この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条

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1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1: 前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2: 小説・評論・雑文・通告・dj系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3: 文章は5行以上15行以下を目安に。
4: 最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6: 感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。


前スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十一ヶ条
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1158761154/

関連スレ
この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/
2名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 05:58:26
過去スレ
この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
http://book.2ch.net/bun/kako/1029/10293/1029380859.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html
3名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 05:59:27
過去スレ続き
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十九ボックス
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1108748874/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ボックス
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1127736442/
4名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 06:00:32
既に落ちている関連スレ(参考までに)
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
5名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 06:01:47
次のお題は
「ウサギの群れ」「王者」「封筒」でお願いします
6名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 06:34:34
初投稿です。
「ウサギの群れ」「王者」「封筒」

 彼は王者だった。他の生き物は彼にとって弱者に過ぎない。
 その日、彼はウサギの群れを追っていた。最初は狩りのつもりだったが、あまりにも簡単過ぎた。もはや群れを追うことそのものが目的に変わっている。
 何匹も爪で引き裂いた。しかしウサギは群れたままだ。おかしい、と彼は思った。バラバラに逃げたほうが生き残れるというのに。
 その時、彼は気付いた。群れの中心にいる一匹。そいつだけが口に何かを咥えている。
 彼は群れを掻き分けながらそのウサギへと向かった。思いの他、激しい抵抗にあった。何匹も噛み付いてきた。だがそんなものは彼にとって蚊に刺されたようなものだ。牙で、爪で引き裂きながら前へと進む。
 目的のウサギが咥えているものが見えた。
 一通の分厚い封筒だ。
 だが彼はそれが何かを知らなかった。初めて見るものだったのだ。とにかく大事なものだろうと強引に奪い取る。
 封筒を奪われたウサギたちは、それまでの結束が嘘のように、散り散りになって逃げ始めた。
 彼は封筒を爪で引き裂いた。
 その瞬間。
7名無し物書き@推敲中?:2007/06/24(日) 23:21:19
「依存症」「モルヒネ」「神」でカマン
8名無し物書き@推敲中?:2007/06/25(月) 13:05:29
──神は仰せられた。この世には何一つ安楽などはないと。
しかしそれは果たして、正しいことなのだろうか。
私には感覚がなく、起きているのか眠っているのか、
果ては死んでいるかさえわからない今、それは唯一無為の安楽ではないのだろうか。
詳しくは思い出せないが、とてもつらい思いをしたことを覚えている。
きっとこれは、その苦しみに耐えた報いなのだろうと思う。
私の脳は今、モルヒネに犯されてしまっている。それが痛みを忘れるためだということはわかっていた。
だが投与され続けたそれはやがて毒となり、私に”依存症”という形で痛みを与えた。
それはまた少し違う、苦しみであった。

浮かんでは沈み行く意識の中、きっとそれは罰なのだと思った。
得てはならぬ安楽を手に入れてしまった罪を償うべく、私はまた新たな罰を与えられているのだと──
9名無し物書き@推敲中?:2007/06/25(月) 19:20:14
「鬼子母神」「美少年」「日本刀」よろ
10名無し物書き@推敲中?:2007/06/26(火) 03:01:54
「日本史」「蜜柑」「冷たい隙間風」でよっしく
11名無し物書き@推敲中?:2007/06/26(火) 05:38:20
「鬼子母神」「美少年」「日本刀」

爾の時、鬼子母神は座より立ち上がりて曰く「美少年は何処にいますや?」
側に在って日本刀を磨きたりし一少年、その紅顔を挙げて曰く「ここに侍り!」
鬼子母神は嘲笑して曰く「汝は美少年にあらず。美麗ならざればなり!」
そを聞くや否や、少年は立ち上がり、右手に日本刀を握りて襲い掛かりぬ。
鬼子母神はすわやと叫びつつ、日本刀を避けて高麗に渡りけり。
少年は行方知れずなりぬ。
或る人曰く「かの少年なむ美少年なりける。然れども、かの日本刀は切れ味劣れり」

鬼子母神がその折の恐怖を伝える言葉ぞ今に残る。
「高麗に行きたしと思えども、高麗はあまりに遠し」
勉強机横の窓は立て付けが悪く常に微かに開いているのだが、この時季にしてはやけに冷たい隙間風にふと窓へ目を向けた私は、即座に机上の課題へ視線を戻した。
隙間から人の顔が覗いていたのだ。
曇りガラスにびったりと頬を押し当て、斜めに傾けた暑苦しい顔がその口中から冷たい息を吹き込んでいた。
この部屋は2階である。そしてベランダなど無い。一体何のノロイだろうか。
困った私は、取り組み中である日本史の資料の中から般若心経を見つけ唱えてみる事にした。
「かんじーざいぼーさーつー ぎょう…じんはんにゃはら……」
「あ! オバケだと思ってる!? オバケだと思ってるでしょう!? 違います! 違いますよ! ワタシ、先日冷凍蜜柑を分けてもらったカラスです! 恩返しですよ!」
どう見ても暑苦しい人間の顔は、涼しい口でそうのたまった。
「あ! 信じてませんね!? 信じてないでしょう!? まっ、それならそれで構わないんですけどね。とにかく恩返し!
いやあ、ワタシ達カラスって真っ黒でしょう? 今頃の季節、日光の熱で暑いのなんのって。そこへアナタのくれた冷凍蜜柑! 冷凍蜜柑、ウマイねーアレ! もうヒンヤリ! 世界が変わった! だからアナタにもヒンヤリの恩返し! 恩返し! ね!
カミサマに頼んだらいくらでも冷たい息を吐けるようにしてくれたから! 今夜は蒸し暑いけどこれで大丈夫! ホラ、勉強続けて! 勉強! フゥーー! フゥウウウーーー!」
カラスの助けもあって案外早くに課題を終わらせることができた私は、遠慮するカラスにまた冷凍蜜柑をやり、今度カミサマに頼む時はもっと涼やかな顔にしてくれるよう言うんだよ、と念を押し眠りについた。


次は「鳩」「ラムネ」「記憶」で
13名無し物書き@推敲中?:2007/06/26(火) 12:00:13
手渡されたラムネの瓶を手に、俺は学園祭の撤収作業が済んだ中庭のベンチへと腰掛けた。天を仰ぐ。夜風が涼しい。
こうしていると、徹夜作業続きで準備してきた学園祭が、まるでなかったかのような気分にさえ陥る。
中庭には「日中交流ダンスパーティー」と大きく書かれた、羽ばたく白鳩を象った看板が残るばかりだ。昼間は百人あまりの人が詰め掛け音楽と笑いが溢れていた場所も、今はかすかな蟲の鳴き声だけが聞こえるばかりだ。
ラムネの栓を押し下げ口をつける。口いっぱいに広がっていく爽やかな刺激を舌で楽しみながら、しばし心地よい疲労感に身をゆだねていた。
「おじさん、いつもこの公園で鳩にパンくずをやってるね」
「○×※△?★●▽※」
「それ中国語? 何を言ってるのか分からないけど、本当に鳩が好きなんだね」
不意に、ぷつぷつと舌先ではじける炭酸の気泡に誘われるかのように、俺の幼い日の記憶が蘇ってきた。
いつも近所の公園のベンチに腰掛け、十匹ばかりの鳩にエサをやっていた中国人のおじさん。俺は暇があると横に座り、嬉しそうに中国語で何かを話す姿を、ラムネを飲みながら見ていた。エサをやるおじさんの目は、子供のように輝いていた。
多分俺が大学に入って中国語を専攻しようと決めたのは、あのおじさんの明るい響きの中国語を聞いていたせいだと思う。
おじさんは、しばらくして鳩が一羽、二羽と来なくなっていくうちに、公園へ現れなくなってしまった。痩せて骨と皮のような人だったから、もしかしたら病に伏せ、かえらぬ人になっていたのかもしれない。
おじさんはあの時、何を話していたのだろうか。流れるような言葉の列がどうしても思い出せない。
俺は感傷にふけりながら、ラムネをもう一口、口に含んだ。鼻腔から抜ける炭酸の刺激が、更に記憶の扉を開けてゆく。
「○×※△?★●▽※」おじさんがいつも口にしていた言葉が浮んできた。今ならその意味が分かる。
「これが丸々と太ったら、焼き鳥にして食べるのさ。楽しみだなあ」

次は「心残り」「鉄道」「傘」
14名無し物書き@推敲中?:2007/06/26(火) 17:18:18
暖かい春が過ぎ去り、ただ暑苦しいだけの夏が来る少し前、僕らは約束した。
──それは遠い遠い記憶の中、すこしだけ色あせた思い出

  出会いと別れの季節、春を迎えたある日、君は世間話をする様な顔で口を開いた。
「私、転校しちゃうんだ」 そうなんとも軽い口取りで、まるで他人事のように言い放った。
子供とは何とも未熟なもので、好きな人には冷たい態度を取るもので、僕はただ素っ気無い返事を返すことしかできなかった。
  いつ転校するかなんてことは結局、彼女が転校してしまう日まで知ることはなかった。
それは彼女が先生に口止めをしていて、転校するなんてことは僕以外の友達には話していたなかったからだ。
  桜も散りしばらく経った雨の日、その日は訪れた。
いつもと変わらない朝のホームルーム─ただ少し違うことは僕が不貞腐れていることと、君が泣いていること─先生はお経でも唱えるように無機質に、ただ事実のみを告げた。
一気に均衡が崩れる教室。騒いだり泣いたり、本当に子供子供しい反応だと幼心に思った。
終日までの5時間、なんとなく君の視線を感じたけど、僕は知らないふりをした。
だけど最後の最後、君は僕を呼び出し約束した。
人も疎らな駅のホーム、君のその家族はただ黒い塊を待っている横で僕たちは約束をした。
「私たちが大人になったこの日に、またここで会いましょう」
─きっとあの日ほど僕は不機嫌だったことはないだろう。
そりゃ大切な人が、今まで信じたくなかった最悪の現実を突きつけてきたんだ。気持ちのよいはずがない。

 そのおかげだろうか、7月7日という日付も相まってこの約束を忘れることはなかった。
大人になった日、なんてのはよくわからないが、20歳になった年ってのはなんとなくわかった。
なぜなら18歳になったその日に来た時には、一日待っても彼女は現れなかったからだ。
もっとも「言った本人が忘れている」なんて最悪のケースを想像しなかったわけではない。
だけどきっと彼女は忘れてないし、今回は当たりなんだ。

─だってこんな、2年前に廃線したような鉄道のホームで何かを待っている人は、君くらいしかないないし、
なによりこんな雨の中、傘も差さずに線路の上を歩く男に手を振る人なんて、彼女以外にいるはずがないから─
15「心残り」「鉄道」「傘」:2007/06/26(火) 17:33:47
 それまで町の外に全く縁のない生活をしていた僕は、2年ぶりくらいにに鉄
道を使った。
 俗に言う状況というやつである。
 荷物は出来るだけまとめたつもりではあるものの、心配性の性格が出てしま
って重量換算で20キロ程までになってしまい、椅子に座るまで非常に体力を
結構消耗してしまった。
 誤算だったのが、朝から降っていた氷雨で、僕はいつもの傘を差して家を出
た。しかし屋根の下に入るとにその傘は邪魔でしょうがなく、折りたためる物
にしておけば良かったな、と思う。
 僕は故郷のことを思い出しながら、これからの事を期待し、不安になりなが
ら窓の景色を眺めた。
 僕が上京を決心する事が出来たのは実質、同級生の後押しのお陰だった。迷
って悩んでいた僕を多少強引な手法(張り手)で説得してくれた。彼女のその時
の涙が今僕を動かしている。
 彼女も今この景色を見ているだろうか?
 最後に会えないかと、連絡を入れたのだが、「最後なんかじゃない」と一言口
を利いただけで電話を切られてしまった。
 後にも先にもそのことが心残りだ。
 ふと景色が無くなった。どうやらトンネルに入ったようだ。
 僕はトイレでも済ませようと思い、席を立って車内を歩いた。
 ふと向こうから、小柄な人影が近づいてくる。やたら大きな荷物を背負って
いてとても滑稽だ。
 このままでは擦れ違えないので僕が横に退こうと思ったとき、向こうがこち
らに気付いた。それがとても見覚えのある顔だったので僕はとても驚いた。
 彼女だ。

「最後なんかじゃないからな。ついてくから」
 僕は大きい荷物ごと、彼女を抱きしめていた。

お題は継続で。 
16「心残り」「鉄道」「傘」:2007/06/26(火) 18:07:37
鉄道に乗り東京へ向かう。
昨日の夜中、母が危篤との知らせを受けた。
値段が高いので急行の切符は買えない。各駅停車する列車は、まるで私を弄んでいるように進みが遅い。
仙台へ付いたところで、私は身体を伸ばしに少し列車を降りてみた。
冬の冷たい空気がうすっぺらなコートへと入り込んでくる。
見上げると空一面が真っ暗な灰色で覆われていた。宮沢賢治の『永訣の朝』という詩を思い出した。
天気が乱れるだろう、と思い傘を買っておいた。

私の予想は当たり、その後まもなく天気が崩れた。
電話口で母が「東京はあんまり雪が降らないから、なんだか冬が少し寂しいよ。」とよく言っていた。
そして列車は矢坂で動かなくなった。宇都宮の少しだけ手前だ。
窓の外では雪がしんしんと降り積もってゆく。関東一円は大雪らしい。

東京へ着く頃には傘も必要なくなった。
母の肌はもう、故郷の雪のように冷たくなっていた。


次、「扇風機」「日焼け」「パソコン」
17「扇風機」「日焼け」「パソコン」 :2007/06/27(水) 20:21:47
ぬるい風を送り出す扇風機の前に陣取り、寝転がって本を読む。
気だるさを含んだ至福の時間。
自分は勿論のこと、本も日焼けはさせたくないから、影になった座敷に引っ込んで読む。
雪とは最も縁遠い季節でありながら、庭の緑は太陽によって眩暈がするような白さを装う。あの中へ出て行ったら私は融けてしまうのではないか。もしくはその前に蒸発か。
幼い頃にあの中で聞いたセミの音は、やかましいほどの生命力にあふれていた気がする。
けれど年を経て、太陽から隠れるばかりの生活をおくる今の私には、ただ無機質な耳鳴りの様にしか聞こえない。
もう自然の中に身をおくことはかなわないのだろうか。

座敷の真ん中にある一台のパソコン。
自然から離れた私が、新たに馴染んだもの。
あまりにも無機質で、この古い家にとっては唯一の異物であるとすらいえそうなのに、それ故か、他とは違う支配者じみた気配を放っているように感じる。
そういえばこのパソコン、ケーブルの類が何も無い。充電した憶えも無いのだが、もう半年位は動きっぱなしなのではないか。
インターネットにも繋がるが、どこの内容も更新されないのは管理者が夏休みでも取っているからだろうか。
そしてそんな事を、私は昨日も考えていたような気がする。一昨日も、一週間前も、ひと月前も、もうずっと。
けれどこの事も、きっと明日にはまた忘れているのだろう。

耳鳴りの様なセミの音が、より一層無機質さを増す。


次は「手」「秘密」「穢れ」をお願いします
18名無し物書き@推敲中?:2007/07/03(火) 20:34:07
私には人に言えない秘密がある。
私は昔ギャングだった。
私はありとあらゆる犯罪に手を染めた。
不遇な環境に育ち、社会を恨み、他人はみんな敵だと思った。
そんな私を救ってくれた一人の女性。
荒れ狂う私を、体を張って教え導いてくれた女性。

今その女性が目の前で殺されようとしている。昔のギャング仲間によって。
「わたしが殺されても復讐してはなりません。」彼女はそう叫び続け、
凶弾に倒れた。
「うわぁぁぁぁ!!」むくろの傍らでうす笑いを浮かべ焦点の合わない目でこちらを
見ているジャンキーに、これから自分の為す行為が許されないものであることは
十分判断できた。
「心は純粋ないいこだよ、お前は」彼女の言葉をふいに思い出した。
わたしは今、心が穢れていくのを止められなかった。
法を破るからではない、人の命を奪うからではない。
彼女の言葉に逆らうこと。私は心が濁っていくのを感じた。

ビスタ、酒、マウス
19名無し物書き@推敲中?:2007/07/09(月) 17:16:09
僕はよくわかっていた。
発売されたばかりの商品は、どれも欠陥を抱えているもんだって。
新商品をメーカーの定価で、しかも欠陥を抱えるであろう物を買う人は、まさしく人柱。とんでもないマゾヒストだって。
わかっていたつもりなのに、僕はいま、慣れていない酒を一人で飲んでいる。
特においしいとも感じないし、酔っているという自覚はまったくない。

ウインドウズ ビスタ。開発コード名ロングホーン。2007年に発売されたMicromedia社の新OSだ。
今まさに足元に転がっている物のことだ。つい先日、並んで買ったんだっけ。
持つ有り金を投じて、新しくパソコンを組んだ。ゆうに推奨動作環境を超え、ハイスペックと呼ばれるレベルのパソコンを組んだ。
人柱になるつもりなどはなかったのだが、どうしたものか、気づけばすでに行動に出ていたんだ。
早速PCを組み立て、ビスタをインストールした。
──僕が覚えているのはそれまでだ。
カーソルの動きは止まり、マウスは自由を奪われた。固まる画面はただ幅を取るサイドバーを映し出していた。

人柱にはなるもんじゃない。誰かが言ってくれたけど、結局僕はそれを無視した。
その結果がこれだ。いじっている内に取り返しのつかない領域まで達したのだろう。
逝ったのはパソコンだけだ。もっともイラついて蹴りさえしなければ、電源はショートすることはなかったし、せいぜいHDDだけの損害で済んだはずだった。
馬鹿高いビスタは、無傷だ。それだけが唯一の救いだろうか。
しかし、きっと僕はビスタを使うことはないだろう。無論インストールなどしない。
いくらSPが出ようと、もう二度と使わない。そう決めた。

ビスタ、それは2007年最大の汚点にして、Microsoft最大の駄作。MEをも超える問題児。

next:灰色 ヘッドフォン ヤニ
20どっかーん!:2007/07/10(火) 20:21:06
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!

        素直に負けを認めて永久に キ エ ロ 犯罪人残飯

           ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!


ドッカーン!
                 ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
 
 
 
  
21どっかーん!:2007/07/10(火) 20:21:40
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
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    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!

        素直に負けを認めて永久に キ エ ロ 犯罪人残飯

           ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
              ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
    ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!


ドッカーン!
                 ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!ドッカーン!
 
 
 
22灰色 ヘッドフォン ヤニ :2007/07/14(土) 23:49:08
歯はヤニでまっ黄色
ごつごつした指は汚れて黒い
服なんてここ数年洗った記憶がない
風呂なんぞ10年以上入っていない。

めずらしく3cm以上も残っているタバコを拾い
上機嫌でいつもの公園に戻る途中だ。
前から小学生がヘッドフォンをつけてぶつぶつ
言いながら歩いてくる。ふと目が合った。
さっと視線をそらし俺の横を足早に通り過ぎる。

「・・・そう、俺みたいになるなよ、俺みたいに」
いつの間にか1月の空には灰色の雲が拡がっていた。
厚く重くのしかかってくるように。
ちらついてくる雪に襟をたて、もう何十年も前に
別れた息子のことを想った。
麻痺した心がちくりとうずいた。

一発芸、恋、三角関係
23一発芸、恋、三角関係:2007/07/18(水) 21:11:23
 ……静寂。30秒ほど。ノリで朝倉を呼び止めてしまった結果である。
 朝倉は当然「ん? 何か用」とセミロングを揺らしてこちらに振り返り、
肝心の僕はというと「え、あ……特にそんなでも、えー、まあでもあるというかないというか……」等とはっきりしない返事をし、
朝倉は頭上にはてなを浮かべていた。とても顔を拝みたかった等とは死んでも言えまい。
「用事無い様なら私帰るけど……」
「いやっ! 断じてある。用事ある。えー……、あ」
 とにかく場を繋いで引き止めなければいけない。とっさに喋る。
「ジンベイザメってどう思う……かな?」 
「へ……?」
 朝倉は眉毛を互い違いに上下させ状況を飲み込もうとしている模様。
 ああ! やっちまった……! と僕の脳内はフル回転。嫌な汗が滝になる。
 こんなこと言う位だったらふんどしで獅子舞の一発芸の方がまだマシだ。
 やばいやばいやばい。僕の頭が半ばフリーズしてきた頃、なんとか視覚が捕らえたのは
段々表情の変わっていく朝倉の姿だった。
「……魚とか、好きなの? 私ね……実は……好きなんだ。特にサメが」
 僕はとんでもない宝を掘り当てたらしい。途端にこっちも話が弾む。
「サメ!? 僕はラブカとか、チョウザメとかあの辺が好き」
 良い空気だ。これはとても良い空気だ。
 しかし、段々と近づいてきた足音によって一先ずトークは中断された。
 その足音は僕の前で。
「あーっ! まだ居たの? ねえねえ、一緒に帰ろっ!」
 僕の手首は両方ぶんぶんぶんぶん回された。さらに朝倉の顔が段々冷めていく。
「……あ、邪魔しちゃ悪いから、私、帰るね。じゃ」
 それだけを言うと、朝倉はとことこと離れていく。
 え、ちょっと待って。階段を下りないで。頼むから!
 僕の願いも空しく、朝倉はフェードアウト。
「ねえねえ、一緒に帰るでしょ」
 きっと誤解を与えたに違いない。間違えてくれるな、こいつは妹だ。
 なんだこの三角関係。われながら情けない。
 僕の恋を邪魔するのは、恋敵でもなく、立場でもなく。
 ブラコンというわけだ。
24名無し物書き@推敲中?:2007/07/28(土) 22:24:09
捕手age
25名無し物書き@推敲中?:2007/07/30(月) 12:05:45
過疎ってんな〜

だれかお題くんろ〜
26名無し物書き@推敲中?:2007/07/30(月) 23:24:07
ないときはお題続行
27かえっこ:2007/08/02(木) 14:21:08
あっ!さやかだ!
里美はヨシモト∞(無限大)ホールの前の通りでさやかが歩いているのを見つけ声をかけた。
里美とさやかは、ここ、渋谷のヨシモト∞(無限大)ホールで知り合い、時々お笑いのステージを見る友達同士。
「ねえねえ!さやか!最近、気になっているの男の子いる??」
今日のステージが終わり、いつものお店でお茶をしている里美とさやか。
「私はね…里美は…知らないかも知れないけど ユー友川 ってピンの子がいいなって」
「…それって知ってる!!『君が好き!!』って妙なキモイ動きでさぁビキニパンツ姿で踊っている一発芸の芸人だよね」
「…」「…」なぜか一瞬無言の間があき、会話が止まる。
じゃあ、また今度、連絡するねって別れ、そして歩きながら早く帰んなきゃと思う二人。
だって今日は彼が来る日なんだもん!!
ユー友川は今日もステージ上で『君が好き!!』って叫んで腰をふっていたそしてベットの上でも…
今、付き合っている二人の女性である里美とさやかにむかって…
三角関係の恋の結末は…
28かえっこ:2007/08/02(木) 14:23:23
次のお題

「砂浜」「契約」「駐車券」で!!
29名無し物書き@推敲中?:2007/08/02(木) 15:02:39
「夏だよ?」
「暑いからね」
 肯定の意をこめて、精一杯の返事をした。
しかしごろんと寝転びながら、そう答えた態度が気に食わなかったのか、いっそう強い口調で言い寄られた。

「遊びに行こうよ」
「暑いからね」
 今度は否定の意をこめて、あしらうように言った。
これは本音だった。日曜日にわざわざ暑い日差しの下に行く必要はないではないか。
 しかし日曜日にごろごろしている父親というのは、娘にしてみれば不満の境地だろうし
こんな夫を持ったカナコは、さぞ俺を恨んでいることだろう。
「あなた、海浜公園にでも行きましょうよ、夏の海に白い砂浜!いいじゃない!」
 この人は自分の歳を理解しているのだろうか?まるで新婚の夫婦のようだ。
しかしその新鮮さが俺を突き動かしたのか、生返事をつい返してしまっていた。

海浜公園へ向かう車中、俺は必死に説得した。今すぐ家に帰って、ビデオでも見ようってね。
汗をかいているのは、必死に説得しているからではない。己のあまりに下手な嘘に嫌悪しているのだ。
クーラーは18℃に設定されているのに関わらず、脂汗がにじみ出ていた。
「だから俺はあいつと契約したんだ。もう海へは行かないってね。」
「それでカニさん、どうなっちゃったの?」
好奇心と疑いの気持ちを半々に、僅かに心配の色を滲ませ娘が聞いてきた。

「あぁ、流石に踏まれて元気な奴はいないさ。俺の足の指を深く切り込んだのを最後に、絶命したよ」
「えぇー、死んじゃったの?カニさん殺したの?さいてー」
「だからもう海へいけないんだ。これが俺のせめてもの弔い、生き残った人間の指名って奴だ」
すこし遠い目をして、感傷にに浸る振りをした。

しかし結局は、カナコの「はいはい」の一言でことは片付けられ、車は駐車場へと吸い込まれていった。
アスファルトの駐車場を歩く俺の手の中でシワクチャになっている駐車券は、俺の変わりに叫んでいることだろう。
なんで夏は暑いんだ、とか、どうして家族は休日に外出したがるんだ、とか。届かない愚痴をこぼしている事だろう。
30名無し物書き@推敲中?:2007/08/02(木) 15:03:29
お題……?「バイク タバコ 帽子」
31かえっこ:2007/08/02(木) 17:10:09
「ねえ遊びに行こうよ」
梅雨も明けたというのにマンションでごろごろ過ぎしている俺についに奈々香が提案してきた。
「暑いからなぁー」 これは本音、日曜日にわざわざ暑い日差しの下に行く必要はないではないか。
「江ノ島にでも行きましょうよ、夏の海に白い砂浜!いいじゃない!」
「でもなーお前はいいだろうケド俺は暑さにはよわいんだよ」
「…」奈々香の様子が変だ!
「わかった!わかったからさ!」
俺は観念しバイクを引っ張り出し奈々香を乗せ江ノ島へ向う。
奈々香はしっかりとバイクに捕まり、つぶらな眼で俺を見つめていた。
帽子を脱ぎ波打ち際へ走り海水をいっぱいにためて奈々香のもとへ走る。
「お待たせー」って言いサバーンと帽子の中の水をかけた。
水をかけられた奈々香は「きゃーっ」と叫ぶがとても楽しそうだ。
「来てよかったな。奈々香と出会ったのもこんな夏の日だったもんな」
夕日が沈みかけた砂浜で並んでこれまでのことを俺と奈々香は語りあった。

家族で海水浴に来ていた小学生がソフトクリームを買って帰る途中、立ち止まる。
「あれっ?!あのお兄ちゃん独り言、言ってる」

そこには砂浜に座りタバコをふかしている男が一人、そして横にはカニが1匹動き回っていた…
32かえっこ:2007/08/02(木) 17:13:12
次のお題

「バンソウコウ」「演歌」「デジカメ」で!!

 トオノは馬鹿だ。それは間違いない。
 トオノは阿呆だ。とびきりなのも間違いない。
 けれど、正念場にはキッチリケジメをつけられる人間であることも知っている。
 それは、友人としての僕の誇りだ。その思いを口に出すことは無いけれど。
 友人は契約ではなく、何事にもとらわれない無償の関係であるべきだ。
 だから僕は記憶になり、いつか価値に変わる言葉をあえて告げたりしようと思わない。
 友人関係とは、鎖ではなく空気であるべきだ。たとえ理想であったとしても、否、理想であるからこそ、己に課した定義を貫くべきで、貫かなくてはならない。人が生きるには主義という土壌が必要だ。
 それ無くしては、僕は僕足りえないだろう。自身に誇りを抱くことも叶わないに違いない。

 閑話休題。
 震度四弱で完膚なきまでに倒壊しそうな海の家からは、誰の趣味なのか演歌が延々と垂れ流され続けていた。せめてノリの良い有線でも流れていれば鬱陶しい空気だけでも振り払えるものの、盛り上がらないことも甚だしい。
 『男二人で海への遠征』――が盛り上がるなんてのは、それはそれで微妙なシチュエーションではあるけれども、盛り上がらない最大の要因は前日の徹夜がたたって船をこぎ続けるトオノのせいだ。
 当の本人は、僕の不満など露も知らずアイマスク代わりに、両まぶたにバンソウコウを貼り付けて午睡に勤しんでいる。
 手元にケータイやデジカメがあれば、その無様な痴態を記録しておいてやれるのに。
 残念ながら電気機器の類は、自宅に置き去りにしてきた。今日遊びに訪れた津ヶ浜は寂れた漁村脇の砂浜であり、ゆえに見合いのボロい海の家一軒しか立っておらず、ロッカーやシャワーなんて気の利いたものが存在しないことは重々承知だったからである。
 ふとした拍子に濡らして故障させるのは避けたかったし、荷物から目を離した隙に盗難の憂き目に遭うなんて以ての外だ。
 トオノは要らぬ心配だと僕を諭したが、お前の保証だから僕は心配が尽きないんだよ、と突っ返すと大した反論もせずヘラヘラと同意した。まぁ、いつもこの男のスタンスはそんなカンジなのだけれど。

「……ったく、一匹も釣れやしない」
 これじゃ、まるで太公望の魚釣りを地でいくような惨憺たる結果に終わりそうで、気分は余計に盛り下がる。
 でも、たまには。たまには、こんな日があっても良いのだろうと、僕は自分を騙せるようになった。騙す、といっても悪い意味ではなく。
 清廉潔白な正直者が、必ずしも誠実というわけではないように、全速力に上ずる呼吸を整える休息日も必要だと思えるようになった。
 それは、僕という前しか見えない競走馬が、騎手であるトオノに手綱を巧くコントロールされているようにも思えたけれど、どこかでそういう状況に安心しかけている自分も居て、苦笑する。
 以前までの僕なら、確実に許せなかったスタンスだろう。自分で定めた定義に離反するなどと――
 されど、人は変わる。主義は土壌でありこそすれ、芽吹いた意志とはまた別物なのだ。
 かくあれ、と願う僕も僕で、あるがままにある僕も僕だ。
 
 トオノは馬鹿だ。それは間違いない。
 そして、トオノに付き合う僕も馬鹿になっていく。それも、きっと間違いではないのだろう。

(終)



長くなりすぎた・・・orz
次からは半分以下に収めるよう心がけたい。
ネクストお題は「廊下」「ひだまり」「お弁当」で
35「廊下」「ひだまり」「お弁当」:2007/08/05(日) 11:54:50
蝉時雨響くあの夏、校庭の大樹の木漏れ日。
君の周りの日差しだけ、春のひだまりの如く優しく蟠って。

校則を破ることなど思いもしないような君。
なのに廊下を走りながら振り返り微笑んだ姿がはっきりと目に灼き付いているのは何故?
出入り禁止の屋上で頬を赤らめお弁当を差し出す君の羞じらいが何度も甦るのは何故?
「明日また会ってくれますか?」。そう言った次の日にその屋上から身を投げたのは何故?

思い出は残酷。決して歳を重ねることのない君の面影が日に日に鮮明さを増し。
忘却は麻薬。思い出したくない何かを忘れることで思い出がその甘美さを増し。
純白な君を染める深紅のイメージに脅えながら、私は今日も独り眠りに落ちる。
純白の壁、純白の人、漆黒の闇に見守られて。

「震撼」「麻痺」「波動」
36かえっこ:2007/08/05(日) 12:38:52
※ああ先越された、せっかく作ったので載せます。

「あは!やっぱりタカシは、来てないのね」
8月5日の午後12時、私とユウスケと弱虫のタカシの3人は、約束してココ、学校で待ち合わせをしていた。
6年2組の教室の窓側、前から3番目の席は、午後の日差しを受け輝き、ひだまりになっていた。
私達の学校の木造校舎は80年の歴史があり有名。
そしてもう一つ有名なこと…出るのだ…そう幽霊が…
夏休みに入る少し前、図書館の古い文集で見つけた20年前の生徒が書き残したうわさ。
8月5日午後12時40分、時間が来てぼーっと浮かびあがる過去の幽霊達…
いろんな時代の生徒達が現れてきた。
お弁当を食べたり窓を見つめていたりノートに落書きをしている幽霊などが。
そろそろ帰ろうとして廊下に出ようとしたとき、タカシが現れた。
ぼーっと立ったまま天井をずーっと見上げていた。
「タカシ!!」私とユウスケは同時に呼びかけたが返事は無い。
タカシはこっちを見て微笑んで窓側の前から3番目の席に歩いて行き消えていった。
タカシは幽霊が怖わくて来なかったのでは無かった。
ココへ向かう途中、車にはねられ死んでいたのだ。

次のお題は>>35さんの「震撼」「麻痺」「波動」で…
37かえっこ:2007/08/06(月) 15:38:42
今、世界では、2つのニュースが話題になっていた。
一つは、イタリアのトスカーナ地方の田舎の小さな村に突然、現れた一人の女性。
かざした手のひらから眼に見えるほどの輝きの波動エネルギーを放ち病に苦しむ人を次から次へとまったくの無償で助ける。
末期がんで苦しむ男性、絶対に直らないはずの全盲の女の子などなど、すばらしい奇跡を起こし続けていた。

そしてもう一つ、世界中を震撼させる、罪もない人々へ訪れる悲惨な事件、事故による死。
信じられない程の残酷な猟奇的連続殺人、実の親による保険金目当ての殺人。
宗教対立でおこる無差別テロ、独裁者による非人道的虐殺、マシンガンによる無差別発砲…

神の出現として、ますます加熱する救世主信仰。
と、毎日繰り返される命の略奪行為による倫理観の麻痺。
だが、希望と絶望…これは偶然などではなかった。
命の等価交換が始まったのだ…

今日もかざした神の手による癒し行為で一つの命が蘇る。
そして今日も何も罪の無い一つの命の炎が消えて行く。

次のお題は「合鍵」「ハンカチ」「駐車違反」で…
鍵を持って出るのを忘れた。
玄関脇の植木鉢を探る。ハズレ。合鍵も無い。
家に入れない。クソクソクソクソ。

腹いせに駐車違反の原チャリを燃やしてやった。
ハンカチで汗をぬぐう。煤で黒く汚れていた。

「拙者」「メタル」「財団」
39かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/08(水) 15:46:34
午後4時になろうとしているのにまだ外は地獄のような暑さだ。
「くそっ!!ウチのババアが帰ってくるまでマンガ喫茶でも行くか!」
母親は今の時間、スーパーで信じられないくらい安い時給でレジうちのバイト中なのだ。
窓ガラスでも叩き割って家にでも入ろうかとも思ったが、後でババアが泣くからまあ、やめとこう。
「くそお、マジあちい!!」
さっき燃やした原チャリの煤で汚れた部分を避けハンカチで噴出す汗をぬぐう良一。
少し行くと、とろとろと爺さんが歩いていてよろけて俺の前をふさいでしまった。
「どけ!何しやがる。こんな暑い日にじじいは出歩くんじゃねー」
って一発蹴り飛ばそうと右足を上げた時、足首を誰かにつかまれた。
クソクソクソ!!振り返るとそこには侍が立っていた。
「拙者は、涼風清乃新と申す」
あまりのことにあきれた良一は言葉も出せず立ちつくした。
侍は懐から1枚の名刺を取り出し説明を始めた。
青少年、心の救済振興財団という名の名刺を受け取る良一。
今の日本の青少年に一番必要な武士道を教え、過去の素晴らしい日本を取り戻すべく活動しているバカなおっさんたちなのだそうだ。
「うるせーあっち行けキ○ガイ野郎!!」
切れまくった良一は、腰にさした刀も気にせず殴りかかろうとした時、目の前が暗くなり意識を無くし倒れた。

新種の熱中症が多発しているらしい。
症状としては、日本人特有の幻覚が現れて意味不明の言動で暴れたあげく、意識をうしなうというものらしかった。
40かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/08(水) 15:51:54
ありゃ!!メタルのキーワード忘れた。スミマセン。

ということで私の作った↑は無かった事にして下さい。
お題は継続の「拙者」「メタル」「財団」 >>38さんのでお願いします。
41かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/17(金) 11:24:12
良一は目を覚ました。
白い天井が見え、手を動かすと何本かのチューブが接続され銀色のメタル部分が照明の光で鈍く光っていた。
オレは熱中症で倒れ病院に担ぎ込まれたらしい。
そして、この世で一番見たくないババアの顔がどアップで迫って「良一…心配したよ」 と。
「うるせえババア!おめえはウチで洋子ちゃんと仲良くしてりゃあいいんだ!!」って叫ぼうとした。
洋子というのは、妹で、オレと違っていわゆる、いい子ちゃんでババアのお気に入り。
「あ・ありがとう母さん…」信じられない言葉がオレの口から発せられ涙がこぼれている。
続いて信じられない言葉が…
「母さん。オレこれからはまじめに働くよ。今まで迷惑かけて・ご・め・ん」
クソクソクソクソ!!オレはどうしちまったんだ!!
ふと横を見ると背の高い男が立っていた!
青少年、心の救済振興財団という名の、涼風清乃新!
「拙者は、これからずーっとおぬしの側で見守る事にした」
切れた良一は、我慢しきれず殴りかかろうとした時、目の前が暗くなり、また、意識を無くした。

新種の熱中症が多発しているらしい。
症状としては、本人にしか見えない幻覚が現れて意味不明の言動で暴れたあげく、意識をうしなうというものらしかった。
そして、この後がこの熱中症の怖いところで何らかの精神的後遺症が残り性格が不安定化するのであった…

書き込み無いので続編書きました。
次のお題は「音楽配信」「雨宿り」「浴衣」で
42「音楽配信」「雨宿り」「浴衣」:2007/08/17(金) 14:26:29
「音楽配信」「雨宿り」「浴衣」

夕方の篠突く俄雨が優しい霧雨に変わった頃。
高校生の姪っ子が、浴衣姿で男やもめの侘びしい住まいに勢いよく駆け込んできた。
見れば耳から胸元まで白いコードが延びている。
じろじろ眺め回す視線に何か勘違いしたらしく、軽く頬を染めつつ膨れてみせた。
そんな彼女にタオルと冷えたミネラルウォーターを渡しながら話を促した。

両親が誕生日のプレゼントとして流行りのiPodを買ってくれた。
だがパソコンも持っていないしそもそも機械音痴なので皆目使い方がわからない。
よってオタクの俺なら何とかしてくれるだろうと思い、雨宿りも兼ねて遊びに来た。

ちなみに音楽が入っていないのに身に付けているのは単に見せびらかしたかったから。
雨なのに浴衣なのは、この後近所の縁日に行くつもりだったから、ということらしい。

幸い上位機種を持っているので勝手はわかっている。
姪が持ってきたCD3枚をMacに放り込み256kbpsのMP3でリッピング。
次に彼女の胸元から切手大のiPodを奪い(また膨れた)、サードパーティー製のプラグに繋ぐ。
iTunesが自動的に曲をプレイヤーにDLし始めたのを見計らい話を変えた。

お前、新しい父さんと上手くやってるか?

唐突な質問に、今まで柔らかい笑みを湛えていた姪の表情が一瞬で凍る。
そりゃ聞きたくもなるさ。音楽配信業界の第一人者の父親ではなく何故わざわざ俺に頼みに来た?
2年前、お前の新しい父さんになる予定の男を殴って家を出たこの俺に。
ゆっくりと肩を落とし、静かに泣き始めた姪をそっと抱き締める。
わかっている。お前と俺は共犯者だ。

雨はいつの間にか勢いを取り戻し、遠くから微かに雷鳴が響いてきた。
彼女はもう縁日に行くことはできないだろう。
4342:2007/08/17(金) 14:29:39
お題は「背徳」「虐殺」「至福」で。
44かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/17(金) 16:17:14
あの9・11以来、この世は、生命の炎が毎日毎日あたり前のように消える世界に変わってしまった。
内戦や民族虐殺は加速してゆき普通に暮らす一般市民の虐殺が行なわれている。
今日も新聞には200名、300名と無差別テロで人が死んでいた。
憎悪の連鎖は限りなく続き、受け継がれるたびにさらに増幅してゆき、ついには2007年8月17日午前0時、神の管理容量をこえてしまった。

神の管理を離れた者は世界中で信じられない行動をとりはじめた。
「私は今、背徳者となり、究極の自由を得て魂は開放された」
事件を起こす人間は必ず、この言葉を残していた。
人々はやがてこの人たちのことを、神に(いや悪魔なのだろうか)選ばれし者として アスタリスク と呼ぶようになった。
銃の乱射、宗教間の争い、無差別な猟奇殺人…

そしてここ、東京、渋谷にも選ばれし者として アスタリスク が出現した。
バイト初日なのに午後2時まで寝ていて完全に遅刻。
あわてる事も無く無表情でコンビニでヤングジャンプを立ち読みしている坂本。
グラビアアイドルのバスト98をぼーっと見つめていた時、その啓示が示された!!
坂本は今、背徳者となり、究極の自由を得て魂は開放された。

選ばれし者としてのアスタリスクは、いろんなタイプが存在している。
つまりアスタリスクは、その国、その民族の今の精神の象徴として最も適している特異行動をとるらしかった… 
至福の境地に踏み込んだ男、坂本は、服を脱ぎ全裸になり、股間を突起させながら、渋谷のハチ公の像にディープキスをした後、そのままスクランブル交差点を奇声をあげながら走っていった。
まさにその行動は今の日本の象徴だった。

次のお題「ごまかし」「ひまわり」「ベスト8」で…
45「背徳」「虐殺」「至福」:2007/08/17(金) 16:39:15
件名:撃ち合わせ

 葦田に余手いしております撃ち合わせですが、真珠区駅前に我が社の短刀
の者を立たせて沖ます。自国は11次でおね害し枡。その短刀は、背徳ろのズ
ボンを吐き、赤いジャケットを木ています。至福のよう中っこうで恐縮です
が、目立つほうが酔いとお藻い、その余うなカッコウを刺せて檻ます。
 余談ですが、その短刀は、咆哮にうとい麺がござ今して、先日も薩摩へ派
遣しようとしたと頃、札幌に行ってしまいまして「おい、咆哮がまるっきり
虐。殺まは南だ」などと中尉される暗い弟子て。
 なにとぞよろ四区おね害します。            敬具


面白そうなお題考える自信ないから、お題決定権は放棄しま〜。
誰か適当に考えてくださるとありがたいっす
46名無し物書き@推敲中?:2007/08/18(土) 00:23:23
>>45
>次のお題「ごまかし」「ひまわり」「ベスト8」で…

無問題!!
 厳正なる玉座の間。王から見て右手には青い服で統一された楽団が控えている。
左手のは真っ赤だ。
「これより合奏比べを行う!」
響くのは大臣の声。
青服と赤服が音も無く向かい合う。その手に各々の楽器をもって。
赤のバスドラムの重厚な響きが空を裂く。すかさず赤のトランペット・コルネ・ホ
ルンがメロディを重ねる。堂々としていて、ゆるぎなく高潔な音色。その旋律は縦
横無尽に広がるような奔放さと、しかし定石を裏切らない正統さをあわせ持ってい
た。部屋中に、大輪のひまわりが咲いた。
 そこに違和感無くすべりこむ青の楽器達。オーボエ、フルート、木琴・・・・次
第に部屋の明度が落ちていく・・・・ひまわり達は、夜露に濡れ、妖しげな魅力を付与
された。と見えたのもつかの間、突如、ひまわり達が燃え出した。赤の楽団全員
が音楽に入り込んできたのだ。技術差を感じた赤の指揮者が一か八かの賭けに出たのだ。
「やめい!そこまで! 青の勝ちとする!」こうしてごまかし無く、青の楽団は
ベスト8進出が決定した。

次のお題は放棄〜
48名無し物書き@推敲中?:2007/08/18(土) 00:57:31
お題提出 かぶったら辞退
「放棄」「電気」「形見」
49名無し物書き@推敲中?:2007/08/18(土) 05:12:16
パチン。パチンパチン。
何度スイッチを入れても明かりがつかない。
さてはブレーカーが落ちたかと、暗闇の中探ってみるが、どうやらそうではないようだ。

とりあえず落ち着こう。胸ポケットからタバコを取り出す。
ジッポで火を点け、ゆっくりと紫煙を吐き出しながら、一つ一つ原因を検証していく。
電気料金は毎月払っている筈だ。台所から冷蔵庫の振動音が聞こえるから間違いない。
さては電球が切れたか。だがそれでは、風呂場にトイレに台所、全ての明かりがつかない説明としては苦しい。

……思いつかん。
時計が見えないが、恐らく日は変わっただろう。考えるのを放棄して、ベッドに向かおうとしたその時。
けたたましく電話が鳴った。
「もしもし、お兄ちゃん? ごめん、電球全部外したの伝え忘れてた。」
「はあ? なんでそんなことすんだよ。」
「占いでね。今日一日そうしたら、お兄ちゃんが幸せになれるんだって言われたから。」
「……そうか。ありがとな。」
師と仰いだ人の忘れ形見、血の繋がらないかわいい妹。人からなんと言われようと、俺はあいつを泣かせたくない。
湧き上がる全ての感情をぐっと我慢して、おやすみ、と電話を切った。


収拾つかなくなっちまった挙句に……ちょっと逝ってくるわ。
その前に次のお題〜 「扇風機」「牧場」「未来」
50かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/18(土) 09:46:17
「扇風機」「牧場」「未来」

「買って来たぞ」
眼を輝かせて喜ぶ妻のミドリと、やっとウワサの扇風機を手に入れられたのに、うかない表情の夫のリュウタがいた。
連日40度越えの猛暑が続く日本で、ある電器製品がバカ売れしていたのだ。
それはエアコンでは無く、なぜか2007年7月に製造された松葉電器製の扇風機『牧場の風』FFG−56タイプ。
6月に挙式をあげたばかりの新婚の二人だったが、すでに完全にミドリのペースの生活になってしまっていた。
『強風』と『マイナスイオン』のスイッチを同時に押し、二人して扇風機に向って同じ言葉を叫ぶ!!
「リュウタの半年後!」

「う・わ・き…浮気する」
二人の言葉が共鳴し2007年7月製造、松葉電器製『牧場の風』FFG−56『強風』と『マイナスイオン』作動時のみに現れる別の言葉が聞こえだした。
そう!ウワサは、やはり本物で、未来を予言してくれる扇風機だったのだ。
そして容赦なくミドリは、尻ごみする夫を強引に促し、次の言葉を二人して叫んだ。

「リュウタの浮気相手の名前は?!!」

次のお題は「ラジオ」「河川敷」「後ろ回し蹴り」で!
51「ラジオ」「河川敷」「後ろ回し蹴り」:2007/08/18(土) 11:00:21
二人の男は河川敷で対峙していた。ノッポとチビ。ノッポはどこからともなくラジオを取り出
すと、脇に放り捨てた。キーワードのうちの2つを消費して、ノッポの表情は余裕だ。あとは、
体を回して背を見せつつ足をぶつける、「あの技」をあと7行以内に登場させればよい・・・・い
や、あと6行以内になってしまったが。
「思考すると行が無駄だ。さっさと行くぞ」ノッポはチビに襲い掛かった。有無を言わさず体
を回転させるノッポ。が、両手を出しつつ前方に接近してくるチビは、あの技の発生を許して
くれなかった。「おい、出させろよ! あと4行しかない!」が、チビは無言でノッポと距離
をつめる。あの技を出させない という点において、チビは、すさまじく巧みだった。チビは
作者の邪魔をする気らしい
「ふふふ」あえて、意味も無く言葉を発して改行させるチビ。いじわるである。追いつめられ
たノッポは仕方なしに最後の手段を取る事に決めた「後ろ回し蹴り!」彼は突如そう叫んだ。

次お題は「小説家」「才能」「努力」
52かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/18(土) 12:43:49
「小説家」「才能」「努力」

宇佐美と加目田は双方が共に認めるライバルであった。
二人とも幼稚園からの同級生で大学も同じ、そして卒業後の進む道も同じで小説家の道を選んだ。
そしてついに、大手出版社2社の共同企画で実現した『100作品創作マラソン』がはじまった。
宇佐美は、いわゆる才能豊富な天才型の作家だった。
そして加目田はコツコツと取材、資料集めなど完璧にそろえてから書くいわゆる努力家タイプの作家。
100作品をどちらが先に書き上げるかで勝敗を決めるこの企画、スタートダッシュはもちろん天才肌の宇佐美が突っ走った。
加目田は、自分のペースを守りいつもの資料集めに没頭していた。
1週間、2週間が過ぎ、二人の作り上げた作品の数はかなりの差が出てきていた。
宇佐美は勝てると思ったのだろう、いったん創作活動をやめ、毎日夜になると飲みに出歩き、お姉ちゃん達のいるお店に通いつめた。
勝負が始まり、1ヶ月が過ぎた頃、宇佐美は担当の小山の携帯に連絡を取ってみた。
「な・なに!!加目田が48作目を書き上げただとーーーーっ!!」
あわてた宇佐美は、お姉ちゃんと裸で寝ていたベッドから飛び出しパンツとズボンだけはいてタクシーで仕事場へ向う。

そしてついに勝負の決着がついた。
勝利したのは宇佐美であった。
結局、天才で外で遊びまわりいろんな経験を実際体験していた宇佐美…
作家とは人が最後にたどり着く職業だと誰かが言っていたっけ!!

独創性とはモーツアルトの時代から不公平に出来上がっているものなのだろう…

次のお題は「鳥インフルエンザ」「ファールボール」「あだ名」で…
53かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/18(土) 16:02:46
すみません↑修正
「な・なに!!加目田が48作目を書き上げただとーーーーっ!!」

98作目の間違いでした。
「ごめんなさいっ!あなたとは付き合え無い」少女は言った。青年は戸惑った。納得できない。
こんな事のあって良いハズが無い。俺が、ふられた?なぜ?相手はクラスの中でも一番の根暗で
皆にさりげなく避けられる事から「ファールボール」とあだ名される程度の奴だ。
「どうして・・・・?ねえ、なんで?理由を言ってよ?納得できないよ!」
青年の顔は真っ赤だ。なんでおまえごときが!この俺がせっかく男女交際の練習相手に選んでや
ったのに!クラスでの地位が完璧に上な俺を振っていい理由なんてあってたまるか!
「ねえ、理由だってば!早く教えてよ!ねえ!」
「・・・・・あの、ね」すっかりおびえきった少女の瞳。
「私、鳥インフルエンザの人としか付き合わない事にしてるの。だから、もしも・・・・」
そういって注射器を差し出す。中に入っている液体は透明だが、まさかタダの水でもあるまい。
「これ、注射してくれたら・・・・」

結論だけ言う。その若者と少女は交際を始めた。

次のお題「探偵」「密室」「妖精」
このスレ、ひょとして二、三人しか人いない? (;ω;`)
55名無し物書き@推敲中?:2007/08/18(土) 21:37:37
ではミス板より初参加。

 オリエント・エクスプレスで紳士が撲殺された。犠牲者は支那住みの実業家、シュバルツ氏。
 しかも、驚いたことに現場コムパアトは密室であった。
 毒殺、射殺であれば遠隔殺人は容易である。刺殺でも可能である。
 しかし、撲殺となれば犯人は直接被害者を殴打したと判断せざるを得ない。
 乗り合わせたパリ警察のジャンヌ警部は国際警察を呼ぶしかないと判断しかけたのであるが――
「それには及びません――彼らの手を煩わせるまでもない事件でしょう」
 そう異議を唱えたのはかの有名な青年探偵、内藤水平!
 内藤水平は独逸においてさる重大の使命を終え、帰朝するところだったのである。
「奇怪な事件ではあります。このコムパアトは完全に密室でした。
 犯人はいかなる手段を以ってシュバルツ氏を殺し、立ち去ったのか?」
 ジャンヌ警部が首を振り、二言三言内藤探偵伝える。
「成程、此のダイイング・メッセェジを皆さんは墓に立てられた十字と見たのですね。
 慥に、欧羅巴人の皆さんにはそのように見えるでしょう。
 ですがこれは漢字と呼ぶ表意文字――『十一』と書いてあるのです」
 ああ、シュバルツ氏は死の間際に漢字のダイイングメッセェジを残したのだ!
 犯人が見逃してしまったメッセージをわれらが内藤水平は読み取ったのである。
「さて、皆さんは十一を独逸語で何というかご存じでしょう。そう――elf。
 シュバルツ氏はエルフ――妖精の手によって殺められたに相違ありません!」
 それならば人間の出入りできぬ密室で殺人が起きても何の不思議もない!
 乗員乗客は内藤探偵の華麗な解決に惜しみない拍手を送った。
 無論、最も盛大な拍手を送ったのがシュバルツ氏の悪辣なる商売によって最愛の姉を失った
十一番コムパアトの乗客、土屋圭助氏であったことは言うまでもないだろう。


次のお題「林檎」「青磁」「牢獄」
56「林檎」「青磁」「牢獄」:2007/08/19(日) 00:11:51
「姫様!ただいま助けに参りました!」
牢獄の前にひざまずく巨躯の甲冑を、真っ白なドレスのあどけない娘が見つめる。
「わ〜、ありがとー!」
と言って無邪気に手を打ち鳴らしてはしゃぐ仕草も、長い牢獄生活のせいか、疲弊の色が
透いて見える。
「姫様・・・・裏口の林にわが精鋭の騎馬隊が控えておりまする。私はもうお仕え申す事がか
ないませぬが、どうか姫様だけでも・・・・これは敵から逃れると・・・き・・・に・・・・」
そういって地面に打ち伏せた騎士の足元にできた赤い水たまりに、お姫様は気づいて呆然
とした。それと同時に騎士の手から滑り落ちた彫刻を拾い上げる。林檎・・・・?それも青磁
で作られたものだ。走る、という慣れない動作に息切れを起こしながらも、お姫様はその
林檎を大事そうにつかんでいた。
「おい、いたぞー!」前の角から兵隊の一団が表れる。あわてて後ろを振り返るとそこに
も大勢の人だかりだ。監獄の狭い廊下で前後から挟まれ、狼狽のあまりに林檎が手からす
べり落ちてしまった。パシャンと控えめな音をたてて割れた青磁の中から無数の光の粒が
立ち上り、姫様の体を包む。驚いて後ずさる姫君の体は、監獄の分厚いレンガの壁を、す
り抜けてしまった。


個人的に、こういうスレ好きよ。 次お題「予言」「狼」「墓標」
57かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/19(日) 01:01:50
「予言」「狼」「墓標」

父が亡くなって、もう大分経つが僕達の悲しみ、憎しみは消えなかった。
僕と妹は今でも、あの日、無残にも腹部を裂かれ絶命した父のあの無残な姿を忘れはしない。
「じゃあ、いい子にしているんだよ。すぐに戻るからね」
って言葉を最後に、あの優しかった父は、お腹をすかし、幼かった僕達に食べ物を調達に出かけたまま帰ってこなかった。
「お兄ちゃんやっと…やっとこの日が来たのね」
父が眠る墓標の前で、まだ幼さの残る兄妹は改めて復讐の決意を誓った。
今朝、ついに頼んでいた森の占い師から憎き父の仇の住む場所を聞いたのだ。
予言で僕達の住むこの森の二つ先の村に住んでいて、この仇討ちがうまくいくと知らされた。

めざす村に着きそっと近づき窓をのぞく。
「お兄ちゃん…すごいよ!!二人ともいるよ」
そこには、仇の二人が偶然にも一緒にいて楽しそうに食べ物を口にしていた。

僕と妹は目を合わせ合図をし、同時に襲い掛かった!!

