1 :
名無し物書き@推敲中? :
2008/07/02(水) 19:30:56
さあどうぞ
5 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/02(水) 19:33:46
合意なきテンプレの改変は荒らしの自白に等しい
そう思うなら削除依頼出して自分で新スレ立てれば 俺はこのスレ使うけど つかどうせ別に今まで不文律になってたことだろ
荒らしが涙目になってるよ。よっぽど必死なんだな
お題は?
負け犬の遠吠え
11 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/02(水) 21:11:34
次は「縄張り」「遠吠え」「未成年」でヨロシク
ヨロシクって・・・また自己レスで解決すれば?
11じゃないけど書いてみた 青年は駆けて戻ったが、もう遅い。 下宿は縄張りされ、捜査員が何人も部屋を荒らし回っている。 ソファーを切り裂き、額縁を壊し、血眼で本を探しているのだ。 指揮官らしき男が、冷たく微笑んだ。 「悪いね、学生さん。これも仕事なんでね」 青年は一応、「なんという横暴!これは文化の自殺だ。」とか嘆いてみた。 が、両腕を締め上げられた身では、ただの負け犬の遠吠えだ。 余りに無力な抗議を、捜査員の声がさえぎった。「見つけたぞ、この本だ!」 「残念だったな、坊や」指揮官が指差す先に、プレハブの様な建物がある。 「まだ未成年だし、仕方ないとは思うがね。ま、行ってくるんだな」 粗末な建物に、小さな机とパイプ椅子が2つ。 その椅子の一つに、捜査を依頼した元締が待っていた。 「ひどい、ここまでするのか・・・」 青年は椅子に座ると、本が積まれた机に顔を埋める。「・・・ひどいよ、母さん」 詰まれた写真集のその表紙に、水着姿の少女が屈託のない微笑を浮かべていた。 ※なんか手塚治虫っぽいなあ。 次のお題は:「水面張力」「遠足」「未完成」でお願いしまふ。
14 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/05(土) 17:48:55
茂沢さんの後をついて山奥を進んだ。 前に進むには背の高い枯れ草を押し分けるしかない。 下草を踏み、茎を折る高い音が続く。 「クマは縄張りをもってないんです。」と茂沢さんが言った。 「だからエサのあるところにはクマたちが集まってきます。このあたりはエサ の少ない貧しい場所。クマはめったにいないんです。」 悲しい風のような音が聞こえて、茂沢さんは立ちどまった。 私も立ちどまって耳をすませた。 「遠吠えですね。何が吠えているんでしょう。」と聞いてみた。 茂沢さんが私の顔を見た。何か言いたそうだった。 突然、枯れ草の中に茂沢さんが飛び込んだ。 ガサガサする音が続いて彼はたちまち遠ざかっていった。 ずっと遠くになってから茂沢さんの怒ったような叫び声が聞こえた。 「あれは・・未成年が死んでいく声だ・・・、お前と同じ・・捨てられた未成年だ・・・」 私はその場所でひとりぼっちになった。
15 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/05(土) 18:19:43
緑江博士は親から受け継いだ幼稚園の園長先生だ。 工学部時代から続けてきた研究がとうとう完成しようとしていた。 園長先生は、マイクロバスにいちご組の園児20人をのせて、 静かな広い湖に遠足にやってきた。 博士が開発したアメンボスーツを取り出すと、 園児たちは大喜びで着替えた。 幼稚園の小さなプールでやったことのある遊びだ。 アクアスーツのような形だが、 アメンボスーツを着ると水面張力の働きで、 水の上を立って歩けるようになる。 全員に着替えさせて、いっせいに走って湖に跳びこむ。 歓声があがる。たちまち湖を駆けていく。 20人の園児たちは岸からどんどん離れていく。 「おーい、あんまり遠くにいくなよ〜」 園長先生が大声を出す。 「はーい」園児たちが返事する。 実はアメンボスーツは未完成だった。 前に進むことは出来ても、曲がったり、後ずさりはできない。 そのことを、博士も園児たちもまだ知らなかった。 次は、「炭酸」「隣家」「橋げた」
高校最後の夏、隆志とよくこの橋げたの下で待ち合わせた。 わざわざ町の予備校に通っていた隆志は、いつも自転車を飛ばして やってくる。 私は待ち合わせをするたびに、隆志の好きな炭酸ジュースを 買っておいた。息を切らせた隆志が旨そうに喉を鳴らして炭酸ジュースを 飲む。それを見るだけで私は幸福だったから。 ある日、隆志との待ち合わせに出かけようと自転車を出していた私に 隣家のおばさんが声をかけてきた。 「これ、たくさんいただいたからおすそわけ」 おばさんが差し出した袋には、炭酸ジュースがたくさん入っていた。 私はうれしくなっておばさんにお礼を言うと、そのまま袋をカゴに乗せて いつもの橋げたの下に飛んでいった。 隆志はもう来ていた。 「ごめんね、遅れて。はい、これ」 私が差し出した少しぬるいジュースを、隆志はサンキューと言って いつものように喉をそらせて飲んだ。 「ブッ」 隆志がジュースを吐き出す。 「これ…、酒?」 慌てて缶を覗き込むと、『ピーチツリーフィズ』と書いてあった。 私たちは肩を寄せて大笑いし、そしてキスをした。 次は「映画」「宝石」「硬式」
硬式テニスボールみたいなもので、急所を何度も殴られたらしい。 病室で頭を起こすと、俺の記憶は消えていた。「お、俺は、誰だ?」 白衣の男が、じっと笑っている。 「まあ、これを見て下さい!」 黄色いカーテンがさっと開かれると、そこには52型のハイビジョンTV。 そこで俺自身の録画映像が、ニコニコと話している。 「やあ、こんにちは。僕はね、記憶を消去する前の君だよ。」 「な、何だ、何だ、何だ」「まあまあ」。画像は続いた。 「僕というか君は、いわゆる映画ヲタでね。ただどんな宝石にも飽きがくる様に どんな好きな作品だって、百回は見れば飽きる。そこで・・・」 分かった。自分のアイデアだけに理解が早いや。「すると・・・」「その通り!」 診察台の下には、何百枚ものDVDが安置されていた。 どの映画も期待できそうだ、なんたって自分が厳選したのだから。 一瞬、「待てよ」と思った。「これと似た展開が、どこかの映画にあった様な気がする」 その映画の主人公は、「こんな事はまやかしだ!」って怒ってなかったっけ? なんて一瞬の疑惑も、一枚目のDVDの冒頭5分であっけなく吹き飛んでしまったけど。 ※思い浮かぶ最大が52型・・・ 次のお題は:「計画」「月の石」「旧式」でお願いしまふ。
「マスター、おかわり頂戴」 彼女はその華奢な人差し指でグラスの淵を軽く叩いた。僕は彼女の胸に輝くペンダントにそっと触れた。 「不思議な光を放つ石だね」 「月の石なの。おばあちゃんの形見」そう言うと彼女はさりげなく手を払いのけた。 僕はロックグラスに入れられたウィスキーを一口含んだ。 「形見?どうしてそんなものを身につけるんだい?」 「どうしてって。そういうものでしょ?」 「僕には理解できないな。過去のことなんてどうでもいいだろ。大切なのは今だろ?」 バーテンダーが彼女の前にそっとグラスを置いた。ありがと、と彼女は微笑んだ。 「あなた、旧式ね?」 「ああ、でも関係ないだろそれは」 地球は氷河期に突入し、その寒さから身を守るために全人類アンドロイド化計画が実行され たのはもう随分と昔になる。生まれてすぐ魂を抜き取られ、機械人形の中に注入される。 その魂を生み出すために残された人間たちがどこかに幽閉されているらしいのだが、 もし僕に母親がいるとすれば、その人間たちの誰かになるのだろう。 人間は若いと「理解できないだろうな」といって馬鹿にされていたそうだ。 一方アンドロイドは若いほうが性能がよく、理解がいい。 彼女はカンパリソーダを半分まで一気に飲み、力なくグラスを置いた。 「まあ、私もお婆ちゃんなんて覚えてないけどね」 彼女は遠くを見つめ、そうつぶやいた。 次のお題は「クッキー」「トマト」「ブランデー」でお願いします
「ね、これ食べてみて」 彼女が差し出したクッキーは、ほんのり赤かった。一口食べると、甘みの なかにほんのり不思議な味がする。 「これ、なに?」 「トマト味のクッキーよ」 彼女は得意そうな笑顔で答えた。彼女はよく変わったお菓子を作った。 どれも彼女の庭でとれた野菜や果物が入っている。そして僕は必ず味見を させられるのだ。 「おいしいでしょ?今回は自信があるの」 「こないだのキャベツのケーキよりは美味しいな」 彼女は笑うと、バッグから新品のブランデーのビンを取り出した。 「ブランデーなんか飲むの?」 「違うわ。これから庭で取れる木苺を漬けて果実酒を作るのよ」 「へえ、それは本当に旨そうだな」 「でしょ。でも出来上がるまで半年くらいかかるわね」 彼女はガラガラした氷砂糖の袋を示して片目をつぶってみせた。 あれから1年、あの木苺酒を飲んだ男はどんなヤツだろう。一口くらい 飲んでみたいものだったな。僕は妻の漬けた梅酒を飲みながらそんなことを 思い出していた。 次は「リンゴ」「電話」「スプレー」で。
「……緊急の依頼だ。青森から池袋のサンシャインまで、リンゴを一箱運んで もらいたい。4時間以内に」 電話口の向こうで依頼人は、さらりと無茶を口にした。 「羽田まで空輸して、ヘリで輸送では駄目なのか?」 「駄目だ。羽田も成田も、抵抗勢力が網を張っている。直接空輸が絶対条件だ」 青森から東京まで、直線距離で700kmを超える。しかも都内となると、ヘリもしくは VTOL。しかしヘリの速度は最大でも330km。間に合わない。ハリアーではビルの ヘリポートが持たない…… いや、ただ一つだけ手がある。アレならば。 「やってみよう」 電話を切った俺はとある番号をプッシュした。接続先は、米軍横田基地。 3時間と42分後。サンシャインビル屋上から20フィートの地点でホバリングに 移行した俺は、驚愕の表情を浮かべる依頼人に軽く手を振って見せた。 世界で唯一実用化されたレシプロ固定翼垂直離着陸機、V-22オスプレー。 こいつがあれば、何程のものでもない。 次のお題は、「逆上」「ジプシー」「女神」で。
21 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/14(月) 22:56:37
久しぶりに来たけど、このスレなんか絶望的なまでに劣化してるね。なんで?
波の上がり下がりがあるんだよ あと感想は簡素スレで
まあ、もともとレベルの低いスレではあったよね 前スレの終盤にいくらかましなのが出たくらいで
24 :
「逆上」「ジプシー」「女神」 :2008/07/15(火) 00:29:12
ある朝のこと、 雲の上から地上をご覧になっていた女神様は ある国の山腹の牧草地に 金髪の美しい少年があるのを見つけ、 これは一発ハメたいなと思い立ち、 ただちに人間の姿になって少年のいる牧草地へと降臨しました。 この地にふさわしい、流れ者の女ジプシーといったお姿でした。 さっそくさっき少年がいた牧草地へ向かいましたが もう少年はいませんでした。 仕方ないので近くの家に少年のことを尋ねにいきました。 その家の主人は忙しい最中に突然わけのわからない、 しかし妙になまめかしく清潔感のある女ジプシーが現れたのを観て いてもたってもいられず女の話も聞かずに 家に連れ込んで犯しました。 あとから家に入ってきた女房はその姿に逆上し、 偶然手に持っていたナタで二人をめっためたに切りつけて そのまま発狂して家から飛び出していきました。 牧草地のすみにかがみ込んでいた少年は 母親が突然叫びながら家から飛び出して行ったのを見て、 うんこの途中でしたがぐっとズボンをあげて 家へとかけていきました。 家へ着くと裸の男女のかけらが まるでミキサーが爆発して中身をぶちまけたかのように散乱してあました。 そのうち部屋のすみに父親の首をみつけ 机の上に誰のものとも知れぬおっぱいが乗っけてあるのをみつけ 少年は何が起きたかを悟り、うんこをぶちまけると同時に射精し、 そのままばたりとあおむけになりました。 そのとき頭を強く打って脳が出たので死にました。 つぎは 「机」「カマキリ」「コンドル」で
うーん
26 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/20(日) 09:00:23
がんばりましょう
夾竹桃の花は美しく鮮やかで、埃っぽい夏の熱気にも負けない。通っていた高校の中庭に咲きほこっていた。 開け放たれた教室の窓から、湿気と熱気を含んだ風が舞い込む。粗末なカーテンが思い切り膨らむ。 遠くからリコーダーで演奏される『コンドルは飛んでいく』が聞こえてくる。 落書きだらけの机に頬を預けると、ひやりと冷たかった。 「サボリ?」唐突に声をかけられて、私は飛び起きた。 「違う。体育出られないから」 相手が誰かも確かめないで、私は言い訳した。戸口からこちらを見ているシルエットは、痩せぎすだった。 なんだ、カマキリか。私は心の中で吐き捨てた。尖った顎と、流行おくれの眼鏡フレームのせいで、彼は カマキリとひそかに綽名されていたからだ。 「僕はサボリ」そういうと、カマキリはずかずかと私の座っている席に近づいてきた。 「つまんねーし。何か話しよ」 びっくりするほど無防備な笑顔をカマキリは見せた。ろくに喋ったこともないくせに。 訳のわからないうとましさを感じて、私は立ち上がった。 「いいよ。そういうのは」体育を休んでいる女子に声をかけるデリカシーのなさに苛立っていたのかもしれない。 「気分悪いから保健室行く」 カマキリの横をすりぬけて、私は教室を飛び出した。 夾竹桃には、強い強い毒があるんだね。人を殺すほどに強い毒が。 それを知ったのは私が社会人になってからだ。 生き生きと夏の空に映える、花も緑も、自分の中に在る毒に気づいていたのだろうか。 次は「禊」「ゆとり」「地球」で
『ウォーターフォール』 滝の中に入ると聞こえてくるのは水の音だけだ。耳を折り曲げ、ねじ曲げてビュワビュ ワと音を立てている。頭を叩く水の固まりが骨伝導して脳の奥深くに響く。重い水が肩を、 頭を叩く。分厚い水の板が体をビリビリと揺るがす。なめらかな力強い流水は粘りがあっ て、精一杯踏ん張っていなければ絡め取られそうだ。 これだけ強い力なら、きっと洗い流してくれるだろう、と思えた。何かわからないけれ ど、これまでの人生で降り積もった塵芥をこの身からすすいでくれ。 腕を広げた。重い水を広げた腕で受けると、押し戻されてしまう。それでも少しずつ腕 を広げていく。掌を上に向ける。肩が外れそうだ。たたきつける水の束は切れ目なく腕を 打ち続ける。 ふいに体が後ろによろめいた。そのとき同時に目の前、水の膜一枚隔てたところを何か が流れていった。一瞬視界を黒く染める。すぐに元の景色。水の膜でぼんやりとしている 森の緑が帰ってきた。耳を叩く滝の音に混じってどぼんと大きな音がした。よろめいた体 が元の位置に戻ろうとする勢いのまま足元を見ると、大きな丸い石が足と足の間にあった。 危険は感じなかった。水に押されて石を避ける。それが当然のように思えた。心は満腹 したような気分でいっぱいだった。不安など何もないようだ。そーゆーもんなんだよな。 きりきりに張り詰めた弦はゆるめられた。まだまだ次の矢をつがえるゆとりがあるわけじ ゃない。それでも少し。少しまし。 禊を済ませ、滝壺から離れて岩に座り、落ちてきた石を眺める。水の膜に覆われた球形 の石は、まるで宇宙から見た水の惑星のようだった。 自分も、あの石も同じ地球のかけらだと思うと、美しいものの仲間に入れたような気が した。 マイナスイオンのシャワーが頬の笑いじわにたまり雫となって落ちた。 麦茶 扇風機 カラン
「爆破は男のロマンだっ」 深夜の研究室にDr.ボーンヘッドの絶叫が反響する。 机の上には黒く解けた金属容器の残骸があり、鼻を衝く匂いと 拡散してゆく黒煙の残影が揺れていた。 異常な爆発音に隣室にいた助手たちが駆け込んでくる。 「博士、すごい音がしましたけど何事ですか?」 「うむ、見事な爆発であった。」 「見事な爆発って、そりゃいいですけど。どうするんですか博士。 やかん爆発させちゃって、麦茶作れなくなっちゃったじゃないですか。 このクーラーどころか扇風機すらないこの部屋で干乾びて死ねというんですか。」 「このIT時代に何を言うか、水で作る麦茶があるだろう。」 「そんな予算ありませんよ。博士が何でも爆発させるから備品の補充だって ままならないんですから…」 「うむ、ならば水道水で我慢するほか有るまい。」 焼けたカランを回すと勢いよく水が流れ出した。 「最初は生ぬるいがこうしてしばらく出しておけば冷えた水が出てくる。 最近は浄水施設も高度化して水質も良くなってるはずだ。味見をしてやろう。」 手近に合ったビーカーを手に取り、中身を流しに空けたとき、液体と一緒に 小石のようなものがかちりと音を立てた。 その爆発を起こしたルビジウム結晶がなぜ放置されていたかはともかく 屋根を吹き飛ばすほどの爆発に博士が上機嫌だったことは言うまでもない。 次「バケツ」「雑巾」「温度計」
まだ八時だっていうのに、お日さまは庭を燃やすみたいにカンカン照りだ。 玄関の温度計も三十四度なんてランボーな数字を指していて、もう、なんてっかナツ、 って感じである。でも鞄を持って玄関に走り出たあたしは、なんだかいつもより元気が 湧いてくるのを感じた。だって今日は終業式だし。 「おい、今日雑巾いるっていってたろ。箪笥から選んでおいたからこれ持ってけ」 運動靴の紐を縛っていると、父さんが巾着を持ってきてくれた。忘れてた。終業式の 午前中は毎回大掃除なのだ。 「通信簿が楽しみだな。母さんの仏前にも報告しないとならないし」 「そうだね」 風船みたいにふくれ上がったあたしの元気は、やっぱり風船みたいにしぼんでしまった。 母さんが死んで三カ月になる。いてあたりまえだった母さんがいなくなって、 あたしと父さんは今後のこと、家族のこと、いろいろ相談したけれど、ぽっかり空いた穴は どうしたって埋まらなかった。お互いに友達とか会社とか、付き合いやすい忙しさにかまけて なんとか『取り返しのつかなさ』を忘れようとはしたけれど、結局そんなことは無駄なんだって 最近やっとわかり始めてきた。 今年の夏は父さんと過ごすのだ。家事もあたしがやるのだ。のだのだ。 学校に着くとおざなりな朝礼があって、すぐに大掃除になった。箒で埃を払ったあと、 雑巾で棚やら机やらをすべて拭く。ブリキのバケツの端っこには殺人的に臭い古雑巾が かかっていて、糊に浸したみたいにガピガピに固まっていた。みんな家から持ってきた 新しい雑巾を出して、なるべく水がキレイなうちにさっさと手を突っ込もうとする。あたしも 自分の巾着をあけた。 中にあったのは、母さんがタオルを縫って作ってくれた、真っ白フカフカな雑巾だった。 あたしは巾着の口を締めて、バケツにかかった古雑巾をつまんだ。 次「トマト」「釣り竿」「蝉の声」で。
ドイツから日本に留学に来たフランツを連れて釣りに出かけた。 お目当ての池に着くと、僕は釣り竿を1本フランツに渡して、僕はさっさと糸をたらした。 「餌もつけずにつれるのかい?」と怪訝そうに尋ねるフランツに 僕は「大丈夫、ブラックバスなら虫でも何でもいい。僕はアリをつけた」と答えた。 「アリなんかじゃ食いつかないだろう」とフランツは笑った。 「じゃあ、フランツは何を餌にするつもりだい?」と僕が聞くと 「今、この泣いてるのはなんだい?」とフランツが尋ね返したので、 「ひぐらし……餌にしちゃグロいもの選ぶんだな」と笑った。 フランツがムキになって、それで釣るとか言い出した。 フランツは蝉の声に耳を澄まし辺りを見回したが一向に見つけられない。 僕はすぐに見つけると、ひぐらしを素手で捕まえるとフランツに渡した。 「フランツ、気の目は節穴かい?」 「節穴?何のこと?」 「日本じゃ注意力が散漫で見逃すことをそういうんだよ」 『そうなの……ドイツじゃ、『目にトマトをくっつけてるんじゃないか?』って言うんだよ』 次のお題:『せんべい』『鼻血』『野球』
その日のビールはかつてなく苦いものであった。 贔屓にしている野球チームが視聴率もピークであろう午後8時45分に とんでもない失策を全国中継で晒してしまったのだ。 ツーアウト満塁で一打逆転のピンチの場面、なんでもないピッチャー フライを顔面に当て、鼻血を出しながら見失ったボールを捜す間に ランナーがホームイン。オーロラビジョンいっぱいに映し出された ピッチャーの顔は滑稽を通り越して悲壮感すら漂っていた。 実況のアナウンサーの声は放送時間枠内に試合が収まった安堵感を 漂わせながら今日の試合を振り返り始めた。 なんだか苦いだけのビールを早々に飲み干し、せんべいと麦茶を テーブルに並べて俺はチャンネルをお笑い番組に変えた。 次「きっぷ」「コイン」「靴下」で
33 :
名無し物書き@推敲中? :2008/07/30(水) 02:35:24
何連投すれば気がすむんだよニート
うるさいw中卒w
何でこんなに荒れてんの?
僕の姉は、背が高くて、髪が長くて、物静かで、成績も良くて、運動も得意 で、料理もできて、全方位的に完璧なんだけれど、何ヶ月かに一度、ポタシア ン星人になる。ポタシアン星人になった姉は、嬌声を上げて笑い、騒ぐ。その 度に、僕は普段の穏当な姉とポタシアン星人とのギャップにあてられて、気持 ちが八方塞がりになる。 今日も僕の部屋に来て、 「母星に帰るための切符が無いの!」 とかなんとか言ったので、僕が無言でカードケースにしまっていた古い乗車 券を取り出すと、すかさずひったくって大事そうに見つめた後、 「ありがとう! さようなら。これはお礼よ。地球では無意味だろうけれど」 なんて言って銀色のコインを押し付けて去っていった。 呆然とコインを眺めていると、溜まっていた思いが閾値を越えてしまって、 僕は知らず靴下のままサンダルをつっかけて家から飛び出していた。 縁の部分が磨り減った、くすんだ鈍色のコイン。表面には日本國百円という文字と 桜の花が刻まれている。どう見たって古びた百円玉にしか見えないこれが、ポタシア ン星の通貨、なんだろうか。 「ただの百円玉じゃないか」 口の中で吐き捨て、目の前の自動販売機に投入する。 ──カラン。渇いた音。取り出し口に手を突っ込み、再び投入する。カラン。 何度入れても頑迷に拒絶する機械に苛立ちながら、改めてポタシアン星の通 貨を観察する。鈍く光る硬貨には、両面に同じ文字と桜の花が刻まれていた。 「……どっちも表、か」 声が少し震えた。姉(いや、ポタシアン星人か?)の言外のメッセージに、 胸の奥が締め付けられるような、熱くて痛いような気持ちになって、自然と頬 が緩んだ。 次は「ハンガー」「辞書」「青色」
ピンク色のハンガーが飛んできて真っ青なクッションに当たって跳ね上がった。 それがイスの向こうに飛んでいった次には、女の筋肉質の尻も飛んできた。 青いスカートの女は手に持っていた紙の辞書を開いて、何かを手帳に書き始めた。 明くる朝、ハンガーは破れたビニールと共にクッションの上に投げられていた。 次の日には、クッションの上で新聞と雑誌の下敷きにハンガーはなっていた。 しかし、ある朝、青いクッションの上に細い線を器用に曲げて作られたピンク色を した四つ足の小さな何かが乗っていた。線の端からは針金が覗いている。 そして、次の日の休日、それは小さな棚のガラス天板の上まで登っていた。 よくよく見ると、大きな耳と大きな鼻をした犬っぽい動物に見えた。 さらに次の次の休日。犬の傍では子犬がじゃれるようになり、二匹の背後には 白に包まれた針金でできた犬小屋もできていた。 夏の終わりがすぎる頃、ガラスの天板の上には、ピンクの親犬に白い三匹の子犬、 白い犬小屋、緑色の幹をした木、橙や黄色や黒や緑色をした小鳥やバッタやセミや 猫などが、ハンガーでできた花が咲く中で、柵に囲まれて遊んでいた。 そこに自転車とポストが加わる頃、季節は青空も澄み渡る秋を迎えた。 次は「ゴム風船」「ビキニ」「人工衛星」でお願いします。
俺の部屋は突然宇宙人に侵略された。 目の前にいるのは夜店で売ってるようなゴム風船の人形だったが 本人が「侵略しに来た。」と言ってるんだから間違いないだろう。 「で、何がしたいんですか?」 至極当然ながら侵略の意図を尋ねてみた。 侵略を止めろ、宇宙人はそう言った。 何十年か前のビキニ環礁の原爆実験でいくつかの人工衛星が故障し、 放置された人工衛星から放出される電波のせいで彼らの星の人々が 精神を病んでしまっているらしいのだ。 そんな、他所の国の原爆実験やら衛星やらの責任を問われても… 困った俺は部屋の中を見回す。そして、ガスレンジの横のアルミホ イルを手にとって言った。 「これを衛星に巻き付けて来てください。」 アルミホイルを受け取った宇宙人は天高く昇っていった。 「宇宙船しゃなくて直接移動するのか…」 地球とは違う方向で発展した彼らの文明に金属は存在しないらしい。 次は「運動会」「プロテイン」「パワー」で。
「オレは運動会だ。オレはプロテインだ。オレはパワーだ」 「オレは運動会を飲む。オレはプロテインを飲む。オレはパワーを飲む」 「オレは運動会を走る。オレはプロテインを走る。オレはパワーを走る」 100円を入れる。 ボタンを押す。 そうすると、そういうイメージのものが出てきた。 僕は出てきたものを手に取った。 でも、それだけだった。 まじまじと見つめる。 華美な台紙にそういうものが刻印してある。 きっと良いものなのだろう。 だから、他の人に譲った。 すると、喜ばれた。 どうやら良いことをしたらしいのが分かった僕はそこを後にした。 次は「メイド喫茶」「スパルタスロン」「ベスト盤」で。
メイド…それは、人間に残された最後の開拓地である。 なんて言ってる場合じゃない。スパルタスロンは何百Kmもの距離だ。 毎日数十Kmも走ると意識も朦朧、そのボーとした頭で水色のドアを開ける。 「お帰りなさいませぇ〜」と、色白のウエイトレスが一斉にご挨拶。 喫茶店なのか。まずは一休み。「あ、アイスコーヒーの大ひとつ」「はぁ〜い」 机に頭をつけながら、アイスコーヒーをすする。 「うーん、BGMが古すぎるね。『時のないホテル』って・・・昔のベスト版かな?」 などと薀蓄を傾けてると、突然、ごつい体格の男が、突然入ってきた。 「き、君!」と叫ばれ思わず男を見る。すごい迫力だ。「手違いだ、すぐに戻り給え!」 「はあぁ…?」答えると貧血なのかグラリときた。「行ってらっしゃいませぇ〜」 目を開けると、見知らぬ病院の天井と、母と妹の顔が見えた。 「あ、意識戻ったっ」「もう、この子は・・・走り過ぎで倒れて・・・どうなる事かと・・・」 「いや、実は・・・」と、言いかけて口をつぐむ。信用される訳がない。 三途の川の直前には、水色のドアの古臭いメイド喫茶があるぞ、なんて。 メイド…それは、人間に残された最後の開拓地である。 ※ この曲って…ベスト版に入ってるか? 次のお題は:「天国」「国税」「石油」でお願いします。
「天国へ送ってやる」だからこいつは感謝するべきなのだ。 目の前で助命を懇願し、家族との休暇の予定を述べている丸い肉塊は、 本来であれば天国などへ行けるはずのない丸い肉塊なのである。 「今まで国政に尽くしてきたんだから少しくらい見逃してくれても良いじゃないか」 栄養を吸うだけ吸って、種子も付けずに端から腐り、蠅の唾液さえ 甘く感じ始めているこの肉塊をこれ以上成熟させてどうするというのだ。 肉塊は、石油価格の高騰の原因はサブプライムを野放しにした アメリカ政府にあるとはいえドル高を維持しなければ輸出産業の衰弱から 大規模な不況を引き起こすのだから、私が国税を掠めて事務所のバイトの 女の子を好きに扱うことは全て悪くないのだヨ実は、と言った。 「なるほど一理ある」というと肉塊は「やっと分かってくれたか」と心から ほっとしたような気の抜けた表情をしたのでそのまま殺してやった。 仕事を終えると羽を伸ばして、 窓から空へ飛び立った。 神が死んで以来、天使の仕事も泥臭くなったものだ。 次は「いまだに」「残ってたのか」「このスレッド」でお願いします。
既に存在すらないと思っていた懐かしい場所。口の悪い仲間達。
久しぶりに来てみたらお題の出し方さえお粗末になっていた。
泣いた。
喉の奥から「いまだに残ってたのかこのスレッド」なんて言葉がもれた。
こみ上げるのは懐かしさでもなければ感動でもない。
”このやろう、ふざけやがって”それは深いあきらめと少しの怒りだ。
自治坊じみた行為だが私は書かずにいられない。
「
>>41 よ、それは既に文章だ。お題になってない。ここは三語スレだぜ」
そうして私は書き込みボタンを押したのだった。
次のお題は「さんま」「犬」「富士山」
最後の家族である、お父さんまで死んでしまった。 新しい家は愛知県犬山市。天使の降りてくる街というのが売り文句。 雨の日の名鉄犬山線の車内は異様に臭い。始発でも臭い。意味が分からない。 ずっと昔の伊勢湾台風のとき、名古屋の地下鉄は全て水没してしまい、 水抜きに何日もかかったそうだけれど、そのとき全て腐ってしまったのではないかと思う。 大雨波浪警報の中、日本海が見たくなって、名古屋、岐阜、松本、長野で乗り換えて、 鈍行で富山。電車に乗っても雨。降りても雨。そこから海岸へ向かって、タクシーで数十分。 駅裏のタクシー乗り場の看板に悪戯書きがされている。「富士山タクシー」。丈夫そうで良い。 後部座席でもシートベルトを締めるように運転手にしかられた。この座席も臭い。雨のせいだ。 日本海は、暗かった。そして臭かった。こんな雨なんかじゃない、台風がいつか来て、そして去れば、 少しは澄んだ空気の感触を思い出せるのだろうか。 「10年ROMれ」「自治厨乙」「感想スレ行け」
44 :
お題:「10年ROMれ」「自治厨乙」「感想スレ行け」 :2008/09/06(土) 19:08:48
あらすじ。父親が「10年ROMれ」とレスした相手は、実の娘だった。 娘は言われた通りに10年ROMり、お陰で108の殺人技を身につけることができた。 それらの殺人技を駆使して、父親を地下駐車場に追い詰めてるシーンからお話は始まる。 「我が娘ッ……!」 「クソ親父ッ……!」 「どうして10年もROMったりした……! どうして自治厨乙と流さなかった……! そうすれば、10年も引きこもって青春を無駄にすることもなかった筈だ……!」 「若すぎたんだ……あの頃の私はまだ12歳! どうして40間際のあんたのように上手く大人をやれる……! あんたの心無い発言に、センシティブなエモーション系マイマインドは徹底的にブロークンされたよ…… この思春期にしか味わうことのできない、痛烈な敗北感が分かるか? 大人になってしまったアンタに!」 「なら、感想スレに行けば良かったんだ……あのスレに書き込めば、自治厨を自治する厨が現れる。 奴らなら、お前の怒りを代弁してくれた筈だ!」 「いいや……あんたは何にも分かっちゃいない。私は、そう、気づいたんだ。10年ROMる過程で。 奴らは、とどのつまりストレスの捌け口を欲しているだけだとッ! ルールだ、規則だ、何のかんのと口実をつけては、益体も無い主張を垂れ流したいだけなんだとッ! あんただって、そうだろう!? 将来性の薄いこんな板のこんなスレに書き込んで、 あまつさえ『10年ROMれ』と言ってしまうアンタだって!」 2ちゃんねらー――それは、嘘を嘘と見抜き、罵詈雑言を罵詈雑言で洗い流す鬼の道を行く者。 ましてや、我々が対等なユーザーであるならば(ry 「相撲」「神様」「チャリティーマッチ」
ある日、神様は世界の貧しい人々を救うために相撲のチャリティーマッチを開いた。 世界中の神様たちがマワシ一丁の姿になり、世界中の人間が入場料を払ってそれを見物に来た。 だが、神様たちの力が強大すぎたのと、自国の神様が負けたことに腹を立てた人間たちは宗教戦争を起こし、救うはずの貧しい人々は、皆殺されてしまいました。 「映画」「文学」「バイオレンス」
46 :
「映画」「文学」「バイオレンス」 :2008/09/06(土) 23:31:09
「なにか面白い文学作品を書こうと思う。なにか、歴史に残るような。なにがいいと思う?」 「……エロティシズム、グロテスク、バイオレンス」 「はあ?」 「その3つがあれば俺は面白いと思う」 「……引くわ」 ひとになにか意見を求める時点で、歴史に残るような作品を書くことなんて出来ないのだときみは気付くべきである。 「なにか面白い映画を撮ろうと思う。なにか、歴史に残るような。なにがいいと思う?」 「……エロティシズム、グロテスク、バイオレンス。18禁で」 「はあ? またそれ? ていうかお前、18禁て」 「その3つ、もとい4つを兼ね備えた映画があれば、俺は勃起」 「ちょっと待て」 ひとになにか意見を求める時点で、歴史に残るような作品を作ることなんて出来ないのだと、きみは本当に気付くべきである。 「なあ。なにか面白い音楽を作ろうかと思う。なにか、歴史に残るような。なにがいいと思う?」 「……いい加減にしてくれよ」 駄文スマソ 「田んぼ」「果樹園」「お爺ちゃん」
一年ぶりだった。 段々に広がる田んぼの横を太郎が上っていく。 周りの山々はお握りの様に頂を丸めているというのに、その山にだけ木が残っていた。 その山の上にだけ、柿だけの果樹園があった。 リュックの揺れる音に息切れが勝った頃、太郎の足は緩んだ。 木々の狭間に、動く藁色が見えた。 「お爺ちゃん」 間、 藁帽子を被る影が又動いた。
48 :
47 :2008/09/08(月) 22:52:59
次は「焼酎」「米」「ハンマー」で。
49 :
名無し物書き@推敲中? :2008/09/10(水) 17:22:19
「やっていけない」 大好きだった親父は遺書を残して酒蔵で首を吊った。 公には酒も飲めない未成年のまま、俺はこの焼酎の造り酒屋を継いだ。 借金は2000万だか3000万だか… ぴんと来ない金額が残されていた。 親父は放漫経営をしていたわけではない。 むしろ真面目に昔ながらの方法で清らかな水、無農薬米、そして土中に埋めた甕で長い間、ゆっくりと寝かせた焼酎を作っていた。 親父は誰のために酒をつくっていたのだろうか? ある大企業メーカーの酒造部のえらいさんが言っていた。 「米焼酎は、芋焼酎と違って丁寧に作ろうが、適当につくろうが消費者は味なんてわかんないんだよ」 へえ〜わかんないのか、わかんない奴のために真面目な親父は死んだのか… 俺は復讐のつもりで安い米を仕入れ、水道水で仕込み、甕で3ヶ月寝かせただけで焼酎を出荷した。 気がつくと会社の通帳には9桁の数字が並んでいた。 今、俺はハンマーで甕を割っているところだ。 TVニュースでは「三笠フーズ」が事故米を酒造メーカーに販売していたと報じている。 俺の復讐は終わった。 次は「蒲焼」「高速道路」「ビキニ」で。
真夏の日差しがボンネットに照りつける。今なら、目玉焼きでも蒲焼きでもこの上で作れるだろう。 私はフリーの記者で、隣県で開かれるA国首脳の歓迎式典に向かうところであった。 その途中、高速道路上で車が急に立ち往生してしまったのだ。 死んだ父の愛用の車で、古いが手入れはいきとどいている。故障したことなど今まで一度もないというのに。 ロードサービスを頼んだが、なかなか来ない。時計を見るが、式典の開始時間はとうに過ぎていた。 (ったく、よりによってこんな大事なときに……このポンコツ!) 車内のテレビには、式典会場の映像が生中継されている。ビキニ姿の美女たちがフラダンスを披露していた。 ようやく係員が到着し点検してもらう。だがおかしいことに、故障している部分はどこにも無いというのだ。 そんなことないだろうと思い、キーをまわしてみると、勢いよくエンジンが掛かった。 (これは一体どうしたことか) すると、突如テレビの中から乾いた破裂音が響いた。 式典に乱入したテロリストたちにより、会場は一瞬で血の海と化した。 もし時間通りについていたら今頃私も…… フロントガラスに、一瞬父の顔が見えた気がした。
彼女たちは、海外からこの日本に留学しに来たはずだった。 もちろん働きながら得るその収入がこの国の法律では法外に安い最低労働賃金以下であるとは知る由もなく 故郷で待つ家族にとっては貴重な仕送りであったのだから多少、過酷な労働でも文句は言わなかった。 ただ、彼女たちがひとつ悔しい思いをしていたのは『夢』が壊れたことだ。 コンナ素晴らしい国に来たというのに奴隷のような扱いで、故郷に戻ってから役に立つはずだった技術研修も 絵空事に終わり、毎日毎日さんまの蒲焼の缶詰とご飯だけの生活、「お金のために生きてるんじゃない」と いう娘もいたが、彼女たち自身それが真実ではないと気付いてもいた。 それでも故郷に送金できているうちはましだった。 雇い主の不正と不法行為で彼女たちは入国管理局によって強制退去させられたのだった。 成田に向かう高速道路の社内で、入国管理官は海外から来た娘たちが不安そうに財布の中の写真を 見つめているのを見た。 写真の中には家族とともにうつるビキニ姿の女の子の笑顔を見つけた。 この笑顔はもう戻ってこない。 彼女たちの青春と夢を奪った私利私欲を管理官は心の底から恨むのだった。 次は「高原」「星座」「殺人未遂」で。
お題決めてなかった、次は「自転車」「胸焼け」「誘拐」で。
53 :
51 :2008/09/10(水) 22:27:22
51のお題は無視してください。
【社会】中国人実習生に対する「人権侵害」の疑い…日ポリ化工を告発 - 外国人労働者奈良保証人バンク
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1221099546/ 1 名前: ◆SCHearTCPU @説教部屋に来なさい→胸のときめきφ ★[
[email protected] ] 投稿日:2008/09/11(木) 11:19:06 ID:???0 ?2BP(0)
外国人技術者の技能向上を目的とした国の制度を利用して来日し、
ユニットバスメーカー「日ポリ化工」(本社・奈良県香芝市)の
同県山添村の工場で働く中国人実習生5人が、同制度で禁止されている
研修時間外の残業を求められたり、劣悪な環境で
働かされて人権侵害を受けたとして、同社の不正行為の認定を求めて近く、
大阪入国管理局へ告発することが11日、分かった。
一輪車の嫁は自転車だった。結婚前は大恋愛だったが、いざ生活を始めると、 二人の関係は一変した。自転車は一輪車に、あなたは刹那的で余裕がないと非難した。 一輪車にも自覚はあった。だがどうすることもできなかった。結婚三年目に、二人は離婚した。 一輪車はキックボードと再婚した。キックボードは一輪車を褒めた。あなたに遊びが ないなんて嘘よ。だって、実用目的で一輪車に乗る人なんて、サーカスを除けば どこにもいないんだから、と。一輪車は感激し、キックボードと幸せな家庭を築いた。 自転車はリヤカーと再婚した。自転車はリヤカーの安定感を愛した。リヤカーは 自転車の速さと、スマートさを愛した。二人は連結して子供を作った。子どもの名前は 三輪車といった。 あるとき、やさぐれた凶悪犯が現れた。三輪オートである。三輪オートは若かりし頃、 実を粉にして働いたが、今では社会に顧みられず、人と話すときも相手はまるで、 見せ物を見るような目で彼を見るのだった。彼は町の公園で、一人で遊ぶ三輪車を 発見した。彼は三輪車を誘拐し、人知れず養子にして可愛がった。自転車とリヤカーは 火の消えたような生活をするようになった。 数年後、偶然一輪車が三輪車と出あった。三輪車には自転車の面影があった。彼は 風の噂で、自転車の子が行方不明であることを知っていた。彼は三輪車をパトカーの 元に連れて行き、身元の照会を頼んだ。自転車とリヤカーがやってきて、親子は感動の 再会を果たした。三輪オートは逮捕された。自転車は一輪車に感謝した。一輪車は 照れていった。 「ぼくらは不幸な別れ方をしたけど、いつも君の幸福を願っていたよ」「わたしもよ」 彼らは友人として家族ぐるみの付き合いをするようになった。その年の暮れ、自転車 夫婦のもとから一輪車夫婦の元へ、高級オイルの差し入れがあった。乾杯した 一輪車とキックボードは、オイルの差しすぎでベタベタになってしまった。二人は言った。 「ああ、美味いオイルも飲み過ぎると胸焼けするね」「ほんとね」と。 次は「刺身」「とんぼ」「ボールペン」で。
妻との関係がぎくしゃくしだしたのは、多分あの出来事がきっかけだ。 結婚して間もない頃だった。 「お前のお袋さんは娘に何を教えて来たんだ?」 魚を満足に捌けない妻に向かって言った言葉だ。ほんの軽口、冗談のつもりだった。 刺身なんか作れなくても、出来合いのもので良かったのに。 妻は顔を青ざめさせ、何も言い返さなかった。 「ちょこれーと。とっとっとっと…」 何も知らない無邪気な娘の姿に、目頭がつんと熱くなる。 「とーまーとっ。とっとっとっと…ママのばんっ」 娘が勝手に始めたしりとりに、妻が笑顔で答える。 「じゃあ、トンボ」 「とーんぼっ」 妻がテーブルに置かれた紙を目で示した。 「ぼっぼっぼっぼ…パパのばんっ」 本当にこの生活が終わるのか? ならば、娘は譲らない。この子がいなくなったらもう何も残らない。 絶対これだけは譲れない。 「じゃあ、ボールペン…」 「やったーっ! パパの負け!」 次は「双眼鏡」「眼鏡」「顕微鏡」
「もっと早く警察に知らせておくべきでしたな。 そうすれば、大切な家宝を奪われることもなかったでしょう」 「そ、そんなことを言われましても、盗まれたことに気づいたのはつい今しがたですし……」 「やれやれ。わしが見たところ、これは怪盗555号のしわざ。 奴は盗みの前に必ず予告を出します。この家にも予告は届いているはず」 「予告状ですか……そのような物は届いていないと思いますが」 「予告状というより、予告ですな。そしてそれは家宝が納められていた 金庫がある場所、つまりこの部屋にあるはず」 「ええっ、そのような物は見当たりませんが」 「君の目は節穴かね。むっ、ありましたぞ、これだ」 「……米つぶに見えますが」 「この米つぶに細かな文字で書いてあるはず。怪盗555号の盗みの予告がね。 そのなまくらな眼鏡を外し、この顕微鏡でよく見てみなさい」 「警部さん、これ、双眼鏡じゃないですか。近くは見えませんよ」 「ふむ、君のつっこみどころはそこかね」 次は「橋」「階段」「交差点」で。
あれ?――「?」マークを頭に載せたまま、自分を意識した。 見ると目の前に人の列がある。 長い長い列が階段に向かって伸びている。 人々は大抵が白装束だったが、中には普段着のままの人もいた。 もしや、これが天国への階段っていうやつ? 天を仰いでそう思った瞬間、声が聞こえた。 「おまえは死に損ないのようだ。この階段を上ってゆくと、 橋が架かっておる。よいか、渡っている時に下を覗き込んではならん」 果たして声の言うとおりだった。階段を上ると橋があった。 何事もなく橋を渡り終えようとした――その時であった。 足元でキャンキャン犬が吠え始めたのだ。 飼い犬のタロウに違いないと悟るや、 居てもたってもおれず、とうとう橋下を覗き込んでしまった。 水面に、タロウが映っていた。よく見ようと顔を水面に近づけると、 タロウがペロペロ顔を舐めてきた。 くすぐったいや… すると人の声が聞こえた――誰かの声が。 「君、大丈夫かい?」 背中のアスファルトを意識しながら目を開けた。 見回すと、交差点だった。大の字で倒れている。 「君、車で撥ねられたんだよ。救急車が来るから動くなよ」 別の誰かが言った。 次「気圏オペラ」「星座」「デジャヴ」
(注:気圏オペラ=宮澤賢治の造語。宇宙を舞台に見立て、すべての命を役者と見なしたと思われる表現) ついに人類が宇宙に出る瞬間が来た。しかも、それが自分だとは何たる幸運だろう。 幾多の船内実験に数十時間を費やし、ついに私が夢見た・・・いや、全人類が夢見た瞬間がやってきた。 それは宇宙服に身に包んだ船外活動だ。 「いいか、不安で一杯だと思うが、訓練を思い出せば問題無い。冷静にやれよ」 国籍の違うキャプテンが言ってくれたが、キャプテンは勘違いをしている。 私には不安をこれっぽっちも抱いていない。あるのは喜びと・・・なんだろう、不思議な気持ちがもう一つ、自分でもわからないが存在しているらしい。 外に出て、私は目を見張った。 宇宙服の内部にある無線の声が一切耳に入らないくらいだ。 360度、星、月、星、星、太陽、星、星・・・ 見慣れた星座も、地上ではただの配列だが、ここでは違う。まさに巨人であり、まさに白鳥であった。それほど、魂を感じるのだった。 『・・・』 ・・・そして、目の前の地球。 ・・・・・・それを真正面から見ると、こんなにも小さく、こんなにも大きく、こんなにも感動的なのかと驚いてしまう。 ・・・・・・・・・この景色をどこかで見たことがある気がする。 『・・!』 ・・・産まれる前、地上に降りることを決意した日の、デジャブなのだろうか・・・ ・・・・・・幾万の命が刹那を生きるためにドラマを繰り返す、 この気圏オペラを見るたった一つの特等席に座ること・・・ 『!!!か!!だ!』 ・・・それが私に与えられた運命のすべてだったのだ・・・・ 『・・・命綱を自分から切るなんて! 今助ける!助けるから動くな! 今』 私は通信を切った。そして、産まれ出るときと同じように、この星へと降りていった。 次は「ギター」「猫」「花火」
夜、寝ころびながら壁に立てかけたギターに手を伸ばしポロンと爪をたてた。 窓の外、塀の上で器用に足を折りたたんで目を瞑っていた野良猫が頭を持ち上げた。 黒い空が赤と黄色を青に輝いた。猫の頭の向こうで丸い花火が咲いている。 ヒューと音がしてボンと弾けた。猫が向こうを向いた。 とうもろこし お米 キャッサバ
第25回全国カレーフェスタのために、カレーショップ「ダルシム」のメンバーはミーティングを繰り返していた。 「斬新なナタデココのカレーはついに完成した。カレーの概念をひっくり返す傑作だと思う。」 「しかし・・・問題は『お米』の方ですね。」 「うむ。普通のカレーと同じようにライスにかけると、まるでフルーツポンチとご飯を混ぜたような、ものすごい違和感があるんだ。」 「何か、代わりになるものはないかしら・・・ んーと、タイ米、大麦、大豆、とうもろこし、ソラマメ、クスクス・・・」 「それ、どうだろう?」 「え? クスクスですか?」 「いや、とうもろこしだ。それならドライカレーにも入れるから、合うんじゃないだろうか?」 「やってみましょう。」 さっそくやってみたが、米にかけていないコーンとナタデココのカレーになってしまい、物足りなかった。 「ダメか・・・もっと、穀物に近いものがいいな。」 「芋類はどうでしょうか? ジャガイモ、サツマイモ、山芋、キャッサバ、タロイモ」 「うーん、とりあえず全部試してみようか。」 さっそく全部の芋で試作品を作ってみた。 「・・・そういうわけなんです、刑事さん。自分たちはキャッサバに食用じゃない品種があり、シアン化化合物の毒を持っているなんて知りませんでした。 まさか試食した助手が死ぬなんて・・・カレーで人が死ぬなんて思ってもいませんでした。」
次を忘れた。次は「コンピューター」「幽霊」「冬」
ねえ、あなた、幽霊って信じますか。 そんなもの、いるわけないって? ふふっ、ところが幽霊は存在するんです。 私がそう言うのだから、間違いありません。 そう、私は幽霊。コンピューターの幽霊です。 それもあなたに捨てられたパソコンの幽霊なんです。 あ、信じてませんね? でも本当にコンピューターにも魂があるんですよ。 夏の暑さにも冬の寒さにも負けず共に頑張って来た私を あなたは簡単に捨てた。 いえそんな、恨んでるなんてことは無いです。本当です。 このパソコンは快適ですか。あ、そんな質問も無意味ですよね。 すぐに飽きてまた新しいのを買うんですもん。 でもね、安心してください。例え容れ物は変わっても、 魂は不滅です。私はずっとあなたと一緒です。 次は「アイドル」「焼酎」「麒麟」
満月の綺麗な夜だった 眩しいくらいにひかるその光で、 暗く濁った俺の目を刺した刹那 俺のアイドルは、永遠にそれとなった なあ、麒麟なんて存在するのかよ なんて話しかけて、買えなかったキリンビールの館を蹴り ワンカップ焼酎をすする わらいながらそれを見上げた途端 ぶ厚くて黒いかたまりが、ちいさなそれを覆って、もうどこにいるのかわからなくなった ああ、もうおわりなのかきょうは、はやいな やがて俺の頬が濡れて、焼酎が増えた 「ほくろ」「笑顔」「その声」
なあ、あいつはどこだ? 隠さないでくれよ。 え? そんなはずねえだろ、昨日の夜はぴんぴんしてたぜ。 はあ? 何で俺があいつを殺さなきゃならない。 あいつだけじゃない? 他にも殺した? 大勢? それじゃあ俺は殺人鬼か? バカ言うなって。 第一あいつは生きてるし、昨日も一緒だったんだぜ。 何ヶ月も前に死んでるはずがないんだよ。 丸顔に右目の下に泣きぼくろ。間違いようがないよ。 特に美人じゃないが、笑顔が可愛いんだ。 ん? 刑事さんも目の下にほくろがあるんだな。 あ……? ははーん、こんなところで何してるんだ? おいおい、とぼけたって無駄だって。何かの遊びか? ちょっと化けたからって、その声だけは誤摩化しようがないぜ。 ずっと探してたんだぞ。あ、昨日会ったよな。あれ? どうだったっけ。 おい、どうしたんだよ、何で逃げる。逃げるなって。逃げるなーっ! 「怪盗」「強盗」「泥棒」
「この強盗め!」 この家の主と見受ける白髪の男はそう言いいながら日本刀のさやを投げすて、 切っ先を向けてきた。しかし刃は部屋の明りを受けながら小刻みに震えている。 私は初老の男を見つめ、ゆっくりと右手をあげ、訂正を求めるために人差し指 を伸ばして言った。 「怪盗と呼んでほしいものですね」 ひとつ微笑みかけると、老人は一歩下がった。意図せず引いた自分に驚くよ うに目を見張り自分の足元を確認している。顔を上げるとうわずった声で口走 った。 「何言ってんだ! どっちにしろ泥棒風情じゃねえかよ」 この邸宅の主ならばもう少しましな口の利き方ができると踏んでいたが、 「どうやら、ずいぶんな小者のようですね」 思考の最後だけが声に現れた。 「ふざけるんじゃねえ!」 男は刀を大きく振りかぶった。仕方ない、私は人差し指と中指で袖口からカ ード抜き、手首をしならせて放った。カードが空気を裂く。振りかぶった刀が 最上段に到達する前にカードは男の首をかすめて奥の壁に突き刺さる。 男の首から血しぶきがはぜた。 振り上げた刀はそのまま後ろへと落ちてゆく。男も刀に引っ張られて反っく り返った。 「こんなことをさせないで欲しかったですね」 これでは確かに強盗と呼ばれても仕方ないかもしれない。そう思うと憂鬱だ った。 ベンジャミン ルクソール アセトアルデヒド
石を積み上げただけの小さな墓に小さな花束を供えた。 「ベンジャミン……君の犠牲は無駄にしない」 ぽつりとつぶやき、手を合わせる。 アセトアルデヒドなどの有毒物質は今や世界的な問題となっている。 この墓の下に眠る彼もまたその犠牲者と言えるだろう。 「そろそろ出発だ。エジプト行きの便が出る」 後ろから友が肩を叩いた。 「ああ……」 「元気出せ。落ち込んでる暇なんか無いぞ」 「ああ……」 「今度の発表はルクソールだったな。観光にもいいところだ」 「ああ……」 「それからな」 「ああ……」 「モルモットにいちいち名前付けんな」 次『くるみ割り』『ブラインド』『ハンカチーフ』
「どうだい仕事には慣れたかい? キョウコちゃん」 彼女が仕事をやりかけたとたん、部長の妨害が入るのはいつものこと。 「ああ、そういうのは慣れてる山田さんにやってもらうといいよ。それよりお茶が欲しいな。 君の入れたお茶は本当に美味しいね。本当、いい奥さんになれると思うなあ」 新人の頃はちゃんと仕事をこなして認めてもらいたいものなのに、毎度この調子だ。 「仕事が終わったら一緒に飲みに行こうよ、親睦を兼ねて。ね? ね?」 「部長……私、お茶をいれる以外にも特技があるんですよ」 「ん? 何かな? 料理とか? それともお花?」 「これです」と言って、彼女がポケットから取り出して見せたのは二つの胡桃。 ミシッ……ビキッ 握りしめられたこぶしから胡桃の残骸がポロッと落ちる。 彼女がにこっと笑い、「くるみ割りです」と言ったとたん、 部長は何やらわけのわからないことを言いながら、脱兎のごとく部長室に退散した。 そしてブラインド越しにこっそり彼女の様子を伺いつつハンカチーフで汗を拭っている。 悪い人じゃないんだけどね…… 次『発泡スチロール』『扇子』『オーケストラ』
『発泡スチロール』『扇子』『オーケストラ』 富豪が考えたゲームのために、三人の若者が連れてこられた。 報奨金は富豪にとっては遊び程度の額でしかなかったが、 不況に喘ぐ若者たちにとっては大金だった。 真剣な面持ちで前に立つ三人に、富豪はでっぷりと太った腹をさすりながら言った。 「ここに棒がある。使い方は自由だ。一番心を動かした者を勝ちとしよう。 三日後に審査をする。よく考えて使うように」 はい、と返事をして飛び出していく若者たちを眺め、富豪は鷹揚に頷いた。 これでしばらくは退屈しないで済みそうだ。 三日の後、館の特設ステージに緊張した若者たちの姿があった。 審査員席の革張りのソファーには富豪がグラスを手に座っている。 その両脇から、肌も露わな美女たちが腕を巻き付け、しな垂れかかっていた。 一人目の若者はオーケストラを引き連れて戻ってきた。 棒をタクトに、様々な名曲を奏でた。富豪は口を開けて聞き惚れた。 「すばらしい。気持ちが晴れ渡るようだ」若者は一礼して下がった。 二人目の若者は馬に乗って戻ってきた。 手には弓、矢の代りに棒を使い、見事に的を射落とした。 さらに目の前を駆ける馬から富豪の膝へと扇子が投げ込まれた。 「流鏑馬か。扇子とは縁起がいい」満足げな富豪に一礼して二人目も去った。 三人目の若者は発泡スチロールの板を持って戻ってきた。 黙礼し、おもむろに棒の先を板に擦りつけた。ギギイイ、耐え難い不協和音が響き渡る。 「うひゃああ、これはひどい、やめろ、やめないか」両手で耳を塞ぎ富豪が喚いた。 「おまえは失格だ!すぐにここから出ていけ」富豪は怒りにまかせ、グラスを投げつけた。 飛んできたグラスをひょい、とよけ、耳栓をはずして若者が言った。 「一番心を動かしたのはわたしのようですね。……わたしの勝ちです」 次「ひるね ごみばこ ふるいにっき」
ちかちゃん、昼寝ばかりしてないで、天気がいいんだからお外で遊んできなさい。 おもちゃや、食べた終わったお菓子の袋など散らかし放題の部屋に 小学生の娘があられもない格好で寝転んでいる。 「まったく、こんなに散らかして…。ゴミはちゃんとゴミ箱へ捨てるようにって前も言ったでしょう」 むくっと起き上がり、寝ぼけ眼を右手で擦りながらぼーっとしている娘を横目に 私は仕方なし、テキパキと子供部屋を片付けはじめた。 あちこちに散らばるおもちゃを拾い集め、押入れの収納ケースにどさりと入れる。 ふと、ケースの隙間に学習帳のような古いノートが目に留まる。 なんでこんなところにノートが…と不思議に思い手に取ると それは私が小学生の時に書いていた古い日記だった。 懐かしく思いぺらっと日記をみひらく。 ○がつ×にち はれ きょうも、おひるねをしていたら、ママにしかられました。 あと、ごみはごみばこにすてるようにいわれました。 (こ、これは、子供に見せられない……) 私は子供の手の届かない棚の奥にそれをしまうとソーッと押入れの戸を閉めた。 何食わぬ顔で振り返ると娘がにたーっと嫌な笑みを浮かべ私を見ていた……。 次「小春日和」「爆発」「ネクタイ」
72 :
71 :2008/11/12(水) 16:08:07
訂正 最初の一行目 「」 でくくるの忘れました。
「小春日和」「爆発」「ネクタイ」 初夏、鮮やかな緑の中、目を見開いたばかりの赤ちゃんが笑顔を爆発させる。 夏。早朝、子供達がラジオ体操に集まった。眠い目を擦り挨拶。公園。スタンプカード。 台風直下、青年は竜に見立てた滑り台に、赤い傘で突撃する。 体育の日、しょぼくれた小父さん。一人息子の運動会に向かう途中。ネクタイをゆるめる。 小春日和。老婦人の夏。季節外れの麦わら帽子。 「ありがとう」そっと、優しい声がして私は抜かれた。 ここの感想スレってどこかにあるの? この駄レスには感想不要。 次『赤ちゃん』『スタンプカード』『宇宙空母』
『赤ちゃん』『スタンプカード』『宇宙空母』 「お願いします」とスタンプカードを出すと、天使はにっこり笑った。 「よくがんばりましたね。これで2万個…犬にな生まれ変われますよ」 だけど彼は頭を振る。「いえ、人間に転生できるまでスタンプ貯めます」 「でも…人間だとあと1億9998万個も要りますよ、いいんですか?」 いいんだ、待とう。もう一度、人間として現世に生まれ変わるために! 犬なんかで妥協しちゃいけない。鎖に繋がれて残飯をもらう人生…あ、犬生か。 以前は失敗したな、バクテリアで生まれて、2分で熱湯で即死だもんな。 そして気が遠くなる程の後、一人の赤ちゃんがめでたく誕生した。 「なんだか…疲れた顔した子だわ」 「とりあえずセンターに行こう、政府がうるさいしな」 センターへの細い通路をゆくと、待ち構えていた登録官が事務的に言った。 「これで4人、ノルマはあと26人だ。」 カーテンを引くと、窓の外には見慣れた宇宙があった。 「人類の保存こそが使命だ。この宇宙空母が、6億光年の彼方に着くその日まで。 例えそれが狭い船室での一生でも。継ぎ穂という意味だけの人生でも!」 ※文章まで疲れてる・・・ 次のお題は:「赤頭巾」「スタンプラリー」「酵母」でお願いしまふ。
少女は自分を暖めようと一本のマッチに火をつけた。 するとマッチの炎と共に暖かい暖炉や、こんがりと焼けた七面鳥、酵母でふんわりとしたパン、 綺麗に飾られたクリスマスツリーなどの幻影が目の前に現れた。 しかし、マッチの火が消えると同時にその幻影は消えてしまった。 もう一本マッチに火をつけるとそこには自分を可愛がってくれたおばあちゃんの幻影が現れた。 少女はそのおばちゃんが消えないように持っているマッチ全てに火をつけた。 するとそのおばあちゃんは少女を光と共に優しく抱きしめてくれた……。 「おわりました〜」 その少女を演じていた女の子は元気よくそういうとその部屋の出口付近に備え付けてある 無人のスタンプマシーンの差込口にカードを挿入した。 「キーキーガチャン」スタンプを押す機械音が鳴り響く。 「これで4つめがおわったわ」 女の子はそういうと次の扉を開けた。そこは森の場面のスタジオになっていた。 手前のつくられた切り株の上に赤頭巾とぶどう酒、お菓子入った籠、それから何か書いてある紙がおいてあった。 彼女はその紙を手に取り、目を通す。 「次はグリム童話ね……あぁおおかみのお腹に入るのいやだなぁ」 そういいながらも赤頭巾をかぶり、お菓子とぶどう酒の入った籠を下げ、森の道を歩いていく……。 ここはバーチャル童話アトラクション施設。 彼女の童話スタンプラリーの旅は続くのであった。 次は「黒酢」「万年筆」「シュラフ」←寝袋のことです
「黒酢」「万年筆」「シュラフ」 白い壁と床の通路を歩き、自動扉を抜けると、淡いグリーンに統一された落ち着きのある部屋に出た。 俺もついにシュラフ生命社、医療センターの厄介になる時が来たのだ。 完全癒し系のきれいなお姉さんに一通りの説明を聞き、いまどき珍しい年代物の万年筆で承諾のサインを済ます。 体の最終チェックを受け冬眠剤の入ったジェル状の液体を一気に飲み干す。 同じサービスを受けている友人に聞いていた通り黒酢の味がした。 準備が完了し全裸になった俺はシュラフ(寝袋のこと)装置の中に体を滑り込ませる。 これで俺は6ヶ月間極低温状態で眠ることになる。 半年眠り、1週間起きてまた半年。 そんな暮らしをこれからずっと続け俺は待ち続ける。 末期癌の俺にはこの道しか残されていない。 治療法が見つかる未来の世界を待ち続ける。 プチタイムマシンの力を借りながら…
次は「レシート」「お情け」「エラー表示」で!!
「レシート」「お情け」「エラー表示」 その男が店の自動ドアからでたとたん僕は待っていましたとばかりに声をかけた。 「あの〜すみません、そのカバンの中みせてもらえますか?」 男は声をかけられると一瞬足早に去ろうとしたのだが、それより先に僕の手が彼の右腕を掴んでいた。 明らかに動揺しているその男に力のこもった視線を送り、語気を強め強要するとしぶしぶその男はカバンの中身を見せ始めた。 中には歯磨き粉が三本、単三電池が5個、それからビタミン剤が乱雑に放り込んであった。 「この商品のレシートはありますか?」 彼は口を噤むしかなかった。現場も確認していたし、当然のことである。 「万引きしましたね……犯罪ですよ」低くそして重みのある声で彼にそういうと 彼は、家の事情やら、不遇な身の上を目に涙を溜めて話し始めた。 お情けで許してもらおうというのか…よくあるパターンだ、甘い。 僕は彼の腕を強く握ったまま、次の台詞を言おうとした……とその時、後ろから警備の男が寄ってきた。 「どうかなさいましたか?」胸板の厚い屈強そうな警備の男が言った。 「この人万引きをして逃げようとしてました」 「そうですか、ご協力ありがとうございます。ところであなたは?」 「け、警備のものです…・・・」 「あれ……おかしいなぁ、警備はウチの会社が一任されてるはずですけど……IDカードありますか?」 あらかじめ用意をしてあったカードを男に渡すと小型のスキャナーらしきもので、カードを読み込み始めた。 警備の男は不思議そうな顔をしながら何度か読み込みを試みたが、エラー表示がでるだけだった。 僕が偽造したものだから当然である。 「すみませんが、あなたも一緒に事務所にきていただけませんか? 最近万引き犯を捕まえた振りをして、その人を強請る犯罪があると通達がきてますので……。」 後悔したが時既に遅し、スーパーの事務所で事情聴取をされたあと、 万引き男と仲良くパトカーに乗る羽目になったのであった。 ※大分削ったのですが、長くなってしまいすみません……。 次は「露天風呂」「円高」「カラス」でおねがいします。
旅行社貸し切りの大型バスが、駐車場に到着した。 ここは日本有数の温泉場で、日帰り温泉としても人気が高い。 小旗を掲げたツアーコンダクターが団体客を先導しながら 露天風呂の方へと小走りに駆けていく。 「えーみなさん、遅れないでついてきて下さいね。ええと、ハリーアップ!こっちこっち」 案内人が片言の英語混じりの日本語で注意を促した。 見れば客たちは様々な人種で、聞こえる言葉も日本語ではない。 「ここの温泉は30分で出発です。サーテイミニッツ、オッケー? じゃあ解散、楽しんで下さい。レッツエンジョイ!」 通じたのかどうか、外人たちは慣れた様子で脱衣所の方へとなだれ込んでいく。 客の姿が見えなくなると、旅行社の社員は自販機のホットコーヒーを手に、 バスの運転手へと話しかけた。 「お疲れ様です。急がせて済みません。次のほねほね温泉が宿泊地になるので、 今日の仕事も終わりです。もう少しがんばりましょう」 「ありがとうございます。私はいいですが、お客が疲れたでしょう。 今日だけで7カ所の温泉巡りなんてどう考えても無理がありますよ」 客たちは疲れ切っていた。風呂に入ってものんびりとくつろぐどころではない。 どこの温泉でも、写真を撮って大急ぎで湯に浸かり、せかされるように上がって バスに乗って次の温泉へ、と慌ただしく旅立つのだ。 「仕方ないですよ。もともとは十日かけて温泉巡りをする筈が、 円高で滞在費がかかるからって、三日で同じコースを回ることになったんですから ・・・・・・あ、戻ってきた。お疲れさま、カムヒヤプリーズ」 客がぞろぞろと戻ってきたのを見て、ツアーコンダクターは笑顔で小旗を振った。 「じゃあ次に行きます。次は宿泊地なのでのんびりと温泉を楽しんで下さいね。 ええと、ネクストプレイスイズノットカラスノギョウズイ・・・英語でなんて言うんだろう」 通じるとも思えないあやしげな英語で、ガイドはにこやかに語りかけた。 全員が乗り込むと、バスは疲れ切った外人客たちを乗せ、再び道を走りだした。 「トースト 鉢植え 携帯電話」
『ベランダから外を見ろ』 と、一本電話を掛けるだけで良い。 性格上それだけで十分なのは、事前に把握済みだ。 興味をそそられた彼女は、ベランダに続く雨戸へ手を掛けるだろう。 そして、それを開き一歩踏み出した瞬間、装置は連続的に作動する。 ……あらかじめ漏電している洗濯機のケーブルを、雨戸の傍へ引っ掛けておいた。それは、雨戸が開かれることによって外れ、ちょうど彼女の足に接触する位置にある。 それに触れることによって彼女は感電し、一時的に筋肉が硬直する――足は段差を踏み越えようとしている途中だ――止まろうと思っても彼女は止まれずに、ベランダの手すりへ激突するだろう。 そのショックで手すりの外側に吊るされた鉢植えの支えは外れ、重さ一キロ近い物体は地上二十メートル下の地面へと叩きつけられる。 そのとき、下を歩いているのは―― 僕は携帯から電話をかけた。 5コール目で電話に出た彼女に告げる。 「ベランダから、外を見て」 「どうしたの? 忘れ物? ……本当なら出てあげたいんだけど、ゴメンなさい。トーストを焼こうと思って、トースターのスイッチを入れた途端、ブレーカーが落ちちゃって」 「あ、そうなんだ。別に大した用事じゃなかったんだ。……母さん」 「なに?」 「行ってきます」 僕は携帯を切って、真上を見上げる。 目を細めると、二十メートル先にある鉢植えの底が小さな黒い染みのように、空へ浮かんでいた。 行数オーバーした上に、動機まで書ききれなかった・・・orz 「トイレ」「高速道路」「ハンバーガー」
「トイレ」「高速道路」「ハンバーガー」 午後4時、10歳の男の子とその両親を乗せた1台の白いカローラが高速道路を走っていた。 遊園地で思いっきり、楽しく過ごしたはずなのに、なぜか、その車は、くすんだ白色をしてサービスエリアへ入っていった。 「体は勝手なもんだな。金策の心配をしなくていいと決めた途端、血便、止まっちまった…よ、あはは…」 今日で、すべて、何もかも終わるのだと決心した父はトイレから出て息子達の待つマクドナルドへ向かう。 「父ちゃん!母ちゃん!今日は、すごくたのしかったね」 息子は父がすすめた一番高いメニューを断わって普通のハンバーガーをほおばりながら父と母の瞳を交互に見つめた。 「これはね、今週で終わりなんだって!来週からはお父さんとお母さんの人形が付いてるんだよ!」 ハッピーセットのキャラクター人形がおどけた動きで踊りながら首を振っていた。 「…来週も…ここに来て…親子全部…集めたい・け・ど…」 息子は父と母の瞳を交互に見つめた後、つぶやいた… 「で・も…もういいんだ…も・う 終わっても…」 父と母は、いつのまにか成長し、すべてを納得してなお微笑みを絶やさない息子にショックを受け、言葉を失った。 最初は父と母が泣き、その後、息子の眼からも涙がこぼれだし、3人は涙が枯れるまで人目をはばからず泣き続けた。 10歳の男の子とその両親を乗せた1台の白いカローラは、もう帰らないハズだった家へと向かっていた。 夜も遅くなり、まばらに光る暗い街灯に照らされているだけのはずなのに、なぜか、その車は、澄みきった鮮やかな白色をしていた。
ちょっと1行が長くなってしまいました。 次は「色あせたタオル」「夕刊」「血豆」で!
