをしに行ったはずだ、と当時は考えていた。
いつまでも動かない私に先生は、好き嫌いは良くないと言ったが、きらいな物をだけ残してしまった後に言われても困る。嫌いなものだけ食べろというのはもはや拷問である。
小学生にとってとても大切な昼休みが刻一刻と過ぎて行く中、たかが豆腐に束縛されている私の小ささが惨めに感じてしまい、涙がこぼれそうになった時、隣の席で、机に寝ていた美術部の無口君が、
「白紙か何か持ってない?」と、聞いてきた。当時、私は線なしのノートがマイブームだったため、ノートからちぎって渡そうとしたが、丁度、先生がいなかったので、交換条件に豆腐を食べてくれることを提案した。
その日以来、豆腐が給食に豆腐が出た日は、彼は絵が描きたくなるらしかった。
お題は「炬燵」「リゾット」「去年のカレンダー」でお願いします。
お前ら勘違いてるけどたかじんのそこまで言って委員会は日曜お昼のワイドショーだからな。
報道番組じゃないから。
26 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/24(月) 18:50:36
27 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/31(月) 11:00:11
【炬燵 リゾット 去年のカレンダー】
俺が何気なく空を見上げると、テレビの超常番組でおなじみの物体が、はるか上空を飛んでいた。
「あ、UFOじゃん」
妹のハルホがさほど驚いた様子もなく言う。
「あれ、降りてくるよ」
俺は多少動揺した。物体が近づいてくる。その速度が速い。
「着陸したよ」
ハルホは、付近の空き地に降りたUFOに走り寄っていった。
「おい、待てよ。危ないって」
UFOの入り口が開いた。誰も出てくる様子はない。
「ごめんください。とにかく上がります」
ハルホは待ちきれずに、内部に上がった。なんて妹だ。俺は、仕方なくハルホの後に付いていった。
「なんだよここは?」
中に入って俺は唖然とした。そんな馬鹿な。
ハルホは炬燵に入ってまったりしていた。ハルホの対面に入っているのは宇宙人だ。
「おい、UFOに炬燵ってのはおかしいだろ?」
「おかしくありません」と宇宙人が言った。
「この国には炬燵って普通にあるでしょう?どこが変なんですか?」
俺はあきれて勝手に高速解釈した。
「わかったよ。俺たちを驚かせないために、俺たちの記憶から馴染みのある物を具現化して見せてるってんだろ」
「ところで、おなか空きませんか?」
宇宙人は、炒飯を出して俺たちに勧めた。
「チャーハンではありませんよ。さっきイタリアにいたとき町の人にもらったのですがこれはリゾットです」
「私知ってる。フランスではピラフって言うんでしょ」
どうでもええわ。俺はやけ食いした。
さて、あれから一年、俺は主のいなくなった妹の部屋を片付けていた。あの日以来、ハルホは自分から進んで宇宙人と運命を共にし、旅だった。
去年のカレンダーにはハルホの消えた日に○がつけてある。このカレンダーを処分しようかどうか俺は今、迷っている。
だって、けいおんのレアカレンダーなんだもん。
次回「片目」「謎の小動物」「お兄ちゃん」
28 :
名無し物書き@推敲中?:2011/01/31(月) 13:33:18
私が大型古書店で時間を潰していた時のことだ。私の傍らを通りかかった少女が、私が立ち読みをする本のページをちらりと眺めた。
(まずいかな)と思った私はさりげなく本の表紙を少女に向けた。
(戦記物のマンガだぞ)と無言で主張したのである。
ただし、少女に見られた中身は、激戦をくぐり抜けて帰国したパイロットが馴染みの娼婦と情を通じる場面で、紙面の半分を娼婦の裸体が占めている。確かに女の裸だ、しかし、物語にとって必然性のある裸ではないか。
優しい少女は私の心情をおもんぱかるように片目をつむって、意志を伝えた。
(分かってるって。男の人ってそう言うのが好きなんでしょ?)
この優しさは、自分と同じ人間であるというより、理解不能な得体の知れない小動物という感じを抱かせる。
「よしこ、帰るわよ。」
店の入り口から響いてきたのは少女の母親の声に違いない。少女は可愛い笑顔を浮かべて駆け去った。
「ママ。あのお兄ちゃん、女の人の裸を見ていたの」
その一言で、私は店内で独りぼっちで周囲の冷たい視線に晒された。
次のお題 「チョコレート」、「バレンタインデー」、「彼女」
さぁ、一工夫しないと、ありきたりな物語になっちゃうよ。
彼女が言った。
「もうすぐバレンタインデーだけど、チョコレートとかどんなのが良いの?」
俺は畳み掛けるように答える。
「エロいの。」
「エロいのかよ!」
彼女が突っ込む。
そっかー。エロいのかーっ…とか言いながらどっかに行ってしまった。
2月14日。午後七時五分。自宅前で部屋の明かりを確認し、携帯で帰ると伝える。
帰宅。部屋の明かりは消えて居る。
…来る…!!
部屋の中央に進み出て明かりを点けようとした俺に襲い来るエロス。
性器はおざなりに愛撫され、口の中に甘いモノを突っ込まれる…
こんなのいやああお!!
「2011」「短くなった鉛筆」「インドネシアの仮面」
「お土産」そっけない言葉とともにボストンバッグがソファの上に落ちてきた。
直撃は免れたものの、読書の邪魔をされたのは不快でしかない。
「何これ?」怪訝な表情を隠しもせず私は10年来の友人の顔を見上げる。
「好きそうかなって思って」彼女は異国の言葉が書かれたコーラを開けながら、くいっとバッグを顎で示し答えた。
彼女が自由すぎるのは今に始まったことじゃあない。諦めて、読んでいた本をサイドテーブルに置いた。
「どれ、どれ?」異国の香り漂うカバンに手をかける。サイズの割りにずいぶんと軽い。
彼女の土産は嫌げ的な物も多く、期待を抱かせるような言葉には警戒が必要だ。
以前もらったアフリカの某部族で使うチンコケースや祭祀で使うらしいインドネシアの仮面やヨーロッパの上流貴族が毒薬を溜め込んだ壷のレプリカなど、
貰って困った土産なんか一時間じゃ語りつくせないほどある。
さりとて貰ったものを簡単に捨てたり人にあげられる性分でもないため、うちには今日も趣味に合わないインテリアが増えていく。
さて、バッグの中は新聞紙だらけだ。まさかこの新聞紙が土産というわけでもないだろう。がさごそと探していく。
「あー、さっきまで割れ物入ってたんだ。新聞紙捨てればよかったね」そういうことはあらかじめやっといてくれ、心の中でぼやいていると指先に紙ではない感触が当たった。
小さな細長い箱だ。「今回の土産はこれかな?」まるでクイズの答え合わせをするように、彼女の目の前にその紺色の箱をつまんで突き出す。
「正解。ま、見てみてよ」ゴム紐で閉じられたその蓋を開けると、中には銀色のペンホルダーが入っていた。
珍しい。そう思いながら手に取るとシャツにとめるクリップの部分に『2011/01/31に40回目の誕生日を迎える最愛の友へ 心をこめて Mより』との印字があった。
これを胸ポケットにさしたら自分の年齢公表して歩くようなもんだな、なんて思いも頭を掠めたがただ単純に嬉しかった。
私がいつも短くなった鉛筆をペンホルダーを付けて最後まで使い切るのを知っているからだろう。
「たまの誕生日だしね。不惑おめでとう。」そういって微笑んだ彼女は私の飲みなれた缶ビールを渡してくれた。
ささやかかもしれないが本当に良い誕生日だ。私は目じりに浮かぶ涙を拭きもせず笑顔で彼女と乾杯をした。
「坂」「フライパン」「節分」
トチ狂って「坂」「フライパン」「豆」で書いてしまった
節分から巡って豆……俺はアホか
イイヨイイヨー
たまたま43分開いたんだよ。
たまたまだよ。
というか文字数制限に引っかかって書き込めないよ
諦めますわ
二つに分けて書き込むんだ。
37 :
名無し物書き@推敲中?:2011/02/02(水) 20:52:48
そういうのやっていいの?
いちおう
>>1があるので奨励はされないかと思うけど
それより雑談はなるべく簡素スレで
台所から望むベランダ越しの風景が、そう悪くもないと思い始めたのはいつの頃だったろうか。
芳醇な香りを放つ珈琲豆を、強火で熱したフライパンの上でさらさらと転がした汗だくの私は、半ば空想に耽るような思いで窓の外を眺めた。
潮の香りが風に乗ってやってくる我が住まいからは、夏を色濃く引き写した空と海、それと、私が長年忌み嫌ってきた例の存在を目にする事ができる。
それは坂だ。数年前、地方開発のあおりを受けて設置された、山沿いに走る醜いコンクリートの道路。
まるい山の外周に沿って蛇行するコンクリートの道路が、私の家から望むことのできる風景の、その左側を著しく穢していた。
道路が設置されるまで、そこには海と山があっただけだったのだ。
抜けるような海の青と生い茂った広葉樹林の緑が、その二つをもって美しいコントラストを描いていたというのに、
どこぞの木っ端役人がいらぬ世話を焼いたのか、いまそこにはぎらぎらと日光を反射するコンクリートの黒と、興ざめしそうなガードレールの白が混じっている。
集落の人間たちは「これで移動が楽になった」と皺だらけの面を破顔させたが、私にとってはいらぬ世話以外の何物でもなかった。
私にとってこの景色は、人の手が入り込まない"動く絵画"だった。
寄せては引いていく緩やかな波模様。聞こえてくるわずかな潮騒。波風が揺らす広葉樹林のさざめき、蝉の声――。
この"絵画"には、"生命の複雑さ"が交錯していた。単調なようでありながら、同じ構図になることなど絶対にあり得ない景色。私はそこに、美を見いだしていたのだ。
だがしかし、いまとなってはなんとまあ穢されてしまったことだろうか。この"絵画"に人の営みが描かれるようになって、美しさが急激に損なわれてしまった気がする。
排気ガスをまき散らして通り過ぎていく車、場違いなボディスーツで疾走するロードバイカー。
あの道路だけでなく、そこを通っていくものさえ、なにもかもこの景色から浮いていて、ちぐはぐなように思える。
この景色は醜い。あの坂が憎い。あんな道路など、無くなってしまえばいい。珈琲豆を煎りながら景色を眺める度に、心の中でそう罵っていた。
あの日、白いワンピースに身を包んだ、勝ち気で生意気な彼女を目にするまでは――。
フライパンの上の珈琲豆が、ばちっ、と爆ぜてかぐわしい香りをあたりに拡散させた。
「しまった」慌ててコンロの火を止め、から煎りでチャフを飛び散らせる。ちょっと煎りすぎてしまったかもしれない。
次いで、皮が充分に飛んだのを確認した私は、ザルに移した珈琲豆を振って冷却作業に入った。
一分かそこらで触れられる温度まで冷めた珈琲豆は、少し焦げてしまっているようだった。
やっちまった。これではハイローストだ。
豆の銘柄的に、このくらいの方が風味が効いて美味いのだが、彼女はミディアムローストがお好みで、ちょっとでも焦がすとすぐ眉をつり上げる。
額に浮かぶ汗を肩にかけたタオルで拭った私は、彼女から下される審判を頭の中で思い描いて、震えがくる思いで台所から望む景色に視線を戻した。
果たしてそこには、潮風に麦わら帽子をさらわれないよう鐔を両手で押さえ込んだ彼女が、いつもの白いワンピースで坂を下っている姿がある。
やれやれ。また今日も怒られるんだろうな。
恐れも期待もないまぜにした複雑な感情が、私の胸中で渦を巻いていた。
だがしかし、遠い坂の上から私の姿を見つけたらしい彼女が、私に向かって大きく手を振っているのを視認して、恐れなど残滓も残さず吹き飛んでいくのがわかる。
あの坂は醜いが、この景色を下ってやってくる彼女は、とても美しい。この風景も、それほど悪くはないのかもしれない。
いつものように、怒られる恐怖よりも彼女と会える期待の方が勝った私は、心地よく鼓動する心臓の音を確かめて、彼女のために煎った珈琲豆をミルに投入した。
次「便器」「テレビ」「虫」
お題間違えたのはマジですまんかった
『虫を入れてくれてありがとう!』
黄色い虫が画面の中でうごめく。最近私がはまっているゲームだ。
作物や家畜を育て、売却し開墾しレベルアップしていくという他愛も無いゲーム。
一人で進めるにはハードルが高いが友人同士で一緒にやれば、水遣りや害虫駆除を助け合ったりと中々楽しい。
……ネット廃人状態なのがばれてしまうのが玉に瑕だが。
今日も今日とて家に帰ればテレビをつけたリビングでPCを立ち上げビール片手に畑仕事。
本当に向上心の無い生活だ。だがそれが楽しい。なんて駄目な生活。一人身万歳。
廃人とはいっても仕事に影響は及ぼさない。仕事にはちゃんと行く。
「ねー、佐々木先輩って彼女いないんですか」休憩時間に恋話に花を咲かせる女子社員に尋ねられる。
「いやいや時間が無くて中々ね」そんなことを良いながらも、頭の中は今朝植えてきたカボチャのことが気にかかる。
最近、一定のレベルに達したのかそう簡単にレベルを上げられるわけでもなくなってきて行き詰っている。
中々ゲーム内の仮想通貨が貯まらないのだ。これでは新たに畑を開墾することも、家畜を買うこともできない。
作物が育って収穫できるまでにはまだ何時間もある。ここでゲームを辞めとけばいいものを、また新たなものに手を出してしまった。
『こんなに喉が渇いているのに!?』注文したものが無い不満に涙目になる画面の中の女の子。
それを見ながら(申し訳ございません)と謝罪を伝えるボタンを押す。
可愛い泣き顔に、あぁ結婚したいなぁと思う適齢期の夜。
今日も経験地稼ぎのためにひたすら便器掃除のボタンを押します。
ゲームをやめて現実の世界に戻るにはもうしばらく時間が必要そうです。
結婚もまだまだお預け。俺、はやくこのゲームに飽きないかなぁ。
彼女欲しいなぁ。
「南瓜」「白菜」「合成」
42 :
名無し物書き@推敲中?:2011/02/04(金) 13:30:04
南瓜はできるだけいちょう切りで薄きらなきゃだめ。白菜は適当にざくざく切って、はごたえがあるくらい。
そうしたら沸騰した鍋にほんだしと一緒にに入れて、十分ぐらい弱火でコトコト煮込む。
その後はちょっとの味噌を溶かせば完成。
こんな素朴な味噌汁が洋介が一番好きだった料理で、何度もわたしにおかわりをせがんだのはいい思い出。
わたしは鍋が沸騰してる間に、洋介の気に入っていた服をタンスから引っ張り出して洗濯機に突っ込む。
そして合成洗剤を適当にいれて、スタートボタンをピッと鳴らす。
こうして一年に一度は洗ってやらないと、私は洋介に怒鳴られそう。
洋介は夏でも冬でも季節関係なく、一度来た服は洗わないと気がすまないのだ。
わたしが洗濯機から洋介がまだ全然着てない服をハンガーでつりさげておくと、彼は洗ったばかりだと勘違いしてそれを着ていく。
そういったことがわたしには面白く、ひどく愛しいものに感じられたものだ。
わたしはテーブルに作っておいた味噌汁やご飯を二人分テーブルに用意する。
今日乾かしたばかりの洋介の服を、きれいに畳んで椅子の上に乗せる。そうして自分も椅子に座っていただきますを言った時、わたしはこらえ切れず泣いてしまう
こんなことをしても意味はないのだ。洋介は二度と帰ってこないのだ。わたしは何度も何度も自分に言い聞かせてきた。
でもだめなのだ。わたしはこの洋介の存在を感じさせるアパートにいる限り、この儀式をやめることはできないのだ。
数ヶ月が過ぎた後、わたしはあの思い出のアパートを出た。そうしてすぐとなりに立つ、背の高いマンションの十階に移り住んだ。
わたしは暇があれば、双眼鏡であの馴染み深い部屋を覗き見ている。
わたしの思い出がちゃんと上書きされるか、確認するためだ。
そしていつかあの部屋に新しい住人が入った時、わたしは新しい一歩を踏み出せる気がするのだ。
43 :
42:2011/02/04(金) 13:39:23
すみません
次のお題は「大学」「英語」「森」でお願いします
降り注ぐ木漏れ日、木々や緑の放つ爽やかな香り。何処からともなく聞こえてくる小鳥のさえずり、穏やかな川のせせらぎ。そこは森の奥深い場所にもかかわらず辺り一面温かく柔らかい光に包まれていて明るい。
そんな平和で楽園のような森を私は一人歩いている。鼻歌を歌いながらしばらく行くと開けた場所にたどり着いた。綺麗な花が咲き乱れる美しい場所だ。その広場の中央には腰掛けるのに丁度よい切り株があり私はそこに腰を下ろした。
ふと足元を見ると大中小並んだ白ウサギが私を見上げていた。
「こんにちはウサギさん」
ウサギはぴょこんと耳を曲げ挨拶をした。
辺りを見回すとリスやキツネ、更にはクマなど様々な動物たちがいつの間にか集まっていた。
動物たちは一通り仲間が揃ったのを確認すると一斉に歌を歌いだした。何の歌なのか、何語なのか全く分からないが無邪気で拙いその歌いぶりがかえって可愛らしい。
しかし一匹だけこの調和を乱すものがいた。いや、一羽と言った方が正しい。私の肩に止まった小鳥だけが全くデタラメなメロディーをさえずっているのである。
「ちょっと鳥さん」
鳥は無視してさえずり続ける。
「ちょっとってば」
それでも全く止める様子がない。
「うるさい!」
気付けばそこは見慣れた大学の教室だった。小鳥のさえずりは講師の話す英語だった。
「今日は十五分か」
時計を見て私は呟く、そしてノートに今日の成果を事細かに記すのだった。私が考案した「現実逃避術」を完成させるためのデータを。
次題 「理論」「ターミナル」「神格化」
ここはターミナル。いろいろなものがたどり着く場所。
とはいえ、いいイメージのあるものは少なく、どちらかといえば場末、吹溜り……
そういったイメージが強い場所。
とはいえ、全てがそういうわけではなく、異端といわれ学会を追放された男が、
ターミナルで確立した理論は現在の主流であり、その理論が導いた破滅へと我々は進み続けている。
今日の日記
たちが悪いことに、破滅を回避するための手法を導き出すほど、破滅への道が加速されていく。
破滅をとめる方法として現在最も有力とされているのが「人類総江戸っ子もしくは、肝っ玉母さん化計画」であるが、
現実的にそれは不可能であり、肝っ玉母さんに当てはまる女性は神格化すらされており
特にアジア産の類似品が出回っている。
破滅への進行は地域によって異なり、多くの田舎と同様にターミナルではほとんど進んでいない。
理屈では、破滅を受け入れるのでもなく、抗うのでもなく、ただ淡々とその日を生きていくことが破滅を回避する方法であり、
ターミナルはまさにその典型だったというわけだ。
しかし、長くは続かないだろう。滅びに近い連中がここに逃げ込んできている。
ターミナルの破滅も進み始めている。
俺もいつまで日記を書けるかわからない。
まぁ、どうでもいいさ。社会的に俺は既に終わっているのだから。
この緩やかなる破滅をのんびりと眺めよう。
その電車がホームを出て行ったのは、彼がちょうどターミナルに着いたときだった。彼はぎりぎり間に合うかと思っていたのだが、どうやら歩いてきたのが悪かったようだ。慣れないことはしないほうが良かった、と彼は心の中で少し悔やんだ。
彼は切符を買ってターミナルのホームへ入った。そして近くのベンチでまで歩いていくと、そこに疲れたようにどっしりと座った。そうしてなんとなく向かいのホームに目をやると、そこを照らす汚れた蛍光灯が、切れかかってちらちらしているのに気づいた。
――思えば私はもう長くない。半年前にやっと肺炎が完治したと思ったら、最近は風邪をひいたり治ったりの繰り返しだ。階段をいちいち上がるにも足腰は痛むし、座るときはなおさらだ。もう体にがたが来ているのだ。
この三十年、私はひたすらグラース理論の研究に身を投じてきた。最先端の研究をするために、ここロンドンまではるばるやって来た。
最初の頃は地位や名声のためでもあったが、今となっては私が生きていた証拠を残すためだ。私には家族もいないし、跡継ぎもない。財産だってに無に等しい。借りている小さなアパートメントだって、私が死んだ後には知らない誰かに貸し出されてしまうだろう。
そうなれば私の痕跡は完全になくなってしまう…
私は忘れ去られることがひどく怖い。まるで私の生が意味がなかったように扱われることに、耐えられない。
だから私はこの研究をなんとしてでも完成させねばならない。私の理論が認められれば、私の研究は多くの人の知る所となるだろう。
そうすれば私は人々の心の中で神格化され、永遠に生き続ける。そうなった時初めて、私の生は価値あるものになるだろう。それまで私は死ねないのだ……
電車がホームに入ってくる低い、大きな音を聞いて、彼ははっと目を覚ました。どうやら彼はまどろんでいたようだ。やはり年だな、と自分を笑いつつ、彼はゆっくりと電車の中に入っていった。
警笛が鳴り、電車が大きな音を立てながら、のろのろとホームを出発した。しばらくするとターミナルは、すっかり元の静寂を取り戻した。そうしてホームには、わずかに笑みを浮かべた老人がぽつんとベンチに取り残されていた。
51 :
50:2011/02/05(土) 17:09:28
「祈り」 「正義」 「夜」
正義とはなにか。悪とはなにか。人に善するものが正義で、人に仇なすものが悪ならば、それは蜃気楼の如く掴み所のないものだろう。
腕の先も見えない闇の中、男は両手で構えたる真剣を振り上げ、全身全霊の力を込めた。
刹那、斜めから袈裟懸けに走った男の剣戟が、夜の暗黒を断ち切った。くぐもったあえぎ声が漏れ、地面を叩く水音が静かに響く。
雲に隠れていた月があたりを照らし、男の持つ業物の刀身を赤黒く輝かせた。
闇が払われたその場所には、覚悟を瞳に灯した浪人と、大木の幹に縄で縛られ息絶えた代官の姿があった。
代官の口には猿轡が噛まされ、大量の唾液がしたたっている。絢爛な意匠の施された白い襦袢が、代官自身からあふれ出る血液でどす黒く染まっていた。
この代官は、下々の者から「名君」と言わしめられた善良な男だった。
土地の開墾、住居の提供、医師の誘致、警邏団の派遣。兎角その男は、民のために職務を全うする代官の鏡とも言うべき存在だった。
時折街に現れては民の声を聞き、「必ずや」と約束することもある心優しいその男は、しかしある理由で浪人の怒りを買ってしまう。
想像するに、おそらく代官に罪の意識はなかったと思われる。しかしそれ故に浪人は猛り狂い、復讐にその身を窶した。
この浪人は、代官の管轄するこの街より離れた、寂れた地の人間だった。
流浪の身でありながらも、この寂れた地で恋仲と呼べる女を見つけたその男は、並々ならぬ理由により医師の助けを請うこととなる。
恋仲の女は労咳をその身に宿しており、少しでも気を抜けば命に危険が及ぶ状態であったのだ。
浪人は医師にかかる費用を捻出すべく終日働き続け、それでようやく足りる治療費をもって、女の命を繋げていた。
しかし、寂れた地に居たただ一人の医師は、ある日を境にその行方をくらませる。
浪人は医師を求めて走り回ったが、その地に例の医師を除いて治療を行えるものなど存在せず、ある朝女は血を吐いて息絶えた。
男は後に知った。医師は隣の集落――代官の管轄する土地だ――に強制的に誘致されていたのだと。男の目に、復讐の炎が灯った。
代官は人に善する正義を執行したに違いない。しかしその正義が、浪人にとっての仇となってしまった。
正義も悪も、揺らいでは姿を変える蜃気楼のような存在なのだ。確固たる正義や悪など、どこにも存在しないのである――。
次「勉強」 「車窓」 「煙突」
あっ、「祈り」忘れてた…
55 :
修正版:2011/02/05(土) 19:05:07
正義とはなにか。悪とはなにか。人に善するものが正義で、人に仇なすものが悪ならば、それは蜃気楼の如く掴み所のないものだろう。
腕の先も見えない闇の中、男は両手で構えたる真剣を振り上げ、全身全霊の力を込めた。
刹那、斜めから袈裟懸けに走った男の剣戟が、夜の暗黒を断ち切った。くぐもったあえぎ声が漏れ、地面を叩く水音が静かに響く。
雲に隠れていた月があたりを照らし、男の持つ業物の刀身を赤黒く輝かせた。
闇が払われたその場所には、覚悟を瞳に灯した浪人と、大木の幹に縄で縛られ息絶えた代官の姿があった。
代官の口には猿轡が噛まされ、大量の唾液がしたたっている。絢爛な意匠の施された白い襦袢が、代官自身からあふれ出る血液でどす黒く染まっていた。
この代官は、下々の者から「名君」と言わしめられた善良な男だった。
土地の開墾、住居の提供、医師の誘致、警邏団の派遣。兎角その男は、民のために職務を全うする代官の鏡とも言うべき存在だった。
時折街に現れては民の祈りの声を聞き、「必ずや」と約束することもある心優しいその男は、しかしある理由で浪人の怒りを買ってしまう。
想像するに、おそらく代官に罪の意識はなかったと思われる。しかしそれ故に浪人は猛り狂い、復讐にその身を窶した。
この浪人は、代官の管轄するこの街より離れた、寂れた地の人間だ。
流浪の身でありながらも、この寂れた地で恋仲と呼べる女を見つけたその男は、並々ならぬ理由により医師の助けを請うこととなる。
恋仲の女は労咳をその身に宿しており、少しでも気を抜けば命に危険が及ぶ状態であったのだ。
浪人は医師にかかる費用を捻出すべく終日働き続け、それでようやく足りる治療費をもって、女の命を繋げていた。
しかし、寂れた地に居たただ一人の医師は、ある日を境にその行方をくらませる。
浪人は医師を求めて走り回ったが、その地に例の医師を除いて治療を行えるものなど存在せず、ある朝女は血を吐いて息絶えた。
男は後に知った。医師は隣の集落――代官の管轄する土地だ――に強制的に誘致されていたのだと。男の目に、復讐の炎が灯った。
代官は人に善する正義を執行したに違いない。しかしその正義が、浪人にとっての仇となってしまった。
正義も悪も、揺らいでは姿を変える蜃気楼のような存在なのだ。確固たる正義や悪など、どこにも存在しないのである――。
このスレはプロがネタ探しに見てそう。
車窓からの風景は、ノスタルジーに浸らせる。
いつからだろう?銭湯の煙突が工場の煙突へと変貌したのは。
時は流れる。誰にでも、何にでも、平等に、残酷に。
過去へは戻れない。そんな事は分かってる。しかし、願わずにはいられない。
勉強こそが全てだったあの頃。勉学こそが存在理由だったあの時。オールでありオンリーな事柄。たった一つの生き甲斐は、たった一つの生き方で消えた。
いつからだろう?煙突が消えたのは。
心は変わる。誰しもが、残酷に、本当に?
過去は変えられない。そんな事は分かってる。だったら、変わらない心だってあるはずだ。
車窓からはもう、煙突は見えない。沈みゆく太陽が赤く紅く朱く世界を染め上げる。
こりゃポエムだな
次のお題は「生き様」「選択」「道標」
二月。高校三年生は殆どが自由登校になって校舎が閑散としている。
僕らが四月からこの高校の最上級生になる。クラスには既に受験の準備をしてる奴もいて、上級生につられて何だか
落ち着かない空気を漂わせているけど、僕にはまだこの先が見えない。
「はい、じゃあな机の上、筆記用具のみ。プリントを配るぞ」HRの時間に担任の田端がそう言った。
がたがたっとあちこちで教科書やノートをしまう音が教室に響く。一瞬静かになった後、微妙な緊張感を持った空気の中藁半紙のプリントが回ってきた。
設問1・今後実現可能な範囲内であなたが憧れる生き様を書きなさい。
設問2・なぜ設問1の回答になったのかについて理由を述べなさい。
設問3・設問1を実現するために必要な事は何か。
「えー、これはテストではない。進路調査でもない。これから三年生に進級するが社会に出る前に目標を作ってもらいたい。HRの時間内に書いて提出すること。以上。開始。」
ざっとペンを走らせる音が教室に満たされていく。僕も何か書かなくてはいけない。
何を書けばいいんだろう。憧れ……?特に無い。皆は何を書いているのだろう。教室内で一人取り残されたような気分になった。
過去に憧れを持った職業を思い浮かべた。ウルトラマン、無理だ。バスの運転手、違う。野球選手、無茶言うな。僕は帰宅部だ。
不要な物を選択し捨てていく。夢の無い生き方をしてきたんだな。残ったのは『お父さん』。
子どもの頃、お父さんみたいになりたかった。今じゃそんなこと微塵も思わないけれど、他に残る物は無かった。
結局、設問1の回答は地道に生きて無難な奥さんを貰い、2人の子どもと暮らすこと、と書いた。
校舎に鐘が鳴り響く。「はい、じゃあ回収ー。」皆、手馴れた物であっという間にプリントが集められていく。
プリント用紙を集め終え、その束をまとめ終えた田端は言った。
「設問3はなぁ、今後お前らが生きてくための道標だ。人生は長い、時々目標通過点決めておかないとだれるからな。
ま、今回まだ碌に書けなかった奴もいるだろ。来週の月曜にまた同じ物書かせるからな。真面目に書いた奴も更なる具体性を持たせられるよう調べて来い。じゃ、起立!」
ありがとうございました!の声をだした後、僕はとりあえず志望校でも決めようかなとようやく考え初めていた。
「生物」「心」「教師」
時間が出来ると良く考えるがいまだに答えは得られない。
恐怖や、喜びといった感情はどうなのだろうか?
親子の繋がりは?インプリンティングは心につながるのだろうか?
知識や感情が心だというのであれば、サルや多くの生物がそれを有している。
しかし、人のそれとは違うと思う。
言葉が心である、確かにそれは納得できる気がする。
日本語と英語で思考すると別の結果になりそうだ。いや、むしろそれは宗教か?
神の生贄になることが最高の名誉という事もあったそうだ。
結局、心というのは、本能と生きるための方便なのかもしれない。
正義と悪も世界が変われば逆転する。
なんと移ろい易いものだろうか?
---------
だから教師である堅い両親が俺に禁じた「してはいけない」いろいろな事が
「積極的におこなう」事になっても、それは人として当然のことであり
なんら心に引っ掛かりを覚えるべきことではないと思っていた。
しかし、子供が出来てみると、俺が親と同じようなことを考えていた
俺にとって「積極的に行う」事は、子供にとっての「してはいけない」事になった
なんと移ろい易いものだろうか?
次は「廃墟」「ムササビ」「人工衛星」でお願いします
「神の目ってなぁに?」商店街での夕飯の買い物途中に小学校三年生になる娘が突然尋ねてきた。
「さぁ?どこで聞いたの?」変な事を聞く物だなと思いさりげなく尋ね返してみた。
「悪いことをしても空から神の目が見てるぞって言われたの」娘の目は逸らされている。何か隠し事でもあるのだろうか。
「誰に?」気の無い振りして大根を手に取りそっけなく答える。
「……知らないおじさん」少しぶすくれたその表情が気にかかる。
人工衛星搭載のカメラはその唇を尖らせた表情を拡大し、男の下へと高画質で届けた。
「あー、やっぱり。言っちゃったか。駄目だよって口止めしたのになぁ」ニヤニヤと笑いながら男の人差し指は赤いボタンを押した。
「何か悪いことしたの?」私は少し心配になった。
「してないよー。別にー。」この頃自分に都合の悪いことは正直に話さなくなった。
ますます難しい年頃になるのだろうなと思うと気が重い。しかし家に帰ったら話をしなくてはならないと自分に言い聞かせる。
「他は何買うの?」「今日は、これでおしまい。」「ふーん……。あ、ねえ見てリス!」気の無い返事を返した娘の視線が頭上に向く。
釣られて見上げれば電線の上には茶色の小動物が居た。帰化が問題になっていた台湾リスだろうか。
そのリスと目が合ったような気がした瞬間、私達のほうに飛び降りてきた。
「きゃっ!」思わず顔の前を手でかばう私達の頭、すぐ近くをすべる様にして飛んでいった生き物は着地の際ニヤッと笑ったように見えた。
「もーやだー。何あれ」「リス、じゃなかったわねぇ」ため息をつきながらぶつからなかった事にほっと胸をなでおろす。
「モモンガ?」「ムササビかもねぇ。後で調べましょう」居間においた動物図鑑を思い出しながら言った。
「お母さん。私にお豆腐切らせてね」「あら珍しい」そんな他愛無い話をしているうちに私は娘の隠し事をすっかりと忘れてしまった。
「おかーえーりぃー」廃墟の中、モニター群の前に座る男が一人。ドアの隙間に向かって声をかける。
「ちゃーんと、脅かしてきてくれたねぇ。いい子いい子。」男は走りよってきたモモンガの背を愛おしそうに撫でた。
「じゃ、明日またあの子と話をしないとね」男はそうつぶやくと黄色い歯を剥き出しにして笑った。
次は「蜂蜜」「ふわふわ」「白衣」でお願いします。
「どうだった?」
戻った僕に彼女が無線越しに聞いてきた。機械を通して届く彼女の声は、感情が抜き取られているように感じた。
「だめだった」
「そう……」バイザーの奥の瞳が翳った。
彼女はかろうじて一つだけ壊れていなかったデスクチェアから立ち上がって、今ではテラスと化した窓際に立った。
時刻は午後5時。地平線まで続く街のむこうに今しも太陽が沈もうとしていた。
いつもなら仕事を終えた人々の車でハイウェイは渋滞し、歓楽街のネオンが瞬きはじめて寄り道を誘う。
そんな一日の終わりにふさわしい賑わいに包まれる頃合。でも、今日の街は静かだ。
僕の横で街を眺めていた彼女が、柱に凭れてかすかに息をついた。その吐息も電気信号に変換されて僕の耳に届く。
もう二度と彼女のあたたかい息を直に感じる事はできないのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に彼女が、着ている放射線防護服の横脇をつまんで、
ごきげんいかがとスカートを広げるような仕草をして言った。
「ムササビ」その突飛な行動に僕は思わず笑い出す。
「何だよ、それ……」
「だって、似てるでしょ? 前からそう思ってたの」彼女も笑い出す。
無線のレシーヴァーに彼女と僕の笑い声がこだまして、消えた。戻ってきた静けさがふたたび僕たちを隔てていった。
彼女が突然ヘルメットのボタンに触れた。パシュ、と気密の破られる音。
「マリ!」
「いいの」彼女の髪が外界のかすかな風に躍る。
「もう、いいの」
「……」
「こんなことなら、お気に入りのドレスの一着でもロッカーに入れとけばよかった」
「……」
「そう思わない? この、ださい服」
夕日に満ちた廃墟の中でそう言って笑う彼女を僕は抱きしめた。頬に彼女のあたたかい息を感じた。
人工衛星が、すみれ色に染まっていく空にちかりと瞬いた。
彼はこの尽きていく特別な夜を眺めるただ一つの眼となり、また、いつも通りにやってくるであろう
あくる日の、すべてが静寂に包まれた新しい世界を見ることになるだろう。
凍った眼で。
かぶったけど書いちゃったから投下させてくれ
お題は前の人のを継続で
63 :
gr:2011/02/07(月) 02:25:14
#「蜂蜜」「ふわふわ」「白衣」
「シーッ! …なにしろ、密造酒だからね。見つかったら僕たちタイホされるんだよ」
私がミードというお酒の名前を知ったのは、高1の冬、放課後の理科準備室だった。
その部屋は、昔から“科学同好会”の部員の溜まり場で、私は、その副部長だった。
科学同好会に、先輩は1人しかいなかった。その人は、校内の誰よりも頭がよくて、
しかも誰よりも発想が鋭く、そして誰よりも奇抜なことを言いだす唯一の先輩だった。
先輩が制服に白衣を羽織って歩くのを、変人ハカセだとか言って笑う人もいたけれど、
私は、白衣を着ることがかっこいい気がして、いつからかそれを真似するようになった。
先輩がある日、ウィキペディアのプリントアウトを自慢げに見せてくれて、私たちは、
同好会で密造酒を作ることになった。ミードというのは、蜂蜜を発酵させて造る酒だ。
「蜂蜜は糖分が多いけど、多すぎてそのままでは発酵しない。だから水で薄めるんだ」
私は今、3年生になり、放課後は先輩のいない準備室で受験勉強をするのが日課だ。
先輩のような人が集まっているらしい“東大”というところに私も行きたいという思いは、
むしろ先輩に毎日会えなくなってからのほうが、日に日に強くなっている気がする。
先輩の卒業の日、記念にあの瓶を開けて、初めて私もお酒というものを飲んだときの、
あのカッとしてふわふわするような気持ちは今も忘れない。
ミードの酔いは一カ月続くというけれど、私のこの高揚感は一年経っても募るばかりだ。
#ごぶさたしています。新スレ乙です。
#次は「栓抜き」「耳」「インク」で。
ここは父の家。僕と姉は久しぶりに彼の家に来た。机の上に瓶が一本。
勝手知ったる身内の家。僕と姉は父が帰ってくるまで自由に過ごすことにした。
とりあえず、持って来た本でも読みながら時間をつぶすとしよう。僕はソファに腰を下ろす。
姉は机の前に立ち尽くしていた。何故だかは知らないけれど。
「栓抜きちょうだいな」「はいよ」自分で動けよと思いつつ僕は台所から取ってきて手渡す。
「ちょっとー!開かないわよ、これ!」姉の苛立つ声が僕の耳に突き刺さる。
面倒なので聞こえなかった振りをする。「明!手伝いなさいよ!」切れられても面倒なのでため息ついて立ち上がる。
「何やってんのさ」「これ、開かないの」手渡されたのはモンブランのインクの入った小瓶。
「……捻ればいいんだよ。栓抜きいらないじゃん」「・・・・・・ありがと」姉に渡した小瓶はそのまま思いもよらぬ運命を辿った。
机の上にそのままだらりとインクが流されたのだ。姉はインクの空き瓶を絨毯に投げ捨てた。
「明、帰るよ」姉はそういうと玄関へと向かって歩き出した。
ここは父とその愛人の家。姉は時々ここに嫌がらせをしに来る。直接的なものから間接的なものまで。
帰ってきた父はどんな顔をするのだろう。・・・・・・はやく僕らのうちに帰ってくればいいのに。
次は「猫目」「ティーカップ」「梯子」でお願いします
椅子に座りワンルームの部屋を見回すと、ロフトに向かう梯子を猫が登っている。
今の重力は0.8G。今から一時間後には無重力になる予定だ。
無重力で自分の入れた紅茶を飲むのはかなり難しいので、お気に入りのテーカップを暖めながら茶葉を回す。
はじめはいくつもあったのだが、慣れない重力変化でいくつも割ってしまったものの、お気に入りがまだ残っているだけ良しとしなければいけない。
今住んでいる所は農業ステーション、初期に作られたこのステーションは遠心力を利用した人工重力と太陽の反対方向に取り付けられた分光ミラーにより、
植物の育成に必要な波長だけを取り込んでいた。離れたところから見ると、目のように見えたことからEye(無理やりな語呂合わせがあったが忘れた)と呼ばれた。
しかし分光ミラーに質量異常が起こり本来、新円であったものが楕円形になり、猫目と呼ばれるようになって久しい。
これだけ形を崩しながらも、分光ミラーの各ブロックは、担当エリアに光を供給し続け、メイドインジャパンの変態性の新たな裏づけとなった。
そんなわけで異常発生から3年間無事動き続けたこのステーションも、水の枯渇の為に作物を育てられなくなり停止させることとなった。
残された稼動するステーションは後4つ。
人類の300倍いるといわれるこいつらをいつまで養えるのか……いや、我々が生存競争に勝てるのか、まるでわからないが、少しはわかることがある。
早めに紅茶を飲み終えて、お気に入りのティーカップを割られないように隠すこと
無重力で猫の止まり木にれて怪我をしないために猫のいないところに行くことだ。
まぁ、まだ時間は少しある、ゆっくり紅茶を飲んで、どこに逃げるか考えよう。
お題忘れました。
「DVD」「アイスバーン」「宿題」
でお願いします。
雨も降らなければ雪も降らない、人生のほとんど全てをこの町で過ごしてきた俺には、なんと言うか「積もった雪」というものは憧れの一つで、今その憧れが目の前にあった。
しかし、なんと言うか「寒い……寒すぎる」俺にとって初めてで、この町にとっては25年ぶりの大雪(雪国からすれば普通らしいが)がもたらした物は混乱だった。
喜んでいるのは子供だけで、犬も猫も丸くなっているだろうし、憧れていた筈の俺も寒さに耐えられずに、部屋にこもって宿題とか予習とか、とにかく普段やり慣れない事をして一日を過ごした。
夕飯のとき、妹に俺が勉強したから雪が降ったとまでいわれたが、まるで順序が逆であり、こんな理解力で受験は大丈夫なのだろうか?と心配になったものの、口では勝てそうにないので無視していると、突然、妹が言い出した事実「DVD返却日今日じゃん?」
よりにもよってこんな日に何で返却日なんだよ、母に送ってくれと頼んだら「雪道なんて走れんわ」と一言で却下された結果、自転車で恐々走っていた。普段10分程度の道のりなのに、40分もかかってしまった「って歩いても変わらんわ!」何だか虚しくなった。
お店の中を見ていると浩子がいた。俺と同じような理由で無理してレンタル屋に来たらしい。あっという間に気持ちが上向きになるのは仕方が無いだろう?。結局浩子を家まで送って帰ることになった。
道すがら今日のことや、いろいろなことを話した。浩子は雪ウサギを大小かまわずいくつも作ったらしい、そのすごく楽しそうな顔は今日一日の澱みを押し流してくれた。
そして、あっという間に付いた浩子の家では、5段積みの雪ウサギを始め、沢山の雪ウサギが俺たちを迎えてくれた。そこで少し話をして、ぐちゅぐちゅになり始めた靴で家路に着いた。
帰る頃にはネットで話題になったアイスバーン映像のようになるかと思っていたが、そんなこともなく、みぞれ状の路面を足早に、恨み事を口に、浩子の顔と雪ウサギを気持ちに歩いていく。
自宅に着いたら、俺も雪ウサギを作ろう……手も足も痛いけど、それぐらいなら何とかなるだろう。でも寒いなぁ
次は「夜光虫」「散歩」「夢」
69 :
「夜光虫」「散歩」「夢」 :2011/02/12(土) 21:34:58
夢を見た。
散歩をしている夢だ。
無数の夜光虫の放つ青い光が闇の中に浮かび上がって一筋の道となり、僕を導く。
どこに向かっているのかはわからない。
ただ、何か懐かしいものがその先に待っているような予感がして、僕の胸はいつになく高鳴っていた。
懐かしさの原因は、光の道が銀河鉄道を連想させたからかもしれないし、昔やった白線渡りの遊びを思い起こさせたからかもしれない。
なんにせよ、とても気持ちの良い夢だった。
太もも辺りにくすぐったさを覚えて目覚めると、僕はいつものベッドの上に横たわっていた。
夢の中の線路はいつだって現実へとつながっている。
昨日酔い潰れて帰ってきたせいか、四十数年ぶりにお漏らしをしていた。
白いシーツに黄色い海が広がっていた。
そこから一筋、窓のほうに向かって黒い道が伸びている。
道はせわしく運動している。
無数の黒アリが糖尿の甘い香りに導かれて行列をなしていたのだ。
現実もまた夢へとつながっている。
嗚咽を堪えきれなかった。
お次のお題は「ドーナツ」「ガーデン」「午前二時」で。
おれスナイパー。エリート中のエリート。ひくてあまたなんだ。
とてもそうは見えないよね。でも本当なんだ。
今も仲間から「庭でドーナツ食おうぜ」とメールがあった。
「庭」は「2」、「ドーナツ」は「OK」、「食おうぜ」は「GO]という意味。
暗号を解くと「準備完了午前二時に決行せよ」ってことになるんだ。
じつはおれ、警察かどこかの組織にマークされてるかもしれないんだよね。
なんとなく携帯電話の雑音がひどくなった気がするんだよね。
さっきのメールもハックされてるかもしれない。
こんな感じに不安になるからおれはメールの内容どおりの行動をすることにしてる。
だからすぐ支度して駅前の「ガーデンハウス」に行ってドーナツを注文する。
そんで相手を待ってるふりをしてコーヒーとドーナツを追加注文したりする。
そんで相手が来ないからあきらめて帰るふりをする。
ほんと、ドーナツを暗号にするのは考えもんだよね。ほぼ毎日こんな調子なんだから。
だからこんなことになってるのはさ、おれがじだらくな生活してるせいじゃないんだ。
ホントだよ。
次のおだいは「牛乳パック」「パーク」「駅伝」で。
「牛乳パック」「パーク」「駅伝」
暴力的な眩しさで目を覚まし、部屋の中を彷徨いながら冷蔵庫から氷の様な人工牛乳を取り出し、胃袋に落とし込む
牛乳パックをダストシュートに放り込むと、地底人の賛美歌のような禍々しい回収音が響き渡った。
テレビをつけると100年前の駅伝が放送されていた。
駅伝は1000年経っても同じように楽しまれるのだろう。
この「パーク」は人類の結論として地球の衛星軌道上に設置された居住空間だ。
収容人数は5000万人で、全人類が居住して居る。
完全な自給自足を実現し、大地は再び動植物の楽園となった。
それが600年前。
なぜ人類がこの選択をしたかは記録に残っていない。
だが未来はわかっていた。
パークのメンテナンスをできる人間が居ないので人類は滅亡を避けられない。
やがてパークが壊れ、食料や燃料の供給が止まれば終わりだ。
メンテナンスできる人間が最初から居なかったのか、忘れられたのか誰もわからなくなっていた。
パークについての見解は複数あった。
人類が悟りを得、地球を守る為に計画的に居住した空中都市であるという永住説。
核戦争からの一時的な避難を目的としたシェルターであり、そろそろ帰るべきだとする帰還説。
帰還説派は大気圏再突入用の動力の存在を信じ、たびたびパークの内壁を引っぺがして故障させるので永住説派から蔑視されていた。
そして、永住説派はその倦怠からよく自殺をした。
人類は緑溢れる大地を眼下に収めながら身動きできないでいた。
楽園というものがあるとしたら、それはきっとこの様な地獄の様な場所なのだ。
私は人工りんごを放り投げ、手のひらで受け止めた。
「黒胡椒」「シンガボール」「隣に座っている人」
私が飲食店に求めるものは極めてシンプルである。
まず間口の広い入り口。出来ればガラガラっと引き戸のタイプが良い。
それから、カウンター席の幅は隣りに座っている人に干渉せずに済む1m弱が理想的である。
定食屋にありがちな盆を、背後から客の前に差し出す隙間を考慮した至高の幅こそが1m弱なのだ。
料理の頼み方に決まりこそないが、女々しく料理のウンチクなど垂れ流すのは愚図の極みである。
例えば、「洋食料理屋のシェフをはかるにはオムレツを作らせろ」
などと戯言を吐くなど、言語道断である。
そんな戯言を私の横で吐いた日には、その輩の頭へ卓上の塩を振りかけ、もしも
スパイスとして黒胡椒も常備してあれば迷わず振りかけるであろうから、
飲食店のカウンター席は幅が大事なのだ。
幅と言えば、カウンターバーの世界規準を定めるならば、シンガポールスリング発祥のホテル……
つまるところ、私は極めてシンプルである。
「雪」「岩」「宇宙」
男は山を歩いていた。
彼は地面に積もった茶色い絨毯を踏みしめながら、紅葉した木々の茂る斜面を登っていた。
そうしてちょうど山の中腹まで来た所で、いきなり開けた場所に出くわした。
そこには神々しいほどに大きな岩がそびえるようにたっていた。
岩は言った。
「お前は何をしにここへ来たのだ」
男は語った。
「私は世間というものが嫌になったんです。友人はお金の話しかしないし、職場の同僚は自分の自慢ばかり……
おまけに私の妻は町の噂にしか興味がありません。食事の最中でさえ他人の不幸話を持ち出すんです。
僕はそんな周りの人間が嫌になって、ここへ逃げてきたんです」
岩はふむ、と納得したように短く言い、考え込んむように黙り込んだ。
そしてしばらくして、再び男に向かって話し始めた。
「良かろう。この先少し行ったところに、体に大きな穴の開いた私の友人がいる。
ちょうど人ひとりが入れる広さだから、そこで寝泊りするといい。寒さぐらいはしのげるだろう」
男は岩に短く礼を言うと、再び山を登り始めた。
それから数年が経ち、季節は冬に移り変わっていた。
辺りには雪が降り積もり、木々は白い化粧をして、山は神秘的な美しさで満たされていた。
その一方で男の肌は血色を失い、頬骨は出て、体は骨ばってしまっていた。
彼はここ数ヶ月病気を繰り返しているのだ。
ある日彼は、いつものように夕食を得るため、重い体を引きずって外へ出かけた。
そして岩の前を通り過ぎようとした時、不意に岩が彼に話しかけた。
「お前はここに来た時と比べて、まるで別人のようにひどく衰弱してしまった。
私はお前にこの山の食べ物のありかを教えたが、それは生きるのに十分な量だったはずだ。
すると今のお前にはいったい何が足りないのだ?」
男は空を見上げた。辺りは既に暗く、厚い雲が星の光をを遮っている。
岩は続けた。
「お前はよく、私に町の話をしてくれた。
お前は周囲の人々がいかに無知で欲深く、救いようがない人間か語った。
そしてそのことに自分がどれほど絶望しているか私に教えたな。
でもお前は気づいていたか? そういった話をする時のお前の顔は、
どんな時よりも希望に満ちていたぞ。お前がひどく嫌っていたものは、
もしかするとお前の大きな糧だったのではないか?」
男ははっとした。そしてすぐに顔を上げて、まるで宇宙の最果てまで見通すように暗い空を見つめた。
灰色の厚い雲がゆっくりと移動し、わずかに星が出始めている。
光に照らされた彼の顔は依然としてこけたままだったが、そこにはわずかな微笑と
何かを心得たといった表情が広がっていた。
彼は岩に長い長い感謝の言葉を述べてから急いで自分の穴倉に戻り、山を降りる準備を始めた。
76 :
75:2011/02/16(水) 22:51:34
「巡礼」「夢」「ワイシャツ」
疲れた……ワイシャツを脱ぎながらベッドに横になる。ベッド脇で埃をかぶっている写真に写る自分はどこにいるのだろうか?
若いころは、とにかく働いて金を貯めては旅行に出かけていた。しかし、結婚して定職に付き子供も出来た頃から、自分には自由は無かった。
正確には無いわけではないが、それはすなわち家族の不幸を意味していた。
結局は自分の意思として今の生活を選んだわけで後悔も何も無い……無いのだが、
個人としての夢が無くなった訳ではない。
マチュピチュで黄金色に染まる朝焼けを見てみたいし、太平洋航路をのんびり揺られてみたい、色々あるが一番行きたいのはカイラス山。
ポタラ宮の正面にあるゲーセンでバイクゲームを楽しんだりした不届き者でも、五体倒地で巡礼する人の姿には心を打たれた。それ以来彼らの目指す聖地カイラス山へ行ってみたいのだ。その気持ちは静かに大きくなっている。
「ん?」マナーモードにしたままの携帯がうねりを上げる。
電池で振動するアレはよく壊れるのに携帯は壊れないよなぁ……どうでもいい事を思いつつ電話に出る。
たどたどしいけど、疲れが溶けていく声で娘が話しかけてくる。最近電話を覚えたらしく、自分だけでなく祖父母にもよく電話をかけているらしい。
この時間は今の自分にとって、どうでも良い内容であっても大事な時間だ。
ああ……そうか
各駅停車で旅をする時間、中国の長距離バスに乗ったときの時間。
その行為に意味があるのかどうか分からないが、その時間はかけがえの無い大事な時間だった。
自然と顔が緩む、娘に今の気持ちを話した。
電話の向こうで娘が妻に説明しようとしている声が聞こえる。
「みぃとゆめはおなじでだいじなんだって」
私も娘も……そして妻も、みんな笑っているだろう。
*次は「色鉛筆」「プラネタリウム」「雪」でお願いします
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前−−言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる−−
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。
2/17 今日はフミ
真帆はプラネタリウムが好き。プラネタリウムに映し出された、でも降り注ぐ様な星の光は雪ふる夜空にライトを照らしたような圧倒的な光の粒なんだって。
昨日一緒にいくはずだった智君は約束に遅れそうだったから道路を無理に横断して事故にあったって。もう生きてるのが不思議なんだって。
だから真帆は私に「お願い、このメールを事故の前に……智に届けて」って言ったの。だから私はフミになった。
「ごめん用事出来たから今日は無理」それだけのメールだけど代償は多分大きい。
今までも過去にメールを送っているから、どれだけの大事な手紙やメールを受け取れないのか見当も付かない。だけど、そんなことは分かっているはず。だから私はメールを届けた。
真帆はいきなり泣き顔から怒り顔になった。「智君が約束を破って来なかった」からだそうだ。智君も真帆がメールを送ったんだろ?と怒っている。私は色鉛筆で塗るように今を重ねることは出来ない消して書き直すだけ。
ま、どうせすぐ仲直りするでしょ。喧嘩なんていつものことだし。
2〜3日したらすぐおなか一杯の話をしてくるんだろうな。
2/19 真帆が別れた。
仲直りのメールが届かなかったんだって。命と恋愛で釣り合うってなんか素敵だよね。明日は1日遊んで愚痴を聞かなきゃね。
*「ミシン」「ねずみ」「ダンス」でお願いします
今日もカタコトミシンを踏んで。
ペダルに合わせてミシンが動く。
カタコトカタコトミシンが動く。
音に合わせて踊りだす。
ネズミが三匹踊りだす。
壁の穴から顔を出し。
三匹仲良く踊りだす。
カタコトカタコトカタコトカタコト。
上手に軽いステップ踏んで。
カタコトカタコトダンスを踊る。
今日のお仕事これでおしまい。
ミシンの続きはまた明日。
それではネズミもまた明日。
次は「猫」「ギター」「狼」でお願いします
大して良い音も出していないフラメンコギターの二人組が自分たちの奏でるサビに酔っている。俺は指3本分の
スコッチの入ったグラスをそっと滑らせた。内心冷や冷やだが平静を装って自分のグラスには別の酒を注ぐ。
カウンターの真ん中で、滑るグラスを止めたのは白く長い指。すっとグラスを引き寄せる。
「貴方が『灰色狼』?」
女がカウンターに目を落としたまま、酒の量を確かめるように指でグラスを撫で、低い声で尋ねる。
「ああ、そうだ」
俺は自分の手元の酒を見つめたまま答えた。
細い煙草を灰皿に置き、女が琥珀色の酒を傾ける。美女と酒をご一緒するのは嫌いじゃないが、
こちらを値踏みするような目が年老いた猫のようだ。女がぺろりと唇を舐め、目が先を促す。
「・・・『紅い月』の居場所を知りたい。あんたが仲介役だと聞いた」
カラン。グラスが鳴った。瞬間、女の指の間に鋭い刃が現れた。
「『灰色狼』の符牒は、ライウイスキーを3フィンガーと聞いているわ!」
言い終わる間もなくメスのような刃物が俺の首目がけて飛んでくる。俺はグラスを引っ掴んでしゃがみ、
女の顔に中身を浴びせかけた。ハラペーニョ入りのウォッカだ。女は目を押さえて叫び声を上げる。音楽が止み、
歌っていた二人がギターの胴から銃を引き出す。俺はカウンターに乗り出して強い酒のボトルで女の頭をまず一発。
割れた瓶に煙草で火を付けて二人に投げつけた。二人の衣装は焚き火にはうってつけ。まさに情熱の踊りって奴だ。
大騒ぎの店内で俺は目を白黒させているマスターに多めに札を握らせると足早に店を後にした。
全く腐れ情報屋め、なんでこう毎回細部のツメが甘いんだ。そもそも俺はスコッチもバーボンも好きだが、
ライだけは苦手でね。ますます嫌いになりそうだ。仕事も失敗だし今夜はどこかで飲み直すとしますか。
81 :
80:2011/02/19(土) 03:19:36
次は「筆」「天ぷら」「シート」でお願いします。
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前−−言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる−−
でも、私はワザと『フミ』と名乗るときがある。
2/18 可愛いおばあちゃん
真帆と一花のお見舞いに行ったんだけど、とても元気で暇をもてあましていて、弟から取り上げたゲームで狩ばかりしているんだって。でも逆に倒されててストレスたまってそう。
帰りに待合室で真帆の愚痴を聞いていると、かわいいお婆ちゃんが話しかけてきたの「喧嘩したまま会えなくなることもあるんですよ」って寂しそうな声。それで真帆は仲直りのメールを打ち始めた。悩んで悩んで打っていたんだ。
おばあちゃんは汚れてボロボロな多分会えなくなった人の名前を筆で書いた手紙を取り出し、今みたいに手紙が直ぐに届いたら……と寂しそうな顔になった。
私は頼まれもしないのに、おばあちゃんの手と手紙を両手で押さえて手紙を送った。
多分リスクは私に来る。でも手紙は消えなかったけどシートに挟まれていた。
私は何食わぬ顔で「そのお手紙は?」と聞いた。おばあちゃんは可愛い笑顔で教えてくれた。
終戦後、隣町の人が「君が生きていてくれたならうれしい」って伝号を伝えてくれたんだって。
大怪我していてその人を置いて来るしかなかったって……だけど生きていて留まった国の独立の為に戦い最近まで生きていたんだって。
その人の家族の人から大使館を通して、お婆ちゃんが送ったすごく汚れてボロボロになった手紙と家族からの手紙が送られてきたんだって。
「仲直りは大事よ?」それを聞いて真帆は余計に悩んでメールを打ち直していた。仲直りできるといいね。
今夜は天ぷら−−サツマイモだらけの−−かぼちゃほしかったなぁ
*「崖」「太陽」「コーヒー」
「……今日も良い天気だ」目覚めのコーヒーをテラスで飲みながら誰に聞かせるでもなく呟く。
言ってしまってからつい、苦笑いが浮かぶ。ここにいるのは自分の他は猫だけだというのに。
どうして無意味な独り言を言ってしまうのだろうか。一人の生活にまだ慣れていない証拠なのだろうか。
朝日がゆっくりと昇っていくのを見ながら、一杯のブラックコーヒーをゆっくりと飲み干す。
もう妻は亡く、落陽の日々を送る私には気にかけるべきことも殆ど残っていない。
カップを洗うと、水切り籠に置き丁寧に手を拭いた。そしてメールを一通送信する。
玄関でお気に入りの革靴を履いて振り返る。
「じゃ、行って来るよ」今度ははっきりと猫に向かって声をかける。
猫は眠そうな目でこちらを見ただけだった。私は軽く手を上げてそれを返事とした。
近所の岬まで徒歩15分。すぐに見慣れた崖に着く。
雑草の生い茂った、海を臨む景色の良い草原。私は昇りかけの太陽を一度見上げた。
そして何もかもを思い切る。助走をつけて崖から思いっきり遠くへ目掛けて力いっぱい、……飛んだ。
さぁ、後のことはメールを受け取った竜彦が全て上手くやってくれるだろう。
猫は、信彦が引き取ってくれるだろう。家財道具は美晴が処分してくれるはずだ。
皆、ありがとう。ようやく、ようやく、妻に会える。もう、すぐだ。
最後の瞬間は意外と早く訪れた。
ありがとう。ありがとう、皆。
次は「電話」「羽毛」「桃色」でお願いします。
私の名前は『文(あや)』。お婆ちゃんが付けてくれた愛着はあるけど、面倒な名前−−言葉で伝えると綾か彩と思われ、文字で伝えると『ふみ』と読まれる−−
一緒に歩く堤防、たくさんの羽毛のような雲が空に浮かんでいて、じっと見つめると羽を震わせるように静かに形を変えていく。もうすぐ綺麗な色に輝きそうな予感。
真帆は私の目をそっと見つめているけど私が眼をあわすと逸らす。
多分私が知っていることを聞きたいんだと思うけど私からは言わない。
堤防の上をぶらぶらと歩く真帆が話し掛けてくる
「ねぇ文、電話で仲直りしようとしたら伝わった?」
「そうだね電話なら伝わったかな?」
「そっかそれだけ大事なことだったんだ」
「真帆は恋愛に命がけだもんね」
真帆はかばんから桃色のお守りを取り出す。
「恋愛成就ってどこにでもあるけど、恋愛安全とかってないよね」
「あ〜そういえばないね。」
「文ごめんね、ありがと。智が元気でうれしいよ」
いつのまにか空はオレンジに染まり、ふわふわとやさしかった雲は彫金のような鮮やかさに輝き真帆の周囲を飾っている。だけど真帆はよけい暗くなっている。
「2回は無理なんだよね」確認するだけの口調
「成功したことない……ごめんね」
「いつも思ってたけど文って大変だよね、全部抱え込むんだからさ」
横を向く真帆、夕日が浮き立たせるのはやさしい顔。どうしてこんなときに優しくなれるんだろう。見とれていると、維持の悪そうな顔で笑った。
「じゃあ、文のおごりでモス行こう」
「えっええ〜〜無理だよ、せめてミスドにしてっ!」
「それで手を打つか」
そう言って歩き始めた真帆の後ろを少し離れ、震える肩を眺めながらついて行く。
*「携帯」「氷」「麻雀」
「どうだ!」えらいドヤ顔をした妹が僕に向かって言い放つ。
「どうだ!じゃねえよ!今日、多治見たち呼ぶって言ってただろうが!」まったくとんでもないことをしてくれたものだ。
「だってー、私だって麻ちんたち家に呼んで遊ぶんだもーん。おっさん達が麻雀なんてしてると感じ悪いんだよね」
ぷいっとそっぽ向いて自分勝手なことを言う。とにかくこうしてはいられない。とっとと連絡を取らねば。
急いで携帯をだして多治見を呼び出す。「あ、多治見!すまん、今日約束してた麻雀なんだけどさ」
そんな俺を尻目に台所を出て行こうとしていた妹が言い放つ。
「あ、そうそう!皆で遊んでるから二階に来ないでねー。」
今、うちの冷凍庫には氷漬けにされた麻雀牌たちが眠っている。
湯をぶっ掛けて、救出することはできるだろうが、その後拭くことなどを考えると何とも面倒くさい。
これぐらいはあとであいつにやらせよう。
昔は可愛いかったのになぁ。
「兄貴」「マッスル」「りぼん」
そこにはマッスル兄貴が居た。
あそこにリボンを巻いたマッスル兄貴が居た。
兄貴が長い夜を告げた。
「流れ星」「エンジン」「トリケラトプス」
ペット用に遺伝子改良されたミニチュア・トリケラトプスは
大別して「流星種」と「桃尻種」に分類される。
「流星種」の2本の上眼窩角鼻角は、流れ星が尾を引いたような華麗な弧を描き、
左右の斜め前方に1.2メートルの長さに達する。
「流星種」はミニチュア種とはいえ、角を除いた部分の体長が1.7メートルに達し、
一般の家庭で飼育するのは不適当だろう。
その点、尻尾と角の短い「桃尻種」は体長60センチ、愛らしいお座りのポーズで
数年前にペットとして大ブレークした。しかし、今、新燃岳恐竜公園では、
無責任な飼い主による「桃尻種」の捨て恐竜が問題になっている。
新燃岳恐竜公園のマッスルな飼育員達の兄貴分である舞鶴博士は中指を立てて警告する。
「桃尻はりぼん(DNA:デオキシリボ核酸とグッピーのリボンの♂が極めて生殖力能力が
低いのを掛けた不生殖改良種を表す俗語)とはいえ、何十年と生きるように設計されている。
当公園では去年1年間で実に547頭もの桃尻を保護したが…………(ズォーードドドーードコドー)
ジェットエンジンのような爆音に私は執筆の手を休める。足下で丸まって寝ている桃尻のアイコの
いびきの音。さて、私はいつまで耐えられるだろうか?
次のお題は「火山」「革命」「その後」でお願いします。
その後、何年も何年も町は何事も無かったかのように静まり返っていた。
人一人おらず、猫の姿さえなかった。
通り過ぎるのはただただ風と木の葉のみ。
ある日、一人の旅人が通りかかった。
旅人はある一つの廃屋に入った。
埃っぽいその家で大きく息を吸い込んだ。
そして、一言。「ただいま」、と。
一つの部屋に入った。灰と砂にまみれたベッドに腰掛けた。
そう、この部屋には天井がない。灰はあの火山から来たものだ。
旅人は肩から荷袋を降ろした。中からはまばゆいばかりの王冠が一つ。
旅人は焦点の合わない目でそれを見つめた。
王冠の持ち主はもう居ない。旅人が殺したのだ。
圧制に苦しむ村を通ったとき、村人を助け剣を振るった。
旅人が旅人となったのは些細な理由。もっと他の世界を知りたかったから。
しかし、けして楽な旅ではなかった。盗賊と遭遇し、泥棒と誤認され、あげくに革命騒ぎだ。
何人かの人を手にかけた。そして懐かしの家(や)にたどり着いたのだ。
ため息を一つ、吐き出すと男はベッドに寝転び直ぐに寝息を立て始めた。
この街を襲ったのは旅人が殺したあの王だった。
旅人は知らずして自分の町の敵を打っていたのだ。
だがしかし知ったところで何の救いになるだろう。
そう旅人を癒してくれるのはあの村で待っている村娘だけ。
彼女の腹の中の子は旅人の帰りを待つただ一人の身内となった。
眠った旅人の顔につたう涙を見たのは青白い月だけだった。
次は「眠気」「廃屋」「指紋」
午前二時、廃屋、正確に言えば廃病院の入り口の駐車場で俺は奴らを待っていた。寒いなか眠気にも耐え何故こんなに頑張っているかって?そんなの決まってる、幽霊の醍醐味、そう、「脅かし」だ。
幽霊は生きている人間に直接手出しは出来ない、何故かは分からないがそういう決まりなのだ、でもそんなことはどうでもいい。幽霊は人間の恐怖や悲鳴や絶望に麻薬的な快感を覚えるのだ。だから幽霊は生きている人間を脅かす。
しばらくすれば奴らが戻ってくる。ふと一人が車の異変に気付く。フロント、サイド、バック、全てのガラスにびっしりの俺の手形、指紋までくっきりの。彼らは慌てて車に乗り込む。しかしエンジンがかからない、それもそのはず、電気系統を俺が事前に弄っているからだ。
焦る奴ら、そして奴らの恐怖が最高潮に達した瞬間……まあそこから先はまだ考えていないがアドリブでなんとかなるだろう。
しかし寒い、奴ら何してるんだ全く、その廃病院には曰くなんて全くない。院長は優秀で誠実だったし、いまだ現役バリバリだ。患者から恨まれるようなことなんて病院が潰れる最後までなかった。
病院が潰れた原因もただの経営難でそれまで入院していた患者は全員別の病院でぴんぴんしている。
「きゃー」
女の悲鳴。くっくっく、まったくあいつら相当の臆病者だな。どれ、いっちょメインディッシュの前に軽く前菜でも振る舞ってやろうか。
病院のなかに入る。ひっそりとしていて全く気配がない。おかしい、幽霊は恐怖や怯えにはひと一番敏感だ。これではまるで俺と同じだ、死の気配だ。どういう事だ?