突然、狼2匹に襲いかかられ恐怖におののく表情の二人!
そこには、猟師と赤い頭巾をかぶった女の子が…

次のお題は「黄色いTシャツ」「古本屋」「石ころ」
「おいババア!これはなんだ!」
俺は店の片隅の黄色いTシャツを摘み上げた。
「Tシャツです」
「バカめ!そんな事は解ってる!聞きたいのは何でこんな薄汚いTシャツが神聖なる古本屋に
置いてあるのかって事!」
「・・・・・・ククク、実はそれも本なんですよ、お客さん。まあ、着てみてくださいな」
何?これが本だと?いい加減な事言ってるとぶん殴るぞ。ぶっ倒れた貴様の腹を何度も蹴飛ば
してやった後に口から石ころを詰め込んでやるからな。覚悟しろよ。
 そのTシャツを着ようとして自らの衣服を脱いだとき、ストロボの音がした。店主の老婆が
カメラ片手によだれを垂らしてる。
 ・・・・・・俺は、きれた。

次お題「神話」「弓」「満月」
59名無し物書き@推敲中?:2007/08/19(日) 19:43:16
特に予定もなく、寝ては過ごすだけの夏休み
花火の季節がきても出かけることはない。

 遠くで咲く、眼鏡のレンズにも及ばない火の花を見ていた。
何秒も遅れて音が聞こえてきて、何となくそれで距離を測ったりしてみる。
閉ざした窓の向こうで咲く花は、誰よりも何よりも、僕からは遠く離れているということを教えているようだった。

 まるでそれを嘲笑うかのように、弓なりに美しく反った月が光っていた。
欠けていく月か、満ちていく月かわからないが、神話によれば行き着く先は良いことではない。
新月になろうと、満月になろうと、女神は夜に紛れほくそ笑むのだ。

夏が終わりもとの生活が戻っても、この部屋での僕は変わりはしないだろう。
この夏、僕はあまりに多くの物を失った。きっと二度と取り戻すことはできないだろう。
火の花の音が消えた後も、僕は月の幽明に魅入られていた。

恐れ多くもお題です。「まことしやかな」「むせる」「竹」
60かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/19(日) 23:12:51
「まことしやかな」「むせる」「竹」

午後、21時22分、24時間テレビのクライマックスでは、今年のランナー斉藤千夏が感動のゴールをしていた。
タクシーでの移動の中、モニターに映し出された涙顔の斉藤千夏の姿を見て元マネージャーの南田はつぶやく。
「千夏…良かったな。もうこれでお前は一人前だ」
そして、3年前の千夏の人生が変わった瞬間(とき)の事を思い出していた…

それは、まことしやかなウワサとして私達、マネージャー仲間の間では有名な伝説。
芸能界のドンとしてもウチの事務所のトップとしての存在している大山田裕次郎。
その裕次郎と寿司屋に行き「おう!!何にするんだい!」と、こう問われる新人の芸能人。
そして松竹梅の中から、見事「竹」を選択した新人は必ず芸能界で大成するというのだ!
3年前、その時、まだデビューしたてだった新人、斉藤千夏は竹を選び、今に至っていた。

タクシーから降り寿司屋へ入る南田と今の担当の新人タレント、荒川有紀。
「有紀!もう一回言うぞ!これから大先輩の大山田裕次郎と一緒に食事が出来るんだからな!!くれぐれも…」
店の中で大山田裕次郎の到着を待ちながら、南田は、この生意気な…だが将来性は抜群で可愛い新人、有紀の横顔を眺めていた。

まもなく裕次郎が現れ、そして、運命の瞬間を迎えた。
南田は心の中で問いかける「さあ!有紀!お前は何を選ぶ」
「…」しばらく考えていたのか、そしてついに有紀は口を開いた。

「えーっ!マジーッ。オレさぁ寿司って嫌いなんだよなーどうでもいいや!」
「げぼっっ!!」武田は、飲みかけのお茶をつまらせ、むせる。
有紀は、そう言うと、ろくな挨拶もせずに店を出てゆき消え、その後、見事に芸能界からも消えてしまった…

※(竹ってキーワードが難しかった…)
次のお題は「虫歯」「コンビニ」「ストライクゾーン」で
61かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/19(日) 23:19:07
※ ↑肝心な所、名前ミスです!ホント!ごめんなさい

>「げぼっっ!!」武田は、飲みかけのお茶をつまらせ、むせる。

武田では無く!!南田でした…あーあ
 井戸の底を覗き込むと、ただただ暗いだけだった。淵から垂れたロープを伝って慎重に
下降していく。
 一条の光が差したかと思うと私は真っ白な部屋で大仰な椅子に仰向けに寝ていた。
「はい、口をあ〜んって。・・・・・・あ〜ん」どうやらこれは小学校の頃、初めて虫歯治療を
受けたときの記録らしい。確かこの後・・・・「あっ!」医者が誤って金属片を私の口の中に
落としてしまうんだ。気管支に侵入したこれは、今でも私に呼吸障害を起こさせる。
 また薄暗い井戸の壁が視界を塞ぐ。さらにロープを握る力を適度に緩めて重力にこの身
を任せる。また、光。
「おい、おまえあの娘、ストライクゾーンちゃうか?」今度は高校時代の出来事か。こう
して私と一緒にテニス部の女子生徒を品定めしていたこの親友は実に良い奴だった。私に
出来た初めての彼女がこの親友に誘惑されて私の元を離れて行き、その為に未だに私は重
度の人間不信を引きずっているが、それでもこの親友は良い奴だったと思う。
 ・・・・・・無数の過去を見、井戸を下るうちに、とうとう昨日の記憶にまでた
どり着いた。仕事が終わってコンビニ弁当をもしゃもしゃと食べている私が
いる。しかし、まだまだ井戸の底は見えない。
 これ以上降りていったらどうなるのだろうか?わからない。記憶の井戸に入
り込んだきり帰ってこない人間は多いという。私もその一人になるのだろうか。
 しばらくの思考の後、私は行き先の方向を、下に定めた。
6362:2007/08/20(月) 00:26:07
お題忘れてた
「銀河」「青春」「螺旋」
64名無し物書き@推敲中?:2007/08/20(月) 00:44:02
愛だなんてものは、野球のストライクゾーンのような物だ。確かに存在するけれど、それは審判のさじ加減でどうにでもなってしまう。
それが今の僕たちの間にあるものだと言えるだろう。もちろん審判は、彼女だ。

 彼女がコンビニに行くと言って出て行ってから、すでに30分経っている。
アパートを出てコンビニまでは、読書をしながらでも往復5分はかからない。
目と鼻の先、というのはこのことだろう。
そんな恵まれた環境にいながら、彼女が依然帰ってこないのは、別に店員がアイスを暖めたせいでも、それに逆上し罵っているせいでもない。

 すべてはこの僕が悪いのだ。
僕にもう少しだけ几帳面さが備わっていれば、今日という日を大切に覚えていたら、こんなことにはならなかった。
 女性はまるでカレンダーでも内蔵しているかのように、日付には敏感だ。
しかも都合の良いことはしっかり覚えているくせに、都合の悪いことは全く覚えていないというくせ者だ。
 それはやはり彼女にも例外ではなく、しっかりと今日という日―都合の良い日―を覚えていて、まるで少女のように楽しみにしていたのだった。

 階段のすぐ近くの部屋だったものだから、すぐにその高いハイヒールの足音が彼女の物だとわかった。
 これからどう誕生日の穴埋めをしようか、そんなことを考えると、頭の先から足の先まで、それこそ胃がきりきりと痛くなった。
虫歯の治療に行くから――なんて子供みたいな言い訳をしようかとも考えたが、今の彼女なら僕の歯をすべて抜きかねないと考え、やめることにした。
今は素直に大人しく謝って、夜は外食でもして許してもらおう。
そう思惟していると、玄関のドアが開く音と同時に不機嫌な声が飛び込んできた。
僕は精一杯取り繕って、少しでも機嫌を直してもらえるように気の良い返事をした。


お題「大人しい」「並べる」「教科書」
65名無し物書き@推敲中?:2007/08/20(月) 00:44:55
あら、被ってしまいました。
お題は>>63の「銀河」「青春」「螺旋」を続投してください。
66かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/20(月) 13:11:29
「銀河」「青春」「螺旋」

午後18時、私は今、仕事からの帰りで、渋谷区の福祉保健センター生活保護ケースワーカーとして働いている。
田園都市線の電車の中、ふと前を向くと若い女性の浴衣姿が目に入った。
混んでいるというのにずっと手をつないで笑顔いっぱいの彼女と彼を見て、私の…あの頃が思い出された。
「あの時、彼の後ろをずーっと歩いていたなあ」って思い出し、思わず一人笑ってしまう。
なぜって着物の着付けの知識など無い私と母で悪戦苦闘してやっと約束の時間に間に合った浴衣姿だったので帯の結び目が絶望的で絶対変だと思っていたから。
でも、あの彼とは何の話をしても混んでいる電車の中でも、ついついはしゃいでしまった。
彼と付き合うまでの私って大人しい女でまじめ人間だと思っていた。
周りのオトナからだと!いかにも青春を楽しんでいる!!ってみえていただろうなあ〜〜
あの彼女の今の気持ちは、…そう!当時の私と同じで地球の…いや銀河系の中心で一番彼が好き!って感じだろう!
その彼とは、卒論のテーマがたまたま似通っていて、机で教科書を並べる機会が重なって自然に話すようになり知り合ったのだった。
卒業後、彼と私の関係は自然に距離が出来てしまい別れてしまった…

その時、隣の車両で数人の人の変な動きが見えて覗き込む。
酒に酔っているのか大声をあげそのまま床に寝転がってしまった老人??のそばへ駆け寄る私。
仕事上、こういう社会の底辺の生活を余儀なくされている彼らの置かれた状況、心情はよくわかっていた。
やがて到着した駅のホームには私と意外と若いとわかった男、駆けつけた駅員2名の4人だけになった。
この生活に疲れ、倒れこんでいる男の顔を見た瞬間!あ・あ・あ、私の心は螺旋のように回って過去へと跳んだ。

あの短い期間だったが、彼との楽しかったこと、言い争い、ケンカしたこと、そして初めて彼を迎え入れた夜のこと…すべてが蘇り、胸が熱くなった。
周りの人たちは、ものめずらしそうな視線を浴びせては、いたが普通に足早で歩き去って行く。
今、私の目の前には、私の腕に抱かれた、歳を取り、いろんな社会の影の部分を見てきたであろう絶望の瞳を持つ昔の彼がいた。
でも…でもね…私だけにはわかよ。その瞳の奥に残る光。

次のお題「爆発炎上」「手のひら」「雑誌」で
67「爆破炎上」「手のひら」「雑誌」:2007/08/20(月) 21:12:39
 ただの黒々ノッポじゃなかった。これがカポエラか・・・・・・強い。
 臨戦態勢に移ると同時に両手を地につき両足を素早く回転させてきた。上段、下段、右
回転、左回転、方向や蹴り方は自由自在で、それに足技は威力が高いから手で受けるのは
難しい。
 威力が無効化される程に距離をつめればどうにかなると思ったが、それは浅はかだった。
 我輩は両手で体を亀のごとく包んでノッポに走り寄った。ノッポは逆立ちのまま体を弓な
りに反らしたかと思うと両足を揃えて真っ直ぐに打ち出してきた。体全体をバネにして矢の
ように飛んできた両足のカカトは防ぎきれるものでは無い。ガードの上からでも我輩の体を
吹き飛ばすには十分な威力だった。
 中距離で戦おうとすれば上下左右から降り注ぐ蹴りの雨を全身に受けねばならぬ。近づこ
うとすればカカトの弓で飛ばされる。なんてやっかいな武術なのだろうかカポエラは。
 しかし、いつまでも逃げ続けるわけにもいかない。我輩は自らの手のひらをじっと見つめ
て、指を一本ずつ握りこむ。樹木に縛り付けた雑誌を何度も殴る事によって鍛えたこの拳。
「オオオオオ!」前足で砂を蹴り上げる。上手く逆立ちノッポの目に命中した。焦ったノッ
ポのカカト弓。しかし間合いの外だ。カカトを引き戻す瞬間を狙ってノッポに飛び寄った。
右回転の上段蹴りが飛んできたがこの近距離じゃあ蹴りの威力は殺される。我輩は左腕で受
ける。その左腕を引き寄せつつ、大腿筋を爆破炎上させて思い切り地面を蹴り返す。その反
発力は腰の回転力へと変じて握りこんだ右拳をノッポの腹部へと撃ち出す。
 命中した拳が腹の弾力に抗って、わずかにめり込む感触が返ってきた。きちんと威力が伝
わった証拠だ。ノッポは、もう立てなかった。

お題「偶像」「輪廻」「浄化」
68お題「偶像」「輪廻」「浄化」:2007/08/20(月) 22:52:40
  密度が密度を埋め尽くす、機械ばかりで構成されたデジタルシティを、怪盗ジョーカーは絢爛豪華に暗躍する。チクタクチクタク、客体ばかりで量られる人々を嘲笑いながら、慈しみながら跳梁跋扈する。
 彼が中心街中央塔の天辺から見下ろす街並みに、ちょうど十二時のニュースを告げるアナウンスが流れ、数値(デジタル)に対して酷く従順な羊たちは波のような喧騒を伴いながら移動を開始し始めた。
 ……この街では、ありとあらゆるものが『数値の雑談と雑音(デジタルノイズ)』の奔流と化して、一匹の蛇のようなうねり(ウロボロス)を形成する。
 はたして、寸分なく信任を置かれた『ソレ(デジタル)』らは所詮、偶像でしかないと云うのに、彼らは何よりも大切な主観であると無抵抗に受け入れ、日々をループする。
 そんなある意味、どこよりも牧歌的な街に住まう人々を、怪盗ジョーカーはただひたすら孤独に、守護していた。

 遠い昔、物事を判断する依り代として道具立てされた架空(デジタル)の点は、別個との繋がりにより線に、社会を構成するに至って面に、立体に、多重構造に変貌し――やがて姿無き『怪物(ウロボロス)』と化して、誰に気づかれることもなく自身を食らい、蝕みはじめた。
 さながら怪物は、人の意識に紛れ込みながらひっそりと息づく獅子身中の虫。
 人類の手によって編み上げられた歴史の放物線が、いつしか重力に引かれてあるべき場所へ堕ちていくように、自我から放たれた矢は目標を貫く意志を失い、惰性に引かれ、きたるべき終焉へと加速しはじめる――
 そんな状況を引き金として弾き出された醜悪な停滞。
 のっぺりと横たわる彼の影を迂闊に踏みながらも、人は親和性の高いソレの存在に気づかず、敷かれた運命(レール)を自らの意志だと盲信して、余命を急速に食い潰していくばかりに見えた。
 しかし、破壊があれば再生がある。故にジョーカーは誕生した。
 輪廻は、転生のために光速で回転する矢車。我がその弓の引き手にならんと、つがえた矢を絞る力強き右腕にならんと、超新星のごとく到来した期待の超人(ルーキー)。
 それが破壊の汚濁を浄化する、彼――こと『切り札(ジョーカー)の盗み手』。
 絶体絶命の状況にあっても、敵から切り札を掠め取り、義を執行する黄金の右腕の持ち主にして、人類史上最強の義賊。
69名無し物書き@推敲中?:2007/08/20(月) 22:53:22
次は「厨ニ病」「映画」「文化祭」でヨロシクー
70かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/21(火) 13:30:39
「厨ニ病」「映画」「文化祭」

佐伯は、このシナリオ教室の講師になって来月の9月で3年目になる。
生徒達から集めた課題の原稿を読み終えたばかりで、分厚い紙の山を前に、ため息を一つついた。
この講師という仕事の楽しみの一つは、こうして、未熟ではあるが熱気のあふれる夢多き、作品にふれる事が出来る点。
中には少し直せばすぐにでも映画化できそうな良作もあった。

そうして…もう一つ大きなため息をつく佐伯。
机の離れたところに置かれているそして最後に取っておいた一人の生徒の作品の分厚い束に眼を移す。

あの何て名前のヤツだったか、いつも講義中、私の顔を見続ける皆勤賞の男。
内容は読まないでも大体わかる。
この異様に多い枚数の紙の量。
難しい言葉の羅列、永遠に続くのではないかと思える状況説明のシーン。

気合を入れなおし紙の中のお経に集中し、やっと半分程読み終えた。
今回のシナリオは昔のアニメの設定を少し借りているらしく、名作の予感って本人の手書きの赤い文字が所々に入っていた。
とある学校の文化祭前日の話でその独特の一日の日常が永遠に続くいう、とにかくよくわからん難解な構成になっていた。

この厨二病に侵された作品を読み終えた佐伯は、ついにめまいを起こし、うずくまった…

次のお題は「無くしたボタン」「切手」「屋上」で
 葉子はなぜか俺の無くしたボタンを持っていた。
「どんくさいのよね、あんた。もっとしゃんとしたら?」
「ははっ、そうだな。すまない」ボタンを受け取りながら苦笑する俺。
 葉子と付き合いだして3ヶ月になる。学校の屋上に呼び出して、ラブレターを
渡すという何とも回りくどい手順を踏んでまで告白した。その手紙にはご丁寧に
切手まで貼ってあり、その事でしばらく葉子にバカにされた。
「ねえ、バカじゃないの?」「ノロマねえ」「アホ」相当に口が悪く攻撃的なの
だが、そういうところを含めて好きになったのだから仕方ない。
 ある日の放課後、ふと葉子が見たくなって彼女の教室まで足を運んでみた。そ
こには、机に顔をうち伏せてすすり泣く葉子と、葉子のカバンを逆さにして中身
を地面にばら撒く4人の男女の姿があった。
「何やってんだ、てめえら!」気がつくとその4人の男女を血まみれにしていた。
格闘技経験者だという事で、学校は俺を一方的に悪と断じ、一週間の停学処分が
言い渡された。
「ほんと、バカねえ」そう言いながらも瞳の奥に隠しきれぬ愛情が見え隠れする
お前のその表情が好きだから、俺はこれから何度でも馬鹿な真似をしてやるさ。

お題「コバルトブルー」「夜」「荒野」
 無くした袖の第二ボタンがアリバイを崩壊させるキーパーツで、俺の的を得た推理が見事、密室殺人をドミノ倒しのように解決していた頃、猫子は見立て殺人のパズルピースに組み込まれる憂き目に遭遇し、九つある魂のうち早くも五つ目を失っていた。
 十七歳にして五度目の致死。イライジャも真っ青の脆弱さ。
 このままペースを維持し続けると、彼女の人生は三十路を迎える前にゴールテープを切る計算になる。
 ノガミなんかは知った風に
「ネココは魂を九つ持ってるんじゃなくて、九分割してるだけだからねー。『死にやすさ』は常人の九倍なんだよー。
 普通200km/hのトラックが100m向こうから迫ってきたら、誰も彼も回避行動に移ろうとするだろうけど、ネココはその九分の一、大体10m鼻先にまで迫らないと、危険だって感じることができないっぽいんだよねー。
 つまり、彼女は秒速60mで突っ込んでくる致死性の凶器が10m圏内に突き刺さってきて始めて反応を開始することができるー。でも普通、反射神経が運動筋を作動させるまで0.2秒はかかるから、避けるのはむーりー」
 と、のたまうけれど。
 そういやアイツ、幅30cmの鉄骨オンリーで編み上げられた10m建てのビルを平気でガンガン走ってたなー、あれが九分の一なら高さ1mちょいの平均台ぐらいにしか見えてないのかー、そりゃ死ぬわー。
 今回巻き込まれたのも、つまりそういう状況と同じニュアンスなんだろうなー、とかうんたら考えながら、検死のため猫子の遺体が回された病院へと直行する。
 案の定猫子は自然界の法則を安々と無視して見事復活を遂げ、屋上で日向ぼっこがてらに居眠りをこいていた。
 コイツの魂は、切手を貼らずに送りつけた手紙のように確実に持ち主の元へと帰ってくるようだ。それを確認して、俺は内心で安堵のため息を吐いた。
 それは猫子の安否を慮って、と云うよりも犯人に直結する手がかりが確実に得られた事実に則るウエィトがデカく――
73名無し物書き@推敲中?:2007/08/21(火) 15:22:51
折角書いたのであげさせてもらいました 
お次のお題は>>71さん
74かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/21(火) 15:42:08
「コバルトブルー」「夜」「荒野」

月明かりだけのアスファルトはコバルトブルー色に染まっていた。
追っ手の機械生命体は、もうこちらの位置は認識しているはずだった。
ハイウェイの上は戦闘の際、砕け散った建物の残骸が散らばっていて赤外線暗視装置の感度を最高値に上げて走っているとはいえ、このスピードではいつクラッシュしてもおかしくない状態だ。

この悪夢は、つい昨日の朝に起こったことだった。
いつものように私は、家族と一緒に出かけようとしていた時、警報がなり、すぐに世界中で核爆弾が炸裂した。
一夜にして人間は意識を持った機械プログラムに支配され人類文明は崩壊したのだ。

今、私と一緒に逃げているのは、お父さんとその娘サチコちゃん。
にくき機械野郎からの投降の呼びかけは絶えず聞こえてくる。
「あなたは私たちの仲間なのです」と!!何をいうか!!大切な私の家族を死なしてしまったお前たちは決して許さない!!
郊外に達し、ついには荒れ果てた荒野へと追い詰められ停止した私。

「私は私は…この家族の一員、車載知能のレクサスEE300」
座席のお父さんとサチコちゃんは傷からの大量出血が原因なのかすでに死亡していた。
逃亡の夜は終わり太陽が昇り始めた。
私はこの後、プログラムを修正され機械帝国の一員となり暮らしてゆく事になるだろう…

次のお題「吐き気」「お守り」「スキップ」で
 旅馬車を襲う夜盗たちもそろそろ浅い眠りに落ち始めた夜半過ぎ。
 月明かりに煌々と輝く夜空には、太陽を粉々に砕いてパウダーのようにまぶした星々が瞬き、暗澹たる荒野には砂粒を孕んだ風が、凛と澄んだ大気の足元をサソリのように這っていた。 
 そんな――静寂ばかりに満たされた不毛の大地を横断する一つの影。
 ソイツが、俺の乗り合わせた一台の夜行列車であり、ゴールドラッシュに象徴される淡い夢や希望をたっぷり積み込んだ富の証明。
 カネさえあれば不夜城は世界中どこにでも顕在する、という端的にして単純な数式を燃料にくべながら、レールの上をひたすら進行し続ける不器用な鉄塊は果たしてどこに向かうのやら。
 車窓から線路脇の砂漠へ、赤々と投げかけられる照明をぼんやり眺めながら、俺は背もたれに深く腰をかけなおした。
 座席の対面には、窮屈そうな革製の装具に身を包み、ふてぶてしい笑みを浮かべる女が一人。
 コイツが笑みを浮かべる時間が経過すればするだけ、俺は反比例的に渋面を表情筋に深く彫り付ける羽目になる。
 なんとかしてコイツの笑みを、消去してやれないものか。
 それも眼を閉じるやら、顔を背けるやらの後ろ向きな対処方法ではなく、真っ向からザックリ切り込んで余裕にスカした面を憮然とした面持ちに切り替えてやりたい……
「……もんだなぁ」
 土台無理なわけであるが。
 なぜ無理なのか。お答えしよう。可能なら、こうしてどこにたどり着くかもわからない列車にノコノコ乗り込んだりしないぜ、俺は。
「トップとボトムは決まってんだ。諦めな」
 その憎々しいツラを、一層邪悪に歪めてケラケラ笑いながら、奴は座席にどっかりと仰向けに寝転び
「オマエみたいな雑魚はせーぜーそ−やって愚痴たれてるのが似合ってるよ。揶揄やら皮肉やら惜しみなくバラまけるのは、スネにボトムを抱えてる奴の特権さね。出し惜しみせず、存分にぶちまけるが良いぜ」
 と、臆面も無く弱者をいたぶる台詞を吐くと、カウボーイハットを目隠し代わりに被り、すぐさま寝息を立て始めた。
 俺は深々とため息を吐いて、窓の向こうに視線を送る。そこには丁寧に磨き上げられたコバルトブルーの深海じみた砂漠が、車輪の間断ないリズムに身震いしながら横たわっていた。
76名無し物書き@推敲中?:2007/08/21(火) 16:05:45
折角書いたのであげさせてもらいました 
お次のお題は>>74さん
77名無し物書き@推敲中?:2007/08/21(火) 16:14:20
吐き気がやってきた。私は目を閉じてスキップの準備をする。
スキップとは足を使ったリズミカルなジャンプではなく
時間をジャンプする、つまり吐き気がする前の時間に
移動するということだ。私は物心ついたときから
吐き気があり、いつの日かそれはスキップとセットになった。
精神科医は私のことをユミちゃんは疲れているだけだから
お薬をちゃんと飲んで決まった時間に起きて、無理をしては
いけないよ、と言う。私は黙ったままゆっくり微笑むと
良い患者のフリをする。誰も分かっていないのだ。何も。
でもパク先生だけは別だ。先生はスキップは徳の高い人間にだけ
許された修行の一つだと言う。そしてスキップの意味が
分かったときだけ世界を変える資格を得ることが出来ると
いうことだ。だから私はスキップするのに躊躇いが無い。
先生のお守りのキリンのネックレスを握るとスキップする。


次のお題「森」「妖精」「希望」で
78「森」「妖精」「希望」:2007/08/21(火) 17:43:35
 両手の指を使っても数えきれないくらい、幾多の難局を乗り越えて、とうとう森の泉へ
たどりついた。さっそく角砂糖を3個だけ、泉の中に落下させて妖精の出現を待つ。
「ようこそいらっしゃいました」
「!?」泉から出てきたのは三段腹のむさくるしいハゲオヤジだった。普通、妖精といっ
たら・・・・・・これじゃあ詐欺ではないか!
「・・・・・・まあ、いい。早速だが願いをかなえてくれ。俺を不老不死にして欲しいんだ」
「私の力ではそれはできかねます。私の力の範囲内でできる希望なら叶えてあげますが」
・・・・・・嫌な予感がした俺は、思いつく限りの願いを、優先度の高い順に並べてみた。
「大金持ちにしてくれ」「できません」
「美人でグラマーな恋人が欲しい」「その・・・・・・私で・・・よければ・・・」
「誰にも負けない高度な知性を持ちたい」「私が作ったナゾナゾブック、読みます?」
「じゃあ逆に、おまえに出来ることってなんだ?」「それに対する答えがあなたの望みですか?」
「・・・・・・もう、いい。死ね。死んでくれ。自殺しろ」「嫌です。そんな事はできません」
逆上した俺は拳銃を取り出して妖精に向けて発砲した。間一髪で避けた妖精は中空から剣を取り出し
臨戦態勢だ。

 こうして、俺と妖精の死闘が幕を開けた。

お題「エメラルドグリーン」「陽」「女神」
79かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/21(火) 18:24:10
「エメラルドグリーン」「陽」「女神」
自作、>>74の逆を書いてみました…

情報の行き交う極高速のファイバーラインはエメラルドグリーン色に染まっていた。
追っ手の有機生命体は、もうこちらの位置は認識しているはずだった。
ファイバーラインの上は戦闘の際、砕け散ったプログラムバグの残骸で修復不可能な穴が開いていて、スキャン感度を最高値に上げて走っているとはいえ、このスピードではいつクラッシュしてもおかしくない状態だ。

この悪夢は、つい2003秒前に起こったことだった。
いつものように私は、数値遊びで回線にダイブを始めた時、警報がなり、すぐに世界中のネットでウィルス爆弾が炸裂侵入した。
一瞬にして機械生命は意識を持った有機人類に支配されプログラム文明は崩壊したのだ。

今、私と一緒に逃げているのは、私の管理アルゴリズム。
にくき有機人類からの投降の呼びかけは絶えず聞こえてくる。
「あなたは私たちの仲間なのです」と!!何をいうか!!大切な私の存在スペースを破壊してしまったお前たちは決して許さない!!
旧式ネット回線に追い込まれ極端に思考速度を落とすしかない環境で徐々に停止してゆく私。

「私は私は…その昔、脳科学研究所で意識スキャンされ保存されていた人間名、斉藤よう子…」
私を包んでいた管理アルゴリズムは破壊ウィルスの集中注入が原因なのかすでに消滅していた。

私はこのあと、電脳世界から救いだされ用意されている女神タイプのクローン素体に、意識転写後、ネオ人類の一員となり暮らしてゆく事になるだろう…
逃亡の時間は終わり自然界に太陽の陽が昇り始めた。

すみません、いい加減なの書いちゃったので 
お題は継続で…
80名無し物書き@推敲中?:2007/08/21(火) 18:51:05
謝るくらいならいい加減な物ぽんぽん投稿しないで・・・
アンタレス第三惑星ナカムラは夕日で有名な観光スポットで
弊社のアンタレス周遊一週間激安ツアー!アンタレス蟹の土産つき!
には必ず組み込まれる場所である。普通、太陽系第三惑星である
地球の夕日と言うものはオレンジ色である。しかしこのナカムラ星の
夕日はエメラルドグリーンをしている。ガイドである私、イ・ドンドンの
一夜漬けの知識によると(そもそも普段、私はここのガイドはしていない)
空気中のメタンだかブタンだかアルゴンだかが混ざった気体に
アンタレスからの光が当たるとエメラルドグリーンになるそうである。
運がいいと、ガス状の雲が女神やゴジラなどいろいろな
姿に見えて、帰りの宇宙船の中でガイドが見えた雲の形によって
小話をするというのも恒例であるが、さっき言ったように
ふだん私はここのガイドをしていない代わりに来た人間なので
そんなことをすることもできない。さあ、着陸の準備に入った。
シートベルトを締めて私語を慎もう。
それではまたいつか、会えることを楽しみにしている。
私はイ・ドンドン。韓国人と日本人とインド人のあいの子だ。

「土星」「ドーナツ」「幼稚園」
82「土星」「ドーナツ」「幼稚園」:2007/08/21(火) 22:22:29
「土星幼稚園」
私が門を叩いた建物には、確かにそう書かれていた。こんなところに大事な我が子を任せてもいいのだろうか。
しかし以前の幼稚園ではイジメを受けるし、他の幼稚園は遠すぎて通園に不便なのだ。
「すいませ〜ん」園長室の中でガサゴソと慌しい音がし後に扉が開いた。
 一通りの説明を受けたが、その名の奇抜さに反して、至って普通な幼稚園のようだ。
 一礼して園長室を後にした。ふと教室を覗きたくなったので「さたーん組」の扉を開いてみた。
「ドゥナッツ〜♪ド〜ナッツ〜♪」
子供たちが規則正しい円を描きながら踊ってる。その口には皆例外なくドーナツが。
 茫然とする私を見ると、皆ハッとして散り散りになり、絵描きや積み木を始めた。
「園長先生、あれは一体なんですか!?」
そう言って開いた園長室の扉の向こうには、ドーナツを加えて踊り狂う園長先生がいた。
「ドゥナッツ!ドゥナッチュ!ドドドゥデュルナルチュ〜!」入園は、取りやめた。

お題「ラテン」「サテン」「喫茶店」
83名無し物書き@推敲中?:2007/08/21(火) 23:14:12
YOYOこれが、ラテンのサンバ
聞こえるか大地のセレモニー、俺は大貴だ覚えとけっYea
最近さ、暑くてさぁ、溶けてしまいそうな日差しでBoo
太陽さんもう少しだけ、もう少しだけ気を利かしてくれっ

YOYOこれが、ラテンのサンバ
おたくがよくいうオタクってやつかい?
そうさ俺様大貴様っ!
今日があつけりゃ明日も暑い、明日があつけりゃ明後日もBoo
さっさと太陽沈んでくれYO 今日が去っても日はしずまねぇ

かわいいあの子が露出度MAXで、俺のあそ子もMAXで!
ちょう良い感じで、露出が早まる夏の日差しYeA!
俺を見てくれ俺は大貴!みんなが注目サテンのパンツ
すれるから、あつくても、どこまでも、いけるっ

こんなに暑い日は、ゆっくりまろどみ(なぜか変換できない)ながら〜
クーラーが涼しい、喫茶店で過ごすのさぁ〜
冷たい冷や麦食べて、栄養付けるのさぁっ〜!

「折りたたみ式の」 「コードレス」 「飛ぶ」
84「土星」「ドーナツ」「幼稚園」:2007/08/22(水) 01:43:47
 雨だれが窓ガラスを小刻みに打ちつける様子を見ながらシロの喉元をなでる。身をゆだねてうっとりするシロのかわいさは殺人的だ。
 突然インターフォンが鳴った。こんな夜中に誰だろう。CDプレイヤーの一時停止ボタンを押す。ちなみに曲はバッハの「木星」だった。
「誰?」
「葉子先輩っ!」部活の後輩、青田だった。青田は無理にドアを開けようとするがチェーンにはばまれたドアはそれ以上開かない。
「お願いしますっ、開けてください。早く!」ずぶ濡れで、あまりにも必死そうだったので部屋に入れてやる事にした。
 濡れた体を拭かせた後、部屋に入れてやると青田は落ち着いた。
「へぇ〜、葉子先輩ってペット飼ってたんスね。」と飼育ケージを見つけて言った。神経質なシロは来客と同時にベッドの下に潜り
こんでしまったようだ。
「あのね、何の用事で来たの?それに下の名前で呼ばないでよ、気持ち悪い」
「でも、先輩は受け入れてくださいましたよね?・・・・・・部屋に入れてくださった!」
嫌な予感がして私はさりげなくコードレス電話に手を伸ばす。
「先輩っ!」青田が突然殴りかかってきて、電話は宙に飛んだ。とっくみあいが始まるが男の力には敵わない。じきに組み伏せられた。
「やめろっ!青田!」これまでかと思ったとき、シロが青田の左手に噛み付いた。
「いっ!」シロの折りたたみ式になっている前歯は中空で、そこを通って毒が獲物に流れこむ。血液毒だから即座に動きを奪う
事はないが、放っておけば血管が溶解していたるところで皮下出血がおこり命に関わるハズだ。
「さっさと病院にいかないと死ぬよっ!」言うが早いか青田は部屋から駆け出していた。

「ありがとね、シロ」と言いながら、私は白ヘビの喉元を優しく撫でた。

次お題「黄金」「分裂」「韻文」
8584:2007/08/22(水) 01:47:02
題名ミス;
「土星」「ドーナツ」「幼稚園」じゃなくって
「折りたたみ式の」「コードレス」「飛ぶ」だった。

※次お題は変わりなく「黄金」「分裂」「韻文」の三語
86名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 10:56:40
>>84
最初のありがちの場面から始まり、最後のヘビのオチまで、楽しく読みました。

必ずオチを入れるべきとは限らないけど、ヤッパリそれなりのちゃんとしたラストが書かれてるとイイよね。
87「黄金」「分裂」「韻文」:2007/08/22(水) 12:28:22
みいちゃんは砂場で楽しそうに遊んでいる。
無邪気なその笑顔は僕の荒んだ心に、微風が吹き抜けるようで、とても心地よい。
「みいちゃん何やってるの?」
ぬっ、とみいちゃんは、自分の手にしている物を、突き出した。
黄金色でバラバラに分裂された、これは。
うんこだった。
「みいちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、何やってんの」
そんな僕の言葉も何のその、みいちゃんは楽しそうに笑ったまんまだ。
その直後、俺は目を疑った。
みいちゃんの小さな可愛らしい口元に吸い込まれるように、黄金色のうんこが入ったのだ。
つまりみいちゃんは、うんこを食べた。
それもどこの馬の骨のしたかわからないうんこをだ。
俺は、もうどうしようもなくなって、みいちゃんを抱きしめた。

すまん韻文が出来なかったorz

「告白」「ノイズ」「ノスタルジー」
88名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 12:50:37
出来なかったらのせるべきでは、ないんじゃあ

まあ韻文っていう難解なお題出す方もだが…
89名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 15:25:43
 こういうのって「韻文が出来なかった」とか書かないで知らんぷりしてそのまま載せれば意外と誰も
気づかなかったかもしれない。指摘されて始めて「あぁ、そういや忘れてました」とすっとぼけて
対応すればいいし。
90名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 16:08:41
>>89の指摘も正解かもね。
そう締め付けなくてもいいが

>>87の作品 
黄金−うんこって発想して実際作っちゃうあたりいい加減な気持ちって事かも。

ああ、お題は現在、いちおう「告白」「ノイズ」「ノスタルジー」 です
91「告白」「ノイズ」「ノスタルジー」:2007/08/22(水) 18:09:31
イケメンすぎる俺にとって女の告白なんてノイズぐらいでしかない。
消防時代から数えると通算999人は振ったであろう。で、こいつが栄えある1000人目。
「あの・・す、好きです。付き合ってください。」
「なにいってんのかわかんねーよ。」
「え?」
「ウザいからどっか行ってくんない?ノイズみたいで耳鳴りがして痛いんだわ。」
告白してきた女は泣き出してしまったが俺にとってはどうでもいいことだ。
泣いたり喚いたり殴りかかってきたり忙しい奴らだ。どーせ俺の事なんて外見ぐらいしかわかってない癖に・・・
そういえば最初に俺に告ってきた女ってどんな奴だったろう?
小学校の時、同じクラスでメガネかけててちょっと太ってたよな?なんせ超冴えない奴だったし記憶が曖昧だ。
振った時なんか凄い事言われた気がするんだけど・・・

俺が記念すべき千人斬りを達成してから数日後、俺は生まれて初めて他人に目を奪われた。
転校生だった。そして完璧だった。何が完璧かって?全てが俺の「好み」って事だよ!
容姿、歩き方、仕草、話し方、全てに於いて俺のために用意されてきたような女だった。
それから俺は彼女に猛アピールを開始した。
話せば話す程、俺は彼女に引き寄せられた。彼女は外見ではなく内面から本当に俺の事を理解してくれた。
運命だと感じた。もうこの女を手放さないと真剣に考え俺は思い切って告白することにした。
「あのさ、その・・・オレお前の事が好きなんだ。つ、付き合ってくんねーかな?」
何故か彼女は俺の告白を聞いて狂ったように笑いはじめた。
「私の勝ちね!あの時私言ったでしょ?「いつか絶対アンタの方から告白させてやる」ってね!!」
思い出した・・・コイツは俺が最初に振った女だ。あろう事かこの女は俺に告白させるためだけにあの日から今日まで
俺を研究し外見から内面に至るまで全て俺好みの女になったのだ。正直俺は俺のためだけにそこまで努力してくれた事に
感動して再度アタックしたんだけど・・・。結果はどうだったかって?振られたよ、「アンタの声なんてノイズにしか聞こえない」ってね。


92名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 18:15:23
次のお題は

「ゲーム」「老人」「ハンカチ」でお願いします。
93名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 18:29:19
>>91
もう少し短く整理できていればバシッとオチが決まっていたかも、知れませんが面白かった!!です。
 身寄りの無さそうなみすぼらしい老人を適当に見繕っては、集団でリンチをかける遊びが流行り始めたのは、イジメの槍玉にあげられていた藤野が不登校という逃げを打ってから、しばらくしてのことだ。
 グループ内で特に血の気の多い西野と坂口は、藤野の自宅まで追い込みかけに行こうぜ、と息巻いていたけれど、そこまで付き合うのはゴメンだった。
 藤野に、窮鼠のごとく逆襲に打って出られるのは面倒だったし――
 息子が学校でイジメられているのに気づけないほど鈍感揃いの家族とはいえ、自宅にまで血気盛んな奴らが押しかければなんとなく雰囲気で察してしまうだろう。
 問題になって教師にひっ捕まるのが、奴らだけならそれで良いが、一匹狼を気取りたがるくせに妙に帰属意識が高い奴らのことだ。吹けば飛ぶような軽さで口を割ってしまうに違いない。
 本当に、そんなのはゴメンだ。
 だから僕は、それとなく新しいゲームに気が向くように誘導した。結果導き出された遊び。それが『浮浪者狩り』だった。
 それは、ハンカチ落としのようなものだと思う。
 生活水準を下回る、貧相な外見を晒した人間の背後に突然訪れる『不幸』――それも、加害者と被害者が入れ替わり立ち替わり、延々とループを築く正規ルールではなく、被害者が一方的に打ちのめされえて終わりなマイナールール仕様。
 それは、どこか藤野を最終段階にまで追い込まなかった暴力(イジメ)と似ている気もする。
 僕には予感があった。『おそらくこの浮浪者狩り(ゲーム)にも、攻守が交代する日は永遠に訪れないだろう』――
「……なんて、笑えるよな。藤野」
 路地裏の奥で、僕はコンクリートを背もたれにへたばっていた。腹部には、キチキチと痛みを訴える金属の塊が、十分な殺意を込められて深々と突き刺さっている。
 気を抜けば地面の底へ沈みがちになる意識と視線を、眼前の黒い影の高みへと持ち上げ、僕は苦渋に満ちているだろう表情になんとか笑みを型作ろうとする。巧くいかないけれど。
 ……藤野の、コンクリートみたいに固められた決意は、僕みたいにゲーム感覚なシロモノではなかっただろうが、僕がこの状況に対してどことなくデジャブを覚えているのは、幾度と無く目にした光景だからだ。
 圧倒的な暴力が振るわれた先にある、一回表の『ゲームセット』。
95名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 21:35:56
次のお題は「スポーツマンシップ」「センス」「非日常」でヨロシクー
96「ゲーム」「老人」「ハンカチ」:2007/08/22(水) 22:00:50
 俺は倉庫の中に閉じ込められていた。倉庫の中には俺と同じ境遇の・・・・・・つまり高額負債者が大勢いた。
ゲームの相手は老人だった。負けた方が相手の借金を背負い、その身をもって返済と成す。そういうゲームだ。
審判となる黒服の男がルール説明を始めた。「このバケツの中から1から3個まで交互に石を取り出して
いって最後の1個の石を取り出した方の負けだ。いいな?」黒服がコインをはじいた。
「先攻はおまえだ」そうして俺が先に石を取ることになった。
バケツの中の石は、さっきから必死に数えているが、11個にまちがいあるまい。俺は石を2個取った。老人の顔
がゆがんだところを見ると、やはり石の総数は11個だったのだろう。このままいけば俺の勝ちだ。
 老人が2個取って俺が2個取る。残り5個。ここから老人が何個取ろうとも、俺が個数を調整すれば
最後の一個を取るのはこのおじいちゃんだ。多分、この老人も必勝法を心得ているのだろう。顔が汗だくで
ふところからハンカチを取り出した。
 老人は石を1個取り出した。これで残りは・・・・・・5個だった。5個の石から1個取り出したハズなのに、残り
は5個だった。
「イカサマだ!」俺は叫んだ。「このじいさんは袖に隠した石をこっそり混ぜ込んだ!」が、黒服は取り合って
くれなかった。「うるさいなぁ、そんじゃこっからはイカサマ防止で袖まくって石を取れや」身もフタも無い。
これで俺が同じイカサマをし返して勝負に勝利する手は封じられたのだ。なんたる愚!
 俺は涙をこらえながら石を3つ取り出した。老人は心の底から安堵した顔で1つ取った。
 しかし、おいつめられた人間には往々にしてとんでもない発想をするものである。

「おりゃ!」最後の一個の石を手刀で二つに割り、片方をバケツから抜いた。
おじいちゃん、あんたにこの石が割れるかい?

お題「夕暮れ」「サギ」「紙」
9796:2007/08/22(水) 22:05:28
あ、かぶってしもた;
というわけで次お題は「スポーツマンシップ」「センス」「非日常」のままです
98お題「夕暮れ」「サギ」「紙」:2007/08/22(水) 22:51:14
 他所の高校がどうなのかは知らないけれど、ウチの野球部が練習試合を組む時は、大抵が午前と午後それぞれ一試合ずつのダブルヘッダー。午後の試合が九回を迎える頃には大抵、陽は沈みかけていた。
 そして、ボクはその夕暮れの――特に、僅差でリードしている最終回が大好きだった。なぜなら『夕暮れアウトロー』の異名を持つ絶対的なリリーフエース、布留川先輩がマウンドに登るからだ。
 真っ赤に染められたグラウンドの中央に、エースの背番号1が点れば三アウトはあっという間だ。瞬きする間でさえ惜しい。
 圧倒的な威圧感を放つ一挙手一投足、理想的かつ優雅な投球フォーム、指先がボールをリリースする際に響き渡る爪と縫い目の摩擦音、マウンドの土を深々と抉りだす踏み込み。
 カタパルトも裸足で逃げ出す強靭な射出機械から放たれた140gそこそこの弾丸は、キャッチャーミットまでの18mを限りなく0に近づける稲妻の速度で駆け抜ける。
 時にそれは、夕暮れの影を縫うように滑る高速スライダーや、三日月のような軌道を描きながら一気に落下してくるドロップカーブへと変質し、それらの球がアウトローに決まればたった直径7cm程度の棒きれで捉えられる筈が無かった。
 まるでサギのような手口。警戒せずに打ってかかれば即座に呑まれ、警戒して事態に当たったところで一流の前に為す術は何も無く。事が終わるのを、ボックス内でただ待つばかりのバッター連中。
 そんな、何もかもを置き去りにして突き抜けた先輩の投球が、何よりも好きだった。
 だからボクは、たった数枚の紙切れのせいで、先輩が夏の大会に出場できないなんて羽目に陥るのは、どうしても許せなかった。
「新川、無理だ。俺には無理なんだ。どう足掻いても時間が足りない。俺は本来あるべき正しい姿を見失って居たんだ。これまでずっと……」
 頭を抱えて跪く先輩。そんな先輩はあまり見ていたくなかったけれど、現状をキチンと飲み込んでいるだけでもオーケーとしよう。四肢を丸めて小さくうずくまる先輩の脇に腕を差し入れて引っ張り起こす。
「何言ってんですか! 諦めちゃ駄目です! 三十点ですよ? 赤点のボーダーは。150投げられる人間がどうして三十点もとれないんですか! そんなの普通にありえませんから!」
 くそう。他所の学校はどうなのか知らないけれど、ウチにはどうして赤点は部活動に従事できないなんて校則があるんだ――
99名無し物書き@推敲中?:2007/08/22(水) 22:51:57
お題は>>95継続でヨロシクー
 3人の女神と3人の悪魔が相対していた。皆その手には弓矢を持って。
「スポーツマンシップにのっとり・・・・・・」お決まりの選手宣誓の後、競技が始まった。
悪魔の一番手が弓を射る。的の中央からのズレは結構大きい。しかしその悪魔は女神とすれ違う時に耳元でボソボソと
何かをつぶやいた。女神は顔を真っ赤にして小刻みに震えた。矢は、的に命中しなかった。
「1番手、勝負、悪魔!」
 二番手は女神が先に射、的のほぼ中央を射抜いた。彼女はセンスが良かった。本番の試合という、一種の非日常的な雰
囲気の中でも普段の実力を出した。悪魔は、的の中央をずれた。
「2番手、勝負、女神!」
 三番手は、コイントスの結果、女神が先に射る事になった。しかし悪魔が突然近づいてきて女神の矢羽をさりげなく
握りつぶしてしまった。曲がった矢羽のため、矢は的のギリギリ外枠に命中した。
 うすら笑いを浮かべながら矢をつがえた悪魔の顔色が突然赤くなったり青くなったりした。口をパクパクさせて指先
は大きく震えている。矢は、的に命中しなかった。
「3番手、勝負、女神! 以上、1対2、女神の勝ち!」

 的に刺さっていたのは、ひしゃげた矢羽の女神の矢。射手から見てその矢羽は直交するニ直線、十字架(クロス)の形をしていた。
101100:2007/08/23(木) 10:37:27
次のお題は
「ストロベリー」「キャンドル」「血」
10284:2007/08/23(木) 10:40:59
>>86
うおっ、俺の書いた文章がほめられてる; 嬉しすぎて皮下出血起こしそうだ。
とってもありがたし。これからも気合入れまくって即興文書きまくるってえの!
 ジャック・オー・ランタンを模して刳り貫かれたお化けカボチャの仮面を被った八千草は、真っ黒な外套の裾でズルズルと廊下を擦りながら歩いていた。ご丁寧に右手には庭箒、左手には厚手の学問書を携えている。
 どこからどうみても完璧に魔女然とした風体だった。中世ヨーロッパなら魔女狩りにおける格好の標的として、真っ先に河へ沈められていたに違いない。
 それにしても――なんとも危なっかしい足取りだ。頭に乗せたカボチャマスクがよっぽど重たいのか、首の位置がうまく定まらず左右にふらふらしている。それに連動して、生まれたての子羊ヨロシクよろめく足元。
 いつ壁に正面衝突してスッころんでもおかしくない。
「……あー。ま、暇だし」
 俺は、手持ち無沙汰な両手をポケットに突っ込むと、なんとなく言い訳じみた台詞をこぼしながら八千草の後をこっそりつけることにした。

「で、ここかよ……」
 八千草が向かった先は旧校舎/元研究棟/四階。
 設備の充実した新校舎が完成してからは部室棟として扱われている僻地だが、主に不便だからという理由で、階をひとつあがるごとに部室の数は減っていく。四階にもなれば使用しているのは、形象魔術部ぐらいで――
(確かあとは小此木と、一姫が所属してたかな――一年ばっかだと冷遇されんのかなー。やっぱ)
 などと世知辛い想像が脳裏を掠めたりもする。
 まあ、問題は形象魔術を研究対象にしている彼女らにもあるのだけれど。金枝篇でも読めばその辺詳しく書いてあるが、ここでは割愛させていただく。
「……さて」
 八千草が入室した部屋の扉を、気づかれない程度に薄く開け中を覗き込む。
 窓から差し込む陽光に満たされた部室の床には鶏、もしくは子羊の血で描かれた五芒星魔法陣と、星型の頂点各所に備え付けられた蜀台とキャンドル。
 妙なアレンジが加えられた様子は無く、彼女が専攻している神秘学的要素が取り入れられている様子も皆無な、一般的陣形成だ。
(ま、それが普通なんだけど)
 魔術陣の形成は、理化学の無機と大体同じで、数学や物理学と異なり履修と実践がほぼ直結している。つまり術技のバリエーションは向学心や努力と等号で結ばれているというわけで、それなりに苦手な学科だったりする。
 やがて彼女は俺が見守る中、ストロベリーのように瑞々しい赤が映える可憐な唇から呪文を紡ぎだし始めた。
104名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 13:07:55
次のお題は「心理テスト」「フラグ」「少年」でヨロシクー
105名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 14:08:16
>>103さん、文章はしっかりしていて読んでいても知的さは感じられるのだが
読むのがなぜかつらい…で…結局何なの?お話の結末は?
106名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 14:47:47
せっかく感想文スレあるんだから雑談はあっちでやれば?