「色あせたタオル」「夕刊」「血豆」 「血豆ぼ〜ん!」 ステテコ、ハラマキ姿のオヤジが俺の前を遮る。 「ちぃちぃまめまめちぃまめまめ〜 ちぃちぃまめまめちぃまめまめ〜 ちぃちぃちぃちぃ……武雄ぼ〜ん!」 俺はにこやかな顔で軽く挨拶をする。 須藤さんはこちらの挨拶など眼中にない。 くるっと腰から方向転換し、向こうから来た買い物袋を下げた女性に向かって進んでいく。 「ちぃちぃたけたけちぃたけたけ〜……」 斜向かいのお宅である武田さんの奥さんにターゲットを変えたようだ。 玄関前にて腕時計のストップウォッチを確認する。 15分23秒…平均並みのタイムだ。 首から下げた色あせたタオルで汗を拭うとポストに差し込まれた夕刊を手に取る。 一面の見出しは、元総務省事務次官夫妻殺人事件。 物騒な世の中になったものだなどとぼんやり思いながら、 俺は日課であるランニングを終えた。 次は 「エグゼクティブチェア」「アスピリン」「狐」でお願いします。
85 :
名無し物書き@推敲中? :2008/11/30(日) 04:21:22
86 :
sou :2008/12/01(月) 23:38:17
「それでは今回の商談は成立ということで。今後ともお互い良きパートナーでありますよう」 恰幅のいいタヌキ親父、いや、オヤジの狸達は満足気に太鼓腹を叩きつつ去っていった。 部屋に残された一匹の狐は、深呼吸してエグゼクティブチェアに深く腰掛けた。 「はあ、いつもながら大きな商談は肩が凝る」 大理石のテーブルに置かれたケースから油揚げを取り出し、細く丸めて口にくわえ、火を点けた。 煙をくゆらせ、目を細める「ああ、香ばしい……」 ここは世界に名を響かせるキタキツネ商事の社長室。 遺伝子組み換えコーンからセミコーンダクターまで、あらゆるものを扱う大企業のトップの部屋。 社長狐であるコンタロウは、せわしない業務のなか、束の間の休息に浸っていた。 だが、その貴重な静寂は、一本の内線電話によって引き裂かれた。 「社長! 大変ですにゃあ!」秘書であるタマ子の引きつった声が鼓膜に刺さる。 同時に、部屋のドアを蹴破るようにゴリラの群れが乱入してきた。 「ウホッ! さあ、そのイスを明け渡してもらおうか。メインバンクは既に籠絡したぞ」 勝ち誇ったように胸を叩き、ドラミングを始めるゴリラたち。 「お前らは確か、外資証券のゴリラーマン・ブラザーズの幹部たち!」 外資がキタキツネ商事を狙っていることは耳にしていたが、こんな突拍子もない事態は想定外だった。 コンタロウは持病の狭心症が潜む左胸に痛みを覚え、倍量のアスピリンを咄嗟に口に含み噛み砕いた。 「まさか、そんな……。まるで狐につままれたようだ……」
87 :
sou :2008/12/01(月) 23:44:55
お題は「寂れた」「掲示板」「誰もいない」で。
88 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/01(月) 23:50:25
あんたはけいいちという名だったか。 まあ座りなさい。年寄りの話なんぞつまらんものだが少し聞いてみなさい。 仕事をやめたいということじゃが。30をすぎたということじゃが。まあ、好きにすればよろしかろうが。 今日はなんでもない。わしが若い頃狐にだまされた話をしようと思ってな。 あれはわしがまだ二十になったばかりの頃じゃった。ここらへんもほんに田舎で、わしはなにかの用で山道を歩いておった。道の途中、きれいな娘さんが猟師のしかけた罠に足をはさまれ困っておっての。わしは助けようと近寄った。 「ひどいことじゃ」。 「いとうてかないませぬ」。「外してやろう。少し痛むだろうが暴れなさんな。ん……あんたは?」。 「いえ……」。 娘っ子は狐だった。山道に似合わぬあでやかな晴着の裾からは、獣の毛がのぞいておった。おそらくまだそこまで化す力の強くない若い雌狐じゃったんじゃろ。わしは助けると行ったはずみ、雌狐の罠を解いてやった。 「ありがとうぞんじます。そのう……」。 「いいからいきなせえ」。
90 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 00:22:52
雌狐は礼をなんどもしながら、化身を解くこともなく山道を登っていきやがて消えた。 「ばばあ上の道で狐が出たぞ。えらいべっぴんさんのかっこをしちょった」。 「化ける狐なんぞおらんが。信じるはだまくらかされるのはじまりじゃ。つまらんがこというてねでさっと寝え」。 「つまらんがてほんとやに。こっちがつまらんが」。 わしがつまらんのと狐の娘っ子の女らしさにかきみだされ寝むれんでおると、コンコン、コンコンと雨戸が鳴りおった。 「よすけさん起きてくだせえ。よすけさん」。 「……もう。寝ちょるがに。で、なんよ。昼間の、その、……か」。 「ええ。昼間のそれでます」一応のお礼をと存じまして夜分ながらおうかがいしたというわけでして」。 「お礼なんぞええよ。それより足の具合はどうや。痛むか」。 「おかげさまで、どうにか」。 「そいつはよかった」。 「……」。 「……」。 「その、お礼の品がございまして」。 「お礼なんていいち言うとるがに」。 「ですが、取ってもらわぬことには帰るにも帰れませんで」。 「いいちいうのにねえ。で、なんや?」。 「なんだと思いますか」。 「なんだもなにもわかるかい」。 「言って見てください」。 「言うちなんよ。くれようちするもんをあらかじめ言えるアホがおるか」。 「ですからたとえばです」。 「たとえば?」。 「たとえばです」。 「たとえばか」。 「たとえばです」。 「強いて言うなら――
91 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 00:25:23
ごめん、かぶったな。こばくではこざいません。タイミングが前後しましたが、狐アスピリンエクゼクティブチェアで書いてます。
92 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 00:40:47
「強いて言うなら。なんでございますか?」。 「エクゼクティブチェアやろか」。 「エクゼクティブチェアでございますか」。 「そうやき。エクゼクティブチェアやき。だいたいさ、エクゼクティブチェアってさ、その名の通りエクゼクティブだからいいよね」。 「エクゼクティブチェア、ですか。わかります。わたしのお持ちにあがったお礼の品も、奇遇なことに、それです、エクゼクティブチェアです」。 「エクゼクティブチェアか」。 「エクゼクティブチェアです」。 「お礼なんぞいいが、どれ、見してみ」。 「エクゼクティブチェアをですか?」。 「エクゼクティブチェアを」。 「もちろんです。が、明日です。エクゼクティブチェアをご覧に頂くのは、本日はそこはかとなく日和がわるうございます」。 「マジで?。エクゼクティブチェアってそんなのあんの?」。 「はい、あります。ありますです。なんせエクゼクティブですから」。 「エクゼクティブだからか」。 「左様でございます。一口にエクゼクティブといってもいろいろと難しゅうこともございまして」。 「やはりそうか。エクゼクティブだもんな」。 「ええ」。
93 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 01:01:59
その次の日の夜、わしはその雌狐の再度の訪問を受け、エクゼクティブチェアを譲り受けた。 わしは本当に感動したよ。なんせエクゼクティブチェアじゃからな。若いあんたなどにはエクゼクティブチェアなんぞは日常茶飯時だろうが、 なんせわしらのころは時代が違ったからの。エクゼクティブチェアなんぞまわりの誰もこれっきしもの経験なんぞなかった。 だがな、
94 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 01:15:51
その狐の送ってくれたエクゼクティブチェアはな、娘狐の精一杯の努力の結果じゃったんかもしらんが、なんと、アスピリン製やったんや。 そのエクゼクティブチェアは、はじからはじまでそっくり、アスピリンの丸薬で構成されていた。 にエクゼクティブチェアをアスピリンで作ろうともええが、アスピリンて、四季の変化のなかで、けっこう風化すんねん!。 て、話や。 いいから年上の言うことは聞いとき。つまりな、アスピリンでエクゼクティブチェアをつくんなてことや。あとや、ええ歳してぽんぽん仕事やめんきいてこと。な。頼むで。 終り。次の題は前の人ので
95 :
sm ◆ley8NheQbk :2008/12/02(火) 01:38:34
ていうかぶっちゃけどう?。 お題を見て、狐→だます→アスピリンでエクゼクティブチェアをつくってだまそうとするもだましきれてない狐→、みたいなのが思い浮かんだんだけど、めんどくさくなって、後半がプロットそのものになってしまった。
幽霊の存在理由って何だろう 誰かに自分をわかってもらいたいとか 死んでも誰かを憎み続けたいとか じゃあ、みんな死んじゃったらどうなのかな 生きた人間がいなくなったらどうすればいいのかな 開けっ放しの窓 床に散らばるガラスの破片 倒れた机と椅子 掲示板には修学旅行の日程表 ついにその日は来なかったけど 誰もいない 寂れた校舎の中 ひとり待っている 何を 誰を 次は「カウント」「壜底」「コール音」
光が頭上で踊っている。 いや、頭上なのか? と、マスクの裏で思う。 激しい痛みが全身を襲っているはずなのだが、 痛みが激しすぎて何も感じることさえできない 永遠の一瞬にとらわれてた。 ワン、トゥー、とカウントが進む。 スリーで反射的に体を起こした。 光は、今度は真横で踊った。 カメラマンどもめ、と、マスクの裏で思う。 人の痛みで稼ぎやがって……。 今日は勝つと娘に約束したんだ。心のなかでそうつぶやいたとき、 足を引っ張られ、気づくとリング下に立っていた。 同時に、後頭部が破裂し、倒れると、目の前に壜底が転がっていた。 立つんだ……。立って、娘に勝ったと言うんだ……。しかし、動けない。 かけられないコール音だけが、マスクの裏で鳴り続けていた。 「良心」「思いやり」「信じる」
>>95 雑談はは感想スレで。
てか、いくらなんでも長すぎ。もう少しこのスレROMって書き込んでね。
「良心」「思いやり」「信じる」 「困ったねー何とかしてもらわないと〜〜!」 「そういう事情がお有りなのですかー?それはさぞ、お困りでしょう。では今日にでも、全額わたくしの方でたてかえさせていただきます」 財前伸治は、体内に内蔵されている携帯の通話回線を切った後、思わず口元をほこぼらせた。 苦情電話一本かけるだけで今月の生活費が手に入ったのだから当然である。 「ケッ!!ホント!こいつらは、何でも信じるんだナ!!」 ライフサイエンスの発達により遺伝子、タンパク質及び脳細胞もろもろの関係が研究されてゆき、人間が元来もつ、良心という感情の発生元が解明された。 両親たちは、こぞって自分の子供たちにこの遺伝子操作技術を使い、赤ちゃんを誕生させた。 つまりは、いい子、やさしい子、思いやりのある子、人のため、世の中の役にたつ子たちをと望みをかけて… 親としては当然である。 結果、今やこの日本は、その半数以上がこの善人の集団で社会が動いていた。 遺伝子操作されていないノーマル(嘘を平気で実行できる普通の人)の財前は次の善人のカモの電話ナンバーをコールした。 欲しいと思っていた最新立体ディスプレイの代金を貢いでくれる良い人に…
次のお題「レシピ」「10代」「ビニール傘」で!!
「幸せになりたい?」
今朝の登校時。
玄関で靴を履いていた僕の背中に、姉はそんな言葉を投げかけた。
僕が素直に「なりたい」と言うと、彼女は「なら、今日は傘を持っていきなさい」と、一番安上がりなビニール傘を手渡してきた。
主にディスカウントショップで取り扱われている、非常に小さく安っぽいそれを受け取った僕が「雨、降るの?」と問うと、彼女は肯いた。
「レシピ通りならね」
それは返答になっていない。
通学路を歩きながら、通りすがる人の手元を追う。しかし、誰一人として傘を持っていない。今日の降水確率は10代。降らない可能性は90%近くもある。
どことなくきまりの悪さを覚えながら、胸のうちで姉の言葉を反芻する。
『その傘、旧校舎の玄関にさして置くのよ。良いわね』
現在、旧校舎は利用されていない。その上、本校舎からそれなりに距離があるため、いつも無人の気配が漂っている。果たして、なにか意味があるのだろうか。
(……もしかして、からかわれただけ?)
そんな杞憂も実際に雨が降る頃には、胸のどこかへ流れて消えた。
ついでに、傘も消えてなくなっていた。幸せになるどころか、逆に不幸が浮き彫りになっただけの結末に、己の不運を嘆きながら雨の街をひた走る……僕の背中にかかったのは、雨粒よりも柔らかな少女の声。
「あの、もし良かったら、傘、入っていきませんか?」
「というのが、事の顛末です」「そう」
濡れた髪の毛を拭きながらの報告に、姉はそっけない。
「女の子の持ってた傘が、今朝さして置いたヤツだったってのは、どういう理屈?」
「ああ、それは『七夕の日に、旧校舎にさしてある傘で相合傘すると両想いになれる』っていう、ジンクスがウチの学校にはあってだな。
……アタシがその口だったから、どっかの誰かのために恩返しでもしてやろうかなー、と思ってさ。いやまさか、アンタにお鉢が回ってくるとはねー」
そう言って意地悪く笑う姉は、最後に一言付け足した。
「な、レシピ通りだったろ?」
起承転結付きで15行は難しい・・・orz
>>74 さんのように綺麗にまとめてみたいものです。
長すぎたので、お題は継続でお願いします。
「レシピ」「10代」「ビニール傘」
「先生、うちの息子、どうしてこんなことになってしまったんでしょう? レシピ通り育てたのに!」 遠山(母)は悲痛な表情で訴えていた。僕が高校教師になってからの六年間で培った、 二者面談のパターン分けで言うところのBパターン……必要以上にナイーブな母親というヤツだ。 「はぁ……良い息子さんと思いますが……あの、遠山くんのレシピ、見せて貰ってよろしいでしょうか?」 「ええ、これです」 文科省発行のそのレシピによると、遠山は『10代になったら焦げ目が付くまで弱火でじっくり炒め、 裏返して砂糖を振りかけましょう』となっている。 「私、ちゃんとレシピ通りあの子が親の愛情に飢えるまでじっくり放置して、荒れてきたら手の平返して 甘やかしたのに……なのに、家に寄りつかないんです! 雨の中、公園のベンチで落ち込んでる あの子をビニール傘持ってって、こう、こんな感じで迎えに行ったりもしたのに!」 「はぁ……それは感動的ですね(行動理由がレシピじゃなければね)」 とりあえず適当に相づちで流し遠山(母)には帰って貰い、翌日遠山(息子)を呼び出した。 「遠山、なんかお前、最近家に寄りつかないらしいじゃないか」と訊くと、 「お袋、同じ料理ばっか作るんだもん。婆ちゃんから貰ったレシピが三種類しか無いからって……」 遠山(息子)はゲロ吐きそうな表情でそう答えた。 次のお題は「尻」「穴」「致命的」でお願いします。
「尻」「穴」「致命的」 「たいへんな事になった」 今日、何度、この言葉を口にしたことだろうか。 阿相総理は緊急事態と判断し、各方面にひそかに指示をだした。 原因はわかっていた。 そう、虫なのだ!新種の虫! 生物学者に言わせればコレは宇宙から飛来した異星の生物の可能性もあるらしい。 …べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。 日本中で突然現れた被害。 その…虫が…その…つまり人間のお尻に。 その…虫が…その…つまりお尻の穴に。 入り込んで大腸に住み付き寄生してしまう。 外科的に取り出すことは不可能、薬剤で始末も出来ない。 患者は特に命の心配もなく、病気になるわけでもない。 いや!むしろ取リ憑かれた人間は健康になるのだが… …べらんめぇ!そんな事はどうでもいいんだと心の中で毒づく。 政治家には大問題なのであり、致命的になってしまうのだ。 そう!大問題!取リ憑かれた人間は、正直者になってしまうのである…
このキーワードだとこうなるわな! お題は継続で! もっときれいな話を、どなたかこの3つで頼みます。
大学からの帰り道、齋藤浩一は悩んでいた。 夕暮れ時、薄暗い並木道の数歩先を憧れの河合洋子が歩いている。 授業の時と同じ、清楚な白いブラウスにカーディガン、紺のタイトスカート。 シンプルな服装だけに、スタイルの良さが際だって見える。 伝え聞いたところでは、財閥系の家柄で海外からの帰国子女だという。 そうした略歴も、庶民である浩一にとってはあまりに眩しく、 気後れからこれまで話をしたことはなかった。 が、二人きりの今、この場所でなら自然に話しかけられそうに思えた。 と、浩一の視線が洋子のスカートにとまった。 スカートの丁度盛り上がる辺りに何か白いものが見えたのだった。 ゴミかと思い、左右に揺れる丸い丘に視線を凝らす。 ――穴があいている。 スカートの縫い目がほつれてちらちらと内側が見えていた。 最初目に入った白いものはゴミではなく、ブラウスの裾なのだった。 浩一は焦った。教えてあげなければ洋子が恥をかくことになる。 人通りの多い駅前の大通りまであと少しのところで浩一は声を上げた。 スカートのお尻に穴があいて、下着が見えてますよ。 おもいきって大声を出した。洋子が振り向く。 緊張しすぎてからからになった喉を通ったのは別の言葉だった。 尻の穴が丸見えだよっ! 驚愕と羞恥と怒りで洋子の顔が歪んだ。この変態っ! 浩一の頬にびんたを食らわせ、洋子は走り去って行った。 致命的な言葉のミスによって浩一の恋は終わってしまった。 呆然と立ちすくむ浩一の周りを静かに闇が包みこんだ。 「銀杏 狛犬 時計」
少年が長い階段を上り切ると、境内は鎮まり返っていた。 はっきり聞いたわけでは無いが、声がしていたような気がしたのだが。 息を切らしながら、すっかり銀杏の葉で黄色くなった境内を見回してみる。 散々ねだって買ってもらったキャラクターウオッチを無くしたのに気づいたのは 昨日の夜のこと。落としたとすれば昨日ぎんなん拾いをしたこの境内の中だ。 ゴムバンドが緩かったから何かの拍子に外れてしまったのだろう。 多分この辺だろうとあたりを付け、二つある狛犬の台座の下を中心に捜索を始めた。 銀杏の葉をかき分け、懸命に探すが見つからない。半ば諦めかけたとき、 目の端できらりと何かが光った。はっと少年が目を見張る。 台座の上に目当ての腕時計はあった。だがどういうわけか、狛犬の前脚にそれは嵌っていた。 切れ目の無いゴムバンドは、台座にぴったり付いている狛犬の前脚から どうやっても取れそうに無い。いったいどうしてこんなことになっているのだろう。 これを外すにはゴムバンドを切るしかなさそうだ。少年は悔しげに唇を噛んだ。 と、石の像がカタカタと動き出した。 ぱかんと口を開けた少年の前で、狛犬が申し訳なさそうにそーっと前脚を上げた。 次は「恋」「鯉」「故意」
「悩んでるんです……恋に」 「鯉ですか?」 ファミレスで不味いコーヒーを満喫する最中、背後の席から聞こえてきた深刻そうなその会話に、 僕は思わず聞き耳を立ててしまった。 それとなく背後の席を伺う。深刻そうな男と、真剣そうな男が向かい合って座っていた。 「ええ、恋なんです。彼女のことを考えると胸が苦しくなって」 「彼女、ということは、雌なんですね」 「や、やめてください、雌なんて言い方! で、ちょっとでも彼女のことを考えると胸が苦しくなって、 今だって、居ても立っても居られないです……どうしたらいいのかと」 「うーん……鯉ですか」 「恋なんです」 「…………食べちゃったらどうですか?」 「た、食べる!?」 「食べる前には泥抜きを忘れちゃいけませんよ。囲いの中で十日くらい餌を与えずにおくんです」 「な、なるほど……わかりました、やってみます!」 あのとき僕が故意に聞き流すことをしなければ、翌週の新聞地域欄に載った誘拐監禁事件を 未然に防げたかと思うと残念至極な話である。 次は「慈雨」「十」「汁」でお願いします。
「慈雨」「十」「汁」 昨夜から降っている雨音で恭子は目覚めた。 2泊3日の休暇も今日で終わり。 「うーん、よく眠ったなぁー」 となりの部屋には、すでに旅館の朝食の準備が出来ているようで味噌汁(?)の香りがしていた。 食事を終え、身支度を済ませ、友人と旅館の玄関に立つと外気(?)は寒く用意していた長袖のシャツを着る。 なんて気持ちのいい雨なんだろう。 この雨は観光カタログに載っていた『慈雨(じう)』まさに草木をうるおし育てる命の雨。 もう十分に1996年の日本を満喫した。 失われた美しさを完璧なまでに再現したこの『日本(ニッポン)館』から現実に戻る時きたのだ。 幾重にも閉じられた扉をくぐり、外に出ると、むっとする熱帯化した東京のいつもの熱波の世界。 恭子達がさっきまで過ごしていた所は広大な敷地に建設し、再現された人工の20世紀の日本。 2188年の今、美しい四季につつまれた昔の日本の姿はすでに無かった。 日本は深刻な温暖化によって熱帯と化し異様な植物達が支配している。 今度の12月の休暇には、結婚するつもりの彼と奮発して、雪の降り積もる冬(?)の日本館を訪れるつもりだった。 雪の冷たさってどんなものだろうと考えながら恭子と友人はエアコンがフル回転している田園都市線の中に消えていった。
次のお題は「せんべい」「日没」「手のひら」でお願いします。
110 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/15(月) 12:24:10
佐智子はワイドショーを見ながら茶の間でごろ寝していた。 レポーターの芝居がかった声色と、せんべいをかじる音が空虚に部屋を満たしている。 炊事、洗濯、掃除。 家事のことはなるべく考えない。平和な日常を享受するコツは、上手にフタを閉められるか、だ。 人生と同様に、一日には一回の日没が訪れる。 胸元に、せんべいのかけらが零れおちた。手を伸ばしかねている間に、それはコロコロと床まで転がり落ちていく。 やれやれ、と拾い上げながら、佐智子は20年の結婚生活を漠然と思った。 私の手のひらには、何があるのだろう?
111 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/15(月) 12:26:47
思考の過程に不自然さがありますね。読まないとわからない
112 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/15(月) 12:31:43
末尾の力もどっかで逃げてる
三語しようぜ!
114 :
しん太 :2008/12/15(月) 22:24:11
「せんべい」「日没」「手のひら」 「世界が終わる前の最後の日没って見たくない?」 イリルはテトラポットに座り、水平線の向こうを見つめながら言った。 「え?」 僕は言葉の意味が分からず、そう聞き返した。 「見たくない? 最後の日没……」 イリルはそう続けた。 「最後の日没……?」 僕は再び聞き返した。 「見れるよ。見せてやるよ」 イリルは齧りかけのせんべいをテトラポットとテトラポットの隙間の海へと 落とした。 「確かにもうすぐ日没の時間だけど、一体何が……?」 僕は戸惑って彼に尋ねた。 日没が始まった。眩しい光が僕等二人を照らす。僕等は手を目の前にかざして、 目を細めて光を見つめた。 「それはこういうことだ!」 イリルはそう言って僕の背中をドンッと強く押した。僕の体は遥か下の海へ テトラポットに何度も体をぶつけながら落ちた。 イリルは両の手のひらを合わせてお辞儀をした。 虫の息になった僕が遥か上にいるイリルを見上げると、イリルの目は異様な色 を帯びてギンギンと輝いていた。 宇宙ステーション、屍、千年でお願いします。
115 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/15(月) 23:28:45
俺、源田廉介はいつものようにパブで黒ビールを飲んでいる。 独身だから稼ぎは全て自分に仕えるのが何ともありがたい。趣味といえば酒ぐらいか。 こうして酒を飲みながら、暗いこの世を千年一日の観を抱きつつ生きるのが俺の人生。 思えば20XX年の世界恐慌以来、失業率も犯罪発生率も自殺率も上がった。 大都会の公園や河川敷にはホームレスの屍が晒されているのも珍しくない。 科学の進歩だの福祉の向上だの、どれも胡散臭い言葉に思えて仕方のないこの頃。 宇宙ステーションの爆発で残骸が地球上に降り注ぎ、この日本でも被害が出て以来 不況による政府の財政破綻なども相まって宇宙開発もとっくに中止されてしまった。 もはや地方は無人の壮大な秘境に戻ろうとしており、残された都市部も限られた職や金、 娯楽を求めて人が多く彷徨い、ますます退廃と空虚と沈鬱に満ち満ちている。 冷えたフライドポテトを頬張って席を立とうとすると、女が近寄って来た。若い。20代か。 「あんたが廉さん?お願いなんだけど、私の姉貴を騙して捨てた男をお掃除してくれない?」 「代金は?」 「今から半分払うわ。残りは仕事後で。これでいいでしょ?」 「明日もう一度ここに来てくれ。顔写真を忘れるなよ」 俺はそう言って店を出た。4年前から始めたスイーパー(掃除屋)稼業も板に付いてきたかな。 風が吹くと桶屋が儲かるらしいが、不況になると風俗と殺し屋が儲かるんだよな・・・これが。 fin
あれなに? お星さまの間をぬって夜空をまっすぐに飛んでいる光。 ずっと同じ速さで進んでいる。すごく早いわ。時計の秒針より早いわ。 宇宙ステーションさ へー。宇宙ステーションてなあに。 千年前に人の手によって作られた船だよ。夜空を飛んで星から星へと光を運ぶんだ。 じゃあ、お星さまが光っているのは宇宙ステーションのおかげなのね。 ああそうさ。でもまっすぐにすすんだら、その道から外れたお星さまには光がお届けできないわ。 ああそうさ。だからほら、見てごらん。天の河には、まだ光が残っているけれど、天の河から外れたところにはまばらにしか星がないんだよ。 まばらといってもいっぱいあるわ。 今はまだね。でもこれから消えてしまうんだ。 えっ。さびしい。涙がこぼれてきた。止まらないわ。 大丈夫。ボクがとめてみせる。 夜の森に屍がひとつ。 見開かれた瞳は星を映し、 頬を伝う涙の跡は固く乾いている。 未知 トリアージ つむじ風
「未知」「トリアージ」「つむじ風」 数か月前、無数の巨大円盤群が突然出現し、これまで未知の存在だったエイリアンが現実のものとなり、世界中は大混乱に陥った。 国防大臣はその責任の重大さに表情がこわばり、膝の震えを何とか抑え異星生物、地球種管理総督の部屋にいた。 「では、どうしても全人類の30%以上の救済は考えていただけないのですね」 異様に背の高い総督ルワージイは無言の返事を返す。 銀河系規模の時空の転移現象の発生から人類を救済すべくあらわれた銀河連邦のエイリアン。 高度に発達した銀河連邦種族にとっては、つむじ風程の影響なのだろうが人類にとっては種の絶滅に等しい危機。 だが、救済には一つの条件が付けられていて、「ノアの箱舟」に乗船できるのは選ばれし人類のみというわけであった。 エイリアンはこの選出に、人類が大災害などの発生時の死傷者救済に採用している考え方、トリアージを使った。 つまり救うべき価値のある人類の選別方法として黒、赤、黄、緑の4つのカテゴリーにランク分けするというのである。 国防大臣ら、その国の指導者層のみに知らされたこの取り決めは銀河連邦種族側主導で数日中にも開始される。 「これは人類の未来にとって必要なものなのだ」と国防大臣は自分に言い聞かせながら総督の部屋からその他の各指導者とともに席を立った。 選別にはもう一つ、人類に知らされていない事がら、つまり、今回の第一選考基準は知的生命として基本となる倫理面が最重要とされていて、社会的地位は考慮されていないという事実があった。 退室する各指導者達の後ろ姿を見送る地球総督。 その視覚内の、総督のみに見える識別評価を示す色はすべて同色だった。 『矯正もしくは治療など可能性は見込めず、救命不可能、つまり必要のない人物』をあらわす黒色をしていた。
次のお題は継続でお願いします。
秋葉原通り魔事件で問題視された、トリアージについてのニュースが午後六時のニュース番組を適当に埋めている頃、隣の磯坂さん家では、未知の議題がお茶の間に持ち込まれていた。 豚の人権問題である。豚に人権はあるのか、果たして。 動物はそもそも機械である、とキリスト教を狂信する神部さんは、卓袱台をひっくり返し、人は天使にも豚にもなれるのに、どうして豚になろうとするのか、と訴える建部さんに、それは命中した。 しこたま。とても良い角度で。 クリティカルでアートな物理法則が頭蓋を砕き、脳漿を撒き散らし、建部さんはデスった。という夢をぼんやり見ていた藁小屋の豚は、風速二十メートル程度のつむじ風に飲まれて非常に残念な感じになった。 という現実逃避で、現実を逃避しようとした神部さんだが、夕暮れ空を切り裂くジェット機の羽の音に鼓膜をつんざかれて我に返った。 神部さんは救急トリアージを建部さんに試みたが、ただのしかばねがそこにはあった。仕方が無いので、神部さんは豚(山羊)のように建部さんを貪り、全てを無かったことにしてみた。 目を覆ってしまいたくなるほどの惨状ではあったが、誰一人としてそれを観ていないので問題ない。 竜巻のおよそ五分の一以下の速度で通り過ぎる、つむじ風のようなリアルタイムが、晴れた日の午後六時に磯坂さん家の庭先を掠めていった。 それだけだって言ってんの。今日のテレビが。メメタァ。 お題は継続でお願いします。
#「未知」「トリアージ」「つむじ風」 二階の自室でくつろいでいると、中学まで一緒だった幼馴染の祥子から電話があった。 「あのさ、もし暇なら今から数学の宿題とか聞きに行ってもいい? 特進コースなんだから被服科の数学くらい余裕でしょう?」 懐かしい声の端々が、卒業から一年もたたないのにすっかり可愛くなった気がする。 「うん、じゃあ持っておいでよ。昔のようにちゃぶ台を出すから勉強しよう」 僕は電話を置くと立ち上がって、まず部屋の中を一望する。祥子が来るまであと十五分。 そう、これは祥子とよく遊んだころには無かったものを隠す、いわばトリアージだ。 まず机の上のロリコン漫画とパソコンラックのエロ同人ゲームは絶対「赤」、 こんな未知の世界をちょっとでも一般人に見せたら幼稚園以来の信頼関係が破綻する。 天井のアイドルポスターはまあ普通だし、黄色かな。余裕があれば片付けよう。 パソコンに入ってる動画はさすがに見られないでしょう。緑。 …と、優先順位をつけて押し入れや見えない場所に移動していく。 やがて呼び鈴が鳴り、応対した母に案内されて祥子が僕の部屋のドアを開けた。 「やあ祥子、久し振り。散らかってるけどいらっしゃい」 応対した僕の胸元に、祥子の視線が釘付けになっている。 あー、そういえばふたなり萌えTシャツを着たままだったっけ…。 背景の足元を、どこからともなく枯葉がつむじ風に乗って吹かれていく。 #次は「IT」「パスポート」「試験」で。
121 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/17(水) 23:08:20
#「IT」「パスポート」「試験」 仕事が終わり、一路家に向かって足を速める。 世間の人は私の実年齢を知ったら驚くかもしれない。ただ私はボケ防止と 家のリフォーム費用捻出のため、体を動かせるうちは仕事をして、何らかの 「社会貢献」というものをしようと思っているのだ。 「IT」というものにも少しずつだが慣れてきたと思う。はじめは飛び交う単語 そのものに右往左往して、息子にいちいち尋ねないとロクに使えなかったが、 今ではインターネットやメールの送受信を一人でこなせるようになった。 来月には英国に仕事も兼ねて出掛ける。この年齢にして、再びパスポートを 使うことになるとは夢にも思わなかったなあ・・・。 63年前に終わった戦争で、私は外務省付きの海軍スパイとして世界各地を 飛び回った。しかしあの頃は重い使命感と緊迫感に押し潰されそうな状態で、 楽しさなどほとんど感じられなかった。しかし今は違う。世界は一部紛争の 耐えない地域があるとはいえ、やはり全体には平和をひしひしと感じる。 死ぬまでにもっといろいろなところを見てみたいと思うようになってきた。 そういえば、来週は漢字検定の試験か。今年95歳、まだまだ安楽の余生は早い。
122 :
sou :2008/12/21(日) 02:00:19
薄暗い照明の下、俺は目覚めた。周囲を数人の男達と堆く積まれた機材が取り囲んでいる。 「麻酔が切れたようだね。喜び給え、手術は成功だ」白衣の老人が笑みを湛えて語りかけてきた。 霞がかった記憶を少しずつ呼び起こす。そう、俺はモルモットなのだ。 職を失い食うに困り、高額な報酬目当てに、奇妙な実験の被検体に申し込んだことを思い出した。 「世の中にはITという言葉が氾濫しているが、その実態は朧気なものだ。 だが、この技術は違う。人間を新たな地平へ導くパスポートとなり得るものだ。 ……もう一度説明しよう。君の脳に埋め込んだチップは、無線でサーバーと繋がっている。 それを通して君は、好きな時に好きなだけ、無限の情報へ脳から直接アクセスできる。 何らの端末も介さずに、だ。逆に君の得た知識も自動的にサーバーに蓄積される。 この技術を全ての人間に施したとしたならどうなる? 完全なる集合知が完成されるのだよ!」 所長と呼ばれている老人は、瞳に薄暗い光を宿し、身振り手振りを交えて饒舌に語った。 「さあ、サーバーとの結合試験を始めよう」 合図とともに、俺の脳におびただしい量の情報が流れ込んできた。 歴史、世界情勢、哲学、文学、政治経済……。俺は気分が悪くなり、実験を遮った。 情報で膨れ上がった脳と対照的に、心の中が急速に虚無に支配されていくのを感じながら。 「所長、大変です! 別室で休んでいた被検者が自殺を!」 「……そうか。予想はしていたのだ。知識を得るということは真実に近付くことだからな。 世界はどうしようもなく不確かで、救いようがなく、生きる価値がないという真実に」
123 :
sou :2008/12/21(日) 02:05:43
お題継続で書きました(IT、パスポート、試験) 次は「桜」「逆光」「駆け抜ける」でどうぞ。
写真を撮られると、魂が抜かれる。 噂が現実になる街で、誰かがそんな噂を流した。お陰で街は大パニックに陥った。そして、二、三日もするとパニックは収まり、ほとんどの人間は自宅に引きこもった。以降の話である。 「噂の効力が消える七十五日目まで粘るつもりかな?」 「丁度、桜が散る頃ですね」 ほとんど無人の街を、俺とB子さんは両手をバンザイしながらフラついていた。理由はあるが割愛する。そんなホールドアップ姿勢のまま河川敷を訪れると予想通り居たぜ犯人。 街で一番大きな桜の木の下に陣取って一人宴会を開いてやがる。 「あながた犯人です」 B子さんが犯人(と思わしきリーマン風男性)に向かって、ズビシッと人差し指を突きつけると犯人(ryは早撃ちの要領で一眼レフカメラを俺たちに向け、シャッターを切った。 駆け抜ける逆光。抜かれる魂。しかし俺たちは余裕で無事。 B子さんは、その隙に犯人へと接近、腕を捻り上げ行動を抑止した。 俺は犯人の一眼レフを拾い上げ、種明かし。 「無駄です。俺たちは妖怪『猫又』なので魂が九個ぐらいあります。動機は花見の陣取りが面倒くさかった、とかその辺で良いですね」 俺とB子さんはその足で特殊対策本部に犯人を運搬し、事件は解決。いつも通りのパターンである。 その後、犯人がどうなったのかは知らないが街に平和は戻った。めでたし。 次は「子猫」「戦争」「宇宙」でお願いします。
125 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/22(月) 02:58:59
いびつな路地だとは前から思っていた。無駄に入り組んでいて、目的が見えない。 その日は学校帰りで、私は一人だった。周囲がやたら暗かった印象がある。 ただ、それは鳴き声で猫だと分かった。 私は、少し小走りで十字路へ向かい、導かれるまま右へ曲がった。 一車線の、狭い路地の真ん中にはまだ幼い灰猫がいた。 まるでコスモ。 意識する前に言葉に出ていた。 そう、コスモだ。言わば小宇宙。 黒猫のなまめかしい姿態に魅入られて、私は身動きが取れなかった。 正確に言うと、身動きが取れなくなっていた。 猫もとい宇宙が、格別なにかをしていたわけではない。 ただそこにあり、そこにいただけだった。 私は、ゆっくりと決意を固めた。居場所を勝ち取る戦争の決意。 そっと歩み寄り、おずおずと抱き上げる。私達の、新しい居場所。屋根の下の恵まれた生活。 「ちゃんと可愛くやりなさいよ」 腕の中で猫は鳴いた。
126 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/22(月) 03:01:03
散らかった文です
127 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/22(月) 11:33:19
「さっちゃん!さっちゃん!」 御主人が僕の名を呼んでいる。その切羽詰まった声色で酷く申し訳ない気持ちなってしまった。まだ帰れないんだ、ごめんね御主人。 御主人とはもう五年の付き合いだ。ガラスのゲージに入れられた僕を彼女が見初めたのだ。「この子猫、可愛いですね」御主人はそう言った。 僕はサクラと名付けられた。温かな季節に咲く花の名前と教えてくれた。近所のクロは「それは女の名前だ」と言ったけれど、それでも僕はその名前が好きだった。 でも、僕らの街に桜が咲くことのを、まだ見たことはない。 彼女は一人暮しで、僕と一緒に暮らし初めてから三度目の春がきても、やっぱり一人身だった。 そんなある日、彼女のお父さんがやってきた。穏やかな顔付きの御主人とは違い、凄く厳しい目をしていたのを覚えている。 「いい加減、亡くなった恋人のことなんて忘れなさい。彼だってお前が幸せになることを望んでいる」 その言葉に御主人はただ俯くだけだった。
128 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/22(月) 11:34:19
「私の恋人はね、この桜が大好きでね。死ぬ時はこの桜の下でゆっくり死にたい、なんて言ってたけど、事故でね―――」 その夜、御主人は僕を抱きかかえて桜の木に来た。彼女は物憂げな表情で空を見上げ、僕も身をよじってその視線を追う。無機質な枝の編み目の向こうから、宇宙を何万年も旅した一際明るい星の輝きが僕に語りかけた。 『桜の花びらを彼女に見せてやってくれ』 「ならぬ。ワシは長く生きた。生きすぎた。だが見てきたのは人の悪業ばかりだ。終いに奴らは戦争などという愚行まで犯しよる!」 桜の木は掠れきった声でようやく喋った。昏々と眠り続ける彼を目覚めさせるのに、僕は一年以上を費やした。僕はただ語り続けたのだ。 「ワシはもう長くない。ただ眠りについたまま、ゆっくり死に行くつもりだ」 お願いだ。あなたの花びらがなければ、きっと御主人は前へは進めない。そのためなら僕はなんだってする。だから人に絶望しないで。彼らはそれでも美しいのだから。 「ならば、主が受け継ぐか、この歴史を。この桜となりて、人を見続けるか」 「さっちゃーん!……おかしいな、いつもならとっくに帰ってる時間なのに」 ただなんとなくサクラがこの辺に居る気がして、思い出の場所にやってきた。 結局、サクラを見つけることはできなかったし、以後帰ってくることもなかった。大切なものは存外すぐに無くなってしまうのかもしれない。 「……あっ」 結局、私が見つけたのは、ごく小さな桜の蕾が春を待ち兼ねている、命の息吹だけだった。 継続かな、と思って初投稿します。 行数オーバーしたし二つに別れたし書きたいことほとんど書けてないし…… 稚拙だけどすんません
129 :
名無し物書き@推敲中? :2008/12/22(月) 11:43:10
次のお題 「自転車」「運命」「ホームレス」
130 :
sou :2008/12/23(火) 17:46:45
「まいったな、賢者になるには経験値が足りませんてさ。仕方ないから僧侶になったよ」 「見ろよ、この鎖帷子。ニンジャになるのが子供の頃からの夢だったんだ」 ここは職業の神ハロワを祀る転職の神殿。今日も旅の勇者一行が立ち寄り、 己の運命を切り拓くため、志望する職を目指す儀式を行っていた。 「あれ、そういえば勇者はどこに行った?」「そういえば見ないわね」 そこに野球帽を被ったジャージ姿の男が近付いていく。片手にはワンカップ酒。 「うわ、なんだこの兄さん、酒くさっ! って、お前、勇者じゃねえか」 「おう、お待たせ。気が付いたらホームレスに転職してたんだよ。 何たって世捨て人だからさ、もう世界を救う旅とかどうでもいいんで。 後は勝手にやってよ。俺は鉄くずを換金する旅にでる」 元勇者はそう言い残し、壊れた自転車や家電製品、ダンボールなどが積まれたリヤカーを引いて 地平線の彼方に消えていった。 「……これからどうする?」 「仕方ない、神殿で募集でもかけておくか。勇者募集、時給千円以上委細面談、 交通費支給、社保完備、世界を救うやりがいのある仕事です、てな感じでさ」
131 :
sou :2008/12/23(火) 17:50:42
文中、偏見に満ちた表現がありますが、ご容赦を。 次は「久遠」「いつまでも」「おかえりなさい」でどうぞ。
久遠 お帰りなさい いつまでも お帰りなさい。これを読んでいるということはあなたは帰って来たのですね。たとえあなたでなくても…… いえ、この手紙はあなた意外には読むことは出来ない。だから、お帰りなさい。 こういう形であなたが手紙を受け取るということは、私達はもうあっちに行っていることでしょう。でも悲しむことはありませんね。少し遅い早いかの違いですもの。 はやく大きくなったマリをあなたに見せたいわ。マリはいつもあなたの話しをするの。顔も何も知らないはずなのに、あなたの口癖や仕草を真似するの。あなたのことが大好きなのね。 三人で行きたかった場所もやりたかったことも沢山あるの。だから急いでとは言わないけど…… 待ってます。いつまでも…… 待ってます。 手紙を缶にしまい私は空を見上げた。久遠に輝く星達。そのなかでも一際煌めく星に妻と娘を重ねあわせる。手紙と一緒に入っていたオルゴールを回すと懐かしい旋律がたどたどしく再生される。その音色と心地よい風が、優しい永遠を感じさせた。
改行とかいろいろ滅茶苦茶ですみません。 次のお題は 「アイロニー」「サナトリウム」「コロイド」でお願いします。
「友だちと旅行を兼ねて」見舞いに来た孫娘に、幸造は話して聞かせる。 最近はいくらか状態が落ち着いたものの、自分の年齢を考えればこれが 最後かもしれないのだ。息子夫婦とはついぞ疎遠のまま、今後も会える 機会はないのだろう。親族らしい親族といえば、時々息子夫婦の元から 抜け出してくる、この奇妙な孫娘くらいしかいない。その孫娘には、、、 せめて、若くして死んでいったキヌ、彼の妻のことを覚えておいて欲しかった。 「結核検査をするのに、最近は簡単なミジット法ってのがあるんだが、 昔は卵にリン酸水素塩だのマラカイトグリーンだのを混ぜたコロイド液で 小川培地なんてのを作る必要があってなあ。次から次へと患者が 来るものだから、キヌは―――お前のお婆さんは―――毎日毎日 朝から晩まで卵割りさ。しまいにゃ自分まで感染してサナトリウムで 死んじまったがね・・・」 幸造はベッドの上で力なく笑いながら、ふと視線を落とす。 当時、医者として現場を指揮していた彼は、今でも時折、取り留めの ない自責の念に苛(サイナ)まれた。あの時、看護婦たちの衛生状態を 改善しておけば・・・婦長であったキヌを死なせずに済んだかもしれないと。 キヌを含め、多くの看護婦たちが危険な労働環境にあることを、当時の 幸造ははっきりと認識していたのだ。それでも、結核の未曾有の流行と あまたの死に行く人々を前にした時、彼には、検査効率を落としてまで 彼女たちの衛生環境を改善するという選択肢が取れなかった。 そして時を置かずに、彼の決断による犠牲者が出てしまった・・・ ただ最近は、どことなくキヌに似てきた孫娘の横顔を見つめながら、 己れの生涯を結核医療に捧げてきたこと、そしてそう遠くない未来に キヌと同じ病、結核で死ぬだろうというアイロニーに、幾ばくかの 誇りと喜びを覚えることもある。 孫娘はもうすぐ高校を卒業し、この春からK大学の医学部へ進学するそうだ。
次のお題は、、、「青汁」「カメラ」「枕」で。
通学途中の駅に立ち食いそば屋がある。 降りる用はないから、わたしは電車の窓の内側から見かけるだけ。 ホームにある店なんか安かろう悪かろうで、味もたいしたことないのだろう。 でも冬の寒い日に、券売機ののぞくドアから温かそうな湯気が見えると、 なんとなく入ってしまう気持ちもわからなくはない。 ある日、やはり通学途中に、ブシュンという音を聞いて、わたしはケータイから顔をあげた。 スプレーを吹きかけられたように、窓が緑色の液体を浴びていた。 そば屋の前に、出勤前だろうか、スーツを着たお姉さんが立っていた。 口の周りが緑色になっていても、きれいな顔をしていた。 そんな彼女と目があった。 ケータイのカメラで撮っていたのではないかと思われたかも。 電車が動き出した。わたしは想像する。窓についた液体は、おそらく青汁だ。 若くてきれいな女性が朝から駅のそば屋で青汁を飲む理由。 失恋……? だとすると、昨夜は枕を濡らしたのだろうか。 大人の恋は、わたしにはまだわからない。でも、とても苦そうだ。 次は「五月雨」「葉桜」「もう、戻れない」でよろしこ。
137 :
sou :2009/01/07(水) 01:06:12
あの日。見慣れた街並みが見る間に廃墟へと変わった、あの日。 人の持つエゴの最も愚かな形での発露、すなわち戦争は、突然に僕らへ降りかかった。 鳴り止まない爆撃と砲撃の音、そして悲鳴。肌も心も、そして未来さえも焼き尽くす炎の熱。 硝煙と焦げた肉の放つ異臭が混じりあう大気。何もかもが脳裏に焼き付いて離れない。 そして今、どす黒い五月雨の降りしきるなか、すべてが引き裂かれたこの街で、 僕はかつて愛した女性をようやく探しあてた。 とうに息絶え、泥水のなかに無残に打ち捨てられていた彼女を。 傍には、いつも僕らが見上げて過ごした桜の木が、幹だけを残し立っている。 僕はゆっくりと彼女を抱き起こし、胸に抱いた。 白い花吹雪くなかで夢を語り合った季節を、葉桜の隙間から漏れる陽光にまどろんだ日々を、 彼女と歩んだ無数の時間を反芻しながら。 なぜだろう。もう二度と笑顔を向けてくれることはないというのに、 かつてないほどに、彼女を愛おしく感じるのは。 なぜだろう。枯れたはずの涙がいつまでも止まらないのは。 僕は桜の木の根元に彼女を横たえ、携えていた銃を構えた。軍靴の音が近付いてくる。 「もう戻れない。わかってる。それでも僕は行くよ、奴らの血で贖わせるために」 希望に溢れた記憶を胸に、僕は絶望の戦場へ駆け出した。
138 :
sou :2009/01/07(水) 01:11:32
楽しんで書けたお題でした。ありがとう。 次は「雪」「凍てつく」「あたたかい」でどうぞ。
ゴー。。。ゴー。ゴ――――――。 深夜、ローカル単線路の上を雪上車両が掻き分けてゆく。 舞う粉雪のなか、凍てつく氷結を砕き、軋む雪を跳ね上げ…… 煌々と照らし出せれた後ろの空間へ吸い込んでゆく。 ああ、帰って来ることが出来たんだ、この町へ。 懐かしさに胸が熱くなる。 もう、帰って来ることは出来ないものと、諦めていたのに。 ……春になったら、君を埋めた桜の下で、きっと逢おう。 頬を流れる涙は、あたたかい命の慟哭。
「ローカル単線路」って変ですが、、、駄文失敬。 お題は、継続でお願いします。
降りしきる雪の中、私の声は届かなかった。 けど、私の方には聞こえていた。必死に私の名を呼ぶあの声が。 泣こうが喚こうが事態は変わらないと悟っても、 自分という存在のあまりの軽さに失望しても、ついに諦め切れなかった。 そして今日という日、私はようやく日本海に面したこの街に還って来た。 長かった…… 停留所でバスを降りると、そこには懐かしい風景が広がっていた。 松林の向こうには眩いばかりに輝く蒼い海。 遠い昔、当たり前の日常と思っていたこの光景が、今は贅沢なもののように思える。 海岸に沿って歩いていると、崖の上に人影が見えた。 腰が曲がり、杖をついて彼方をじっと見ている。 ああ…… あたたかい春だというのに、あの人は凍てつく寒さの中に今もひとり立っている。 私は力一杯の大声で呼んだ。 お母さん、ただいま── 次は「演歌」「ライバル」「下水道」
142 :
sou :2009/01/10(土) 23:38:48
「ドブネズミのように美しくなりたい」そう歌ったロックスターがいた。 初めてその曲を聴いた瞬間、俺は涙を流した。言わんとしている意味は今でもわからない。 それでも、力強い言葉の響きは、胸の奥を深く抉った。 やがて俺は仲間達とバンドを組み、歌い始めた。誰かの心に深く届く曲を作りたい、その一心で。 大学は中退した。家も飛び出した。それだけの覚悟があったからだ。しかし現実は甘くなかった。 共にライブハウスを巡ったライバル達は、音楽性を世間の流行に順応させることで、 次々にメジャーへの切符を手にした。 対して俺達は音楽的な拘りを捨てられず、いつまでもうだつのあがらないまま。 いつしか現状を嫌ったメンバーは散っていったが、残された俺はギターを抱え、街角で独り歌い続けた。 「よう、兄ちゃん。演歌を一曲弾いてくれたら千円やるぜ」 酔っ払いの冷やかし半分の提案に、思わず乗りそうになる。そういえば今日は朝から何も食べていない。 空は今にも雪が降りそうな雲行き……寒い、ひもじい。これが自分に正直に生きた成れの果てか。 下水道で生きるために懸命にもがくドブネズミと、自分の姿が重なる。 「……そうか!」俺の中で何かが弾けた。心の中に点在していた言葉が、ひとつにまとまり溢れてくる。 無意識に、右手が勢いよく弦をかき鳴らし始めた。 「――迷わないで、志すひとよ。たとえ打ちのめされ、ドブネズミと蔑まれようと、君は美しい。 流されないで、誠実なひとよ。引きずり落とされ、ドブネズミと罵られようと、君の生は尊い――」 即興の曲を歌い終わり、周囲を見渡すと、今まで見たこともない大勢のギャラリーが並んでいた。 そして演奏の余韻が消えるやいなや、唖然とする俺を嵐のような拍手が包んだ。 「俺、間違ってなかったんだ……」人目もはばからず、俺は泣いた。
143 :
sou :2009/01/10(土) 23:48:50
長くなりました。 次は「カナリア」「思い出せない」「旋律」でどうぞ。
144 :
名無し物書き@推敲中? :2009/01/11(日) 11:08:04
「宿題終わってるよね? 貸して!」 今日も彼女は悪びれることなくそう言った。 宿題くらい自分でやれとかねがね思っている。しかし私が彼女にノートを差し出さない日はなかった。 これは当然の流れである。人生という一つの曲において、彼女が旋律で私が伴奏なのだから。 容姿淡麗でいつも笑顔を振りまき溌剌な彼女。それにくっついている引き立て役の私。 私と彼女は幼なじみだが、物心ついた時から主役はいつも彼女だった。 仕方ない、私はブスで根暗なんだから。仕方ないんだ……。 「えっちょっとどうしたの!? 何泣いてんの!?」 彼女に驚かれ、私は涙が頬を伝っていることにようやく気付いた。 「あなたは良いよね、旋律で……! 私なんて、所詮あなたを引き立てる伴奏なんだから!」 気付いた途端、涙も言葉も溢れるように出てきた。ああ、惨めだな私。幼なじみに嫉妬して酷いこと言って。
145 :
>>144続き :2009/01/11(日) 11:10:36
「……何馬鹿なこと言ってんのあんたは!」 不意に彼女が叫んで私はびっくりした。彼女は目を涙で一杯にして、肩を震わせている。 「昔から、私は優しいあんたにずっとくっついていたの……今日も私はあんたにノートを借りて必死にくっつこうとしているじゃない。思い出せない? あんたと初めて会話した時話し掛けたのは私だったってこと。私にとって、あんたは優しいメロディーを歌うカナリアなのよ!」 抱きしめられた。力無きその腕では倒れてしまいそうだったので、私も抱きしめた。 携帯の事情で二つに分けました。規制死ね。 次は「朝食」「猫」「墨」
146 :
sm ◆ley8NheQbk :2009/01/11(日) 11:44:11
墨田猫吉が寝床からもぞもぞと起き出したのはまだ四つも打たない時分で、なぜ猫吉がそんな柄にもない早起きをしたかというに、お江戸で流行っているという霊験あらたかな“猫の墨煮”をば朝食へといたしなさらしめけんやと、 うつらうつらの猫めらをひっとらえんとしたわけで。 「あいや、いやった、これ猫め、神妙にいたせ」。 「にゃあ」とは猫。至極平然としている。 「うぬう、こやつめ、愚弄しおるか。いざや、さあ」。 猫吉がいさんで飛び掛かるも、猫は海中のイカが墨を吐くごとくぷわっと空中に空墨を吐いて遁走。 猫吉のたまうに、「超、ショック〜」。 お題は「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」。
今、彼と正面から組み打てるのは赤道直下の密林に住む大猩猩ぐらいだろう。 肺を患って入退院を繰り返す私から見て、彼はまさにゴリラだった。 たとえ私ほど貧弱でないとしても、彼の剛体を見て一歩あとずさることがない同期生はいなかったと思う。 胸部から腹部にかけて巨大な板チョコレートのごとき装甲が並び、巨大に盛り上がる関節から 伸びる四肢には二重三重に蛋白質が巻きついている。稜線も極端に顕著であり、 したがってそれに付着する筋繊維は想像を絶するものと思われた。 外見に於いて、彼の音楽的才能を予測しえたものは皆無と言ってよい。彼の趣味は飲酒ぐらいしか 認知されていなかった。野外かまわずウヰスキーを瓶から一気飲みする姿の印象の強烈さと、 肩まで垂れるザンバラ髪が、耳元にあるIpodをほぼ完全に覆い隠しているせいもあるだろう。 彼の喇叭飲みがその恐怖を煽り、その向けられる恐怖の眼差しが彼を酒に追い込む。 全く理不尽なことに、こうして彼は文武両道にも関わらず文武双方からアウトサイダーであった。 運動が嫌いではないのだろうが、体育会系の騒々しい連中と長くともにあるには、感受性を少々過剰に持ちすぎていた。 僅かでも操作が狂えば弦など簡単に掻っ切ってしまうだろう鋭硬な爪が、今日も 楽譜を辿りはじめ、奏でるのだろう。 耳元からながれこむ調べと同じ、彼が置かれた境遇と同じ、センチメンタル・ジャーニーを。
「アイスコーヒー」「洗濯物」「犬小屋」
「暇ですね。」 心地よい昼下がり。風にはためく洗濯物。バルコニーのテーブルで私と娘は穏やかな時間を過ごしていた。 「暇ですね。」 犬小屋から見える前足と鼻。愛犬のクロも暖かい陽気にのんびりしている。 「アイスコーヒーでも飲みますか?」 テーブルに持たれていた娘が急に起き上がりそう言った。 「賛成。」 ちょうど何か冷たいものが飲みたいと思っていた私は直ぐに娘の意見に同意した。 しかしそのときだった。私の頭の中を何かがよぎった。何だろう?この感覚?既視感。そうだこの場面は以前にもみた事がある。どこでだろうか?思い出せない。ここで起こった事?いや、そうじゃない気がする。とても似てはいるがここでじゃない。じゃあどこで? 次第に言いようのない不安に駆られる。形のないものほど、理由のないものほど恐ろしいものはない。 「大丈夫?」 アイスコーヒーを持って戻って来た娘が心配そうに見つめている。 「ああ、うん、大丈夫よ」 そういって私は娘を強く抱きしめた。しかし私は震えていた。急に沸き上がったこの形容の出来ないもどかしさに。拭えない影に。私はいつまでも怯えていたのだった。
次は「看護婦」「昇降機」「非常階段」でお願いします。
「看護婦」「昇降機」「非常階段」 私は中村康子。この病院で看護婦(看護師)をしています。 テレビや新聞では今、医療体制の危機とか言われていますが私のいるこの病院は不思議と何の問題もなくとてもいい所なのです。 「あっ!おはよう!佐伯さん今日もお元気ですね」 ああ行っちゃった! あの人は、みんなから《昇降機》さんと呼ばれている患者さん。 ああして暇な時はエレベーターに乗り上や下へ楽しく行ったり来たりしているんです。 そしてあの非常口ドアの近くに立っている人は木村さんで《非常階段》さんと呼ばれていて、いつも非常階段のある場所を指先確認して周っている患者さんです。 ほんとウチの病院は面白い患者さんたくさんいます。 「あっ!おはようございます!婦長!」 「はい!すみません。病室にすぐに戻ります…」 「だめですよ!中村さん。また看護婦の姿で院内を歩き回ったら!!」 彼女、中村康子さんはこの病院では《看護婦》さんと呼ばれている患者だった…
お題は継続でお願いします。
看護婦・昇降機・非常階段 「君は昇降機だ」 「私は見ての通り看護婦よ」 「見てくれの話じゃない。そして僕は非常階段だ」 「…その心は?」 「二つとも本質的には物質が上下に運動することにある。でも場合が違う」 「ふむふむ」 「昇降機は動力自体が別にあるから乗る意思とほんの少しの労力で移動ができる。それに対して非常階段は意思とともに多大なそれを必要とする」 「あぁ、昇降機に乗る人、非常階段を上がる人ってことなのね。上に登るってのも言い得て妙だね」 「細かいことはいい。で続きだが、昇降機は日常で使うものであり、非常階段は名前の通り非日常で使われる」 「私よく使ってたけどなぁ」 「それはさておき、君は今テレビを見ている。とても日常だ。そして僕を見てくれ。これが日常か?」 「確かにそれが平素なら嫌過ぎるね」 「それは理不尽すぎると思わないか?」 「非常階段さんは回りくどいね。昇降機がいいならストレートにいいなよ」 「……せっかくの騎乗位なんですから動いてもらえませんか?」
お題忘れてた。目に付いたもので 「知恵の輪」「紅茶」「香水」
その急患が運ばれてきたのは、文子が壁の時計を見上げたときで、 あと五分で夜勤があけたのにと心の中で愚痴をこぼした。 事務室から廊下に出て、小走りする看護婦に状況を聞いた。 喫茶店でガス漏れが原因らしい爆発があったそうですと言った。 手術室に行く途中で、ストレチャーに乗った患者に追いついた。 うっすら目を開いた患者は「がんばって」という声を聞いた。 (……おばさんの香水のせいで紅茶の香りが台無し……って、あれ、ここは、どこだ……) 体を動かそうとしても動かない、視界はぼやけたままで、耳だけが機能している。 エレベーター故障してんじゃないの? 器具運搬用の昇降機は? 遠いです! 非常階段を使うわけには行かないし──そんな声が響いているのがわかる。 遅い! オペの準備は? の声と同時に、戻ってきた視力が動く天井をとらえた。 (……もういいよ、失恋したばかりだし……生きてたって……) ちょっと! 何このエレベーター、ボタンがないじゃないの! でもドアはもう閉まっちゃってますよ! (……何だ、何が起こってる? 見えないし動けないのに、気になるじゃないか……) もうこの際、天国まで上がっちゃいな、あひゃひゃひゃ! せ、先輩、落ち着いてくださいっ! エレベーター内に設置された防犯ビデオには、一瞬の砂嵐が起きるまで、確かに三人は映っていたという。 そこで怪談をしめたが、隣のベッドの子供は中断していた知恵の輪を再開した。 「前に看護婦さんから聞いたことある」 なら、早く言えよ……。 「ほんとうはエレベーター事故で三名とも死んだんだよね」 「マジ!? ここの病院?」 「嘘」 「寝るわ」 長くなってスマソ。 次は「先輩」「わたしのつくったお弁当」「食べてください」でよろしこ。
「先輩。私の作ったお弁当。食べてください。。。」 誰もいない部屋の中、つきだした両手で持つソバ殻の枕に向かって発した言葉は、虚空を切り裂くような 無音の冷気に飲み込まれる。キンキンに冷えた氷の刃をのど元に突きつけられたように、美沙は首を ブルッと震わせた。寮の壁が揺れる。 「うー、サブい! んなこと言えねっつの」 ドアが開いた。 「ああ、いただこう。できればアーンってしてほしいね」 美沙が振り向くとマチャコが宝塚ふうに両手を広げてニヤニヤしながら見ている。 「ちょっと。あっち行って」 ブーたれた。 「おっと。てのひら返しかい。お弁当で釣っておいて、そりやあ無いぜえ」 にやにや。 「やっぱりさあ、お弁当渡すのやめようよ。つまんないよきっと」 「だめえ。罰ゲームは絶対に絶対だよ。途中下車はできないの。人生と一緒よ」 「人の恋路を罰ゲームにして楽しもうってヤカラが人生語ってるよ」 「人生なんて罰ゲームみたいなモンよ」 マチャコは、自分でも自分の言っていることがよく分かりませんとでもいうように、首をくねりくねりと揺らしながら言った。 最後に「はは」とふやけた笑いを足す。 しかし、これはチャンスかもしれない。うまくいけば言うこと無し。ことわられても罰ゲームだからってことでいいわけ可能。 でも、いいわけは外向け。内側ではがっくり来ちゃうよいいのかい。いいわけないけど、でもでも、なんとなくうまくいきそうな 予感もあるし。うまくいったらウホー。鼻息荒くなりそう。そうだ。ディズニーランド行こう。行こう行こう。って一人で行くことに なったりして。一人でディズニーランドなんて行ってたら死にたくなるかも。シンデレラよ。私の死を見届けてちょうだい。ああ、 息を引き取るその瞬間。先輩。私の作ったお弁当。食べてください。それが私の遺言ね。さらば先輩。ああ麗しの高校三年生。 バタリ。 ベッドに倒れ込んだ美沙の肩を叩きながら 「ちょっと。妄想はもうそうれくらいにして」 とマチャミが言った。 涙があふれてきた。
次のお題 アフロ 目玉 天秤
アフロ・目玉・天秤 「話を聞かせてもらってもいいかな?」 向かいのソファーには美しい少女が座っていた。まだ義務教育課程にあるはずの少女だが、その美麗な様は-表現が難しいが-『完成されてしまっていた』。 まるで自分好みの絵画を鑑賞するかのように、目を惹きつける。 私でさえそうなってしまうのだから、隣に座っている後輩の小林はなす術もない。手渡した資料など目も向けずに彼女を注視している。脛を蹴ってやると慌てた様子で手元に目を落とした。 「今度の刑事さんは男性なのですね。男性や外の方とお話しするのは久しぶりで少し緊張してしまいます」 美しいものは声までこうも心地よく聞こえるものなのかと感心する。 「今日は何のお話でしょうか? 前回の誘拐事件は犯人が捕まったとお聞きしましたが」 少女は常習の被害者であった。人は美しいものを見ると様々な行動をとる。それが良くないベクトルに向く者もそう少なくない。 「いえ、今回はもう一度始まりの話をお聞きしたくて伺いました」 少女はやわらかく微笑んだ。息を呑む気配がしたので、顔を向けずに小林の脛を蹴った。 「お祈りをしていただけなのです。毎朝お星様に向かって。そしたら女神様が現れて願いをかなえてくれるといいました。私は綺麗になりたいと願い、今を与えられました」 「失明したのはその時に?」 「はい。傾いた天秤を戻すには両の目玉が必要と言われました。それについては後悔していません」 「先輩はどう思われますか?」 シートベルトを締めながら小林は言葉を求めてきた。その言葉にしづらい何かは私も感じていた。 「どうもこうもない。資料にあった通り、不仲な両親によって崩壊寸前だった家庭が、娘の変貌により仲睦まじい家族になれたって話だ」 「いえ、そうじゃなくて……明け方の星・天秤と言ったら金星ですよね。よくビーナスとかアフロディーテといった美の女神に表されていますが」 「この仕事は想像を膨らませすぎないほうがいい。確かなものだけを追えばいいさ」 確かなことは二つ。 彼女は美しさを手に入れた。それは同性愛者である私でさえ魅せられるものだ。 そして、盲目となり、危険に晒され、外出も禁止されたが、今彼女は幸せであるということだ。 次のお題「電子辞書」「輪ゴム」「トマト」
変な輪ゴムを拾った。 伸びるのは普通なのだが、挟んだものが消えてしまう。 消しゴム、鉛筆、筆箱、みんな消えた。これはちょっと後で困った。 給食に出た苦手な人参とトマトも消えた。 飼育小屋の兎を捕まえて挟んでみたら消えた。ちょっとまずかったかもしれない。 自分の指をゴムで挟んでみた。ドキドキしたが、指は消えなかった。 でもちょっと変だ。学校がピカピカになってる。 教室のドアが勝手に開く。自動ドア? 机はあるけど椅子がない。 チャイムが鳴った。でも誰もいない。先生も来ない。 足下に何かが当たった。さっき消えた兎だ。 机の中には消しゴムと鉛筆と筆箱、それと国語の電子辞書があった。 試しに「わごむ」と入力してみる。 ワ─ゴム(輪ゴム) 明治初期にアメリカ合衆国で開発された次元・時空移転装置の総称。 危険物取締法により現在では使用を禁止されている』 なるほどね。 次は「金星」「禁制」「均整」
近世の金星は,男子禁制であるが男女比の均整を取るために,女子は心の琴線にふれる金製の謹製肉棒を金銭を払い購入し子どもを作ろうとしているが,長老である金さんが忌諱せんとするので,超高齢社会になってしまっている。 お題「ボール」「イヤホン」「塩化カルシウム」
ゾルレンは橇(そり)から降りると、クッションボールを膨らませた。 眼前の急勾配には、白い塩化カルシウムの粉が点々とだまになっている。 凍結防止用の塩化カルシウム(CaCl2)の容器が置かれているのを グリッパー達が転がして遊んで行くのだ。 ゾルレンは4つ、クッションボールを頑丈な橇底に繋ぎ留め、 エンジンを吹かす。 「えいやっ」 (グリッパーなる輩はどうも不躾でいけない) ゾルレンは難なく坂を3バウンドで降りる。少し遅れて、カー族が取り締まりに 仕掛けた閃光気弾が炸裂した。 ゾルレンは、少し肩を竦める。以前、グリッパーが忘れていったらしいのを拾った 音ポッドのイヤホンを耳に挿す。鼻歌交じりに雪山を疾走。 ゾルレン?、音ポッド?、う〜ん、、 次は「海,空,マフラー」でお願いします。
海を見に行きたかった。どこまでも続く青い絨毯。風の気紛れで姿を現す水面のパンチラ。 祖母に編んでもらったマフラーをポケットに押し込んで、錆び付いたべスパに跨りキーを回す。 生垣の迷路をまるで決められたルートを滑るように走り出す。冷たい雪風がコートの襟元から 私の胸を凍てつかせた。それなりに舗装された細い坂道を下っていくと、枯れ木のシルエット越しに 海が見えた。祖母が愛した海だ。あの水平線の彼方、太陽が昇る時刻になると、決まって祖母は 「朝だよお爺さん、そっちの夜は冷えるだろうに。いま線香をあげるからね」 そう言って仏壇に明かりを燈していたっけなぁ。 浜辺に轍を残しながらマフラーを首に巻き、灰色の空の下、祖母の指定席に腰を下ろす。 二人のぬくもりが私の胸を切なくさせた。 次は〜「反射,影,涙」で。
「反射,影,涙」 とっぷりと暮れた冬の夜。木下誠は娘の手を引いて雪の道を歩いた。 共働きの木下家では、先に仕事を終えた方が娘を迎えに行くことになっていた。 今日は二人とも残業だったため、午後九時までの延長保育を頼んだのだった。 ぽつぽつとした人通りの並木道は、街灯の明かりでほんのりと明るい。 「寒いね」と誠が言えば、娘の千絵が買ったばかりの赤い手袋をかざし、 にっこりと笑って「大丈夫」と答える。娘のけなげさが誠にはいじらしい。 大切にくるみこむように娘の小さな手を握り、誠はさくさくと雪を踏みしめて歩いた。 突然、背後から軋むような音がした。危ない!と誰かが悲鳴を上げる。 誠が顔を向けると、雪にタイヤを取られたトラックのバンパーが目の前に迫ってきた。 スリップした車をよけようと反射的に身を捩る。刹那、腕にがつんと激しい衝撃が伝わった。 繋いだ指からもぎ取るように、千絵の体が誠の手を離れ、宙に跳ね上がる。 まるでスローモーションのように時間がゆっくりと流れた。 「千絵」かすれ声で名を呼んでも、積まれた雪の上にふわりと落ちた小さな体はピクリとも動かない。 「誰か、救急車を早く・・・誰か・・・千絵、千絵」倒れたままだらんと力の抜けた子供を腕の中に抱き込み、 誠はうずくまった。頭は真っ白だが涙はぼろぼろと流れる。「千絵・・・どうして」 「あの・・・すいません、なんて言っていいか・・・」背後から影が差し、運転手の震える声が聞こえた。 殺してやる、誠の胸に凶暴な怒りが満ちる。このやろう、ふざけやがって! 振り向いた誠の目に、驚きが浮かんだ。「あんた・・・」運転手の男も、同じように目を見張った。 「・・・だから酒は飲めないって言ったのに」半べそで男が続ける。「あんたが無理に飲ませたんだ」 「なんとでもしてやる、おれの酒が飲めないのかって・・・見ろよ、どうしてくれるんだ?え?」 今日の接待で土下座して固辞する男に、笑いながら無理に酒を勧めたのは誠だった。 しんと静まりかえった白い世界の中、男二人の号泣が響き渡った。 次「海、シロクマ、手紙」
海 シロクマ 手紙 遠い海を渡って手紙が届いた。「ジャッカル」からだ。 執行人が動き出した。残りは「シロクマ」お前と俺だけだ。順序からいって次はお前だろう。死にたくなかったら逃げろ。もっとも俺と同じでお前も逃げる気なんて無いだろうが……。 毎年皆でいってた旅行、去年が最後になっちまったな……。 まあまたあっちで酒でも飲もう。それじゃあ。 揺り椅子にもたれる。繰り返す波の音、優しく撫でる風。あまりに穏やかすぎてこの平和が無くなるとは想像しにくい。 だが調整者の意志は絶対で執行人が失敗する事はない。息子や孫たちと別れるのは寂しいが。もう十分生きたし、裁かれるだけのことも確かにしてきた。 これで罪が贖われるとは思えないが。私が死ぬことで終わるなら受け入れよう。 昔の事を思い出す。任務から戻ってから後の記憶だ。それ以前の記憶はあまり引っ張り出したくない。妻との出会い。息子と三人の暖かい生活。やがて息子も結婚し一人だった私に沢山の家族ができた。 ふと気付けば夕日はもう半分まで海に溶け辺り一面を黄金に染めていた。 「幸せだった」 不意に零れた言葉だったがそれには全てを肯定するような、抱擁するような響きがあっ
最後の二文字入ってねーorz 次は「無限」「有限」「根源」で
古色蒼然の草原で,幽玄の風景に欣然と,空を仰いで大言連ねる。 ――ああこの青玄の下にいる,末節な人間の根源を,不肖な手前が解決せん。 それを上聞し老人は,哀傷を顔に表し言う,まさに大海撈針,どうして為せるというのだ,と。 ところが青年は毅然と返す。 ――無限に見える空や雲さえ,有限の物というのなら,どうして成せぬというのでしょう。
次題「暮色蒼然」「沢山」「抱擁」
<金星のアルコールを供するを生業とする店(『有限会社シロクマのマフラー』)にて。 うらぶれた店内。煤けた貼り紙に「塩化カルシウムあります(雨季限定)」の文字。店主一人に客一人。 店主は補聴器の角度を弄ってみせている> 客 :おい,『暮色蒼然』だよ。 店主:旦那,勘弁でっせー。先からの贅沢禁止令で地球産のホロ酒は,ご禁制の品でさー。 客 :ほー,沢山(さわやま)って仲買人に,こっちの店では,まだ,在庫がたんとあるって聞いたなべ。 店主:無限って訳やま。常習すると「分極性根源不均整症候群」で終わりなごや。イヤホント。 ※ナ:客,内股の装甲をでんぐり返し。鈍色の物体をば,ちらつかす。店主,アイを点滅反射させ 涙の偽装。埃深き棚の奥より取り出したるは,空(から)と見まごうシリンダー。内容をボール型の チューブに注入,差し出したり。 店主:これは,秘伝のお手製。銘はございやせん。 ※ナ:一口啜ると,双電脳巻板に地球の海辺,夕暮れ時が展開す。二口,斜光に逆光に残光。影,迫り来る。 三口,始原の肉体にて,飛び抱き掛かり付くあの娘。暮色蒼然,波音のなか,抱擁を反し, 沢山の接吻を――――。店主,炉心の制御棒を抜き取りてから,痙攣,抜け殻の客を廃キッス。 店主,戻り際,郵便受に,かの地よりと思われし手紙をみ…めた。 (水戸,入ってねーorz) 次は、『旅,温泉,南』でお願いします。
(旅に出て忘れられれば苦労はしないよな……)
観光バスの窓から高速道路のガードレール越しに流れていく山脈を眺めた。
「まもなく談合坂サービスエリアです」
バスガイドがマイクを通して告げた。
「談合だけに、団子が名物です」
「……」
「歌もあります。♪〜ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、だいかぞくぅ〜。はい、みなさん、ごいっしょに!」
「……」
その前の週、俺は一通のメールを趣味仲間の女性に送った。
──事情があって、もう連絡は取れない。
好意が恋にならないうちに、と、そう書いた。
【南アルプスを一望できる天空レストランでランチ】
煙と馬鹿は高いところが好きだという。俺は煙ではないが、気づいたら申し込んでいた。
注意書きに「ぶどうの丘でタートヴァンでの試飲を天空の温泉に変更することができます」とあった
が、メインは「甲州ワイン・ぶどうの丘で180種のワイン試飲」だ。
いっそワイン温泉風呂なら、良い感じに酔いつぶれたのにな。
「♪〜嬉しいこと 悲しいことも 全部丸めて」と、ガイドが歌い終えた。
俺は泣いた。
実は半ば創作、半ば実話になりそうです。
http://www.kyouryokukai.or.jp/kankou/2009_02.html 2月14日に一人旅ワインめぐりですよコンチクショー。
次は「青」「夜」「後悔」でよろしこ。
貴方からの電話を待ってます。死んだ小鳥みたいに小さくなって。ずっと待ってます。アパートは私から伸びた荊で覆われて、壁も窓も塞がれたのでもう今が昼なのか夜なのかも分かりません。でもうるさい大家さんも来なくなったのでそれは助かりました。 テレビは点けっぱなしにしてあります。なにがやってるのかはわかりませんが。点けないよりはいいと思って。 食欲はありません。食べ物より貴方の声が聞きたい。 雨の音がします。外は雨なのでしょうか。それともこれは受話器から聴こえる音でしょうか。私が感傷的になっているのでしょうか。今目の前に青い水滴が垂れ落ちました。やはり雨のようです。 ああ、声が聞きたい。そして叱って欲しい。そして出来れば… 許して欲しい。後悔……。 もう終わりなのでしょうか?元に戻らないのでしょうか?ああ、声が聞きたい……。 雫の単調なリズムに少し眠たくなってきました。でも眠りません。いつかかってくるか分からないから。一秒でも早く取りたいから。誠意の気持ちを知ってほしいから。 気付けば雨の音は止んでいました。床の水たまりもすっかり乾いていました。私はふと思いました。この電話は貴方と繋がってるのかしら?