「まさか……」
悲鳴の聞こえた方向、霊安室の扉を開けると其処にはバラバラになった男女の死体、そしてそのそばで放心状態の男女の幽体。
「そんな……まさか……」
動けなくなった俺の背後に何かが立っていた。
次題 「天網」「ルミネセンス」「冒涜」
また一人、目の前で人間が消えた。おとなしそうな顔をした色白の女性だった。彼女が何をしていた人なのかは
知らない。ただ、青白い光を発しながらだんだん小さくなるように消滅した。誰もが思わず目を伏せ、彼女の顔を
見る者はなかった。独自のトランスファービームが周囲と干渉して起こす光だという者や、強力な電磁バリアの
中で分解を受ける際のルミネセンスだと推測する学者もいた。ただ我々に恐怖を植えつけるためにわざと光らせて
いるのだという者もいた。誰にも真実はわからなかったが、共通して、みな人としての表情を失っていた。
「天網恢恢疎にして漏らさず、なんて言葉があったな」と誰かがつぶやいた。夜の酒場の片隅。酒の勢いか、度が
過ぎた発言の中で、また人が消えるのを見た直後のことだった。空となった席の近くで男が気色ばんで立ち上がった。
「こんなののどこに正義があるというんだ!あんたは天を冒涜するのか!」
空気が凍りついた。まもなく二人の人間が消えた。
その昔、テロや凶悪な犯罪を防止する目的であらゆる情報を一手に集めていたコンピューターシステムがあった。
その情報収集能力と統制が極度に進み、人類に大きな害を為す恐れの高い集団を人の手を介さずに割り出すことが
可能になった。軍需産業複合体と結びつくのに時間はかからず、最新の攻撃・防御技術が次々と導入されたが、
ミスか偶然か、システムが自衛プログラムを獲得するに至った。関係者も危機に気づき対策を講じたと伝えられるが、
工業都市すら掌握して自ら進化するシステムに追いつくことはできず、今やその誰一人として行方が知れない。
今夜も地表には光が瞬いている。
次「ガム」「カード」「夕焼け」
ピカっと空が輝き。それを合図に爆発音と風を切る音が入り混じり、
思い出の公園はあっという間に見る影もなくなってしまった。
彼がクソッタれと呟くのはもう何度目だろうか。
彼がガムを吐き出すのは、あの日から数えて何度目だろうか。
初めて会ったあの日、やっぱり彼はブランコに揺られクソッタレとガムを吐き出していた。
また閃光と爆発が続き、彼と彼の仲間は支給された
ライフルを片手に滑り台の辺りへ走り抜けた。
少し遠くなった彼は、滑り台の影からオートマチックのライフルを打ち鳴らす。
たんたんたたんと乾いた音が数発。彼はまたガムを吐き出し、マガジンを交換すると、
やっぱりクソッタレと叫んでいた。
あの日、ブランコを漕ぐ彼が握り締めていたカード。町内会から送られた赤いカード。
――あれから十五年。あの日は親父、今度は俺だクソッタレ――ってやっぱり言ってたね。
また閃光と爆発と砂煙。
たんたんたたん。たんたんたたん。リズムに乗って彼の仲間はダンスをやめたね。たんたんたたん。たんたんたたん。
ここが前線になる最後の日、ブランコの上からガムを吐き出し、夕焼け空にカードを照らして約束したよね。
私のおなかを二度さすり、小さな声でカードは二枚までだって。俺で終わりにしてやるって。
また……閃光と、爆発と、壊れたブランコと、土煙と夕焼けに染まる真っ赤な彼……と。
――くそったれ――
次「携帯電話」「帽子」「はさみ」
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
でてきたものは小さいぞうさん。
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものはぞうさんの帽子。
ぞうさんぞうさん可愛くできた。
それではも一つ作りましょう。
ちょきちょきちょきちょき鋏を使い。
くるくるくるくる紙を回し。
どんどんどんどん切り抜いて。
出てきたものは携帯電話。
ぞうさん貼って、いろいろ描いたらできあがり。
これは明日のプレゼント。
あの子は喜んでくれるかな。
「クローゼット」「ガラステーブル」「腹痛」
クローゼットの中で、内緒でハツカ鼠を飼っていた。
ハツカ鼠は白い毛に赤い目をしている。シッポの耳の内側や指はピンク色をしている。
鼠算式に増えたら困るなと思ったら、全部、雌だから大丈夫とペットショップのおじさんは言っていた。
餌はペレットと給食の残りと野菜の切れっ端。大好物のヘビ苺は、腹痛を起こさないように
やり過ぎに注意する。
日曜日、ママとパパがデートに出掛けたので、
僕は居間のガラステーブルの上で、徒競走をさせて遊んでいた。
ガラスの裏側から覗くと、白い毛がスリスリ、ピンクの足がペタペタして可愛い。
玄関でガサゴソと音がしたので、鼠たちをプラスチックのケースに戻した。
いっぴき、にっひき、さんびき、よんひき、ごひき……あれ、一匹増えている!
ゆっくり見れば、どの子か解るけど、時間がなかった。
何度かそんなことがあったが、真相は解らずじまいになった。
数ヶ月後、僕は鼠アレルギーになってしまい、クローゼットの中味がママにばれてしまったのだ。
それで、ハツカ鼠たちは従兄弟に貰われていった。一匹死んだが残りは元気だそうだ。
今日、僕に妹が出来て病院で対面したのだけれども、僕は、
何故か、クシャミが止まらなくなってしまった。鼠アレルギーのときみたいだった。
妹の顔がハツカ鼠に似ていたせいかもしれないと思った。
次のお題は「鼠」「吹き矢」「草原」でお願いします。
次の日曜日はディズニーランドに連れて行ってよと、
付き合い始めたばかりの恋人が僕にせがむ。
その時僕はベッドのふちに腰掛けて、裸でタバコを
吸っていたのだけれど、何だか急に不味くなってしまった。
日曜日のディズニーランドなんて、全く行くもんじゃない。
木枯らしの吹きすさぶ中、たかだか10分程度のアトラクションの
為に、その10倍以上もの時間並ぶなんて狂気の沙汰だ。
黙りこくって不味くなったタバコをふかしていると、彼女が答えを
求めてシーツから白い腕を出し、僕の背中をつつく。
「ねえ、いこうよ。駄目?」
幼少の頃、母親にディズニーランドの鼠の像の前に置き去りにされて
捨てられたという嘘の話をしようかとも思ったけれど、彼女は一度僕の
母親を遠目に見ていたので、その案は却下しなければならない。
それで僕は一度煙を肺一杯に満たし、ゆっくりと吐き出してから
振り向いて、にっこり笑っていいよと答えるのだった。
ディズニーランドになんて行きたくない。
人の群れの中、おかしな耳をつけて、歩きたくなんかない。
出来ればサバンナの草原にでも行って、腰ミノ一つ身につけて
槍を持って踊り明かしたい。
草むらに隠れたどこかの野蛮人が、通りかかる女を吹き矢で
昏倒させ浚うのを、サバンナのナンパと銘打って世のバッシングに
合って消えた若手芸人達のネタが、僕は結構好きだ。
「リップクリーム」「定期券」「血糊」
赤いリップクリームをもらった。
だが実際に唇につけてみると無色透明だった。
その色は血の様に毒々しい色をしていた。
匂いはアメリカンチェリーだった。
色も匂いもまったくもって私の好みじゃない。
きっとPLAZAあたりでかったのだろうソレは、パッケージの説明が全て英語で書かれていた。
女子中学生の買うプレゼントなんてこんなものだ。少ない予算で選ぶので選択の幅が少ない。
結果、好みでないプレゼントを受け取ることもあるわけだ。にっこり嬉しそうに笑いながら。
彼女はきっと一生懸命考えてくれたのだろう。だから無下に処分する気にもなれない。
そんな事を考える自分は可愛くない。なんて可愛くないんだ。素直じゃない。
いっそこの毒々しい赤が付けば、血糊風の化粧をする時にでも使えたかもしれない。
もらった物に罪はない。何とか使う方法はないかな。
そんな事を考えながら、ライブハウスに行く為に家のある駅とは反対へと向かう電車に乗り込む。
定期券外だからそう頻繁には行けないが今日は特別。だってせっかくの誕生日だ。
ハッピバースデートゥーミィー。
「指」「脂肪」「好き」
96 :
名無し物書き@推敲中?:2011/03/12(土) 16:41:23.08
大好きだったあの子。だいじょうぶかな?
近所のスーパーに行って
脂肪のたっぷりのった豚コマを買ったよ。
君と僕とあの子で指切りげんまん。
かならず再会しよう、と約束したね。
熱々のトン汁とオニギリを用意して待ってるからね。
お題は継続でお願いします。
「食べないのか?」
ぺっと指輪を吐き出した彼は俺の足元の死体を指差して言った。転がった指輪とこっちの死体の指輪を見比べながら返す。
「……食べない……」
「じゃあくれよ、こっちは脂肪が多くて食えたもんじゃないからさ」
今晩の飯になった彼等は察するに夫婦だと思われる。机の上や至るところに飾られた二人の写真、そして指輪がそれを示している。
「なあ、もう止めないか?」
「何を?」
「こいつらを食うのをさ」
「どうして?」
「…………」
「……草を家畜が食う。その家畜をこいつらが食う。それを俺たちが食う。この流れが何かおかしいか?それともあれかな?サイショクシュギだっけ?ドウブツアイゴだっけ?」
「そんなんじゃない」
「じゃあ……」
「好きなんだ、愛してるんだ彼女を」
「あの女か……いいじゃないかそれで、俺はそのお前のお気に入りを食べない、もちろんその家族や友達も食べないそれで万々歳じゃないか?」
「……もう止めてくれって……仲間にも止めさせてくれって……」
「俺は食うぞ」
「俺は彼女を愛してる。彼女の願いは全部聞くつもりだ、何があっても……」
「そういう事か」
奴の目付きが変わり、狩り用の二つの刃が腕の甲から鋭く伸びる。こっちの刃は既に出していた。
長いにらみ合いが続いた。やがて月明かりが雲に隠れたその時、それを合図に二人は同時に飛び出した。速さでは奴より俺のほうが上だ、殺れる。
しかし突如口を開いた大きな穴に二人は吸い込まれた。擬態し闇に潜んでいたそれはぺっと二人の骨を吐き出して言った。
「不味い」
次題 「自己保存」「臨月」「伝播」
98 :
名無し物書き@推敲中?:2011/03/25(金) 22:01:00.16
syuryou
99 :
「自己保存」「臨月」「伝播」:2011/03/26(土) 07:39:53.45
タロウがねむりにおちるとき微かな花の香りがした。
翌日、一人のはずの船内の廊下から、軽やかな女のものらしい足音を聞いた。
貯蔵庫のタンクの影から髪の長い女に手招きをされ、
タロウは狼狽して懐中電灯をとり落とした。
眩暈に襲われる。
船は遠く異界の海へ、地球のDNAを伝播する目的で作られた。
今は人々から忘れられ、地下の核シェルターにある。
冷たい水の流れの向こうに女はいる。
滝のような黒髪に縁取られた白い裸体。臨月の女のそれである腹部の巨大な膨らみ。
柔和さにタウロは惹かれた。
女が口元に湛えた原始の神々の荒々しさすら母性のミルクの息吹のように感じた。
タロウは川に浸かっていった。
古い自己保存のプログラムがアンロードされ、新しいシグナルがインストールされた。
地球からひとすじ光跡が飛び出し、やがてワープアウトして消えた。
次のお題は「終了」「現場」「新生」でお願いします。
公園で遊ぶあの女の子を見たとき、強くしなやかな縄を手に握ったとき、僕はそれらが自身に新生を与えてくれると確信した。
女の子はきまって休日の午前にこの公園に訪れる。この間は可愛らしい赤の服を着ていた。明日は何色の服を着てくるんだろう、僕は出来れば明るい幸せな色の服であってほしいと思う。何せ特別な日になるんだから。
縄はどんなに引っ張っても千切れない。これで首を絞めたらさぞ苦しいだろうな、痛いだろうな。僕はそのときを想像し、静かに溜め息をはいた。逡巡はもう終了してしまっていた。
この木の下を、殺人現場としよう。
僕はそう決心し、首を縄にかけた。明日、女の子が僕を見つけてくれることを祈って。
お題は「行脚」「野兎」「常夜燈」でお願いします (゚ω゚)<キリッ
改行しわすれた……ごめん
どこ行く どこ行く 亡者の行脚
無くした体は何処にある
どこ行く どこ行く 野兎 兎
迷子のあの娘は何処にいる
どこ行く どこ行く 麦藁坊主
潰れた西瓜 井戸の底
どこ行く どこ行く 乞食の寡婦
構わず照らすは常夜灯
お題は継続でお願いします。
だめだ、全然15行にまとめられない…みんなすごいな
----------
はっと気がつくと男は石畳の小路に立っていた。
月のない夜に、常夜燈が煌煌と石畳を照らしている。ちらちらと揺れる灯りの中に不揃いの石畳がどこまでもまっすぐに伸びている。目を上げると長い小路の奥にはぼんやりと大社造りが浮かんでいた。
男はしばし呆然と立ち尽くした。───おれはイラズ山に居ったのではなかったか。
腰に提げた獲物の野兎から、抜き損ねた血がぽたり、ぽたりと垂れた。
猟に出ると言った男を老いた母は必死に止めた。霜月晦日は猟をしてはならぬのだという。この上禁足地のイラズ山へ入ると言えばむしゃぶりついててでも止めるだろうと、男は手近の野辺で鴨を捕るだけだと老母を宥め家を出た。
だが獲物はほとんど見つからぬ。野兎一匹ようよう仕留め、さあ帰るかと顔を上げた時だった。
どこかでしゃんと錫杖の音がした。
はてこんな山の中で、と瞬きをし───気がつくと男はこの参道に立っていたのだった。
「どうなっておるのだ」
呟くと、不意にまた、しゃん、と音がした。
「獲ったな」
はっと振り向くと、ぽっかりと黒い目をした雲水が錫杖片手に男を覗き込んでいた。男はぎゃ、と叫んで後ずさる。雲水は笠の内にのっぺりと光る、黒目ばかりの目を細めてにんまりと笑った。
「獲ったな。霜月晦日に獣をとったな」
「な、なんだ貴様はっ」
男の声なぞまるで耳に入らぬ様子で雲水は嬉しそうに言う。
「やれ嬉しや、行脚の甲斐のあったというものよ。今年はこれに大きな餌が手に入った」
雲水が歯のない口でへらへら笑うのに、ぞっと背筋を凍らせた男は、「わああっ」とひときわ大きな声をあげて駆け出した。
「嬉しや、嬉しや」
その背を追うように常夜燈がふっと一対、また一対と消えていく。
しゃん、しゃん、と錫杖の音がする。
雲水の引き連れたような笑い声がする。
不意に男の乱れた足音が消えて───
それきり辺りは闇に包まれた。
----------------
お題は「梟」「旅館」「化粧」でお願いします
夜の森にホォーと梟が鳴き、不運な獲物を求めて梢を飛び立っていく。
自然が豊かに残る森には三種類の梟の生息が確認されていて、
森の外れにある古めかしい旅館は物好きなバードウォッチー達を上客にそこそこ繁盛していた。
毎年、春の盛り桜の季節にはひととき客足が遠のき、
老齢の主、清兵が一人でのんびりキセルをふかしふかしフロントの番をする。
そんなある日、西洋人らしい女が訪れた。女は肌がたいへん白く黒髪をラヂオ巻きに結い
モダンな白麻のワンピースとブレザーのアンサンブルを着ていた。
女がフロントの梟の置物を掌を返して指さすのを見て、
精兵は女の肌が白塗りではなく、化粧もほとんどしていないようなのに気がついた。
女はイタリアのさる女子修道院の代理のものだと名乗り、
梟の置物は、修道院の祭壇のレリーフの一部なので是非、返して欲しいと言った。
「さて、どうしたものでしょう。その梟は祖父が渡欧の土産に持ち帰り、私も物心ついたときから慣れ親しみ
愛着があるのです。今宵あなたがお泊まりになって、もし梟があなたを選ぶなら黙ってお返ししましょう」
はたして夜更けに清兵の見守る中、幻の四種類目の梟は、旅館の庭に舞い降り、
池の縁で月光を浴びギリシャ彫刻のように佇ずむ件の女の腕に止まる。
次のお題は「月光」「警報」「慣れ」でお願いします。
「月光」「警報」「慣れ」
「警報だ」
サイレンが鳴り響くのと同時に、少女は弾かれたように立ち上がった。私も思わずICレコーダーを握りしめて腰を浮かせる。
取材中の明るい笑顔が嘘のように、窓に駆け寄った少女は幼い顔に厳しい表情を浮かべた。
「…ヒェルビムだ」
「ヒェルビム、というと…」
少女は手早く引き出しから護符を取り出し、私をちらと見て言った。
「『御使い』よ。今日は月が明るいから、月光警報が出るかもとは思ってたの」
私は息を飲んだ。ジャーナリストの本能で思わず窓辺へ飛びつくと、暗闇を覗き込む前に、少女が「ダメよ」と叫んだ。
「見ちゃダメ。護符なら貸してあげるから、早く座って目を閉じて」
言いながら少女は自分の護符を抱き、床に腰を下ろすと目を瞑る。私も彼女に倣ってかたく目を閉じた。
欧州に未知の敵性生命体『御使い』が現れ、人類に対する侵攻を開始して既に15年。
彼らの目を誤摩化す手段はあっても、人類は未だ、彼らに対抗する術を持たない。
「怖くないのかい」
「もう慣れたわ」
最も多く『御使い』の攻撃を受けているこの国では、少女でさえもこの『空襲』に平然としている。
護符を握りしめ、かたく閉じた瞼の裏で、私はこの星の未来を思った。
お題は継続で
106 :
「月光」「警報」「慣れ」:2011/04/09(土) 07:46:23.30
自粛ムードで夜、早々と閉まってしまった公園に忍び込む。
思ったとおり、月光を浴びたなか、はらはらと桜の花びらが美しく舞っていた。
例年の「お花見」の宴で見慣れた艶やかさとは違って、
自然の生命力が穏やかにみなぎっている。
他にも忍び込んだご同輩は多いらしく、
互いに距離を取り合った随所に、賞賛のこもった息づかいがそこはかとなく漂っていた。
しばらく幻想的な世界に浸っていたが、警報器の音で現世に引き戻される。
間抜けな奴が正門を強行突破しようとしたららしい。さて、戻ろう……
次のお題は「悶絶」「過疎」「桜」でお願いします。
悶絶・過疎・桜
同級生たちの容赦無いリンチに遭い悶絶していた俺はやっと目を覚ました。
やっと、そう思ったのは辺りが真っ暗だったからだ。携帯電話で時刻を確認すると七時を過ぎていた。
一時間も伸びていたのか。情けなくなってきた。
思い足取りで帰る。人気の無い桜が並ぶ道を通ったとき、寂しさが込み上げてきた。
以前はここにもライトアップされた夜桜を観に、沢山の花見客が訪れていたんだ。
地域の過疎化が進んで照明も消されてしまった。
ここは自分の場所だと思った。ちやほやしてくれる、振り向いてくれる人間はもういない。
俺は歩く事をやめた。寂しい場所は寂しい人間を求めている気がしたから。
了
おそまつ!
次は『湯気』『最初』『スタンドライト』でお願いします
「うーむ、誰も来ない」
「当たり前だアホ! こんな山ん中で桜祭って何考えてんだお前は!」
ねじり鉢巻に前掛け姿の前田が腕を組んで呟くと、隣でビールケースを運んでいた佐々木がぎゃんぎゃん吠えた。
「いやだから、過疎の村だからこそ我が村唯一の売り物であるこのご神木、『八左ヱ門桜』で村おこしをだな」
「…前田、その着眼点はいいんだが、お前は大きな欠点を見落としている」
ん? と前田は首を傾げる。荷物を下ろした幼なじみはその脳天をすぱこんと叩いた。
「その肝心のご神木の桜はな、…一本しかねんだよこのバカ!」
しかも小せえし! 佐々木が殴ったその手で指差した先には、前田の胸ほどまでしかない桜がひょろりと生えていた。
「まあ大きくならないが故のご神木だしなあ」
「これ一本以外うちの村には桜はないんだぞ。わざわざこんなクソ田舎まで、そのもやし桜を見に来る市民がいると思うのか!」
「まあいないかもしれないが。…まあそうキレるなよ佐々木、一応花は咲いてるし、その内誰か来るだろ」
「いっぺん死ね!」
へらへら笑う前田に、佐々木は渾身の力で回し蹴りを決めた。悶絶した前田が小刻みに痙攣している。
「……おおおお…効いた……だがしかし見ろ佐々木、客は来たぞ…」
はっと佐々木が振り返ると、確かにぽつりぽつりと遠く坂道を上ってくる人影がある。
「って全部下の集落のじじいどもじゃねえか」
「ま、いいじゃないか。のんびり花見としゃれ込もう」
脂汗を浮かべながらへらりと笑った前田に、佐々木は大きな溜め息を吐いた。
───それもまあ、いいかもしれない。
たまにはラノベ風?で
お題は「豆腐」「シュシュ」「公園」でおねがいします
oh…ごめん、リロードしてなかったorz
次のお題は
>>107でお願いします
失礼しました
「きみがいないとーなんにーもーできないわーけじゃなーいとー・・・」
ばーか・・・。
こんな鼻歌、リアルに歌うことになるなんて思ってなかった。
三日前、由香が出て行った。
同棲して2年の間、メシはまかせっきりだったから、なんにもできん。
カップめんに注いだお湯の湯気がひよひよ漂ってる。
テレビでも見ながら食べようと、リビングの電気の紐を引っ張ったけど、点かん。
「なんだよ、ったくよ・・・」
電球が切れてやがる。
換えの電球を買いに行くには遅すぎる時間だ。
「そういえば」
クローゼットにスタンドライトがあったはずだ。
携帯の明かりで、中を探す。
見つけた。
赤い鉄の傘がついた、小さなスタンドライト。
「あ・・・」
思い出した。
これ、同棲始めて最初に二人で買ったやつだ。
いろいろ、甦ってくる。
で、すぐ、思い出に蓋をした。
辛くなるだけに決まってるから。
テーブルにおいて、コンセントを挿して、スイッチを入れた。
白熱灯のあったかい明かり。
なんか、少しだけ落ち着いた。
さて食おうとカップめんの蓋をあけて、箸がないことに気づいて、立ち上がった。
テーブルに膝がぶつかった。
カップめんはぶちまけられ、ライトは倒れて、電球が割れた。
「くそったれ、なんてクリスマスだ」
別に今日はクリスマスじゃない。
でももう、今の俺にはブルース・ウィリスの真似をするぐらいしかできんのよ。
では、お題は
>>108さんの「豆腐」「シュシュ」「公園」で
111 :
gr:2011/04/15(金) 01:46:50.89
#「豆腐」「シュシュ」「公園」
四月も半分が過ぎたけれど、大学の入学式はまだもう少し先になるっていうから、
せっかく決めたアパートへの引っ越しも先延ばしにして、今は実家で暮らしてる。
小さいころから遊んだ公園のベンチで、ペットボトルのコーラを飲んでいたら、
町内放送の「夕焼け小焼け」のオルゴールが流れてきた。午後五時になったんだ。
この聞きあきたオルゴールも、向こうの町にはないのかと思うと、少しだけ寂しい。
建物の陰で薄暗くなり始めた道路に、家に帰る人のバイクの音が目立ってきた。
その中を豆腐屋の自転車が間抜けなホーンを鳴らしながらゆっくりと進んでいく。
ただのプープー音なのに、「豆ー腐ー」と言っているように聞こえる不思議なホーン。
高校の制服を着た男子や女子が数人ずつ騒ぎながら並木の向こうを通り過ぎる。
僕も先月までは同じような服を着て、同じような格好で歩いていたんだ。
ああ、騒いでいる高校生の中に、よく目立つピンク色のシュシュをつけた子がいる。
僕の仲間にもそんな子がいた。いや、もともとはそんな子じゃなかったのだけれど。
みんなで行った初詣の屋台で、「ひそかな理解者」ぶってみたかったらしい僕が
「ぜったい似合うって!」って勧めたピンクのシュシュを、年明けの始業式の日、
あとそれから後も、なぜか僕がいる授業のときに限ってよくつけてきていた子。
それまでは、ちっともピンクなんて身につけるような子じゃなかったのに。
「豆ー腐ー」にしか聞こえないホーンが遠ざかる。
あれも、うまく聞こえるように鳴らすには結構な訓練がいるらしい、と聞いた。
#次は「ガス」「はさみ」「速度」で。
なーらんだーなーらんだー赤白黄色ー♪
あの歌はチューリップの歌だったが自分の目の前にはカラフルな風船が浮いていた。
ガスボンベを携えた風船売りの姿を見たとたん一目散に走り出した。まだ小さい私は思いっきり背伸びをして目当ての風船を指した。
「ねえパパ!あのピンクの風船が良い。……パパ?」
振り向いた私の目の前にパパは居なかった。
見渡す限り自分の視界の中にパパは居なかった。
「パパ!ねえってば!パパ!」
息切らせ必死に泣きながら探したけれどパパは、やっぱり居なかった。
結局それからパパとは一度も会っていない。蒸発、した事になるのだろう。
はさみで糸を切られた風船は緩やかな速度で空へと上る。そうして二度と見えなくなるのだ。
だから私はこの歳になっても風船が嫌いだった。嫌なことを思い出してしまう。
「ママ!見てみて!風船もらったの!」
本当に嬉しそうな笑顔で娘が駆けてくる。
「良い物もらったね」
私はその風船を受け取るとしっかりと娘の腕に結わえ付けた。
どこにも飛んでいってしまわないように。
次は「情」「枕」「藍」でお願いします。
「ひっく・・・、えぐっ、ぐっ・・・」
「とりあえず落ち着こ?ね?」
サチは優しいなぁ、一生懸命慰めて。正直、この娘がかわいそうっていう感覚より、結婚詐欺をかましたヤツへの好奇心の方が強い。ヤツらはなぜ、結婚詐欺なんて回りくどい手を使ったんだ。
人間の「情」に興味が湧き始めている固体がいる、という報告は本当なのかも。面白い。でも待てよ、ってことは・・・、この事件は全然違う結末もありえるんじゃねぇか?
(つまんなそうな顔しないの。きっとこの結婚詐欺、ヒトモドキの仕業よ)
サチからの耳打ち。わかってるよと頷いて、部屋を見回し、手がかりを探る。
ヒトモドキなら、もう顔は変わっているはず。特定するには体毛か、分泌物か・・・。
二つ並んだ枕を裏返した。・・・あれ?変じゃねぇか?なんで・・・
「触らないで!」
ガッと取られ、キッと睨まれた。ひどい剣幕だ。「・・・あー、今日は、もう帰るね」
彼女の家を後にし、帰る道中、サチにさっきのことを聞いてみた。
「さっき枕を手にしたとき、誰の臭いも跡もなかった。あの娘のもだ。なんかおかしくねぇか」
「そうね。明日また調べてみましょ。あと、私の予想ではこいつは、一番人間に溶け込んでいるっていう山梨県属性、「藍」のヒトモドキ。」
「なるほどね。」
山梨の「藍」かぁ・・・。へッ!とっとと捕まえて、ほうとうにしてやる!
次は「巨乳」「ストロー」「鉄骨」でお願いします。
Aは鎖骨が大好きだった。鎖骨の窪みに飲み物を注ぎ、それをストローで吸うという変態的趣味にとてつもない興奮をおぼえた。
Bは巨乳が大好きだった。形や乳首や乳輪の色等はどうでもよかった。ただただ巨乳を愛していた。
Aは巨乳だった。Bは素晴らしい鎖骨の持ち主だった。二人は運命的に出会い愛し合った。お互いがお互いの求めるものを持っていたからだ。二人は幸せに末永く暮らした。
さてここで少し考えてほしい。Aは女性だったのか?Bは男性だったのか?Aの容姿は?学歴は?B の身長は評判は?Aの胸意外の特徴は?B の鎖骨意外の特徴は?腕は?足は?頭は?
全く分からない。しかしこれだけははっきりしている。二人は幸せだった。性別がどうであろうと身分がどうであろうと五体満足であろうとなかろうとそんな事はどうでもよかったのだ。
お互いが求める最高の物をお互いが持っている。そして出会った。これが事実であり全てであり答えなのである。
ところで私は今ある人を愛している。その人は私が求めるものを持っている。私が求めるある一点において私の理想を最高度で具現化した存在であると断言できる。それほど素晴らしい逸材だ。他はどうでもいい、その一点があればいいのだ。
私だってその一点がなければ、その人の求める一点がなければどうしょうもない存在であろう。私の姿を見るだけで顔を歪め、その場でその日食べたものを吐き出すかもしれない。
だが私はその人の求めるものを幸運にも持ち合わせている。その人はまだ私の事を全く知らないが、その人の求める、私が持っている賜物を知れば、問題なく私を愛してくれることだろう。
さて、これを読んでいるあなたは私が何を持っているのか、「その人」とは誰なのか興味があるかもしれない。しかしそれはあなたが知る必要はないのである。
あなたが私の求めるものを持っていなければ全く意味の無い話なのだから。
逆にあなたが持っている者なら私がそこに向かうだけだし二人は必ず幸せになれるのだから……。
次題 「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」
やべー、書き込んでから気付いた。鎖骨じゃなくて、鉄骨だ……。
お題は
>>113のやつ継続で、本当すんません。
「巨乳」「ストロー」「鉄骨」「冷血動物」 「常習犯」 「コンクリート」
「刑事さん、あんた、なかなかのもんだねぇ」
ネクタイ姿の男が里沙の肢体を舐めるように見た。といっても人間らしさは欠片も感じられず、まさに冷血動物の視線を思わせた。
男は猟奇殺人の常習犯、それも巨乳の女性ばかりをターゲットにしていた。無残な姿で発見された被害者達は十数人にのぼったが、
捜査関係者さえも次々に排除され、犯人はこの瞬間までついぞ正体を掴ませていなかった。
「わたしは合格ってわけ?」
怖気を振り払うように軽口を返し、里沙は特殊警棒を構えた。瞬間男が滑るように襲いかかり細身の体からは想像もつかない
腕力で押し倒しにかかった。胸に刺すような痛みが走ったとみるや、細い金属製のストローのようなものが男の口元から伸びていた。
里沙は後方に倒れ込みながら異物を抜き去ると、警棒のグリップから出た長いベルトを男の首に掛け、その腹を全力で蹴り上げた。
すぐさま立ち上がった里沙が振り向くと、古いコンクリートの壁に男は逆さまに磔になっていた。古い壁から突き出した鉄骨が、
白いシャツの胸と腹からそそり立つ。しかしそこには一滴の血も流れていない。
「どういうこと!?」
致命傷を負ったはずの男は壁から逃れようとひたすらもがいているが、その動きは、動物のそれではなかった。まるで・・・。
次の瞬間里沙の目の前で男がぱっと光を上げた。思わず目を伏せた里沙が視線を戻したときには、そこには煤けた壁が残っている
だけだった。心配そうに駆けつけた同僚達の声は耳に入らず、里沙はただ言いようのない戦慄に立ちすくんでいた。
大きな羽虫のようなものがあのストローの端を音もなく持ち去ったことには誰も気づいていなかった。
次「ペットボトル」「土煙」「油」でお願いします。
117 :
「ペットボトル」「土煙」「油」:2011/04/29(金) 11:24:37.25
落とし穴のような陥没。若い男が自転車ごとはまる。バランスを崩して
横倒しになったが怪我はない。
土煙のおさまるのを待って、タオルで滴る汗を拭う。穴の中はひんやりして
心地よい。男はゆうちょうにペットボトルの尻を青い空に仰げ、喉の乾きを
癒やしていたが、穴が閉じて挟まれる恐怖に思い至り、這い上がる。
ロープで引き上げた自転車はチェーンが外れていた。
「機械油をさしすぎたかもしれない。そろそろ引き返すか」男はつぶやく。
遠くに見える岬で何かが光った。男が目を凝らすと、白いバンが停車し、
その側で白い防護服の者が数名、作業をしていた。ソーラ式のガーデンライトの
ようなものを道ばたに設置、いや、回収している。
「商売敵か……まあー非常時だしな。いくつかの霊魂と交換に冥府まで送って
貰えるかどうか交渉してみるか」
男はポチャポチャとペットボトルを振り、眇めた目で、天使好みの綺麗な
霊魂を探して数えた。
次のお題は「遅刻」「熊」「魔界」でお願いします。
心の卑しい者だけが迷い込むという暗い暗い魔界の中では、人々はみな飢えて病にかかり、
激痛の中で死んでもすぐに蘇りまた苦しみ続けるという、地獄絵図が広がっていました。
あるときそこに徳の高い僧侶が訪れ、人々に言いました。
「北の山に、身籠もり飢えた熊がいる。彼女に食い殺された者だけはこの世界を抜け出せるだろう」
皆は率先して北の山に向かい、そこにいた大きな大きな熊に我先にと食い殺されていきました。
その熊のもとを一番最後に訪れたガンスイという男も、さっそく熊の前に身を捧げました。
しかし、熊はガンスイに牙を伸ばしません。どうやら既に満腹になってしまったようです。
ガンスイは遅刻してきた自らを後悔しながらも、なんとか熊に食べられようと思い、身体に蜜を塗り、
香草を食み、手足の肉を細かく刻み石台の上に並べました。でも、熊は一向にガンスイを食べません。
ガンスイは熊が自分以外のものを食べないように、森に火を付け川に毒を流し地面を掘り返しました。
荒れ果てた世界に、生きているものはガンスイと熊だけになりました。
熊はどんどん痩せ細っていきました。それでも熊はガンスイを食べませんでした。
やがて、骨と皮のみになった熊の腹の中から小熊が這い出てきました。
小熊は母の乳が出ないのを悟ると、ガンスイを食べようとしました。
ガンスイは小熊に食べられるわけにはいかないので、小熊をくびり殺しました。
世界には再び、熊とガンスイだけが残りました。
ガンスイはこれでようやく熊が自分を食べてくれると思いましたが、熊は小熊の亡骸の隣で飢えて死にました。
ガンスイは一人残され、自らの遅刻を嘆きました。
次は「四月」「終わり」「ひきこもり」でお願いします。
布団から顔を少しだけ出して窓に目をやると水滴が伝っている。今日は雨らしい。まあ関係ないけど。
ひきこもりになって四月の終わりでちょうど一年になる。つまり、加奈が死んで一年たったってことだ。
起き上がって窓から下の道路を見下ろす。雨の日は真っ赤な傘であたしを迎えに来てくれたっけ。
「結花!」
あたしに気づくと大声であたしの
名前を呼んで、朝からうるさいんだよな、本当に。そんで訳の分からない話するんだ。
「春の雨は優しいんだよ」
「誰に?」
「優しさが欲しい人に」
「なにそれ」
本当訳分からない。分からないよ。なんで、なんで加奈だったんだろう。こんなどうしようもないあたしじゃなくて、なんで加奈が。
「加奈……」
涙が止めど無くこぼれ落ちる。それに呼応するように四月の雨もしとしとと街を濡らしていた。
次題 「チェック」「透明」「インディゴ」
「チェック……チェック……」
口に出しながら、ベルトコンベアの上を流れる製品を一つ一つ指さし確認する。
ここは24工程、41確認地点。
二十四の工程を組み上げられた製品の、四十一度目の確認をする場所だった。
「チェック……チェック……」
物心がついたころからこの仕事をしているが、不良品を見つけたことは一度もなかった。
当然だ。二十四の工程を抜け、四十の確認を済ませた製品だ。不良品があるわけがない。
そう、あるわけがないのだ……たまに、この仕事を無意味に感じる瞬間があった。
そんなときは存在しない透明な檻にのし掛かられ、息が詰まりそうになる。
今日もそんな気分だった。無気力さに体内を溶かされながら、機械的に作業をしていた。
「チェック……チェック……チェ――え?」
その瞬間、私は目を疑った。あり得ないと思っていた不良品が流れてきたのだ。
それは規格外の色――インディゴブルーの奇形品。淡色に慣れた目を刺激する重たい青。
取り除かなければ。それこそ、自分が何十年と待たされ続けた仕事なのだから……
だが。……私は言葉に詰まったまま、その製品を見過ごしてしまった。
理由はわからない。ただ、私はその製品を見過ごしてしまったのだ。
きっとあの製品は、ここまで全ての工程と確認を、同じように見過ごされて来たのだろう。
あのインディゴブルーはどこまで生き残るのか……想像しながら、私は作業を再開した。
次は「鏡」「ゲーム」「裸」でお願いします。
「これ裸のままですみません。他のものと選りわけてたら袋破いちゃって・・・」
「いや構わないよ。大変だったろう?」
彼が手渡してくれたのは有名RPGの続編らしい。公式発売日は明後日だそうだ。
「いえいえ、いつもお世話になってますから。んじゃ僕も戦利品を見たいんでこれで」
「ああ、ありがとう」
彼を見送った俺は早速包装フィルムを外して中を見てみる。間違いない。包装フィルムをジャケットの
ポケットに突っ込んで、トールケースを閉めようとした途端、背中にゴリッと嫌なものが当たった。
冷たい感触だ。鏡面仕上げの初回限定ディスクに小柄な女が映っている。さっきその先でビラ配りを
していたメイドさんじゃないか。ごく自然な受け渡しをしたつもりだったが、喜びの表現が足りなかったか。
「それ、そのまま渡して」
ディスクだけ渡そうとするとそう念を押される。仕方ない。渡すと女はバイクに飛び乗ってその場を離れた。
ケースに仕込んだ発信器を追うよう車で待機中の仲間に無線で連絡するが、実はまあ形だけのことだ。
俺はフィルムに貼られた「Paid」と書かれたアルミシールを確かめ隠しポケットにしっかりとしまった。
この街で出回っている脱法ドラッグを扱う組織の情報は、このシールの中のナノチップに収まっている。
奴らがあのディスクにゲームソフトしか入ってないと気づくのには2日はかかるだろう。だがせっかくの本物、
しかも新作なんだから、次に俺たちに会うまで、せいぜい楽しんで貰いたいものだ。
次「晴れ」「こども」「バイク」でお願いします。
晴れた昼下がり。
そろそろ植木に水遣しなきゃね、とガラス壁の外を眺めていた。
フギャー、ニャーゴ、発情期らしい雉猫が坂をふらふらと登って来る。
ピチピチと音の鳴るこども靴を履いた小さな男の子が、虫取り編みを手に追ってくる。
坂の下の方からバルルーンとエンジンを吹かす音が轟き、バイクが一気に近づいて来る。
ゴロゴロと遠くの空で音がして、こちらではお天気雨が降ってきた。
リィーン、カラコロ、戸のカウベルが鳴り客が入って来る。
黒い皮繋ぎの男が男の子を抱き、ピチピチ靴の男の子は猫を抱え、なにも持っていない猫は
少し申し訳なさそうに、ミィギャーー。
「おばさん久しぶり。これうちの餓鬼。猫一緒で悪いけど、雨宿りさせてくれ」
「あいよ。昔、喧嘩とバンドで慣らした悪餓鬼がすっかりいいパパになったようだね」
まあ平日の昼間だけど……
まだまだ現役のジュークボックスでロックンロールを一曲サービス。
グラスにソーダ水の支度。猫には小皿にミルクでいいかしらね。
次のお題は「猫」「現役」「雨」でお願いします。
そうそれは例えるなら、雨の日に傘も持たずに外に出て迷子になった挙句、トラックに泥水跳ねられてとぼとぼ歩きもう死んじゃおうっかなぁって気分の時だった。
もちろん実際にそんなことがあったというわけでなくそんな気分、だったのだ。
現役生活最後の試合で大敗を喫し、ちょっと良いなぁって思ってたマネージャーが実は副主将と付き合ってて、大の親友が北海道の大学なんかに進学しやがることを宣言した日だ。
校舎脇を通り、裏門へと近道をする途中に異臭を感じた。なんつーかこう、酸っぱい様な臭い匂い。
顔を顰め、小走りに走りすぎようとする俺の足がホンの少しだけ重くなった。物理的に。
えっ、と思ったのと足元に付いた重りを見つけたのはほぼ同時だったようにだ。猫がしがみ付いていたんだ。茶トラの仔猫が。
俺の足はどうやら彼女にとって良い獲物に見えたらしい。ガジガジとスニーカーをかむ姿は可愛いと言えないことも無いがむしろ憎い。
買ったばかりの靴に穴あけられてたまるか。両手で捕まえると草むらに軽く放った。
靴を確認すれば、靴紐から糸が何本か出てしまっている。なんてついてない日なんだ。
仔猫に絡まれ鉛のような心が更に重くなった俺を更に鞭打つ様な出来事は風呂に入っていたときガヤガヤと騒がしくやってきた。
「たかとしー、お風呂ついでにこれも洗ってくれなーい」何だかご機嫌な母親の声に顔をだすとそこにはあの糞仔猫。
「たかみが、さっき拾ってきたのよ。お父さんに見せる前にお願いねー」
……どうやらこいつはうちで飼われるらしい。
行き場の無いもやもやを抱えたまま俺は糞猫を無言で洗った。
次は「北」「靴」「校舎」
北へ。ただただ、北へと歩いていた。
晴れることのない曇天の下、荒れ果てた大地に、血の滲む裸足を踏み出して、一歩一歩。
やがて、廃墟に遭遇した。そこにあったのは崩れ落ちたコンクリート、
錆落ちて骨組みだけになった車、溶解した石油製品。そして……飢え果てた、人間たち。
イキノコリと呼ばれる彼らは、私に食料と衣服を要求してきた。
私はありったけの食料と、着ていた衣服を、すべて彼らに差し出した。
イキノコリはそれらを受け取ると、代わりに私に、ぼろぼろになった一足の靴を与えてくれた。
それは、この街を出ないイキノコリには不要なものだったが、私にはこの上なくありがたいものだった。
それからは、身体は痩せ細り、酸性の雨と砂混じりの風に肌を削られたが、それでも旅は楽になった。
北へ。北へ。……やがて、荒野の中にも懐かしい景色が混ざり始める。
朧気な記憶を頼りに進んでいった先には、思い出の通りに、中学校の校舎があった。
クリーム色の外壁。スチールの下駄箱。プラスティック製のスノコ……
ひとつひとつに歓喜の情を刺激されながら、三階の、端から三番目の教室に駆け込む。
眩しい。窓の外は夕暮れだった。橙色の教室の中、整列した三十二の机のひとつに、腰を下ろす。
ふぅ、とひとつ息を吐くと、スピーカーからチャイムが鳴った。身体から、力が抜けていく。
ああ、間に合って良かった。死ぬときは、この場所でって、決めていたん、だ
次は「肩こり」「腰痛」「部屋」でお願いします。
アパートの俺の部屋で、締め切りを前に煮詰まった原稿用紙を前に、頭を掻き毟り、
もんもんと雨の夜長を過ごしていた。
与えられた広告漫画のタイトルは『肩こりと腰痛に効く魔法のパワーストーン』。
本当は原作者が付くはずだったのが逃げた。というか、これ、明らかな誇大広告なのだ。
俺は職業柄、肩こりと腰痛にはさんざん悩まされてきた。で、この手のグッズについては、
まあ詳しかったりする。
この綺麗に黒光りするコークスのような石、原産国の○×国では、既に血行障害や肩こりの
緩和にはなんの効果もないと、政府から告知されている。
編集には掛け合ったがダメ。あろうことか、適当な博士らしい写真を用意しておくから
ついでに、詳しいなら、医学的根拠も俺がでっちあげろというしまつ。
ここのところの、低気圧と雨、加えてこのストレス。まじ、いつもより具合が……
あれ、頭は痛いが肩と腰は、どういうわけか平気だ。効いているのか?
雑誌販売から2週間後、俺はJAR○に注意を受けたりすることはなかったが、
今、病院のベッドで警察の取り調べを受けている。あの石には見栄えを良くする
ために、湿気を帯びると猛毒素を発する塗料が塗られていたのだった。
次は「生体」「体育」「踊り」でお願いします。
小柄な女がスツールに腰掛ける。彼女は攻撃的なネオンと喧騒の渦から脱出してきたばかりらしく、黒ぶち眼鏡の奥の大きな目を瞬かせていた。
「え、えーと。ソルティードッグ、プリーズ?」
たどたどしく問いかけた女に対し、無言で頷いたバーテンダーはグラスの口を指で濡らす。
「ヘイ、カール。君の好きなジャパニーズガールだぜ? 声をかけてみたらどうだ?」
ダークスーツに身を包んだ紳士が、隣に座る金髪の青年を小突く。
「いや、彼女は若すぎますよ。……しかし、連れはいないようだな」
カールと呼ばれた青年は、彼女に目配せをした。アイサインに気付いてから一拍遅れ、ぎこちない笑みが返ってくる。彼らの背後でまた、大きな歓声があがった。
「どうやら彼女、まだカジノの雰囲気には慣れていないようですね」
「カール、一つ賭けをしないか? 何、ちょっとした推理ごっこだよ」
無言でグラスを乾している女を見やり、紳士風の男がチップを2枚取り出す。怪訝そうな顔をするカールに、
「彼女の職業についての2択問題さ。私は室内勤務とみた」
「面白いですね、乗りましょう。僕は室外勤務だと思います」
カールは女を眺めると、片頬に笑みを浮かべる。カウンター上のチップが、4枚に増えた。
「あの腕を見てください。単に太っているわけではありません。レディにしてはかなりの筋肉がついています」
「今時、フィットネスクラブに通う人間は多いぜ? それに、陽にも焼けていない」
「生まれつき色が白いのでは? ほら、ドレスの肩口を見てくださいよ。彼女、肩こりが酷そうだ」 チップが3枚、レイズされる。
「おいおい、あのレディが肉体労働者だとでも言うのか? カール、ここはリヴァプールのカフェじゃないぜ?
ラスベガスだ。私は、一流企業に勤めるオフィスワーカーだと考えるね」
「僕は保険の外交員だと思います。重い書類を抱えて、車を運転しているに違いない」
二人は、互いに勝利者の笑みを浮かべつつ、同時に立ちあがる。
「お嬢さん、一つ確かめたい事があるのですがね……」
「成程なぁ。おい、俺にもカミカゼを一つ」
数分後、二人のチップは見事、カクテルに化けてしまった。
「今回の原発事故の影響で、部屋から出ない日本人が増えたというニュースは見た」
「徒歩での外出を控えれば、例年より腰痛患者が増えてもおかしくはないですね。しかし、まさかあの整体師……」
カールの言葉に、紳士は溜息をついて応じる。
「私よりも年上だったとはな」
128 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/22(日) 21:24:57.90
12歳 銭湯 ふくらみかけ でググれ!
_, −‐ー― --- 、
_,に: ::,:へ: :ィ: : ::_; ;_: :`;ヽ
__/_/_///: : l: : : : : : : : :\: : :\
, '".7: /: /: :/: :/: l|: l: : :l::l: : : :ヽ::ヽ : ::ヽ
. / イ: :/:/: : ::/: /: ::| |: l: : :l: l: :l: :l: ::l: ::l: : :l
/ ./ /: /: / : : /: /::l: :| |::;|: : :l: :l: : l: : l: :l: :l: : :ト
.| .|l: l: :l: : ::/: /i: lハ| |:|::|: :|:|: :|: : :|: ::l: ::l: :l: : :l:\
. ∧/ |:l: :l: : :/:斗|‐;ト|、 |; l; i: :i ;,L;;;_l_: :l: :l: :l: : :|: ,へ
//: :| |:|: :l: ::イ「|:| |i | | l; liく「 i li i;「ヽ;l: l: :l: : レ ∧\
| |: : | |ハ: |: ::| | レf千;ミ i l | 斗ぇL_い: l::l: :l:: :トイ::| | .}
| |: ::| .| いハ / |゙ i:::::} }゙「::::゙iハヽ〉l:l: :l / | .|: | | i
i l; | ヽ ` .ハヽ.〔゙こソ [.i::::ソ}ノ /;;Vレ/ レv:;| l / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
l:| |: :ハ .::: ̄ ゙'-''゚ ∧::|.V |:./ < お兄ちゃんほんとに
ヽ l: ::へ __'_ ..:::::../ |::| | l/ \ えっちなんだからー
_」L:: ;ト` .、 ヾ. ノ , '´ ノ|::l/ / \_________
く\ ヽ:ir‐‐「` -- ' 「 、_/-くヽ‐- 、
「先生は不本意ながら、今年の三月でこの学校を去ることになった。だからその前に、みんなと一緒に
一生懸命に一つのことをやりたいと思う! だから、みんな協力してくれ! 頼む!」
……それまでは、どこか冷めていて生徒にもあまり関心を持たなかった先生。
その突然の言葉に、僕は、これほど勢いよく迷いのない『空回り』は初めて観た、と思った。
先生はその日から、三月の合唱コンクールに向けて全力で取り組み始めた。
クラスの合唱曲も、先生が探してきた変わった外国の曲を使うことになった。
両手の指を首に回したり、自分の胸を何度も叩いたりする踊りのような振り付けも、先生が考えた。
先生は本当に一生懸命で、僕らが失敗すると泣きそうになり、成功してもやっぱり
泣きそうになり――そんな先生の姿を見ている内に、冷ややかだった僕らもいつしか、
全力で合唱コンクールに取り組むようになっていた。
そして、コンクール当日。僕らの声は体育館に伸びやかに響き渡り、伴奏は一音も外すことなく、
合間の振り付けも整然として鋭く決められた。それは他を圧倒する完璧な演技だった。
先生は輝くような満面の笑顔で喜び、僕らも思わず、くさいドラマのように、涙してしまった。
その日の夜、校長先生が両手の指で自分の首を絞めて死んだ。身体には何度もボールペンを
突き立てた傷跡があったが、全てに生体反応があったことから自殺であると断定された。
僕らが歌った曲の元の題名が『呪いの歌』であることを、四月のニュースで知った。
次は「十二歳」「銭湯」「ふくらみかけ」でお願いします。いや、目に入ったからw
梅雨に入り、湿気がこもる通勤電車の中で、A子は非常に不愉快だった。
節電の影響で空調があまり効いていないのだ。A子は両親の希望通りに難関私立の中高一貫教育B学園に合格して、この春から通学している。
都市郊外に一家は居住しているので、通学は通勤電車となったが、
級友の中には、送迎する運転手付きの車で通学している者もいた。
B学園は、それだけ富裕な子弟もいるだけあって学費は非常に高い。
A子の両親は共働きで、父は大手企業の課長であり、母は一級建築士で設計プランナーをしている。
B学園を受験するにあたり、見事合格した際の入学金と学費の高さは、両親にとっては決して安い金額ではなかった。
しかし、娘にレベルの高い教育を受けさせたい希望と、公立の中学に大勢いる雑多な少年少女の群れの中に入れる心配をかんがみた結果、
親心からいって、家のローンと教育費で出納のバランスが多少難しくなっても、今の生活は何とか維持できるという判断で、B学園を受験させた。
そして桜は見事咲いたのである。通学時間は1時間半かかるし、働きにでる大人達の間で、ぎゅうぎゅうとされるのは、12歳のA子にとって苦痛でしかない。
が、両親の期待に応えたい気持ちも殊勝にある。B学園は男女共学であり、クラスには男の子も半分いた。
その中の一人にC男という生徒がいて、D駅から乗車してくる。A子はE駅から乗車するのだが、途中のターミナル駅のビッグステーションF駅で大勢の乗客が降りてゆく。
A子とC男は、降りてゆく乗客達にもみくたにされながら、その日初めて、鼻と鼻が合うくらい接近した。
それまでもクラスでお互いに顔は知っていたし、名前も知っていたが、面と向かったのはこの時が初めてだったのだ。
気まずいような、恥ずかしいような気持ちを持ちながら、A子は赤面してしまった。
C男はもう13歳の誕生日が4月だったので、ちょっと大人ぶるところがあった。
そして自分が男だという自覚も多分に持ち合わせていたので、A子がまだ12歳だということを知らぬまでも、
男が女をリードするものだと考えていたし、だいたいがA子を可愛いと、前々から想っていたので、
思い切って「おはよう」と声をかけた。A子は何と返事したらよいのか、ちょっとまごついたが、
「おはよう」と声を返した。C男は「佐藤は俺より家が遠いんだよな」とA子に言った。
「鈴木君はD駅だよね」とA子は会話を続けたい気持ちで答えた。C男は「俺達の学校って金持ちばっかだよな」と話題を変えた。
A子は「鈴木君んチもお金持ちなんでしょう?」と、ちょっとだけ自分の家の経済状況を知っているA子はコンプレックスを隠し隠し尋ねた。
C男は「俺んチは風呂がないんだ。だから銭湯に行ってるんだ。金持ちなんかじゃないよ。でも親が、いっぱい勉強して立派な大人になってくれって俺に頼むからさ、
勉強を頑張っているんだ。でさ、結構無理して俺をあの学校に入れたんだ」A子は話を聞いて自分の境遇にどこか似てるような気持ちと、
『風呂がない』『銭湯に行っている』という言葉に驚いたと同時に、知らない人達とお風呂に入った経験がない分、信じられないというより、
激しい好奇心にかられた。「鈴木君はほかの人とお風呂に入って恥ずかしくないの?」とA子は目をみはって聞いた。
C男は「え?何で恥ずかしいの?」と、こっちが驚いたというふうに目をまるくした。A子は思わずC男の裸を連想してしまった。
赤面した顔にはふくらみかけた異性への思慕が芽生えたようだ。男の子と女の子の出会いはいつだってカルチャーショックから始まるようである。
次は『野球』『インターネット』『合唱』でお願いします。
漆黒の木々に向かってAKが連射される。20m前方から、くぐもった呻き声があがった。
老人は周囲に気を配りながら歩を進める。月明かりで、年端もゆかぬ青年の引き攣った顔が斑に照らされた。
銃剣先で右の耳朶を刺し抜くと、切断された頸動脈から噴き出た血が老人の足首の皺に吸い込まれる。
老人は十字を切ると、無言で兵士の懐を漁った。その弾みに一葉の写真が零れ落ちる。
十二歳ほどの少女の笑顔がひらひらと、冥い地面に吸い込まれていった。
「お、当たり。『かろりぃめいと』じゃ」
青年兵士の懐を漁りながら、彼は嬉しそうにそう漏らす。
「よっこらせっと」
老人が無造作に襟を掴み上げただけで、若者の死骸は軽々と持ち上げられた。
銭湯のタイルの如くびっしりと人骨が敷き詰められた一本道を通り抜け、老人はさらに森の奥を目指した。
折り畳み式のシャベルで土を掘り返す音が、森々たる闇夜に響く。
無数に盛り上がり、ふくらみかけていた土の山がまた一つ、音もなく沈んだ。
134 :
『野球』『インターネット』『合唱』:2011/05/26(木) 13:23:06.88
夏。
外は太陽がギラギラとまぶしく、湿気のムンムンとこもる夏。
TVでは甲子園での野球中継が流れている。
別に見たかったわけじゃない。前の番組が終わってそのまま切り替わっただけのこと。
野球に青春をかける球児たち。それを応援する学生。響き渡る校歌の合唱。
夏。
春だろうが秋だろうが引きこもりの日常は変わらない。
TVの向こうは無縁の世界。
「あっつー。」
冷蔵庫からアイスを取り出しPCの前に向かう。
口にくわえたアイスとタンクトップ一枚の服装のみが季節を物語る。
全ては部屋で完結する。
さぁ今日はインターネット上では何が起こっているのだろう。
「でぶ」「滝汗」「腹肉」
真夏の太陽がじりじりと肌を焼く。ここはサイパンだ。浜辺ではビキミのねーちゃん達が波と戯れている。
青い波、白い砂浜。夜になったら月が綺麗だ。満天の星。恋だか愛だかを語らう男女たち。見た感じは楽園そのものだ。
でも俺が今回ここに来た理由は彼ら、彼女達とはかなり違う。今現在は正午をまわったところ。
滝汗なんて言葉は辞書にはのってないが、俺の体から流れる汗はそのまんまの意味。山を登ってるんだ。
案内役の現地のじいさんも「今日は格別の暑さだよ」なんて流暢な日本語で言ってくれた。
もう浜辺でさんざめく音は聞こえない。じいさんは「ここまでくる日本人は珍しい。あなたはジャーナリストか?」と聞いてきたんで、
俺は「違う」と息をあえがせて答えた。普段の不摂生が腹にでてるんで、言ってみりゃ腹肉(これも辞書にはのってないが)が邪魔でしょうがねぇ。
「ほらトーチカが見えたぞ」じいさんは帽子をとってタオルで汗(まったく滝汗だぜ)
をぬぐった。そこにはひんまがって錆びついた大砲があった。俺はトーチカの中に入ってみた。信じらんねー暑さだった。
大きく息をつく。それで出た。ちょっと涼しかった。「もっと登るか?でぶ?」じいさんはニヤニヤしやがる。「まだ目的を達してないんでね」俺は言った。
登った登った、山ん中。で、見つけた。大きい洞窟だ。中はひんやりしてた。あの戦争が終わって俺が初めてきた日本人じゃない。
たくさんの日本人が来てることがすぐにわかった。みんな俺達のルーツを探していたんだな。日本からのお土産がたくさんあった。
「じいちゃん。やっと来たよ」俺は手を合わせた。「あなたのじいさんここで死んだのか?」案内役のじいさんが聞いてきたんで、俺はわからないと答えた。
でもここにはなぜか懐かし匂いがした。水筒の水をグビッと飲んだ。水がおいしかった。案内役のじいさんが洞窟の中で歌いだした。
『荒城の月』だった。歌い終わったら「昔、日本の兵隊さんに教わった」とじいさんが言った。「昔の光 今いずこ…か」じいちゃん、あなたの光は今どこに?……
その夜、浜辺で案内役のじいさんにビールをおごってやった。月が綺麗だ。昔も今も月は綺麗だ。じいちゃんも見た光。明日、日本に帰る。
帰ってまずすることは『荒城の月』のCDを買うことだ。
次は「天ぷら」「刺身」「ハンバーガー」でお願いします。
僕はNG3号。人型ロボットです。
僕を作ったのは、南喬工業高等専門学校1年C組の下田卓くんです。
卓くんはクラスのみんなからは『イモ天ぷら』と呼ばれてます。
渾名の意味は「イモ 天ぷら はんだごて」でネット検索をすると分かると思います。
まーそんなわけで、僕には幾つか偶然の回路があって、心があったりします。
しゃべれないので、卓くんもクラスのみんなも気がついていないようですけど。
今日僕は雨に濡れて、一部の回路がショートしてしまいました。
クラスメイトの浜崎くんがハンバーガーを奢るなら替わりに直してやると
申し出てくださいましたが、卓くんは自分で直す気まんまんです。
あー勘弁して欲しい。まじで……
まな板の上の刺身。いや鯉の気分です。
浜崎くんが見守る中、いよいよ卓くんは僕のお腹の蓋を外し、
回路の点検と修繕にとりかかります。
どのくらいの時間がたったでしょうか、卓くんの額から一筋の汗が
滴り落ち、ジーバチバチ。
「あーもー水に弱いのだから気お付けてください。……あれ、僕、しゃべれる? 奇跡だ」
その後、卓くんの渾名は変わり、僕の性能も何故か向上しています。
あーそろそろ、太陽系第三惑星へ行く時間です。
というこで、その話はまた、いつか……
次のお題は
「リセット」「字数」「不明」でお願いします。
ビルから飛び降りる時に迷ってはだめだ。
目をつぶって素直に一歩を踏み出すだけで、
後は自由落下の法則がどうにかしてくれる。ただ空気に身を任せればいい。
そんなんで俺は人生をリセットできる.。なんてイージーゲームだろう?
でも何十、何百回と屋上から飛び降りた俺でも、落ちていく時に
内臓が浮くような感触には未だに慣れなくて毎回ションベンをちびりそうになる。
恐怖を感じるのだ。……俺は地面まであと三メートルくらいのところで考える。
でもそれって人間らしいことなんじゃないか?正しいことなんじゃないか?
結局のところ人間はリアルな死なんてものは死ぬまで体験できない。
いくら字数を多くしたところで、決して死を説明することはできないのだ。
だから俺たちは身近なものから不明確な死を想像するしかない。
例えばそれはひどい怪我だったり、心の病だったり、身内の死だったりする。
人間はそういったもの中にある痛みを敏感に察知して、それが死へと
つながることを想像/創造する。だけどそれが偽者の死だからといって、
価値が無いわけじゃない。俺たちは死を想像することによって互いに優しく
し合えるのだ。思いやれるのだ。俺はそれを、すごく尊いことだと思う。
俺は今日もビルのてっぺんから落ちる。そして地面から3メートルぐらいで
ちょっとションベンをもらそうになってから、道路の上に盛大にトマトを
ぶちまける。でもおそらくまだ大丈夫だ。俺は死を想像できる。人に思いやれる。
俺はまた生まれて、死を想い、他人と分かり合えるだろう。俺は
輪廻の中に閉じ込められながらも、まだ人間として生きているのだ。
「マッサージチェア」「タケノコ」「文化祭」
「利尻の雲丹の天ぷらにございます」
「関アジの刺身にございます」
双方共に譲らぬ美味の競演に、審判長は唸った。
「この勝負、明日の再試合に改めて決するものなり!」
「うぉぉぉぉ!」・・・スタジアムを震撼させる歓声が鳴り止まない。
美食ブームに応え、雨後のタケノコの様に料理屋ができた。
文化祭の気軽さで催される料理合戦で、勝者と敗者が量産される。
「ハンバーガー屋の店員じゃない、日本一の料理人にやってやる!」
幾多の若者が時間を惜しみ、命をも削って最高の味に挑戦する。
「試合は明日。勝者はどちらだ!」審判長も絶叫する。
しかし、そうしながらも彼は狡猾な微笑を隠しているのだ。
勝者?最初から分かっているさ。審判が勝者さ。
評価の基準を握る者が支配する。それが世界さ。
今夜も彼は勝利を乞う者に招かれ、料亭のマッサージチェアで寛ぐ。
「うふふのふ、ブームを煽った甲斐があったな」と。
次のお題は:「南」「カラス」「ミツバチ」でお願いします。
北のカラスは飢えていました。
雪間に覗く凍った草をはみ、飢えて死んだ海馬屍肉を食らい、
力を失った仲間の犠牲を血肉にして、残酷に残酷に、飢えていました。
あるとき、カラスは旅人から南の話を聞きました。
極彩色の草花が乱れ咲き、食べきれない果実が腐って落ちるという、そんな南の世界の話を。
カラスは旅に出ました。海を越えるために、吹雪を抜け、嵐に見舞われながら、雨水だけで何日も飛び続けました。
やがて骨と皮だけになったカラスは意識を失い、流木の上に墜落し、そのまま海を運ばれていきました。
目覚めたカラスは目を疑いました。背の高い椰子の木、大輪の花々、目に鮮やかな魚たち。
流れ着いたそこは南の海でした。カラスは喜びに飛び上がり、その世界の中に飛び出していきました。
美味しそうな果実がそこかしこに実り、一面の花畑を蝶やミツバチが舞っています。
飢えはありません。凍えもありません。信じられないような楽土がカラスの眼下に広がっていました。
と、そのとき――カラスの背から、煙が上がり始めました。
北の世界では熱を集めてカラスを守ってくれた黒い羽毛が、南の世界の激しい太陽光を吸収して、燃え上がり始めたのです。
カラスは火の玉になって落ちていきながら、衰弱しきっているとは思えぬ大声で、堂々と、空一杯に声を発しました。
「ああ、後悔はない! 後悔はない! 南で生まれ南に死ぬ者にも、北で生まれ北に死ぬ者にも、おれの気持ちは分かるまい!