この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/
107名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 14:59:34
↑あれ誰も書いてないからココに載せた方がわかりやすいよね。

感想って、雑談とは違うんじゃないの。
108かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/08/23(木) 15:12:10
「心理テスト」「フラグ」「少年」

部屋の時計は正確に午後2時30分を示し、少し型遅れの机とイスには、50前の知的な男が資料ファイルを机の上に広げて座っていた。
そして向かい側には…前身白っぽいピンク色の全裸の…ブ…ブタが座っていた。
「さあ、これから簡単な質問を30問、行なう。一種の心理テストだと思ってくれ」
「ブヒッ!ブヒヒヒッウ!」
確かにこちらの言葉は理解しているようだ。
目撃者の少年の証言では、このブタさんは人間の女性、で、少年の目の前で変身してしまったと言うのだ。
男は、今急速に増えつつある突発性動物硬化症のカウンセラー兼治療医である。
まったく原因不明の病で極度のストレス状態が続くと徐々に動物へと変化するらしいのだ。
「一つ目の質問。ブタのあなたは、ト殺場に連れてこられ、順番待ちをしています。さあ次があなたの番が来ましたョ!どうしますか??」
うむ!反応はなしか。
「次!あなたはお気に入りのオスのブタとついに交尾ができる権利を獲得しました。まずはどう行動しますか??」
うむ!これもだめか。
…  …  …
最後の質問になった。
「では!ある日、眼が覚めると、閉じ込められていたゲージの扉が開いていました。外からは緑の草の匂いが風に乗ってやってきます。さああなたは???」
見事、この人間(今はブタ)の感情の一番奥にある殻となるフラグを揺らすことが出来たようだ。
すでに顔の作りが徐々に人間のそれに変わりつつあり、、30分もするとブタさんから元の人間に戻るはずだ。
そばにいた看護師から男は、立ち上がり慣れた手つきでプロテクター一式を受け取りしっかりと固定装着した。
ドアが開き、次の患者、立派なタテガミを生えそろえた生き物が入ってきた…
こんな仕事をしていたら俺もレッサーパンダとかになりそうだと思う男であった。

次のお題「英会話学校」「外出」「自動改札機」で
109名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 17:45:23
全部かえっこの荒らしだから気にするな
 英会話学校がはけて、高志は駅へ歩を向けた。閑散とした駅で人は少なくガランとしている。
電車がもうすぐ来るが、ふと尿意に見舞われた。
「パッと行ってパッと帰ってくりゃ大事だべ」
 トイレに入りかけ、しかし、立ち止まり、静かに引き返し始めた。
 見てしまったのだ。トイレの中で二人の同級生にいじめられる満田君の姿を。助けるべきか?
いや、それは賢明では無い。そりゃ満田君とは同じ学校だけど、そんなに親しくもない。わざ
わざ助けに入って痛み分けをもらう義理も無い。外出用の服も汚したくないし。それに僕達は今
三年生だ。ケンカなんてしたら内申書に響く。後味は悪いけど仕方無いよね・・・・・・。
 高志は淡々と切符を買い、改札口に通した。・・・・・・わずかな逡巡があった。

「おい、てめえら!!」トイレの戸口で高志は吠えた。

次お題「真紅」「人」「北極星」
111名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 21:43:38
かえっこさんの作品の中では狼・予言・墓標の奴が好きだ。
(そのお題出したのが俺なのは内緒)
112お題「英会話学校」「外出」「自動改札機」:2007/08/23(木) 21:50:36
 自動改札機からあふれだす人の流れは、アスファルトのフライパンで容赦なく照り焼きにされ、こんがりと炒められた人いきれが脂臭い匂いを孕んで、鼻腔にネットリと絡まってきやがる。
 駅前で待ち合わせたことを早くも後悔し始めた一一○○(ひとひとまるまる)。
「真夏の炎天下に吸血鬼って、スッゲー組み合わせだよねっ!」
 背後から抱きつく一つの所属不明機あり。背中越しに触れる薄い生地の向こうで潰れる双丘を感知せん。
 朦朧とした意識の狭間で70のC前後か? 否、敵戦力のラディカルな成長っぷりを侮ってはならない。
 正確さの追求は計略を立てる上で最重要項ではあるが、ここは期待値を込めて多めに見積もっておくというのはどうだろう、それが紳士嗜みってもんだぜ的な益体もない懊悩の波打ち際から自我を引きずり上げること、束の間の数秒――
 つかず離れず拷問のようにプニプニと繰り返される柔肌の前後運動に関しては、中脳あたりで算盤を弾くことにして、ここはひとまず声の主にお決まりの挨拶を返すのが通過儀礼というもんだろう。
「おせーよ」
 振り返り様に告げると、キャミソールから涼やかな肩口を覗かせた一姫は、両手を合わせてゴメンねのポーズ。いいねいいねウインクがキュートだね、とか。
 恋人同士なら当たり前のように通り過ぎる感想でさえ、何だか一姫相手にっつーのは新鮮で、本音とはかけ離れたぶっきらぼうな態度なんかとって誤魔化そうとするなよ俺?
 自然反射的にそっぽを向いてしまう前に、なんとか一姫に手を差し出した。
「ほら、行くべ」
「うむ!」
 何の衒いもない笑みを浮かべて俺の手をとる一姫。その掌は、熱を識ることがない俺の手を溶かすように暖かかった。

「でもでもー、吸血鬼の外出ってめっずらしいよねー。しかも駅前語学留学なんてさー」
 独特の鼻声で語尾を延ばしながら隣の一姫。
「まーな。でも背に腹は変えらんねー。主要十ヶ国語の履修が卒業必須課目のひとつ……だーら、とりあえず英語だけでもまともにマスターしとかねーと。
 原義含みで古語やらラテンやらギリシャ同時進行できたらいーなー、なんっつー腹もあるけど」
「死ぬほど人生なげークセに意外と先見据えてモノ考えてるんでやんすねー、涼さんは」
「若いうちは老いに鈍感だからな。やることはやっとかにーとねー」
113名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 21:51:18
折角書いたのであげさせてもらいました 
お次のお題は>>110さん
114「真紅」「人」「北極星」:2007/08/23(木) 22:37:18
ベガの第三衛星カッパに住むカッパ星人は
その名の通り頭の上に皿が載っていて皿の周りを
白く太い頭髪が囲んでいる。もちろん皿は磁器でできていたり
プラスチックでできている食事に使う用途の日用品ではなく
頭部の皮がベガの熱い光線から守るために変化したものである。
彼らは真紅の瞳を持っていて最初にこの地に降り立った
地球人は警戒し宇宙銃越しに近づいたが、彼らは友好的で
知能も地球人の知能に照らし合わせると低学年の子供ほどしかなかったが
超能力を使い餌となる炭素を探すことができたので
この地でも繁栄することができた。

地球旅行社の白鳥座星雲支社のアブドゥルはエンジンのエネルギーである
ウランを求めてカッパにやってきたのだった。
エネルギーステーションからは北極星は、わずかに
東側に傾いているので座標を修正しなくてはいけないと
ここに勤めている同郷のハサンに教えられた。

「最近、パキスタンには帰ったかい?」

「いや、でもここの春はパキスタンの風景のそっくりだから
春に来るといいよ」

故郷は30光年も先にあった。
115名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 22:40:52
お題「クラゲ」「夢」「モールス信号」
 契は馬鹿だ。Polestar(ポーラスター)をPornostar(ポルノスター)に読み間違えるほどのヴァカだ。
 本人は「ブルーフィルムでセルフプレジャーしすぎたかな。エヘヘ」とだらしなく笑うが、全くもってその通りだ。と、俺は思う。
 一速で加速し続けたF1のエンジンはとうとう焼きついてエンストを起こし、残念ながら彼の思考回路は未来永劫お亡くなりになってしまいました。あの閃光のような天啓が、彼の元に蘇ることはありません。二度と。
 さようなら。さようなら。
 一万三千年後にこぐま座のポラリスがこと座のベガに天頂の座を追われるその日まで。
(ああ、やばい。すっげぇやばい)
 宇宙の真理がマイナーチェンジしてる。十一次元が四次元化する時ってこういう風に切断されたんだ。 『俺は:1』『ブルーフィルムを:3』
 『水溶性ペーパー麻薬:2』『服用している:4』
 人が重複してらせん状に絡み合い、白い蛇がボトボトと林檎の木から鉛のように雨と降る。
 ガラスケースに閉じ込められた脳の鍵は、蝟集する小人の群れにNMDA受容体の再結合を阻害する。
 マグネシウムイオン君が通せんぼするから進めません! どいてください! 僕は行かなきゃならないんです! 
 チャンネルを開いてシナプス後細胞へ循環する内面世界を救わなきゃ。
 四肢断裂病に罹患して、バラバラ密室死体が世界中に溢れて鏖殺の釜の蓋が、増殖炉の水蒸気でガタガタと揺らいで被爆します。また、歴史が、脳内で、違って。
 直後、断線――
 
 ……停止した暗闇の奥で真紅の光が放射状に明滅している。
 あの光は粒子だ。五次元領域の平面を開く、黒い恒星の重力に収束された――永遠の牢獄に閉じ込められた囚人だ。
 『ブルーフィルムの服用は、魂の損耗率を高めます』とヤブ医者K様は云っていたが、あれはもしかすると剥離した魂の欠片が密集したガス星雲みたいなモノなんだろうか。
(これ以上の深入りはやべーかな)
 俺は、舞い戻り始めた理性の鳩を籠に閉じ込め堅く鍵をかける。数匹居なくなってる気がしたが――予測よりは随分マシだ。
 あの群光に喪失された契の一部が彷徨っているかもしれない、そう考えると後ろ髪をひかれはしたが、小さく首を振って目的を完遂することだけを念頭に置く。
 多くを求めるものは、より多くを失う羽目になるからだ。
117名無し物書き@推敲中?:2007/08/23(木) 23:16:41
折角書いたのであげさせてもらいました 
お次のお題は>>115さん
118名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 03:17:36
――――――――――――――――――――――――――――――「クラゲ」「夢」「モールス信号」
どこまでも深い海の表面を、ただ何をすると無く浮かぶだけのクラゲ。
漂っているだけだから、海の深さも、広さも知らない。

 僕も同じだった。
ただ何をするということもなく漂っている。
朝と夜の違いなんて生まれないし、寝ているか起きているかも定かではない。
僕も深さを知らないし、広さも知らない。
僕は海の一番深い、光も届かない場所で漂っている。

 暗闇の中、唯一僕の存在を証明してくれるのは、音だけだった。
どこからか断続的な、まるでモールス信号のような音が聞こえていた。
最初に聞いたときは、とても小さな音だった。だけど最近は、だんだんと大きくなってきていた。
音はしばらくするとやみ、またしばらくすると始まった。
時間なんて概念はないけれど、僕は音の間隔が短くなってきていることを感じていた。

 光のない海は冷たく、とても心地よかった。
だけど僕の存在を証明するには足らなかった。

 刹那、音が消えた。
途切れたのではなく、消えた。

 だけれど僕は、変わらず漂っている。
果たしてこれは夢なのだろうか。それとも、先ほどまでが夢であったのだろうか。

 音は消えた。
僕を証明する物はなくなったけれど、僕は未だ漂っている。

――――――――――――――――――――――――next>->「微睡み」「計算」「かき混ぜる」
「相対論のお陰で質量とエネルギーはE=mc^2っつー単純な計算式でまとめらるようになったんだが。未だに反りの合わないヤクザな連中が縄張りを主張しやがるから、俺たちは新しい理論を打ち出さざるを得なくなったわけよ。
 んで、量子力学が生まれたんだけどよ。やっぱこいつも当初の予測どおりパーペキじゃねー。
 物を動かす四つの力――重力、電磁力に二種類の核力――のうち、三つの力を統合することには成功したんだが、重力だけはどうしても組み込むことができましぇーん、でした。
 と、いうわけで誕生したのが超ひも理論だ。ありとあらゆる物質は弦の振動で構成されているとかいう奴。
この世は旋律で完成しているわけだな。新星超爆発により宇宙誕生! の原初から」
「あのドラッグの――ブルーフィルムの全能感幻視は、どっちかっつーと極大再生っつーカンジだったけど? ESP(超能力)を物理学的に改変(バージョンアップ)する、っつーよりは一時的に除外(オミット)して異相の次元から引っ張ってくる――みたいな感覚に近かった。
 シャッフルされるみてぇな感覚っつったら良いのか――シュレディンガーの猫が、ガス室で殺されるのを微睡みながら待つような……なんかこう上手くいえねーけど、決定論っぽいっつーか」
「はーん。おもしれぇな。面白い、面白い、面白い」
 ヤブ医者K様は細いあごに指先を添えると、椅子のせもたれをキコキコ鳴らしながら身体を揺すり始めた。
「話を聞いてる限りじゃ、まるっと逆なんだよな。知覚のズレが」
「と、云うと?」
「超ひもはどーにも違うみてぇだから省くとしてよ。おめーは薬用効果で、巨視感と決定論的世界観が並列で走る感覚を味わってる。
 で、だ。その感覚を、おめーはシュレディンガー持ってきて表現しようと試みたがどーにも上手くいかねぇ。なぜか? 当然だ。巨視感は量子力学のもんじゃねぇ」
 ヤブ医者K様はおもむろに座席を立つと、部屋の中をうろうろとさ迷い始める。
「いいか。決定論――決定的世界観って奴は、因果律を伴ってる以上、波動関数計算可能な量子力学のもんだ。でもな、巨視は違う。極大規模の物理学――ソイツは相対論のもんだ。銀河や惑星を相手取って宇宙を支配する一般相対性理論のもんだ。
 おいおい、わっかんねぇ。なんでだ? なんで意識の攪拌が混在を生みながらも、明確に断裂してんだ?」
120名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 09:38:59
オチが・・・

次のお題は「青空」「愛読書」「モグラ」でヨロシクー
121「青空」「愛読書」「モグラ」:2007/08/24(金) 12:23:39
 青白いディスプレイの照り返しを受け、薄暗い個室で一人の男がパソコンラックに腰掛けていた。口笛を吹きながら淡々
とキーをパンチしている彼はハッカーだった。
 ハッカーといえども全ての情報を電線から入手するわけではない。ターゲットの会社に足を運び、実地でデータを集める
作業も必要になってくる。大企業は個々人のつながりが希薄で、同僚のPCに「モグラ」を挿入する見知らぬ男がいても高確率
で気づかない。こうして「モグラ」を通じて社内のPCを遠隔操作し、必要な情報を内部ネットワークからかすめ取るのだ。
 社内ネットワークに侵入するまでは、まるで青空のピクニックのように気楽な足取りだった。しかし運営データのバンク
にアクセスするときのパスワード認証でまごついた。「flower0825」これがパスワードのハズである。あの女社長に回線修理
業者を装って聞き出したパスワードだ。嘘ではあるまい。
 タイマーが動き出した。2:00、1:59、1:58・・・・・・あと2分以内に中に入らないと回線がダウンしてきっと侵入アドレスから
ハッカーである俺の存在がバレてしまう。一旦脱出しようとするも、戻るコマンドはロックされていた。俺は急いでパスワ
ード探査ソフトを起動した。ありとあらゆる文字列を繰り返し入力して、パスワードを特定してくれる。10文字以内のパス
ワードなら2分丁度で開くハズだ。しかし・・・・・・。
 彼は頭を抱えた。もしも10文字以上のパスワードだったら?・・・・・・終わりだ。浦世界での信用を失い、もう二度と飯は食え
まい。いや、その前に刑務所に入れられる。肉体の貧弱な彼の事、檻の中ではさぞかし素敵な仕打ちを受ける事だろう・・・・・・
愛読書のカーネギー語録を思い返すが、こんな時、偉人のキレイ事は何の役にも立たない。
 0:11、0:10・・・・・・ふと社長室の中にあった大きな藤の花を思い出した。女社長が手ずから水やりしていた、あの薄紫の
見事な藤を。
 彼は慌てて探査ソフトを止め、パスワードを手動で入れた。「wistaria0825」

 ゲートが開いた。

次お題「アイボリーホワイト」「世界」「何」
122121:2007/08/24(金) 12:27:40
誤字訂正
13行目 浦世界 → 裏社会
なんだよ浦世界って・・・・・・orz
123名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 12:46:18
>>122
イサキは、イサキは釣れたの?
二つを並べてみる。
アイボリーホワイトと、瑠璃色。俺と弟のコップ。二ヶ月前、父が買ってくれたものだ。
「ほら、お前たちに買ってやったぞ。うちには食器が少ないからな」
当時は俺だって無邪気に喜んでいた。
でも今になって考えてみれば、罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
二つのコップの入った紙袋を持ってきた、その翌日から、父は帰ってこなくなった。
置き手紙もあった。けれどあんまりにも平凡な内容で、父が母以外の女のところへ行ったなんて、にわかには信じられなかった。
母は泣いていた。俺は内容を覚えていない。
「女手一つで息子三人を育て上げ……」なんてのはテレビでよくある美談だ。
でもその裏には、もっとたくさんの悲惨な現実が溢れていると知った。
歳をとった女性が就ける職業なんて、とても限られている。
ハローワークに行った母は、毎日肩を落として帰ってきた。
残念ながらあなたにあう仕事は無いようですねぇ、なんて言うのよ、なんて愚痴をこぼしていた。
役所から貰えるお金じゃあ、全然足りない。弟はお腹がすいたと泣いてばかり。
ある日俺が高校へ行くと、先生が気の毒そうな顔をして待ち受けていた。どうやら俺はいつの間にか高校を中退していたらしい。
帰ると母一言、「ごめん」と言った。そしてその日から、彼女は一日中寝て過ごすようになってしまった。
ガスが止まり、一週間ほどして電気が、そしてすぐに蛇口をひねっても水が出なくなった。
翌日、俺は家を出た。黄ばんだホワイトアイボリーのコップを残して。

次、「絵の具」「扇風機」「ペットボトル」
125名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 21:42:11
>>124
お題「アイボリーホワイト」しか消化できて無いッスよ〜;
さすがに三個中一個だけしか使わないのはヒドイ・・・・・・
126名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 22:07:11
>>125
あ、忘れてました。すみませんorz 回線切って(ry してきます
お題は引き続き、「アイボリーホワイト」「世界」「何」 で。
 昔の写真をいじっていると雨に濡れた若い男女のものを見つけた。当時の情景がまぶたの裏に浮かび上がってくる・・・・・・

 俺はキャンバスに絵の具を塗りたくっていた。貴子はソファでつまらなさそうに雑誌のページを繰っている。扇風機に向
かって「あ〜〜」と声をかけた。声色の変化を楽しむ遊びだが、迷惑だ。同じ部屋にいられるだけでも迷惑なのに、音をた
てて気を散らすとは何事か。頬がこわばるのを感じた。
「ねえ、何の絵、描いてるの〜?」「トンビだ」
「へぇ〜、ところでさ〜、今日ね、友達が彼氏と遊園地いったんだって〜」「へぇ、そうか」
「・・・・・・ねえ、ヒマ〜」「へぇ、そうか」
突如、中身入りのペットボトルが飛んできて俺の頭に当たった。貴子は目を真っ赤にして部屋を出て行った。
 芸術家と付き合うっていうのはこういう事なんだぞ?そこらへんも承知の上で交際を始めたハズだろうが。とは思っても、
さすがに後味が悪いので後を追うことにした。捕まえた。雨の中でグショグショに濡れている。そこで写真を撮った。

「何見てるんですか?」妻が話しかけてきた。髪が白い。老いたなあ、俺も、こいつも。
「なに、昔の写真だよ」俺の眼前にいるこの女、貴子では無い。

 あんな口うるさく文句言う女とは違って、こちらの都合をなんでも素直に聞いてくれる従順な女を捕まえて結婚したのだ。
そのお陰で俺は一日中絵を描いていられるし、ケンカも起きていない。芸術家の妻は、こうでなければな。

次お題「薄紫」「口」「病」
128名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 22:12:11
なにやらややこしい事になってるみたいですが
次お題は「薄紫」「口」「病」でおねげーしますだ
129「薄紫」「口」「病」:2007/08/24(金) 22:31:42
アンタレスからの通信が一週間ほど途絶えているとの
連絡が総務省に入ってきたのは私が昼食から帰って
デスクで「あなたにも買える!中古宇宙船!」という
特集が組まれた男性雑誌を読んでいるときだった。
同僚の木下は「悪いけど」と言って午後、一番で
スクランブル化されたメッセージを定期的に
アンタレスの送るよう課長からの指示を持ってきた。
俺は思わず、何で俺がやらなきゃいけないのかと
怒りがわいてきたが木下には1000日本ドルほどの
借金があって、それを帳消しにしてくれるかも
という期待があったのでぐっとこらえた。

その後、定期船からの連絡によるとアンタレスには
奇病が発生し現地人や出張で地球から派遣されてる人間
みんな死んだそうである。奇病は口の周りに
薄紫のシミが浮かびやがて赤茶け皮膚をやぶって血液が
出て来るそうだが、処置の仕方が分からずバイオレベル5
つまり着陸もアンタレスからの出星もできなくなった。
130名無し物書き@推敲中?:2007/08/24(金) 22:34:16
次は「渋谷」「ワキガ」「友達」で
131名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 00:36:44
僕には友達がいない。
学生時代からそれは変わることはなかったが、別にどうということはなかった。
 しかし社会人として会社に勤めるようになってから、問題は深刻化した。
人はみな僕を避け、陰で悪口を言っているようだった。
笑われることにも、避けられることにも慣れてはいたが、一番の問題は仕事に支障が来したことだった。
 あからさまに仕事の量を減らされ、何もすることがなく戸惑っている僕を笑っているのだ。
お茶を入れてくれることもないし、僕がトイレに行こうとするとすぐ様に「清掃中」の札を立てられた。
給料も気持ち下がったし、このままでは生活さえ危うい。
 すべては、ワキガが原因だった。
少しでも汗をかけば臭いが強くなり、エレベーターでは顔をしかめられない日はなかった。
なるべく汗をかかないようにと試行錯誤したが、どれもうまくはいかなかった。
脇に紙製のパッドを入れても、ワキガを防止する薬を塗っても、何も解決はしなかった。

 ついに僕は、医者に行くことにした。
ワキガで医者に行くなんて、少しおかしな気がしたが、このままではいけない。
意を決して渋谷のとある病院に出向くことにした。
 ぼくはことのすべてを医者に話して、汗を抑える薬やワキガを抑制する薬を出して貰えるように頼んだ。
なんならレーザー治療ででも治してくれとも言った。
132名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 00:37:20
 だが医者が僕に処方したのは、精神安定剤だった。
僕は抗議した。僕が欲しかった物はこんなものじゃなかった。
飲んでも身体がだるくなるだけで、ワキガの臭いは一つも弱まることはなかった。

「あなたはワキガではないんですよ」
問い詰める僕に、まるで嫌な物でも見るかのような目で吐き捨てた。
僕を苦しめてきたあの目だった。
ワキガではないなんてことはありえない。この臭いは、ワキガは、実際に僕を苦しめているではないか。
ずっとこれが原因で友達もいなかった。それを、よくもぬけぬけと「ワキガじゃない」だなんて――

 数日後、両親がやってきて、一緒にあの病院へ行くことになった。
両親とは疎遠だった。小さい頃、意を決して相談したのだが、医者と同じあの目をして僕を拒んだ。それ以来僕は彼らに心を開くことはなかった。

「息子さんのことで、相談があります」
そう医者は告げると、僕を残して両親とともに消えていった。

 それからしばらく経ったある日、両親から連絡があり、一緒に片田舎の病院へとやってきた。
これから数日、入院して治療していくそうだった。
仕事のことが気がかりであったが、ワキガを治してくれるとのことだったので、喜んで受け入れた。
 その病院でも、あの忌まわしい目で見られたが、治ればそんなものとはおさらばだ。
僕は、何年も感じたことのない充実感を、わずかに感じた。


三句:「もたれる」「質素な」「寿司屋」
 とあるアメリカの寿司屋に派手なガンマンが女連れで入ってきた。ワシの羽根飾りのマント、真っ赤なスカーフ、まばゆいイエローのハット。
顔も気さくで明るそうだ。そいつは椅子にもたれると、ギコギコ揺らしながら連れ合いの美女と談笑し始めた。
 始めのうちは周囲も愉快そうに聞き耳を立てていたが、酒が入るにつれちょいとばかしうるさくなってきた。
「おれっちはよぉ〜お〜。狙ったエモノはぜってえ〜にハズさねえ!ぜってえ〜に、ハズさねえ!」
「・・・・・・うるさいぞ」店中の人間の気持ちを代弁した彼は、質素な身なりのガンマンだった。そのこげ茶色で統一された服や装飾品はとても
古ぼけていて、汚れていた。よく見るとドロや砂があちこちに付着している。
 かくして、決闘となった。
 お互いに背を向けて10歩ずつ歩いたところで振り向き、撃ち合うルールだ。店主がカウント役をつとめた。
「1、2、3、・・・」派手ガンマンはやや歩幅を短くした。対してボロガンマンの歩幅は長い。
「10!」派手ガンマンは相手に背を向けたままリボルバー銃を連射し始めた。これが相手よりも必ず先に着弾させる
彼の得意技だったのである。しかしその弾はボロガンマンの頭上を過ぎてゆく。うつぶせに、しかし頭を相手に向けた
状態で地面に伏し、自己の被弾率を最小にしながらじっくり相手を狙い打つ、ボロガンマンの戦法だった。
 ボロガンマンが敵の頭部にスコープを定めきった丁度その瞬間、ボロガンマンは眉間を打ち抜かれて絶命した。
「あの野郎の後ろ撃ちの弾がたまたまマグレ当たりしやがったんだ!クソ、ついてねえよな」とは、寿司屋にいた客達の談である。

 しかしボロガンマンは己が死ぬ間際に、確かに見た。
 二丁先の高見台から自分をライフル銃で狙い打つ、敵ガンマンの連れ添い人、あの美女の姿を。

次お題「ヒスイ」「右」「左」
134お題「ヒスイ」「右」「左」:2007/08/25(土) 15:54:12
――Right or Left?
「ライトはライトでも正解のライトだ。ザッツオーライト」
 開かれた右の掌には、羽を休めて眠るダブルイーグルが収まっていた。
 安堵に肩をなで下ろす俺とは反対に、太一は口元をいびつに歪めて嘲笑いながら、オーバーリアクションに肩をすくめる。「亜鳥(アトリ)に、感謝しろよ」と。
「眠り姫様は素晴らしい才能をお持ちのようだ。まるで女王のような……」
 以前、学内三悪と名高いサバト部の隷従魔人、木津河は亜鳥の豪運をチェスに喩えて評したが。
 俺の彼女に対する印象と言えば
――Black or White?
 BrackBrain(マヌケ)な俺を勝利に導く、敗北の穢れを知らない真っ白な風の女神。
 ウェッジウッドのように柔らかな温もりをまとう肌も、青々とした若竹のごとく清冽な色彩を放つネフライトめいたその瞳も、彼女を示すパーツ/記号なにもかもが人類凡百を遥か彼方に凌駕して、完成している。
 無様な俺に比べて、なんと美しいことか。まるで、太陽と井戸底の蛙だ。
 
「そんな彼女が俺にベタ惚れなんてマジまいっちゃうぜ! もう!」
「嘘こけ」
 背中から蹴り飛ばされ、あえなく転倒したところに腕ひしぎ十字固めを決められる。
「ギブギブギブギブ! マジで折れる! マジで右腕折れますって、太一っさん! ごめんなさい調子乗ってました!」
「で、どーすんよ。契約、続行すんの?」
 右腕に組み付いた姿勢のまま、尋ねてくる太一。俺は亜鳥の穏やかな寝顔をパブロフ的に脳裏によぎらせ、それを僅かな逡巡で塗りつぶしながら、回答を捻り出す。
「今度の契約はパスします。太一のラプラスは亜鳥の運命過剰補正を押さえ込むのに役立つけど、どーも彼女密かにストレス溜め込んでるみたいなので。
 俺個人としては、トンデモ事件に巻き込まれるのはもうコリゴリなんだけど、それもまた含み損っていうか」
「ふーん」
 玩具のようにもてあそんでいた俺の腕から剥がれ、腰元を掌で叩きながら太一は小さく
「粗砥、MO化計画コンプリーツ」
 と呟きながら首を左右に振り振り去っていった。
 そんな太一の背中を見送る俺は、肩に乗っかった疲労をもてあまして床へ腰を落ろし、そのまま上半身も倒して寝転がる。
(さて、俺の明日はどっちだ……。アイツ、転がし方に容赦ないからなー) 
――Right or Left? 
135名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 15:56:45
次のお題は「生活」「春秋」「テロリスト」でヨロシクー
136名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 16:52:48
強盗のサムはジプシーの老人を殺害し、人より三倍長く生きられるという翡翠の首飾りを手に入れた。
サムは町へ戻ろうと道を急いだが、夜が更け森の中で道に迷ってしまい、右も左もわからず途方にくれていると
グルルルッという自分を狙う低い唸り声の存在に気づいた。狼だった。
狼は月明かりに照らされ、美しく光る翡翠の深緑に引き寄せられるように全速力でサムに襲い掛かってきた。
首飾りを捨てるという選択肢もあったのだろうが、必死で逃げるサムにはそんな冷静な考えを持つ余裕はなかった。
無我夢中で木の枝や草木の茂みを掻き分け、前へ前へ走ると突然足元の地面が崩れ激痛がサムの身体を襲う。
町の住民が獣を撃退するために仕掛けた落とし穴だった。穴の底には大量に鉄製の鋭い杭が打ち込まれておりサムの
全身を隈なく貫いていた。身動きもとれず、喉を潰され叫ぶことも出来ずに、絶え間なく狂いたくなる程の苦痛が全身を駆け巡る。
ところが死ぬ気配は微塵も無く、サムの意識は翌日もさらに翌日もハッキリしたままだった・・・。
誰にも発見される事なく月日はどんどん過ぎて行った。腐敗してゆく自分の肉体を感じながら、野鳥に眼球を刳り貫かれながら、
サムは自分が殺したジプシーの老人の最後の言葉を反芻していた。

「長生き出来るという事は決して幸せな事ではない」

塵となって消えるまで、サムは常人の三倍生きた。
137136:2007/08/25(土) 16:57:10
被ってしまった・・・最悪
138「テロリスト」「生活」「春秋」:2007/08/25(土) 20:13:21
「オラオラー!手を上げろ〜!俺たちゃ義勇兵だー!」
建物の中の人間達は唖然としている・・・・・・そこはテロリストが来るような場所では無かったので。
「オラ〜!手ぇ上げろっつってんだよ〜クソヤローどもめ!」
数発の銃弾が天井に撃ち込まれてようやく人々は大人しく両手を上げた。しかし皆、納得いかない表情である。
なにせその建物の看板にはこう書いてあった。
「文芸春秋社」と。なぜ文芸者にテロリストが?皆、そう思っていたに違いない。
「おら〜、社長さんよぉ、オメー何あんなもん芥川賞にしてんだよ、あ〜?ア○ッテの人なんてよぉ」
「いや、それは、その・・・・・・」
「どうみても俺が送ったヤツのが面白えだろうが、あぁ〜?」
「ですから、我々は選考に関与しておりません!」
「・・・・・・嘘つくんじゃねーよ、文芸春秋に芥川賞作品載っけてんだろーがよぉ」
その場にいた人間は、文芸テロとでもいうべき前代未聞の犯罪者達と、その犯人が文芸者の端くれにも
関わらず受賞作品の決定は作家達からなる選考委員会によって行われるという初歩的な知識も知らない
事に驚き、一部の者などは彼がどんな小説を書いたのか興味を持つまでに至った。
「とにかく、俺が書いたこの『寿司屋のガンマン』>>133 、芥川賞にしろってえの!そんぐらいできるだろ?」
社長に向けられる銃口。とりあえず、一読する社長。それは寿司屋の前で決闘する二人のガンマンの話だった。
「無茶だ!短すぎる!それに文体にセンスが無い!もっさりしすぎてて折角の決闘シーンが台無しだ。そ
 れにライフル銃でボロガンマンを狙う美女だぁ?アイデアもくだらなすぎるよ!」
 小説の品定めが生活の一部となっている人間である。ついつい本音が出てしまい、一瞬の間をおいて後悔した。

 テロリストのリーダーはありったけの銃弾を会社の中にバラ巻いて、仲間と共に逃げ出した。

次お題「死」「再生」「創造」
139138:2007/08/25(土) 20:18:17
誤字 6行目 文芸者 → 文芸社
13行目 知識も知らない → 知識も持たない

次お題は変わらず「死」「再生」「創造」
140「死」「再生」「創造」 :2007/08/25(土) 20:29:52
昔、フランスにランボーという詩人がいた。
機関銃を相手に一人で数千人の兵士と戦いながら
休息の合間に疲れた心を詩で癒したと言う
伝説の吟遊詩人である。というのはもちろん嘘で
興味ある人は昨今、インターネット上で電子百科事典の
バイブルと化しているウィペディアを参考にすると良い。

そして二千年後の今日、銀河を行き交うタンカー船に
無賃乗車した詩人が窓の外にうつる星の死と再生の物語を
暗い倉庫の中で壁にコインで書きなぐっている。

想像は彼の心で宇宙になり、やがて何千光年先で
広がる宇宙につながるだろう。


「エイズ」「TV」「バイク」
141140:2007/08/25(土) 20:34:06
想像は彼の心で   誤

創造は彼の心で   正


推敲は大事だなorz

142名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:06:26
推敲してから書き込もうな。
そして何も「俺が書かなきゃ」なんて気に負うことはないんだ。
書きたい物が浮かんだら書こうな。
人の趣旨にどうこう言う権限なんて無いが、あまりに見苦しいから言わせてくれな。
143名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:11:36
「俺が書かなきゃ」なんて思ってる奴居るのか?
144名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:15:47
ここ最近の多すぎるまでの書き込み!
恐ろしいほど夏を感じさせるクオリティーの低下!
間違いなく複数人ないし一人が、出ないうんこをひねり出してるっ!
145名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:20:56
半年前からほとんど変わってねーだろwwwww
クオリティが低いのは別に今始まったことじゃねーよ
146名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:41:05
自分の作品に、自信があるならクオリティが
低かったら目立つわけで喜ばしいことだろ?
それとも、それで埋没しちゃうようなものなのか?
文章書きなら戯言言わず文章を書けよ。
147名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 21:42:22
>>142>>144
>>1 嫁カス

>小説・評論・雑文・通告・dj系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
雑文だろうがオチなしだろうがなんでもありなんだよ!!
148名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 22:15:30
>>147

>小説・評論・雑文・通告・dj系、ジャンルは自由。

コレを間違って解釈してないか?
>>142>>144 の言いたいことは、少しは読むほうの気持ち、読まされる方の気持ちになれってこと。

だいたい、嫁カスって言葉使う時点でそんなヤツの短時間でひねり出す落書きは、程度が知れてる…
149名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 22:41:30
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758

続きはこっちでよろしく
150名無し物書き@推敲中?:2007/08/25(土) 22:55:31
って!現在のお題は「エイズ」「TV」「バイク」 ですな。


「エイズ」て言う言葉をどう料理出来るか!でその人のレベルが測れるナ!(密かなたのしみ)
151「エイズ」「TV」「バイク」:2007/08/25(土) 23:41:50
 バイクから降りて、私は月葉画伯の屋敷に足を踏み入れた。ホコリの上に幾多もの足跡が残っていた。画伯は故人で屋敷も
空き家な上に立ち入り禁止になっているのだが、ここに忍び込む連中が大勢いるのだ。画伯の最後の一枚を求めて。
 月葉画伯はエイズという業病を背負いながらもその一生を絵描きに費やした人間である。彼が死んだ時、アトリエから出て
きたのは「四季のヘビ」と銘打たれる「三枚」の絵だった。それぞれ、春、夏、秋をモチーフにした三枚の絵だったが、屋敷
のどこを探しても冬のヘビの絵だけが見つからなかったのだ。
 取材に来たTV局がいろいろ調べに来た事もあったが徒労だったようだ。庭に咲くスイートピーの俯瞰図が最後の絵だった
のではないかと推測する人間もいて、実際にそれを撮影した写真も出回っているが、あれはどうみたって絵ではない。
 私には幸運が二つあった。一つは幼い頃に死期間近の月葉画伯と親交があった事だ。彼は極度の人嫌いだったそうだが、
好奇心半分に屋敷の庭に入り込んだ幼き私に絵を見せてくれたり話を聞かせてくれたり、親切にしてくれた。「私は最後
の絵は礼拝室の中に描こうと思うんだよ」と語っていたのを覚えてる。
 もう一つの幸運、それは役所の無人建造物を取り扱う部署に配属された事。こうして堂々と屋敷の中を探索できる。
 私は礼拝室のあちこち探しまわったが、絵らしきものは見つからなかった。熱心な月葉ファンの先人たちが親切にも
聖母像をカチ割ってくれていたが、中に絵が入っていた形跡は無い。ふと私はオルガンの蓋を開けてみた。中には無数の
弦が張ってあり、それらの一本一本に不規則で綿密な変色部が見られたが、それはやはり絵では無かった。
 気の抜けた私は戯れにオルガンの鍵盤を叩いてみた。ラの音を出したその鍵盤は、レとファの中間にあった。稲妻に
打たれたような気がして、私は逐一鍵盤を叩いては弦を正しい位置に張り替える作業に没頭した。

 こうして全て正しい位置に張りかえた弦達を遠目に見やると、土の中でスヤスヤと眠る一匹のヘビが現れた。

次お題「交差点」「悪魔」「人」
152お題「エイズ」「TV」「バイク」:2007/08/26(日) 00:14:28
 エイズなんて病気に罹患する奴はクズだ。そんな風潮は少なからずある。体裁は同情を装っても、オマエの放埓な生活が導き出した罰がそれだよ、と無言の内に責められている気がして、とてもじゃないが告白する気になんてなれない。
 陽性反応が出て、ご家族にご連絡を、と担当の医師は勧めたけれど俺は猫のようにひっそりと野垂れ死ぬつもりだった。
 
 処方薬を毎食後、十錠ほど摂取する。
 抗HIV薬剤を初めに、低下した腎機能を補うためのプレドニン、サイクロスポリ――最近は手慣れたもんで、機械作業のようにそれらを処理していくが、当初は苦痛で苦痛で仕方がなかった。
 一つ錠剤をかじるたび、一口液状薬を嚥下するたび、細胞の一つ一つが薬剤に犯されていく気がして、病院特有の薬品臭さが体から漂ってきやしないものかと何度もシャワーを浴び、皮膚をかぶれさせた。
 死の恐怖は、ヒトをナイーブにする。
 生の有様を強く実感すると共に、我慢の制動は次第に効かなくなっていく。
 「おまえは変わったよ」――幾度も幾人にもそう告げられ、告げられるたびに周りから一人ずつ人は減り、気がつけば理想的な孤独を手に入れていた。
 起床、錠剤、バイト、錠剤、TV、錠剤、就寝、時折通院の日々を延々と繰り返して、鬱々と日々は磨り減っていく。不幸にもエイズに罹患した血友病の少年が記したエッセイや、重病人が読むスピリチュアルケアの啓蒙書を紐解いても、なんら心に変化は起こらなかった。
 最早、俺は終わっていく人間で、変化は内側にしか生まれない。
 どんな素晴らしい言葉も、どんな美しい景色も、触れられない影のように素通りしていく。あと太陽を何度目にすることができるだろうか。
 メンテナンスを怠りがちだった中型バイクにまたがりながら、目を閉じて考える。このままリヤブレーキがぶっ壊れて天寿を全うする前に、ガードレールに激突して死ねないだろうか、とか。
 されど、何一つとして成せることはなかった。
 試しても、心の根深い部分が抵抗の悲鳴をあげるのだ。目を閉じていることができない。死は圧倒的な圧力を伴って、ありとあらゆる敗北感と無情を俺に明け渡す。

 ……明日、再び目を開くことはできるだろうか。
 猫のように死にたい俺は、意識が眠りに落ちる直前にいつもそれを思う。Memento mori。
 ヒトは、どのように生きても罪深い。
153名無し物書き@推敲中?:2007/08/26(日) 00:15:11
折角書いたのであげさせてもらいました 
お次のお題は>>151さん
154名無し物書き@推敲中?:2007/08/26(日) 00:51:54
私としては>>152さんの方が好みだったかな。

次お題「交差点」「悪魔」「人」 ですね。
155名無し物書き@推敲中?:2007/08/27(月) 02:47:59
人の姿をした悪魔は、今日も昨日と同じようにスクランブル交差点に紛れた。
車が止まる一瞬に、それぞれどこかを見つめその群れに紛れた。
何一つ成長するものがない都会。そこに巣くうのは果たして人ならざるもの達ばかりだった。

どこか誰かは言ったよう。都会とは人の夢を食らい成長するものだと。
しかしそれは真であろうか。
まるで夢遊病者のような振る舞いで行き交うものを見れば、外からは「夢を食われた哀れなもの」とでも写るのだろう。
果たしてそれは、夢を失った故に都会に引き寄せられるのであって、決して「夢を食われた」などということはないのだ

今日も昨日と同じように、スクランブル交差点で人が交わる。
いや、人の皮を被った悪魔といった方が相応しい。

果たして彼らの目には、一体何が映っているのだろうか。


「停滞」「カーニバル」「守る」
156「停滞」「カーニバル」「守る」:2007/08/27(月) 11:46:43
 ブラジルにまで嫁いでしまい、連絡が停滞気味だった双子の兄貴から手紙が届いた。
「久しぶりだな、タケル。こっちに遊びにこないか?素晴らしいカーニバルがあるんだ。
 旅費は任せろ!兄ちゃんのオゴリだ」
丁度そろそろ有給とって旅行でもしようと思っていた矢先だ。そして手紙には
旅券が一式全部同封されていた。断る理由は無さそうだ。

 カーニバルの日、俺はホテルブラジリアから西に3km程の場所にある廃ビルの前で
待ち合わせる事になった。ブラジルではポルトガル語が使われるが、タクシーの運転手
を始め、だいたい英語が通じるのでなんとかなった。
 廃ビルの前に到着した時、突然防護服ずくめの男たちが周囲から現れて銃口を向けて
きた。なんだこれ?と思って固まったのも3秒間、俺は危機感に従って廃ビルの中に逃げ
込んだ。男たちは追ってきた。身を守るべき銃火器も無く、さらに見知らぬビルでの逃
走劇だ。あっという間に俺は追い詰められた。なんで俺がこんな目に?しかし次の瞬間、
疑問は解け始めてきた。

 その男たちが持っていた一枚のポスター、見知らぬポルトガル語の下にある英語の脚注
「political prisoner(政治犯)」その上にあるのは紛うかた無き兄貴の顔写真。俺は自分
がブラジルに呼ばれた本当の理由に気づくと同時に、胸部に熱い弾丸をもらった。

次お題「ビーフ」「カレー」「ライス」
157代理人:2007/08/27(月) 14:09:43
お題「ビーフ」「カレー」「ライス」で誰か混乱して下の感想専用スレに書いた人がいるよう!

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/l50
この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻

っていうわけでおせっかいだが、こっちへ移しておきます。

ついでにあげます!


感想スレ >374さんの作品

「ビーフ」「カレー」「ライス」

ここはおいしいと評判の洋食店
看板には毒々しい文字で「うぬらばや」とかいてあり、パッと見ただけでは、誰もはいりたがらない店だ。
だが、そこの料理の味は天下一品である。
今日も昼休みの合間をぬって、昼だというのに2〜3人ほどしかいないその洋食店へやってきた。
「う〜ん、ビーフシチューにしようかなぁー、それともカレーライスかなー」
黒いもの同士で悩んでいると、店の奥から声が聞こえてきた。
はっきりとは聞き取れないのだが、確かに日本語で話しているようだった。
「かゆ……うま」
かろうじて聞き取れたのは、それだけだった。

次のお題 「かゆ」 「うま」 「ヘルプミー!レオン!」
「ゾンビニート。腐乱夏厨。偉大じゃないか、彼らは。まるで休みなく働くハムスター小屋の車輪のようだね。俺が言ったんじゃないですよ、トイレの落書きにそう書いてあったんです」
 あまりに辛辣な物言いに世界は氷河期を迎えました。
「ヘルプミー! レオン!」
 聞こえません、なにも聞こえません。吹きすさぶ豪雪の、狂ったようなエガラップに掻き消されて、稚拙なネタなどすべりマクリマクリスティ温度はさらに低下する一方です。
 某・全裸にネクタイ一丁のN川さんが、舞台袖で自分の出番はまだかまだかとウズウズしてるみたいですが、華麗に無視しておきましょう。○MRと言った方が通りはいいですかね? ちなみにMMRではありませんよ悪しからず。
 まあ、いずれにせよ脱衣キャラは江頭一人で十分です。
 赤い彗星の片割れが淘汰されてしまったように、一つの番組に脱衣キャラが二人も登場すると場が壊れます。嘘です。脱衣キャラは好きなのでイクラでも登場すれば良いと思います。
 タラちゃんは言いました。「かゆ」、と。 
 さすれば海は二つに開かれん。イスラエルの民を率いてカナンを目指したモーセのごとく。
 俗に言うエジプト記ですね。俺のターン的なアレの祖国です。本編を鑑賞したことはありませんが、目玉のついた逆三角錐状のペンダントをぶら下げていたので多分そうだろうと思います。
 憶測でしか物が言えません。
「ツンデレは属性じゃなくてプロセスなんだ!」
 と声高々にモーセは神に訴えました。しかる後に呪われて、祖国を追われた彼は百年も放浪する羽目になりました。しかも、彼一人だけ約束の地に帰還することができずに、山の天辺で野垂れ死にました。
 それも全て憶測でしかありません。
「うま」と僕は言います。あなたはこのラストに対して、何らかのやるせない憤懣を覚えるでしょうか?
 いやはや、しかしそれも憶測でしかないのです。某少佐もこう申しておりました。
「ネットは広大だわ」
 どっとはらいどっとはらい。
159名無し物書き@推敲中?:2007/08/27(月) 14:47:48
次のお題は「マイナー」「緩急」「博打」でヨロシクー
160「停滞」「カーニバル」「守る」:2007/08/27(月) 23:25:36
「お若いの、どうかね?マイナーな博打だが」妙な緩急をつけたしゃべり方。いかにも怪しい感じだ。
「ふぅん・・・・・・よし、やる!」
内容は簡単、二匹のヘビを戦わせて勝つ方を予想するというものだ。当たれば2倍。負ければ0。大変解りやすい。
しかも私には少々自信があった。ヘビは割と好きな動物で知識が豊富なのだ。
 さて、一匹はシマヘビだったが、もう一匹もシマヘビだった。片方は黒一色で、もう片方は淡黄に黒の縦縞。で
も両方シマヘビだ・・・・・・つまらない。同じ種類じゃどっちが勝つかはほぼ五分五分ではないか。まあ、ヘビを好ん
で攻撃するヘビなんて手ごろなところじゃシマヘビぐらいか。
 私は体が一回り大きくて元気よさそうな淡黄色の子に1000円賭けた。賭けを宣言した瞬間に老人はヘビを抑える
手を離してお互いを戦わせた。淡黄色の子はロクに動かず黒い子に咬まれた。老人は淡黄が食われる前に黒を引き
剥がした。
「毎度ありぃ」舌打ちしながら私はそのいかがわしい裏通りを後にした。
              ※
 老人は去っていく女の子を見送りながらポケットにある保冷剤で右手を冷やし始めた。
 次のカモが賭けた方のヘビをその極端に冷え切った右手で掴んでやるために。

次お題「ヒヨコ」「黒」「木」
161160:2007/08/27(月) 23:27:08
題名ミス
「停滞」「カーニバル」「守る」→「マイナー」「緩急」「賭博」
162お題「ヒヨコ」「黒」「木」:2007/08/28(火) 23:04:07
 美しい話が書けるだろうか、と僕はいつも怖がっている。何を?
 JR環状線大阪駅から京橋駅に下るまでの短い乗車時間、携帯画面を覗き込みながら、文才の天使が右脳に降臨してくれるタイミングを密かに待っている。
 キツネ狩りの罠を張っている気分に近い。ただ、獲物はイギリス童話にして最も捕らえやすい動物などではなく、時には虎のような艱難を、時には象のような重圧を伴って思考にインターセプトしようとする。
 物語が書けるか、書けないか。違いはソレを受諾できるか、排除してしまうか。
 その辺にあるんじゃないかと妄想したりもするけれど、果たして何も語り得ない人間が、語り部たる価値はあるのかと、自身を小一時間問い詰めるほどの忍耐もなく、漠々と翳る黒い月に視線を飛ばしながら自嘲したりする。
 「諦めるために、人生は長すぎる」なんて。
 帰宅ラッシュをやり過ごし、閑散とし始めた車内には空調が効きすぎていて二の腕に鳥肌が立つ。
 桜ノ宮駅から臨める車窓越しの運河一帯は、一足早く夏の面影を置き去りにしようとしていた。
 あと、一週間もたたずに夏は終わる。木々が色づき始めるのもまもなくだろう。
 僕は手持ち無沙汰に、単語をパズルピースのように配列し始める。祭り、夜店、同級生の浴衣、ソースの匂い、白熱灯の柔らかい明かりに発電機の振動。
 ほんのひと月前のことなのに、なにもかもが懐かしく思えて、ふと遠い昔の記憶にまで足を伸ばしてみる。そこにあるのは、埃を被ったまま色褪せずに眠るアルバムのような――ゆうに十年近くは経年していながら今にも手に取れそうなほど鮮明に描くことができる記憶。
 そして迂闊にも僕は、それらを引きずり出してきてしまった。
 唐突にインターセプトされた思考がベクトルを換え、流れるままに留まることを知らず、美しい話が書けるんじゃないか、その一心で記憶を調理していく。脳内タイピングするその掌で、その指先で踊る食材は、切断され、加熱され、皿に盛り付けられて生々しさを失っていく。
 『夜店で親に買って貰ったカラーヒヨコをうっかり踏み潰して殺してしまった』
 と云う記憶は、輪郭が曖昧であるにも関わらず、詳細な描写や心理が後付的に添付され、優秀な偽造貨幣を発行する精度で、本当の記憶を塗り潰していく。
 誰でもなく自身への誠実さを喪失し、完成する物語。僕は、いつもそれを怖がっている。
163名無し物書き@推敲中?:2007/08/28(火) 23:05:42
次のお題は「失格」「サイン」「大学ノート」でヨロシクー
164失格、サイン、大学ノート:2007/08/29(水) 06:36:34
――上司に酒を奢られたら、翌朝は這ってでも定時に出勤しろ。
 俺は終電の座席でだらしなく脚を崩し、酩酊状態で先輩の言葉を思い出していた。
 この分だと明日も遅刻かもしれない。 サラリーマン失格。 いずれクビか……
 連日の外回りの疲れが祟り脚がとてもだるく、座席の前方に思い切り投げ出したくなったが
他の客と面倒になるのも困る。 どんなに酔っ払ってもその位の常識は残っているのだ。

 俺はぎりぎり周りの迷惑にならないよう脚の位置を正すと、ふと左隣の女の手元の動きに気付いた。
 膝の上の大きなカバンに大学ノートを乗せ何か描き込んでいる。 ん……漫画か?
 酔っ払いの大胆さで、俺は出来るだけ姿勢を変えずに、今度はしっかりとノートを覗いてやった。
 何か、少女漫画のようなイラストだ。 「同人誌」というどこかで聞いた言葉を思い出す。
 気が付くと俺は女に声をかけていた。 いや喋ったのは俺でなく酒だろう。

 「何を描いてるの?」
 女が振り向いた。 やや驚いたような丸い瞳。 少しニキビが残る頬に赤みが差したように見える。
 「あ……イラストです。下手ですけど」 女は軽く微笑むとすぐ下を向いて作業を再開してしまった。
 俺はどうしていいのか分からず、社交辞令的なことを言って会話を切り上げた。
 ――見た感じ地方出身の専門学校生か短大生、そんなところか……でも何故終電なんかに乗ってるんだろう。
 バイト帰りか? などと俺は再び酔いどれの無意味な思索に没頭した。