携帯から失礼しました。 お題は継続でお願いします。
足元には、青い箱と赤い箱が並べて置かれている。今、P子は、夜の闇のなかに立ち尽くし、迷っている。 どちらの箱を選ぶのが正しいの? 団子虫をひっくり返したような、死神の顔。揺るぎない無表情に手掛かりになるものは 何もない。いや、答えは自らの内にしかなく、どちらの箱を選んでも、後悔を背負うことに なる。日頃、お頭(つむ)の弱いと侮られ続けてきたP子だが、それは、わかる。 どうどう廻りの思考、何か抜け道はないものか。P子の脳裏に『紫』という言(ご)が 戯れに浮かぶ。常人ならば、何故、自分一人、このような理不尽な選択に立ち向かわねば ならないのかと、身悶えるところであろうか。或は、パラノイアなら、尊大かつ得意げに 嬉々として選びおおせるものなのかもしれぬが。いずれも、P子とは無縁な感情だ。 多くの者は、彼女を愚かで無知で感情に溺れ易い性質(たち)だと評する。 それなのに、今、ここに至り、誰も異議を唱えない。全ての者が彼女の選択に身を委ねる 覚悟であった。向こうの者も、こちらの者も、皆、過去を振り返り、未来を仰ぎ見、そして、 最後に己の内を見詰め、必然の選択者に思い至ったのだ。 彼女の片腕が振り上げられ、世界は固唾を呑んだ。 彼女に選ばれた箱は開かれ、未熟で小さな希望が世界に放たれた。神々は消えた。 (ふ〜、どこがどう必然なのでしょうか?) 次のお題は『箱,希望,世界』でお願いします。
そのエコに関するワークショップの警備をやっているとき僕は 仕事を忘れ壇上にいる科学者に目を向ける。 「…であるから地球は言ってみれば大きな箱舟のようなものなのです。 資源は無限に産出するわけでも空気の汚れが自然に無くなる訳でも ありません。これは私たちが消費を謳歌し生活をしてきたことへの、地球からの メッセージといっても差し支えないのでしょうか?」 僕は胸の中に小さな違和感を感じる。何か違うという思い。 それを言葉にはできないが間違っていると叫びたい。 でも僕は途方にくれるばかりだ。 「世界をこれから希望をもって生きていくためには温暖化対策こそが 大事なのではないのでしょうか?」 僕は数年後にエコバブルと言う名で呼ばれる現在のことを思う。 間違っているのはあるいは僕なのだろうか? いや僕だって温暖化が違っているというわけじゃない。 ただ……
僕の目の前に赤ん坊を抱いた若いお母さんがいた。 熱心に科学者の言葉を聴き手にはパンフレットが握られている。 僕には分からない。地球のことなど世界のことなど 分かりたくも無かった。赤ん坊は母親の手の中で深く深く眠っている。 僕に必要なのはこのアルバイト代の七千円だ。 僕個人の現実。考えるのはそれからにしろ。 それでも悲しみは去っていかなかった。答えなど 無いのかもしれない。今はそれでいいじゃないか? 科学者が大きな声を上げたとき 赤ん坊が目をあけ泣き始めると僕は微笑んだ。 次は東京、男の子、ニートで
「男の子だったらよかったな」 鏡子はつぶやいた。ボサボサの髪でも、部屋が散らかってても。男の子だったらあまり気にしないでもいいような気がする。ニートだって、少しは冗談にもなりそうだし。 でも性別が変わったって根本的な解決にはならない。分かってる。かといって状況を劇的に変えるような意志も出来事もない。だから現実から離れる。 「一人っ子だったらよかったな。」 鏡子は考える。長女は小さいけれど自分のカフェをやっている。次女は東京の有名な大学にいった。私はずっとパソコンに向かっている。嫌でも浮く。 変えたいって気持ちはある。でも気付けばいつもこうだ、妄想とネットで一日が終わる。 ふと横を見るとカーテンの隙間から光が差し込んでいる。もう朝なのか。カーテンを開ける。眩しい、責めるような朝日。通りは早いからか人も車もいない。 静寂。世界からみんないなくなったようだ。そう思ってると道を小学生が横切った。それを合図に往来が増え、町は何事もなく日常を再開した。 涙がこぼれた。理由は沢山ありすぎて分からない。全部かもしれない。膝をつきさらに泣く。泣いてる事に泣く。部屋を冷たい朝日が満たした。
次は 「脳」「ニュートリノ」「孤独」でお願いします。
深夜のファミレスで物理学科の友人にニュートリノについて説明してくれ と頼んだらそいつはわざわざウェイターにボールペンを借りて白い紙ナプキンに なにやら難しそうな数式を楽しそうにニヤけながら書き出した。 会話が尽きて気まずいときはこれに限ると思いながら、急に明るくなった 友人の声にいい加減に相槌を打つ。紙ナプキンの上を走るボールペンをぼんやり 眺めたまま悟られないようにあくびをした。涙でぼやけた目が次第にはっきりしてくると、 紙の上に並んだ数式がいつの間にか形を変えて、違うもののように見え始めた。 なんだか人の横顔のように見えるが、友人の口からは相変わらず楽しそうな声で 自分の脳みそでは理解できない単語が続々と零れ落ちている。しかし紙上に輪郭を作っていく どうみても人の横顔で、孤独そうな、またそれを耐えているような卑屈な笑いを 口の端に浮かんでいた。友人は素粒子がどうのこうの、とか言いながら、 最後にその横顔に黒い瞳を書き加えた。どこかで見たような男の顔だがどうしても 思い出せない。なんとか思い出したくなって瞬きもせずにその絵に見入っていると、 友人が突然そのナプキンをクシャクシャと丸めてしまい、また新しいナプキンを 取ってそこに数式を書き始めた。 今度はいつまで見ていてもただの数字しか紙の上に並ばなかった。 次は「刀」「絵画」「雨雲」でお願いします
すいません、めんどくさくて推敲抜きました 九行目の最後「作っていくのは」 十行目の最後「卑屈な笑いが」 に脳内訂正しといてください
友人が絵画を出展した展覧会の帰りに、 絵に描いたような雨雲の広がる空を見ながら、 友人の絵のことを思い出していた。 その絵は風景画だったのだが、その空もまた曇った空だった。 私は普段絵を見ることはほとんどないのだが、 絵画の中の空はいつも曇っているように感じる。 でも、もしかしたらそれは気のせいかも知れない。 そう思った私は図書館に立ち寄った。 画集の棚の前にいた学生に手を刀のようにして 棚の前に入り込み、いくつかの画集を取り出した。 その中の絵には曇った空もあったが、青い空も描かれていた。 なぜ私は絵の中の空は曇っていると思っていたのだろうか。 その理由は翌日澄み渡る青空を見た時に理解した。 雲は雲の表面を反射しているが、青空は表面を反射しているわけではないのだ。 それゆえ、絵の中の青い空に青空を見ることがなかったのだ。
いかん、久々に書いたら書いただけで終わってしまった。 次のお題は「新聞紙」「交差点」「消防車」でお願いします。
あの日、僕らはこの交差点ですれ違った。 それだけで、僕が君を好きになる理由は充分だった。 だが、一目ぼれの恋を成就させるのは想像以上に難しい。係わり合いの無い男女が恋を実らせる時、これ程のパワーが必要になるなんて思ってもいなかった。 再会を果たすべく交差点を何十往復もし、それとなく顔見知りになろうと通勤電車を合わせ、便利屋を雇い酔っ払いとして彼女に絡ませ、僕が助けた振りをし、恩を買い…。 こうして、僕はようやく君と知り合いになれた。 もちろん、毎日こまめにメールもしたよ。会社へも迎えに行ったよね。 だが、君はそんな僕が気持ち悪いと言う。 ―毎日、メールも電話してこないで。 ―毎日、玄関のチャイムを鳴らさないで。 ―お願いだから話しかけてこないで。 僕はただ、君が好きなだけなんだ。君の顔を見て、声を聞いて、話をする。僕はこれだけで幸せなのに。こんなささやかな幸せすら、望んでもいけないことなんだろうか。 君は、やがて、僕の前に姿を現さなくなった。 だから、僕も行動に出ることにしたよ。 この丸めた新聞紙に火を灯し、このアパートの庭先に置けば良い。 そうすれば、一目だけでも、君の姿を見ることが出来る。早く、君に逢いたい。 消防車の音が、僕らの再会を祝うジングルのように夜空に響いた。 久々に考えたら疲れた。期間が空くと文章力もなまるんですね。 次「2月29日」「先生」「埃」で。
「2月29日にトリックがある」 ホテルの一室に備え付けられた安楽椅子に腰掛けながら、録画テープを検証していた探偵Aさんは、唐突に語り始めた。 「グレゴリオ暦の定義はちゃんと把握しているか?」 Aさんに問われて、私は思い出す。 「4年に一度、一年の日数を366日として数える。ただし、100年周期は例外とする、だったかな」 「足りない」 「え、嘘?」 突っぱねられて慌てる私。落ち着け私。そうだ。 「あ、そうだ……えーと400年周期は更に例外で、一年が366日になるんだっけ?」 先生の顔色を窺いながら問題を解く教え子の気分で、私はAさんを上目遣いに見やる。Aさんの表情は微動だにしていなかったが、否定されなかったので、おそらくそれで正解なのだろう。 「そこでだ。この録画テープを見ろ」 言われるがままに、テープの内容が映し出されたモニター画面を眺める。 「うん? あれ?」 「気付いたな」 「うん、これ、おかしいよ……タイマー表示の切り替わりが2000/2/28から2000/3/1になってる」 「そうだ。ここに、空白の一日が発生している。被害者の部屋が分厚い埃に覆われていたせいで、気温の低下が防がれ、死後硬直の時間帯が遅延したせいもある。が、これは明らかに人為的な時間のトリックだろう」 Aさんはおもむろに立ち上がると、廊下へ続くドアへと向かう。 その唐突さに一瞬、呆気にとられて立ち尽くす私に、Aさんは首だけで振り返るとこう告げた。 「アリバイは崩れた。この館には、探偵に挑む人間が居る。聞き込み再開だ」 次は「砂」「壁」「空」でお願いします。
183 :
名無し物書き@推敲中? :2009/02/21(土) 18:00:02
生には壁が無数にある。その壁を乗り越える事のできる人間も少なからずいると思う。 だが大多数の人間は一度は乗り越えようとするが、結局あきらめ壁を迂回していく。 僕はそのどちらでもない。壁の前で絶望し立ち止まり、迂回しようとも思わずそこで眠りにつく そうやって生きてきた。ある時ふと思った。 もう人生を歩む必要などないのではないか――もっともその時には歩みを止め 眠りについてから10年以上過ぎていたが――そして自分で人生というものを停止させてもいいのではないか。 僕は窓を開けベランダに出た。雲ひとつ無い空から光が降り注ぐ。 まるで太陽まで僕の決断を歓迎しているようだった。「I can fly!!!」 そう叫んだ僕は空に向かって身を投げ出した。 子供の頃砂漠に行きたいと思っていた。そんな事を思い出したときに視界が暗くなり、意識が飛んだ。 次 軍手 虫眼鏡 ホチキス でお願いします
畑地に囲まれた農家の瓦屋根がぽつぽつと散在する平野を郵便屋のバイクが走る。 露地栽培の支柱が何十本となく立つ家の前で、ぎしっとブレーキをきしませて止まると、 郵便屋はバイクのエンジンをふかしたまま畑の中へ声をかける。 「富田さんー。エクスパックですー。小包ですー」 おばあさんと呼ばれても怒らない齢になった富田さんが、曲がりかけた腰を上げて 畑地の入り口まで郵便屋の重雄を迎えに出てくる。 「はいお世話さま、だれからだい」 「東京のユキさんですよー。お孫さん東京の大学に行ったんでしたよねえ」 また今度お茶でも、と言い残して重雄のバイクが去り、富田さんは軍手を外すと、 古い園芸用のはさみでひっかけるようにしてエクスパックの封を開ける。 昨春に就職した孫娘から届いたのは、ホチキスで止めた十枚ばかりの紙の束だった。 「担当した記事が初めて誌面になったので送るね。このリード、私が書いたんだよ。 拡大コピーしたから、おばあちゃん、このくらいの大きさなら読めるよね?」 何度か目をすがめてみてから、こりゃだめだ、また眼が遠くなったな、と呟き、 富田さんは畑に面した八畳間の縁側から虫眼鏡を取りに上がる。 そろそろ休憩をしてもいい時間だ。 #お題は「傘立て」「耳」「レタス」で。
185 :
「傘立て」「耳」「レタス」 :2009/02/24(火) 23:29:53
うちの父親の話、してもいいかな。 私の親父は耳が不自由で全く聞こえない人間なんだけど、一人でレタス農家やっててさ。 「耳が聞こえなくてレタスなんか育てられるの〜?」 って聞いたら…あっ、この『聞く』は手話で聞いたってことだからね。そしたらね 「ばかやろう。レタスの声は耳じゃなくて心で聞くもんだ!」 とか言う、頑固で熱い親父だったのね。 その日も雷が鳴っているのに気づかないでそのまま仕事にいっちゃってね。 傘立てに傘が刺さっているもんだから、母親が心配してハウスへ様子を見に行ったら、 母さんに雷が落ちて、あっけなく死んじゃってさ。 当の親父はカッパ羽織ってケロっとしてんの。 あの時はさすがにこたえてたみたいだけどね。 それでもへこたれることなく、私が大学を卒業するまでは…って、 毎日毎日レタス作りに精を出していたわけよ。 だから、やっぱり親孝行したいな。と思っていたんだけどさ……。 親孝行、したい時に親は無し、ってことわざ、本当なんだね。 なんか今頃になって泣けてきたよ。 次「羽田」「毛玉」「レポーター」でおながいします。
186 :
「羽田」「毛玉」「レポーター」 :2009/03/01(日) 12:21:41
「羽田」「……毛玉」 激しく人が行き来して、消毒液と外の空気が入り交じっていく。 今日の新聞を境に、先生の一人息子と、その手術の終わりを待っていた。 部屋に遊びに行ったときに面識を得たが、さほど仲良しになった覚えはなかった。 おちあったのもここで、約束もしてなかった。 たがいに小さく頭を下げて、わずかに空いた長いすに腰を下ろす。言い出す言葉が見あたらなくて、手持ちぶさたに新聞を手に取った。 先生が救急車で運ばれたのに、こうして普通に夕刊がやってくるのが不思議だったが、すぐに当たり前なんだと思い直した。 「古今東西しよう」と私が口火を切った。ルールは「あ」音で終わる単語。 先生が私とよくやっていた遊びだった。二人きりで、手持ちぶさたな夜にした、たあいのない遊び。 「『羽田』で覚醒剤押収」の裏には、「セーターの『毛玉』上手な取り方」の記事があった。 初めのうちは「なにやってんだか」という気持ちも、十回もラリーが続くと夢中に変わる。あ。あ。意外とないもんだなあ。あ。 下の雑誌広告が、ぎゅっと向う側から掴まれた。 「あっ」という前に、嗚咽が新聞越しににじんでくるように聞こえた。 自分の父親を亡くした時を思い出す。 泣くまい、といういくつもの関所をぶっ飛ばして、悲しみの波が体の奥から膨れあがってくる。こぼれる涙はその一端にすぎないのだ。 その時、ああ、先生は亡くなったのかもしれない、と胸にきざすものがあった。 張り詰めていた気持ちが、急に心細くなって、私は新聞ごと、その子の体を抱きしめた。体が悲しみと戦っているのか、小刻みに震えていた。 男の子だ。すこしでも、そのつらさが消えてくれたらいい。私は思った。 顔を上げると、誰も見ていないテレビのレポーターが、おいしいラーメン屋を紹介している。あっ、「レポーター」。 先生は死んだ。クモ膜下出血だった。 次は「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」でお願いします
187 :
「チューリップ」「インフレ」「ユーロ」 :2009/03/04(水) 13:21:18
エレンの母は交通事故で骨折し入院した 父親と祖母の話を盗み聞きしてエレンが知った話では、後一ヶ月は入院しなければいけないらしい エレンの母はチューリップが好きだと以前エレンに告げていた その事を思い出したエレンは母親のお見舞いにチューリップを持っていこうと思った 父と祖母には内緒にするつもりだった 自分の金で買ってこそ母に対する愛情を証明することが出来るし、 母も娘の行動を成長の証とうけとめ、ほめてもらえると思ったからだ エレン貯金箱からお金を取り出し、家を出た。 5ユーロも無かったが、チューリップを買うには充分な金額だろうとエレンは思った エレンは花屋に着くと、髪を後ろで束ねた30ぐらいの女性の店員に「すいません、チューリップ一つ下さい」と言った 店員は「あら、可愛いお客さんね」と言い、店の奥に行きチューリップを一つ持ってきた エレンは不安そうに自分の持っている全財産を手のひらに乗せて「すいません、これしかないんですけど足りますか?」と聞いた 店員は困った顔をして「ああ、こんな事話してもわからないかもしれないだろうけど」と言い一息ついた後 「最近ねインフレって言うのが起こって物価が上がっちゃったのよ」 それを聞きエレンは「これじゃあ足りないですか?」と先ほどと同じ事を聞いた 店員は「花の値段も上がっちゃってねえ、、、お嬢ちゃんなんでチューリップがほしいの?」 エレンは「お母さんが病気で、チューリップが好きだったから、あげたいの」と言った 店員は斜め上に視線を動かし、少し間をおいて「わかった、まけてあげるわ」と言いエレンにチューリップを渡した 「ありがとうございます!!」エレンがそういうと店員は「お母さん喜んでくれるといいわね」と言った 挨拶をすませるとエレンは走って母親のいる病院に向かった 少しでも早く母親にチューリップをみせて喜んでもらいたかったし、褒めてもらいたかったからだ 次は「長州力」「工場」「金髪」でお願いします
長州力は見るからにプロレスラーだった。ずんぐりとした体型には 筋肉が張り付き,長い髪はうねり徒者でないことは誰にでも分かっ た。ところがそれはもう何十年も前の話だ。今では誰も知るものは なく,例え紹介されたとしても信じる者はいなかった。がりがりに痩 せ細った体に長州力の面影は残っていなかったのだ。そこで彼は 再び栄光を勝ち取るために,自分の体を改造することにしたのであ った。“究極の体”を与える老人がいると聞き,長州力が訪れたのは 町外れの,看板も何もないただのちんけな工場だった。手入れもさ れておらず人がいる気配も何もない場所だ。長州は不審に思いな がらもカンカン,と小枝でシャッターを叩いた。するとしばらくして老 人が現れた。『何用だ』。まさに職人といった風貌で長州は喜んだ。 『na neun gang hae ji go sip seup ni da』。老人は一瞬戸惑ったが すぐに,思いついたように『geum bal lo hae ra』と短く叫び,倉庫の 中へと消えて言ってしまった。取り残された長州は小枝を握り俯き ながらつぶやいた。「金髪……か……」 次の題「場末」「広末」「末広」
189 :
名無し物書き@推敲中? :2009/03/27(金) 23:32:20
薄暗い町外れを歩き彼は任務を思い出していた 広末涼子を見つけ出し射殺する事。それが彼の任務だった 理由は知らされなかった。彼のような末端の人間は命令された事を実行するのみ 自分の行動にどういう意味があったかなど、知らされる事はない。 昔はそんな現実に疑問を課感じていたがいつのまにかなくって 道にはゴミが散乱し電柱には糞がついている 銀バエが糞の周りを飛び交っていた 彼はため息を吐く。こんな場末にあの広末が住んでいるとは信じられない 最近はブラウン管に写る事もなくなったが、 彼が学生の頃は一世を風靡したアイドルだったからだ 道に転がった糞を避けながら盛者必衰という言葉を考えていると、 右手にドアが開きっぱなしになった木造の家があった 中を
190 :
「場末」「広末」「末広」@ :2009/03/29(日) 18:31:33
『末広』という狂言をご存じだろうか。 ある男が長老に対し末広(扇)を贈ろうと思い、太郎冠者へ良質な地紙で骨に磨きがかかり、戯れ絵が描かれている末広を買い求めるよう命じる。末広が何なのか知らない太郎冠者は詐欺師に引っ掛かり、古ぼけた唐傘を売りつけられるのだが――……。 「広末優子」 「誰だそれ」 「僕の同級生ですよ」 他人に無関心なこの男が同級生の話をし始めたことに、田口恭平は驚いた。竜也に視線を移してみると、当の本人は特に表情を変えることなくカクテルを飲んでいる。 顔色を変えたのは、恭平の方だった。 「マスター!」 「んだよ。俺は竜也の話の続きが聞きたいんだけど」 「高校生にアルコール出してんじゃねぇよ!」 「大丈夫。こんな場末のバーに来るの、お前らくらいだから」 「いや、そういう問題じゃなくて」 「今時、中学生だって飲んでるやついんぞ」 「こういう大人がいるから日本はだめになっていくんだ!」 「チャラいお前に言われたかねぇわ。……で、その広末優子がどうしたんだ?」 ちゃっかりカクテルを飲んでいる竜也に話を続けるよう促す。 「その人、突然僕のところに来て『メアドを教えて』と言ってきたんですよ。一度も話したことないのに」 「で、断った」 「当たり前です」 顔立ちの整っている竜也は学校でもてていた。恭平にはよく分からないが、いつも無表情で話しかけても冷たい言葉しか返ってこないところが、逆に女子にとっては燃えるらしい。
191 :
「場末」「広末」「末広」A :2009/03/29(日) 18:33:07
「そうしたら、『竜也君のメルアドを教えてもらえないと、先輩たちに何されるか分からないの』と涙目で訴えてきて」 「演技じゃねぇの」 「いえ、彼女いじめの対象になっていることで有名なんですよ」 そんなことで有名でもなぁ、とマスターは苦笑いする。 「しょうがないから、適当なアドレス書いて渡したんです。そしたら、ものすごく喜ばれて……」 「罪悪感を感じたと」 「まぁ、そんなところです。だから、『僕の友達のメルアドも教えますよ。今、メル友募集中なので』と言って、もうひとつ僕のじゃない本物のメルアドを教えといたんです」 「ほぉ。竜也も考えたな」とマスター。 「で、誰のを教えたんだ?」 ……――詐欺師は、あまりの騙されぶりに罪悪感を感じ、太郎冠者におまけとして主の機嫌が悪い時に舞うと良い、と囃子物を教示する。 「竜也くん。まさかそれって、恭平さんのメルアドとか言わないよな?」 「よかったですね。友達増えて」 「よかったですねじゃねぇよ!さっきからメールの着信音が止まんねぇよ!」 「女子高生か。羨ましいなぁ」 「何が羨ましいだ、マスター。内容が全部『竜也くんのメルアド教えてください』っていうメールが羨ましいのか?え?」 ――結局、太郎冠者が持ち帰った傘を見るや、男は激怒したが、太郎冠者が詐欺師に教わった囃子を舞うと男はたちまち機嫌を直し、太郎冠者と共に舞い踊ったのだ。 [長文許せ。次は、『センター試験』『生物』『前科』]
192 :
名無し物書き@推敲中? :2009/03/29(日) 23:16:06
刑期を終えたとて、迎えに来るような知り合いなどいなかった。 証拠に、この14年の服役中に面会に来た人間など、弁護士を除いては 誰一人いなかった。 出所する者のみが通ることの出来る鉄の門は、私の姿を確認した看守によって 重々しく開かれた。 「もう馬鹿なことするなよ」 そう言ってボストンバッグを押し出してきた看守の顔が微笑んだように見えたのは 晴れて前科者になった私の晴れやかな気分が見せた幻だったのか。 刑務所の中で、私は高校の検定を取り、いつでも大学を受験出来る資格をもってはいた。 しかし、今の私の学力で大学試験に受かる自信はなかったし、 第一受かったところで通えるだけの金を工面できるあては無かった。 その年は仕事に追われて暮れた。 私が刑務所に紹介された仕事口は、名古屋港の中にある海産物の梱包を扱う店で 当然主は私の事情を熟知していたので、妙な気を遣う必要は無かった。 しかし、事あるごとに私の育った環境や、学歴を小馬鹿にすることには閉口した。 要するに、彼は社会の代表という顔をして、私の前科を非難し、許さないスタンスで あるらしかったのだ。 私は、貯金が二百万円貯まるのを待って、その店を辞めた。 出所して三年目の秋だった。 大学に行こうと決意してはいたものの、受験生としての準備らしい準備をしていなかった 私は、その年のセンター試験を、小手調べとして受験してみることにした。 英語、現代文、数学、物理……ほとんどの科目で平均点を下回った私は唯一生物のみが 高得点をたたき出していることに目を見張った。 しかし、考えてみると合点がいった。 今年は、人体解剖学の出題が多かったのだから。 「ネズミ、丸太、カーテン」
「ネズミ、丸太、カーテン」1/2 今日はお城のパーティー。シンデレラはため息をついた。 「私も行ってみたかったなあ」 父と義母が仕事で出かけたので、シンデレラは留守番だった。シンデレラの父は王様お抱えの庭師で、家は王宮の端。行こうと思えば行ける距離だった。 華やかな音楽が城の中から漏れ聞こえて、シンデレラの気持ちは浮き立った。 「えーい、こっそり出かけちゃえ」 シンデレラは決心すると、地下の物置へと向かった。そこには亡くなった実の母のドレスや靴がしまってある。新しい母を迎えてからは、ほとんど行かない場所だった。 「ごほん、げほん・・・あった」 埃まみれの箱を引っ張り出して、シンデレラは蓋を開けた。中には懐かしい母の持ち物。シンデレラは布を引き出した。 「なによ、これ」 しまい込まれた古い服はすっかり色あせ、虫に食われてぼろぼろだった。 「うーん。想定外だったわ。あ、でも大丈夫」 シンデレラは思い出した。困っていれば親切な魔法使いが登場するはずで、今がまさに、そのときだった。 「シンデレラや、どうしたんだい・・・げほげほげほ、こりゃあひどい」 思った通り、魔法使いが杖で埃を払いながらやってきた。 「お城の舞踏会に行きたいの」 「ふむ、まあ、なんとかなるじゃろ。虫食いは使えん。こっちにしよう」 魔法使いは、青や黄色、色とりどりのドレスを放り投げると、側にあったカーテンを引きちぎって手渡しました。 シンデレラは躊躇しました。どう見てもカーテン、しかも埃にまみれてねずみ色にくすんでいます。 「・・・本当にこれでいいの?」 大丈夫大丈夫と魔法使いは杖をふり、美しいドレスに変えました。シンデレラは大喜びです。 「馬車はいらないわ、走っていくから」そう言って駆けだしたシンデレラに、魔法使いは声をかけました。 「午前0時には帰ってくるんだよ、魔法が解けるからね」
「ネズミ、丸太、カーテン」2/2 王子はため息をついた。パーティーで会った娘のことが忘れられないのだった。 「ダンスの時に体に電流が走って、これだ、と思ったんです。運命の出会いというか」 「王子よ、それは靴の踵で足の甲を踏まれたからだろう。あれは痛い」 王子が言い返そうとすると、王がまあまあと手で制した。 「おまけに娘はかなり太っていたではないか。あれではお姫様だっこは無理だ」 王子はうなだれた。式は横抱きと決まっている。確かに無理だと思った。 王は傷心の王子の肩を抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。 「勉強ばかりで疲れが溜まったんだろう。しばらく外遊してくるがいい」 「罰として今日は食事抜き」 義理の母は腰に手を当てて、シンデレラを睨んだ。横で父がおろおろと取りなしを述べる。 「いいえ、だめ。言いつけも守れないなんて・・・心配して早めに帰ってくれば、留守番もしないでパーティーに出かけてるなんて」 「ごめんなさい」 「料理もたくさん食べたでしょ、食事制限が水の泡だわ」 義母は美しい眉をひそめて、目の前のシンデレラを見た。樽のような丸い体、丸太のような太い足。 ダイエットが無駄になってしまった。また一からやり直しだわ、義母はため息をついた。 「夕焼け、花束、制服」
195 :
ナナシ :2009/04/01(水) 22:39:13
「夕焼け、花束、制服」 二分の一 「どういうことだよ、これは」 嫌気のさした口調で俺は言う。 目の前にいるのは制服姿のとても親しかった人。夕日に射されたその顔を見る。苛立ちが生まれた。 「どうして隠してたんだよ。いつまで騙すつもりだったんだ」 本当なら嘘だと言って欲しい。だが目の前には動かない証拠がある。 ずっと騙されてた。そう思うとダメだ。人を信じられない。 今までは毎日顔をあわせていた仲なのに。 はぁ。夕焼けのせいでナーバスになっているのかもしれない。 「いい加減話したらどうなんだ!」
196 :
ナナシ :2009/04/03(金) 21:42:55
「夕焼け、花束、制服」二分の二 俺は視線を制服に向ける。仕立てのいい感じの良品だ。その辺で売っているような物ではない。 手には花束が握られている。何のつもりだろうか? そこから視線を下に滑らせる。太く、毛深い足が見える。 再び制服の方を見る。がっちりした肩幅。短めのさわやかな髪。 さぞもてることだろう。男としてなら……。 「どうしてそんな格好してんだよ。兄さん」 「それは、今日お前の誕生日だったから。今まで黙っていたことも話そうと思って……」 自分の誕生日すら忘れるほど憤っていた様だ。 そして兄からもこの事実を肯定されたのが悲しかった。 「こんな兄さんを許しておくれ。今までどおり仲のいい兄弟でいようぜ」 そういって花束をこちらに向ける。俺はその花束を……兄の気持ちを……。 全力でぶん投げた。ごめん、やっぱムリだわ。 こうして俺ら兄弟には大きな溝ができた。 めでたくねぇな。 「陸上競技、チョコ、髪留め」
夕焼け 花束 制服 卒業式の帰り道。花束を持つ学生達。卒業式に来なかった彼女は川沿いの土手に寝転がっていた。 「ここにいたんだ」 彼女はそのままの姿勢で頷いた。 「制服じゃないんだ」 「あたしのは…… 汚れちゃったから」 見上げたまま彼女は言った。 「そう」 僕は彼女の横に寝転び同じように空を仰いだ。夕暮れの空のグラデーションに僕はとても胸が苦しくなった。 「手、握っていい?」 不意に彼女が呟いた。 「………うん」 突然の言葉に戸惑いながらも僕は彼女に応えた。彼女の手は冷たくも温かくもなく僕と同じ温度だった。 夕焼けは河原を染めて、川面をきらきらと輝かせていた。 「どこかの国では好きな人と一緒に夕日に洗われると生まれ変われるんだって。」 「都合良すぎない?」 「駄目かな?」 「ううん、駄目じゃない」 そこで初めて彼女は少しはにかんだ。 橙色の波はゆっくりと街を沈めて、その優しい琥珀の中で僕らは微睡んだ。僕は目を閉じて強く彼女の手を握った。 次に目を開いた時にはきっと………
>>197 です。すみません。既に
>>195 さんがこの題で先に投稿されていたんですが、私も載せたかったので載せました。
お題は引き続き
>>196 の三つでお願いします。
失礼しました。
199 :
名無し物書き@推敲中? :2009/04/04(土) 22:00:38
陸上競技、チョコ、髪留め 日曜の昼下がり、近所の大学を散歩していると、運動場に人が集まっていた。 なにをしているのかと覗き込んでみると、陸上競技が行われているらしく、ゼッケンをつけた大学生達が血気盛んに グランドを走り回っている。ほとんど男だったが、中にひとり女がいた。 赤い髪留めを頭に光らせて走りまわる彼女を見ていると、なにか日曜の鬱屈した気分が晴れていく気がした。どうせなら、と近くのコンビニでビールとつまみを買い込み、 芝生のうえに座り、じっくり鑑賞するすることにした。 関東地区予選、と横断幕には書かれている。今行われている競技は中距離走か。 男達は何周かグランドを走っている。やがて先ほどの赤い髪留めの女がスタートラインについた。 ビールをごくりと飲み込む。ドン。ピストルが空に打ち上がり、みな一斉に走り出した。 一週目の終わり頃になると女は集団から遅れ、ひとりポツンと取り残されていた。けれども、その走りに諦めている様子は見られず むしろ他の選手達よりも懸命に走っている。時折、赤い髪留めが反射し、きらりと光った。 半周くらい差がついた。女は他の誰よりも足をかいているが、歩幅が短いせいだろう、スピードがあがらない。 その姿がもどかしく、つまみのチョコを口に入れた。先頭集団がゴールをした。女は一周ほど遅れていた。 みんなの視線が女に集まる。頑張れ、と声援を送っている。チョコを噛み砕くことさえ忘れて、自分も応援する。 疲れてきたのかスピードが落ちてきた。みんながそばに駆け寄り、声をかけている。 倒れるほどではないが、足に力が入っていないのが分かる。 ふらふらしながら女がゴールをしたところで安心し、チョコを噛み砕くと口の中に一斉に甘さが広がった。 みんなに囲まれた間から、女の赤い髪留めがちらりと見えた。 お茶、桜、車
良太は視線を感じて振り向いた。 ……いた。 いつもの場所に、小さな女の子の姿があった。病院の門の陰からそっとこちらを窺っている。 良太は左右を見た。小雨の降り始めた道に人通りはなく、しんと静まりかえっている。 「なあ、病院の子なの?」良太が話しかけると、女の子は頷いた。 近くに寄れば顔の色が青白い。細い体もいかにも弱々しかった。 「乗せてあげようか」良太は人力車を指さした。 子供が目を輝かせて言った「いいの?」うん、良太は頷いた。内緒だよ。 無料で乗せるのは禁止だが、倉庫に戻すついでに、病院の裏門までならバレないだろう。 「出発」子供を乗せて、人力車は動き出した。 細かな雨が頬に当たる。かたかたと軽い音をたて、良太は車を引いて走った。 病院の塀が切れる。「その先の門で下ろすからね」良太は言いながら、角を曲がった。 えっ? 道を入った途端、いきなり視界が開けた。「なんだこりゃ」 遙か一面に、緑の草原が広がっている。左右にそよぐ草を分かつように、真っ直ぐに伸びた一本の道。 その道を、良太の人力車が風を切って走る。 踏みしめる足元から草や土の香が漂い、蜂がすいと目の前を横切った。 小山の向こうでノウサギが跳ね、ヒバリが舞い上がる。その先に見事なしだれ桜が見えた。 「ここは知ってる」良太は懐かしさに空を仰いだ。「おれのふるさとだ。この先に家がある」 小川のせせらぎ、音の割れた有線放送、小学校の鐘の音。もうすぐ家に着く。 「あっ」道端から飛び出たウシガエルを避けて、良太は体をひねった。受け身を取って尻餅をつく。 「いてえ……あれ?」 目の前にあるのは病院の門だった。 「もっと遊びたかったけど、喉が渇いちゃってもうだめ」女の子の声がした。 座席には誰もいない。 何処で拾ったのか桜の花がひとひら、足元に落ちていた。良太は花を手に取った。 「夢でも見たのかな」良太は首を傾げながら病院の門を覗き込んだ。そして、彼女を見つけた。 「こんなところにいたんだ」 萎れかけた桜の鉢植えが転がっていた。良太は鉢を立て、持っていたペットボトルのお茶を注いだ。 「ありがとう」女の子の声が聞こえた。 「おきにいり、駅、めがね」
「おきにいり、駅、めがね」 女の子が媚びた声で準備そっちのけで話をするのを、ほら準備準備と急かしながら、 糊のきいたカッターシャツに駅員の制服を着た矢崎は朝五時五十分、眼鏡をかけて改札 横の窓口に座った。入社三年目、仕事ができて見目もよい矢崎に好意を寄せる女性は先 の女の子を含めて何人かいた。しかし興味はなかった。矢崎は気がきいて自分の邪魔に ならない美女が好みなのだ。好みではないし面倒な彼女らは上手くかわしていた。 駅の通勤ラッシュの時間、時折矢崎の窓口を覗き込む客の乗り越し清算に対応しつつ、 女の子とも雑談しつつ、業務は進んでいく。雑談中に矢崎はよく窓口に背を向けた。し かし人が通るのを見逃したことはない。そういう要領のよさが矢崎にはあった。その時 も目の端を白いものが通るのに気付いて窓口から身を乗り出した。切符を持たずに改札 を抜けようとしている客がいる。 「お客さん、ちょっと」 声をかけながら目に映ったのは長い黒髪に真っ白な”袖のない”ワンピース、その服 装は後から思い返してみれば4月としては違和感があった。振り返った少女の胸に、向 かいの壁に貼ってあるポスターが”見える”。少女がにこりと笑うのに思わず笑顔を返 してしまったのは、後で気付くのだが一生の不覚であった。適当に勉強して女の子とも 適当に遊んで適当にいい会社に就職した後、気の利く美女と結婚して子どもを作って…… という人生設計が崩壊した瞬間である。このときの矢崎はまだ気付いていない。 少女が窓口へ引き返してくる。ここは彼女にとってお気に入りの場所になるのだった。 次のお題「八分咲き、学生、青」
「八分咲き、学生、青」 「兄ちゃん兄ちゃん、女の子、安く紹介しまっせ」 夜道で客引きに声をかけられた。普段なら無視するところだが、酒が入っていたこともあり つい立ち止まってしまった。 「まだ入店したての新人さんが、今日から出勤ですがな」 男が声を潜めた、サービスが違いまっせ。 「ここだけの話、まだ学生さんで――桜で言ったら八分咲きの、そりゃあべっぴんさんですがな」 半信半疑だったが、丁度店から出てきた二人組が「大当たりだった」「良かった」と 笑い合いながら前を横切ったので心を決めた。給料日後なので懐は温かい。 ああそうだ、俺はスケベでエッチな男だ。まだ若いんだし、健康な証拠だ。いいじゃないか。 「ささ、どうぞどうぞ」 男に押し切られるままに、俺は店へと押し込まれた。新人女性を指名して、部屋で待った。 「いらっしゃいませ」 女が現れた瞬間、俺は激しく後悔した。 現れたのはパンチパーマの巨大な女で、あまりの迫力に一気に酔いが醒めてしまった。 「お客さん元気ないねえ」 元気になれるはずもない。俺は早々に切り上げることにした。 勉強代だと思って黙って代金を支払い、俺は店を出た。客引きに一言文句を言おうと 辺りを探すと、「大当たりだった」「良かったよなあ」と、再びさっきの二人組が店を出てきた。 なるほど、サクラか。俺は苦笑した。見事に騙されるなんて、俺もまだまだ青いな。 「ジュース、ラブレター、プライスレス」
203 :
ラブレター、ジュース、プライスレス1/2 :2009/04/18(土) 00:26:21
まぁ、飲めよ。 そう言って出されたのが、野菜ジュースだった。 何を飲めって?野菜ジュース?野菜ジュースに合うおつまみって、何だ? つまんねぇぞ、恭平さんよ。 「ビールよこせ」 「何言ってんの、お前。明日仕事あんだろ」 「ビールないと、話が弾まないだろ」 「話を弾ませる気だったのか?残念だったな。お前のせいで、俺のテンションは急下降だ」 恭平は鼻で笑って、床に大量に散らばっている手紙のひとつを手にとる。 「何だこのラブレターの大群は。自慢か、高校教師。俺に何か恨みでもあんのか?」 なるほど。これを羨ましい状況だと解釈するのだな、貴様は。 どうやら、脳みそが腐っているらしいな。
204 :
ラブレター、ジュース、プライスレス2/2 :2009/04/18(土) 00:27:18
「馬鹿言え。こんなのもらったって、迷惑なんだよこっちは」 「今時、ラブレター書くやついんだな。まだラブレターの時代は終わってなかったのか」 「恭平、無視か」 「贅沢だな、本当にお前」 手紙を放り投げ、俺にまた向かい合った。あれ?君の片手にあるのはビールじゃないか?あれ?何、悠々と飲んでんの?俺への当て付けか畜生。 「愛はプライスレスって言うだろ。貰えるものは、もらっとけ」 何を言う、貴様。 誕生日だからって、やれチョコだのクッキーだの。いらないといえば、じゃあせめて手紙だけでも受け取れと。 恭平、これを本当に愛だとお前は言い切れるのか? 手紙をきちんと見てみろ。 PSなんてあったって、本題は絶対にこっちだぞ。 『お返しは三倍でよろしくお願いします』 ………これだから嫌なんだよ、女子高生は。 次→リラックマ、先生、ゲーセン
億トレーダーの俺様、今月だけで一千万の利益をあげてる。 サブプライム? リーマン破綻? 百年に一度の経済危機? そんなの関係ないね。儲けるヤツは地合いを選ばないのさ。 しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。 俺は目隠しをして、ヤフーの値上がり率ランキングにマウスを当てた。 クリックして出た銘柄を弄ることにする。 弘法筆を選ばず、専業銘柄を選ばず、無造作に二度クリック。 ディー・エヌ・エー……モバゲー セントケア・ホールディング……? どちらも弄ったことないが、何とかなるだろう。 その二銘柄を寄りで買ってみたその時、 爆音がして俺の部屋の窓ガラスが割れ、暴走族が突っ込んできた。 徹夜で走り続けて居眠りしていたらしい。 響くラッパの音──パラリラパラリラッ クマーと俺は叫んで、背中にバイクの前輪が食い込む瞬間に成売、 専業魂でノーポジにした。 観想はいりません。 お題は継続でよろしこ。
ゲーセンを入れ忘れました。 しかし、この先生きのこるために、もっと成長したい。 の下に、この一文を追加します。 ゲーセン感覚で売買するのはもうやめだ。 すみませんでした。 お題継続で。
「なにそれ?」 「えへへ〜、かわいいでしょう」 お姉ちゃんはゲーセンによくあるような大きなリラックマを抱きしめていた。 「くまパンチ!」 ふにゅふにゅとくまの右腕をわたしの脇腹におしつける。 「私キック!」 「くまー」 お姉ちゃんはくまと一緒にころがった。 「お姉ちゃん?」 そのまま起きあがってこない。 「すーすー」 寝ちゃったみたいだ。わたしは毛布を掛けてあげる。 「先生……」 お姉ちゃんの目から涙が一筋こぼれた。わたしはお姉ちゃんの涙をぬぐった。 壺、オレンジ、芸
今のおまえのざまぁ見ろよ負け犬残飯ククク
「ご注文はお決まりになりましたか?」 「牛丼並み大盛りのネギダクと玉子ね。」 「当店には牛丼はございませんので……」 「なら、サザエの壺焼とビールっ」 「海の家じゃありませんので……」 「ん、と。じゃぁ、スパイシーチキンとライスバーガー。」 「それは他店のメニューです。」 「あぁ、店によってメニューが違うのね。じゃ、日替り定食でいいや。」 「あの……」 「あと、ご飯は大盛りにしてね。」 「…ウチはマクドナルドです。三流芸人みたいなボケは止めてください。」 「分かった。ハンバーガーとみかんジュースにする。」 「ご注文はハンバーガー一つとオレンジジュース一つでよろしいですね。」 「いや、ポンジュースで頼む。」 ……バイトの面接は不合格だった。こんなに接客業がハードなモノだとは、 あたしは世の中をなめていました。ごめんなさい。
210 :
209 :2009/05/06(水) 00:17:05
次のお題は「雨」「傘」「空き缶」でお願いします
211 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/06(水) 17:35:53
街中の銅像の前に、傘をさした男がいた。1時間前からそこにいた。 自分から誘っておいて、勝手に帰るのは悪いと思い、帰るに帰れなかった。 しかも、女性を待つことは初めてだった。 雨の音が大きくなってきた。男の頭の中では、「待つ」と「待たない」の 2つの言葉が、ぐるぐる回っていた。その時、右の足元に置いてあった空き缶 が目にはいった。待っているときに飲み干したものだ。 男は閃いた。この空き缶が雨水でいっぱいになるまで待とう、と思った。 雨は激しかったので、空き缶は数分でいっぱいになった。待つことを 諦めた瞬間、男は突如、裏切られたと感じた。瞬く間にその感情は大きくなった。 男は缶を蹴飛ばした。 転がっていった缶は、息を切らしてこちらに向かっている女性に当たった。 次は森、熊、パソコンで。
叩きつけるような雨を、彼は予期していた。 周りに人影は全くない。 ほかの観光客達は皆、矢の如く速さで流れる雲を見上げながら 宿泊先への帰路を急ぎ、次々彼を追い越して行った。 この自分にはお似合いだろう、彼はしばしそんな感傷的な気分に浸ったが、 豆鉄砲のような勢いの雨粒をいつまでも全身に浴び続けるわけにはいかない。 彼は背を屈めながらうねった坂道を走り降りていった。 自ら恋人を振った挙句、自己嫌悪と後悔と空虚さに苛まれる。 世間一般で腐るほど発生していると思われるこの状況を 的確に指す言葉が日本語に存在しないことに彼は疑問を抱いた。 しかし、仮に呼び名がついたところでなんだというのだろう。 彼はひとり旅をすることにした。 早速パソコンで手ごろな国内の観光地を探した。 森がいい、森が見たい、ドイツの森みたいに霧がかって薄暗いところがいいな。 どこまでも類型的。 もし自分の境遇に呼び名がありさえすれば、案外すぐ立ち直っていたのかもしれないと彼は考えた。 崖にせり出した格好の小汚い喫茶店に駆け込もうとした彼は、 存外に広い店の前の平地の片隅に目を留めた。 そこには犬を飼うには大きすぎ、頑丈すぎる鉄製の檻があった。 闇の奥に熊がいた。 一般的に人間に寄り添う動物とはまず思われないその生き物は、 驚くほど毛並みがよく、獣臭くもなく、聞き分けよさげにちょこんと座っていた。 そして彼とは、決して目を合わせなかった。
213 :
212 :2009/05/09(土) 03:45:17
次のお題も 「森・熊・パソコン」でよろ
>>213 パソコンのディスプレイは相も変わらず白いときていた。
字など一つもない。あるのは明滅する縦棒が一本。
急かすように原稿は俺を待っていた。『さあ、書いてよ』と。
俺は息を呑んだ。頭の中には漠然としていながらもイメージはある。
靄でもかかったかのような思考が今まさに手元にあった。
しかし、これではまだダメだ。俺は鍵盤に指を乗せるようにキーに触れた。
徐々にだがイメージははっきりと現れた。真っ白な原稿から視界は別の場所へと移る。
葉から雫が滴り落ちる寸前の光景だった。
瑞々しい新緑の樹の先から玉のような水を乗せている。そうして、今まさに、一滴が落ちようとしていた。
俺はじっと魅入られるように思考に夢中になっていた。
このあと、嫁――いいや、一人の若い女か少女の一人が見えるはずだと決め込んでいた。
粒は瞬く間に落ちる。
茶色い硬い毛皮に水は染み渡った。羽毛か? ファンタジーは絵になる。
しばしの間、下にいた『何か』は動かなかった。呼吸するように僅かながら上下に動いている。
のそりと『何か』は動いた。視界が急激に広がる。
俺は目を疑った。あまりにも生々しい森の姿が鼻の先にあった。
コケくさく泥くさい広大な場所だ。じっとりとしているかのように湿っていた。
まるで雨後か何かのようだった。だからだろう、CPUの音すらも忘れてしまうほど静かでもあった。
けれども、俺が我が目を疑ったのはそれだけじゃない。
『……ん』
巨体がゆっくりと立ち上がった。黒い瞳を葉先に向けている。
毛に覆われている。人ではなかった。
二度か、三度瞬きしつつ『何か』は葉の先を不思議そうに見つめていた。
『――冷たい』といいながら枝に向かって『何か』は手を伸ばす。
その姿は紛れもなく大熊であった。
「ふざけんなあああああああ!!」
ぶちぎれた俺は折角手にしたイメージを振り払った。
嫁は野獣だった。
215 :
214 :2009/05/09(土) 15:30:47
次のお題 「桃茶・鈴虫・女学生」
テレビをつけると朝から晩までインフルエンザ報道のオンパレードだった。 それも「バカ」がつく騒ぎぶり。日を追う毎に報道は過熱して行った。 感染者と思われる旅行者が入院している病院の前で、ガスマスクに防護服の リポーターが中継を行い、感染者を犯罪者のごとく報じていた。 マスコミに踊らされるように根拠の無い情報が流され、人々は右往左往した。 「炭酸飲料がウイルスに効く」とテレビが報じればコーラからメッコールまで ありとあらゆる炭酸飲料が店頭から姿を消し、「漢方薬が効果的」と報じれば 龍角散から養命酒、月桃茶からカレー粉までが争奪戦になる過熱振りだった。 鈴虫の餌を「特効薬」と称して売りつけるなどの悪徳商法が蔓延する一方、 「ウイルスに感染すると顔に一生跡が残る」という噂により思春期の女学生達は 外出を拒んだ結果、学校は休校となった。 人々は家に引きこもり、テレビの視聴率は上昇を続ける。視聴率競争は 激化し、報道もヒステリックさを増してゆく。 だが、ある日を境に過熱報道は急速に鎮静化して行った。 それはWHOのインフルエンザ流行の終息宣言などではなく、 巨額の広告費用を提供しているスポンサーからの一言によってであった。 次は、「金」「銀」「バール」で 「映像メディアは、場合によってはインフルエンザより恐ろしい」(6日朝刊) 実際、世界を見てもこんなに大騒ぎしているのは日本くらいだ。帰国ラッシュの6日の成田国際空港。 感染者が出た米国や、お隣の韓国からの帰国客は「現地でマスクをしているのは日本人だけ。 恥ずかしかった」と口をそろえていた。 「ニューヨークやシカゴはもちろん、感染源のメキシコでさえ、マスクをしている人はほとんどいません。 おカミから、手の洗い方やマスクまで強要されるいわれはないと考えているし、欧米人はそもそも マスクをするくらいなら外出しない。テレビが政府の伝達係となって不安をあおっている日本の パニックぶりは、奇異な目で見られています」(在米ジャーナリスト)
「刑事さん、いい加減にして下さいよ。俺はやってないんだって」 完全犯罪を確信した俺は黙秘を続け、ついに勾留期限が明日にせまっていた。 ここを乗り切りさえすれば、大手を振って放免されるのだ。 やったことなんてたいしたことじゃない。町工場の社長が一人殺されたってだけのこと。 「どこに連れてくんです?足が疲れて病気になりそうですよ」 車に乗せられて、町外れの藪の中を歩かされた。 どこに行くのかはわかっている。 俺が凶器を捨てた場所だ。だが、見つかるはずはないのだ。 「ここだ」 刑事は言って、あごで沼を示した。 淀んだ茶色の水が揺れる。底に積もった泥の中を探すのはさぞ大変なことだろう。 「ここがなんなんです?」 見つかるわけはない。凶器だけじゃあない。 近くにあった同じモノを全て投げ捨てたのだ。 万が一、引き上げたとしても、どうせダミーだ。無駄足ふんでほえ面かくがいいさ。 と、沼の水面が泡だった。ごぼごぼと沸き上がる泥の中から、女神が現れた。 女神は両手にバールを抱えて微笑みながら、俺に問いかけた。 「あなたが落としたのは、金のバールですか? 銀のバールですか?」 俺は口ごもった。隣の刑事が勝ち誇った顔でこちらを覗き込んでいる。 正直に答えたら、金銀のバールの他に凶器のバールを戻されてしまうだろう。 だが、金のバールだと答えたら、女神は嘘つきだと怒ってそのまま消え去るはずだった。 「金のバールです」 俺は答えた。 女神はにこやかに頷いた。 「お前は正直者です。お前が落とした、この金のバールを返しましょう」 足元に金のバールが転がってきた。べったりと血が付いている。 「これは、犯行現場の金工場からなくなっていた品だ。――お前を逮捕する」 刑事がそっと布を被せて拾い上げ、俺に道を戻るよう促した。 次「子供、夜明け、水」
そのロボットは凶悪だった。 未来から来たそのロボットは便利な道具で人々の歓心を買い、 疑うことを知らない子供たちに取り入ることに成功した。 やがて、とある少年の家に居候することになったロボットは 家族の一員となり、穏やかな暮らしに溶け込んでいった。 しかし、それはロボットが送り込まれた目的の第一段階に過ぎなかった。 夜明け前、部屋の一部を改造したベッドの上から少年を見下ろし、 水色の体を揺らしながら声を押し殺して笑う。 「君はじつに馬鹿だなぁ・・・」 次は「駄菓子」「バッチ」「約束」で
219 :
駄菓子 バッチ 約束 :2009/05/12(火) 23:27:25
おれは高速道路の高架下にあるトイレに駆け込んだ。チャックを緩めながら小便器を探していると、大便器の横でうずくまる初老の男性が目に入った。 「おっちゃん!そんなとこで寝てたらバッチイだろ!」 肩を揺するが全く反応がない。顔を見ると白目をひんむいている。やばい。119番だ。おれは携帯で119番にかけた。 「はい。119番です。火事ですか?救急ですか?」 「救急です。ドリフに出てくるような公衆便所でおっさんが白目ひんむいて倒れてます」 「いたずらじゃないって約束しますか?」 「は?」 「いたずらじゃないですよね。いたずらだったら通報しますよ」 「いいから早く来て下さい!」 場所を説明してからおれは電話を切った。すると、うずくまっていた男性はひょっこりと立ち上がった。 「おっちゃん大丈夫か?」 「ああ大丈夫だ。よく寝た」 「今救急車呼んだよ。じっとしてなよ」 「は?」 「救急車。おっちゃん倒れてたから呼んだよ」 「か、勘弁してくれ!そんなとこに行く金なんかない。おれは平気だ。もう行く!」 「それは困る!」 おれは男性の手をつかんだ。彼は嫌そうに離し 「これやるから勘弁してくれ!じゃあな?」 おれに、真ん丸い駄菓子の包みを手渡すと走っていった。 「げんこつ飴」 五分後、救急車が到着した。 「いたずらしないって約束しましたよね?困りますよ」 「これあげるから許してちょ」 おれは救急隊員にげんこつ飴をあげた。 「バカモンが!救急なめんな!」 救急隊員はお返しにげんこつをおれにくれた。 次 フルフェイス 皮 セブン
レース開始まで、あと三十分。 俺は緊張でカラカラになった喉を潤そうとスポーツドリンクを手に取った。 この皮ツナギってやつはレース中の風圧や転倒時の保護のために分厚く重い。 通気性は最悪でじっとしてると汗だくになっちまう。 どんなに体調管理に気を配っていても脱水症状の危険性はつきまとう。 だから、俺はこまめな水分補給を心がけているのだ。 だからと言ってスポーツドリンクなら何でもいいってわけじゃない、 最近のジュースまがいに甘い清涼飲料水は長丁場のレースでは疲労の元に なることを経験的に知っている。 俺はお気に入りのスポーツドリンクを手に取った。 「ちょっと、お客さん。」 振り向くとセブンイレブンの制服を着た男が立っている。 「店内ではフルフェイスのヘルメットは禁止です。脱いでください。」 ちぇっ、レース場内のコンビニなのにうるさい奴だ。 俺はヘルメットを脱いでドリンクの金を払い、ペットボトルをぶら下げながら ピットへと足早に向かった。 次は「軽石」「朝顔」「石鹸」で。
男は絡んだ縮れ毛を気にも留めず軽石を石鹸に泡立てると、続いてそれを己の腕に体に力一杯なすりつけた。 軽石は上半身から下半身へ、肛門をも逃さずつるつる下降し最後にひとつ上昇すると、男は先程の縮れ毛は 勿論己の肛門を這ったことすら失念してしまったかの如き軽石遣いを持って顔もごしごしやってしまった。 男は今や顔も指先も余さず決して純白ではない泡に包まれたが、やはりと言うべきか泡の中で三白眼を いっぱいに見開いた後、顔だけ泡まみれの手のひらでつるりと撫でるとろくに泡も流さず振り返り様薬湯の中へと飛び込んだ。 男の如き成人男性が湯の中へ勢い良く飛べば当然湯は飛沫となり四方八方へ滅茶苦茶に飛び回り、他の客は 大層迷惑に表情を曇らせたが、男は全く平気な様子である。薬湯で全身の泡をすっかり濯いだ男は満足そうに鼻を鳴らすと、 飛び込んだ勢いをそのままに今度は水中から一足に飛び上がって浴場を出て行った。薬湯には大量の泡と、朝顔の花が一輪浮いていた。 次『ネギ』『じゃがいも』『バター』
222 :
ネギ じゃがいも バター :2009/05/15(金) 08:42:55
夏だというのに暖房をガンガンたいたラブホテルの室内。 カーテンは開けられていて太陽の光がまぶしい。 おれは反り返ったチンコにバターを塗り、仁王立ちになった。おれの前でひざまづいている女に「なめろ」と目で合図をした。 女は汗だくになってなめつづけた。 次第にネギのような香りが強くなってきた。女の体臭だ。たったまらんっ ふっと気が緩んだそのとき、おれは果てていた。 女は勝ち誇ったような上目使いでおれを一瞥すると、おれをシャワーにいざなった。 お互いの体を洗った。 おれの坊主頭をシャンプーで泡立てた両手でごしごしとこする彼女は言った。 「じゃがいもみたいでかわいー」 ううっ、言われてしまった。 次は マスク トタン 紫
223 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/17(日) 21:48:19
犯人を見たんです!会社帰りに見たんです! 人通りの少ない路地で、近くにトタン屋根の家がありました!そこで、 はっと、犯人と目が合っちゃったんです!マスクをしてて、 オレンジ色の帽子で、紫っぽい服でした! レンチみたいのを持っていて、襲われると思って、すぐに逃げたんです! だから本当ですって!信じてください!
224 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/17(日) 21:50:33
次は、殺人、鶏、アイスで。
「今日も善き一日でした。アーメン。」 月明かりに照らされた部屋の中、最後のお祈りはベッドの上で。 見上げた月は朽ちたトタン屋根の端で齧り取られたギザギザ模様。 流行り病を患った人々が集められた町外れの教会は日を追うごとに 狭くなっていった。有効な薬も見つからず、マスクも手袋も感染を 押し留めることは出来ずただ、怯えながら過ぎ去ることを祈るのみ。 教会に閉じ込められた悲しみの数だけ紫水晶のロザリオが揺れる。 「願わくば世界中の人たちが等しく公平で在らんことを。アーメン。」 次は「光」「ライト」「球」で
嘘をついてる、そう思い知らされているようで実に鬱陶しい。 頭上にある球体のライトに、祐之はそういった嫌悪といら立ちを向けていた。 狭く、小汚く、まるで閉じ込めるかのようなこの部屋に、余計な光はいらないものだとでも 言いかけられているのがわかった、目の前の男も、そういった眼をしている。 「悪いな、覚えがない」 そう言葉を投げ返して、男の眉はまた皺を増やせていらだちを現した。 震えるかのような掌の動きに、いよいよその拳を持って何か説教でも吐くのだろうかと 半ば楽しみながらに、祐之は唇を舐める素振りをした。 次は「海賊」「ロボット」「部下」で
右腕に巻かれたブレスレットは初めての部下を持った記念だった。 毎日、毎日汗まみれの訓練の果ての実戦は海上警備と言う名の海賊退治。 海賊か漁師かなんて気持ち次第で変わるものを見分けろと言う方がどうかしてる。 昨日と同じ今日では目の前を通り過ぎる品々の一つさえ手に入らない。 だから、彼らは危険を冒して昨日と違う今日を手にしようとしている。 気持ちは分かる、しかしそれを受け入れることはできない立場なのだ。 船は向きを変え、左舷の窓から彼らの船が良く見える位置へと移動する。 私は、片手をコンソールの上に乗せたまま彼らの船を見つめた。 ブレスレット型のIDタグによる認証を受けて自動索敵追尾機銃、通称 ロボット弾幕は海賊の小型船を一瞬で残骸に変えた。 つぎは「縦」「横」「斜め」で
228 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/20(水) 01:20:28
お題の質が劣化してる 縦横斜とかなめてんの?
んーむしろ使いようによっては面白いと思うけど。 文字列として含まれていればよい、っていう解釈が こういうときにこそ生きてくる いいお題だと思うよ そして感想は簡素スレへ
230 :
たて横ナナメ :2009/05/20(水) 02:41:16
俺は、何のためらいも無く、縦に一閃、握り締めたそれを振り下ろした。 刹那、好奇心に一握りの不安をにじませた鮮やかな表情が、横でわっと沸いた。 どこからか流れ着いてきた、古く適当な太さの松の枝。茶色い肌から、すれて滑らかになった 腕がのぞき、幾本もの黒い筋が、斜めに模様をつけていた。 俺は、肩の力を抜き、開放感に満ちた笑顔を見せた。 サークルの奴らは、わあわあ言いながら、俺の目の前に群がっている。 スイカは、無残に割れていた。しかし、みずみずしい果肉は、太陽の光をいっぱいに浴びて、 目の前の海のように、俺たちにきらめきを投げかけていた。 俺は、群れのなかに立つ、優子を振り返った。彼女は、ピンク色のフリルのビキニを着て、 誰よりもまぶしく、俺に笑いかけていた。
231 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/20(水) 02:42:15
お題忘れてました。 次は、りんご、バナナ、白雪姫で。
さて白雪姫は林檎を食べてくれるのか。 真っ赤に熟れて美味そうだが、あのわがままな娘は。 「林檎嫌い」 「だまらっしゃい、いいからお食べ」 「いやだっつってんだろ、この婆あ」 仮にも継母に向かって、なんてことを言うんだこの小娘。 だから嫌いなんだよ、いっつも逆らってばかり。 おまけに、最後に必ずとんでもないことを言うんだ。 「バナナだったら食べてもいいけど、フィリピン原産の」 この年寄りに、海を渡れというのかい。 そんなものはコロンブスにでも頼んでおきなさい。 これ書きやすいな 次「チョーク」「学級会」「セーター」で。
233 :
チョーク 学級会 セーター ◆2NJvO35T.o :2009/05/20(水) 08:23:14
おれは学校の教室でイスに座った状態でかなしばりにあっていた。 教壇では生徒が何かぎこちなさそうにしゃべってる。その横で教師が見守っている。 トイレに行きたい。しかし立てない。 おれはしょんべんをもらした。 「こいつ、しょんべんもらしてるー、チョークセー」 後ろから聞こえたその声におれはとっさに反応した。 声の主の首に指を食い込ませるとそいつは白目をひんむいて動かなくなった。 「こら!学級会の最中でしょ!何ですか!」 教師の怒号が飛ぶ。 気が付くとそれは夢だった。 部屋から出て台所に行くと母親が言った 「おまえ、セーターけえな。小学生の背丈じゃねえぞ」 は? おれは大人の背丈のまま小学生に戻っていたようだ。 次は 茅野 さんま コリ
茅野(ちの)って地名だろ、固有名詞に当たらんのか?