おれは抗ったのだ! 抗ったのだ! 抗ったのだぞ! おおお、おお、おおおお!」
カラスは地に落ちる前に、灰も残さず、燃え尽きていました。
次は「猫」「砂」「うるさい」でお願いします。
360°ぐるりにひび割れた荒野がひろがっていた。
目を凝らせば、東から西へ、北から南へ、交差した路が潜んでいるのが
判るだろう。
地平線の一方から、土埃をたててクリーム色の頑丈そうな乗用車が
十字路へやって来て停まる。
サングラスをした男が降りてきた。ペット用のゲージを地に置き、
スーツが汚れるのも構わずに座り込で蓋を開ける。
猫が様子を伺うようにして顔を出す。興奮しているようで
鳴き声がうるさい。
男が冷えたレモネードを浅いカップに注いで据えてやると、暫くして、喉を鳴らして
飲み始めた。
男が手を翳して空を見上げると、日は中天より僅かに西へ傾いている。
時計をみると12時10分。時間厳守は伝えてあるが……男は額に添えていた手を握る。
猫がじゃれてきて男の膝に前肢を載せる。その足裏には長い毛が生えていた。
暑い砂の上を歩く野生の猫の特徴である。
おまえ可愛いいな。男は猫をだき抱えて自動車に戻ると、去っていった。
日の傾きがはっきりしだした頃、別の黒い自動車がやってきた。
運転手が降りてきて、道ばたに置き去りにされていたペット用のゲージを見つけて拾う。
後部座席のロングドレスのマダムに、中が空なのを振ってみせた。
次は「メロン」「風」「三角」でお願いします。
『種なしメロンの開発に成功!』 そんな見出しと共に、十年ぶりに見る顔が新聞に載っていた。
コンビニを出ると、買ったばかりのその新聞を半端な位置で二回折る。そして、思わず吹き出す。
彼の顔に「種なし」という文字が、まるで銘打たれているかのようで……そう、あの、種なし男。
恋人になったのは、やはり彼が自分と違って、ロマンチストだったからだと思う。
なのにそれが、いつの間にかに重い負担になっていた。
「メロンの種なんて、普通に取り除けるわ……そんな役に立たない、馬鹿みたいな研究、やめてよ!」
泣きつく私に、彼は申し訳なさそうに笑って答えた。
「……役にはたたないかもしれないけど、でもね、僕は夢を見たんだ……まるでスイカの一切れのように、
三角に切り出されたメロンのてっぺんを、ひとくちに、じゅぷ……って噛み締める夢。
それはとても気持ちが良くて……馬鹿って言われても、でも僕はそれをどうしても、実現したいんだ」
「……私が……私が、あなたの食べるメロンの種は取り除くから! ……それじゃ、駄目なの?」
結局、私はメロンに負けた。性機能不全とは別の意味で、彼は男として種なしだったのだ。
風が吹いて、私の手元から新聞を吹き飛ばす。あ、と思って、でも新聞は追えなかった。
新聞を退けた目の前に、生身の彼が立っていたから。
「やあ。……種なしメロンが出来て……夢が実現できて……そしたら、君に伝えたくて」
汚れた白衣姿の彼はそう言って、手にした三角のメロンを差し出してきた。
その姿はあまりに昔のままで……だからとても、遠い場所に立っているように見えた。
「…………ごめんなさい。お店に並んだら、買って食べるわ。おめでとう」
そう、私の胸の中にも、もう、大事なタネはなくなっていた。
次は「地震」「別荘」「出会い」でお願いします。
寝床はネットよりロッカーが安心できて好きだ。
暗がりの色はJの喉の奥を見詰めたときと同じ。
私と鯰(なまず)のJの出会いは二十年ほど前にさかのぼる。
当時、小学二年生の内気な少女だった私は母に連れられて、
知り合いの別荘で夏休みの大半を過ごした。母と父は離婚調停の最中だった。
保養地の外れにある小さな別荘には、不釣り合いに大きな池があって、
モネの絵に似たそこは様々な睡蓮に覆われ、沢山の騒々しい牛蛙と鯰のJが住んでいた。
Jは満腹顔で岸辺の近くでぷかぷかと浮いては、ときおり欠伸のように口を大きく開いて
ぱくぱくとやる。体長60センチぐらいの身体に、大きな切れ込みが走り、
鋭い歯列がぎっと現れるさまは、怖いモノ見たさの、子ども心に胸躍る光景であった。
私は夢遊病者みたいにJにいろいろと話しかけた。両親の不仲を愚痴ったのではないかと
推するが、もっとたわいもない話だったような気もする。
結局、母と父がどういう話し合いをしたのかは知らないが、私は、田舎の大学で教鞭を
とっていた父方の祖父の家に引き取られることになった。
新学期がはじまって直ぐに、移り住んだ町で大きな地震があった。
学校の裏の空き地に泉が湧き騒動になった。できたばかりの友達と連れ立って私も
見学にいったが、泉の中で大口を開閉するJの姿が私にだけは判った。
大学進学で都会に出たとき、仕事で移り住んだとき、似たようなことが起こった。
そして三日前、私は長期滞在要員として宇宙ステーションに着任した。
はたしてJと再会できるのか? きっと私の瞳は子どもの頃と同様に、暗がりに向かい、
したたかに熱を帯びることであろう。
次のお題は「駅」「ロッカー」「予知」でお願いします。
制服姿の女子高生が、駅のロッカーに、なにか小さな箱を入れていた。
僕は会社帰りに偶然、それを見かけた。
箱を入れた後、鍵もかけず立ち去る彼女が気になって、僕はそのロッカーを開けて中身を確かめようとした。
「待ってください!」
……背後から声をかけてきたのは、先ほどの少女。どこか物陰から、このロッカーの様子を伺っていたらしい。
僕は、目の前にした彼女の、儚い印象を伴う美しさ、育ちの良さが滲む可憐さに息を呑んだ。
それからすぐに気を取り直して、君はなにをしていたのかと、興味本位に問いかけた。
赤面症らしい彼女は、恥ずかしそうに頬を染めながら、躊躇いがちに告白してくれた。
「実は……私、予知が出来るんです。それで、今から十分後に、このロッカーに赤ん坊が捨てられると知って……
未来を知ってしまうと、いつも居ても立ってもいれなくて。今日も、捨てられるその子のために出来ることをしようと……」
僕は改めてロッカーを開け、彼女がそこに仕込んだものを確認した。
――箱形の携帯灰皿に入れられた、仄かに燃ゆる、練炭の欠片。
彼女は頬を染めたまま、はにかむように微笑み、言った。
「一酸化炭素中毒は、いちばん苦しくない死に方と言いますから」
次は「毒」「美」「醜」でお願いいたします。
その昔、たいそう信心深い大臣が京の都におりました。
妻が難産のおりに、陰陽師に祈祷させると西国の「升寸天」なる神様が現れ
「大臣よ生姜の茎を咬みなさい」と命じました。
大臣が生姜を咬むと同時に、玉のように美しい赤子が生まれました。
赤子はすくすくと成長し、「大臣が生姜を噛んで 生まれた美姫」ということで
人々から姜姫と呼ばれ名を馳せました。
姜姫が成人式を迎えたとき、西国の升寸天の祀られた社へお礼参りに
行きたいと言いだしたので、大臣は、荘園から送られてきた一番美味しい
お酒を捧げ物に持たせ、供を大勢つけ、姜姫を旅に送り出しました。
さて、姜姫達は知りませんでしたが、当時、京から西国へ向かう途中の路の
途中には、とても強くて酒好きな鬼が出ることがありました。
姜姫の一行は、鬼に襲われ酒を奪われてしまいました。
姜姫は恩ある神様へお供えするお酒なので許してくださいと、鬼にお願いしましたが
あまりに美味しいお酒だったので、鬼はその場で全て飲み干してしまいました。
「百薬の長も過ぎれば毒になりましょうに」姜姫がつぶやいたとき、
酔っ払って大汗をかいた鬼の形相は激しく歪みとても醜くなりました。
驚いた姜姫はとっさに鬼から棒をつかみ取り、鬼の足を払いあげます。
すると醜い鬼は 白い酉(トリ)となって「ム」を残してどこかへ行ってしまいました。
その後、升寸天の社に辿り着いた姜姫はしょうがないので「ム」を
升寸天にお供えしました。
それをもって「升寸天」は「弁才天」と神名を改め、霊験あらたかな神様として、
後生まで語り継がれたのであります。
(ある神社の倉に残された字形遊びの巻物より 「美」「醜」など 現代語訳……)
次のお題は「神社」「紫陽花」「酒」でお願いします。
私にはひとり、奇妙な友人がいた。
街を見下ろす神社の裏手……植えられた赤い紫陽花の中に、一畳だけある青い紫陽花の群れ。
その上に座っている半人半猿の神様が、私だけに観ることの出来る奇妙な友人、青猿彦だった。
彼はいつも私に酒をねだってきた。「こちらは女子高生なのだから、お酒なんて買えるわけがない」と断わったら、
「自動販売機ならどうだ、坂下の酒屋にある自販機なら、店主の婆もボケてて気付くまい」と悪知恵を吹き込んできた。
そこで「お金が無い」と言って断わったら、今度は厚紙を使った賽銭泥棒の方法を教えてくれた。
なんでそんな方法を知っているのかと糾弾すると、以前に見かけた賽銭泥棒が使っていた方法だという。
え、賽銭泥棒なんて来たの? ニュースにならなかったけど……と心配がる私を、彼はカッカと笑った。
なんでもその賽銭泥棒、帰りがけに彼のいる紫陽花のそばでタバコを一服しはじめたものだから、
彼は勢いよく、その酒気を帯びた息――いわく、神風を吹きかけたらしい。そしたら燃える燃える、
火はすぐにその賽銭泥棒の化繊の衣服に燃え移り、焦げ臭さに駆けつけた神主によって彼は病院に運ばれたという。
ああ、あのニュースに出ていた人か、と私は思い出した。神社でボヤ、全身に軽い火傷、といわれていた男性。
ニュースでは、この神社にお参りに来る地元の人たちが、この青い紫陽花の一角にお酒を撒いて願掛けをするから、
そのアルコールが漂っていたせいだろうということになっていたが……あれが賽銭泥棒なら、なるほど。
正しくバチが当たったわけかと思い、なにやら私は深く感心してしまった。
次は「暑い」「クーラー」「節電」でお願いします。
真夏も真夏。四十度を越える猛暑日に窓もドアも全て閉めきり、扇風機も使わず、クーラーも使わないある家庭があった。
節電のためではない、僕ら佐藤家は今ゲームの真っ最中なのだ。「暑いといったら負け」というゲームの。
じいちゃんは開始一時間で倒れた。ばあちゃんもすぐその後を追った。ミケは最初からぐったりしていたのでいつリタイアしたのか分からない。
残りは僕と妹と母と父だ。
開始直後はまだ皆元気で、言葉遊びをしたり相手を誘導して禁止ワードを言わせようとしたりワイワイしていたが、今はもう誰も喋ろうとしない。
喋る気力がないのか?否。これはもう意地なのだ、我が佐藤家は代々負けず嫌いで、先祖の何人かはそれが理由で亡くなっている。そして笑われるかもしれないが僕らはそれを誇りに思っている。
証拠にじいちゃんとばあちゃんは最後まで降参しなかった。残った者達もそうだろう。
気付けば辺り一面炎に包まれている。誰かが火を放ったのだろう。面白い。クライマックスはこうでなければ。皆の顔を見るとやはり笑っている。全く、何という家系だ。
煙で徐々に薄れていく意識のなかで僕は叫んだ。
「我が佐藤家の誇りよ、永遠に!!」
次題 「パイプオルガン」「マント」「贖罪」
148 :
「パイプオルガン」「マント」「贖罪」:2011/07/06(水) 10:26:59.17
最後の峠も下りに差し掛かった時、セバスチャンはその目に街の全貌をとらえ「案外小さな町だな」と旅の道連れで
あるロバに話しかけた。旅支度のバッグを両脇に携えたロバは全く反応する様子も無い。
長旅への疲労を感じながらも、目的地を目にしたことでセバスチャンの足取りは些か軽くなった。
季節はまだ寒かったが、日は今や天頂に達しており、
夜明けの風を心強く払い除けてくれていたマントも既折りたたまれ、ロバの荷物を一つ増やしていた。
教会に着いたセバスチャンは神父を捕まえ、4週間の休暇をとって来た事、ぜひパイプオルガンを演奏したい事などを伝えた。
「滞在中はこちらの牧師や教徒さんと行動を共にして贖罪のお手伝いなどをしてあげてください。オルガンはいつでも好きな時にお使いなさい」
神父は穏やかに微笑みセバスチャンを受け入れた。
部屋をあてがわれたセバスチャンは、荷解きの作業もそこそこに聖堂に降りた。そこにはセバスチャンが想像したとおりの、
いや想像以上のパイプオルガンが奏者の到着を待っていた。セバスチャンはオルガンを見上げ暫し佇んだ後、
まるで久しぶりに会う恋人と対峙した時のように、逸る気持ちを抑えゆっくりとオルガンに歩み寄った。
鍵盤を開くと、潤んだ瞳のような木の光沢がセバスチャンを迎えた。
説教の引用に聖書を開いていた神父の耳をセバスチャンの奏でるオルガンの音色がくすぐった。
「これは・・・・・・」神父は思わず顔を起こし、セバスチャンの演奏に感嘆した。
まるで老婆がやさしく孫の髪を櫛梳くような音色が、時にはたおやかに、時には神々しく空気を変えていく。
オルガンの音色はセバスチャンを魅了して離さなかった。セバスチャンは、休暇を終える4週間の休暇を過ぎてもこの教会に滞在し続け、
無断でさらに4週間も休暇を延長してしまい、後で酷く叱られる事になる。が、それはもう少し後の話だ。
セバスチャンがこの地、リューベックで出会ったものは、オルガンだけではなかった。セバスチャンはこの地で、
後の作風を大きく変えるほどの出会い、音楽の師匠や音楽と言う文化そのものと出会う事になる。
若き日のバッハ、その物語はまだ、始まったばかりだ。
「学者魂」「生き甲斐」「眼球」
149 :
「学者魂」「生き甲斐」「眼球」:2011/07/06(水) 12:05:03.99
俺の生き甲斐ってなんだろう。
一端の学者を名乗り、それなりに研究を発表している。
有名な教授が開催する学会には足繁く通い、顔も覚えられて有用な助言を受けられるようになった。
今は助教授の身分ではあるが某氏の強い推薦で来年には教授の地位に手が掛かるかもしれない。
とても喜ばしいはずが気持ちは落ち着いている。どちらかと言えば沈んでいた。
俺は最初から学者には不向きだったのか。学者魂と呼べるものは無かったのか。
考えてもわからないことに頭を使って心労が絶えない。
「……寝るか」
俺は湿った布団の上に転がった。天気の良い日に布団を干すか、と考えながら微睡んだ。
しばらくして眼球が激しく動いた。自覚して驚いた。
勢いよく上半身を起こした。少し声を上げてしまった。時計を見ると、午前七時を回ったところだった。
ヘンな夢だったな、と俺はランドセルに教科書を入れながら思った。
「大根」「カレーライス」「豆腐」
150 :
名無し物書き@推敲中?:2011/07/06(水) 15:30:27.51
メンヘラ「あれ、大根が無い」
ヲタ「野菜売り場で一番太いヤツもって来たよ」
メンヘラ「でもない」
ヲタ「あ、豆腐選んでる時に置きっぱなしにしたかも」
メンヘラ「大根無いと、おでんにならないよ」
ヲタ「じゃあ、もう一回買いに行く?」
メンヘラ「めんどくさいよ」
ヲタ「じゃあはんぺん入りカレーライスにしようよ」
メンヘラ「豆腐は」
ヲタ「一緒に煮込んだら?」
メンヘラ「でも、たまねぎも無い」
ヲタ「じゃあやっぱりおでんにする?」
メンヘラ「うーん、たまねぎ買いに行こう。今度は忘れないようにしよう」
ヲタ「うん、手にたまねぎって書いておくよ」
次 「中二」「引き篭もり」「オカルト」
「隣の●●さんの子、小学校の高学年からずっと引き籠ってるんですって」
平日の昼下がり、道端での井戸端会議の一節に、そう聞こえたような気がした。
自分は引き籠りである。小学5年生でいじめられて引き籠り、現在は中学二年生になったばかりの引き籠りである。
引き籠りが道端の主婦の会話を聞けるのはなぜ。それはまさに、今、自分が近所のコンビニに行った帰り道だからである。
「あら、確かに。あの家の子は長男の子はよく見るけど弟の方は全く見ないわね」
全く見ないとは何か、と内心汚い笑みがこぼれるようだ。だって目の前にいる、ただ見分けがついていないだけだ。
普通は存在しないから、曖昧な事でしか情報が物事を決定できない。だって自分は「引き籠り」なのだ。
ここでやはり語学的な意味での矛盾が生じる。なぜなら自分は家に引き籠ってないことになる。今ここにいるのだから。
それなら語学上は「不登校」の方が正解である。だが、これはあくまで限られた中での話だ。本質は「多数」の中にある。
自分が学校に行かなければ、中二という学生の身分での自分は「存在」が確認されないほうが多い。でも自分は存在する。「多数」ではない、「ここ」に。
「多数」に観測されなければ「ここ」にいる自分は、家にみっともなく隠れた引き籠りだ。実際自分に貼られているレッテルこそ「それ」だった。
多数にいながら「ここ」は観測されない。今の自分は透明人間だ。目に入っていて、「はいっていない」。言語の中の透明人間。なんとオカルトな響か。
そんなことを考えていると、井戸端会議中の主婦たちをとっくに通り過ぎて、家は目前、となっていた。
ふと見ると、玄関口に見覚えのある人がいた。この家に二人と生まれた方の片割れ、つまり自分の「姉弟」だ。
「おう、不登校。鍵、お前が持っているよな?」
この姉。実はパンツルックに短髪、中性的な顔立ちのため、よく男と勘違いされる。ここに一つ、生物学的な矛盾が「起こっていた」。
思わず笑ってみる。なんと不思議な姉弟であろうか。怪奇現象にもほどがあるぞ、と。
「なんで笑う?気味が悪いぞ」
「いやぁ、僕が透明人間で姉ちゃんが・・・ジーキルとハイド?みたいな」
「はぁ、なにそれ?」
次「賞」「小」「笑」
152 :
「賞」「小」「笑」:2011/07/10(日) 12:28:23.77
賞金は三十万円。文学賞としては少額に思えるがジャンルはショートショート。小ネタでは破格の賞金と言える。
当然のことながら競争率は激化。平均して千分の一の険しい頂を目指すことになる。しかも、お題に沿った話を求められるのだ。
前回は「股間にキュウリを挟んだ女子高生」というシチュエーションだった。アソコにキュウリを突っ込んで浅漬けを作る話は笑いを絡めた自信作であった。が、男のなけなしのプライドを粉々にした。
今回は是が非でも勝ちたい。三十万円を引越しの費用に充てたい。その一心で男は今回のお題に向き合った。
「プリンシパルのように電車に飛び出す男」
難題で何も思い付かない。男は目を閉じて低く唸り、額に脂汗を滲ませた。組んだ足の揺れが激しくなり、速度が頂点に達した。
男は猛然と立った。座っていたイスは反動で引っ繰り返った。
男は全身を震わせて叫んだ。そして外に飛び出していった。汗だくになって走って駅に着いた。改札を抜けてホームに続く階段を駆け上がる。
視界が開けた。男は笑顔になって跳んだ。足を左右に広げて高々と宙を舞う。気持ちはプリンシパルで両隣には同じような姿の仲間がいた。
みんな笑顔で跳んでいた。
その後のテレビのニュースでは大々的に取り上げられた。関連性のない人々が集団で飛び込み自殺を図ったのだ。動機のない死によって精神科医や評論家は声高に自説を語ったが、どれも的外れであったことは言うまでもない。
次は「スイカ」「清流」「彼女」でお願いします
彼と彼女は休暇を利用して、彼女が二年前、社員旅行で見つけたというおすすめスポットに行った。
清流だった。想像とちがって、家族連れ、グループで賑わっていた。
川の所々に、穴がひとつあいたスイカが置かれていた。彼女いわく、これはスイカ漁という。
中身がくりぬかれ、匂いに誘われた小魚が入るのだ。
居心地が良くて出てこない。まだついている実は食べられるし、ふやけた内部は良い寝床だからだ。
今日このスイカを回収するのだ。
中の魚はスイカのようにまるかった。一つのスイカに一匹だけなのは、入ってきた他の仲間を食べたから、と彼女は教えた。
焼いたものが観光客に振る舞われた。彼と彼女も食べた。スイカの甘さがほんのり混じっていた。
一匹食べ終わった直後、彼は腹部に違和感を感じた。吐き気がする。何かを吐き出した。生きた小魚だ。
彼女はこれを見て、「川の方へ行こう」と促した。それから、彼は小魚を川に吐き続けた。小魚は泳いでいく。彼女は説明した。
「さっき、他の仲間を食べた、って言ったでしょ。この魚には強い繁殖の念がこもってるの。食べた人のエネルギーを使って、
繁殖の念を成就させるの。一度食べたら、もうやめられない。この時期は、もうどうにもならなくなって、悪夢にもうなされる」
彼女はそう言うと、こらえきれなくなったのか、大きなゲップとともに、大量の魚を吐きだした。
よだれを垂らしながら「ごめんね。この苦しみを分かち合いたかったの」と謝った。二人とも際限なく吐いた。
周りは嘔吐の地獄だった。大人も子供も吐いていた。ある子供は、母親に「我慢せずに吐いちゃいなさい。頑張って」と
励まされながら吐き、ある母親は「ママは大丈夫よ。怖くないよ」と泣き叫ぶ赤ちゃんをあやしながら吐いていた。
漁師たちはニヤニヤしていた。名物の小魚が繁殖するのがうれしいのだろう。
一時間後、彼は吐くのが止まった。彼女は勢いはゆるまったがまだ吐いている。
「キリがないや」と四つん這いだった彼女は立ちあがり、川の中に入っていった。
中ほどで彼女はしゃがんだ。へそのあたりまで水に浸かっている。彼女の周りに大きなあぶくが起こった。
清流を小魚の大群が泳いでいった。
一仕事終えてホッとした顔つきで彼女が言った。「ずっと一緒にいようね!」と。
次は「引き算」「釈放」「熱帯」でお願いします
熱帯の森の奥で男は何時間にも何ヵ月にも感じられる残り数分をじっと待っていた。
釈放の条件は五日間をこのジャングルで生き延びること、しかしただのサバイバルじゃない。自分たち死刑囚がこのゲームを開始したのと同時に得たいの知れない「何か」も一緒に放たれていた。
そいつ等は次々に参加者を狩っていった。圧倒的な火力と俊敏性をもって、一方的に。そのくせ全く姿を表さない。生き延びる確率は限りなくゼロだった。
しかし男は自身の並外れた身体能力、精神力によって奇跡的に最後の日まで生き延びることができた。だが同時に多くの仲間たちが犠牲になった。
釣りが大好きなジョン。足し算引き算は愚か、自分の名前さえろくに書けないボブ。ギャンブル好きのシド。彼らは死刑囚ではあったが間違いなく最高の仲間だった。彼等の為にも生き延びなければ。
ヘリの爆音で我にかえる。やった、迎えのヘリだ。男は広場まで死に物狂いで走り、腕がちぎれんばかりに手を振った。
「合格だおめでとう」
スピーカーから聞こえる声に男は涙を流し震え上がった。
ヘリに上がると、九人の男達が既に談笑を交わしていた。同じような生き残りだろうか?それにしては見慣れないスーツを着ている。彼らは男に気付くとニヤニヤしながら言った。
「よう、新入り」
男が意味がつかめず言葉に詰まっていると、スピーカーから機内に冷徹な声が響き渡った。
「君達十人には次のミッションに就いてもらう、内容は五日間以内に指定区域にいる全ての死刑囚の殲滅。
なお君たちに与えられたスーツと武器は実験段階のものだが非常に強力だ。ただ実戦データが少ない。よってより優秀な成績を修めたものには相応の報酬を与える。しかし使えないクズには明日はこない、以上だ」
お題は継続で
「引き算 釈放 熱帯」
ピラニア、それが私についたあだ名だった。熱帯に生息する肉食の淡水魚。
恋はかけひきというが、私の場合は常におすばかりで引くことはなかった。
数分おきにメールし、彼の部屋の前で待ち伏せし、
アルバイト先のファーストフード店で一日中彼の仕事が終わるのを待った。
彼はアルバイトをやめ、いつの間にかアパートを引き払っていた。
だいたいいつもそんなパターンで終わる。そしてついに大失敗をしてしまった。
私を避ける彼があまりにも憎かったから。本当に愛と憎しみは紙一重だ。
けどそれはもう過去のこと。私は変わった。今度の恋は引き算と決めている。
自分がしたいと思うことの中から彼のためにならないことはもうしない。
無理を通すから嫌われる。奪うのではなく与えることを考えていればいいのだ。
ただ与えるのではなく、彼に気づかれないようにさりげなく。それが愛。
いけない。考え事をしていたら包丁で指を切ってしまった。血がポタポタと落ちる。
せっかくだから少し入れておこう。できたてのカレーを彼は喜んで食べてくれるだろう。
もう絶対失敗はしない。
仮釈放とはいえ釈放は釈放、ようやく長い獄中生活から開放されたのだから。
次は「回転、グラス、裸足」で。
浮気相手の彼女は、別れようと言い出した僕にグラスを投げ、皿を投げ、花瓶を投げ、
そうしてそれらの破片が床にばらまかれたリビングで、こう言った。
「……いますぐこっちに来て、私を抱きしめて。そうしたら、奥さんにもバラさない。許してあげる。
ただし、いますぐ、一歩も逸れずに、まっすぐ来て。じゃないと奥さんに電話して、バラすわ」
携帯電話を片手にしながらの彼女の言葉に、僕は絶句した。
――彼女の周囲には隙間無く敷き詰められた、鋭いガラス、尖った欠片。
彼女は僕に、その上を三メートル、裸足のまま歩いてこいと言っていた。
「さあ、早く」
彼女が携帯のボタンに指を触れる。僕は意を決して、足を踏み出した。
「んぐぅ……っっ!!」
予想よりはるかに激しい痛みが、足裏に突き刺さる。
「あぐぁぁぁぁ……っっっぅ……」
痛い! 痛い! 痛みに息が止まりそうになる!
耐えきれず、喉を潰したような苦しげな呻きが漏れる。脂汗が浮かぶ。垂れる。痛みに手が震えた。
痛覚が背中まで響き、腰が抜けそうになる。激痛の隙間に、足裏が血で濡れるのが感じ取れた。
「う、うううぁ……ああああ!」
涙が滲んだ。表情は崩れているだろう。痛い。痛い! 心臓が激しく動悸する。
…………そして僕は、やっと、彼女の元に辿り着いた。
それまでずっと無言でこちらを見つめていた彼女は言った。
「馬鹿みたい」
――僕は迷うことなく、全力で、彼女の顔面を殴った。
回転するようにして倒れた彼女は、傍にあったサイドテーブルに頭を打って、動かなくなった。
死んだかもしれないが、知るか。激しい痛みに苛まれ、涙と脂汗にまみれた僕は、怒りに支配されていた。
次は「公園」「幼なじみ」「バナナ」でお願いします。
幼なじみの愛ちゃんのお父さんはバナナの叩き売りをしている。
もちろんそれが本業ではなく、週末だけ趣味(伝統芸能として)でする人だ。
(何でもきっかけは幼いときにみた映画の寅さんで、そのために九州の名人に弟子入りもしたらしい)
愛ちゃんはお手伝いでよく相方(「まだ高いよ、もっとまけて!」などの相の手を入れる人)をやったいた。
そのため小学校の同級生の女子達の間ではどことなく浮いた存在になってしまっていた。
ある日近くの公園のベンチで、僕は愛ちゃんと彼女のお父さんから買ったバナナを食べながら話をした。
(僕はお隣さんなのでよく知った仲だったので、うまく断わることができずしょっちゅうバナナを買わされていた)
愛ちゃんはどことなく険しい顔つきだった。
「私、もうバナナが嫌になっちゃった。毎週毎回お父さんにつきあって下品にヤジみたいな大声上げたり。
今小林君の持っているバナナみたいに私はもう傷ついて変色してボロボロなんだわ、きっと」
叩き売りされるバナナは決して新しいものじゃない。むしろ廃棄前のものが大半だ。
僕はすこし考えたあと、持っていたバナナの皮をむいた。
「でも、中身はまだ腐ってないよ。キレイだし、美味しいし、栄養もばっちり。僕は大好きだよ」
そして一口バナナを食べて見せた。
愛ちゃんは一瞬キョトンとした後、僕に向かって顔を近づけてきた。
「それってバナナのこと?それとも私のこと?」
そう言って僕のバナナを上から口にして、笑顔になった
僕はなんだかとても胸がドキドキしてなにもも喋れなくなっていた(間接キスだ)。
僕は初めて恋をした。
次のお題は「猿」「メガネ」「手刀」でお願いします。
くたくたによれたスーツを突っ張らせるようにして、その男は盃を口に運ぶ。一見寂れた感のあるその店には
似付かわしくない大吟醸である。くたびれた中年男の顔には薄い笑みが浮かんでいた。
「良明くん、こっちに戻って来てるんだってね」
板前が柳葉包丁の動きをふと止め、そう問うた。ちびちびと杯を干していた男は、
「ええ、お陰様で……。あいつ、この頃は仕事の方もうまくいってるみたいで……」
俯き加減に手元を覗き込みながら、ボソボソと独り言のようにそう答える。
「なぁ、こんな狭ぇ店しか空いてねーぜ?何で今日はこんなに混んでんだよぉ」
数名の若者が、派手な音をたてて小料理屋に入ってくる。「渋滞もひでぇし、最悪だぜマジで」
と不平を漏らしたのは、短髪を金色に染めた猿顔の少年だ。
(昔の良明に似ているな……)中年の男は、感慨深げに少年を見やり、メガネの奥を細めた。
「おいオッサン、何じろじろ見てんだ?」
酒気を帯びた少年は、男の所作を蔑視と捉えたようだった。彼を取り巻く酔漢たちも、誰一人として
それを止めようとしない。シャツの袖から、彫り物が覗く者も居る。と、その時、開いたままの格子戸から、
「ああ、父ちゃんやっぱりここだったんかァ!……ハイハイごめんなさいね」
でっぷりと肥えた浴衣姿の巨漢が、手刀を切りつつ男の隣に腰掛ける。貫禄たっぷりの髷を目にし、若者達は唖然となった。
「なぁ父ちゃん。……俺、今日、勝ったよ」
男は小さく「ああ」と応じる。盃に落とした眼が、薄く、潤んでいた。
次のお題「七夕」「チノパン」「銃弾」
集金終わって事務所に電話かけたら、なんか音が割れててよく聞こえねえ。
後ろででけぇ音がしてるのさ。そしたらアニキ、こっちのパンパン言ってんのは
カチコミだからすぐ帰って手伝えって、ああ、俺ぁ一目散に駆けつけたんだ。
事務所の前は花火みてえな臭いだった。恐る恐る階段上がったら、もうぜんぶ終わってた。
オヤジは死んでた。アニキも死んでた。壁にボコボコ穴があいてて、
黒っぽい銃弾の尻が見えてた。
「おい、誰かいねえか」聞いたけど返事がねえ。そしたら雄二の野郎、
オヤジのデスクの裏に隠れてやがって、泡吹いて痙攣してんだ。
雄二、オイ、どこにやられたって聞いたよ。ったら野郎め、白目剥いたまま、
死死死死死ってブツブツブツブツ呟くんだ。何度聞いても、そんだけさ。
しまった、この組はもうだめだと思ったね。
次のお題「お盆」「三味線」「三車線」
「ワンダフル!」「ブラボ^ー!」
NY初の三味線コンサートは、大成功だ。
ホールの後ろの席から、両親も密かに聴いている。
優雅な響きも、確固とした音色も、二人にはどうでもいい事だった。
彼等はただ、息子の声を聞きたかったのだ。
時は8月15日。日本で言うお盆だ。
この時ならばあるいは、息子の懐かしい声を聞けるのではと・・・
「おい、こらっ!」「そいつを捕まえろ」
ああ、警備員が気づいたらしい、逃げなければ。
大急ぎでドアをくぐり抜け、外に逃げ出す。
三車線を駆け出す二匹の猫を、黒いリムジンが一気にひき殺した。
次のお題は:「四面体」「四季報」「四姉妹」でお願いしまふ。
父の単身赴任が決まり、私は休日に母と荷造りをしていました。
なんでも、父が行く支社は不採算部門として撤退が濃厚だそうです。
思い出の土地だと引き受けたそうですが、感傷で自ら泥を被るなんて父は馬鹿です。
本棚の奥に隠すようにしまわれていた箱を私は見つけました。
中には、4つの透明な小箱、数冊の四季報、数枚の写真、それに病院での
検査結果を綴じた薄いファイル。
透明な小箱にひとつずつ収められたペンダントは正四面体のチャームで、
一面だけ色がついています。私たち四姉妹にひとつずつのようです。
「あなたは黄色。楽天的で、冒険的な人という意味」
と母が教えてくれました。正四面体はそれぞれの面の力関係が等しい、
美しい多面体だそうで、父はその特性を四姉妹に重ね合わせたそうです。
でも、妹たちのものは誠実、優しさ、純粋という意味で、私だけ楽天家で冒険家?
私は生まれてすぐに大きな病気が発見され、長く入院していたそうです。
写真は退院記念のものでした。検査結果は完治・退院後もさらに2年分ありました。
四季報は、私が就職するとき、父なりに就職先のことを調べたもので、
すぐ下の妹のときのものもありました。私や妹の大学のパンフレットもありました。
私が大病を克服した土地へ、父は再び旅立ちます。そこで父は何を思うでしょうか。
私はそこを訪ね、寡黙な父とひっそり飲み交わそうと思います。
【ヘッドホン】【雲】【ベビーカー】
「何を聴いているんスか?」
声をかけられ隣を見ると、いつの間にか人が座っていた。
「ダウンロードした曲を片っ端からなんで、色々ですよ」
「いいスね。僕なんて着の身着のままで何も持ってないス」
「良かったら聴いてみますか?」
「いいんスか? ちょっとだけじゃあ・・・」
ヘッドホンごとプレイヤーを渡す。暇になった私は窓の外を見た。
どこまでも続く雲がまるで草原のように広がっている。
一体どこへ行くのか、いつまでこうしていればいいのか。
ふと、雲海の向こうに何かが見えた。あれは・・・
「ベビーカースね。あ、これ、ありがとうス」
プレイヤーを受け取りながら、私は目を凝らしていた。
「赤ん坊は乗ってないみたいスよ」
やはり見間違いじゃない。あの子はこっちへ来なかった。
ああ良かった。これで私の旅も終わることが出来そうだ。
「グラス」「ラベンダー」「ファン」
紫の花で少しだけ名の知れた丘を、地元の人間は田中山と呼んだ。
秋。盆を過ぎれば肌寒い。頂上の展望台ですれ違った老夫婦は、
ファンなのだろうか、北の国からの話ばかりしていた。
ここは上富良野――富良野と美瑛の間に沈む、まどろみの町だ。
老夫婦はがっかりしただろうか。ラベンダーは7月の終わりに刈り取ったばかりだ。
花枯れるまで遊ばせてしまうと、次の年は疲れて咲かないのだ。
残ったモスグリーンの葉は赤土を彩る規則正しいドットとなって、
一月前に呼んだ花蜂たちには、もう見向きもされない。
私は手摺に寄りかかる。小さな展望台のコンクリートを踏むと、
じいいんという振動が、丘の根まで響くようだ。
日没がくる。紫陽花色の夕日に彩られて、町が、田畑が、中富良野が、
地平線に滲む富良野と、それを扼す雄大な北の峰が、ゆっくりと闇に沈んでゆく。
展望台は舟になった。虫の音に浮かぶ船だ。私は腕を広げると、またたくまに
帆布へと変身する。飛べる! 柔らかい布は蟋蟀と邯鄲の声を孕んで、
できたての夜空に私の体を持ち上げる。
闇……見下ろす大地は漆黒の闇だ。雪に洗われ色褪せた町並みも、
いまだけはボロを隠している。と、晩餐の赤い光が点った。
ひとつ、ふたつ。みっつ。よっつ……。生活の暖かい光が、手の届かぬ下で私を笑う。
ホーム・スウィート・ホーム。
瞼を開けると東京の家だ。私は氷の融けたグラスから一口啜り、30年前の
夕暮れを思い出す。もう遠い土地、遠い時間だ。
来年の盆は、きっと帰ろう。
「川の石」「空中線」「潮騒」で。
――たかが川の石にも、出来不出来はあるらしい。
拾った小石は、大した力を入れなくても手の中で簡単に砕けてしまった。
それは石質とか、そういう地学的なあれこれで説明できることなんだろうけれど。
人間と同じだな、というのが、俺の感じたことだった。
出来の悪い自分は、都会に出てチンピラになってもやっぱり出来が悪くて、
叱られてばかりで、小心で頭が悪くて、そのくせ悪いことは出来なくて……
沈められそうになってた女を助けたら、今度は自分が殺されそうになって、
逃げて逃げて……気がつけば足は何故か、故郷に向かって進んでいた。
川を下った先の、海沿いの小さな村に。
川沿いの道を歩く。駅は見張られているだろうから、川に沿ってどこまでも、どこまでも。
水の音を聞きながら、寒さを堪えて歩いていると、まるで自分自身が川底を歩いているかのようだった。
不出来な小石と、同じように。水流に揉まれ、砕けて、砕けて、丸く、小さく、情けなくなりながら。
丸一昼夜を歩き続けたら、やがて潮騒が聞こえてきた。夏の空に、懐かしい空中線が並び始める。
そして終点。川が海に流れ込む河口域。そこに下りて、なんとなく手で水底をすくってみた。
砕けた小石と再会できるかと思ったが、しかしそこには……砂しかなかった。砕けきった、砂しか。
――悪くない、と思った。こうなってしまえば、出来も不出来も関係無い。ただの砂だ。
それを確認した俺は安心して、逃げ出す際に負っていた深い傷に任せるように、目をつぶり、倒れた。
次は「空中戦」「水」「男」でお願いします。
夕方4時の鐘が聞こえた。子供がもう帰ってくるころだ。
夕食はなんにしよう。ピーマンの肉詰めは嫌がるかな?
そんなこと考えていたら、突然玄関が開いて、
「ママ! トンボが、トンボが!」ってね。服も靴は泥だらけ。
何度言っても水のあるところへいくんだから。これだから男の子は。
「どうしたの?」
「トンボが、2匹、喧嘩してて、」
「へえ、空中戦だ」
「そしたら急に輪っかになって、丸くなって、飛んでっちゃったの! なに、あれ!」
「そ、それは……」
「すっごい喧嘩してたのに、丸くなって、飛んでったんだよ! トンボってふしぎだねえ」
あたしは心の中で思った。お前を作るときも大体同じ手順だったぞと。
「卵黄」「銀幕の女王」「おしまい」
「……マスター、プレーリーオイスター」
朝、ランチの仕込み中で開店前のボクのカフェに入って来た彼女は、ふらふらとした足取りでカウンター席に座ると
左手の付け根で苦しげに眉間を押さえながら、絞り出すような声でいつも通りの注文をしてきた。
それから彼女は「ん……」と小さく呻いて、自身の長い黒髪に埋もれるようにして、その場にぐでっ、とうつぶせた。
ノースリーブが脇を強調する。こんな生活をしているくせに、その肌質は少女のよう。芸能人だからか、それともやはり彼女が特別なのか。
当代を代表する銀幕の女王は、そうは見えない顔をごろりと横向け、顔にかかった髪の下から暗い声で独り言のように呟いた。
「ああ……男なんて全員残らず死んでおしまい、って感じ」
それは二ヶ月前、初めて彼女と会った日に、店の前で酔いつぶれていた彼女が、介抱するボクに言ったのと同じ言葉だった。
正しく『男』に含まれるボクはその言葉を無視して、二日酔いに効くとされているカクテル――卵の卵黄にウスターソースと
ケチャップ、胡椒、タバスコ、ブランデーをそれぞれ適量投じたものを、ロックグラスの中に混ぜもせず、彼女に差し出した。
彼女がそれを一息に仰ぎ飲む。その様は豪快で、六年前に熊に殺されたボクの伯父に似ていた。
毛深く酒豪の大男だった伯父と彼女の姿が重なった瞬間、なぜだろう、ふっとボクは、彼女のことが好きなんだと気が付いた。
「……ボクは君が好きだ」
気付いたままにうっかり告白してしまったら、彼女はきょとんとした表情でボクを見上げ、そして言ってきた。
「……あたしも、好きよ」
それから、続けて。
「まあ、黄身が好きというより、白身が嫌いなんだけど。なんか、ビニールっぽくて。目玉焼きも、黄身だけあればいいくらい」
……君も好きなんだ、卵の黄身――そう笑って応えながらなんとなくボクは、彼女がここに来るのは今日が最後になるような気がした。
次は「舞台」「鍵」「トップ」でお願いします。
夢では、私はドレスを着てるの。履いたこともないヒールを履いてて、足元は
磨きこまれた木製の床。そう、そこはどこか、古い古い舞台の上……。
カーテンが降りてて、その向こうから観客のざわめきが聞こえる。親戚の集まりに、
隣の部屋でうとうとしてたときに聞いたみたいな、低い声。
みんな、何かを話しているんだ。私の知らない、何かを……。
高らかな場内アナウンスが入った。明るく爽やかな男の声だ。でも、カーテンのこちらでは、
何を言っているのかわからない。男が声を切るたびに群集が反応して、ざわめきが
大きくなっていく。突然、轟くような拍手が起こった。男の声がこちらに向いて、
次のところだけ聞き取れた。「では、○△×さん! どうぞ!」
わたし?! わたしなの? どうしろっていうの!?
名前を呼ばれて、私は焦る。拍手が続いている。私は胸元を、スカートを、靴を見下ろす。
着たこともない本物を見たこともない、素敵な格好。をしている。でも、
でも、
でも。
拍手は続いている。カーテンは上がらない。私はよろよろと前に出ると、柔らかいはずの
ビロードに触れる。それは硬い。石のように硬い。拍手が続いている。
カーテンの真ん中に鍵穴があった。私はそこに目を当てた。
観客席は暗かった。この狭い舞台とちがって、向こうには無限の空間がある。
拍手が続いている。私はどうすればいいんだろう。カーテンは硬い。拍手が続いている。
私はだんだん怖くなる。拍手が、拍手がしぼんでしまう! このままでは! 待って!
私は月夜に目を覚ます。
子供の頃、私はトップスターだった。人生のトップスター。みんな優しくて、このまま
幸せな人生をずっと、ずっと送れると思っていた。でも、いつからか、そうじゃなくなった。
友達とか男の子とか、いろんなものが、私の反応を求めるのだ。
私は戸惑う。うまくやらなくちゃ。うまくやらないと。でも、私には鍵がない――。
私は窓から街を見る。夜中の3時、明かりのある家はまばらだ。
この夜のどこか、眠っているのか、起きているのか、どこかにいる誰かの手に、
きっと私のカーテンの鍵が握られている。信じよう。まだ、早いのだと。
私はもういちどベッドに戻る。今度こそ、いい夢が見られますように――。
つぎ「玉石」「笛を吹く男」「白鷺」で。
168 :
「玉石」「笛を吹く男」「白鷺」ファンタカレー:2011/08/31(水) 18:12:49.62
埼玉県毛呂山町。かつて白鷺の街と呼ばれていた。
そこは白鷺が集団営巣していた。
その習性により街中は糞に伴う臭いや鳴き声で溢れ、住民にとっては苦痛だった。
来る日も来る日も糞による臭いに悩まされ、しまいには住民も呻き声をあげながら街中で排便するようになっていった。
町長は苦悩した。白鷺の糞のみならず人糞の処理する苦痛により次々と削れていく仲間の姿を見るに耐えなかった。
神よ!おお神よ。
町長は祈った。神はいた。鳥の囀りの如く、欧陽 菲菲のラブ・イズ・オーバーを笛で奏でる男が近づいてくる。
笛を吹く男は言った
「この音色は消臭作用がある。私が街中を歩き、この臭いを鎮静しましょう」
正確にはその音色により嗅覚が鈍るらしい。
男は奏で続けた。来る日も来る日も。
徐々に消えていく糞の臭い。美しく響く欧陽 菲菲のラブ・イズ・オーバー。
そのコントラストは薄れ、玉石混交となり、終いには臭いが消えた。
男は言った。「人糞は埼京線に乗せ、東京に捨てるとよい」
つぎ「ブエノスアイレス」「白熊」「娼婦」
1ペソ2円。
ブエノスアイレスでは、50ペソで女が買えるという。
僕がセシリアと出会ったのは、ご多分に漏れず流しっ放しのアルゼンチン・タンゴ、
正露丸のようなアヘンの臭い、どこに立っていても誰かのねっとりした視線が絡みつくような……
そんなよくある売春窟の小さな窓のない部屋だった。
艶のない長い髪、浅黒い肌、小型犬のような黒々とした目で、セシリアは娼婦の笑顔を僕に見せる。
「ブエノス・ディアス・ムチャス・グラスィアス」
ごめんね、セシリア。僕はスペイン語を話せない。ごめんね。
セシリア、君は冬眠しない熊を知っているかい。
果物や野菜が存在しない北極に住む彼らは、アザラシやペンギンを眠らずに殺し続ける。
僕は人間の白熊。これから君を殺す僕を、セシリア、君は許してくれるだろうか。
ごめんね、セシリア。本当にごめんね。
つぎ「絶望」「仮面」「花束」
仕事でへとへとなのに、休日には必ずピクニックや、
動物園に連れて行ってくれた母に、なんでうちは貧乏なの、
あのゲームみんな持ってるよって泣きわめいて困らせ、思春期の頃からは
まるで自分ひとりが絶望の淵にたたずんでいるかのごとく振舞ってた。
初めてのボーナスで、母と一緒に京都を散策した。
京都から戻ったら、母は「実はね、もう何年も黙ってたけど」と、
乳房にしこりがあったこと、いまやそれは醜悪な腫瘍として
皮膚を侵していることを告白した。
奨学金を受けながらの大学を頑張っているときに、とても
言い出せなかった、ってそんなの思いやりって言わないから。
物静かで穏やかな仮面の下に、壮絶な愛情を秘めてた馬鹿な母。
その年の誕生日、母の好きな桔梗を1輪贈った。翌年、2輪。
いつか、すごい花束をあげるねって約束したのに、
3輪でようやく花束らしくなったときにはもう、母がそれを見ることはなかった。
「あなたに子どもが生まれたら、その子に愛情の花束をあげてね」って母との約束。
写真の中で微笑する母に似合う、1輪の桔梗のこと、いつか子どもにも話せるかな。
次「線路」「スプレー」「電源」
テレビに異変が起こり始める。制汗スプレーのコマーシャルの女優の顔が彼女の顔に変わる。次は化粧品の女優、そして女性アナウンサーと、出てくる女性全てが彼女の顔に変わる。でもこれはまだ初期段階で最終的には画面が彼女の顔で埋め尽くされる。
僕はそうなる前に電源を切って布団に潜り込んだ。暗闇にはまだ彼女の顔がぼんやりと浮かんでくる。僕は目をさらにぎゅっと瞑ってそれが消えるのを待った、だけどそれは消えるどころか益々鮮明になってくる。
耐えきれずに布団を蹴飛ばした。眩しい夏の日差しが闇に馴れた目に刺さる。僕はまた目を瞑った。
しばらくしてようやく光に慣れ、見開かれた僕の目の前に飛び込んで来たのは線路だった。
決して比喩ではない。僕は回りくどいのは嫌いだ。かといって現実であるはずがない。だからこれは夢だろう、夢でなければ幻影だろう。枕のすぐ上の方を左右に一直線に敷かれた線路。夢占いで線路は何を意味してたっけ?
そんな事を考えているとカンカンと踏切の音がした。僕は左側を見つめる。何故かそこから電車が来るようなきがしたからだ。
突然電車が凄い速さでやって来た。電車は予想通り左から右に駆け抜けていく。乗客は一人もいない。いや、いた。彼女だ。彼女だけが乗っていた。彼女はどういうわけかずっとこちらを向いて静止している。そして何かを呟いている。唇の動きを読む、やはりその事か。
「アイシテル」
電車が通りすぎた。線路はまだ残っている。僕は枕を線路の上に置いて頭を横にした。夢の中の電車に、幻の電車に轢かれたらどうなるのだろう。瞼が重たくなってきた。カンカンカンという音が次第に大きくなってきた。
次題 「警察官」「乳房」「浣腸器」
「ホシの名前は浣腸器。女。中国籍だ」
「課長。それって本当に人の名前なんですか」
「もちろん。ちょっと前首相に似てるかもな。池袋で乳房カフェを経営している」
「え、店の名前って、もしかして……」
「ジャストスステム。AカップからKカップまで取り揃えた、通称AtoKの店」
「うわ……俺会員っすよ……」
「自主内偵か。警察官の鑑だな。で、どんなサービスを?」
「ペ、ペ、ペロペロ・・・」
「ペロペロ?」
「…ペロペロ」
「………ペロペロ」
「…………ペロペロ」
「おい、あんまりコンテナを右へ押すなよ」
「…………ペロペロ」<ピタッ
次「桃尻」「独和辞典」「火掻き棒」
「さっき君が通りすがりの外国人観光客に言われたっていう言葉、調べてみたけど、
なんていうかな……桃尻、みたいな意味だったよ」
僕は独和辞典から顔を上げ、隣りの席で落ち着きなく身体を揺すっているマコトを見た。
場所は予備校、講義開始二十五分前のAクラス教室。僕とマコトは予備校生だった。
「桃尻って……やっぱりセクハラだったんだ、あの夷敵ども!」
マコトはそのふっくらしたほっぺを膨らませるようにして、怒りを見せた。それから、伏し目がちに僕に訊いてきた。
「ちなみに、さ。健吾は桃尻…………嫌い?」
「そりゃあ、まあ、いいことだとは思わないけど」
「う、嘘!? ……これでも? これでもこれでも?」
マコトはいじわるそうな表情で、あろう事か僕の胸に背中をくっつけるようにして、膝の上に座ってきた。
そのまま身体を左右に揺するもんだから、ああ、僕の股間の火掻き棒がぐりぐりと――って、これはまずい。
「いや、あの、マコト……桃尻ってあれだよ? 大きなお尻って意味じゃなくて、桃みたいに安定していない……
もじもじしてて落ち着きのない姿勢のことを言うんだよ? セクハラでもなんでもなくてさ」
「え……ええ!? ちょ、なんだよ、紛らわしい言い方するなよなー!」
「いや、こないだの古典の授業で『桃尻』って出てたからさ……だいたいマコト、別にお尻大きくないじゃん」
「そ、そうかな? まあ……俺も結構、プロポーションには気をつけてるしな!」
そう言って立ち上がった彼――マコトは、ジーンズの上からでもわかる男らしい尻エクボを、きゅっと引き締めた。
次は「えくぼ」「ゲイ」「死」でお願いします。
174 :
「えくぼ」「ゲイ」「死」:2011/09/06(火) 13:28:12.94
レベルが足りなくて連投になることをお許しください。
彼女は私の人生で最も大切な人だった。
大学の研究室で一緒になった彼女はとても明るく、えくぼが似合う女性だった。
彼女は私の悩みや心配をすべて受け止めてくれた人だった。
男性が好きだということを初めて話したのも彼女だった。
変な目で見られる心配を吹き飛ばしむしろ気にかけて一層親密にしてくれた。
彼女は私の世界を変えてくれた人だった。
初めて女性に恋したことも、初めて一夜を共にしたことも、初めて結婚を申し込んだことも。
175 :
「えくぼ」「ゲイ」「死」:2011/09/06(火) 13:30:22.08
彼女との生活は幸せだった。波風が立たなかったわけではないが、とても充実した生涯だった。
思い出すと、とても幸せな気持ちでいっぱいになる。
けれど、今は純粋な笑顔にはなれなかった。笑顔で見送ってという約束は守れなかったようだ。それでも、妻の器だったものは目の前で笑っていた。
次は「飼い犬」「スポーツマンシップ」「研究所」でお願いします。
176 :
「えくぼ」「ゲイ」「死」:2011/09/06(火) 14:07:10.87
さらに連投申し訳ないです。三語の要素を入れることだと勘違いしてました。
男性が好き→ゲイ 妻の器だったものは→妻は死を受け入れたように(無理があるかな・・・
同テーマで書くのはアレだとおもうので私の出したテーマで書いていただけると幸いです。
次からは気を付けます。
私が勤める研究所には、ろくに研究もせずにのうのうと居座る穀潰しな研究員がいる。
なぜクビにならないのかと、不思議がっている。
研究や開発の現場では、みんなが周りを出し抜こうとして、フェアプレイとかスポーツマンシップとか、そんな精神とは縁遠い世界だ。
このろくでなし研究員も、周囲を欺こうと、わざと能なしのふりをしているのかもしれない、と疑われている。
あるとき、人手が足りず、私は、たまたま通りかかった彼に、試薬の調合を頼んだ。
彼は快く引き受けてくれた。
もしかしたら、ものすごい腕を持っているのかもしれない。こういうちょっとした作業を、目測で正確無比にこなすのかもしれない。
そんな期待を抱きながら、私の調合薬と混ぜて試験機にかけると、結果が明らかにおかしい。
おそらく、彼が配合を間違いやがったのだ。
「これ、臨床試験だったら、人が死んでますよ!」
私は、彼に怒りをぶつけた。
「悪い、悪い」
と、彼が両手を向ける。
「悪いじゃないでしょ!」
真面目に反省していない様子の彼に、私はさらに怒った。
「よせ」
と、周囲の研究員が私の肩に手をかけた。なおも、彼に殴りかかろうかという勢いの私を止めた。
「なぜ、彼を咎めないんです!」
「いいから」
と、私に黙れという仕草をする。
ミスをした彼は、バツが悪そうに、悪かったという様子で部屋を出ていった。
「なぜ、彼を咎めないんです!」
私は、同じ言葉を繰り返した。
すると、共同で作業をしていた研究員Aが私を見た。
「昔、彼が真面目に研究をしていたころ、同僚のミスで、彼の飼い犬がひどい状態になったんだ」
「死にはしなかったんだが、植物状態というか、もう安楽死させた方がいいんじゃないかと周りが進めたんだが、彼は、なんとしても、元の元気な姿にしてみせると、新薬の実験を続けて」
「その過程でできたのが、現在、当社で莫大な利益を出している若返り薬だよ」
「彼が会社を辞めたら、特許訴訟を起こされるかもしれないから、どんなに仕事をしなくても、クビにはできない」
私は押し黙った。
こういう話が実際にあるのか。
会社の都合。人命よりもお金が優先される社会。
……しかし、この若返り薬に憧れて、この会社の研究員になったのも事実だ。こんな薬を作れる人物、チームがいるということへの憧れ。一緒に仕事をしてみたい、と思っていた……。
「彼の飼い犬は、どうなったんですか?」
「まだ、彼は研究を続けているらしい」
次は「勝利」「タイムリープ」「失敗」
Z教授は深夜の研究室で湧き上がる興奮を一人、こらえていた。
「人類の叡智の勝利だ。ついに・・・」
教授の発見した数式は、時空操作実現に大きく一歩、近づくものだ。
Z教授は数学者である。しかし、あるときイメージが湧いて以来、
密かに時空操作の最たる夢、タイムリープに関わる数式を考えていたのだ。
Z教授の考えるタイムリープは、現代(0.0,0)と行きたい時点A(x,y,z)とを
つまんでくっつけてしまう数式によって成り立つ。
広げた布のある2点をつまみ寄せ、2点間の布は手のひらに押し込むイメージだ。
数学者には無理だと嘲笑してきた物理学者たちを見返し、人類の夢を
手に入れるのはこの俺だ――。Z教授はついにこらえきれず、笑い出した。
「時空をある一か所で凝縮すると、それはブラックホールだ。
わかる?二度と宇宙空間へ戻らない時空を作り出してしまうんだよ」
物理学者である友人はZ教授の数式の弱点を一瞬にして見破った。
しかし、彼はZ教授を笑わなかった。「着想はいい。お互い、協力しないか?」
自分の失敗は、数式の大いなる欠点を見逃したことでも、名声を得るチャンスを
逃したことでもなく、我執にまみれていたことだったと気づかされ、Z教授は恥じた。
少年のように、純粋に夢を追っていた日々を思い出し、もしタイムリープできるなら
トンボを追っかけていた少年時代だ、とZ教授は心に決めた。
次「白」「リモコン」「箒」
182 :
「白」「リモコン」「箒」:2011/09/10(土) 16:06:53.26
真っ白な白衣を着てある科学者が叫んだ。
「やっと完成だ!これで庭の掃除も労力なしで全自動だ!」
近所で有名な奇人変人科学者は自他ともに認める天才だ。
今回の彼の発明はリモコンで動く竹ぼうきだ。庭を縦横無尽に飛び回り、枯葉や土埃もあっという間に片づける。ついでに作ったセットの塵取りにまとめてポイだ。
彼の発明は毎回評価されるが、いつもバカにされる。
そんな汚名を返上すべく作ったこの作品は、ここ最近の中で彼の自信作だ。
「これで、砂埃が機械に詰まるようなおかしなことは起きないし、リモコンだから自分の好きなように掃除できる。ご老人にも大好評間違いなしだ。」
そう喜ぶ彼の発明した箒にはリモコン操作でごみを散らかすような風などを一切起こさない空飛ぶ機能がついている。
183 :
「白」「リモコン」「箒」:2011/09/10(土) 16:37:58.88
次「機械」「漁師」「アイロン」でお願いします。
「機械」「漁師」「アイロン」
少年は夢を見た。
鮫を釣った夢を見た。
船に乗って、釣り糸を垂らし、獲物が仕掛けに食いつくのを待った。
糸が海面にさし込む様子を見つめつつ、
背後にいる漁師の老人に、少年は語りかける。
「おれ、あんたが釣ったのより大きなのを狙ってるんだ」
少年は海面に視線を向けていたけれど、
老人がうなずいたのを背中で感じた。
アタリがあった。少年は糸を引いた。引きは強くて、深かった。
釣り糸が指を切り落とすかと思う瞬間を何度も乗り越えて、
タモ(網)で巨大な鮫を救おうとしたとき、少年は目を覚ました。
少年はもう少年ではなかった。タモを持っていたはずの右手を見た。
その右手はしわがれて、まるで船にいっしょに乗っていた老人のもののように思えた。
「サンチャゴ……」
とつぶやいて、まるで機械じかけのロボットのように立ち上がり、アイロンを手にとった。
彼は、仕事を終えたら海に出ようと思った。鮫を釣りに? いや、サンチャゴに会いに。
次も「機械」「漁師」「アイロン」で。
東日本大震災で気仙沼は甚大な被害をうけた。多くの人々が路頭に迷うなかで、カツオもまた店を失くし、避難所生活を余儀なくされた。
彼の店というのはクリーニング屋だ。毎日重いアイロンをかけてきた右の掌はタコができていた。
この半年間、大きな絶望感を抱いて生活してきたが、ある日かすかな希望をカツオは見た。
それは気仙沼の漁師達が、復興に向けて港でがれきの撤去をしている光景を目の当たりにしたからだ。
何も彼ら漁師達が、それまで何もしていなかった、というわけではない。多分、カツオは周りの状況がどうなっているのか、判断能力が働いていなかったのだろう。
人は絶望を感じた時、よく周りに注意が向かないものだ。港では大きな機械で陸にあがった船舶を撤去している。
カツオは、自分の店があった場所に行ってみた。そこはまだがれきが片づけられていなかった。
「俺も一から出発だ」カツオは流されてきた材木をかたし始めた。自分の真価が問われているような気がした。
次は「老人」「海」「少年」でお願いします。
「老人」「海」「少年」
ヘリで運ばれていった老婆は「すみません」と何度もくり返していた。
彼女が何か悪いことをしたわけではないのに「すみません」と
申し訳なさを口にしたことに衝撃を受けたのは海外のメディアで、
海外のメディアが衝撃を受けたことに衝撃(というほどではないけれど驚き)
を受けたのは日本にいる日本人の僕だった。
宮城県は牡鹿、女川町にある島、出島(いずしま)。そこに寺間という地域がある。
とうほくを、とうほ「ぐ」となまって発音するような、
そんな、宮城県にできた「濁点」のように位置する島。
僕は、三月十一日の、その日、海の中にいた。
あわび、うに、こんぶ──手を伸ばせばすぐに手に取れる幸を、
しかし、取らなかった。海の生物も、自分も、この地で生まれた同胞(はらから)。
腹がすいてないのに食べるような真似はしたくなかった。
九月十一日、僕は、海にいた。若い者で出島に残ったのは少ない。
ここで死ぬと覚悟を決めた老人のほうが多い。
僕の家は思い出ごと根こそぎ波に流された。
放射能が空を舞い、東北の大地に降り注ぎ、海底に堆積しているだろうことはネットで知った。
それでも僕は海にもぐった。そして、腹はすいていなかったが、こんぶをすこしかじった。
君がうれしいなら、僕もうれしい。君が悲しいなら、僕も悲しい。
そう言いながら(口からは泡がブクブク出ただけだったけれど)、かじった。
僕の目から溢れた涙が海水に溶けていく。
ああ、僕は海の一部になる……。これでいい。これがいい。すごく、幸せだった。
次は「夢」「生きる」「意味」」でお願いします。
すみません。「少年」を入れ忘れました。
>若い者で出島に残ったのは少ない。
を
→出島に残った少年は僕くらいだろう。
に変えます。ごめんなさい。
190 :
「夢」「生きる」「意味」:2011/09/11(日) 06:40:28.25
人生は夢のごとし、と人は言う。振り返ってみれば、私の人生もそのような
ものだったに違いない。幼い頃から夢を抱き続けてはきたが、挫折する度に、
夢の軌道修正をしてきた。その上で新しい夢を再び抱き続ける。挫折を繰り
返せば、夢は極小に近づく。だが、決してゼロになることはない。それが、
「生きている」ということではないだろうか?例えば、その驚異的な再生
能力に各方面から大きな関心が集まっている海鞘類などはそれを端的に示す
例と言えるだろう。夢は縮むことはあるかも知れないが、再生して以前より
はるかに巨大に成長することもあるのだ。それに意味が必ずある訳でもなく、
我々の体内には中身だけが詰まってる訳でなく、空洞だってあるのだし。
だが、我々日本人の祖先はそのようには多分、考えていなかった。切腹の
お国柄でありながら、詳細な解剖図を作ろうというような科学的探究心は
生まれなかった。日本画の伝統では江戸時代の日本人はすべて出っ腹に
描かれている。引き締まったウエストを美とする観念はこの国にはなかった。
その代わりに、出っ腹の中に神秘的な何かが詰まっていると想像してたんだ
な。多分それは今で言うガッツのようなものだと。
次のお題は、「うんこ」「美女」「イケメン」
191 :
名無し物書き@推敲中?:2011/09/11(日) 12:16:59.67
この板で一番イケメンなのは健一郎
美女は私だけ
他のコテは全部うんこなんだから
お題を出せw
指定無しの場合はお題継続、というルールが
>>1に書いてあるでしょ。
正直すまんかった。
「ちょっと、うんこ行ってくるよ」
私は笑ってしまった。彼みたいなイケメンが「うんこ」だなんて。
まるで子供みたい(笑)。私がちょっと年上の女に見えて緊張したのかしら。
それとも、逆に安心しすぎてぽろっとでてしまったのかも…。
どっちにしろ彼は結構私に気があるみたいだ。
三分…ホントにアレしてるみたいね(笑)
私は美女ってほど綺麗じゃないし、愛嬌もそんなにはない。
でもそういう私だから、彼はきにいってくれるはずだわ。
いや勿論、彼だけじゃなくて他の男達も、だけど。
五分…どうやら緊張のほうだったみたいね(笑)
それにしてもこの前のあいつ、酷かったわ。
現実が見えてないだの年齢を考えろだの…意味不明だっつーの!
四十手前のくせに年収500アンダーなんて人の事言える立場か!
でも色々言う割には胸の谷間見てたりして、こっちに好意あるのまるだし(笑)
…十分。もしかして喋ること考えてたり、練習してたりして…
私も若いころよくやったわぁ(笑)
でもよかった、こっちの業者さんに変えて。
前のところは五十過ぎの爺とか無職男とか、ろくなもんじゃなかったもの。
私はボランティアじゃないっつーの。ばっくれてやったわ(笑)
でも悪い業者は変えて、いい男とも出会えてやっとこれからって感じね。
ま、もちろん前より私自身もどんどん向上していってるけどね。
二十分。お腹の具合でもわるいのかしら。
…………三十分。……四十分…………一時間。帰っちゃったのかしら。
とりあえず、業者に電話して……いいか。テレビ、なにやってたっけな。
なぜ次のお題を書かない。その3語を続けさせたいのかw
お花見の時、女子トイレに入ったことがある。
理由は連れの泥酔した女の子がトイレに行ったまま
出てこなくなったからで心配になったからだ。
俺が女の名前を呼びながら怪しまれないように
女子トイレにはいると女は便器を抱いて眠っていた。
困ったことになったと思いながら介抱していると
物音がして知らないOL風の女が入ってきた。
俺は苦笑いをして連れの女の名前を呼びながら早く帰ろうとか
終電が出ちゃうとか言って体をゆすっていたのだが
女はおきない。そうこうしているうちにOL風の女がパンツを下ろす音が聞こえた。
俺はドキドキし始めた。
良くある天使と悪魔の葛藤と言う奴が頭に浮かんだ。
小便の落ちが聞こえ俺は一度、ドアの上を見上げると便所を出た。
ちなみに俺はイケメンではない。
そして連れの女も美女ではないと思う。でもちょっとだけ
可愛いと思うことがある。
電車の中でうんこしたくなった事ある?
あたしあるんだけど、特急に乗っちゃったから暫く止まらないし
頭悪そうなこどもが側で騒いで、DQN親も注意しないからイライラするし、
だんだん、漏れそうになってきて涙目になりかけてたら、目の前に座ってたイケメンが
「ここ、座れば? 具合悪そうだし」と席を譲ってくれたんよ。
超ラッキーたすかった! やっぱり美女は得だよね、と思いつつ、
なんとか次の駅に停車するまで耐える事が出来たのでした。
間に合った! うんこ漏れなくて良かった!
次のお題は、
「プリーツスカート」「クリーニング」「実話」
親を亡くしてひと月と経っていないのに、若さ故の現金さか、娘は平常営業をしている。
毎朝寝坊し、帰宅すると殆ど部屋にこもっている。どうせネットゲームだろう。
ある休日の朝。「おばあちゃん、見て」とチェック柄のプリーツスカートを私の母に見せている。
母が「あら」と言うのと同時に、私も気づいた。それは妻が結婚前に愛用していた物だ。
「クリーニングしたら、まっさらになった」と随分喜んでいる。よく似合っている。
ふいに娘がショーモデルのターンよろしく私を振り返った。
「お父さん、私、猛勉強して医者を目指す。冗談だと思ってるでしょ、実話だからね」
いつになく真剣な眼差しなので、私も少なからず緊張した。
「お父さんみたいに忙しい仕事は嫌って言ってた子がねえ」と母が心配そうだ。
「寂しかったからね。でも、すごいことだよ、人の命を支える仕事」
嬉しいことを言ってくれる。
「泊り込みが続いて、お母さんが着替えを持っていって・・・」と、ふいに娘が涙声になった。
大規模な自然災害にみまわれ、私の勤務する病院でも大きな被害が出たのだ。
「今日は、お父さんとお母さんの21回目の結婚記念日。今日の花は豪華だよ」
そう言いながら仏前に白百合を供えてくれる。妻に良く似た愛らしい笑顔を浮かべて。
「おばあちゃん、今、写真の中のお父さんとお母さんが笑った」と、いつもの元気な声だ。
「やっぱり天国でもラブラブなんだよ、あのバカップル」なんてひどい言い草だけれど、
ありがとう、そんなお前が大好きだよ。いつでも2人で見守っているよ。
お前、勉強のために、私の書斎をこそり使ってたんだな。精一杯やれ。
次
「タバコケース」「マニキュア」「雨」
雨が降ると僕は決まって真っ赤なマニキュアを連想する。逆に真っ赤なマニキュアを見ると雨の日を。
それには理由がある。二階の僕の部屋の窓から見える通りの電柱の陰には、少し前まで雨の日には必ず女が現れたからだ。僕にしか見えない幽霊の女、女の幽霊。
女は滲むように現れる。いつも非常にゆっくりとぼんやりと現れるのでいつからいたのかはっきりは分からない。ただじいっとこっちを見ている。(自意識過剰じゃなければ)僕を見つめるのだ。
彼女は白のワンピースで真っ赤な傘を差している。表情は傘に隠れてよく見えない。ただ傘を持つ手が僕の興味をひいた。美しい指、本当に美しい指。そしてそれを引き立てる傘よりも鮮やかな深紅のマニキュア。
雨で視界が悪く、彼女自身もぼんやりとしているため全体をよく捉えられないにも関わらず、その綺麗な手にだけははっきりと焦点が合う。
僕は視線をそのままにタバコケースから一本取り、火を着ける。呪われたことはない、雨が降れば現れ、止めば消える。その間僕は窓辺から彼女を見下ろす。それだけなのだ。それだけの関係がしばらく続いた。
しかしやがて彼女は現れなくなった。だからといって特別これといった感情もわかなかった。彼女の存在は不確かで曖昧なものだったから。でも、いまでもあの真っ赤なマニキュアの手だけは鮮明に思い出すことができる。
だから雨の日に僕は真っ赤なマニキュアを連想するのだ。
次題 「仏心」「蝉時雨」「彼岸花」
桜の木の下には死体が埋まっているらしいが
彼岸花の下には何が埋まっているのだろう?