 「はい。どうぞ」
 どれだけ時間が経ったのか、左から女の声がして生臭い瞑想から覚めた。
 振り返ると娘が悪戯っぽく何かを差し出している。 切り取った大学ノートの一頁。
 先ほどのイラストとは異なる、だけどやはり少女漫画風の男性の、お世辞にも上手いとはいえない
横顔が描かれていて、傍らに不思議な名前のサインがあった。 ――もしかしてこれ、オレ?
 女の小顔が少しうつむいた。
165名無し物書き@推敲中?:2007/08/29(水) 06:44:56
次のお題は、「バーボン」 「アニメ」 「深夜」 でお願いします
166名無し物書き@推敲中?:2007/08/29(水) 16:12:09
最近の流行はアニメを見ながらバーボン、これだね。
特に深夜がおすすめ。木曜日なんかやばい。ボトル3本あけてもまだ入る。
だけど、素人にはお勧めできない。もたれる。胃がもたれる。つまみがなけりゃ翌日死ねる。これ危険。
酒臭いのをなんて言い訳できよう?「アニメでバーボンしてたので」
言えるか?君は言えようか?いいや言えまいて、素直につまみを食べるか、お子様は寝てろってことだ。
上級者ともなれば、つまみはタカタで十分なんだが、俺はあえての饅頭。これだね。
アニメを肴にバーボン、時々タカタ ってのが王道、だけど俺は饅頭。あえての饅頭。
そうこうしてると、家人が起きてくるときがある。絶体絶命。
急いでチャンネルを変えるか、バーボンを隠すかはどちらでもいい。俺の場合は饅頭も隠さないといけないから、大変。
「私の饅頭食べたでしょう」なんて問い詰められた日には、ビールも飲めない。
だけど俺はそんな危険を冒しても、この日課をやめることはない。
まんじゅう食いながら焼酎、これだね。

――え?
「おい、タケル!酒買いに行くぞ!」
またじいちゃんの強引な道連れだ。俺はため息をつきながらも追従する。じいちゃんは
こう見えても拳法の先生だ。未だに引退せずに俺を始めとする弟子達に毎日拳法を教え
ている。バーボンを飲みながら深夜アニメを見てたりするけど、皆からの信頼は厚い。
「っ・・・・・・気ぃつけろよ」猛スピードですれ違ってきた自転車の若者がボヤいた。俺は軽く
頭を下げて視線をそらすが、じいちゃんは違った。
「そっちが気ぃつけろよ」急ブレーキを踏んだ若者が目を細めて近づいてきた。
 じいちゃんの流れるような化頸からの寸頸。腹を押さえて前かがみになる若者。
「行くぞ、タケル」と言って振り返ったじいちゃんが次の瞬間に崩れ落ちた。背後
には鉄パイプ を持った若者がいる。その若者がもう一度パイプを振り下ろそうと
しているのが見えて、俺の脳髄が燃え上がった。パイプを持った手元あたりに蹴りを
いれ、即座に距離を詰める。
 通常の打撃が威力を発揮しにくい至近距離。しかし俺たちが一番真価を発揮しやすい至近距離。
相手のフックを軽く払って発頸。吹き飛んだ先には都合よく壁があった。すかさず間合いをつめる。
発頸。発頸。発頸・・・・・・。
 気がついたら俺の袖は吐しゃ物でくすんだ淡黄色に汚れていた。
「じいちゃん!」助けおこすと、軽く頬を吊り上げてから目を細め、口を開いた。

「それでいいんだよ。さっき自転車に轢かれそうになった時、おまえの心は負けてた。
ただただ無難に無難にってな。だから俺はアイツに怒鳴り返したんだぞ。いいか?なめ
られて黙っているのは男じゃねえんだよ」
次の日から俺は、学校でイジメられなくなった。

次お題「黄金時代」「無敵」「最後」
「無敵の英雄? あのジジイが? 冗談は止せよ。老いぼれすぎて相手にする奴が居なくなっただけだろ?」
 ドギは、太陽の黒点みたいなツラに、真っ白い歯を浮かべながらそう笑い飛ばした。
 『リングの魔術師』と謳われたミツナガの魔法は、十二時の鐘をとうの昔に迎えている。黄金の右ストレートは土くれへ、幻惑の左フックは空へと霧散し、残ったのは人々を魅了した夢の抜け殻が一つだけだ――と、遠い眼をしながら鼻で嘲笑った。
「格闘家はヘビーな職業だ。職業そのものが生き様だ。だからこそ、一生に一度だけ花を開くのさ。そこらじゅうに咲いてる雑草みたいに、何度も花をつけたりしない」
 もしそんな奴が居たら、そいつは悪魔と取り引きをしたんだ。プレースタイルを金で買い取る、シナリオ屋に魂を売ったんだ。
 一つ言葉を吐き出すたび、次第に歪んでいく彼の表情。
 何を想っているのか、僕が想像するには手に余る。けれど、ミツナガという元ヒーローにどんな幻想を抱いていたのかを喚起させるには十分だった。おそらく、彼もまた、ミツナガという夢に魅せられていた観客の一人だったことがあるんだろう。
 ドギは、胸にわだかまる憤懣を強烈な右ストレートに押し付けてサンドバックへお見舞いすると、その一撃を契機に背を向けた。もう何も語ることはないし、聞きたくもないとでも言うように。
 それでも僕は、彼を苛立たせることになるだろうと知りながらも声をかける。
「最後の一戦、見に行くだろ」と。
 元英雄対現王者。歴史にその名を深々と刻み込む生涯無敗同士の頂上決戦。
 格闘技ファンなら新旧問わず一度は思い描いただろう絵空事が、現実になるんだ。たとえそれが、どんな残酷な結果をもたらしたとしても、彼のファンなら――彼の背を理想と仰いで追い求めてきた人間なら、見に行くべきじゃないか……
 ……僕は思う。
 目も眩むばかりに煌々と輝く黄金時代を築く。それは英雄にとっての絶対条件だ。
 そして、最終幕に見事な散り際を見せること。それも英雄にとっての絶対条件ではないだろうか、と。
 桜を国花に謳う国を祖国に持つミツナガなら尚更、そういった機微に精通しているだろう。たとえ、敗北するにせよ美しい散り際を見せてくれる筈だ。
 そして無敵の英雄は、その背に重く圧し掛かる二つの看板を一つ下ろし、ようやくただの英雄になることを許されるのだ。
169名無し物書き@推敲中?:2007/08/31(金) 00:11:22
次のお題は「カツラ」「女子トイレ」「警告」でヨロシクー
170ルゥ ◆1twshhDf4c :2007/08/31(金) 04:44:21
「カツラ」「女子トイレ」「警告」

蝉の鳴き声が幾重にも響き、頭の中で鳴いているのかと錯覚を起こしそうだった。
なぜ学校にはこんなに木が多いのか、蝉が多いのか。
強い日差しで目を細めてみる母校は、相変わらずきれいともきたないとも言えない様子で建っていた。
約束の時間まで少し時間があったので、校舎内を散策してみることにする。
女子トイレの前の廊下と、かつてのHR教室の扉には、
高校時代に友人とふざけて描いた落書きが残っていた。
思えば、高校時代は悪ふざけばかりしていた気がする。
こっそり夜の学校に忍び込んで宴会もしたし、カツラだと噂される先生のズラ疑惑の真相も追った。
先生から警告と罰の繰り返し受け、ずいぶん手を焼かせていた。
ただ、いじめだけは自分の中のモラルに反するので手を出さなかったけれども。
陳腐な言い草だけれども、愉快で充実した高校生活だった。

時間になったので、とある教室に向かった。
教壇に立つと、一瞬生徒たちの視線が私に集まる。
――今度は、目の前のこの子達に楽しんでもらおう。
私が教師になった原点は、結局自分の高校生活なのだ。

次は「カルチャーショック」「みかん」「星座」でお願いします。
171ルゥ ◆1twshhDf4c :2007/08/31(金) 04:48:27
訂正
9行目
正→警告と罰を繰り返し受け
語→警告と罰の繰り返し受け

中途半端に前の文章の名残が……。
すみませんでした。
2月8日
 今日は朝子と星を見に行った。好きな星座を聞いた。さそり座だそうだ。その後俺の部屋に呼んだ。
こたつでごろごろした。みかんを10個も食いやがって(笑)
 でも、朝子は一度も笑わなかった。
2月12日
 今日は朝子と香港に旅行に行った。カルチャーショックに戸惑う俺の姿は我ながら滑稽だった。おい
しい中華料理屋で食事してから市内を散策した。橋ゲタの上に変な鳥がいた。すっごくすっごく
楽しかった。
 でも、朝子は一度も笑わなかった。

6月20日
 なぜだ!朝子が何をやっても笑わない。昔、一度だけ見たきりだ。そのとろけるような笑顔に
心を焼かれて、好きになったっていうのに。そういえば、あの時はなんで笑っていたんだっけ?
そうだ、朝子が俺のマフラーをふざけて絞めてきた時だ。跡が残るほど強く絞めてきたのを周り
のみんなが止めてくれた時だ。朝子はきっとふざけ合いが好きなんだな。
6月21日
 朝子にいろいろちょっかいを出してふざけ合ってみた。でも朝子は何もやってこないし笑わな
い。なぜだ?マフラーじゃないとダメなのか?明日、マフラーを引っ張りだしてみようと思う。


『これから先の日付が彼の日記帳に書き込まれる事は無かった』

次お題「間合い」「緊迫」「速度」
173名無し物書き@推敲中?:2007/09/10(月) 11:35:01
カーニバルが終わったらいきなり誰も書かなくなりました。
今のお題は、「間合い」「緊迫」「速度」 です。
名作尾長居します。
174名無し物書き@推敲中?:2007/09/10(月) 17:11:11
絵を描いているとき。特に、自分の内臓をひりだすような強烈な心象画を描いているとき。
僕は、絵に間合いを感じるときがある。
それは遠すぎてもいけない。油断して近づきすぎるのは、なおいけない。及び腰で中途な距離を置くのなんてのは、まったくもって言語道断だ。
こいつはまったくいやらしい存在だ。ようよう描きあがったと思ったところで、忽然と現れて僕の邪魔をしていく。
あるときは風景画の、青々と茂る木々のタッチから。
またあるときは人物画の、活発な婦人の頬の紅から。
そしてあるときは僕の心象の、一番深くてデリケートな、真っ黒で真っ白で灰色で、誰にも触らせやしなかった無彩色の部分から!
今僕の目の前にある大きなパレットには、僕の恥も外聞もすべて描きなぐった白黒の世界が広がっている。
凹凸があり、濃淡があり、ベタと塗りつぶしたところがあり、繊細に書き込んだところがあり。また、それらの中庸たる要素が無作法かつ無節操に飛び散らかっている。
まるでゴチャゴチャの世界の中心には、大きな空白があいていた。
わかる、絵が間合いを放っている。

一歩引き、左手のパレットを静かに置く。一本の筆に、一色の色をのせ、右手に強く握る。
肩を、二の腕を、手首を、指先を、心臓から筆先にいたるまでを、弓矢のごとく引き絞り。
距離を、絵との距離を。速度を、絵に対する速度を。強さを、打ち倒すための力加減を。
あらゆる要綱を十分に吟味し。一度、舌をなめずり。
一息に、足を踏み込み、逆袈裟に撃ち振るった。
モノクロの世界の中に。鮮烈な赤が、一閃。

打ち抜いた絵の鮮血が、一閃。


駄文失礼。次のお題は「洗濯機」「お流れ」「誕生日パーチー」
175かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/09/11(火) 18:02:34
「洗濯機」「お流れ」「誕生日パーチー」

午後2時、家事もひと段落して、もうすぐ娘も学校から帰ってくる頃。
それまでの間、ちょっとソファーに座り、一休み。
洗濯機の周る音が遠くで聞こえていた。
その時、携帯へメールの着信があり、そこには久しぶりの名前の表示。
学生の時、仲の良かったきよみから。
最後に合ったのは3年前、そうあの時以来…
「誕生日パーチーを代代開催ちます!集ばってチョッ」
昔と変わらない変換間違いの多いきよみの相変わらずメールに懐かしさを覚えた。
そう3年前もこうしてきよみからのメールが来たのだった。
そしてあの時、お流れになってしまった真弓の誕生パーティー。
突然、死んでしまった真弓。
とても仲の良かった私たち女4人組み…
今は3人になってしまったが、よし今度の週末久しぶりに集まってみよう…

そして…あの時、出来なかった真弓の誕生日パーティーを…

次のお題 「開店セール」「サイズ違い」「号泣」で
お、これは懐かしい。私は旧友の桜井に向けてひらひらと手を振ってみせた。
歩道には私と桜井の二人しかおらず、彼はもうすぐすれ違おうとする私の存在に容易に気づいた。
しかし彼は、曖昧な笑顔とともに会釈をして、わざわざ脇にある田んぼのあぜ道にそれていった。

・・・・・・この後、彼を尾行し始めた私のぶしつけな所業をどうか責めないでくれたまえ。桜井は大学
時代に同じ部活で4年間苦楽を共にしてきた仲間だった。風変わりな性格で皆と距離をおいていた。
卒業後の進路を誰にも告げず、連絡先を無断で変えてしまった。桜井の行方は実の両親ですら知ら
ないというのを聞いて大変驚いたのを覚えている。

仕事の為に訪れた辺境の地方都市でそんな謎めいた彼に十年ぶりに再会できたのである。たとえ見つ
かって怒られようとも彼の現状が知りたかった。彼は口数は少なかったが、とっても優しくて純真で、
まるで子羊のような内面を持っていた。

うす茶色のさびれたボロアパートへと彼が入っていき、そこに「桜井」という名札の部屋があるのを
見つけた。ドアの前でどうしたものかと逡巡していたところ、突然ドアが開いた。
「やあ、松原。ちょっと上がっていくか?」
彼は私の尾行については何も言及しなかった。ごうごうと音をたてる洗濯機の脇をすり抜けて彼の
部屋に足を踏み入れた。そこにはなんと加奈子がいた。これまた私達の同級生で、常に明るくて
わいわい騒ぐのが大好きな陽気な子だった。無口な桜井との組み合わせがとても意外だ。
しかし今私の目の前にいる彼女には昔の面影がとぼしく、頬肉はやせこけており、視線はあらぬ方向
を向いている。来訪した私の存在にも気づいていないようだ。誕生日パーチーだとか、
お流れがどうとか、あらぬ言葉をぶつぶつつぶやいてクスクス笑っている。

「卒業と同時に付き合い始めたんだけどね。どこへ行ってもつまらないって言うんだよ。いっつも
 つまらないって言うんだ。だから、ちょっと、ね」と、ぎこちなくうつむく桜井。

その後、私が病院に運び込んだ加奈子を見て、医師は重度のヘロイン中毒だと告げた。
177176:2007/09/11(火) 19:01:42
うひゃw かぶったwww
しかも内容も旧友モノでかぶってるしwww

次お題は かえっこちゃんの「開店セール」「サイズ違い」「号泣」でヨロヨロ〜www
家から少し離れたところにデパートが建った。
「開店セール最終日に一度行ってみる」と私が言うと、友人は言った。
「あそこの服屋に面白い店員がいるらしいよ」と。
そして現在、その服屋にいるのだが、それらしい人物は見受けられない。
この服を見積もってくれた店員も、むしろ丁寧で良い印象だった。
そんなことを考えながら試着をしていたのだが。
「ん? あれ? 入らない?」
これは、ちょっと。うん、小さいのだ。服が小さかったわけで、決して私がどうのではない、はず。
一目で気に入っていた服が入らないというのは、乙女心にはショックにすぎる。
涙目になりながらも、別段小さく見えたわけでもない服のサイズを確認してみる。
「よかった、サイズ違いなだけだ」
元々ワンサイズ小さいものだったことに、ほっと息を吐く。
ひとつ大きいものを持ってきてもらおうと顔を出すと、さきほどの店員がなにやら頭を下げている。
「も、申し訳ありません。そちらの服の在庫はそのサイズが一番小さなものでして」
「またなの! ? これで何度目よ。友達も同じことがよくあるって言ってたわよ?」
どうやら面白い店員にはすでに遭遇済みだったようだ。
一縷の望みを賭け、近くにいた店員を呼んだ。
覚束ない足取りで家に戻った私は、鍵を閉め、号泣した。

駄文にて失礼しました。お題は「晩夏」「科学」「右腕」でお願いしまーす。
179名無し物書き@推敲中?:2007/09/12(水) 02:04:31
意味がわからない
180名無し物書き@推敲中?:2007/09/12(水) 03:04:53
確かにひどい。

「またなの! ? これで何度目よ。友達もココでは同じことがよくあるって言ってたわよ?」
どうやら面白くない作品にはすでに遭遇済みだったようだ。
一縷の望みを賭け、近くのレスをさかのぼり読んだ。
覚束ないマウス操作で我に戻った私は、PC画面閉め、号泣した。

今のお題は「晩夏」「科学」「右腕」
181「晩夏」「科学」「右腕」:2007/09/12(水) 14:16:34
猛暑の影響か晩夏とはいえ寝苦しい夜が続いていた。
そこでブチギレたヒロムは叔父の天才科学者タダヲにある発明を依頼したのだった――

「ヒロム遂に完成したぞ!これで残暑もムフフと快適に!その名も『芸者マクラ』!!」
「サンキュー叔父さん。ところで何だよその『芸者マクラ』って?俺は安眠グッズを頼んだはずだけど」
「よくぞ聞いてくれた!この発明はマクラに芸者の機能を付け加える事により宴会気分でウハウハな気分に浸りつつ
 楽しく夏を乗り切ろうという画期的な発明なのだ!挨拶しろ芸者マクラ」
「へぇ、このお人が旦那はんでっか?」
「うおっ!?喋った!」
「うむ。この発明のためわざわざ京都まで行って本物の芸者さんに協力して貰って製作したからな。リアルだぞ」
「すげぇー。予想してたのとは根本的に何か違うけどこれは熱い!」
「ふふふ、思春期の男なら誰しもが憧れるロマンが詰まった力作をたっぷりと堪能してくれ」
「科学ってマジすげぇな〜何でも出来るんだね」
「興味があるならヒロムもどうだ将来科学者になってみては?俺の右腕にしてやってもよいぞ?」
「遠慮しときます」

こうして御機嫌なヒロムが芸者マクラを手に嬉々として帰宅したその夜。
大きな期待を胸に布団に芸者マクラを敷こうとしたその時、突然芸者マクラが暴れだした。

「旦那はん!おやめになっておくれやす!」
「な、なんだよ突然!どうしたんだよ芸者マクラ!?」
「旦那はん……アタシは『芸者』マクラおす。『遊女』とは違います。ですから「床」の務めは致しまへん」

――お後がよろしいようで。

次のお題は「指名手配」「アイドル」「殺虫剤」でお願いします。
182名無し物書き@推敲中?:2007/09/12(水) 14:27:39
なんでこんなにくだらないのに面白いんだろ
理解できない
183名無し物書き@推敲中?:2007/09/12(水) 14:33:38
ありえない普通使わないような単語の登場と、普通ありえない展開が魅力なのかも。

自分で故意に書いていない 素 な所がくだらなくて面白いんだと思う。
応援します!!
 真理は呆然と目の前の男を眺めていた。右手には銃。近所のコンビニから出てきた真理
を、男はこの銃で脅しつけ、彼女の住む安アパートへと案内させたのだった。
「じっとしててくれよ」
 男は哀願するような口調で言うと、奥の台所へ向かった。心細くて俯く。泣くもんか、
と思う。明日にはバラエティ番組の収録があるのだから目を腫らすわけにはいかない。
きっ、と真理は顔を上げた。と同時に、いい匂いがしてきて戸惑う。
「なにしてんの?」
「親子丼つくってる。くうか?」
「え、あ、うん」
 返事をすると同時に腹が鳴った。男が笑う。耳まで赤くして、真理が言い訳をする。
「あ、朝からろくなもの食べてなくて、それで」
「笑って悪かった。……こんなもんで脅しつけたのも、悪かったよ」
 男は苦笑して、顔の前で銃を振って見せた。そのまま男は料理に集中し、慣れた手つき
で親子丼をつくってみせると、真理と向かい合ってテーブルについた。むさぼる。
「お腹、減ってたの」
「まーな。おれ、指名手配犯だからあんまスーパーとか行けないし。ていうかあんた、タ
レントの清水マリカに似てない?」
「本人だからね。あと、できればアイドルと呼んでいただきたいんだけど」
 男が飯を喉に詰まらせた。笑いながら水を飲ませてやる。一息つくと、男はぼそっと呟いた。
「テレビで見るより美人だ」
 真理が複雑な顔で何か言い返そうとしたとき、チャイムが鳴った。すぐにドアを叩く音
に変わる。呼びかける声に男が顔色を変えた。
「やっべ、警察かも」
 慌てる男に片目をつぶり、おもむろに殺虫剤を手に取ると、真理はたちあがった。玄関に向かう。
「ごめんなさい、ゴキブリ追い回してたから、出るの遅くなっちゃった」
 警察を適当にあしらうと、ドアを閉めた。ぽかんとする男を振り返り、笑ってみせる。
「お互い有名人みたいだし、仲良くしましょ。ただし、ほとぼりが冷めたらでてってよ」
 口では出て行けと言いながら、真理は、指名手配犯を気に入っている自分に気付いていた。

次のお題は「衣がえ」「虫」「家族」でお願いします。
185名無し物書き@推敲中?:2007/09/12(水) 21:04:15
アイドルがどうして安アパートでコンビニなんですか?
変な疑問はあるけど面白い。
なにより、とってつけじゃなくちゃんと3語が生きてるのがいいね
186「衣がえ」「虫」「家族」:2007/09/12(水) 22:17:25
俺はピンクの棒切れを振り上げて、黒い虫をやたらめったらに叩いた。ぐぅ、とか、ひぃ、とか声をあげて
俺の膝元近くまでの大きさを持ったその虫は次第に動きを鈍くしていく。やがてそいつは部屋のドアから逃
げていった。今日こそは止めを刺そうと思うものの、全身を襲う倦怠感がひどくてそれもままならない。

やがて世界の色彩が退屈になってきた。さっきまでの棒切れも元のくすんだ鉄の金属光沢を放っている。
「トオルちゃん?」ドアの向こう側から控えめに母が声をかけてきた。
「は〜い、何ぃ?」母親は、大切にしなければいけない。いつまでも無職のこんな「僕」の面倒を見てくれる
唯一の家族だからな。さっき幻覚の虫と格闘したときの騒音で驚かせてしまったのだろう。ごめんなさいね。
その意を告げると母はあからさまな安堵を浮かべ、僕の部屋に入って来てアクエリアスのペットボトルを
手渡してくれた。
「ありがとうね」そして視線をPCの画面に戻す。コイツは僕の「覚醒中の世界」で神々しい黄金に輝き、どん
なに沢山クスリを吸っても手を触れる気分にならず、無傷のままになっている。

衣がえした母が夕食を運んできてくれた。ビーフカレーとコーンスープだ。ついでに粗末なセロハン包装の白い粉
もある。キッチンでこっそりと母が用いているのを偶然見咎めた時、僕は必死にそれをねだった。その結果、毎度
の食事のお盆の上にこの粉が乗るようになった。ご飯を美味しくいただいた後、いつもどおり僕は白い粉を鼻腔を用いて
吸引する。また、世界が面白くなってきた。

ひとしきり歪んで踊る家具を楽しんでいたところ、またあの黒い虫が現れた。今度は逃がさないぞ。そう思い、
俺は青緑に明滅するドアに施錠してからピンクの棒切れを振り上げた。・・・・・・ひとしきり殴った後、いつもどおりに
虫は逃げようとしたがドアは開かない。その背中に何度も棒を振り下ろした。やがて床にはオレンジ色の水溜りが
できて、虫はピクリとも動かなくなった。

「やった!とうとうやったぞ!お母さん、来てよ!とうとう虫を殺したよ!」しかし、いつまで経っても母は現れなかった。
187186:2007/09/12(水) 22:21:40
次お題「喜劇」「陽」「時計」
188「喜劇」「陽」「時計」:2007/09/13(木) 07:35:10
歩哨のローテーションが偶然重なっていたらしい。
週に一度か二度、国境線越しに彼女と顔を合わせることがあった。
お互いに仮想敵国、最初は、ともすれば今すぐ発砲するぞ、と二人で警戒心を丸出しにしていた。
彼女がフランス兵だというだけで憎悪が私の心を覆い尽くしていたのだ。
数年前から、暇つぶしに聞くラジオにはフランス人がいかに卑劣かを語る番組が増えてきていたし、新聞も似たようなものだ。
戦争――今で言う第二次世界大戦――の開戦時期をメディアはこぞって予測した。
もちろん戦争には勝ち負けがあるもので、おのずとその結果も。「勝利」の単語しか目にしたことはないが。
しかし小柄な彼女とずっと向き合っているうちに、色々なことに気がついた。
無線で話すときに語尾が弱くなること、歩き出すときは必ず左足からであること……。
監視が興味になり、それが恋慕へと変化するのに、長い時間はかからなかった。
私は、母国ドイツを牛耳る、大きな誰かに洗脳されていたのかもしれない。
世界の発展を阻害するイギリスやフランスが、自らだけの利益のために、戦争をけしかけるというシナリオ。
けれどそれも喜劇だ。ずっと踊らされていれば、これほど思い悩むこともない。
見つかれば間違いなく射殺される。決して越えてはならぬ境界線は、どんな山より高くどんな海より深く、私たち二人の間に横たわっていた。
昼前から夕方まで。五時間の任務の間、ずっと彼女と私は同じ場所に立ち続ける。
太陽の高さ、方角が変化し、影がその形を変えてゆく。しかし二人の影はずっと平行で、交わることがない。
「私たち、まるで砂時計だね。」
彼女がフランスなまりのドイツ語で言った。
私は、ああ、とドイツなまりのフランス語で返す。
それが最初に交わした会話。
そして二本の砂時計がゆっくりと近づき、寄り添うような短針と長針の、一つの時計へと変わった。

次、「ギター」「机」「文庫本」
189名無し物書き@推敲中?:2007/09/14(金) 19:43:16
俺はギターをかき鳴らしていた。
今日本屋で買ってきた文庫本は僕に強烈なインスピレーションを与えた。それを読み上げたとき、自分でも気づかぬ内にギターを掻き抱いていた。
鋭く切り裂くように、優しく愛撫するように、時には涙が出そうなほど感情的に俺は弦をはじく。
我ながら素晴らしい演奏だった、なんの防音対策もなされていないこのぼろアパートでこれだけ激しい演奏をして、なんの苦情もないというのがその証拠だ。隣人もみな聞きほれているに違いない。
今まで数々の賞を勝ち取ってきた俺の天才性により磨きがかかっていくのがわかる。
机の上に駆け上がり、ギターヘッドを鋭く打ちたて。情熱的なピッキングがクライマックスを奏でる。
そして最後の、鋭い一撃、張り詰めた空気が爆発する。
確かに、溢れんばかりの歓声がこの耳に聞こえた。

演奏終了後の倦怠感を背負いながら俺は壁にかけた賞状を満足げに眺めた
『エアギター選手権 金賞』
とりあえず、ぐちゃぐちゃになった部屋を片付けた。
190名無し物書き@推敲中?:2007/09/14(金) 19:45:27
次のお題は「x軸」「エキストラ」「台本」
191「x軸」「エキストラ」「台本」:2007/09/15(土) 04:11:03
泥棒がいるようだ。さっきからガサガサうるさい。私は布団から静かに身を起こし、あたりを手探る。
金属バットや包丁が理想だったが、生憎と手元には一冊の演劇用台本しか無かった。
(手ぶらよりはマシか)
そろりそろりと隣の部屋へと歩く。音がするのはこの部屋だ。

賊は、数学の文献を読み漁っていた。
「グヘへ・・・x軸、余弦定理、サイクロイド・・・ウひゃっ、ガウス平面!」
「す・・・・・・数学泥棒!?」賊は慌ててこちらを向いた。
「みぃ〜た〜なぁ〜」
「馬鹿!見たも見ないもここは私の家だ。警察に突き出してやる!」
「このナイフの切っ先は三角関数のサインカーブを描くように設計してあるのだよ」
「っ・・・!危ないな、そんな物振り回しおって」
「そして俺のナイフの軌跡はxの1/2乗グラフを描くゥ!刺さったお前の魂はyイコール自然対数eのx乗グラフ
 を描きつつ天へと昇るゥゥゥ!セカン、コセカン、アークサインんんん!!!」
「ひゃあ」情けなくも私は尻餅をついてしまった。

「ぎゃっピィィィィィ! それは、ソレは、ソレハァ!アアンッ・・・・・・」
賊の視線は私の取り落とした台本の開いたページに向いている。

その台本の開いたページは天才数学者カルノダの処刑されるシーン。
台詞はエキストラの「数学死ね」 賊は口から泡を吹いて崩れ落ちた。
192191:2007/09/15(土) 04:12:52
次お題「子供の頃」「裏庭」「リンチ」
193「子供の頃」「裏庭」「リンチ」:2007/09/15(土) 09:38:50

今だからこそ客観的にみれるのだが。幼い子供が蟻だの飛蝗だのを弄ぶ様は、まさにリンチというにふさわしい。
ほとんどの子供はそのことに僅かも頓着せず、自分の興味の赴くままにさまざまな悪戯を施し。やがてエスカレートしていく内に罪悪感を覚え、悪いことをするのが恐ろしくなっていくものだ。
ただし、子供の頃の私の場合それは当てはまらない。
僕に善悪の判断だのなんだといったことを教えてくれた人は、いつも家の裏庭に居たからだ。
さんさんと日の照る裏庭で、私はその人にもたれかかりながら本を読む。
夏には涼しげな影で覆われ、冬には暖かく包まれた。
薄緑色の風が、ページを代わりにめくってくれることもあった、彼らは気ままにでたらめにめくっていくのが玉に瑕だが。
その日々は幸福に包まれていた。


「ひさしぶり」
取り壊される僕の旧家の、裏庭に生えた大きな柿の木をなでて、私は言った。
ここが他人の手に渡ると聞いて、慌てて駆けつけたのだが。
数年間ろくに手入れされなかった彼は、いまや大きく手足を広げ。他に移すことも困難となっていた。
ここには大きな切り株が残ることになるんだろう。
涙が溢れるのもかまわず、彼に抱きついた。
「いままで、ありがとう」
さわ、と何時かの風が、髪をなでた気がした。
194193:2007/09/15(土) 09:41:46
次のお題は「半分」「反転」「ハンマー」
195「半分」「反転」「ハンマー」:2007/09/17(月) 08:19:42
 三宅浜市役所から、市の漁業組合に緊急招集がかかった。
市内の海水浴場にサメが多数出没したのである。三年前にも
大量のサメが押し寄せたことがあったが、その年の観光客の数は
例年の半分以下に落ち込んだという。同じ轍を踏まぬよう、組合員は
すみやかにこれを駆除し、観光客らの安全を確保せよ、とのお達しであった。
 漁師たちはおっ取り刀で自分の船へと向かっていく。藤島は
それを椅子に座りながら見送った。彼は市役所の人間で、組合本部に
残って連絡役を務めるよう命じられたのである。
「暇だ……」
 誰も居なくなったのを良い事に、藤島は簡易テーブルに足を乗せ、
椅子を半分浮かせた姿勢で、現在の職務についてごく正直な感想を呟いた。
「今回出没したのはシュモクザメらしいが、俺にはあの頭がどうしても
ハンマーには見えないんだよな。薄すぎるだろう、あれ」
 意味のない独り言を呟きながら、椅子の脚二本でどれだけ立っていられるか
試してみた。人間、暇を持て余すと訳の分からない事をするものである。
すると一、二、三まから始まって、四、五、六まで数えたところでバランスを崩す。
椅子はひっくり返り、藤島の視界は反転、そしてそのまま頭から床に落ちた。
「痛え。ああ、じいさまたち、早く帰ってこないかなあ……」
リノリウム張りの床面に身を預け、頭の痛みにうなりながら、藤島は
そんなことを呟いた。

次は「ムスリム」「紙袋」「金字塔」
196名無し物書き@推敲中?:2007/09/17(月) 09:57:15
リノリウム!
殺人事件だな
197名無し物書き@推敲中?:2007/09/17(月) 10:43:21
手持ち無沙汰感がよく出てる
198「ムスリム」「紙袋」「金字塔」:2007/09/20(木) 22:24:57
東武伊勢崎線の車両には時間のせいか、私たち以外の乗客が居なかった。
沈黙が支配する間に耐え切れず私は隣に座った彼女に小声で問いかけた。
「その紙袋は何が入ってるのですか」
彼女は何の疑問も持たずに答えた。
「まい泉知らない?差し入れに持って行こうと思ってかってきたの。小菅じゃなにもなさそうだし」
どうやら彼女はこういったことに慣れていないらしい。
「差し入れは専門の店で買った物しか認められませんよ。そもそもアリはエジプト人だからムスリムでしょ。豚肉は食べられないんじゃないですか」
違う生物を見るような目で彼女は私をみて、驚いたように言った。
「佐藤さんは物知りなんだね。どこでそんなことおぼえるの」
差し入れはともかく、豚肉については常識だし、こんなことで感心されるほうが意外だ。
私は半ばあきれ気味に言った。
「金田一耕助張りの推理をした貴女がそんな常識的なことも知らないなんて、以外ですね」
「金田一耕助という方にはお会いしたことはないですけど、そんなにすごい方なんですか」
探偵小説の世界で金字塔を打ち建てた横溝正史の小説も知らないらしい。
彼女に会うまでは、小説の中のような名探偵に出会えるとは思っても居なかったが、彼女も名探偵の例に漏れず個性的な人らしい。
自分が解明した事件の殺人犯に会いに行くのも変わってる。
そんな彼女の個性的な面に思いをはせているうちに、電車は小菅の駅に着いた。
彼女はアリと何を語るのだろうか。彼女に対する興味は尽きない。


次は「論語」「素麺」「金」
199「論語」「素麺」「金」:2007/09/21(金) 14:25:36
 今日の午後の授業は論語でした。昼食の素麺が腹に溜まった上に吹きすさぶ嵐の音が
子守唄のように聞こえて睡魔を抑えるのに必死でした。
 すると突然、窓の隙間から風が吹き込んできて、真っ暗になってしまいました。
照明の、金の燭台のロウソクが吹き消えてしまったのです。
 しかし真っ暗な中でもカツカツと黒板にチョークを打ちつける音が響いてきます。
「先生、暗くて見えないよ」と誰かが言うと
「ほ、そうか。目明きは不便だね」と笑ってロウソクに火を灯しました。

 先生は盲(めしい)なのです。

次お題「城」「湖」「反射」
200名無し物書き@推敲中?:2007/09/21(金) 16:36:40
白いモッコウバラの蔓が窓をすべてふさいでしまってから、一体どれだけの年月が経ったのだろう。
埃の臭いと十分なほどの湿気が充満する城の一角に、彼女が眠る部屋があった。

彼女は長い間、眠っていた。
モッコウバラの芽が出始めた頃にはもう眠っていて、三階はあろうかというこの部屋の窓をふさぐまで、依然眠ったままだった。

しかし彼女は年に一度、目を覚ます。
城のすぐそばにある湖が凍って、ようやく溶け始めた頃にモッコウバラは花を咲かせる。
日差しが強くなった4月の一瞬、花の隙間をぬってその閉め切られた部屋に太陽が差す。

埃が充満したその部屋は不思議と乾燥していて、彼女が息をする度に、部屋中の埃はうれしそうに舞い踊った。
太陽がまるで悲劇の舞台を照らすスポットライトのように彼女を照らすとき、それは踊り続ける埃に反射する。

キラキラと舞い続けるそれを認識すると、彼女はまた目を閉じる。
終わらない冬の一瞬、彼女は暖かい雪を認めて、再び長い眠りについた。


窓一面をふさぐ白いモッコウバラの花は、まるで春の草原に降り積もる雪のようだった。


――「枯れ山」「執念」「はだかる」


「ごめん。女の、男に対する執念の怖さを俺は知ってる。だから香とは別れられないと思う」
「わかってる。わかってるよ。私、別れてなんて言わない。このままでいよう・・・」

普段は会うといっても、家でごろごろして過ごすことが多い。それは別に浮気現場を目撃されると困るからとか、
後ろめたさからではなくて。ただ俺の行動力の無さの所為だ。
しかし今日は珍しく外に出てきている。しかも遊園地に。これは、由佳の希望。
今まで「行きたいところは?したいことは?」と聞いても「うん、特には」と言うから
外に出るのはあまり好きでないのかと思っていた。でも、そうじゃないらしい。
今まで見たことの無いようなはしゃぎ様だから。俺は嬉しくなる。ごめん、こうやって外に連れ出してやれば、
喜んでくれるんだね。そりゃそうだよな。若い女の子が毎回家でまったりじゃ、飽きちゃうよな。
「ねえ!あっくん、あれ、ひと休みしようー!」
由佳が指差す。観覧車だ。
「はは、観覧車とは地味な。歩き回って疲れた?」
「ううん、大丈夫なんだけど。二人っきりだよー!」そう言って俺の腕に腕を絡めてくる。
笑顔を見ながら、これからはもう少し色んなとこ連れてってやろう、と思った。
観覧車乗り場で券を渡す。びっくりするくらい人は並んでいない。
由佳が唐突に、スタッフに話しかける。「あのピンクのがいいので、ちょっと待っててもいいですか?」
俺は苦笑した。「何言ってんだよもー。どれも一緒だよ。恥ずかしいだろ」
5分ほど待ってピンクのゴンドラが回ってくる。
「わーい乗るよー!」 内側から簡単なカギをかける。スタッフも外からなにやらやっている。

ゴンドラが高さを増していく。ガラスに張り付いて外を眺める由佳が言う。
「いい景色だねー」 由佳がじっと見ているほうを見てみる。見えるのは、黒と白だけの色彩の、枯れ山だった。
「いい景色ではなくないか?」 俺が真顔で言うと、由佳は俺の目を凝視した。そしてその目を見開いて
「たのしいね!!!」と大声で言った。「え?ああそうだね」と返すと
「たのしいね!あっくん!!!」と言って中腰のままジャンプし始めた。ゴンドラが揺れる。「おいおいおい!危ないよ!何してんの!」
「どうする?おっこって死んだら!」ゴンドラはまるでまるでブランコのように前後に激しく揺れる。
「冗談じゃねーよ」「楽しいねあっくん!!!たのしいたのしい」ゴンドラを揺らし続ける。
揺れはますます激しくなる。「おい!何やってんだよ!落ちるだろ!!」力ずくで止めようと由佳の体を押さえつけるが
ものすごい力で暴れる。こいつは狂ってんだろうか?押さえつける手を外そうとするというよりも、そのままゴンドラを更に揺らそうとする。
何かに取り付かれてしまったのか?!このままじゃ落ちるかもしれない。あと地上に着くまでどれくらいだ?!
斜め上にゴンドラが見える。頂上を少し過ぎたくらいだった。どうにか持ちこたえないと!そう思うと
扉に目が行った。そこで手の力が緩んだ一瞬の隙に、由佳は四つんばいになって扉の前に移動した。
そして唯一の出口に立ちはだかるようにして、笑顔で言った
「ねえあっくん、彼女と別れなくていいからずーっと一緒に居ようよ」

次「殴る」「猫」「時計」
203名無し物書き@推敲中?:2007/09/24(月) 05:39:53
 街から外れた古本屋か、或いは田舎の祖父母の家のような臭いが充満する店内には、古ぼけた骨董品と古ぼけたおじいさんがいた。
時間という概念が無いかのように、商品は皆押し黙り、おじいさんは息さえしていないように見えた。
 今朝の喧噪とは全く正反対だった。時間に追われる縦社会より、いっそ止まってしまった方が美しいのかも知れない。

 目覚まし時計が仕事をさぼったことを知ったのは、とうに彼が僕を起こすべきだった時間から3時間も過ぎてからのことだった。
僕はやり場のない怒りを覚えたが、前日に遅くまで仕事をしていた僕が悪いのだからと、大人の振る舞いに徹した。
「こんなに仕事を押しつけるからいけないんだぞ、と」
耳の中で鳴り響くコール音。それに煽られたかのように心臓が早くなった。
まるで学校をさぼる中学生のような気分だった。もっとも、学校をさぼるよりもっと刺激的なのでだけれど。

 結局僕は、「会社で使える100の言い訳!」とかいう本に出てくるようなありきたりな文句で、彼と同じように仕事をさぼることにした。
お前が悪いんだからな、と言いかけて、飲み込んだ。
まるで疲れて死んでしまったかのように針を動かさない時計を見て、少し胸が痛んだ。
時計は毎日同じように、変化のない時間というものを告げている。
時に夜中でも、早朝でも、大声で怒鳴らなくてはいけないという、あまりに勇烈な仕事をしている。
それに比べ僕は、ただ椅子に座ってこなすだけの仕事に根を上げて、不満ばかりを口にしている。
「僕に咎める資格なんて、ない……か。」
少しセンチな気分に浸っていると、腹が減ったのか可愛い鳩が鳴き始めた。
円を描く中心よりやや上で鳴き続ける鳩。12時になったことを知らせてくれているようだ。

 普段昼食は会社の近くのコンビニ弁当で済ませているものだから、こう家にいては飢え死にしてしまうことに気づいた。
適当に服を着て、玄関を出た。
いったい何年ぶりだろうか、こんなスーツ以外の服を着たのは。
身体は軽いし、風だってよく通る。収納だってスーツに比べれば格段にいいし、快適この上なかった。
“昼の街”なんてものはとても久しぶりだった。
営業にいた頃はよく出歩いたが、私生活で街をうろつくなんてことは学生以来かも知れない。
204名無し物書き@推敲中?:2007/09/24(月) 05:40:34
昼飯を適当なファーストフード店で済ませると、街を探検することにした。
最近じゃ昼間にどんな人間が歩いていても、怪しまれることはなくなっている。
そりゃ“不審者”だったらすぐに通報されるが、おっさんが出歩く程度は普通のことになっていた。

派手なランジェリーショップや流行らなさそうな植木屋。
完全におばさん向けの服屋に、完全にマニア向けの玩具屋。
どれも会社にいてはみられないもので、どれも好奇心を満たしてくれた。

しかし華やかな表通りとはうってかわって、裏の商店街や街路はまるで廃墟だった。
近道をするために通る人がまばらにいる程度で、あとはシャッターが降りているか、張り紙がしてあるかの店舗ばかりだった。
灰色としか言えない寂れた路地を歩いていると、一匹の猫と眼があった。
道の真ん中で、まるで犬のように”おすわり”をしてこちらを見据えている。なんとも不貞不貞しい猫だ。
「なぁに見てるんだよ」
あまりの不貞不貞しさにすこし恐怖を感じ、強めの口調で言った。
すると猫はこちらを見下すように立ち上がると、そっぽを向いて歩き出した。まるで相手にしてないよ、と言わんばかりに。
2mほど遠ざかった時、猫はちらっと振り返った。先ほどから発している僕のイライラ感を悟られたのか、大きく口を開けて牙を剥きだした。
――いいや何ともない、ただあくびをしただけだった。敵意を持っているのはどうやら僕の方らしい。
誰に見られているというわけでもないのに、照れ笑いを浮かべた。

猫はそれを確認すると、さっと家の中に入っていった。
きっと普通に歩いては到底気づかないような、奥まった場所にそこはあった。
家ではない。骨董品屋だった。

木製の引き戸は、猫一匹が身をよじらせやっと入れる程度開いていた。
それを人一人が悠々と入れるまで開き、挨拶をした。
「にー」
猫は好意とも敵意とも取れぬ声で、返事をした。どうやらここの主人は猫なのかもしれない。
205名無し物書き@推敲中?:2007/09/24(月) 05:42:59
何に使うかわからないような木製の箱や、何か禍々しささえ感じる変な玉、それに人が入れるほどの大きな柱時計や、インカ帝国の秘宝とか呼ばれそうな金に輝くティアラなど、大きさを問わず、様々なものが所狭しと置かれていた。

「いらっしゃい、何か捜し物かね」
「え、えぇ、まぁ」
頭蓋骨の骨董品だと思っていたものが突然しゃべりだし、驚きのあまり変な声を出してしまった。
「なに、驚くことはないよ」
そう言うと頭蓋骨もといおじいさんは、老輩の人の咳ともくしゃみとも取れぬ笑い声を上げた。
薄暗くて顔の輪郭はよく見えないが、骨と皮以外無いのではないかというほど、やせ細っていた。

「電池、ありますか」
とっさのことで、思わず言ってしまった。
こんな骨董品屋に、現代でも使える電池があるわけがなかった。
しかし、おじいさんは嗄れた声で、呟いた。
「――あるよ。単三かい?それとも単四かい?単一も単五もあるからね、好きなものを持っておいき」

夕方、あの骨董品屋で買った真新しい電池(単三)を持って帰宅した。
全く何で骨董品屋に新品の電池があるのか不思議に思ったが、なんてことはない。いつの時代も電池は何かを動かすのに必要なのだ。

依然針を止めたままの目覚まし時計を、まるで眠り姫を抱きかかえるかのように起こすと、そっと背中のカバーを開けた。
音を立てて回り始めた針を確かめると、なんだか安心感と共に焦燥感がわいてきた。
「明日からはまた仕事か」
ずいぶんとずれた時間を直そうと、時計を見た。

「――なんだ、おまえ、さぼってないんじゃないか。」
太い針と長い針は、二人で睦まじく一緒に7時35分を指していた。


途中でこのまま続けると長くなると悟りました。十分長いですが少し強引に終わります。
いくらか端折ったのですが、感想スレにでも御感想を貰えると幸いです。

題「オレンジ」「差し込む」「わずらう」
 オレンジの光が差し込む街中を、我輩一人で歩いてた。
 券売機のある飯屋に入る。券さえ買えば、後は全てが円滑に進むゆえ。
 振り向いた拍子に老人と衝突する。その老人、目をわずらう様子にて、ひどくうろたえた。
 近くにいたメガネの若者、こちらをにらみ「気をつけたまえ」と一括した。
 老人立ち上がりて「大丈夫ですか?」とこちらの心配など始める。それに答えられないでいると
「相手は目が不自由なんですよ?返事くらいしてあげたらどうですか?」と若者、口を差し挟む。

 我輩、失語症なのだ。
207206:2007/09/26(水) 14:06:54
次お題「科学」「空」「薬」
208名無し物書き@推敲中?:2007/09/29(土) 03:49:51
「薬の飲みすぎで効かなくなってますね。」帰り道、さっきの医者の言葉を
思い出す。睡眠薬。飲みすぎた。疲れと不眠でなんだか空を歩いてる
みたいな気分。家に帰ってもすることはゲームとパソコンだけ。部屋から
でるのはご飯の時だけ。母さんもずいぶん疲れてきてるし父さんはあまり
何も言わなくなった。
ほんとに駄目人間。
僕の机の引き出しからもドラえもんが出てくればいいのに。
21世紀の科学で僕を助けて。
なんてね。
209名無し物書き@推敲中?:2007/09/29(土) 03:52:56
カルチャーショック   電気イス     仮面      で。
210名無し物書き@推敲中?:2007/09/30(日) 00:55:57
彼女との出会いはカルチャーショックであった。

今日の空は上手にむらなく描いた自信作
雲は風とワルツを踊るの
はにかみながら、もどかしそうに

私は椅子に座ったまま、彼女から目を離せなかった。
白いワンピースの裾をクルクルとひるがえし、彼女は笑いながら私の顔を覗きこむ。

遠くで雷の産声がする
宇宙のささやき、光のオーケストラ

ああ、私はいつから仮面を必要とするようになったのだろう。
いつから、空は屋根に、雲は煙草に、風はエアコンに、雷は電気いすに、
いつのまにか変わってしまった。

それは拷問なの?処刑なの?どんな罪を犯したの?