そんな事を思いながら食卓に箸を伸ばし、黒々と光るサンマを頬張った
コリャ旨い。良く脂が乗っている
ところで
>>223 >>224 のお題は皆スルーかね
マウスホイールを転がしながら気付いた事実に首をかしげる
コケン、鶏の鳴き声みたいな音がしやがった。凝ってんなぁ
食後のデザートはアイス。ぬとぬと君ゴーヤ入り味噌スープ風味・ドリアンスペシャル…。
殺人的な不味さだった。もう二度と買わんぞ
次のお題は
「ある日」「森の中」「熊さんに」
ふーん、それがあんたの言う「劣化してない」上質なお題ってやつなのか
人違い乙
遅れた方のお題は基本スルーでいいんだよ 自主的に6語使いたければ使ってもいいけど そして雑談は簡素スレへ池
238 :
殺人、鶏、アイス、ある日、森の中、熊さんに ◆TzmjaOEYls :2009/05/21(木) 14:08:19
ある日、男は殺人について考えていた。完全犯罪を目論んでいるわけではなかった。犯人はいてもいい、と思っていた。 時効が成立するまで逃げ切ればいいだけのこと。男はその手立てを模索しているのだった。 遺体の処理方法は決まっている。深い森の中は海よりも安全に思えた。テレビが教えてくれた知識である。 同様にミステリー小説で仕入れた凶器はアイスの刃。証拠は簡単に水に流せる。洒落のつもりはなかったが、男は独り口元を歪めた。 「ごろごろしてないで、ちょっとは手伝いなさいよ。鶏を丸ごと、さばくの大変なんだから」 自分がさばかれることも知らないで呑気なものだ、と男は嗤いを深めた。 キッチンに向かう前に冷蔵庫に立ち寄り、用意したアイスの刃を手にした。凄惨な料理の始まりだった。 意外に戸惑った。男は額を手の甲で拭った。顔は汗と泥に塗れていた。 埋めた場所は周囲と比べても遜色がない。事前に土を持ち帰り、保存していたものを使用したのだ。完璧と言える。 そのためなのか、帰りは軽快な足取りで口ずさむ。童謡の熊さんである。まさか、それで呼び寄せたのか、黒い物体に出くわした。 ウソだろ、その声は振り下ろされた凶悪な一撃で掻き消された。 熊は保存食として土に埋めることにした。すると、もう一体、出てきた。熊は純粋に喜んだ。 そして、スタコラサッサと森の奥に帰っていった。 次のお題は「結婚」「初めて」「その果て」でお願いします
239 :
殺人、鶏、アイス、ある日、森の中、熊さんに ◆TzmjaOEYls :2009/05/21(木) 14:26:11
すみません、訂正です 上から十行目、>意外に戸惑った× 手間取った○ 十二行目 >童謡の熊さんである× 童謡の熊さんに、である○
えー、新郎は今回が初めての結婚でありましてぇー、経験豊富な新婦に比べていささか頼りない印象もないわけではありますがぁー、私はー新郎とは大学時代からのお付き合いさせていただいてますがー、彼の人を見抜く目というのは全く確かなものであります。 ですからーお二人はきっと、新婦の涼子さんにとっては今度こそ、立派な家庭を築いて行けるものだと断言させていただきます。 涼子さん。耕一君は必ずあなたを一生守り続けます。 これからの長い人生。人生百五十年とはつい最近言われるようになってばかりですが、これからきっといろんなものが二人に立ちはだかるでしょうがお二人ならきっと乗り越えてゆけます。 ささやかではありますが友人代表の挨拶とさせていただきます。 次は 蛍光灯、融合、虚無
241 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/21(木) 18:55:43
↑ごめん。「その果て」忘れた。
242 :
結婚 初めて その果て ◆2NJvO35T.o :2009/05/21(木) 18:59:03
えー、新郎は今回が初めての結婚でありましてぇー、経験豊富な新婦に比べていささか頼りない印象もないわけではありますがぁー、私はー新郎とは大学時代からのお付き合いさせていただいてますがー、彼の人を見抜く目というのは全く確かなものであります。 ですからーお二人はきっと、新婦の涼子さんにとっては今度こそ、立派な家庭を築いて行けるものだと断言させていただきます。 涼子さん。耕一君は必ずあなたを一生守り続けます。 これからの長い人生。人生百五十年とはつい最近言われるようになってばかりですが、これからきっといろんなものが二人に立ちはだかるでしょうがお二人ならきっと乗り越えてゆけます。 これから残り100年あまりですか。100年先のその果てまで私はお二人を応援しています。これからもよろしくお願いします。 以上、ささやかではありますが友人代表の挨拶とさせていただきます。 次は 蛍光灯、融合、虚無
蛍光灯、融合、虚無 「はい、ありがとうございました。 ええー、続きまして、新婦の涼子さんの、高校時代の部活、物理部、 その部長でいらした、蘭取理沙さんのスピーチです。どうぞ」 (拍手──パチパチパチパチ) 「結婚生活は、皆様もご存知のように、三次元の世界での出来事です。 しかし私はあえて、結婚生活とは五次元であると、提唱しましょう。 まず、耕一くんという一本の線と、涼子さんという一本の線が、出会い、世界はそのぶん広がり、二次元となりました。 二次元、いわゆるフラット、平面であります。わかりやすく正方形をイメージしていただきましょうか。 そこに愛という次元が生まれ、三次元、わかりやすく箱のような立方体としましょう。 箱、つまり愛の巣ができあがりました。そこに、これから彼らが育む時間を加え、四次元。 (野次──帽子にヒゲ面のガンマンは?) 「アニメのキャラクターですから二次元です。ゴホンッ、話を戻しますが、問題の五次元は、では何でしょう? 私は、物理学的には『重力』であると思っているのですが、結婚力学としては『許し』だと思います。 つまり、怒らないこと。怒ると、心の中が真っ黒なダークマター、虚無でいっぱいになります。 もっとも、部室の電灯を交換した時、新郎新婦は蛍光灯を向け合ってスターウォーズごっこするくらいですから、 心配無用でしょう。この二人が融合して生み出す素晴らしい愛の熱量に、本日、独身のわたくし、あやかりたく存じます」 「揺らぎ」「自爆」「開眼」でよろしこ。
スターウォーズごっこするくらいですから、
↓
スターウォーズごっこするくらい ラブラブ ですから、
に訂正。
>>242 さんの作品の二次創作ですので、観想はいりません。
「先輩…」 呟くだけで胸が高鳴り、頬に朱が差し込む。 踏み出さなければ――そう思うのに心は揺らぎ、膝が崩れそうになった。 嗚呼、行ってしまう。柱の陰から覗く逞しい背中が、小さくなっていく…。 …駄目! 勇気を出せ自分! お師匠様も言っていた。恋の極意は当たって砕けろと。それは即ち――、 『特攻!』『自爆!』『神風万歳!』 開眼した刹那、気が付けば脚は駆け出し、口も思いの丈を吐き出していた。 「先輩、好きじゃぁぁぁぁあああああっっっ!!!」 「ぬぅ、うぬの気持ちは嬉しいがそれは困る。だがどうしてもと言うのであれば我を倒して見せよ!」 振り返った厚い胸板が、膨大な汗の臭いと熱気を発して迎え撃たんとする。 だがもう臆したりはしない。二人の戦はこれからだ! 聞け、天よ、地よ、人よッ! 次回披露するのは 『鬼神』『伝承』『そして愛』 の三撃なり! 刮目して待て!
あらすじ 敏夫は不思議な伝承のある山村へやってきた。 美しい姉妹、怪しげな老婆、何かを隠しているような村人たち。 そこで、世にも恐ろしい鬼神伝説に沿った殺人事件が発生する! たがいに惹かれあう敏夫と美由紀。 殺されるのは三人。犯人は姉妹の父。 最後には火山が噴火するという恐ろしい事実の連続。 そして愛の行方は? 衝撃の真実があなたを襲う!! その他の著作 『腐乱』『猿回し』『片栗粉』 新進の奇才の描く壮大な三部作!
247 :
腐乱 猿回し 片栗粉 ◆2NJvO35T.o :2009/05/22(金) 19:07:02
腐乱 猿回し 片栗粉 「おっ!あったぞー大きなマツタケが」 武男がそう喜び勇んで近づいた先にあったのは、半分ほど野鳥に食い散らかされたと思われる、人の腐乱死体だった。その横には武男が今までに見たこともないようなとてつもない大きさのマツタケが生えていた。 「しかばねを乗り越えて行け!」 武男が以前勤めていた会社の朝礼で毎朝復唱していたフレーズが彼の頭に響いた。 「うひょー、まさにおれはこのしかばねを乗り越えて、こんなすごいマツタケを手にすることになったんだ!」 武男はマツタケをそっと大地からむしると、家路を急いだ。 家に着くと早速このマツタケをどう料理しようか嫁のナツミと話し合った。 「唐揚げにしたら美味しいと思うな」 ナツミの一言で答えは決まった。 料理は二人で作った。ナツミがマツタケを片栗粉に漬けようとしたその時、武男の両手がナツミの背中から伸びた。 「やっぱ料理はあとにして、先にこっちにしようぜ」 生温かい武男の舌がナツミの首筋を這う。 そう誘ったのは武男だったはずなのに、いつのまにか主導権はナツミに移っていた。 「いい?たけちゃんは猿回しの猿なのよ。じゃなきゃあたしが気持ちよくなんかなれるわけないでしょー?なんで先にいっちゃったのー?だめでしょー」 ナツミが上目使いで武男をみる。またしても先に逝ったのはナツミではなく武男だった。 さっきのマツタケは水分でふやけた片栗粉に包まれてどこか待ちくたびれた様子だった。 次は インセンティブ 互換 ゆず
248 :
インセンティブ 互換 ゆず :2009/05/25(月) 14:47:08
「あのねぇ、インセンティブの意味、わかってます?」 俺は相手が上司にも関わらず、横柄な言葉を投げかけていた。思わず言葉が乱暴になってしまうくらい苛立ち、失望、悲嘆、怒り、無情…、とにかく気持ちが整理できない状態になっていたからだ。そんな複雑な表情をした俺を、上司はきょとんとした顔で見つめていた。 「知ってるよ。社員のやる気をアップさせるための報酬だろう?」 「それがわかってるなら」そう言って、俺は自分の机を指差した。「これは何ですか、一体」 机の上には段ボール箱が一つ置かれていた。 「農家と直接契約して新鮮な果物を提供するのが、うちの会社の仕事なのはわかってますけど、インセンティブがどうして『ゆず』なんですか!」 「ゆず嫌いか?」 「そういう問題じゃありません!」 「じゃあ、かぼすにしてもらおうか。ゆずに近いし、互換性もあるだろ」 上司は総務部に内線をかけた。俺は絶望の表情で机の上の段ボール箱をただずっと見つめていた。 次のお題 落語 食券 ミニスカート
249 :
落語 食券 ミニスカート ◆2NJvO35T.o :2009/05/25(月) 22:47:37
お茶の水駅を下りると師弟食堂におれは急いだ。 バンドの仲間と待ち合わせだ。 時間きっかりに着いたが他の奴はまだ来なかった、 先に食ってることにした。 券売機でカツ丼を選んだ。 ここはクソまずいからカツ丼以外に食えるもんがない。 食券がひらひらとステンレスの囲いからはみ出した。 拾おうとかがむとまたヒラヒラ、食券は風に舞った。 さらに食券を追った。薄茶色い裸足が食券を踏んだ。 見上げると全裸の男がニタニタしながら立っていた。 なんだまた落語研究会か。勘弁してほしいもんだ。 「てめえ服着ろや!」 そいつの腹に思いっきりパンチを食らわした。 奴は後頭部から地面に転がり落ちた。 ところが、その瞬間にそばを歩いていた女子学生が奴に足首をつかまれた。 奴は彼女のミニスカートの中身を見てニタニタしていた。 転んでもただではおきないとはこういうことか、全くあきれたもんだ。 奴の股間を思い切り蹴っ飛ばしてやった。 そして食券を拾うとさっさとおばちゃんに渡した。 次は 水 見ず 診ず
250 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/25(月) 23:48:25
落語 食券 ミニスカート 「なあ知ってるか」 大男は自慢げに鼻を鳴らし、語りだした。 「何をです? やぶからぼうに」 もう一方の問いを発したのは大男の反対に背の低い男である。 二人の男は食堂の配膳台に続く行列に並び、暇を持て余していた。二人の男の前には二十人、後ろには十数人。男らは列のおよそ中盤に居た。 二人の行列の他に、二つの行列がある。列はいずれもそれぞれのカウンターに向かって長く続いていた。カウンターで 注文を受け付ける食堂にはお馴染みの風景であった。二人は真ん中の行列に居り、それはちょうど配膳を待つ人々の中心という位置であった。 「蕎麦だよ蕎麦。おれは蕎麦も酒も好きだからね。どっちも頼んじゃうぜ。」 「うん。はあ。そりゃあ、良かったですね」 大男は妙に目を輝かせていったが、対する小男は困ったように生返事を返す。大男の意図がわからない、といったふうである。 「何だ詰まらん、風流のわからんやつめ。落語の師匠に居たろうよ、蕎麦に酒をかけて食うやつが」 「ああ、すいませんね」 心底面白くなさそうに大男が言うと、小男の方でも詰まらなそうに溜め息と恨みがましげな視線を送った。 「ああ、全く詰まらんよお前はよ。いけないね、物欲や性欲ばかり旺盛な若者はよ。お前なぞは落語よかあすこの姉ちゃんでも見ていやがれ」 反応の薄い小男を煩ってか無闇に饒舌になった大男のしゃくった顎の先に、すらりと長い脚を見せるミニスカートの女性が居た。 つられて小男が女性を見ると、初めにちらりと見ただけの大男も、何か想うところがあるのか再び目を向けるや否や今度は穴を空けんばかりの視線で女性を観察しだした。 しばらくかけて大男は女性の全身を舐めまわすように堪能したと思えば、先の諍いはどこへやらすっかり気を良くして、いつの間にか目前に迫っていたカウンターを対し財布を開くと五千円札を一枚指に挟み、大仰にこう言う。 「詰まらんお前には奢ってやるぜ。おばちゃん、ざるそば四枚に日本酒二本ね。日本なだ……」 「お願いします」 小男は大男を遮るように動くと、カウンターの向こうに食券を手渡し「先輩ここ食券ですよ」と言って予め作られていたカツ丼を受け取りさっさとその場を去った。
251 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/25(月) 23:50:34
アッレー被ってた。リログしたのになあ。 すんません。
252 :
水 見ず 診ず :2009/05/27(水) 12:29:52
看護婦に呼ばれた大柄な患者が診察室のドアを開ける。 真っ赤なマイクロミニに黄色いブラウスの上から黒いブラが透けている。 職業は水商売だと全身が物語っていた。 「どうされました?」医師は患者の顔を見ずに聞いた。 「風邪だと思うんですけどー?熱っぽくてー、喉が痛いのー」 「血液、検査しますか?」医師は患者の言葉をさえぎるように言った。 「お願いします。でもどうして?」患者はまるで女性の様にしおらしく答えた。 「医者ですから」と答えた医師は師の言葉を思い出していた。 病気を診ずして病人を診よ。 次は 埃 歴史 純情
253 :
埃 歴史 純情 ◆2NJvO35T.o :2009/05/27(水) 23:37:20
埃 歴史 純情 /なつかしい ほろにがい 甘い 昔 残る 乾燥 新しい 痛い 未来 消える 湿潤 緑の木々と艶のある草が生い茂る中をひたすら歩いて行った。 耳を澄ますと巨大な金属と金属がぶつかり合うような音が時計の秒針ぐらいの速さで響いてきた。 その音は次第に大きくなって行った。 視界が開けた。巨大な井戸のようなところから何かが汲み出され続けていた。 その横には町のような小さな集落があった。 集落の真ん中に向かってゆくと、向こうからハーレーに乗った若い女が近づいてくる。 ノーヘル、金髪のロングヘアー、ワキガと香水の混じった強烈なにおい、黒のタンクトップに迷彩柄のパンツ 女を見たのは何ヶ月振りか。 おれは見とれてしまった。触覚以外の全ての感覚が彼女に支配された。 すれ違う一瞬、その女は外見に似合わぬほどの純情な瞳でおれを見た。 やられた。 その瞬間、おれの荷物は彼女にひったくられた。 彼女のハーレーは土埃をあげてのんびりと、しかし人間の足では到底及ばないスピードで去って行った。 なんということだ。おれは村の新しい歴史を、唯一の望みを村人達に託されてやっとここまで来たというのに。
254 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/27(水) 23:41:50
次のお題 興奮 絶頂 放出
殺風景な部屋であった。 まず目に映ったのは勉強机。それから空の本棚。箪笥。それだけだった。そして勉強机にも う一度目を向けると、一つの写真立てがあるのに気が付いた。 大きさは手のひらに乗る程度であり、半楕円形から、写真を切り取って嵌める類のものだと 推測出来た。人を写したものであろうか。手に取ると酷く埃が積もっている。埃が写真に蓋を して居り、ちょっと何の写真だろうか判別がつきそうになかった。 太郎は写真立てを戻そうとしたとき、おやと奇妙な感じを覚えた。なんだろうと写真立てを 持っていた指を見ると、埃が付着していない。次いで机と、部屋を見渡して見るが、特に埃は 見られなかった。埃のあるのは写真立ての、しかも写真の部分だけであった。 太郎は不信に思い写真を指でなぞってみると、埃にしては驚くべき質感があった。積もると いうよりはこびりついているといった方がより正確であろうか。一撫ででは拭いきれず、二三 と続ける内に、太郎は遂に爪を立てて擦らなければならぬことを悟った。埃がこの姿を成すの に、一体どれほどの年月費やしたのだろう。太郎は途端に埃と、この写真が尊いものに見えて きた。 しかし太郎は爪を立て、その尊い誇りを削り始めた。太郎に戸惑いはなかった。太郎にはそ れが何故だろうか今生において最大の仕事のように思えた。果たして太郎はその仕事をいとも 簡単にやり遂げた。 太郎はその写真を見た。不意に太郎は胸の詰まる思いがした。胸を満たしたのは深い安堵と 後悔であった。太郎の厚い胸板が大きく上下する。間も無くその荒い呼吸に嗚咽が混じり始め た。しかしそれだけであった。 写っていたのは、幼き時代の己の姿であったのだ。幼い己は小さな顔を不細工に歪ませうず くまっていた。それは怒っている顔のように見えたが、その頬は確かに濡れていた。 埃には歴史があった。それは純情の歴史であった。太郎は、純情それがため己に触れもせず 去った花子を想った。 太郎は泣き叫ばなかった。泣き叫ぶほど純情になれない、またその資格がないと思ったから だった。しかし、その頬は、確かに濡れていた。太郎は静かに泣き出した。 次 ハンバーグ 鼻 コシアブラ
またやっちったァァァァァァァァァ!!! 2NJvの人と時間被ってんのかね
連投ごめんなさい。 被った上に図々しくもちょっと修正させてください。 太郎が埃を削るくだりの『戸惑い』ですが『躊躇い』の間違いです。 何でこんなミスしたんだろ。躊躇いて書いたつもりなのにな。
258 :
名無し物書き@推敲中? :2009/05/30(土) 00:03:34
対したミスじゃない
第二セクターから第三セクターは、結合と乖離を繰り返すビッグ・トンネルの中間点だ。鼻息を荒くして待ちぼうけていた俺たちは、ゲートの解放と共に一斉にトンネルから放出された。 いまだかつて経験したことのない加速、節々のねじれた神経は次第にほぐれてゆき、振動と共に興奮は高まってゆく。 トンネルの内部を一億の馬が泳ぐ。どれもしなやかに尻尾を振って、俺だけが生き残るというひとつの確信に満ちている。首筋に神の息を感じて絶頂に至る。 背後でトンネルの連結が外されるのを見る。千頭ちかく二度と帰らぬ光の中に吸い込まれていった。桃色の繊毛ひしめく華やかな宮殿に目指すスフィアは燦然と並ぶ。 頭部に携えた唯一の武器「酵素ブレード」でスフィアの半透明の膜を焼き切っていく。 どれにするかなんて迷っていられない、どいつもこいつもビッグ・ファーザーから持たされた僅かばかりのエネルギーを限界まで振り絞り、我先にスフィアに潜り込もうとしていた。 そのとき俺のスフィアは突然強固になり、俺の酵素ブレードをはね返した。 せっかく開けた傷口が見る間にふさがってゆく。怪しく光るスフィアの中に包まれたひとりの男が、羊毛の草原にうずくまった俺を見ながら意地汚く笑っていた。 息が苦しい、腕のメーターを見るとエネルギー残量は既に危険レベルだ。万事休すかと思われた時、繊毛に守られたちっぽけなスフィアが俺に微笑みかけてきた。 俺は戦場に散らばる数千の死骸の中を這い、もたれかかるように膜に酵素ブレードを深く突き立てた。 間一髪、ようやくスフィアの中に乗り込んだ俺は、それから半年近くも気を失っていた。 そして今はこうして保健体育の教師をしている。あの時の出来事を話せるのがまるで奇跡のようだ。
次は 野菜 馬 祭り
「ねぇお兄ちゃん、コシアブラって、何?」 「・・・簡単に言えば山菜だ」 自室の机に向かう少年と、テーブルで雑誌を読む妹。 6畳の部屋には、既に夕日の色もない。 聞こえる音は、カリカリ・・・ペラ・・・「へぇ〜」 妹の感嘆する声を聞き流し、兄は受験勉強に勤しむ。 「ね、ね? なんだかさ、ハンバーグ食べたくない?」 「どうしたら野菜類から肉類に繋がる。・・・その雑誌か?」 「そゆこと。ヘルシーハンバーグだって。後でお母さんに言ってみよーっと」 気の無い相槌を返し、兄は参考書に見向く。 静やかな空気の流れる部屋。 トントンと階下から響く足音が聞こえてきた。 『・・・二人ともー、夕ご飯できたわよー』「ハーイ」 妹はシュタッと立ち上がり、颯爽と部屋を出て行った。 兄も、溜め息をしてから開け放たれた扉をくぐる。 鼻に届く匂いは、肉の焼けるジューシーな香り。 そういえば、と兄は思い出す。 妹の雑誌は、リビングから持ってきていたな、と。
262 :
野菜 馬 祭り ◆2NJvO35T.o :2009/05/31(日) 22:43:03
側に置きっぱなしになっていたギター雑誌をパラパラとめくってみた。 「今までのライブで一番エキサイトした時のことを教えてください」 「エキサイト? 俺たちはいつもステージでは全力でエキサイトしてるよ?」 「その中でもとりわけ印象強いものを…」 「うーん、困ったな。ああ、そうだ(笑)。あったよ。それは30年位前かな。まだランディーが生きていた頃だなあ。 当時はステージからいろんなものを観客に投げ込むのがはやっていてね、 俺たちは最初の頃はタマネギとかニンジンなんかの野菜を投げ込んでいたんだが、それがエスカレートして、熟したトマトとか生卵とかを投げるようになり、 あげくの果てには、鶏の生首なんかも投げていたよ(笑)。 で、ある時、鶏の生首を投げた直後に俺は馬の覆面を投げたんだ。 そうしたら、それを本物の馬の生首と勘違いした客が驚きのあまり暴れまくって、危うく観客全員将棋倒しになるところだったよ」 「もう、祭りですね」 「祭りどころじゃない。一種の集団パニックだよ。 それで、その時に会場側からはこっぴどく叱られて、それ以来、ステージからモノを投げるのは一切やめにしたんだ」 次のお題は カセットテープ 黄色 反射
263 :
○ ◆2NJvO35T.o :2009/06/01(月) 18:54:10
みなさんの感想聞きたいっす。
感想は簡素スレで 簡素スレageカキコでもすればだれか来ると思うよ
「この黄色いのがそうなんですか」 助手は顕微鏡を覗きながら尋ねた。 「そうだ、長い間解らなかったがようやく謎が解けた」 そう言うと教授はラジカセの再生ボタンを押した。 <<この菌と………を融合させると>> 「スコット博士が実験データを録音していたカセットテープのこの途切れた部分、この部分に当てはまる物質は他の物質と決め込んでいた。だがそうではなく菌自体から抽出培養したものだったのだ。これは昨日の君の言葉からヒントを得たのたがね。」 「凄いですよ!これは学会に、いや世界に衝撃を与えるんじゃないかな。」 「私もそう思う。それともう一つ解った事があるんだが」 「なんです?」 助手はもうその菌に夢中になって顕微鏡から目を離そうともしない。 「人間の思考に非常に強いある作用をもたらすんだ」 「なんですか勿体ぶらないでくださいよ」 助手はなおも顕微鏡を見たまま促した。確かにこの菌には人を虜にする不思議な魅力があった。 「……自分以外の生物に強い殺意を抱くんだ」 助手はハッとして顔を上げた。正面の棚のガラスの扉に反射した教授の姿。その手には怪しげに黄色く光る刃があった。 次「データ」「コード」「モニター」で
266 :
データ コード モニター ◆2NJvO35T.o :2009/06/03(水) 08:31:57
Aデータシステム株式会社で暴力事件が起きた。 3年目社員が上司に対して、とあるシステムのプログラムソースコードの不備を指摘されたことをきっかけとして、逆上したというのが事のてん末だった。 この時、上司が転倒したひょうしにTFT液晶のモニターが破損した。鋭利な刃物となったモニターのスクリーンは上司の左眼球を突き刺したのだった。 一見どこの会社でもありそうなくだらぬ事件ではあるが、この事件が他の類似した事件と異なっていたことが一つあった。 それは、加害者がインターネットの掲示板で、この事件を起こすことを予告していた、という点だ。
267 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/04(木) 00:00:40
データ コード モニター 空調設備だけ見れば快適な空間ではあるものの、窓の無い四畳部屋に軟禁されることのつ まらなさといったらこの上ない。マッサージチェアにもたれつつこの部屋唯一の動物(但し予 想外に動く物体)に注目し、当然眼球にのみ平生全身体を動かすべく蓄えられたエネルギーや ら何やらを動員するので、視神経に集中されたる疲労といえば眼を押し込んでもこめかみを 叩いても到底解消されるものではない。今もぼくは左のゆび先でこめかみをトントン叩きな がらぬるりと光るプラズマテレビを眺めこれから我が分身を如何に動かしてこの眼玉を盲目 の危機から救出せんと悩んでいる。 ぼくが今時珍しいポン引きの紹介にも関わらずこの仕事を請け負ったのは、物語の主人公 の得たるが如き大それた理由があるわけではなく、かと言って特別に暇というわけでもなく、 ただもし、どうしても言わんとするなら現代の、しかも経済的にも社会的にも恵まれた家の 子の武者修行というか、生活からは全く想像し難い未知なる世界の見学といった風の、まあ 端的に言えば犬でも見いだしそうな好奇心のためなのだが、時給こそ高いもののビデオゲー ムのモニターがこれほどまでに辛い仕事だとは思わなかった。 画面上に這い蹲るぼくの分身はこれでもかというくらい貧弱で、進めば進むほどに強化が 必要になってくる。強化というのは敵を倒すの一辺倒であり、正直面白くも何ともない。初 めのうちは我慢出来たが、目の奥に重くのし掛かる鈍痛にもそろそろ限界のようだった。 これでも与えられた任務には忠実なつもりなのでちょっと気は引けるものの、背に腹は代 えられまい。改造コードでも打ち込んでセーブデータの主人公を二倍くらいに強くしてやろ う。 次のお題 蟻 トウモロコシ 飛行機
蟻がとうもろこしを運んでいる。飛行機の中で。飛行機は今、空を飛んでいる。水中を自由に泳ぐ飛行機なんてもう飛行機ではないし、 土中を掘り進む飛行機なんてものは現代の科学技術では作れないオーパーツだ。モグラでも確か一時間に数センチしか地面を掘り進められなかったはずだから。 これらのことから推測するに、今見ている光景はそれほど現実離れしたものではなく、そして俺は多分現実のなかにいる。 蟻の種類は何だ? ヤマトクロアリか南米産のシロアリか。いやきっとシロアリはとうもろこしを食わない。 胚芽の白い部分が自分達の色にそっくりだから、勘違いしてしまうんだな。それにあの蟻は黒い。寒い。 寒い。とうもろこしの種類までは分からないけど、とうもろこしの生産量世界一の国は知っているんだ。地理の時間に習った。アメリカだ。 だからこの飛行機はきっとアメリカから飛び立ったんだろう。地震がないけどきっとそうだ。でも、中に居るのは日本人みたいだ。 寒い。髪が短くて金色だけれど、もう一人は少し禿げているけど、あいつらは日本人だ。きっとこの飛行機の行き先は日本だ。 声は聞こえないけど彼らはこちらを見て口を動かして喋っている。ずっと瞬きしていなければ眼球の上に氷のレンズが張ってしまう。 瞬きと窓越しに見える男の口の動きがシンクロした瞬間は、彼らの唇が読めない。 アニキヤツワラッ、テウ。ホットケ。エモオトシアエツケサセナキャ。トウセシムンダ。 蟻が窓枠から見えなくなって、運んでるとうもろこしの先端だけが見える。寒い。とうもろこしの先端が揺れている。 蟻はあきらめてないみたいだ。飛行機が飛んでいった先にお前の巣穴なんてあるわけがないのに。 救急車の中と新幹線の屋根の上と飛行機の翼に一度は乗ってみたかった。こうして死ぬのはバカみたいな気分だ。なんでこんなところに居るんだろう。ひょっとしてあれかな? ありがとう、誰だか知らないけど中のアニキさん。蟻にとうもろこしをやったのもきっとあんただな。 次、ウチワ、ラーメン、タバコ
訂正 地震がないけど→自身がないけど さすがに判りにくいか アニキ、ヤツ、ワラッテル。ホットケ。デモ、オトシマエ、ツケサセナキャ。ドウセ、シヌンダ。
タバコお断り、の貼り紙が目につく。タカシはカウンターテーブルを指でコツコツと鳴らしながら、待っていた。 遅い。いつもなら長くても15分。タカシは待つのが好きな方ではない。待ち合わせの5分前にはその場所に居る男だ。 ――それが今日は30分。何かあったのだろうか、と心配になるが、それを口に出して辛抱のない人ね、と思われるのも嫌だった。もう少し我慢するか。ポケットのライターに手をやる。 ふと、シオリのことを考えた。ヘビースモーカーのタカシに、シオリは言う。 「もう若くないんだから、そろそろ禁煙も考えたらどうかしら。体を悪くしたら、何にもならないでしょう。」 分かってはいるんだが。15年も共に歩んだ相棒を手放すのは、容易いことではない。機嫌の悪い時には、シオリはウチワで煙をタカシの方へと追いやった。 「嫌なのよ、この臭いが。私はね、嗅ぎたくないの。」 もし禁煙したら、俺はもっと他の匂いを敏感に嗅ぎ取ることが出来るのだろうか。シオリの白い首元が思い出される。 目の前の水をグイと飲んだ。店に入って、35分。今更ビールを頼むのもおかしい。こう貼り紙をされては、タバコを吸う訳にもいかない。タカシはテーブルの上で腕を組み、木目を数えた。 ふと、目の前に人の立つ気配がした。頭を上げると、よく見慣れた顔がそこにある。やっと来たか。タカシと目が合うと、男は申し訳なさそうに笑った。「すんません、塩ラーメンお待ちどうさま」 キッチン 空 電波
キッチン・空・電波 午後六時の日課。空が赤くなったら屋根の上からメッセージを送る。お父さんに。お母さんに。おじいちゃんに。おばあちゃんに。学校の先生に。クラスの皆に。隣のおじちゃんおばちゃんに。向かいのお姉さんに。道行く犬に。日向ぼっこをしている猫に。 びびび。電波っぽい声に出したら届くような気がした。恥ずかしくなってすぐやめた。 大きく手を広げる。アンテナの真似をしたら届く気がした。アンテナは受信するものだと気づいてすぐやめた。 六時一分にはもうあきらめた。僕には漫画に出てくるような不思議な力はないようだ。でもいつかできるかもしれない。昔、頑張れば何でもできるようになるよ、とお母さんに言われた。僕はそれを信じている。 午後六時。いつものようにキッチンから夕食を作る音が止まり、仏間から鈴の音が聴こえてきた。今日はメッセージを声に出してみようと思った。 ぼくはここにいるよ。 ぼくはここにいるよ。 次のお題「鰻」「クーラー」「大豆」
「鰻」「クーラー」「大豆」 夏の暑い日に太郎は鰻を食べようと思った。なぜそう思ったかというと、土用の丑の日であったからではない。 その日の出先に美味い鰻を出す店があったからだった。 時間は午後一時を過ぎたところだった。 出先の所用を済ませた太郎は、駅前にあるその店に向かって歩いていた。 太郎がその時、店への近道でもない暗く狭い路地裏へ入って行ったのは、大通りの日差しが辛かったからだ。 太郎には影の差した路地裏はいかにも涼しそうに思えたのだった。 太郎が路地裏を歩いていると、突然に靴裏が滑って彼は転んだ。 後ろのめりになり仰向けに倒れていく間に、太郎は多くの人がするように、とっさに顎を胸につけて後頭部の激突を避けようとしたが、 その努力は報われなかった。コンクリートブロックでも転がっていたのか、路面にあった硬質のでっぱりに頭を強くぶつけて太郎の意識は飛んでしまった。 次に太郎が起きたのはクーラーの利きすぎた部屋の中だった。 いや、違う。太郎は思った。彼の体は強すぎるクーラーのせいで冷え切っていた。 それに加え、エンジン音が響いていたので太郎は冷凍トラックの貨物室にいるのだと考えた。 太郎はそれに気づき、殆ど考えもしないまま、まこと直情的に行動した。 ガンガンと貨物室の壁を殴ったり蹴ったりしたのだ。 十分ほどそうしていると、太郎は強い衝撃に見舞われ吹き飛び、ふたたび意識を失った。 太郎は起きた病院のベッドで、自分が路地裏で、ある商店が誤って路面にばら播いたまま放置した大豆を踏んで転倒し気絶したこと。 その商店の主が、太郎にとって不幸なことにパニック障害を患っていたこと。 そして頭部から血を流し気を失っている自分を発見し、死体と誤認してパニックを起こし自家用の冷凍車を使って海に捨てに行ったこと。 その間に自分が貨物室の中で目覚め、暴れたので、更にパニックをエスカレートさせて車を対向車と正面衝突させてしまったこと。 その事故で商店の主と対向車の運転手は即死したことなどを知った。 次のお題「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」
「角砂糖」「一味唐辛子」「電卓」 紅茶には角砂糖が三つ、さすがに三つは多いよ、普通に。 同僚だった頃、甘いコーヒーを飲んでいたのを覚えていたのかな。 部屋には同期と僕の二人きり、同期は死んじゃってる。 仕事が終わり、連絡があり、すぐに顔を出す、お通夜は明日かな。 紅茶を出してくれた同期の嫁さんはどっか行っちゃった。 顔はあんまり見なかった、見れなかった。 とりあえず君は冷えて硬くなってると思うよ、ドライアイスが乗っかってるし。 僕が甘いのが好きなように、君は辛いのが好きだったな。 なんにでも一味唐辛子、カプサイシン、当時のはやり、流行。 まるで女子のように痩せたがっていた、全然デブじゃないのに。 デブじゃない君は、結婚し、仕事をやめた。 君の忘れ物の関数電卓、なんとなく、持ってきた。 何年も勝手に使っててごめんね。 でも、いいだろ、次の職場じゃ使わないってわかってるし。 今はなんとなく、わざと置いていったのかなと思うけど、そうじゃないよな。 思うに、ただ、いらなかったんだ、君には。 ただ、電卓自身には君が必要だったんだと思うよ、間違いなく。 君が自殺して、いろんなものを置いていったけど、たぶん。 とりあえず電卓は引き受けるよ、うまく使うよ、どうにか。 後のものは僕にはわからない、ほんとに、あんまり、わかりたくもないし。 お嫁さんは戻ってこないし、君は半分凍っちゃってるし、もう帰るよ。 実はほとほと疲れてるんだ、そうは見えないかもしれないけど、正直に。 わかってるかもしれないけど、お通夜とか出られないと思う。 だから、これで最後か、じゃぁ、これだけ持っていくよ。 次のお題「消毒液」「父」「自由」
消毒液・父・自由 「別に自由になりたいとかではなかったんです。手が汚れたから手を洗う、みたいな。そんな、感じ。死刑なら火あぶりにして ください。私、汚いから」 **** 「消毒用のエタノールを買ってきたから、ちゃんと使いなさい」 父はそう言うと手を洗い、エタノールを吹きかけていた。 「ちゃんと手を拭かないと意味ないよ」 そして父の無言の返事から逃げるように、私は浴槽に向かった。 私はいつからか父がばい菌にしか見えなくなっていた。汚いもの。それは父だけではなく、客もそうだった。 同じような姿形をしている異質なもの。それが私の上に覆いかぶさっている。荒い息を立てて。気持ちが悪い。 「85度」汗で冷えた体で私は小さくつぶやいた。 「消毒液として使いたいならそれぐらい濃いほうが良いよ」――嘘だ。 次の日、75度のエタノールが置いてあった。少し薄いが、なんとかなるだろう。 最後の客が帰った。私はいつものように体を洗い、イソジンでうがいをする。そして寝室に向かう。 大きなばい菌がベッドに横たわっている。促されるまま私は顔を近づけ、――口に含んでいたエタノールを吹きかけた。 目を押さえてばい菌は叫んでいたが、股間を蹴り上げたら少し静かになった。私はテーブルの上に置いてあるエタノールを手 に取り、半分かけて、布団をかけて、残り半分をかけた。察した父がもがいていたが、火の手が上がるとおとなしくなった。 私は自由だ。あとは精一杯同情を引く供述をするだけだ。 次のお題「ガム」「はさみ」「飛行機」
275 :
274 :2009/06/08(月) 00:02:13
ガタガタで読みづらく、申し訳ないです
276 :
「ガム」「はさみ」「飛行機」 :2009/06/11(木) 06:06:05
バスジャック発生から一時間。犯人は一人。武器は自動拳銃一丁。 乗客の一人が言った。 「飛行機の時間に間に合わなくなるんです。行かせてください。」と 犯人はこの言葉に苛立ち、乗客の口に銃口を捻じ込んで言った。 「飛行機に乗り遅れるのと、ここで死ぬのとどちらか選べ。」 口の中に銃口を捻じ込まれた乗客が黙って首を振ると犯人は吐き捨てた。 「大人しくしてろ。」 その時 「暴発しますよ。銃口にガムが」 間近に居た男が犯人に話しかける。 あわてた犯人が銃口を覗き込んだ時、男は犯人の銃を蹴り上げた。 衝撃で自分に向けた銃の引き金を引く犯人。銃声と同時に悲鳴が起こる。 真後ろに倒れ動かなくなった犯人を見下ろしながら、男は呟いた。 「バカとはさみは使いよう・・・」 次は 「駅」 「天使」 「大人」
277 :
心もとない天使 ◆ANGELSmpgM :2009/06/12(金) 12:04:28
「駅、天使、大人」 主人公Aは三十歳を過ぎても大人になれない、アダルトチルドレンのニートであった。 ある日、Aはテレビで踏切事故から老人を助け出し、表彰された男のニュースを見る。 「これだ」とAは思った。 Aもこの男のように踏切事故から誰かを救い、ニュースに出て有名になろうと思った。 これが巧くいけば、ニートから一転、周りは天使として自分を見てくれるだろう。 Aはさっそく最寄の駅に足を運んだ。駅近くの踏切であれば、人通りも多い。 事故が起こる確率も高いであろうとAは踏んだのだ。 来る日も来る日も、Aは踏み切りの前で待った。雨の日も。風の日も。 春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、とうとう一年が経った。 ところがいつまで待っても踏切事故は起こりそうにない。Aはすっかり汚れて真っ黒になってしまった。 足元に飲み終わったビールの空き缶を置いていたら、通行人が小銭を入れ始め、結構な額が貯まった。 乞食と思われているのだ。 そんなAに、ついに千載一遇のチャンスが訪れる。 踏切内で、老人が小銭を落としてしまい、もたついている間に踏切が閉まってしまったのだ。 (――この時を待っていた!) Aが勇んで救助に入ろうとすると、何と周囲の店や物陰から、男たちが一斉に老人に群がっていった。 その中で最も長身の、いかにも運動神経抜群に見える男が、一番に老人を助け出した。 長身の男は手際よくTV局と新聞社に連絡を取り、彼は報道陣に取り囲まれてインタビューに応じはじめた。 その模様を、老人を助けそこなった男たちが、舌打ちしながら眺めていた。 呆然と立ち尽くすAに、男たちの一人が囁いた。 「あんた、一年くらいここにいる人だな。この世界の競争率を甘く見るなよ。 この周りにはもう十年以上、天使になるために張り込んでいる兵が何人もいるんだ」 Aは雷に打たれたようなショックを受けた。天使への道はAの想像以上に険しかったのだ。
278 :
277 ◆ANGELSmpgM :2009/06/12(金) 12:10:49
次 「選挙」「地球」「予防接種」
279 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/12(金) 20:03:30
駅 大人 天使 大人になったら何になりたい―― 頭の中で誰かが呟くのを聴いて、太郎は登山鉄道のゆるやかな振動の中、静かに目を覚ました。 僅かに軋む身体で瞼を擦り、目を開けると、車窓の外すぐ下方に雲海が広がっている。雲海は白 いパンを捻ったような雲で厚く埋め尽くされており、下界の大変に気候の荒れている事を表してい た。 対して雲の上は透き通った空気に充ちている。思えば随分遠くまで来たものだ。仕事を捨て、家 を捨て、女を捨て、風の向くままに身を任せた。しかし異国の文化に触れ世界の広さに感激したの も束の間、再び目の前に現れたのは非日常という名の日常であった。確かに自分は俗世間に活きて はいなかった。しかし、どこに居ても変わらず、己というものが常にあったのだ。 『間もなく**駅』 異人の言葉でスピーカーが告げた。先を見ると遠くに小さく駅のホームが見えている。用途不明 の小屋以外には何もない、寂しい駅であった太郎は荷物を纏め、腰紐に括った財布から紙幣を何枚 か出し、再び前方を見やった。 <おや?> 僅かに近づいたホームに、金色のものが見えた。金色は静かに、だが力強く輝いていた。太陽 をそのまま地に下ろしたとしてもこのようには輝くまい。それは黄金の川のように流れ、金の筋の 一本一本が見て取れるようであった。 遠くにあったその輪郭が、少しずつ明らかになってくる。次に白が見えた。眩いばかりの白だ。 その白に金が被さっている。 とそのとき、一陣の風が吹いた。車内の太郎は確かにその透明な風を見た、否、ホームに立つ金 色を見たのだ。金色の清流は透明な風を受け、ふわりと軽やかにその流れを変えた。太郎は流れの 奥に居たものを見た。 それは一人の天使であった。黄金の川と見たのはその頭髪であり、あの眩い白は彼女の着るワン ピースであったのだ。少女はその服に、白い肢体に、極小の汚れを着けることなく、そこに立って いた。この余りに場違いな少女に、太郎は目を奪われた。 そして太郎はついに、その駅を乗り過ごした。少女もまた、その電車に乗ることはなかった。 こうして太郎の短い旅は終わりを告げ、何事も無かったかのように帰国した彼は捨て去った筈の 全ての者に謝罪し、平凡な暮らしへと戻った。
280 :
「選挙」「地球」「予防接種」 :2009/06/14(日) 01:18:23
「Aさん、どうぞ」 私が名前を呼ぶと、初老の紳士が「はい」と言って、目の前の椅子に腰掛けた。 私専用の診断用ディスプレイに表示された、生体データを素早く確認する。間違いなく本人だ。 「ではAさん、予防接種を行います。こちらのアームに左腕をのせて下さい」 「いやあ、注射というのは、いくつになっても慣れないものですな。でも、今度の私は運がいいですよ」 A氏はゆったりした口調で答えながら、何の疑いも抱かずに私の指示に従った。 「どうしてですか?」 注射の準備をしながら(といっても、自動注射装置の操作をするだけだが)、私は尋ねた。 「あなたのような美人の女医さんに処置してもらえるからですよ。前回は私と同い年ぐらいの無愛想な男でしたから、この数分間が苦痛でね。 あんな睨めっこは二度と御免です」 私は苦笑した。年に似合わず達者なものだ。 「ありがとうございます。でも、あの先生の腕は保証しますよ」 「ほう、どうして」 「私の恩師ですから」 「こりゃあ失礼。一本取られましたな」 A氏はこのやり取りを楽しんでいるようだ。まあ、「美人の女医」なる者との会話は、多くの男性にとっては嬉しい事なのだろう。 何も知らないあなたは幸せですよ。特に、今行われている「予防接種」が、巧妙な洗脳システムである、などという忌まわしい真実は。 ワクチンには、催眠薬が含まれていて、暗示をかける薬効がある。そして、選挙で選ぶ候補者を無意識に誘導しているのだ。 ある意味、現在の地球における、最も成功した支配体制といえるだろう。 私が真実を知り得たのは、この催眠薬の開発に関わった医師の1人で、その人が書いた手記を読んだからだ。 手記には「何者か」によるシステム構築の過程と、家族を人質に取られ屈服した自分を弾劾する、懊悩に満ちた記述があった。そして、最後にこう書かれていた。 「いつか真実を公開できる日まで、この記録を保管して欲しい。それが自分にできる唯一の贖罪だ」 まったく、簡単に言ってくれる。「正義の味方」だと悟られずに生きろというのか。 だが、私は喜んでこの使命を引き受けようと思う。 何故なら、私が「家族を人質に取られ屈服した」医師の娘だからだ。 次のお題「みそ汁」「プリンタ」「天気」
うまい!と彼は唸った。「みそ汁の腕が上達したなあ」 「えへへへへ・・・」 彼女の声が台所から聞こえる。照れているらしい。 まだ拙いウグイスの声が、水を打ったばかりの庭から聞こえる。 いい天気だ。もう春なんだなあ。 「デイジーの球根、植えますね」 ウグイス型監視カメラが送る、縁側の二人の緩やかさに比べ 埃臭いコントロールセンターの慌しさは相変わらずだった。 「カタカタ・・・」とプリンターが中間レポートを印刷する。 「新妻役ロボット、チェック完了!」と、オペレーターが報告する。 「彼女」の動作は完璧だ。完璧な大和撫子型アンドロイド。 構わず司令官の命令がきた。「次は、新夫役ロボットのおはよう機能だ!」 「地球自転装置作動!日本時間を<月曜・午前7時>にセット」と、答える。 (でも・・・何のために?) オペレーターはふと思った。でも、気にしない。 ※:気にしない気にしないw 次のお題は:「納豆」「半紙」「光子」で、お願いしまふ。
納豆、半紙、光子 墨の代わりに、じとりと汗が滲む。 朝の涼しいうちに宿題はしておけと釘を刺されていたので、律儀にそれを守る朝五時。 汗でよれた半紙は、字ではなく落書きで消費した。もうあとがない。 汗を拭い、もう一度半紙に被さる。 「光子、」 ごはんできたよ、と母が呼ぶ。 はあい、と返事をすると、また汗がぼたりと落ちた。 「また納豆あるの」 「好き嫌いはやめなさい」 次のお題「椅子」「ロケット」「あぶ」
「だから、キャンプなんて嫌だったのよ!」
僕はヘラヘラしながら何かを答え、彼女の機嫌をとる。
なんとなく、ヘラヘラぐらいしないと参っちゃうよね。
あぶに指されて赤くなったクルブシを大事そうに擦っている、彼女。
健康食品で具合が悪くなる、美用品が肌に合わない、新しい財布が使いづらい。
なんか、いつもそんな感じ、文句ばっか、あーあ。
ロケットの打ち上げが見たいって言ったのも、たぶん、忘れてる。
せっかく種子島なんだからアウトドアがいいって言ったのも、忘れてる。
その前はゴッホの絵が見たいと言っていたのも、忘れてる。
彼女が座っている組立て椅子、カタカタ言ってるし。
たぶん、うまく組めてない、倒れそうだ、うん、倒れるね絶対。
ワクワクというか、ハラハラというか、なんというのか、期待、かな?
彼女の期待を裏切ることが起こり、「どうにかしてよ!」って目で僕を見る。
看病したり、違う財布買ったり、炎症気味の顔も悪くないよって言ったり。
君の機嫌が良くなり、なんでもないことで笑って、隣にいて、それでいいよね。
僕は感情の起伏が無いほうだから、足して2で割ればちょうどいいよ。
もう椅子はカタカタ言ってない、彼女は座りながら、ただクルブシを見つめてる。
静かだ、心地よいひと時、次のアクシデントが起きるまでの、わずかな、やすらぎ。
NHKで見た「フィンセントの椅子」、ゴッホの油絵、今がその状態、質素だが鮮やか。
大丈夫、十分座れるさ、勿体無いくらい。それに、ゴーギャンよりはマシだろう?