自殺願望を持った人と言うのは顔に出るものだろうか?
私は外に出ると他人が私の顔を見て嫌な顔をするような気がして
そんな風に思ってしまう。もちろん精神科に行ったら医者は
「気のせいです」そういうだろう。
蝉時雨 一人誰かを 待つ日には
私は孤独だ
すがりつき 仏心に 憎しみを
私は孤独だ
そう嘯いてみたりみなかったりしてそうろう
扇風機 蚊取り線香 朝日
202 :
名無し物書き@推敲中?::2011/09/18(日) 00:57:45.85
今年の夏は妻と娘一人で実家に帰省することにした。
そろそろ走り回るような歳になってきたので田舎の空気を吸わせてみようと思ったのだ。夜通しかかって実家に到着した。朝日がまぶしい。
一通り荷物をまとめた後、子供は風通しのいい実家で元気にはしゃいでいるが、作られた気温になれた私と妻は少しバテ気味だ。
そんななか娘は母の部屋にある蚊取り線香に興味を持ったようだ。これは何かと聞いてきたので、わるい虫さんをやっつけるけむりをだすもの、だと教えると
部屋の隅に置いてあった扇風機を持ってきて、蚊取り線香の煙を吹き飛ばした。これでいっぱいやっつける、だそうだ。
いやはや利口な子になるかもしれない。……親ばかだな。
203 :
名無し物書き@推敲中?::2011/09/18(日) 00:59:09.09
次 電波 猫 誕生日 でお願いします
「電波」「猫」「誕生日」
おれには苦手なヤツがいる。同じクラスの女。名前は忘れた。
めんへらってのかねぇ、電波とも言うけど。
でもさ、ときどき正気を取り戻すんだよ、そいつ。
ともだちって間柄でもないんだけどさ、席が近いせいか、やたら話しかけられる。
うぜーって思うことのほうが多い、正直。圧倒的、圧倒的うざさっ。
ごみ、捨ててくるね、誕生日でしょ? と、ある日そいつは言った。
ざわっ……ってなったね、おれん中で、一瞬。おれらは掃除当番だった。
いがいにかわいいかも、とか、思っちまった。
まぁ、名前もろくに知らないんだけどさ。
すかしてんのも柄じゃねえし、いいよ、自分で捨ててくるからって、ゴミ、持った。
ねこ大好き。てか、誕生日じゃないんだけどな。仕方ないか、めんへらだし。
次は「義理」「人情」「恩返し」でお願いします。
宮城の兄貴の実家が半壊したとなっては俺だって黙っちゃいられない。
世間に後ろ指指され、お天道様の下を顔を上げて歩けるような男じゃないが安吉38歳。
義理と人情にかけてはこの界隈じゃ知らないものはいない。
「安吉よ。ありがてえよ。うれしいよ。でもな気持ちだけでいいんだ。俺が実家に帰れねえ訳を
知ってるだろ? 親父やお袋に顔を見せられねえの知ってるじゃねえか? ほら何年か前だって
会津に殴りこみに行った帰りだって寄れなかったじゃねえか。だからおめえの気持ちだけでいいんだ」
「兄貴よお。それじゃあ俺の気がおさまらねえよ。だったら俺一人でいかせておくれよ。
兄貴の知り合いじゃなくボランティアだってことにするから」
「安吉よ。おめえはもう少し物分りがいいと思っていたぞ」
「あっそうだ。この間、兄貴は俺の自転車を取り返してくれたじゃんか。
その恩返しだよ。頼むから行かせてくれよ」
「…………分かった。じゃあ一緒に行こう。一緒に言って
後ろ指差されようじゃないか。陰口追われようじゃないか。石投げられようじゃないか。
ああ、そうだな。ああ俺だって人間だ。冷たい血かもしれないが赤い血が流れてるってことを教えてやろうじゃないか」
コート 晩秋 さよなら
これで最後のメールにします。わたし、あなたに言いたいことがたくさんあった。
我慢、そうね、ずっと我慢。付き合いだして1年目くらいかな、奥さんがいるって
知っても、知らない振りしました。いつかあなたが本当のことを言って、
わたしのところへ来てくれると信じてたの。だから黙ってた。言えない事情、
あるわよね、男の人だもん。一家のあるじって大変だもん。娘さんもいて、
ご両親と同居で、わたしなんかとは違う。
だから昨日の夜、あなたがお家のことを切り出したとき、あたし、嬉しかったのよ。
わたしが馬鹿だったのかな。馬鹿だったんでしょうね。思ってもみなかった。
あなたがわたしのこと、いつか自分から去ってくれるものだと思っていたなんて。
ごめん。本当に本当に好きでした。嘘つきなあなたが好きでした。
さよなら。
送信ボタンを押すと、朝の公園に聞きなれた受信メロディが響いた。
わたしはため息をつく。息が白い。もう何年前になるのだろう、晩秋のあの日、
この公園、この同じベンチで、わたしと彼は出会ったのだった。
恋の終わりがこんなだなんて、やっぱり、運命ってあるんだろうな。
わたしはゆっくりと立ち上がる。支えを失ったコート姿の彼がくずおれて、
ベンチの上に横倒しになった。背中に突き立ったナイフの周りに、
ハート型をした銀杏の葉が一枚、また一枚と舞い降りてきた。
「洗濯ばさみ」「桜草」「綿菓子」
出会いは空から降ってきた洗濯バサミだった。
僕は仕事に疲れ人付き合いに疲れきり何も見えなくなっていた。
携帯を落としたとき、どこに寄ってきたかまったく思い浮かばず、今通ったはずの道さえも通ったかどうか分からない。
何の刺激も無く・・・違う、何の刺激も感じなくなり、時間は過ぎるものではなく過ぎたものになっていた。
そんな時に洗濯ばさみが振ってきた。太陽に焼かれ風雨に叩かれもろくなった洗濯ばさみが砕けただけの良くある話。だけどその洗濯バサミは僕の心の窓を開け、ドアを開け、壁を壊してくれた。
時間は相変わらず早く過ぎた。だけど思い出せることは多くなり過ぎていく時間を感じられるようになった。空が青かったことを思い出した。花が咲くことも枯れる事も思い出した。
夜中に急に綿菓子が食べたいと言われそれを探してカラオケ屋にいったこと、真夜中に日本海に泳ぎに行きたい!と言われて徹夜で日本海に走ったこと色々な事があった。思い出せることが多すぎて直ぐに思い出せないくらいで、それを痴呆症だと笑われたこともあった。
ずっと下をむいて歩いていた僕を、あの時洗濯ばさみが上に向けてくれた。
町を望む高台に開かれたこの場所からは青い空と山腹に雪を残した山々が見える。
君が好きだった海は見えないけど暖かくなれば桜草が咲き乱れるらしいね。バラよりもかすみ草が好きだった君にはいい場所だと思う。
花粉アレルギーだったけど、もうその心配は無いしね。僕も安心して花をプレゼントできるよ。約束は・・・多分まだ先になりそうだ。
僕は捨てられなかった洗濯バサミをポケットにしまい頭を下げた。
次は「星」「栗拾い」「うろこ雲」
祖母と遊んだ栗拾いの帰り、見上げた空にうろこ雲を見て、
「いい天気だね」といったのを覚えている。
祖母は笑って僕の言葉を否定した。なんといったかまでは覚えていない。
その日、白い雲の間から見えた空は高く透き通って、
僕らの他愛ない会話を、底なしの奥へと持っていってしまったのだろう。
夜、下駄で栗の皮をむいていると、ぱらぱらと雨が降ってきた。
柔らかい風が木の枝をぽきりぽきりと鳴らし、下草の葉が
見えない滴にざわめきはじめる。幼い僕はこれが怖かった。
僕は土間の栗を片付けて、座敷に上がる。棘にあたって
ささくれた足の指を洗いに、流しに行った。そのときだ。
高い蛇口に手を伸ばし、べこべこのステンレスに手をかけ上を見ると、
くすんだ窓ガラスの向こう、渦まく雨雲の間に、一瞬だけ星の光が閃いた。
あれから何年経ったろう。菊の花を切りに同じ流しに立った僕は、
ふと、祖母がいた秋を、あの夜見た白い星を思い出す。
もう、僕にも、この窓からは黒い森しか見えない。
次「山びこ」「潮目」「金糸卵」
和夫は子どもたちを連れて栗拾いに出かけた。
蒸し暑く、首にかけたタオルは汗が絞れそうなほどになった。
時折、イガに気をつけろ、木陰に入れと声をかけながら、そう言う和夫自身が
木々の合間から射す日を見上げながら、木陰を選んで帰路を進んでいた。
あ、秋だ。
直視できないほど眩しい日差し、じっとりとまとわりつく空気、それらはいかにも
夏のものだったが、見上げた空に浮かぶうろこ雲は、静かに秋を告げていた。
そう思って空を見直すと、オレンジ色の日差しも夏と異なる柔らかさを含んでいる。
日本古来の文化は、現代の季節感と合致しないものが多い。
和服しかり、俳句しかり。しかし、DNAの感性に埋め込まれているのか、
季節の先取りとして楽しめたりする。
山風に たなびく髪の はかなさよ
下手な句ひとつ読んで、はて、自分の頭はまだ秋か、それとも
季節を先取りして、すでに冬に突入しているのだろうかと、
彼の頭髪程度に哀愁をにじませた和夫の目に、東の空に煌く一番星が映った。
「システム」「スポンジ」「袋」
>>209です。ダブったので次のお題は>208でオネガイシマス。
俺はトレジャーハンターを名乗ってはいるが、所詮趣味であり本業で稼いだ金を趣味に貢いでいるだけだった。
今探しているのは剣山に隠されたと言う秘宝だった。
いろいろな情報を集めていると錦糸玉子を思い出す。
細く切り裂かれた情報を集めることで形になる、しかも秘宝とくればゴールド、まさに錦糸玉子だ。
俺の持論はさておき、情報を集めていくと−正しいかどうかは別として−大きな潮目を迎えることがあり
今がまさにそうだった。
石鎚山は霊峰として、死者が天に上る山として有名だが、いろいろ調べるともうひとつ香川の外れに石鎚山があった。
そのふもとの集落は帰来と呼ばれていて表の石鎚と対を成す、死者が帰り来る山だった。
この地域は弘法大師が開いた四国霊場88箇所を結んだ線の外にあり、一説には高野山の候補地だった話もある地域だ。
88箇所は秘法を封印するためのもの・・・そういう説もある。なら、なぜ高野山は和歌山にあるのだ?
この地域は剣山の鬼門に当たる。本当に封印ならここのほうが相応しい。
この説を裏付けるように、この地域にはヤマトタケルに関わる神社があり、源義経が戦勝祈願に参拝したと言う記録もある。
ここの神主は朝廷から派遣されていたらしい。京の島流し先でもあったこの地域に・・・だ。
そして神社本殿からまっすぐに鳥居を眺めるともうひとつの石鎚山がその延長線上にある。
しかし地元の人に話を聞いていくと歯切れが悪くもやもやが溜まっていく。
俺の調査ではこの石鎚にこそ秘法があるはずだった。とにかく山に登って調査することにした。
この山からは剣山が見えるはずだ。
しかし、1週間さがして何の手がかりも見つけられなかった。
静謐とした山頂では、誰かの声がやまびことして響いてくるだけだった。
つぎ
>>209の「システム」「スポンジ」「袋」 でお願いします
姉の部屋に入ってブラジャーを着けたのは事実ですが
計画したわけではありません。たまたま家に一人だったのと
ネットでいやらしい画像を見たせいです。
裸になりそのブラジャーを着けたとき僕が感じたのは
とても不思議な感情だった。一言で言えば自らの心の中に
女性を発見したということになるのだけど、僕が感じたのは
自分が子供のころ――意識というものが生まれる前――の
自分の写真を見ているような感じだった。
僕は工作用にあったスポンジを丸めるとブラジャーの中に入れた。
そしてTシャツを着ると外に出た。
真夜中のコンビニには客がいなかった。カウンターでバイト二人が
おでんの具を入れながら雑談している。僕は胸が高鳴った。
「システムオブダウンですか? しらないっす。かっこいいんですか?
いやー洋楽とか聞かないですもん。いらしゃいませー」
僕は財布を出しながら
わざとらしく胸を突き出してみたがバイトは何も言わないし表情一つ変えなかった。
(つまんねー)僕はそう思ってコンビに袋を受け取った。
月は雲に隠れていた。なんだかテンション下がりまくりだ。
僕は思った。駐車場の陰でオナニーでもしようかと思ったとき後ろで声がした。
そして懐かしき制服の姿が見えた。
「こんばんは! おにいさん。ちょっと良いですか?」
警察官の職務は他人の趣味を詮索することではないのだ、たぶん。
僕の胸が大きくなってることは分かっているのだろうけど
一言もそのことについては触れようとしなかった。
「ご協力ありがとうございました!」
僕は住宅街に消えていく、その二人組みの警察官の後姿を見ながら
ちかんにも相手にされない不細工な女のことを考えていた。
そして夜空を見上げ月の形がさっきと変わらないのを確認した。
学校 泥棒 魚
俺の名は怪盗ホワイト、小学校専門の大泥棒だ。
そんな所で何を盗んでいるのかだって?
ダメダメ盗んでいるものをばらしたら、いろいろと大問題だ。
子供たちの未来に影響するから、そこは黙秘権を行使させてもらおう。
言っておくが、俺は夜ではなく昼間に堂々と盗みを行う
俺は人気者なので子供たちは警戒心も無く近づいてくる。
だが小学生の相手は疲れるので無視するに限る
そして俺は学校の中庭にある小さな池の前に来た。
俺にかまってくる子供たちも休み時間が終わればいなくなる。
ふちに座り、ひたすらその時間を待ち、そしてチャンスを待った。
大泥棒の所以はチャンスが来るまであきらめないしぶとさにある
国にも指定されている大事なお宝を諦めるはずが無い。
この仕事が終わればこの学校からおさらばするつもりなのだが
さすがに警戒されているのかチャンスは訪れない。
だが執念の前に女神は苦笑した
ばしゃ!
俺の前足は一瞬でめだかを捕まえた。
金魚や鯉はとっくに盗みつくし学校最後の魚だ。
育てていた子達は悲しむだろうしトラウマになるかもしれない。
だが、そんなものは関係ないこれが野生の掟なのだ。
俺は、めだかが動かなくなるのを確認して歩き始めた。
さぁ今夜の餌は誰にもらおうかな?
次は「とうふ」「アフリカ」「スカイライン」
水槽の明かりだけが部屋を照らしている。
天井や何も無い壁に不規則な模様が現れては消え、現れては消える。
私は水槽の前に椅子を持ち出し、何分も中にいるアフリカアロワナを眺めていると
この部屋の主人はこいつなのではないかと錯覚することがある。
私が部屋を留守にしている間、私に隠している能力で持って移動し、食事をし
蛇口をひねっているのではないかと。
まさにそれは妄想だ。でもこの三メートルもある水槽を幾千もの金色の
ウロコを輝かせながら泳いでいるのを見ると、あながち妄想と片付けてしまう
というのも詰まらないと思う。
私は空腹を感じ帰りに寄ったスーパーの袋から豆腐を取り出すと
醤油をかけながら再び水槽の前に戻る。
その時、魚が跳ねて水滴が舞った。
私は眠りにつく前に考える。私が見る夢はきっと魚の意識に影響を受けているだろう。
魚が故郷で見た生まれたばかりの赤ん坊を洗う乳母の姿や
ジャングルの間から見える革命軍の兵士の銃を見た意識が
私の夢に入り込む。そして私は魚の変わりに夢を見るのだ。
魚は私の変わりにスカイラインの夢を見るだろう。きっと車は泥の色をした長い川を身をくゆらせ
上っていくに違いない。
お題を忘れました
台風 殺人 子供
217 :
名無し物書き@推敲中?::2011/09/23(金) 23:26:06.63
また日本に天災がやってきた。地震の次は台風だ。
私の故郷はきっと大昔に意地の悪い領主が民から税を巻き上げ、神への供物さえ出さなせいような状況にして呪われでもしたのだろう。
ここまで不幸が重なるとこんな変な妄想だって出てくるものだ。いわゆる現実逃避だ。
つらい現実というのは、あるラインを超えるとどうでもよくなって来たり、笑えて来たりする。
こんな妄想だって、ちょっと前の私はする余裕もなかった。
地震のあとに隣の吉田さんの家具の一部がなくなっていた時は、こんな時にひどいことする人もいるのだと憤慨した。
行方不明の夫のおなかに瓦礫にまみれて柳包丁が刺さっていた時は私の夫はだれかに恨まれていたのか。
とか、最近出世しだしたのを邪魔になったのだろうか。など、地震の中逃げ出せていたかもしれない。
など、殺人犯への恨みや日常の幸福がなくなった悲しみに半狂乱になっていたものだ。
今はもう、私の心は台風の過ぎた空のように、吹き荒れる風も、温かな空気も、すべてがなくなった。
冷たく、それでいて風すら吹かない私の心。全部を子供が空へと持って行ったのだろうよ。
次 ティッシュ ライトノベル(ラノベ) サイダー でお願いします
218 :
名無し物書き@推敲中?:2011/09/24(土) 16:40:34.30
トイレの個室に飛び込むや否や、ズボンを一気にずり下ろし、ケツを突き出した。
「バピーパブププ」
肛門から勢いよく噴出する俺の汚物が、喜びのファンファーレを奏でる。
やれやれ。完璧、アウトだと思っていた。勝利の笑みを浮かべながら、トイレットペーパーに手を伸ばしかけ、驚愕の事実に気付いた。
トイレットペーパーが切れている!
ポケットを探っても、ティッシュもハンカチもない。あるのは、先ほど図書室で借りたばかりの新刊のラノベだけ。
「ごめんなさい!」
俺はページをビリビリと千切り、ケツを拭き、便器に捨てた。
しかし、ペダルを踏んでも「ズモモモ」と水が溜まるばかりで流れない。
なおも必死にペダルを踏み続けると、逆流でもし始めたのか、サイダーのような泡が
立ち始めた。
次 石原都知事 フラメンコ 保育器
我が校には有名な娘(こ)がいる
見た目も可愛く性格も基本的に良い……でも一点だけ意味不明なところがある。
名前がカグヤだからと、告白されると3つの物を集めて来いというのだ
僕も告白したとき「イシハラトチジ」「フラメンコ」「ホイクキ」の3つを指定された。
こんなものどうしろというんだ?
僕は悩みに悩んだ、石原都知事なんてどうしろと?
悩んだ末に電話帳で石原さんを眺めていた。すると近所に”石原橡滋”という方がいて電話したところ、散々笑われたけど手伝ってくれることになった。
フラメンコはいろいろ探したけど田舎の都市ではフラメンコ教室などは無くインターネットで探してみると”フラメンコ(フランドル地方の音楽という意味)”という言葉があったので、だめもとでCDをレンタルした。
レンタルといっても近所のお店には無くインターネットで借りる無料体験で何とか手に入れた。
最後のホイクキ保育器はどうにもならない。個人で持っているものじゃないし産婦人科に連れて行くこともかなり恥ずかしい、と言うか無理だ普通こない。
外国人でホ・イクキとかホイ・クキみたいな人を探したがいるはずも無く、こればかりはダウンロードした写真を印刷した。
無理やり3つそろえて、カグヤさんを公園に呼び出した。
彼女は石原橡滋さんに大うけし「童話でもそうだけど断る口実だってわかるでしょ?でも橡滋さん最高!」とけらけら笑いながら、まずは友達からはじめる事になった。
彼女とデートの約束をしたがまた3つのお題が付いた・・・
次のお題は「インド」「オリオン」「カンガルー」
私は登山が好きである。子どもの頃は地元の小さな山を休日ごとに登っていた。
年齢が上がるにつれ、北岳登頂、南アルプス縦走など本格登山も楽しんだ。
社会人になり、あるきっかけでエアーズロックに登ってみた。
高さ348mということで軽いハイキングのつもりだったが、急な斜面、
足場の悪いガレ場続きで、自然を馬鹿にしてはいけないと感じた、いい経験だった。
赤ちゃんをポケットに入れて、キョロキョロ周囲を見ているカンガルーは
愛くるしさに見とれたが、オーストラリアに生息する生き物たちの不思議な生態、
現在の危機的な環境を思うと、登山が常に危険と隣り合わせなのは、
自然があえて人類に挑戦しているような気すらしたものだ。
そんな山男に砂漠を勧めたのは、休暇のたびインドへ飛び立ってしまう程のフリークだ。
うだる暑さの中、タール砂漠を歩いた夜、疲れ果てた私はシュラフを用意するのさえ
億劫で、砂漠にごろりと寝転んだ。
昼間の熱気を吸い込んだ砂が、温かく、柔らかく私の体を包み込んだ。
満天の星空はまさに降るような煌めきが散りばめられ、せいぜいベルト部の
3つの星で見分けられる程度のオリオン座が、くっきりと人の姿に浮かび上がって見えた。
どんなに高級な布団よりも優しい砂に抱かれ、私は生まれて初めて、
自然に対する過度な緊張を解き、母なる大地の偉大さを感じたのだった。
次「写真」「霧吹き」「コースター」
その自殺した作家で有名なバーに入ったとき思ったのは
古臭くて薄暗いけど何だか居心地が良いなということだった。
同僚と二人、カウンターに座りビールを注文する。
夏の夕方にはまだ客は我々、二人しかいない。手伝いの
おばさんが忙しげに準備をしていた。
「ほらあの写真。Sも見たことあるだろ?」
そうWが言って指差したのは私もどこかで見たことがある
作家が片足を椅子に上げている写真だった。
「なんでも別に作家のために写真家がココに来たけど
彼が俺もとれって言ったらしいね」
私は、うなづきその写真を眺める。作家がかつて座っていた席には
今も同じようにそこにある。
「Y子は好きらしいよ。彼のこと」
そういって共通の知り合いである女性のことを口にした。
店の温度は高くグラスには霧吹きで吹いたような水滴が
ついている。私はスーツを脱ぎ作家と同じようにワイシャツ姿になった。
グラスを持ち上げ、カウンター裏の酒のボトルを見る。
シャンデリアのような色とりどりのボトルたち。作家はどれをどのように表現するだろう?
私にはうまい言葉が見つからない。
そして濡れたコースターにグラスを戻す。
「ああ良い気分だ」
同僚がそういって背伸びをする。私も同感だった。
夏はまだ始ったばかりで給料は多くなかったが
私達は若かった。
そしてグラスに新しいビールを注いだ。
疲労 休日 携帯
「あ〜ひび入ってますね、しわも一杯」
「何年も使われていたからな。金属疲労もおこすさ」
「これじゃ使えませんね」
「そうだな困ったもんだ」
壊れたはしごを横目に先輩後輩らしき二人の男が荷物を下ろしていた
後輩は携帯を取り出し電波状況の確認を始めた。
「彼女と電話か?」
「帰る頃には彼女も休日ですからね。映画でも行こうかと」
「あ〜はいはい、誰もそんなこと聞いてない聞いてない」
後輩が電話で楽しそうに話す横で、先輩はバッテリーの切れた自分の携帯を恨めしそうに見ていた。
しばらくして携帯を耳から話す後輩。
「やっと終わったか、携帯かしてくれないか?」
「バッテリー切れちゃったんで使えませんよ?」
「そうか」
寂しそうにつぶやく先輩。
「どうかしましたか?」
「1つ相談があるんだが、どうやって助け呼ぼうか?」
次「ハタハタ」「病院」「馬」でお願いします
『人気天才ジョッキー 羽田 葉太(はねだ ようた)落馬で選手生命危ういか!?』
「……チッ」
今朝のスポーツ紙の一面を堂々と飾った俺の名前。ガキの頃、
地元で良く捕れた魚に因み「ハタハタ」と呼ばれて、それをかなり嫌がっていた事を不意に思い出す。
心の奥底から湧き出る苛立ちを抑えきれず、病院のベットの上で文句の一つも言えない事も相俟って、
そのイライラをぶつける様に、新聞を傍にあるゴミ箱に叩き付ける様に投げ捨てる。
「どいつもこいつも、知った様な事言いやがって」
新聞各紙では「復帰は難しい」だの「引退を考えている」だの、好き勝手に書かれていた。
「……冗談じゃねぇ」
俺はベッドの傍に立て掛けてある松葉杖を手に取り、リハビリ室へと向かう。
「待ってろよ、『ハタノハタタカミ』。こんな怪我、直ぐに直して戻ってやるから……」
まだ慣れない松葉杖に悪戦苦闘しながらも、俺は一歩一歩、着実に歩みを進める。
略すと同じ「ハタハタ」になる、長年連れ添った相棒とも言える馬の名前を、心に浮かべながら――。
次のお題 「チャット」「明治維新」「横断歩道」でお願いします。
僕が歩いている道は元々川だったところを道路にしたらしい
信号の名前は「石橋」きっとここには橋があったのだろう
横断歩道を渡ると、電柱の影に欄干?のようなものが残っており
そこには「大浦橋」とかかれていた。
明治維新で日本は文化的に自然と歩む国から
工業が優先される国になった。別にそれは当時の世界を見れば
いや、近くの国々を見るだけでも必要なことだったのだろう。
だけど、それは本当に必要なことだったのだろうか?
少なくとも、川を消す必要は・・・明治維新が原因ではないが・・・なかったのではないか?
近くの人を捕まえてチャットをしてみたいけど、こんなときに限って誰もいない。
僕はなんとも言えない切なさのまま仮想現実の町並みからログアウトした。
次は「巾着」「万国旗」「飴」でお願いします。
「巾着、じゃなかった茶巾って知ってる?
あっ? 知らない。茶巾っていうのはさ虐めなんだけどね。セーラー服の
スカートをたくしあげて頭の上で縛るわけなんだけどさ。酷いよね。
俺は実際見たこと無いよ。だって男子校だったからさ。だからニュースとかで
聞いたのかな? どこで聞いたか忘れたけど、俺たちの時代はそういう虐めがあったんだよ。
やられた方は恥ずかしいよね。男子の目もあるし。そうそうたぶん女子が女子に
やるんだろうな。陰険だよ。なに嫌だよ。お前話し聞いてないだろ。ほらやるよホールズ。
飴なめて仕事はするなよ。休憩終わったら捨てとけよ。えーとそれで俺は男子校だったから
その現場は見てないんだけどね。見てないって言うと茶巾にされた方は真っ暗で見えないね。
えろいよ。今の子は下着の上になんか履くけど昔は履かなかったもん。
バンバンバン万国旗! 笑えよ。俺の新しいギャグ。バンバンバン万国旗。笑えない?
最近すべり芸も駄目? 万国旗! あっちょっと笑ったw 万国旗! 休憩終了」
弁当 殺人 スズムシ
226 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/02(日) 07:40:59.17
騒ぎが起きて、俺は授業中の居眠りから覚めた。
「なんだ? 何かあったのか」
クラスの連中が、次々と教室から出ていく。
「大変だよ。隣のクラスで殺人だってよ。警察が着てシートで隠す前に死体
を見ておかないとな」
何を考えているのか。
気がつくと教室に残っているのは俺一人だ。
俺は殺人には興味がない。
この状況で俺が興味を持っているのは、憧れのクラス委員長・碧川アリスの
私物を物色することだ。
教室に誰もいなくなったことをいいことに、俺はアリスの席に座り、横に掛
けてあったきれいなカバンを開けてみる。
案の定、中にはピンクのハンカチに包まれた小さな弁当箱が入っていた。
俺は興奮気味に弁当箱を開ける。
すると中には、真っ白いご飯。
そしてその上には梅干しの代わりに、なぜか一匹のスズムシが押し込められ
ていた。
「な、なんだこれは?」
俺は周囲をキョロキョロと見回し、そして目撃者がいないことに少しだけ安
心して、弁当箱を元通りに包み直してカバンにしまった。
多分、これは「組織」からのメッセージだ。
あのスズムシはトリガーに違いない。
今夜あたり、夢の中に引き金に導かれた次の指令が浮かび上がってくるはず
である。
「やれやれ」
俺は少し疲れて、気分転換に隣の教室の殺人とやらを見に席を立った。
次のお題 小説教室 映画監督 同人誌
小説教室に通っているような男と映画監督になりたいっていう男は
彼氏にしちゃいけないし、万が一結婚なんてことになったら親子の縁を切る。
と母親に言われた。うちの母親が何故これほどまでに嫌うか理由はしらないけど
父親がシナリオライターだからかもしれない。つまり母親は父親が嫌いなわけだ。
でも母親が父親を嫌いって言うのは子供にしてみれば悲しいことだ。本当に悲しいこと。
だって母親は綺麗じゃなくてもいい。貧乏でも良いから両親が仲良くしているのが
一番の幸せ。と私は思う。他の人もだいたいそうなんじゃないだろうか?
母親は彼氏の条件なんていうけど、私は彼氏を選べるような人間じゃない。
バイトは長続きしないし可愛くない。
私の友人というか知り合いに今度、東京である同人誌の集まりに行こうと誘われた。
彼氏とか出来るかも? とか思ったけど、まさかねえ。
もし私の心がグラスで幸せがお水なら、私の心には半分より少し少ない
お水が入っている。だから誰かに水を注いでほしい。
熊 マントヒヒ ヒグラシ
228 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/04(火) 21:14:29.65
「なんだ? お前、怯えているのか。そうかそうか、愚鈍な粗暴者たるお前
でも、今、自分の囚われた状況を把握する知恵はあるとみえるな。まあしか
し、そうでもなければ、今までこの世界で単独で生きてはこれぬさ、な。ま
ずはお前さんのこれまでの運に乾杯しようじゃないか。なに? 怖くて俺様
の杯が飲めぬか。ふん、無礼者め。ここでお前の日頃の根性を絞り出し俺の
相手ができるのなら、あと少しはお前の寿命も延びたかもしれぬのに。ふん、
所詮はお前はちっぽけな存在なのさ。力は、数には叶わぬ。お前はわしらの
仲間を一匹か二匹は倒せるかもしれない。だが、お前が勇敢な先兵の相手を
しているうちに、第二、第三の牙と拳がお前を葬る。お前は耳を削がれ、手
足を食いちぎられ、生きながらわしらの臓腑の闇に消える。骨も肉も、この
世からなくなるのだよ。どうだね、ビッグ・プー、何か言い残すことはある
かね?」
数十頭のマントヒヒに取り囲まれた哀れな一匹の熊は、苦しげに思案の糸
をたぐった。脳細胞のシナプスは今の彼にとっては蜘蛛の糸そのものだ。
と、その時−−。
ビッグ・プーが目を剥いて天を見上げた。
「あっ!あーっ!ヒグラシだ。ヒグラシが飛んでる!」
途端にマントヒヒの群れに動揺が走った。
「ヒ、ヒグラシだって?!」
「バカな! そんなハズは……!」
「助けてくれー」
マントヒヒ達は動揺し、熊の指さす天を見上げた。
「みんな落ち着けー! そんなものはいないぞ。騙されるな!」
頭領の一声で、一同はふっと我に返る。
だが−−時すでに遅く、熊のビッグ・プーは逃げた後だった。
次は「太陽光発電」「アロマロカリス」「産婦人科」でお願いします
生まれてきた子供は酷く不気味だった。
「生まれたての赤ん坊なんてみんなそんなもんだよ」と大抵の人は言うに違いない。しかし私の子供は猿に似てるとかそういった次元の話ではないのだ。
エビ……だろうか?いや、こんなエビ見たことない。平たい胴体の両脇にヒレのようなものが並んでいる。カタツムリのように突き出した目は愛嬌を感じさせないこともない、しかしこれは……。
「元気な男の子です」
産婦人科の先生は無表情でそう言って我が子を差し出した。どう持ったらいいのか戸惑いながらも抱いてやる。
口元はかなりグロテスクでお世辞にも可愛いとは言い難い。しかし我が子なのだ、妻と私の愛の結晶なのだ、多少見た目が普通とは異なっていても愛情を注いで育てていけばそのうち、愛くるしいかけがえのない存在になるはずだ……なるはずだ。
「抱かせて」
ようやく落ち着いた妻がそう言って手を伸ばしてきた。私は少し戸惑ったが、妻の菩薩のような微笑みに折れ、息子を抱かせてやった。
「目があなたにそっくり」
私は複雑だったが精一杯の笑顔でそれに応えた。
「これからよろしくね」
妻の言葉にハッとする。そうだ、何はともあれこれからこの三人で暮らしていくのだ。ローン20年3LDK庭付き、太陽光発電のマイホーム。幸せな家族生活。
「この子の名前はアノマロカリスだ」
不意に口から出た言葉に私は驚いた。しかし何故かはわからないが、その名前はこの子にぴったりのような気がした。妻の側に近づき私は我が子に微笑んだ。
「今日はアノマロカリス」
次題 「断頭台」「レプリカ」「死刑執行人」
「所長。我々のことをナチスだというメディアには時々我慢できなくなるんです。
でもそういう奴に限ってレプリに異常が見つかったとき騒いだんではありませんか?」
私は窓の外で揺れている大木を眺める。空は暗く雲が立ち込めている。
ここもあと数時間で暴風雨圏内に入るんだろう。もう一度、予備発電のチェックを
しておくように技師に言っておいた方が良いだろう。そう思いながら部下の言うことを聞いていた。
「ナチス。Nよ。我々はナチスよりも醜悪ではなかろうか? 人を裁き殺すのに痛みはあるが
レプリカントを断頭台にあげるのに誰が心を痛めるだろうか?」
Nは困ったように下を向いた。わかっている哲学の事を言い出してもきりが無いことを
私たちは与えられた役目をするまでだ。収監し刑を執行する。
「所長。噂があるんです。黙っていようと思ってました。所長がレプリを家にかくまっているという噂です」
そう言ってNは所長を見ると視線が交錯しそして離れる。沈黙。風が揺らす外の音が
分厚い窓を通して聞こえる。Nはのどが渇くような思いがする。間違ったことをしてしまったんじゃないかという思い。
「そうだ。私はかくまっている。だからもし君が私を告発するならするがよい」
そう言って死刑執行人である所長はNを見た。
Nは口ごもりやがて頭を下げると部屋の外に向かった。そしてドアに手をかけると
私はあなたの部下ですといって出て行った。
愛 青春 旅立ち
231 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/06(木) 21:12:30.18
第一部 愛
今月に入って3人目の転校生がやってきた。
なぜそんなに転校生が多いのか。
日本に継続的な天変地異が起こり、北海道が地図から消えたり、九州が火山の噴火で住めなくなったりしたためだ。
故郷を無くし、生き延びた人々が変形した日本列島を転々としている。
3人目は美少女だった。名前は、
『愛』
黒板にはただその一文字だけが書かれた。
「君、名字は?」
担任は尋ねる。しかし、愛は答えなかった。
この異校の制服を着た妖精は、愛でしかないのだ。
第二部 青春
セシル森山は85年前のことを回帰していた。
遙か昔、高校生の頃だったか、彼は過ちを犯した。
彼の所属する、高校の生物部が飼育していた甲羅長70センチほどのリクガメをダイナマイトで爆殺したのだ。
火薬の力が強力すぎて、安全圏に退避したはずのセシル森山は全身にリクガメの肉片を浴びて血だらけになった。
「愛、君のいうとおりに僕は僕の二番目に大事なものを壊したよ。だから、僕との約束を守ってくれるよね……愛」
老境のセシル森山の脳裏に血塗られた青春の幻影が蘇る。
あの頃、彼は愛の虜と成りはてていた。
つづく
232 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/06(木) 21:13:54.14
第三章 旅立ち
西暦3912年、一人の宇宙飛行士がかつて地球と呼ばれた星に戻ってきた。
死の星となった惑星にトボトボと足跡をつけ、サブローは自らの長生きを後悔した。冷凍睡眠やら相対性理論に身を任せて二千年の時をさ迷った結末がこのざまか。
ほとんど眠っていただけなのにひどく疲れた気がする。
サブローはポケットから自殺薬を取り出した。
「待って!」
愛の声がした。
振り返ると、サブローよりさらに若い学生時代の愛がいた。
「今までご苦労じゃった…」
セシル森山は全身義体化して機械人間のようだ。
「驚いた。こんな再会があるのか?愛、君はやはり……」
サブローは顔をグシャグシャにして、かつてのあの頃、三人の転校生の再会に泣きむせぶ。
その夜、三人は生まれたままの姿で宇宙船の冷凍睡眠装置に入った。次に起きる時は、意識の一元化が起きて、人格が一つになっているはずだ。
それは三人の旅立ちであると同時に人類の旅立ちでもあった。
おわり
じじーお題書きやがれ
指定が無い場合はお題継続がルールです。
>>1参照
愛は思う。
――私には青春など無縁だし、これからもきっと無縁だろう
愛は16歳の高校生で腋の下からは思春期特有のにおいがした。そう腋臭だ。ある日匿名のメールが来た。
「早く医者に行って腋臭を治してください。みんな迷惑しています」
その内容に愛は深く傷ついた。誰にも相談できなかった。誰にも言えなかった。
愛が無視しようと決心した後も、忘れたころに「臭い」「死ね」「毒ガス注意とかメールが来た。
愛は怒りは、あまりわいてこなかった。臭い自分がいけないんだと思った。臭くなければいいんだからと思った。
愛は引き出しから白く正方形をしたものを取り出す。
ひとつの面に赤く点が打ってあり、その他の面には黒い点が打ってあった。そうサイコロだ。
――1が出たら自殺する
愛は心の中でそう思う。でも1以外が出たらまだ生きていようと。愛は手にサイコロを持ち高く上げると目をつぶった。
「なーんてね。そんなこと……」
愛はそう呟いてサイコロを引き出しに戻す。そしてヘラヘラ笑った。鏡で見たら醜い笑顔で
笑ってると思いながら。
そして親にすべてを打ち明ける決意を決めた。きっと泣くような気がした。
「jk」「KISS]「SEX」
236 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/07(金) 20:36:37.69
2012年1月。去年不可解な理由で中止になったkissのコンサートが開催されることになった。
コンサート当日、鬼頭マトは開催地である日本武道館へ足を運んだ。
「おかしい。場所を間違えたのかしら?」
日本武道館は人一人いない、がらんどうの様を呈している。
と−−、そこへ野太い男の大音声が鳴り響いた。
「kissなんかきやせん!全てはお前を呼び寄せる策だ」
警視庁捜査一課の坂下がステージの上に仁王立ちになっていた。
「坂下さん、どうしてあなたが?!」
「なれなれしく呼ぶな。この小娘、いや……JKがあっ!」
坂下はスーツを脱ぎ捨てた。
そこには人間・坂下とは違う、4本の腕を持つ異界の剣士の姿があった。腕のそれぞれに自家発光する長剣を構えている。
「どうした、お前も正体をさらせよ。そんな制服は脱いでさ。JK……このジェダイ・ナイトの尻尾があっ!」
切りつける異形の坂下。辛くも退くマト。
額に流れるミディ・クロリアンの血。宿命の覚醒。
鬼頭マトは覚悟を決めた。もう逃げられない。やるしかない。
冷たいはずの血がたぎる。冷静でいられないのは、やはり私が混血種だから? でも今はいい。ただ目の前の宿敵を倒すこと。
二人の戦士が戦い始めたそのころ、はるか六分儀座Sextansより共和国の宇宙艦隊がビッグワープを開始した。
地球が戦渦に巻き込まれたのはそれから27分後のことである。
――結婚すると青春という名で呼ばれるものは消えてしまうのだろうか?
愛は大きなお腹で台所に立ちながらそう思う。結婚して半年で妊娠した。
妊娠はうれかった。だって子供は大好きだし、旦那さんに不満は無いから。
それでもちょっとだけ思う。これから私の人生は、この子中心になるんだ、と。
マグカップにティーバックを入れ熱湯を注ぐとよっこらしょと座る。
妊婦さんは食事の好みが変わるというけど愛はあまり
変わらなかった。辛いものがちょっと苦手になっただけで、それでも我慢すれば食べられた。
――君はどんなことを考えてるのかなあ?
愛はお腹に向かって話しかける。言葉をかけるたびに自分が母親になっていくような気がする。
まるで少しずつ生まれ変わるみたいに。
――君がこの世界に旅立つように、愛もママに旅立つのかな?
愛は目を閉じ羊水の中にいる赤ちゃんを思い浮かべる。
暗く暖かい海の中。そんなことを考えていると睡魔がやってくるような気がした。
「コンビニ」「クレーマー」「許し」
最近たちが悪い人が増えてきていると感じます。
特に自分の立場が上と思い込んでいる方が救いようがないと確信しています。
コンビニのチケット販売機で自分が間違ったにもかかわらず店員に文句を言う人。
2週間前に買った上に傷だらけのゲームソフトを返品に来る人。
自分たちが無料だと宣伝しておきながら実は完全無料ではなく、文句を言われると開き直る会社。
世の中何かがおかしくなっている、常々そう感じておりました。
そして先日、ある方の相談に乗ったところ「お前が許すといったが警察につかまった訴えてやる!」と言われて、その方をクレーマー扱いしてしまいました。
このような私にも神は許しを与えてくださるのでしょうか?
同業者の私の懺悔を聞いたシスターは全てを許してくださりました。
しかし本当に許されたのでしょうか?訴えられたりしないのでしょうか?
私は納得できるまでシスターに何度でも何度でも懺悔に行こうと思います。
次は「白秋」「熊」「栗」でお願いします。
239 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/08(土) 19:23:11.93
マントヒヒの頭領の名はマキラと言った。
死期を迎えた彼には、周囲の修羅はもはや夢と同義であり、苦痛は、はるか遠くにある。
そう。今、圧倒的な炎が森に取り憑いていた。
善と悪、生きた者と死に絶えたもの。
炎は全てを焼き尽くそうとしていた。
「ねえマキラ……」
熊のビッグ・プーは幸か不幸かほとんど無傷であった。
彼は変わり果てたかつてのライバルに語りかける。
「僕ね人間に興味があったんだ。君は嫌いかもしれないけれど、僕は人間が
好き。この次はゼッタイ人間に生まれ変わりたいよ」
ビッグ・プーは奇形の熊で、腹に有袋類のようなポケットを持っている。そ
の中には彼の宝物が隠されていた。
ビッグ・プーは肉のポッケから、かつて自分が食い殺した人間の女の遺品を
取り出した。
北原白秋の詩集『雪と花火』であるが、ビッグ・プーには読めない。
「僕らには今という時間しかないけど、人間には過去というものや、信じら
れないかもしれないけれど、未来というまだ起きてない時間を持っているら
しいんだよ。こういう、呪文が書かれたものには時間を行き来する秘密があ
ると思うんだ。僕、人間になったら絶対この呪文を解いてみせる」
ビッグ・プーの半ば独り言のような語りかけに、マキラは既に応えなくなっていた。
「マキラ……?」
既に四肢を焼失したマキラは、もはやこの地獄にいないかのような安らかな
顔つきをしている。
ビッグ・プーはマキラを愛おしんだ。それは自分でも信じられない感情だった。
「ねむったんだね……マキラ。永劫のやすらぎのねむりに……」
ゴゴゴゴゴゴッ。
ビッグ・プーの頭上から、火の付いた無数の栗の実が落ち始めた。
その一つが彼の脳天を直撃し、巨大熊は四肢のないマントヒヒに折り重なる
ようにして倒れ、そして動かなくなった。
次「棺桶」「三葉虫」「海馬」で
今のままの時間は長く続かないことだけはわかる。
だから私は何年かぶりにおじいちゃんと化石堀に出かけた。
朝日に焼かれた山から煙のように雲が生まれて、空にゆっくりとその頭をもたげ伸びて行く。
久しぶりに見た雲のうまれる姿で子供の頃は山の幽体離脱だと信じていた事を思い出す
オレンジに染まるうろこ雲は上に行くほど濃くなる空に細く伸びていく。
空はは街でも変わらないはずなのに鮮明に私の目に映り、見とれてしまった。
おじいちゃんは目を細めて同じように空を仰ぎ「きれいだなぁ」と呟いた。
それから12年
「ただいま〜ママ」息子が私に抱きついてくる。
「きょうね〜大じいちゃんがね化石見せてくれたの、アンモナイトとか三葉虫とか!卵も見たんだよ!」
時間が止まってたみたいに変わらない内容、でも私とこの子は違うことを考えているのだろう。
「来週、おじいちゃんが化石掘りに連れて行ってくれるんだよ!」
懐かしい私の思い出が新しい思い出と重なってゆく。
私にとっては化石の棺桶にしか見えなかった山もこの子には宝の山になるのだろう。
多分、おおじいちゃんも思い出を層の様に重ねていくのだろう。
次は「地震」「雷」「火事」でお願いします
●ごめんなさい、出だしコピーし損ねました。
私のおじいちゃんは痴呆症で、まだぼけた感じはないけど海馬の萎縮が見られるらしい。
海馬とか言われてもすごいことなのか大した事ないのかよくわからないけれども、
今のままの時間は長く続かないことだけはわかる。
だから私は何年かぶりにおじいちゃんと化石堀に出かけた。
朝日に焼かれた山から煙のように雲が生まれて、空にゆっくりとその頭をもたげ伸びて行く。
久しぶりに見た雲のうまれる姿で子供の頃は山の幽体離脱だと信じていた事を思い出す
オレンジに染まるうろこ雲は上に行くほど濃くなる空に細く伸びていく。
空はは街でも変わらないはずなのに鮮明に私の目に映り、見とれてしまった。
おじいちゃんは目を細めて同じように空を仰ぎ「きれいだなぁ」と呟いた。
それから12年
「ただいま〜ママ」息子が私に抱きついてくる。
「きょうね〜大じいちゃんがね化石見せてくれたの、アンモナイトとか三葉虫とか!卵も見たんだよ!」
時間が止まってたみたいに変わらない内容、でも私とこの子は違うことを考えているのだろう。
「来週、おじいちゃんが化石掘りに連れて行ってくれるんだよ!」
懐かしい私の思い出が新しい思い出と重なってゆく。
この子は山で何を見るんだろうか?きっと私にも新しい何かを見るのだろう。
次は「地震」「雷」「火事」
「地震」「雷」「火事」
乗せてから訊くのもナンだけど、この車、なんていうか知ってるかい?
デロリアンっていうんだ。
僕も映画でしか見たことなかった。お、エンジンがかかった。良い感じ。
あの年、スティーブ・ジョブスがこの世を去って
次の次元へ行った日のすこし前、こんなニュースが流れた。
「光速を超える素粒子が見つかった」
うん、僕らが生まれる51年前だね。
おなじ年、東日本大震災が起こり、地震はいまだ続いている。
あ、空が光った。そろそろ雷が落ちる時間だ。
映画を参考にデロリアンを現実のものにした君の祖父は、
なぜ僕にキーを預けたのかな。
何があっても君を守るって誓ったの、のぞき見てたのかな?w
教会に雷が落ちたら、この車は走り出すんだ。
必ず2011年の3月10日に戻ってみせる。
記録によると、教会は雷による火事で消失してしまう。
それは防げない。僕らが過去という未来へ進むための代償。
でも君は生き返らせてみせる。誓ったんだ。僕は、誓ったんだ。
もう一度、誓わせてほしい。
何度でも、誓うさ──。
「凡庸」「定番」「普遍」
「凡庸」「定番」「普遍」
「凡庸な女の子が好きな男は、やっぱ凡庸な男なのかな?」
「なに?急に」
「いや、べつに。ちょっと考えてみただけだよ」
「分かった!また学校で何かあったんでしょう?」
いつものことだけど、この娘の勘の良さには苦笑してしまう。
昼間、学校で彼女のことをからかわれたのだ。彼女には全然個性がないよね、とかそういうことを言われたのである。
学校では数少ない友人とはいえ、他人の女の趣味にケチをつけるとは本当に無神経な奴らだ。
でも確かに、あらためて考えてみると、彼女は俺みたいなどこにでもいる普通の男子高校生のツボを見事におさえてはいる。
黒髪ストレートで、清楚で、胸はそれなりにふくらんでるし、軽くツンデレ入ってるし、まぁある意味定番な感じなのかもしれない。
一寸黙ってしまった俺を前に、彼女は「悩める青年よ、ここは私に話してみなさい」とか
「大体あんたはいつも余計なこと考えすぎなんだから」とか早口でまくしたてている。
怒ったような口調をしているが、本当は俺のことを心配してくれているのがバレバレである。
彼女の気持ちが嬉しかった。
俺は適当に相槌を打ちながら、また別のことを考えだす。
たしかに俺は今彼女が好きだけど、今から10年経ったら、俺のツボも変わるし、
いろんなことが古い昔のアニメみたいに色あせてしまうんだろうか?
その時、俺の彼女への気持はどこへ行ってしまうんだろう?
どうだろう、彼女には何十年経っても変わらない普遍的な魅力があるような気もするし。分からない。
とりあえず、俺は今彼女のことが死ぬほど好きだ。今はそれでいいんだ。きっと。
彼女の言うとおり、俺は少し考えすぎだな。俺は苦笑した。
「なに?また得意の自己解決?」不満げに口をとがらせる彼女に「おかげさまでもう大丈夫。明日も早いから」と言って立ち上がった。
パソコンの画面に浮かぶ彼女におやすみのキスをして、それから部屋の灯りを消して、ベッドにもぐりこんだ。
「東京」「カレンダー」「心霊現象」
すいません長文になります<(_ _)>
私は霊感っていうものを信じていないのですが
東京のマンションに引っ越して来てから、なんか変だなって?
って思うことがあったので、判断をしていただけたらと思って投稿しました。
細かいことなのですが、ユニットバスに置いてある
シャンプーの位置が何回か違っていたことがあるんです。
私は割りと几帳面な性格で石鹸、シャンプー、リンス、コンディショナーって
決められた位置に置いておくのですが、ずれていたことがあって
初めは「寝ぼけたのかなあ?」と思ったのですが、二回続いたときに朝、会社に出る前に
写メで撮っておいて帰って確認したら位置が違うんです(ーー;)
なんか気持ち悪いし、留守中に大家でも入ってるのかなあ? とか考えます。
(下着やお金は取られてません)
カレンダーで確認したら覚えてるだけでも7回以上あります。
どうしたら良いでしょうか? たぶん心霊現象じゃなく誰かが出入りしているような
気がするんですが。
PS 特定されると怖いので、少し設定を変えてますが殆ど同じです。
「コンビニ」「変態」「許し」
245 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/09(日) 21:36:49.03
深夜のコンビニで、とある全裸の変態が美人の店員に許しをこうた。
「許して下さい。昨夜あなたの部屋に侵入したのは僕です」
「え……えっ? でもどうやって」
「こうやってー」
全裸の変態はコンビニの床に横になり、漫才師のざ・たっちのネタを再現した。
幽体離脱だ。
漫才師との相違点は、変態はネタではなく、本当に幽体離脱したことだ。
「ちょっと待ってよ。幽体離脱してできることは覗きくらいでしょ。実際に
物体を移動させるのはポルターガイストといってまた別の現象になるんじゃないかな」
「ほう、あなた心霊現象に詳しいですね。よろしいタネを明かします」
変態の幽体は美人の店員、海上レイの口の中にすうーっと入っていく。
「ちょっとヤダ!ゲホ……ゲホ」
(聞こえますか)
脳裏から変態の声がした。
(つまり離脱した僕の幽体があなたに憑依したのです。僕は興奮してお風呂
に入り、このきれいな体を洗ったりして楽しんだのです)
(ふーん、なんだそうだったの)
海上レイは家に帰って、カレンダーに五芒星の印をつけた。
「これが私とあなたが出会った日よ、変態の幽体さんゲッツ!」
大都会の東京。そこに蠢くのは普通の人間だけとは限らない。
今日も、
今夜も、
今だって、
想像を絶する魑魅魍魎たちが欲望のスープをかき混ぜながら、面妖な事件を
引き起こしている。
海上レイとお供の変態幽体はそれらの事件に巻き込まれながら、これからも
不思議な体験を繰り返していくのだ。
(あ……ちょっと、ちょっと、ちょっと! ところで変態の肉体はどうなったんだ??)
次は、「お掃除ロボット」「ユムシ」「ダチョウ」でお願いします。
「お掃除ロボット」「ユムシ」「ダチョウ」
朝起きたら、部屋の中にもユムシが入り込んでいた。
芋虫のように床をゆっくりを動いている。
あるものは蛍光色に光りながら交尾をしており、あるものは腐ったような灰色をしていて、全く動かない。
「ここにもいる。あっここにも2匹。動かないのはもう死んでるのかな」
お掃除ロボットは忙しそうに、ユムシを捕まえてビニール袋に詰め込んでいた。
「ねぇ、ツノが生えてるのもいるよ」と僕は話しかけた。
「ダチョウを買ってきて、食べさせた方が早いかもしれませんね」とお掃除ロボットは言った。
「本当に?」
「ダチョウはユムシが好物ですからね。でもユムシは人間だって食べれるんですよ」
「こんなの食べれるの?」
「美しいものは全て食べることができるのでしょう?」
「そうだったっけ」
「ご近所の皆さんも、昨日の晩はユムシを食べたって…」
そう言って、お掃除ロボットはカーテンを開けた。
窓の外は人間大のユムシがそこらじゅうを這いずり回っていた。
人間の腹を食い破ったユムシが外に出てきたのだ。
淡い蛍光色と灰色が混ざったユムシの群れが街を覆い尽くしていた。
そんなわけで僕はひきこもりになったんです。
「八月」「戦闘機」「告白」
毎年8月は戦争の月と遠い昔に開祖が定めました。
8月以外は砂嵐や、雨、雪などで戦いにならず、唯一8月だけが自由に戦えるからです。
戦いといっても、隣国との戦争だけではなく、保存食料の製作等することは多く
生きとし生けるもの全ての戦いが行われています。
今、僕の国の最新兵器であり人類全ての夢、空を飛ぶ戦闘兵器、通称「戦闘機」が準備を始めています
戦闘機の特徴はとにかく燃料を大量に消費し、また愛情がなければ空を飛ぶことがかないません
今日は、年に数回しかない星の見える空で絶好の飛行日和です。
僕はこの戦闘機とひとつとなり空を飛びます。僕だけではなく多くの国民が飛ぶために集まっています。
僕は祈りをささげ戦闘機に告白を行います、その告白は僕たちに昔から伝わる伝統。
「僕は君と1つになりそして君は僕に、僕は君となる」
そして私は戦闘機に食べられ燃料となりました。
僕は空を駆け敵を屠るでしょう。
「重機」「ロータス」「ボールペン」
「……ロータスとは日本語で蓮のことです。蓮――今が見ごろですね。駅前のお寺の池にも
咲いているんですよ」
校庭にはショベルカーとダンプ、あと名前の知らない重機が午後の日差しの下で眠っている。
例の東日本大震災で倒壊した校舎の撤去が夏休み中に終わるはずだったのに、業者が
忙しすぎて予定が延びているのだ。
私は重機を見ていると大昔に絶滅した恐竜が思い浮かぶ。
それは運転手がいなくて、ただ止まっているだけかもしれない。それとも私がいろいろ
想像するのが好きだからかもしれない。
そんなんだから虐められるのかな?
英語の教科書にボールペンで「残飯」と書かれていたことがある。修正液で
消したけど薄っすらと後が残っている。とても傷ついた恥ずかしかった。
もっと人とうまくやることを考える方が大切なんじゃないの?
内なる声がする。そんなこと分かってる。分かってるけど…
「ホームセンター」「警官」「発砲」
「民家立てこもり事件で先ほど犯人の発砲と思われる銃声が2発続いたとのことです」
女性レポーターのヒステリックな実況がテレビから聞こえる。
「・・・・・・消そうか?」と青年が振り返った。
男はそちらを向きもせず「構わない」と視線を窓の外へやった。
警官や機動隊がうごめき、その周囲を野次馬が囲んで騒然としている。
男はその日、新居のための家具を探しに、ホームセンターに行った。
一緒に行った婚約者は「ホームセンターなんて」と難色を示したが、いずれ子どもでもできれば
落書きや傷にまみれるのだ、惜しくない物を選ぶのもいいだろうと、男は合理性を説いてみた。
といって、熱心に説き伏せるほど、男にも目ぼしいものがあったわけでなく、ただの意地だ。
偶然引き出しを開けた食器棚に、ピストルを見つけたときは驚愕で声が出なかった。
こんなところに用はないとばかり早足で店を出る彼女を追うとき、つい、そのまま持って出た。
ホームセンターからの帰り道、家具選びの話から発展して結婚後の将来設計で意見が食い違い、
車内で大喧嘩し、帰宅後も険悪だった。だからちょっとおどかすつもりで「黙れ」と銃口を向けたのだ。
彼女は蒼白になって家を飛び出し、外から携帯電話で通報した。
「本物かな」と彼女の弟が引き金を引き、それを取り返そうと男が手をかけて2発目。
「姉さん、もうちょっと考えて行動してほしいよな」と弟は銃を床に放り出して寝転んだ。
まったくだ。結婚は白紙。それは合意が成立するだろう。結婚前に「価値観の不一致」が
判ったのはかえって幸いだ。だがこの弟とは気が合う。男は内心で苦笑した。
「正直に話してもさ、撃っちゃったら犯罪なのかな?」と弟はマイペースだ。
「姉さんと結婚しなくてもさ、俺とはたまには遊んでよ」と心までお見通しだ。
そうだな、と応えながら、男は遠く夕暮れの空を眺めた。
「写真立て」「リニア」「ゴミ袋」
250 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/11(火) 20:45:11.26
「あんたはもう首だよ。出ていきな」
エバが冷たく言い放った。
僕はただ呆然とするしかなかった。
「ちょっと待ってよ。僕にはまだやりかけのプロジェクトがあるんだ。今度
はかなりの大物なんだ。途中で止めるわけにはいかないよ」
「知ったことじゃないね。ここをどこだと思ってんだい? あんたの遊び場
じゃないんだからね」
「遊び場って……ひどい言い様だな」
「図星だろう! 今まで一度だってあんたの企画がモノになったことがある
かい? さあ、このゴミ袋やるから、そこに私物をかき集めて、お人形の
待ってるお家に帰んな」
エバは僕の顔に向かって、MITのデザイン文字が印刷されたゴミ袋を放り投げた。
僕はこれ以上反論できない。
諦めてデスクに並べられた(エバたちは『散乱した』と言っているが)私物
を片付け始めた。
写真立てのリプリーは今も笑ったままだ。彼女は元気だろうか。そうだ、今
度メールを出してみよう。彼女なら何か気の利いた箴言を返してくれるかも
しれない。
リニアを去るとき、僕はいろいろな思い出が一度に再現されて、どっと涙が
溢れてきた。
リンカーン地球近傍小惑星探査プロジェクト(LIncoln Near-Earth Asteroid Research: LINEAR)。
通称リニア。とにもかくにもここには僕の青春が埋葬されているんだ。
さようならリニア、また会う日まで。
「リモコン」「頭蓋骨」「大仏」
テラフォーミング−人の住めぬ星を地球と類似した環境に改造する−技術が開発されてどれぐらいになっただろうか?
しかし黎明期には多くの人々が命を失い、
歴史の教科書には天空をにらむ頭蓋骨が象徴として何百年も載せられている。
今では完全自立型人類保護システム・・・通称「大仏」が地球型惑星を探し
そこを自動的にテラフォーミングし、超空間転送で資源や移民を受け付ける。
もしそこに人類型生命体がいれば人々に平和な夢を与える名目で侵略を行う。
大仏とは別に、仏像と呼ばれる小規模テラフォーミングシステムも開発され
超空間転送で他の世界から水、空気、光、重力といった必要な物資を購入し
どんな小惑星でもリモコンひとつで快適な世界となった。
そして、その新しい技術は建物に仏像を設置することから
寺フォーミングと呼ばれた。
次のお題は「いまいち」「悲しい」「プレーン」でお願いします
252 :
いまいち、悲しい、プレーン:2011/10/12(水) 23:14:37.82
熊のヤング・プーは大好きな蜂蜜を、自分がマーキングしたブナの巨木のくりぬき穴に隠していた。けれども最近、体が少し大きくなってしまい穴に突っ込んだ頭が抜けなくなってしまった。
「僕は死ぬのか。こんな無様な格好で……」
蜂蜜の匂いがプンプン漂う暗い穴は、今や刃の落ちない断頭台となり、ヤング・プーの体力が尽きるまで彼の頭を離さないかのようだ。
ヤング・プーがじっとしていると、高い声がした。
「これは面白い。大自然の知恵の輪みたいだ」
その者はヤング・プーの脇腹をこそぐると、死に際の熊はゲラゲラと笑い出した。
自由が利かないので、首と肩がへんな捻れ方をした。
すると上手い具合にヤング・プーの首がくりぬき穴がすっぽり抜けた。
「ふう、助かったよ。ありがとう」
ヤング・プーの前には、黒澤明の格好をした一匹のネズミがいた。
ネズミはヤング・プーの顔をじいっと見ると、首を横に振った。
「いまいち、だな……」
「え、何のこと?」
「これは失敬。我が輩は映画監督のチューブリック。今、今度撮影するアクション映画の主演男優を探しているところだ。見たところ君は不細工すぎて使えないようだね」
「助けてくれたのは有り難いけど不細工はひどいなあ。僕はこれでも熊界の松田優作と言われているんだぜ。ちょっと僕の演技を見てよ。『……なんじゃあこりゃあ!?』」
(゜Д゜)
「驚いた。君はほんの一瞬だけ時間を止める能力があるようだね。君のしらけた演技で僕の懐中時計が一秒狂ったよ」
「そんなこというなよ。せっかく僕の命を救ってくれたんだ。何か君の手助けがしたいな」
「わかった。じゃあ撮影スタッフに回ってくれたまえ。主演は、そうだな、私が受け持つ」
(なんじゃあ、そりゃあ……)
つづく
253 :
いまいち、悲しい、プレーン:2011/10/12(水) 23:15:18.00
チューブリックはどこからともなく主演女優と称するメスのネズミを連れてきた。恋人同士なのか、やけに仲がいい。
更に別のスタッフ(家鴨である)がやってきて、丸太をくり抜いたコックピットを持ってきた。これを木から吊して飛んでいるように見せかけるらしいのだ。
「飛行機の映画だよ。僕とヒロインのニコルが操縦不能のコックピットでいちゃいちゃ、いや必死に脱出方法を考えるからカメラを回してくれ」
「ホイホイサー!」
チューブリックは天才なのか。ピクリとも動かぬ丸太のコックピットで、さも飛行機がきりもみ状態に陥ったかのような激しい演技を展開した。それに釣られてニコルも熱演する。演技が演技を呼び、激しく呼応した。
撮影は順調に進んだ。誰もが傑作ができると予感した。
だが神は、撮影最後の日に気まぐれな運命のサイコロを投げた。
悲しい出来事が起きた。
吊したあった丸太のロープが切れて、二人の名優が丸太の下敷きになってしまったのだ。即死だった。
チューブリックの芸術魂にすっかり陶酔していたヤング・プーは、頭を掻きむしって混乱した。
「おいチューブリック、ここで止めてどうするんだよ。まだ編集が残っている。アフレコや音楽はどうするんだよ? この映画を完成させられるのは君の才能だけなのに、こんなつぶれた肉の塊になっちゃってさ!」
ヤング・プーは絶叫したが、こんな森の中でドクターヘリがくるわけもなかった。
天才ネズミ監督チューブリックは死んだーー。
すると、物陰で彼らの映画撮影の一部始終を見ていた者がいた。
人間である。
「心配するな。君たちの映画に賭ける情熱は、この私が引き継ぐから」
偶然にも彼は映画関係者だった。たまたまロケハンに来て彼らの撮影風景に出くわしたのだ。
1928年、こうして完成したのがウォルト・ディズニー監督の『プレーン・クレイジー』である。
「ディスク」「カラス」「戦車」
カラスの声ばかりが響く、戦場の跡。
夕日が燃やし、蛆が集る死体の群れの端に一機、まだ動く戦車が有った。
戦車の中には誰もいない、運転手はきっと群れに埋れていのだろう。
戦車の中では音楽がなっている、流行りの歌、優しい歌。
人を殺す感触を無くす歌がカラスの声を殺している。
カチャリ、小さく音がした。
ディスクが変わり、歌も変わる。
流れ始めたその歌は、愛が世界を救う歌。
*お題がなかったのでお題継続します。
「いけ!きゅーまる!」
「負けるな!ななよん!」
子供たちがラジコン戦車で遊んでいる。
元々は砂場とか外で遊んでいたけど、
小さなラジコン戦車が巨大怪獣であるカラスや猫に敗北して以来
子供たちは家の中で遊んでいる。
服や本、フリスビーに使っているコンパクトディスクだったもの
いろいろな障害物を乗り越え迂回し戦っている。
子供なりにいろいろな戦術を考えているみたいだ。
「これぐらいお手伝いも考えてしてくれればねぇ」
妻がボソッと独り言を言う
「使わないよりいいだろう?」
「それもそうね」
元気に遊ぶ子供たちをニコニコと眺めて夜が更けていく。
今日はいい日だな。
次は「氷雨」「オセロ」「足踏みミシン」でお願いします
「……足踏みミシン、液晶テレビ、パソコン、その他なんでも回収いたします。こちらは
粗大ごみの回収車、御用がある方は……」
自分を殺したい。奴を殺したい。
奴の頭を壊したい。ハンマーで叩き割たい。
「毎度、お騒がせいたしております。こちら粗大ごみの回収車でございます。
使わなくなった……」
自分は矮小で醜くい生き物。
自分を殺す。自分を殺して世界を殺す。
「ご家庭でいらなくなった、冷蔵庫、自転車、ゲーム機、足踏みミシン、液晶テレビ、パソコン……」
今、引き取ったばかりのオセロ。オセロを回収させた女。女の胸。
セーターの下で大きく膨らんだ胸。オナニーオナニーオナニーがしたい。シコシコシコ。
――考えるな考えるな考えるな。ああ俺よ。考えるな考えるな。狂ってなんかいない。狂ってなんかいない。
窓を開け手を広げた。手のひらに氷雨が冷たい。
――いつもの公園に行こう
男は住宅街を抜けるために右にハンドルを切った。
「会見」 「自慰」 「大臣」
「会見」「自慰」「大臣」
何かの大臣が会見を開いて、就任後わずか一週間で辞意を表明って
テレビニュースでやってて
その「辞意」が「自慰」に聞こえて、俺もちょっと疲れてんのかなって
そう思ったのが水曜日
「あの会見は水曜日だったと思います」俺は答えた
「確かに水曜日なんだな?」
「そう言われると自信なくなるなぁ。木曜日だったかもしれません」
「それじゃダメじゃないか。これ大事なことなんだよ。断言できるのか?」
「ええ、夜テレビで見ましたから」
「テレビニュースは毎晩やってるじゃないか。何で水曜日って言えるんだよ?」
「まあそうですね」
「なんでお前、さっきから嘘つくの?」
「嘘はついていません」
俺は突然腹が立ってきて、そいつの顔面を思いっきり殴ろうとしたけど、
空振りしてしまってうまく殴れなかった
そんな夢をみたのが日曜日
日曜日で本当によかったよ
皆さんも良い休日を
「魔女」「鈴虫」「待ちあわせ」
258 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/16(日) 09:40:10.52
碧川アリスは誰にも気づかれないように席を立ち、教室を出た。
授業中にそんな不可思議な行動がとれるのも、碧川アリスにちょっとだけ人々
の意識から自分をすり抜けさせる、といった異能力が備わっているからなのだが。
廊下を走り出すアリスの脳裏にこんな声が聞こえた。
(アリス、わかってると思うが3分以内に決着をつけないと時空が変転する
からね。そうなったらもう君の手には負えないよ)
「わかってるわよ! 私、神藤先生の授業うけたいのに。こんな時に仕事だなんて最低だわ!」
(理科準備室に反応あり。いつもの怪人じゃない。こりゃ幹部クラスだな。急ぐんだアリス!)