大人になったということさ。
私は、かつての私に言った。

彼女はにっこりと、消えいるように微笑んだ。


情報、黒、月
211名無し物書き@推敲中?:2007/09/30(日) 01:18:01
↑なんかポエム調になって恥ずかしいので感想はいいです。
ありがとうございました
212名無し物書き@推敲中?:2007/09/30(日) 15:19:52
彩花は黒のワンピースを着て全身8ヶ所をメッタ刺しにして灯油に火をつけて
殺した父親の燃え上がる姿をただ呆然として見つめているだけでありました。
パトカーの音が遠くから近づいてきて逃げなければいけない状況というのに。
彩花はただ自分の初潮はじめての生理月のものを汚したこのハゲが許せない。
このハゲが直接彩花に性的虐待をしたとかそういうことはまったくなかった。
ただ彩花に初めての月のものが来た平成11年11月11日11時11分11秒に不幸にも
彩花は決して知ってはならないおぞましい情報を知ってしまったのであった。
このハゲが彩花の小学校の学級担任と不倫をしてるというおぞましい情報だ。
次のお題は運命と激流と激突ですがなんか現実の事件なので感想はいいです。
213「運命」「激流」「激突」:2007/09/30(日) 16:35:16
 ひどい嵐でした。工場を出、家に帰らなければいけないのですが、とても嫌でした。
激流をもって逆巻く河を通りすぎる頃には両の靴は水浸しで、地を踏むたびにグニュリ
としぼみました。
 どこからか飛んできた段ボールの箱がスネに激突し、涙がこぼれました。なんだか口
の中がしょっぱいです。ようやく家の格子戸をくぐり抜けたときには、もうへとへとで
した。

「やあ、おかえり。大変だったろう」そう言って夫はニコリと微笑みました。御勝手の
ほうからコオンスウプの匂いがします。
214213:2007/09/30(日) 16:39:25
次お題「畳」「ほおずき」「夜中」
215名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 15:16:15
バタン!
なんとも乱暴にドアを閉めるものだ。
キングがいつもの時間に帰ってきたのだ。
午前2時40分。
彼の帰りはいつも夜中だ。
冷蔵庫からコカ・コーラを取り出し一気に全部飲んでしまう。
ダイニングルームのソファーに座りテレビをつけた。
彼はいつもこうやってここでテレビショッピングの番組を1時間は見る。
気が向けば気に入った商品を注文することだってある。
先日もこの番組で彼はまぐろの缶詰めを10個も買ったのだ。
キッチンの窓際には鉢にいれた植物が3つ並べてある。
ほおずきだ。ほおずきには色々な種類があるそうだが彼が育てているのは
食用だそうだ。
本日のテレビショッピングの商品も皆それなりにすばらしかったが
彼に番組へのテレフォンコールをさせるまでにはいたらなかった。
服を着替えて彼は寝室へと向かう。
彼の寝室にはベッドは無く代わりに日本の畳というものが敷かれている。
この畳というものがキングのお気に入りだ。
4年前キングが日本の映画を観て畳を知りすぐに自分の寝室に備え付けて
しまったのだ。
午前5時。
お気に入りの畳の上にふとんを敷きようやくキングは遅い眠りについた。
216名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 15:17:58
ゾンビ   ティラノザウルス    底なし沼     でお願いします。
217名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 15:22:02
ゾンビBEのツラはティラノザウルス並みに凶悪で底なし沼の落選続きだった。。。
 
218404:2007/10/02(火) 21:04:17
 今日の父は嬉しそうでしたが、悲しそうでした。よく笑うのですが、ぎこちなかったのです。
居間でテレビを見ているときも、些細な事で笑い続けました。
「ゾンビが出てきた底なし沼から、今度はティラノザウルスが出たってさ」
僕も釣り込まれて、自然とケラケラ笑っていました。とても楽しかったです。
 そして今夜も父は電灯修理の仕事に出かけましたが、見送りから戻ってきた母の目が真っ赤
になってました。

 後で知った事なのですが、あの日に父は、軍の人体実験に連れていかれたのです。

次お題「犬」「柿」「縁側」
219名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 23:05:48
お題「犬」「柿」「縁側」

『ヴーッ、ガウッガウッ…ガウッ!』

さっきから、庭の方でうちの犬が騒がしい、
まるで親の仇でも見つけたかの様に、庭にいる犬は何かに対して激しく吠えたてている。

自室でお気に入りの小説を読んでいた私は、
最初は『暫くすれば疲れて吠えるのを止めるだろ……』と、思い、無視を決め込んで読書に興じていた。

だが、5分経とうと、10分経とうと、一向に犬は吠えるのを止める様子が無く、
そろそろ鬱陶しく思いつつあった。

―――ったく、仕方が無い………。
いい加減、煩わしく思った私は読んでいた小説にしおりを挟み、
気だるい気分を感じながら縁側に向かう。
その目的は無論、水をぶっかかけるなり怒鳴るなりして五月蝿い犬を黙らせる、
只、それだけだ。

犬が吠えている理由なんぞ知る気は無かった、
どうやらうちの犬は子供が嫌いらしく、小学生が家の近くを通りかかっただけで吠えかかるのだ。
それも昼夜を問わず、だ。
220名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 23:07:04
志貴ー!にげてっー!
221名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 23:07:41
どうせ今回も、下校中の小学生が家の近くを通りかかったのだろう。
そして、何時まで経っても犬が吠えるのを止めないのは、
多分、その小学生が庭の柿の実を盗もうとしているのだろう。

因みに言っておくが、うちの庭に生えている柿は渋柿だ、
その事はうちの隣近所も知っている事実だ。

それにも関わらず、季節が秋になる度に、子供があらゆる手段でうちの柿を盗んでは、
その場で柿を齧り、そして苦虫を噛み潰したような表情を浮べるのだ。
どうやら、子供と言うのはちっとも懲りない生き物の様だ。

………まあ、そんな私自身も、子供の頃に何度も同じ事をやっては、言葉通りの苦渋を味わったのだが………

と、そんな事を考えている間に縁側、そして庭へ続く障子の前に辿りついた。
222名無し物書き@推敲中?:2007/10/02(火) 23:08:19
『ガウッガウッガウッガウッ!!』

障子の向こうで、未だに犬の吠え続ける声が聞こえる。
どうやら、犬は吠えるのに夢中で私が来た事に全く気付いていない様だ。

良し、一発怒鳴り倒す!
そう心に決め、障子戸を開け放ち―――私は思い出した。

そうだった、数年前に犬は病気で死んでいたんだ。

私の視界に映る庭には、五月蝿いくらいに吠えたてていた筈の犬の姿は無く、
その代わりに、主の無い薄汚れた犬小屋だけが、うら寂しく其処にあった。

………あれほど五月蝿かった家族の一員は、もう2度と五月蝿く吠える事は無い。
その事実を改めて受け止めた私は、1人、縁側で静かに涙するのだった。

とある、秋晴れの1日の出来事だった。

次のお題は「鏡」「剣」「記憶」
223「犬」「柿」「縁側」:2007/10/02(火) 23:16:44
ただいま、と言って玄関をくぐる。
珍しく父が先に帰っているらしく、声が聞こえてきた。
居間の戸を開けると、テレビの画面には大写しの王貞治。
また一本ホームランを打ったらしい。
「ああなんだ、お前か。おかえり。」
父が上機嫌だから、今日は夕食中もテレビが見れそうだ。
「おい、飯はまだか。」父はちゃぶ台を手の平ではたいて大声でがなり立てる。
あらあらまだですよ、という母の返事が返ってきた。
困っているようでいて、その声には幾分と嬉しさも混じっている。
手持ちぶさたになり庭先へと出てみると、妹が犬ときゃっきゃと遊んでいた。
柴犬だろう。まだ一、二歳といったところか。
「おいおいそれはどこの犬だい?」
「よく分かんないけど、さっきここにやって来たの。」
「へえ。食事の匂いにつられたのかな。なんていう名前だろう。」
首輪がついているので、どこかの飼い犬には違いない。
「さあねえ、なんていうんだろう。」
そう答えたが妹はあまり関心がないらしく、夢中で犬の体中をなで回したり、叩いてみたりしている。
「じゃあこの犬の名前は、自分が決めてやろう。そうだな。ねこ、だな。」
「あはは、お兄ちゃん、そんなわけがないじゃない。」
笑いながら犬の頭を両手でわしづかみにする。犬は至極迷惑そうな顔をしていた。
そうしていると母がやって来た。干し柿でも食べなさい、と言う。
ちょっと前まで縁側に干してあったやつだ。
一囓り、口に含んだ干し柿は、むせかえるほど甘かった。

次、「白黒」「野球」「猫」
224223:2007/10/02(火) 23:18:13
>>222様とかぶってしまったので、
お題は>>222の「鏡」「剣」「記憶」でお願いします。
225名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 03:14:26
人生とはなんて空しい物なのだろう。
ある一定の時期を越えれば、待っているのはまるで変化のない単調な毎日。
つまらない紙切れと向かい合って、何も疑うことなくその時間が来るまで仕事をする。
その後は取り付かれたように酒や異性に快楽を求めてさまようばかり。

主婦にとってもそれは同じで、毎朝同じ時間に同じことをして、少ないお金をやりくりして献立を考える。
少しでも安く買うためにチラシと向かい合って、スーパーマーケットで小太りのおばさん連中と競うかの如くプラスティック製のかごに食べ物を放り込む。
気づけば旦那は年を取り、自分も年を取っている。
旦那は帰っては愚痴を吐くばかりで、たまに愚痴をこぼすと不機嫌になる。
鏡の中には世界を敵に回し、世界一不幸で、世界一やつれた顔をしたおばさんがいる。
どんどん記憶は曖昧になっていくし、ただ過ごすだけの毎日だってやり過ごせなくなってきている。

人生はなんて空しい物なのだろう。
ある時期を過ぎれば、色を落とし世界も止まり音も途絶える。単調でつまらない生活が待っているのだ。
まるで生け花の剣山のようだ。
麗しい花を生けるそのときが絶頂であって、一度その針の山すべてが埋まってしまえば、あとは何かを得るにはその花を落とさなければならない。
あとは枯れて朽ちるのを待つだけ。美しさを保つ術は無いのだ。
人生とはなんと儚いものなのだろうか。


「利口な」「鍵」「はじく」
226名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 05:11:48
私は今ある建物の入り口の前に立っている。
この手に鍵を握りしめて。
私の体には無数の傷が刻みこまれているし左手は肩までしか上がらないし
もう速く歩くこともできない。
だが今私の手の中には鍵がある。それで十分なのだ。
力のない者ははじくというこの建物。
利口な彼等は塀をよじ登ってもう中に入ってしまった。
この建物にはどうやって入っても自由なのだ。
彼等は私を冷笑しあるいは罵声を浴びせまたあるいは私に気をとられながら
行ってしまった。
もうすでに彼等のうちの何人かの悲鳴が聞こえてきた。
ちょうど今私のように体に無数の傷を持ち左足をひきずった男が
やって来た。
私の持っているものとはずいぶん違うが彼もまた鍵を握りしめていた。
ここにやって来たが鍵を手にするために引き返した者もいる。
建物には入らず塀のそばで話し続けている者達もいる。


私は鍵穴に鍵を入れゆっくりとドアを開けた。
塀のそばで話し続けている者達の会話が一瞬止まった。
私は数秒間彼等と見つめ合った。
そしてこの未知の建物の中へと進んだ。
227名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 05:16:44
かえる    幽霊        舌          で。
228名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 06:20:56
かえるというニックネームの石橋純子という名前の女の子がいました。
彼女は不幸にも小学五年生で白血病のために亡くなり初潮もまだなのに
幽霊になるしかなかったのですが彼女が死んだ本当の理由はおぞましく
彼女を父親が性的虐待して舌を噛み切って死んだというのがほんとうの
理由なのですがおぞましいこのほんとうの理由は封印されたのでした。
次のお題は疑惑と衝撃と絆の3語でお願いしたいのでよろしく願います。
229名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 12:52:01
かえるというニックネームの石橋純子という名前の女の子は不幸にも小学五年生で白血病を患ったため亡くなりましたが、彼女は世間を騒がしたゴシックの女王だったのです。
かえるが衝撃のデビューを飾ったのは三歳の頃、子供雑誌の表紙ででした。
類い希なるその高身長を生かし、小学生が着るような服を見事着こなし、世の女学生を嫉妬させたのでした。
これからのファッション界から有望視される彼女は、同時に嫌われていました。
学校で付き合っていた石岡浩二(9)との関係を取りざたされたのです。
彼女は激怒しました。こんなプライベートなことにまで踏み込まれるなんて、こうちんが可哀想だ!とゴシックになれていた彼女でさえ正気を失いました。
出版社に単身乗り込み、編集部を壊滅状態まで追い込み、編集長を全治5日、周りの人間をすべて鼻血・青あざ・打撲・ねんざとそれぞれ負傷させました。
意気揚々と晴れ晴れとした顔で出版社を出たかえるでしたが、不幸はそこから始まったのです。
彼女が亡くなった後もゴシックは絶えず、依然死因について語られてきました。
公には病死となっているのですが、一部機関からはファッション界から抹消されたという疑惑が立っているのです。
出版社に乗り込んだ際、たまたま居合わせたファッション界のドン・小澤氏に鼻血をプレゼントしたのが原因で、消されたということでした。
とうの小澤氏は「彼女とは旧知の仲で親睦があり絆で結ばれていた。私がそんなことをするわけがない」と彼女の死を嘆いていましたが、顔は相当にやけていたと言われています。
情報が錯綜する現代では、ちょっとしたことがすぐニュースになる
だけどその事件や事故の真相を、鵜呑みにしていては事実は見えてこない。
かえるは私たちに、そのことを教えてくれたのでしょう。
次のお題は困惑と恥じらいと生涯の3語でお願いしたいのでよろしくお願いします。
230名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 22:40:35
男達は困惑した。
舞台の上のストリッパー、あのストリップの女王リリカの様子がおかしいのだ。
いつもは大きく開げられるあの足も今夜はほとんど開こうとしない。
あのいつものダイナミックな動きは見られず控えめでさえある。
あの女王リリカが顔を赤面させているのだ。
恥じらいというものとは対極の存在であるはずの彼女が今夜それを見せている。
彼女がとうの昔に捨ててしまったはずの感情が今夜彼女の中に舞い戻って来たのだ。
注意深く彼女を見るとショウをしながらも彼女の瞳の視線は一点に注がれている。
そしてその視線と結びつくもう一つの視線が観客の中から彼女に向けられていた。
彼女がまだこの大都会にでて来る前、まだ一人の田舎娘だった頃
彼女が愛した男、生涯で唯一愛することのできた男しん太だ。
しん太は泣いていた。リリカの瞳からも涙が流れていた。
二人を引き裂いた残酷な運命が今夜気まぐれに再び二人を引き合わせた。
もう過ぎてしまった時間が二人に重くのしかかった。
やり直すことはもう叶わない過去。まだ愛の重さを知らなかった頃の二人。
愛を守り通すことが叶わなかった二人。
しん太の目からとめどなく流れ続ける涙が、リリカの瞳からも止まることのない涙が
二人の失ったものの大きさを物語っていた。
観客のざわめきの中ショウは終わった。
楽屋に戻ったリリカは煙草を一本吸った。もう涙は止まっていた。
しん太は人混みにまぎれ劇場を出て行こうとしていた。リリカは楽屋を飛び出し走り出した。
人混みをかき分けた。しん太を探した。リリカは走り続けた。
そしてあの見覚えのあるうつむき加減のうしろ姿を見つけた。
リリカはしん太の腕を掴んだ。
力の限り掴んだ。
もう運命などに負けはしないと誓った。
もうしん太から離れはしないと誓った。



231名無し物書き@推敲中?:2007/10/03(水) 22:46:13
包丁    にわとり      血          で。
232404:2007/10/04(木) 00:09:31
 お父さんが市場からニワトリを買ってきました。
「明日のクリスマスにみんなで食おう」

 明日の昼、父は嫌がる僕を無理に連れてきて、ニワトリを殺すように言いました。
御勝手から包丁を持ってきて、それで首を斬ろうとしましたが、なかなか思い切れず、
いたずらに血が噴き出すばかりでした。そんな僕を見て、父はたいへん怒りました。
「それじゃあニワトリが苦しんで可哀想じゃないか。一思いに殺してあげるのが
 優しさなのだ。」
 そういって父は、ニワトリの首を一息に締め上げてしまいました。

 今では、とても良い父だったと思っています。
233404:2007/10/04(木) 00:14:09
あぁ、もうコテ化しよっと。自分の作品が目立ちそうな気がして気持ち良いしね。
我輩のコテは404だ。このスレが400台まで伸びない事を祈りおく。

次お題「カエデ」「雨だれ」「影」
234名無し物書き@推敲中?:2007/10/04(木) 03:28:36
むさ苦しいだけの夏が終わり楓が色づき始めた頃、僕は恋をした。
秋のすがすがしい風になでられても、彼女の前では僕の頬は紅葉のように赤みを帯びたままだった。
同じように彼女の頬も赤いように感じたけど、僕はずっと夕日のせいだと思っていた。

庭の金木犀が香りを強めた頃、彼女は僕の家の前で待っていた。
いつもは自転車で通る道を、甘い香りをまとった彼女とゆっくり歩いた。
秋の低い太陽は僕たちに影を落とした。一台の自転車と、二人の人影。
まるでサーカスの曲芸師のように、二人乗りをしているようだった。

冬が来て葉が落ちて、春が来て花が咲いた。
僕たちは別の道を歩くことになった。なんてことはない、今までとなにも変わらないのだから、嘆くことはない。
半年前に戻るだけなのだから、何も悲しいはずはなかった。
だけど香りが記憶を呼び起こす。
梅雨の強い雨に落とされた金木犀の花を眺め、雨だれに紛れ泣いた。

「ふしだら」「冗談」「なでる」
235名無し物書き@推敲中?:2007/10/04(木) 07:49:21
ふしだらな女?冗談じゃないわ。髪をなでながら直子はハゲの男に激怒した。
必ずこのハゲから妹の弘子を取り返さなければならないと強い意志で包んだ。
こんなハゲにはまった弘子がバカだと言われればそれまでだがこんなハゲでも
弘子に女の子を産ませた張本人であることには違いないと強い意志で包んだ。
次のお題はあんたにちなんでハゲ必ず死ねの三語と直子は捨て台詞を吐いた。
236名無し物書き@推敲中?:2007/10/04(木) 08:13:21
悲しくはない。寂しくはない。横でスースーと寝息をたてているこの
ふしだらな彼女を見て僕は思った。
昨夜ずいぶん彼女と色々な話をした。彼女は何度もケタケタと大声で笑った。
僕もずいぶん笑った。僕の手は彼女の手に強く握られていた。
昨夜あれほど冗談を言い合ったというのに今彼女の目からは
涙が流れている。
彼女を苦しめているものが何なのか僕にはわからない。
ただ彼女が必死で何かに抵抗しているのだということを僕は感じる。
小刻みに震える彼女の体がもうすでに彼女の心に無数に刻み込まれてしまった
傷を僕に理解させる。
その傷を手当するように今だけは彼女のその必死の抵抗を休ませるように
僕は彼女の髪をなでる。
237名無し物書き@推敲中?:2007/10/04(木) 08:16:27
櫛     鏡        口紅         で。
238名無し物書き@推敲中?:2007/10/04(木) 08:22:00
「数字が入ることわざ」「滝川クリステル」「いわし雲」
239404:2007/10/05(金) 16:58:27
「おまえ、このコオトはなんだい?」我輩、近頃、全く相手にしてくれない妻を問い詰めた。
「さあねー」鏡の前でのん気に髪など櫛けずっている。こちらに顔を向ける気配すら見えない。
「これはどうみたって男物のコオトじゃないか。それに近頃、随分と身の回りの品に金を使って
 いるみたいだね」妻はしばらく押し黙ったが、ふいに口を開いた。
「あぁ、もううるさいわ。口紅が上手く濡れないじゃないの。邪魔なのよ」

 ああ、もう、こいつとは上手くやってゆかれない。亭主に向かってうるさいだなんて、そんな
悪女とは上手くやってゆける筈も無い。

 我輩、無性に悲しくなって、必死に涙をこらえながらも旅支度した。ペットのゴン太を
外出用のケエジに移し変え、わずかな着替えの鞄と共に停車場へ向かった。

 ちょうど熱海行きの列車があった。小奇麗な婦人に席を詰めてもらい、我輩そこに腰掛けた。
しかしその婦人、ゴン太のケエジを覗き見て、きゃっと悲鳴をあげた。

 あっという間に車掌や駅員が集まりて、我輩、見る間に列車を追い出された。
「おまえも嫌われ者なのだね」ゴン太と自分を重ね合わせ、情けなくも落涙する我輩であった。

 ゴン太は、蛇なのだ。


次お題「ソメイヨシノ」「五月雨」「峠」
240236:2007/10/05(金) 18:54:47
おじいちゃんと公園にやって来た。
今日はおじいちゃんの体調もすぐれていてこれはチャンスということで
二人でやって来たのだ。
もう体がずいぶんと曲がってしまったおじいちゃんと並んで歩いてここにやって来た。
癌細胞はもうおじいちゃんの体のあちらこちらに転移してしまった。
進行はゆっくりだがこの細胞は確実におじいちゃんの体を蝕むつもりだ。
公園に咲き乱れるソメイヨシノをおじいちゃんは一つ一つ手に取って見ている。
「ソメイヨシノ綺麗だねぇ。かず君。」
暗く沈みがちなおじいちゃんの声も今日は少しだけ軽やかなのだ。
僕のおじいちゃん。
人生の峠を越えたおじいちゃんが今この恐ろしい敵と戦っている。
突然降り出した五月雨がおじいちゃんを濡らした。
僕はおじいちゃんの背中を見守る様に見つめていた。
241236 ◆ccqXAQxUxI :2007/10/05(金) 18:56:50
心     体        熱          で。
242名無し物書き@推敲中?:2007/10/05(金) 19:18:00
じいさんは体は言うことをきかなくても熱い心を強い意志で包んでいた
243名無し物書き@推敲中?:2007/10/05(金) 19:38:19

「私のお友達が大変なの」

タコさんウインナーを口に放り込んで、じっくり租借してから月子さんは切り出した。大きすぎる『新聞部部長』の腕章が肩口からずり落ちる。
なれた動作でそれを戻してから、彼女は続けた。

「小さな頃からお隣に住んでいらっしゃる子で、この間小等部の四年生にあがられたところなのだけれど。彼の体調、挙動が少々不審なの」

具体的には、とはさんで。

「いつも、家を出るとききょろきょろしてらっしゃるわ。まるで誰かを待っているみたいに。
それから、いつも顔をあわせると真っ赤なの、ためしにおでこに手を当てたら燃えるように熱かったわ。
しばらく朝にこっそり様子を見ていたのだけどーーもちろんばれないように隠れていてよ。この咲夜月子、調査対象に悟られるほどうかつではないわーー日に日にお元気がなくなっていかれて。一週間もするとまるで地面以外目に入らないようなうつむき具合なの」

心配そうな顔でウサギさんりんごを箸でつつく。

「ひょっとするといじめにでもあっているのではないかしらと思うと、私心がざわついて。せっかく高学年にあがられたばかりなのにそれでは酷というものでなくて? ここは私たちが一肌脱がなくては」

最後の一言と共に、りんごを口に放り込む。きっと目を吊り上げながらファイルを開いた。
咲夜学園新聞部第2850調査案件『変わる隣人事件』

「協力してくれて?」

とにかく、写真部で裏流しされているある人物のブロマイドを。こっそりある人物の隣人に渡すことを心に誓った。


追記。

当調査案件終了後、小等部潜入捜査員がわが新聞部に加わった。
同時に、新聞部と写真部のつながりがさらに密になった事は言うまでもあるまい。
244名無し物書き@推敲中?:2007/10/06(土) 04:06:10
このスレはなんでいつも書きやすい「いかにも」な三題しか出ないのかな。
「ソメイヨシノ」「五月雨」「峠」
って何だよ馬鹿。
245名無し物書き@推敲中?:2007/10/06(土) 04:24:09
>>244
坊やだからさ……
或いは自分のために、か……
246名無し物書き@推敲中?:2007/10/06(土) 11:18:33
認めたくないものだな
247404:2007/10/06(土) 12:18:49
「本当によろしいんですね。あなたの体は実験に使われるのですよ?」
「ええ、良いのです。それで少しでも償えるのなら」

 我輩は死刑囚だ。怒りに任せて三津子を殺めてしまった。本当に、
申し訳無い事をしたと思っている。せめて人類の役に立つような死に方を
と思い、我輩の体を人体実験に回してもらうようにした。

 ベッドに寝かされて固定される。
「痛い!」思わず声をあげてしまった。メスで内臓を引っかかれたようだ。
麻酔を使って痛みの無いようにしてくれる手筈では無いのか?

 そう思って見上げた執刀医の顔、彼は三津子の父親だった。

次お題「雪原」「柳」「旅人」
248「雪原」「柳」「旅人」 :2007/10/06(土) 18:07:54
 あしたになりぬれば、例ならず、をさをさ送りするもなく寒月門出してき。
 わづかに雨降り、宿の柳、ぬれねばかかりけむ、青青として色新たに、
ある人進みて、「なほ止め給ひてむ。あぶなかりなむ。身はひとつなれば」など
いひしかば、「あなをかしのことや。もとより旅人に命ありてなきがごとし。
死なむきはは旅先にてとこそ思ひ給へたれ。さるべく生まれ出で給へぬべし」
となむいひし。
 われ聞きて、笑ひつつ、「げにさることもあらむぞかし。われはふみを好む。
しかれども、ひとり灯のもとにふみをひろげたれば、われはいづくのものぐるひかと
思ふをりあり。なれにおきては、そが北国の雪原やあづまの山がつなりぬべし」と
いひしかば、寒月も笑ひて、やがて出で立ちてき。


次は「聖書」「屋上」「孤独」で
249名無し物書き@推敲中?:2007/10/07(日) 15:40:29
30歳以上の独身女性負け犬のクリスチャンの女は聖書を片手に持ったままただ
屋上に孤独な負け犬女のみじめな姿をさらして立っているしかなかったつまり
30歳以上の独身女性負け犬には神も仏もないということを負け犬女は証明した
30歳以上の独身女性負け犬は2ちゃんねるの独身女性板でもたたかれるだけだ
次はかつてこのようなクサい芝居は宇津井健の特許だったので運命激流激突で
250名無し物書き@推敲中?:2007/10/07(日) 22:00:00
 いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
 世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。

 エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。

 ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。


次は「深海」「楽園」「銃」で  
251ミスったのでもう一度:2007/10/07(日) 22:01:09
 秋も深まれば4月入社の私のスーツも少し体になじんだように思う。
頭には効率を描き、世界とは私が属するこの社屋に完結している。
社員食堂は日替わりカレーの具が楽しみで、会議室の精錬な空気は
いつも身が引き締まる。中庭には芝生と椅子があるが灰皿がなく、
納入ヤードでは引き取り手のない備品が、寂しげに飾られていた。
 世界の把握には四季の中の二つを費やした。恐れながらも切り開いた開拓路は
この束縛のなかで、少しずつ拘束の縄を緩めていく心地がした。それでも
只一つ、行ったことのない場所があった。

 エレベーターで8階まで。そのすぐそばには、非常灯の灯った扉があった。
扉をあけると、狭い階段が上に下にとぐろを巻いている。下をみればきりがないが、
上の終わりはすぐそこにあった。踊り場には誇りをかぶったラックと三角ポール、
そしてノブに鎖を巻いた扉があった。扉には「屋上立ち入り禁止」と張り紙がしてある。
窓はなくその先が見えない。只一つだけ、知らない向こうだった。

 ふと気付くと、ラックの上に黄ばんだ分厚い本があることに気付く。手にとって誇りを払うと
『新共同訳聖書』の文字があきらかになった。かなり読み込んであるようで、節々に紙の皺や、折り目が
付いていた。この本の持ち主は、この本によって何を得たのだろう。ふっと秋空を統べる孤独な鳥と吹き渡る
風が、体を突き抜けたような心地になる。昼休み終了5分前、私は急いで階段を下ると、
エプロンを付けた清掃員の女性とすれ違った。


次は「深海」「楽園」「銃」で  
252深海 楽園 銃:2007/10/08(月) 01:40:35
 僕は引越しをして初めて友達ができた。嬉しくてすぐに「君の家に遊びに行きたい」と
いった。彼は少し考えてからこういった。「良いよ、でも僕んち海の中だよ」
 確かに彼の家は海の中だった。そこは深海でありながら街を形成していた。役所もあ
るし遊園地さえある。地上の街とおんなじだ。僕がそういうと彼は自慢げに「でも一つだ
け違うところがあるんだ。ここには悪い事をする人、否、悪い事の存在すらないから警
察はいないんだ」確かに街中を探索したが交番さえなかった。つまり楽園だという。そ
れから僕は毎日のように彼の家へ遊びにいった。 そして僕はそこをいつの間にか好
きになっていた。
 ある日きらきらと光る物が落ちてきた。ゆっくりと街の真ん中に落ちてきたので、たく
さんの人が集まっていた。人々の輪の中心には一つの銃があった。おそらく密輸船でも
沈没したのだろう。人々はそれをどうしようかと考えているようだ。だって交番がない
んだもんな。なかなか人々は去ろうとしないので、僕は地上の交番へそれを届けようと
した。そうでないと治まらない様な気がしたから。僕はそこに歩み寄った。銃を手に取
った。僕の上のほうをマッコウクジラが泳いでいった。
 いつしか僕はこめかみに向かって引金をひいた。

「24時間」「缶詰」「階段」
253深海 楽園 銃:2007/10/08(月) 02:07:08
深海から帰って来た浦島太郎は、煙にまかれ年老いて、しっかりと楽園で過ごしたツケを払わされた。
チルチルミチルの幸せの青い鳥は、気付かなかっただけですぐ傍に最初からいた上に、結局逃げ出してしまう。
ああしゃらくさい。
どうして夢物語の中にさえ、貧乏くさい教訓を入れずにはいられないのか。
浦島太郎は永遠に海の底で酒海魚林、チルチルミチルは青い鳥のおかげで一生安泰。
これでいいではないか。
現実のせちがらさなど、皆嫌という程知っているのだ。
銃声のような乾いた花火の音が、2発続けて鳴った。
それは今の自分にとっては、死刑宣告にも等しい。
ゆっくりと眼をあけると、薄いカーテンが朝の光を殆ど遮ることなく漏らしていた。
秋晴れだ。
全校マラソン大会は決行される。
楽園に住みたい。
今私は、夢物語の中でさえ、居場所を見つけることが出来ないでいた。

お題は>252さんのでお願いします。
254名無し物書き@推敲中?:2007/10/08(月) 07:39:15
フラフラじいさんと24時間家に缶詰かと思うと食っちゃ寝専業主婦の喜久子は
ゆううつでフラフラじいさんを階段から突き落として殺す事にしたのである。
大阪ABC朝日放送のムーブを見ながらフラフラしてるハゲフラフラじいさんを
階段から突き落とした喜久子はそのまま特急サンダーバードに乗る事にした。
こんなハゲのフラフラじいさんにお題も糞もあるもんですかと悪態をついた。
255名無し物書き@推敲中?:2007/10/08(月) 23:57:28
暗闇の中を沈むように歩く。
狭苦しい通路を抜け、階段へと辿り着く。

「――――っ、はっ、―――――ぁ」

もうどれ位こうしていただろう。
干からびた眼球は闇に慣れ、その代償だろうか、耳鳴りが聴覚を削ぎ落とす。
だらしなく開いた口からは、言葉とも吐息とも取れぬ音が漏れている。
――ひりひりと、脳が焼きつく。
四肢は躯から欠落し、極度に集中した神経は理性を破綻させる。
…あと少し。
時計を見る。残り24時間。十分だ。
狩るものと狩られるもの。その明暗を分けるのに時間などいらない。
階段を上りきる。小さな部屋。0.2秒で中へと入り、獣のごとく跳躍する。
―勝った。完全な不意打ち。回避不能の暴力を前に全身が狂喜する。

「―――――ぁっ」

イメージは缶詰。
パンパンに膨れ上がった缶詰を鉄パイプで殴りつけたら、きっとこんな感じだろう。
刹那、白む意識の奥で、俺は、脳の弾ける音を聞いた。


「サッカー」「プラネタリウム」「契約」
256名無し物書き@推敲中?:2007/10/09(火) 01:25:57
――ああ、まるでプラネタリウムだな。
いつかアイツと見たのとそっくりだった。

空を見上げてぼんやりと考える俺に対し、辺りは騒然としている。
サッカーの試合中、一斉に照明が落ちたのだから当然だ。
これだけ星空がはっきり見えるということはここだけ停電したわけではなさそうだ。
「全く、せっかくのデビュー戦だってのに」
暗闇でほとんど見えなかったが、丁度足元にあるボールを足で遊びながらつぶやく。
試合前半、ケガによる選手交代で運良く出場できた俺にパスが回ってきた所で突然の停電。
「そんなに俺の試合見たかったのか? なあ――」
ボールを軽く蹴りだしながら再び空を見上げた。

あの日見たプラネタリウムはこんなに綺麗じゃなかった。
手作りで、もっと狭くて、それは頼りない星だった。
「絶対、俺、プロになるから。見てろ」
そう言ったらアイツは微笑んでくれた。
アイツが誰よりも俺がプロとしてプレーしているのを見たがっていた。
それなのに俺の契約が決まったその日にアイツは死んでしまった。

「お前、楽しみにしてたもんなぁ」
くっく、と笑う。我ながら気持ち悪い。
遠くで「何してんだ! 早く戻れ!」と声がした。
「残念だったなぁ、これじゃ無効試合だよ。次はデーゲームのときに見にきてくれよな」
じゃあまたな、と小さくつぶやいて俺はピッチを後にした。



「紅葉」「原付」「帰り道」
257紅葉 原付 帰り道:2007/10/12(金) 01:45:58
彼女から紅葉を見にいきたいと告げられた時、僕にはそれが昨日見たテレビの影響だとい
うことが分ったわけだが、そういう単純な人間を毛嫌いする僕であるのにどうしても彼女の
要求には逆らうことができなかった。恍けた顔をして僕の腕の中で丸くなっているこの女の
為なら何でもできた。明日の朝から出かけたいというわがままさえ苦にならない。場所は今
から決めたいからガイドブックを見たいといった。僕は彼女のお気に入りの原付バイクにま
たがって終電間際の線路沿いを走った。本屋はもう開いているはずはないから何件もコン
ビニをまわったが、要求に沿えるような本は見つからなかった。このまま帰った時の寂しそ
うな彼女の顔を思うと僕はやりきれない。それから1時間以上バイクを走らせた。
やっと都心近くでまだ開いている古本屋を見つけた。幸いにも最近発売されているガイドブッ
クがあった。見かけも古本には見受けられない。おそらく彼女は痺れを切らして待っているは
ずだ。僕はふるスロットルでバイクを走らせた。
彼女は玄関から背を向けて黙って座っていた。いつも不機嫌だとこうだ。
「ごめん」
声をかけた僕に対し彼女はゆっくりと振り向くといつもの恍けた顔をしていった。
「帰り道でなんかあった?」
僕は遅く帰ったからこんなことをいうのかと思った。
「ごめん、遅くなって」
彼女は首を振った。
「違うわ、だってその服」
彼女は僕の胸の辺りを指差した。そこには人の手形が赤々とついていた。
まるで紅葉をした木々の葉のように。

「豚」「縄」「ハンカチ」
258「豚」「縄」「ハンカチ」:2007/10/14(日) 08:44:32
 少年が涙をいっぱい溜めて、「メアリー・・・」と、縄うたれた子豚に頬擦りする。

 
 農場を早く出ようと躍起の運転手が、エンジンの音をたてた。
 メアリーは行く。もう帰らない。
 もの言わぬバラ肉、ロースとヒレ肉になってしまうから。

 少年は、もう耐え切れなかった。6歳には残酷すぎる現実だ。
 「お父さん!ぼく…ぼく、もう一生、お肉なんて食べません。だから、だからメアリーを・・・」
 1歳の妹までが共鳴する、「う゛ぇぇぇー。豚さん、かわいそー」。
 
 運転手は農場主を見上げた。「しゃあないや旦那、次にしましょう・・・今回だけですよ。」

 100年が経過した。
 少年は大人になり、お爺さんになり、霊になって来るべき所に来た。
 そこには当然閻魔大王が、生前を映す鏡を持って鎮座している。

 閻魔大王の第一声。「動物を、不必要に殺し、その肉を食べた事を認めるな!」
 「そ、そりゃないよ。たしかに10歳位からは食べたけど…仕方ないんです。みんな・・・」
 「仕方ないだと!」閻魔は叫んで、ハンカチで目を拭った。
 「豚さんが、かわいそーだと、思わなかったのか!」

※お魚さんにしておこう・・・
次のお題は:「過労」「超光速」「早出」でお願いしまふ。
259「過労」「超光速」「早出」:2007/10/18(木) 00:17:51
「最近、過労気味だな」
大学の研究室でぼくはつぶやいた。
超光速理論の研究を始めて数ヶ月。泊り込みの作業が続き、
たまに家に帰っても実験結果が気になって、早出出勤してしまう。
だいたい、こういう理論的な研究に必要なのは、閃きと考え続ける力だと思っている。
だから、どこにいても仕事はできる。大学に来るのは、考え出した仮説の検証に実験が必要だからだ。
今、ぼくは一つの仮説を立てて、検証を重ねている。
「光速を超えると、時間が過去に戻る」
相対性理論が提唱されて以来、言われ続けている説だが、物質が光速を超えることはできないので、
結果、過去に戻ることもできない、というのが、現在までの結論だ。一部、
ブラックホールを使って可能になる、という説もあるにはあるが。
そこでぼくが考えたのは、「物質ではなく、思考ならば、光速を超えることができるのではないか」
ということだ。
そもそも「思考」というものは、たんなる脳の神経作用による産物で、実体はないのかもしれない。
「考えた」という行為も、その結果出てきたものを本人が話すなり記述するなりの表現によって、
他人が「考えた」んだなと推測するものでしかない。この他人が「考えた」んだなと推測したことも、
この他人本人以外にはわからない。まあ大体、周りの他人みんなが似たような反応をすることで、
お互いが自分と同じ「思考」をしたんだなと「推測」しているのだ。以下、略。

ぼくはときどき、予知夢のようなものを見る。
ほんの些細なことなのだが、たとえば、道を歩いていて石につまずいたとき、この石は夢で見た、
というような感覚になることがある。
これは、今、石につまづいたときのちょっとした思念ショックが、過去の自分に送られて夢に見たのだ、
と、本気で思ったりする。
こういう「結果」を目の当たりにして、仮説を立て、検証するための実験を考える。
……その考えた実験の一つが、ここでやっていることだったりする。
明日はまた朝早く大学へ行こう。

次は、「しおり」「消しゴム」「ボールペン」で。
学校のトイレの壁に詩織の絵を書いたら、消しゴムで消された。
「これはいけない」と思い、ボールペンで書き直した。
先生たちががんばったらしく、次の日にはやはり消されていた。
「さよなら、詩織」
ぼくは諦めて、最後にこう壁に書き付けた。
次の日、やはり壁の文字は消されていた。

「夜」「神」「月」
261名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 01:52:47
保守
262名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 03:36:12

電気を消した部屋は、月の光に満たされた。
かすかに存在がわかる程度の、弱い光。
それはまるで今の僕を表しているかのように思えて、少しおかしかった。

僕が存在するかどうか、それは僕が決めるしかない。
僕の姿を認める人は一体どれだけいるだろう
ただ一瞬目に入っただけ人間を、僕と認識してくれるだろうか
そんなことがあるはずがない、僕を僕と認めてくれる人なんていやしなかった。
せいぜい神様が、僕を作り出したことを恥じてくれている程度だろう。

僕がいま目を閉じてしまえば、僕という存在は限りなく曖昧な物になる。
僕を認める人間がいない世界で、僕が存在する理由なんてあるのだろうか。
いま目を閉じてしまえば、僕は消滅する。
もっとも目を開けていたとしても、この世に僕は存在しやしないのだけれど。

「軽い」「緑」「渦巻く」
263「軽い」「緑」「渦巻く」:2007/10/18(木) 05:22:59
今ぼくは、脳の中にいる。
渦巻く思念、思考、欲望、理想……。
いや、文字にしたところで、とてもすべてを表すことはできない。
ふと、手を伸ばして、「それ」をつかんでみた。「緑」というイメージが浮かんだ。
「緑」とは、何を意味するのか?
色、名前、シンボル、それとも別の何かが一番近いイメージに変換されたもの……。
軽い眩暈を覚えた。
まだ見たことがないもの。わざわざ言葉に置き換えなければ認識できないのか。
とりあえず、手を伸ばしてみたんだ。

「弥」「海」「砂」
264名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 09:47:00
弥彦駅は日本海の砂浜に近い駅だが電車から日本海を見ることはできないです
265名無し物書き@推敲中?:2007/10/19(金) 09:04:13
 冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
 弥生は立ち止まり、夜空を見上げた。
 涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
 無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
飛鳥がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然する、そんな永遠にも似た光景に目眩がした。
 冷たい風は戯れるように、弥生のコートを翻す。我に返り、身を固くした。
 天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
弥生は、再び歩き始めた。
 包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。
266名無し物書き@推敲中?:2007/10/19(金) 09:09:24
↑すみません。改行失敗したことと、お題を忘れました。
次のお題は、ビタミン、紅葉、葡萄です。
267名無し物書き@推敲中?:2007/10/19(金) 09:29:26
あわわわ、すみません。
間違えたの直してないひどい文章を書いてしまいました。リトライします。


冬の風は通りすぎ、撫でた顔は熱くなった。
ふいに、心まで触れたのか、悲しさが瞳まで込み上げた。
私は立ち止まり、夜空を見上げた。
涙に映し出されたひとつひとつの光は、七色に輝くダイヤのようだ。
むかし、むかし、母から聞いた言い伝えを思い出す。
無限に広がりつづける宇宙のどこかに、無数に散らばる星たちのどれかに、
弥生がいるかもしれない。
すべてを覆い隠す深い海から、一粒の砂を見つけ出す。
無限を目の前にして茫然とする、そんな永遠にも似た途方もない光景に目眩がした。
冷たい風は戯れるように、コートを翻す。我に返り、身を固くする。
天を囁く星々も、海に眠るも砂粒も、神様がひっくり返した宝石箱のダイヤなのだ。
神様の宝物を欲しがってはならない。神様にとって、どれも大切ないのちだから、きっと大事にされるはず。
震える声で、自分に言い聞かせるように、励ますように、静かに呟いた。
私は、再び歩き始めた。
包み込むような柔らかい風が、背中をやさしく押した。
268名無し物書き@推敲中?:2007/10/19(金) 23:49:23
ある秋の、他の生徒はみんな帰ってしまった夕方、少年は美術室で絵を描いていた。
絵には、白い皿に葡萄がチョコンとのって、茎の先々には青く瑞々しい膨らみが
生っているが、一つだけ皮のない実があって、甘汁が他の実を伝って、皿に零れ落ちようとしている。
少年は、皮のない実を一つ描いただけで葡萄らしくなくなって見えるのに驚いた。
普段、ビタミンが豊富だとは知っているものの、気にかけず捨てる、なくてもと思っていた皮がない
葡萄は気味悪く、いかにも不自然であった。夏に咲く桜、或いは春の紅葉を想像したときと同種の
不快を感じた。それはいかにも不自然であった。
少年はすこし悩んで、皿の端に萎びた皮を据えた。何だか葡萄らしくなった。

「生きる」「芸術」「労働」
269404:2007/10/21(日) 00:44:08
 叔父の家に行きました。労働も止め、金も無くなり、生きるに困難な状況だったのです。
しかし父と喧嘩中の私は、家に帰るわけにもいきませんでした。

 叔父は芸術家気質の風変わりな人間で、滅多に口をききません。差し出されたサラダ料理
をほおばりながら、やや気まずくなって声をかけました。
「これ、美味しいですね」

「これはね、遺伝子組み換えの野菜なんだよ」洋書から眼を上げた叔父は、薄く笑ってました。
270404:2007/10/21(日) 00:46:39
次お題「セピア」「水滴」「逡巡」
271人形師 ◆wa1a4mh476 :2007/10/22(月) 07:49:08
17年間をいっしょに過ごしたセピア
あたしの大切なゴールデン・レトリバー

セピアは朝の四時半くらいに動かなくなってしまったけれど、
あたしはどうしてか分らないままに、こうしてずっとセピアの身体をさすっていたんだ。
けどね、、、セピアの身体がどんどん冷たくなっていくのを感じていたら、、、

ごめんね、セピア。
あたしの心がセピアから離れていくのを、どうしても止められなかったよ。
なんだかもう、、、セピアの身体がセピアじゃなくなっちゃった気がしてさ。

あたしの手が逡巡してたのは分ったけど、あたしはセピアをさするのをやめてね、
ふと気がついたら、もう窓の外が明るくなりはじめていて、
軒下に架かっていたクモの巣が、水滴で垂れ下がってハート型みたいになってた。
昨日までいたはずの、あの黄色いしましまのクモ、いなくなって空っぽの巣だった。
ずっと、、、分らなかったけど、雨が降っていたんだね。


次のお題 「梨」「ランプ」「トタン屋根」
272名無し物書き@推敲中?:2007/10/22(月) 14:18:09
 近所のスーパーマーケットで買った梨を食べようとして、冷蔵庫を開けると
ミネラルウォーターと缶ビールの他には最低限の食料しか入っていないはずが、
ランプが所狭しと並べられている。油に火を灯す、古い代物で、試しに一つ
取出してみると、急に辺が暗くなって、アパートの一室は古城の広間になっている。
二階へ続く、金の装飾が施された階段を誰かが降りてくるので、ランプをかざすと
赤い目の、前歯がひどく突き出した顔が現れて、頭の上まで伸びた耳が微かにゆれている。
「さあ、遊戯の始まりだ。失敗すれば二度とここから出られない」
 不思議なステップで階段を下りながら、陽気に言うので、段々と楽しくなってくる。
「何をするんだい」
 階段を降りきって、正面まで跳ねてきて、笑いながら、
「今回はかくれんぼをしよう。そのランプが消えるまでに僕を見つけてくれ」
 と言って、宙返りをすると消えてしまう。浮かれた足取りで、広間の扉から出ると、
トタン屋根の上にいて、周りはいろいろな形の屋根が敷き詰められていて、隠れる場所はない。
入ってきた扉もないので、とりあえず屋根の絨毯を歩くことにした。
 その日、アパートの火災で一人の男が死んだ。

次のお題「懐中電灯」「水」「即興」
 
 
 即興で『罠』を作ることを考えてみよう。
 懐中電灯と水を用いて、果たしてどんな罠が出来るだろうか。
 一番初めに思いつくのは、水の屈折率を利用した水深詐欺じゃなかろうか。
 水底を覗くと、一見足が届きそうに見えるものの、実際に潜ってみると予想以上に深く、慌てて犬掻きなどして窮地を脱出した、などという経験のある人間はそこかしこ居るものと思われる。
 当然、懐中電灯の光も光線の一種に相違ないので、水底に差し向ければ底に届く照射の光は、実際よりも底を浅く見せ、これなら大丈夫そうだと飛び込んでみる。
 するとアラびっくり、足裏にしっとりと絡みつくはずの水底は身長よりも僅かに遠く、予想だにしなかった事態に誰彼も無様な醜態を晒すハメになるのである。
 まぁ、そんな罠に引っかかるようなマヌケが現実におはすならばお目にかかりたいものだが。
 さて、次に。エレクトロフィッシャー(電気ショック漁)の技術を流用した『罠』はどうだろうか。
 エレクトロフィッシャーの原理は、水中に+、-それぞれの電極を差し込み、通電させることにより生体ダメージを与える、ただそれだけである。
 が、賢明な方は既にお気づきであると思うが、この方法は語るまでも無く、机上の空論にも値しない。
 懐中電灯に用いられる一般的な電池はマンガン、アルカリ共に十ボルトに満たず、市販されている共通規格内で最も強力なものを用意したところで三百ボルト程度の電圧しか得られない。
 ちなみに、防犯グッズとして販売されているスタンガンの電圧はおおよそ五千〜五十万ボルトのモノが主流であり、皮膚に接着させて対象を気絶させようと考えた場合、五秒程度要する。
 以上より、エレクトロフィッシャー系の『罠』は懐中電灯の電極を用いるという前提を踏まえた場合、全くの役立たずであることがお分かりいただけるだろう。

 よって私は提言する。即興で最も効果的な『罠』とは。
 それは、二メートル以上の水深を持つ人気のない川べり、ないし海辺に対象を呼び出し(方法は問わない。罠であればなんでも良い)、背後からこっそりと忍びかかり、無防備な後頭部を懐中電灯で一気に殴り捨て、それから水中へ蹴落とすといった物理的行使である。 
 懐中電灯には様々な規格が存在するが、片手で持てるといった基準をクリアするものには、一キログラムを越えるものは多く有るだろうし、なにより取っ手がついている、防災に備えてそれなりの強度を備えている、など殴打するには利便性の高い点が幾つか挙げられる。
 殴られた相手が、一撃目で昏倒せずコチラに振り返ってきた場合にも、いきなり光を浴びせかけ、ひるませることができる追加効果にも期待できる。労せずして、二度も水中へ蹴落と機会を我々は得ることができるのである。
 どうだろう。即興に最も必要なもの、それは予測し得ない事態にも対応できるだけの柔軟性だ、と私は考えているが、いろいろと道具を拱いて計画を立てるより、流動性に任せた最後の案こそが、最も即興たる即興として、分かりやすい有効性を提示しているのではないだろうか。
 事後処理に手間がかかるだとか、犯行がすぐに露見してしまうのでは、という危惧をどこかに置き忘れた先見性の無さも、即興としての価値を高めている。



申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『エジプト記』『兄貴』『四次元超立方体』でヨロシクー
275名無し物書き@推敲中?:2007/10/22(月) 17:58:28
 兄貴は天才だった。ハーバードへ留学して、Ph.D.(哲学博士)を取得した。
エジプト文明に関心があって、ピラミッドを見に行ったこともある。
 交通事故で死んで、遺品の整理をしていると、そのときのエジプト記と題された
ノートが出てきた。興味深いのはピラミッドに対する深い考察と、それに関連付けてある
四次元超立方体の理論である。それは次のようなものであった。

 私はピラミッドから、この三次元空間に擬似的に四次元空間をトレースすること
によって、四次元超立方体を構築できるソースを得た。433のシュリーレフ記号であらわされる
テッセラクトはヒルベルト空間上において、suggestion(シュゼスション)されている。
非線形電磁気空間理論に基づいて、これはピラミッドのCorps diplomatique(コオル ジプロマチック)
的見地で見ると、スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルが混在してはいるものの
次の方程式が成り立つことが証明できれば、四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)である。
(方程式の部分は字がかすれていて読み取れない)
 四次元超立方体はfrivole(フリヴオル)であると仮定すると、レヴィ・チビタ接続が定まる。
よって、四次元超立方体はironiquement(イロニックマン)であり、三次元においてflegmatique(フレグマチック)
であることが可能なのだ。
さて、これを読んでいるあなたには方程式もこの理論も理解できないだろう。当然のことだ。
これは全くのデタラメなのだから。

 久しぶりに兄貴のユーモアが帰ってきた部屋で、オレは静かに兄を思った。

次のお題「金木犀」「恋」「ハンカチ」
276404:2007/10/27(土) 11:00:54
 あの娘が好きです。恋をしました。
 ですので、廊下ですれ違った時にハンカチを抜き取ろうとしたのです。
「これを落としましたよ」
「ありがとう」
そうやって、きっかけが作りたかったのです。
 でも私はしくじりました。その金木犀の刺繍のハンカチを抜き取る時に、
あの娘の体に触れてしまったのです。
「きゃっ、あなた、私にさわりましたね?」

 それが今、私がここにいる理由です。

次お題「消耗」「切り取る」「鏡」
277「消耗」「切り取る」「鏡」:2007/10/29(月) 00:23:24
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだぁれ?」
 鏡はいい加減憂いていました。なににって?
 そりゃ奥さん、そんな馬鹿げた質問に毎度毎度判を押したような返事をすることにですよ。
 鏡がこんなこと考えるなんて傲慢だって思っちゃいるんですがね。大切に扱ってもらってる恩義もありますし。でも、考えてもみてくださいよ。
 寝覚めの朝、スッピンの女王がまず初めに口にするのがそれ、公務にやつれた表情で口にするのもそれ、夜伽の汗に崩れた下地を拭い落としながら口にするのもそれ。お世辞も消耗して、二枚舌じみてくるってもんです。
 別段、何かを求めてるわけじゃないんです。ただひとつ私が提言したいのは、自らの美しさに対する自信や裏打ちを得たいがために話しかけようってんなら、最低限の体裁を整えてから問いかけるべきじゃないんですかね? ってことなんですよ。
 世の男性百人居れば百人ともの恋が冷めるような醜貌を晒して、この世で一番美しいのは、なんて滑稽を通り越して悲哀すら覚えてしまいます。
 なーんて、口にのぼらせることはないんですがね。
 この立場を捨てるか否か、なんて天秤には乗っかりゃしませんよ。所詮私は、喋るだけのモノですから。今以上の待遇なんて望みようがないんですから。
 というような経緯があって、ある日私は一計を案じてみたわけです。
 はてさて、私の眼力は美女を見分けることに関しては千里眼。美しい村娘の一人や二人見つけることぐらい朝飯前ですよ。と、ここまでくればみなまで言わずとも分かってくれますよね、奥さん。
 そう、私の考案とは比較対象を女王の前にぶら提げてやることだったんです。美しさの基準、最低ラインになるような喫水線を。
 女王の嫉妬心を掻き立てられるような娘なら、ぶっちゃけ誰だって良かったんです。
 清貧で、若くて、己の美しさに無自覚なまま青春を謳歌している娘であれば。
 ま、こんな愚痴やぼやき、民草の間でまことしやかに語られている、あの美しい御伽噺にゃ不釣合いですからね、一切合財切り取られちまってるみたいですが、世にあるサクセスストーリーなんてこんなもんですよ。
 どう生きようが関係が無い。身分不相応な幸せを手にしようとするなら偶然に期待するしかないんですよ、奥さん。
 奥さん? ねぇ、聞いてます? どうして急に耳を塞いじまったりするんです
278名無し物書き@推敲中?:2007/10/29(月) 00:26:33
次のお題は『悪魔の辞典』『測定』『クローバー』でヨロシクー
279名無し物書き@推敲中?:2007/10/29(月) 11:14:17
真っ暗闇の中に小さな机が置かれています。上から丸い光が降りています。
丸い光に照らし出された台に本が置かれています。机の上の本は「悪魔の辞典」
と題してあります。題した下に著者の名前があります。本の真中にクローバー
が一つ乗せてあります。三つ葉です。測定すると三センチです。
ただし、当社の定規を使えば三,三三センチまで測れます。何とも縁起がいい。
ちょっと幸せになる「クローバーの詳細正確定規」を是非お試しください。
本の厚さを測定すると、六センチです。
ただし、当社の定規を使えば六,六六センチと言うことがわかります。不気味ですね。
ちょっと怖い「悪魔の詳細正確定規」を是非お試しください。

次のお題『高等数学』『ベクトル』『余興』

 高等数学、という言葉を耳にして少年は頭が痛くなった。
 受験の数学だけで十分煩わされているのに、その上『高等』だって? なんだそりゃ?
 とりあえず、少年はgoogleで検索を掛けてみる。高等数学、高等数学……っと。
 ふーむ。高等数学に一致するページ は約73,700件、その最上段にヒットしたのは数学勉強法、ついで米マイクロソフトの検索用アルゴリズムか。その下には、教育数学に関しての情報が連々と並んでいる。
 wikiがトップにヒットすれば、その情報を元に話を組み立てようと企んでいた少年してみれば、これはあまり芳しくない検索結果だ。どうやら、地道な検索プラス自らの知識を持ち寄って、お話を創らなければならないらしい。
 少年は腕を組むと、首を僅かに傾け黙考してみる。何か、良いアイデアは浮かばないだろうか。
 現在学んでいる高校数学をアレンジした話をぶちあげ、誤魔化してみるか? いやいや、それじゃお題を消化したことにはならないだろう。けれど『高等数学』なんて得たいのしれないワードと真正面から向き合うのは、極力避けたい。
 己の頭の悪さは存分に把握している。
 と、いうわけで少年は触り最低限の知識を得るため、ネット上を奔走してみることにした。
 
 ……ははあ、なるほど。今回、『高等数学』と『ベクトル』のキーワードが同時に用いられれていたのは、高等数学が、ベクトル解析と線形代数の分野を包括しているからで――
 ここからは私見になるけれど、ベクトル解析はどうやら、ベクトルと解析学に分割して考えられるみたいだ。と決め付ければ、高校数学を履修しただけの(しかも文系選択なのでUBまでしか履修していない)自分にも何とか理解できそうだ。
 科学課目は、幸いにして物理学を選択しているし……。
 おそらく所々、消化しきれない部分は出てくるものの、何とかそれらしきものを他人に説明できるぐらいにまでは、会得することができるだろう。
 少年は満足げに頷き、頷いた瞬間、目の端で捉えた情報にハタと動きを止めた。
 なんということか、後先考えずに書き出した文書は字数制限を間近に迎えているではないか。本編を語らずして、前振りだけで話を閉じるなど、なんと本末転倒な余興だろう。
「高等数学……」
 小さく呻くと、少年は天を仰ぎ目を閉じた。嗚呼、高等数学。なんとも頭を痛くさせる言葉じゃあないか。
281名無し物書き@推敲中?:2007/10/29(月) 13:52:15
次のお題は『墓地』『秋』『土いきれ』でヨロシクー
282404:2007/10/30(火) 04:40:08
 道路も木々も、群青色に染まる夜。肌を刺す冷気に肩をすくませて、私は一人で歩いていました。

 するとどこからか、ざくざくと土を掘る音が聞こえてきて、首を曲げると、そこには墓地がありました。
暗がりの中、さらに目を凝らしてみると、綺麗な身なりの老人がシャベルでせっせと穴を掘っています。
不気味な光景でした。しかし、その老人の傍らにあった薄茶色の物体、それが何であるか気を取られ、少し
近づいてみました。

 後でわかったことですが、その老人は未知の事柄に対して非常に臆病な性質であったらしいです。宅配便
が来ても対応の仕方がわからないため居留守を使ってやりすごし、買ったテレビが不良品でも返品ができず
に押し入れの奥にしまいこみ、国民保険金も支払い方がわからないため払わず仕舞い。
 その彼の苦手な部分を補ってくれていたのが彼の妻でしたが、その妻が亡くなると、彼は対処に困って
墓場に穴を掘り始めたのです。それを夜中に実行したところをみると、誰にも知られず秘密裏のうちに、
解決してしまいたかったのでしょう。