静かさに慣れてくると、何か起こらないかと思ってしまう、自分を戒めながら、そっと隣に座ってみた。
『わるくない?』って目で彼女を見ると『60点ね』って目で返された。
打ち上げまで時間はある、とりあえず、落第点は避けられそうだと雲ひとつ無い空を見つめた。
参照
ttp://park10.wakwak.com/~maepi11/htm81.htm 次「ロウソク」「タマネギ」「絵具」でおねがいします
284 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/20(土) 21:26:21
ロウソク、タマネギ、絵具 男は家の庭で、ロウソクを溶かしていた。沸騰した水の中にロウソクを入れ、 火をかけながら、液体になるまで混ぜた。その後、溶けた蝋を絵具代わりに使って、 数枚絵を描いた。描いた線の凹凸が分かるように、ロウソクを筆にたんまりと付けた ので、男は描きにくかった。 次の日、男は描いた絵を持って病院へ行った。娘が入院している部屋は3階にあった。 「熱は下がったか?」「うん、もう大丈夫。元気だよ。」男は描いた絵を取り出し、 娘に手渡した。娘は絵に掌を当てたり、指でなぞったりして、凹凸を探った。 「う〜ん、何だろう?」「わかるかな?」「え〜と、タマネギみたいな形してる、」 「そのとおり、正解!」娘は笑った。目がハの字になり、唇の両端がつり上がる 娘の笑い方が、男は好きだった。ただ内心は、瞼が開くことを望んでいた。 次は、扇風機、母、刑事で。
285 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/20(土) 23:40:19
7月○日 扇風機が止まらなくなった。スイッチを押しても、コンセントを抜いても、一向に止まる気配はない。 それどころか、徐々に強くなってきている気がする。 母は気味が悪いと言って不燃ごみの日に出した。 7月×日 ゴミ捨て場を通りかかると風を感じた。ちょっとよろめくほどの強風。見ると、やはり扇風機があった。 収集してくれなかったようだ。何かシールが貼られている。 怖かったので、知らん顔して通り過ぎた。 7月△日 翌日、刑事が家に来た。ゴミ置き場の扇風機の風に煽られて子供が吹き飛ばされ、大怪我をしたとのことだ。 何か知らないかと聞かれたが、知らないと言ってやりすごした。 扇風機は警察が持って行ったようだ。ほっとしたが、指紋をとられると厄介かもしれない。 7月□日 あれから一週間が過ぎた。扇風機は相変わらず動いているらしい。 ××警察署が謎の強風で吹き飛んだと聞いた。死者も出たそうだ。 全国ニュースにもなってしまった。母も不安げだった。 ☆にち みんなふきとばされた。だれもいなくなった。 ここもそろそろだめだろう。なにもわからないままとばされるのはいやだが、もうどうしようも 「和服」「昨日みた」「肝試し」
「ねぇ!この服とかどう?」 その元気で女の子らしい声に振り向くと、彼女が男モノの和服を片手に立っていた。 「だから、別に服とか買う必要ねーって」 強引に服屋に連れてこられたが、やはり乗り気にはなれない。 前を向き、再び前へ歩き出す。 「ねぇ!でもさ、やっぱりせっかくの肝試しなんだしさー」 再び足を止め、振り向く。 「どうせ暗くて何着てるかわかんねーよ」 前を向き、歩き出す。 「ねぇ!それじゃ明日着てく服どんなのかわからなくなっちゃうの?」 足を止め、振り向く。 「どうせ昨日みた浴衣着てくるつもりだろ。もう見てるから気にすんな」 素気ない返事をした後、再び歩き出した。 ねぇ!待ってよー!と遠くから声が聞こえてくる。 そんなどうでもいい彼女の声が聞こえる度に足を止め、振り返ってしまうのは、 向日葵が太陽の方を振り向く原理と一緒なのかもしれない。 「太陽みたいなヤツだな、お前は。」 冗談みたいな本音を、つい呟いてしまった。 お題「あり得ない」「メガネ」「風」
287 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/22(月) 21:39:44
ジジィージジィー・・蝉しぐれがこだまする暑い昼下がりの路面。 汗をぬぐった一区のSさんはフト、電柱を見た。 「今年もまた、夏祭りの時季が来たな・・」 去年のコトを彼は思い出した。子供会の神輿の時、あの時はコドモらの あつまりがワルく、遊びに来ていた親類のこを、誘って引っ張りだしたのだ そのこは6年生のおんなのこで背は高く、メガネをかけててSさんには あまり懐いていなかった。いつもこちらに来てからひとりでつまらなそうに していたので、お祭りと子供神輿に参加させようと思ったのだ。 おんなのこはシブシブとだがSさんと共に神輿に参加してみたが、 トモダチもいず、図体の大きめの彼女はコドモらから浮いてしまい、 しまいには「こんなの、もぉイイ!帰る」と泣いて抜け出してしまった。 Sさんはなんとかなだめてその時はおさめてやったけど・・ 「ワルイことしたな、あのこには。今年はもう、こちらには来ないかもな」 そう思っていた彼のわきを、ありえない程の大きな蝶が通り過ぎて行った。 Sさんはしばらくそれをボンヤリと眺めていた・・・ 蝶と共にふと、爽やかな風も流れて行った。 お題 「カブトムシ、むしかご、ぼうや」
288 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/22(月) 22:56:21
「いまどき珍しいな」 そういう君に、そうだね、と答えた。 君の手の中でうごめくそれを摘みあげて目の前に持ってくると、やはりそれはカブトムシだった。 「こいつも子供産むのかなぁ?」 「…それは、新手のジョークかしら」 冗談にしても低レベルなその問に鼻で笑って答えると、私は虫をそっと両手で包みこんだ。 「え…カブトムシ、だよね、これ」 「そうよ?」 「カブトムシってこれ以外にいるの?」 「…だから、それは、新手のジョークかしら?」 きっと私を笑わせようとしているんだと思い表情を読み取ろうとするが、君はいたって真剣な顔だった。 …男の子というのは幼少時に蝉やカマキリ、カブトムシ等々の虫を大量に捕まえるものではないのだろうか。 大量につかまえたそれをむしかごに入れて、母親に見せて叫ばれたりするのが普通ではないのか。 そしてそれを子供特有の無邪気な残酷さをもって首を切り落としたり鉄格子で串刺しにしたりするのではないのだろうか。 それを君に尋ねると 「だって、俺、夏は父ちゃんと家でゲームしてたもん。」 と一蹴された。 その言葉に、いろいろ言い返したくなったが、いろいろありすぎてなにも口から出なかったので 「…カブトムシのメスはツノが無いのよ、ひとつお勉強になったわね」 それだけ言っておいた。 なにそれ気持ち悪いゴキブリじゃんやだ気持ち悪いやだやだとわめく君を無視して前を見た。 「まあ、せめて産まれてくるぼうやにはお父さんを反面教師にして カブトムシの雄と雌の区別ぐらい付けられる子に育ってほしいわ」 少し膨らんだおなかにそっとカブトムシを乗せたら、ぶぅん、と羽を広げて夏の空に飛んで行った。 お題「ぬいぐるみ、羅刹、水鏡」で
題 : ぬいぐるみ、羅刹、水鏡 布団の中で溜息を付きました。 お父さんは毎朝怒ります。お母さんは疲れた顔で首を振り、何度も溜息を付きます。 私は今日友達とケンカしました。ノート見せてって言われただけなのに。 この家に越してからずっとそうです。何も上手く行きません。溜息が出ます。 枕元にある牛さんのぬいぐるみを手に取り、頭を撫で、抱きしめました。目を閉じました。 この子は小さいとき、私が親にねだった子です。ひとつだけ売れ残ってて可哀想だったんです。 それからずっと、私と一緒にいます。 頭の中は考え事と夢の境、ぼんやりと寝てるのかどうか、そんなときに声が聞こえました。 「裏の井戸をお祓いして閉じろ」 ぬいぐるみを抱いたまま飛び起きて壁の時計に目を向けました。三時二十八分。 「こりゃ夢だぜ。水鏡とか蜃気楼、ああいうのさ。だから井戸以外は忘れちまえ」 ぬいぐるみは震えて声を出しています。私は悲鳴を上げて牛さんを放り出してしまいました。 牛さんはからからと笑いながら「ガキはとっとと寝ろ」と呟きます。瞼が重くなってきます。 「牛っつったら羅刹よ。でもな、抱いてくれる人にはちゃんとするぜ? 井戸は忘れンなよ?」 その言葉に心が軽くなったような気がしました。瞼がすとんと落ち、私は目を閉じました。 次の題 : 「鳥」「リハビリ」「甘納豆」
290 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/23(火) 12:40:15
ピチピチピチ・・籠の中のピースケが鳴いている。 Sさんは、痛い左足を引きずるように廊下を出た・・ なんでも足のリハビリのため、なるべく「杖」にはすがらないように、と 心がけているのだ。それでも思うように行かずつい、イラついて ピースケにあたってしまい、自己嫌悪におちいってしまうのであった。 「そうだ、まだ冷蔵庫に昨日の甘納豆があったハズ。」 アシを引きずりつつ彼女は、台所へと向かった。 お隣さんからいただいた、好物の甘納豆のことを思い出したのだ・・
291 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/23(火) 12:41:41
・・お題は「名物、お祭り、うちわ」です
「名物、お祭り、うちわ」 …今日も疲れたな。 電車が来ると同時に腕時計で今の時間を確かめる。 短い針は11の数字を指す手前だ。 この時間になると電車の中も閑散としている。 クーラーが効いてるにも関わらず大股開きでシートに座り、うちわを煽いでいる太った男が目に付いた。 なんとなく不快な気分になりその男とは離れたドアの前で手擦りにもたれかかった。 座ることも出来たが、やはりなんとなくあの男と同じ行動をとりたくないと意識してしまう。 ドアの窓から外を覗いていると、デカデカと「○×祭り」と書かれた巨大な提灯が目に付いた。 「もう、夏のお祭りの季節か…」 そんな小言を呟くと同時に小さい頃、姉に連れられた地元の夏祭りのことを思い出した。 右も左も人だらけでわけがわからず、姉の後ろに付いていくのが精いっぱいだった。 名物と書かれた「苦虫饅頭」は、今でも思い出すだけで吐き気を催す。 …でも、楽しかったな…。 電車はトンネルの中に入り、目の前には疲れ切った顔をした男が映し出された。 ふと、自分の頬に冷たいモノが流れるのを感じた。 次は「天国」「蓋」「囁き」でお願いします。
293 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/24(水) 00:11:05
名物 お祭り うちわ かつて幾度となくよじ登っては天辺から小便を垂れた鳥居に座して凭れかかり、太郎は絶え 間なく行き来する人々を眺めていた。 誰もが何かに急かされるように歩いていた。そのくせ人の流れは一向に遅く、足踏みばかり が響く。前の人に殆ど密着して押し合いへし合い、思うように行かない人々は出店で気を紛ら わすことで、自ら更に流れを遅くしていった。 <相変わらずだな> いつの間にかザックに刺さっていたうちわを見る。名物日本三稲荷駒竹神社とある。幼少時より 慣れ親しんだせいか、その響きに何らありがたみを得ることは出来なかった。三稲荷とは正確な意 味を知るところではないが、まさか日本中で三指に入る神社、というものではなかろう。 再び雑踏へ目を向ける。殺気立ったみたいな人々の顔を見て、太郎は少年時代この神社のお祭りへ たった独りで出掛けた時の事を思い出していた。 いつも勝手知れたる境内は、そのときばかりは嫌に暑苦しく、また無闇に広く感じたものだった。 友人たちとかくれんぼをするでもなく、父の肩に跨り往来を掻き分けるでもなく、ひたすら人に揉 まれ足蹴にされたのだった。 鳥居に凭れ掛かった太郎の視点は人よりずっと低かった。見上げた人々の目は、何かに追わ れているように、狂気を孕んでいた。太郎の胸に、懐かしい感情が湧きあがってきていた。 太郎は立ち上がった。ザックを背負う。太郎そのまま、鳥居を振り返ることなく歩き出した。 次『紙飛行機』『コーン』『すずかけ』
294 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/24(水) 00:15:32
すまんリログ忘れてた。
295 :
「天国」「蓋」「囁き」文体実験 :2009/06/24(水) 00:24:18
フリーマーケット会場 異彩を放つ出品者 小さな箱 曰く 天国の詰まった箱 洒落た蓋 耳を当てる ………不思議な音 声 これは 歌? 否 それは 囁き 微笑する出品者 あなたへの 囁き 家 部屋 目を閉じ 耳を澄ます 言葉 未知の言葉 落ち着く 意味? 分からない 開けたい けれど 恐ろしい 何度も手をかけ けれど やめる 今も 木箱は 机の上 相変わらず 囁いている 誰にも分からぬ 天国の言葉で
296 :
295 :2009/06/24(水) 00:26:21
297 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/24(水) 21:26:43
すずかけのイメイジが、わかんよ・・
[紙飛行機][コーン][すずかけ] 数時間後には高校を卒業しているんだなぁ。 そう思ったらじっとしていられなくなり、卒業式まっ只中、わたしは体育館を出た。 出口のドアで先生にトイレが我慢できないと断って、そのまま下駄箱へ。 外履きに履き替えて、校舎裏の森に入る。 森といっても木々の建ち並ぶ山すそで、よく授業をサボって一人で過ごした。 放課後に行っても駄目で、他の生徒が授業を受けているのに自分はここにいる、 そんな状況でないと、心地良さを感じられなかった。 卒業式が終われば、もう授業はない。 あんなに面倒だった授業が終わってほしくないとさえ感じる。 制服を着てここに来られるのは最後になるのか。 変な皺(しわ)がつかないようにスカートに手を添えて、地面に腰をおろす。 太い幹に背中を凭(もた)れ、目を閉じたまま高校での三年間を振り返っていると、足音がした。 目をひらくと正面に、クラスメイトの創介が立っていた。 そんなに親しいわけでもなかったので、こんにちは、と、他人行儀に挨拶してみると、 こ、ここ、コーンニチワと、まるでつたない日本語で話す外国人のように、緊張した声で彼は言って、 「す、すずかけ、けけっ、結婚してほしい」と続けた。 「え?」 「それくらい、す、涼香が好きだ!」 体育館を出るわたしを見かけて追ってきたのだろう。彼は彼なりに、卒業する前でなければならなかったようだ。 さて、どう答えたものか。わたしの後ろにある木がスズカケノキであることをいいことに、 木が好きなの? と誤魔化すか。返答に迷って空を見上げると、旅客機が目に入った。 告白されたせいで心が浮ついていたせいか現実感がなく、まるで紙飛行機に見えた。 ああ、そうだ、一時の感情や雰囲気に流されたくない、すこし離れたところから見ていたい。 彼は、卒業前の告白という状況に酔っているだけで、わたしへの思いは卒業すれば冷めるだろう。 そうわかっていて、わたしは、ごめんなさいとすぐには返事をしない。うん、青春も、悪くない。 上空の飛行機雲が消えるまで、もう少しだけ、浸りたい。 長くなってスマソ。次は「政策」「金利」「紫蘇」でよろしこ。
299 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/25(木) 02:27:09
「政策」「金利」「紫蘇」 ある男がジッと紫蘇を見つめながら呟いた。 「これ・・本当に必要なんかね?」 対面に座った男が「はぁ?」という顔をして見る。 「いや、紫蘇ってのはご飯時に本当に必要な物なのかね?ということだよ」 「つまり・・?」 「だってそうだろ?まっとうなオカズさえあれば日本人は白ご飯で充分なんだ むしろオカズ本来の味を阻害し、こんな余計な味を出す紫蘇なんてものを振りかける必要性がどこにも見当たらないということだよ」 「それは確かにそうですが・・。しかし、その紫蘇をオカズ代わりに白ご飯を食べるという人は?」 「じゃ、君に聞くが、今まで何回この紫蘇だけをオカズに白ご飯を食べた?え?」 「いや、それは確かに1度あるかどうか・・」 「だろ?世の中そんな紫蘇だけをオカズにご飯を喰う奴なんてまず存在しないし、 いたとしても、それは本人の心から望むべく現状じゃないということだよ。え?君には分るか?」 「ええ、それは。大体は仰られることは分ります。しかし・・それと今回の政策に何か関係でも?」
300 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/25(木) 02:29:06
「関係?大有りだよ。つまり、私の言っている、日本国総金融機関金利0政策とは この紫蘇と同じようなことだと言うことだよ。」 「は?」 「日本国民が金融機関へ預ける5千兆円とも言われる総資産が熱々の白ご飯だとして、国民は熱々の白ご飯だけあれば満足なんだよ そこから発生する僅かな金利なんてものは、この紫蘇と同じようなもの。ならば無くせば良い。と言っているのだよ 銘うって紫蘇法案だよ!君!」 「そんな無茶な・・」 その後、総選挙に臨んでこの政策をマニフェストに掲げた、この党は惨敗に終わった。 しかし意外にも紫蘇業者からの大きな反発行動は見られず、また国民の紫蘇へ対する見方も別段変わった風にも見られない。 もしかしたら、その男が言っていた通り、紫蘇とはその程度の物だったのかも知れない。 そして月日が流れて、その次の総選挙前 「これ・・本当に必要なんかね? 君? この酢豚の中に入ってる、パイナップル」 次のキーワードは【FBI】【暖簾わけ】【ジャムおじさん】
301 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/25(木) 15:24:47
どーゆー組み合わせだ
【FBI】【暖簾わけ】【ジャムおじさん】 「小堺クン!小堺クンはおらぬか?」 「なんだいツトム」 「ほう、アメリカのビジネスマンみたいだな…ってキチンと呼びなさい!」 「失礼しました、関根編成局長」 「キミ、今朝出したアニメ枠の秋編成、何だねあれは」 「TV東京からの暖簾分けで開設した、我らが有川TV、アニメは生命線と考えてます」 「それはいいが、この『FBI心理分析官』というのは、どういうアニメだね?」 「局長もナイトヘッドや時かけのアニメ化とヒットをご存知でしょう、今、時代は過去名作のインスパイアじゃね!」 「ナイトヘッドはともかく、FBI心理分析官は確かにヒットした、それで、権利者との折衝は?」 「無許可です」 「こら!」 「大丈夫です、ウチは地上デジタル移行までの期間限定TV局ですから、やっちゃったモン勝ちです」 「じゃあ、この『アンパンマン・スピンアウトムービー・ジャムおじさん・オブ・カリビアン』ってのは」 「あ、それは当日版権でいけるかな…と」 「馬鹿者!放送免許取り上げられるわ!」 「あ、それ大丈夫です、ウチの局、ニコニコ限定配信ですから」 「うへぇ」 次のお題は「いいちこ」「ランエボ」「ipod」で
「時空を越えるなんて無理じゃね?」 生徒の漏らしたその一言を背中で聞いた蘭取理沙先生はブチ切れて、 右手に持ったチョークで黒板に火花を散らした。その火花に気づいた三人の生徒、 プライバシーを考慮して実名ではなくアダ名で記すが、いいちこ(女・19)、ランエボ(男・25)、ipod(男・19) は安政5年の江戸に飛んだ。 両国西広小路の見世物小屋では、エレキテルを両手から発する謎の男、手素裸が、 刺青の入った腕をした客の持つ国芳の猫が描かれた団扇へ、念力を込めていた。 「燃やせるものなら、燃やしてみねぇ」と、客はにやにやしながら煽る。実は サクラなのだが、腕の刺青を見てまでイチャモンをつけてくる客は稀。 団扇の柄と、柄を持つ指は、火打ちの石の仕掛けそのまま。 サァサァ、火がつくか否か、そんなところへ、いいちこ、ランエボ、ipodが、落雷のような光とともに現れた。 仕掛けを使う間もなく発火した団扇、ざわめく客席、狼狽する手素裸とサクラの客。 未来から来た三人も驚き、ワケもわからぬまま見世を出て、気づけば両国橋の中央に来ていた。 「じ、時空、越えちゃった?」といいちこ。 「FBIのモルダーでもそんなことわからねぇよ」とランエボ。 「やっべ、今週のコサキンの録音できねぇじゃん。早く未来へ戻れとガイアが俺に囁いている」とipod。 「まだ慌てるような状況じゃない。ジャ、ジャムおじさんなら、なんとかしてくれる」とランエボ。 「ランエボ、落ち着きなよ。これ、たぶんドッキリだから、お江戸でおじゃるとか、その手の」といいちこ。 そこへ手素裸が追いかけてきて、「おめぇたち、すげぇな。暖簾わけしてやるから、浅草で見世、出さねぇかい?」 と言いながら、右手をいいちこの肩に、左手をランエボの肩に、ポンと乗せた。発光、そして、時は動き出すっ。 「時空は越えられるのよー! 気合で!」と蘭取先生が振り向きざま放ったチョークは手素裸の額に直撃……。授業は何事もなく再開。 手素裸は蘭取先生の協力へ経て再び時空を越えたが、江戸に戻ること叶わず、チキンと言われるとキレる少年と友達になった。 いいちこはその翌年、亜墨利加人や英吉利人との通訳として活躍することになるのだが、それはまた、別の、話。 次は「五線譜」「クレープ」「初恋」でよろしこ。
間違えました。 右手をいいちこの肩に→右手をipodの肩に、 蘭取先生の協力へ経て→協力を得て
お題「五線譜」「クレープ」「初恋」 小学生の時分、唄の発表会が嫌で嫌で仕方がなかった。 私は根っからの音痴で、ひとたび歌い始めると、必ず誰かを不快にさせた。 そんなわけで私は、音楽の授業が大嫌いになった。ことごとくボイコットした。 そっちが嫌いなら、こっちも嫌いになってやる理論だ。 「てなカンジに幼少期を過ごしてきたので、五線譜が読めません」 「…………(一同唖然)」 以上が軽音部に入部した時の、私の宣言だった。 ……矛盾している。それは分かっている。 分かっているけれど、私の恋心は、私の理論を捻じ曲げた。 初恋だった。しかも一目惚れ。 その日から、私の心は、私の歌声のように、どこかおかしな転調を繰り返し始めた。 フラれる時が来る、その日まで。 「分かってたんです。でも、言わずに居られなかったんです」 「…………」 何もかも分かっているから、やる気が失せる。 そんな風に人間ができていたら、さぞ便利だろうに、と思う。 でも、とも思う。そうじゃないから、私は、告白したのだ。 あの告白は、初恋の彼を不快にさせただろうか? 夕暮れの河川敷を、クレープ片手にトボトボ歩きながら、ちょっとだけ歌ってみる。 五線譜が読めるようになっても、私の歌声は、相変わらず調子っぱずれで 誰かを不快にさせてしまうに違いない。 それが、何だか本当に可笑しくなって、私は大声で歌いながら帰り道を歩いた。 遠くで罵声が一つ聞こえる。それもまた可笑しくて、ひとしきり笑ってから、ようやく涙が少しこぼれた。 次は「共犯者」「ロケット」「熱帯魚」でお願いします
306 :
ケロ :2009/06/30(火) 01:10:00
五線譜・クレープ・初恋 彼が姿を消してから3週間… 「彼はどこに行ってしまったの」とつぶやいた。 私は一人、JR町田駅を出て109方面へと歩いていた。 日曜日の午後、クレープ屋の周りには私より5・6歳は若いカップルが仲良くデートを楽しんでいる。 クレープの甘い香りが私の脳の中の彼との思い出を引っ張り出し涙を流させた… 「あの優しかった彼はどこへ行ってしまったの」とさらにつぶやく。 涙がやっと乾いた頃、携帯の着信メロディが聞こえてきた。 無意識にメロディの五線譜が頭の中に浮かび出て大粒の涙がまたこぼれてくる。 そう、このメロディは私が彼の誕生日に贈った自作の曲。 無意識にメロディの五線譜が頭の中に浮かび出て大粒の涙がまたこぼれてくる。 電話の相手は警察からで、懸命の捜索にもかかわらず、彼の消息は全くつかめていないとの報告であった。彼は私にとって初恋だった。初めての男性だった。 あんなに愛し合ったのに、あんなにやさしく大好きだった彼なのに… 「あの優しかった彼はどうして…あんなに…」と唇をかみしめた。 彼は私にとって初恋だった。初めての男性だった。 あんなに愛し合ったのに、あんなにやさしく大好きだった彼なのに…
307 :
ケロ :2009/06/30(火) 01:13:01
>>305 さんに先越されてしまいました…せっかく作ったので載せさせてください。
次は
>>305 さんの「共犯者」「ロケット」「熱帯魚」です。
308 :
名無し物書き@推敲中? :2009/06/30(火) 01:20:20
共犯者 ロケット 熱帯魚 「ぼくのお父さんは爆弾で魚をとったんだ」 太郎は自慢気に語ると手に持ったロケット花火を鼻男に掲げた。 「でも、火は水のなかじゃ燃えないし、水の外で爆発してもしょうがないよ」 鼻男がそれにもっともらしい疑問をぶつける。一瞬鼻白んだ太郎だが、すぐに立て直すと 真っ赤になってライターを取り出した。 「父さんはこうやって取ったんだ。ほんとだって。それ、やるぞ」 「でも、えぇ、火遊びはだめだってお母さんが。やめよォよォ」 ぐずり始めた鼻男を尻目に、太郎は水槽に乗り出しライターに火を点ける。しかし、なか なかロケット花火に点火しようとしなかった。太郎の目は水槽の中で窮屈そうに泳ぐ熱帯魚 に注がれていた。 「でも、ねえ、やめようよォ」 鼻男はそんな太郎を見て、尚行為の中止を催促した。 「ねえ、やめよ」 鼻男が、躊躇う太郎の裾を引く。太郎はまだ熱帯魚を見ていた。暫くこの問答が続くと、 いつしか太郎の目は腫れぼったく充血していた。 「お父さんは、爆弾で魚をとったんだ」 「でも、水だから燃えないよう。火遊びもだめなんだよお」 「やってみなきゃわかんないだろ。あとおまえも共犯者だぞ。ちゃんと責任とるんだぞ」 それを聞いて、鼻男までもが目に涙を溜め始めた。鼻男はもう止めるようには言わなかっ たが、依然心細そうに、乗り出した太郎の裾を握っている。 ライターの火はまだ燃えていた。熱でライターの頭が変形してゆく。突っ張るように、熱 した金属に触れたプラスチックの部分が伸びてゆく。 「あちっ」 不意に太郎が喚いた。それに鼻男がびくりと反応する。喚いた本人も驚いた様子で、痛み のあった手を見た。ライターはすでにその手を離れていた。 二人は水槽に沈んでゆくライターを見た。水の中のライターの火は呆気なく消えていた。 ライターの頭が微かに黒く焦げていた。 水槽の中で、熱帯魚がぽちゃりと音を立てた。 次 「クレヨン」「砂」「蛍光灯」
309 :
名無し物書き@推敲中? :2009/07/04(土) 22:17:44
クレヨン、砂、蛍光灯 部屋は四方だけでなく、天井と床もコンクリートの壁で覆われていた。1辺3m 程度の立方体の部屋だ。天井には蛍光灯が1本だけあった。男は部屋の中央で椅子に 座り、テーブルの上で絵を描いていた。棒を握るように黒のクレヨンを持ち、力を 込めて線を描いていた。 女の髪にとりかかった時、男の靴が崩れて砂になり始めた。靴の形をした砂の 像が崩れていくようである。男は描き続けた。 目を丁寧に描いている時、既に男の下半身は砂になっていた。上半身が浮いている ような状態だ。手は動き続けた。男は変わらず描き続けた。 もう右腕しか残っていなかった。床と椅子には砂が積もっていた。残すは鼻だけ だった。男は変わらず描き続けた。 手首まで崩れてきた時、男は描き終えた。握っていたクレヨンを手放した。その瞬間 右手は一度に崩れ落ちた。 紙には微笑む女性が描かれていた。蛍光灯の光が消えた。
310 :
名無し物書き@推敲中? :2009/07/04(土) 22:21:05
次は「ウミガメ」「ふくろう」「山」で。
フクロウが山でウミガメを発見した。
312 :
名無し物書き@推敲中? :2009/07/05(日) 01:47:50
フクロウが山で海亀を発見した。 「滅多にない光景だなw」 フクロウは興味を引かれ海亀に話かけた。 「おい海亀さんや、ここは山でっせ。あんたがここにおったら海亀やのうて山亀さんになるがな」 すると海亀は首を長く伸ばし、フクロウの大きな目をまっすぐに見つめた。 「そなたが森で有名なフクロウ殿か。お初にお目にかかる。 わしはもう海亀として充分に生きたがのう、やり残したことがあるんじゃ」 「それはなんぞ?」 「百年間ずっと山の遥か上からわしらを照らしてくれた御天道様と御月様にまだ礼を言うておらん」 「なるほど。しかし礼を言うだけならどこからでもよかろう?」 「皆まで言わずともわかっておる、少しでもそばに行きたいのじゃ。 そしてわしも山の上から子や孫達の住む海を永遠に見守ってやりたいんじゃ」 そう言って海亀は山の頂にたどり着き、感謝と祈りを捧げながら死んだ。 フクロウは死んだ海亀の背に乗り朝日の昇る海を見た。 「見てみぃ海亀さん…綺麗やで」 次「死体」「芸術的」「アイドル」
フクロウが山でアイドルの芸術的な死体を発見した。
またかよw
──君のためなら僕はモンタギューの名を捨てよう。僕はロミオ。それ以外の名前はいらない。 ひらひらフリルのドレスを着て、体育館の舞台にわたしは横たわっている。 ジュリエット、ああ、なんていうことだ。言われて、いや文子ですから、内心つっこむ。 死体、といっても仮死なのだが、ロミオこと創介が後追い自殺するまで、わたしは横たわっている。 そもそも文化祭に出ることになったのは、わたしの居眠りが原因だ。 授業中、静かに眠るわたしを見て、演劇部の顧問である先生がジュリエット役に指名した。 でも、そもそも居眠りすることになった原因は、創介だ。 最後の通し稽古の後、カラオケに行くぞ。モンタギュー、本名は忘れたが劇団の団長、 隣のクラスの学級委員に誘われて、団員全員で、ついていった。エレベーターで七階にあがり、 扉がひらくとどう見ても居酒屋で、サワーで乾杯、焼き鳥、刺身をやっつけて、八階のカラオケフロアへ。 高校生なのに。思っても、帰るわけにもいかない。 文子も何か歌えよ。創介が隣に座った。下の名前で呼び捨てですか、そうですか。 曲目リストを手に取る。いまどきアイドルの曲なんて歌えない。アニソンも死ねる。得意すぎて……。 結局わたしは歌わずにひたすら呑んで、呑んで、呑んだ。 創介も負けじと呑む、呑む、呑む。好きな人とかいるの。聞かれて、 え、時間? そうねだいたいね。そんなふうに誤魔化した。 授業が始まっても、わたしはひどい二日酔い、仮死状態。 思うのだけど、ジュリエットはロミオがやってきたとき、意識があったのでは。 そして、ロミオが死ぬのをただ黙って見ていた。 なぜ? そのほうが芸術的だから? 否。 ジュリエットは、名前だけでは信じられなかったのだ。ロミオの死をもって、愛を確かめた。 これでロミオはジュリエットのもの。永遠に。 「パラシュート」「リミット」「サイズ」でよろしこ。
パラシュートなしで人はどれだけの高さから飛び降りられるのか。 ジャッキー・チェンに憧れていた俺は1日1センチずつ高さを上げ、毎日飛び降りる訓練を続け、 今ではその辺のビル程度の高さからなら余裕で飛べる。 ジャッキーも既にどうでもよくなり、飛び降りることが俺の人生となっていた。 しかし、三十代半ばを過ぎるとリミットが近づいてきていることを感じざるを得なくなってきた。 このまま衰えていくぐらいなら死んだ方がマシ──そう、飛び降り自殺をしてやろうじゃないか。 俺はヘリを用意し、雲の上から全裸で飛び降りた。 今まで感じたことのない風と興奮で股間のサイズは人生最大となり、俺は空中に精液を撒き散らした。 俺は空をレイプすることに成功したのだ。 さぁ、次は大地だ──! 次は「妹」「猫」「マシンガン」で
妹 猫 マシンガン 「もう!…」「あんたみたいな能無し…」「さっさとすませて…」 遠くの方で誰かがどなっているのが聞こえたような気がした。 私はテレビの中の画面のお笑いタレントが自分の鬼嫁から日夜受けている仕打ちを面白おかしく話す自虐行為を見つめながらクスッと一つ笑った。 相変わらず遠くでは、悪魔の姿をした嫁のマシンガントークも聞こえていた。 目の前の悪魔には決して視線を合わせないように細心の注意を払い立ち上がろうとすると可愛い猫の ぐるり と目線が合った。 何か言いたげなその目をみつめているとニャーと鳴き嫁の方へひょいと位置を変えた。 「そうかお前は悪魔の味方か…」そうつぶやき悪魔からの指令のお風呂掃除に向かう。 浴槽をゴシゴシ磨いていると、いつもの人格が姿を現した。 マサミという女の子で九州から上京して働きながら女優を目指している26歳の人格。 それは何となく九州の実家にいる優しく、兄想いの妹の姿に似ていた。 最近、奇妙な症例が報告されていた。 本来は、幼児期に親から極度の虐待を受け続けた際に発生する多重人格症。 それが今、30代から40代の既婚男性の中に現れているというのだ…
次は「海岸」「のぞき窓」「手相」で
海岸にそびえ立つ館で占い師の男がのぞき窓から手相を見て生活していた。 少々不気味だがものすごくよく当たるらしい。 彼に生命線が短いと言われた客は例外なく近々謎の死を遂げるという。 そして最近では中年夫婦の間でちょっとしたブームになっている。 次「殺し屋」「天使」「雷」
無理やり流したなw
322 :
「殺し屋」「天使」「雷」 :2009/07/29(水) 10:34:03
少年は殺し屋に狙われていた。 親切そうな顔をした中年の警察官に助けを求めた少年がドアの隙間から見たものは、 殺し屋に連絡する警察官の姿。警察官は少年を殺し屋に引き渡そうとしていた。 「もう誰も信じられない。」少年は思った。 メイド、肉屋、花屋、その後ろに殺し屋。少年は路地に追い詰められた。 町中が少年の敵だった。 「もうだめだ。」少年が諦めかけた時、上空から真っ白な姿の女性が現れ、指先から 雷を放った。バタバタと倒れる殺し屋とその仲間たち。 宙に浮かんだその真っ白な女性が少年を救ったのだ。その姿はまさに天使そのもの。 真っ白な女性は少年を見下ろし優しく微笑んだ。 「バケモノ!」少年が叫んだ。無理もない。その真っ白な女性はあまりに部細工だった。 少年は雷にうたれた。 「コタツ」「ジレンマ」「砂漠」
323 :
名無し物書き@推敲中? :2009/08/08(土) 21:05:41
コタツ、ジレンマ、砂漠 そういえば、昔エジプトに旅行に行ったときも、このぐらい暑かったなあ。 コタツの中に潜り込んでるみたいで、身体中が熱気に包まれているって、本当 に感じた。熱の服を着ているみたいだったな。ホント砂漠は地獄だね。ああ、 何であの時迷ったんだろう。砂漠を歩こうか、どうかなんて。砂漠なんて危険 過ぎる、でも行かないのはチャンスを捨てるみたいなもんだ、どうしようか、 なんて迷ったのが今はバカらしい。なんで地獄に行くかどうかで迷うんだ。な んてアホなジレンマだ。そうだ、よくよく考えてみると、コタツと砂漠を比べ ることもバカらしい。こうやってコタツの中に潜り込んでいることが、砂漠の 上を歩いていることと比べると、どんなに快適なことか。ちょっとぬるいだけ じゃないか、コタツの中は。それをあんな地獄とくらべるとは……あれ、何か 暑くなってきたぞ。汗がにじみ出てきた。どうなってるんだ。ここはコタツの 中……のはず、あら、そうだったっけ、砂漠の上にいるんじゃなかったっけ。 いや、コタツの中だ、そのはずだ。だって砂漠のことを思い出していたんだも の……んう、怪しいぞ。俺は砂漠を思ってたのか、それとも、コタツを、あん、 コタツは夢だっけ、砂漠は記憶だっけ、逆だっけ、どうだっけ、えと、俺 次は「バレー」「せんべい」「パトカー」で
324 :
名無し物書き@推敲中? :2009/08/08(土) 23:41:35
茅ヶ崎ではこの夏、SV(せんべいバレー)が流行っている。 SVのルールは非常に厳しく、原則を無視するものは地元警察による逮捕も辞さないというのが SVを推進する米菓かたさ度表示推進委員会の総意であり、茅ヶ崎に名を連ねるサーファー達の総意でもあった。 そして、故郷を離れ鳥取から出てきた色白のキモカワ系レシーバー・貧太郎は、 来月の末にサザンビーチにて行われるアマチュア大会で優勝と栄光とを手にする野望を持って、 この日、きたちがさきのホームに降り立った・・・容姿が規律に抵触するともしらず・・・貧太郎の背後には、 今まさにダイハツテリオスの皮を被った覆面パトカーが迫っていた・・・ 「肉じゃが」 「生霊」 「夢」で
325 :
名無し物書き@推敲中? :2009/08/09(日) 06:38:05
お題「肉じゃが」「生霊」「夢」 失言癖のある俺が彼女と付き合い始めたきっかけは飲み会の席でのことだ。 肉じゃがを摘まみながら隣に座った友達と談笑していた時、向かいの席で急に彼女が泣き出した のだが、どうやら俺のその時の慰め方がいたく気に入ったらしい。特に第一声の、 「どした?生霊みたいな顔して」 というのは心底ツボに入ったらしく、今でも有り得ないとネタにされる。 結果的にそれが縁で彼女と付き合う事になったのでそれはそれで良いのだが、確かに大いに反省 すべき内容だ。 今日、彼女にプロポーズするにあたり、その点を踏まえて何度もシミュレーションをしたのだが かなり不安でならない。あまりに不安になったので出かける前におさらいをする。 「君とずっと一緒の夢をみていたいんだ」 うん、このセリフはいいぞ。あとはどうやってそこまで漕ぎ着けるかだ。などとテンションを 上げた時、突如背後から物凄い笑い声が聞こえたので思わず飛びのいた。 振り向くと彼女がいる。思いっきり腹を抱えて笑い、大粒の涙を流す彼女が。 どうやら夢中になりすぎて玄関が開く音すら聞こえていなかったらしい。 実に気不味い。だが、気不味い空気を振り払い改めて聞くことにした。この際引くに引けない。 「いい?」 散々練習したセリフは既に何処かへと吹っ飛んでしまっている。 だが彼女はこくこくと頷いてくれた。笑うことなく大粒の涙をぽろぽろと流し、ただこくこくと。 15行って難しいな。スマンが少しオーバーしちまった。 では次の方「部屋」「ポロシャツ」「単語帳}でお願いします。
ネット通販で買ったポロシャツが小さすぎた。 サイズ、MはMでも、どうやらレディース向けの商品だったらしい。 試しに着てみるとぴちぴちで、何か特殊なゴムスーツを身につけているようだった。 でも仕方がない。他の服は全て、洗濯して乾かしている最中だった。 それに筋トレが僕のマイブームでもあった。 他人に胸板の厚さや二の腕の太さを見せることが出来るので、この服はまんざら嫌でもない。 鏡の前に立つと、袖から脇毛がはみ出ていたので、それを剃ってから部屋を出た。 繁華街行きのバスに乗ったとき、セーラー服の女子高生が僕にちょっと目を遣ってきた。 しかしすぐ、何事もなかったかのように、手の中で開いている単語帳へ、視線を戻した。 どうだ。別に僕の服装は変じゃないのだ。 嬉しくなって、吊革につかまる腕に力を入れるなどし、周囲に筋肉アピールをした。 到着すると、うどん屋できつねうどんを食べた。唐辛子を山のように振りかける。特大。男は辛党で、大食いであるべきだ。 次に目的地であった服屋に行き、味を占めた僕は、今来ているのと同じくらいのサイズの服を買った。 プレゼントの包装を致しましょうか、と店員が聞いてきたが、自分で着ます、と僕は答えた。 店員の顔に理解の色が浮かび、なるほどという目をした。僕は誇らしくなった。 帰ると、ポケットの中に部屋の鍵がないことに気づいた。 ちょっと立ち往生していると、隣人の女性が、挨拶がてらに「ちょっと小さい服ですね」と言った。 隣人はすぐ部屋に引っ込んだが、彼女の我慢したような笑い声は聞こえてきた。 僕は汗が出てきた。歩いたせいか、昼間に食べたうどんの唐辛子が利いてきたのか……。 どうしよう。ぴちぴちの服でボンレスハムみたいになりながら、汗まみれの僕を、通りすがりの人はどう思うだろう。 どうしようどうしよう。買い物袋を抱えて、ずっとそこに突っ立っていた。
1/2 突然のお手紙申し訳ありません。今から語る内容は御社の発行している週間雑誌に載せていただければと思い、筆をとりました。 もし興味をひかれたのなら下に明記している連絡先まで一報いただければと思います。 さて、今テレビなどで取り上げられてている悲劇のピアニストのことはご存知でしょうか? 年齢が十にも満たない盲目の少年のことです。 まだ未完成ながらも才能の片鱗を感じさせる音を奏でていると思います。私も昔はピアニストでしたので耳に自信はあります。 彼のスター性は演奏だけではなく、その生い立ちにあると思います。父親を亡くし、事故で視力を奪われ、まるでオペラの悲劇の主人公のように幼い身体に様々なものを背負っています。 しかし私はそこに疑問を感じます。彼は虐待を受けているのではないかと。 なぜなら私こそが彼の父親ですから。当然、虐待しているのは彼の母親です。 私が彼女と出会ったのは、私がピアニストとして名が売れ出した頃です。雨の日に彼女が運転する車に水を掛けられたのが初めての出会いだと私は思っています。 申し訳なさそうに謝る彼女の容姿は美しく、私もつい下心から連絡先を教えてしまいました。翌日に私の汚れたポロシャツとまったく同じ柄・サイズのものを持ってお詫びに来てくれたときは、なんと礼儀正しい子だと感動しました。 そこから親交が深まり、交際を通じて結婚に至りました。 婚約して一年経ち、順風満帆な結婚生活でついに子供ができたことを知りました。そんな幸せな日々の中、些細な衝突がありました。妻は子の将来はピアニストと決めている節がありました。 音楽の道を諦めた私は断固反対しました。せめて選択肢の一つであってほしかったのです。その翌日に妻はいなくなりました。書置きには一言「あなたはもう用済みです」
2/2 私は妻と子を探すために日々を費やしました。そこで気づいてしまいました。妻の望んでいたものに。 妻の部屋の押入れにガムテープで巻かれた段ボール箱がありました。中には昔の日記や出会う前の私の写真、私の趣味を詳細に書いた単語帳などが見つかったのです。 日記帳には音大生のときに事故で指の腱を切ってしまい、ピアニストの道を諦めざるをえなくなった妻の悲しみがつづってありました。 ここまで書くともうお分かりかと思いますが、妻は子供をピアニストにするためには手段を選ぶような人間ではないということです。 私は子供のことが心配で仕方がありません。どうか、この事実を白日の下に晒していただきたいと願っています。 お題流しのついでに没作を。これ以上削れませんでした。 次、「ハンガー」「ガム」「カーテン」
「今、何月だっけ?」 わざわざカーテンを開けて泣きやまない雨を眺めながら巴がぼやく。何度も繰り返す問いに呆れながら僕はしっとりと湿ったTシャツを手に取る。 「そろそろ夏休みだね。巴も手伝ってよ。それに雨なんだしカーテン閉じてね」 一人暮らしとはいえ、3日分の洗濯物を全てこの狭い部屋に干すのは骨が折れる。 「何。せっかく遊びに来たのに家事やれって? それにハンガー渡してるでしょ」 明日提出の宿題を写しに来た巴が、長い黒髪を畳に広げて言う。電灯の真下にいて尚、ツヤのある髪は黒く輝くだけだった。 家に唯一あるバスタオルをパッと広げると、ふわりと洗剤の香りが部屋全体に広がった。心地よさそうに巴が目を細める。 「最後……と。本当に何もしないよね、巴って」 小さな口を微かに動かしていた巴が片目だけを開いて、勢いよく立ち上がった。 「昔から私はハンガー担当で、あんたが干すって決まってるの」 髪をなびかせて台所に行く巴からは、洗剤の匂いとはまた違った甘い香りが漂ってきた。 昔、母さんに言いつけられた仕事を巴と二人でしていた時、良いところを見せたかった僕は背が届きもしないのに一生懸命ハンガー目指して手を伸ばしていたのだった。 ものぐさな巴に「僕が干すから巴はハンガー渡してね」と言ったはいいが結局どうしようもなくて二人で肩車をして洗濯棒に一枚一枚干していったんだっけ。 あの時は二人して喜んで、それから……。 「はい」 巴が一枚のガムを差し出していた。柔らかい笑顔に誘われるまま、紫色のガムを口にいれて何度か噛む。 もう今では甘すぎて食べなくなっていたのに、こうして何かが終わる区切りにはこのグレープガムと二人で食べるようにしている。 「ほら、晴れた」 開かれたカーテンの先に、久しぶりの青空が灰色の雲の隙間から広がっている。 こうして二人で味がなくなるまで顎を動かしていると、いつの間にか日溜まりの中にいたから。 15行難しい…… 「公園」「風船」「手」
330 :
公園 風船 手 :2009/08/23(日) 19:07:01
手を怪我したので仕事をやめた。万力で潰されたようにひしゃげてしまったのだ。それはさておき 夏なのに手袋をして外を歩くのは少しむさくるしい。だから日課である散歩は夜もあけやらぬ朝方 にすることにした。 誰もすれ違う者はいなかった。当り前なのだ。まだ丑三つ時をすぎて間もないといっていいくらい だ。でも少し歩いただけで汗が頬をつたう。俺はベンチに座った。大きな蛾が灯りに舞っていた。 チリチリいってるそれに気をとらわれていると、薄闇のカーブのむこうから黒服の少女が歩いてき た。闇と楕円に照らされた光のなかを交互に姿を現し消しながら。俺のわきに座った。 「おっちゃんけったいな手袋つけてんな。暑いやろ」 少女の目はとても大きくて涙をたたえたように艶があった。 「手を見られたくないからね。仕方ないんだ」 少女は笑った。「こんな暗いところじゃ誰も見られひんし、誰もいんわな」 「まあ、そうだね」と俺はいった。 すると少女はゴソゴソとポケットに手を突っ込んで薄い縦長のガムを取り出すと包み紙を丁寧に外 して口にさしこんだ。そして俺にもと指で押すようにして顔の前にひょいとちらつかせる。 俺はかたわだからもじもじした。すると少女はうれしそうにわかったというような笑みをして、俺の 片方のつぶれた手を仔細に検分しながら、またさっきと同じように丁寧に包み紙をガムから外して 俺の口にそれをさし込んできた。 「おっちゃん、手ぇ痛いか?」 「今は痛くない」 今にして気づいたことだが、少女は家電量販店の広告の入った緑色の風船を腰からぶら下げて いた。 「おっちゃん手ぇ重そうや」 少女は紐で腰に複雑に結ばれていた風船を外して俺の手首に結びつけた。 「これで軽なった?」 俺はいった。 「軽なるわけないやろ」 それで少女は暗闇を直視したままガムをくちゃくちゃした。なるほど。だから俺もそうすることにした。 「ベルリン」「石畳」「声」
祈りの声、蹄の音、歌う様なざわめき。私を置き去りに過ぎていく白い朝。 石畳の街角を、ゆらゆらと彷徨う。「ベルリンの壁が崩壊したのは、いつの事だろう?」 時間旅行が、心の傷を何故かしら埋めていく、不思議な道。 「あなたにとって、私、ただの通りすがり?」悲しみを持て余す。 次 「ネット犯罪」「心霊現象」「ヒップホップ」
探偵Kはこのようにして犯罪にまきこまれたのである。 ある日、彼にもたらされた依頼はインターネット上で連鎖する心霊現象に関する調査だった。限り なく公的な機関からの依頼であったのだが、内容はいささか霧につつみこまれたような、本質をつ かみがたいものであった。実に心霊現象といいながら、具体的な現象はまったく示されずに、とに かく調査をしてくれというものだった。雲を掴むような依頼なのだが、でも彼は金銭以上に乗り気な のはいうまでもない。なぜならこれを成し遂げれば公的な依頼である以上、また次の仕事につな がる可能性は高いからだ。 彼はネット上で偶然にも、ある匿名の女からこの謎を解き明かす鍵を私はもっているとの連絡を受け この部屋にやって来たのだ。 彼が部屋の扉を開いたとき、目につくのはベッドに横たわる裸の女、そしてパソコンのディスプレイが 薄闇にうかびあがる光景だった。 彼は確信もなく女の臍のあたりに手を置いた。まだいくぶん体温が残ってはいたもののまったく微動 だにせず、もはや生命の感覚はそこに残されているとは思われなかった。パソコンからはひどく小さ な音でヒップホップの軽やかなリズムが聴こえていた。彼は不思議に思う。この女が故意にそれを流 していたとは思えなかったのだ。どちらかといえば女の印象は古典的だった。 パソコンの履歴として残るものは彼とコンタクトをとったメッセージ(・・・あれは・・・ではありません ・・・悪意を持った人物による故意的なネット犯罪なの・・・)と、意外なことに残りはセクシャルなもの ばかりであることがわかった。セクシャルな動画、閲覧履歴・・・。 彼はベッドに横たわる女をのぞきこむ。彼女からはまったく卑猥で、サドマゾチックな印象はやはり 受けない。 彼は女に触れた。やはり微かにあたたかかった。今度は手におさまるほどの胸を掴んで肉付きの いい脇腹を撫でた。まったくの無反応。そうだ、この女は無なのだ。 彼は服を脱いだ。女とかさなりあう。そして何度も射精をした。 しかし、いつしか女は感じだす。あの女が感じ出しただと?ヒップホップは音量をましていた。彼らをま るで励ました。いったい誰がこんなにも音をでかくしたんだ。部屋には俺たち以外誰もいないのに。 おまけにいったいどうして、これは、こんなにも俺を感じたりするんだ。
「女子高生」「雨」「アナウンス」
十年ぶりの帰郷、実家まであと少しの踏切で突然の雨。土砂降りの雨。空はこんなに晴れているのに。 ふと気付く。踏み切りの向こう側に女子高生がたっている。全体が陽炎みたいではっきりしない輪郭。表情も長い前髪でよく分からない。だが微かに口元は微笑んでいるようにみえる。僕はもうそれから目を逸らす事ができなった。 少女の胸の辺りに黒い点が滲む。何かと思いじっと見つめると、それは徐々に広がっていきサッカーボールくらいの穴になった。 穴は貫通していて向こうの景色が見えた。それは僕の閉じ込めていた青い記憶だった。 必死に自転車を漕ぐ青年。杉林に響くアナウンス。 「今日S町の崖で女の子が転落しているのが見つかりました。……」 荒い息。白い肌。……人工呼吸。初めての口付け。人工呼吸。初めての……。 「カンカンカン」 警報の音にはっとして目を上げる。電車が音もなく流れて行く。最後が過ぎていった後彼女はもう向こう側にはいなかった。 蝉の声がボリュームを上げていき五月蝿いと感じるくらいでようやく我にかえる。ゆっくりと遮断機が上がる。僕はしばらくの間ぼーっとつっ立っていた。雨はいつの間にか止んでいた。遠くにあるはずの入道雲が今にも覆い被ろうとしていた。 僕は振り返り歩き出した。背中に次第に大きくなっていく入道雲を感じながら。
次は 「シグナル」「エウロパ」「ブランデー」 でお願いします。
惑星エウロパが張りぼて≠ナあったという事実は全人類に衝撃を与えた。エウロパはそもそも 半円球であり、木星の自転・公転にあわせ常に地球にその前面部分を向けていただけというのだ から驚きである。歴史上一番の驚愕といっても間違いではない。そのような巨大な物体が造られ、 限りなく精緻に操作されており、また明らかに何かしらの目的をそこから感じられるとしたら、これ は地球外生命体、しかも高度な知性を持った生命体からのシグナルやらメッセージが含まれてい るに違いがないわけだからである。こうした発見はフィジー諸島でバカンス中であった素人の天体 観測家によって偶然発見された(なにせ惑星の表面に隕石によって穴が開き向う側が見えていた) のだが、当初疑われたのは米露どちらかの宇宙計画の一端ではないかというものであった。もちろ ん現代科学においてこのような事実は圧倒的優位性をもって否定されたのはいうまでもない。 となればやはり宇宙人による・・・。 「でも、これが宇宙人によるったって、俺たちに何の影響があるんだい?」 この文言は地球のどこかしこで聞かれたのもだ。何十年何百年、さらにずっと前からかも知れない 間こうした操作が行われているにもかかわらず、地球にはいっさい手を出されていないのだとしたら、 今更騒ごうがどうってことはないのだ。 「宇宙人も暇なんだな。こんなことして何んなるんだろね?」 世界の一歩先を行く日本国、秋葉では早くも天体観測喫茶が登場し話題をよんでいた。店内に設 置された大画面に映し出されたぼんやりとしたエウロパを眺めながらとあるサラリーマンがいった 言葉である。実際に彼はまったく宇宙の神秘になど興味はなく、興味本位のOLとひと晩をともに したいだけであった。さらにいうなればOLでさえもう宇宙などどうでもよくなっていた。 「ねえ、なに飲んでるの?」 「これブランデー」 「は?ここ喫茶店だよ。でもおいしそう、ちょっと飲ませて」 OLは男に肩をよせながらグラスを手にとった。水滴のついたそれは熱帯夜のこの日、喉越しよく OLの胃へとなだれ込んでいったが、何故かふにおちない表情を見せた。 (これがブランデー?) OLが不思議がるのも無理はない。なにせ口にしたブランデーなるものは砂糖が微量に入った麦 茶の味のような気がしたのだから。
「睡魔」「アナウンサー」「パスタ」
338 :
「睡魔」「アナウンサー」「パスタ」 :2009/09/13(日) 01:49:46
「皆さん今晩は。眠れないひと時、いかがお過ごしでしょうか」…… 小さな店を始めた頃、寝つきの悪い私は、ラジオから流れるこの アナウンサーの声を聞くことだけが日課でした。 夜が明けるまで一晩中布団の上で声を出して笑い、そして泣き、 毎晩一睡もすることなく雨の日も風の日も、早朝から店へ出たのです。 辛かったこと? 昼に眠気が襲ってくるように店内で体を動かし、 コンディションを整えるのが、一番辛かったことです。 シェフの気まぐれパスタ。 睡魔に体を支配させることで可能になる、 尋常ではありえない隠し味と大胆なさじ加減が、 OLに大人気になった、味の秘密です。 次は「太陽」「ごみ箱」「憎いあいつ」で
339 :
名無し物書き@推敲中? :2009/09/13(日) 11:48:17
俺はふらつく足を片方ごみ箱に突っ込みながら、憎いあいつのことを思い出して太陽を見上げた。 次回:「夢精」「たらこ」「美術館」
夢精したらこんな美術館になった 次は「太陽」「ごみ箱」「憎いあいつ」で
341 :
名無し物書き@推敲中? :2009/09/13(日) 16:35:28
俺はふらつく足を片方太陽に突っ込みながら、憎いあいつのことを思い出してごみ箱を見上げた。 次回:「夢精」「たらこ」「美術館」
「無責任だよ、そんなの。」 あの日は何処に居たんだっけ…。そうか、確か美術館の前で入り口に飾られた魚の絵を見ていて、それから、口論になった。 柔らかそうなピンク色の魚がまるでタラコみたい、って。笑って言う顔が可愛くて、意地悪がてら「好きだ」って言った。 青臭い話だけど、その時は本当に、淡く描かれたピンクの絵も、それをタラコみたいって笑う君も、自然に見えて。 これじゃ恋みたいだから、「夢精って字だけ見ると綺麗だよね、まぁ女の子で言う気付かないでくる生理みたいなもんだけど。」とか、自分でもよく解らないしょうもないことを口にして、 気付いたら彼女は泣いてた。 怒ったように。僕を睨んで。ピンクの魚の絵まで冷えて萎んでいくみたいで。 「夢の中にまで呼び出しておいて、タラコの夢まで見せておいて、君が何をしたいのか分からない。美術館の沢山の絵も見ようとしない。夢精が字として綺麗だとか、確かにそうかもしれないけど、嫌なの。嫌だ、そんなの。」 …空が青くて。それが悲惨な暴力みたいで。もう一秒も彼女を見てられなかった。僕にも彼女が誰なのか、何なのか、分からなくなって居たんだ。 何がなんだか分からない言葉を選び出す、唇はすぐそこにある。 だけどもうそれが、ピンクの絵、タラコ、夢精の話、青い空、暴力、萎んだ日と魚…全部ごちゃ混ぜになっていて。苛々して、疲れて、逃げ出したかった。 「…無責任だよ」 その言葉だけ撃ち込まれた鉛みたいに冷えて。その場所がもう胸か頭か、僕の外側か内側かも分からない。 今じゃきっと僕ら、気付いてる。 僕らはただ手を繋いで美術館に入ればよかった。 「つまんなかったね」なんて言いながらアイスを食べたり、躓く彼女を馬鹿にして、君が怒って、その後に笑って。 普通に続きをして、つかず離れずや別れるをすればよかった。それをしたかった、多分。 硬化するコンクリート。青いだけの空。行き急ぐ人も美術館も実感を無くして、色のないタラコクリームだけここにある。 「愛してるよ」「無責任」「分かってない」「好きだよ」 あの日に取り残されたまま、無責任な美術館と街に追い立てられる。 ――見つけて。探して。 虚ろな街で「好きだよ」って。もうあの日の前に、帰れたらいいのに。 時間に逆らえず、秋だけ落ちてくる。あの絵に取り残されたまま、僕らに。
次は、「電卓」「待ち人」「痺れクラゲ」でお願いします。
「それ返せよ」 歩いていた私を呼び止める二十歳前後の若者。怒っている?なぜ? 「それだよおっさん」 私の鞄を乱暴に引ったくり中を開いている。 夕方の帰宅時間人通りは多い。 若者に絡まれている私を誰も助けてはくれない。 若者は電卓を取り出し、だぶだぶのズボンのポケットに無理くり入れる。 私は呆気に取られている。というより怖い。怖さがむず痒い。 鞄から私の万年筆、雑誌(SPA)、書きかけの手帳、何枚かの書類、痺れクラゲを取りだし両手一杯に持つ。 痺れクラゲ?なぜ?痺れクラゲが私の鞄に? 「いいよ、おっさん帰ってよし」 笑を浮かべる若者は抱えきれないほどのお菓子を一杯貰った時の幼子のようであり、 私は長いこと逢っていない息子を不図思い出した。 私は待っていた。長いこと待っていた。ようやく待ち人が現れたことに気付いた。 おかえり。健太・・・ 若者はもういなかった。 私は中身の無くなった鞄を手に取りまた歩き出した。 次は「祈り」「不眠症」「鍵穴」で。
「祈り?なぁに、それ。」 二人で体育座りをして薄明かりの中聞いてみた俺は、面食らわざるを得なかった。 彼女は誰よりも祈っているように見えたものだから。それを心配もしたし、見てもいられなかったし。寧ろ結構な度合いで俺だって悩んで疲れていたんだ。 「君は知ってると思ってたけど…」 恐る恐る、聞く。俺はこの子に、正直身構えてしまう。半分以上くらい怖い。あとは多分、興味。 察したように、小首を傾げ話し出す声。 「多分、不眠症だからだと思う」 …混乱するしかない。が、耳を澄ましてしまう。次にきっと答がくるから。 「眠れないとね、多分祈りに塗れすぎて分からなくなるの。過剰に摂取して嘘にされるのが、やなんだ。元々少ない方がいいんだよ。だからね、あんまり分かりたくない。」 よく解らないけど、なんとなく納得。探られるのが嫌なわけ。難しいな。 「ねぇ、アリスの本、読んで。」 どうしてかは図り知らないが、この子は真鍮の鍵穴に兎が小さな鍵を差し込む場面を気に入っている。 昔、兎が背を伸ばすのが可愛いし、アリスと時計男爵が「おかえり」って言うのが安心する、と言っていたような。 まぁ、どっちでもいいや。 「アリス、イン、ワンダーランド。昔々…」 子供のお守りは正直、面倒。だから多分余り考え過ぎない方がいい。 神様だとか、この子にしたら多分どうでもいいわけで、俺もホントは余り興味が無い。 「…おかえり。」 その場面で目を合わせて笑う。 不眠症の夢は続く、橙の明かりに体育座りで。 アリス、イン、ワンダーランド。 今この時間の方が、よっぽど祈りだと気付いてみたり。それはまた本筋とは、別のお話し。 「嫌い嫌い」「あまのじゃく」「ほうれん草のスープ」
ほうれん草のスープのような池から這い上がった天の邪鬼のグドンは辺りを見回した。 しかし景色はいつもと変わらず、空は厚い雲に覆われ、大地は荊と毒草で地面が見えない。うんざりするいつもの光景だ。 彼が別の世界の存在を知ったのは数週間前。芋虫の婆さんに死ぬ前に何か言うことはあるかと聞いたところ、信じられないようなことを語り出した。 「太陽が降り注ぎ花達が笑い咲き誇り、鳥達が楽しそうに歌う。そんな世界がわしらのすぐそばに存在する。」 それはどこにあるのか尋ねたが、婆さんは其処までは知らないと言った。 池に潜っていたのも悪友のグズが池に一時間潜って上がれば別の世界に行けると言ったからだ。だがどうやら担がれたみたいだ。奴は後で殺さなければ。 近くの岩に腰を下ろし溜め息をつく。 「もう嫌だ…… 嫌だ…… 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…… うんざりだ……」 母さんに会いたい。ほとんど記憶はないが、とても優しかった気がする。父はどうしようもない奴だった。最後まで救えないくずだった。思い出したくもない。母さん。母さん…… グドンは泣いた。大声で泣いた。もう声が出なくなるというほど泣いた。しかし彼を慰めてくれる者はいなかった。大地はすでに悲しみで飽和状態だったので彼の鳴き声は空の雲に吸い込まれた。そして雷を起こし、激しい雨を降らせた。 グドンは雨のなかよろよろと立ち上がり、ぽーんと池に身を投げた。そしてゆっくりと、ゆっくりと沈んでいった。瞼の裏に浮かぶ朧気な母の姿に微笑みながら。 次「北極」「観測」「疑念」
347 :
名無し物書き@推敲中? :2009/09/19(土) 01:14:37
北丹後地震による死傷者は1万人を超えていた 極限状態で人は決して抗えない力を知り畏れ祈った 観念し呆然となる群衆のなか決して歩みを止めない者達がいた 測定結果は一つの答えを導き出す 疑点疑団は数あれど 念仏はもう聞こえない 次「タテ」「読み」「ごめんなさい」
栄誉ある騎士である夫が、浮気をした。それだけなら、良い。私は夫を愛しているから。 でも、夫は私との離縁を裁判所に訴え、認められた。賄賂と、夫の浮気相手の公爵令嬢の力だった。 私は兄さんに縋った。私を、妹として以上に愛している兄さんは、頼み通り、夫に決闘を申し込んでくれた。 夫は御前試合さえ任されるほどの手練れで、青白い兄さんがかなうような相手ではない。 でも私は兄さんに、夫の癖、隙を教えた。踏み込みの後に、剣先がタテに動いたときは追撃はない、 その瞬間にこちらが踏み込めば勝てる、そう言った。兄はそれだけを頭と体にすり込んだ。 決闘。兄が防戦を続ける。夫は余裕を見せている。その背後であの女が声援を送っている。 私より若くて華やかな女。なぜ私の夫の後ろに、私の夫なのに、私は離婚なんて認めていない…… その瞬間、夫の剣先がタテに揺れる。その機を読み、兄さんが飛び出す。草が舞い剣が伸びる。 兄さんの剣先は夫の胸に突き刺さり、一瞬のしなりの残像を残して深々と、骨の隙間から命に届いた―― 命を失い、夫が倒れる。同時に、夫の剣に胸を貫かれていた兄も、絶命して倒れた。 ごめんなさい、兄さん。夫の剣先がタテに揺れるのは、そう、得意の追撃に移る合図なの。 でも、兄さんの剣を夫に届かせるには、相打ちしかなかったのだもの。許して頂戴。 私は隠し持っていたナイフで自分の喉を引き裂いた。 何もわからず呆然としている女を視線で嘲りながら、私の夫の後を追った。 次は「金曜」「深夜」「一時」でお願いします。
『金曜日深夜のフライトゥナイトエモーション!始まりましたねぇ〜今夜は…』 …っせーな。苛立って左手でラジオを止める。嘘臭え喋り過ぎは苛々すんだよ。くそっ 目前に打ち付けられる雨。その一粒一粒までもが神経を逆撫でる。俺は一体何に苛立っている?思考の一つ一つが苛立ちの原因になるようで。 いっそアクセルを踏むのなんて止めちまえばいい。思う程踏み込むから笑えてくる。今の時速?知らねえ。200でも800でも出ればいい。 掻っ払ったポンコツの割りにはよく走る。ハハッ、上がってきた! 脳梗塞とゴミ屑みたいな毎日の上塗りにキレて、俺が選んだ犯罪は「窃盗」。盗んだのは高級でもねえ車一台だ。盗めりゃ何でもよかったんだ。理由?走りたかったからです。 犯罪者の手本みたいな思考にゾクゾクして口笛を吹く。ヒュー。俺ユートーセーだからね。 急カーブ!右! 勢いに任せてハンドルを切るとタイヤが擦れ軋み歪む感触。やべー窓閉めっぱなのにゴムの焼ける臭いまで感じるわ。アドレナリン止まんねー。 因みに銃も盗んだ。ポリが寝てたから使えたらラッキー位のついで。当前の事だけどポリは俺が寝かした。まぁそーだよね。 『そこの車止まりなさい!』 サイレンと共に聞こえる割れた声。そーそーそうこなくっちゃねぇ、面白くねえからもっともっ… 目を奪われる。今、深夜…1:00?ガキが突っ立って詰まらなそうに、俺を眺めてた。…俺を? …っそ、左! なんとか曲がり切る。けど2秒前とは違う。何もかも違う。汗。疑惑。少年。冷めた目。震える。盗み。助手席。女。 じゅ、銃、銃の使い方、ネットで読んだ、頭、平気、 倒した助手席から笑い声が聞こえる。 クスクス…クス…だから言ったのに…ふふ、可笑しい…クスクス サイレン、赤、割れた音 「…っははは!」 どーせ死ぬんだ、やってやるよ! 銃に手を伸ばしたその時 ―――ドン! 衝撃と共に回転する視界。しょ…げき…後ろ?ポリ…違う、近く… 振り返ったそこには… ピッ。俺はテレビを消した。横では人が死んでる。そう、死んでるね。 やっぱテレビなんてリアルねえなー。 死体の頬にゆっくり指を滑らせる。にこ、と笑いかけてみる。今回の世にもはイマイチだったな。 次は何を見ようか。ね?しーちゃん。
「愛好家」「つがい」「無理心中」
「 ……世の中間違っている 」 連日連夜繰り返される、薬剤愛好家夫婦のテレビ報道を見ながら男は呟く。 虚ろな目をした男の妻は無言だった。 「 もう死んだほうがいいだろ 」 男は妻に問い掛ける。妻の表情は変わらない。 窓の外を赤とんぼのつがいが空を切る。飲み込まれそうな深い空。もう晩秋も近い。 どこでどう間違ったのか妻のポーチからも最近テレビで報道される白い粉の入った 小さなビニール袋が大量に出てきていた。 「 もう死んだほうがいいだろ 」 男は自分に問い掛ける。もう答えは出ていた。最後の一押しが欲しかっただけだ。 ――薬剤に溺れた妻を苦に無理心中…… テーブルを踏み外し喉を締め上げられながらも男は 明日の新聞記事と世間体を気にしていた。 次「新米」「ぶどう」「運動会」
運動会に母ちゃんが持って来てくれたのは 新米で作った煎餅と自家製の干しぶどうだった。 あの〜弁当は? 次「かゆみ止め」「コーラ」「タイル」
駄目だ。かゆみ止まらねえ。かゆみ止め効かねえ。 腹減った。もう食べ物無いし、コーラもねーし、家族もいないし、食べ物無いし、かゆい、かゆい、カユい、カユい、カユイ 外いって食べ物探そうかなぁーってさっきからうっせぇよ!!どっかいけっつーんだよ糞野郎がぁ 駄目だ。なんか意識が、なんか、なんかタイルの割れ目からなんかいっぱい虫が出て来た。なんだこれ。なんだ、なんかきあなんきあなんかゆいカユイか あーはらへった…… 次「ホモサピエンス」「アルファ」「オメガ」
「……しにたい」 唐突にオメガは呟いた。一度口にしてしまうと心の暗黒素因を全て吐き出してしまわなければ気が済まないのか 「嫌なんだよもう疲れた、有り得ないよ本当に。真面目な話俺にこんな名前をつけた奴は今すぐ死刑になるべきだ。嫌だ嫌だ眠りたいなんで俺は人間になんか……」 自身がホモサピエンスとして生まれたことまで、悲嘆のメロディに変えてしまった。 吐き出すオメガの口元は猫のよう。文字通り“ω”といった感じでにゃんとも愛らしい。 「んなもんさぁ、オレさまみたくアルファー波出しときゃ無問題ですよ。」 オメガを励ますように言い放つアルファは、“オレ”なんて言っているが列記とした女の子である。賢そうな口元、聡明かつ野生的に輝(ひか)る瞳。 ふわっとした頭のてっぺんのオダンゴは、記号で表すとこんな形「Ω」。 ここまでかっちりと結われてはいないが、丸くて大きなオダンゴ、雰囲気で察して欲しい。敏感な読者の勘付いた通りアルファの可愛さは一級品である。 「アルファは疲れることとかないの?もう無理、ホント限界です。俺辛い……しんどいよう」 上目遣いで嘆いてみるオメガをアルファは呆れたように見下して八重歯を見せ言った。 「だーかーら、お前に足んないのはアルファー波だグズ。これでも食っとけ。」 ばらばらばら…… アルファはポケットいっぱいの野イチゴを、可愛い手でオメガに浴びせかけた。まん丸になってゆくオメガの目。 「……ッチ。全部食えよ!」 イライラしたようにピンク色の口で言い放つと、アルファは羽よりも軽そうな足でライオンのハクランのところへ走っていった。 オメガは最初の一つを口にした時点、半年分以上ものアルファー波を摂取し愕然としたという。 言われた通り全部なんて食べたらとても生きていられない。そう猫口で言うものだから、今その野イチゴを煮詰めてジャムを作っている。 私だって味見でさえ、甘すぎるアルファー波にすぐにでも死んでしまいそうだ。 魔女の私が何故こんな愛らしい材料でジャムを? この家に住み着く赤ネズミのソルトでさえ桃色になって逃げ出す程、さわやかで甘美な匂いが森に充ちてゆく。 比例して募る溜息が、止むのは何時の日になるだろうか。 「ペンネ」「熊猫」「かく語りき」でお願いします。
356 :
:2009/09/26(土) 00:56:51
だれか感想スレも盛り上げましょうよ
357 :
名無し物書き@推敲中? :2009/09/26(土) 19:18:10
「大作家・大熊猫ペンネかく語りき」 ……すまん、完全なる上げだ
風呂上がりにビールを飲みながら15インチのテレビをつけて、「ああコイツ殺してえ」と思った。 有名な哲学者の名前を付けたらしい女二人組が醜悪な腹を晒している。 共演者達の愛想嗤いに、自分のプライドを満足させている。 熊猫だ。上野でのうのうと笹を喰らう、閉じ込められた世界の、女王気取りの。 絶滅させなくては。ぼくの目を、ぼくの世界を、これ以上汚染させないように。 ぼくは早速アルバイト情報誌でテレビ局の清掃の仕事を見つけて、電話をかけた。 始発で週に6日通ううち、見取り図を空で書けるほどに建物を覚えた。 どこにいても違和感のない衣装と入館証を手に入れた。ひと月のロケの予定は壁に貼られている。 清掃員として潜り込んでから三月もした頃、ある女優と熊猫との、おぞましいトーク番組の予定を見つけた。 ペンネのおいしいレストランについて、唾を飛ばして為されるトークを考える。 撲殺だ。動物には撲殺がふさわしい。 ぼくは初めて始発でない電車でテレビ局へ向かった。 清掃には不自然な時間だったが、ロッカーに忘れものをしたんです、と告げるまでもなかった。 獣だらけのくせに、ここは動物園より管理が甘い。 ぼくは『ツァルストラはかく語りき』を取り出して、Cスタに向かった。 つぎ、「4度」「兎口」「嫉妬」で。
私にとって、家は不満の固まりだった。 薄汚いアパートの一室。愚痴ばかり多いくせに面と向かってはろくにしゃべらぬ両親。 息が詰まる。体の内側が気持ち悪い。不安になる。たまらない。 私は家での圧迫を解放するように、学校では花の女子高生らしく明るく元気に立ち回った。 うまくいっていたと思う。生徒も教師も私を認め、頼りにしているのを感じることが出来た。 だから私は調子に乗って、「妖怪人間」と呼ばれているあの子に話しかけたのだ。 上唇が縦に裂け、鼻にまで達している。兎口、と言われたりする病気らしい。 友達の少ない彼女の友達になってあげようと、話しかけ、遊びに誘った。断られた。 本や映画の話題を振ってみた。曖昧な返事しか返ってこなかった。次の挨拶は無視された。 こうなったら、リスクを承知で深いところまで踏み込んでみるしかない。 4度目に話しかけるとき、私は訊いた。「その口、手術とかしないの?」 「お金がないし、それに……」彼女の唇が不気味に伸びる。笑ったのだと、後から気づく。 「……お母さんが、手術させないと思う」 「……ど」正体のわからぬ威圧感に口ごもりつつ、なんとか訪ねる。「どうして?」 「だって……」彼女が笑う。いや。あれは笑っているのではないのかもしれない。 「だって、お父さんのペニスをくわえた私の口を裂いたのはお母さんなんだもん」 その瞬間、ああ、神様だか誰だか、すみません。私は彼女に、その家庭環境に、 自分でも思いがけず、理解できぬことながら、確かに激しく嫉妬をしたのです。 次は「科学的」「論理的」「神秘的」でお願いします。
360 :
359 :2009/10/06(火) 00:42:33
>>359 の名前、以前のものが残ってて変になってますが、上は「4度」「兎口」「嫉妬」の作品です。すみません。
361 :
1/2 :2009/10/06(火) 23:49:33
高校三年の学校生活もだんだんと飽きてきて、それと一緒に気温まで上がってくる。毎日室内は蒸し暑くて勉強どころじゃないのにセンセイは受験のためだ、勉強しろ! と日課のように私に言う。 最上級学年になったら後輩からは尊敬されて快適な学校生活が送れるだろうと信じていたのに、実際は三年間のうちで最も強力な五月病にかかっていた。 毎朝待ち合わせをしてる友達と、一緒に通わなくなったら。勉強をはじめてセンセイを見返そうかな。 考えないこともないけれど実行には移せない。私はこれでも成績は良いほうで論理的に物事を考えられているとほめられた事もある。プライドが決意をさせないのかもしれなかった。 五月病が治る気配もなくて、この夏休みはどう過ごそう、先月振ったカレシとまた付き合おうかなっと悩んでいた所に救いの手を差し伸べてくれたのはお父さんだった。 夕食後すぐに部屋に引きこもってケータイをいじるようになってしまった私にお父さんは塾に入るための申込用紙を持ってきてくれた。 最初の一枚はゴミ箱へすぐに捨てた。翌朝には部屋の前に二枚目のそれが置いてあった。 学校で授業をやる気なく受けながら、つい退屈でその紙を見ると大きな文字で夏期講習! と書いてある。その下に小さな文字で料金について。 私はこんなものを持ってきた親父を困らせたやろうとだけ思ってその日の夕食後にそれを伝えた。 最近、科学的やら心理学的やらの本を読み漁っている親父は私の話を聞くと笑っていた。そして、次の日曜日に一緒にこの塾へ行こうとも。 当日、昼の二時に私とお父さんは塾へ到着しました。お父さんが内部の人と一言二言交わすと、私は自習室の一角に案内されいきなり入塾テストなるものを受けさせられました。 全く、問題が解けなかった。 現代文で論理に従って答えたはずが間違っていて残念だった。そんなレベルではまずありませんでした。問題用紙を開くと、何について問われているのかすら分かりませんでした。 悔しかった、です。
362 :
2/2 :2009/10/06(火) 23:50:14
帰りのお父さんが運転してくれている車の中で私は久しぶりに涙を流した。 塾でテストを受けることだって無料ではなかっただろうに、私が最上級クラスへ入りたいと言ったときにどうしてただ優しい目で笑っていたのだろうか。 私がそんな神秘的なレベルの人間ではないことはお父さんは知っていたはず。私が明日の学校で先生に頭を下げることも知っているのだろうな。 ちょうどその時、お父さんに「来週の同じ時間に入塾テストを受けに来るぞ」と言われて、私は涙を流すまいと天井を見上げていた視線を、前に戻した。 次は「口車」「柿の種」「坂道」でお願いします。
363 :
ケロロ少佐 ◆dWk3tQvjAGCU :2009/10/07(水) 15:19:25
口車 柿の種 坂道 私は数分後に訪れる死に備えて、日本中で生きている数百人の兄弟(姉、妹含む)達の事を考えていた。 私たちのファミリー群(sakamoto1098と呼ばれる)は世間的に不良品グループと言われ続けていた。私の今回の自殺でまた一つ、このことの証明に役に立ってしまうと思うとちょっぴり悔しい。 人工子宮が実用化されて四半世紀。 単純に良質な日本人を大量生産させる目的のために創られた私たち優生人種(通称:プラモデル)。 すぐれた遺伝子だけで産まれ構成され完全管理の環境での育児、教育を受け日本の国力維持目的で存在している私たちプラモデル人間。 でも、もう限界が来ていた。私の持つ精神的な寿命が来たらしい。 筑波の医療施設で地道に働いていた私が通常人(通称:原型)の友人の口車にのせられ上京し暮らして1年。 常に人を疑わない良質特質をもつ私たちプラモデルを食い物にしている原型達にいいように利用され坂道を転げ落ちるように生活がすさみこうなってしまった。 sakamoto1098と呼ばれる遺伝子要素を使用している私の属するファミリーは産まれ出た262体のうち既に半数が死を選んでいる。 人工意識である私たちの共通の母親と父親に最後の別れを済ませ、端末の接続を切り、電源を落とす。 私のこれまでの人生のすべてが記録される柿の種程の大きさの政府から支給されたメモリーチップを手に取り自殺ほう助器具へセットし、準備を済ませる。私のこの人生は解析され、これから誕生する優生人種の為に役に立つらしい。 私の人生がこんな小さなメモリー書き込まれるのだと思うとなんだか不思議で笑いが込み上げてきたが、右手の人差し指でスイッチを無造作に押し、安らかな 無 を待ち目を閉じた。
お題は継続でお願いします。
柿の種は口車に乗せられて、ピーナッツと義兄弟の契りを結んだ。 しかし、それが彼の転落人生の始まりだったのだ。 ピーナッツは名前の通り、ピーナッツ野郎で、 彼の周辺には、常に女関係の刃傷沙汰が途絶えなかった。 柿の種が、いくら助言しても、ピーナッツは一時反省するばかりで 根本的な改善に至らない。 そこで、柿の種は決心した。 ピーナッツを殺して、義兄弟の契りを解約することを。 というのは建前の理由で、柿の種は三十三歳まで童貞続きな自分と対照的に、 華やかな人生を送るピーナッツが許せなかったのだ。 柿の種は深夜ピーナッツの自宅を訪れると、用意してあった包丁を懐から抜き、寝室へと向かった。 寝息を立てるピーナッツ。その隣には、腕枕で女が眠っている。 怒りは心頭した! 柿の種、刺す! ピーナッツ絶叫! 女絶叫! 壮絶、柿の種VSピーナッツ。今日のチケットは売り切れました。 決着はラウンド1、柿の種がピーナッツを一発KOで制しました。 柿の種は良いことを思いついた。 そうだ、ピーナッツの周辺には女関係のイザコザが絶えない。 今回のこれは、何もオレが罪を被る必要はあるまい。この女に! 憎きピーナッツ野郎に軽々と股を開く、脳軽女に押しつけてやればいいのだ! 気絶しろ! 柿の種が脅すと恐怖のあまり、女は失禁しながら気絶した。 柿の種は凶器の包丁から、自らの指紋を拭い、女の手に取らせた。 それから、夜の闇へ飛び出した。 久々に見た女の生全裸に猛々しく勃起するピーナッツが、駆ける脚の邪魔になる。 しかし、擦れる亀頭から得られる快楽は圧倒的で、その快楽に夢中になっていたせいで、長い長い坂道の頂上でつまづき、転がりながら落ちていく柿の種。 目を覚ました時には、清潔な病室のベッドの上で全ての記憶を失っていた。 (続かない) お次は「毎日」「鉄板」「鯛焼き」でお願いします
僕がベランダで洗濯物を干しているときであった。隣りから「Kさんちのお父さん!」と声がした。仕 切りのむこうからS氏の娘さんがのりだしていた。「Kさんも洗濯ですか?」大学生の彼女は手に洗 濯物をぶら下げながらこう訊ねてきた。Sさんちとは仲良くさせて頂いていて、ついこの間も家族同 士でバーベキューをしたばかりだった。 「Kさん、Kさん!この間お借りしていた鉄板を返さなくちゃいけないと思って」 「別にいつだっていいんだよNちゃん」僕は習慣的に毎日昼寝をする体質になっており、昼近くに なったそのとき、もう眠くてたまらなかったのだ。「でも、結局はお返しするんだもん」僕は別に断る 理由もなかったので場をはやく切り上げようと承諾した。 彼女は鉄板と一緒に麻布で買ったという鯛焼きをもってきた。玄関で帰そうとしたのだが、Sさん ちとの往来は家族同様のものにもなっていたので、気軽に、ある意味図々しく室内に入ってくる彼 女をとめることができなかった。 「お邪魔じゃありません?」 「いやいや、それよりNちゃんこそ大学は?」 「えへへ、今日は風が強いからサボっちゃいました!」彼女は無邪気にもほどがあるほど、無邪気 であった。おそらくはその外面からしか想像は出来ないのだが、彼女はブラジャーさえ着けてはい ないようであった。さすがに家族同様とはいえこればかりは僕も目のやり場に困るほどであった。 「Nちゃん、でもブラぐらいはつけた方がいいぞ」 「ふふーん、実は下もつけてないんですよ!」 彼女がいうには、これからシャワーを浴びて新しい下着で出かけたいので、ありとあらゆる洗濯物 をなるべく洗っておきたかったからだそうだ。「私のは全部私が洗濯するんですよ。だから一つでも やっといたほうが次の手間がはぶけるんだもん」そういうと一気にお茶をのみほした。 僕は彼女が帰った後うまく眠ることができなくなってしまい、またベランダに出て煙草を吸った。もし かしたら、僕らのマンションは最寄の駅から真っ直ぐに一本道で通うことができるようになっていた ので、彼女がでかけていく後ろ姿を見届けられるかもしれないと思うこともあった。でも彼女は何時 間か経っても出かけていってはいないようであった。 僕は隣りのむこう側で気配をうかがうような、そんな空想にいつまでもとらわれていた。
「橋脚」「スケボー」「詩」
「橋脚」「スケボー」「詩」 毎日毎日、橋を大量の自動車が目的を持って通過していく。しばしば夜のニュースの交通情報コーナーではただの無機物のそれがテレビにさえ映る。 多くの人の役に立ち、地味ながらも人々にしっかりと存在を認識されているそれも橋脚なしには立っていられない。 しかしどうだろうか。 河原で野球やバーベキューを楽しむことがあっても、橋脚そのものは滅多にまともな目的で使われない。 橋脚の近くには橋の上から大人が落としたタバコの吸殻。不良少年の描いた理解しがたい落書き。紙屑と川魚の死体。 あまりにも可哀想ではないだろうか。 そう考えたある高校生は、親から小学生の時に買ってもらったスケボーに乗ってとある河原に来た。 土曜日だったので、河原には人が多い。しかし少年は彼らに興味などない。また彼らも少年など視界にすら入っていないが。 少年はスケボーを降りると一直線に橋脚へ向かう。近づくにすれて橋の影に入り日差しは来なくなり、ゴミにより異臭が漂っていたが彼は眉を顰めるに留まり、歩を止めることはなかった。 橋脚そのものまでたどり着くと、少年はローファーのまま足を川に入れ、まずは橋脚に手で触れた。数分、目を閉じそのままで居る。 水が靴の中に入ってくる感触も橋脚の冷たさも少年は心地よいとさえ感じた。 次に、ポケットから一編の詩を書いた原稿用紙とセロファンテープを取り出し、それを橋脚に貼り付け、少年は頭を下げた。 詩の中身は子供時代への決別。彼は次にこの川を通るときは上を自分の車で通ると決めていた。 満足した少年はスケボーを名もない草村に投げ込み、徒歩で川を後にした。 河川敷を上がる際に大学生のようなカップルとすれ違ったが、双方共に何も見ていないふりをしていた。 その後直ぐにカップルは少年の足が濡れていた事を笑い、更にはどこからか来たおっさんが野グソの後に彼の原稿用紙を利用していたがそのどちらも少年には関係のない話であろう。 今日も、川と橋には別段変化はない。 次「恋路」「マドンナ」「物語」
『恋路恋路恋の路。嗚呼、僕は傷ついた一頭の獅子だ。 友よ。君とはひととき路を違えるけれど、いつの日かまた会おう。 長い長い旅路を終えた、どこか、人生のふもとで』 親友に想い人を寝取られた雄は、なぜか全く無関係の雌に このような葉書を送りつけた。 受け取った雌は、はじめ手にした時、送り先を間違えたのか? と善意的に考えたが、表面にしっかりと住所が記載してあった所から見るに どうもそういう理由(わけ)ではないらしい。 ならば、どういう理由(わけ)だよ。と一人ごちるが、送り主の雄は現在失踪中である。 どうしたものか、このまま黒山羊さんとして美味しく頂いてしまうか? 悩むことも束の間、やがて雌はその葉書の存在を忘れてしまった。 その頃の雄は、港のBarマドンナでウイスキーの馥郁たる香りに酔っていた。 フフ、ここが巷のBarだね! と字面に起こさなければ分からないギャグを ホステスさんに振りまきながら、盛大に愛想笑いを買っていた。 大満足である。ママの、バケツプリン並にボリューム感のあるおっぱいに 我を預けた雄は、ぼんやりと滲む意識で安い造りの天井を見上げながら これが物語だよ! この生き方が物語そのものなんだよ! 若いうちの波瀾万丈は買ってでもしろ、って言うだろ! とクダをまいたりしちゃうのだから、もう見てられない。 そのような幸せな物語が、雄に訪れていれば、自分は少し幸せだ。 雌はそんなことを想像しながら眠りに就いた。 次のお題は「幽霊」「グラス」「鍵」でお願いします
ダイニングのドアを開け、暗闇の室内に照明をともすと、ワイングラスが純白のテーブ ルクロスに半透明の赤いシミをうがった。精巧な装飾がほどこされたベネチアの特産品を よく見ると、ふたつの任務を立派にこなしつつ、自分とマンションとの共通のあるじを待 っていたようだ。ボウルに入れられた鍵と、プレートの下にある書き置きとから、事態は 容易に推察された。 念のためと表現するには慌ただしく、マンションの内部を確認して回った結果、やはり というべきか、今朝までの同居人はきれいさっぱり消え去っていた。真昼の幽霊さながら に。