「ところであんた、今どこにいるのよ? いつもなら私の半径3メートル以
内をストーカーしてるくせに」
(すまない。こっちはこっちで忙しくてね。今回は遠隔で指揮をとらせてもらう)
問題の理科準備室に行くと、部外者の老婆が怪しげな行為に耽っていた。人
体模型にフラスコの液体をかけて、擬似的な命を吹き込もうとしているのだ。
老婆はアリスに気づかれても平然としていた。
「遅かったの。一応昨日お前の夢に現れて予告はしておったが、待ちあわせ
の約束より10分遅刻じゃ」
すまん、つづく
259 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/16(日) 09:41:03.96
「夢の約束なんかいちいち覚えてないわ」
「ほう、おぬしが最近町で暴れ回っておる、何と言ったから……サイコナイト
とかいう不良じゃな」
「魔女の幹部に不良よばわりされるなんて私も落ちたものね。時間がないから行くわよ!」
「3分ルールというやつじゃな。はたして間に合うかの」
2分59秒で決着がつき、魔女は爆死した。
「ちょっと、内臓バラバラで標本もぐちゃぐちゃにして、誰が片付けると
思ってんのよもう!」
アリスが教室に戻ると神藤先生の授業は終了していた。
疲れた。だが丁度昼なのでアリスは気持ちを抑えた。抑えていた食欲が解放
される麗しの一時。
だが弁当箱を開けた途端アリスは逆上した。
「ジミニー!なんでこんなところにいるのよ?」
弁当箱にさっきテレパシーで指揮してきた鈴虫のジミニーが入っていたのだ。ジミニーの周囲の米粒がなくなっていることから、どうやら弁当を食っていたらしい。
(すまない。ちょっと腹が減っていたんでね。そんなこより問題が起きたの
で報告しておく。君が魔女と戦っている間、別の事件が起きてね。なに、人
間界の他愛ない殺人事件さ。そのどさくさにある男子生徒がこの弁当箱を開
いて僕を見つけてしまったんだ。彼には幻覚をかませておいたが、要注意し
ておいてくれ。なんだか君に興味があるみたいだよ)
「何よそれ。詳しく聞きたいわ」
(じゃ……>226を読んでね)
おわり
既視感 ヤクザ オオサンショウウオ
文化祭でスターウォーズを見ていたら愛しのジャバ様に対して
「これってオオサンショウウオみたいだね」
「えぐいよなぁ」
とかひどい事を言う人がいる。
確かにジャバ様はやくざだし色々とあれだけど、
ハンソロみたいに有能だと、殺さずに生かしておくとか何だかんだと懐が広い
将来結婚するならジャバ様みたいな人で幸せに左団扇を扇ぎたいと思うのは普通の乙女心だと思うんだ。
でも友達皆「趣味が悪い」と否定する。左団扇がいけないのかしら?
そんなある日街で1人の男性とであったの。
その人からは強烈な既視感を感じる何故だろう?
私はその人に声を掛け付き合い始めた。
ある日私の部屋で彼と作ったおでんを食べたとき
「おでんにタマネギ入れるんだ?はじめてみたけどおいしいな」
そのときわかった。妄想(ゆめ)にみたジャバ様との結婚生活そのままの台詞
『この人はジャバ様だ』
それは、誰にもわからない私だけの既視感。
きっとこの人にも理解は出来ないだろう。
でも私は多分この人と一生を添い遂げるだろう。左団扇は無理そうだけどね。
次は「扇子」「定刻」「氷」
261 :
名無し物書き@推敲中?:2011/10/17(月) 14:52:13.71
『定刻になりました。戦闘員の皆様は所定の位置に付いて下さい』
薄暗い廊下に機械的なノイズが混じったアナウンスが響き渡る。
その後廊下にぞろぞろと、黒尽くめの戦闘員達が一列になって出てきた。
その様子を監視カメラから見ている一人の男。
扇子を左手で扇ぎながら、右手に持ったスプーンでかき氷(ブルーハワイ味)の山を、
シャクシャクと小気味良い音を立てながら崩して、そこから一匙氷を掬うと口の中へと入れる。
「……俺思うんだけどさぁ」
男は気だるげに、斜め後ろに毅然とした態度で控えている老獪な男に問いかける。
「何で御座いましょうか、司令官様」
「俺らって世間から見たら悪役じゃん?」
「はい」
「で、赤いのやピンクいのとかに、最後にはなんやかんやがあって全員倒されるじゃん?」
「まぁ、そうですね」
「……もう止めね、こういうの?」
男はかき氷を食べ終わり、容器の中にスプーンを放り投げる。
「――と、言いましても」
「あぁハイハイ分かってる分かってる。分かってますよ、っと」
男は椅子から立ち上がると、掛けてあったマントを身に着ける。
「で、俺が倒された後はどうなるんだっけ?」
「はい、総統様と四天王様が登場なさる予定です」
「へぇ、でもお前は生き残るんだな」
薄笑いを浮かべながら男は老人を見やる。
「そ、それは……」
「そんな顔するなって、冗談だから」
男は老人の肩をぽん、と叩くとテーブルの上に置いてあった仮面を手に取り、顔に付ける。
「さぁて、んじゃ一丁。派手にヤラレて逝きますか」
そして男は、最後の戦場へと向かう――。
次は「アザラシ」「木目」「排煙」でお願いします。
262 :
名無し物書き@推敲中?::2011/10/17(月) 16:25:38.64
橋の手すりに両肘をかけ少し乗り出す。
生まれたころから住んでいるこの町の、本当にほとんど毎日見ているこの景色。
小学校、中学校、高校と、通学路はこの橋を通っていたし、今の仕事場もこの橋を通る。
じいちゃんが生まれる前にできたこの橋は、今時珍しく木造だ。
川沿いにぽつぽつとある工場は、薄い排煙をたち登らせている。昔はそれこそ要塞のような風貌だった。
廃工場が跡形もないのは、行政が俺たち土方に仕事を回すように頑張ってくれた結果だ。
こんなにさびしくなるなんてな……。
ふと下を流れる川にぽつんと丸いものが見えた。アザラシだ。少し前からこの川にすみつくようになった。
みんながマルちゃんと呼ぶこのアザラシは、タマちゃんゴマちゃんの後継として話題になるかと市や町が期待していたらしいが、
あまりに廃れているところだとテレビは取り上げてくれないようだ。
若い人がどんどん出ていき、観光地でもないここは見向きもされない。相対的にご老人が増えたが、
最近ご老人方がどんどんいなくなっている。雷親父の愛称も、駄菓子屋のみんなのばあちゃんも……。団塊の世代は本当にまとまっていなくなることを痛感した。
ここもいつか消えてなくなるんだろう。せめて息子たちが成人するまではもってほしい。
生まれたときから見ているこの橋も、手すりの木目が浮き出てきて、薄くなった灰色がこの町の未来を表しているように感じた。
俺もあと何年もつかな……。
次は 緑茶 サンゴ 玉の輿 でお願いします
緑茶を葉っぱごと捨てたような溜池の水をコップですくって太陽にかざしてみると多くの藻が浮いていた。
『藻が多いのは自然の浄化作用が働いている』と聞いてはいるが見栄えが良くないと毎回思うし
水質がどうのという以前に外来魚を放流する連中を逮捕するべきではないのだろうか?
4年毎のゆる抜きのたびに外来魚を駆除してきたが一向に減らないのは間違いなく誰かが放流しているからで、その為毎年放流されるドジョウやタナゴは居なかった。
それでも子供たちはブロックなどを漁礁として池の底に並べ続けてきた。
一時期はやった鉄製のPCケースの漁礁は朽ち果てながらも、
そこに描かれた竜宮城の文字や鯛や平目、サンゴの絵が残っていることだろう。
子供たちは話しか知らず見たことの無い生態系を取り戻すというよりも作り上げようとしている。
それが正しいかどうかわからないし懐古主義だと思うこともある
それでも子供たちが目指している事を最後までやり通したいと思う。
明日にはゆる抜きが始まる。
この玉の輿池−本当は玉越池だが放流を始めてからこのように呼ばれている−にドジョウが居ることを願いながら
今日も、外来魚減らしのために外来魚を釣り上げる。
次は「背高泡立草」「すすき」「焼き芋」
264 :
黒天使ルシルフェル ◆lgXArV3Q0PD9 :2011/10/18(火) 02:09:05.32
畜生!焼き芋め!
俺は焼き芋を背高泡立草の茎でめった打ちにする。
焼き芋は二つに割れ四つに割れ、無残な姿を晒す。
知らない人間が多いが、背高泡立草の茎は意外と堅い。
ちょっとした木刀並だ。凶器となりうるレベルだ。そして俺は狂気に駆られていた。
なにせ、憧れのA子とのデートに失敗したのは、全てこの焼き芋のせいなのだ。
畜生、焼き芋の繊維質め!
胃の中で勝手に炭酸ガスやメタンガスに分解されやがって!
畜生、俺の肛門から勝手に放出されやがって!
ガシッガシッガシッ
俺の猛攻で焼き芋は原型をとどめていない。
焼き芋の存在をわずかなりとも知らしめるのは、そのかぐわしいにおいのみだ。
……いいにおいさせやがって。
クソ、悔しいがやっぱり俺は焼き芋は「す好き」だ。
しまった。焼き芋に対する昂奮で噛んでしまった。
俺は焼き芋にチュッとくちづけするとひと息に喰らいつくした。
次は「天使」「悪魔」「便器」
茶羽だ。気味が悪い。
里中は中央公園の公共トイレで便座に座り、「悪魔」と名乗る人物が来るのを待っている。
深夜0時を過ぎた公園のトイレはひっそりとして、コオロギだかツクワムシだかの鳴き声しか聞こえなかった。
トイレには先客がいた。秋でも寒いからね。足が腐った浮浪者は里中を見て言った。皮膚の腐敗した臭いが漂ってくる。トイレの汚臭と相まって里中は思わず便器の中に吐いてしまった。浮浪者は「おいおい、兄さん大丈夫か」と笑いながらトイレの壁を叩いた。
「お待たせしました」
ふいに声が聞こえ、顔を上げると口角をニッと上げた男が里中を見下ろしていた。悪魔だ。
「遅いな」
「すみません。今日はこのほかにも三軒あったもんですから。ところで、今回の方はどちらに……」
「横にいるだろ?」
「ああ、これですか。もう死んでますね」
里中は便座から立ち上がると溜息をついて、浮浪者が入っていた個室を覗いた。確かに浮浪者は舌をだらりと出して、ピクリとも動かなかった。「悪魔」は「どうします?」とニタニタ笑う。
「まあ、今回は俺が預かる」
「あれ? いいんですか?」
「まあ。この男も十分に地獄を見ただろ」
悪魔はしばらく上を向いて考えていたが「それもそうですね」と頷いて笑った。
「さて」
里中は浮浪者を抱えるとトイレの外に連れ出した。空を見上げてじっと待つ。やがて眩い一筋の光が差し込むと、浮浪者は細かい星の屑になって消えた。トイレの影に隠れていた悪魔が里中に声をかける。
「でも、やっぱり珍しいですよ。あの男は事故だったとはいえ、人を車でひき殺してたんですよ?」
「いや、まあそうなんだが……」
里中はそう言って靴の裏を悪魔に見せた。厚い靴底の裏で茶羽のゴキブリが潰れて引っ付いている。
「天使である俺がうっかり命を奪ってしまった。さっきのはせめてもの罪滅ぼしだ」
静かな公園の空気に、気味が悪い悪魔の笑い声がしばらく続いたのだった。
次は「おもちゃ」「電動ドライバー」「父親」
――これは遊戯でありセラピーだ。
頭に「おもちゃ」と書かれた帽子をかぶり床に寝ている俺はそう思った。
ここは精神病院で白い服を着た看護士と医師が楽しそうに笑っている。
「さて電動ドライバーさんの番ですよ!」
電動ドライバーと書かれた帽子をかぶった若い女はそう言った男の方を向き
また下を向いて黙った。
「Aさん。あなたは電動ドライバーです。さてどうしましょうか?」
床には細い糸くずがあって、それが誰かが動くたびに揺れていた。その先に誰かの足首が見える。
頭はムカついたが体は解放されていた。なぜなら自分以外のものになっているからだ。
自分でいるときだけ問題はやってくる。
「……さてと、妻がガーデニングを手伝ってくれと言っていたな」
父親と書かれた帽子を被った若い男がそういって電動ドライバーに近づいた。
電動ドライバーの若い女が緊張するのが分かった。
それが若い男のせいなのか父親と書かれた帽子のせいなのか知らない。
俺はただおもちゃとしてこの舞台を眺めている。おもちゃに悩みは無い。
苦痛も無い。ただ眺めるだけだ。
「腋」「勃起」「宅配」
日曜日の朝。目覚めたばかりの私は、シャワーを浴びている。
ここは都心のワンルームマンション。一人暮らしの私の部屋。
肩までの髪をゆっくと掻きあげて、胸の膨らみにスポンジを這わせる。
半透明のシャボン玉が、胸の谷間から締まったウエストへと、音もなく流れてゆく。
しっかりと洗わなくちゃ、今日は特別な日なのだから。
腕の先から足の先まで、私は自分の身体をピカピカに磨き上げてゆく。
全身をすっかり清潔にした私は、髪にタオルを巻き付けてから腋に液体を噴射すると、バスローブを羽織って居間に戻った。
開かれた窓からは爽やかな風が流れ込み、レースのカーテンをひらひらと揺らす。
そんな光景を横目に見ながら、私は荷物の到着を待つ事にした。
『ピンポーン』ベルの音がした。午前十時。予定通りだ。
「お届け物です」宅配業者の声が聞こえた。二十代前半だろうか、ハキハキとした感じのいい声。
私はバスローブのまま、まだ乾ききっていない髪を拭きながら玄関へと向かった。
「はーい」
私がドアを開けると、短髪の青年は爽やかそうな笑顔で私に荷物を渡した。
「印鑑お願いします」
「印鑑……サインでもいいですか?」
「結構です。これをお使いください」
宅配の青年はボールペンを差し出した。
「ありがとうございます」
受け取ろうとした私のバスローブの紐がはらりと落ちて、次の瞬間、前が、はだけた。
宅配の青年は、私の露わになった胸を見て、それから視線を下に移した。
青年の股間が明らかに膨らんでゆくのが見えた。勃起していた。
『いけない!』私が身体を隠すより早く、青年は私を押し倒す。
ベルトを外す金属質の音がしたかと思うと、次の瞬間には私の一番弱い身体の中心に、異物が侵入してくるのを感じた。
レイプされている……そう思うと、自然に涙が流れてきた。
最初は身体が上下に揺すられているのを感じていたけれど、そのうちに頭が真っ白になり、何も分からなくなっていった。
続く
ぼうっとしている私の横で、男は宅配の制服を身に着けてはじめていた。
「すみません。こんなことは初めてなんです。身勝手なお願いなんですけれど、会社には言わないで下さい」
男は申し訳無さそうな顔をしていた。
「分かっていますよ。私もこんな事、大勢に知られたくはないし」
「これも身勝手な申し出なんですが、今、僕は独身で彼女も居ないんです。もし、嫌じゃなかったら責任をとらせて……」
遮る様に私は言う。
「今、好きな人がいるんです」
これは嘘。まだ私は一人に縛られたくないだけ。
「そうですか……本当に申し訳ありません。また、よろしくお願いします」
言い残すと、男は部屋を出て行った。
何がまたお願いしますなんだろう。私は笑った。こんな事のあとは、大事になる前に普通は転職をするものだ。少なくともいままでの男はみんなそうだった。次に会う事は、たぶんない。
けだるい気分のまま、私はバスローブを整えて配達された荷物へと向かった。
立ち上がった拍子に、男の忘れ物が、茂みの中から内股へと、とろりと伝わる。
私は荷物の包装を丁寧に解くと、箱も開けずに新しい包装紙に包み直した。
そして、真新しい宅配のタグを用意すると、届け先に自分の住所を書き入れた。
次は……来週の日曜日でいいかな。来週は残業続きだから、お昼頃の指定にしよう。真昼の情事とかね……私はひとりで微笑んだ。
それにしても良く効く媚薬だ。あんなに真面目そうな青年があんなにまでなるなんて。私は腋に鼻を近づけて、風呂上がりに吹き付けた媚薬の香りを嗅いだ。
さてと、来週の日曜日は特別な日。
「友情」 「花」 「揉め事」
道端に咲いているタンポポの花を見ると、ゆーちゃんと揉め事を起こしたあの日の事を思い出す。
思えばゆーちゃんと喧嘩らしい喧嘩をしたのは、あの日が最初で最後かもしれない。
私とゆーちゃんが、家の近くにある公園へと何時もの様に遊びにいったら、
地面にたくさんの、ふわふわした綿毛がついたタンポポが一面に生えていた。
それをみた私とゆーちゃんは、競い合うかの様に吹いて綿毛を飛ばす。
空に舞う綿毛に見惚れ、次から次へと手当たり次第にタンポポを吹いて周って――。
しばらくしたら、綿毛が付いてるタンポポは一輪だけとなってしまった。
そこで、取り合いの喧嘩が始まった。
蹴るわ殴るわ、髪を掴んで引っ張り合うわで、今思い出しても酷い事をしたものだと思う。
母親が来て喧嘩は止められたが、ゆーちゃんは、流血こそはしなかったものの、
顔には痛々しい青痣ができていて、自分が原因にも関わらず、それを直視できなかった私。
去り際に、ゆーちゃんが一言。
『たっくんなんかと、もう二度とあそばないもんっ!!』
涙や鼻水を流しながらそう叫んだゆーちゃんの顔は今でも忘れられない――。
「――で、ホントにアレ以来顔も見せなくなっちゃうんだもんなぁ」
煙草に火を付け一服した後、そう愚痴る私。
「随分前の筈なのに、つい最近みたいな感じだよ」
すーっと息を吸うと、たちまち灰となって消えていく煙草。
「あの頃を思い出すといつも思うんだ。友情なんて所詮、下らない事で簡単に壊れちゃうモノだったんだな、って」
スーツの懐から携帯灰皿を出すと、その中に吸殻を入れる。
「なぁ、そう思うだろ? ゆーちゃん」
私が問いかけるその前には、無骨な墓石が一つあった。
「――でもさぁ。何も、謝る前に居なくなっちゃう事は無いだろ?」
知らず、語りかける私の声に涙声が混じる。
270 :
269:2011/10/19(水) 15:50:19.07
事故に遭って家族全員が亡くなったと知ったのは、喧嘩があった日の僅か二日後の事だった。
着慣れない礼服を着て葬式に出ると、そこには青痣などない、満面の笑みを浮かべたゆーちゃんの写真があった。
それを見た瞬間、私は泣き喚きながら、しきりにごめんね、ごめんねと叫んだ、らしい。
「――その時大変だったらしいよ。全然泣き止まなかったから」
苦笑いを浮かべる私。だがその眼には、依然として涙が留まっていた。
「さて、と。そろそろ時間だから行くな」
私は立ち上がると最後に一言、ゆーちゃんに呟く。
「――ごめんな、ゆーちゃん」
次は「豚」「メガネ」「フィリピン人」でお願いします。
「お前の母さんはフィリピン人で日本に売春目的で来たけど金を盗んで
売春バーを追い出され千葉の田舎を歩いてるところを養豚業者に拾われて
仕事を手伝うようになったけど、馬鹿だから長続きしない。
その上、豚とやった。それでお前が出来たんだよ。父親は豚なんだよ。
だから戸籍もないし、名前も無いし人格も無い」
私は女の首に回したロープを引っ張った。
「俺はお前とやりたくて仕方がない。でもな、俺は豚とやっちゃいけない。
それは俺がまともだからだ。そんなことぐらいは分かってる。
だからお前とすることは出来ない。
悲しいと思わないか? お前はやりたくてやりたくて下着に染みを作って
俺はやりたくてやりたくて胸が掻き毟られそうなのに
お前とやることが出来ないんだ。なあ――地獄だよ」
私は女の前にひざまづくと女のあごの先に手を当て顔を上げさせる。
女の唇は濡れ頬は上気して紅かった。
「だからこのバイブレーターに仕事をしてもらう。
お前は満足できないかもしれない。でも満足しなきゃいけない
わかるだろ? ごめんよ」
そう言って俺は女の下着に手を当てた。
最近、裕美の趣味がだんだん酷くなってきてる。病気なんじゃないだろうか?
裕美が言わせている台詞も冗談の範囲を超えているような気がする。
俺はそのうち殺されるんじゃないだろうか? と思う。
冷え切った汗がメガネを伝いももみあげに落ちた。
裕美と別れたいと感じている。
裕美は好きだ。でも死にたくない。
「痴漢」「目撃」「ストーカー」
僕はとんでもない物を目撃した。
それは……多分殺人事件だったと思うけど何日待ってもニュースにはならず、
もう1度現場に行く勇気も無く、嫌な気持ちのまま日々を過ごしていた。
ある日警察が僕を訪ねてきて、纐纈(こうけつ)さんについて聞かれた
それはよく知っている、僕が大好きな人の名前だ。
二人の警察官は僕の表情を見て何かを確信した上で確認をしてくる
「はい……あの、僕の片思いの人ですから」
恥ずかしいことを言わせるなよ!と思っていると、言葉だけは丁寧な否定を許さない口調で任意同行を求められた。
「つまり、纐纈さんが女性をストーカーしていて、想いがエスカレートした結果殺したという訳ですか?」
ふざけないでほしい、纐纈さんが人を殺せるわけ無い。
電車で痴漢されていた僕を助けてくれたやさしい人
僕の思いを全て警察にぶつけた。
警察は不快な目つきで、私が女性が首を絞められて死んだと知っていた事を追求してきた。
僕はもう、自分が犯人だとしか言えなくなっていた。
次は「密室」「暖炉」「孤島」でお願いします
英国の本格推理小説において暖炉と柱時計が必要なように
日本のサスペンスドラマにおいて断崖絶壁は不可欠であると思う。
そこにおいて犯人は告白する。自らについて、愛について
そして犯行について。語り手は犯人であるが聞き手は登場人物ではなく
読者自身であり視聴者である。語られなければいけないことを、聞かなければ
ならぬ人物が聞く。時に涙し時に震えながら。
さて私はこの物語の語り手である。物語は東京の武蔵野市のコンビニに始まり
の東京都小笠原の孤島を経て新宿の交差点で終わることになっている。
第一のクライマックスは商業ビルでの密室殺人である。
鍵のかかった従業員用の更衣室が死体が発見されるはずだが
先のことなど誰が知っていよう?
それでは物語の旅へと行こうじゃないか。カバンも折りたたみ傘も地図もいらない。
必要なのはきっと――好奇心だけである。
「暴行」「無罪」「精神鑑定」
275 :
暴行 無罪 精神鑑定:2011/10/23(日) 08:58:25.47
「判決が下ったよ」
悪魔が舞い降りてぽつりと言った。
「はあ? あんた誰。何言ってんの?」
黒井ミミは咥えていたタバコをぽろりと落とした。
畳の上に、また一つ焦げ目が増える。
「有罪。お前は有罪」
「な、何言ってんのよ。あっち行ってよ。気持ち悪い動物ねえ」
手で野良猫を追いやるしぐさをした。
「有罪! 有罪! 有罪だ! ところで俺、悪魔だから」
悪魔は蛇のロープを取り出して、黒井ミミの両腕と胴体を縛り付けた。
何匹もの蛇が絡み合い、黒井ミミの体をギリギリと締めあげる。
「認めない! 私はこんな仕打ち絶対認めないんだから!」
黒井ミミが蛇の緊縛から逃れようともがいていると、部屋のドアが開かれた。
「なんだい? 騒々しいねえ。あんたの部屋の真下にいるってのはつくづく災難だよ」
黒井ミミの部屋の真下に住む磯野ハナが不機嫌そうな顔を向けた。
「あんた、また男でも連れ込んでんじゃなかろうね。困るよ。ここは夜這い
禁止の寮なんだからね」
「違います。これ見てくださいよ。悪魔が私を暴行してんですよ。魔界のSM
ですよ。ひどいと思いません?」
磯野ハナは怪訝そうな顔をした。
「はあ? 悪魔だって。どこにいるんだいそんなもん。あんたバカか? 悪
魔なんてね、今時ライトノベルにだって出てきやしないよ。驚いたね。あん
た、あっち系だったのかい」
「だから、ここに、いるじゃないですか」
「フン、私には何も見えないがね。やれやれ、前から変わり者だと思ってた
けど、あんたどうやら精神鑑定が必要みたいだね。桑原桑原だよ」
磯野ハナは虫を見るような一瞥を向けると、ドアを強く閉めて退散した。
つづく
276 :
暴行 無罪 精神鑑定:2011/10/23(日) 09:00:10.28
「さあ、人間・黒井ミミ、一緒にくるんだ。貴様には地獄の苦しみが待っている」
悪魔が哀れな彼女を引っ張ろうとすると、
「待て!」
上級悪魔がやってきて悪魔を制した。
「判決が覆った。人間・黒井ミミは無罪が確定した」
「えっ、なんでだよ」
「詳細は不明だが、どうやら天使との間で裏取引が行われたようだ」
2体の悪魔は黒井ミミを解放して丁寧に謝罪した。どうやらクレームを気
にしているようだ。
「ちょっと、あんた達、この落とし前どうつけてくれるのよ?」
「いや……それは、その、つまり……」
「永井様は何がお望みでしょうか」
「そうねえ」
黒井ミミは咄嗟に目に付いた、悪魔が持ち帰ろうとした蛇のロープをひっ
たくった。
「あ、それは魔界のツールでして、その……」
「この玩具おもしろそうね。もらっておくわ」
「とほほ」「仕方ありません」
こうして黒井ミミは自在に動く蛇のロープを手に入れた。
彼女がこのロープを何に使ったのか。それはまた、いずれ――
おわり
地下鉄 化石 月面
本文長すぎるってあぷろだに怒られた・・・15行なのに
「地震か!」と小さく叫んだその瞬間、揺れは不意に収まった。
「危ない所だった」。窓をあければ、大正の帝都は今日も賑やかだ。
彼が”化石”と酷評した電車が、満員で東京の街を這い回ってる。
早く、地下鉄を完成させねば。地震で中止する訳にはいかないのだ。
50年後。大震災を逃れ、世界大戦も回避し、軍閥も解体した日本は
順調に科学を進歩させ、驚くべき高みにまで達していた。
これで6行。
ごめん つづくw
(残り9行れす。これで15行かあ、つかれた)
彼も骨肉腫を完治し、30年ぶりの地下鉄に乗る。感無量だ。
だが見知らぬ路線だ・・・と路線表を見て、彼は驚愕と落胆に棒立ちになった。
「そうだったのか・・・これは”もしも”の世界だ。紙上の架空世界なのだ。」
じっと車席にうずくまり、空しい笑みを浮かべる。
「”関東大震災”はあったんだ・・・」
疑念を打ち消す様に、可愛い娘の声でアナウンスが入る。
「次は、静かの海駅。静かの海・月面クレーター前でーす。」
彼は苦笑した。この世界をでっちあげ奴、よっぽど焦っていたんだな。
地球から月に、地下鉄が通じる訳がないのに。
次のお題は:「新幹線」「紙とお水」「領収書」でお願いします
280 :
新幹線、紙とお水、領収書:2011/10/23(日) 17:31:44.67
空から金属とプラスチックの塊が落ちてきた。
それだけでも許せないのに、それらは一つの形を成しており、かなり大きい。
落ちてきたのは日本の新幹線の先頭車両だった。
「どうやら人は乗っていないようだな」
ロシア空軍のイワノフ将軍は中を調べさせて困惑した。
「かつて我々が別の名前の国家だった時代、ミグ25戦闘機のパイロットが
日本に亡命したことがあった。だが今ここに墜落しているのは戦闘機や人工
衛星なんかじゃない。新幹線という日本の最速の電車だ。こんなことがある
のだろうか」
ロシアは連邦時代の習わしに基づいてこのことを秘密にし、イワノフは密か
に日本を訪れた。
イワノフは走行する新幹線車内で、政府官房長官の西崎喜幸と会談した。
「話は変わるが――」イワノフはどうでもいい北方領土の話題をかいくぐっ
て核心に入った。「日本の新幹線に飛行能力はあるのか?」
西崎はきょとんとして
「音速を超えたらいいなとは夢見ていますが、空を飛ぶ予定はありませんよ」
「日本にはオタクという技術集団がいるだろう。彼らは新幹線を変形させて
飛行機にするとか朝飯前のような気がするが」
「手足をつけてロボットに変形させることは可能です。ただしこれは玩具で
の話でして」その時車内で騒ぎが起きた。
「さあさあ、お立ち会い! どなたか紙とお水はお持ちか?」
あごひげを蓄えたメガネの老人が車内を見渡して叫んだ。
「持ってたらどうなる?」
「これは外国の客人。日本へようこそ。なあに、ちょいと奇跡をごらんに入
れようと思いましてね」
イワノフは西崎を見て目で尋ねたが西崎はノーノーと首を横に振った。
すまん、つづく
281 :
新幹線、紙とお水、領収書:2011/10/23(日) 17:35:06.54
イワノフは何も言わずにポケットから吉野家の牛丼屋の領収書を出してヒゲ老人に渡した。
西崎も仕方なく、紙コップの水を差し出す。
ヒゲ老人はにやりと歯を見せて笑い、これはどうもと会釈をして、紙と水を受け取った。
次にヒゲ老人は紙をびりびりに裂いて、紙コップの水の中にそれを捨てた。
そして何かをつぶやくと――
「すごい! ボリショイサーカスの前座に招待したいよ」
何と紙コップの中から白い小さな妖精が何匹も飛び出して宙を舞い始めたの
だ。
しかしイワノフはヒゲ老人に日本円のチップを与えながらも内心は暗い気持
ちに囚われていた。
(できればただの手品でかたづけたいところだ。だがこれが神の所業ならど
うする? 私の前で起きた二度の奇跡は偶然なのか……)
イワノフか帰国するのと同時刻、名もないヒゲの老人が死体で発見された。
ロシアの将軍が部下に命じて暗殺したのである。ロシア政府にとっては容易
い手品だった。
空から金属とプラスチックの塊が、再び落ちてきた。
またしても日本の新幹線だ。
今度はイワノフがじきじきに車内を探索した。
車内の狭いトイレの中に、問題の人物はうずくまっていた。
「ヒゲの……やっぱりあんたの仕業か」
死んだはずの老人は上着の埃をはたいてにやりと笑った。
「ご招待にあずかり光栄です。イワノフ将軍」
「貴様、目的はなんだ?」
イワノフは内心震撼していた。今度の敵はアメリカでも日本でもない。気ま
ぐれな、神なのだ。
「お忘れですか。ボリショイサーカスに出させてくださるって仰ったのを」
老人の軽い言葉は小さなきっかけに過ぎなかった。このときはまだ、ロシア
の領土面積が激減する自体になろうとは当のイワノフでさえ思わなかったの
である――
おわり
かぐや姫は、三人の男を前にして言いました。
「私と結婚したければ、次に言うものを探し出し、ここに持って来てください」
「新幹線、紙とお水、領収書」
男たちは、矢継ぎ早に質問しました。
「新幹線とはなんでおじゃる?」
「私にもわかりません。未来の乗り物かなにかでしょうか?」
「紙とお水には、二つのものが含まれてないか?」
「お題がそうなのだから、仕方ないでしょう!」
「領収書は、なんの領収書でもいいのですか?」
「では、この世で一番高価なものの領収書とします」
男たちは話し合いました。
「麻呂は、我が財力にかけて、領収書を持ってくるでおじゃる!」
「俺は、新幹線なるものを見つけて見せよう!」
「では私は、残りの紙とお水を」
それぞれの思惑を胸に、三人の男たちは旅立った。
283 :
282:2011/10/25(火) 21:57:41.61
次のお題は下記でお願いします。
もしも
改変
後悔
「質問ですか? そうですね……別に無いんですけどね。
あっここに来る前に面接したところでですね、履歴書を改変しちゃったんですよ。
もちろん、さっき出した履歴書はしてないですよ。
受かりたかったんですよね。時給が1200円なんですもん。
条件も僕にあってたし。まあこういうことをここで言うのって失礼なことだと思うんですけど
ぶっちゃっけちゃいますけどねw 後悔してるかって言えば後悔してます。
まじめに書いておけば良かったなあって。もってもいない資格書くから
突っ込まれちゃうんでね。まあ自業自得なんですけど。
2ちゃんねるのプログラマースレで書いてあったんですよ。べつに資格なんて持ってなくても
あとから勉強しとけば、ばれないって。だってデザイン系の会社なのに
php必要ないでしょ? あー失敗したなあ。でも嘘書かなかったら
受かってたかは分からないですけどね。僕のほかにも
面接来てる人いたし。もしも……っていうんですか。もし受かってたとしたら
逆にプレッシャーきつかったかもしれないですね。だから良かったのかも。
こう見えて楽観的ですからね。失敗したことはクヨクヨしないことにしてるんです。
さっきも言いましたけど、別の面接でのことを言うのって失礼かもしれないんですが
正直に答えてっておっしゃったんで言っちまいましたw
落としても良いですよw」
「恐怖」「交番」「停電」
「もしも〜だったら」
これを実現できる装置が発明された。
ただし、現実世界を改変するわけではなく、あくまでシミュレーションの中で、もしも〜だったらが実現される。
膨大な現実世界のデータと、道行く人の脳波を読み取り集めた思考データを元に、常にシミュレーションを繰り返し、あらゆる可能性をデータベース化した末に成し遂げられた。
「もしも〜だったら」とスマートフォンに問いかけると、音声認識され、このデータベースから答えが返ってくる。
俺は、さっそく試してみた。
「もしも俺がリア充だったら」
データベースから答えが返ってきた。イメージが脳に送られ、現実世界のように感じることができる。
……好きだった彼女と付き合って、いい会社に入って、業績を上げて、彼女と結婚し、やがて役員となり、円満に退職する……。
「いい夢を見た」率直な感想だった。
「じゃあ今度は、もしも世界があと三日で終わるとしたら」
……突然、隕石が落ちてきた。直径1kmもある隕石が地表に降り注ぎ、灼熱地獄。地球が太陽の公転軌道を外れ、太陽がだんだんと小さくなって、極寒地獄。生物は三日で死滅した……。
「俺が死ぬのが、結構早かった……」
しばらく考えて、俺はあることを閃いた。
「もしもこのまま時間が過ぎたら」
……何も変わったことはなく、一日が過ぎる。二日目、突然、隕石が落ちきた! そして、さっきと同じ光景が続く……。
「もしもこのまま時間が過ぎたら、未来が見えるのではないか?」
そう思って、試してみた……。
「これ壊れてるんじゃないか?」
何度か繰り返したが、同じ結果だった。
「こういうもしもは、こういう結果が返ってくるようになってるんじゃないか?」
ふと思いついて、ツーちゃんねるでスレを立ててみた。
「同じ結果が返ってきた」というレスが多数付いた。
しかし、逆に、これ以外の結果が出たというレスがない……。
「どうすればいい?」
このまま時間が過ぎて、本当に隕石が落ちきたら、たぶん後悔する。
「未来を知ってしまったのだから、世界が改変されて、何事もなく世界が続く可能性もあるんじゃないか?」
ツーちゃんねるでは「世界の終わり」関連スレが乱立している。
「リア充死ね!」と、意味もなく俺は書き込んでしまった。
「お前が死ね」と、返された。
やばい、このままだと、本当に死ぬかもしれない。
せっかく書いたので投稿しました。
次のお題は284さんので。
「恐怖」「交番」「停電」
山田舎の新しい派出所にて、数刻ほど立ち番をして居たら不意に電灯が消えた。
停電だろう、真っ暗だ。仕方なく手探りで、備え付けの石油洋灯を探すことにした。
「――やあ。ついにこんな田舎にも交番が出来ましたかあ。」
背後からの声に振り返って見れば、頬被りをした農夫が両手に籠を抱えつつ立っている。
「ええ、どうも。今年からは交番では無く、派出所と呼ぶようになつたのですが。」
「へえ、派出所? なにか響きが乾いてていけないですね、交番のほうがよかつたなあ。
なんたつて元は番屋でしよう。江戸落語の禁酒番屋だつて、禁酒派出所にしちや仕舞いが悪い。」
落語なぞ聴くとは、洒落た農夫だ。言われてみれば、肌艶も良くて水飲み百姓とも思われない。
私は少し襟首を正して彼との雑談を続けた。
「まあ、近代化ですよ。幕府が人気投票で選ばれる時代です。なにやら、選挙やら国会やらいう。」
「はあ、恐ろしいもんですなあ。」
「アハハ、恐ろしいことなどありませんよ。」
「いやいや、恐ろしいもんですわ。おいらも身の振り方を考えねばなあ。」
農夫はなんだか無性に悄気た様子で背中を丸め、とぼとぼと去って行った。
私はそれを見送ってから、再び洋灯を探そうとして――そこで気付いた。
……今夜は空に月もなく、停電で辺りは真っ暗で、洋灯も手探りでしか探せない。
なのになぜ、あの農夫の姿や表情はよく見えたのか。照明など、持っていなかったのに。
――狐火、という言葉を思い出した。
電灯は、農夫が去るのを待っていたかのようにして復旧した。
私は、あの農夫が狐だとしたらどんな恐怖を抱いていたのか、想像しながらその日の立ち番を過ごした。
次は「目の疲れ」「効果的」「回復」でお願いします。
古くさい格好をした少年が歩いていた。彼の髪は柳のようにだらしなく伸び、顔の半分近くが隠れている。片方の目だけが白髪の間からギョロリと覗いていた。
彼が足を踏み入れた場所は、未成年が入り込んでいいとは決して言えない、夜の風俗街。
どぎついネオン看板に彩られたビルの谷間を、何かを求め探すかのように少年は彷徨っていた。
「父さん、こんなところに奴がいるのかな」
『いる、いると言ったらいるんじゃ!』
どうやら少年は父親と話しているようだ。
しかし、父親の姿はどこにもない。
「僕には何も感じられないけど」
『奴は弱っておるのかもしれぬ。だからお前ではわからんのじゃ』
「父さんは奴を感じるの?」
『うむ。どうやら奴とは他人ではないような気がしてな。微かな波動を感じるのじゃ』
風俗街の奥の奥、袋小路になっているところで少年はようやくハッとした。
「父さん!」
『うむ、ここじゃ。ここに奴がおる』
袋小路のマンホールの下から妖しげな気配が漏れてくる。
少年は父の言われるままに蓋を開けて下水道に降りていく。
その闇の奥、ちょっと広い地下空間に、やつはいた。
つづくのじゃ
バックベアードと呼ばれる巨大な目玉の妖怪だ。だが今や彼の巨大な目は重い瞼に閉じられ、その端からは多量の目脂が溢れている。
『どうした大統領? いつぞやに比べると、すっかり勢いが削がれておるな』
《目玉の……これは久しぶりだな》
バックベアードはテレパシーで語りかけていた。
三者の間に、かつてバックベアードが栄華を誇っていた頃の、激しくも懐かしい戦いが蘇る。三者はまさに宿敵同士だった。
《実はな……人間が作った3Dテレビ。あれをちと見過ぎてな……この俺としたことが目の疲れが著しい。物が四重に見える。重度の眼精疲労に陥ったというわけさ》
『ほう、人間の機械に惑わされたか。それはちと他人事ではないのう』
「バックベアード、僕が毛針を打ってあげようか」
《おっと少年、それは御免被りたい》
少年の毛針には何度も痛い目に遭っているバックベアードは悲鳴を上げた。
「大丈夫だよ、ツボを狙って打ち込めば人間の鍼治療と同じさ。あなたの症状に効果的に効くはずだよ」
《本当か……?》
「父親のわしが保証しよう」
少年は両の拳を握りしめると、毛髪を逆立てて巨大眼球生命体のツボめがけて針を発射した。
《ぎゃっ……おっ?……おおおっ。少年、しばらく見ない間に鍼師の資格でも取ったか》
バックベアードはほとんど閉じていた瞼を全開し、巨大な眼球を晒した。
回復したのだ。
だが回復したのは眼力だけではなかった。
なんと精力まで回復してしまったらしい。元気を取り戻したバックベアードはお礼もそこそこに意気揚々と夜の風俗街へ消えていった。
次回「ストリップ」「レントゲン」「魔術師」
「レントゲンでは駄目だ!」
主任研究員Aは声を荒げた。
「見え過ぎてはいかんのだ! 服だけが透けるように。人間の肌は透過しないレベルの波長が必要なのだ!」
紫外線、X線、赤外線、可視光線。そのどれにも属さない領域の波長。仮にストリップ光線とでも名付けようか。
この波長を見付け出すこと。制御して、自在に発振、受光できる装置を作ること。それが主任研究員Aが自らに課した使命だった。
「人は服を着ることにより、ファッションを身につけた。着飾った姿に惹かれ、男女が語り合う。しかし、その内側を知ることができない。付き合いだしてからわかったところで、お互いが傷ついてしまう。最初からわかっていれば、偽巨乳女に騙されることなんてなくなるんだ!」
「……偽物かどうかは、ある程度、見ればわかると思いますがね」
そばで聞いていた助手がつぶやいた。
「君みたいにリア充ではない私には、違いがわからんのだよ! リア充は死ね!」
やれやれといった感じで助手が言う。
「その勢いで、さっさと開発してくださいよ。黒魔術師じゃなくて、光の魔術師と呼ばれるぐらいの成果を出してくださいよ」
すいません、次のお題は、
「カマトト」「二次元」「進化」で。
「カマトトの語源って知ってる?」
放課後のマック、仲良し女子三人でクラスのムカツク女子評をしていたらそんな話になった。
「あのね、カマってのはカマボコのことで、トトっていうのは魚のことなんだって。
つまりカマトトっていうのは、『え〜、カマボコって魚だったんですか〜!? 知らなかった〜』って、
知ってることを知らない振りして男に媚びる馬鹿女の様子を元にした言葉なわけよ」
「あぁー、今も昔も男は馬鹿な女が好きだもんねぇ」「あるある」
頷く二人に対して、私は前々から思っていた持論を披露することにした。
「でもこれさ、イマドキじゃ意外と、カマボコが魚だって本当に知らないこともあり得るじゃん?」
「あぁー、あたしも昔あれ、卵の白味で出来てると思ってたわ」「アルアル」
「だからさー、カマトトって言葉も進化しないといけないと思うんだよね。例えばさ、『ニジカプ』とか。
『二次元といえばカップリングって? なにそれ〜』みたいな白々しい態度を取る女子の様子を例えて――」
――と、笑いながらそこまで語った所で、目の前の二人の様子に気がついた。
「……にじ……げん? といえば、カップリング……なの?」「ちょっと……わかんナイ?」
二人とも、キョトーンとしている。心の底から、キョトーンとしている。
そこで私は迷うこと無く言い放った。
「うんごめんなさいなんでもない。忘れて」
次は「アンプ」「女」「研究所」でお願いします。
野球場には野球場の雰囲気があるように裁判所には裁判所の
雰囲気がある。そして音楽の練習スタジオにも練習スタジオの
雰囲気ってものがある。
僕はスタジオのベンチでサービスのコーヒーを飲みながらそう考えていた。
時刻は午前二時になるところだ。終電はとうに出て行ってしまったし
僕らのほかにはスタジオは使われていない。
分厚い防音扉を通して聞こえてくるとても小さなドラムの音のほかは何も聞こえない。
とてもリラックスする。身体は弛緩してるけど頭はさえている。
僕はコーヒーをテーブルに置いてさっきまでやっていた曲の事を考える。
ベースが作った曲でちょっと前に流行ったグランジ系の曲で
わりと良く出来てはいたが、ありがちといえばありがちだった。これっていうものが無かった。
バンドのメンバーの中にはプロになりたいっていう奴がいる。
ヴォーカルとドラムだ。僕とベースは趣味でやれれば良いって考えてる。
そして派閥が出来る。プロ志望、そうでもない派。
さっきからスタジオの受付の兄ちゃんがアンプを直している。
フェンダーのアンプでテスターを片手に基盤に顔を近づけては
首を振ったり、ため息をついている。きっとどこかの若造がめちゃくちゃに
弄繰り回したんだろう。僕が若い頃、そうだったみたいに。
兄ちゃんは髪が長く痩せていて、うつむいたその姿は女性を思わせる。
AC/DCと書かれたTシャツに胸のふくらみは無い。
「はいスタジオお漏らしです! はいご予約ですね。お時間は……
バンド名は……流体力学研究所さま……わかりました」
僕は目を閉じ午前二時の音に身を浸す。それは優しくて暖かくて
ざらついていてた。街の息遣い。僕はそんな音楽を作りたい。
「映画」「着る」「ビル」
「さあ、君の好みの女の子を選びたまえ」
研究所の奥にある暗い一室に通された僕は、そこに並ぶカプセルの中に浮かぶ女の子たちから好きな子を選ぶよう博士に促された。
カプセルに付けられたプレートには、それぞれ名前が書かれている。
「アヤナミレイ、シキナミアスカラングレー、ナガトユキ、ミカヅキヨゾラ、カシワザキセナ(ニク)」
みんな目を閉じていて、液体の中に裸で浮かんでいる。
「彼女たちは、何なんですか? 生きているんですか?」
「好みの子がいないかね? 彼女たちはクローンだよ。研究の成果だ。みんな君の言うことを聞いてくれる」
女の子が入ったカプセルが並ぶ異様な光景に少し慣れてきて、一人一人の裸を目にして、なんだか恥ずかしくなってきた。
「これは究極の育成シミュレーションゲームだ。好きな子を選んで、君の好きなように育てられる」
「しかし、これは人権侵害ではないですか?」
「彼女たちは人間ではない。戸籍には登録されていないから問題ない」
「オリジナルの方が騒ぎ立てたら?」
「彼女たちは友達が少ない子たちばかりだ。周りも誰も騒ぎ立てない」
「なぜ僕に依頼するんですか?」
「正直に言えば、君も友人が少ないからだ。それに君は慎重だ。実験をするには慎重な方がいい」
「……わかりました」
だんだんとその気になってきた。目の前にいる女の子をどんな風に育てよう? 従順に、我が道を行くような感じに?
「彼女たちの心は、今は真っ白な状態だ。しかし、すぐに学習する。喜び、悲しみ、怒りもする。何度も繰り返すうちに、アンプを通したように増幅もされる」
「怒りが爆発したら怖いですね。特にアスカ、いや、ナガト……」
「君はボリュームを操作するように、彼女たちの心をコントロールするんだ」
「もしも、彼女たちを育てることに失敗したら?」
「廃棄してやり直せばいい」
「廃棄とは?」
博士は、部屋の角にある四角い箱を指差した。
「あそこに放り込むだけだ。高温の溶鉱炉につながっている」
「……」
「気にすることはない。ここにたどり着くまでに、もう何度も使用している」
「……わかりました」
僕は、恐る恐る立ち並ぶカプセルの一つを指差そうとした。
「もう一つ、もし選んだ子と違う女の子に変更したくなったら、ここで廃棄してからというルールだ」
それを聞き、指差そうと上げた手をいったん降ろした。
「もう少し考えさせてください」
彼女たち全員を育成して、最も満足できる順番は何か、僕は考えを巡らせた。
298 :
296:2011/10/27(木) 23:10:56.01
次のお題は295さんので。
真夜中に光明寺から電話がかかってきた。
「大変じゃ」
「どうした? 俺の睡眠を妨げるほどの一大事なら応じるが」
「研究所が、炉心溶融した」
「なんだって?」
「あの女のせいじゃ。あの女がまた暴れよって……」
「もしもし、おい聞こえないぞ。大丈夫か」
電話の調子が悪いのは、電波状況のせいではない。
光明寺の声が小さくごにょごにょと聞こえてくる。
俺は電話の音声をアンプにつないだ。
「状況を! もう一度言ってくれ」
「あら、その声は如月さんね? お久しぶり」とスピーカーから冷静な女の声がした。
アヤナミレイ――碇博士の置き土産。呪われた人造人間。あいつがまた暴走したのか。
やれやれ! 眠気の吹っ飛んだ俺は、いざ研究所へとアルピーヌ・ルノーを走らせた。
それにしても放射能防護服を身につけての運転は随分と窮屈だなあ――。
いやー、『沈鬱の暴走ハリケーン・ファイナル』…………名作だったなぁ。ファッキンマザーファッカー級の名作だった。
まさか二十一世紀も十年が過ぎた今、あんな知能指数の低そうな汗臭い筋肉アクション映画を作るとは……やってくれるぜ!
伊勢丹そばにあるビル九階の映画館で映画を観た俺は、一人で余韻に浸りながら下りのエレベータに乗り込んだ。
「――キムの演技、かっこよかったね」「うん、かっこよかった!」
エレベータに乗り合わせていた俺以外の二人――若い女の子二人が、そんな会話を始めた。
どうやら彼女らも俺と同じ映画を観たらしい。なんてセンスのいい女の子だ。確かにキム・ステファンの役は最高だった。
「でも、ジョーは最悪。衣装もダサいし、なんで主人公につっかかるか意味わかんないし」「あれはないよねー」
…………な……に?
おま、バッカてめぇら! 常に喪中のような黒スーツを着るジョー・グッドマンはかつて力不足で恋人を死なせた後悔から
主人公には自分みたいになって欲しくないと思い厳しく当たったってちゃんと作品中で描写されてたし名演してただろうが!
「いやマジ、ジョーは要らない子だったわー」「ははっ、否定できない」
ぐぅ………………ッ! 俺はもう辛抱できなくて、ついつい思わず……口を開いてしまった。
「……あのー。ジョーはあれ、恋人が死んで、それで狂犬と呼ばれる刑事になったんですよ」
一応はちょっと気取った風に言った俺の言葉に、前に立っていた彼女らはこちらを振り向いて――
「…………え?」「ぅわ」
――完全に不審者を見つめる表情をしてから、怯えた様子ですぐに目を逸らした。
直後、一階に到着したエレベータのドアが開いた。少女らが慌てて下りていく。
くそっ、なんだよ映画のことなんてわかってねー低能ビッチが、と彼女らを非難することでプライドを保とうとしていた俺は、
去り際に彼女らの一人が手に持っていた映画のパンフレットがちらりと目に入り――完全に死にたくなった。
そのパンフレット……つまり彼女らが今日観た映画は――韓流アイドルのキム・イドンと、二枚目タレント北島城がW主演の
日韓共同製作の韓流ラブロマンス、『僕と彼女の幸せな出来事』というお洒落映画だったのだ。
次は「圧力鍋」「狩り」「クラブ」でお願いします。
原発事故が起きた街で猿達が暴れまわっているので駆除をしてほしいという連絡が
猟友会入ったのが先週の金曜日で月曜日にはもう私達は
いつもの猟銃、犬、ユニホームのほかにガイガーカウンターともしものための
ガスマスクを持って福島県双葉町に降り立った。
時間は午前八時。空は青く狩猟の日として申し分なかった。
「ほんとに誰もいないんだな」
無人の街を見てAさんが言った。その風景は、どこかでみたパニック映画を思い出させる。
ゾンビ、あるいは細菌に汚染された街。私はぼんやりと考える。すべての映画は
来るべき日のシミュレーシヨンのためにあるのではないかという馬鹿げた幻想だ。
もちろんそんなことはない。映画は娯楽のために人生に潤いを与えるために
あるのだし、決して災害時のマニュアルのために製作されているわけではない。
それはもちろん分かっていたが、目の前の風景はどこかレンズを通したように
あまりにも出来すぎて……セットめいていた。
――これが現実なんだ。受け入れろ。
私は自分に言い聞かせる。こんな不安定な心理のまま銃を持つことは危険すぎるし
銃の講習時にも教官が何度も念を押したはずだ。「体調不良を少しでも感じたら猟は止めましょう。
自分がおかしいと思ったときは体はそれ以上に疲労しているものなのです」
私は深呼吸をしたかったが、放射能が怖くてうまく出来なかった。
ガイガーカウンターが低いレベルを示していたとしても。
私は今でも思い出す。あの福島サッカークラブと書かれた看板の上に立っていた
ボスザルらしい堂々とした老齢のサルのことを。きっと彼は銃を知っている。銃が生き物を殺すことも。
そして私たちがサルを殺すためにここにいることも。
そしてきっと――死というものを知っていたように思う。
あるいはそれは私の思い過ごしだろうか? 私はそのせいで銃口はずれ弾は老サルの
足に当たって逃げられてしまった。透明なアクリルの看板に血の跡が残った。
私は新聞を置きキッチンにいる妻を見る。妻は圧力鍋で煮物を作っている。きっとサトイモだろう。
なぜなら子供が好きだからだ。圧力鍋の蒸気を逃がすふたからは勢い良く白い蒸気が
噴出している。それは私を非難する老サルの叫びのようにも聞こえる。
「尻」「未成年」「家出」
彼はいつも私のお尻をなめる。それどころか噛む。そして真ん中の穴を無闇にほじる。
肉が裂け、デコボコな歯形が残ってしまった。執拗にほじられた穴はぽっかり開いたままになっている。
もう一生、直ることはないだろう。私のお尻はグロテスクなまでに壊れていた。
顔にナイフを入れられることも良くあった。毎日、身を削られるかのようだった。
いつか私は消えて無くなってしまう……いや、その前にきっと、捨てられる。処分されるに違いない。
彼の母親は酷く穢らわしげに私を見つめる。ソンナノ早く捨てなさい、と私の目の前で彼に言う。
家出をしたいと思ったこともある。でも彼は疲れた私を部屋に閉じ込め、逃がさない。
こんな生活がいつまで続くのか……私の体重は、かつての半分以下になってしまっていた。
………………………………気がつけば、暗闇だった。
ボロボロになった私は奥まった部屋に放り込まれて、以来、もう何年も陽の光を見ていない。
私と似たような境遇の子達と一緒に、そこでただ、じっとしていた。
そうして絶望にも飽きた頃――彼が、来た。扉を開けて、手をさしのべてくる。
私は怯えたけれど、彼は、ああ彼は! 私を優しく取り上げて、綺麗な銀色のアクセサリーを着けてくれたのだ!
それはまるで、まるで……結婚指輪のよう!
ああ、かつてはまだ未成年だったあなたも立派な大人になって、私を迎えに来てくれたのね――
これ以上の幸福は無かった。これ以上の感動は無かった。彼はもはや、残虐な幼子ではなかった。
――久しぶりに開いた勉強机の引き出しから発掘したボロボロのHB鉛筆。小学生の頃に噛み癖のあった僕は、
その鉛筆尻にある噛み跡を隠すようにして鉛筆ホルダーを填めた。もったいないし、家でのレポート作業にでも使おう。
次は「しめ縄」「排水」「かまぼこ」でお願いします。
304 :
しめ縄−排水−かまぼこ:2011/10/30(日) 08:53:21.28
俺が驚いた理由は、目の前で止まったタクシーから降りてきた女が、下半身にしめ縄をしただけの半裸だったからだ。サングラスで顔を隠していたが、かなりいい体をしていた。
俺は矢も楯もたまらず女に近寄って、おもむろに買い物袋から、さっきローソン99で買ったばかりの……買ったばかりの……かまぼこを取り出した。
「お嬢さん、これで……どうです?」
「ふざけるな!」
白昼のしめ縄半裸女にふざけるなと言われて吹き出しそうになったが、このままでは引き下がれない。
「あなたにはふざけたかまぼこかもしれません。しかし、僕には貴重な蛋白質でありカロリーなのです。いいですか、これは私の命なんですよ」
「知るか、アホ。そこをおどき」
「どきません。僕はあなたに一目惚れしたんだ。町中でしめ縄ひとつでいられるなんてただ者じゃない」
「ちょっとちょっと、困るなあ『俺』さん」
電信柱の陰からカメラをもった業界風の男が出てきた。
「今、AVの撮影中なんですよ。邪魔しないでください。それとも飛び入り出演なさいます?」
AV出演だって? それは困る。
俺は穴があったら入りたくなり、近くの工事中のマンホールに飛び込んだ。
――あれから十年、俺は恥ずかしさで外に出られず、下水の排水から流れてくる汚物をエネルギー源にして生きている。
お題、継続!
詰まりぎみだった浴槽の排水も良くなり、換気扇掃除も済んだ。
ようやく暮れの大掃除も終わったようだ。
「あなた、かまぼこ買うの忘れてたの。悪いけど買ってきてくれない?」
台所から女房の声が言う。玄関で靴を履いていると、
「ついでにしめ飾りも飾っておいてね」
まったく困ったもんだ。
しめ飾りを玄関の戸の上の釘に引っ掛けると、今年もいよいよ終わりに近づいたのだと実感する。
しかしどうもこのしめ縄の部分が左右非対称で、なかなか綺麗には飾れない。
わらもパサパサしていてあちこち飛び跳ねている。どうも全体的に痛んでいるようだ。
「お父さん、何してるの?」
振り返ると、知らない娘さんが不思議そうにわたしを見ている。
「うちのに頼まれましてね。全く人使いの荒いやつで」
すると娘さんはわっと泣き出してしまった。やれやれ何だってんだい。
「どうしたんだい。ほらしっかり立って。こんな薄着で風邪をひいてしまうよ」
まったく困ったもんだ。隣の奥さんも呆れてこっちを見ている。
次は「ピアノ」「電線」「ボール」
「美空ひばりは歌のために雲雀を飼ってたの、それを聞いて私も真似しようかなって」
フルート科に行っている女の子は、私が何故、風で電線が鳴いている音をMDで聞いてるの?
と聞いたときそう答えた。
マンションの前の道の電線が鳴いている。私はピアノを止めて窓の外を見た。
空は鉛のような色をしていて、まだお昼だというのに外は暗い。
冬の低気圧が東に向かっているそうだ。まさか雪が降るのだろうか?
早めに保育園のほうに連絡をしておいた方が良いかもしれない。
私は寒さに弱い娘のことを考えた。
「……の試合の最中、ホームランボールが球場の外へ出て歩行者に……」
テレビをつけたがどの局も天気のことは伝えていなかった。
野菜が少なくなっていたからスーパーに行こうと思ったが
今日は止めた方が良いかもしれない。私はそう考えながら画面に映る
ボールが当たった歩行者のインタビューを見ていた。
「トイレ」「笑い声」夜中」
「こんな音では駄目だ!」
ジャーンと鍵盤を叩き、俺はピアノを離れて窓から外を見つめた。
コンクールは間近なのに、納得の行く音が出ない。
「ここから飛び降りたら楽になれるかな」
マンションの8階から飛び降りたら、おそらく命を断てるだろう。
「あの電線に引っかかりそうだな」
地面に叩きつけられる前に電線に引っかかって感電し、命を取り留めるのもなんか嫌だ。
「芸術的じゃない」
一刀両断に首を切られるとか、炎に包まれても微動だにせず絶命するとか、爆発して一瞬で粉々になるとか、何かしらの美学を体現したい。
「でもその前に、名曲を作曲するとか、歴史的名演奏を残してから、心置きなく死にたい」
それを実現できるのは、ごく一部の才能ある人間だというのはわかっている。
彼等だって納得して人生を駆け抜けたのかはわからない。死後に評価されたり、生前は持てはやされても、忘れ去られて行く者もいる。
「死んだ後に、転がり落ちて行くのも嫌だ」
ボールのように……。
「静寂の後、ボールのように転がり始める」
俺はピアノに戻り、再び演奏を再開した。
次は「些細なこと」「女の子になりたい」「ちっちゃいものクラブ」
夜中。午前3時、僕は目を覚ました。物音をたてないよう二段ベッドから降り、妹の寝顔を横目にトイレに向かう。
用を済ませ脱衣場にある鏡に向かい合う。やっぱり僕は可愛い。透き通るような白い肌。長い睫毛、ぱっちりとした目。小さくて可愛いらしい鼻、そして紅を塗ったわけでもないのに紅い唇。どうして僕は男の子なんだろう?指先で唇に触れながら思う。
性別を意識しだしたのは一年前くらいからだ、それまではスカートも穿いていたし、ぬいぐるみで遊んでいた。男の子なのに女の子みたいなのは左利きとか肌の色が違うとかそういう類いのもので、ちょっと面倒だけど特別珍しいことでもない些細なこと、そう捉えていた。
しかし成長するにつれて聞こえてくる笑い声や奇異の眼差しは僕を悩ませた。今ではスカートも穿かない、ままごともしない、僕は自分を殺した。それでも……。
「女の子になりたい」
ちらっと視線を左下にやると脱衣篭の白い塊が目に入る。「ちっちゃいものクラブ」という妹の好きなアニメのキャラがプリントされた下着だ。
気付くと鏡の前にはそれを穿いた僕が立っていた。違和感は全くなかった。主観的なことだが自信があった。僕は女の子だ。僕は女の子なんだ。
「お兄ちゃん可愛いもんね」
ギクリとして振り向くと妹が立っていた。
「お兄ちゃん女の子みたいだもんね」
どうみても絶望的な状況にも関わらず、僕は照れていた。妹の言葉に、自分の姿に、うっとりしていた。
次題 「翡翠」「洞窟」「蝶々」
「占のとこ? ……本当は勉強中だから、あまりしゃべりたくないんだけど
好きな言葉や思いついた言葉を三つ言ってもらうの。
精神医学の世界では自由連想法っていうらしいんだけど、私が教わってる先生は
そういう言い方はしない。どっちかというと易とかを、やってる東洋系だからね。
……試しにユミコが上げてみてよ。
翡翠、洞窟、蝶々ね。翡翠っていうのは鉱物。石のことよね。
洞窟は穴、暗闇。光の届かない場所。蝶々は飛ぶもの、自由なもの。
そして命が短い。それに反して翡翠は永遠よね。
最初に言っときたいんだけど、こういうのって当たるも八卦、当たらぬも八卦
だからね。あんまり気にしないで欲しいんだ。ユミコとは知り合いだから
余計に当たりやすいって事もあるし検討外れのこと言っちゃうかもしれない。
夢占ってあるでしょ? あれも精神医学の偉い人でユングって人が始めたんだけど
お弟子さんみたいな人で河合隼雄 って人がいるのね。
もう亡くなったんだけど文化庁長官とかしてたの。その人が言うには
夢占ってそんな簡単に出来るもんじゃないんだって。
つまり私のやろうとしてる言葉占も「勘」って言っても良いぐらいって思っといて。
それじゃあ、やってみましょうか。ユミコの言葉を分析するに……」
「信号」「無人」「役者」
310 :
翡翠、洞窟、蝶々、信号、無人、役者:2011/11/03(木) 07:47:28.68
芥川十三は、深酒による頭痛をこらえながら、たった一人、地下鉄の窓外を眺めていた。
「随分とアトラクティブな地下鉄なんだな。ここは遊園地なのか?」
窓の外は、剥き出しの岩盤がすれすれに流れている。岩々の激しい凹凸が、時には窓を擦るかとさえ思われた。
誰もこれを地下鉄とは呼ばない。地の底にどんどん突き進み、落ちていくだけの列車。終着駅は地獄か冥界か。帰ってきた人がほとんどいないから定かな詳細は不明のまま。
洞窟 列車――それが都市伝説で言われるときの、こいつの呼び名だ。
「遊園地に行くならせめて彼女でもいればいいのに――」
芥川十三は向かい合う目の前の空席を寂しげに眺めてまた目を閉じた。
暫くしたのか――してないのか、あるとき列車がうなりと揺れを休止させた。どうやら停車駅についたらしい。
静寂が逆に芥川十三の目を覚まさせた。
「無人 の駅なのか。本当に死語の世界みたいだ」
ふいに支柱の陰から銀髪の女が現れた。まるで気配が感じられなかった。
芥川十三は、あっと思った。
彼女は、衣服を着ていない。
(つづく)
311 :
翡翠、洞窟、蝶々、信号、無人、役者:2011/11/03(木) 07:50:27.16
――彼女は、衣服を着ていない。
かといって全裸という表現が当てはまることもない。
そもそも彼女は生物学的に女ではない。
《彼女》は、翡翠製の外殻を持つアンドロイドだった。
女は列車に乗ると、芥川十三の前の席に座った。
「そのまま 翡翠 と呼んで下さい。十三、あなたのことは聞いています」
「翡翠……よろしく。噂通りの美女だね。ところでその頭でチカチカ光ってるのは何だい?」
翡翠は肩まである銀髪に止まっていた 蝶々 を手に取った。ブローチかと思ったが、蝶は羽根を羽ばたかせて翡翠の人差し指に自分から止まった。
「これは位置情報の 信号 を発しているんです。あなたと私が見失われないように。そして私が正常に機能しているかどうかの監視もね」
『つまり俺様はお前達のお目付役ってわけさ。ジミニーって呼んでくれ。ピノキオの蟋蟀じゃないけどな』
突然脳内に言葉が送り込まれてきて芥川十三はびっくりした。
『おい十三。彼女に変な気を起こすなよ。全部組織にばれるからな』
翡翠はにっこりと笑った。とてもアンドロイドとは思えない、引きこまれるような微笑みが芥川十三を誘った。
「さあ十三、行きましょう。無限の闇の探索へ――」
芥川十三、アンドロイドの翡翠、喋る蝶々のジミニー。これで 役者 がそろった。
二人と一匹の長く暗い旅はここから始まる。
(次回お題「ヘドロ」「缶ビール」「ハムスター」)
「ヘドロ」「缶ビール」「ハムスター」
こうやってね、缶ビールのカンカラの、上の部分をカンキリで切り取って
水で洗って、切口にガムテームを貼って、鼠さんの家を作ったよ
俺は気持ちよく酔っぱらって、鼠さんは家ができて
お前はより難易度の高いハンティングを楽しめるわけだ
ほら、ここに鼠さんがいるでしょ?