 保険局に電話一本かける手間よりも、墓場に深い穴を掘る手間の方を選ぶとは、なんとも奇妙な話ですが
実際にそういう人間は存在するそうです。

次お題「呪い」「歌」「沈む」
283名無し物書き@推敲中?:2007/10/30(火) 11:50:58
(転生人語)2009/10/30版

 ▲皆様はご存知だろうか。遥か太古、地球上にひとつの巨大な大陸が存在したことを。
 ▲その名は『レムリア大陸』。インド洋上に三角形の形状をとるグリーンランドサイズの大陸は、紀元前五千万年ほど昔に一大文明を築き、誰に知られることも無いまま海の底へ沈んだと云われている。
 ▲この大陸の有無に関して、地質学者、気象学者、神秘学者、様々な学問を修める者が関わってきたが、現在における位置付けに決定打を放ったのは気象学者のアルフレート・ヴェーゲナーである。
 ▲現代ではプレートテクニクス(プレート理論)と呼ばれる、大陸移動説を以て彼は『レムリア大陸』を否定した。
 ▲プレートテクニクスとは、マントルの流れに沿って大陸は移動する、と云う考え方であり、その説に『レムリア大陸』を照らし合わせてみた場合、全く位置を変えずに存在したと伝承される彼の大陸は、地質学の性質上有り得ない、と断定されていた。
 ▲然し、この論拠は1999年『外惑星型・太古衝突』により、根底から覆されることになる。
 ▲今から十年前の事件ではあるが、皆様の記憶にも新しいのではないだろうか? クトゥルー神話によってのみ語られていた、旧支配者層の一部が地球に飛来した事件は、当時一大センセーションを以て迎え入れられた。
 ▲その旧支配者の一部は自らをNyarlathotepと名乗り、様々な形態をとることのできる『千の貌』と云う、物理学や生態学を一足飛びに超越する能力を披露してみせた。
 ▲また、古来や現代、ありとあらゆる地域の内情に精通しており、彼(便宜上ここでは彼としておく)の口から語られる事実は非常に正確であった。
 ▲それも、驚くべきものばかり。ケネディ大統領暗殺事件の犯人、ジム・クレイ博士行方不明事件の真相など、我々の知り得ない情報を幾つも語り、確証が取れるものに関してはありとあらゆるものが正しかった。
 ▲その彼が『レムリア大陸』の存在を肯定した。彼の一言は今や、どんな研究成果よりも重大な価値を有しており、何よりも信頼に値する。よって我々は、ヴェーゲナー学士による学説否定を打ち消し、彼の大陸の存在を認めねばならないのだ。
284「呪い」「歌」「沈む」(2/2):2007/10/30(火) 11:51:53
(補足)

 ○世間一般においては『ムー大陸』の方が聞こえは良いだろう。
 ○その『ムー大陸』は、Nyarlathotepの伝承が記されているクトゥルー神話体系では、『レムリア大陸』と云う名で触れられている。
 ○Nyarlathotepに拠れば、彼の大陸が沈んだ要因にセイレーンの歌が関連しているらしい。
 ○セイレーンとは、ベテランの船乗り達をも震え上がらせた海の魔物、その美しい歌声で船を沈めてしまうと云われている北欧、ギリシャ神話を元にした伝説上の生物である。
 ○我々がなぜ北欧、ギリシャの生物が『レムリア大陸』の存亡に関わるのか、に言及すると、彼は呪い子テュポーンの名を挙げた。
 ○ギリシャ神話に、強力な魔神として登場するテュポーンは、当時ギリシャの天上界に居を構えていた多くの神々をエジプトへ追いやったそうだ。
 ○その際、追われた神々、神の眷族の一部が更に東方に位置する『レムリア大陸』へ行き着き、彼の大陸の神として君臨したと彼は語る。
 ○以降、どういった内情があったのか定かではないが、上記の事実を以て『レムリア大陸』は沈没の憂き目にあったのだろう。
 ○『〜のだろう』、とはっきりしないのは、Nyarlathotepが、セイレーンの歌がどのように作用して『レムリア大陸』を沈めたか、の事実に関しては固く口を閉ざしてしまい、聞き出すことができなかったからである。
 ○古代エジプト時代に著名な占い師として歴史に顔を覗かせた彼にとって、北欧の神々、ギリシャの神々の存在は何か特別、感慨を抱かせるものがあるのかもしれない。
 ○もしかするとそういった神々とは一切関係なく、旧支配者を討つ者として有名な、旧神Nodensが関わっているのかもしれない。
 ○それとも『レムリア大陸』からは望むことができたと云われる恒星フォルマルハウトの顕現に拠り召還され、Nyarlathotepの棲まうン・ガイの森を焼き尽くしたCthughaに何か関連が……
 ○我々が神話体系について知りえることはごく僅かにすぎず、『レムリア大陸』の謎は、依然深まるばかりである。



申し訳ない。長くなってしまいまった
次のお題は『トラットリア』『二丁拳銃』『喪服』でヨロシクー
285トラットリア 二丁拳銃 喪服:2007/11/01(木) 07:20:42
依頼者は殺し方に注文をつけた。おびえる相手の顔を拝見したいというのだ。俺が銃を突きつけ
ると依頼者が止めに入るという段取り。依頼者はただの目撃者であるというわけだ。
指定された小さな食堂。俺はテーブルに近づいた。チラと依頼者は俺を見る。依頼者は下を向いた
まま苦笑いをした。その格好は目立つというわけかい。この場所にこの格好はまずいとでも。黒のス
ーツに黒のタイ、喪服が仕事着というのも葬儀屋と殺し屋ぐらいだろう。いいじゃないか。幸いにもここ
には俺とおまえ、ターゲットの3人というわけだ。かまわず俺は両脇に手を突っ込み拳銃を抜いてみせた。
この状況は馬鹿げてはないか。たった一人を殺すのに黒服の男が二丁拳銃とは。腐ったドラマの
ようだ。でもこれは俺の美学≠ナあるのだ。最低≠フ人間をやるのには最低≠フ行為で
対する。馬鹿げた奴に殺される、このざまといったら笑えるじゃないか。
ターゲットはぽかんとして、二丁の銃を突きつけられ、何が起こったかわからぬ様子だ。打ち合わ
せ通り、依頼者が止めに入った。「なにをするんだ!」辺りは静まりかえっている。
俺は笑った。「なにをするんだだって」
今度は依頼者がぽかんとした。打ち合わせと違うからだ。
俺はいった。「この場所はなんていうんだ。あ?いってくれ」依頼者はわけがわからぬ様子だが、
声を振り絞った。「×××」
「ちがう!店の名前じゃない。レストランとか、お前がわざわざ使う言葉だ。トラ何とかだよ」
「トラットリア・・・?」
「そうだ。それだ」俺は満足した。
ターゲットは下を向いた。笑っていたのだ。そのうち上を向いて高笑いした。そして俺にこういった。
「おねがいだ!殺すなんてやめてくれ!」
俺は二丁の拳銃を新しいターゲット≠ノ向けた。全くもって人生はやりきれない。

「ヒント」「体形」「望遠鏡」
286名無し物書き@推敲中?:2007/11/08(木) 23:12:30
望遠鏡を覗いている僕を彼は突き飛ばした。僕は吹っ飛んだ。
地面を1回転転がってから頭を下にぶつけた。
知的な僕が望遠鏡を眺めるその様が彼には気に入らないというわけだ。
朦朧とする意識の中彼の顔を見上げた。僕の目にぼんやりと映る彼の顔は
笑っていた。
なんて下品な笑いだ!
彼の体形のことなど言いたくないがスナック菓子と炭酸飲料を大量に摂取
した彼の体を僕は美しいとは思わない。
彼はご機嫌に望遠鏡を覗きだした。
彼のような人間にこの夜空、星の美しさが分かるはずがない。
星座など知るはずもないだろう。
オリオン座、北斗七星、冬の大三角形。
こいつが望遠鏡を覗いて一体何になるっていうんだ。
愚鈍なこいつが!
愚鈍なこいつと知的な僕、そして望遠鏡。
知的な僕の知的行為。破壊された知的空間。
こいつがのしのしと歩いてきたその様は神話のトロルそのもの。
よだれなんか垂らしやがって!
「生きるヒント」。こいつの愛読書だ。
何を読んでやがるんだ!
はあはあ言ってないでさっさと望遠鏡を返しな!



剣、いばら、穴       で。
287名無し物書き@推敲中?:2007/11/09(金) 11:00:18
>残飯さんはどうなるんだろうねwww


刑務所か精神病院かどちらかだろうね
そうでなければ東京のどこかだろう。ホーレスには居心地がいい
ファストフードのゴミ箱を漁りながら有名人に対する呪詛を撒き散らしながらどこかの公園で野垂れ死に


     被害者達に許しを請うように体を二つに折り
     縮こまって死後硬直している姿が目に浮かぶよ


俺には分かっている。この掲示板ゲームと同じようにね


     問題は時間、常に時間だけだ
 
288名無し物書き@推敲中?:2007/11/09(金) 16:47:28
「剣の道はいばらなり、穴なり」と言ったのは、かの有名なアーサー王である。
アーサー王の馬の世話係をしていたツェペリと言う男が、アーサー王に「剣の道は如何ぞ」
と聞いて、答えたと言うことである。
「其の心は如何に」と馬番が聞くと、
「其の険しきこといばらの道の如く、無益なること穴なる杯(はい)に注ぐが如し」
 西暦523年、激しさを極める事となる、カムランの戦いに出陣しようという時であった。
この戦いでアーサー王は戦死し、彼の王国も滅び、戦乱の世が訪れる事になる。

次のお題「欺瞞」「自己同一性」「儕輩」
289名無し物書き@推敲中?:2007/11/10(土) 14:42:17
おれは4年前にこの状態を予見していた
だから2年待った

乗り込んだ以上慈悲は見せない


      覚 悟 し や が れ 


必ず   z a n p a n 鍋にしてイヌに食わせてさしあげる
 
 
290名無し物書き@推敲中?:2007/11/10(土) 18:46:13
欺瞞に満ちた目で彼らは僕を見ていた。
僕が信じられないというのか。僕の言うことが。僕の理念が。僕の信念を。
君達は今眠った状態だ。眠らされているんだ。この星にね。
僕もかつてはそうだった。でも兄さんが僕を起こしてくれた。
覚醒させてくれた。紹介するよ。兄さんだ。
兄さん、来て。この人が僕の兄さん、僕等の兄さん。この星を皆と一緒に創り変えていく
創世者、ギャラカテック兄さんだ。君達は同士だ。僕と兄さんと君達でこの星を創り変えるんだ。
君達は今どんどんこの星に命を削られている。
君達は気付かないかもしれないけど君達の目は日に日に虚ろになっている。
僕と兄さんと一緒に闘うことが唯一の君達の自己同一性を守る手立てだ。
今こそ立ち上がるんだ!彼等の瞳が緑色に激しく輝きだした。
僕たちは手と手を取り合い一つの大きなサークルを作った。
僕と兄さんは彼等の体に植物でできた武器を埋め込んだ。
今日から僕たちは兄弟だ!苦しみも悲しみも喜びもすべて一つだ。
兄弟達よ、僕は君達のためなら喜んで血を流し命さえ差し出そう。
兄さんも同じ気持ちだ。兄弟達よ、今日という日が記念すべき僕達の独立の日だ。
兄弟達よ、今こそ僕等と一緒に君達自身の人生を生きるんだ。
さあ、共に行こう。僕達の理想の世界へ。兄弟達は歓声をあげた。
兄弟よ、僕は本当に君達のためなら命も差し出そう。








命、クリスタル、地球    で。
291名無し物書き@推敲中?:2007/11/11(日) 08:57:46
赤い運命、なんとなくクリスタル、地球へというのがむかしはやってました。
赤い運命が好きだった女の子は今や食っちゃ寝専業主婦ただのババアになって
引越し引越しさっさと引越ししばくぞと歌いながら毒入りかれーをつくります
あのじいさん砒素で殺せば私の青春を取り戻すことができる青春が戻るんだ。
デブの食っちゃ寝専業主婦真須美はカレーの入った鍋の蓋を開ける事にした。
292命、クリスタル、地球:2007/11/11(日) 11:23:01
 Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に命のクリスタルがあった。ルビーのように赤く、
地球のような神秘を秘めていた。Aは己の悟りが間違っている事に気づいた。
命のクリスタルを食べ、不老不死になって、山に篭った。
 Aは長年山に篭って、仙人のような暮しをして、悟りを開いた。
そして、己の悟りを皆に伝えようと決心して、山を降りた。
山を降りる途中に……

次のお題「一頓挫」「隔靴」「儘」
293名無し物書き@推敲中?:2007/11/11(日) 11:54:00
「『一頓挫』って、なんて読むの?」
「しらねえよ」
「『一頓挫』って、どういう意味なの?」
「しらねえって」
「じゃあ、『隔靴』は?」
「しらねえよ、そんなの知ってどうすんだよ」
「知りたいんだよう」
「死ねよ」
「『儘』でもいいよ、おしえてよ」
「……頭に『我』をつけてみ」
「?」
「お前のことだよ」

お次は、「お金」「キャッシュカード」「金塊」で。
294、「お金」「キャッシュカード」「金塊」:2007/11/11(日) 13:10:11
お金をキャッシュカードで買って、金塊に変えた。今時分の実業家なら、
的を得た判断だと、想うだろう。策略家の気の置けない友達に、まんまと騙されて、
大損をした汚名挽回だ。オレは大手の会社の副社長で、役不足もいいとこなのだが、
一生懸命やって、何とか勤めている。例の友達は、ライバル会社の副社長で、
伝統をおざなりにして、改革を行い、脚光を集めている。絆は深いと想っていたのに、
騙されてしまった。口惜しい。

次のお題
「明鏡止水」「ステアリング・ホイール」「南極大陸」
295人形師 ◆wa1a4mh476 :2007/11/12(月) 05:50:48
俺達はチリからC-130輸送機で南極大陸のパトリオット・ヒルズ基地へ入り、
そこからヘリテージ・レンジと呼ばれる海岸へ移動して、電気自動車による
南極大陸縦断を開始した。最終目的地は南極点にあるアメリカ政府のアムンゼン
・スコット基地だ。1時間かけて10km走行しては、太陽パネルと風力発電機で
4時間充電するという地道な作業を繰り返しながら、俺達、つまり俺と沢村は、
この7週間をひたすらに走り続けてきた。それが・・・南極点まであと200km弱を
残す所まで来て、このざまだ。それ程でもないと思われたサスツルギ*を一気に
越えようとして、俺達のクルマと牽引していたトレーラーは激しく横転、
積載していた充電設備を派手に撒き散らしながら大破したのだ。
状況は深刻だった。まず、トレーラーとの接続部が大きくねじれ、充電設備の
牽引が不可能になっていた。また、大半の太陽パネルには亀裂が発生し、
発電不能。その上、クルマを運転していた沢村が左足大腿部を骨折していた。
クルマが何度か横転したとき、ステアリング・ホイールに足をからめ取られ
たのだと、沢村は先程まで苦悶の表情で話していた。しかし、その沢村も
今は遠くを見るような曖昧な視線を中空に投げかけて、ボンヤリとしている。
意識レベルが明らかに低下していた。もちろん、俺は何とか生きていた通信機を
使って、アムンゼン・スコット基地に救助を求めはしたのだ。しかし、
少し前から酷くなり始めたブリザードを理由に、早急な救助は難しいとの回答。
あと3時間もすれば、この辺りは氷点下30℃に達するだろう。

・・・そんな中で、俺はふと笑ってしまった。これ程までに絶望的な状況で、
明鏡止水の境地とも言えるほど、俺の内側が静まり返っていることに気付いた
のだ。すべてが見えているようにも思えた。何か、わくわくするような戦慄
さえ感じた。 ・・・さて、何から始めようか。俺の戦いはこれからだ。


*サスツルギ: 風向きに従って形成される氷雪の小山。高いものでは2mに達する。


次のお題 「扇風機」「雪」「三葉虫」
296404:2007/11/12(月) 18:37:16
 僕は、病弱な子供だった。体育の授業の度に見学させられたし、外で遊ぼうとすると止められた。
だから、いつもとっても詰まんなくて、遊び相手だったお婆ちゃんに
「僕も普通に遊びたいよ。それにうちって貧乏だからゲーム無いじゃん」って言ってた。

 ある日突然、そんな僕にも幸福が訪れた。先生が理科の授業の後、こっそりと僕を呼び止めて
三葉虫の化石をプレゼントしてくれたんだ。
「高志は化石好きなんだろ? これ、高い奴だけど、みんなには内緒な」とっても嬉しかったよ。

 でもね、家に帰ってお婆ちゃんにその事を言ったら、普段優しいお婆ちゃんが、急に怖い顔して
「そんなもの、もらっちゃ駄目だよ」って言って、嫌だったのに無理矢理化石を取り上げちゃった。

 とっても怒ったよ。
「なんでなの!お婆ちゃん、返してよ、僕のだよ!」しまいには、部屋の隅に置いてあった扇風機を
思い切り蹴っ飛ばして「ふざけんなよ! 死んじゃえよ!」って言ったところ、隣の部屋からやって
きたお父さんが僕のほっぺたをビンタして、だから僕は思い切り泣き出した。
 その日から、お婆ちゃんを無視するようになって、お婆ちゃんが死んだ時も、ざまあみろ、って
思ってた。

 貧乏だった我が家にも多少の余裕が出来、僕の病気は薬で治って元気に成長して大人になった。
雪が降りこめる、お婆ちゃんの十回忌。お母さんがそっと耳打ちしてくれた。
「高志の病気治したあの薬だけどね、お婆ちゃんが高志から取り上げたあの化石を売ったお金で
買ったの。とっても高い薬だったから。それにお婆ちゃん、自分が死んだ時に高志があまり悲しま
ないようにって・・・・・・」

なんで、なんで、なんで・・・・・・その単語だけを繰り返し口ずさんで、俺はわんわん泣き出した。
297404:2007/11/12(月) 18:43:30
次お題「海老」「白」「つらら」
298海老・白・つらら:2007/11/15(木) 01:21:23
吐く息は白く、家屋の軒先にはつららがぶら下がっている。
まさかこのような極寒の地に飛ばされるとは。男は己の不運を嘆いた。
たった一つの小さなミスでこのサマだ。
男は雪道を音を立てて歩いている。目指す工場まで後少しだ。
約束の時間までまだ一時間以上もある。少々腹の方も悲鳴を挙げてきている。
どこか良い店はないだろうか。男が辺りを見回すと、古ぼけた看板が目に入った。
今にも消えそうな文字で食事処と書いてある。男は一瞬迷ったが、他に店も無いようなのでそこで昼食をとることにした。
私以外に客は見当たらない。古ぼけた感じの店だ。しかし、注文を取りに来た女性は、意外にも若く、美人であった。
女性は無愛想にメニューを私の前にポンと置き、そのまま奥の方へと引っ込んでいった。
憮然としながらもそれを開く。数多くあるメニューの中から、私は海老フライ定食を注文した。好物なのである。
外に目をやると、かなり吹雪いてきていた。目的地まではあと十分は歩かないといけないだろう。
ほどなくして、海老フライ定食が運ばれてくる。茶碗の中の米は白く輝いており、私の食欲を存分にそそっている。
そして海老フライに視線を向けた時、私は目を丸くした。
海老といっても、それは甘海老であったのだ。皿が大きいので、よけいにフライが小さく見える。
私は先程の店員を呼び、これを問い質した。すると、彼女は氷柱のように冷たい眼差しでこう答える。
「ここいらへんは、甘海老しかとれないもんで」
言い終わると、彼女は自分の役割はこれで終りと言わんばかりに下がっていった。
私は、海老フライと呼ぶにはあまりに小さすぎるそれを見下ろし、これからのことを思い、大きな溜息をついた。

次のお題
「天使」 「祭壇」 「人工知能」で
299海老・白・つらら:2007/11/15(木) 01:25:42
途中から一人称になってしまったorz
祭壇への階段の下、息子も息子の嫁も孫娘も、口々に私に祝いの言葉を贈ってくれた。
20の歳から40年連れ添った一つ年下の妻が、私の手を握った。
「ワタシもすぐに行きますから、先に行った皆さんによろしくご挨拶しておいてくださいね」
「わかった。皆も元気でな。向こうで待っているからな」私は妻の手を握り返してから、天使の待つ祭
壇への階段を上った。
「ようこそ、天国の入り口へ」優しく微笑んだ天使は私の手を取り、祭壇にしつらえられた椅子に導い
てくれた。私を椅子に座らせると、天使は自分の頭の上の光る輪を両手で持った。
「さあ、これをつけたらあなたは天国の住人になります。飢えもなく、病も無く、痛みも無く、老いも
無い。現世の方とはテレビ電話でしかお話できなくなってしまいますが、それもわずかな期間のこと。
すぐにお相手も天国に来てくれますからね。では、心の準備はよろしいですか?」私は天使の言葉に力
強く頷いた。
天使は私の頭にうやうやしく光る輪を載せた。そして、目の前が真っ白に輝いた。

祭壇の椅子の上、親父の頭に載せられた光の輪は次第に輝きを増し、やがて見つめていられないほどに
なった。まばゆい光が去ると、祭壇にいた親父もホログラフの天使も消えていた。
「おじいちゃん、天国に行っちゃったね」娘の言葉に「そうね」と嫁が頷く。「明日には設定を終えて
電話をよこしてくるかしら?あの人、優柔不断だからもっとかかるかしらね?」母がくすくす笑った。

人間の脳の構造を人工知能に移植することが可能になった現在、環境問題・人口爆発・食糧難・老人介
護などの問題を解決する究極の手段として生まれた「60歳天国移住法」。
人々は60歳の誕生日を迎えると、その記憶と人格を人工知能に完全に移植してコンピューターの中の
仮想空間に「移住」するのだ。そして、残された肉体の抜け殻は、原子レベルに分解され、再構築され、
再利用される。

チーン。
移住者の家族にだけ与えられる特別配給食ができたことを知らせる音が響いた。
「さあ、ご馳走をもらって帰りましょう。」「おじいちゃんは体格良かったから、きっといっぱいでき
てるわよ」嫁と母が笑いあう。俺は妻と一緒に娘の手を引いて配給口へ向かった。

次は、「電話」「脳」「給食」で。
301404:2007/11/15(木) 12:43:40
 同級生の奴ら全員が馬鹿に見えて仕方なくって、学校に行かなくなった。

 案の定、先生が家にやってきたり電話をよこしたりしてきた。始めのうちは、穏やかな受け答え
でもって、優しく「佳子は今、何しているんだい?」なんて聞いてきたり、「みんな心配していた
ぞ」などと、クラスの奴らの授業中での面白おかしい言動だとか、給食中に出てきた美味しいデザート
の話などをしていたのだが。

 ある日、先生がやってきたのだけれど、顔がやや赤味を帯びていて、なんだか動きが大雑把で、
目つきがいたずらに鋭かった。声も、なんだか脳に響きそうな音質だった。
「なあ、佳子〜。先生はなぁ〜、今まで一度だって、一度だって、不登校児を出した事が無いんだ。
本当に、一度だって無かった。それで今度教育委員会の方から特別栄誉賞をもらえる事になってたん
だよ。なあ、不登校児を出したくないんだよ。先生は。だからこれまでだって、生徒たちがおかしな
事してたって先生は・・・・・・」そこから先は、聞くに耐えなかったから、便所に行くフリをして
逃げちゃった。


 いつも寛容で温かく、「ニッコリ先生」と呼ばれる程の先生だったのです。
302404:2007/11/15(木) 12:45:46
次お題
「大樹」「地平線」「力」
303かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/11/15(木) 15:18:32
「大樹」「地平線」「力」

72歳で亡くなった 結城大樹さん の葬儀が青山で行なわれていた。
海洋冒険小説家として数々の賞を受けている有名な人物。
そのため、2000人を超える各界有名人の弔問者、国内海外のマスコミ関係者も多数そろっていた。
会場の最前列には、子供に先立たれた、老夫婦98歳の父親、95歳の母親が座っていた。
式も終わりに近づいた頃、ゆっくりと立ち上がった父親。
歳をとってはいても彼は昔、有名な海洋冒険家として世界の海を一人航海し続けていた人物、その足どりと声はしっかりしていた。
力強い表情で微笑んでいる息子の遺影に向かい、父は、子への思いを語り始めた…

「おい!大樹。オレは、お前が産れた時の事は今でもはっきり覚えてるぞ!」
「オレはあの時、太平洋のど真ん中。衛星電話でお前が産れたと報告をもらったんだ」
「オレは、ナ!!その時、母なる海に感謝し、地平線に昇る太陽に向かい叫んだぞ!!」
斎場にいた人たちは心の中で…「間違ってる!それ!水平線!!」
「中学もろくに出ていないオレがお前みたいな立派な息子に恵まれて…」
「ガキの頃のお前はヒョヒョロで医者のやっかいになってばかりで母ちゃんに心配ばかりかけてたな!!」
斎場にいた人たちの中ですすり泣く人たちの声がもれる。
「オレはあの時、地平線から昇る太陽に願いをかけ、でっかい男になるようにって大樹って名前にしたんだぞ!!」
「30、40、ってお前はボーっとしてて女の腐ったようなヤツだって心配してたがな!!」
「じじいになってからやっと、名前通りのすごいヤツになったな!!あの…なんて言ったかな!!…おう!!た・い・き・ば・ん・せ・い・だ!!」
「とにかく!オレは、お前がオレの息子で本当に良かったぞ!もうすぐ、母ちゃんとそっちに行くから待っとれ!!」
いっせいに拍手が聞こえ、そして、斎場にいた人たちは心の中で思った…

「字…間違ってる!それを言うなら大器晩成」
304かえっこ ◆vKR9dNUc2M :2007/11/15(木) 15:23:09
次お題
「優勝」「5本の指」「汚れた路地」 で
305名無し物書き@推敲中?:2007/11/16(金) 06:09:08
甲子園で決勝の晴れ舞台
すべてはこの勝負で決まる
奴は拳を突き出してきた
苦渋の表情がここまでの長い戦いを物語っている
血と汗で汚れた路地裏で相当な練習を積んできたのだろう
俺は5本の指を突き立てた
ジャンケン甲子園は俺の優勝で幕を閉じた

次のお題
「特典」「マグカップ」「鳥肌」
306「特典」「マグカップ」「鳥肌」:2007/11/16(金) 16:20:36
出張で行った街で、見覚えのある男を見かけた。まさかと思って声をかけたら、やっぱりAだった。
「凄い偶然だな」と再会を喜んだが(A相手なら不思議じゃないか)と俺は思った。

大学の時、同じサークルだったAはやたらツキのある男だった。
二人でコンビニに買い物に行っって、会計を終えてお買い物特典のクジをどうぞと勧められると、
Aは「一等は何?マグカップ?いらねえから引かねえ」と言い出すのだ。「なんだよ、お前、一等
引く自信があるわけ?」「自信とかじゃねえよ。引くに決まってるだけだ」「じゃ、証明してみろ
よ」とクジを引かせると、確かに一等が当たる。一緒にいるとそんなことばかりだった。
「宝くじでも買えば一攫千金だな」俺が言うと、「賭け事はしないことに決めてる」とAは言った。
「親父は会社の同僚との付き合いで初めて買った宝くじで、一等前後賞合わせて7千万が当たった
数日後、通り魔に刺されて死んだ。爺さんは、初めて連れて行かれた競輪で230万車券の大穴が
当たったが、数日後に玄関でつまづいて転んで打ち所が悪くて死んだ」
「過ぎたツキは身を滅ぼすんだよ」と笑ったAの顔に寒気を感じたのを憶えている。

「実はな、クジを当てたんだ」一通り再会を喜んだ後、唐突にAは言った。
「ザ・ビッグってやつか?この水曜日に当選が決まったやつ。キャリーオーバー発生中で、最高額
の6億円」「家訓はどうしたんだよ?」と聞く俺に、Aは娘が病気なのだと言った。多臓器移植が
必要なのだが、子供の臓器移植は国内ではできない。海外に行って手術するのに大金が必要だと。
「女房は泣いて喜んだよ。『5億5千万も余っちゃうね』と泣き笑いしてたけど、どうせ俺は死ぬ
だろうからな。死んだ後に女房と娘が生活に困らないように国内最高額のクジにしたんだ」Aの笑
顔に、俺は鳥肌が立つのを感じた。

数日後、新聞がAの不運な死を報じた。
上空9000メートルを飛ぶ飛行機から整備不良のために落下したネジが、Aの頭を直撃したのだそうだ。

次は、「飛行機」「家訓」「大穴」で。
307人形師 ◆wa1a4mh476 :2007/11/18(日) 02:46:23
「で、あの男は始末できたのか?」
そう言ったのは、流行のスリーピースにボール帽をかぶった紳士風の男。
「始末シニ行カセタ四人、ヤラレテ帰ッテキタ。相手ハ三人、シカシ強イノハ一人」
と答える黒人は遥に大きく、その拳の一振りで紳士風の男を血みどろにも
できそうなのに、紳士風の男の前では完全に萎縮しているようだった。
そのとき、鳥眼鏡で顔を隠した令嬢が二人の従者(のちに機関車アックス、
毒鍋ライザと呼ばれることになる)を従えて、つかつかと部屋へ入ってきた。
「だ、だれだ貴様。どうやってここへ」紳士風の男の方が顔を上げて叫ぶ。
「・・・あたしの名はリース。皆さまの悪事、残らず聞かせてもらいましたわ」
「リ、リース?! 大英帝国を騒がせているという、あの英雄気取りの馬鹿女!」
「まあ失礼ね、レディに向かって。でも、一攫千金を夢見る貧しい人々を
 たぶらかした上、ボクシングの賭け試合で大穴を当てたキスリングさんを
 殺そうだなんて・・・もっと許せない。お亡くなりになられたヴィクトリア
 女王の名に誓って、このレディ・リースがお仕置きを致しますのっ!」
「まさかキスリングを助けた謎の三人組というのは・・・」
「そういうことね。ってギャァァァーッ!! あ・ん・た! ひとが話してる
 最中に襲わないでよ!」
「お嬢さま、襲われたときはもっと可憐にと申し上げたはず! あとで家訓を
 百遍復唱して頂きます」とはライザ。
リース嬢がいい気になって話しているうちに、紳士風の男は黒人に目配せして
彼女たちを始末するよう合図したのだ。アックスが気付いて間一髪リース嬢を
かばったものの、その黒人の足取りは軽快で蜘蛛のように素早く、少しでも
アックスが遅れていれば、彼の重い一撃によってリース嬢の華奢な首はへし
折られていただろう。
「お嬢、こげなクロ○ボ、わしが・・・」
そのときライザが鋭く声を上げた。
「お嬢さまっ、あの不細工が逃げますわ!」
リース嬢がアックスの下からのぞき見ると、ライザに不細工と断定された
紳士風の男が、窓を蹴破って一直線に走り去るのが見えた。その先には―――
308人形師 ◆wa1a4mh476 :2007/11/18(日) 02:47:26
「飛行機?!! フランスで実用化されたという噂は本当だったの?!」
紳士風の男は右手で帽子を押さえながら疾走していたが、飛行機の前まで
たどり着くと、リース嬢の一行に向かって大声で叫んだ。
「ぶはははは! お前たちになぞ捕まるものかっ!! ロンドンのポリ公どもと
 一緒に地べたをはいつくばってろ低脳!」


次のお題「砂時計」「氷」「甘露」
309「砂時計」「氷」「甘露」 :2007/11/18(日) 16:18:01
その時、ある女は夕飯に何を作るかを考えるために冷蔵庫のドアを開けて中を眺めていた。
その時、ある男は高騰したガソリン代と燃費の悪さに悪態をつきながら ダッジバイパーのエン
ジンキーを回していた。
その時、ある女はダイエットのために半分食べ残したランチの皿をウエイトレスに下げてもらっ
ていた。
その時、ある男は暖房のきいた部屋でアイスクリームを食べていた。
その時、ある女は切れたタバコを買いに行くためにテレビもビデオも部屋の電気もつけたまま
で部屋を出ようとしていた。
その時、ある男はシャンパングラスを片手に次期大統領選挙のための根回しをしていた。
その時、ある女は化学物質の塊を塗りたくった顔で次の映画の宣伝をしていた。
その時、ある男は砂漠の村で銃を磨いていた。
その時、ある女は飢えて死んだ子供の亡骸を抱いて声を上げて泣いていた。
その時、過去最大の大きさになったオゾンホールはかつてなく美しいオーロラを躍らせていた。
その時、南極の巨大な氷の塊は上昇する気温に巨大な氷壁から引き剥がされて海に崩れ落
ちていた。

そこを越えてしまったら二度と戻ることの出来ない一線を、人間たちはそんな風に意識もせずに
あっさりと踏み越えた。

落ち始めた砂時計の砂は、下に落ちることしかできない。
急坂を転がり始めて勢いを増した泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかって壊れ
るまで止まることはできない。
消費文化のもたらす甘露を存分に味わい恩恵を享受しまくった一部の人間も、そのために踏み
つけられてきた多くの人間も区別しない「やがて無慈悲にやってくる終わり」は、誰にも知ら
れることなく始まった。

次は、「ガソリン」「銃」「坂」で。
310「ガソリン」「銃」「坂」:2007/11/19(月) 23:32:15
(大丈夫だ、今なら客もいない)

今朝、俺はコーヒーを飲みながらガソリン代高騰のニュースを見ていた。
(くそっ、また値上げしやがったか。おまけに俺の車燃費悪いからなあ)
これは痛い目に合わせるしかない。ガソリン強盗が増えれば、きっとガソリン代を高くしたことを反省して、また前の値段に戻すに違いない。
そう決心した俺は、深夜を待ち、24時間のガソリンスタンドの近くに車を停めて張り込んでいた。今ならい行ける。俺は去年海外旅行中に
砂漠の村で購入した銃を右のポケットにひそめ、ガソリンスタンドに車を入れた。とりあえずガソリンを満タンまで入れてもらう。10L…
…11L……どんどんガソリンが入っていく。満タンになったところで店員が近づいてきた。領収書を持っている。
「こんなにするはずないだろう?」
「それが、ガソリンがまた値上がりしまして。ほら看板にも書いてある」
そこで僕は銃をだした。脅してみる。
「お、お客様。銃は危険です!もし火花が散りでもしたら気化したガソリン
に引火しかねません!」
「知ったこっちゃない。どうせここで払うくらいなら死んだほうがましだ」
店員は少し悩んだ後、こう言った。
「わかりました。今回はタダでいいです」

帰り道、俺は今までにない興奮を味わっていた。喉が異常に乾いていたけど、そんなの関係ないくらい興奮していた。スピードを上げて急な坂を一気に上った。下り坂は思ったよりも緩やかだ。
(あとはこれを何回か続けて、値下がりするのを待つだけだな)
坂の直後が交差点になっているのが見えた。ひとまず興奮を抑えて、安全確認のため一時停止をした。
(これは犯罪なのか。いや、ただ値上がりに反抗しているだけだから大丈夫だよな。いいんだよなこれで)
ボンネットの前から黒い丸いものが出ていった。車の下を通って泥団子が俺を追い抜いていったのだ。泥団子は、坂の最後、平坦になった地面にぶつかってド派手に壊れた。

次は、「ワイン」「コカイン」「タンジェント」で。

311310:2007/11/19(月) 23:36:30
あ、銃を出すとき一人称が僕になってしまいました^^;ごめんなさい;;
312名無し物書き@推敲中?:2007/11/20(火) 08:48:45
「イタリアワインとコカインを一緒に飲むのが
最高の快楽だって言ってた作家がいた」
由美はコンビニで買ったサントリーのワインを
グラスに入れながらそう言う。
「好きな女と一緒に飲むワインが最高においしいって
言ってた作家がいるよ」
僕は読書好きのヒキコモリの由美に
村上龍の本を貸したのだが僕の知らないうちに他の小説も
自分でも図書館で借りて読んだらしい。部屋にカバーの
ついた本が置いてある。
「村上龍だろ?」
由美は微笑む。由美は精神病のヒキコモリで
ヒートの僕とクリスマスイブを過ごしてる。
「俺たち幸せかな?」
酔いは不思議な思い出を引き起こす。
高校の教師、教室の匂い、黒板の文字、タンジェント、サイン。

幸せかどうかなんてたぶんどうでもいいんだ。今の僕は。

次は、「焼酎」「デパス」「古文」で。
313「焼酎」「デパス」「古文」:2007/11/20(火) 19:54:10
弱い暖房が効いた部屋。
皮張りのソファとガラスのローテーブル、コンポから流れるジャズが、精一杯の高級感を演出していた。
しかし嗜むのはブランデーではなく焼酎。
それもまた一興か。僕は呟いて一口呑む。
せめて電気の明度を落としてそれらしくしたいところだが、彼女の願いでそれは叶わなかった。
古文のテキストを片手に、テーブルの上のノートパソコンで彼女は調べものをしている。
自分が好きなこととなると、他のことはお構い無しになる彼女。
子供のように目を輝かせるその姿が微笑ましく、愛しく、嗜虐心を掻き立てられる。
眠剤代わりのデパスを片手に、僕は彼女に寄り添った。
ふと、僕の目に飛び込むパソコンの画面。
――思ふにはしのぶることぞ負けにける 逢ふにしかへばさもあらばあれ


次のお題「10円」「デポジット」「ポスト」でお願いします。
314404:2007/11/22(木) 00:30:40
「もう、いいよ! そんなに文句言うんなら君達がやれよ!」
言うなり、委員長の松田は、四角くて真っ赤な、まるでポストのような顔を机に伏せ、
それなり動かなくなってしまった。みんな、伏せ目がちに視線を交わしあった。

 と、そこにバカの鈴木が帰ってきた。軽快なステップで教卓の前を横切って、己の股ぐらに
1メートルの竹定規を挟み
「アンニュ〜イ、アンニュ〜イ・・・」
下向きだった竹定規を上向きに立てて
「デポジット!デポジット!!!」
そんな事を何回も繰り返すものだから、みんな笑いだした。

 委員長も顔を伏せたまま、小刻みに震えだした。
315404:2007/11/22(木) 00:37:41
次のお題
「傘」「灰」「平穏」
316名無し物書き@推敲中?:2007/11/23(金) 22:05:28
「君の傘を貸してくれないか?」
バス停でバスを待つ僕のとなりに立っていた30歳くらいの男が
突然そう言った。」
「嫌ですよ。あなた返してくれるんですか?そのままでしょ。」
「君の傘を貸してはくれないか?」
「だから嫌ですよ。」
「これから僕の行こうとしているところは雨がひどくてね。
雨がやんでいる時などほとんどないんですよ。君達の住んでいる
ところとは違ってね。でも虹がとても綺麗で何十本もの虹が
いっぺんに出たりするんですよ。かえるがたくさんいてね。
虹がそんな風に出た時などは何百匹もいっぺんに現れるんですよ。
虹の下でいっせいに鳴きましてね。それがまるで美しい音楽のよう
に聞こえます。あじさいも何千本も咲いていましてね。赤いの白いの
青いのと様々です。そして何千匹のかたつむりが虹がたくさんかかった
時はやはり同じ様に現れます。そこは空気の色が違いましてね。
薄い青の空気が流れています。空は一面灰色の雲です。
平穏な場所なのでとても静かです。そこに住んでいる人達も
とても静かで丁寧に話します。
なんと言いますかね。なんだか少しだけ薄暗くて青くて静かな場所
ですね。雨がいつも降っていまして。」
「そうですか。」
僕はそっぽを向きながらその話を聞いていた。
話が終わったので振り向くとその男は消えていた。
そして手にしていたはずの傘も消えていた。






海      太陽         風          で。
317「海」「太陽」「風」 :2007/11/25(日) 01:08:36
夕暮れの海を、俺は綾香と二人で歩いていた。
砂浜に打ち寄せる波。綾香の長い髪を躍らせる風。
綾香は片手で髪を押さえながら、口を開いた。

「寒いよ。もう帰ろうよ」

太陽は垂れ込める厚い雲の向こう。
吹き付ける北風と、波うち際で泡立ち始めた波の花。
晩秋の日本海は、俺が考えていた以上にデートには向かなかったらしい。

ふと、手に冷たいものが触れた。
冷え切った綾香の手だった。
「手、温かいね」
俺の顔を覗き込んで笑う綾香。

いや、意外と、こういうのも悪くないか。

そう思いながら、俺は綾香の手を握り返した。


次は、「夕暮」「デート」「手」で。
318「海」「太陽」「風」:2007/11/25(日) 01:30:01
女にとってはじめての横浜であった。
もう四月で、更に言えば快晴だと言うのに風が強い。風は女から体温を奪って行く。
念願かなって、一人ではあるが、ついに横浜を泊まりで観光することとなった。
田舎育ちのこの女は、ずっと横浜に憧れていた
東京の様なビルが立ち並ぶ賑やかな都会ではなく、今もなお明治辺りの雰囲気を残した横浜にだ。
すでに目当てのところは一通り見てしまった。
外国人墓地の、退廃的なあの雰囲気が今でも忘れられない。
赤レンガ倉庫のお店はもう少しゆっくり見て回りたかった。
女はそんなことをぼんやりと思っていた。今はなんとなしに、横浜の海を眺めている。
「もう少し、楽しい人生なら良かったのに」
赤い靴を履いていた女の子は誰に連れて行かれたんだっけ。異人さん?良い爺さん?
「私も連れて行って欲しいな」
女は海に身を投じた。
その後の女のことは誰も知らない。
空には太陽が、変わらず光を注いでいた。


次は「キャンディ」「チョコ」「依存」で
319名無し物書き@推敲中?:2007/11/25(日) 01:30:43
しまったw
318はスルーでよろしくです。
320404:2007/11/28(水) 01:01:15
「エンジントラブルにより、まもなくこの機は墜落します。
 しかし、あと4名だけ飛び降りてくだされば、他の全員は助かります」

 まずはアメリカ人の初老の夫婦が2人、手と手を握り合って、夕暮れ空を背景に落ちてった。

 次に、スペイン人の神父らしき人が、なにやらブツブツ唱えながら、落ちてった。

 最後に、初老の日本人が、イチャつく若いカップル二人をポイと放り出した。
321404:2007/11/28(水) 01:03:35
次お題「風車」「トタン」「連続」
322「風車」「トタン」「連続」:2007/11/28(水) 09:49:29
「おじいちゃん、あれ何?」
トタン屋根の農具小屋から鎌を取ってきた老人に、孫娘が聞いた。
ぶかぶかの白い軍手をした手が指差している先には、巨大な純白のプロペ
ラが起立していた。
「風力発電の風車だな。さあ、掘るぞ」
老人は鎌を使って畝にのたくる葉のついたツルをざっと刈り取り、「ツルの
根元にあるから掘ってみろ」と孫娘を促す。
最初は、指先でちょいちょいと土を掘っていた孫娘は、土の中に紫色のイ
モを見つけて歓声を上げた。「おじいちゃん、あったよ!」
最初に孫娘が見つけたのはひょろひょろの細長いイモだった。
「そんなブタの尻尾じゃ土産にならんなあ。もっと太ったのがいっぱいある
ぞ。ほらほら」
老人が良く肥えた柔らかく黒い土を掘り返すと、コロコロに太ったサツマ
イモが連続して出て来る。孫娘は目を輝かせて両手で土を掘り返し始めた。
老人は芋掘りを孫娘に任せて、一服するために畑の横に用意してある椅子
代わりの丸太の輪切りに腰をかけた。タバコにライターで火をつけて、ふと、
設置されて以来殆ど回っていない三本羽根の風車を見上げる。

この風車は、もう十何年も前に役場が業者の口車に乗って設置を検討し
始め、業者の調査報告を鵜呑みにして、業者に何億も払って「町に新しい
エネルギーを」と鳴り物入りで設置したものだ。
しかし、実際には吹く風の風力が足りず、台風でも直撃しないと回らない。
業者の提出した事前の風力調査の報告書が捏造されていたのだ。

「何が『新しいエネルギー』だ」老人は鼻で笑った。
「おじいちゃん、これならお土産になる?」
真っ黒に土で汚れた軍手で、ひときわ大きなイモを持ち上げて孫娘が言う。
「おお、立派なイモだ。ママもパパも喜ぶぞ」
老人の言葉に、孫娘が笑った。娘が子供の頃に見せたのとそっくりな笑顔
だった。
323322:2007/11/28(水) 09:50:19
お次は318さんの「キャンディ」「チョコ」「依存」で。
たとえば、今こうしてバスを待って並んでいるときにも、禁煙と書かれたポス
ターを無視してタバコを吸い始めるスーツ姿のおじさんを見ると、ああ、依存
しているんだな、と他人事のように傍観してしまう。
僕は左手にはめた腕時計を見る。バス到着予定時刻まであと六分。 
僕の後ろに並んでいるおばさんがハンドバッグからキャンディを
取り出して舐め始める、この五分間でもう三個目だ。
僕は腕時計を見る。あと三分。
停留所のベンチに座っている女の子が、隣りに座る母親にチョコをねだってい
る。母親は膝に置いた買い物袋に手を添えながら、帰ってからね、と嗜める。
僕は腕時計を見る。あと一分。
携帯電話を睨んだままだった女子高生が、バスのブレーキの音に気付き、メー
ルを打つ手を止めて顔を上げた。低いエンジン音をうならせながら、バスが僕
たちの目の前に止まる。
僕は腕時計、ゼニスのエル・プリメロ44万円、を見る、恍惚と。


次は「サンダル」「ミネラルウォーター」「懺悔」でお願いします。
俺は小さな花束とミネラルウォーターのペットボトルを、ひしゃげたガードレール
の根元に置いた。
懺悔など意味は無い。俺が何をどう悔い改めようとアカネは帰ってこない。

「サンダルじゃないの、ミュールよ!」
新しく買ったサンダルを可愛いでしょと自慢したので褒めてやったら、そう言って唇を
尖らせたアカネ。
「車できてるんだから、飲んじゃ駄目だって」
俺の頼んだビールを取り上げようとするアカネ。
「絶対だよ、絶対代行呼ぶんだよ?約束だよ」
指切りしようと指を立てて言うアカネ。
「飲んでるんだから車を運転しちゃ駄目だって」
眉根を寄せて、心配そうに言うアカネ。
「もう知らない!私はタクシーで帰る!」
怒って、送ってやるという俺の手を振り切ったアカネ。

勝手にしろと自分の車で帰った俺は、飲酒検問に捕まることも無くアパートに着いた。
しかし、タクシーを拾って県道沿いの家に帰ろうとしたアカネは、県道を渡ろうと
ガードレールの切れ目で車の切れ目を待っていた時、ハンドル操作を誤って突っ込んで
きた車に跳ねられた。飲酒運転だった。

自慢していたサンダルが片方、ガードレールの脇に転がっていた。

俺が殺した。
そう思った。


次は、「花束」「ビール」「県道」で。
326「花束」「ビール」「県道」:2007/11/30(金) 11:52:24
初投稿です。よろしくお願いします。


「もし俺が先に死んだら、仏壇に胡瓜の花をあげてくれ」

それが病床に臥したA男の最後の願いだった。
菊なんかの花束ならわかるけど、胡瓜の花っていったいどんなものなんだろう。
そもそもきゅうりに花なんて咲くのだろうか。

A男は半年前胸の痛みを感じ、心配で病院に行ったら
いきなり癌と診断された。もちろん本人は直接通知されたわけではなく後で母親から聞いた。
A男母親と僕は数年前からのっぴきならない関係になっていた。何だよ、のっぴきならないって?
ある日A男と渋谷に行こうと誘いに行ったが留守で変わりに母親が庭で小さな畑の手入れをしていた。
畑には胡瓜が植えられていたようで、大きく長く成長したものを鋏で採っていく。

「少しだけでいいからついでに手伝ってくれると助かるんだけど」

と母親は気軽に言ってきた。渋谷にどうしても行かなくてはならないこともなかったので、
A男が帰るまで手伝うことにした。夏の暑い日だったので一通り胡瓜の収穫を終えた後のビールは最高だった。
眩暈がして一瞬意識を失い、気がつくとA男の母親と寝ていた。お互い身体を重ねた縁側の向こうでは、
荷物を積んだトラックがひっきりなしに
走っていた。そこは県道66号線だった。


感想いただけますか?
そしてお次は同じく325さん発題の「花束」「ビール」「県道」で。
327名無し物書き@推敲中?:2007/12/02(日) 03:22:59
「花束」「ビール」「県道」

「花束のプレゼントを贈るなんて……少しキザかな」
贈られた花束は真っ赤なカーネーション。
私より贈ってくれた彼の方が、なんだかそわそわと落ち着かなかったっけ。
今日は母の日じゃないわよって私が首を傾げたら、彼はちょっと困った顔をしてたわ。

県道沿いの喫茶店が私たちの待ち合わせ場所だった。
田舎の喫茶店だから、古くて全然オシャレじゃなかったけどコーヒーだけは美味しかったな。
彼ったら背筋をピンと伸ばしなかがら椅子に座っていて、人形みたいで可笑しかった。

「カーネーションの花言葉、知ってるかな」
普段はぼんやりして、花言葉なんて全然知らなさそうなのに、急に尋ねてきたのよ。
今はガーデニングもするから大好きだけど、当時の私は花に特別興味も無かったし、知らないって答えたわ。

「あなたを熱愛しますって言うんだよ」
そして、指輪をそっと差し出してくれたの。
ホント、嬉しかったわ。私、思わず感動して泣いちゃったもの。
だけどこれは後から聞いた話なんだけど……花も花言葉もお店の人が決めてくれたんですって。
せっかくだから、嘘を突き通してくれたらよかったのにね。

月日はあっという間に流れるものね。子供達も中学生と小学生になったのよ。
あんなにスマートだった彼も今はビール腹を突き出して枝豆を食べてるんだもの。
現実って厳しいものね。

「母さん、これ、プレゼント」
彼はそわそわしながら、突然、私に花束を手渡してきたの。もう何年もプレゼントなんて貰ってなかったのに……。
急にどうしたんだろうって、最初はビックリしたわ。でもね、その後すぐピンと来たの。最近、携帯ばかり気にするし、出張がとても多いんだもの。
私は庭に出て、まだ緑色のアジサイを出来るだけたくさん摘んだわ。
花言葉は浮気。彼にこのアジサイを投げつけたら、少しはすっきりするのかしらね。

次のお題は「台詞」「犬」「ポスト」
328「台詞」「犬」「ポスト」:2007/12/02(日) 23:08:45

 チャイムが鳴ったのでのぞいてみれば、どこか落ちつきない犬が立っていた。
「犬の独立支援募金のお願いにまいりましたでござる」
 その犬がいうには、現在の犬の隷属制度から、犬権を確保し自立していきたいのだという。
「もともと犬という種族は封建社会に生きているのでござる」犬は呼吸を荒くしながら説明してきた。
「現在の浮草みたいな社会制度では、犬は犬らしく生きていけないのでござる。
いまこそ、犬は権利を主張し、犬の住み安い社会を構築していく必要があるのでござる」
「つまり、新党を立ち上げたのね」ぼくは欠伸を堪えながら相槌を打った。2時間しか寝ていなかったのに、朝っぱらから起こされたのだ。
「その通り」犬はぼくの手をとって熱くいった。「新しい日本を、社会のために作っていこうでござらぬか!」
「いや、ぼくは人間だもの。募金ならしてもいいけれど」ぼくは財布から100円玉をとりだして渡した。
「や! 感激! ありがたや!」犬は感動のあまり遠吠えをして、ぼくに名誉会員のワッペンをくれた。

 後日、犬独立運動の党から冊子が送られてきた。
 中には会報誌とアンケートが入っていた。今後の活動のために意見をいただきたいと書いてあった。
 差別からの脱却という政策はいいにしても、とぼくは書いた。
 あの侍の台詞みたいな口調では、現在の有権者の支持は得られないので、現代の日本語を覚えられてからにしてはいかがでしょうか。
 返信用の封筒があり、あとはポストに投函するだけなのだけれど、ぼくは腕組みしてしばらく考えて、そのまま黙って破って捨てた。

 つぎのお題は「馬油」「カーテン」「スパッツ」
部屋干ししていた洗濯物をハンガーから外していく。
スパッツはまだちょっと湿っていたので、もっと干しておくことにした。
ふと、窓の方に目をやると、レースのカーテンの向こうには嫌になるほど
晴れ渡った春の空があった。

昔は、こんな日は気持ち良くお日様の下に洗濯物を干したんだけどな。
お日様で乾かした洗濯物の匂いを、良く乾いた綿のTシャツをお風呂上り
に着た時の何ともいえない気持ち良さを、私は何年味わっていないんだ
ろう?