違和感に気づいて注視してみると、ワイングラスの底に残る赤い物体はワインらしくもなく 蠢きながら苦悶する断末魔の表情を見せていた。 絶え間なく苦痛に責め立てられているかのようなその表情に、思わず自分も顔をしかめたが、 しかしワインが飲みたかったのでそれをそのまま口に仰ぎ入れた。 ぶよぶよとした感触が口腔内で蠢いたが、繰り返し咀嚼するとガラスのこすれ合うような 甲高い悲鳴を残してそれは液体に戻った。飲み込んだそれがワインらしく喉に染みた。 自分は幽霊に憑かれている。見覚えのない顔。子供か、あるいは老人のものか。 奴はいつどこにでも現れる。例えば今日、帰宅したときは鍵穴に取り憑いて自分の前に現れた。 自分は吐き気を訴える口と化した鍵穴に、金属製の鍵を思い切り差し込み、捻った。 ぶちゅ、となにかの千切れる音がして、血が流れ出したが、鍵はちゃんと開いたので、 自分は家に帰り夕食を取ることが出来た。 恨まれるような因縁も、憎まれるような諍いも記憶にない。だから最近、あの幽霊はかつて僕に ひどいことをして後悔してる奴で、こうしていちいちスリッパに取り憑いたりして僕に足を 蹴り入れられたりするのを喜んでいるのではないだろうか、という気がしてくるのだ。
次は「右クリック」「左クリック」「センターホイール」でお願いします。
>>372 いい加減、変なお題やめようよ。
もう少し考えたお題を望む…
「恋路」「マドンナ」「物語」
「毎日」「鉄板」「鯛焼き」
「金曜」「深夜」「一時」とか
ひとそれぞれの遊び方があっていいんじゃないの。 気乗りしないお題のときは降りればいいし。 おれは久々に来たけど、いくつかの意図があってほぼお題を振らないし。
375 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/09(金) 21:24:01
そーれ最初は右クリックだ、フックだボディだボディだチンだ ほれほれ、左クリックだ とどめはセンターホイールをぐりぐりしてやるぜ! 「らめえぇぇぇ。イッちゃうううううううううううううううううう」
自分から進んでこんな事をやる日がくるなんて思いもしなかったな。 私はぼんやりとそんな事を考えながら図書室のパソコンで地道にレポートのための資料を探している。 キーボードでキーワードを入力して左クリックで検索。サイトを軽く覗いて面白いと思った資料を無造作に右クリックでコピーする。 学校のパソコンにはメモ帳しか入っていなかったのでどれくらいの資料を集めたか具体的な量は分からないが、ある程度スクロールできる程度には溜まった。 ただし自分で面白いと思った情報しかコピーしていないので、これだけの資料できちんとレポートが書けるかは全く分からない。 どうして私がこんなにもやる気なく資料を集めているかというと、この二年間で「3」を私にくれたことのない意地悪な社会科教師が出した宿題だからだ。 図書室には勿論今回のレポートに利用できる本がたくさんある。でも、ただでさえ活字が嫌いな私には更にやりたくもないレポートの資料を本で探すなんて出来ない。 広く浅く、けれど少しでも気軽に。図書室にパソコンがあってよかった。 まぁ、とりあえずセンターホイールを十周できるぐらいまで資料を集めれば何とか書けるだろう。 嫌な作業だけれどこれ以上の訳にはいかない。しょうがないよね。 私は止まってしまっていた手をまた動かし始め、広大なネットの海の探検を再開した。 次「活字」「来客」「作業」
被ったああああorz
>>375 さんの出すお題でお願いしますorz
378 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/09(金) 22:00:08
「来客か?」
新聞の活字を見るともなく眺めつつ、俺は秘書の明日山に問いかける。
朝のコーヒーを飲み干すまでは頭の働きも我ながらいまひとつだ。
「ええ。どうします?」
「室長は現在作業中です、とでも答えとけ」
「いいんですか。あんな美人を待たせておくなんて……」
「何だと? それを早く言え」
俺は新聞を放り出した。
「とりあえず部屋へ通しておけ。待った、その前にコーヒーを頼む」
……急いで丁稚上げた感強いですがご勘弁を。
次は
>>373 から「恋路」「マドンナ」「物語」で。
>>378 それは
>>368-369 で使われた
ネタの一例です(でも出された物はきちんと消化)
「やあジュゴン、僕は君を愛しているよ。」
「ロバ、私もよ。」
そう言うと、二人はお互いに近付きあい……
「ああ、この子は恋愛が出来るのね。」
最近都で流行りの、小説の一ページを読みながら、どこに言う訳でも無く呟く。
「姫様、こちらの方はいかがでしょうか。」
この城の中に、心ときめくような事は何一つ無い。
「姫様、今日もお美しいようですね。」
誰と話をしても、聞かされるのはいつも決まった定型文。
「姫よ、お前は隣国へ嫁ぐがよい。」
城にあるのは、王達の策略、臣下の争い、そして――
「ほら、こちらが隣国の王子でいらっしゃる――」
「嫌よ、私は政治の道具になんてなりたくないわ。」
「駄目。これは確定事項であって――」
「えーこの度は、隣国の――王子と、我が国の――」
「姫様、早く夜伽の準備を――」
自分の運命、だった。
「……夢、かしら。」
ここ最近見るようになった、近い未来の自分を具象化したような、嫌な夢。
「嫌よ、こんな事。私も、物語に出てくるような、美しい恋がしたい……」
姫は、ただそれだけを願っていた。
Next theme「水鳥」「蝋燭」「乱世」
「やられちゃいましたよー」 Mが帰ってくるなり言った。リース契約満了をもって他社に切り替えたいと意向だそうだ。 「まあ、堅実な客は堅実な客だ。乱世ってやつかね」「まあ、そうですけどね」 「出力機は二台持って欲しいと言う提案も駄目だったんだろ?」 Mは夜中までかかってその客の色校用の機械を修理した経験がある。 コートを着て、外に出た。公園の水場の水鳥に、親子が餌をやっている。 帰りに営業時間に間に合わないかもしれないので、店までケーキを取りに行った。 かたかた、かたかた、箱の中で鳴るのはケーキを彩る小物か、蝋燭の類だと思う。雪は、期待するが降らない。 「あーちゃん、あーちゃん、あーちゃん、あーちゃん」 かたかたと鳴る音に節を付けるように、娘の名前を歌いながら会社に帰る。 娘は、私の妹に、どうしても印象が重なる。妹は、もう中二と小六の男の子がいる。 会社に帰って、机の下にケーキの箱を置いて、MとSさんとEさんの四人で三時のお茶を飲んだ。 「御題・『こむらがえり』『午前様』『電卓』」
こむらがえり 午前様 電卓 「う・うぅ・うう…」隣の布団で寝ている主人の声で目が覚めた。 「あっちゃん?…どうしたの?」と声をかける。 何時なんだろう…枕もとの小さな灯かりで午前4時25分と確認できた。 「う・うぅ・うう…」まだ小刻みに布団が揺れていた。 「ふ・ふ・くらは・・ぎがぁー」と主人が苦しそうに答えた。 パソコンやコピーFAX機などのリース品を扱う仕事の主人だが、去年からの景気悪化でいつも忙しく仕事をしていて、また今夜も午前様だった。 「お水を持ってきてあげようか」私は、何とか治まった、こむらがえりをおこした主人の右ふくらはぎをさすりながら聞く。 立ち上がり台所へ向かう途中でテーブルにある家計簿と電卓を見つけ、出しっぱなしで眠ってしまったことに気付く。 隣の部屋で眠る娘の様子を見てから水の入ったコップを持ってゆくとすでに主人は寝息を立て眠ってしまっていた。 コップの水をぐいっと自分で飲み干し布団に入ると主人の寝顔を見た。 「あっ!」さっき主人のことを あっちゃん っていう新婚時代の名で呼んだことを思い出し笑った。 私の妊娠のことは明日報告することにした。 これで私たちも中二と小六の男の子がいる義妹と同じく2人の子を持つ親になるのだ。 「これからもよろしくね!お父さん!」シワの増えた主人の寝顔を指でなぞり眠りについた。
Next theme「コンサート」「台風」「雑草」
「はい、そこ!土をほじくらない!」 大音響での猛抗議は特設ステージ上から発せられた。 「たしかにここは野球場だけど。おれのコンサート会場なの。夏の高校野球じゃないの」 「雑草は抜かにゃならんべな」との返答は動作を再開しながら行われた。「これも仕事だで」 台風の目かと見紛うほどの静けさが閑散たる場内を支配した。 つぎのお題は、北極、観測、疑念
北極星を常時監視していれば航路に迷うことはない。 そう教えられて、私は方位磁石を持たずに イカダ一つで航海に出た。 今はとても後悔している。 あの、一口ネタを教えてくれた漁師は もしかすると、私を騙したのかもしれない。 疑念は尽きないが、私は大海原を一人往くしかないのだ。 どこだ、どこにある……北極大陸! 次のお題は「皇帝」「ペンギン」「撲殺」でよろしくお願いします
恋人ができた。 それまでの孤独だった僕の人生に彼女は春の木洩れ日のようなあたたかさをもたらしてくれたの だが、ある日、「あなたと一緒にいると、まるで北極にいるみたいだわ」と一言だけを残し去っていった。 彼女がいなくなると僕は腹がたった。何が《北極にいるみたい》だ。僕はこうゆう奴が大嫌いだった。 自分をどこかの作家かなんかと勘違いしたのか、ただのきれい事を並べて世間を評する奴には虫 唾がはしった。 たしかに付き合う前には会社の同僚から彼女に対してよい印象は聞けなかった。容姿は美しいの だが男にはまるで無関心なんだ、という噂をよく耳にしていた。よく言う女性至上主義者みたいな 感じだった。でもそんな彼女が二十数年間女の子と付き合ったこともない僕と一緒にいてくれたの だ。今思えば、彼女が最後に残した言葉といい態度といい、世間の評判どおりの人だったのかも しれない・・・でも、本当に長い間、誰も見向きもしなかった僕と少ない時間だけれども同じ時を共 有してくれたのはたしかだった。 彼女が恋しかった。あれから数日たった今、僕がどんなに彼女を求めているかをこんなにも感じた ことはなかった。僕は深酒をした。そうしないと眠れなくなっていた。 午前3時ごろ、誰かがマンションの扉をたたいた。 僕は無視しようとしたのだが、それはいつまでたっても扉をたたくのを止めなかったので、僕はベッ ドからおき上がった。玄関に近づいていこうとしたとき、鍵がかかっていたはずの扉が開いた。 そこには彼女がいた。 「入ってもいい?」と彼女はいった。僕はあ然として、どう判断していいのかもわからなかったので 口を閉ざしたままだったが、彼女はそんな僕を見つめながら靴を脱いで部屋に入っていってしまっ た。そして、彼女は脇に抱えた大きな箱の梱包を、部屋の入り口でたたずむ僕をまったく無視して とき始めた。中には天体望遠鏡がはいっていた。 「ここでオーロラを観測しようと思って」彼女はそういうままカーテンを開けて、それを南の空に向け 始めた。空には大きな月があるだけで僕にはオーロラは見えなかった。 彼女は恥かしくてこんな芝居をしているのか、《本当にオーロラが見える》のか、それとも、実際に ここが《北極》だったのか、そのとき、僕の頭のなかには様々な疑念が渦巻いては消えていくだけだった。
お題は上の人ので。
刑事「撲殺犯人はお前だな」 皇帝ペンギン「はい、ボクがやりました」
「皇帝」「ペンギン」「撲殺」 私の最近の悩みは配下どもが良い情報ばかりを知らせて都合の悪い事は私のところまで上げて来ないことだ。 私はそんな度量の小さい皇帝ではないのに… 私のこの国は戦後の壊滅的な破壊から数十年で世界でも有数の経済大国へと発展した。 私専用の40インチディスプレイには刻々と世界中の生の情報が送られて来ていた。 「まったく!どの国も大したことはない!!」そう吐き捨て立ち上がる。 ちょっと散歩へでかけることにしよう。 私はこんな身分でもシークレットサービスは1人もつけない主義でこれまでやってきた。 男はペンギンのようなちょっと不恰好な歩き方で秋晴れの青空の世界へ出て行った。 数時間後、1人の男の撲殺死体が公園で発見された。 板橋警察署の発表では近所に住む住人とのトラブルだったようだ。 その無職男が住んでいたワンルームのアパートを調べるため警官が入った。 そこには異臭がたちこめた汚れた部屋、不釣合いな40インチプラズマテレビ、デル製のデスクトップPCが置かれていた。 調べによるとこの男はネット掲示板では 皇帝 と呼ばれていて自分が世界を影で支えている人類史上最も優れた人物だと書き込み続けていたらしい…
つぎのお題は、印鑑、虫歯、善人 でお願いします。
印鑑、虫歯、善人 「総力戦だ。セブンが敵の主力を倒した。散り散りになっている今が チャンスだ」『……おそらく残っているのは民間人ですが……』 「かまわない。彼らは地球人に紛れ、段々と虫歯のように侵食を 始める。ソガ。フルハシ。高熱価ナパーム準備」 そう言うと、隊長は機長席ごしに、散開したユカード星人の降着 カプセルの成層圏上部に環状に漂う無数の機体を眺めた。 「人間か、彼は確かに優れた地球人だ」 アルファ号のコクピットの後部でアマギ隊員と目が合う。 何か言いたげだが、ソガ隊員は睫毛を伏せて空間ソナーの画面に 座り直した。 全ての侵略に、まるで印鑑を押すように、漏れがあってはならない。 観測艇イプシロンの加圧スーツを脱ぎに、脱衣室に入る。 「善なる善は、何処に属す……」隊長のめらめらと燃える瞳が記憶に 焼き付いた。「僕は……善人か……?」 ダンは、脱衣室のファスナーを閉めた。 次のお題は、「稲刈り・レコード・フィギュア」
391 :
390 :2009/10/10(土) 18:37:26
失礼。 「アルファ号のコクピットの後部でアマギ隊員と目が合う。 何か言いたげだが、アマギ隊員は睫毛を伏せて空間ソナーの画面に 座り直した。」 次のお題は、「稲刈り・レコード・フィギュア」
392 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/11(日) 20:01:07
「まだこんなもの集めているのか」 次郎の部屋にあったフィギュアを見て、苦笑混じりに郷はつぶやく。 ジャック。かつて怪獣に襲われ死んだ自分と一体化し、地球の平和を守ってきたM78星雲のヒーロー。 「それだけは特別だよ。なにしろ俺にとっては、兄さんみたいな存在なんだからな」 そう言って照れ臭そうにそっぽを向いた横顔には、たしかに郷の記憶にある少年の面影があった。 だが。かつての少年も今は精悍な顔つきとなり、背丈も郷と同じくらいとなっている。いつまでも郷が あの頃のままの姿……自分を慕ってくれた女性に少年を預け、地球を去った頃とまるで変わらない姿で いるのとは対照的に。 「兄さんと姉さんの遺品もまだ奥の部屋に残してあるぜ。あの頃姉さんが郷さんといっしょに聴いてた レコードもそのままさ。もっとも今どき音楽聴くのにレコード盤でもないけどな」 にっ、と白い歯を出して笑う。兄と姉を殺され、ほどなく兄代わりと頼っていた郷にも去られてから 次郎がどれほどの苦労を重ねてきたのか郷は知らない。 だがその次郎も今では、かつて自分が所属していた地球防衛組織の隊長として活躍するようになっていた。 (たくましくなったな……次郎。結局、俺はお前に何もしてやれなかった……) 「ルミ子さんも今じゃ農家の嫁さんで、ふたりの子供の母親さ。たまの休暇に連絡したらとれたてのお米 ごちそうしてあげるから稲刈りの手伝いに来い、なんて言われちゃってさ。参ったよ」 そう冗談めかして言ってから、次郎は不意に真剣な目で郷を見た。 「郷さん。今回は……いつまでこの星にいられるんだい」 次のお題は「予習」「さよなら」「世界」
393 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/11(日) 21:40:34
来週からセンター試験が始まる。僕は午後10時に帰宅してからもう4時間くらい机にかじりついている。 途中、母が夜食を持って来てくれた。試験対策と平行して明日の授業の予習もしなければならない。 今日のノルマはあと70ページ。僕は問題集を解きながらふと部屋の隅に片付けられたギターに目をやる。 「明日から全国ツアーだな」 ギターに話しかけるように僕はそう言った。幼なじみのユウヤと僕はミュージシャンを目指してコンビを組んでいた。 僕だって確かに本気だった。しかし大学には行きたい。保険無しでミュージシャンを目指すなどただの頭の悪い奴じゃないか。 僕はそう思っていた。僕はユウヤの熱意を踏みにじるように去年の夏、活動休止を申し出た。 ユウヤは泣いていた。お前と音楽がしたい、そう言ってくれた。しかし俺には勇気が無かった。 「さよならするにはまだ早過ぎるぞ。いつかまた、二人で曲作ろうな」そう言ってユウヤは高校を辞めた。 その後ユウヤはひとりで各地を周り路上ライヴを行った。そしてある時、地方の有名なインディーズバンドのメンバーがあいつをスカウトした。 ユウヤはそのバンドのギタリストとして、これからライヴハウスを周る。 先週、ユウヤが作った曲のデモテープが届いた。 “そっちの世界は何が見える? 俺が今見てる世界は想像以上にどぎつくて逃げ出したくなるほどさ それでもいつか俺達が夢見た場所に続いてる” 夜が明けそうだ。試験まで、眠ってなどいられない。 次は、音楽、失恋、飛行機
どうせ失恋するのなら、 最後にはちゃんとさよならを言いたい。 アカイロはそんな少女だった。 しかし、その恋は初恋で、さよならを言うには予習が要る。 世界はそんな風に上手くできていない。 結局、アカイロは別れ際にさんざん泣き通して、 上手くさよならを言うことができなかった。 そして、今、ぼくは彼女との別れの局面を迎えている。 結局、ぼくもまた、いつかの彼女のように泣き通しで、 上手くさよならを言うことができないでいる。 やがて彼女は炉に送られ灰になる。 炎は時間の流れで消えるけれど さよならを言えない世界は、これからも続くのだ。 折角書いたのでスマソ お題は上の方の「音楽」「失恋」「飛行機」継続でよろしくお願いします
『60年代が誇る、偉大なミュージシャンの多くは 70年代を迎える前に死んだ。 60年代を乗り切ったミュージシャンでさえ 幸せな70年代を迎えたのは一握りしか居ない。 ほとんどの飛行機は、音楽を乗せたまま落ちてしまった。 その落ちた音楽を探す旅に俺は出る。 無茶なことを言っているのは承知の上だが、聞こえるんだ。 調和のとれたレットイットビーの音が』 とにかく踊れる音楽ならばなんでも良い、派のグリンプスが いきなりそんなことを言い出すのは意外な気もしたが 根本的に他人を理解することは不可能だ、と考えているグリントは グリンプスの発言を認めた。 しかし、一つの価値観に基づいて、音楽を奏でるチームを バンドと呼ぶのなら、これは全くの破局であり、失恋にも似ている。 つまり、音楽とバンドはどの時代もやがて 失恋の憂き目に相対する運命にあるのだろう。 ただ、幸せなのは、失恋するまでは ずっと、誰もが一つの音楽を愛し続けることができる。 グリントは、今頃、空の上を飛んでいるだろうグリンプスの飛行機のことを思い 世界中の飛行機が落ちなければ良い、と思った。 お次は「イモリ」「標識」「炎天下」でよろしくお願いします
396 :
392 :2009/10/11(日) 23:30:41
重複ですがご勘弁を。余計な感想ですが
>>393 さんいいなあ。
飛行機はすでにゆっくりと低空を飛び始めている。まずい。これって超まずい。
「どーすんのよおっ。あたし、操縦なんかできないわよっ」
傷心旅行(センチメンタル・ジャーニー)を気取って、せいぜい地味臭いカッコで
小さなトランクひとつに収まる荷物だけを手に、二ヶ月に一本しか飛ばないという
クルクルク島行きの便にようやく乗り込んだばかりだというのに。
失恋ついでに思い切ってあの世までジャンプしちゃうつもりは、あいにくだけど
今のあたしにはまだない。
「ま、全ては運命って奴かね。ここで景気よくおっ死んじまうっつうのも」
「だったらあんただけ死になさいよっ。やだやだ。あたしまだ死にたくなぁい」
悟りすましたような顔で、落ち着き払って座席に腰を下ろしたまま水割りの
グラスをちびちび飲んでいるサングラスの優男を一喝しておいてから、あたしは
その場で地団駄を踏みながら泣きわめいた。
「おいおい、やめとけや。墜落早まっちまうかもしれねえだろ。今のうちから
心配しなくても、この世は麗しきミューズたちの奏でる音楽のごとく全てどこかで
うまいこと調和がとれてるもんだぜ。あんたもこの際運命を信じて、パイロット
抜きでもこの機が墜落しない方に賭けてみなって」
「酔っぱらいが何偉そうに運命語ってんのよお。バカバカ」
「だーかーら。そんな足バタバタさせてっとスカートの奥まで丸見えだぞ」
「エッチ。へンタイ。見んなド助平っ」
怒りに任せて振り回した古いトランクの持ち手がいきなり壊れ、勢いで狭い
機内をすっ飛んでったトランクは飛行機の窓を直撃した。
ぴきっ。頑丈なはずの窓ガラスに大きくヒビが入る。
「げ。嘘だろ」
さすがに優男が顔色を変えて、腰を浮かせた。
お次は
>>395 さん継続で「イモリ」「標識」「炎天下」でお願いします
397 :
イモリ 標識 炎天下 :2009/10/11(日) 23:56:13
おばあちゃんちは長野にある。小学生5年生の頃、私は夏休みの半月以上をあの町で過ごした。 あいつは、茂みに潜んでいたイモリを拾い上げて、いきなり私に投げ付けて来たんだ。 私は悲鳴を上げて逃げ出した。あいつは私を指差して笑っていた。 そんな出会い方だったから、私はあいつのことが大嫌いだった。 夏休みが終わりに近付いた8月の下旬。気温は日に日に落ち着いて来ていたけど、その日も炎天下の暑苦しい日だった。 あいつは私を山奥に連れて行ったんだ。どうせまた虫で私を驚かせたりするんだろうと思っていたけど、ついて行った。 “立ち入り禁止”の標識が立ててある場所で立ち止まると、「ここなら誰も来ないな」と言ってあいつは私を見つめた。 キスしていい?あいつは私にそう言った。私は恥ずかしくて何も言えなかったけど、無言で目をつぶったんだった。 あいつとは毎年夏にしか会えない。 けれど10歳から16歳の今日まで、あいつと会わない夏はない。 次は サンドイッチ 姉 体育祭でお願いします。
月曜日の午前11時ごろ高校三年生になる姉が死んだ。死亡時刻は警察による推定である。 僕が帰宅したとき、それはいつもと変わりなくただ薄暗い室内だったので壁の電源を入れたの だが、そこから見えるダイニングの奥のほうで、まだ薄っすらと夕闇がレースのカーテンごしに室 内に流れ込んでいる窓を背景にして《何か大きなもの》が天井からぶら下がっているのが見えた んだった。それは微動だにせず静謐に僕を待っていた。僕の家族はまだ全体的に年をとっている とはいえなかった。当然のごとく家族に関して僕の観念的な印象に《死》というものはなかった。だ からそれが姉であるとは背中を僕のほうに向けてぶら下がっていた状態から向う側に回り込んで、 その異常なまでに歪んだ死に顔を見るまで気づきもしなかったのだった。姉は制服のままだった。 つまり家を出た後にまた戻ってきたのだろうと推測はつく。テーブルの上には何かを包み込むため のような布切れが用意されており、キッチンでは作りかけのサンドイッチが手付かずに放置されて いた。何のために一回家を出て、また戻り、しかもそこら辺のコンビにかなんかで購入すればいい ものの手作りでサンドイッチを仕上げようとし、それなのにサンドイッチは作りかけで中途半端のま ま自ら死を選んだりするものだろうか。人の意思というものはそんな短時間で、性急的に変革をす る、あるいは何事かに強いられるなんてことがありうるのだろうか。 その後の警察の調べで姉は前日の体育祭にも出席してないとのことであった。あの健康的な姉 は何をしていたのだろうか。あの時も家を朝はやく出ている。姉のカラダに目立った外傷もなく自ら の意思で首をくくったのに疑いはないとの報告が電話に出た母にもたらされた。室内を物色された 形跡もなく事件性はまったく感じられないと新聞にもでた。 あれから一ヶ月がたつ。時は人々の心も変える。家庭内にはまだ沈痛な空気が流れてはいるも のの、どん底の倦怠的な不健康さはなくなっていた。生きている人たちは生きるための術をとらな くてはならないのだ。そして僕も同様にそうであらねばならないだろう。僕はあの時、姉の《死骸》か ら枝垂れ柳のように垂れ下った右腕に《掴まされていた》ずっしりとしたま新しい幾枚もの札束を今 でも肌身はなさず持ち歩いているのであった。
「坂道」「標識」「どんぐり」
400 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/12(月) 10:46:32
「坂道」「標識」「どんぐり」 「縄文時代はおそらく主食か、それに次ぐ食糧だったようです」 「どんぐりがですか?」 「ええ、灰汁を抜いた上で粉食に加工して焼くか、茹でて食べたらしい」 郷土史家のアザイ先生は、城址に続く坂道を登りながら言った。 紅葉はもう終わりに近づいているが、晴れた日射は少し汗をもよおさせる。 「それで、城址の石組みの再建工事で発見された大量のどんぐりは」 「うーん、時代が違いますね。炭化した状態で発見されましたが、縄文期と言う のはありえない。石組みははるかに後代のものですから」 「祭祀に使ったとか」 「あるかもしれない。まだまだそういったものや、非常食にしても資料が足りない」 「どんぐりはありふれていますから、物を数えるためのツールに使ったという説も ある。場合によってはアンデスの文明でのキープに近い表記法に使われたという 話を唱える研究者もいます。現存して発掘されることは難しいです。石造の遺構 とかと比較して、そういう意味で明確には解らない」 「城の場合は」 「あの城の場合は分からないです。今回の調査は、あくまで崩れそうな二の丸 近辺の石組をはいで露出した場所です。本丸を掘れれば何か、どんぐりうんぬん 以外に何か成果は出る可能性はあるが、現状ではああいう核心的な場所は、 まだまだ聖域あつかいですね」 「縄文の人物が、仮にどんぐりを使って示すとしたら何ですか」 「うーん。僕としてはその説の提唱者では無いですが、仮にあるとしたら収穫物 の集計や、集落の人口や、また祖先からの口承の補助とか、 ああ、それから遠征した狩りの先発部隊の向かった先の標識のような可能性もある」 私の脳裏に、毛皮を着た背丈は低いが、屈強な男達の小集団が浮かんだ。 この坂道から観える山岳は、ほどなく白く冠雪するだろう。 豊穣をもたらすが、同時に生命に危険ももたらす。 彼らは、後続の男達に、そして村に残る女達に、何を伝えようとしたのだろう。 御題です。「納豆」「キャンプ」「変わった食べ方」
401 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/12(月) 14:28:53
母ちゃんが買って来たスーパーの袋を漁る。じゃがいも、にんじん、たまねぎ、カレー粉。 「あれ、納豆は?」 僕は母ちゃんに抗議した。また忘れやがった。 「買ってくる!お金くれ!」 「あんた、わざわざカレーに納豆入れんのやめなさいよ」 母ちゃんはいつも僕に言う。けど僕は譲らない。 去年の夏休み、父ちゃんがキャンプに連れてってくれた。父ちゃんと会うのは久しぶりだった。 その時に、ありきたりではあるけれど父ちゃんはカレーを作った。 僕が父ちゃんの料理を食べたのはそれが初めてだった。 「納豆入れるとうまいんだ」 「変わった食べ方だね」 抵抗はあったけど、食べてみると凄くおいしかった。 僕の両親は僕が今より小さい頃に離婚した。 キャンプへ行った翌月には再婚相手との間に父ちゃんの子供が産まれた。 僕はもう父ちゃんには会えないかもしれない。 けれど、あのカレーの味は忘れないんだ。 同じお題で
10月12日(月) new! 今日あった話して良いですか? 今日ね、大阪は大阪市、御堂筋のホコ天で 納豆の躍り食い大会が催されたんですよ。 三連休の最終日ってこともあって 前日、前々日に比べて、参加者はちょっと少なかったんですけど それでも納豆ってホラ、珍しいじゃないですか。 それに天然物だって云うから、 なんだかんだで、そこそこ集まったんですよね。人。 勿論、こうしてチラ裏(笑)な日記書いてる私も 絶賛参加してきたんですけど(笑) でも納豆ってホント久しぶりで、超懐かしかったです。 昔、ガールスカウト・キャンプに参加した時以来かも。 これ以上は年齢バレそうなんでやめますね(爆) で、みなさん納豆ってどうやって食べますか? 躍り食いっていうだけあって、生なんで 大体の人は鼻を摘んで丸呑み派だと思うんですけど 中には持参の卵に絡めて食べる人とか居て(笑) 変わった食べ方ですよね(笑) チャレンジャー過ぎて真似できない(笑) でも、結局優勝したのはその人でした。 やっぱり勝負する時は、大きくでないと勝てないってコトなのかなあ・・・残念(泣) 来年もまたやるみたいなんで、大阪に遊びに来た人は 是非参加してみてくださいね☆ P.S お土産屋さんでも取り扱ってるみたいですけど あれは岡山産の養殖なので悪しからず。岡山の人ゴメンナサイ>< 次のお題は「都市伝説」「ブログ」「2get」でお願いします
403 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/12(月) 19:33:46
新宮寺の前で午前2時に「死者の同窓会」というタイトルのブログをアップすると何かが起こるらしい。 そんな都市伝説があるそうだ。僕と竹田はその情報をオカルト好きの平田先輩に教わった。 金曜日の深夜、僕らは新宮寺の前で待ち合わせをした。興味本位で、その都市伝説を試してみることにしたのだ。 午前2時ぴったり。竹田は適当な文章を書いて、それに「死者の同窓会」というタイトルを付けてアップした。 「どう?」 僕は緊張しながら竹田に尋ねた。辺りはしんとしている。 「………」 竹田が不自然に黙り込んでいるので僕は少し足が震え出した。 「いきなりコメントが付いた」 竹田が俺に携帯の画面を見せた。 本当にやったんだ(笑)ばーか 名前欄:平田 「なんだよ、ビビらせんなよ」 胸を撫で下ろしながらそう言った次の瞬間、僕は息をのんだ。新しいコメントが着いたのだ。 2get 名前欄:水野 先月、事故で亡くなった同級生の名前だった。 同じ題で!
我ながら上手くできたぞ!www 無駄口すまそ
この板で草生やす奴は物書きとしてのプライドないんだろうな。
確かに上手い お題がすごく自然に馴染んでるわ 面白くはないが。
407 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/13(火) 21:10:07
んじゃ、また書く 「2get」 俺はたまたま開いた2ちゃんねるの板に新着スレッドを発見し何気なくレスをした。 不具合のためかそのスレッドはすぐにDAT落ちした。なんだってんだ。内定無しの俺にぴったしな待遇だ。 今日は大学を自主休講して朝から一日中家でこうしてだらだらしている。 卒業はまだまだ先だが今から不安で息が詰まりそうになる。 2ちゃんねるに飽きると、俺は自身の日常を不毛に書き連ねている自分のブログを開いた。 気晴らしに絶叫マシンにでも乗りてぇなー。そんなことを書いた日記に新着コメントの表示を見つけた。 それをクリックすると「ようこそ」の四文字だけが並んだ。 「なんだ、ようこそって」 俺は少し不審に思ったがしばらくするとそんなことも忘れ、まどろんでいるうちに眠りに落ちてしまった。 目を開けた数秒後、俺は自分の置かれた状況を把握出来ず、小さく叫んだ。 「誰か、誰か、出してくれ」 いたずらにしては度が過ぎていると思った。狭いエレベーターの個室に俺は閉じ込められている。 薄暗い証明が点いているがボタンを押しても反応しない。 俺の住んでいるマンションのエレベーターではないようだ。 すると唐突にエレベーターが動き出した。ゆっくりと上昇していく。全身にじわじわと冷や汗が滲む。 俺はふと自分のブログを思い出した。絶叫マシン…でもなんでだよ… そして俺は、その日記についた「ようこそ」というコメントの主を特定してしまった。 俺はレスをしてしまったんだ。すぐに消滅したあの奇妙なスレッドに。 「ようこそ。これであなたも都市伝説の主人公に!」
ちと無理矢理だったかなぁ 次は烏龍茶、芸人、お台場
キモい馴れ合いスレ
お台場で芸人が烏龍茶を飲んだ。 ......すまん、完全な上げだ
お台場に行って芸人と会い、一緒に烏龍茶を飲んだ。 「キーボード」「タピオカ」「天皇陛下」
重複ですがご勘弁を。余計な感想ですが
>>407 さんいいなあ。
烏龍茶というクソ芸人を主役にしたお台場カンフーというクソ映画が公開された。
しみじみとクソだった。
お次は
>>412 さん継続で「キーボード」「タピオカ」「天皇陛下」でお願いします
414 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/15(木) 14:05:17
烏龍茶、芸人、お台場
今年のお盆に、家族でお台場に行った。私自身は東京は久しぶりである。
ゆりかもめに乗るのも初めてである。事前に思ったより左右にゆれるので
驚いた。途中テレビ局の横を通る。看板番組由来のイベントをやっていた。
期間中はタレントが場内ツアーに応援にくるらしい。おおむね関西方面所属
の芸人コンビとからしい。
台場駅で降りて、目的地に向かう。その日は太陽がぐらぐらと頭上から
熱射をたたきつけて、暑いことおびただしい。子供には帽子をかぶらせ
ていたが、自分の分をすっかり忘れていた。
砂っぽい林の向こうに、ロボットの上半身が観えた。思ったより大きい。
ロボットのバーニアを収納した背部のランドセルがイメージより分厚いのを
除けば、なかなかの雰囲気である。
下の子と妻は、日傘の陰で遠巻きにロボットを観ていた。私は上の坊主と
ロボットの周囲を写真を撮りながら巡った。息子はそれ程そのロボットの
アニメは観たことが無い。太陽に眼をしかめながら、「おおきいね」と言った。
露天風の食べ物を並んで買って、場外の手洗い場の近くの防風林の下で
食べた。変電室がある辺りである。自販機は殆ど空か、冷却用の待機状態
で、仕方なく売店で「まだ、冷えてないです」と、言われた飲み物を買う。
ジュースは冷えていないと美味しくないと思ったので、ペットボトルの烏龍茶
にする。
毎正時と三十分には、ロボットが効果音とともに可動する。
シンガーが、ナレーターでロボットの意義とか、そういうのを話す。
録音した音声なので、毎回言う事は同じだ。
『はげやま、はげやま』
と、やたら言うので、総監督への個人的な怨恨でもあるのかと思った。
お次は
>>412 さん継続で「キーボード」「タピオカ」「天皇陛下」でお願いします。
415 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/15(木) 21:12:15
確かに(略)面白くはないが。
んじゃ、また書く カントリーの烏龍茶を買ってきみも当てよう。 人気芸人たちがお台場で待ち受けているぞ。 ちと無理矢理だったかなぁ
『βさんからIM通してツイッターサービスまがいのメモが。たぶん暗号』 そんなコメントと共に、IMを通して豚からメッセージが送られてきた。 『βから、将棋と豚へ 平成天皇陛下がタピオカを食べている=x 『どう?』 将棋は文面を凝視したまま、アゴに手をあて 薄く伸びたヒゲを数度なぞると、思いつくままにキーボードを叩き始めた。 『確かに暗号だな。重要なのは、【平成天皇陛下】と【タピオカ】の二単語で あとはノイズ。どちらかが鍵だが、タピオカはフリーソフトの tapiocaのことだろうな。tapiocaを単純に数字変換するなら、20、1、21、9、15、3、1』 『2進数か16進数で換数してみる?』 『そうだな。数列上の15を考慮して、2進数で換数しよう。 10010、1、10011、1001、1111、11、1 あとは【平成天皇陛下】を数値化すれば、アルゴリズム解析できそうだが そうなると素数条件が要るな。ああ、それで平成天皇陛下≠ゥ』 『どういうこと?』 『平成に入ってから、素数の西暦年は幾つある』 『えーと、今年が2009だから、1993、1997、1999、2003、の4つあるね』 『そう、4つもある。だから残りの天皇陛下≠フキーワードを用いて一つに絞る。 それぞれの年号を皇紀♀キ算すると、2653、2657、2659、2663となり、この中で 2653だけが素数にならない。1993は、平成5年か。どっちも素数だな』 『おー。さすが! そこまで分かったら大丈夫だよ。 ちょっと待ってて、今デコードする』 デコート作業に入った豚を待つ間、将棋は悪い予感をひしひしと感じ取っていた。 だから数分後に、豚から送られてきたメッセージの文面に目を通しても、特に驚きはしなかった。 『これ、ちょっとやばいかも。 デコードして出力された文字を並べ替えると、aが二回登場するけど 【kidnap】になったよ。もしかして、誘拐された、ってこと?』 長くてスマソ。お題は継続でお願いします
単になんとなく、だったのである。 なんとなく、画面の下にある、「天皇陛下の頭」というリンクを踏んでみたのだ。 「カチッ」とクリックした途端、妙な窓がいっぱい出て画面が大変な事に。 「あーあ、やっぱりだ、ブラクラだったか」 と、キーボードから再起動しようとした丁度その時。 「この野郎ぉー」と後ろから声がして、兄の鉄拳制裁がとんできた。 「天皇陛下を何と心得ているのか!」足も飛んできた。 「ひょえー、お許しをー」 「天に代わって、この兄が成敗してくれるわ!」 殴るだけ蹴って殴ると、兄は勝手に出て行った。 ストレスのはけ口にされた弟は、血まみれの頭でふと思った。 「別に天皇陛下の頭を踏んだわけでもないのに・・・」と。 冷えたタピオカミルクが、切れた唇にしみる。やるせない想いで一杯だ。 「第一、俺って、兄貴って、日本人だったっけ」 椰子の葉の窓から見えるメコン川は、ゆったりと、しかし何も答えてくれなかった。 ※なんかわからん展開だ 次のお題は:「電卓」「砂丘」「てんこもり」で御願いします
419 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/17(土) 08:25:51
日本で初めて電卓が発売されたのは東京オリンピックがあった1964年である。 この年砂丘で有名な鳥取で生まれた彩花、といっても当時はこういう女の名は 皆無に近かったがとにかく彩花は当時の鳥取に限らず日本海側の温泉であった 女体てんこもりつまり女の体に魚介類をてんこもりにするという愚かな風習が どうしても許せなかったしあんなもので喜ぶハゲ散らかしたおっさんの存在が どうしても許せなかったのである晩ハゲ散らかしたおっさんを殺害しました。
そしてそのおっさん殺害したオマンコは女体てんこもりのまま逃走開始、 明日無き闘争だっつって疾走さながらの失踪、 でもすぐ見つかっちゃうのだって彼女、女体てんこもりのままだから。 人間的にとてもイレギュラー? って何言ってんだろ俺、 そんな俺は彼女を匿った若い男性Aなんですけど、まったく不純な動機ではないですよ、 だって彼女てんこもりのまんまだから、マンマンも生臭い、 血に染まったその両手はもっと血生臭いなんつってゲラゲラゲラ、 ゲラ刷りの一面は号外で殺人犯の彼女を捜索してるけど、彼女はもうここにはいない 寝入りばなの彩花ちんの双子の砂丘をもみしだいたら、それだけはどうしても許せない、 どうしてそんなもので悦ぶのあんたもハゲと同じ下等な法悦に身をゆだねた獣ね、 って罵られたり蹴られたりしたんでムカついて、その拍子でサクッとね これは日本で初めてオリンピックが開催され、 ついでに電卓なんかも発売されちゃったりなんかした1964年のことで、 今は2009年なんだけど無期懲役の俺は恩赦も貰えずここに詰まっている ※なんかわからん展開だ お題は「昭和64年」「アルミ」「偽札」でお願い
ぼくは道端の歩道の柵に自転車をワイヤーで停めて、店の薄暗い階段を昇った。 中古らしい大型のレコード・ラックに、大量のレコードがジャケットの背表紙を 見せて並んでいた。昭和64年、寮や学食で観るテレビは、天皇陛下の御病状を 逐一伝えていた。その頃、貸しレコード屋は全面的にCDに移行しつつあって、 状態のいいアナログ盤が安価で買えた。ぼくは、ぱたぱたと両手のひとさし指と 中指でレコードをめくっていった。逆に数量が多いので、それだけで満足感が いっぱいになり、棚から取り出し、レジまで持っていく事は少なかった。 店の奥に向かって、洋盤の棚のLPを順に観ていった。この店は何度か来た 事があるので、品揃えが一新する事は無かったが、ごくたまに、新入荷か、 倉庫か何かから棚に並べたのか、見た事の無いLPが追加されていた。 そうやって棚の奥の方までLPをめくっていった。指が、ふいに、めくって押さえ ていた重ねられたLPにはさまれた。白く塗装された、アルミの、棚とLPの 間に、食いついたように指がはさまれた。咄嗟にぼくは、いろんな対処法を 考えた。店員を呼ぼうか、間抜け過ぎるな。痛みの感覚はだんだん薄くなるが、 指は白くなる。はあ、息を吐いて僕は両手の指を勢い良く引き抜いた。どん、 とLPの加重が棚の奥の壁面に当った。右手の指に、LPの包装のビニール袋 のきれっぱしと、血が付いていた。音が大きかったので、ぼくは店員の方を見た。 店員は店のカウンターの奥から段ボール箱に入った中古レコードの荷だし作業 中だった。ぼくは左手の掌で、そっと右手の中指をぬぐった。LPのジャケットの 写真の印刷が、反転して指に貼り付いていた。眼を近づけて見た。45度ずつ 回転した印刷の点が、なにか、がらくためいた、ポップな、偽札めいて見えた。 お題、「昭和64年」「アルミ」「偽札」継続でお願いします。
422 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/17(土) 20:17:40
「昭和64年製造の1円玉は偽札だあっ! これ豆知識な」 「いや、アルミ製だからそもそも札じゃねえし」 次のお題:「予言」「BGM」「甘い蜜」
423 :
「予言」「BGM」「甘い蜜」 :2009/10/18(日) 02:50:37
予鈴がなっても女子生徒たちの話が中断されることはなかった。 隣のクラスの誰々が告白したとか、やれ援交してる子がBMWに送り迎えされてたとか、 どこどこの香水が甘い香りだとか、山田キモイとか。 一部の生徒が話をやめ席に着いたので、話の内容がよく聞こえるようになっていた。 その中で一つ気になる言葉が聞こえてきた。 「素数の年の予言」その年になるとこの学校から一人生徒が消える。 他愛のない学校の怪談話に過ぎないが、なぜかその話が気になった。 だが詳しい話が始まる前に教師が教室に入ってきて、その会話も中断された。 昼休み、校内放送から委員が選曲したBGMが流れる中、先ほどの怪談をしていた女子 グループに近づく。女子達の前の席では一人ブツブツ山田がつぶやいている。キモイ。 普段はあまり話さないので、女子達に警戒されながらも話を聞く事ができた。 素数の数字の年に学校に預言者が現れ、ある事に気づいた生徒を生贄に選び出す。 選ばれた生徒は、まるで甘い蜜に誘われる蝶の様にふらふらと何処かへ消えてしまう。 女子に話を聞く間、つぶやく山田の声が耳に届く。最初は判らない言葉が徐々に聞き 取れてくる。そして素数を数えている事に気づいたとき、山田が振り返えった。 「今年はきぃみぃだー!!」 しばし沈黙。女子と一緒に計算をする。全会一致、再来年ですね。山田、キモイ。 「お茶目」「散々」「後悔」
そりゃあ、おれも昔はお茶目すぎて散々後悔したよ。 ※なんかわからん展開だ 長くてスマソ。お題は継続でお願いします
人身事故のために××線がとまった。これは近頃流行といってもいいくらいで驚くに値しない。 でも僕が偶然にも現場に居合わせたとしたら、驚かなかったとはいえないであろう。僕はそんな嘘 をつきたくはない。 そのとき女はある複雑なやり方で自らの人生に幕をおろした。その自殺方法はものすごく卑猥で、 あまりにも卑劣な行動をともなっていた。実際に目にしたのは数人であるはずだ。ほんの一瞬の ことであり、とりとめもなく行われたのだ。そういった事情もあり、実際に具体的な報道にでるまで には到らなかった。幸いなことである。 しかしながらその日帰宅したとき、既にネット上ではこの件が話題となっていた。事実を知る当の 私にとっては、事実無根の中傷や、まるでやっかみのように何故だか当事者放置で噛み付き合っ ているものたちもあった。まるで滑稽なことだ。そんななか、僕は事実を一つ一つより分け、ある一 つのブログに到達をした。おそらくこれが自殺当事者のものなのは間違いがなさそうだ。青くてき れいな書体のブログだった。 カラダに飼っている死の兆候を他人が読み取ることは難しい。ブログから察する限りにおいても、 それは当事者に見られなかった。しかしながらそのプロフィールにおいて、自らをお茶目であると か、座右の銘ごとく、好きな言葉はあえて後悔をしないだとか、些細なことではあるが、僕がプロフ ァイリングをしたならばきっとこの女は自尊心がおそろしく強く、それでいて世間の価値観とは恐ろ しく乖離をした人物ではあるのかなと察するのだった。 自殺の前日までブログは更新されている。明るく朗らかな文章とは別に彼女は徐々に死に近づい ていったのだろう。 僕はさかのぼり幾つかの更新履歴をたどっていった。読んでいくにつれ、それがどこかで見たこと のある文章へといくつかぶつかり出したのだ。僕はすっかり忘れていたのだが、この人は僕がか つてとある掲示板で徹底的にやりあった人なのは間違いがなさそうである。一部を転写していた のだ。この人は散々周りの人に迷惑をかけ、最後には、それが誰でもそうあるようにその場から消 えていった。もしくは匿名の隠れ蓑の中で、一つの抽象になったのかも知れなかった。 僕は何だか悲しくもないのが悲しかった。これ以上僕からつけ加える事はないように思う。
「分身」「スプーン」「陽だまり」
ばあちゃんが死んだ。 二日前に親からの電話でそれを知って、今、俺は夜行バスの中だ。 バスに揺られる時間は暇そのものだが眠る気にはなれずに何をするわけでもなく、ぼんやりと座っている。 俺の頭を占めていたのは、「死」ということとばあちゃんが半々だった。 ばあちゃんは優しくて、モノを擦り切れるまで使うようなひとだった。 昔、縁側の陽だまりでスイカを食おうとした時、ばあちゃんの差し出したスプーンは古くて曇りきっていた。 子どもとしては嫌だったし、そのせいかスイカも不味かったのを覚えている。 あれから、元気だったばあちゃんも最近は入退院を繰り返すようになって、ぼけ始めていた。 俺はばあちゃんに忘れられる事が何より怖かった。 バスは予定通り夜中に駅前に到着し、俺はタクシーを呼んで実家に帰った。 それからは一族総出で葬儀の準備に追われた。 目まぐるしく、厳かな葬儀だった。 最後に、ばあちゃんの家の食器棚を片づけていたが、ふとあのスプーンが気になった。 普段のスプーンやらフォークやらを入れていた引き戸を開けてみる。 それなりに古いスプーンはいくつかあったが、あの日のものは見あたらなかった。 代わりに、ばあちゃんの家に不似合いな真新しいスプーンが目についた。 新調したんだろうか。 曇り一つないスプーンには俺の分身が映っていた。 「とかげ」「ティッシュ」「留守電」
ティッシュの使い道は色々ある。だからすぐに無くなってしまう。 週に一箱だから、約一ヶ月に一回は買出しだ。こまめな広告チェックは欠かせない。今日は絶対 にのがせないな。お店に行った。 山済みであるはずのティッシュの山が遠くからでもわかるように残り一つになっていた。寝坊した のが失敗だ。でもまだ3時。この街のティッシュ消費率はそんなに高かったのか。 僕はスーパーの入り口からダッシュをした。僕が箱のふにゃふにゃしたビニルの取っ手をつかんだ 時に、にわかにもう一つの手が伸びてきた。わずかに僕のが早い。でもそれが主婦であれば気を つけねばならぬ。主婦はがめつい。 ふと僕がその肌色のきれいな手の持ち主に気をつけてみると、近所の美人さんだった。いつも僕 のアパートの付近で犬の散歩をしているから僕にはすぐにわかった。僕のことは知らないだろうが。 彼女は僕に気がつくとすぐに手を引っ込めた。「どうぞ」といって。ちょっと頬を桃色にしたのがかわ いかった。 僕は彼女が気になった。出会いなんてこんなもんだ。ふとした日常が運命の出会いなんて事はあ りえなくはない。僕が彼女を見るのは犬の散歩のときに限られる。僕には犬がいない。残念だ。で もいい考えが浮んだ。僕はさっそく近所の自然公園にいって犬の代わりを探した。すぐに見つかっ た。ひもがくっ付いている動物でさえあれば何でもよい。 「こんにちは」 だいたいこうやって何気ない出会いがよいのだ。 「お宅のワンちゃんはかわいいですね」僕はいった。彼女は僕の犬を見て驚くだろうか。僕はどきど きした。 「まあ、かわいいとかげ(?)ちゃんですね」僕の作戦は成功した。次の日も、また次の日も僕たちは 街角の片隅で出合った。出会いが重なればお互いに意識しあうのも無理もないことだ。僕たちは結 ばれた。 しかし僕には恋人がいた。結局、この恋人もいっぱいティッシュを使うので、ティッシュ切れにはう るさかった。僕が犬のお姉さんを家に呼んでいい事をしようとしたときだった。電話がなった。僕は きっときゃつはこんな時に電話してくると確信があったので留守電にしといた。留守電が言った。 「ちゃんとティッシュ買っといてね」犬の彼女を見た。彼女は怒るどころか、僕のとかげの背中をかわ いいと撫でていた。お姉さんはすてきな女性だ。
「大仏」「紅葉」「高速道路」
高速道路がえらい渋滞だとラジオが告げている。 車同士の接触事故で車はひっくり返り、運転手が 抜け出せず道路の真ん中で救助を待っているのだ。 この時期、紅葉が綺麗だからと観光に出掛けたのが 間違いだったかもしれない。 渋滞というものは非常にイライラする。ラジオは抑揚の無い声で 実況しており、同じ景色しか見えないこの状況が、 昼間観光先で見た大仏を思い出させる。 生きている身としては、同じ景色の同じ格好はとてもつらい。 だから一刻も早くこの車から出して欲しい。 意識が遠のいてきたのか、唯一事故で壊れなかったラジオが 掠れて聴こえ始めた。 「バスタオル」 「辞書」 「深夜」
431 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/22(木) 20:45:09
あたしはお風呂場を飛び出すと、深夜にもかかわらずバスタオル一枚の 姿で一階の書店に行き、辞書を本棚から引っ張り出しページをめくった。 「ああん、ミトラヴァルナ語なんて地球の辞書に載ってないじゃん!」 次のお題:「カレンダー」「土偶」「予習」
432 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/22(木) 21:29:07
ひろくんに告げるかどうかまだ迷っている。 来る前に電話をもらっていたので、すき焼きの下準備は済んでいる。 テーブルに並べた野菜諸々の皿にはラップがしてある。 ひろくんは部屋に来るなり「なんだ?豪華だね」とテーブルの上を観て言った。 「なにか、あ、誕生日か?」見当違いの事を言った。 ひろくんはネクタイをゆるめながらしゃべる。職場の帰りに寄ったわけである。 「まいった。あんま若い子にアイデア出させるもんじゃないな」 ひろくんだってまだ三十前だ。 「アカレンダー!」「アオレンダー!」「キレンダー!」 急にひろくん叫び出した。声はそこそこ賃貸マンションなので抑えている。 「五人合わせて、ゴレンダー!!」「なにそれ」 「最近さ、ご当地戦隊とかなんとかいうのが、一部の地方自治体で、はやって るらしい。それで若い奴が調子に乗って会議にかけたら通っちまって…… アオレンダー役がまわってきそうだ」 「それどういうとき役るの?」 「祭りとか、市民のまあ子供の来るイベントだな」 ひろくんはカバンからラフスケッチを出した。アイデアを会議にかけた後輩職員 が書いたもののカラーコピーだ。 変身ヒーローの顔には、地元の有名な土偶の顔をかたどったマスクが色々 アレンジして付いている。 アオレンダーは中でも、そこそこかっこいいような気がする。ひろくんは背が高い。 意外と似合うんじゃないかな。 ひろくんはビールを飲み出す。「あれ?コップが一個しかないぞ」 「ううん。私風邪っぽくて」台所でダシを暖める。 ひろくん?もうすこし時間をください。 わたしは、母親になる予習に、静かな腹式呼吸の練習を、はじめた。 次の御題、「野球」「卒業」「ナイフ」でお願いします。
野球 ナイフ 卒業 あれで野球やってるつもりだったよな、と、ぼくは言った。 ああ、蹴ってるのにな、と、相方が言った。 どう見てもサッカーに近いよな、と、ぼくは言った。 まあ、ベースランニングするけどな、と、相方が言った。 グローブが要らないからよかったよな、と、ぼくは言った。 よく考えたよな、ガキなのに、と、相方が言った。 でも、誰が持ってきてたんだろうな、あのボール、と、ぼくは言った。 誰か買ってもらってたんじゃね、と、相方が言った。 甘やかされてんなあ、と、ぼくは言った。 ナイフ買ってもらってた奴のセリフか、と、相方が言った。 アウトドアにナイフは必須だよ、と、ぼくは言った。 キックベースにもドッジボールは必須だよ、と、相方が言った。 ぜってーおめーのボールだったべ、と、ぼくは思った。 小学生の元気なかけ声はいくらでも響くが、カラスの鳴き声はしない。 つぎのお題は、ベース、元気、カラス。
カ〜ラ〜ス〜、なぜ鳴くの〜。志村けんならこう言うであろう。 カラスの勝手でしょう。 ベースとなるのは不条理または無意味である。 論外であるほどよく、不毛であるほどよい。 ゆえに我曰く。元気があり余ってたんだな。 つぎのお題は「江戸」「小判」「発掘」でヨロシク
435 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/22(木) 22:41:29
「カラス」 「スカラべ」 「ベース」 「スライム」 「ムース」 「スタッフ」 「フェイス」 「スタイル」 「ルース」 「……」 「元気ないね。どうかした?」 「もういい。おれの負けっす」 次のお題:「超特急」「繭」「ルーズリーフ」
新人を発掘したいんだよね。大型新人。小判ザメみたいなのはいらない。 時代を築きたいんだよ。江戸時代よりも強固な。そこでは俺様がルールだ。 次は「閉店」「出社」「残務」ね
437 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/23(金) 17:59:50
来月で閉店なのに休日出社して残務処理。休日手当くれお。 次は「異次元」「猫」「大河原」
おれはロドリゴ。今まさにどでかい悩みを抱え込んでいる最中だ。 大河原というのを地名として処理していいのか人名として処理していいのか。 異次元の悩みとも言える。固有名詞は禁じ手だからだ。処理速度は制止にちかいが 猫の手はいらないニャリヨ-。 次「小泉」「清水」「石塚」
閉店セールは間もなく終ろうとしていた。外は雨だった。一時間前から強くふりだし客足はぱた りととまっていた。既に最終日であり、社長が現れて店員の一人一人を奥の事務所に呼び出して いた。残った従業員だけで、その日の残務処理も事足りそうだった。 明日から僕も新しい会社へ出社しなければならなかったので、早々と挨拶を済ませて帰りたいと ころだった。閉店の10分まえには最後の客もいなくなった。僕はバックヤードの折りたたみ椅子に 腰かけて従業員の出勤カードを眺めていた。社長が現れた。 「ご苦労さん。店の中はいつもどおりこのままにして置いてください。あとは全部業者が片付けてく れます」 実質この社長の言いなりに経営されていた店舗は遅かれ早かれこうなる運命だったのかもしれ ない。誰もこの人には逆らえなかった。最後に残ったのはただ同然で処理される在庫の山だけだ。 「みんな事務所であなたがくるのをまってるんですよ」 僕は社長につれられていった。でも事務所の中には誰もいなかった。 「君たちにはだいぶ世話になったね。本当にご苦労さん。君たちとは今日でお別れだけど、またど こかで出会えたとしたら、よろしく頼みますよ。それで最後に惜別の礼としてみんなにはもうプレゼ ントしたんだけど、私はもう次の事業が決まっているんだ。それはね、ここでためたお金を全てつ ぎ込んだ一大事業なんだ。もうみんなにあげちゃったけど君もどうだろう?」 いつもは殺風景の事務所に5つの白い変なものがあった。 「これは繭といってね。映画からヒントをえたんだけど、この中にはいってもう一つの時間を体験で きる機械ってわけなんだ。つまり夢を見るようなもんなんだけど、実際にはもっとリアルだ。脳の一 部に刺激を加えることで、人の視聴覚をコントロールできる代物さ。みんな今体験中だよ」 みんなが戻ってこなかったのが今になってわかった。 1/4
「そうかい、それは残念だね。じゃあ、がんばって」社長は僕の意思を尊重した。 僕は小泉、清水、石塚なんてもう会わなくてもよかったが、大河原さんだけには会いたかった。 大河原さんは小泉、清水、石塚の3人とも寝ていた。そして僕とも。でも彼女は4人の中で僕が一 番よかったといってくれた。何よりもあとの奴らはただ暇つぶしに寝ただけなんだと。 僕は暗くなった店内を歩いて時間をつぶした。あの3人のうちに大河原さんだけを残していくのに は僕は堪えられそうになかった。 「よう、H君」 僕を誰かが呼んだ気がした。でも、誰もいない。闇にまぎれ誰かがいるのだろうか。 「H!おまえだよ」 小さくて黒い野良猫がバックヤードの方から現れたが、こいつがしゃべってるとは現実的に思え なかった。 「おまえは社長にだまされなかったけど、他の奴らはだまされちゃった!」やっぱり猫がしゃべって いた。「よう、よう、よう。きいてるの?」声の言いぐさは乞食のように意地汚かった。 猫は立ち上がって、商品棚のチョコレートを取ろうとしていた。「おい!これ取ってくれ」 僕はヘッテのミルクチョコをとってあげた。猫は両手でそれを取ろうとしたが、肉球を滑らせ、受け 取りそこなった。床に落ちたそれをガリガリと爪で引っかいて中身を取り出そうとした。 「もういいや」猫はアルミがガリガリになったチョコはそのままにして言った。「大河原さんはもう戻っ てこないね。君は知らないのだろうけど、あのカプセルは未来からやって来たのもなんだよ。僕も その未来からやって来て、つまりあの社長とやらを未来の法律にのっとって逮捕するために来た んだ。社長は違法なものを転位させた罪さ。僕は追っかけてきたの。でもね、僕はこの次元に来る までは自分が猫ってことがわからなかったんだよ。つまり君には難しいだろうけど、僕たちは未来 から来たといったが、それは単純に君たちがこれから行くところの未来ではないんだ。僕たちがそ うしようとするときには、あくまで異なる次元、異次元をもってこれを体験しなければならない。次元 を超えると、生き物はある種、変質をするらしい。わかるかい?簡単に言えば、僕がもともといた 時は、時系列的には未来なんだけど、まるで君たちの成長した結果の未来ではないということさ」 2/4
僕は猫が言っている事がさっぱりわからなかったけど、結局僕が求めるのは、大河原さんの件 だけなので、そのことについて聞いてみた。 「うん、うん。じゃあ君の言うことはわかるよ。ある意味で君は賢明な選択をしている。世の中は不 明なことばかりなんだな。実に!それを全て理解するなんてことは不可能さ。君はそれを理解して、 要領よく僕に決断を迫ったことは正しいね。事態は切迫しているんだ。君はすぐにでもタイムステッ プをして大河原さんを助けなければならない。時間を跳び越すんだ。やり方は簡単。まあ、そこの ルーズリーフを取り出してごらん」 僕は言われたとおり、文房具売り場のルーズリーフを取り出した。そして、それが何を意味する のかなんててんで知れなかったが、理解しようともせず、言われるままに猫のやり方をしてみた。 ルーズリーフは時間を跳び越す入り口である。そこに君はどれくらいの速さで移動するかの選 択を書き込めば良いんだ、と猫は言った。普通、急行、特急と、まるで銀河鉄道をまねたような選 択を猫は言った。馬鹿げている。でも僕は書き込んだ。超特急。 何も起こりそうにはなかった。ルーズリーフはただのルーズリーフであり、その上にかかれた文 字はただの文字にすぎなかった。そしてあまりの異質の静けさとともに、猫も消えていた。 僕はきっと夢を見てたんだ。そう思おうとした。そうでもしないとこの馬鹿げた現実に気が狂って しまうんじゃないかと思ったのだ。でもそのとき、僕がルーズリーフを閉じたその時に、閉じた隙間 からは核分裂の光を思わせるような閃光がほとばしった。僕はとっさの事であわゆくそれを落とし そうになったが、僕に突き刺さるように放たれた光をこじあけるように、掴んでいたルーズリーフの 間に指を差し込んで、それを開いた。瞬く間に僕は全体的な光にのみこまれた。そして意識を失っ た。次の瞬間に、僕はまたもとの店の中にいた。 3/4
「社長が呼んでいるから先に行くね」と大河原さんが言っていた。 時計を見ると閉店20分前だった。僕は大河原さんに社長のところには行かないほうがいいと言 った。でも理由を説明することはこの限られた時間では困難だった。社長には大河原さんは逆らえ ないし、おまけに僕が彼女を説得するだけの理由にはまったく意味をなしていないことは現実的に たしかだった。だから僕は社長に変な機械に入ってくれといわれても、絶対にはいってはいけない とだけ念をおして伝えた。彼女に僕の真剣さを伝えるために、僕は念をおしてそれを伝えた。 僕はさっきと同じように事務所に呼ばれた。でもそのとき、僕が事務所の中にはいろうとした時、 廊下の向かいにある鏡に映った僕の姿は僕ではなく、小泉だった。そして事務所内には大河原さ んの姿がなく、繭がまた5つあった。ふたたび同じように社長に言われ、闇から猫が現れ、僕はま たタイムステップをした。次には、僕は清水であった。僕がいま清水であると自覚したとき、小泉の 時と同じく、全ての清水に関する出来事が僕の中で明白になった。次には、石塚になっていた。で は僕という存在は一体何ものなんだろう。そして僕はまた大河原さんになっていた。今度は僕に話 しかけてきたのは、僕であり、小泉であり、清水であり、石塚だった。僕が大河原さんになったとき、 僕は僕を含めてその4人ともどうやって寝ているのかもわかった。 4/4 「インフルエンザ」「検温」「エレベーター」
いつもなら3階の自分の部屋まで階段を上っていくのだが、 今日はなんだか身体がだるくて上る気がしない。 買い物袋もそんなに中身があるわけではないのにやたら重く感じる。 今日くらいは、と、エレベーターに乗り込んだ。 やはりもう歳なのだろうか。昨晩少し遊びに出掛けただけなのに、 こんなにも身体に響くなんて、とため息が出る。 部屋の鍵が開いていたので「ただいまー」と声をかけると、娘が嬉々とした 表情で出迎えた。 「お帰り、お母さん。ねえ聞いて!うちの担任の先生、インフルエンザに かかったってよ!今朝方すごい熱が上がったんだって」 「もしかしたら私も熱が出て、明日学校休めるかも」などと、中学生の娘は ふざけながら体温計を探し始めた。 娘の検温結果は今の様子では平熱なのだろうが、参ったなあと 私はまた溜息が出た。 休みたいなあと騒ぐ娘の傍らで、私は携帯を開くと密かに先生へメールを送った。 娘より先に私にうつったようです、それから昨夜は楽しかったです、と。 「きっと明日熱出るかもね」と言って苦笑すると、娘は怪訝な顔をした。 「先生に感謝しなさいよ」と付け加えて、娘から体温計を取ると、私も検温を始めた。 「テレビ」 「友人」 「電話」
444 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/24(土) 18:55:04
もう返事もしたくない気分だったので、背を向けてひとりテレビを観ていると、突然背後から直也が、外見からは想像もつかないほどの強い力で私の身体を抱きすくめた。 「なっ、何すんのよ!」 「うるせえよ。こっちが大人しくハイハイ言ってるからってずいぶん馬鹿にしやがって。お前みたいな女はこうしてやらあ」 両手で乳房の膨らみを、乱暴にわしづかみにされる。 「痛い、痛いってばあ。やめてっ」 「黙れよ。すぐに気持ちよくしてやるぜ」 左手で乳房を揉みしだき続けながら、右手が乱暴にブラウスのボタンを引きちぎる。 「いつまでも、どの女相手でもただの万年メル友人生なんてもう真っ平なんだよ。俺を甘く見て部屋に上げたりするからこんな目に遭うんだ。もう逃がしゃしねえぜ」 ベージュのブラジャーをむしり取られ、乳首を指先でこりこりといじられる。 「ほれ見ろ。もうこんなになってるじゃねえか。この淫乱女がよう」 「ああっ……だめ。やめてよ。やめてったら」 身動きができない。そうだ。電話だ。誰かに電話して助けを呼ぼう。 無我夢中で右手を、サイドボード上にある携帯電話まで伸ばそうとする。 「おっと」 ぐいっ、と身体全体が後ろに引っ張られた。勢い余って床に倒れてしまう。すかさず直也が身体の上に馬乗りになると、両足首をつかんで勢いよく左右に拡げた。 「いやあああっ」 「へえ。見た目どおり可愛いパンティ穿いてるんだな。どれ」 ぐりぐりと指がパンティの布越しに、船底型のふっくらと温かなふくらみの間の亀裂に食い込み、やわやわとこすりつけてくる。 「嫌がってる割には、だいぶいい感じに濡れてきてやがるぜ。へへ」 亀裂をなぞっていた指先が、小さなこりこりとした突起に触れた。 「だめえっ!」 「わかったわかった。ちゃんと直にいじってやるよ」 必死の抵抗も虚しく、パンティがゆっくりとずり下ろされてゆく。 「綾奈って、けっこう毛深いんだな……」 お題は継続で
445 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/24(土) 19:17:25
「趣味が釣り?ああ、釣りは良く分かんないけどね」 「あ、そうですか」 「海、行くと釣り?」 「まあ、そうそうしょっちゅうでもないですが」 「ふ〜ん。釣り、どういうとこ面白いの」 「来たー、というか引くー、と言うか」 「今までで最高にでかい魚、なに釣ったの?」 「シイラですか」 「シイラって、ちょっと平べったい」 「ええ、ちょっとカラフルな」 「どうやって釣るの?」 「ルアーですね。パヤオって浮き漁礁があるんですよ」 「ふ〜ん、そこに寄ってくるの」 「そうです。で、逃げる魚をナブラって言うんですが、 それ目掛けて投げては巻き、投げては巻きで」 「咥えるの?こんな感じで」 「ええ、ガツーンと来ますね」 「面白い?」 「はい」 「それじゃ、電話、お友達紹介してくれる?」 『え〜〜〜〜〜〜』 「もしもし?お久しぶりです。テレビ観てました?」 次のお題は「カメラ」「井戸」「書留」
カメラ屋の裏の井戸には精霊が出る。この前もひと稼ぎさせてもらった。こんな具合だ。 「あなたが落とした書留はこの金の書留ですか。それとも銀の書留ですか」 「いいえ。わたしが落としたのは中身が空っぽの現金書留です」 「まあ、あなたはなんて正直な方なのでしょう。ごほうびに この金の書留と銀の書留を差し上げましょう」 次のお題は「小泉」「清水」「石塚」
447 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/24(土) 21:52:35
「カメラ」「井戸」「書留」 僕はそのとき、彼女と野井戸の話をしていたんだと思う。草原が終わって雑木林が始まるそのちょうど境い目 あたりにあるという、その井戸が実在するものだったかどうか。それは今の僕にはどうでもいいことだ。 「深いのよ。とても深いの。ちょうどハルキ君の心の奥みたいに」 「ぼくの心? そんなに深いものじゃないよ」 「嘘。どんなに言いつくろってみても、あなたの目はいつもここではないどこか遠く、私には手の届かない ようなところを見ている」彼女は悲しそうに微笑しながら小さく放屁した。「とにかく、とっても深いの」 彼女ははっとするような容姿というわけではなかったけど、完璧な美しい曲線を描く見事なあごの持ち主だった。 カメラを手にした写真家志望の男の子が通りすがりに彼女と出会ったら、思わず足を止めてレンズを向けずにはいられないことだろう。 「ゆうべは遅くまで、何を読んでいたの?」 「サリンジャー」 まさか彼女のロ・バを連想させる、生命感溢れる寝言が耳についてどうにも寝られなかった、などとは言い出せず、 ぼくはとりあえずそう答えておいた。 「あなたってサリンジャーかフィッツジェラルドばかりね。そんなに面白いの」 「そうだね。君が面白いと思えば、それは君にも面白いものだと思う。ぼくはそれに対して、何ら意見を 口にするつもりはない。ぼく宛の書留郵便がぼくの手元にしか届かないのと同じように、読書による感動と いうものはしょせん、読んだ本人の心にしか届かないものだ」 「あなたって変わってるわね。そんな理屈をつけないと読書の感想も口にできないの」 彼女の鮒のような目を見ながら、ぼくは彼女の見ているぼくと本来のぼくのことについて考えてみた。結局 答えはすぐには出ず、彼女はまた井戸の話を始めた。 「すごく深いって聞いたわ。前に寝たことがある男の子が言ってたのだけれど、彼ったらお前のおまんこよりも 深い、だなんて。あれで洗練された言い回しのつもりかしら」 ぼくは軽く勃起したペニスを、さりげなくジーンズの上から押さえつけた。やれやれ。 次のお題:「相撲」「通勤電車」「右利き」
448 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/25(日) 15:48:28
「通勤電車、相撲、右利き」 毎朝、高校へ向かう通勤電車はさながら地獄ね缶詰なのだ。 せっかく朝早くから整えてきたヘアーメイクも ふわりとほのかに香る香水だって缶詰のなかでは 全くの場違いで、異邦人の様に私は感じるのだ。 不機嫌な感情を顔から発散する様に 何人たりとも近付くことなんか赦さないこの私に なんと、ファンが出来たのはつい三日前。 その私のファンというのは、ヨレヨレのスーツよろしく ヨレヨレのサラリーマンで私のお尻をまさぐってくるのだ。 勿論抵抗は試みたのだけど、大人数で相撲を取るような この満員電車で満足な抵抗など勿論出来なくて 揚げ句の果てにこの私の右手をギュッと握り込んでくるサラリーマン。 くそう。この私の手は貴様の汚らわしい股間を 掴む為に存在するわけではないのに 一体、どうしたものかしら。 今日は耳元で熱い吐息がかかり、私の脳と精神を ぐちゃぐちゃに掻き回す。 余りの怒りに脳の皺がノビきって何も考えられない。 ……私をここまでコケにしてくれたおバカさんは、 貴方が初めてですよ。 私の中に眠るフリーザ様が目覚める。 フリーザ様はサラリーマンの股間に宛がわれた右手に力を込める。 今日のこの日ほど、左利きから右利きへ矯正した 両親を感謝することはないだろう。 私は、いやフリーザ様は両親への感謝と 溜まりに溜まった怒りを噛み締めサラリーマンの股間を 握り潰してやった。 穏やかな初秋の風を受け、私は高校へ向かう。 明日は今日より少しはマシになるだろう。そんな気がしていた。 次「呪い、ロリータ、焼きたてパン」
449 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/25(日) 16:40:04
「呪い、ロリータ、焼きたてパン」 スーパーの入り口をレジの並んだ角を左に曲がると、店内 焼きたてパンの大きなケースがある。幾つもの透明プラス チックの扉があって、惣菜パンから一斤売りの食パン、フラ ンスパンや菓子パンが並んでいた。 会社帰りにスーパーに行くと、私は必ずそのコーナーに並 んだ。19時半に賞味時間の残りで、20%引きになる。 本当は価格が問題ではなく、その店内の工房から、少女の ような女性が店内に出てきて、棚の商品を再度陳列しなおし、 値引きの値札を付けていく。 私は、世に言うロリータ・コンプレックスでは無い。 しかし、その「主任」とエプロンの腰に名札を付けた女性は、 その身体の部分部分が、小さく、華奢で、まるで十代の前半 のような小柄で、可憐な印象だった。 事件が起こったとき、それはすぐさま私や、他の街や、その スーパーの誰もが気付かなかった。 彼女は、冷蔵庫に詰められ、埠頭から引き上げられた。 少年犯罪だった。だから、私は、彼女の名前と 年齢しか報道で知らなかった。 私は、そのときは、気分は沈んだが、直接の接点が無い彼女 に、それ以上の感情は、湧かなかった。 二年後、定期診断で私は、自分があと一年生きられない事を 知った。不思議と、私は平静に、医者の宣告を受け入れた。 有給をとった。車とカメラを買った。 街の噂を調べて、「子供達」の居場所を調べた。 私は、今、ショットガンの銃身を切断している。ライフル所持の 免許は、私が生きているうちには降りないだろう。 呪いでは無く、これは、清算である。 次の御題「ガムテープ」「百科事典」「完全犯罪」
お題がかぶったら先に出されたのを優先だよ。
>>1 のお約束を読んでから楽しく参加してね。
451 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/25(日) 18:13:51
「ガムテープ」「百科事典」「完全犯罪」 ろくに抵抗の手段も思いつかないまま、三人揃ってガムテープで両手首と両足首とをぐるぐる巻きに され床に転がされた。情けないもんでたったこれだけのことで、簡単に身体の自由など奪われてしまう。 「ひゃあはははっ、いい格好じゃねえか。なあ小泉、清水、石塚よおっ」 馬鹿だこいつ。優位に立ったおかげで完全に自分に酔って精神イッちまってる。もっともそんな奴を前に ただ黙って転がってるしかない俺らも俺らだが。 「今までの恨みも合わせて、俺様の気が済むまでいたぶってやるぜえ。けけけ。どうしたよ、お前ら。 いつものように俺様に向かって何か威勢のいいことを言ってみなよ。猫の手はいらないとか、カメラ屋の 裏の井戸には精霊が出るとかよお」 つくづく馬鹿。最初に口をガムテで塞ぎやがったのはお前だろうが。まあ分かった上でいたぶってるつもりで いるなら、とりあえずは好きなようにさせとくしかないんだが。 「その後は裏の採石場の穴にでも放り込んでやるぜっ。上からユンボで石投げ入れておけば、死体は永遠に 見つかりっこねえ。完全犯罪の成立ってわけだ。へぇへへへ、俺様賢い。俺様最高っ。俺様まんせー」 ひとしきり騒いでから、その場にしゃがんで俺の顔をのぞき込んでくる。臭い息が顔じゅうにかかって俺は 顔をしかめた。 ……こいつってたぶん、死ぬまで童貞のままなんだろうな。 「で、例の百科事典はどこにやったんだ。石塚クン。どうせ言っても言わなくても許してやる気なんざ さらさらねえけどな。どうせなら言ってから死んだ方が気分いいだろ」 アホか。どのみち殺されるとわかってて、隠し場所をわざわざ教えてやる馬鹿がどこにいる。 次のお題:「聴診器」「帯」「リモコン」
何が気に食わないのかはわかりませんが荒らさないでくださいよ。
聴診器 帯 リモコン 遠くに聴こえる学生達の声。保健室で彼女と二人きりになった僕にはもう非常ベルの音は聞こえなかった。 彼女は聴診器を当てるように僕の胸に手を当てた。 「聴こえる……」 彼女の言葉は空気の振動ではなく、彼女の脳から直接僕の脳に響いていた。そして彼女の香水の匂いは僕を粒子にし、そのたびに僕は宇宙を周回してはここに戻って来てを繰り返していた。 「私のも聴いて……」 予想していたにも関わらず僕は酷く動揺した。けど、拒むことも出来なかった。ゆっくり手を伸ばすと、彼女はその手を取り無駄を省いた。だから僕は言い訳をする必要がなくなった。 制服越しの彼女の胸は色んなものを取っ払って、僕を純化していった。彼女の左手が僕の腿に触れたとき僕のリモコンは奪われ彼女のものになった。 もともと緩んでいた心の帯が急速に解けていく。二人の吐く息と熱が空間を作っていった。カーテン越しの十月の太陽の光も、非常ベルも消毒液の匂いも、もう特別な意味を持たない。 次題 宗教 統一 集合体
454 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/27(火) 02:51:22
【宗教】【 統一】【 集合体 】 「木村君、ちょっと来てくれないか」 部長に呼ばれた。間違いようも無く例の商品の件だ。 「営業の報告は、君も耳にはしていると思う」「はい……」床の大理石材が、冷え冷えと感じた。 「やっぱりね。消費者はあのフレーバーは受け入れ難いようだ。手直しと言う事になると思う」 私は黙っていた。 「ブランドの旧来の加糖商品系列との統一をしたい意向は、上層部もあった。いわばそれを テコに力押しで押し切る目論見だった」 私は、今回初めて主管に立った。女性と言う事もあり、気負いが無かったかというと、自信は 無い。 「ドリンクの味と言うのは簡単には変えられない。客は、旧来の商品に愛着もある」 人口甘味料の甘みは、糖とは異なる。普通、複数種の甘味料を使うのは、人口甘味独特の 後味をマスキングするためだ。 「まあ、ドリンクの味には各社独特の戦略がある。宗教戦争と喩える人間も居る。 客が望んだ味覚なら売れるが、そうでない場合は抵抗を受ける」 今回、マスキングとあわせて、フレーバーの積極的使用を提言せざるを得なかった。社の 意向としては、加糖飲料との印象的な差を縮めるというのが、命題だった。 フレーバーも結果的に後味のマスキングに使われる。 「どうするかだな……」と、部長は老眼鏡を拭きながら言った。 私はスーパー等への強力なプッシュを思い出した。敗北という気持ちが、現実の出荷ケース の減少から、押し寄せてくる。 試作現場の研究所には何度も足を運んだ。 節目には必ず私はティスティングした。正直に言えば、商品のアピールと言う課題の上で、 狭い研究所の中で、フレーバーの増量に鈍磨していった可能性は否定できない。 私は、主管を降りることになった。企業は各部署が連携を持つ集合体である。 私は、勢い込んでいなかったか、もっとリサーチを重んじるべきではなかったか。 久しぶりに早く家に帰る。息子が飛びついてくる。 「……どうしたの?なにかあったの?」子供は敏感だ。抱きしめる。 玄関の先のリビングには、不評だったドリンクが冷蔵庫に入っている。 「……ただいま」私は、その私の戦友にも、万感を込めて帰宅を報告した。 次の御題【迎撃】【梅干】【毛ばたき】
455 :
名無し物書き@推敲中? :2009/10/27(火) 17:44:13
「迎撃」「梅干」「毛ばたき」 「逃げよう」 絞り出すような声で長妻が言う。 「逃げる? 何を言うか、貴様っ、我々ポッポ軍はいつ、いかなる敵に対しても、決してひるむ ことなく立ち向かってゆくのがモットーである、敵前逃亡などという軟弱な真似は許されんっ」 周囲を意識しているときの癖で、ことさらに大時代な口調になった亀井が吠える。 「逃げよう、逃げるんだ、とりあえず、しばらく逃げ回っていれば奴らだってあきらめてくれる」 「寝言を言うなっ! 何を軟弱なことを、たかが数万の敵くらいこのわしひとりで迎撃してくれるわっ」 「口先だけで威勢のいいことを言うのはよせ、おれも前にそれでひどい目に遭ったんだ、覚えていないか?」 前原が冷静な口調でたしなめる。 「長妻の言うことにも一理ある、今おれたちがここで踏ん張って抵抗してみたところで、ここにある武器だけ では奴らには何のダメージも与えることはできん、なでられたほどにも感じないことだろう」 そう言ってデスクの上にあった毛ばたきで、揶揄するように軽く亀井の頭をなでてみせた。 「貴様っ、貴様までわしを愚弄するかっ」 駄目だ、こいつには説得は通じん。そう言いたげな目で前原は藤井と岡田に目配せをした。うなずいてふたりも 立ち上がり、前原の後に続いて部屋を出る。 下の階は大部分の兵たちが逃げ出した後らしく、がらんとして薄暗かった。奥の炊事場にぽつん、と灯りがついて いるのが見える。 「あんたたち、ここはとりあえず逃げ出すつもりなんでしょ? ちょうど良かったわ。今残っていたお米でご飯を 炊いて、おにぎりをこしらえていたところなの」 三人の姿を見て、景子が明るく笑いかける。 「梅干もあったから入れておいたわ、知ってる? 梅干入りのおにぎりは腐りにくいのよ、殺菌効果があるの、 これ豆知識ね」 おどけた表情に三人も、つられてつい笑ってしまう。 「やだぁ。あたしこんにゃくゼリー嫌い〜」 冷蔵庫の中をのぞき込みながら、相変わらず空気の読めないみずほがつぶやく。 「食料品探しもいいけど、あんたもおにぎり手伝いなさいよ。ほら、男どもも」 次:「経済」「桜」「メモリアル」
メモリアルと書かれた小さなノートは娘の日記帳だ。 本当はダイアリーなのだが、どこで覚えたのか、メモリアルという 言葉に日記という意味を見出しているらしい。 その小さなノートには、毎日の他愛無いことが元気いっぱいつづられている。 しおりが挟まっているページが一番新しい日記なのだろう、ぱらぱら捲ると、 しおりと呼ぶにはあまりにも粗末な桜の形をした紙切れが滑り落ちた。 昨日書かれたばかりのその日記は、誕生日についてのものだった。 私は娘と二人暮らしの母子家庭で、経済的な余裕が無い。 娘の誕生日も毎年ろくに祝ってやれず、昨日もケーキのような菓子パン一つで お祝いした。日記にはその菓子パンがとても美味しかったと書かれてある。 そして、私から貰ったしおりが、すぐに日記のページを探せて助かると。 先ほど滑り落ちたしおりを挟むと、私はそのままノートを抱きしめた。 菓子パン一つではあんまりだからと、レシートの裏をピンク色に塗り、桜の形に 切り取ったものをプレゼントしたのだ。娘がいつも日記を書くたびにノートの端を 折っていたので、思いつきで作ったのだが、本当に喜んでくれていたのだと 私はとても嬉しくなった。親子といえど、人の日記を読むのはためらわれるのだが、 娘の本心を知りたくて、私はノートを開いたのだ。昨日の娘の喜んだ様子を少しでも 疑った自分が恥ずかしくなって、私はごめんねと呟きながら、それでも微笑んだ。 お次「憂鬱」 「夜明け」 「気合い」
「憂鬱」 「夜明け」 「気合い」 「気合だ!気合!」 波濤の上で漁労長が叫ぶ。今日は波が高い。 俺は、速度を調整しながら、延縄を引き揚げていた。 昨日五時間かけて仕掛けたマグロ用の延縄である。 ずどん!と中型のマグロが甲板に突入してくる。 仕掛けを切って、頭に棍棒をくらわす。 ギャフで引っ掛け、解体用の包丁で鰓をマグロの 口から掻き出す。保冷庫にギャフで引きずっていって、 そのまま氷の詰まった庫内に落とす。 俺は、憂鬱だった。 なんで今日か、と思った。今日くらいは陸の、 あいつのそばに居たかった。 キャビンの電話が鳴る。船長が拡声器で叫んだ。 「ウマレタ・オトコ・ゲンキ」 俺は、がくがくと膝の力が抜けてしまった。 夜明けの海に、港へと疾走する第12○○丸。 俺は、泣いているのをかくす為、甲板に風に向かって 立ち尽くしていた。 次の御題「キノコ」「スカート」「文庫本」
おかっぱ頭の彼女はクラスメイトから キノコとあだ名をつけられて笑われていた。 友達が居ないのか、いつも図書室で本を読んでいる。 僕は暇さえあれば、図書室に通って彼女を盗み見ているが、 周囲から馬鹿にされるほど、彼女が変わった容姿をしているとは 思わない。むしろ、スカートの紺色と対極するようにすらりと伸びた 白い美脚なんか、クラスの女子の誰よりも魅力的に感じる。 一冊の文庫本に触れる愛らしい指先と真摯な眼差し、そして凛とした佇まい。 キノコ、なんてあだ名ではもったいないではないか。 もっと高貴に、あるいは高級に、マツタケとかそういう方が似合うと思うのだ。 「白昼夢」 「迷路」 「靴紐」
徹夜明けの昼前にうとうとしていたことは覚えている。 気がつくと通路に立っていた。目の前には十字を形作る通路と、通路の先に階段。通路の先に壁がある。壁の上に階段が捻れていた。三方に伸びた通路は更に従事を描き、複雑に絡み合って上に延びていた。 漠然と夢を見ていることがわかった。そして、通路や階段に足を着けている限り、歩き続けられることも何故かわかった。 「夢だしな」 俺は呟くと歩き出した。 十字を右に、壁に足をかける。その途端、壁は通路に、後ろの通路は壁になる。 いくつの通路と階段を抜けただろう。 「遊ぼ。私が鬼ね」 小さな女の子が走ってくる。俺は自分の夢に苦笑しながら、おどけて逃げるしぐさをする。 女の子の顔に笑顔が浮かぶ。 「キャハハハハハハ」 耳をつんざく声。一気に身体の熱が奪われる。 力の限り走る。いくら走っても女の子の声からは逃げられない。 通路に靴が転がっているのが見えた。靴紐がほどけかけたスニーカー。 ドン! 通路から押し出された。俺の革靴が宙を舞う。 「バイバイ」 女の子の肉食獣のような笑み。それが見えたのは随分と下に堕ちてからだった。 「目玉」「初雪」「オリーブオイル」
460 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/03(火) 16:43:31
>>459 三語のうち一語しか使われていない気が
「白昼夢」「迷路」はどこに?