動いてる動いてる……ここにいる鼠さんが……
フッとこの中に逃げ込む!
逃げ込んだよ!!
あれ……全然面白くない?
鼠さんを追っかけたお前がこの中に頭つっこんでズコズコする様を期待してたんだけどね
ダメ?全然気に入らない?
お酒臭いのが嫌なの?
ごめんね、大丈夫だよ
じゃ普通に遊ぼう
ほら、鼠さんがここにいます……平和に暮らしております
鼠さんはハムスターと違って、空き缶の中には入りません
下水管の中にいます、ヘドロにまみれて暮らしております
ほら、動いてる動いてる……それがフッと消えて
右手の中かな、左手の中かな?
分からない?
こっちだよ、ほらここにいたよ!
難しかった?
俺ちょっと酔ってるね、ごめんね
「恋路」「ジョーカー」「曖昧」
313 :
名無し物書き@推敲中?:2011/11/03(木) 21:59:50.94
恋路 ジョーカー 曖昧
世の中は曖昧なくせに曖昧を好まない。0か1か。答えを常に欲しがる。
それは生きる意味とかあの人は私のことを好きかどうかとか。
そんなことを駅のホームで佇みながら、行ってしまった列車を見送りながら考えていた。
『out of service』という電光掲示板が今日の終わりを告げている。
私はすっかり冷えきってしまった缶コーヒーを一気に飲んでゆっくりと立ち上がった。
ビルの向こうの月が綺麗だった。
人の恋路に邪魔をするつもりなどなかった。ただあの人が好きで、それだけだった。
あの人は今日も帰ってこない。あの娘と一緒にいるんだろう。あの人が帰ってくるこのホームで会ったら偶然を装うつもりだった。
メールなんて気安くできないし、連絡はいつも私から。
あの二人にとって私はジョーカーでしかない。ジョーカーでしか。
だけど今夜はビルの向こうの月が綺麗すぎた。
駅員は私を早く帰って欲しそうな目で「本日の業務は終了しました」と口にする。
誰もひいてはくれない。
それなのに今夜は月がない。新月は美しい。そこにいるのに誰にも気づいてもらえず、健気に明かりを待っているのだから。
私は行こう。
駅員が叫ぶ。
私は行くのだ。この道を。
私はおもいっきり走った。
「ヒモ」「コート」「まくら」
イントロダクションは玄関に積み上げられたゴミ袋の山のカットだ。
そこからカメラはゆっくりパンをして脱衣場にうつる。
脱衣場の洗濯籠には、これまた山のように洗濯を待つ衣類が積まれていて
夏の太陽でしおれた草のようなブラジャーの紐が籠の隙間から垂れている。
トリンプのピンク色のブラジャー。
カメラが次に写すのはベッドだ。真っ暗な部屋にコートを着たままの女が
だらしなく足を広げいびきをかいて寝ている。
枕はベッドの下、床に置かれたDVDのケースの上にある。女が枕を拾うとき
きっと足の裏でケースを割るだろう。
ハルミの体を抜け出した精神はカメラを持ってハルミの部屋をベッドを
撮影している。その映像はハルミは頭の中で映し出される。
今日はあまりにも飲みすぎた。体がぐるぐる回っているようだ。
そうハルミは思う。
――目が覚めたとき気分が悪くなりませんように
ハルミは無意識の谷に落ちる前に誰かに祈った。
「土曜日」「雨」「買い物」
土曜日 雨 買い物
あいつが一日中うちにいる土曜日はいつも憂鬱だ。
だから大学時代の友達の誘いにのることにした。
雨の中、駅への道を急ぐ。
近所に住んでいる老夫婦が車道を挟んだ向こうに見えたので軽く会釈した。
向こうも私に気づき、会釈を返して来た。
よし、これでいい。
外出の口実である買い物を済ませ、いつもの喫茶店に入る。
顔なじみの店員と軽く会話を交わす。
これで私が今ここにいることを複数の人間に覚えてもらえただろう。
コーヒーを飲みながら喫茶店でウインドウ越しに外を見ていると
救急車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎた。
携帯電話が鳴った。発信元はお隣の奥さんだった。
電話に出ると、うわずった声で要領を得ないことをまくしたてられた。
だが内容はわかっている。私もせいぜい動揺してみせなければ。
約束どおりやってくれたようだ。さあ、今度は私の番だ。
次は「探偵」「マシュマロ」「文庫本」
中学生のころの怠惰が、ときどき私を悩ませる。
高校受験も終わり、卒業を控えた中学三年生の三学期、美術の授業で平面板に彫り物をする課題を行なっていた。
なかなかアイデアが浮かばず、やっと彫るものが決まって作業に取り掛かったものの、残り時間が少ない。
期限は二月末の最後の授業までだったが、高校の合格発表も終わり、無事合格が決まっていて、余程のことがない限り覆ることがない状況で、あまりやる気が出なかった。
結局期限が来て、未完成のまま提出するどころか、提出しなかった。
「できていない人は、卒業までに持ってきてくださいね」と言われたのに、作業に手も付けずに、未提出のまま卒業してしまった。
あれから十数年が経ち、ときどき夢に出てきてうなされる。
期限が明日に迫った時点で、課題と別のことをやっていたことに気づいたり、期末試験一週間前になって、他の教科も含めて、違う学年の教科書を今まで勉強していた状況だったりと、少し形を変えて、夢に出てきてうなされる。
インタビューを受けたときに、この話をしたら、
「先生、今からでも、そのやりかけの課題をこなせば、うなされなくなるんじゃないですか?」
「卒業後、何年かは、本棚の文庫本の上に置いておいたんだけど、いつの間にかなくなってしまって。捨ててしまったのかな?」
「先生ご自慢のマシュマロ探偵に探してもらってはいかがですか?」
マシュマロ探偵とは、私が執筆する推理小説に出てくる探偵の名だ。
「マシュマロより、コナン君の方が腕がよさそうだよね」
と私が言うと、インタビューをしている彼の顔がひきつった。
コナン君は、ライバル出版社の作品だ。このインタビューは、マシュマロ探偵掲載出版社の主催で行われている。余計なことを言ってしまった……。
「えー、なんにせよ、先生のご心労が軽減されるといいですね」
と言って、笑いながら睨まれた。
「はは、今度、美術の課題に困った中学生をマシュマロ探偵が助ける話を書きますよ」
絶対に締め切り期限は守ろうと、心に誓った。
次は「未来人」「現実」「進歩」
「人間は進歩しなければならない」
私は、そう思う。
過去と同じことをやっていては、今この現在に生きている意味がない。
多くの人は、現状に満足して、一歩前へと踏み出さない。
なぜ今この時代に生きているのか? 過去ではなく、なぜこの時代に生まれたのか?
「世の中を変えるため、世界をよりよくするため」
怠惰に生きていても、それなりに生きていける。現実は、それほどの困難を要求しない。
しかし、人間は進歩しなければならない。
過去の人間に現在を変えることはできない。今ここに生きている我々にしかできない。
未来のことは、未来の人間に任せればいい。
ーー3011年トーキョー
「という文章を、さっきタイムマシンで1000年前に置いてきたんだけど、どこか変わったかい?」
と彼女に聞き、彼は周囲を見回すが、特に変わった様子はない。
「やはり人は、なかなか動かないものなのかな」
過去が変われば、その先にある未来も変わって、タインマシンに乗り込む前と周囲の様子が変わるだろう、と彼は目論んでいた。
「でも、これが変わった未来で、私たちが気づけないだけなのかもよ」
「そうかな?」
「未来人」が「未来の人」になってしまいました。
次は「だが男だ」「すまない」「望み」
「……だが男だったんだ。すまない」
後部座席の男が暗がりの車内で言った。
男のタキシードのネクタイが少しだけ傾いている。
「もうどうでも良いさ。どうでもね」
運転席の男が言うと、後部座席の男は何か答えようと躊躇い
そしてまた言葉を飲み込んだ。
「望みはあるかい?」
運転席の男が言った。優しい口調だった。
母のような口調。慈悲深く暖かい。
後部座席の男は首を振った。
心にも頭にも何も言葉が浮かなかった。
ただ一時間前のことが繰り返し思い出されるだけだった。
考えたくは無かったが考えないではいられなかった。
――終わりなんだ。でも良かったんだ。
街の明かりが右から左へと流れていく。
人々は幸福そうだな、と後部座席の男は思う。
何も知らないっていうのは幸せなことだ。後部座席の男は思う。
何も知らないっていうのは。
「セックス」「嘘」「ビデオテープ」
322 :
「セックス」「嘘」「ビデオテープ」:2011/11/10(木) 01:06:58.50
「おまえ嘘ばかりつくな! このほくろ、おまえだろ!」
なぜ彼氏がこれほど怒っているのかといえば、わたしの過去の汚点である、AVビデオである。
彼はどこから手に入れたのかわからないけれど、旧くなったビデオテープをデッキに挿しこんで再生する。
映像がぼやけてよくわからなかったが、たしかに有名な男優とセックスしているわたしが映っている。
「わたしじゃないよ。こんなざらついた映像じゃ、ほくろかしみだかわからないじゃない」
彼にとっての問題は、出演していることもそうだけれど、それよりもさらに気にかかっていることがある。
それはわたしの反応の仕方なのだ。
「おまえ、おれと寝ているときはこれほど気持ちよさそうにしていないじゃないか!」
ほんとうにばか男である。
演技だということを説明してもいいのだけれど、そうすると出演していたことを認めることになる。
わたしはなんとしてもこのぼんぼん男と結婚して専業主婦になるつもりだったのだけれど。
わたしの人生設計、こんなくだらないことで自らくじいてもいいのだろうか。
彼が不機嫌になっている前で、わたしは悶々と考えつづける。
つぎのお題は「花笠音頭」「インド」「花火」でお願いします。
「留学生のお世話をしようと思うんだ」
ある日の夕飯の最中、父はいきなり切り出した。どうやら、インドからの留学生を我が家で受け入れる事を決めてしまったらしい。
次の週にはその時の僕と同じ年、高校二年生の女の子が我が家にやって来た。そして当然の様に僕がお世話係に決まってしまった。
決まってしまったものは仕方ないと、夏休みの間、彼女に街を案内する事にした。
毎年芋荷会が開かれる河原、蔵王の温泉、近所のプールなど。
日本のお祭りを見せようと、花笠祭りにも案内した。彼女は、思いのほか花笠音頭を気に入った様だった。彼女の笑顔が眩しく感じられた。
女の子と付き合った事の無い僕は、徐々に彼女を意識しはじめていた。
「日本の夏の風物詩に花火って言う物があるんだ。綺麗だから、今晩見に行かない?」
いつものとおり、僕は彼女を誘った。
「ハナビはインドにもあります。とってもきれいですよ」
黒目がちな大きな瞳を輝かせながら、彼女は言った。インドには『デイワーリー』と呼ばれるお祭りがあって、盛大に花火を打ち上げるとの事だ。少しがっかりした表情の僕に、彼女は囁いた。
「デモ、にほんのハナビ、みたいです。ワタシ、ハナビすきです」
盛大な花火大会の後、彼女は感謝の言葉を僕に伝えると、目を瞑る様に要求して来た。僕は言われた通り目を瞑ると、頬に柔らかいものが当たった。
「ステキなおもいでができました。ありがとう。インドにもきてください。いっしょにインドのハナビをみたいです」
僕は、初めてのキスに照れてしまい、頷く事しかできなかった。
彼女と過ごした夏休みから三年。最初は手紙やメールを交わしていたものの、受験もあり、次第に彼女との連絡は途絶えてしまっていた。
そして今、僕の手元には彼女と彼女の生まれたばかりの子供の写真が届いている。
写真の裏にはたどたどしい平仮名でこう書いてあった。
「ごめんなさい。でも、あなたきてくれないから……
インドのはなびのしゃしん、おくります。ほんとうは、あなたとふたりでみたかったのだけれど」
次は「引き出し」「つむじ風」「微熱」でよろしくです!
僕は今、一枚の写真を見ている。写真の中の女性は、大切そうに赤ん坊を抱きながらカメラに向かって微笑んでいる。
彼女の後ろには、空いっぱいに色とりどりの打ち上げ花火が咲き乱れていた。日本とは違う、エキゾチックなシルエットの向こう側に。
「留学生のお世話をしようと思うんだ」
ある日の夕飯の最中、父はいきなり切り出した。どうやら、インドからの留学生を我が家で受け入れる事を決めてしまったらしい。
次の週にはその時の僕と同じ年、高校二年生の女の子が我が家にやって来た。そして当然の様に僕がお世話係に決まってしまった。
決まってしまったものは仕方ないと、夏休みの間、彼女に街を案内する事にした。
毎年芋荷会が開かれる河原、蔵王の温泉、近所のプールなど。
日本のお祭りを見せようと、花笠祭りにも案内した。彼女は、思いのほか花笠音頭を気に入った様だった。彼女の笑顔が眩しく感じられた。
女の子と付き合った事の無い僕は、徐々に彼女を意識しはじめていた。
「日本の夏の風物詩に花火って言う物があるんだ。綺麗だから、今晩見に行かない?」
「ハナビはインドにもあります。とってもきれいですよ」
黒目がちな大きな瞳を輝かせながら、彼女は言った。インドには『デイワーリー』と呼ばれるお祭りがあって、盛大に花火を打ち上げるとの事だ。少しがっかりした表情の僕に、彼女は囁いた。
「デモ、にほんのハナビ、みたいです。ワタシ、ハナビすきです」
盛大な花火大会の後、彼女は目を瞑る様に要求して来た。僕は言われた通り目を瞑ると、頬に柔らかいものが当たった。
「ステキなおもいでができました。ありがとう。インドにもきてください。いっしょにインドのハナビをみたいです」
僕は、初めてのキスに照れてしまい、頷く事しかできなかった。
彼女と過ごした夏休みから三年。最初は手紙やメールを交わしていたものの、受験もあり、次第に彼女との連絡は途絶えてしまっていた。
そして今、僕の手元には彼女と彼女の生まれたばかりの子供の写真が届いている。
写真の裏にはたどたどしい平仮名でこう書いてあった。
「ごめんなさい。でも、あなたきてくれないから……
インドのはなびのしゃしん、おくります。ほんとうは、あなたとふたりでみたかったのだけれど」
次は「引き出し」「つむじ風」「微熱」でよろしくです!
ぼくの引き出しのなかにはひとつの雑誌の切り抜き記事が入っている。
それは2005年の「つむじ風が火星にも!」なんてタイトルで、衛星写真も掲載されている。
他愛ない記事だともいえるのだけれど、どうしてもぼくはそれを棄てきれずにいる。
当時ぼくは科学クラブなる学科内非公認サークルに属しており、共通項はなんとなく科学実験が好きだったというだけの遊び仲間だった。
ぼくはそのなかで晶子という名前の女の子に好意を寄せていた。
しかし彼女はぼくに微熱ほどの関心さえもなく、ただの話しやすい男の子という存在でしか把握していなかった。
あるときぼくがほかの惑星での微細な気象観測は、いまの技術の精度では難しい、なんてことをみんなの前でしたり顔で話したことがあった。
ちょっと知識のあるふりをして、かっこつけたようになんの根拠もないことをさも見てきたかのように語るのは容易い。
みんなそのときは感心して聴いていたが、しかし晶子はつぎの日「ほら」と勝ち誇った顔でぼくだけに見せてきたのは上記の記事だった。
ぼくは急激に恥ずかしさを憶えたのと同時に、彼女に対して気後れを感じ、なんとなく彼女に対して話しかけにくくなってしまった。
好きなのに、仲がよかったのに、思いを伝えることにさえためらいを憶えた。
ぼくに後悔があるとすれば、彼女との仲をそのまま修復できなかったまま、彼女は交通事故でそれから三ヵ月後亡くなってしまったことだ。
苦い自責の念を込めたまま、その記事をぼくはいまでもなかなか棄てられずにいるのだ。
つぎは「昆布」「妊娠」「新嘗祭」でお願いします。
326 :
昆布と妊娠と新嘗祭:2011/11/20(日) 21:31:48.48
小学校、放課後。
ダイチ「今日は新嘗祭だな」
ガチャギリ「――ってナニよ?」
ナメッチ「わかんないっす……」
ダイチ「なんだお前ら、新嘗祭も知らんのか?」
ハラケン「僕、知ってるよ。新嘗祭というのは宮中祭祀の一つで、」
ダイチ「原川、お前は黙ってろよ(博識ぶるんじゃねえ!)」
男子たちがワイワイやっていると、イサコが通りかかった。
ダイチ「あ、イサコさん、今日は新嘗祭ですね」
イサコ「なん……だと? ニイナメ祭……(お兄ちゃんを舐める祭り、かな?)」
ナメッチ「そんなことより、せっかくイサコおやびんも揃ったんだからあれしよ、アレ」
ガチャギリ「おっ、乱交か、いいねえ!」
イサコ「お前ら、ここは学校だぞ。それにアレも持ってないくせに妊娠したらどうするんだ?」
ハラケン「イサコ、それなら大丈夫だよ。昆布をたくさん食べれば」
ガチャギリ「それ放射能災害時の間違いじゃね? ま、これも間違いなんだけどさ」
ダイチ(なんだ、ハラケンて意外と馬鹿なんだな……安心した)
次「眼鏡」「電脳」「うんち」
今日、バイトに行こうとしたらスクーターのシートにうんちが乗っかってた。
一瞬、ほんの一瞬だけ落ち葉かと思って手で払おうとした。
――あの野郎!!殺す。何があっても殺す。
俺は怒りの沸点にあって自制が聞かない状態になってたから、前の家のドアを蹴飛ばそうと
道路に進み出た。が思い直した。あの糞婆がビデオで撮ってるとも限らないからだ。
知らない人には訳がわからんだろうが要約すれば俺のバイクがうるさいと
前の家の婆が俺に文句を言った。俺は謝ってアイドリングはしないようにするといって
事実、注意されて以来していない。がマフラーを交換していないのが婆の気に
触るらしく先月も俺がアパートに帰ってきたときガン見された。そして
嫌がらせの結果がこれだ。
――あの婆。殺す。
とはいっても実際に殺して刑務所に行くのは嫌だし、俺はそんなにひどい人間ではない
――はずだと思うからするわけが無い。ではどうしたらいいか?
電脳世界にあっては爆弾の作り方はカップラーメンを作るより短い時間で
見つけることが出来る。俺はモニターの前でわけの分からない奴には、呪文とも思える
化学式を目に頷いた。アイガティイト。
大便爆弾が破裂した事件はインターネットでも話題になってるから、君も知ってるだろう。
そして俺は刑務所にも行かず前と同じような生活を続けている。なぜかといえば所詮婆は婆。
俺が怖くなったに違いない。一切しゃべらなかったらしい。
まあ婆も眼鏡を壊しただけで実害は殆ど無かったようなもんだから。
悪臭が近所に数週間漂ったのを実害と言わなければね!
サイコ コブラ ラクダ
328 :
サイコとコブラとラクダ:2011/11/23(水) 06:10:27.39
とある小学校の遠足。場所は、ふれあい動物園。
ダイチ「すげーなここ。動物にじかに触れられるんだってよ」
デンパ「でも獣姦はやっちゃだめだよね」
ナメッチ「ジューカンて……何?」
ハラケン「獣姦ていうのはね、人間と他の動物が性的――」
ダイチ「お前は余計なこと言うな(博識ぶるんじゃねえ!)」
ガチャギリ「ダイチ、こんな奴らほっとこうぜ。キモすぎだ」
ダイチ「そうだな。あっ、見ろよ。ラクダだ。入園者に混じってラクダが悠々と歩いてやがる!」
ダイチたちがラクダに乗ろうと駆け寄ると、それより早くイサコがコブの間に飛び乗った。
イサコ「何よ、なんか文句ある?」
ダイチ「イサコさん、いえいえ文句なんてありません(くそ、女のくせに!)」
異変が起こった。二つのコブがイサコの体を挟んでもぞもぞと動き出したのだ。
イサコ「なん……だと?! おいやめろ、これは何だ?」
ガチャギリ「あれ、イサコの奴様子が変だぞ」
ナメッチ「なんかラクダのコブに挟まれて気持ちよさそうですね。のぼり棒みたい」
デンパ「イサコ、サイコーだよ。人前で動物とプレイするだなんて」
ヤサコ「ねえねえみんな、何やってるの? 見て見て、これ素敵でしょう?」
頭にとぐろをまいたコブラを装着したヤサコがやってきた。一同は一目散に逃げ出した。
次「首長竜」「ヒゲ」「魚類」
怨むなら魚類に生まれた自分を憎もう。
新種の回遊魚と言われる私の顔はどこからどうみてもサカナっぽい、
むしろ魚類とされる方が納得できるほど醜い。
同じクラスの「首長竜」は皆の人気者だけど、
首の長さをいつもからかわれていて、その度へらへら笑ってて、最悪。
見世物扱いってこと自覚してるのかな。
魚類と笑う級友の声を忘れようと速足で廊下を歩いていたら前から歩いてくるにやついたヒゲに呼びとめられた。
「回遊魚のくせに止まってていいのか?死ぬんじゃないのか?お前はほんと」
言い終わらないうちにヒゲが廊下のかなたへ吹っ飛んだ。
私の隣にはいつの間にか首長竜が立っていた。
しなやかにひねってヒゲを撃墜した彼の長すぎる首に、私は恋に落ちた。
次「こころ」「水虫」「みかん」
「しくしくしく・・・」
「どうしたんだい、みかんさん」
「あ、水虫さん。ぐすっ・・・きいてくださいます?」
「うんいいよ」
「この人に大事なものを奪われました」
「え、それはなんだい。あ、中身がない」
「そう、わたしの中はからっぽなんです」
「かわいそうに」
「もう生きていく自信がありません」
「まあそうだろうね」
「身もこころもボロボロです」
「身はもうないけどね」
「うっうっ・・・」
「わかったわかった、おれに任せな」
「はい、どうかこの人間に天誅を!」
次は「水筒」「サプリ」「引き出し」
お題
>>330 机の引き出しを開けると、サプリと書かれた封筒が入っていた。
この字はあいつの字だ。
健康マニアで、人の言うことを信じやすくて、お人好しの。
中身はいつも私に飲ませようとしてるサプリの錠剤もろもろだった。
私はそんなものは信じないと何度行ったら分かるのだろう。
効果があるのは科学的に証明されている必須栄養素ぐらいだ。
しかも、こんな怪しい、何がはいっているか分からない錠剤をよく飲めるもんだ。
そんな錠剤を、「これを飲めば健康になるんだよ」っていつも薦めてくる。
しょうがないので、いかにも、いやいや飲んでいるという顔して飲んであげている。
それをみるとあいつは安心した顔をするのだった。
よくみると封筒に何か書いてある。
「私が居ないときも飲み忘れちゃダメだよ。これを飲めば元気でいられるんだよ」
とか書いてある。
サプリを封筒から出しての手のひらで転がして、
「飲まずに捨ててもわかんないよな」とか一人ごとをいってみた。
そして、水筒の水で、あいつのくれたものを自分の中に流し込んだ。
お題「戦車」「魚」「居間」
332 :
戦車と魚と居間だっちゃ!:2011/11/24(木) 22:43:32.59
メガネ「ラムさん、今助けに行きます」
学生服を着た眼鏡の男はそう言うと、面堂が残した戦車に乗り込んだ。
メガネ「カクガリ、パーマ、チビ、お前らはどうするんだ?」
カクガリ「俺は……」
パーマ「メガネ……」
チビ「ラムさん……」
メガネ「強制はせん。決断は貴様ら自身の意思で決めるんだな」
パーマ「ちくしょう! この戦車四人乗れるんだろうな」
パーマの一言で一同が戦車に乗り込んだ。
メガネ「レオパルド1の定員は4名。少々キツいが我慢しろ。この狭さと閉
塞感が戦車の醍醐味だ。行くぞ!」
すでに満身創痍と化したクロガネの亡霊は、四人のラム親衛隊を乗せて、
ビルの壁面一杯に広がる巨大な魚影へと突進した――プチッ!
居間でテレビを見ていた俺はついに欠伸の意見に従ってスイッチを切ってしまった。
「相変わらず押井監督は意味が不明だなあ……さあ寝るか」
次回「鬼」「弁天」「雪女」
「鬼」「弁天」「雪女」
企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても国家や民族が消えてなくなるほど、
情報化されていない近未来──になっても、全国おパンツ職人大会が開かれることはあるわけで……。
世界、いや、宇宙中から応募者が殺到した。入賞者の発表は11月8日、
一桁の数字を足すとカブ(9)になるという get9な日が選ばれ、会場は言わずもがなの友引高校、その校庭。
♨の司会により、最終選考には残らなかったが主催者の目を引いた応募作品への選評が読み上げられる。
審査員はサクラさんである。
「迷惑な応募者がおる。参加しておいて辞退するという不届き者。この場にいるなら名乗りいでぃ!」
ざわ・・・つく中、リュックサックを背負い、両手でカメラを包むようににぎった、やや小太りの、
シャツをきちんとズボンの内側にしまった男性が「僕です」と叫んだ。
「ほぉ、おぬし。弁明があるなら言うてみぃ」
「不具合を見つけたら回収&修理、または破棄。それができないのが辞退するのが僕のジャスティス」
「フン。送られた側の都合を考えぬのか? 単なる迷惑じゃ。もう二度と応募せんでいい」
そして、彼の作品が晒された。爆笑の渦が巻き起こる。
辞退するまでもなく落選じゃないか、プロフが物凄いなら理解できるが、といった罵倒が浴びせられる。
最終選考に残ったのは弁天による赤い西陣織のパンツと、雪女による木綿の腰巻、そしてラムの鬼のパンツである。
チェリーと名乗る坊主の提案により、会場に訪れた観客の投票によって優勝者を決めよう、となったが、
結果を見届けずに会場を去ろうとしている彼に、校門の手前で、つむじのあたりからツノを一本生やした
小鬼が辞退男に訊いた。「なぁ、わいはあんたの作品、好きやで」
「……あ、ありがとう」
「だからラムに投票してくれへんかぁ?」
彼は、ひとこと、ちゅど〜んと呟いて、校門を出た。
次も「鬼」「弁天」「雪女」でお願いします。
雪がしんしんと降る夜だった。
高橋は柱の陰に隠れ、タバコに火をつける。フッーと一息。
タバコは学生時代からずっと付き合ってきた銘柄だ。パートナーと言ってもいい。高橋はタバコを指先で回しながら、その先で燃える火を見つめた。
「鬼ごっこをしょう」
と、切り出したの同僚の坂井だった。
その日高橋たちは、金曜の終わり、例のごとく飲み会を開いた。
その中で、一次会、二次会、三次会と行くうちに、若い連中で馬鹿らしい考えが浮かんだわけだ。
「童心にでも返ったつもりかよ」
と、つぶやく。白い息が、目の前に現れ、そして消えていく。
場所は弁天神社。高橋が小さいころ、よく走り回っていた場所だ。
目の前を見上げると、弁天様の像が、静かな雪に埋められながらも、荘厳に立ち尽くしている。子供時代には、こいつに悪戯しまくったっけ。
ふと高橋は自分のコートを脱いで、弁天様にかけてやることにする。
「これでよし」
と、気分よく弁天様を眺めていると、電話の着信。
出ると、同じく鬼ごっこ参加者の橘からだった。
「おい、雪女がでたぞ」
と、受話器ごしに呂律のまわらない声でまくし立てる。
「はぁ?」
と、突然、叫び声とともに橘は神社の真ん中にまで飛び出してきて、派手にコケた。
顔を真っ赤にして、雪を被りながら、腕を必死に振り回し、架空の雪女と戦っている。その姿は随分と馬鹿らしくて、なんだか笑ってしまった。
次、「地下室」「鮫」「ズボン」
335 :
地下室…鮫…そしてズボン:2011/11/28(月) 22:17:18.36
「おい、早くそのズボンを脱いで見ろ」
眼光の鋭い老人は、つなぎの作業着を着た短髪の娘に命令した。
「……わかったわ」
娘――リンダは躊躇の欠片も見せず、汚らしい作業着を床に落とす。
隠れていた両脚が露わになった。
「やはりな、歩き方でうすうす分かってはいたが」
リンダの右足はチタン製の義足だった。最新型なので、本物の脚と同じに動く。
ただ女としての見た目は、そのおかげで良くはなかった。
「パパに買ってもらったの。三十年のメンテナンス付きよ。年齢に合わせてリサイズもできるわ」
「そんなことはどうでもええ。なんでそうなった?」
「鮫よ。海で遊んでいたら、とつぜん鮫に食べられちゃった」
「よくある話だな。耳にイカができそうだぜ」
「だったら聞かないでよ」
リンダは少しガッカリしてベッドに体を投げ出す。
「さあ、これを見ても私を抱けるの?」
「わしは見た目では判断せん。その裏に熱くくすぶる魂を見て、そしてそれを抱く」
やがて暗い地下室に、二人の荒い息づかいが揺れ動いた。
それは残り少ない酸素の中で、二人にできる最後のいのちのあがきでもある――。
次は「身代金」「侍」「癌」でお願いします。
「身代金」「侍」「癌」
「要求通り一人で来た。誰にも話していない」
脇差しに左手首を置いて、男は、チャックの開いたスポルディングのバッグを放った。
ボスンという鈍い音。落下した衝撃のせいで、チャックから札束がのぞいた。
「数え終わるまで動くなよ」
と命令してから、黒いサングラスに白いマスクをした男は札束を数えつつ、
「しかし、どうしてそんな格好で?」
「自分で要求したではないか。深夜二時、江戸東京博物館のチケット売り場そばで侍ってろ、と」
「え? いや、待ってろ、と書いたはずだが」
「何ぃぃぃ? たばかりおって!」
「いや、あんたが読み間違えてるよ!」
「ぐぬぬ……不覚……」
「好きなんでしょ? ほんとは侍のコスプレしてみたかったんでしょ?」
「馬鹿を言うな! 息子がかどわかされたのだぞ。恥を忍んでに決まっておるわ」
「だからって月代までするかなぁ……って、おい! 金が足りねぇぞ!」
「身代金の不足は、これで」男は脇差しを抜いて、地面に置いた。
「いやいや、換金できないから、そんなの」
「実は拙者、癌で、余命いくばくもないでござる」
「おっ、泣き落としか?」
「倅と子連れ狼したかった……」
「いや、息子さん立派な社会人でしょ。乳母車に乗れないでしょ。俺だってIT社長だから誘拐したわけで」
「ええい、金はやる! だから、おぬしが拙者の代わりに拝一刀に──」
「できるか! ってか、人の話を聞けっ!」
「じゃあダミー・オスカーでいいよ」
「じゃあって何だよ! ダミオスも無理だよ! あんなの誰ができるんだよ!」
「スキあり!」男は、背中から抜いた金属バットで誘拐犯の頭を叩いた。
「ぐえっ……、おまえ、息子の命は惜しくないのか……?」
「武士として死ねるなら倅も本望だろう。ふふっ、今宵は月が美しい」
「もうやだ」
次は「気合」「空回り」「失敗」でお願いします。
337 :
気合い、空回り、失敗:2011/12/04(日) 11:33:28.76
細身の少女は三人の男子に厳しい檄を飛ばした。
イサコ「お前ら、もっと気合いを入れて探せ! ほらそこ、さぼんじゃねぇ」
ガチャギリ「へいへい」――ガチャギリはさすがにふて腐れて口数が少ない。
ナメッチ「相変わらず人使いの荒いお姫様だなあ。命令ばかりしてないで自分も手伝えばいいのに」――これはイサコには聞こえないようにヒソヒソ声だ。
ダイチ「イサコさん、本当にこんなところに《お宝》なんてあるんですか?」
イサコ「センサーに反応がある。人海戦術で付近を探せば《例の物》は見つかるはずだ」
ナメッチ「でも最近、空回りが多いっすよね。なんか最近やる気が失せてきて」
イサコ「今回が失敗に終わっても明日への糧になる。例え小さな出口でも、それを信じて進むことが大切なんじゃないのか」
ナメッチ「失敗は成功のもとってことですかぁ……」
ダイチ「せめて失敗は性交っ!、のもとだったらいいのに」
イサコ「あらダイチ君、何をジロジロこっちを見ているのかしら?」
ダイチ「いえいえ別に……」
この仕事に具体的な報酬の見込みはない。
イサコの肉体の魅力に囚われた、哀れな三人の男子の物語はつづく。
次回「肝試し」「女教師」「泥酔」
338 :
肝試し、女教師、泥酔:2011/12/07(水) 05:59:48.69
私は町内会長として、かつてない重責を感じている。
あれは夏盛りのことだった。
夏祭りはこの町の恒例の行事で、町内の誰もが参加して賑わいを見せている。
中でも子供達に人気のあったのは、肝試しだ。
大人達がおのおの、お化けに扮して、暗い道中を歩く子供達を驚かすという他愛のないものだったが、大人達は皆子供の驚く顔が見たくて毎年凝った扮装で夜道に潜んだ。
そんな楽しいはずの夜だった――。
「ほとけが上がったぞー!」
ほとけ? 何のことだ。冗談じゃない。ここは陸地だぞ。
現場に駆けつけると、魔法少女まどか☆マギカのコスプレをした、小学校の女教師が肥溜めに落ちて、既に溺死していた。
なんでこうなった?
「この先生は肝試しの景品にするはずだったウイスキーボンボンですっかり泥酔しちまってね、それで肥溜めで足を踏み外してこの有り様だよ」
私は彼女の衣服を引き裂いて、異臭もかまわずに心肺蘇生を試みたが無駄だった。
この女教師の生徒である私の息子が茫然と見守っていたのが今も忘れられない……。
次回「魔法」「中年」「ペット」
339 :
魔法、中年、ペット:2011/12/08(木) 22:10:20.76
「魔法使いになりたいと思ったことはないか?」
「ねえな。大金持ちならなりたいけど」
「夢がないなあ」
「言うな。大体お前は夢見すぎなんだよ。なんだよ魔法使いって? ハリポタとかか。あほじゃねえの?」
「違うよ。魔法使いって言ったら――」
「ちょっと待て。《魔法少女》とか言うなよ、言うなよ絶対!」
「まーそのー、なんだ、あれ、三角の帽子かぶって箒にまたがって夜空を飛んでる……色っぽい女の人だよ」
「魔法少女じゃねえか。けっ、やめろやめろ馬鹿馬鹿しい。お前の言ってることはいつも意味不明なんだよ。キモいんだよ」
「そんなことはないよ。僕はいつも……あ」
「どうした? 突然空を見て……あ」
二人の中年が見た先に、大きな満月を背景にして、箒に跨がった魔法使いが浮かんでいた。
「あ、今、何か落としてったよね」
「うん、確かに何か小さいもんが落ちたな」
二人が駆けつけると、一匹の白い猫が地面にへたばっていた。
そこに魔法使いの女が舞い降りた。
「あら人間に見つかっちゃって、本当にドジな使い魔ね」
「あ……あなたのペットですかこれ」
「まぁそんなようなもんだけど、もういらないわ。契約解消! それ、あんたたちにあげるから」
魔法使いは素っ気ないそぶりを見せて、空に消えていった。
「ちくしょう、いいケツしてたな、あいつ」
「そんなことより、君、大丈夫かい?」
(ありがとう……君たちは悪い人ではないみたいだね)
「女の前では悪い人になるかもしれないけどよ。傷ついた猫には多少の情はあるぜ」
(そうか。じゃあ君たちに話があるんだけど……)
「なんですか?」
(僕と契約して、魔法中年になってよ!)
次【廃墟】【美少年】【髑髏】
2012年12月8日夜、寒空の下、とある公園に、突然、一人の少女が現れた。
「ううー、寒いのう」
と、両腕を抱えて、ぶるぶる震えながら、少女は辺りを見渡した。
「学校で習った50年前の世界、そのままだの。しかし、寒いの。まだ天気を操れない時代は、こういうものなんだの」
ぶつぶつ呟きながら歩いていると、一人の男が頭をたれて、ブランコに腰掛けていた。
少女が下から覗き込む。
「おい、中年、どうした?」
わっと驚き、ブランコから落ちそうになりながら、男が少女を見る。
「何とも死にそうな顔をしているの。いい大人がこんな所で。どうしようもない時代だの」
男の顔をまじまじと見つめ、少女は言った。
「よし! 我輩がお前の願いを一つ叶えてやろう!」
男がぽかんと少女を見つめている。
「我輩は50年後の世界から来ただの! 50年後の世界では、いわゆる魔法と呼ばれるものが発達している。
2012年の人類レベルの願いを叶えることなどたやすいのだの!」
何言ってんだこいつ、と言いたそうな顔を男がする。
「人を馬鹿にする表情は、昔も今も変わらないんだの」
「ほら、中年、何か願いを言ってみろ」
いつの間にか手にしているステッキを男に向けて振り、少女が催促する。
しぶしぶと面倒くさそうな顔をしていた男は、何か閃いたかのように、小声で呟いた。
「何? ペット? 犬とか猫とかかの?」
男は首を横に振り、ポケットから雑誌の切れ端を取り出して、少女に見せた。
それを見た少女の頬が赤らんでいく。
「本当にどうしようもない時代だの! だから、あんなことが起きるんだの!」
と言った少女は、はっとして口を手で塞いだ。
様子が変わった少女を男が見ている。
「はは、何でもないだの。ほれ、お前の望みのものだの」
少女がステッキを振ると、男が望んだものが現れた。
「じゃあの。いい夢見ろよの」
驚く男を後に、そそくさと少女はその場を離れ、最初に現れた場所に戻ってきた。
「今の我輩の力では、一人の中年を驚かすのが精一杯だの。もっと勉強して、大人になったら、もう一度来て、
必ずあれを食い止めてやるだの!」
拳を握りしめた後、少女はふっと力を抜き、手のひらを開いた瞬間、その姿が公園から消えた。
次は339さんの【廃墟】【美少年】【髑髏】で
342 :
340:2011/12/08(木) 22:42:50.07
今年は2011年か。2012年かと思って間違えました。特に意味はなく、2011年12月8日に読み替えてください。
少年の顔はブサイクだった。あるいはそれをジョークに出来る性格ならば
人並みの青春を送れたかもしれないが少年は暗かった。髑髏と渾名される
その顔には常に死相が浮かんでいた。
「アンパン買って来いよ髑髏」
そう不良の一人が言うと少年はヘラヘラした作り笑顔でうなづくのだった。
そんな時、隣の席のマリコは
悲しそうな顔で少年を見るのだった。
少年がその近所でも有名な廃墟に足を踏み入れると足元を
ゴキブリが逃げて行った。少年は笑う。乾いた声で。
「ゴメンナサイ」
少年はそう呟いて梁に巻いたロープに首をかけようとしたとき足音がした。
いつも少年を苛めてる不良達だった。
少年は次の日、屋上に行き革靴をそろえ後ろを振り返った。不良達が
「髑髏止めろよ」と笑った瞬間、少年は飛び降りた。
声がした。体が痛かった。激痛が目覚め少年を襲った。
顔には包帯が巻いてあって足は固定されているようだった。
母が「リョウタロウ!」と声をかけた時、顔はどうなったのかと少年は思った。顔はどうなった?
あのブサイクナ顔は!
「二重に! 鼻は高く、あごは削ってください!」
少年は医者に懇願した。自殺した理由を話し苛められるばかりの人生を話した。
「考えておきましょう」
医者はそう言って席を立った。少年は医者の考えが分かり退院したら、また自殺しようと思った。
少年が退院後初めて学校に行くと少年の席には実験室からもって来た人骨模型が
置いてあった。教室は静まり返っていた。みんなが少年の反応を待っていた。
がっしゃあああああんんん。
少年は人骨模型に思い切り蹴りを入れると模型の頭蓋骨が吹っ飛び黒板に当たって
大きな音を立てた。少年を苛めてる不良の一人が立ち上がって少年の方に
向かってきた。
「退院おめ…」
そう言った生徒の襟元を少年はつかんで高く上げた。自分で自分が
している行動がわからなかった。自分でびっくりした。大胆なこの行動は
死の淵から蘇ると強くなると言うサイヤ人の血かもしれないと少年は思ったが少年は人間だった。
「いい加減にしろよ」
少年がそういうと生徒の顔に怯えが走った。少年はその瞬間、立場が逆転したと感じた。
「整形してさ、美少年になる予定だったのに」
そう言って少年は低い鼻を触った。そして大きなあごを。
土手の上には夕暮れが近づいてきていた。
「噂になってるのよ。すごい頑丈な体だって」
マリコは花粉症で同じ病院に通院している。
「まあね」
少年は力こぶを作ってみせる。マリコは少年が冗談を言うことが信じられなかった。
見かけは同じでも性格はまるで違う感じだ。
「きれいな夕日」
マリコは指差す。
少年は君の方がきれいだと言いたかったが、それは恥ずかしかった。
「台所」「夜」「隣」
「台所」「夜」「隣」
二時間ほど眠るつもりだったのに目が覚めたとき時計の針は深夜二時を回っていた。
椅子に腰をおろして、パソコンが起動するのを待つ。
「やっちまった……」
夕飯も食べずに三度目の推敲を終えた250枚の原稿はレターパック350に収まったまま、
眼前の机に置いてある。
日付が変わるせめて四十分前に起きていればまだ郵便局に間に合った。
窓口の局員に昨日の消印を押してもらって応募完了、のはずだった。
しかし、強烈な眠気に全身を包まれたまま運転したくなかったのだ。
居眠り運転で取り返しのつかない事態に陥るより締め切りが一年のびたほうがまし。
そう自分に言い聞かせて、運転のために我慢していたウイスキーをグラスに注いで、呑った。
寝ぼけ頭の、動きの悪い指でマウスを動かし、ブラウザにユーチューブを出し、
キーボードに straight no chaser と打ち込んで、やっぱり別の、これにした。
http://www.youtube.com/watch?v=zre0u5XyNfY モンクのピアノに耳を傾けながら冷蔵庫を漁る。
トロロイモが残っていたので、包丁で千切りにして皿にうつし、麺つゆをかけて、
台所に立ったまま口にかっこんだ。うまい……。
箸を皿に置いてから、流しのステンレスの淵に両手の指を乗せ、見えない鍵盤を叩く。
「隣のトロロ、トロロ」
いや、今日、というか昨日はラピュタだったか……。
今日はもう小説のことは忘れて、皆既月食を楽しもうと思った。
次は「火星」「灰」「オッドアイ」でお願いします。
人類が火星に降り立ってから百数年。火星に生まれ、火星で育ったヒューマンが幾世代かを重ね、地球人類とは別の進化を遂げていた。
それを進化と言っていいのか、体の色素が薄れ、片目は虹彩の色と視力を失い、目の前に立つ相手の表情さえ読み取り難く、それゆえに、人々は表情を必要としなくなっていた。
もう幾世代か経れば、言葉を忘れ、聴力を失い、両目共に視力を失うかもしれない。その魅力的なオッドアイは、進化の過渡期の副産物で、神の実験の終了と共に、永遠に失われてしまうかもしれない。
「∧∝)∩♯《∠†」
誰かが呟いた気がした。
「∬凵q∋♭§∠」
いや、頭の中に直接響いてくる。
長い長い沈黙の後、最初のそれが出現した。
自分の思考ではない脳の揺らぎ。誰かが語りかけてくる。
「一緒に行こう」
そう言っているように思えた。
「どうやって?」
何も見えない。何も聞こえない。これがそういう状態なんだという認識もない。
「私の言う通りにして」
ーーテレパシー理論の確立。
そう書かれた展示室の中には、その歴史と出現までの過程、何体かの人体標本が並んでいた。
体の色素が薄れ、オッドアイを持つ人体。完全に色が抜け、両目ともガラス玉のような標本。展示箇所の最後には、一握りの灰が撒かれていた。
地球から定期的に火星を訪れ、進化の途上の火星人を何体か回収する。ついに、テレパシーの痕跡をキャッチした後、大規模な観測団を送り込んでみると、火星人は跡形もなく姿を消していた。
火星での拠点としていたターミナルには、ただ灰が降り積もっていた。
次は「詐欺」「知恵」「偽物」で。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
周りの方々が呼吸をするようにかわす挨拶が、あのお姉さまに対するときだけ、私にとっては、特別な儀式となる。
「ごきげんよう」
私がぼおっと、お姉さまの後ろ姿を見送っていると、同級生の沙織さんから声をかけられた。
「ごきげんよう」
はっと後ろを振り向き、挨拶を返すと、沙織さんは、にっこり微笑んだ。
沙織さんは、私がお姉さまに恋をしていることを知っている。でも、あの方は、ロ詐欺ガンティア、いえ、ロサ・ギガンティアなので、あなたの想いは届かない。
他にも、たくさんの方々から慕われていて、ロサ・ギガンティア様と言えど、そんなに多くの想いを受け止め切れない、と助言をしてくれた。それに、なによりも……。
「ごきげんよう」
知的な声音に振り返ると、ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの乃梨子さんが、私の横をそよ風のように通り過ぎた。
「ごきげんよう」
慌てて挨拶を返したときには、もう先を歩いていて、私の声は届かなかったかもしれない。
そう、彼女がいるから、お姉さまへの想いが届かない。白薔薇のつぼみである彼女と白薔薇のお姉様とは、『姉妹』として、スール関係にある。
私もそれはわかっている。
沙織さんにそれを話すと、知恵を出しましょう、と、とんでもないことを言い出した。
「ごきげんよう」
と、何度練習しても、乃梨子さんのような声音を出せない。私が諦めかけて沙織さんを見ると、にっこり微笑んで、
「ごきげんよう」
と、お手本を示してくれる。逃げられない。
私がお姉さまにお近づきになるには、乃梨子さんと同じ格好をして、同じ声音で挨拶をすればいい、と沙織さんが言う。
そんなすぐに偽物だとばれるようなことして、お姉さまに叱られたらどうなさるの、と抗議すると、
「ごきげんよう」
と、沙織さんは、にっこり微笑んだ。
次は「復唱」「素敵」「裏表」
復唱していた。その間銃に撃たれた。右胸。左胸じゃなくてよかった。
素敵な女性とは眉子の事を言うと思う一般的に
何故なら、裏表の激しい(まあ大抵の人間はそうだよな)人間だからだ。
眉子はなかなか俺の手マンじゃ濡れない
353 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/15(木) 05:34:16.23
はい、お題継続
ageんなカス
355 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/15(木) 22:52:25.24
看守「こら矢吹、ちゃんと訓示を復唱せんか!」
矢吹「へへっ、生憎俺はその手の記憶力が悪くてね、復唱する前に忘れたよ、へっへー」
看守「なんだと、貴様! だったら俺が二度と忘れんようにしてやる!」
そこに力石徹、登場――
力石「まあまあ看守さん、どうか抑えてください。矢吹の奴は俺がちゃんと躾けときますから」
矢吹「なんだ力石、また出しゃばりかい? そんなに俺に叩きのめされたいってか?」
ジャブの構えを始める矢吹丈――
力石、ニヤリとして――
力石「フン、相変わらず小物だな」
白木葉子(力石君――素敵よ。頑張って!)
彼女はこの少年院に慰問に来ている。
矢吹「俺はな、目の前に立ち塞がる奴を見るとぶん殴りたくて仕方がなくなるのさ。やるかい? さあ来いよ」
力石「待て、今日の勝負はこれで決めようじゃないか」
力石、ポケットから一枚のコインを取り出す。
矢吹、少々呆れて――
矢吹「おい力石、お前まさか、コインの裏表で勝負しようって気じゃあるまいな」
力石「その通りだよ。気に入らないのなら、カードか麻雀、チンチロでもいいぞ」
矢吹、少し青ざめて――
矢吹「お、おい力石、どうしちまったんだよ? 何か悪いマンガの読み過ぎじゃないのか。しっかりしろよ」
力石(終わった――何もかも――)
力石は突然倒れてしまった。今まで宿舎で、自分の血を賭けた麻雀をやり続け、既に3000ccの血液を体外に吐き出してしまっていたのだ――
次「覆面」「麦わら帽子」「陸上自衛隊」
「さあ、復唱して」
「僕は何も見ていません。絢辻さんは裏表のない素敵な人です」
「はい、よくできました」
355さんのお題で
「覆面」「麦わら帽子」「陸上自衛隊」
「ひいいいいいい〜」私は夜道を必死で走った
なぜなら後ろの男がありえなかったからだ
覆面で顔を隠し、冬で季節はずれの麦わら帽子をかぶり
陸上自衛隊のような迷彩服を着て、
股間をむきだしにコチラに向かってくるからだ
叫び声は、畑が点在する新興住宅地では人には届かない
私は、折れたハイヒールを捨てて家まで全力疾走した
翌朝、男はあのときのままの格好で、心臓発作により道端に倒れて死んでいた
次は「妹」「兄」「許されない」
妹が、僕にはいた。今となっては、ただ、僕の親が結婚して、離婚して、また結婚して、また離婚した、という、ただそれだけのことなんだけれど、
その時の僕には、さっぱり理解が出来なかった。
結局、今の僕の母親は、血が繋がっていない。そして、母親しかいない。妹、つまり、僕のお母さんの血の繋がっているただ一人の子供は、僕ら
の会話に出ることは無い。僕も、母親ももうとっくに彼女のことをあきらめて、許しているはずなのに、血豆がなかなか治らないように、妹の存在は
僕の家に充満していた。彼女の持っていたものが、押入れとか、整理ダンスとか、ペンたてとかからひょっとしたタイミングで出てくるたびに僕はこ
っそりそれを捨てていて、きっと母親もそれを分かっていながら無視していた。
今日もそんな、彼女の『遺品』とも言えるものが、出てきた。ノートの切れ端にはもう何百回と見てきたあの丸い、字間を異常に取る読みにくい字
で、僕の悪口が書いてあった。
「どうしたの?」
後ろのほうから母親の声がする。
「いや、なんでもないよ、ちょっと、考え事をしてて」
「気をつけてね、そこ、釘があるから」
「それにしても、久しぶりだね、大掃除なんて」
「そう、ね……」
僕は、こっそり舌打をして、ノートの切れ端をぐしゃと丸めてズボンのポケットに押し込んだ。
次は「J-pop」「蕎麦湯」「二階」
砂岡は例の如く会社を出ると真っ直ぐに自宅へと向かっていたが、不意に立ち止まった。
先日同僚から聞いた話を思い出したのである。
それは何でも砂岡の自宅の最寄駅の、丁度自宅とは反対側の方向へ二十分程歩いたところへ銭湯があるのだが、
何でもそこの主人の蕎麦好きが嵩じて蕎麦湯風呂なるものを作ってしまったらしいのだ。
砂岡は無類の風呂好きであった。大して趣味らしいものを持たず、酒も飲めない砂岡は、食事と睡眠、そして風呂を至高の楽しみとする至極原始的な生活を送っていたが、
今の住居に移って二月と経たない内に近隣の三つの銭湯は全て制圧してしまい、何れも足繁く通うほどの魅力がある銭湯ではないので最近は専ら自宅の風呂で済ましていた。
一旦そうと決めると砂岡は身を翻し、今来た道を再び早足で歩き始めた。やがて古めかしい木造の二階建ての、屋根の上から伸びた灰色の煙突が真っ赤な夕日を浴びて照り輝いているのが見えた。
ガラガラと音を立てて戸を開けると、待合には誰一人としていないようであった。奥からは洗面器や湯を流す音は確かに聞こえるのであったが、然し券売機のようなものは何処にも見当たらなかった。
どうしたものかと暫し狼狽していた砂岡であったが、受付らしきカウンターの端にスイッチが置いてあったのを発見した。
これが呼び鈴の役割を果たしているのだなと思い、そのスイッチを押してみると、
愛なき時代に〜 生きてるわけじゃない〜
天井の角に設置されたスピーカーから最近流行りのJーpopが流れ出したものだから砂岡は今度こそ閉口してしまった。
連投失礼、次のお題は
「堕落」 「競馬」 「孕む」
「堕落してるんじゃねぇの」と俺の前に座っているやつが口を開いた。蝉の声が四方八方から聞こえてくる。エアコンもないせまっ苦しい大学の部室で、俺達はただ時間を潰していた。
「うるせぇよ。授業フケて競馬中継聞いてるやつに言われたくない。まだ買えないんだろ?馬券」
あいつは暑そうに手で顔を仰ぐと、「未来への投資だよ」と唸った。
六畳強くらいの部室に、大量のダンボールが置いてあって、俺達はそこにうずもれるように生きている。それぞれが買ってきた二台の扇風機が、澄ました顔で首を横に振り続けていた。
ここは、何もかもが色あせている。時間の流れも、衰微してしまっている。
ただ現実とは違うどこか別の空間があって、気温だけが外界と同じ、と言ったように、よく出来た、人間用の水槽と言った風に、俺達は緩やかに老いている。二人とも、きっとそれは分かっているけれど、動くことが出来ない。
きっと、ここは何かちょっとしたことで壊れてしまう危険性を孕んでいて、俺達は、ついそれを確認したくなる。治りかけのかさぶたをほんの少しはがしてしまうように、何回もこんなことをして、それぞれの存在を確認しあっている。
「そろそろ、午後のコマかぁ」
あいつが、声を上げた。
「もう、ここを出ようか。来ないようにしようか」
「それも、ま、いいのか。それでも、いいか。実行は、肯定、バツ」
あいつはそんな風に、散文口調で言うと、競馬中継を聞いていた方耳イヤホンを外すと、立ち上がり、部室から出て行った。
あいつが出て行ったドアを見つめた。
「俺は、ちゃんと、時間を使えているか?」
二台の扇風機が、ただ、何事も無く、首を振っていた。
連投ごめん。次題は「コーラ」「掃除機」「日曜日」で
日曜日は、家で本を読むに限る。街中へ出てもどうせ人いきれに疲れれるだけだ。
窓もカーテンも開け放したリビングでごろりとなって文庫本を開く。
初夏の晴天のせいか、隣室も窓を開けているらしく、
掃除機の音がわずかに聞こえる。
正午近くなったので、近所のマックで照り焼きバーガーセットを買ってきた。
ドリンクを飲もうとして驚く。確かに俺は「アイスティー」を頼んだはずなのに、
入っていたのはコーラだった。仕方なく、湯をわかして紅茶を淹れた。
食いながらパソコンで調べたのは、コーラに使い道がないか、だ。
食い終わった俺は、コーラを便器内にぶっかけてやった。
また俺はリビングのひんやりする心地を楽しみながら、読書を始めた。
時折、まどろんだ。
本当なら1晩つけておくらしいが、夕方、俺の限界が近く、コーラぶっ掛けられ便所を
掃除することにした。驚くほど綺麗になった。
ぴあぴかになった便器で用を足すと、なんだかとても爽快な気分がした。
さあ、明日も仕事だ。
次「3本線」「家」「警察」
364 :
3本線、家、警察:2011/12/20(火) 05:42:37.14
梶浦が忍び込むと、家の中はすでにもぬけの殻だった。
家具さえもなく、がらんどうの空き家と化している。
連れの少女、ヒミコが呆れた。
「遅かったみたいだね。逃げたんだよあいつら」
「情報が漏れたのか?」
「警察の奴ら、とろいからね。おおかた潜入スパイでもいたんじゃないの?」
「所詮、組織力じゃこの事件は解決できないってことさ」
梶浦は部屋の奥に行った。
それを見つけたとき、梶浦は、ふんと鼻を鳴らす。
「これは挑戦状ともとれるな」
「ただの目立ちたがり屋なんだよ」
一枚の布が壁に貼り付けてある。これはワザと残したのか。
そこには、真ん中に二色に分けられた丸が描かれてあり、その四隅にそれぞ
れ丸を囲むように三本線が描かれてある。三本線は所々切れ目があり、四隅
のそれは全て別の模様になっていた。
――言わずと知れた大韓民国の国旗である。
「ねえ、韓国に行くお金なんかあるの?」
「今はない。しかし是が非でも向こうに行くしかないだろうな」
梶浦の目に、国旗の向こうで高笑いしている〈あいつ〉の顔が浮かんで見えた。
次「地縛霊」「こっくりさん」「死刑囚」
【脳波から構築した記憶】
「終わってるぜ」
と、右側のやつが言った。俺も賛同するように、そうだな、と言った。そして、指を置けよ、と低く、念を押すようにいった。
小学校のときの小さい机の周りを取り囲むように、椅子が三つ。そして、男が三人。
俺、右側にいる唇の曲がった軽薄そうな男、俺の左側に座っている無口なサングラスをかけている男。
そして、机の上に文字の書いてある紙と、五円玉。
「この歳になってこっくりさんなんてやってらんねっつーの!」
「だから、どうした。俺はとっととここから出たい。全員がおいてからたった五分耐えればいいんだ。置けよ、死刑囚仲間」
ああ、わかったわかった、と言って、軽薄が小指を五円玉の上に乗せる。瞬間、サングラスが、おい、と唸った。床の下からせりあがってくるような声だ。
全員が、指を置く。こっくりさんの、始まりだ。
指が、じっとりと汗ばむのが分かる。紙はもう既に、少し波打って――。
「なぁ、これ、おかしいんじゃねぇの?なぁ?なぁ?なぁ!?」
「五月蝿い、見るな!何も見るな!」
「……出たか」
紙に、何も書いていない。白紙。さっきまで印字。今は白紙。白紙。白紙。
地縛霊。死刑囚仲間の噂。何かが白くなる。大抵印刷されたもの。白くなる。中央から赤が広がる。見たやつは、全員死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
軽薄が赤!と絶叫した。俺は指を必死で押さえつける。後何分だ。もう一時間たったのでは。
赤がじわりと紙の中央。五円玉をそこに。抑える。紙が波打つ。サングラスが唸る。軽薄が叫ぶ。俺は目を瞑る。軽薄が叫ぶ。
「経っただろ!経っただろ!出せよ出せよ出せよ出せよ!」
引き抜かれようとする指を押さえる押し付ける机にめり込むくらい強くそして五分を待つ助かるまで地縛霊に殺されないようにどうにか生き残れるようにそして――。
「こっちでしょ〜?」
視界が暗転した。
【実験結果】
死刑囚三人に指定薬物を投与し、頭に電極をつけた状態で密室に閉じ込めたところ、三人の妄想の状況設定が似たものとなった。
そのまま経過を観察しようとしたが、四分五十六秒経過したところで被験者Bが抵抗行動を見せたため、三人に電気ショックを与え、死亡させた。
検体三人の補充を要請する。
追記:お題は『焼きそば』『シンク』『暮れ方』
367 :
焼きそば、シンク、暮れ方:2011/12/25(日) 06:43:09.27
若者は常にスリルを求める。
授業中のことだ。トニー山田は前もって用意していた日清のUFO焼きそばを取
りしだした。
(みなさーん、やりますよー)
後ろの席の連中にUFOの容器を見せると、真空断熱マグの熱湯をそこへ流し込
んだ。
なんと授業中にUFO焼きそばの早弁を決行しようというのだ。
(トニーったら、まったく何をしているのかしら)
クラス委員のジョディ森口は呆れた。
ここは普通クラスではない。校内のシンク・タンクと言われた英才集団の場
である。そこにトニーのようなイレギュラーが存在するのは信じがたい。
「ジョディ。おいジョディ森口、聞いているか?」
「は、はい」
ジョディは舌打ちをした。クラスのジョーカーに気を取られて、先生に指名
されても気づかなかった。
「教科書を読んでくれるか」
「わ、わかりました」
彼女は起立して、文字を読みだす。
「ある日の暮れ方のことである。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っ
ていた。」
「ジョディ……」
「はい」
「今は日本史の授業なんだがね――」
次「人体模型」「跳び箱」「スクール水着」
俺は体育の授業をサボりつつ、女子の肢体――スクール水着姿を熱心に覗いていた。
そこは体育館、第二用具室。
先日ふと、半地下のこの部屋からなら体育館裏のプールが覗けるんじゃないか? と思ったら予想通り。
式典用の資材や廃棄予定の用具しか置かれてないここには滅多に人も来ないはずだし、地下だから涼しいし。うっひっひ。
……なんて笑みをこぼしていると、入り口が開いて誰かが入ってきた。俺は咄嗟に窓から離れて用具の陰に身を隠した。
入って来たのは、いつもいじめられている、クラスの女子だった。プールの授業は休んだのか? でもなぜここに。
一人で来たらしいジャージ姿のいじめられっ子は、俺に気付かないまま隅に置かれた跳び箱の中から何かを取り出した。
……裸の、死体!? と思って一瞬ぎょっとしたが、よく見ればそれは人体模型だった。
そういえば、理科室の人体模型が盗まれたと半年前にニュースになっていたっけ。
どうしよう、と逡巡していると、彼女は立てかけた人体模型に対して思い切りボールをぶつけ始めた。
「ッ……バカ! ……ブス! ……グズ! 死ね! 死ね! 死んでよぉッ! ああああァァ!」
やがて彼女はその爪で人体模型をひっかき始めた。ガリガリ、カリカリ、ギリギリ……。
そして噛みついた。噛みつきながら、呻いた。呻き声は、「うう」とか、「ああ」とかじゃなくて――
「イィぃぃぃぃぃ――いぃぃぃぃぃイぃ――!!」
――まるで。まるで何かが、強い力で絞りつくされ、千切れようとしているかのような高い音だった。
俺は耳を塞ぎたくなった。でも、体が震えて、動くことが出来なかった。
彼女が怖かったし、彼女の激情にあてられていた。俺は無言で、涙を流していた。
彼女はやがて落ち着くと、人体模型を仕舞って用具室を出て行った。残された俺は声を殺して泣きながら、頭を掻きむしった。
彼女の気持ちが分かった気がするのに、なにをどうすれば良いのかが分からなかった。俺は、無性に死にたくなった。
次は「冷たい」「手」「トラック」でお願いします。
369 :
冷たい、手、トラック:2011/12/25(日) 17:45:58.84
~宮寺美音(みお)は我慢の限界に達しようとしていた。原発に例えるなら臨界点突破、
メルトダウンというやつだ。人生には時としてこんなヤバい状況もありうるのだ。
~宮寺美音は直腸から溢れようとする軟便を必死に堪え、よろめきながら探し求めていた。
「あ……あった」
道路端に古びた公衆トイレを見つけたとき、美音は神に出会ったような気がした。普段なら、
自分の人生には何の関わりもない小汚い建築物に、美音は何とか便が漏れないように慎重になりながら、駆け込んだ。
「ああ、すっきりした!」
だが災難は災難を呼ぶ。
尻を拭いて立ち上がろうとすると、真下から生暖かい風が吹いてきた。
美音は不審に思う。ここはくみ取り式だ。ヒーター機能があるとは思えない。
突然、美音の無防備な肛門に何かが入り込んだ。
「きゃっ!」
見ると、便器の奥の闇から白い手が出てきて、人差し指を彼女の肛門に突き刺していた。
人差し指は腸内で鈎型に曲がり、美音は自力で抜け出せない状態になってしまった。
「冷たい!」
(あったかいね、やはり生きている人間はいいなあ……)
白い手の意識が美音の直腸から脳髄へと駆け上がってくる。背筋が凍るとはこのことだ。
「し、死に神! 助けて」
(違うよ。僕はしがない地縛霊さ。ここにお客さんがくるのは本当に久しぶりだ。
寂しいから少しここにいてくれないかな)
「地縛霊って、ここで死んだ人の霊ってこと? こんなトイレで何で死んだの?」
(このトイレで死んだわけではないよ。このトイレは二軒目でね。前にここに建っ
ていたトイレで死んだんだ)
「普通はこんな場所で死なないわよね。いったいどうして……?」
(死因は……交通事故だよ)
「は?」
町外れの古びた公衆トイレに大型トラックが突っ込んだのは、それから2分59秒後のことである――。
次「輸血」「サンタクロース」「甲殻類」
「患者はどこだ!」
「先生、こちらです」
「全身真っ赤だな。いや、サンタクロースのコスプレか?」
「いえ、コスプレではなく、本物のサンタクロースのようです」
「なにを馬鹿な……」
「子供たちにプレゼントを届けようと、ソリで空を飛んでいたところ、トナカイが何かにつまずいた拍子に、空中に投げ出されたそうです」
「……地面に叩きつけられて、この程度の打撲か。甲殻類並みの頑丈さだな」
「先生、すぐに動けるようになりますか?」
「あ、ああ、1週間ぐらいかな」
「それでは、お正月になってしまいます! 30分ぐらいで治せませんか? 輸血とかして」
「ナース君、君が心配することじゃないよ」
「先生、実は、私は、つまずいたトナカイなんです。このままでは、ノルマを達成できずに、来年はソリ引きから外されてしまいます。
家には年老いた父と母が私の稼ぎを当てにしていて……」
「ふむ……」
「こうなったら、先生が代わりにソリに乗ってください!」
その年のサンタクロースは、病気の子供たちを治して回ったそうです。
次は「エア友達」「思い出」「距離」
371 :
エア友達、思い出、距離:2011/12/28(水) 20:57:58.81
イサコ「おいハラケン……じゃなかった原川、ちょっと来い!」
イサコは女だてらにハラケンの背中の襟をぐいぐいと引っ張った。
ハラケン「なんだよイサコ、痛いよ。離してよ」
イサコはハラケンを校舎の屋上に連れ出した。本来は立ち入り禁止の場所である。
イサコ「原川、お前、いい加減にエア友達のことは忘れろ」
ハラケン「エア友達って……」
イサコ「カンナのことだ。彼女はもうとっくの昔に死んでる。いつまでも死
人に話しかけるな」
ハラケン「カンナはエアなんかじゃない! 少なくとも僕にとってはまだこ
こにいるんだ」
ハラケンは自分の胸をどんと叩いた。
イサコ「そんな思い出、私が忘れさせてやるさ」
イサコはいきなりハラケンの唇を奪い、彼の手を自分の胸に持っていった。
少ししてイサコはハラケンの耳元で囁く。
イサコ「すまない。こんなことで癒やされるはずがないとわかっているのに。
でもお前の生き方はかつて私が歩んだ生き方にそっくりだ。見ていられなく
なる。頼むから思い出とは距離をおいて、こっちに帰ってきておくれ」
校舎の屋上は折しも夕暮れ、赤く染まった町を背景に黒いカラスの群れが飛
んでいった。
次「惑星」「映画少年」「鬼畜」
彼女がゲームコントローラを持ってから五分で、俺は彼女に惚れてしまった。
映画研究部の部室には、誰かが持ち込んだプレステがあった。
大した映画少年でもないくせにノリで映研に在籍していた俺は、
暇な放課後にはそこで往年の名作RPGをプレイすることが多かった。
古くても……いやむしろ古いからこそ、改めてやるとなかなか面白い。
そうしてゲームも進行し、そろそろこの惑星を救えるんじゃないかと思い始めた頃、
たまに後ろで観ていた女の先輩が「私にもやらせて」と言ってきた。
俺は快諾して、彼女にコントローラを手渡した。ここから惚れるまで五分。
ゲームをやったことが無いという彼女に操作方法とゲームの目的を教え、
とりあえず次の街に向かって貰った。俺が惚れるまであと二分。
敵が出た。戦闘が開始される。俺は操作方法を指示した。あと一分。
彼女はコマンド選択して、戦闘を進めていく。……なにかぼそぼそと言いながら。あと十秒。
そして十秒後に俺は、彼女が何を言っているのかを聞き取り理解した。はい惚れた。
彼女は――敵を攻撃する度に口の中で繰り返し、「ごめん」「ごめん」と呟いていた。
そう、つまり、ゲームに不慣れな彼女はRPGのザコ敵にさえも感情移入をしていたのだ!