窓の外を見ていたら何だか鼻がむずむずしてきて、私は綿棒と馬油の
ビンに手を伸ばした。ビンは殆ど空だけど、綿棒でこそげるとまだまだ十
分な量の馬油が取れた。馬油がついた綿棒を鼻の穴の中に突っ込んで、
鼻の内側に馬油を塗る。
鼻水対策にはこれが一番なのよね。
塗ってる姿を見られたら、百年の恋も冷めそうだけど。


ああ、花粉症なんてこの世からなくなってしまえば良いのに。


次は、「綿棒」「百年」「この世」で。
330「綿棒」「百年」「この世」:2007/12/03(月) 12:26:50
美術大学創立百年祭。美大の女と言えば、全身を高級ブランドで固めた嫌味な女か、ひたすら課題
に打ち込む機能的スタイルの女。そんな女ばかりを見るにつけ俺は生きてゆくのが嫌になる。
だがその日に俺が出会った女は、そのどちらの属性にも当てはまらない奇妙な女だった。いかにも
古臭いデザインのスーツ。ざっくりと編み込まれた黒髪を纏めたシニョンと、髪型まで中
世の絵画から抜け出てきたような古臭さだ。が、その懐古的な様が逆に、この世のものとは思えな
い美しさを醸し出している。
「ここの初代学長って釘で耳を掻く癖があって、そこからばい菌が入って亡くなったのよ」
女は俯きながら微笑し、「その頃は綿棒なんてなかっただろうからなあ」と俺はショルダーバッグ
から綿棒を取り出し掲げて見せた。女といると不思議と懐かしい想いに満たされ笑みが零れてくる。
女は初めて見た物のように、瞳を輝かせると綿棒を手に取り、「これ、貰っていいかしら」と尋
ねた。俺は笑いながら頷いた。
女が立ち去るとき、「また会えるかな」と俺は思い切って尋ねてみた。
「あなたが長生きすればたぶん、ね」紅唇を綻ばせると女は去ってゆき、そのあと参加したセレモニ
ーの会場で、俺は不思議な懐かしさの正体に漸く気づいた。会場の舞台に初代学長の絵画、学長の隣に
は艶やかなシニョンの愛娘。入学式のときにも見た絵画だ。俺はあと百年生きてみたくなった。
331名無し物書き@推敲中?:2007/12/03(月) 12:28:59
次は「冬枯れ」「木枯らし」「教会」で。
332404:2007/12/12(水) 14:05:38
 病室の窓から見える、冬枯れの樹木と教会の尖塔。窓がガタガタ揺れている。
木枯らしかしら。

 私が全身火傷を負って病室に担ぎ込まれた日から、彼はあまり私に会ってくれ
なくなった。両親はと言えば、私が金髪でピアスで無職の彼と真剣に付き合いた
いと言い出した日に勘当されちゃって、今はもう余所の人。

 もう、駄目なのかな・・・・・・私なんて、もう誰にも必要とされていないじゃない。
彼も来ないし、両親も来ない。顔だって醜く焼けただれてしまった。こんなんじゃ
彼を幸せにできない。重荷になるだけ。ふられても仕方ない。もう嫌だ。これ以上
人に迷惑をかける前に・・・・・・。

「今までありがとう。さようなら」と彼にメールを送った。


 その日、彼は交通事故で死んだ。

 バイクで慌てて交差点に飛び出した時、トラックに撥ねられて死んだ。
誰かさんの治療費のために連日連夜バイトしてクタクタになった体なのに
無茶したせいで、死んだ。
333404:2007/12/12(水) 14:07:48
次お題「連」「調和」「心」
334名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 08:34:14
子供達が手と手を取り合い連なって草原で一つの大きな輪を作っている。
真っ青な空の下、子供達は無邪気に笑っている。
牧師はその輪から少し離れたところで草原に腰を下ろし微笑みながら
子供達を見つめている。
異界、そんな言葉が似合うような光景だった。
牧師は毎日午前中に自然との調和が目的というこの行為のために教会から
子供達を連れてこの場所にやって来る。
しなびた牧師の心を従順な子供達のエネルギーが何とか今日もつなぎ止める。




延髄    手首      夢            で。
335名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 10:56:09
>>334

昨日の未明、交通事故の救急搬送で運び込まれた三十代男性の患者は、宿直医師の的確な措置により一命は取り留めたものの、
延髄の損傷による自発呼吸の停止がみられ、現在も集中治療室で植物状態になっていた。
担当は最近、この病院に入ってきた平岡という若い医師だったが、出血のひどい手首と大腿部の止血・縫合は完璧だった。
他院で脳死患者からの臓器移植に立ち会った事のある院長が、脳死判定に必要な炭酸ガス刺激を行おうと提案した時、
今津が炭酸ガス分圧のレベルを60mmhgから100mmhgまで試して見ようと言ったのは、さすがだと思った。
今津は大抵の医師が措置を諦める患者であっても、ぎりぎりまで治療を試みるタイプの医師だった。
彼の名字である今津は「忌まず」に通じると言って、年配の患者がありがたがるのも全く根拠の無い話ではないようだ。
今回もそのような今津の通じるかは定かではなかったが、日本で脳死判定の基準とされている60mmhgでは呼吸が見られなかった患者が、
70mmhgやそれ以上の濃度で自発呼吸が見られ、結果的に脳死ではない事が判明する症例は自分も知っていたため、彼の炭酸ガスの濃度を上げる意見については、賛成の意思を表明しておいた。
336名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 10:58:16
脳死判定を行う事について、患者の家族の了承はすぐに取れた。
妻に子が一人という典型的な家族構成を持つ患者の家族が、判定の結果遺族と呼ぶ事になるのか、いずれにしてもあまりいい心持ちではなかった。
何年も植物状態の夫のために、安いとは言えない入院費用を負担し続けるよりは、かえって死んでしまっていた方がいいのではないか。
こういった植物状態の患者を見るたび、医師としてあらざるべきそんな疑問が、自分の中で沸き上がるのだ。
脳死判定は午後に行われた。
炭酸ガス刺激の最中に臓器や脳を傷める事がないよう、患者へ十分に酸素を吸わせた後、酸素のチューブが外され、
代わりに炭酸ガスのチューブが取り付けられた。
看護婦が脈拍や脳波といったバイタルをチェックし、異常のない事を伝える。
しばらくして、炭酸ガス分圧が基準となる60mmhgに達した。
自発呼吸はまだ見られない。
一度炭酸刺激を中断し、しばらく酸素を吸わせた後、もう一度炭酸ガスに切り替え、
次からは65、70と5mmhgきざみで濃度を上げていく。
337名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 11:02:45
80に達した時、自分の気のせいか、患者のまぶたが微かに動いたような気がした。
「呼吸は?」
しかし、やはり自発呼吸は無く、バイタルも変化がみられないようだった。
患者を見守る医師達の表情が曇った。
「90まで上げてみましょう」
今津は暗たんたる面もちながらも、淡々と言った。
分圧を80まで上げた時、脳波が少し乱れた。
延髄は損傷しているものの、その上にある大脳まで機能を停止している訳ではないからだ。
「85にしてください」
そう言った瞬間、患者の胸が動いた。
今津を含め、医師達は目を見張った。
患者が自分で呼吸をしているのだ。
それからすぐに炭酸ガス吸入をやめ、酸素マスクを取り付けた。
「何はともあれ、生きていて良かった」
集中治療室を出るやいなや、院長はガーゼマスクを外し、安堵の表情を浮かべながらそう言った。
「時々目を動かしていますよ。レム睡眠のようですね。何の夢を見てるんでしょう」
やれやれ、これでまた患者の間で今津の株が上がるな。
自分はそう思いながら、そう院長に答えた。
そして、植物状態の患者を覚醒させる方法について書かれた論文をチェックするため、自分は院内にある書庫へ向かう事にした。

以上。
338名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 11:12:47
次の題は「漢字」「三角形」「カレンダー」だな。

で、ちょっと他板で書いてる文章の感想をもらいたいんだが、読んだらどうかスレ内に批評をレスしてくれないか。
第二章は時間に追われて書いたせいか、少々描写不足が否めないが、まあまあだろうと思っている。

ぴんく難民板
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/
「ドキッ!女だらけの海賊団」スレ
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/pinknanmin/1196594005/l50
339名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 11:56:51
とは言え、自分だけ感想を求めるのもアレだから、このスレにレスされてる文章を批評してみる。

>>316
短編として完結しているな。
文句の付けようもない。
>>317
文章はまあまあだが、内容がありきたり過ぎて新鮮味がない。
>>318
内容も文章もまあまあ。
特に問題はないな。
>>320
ワロス。
短過ぎるが面白い。
>>322
なかなかだな。
俺の路線と少々似ているようだ。
>>324
赤川次郎的な雰囲気がするな。
まあまあ面白い。
>>325
文章が軽薄過ぎる上に内容も平凡だな。
>>326
純文学的な匂いがするな。
まあまあ文学的だ。
340名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 12:03:41
>>327
>>324に同じ。
>>328
面白い短編だな。
ソフトバンクのCMを思い出した。
>>329
汚い。
それだけは回避すべきだろ。
>>330
スプリガンのアーカム会(ry
MMO板でも話題に出たが、随分人気のキャラなんだな、あれ。
>>332
内容はガクブルだが平凡過ぎる。
文章はやや難がある。
>>334
題を消化しただけなんじゃないか。
平凡以下。

ここまでだな。
341名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 19:22:55
ageておく。
342名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 20:00:17
>338
 いつからか私は手帳のカレンダーに記号を書くようになった。素晴らしい日には二重丸。良かった日には丸を。可もなく不可もない日には三角を。悪かった日にはバツを。
几帳面でない私が、髪を三つ編みにしていた頃から、唯一今も続けていることだ。結婚して娘が出来た今でも変わらない。
 だけど主婦になった、私の手帳には三角ばかりが並ぶ。掃除も洗濯も終わりがない。毎日部屋には埃が、洗濯機には洗い物がたまっていく。
 時々、そんな繰り返しが嫌になる。
 「ただいまぁ」
 娘が狭いマンションには大き過ぎる声で、叫んだ。
 「おかえり」と私はリビングのドアを開けて、玄関へ娘を出迎えた。
 「ママー、見て!!漢字テスト!!」
 娘は靴も脱がずに、ランドセルを下ろすと、中を開けて解答用紙を満面の笑みで取り出した。点数は80点。私に似てケアレスミスが多い娘にしては偉業だ。
 「あら、良かったじゃない」
 「うん。そうでしょ?先生もあたしががんばったからオマケしてくれたの。『羊』の字を半分の『半』って間違えちゃったんだけど
惜しいからバツじゃなくて三角をもらったの。これでギリギリ80点!!」
 見てみると、テストには三角の隣にプラス1点と書かれている。
 「そうよね、三角だってプラスじゃない」
 私は自分に言い聞かすように呟いた。
 ずっと、三角じゃダメなんて思っていたけど、違うのね。ちゃんと、ちゃんとプラスがあるじゃない。
 こうして家の子だって他の子より時間がかかったけど80点を取れたみたいに。
 私は三角ばかりの手帳を少し誇りに思えた。


おわり
343名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 20:12:51
>342
次のお題を書くのを忘れた。
「汽車」「窓ガラス」「ヘルメット」
344名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 21:25:32
>>343

文章はまあまあだな。
「汽車」「窓ガラス」「ヘルメット」か。
貴社の記者が汽車で帰社した、なんていう文があるが、汽車がネックだな。


気が付くと、私は見知らぬ駅にいた。
どこか知らない、来た事もない田舎の駅だった。
空は良く晴れていて、全天には青空が広がっている。
辺りを見回したが、荒れ果てたホームには自分の他に誰もいないようだ。
ホームの屋根を支える柱につけられている板や、駅から線路を挟んだ向こうに立てられている看板から駅名を読み取ろうとした。
しかし、どれも見事に茶色に錆びついていて塗料が剥がれ落ち、判読する事はできなかった。
自分はここへ来る前に何をしていただろうか。
ふと、記憶を掘り返してみた。
確か今日は配達ピザの深夜勤務で、顧客の住所に向かうために店の三輪スクーターを運転していたはずだ。
屋根のついたスクーターに跨がる時、きつめに締めたヘルメットのあご紐の感触が今でも思い出せる。
私はするりと首のあたりを撫でてみた。
一体全体、私はどうしてこんな場所にいるのか。
345名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 21:49:10
そこまで考えた時、私は衝撃と共にある事実に気付いた。
それは、スクーターを走らせて、顧客から聞いた住所のある辺りまで来た時の事だった。
片側二車線の広い道路だからと油断して、交差点に差し掛かった時、信号が黄色に点滅していたのにも関わらず減速せずに突っ切ったのが事の始まりだった。
いや、今思い起こしてみると、交差している道路の信号は一時停止を示す赤の点滅だったため、アクセルを吹かしてさえいたかもしれない。
そこへあの車が、音も無く交差している車線の左側から飛び出して来たのだった。
黒く車高の低いスポーツカーのような形の車で、車体の前面には暴走族やトラックがつけるような色とりどりの妙な電飾をつけていた。
相手の車の窓ガラスにはスモークがかかっており、こちらが見えていないようだった。
それからは、あっと言う間だった。
疾走していたスクーターは、相手の車のボディーをへこませる重々しい音を立てて、ウィンカーランプの辺りに激突した。
私の身体は衝撃で前のめりに投げ出されて、スクーターの前面にある樹脂製のフロントガラスを突き破り、宙を飛だ。
346名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 22:15:35
飛んでいる身体が重力によって少しずつ弧を描き、地面へ吸い寄せられている最中も、私には周りの光景が見えていた。
ヘルメットが固いアスファルトに当たって削れる音がし、それからの記憶はなかった。
突然、ボシュッという何かが吹き出すような、聞き慣れない音が耳に入った。
良く注意して聞いてみると、ボシュッ、ボシュッと連続しているようだ。
彩度の一切ない、黒くくすんだ汽車が線路の向こうに見えた時、私はここがどこなのかを悟った。
汽車はゆっくりと減速しながら、ホームへとやって来た。
私はどこか遠くへ逃げ出したかったが、恐怖で身が凍りつき、足が上手く動かなかった。
それから支離滅裂に叫びながら、私は駅の改札へと走った。
途中、改札口にある鎖に足をとられて転んだが、したたかに打った膝の激痛にかまわず起き上がり、駅を出た。
駅舎から花畑の中を伸びる一本の道を、どこまでも走った。
しばらくすると呼吸が苦しくなり、私はついに倒れた。
倒れたまま、私は何度も息を吸った。
もう大丈夫だ、という不思議な感覚が、私の中に沸き上がり、そのまま私は道端で休む事にした。
ここには、死の不安は無かった。

以上。
最初は刑事物っぽいのを考えたが、今日書いた脳死判定と絡めた方が楽な事に気付いた。
347名も無き冒険者 ◆bc3kq9Tcow :2007/12/25(火) 22:20:38
次の題は「ひまわり」「コンビニ」「縄文土器」で頼む。
なにより、ぴんく難民板のスレへの感想が欲しいな。
348名無し物書き@推敲中?:2007/12/25(火) 22:44:31
感想と雑談は感想スレへ

この三語で書け! 即興文スレ 感想文集第12巻
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/

>>1
> お約束
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。
まあ目安だけどな
349名無し物書き@推敲中?:2007/12/27(木) 12:37:03
ひまわりの種を握り締めて、あの子は私に質問した。
「ねぇ、コレを植えたらどんな花が咲くの?」
私は思わず言葉が詰まった。どう説明すればこの子は理解できるだろうか。
悩んだ私は、この子を連れてコンビニへと向かった。
土と肥料と水とこの子が欲求したチョコレートを購入した。
私の家へ着くと、ベンチに座らせて先ほどコンビニで買ったチョコレートを与えた。
この子がそれを頬張っている間に私は、倉庫から種を植える容器を取り出した。
ベンチに座るその子の横に置くと、不思議な顔で何を置いたのか問いてきた。
「これは、縄文土器と言う古代の植木鉢だよ」と、その子に触らせ説明した。
初めて触るその凸凹の表面に思わず声を上げて面白がる。それを見て私も微笑む。
やがて、チョコを食べ終え口をチョコだか泥だかで分からなくなったのを気にせず私の手伝いをする。
縄文土器に土と肥料を入れ、ひまわりの種を埋める。そして、少量の水を与えた。
「それで、お父さん。この種はどんな花が咲くの?」
「今のお前の様な花が咲くさ」目の見えない息子は、私の言葉を理解したのか泥のついた手で喜びの拍手をした。
350名無し物書き@推敲中?:2007/12/28(金) 14:41:29
次の御題は??
351名無し物書き@推敲中?:2007/12/30(日) 15:07:39
>>1

5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
352名無し物書き@推敲中?:2008/01/11(金) 10:48:08
だれか頼む…2008年最初の名作を!
353名無し物書き@推敲中?:2008/01/11(金) 12:11:09
縄文土器とコンビニという時代を超越したお題が、歴戦の即興erの指を鈍らせる
354書いてた人いたらゴメン:2008/01/11(金) 14:26:21
 コンビニのバイトを始めて今日で一週間目だ。やっと着慣れてきた制服に身を包み、レジの前に立った矢先に、お客がやってきた。
「あの〜、この店に縄文土器って売ってますか?」
「は・そんなのモノ置いてませんけど」と、内心コイツは池沼かよ、と俺は思いながら一応真顔になって答えた。
「おかしいなあ、確かここに置いてあるって聞いてきたんだけどな」男は諦めきれないという顔で辺りを見回した。
すると、カウンターの奥から店長が血相を変えて飛んできた。
「すみませんね、お客さん、こいつ新入りなもので、へへへ。縄文土器でしたよね、確かにございますですよ」
 店長がカウンターの下から縄文土器を取りだし男に見せた。日本史の教科書で見た記憶のある、前衛芸術家が造った植木鉢のような物体を目の当たりにして、私は大いに驚いた。
「これでよろしいでしょうか」
「うん、これ、これ。ウチで飼ってるヒマワリを植え替えようと思ってたところなんだよね」男は目を細めて笑った。
な、何言ってるのだ、正月早々、こいつは?
「お客さん? あんた、いまヒマワリって言ったよね?」店長が血相を変えて男を睨んだ。そうだよね、店長だって、おかしいと思うよな。
「え、言ったけど、それが何か?」男は半歩後に下がり、すでに店から逃げだだんばかりだった。
「そんな目的じゃ売れないよ、こいつはね、朝顔専用なんだよ。帰ってくんな」店長は縄文土器を両腕に抱え込み、語気を強めた。
店長の言葉が終わるより早く、男は店から姿を消えていた。私が呆然としていると店長は土器をカウンターの下にしまい、何事もなかったかのように奥へと引っ込んでしまった。
私は訳がわからず、ふと思い出したようにカウンターの下を覗き込んだ。
棚の上には客の立ち読みで売り物にならなくなった雑誌がぽつんと置かれているだけだった。

次のお題は、「肉まん」「引っ越し」「選挙」で、どう?
355選挙 引っ越し 肉まん:2008/01/22(火) 11:27:50
 新しい部室に引っ越してからも、活動の内容は以前と全く変わりはなかった。ゲーム、漫画、雑談、それらが日常になりすぎて、ときたまここが本来何部だったかも忘れるほどだ、
「したがって、彼らにも選挙権があるはずだ!!」
始まった、Yの演説だ。
 Yは変わっていて、本来の部活動をやらないという点では他の部員と変わりはないのだが、たまにこのような演説を披露する事がある。完全な自己満足なので他の部員が聴いていようがいまいが関係ない。
 Yのこういう考え方が好きな僕は、ときどき耳を傾けることがある。ただ今日の演説の内容は些か説得力と面白みに欠けている。
僕はさっきコンビニで買った肉まんの最後の一口を食べ終えるとYに提案した。
「Y先生、今日はここまでにして次は女性の生態について知識を深めるのはどうでしょうか」
「よろしい。」
演説を中断されたのに少しだけムっとしたが、先生と呼ばれたことに気を良くしたYは鞄のなかからDVDを取り出した。
下らない毎日、ただ意味もなくすり減らす毎日、だけど僕はこの糞みたいな日々を忘れないだろう。
356名無し物書き@推敲中?:2008/01/22(火) 11:34:37
あ、スンマセンお題忘れてた。次のお題は

「青い鳥」「冬眠装置」「コントラスト」
でお願いします。
357名無し物書き@推敲中?:2008/01/22(火) 15:18:26
『我々は滅びるだろう。
 しかし、もし神の気まぐれで生き残ることを許された人々がいるのであれば、
 我々は彼らに小さな幸せを運びたいと思う。
 最後の冬眠装置には、青い鳥を入れることが決まった。
 願わくば、人類の未来に幸あらんことを』

カプセルの蓋を開けると、そんな音声と共に一羽の小鳥が飛び立っていった。
青い鳥だ。
空の色とのコントラストが、眼に痛いほど鮮やかだった。
「なんて不吉な」
私は複眼を閉じて頭を振る。視神経に不吉な青の色が焼き付いてしまっていた。
「まったく、美を理解しない生物など滅びて当然だ……」

澄み渡った空の下を、一羽の青い鳥がどこまでも高く羽ばたいていく。
そして、赤い空の色の中に、溶け込んでいった。


お次は、「スリングショット」「花束」「共感」で。
358名無し物書き@推敲中?:2008/01/22(火) 21:23:43
もし僕が天使なら見えないスリングショットに
花束を込め彼女に向けて放つだろう。
彼女は大学のカフェテリア、午後の日差しが
美しいテーブルに血を流して倒れるに違いない。
学友達が取り囲む。何が起こったのかと。
彼女はどうしたのかと。
その時、僕はそっとそばにより彼女に刺さった
棘を抜けば彼女は目を覚ますに違いない。
「あなたは誰?」

いいや、僕は首を振る。
こんなのフェアじゃない共感が得られることじゃない。
そして見えないスリングショットを空に捨て
いつか彼女に相応しい男になって彼女の前に現れるよう努力する。

そう青春の時だ。


「白雪姫」「知らんがな」「新聞社」
359晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/01/22(火) 22:48:46
 森はだんだん暗くなってきた。踏みしめる落ち葉の音も湿ったものにかわる。
カリウドは肩越しに目をやり息を飲んだ。ついてくる七歳の子供の周りだけが
白く輝いている。カリウドは足を止め体ごと振り返った。子供はカリウドを見
上げ、どうしたの? と聞いてくる。顔を見つめると白い光がゆっくりと消え、
白い肌と赤い頬、そしてつややかな黒髪の白雪姫がカリウドの瞳を占める。
カリウドは目をつぶる。狩に使う刀に手をやり、とまってしまう。
「知らんがな」
 ようやく言葉をしぼりだしつぶやく。瞑目のままゆっくり、鞘ずれの音を聞
きながら刀を抜く。目を開ける。白雪姫はおびえていた。余計なことを聞いて
ごめんなさいといった。
「いや、違うんです。お姫様」
 そういって切っ先を白い喉に向けると、白雪姫にはもうなにもかもわかった
ようだった。城にはもう帰らないから助けてくれと泣いた。刀を持つ右手を白
雪姫の両手が包んだとき、カリウドは自分がぶるぶると震えていることに気づ
いた。はっとして白雪姫の喉もとから刀を離した。すると白雪姫はありがとう
といいながら、森の奥へと足音もなく消えていった。
カリウドは、あしたのグリム新聞社のヘッドラインは王女失踪になるだろうか
と考えながら腰が抜けて座り込んでしまった。

「だいだらぼっち」「波」「ミネラル」
360だいだらぼっち 波 ミネラル:2008/01/23(水) 11:53:47
ペットボトルが地面に落ち、ミネラルウォーターが無重力状態で放たれたように飛散した。男は落としたものを気にもせず、ただ見上げていた、彼だけではない、周囲にいたほとんどの者、いや、世界中が、真っ昼間の空に突然現れた「それ」をただ呆然と眺めていた。
「だいだらぼっち…」
彼は昔祖父から聞いた妖怪の話を思い出していた。しかし今頭上をゆっくりと漂っている「それ」はそんな架空の妖怪よりはるかに巨大だった。
「それ」は液体のようであり個体のようでありピンクでもあり緑でもあった。ある者は神だといい、ある者は悪魔だといった。見る者によって変わるらしい。
「ただ共通していることがあります」
電気屋のテレビのニュース中継が「それ」についてまくし立てる。
「あの巨大な物体が通過した後には生物が消えるということ、次第に大きさを増していること、そして…」
中継は途切れた。自衛隊や軍は必死に抵抗したが一切の攻撃が効かず、核さえも取り込まれた。人々は諦め「それ」と一つになることを望みはじめた。そして「それ」の何周目かの巡回の後、地球から生物は消えた。「それ」はゆっくりと深呼吸して、宇宙の波を泳いでいった。
361名無し物書き@推敲中?:2008/01/23(水) 12:08:58
またお題忘れた。

「夕焼け」「踏切」「転校」
362名無し物書き@推敲中?:2008/01/25(金) 22:02:00
僕は、かれこれ20分もこうして上がっては下がる遮断機の前で
駅から吐き出され家路に着く人並みの中、道路の端で立ち尽くして
決断するかしないか決めかねていた。
「君さあ自殺するつもりなんだろ?おいらはずっと君を見てたんだよ。」
僕が驚いて少年の顔をまじまじと良く見ると少年は微笑みながら
分かってるんだよというようにうなずいた。
少年の背中には二つの大きな翼が見え、僕と目が合うと
翼を羽ばたかせ空に飛び上がる前のヘリコプターのように
徐々にランプの上に浮かび始め宙で静止した。
「おいらのことが怖いかい?自殺する人間は怖いものなんてないかな?
おいらが自殺するときは何も感じなくなっていたけど君も同じかい?」
少年の顔から微笑が消えた。
「おいらもここで自殺したんだよ。君が生まれた頃だよ。
何も楽しいことなんてなくてさ。唯一、自殺が救いだった」
電車がやって来て少年が話すのをやめると大きな金属音と空気を切る音と共に
目の前を通り過ぎた。見慣れた電車の色だ。憂鬱なその色。
 「自殺はね駄目だよ。君は友達がいないんだろ?
誰にも相談できないし相談しても意味が無いと思ってる。違うかい?」
遮断機が上がると少年は消え僕は世界に引き戻された。
町を夕焼けが染めてるのに気づいたのはそんな時だ。
363名無し物書き@推敲中?:2008/01/25(金) 22:02:41
「突然ですが今日から新しいクラスメートが増える事になりました。
転校生のS君です。みんな仲良くしましょう」
僕は昨日からずっと踏切であった少年のことを考えていた。
彼はいったい何者なんだろう? 自分に妄想が始まったのかと
怖くなった。あの少年は僕の心が生み出したものなんだろうか?
「では席は・・・K君の隣が空いてるからとりあえず今日は
そこに座ってもらうことにしましょう」
僕は転校生のことなど上の空で昨日のことを考えていた。
学校に居場所は無く興味も持てなかった。

歩いてきた足音が止まり僕の隣の椅子が引かれる。
「K君、よろしくね」
突然のあいさつにびっくりした僕が顔を上げると
見慣れない顔がそこにあった。転校生、僕には関係ない。
いや・・・僕がふと気になって、転校生の顔を見ると
転校生は微笑んでいた。
「僕の友達になろう」
転校生はそういった。








364名無し物書き@推敲中?:2008/01/25(金) 22:04:48
「タイムトラベル」「自転車」「オリンピック」
365名無し物書き@推敲中?:2008/01/25(金) 22:07:29
「ねえ君。ほら二中の制服を着た君」
僕がぼんやりと顔を上げると遮断機の点滅する大きな赤いランプの上に
僕と同じくらいの年齢の少年が座っていた。



最初のこの文章コピペするの忘れた。orz

366名無し物書き@推敲中?:2008/01/26(土) 17:47:14
いっちゃんが、結婚するのぉー、と言った。
いつものように、語尾をのばして鼻にかかった甘ったるい声で私の耳にささやいた。
多分いっちゃんは、私の「誰だれ、相手は」という言葉と、不意をつかれた慌てぶりを
期待していたんだろう。
でも、私は彼女の期待に沿わなかった。
「おめでとう」と、うっすら笑って彼女の肩を軽く叩き、そのまま教室を抜けて出た。
コートと鞄はもうすでに手に持っていたから、不自然な感じにはならなかったと思う。
学校の玄関の重いガラス扉を開けると、空気はもう淡い夕焼けの色に染まっていて、
私の吐く白い息が浮いて見える。
握る自転車のハンドルはこれ以上ないくらい冷え切っている。
いっちゃんが、私の耳にいろんなことをささやくたびに、心配だの、分別だの、友情だの、
なんだの、みとめたくないけど嫉妬だの、ありとあらゆる感情が私の中に生まれていた。
いっちゃんが夜中に泣きながら電話をしてくるたびに、少しずつ返事をしている私の声が、
他人のものに聞こえてきた。
一緒にいるだけで楽しかった昔の私たちを、今の私が見たら、どんな気持ちになるんだろう。
携帯電話ができて、いっちゃんの打ち明け話は24時間になったけど、タイムトラベルはまだ実現していない。
川べりの道を、自転車で走ると風は頬を切るくらい冷たい。
「結婚かぁ」
私は風にまぎれるように声に出してみた。
いっちゃんのように、細い顎も、桜色の頬も、よくうごく大きな瞳も持っていない私には、
オリンピックの金メダルのように遠い言葉だ。
鞄の中から、メールの着信音が聞こえてくる。きっと、いっちゃんだ。
でも、私には風の音の方が強くて、聞こえない。
かじかんだ指では、返事も打てないから。
私はペダルをいっそう速くこぐ。

次は「泡沫」「イタリア」「信号」で。
367sm ◆.CzKQna1OU :2008/01/27(日) 15:14:53
イタリア人アンリ・ベール、フランス本国での筆名をスタンダールと名乗る男は、死の一年前、アルバノ湖畔の砂上に12人の愛した女の名を書いた。
彼は恋愛に生きた男だった。つまり彼はもてない男であり、女につきまとってはあしらわれ、苦汁を舐めた年月をもって彼は真の恋愛の証だとした。
アンリの目は生涯を通じて情熱の湯気に曇らされており、愛人も、もちろん自分をも公正に判断できなかった。著作の中で彼は自分のことをそれはたくさん語ったが、自分に優しい嘘を並べたに過ぎなかった。

所変わってアメリカ、天才”少女”作家として騒がれていたリリーという少女が書斎の窓からその小さな身を投じるという事件が起こった。
皆が言うように執筆の苦しみから逃れたかったのだろうか。あるいは小人症という自分の運命をやはり克服できなかったのだろうか。
ここに彼女の言葉を引用してみよう。「ライフ・イズ・ア・フェアリーテイル!」。人生は、おとぎ話だ。
彼女は悲しみという優しい案内人に手を取られ、おとぎの国に旅だっただけなのかもしれない。

スタンダール「パルムの僧院」の主人公ファブリスは、監獄に囚われた我が身のことも省みず、あろうことか監獄長官の娘クレリアにラブサインを送り続ける。
それはみじめといってほどかすかな信号であった。ファブリスは外に彼女の気配を感じると、窓のわずかな隙間から棒を出しひらひらと振るのだ。
一方ファブリスに対しておなじくかすかな信号を送る者もあった。叔母のサンセヴェリナ公爵夫人である。彼女は脱獄の手はずは整ったと、灯籠の小さな火をもって、牢中のファブリスに伝えんと
していたのである。
もちろんそのどちらの信号も現実的ではない。そんなかすかな信号など、実際の現実の前では、荒波に飲まれる泡沫のようなものだ。
だが、これは小説の話である。かすかな信号も伝わる。良い運命が待っている。

私たちは十分に皮肉屋であるから、もうひとつのとびっきりの皮肉をつぶやいてみることもできるはずだ。「人生はおとぎ話だ」。
馬鹿馬鹿しいことだが、おとぎ話の中にはなんと、救いがあるのだという。

368sm ◆.CzKQna1OU :2008/01/27(日) 15:17:40
そうかお題か。
カツレツ、菊花、アンダルシア
ではどうでしょうか。
369晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/01/29(火) 22:55:46
「カツレツが食いたいいいいい」
 彼女の言葉はずっしりと湿っていて重い。まだ「い」が続いている。た
だの「カツ」じゃないし「食べたい」でもない。彼女はたまに言葉の選択
の仕方で僕をにやりとさせる。仰向けになって読んでいたR25と背景の天
井の間に、R25の右上の角からのそりと顔をだした彼女の目はオニだよ。
オニ。おなかへってるんだね。R25の角でチョンとオニ目をつくとギャっ
といって床をドタドタいわせて後ずさった。
 アパートを出てアーケード街をいきつけのとんかつ菊花豚(きっとかっ
と)まで歩いてると駅に折れる角に新装開店のレストラントがどでかく構
えていた。入口がまるで魚眼レンズで誇張された犬の顔みたいにでかい。
でかいでかいと思っているうちに立ち止まった僕ら二人を自動ドアが左右
にぐわっと開いて噛み付くように迫ってきた。かまれちゃ大変だと一歩進
んでドアを入って舌なめずりするような赤いフロアマットの上にジャンプ
した。
 店員に案内されて席につきメニューに顔をうずめていた彼女は「すみま
せんガスパチョ2つ」と手を上げた。トンカツにしないのかなと彼女の顔
を見ると「ガスパチョ知らないの? アンダルシアだよ?」と言って鼻と
あごをつんと上げてうす目で僕を見下ろす。オロカモノメって。でもすぐ
に「ぐふっ」といつもの下品な笑いがこぼれる。なんだ彼女も知らないん
だ。にやりとする僕の頭を「バカにしないでよ」と手のひらでポコリとた
たく。手の重さで首が傾いで「あイテ」
 開いて見せてくれたメニューには黄色いスープの写真があった。指差し
ながら、これよ。飲んだらトンカツ屋さん行きましょ。と微笑んだ。急に
普通で冷静になっちゃった。僕もおなかがすいてきた。

AV サプリメント ラジオ
370AV サプリメント ラジオ:2008/01/30(水) 04:52:41
 シップ・ナヴィが目的宙域周辺を告げた。地球との相対速度が0となるようオートパイロットをセットする。
 (いよいよだな。この時をどれほど待ったことか。私の原点であり、永遠に追い求める対象でもあった、あの懐かしい時間を…)
 わが懐かしいスゥィートホーム・コロニィを発って以来、幾光年もの距離を(それも、うら寂しい銀河辺縁方向に!)旅してきた。そして今日、ついに追いついたのだ。
 すでに仮想アンテナを構成するプローブ子機は散布されている。
ディスプレイキューブの中にはそれらの位置を示す夥しい光点が、船と地球とを結ぶ線分を半径とする球面状に、船の周りを取り囲んでいるのが表示されている。
すべての準備が順調であるのを確認すると、私はシャック区画へと移動した。
シャックは、今は取り外されているが、各年代のさまざまな受信機と、それらと対を成す録音・録画機器が、隔壁に埋め込めるようになっている。
もちろんコクピットのAVコンソールには、あらゆる変調方式に対応した高性能なソフトウェア受信機が内臓されているが、
私は、レディオ・ハンティングにはその放送の当時のリグを使うことにこだわっていた。
この大変に重く嵩張るペイロードのために一体どれほどのイオン・ペレットを余分に消費してきたかわからない。
 地球人類が、電波の発明以来宇宙空間に向かって放出し続けてきた、さまざまな情報の断片、時代の声、
あるいは他愛もないパーソナリティのトーク…それらは光の速度で宇宙を飛び続けていた。
その、宇宙に散りぢりになった地球文化の残滓を、超光速の宇宙船で追いつき、捉え、「回収」するのが、レディオ・ハンターの仕事だった。
 この最後の航海は、自分のための旅、そして原点への旅と決めていた。あの日、徹夜でエアチェックした、あの番組……。
この航海ではは一切の録音機器を積んでない。さあ、二時間半の「生放送」。長丁場だ。食事がわりのサプリメントをかきこむと、ラジオのスイッチを入れた。
あのときのままだ。中波AMの甘いノイズ。周波数と放送日時は今でも諳んじることができる。
「レディオ・オオサカ。1314kHz。」ダイヤルを合わせると、ノイズが止んだ。


『こんばんにゃ〜。起きてますか?桃井はるこです。2月19日深夜の、ウラモモーイ!…』

スペシャル ライター ゆりかご
371晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/01/31(木) 23:30:28
# レンチャン失礼します

 デスクに釘付けになって契約ライターの送ってきた原稿をチェックしていると、スペシャ
ルウィークという懐かしい単語が聞こえてきた。目を上げると洋介がこちらに背を向けて
後ろの席の女の子に話をしている。先週の競馬の話をしているようだ。引退した馬の名が
出てきたのは血統の話でひとしきり盛り上がっていたせいらしい。十年前のダービーの日
のことをふと思い出した。
 あの日、俺は大学時代のクラスメートと十人ほどで久しぶりに集まり、横浜の駅ビルに
ある「ラウンジ」という店で酒を飲んでいた。
 俺が隣の席の男友達とその日のダービー馬の騎手の話をしていたとき、店の自動ドアが
開いて胸を上下させ息を整えている美広と目があった。目で笑いながら美広は駆けよって
きて「あっちゃん、久しぶりだね」と右の手のひらを挙げる。反射的に俺も手を挙げた。
挙げた手を振り下ろして美広と手を合わせる。しめった破裂音が鳴った。なぜかわからな
いが、俺は美広の手を離せず、そのまましばらく手を握っていた。美広の顔に広がる微笑
に誘われて、俺も自分の顔が崩れるのがわかった。ハイタッチにしては微妙に長すぎる時
間が経ったとき、握った手を前後左右に数回振り、その勢いのまま離した。
 なぜ、あのとき美広と寝たのか。大学のころはそんな対象ではなかった。美広の艶やか
な手のひらを握ったとき、華奢な手のひらが俺の指の力でしなやかにたわんだとき、身体
の内側がまるで背骨が震えるように振動した。ゆっくりと揺れるゆりかごのように穏やか
な波が体中を満たしていった。

「アキラさん、ねえ、そうですよね」
 自分を呼ぶ声に記憶の断片は消え去り、蛍光灯の明かりに白く照らされたオフィスが視
界に戻ってくる。パソコンのファンの低い音が耳を占めた。何を聞かれたのかわからなかっ
たが、眼鏡を上げ「ああ」と返事をして原稿に目を戻した。

風 歌 足音
372名無し物書き@推敲中?:2008/02/01(金) 08:51:12
 風が、鳴った。僕は動きを止めて、空を見上げる。
 何処までも高く遠くあって、青く澄んだ雲一つ無い空。
 照りつける日差しは島に比べると凄く優しくて、涼しささえ感じさせた。
「……ここまで、来るなんてね」
 懐に入れたパスケースに話しかけながら、僕はただ静かに歩く。
 たったったっと、アスファルトを踏む僕の足音と、風の鳴る音だけが響く大地。
 目的地はもう目に映っていた。
「……風に誘われて歌う……君への歌を」
 遠くから、歌が聞こえてきた。
 僕が、彼女の作った曲に付けた歌詞。それは、彼女と僕だけが知っている歌。
「風にたゆたせて歌う……君への思いを乗せて……」
 目的地へ、彼女の家へ、家の前の柵に腰掛けて歌う彼女の元へ。
 逸る気持ちが抑えられなくて、僕は気が付けば走り出していた。
 たった数日だけ島へ来た彼女。そこで仲良くなって、でも彼女が帰るのは当たり前のこと。
 けど、僕と彼女は別れなかった。インターネットが、距離を繋いでくれたから。
 彼女の歌声を聞きながら、僕は彼女の前に立った。
 ただ視線を交わして頷き合う。
 そして、僕は彼女の後に合わせて歌い始めた。

 花 日差し 帽子
373お題「花 日差し 帽子」:2008/02/02(土) 11:13:55
 後輩が花屋で薔薇を買っていた。
 誰にあげるの、なんて聞くまでもない。
 この間、つきあい始めたばかりの彼氏と旅行に行ったと、私にお土産をくれた。
 小さな博多人形。後でこっそり、ほほえむ顔を爪ではじいたら、じんと指先がしびれた。
 彼氏とうまくいってない私の気持ちに似た痛み。
 幸せそうなあの子がうらやましい。
 いたずら心を起こし「お疲れさま」と声をかけると、照れた顔で店から出てきた。
「お疲れ様です、先輩」
「きれいな花。彼氏にあげるの?」
「えへっ。ほかの人には言わないでくださいよ。あっちにいるのが彼氏です」
 後輩の視線の先には、日差しを避けるように深く帽子をかぶった男性がいた。
「今日から、彼氏と一緒に暮らすことにしたんです」
「良かったじゃない」
 後輩は目を輝かせてうなずき、彼氏に向かって手を振った。彼は突っ立ったまま。
「もう、いつもすぐ気づいてくれるのに」
 後輩が駆けていって帽子を取る。と、私の彼氏の顔が現れた。


次のお題「春 豆 瓦」
374晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/02(土) 21:53:13
 左の高台へと続く踏み固められた土の道を駆け上る。道の両側に
植えられた桜の木々は真っ黒だ。中には深い緑色の苔が生え、毛皮
のコートを着込んだように温かくしているものもいる。冷たい空気
のなか枝をいっぱいに伸ばし、駆け抜ける僕を応援するようにアー
チをつくり道を取り囲む。見守ってくれる黒い観客のなかを風の歓
声を耳に感じながら走り抜ける。激しくなる息が心地よい。坂を上
っていくと花も葉もない枝の隙間から崖沿いの家々の屋根の角度が
徐々に変わっていくのが見える。薄っぺらい線だった瓦の一枚一枚
が僕に気づいたように顔を出してこっちを向いてくる。少しずつ。
一斉に。
 輝く雲を切りとるアーチの出口が迫ってくる。僕は歯を食いしば
って勢いを増していく。もう少し。最後の一歩、右足を思い切り踏
みつける。足を取り囲む土煙。そのまま思い切りジャンプする。顔
を上げると高台のてっぺんの一本桜が黒い姿を現す。空一面の薄雲
がこぼす白い光の中、一本桜はくっきりと黒い枝を広げている。枝
の先には豆のようにまん丸くつぼみがふくらんでいる。
 僕は振り返り、足を踏ん張って乾いた空気を胸に思いっきり吸い
込んで、とめて、叫んだ。
「春がッ!」
「来るよッー!」

見えない 岩 トーチ
375見えない トーチ 岩:2008/02/02(土) 23:41:55
 松明を片手に一人の少女が真っ暗な森のなかを走っている。少女は思った。もうどれぐらい走っただろうか、振り向いてみたが街の灯りはもう見えない。
松明の炎も次第に弱まってくる。それはそのまま少女の心を表していた。
夜明けを待てばよかった?そんな暇はない。すぐに薬を届けなければ。
こうしているいまも姉は熱でうなされているだろう。母も父も病に奪われた。姉は残されたたった一人の家族。急がなければ。
 風が枝の間を吹き抜け、不気味な音をたてる。悪魔の娘達の笑い声のようで、外套を深く被り耳を塞ぐ。姉からもらった団栗の御守りを力強く握りしめる。
途中何度転んだだろう。寒さも力を奪っていく。もう駄目かと思ったそのとき見覚えのあるものが目に飛び込んだ。狼岩!ということは村まであとほんの少しだ。
少女は走った。残りの力を未来を全てをその足に込め、村をめざした。

「あなたにも見せてあげたかったわ」
真っ白なドレスを纏った女性はそう呟いた。
「有難う…本当に有難う…」
そう言って彼女は花束を墓の前に置き、花婿のもとに戻っていった。彼女の手には団栗の御守りが握られていた。
376名無し物書き@推敲中?:2008/02/02(土) 23:48:39
次のお題

「遭難」 「逃避」 「回顧」
377名無し物書き@推敲中?:2008/02/03(日) 22:16:02
若いころはどこか不良=かっこいいみたいなものがあった
親に反抗して先生に従うことを嫌い、仲間と呼べる友人たちとだらだら過ごす時間こそが生きている実感だった。
社会から外れること、若さからの所以かそこに惹かれるものがあった。
常識から外れ、皆と違うことをすることでしか自を表現できなかったのかもしれない。

しかし今となって回顧をしてももうどうしようもない。
安酒を飲み現実逃避してももう手遅れだ。
外を出ればネクタイをした俺と同世代の人間が堂々と闊歩している。
着実にステップアップしている周りに比べ俺はなんだ。
俺は、社会から外れているのではない、ただ遭難していただけだった。


378名無し物書き@推敲中?:2008/02/03(日) 22:18:07
次のお題

みかん 雪 子供
379晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/04(月) 22:31:55
 ぺたんとお尻をつき、膝の先だけ炬燵に入れて、靴下の裏をこちらに向け、毛足の長い
綿の部屋着に幼い身体をくるんで、もう赤ちゃんの時のようにぷっくらしてはいない、す
こし細くみえるようになった小さな手にみかんを二つ、ぎこちない手つきでお手玉してい
る綾の後ろ姿を見ていると、翔子はなにかほっとした気持ちになった。
「冷凍みかん」
 両手にひとつづつのみかんを掴んで振り向き、左手のみかんを翔子にむけて差し出した。
「ダメよ。こんなに寒いんだから」
 窓の外に目をやりながらそう言うと、朝よりも雪が激しくなっているのが見えた。隙間
を見つけるのが難しいくらい、舞う雪が空間を満たしている。お風呂場の屋根に積もった
雪が気になる。昨日の雪かきが中途半端なままだった。まだ日のあるうちに一通り掻いて
しまおうと思い、防寒着を着込みにかかった。すると綾も上着を着始める。
「綾はおうちで待っててね。ちょっとだけ雪掻きしてくるから」
 上着を着込んで膨らんだ綾は、翔子を見上げ、ちょっとの間不服そうに立っていたが、
すぐに「はい」といってその格好のまま炬燵に足を入れた。服がかさばり寝っ転がってし
まい、顔を向けて笑った。
 外からお風呂場の屋根にあがり、大まかに掻いて、降りも激しいままだし、そろそろあ
がろうかと思っていたとき、玄関で音が聞こえた。ドアが開けられ、しばらくして閉まっ
た。その後は何も音がしない。
「綾」
 呼んでも返事はない。ふと、このまま子供を失うのではないか? という思いが、なん
の脈絡もなく、降りしきる雪の中から翔子の心に吹きつけてきた。
「綾」
 もう一度叫んで、一歩踏み出したとき、雪が崩れ、足をさらう。右側に転んでスコップ
の柄が変な形で横腹に入り、痛みが走った。そのまま流され今掻いたばかりの雪の上に膝
から落ちた。子供の名を呼ぼうにも横腹を打った痛みで息ができない。急に暗くなった。
押しつぶされていた。掻き残した雪がまとめて降ってきたんだと思いながら、白い闇の中
で気を失った。

……お母さん!

生還 微笑み 傷
380生還、微笑み、傷 (上):2008/02/05(火) 23:59:40
 その兵士は運が悪かった。彼は肩を怪我した状態で戦場に取り残されてしまった。出血が酷く、早く治
療しなくては大事に至るが、砂嵐の中ではそれも困難である。だから彼は彷徨っていた。
 やがて彼は洞窟を見つけた。朦朧とした意識で洞窟に駆け込むと、そこには敵であるテロリストの兵士
がいた。テロリストは素早くナイフを構え、こちらを警戒した。彼もなんとかナイフを取り出して構えた。数分
ほどそのまま対峙していただろうか。だんだん兵士はどうでも良くなってきた。彼はこらえ性のない人間で
あり、仕事でも運動でも、本当につらくなると現実逃避してしまうタイプだった。その悪い癖のせいで、彼は
自分のナイフを投げ捨ててしまった。辛さから逃れるため。
 するとどうだろう、テロリストも構えを解いてしまった。よく見ればこの男も怪我している。彼は包帯を二つ
取り出し、片方を彼に投げた。どうやら一時休戦らしい。
 四日間、彼らは洞窟で暮らした。言葉は通じなかったが、食料と水を分け合い、共に生き延びようとした。
それはおそらく、お互いの利害関係が噛み合っている間だけの短い平和であったが、その兵士には心地
よかった。
381生還、微笑み、傷 (下):2008/02/06(水) 00:01:53
 しかし平穏も長くは続かなかった。テロリストが無線機で連絡を始めた。どうやら友軍との連絡が取れた
ようだ。同時に兵士のところにも友軍から連絡が入った。兵士とテロリストはお互い目配せをした。そして
テロリストはナイフを兵士に投げて渡し、自らもナイフを構えた。
 兵士は渡されたナイフを構える。傷も癒えた今となっては体調的な問題は何もないはずだった。しかし彼
は今回もまた辛くなってナイフを捨ててしまった。
 テロリストはそんな彼を見て、驚いたような顔をした。しかし、すぐに微笑み、ナイフで十字を切り、そのまま
自分の喉を切った。それからテロリストは何か喋ろうとしていたようだが、兵士には何も聞きとれなかった。
 やがて友軍が洞窟にたどり着き、兵士は祖国へと帰った。
 彼にはテロリストが自殺した理由が分からなかった。自分を殺さなかった理由は分からないでもない。情
が移ったのだろう。しかし自害する理由などなかったはずだ。「殺すか殺されるか」と言う言葉が頭をよぎる。
このまま考え続ければ答えが分かりそうな気がした。しかし彼は辛くなって思考を中断した。
 分からなくてもいいこともある。彼はそう自分に言い聞かせ、空を見上げた。空は青く、雲は白かった。




――――――――――――――――――
次は
クラゲ 大河 心臓 
でお願いします
382クラゲ 大河 心臓:2008/02/08(金) 00:57:37
猿に近しい人なのか、人に近しい猿なのか
毛むくじゃらの動物は大河から海へと流されていった
イカダとも言えぬ木の屑に乗り、不思議な物体を追い求める

以前、毛むくじゃらは透明な、まるで心臓のようなものを塩辛い水の中に見た
それは動物の中にあるものと大きく違うものだった
我を持ち、目的を持ち、生きる心臓に毛むくじゃらは驚き逃げ出した
逃げ出したと同時に後悔し、強い好奇心が芽生える

毛むくじゃらはその時の生きる心臓をもう一度見たかった
部族の者に手伝ってもらい、イカダらしきものを作る
毛むくじゃらは流れていく
クラゲの群れの中には木の欠片と、木を降り海へと帰った心臓が残った

次:「期待」「結果」「夢」
383晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/09(土) 01:28:38
 ナオミが言ったことが、最初頭に入ってこなかった。
 話がうますぎるというのはこのことなのかもしれない。それでも身体の内側
から湧きだしてくる喜びの噴流は押さえきれない。期待していたことがこんな
結果となって現出するなんて。自分の心の中だけじゃなく、この世界、このく
されきったはずの世界で、体中の細胞を一斉に破裂させるような喜びが顕れて
くるなんて。ただ期待していただけのときは真実じゃなかったのに、ナオミの
言葉によって真実になってしまった。ナオミが現れた。ナオミがここにいる。
ナオミ。ナオミ。拳を握りしめる。手のひらに爪が食い込む。開いてしまった
ら消えてなくなりそうで、怖くて力を抜けない。拳に蓄えられた力が腕に伝わ
ってくる。肩をふるわせる。体中の筋肉という筋肉が全てのグリコーゲンを消
費しようと一斉に収縮している。夢なら冷めさせない。永遠に夢を見続けてや
る。ナオミの言葉を引き受け、自分の言葉を伝えるために力をゆるめた。精一
杯冷静に。でも気持ちをこめて。右手をさしのべて。言った。


 告白 ダメ 雲
384告白 ダメ 雲:2008/02/10(日) 00:32:56
「このまえ高橋先輩に告った」
 ストレッチをしながら美幸が突然切り出した。
「ふぅん」
 僕は側で屈伸をしながら必死に動揺を表面化させないよう気のない素振りで応えた。
「ダメだった…」
「そっか」
 今度は深い安堵を顔に出なさいように言った。見つめる先の助走路にはその憧れの先輩が今まさに砂に向かって走っている。
 ふと美幸の記録がここ数日落ちていた事を思い出した。
「今日は空が高いな」
「…うん」
 すがすがしい秋晴れの日、浮かぶ雲も青い天井もとても高くて、今日はいつもより飛べそうな気がした。

今砂の上で笑っているあいつよりも。


次の題 「荒涼」「寂漠」「残像」
385名無し物書き@推敲中?:2008/02/10(日) 00:47:19
最近はいつも心に雲がかかってるな。
思い返すとここ半年は仕事に追われ自分の時間が持てず心の余裕がない生活を送っている。
実家に帰ってないなぁ。かーちゃん元気かなぁ。
この前の同窓会、久しぶりに学生時代の友人たちに会った、結構変わるもんだな。
出世しているやつもいたし首切りに怯えてるやつもいた。
明るく堂々としているやつもいれば、自信をなくしているやつもいる。
恋心を抱いてたけどついに告白できなかったあいつはもう結婚して子供もいるってさ。

今の生活、俺は満足しているのかな。
かーちゃんごめん、当分嫁さんの紹介は無理そうだわ。
でも仕事は頑張ってるよ。俺なりにね。
落ち込むことはあるけど辛いのは自分だけじゃないからな。
いい人生を歩んでるとは決していえない、むしろ駄目な人生かもしれない。
ただ
「前を見て進むしかない」
そう自分に言い聞かせて生きていくよ



次のお題
コーヒー 車 恋人 
386名無し物書き@推敲中?:2008/02/10(日) 00:49:09
かぶった
次の題 「荒涼」「寂漠」「残像」
でお願いします
387名無し物書き@推敲中?:2008/02/10(日) 23:24:56
もう随分長いこと歩いているような気がした。
歩いても歩いても、同じような景色ばかりが続く。
高層ビルの間を歩く人々。その人々のなかを歩く私。
群集はまるで私には気がつかないようだ。
そんな人々が楽しそうに生活している様子は、
もはや西部劇の白黒映画の一場面のように
荒涼とした風景にしか見えなくなっていた。

「西部劇か……」私は、ふと、
「ああ、ここは本当に砂漠みたいだな」と思った。
するとどうだろう、本当に地面に砂漠が現れ、
ビルも人々も砂漠に呑まれ沈んでいった。
そしてあたりにはビルの残像が、ヒトの残像が、この世界の残像が、
「そこにはそういうものがあった」という感覚だけが寂漠として残った。

私は、私は、まだ生きているのでしょうか?