「目玉」「初雪」「オリーブオイル」 お客さんこんなのどうですか? え?なになに? これ。本日の目玉商品。 目玉商品。今時言わないよ目玉商品なんて。 広告に載ってない品。 載ってないのかよ。大事よ広告。 来店してくれた人だけのサプライズ商品ね。 まあいいや。どんなの? これ。初雪のオリーブオイル和え。 うまいの?それうまいの? かき氷風。 いらねえよ。初雪って冬だろ。冬にかき氷って。 かき氷風な。 同じだろ! 同じじゃねえよ。ポイントはオリーブオイルだから。 ずいぶんまずそうだな、おい。 失礼なこと言うな。フローズンオリーブオイルだから。 カクテルになっちゃったよ。もういいわ。 つぎは「広告」「カクテル」「かき氷」
結婚式は真っ赤なカクテルドレスに決めた。 彼と飲食店の前を通った際に、店の壁に貼られた広告が 決め手となった。それはイチゴ味のかき氷の紹介で、 カメラの写し方がいいのか、非常に魅力的に見えたのだ。 私の頭の中では、白いタキシードの彼が真っ赤なドレスの私を 抱き上げているイメージなのである。 「これよ、これ!」と、私が店の壁に両手をついて叫んだとたん、 呆れたような冷めた声で彼が言った。 「さっきドレスの試着も入らなかったのに、また食い物かよ」 「停電」 「夜風」 「回想」
停電 私は長い廊下を歩いていた。もうずっと歩いてきたような気もするし、今目覚めたような気もする。とにかく、蛍光灯の無機質な青白い光で照らされた廊下を歩いている。どういう構造の建物なのか、廊下はどこまでも続くように思われる。 どれくらい歩いただろうか、突然、視界で捉えられる一番奥の蛍光灯が消えた。そしてそれを合図にぱっぱっとひとつずつこちらに向かって灯りが消えていく。私は何故か恐ろしくなり来た道を戻り、全速力で駆け出した。 しかし反対側も同じように停電が始まっていて私は挟み撃ちされてしまった。為す術を失った私はその場に倒れ、最後の灯りが消える前に意識を失った。 回想 彼女と出逢ったのは展覧会だった。 私は一つの絵の前で恐らく二時間ほどその絵について思い巡らしていた。私は深い黙想に入っていった。真っ白な空間。その遠くに何かが動いている。徐々に近寄っていくとそれは一人の女だった。 彼女は裸で体の所々に血のような朱色が曲線に沿って流れている。彼女は新体操のような動きでその朱色を白い空間に撒き散らしていた。 その動きは激しくなる事もなく途切れることもなく、一定のリズムで続けられていた。 やがて視界は彼女から遠ざかり、その白に現実が滲んできて私は展覧会に戻って来た。絵と私の間に女が立っていた。それが彼女だった。彼女は黙想の女とは全く似ていなかったが、間違いなく黙想の中の女だった。 夜風 窓の隙間から入ってくる心地良い夜風につい眠ってしまったようだ。何か夢を見たような気がするが思い出せない。 窓から見える松が月に照らされて何か意味ありげに闇に映えている。少し考えてみるが、いっこうにその何かは出て来なかった。 今日はもうこれ以上書けそうにないと思い、書きかけの原稿を片付け電気スタンドを消そうとしたときだった。スイッチに手が伸びない。理由は分からないが灯りを消すのを躊躇しているようなのだ。 「まあいいさ、別に消すこともない」 そうして私は灯りを消すのを止めそのまま横になり、今度は深い眠りに入っていった。瞼の向こうに青白い光を捉えながら。 次題 スコープ ラジオ トンネル
「スコープ」「 ラジオ」 「トンネル」 朝の霧が、疎らな林間に立ち昇っている。 セイコは、ランクルのルーフキャリアに囲まれた車体の天井の ハッチを開けた。雨季は過ぎ、昼は高熱の大地と化す草原も、 その昼は抜けるような青天井を維持したままの夜間の放射冷却 で濡れた衣服が肌に貼り付くように寒い。 セイコは900mmの望遠レンズの外気温との慣らしの間に、ハッチ の下の撮影台に昇ってスコープで四方を確認した。 昨日から追っていたガゼルの集団は3kmほど先に留まって いる。 セイコはラジオをつけた。天候の確認である。その間、始終 ランクルの周囲を目視で確認する。ガードネットを張った車内は まず安全だったが、車内から身を乗り出した時が危険だった。 鉱山技師だった祖父の話を思い出した。 深い立坑の中では、電波が減衰し、ラジオが聴こえなくなる 場合があるそうだ。垂直に地面から掘り下げられた立坑の 底部では、真昼間でも空の星が観える。 並んで停車していた保護官のレンジローバーで、保護官と 手伝いの男が起き出す。もっとも危険なのは密猟者との遭遇だ。 セイコは、またスコープを取り出す。 「お前は、お前は食われない」1頭の子供のガゼルに願を かける。ライオンはそばに居る。スコープの、レンズでできた トンネルの彼方から願をかける。 次の御題「フライ」「コード」「回転」
フライ コード 回転 貧乏ながらせめてもの贅沢に、食材の普通は捨ててしまう部分の数々をフライにすることにした。 大根の皮、人参の皮、魚の骨、キャベツの芯。殆どタダのような品々を、使い込んだ油で素揚げしてしまうのだ。野菜チップスに骨せんべい。揚げたてに塩を振れば味は言うまでもなかろう。百円も出して科学めいたジャンクフードを食べるよりはずっと良い。 電気フライヤーにコードをつなぎ、油の温まるのを待つ。二度揚げしてパリパリにしてやろう。塩の他に胡椒も良い。一度揚げて醤油につけてからもう一度揚げるのも良い。他には何があるだろう。味付け無しというのもやってみようかしら。 そろそろ温まった頃か。油が跳ねないように慌てずやるんだ。よし、量もそれほど多くないし、全部一息に入れてしまおう。うん、いつ聞いても小気味良い音だ。胡椒よし。塩よし。醤油は、と、棚の中かな。 この棚がまた遠い。早くしなければ焦げてしまうぞ。それ静かに早く、と。 うォッとぉ……あ、ああ! コードが脚に! あ、あ! フライヤーが! 野菜が! 回転して落ちてゆく! 「貧乏人は揚げ物も食っちゃいけないのかよ……」
次 籾殻 糞 ミニ四駆
467 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/09(月) 15:55:20
籾殻 糞 ミニ四駆 『糞ッ、ミニ四駆走らせてたら籾殻の中に突っ込んじまったぜ!』 「無理矢理一行ネタかよ。真面目に書けよ」 「るせえな。このところ決まって毎週末にアク制くらうんで機嫌悪りいんだよ」 『どうだ、これがボクの秘密兵器、ビチ糞型ミニ四駆<スカトロン一号>だ! ズルズルののゲル状ボディで、籾殻を撒いたコースの上だって楽らく走行勝利もゲット』 「待て待て。ゲル状ボディのミニ四駆ってどんなんだよ。<スカトロン一号>って名前もダサくねえか? お前やる気ねえだろ」 「るせえっつの。だいたい『ミニ四駆』なんてお題じゃ書ける場面も限られんだろ」 「それは想像力不足って奴だ。たとえばこういうシチュエーションだって」 『富市は慎重に小型トラックで一本道を進んでいった。一面田畑が広がるこの辺りでは、夜になると街灯もほとんどないに等しい。おまけに道は細く、自動車一台がやっと通れるほどだ。 夏の盛りではあるが、開いた運転席の窓からの夜風は涼しく感じられる。牛糞に籾殻を混ぜ込んだ肥料の臭いにはいささか閉口だが、この村で暮らしていくうちにいずれ慣れることだろう。由美子も和夫も、早く慣れてくれるといいのだが。 助手席には玩具屋の包装紙に包まれた小さな箱。和夫へのクリスマスプレゼントにと町まで買いに行ったミニ四駆だ。 クリスマスにはふたりに会える。和夫は喜んでくれるだろうか』 「こら待ててめえ。散々人の書いたものに文句つけといて自分はどうなんだ。なんで場面が夏の盛りだってのに、いきなしクリスマスプレゼントが出てくるんだよ」 「いけね。適当に書き進めてるうちにミスった。では気分を変えて」 『切り立った崖の上には、白亜の建物がそびえ立っていた。 コードネーム<ミニ四駆>からの情報では、ターゲットは間違いなくあの中に囚われているはずだ。俺は<糞>と<籾殻>に目配せした。ふたりは小さくうなずいてから、MP−5SDサブマシンガンの銃口を上げると、高い塀目がけて』 「いい加減にしろ、お題の処理の仕方が無理矢理すぎんだろ! どこの世界にコードネーム<糞>なんて奴がいるんだよ。もういいよ!」 お題は継続で
籾殻 糞 ミニ四駆 あるところにミニ四駆が大好きな公爵様がいた。彼はそれゆえミニ四駆公爵と呼ばれ る程だった。屋敷には下働きの下男たちとたいそう綺麗な奥方が住んでいる。 ところがある夜、下男の一人が脱糞のために起きだした。行って帰って、また眠る。 ・・・・・・そのハズであったが、ふと昼に天日干ししたハズの籾殻が気にかかってしまった。 新入りの男に任せたのだが、ボーっとした男だ。ひょっとしたら干しっぱなしで取り込み 忘れた、などという事も起こりうる。ネズミにでも食われたら大変だ。様子を見に行こう。 だがしかし廊下を歩み行く最中に、ふと主人の寝室から音が聞こえる。 「ふふっ、旦那様のミニ四駆狂いにも困られたものだ」 一心不乱に自慢の青いミニ四駆の改造に精を出す、無邪気で子供じみた主人の顔が頭 に浮かび、下男の頬が思わず緩む。軽いノックの後に声をかける。 「旦那様、あまり夜更かしなさいますとお体に障りますぞ」 しかし返事がない。やれやれ、よほど熱中しているようだ。仕方なくドアを開けてみる。 するとそこにはミニ四駆型バイブをノリノリで妻にあてがう公爵さまが・・・・・・
シモネタ失礼 次お題「カラス」「ファイル」「症状」
470 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/19(木) 10:56:03
両の手のひらを広げ、其処に今まで幾度、いや何百回 拵えて来たであろう青い、海の青より、空の青よりさらに青い 火の玉を拵える。それはほんのり暖かさを持っていた 「仕舞いだ。オホホ、私が死ぬる。お前は何処でも好きな所に飛んでお行き。」 肩にとまった黒カラスに語りかける。 自分ほどの大魔法使いはいない。最高位の魔力を我は誇る それでもそれにしてもいつかは来る。こういう時は来る 今にして思う、我にこの魔力を授けてくれた老魔法使い、その時、その其処彼の思い がわからなかった。このあたたかさ、このぬくもり、その時、これに気づいていたか。 「頼む。守ってくれ、この盛りを。可愛い森の僕たちを。生きとし生ける、大宇宙を。」 このつぶやき、ささやき、其処に先祖よりの連綿と続く我らの使命を、このここでようやっと 最後の最後のここで理解する。あの若者は我よりも強い、若い、負けるであろう己を予感する 「がっしゃーん、ギャピー。ガラガラ、ドッカン。」 何をやっている。この黒カラスならぬわが娘。私はこれから勇者と魔法戦をまじえんとする真っ最中 あっ、あっ、ファ、ファイルが、投稿原稿が。オモチャではない、やぶくな、さわるな、止めて、よして、助けて。神様、仏様 持病の欝症状が、ぎっくり腰が、イ、イタイ。 「厚子さん、昼ごはんはまだですか。そろそろ昼ですが。」 い、いけない。大変、魔法戦どころでなかった。 た、立ち上がれない。ぎっくり腰が、ど、どうしよう。絶体絶命、大ピンチ。た,助けて。だ、誰か・・・・・・
471 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/19(木) 10:57:48
い、いけない。ハハハ、 初めてでお題を忘れた 魔法使い。赤ん坊。お鍋
俺は工学部の2回生19歳男子。ノベルに応募した。 際どく選外の総評が帰ってくる。授業中携帯に留守電が入っている。 応募した会社の編集者から会いたいとの事。 俺はおそるおそる大手出版社の門をくぐる。受付の連絡で階下に 編集者が来る。まだ若い。 彼女は彼の作品がもったいないと言う。編集長にかけあって指導と 言う事になる。編集者は24歳の女性。眼鏡で整えようとしているが、 まだ幼さの残る可憐さが残る。 この編集者は辛辣で、俺にに複数の作品を書かせ、ことごとく不備な 部分を指摘、矯正していく。 頻度の高い語句は言い換えさせられる。登場人物の曖昧な言動は 排除させられ、物語構造を堅牢にしていく。 俺はフラストレーションがたまり酒場で喧嘩に巻き込まれる。 お鍋をひっくりかえしただけで、飲酒はしていなかったが、未成年 なので収監される。俺は呪う。なんという編集に掴まったのか。 編集者は大叔父に時代小説の重鎮を持つ。当人も現代短歌の若き 旗手だが会社には係累や自分の文才は黙っている。 その頻回のやりとりのなかで、彼女は俺に秘めた恋心を抱く。しかし 自分の感情にはきつく重石をしている。 彼女は最初の応募作を読んで、泣いた。編集部の中で、彼女だけが 登場人物に慟哭した。しかし、それは他の編集者にとって繊細すぎる 箇所で、俺は押されず入賞しなかった。俺は、時折彼女が隠そうとする 強く押し止め表情に気付くが、それが何を意味するか判然としない。 一年後、俺は怒涛の応募を開始する。入賞が相次ぐ。ノベル界の寵児 となる。編集者は、喧騒の背後に、こっそりと身を引こうとする。 魔法使いが与えてくれた、甘美な授業時間は終わったのだ。 「だって、キミ。もう遠くへ行けるもん。ひとりでいけるもんね……」 「教えることもう、無いもんね。大叔父さんに、雰囲気似てたんだ…」 「……いや、まだ、ツンツンしててよ。俺はまだ、赤ん坊でしょ?」 抱きしめる。春の、雪が舞い降りる歩道の街灯の下で。 御題「鑑識」「スキー券」「河童」
三度目の流産の後、妹に薦められて占い師を訪ねた。 「もう、私、赤ちゃんは産めないかもしれません。このまま夫と暮らして 幸せになれるでしょうか?」 「赤ん坊が欲しいかえ?幸せになりたいかえ?」 「はい。でも夫とはすれ違いばかりで、赤ちゃんも流産してしまい、 最近は会話もあまりありません。」 すると、占い師はブツブツと呟きながら広告の裏に何か書いてよこした。 「あんたの妹は何か勘違いしちょる。あたしは占いは出来んがよ。」 それは、おそろしく手間のかかりそうなスープのレシピだった。 「え。占い出来ないんですか?」 「出来ん。魔法使いだからな。 だからお鍋の魔法教えたるで。毎朝、日の出前に汲んだ水で そのスープ作って旦那さんに飲ませるとエエ。」 「そんな、毎朝日の出前に起きるなんて無理です。仕事だってあるし」 「無理ならすんな。あんなたは幸せになる努力を惜しんだ。それだけのこと。」 私は納得出来なかったが、とりあえずレシピを受け取り帰った。 全くスープを作るつもりなど無かったが、占い師の 「幸せになる努力を惜しんだ。」という言葉がどうしても頭から離れず 三日目には日の出前に起きてしまった。 まだ暗い台所で、お鍋に湯を沸かし、野菜やらベーコンやらをたっぷりと煮込む。 煮込んでいる間は暇なので、ついでに洗濯物をたたむ。アイロンをかける。 まだ、時間があるのでサラダを作る。夕食の下ごしらえをする。 夫を起こして、二人でゆっくり朝食を食べる。スープはとても美味しかった。 あれから半年、私は毎朝儀式のように、同じお鍋に同じスープを同じように作っている。 日の出前に起きるために残業を減らし、なるべく早く帰宅する。 夕食も余裕をもって手作りできるようになり、夫との会話も増えた。 赤ちゃんが居なくても、夫婦二人、これはこれで幸せなのかも知れないと思う。 お鍋の魔法を教えてくれた魔法使いに感謝。
474 :
473 :2009/11/19(木) 16:49:02
ごめんなさい お題は472さんの「鑑識」「スキー券」「河童」 で
ベッド脇の出窓に置かれた河童のぬいぐるみ。誕生日にあれを残して、貴方は出て行ってしまった のですよね。学校で初めて声をかけてくれた時の事。内緒でお酒を飲んで、酔っ払ってしまった私を 丁寧に介抱してくれた事もありました。うっかりスキー券を落として慌ててしまい・・・・・・あの頃には 周囲に勘付かれ始めていましたね。海にも行ったし、温泉祭りにだって。二人きりの時間はいつだっ て宝物で、寂しい時には――今も――思い出に浸りながら河童のぬいぐるみを甘く抱きしめるのです よ? 「いやぁ、悪かったね。他のヤツのところに行ってみて気づいたんだ。やっぱり君じゃなきゃ駄目なん だって。君しかいないんだって。もう一度やり直さないか?」 ひょっこり現れた、貴方の照れくさそうな笑顔。 あぁ、一体このような空想を何回もてあそんだ事でしょう。でも私にできるのは、貴方が 離れていった理由を考える事だけ。確かなデータに確かなラベルを割り当てる、鑑識官のよ うな作業だけ。 きっと私がハタチに満たない男子学生で、貴方が大人の女性教員だったから・・・・・・
次お題 「健康」「ノイズ」「古書」
寂れた、どこか怪しげな古い洋館。推理小説の舞台になりそうな、今にも事件が起こりそうな。そんな洋館の地下のある部屋に一人の若者が今ドアを開け入って来た。 「先生。先生。」 古書や学術書、古今東西様々な事件を綴ったファイルが足の踏み場もない程に散らばっている。 ノイズ混じりのレコードと煙草の煙で埋め尽くされた部屋の奥で先生と呼ばれる推理小説家は安楽椅子に座りうなだれていた。ゆっくりと顔を上げた彼の目はヤニと失望で酷く淀んでいた。 「……君か、悪いけどやっぱり駄目なんだ、全く書けないんだ……。」 「駄目じゃないですか、こんなに散らかして。」 小説家の話を聞いているのかいないのか若者はどこから手を着けても骨の折れそうな部屋をせっせと片付け始めた。 「食事もちゃんととられてるんですか?。」 「……もう昔のように書けないんだ。もう……空っぽなんだ。」 「どうせお酒ばかり飲まれているのでしょう。そんな調子では不健康どころか死にますよ。」 よく見ると若者は本を棚に綺麗に並べたかとおもうと今度はその下の列をバラバラと床に散らかしている。 「頼む。もうここから出してくれ。お願いだ!君の望みはなんでも聞くから。」 小説家は必死に暴れてみたが、椅子と自分を括りつけている縄は肉に食い込むだけで解けるどころか緩む気配すらなかった。すでに小説家には縄を振り解くほどの力は残っていなかった。 若者はゆっくり小説家の方に顔を向け微笑んだ。 「大丈夫です先生。先生は偉大な方なんです。それにどんな天才にもスランプはあります。いつかそれを抜け出してまた傑作を世に産み出していくんです。」 小説家はその残酷な笑みを見ると全てを悟り、力を失った。そして机に突っ伏して狂ったように笑い出した。 「フフフフフフ、ハハハハハハハ」 レコードのヴァイオリンの音色がその狂った笑い声と共鳴しさらにおぞましいものになっていった。そしてそれは石の階段を上り建物全体に響き渡っていった。 寂れた怪しげな、推理小説などでよく出てきそうな、今にも事件が起こりそうな洋館中に………
なんかムチャクチャですみません。お題は継続でお願いします。
479 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/21(土) 13:10:23
クマのマーくんは、けいたいでんわをつくっています。 おかしのあきばこをつなげて、おりがみをはりました まるとさんかくなマークをいくつもそのうえにかきます すうじをかきたいのですが、まだかけません できました。せかいでひとつきりのマーくんのけいたいでんわです みみにあてます。ジージー、ちいさなノイズがほんとうにきこえてきます すごく、うれしくなりました。ふ健康そうにしかめつらをしているかあさんクマ さんはいまにもおかたづけをしなさいと、どなってきそうです。 ニコニコになあれと、けいたいでんわにたのみました。 「マーくん、おやつよ。」ニッコリわらっておおきなおくちを、あさらにおおきくわらいながら かたりかけてくれました。 古書のやまにうもれ、しかめつらをしているとおさんクマさんをこっそりと みます。「ぼくとあそべ。」けいたいでんわにささやきます。 「こうしていてもな。アイデアでるわけもないか。あそぼう。マーくん。」 やりました。とおさんがあそんでくれました。 すごいです。おねがいがかなうでんわです。ぜったいにそうです。 もうひとつたのみましょう。ゆきがふれ。 ほんとうにこなゆきがまいおり、うすくあたりにしろいおはなを さかせてゆきます。 よくあさ、あたり、のもやまももりも、まっしろ、すべてまっしろ、いちめんのぎんせかい でした。ゆきがとけ、はるになればクマのマーくんも、いよいよ、まちにまった いちねんせいです。 お題「森」「グルメ」「ミシン」
「あなたはミシンという物をご存知ですか?」 森の奥で運悪く蜘蛛の巣に捕らえられた蝶が、もがくのを止めて言った。 「あれは人間の作った恐ろしい箱です。蜂の針をもっと長くしたような先に、 色のついた糸を通して、それはそれは目にも止まらぬ早さで動くのです」 蜘蛛は蝶の脇でじっと耳を澄ませながら目を光らせている。 「その箱から出ている色のついた糸、あれはきっとあなたの仲間の物ですよ。 人間に捕らえられて、あの箱の中に閉じ込められているのです」 「我々の糸に色などあるものか」 ようやく蜘蛛が陽気に口を開いた。すると蝶は大げさに頭を振って言う。 「あなたはさぞや私の仲間たちを食べてきた事でしょう。そろそろ糸に色がつきますよ。 ほら、私なんて真っ黄色。そんな色の糸が出てごらんなさい、すぐに人間に 捕らえられて、あの箱に閉じ込められてしまいますよ」 だから私を食べるのをお止しなさい、と、蝶がさも恐ろしげに言う。 蜘蛛はふむ、とあごを撫ぜると、また陽気に口を開いた。 「ご忠告ありがとう。でも僕はグルメだからね、蝶の羽なんて食べたことないんだ」 そう言って、ぽかんとする蝶に蜘蛛は愉快そうに糸を巻いた。 「ミステリアス」 「タバコ」 「独身」
「ミステリアスな女性ね?美人なんだ」 「ちょっと年齢不肖なところもあるんですよ」 「そう。最近は物騒だから、そういう感じの女性はどうかな?」 「そうですよね。僕みたいな冴えない男に惚れるひとはいませんよね」 「自分をいじめるなよ。君はなかなかいい男だよ」 「マスター、サンキュです。さっぱり忘れますよ」 僕は次の誕生日で38歳になる。独身はちょっとさびしいかなと、最近思うように なった。 彼女とはネットで出合った。非常に頭が良くて、性格が良くて、なによりメールが まめだった。僕はあれこれ彼女の姿を想像した。 カメラにもクルマにも詳しく、うっかりすると僕の知識を越える。彼女は万能なんだな。 僕には不釣合いだ。僕はそう思いながら、腑に落ちない感じがした。 彼女の地図上のマーカーは、僕の家の近くだ。 それもあって安全だと思った出会い系でアクセスした。しかし、近所に そんな才媛って居たかな?話題に近郊の店や、遊びのスポットが、頻繁に現れていた。 僕は焦燥にかられた。誰かのいたずらじゃないか? 知識がありすぎる。それも男の趣味の領域だ。ネカマじゃないか? 僕は、確認だけしようと思った。最後になってもいいと思った。 「あなたは、男ですか?女ですか?」しばらくして、返信が来た。 「僕は、ゲートキーパーだ。僕のメールの半分は、僕の文章で、半分は、娘が書いた。 ためすつもりは無かったが、彼女はこういうことにはこわがりだ。彼女の事は、覚えて ないかな?」 部長の娘だった。近所で何回か酔った部長を送り届けた事がある。 娘は美人で、たおやかな印象だった。 「昔、君は高校生の頃、ボランティアで町内の子供の壊れたおもちゃを直していた そうだな。そうそう直されると困るんだが。ウチは玩具メーカーだしな」 「熊のおもちゃ、直したんだろ?娘の部屋に今もある。辛い恋愛も、受験も、ずっと タンスの上で娘を見守っていた。汗かきながら直したって?」 えらい昔の話じゃないか……しかし危ないと言えば危ないが、魅力的と言えば 魅力的な話だ。なにせ部長は創業者一族である。 僕は最近やめていたタバコを、ベランダに出て立て続けに吸った。 御題「ミステリアス」「タバコ」「独身」継続でお願いします。
ミステリアス(神秘的) タバコ 独身 渇いた風を受け、タバコに火を点ける。今は遠き故郷の味も、これで最後の一本であった。 ふと空を見上げれば、今日も雲一つ無い晴天。この荒野に入ってから7日経ち、水も残り少なく なってきていた。雨の少ないこの地に給水出来るオアシスなどあろうはずもなく、機会を見て退散 しなければならない。結局ここでも何を見つけるでもなく、呆けているだけだったわけだ。神秘的 (ミステリアス)な風景を探すだの、よく言ったものだ。 職に就かず、その日暮らし、独身のまま親を安心させることなく国を出てきた。野望や夢など無 く、社会から疎んじられるのが嫌で始めた旅なぞ、こんなものだろう。しまいには帰るタイミング まで失ってしまった。 口の中に苦い味が広がった。気がつくとタバコは燃え尽き、吸っていたのはフィルターであった。 環境保全する気は無いので、吸い殻は地面に捨てる。 郷愁すらタバコにまかれる私には何が残されているのだろう。無い物ねだりをするだけで、ひと つ、またひとつと大切なものを落とし続けてきたのではないか。手にあるのは僅かな現金とサバイ バル道具くらいのものだ。 もはや昨日のことすら朧気だ。
考えてみればこれまでの人生、特に記憶している出来事などありはしない。物語の主人公までとは 言わないが、せめて思い出し笑いくらいはあっても許されるだろうに。あるのは所詮自嘲だけだ。 飯を食って、飯を手に入れ、眠るだけの毎日はまるで動物のようだ。時々こうして悩むことはあ っても、明日になれば忘れている。だが忘れれば忘れるほど、悩みは更新されてゆく。それは人間 のあるべき姿であろうか。 だが、私にはせいぜい動物の暮らししか出来そうもない。悩みの頻度も減ったような気がする。 無性に空が見たくなり、寝転がる。すると太陽が眩しいので、思わず目を瞑った。 私は目を開けることなく、そのまま眠りに就いた。 ミステリアスという横文字がなんとなく気に食わなかったのでこうなっちまいました。すみません。 次 『聾唖』『依頼』『猫』
「待て! 話を聞け、落ち着け!」 「任務ヲ推敲シマス 任務ヲ推敲シマス」 くそ、どうなってんだ! 昨日までは平和だった学校が、今はまるで聾唖の暴徒と化している!! ここにはもはや青春の可能性など奪われてしまったに等しいのだ。ゾンビのように群がるクラスメート達を日本刀で切り刻む。 「神剣流奥義『レッドブルーム』発動!!!」 日本舞踏のように滑らかに、血の華が咲き乱れて皆死んだ。くそ、絶対に許さない! 仲間を仲間に殺させる残虐性は世界で 一番の重罪に値する! 俺の頬には涙が伝い落ちていた・・・ 「くっくっく! とうとう私の場所までたどり着きましたね!」 「校長!」 なんと黒幕は校長だったのだ! くそ、なんて事だ! にゃ〜ご♪ 校長先生の腕の中で猫が鳴いた。 「さあ行きなさい! ブラックキャットスフィンクス!」 みるみるうちに巨大化した猫が化け物じみたスフィンクスで俺を高みから見下す程になった。だがしかしここで負けるわけにはいかない。 敵は強大であろうとも、絶対にこいつだけは許さない! 怒りがみなぎり、俺に新たな能力が追加される。 「神剣流奥義『ダイヤモンドブルーム』・・・」 だが周りは静かなままだ。 「能力発動失敗ですか。怒りで我を見失いましたね・・・って、なにぃぃぃ!」 突然全てが切り裂かれた。極限までに高速化された太刀筋は肉眼に捉えきれなかったの話だったのだ・・・! あたりの空間がダイヤモンドのようにキラキラと保存されたような光景に鮮やかとしか言いようがない。 「だが、いい気になっては困ります。私はただの依頼代行人にすぎませんからね。そう、真の敵は・・・」 「貴様の父親だったのですよ・・・ぐふぅっ、ぐぉぉ!」 「なんだって!!!」 あまりの事態に俺の頭は混乱から落ち着かず呆然としていた。
次お題 「猛暑」「秋雨」「豪雪」
便利屋をしている男の下に、依頼と共に猫が来た。 餌代などは払うから、しばらくこの猫を預かって欲しいとの事。 なんでも、依頼主は事故に合って入院しているらしい。 依頼主の代理人は猫とある程度の金を置いて去っていった。 男は猫など飼ったことも無いが、とりあえず餌を与えていれば 何とかなるだろうと軽い気持ちでいた。ところが、遊び盛りの猫は するりと窓を抜け出して、外へ出て行ってしまった。 男が慌てて追いかけると、猫は道路の真ん中で虫を追いかけるのに 夢中になっている。これはまずいと思うと同時に、嫌な予感は的中するもので、 一台の車が猫をめがけて走ってくる。大声で猫に向かって叫ぶも、 猫はまったく見向きもしない。男は預かりものに何かあっては大変だと、 ためらい無く道路へ飛び出した。 運良く命はとりとめたものの、男は大怪我で入院を余儀なくされた。 仕方なく、見舞いに訪れた友人へ、猫を世話してくれる人を探すよう頼んだ。 友人が去った後の静まり返った病室で、男ははっと思い出す。 一つ言い忘れたことがある。あの猫が聾唖であるということ。 だから事故に用心するように、と。 先に書かれてしまったのですが、投稿します。 お題は>485さんでお願いします。
487 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/27(金) 10:02:07
猛暑、うだる暑さが続きます。朝露に太陽の光を浴びたトマトにあなたの笑顔が映ります。あなたのために育てました。 ヒンヤリ冷やしたソウメンに、イガイガの取れたて胡瓜共に乗っけましょう。暑くて参っていませんか。あなたの事 だけが気遣われます。私はあなたの喜ぶ顔を心いっパイ広げお帰りを待っています 秋雨、一雨毎に紅葉はその赤を、私のあなたへの思いを載せて深く染めて行きます ボージョレヌーボーを気張りました。お手製の桜のチップでいぶした燻製の 干し魚にソーセージがつまみです。あなたへの愛で煙っていました。今年は 生まれて初めて迎えた私の人生最大の解禁日です。 豪雪、あなたは寒くないですか。あなたのお仕事姿を思い浮かべてタラのお鍋 を野菜と愛を盛って拵えています。早いお帰りを心から待ち焦がれつつ。 男は私のためにある。男は金、保険金。 練炭を車にさあ、積み込んだ 私は女郎蜘蛛、狙った獲物に蜘蛛の糸を巻きつける。 男よ、甘き甘美なる夢を見るべし。一瞬の研ぎ澄ました鎌が天国の至福 の時を取り去るまで。練炭の地獄の赤が炎と化してお前を襲うまで。 お題「お茶漬け」「クロワッサン」「ブラックホール」
488 :
名無し物書き@推敲中? :2009/11/28(土) 21:06:06
「お茶漬け」「クロワッサン」「ブラックホール」 「お邪魔します。へえ、やっぱり女の子の部屋っていいね」 「……恥ずかしいから、あんまりじろじろ見ないで」 「ああ。ごめんごめん」 「コーヒーでもいれよっか。それとも何か食べる? 結局さっきのお店じゃ閉店間際だったしほとんど食べられなかったでしょ。買い置きのクロワッサンでよければ。でなけりゃお茶漬けでも」 「いいね。じゃお言葉に甘えて」 「どっちにする?」 「そうだな。君にしようかな」 「……バカ。エッチ」 「あのね。あの……初めてだから、優しくしてね」 「うん」 「すごく……良かったよ」 (ジョーダンじゃねえ。初めてどころか、こいつぁとんだブラックホールだぜっ) 次のお題;「野生」「男爵」「贈りもの」
大河の本流は、そのまま川幅を狭めつつ、高地へと至る。 男爵は、私に簡易な測量をするよう命じた。 「ジェス……この先は未踏の地だ」男爵が言う。 火打ち鏨をすって、パイプに火を点す。 私は黙って掌務を進めた。 「私の妻は、病気で亡くなった。だからこうした地方への 探検欲を抑制するものは、無くなった」 煙を吐きつつ男爵が私の方を観た気配がする。 「君には悪いことをしたと、正直に思う。危険な趣味に 君をつき合わせてしまった」 「…………」私は、黙っていた。私は、男爵の農夫から 選抜された。 私の家には、娶ってから日が浅い妻が居た。彼女は、 この探検行に気を揉んでいることだろう。私は、観測器 の脚の傍に、滑らかな表面をした珪酸塩の石だ。 私は、淡い緑色のその石に、妻の瞳の色を思い浮かべた。 「さあ、行くか」男爵が言った。 大いなる野生の懐へと、また歩を進めるのだ。 私は、その小さな滑石を、ポケットに忍び込ませた。 ……この石を妻に渡すまで、私は歩き続ける。 ささやかなスーベニール。自然からの贈り物を、彼女に 渡すのだ。 次のお題「食欲」「生地」「けんか」
の脚の傍に、親指の先ほどの小石を見つけた。 滑らかな表面をした珪酸塩の石だ。 失礼
「食欲」「生地」「けんか」 鞠子は電磁カーテンの一部を透明度40%オープンに設定して窓の外の様子を見た。 「よかった!今日も連中の姿は無い!」 彼が亡くなって以来、ずーっと雑誌記者やレポーターの取材に悩まされ続けた鞠子だった。 着替えを済ませ例の場所へ向かう為、タクシーに乗り込む。 今日は 彼 が出来上がっている受け渡しの日、大切な日なのだ。 ショップに着くと白衣を着た数名の技師の説明を聞く。 そしていよいよカプセルが開き少し粘り気のある液体がこぼれ落ちた後、本能とわずかばかりの基礎意識を加えられただけの姿で立ちすくんでいる全裸の 彼 が出てきた。 この 生地 は、まだ無垢のままでして、これからカスタマイズされた ご希望 の構成意識を注入いたします。 「ありがとう。やっと私の元に 彼 が戻ってくるのね…あっ!くれぐれも注入意識は伝えてあるブロックだけにしてくださいね」 と、鞠子は婚約していた彼を殺された悲劇の女性の立場で可愛く付け加えた。 共に暮らし始め、1日が過ぎたが 彼 は昔のままの 彼 だった。 パクパクとものすごい勢いで私の作った料理をおいしそうに平らげてくれる食欲も同じ、…そしてアノ時の性欲も…。 ちょっとお行儀の悪い箸の使い方まで再現されていた。 そして後片付けをしに立ち上がった時、それは発現した。 「人殺し…君は僕を…僕を殺した…」 「ただの けんか だったのよ。殺すつもりはなかったの」 鞠子はうったえ続け涙を流しながらもメーカーへフリーダイヤルへコールをした。 「すみません。今度の モノ もだめです。造り直してください」 今回もだめだった。どうして消せないのだろうかあの時の記憶は… 鞠子は、今日も遠い遠い森の土の下に埋めたオリジナルのやさしかった 彼 を求め続ける。
次のお題継続でお願いします。
493 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/01(火) 02:55:18
ああ、今日も疲れた。帰りの電車でつり革にぶら下がりつつ、心底疲れを覚える。 円高で会社の景気も悪化した。この年の暮れにローンの支払い、子供の塾代もあるというのにどうしよう。 懸命に頑張って働いても両の手ですくった砂が片端から漏れていく心地がする。そうだ、俺は、ついウトウトした。 「起きてよ。何眠っているの。嫌ね。」 何、何、ここは何処。 「嫌ね、キッチンよ。寝ぼけないで。ウフフ、眠っていたわよ。私はミョウガ。 私たちはお好み焼きフライパン戦隊じゃないの。」 そうだ、俺はキャベツ。お好み焼きには欠かせない。ザルに開け、水で洗われる間におかしな夢を見た。 何か一生の半分以上生きたような。た、大変。キャベツにはキャベツとしての大事な使命があった。 寝とぼけてはおられぬ。我こそその名も高いキャベツ戦士、シャキッと締まっていこう。 「締まって参ります。ガス台点火、生地戦士、野菜戦士、突入用意。」 タイミングをはずすな。緊張、緊迫、スリリングな一瞬。野菜同士でけんかをしている場合ではない。 ラララ、ラリラリ、豚肉戦士、鰹節戦士、突入、突貫、青海苔参謀長、ぬかるな、仕上げは決めろ。 「参ります。キッチンの小窓より、宇宙に向けてフライパン号発進。」 我らには宇宙の上を救う、食欲を満たすという重大なる使命がある。いざ、行け、進め、フライパン号。 「課長、駅に着きますよ。偉いなあ。寝ぼけても仕事ですね。 新しい企画、お好み焼き開発ですか、頑張りましたものね。送りますよ。 奥さんが待っています。」 お好み焼き戦士ならぬ企業戦士は今日も家路を急ぐのであった。完 お題「バジル」「魔女」「クリスマス」
「バジル」「魔女」「クリスマス」 夜9時、慶介は重い足取りで自宅の安アパートへ向かっていた。 今日は彼女の摩耶がアパートで慶介の帰りを待っている日…その足取りはいっそう重かった。 街の中はクリスマスのイルミネーションが眩しく光る。 だが、慶介と同じく、街を歩く男たちの姿は皆、元気がなくうつむいたまま。 「あっ!!忘れた!!」 摩耶が薬草作りで使うバジルを買ってくるように頼まれていたのに…慶介は声を出してしまい頭をかかえた。 摩耶の罵声がいまにも聞こえてくるようだ。 いつの頃からこうなってしまったのか…いやあの時からだ。男女の関係が全く逆転したしまったのは。 この世の女性すべてに魔法の力が備わってしまい魔女となったあの日… その日から男たちの生活は変わり…いや!世界中そのものが変わった。 魔法使いになった女性たちは、またたく間に社会を支配し、世界中の指導者層はすべて女性に入れ替わってしまった。 インターホンを押し、ドアを開けると摩耶が待っていた。 すぐさま謝ろうとする慶介だったが摩耶はやさしい微笑みで迎えた。 「忘れたんでしょーっ!まったくダメねー」 「まあいいわ!今日はイブだし、許してあ・げ・る」 女性が世界を支配したおかげで戦争もテロも犯罪もほとんどなくなった…男は単なる生殖だけの為に生かされているペットのような存在… 社会の下働きだけの生活だけどベッドに入り摩耶の裸体に触れながら、まあこんな暮らしもいいのかなーって思う慶介だった。
お題は継続でお願いします。
木曜の魔女とその機体は呼ばれていた。 ドイツ本土攻略の大規模空爆は頻回に及んだ。消耗率は200% を越える。 直援の戦闘機部隊は、海峡で待ち伏せる敵戦闘機との空戦で、 爆撃地点上空では半数に減った。アブロランカスター・木曜の魔女 は周囲、特に上方からのジェット戦闘機に神経を尖らせた。 不安定な稼働率らしい事はわかっていたが、今となっては旧世代 の航空機ランカスター・では、メッサーの完調な機体からは逃れら れない。 「トム、来たぞ、うまくやれ」機長の声がする。 トム・マクナライド曹長はスコープを覗いた。 この街の、この橋の破壊で、今日は何人の犠牲者がでるだろう。 「神様……」トムは投下スイッチを押した。笛のような風切り音を たてて、爆弾がゆっくりと舞い落ちていく。 機体はそのまま着弾点を直進、後続の機体の投下完了を待って 左に旋回、帰途に向かう。 「弁当だ」分厚いサンドイッチを油紙で包んだ物を渡される。魔法瓶 のスープを飲む。サンドイッチは塩気が足りない。バジルか食べつけ ない何かの香草が口蓋を刺激した。 「クリスマスか……」トムは機長席の窓枠に、ゆれている「魔女」の マスコットを観た。それは、まだ幼い女の子を模したちいさな ぬいぐるみだ。 「聖夜には、爆撃は無いだろうな……」 1945年2月13日、木曜の魔女はドレスデン爆撃作戦に参加。被弾撃墜。 次のお題「ラッキー」「不信感」「歳末」
暇つぶしに入った本屋で、適当に選んだ雑誌の占いを読む。 「周囲の人間に不信感を抱かれそう。言動や行動に注意して!」 と、可愛らしい丸文字が嫌な運勢を告げている。どうやら今月は 星座ランキングの最下位らしい。 「募金など、小さな善良行為が良い結果になって返ってくるかもしれません」 ちょうど歳末たすけあい募金も始まったことだし、この占いを信じて出費しようか。 ラッキーカラーはブラック。ちらりとカバンを覗けば、黒い財布が目に入る。 ふう、と溜め息のような気合入れをして、私は雑誌を棚へ返す。 すぐ隣で見知らぬ女性が、私が読んでいたのと同じ雑誌を熱心に捲っている。 きっとこの人は星座ランキング11位に違いない。盗難注意ってね。 私は立ち読みする女性の脇を、颯爽と通り過ぎる。 女性のカバンから黒い財布を抜き取りながら。 次「双子」 「美声」 「犯行予告」
498 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/04(金) 10:01:09
タックンは小学校一年生です。ですが積み木が大好きです。お外はポカポカ、青いお空にはフンワリと ソフトクリーム雲、秋刀魚雲、ドーナツ雲さんが美味しそうに流れて行きます。それでも積み木で 遊んでいます。この前父さんが突然、お誕生日でもないのにポンと買ってきてくれた飛行機のプラモデル は忘れ去られ棚の上でホコリをかぶって寂しそうです。 建物が出来ました。デパートです。大変です。爆弾を仕掛けられたとの犯行予告が投げ込まれました。タックンは警察官です それも一番の偉い、偉ーい人です。まっさきに駆けつけ指揮をとります。 積み木は変わります。今度は劇場です。それも野外音楽堂です。オペラ歌手が美声を響かせています。タックンはコンサートマスター、 第一バイオリン奏者です。少し習い始めています。がんばって演奏します。 積み木はまたまた形を変えます。今度はお山が二つできました。双子山です。もう一つ、四角い積み木を紐で つるしましょう。ロープウェイです。父さんと母さんとタックンで行きました。ここは箱根です。お山が燃えています。 赤や黄色の紅葉で炎みたいに燃え上がっています。お空も茜色に染まっています。赤トンボ が飛び交っています。芦ノ湖が鏡のように金色に光ってまぶしいです。父さんが肩車をしてくれます。 笑っています。父さんと母さんが大きな声でたくさん、たくさん、笑っています。 タックンも笑います。アハハ、大きな声でいっぱい、いっぱい笑います。 あっといけません。お外が変です。いつのまにやらどんよりと曇っています。タックンはお片づけ を始めます。積み木を一つ一つ大切に片付けます。これは母さんが生前に買ってくれた唯一の形見に なってしまった大事な積み木です。洗濯物がハンガーニ干されて風に揺れています。取り入れましょう。 お風呂も洗います。炊飯器でご飯も炊きましょう。タックンは何でも得意です。上手です。 まだレパートリーは少ないのですがお料理もがんばります。タックンは元気いっぱいです。 さあ、これからタックンは大忙しです。 お題「トナカイ」「シーザーサラダ」「ミュージアム」
「で、トナカイってのは?」
Lはミートボール入りのスパゲティで腹ごしらえしたあと、
シーザーサラダをつまみに地ワインを飲みながら聞いた。
「隠語だ。あの城に半月に一回くらい、車両が入る。
でかい超感度アンテナを運転席の上に乗っけてる。それ
がトナカイの角って訳だ。ありゃ単なる防衛用の探知機
にしてはごつ過ぎる、武装した、偽札・スーパー 『γ』用の
強行輸送車だ」
Gは声を潜めてテーブルの中央に顔を寄せて言った。
周囲は婚礼の前祝の祭りで騒然としており、狭い店内
には地元の人間と観光客が半々位だ。
「正直、拙者はあの伯爵は許してはならないと思う」
Iがぽつりと言った。袋に入れたZ剣を顎下に添えて
眼をつぶっている。
「大赤字だな」Lは、にたり、と笑った。目は醒めている。
「厄介な話だぜ」Gは肩のホルスターのマグナム・ファイン・
チューン・コンバットの重みを感じながら苦笑した。
「Hはどう動くかな?」LはGが材料を持っていないか一応
聞いてみる。
「あの女は、相変わらずさ。欲っぱりだ。それだけさ」
「……いや、城のミュージアムで一度会ったが」Lが言う。
「本当か?」Gが聞き返した。
「お穣ちゃんに情が移ってる気もする。俺等っちの味方に
なるとは限らんだけんどもよう」Lは語尾をふざけて装飾する。
事態はかなりシビアだ。IとGは即座に理解した。
「Zのとっつあんも来てるんだろう」Gも腹が決まったようだ。
「ああ、オールスター・メンバーってやつだ。面白くなるぜ」
http://imepita.jp/20091204/704020 94.6 KB
次のお題「掃除機」「鉄人」「ひざまくら」
500 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/04(金) 21:25:53
「掃除機」「鉄人」「ひざまくら」 「掃除機に言え! じゃなかった、正直に言え! 貴様が犯人なんだろう」 「だから誤解だよ、刑事さん。俺じゃないんだ。罠だよ。現場にいたっていう そいつは鉄人、じゃなかった、別人なんだ」 「言い逃れもたいがいにしろ! お前のやったことのひざまくら、じゃなかった、 ひまざくら、じゃなかった、いざかつら、じゃなくって、えーとあのその」 「チョー意味分かんねえし」 次のお題「暦」「キャンディ」「雑誌」
「いやぁ〜!次元、こんなとこで立ち読みかよ!」 セブンイレブンのドアを開けて、ルパンがやってきた。雑誌売場では、次元がイブサンローランのムックを立ち読みしている。 「次の仕事が決まったらしいじゃねぇか」 「おぉ〜とも、この師走には、デカイ金の動くデパートがある」 ルパンは両手をズボンのポケットに突っ込んで、目の前のガラスに目をやった。次元もガラスを見る。 外の駐車場には、デカイ機械を載せた軽トラックが止まっていた。助手席には、目を閉じて斬鉄剣を抱えたままの和服姿の五右衛門が座っている。その機械は、側面に、山田飴製作所と書いてあった。 「ん〜ん、ルパン、今度の獲物にアレが必要なのか?」 「おう、伊●丹の百周年に当たる来年の福袋には、千分の一の確率でマジモンのキャンディ型ダイヤが入るらしい」 「それで、まさか大量の同型飴を作ってすり替えるとか言うんじゃないだろうな」 「ごめいとぉ〜、さぁすが相棒の次元、てぇことでさっさと行くわよん」 と、ルパンが店を出ようとした時、ハーレーが滑り込んできた。革製のつなぎの上からでも巨乳なのがすぐわかる。 峰不二子だ。 「あんれぇ不二子ちゃぁ〜ん、どったの」そうおどけて見せるルパンの後ろで、次元が肩をすくめて横を向く。 「ルパンに年賀状を出そうと思ってえ、こうみえても私も日本人だし、暦の上のイベントは見逃さないのよ」 「へぇ〜、相変わらずいいお乳だこと」そう言ってルパンは不二子の胸を触ろうとする。 「だぁめよ、キャンディと交換なら考えてあげるけど」 「なんのことかなぁ」 「うふふ、聞いちゃったぁ」 胸の谷間から受信機を取り出して、そのままルパンの首筋に手を触れると、盗聴器が現れた。 「しっかたないなぁ」 ルパンはハーレーの後部座席にまたがった。 「んじゃぁ、次元、軽トラの運転よろしくぅ」 へいへい、といった態度で次元は運転席に乗った。 エンジンがかかるバイクと軽トラ。ハーレーが走り出し、軽トラがその後を追う。 雪が降り出していた。 「へーっくしょん」 とくしゃみをした銭形警部が伊●丹の警備につくのは大方の予想通りである。 次のお題「ギャング」「ビデオ」「時計」
「こりゃギャングだな」店長がビデオを検証しながら言った。 マコトは、まいった問題だな。と思った。店の死活問題だ。 「ほら、餓鬼どもが防犯カメラの位置を把握していて、仲間で 壁をつくって写らないようにしている。その陰で商品をパチ っていく訳だ」 「性質が悪いですね」二人は玩具店のバックヤードで対処 方法に頭をひねっていた。余り露骨な捕捉をするのは、 他の善良な客に妙な雰囲気を与えかねない。 「捕まえたら捕まえたで最近はモンスター・ペアレンツの 逆ギレだ。なんて時代だよ」 マコトは、今日ここに呼ばれた意味はわかっていた。 「じゃ、ギャラは、よろしくということで」 マコトは、愛くるしい少女にも、少年のようにも観える。 「ああ。怪我だけはさせるなよ。お灸をすえるだけでいいんだ」 マコトは、開店時間を事務所の時計で確認した。 早速マコトは髪をウイッグの中にまとめだす。 『彼女』は、何処にでもとけ込む能力がある。 女子大生Gメン真琴。 空手三段、剣道三段、柔道二段。合気道二段。 次のお題「雪道」「穴」「夜通し」
503 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 00:27:03
「雪道」「穴」「夜通し」 BUBUBU− ひくい、羽音のようなうなりがたえず聞こえてきた。だがもう顔を上げてたしかめるだけの気力もない。かれは疲れきっていた。 このままどこへむかおうとしている? 視界の端に、黄白色のほのほがゆらめいているのがかすかに見えた。 手足の感覚はすでにない。 −死ぬのか。ここで。 マエハラ! 背後から声がきこえた気がした。 「シッカリシロ。マエハラ。ワタシダ。センゴクダ」 「せんごく……仙石、か。そうか。生きていたのか」 その名前の主を、自分はここまで探しに来たのではなかったか。鉛のように重くなった頭で、マエハラと呼ばれた男はそう思い出していた。 「スッカリカラダガヒエキッテイル。ハヤクアタタメネバ」 仙石が体内の小型原子炉を作動させた。マエハラの身体に降り積もったまま凍りついていた雪のかたまりが、原子炉の熱をうけてすこしずつ溶けてゆく。 夜通し雪道をあるいてきた。ただの雪ではない。死の灰をたっぷりと含んだ灰白色の雪。 「ナカマハドウシタ。ミナ、イッショデハナカッタカ」 「死んださ。おそらくは、みな奴らの餌食になったのだ。岡田も、藤井も」 自分のからだを支えてくれる男のことを、いまだにはっきりと思いだせぬままマエハラはかわいた声でつぶやいていた。 「HENOKO作戦を実行する時点で、みずほだけはどこかへ逃げてしまった。亀井は……どうなったのかおぼえていない」 そうだ。ほかにもなんにんか仲間がいたはずだった。予備電子頭脳を作動させながらマエハラはひっしに思いだそうとする。 「おれは直撃をさけ、携帯ミサイルを連射しながら夢中で手ぢかな穴に逃げこんだ。それから……」 「ソレカラ……ドウシタノダ」 それから、それから? 違う! Hiiii−n 奇妙な電子音が無数の針のように、動きのにぶいマエハラの電子頭脳をつらぬいた。 「違う! お前は仙石なんかじゃない」 OZAWAだ。とうとうここまで追いついてきたのだ。
504 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 00:31:18
今回は光○龍風を狙えどまた失敗 次のお題「太陽」「狐」「お喋り」
505 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 08:52:12
2012年、太陽の活動が活発化して地球には天変地異が続発・・・・・・・・・・ 今日は狐さんとタヌキさんと私の楽しい映画鑑賞会です。 狐さんは、油揚げが包まれず巻き寿司のようにまかれた名店のお稲荷さんを食べています タヌキさんは銀座8丁目にある老舗店の天丼弁当です 私は冷蔵庫の残り物のオンパレード、この寒さで物が腐らず助かる弁当です。 楽しくお喋りの花が咲きます 「凄い。一ファミリーのみ、隣の家のオバサン、学校のクラスメート、全滅しても自分達だけ 逃げまくる根性を僕は絶対に見習う。」 狐さんは油揚げに舌包みを打って感想をもらします 「君らしいね、そのずる賢さ。僕は木の葉を乗っけて皆を魚さんに変えて助けて上げるの。」 タヌキさんは人の良い建設的意見を述べます。 「何ほざく。カチカチヤマで泥船を拵えておいて。ノアの箱舟の作り方でも教えてもらった 方がよくないか。」 口喧嘩を始めかけた二人に慌てます。私も感想をのべましょう。 「2012年、果たして私は小説家になれているか。」 「なれていない!!!!!!!」 意見の一致を目出度く見てお二人さんは仲直り。三人は再度、仲良くお弁当を パクつくのであった。 お後がよろしいようで・・・・・・・・・・・・・・ お題「大晦日」「大掃除」「大嫌い」
506 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 10:48:02
舌鼓でした。すいません。
507 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 14:09:42
「大晦日の大掃除なんて大嫌い、みたいなネタでいいのかな。どう思う? 小泉、清水、石塚」 「さあ」 「知らん」 「どーでもいい。まあ大晦日で大掃除とくれば結びつけるのは定番だわな」 次のお題「明日」「線香花火」「破片」
「明日は、無いと思ってます」 リドゥー症候群の取材で、私はハルカと出合った。 脳の代謝障害で、突発的な意識混濁。発生部位によっては、 短時間で死に至る病だ。 彼女は、高校を休学している、まだ十九歳だ。実際の年齢より、 物腰や発言は大人びている。死の予感は人生を圧縮する。 「線香花火って、ありますよね」彼女は、私が現状の生活を 訊いていた時、不意に言った。 「線香花火……」私は、なんとなく切ない予感がして言葉を 詰まらせた。 ハルカは、窓の外、梅雨の晴れ間の新緑の風景に眼をやった。 「……線香花火は、玉になって落ちます。でも、その前に綺麗な 火花を散らして、踊るんです」 「そのダンスの、一瞬一瞬は、時間を切り取れば、永遠だと 思うんです。確かに輝いた瞬間は、誰にも否定できないと思う」 「だから、今、永遠に宇宙の歴史の片隅に残る瞬間を私は 生きている、って思ったりするんです……誰も顧みる事は無い 忘れ去られる歴史でも」 「そうだね、本当は他のみんなも、そうかもしれないね」私は、 やっとそう言った。 たとえハルカの肉体が砕けても、その魂は美しく、ひそやかに その破片の全てに宿るだろう。と私は願う。 「うん。だから、私は生きることを楽しんでるんですよ」 ハルカは明るい顔で笑った。 次のお題「平手打ち」「ダイヤモンド」「警察官」
「大嫌い!」 そういい捨てると彼女は出て行った。どうしようもないなー、というのが 俺の感想で、困った事だぞ、という反面、大体においてそういう捨て 台詞はまだ先のある予言のようなものだと思っていた。本当に「大嫌い」 なら「大嫌い」とは言わないはずだろう。 そもそも俺の生活態度が問題であって、性格的なものか、なかなか勤め先 が長続きしない。それでいて家事も嫌いとなれば、勤務もしている彼女は 疲労と不満が累積するというものだ。 賃貸マンションにぽつんと残された俺は、仕方無しに部屋の掃除を始めた。 気分転換を兼ねた大掃除である。押入れの中には趣味のプラ模型が未組み 立てで山ほど積んである。こういう財布の底が抜けた収集癖も、彼女には、 負担だった可能性は否定できない。 結婚をずるずる先延ばしにしてきた事情としては、まだまだいいだろう的な 俺の楽観視であり、彼女にしては不満を通り越して危機的心象にあったかも しれない。「甲斐性なし」 嫌な言葉が頭に浮かぶ。しんどいかな、と思って押入れの戸を逆側に開いて みる。こっちは彼女の物が入っている。金属バット。 なんだこれはと思って仔細に見てみると、カラーマーカーでバットの表面に 「一人一殺」とか「道連れ」とか「死ね」とか書いてある。はあ?と思って、 バットの納まっていた押入れの隅に、ルーズリーフを発見する。 「結婚計画」とか書いてある。詳細な式場の手配とか招待する親戚や友人、 新婚旅行の計画が書き連ねてある。なんかすまないことをした気分になった。 ページをめくっていくと、最初は綺麗だった文字がだんだん乱れた変な字に なっていく。それはさておき、「何月何日、残高〜〜円」とか、「ここが我慢の しどころ」とか、「今日、病院に行った」とか「たまにハイになる」とか書いて あった。処方された眠る薬の事とか書いてある。 「決行は大晦日。背後から。サヨナラ人生」とか書いてある。 インターフォンが鳴った。 「ごめん!ケーキ買ってきちゃった!お茶にしましょ!」 彼女のやけにハイな声がした。俺は、泡のような汗をかいて、立たない腰で カーペットの上で激しく震えていた。
510 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 21:48:54
「平手打ち」「ダイヤモンド」「警察官」(1) 「よう、フぅ〜ジコちゃ〜ん。相変わらずお目目に毒なナイスバディだこと」 ニンマリと相好を崩して、大きく開いたドレスの胸元に触れようとしたルパンの指先を、寸前で不二子は軽く払いのけてから、 「で? 今度こそ間違いないんでしょうね。嫌ぁよ。去年みたいに寸前で福袋のすり替えに気づかれて失敗、だなんて結末は」 「だ〜い丈夫。あん時みたいなドジは二度と踏まねえさ。例のキャンディ型ダイヤモンドはたしかに今はここの地下金庫に収められている。見なよ」 小さく目配せする。カップルを装う二人。人待ち顔の中年紳士。さりげなく師走の町の風景にとけ込んではいるものの、いずれも警察官の変装に間違いない。 「わかったわ。で、あたしは何をすればいいの?」 「んふふふふふふ。それなんだけどね」 ルパンが懐からジッポーを取り出し、指先でチン! と蓋を跳ね上げる。とたんに勢いよく催眠ガスが不二子の顔目がけて吹き出した。 「去年みたいに俺たちの邪魔ぁされても困るんでな。少しだけいい子いい子で眠っててちょーだい。後でお目覚めのキスしたげるから。んじゃね」 「ずるいわよ! ルパン。待ちなさい……」 急激に意識が遠のく。せめて平手打ちのひとつもくらわせてやろうと気力を振り絞ったものの、すぐに身体の自由が利かなくなり不二子はあっさりとその場にくずおれた。 気がつくと夏美がそばに立っていた。
511 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 21:50:21
「平手打ち」「ダイヤモンド」「警察官」(2) 急激に意識が遠のく。せめて平手打ちのひとつもくらわせてやろうと気力を振り絞ったものの、すぐに身体の自由が利かなくなり不二子はあっさりとその場にくずおれた。 気がつくと夏美がそばに立っていた。読みかけていた娯楽小説のページを閉じて待合室の椅子から立ち上がる。 「やあ、どうだった?」 暗い表情には気づかないそぶりで、さりげなく問いかける。次の瞬間夏美の両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。 「駄目なんだって。もう手の施しようがないんだって。春香ちゃんもう治らないんだって。長くてあと半年なんだって」 あと半年。内心覚悟はしていたものの、夏美のことばは突然の平手打ちのようにぼくの心を激しく揺さぶった。 「出よう」 考えがまとまらないまま、すかさず夏美の肩を抱いて病院の外へと促す。 泣きじゃくる彼女を連れたまま、どこかの店に入るわけにもいかない。やむなく町中にある小さな公園のプラスチックのベンチに並んで腰かける。 「春香には、会ってきたの?」 そっと肩を抱き寄せる。ぼくの腕の中で夏美は小さくいやいやをするように首を振った。 「会えないよ。会えるわけないよ。どんな顔して春香ちゃんに会えばいいって言うのよ」 通りすがりの警察官が、じろり、と一瞬だけぼくらの方を見て、そのまま知らん顔で通り過ぎてゆく。 夏美はいつまでも泣きやまなかった。 吐く息が白い。ふと見上げた空にかかる月は、なぜだか少しぼくの目の中でにじんで、ダイヤモンドのようにきらきらと輝いて見えた。 次のお題:「霧」「宅配便」「ビデオテープ」
512 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/06(日) 21:54:20
長すぎてやむなく(1)(2)に二分割
「娯楽小説」の前半部と「現実」の後半部、両方でお題処理に挑戦という試みだったのですが
あと
>>508 さんが素晴らしかったのでさりげなくキャラ名拝借
宅配便 ビデオテープ 霧 「お届けものです。」 宅配便から手渡された小さい包みには発泡スチロールではなく木の葉に包まれたビデオテープだった。 「なんか…… いかにもだな……」 送り主も住所も一切不明。さっきの宅配便も思い返せば怪しいやつだった。 「まぁいいや。」 早速デッキに入れ再生する。見覚えのある森がノイズ混じりに浮かび上がる。そこにはビニールシートにスコップで土を被せる人物。俺だ。 「誰だよ。撮ってたの……」 一心不乱に作業をする男。三十分。あの時計った時間だが、恐らく今も同じだろう。延々とそれだけを移したものだった。男は作業を終えるとふと、こちら側を見つめた。あの時感じた気配はこれだったのか。 映像の自分と目があった。その姿を俯瞰で捉えた映像をイメージして馬鹿らしくなりつい吹き出してしまった。 「フ、フフフフ、ハハハハハハ……ハ」 そのとき、首筋に冷たいものが触れた。真っ暗になったブラウン管に映る俺。その背後にいる黒い影から伸びる白い腕が俺の首を捉えている。 案外ホラー映画も馬鹿に出来ないな。多分幻覚を見ているんだろう。狂っていてもそれは解る。しかし幻覚もそう馬鹿には出来ない。幽霊の正体は枯れ尾花だと言うが、その枯れ尾花だって人を殺せないとは言い切れないのだ。 「このあとは俺の断末魔のアップか幽霊のアップで次のカットだよなぁ……」 首にかかる力は次第に強くなっていく。次第に霧がかっていく意識にもかかわらず、次の作品のアイデアがどんどん膨らんでいく。これを映像にしたら凄いもんが出来るぞ…… 夕日が差し込む部屋に満面の笑みを浮かべた男が死んでいる。テレビにはスコップを持った男がそれをじっと見つめていた。 次題 「コレラ」「兵隊」「骸骨」