だからこそ、「ごめん」「ごめん」と…………頬を赤らめ薄く笑いながら、とても愉しそうに呟くのだ。
そりゃ惚れるよ。だってあれ相手をいたぶるのを楽しんでる、鬼畜の目だもん。
次は「ドリル」「言葉」「ベスト」でお願いします。
373 :
ドリル、言葉、ベスト:2012/01/01(日) 18:54:08.72
イサコと、ナメッチと、ガチャギリは、小さな古本屋で立ち読みを始めた。
イサコ「お前、何を読んでいるんだ?」
ナメッチ「エロ本です。オヤビンもどうですか?」
イサコ「断る。私からもっと離れて読め」
イサコがナメッチの見ている雑誌を一瞥すると『ザ・ベスト新年号』とあった。
イサコはもう一人のほうを向いた。
イサコ「ガチャ、お前もエロ本か?」
ガチャギリ「バカ言え。俺の愛読書は『ラジオライフ』しかねえ」
イサコ「なるほどな。しかし勉強熱心な割にスキルが上達しないようだが」
ガチャギリ「ちぇ! それよりイサコ、その髪型……」
イサコの髪型がいつもと違う。鎌状のツインテールから、渦巻きドリルに変わっていた。
イサコ「ふっ、今頃気づいたのか。鈍い奴だな。私だって正月くらいはおめかしをするさ」
その時、古本屋の親父の怒鳴が割って入った。
親父「お前ら、何も買わねえんなら営業妨害だ。小学生風情が店で堂々と立ち読み、無駄話だと? ふん、そんな言葉かりやってないで家で宿題でもしろってんだ!」
店主の怒声に、三人の少年少女は顔を見合わせた。
ナメッチ「え? 今、店の主人が変なこと言わなかった?」
ガチャギリ「『そんな言葉かり』……って? おいおい、誤変換オチかよ!」
イサコ「信じがたいな。いつの時代の誤変換だ?」
あきれた三人は古本屋をあとにした。
店内に置かれてあったツルゲーネフの『はつ恋』(岩波書店刊)が万引きされていた。店主がその事に気づいたのは一分三五秒後のことである。
次「売れっ子」「キャタピラ」「地下牢」
374 :
売れっ子、キャタピラ、地下牢:2012/01/04(水) 22:44:32.79
登場人物。ドロッセル……お嬢様のロボット。人間型。
ゲデヒトニス……執事のロボット。非人間型。
ドロッセル「ゲデヒトニス! ゲデヒトニスはおるか?」
ゲデヒトニス「なんでございましょう? ドロッセルお嬢様」
ドロッセル「遅いぞ、と思ったらゲデヒトニス、いつもとデザインが違うじゃない」
ゲデヒトニス「お気付かれましたか。実は私、若干モデルチェンジをいたしまして」
ドロッセル「その足、キャタピラを付けたのか?」
ゲデヒトニス「左様で」
ドロッセル「ここはだだっ広い屋敷の中だ。キャタピラなどで移動されては床が傷つく」
ゲデヒトニス「ははーっ、ただちにゲタに履き替えます。ところで何のご用でしょう?」
ドロッセル「そうだった。実は私、売れっ子になろうと思ってね」
ゲデヒトニス「何の……売れっ子でございましょう?」
ドロッセル「売れっ子の天才脳外科医」
ゲデヒトニス「そのようなものは、ございません」
ドロッセル「売れっ子のカリスマ経営者」
ゲデヒトニス「そのようなものも、ございません」
ドロッセル「売れっ子の皇太子の娘」
ゲデヒトニス「ありませんたら、ありません」
ドロッセル「では売れっ子の……何があるというの?」
ゲデヒトニス「屋敷の地下牢に売れっ子の死刑囚がおります。彼に聞いてまいりましょう」
ドロッセル「では、頼む」
次「導火線」「公衆電話」「子猫」
導火線に火をつけているのは、あいつじゃない。
美香は電話ボックスが空くのを待ちながら、紫煙を苛立たしげに吐き出した。
煙はネオン看板や街灯、さまざまな光で照らされた夜の空へと消えていく。
駅前の公衆電話には十人程度の行列が出来ていて、ある者は欠伸をしながら、
またある者は最近登場したという「ポケベル」を片手に、いずれもみな自分の順番を心待ちにしている。
美香は焦っていた。急いで彼に電話をかけねばならない事情があるのだ。
家からかけたのではとても間に合わない、事情が。
仕事が引けてすぐに職場近くの駅まで直行したものの、駅前の電話ボックスには長蛇の列が出来ていた。
二十分も待たされ、ようやく列の先頭へ立ったのはいいが、そこから先へがまるで進展しないのだ。
美香は気ぜわしく腕を組んだり解いたりをしながら、
やがて何本目かの煙草を地面でもみ消し、次の煙草に火をつける。
サラリーマン風の年配男性。
白いブラウスに赤のチェックスカートといった装いの、年若い女。
シャネルのスカートスーツに身を包んだ、美香と同年代とおぼしき厚塗りメイクの女性。
三台ある電話ボックスにはこのような先客たちが入っていて、一向に受話器を降ろす気配がない。
サラリーマンはつい数分前にかけ始めたばかりだからまだいい、だが女二人の通話の長さときたらどうだろう。
まったく、これだから女は。いやんなるわね。
美香は自分が女であることも棚に上げ、胸中でさんざん毒づかずにはいられなかった。
スーツの女性が、あはははは、と笑い声を上げた。なおも愉快そうに通話を続けている。
女二人への言葉にならない悪罵が、ファッションセンスやメイクの方法にまで及んだ頃。
ようやくボックスの扉が開き、サラリーマン風の男が出てきた。
実際にはさほど待たされたわけではなかったのかもしれない。
それでも美香は女二人へ投げつけるかのように煙草を捨て、踵を踏み鳴らしながら電話ボックスへと入った。
扉をぴしゃりと閉め、受話器を上げる。
そして財布から取り出したテレホンカードを挿入口へ挿し込み、電話番号を手早く打ち込んだ。
数回の呼び出し音が続いた後、受話器の向こうから「もしもし」と野太い声が返ってきた。
美香は意にも介せず、声にかぶせるように話し始める。
「あたし、美香。……うん。でさ、ねえケンジ、明日の休みだけど。……うん、うん。悪いんだけど、
休日出勤頼まれちゃってさ。あれ行けなくなっちゃった。ゴメンね」
受話器の向こうでは、デートの約束を反故にされた男が不満を並べ立てている。
「ああもう、わかったから!」
美香はガラス張りの壁をひとさし指で何度も叩きながら、
「来週でいいでしょ? ……うん、うん。日曜ね、うん、……わかった。じゃあね、はい」
挨拶もそこそこに、受話器のレバーを押さえた。
もうダメかもね。別れようかしら。
耳障りなテレホンカードの排出音が響くなか、
美香の脳裏に学生時代からつきあっていた男との思い出がよぎった。
が、すぐに気を取り直し、挿入口にささったままのカードを押し返した。今度は慎重に電話番号を打ち込む。
手には先ほどカードと一緒に財布から取り出した、一枚の広告紙が握られている。
広告紙は、元はポケットティッシュに封入された状態で配られていたものだ。
会社の休憩時間中、昼食のために駅前を通った美香は、なんとなくこれを受け取った。
そしてレストランの化粧室で口紅を拭く際、使用した。
そのとき初めて、ポケットティッシュに挟まれた広告に目を通したのだ。
広告にはこう書かれている。
「レンタルペット始めました。〜潤いの休日をお気に入りのペットと〜
可愛い子猫も待ってるにゃん(ハート) ペット空間『わんにゃんらんど』」
『わんにゃんらんど』は、ここから歩いて五分もかからない距離にあった。
金曜の夜、つまり今夜借りれば、月曜の朝まで美香は子猫と一緒に過ごせるのだ。
だがあいにく美香はいままで電話予約を入れられなかった。職場の私用電話が禁止されていたからだ。
わたしの情熱、その導火線に火をつけているのは、もうあいつじゃない――。
店の予約受付け最終時刻が、刻一刻と迫っていた。
いま、美香は祈るような気持ちで公衆電話の受話器を握り締めている。
次「インクジェットプリンター」「靴下」「硫黄」
377 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/05(木) 19:03:41.27
2011年のクリスマスのことだった。
2010年の冬に妻と別れてから今日まで、娘と俺の2人暮らしだ。
娘の部屋には、例年のように靴下がS字フックにかかっている。
しかし、もうプレゼントは買っていない。
俺の書斎に戻って、遺書をパソコンのワードで打ち始めた。
そして最後の「娘よ、君だけを残してごめん。」の文字を打ち終えると、遺書の全文を印刷し始めた。
文字を印刷するインクジェットプリンターも、どこか寂しげな音を立てて黒インクを紙につけている。
遺書を三つ折りにして、そばにおいてあった硫黄と鉄の粉末を持って台所に向かった。
それをアルミホイルで包んで、ガスコンロであぶって砂の上に置いた。
「これで最後か・・・」
俺は横においてあったサンポールを持った。
硫化鉄にサンポールをかけた。
・・・これでやっと死ねる。
時間が経つにつれ、俺は意識が遠のいて行った。
もうすぐ死ぬ、その時だった。
「ガチャリ」
家のカギが開き、別れたはずの妻がやってきた。
妻は台所のあるリビングに入ってきて、悲鳴を上げた。
気づけば、俺は病院にいた。
「あ・・・あなた!!」
別れた妻が叫んだ。
「やっぱり、あなたじゃなきゃダメ!あなたが死んだら、わたしは、娘はどうなったのよ!!」
「お前…。」
「もう一度、やり直しましょう?」
俺は、そいつを忘れることができなかった。
愛していたから。心の底から。
そして、俺は小さくうなずいた。
2人の新たなスタートは、小さな病室から始まった…
378 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/05(木) 19:05:59.19
忘れました、すいません。
次は「赤提灯」「柳川鍋」「消臭力」でお願いします。
#「赤提灯」「柳川鍋」「消臭力」
「やあやあやあ、ケンさんじゃないですか。今日はお一人ですか」
屋台の前を一度は通り過ぎた男が、知り合いの顔に気づいて戻ってきた。
店主がいらっしゃいと言い、男はケンさんの隣に腰かけ、ハイボールをたのむ。
仕事が終わって、でもまだ家に帰るには早い、そんなとき男はよくここに立ち寄る。
「おう。みんなまだ正月休みなんだろ…。なんだ、お前さんも今日から仕事かい」
男は、ケンさんにそうなんですよと答えて、ハイボールを受け取り、杯を合わせた。
すると、ハイボールに続いて、ケンさんの前に運ばれてきた、小さな一人用の土鍋。
「なんですかケンさん、これ。…ああ、もしかして七草粥ですか。厄落としに」
「バカ言え、誰がこんな酒飲んでるうちから七草粥なんか食うかい。これはね」
ケンさんがパカッと蓋を取ると、中にはどじょうとごぼうの卵とじ。柳川鍋だ。
「ごぼうもまあ、厄落としだな。どじょうは精気づけだしな。お前さんもやりな」
すすめられて箸を出す。どじょう、よく泥抜きしてあるようで雑味は無いけれど、
独特の癖があるからこの消臭力の強い冬のごぼうがよく合う。確かに厄落としだ。
そのとき、また常連の一人がのれんをくぐり、二人を見て手袋の右手を挙げた。
「いやー寒い寒い… おおこれはこれは、やってますな。新年あけましてどうも」
どじょうが鍋の中で豆腐にもぐるように、赤提灯に引き寄せられてくる男たち。
今年も、いい年になりますように。
#次は「三十路」「ディスク」「夜」で。 #私事ですが今日で30になりました。
380 :
三十路、ディスク、夜:2012/01/08(日) 06:44:02.86
《僕》はとうとう三十歳になった。三十路ともいう。
なぜだか少し嬉しかった。
「やったー、これで僕も『30歳以上の小説家志望のためのスレ』の仲間入りだー」
ちょっとした挨拶を書き込んだ。
理由もなく小馬鹿にされた。速攻だった。
「なんだよこの書き込みは、ちくしょう!」
《僕》は怒って、机にあったDVD−Rのディスクをパソコンの画面に投げつけた。
思ったより、円盤に回転力が加わった。
信じられないかもしれないが、未来の手裏剣はパソコンの画面に突き刺さってしまった。
画面は消え、パソコンに永遠の夜が訪れた。
こんな時、《僕》はいつも、友人にすがる。
「ねえ、なんとかして、ねえ――」
無駄だった。
そうとわかっていてもすがる自分が小さく見えた。
部屋のすみにちょこんと座ってる青い友人は、もう十年以上起動していない。
次「ママ」「いじめっ子」「ガールフレンド」
「3 7 9 ディスク(2) 3 0 おめでとう」
という文章がチンパンジーによって書かれたと知ったら、読者の方々は驚かれるだろうか。
タンザニアという国がある。
タンザニアナイト(タンザニアの夜)をはじめとする希少鉱石の生産国でもあるが、
注目すべきは、その大自然である。
数多く存在する野生公園では、生態学上でも貴重とされる動物が幾種も生息しており、
独特の生態系を構成している。
そのような保護区の一つにゴンベ国立公園があり、公園内に作られたヌンゾジ霊長類研究所で、今回の事件は起こった。
なんとチンパンジーが、人間が知覚できる意味内容を発信したのである。
といってもタイプライターで出鱈目に打ち込むといった、統計定理の実演ではなく、
「太陽」や「バナナ」などといった対象が持つシニフィエ(イメージ)を記号に置き換えたカード、
それを用いて上記の不可思議な文が作られたのである。
今年度の一月某日、同所内でチンパンジーを対象とした、ある実験が行われた。
TVモニターの映像に合致した条件の記号カードを、複数のカードのなかから選び出す、というものだった。
対象のチンパンジー、マヒカは二十一歳であり、人間でいえば三十路に近い年齢である。
研究期間もすでに長期に渡っており、ここ二ヶ月間、同種の実験を全て成功させてきた。
当日の予定も実験というより、訓練に近い内容だった。
ところが実験開始直後、マヒカは研究員がモニターに提示した画像を無視して、
カードを一枚、また一枚と、机に置きだしたのである。
当時のマヒカの行動について、実験を行った研究員のジェシー・カルバインは
「まるでなんらかの意思を込めているかのような手つきだった」と証言している。
突然の事態に驚いたジェシーがガラス越しにマヒカの手元を覗きこむと、マヒカ視点で左から順に、
3、7、9の数字カード、ディスクの二番、再び3、0の数字、
そして「おめでとう」を示す特殊記号カードが並んでいた、とのことであった。
さらに不可解なことは、なぜディスクの二番をマヒカが所持しえたか、という点である。
ディスク二番は実験用にガラス檻へ入れられたカードではなく、何処からか持ち込まれたものだった。
元来の所在は明白だった。ある職員が遊戯用に使っているタロットカードのケースから、
小アルカナのディスク二番だけが欠けていたのである。
だが、どういう経緯でこのカードがマヒカの檻に入れられたのかは依然として不明だ。
研究所代表の見解では、同職員の過失により実験用カードに誤まって混入されたとしており、
その責任を追及する構えである。
ちなみに小アルカナのディスクはコインとも呼ばれ、図匠として硬貨や護符、皿を象っている。
ディスクの二番には「陽気さ、文書によるニュース・メッセージ」といった意味があり、
以上の点を踏まえたマヤ歴研究者のなかから、
この文は幸福な新時代の到来を予言したものである、との声もあがっている。
「3 7 9 ディスク(2) 3 0 おめでとう」という文を解読すると、
西暦2012年に起こる世界の終末から379年間の暗黒時代を経たのち、
「30」にまつわる文書によって陽気で幸福な時代が導かれる、というのがその主張である。
だが同主張を疑問視し反論する者も多い。
当事件によって取り沙汰された不可解な文言は、通称「マヒカ文書」と呼ばれ、
現在、真相の解明が急がれている。
投稿遅れました。お題は
>>380のものでお願いします。
(この物語はフィクションであり、登場する人名、団体名は全て架空の名称です)
383 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/08(日) 18:58:06.04
私は弟と二人暮らしをしている。
父は私が生まれる前に他界し、母は私と弟を一人前になるまで育て、私が21になった年に死んだ。
そんで、私が面倒を見た結果弟が高校卒業後に就職した。
「しばらくは家にいていいよ。」と言ったのだが、弟は「独り暮らしをしたい。」と言って出て行った。
弟が独り立ちしてから、3年ほどたったころだった。 その弟が、ガールフレンドを家に連れてきた。
連れてきた、というよりか報告しに来たと言った方が正しい。
彼女の方はまぁまぁの美人。 けばくなく、印象は悪くない。
そして弟が、重い口を開いた。
「姉貴、俺、この人と結婚する。」
やっぱりか、と言った感じだった。
「わ、私も弟さんと結婚させて下さい!!」
彼女の方も頭を下げた。
今までの弟との21年間が頭の中を巡った。
幼稚園の頃、近所のいじめっ子たちにいじめられて泣きながら帰ってきたこと。
小学校の頃、リコーダーが吹けなくてリコーダーを壊したこと。 中学に入ってグレたこと。
高校に入って母が死んで、2人で大泣きしたこと。 就職が決まって喜んだこと。
全てが今では懐かしい思い出だ。
私は、あんたみたいに幸せになりたいよ、と思いつつ「幸せになりな。」と言った。
しかし、ここで弟がとんでもないことを言ってきた。
「実はあと、姉貴の甥ができた。」
は・・・・はぁ?
「妊娠してるんだ。こいつ。」
さっぱり意味が分からなかった。
しばらくして、やっと意味が分かった。
「っていうことは、あんたがパパで、彼女さんがママ!?」
「そう。」弟は当たり前と言った感じで言った。
何だかこの後、記憶が途切れたみたいだった。 だからこの後のことは何も思い出せない。
ただ、生まれた甥っ子の顔は可愛かったよ。
次は「ニッキ飴」「しゃちほこ」「お腹が痛い」でお願いします。
384 :
ニッキ飴、ちゃちほこ、お腹が痛い:2012/01/09(月) 22:36:41.15
野比玉子は家出した。ロボットに頼るバカ息子とキャラの立たない夫には愛想が尽きた。
彼女が辿り着いたのは、名古屋という都市である。
駅の改札口を潜った途端、頭上からくす玉が割れた。
河村市長「おめでと。あんたは名古屋にござらした三十億人目の人だがや」
野比玉子「はあ」
河村市長は記念の冠を玉子の頭に被せた。両側に金のしゃちほこが乗っている、かなり恥ずかしい冠だった。
野比玉子「あの、これ取ってもいいですか」
河村市長「ダメ。あんたは三十億人目の記念すべき人ですよ。ここにいる間はその冠を被ってもらうがや」
野比玉子「じゃあ私帰ります」
彼女は踵を返した。――がその時、玉子はヒールを何かに躓かせて転んだ。
野比玉子「いたた、なんでこんな所に、ニッキ飴が」
ニッキ飴は名古屋の名物ではない。市長の顔色が変わった。
河村市長「誰かこの飴を処分しや、早く!」
白い防護服を着た職員が、飴をマニピュレーターで掴んで、処理槽に入れた。
河村市長(あれは確か八百源來弘堂のニッキ飴……大阪。やはり奴の仕業きゃ)
野比玉子「いったいどうしたんですの?」
河村市長「あんたには関係ありません。これは名古屋と大阪の問題ですから」
急に周囲の人々が呻きだした。
周囲の人々「お腹が痛いがや」
河村市長「おい、どうしなすった?」
周囲の人々「先程大阪から和平交渉の証として送られてきた蛸焼きを食ったら、皆激しい腹痛に襲われて」
途端に河村市長の顔が朱に染まり、鬼神の仏像と化した。
河村市長「おのれ橋本、許さんで。徹底抗戦したるがや!」
突然、どこでもドアが開いて、ドラえもんの手が野比玉子を引っつかんだ。
ドラえもん「のび太君のお母さん、さあ早く!」
野比玉子「ドラちゃん、これは一体どういうこと?」
ドラえもん「ここはお母さんが来るところじゃないよ。やがて戦争が始まる。早く元の世界へ戻るんだ」
だが、タマコは猫型ロボットの手を振り解き、丸眼鏡を投げ捨てた。
タマコ「さようなら、私はもう戻らないわ。ドラちゃん、のび太を頼んだわよ。私はこっちを選ぶから!」
こうして、かつて平凡な主婦だった女は紅く燃えさかる異界の都市に呑まれていったのである。
次「蛾」「竜」「ヘドロ」
385 :
蛾、竜、ヘドロ:2012/01/11(水) 18:57:20.99
今日も東京湾で仕事だった。
というか、ボランティアと言った方が良いか。
夜道を照らす街灯に、今宵も蛾が群れている。
家に帰れば、正月に届いた「竜」と干支の漢字を誤って書いた年賀状が俺を迎える。
「今夜も、抱き枕と2人きりか・・・」
寂しげな雰囲気が周囲に漂う。
その時だった。
「ピンポーン」
家のチャイムが鳴った。
「はい?」
「宅配便です。」
爪の間に入り込んだ乾燥したヘドロを洗い流して出た。
そこにいたのは、20代前半の若い女性だった。
一目ぼれした。
「付き合ってください!」
「いやです!荷物置いていきますから!」
俺はコンマ5秒で失恋した。
次「石廊埼灯台」「口ごもる」「ピザ」」
「ちょっと待てよ!」
俺はついに耐えきれなくなってそう叫んだ。
「どうしたんだよ佐藤」
「さっきからお題がおかしいだろ?なんだよ日本の名水百選とか、日本の名道五十選とか挙げ句の果ては日本の灯台五十選だと?ふざけんな!」
現在俺は三対三の合コンの最中だ。しかし場を盛り上げるために始めた山手線ゲームで六回も罰ゲームをくらっている。それもこれも男友達の田中のマニアックなお題のせいなのだ。
「おいおい落ち着けよ佐藤、まずそこにあるピザでも食べて……なにが不満なんだよ?もしかして灯台よりダムのほうがよかった?」
「ちげーよ!お題がアンダーグラウンドなんだよ!誰が灯台なんて答えられるんだよ!女の子が可哀想だろ!」
「石廊埼灯台……」
一人の女の子が口を開いた。すると隣の娘も。
「はーい私もー犬吠埼でしょ、野島埼、観音埼……」
三人目の娘も口ごもる事なく。
「私は美保関と出雲日御埼くらいかな」
何なんだこいつらは、俺がおかしいのか?俺に教養がないからなのか?足下がぐらつく、常識が崩壊して行く……。
「な、佐藤、文句言ってるのはおまえだけなんだって、自分の無知を人のせいにするなよ……」
俺はそれ以降一言もしゃべらなかった。壁に掛けられているポスターには「皆でわいわい楽しく呑もう」と、この店のマスコットが俺を嘲笑っていた。
次題 「アンプル」「自殺」「配電盤」
「アイタタ、痛いですよ!」
「ンー、間違ったかな?」
「プラナリアみたいには再生しないんですから、人間の足は!」
「ルルでも飲んどけば、治るだろ」
「自戒の念もこめて言っておきます。あなたはゴミだ!」
「殺されるよりはマシだろうが」
「配慮が足りない! 私はもっと慎重にやりました」
「電動ドリルでガタガタとか?」
「盤桓してたら、あなたの命はありませんでしたよ」
次は「L」「知ってるか」「リンゴ」
388 :
L、知ってるか、リンゴ:2012/01/12(木) 21:39:21.25
「知ってるか?」
ジェームズはビートルズのLPジャケットを取り出した。少し色あせている。
「”アビイロード”じゃん。相変わらず古いのね」
シンディは呆れた。
「アビイロードなんて誰でも知ってる。問題は――」
「わかった。ポール死亡説。あほくさ」
「違うよ。もっとディープだ。この二番目のリンゴ・スターが特殊撮影で身長を伸ばしてるって話」
シンディはぷっと爆笑した。
「へえ、どこどこ、どうやってリンゴが身長を伸ばしているの? ドリームワークスがやってんの?」
金髪の娘は、四人のメンバーが歩いているジャケットに顔を近づけた。
その瞬間、ジェームズはシンディの顎を手で持ち上げて、桜色の唇を奪う。
「何よ、キスしたかっただけじゃん」
しかしシンディもまんざらではない。
「んもう、知らない!」
次は、プリンセス、ダービー、麻雀
昔々、ある国にプリンセスがいました。
しかし、大変なギャンブラーで、ダービーは専用の競馬場を作り、プリンセス杯を創設し、麻雀も専用の雀荘を作り、独自のルールを取り入れたプリンセス麻雀を考案したほどです。
王女を何とかギャンブルから手を引かせたい王子は、とある噂を聞きつけ、隣国から天才雀士を招聘しました。
王子「よく来てくれました」
赤義「倍プッシュだ」
王子「え?」
赤義「そんなはした金じゃやってられねえ」
王子「もちろん報酬ははずみます」
赤義「金はいらない。王女が破滅するまで続行だ」
王子「それはちょっと……」
かくして、赤義が勝ったら王女はギャンブルから手を引くこと、王女が勝ったら金輪際周囲は王女の素行に口出ししないことを条件に、プリンセス麻雀が開始された。
次は「放浪」「青い花」「先輩」
最後
開始されました。
に修正お願いします。
「先輩は青い花って知ってますか?」
「青い鳥?」
「鳥じゃなくて花です」
「知らないな」
「私たちみたいな女の子を描いたマンガなんです」
「ふーん」
「ふーんって、読みたいとか、おもしろそうだねとかないんですか?」
「香代は、私との関係をおもしろいと思ってるの?」
「そういう意味じゃ……」
「あはは、ごめん、ごめん」
「先輩は意地悪です」
「お詫びに、ほら、口を閉じて」
「いきなり、ん、あ……」
「香代の口は柔らかい」
「先輩だって」
「自分じゃわからない」
「私もです」
そんな先輩が卒業して早一年。放浪の旅に出たと伝え聞いた。
当時一年生だった私も三年生。女子部の部長をやっている。
次は「女子部」「憧れ」「リアル」
392 :
女子部、憧れ、リアル:2012/01/13(金) 22:21:06.14
『さる未明、女子部にて火災が発生し、家屋が全焼しました。町内でも憧れの
的だった十一名の女子部員は間一髪で全員脱出し、けが人は寮長の坂本ミク(20)
一名のみ。現在彼女は病院で手当を受け、右目に眼帯を付けているそうです。
消防庁の調べによると、リクリエーションルームに設置されていた三菱の液晶
テレビ「リアル」(55V)が、何らかの理由で発火に至ったらしいとのこと
です』
ここまで見て、アンティはベッドに投げ出した脚を組み替えてテレビを消した。
「ちぇー、誰も死ななかったのか。つまんねーニュースだなー」
一緒に見ていた妹のストローキングは飽きもせずにチョコパフェを口に入れつつ、
「でもアンティ、うちのテレビは三菱じゃなくてよかったわね。確かブラビア
だったかしら」
「あったりめーよ。ソニーだぜ。ソニーっていやあ世界のソニーだよ。突然発
火してボッなんてわけがあるかい!」
まことに不幸なことに、二人の姉妹はソニータイマーの存在を知らなかった。
その夜、二人の寝室のブラビアが大爆発することになるのだが、その続きはま
たいずれ――
つぎは……バラの花束、試作品、星座占い
『放課後、校舎の片隅で、遠くに聞こえる生徒たちのざわめきは、波の音にも似て、やがて風に溶け、そこには、ただ見つめ合う二人が……』
「何度読んでもいいですよねえ」
「んなの、リアルにいるわけねえだろ。キモイんだよ」
「何を言ってるんですか、京子さん。これこそ究極の恋愛。我が女子部が目指す理想の愛です!」
「んー。まあ、いいけどさ。早絵が好きなら、そういうの」
「はい!」
興奮しながら黙々と本を読む早絵を京子が一瞥する。
「……んか違うんだよな、私が思っているのとは。もっとこう……」
「こう?」
「うまく言えねえけど、気づいたら付き合ってる、みたいな? 儀式みたいのはいらねえんだよな」
「儀式があるから、いいんじゃないですか! 覚悟を決めて、もう後戻りできないんだぞって。退路を断って、前進あるのみ。ぐひひ……」
「京子さんには、憧れとかないんですか?」
「憧れねえ……」
頬杖を付いて、窓の外に視線をやる京子。
「早絵と一緒に遊園地に行くこと」
「え?」
「なんでもねえよ!」
お題は392さんので。
「どう? 平気?」
「うん、兄さん」
「じゃあ、もう一本」
「あ……」
「痛かったら声を上げてよ」
「平気だよ、兄さん」
「じゃあ、もう二本」
「あ、あ」
「今日の星座占いで、バラの花が運をもたらすって出てたんだ」
「アッー」
「ほら、バラの花束の完成だ」
「……兄さん、ぼくにも見せてよ」
「この鏡を覗いてごらん」
「綺麗だよ。まるで、ぼくじゃないみたいだ」
「これはほんの試作品。少し休んだら、本番を始めよう」
次は「初恋」「苺大福」「国会議事堂」
395 :
初恋、莓大福、国会議事堂:2012/01/15(日) 19:18:28.51
深夜、薄暗い国会議事堂内を、一人の男がひたひたと歩いていた。
議事堂内の警護をしている衛視が懐中電灯を照らして彼を呼び止めた。
「こんな夜中に何者だ?」
「馬鹿、わしだ。わし」
「あ、総理でありますか。失礼しました」
男の名は野田佳彦。現職の総理大臣である。
「中央塔に用がある。行かせてもらうよ」
「しかしあそこは、普段でも立入禁止ですが」
「君、申し送りをしてないのかね。実は一ヶ月前も中央棟に行ったんだ。
ところが忘れ物をしたことに今気づいてね。それを取りにいくんだ。何か文句あるかね」
「いえ、ございません。失礼しました」
衛視は敬礼してその場を去った。
野田総理は中央広間の隅にある板垣退助の銅像の首を両手で捻った。
すると天井のほうで、ぎぎいと機械の動作音がした。開かずの扉が開かれたのだ。
野田総理はほくそ笑むと、階上の中央塔へ向かった。
中央塔とは、議事堂の真ん中のピラミッド部分にあたる場所である。
野田総理はその頂上の展望室に入った。
展望室の真ん中には六芒星をかたどったテーブルがあり、その上には
一個の莓大福が小皿と共に置かれてあった。
野田総理はそれを手に取るやいなや、驚愕のあまり目を剥いた。
「おお、一ヶ月前はびっしりと黴が生えておったのに、今は嫋やかな女人の柔肌のようではないか。
この塔内、噂には聞いていたが素晴らしい蘇生パワーが集中しているようだな」
鯰とあだ名された男は、思わずそのイチゴ大福をぱくりと口に入れてしまった。
「ううん、美味しい。初恋の味、とはこういうものだろうか――」
思わず学生時代の淡い思い出に浸る総理だったが、すぐに我に返った。
「し、しまった。これは食べてはいかんのだった」
遅かった。まさか吐き出して元に戻るものでもない。そこまでのパワーは中央塔にはない。
野田総理は慌てて証拠物件を全て胃に収めると、慌てて夜の国会議事堂をあとにした。
(どこかのコンビニに、あれと同じイチゴ大福があるといいんだがな……)
次「傘がない」「夢の中へ」「氷の世界」
旅先で小腹が空いて、和菓子屋に入ったのだった。
他にも美味しそうな食べ物を提供してくれそうな店はあったけれど、店の入口に貼られた、きっと店主が筆でも使って書いたのだろう「今日のひとこと」が心のどこかに引っかかった。この店はなんとなく信用がおけるような気がした。
公園に設置された木造りのテーブルで、彼は苺大福の包みを開けた。
それは丸々として巨大なもので、店が菓子切を一緒に付けたことにも合点がいった。さて切ろうと大福の中心に菓子切を当てて、そこで手が止まった。
苺大福には苦い思い出があった。小学校の頃、社会科見学で国会議事堂に向かう道中、当時好きだった女の子に、食べかけの苺大福をもらったのだった。
皮の噛み切られた部分が唾液で湿っていて、食べていいものかずっと迷っていた。そのせいか、国会議事堂の中のことはほとんど何も覚えていないのだった。
彼は後悔した。後悔していたことを、久し振りに思い出した。結局、あの苺大福は、解散してから、コンビニのゴミ箱に捨てたことも、本当に久し振りにーー
俺は何で、あのとき苺大福を食べなかったのか。あの子に、その真意を問い質すことが出来なかったのか。
記憶の中に微かに残る国会議事堂と、ショートカットのよく似合う美人だった女の子を、苺大福に投影して諸共真っ二つに切った。
苺大福は柔らかく簡単に切れ、中には大量のこし餡と、粒の大きく真っ赤な苺が入っていた。この苺は切らずに済ませたかったな、と頭の落ち着いた部分が言っていた。
スマホで書いたので行数が合ってるかわからないです。すいません。
次は「経済」「大河ドラマ」「炎上」
397 :
傘がない、夢の中へ、氷の世界:2012/01/18(水) 23:30:04.77
モニター越しの眼下に、一面の氷の世界が広がっていた。
「おい、本当にこんなところに降下するのか?」
俺は尋ねた。窮屈な飛行機の中だ。
俺が話しかけたのは、前を向いたままの相棒の操縦士。
「ああそうだ。我慢しろ。やっと見つけた仕事なんだ。それとも欲しくないのか、五千万?」
操縦桿を握っているギャプランは素っ気なく言った。
こいつは操縦桿を握ってる限りは、下に降りる必要はない。いい気なもんだ。
「なあギャプ、たまには交代しないか」
「そいつは断る。ま、お前が操縦免許持ってるなら少しは考えてやらんでもないがな」
「くそ、もし俺が凍死したらお前の夢枕に立ってやるからな」
「俺の? 夢の中へか。そりゃ歓迎だな。しかし俺の夢の世界はここよりひどいぜ」
「だろうな。おっと時間だ。降りるよ」俺は二十万円のカシオを見て覚悟を決めた。
「グッドラック」ギャプランは親指を立てた。
ファック。指を立てるだけなら誰でもできるぜ。
降下口から下界へ飛び降りた。久しぶりのミッションなので、少々ちびりそうだ。
そして――
轟音と風圧に晒されながら――
圧倒的な重力に引っ張られるなか――
俺はとんでもないことに気づいた。
慌てて無線でギャプランに絶叫した。
「……傘がない!」
「なんだって、もっとハッキリ言え」
「落下傘がないんだよ! 忘れちまった。どうするんだ俺?」
次は、経済、タイガー、炎上
「円高不況で日本の経済は、ガタガタだよね」
「そうねえ。でも、こういうときこそ、チャンスじゃない? 海外から安く物を仕入れて売るのよ」
「どこにそんな資金があるんだ? それに、安くても、不況が上回って売れないんじゃないか?」
「たとえば、コンテンツビジネスはどう? 海外ドラマやキャラクターの版権を取得して、かつ、広告スポンサーにお金を出させるの。ユーザーは、ただで見られるし、お金がかからないものに、逆に人が集まるんじゃないかしら」
「安いったって、個人が手を出せる金額じゃないだろ」
「だから、海外の個人を相手にするのよ。個人制作者。あわせて、個人のドラマ化権なんてのもいいわね。大河ドラマ『隣の家のスミスさん』とか」
「あまり見たいとも思えないな」
「芸能人やスポーツ選手は手が出ないし……」
「一般人だけど、見てみたいと思うような人物……」
「アフィリエイターなんてどうかしら? 大河ドラマ『ハム○管理人』とか」
「……海外、関係なくなったね」
次は「変態」「高尚」「男女」
「EUの経済は今後……」
彼女の話しを聞きながら、俺の視線は彼女の胸元に行く。
「この失敗を見れば、アジア圏での経済統合なんかもってのほか」
服を着ていても、その膨らみがよくわかる。
「TPPは中国が不参加であることに、賛否両論ありますが」
でも、この男女平等社会の中で、女性だけが公の場でも性的な部分が露わになっているのは、おかしくないか?
「我が日本はどうすればいいのか?」
たとえば、着ると胸元がぺったんこになる服が発明されてもいいはず。
「中国がアジアのタイガーとして君臨することに迎合すべきか、対抗すべきか」
男女共同参画を謳うなら、なぜそういう部分に力を注がないのか。
「それぞれの道を選択した場合、私の試算では、今後10年で日本のGDPは、このように推移します」
いや、逆に男の方にも、性的な表現がされるべきじゃないか? 股間がもっこりするズボンを義務づけるとか。
「現在の選択如何によって、日本の未来は大きく変わってきます」
N○Kのお天気お兄さんが登場すると、「もっこりもっこり」なんて実況が2chに流れるのか。
「では、何か質問ありますか?」
番組中に大きさが変わったら、「炎上中」とか書かれそうだな。
「本日は、ご清聴ありがとうございました」
「講演のとき、何ニヤニヤしてたのよ」
「いや、ちょっとおもしろいことが浮かんでね」
「どんなこと?」
「日本の未来」
次は「変態」「高尚」「男女」
誰も居ない講師室の壁に一人の青年が凭れ掛かっていた。彼は目を閉じ顎に指を当てて
思案に耽っている。顔に笑みは無く、声一つ立てない。だからだろうか、顔馴染みの女性が
部屋に入るなり彼に話しかけてしまったのは。
「随分と真剣に悩んでいるのね。どうしたのかしら?」
「変態とはどういうモノなのかと、少し考えていたんだ」
彼女は青年と同じように己の顎に指を当て、一つの疑問を投げかけた。
「性的倒錯という意味で?」
「その通り」
彼女は動じること無く、即座に一つの解を示す。
「常識から外れる行為、あるいは人物」
端的な答えではあるが、幅が広過ぎる。青年は眼を開いて彼女を見据えた。
「今、ここには俺と君しか居ないが、この状況において変態を定義したらどうなるかな。
条件として、広義に置ける一般常識を除外してみようか」
「そうね……一般常識を除外した場合、ここに居るのは健全な二人の男女。仮に私がこの
場でブラジャーを脱いでも貴方は喜ぶでしょうし、貴方の鼻に脱ぎたてのブラジャーを当
てても喜ぶでしょうね。しかしそれらを変態と呼ぶことはない。何故なら限定された空間
で相手を喜ばす行為は変態ではなく好意による奉仕と認識されるから。これを変態と定義
付けるには第三者による別の認識が必要になるわ。この事から変態とは、奉仕に相当しな
い性的に不快な行為と認識される行為、あるいは人物ということになるわね。そしてこれ
は第三者のみならず当事者間であっても適応される。よくよく考えてみたら嫌いな人から
されても嫌なだけよね」
「良い答えが聞けた。本当にありがとう。ところで、今夜デートなんてどうかな?」
彼女は耳を真っ赤にしながら体を震わせ、言葉を返す前に青年に背を向けた。小走りで
出口に向かっていく。部屋を出る直前彼女は振り返り、
「ちょ、ちょっと待ってて」
ドアが音を立てて閉められた。青年は喜びに曲がる口元を手で隠し、ポツリと呟いた。
「次は萌えを議論してみようか」
次は「萌え」「子犬」「男女」
401 :
萌え、子犬、男女+変態、高尚:2012/01/26(木) 21:13:16.07
「萌えー! 萌えー! 萌えー!」
夜遅く、一人の銀髪の少女が本を見ながら叫んでいた。すると、
「騒ぐな。公衆の面前だぞ」
と何者かが叱責した。
叱責の主は、人にあらざる一匹の子犬だった。
「何よ。うるさいわね。私が何を叫ぼうと勝手でしょ」
「そうはいかん。俺はお前のお目付役だ。皇女様のじゃじゃ馬は徹底的に矯正
せよとの天聖皇様からのご命令だ。怠るわけにはいかん」
「子犬一匹が私のお目付役ですって。御祖父様もつくづく笑わせてくれるわね」
少女はスカートを翻して子犬を蹴ろうとした。
が、子犬は思いの外、素早い。
「動きが甘い。パンツが丸見えだ。今日はミクパンか」
「バカ! 変態」
子犬は、少女が激怒した隙に、先程まで彼女が熱心に読みふけっていた
《薄い本》を咥えて近くの水路に捨ててしまった。
「何をするのよ。千ペリカもしたのに」
「ペリカ? 貨幣法違反じゃないか。あまり悪い友達と付き合うな。いい友達
を見つけて高尚な趣味を持つのだ。それがこの国の将来のためでもある」
その時、一組の男女が通りがかった。
「やだ、あの子、気持ち悪い。さっきから子犬と何か喋ってるわ」
「ほっとけよ、ただの電波だよ。俺たちとは違う世界の御伽話さ」
「じゃあ、私たちの物語はどこにあるの?」
「来いよ。天国を見せてやる」
そう言うと、男は女の手を引き、蕩けそうな都会の不夜城の中へ消えていった。
次は「火照る」「機械仕掛け」「軟体動物」
「ここの湯は熱くて火照りますね」
夕食の後、私が大浴場に浸かってぼんやり二体の置物を眺めていると
見知らぬおばさんが声をかけてきた。私は会釈をし「そうですね」と同意する。
「その置物ねえ、さっき宿の人に聞いたら地元の芸術家が作ったものなんですって」
置物は軟体生物にも見える人間の男女が絡み合っていて、下半身が機械仕掛けで
動いている、とてもグロテスクなものだった。
「芸術ですって」
おばさんは揶揄するかのように呟いた。私は確かに気持ちの悪いものだと思ったが
こういうものは、田舎でしか見れないなとも思った。
ある意味でこういうものがあるということは自然なのだとも思う。何もかも都会みたいに
クリーンでは人はきっと疲れてしまうだろう。それに誰だってこの置物が
していることはするし、それは見ようによってはグロテスクにも見えるだろう。
私は、あまりにも好意的に解釈している自分に苦笑いをして顔をぬぐった。
少しだけ硫黄に匂いがするそのお湯は、
男性の出すもののように白くに濁っていた。
「ティッシュ」「シュークリーム」「ムード」
高層ビルのレストラン、窓から見る光景は闇にいくつもの光が彩られている。
僕は奈緒子を招待し、どきどきしていた。
自然と手元も固くなる。
僕は苦笑した。
「今日は素敵なレストランに招待してくれてありがとう」
「あ、は、そうだね」
いそいで作り笑顔をつくった。
豊満な胸がテーブル上からむき出しになって、不自然に眼がいく。
まるでこのムードを引き裂くみたい。
「わたし、こんな本格的なスィーツ滅多にたべないです。いつもはコンビニのシュークリームぐらいです。
ぼくはティッシュで口元を拭く。
そこまで感動してくれるとは。
ぼくはライブヒルの幹部で小金には困らなかった。
欲しいものはなんでも買っちゃう。
その代わりやらしてね。
これは絶対なのである。
食べたら食べられる。
これは自然の摂理。
ふぉっふぉっふぉなのである。
「これおいしー!」
奈緒子の声がぼくの頭中で反芻する。
「サイバー」「きのこ」「100円玉」
きのこはもう大人なのに自分のことを「きのこ」と呼ぶ。
きのこは最近、バイトを始めた。私が良かったジャン
続くと良いねと言っていたら案の定「止めた」とメールが来た。
時々、自殺とかリスカとか言う。そんなこと言うとこっちの
気が滅入るので、そういうのは言わないでというと
友達じゃないの? とかいう。友達だとそういうの聞かないと
いけないのでしょうか? 私には分からない。
「ユミさあ、さいばーふぁっしょんって知ってる?
この間、吉祥寺のぴんきーで特集してたんだ。その時、店の中で
100円玉拾ってさ。でも店の中でも床に落ちてたから
きのこが拾っても罪じゃないよね?」
次 三月 つぐみ 南
旅だということさえも忘れてしまうくらいの旅がしたいと思う。どうすればそんなことが出来るか皆目検討がつかないけれど。
車を走らせる前に、iPhoneへFMトランスミッターを繋ぐ。カーステからスピッツの「つぐみ」が流れ出す。
この曲を聴かなければ死ぬまで知らなかっただろう。つぐみが鳥の名前だなんてことは。
マサムネの声に乗せられ車をただ走らせる。何も考えることなくアクセルを踏み続ける。たまにブレーキも踏む。
急カーブ、ハンドリングは滑らかだ。今日は調子が良いと確信した。
窓を開ける。三月の風が頬にぶち当たり、冷たいと思う。冬ではないけど、春にもなりきれてない風だった。
カーナビ上は、ひたすら南に向かって突き進んでいるようだった。ふと、カーナビを切った。
この旅に地図など要らない。旅の始まりを自分で決める様に、旅の終わりも自分で決めるのだ。
心の赴くがままに。
俺はいつも昼食を買うコンビニに車を停めて、そして週刊少年ジャンプを購入してしまうと、心がすっかり満足してしまって、もと来た道をそのまま引き返した。
旅を求める旅はこれからも続いていくんだろう。
次「ロボット」「いけにえ」「生活」
406 :
ロボット、いけにえ、生活:2012/01/31(火) 05:42:50.47
ロボット いけにえ 生活
〇〇〇〇 〇〇〇〇 〇〇〇〇…
「食うか」
とメイドロイドのタマキが言った。
皿一杯に盛られたそれを見て、俺は開いた口が塞がらない。
「食うかって、おまえ、これが何かわかってんのか?」
「芋虫。蚕の幼虫」
「そうじゃない。そういうことじゃなくて!」
「ご主人様に捧げる貴重ないけにえ」
「日本人はこんなもの食わないんだよ。それにナマだし」
「海鼠は食べるのに、これは食べないのか。理解に苦しむ選択だな」
とタマキは蚕の一匹をつまみ上げて首を傾げた。
やれやれ、こんな安物のロボットなんか買うんじゃなかった。
外装のデザインがいいから飛びついたものの、所詮は低グレードの安物だ。
俺の目前に契約期間の三年が重くのしかかる。
あと三年も、このボケと漫才をしながら生活しなければならないのか。
「もうヤケクソだ!」
俺は蚕を一匹つまむと口に放り込んだ。
あれ……
ちょっとだけ、おいしいよ、これ。
「だろ」
と言うタマキが、少し嬉しそうに見えた。
次「プルトニウム」「野球」「エアコン」
地下室のエアコンは、何事もないように冷風を送り込んでいた。こいつに顔があったら多分、
事の重大さもスルーして、涼しい顔をしていることだろう。
だってエアコンは、地上が放射能で丸焼けになっていたって、地下三百メートルで細々と息をしている
俺の命が消えたって、太陽光パネルからの電源供給により、延々と動き続けるふざけた白家電なのだから。
俺はシェルターの先住者が持っていたらしいエポック社の野球盤を弄っていた。
「マリア、おまえの打つ番だぞ」
俺は野球盤を回して、目と鼻の先に対面している絶世の美少女に攻撃を促した。
その時、頭が急にくらくらして吐き気がこみ上げてくる。
「ジョン、大丈夫?」
「心配ない。最終回だ。ゲームを続けよう」
マリアは小さいバットでヒットを放ち、二塁まで進む。
「本当にごめんなさい。私なんかのために」
「もうおまえしかいない。おまえを離すわけにはいかないんだ」
シェルター内で何度か彼女を抱いた。マリアは事の前に自分がどういう状態かを説明したが、俺は
どうでもよくなってモデル並の肉体にむしゃぶりついた。そのツケが今の俺の寿命を極端に短くしている。
別にマリアが不治の性病だとかではない。
「ごめんね。今度はちゃんと人間に生まれてくるから」
マリアは高性能のセクサロイドだ。先の戦争で逃げ惑うどさくさの中で出会った。
彼女はただ、体内の炉心から微量のプルトニウムが漏れ出している。俺はそれを浴びたわけだ。
「愛情の代金としては少しだけ高かったかもしれない。でも夢ってのはすぐ覚めちまうもんだろ」
マリアの打ったパチンコ玉がホームランのポケットに入った。
ゲームセット。おめでとう。君の勝ちだよ。
なんだかものすごく眠たい。
マリア、少しだけ君の膝で寝てもいいかな―――――――― おやすみ
次回「猿人」「人工知能」「もう帰れない」
その<猿人>と書かれた人形の前には僕一人しかいなかった。
さっきまで大勢の人が、この博物館にいたはずなのにどうしたんだろう?
僕は思う。きっと面白い展示品があって、そっちに行ってしまったんだろう
そう考えた。だってこの人形はなんだか薄暗い照明の下で生きているように
口をあけ、恐竜みたいな動物の頭を叩いていたからちょっと怖くなって
心細くなったんだ。
「すげえな」
僕は声に出していった。その音は館内に不自然なほど鳴り響いた。
「すげえなあ」
もう一度。自分の声じゃないみたいな気がする。
ガサッ。
僕が音のしたほうを振り返ると。いつか見たスポーツ選手より大きな
ロボットの足が動いたところだった。なんか変だな? 僕は思う。
だって、あのロボットは柵の外にあって非常口と書かれた階段を塞いでる。
僕は皆のいる場所に行こうと思った。そうだ先生はどこ? 友達は?
ガサッガサッ。
そのロボットは生きているようだった。そんなのありえない。人工知能なんて
漫画だけのものなんだ。僕はそう思い込もうとした。
ウゴゴゴオオ。
振り返ると<猿人>がこちらを振り向いた。
(オマエハモウカエレナイ)
猿人は猿人の言葉で言ったが僕には理解できた。何故だ何故なんだ!
「今日さあ、変な夢見たよ。怖かったなあ」
僕は登校中シンちゃんにそう話す。話せば少しでも怖さがなくなるとでも言うように。
「ふーん。それはもしかしてロボットの夢じゃないかい?」
僕はドキッとした。なんでシンちゃんが知ってるのだろう? なーに偶然かからかってるんだ。
「何で?」
「何でって何でもさ。そして恐竜も出てきたろ?」
僕はシンちゃんを突き飛ばすと、もうダッシュで学校に向かった。
でもその足は何故か動かなかった。だってあれだからさ、皆も経験あるだろ。
そう、夢だったんだ。あー良かった良かった。
次 「紀元前」「進化」「UFO」
410 :
紀元前、進化、UFO:2012/02/07(火) 21:13:29.39
「君を確保させてもらうよ」
俺はタイムリープの途中で時間警察に捕まった。
「罪状はなんだ? 俺には心当たりがないんだが」
「心当たりがないだと? 時間渡航者にしては随分とふざけた奴だな。おまえのせいで未来の一つがとんでもないことになったんだぞ」
「とんでもないって? まさか核戦争でも起きたのか」
「核戦争ならまだマシだ。いいから、ちょっと来い!」
俺は警官に胸ぐらをつかまれて、〈現代〉に戻った。
いや――それは俺の知っている現代ではなかった。
「どうしてこんなことに?」
俺は街行く人々を遠目に見て驚愕した。
「おまえ、さっき紀元前に行って何をした?」
「何もしてない。いや、ちょっとだけ……」
「現代から持っていった日清のUFO焼きそばを食べたろう?」
俺は頷いた。もう嘘をついている余裕はない。
「で、その容器はどうした?」
「粉々にして、土に埋めました。持って帰ると質量分、渡航費がかかるから」
「馬鹿野郎! おまえがゴミを捨てた因果がこの世界だ。よく見ろ」
そこには、かつて見慣れた人々の姿はなかった。
街を行き来する人間の顔の真ん中には、UFO焼きそばの容器が斜めに食い込んでいた。
全員だ! 一人残らず同じ場所に、あのポリスチレン容器が食い込んでいる。
「《進化》がおまえの捨てたオーパーツを浄化しようとして、それを生物の遺伝子に取り込んだ。これはそのおぞましい結果なんだよ」
俺は言葉が出ない。俺はなんてことをしてしまったんだ。
「どうだ? おまえの妻の顔も拝んでみるか?」
「いや、それは勘弁してくれ」
「だめだ。おまえは罰を受けなければならない」
別の警官が既に妻の純奈を連れてきていた。
「あなた!」
純奈は俺を見るなり、目を剥いて絶叫した。
「どうして頭にUFOをつけてないのよ? いや、こっちに来ないで! 気持ち悪い!」
次は「生爪」「父親が警察官」「寝たきり」
生爪って名前の俳優が「今日は糞寒いな!」と同意を求めた相手が「父親が警察官なんです」っていうもんだから、フシコは寝たきりの人間になった方がマシだと思った
次は「ブッチャー」「戻って戻れ」「天童よしみ」
413 :
名無し物書き@推敲中?:2012/02/11(土) 04:48:22.86
固有名詞は原則禁止
天童よしみって名前の歌手がブッチャーって名前のレスラー
に扮して話題を呼んだ映画「潰れた正夢」。
歌手である天童がレスラーのメイキャップで楽屋に入り
他の歌手たちを勧誘するシーンから始まる三時間の大作だ。
エンディングではブッチャーはじめレスラーたちも皆メイキャップを
落とし平和な女子に戻る。脇役たちが皆ありのままの素顔に戻って
戻れない歌手天童だけが孤立するシーンは、冒頭への再帰である。
次は「生爪」「父親が警察官」「寝たきり」
「お父さん、眠った?」
「うん眠ったみたい」
ユミコの父親が脳梗塞で倒れてもう一年になる。僕は台所で食器を洗いながら
早い一年だったと感慨深げに思った。ユミコの父親は警察官だというのに
変わった人で「人間は悪いことのひとつもしないと大きくなれない」と酒を飲むと
よく言っていた。それはストレスから来る言葉だったのかもしれないし、人生の
経験で得た教訓だったのかもしれない。そんな時には僕は「ええそうですね」風に
曖昧に返事をしていたのだけれど、今となってみると、ふいにそのことが
思い出されるのだ。「悪いことのひとつもしないと」と。
「ねえお父さん、どこかぶつけたのかな? 生爪剥がれてる」
父親の布団をかけなおしていたユミコがそういった。
「生爪?」
僕は蛇口を閉じて聞き返す。
「うん。剥がれちゃってるの。痛そう。ひー」
「これは痛いね。でも気がつかなかったなあ」
「足の感覚が無いのかしら?」
僕は台所からユミコの隣に来ると剥がれた爪を見ながら言った。
「困ったねえ」
「消毒だけしとこう。それにしてもお母さん遅いなあ」
「きっと混んでるんだよ。だってすごく安かったもの」
近所のショッピングモールで安売りをしてるのだ。
次 平凡 出会い 早春
416 :
415:2012/02/12(日) 11:57:18.92
お題いれるのわすれちゃったよ。
平凡な毎日を過ごしていたヒデオ。
ヒデオはよく、「ビデオ」と呼ばれチャカサれる、クラスで一番のブサメン。
ブサメンほどよく射精時は飛ぶということはちまたで知られている。
そんなヒデオにも出会いはあった過去。早春であった。
まだTSUTAYAかされるまえの「アマゾネス町子」というエロビデオ屋に、全裸で行った時のことだ。
16歳だった。相手は88歳の鍼灸やってる婆ちゃん。
手コキをされた。ビデオ屋店内で。
果てたかって?無論、果てた。汁は、プロケッズの靴にしたたり落ちた。
次は「グレートムタ」「パンク精神」「換金所」
ロムニ社で新製品の極秘内覧会が開かれた。
社長「我々は、かつて困難であると思われた分野に次々と新しいビジネスの鉱脈を探し当ててきた。電子政治家システムや大気圏花火、児童向けの
セクシャルカウンセリングなど。だがここで今一度我々は人々の生活の原点に立ち返るビジネスを再検討したい」
技師「社長、準備ができました」
社長はうなずきながら「今、町は独身者で溢れかえっている。誰も家庭に憧れなくなり、自宅警備に明け暮れ、死を待つのみだ。今回のビジネス
の顧客はそのような人々である。我々は彼らの世話を死ぬまで受け持つ優秀な製品を開発した。さあ、入りたまえ!」
会議の円卓の後方にある観音開きの扉が開け放たれ、日本の女優をモデルにした長身のアンドロイドが入ってきた。まだ試作品らしく、数本の
コードを引きずり、その後ろには技師たちがコントロール卓を押しながら付いてくる。
幹部A「美人だな。名前はなんだろう? まさかロボメイドとか」
新製品「家政婦のグレートミタです。よろしく」
幹部A「は? グレートムタ? ジャパニーズプロレスにそんなのがいたような」
新製品「違います。グレートミタです」
お調子者の幹部が拍手をすると、全員が思い出したかのように拍手の波を広げていった。
その後、グレートミタの能力が披露されるわけだが、片手が掃除機の吸い込み口になったり、口内から小さな火を吹いて、薪に火をつけたり、
果ては中指が触手のように伸びて便秘で悩む老幹部の摘便をしたりと、実に素晴らしい能力を見せた。
社長「我ながら感動的だよ。グレートミタ、君はサイバーパンク精神を忠実に受け継いだ電脳の傑作だ」
社長の言葉に誰もがうんうんと頷き、グレートミタを賞賛した。
だが内覧会が終わった直後、副社長のズゴックスが辞表を出した。
「こんな会社やってらんね。何がサイバーパンク精神だよ。勘違いも甚だしいわ」
ズゴックスは《換金所》に行った。その店はとあるパチンコ店の裏にあり、金玉、つまり男の睾丸を女性器と取り替えるという闇の医療機関だった。
「俺を女にしてくれ。グレートミタよりとびっきりいい女にな」
こうしてロムニ社の元副社長は、女性化した肉体を武器に漆黒の都市ロサンゼルスへと旅だっていった。
次「酸性雨」「ヌードル」「彼女は偽物」
駅に続く通りは渋滞していたから
降りて歩こうかと思ったが傘を持っていなかった。
雨は街を染めビルを濡らす。雨にはきっと体の組成を
汚す物質が入っているに違いない。フクシマのせいだ。
雨を酸性に変え、それは少しずつ心を溶かす。
「カップヌードォ!」
タクシーのラジオからはいつもと変わりない話題をいつもと
変わりない人が放送していた。すべては変わってしまったのに――
俺はつぶやく。
運転手は何も言わずハンドルを握って前を見つめている。
きっといつものことなのだろう。信号が変わり少し進んでとまる。
運転手は女で頬が不自然なほど紅かった。
きっと外国人なのかもしれない。
――彼女は偽物のシャドーをつける。
次 寒さ 風邪 熱
寝ぼけ眼でテレビを付けると対照的にあっぱれなくらい元気な女子アナが
はしゃいでいる。「今年一番の寒さになるでしょう」と言っているのを聞いても、
暖かい部屋の中ではいまいちピンとこない。テレビが言うには2月14日バレンタイン
だそうだ。自分には関係ないな。そういうのは若いものがはしゃいでいればいいさ。
会社に行けば義理チョコがもらえるが、もう、思春期のようなときめいた
イベントには感じられないのが実情だ。年齢を重ねるとはこういう事だ。少しさみしい。
会社に着くと後輩の女性が風邪で休むそうだ。そういえば自分も熱がある気がする。
チョコを貰えるとすれば、その後輩くらいしかいなかったが風邪で休みか、残念だ。
しかし、同時に風邪をひくとなると会社でうつされた可能性は高いんじゃないだろうか。
必ずしもそうとは言えないが犯人探しが出来なくもない。
先輩の女性が先週風邪っぽかった気がする。犯人かな。昨日話していた時うつされたかなと感じたが黙っていた。
その時後輩の女性もいたが体調が悪そうだった。先輩は特に何も触れなかったが気にしている風だった。
午前中の仕事がひと段落した頃、先輩の女性が声をかけてきた。
ドリンク型の葛根湯6本入りをもらった。今日がバレンタインだからだそうだ。
その場ですぐに空けて飲んで「治りました」と言ってみた。笑っていた。
きっと、自分が写したんじゃないかと気になっていたんだろう。
残りは5本あるがひとりで呑むには多すぎる。たしか後輩の家は職場から近かったはずだ。
とらえず、後輩に体調を気遣う文面と葛根湯を見舞うぜとメールしてみる。
数分後には返信があり、「Yes I CAN」と書かれていた。体調は良いようだ。
ひとりで行くのも何だし、先輩にも声をかけよう。
こんなバレンタインも悪くないんじゃないかと思いながら葛根湯を見つめていた。
次「漢方 お菓子 温暖化」
421 :
「漢方」「お菓子」「温暖化」:2012/02/15(水) 00:13:38.76
どうやら風邪をひいたみたいだ、そう感じたのは今日のお昼頃だった。
社内のエアコンは轟音をたてているし、机の足元の電気ストーブは
餅が焼けるくらいに真っ赤に光っている。
それなのに体の中からわき上がる、激しい悪寒に震えていると
「なぁに?風邪引きたの?薬持って来てあげるわよ」
と、少し太ってはいるが愛嬌だけはある事務員が僕に向かって言った。
そして、コップ一杯の白湯と「漢方薬」を僕のデスクに置いてくれた。
「あ、そういえば、ご飯は食べたの?お昼ご飯」
と事務員は僕に尋ねた。
「それどこじゃなかったんだ。銀行強盗が失敗に終わったから、
僕は防犯カメラに写らないように逃げるのが忙しくて…」
「そんな訳の分かんない事言う元気があるなら、食事摂ってくれば良かったのよ、
それとも頭まで風邪のウィルスが回っちゃったのかしら?じゃ、ちょっと待っててね」
と事務員はお尻を小刻みに左右に振りながら小走りに廊下に向かって行った。
いつも以上に僕の冗談が冴えていたように感じていたが、どうやら熱のせいだったのかも知れない。
「ハイ、これ食べて。言っておくけど義理チョコなんだからね(///)。
「お菓子」でも何も食べないよりマシでしょ… 」
そう言ってまた給湯室か何処かに行ってしまった。
僕はそのチョコレートを口に入れた。
熱で味が分からないせいか、手作りのハート型のチョコレートはやけにぐにょぐにょしていて
チョコレートを食べているのか、甘い粘土を食べているのか良くわからなかった。
でも、何も口にするよりは胃の為には悪くは無い筈だ。
チョコレートを食べ終わると、事務員が持って来てくれた「漢方薬」を水で流し込んだ。
薬を飲み終わると、事務員がまたやって来て今日は早く帰った方がいいわよと、僕に言った。
言葉に甘えて僕は帰ることにした。
そして僕はマフラーとコートを来て、事務所の外へ出た。
外は思った以上に冷えている、地球「温暖化」なんて誰かが作り上げた出鱈目の様に思えた。
422 :
名無し物書き@推敲中?:2012/02/15(水) 00:15:07.42
次 「メタンガス 焼き鳥 女神」
「いらっしゃい……おっ、別嬪さんだねえ」
儂は長年、この界隈で屋台を引きながら、たった一人で生活している。
大して繁盛しないのは、屋台の名前が「にぃちゃん」であり、儂が仕事中でも暇を見つけては2ちゃんねるに接続しているからなのか。
その夜に来たお客は大層な美人だった。長身に真っ赤なコートを着ている。
唇も赤。どこかのモデルか女優がお忍びで下界に遊びにでも来たかのようだ。
「お客さん、女優か何かかい。オーラがまぶしいねえ」
「違うけど、コスプレは好きよ」
「ほう、凄腕のコスプレイヤーってとこかな。写真いいかな?」
「いいわよ、どうぞ」
儂は彼女に料理を出してから、スマホで彼女を写し始めた。
「親父さん、まるで私の全身を舐めるように撮るんですね」
「そりゃあ、あんたみたいな別嬪は二度会えるかどうかわかんねえからな」
客は美女の他に先客が一人、灰色のコートにトレンチ帽の男がいたが、儂はそんなことはスルーして写しまくった。
「ところで親父さん」美女は食べながら、ふいに切り出した。
「私じつはお金がないの。だからこれで勘弁してくれないかな?」
美女は着ていたコートをするりと脱いだ。なんと中は何も付けていない。これまたモデル並の肉体が露わになった。
「わかった。女神行為だね。でも写真は撮らせてもらうよ」
「どんなポーズだっていいわ。命令して」
そのとき屋台のガスが切れた。
「やべえ。これから夜通し仕事だってのに」
「本当に困ったわね。私もまだ食べたいのに」
「その心配はない」ふいに今まで黙っていたコートの男性客が口を開いた。
「私の体を使って火をつければいい」
儂は怪訝に思って男の顔をのぞき込んだ。あっと思った。
顔がないんだ。中は闇。空洞だよ。魂消たね。
「自己紹介が遅れたが、私はある研究に失敗してね。体がガス化してしまったんだ。メタンガス人間なんだよ」
そう言うと男は、見えなくなった自分の体をボンベに直結した。すると屋台のコンロが再び着火された。
「実は私もお金が足りなくてね、今日はこれで勘弁してくれないかな」
「へい、お安いご用で!」
夜はまだ長い。儂らは焼き鳥と酒が底をつくまで語り合ったさ。2ちゃんねるに書き込むのも忘れてな。
次は 逃げた父/鉄道模型/魔の山
標高約1500mのとある高原にあるサナトリウムには、かつて近隣を走っていた鉄道の模型が設置されている。
かつてホテルだったこの施設で見る夕日はただ眩しい。
最上階の展望ルームから見渡す景色と模型を、とくに考えも無く見比べていた。
何となく物思いにふけっていると、逃げた父が鉄道模型好きなのを思い出した。
食い入るように、何かを考えいるように、ただ、模型を見つめている父を思い出すと
今の自分と重なるような感覚を得た。
自分も一定の年齢になり、父が模型に何を求めていたのか、というかそこから何を得られていたのか
若干ではあるが分かるような気がした。
家族や仕事に追われる日々の中で、かすかな安らぎを得ていたのだろうか。
しかし、鉄道模型では父は耐えきれず、結局、家族も仕事も投げ出して逃げてしまった。
遺品を取りにきた今日まで、父が病苦に苛まれているとは思いもしなかった。
父は失踪後に精神を病み、このサナトリウムに入所して余生を過ごした。
たぶん、疾走する前から病んでいたのだろう、目に浮かんでくる模型を見る父の目が
強張っているように思えた。
遺品の中にあった魔の山という本には無数にわたって落書きがしてあった。
ちょっと見るだけで吐きそうになり、それ以上見る事は出来なかったが
一目見ただけで父の精神が病んでいるのが分かるような内容だった、むごい。
もし、父が逃げなかったら、私や家族は想像を絶する苦難を得ていたかもしれない。
家族だから苦難をともにするのは当然かもしれないが、父はそうは考えなかったのであろう。
息子としては寂しい限りだが、自らの命を縮めた父はそういう道しか進めなかったのかもしれない。
夕日が射す鉄道模型は何も言わずに、ただ、そこにあるだけになっていた。
「うつ」「仕事」「お金」
うつは曇り空だ。どこまでも続く厚い雲が世界を覆って
それを鉛色に変えてしまう。
仕事に行く人々には顔が無い。色は肌に反射して
顔を隠す。表情が無いのだ。笑いもせず怒りもせず
憎しみも悲しみも無く、ただ無表情に歩いていく。
世界が消え始め社会性も消える。お金が消え倫理が消える。
光と影は曖昧になり生と死の境目が消える。
そう君は死にとらわれ始めているのだ。
次 「逃げろ 希望 月」
426 :
「うつ」 「仕事」 「お金」:2012/02/20(月) 10:34:43.52
外に出ると、とても良く晴れていた。
冬晴れの空の下で、しばらく振りに散歩に出かけた。
芝生に残った木の形で残った白い霜や、花壇の側にある霜柱を踏みしめると
小学生の頃を思い出した。漠然としてはいたが、夢や希望といったものを、疑わなかった頃の事だ。
澄んで乾いた空気に包まれたまま、僕はこれから先の事を考えた。いつもの事だ
考えれば考える程暗い闇に押し潰されそうになる。空はあんなに蒼いのに。
自分が駄目なのは分かっている。ギャンブルで職も金も失ったし。
もちろん、家族になんて何年会ってないかすら分からない。
ベンチに腰をおろし、くしゃくしゃになったたばこの箱から、最後の一本を取りだし火を点けた。
風がないせいか、煙がずっと目の前に蟠っていて、とても目にしみた。
「失礼ですが、今少しだけお時間を頂けませんか?」
少し驚きながら声のする方に目をやると、カチッとした黒いスーツに
コートとマフラーを着けた僕より4〜5才は若そうな男が立っていた。
「単刀直入に申し上げます、私とビジネスの話をしませんか?」
「いきなりビジネスの話ですか?」
僕はとても大きな陰鬱とした気分になりながら、そう答えた。
427 :
「逃げろ」「希望」「月」:2012/02/20(月) 11:02:42.48
「いかがですか?ビジネスに興味があれば、私とあの店で食事でもしながらお話しませんか?」
男が指を指した先には、いくらか古いが、洒落た小綺麗な喫茶店があった。
僕の陰鬱とした心の中で誰かが
「逃げろ!」と言った気がした。
しかし、端正ではあるが、男の感情表現の乏しそうな顔を見ると、蛇に睨まれた蛙の様に
身動きもできずに、僕は
「分かりました。では、お話しをお伺いします。」
と言っていた。男の話に希望を見いだした訳ではない、どちらにしても
最初から「希望」なんて何処にもないのだ。
「それでは、一緒に行きましょう。簡単な食事もありますから」
男は僕が昨日の夜から何も食べていないのを既に知っているのだ。
男の後に付いて公園の芝生を歩きながら空を見上げると
蒼い空に、白い満月が見えた。
太陽の光で、存在すら虚ろな昼間の月だ。
次は
「カニパン」「牛乳」「ごみ箱」
「なつかしいなあ。カニパンですか?」
僕が昼食のカニパンを食べていたら後ろで声がした。Fさんだった。
Fさんは社交的で僕が会話をしていてもそれほど苦にならない
社内で唯一といっても良いような人だった。後輩なのに僕より
人望がある。もっともうつで仕事を度々休む人間にどうして人望など生まれよう?
「そそ……そうですカニパンです」
また口ごもってしまった。僕は胸の中で気分が悪くなり始めた。
誰も声なんてかけてこなければいいのだ。そんなマイナス思考で埋め尽くされる。
「私も学生の頃、良く食べました。お金が無かった頃」
そういった後、Fさんはしまったという顔をした。僕が給料を下げられたのは
社内の殆どの人が知っている。いや全員知っているのだろう。Fさんは気を使うのが下手だ。
それはある意味美点だ。正直すぎるのだ。
「へへ……へへへ」
僕は何か上手いことが言えたら良いのにと思う。お笑い芸人のように
ぱっと状況を変えてしまうような返事。きっとそんなことが出来たら、うつにはなっていないだろう。
喉が渇いて牛乳を飲む。牛乳は喉をうまく通らずむせてしまう。
”逃げるんだよ”声がした。”月までいっちまうのさ”声は僕の中から聞える。
”そこへいけば傷つかない。誰もいないからさ。それがお前の希望だろ”
僕は声に耳を傾ける。逃げてしまえば楽になる。そう、苦しみも無い。
(嫌だ。僕は逃げない。どこへ行っても自分からは逃げられない)
声に向かって返事をした。でも本当だろうか? じゃあ何に頼ればいい? 神様か? カウンセラーか?
「Fさんは外へ食べに行かないの?」
僕はゴミ箱に牛乳パックを捨て背伸びをした。外は春の兆しが見えた。
次 「ルール 違反 しっぺ」
兄が自殺したのは冬の寒い夜中だった、凍えるような。
仕事をするようになってからは実家を離れて暮らすようになって
お互いの事なんてあまり気に出来るような環境じゃなかったけど
兄の死がショックじゃなかったと言ったらウソになる。
ただ、家族や親族の間でその話をしないってことがルールのようになっていた。
だから、なるべく避けるようにしていたし、実際、過ぎてしまうと普通の生活に戻れた。
そんな自分も何度かそのルールを違反した事がある。
仕事人間の父に見栄っ張りの母と同居していた兄はあまり相談とかする人じゃなかった。
実家を離れてから会うのは年に数度になっていた。
正月とかに実家に帰ると、兄の死の冷たさに体が覆われるようで耐えられない
そんな気持ちを両親にぶち当てても特に何も帰ってこなかった。
両親は現実逃避をしているのか、終わった事だと思い込んでいるのか反応が無かった。
とんだしっぺ返しを食らったのはそんな時だった。
友人から両親が何も考えてないわけがない、もし反応が無いのなら
そういうふうになることでしか自分たちの心を守れなかったのだろうって言われた。
まともに向き合えば気が狂ってしまっていただろうって。
みんな辛いんだ、でも、一番つらかったのは死んじゃった兄だ、たぶん。
もう、僕たちはもとには戻れない、かけがえのないものを失った状態で
生きていかなければならないんだ。それはあまりにも刹那すぎる。
寒さの厳しいこの時期になると、生きているのが辛くなる感覚に襲われる。
白い防護服を着た一団が、懐中電灯を手に、境内を隈無く探索した。
「おい、いたぞ」
ランカスター将軍がみずから的を発見した。ただちに防護服の一団が彼の元に駆けつけた。
ランカスターが懐中電灯を照らした先に、大きな白い犬が怯えていた。
「な、なんだ君たちは?」犬が人語を話した。人語を話したことで犬の正体が確定した。
ランカスターは尋ねた。「あんた、霊犬の早太郎(しっぺい・たろう)だね」
犬は弱々しく頷き「いかにも、儂は早太郎だ。して、お主たちは?」
「国際説話機構の者です。世界各国の伝説、神話が原典に忠実に運行されているかどうかを見極めています」
「これはやっかいな方々だ……」
「確かあなたは矢奈比売神社のヒヒを退治することになっていたはずですが」
「儂はあそこへは行かぬ。ヒヒを殺した後、どうせ儂も死ぬのだろう」
「さすがは霊犬と言われただけのことはある。自分の運命が見えておいでだ」
「やはり儂とて死にたくはないものだよ」
「しかしそれでは光前寺に伝わるしっぺい太郎の説話が成り立たなくなってしまいます」
「知ったことではない」
「外で我々のヘリコプターが待っています。さあ、早く磐田の里に向かってください」
「儂は行かぬと言ったら行かぬ!」
「それは因果律に対する重大な違反です。仕方がありません」
ランカスターは小銃で早太郎を射殺した。
部下が前に出てきて「早太郎の代わりは既に用意できています」
「うむ、矢奈比売神社のヒヒは大丈夫か」
「なんとかロボットで間に合わせました。村民には分からないと思います」
「手はずが早いな、お前、名前は何という?」
「ハリスです」
「覚えておこう。よし、先に行け」
ヘリで先に現地に向かったハリスと一行を一人見送ったランカスター将軍は呟いた。
「すまんなハリス。俺はお前にこの世界のルールを一つ教え損なったよ」ランカスターは葉巻に火を灯して深く吸った。
「この計画がコンプリートしたら、証拠隠滅のため本部隊は私以外は全滅することになっている。悪く思わないでくれ給え」
次「家族」「テーマパーク」「天敵」
テーマパークに勤める一従業員である俺にとって、ルールや常識を一切弁えない家族は、最大の天敵だ。
今日もまた、そんな家族がやってきた。
「ねぇ、ママ。早く乗りたいよ」
「そうねぇ、もう少し我慢しようねぇ」
「ヤダヤダ! 早く乗りたい!」
周りの迷惑も顧みず、大声で喚いて地団太を踏む子供。
それを「しょうがないわねぇ」なんて言って止めようとしない母親。
本当に、虫唾が走る。
仕方なく、いつもの様に俺はその家族の元へ行く。
「――あの、申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので……」
すると、今まで微笑んでいた母親がさっとキツイ目付きに変わり、睨み付けてきた。
「何です? 別に何もしてないですよ。迷惑、ってどういうことですか?」
「いや、あの、子供さんをちゃんと見ててあげないと、怪我をされる恐れがありますから……」
係員が、母親の剣幕に弱りながらも注意する。だが母親は一向に聞く耳を持たない。
そこに、ひょこひょこと軽快な足取りで、テーマパークの人気キャラクター「ムッキーくん」がやって来た。
「あ、ムッキーだ!」
今まで喚くだけだった子供が急に笑顔になり、ムッキーくんに近づいていった。
「ムッキー、こっち来て写真撮ろ! 写真!」
子供はムッキーくんの手を引っ張って、親の元へ連れて行こうとする。
すると突然、ムッキーくんは握られた手をぱっ、と離してしまう。
『あっ』
母親と子供の声が重なった。
いきなり手を離されたせいで勢い良く倒れてしまった子供に、列を離れて急いで近寄る母親。
「痛ぁい! 痛いよぉ!」
「ああっ! 大丈夫? 怪我してない?」
その様子を、口に手をあて不安げな仕草をしながら見ているムッキーくん。
だが、中の方ではこう思っていた。
(――だから言ってたろ? ちゃんと見とけって)
次 「怪異」「機転」「クローズドサークル」
432 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/01(木) 00:40:26.35
僕たちが仲間割れしてから、早くも3日が経とうとしていた。
クラス1の天才が彼の言うには、宇宙空間に漂う僕らの宇宙船が無事母星にたどり着く確率は0に等しいらしい。
幸いにも酸素と水、そして自活するだけの食料は船の内部の植物プラントだけで定員分はギリギリ確保出来る。けれどもこの船には未知の客人が居た。
「どうしても数が合わないんだ」
食料の分配を担当している背の高い仲間が言った。就職率の低さとコミュニケーション不全を解決すべく22世紀の日本で定められた高等教育の少人数教育水準―20人のクラスのはずのだが、22人に増えている。
今や日本で一番賢い高校の一つであろう、この高校の一年生の始まりは宇宙での少人数オリエンテーションである。魅力的なその課外活動が功を成して昨年スーパーサイエンス高校の指定をされた。
このままでは食料が足りなくなる。
夜の校舎には、ひんやりと冷たい空気が流れている。
(……ああ、なんて怪異)
「ま、まあなんて嫌そうな顔なのかしら。思わず殴りたくなってしまうわ」
「この暗闇で表情が見えるかよアホ」
それもそうねとおとなしく引き下がった、妹。
最近いわゆる思春期というやつで、おかしなキャラ設定&口調を始めた、床に寝転がった自分を一切の呵責なく踏みつぶす愛おしい妹。
夜の学校という魔空間への付き添いも、その妹の頼みとあっては、断れまい。
だが悪くない状況だ。叫び声が上がっても近所に気付かれないクローズドサークル。
ここに於いて、当然ながら、彼の裡にはメラメラと燃え上がるものがあった。
――しかし、気付けば妹はいなかった。怖くて逃げだしてしまったらしい。
窓から逃げでもしたのか、一瞬遅れて、セ○ムの警報が鳴り始める。
長居は無用。けれどその前に、と機転を利かして彼は妹のノートを探しだした。
「……別にあいつのためじゃないケドな。無駄足になるのもアレだし」
言い訳は、教室の片隅にむなしく響いた。
次『エクササイズ』『通り雨』『三者凡退』
434 :
エクササイズ、通り雨、三者凡退:2012/03/02(金) 21:29:19.01
夕方、蔵六はエクササイズに励んでいた。生徒はまだ来ないが、彼は一人で盛り上がっていた。
ここは彼が経営するエクササイズスタジオである。
外は雨が降りはじめた。蔵六は通り雨であることを祈ったが、天気予報はそうは言ってない。
「やっぱり雨か。じゃあ広子は来ないな」
雨が降るとエクササイズ仲間の広子は欠席する。
蔵六はガッカリして動くのをやめ、テレビを点けた。野球だ。嫌いなチームが攻めている。
「空振りだ。三振。チェンジ、チェンジ!」
蔵六の念はしかし、テレビの向こうには一向に届かず、バッターはホームランを打った。
「あのバッター、なんか似てるな。広子の旦那に」
通り雨が本降りになっていた。蔵六はもう店を閉めてしまいたくなった。
その時であるぜんちん!
「ごめんなさい。遅れちゃった!」
蔵六のポツンといるスタジオに、びしょ濡れの広子が駆け込んできた。
外から着たままのエクササイズスーツが濡れて、広子の肉体の輪郭がくっきりと浮かんで見えた。
「広子、今日は雨なので来ないかと思ったよ」
蔵六は広子にタオルを渡した。もう少しで抱きしめそうになるのを必死に堪えた。
「本当は休もうかと思ったけど、今日は家に旦那がいるから」
「旦那さんと一緒じゃいやなのか?」
「私じゃない。あの人のほうがいやみたい……」
「こんないい奥さんをいやだなんて、許せんな」
目が合った。広子と蔵六の視線が絡んでもつれた。
「ねえ、早くはじめましょうよ。でも他の人は来ないのかしら」
「他の奴はどうでもいいよ。時間だから始めよう」
「そうね」広子は蔵六に特別の笑顔を見せた。
本降りになった通り雨は、豪雨に変わっていた。交通が麻痺し、本来来るはずだった他のメンバーも来る気配がない。
スタジオの電話が鳴っていたが、誰も出なかった。もしかしたら雨の轟音で聞こえなかったのかもしれない。
やがてスタジオの音楽もかき消され、そこに人がいるかどうかさえわからなくなった。
誰も観ていない点けっぱなしのテレビは、蔵六の嫌いなチームが三者凡退するのを淡々と映していた。
そしてエクササイズルームの灯が消えた。
二人は部屋から出ては来なかった。
次は「隕石」「カップル」「司令官」
ああイラつく。
素直にそう思った彼は、なんの躊躇いもなく言い放った。
「あの海岸線に打ち込め!」
「しょ、正気ですか司令官!? あそこは恋人岬と言ってこの時間にも多くのカップルが、ましてや今は――」
だからこそだ。そう言いかけて、彼はあることに気付いた。
そう、アレに不快感を感じないということ、それすなわち眼の前のこの男は――
気がつけば、眼の前でその男は倒れていた。何者かに殴られたらしい。
(……いや違う。やったのは俺だ)
彼には突然自分が醜い人間であるように思えた。見ず知らずのカップルならばともかく、仲間に確証もなく嫉妬して、殴り倒してしまうなんて。
明日で世界は終わる。だからこそ。だからこそ、こうして世界に一矢報いようとしているのに。
(……きっと、これが――自分の醜さを自覚することが『罰』なのかもな)
そして明日落ちる隕石が『救い』。
彼は倒れた男を介抱し、引き返せ、と部下に命じた。
もう少しの、辛抱だ。
次のお題は『楽園』『階段』『生産』
436 :
『楽園』『階段』『生産』:2012/03/04(日) 00:39:16.37
僕がこの島に来て3ヶ月がたった。
3ヶ月と言っても、正解には分からない。
日記を付けているわけでも無いし、僕意外はこの島で誰も見かけていないので、僕の感覚だけの話だ。
もしかすると2ヶ月かも知れないし半年かも知れない。でもそれは大した問題ではないのだ。
この島には、天然の温泉が三ヶ所も湧いている。しかもご丁寧に温度が全て違うのだ。
熱湯に近いのもあれば、泉に近いのもあり、普通に入れる温泉もあるのだ。
楽園と言っても差し支えにいのでは無いだろうか。
温泉の近くに階段上に岩が重なっていて、そこから海を眺めるとかなりの絶景だ。
海に温泉が注ぎ込んでいるせいか、海には魚や貝が沢山いて、山の森(ジャングルみたいなものだが)には
沢山の果実や芋が自生していて、僕1人が食べて行くには充分過ぎる程の食料が常に生産されているのだ。
そんな訳で、僕はこの島がとても気に入っているので、
この島に来て何ヵ月たつのかなんてどうでもいいことなんだ。
ただ、かわいい女の子がいればもっと楽しいかも知れないけどね。
『するめ』『食紅』『鍋』
437 :
名無し:2012/03/05(月) 00:55:07.30
ぐつぐつと煮えたぎる鍋を見て、ともこは嬉しそうに頬を緩める。
ビールを飲む私をチラチラ見ながら近づいてきた。
「お父さん、ともこにそれちょうだい」
「うーん、ともこには少し早いから、大人になってからにしなさい」
私がグラスを引っ込めると、ともこは慌てて何か言い出した。
「違うの、ともこが欲しいのはそっち」
なんだ、つまみのするめのほうか。私は納得して小皿にあけている
するめを一掴みして、ともこに渡す。
「ほら、ともこはお鍋が出来るまで待てなかったのかな」
「ううん、お父さん見てて」
そう言うと、ともこはポケットから何やら取り出した。キッチンに置いて
あった食紅だ。まったく、この子はこんな物で何をするつもりだ?
私が訝しがっている間にキャップを開けて、食紅を鍋にぶち込んでしまった。
「おい、ともここれは一体」
うろたえる私を尻目に、自信満々の様子でともこは教えてくれた。
「今日はタコさんのお鍋だよ」
438 :
437:2012/03/05(月) 01:08:57.29
すまん、次のお題忘れていた。
「散髪」「雷」「靴下」で
姫の長い金色の髪が、塔の窓から下りていました。
「そこを登って。私を助けて」
これが登らずにいられましょうか。
「うぉぉぉぉ!待っててくれ、姫よ」
金髪だけを頼りに塔に挑む王子は、まさに盛りのついた猿でした。
塔は気が遠くなるほど高く、それは苦しい登攀でしたが
「登る時が長いほど、逢う時間も長く楽しい」そうも思いました。
でも、必死で手を振る姫の窓に滑り込んだちょうどその時
雷鳴の様に、大きな疑問が王子を貫いたのです。
「待てよ、塔からの脱出が目的なら、私が塔に登る必要はないのでは?」
金髪を塔に結んで自分降りるとか、靴下をつなげて縄梯子とか・・・
「姫の、本当の目的はなんだろう?」
、
振り向くと姫は、申し訳なさそうに散髪台の前で
「ごめんなさい。実は、私、”王子様ホイホイ”なんです。」
と言って、長髪を根元から一気に断ち切りました。
※次のお題は:「軌道エレベーター」「絹の靴下」「豆の樹」でお願いしまふ。
440 :
軌道エレベーター、絹の靴下、豆の樹:2012/03/13(火) 22:43:08.55
「チカさん、待ってくださいよ」
久朗は千花の下から情けない声をあげた。
「お客さん、しっかり付いてきて下さいね」
千花は下を振り返って言うと、また上へ登りだした。
二人が登っているのは巨大な豆の樹だ。胴回りがセコイア級の巨木であった。
仁野千花は巨大な豆の樹の《豆の樹ガール》として勤務して三年になる。最初は華奢だった体も今では鍛えられて、スザーナ・スピアのような美獣筋を纏うようになっていた。
久朗の視界からは、先を登っていく千花の下半身がカブリ付きで見られた。ミニスカートからにょっきり突き出した健脚、締まった足首を包む、薄桃色の絹の靴下が、男の萌え魂を掻き立てた。
男性客はこの《豆の樹ガール》の腰をじっくり見ながら、彼女に追いつこうと、巨大な豆の樹を登る。
頂上には、レストランがあって《豆の樹ガール》と向かい合わせで食事ができるとか、天空温泉というものがあって《豆の樹ガール》が水着姿になって背中を流してくれるという噂も聞く。
行かない理由があるだろうか?
避けられない事故が起きた。久朗の目前に千花の尻が急迫してきた。先行中の千花が足を踏み外して落ちてきたのだ。
「うわあっ!」絶叫する久朗。木に捕まっているので両手で彼女を受け止めることはできない。尻が接近してくるのは嬉しいが、状況は危険極まりなかった。
言い忘れたが、ここは地上二千メートルである。
奇跡が舞い降りた。千花がとっさに太腿を開き、その間に久朗の頭をすっぽりと挟み込んだ。
久朗の頭上に落ちてきた千花は、彼に肩車をされる体勢で止まり、更なる墜落を免れたのである。
「千花さん、苦しい……」
千花は落ちないように、久朗の頭を力一杯太ももで挟み込んでいた。
久朗は軽い酸欠で気が遠くなり、恐怖と快楽を同時に味わった。
その時、二人のすぐ横を、セレブたちを乗せた軌道エレベーターが通り過ぎていった。
(馬鹿な奴らだ……)
彼らは、動物園の猿の自慰でも見るかのような、蔑みの視線を投げかけると、はるかな成層圏を目指してどんどん上昇していった。
それを茫然として見上げる千花と久朗。
「お客さん、行きましょうか」
「うん、いこう!」
千花の言葉に久朗は頷き、二人は体勢を立て直して、再び豆の樹を登り始めた。
次は「鬼面」「月の石」「老化」
月面にベースキャンプができてから街ができるまで時間はかからなかった
問題や危険を内包しながらも発展していく様は太古の昔から変わらない営みだった。
とはいえ、まだ月面旅行は費用が高く月を訪れることができる人は一握りであり
また低重力症の問題から長期間住むことも許されず絶えず人が入れ替わっていた。
「鬼面山も今日で見納めか……」
鬼のような模様を夕日がクレーターに刻んでいる。
「仕方ないわよ、月面じゃ人は長く生きられないわ」
「コロニーのほうが住みやすいのは夢がないよな。」
「でも、そのコロニーは月の石からできてるじゃない?」
「小惑星から資源が取れるようになれば月の石は月でしか使わなくなるかもな……」
何時間も続く強すぎる夕日は緩々とその姿を小さくしていく。
「この街はいつも新しいよね。」
「愛着をもてるほど長くすめないし、建物のリサイクルも早いからね」
「街の代謝に人が追い出されていくんだ?」
「そうだね、老化した細胞が垢になるように……ね」
もう何時間いたのだろうか?太陽はその姿を半分以上隠していた。
宇宙服の冷却システムもそろそろ限界だった。
「じゃあいこうか?」 僕は、彼女の手をとりローバーへとジャンプする。
「次はいつこれるのかな?」
「さぁな、フォボス調査の任期は1年だ。
往復の時間まで考えると2年ぐらいかな?」
「そっか……」
その後彼女は、高性能マイクをもってしても聞き取れない声で何かをしゃべっていた。
次は「水」「命」「きらめき」でお願いします
殺風景な部屋に、一輪の花がある。
僕が住むマンションの1階は花屋になっている。
今日、仕事の帰りにちょうど店じまいをしているところへ通りかかり、
「余りものだから」と店長らしい若い男がくれたのだ。
彼から教えられたとおり、茎を短く切り、10円玉を入れたコップに浮かせた。
その花は、一週間近く経っても瑞々しかった。
命の水だ――
僕は、1日おきに入れ替えるコップの水を、そう思った。
窓から射す光を受けて、白い花びらはきらめきすら感じる美しさだ。
「行ってくるよ」「ただいま」と花に語りかけるようになると、ますます花は
美しさを増したように思った。
だが、語りかけるようになって3日後、花はすっかり萎れた。
僕は、下の花屋へ行って、同じ花を1輪買った。
窓辺で僕を見送り、僕の帰りを待ちわびる花。
それは僕の生活に潤いを与え、癒しで包んでくれる、愛しい存在となった。
「人参」「小石」「高層マンション群」
443 :
「人参」「小石」「高層マンション」:2012/03/20(火) 00:14:05.15
僕は今高層マンションの一室に住んでいる。
都心部で駅の近くにある、ちょっとしたマンションだ。
気の利いたBARで女の子にそんな会話をすると、大抵は行ってみたいと言ってくれる。
そんな感じで上手くいくのだけど、僕は決して彼女達をマンションに連れて来た事は一度もない。
変わりに、高層ホテルで最上階の部屋を利用する事にしている。
そして彼女達は決まって「こんな綺麗な景色を貴方は1人じめしてるの?」と聞いてくる。
だから僕は必ず彼女達にこう答える。
「君さえそのつもりなら、いつでも分けてあげるよ。ところで、君は人参のグラッセは作れる?」
でも、決まって彼女達は「そんな付け合わせ何かより美味しい物いくらでも作れるわよ。」と答える。
おそらく彼女達はまともな料理なんて出来やしないと思う。
だって、何とかっていう雑誌に載ってる、どこどこのレストランが美味しいのとか、
芸能人の誰々が通っているお店が人気があるとか、そんな基準で料理店を選んでいるからだ。
だから僕は彼女達を僕のマンションに連れて来た事は無いし、これからも連れて行く事も無い。
僕は「分かったわ、じゃ人参買って来て。直ぐにでも作るわよ」と言って欲しいだけなのだ。
でも、井戸の中に小石を投げ入れても、小石が水に落ちる音はいつまで待っても聞こえて来ないのだ。
次は
「生クリーム」「マスク」「花粉症」で
444 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 09:28:06.11
てす
「くそ、何で休みの日にこんなことしなきゃいけないんだよ」
俺の町は生クリームの生産が多く、生クんとリームちゃんというゆるきゃらを作った。
お祭りなんかでこの着ぐるみを着るのは役場に就職した新人の仕事とされた。
「そうだよなぁ花粉症でくしゃみとまらないからきついわ」
「そうは言っても、このご時世公務員になれたんだから良しとしなきゃ」
「こんなへんてこなマスクをかぶっても・・・か?」
色が悪ければ、子供が指差してウンチウンチと言いそうなマスクをしげしげと眺め
なんともいえない空気が漂う。
「まぁなんだ、これも仕事・・だよ」
そして、肩を落として疲れキャラ達が部屋から出て行く
最後の一人はマスクをしてマスクをかぶり重い足取りで舞台へ向かった。
「さぁみんな〜生クんとリ〜ムちゃんをよんでみよ〜せ〜〜〜〜の」
「・・・・・・・・・しーん」
誰にも歓迎されない着ぐるみたちは、
打って変わった軽やかな足取りとから元気で踊りながら舞台に出て行った。
次は「クッキー」「愛情」「毒」でお願いします
446 :
「生クリーム」「マスク」「花粉症」:2012/03/20(火) 10:14:10.01
朝起きて洗面所の鏡を覗くと、彼の右頬に白い痣のようなものができていた。
はじめ、昨日食べたケーキの生クリームがこびりついてしまったのだろうと思ったので、お湯で洗い流してみた。
しかし幾度洗っても、それは落ちてくれなかった。
よく見るとそれは、中心に向かって渦を巻くように、皮膚の深部にまでしっかりと刻まれているようだった。
彼はやや大きめのマスクを装着し、家を出た。
幸い花粉症の季節だったのでちょうど良かった。
次のお題は、「空手」「気候」「杉」
447 :
「クッキー」「愛情」「毒」:2012/03/22(木) 20:52:25.28
告白された。
べつにネタでもなんでもなく、青春の一ページ。
同じクラスの男子にそこそこ人気のあるかわいい女子。確かお菓子作りが好きだと言っていたっけ。
「あなたのことが大好きです。このクッキーよかったら、食べてくれますか……?」
桜色のかわいらしい包み。はにかみながら彼女が渡したその袋からは、ほんのりアーモンドの香りがした。
「あ、ありがとう」
「どうぞどうぞ」
彼女の勧めと、おいしそうな匂いに後押しされて一口菓子をかじる。
さっくりした食感が心地いい。
「うん。おいしいねこ――」
二つ目に手を伸ばそうとした瞬間、突然息が苦しくなった。意識も朦朧とする。
「え……」
ぐにゃりとゆがんだ向こうから、彼女の声が響いた。
「あなたのこと大好きです。殺したくらいに」
手作りクッキーに入っていたのは、愛情と、もう一つ――
「空手」「気候」「杉」
杉の木に向い、気候のよかった日々、空手をした。マッチョになれたし、ちょっとモテた。今はもうだめだ。からっきしダメだ。金で買うしかない。お金がたくさん欲しいなあ。
次のお題は「アルゼンチン」「アイルトン・セナ」「一味」
最初に言っておかなければならないが、私は悪くない。
私は一味のボトルにアルゼンチンアリを封入しておいただけなのだ。
そこに一片の他意も無かったと言えば嘘になるが、しかし本意ではなかった。それは確かなのだ。
やはり問題はそれを城ヶ崎の元へさりげなく置いた及川女子にあるのだ。
彼女の悪ノリ。それが無ければ今頃城ヶ崎は、いつも通り童顔巨乳のガールフレンドとお楽しみだったかもしれない。
イタイイタイと喚き散らして、失望を買うことも無かったかもしれない。
――だがその責任の全てが及川女子にあるかと言えばそれは違う。当り前だ。
一味がアルゼンチンアリでないことを確認しなかった城ヶ崎にその責任の一端があることは、疑いようもない事実だ。いわば彼がアイルトン・セナばりのクラッシュを見せつけたに他ならない。
いやむしろ、全責任を彼は負うべきですらある。
もしあれがアルゼンチンアリなどではなく、例えばカエンタケとかであったなら、彼の人生は終わっていたのだ。
つまり我々は慈悲深く称賛されるべき立場にあり、一方で城ヶ崎は人類全ての負債を抱えて地獄に落ちるべきですらある。
想像に難くないかもしれないが。後日、城ヶ崎は正式に独り身になった。
そうして私は、彼の肩を叩いて言うのだ。「一味違っただろう」と。
……どうしてか、彼は泣きだした。
次『トイレットぺーパー』『義務』『土竜』
飯田は土竜でなければならなかった。
三日前、彼は社長からこう言われた。
「君には来月から土竜になってもらう」
「なんですって?」
「モグラだよ。日光が苦手な君にはぴったりの部署だと思うがね」
「別に私は日光が苦手なわけでは……」
「やるのかね? やらないのかね。これは業務命令だ。従わないのなら他の部署に行って貰う」
「他の部署ってどこですか?」
「とりあえず海月の人材が足りん」
刺胞動物。寒天みたいで浮かんでるだけの奴か。
「やります。土竜をやらせて頂きます! これは私の天職かと思っております」
「部署に天職という表現は違うと思うがまあいい。行ってきたまえ。向こうでは君の力が大いに求められるだろう」
飯田のために送迎会が開かれた。頭上のくす玉が割れ、なぜか飯田の顔にトイレットペーパーが飛んできた。
「誰だよ、こんなの投げつけたの?」
痛くはないが、馬鹿にされた気分である。
「悪い悪い。飯田君、とにかく頑張って。私、飯田君のこと好きだったのよ」
「だったらトイレ紙なんか投げるなよ」
女子社員の坂口が舌を出して謝った。こいつ、酔ってやがるなと飯田は舌打ちした。
さて――あれから早いもので三年が過ぎた。意外にも飯田はすっかり土竜としての自分に慣れ、平日のほとんどを土中で過ごしていた。
休日になっても人間に戻る気はしなくなっていた。
「飯田さん、あまり仕事に夢中にならないほうがいいですよ。そうやって戻って来れなくなった人を私は何人か知っています」
医師の診察を受けたのを最後に、飯田は行方不明になった。
二年後、女子社員の坂口は離婚した後、長野県の山中を捜し回っていた。そして遂に、
「見つけたわ。やっと見つけた」
坂口は掘り返した土中から一匹の土竜を抱き上げた。体内の認証チップがそれが飯田であることを証明した。
「坂口さん、それをどうするつもりです。もう人間ではないんですよ」と役所の男が疑問を投げかけた。
「いえ、時間をかけてサルベージを試みます。飯田さんは必ず還ってきます」
「どうしてそこまで彼を?」
「愛情で彼をつなぎ止められなかった。これは私の義務だと思っています」
果たして「彼」は坂口に気づいているのかどうか、一匹の土竜は先細りの鼻をふんふん鳴らして彼女の匂いを嗅ぐばかりだった。
次回は「海賊」「女子児童」「印籠」でお願いします。
453 :
「海賊」「女子児童」「印籠」:2012/03/25(日) 19:22:53.41
「貴方が私の御主人か?」姫が訊いた。「都はどこか?」
若長は大儀そうに海を差すが、都はとっくにもう見えない。
捜索隊は来るのか。今の自分に、その価値が!?
姫は海が見えないように俯くと、「いや」と自分に答えた。
貴族の娘は、政略結婚の材料だ。
略奪され、毎夜慰み者にされる女に、探す価値などあるものか。
今日から自分は海賊の情婦だ。印籠一つの価値もない。
顔を上げると、今宵自分を篭絡するだろう若長が
困った様に自分を覗き込んでいる。
「明日は島に着く。今夜は休め」
若長が薄い船床を潜ると、父が首を長くして待っていた。
「どうじゃった?『姫』は?」
一度からかうと、次の瞬間には既に族長の顔に戻っている。
そう、次の長として、姫一人にあたふたしてはいられない。
9才の女子児童の妄想に、狼狽している暇などないのだ。
※次のお題は:「馬賊」「手動」「救急箱」でお願いします。
馬賊である俺たちみんな!
そう叫ばれたのだ父にミツコは。それがトラウマになって、もう80年が立つ。
ミツコの人生は「手動」そのものだった。
男を未だ知らない、作ったことない女、それがミツコ
手マンで充分で、口癖は「あたしゃチンポいらね」だった。
ミツコの救急箱は、高さ10メートル、横幅20センチのちょっと変な形状の物だが、それには絆創膏しかはいってない。
:次のお題は「アルフィー中毒」「中途覚醒」「VHS」でお願いします
「アル中だよ、アル中。それも、とびっきり重症の、な」
この場合はアルコール中毒じゃあなくて、アルフィー中毒のことだがな。井上はそう付け足した。
藤堂が会社に行かなくなって、早3日。社会人として、そろそろ立場の怪しくなるころだ。
彼は自室にこもって、古めかしいVHSを熱心に見入っているらしかった。
「藤堂さん、どうしたんですか。話してくれなきゃ分かりませんよ!」
学生時代から藤堂の愚痴の聞き手というポジションにあった緑村の役割は、今回も同じようなものだった。
「…………」
藤堂自身の話を聞くに(もちろんそれは彼の一方的な主観に過ぎず、シェイクスピアも鼻で笑う悲劇に脚色されていたが)、
簡単に言えば中途採用の新入りに、仕事と、上司の信用と、挙句彼女までも盗られてしまったらしい。
何より悲劇なのは、その新入りが、藤堂が散々「のび太」と馬鹿にしたダメ男であったことだ。
当然『中途覚醒』を果たしたのび太くんの暗い炎は藤堂へ向けられ、結果この有様である。
「――ロックだよ。愛と筋肉はお金じゃ買えないのさ」
「愛と筋肉じゃリストラは免れねーんだよダボが」
終わらない悪夢、――現実から逃げた男・藤堂。彼の『中途覚醒』はまだ先のことである。
次『コールド』『蛆虫』『ジュテッカ』
ボクは悩んだ
英語の問いのマークシートに『コールド』『蛆虫』『ジュテッカ』とある
何の事だかさっぱりわからなかった
ここの大学は
理系大学が全て落ちたボクにとって
唯一の滑り止めであるはずの文系経済学部
たとえ英語が零点でも文系程度の数学を満点近い成績なら
総合点で合格できるはずだった
しかし考えは甘かったようだ
しかたなく鉛筆を転がした・・・
次『卑怯』『反則』『何でもあり』
衝撃。
ほんの一瞬、視界が真っ暗になった。顎を突き上げられた。倒れる。
「卑怯よ!反則だわ!」
藤堂の鋭く狡猾な目が僕を見ているのが見えた。唇がニヤリと歪んでいる。
次の瞬間、右の頬をマットに叩きつけた。倒れるままになって自分の体をどうすることもできない。
左手にはめたグローブの向こうで、僕とリング上に向かって代わる代わる叫んでいるミツコが見える。
「審判!!何ぼさっとしてんのよ!!賢治!賢治、しっかりっ!!」
飯田のおやっさんと杉田さんがロープをくぐってリングに上がってくる。
反則とはどういうことだ。一体何をされたのだろう。
僕は目を閉じることもできない。歓声と怒号が熱く湿った空気の中を埋め尽くしている。
駆け寄ってきた飯田のおやっさんが僕の体を仰向けに抱きかかえ、親指と人差指で両の瞼を順に開いて覗き込む。
「畜生がぁっ、2chタイトルマッチだからってなんでもありってわけじゃあねえんだっ…!」
その時、初めてリングの上に立つ藤堂の姿が見えた。藤堂は両手を下ろして、逆光に聳え立っていた。
そして藤堂の股間から突き出す、大砲のような…
次「ギター」「壇ノ浦」「真珠」
で、お願いします
「卑怯者!」美女は叫んで、やつれた男の頬を叩いた。
すると周囲が、あっとどよめいた。
男が打たれたからではない。彼女は間違えたのだ、台詞を。
「はいカット」登田監督がビデオを止める。「増田さん、ちゃんと台本通りの台詞でお願いしますよ。ここは卑怯者ではなく軟弱者でしょ」
増田成子は監督の黒眼鏡をキッとにらみ返した。
スタッフ達は、やばいと思った。また始まった。これで小一時間撮影が止まる。
「そうは言いますけど、私はここは卑怯者が最良だと思うんです」
「あのね、この台本は、僕が追川さんに頼んで二十回直させたんだ。これ以上の改変はないね」
「でも、今までの流れからすると、ここで軟弱者と叫ぶのは、繋がらないんです。生理的にぴんとこない言葉だわ」
「あなたの生理はいいから、台本に従ってくれませんか。僕は現場での変更はしません」
二人の間に声が割って入った。「監督、休憩していいですか?」さっき増田にぶたれた俳優の志村海だ。カメラフレームから外れて既に歩き出した。
「ああどうぞ。十五分で帰ってきてね」
「とにかくここは卑怯者でいかせてください。でないと私の女優魂が納得しませんから」
「いや監督は私ですから、私に従って下さい。ここは絶対に軟弱者です」
「あらそうですか。じゃあ例の入浴シーンはNGでお願いします。もう脱ぎません」
登田は途端に顔を朱に染めた。
「ええっ? そりゃ困るよ。あの辺の繋ぎは、どうしても君の肌でもたせなきゃいけないんだ。ぜひ君に脱いでもらわないと。そりゃ反則だなあ」
「お断りします。元々NGだった場面なんです。あそこで裸は不自然よ」
「判りました。台詞は卑怯者でいきましょう。いいですね、ハイ!」
――撮影終了。編集と音入れ。そしてスタッフを集めての試写会が開かれた。
「監督、凄いです」助監督の伊東が感動した。
「まさかこうなるとは思いませんでした。最初の企画からは、似ても似つかぬ作品に仕上がったけど、もう何でもありの傑作になってますね。ちゃんと筋が通っているし」
「当たり前だ、俺は映画監督の登田芳彦だぞ。どんな揉め事も題材にして納期はちゃんと守る。そして映画は大ヒット。賞もいただく。以上だ」
不愉快そうに席を立った登田は、後方で共演者と談話している主演女優の増田を一瞥した。
(あの女は二度と使わん!)
出遅れたが、書いてしまったので出します。
「ああ、壇ノ浦の時のことを知りたいのかい?」彼は横目でわたしを見て言う。
「だれだって知ってる話じゃないか、そうだろ?」
「ええ、でもあなたの言葉で聞きたいんです」
彼は古びたギター、オヴェイション・アダマスを膝の上に抱えると、軽くスパニッシュ・コードをストロークする右手に目を落とした。
わたしからは彼は目をつぶったように見えた。思い出しているのだ、あの日の事を。
そして、グラスに残っていたスコッチを一口に飲み干すと、ゆっくりと話し始めた。
「源義経、俺はアイツに斬られたのさ」
「あの日、あの海でのアイツの事を忘れることなんてできない。
壮麗な出立ち、味方を鼓舞する勇敢さ、戦場を自分の晴れの舞台のように牛耳っていた」
「アイツの一挙手一投足に俺は目を奪われたよ。まるで羽の生えた鬼さ。
舟から舟へと飛び移って次から次へと俺の味方をなぎ払っていった・・・
俺は敵であるにもかかわらず、その戦いぶりに魅了されるほどだった」
「後悔ならとっくの昔に済ませていたさ。なぜあの時、入道相国はあの兄弟を生かしておいたんだってね。
何もかもが後手に回っていた。倶利伽羅峠の時にはもう俺達は完全に追い込まれていたんだ。
覚悟はできていたさ。今日この戦場が、今生の最後の地だ、とね。そして俺はアイツの前に立ちはだかった」
その日から800年以上が過ぎた。しかし彼は蘇った。海に没した幼い王の瞳と言われる真珠の魔力で。
私は数年もの間、彼の居場所を追い求めた。そしてこの世界の片隅で、彼に会うことができた。
彼はギターを傍らにおいて、静かに立ち上がって窓辺に立った。
「これからはどうするんです、つまり・・・あなたは何をして生きていくんです?」
「義経は蘇った。俺は、アイツを追う」
そして彼はわたしに向き直った。
次は「歯磨き」「クラクション」「ポニーテール」でお願いします
「今日はポニーテールにしようかしら」
歯磨きを終え、化粧をしながらつぶやいた。
通勤途上の車の中で、身支度をする。
「最近、化粧の乗りが悪いのよね。寝不足かしらん」
後ろからクラクションの音がした。赤信号が青に変わっていた。
「うるさいわね。もう少しだから」
後ろの車のドライバーが車から降りてきて、マイカーのガラスをトントンと叩いた。
ん、と私が一瞥すると、ドライバーは「げっ」と一声上げて引き返して行った。
「失礼しちゃうわね」
私は、再び鏡に見入った。
「ポニーテールって、こうだったかしらん?」
次は「カメラ」「デンジャラス」「壁」
昨夜からの雨は、夜明けまでに止んだようだった。洗面台の脇の窓から、
冬の終わったことを知らせる、まっすぐな朝の光が入ってくる。
外に視線を移すと、露出の多い光の中に、最近花をつけた庭の椿が、大きな雨粒をのせた肉厚の葉を黒黒と光らせている。
黄色の花弁を際立たせる真っ赤な花びらのすぐ向こう、低いブロック塀越しに、表の通りを早めの通学をする女子高生が
ポニーテールを揺らしながら、自転車を漕いでいく後ろ姿が見えた。
洗面台の大きな鏡に写り込んだ自分の姿を見た。いつもの朝と変わりない、腫れた瞼、だらしなく伸びた24時間分の髭。
寝ぐせの髪はあちこちの方向に立ち上がっている。寝巻き替わりに着た、首周りのよれたTシャツはどこか薄汚れたように見える。
蛇口をひねると水が勢い良く迸り出た。彼は上体を大きく前に屈めて、顔を洗い始めた。
まだ冷たい水が指と顔の感覚を麻痺させ、手から肘へと流れ落ちた水が床を濡らしていく。
顔を拭き、髪を直した彼は歯ブラシを左手に持ち、毛先の乱れ始めたブラシの上に歯磨きのチューブを絞った。
液状の金属、と思われる物質が、にょろ、とひねりだされた。銀色のそれは、純度の高さをうかがわせるように光を反射している。
そして突然ブラシから跳ね上がると、彼の頭より少し高い所に浮かんだまま、焼き餅か風船のように膨らむと、
ぐにゃぐにゃと動き出し、まるで飴細工のように形を変え始めた。
そして付き出したり凹んだりを何度か繰り返している内に、猫の形になった。
ぬらぬらと銀色に光るその猫が目を開けると、大きな瞳が覗いた。金属樣なのではない、生きた猫の瞳だ。
「なあ、君」猫が彼に向かって言う。
「な……なんだい」彼はあぜんとして問い返す。
「今日が何の日か知ってるかい」猫の目は笑っている。
「さあ?」彼は歯ブラシを握ったまま、宙に浮かんだ猫の方を向いて応える。
「なんの日なんだい」
外から鋭いクラクションの音が聞こえ、何かがぶつかり合う音がした。彼が音のする方を振り向いた瞬間、
バリバリと凄まじい音と共に建物が破壊され、大きな黒い塊が洗面室に飛び込んできて、彼はその黒い塊の下敷きにされていた。
彼の暮らす家が建つ狭い旧道のカーブに、トラックは相当なスピードで、ブレーキをかけることなく突っ込んでいた。
トラックはブロック塀を打ち倒し、木造の家の壁と柱を突き破って、洗面室にいた彼を押し潰した。
「ちょっと遅かった」猫は壊れた天井のあたりから、めちゃめちゃになった洗面室を見下ろしながら呟いた。
「歯磨きの中から出ることにしたのが悪かったんだなぁ」猫は倒れてピクリとも動かない「彼だった」物にするっと近づいてまた呟いた。
「これからは登場の仕方も、タイミングをもっと考えなくちゃいけないな。『宣告』をちゃんとしないと、死ぬ者も向こうで戸惑うだろうから」
「死神もいろいろ難しい仕事なんだ」
そう言うと猫の顔がぐにゃ、と潰れた。そしてあっという間に元の銀色の金属様の液体に戻ると、折れた排水管を見つけて、すうっと入っていった。
***
出遅れの上に2レスですみませんが、出させて下さい
些々川ひろしはアニメ制作会社・数の子プロの看板ディレクターである。
その朝、彼は、パジャマ姿で洗面所に行き、歯ブラシに歯磨き粉を投下した。
その瞬間、彼の創造力が暴走を始めた。
「ひらめいた! ひらめいた! ひらめいたぞ!」
「パパうるさい」
隣で歯ブラシをシャカシャカさせている一人娘のジュンが言った。10歳。
「ごめんよ。パパはね、寝起きの今の状態が、一番インスピレーションが降りやすいんだ」
「またアニメの新企画ですか」
「うむ、『路駐エース』『マッパ豪!豪!豪!』『おらぁウズラだど』『ドカーン!チ〜ン』『産めない卵子郎』に次ぐ、飛ぶ鳥を落とす勢いのわが数の子プロが送る新作がね、今パパの寝ぼけた頭に舞い降りたんだよ」
「ジュン当ててあげるよ。『差額忍者 対 ゴッチャマン!』」
「なんだそれ。違うよ。主人公は冴えない公務員。彼はある日、渋滞の通勤途中に謎の運び屋から謎の壷を受け取る。でもその壷は、特殊なコードで起動する未来のアイテムだったんだ」
「なにそれ? 壷? 手鏡とかじゃないの」
「主人公は渋滞にたまらずクルマのクラクションを鳴らす。それがキーだったんだ。彼の車の警報音がコード登録されて、壷の中から何でも言うことを聞く大男が、飛びだしてくる」
「ねえねえ、タイトルを教えてよ」
「『クラクション大魔王』だ」
「女の子は出てこないの? 男だけじゃつまんないなあ」
「そうだな。女子児童にも見てほしいから、女の子を出そう」些々川ひろしは娘の髪型を見た。
「クラクション大魔王にはポニーテールのちっちゃな娘がいることにしよう。ジュン、これでどうだい?」
「わあい、ジュン見るよ。絶対見るからね」
ジュンは飛び上がって喜んだ。
しかし些々川ひろしは娘を落胆させることになる。
完成してテレビ放映された作品は、時節柄、娘の髪型がポニーテールからツインテールに変更されていたのだ。(了)
遅れました
壁際に立った彼女に向けて僕はカメラを向けた。
カメラは先週出張先の町で偶然立ち寄った、古いカメラ屋にあったコンタックスUaだ。
カメラ屋の店主は80か、もしかしたら90歳にも見える、痩せこけた白髪の老人だったが、
僕がショーウィンドウに並ぶ、そのカメラにふと目を惹かれて見遣っていると、品のいい笑顔を浮かべながら声をかけてきた。
「古いカメラがお好きですか」
「いえ、僕はデジカメしか使ったことがないんです、
カメラは好きなんですけど・・・このカメラはとても素敵ですね」
「わたしが写真を始めた頃には、とても高価で憧れの1台でした。
今でこそ簡単に、綺麗な写真が取れるようになりましたが、
あの頃は1回シャッターを押すために色々な手順がありました」
そういうと彼は僕を店に招き入れ、カメラを僕の手に取らせると、穏やかな口調で、フィルムの入れ方、
絞りとシャッタースピードの調節の仕方、それにフォーカスの合わせ方を教えてくれた。
金属のボディの冷たさが気にならなくなる頃には、僕はこのカメラがすっかり気に入ってしまった。
「メンテナンスは仕入れた時に、私自身でしましたから、まだまだお使えになれます。
もし使っていておかしな所があれば、いつでもお送りください。純正の部品などは
とうの昔に手に入らなくなっておりますが、出来る限りお直し致しますよ」
「おいくらですか」僕が訊くと、彼は「おいくらでしたら、よろしいでしょう」
と穏やかな笑顔のまま問い返した。そうやって僕はこのカメラを手に入れた。
「そんなカメラ、昔お父さんが持っていたわ」
5月の明るい日曜の海辺で、僕の新しいお気に入りを見て彼女は言う。「一枚撮ってよ」フィルムを込める間中、
手間取る僕を彼女はからかう。「あの壁の所に立つわ」そう言って、小走りに壁に駆け寄ると、
長い髪が風に散らからないように、手で押さえながら、僕を見て笑顔を作った。
白い背景は光を多く反射しているから、少し絞り込んだほうがいいかもしれない・・・シャッタースピードは・・・
「誰も見てないし、裸になろうかしら・・・デンジャラス」
彼女はケラケラと笑う。僕はレンズを彼女に向け、フォーカスリングを回す。ファインダーの中でぼやけた象が前後して、
次第にはっきりとした象を結ぶ。「まだ?」僕はカメラがぶれないように両脇を軽く締めてホールドすると、
ゆっくりシャッターボタンを押し込んだ。その時、彼女の目が驚きと恐怖に見開かれた。
今、彼女は写真の中にいる。僕の仕事場のデスクに置かれた写真の中で、彼女は生きている。
果たして、生きていると表現していいのかどうかも、わからない。時々彼女は写真の中からいなくなり、いつの間にか戻ってくる。
しかし、写真の中で時間が経過しているような様子は伺えない。彼女はあの時の彼女のままだ。
彼女が今、何を考えているのかは、推測するしかない。彼女はこちら側へ戻る方法を探しているのかもしれない。
しゃがみこんで頭を抱えている時もあるし、こちらに向かって何かを伝えようとしてか、
口を動かしている時もある。しかし僕がどんなに必死で唇を読もうとしても、何を伝えようとしているのかは全くわからないし、
こちらから話しかけても、あるいはノートに書いたメッセージを見せても、彼女は反応しない。視線が合うことも、ない。
僕はどうしたらいいのかわからない。あのカメラ店には、二度と辿り着けなかった。
僕は、写真を破り捨てようかと、考えている。
***
また2レス使って本当にすみません。
次は「白鳥」「小太り」「傘」でお願いします。
「湖面を優雅に浮かぶ白鳥は、水中では必死に水を掻いている!蹴っている!」
と、青年が言うと、「それはどうかな」と白鳥が答えた。
「必死に掻かなければ沈む、死ぬ、だから仕方なく掻いているだけさ」
「・・・はあ」
「小魚を探す為、必死で水を掻き続けねばならない宿命さ。むしろ哀れんで欲しいね」
白鳥のグチが止まらない。
よっぽど我慢していたのだろう。
「そこでミュータント化だ。我々はより軽く突然変異し、掻足を必要としなくなり・・・」
頭痛がする。中座して豪邸に帰った青年は、三人娘を傍らに寝てしまった。
それから50年が経過した。
突然変異を果たした白鳥が、小太りした体を、どんよりとした湖面に浮かばせている。
奇形の頭毛が傘となり、便利とはいえ、それは相当見苦しい。
「美しき湖面を、優雅に浮かぶ白鳥は・・・」と、老紳士が得意の話を披露する。
彼だった。でも彼は、朗々とした声を出しながら、しかし、何かこっそり自問していた。
水を必死で掻き通しで、妻に逃げられ、子供からも顔を忘れられた自分の半生を。
※ なんか判りませんが・・・次のお題は:「焼鳥」「不死鳥」「烏口」でお願いしまふ。
469 :
焼鳥、不死鳥、烏口:2012/04/15(日) 18:15:42.89
「へいお待ち」主人は熱い焼鳥を、男の前に差し出した。
「頂きます」屋台にいる唯一の客は、曇り始めた牛乳瓶底の眼鏡を外して串を掴んだ。
「お客さん、この辺りの人じゃないね」屋台の主人は、鼻の少々大きい彼の顔を見て言う。
「近所に住んでますよ。ただ家に籠もりきりなんです。本当はこういう店にもあまり来ません」客は焼鳥を口に運びつつ答えた。
「へえ、内職でもしてんですか」という問いに、男は焼鳥を咀嚼しながら苦笑した。
「ええまあ、内職です。ところでご主人、この肉は鶏ですか」
「名古屋コーチンです」
「フェニックスの肉はありませんかね」
「なんですって?」
「フェニックス、不死鳥。死なない鳥のことです。ちょっと仕事で気になってて、凝ってるんですけど」
「そんなもん仮にあったって屋台では出ないですよ」
「確かに」客の男は日本酒を呷って苦笑いした。「でももしやと思って。深夜ドラマか漫画でありそうじゃないですか。意外なところに意外なものが売られてるって」
「漫画ですか。筋子スシ男の漫画ならあるかもしれませんね」
客の頬がぴくりと引き攣った。
「筋子くんですか。彼の漫画、面白いですか」
「ああ、息子がよく読んでます。オバKとか」
「他に何か面白い漫画はありますか」
「ガイボーグ09とか、機密のア〜ッ子ちゃん、バレンチ学園くらいすかね」
「もっと他にないですか?」客は詰め寄るように主人に尋ねた。
「あとはわかりません。あまり詳しくないんで」
会話はそこで途切れた。微妙に気まずい沈黙のなか、主人は他に客でも来ないかと思った。しかし場の空気を変える客は来ない。
「お愛想」客は焼鳥と日本酒を少し残して勘定を促した。
「九百円ね」
「あれ、変だなあ。財布をどこかに落としたみたいだ」
「冗談は抜きにしてくださいよ。九百円です。きっちり頂きます」店の主人は客に手を出した。
どんと差し出された手を見て、客は、溜まっていた憤怒がついに爆発した。
「金の代わりだ。こいつをとっとけ!」
そう叫ぶと、男は、懐から取り出した烏口を、主人の手のひらに突き刺した。
ぎゃあ、という主人の絶叫をあとに、男はその場を退散した。
もちろん彼の持ち物である牛乳瓶底の眼鏡と、そして店に来たとき横に置いたベレー帽を忘れずに引っ掴んで。
470 :
名無し物書き@推敲中?:2012/04/15(日) 18:16:50.84
というわけで次は
「タクシー」「全裸」「大爆発」
でお願いします。
「なんかさ、この番組ももうマンネリだよね。なんかひとつこうデーハーにさ、盛り上げる工夫がないと」プロデューサーの土度目太郎が言った。
ぶっといストライプが入ったダブルのスーツを着て、ソファに足を組んでふんぞり返っている。
「そっすねー。ここらで一発ぶちかましたいっすねー」ディレクターの森満が軽薄に答える。こいつはプロデューサーの顔色ばかり伺ってヘラヘラしてる脳なしだ。
「おい、亀。おまえ、なんかいいアイデアないのか」森満がアシスタントディレクターの亀田に声をかける。
亀田は部屋の隅っこで携帯で話をしていて気が付かないのか返事をしない。
「おおいっ。亀!このやろう!もっしもっしかっめよーかめさんよ〜」森満が怒鳴る。
ちなみにいまさらだが森満はこう書いて「もりまん」と読む。「もりみつる」ではない。
「あっ、はいっっ。はい、なんでしょう」亀田がふたりの所に両膝をついた姿勢で滑りこむ。このまま流れで土下座しそうだ。
「なんか、かめちゃんに考えて欲しいのよ、企画を」土度目がさして興味もなさそうに言う。
「考えろっつってんだよ」森満が鬼のような形相で迫る。
「そう…そうですね……」
土度目と森満が二人して亀田を睨みつける。
「そうだっ!」突然亀田が叫ぶ。
「おお、なんか浮かんだか?言ってみろ」森満が言う
「全裸タクシー、大爆発ってのはどうですか!?全裸のお笑い芸人を乗せたタクシーが大爆発するってやつです。どうでしょうかっ!」
「だめだこりゃ〜」PとD、ふたりは顔を見合わせて、ため息をついた。
(終わり)
次は「子供嫌い」「ブービートラップ」「お仕置き」でよろしく頼まれて。
472 :
「タクシー」「全裸」「大爆発」:2012/04/15(日) 19:50:22.70
個人タクシーの運転手をしている私の父は、変態です。
お風呂がりに「ヨコはめ♪タテはめ♪ホテルの〜小部屋〜♪」。
こう歌いながら、全裸で私達家族の前を平気で通っていきます。
母と私はもう見なれているので、日曜日の夕御飯を、テレビを見ながら食べてます。
でも、明日は私の彼氏が結婚の話をしに、我が家に来ます。
父も明日のことは知っています。父は私にこう言いました。
「おまえの男がどれほどのもんか、一緒に風呂に入ればわかることだ。一緒にふるちんで飯を食えたら、認めてやってもいい」。
母は、「そんなことをさせたらあたしは許しませんよ」と言ってくれました。
勿論、私も父がそんなことを彼氏に言ったり、させたりしたら大爆発するつもりです。
明日はどうなるか、とても心配です。できればタクシーで事故ってほしいです。死なない程度で、と付け足します。
変態でもやっぱり私のお父さんだから。
次は、「酒」「涙」「男」でお願いします。
473 :
名無し物書き@推敲中?:2012/04/15(日) 19:51:42.73
かぶったw
「なんかさ、この番組ももうマンネリだよね。なんかひとつこうデーハーにさ、盛り上げる工夫がないと」プロデューサーの土度目太郎が言った。
ぶっといストライプが入ったダブルのスーツを着て、ソファに足を組んでふんぞり返っている。
「そっすねー。ここらで一発ぶちかましたいっすねー」ディレクターの森満が軽薄に答える。こいつはプロデューサーの顔色ばかり伺ってヘラヘラしてる脳なしだ。
「おい、亀。おまえ、なんかいいアイデアないのか」森満がアシスタントディレクターの亀田に声をかける。
亀田は部屋の隅っこで携帯で話をしていて気が付かないのか返事をしない。
「おおいっ。亀!このやろう!もっしもっしかっめよーかめさんよ〜」森満が怒鳴る。
ちなみにいまさらだが森満はこう書いて「もりまん」と読む。「もりみつる」ではない。
「あっ、はいっっ。はい、なんでしょう」亀田がふたりの足下に両膝をついた姿勢で滑りこむ。このまま流れで土下座しそうだ。
「なんか、かめちゃんに考えて欲しいのよ、企画を」土度目がさして興味もなさそうに言う。
「考えろっつってんだよ」森満が鬼のような形相で迫る。
「そう…そうですね……」
土度目と森満が二人して亀田を睨みつける。
「そうだっ!」突然亀田が叫ぶ。
「おお、なんか浮かんだか?言ってみろ」森満が言う
「酒と泪と男と男ってのはどうですか!?酒に酔ったお笑い芸人が涙目で男をナンパするってやつです。どうでしょうかっ!」
「もう、ええわ〜」PとD、ふたりは顔を見合わせて、ため息をついた。
(終わり)
次も、「酒」「涙」「男」でよろしく頼まれて〜
475 :
酒涙男 焼鳥不死鳥烏口 タクシー全裸大爆発:2012/04/16(月) 05:00:27.38
俺は信じられない気持ちで新聞に目をやった。
「漫画家の毛塚治蟲が焼鳥屋台の主人を烏口で傷つけて逃走中だと? 毛塚と言やあ今度、不死鳥を題材にした大河漫画を連載する予定だったはずだが」
俺は仕事の合間によく漫画を読む。中でも毛塚漫画は大ファンで、楽しみにしていたのに、それはなかろう。
俺か。ただのタクシー運転者だよ。景気が悪いんで、最近はアイドリングストップさせて、漫画雑誌を読み放題だ。
「運転者さん、乗っていい?」
俺が顔を上げると、美人の女が、立っていた。
ホステスだったらやだなあと思いながら俺は自動ドアを開けた。
「おい姉ちゃん、何の真似だ?」
行き先をルーセントタワーと告げられて車を発車させてから、女はいきなり衣服を脱ぎ始めた。
「見たきゃみてもいいわ。とにかくほっといて。私、チョー急いでるんだから」
「ちぇ、後方確認に支障を来しそうだぜ」
女は遂に全裸になったようだ。何なんだこいつ? 車内は更衣室じゃねえぞ。
「ついたぜ。ルーセントタワーだ。2500円」
「カードで」
げっ、RS社の万能カードじゃねえか。するとこの女はまさか。
女はいつの間にか、迷彩服に着替えていた。肩からは自動小銃を下げている。
「運転手さん、もうすぐショーが始まるわ。危険だからここを離れたほうがいいわよ」
女を降ろすと俺は一目散に車を走らせた。
ルーセントタワーの屋上付近が大爆発を起こしたのは、それからわずか13分後だ。
俺は凄い体験をした気になった。
それを早速次に乗った客に話してみた。しかし、
「馬鹿、言ってんじゃねえぞ。そんな絵空事があるわけねぇだろ」
客は酒臭い息を車内にまき散らしながら絡んできた。そして、煙草に火を付けて勝手に吸い出した。これは違法だ。
「お客さん、車内で喫煙するのは止めて頂けますか」
「うるせー、客に逆らうんじゃねえ!」
「仕方ありませんねえ。じゃあお金は結構ですので」
酒の臭いと煙が充満中の車内。俺は涙を流しながら秘密のボタンを押す。
「あぎゃー」タクシーの天井が開いて、客はそこから、吹っ飛ばされていった。これが究極の犯罪防止装置である。誰にも言うなよ。
「俺だって男だ。たまにはこれくらいやったるぜ」
俺は誰にともなく言うと、次の客を探しにJR駅前を駆け抜けていった。
476 :
酒涙男 焼鳥不死鳥烏口 タクシー全裸大爆発:2012/04/16(月) 05:02:08.54
次は「女嫌い」「ブービートラップ」「お仕置き」でいこう!
ハンコ、押す、ハンコ、押す、ハンコ、押す。
ハンコ押しは昼の仕事だ。 夜暗いランプの明かりでやる分には目が悪くなるし気分が滅入る。
煙草分が切れたので補給したい所をぐっと我慢。 捌く書類もあと少しだ。退屈極まりない仕事を片付けて、親の仇でもとったようなスカッとした気分で一服吸おう。
「これで終了……と」
最後の一枚、例えて言えば休日の一日前のような愛しい君に、熱いベーゼで別れを告げて、椅子の背もたれに我が身を投げ出す。 さて煙草煙草と、机の上に伸ばすその手はいささか震えていた。 何かの禁断症状みたく見えてあんまりよろしくない。
至福の一時。 誰にも邪魔されたくないね、本当。 もし今我が子とその愛犬が、ほたえまわっていつものように部屋に乱入してきても、流石にこのおとーさんいつものように愛情深く迎えてやれる自信は無いね。
煙草の灰がボロッと落ちる。 どうやら楽しかった時間ともおさらばの様子。仕方ないねと愛しい君に、名残惜しく灰皿にギュッと迎えてもらって別れを告げる。
さてもう一仕事、と伸びをする。 気分はまた親の仇に出会ったかのようでよろしくない。 よろしくはないが、やれる時にやっておかんと後で死ぬほど忙しくなるからしょうがない。
そうしてハンコに手を伸ばしかけた時、部屋のドアにノックがされる音がした。 入っていいよ、と、机から顔を上げて来訪を迎える。 ドアを開けたのはいつも頼りになり過ぎている我が副官だった。
「もうそろそろお仕事が一段落する頃かと思ったのですが……」
「ああ、大体したよ」
「それは丁度よろしかったです。 お茶の時間が準備出来たのですが、もしよろしければ一息入れられてはいかがでしょう」