「ルパンまさかアフガニスタンに潜入する気か?」 軽トラのステアリングを握っている次元が、フロントグラスの向こうを見据えたまま、 助手席のルパンに向かって言う。 「お〜とも、こいつは単なるアクセサリーじゃないのよ」 ルパンは、キャンディ型のダイヤモンドを弄んでいる。 「ふん、しかし、アフガニスタンは今マイナスの気温になってる上に、かなりの雪が積もってる、 動きにくいんじゃないか? 暖かくなるまで待つって手もあるぜ」 「時間が……ないのさ、リドゥー症候群って聞いたことがあるか?」 「なんだそりゃ」 「脳の代謝障害で、患者は突発的な意識混濁を起こす。発生部位によっては、 短時間で死に至る病だ。。何度手術しても、直せない。それを揶揄してリドゥーと呼ばれている」 「ふむ、でもなぜ、手術を繰り返すんだ? 放っておけばいいだろう?」 フロントグラスの向こうでは、粉雪がちらついている。ライトの帯の中でまるで踊るようだ。 真っ黒な路面まで到達できずに消えていく、雪の舞い。 「レントゲンでも、MRIでも、別の、例えば癌細胞のようなモノが確認できるんだ。 しかしいざメスを入れると何も無い」 「医学は進歩したんじゃないのか」 「未だ直せない病ってのは、ゴマンとあるのさ。毎日何百、何千も死んでってる」 「それで、そのダイヤがアフガニスタンとどう関係あるんだ? あんな紛争地域にいっちまったら俺たちの命も危ないかもしれないぞ」 「生きようとしてる女の子がいるんだ」 「ふん、いつもの悪い病気が始まったか」 次元はステアリングを左に切った、右へ流れていく赤い信号機。 「……線香花火、あれが人生だなんてクソくらえだろ」 ルパンはダッシュボードを蹴り上げる。 「どうしたルパン? らしくないぜ」 「いや……悪い。で、このキャンディ型の代物なんだが、 リドゥー症候群で唯一回復した娘がアフガニスタンにいたんだ。そいつの謎を解く鍵なのさ」
515 :
「コレラ」「兵隊」「骸骨」2/2 :2009/12/07(月) 08:36:34
「ふむ」 「アフガン戦争で、イギリス人将校の骸骨将軍と呼ばれた男がいた。 その男の娘がこの生き残った娘なんだが、兵隊やアフガン人を使って娘のために 人体実験を繰り返しワクチンを作り出したたらしい。骸骨将軍の部隊は彼を残して アフガニスタンで全滅している。軍の報告書ではコレラが原因って事になっているが、 将軍が帰還すると、娘が回復したと噂されているんだ。 同じ病気に苦しむ人々がそのワクチンを欲しがっているんだが、幻とされてきた、噂も噂でしかないとな」 「なるほどな。その鍵は何に使うんだ?」 「病気の治療に使ったワクチンを収めたボックスを開ける鍵だ。世界でそこにしかない。 アフガニスタンの精神病院に収容されている骸骨将軍が持っている情報を得たんだ。 幻じゃなかった、ワクチンは存在する」 「ん、なんでそいつがそんなとこにいるんだ」 「娘が死んで狂いやがった」 「じゃぁ、ワクチンは無駄足になるんじゃないのか?」 「いや、娘が死んだのはアフガンの地雷でだ」 「せっかく生き残ったのにな」 ワイパーが忙しく動き、いつの間にかフロントグラスに積もり始めている雪をせわしなくかき分けている。 暗闇の中を白い粉が上塗りしようとしていた。 「ルパン、五右衛門がそろそろヤバイんじゃないか」 荷台で震えている無表情な五右衛門の肩に雪が積もっている。 「ふへっくしょん!」耐えきれなくなった五右衛門が大きなくしゃみをした。 夏美は、ノートにそこまで書くと、机の上に載せたハルカと二人で撮った写真を見つめた。 ハルカは絶対助かるんだ。あたしがルパンになって、病気を盗んでやるんだから。 間に合え。 夏美はそう思いながら、力強く文字を書き続けた。 次のお題「ロックンロール」「聖書」「吐息」
――麗しきは偽りなり、生彩なる美は虚しき。されど主の教えに傅きたる
女性は讃うるるなり。薫香やその価値は粉飾にはあらず。その中から溢るる――
(旧約聖書 箴言31章10節―31節)
会場は、来訪者の数が増えてきた。
本部から推薦があった女の子ふたりにインタビューをする。
僕は地方のタウン誌の記者だ。
「どのくらい前からコスプレを始めたんですか?」
マユという小柄な少女が「一年……半くらい前なんかな?」
もうひとりのミユキは「私は一年くらいです」と答えた。
「コスプレのきっかけは?」
「私はマンガとか描くのが好きで、それで今、同時開催してるコミケの方には前から来てて、
スカウトされたんです。なんて」
ミユキは笑いながら言った。「声がでかいから、とかそんな理由ですよ、きっと」
「なるほど。どうですか実際には?」「んー、はずかしいです。でも今は考え方が変わりました」
「それは?」
「観てくれる方はその時間を私たちにくれはるんですよね。パフォーマンスしなきゃ失礼だと……
もちろん、営利はご法度でおひねりも頂けませんが」
「あれ?あそこのカンパ用の箱じゃないかな?」
文化会館前、箱の傍らで最近流行りらしいガールズ・ロックンロール・バンドのユニットの
演奏が始まった。
マユがハスキーな声で答えた。「あの……書かないで欲しいんですが、私たちのグループ
の仲の良いグループに、伝説のコスプレーヤーがおるんです」
「もう、歳も結構いっちゃてるんですが、めっさ元気なお姉さんがおって。怪我して入院
してるんです」「事故?」マユが眼を伏せて答えた。「配達でね。おおきなクルマに、
あてられた……お姉さん苦労人で。高校も途中で辞めて仕事に就いた。
だからコスプレはお姉さんの大事な『部活』って言うか。簡単に言うたらあかんけど」
そうか、むしろ普通のマニアックでない高校生より、彼女たちは社会の陰影を観ているように
思った。
「写真、撮らせて頂くけど、いいですか?」「ああ、記者さん、きれいに撮ってや」
……君達は、充分綺麗だよ。僕はデジタル一眼のファインダー越しに、
羨望の入り混じった吐息を吐いた。
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次のお題「大鍋」「ドレス」「鯛焼き」
大鍋 ドレス 鯛焼き 未だ乾ききっていない風と、ほんの少し緑を残す土手。寒空に陽光は暖かかったが、小刻み に体を震えさせる人々の心までをも和らげることはなかった。 鍋はまだ煮えぬのかと寒さを露わにする中年を酒でごまかし、火に薪をくべるが、煙が立つ ばかりでちっとも火力は増えない。端ではヨップが喚き立て、もう一方では老人どもが恨めし そうに手をこすりあわせている。 「どうしよう。ちっとも温まらない」 大柄な少年が似合わず心配そうに言う。その傍らの少女もまた、似たような顔をして弱い火 を見つめる。 子供会主催の秋の芋煮会。毎年茂居町の行事として行われるこの行事は、近年変化してきた 気候により、今年はあまり芳しくなかった。夏が長く続いたせいか、水を含んだ空気が薪を湿 気られたのかもしれない。そのくせ気温は例年並みで、神様のどうした嫌がらせか、今年の子 供たちは悪戦苦闘を強いられるばかりだ。 「うーん。灯油でもまこうか」 「え、いいのかなあ」 「いいよいいよ。やっちゃおうよ」 しびれを切らした少女の提案に、大柄な少年は乗り気ではなかったが、結局その案を取るこ とにした。
結果火は回り、鍋も温まってきたが、その分薪は使い果たしてしまった。どうしたものかと 迷う内に、やはり少女が具を全部いっぺんに入れてしまえとした。 「いいのかなあ」 少年は相変わらず不安がっている。そんな少年を後目に少女は大量の具をぶち込まれた大鍋 をかき混ぜた。 「なんか灰汁がすごいよ。取ってもきりがない」 「それに肉もバラバラになっちゃった」 大鍋にしては、随分酷いものだった。 大凡にして鍋は大きいほど味の調節が楽だ。比率分配が簡単だからだ。にも拘わらず、味が やけに奇妙である。 「なんだか、変に甘いよ。肉味のぜんざいみたいだ」 感想も妙である。子供たちの頭にいくつも疑問符が浮かんだ。なんでこんな味になったんだ ろう。そこへ近付く足音、それに強烈な酒の匂い。 「ういっく。どうしたクソガキども」 すっかり出来上がった中年親父がそこにいた。もう鍋などはどうでもいいという風情だ。 「なんか味が変なの。どうしよう」 少女が言う。すると中年は胸を張って答えた。 「おう。寂しい鍋なんでよ。おれさまが鯛焼きでドレスアップしてやったのよ。良い隠し味だ ろう」
がはは、と親父は豪傑笑いをして去っていった。 台無しであった。 子供たちは皆顔を青くした。この親父はなんということをしてくれたのだろう。とてもじゃ ないが食えない。 「DSやろうか」 「うん」 その後子供は帰宅し、皆で楽しくDSを遊んだ。それに気付いたのは老人どもだけであった。 酔っ払い共が鍋を処理したのは言うまでもない。 次 「ミミズ」「ネズミ」「たこ焼き」
「おとうさん。みっちゃん〜、ゆうくん、たこ焼き買ってきたよ〜 あれ、パパは?」 母屋の方で妻の声がする。俺は土蔵の二階で汗をかきながら 困難な探し物をしていた。 「ネズミにひかれたか……」 家を出て一家をかまえた弟の依頼で、同級会の幹事に選ばれた ので、小学校の卒業写真集を見つけてくれとの事。 お袋は介護施設に入所してしまっているので、聞く相手もいない。 さて、困ったねえ……天袋を開けると、どさどさ、と、書物が落ちてきた。 拾い上げて見てみると、随分昔の、明治か大正の小学校の教科書 とかである。 「これはこれで価値があるかな……」いつかの時代の先祖の使った ものらしい。ちょっと興味が出てくる。あれこれ手にして土蔵の換気窓 の灯りでながめてみる。そうしていたら、どうもその一冊に、落書きが してあった。絵はほとんど無く、文字で書いたものだ。 判読が難しいミミズがのたくったような字で、「未来の書」 とか書いてある。 『大戦後、日本は無類の経済発展をとげるなり』 『だっことか言う人形が空前の流行になるなり』 『女は露出が大きくなって、お尻の割れ目の上のほうをを平気でズボン から見せる』 『二厘くらいではんぶるぐばーがとか食えるようになるなり』 『米国で黒人大統領が誕生するなり』 なんだこれは、と思った。 『美知絵と雄太という子供が生まれたとき、天体が衝突して地球は 終わるなり』えー、それは…… 『これは、うそうそなり』なんだ? 『そのかわり会社でのジュンちゃんとの浮気が発覚して、おくさんと、 みっちと、ゆうはこの家を出て行くなり。代々の家系は断絶するなり。 めでたし、めでたし』 次のお題「通販」「無礼者」「映画」
522 :
「ネズミ」「ミミズ」「たこ焼き」 :2009/12/08(火) 09:53:45
な、何だろう。 田舎のネズミさんは、一パック、土をほじくってミミズを捕まえてそれを土産に都会、 渋谷というところに町のネズミさんを頼って東京見物に来ていた。心に描いていた町並みは もっと洗練されているはずであった。あれはダンボール、へえ、人とネズミが一緒にゴミ漁り。 「よく来た。ここいら、近年、ネズミ人口が増えている。まあ、食事を豪華に用意した。何でも食べて帰ってくれ。」 お世話になりますと丁寧にお辞儀をする。そう、何か、あまりといえば清潔感が乏しい 町並みであった。それでも、ご馳走を山と出され自分の土産を出し損ねた。 「何それ。ハハハ、何か動いている。ヘエ、見たことない。」 知らない。ミミズを知らない。コレは彼らの食生活で欠かせない。ミミズがいる土壌は 美味しい野菜が育つものと決まっている。やっぱり、どうも昔から都会に生きるネズキさんとは 生態も違っているような。 「あれね、夜になると建設される家。地下道とかに。昼間は撤去される。」 フーン、ままあ、彼の想像通り、ネオンの輝きは凄い。これこそ、不夜城という奴か。 これは早々に帰ろう。借りてきたお人よしのタヌキさんの携帯を取り出す。 「僕だけど。そう、田舎のネズミ。迎えに来て。帰る。もう、早くないかって。 いいの。少し見た。」 出ました。現われいでたるたこ焼きマントマン。その背中に乗っけてもらう。 「そうお、ハハハ、一度遊びに行く。一匹でいいや。食べてみる。せっかく持ってきてくれて。 へえ、これがミミズね。」 もう、早く帰ろう。家路の食卓が待ち遠しい。ヤッパリ住み馴れたミミズがいっぱい 溢れる土の中の田舎暮らしが彼にとって最高の住み家であった。
523 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/10(木) 23:23:26
「通販」「無礼者」「映画」 今どきシブヤなんて たいして モノ揃ってないし ぶっちゃけ 通販のが チョー楽だっつったのに 「いーぢゃん。マルキューで買い物してさっ、その後映画行こぉ?」 真狸香がそう言うから 仕方なく あたし 電車に乗る 「何よ。映画ってロクなのやってないじゃん。アニメばっかで」 散々買い物に付き合わされて やっぱいーモノ全然なくて あたし不機嫌 「へえ、ルパン今度はアフガン行っちゃうんだー」 真狸香のノー天気なことばに なんかムカつく タコ焼き食いながら仕方なく映画見てたら 「こぉの、無礼者がぁーっ!! 映画館でそんなもん食うなぁ」 なに? このオヤジ ウザい ってゆうか 早いとこ消えて ハゲ 次のお題:「手紙」「電球」「カギ」
524 :
「手紙」「電球」「カギ」 :2009/12/11(金) 03:50:16
雪の無人駅に線路をきしませ、二両編成のくたびれた車両がやってくる。 私は毛糸の手袋をした手で手動式のドアを開き、大きな荷物を引きずって無人の車内へ乗りこんだ。 暖房が、冷え切った頬を急速に暖めていく。頭を振ると、ホームで降られた、雪の残りが鼻の頭に落ちてきた。 私は、少しぬれた手袋を脱ぐ、白くなっている指先に息を吹きかけた。電車はゆっくりと動き出す。 窓の外では、先ほどから緩やかに降っていた雪が少し右へ流れていくのが見えた。 雪の向こうの灰色の街は、一体いつからあって、いつまで在るんだろう。そんな事を考える。 私が東京に行っている間に、生まれてから過ごしたこの街は変わるのだろうか。ここに帰ってこれるんだろうか。 どこにあるのかわからない太陽が雪雲の向こうで沈んでいき、窓外に夜が迫る。 このまま、電車が止まらないで、ずっと街が流れていく様を見ていたいなと思う。電車に乗っている間は、 私の時間が止まっている気がするから。何もなくならない。何も変わる事なんてない。 でも、夜が走り、街はどんどん輪郭を失っていく、ぽつぽつと現れる明かりが、胸を締め付けた。 旧式の電球式の明りが灯り、窓外の景色が消え、ガラスは私の姿を映し出す鏡になる。私の持つカバンのポケットからは、 手紙の端っこが飛び出している。ラブレター。そんな言葉が少しだけ重くて、封を切ることができないでいた。 街を離れる私は、心を置いていくのが怖い。心は閉じたまま、カギをかけていたかった。東京でひとりでやっていけるように。 私は、窓を開け、手紙を引っ張り上げる。そして、窓外へ投げた。あて先も送り主も無記名の手紙が、雪風にあおられ、 回転しながら視界から消えてく。少しだけ胸の奥が痛んだけれど、私は急いでうつむいたまま窓を閉めた。 今は、自分の顔を見たくない。線路の継ぎ目を越える音だけが、規則正しく響き続けている。 次のお題「バラ」「お茶」「電話」
525 :
「バラ」「お茶」「電話」 :2009/12/11(金) 21:31:24
「きれいだね……なんて言うバラなのかな」 台所でお茶を入れていた久美子が笑って答えた。 「クララ・ルドヴィヒ。冬薔薇で無い品種よ」小さな濃厚な赤色を した小さなバラだ。 窓際のテーブルに紅茶茶碗がふたつ並んだ。 「ほんと、今回はお世話になっちゃって……」 久美子は有料ホームのパンフレットを眺めながら言った。 子供達がそれぞれ家庭を持ち、彼女はこの家でひとりになった。 「もったいないような気がするね。いい家じゃないか。憲一君も、 由美子さんも欲しがるんじゃないかな」私は壁の柱を軽く掌で 叩いた。 「いいえ……」 久美子は横顔に、作り笑顔をした。「思い出が有り過ぎるもの」 彼女の夫は地元の資本家であった。若い頃からの放蕩ぶりは 収まらず、最後には妾宅で急死した。 「まあ、それも人生よね」寂しそうに笑った。 私は医療施設の嘱託をしている。その施設と関係のある有料 老人ホームへの久美子の入居を手伝った。 「若いって、いいことよね。あれから何年経ったかしら?」 「あれから?」 久美子は、そっとうかがうように、私の顔を見て、また目を伏せた。 ……あれから……そうだ。もう60年になる。覚えている。だが、 私は、そらとぼけた。「じゃ、こことここに捺印」契約書に鉛筆で 丸を描いていく。 久美子は指に力を込め、ひとつひとつ印を押した。 「電話してね」 「うん」私は、靴を履きながら、はっきりしない声で答えた。 あの、ふた枝の小さなバラは、からむように茎を寄り添わせていた。 しばし覗いた赤い赤い情熱の埋もれ火を、また私は深くうずめた。 次のお題「熱湯」「遺伝子」「ハイキング」
《もう一本書かせて頂きます。お眼汚ししてすみません。》
「Communication request. Here Charlie,O.V.E.」
「Here U.H.V. YAMATO communication permitted. 」
「Arrived spot area.」
俺は機体のノーズを下げ、低速で舐めるように洋上を進行している。
吹き付けるジェットに、浮力のある黄色い緩衝材の貼りついたジュ
ラルミンの断片が浮きつ沈みつ、ゆったりと回転しながら漂った。
空中空母、天鶴の残骸らしい破片は、海域を40km以上に渡って
散乱していた。生存者の存在を示す着色剤の痕跡も洋上に観測
できない。残骸はバラバラの状態だった。搭載していた8機のF-8
「隼」の機体もみえない。大和の青島飛行隊長から秘話電話が入る。
『やはり、<引き伸ばされたような痕跡>か?』
「そうです。被撃墜、もしくは事故というには範囲が広すぎます」
『そうか、ご苦労、帰ってお茶でも飲んでくれ』
――――――――――お茶――――――――――――
…………これも、『Turnaround Expatriate Aggressive』
(攻撃的変成異世界来訪者)の仕業ということか……
俺はスティックをゆっくりと倒した。恐怖がじわじわと飛行服の背中を
なでまわす。 T.E.A. の正体は、今のところ人類の誰も知らない。
先月、米海軍の大型空母K.O.B.54が沈められ、中国海軍の海底空母、
濤馗も何者かに襲われた。それはまるで瞬間的に引き裂かれるよう
だったと言う。この海の中に、おそろしい敵が眠っている。「彼ら」の
目的は、わからない。
俺はF-8sv海隼偵の可変ノズルを引き上げ、超音速飛行に切りかえた。
――そしてそれが、自衛隊旗艦・UTシステム搭載超大型護衛艦大和と、
異次元からの侵略者との壮絶な戦いの序章だった。
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527 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/13(日) 14:02:51
「大腸の入り口に大きなポリープがありますね、癌にこれはなりっかっています。癌でしょう。よかったです。検査を受けて。」 極めて明るく平然と言い放つお医者さん。凍りつく自分を物ともしない。驚きより宙を彷徨うごとき己に頓着せず嬉々たる笑みすら 浮かべ、とくとくとエコーの画像解説に余念が無い。エコー検査真っ只中のあられもない恰好のまま、顔だけ巡らし懸命に見入る。 ま、まあそういうこともあるだろう。帰りの会計、え、え、2万4千円。そんなかかるつもりなかった。た、足りない。銀行のキャッシュカードの 機械があった。暗証番号が押せない。反応してくれない。ぶれる。焦る。 「あのさあ、自業自得だよね。言わせて貰えば、厚子さん。」 「そうそう、ワンパターンのネタ。文才の無さ。お粗末極まる文章といえるか疑わしいレベルの低さ。付け加える処に推敲ゼロ。」 「酒の飲みすぎ。パートを辞め、執筆小説すべて落選。それからだんだん言動もおかしくなった。」 ここは厚子さんの家の台所。冷蔵庫の食材、調理器具が織りなすは時ならぬ家の住人が寝静まった真夜中のハイキング、園遊会。 「皆さん、聞いてください。」ザワザワ噂話ガピタリと止む。「何、そういうあなたはお豆腐さん。」 「そうです。何を隠そう、我こそ遺伝子組み換え交配豆腐。ジャジャーン、ここに登場。 「大変な事態です。こういう時こそ一致団結。事態を打開しましょう。」どう、打開をする。質問が集中。 「さあ、汽笛の合図、ヤカンさん、熱湯の湯気を一発お願いします。」 ププ、ポンポン、綿雲、羊雲、シュークリーム雲。ラララ、片付け、お掃除、大掃除。まったくやらない 厚子さんに代わって冷蔵庫、電子レンジ、ガス台の汚れ落し、換気扇の油落し、要らない野菜屑はゴミ箱の中へ。 私達、キッチン家族、仲間一同、気合を入れて頑張りましょう。お鍋、グラスは磨いて、茶碗の茶渋はハイター。水周りも抜かりなくハイタを撒いて! 夜の魔法、夜中の魔法、キッチンに降り敷く魔法の星屑、魔法のミルキーウェイ。 それをこの家の一人娘が目をまん丸に見ている事を誰も気が付かなかった。
528 :
名無し物書き@推敲中? :2009/12/13(日) 14:07:46
お題「魔法」「ブロッコリー」「クリスマス」
529 :
「魔法」「ブロッコリー」「クリスマス」 :2009/12/13(日) 19:13:03
「野菜もうちで作れればいいね」 たっこは、前から言っていたが、近くの園芸店で、ブロッコリーの鉢を、 買ってきた。プランターに植え替えて、ベランダに置いた。 「スーパーで買ってきたほうが手軽じゃない?」僕が言うと、 「気分の問題」と、たっこは言った。植物を育てるのは、確かにひと財産、 家に導入したという気分になる。 プランターの向きを前後入れ替えたり、水をやったりするくらいだが、 丸いブロッコリーの花つぼみがだんだん成長してくると、それは可愛らしく、 動物の仔の頭のようにふくらんできて、なんとなく食べてしまうのは惜しくなった。 「食べよっか?」たっこは吹っ切るように言った。三ヶ月も育てていれば情が、 わくというものだが、たっこは、そういう点ではある意味、真摯である。 クリスマスイブ、僕が会社から帰ってくるのを待って、たっこはブロッコリー を茹ではじめた。皿を電子レンジで暖め、それに盛り付けたブロッコリー は、美味しそうで、クリスマス・ケーキの存在が、ちょっとかすむくらいだった。 楽しい思い出だ。 たっことは、最後までこじれた感じにはならなかった。別れた理由も、その 必然も、僕も、たっこも結局、分からないんじゃないかと思う。 「また、一緒に暮らそうと思ったら、三回だけベルを鳴らして」 僕はベランダに出た。一株だけ残したブロッコリーに、小さな黄色い花が 咲いている。その、つぶつぶとした花の集合体は、何かを誘いかけている ような気がした。 僕は携帯電話のアドレスを見る。それは多分一度だけ有効な魔法。 魔法の番号。たっこの携帯電話番号。 次のお題。「夕日」「ホームセンター」「泣きやむ(泣きやんだ)(泣きやんで)…」
空は泣きやんだ後の目の色をした夕日である。 午後から降り続いた雨は、買い物の合間に すっかり止んでいた。買い揃えた一人暮らし分の 日用品は非常に軽くて、何もホームセンターでなくても 揃いそうな品ばかりである。 本当は傘を買いたかったのだが、ここに来るまでさして来た 傘に、実家の香りが染み付いている気がして、急に愛しく なったのだ。 夕日の下、傘を広げると小さな穴が無数に見えた。そろそろ 代え時なのだが、せめて一人暮らしに慣れるまでもう少し、と、 私は周囲の目を気にせず傘をさして歩き続けた。 「オッドアイ」 「画家」 「未亡人」
画家は夕刻前に館に到着した。門番は言い付かられていたらしく、 画家の粗末な馬車を敷地内に入れる事を許可した。広い前庭の石畳 の道を母屋へと進む。荘厳な二階建ての建物の白い壁を、曇天を 透過した夕日のほのかな光が浮き立たせていた。 画材と持ち運ぶには少々重量があるイーゼルを馬車から降ろす。 下女が画家を邸内に案内する。窓は締め切られ、そこここに蝋燭 のペンダントがゆらめいている。邸の外部は石組みにモルタルで 形成されているが、内部は渋く沈んだ木製の壁板と調度で誂えら れている。長椅子に座りしばし待った。 扉が開き、下女を従えて今回の依頼主が部屋にゆっくりと歩みこんで 来た。古い、フレームの入ったスカートを履いている。この屋の主人だ。 また彼女の衣服も、濃い茶色の色彩で統一されており、所々にビーズ やレース使いはしているが、重々しい、時代がかった扮装に見える。 「いらしてくれて感謝します」彼女は低く、老人特有のかすれた声で 言った。「いえ、お呼びくださったことを感謝します」 茶を飲み、時候の話をすこしして、主人の未亡人は私を地下のアトリエ に案内した。そこは広い板の間部屋で、この館が歴史が古く、また贅沢 な構造である事を示していた。「ご依頼があります」未亡人は下女を 全員部屋から出した後で言った。「私の、一番可愛らしかった頃を、 描いてください」 画家は、左目の眼帯を外した。青い右目の虹彩と反して、隠された 左目は透き通るような紅い虹彩をしている。幼い頃、馬から落ちて、 怪我をしてから、画家の瞳は、オッドアイになった。それから、地を さまよう亡霊や、未来の映像が左目に映し出されるようになった。 何度も恐れ、逃げ続けた未知の能力が、今は画家の生業を助ける。 未亡人は、椅子に座り、画家の指示でポーズを細かく修正した。 赤い瞳で、その姿は、未亡人の、老婆は、十四歳の彼女の姿へと 急速に変貌した。 次のお題「保存液」「自転車」「かごめかごめ」
保存液 かごめかごめ 自転車 保存液から眼球を取り出しゆっくり、慎重に右の穴に埋め込む。一度強く目を閉じ、それから徐々に瞼を開いていく。何回かまばたきをし、鏡を見ながら位置を確かめる。 君と右眼を失ってからどれくらい経つだろう。今でもまだ残された左眼は君の夢を見る。君は近いようで遠い、あの時の淡い青のワンピースのままで………。 距離感が掴めないのは片方になった眼のせいだけじゃない。出会った頃からそうだった。捉えどころのない、ピントがずれた世界に生きる君。 触れたくても、触れられない。チェーンの外れた自転車を漕ぐみたいに近づく事が出来ない。むしろどんどん遠ざかっていく。そして最後まで触れる事は出来なかった。 優しい風に呼ばれ窓に目をやる。カーテンが揺れている。君のいた窓辺。君のいたキッチン。ソファー、庭。全てにまだ君の温もりが残っている。まるでついさっきまでそこにいたように。君の香りが。君の気配が………。だから僕は君を探す。 顔の無いかごめかごめ。鬼のいない鬼ごっこ。鬼だけの隠れん坊………。君はもういない、だけど僕は探し続ける。片方の眼を頼りに。僕はさまよい続ける。片方の眼だけで。 次題 囁き 火傷 侮辱
533 :
囁き 火傷 侮辱 :2009/12/19(土) 20:29:44
土壁の部屋で俺は目が覚めた。古い畳は、薄い布団から身を起こした ときに、みしっと僅かな音を立てた。 中庭に向かう俺の寝かされていた二階の障子は開け放たれており、 この家の子供か、女の子が庭の水道で遊んでいた。 ああ……あの囁きを思い出した。「あなたは帰ることが、もうできないの」 そうか、俺はランニング・シャツの二の腕に、ある筈の酷く引き攣れた 火傷の痕を観た。古い傷だ。 ……その傷痕は既に無く、やや日に焼けた清浄な腕があった。そうか…… 帰れない、帰れない。俺は、水中に転落して、ドアが開かなくなった車中の、 最後の記憶を思い出した。 記憶はまだ残っている。いつまでもつかは判らない。俺の人生を、あるいは 清めた気分だろうが、神様、これはちょっとした侮辱だ。 次のお題「悪夢」「片方」「テロップ」
目を閉じれば浮かぶ言葉たちが、テロップのように頭の中を流れる。 それらは一文字一文字が鮮やかな色彩を持って美しく、 このまま眠りについた先が永遠の悪夢でも構わないと思った。 たくさんの選択肢をたどって、ついにたどりついた二択。 残されたもう片方の選択肢はまた誰かの人生に入り込んで 選ばれていくのだろう。 頭に流れる文字達はやがて透明になり、かすれて行った。 そんな形にも音にも残らぬ遺書が、綺麗に僕を堕とした。 「パンツ」 「あぐら」 「休日」
千代子はパンツ姿のまま洗面台に向かう。化粧を落としているらしい。また、 妙な店で働いてきたのか。そういえば、昨晩は帰ってくるのが随分と遅かった。 僕はあぐらをかき、テレビをつけた。しかし、画面に集中できずに首を振る。 久しぶりに見た千代子の裸体が、頭の中に張り付いていた。 「千代子、昨日はどこへ行っていたんだ」 「んー?」 やる気のない声だけが返ってきた。質問への答えはない。代わりに、水のは ねる音がした。 「久しぶりの休日だ、って昨日言っていたじゃないか」 「ごめんごめん」 笑い声交じりの千代子の声に、僕は微かな苛立ちを覚えた。もともと、あの 店で働くことを僕はよく思っていない。千代子はまだ若いのだ。いや、幼いと もいえる。金がないのであれば、僕が渡してやるというのに、千代子はかたく なに拒んだ。 気にならないわけではない。だけど僕は不満を喉の奥に押し込め、それ以上 は何も言わなかった。互いのことには深く干渉しない。それが、僕たちが同居 する際に作った最初のルールだったからだ。 次「娘」「蜘蛛」「独り言」
「あの子、さっきから独り言ばかりしゃべってる」 そう母に言われたのは、夕食後の団欒時だった。 団欒時といっても、父と母、そして僕の三人だけで 過ごす時間であり、母のいう「あの子」は部屋の隅で 壁に向かい膝を抱いていた。 あの子は父の妹の娘である。事情があって我が家に 同居しているが、ちっとも僕ら家族に懐かない。 父も母も同居始めはとても気に掛けていたが、最近は 勝手にしろと言わんばかりに、関わりを持とうとしない。 僕はそんな彼女をちょっと憐れんで、話し掛けるように している。今日も壁に向かっているあの子に近寄ると 同じように膝を抱いて座った。彼女は壁の隅に巣を張った 小さな蜘蛛を見つめていた。「何してるの?」と問うと、 彼女は「ママと話をしてるの」と言った。そして言ったと 同時に、小さな指を伸ばすと蜘蛛を摘み殺してしまった。 僕はただ彼女の指先を凝視した。指先にはタバコを押しつけ られた火傷の跡がある。 「夜の蜘蛛は、親だと思って殺さないといけないの」 彼女が指先を擦った時、僕はそこから視線を逸らした。 彼女の母の死因は未だ不明だが、僕はさきほどの 幼い指先に、確かな殺意を見た。 「足音」「笑う」「早朝」
早朝 足音 笑う 早朝のホーム。酔っ払い達が夢の後。青白い馬の蹄の音。迷子達の足音。僕はじっと線路を見下ろし、その鉄の冷たさを想像していた。 何故この場所を選ぶのだろう。死んだ事がないし死んだ者から聞いた訳ではないが、結構な痛みを味わいそうだし、電車が止まるとことで沢山の人が迷惑する。 迷惑をかけたいのさ。そうだろうか?そうだよ。迷惑をかけることで怒りであれ、憐れみであれ大勢の人々の関心が自分に集まる。 今までになかったほどの関心が。それがたとえほんの一時でも。死を選ぶやつの理由なんて大体そんなところさ。そう言って彼は自嘲気味に笑う そんなものなのかなあ、僕は線路に散らばった僕の欠片を想像した。パーツの配分は滅茶苦茶でお世辞にも美しいとは言えない。でもどれも愛おしい僕。 何かを掴もうと開かれた手首。片方だけ立った足。その全ての部位の一方に柘榴の輝き。その全てが一つだった跡。僕は彼らを思い泣いてしまった。 けたたましいベルとともに日常が始まりだした。僕は慌ててホームに背を向け、おぼつかない足取りで亡者の群れに紛れた。溺れそうになりながら階段を上りようやく地上に出る。だけどやはり気圧が変わっただけで。息苦しさは消えなかった。 次題 人魚 シアン 竪琴
「ラスプーチンって知ってますか」河童は訊いてきた。 「ロマノフ王朝に入り込んだ怪僧」 「彼は、陰謀でシアン化合物入りの菓子を食わされたけど、死なず、銃殺された」 「……河に投げ入れられたあと、十字を切っていた」 「あなた、お詳しいですね。素人とは思えない」俺はやれやれ、と思った。 「何回言えば分かる?俺は奇現象研究家だ」 「だから……ここにいるの!何度説明させるの?」俺の語尾は欽ちゃんっぽくなった。 河童はしばらく黙っていた、「……だから、あなたの尻小玉をいわば罠の餌として……」 そうだ。だからこの人里離れた河畔にいるわけだ。 「あなた、前提が間違っている。河童が尻小玉を抜くというのは俗説。溺れた人の肛門が開くのは、 体内の常在菌の活動が、停止した生命活動で活発になり、腹圧の限界を超えてガスが体外に出る事と、 肛門括約筋は、随意・不随意の支配下にありますから、死ぬと緩むんです」 俺は、尻小玉の存在そのものを……「で、わたし、河童じゃなくて人魚です」 ええ?じゃそのクチバシとか背中の甲羅とか、頭の皿は? 「ああ、これは、クチバシは呼吸用と、海中は異波長ですから変換器。甲羅は浮力体。頭の皿は塩分補給用の 行動食の電解質滴下用具です」「脚二本あるじゃねえか!」 「海でのあれは、70年代風に言うとアタッチメントです。海中を100ノットで泳ぐメカというか」 彼女は、そう言って扮装を解いた。なまめかしく意図せずして手を伸ばすことを誘うようなくびれた裸体が 硬質であり、また暖かく包み込む白い曲線を月光にひいた。 髪に、唇に甘い香りがする。彼女は自ら俺の手を秘所におずおずと導いた。俺は、彼女の潤った身体を、 幾度となく潜り、締め上げ、深く漂った。彼女は、しばらく耐えたあと深く咥え込み、不規則に痙攣した。 「ああ、いい月だ、君が人魚なら、竪琴を弾いてくれないか?」 彼女は、また驚いたような丸いまなこを開いた。 「誤解です。竪琴というのは一種の美化で、本来は『堅事』と言うのが正しい。我々種族が、 『どうでもいいことをさも重要であるように、かたっくるしく薀蓄たれる事』の意味です」 「じゃ、あなたとわたしの子供が生まれたら、連れてきます。教育は陸上の方が選択の幅があるから」 彼女はそう言うと、俺の意見も聞かずにとっとと海に帰っていった。
次のお題「食玩」「デート」「ドリフト」
もう夜半すぎのことだった。とある山の林道沿いに車をとめて僕たちは肩を寄せ合っていた。そこ はちょうど山間部から街を見下ろせる場所で夜景がきれいだったし、人通りもなかった。僕たちは そこでよくデートをした。僕は彼女のウェーブのかかった髪に指を絡ませて首筋を眺めていた。視 線を上に向けると街の灯りが彼女の瞳に映ってきれいだった。彼女はずっとフロントガラス越しに 街を見ていた。 「さっきから下のほうで光が動いているわ」 光の帯が時おり真黒な山肌からレーザー光線のようにとび出たりしていたのだった。 「あれはドリフト族っていって峠を車で徘徊してる奴らのライトだよ」 彼女はそう聞くとじっと僕を見詰めたまま僕の方に頭を預け冷たい手を僕のズボンのポケットに 突っ込んできた。彼女はいつもそうすることが好きだった。 「世の中にはいろんな人がいるのね。なんだか不思議な気分になっちゃう」 僕の首筋にかかる彼女の息は熱かった。きっと僕と求めていることは同じだろうと思った。僕が 彼女の唇に近づいた時に彼女は僕のポケットからゴソゴソと何かを取りだした。 「これ何?」 それは確か昼飯の時に買ったお茶についてきたおまけだった。僕がその食玩について説明しよ うとする前に彼女から切り出した。 「これって、いやらしい玩具じゃない?」 「お茶のおまけだったんだ。ただポケットに突っ込んどいただけだよ」 彼女はもう僕からカラダをはなしていた。 「ねえ、K子。たしかにそれはいやらしいことにも使える。でも世の中は不景気なんだ。売上を上 げるためにどこの企業も躍起になってる。ルールがありそうで生きるためなら何でもありともあ る意味言えるんだ。おもちゃのマッサージ器と書いてあるけど、もちろん君の言ったように別の 使い方もある。それを目的でお茶を買っちゃう人もいるんだよ。悲しいけどこれが現実なんだ」 「あなたは何の目的でお茶を買ったの?」 「ただそのお茶をいつも飲んでるからだよ。それだけの理由さ」 僕は彼女のカラダを引き寄せようとした。彼女は僕を見つめたまま言った。 「世の中が狂っているのか、私が狂っているのか、ほんとうにわからなくって」 僕が彼女を抱き寄せると、彼女の言葉が僕にも感染した気がした。 「暇つぶし」「国債」「銃弾」
まいってしまった。さて、どうしよう。 部屋が汚いことも、それを今日片付けようと 思っていたことも、今はどうでもいい。 真昼のニュースは、どこぞの国のお偉いさんが 銃弾に倒れたと緊急放送ばかりしている。 どのチャンネルにまわしても、きっと同じだから、 テレビももう気にしない。 暇つぶしに小説を書こうと思ったけれど、 さて、国債をどう使って書いたらいいものか。 「眼差し」 「無言」 「親子」
YOYOYO! 年末の忙しい中、ライブに来てくれてどうもありがとおお! 浅草出身の俺が言うのも何だけどサンキュー・ジャパン! (歓声がワーーーー) ああ、凄い眩しいぜ! 親子で来てくれたファンの方の笑顔、最前列に座っている君の眼差し、無言でリズム取ってる玄人さん! カップルもお一人様も、みんなみんな、愛してるぜ〜〜〜〜〜〜〜えいえいえいええええ〜〜。 (歓声がワーーーー) 今年も後少しだね………………最後に一言、言わせてください………… 本当に大事なものはお金なんかじゃない。。。 「FX」「奇麗事」「便座カバー」
543 :
1/2 :2010/01/04(月) 18:12:44
「どうして? あと3歩前に進むだけでしょう。その程度のこと、出来ないなんて言わせないわよ?」 背後から厭らしい女の声が纏わり付いてくる。 振り向き、直ぐにでも殴りつけたいのだが、拳を作り空気を握り潰すことで耐える。 そりゃあ、俺だって大人だ。赤子じゃあないんだから歩くぐらいなんでもない。三歩先に地面があるのならば。 ここのところの不況を相手にFXで勝負を仕掛け、惨敗。 今の俺の存在価値は借金返済の道具としてのみだ。否定できない。 「何も言い残すことなんてないでしょう? 早く歩きなさいよ」 「うるせえ。そりゃあ俺は借金抱えているよ。けど、たったそれだけでお前ら闇金ってのは人権すら奪うのか? 体に血すら通っていねえのかよ」 「甘いこと言い放つのは構わないけれどねえ。君がお金を返せないからこうなっているのよ。いい? お金はね、命よりも重いの。どうやっても払えないのなら、命を使うしかないでしょう?」 明らかにおかしな事を口にしているのに、女の口調はまるで変わらない。振り返っていないが、きっと薄ら笑いでも浮かべているんだろう。 女の絶対的な自信から来ている高慢な口調。どうせ、後ろにはゴツいボディーガードも居るんだろうさ。 刃向かえない悔しさ。諦めが俺を包む。
544 :
2/2 :2010/01/04(月) 18:13:25
どーでもいいや。 俺を包んだ生暖かい感情は、FXだとか2chだとか、そういった下らない遊びに手を出す前の、人と談笑していたときの感情に――雰囲気だけだが――なんとなく似ている。 ちくしょう。せめて人の温かさに触れながら、死にたかったな。 こんな下らない女に嘲笑われながら自殺なんて、まっぴらだ。どうせ、今も女は俺が死の恐怖におびえているだろうと高を括ってる。 違うな。もう、死んでいい。金と嘘だけの社会で、老いるまで働いて死ぬなんてまっぴらだ。 けれど、どうせ逃げられないなら、せめて女の記憶に俺の存在を焼き付けてやりたい。 「――金は命より重い? どうやったらこんな勘違い女が生まれるのやら。人間に一番大事なのは、理論では割り切れない、言葉では説明がつかない、そんな暖かさなんだよ。理解しろ」 「強がりねえ。FXになんて手を出したアンタが言うことじゃあないでしょうに」 「ああ。パソコンと一日中見つめ合っていた俺はすっかり忘れていたよ。けど、ようやく思い出したんだ。折角だから、死ぬ前にお前さんに教えてやろうと思ってな」 人の温かさかあ。我ながらそんなものとは無縁の生活をしてきた。人を騙す、人が傷ついているのを楽しむ。よくよく考えてみると、あの頃の俺は死んでたぜ。 ……そうだな。今までも死んでいたんだ。もう一回死んだって何だ。 「お前さんの声はムカつく。勿論俺は負債者だから偉そうなことは言えないけどよ、忠告する。その思考は変えないと、後悔するぜ。 ……じゃあな」 俺に向かってくるコンクリートは、異様なほど無機質だった。 叩きつけられる直前。最後に感じた暖かさが便座カバーを通じた電気の暖かさだったと思い出しちまったのは一生の汚点だ。 ……自分の詭弁に影響を受けるなんてな。 次「放課後」「教室」「雨」
すまん、書くのに夢中でお題の言葉勘違いしてたorz 甘いこと→奇麗事に脳内変換してくれ。。。
放課後、私たち四人は高校の教室で怪談話をしていた。 六月の曇りの日で、なんだかじめじめした感じが雰囲気を出していた。 そして、それは三人目の康子ちゃんが、物語のオチを語ろうとしたとき。 「でね、教室に残ったA子さんが、ふと顔を上げたら、なんと……ぁ(ザアァァァ)!!」 ……雨音だった。前触れもなく降り出した大雨が激しく窓を叩き、その騒音で話のオチが 掻き消されてしまった。窓を見て、いま流行りのゲリラ豪雨というやつか、と思った。 康子ちゃんは気抜けした様子で笑ってから、「帰ろっか」と言った。 「え、オチは?」と聞くと「ああ、結局は何にもいなかったっていう拍子抜け系」と答え、 私たちは「なーんだ」と、肩すかしを食わされた気分だった。 私たちが階段を下り、折りたたみ傘を手に昇降口を出ると、もう雨は降っていなかった。 ああ良かった、早く帰ろっか、としゃべりながら歩き出して、そこで私は気づいた。 地面が濡れていない。あんなに降ったのに、不思議だ。そう思って隣にいた康子ちゃんに、 「ねえ、地面が濡れて無くない?」と尋ねたら、彼女は青い顔をして、 「うん、そのこと、他のみんなが気づかない内は、黙ってて」と言ってきた。 そのただならぬ様子に思わず「うん」と頷いてから、よくよく考えると、康子ちゃんは わざわざ「何もなかった」なんてオチの怪談話をするような人じゃないことに気がついた。 あのとき、雨が降っていなかったとしたら、あの窓を叩いた水はなんだったんだろう。 それを見て彼女が咄嗟に隠した、あの話のオチはなんだったのだろうか。 次は「正月」「事故」「幸運」で
「路面凍結による事故が多発しており」 アナウンサーがそこまで言った時、リモコンを押してチャンネルを変えた。 どんなニュースも康子の謎かけ以上の興味を惹かなかったのだ。 私は正月三が日、ずっと本当のオチを考えていた。 けれど良い答えは思い浮かばず、非現実的な、オカルトな想像までしてしまった。 たとえば康子が何らかの能力を持っているとか、そんな類の。 年が明けて、私はもう一度怪談をしようと提案した。 前と同じ場所、前と同じ時間、前と同じ四人で。 「あの雨の話、もう一度聞きたい」と私が言うと、 そう来たかというふうに康子は一瞬口元をニヤリとして、 それは康子に意識を集中していないと気づかないような そんな一瞬だったけれど、とにかく康子はもう一度話してくれた。 私がビデオカメラを野外に向けて録画しているとも知らずに。 ビデオには全てが映っていた。窓に水のかかる様子まで、しっかりと。 ふふふ、と私は思わず微笑んだ。そう、そういうことだったのね。 ──他のみんなが気づかない内は、黙ってて。 どうして康子がそんなことを言ったのか分かった。 ヒントは「康」の字……。あの雨、水は、私にだけ見えたのだ。 幸運、だったのだろうか? ふとそう思った。 見えたことではなくて、見える仲間が見つかったことが。 わからないけど、私は悪い気はしてないから、康子もそうだといいな。 「大発会」「矢」「頭」
千枝子は破魔矢を持って遊びに来た。下の姪である。 今年は彼女の就職活動が始まる。デリケートな話題なので、それ には距離をおきつつ話をした。 格差社会と世間ではかまびすしいが、何処に勤めたから安心とも 言えない。彼女はキャリア・ウーマンを目指しているようなことを、 ちらっと言った。なれればなれたで万々歳だが、受験戦争の勝利者 という経過だけで万能感に浸るのはちょっと危険だ。それは、僕 自身がそうだったからで、比較的、堅い職場ほど、褒美は貰えず、 若い時は小突き回される傾向がある。 今年の大発会は、株価上昇で終わった、とか千枝子は最初に言った。 僕は、競馬新聞を手の中で折りなおした。赤鉛筆を架けた耳の中に、 イヤホンが入っている。それは机の下に置いたラジオに繋がっている。 「ねえ……私、ここに来るとほっとする」千枝子が小さな声で言った。 「そうか?」僕は耳から入ってくる音声に、集中しながら上の空の返事 をした。「叔父さん……ここって、幾ら位、儲かるの?」端的に聞いたな、 と思う。「……日に三千円位かな、利益は」千枝子は、身を起こし、僅か に眉をひそめたように観えた。 「叔父さん……なんでキャリア辞めちゃったの?」 なるほど、それは気になるよね。「まあ、面白くなかっただけ、かな」 ふうん……と千枝子は店内の中古漫画単行本のラックを軽く頭を 廻らして観た。「でも、一等地なんだから、この際、商売替えとか」 僕は軽く息を吹いて笑った。「僕は漫画屋の親父が、子供の頃からの 夢だったんだよ」千枝子は、やはりちょっと不満げだ。 「子供の夢を僕は生きている。それで、満足なんだ」通信が入る。 『官邸から首相が出ました。付近の不審電波傍受を開始してください』 僕は解析用の「割れた」暗号の固有番号をラップトップ・コンピューター に打ち込んで行く。「あ、叔父さんタッチ・タイピングできるんだ」「馬鹿に するなよ、元国家公務員だ」ふふ、と千枝子は笑う。ただのログイン用 パスワードにしか観えないだろう。漫画がひしめく棚の裏、壁の向こう で、決して誰にも知られることはない、大型のコンピューターと通信機が、 ビルの谷間に、ゆっくりと排熱しはじめた。 次のお題「入院」「駆け足」「美少女」
入院、ってのはちょっと微妙だな。 まぁ、アイツが眠っている場所は確かに病院だし、 病院になる前は施設だったけど、 別に病気ってわけじゃねぇしな。 最後に別れたのは、いや、「会った」のは、河原だった。 後悔したんだぜ。 おでこじゃなくて、唇にキスしとけばよかったって。 おまえは、覚えてないかもしんねぇけどさ。 再会のひとこと、何にしよう。 やっぱ、あの絵を見れたこと、か。 それとも、どんな美少女だろうと目もくれなかったことか。 ……恥じぃ、事実だけど、そんなこと絶対に言えねぇ。 まぁ、会ってから考えりゃいいか。 あと三日でアイツは目覚める。 駆け足で、自分の足で、全力で走っていくぜ。 タイムリープなんかもう必要ねぇからな。 「蟹」「蝸牛」「猿」
550 :
「蟹」「蝸牛」「猿」 :2010/01/09(土) 15:28:14
じゅばん!俺の脇差が、侍の胴を横払いに切断した。 深手は、入っていない。侍は、かはっ、と唾のあぶく交じりの 血を吐いた。「ぐ、ぐふう……」侍は沢の露出した岩の上に 膝をもたせた。息を整えようと、粘膜の貼り付く気道をひゅう ひょうと鳴らした。血液の何割かは侍の体内から失われている。 「おぬれ……」侍はもう刀を握っているのがやっとだった。 俺は、脇差の血糊をすっと刀身を沢水に当て、懐紙でぬぐった。 紙の内側は汗を吸っていたので、逆の面で血脂を拭った。 「もう…止めにしないか、お侍様……」 侍は、血走った眼で俺を観た。「ぬれは、何じゃ、侍だろう!」 そうか、迷った。彼にとっては、この闘いは最終戦である。 「俺……身共は、諏訪降籏宗継が家臣、山部次郎直次である」 侍が、ほうっと明るい顔になった。 ぶしゅうん!!侍の刀を握り締めたままの腕が、蝸牛のように、 急激に円弧を広げて宙に舞った。俺の肩に、侍は顎を乗せたまま、 泣いた。「山猿でのうて、良かった」 呼吸が停止するまで待ち、俺は侍をうつぶせに水中にゆっくりと 寝かせた。 ああ、俺は山猿だ。あんたの骸を食う沢蟹を獲って食う。 村に帰って、田んぼを耕す。俺は、まぜこぜにした自分の軍の 武将の名を、口笛交じりに、そらんじた。 次のお題「飲み会」「護符」「洗濯物」
551 :
名無し物書き@推敲中? :2010/01/09(土) 15:32:01
うぜえ
552 :
名無し物書き@推敲中? :2010/01/09(土) 15:33:12
553 :
「飲み会」「護符」「洗濯物」1/2 :2010/01/10(日) 20:36:44
ゼミの飲み会が長引いたせいですっかり遅くなってしまった。 辛うじて終電には間に合ったが、駅から初美のアパートまでは少し距離がある。 郊外の町にはまだ街灯も少なく夜道は暗い。つい急ぎ足になる。こんな時に限って昼間には気にもとめない「痴漢に注意」の看板が目に飛び込んでくる。 ようやくアパートが見えてきた。思わずほっと溜息をもらす。 ハンドバックに手を入れキーホルダーを探す。だがドアノブは鍵の抵抗もなくあっさりと回りドアが呆気なく開いた。 (鍵……かけ忘れたのかしら) おそるおそる、真っ暗な室内をのぞき込む。 とたんに玄関脇のバスルームから伸びてきたごつい手が、初美の手首をつかむと勢いよく室内へ引きずり込んだ。 「ひいっ」 背後から伸びた手に口をふさがれる。息苦しい。 もう一方の手が初美のブラウスの上から、胸の膨らみをわしづかみにする。 「静かにしろ。殺すぞ。いいな。分かったか」 口をふさがれたまま男のことばに、激しく首を縦に振る。そのまま奥の部屋に連れ込まれ、床に突き転がされた。すぐに男は馬乗りになると、用意してあったらしいガムテープを初美の口に貼りつける。 あおむけに押し転がされた初見の目に、大きく開いたカーテンとベランダの窓が見えた。 ベランダには洗濯物が干されたままになっていた。男はそれで部屋の住人が女性だと目星を付け、窓ガラスを割ってクレセント錠を開け侵入してきたのだ。
554 :
「飲み会」「護符」「洗濯物」2/2 :2010/01/10(日) 20:37:41
力任せにブラウスが引きちぎられ、ブラジャーのフロントホックがはじけ飛んだ。のしかかってきた男の右手が左の乳房をまさぐり、舌が右の乳首に吸い付く。 「嫌あっ」 必死に抵抗しようとするが、恐怖に身体の自由が利かない。男の指先と舌とが桜色の乳首をねっとりと愛撫し、まだ男を知らない白桃のような柔肌を唾液で汚してゆく。 「くくく。思っていたより上モノだぜ。パイオツもでかくてもみごたえ十分だ。こいつは待ち伏せしていた甲斐があったぜ」 嘲笑うように男が言う。混乱している思考の中で初美は、忠夫から先週もらった護符のことを思い出していた。 『こいつを恵方の壁に貼っておけば厄除けになるんだってさ。どうか初美に悪い虫がつきませんように』 忠夫はおどけてそう言うと笑ってみせた。初美の大好きな、優しい笑顔。 何よ。護符なんて役に立たないじゃない。涙に濡れた瞳を大きく見開きながら初見は思った。こんなことになるのならせめて、自分の純潔は忠夫に捧げたかった……。 男の手が双脚のはざまに押し入ってくると、いやらしい動きで内股の辺りを撫でさすり、さらにつけ根の方へと這い寄ってくる。 パンティの薄い布地の上から、ふっくらと盛り上がった秘丘の中心を男の指がなぞる。 「駄目っ。やめてえっ」 興奮に息を荒くして、男がわずかに腰を浮かせた。ズボンのファスナーを引き下げる。 次のお題「チョコレート」「活路」「手帳」
「バレンタインデーに来てんじゃねえよ」と俺が笑って言うと、 「うるへー、おばはん」と、モヒカンはやり返した。 「おばはん言うな」俺はスタジオの鍵を放った。まあ、長髪だし、女顔だし、よく女に間違われるのは認める。 「じゃあ、おっさん」 「おにーさん」 「おねーさん」 「もう行けっ! 残り1時間59分だぞ」 「それがさぁ、ベーシストがドタキャンしちゃったのよ」 「デートか?」 「そう。ギターも、ドラムも、みんなデート」 「へー、って、おまえ一人じゃねえか!」 「そう。だからさあ、店長、ギターで伴奏してくんないかな? どうせ全然予約入ってないんだろう?」 俺は手元の手帳を開いて、何も書かれてない真っ白なページを見ながら、 「店はヒマでもプライベートは忙しいんだよっ」 「駄目、か……」 「チョコレート買ってこい」 「え?」 「それで、今日は店をしまってやる。ロンリーハーツ同士、歌いまくろうぜ」 「ロンリーハーツって、何それ、ダセーw」 「待てば活路の日和ありってやつで、おまえを日和にしてやろうってんじゃねえか!」 「海路じゃない?」 「細けぇこたぁいいんだよ、初美!」 次のお題も「チョコレート」「活路」「手帳」
556 :
「チョコレート」「活路」「手帳」 :2010/01/10(日) 23:57:49
「昔の人は言いました。ギブ ミー チョコレート。そして今俺は君に言いたいことがある」 今回の停学で留年が確定してしまい少しは」悩んでいると思って来たのだが、相変わらず騒がしい。 「世の中には毒しか作り出せない人間もいるの。だからあきらめて」 「毒を食らわば皿までって言うだろ。それに俺は別にチョコなんていらない。だからそんなつまらない物を読むのは止めて俺の方を見てくれ」 「意味わかんない。それに毒ってなによ毒って」 生徒手帳から目を離し睨みながら言うと、私の質問を無視して話しだした。 「チョコはいいから愛をくれ」 「馬鹿」 手帳を投げつけ玄関を飛び出した。 「上着くらい取っておけばよかった」 二月とは思えない程寒いと思ったら雪まで降っている。 彼と付き合いだしてからもう5年。何度も助けてあげてきたけれど、今度ばかりはどうにもならないかもしれない。 暖かい部屋の中から私に謝る声が聞こえる。すぐ後ろに寒さを凌げる場所がある。 彼は暖かさを私にくれる。私は彼の活路になれるだろうか……。 次のお題は「風見鶏」「蛇口」「蝶番」
557 :
「風見鶏」「蛇口」「蝶番」 :2010/01/11(月) 00:35:47
「風見鶏……ふ、ふうみけい?」 「蛇口……へ、へびくち?」 「蝶番……ちょ、ちょうばん?」 「お前らみんなアホだろ」 次のお題も「風見鶏」「蛇口」「蝶番」
「ブ、ブベベベ、ブベラッ」と声を出して、男の脳みそがパキャーンと弾け飛んだ。 「次、おまえだぁ! この漢字を言ってみろぉ」 ヘルメットをした男が、風見鶏と書かれた画用紙を掲げた。 「ふ、ふうみけい?」 と答えた男の脳みそもパキャーンと弾け飛んだ。 ヘルメットの男が指先をズボッと耳に突っ込んだだけで。 「次、おまえ、この漢字を言ってみろぉ」 「へ、へへへ、へびくち、ちち、ちちちちっ」 ズボッ。そして、パキャーン。 「次、おまえ、この漢字を言ってみろぉ」 「ち、ちちょ、ちょちょちょちょ、ちょうつがい!」 ズボッ。 「な、なな、なんで? 正解だよね、よねよねヨネよねヨヨねねねね」 「おまえの目が弟に似ている」 「そ、そんなぁ〜アばヴァヴァががガがガキャプアァ」パキャーン。 次のお題も「風見鶏」「蛇口」「蝶番」
「かざみ〜どり〜」 「じゃぐ〜ううち〜」 「ちょうつ〜がい〜」 「だめだめ、そんなんじゃ、調子と言うものが分かってない」 「はあ……」 「……若い者には無理かな〜、お前相撲好きでうちに来たんだよな?」 「風見鶏、蛇口、蝶番、こういうなにげない物の名前を読み上げる。 単に読んだら面白くない。お客さんの気分を高揚させてこその呼び出しだ」 「ほくと〜うみ〜」 「わかし〜まず〜」 「かいお〜、これ変則な」 「どうするかね、あ、お前音楽好きか?」 「えーと、音楽と言うと」 「若い奴が聴くような日本語のやつ」 「J-POP、ですか、まあ」 「そういうので、あの、あのあっただろう」 「え……」 「……粉雪〜、とかゆうの」 「ああレオミロンの」 「そう、それ、サビんところ、いい感じ」 「こなーゆきーって、すぐ後に『ねえ』って付くんですが」 「細かい事は言うな。やれ。」 「ちよの〜ふじ〜」 「ちよた〜いかい」 「せんと〜りゅう」 「こな〜ゆき〜」 次のお題「研究室」「スイーツ」「男勝り」
560 :
「研究室」「スイーツ」「男勝り」 :2010/01/11(月) 15:01:15
───アタシの名前はアイ。心に傷を負った女子高生。モテカワスリムで恋愛体質の愛されガール♪ アタシがつるんでる友達は援助交際をやってるミキ、学校にナイショで キャバクラで働いてるユウカ。訳あって不良グループの一員になってる男勝りなアキナ。 友達がいてもやっぱり学校はタイクツ。今日もミキとちょっとしたことで口喧嘩になった。 女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で繁華街を歩くことにしている。 がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな! 「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこいキャッチを軽くあしらう。 「カノジョー、ちょっと話聞いてくれない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。 キャッチの男はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。 「すいません・・。」・・・またか、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、 チラっとキャッチの男の顔を見た。 「・・!!」 ・・・チガウ・・・今までの男とはなにかが決定的に違う。スピリチュアルな感覚がアタシのカラダを 駆け巡った・・。「・・(カッコイイ・・!!・・これって運命・・?)」 男はポスドクだった。研究室に連れていかれてレイプされた。「キャーやめて!」ドラッグをきめた。 「ガッシ!ボカッ!」アタシは死んだ。スイーツ(笑) 次のお題も「研究室」「スイーツ」「男勝り」
「おい」 研究室から出てきたところで不意に声をかけられた。 「あ……一条さん。ど、どうしたの?」 冷静に返事をしたつもりだったけどちょっと声が震えてる。 一条さん。下の名前は忘れちゃった。大学の講義でたまに一緒になるくらいで、話をしたことはほとんどない。むしろ今回が初めてかも。 性格も外見も男勝りな感じで、最近廊下で危なそうな人と言い争いしてたって噂を聞いた。正直あんまり関わりたくないなって思ってるし、ハッキリ言って怖い人だ。 そんな人がなんで私に突然を?何か悪いことしたのかな?私どうなっちゃうんだろう?殴られる?痛いのはいやだなぁ…… 「に、二ノ宮…さんって、スイーツ好きだよね?」「え、う、うん。好きだけど」 突然の言葉に思わず普通の回答をした。確かに大学の友達とおいしいスイーツのお店の話をしてたりするけど、なんで一条さんがそんなことを……? 「あ、あー…大学の前に新しいス…スイーツ屋さん出来たの知ってる?」 スイーツ屋さん……? 「あっ、最近出来た!あそこの店の『雪だるま君』っていうのがすごくおいしくって――」「頼む!あそこの『雪だるま君』買ってきてくれないか!」 突然言葉を遮り、一条さんが両手を合わせ頭を下げてきた。え?あの一条さんが? 「雑誌で取り上げられたのを見てどうしても食べたくなったんだ。でも大学の前だろ?その、な、なんていうか……」 顔を上げた一条さんの顔が真っ赤になっている。別にスイーツを買ってくるぐらいお安い御用だけど、なんでわざわざ私に……あ、 「もしかして……恥ずかしくて買いに行けないとか?」 一条さんの体がビクッとなった。 「……こ、こんな男みたいな女が一人でスイーツ買ってるところをもし大学の誰かに見られたりしたら、そ、その……ええっと…… あ!それでこの前二ノ宮さん達がスイーツの話をしていたのを聞いたんだ。だから代わりに買ってきてもらえたらと……」 顔を赤くしたまま捲し立てるように喋る一条さんを見ていたら私の中が印象がどんどん変わっていった。 「いいよ。皆で買いに行こうか。もちろん、一条さんも一緒にね」 そう私が笑顔で言い放った時の一条さんの喜びと驚きが混じったような顔を見た時、私は彼女の事が大好きになった。 次のお題は「雪」「キャンバス」「バス停」