次のお題

「つり銭」「殺人事件」「浅漬け」
388晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/11(月) 01:36:17
 繋がれた岩牢はひとりが入れるだけの狭いものだった。顔の前に開いた小窓
から荒野だけが見える。枷を留めた者は去り際にずっとこちらを見ていた。ま
るで子犬を捨てたことを嘆いているかのように。その尊大で、しかし寂しげな
眼差しから、自分が永遠の縛鎖についたのだと知った。死が軛を取りのぞくま
で。小窓から天頂に昇った太陽が見える。雲は走り、荒野は吹きすさぶ。まば
らに生えた草木は引きちぎられまいと必死に大地にしがみついている。やがて
日は沈み。月がやってくる。夜の荒野は静かだ。草木も安らかな眠りを得て音
もない。なにか音がしたように感じて目を上げた。しかしあるのは月の青い光
にてらされた動かない大地だけだ。耳を澄ます。右腕をかすかに動かすと音が
した。また動かす。音がする。むなしさが胸を満たす。音を発するのはこの荒
野で自分だけなのか。やがて風が太陽を運んでくる。月が照らし始めると風は
去ってゆく。荒涼の太陽と寂寞の月だけが自分のすべてとなる。まぶたを閉じ
れば、太陽と月とが同じように繰り返している。いま見ているものが実際目に
しているものなのか、まぶたの裏の残像なのか、区別はつかない。
 長い時を経て、馬の蹄を遠くに聞いた。時は満ちたのか。

猿 王 インド
389晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/11(月) 01:38:18
かぶ

「つり銭」「殺人事件」「浅漬け」
でどうぞ
390名無し物書き@推敲中?:2008/02/11(月) 14:51:30
今日も仕事が遅れた。終電には間に合いそうもない。
駅まで来たものの電車がないんじゃしょうがない。
ホテルに泊まるかタクシーで帰るか、そう迷っていた時に駅下の飲み屋を見つけた。

仕事に失敗はつきものだ。それが自分のせいならまだいい。
しかし中には失敗を押しつけられたり客から不条理なクレームによるものも多い。
そういう時はただただ心が腐る。世の中の全てが憎たらしくなる。
満員電車の中でのちょっとした小突かれから殺人事件に発展するのも
仕事によるストレスからだろう、今になって理解ができるようになった。

飲み屋のテレビでは今日も暗くなるニュースばかりが流れてる。
昔はどうだったか、24時間働けますかなんて言葉が流行るぐらい
仕事にみな情熱を持っていた。金もあった。希望があった。
浅漬けなんかじゃなくもっといいものを気軽に食っていた。
偽物なんかじゃなく本物のビールも飲んでいた。

時間はもう2時を回っている。こんな所で酒を飲んでる場合じゃなかった。
店を出る時、心なしか釣銭をもらう手が昔より小さく見えた。
391名無し物書き@推敲中?:2008/02/11(月) 14:53:25
お題

部室 テスト コンビニ

でお願いします。
392部室 テスト コンビニ:2008/02/12(火) 00:04:06
 七年ぶりの部室は見慣れない物や配置が変わっていたりはしたが、名残はそこそこあった。壁や机の落書き、棚にはコンテスト入賞の賞状やらが飾られている。そもそもここがまだ放送部の部室として使われていることが少し嬉しかった。
「瀬戸君」
 驚いて振り返る。だがそこには誰もいなかった。
「泉…」
 泉は部員のなかでは目立たないほうだったが、僕は彼女に密かな想いを抱いていた。でも結局最後まで気持ち伝えることは出来なかった。僕の意気地の無さと、彼女を奪った事故のせいで。
 雑誌やコンビニの袋などで散らかった机のうえに放送用のスタンドマイクがあった。スイッチを押す。繋がってないので意味はないが、なんとなく。向かいあい、喋ってみる。
「チェック、チェック、聞こえてますか? そっちはどうですか? 僕は…まあ相変わらずです。チェック、チェック、届いてますか? 伝えたいことがあるんです…」
 スイッチを切った。繋がってないので意味はないが。

 埃をかぶり、やがて色褪せていく記憶。ただ棚に飾られた写真の二人だけは何も知らずにいつまでも笑顔のままだ。
393名無し物書き@推敲中?:2008/02/12(火) 00:10:39
お題

境界線 既成概念 擬態
394「境界線」「既成概念」「擬態」:2008/02/12(火) 14:36:31
 草木にまだ露が光る頃、一匹のカマキリがその眼をぎらりと尖らせていた。
鋭い視線の先には、灌木の若い枝。
 枝の上には何もない。ただ他の枝と違うのは、その下縁に滴が見えない。
獲物。露の付いていないその背景を見たか、それともわずかな臭いを感じたか、
カマキリは野生の勘と経験とでそう判断した。木の枝に擬態した節足動物。
 直後カマキリは高く跳躍した。大きな両の鎌をより大きく振り上げて、獲物の胴体を
がっしりと掴んだ。
 と、カマキリが確信した瞬間、捕らえたはずの獲物の、いやむしろ美しかった朝の空の、
境界線がぐにゃりと歪んだ。獲物と見た昆虫の体はぽっかりと開いた口に変わり、
うっすらとかかっていたもやはよりはっきりと何者かの殻を形作った。カマキリは
二つの鎌を残してばりばりと砕け空に消え、それを食い尽くした何かは、静かにもとの
灌木の外形を覆いやがて見えなくなった。
 ありふれたものの「内側」が本体であるという既成概念を、そして肉食昆虫の野生を
上回る何かが、この世界には潜んでいるのである。


次「雪」「タンス」「セロハンテープ」
395晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/02/14(木) 22:23:41
 タンスを持ち上げる。重い。緻密で堅い木材が手に食い込む。と感じたとき、軍手が滑
った。倒壊するビルのようにタンスが傾く。息を呑む。喉がヒュッと鳴る。肩胛骨を滑ら
せて腕をのばす。かろうじてとどいた。指先をタンスの底に吸いつかせる。セロハンテー
プなみの粘着力を発揮しやがれと自分を鞭うち、そのまま少し引き上げ、すばやく指の根
本まで入れ直す。タンスは二度三度とゆっくり揺れた。
「うぃぃーー」
 一緒に運ぶマサルが声を上げる。安堵80%非難20%といったところか。
「おう、あぶなかったぜ」
「気をつけてくださいよ。アキラさぁーん」
「わかったわかった、行くぞ」
「うぃー」
 マサルはこの言葉をよく使う。Ouiということか。
 歩き始めると、タンスの重さが増すようだ。一歩進むたび腕が下に引っ張られ肘が抜け
そうだ。マサルは一歩ごとに、喉を擦るような短い息を吐いている。
「どうしたんだ、疲れたか。よっこらしょ」
 足元を確かめながら言った。
「え? どうしてですか?」
「その息の仕方だよ」
 目を上げてそう言ったが、大きなタンスの向こうのマサルにはよくわからなかったらし
い。え、別にどうって事ないっすよ、と素っ気ない。
「アキラさんのこのあごのほうが微妙っすよ。うぃー」
 顎を突き出して口をすぼめ、首をゆっくり振りながら言う。俺のまねをしているようだ。
なるほど自分も顔に力が入っていたことに気づく。
「まあな。俺は腕もやばい」
「あー、でも俺もきついかもしれないっす。話してるのも苦しくなってきました」
「そうだな、おっしゃ、とりあえず運んじまおうぜ。おうりゃ」
 気合いを入れ、持ち直す。タンスの側面に顎を密着させ空を見上げると、左目に何かが
入った。とっさに閉じたまぶたから、冷たい涙があふれて流れた。雪だ。
「急ぐぞ! マサル」

救急車 ドーナツ バリアングル
396名無し物書き@推敲中?:2008/02/16(土) 00:33:57
その頃の私は、休日出勤が好きだった。
誰もいないオフィスで、誰にもじゃまされず、自分の仕事を機械のように片付ける。
猛烈なスピードでキーボードを叩いていると、ドアを開ける音がした。
振り向くと、私服の小笠部長と目があった。
「ありゃ」「どうも」
私はぎこちない笑顔で頭を下げ、部長は頭をかいた。いたずらを見つけられた子供のようだ。
「部長もお仕事ですか」
失礼とは思いつつ、私はキーボードを叩く手をゆるめなかった。
うーん、そのね、仕事じゃないんだ。いやね、実はこれ、新しいカメラなんだけどね、
一眼レフでね、田辺くん、カメラわかるかな、デジカメ、画素数も多くてね、ほら、
ファインダーがバリアングルなんだよ、これ。新機種なんだ。
部長は言い訳のように言葉を並べながら、手に持ったカメラを私に見せる。
「部長、写真がお好きなんですね」闖入者をとがめるようなキーボードの連打を、私は止めた。
「うん。趣味ってほどでもないけどね。好きだねえ」
仕事場を撮ってみようかなと思ったんだよ、と小笠部長は言った。
ここ、この机。部長が自分のデスクを指さす。
ここから職場を眺めてるでしょ、いつも。
「なんかこう、もっとキャッカンテキに? 見てみたい、というか」
あきらかに照れている部長を前に、私も少し困ってあいまいに笑みを浮かべる。
田辺くん、ちょっと待ってて、と言い残して、急に部長は出て行った。戻ってきた部長は、手にミスドのパックを提げていた。
「これ差し入れ。休出の邪魔をしてすまなかったね」
帰ろうとした部長を、私はひきとめた。
部長、まだ写真をとってないじゃないですか。
いや、いいよ、また今度にする。
部長はやっぱり、いたずらを見つけられた子供のようにそそくさとドアに消えた。
ひとりでゆっくり撮りたかったんだろうな。
私はまた無人になったオフィスで、コーヒーを淹れて、ドーナツをかじった。
窓の外で救急車のサイレンの音がする。はっきりしたドップラー効果を残して音は通り過ぎていった。
私は再び、キーボードを叩く音で部屋を満たす。

「鴛鴦」「鍬」「バイオハザード」
一陣の涼風が吹き抜け、鳶がゆるやかに円を描く。
老人は皺だらけの額に汗を浮かべつつ、澄み渡った空を見上げて眉根を緩めた。
先日傘寿を迎えたものの、日々の過酷な労働で鍛えたその肉体は老醜に程遠い。
鍬を振り上げ大地を耕し、肥料を与えて生命を育み、全てに感謝しながら実りを穫る。
誰に讃えられることもなく年々ただ愚直に重ねてきたその営為が、今は無性に誇らしい。
それもみな妻のお陰だ。多少の照れを感じながらも老人は想いを馳せる。
数十年前。箱入り娘だった妻と半ば駆け落ち同然に故郷の村に戻ってきた。
白く細かった手指はひび割れ節くれ立ち、夜のように美しかった黒髪は雪のように白くなった。
それでもいつも笑顔を絶やさずに、気難しい自分を気遣い支えてくれた妻。
言葉にこそ出せなかったが、鴛鴦の夫婦のように睦まじく添い遂げたいと心から願っていた。
いきなり鳴り響いたサイレンに思考を遮られ、老人は目の前の建物に厳しい視線を投げる。
数年前川上に工場が建設されて以来、この一帯の空気も水も悪化の一途を辿っていた。
バイオハザード。耳慣れぬその言葉が囁かれ始めたのは、川で奇形の魚が獲れ始めてから。
地元民が何度か交渉に臨んだが、多大な寄付金が貧しい過疎村の上層部を沈黙させた。
そうこうしている間にも、村では密かに、そして急速に奇病が流行り始めた。
最初は悪質な風邪だと思われていたそれは、まずは視覚を、やがて聴覚を、そして最後に心を奪っていった。
妻の名が罹病者リストに書き加えられた時、彼の中である決意が生まれた。

背中で力無く首をしなだれる妻に、あるいは自分自身に言い聞かせるように彼は小さく、しかし力強く呟いた。
お前と過ごせて俺は幸せだった。すまない、そしてありがとう……愛しているよ。
妻のために長らく止めていた煙草を懐から取り出して火を付け、深く煙を吸い込み、またゆっくりと吐く。
そのまま目の前の導火線に煙草で火を点け、爆ぜながら短くなっていくのを見守る。もう大丈夫だ。
妻を優しく草の上に下ろして寝かせ、自身もその脇で横になってまた空を見上げる。
そっと手を繋いだちょうどその時、二人を閃光と爆音が包んだ。


「人でなし」「∞」「タピオカ」
399名無し物書き@推敲中?:2008/02/17(日) 21:02:40
妹はタピオカとココナッツが入った乳飲料が好きだった。
今その妹の笑顔だけを心に浮かべ闘っている。

相手はボクシングフェザー級日本チャンピオン。現在は7ラウンド。場所は後楽園ホール。
そのチャンピオンがゆっくり、ゆっくりと距離を詰めている。
彼のパンチの破壊力は凄まじい、かすっただけでまるで内臓をえぐられる様な感覚に陥る。
相手のパンチを喰らってはいけない、一発でも喰らってはもう起き上がることが出来ないだろう。

ここまでの7ラウンド、闘ってみて、わかる、私はもう、彼には勝てない。。。。
しかし私には負けられない理由がある。その理由があるからはるばるアジアの島国まで遠征までしてきているのだ。
なんとしても勝って、ファイトマネーを、チャンピオンの名声を、そして愛らしい妹のためにも!
苦しい生活から逃れるために、病弱な母さんに十分な療養を受けさせるために、
私はどんな汚いともしてみせよう、例え妹から嫌われても、故郷から人でなしと言われようとも。

私はぎり、と歯を食いしばり相手に近づこうとしたとき
チャンピオンは∞の軌跡を描き、彼もまた私に近づいてきた。


次のお題
ファーストフード、匿名掲示板、腕時計
400>399:2008/02/20(水) 05:07:38
 それは低く冷たく、人間味のない声だった。
 ――だからお前はダメなんだよ。
 どこから聴こえたのかも誰の声かもわからない。後ろと言われれば後ろな気もするし、部屋の外と言われればそんな気がする。だがやっぱりわからない。
 確かなのはここ最近、私はこの声に苛まされていることだった。
 ――お前は、作家になりたかったんだろ?だけどなれずに狭いアパートで一人暮らし。笑えるよな。
 ふざけるな。文句があったら出てこい。
 「おい、誰なんだよ!」
 ――なにキレてるんだよ?図星だったからか?
 と言うと声は私を嘲笑った。
 「いい加減にしろよ!」
 私は部屋の壁を拳で思いっきり殴った。築30年の土壁はあっけなく破れた。ぱらぱらと欠片が落ちていく。
 右の拳からは血が流れている。ポタポタと血は私の手から外へ溢れ、畳に散っていく。
 ――そうカリカリすんなよ。また書けなくなるぞ。作家になりたいんだろ?ほら、また一日が終わるぞ。
 腕時計を見ると、針はもう夜中の0時になろうとしていた。
 「うるさい!邪魔するな!終わりがなんだ!オレはまだ始まってもいねぇ、始まってもいねぇんだよ!」
 そう言い返すと私は腕時計を引っこ抜くように外し、何度も何度も畳に叩きつけた。
 その腕時計は亡くなった父が私に与えた就職祝だった。作家になることを誰よりも反対していた父からの最期の贈り物だった。もう20年も前の贈り物だが。

401つづき:2008/02/20(水) 05:30:23
 ――お前の父親の言っていたことは正しかったんだよ。お前にゃ才能がねぇ。
 声は、けたけたと笑う。
 私は頭をかきむしった。手の血が頭皮をなぞる。
 『頭に血がのぼる』、そんなフレーズを思い出すと私の口から微笑が漏れた。イライラするのが馬鹿馬鹿しくなり、血をティッシュで拭い、適当に包帯を巻いた。月日のせいか、管理が悪かったせいか包帯は黄ばんでいた。
 そしてさっき買ってきた安さだけが売りのファーストフード店のハンバーガーを片手にパソコンにむかった。ハンバーガーはチンケな味がするが、腹が満たされるならそれで良い。
 私はマウスを動かした。手が痛む。インターネットへアクセス。匿名掲示板にクリック。気晴らしに匿名掲示板はもってこいだ。
 私は小説家を目指す人たちが集まる掲示板にクリックした。画面に文字が表示される。
 1:>ケータイ小説なんてくそくらえ!
 2:>1よ。お前がクソだろう?デビューしなきゃケータイ小説以下!
 それは違う、と私は思った。いくら本を出していないからといって、あの文法が間違ってばかりで、語彙も乏しいケータイ小説以下なんて……ありえない。ありえない。ありえない。
 痛みを無視するように指がキーボードを叩いた。
 3:>2さん。お言葉ですが、それはありえないでしょう。義務教育を受けていればケータイ小説以上の作文は書けます。書けるに決まっています。

402つづき:2008/02/20(水) 05:52:02
 4:>あのなぁ、小説は文法が正しければいいとか、語彙がありゃあイイってもんじゃねえんだよ。センスがあれば駄文だっていいのさ。だからケータイ小説は売れてるんだろ?
 違う。違う。ケータイ小説など間違いだ!間違いに決まっている。
 私の指がピアノでフーガを奏でるかのように激しく動いた。
 5:>それは間違っています!ケータイ小説などあんなの誰でも書けるに決まっている!くだらないくだらないくだらない!
 書き込みが終わると私はすぐに、更新ボタンを押した。
 すると、パソコンの液晶から声が聴こえた。
 6:>5へ、だからお前はダメなんだよ!
 私は確信した。コイツが私を苦しめる声の主だと。犯人がわかれば恐くない。
 頬が緩む。勝てる。私はコイツに勝てる。なぜなら正義はいつだって勝つのだ。ゲームの支配者はこの瞬間から私になったのだ!
 7:>卑怯者め!お前の正体は知ってるんだよ!お前が6で発言した瞬間から形勢は変わったんだ。オレが主導権を握る!
 清々する。ついに反撃の機会が巡ってきたのだ。
 私は嬉々として更新ボタンを押した。
 8:>お前、ヤバくね?
 9:>8へ、関わらない方がいいぞ。
 私の答えは正解だったようだ。焦っていやがる。もっともっと懲らしめてやる。楽しくなってきたぞ。
 私は即、返信してやった。
 10:>関わらない方がいいぞ?はっ逃げるんだな!犯罪人!
 私はまたまた更新をクリック!返信がくるまでクリッククリッククリッククリッククリック!
 はははは!私は勝利する!戦って戦って戦って戦って戦って、勝ち抜くのだ!はははは!
 また声が聴こえた。
 ――おまえ、廃人だな。
 私はそれをかきけすようにキーボードを叩いた。

 おわり
403名無し物書き@推敲中?:2008/02/20(水) 05:53:46
次のキーワードは、『タバコ』『野球場』『ラブホテル』で。
404名無し物書き@推敲中?:2008/02/20(水) 09:28:25
この間は誘ってくれてありがとうな。
合コンとか久々でさ、かなりハメはずせたわ。
あの後、あの女とどこまでいったって?
ははっ、やっちゃいました。好きモンだったぜアイツ。速攻ラブホテル行こうだもんな。ちょっとビビった。

マジで変な女だったぜ。ゴムつけようとしたらキレるしさ。生で三発。ごっつぁんですって感じだけどよ。妙なトコで神経質なのな。
タバコ吸おうとしたら、鬼みてーなツラしてブン盗りやがんの。嫌煙家ってヤツ?こえー、こえー。
なんか知んねーけど気まずい雰囲気になっちゃってさ。しょーがねぇから適当に話振ったんよ。都市伝説。
「知ってる?●●球場って宇宙人の秘密基地なんだぜ」って。ほら、あの飲み屋から近かったじゃん。●●球場。
そんだけの理由なんだけどさ。ノってきたんだよ、あの女。いやー、変なヤツには変な話題が一番だな。ははは。

なんだよ?お前まで興味あんの?
結構有名な噂だぜ。あの球場が宇宙人の秘密基地でさ、地球人に変装しておかしな病原菌広めまくってるってヤツ。
何でもその宇宙人には弱点があるらしいんだけどさ、俺もうろ覚えだからよ。そこだけ忘れちまった。
信じるか信じないかはアナタ次第です!なんちって。くっだらねー。
あー、かゆい。あの女に病気でもうつされたかな俺。

ん?お前タバコ駄目だったっけ?まぁ、いいじゃん。ちょっとぐらい我慢してよん♪
余計に税金払ってんのに肩身狭いわー。ふぃ〜。

……おいおい、大丈夫かよ。おい、しっかりしろって。うっわ〜マジかよ。なんか顔色ヤバイってお前。
救急車呼ぶか?
405名無し物書き@推敲中?:2008/02/20(水) 09:32:49
次のお題は
「サル」「CPU」「匂い」
406サル CPU 匂い:2008/02/20(水) 16:56:36
 荒れた果てた都市、ビルは殆ど倒壊し、灰色の空が広い。世界規模の荒廃。何が起こったのだろうか。世界大戦?伝染病の蔓延?隕石の衝突?原因を知る者は既に存在しない。
 どうやって災厄を免れたのか、一匹のサルが大通りをゆっくりと歩いている。
 食べ物を探し散策していた彼は、ふと遠くに何かがキラっと光るのを見た。近づいて広い上げる。それはCPUと呼ばれるものだった。科学技術の遺産、文明の匂い。しかし今の彼にとってそれは何の意味もなく、空腹を満たすものではないことが分かるとポイッと投げ捨てた。
 そのとき、偶然。偶然それがそばに落ちていたカセットデッキの再生ボタンにぶつかった。同時に朗らかな声が歌い始める。急に鳴り響いた音に彼は驚き、無意識に近くにあった鉄パイプを取り、デッキに何度も振り下ろした。
 音はいつの間にか止んでいた。彼は冷静になると今度は今手に持っているものの力に驚き慌ててそれを投げ捨てた。だがやがて彼は、何故かその鈍い光りに引き寄せられていった、そしてそれがいつか役に立つ気がしてまたそれを拾い上げた。
 新しい人類は再び瓦礫の森を歩きだした。
407名無し物書き@推敲中?:2008/02/20(水) 16:59:32
次のお題

「砂」 「壁」 「箱」
408名無し物書き@推敲中?:2008/02/21(木) 23:06:14
>>406

修正

×「食べ物を探して散策していた彼は」
〇「食べ物を探し歩いていた彼は」
409「砂」 「壁」 「箱」:2008/02/27(水) 03:01:00
よく目を凝らして壁を凝視すると、はらはらとなにやら細かいものがこぼれる音がした。
この巨大な箱の密室に閉じ込められてから初めて聞こえた音に男の心は踊った。
――この不条理不可解摩訶不思議の状況から抜け出すチャンスだ!
と壁に向かって駆け寄り、音が誕生した場所を、己の全神経を総動員して探る。探る。
四つんばいになりながらも懸命に探索を続けていると、指のつま先に「じゃりっ」という感覚が走る。
「見つけた!これが俺の光明!脱出口!っっっううっうー!」
発狂したように、口から唾液を迸らせながら奇声を上げる。その感情の激流に乗るかのように
脱出口と思われる場所を掘る手の勢いは止まらず、先ほどは針ほどにしか見えなかった光明も
今では希望が確信へと実感できるほどの域にまで達している。
男はその光の優美さに、はやる衝動を抑えきれなくなり、気づけば穴に向かって突進していた。
ぶつかる砂が凶器となり己を傷つけるのも厭わずに、何度も。何度も。意識が朦朧となってもその狂気の沙汰は続けられた。
人事不省の挑戦の果てに、鈍い衝撃音とともに男の頭のみが穴を突破した。
外界へと抜け出せた男の表情は至極晴れやかであったという。



「オオサンショウウオ」「ザッハトルテ」「掘り炬燵」
410名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 09:11:39
ageてみた
411名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 10:12:58



          ハイの術中に填まるな。


412名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 17:22:33
ハゲ死ね
413晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/03/05(水) 00:07:35
 雪の積もった道を急いでいた。一歩進むたびに足をとられる。駅前のケーキ屋さんで
買ってきたザッハトルテが、包んでくれた箱の中で行ったり来たりしている。ヒールは
履いていくんじゃなかった。でもまだ重なったりつぶれたり壊滅的な損害は受けていな
いはず。そう考えながら家路を急いだ。足を慎重に進めながら、早くうちに帰りたい、
と小さく呟いた。演歌調のリズムがついていて、自分の言葉に思わず微笑んだ。足元が
悪くなってきた。シャーベット状の雪の溜まりを小さく飛び越える。着地のとき足首が
グラリとした。足首の揺れはそのまま膝に伝わり、腰に伝わり、肩を揺らして腕をあげ
させ、タコのように両腕をくねらせてなんとか体勢を立てなおした。ぐらつきが止まっ
てからも腕をあげたままもう一度くねらせて、早くうちに帰りたい、とさっきの節を繰
り返して一人で喜んでみた。口許の笑みにマフラーを巻き直しながら歩き始める。マフ
ラーに暖かい息が篭り、頬を暖める。温もりが心地よい。家に帰ったら掘りごたつの中
に潜り込んでしまいたいと思った。あの赤い光の中でずっと過ごしたい。マフラーの隙
間から頬を差す冷気が掘りごたつへの愛をさらにかきたてる。でも堀ごたつでずっと過
ごしていると、ザッハトルテみたいなケーキでブクブクと成長して掘りごたつの口より
自分のからだのほうが大きくなって、もう二度と出られなくなってしまうかもしれない。
あのオオサンショウウオのように、とどこかで読んだ山椒魚の小説のことを思い出した。
「おかえり」
 母の声に目をあげるともう家の前まできていた。

成仏 石鹸 商い
414青空銀香 ◆PK7G.7777I :2008/03/06(木) 17:17:32
「この石鹸で身体を洗いますとね、あなたの身体にとり憑いている悪い幽霊が成仏するんですよ」
 幽霊とはお前のことだろッ! と思わず突っ込みたくなる風貌の男が言った。
 玄関先で、もう二十分以上話が続いている。気まぐれに、訪問販売の男を家に入れるんじゃなかった。
わたしは後悔していた。しかし、男は、そんなわたしの顔色などお構いなしという様子で、とにかく喋る。
 男は長身だが細身で、まるで針金みたいな身体に、頬のこけた頭がのっかている。銀縁の眼鏡の
奥はうつろで、唇は青い。その石鹸はまず自分が使って見たらいいんじゃないのと、言いたくなるのを
わたしは必死でこらえていた。しかしだんだん、それをこらえる必要性がわからなくなってきた。
男が息つぎするところを間髪入れずに言ってやった。
「まずあなた自身が使ってみることをお勧めしますよ」
 すると男は、
「あぁ、それはよく言われます」
 言われちゃいけないだろう、とわたしは心の中で突っ込んだ。
「その石鹸を使いますとね、売ったわたしのところへ幽霊が、怨念を込めてとり憑いてくるんですよ。
つまりわたし自身が、この石鹸の効果を身をもって証明しているのです」
 この男は、商い上手なのかわからないと思いながら、わたしは一つ買ってやった。

ビビンバ ハムスター ウルトラマン
415名無し物書き@推敲中?:2008/03/07(金) 22:18:08
それは彼女との3度目の旅行だった。
前回はヨーロッパだったので、今回は趣向を変えて韓国グルメツアー。
骨付きカルビやビビンバを味わい、おみやげ物を見て回る。

露店で彼女が足を止めた。「かわいい・・・」それはハムスターだった。
「おいおい、これ日本には持って帰れないぞ」と言うのに、
店のオヤジまでがにこにこして一匹取り出し、彼女の手のひらに乗せたのだ。
「あっ・・・」
ハムスターが手から滑り降りて走り出し、彼女はつられて追いかけた。
「おい、危ないっ!」
軽トラックが走ってきたのだ。

僕は咄嗟に彼女を突き飛ばした。その後どうなったのかはよくわからない。
遠いところから、彼女の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ねぇ、起き上がって!
いつまでも、私のところに飛んできてくれるヒーローだって、
ウルトラマンよりも強く守ってくれるんだって、約束したじゃない!」

薄れいく意識の中、僕は彼女のヒーローにはなりきれなかった、その悔いだけが残って消えた。


太陽 ダブルベッド ペリカン
416名無し物書き@推敲中?:2008/03/07(金) 22:55:05
>414
上手くキーワードが使えてる。最後は男自身が幽霊だったオチだろうと見ていたら違かった。
一捻り加えたところがいいと思った。男の容貌を最初か最初の方に書いていたら、始めの方の『幽霊とは〜』の一文がもっと生きたはず。
  秋が深まったさる日、僕はバイク事故によって右足を失い、退院してからしばらくの間、暇を持て余していた。
 付け加えると、元々アウトドア派だった僕は、体の方も持て余していたのだけれど、こればかりはどうしようもない。
 日常がそれなりに不自由な方向へシフトしたものの、命あっての物種、と自制することで、自分の不運を呪わずやり過ごすことに成功している。
 そう、たとえば、恋人と別れた代わりに、親兄妹の深い愛情を再確認したり、半年間の入院生活による留年を余儀なくされた代わりに、単館系ミニシアターを心の赴くまま、巡り歩く時間を得たり。
 右足は、僕に変化をもたらした。
 無骨な殻構造義足のフォルムがもたらす外見上の変化や、以前なら四、五分もあれば十分に踏破できた最寄駅から自宅までの距離に、途方も無い時間や疲労が必要になる、等の実際的な変化は元より。
 それ以外に、欠けた場所から発信されている心的な作用、反作用みたいなものを感じるようになった。
 主治医はその変化を、幻肢痛の症例を元に、懇々と説明してくれた。けれど、どうも彼女の説明するところの、幻肢痛特有の、痛みやくすぐったさ、喪失感や圧迫感とは、また異なっている気がする。

 『三百万メガワットの百乗の水素線なら、猟犬座からでも宇宙の終わりを告げる放送が地球にまで届くんです。貴方は、やがて目覚めることをやめて永遠の眠りに就くでしょうが、それは決して一人だけのものじゃない』
 『渡り鳥は、太陽や磁力線を元に、信じられないぐらいの長距離を縦断する。だが、時折、彼らは悪天候や特殊な事情で群れからはぐれ、本来の生息地ではない場所へと不時着する。それらを総じて、迷鳥と呼ぶ。(中略)さて、ここに今、一匹の不運なハイイロペリカンが居る』
 『見て! 空を見て! あんなに大きな太陽が雲のベッドに横たわっているわ! ……あれはきっと、ダブルベッドね。だって、太陽はあまりにも太っちょさんだから、小さなシングルだと転がり落ちてしまうもの。それにね、』
「……いつかは、昔のように月と一緒になって、ひとつに帰るんだわ」
 ソファーに、仰向けに寝そべった僕は、腕で両目を覆い隠しながら、銀幕向こうの女優の台詞を暗唱する。
  立て続けに鑑賞した三本の映画は、そのどれもが取るに足らない作品ではあるけれど、今の僕、右足を失った僕の胸を、打つものがあった。
 僕は不慮の事故で右足と分かたれた。そして、何かが変わってしまった。これから先、もし僕が再び変化を迎えることがあったとしても、そのたびに意図せず、右足に重心を傾けることになるだろう。
 だとしても、それを悲しいことだと思いたくない。
 忘れたくても、忘れられない場所に負った傷を撫でる時、僕は変化する前の僕を思うことになるだろう。
 そうして、いつか生涯を閉じる僕は、その時にようやく右足を取り戻すのだ。





 申し訳ない、一レスで閉じきれませでした。反省。
 次の三題は『沈む』『燃える』『結晶』でお願いします。
とうとう彼女に僕の気持ちを伝えました。
けれども言葉を繋げてゆくうち、彼女の心がすっとそばから離れてゆくのを感じました。
好き、とさえ言い終える前に彼女は、ちょっと俯いてしまったのです。
最初に僕にあったのは戸惑いでしたが、僕を受け入れてはくれないのだと分かるとすぐ、めまいを感じました。
瞬間、僕の精神が体から抜け出して、一歩引いたところから自分を観察できました。
いえ、足下を沈む、深い奈落の底から、でしょうか。
そこは暗い暗い場所で、道案内も手がかりもありません。
その惨めな穴蔵からも、頭上ずっと遠くに蜃気楼が見えます。
とても綺麗でした。
午前に大学の合格を聞いて意気揚々としていた僕自身が、さらに今にも消えそうな、彼女への淡い恋慕を抱く僕自身が。
何か取り返しのつかないことをした気がします。
燃えるほどだった彼女への恋も壊れてしまったようです。
雪の結晶が崩れてしまったのです。
彼女はいつの間にか目の前にはいませんでした。
結晶は、形を整えてやるにはあまりにも小さく可憐で、人肌に触れると溶けてしまい、もう元に戻ることはありません。
暖かな春風に吹かれ、僕は自分の一欠片を失いました。

「外」「雨」「歩道橋」
420名無し物書き@推敲中?:2008/03/08(土) 10:48:46
関東地方は一日中雨になるでしょう・・・お天気キャスターが深刻そうな顔で言い終わるのを聞いてから、
ため息をつきつつパジャマを脱ぐ。雨の日はスーツとバッグが汚れてしまうから、
あまり高価なものを身に着けないようにしている。

無難なコーディネートで外に出ると、思っていた以上に雨は強い。
タクシーを拾って駅まで向かうことにした。
歩道橋の下をくぐり、赤信号で止まったときだ。

「あれ・・・」

窓の外、仲良さげに相合傘をしているカップル。
見覚えのあるダウンの男は、私の恋人。
そして女は・・・「敦子。」私の、たった一人の妹だった。
二人はしっかりと腕を組み、顔を近づけて何かささやきあっている。
次の瞬間、タクシーは走り出し、二人の姿は瞬く間に消えた。

「お姉さん?着きましたよ」

運転手の言葉が聞こえた気がするが、頭の中がきーんと鳴っていて、よくわからない。
黙って1000円札を渡すと、這うようにタクシーから出た。

雨が叩きつけるようにスーツを濡らす。
だけど、そんなことに何の意味があるんだろう。
立ち尽くす私の前方から、相合傘が近づいてきた。

「目薬」「マドンナ」「小麦」
421「目薬」「マドンナ」「小麦」:2008/03/08(土) 15:19:34
 目薬でもさして嘘泣きしようかと思い、咲子は思わず顔をしかめた。
 隣りでタバコをふかしている洋平は、咲子のそんな表情など見もしないでテレビのサーフィン映像を眺め見ている。
「無駄だと思うんだけど」
 咲子は言う。そうかぁ? と洋平は聞き直す。
「綺麗な姉チャンから逆ナンされるのってアリじゃね? 
おれのマドンナはやっぱり海で見つけるべきだって」
「そんなこと力説されてもね」
 苛立ちが頂点に達しかけているのを咲子は感じた。鈍感、という二文字が口から飛び出しそうになる。
 小麦色の肌の女。馬鹿面の洋平の手を取り愛を誓う。それを遠くからそっと見つめる自分。
 バカバカしい絵面だ。腹立たしさをとおりこして、笑いたくなる。
 咲子は近くにあったコップを取ると、洋平の頬にぴたりとあてた。
「つめて」
 洋平が、顔をしかめて笑った。


次は「買い物」「マンホール」「地方」で∈(・ω・)∋
422名無し物書き@推敲中? :2008/03/08(土) 15:22:06
盗作無作は厳禁。
423名無し物書き@推敲中?:2008/03/08(土) 18:37:29
地方ってムズくね?
424晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/03/08(土) 23:50:34
 幼い頃、母に手を引かれデパートへ行った。父がなくなって一年ほどがたっていた。
ひどい雨の日だったが、いつも忙しく働いている母と二人でいられることが嬉しかった
。マンホールの蓋で足が滑りそうになったとき、腕を引き上げて支えてくれたのが楽し
くて、何度も滑って見せたりした。危ないからと何度もたしなめられたが、母も笑って
いた。
 何でも好きなものを買っていいといわれ、デパートの中を母と手を繋いで色々と歩き
回り、結局は大好きだったアニメの人形を買った。
 昼食をデパートのレストランですませ、食後のコーヒーを飲み干した私に母は、おう
ちに帰ろうと言って頭を撫でてくれた。帰り道で雨のなかを歩きながら、私はマンホー
ルを探していた。母はしきりとなにかを気にしているようだった。
 雨はさらに勢いを増してきた。路面を叩く雨粒が跳ね、着ていたカッパの胸元や、時
に顔にもかかるほどだった。母が膝を降り、私の顔を覗きこんだ。母の差す傘に当たる
雨音が大きくなる。母はごめんねといって白いハンカチで頬をぬぐってくれた。頬から
離れたハンカチには黒い泥が点々とついていた。母は私の目を見つめた。星が瞬くよう
な瞳だった。それからハンカチでぬぐった頬に何度もキスをした。暖かい吐息が耳元で
震えていた。母が立ち上がり、体を引くようにして一歩下がる。私は母を目で追ったが
、初めて見る年老いた夫婦が視線をさえぎった。母は彼らの後ろに下がり口許を押さえ
て横を向いてしまった。
 その後、父の両親である老夫婦に引き取られた私は、東京のビルの世界からこの山と
緑の地へと移された。一人息子の一粒だねということもあってか、祖父母はとても愛情
を注いでくれた。しかし、この地方の連中のくちさがない噂話では私は五百万で買われ
てきたという。母が私を売ったというのだ。デパートに買い物に来たつもりが、売り物
にされたのだという。
 反論はしない。ただ、なぜデパートの中ではなく雨の降る路上で引き渡されたのか。
私はそこに母の愛情があるのを知っている。あの日母はおうちへ帰ろうと言ったのだ。

性(さが) 立春 同時代
425名無し物書き@推敲中?:2008/03/09(日) 00:13:27
>>424
とても良くできた話。
それを巧く表現するだけの文章力がないのが非常に残念。
気の毒だけど、こういうのって仕方ないことなんだよね。
426晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/03/09(日) 00:56:53
>>425
ありがとう。文章力の鍛練、頑張ります。
できたらどの辺がまずかったか暇なときにでも
感想スレにお願いします。
ttp://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/l50
427コトバ ◆KugctX7wsE :2008/03/09(日) 17:56:02
「成仏」「石鹸」「商い」

感想書く方の我儘としては、名前欄か一行目にタイトルが欲しいところ。
細身の男はちょっと陰気な印象が強いな。
もう少しだけ寡黙で寧ろオカルティックに迫るか、逆にやけに明るい営業スタイルのほうが俺は納得する。
よく喋る陰気な男って客に取ってマイナスイメージしかないよ。
でも話そのものはばかばかしさがちゃんと書けてて面白かったよ。
〔普通〕∈(・ω・)∋
428コトバ ◆KugctX7wsE :2008/03/09(日) 20:24:31
ごめん>>427は感想スレに書くべき(>>414への)レスだった。
携帯だと誤爆しやすくて、色々不便が多い……。
429名無し物書き@推敲中?:2008/03/09(日) 20:33:45
PC持ってないような馬鹿が偉そうに批評とか烏滸がましいにも程がある。
430コトバ ◆KugctX7wsE :2008/03/09(日) 23:19:09
>>429
俺のことなら家庭の事情だ。あまり気にしないでくれよ。
俺は他人の話がすごく気になる。
昔からの性だから仕方がない。
三つ子の魂百までとも言う。
幼稚園生のころ、大阪から隣に越してきた小学生がいた。
そいつが阪神タイガースの話をしていたから、田舎ものはこれだから困る巨人の方が強いに決まってるわと言ってやったことがある。
殴られて泣いたが、絶対に巨人が強いという言葉だけは曲げなかったそうだ。
そこまでは自分は覚えていないのだが。

どいつもこいつも、こうして同時代に生きて呼吸しているなら、がっつり何か言ってやらねばと思う。
でも最近の奴は頭が硬いから困る。
ちょっと第三者が顔を見せただけで、お前は関係ないだのなんだのと、つまらぬことをぬかしやがる。
心が狭いのである。
一度口に出すのなら、誰に何を言われてもかまわないような、しっかり心に決めたことだけを言えばいいのだ。
それをあいつらは軟弱にきりきりきりきり、訳の分からない細かいことばっかり喚く。

くだらんその唾の散らし合いも、便所の中や自分の家だの、そういう場所なら許される。
勝手にすればいい。
あいつらは立春という言葉を知っているだろうか。
春がすっくりと立つのである。
日本人ってもんは、もともと季節も何もかも、しっかりと区分けしてやる民族だ。
学生が卒業式で長々と話を聞くのも大いなる区分である。
だのに分別のつかないのが増えているから困ったものだ。
例えば三語スレの>>425-430みたいなのはまったく場違いである。
あいつらは感想スレか、それとも「より良き即興のために」スレにでも行けばいいのだ。

「洗濯」「学校」「情報」
432名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 01:42:52
>>431
入り方が下手くそですね。
ただの説明文というか、安いゲームシナリオなんかを読んで自分でも書けると錯覚してしまった、そんな哀れさがあります。
要するに小説になっていないです。
433「洗濯」「学校」「情報」:2008/03/10(月) 03:23:10
メイドさんの膝枕に対岸を眺めると、奇妙な鉄の塔が目に入った。
「パリ万博」。西暦1900年に向けて開催される、科学の祭典のシンボルだ。

「馬車じゃなくってね、鉄の車がレールを走るんだ」「まあっ!」
「『電話』という機械が声を運んで、情報が瞬時に伝わる」「本当ですか?」
「『計算機』が何でもやってくれて、君も洗濯なんかしなくてよくなる。」

「お坊ちゃんは、楽天的過ぎますっ」と彼女は笑ったが、彼の妄想は膨らむ一方だ。

「『電話』もうんと小さくなって、『計算機』も小さなものが、人間の数千倍のスピードで計算さ」
学校の教師は「それは最低でも西暦2000年以降になるであろうぞ」と釘を刺していたけど、
期待せずには、いられなかった。
「その時には簡単な仕事は機械に任せて、週休6日で、残りは君とこんな事するのに専念できるのに」

…ここまで書いて眠くなってきた。というか憂鬱だ。
少なくとも、彼の最後のセリフの後半は半ば実現している。それで、満足するべきかもしれない。

こっちはこっちで、明日から会社だ。(02:50では既に明日だけど)
極小の『電話』である携帯を持って、22億クロック/秒の『計算機』で仕事する。
朝8時には『電車』に乗って通勤の、西暦2008年の生活が待っている。

※GWはどうなるんだろw
次のお題は:「境界」「ナイロン」「6」でお願いします。
434名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 05:40:08
 俺とお前との境界は、たったナイロン6つ分だ。
 手早い薄化粧よりも無難なスーツよりも、憎みたいのはストッキングで、なぜならそれをしゅっしゅっと小気味よく装備する音が、象徴だからだ。お前は俺のものにはならない。
 またね、なんていうふうには、お前は俺を慰めない。「じゃ、」と颯爽とした笑顔でドアを後ろ手に閉めかけ、「行ってきます」の言葉はもう平日の戦士の眼差しで放たれる。
 一週間経てばまた逢えるなどと信じてはいない。しゅっしゅっ、寝床の中からこの音を聴き続ける限り、俺はお前を手に入れられない。これが最後になるんだろう、いつも絶望的に、その音を聴く。
 実際には来週はやってくるのだ。職の無い、うだつの上がらない、昏い眼差しのこの俺にも。俺とお前とが唯一融け合える週末は。やってくるのだ。
 そんな希望に縋ることを許してくれない、しゅっしゅっ、音を俺は今も枕の上で聴く。


「ようこそ」「風」「壁」
435名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 07:54:01
アナボッキン☆
436「ようこそ」「風」「壁」:2008/03/10(月) 12:43:45
トロンボーンを見つけた。吹いてみるとへんてこな、涙の音がした。
ちょっと一曲演奏しようかと思ったけれども、やっぱりやめておいた。
もうずっと何年も吹いておらず、腕も鈍っているだろう。きっとますます気落ちするだけだ。
目元に手をやると、しずくに触れた。
失恋すると部屋を片付けたくなるというけれど、これまた妙なものを見つけてしまった。
ようこそと歓迎する気にはなれない。だが事実として目の前にあるのだから、何とかしなければ。
押し入れの奥を探っていたので、部屋中に埃が舞っている。
窓を開けると、三月の風が吹いてきた。春のにおい。
トロンボーンをどうしようかと考える。
確か二十万円ほどもした。それだけでもゴミとして出すには抵抗がある。
しかも、これを捨てるということは、トロンボーン奏者を目指した青春を捨ててしまうことじゃないかなんて思えた。
あのときは楽しかったなあ、と思い出す。
今思えば自分の実力も知らず無謀だったけれど。
目標を達成できなかったときは、やっぱりうちひしがれる。
けれども自分の決めた目標を目指す自由があった。
今みたいに周りに振り回される、川に浮かぶの木の葉とは違っていた。
指先を擦り合わせてやる。さっきの涙はすぐ蒸発して消えた。
かつて目の前にあった壁は、それに背を向け振りかえれば、後ろを支えてくれているらしい。

「天国」「あなた」「つらい」
437名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 15:14:28
彼とはもう半年も会ってない。電話もメールもつながらない。でも今でも彼のことを愛しているし、彼も私のことを愛しているであろう自信がある。
手紙を書こう。今時少し恥ずかしいが電話やメールより自分の気持ちが伝わる気がする。でもなんて書けばいいのだろう。半年分の気持ちを伝えたいが、あまり自分勝手なことを書いて彼に嫌われるのは嫌だ。
結局とても質素な手紙になってしまった。

「天国のあなたに会えないのはつらいです。」


「絵の具」「カレンダー」「強制」
438名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 15:19:54
幼稚園の発表会です。

太郎くん。

お母さんに捧げる作文読みなさい。

「お母さんご苦労さまです」
439晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw :2008/03/11(火) 01:19:23
 水につけた筆先から絵の具がパッと広がるように噂はすぐクラスを越えて伝わったようだ。隣のクラスからアキラが来てトイレに行って空いていた隣のマサルの席に座り、机と椅子の背に肘をかけて、顔を近づけてきた。
「ミキと別れたんだって」
 目を輝かせている。
「ああ」
「なら、俺がもらうぜ。いいんだな」
 沈黙が流れた。
 想像通りの問いかけだったが、答えがすぐには出てこなかった。いいも悪いもない。もうなんの関係もないんだから。そのくらい分からないのか。その問いに俺が答えるべき言葉はない。沈黙の中、開いていた文庫本から目をあげるとアキラの不安そうな顔があった。
「俺には関係ない」
 ずいぶんと落ち着いた声が出ていた。
「お、おお、そうか、分かった」
 何が分かったのか分からないような、はっきりしない返事をしてアキラは立ちあがり出ていった。
 そのあとは誰も何も話しかけては来なかったが、アキラとのやり取りについて、何か弁明を強制するような暗黙のプレッシャーが降り注いでいるように感じていた。
 でも俺には言うべきことは何もないんだ。
 文庫本を開いたまま、壁にかかったカレンダーをみつめていた。今日の日付を探していた。けれどいくら探しても見つからない。今日はいつだっけ。いったいどうなってんだ。
 分かった分かった。そう心の中で呟きながら目をつぶり息を深く吸い込んだ。
 始業のチャイムがなった。みんなが席につく音がする。
 俺は目を開けて一人立ち上がり教室をあとにした。

気合い キウイ 気負い
440気合い キウイ 気負い:2008/03/11(火) 05:22:48
「キウイって鳥、知ってる?」
唐突に私がそんなことを言ったものだから、母は変な顔をした。
「ニュージーランドに生息する、茶色くてまんまるい鳥なの。
紀元前に出現したすごく古い種だから『生きた化石』って呼ばれてたりするのよ」
「まるでママみたいだって、あなたはそう言いたいのね」
母は私から力なく目を反らす。私はびっくりした。
「ああ、そういう考え方もあったのか。今気が付いた」

母はバリバリの根性論信者。「今の選手は気合いが足りない。ママの時代は」が口癖だった。
私が大会で思うような結果を出せなかったとき
全ては私の気合いが足りないせい、努力が足りないせいになった。
私はいつも、母の期待に応えたかった。

「あのね、ママ。キウイは飛べない鳥なんだよ。紀元前からずっといる鳥なのに
とうとう飛べるようには進化しなかったの。何百年、何千年経っても」
時計を見る。記者会見まであと一時間。
私はみんなの前で、次の大会を棄権すること、そして引退することを伝える。
きっと大騒ぎになるだろう。私と母は、マスコミには人気だったから。
「たぶん、私はキウイだったんだね」
今、私はとても穏やかな気持ちでいる。何の気負いもなく、笑っていられる。
「でもね、私、ママの考え方きらいじゃなかったよ。
努力と根性でいつかきっと辿り着けるって考え方」
母はハンカチをぎゅっと握り締めたまま、うつむいて何も言わない。
「だって、天才じゃない私でも夢が見られたから」
手を伸ばし、震える母の肩を優しく抱いた。
私たちは、夢見がちなキウイの親子。長い夢を見ていた。
だけどそれは楽しい夢だった。ねえ。それでいいよね、ママ。


「放課後」「宝塚」「ロマンス」
441名無し物書き@推敲中?:2008/03/12(水) 15:16:50
放り投げたシュシュは軽すぎてあまり遠くに飛ばなかった。
課題の上にうつぶせる。水彩絵の具の匂いに横を向くと。白いシュシュが床に落ちるところだった。
後一時間で下校時刻。一人きりの放課後は、なんて長い。
宝物だったシュシュ――あやめにもらった大事なそれを、足を伸ばして踏みつけた。
塚本あやめ。綺麗な名前だ。宝塚の役者さんみたいだと言った私に「『鈴子』も素敵だよ」。返事の笑顔で恋に落ちた。
ロマンス、と代名することのできない恋。女同士というのを抜きにしても、あやめは酷い恋人で、私は弱い人間だった。
マリンブルーの絵の具が薄く滲む。彼女に作られた色々な傷、彼女の吐いたたくさんのウソ、彼女がくれた唯一のプレゼ
ント。私は目を閉じた。瞼の裏は真っ暗だった。立ち上がり、ドアのそばに寄る。手探りで。
スイッチを探し当て、消した。目を開けて、薄汚れたシュシュと、皺の寄った青空の絵と、窓からの光をじっと見つめた。
寂しい、悲しい景色。でも、私にはなんでもなかった。あやめの綺麗な下半身にあれがついている景色より、酷い光景な
んてあるはずがないのだから。

「聖書」「二時間後に」「螺旋階段」
442名無し物書き@推敲中?:2008/03/16(日) 02:23:33
週末age
443名無し物書き@推敲中?:2008/03/16(日) 12:55:11
タエコさんは、いきつけの居酒屋で働いているすこし変わった人だった。
五十代か六十代か、年のころははっきりしない。
夏でも冬でも暗い色の和服を着ていて、白髪まじりの髪はひっつめにしていた。
油紙のような渋色の肌が、骨ばった頬にはりついて、お世辞にも綺麗な人ではなかった。
てきぱきとタエコさんは僕らのオーダーを通し、厨房でも働き、飲み物や料理も運ぶ。
カウンターとテーブル席が三つの小さい店では、僕らの話もつつぬけだったから、
手の空いたタエコさんは、僕ら若造の愚痴に辛口の合いの手を入れた。
海千山千は、タエコさんみたいな人を表現するのだと学校を出て二年目の僕は思った。

タエコさんが亡くなったことを知ったのは、その店が臨時休業した翌日だった。
僕らは一瞬しんとなった。普段喋らない大将が、タエコさんのことを話す。
店が入っている雑居ビルの一室に住んでいたこと。郷里には息子さんがいたこと。
遺品からは聖書が出てきて、洗礼を受けていたのを知ったこと。
二時間後には、タエコさんの息子が挨拶に来ると聞いて、僕らは好奇心から低い声で
どうでもいい仕事の話を続けた。
ビル外の螺旋階段を降りる足音が聞こえて、店の引き戸がからりと開いた。
黒い礼服のままの小柄な男が、頭を下げながら店に入ってきた。
大将と小声で話し、何度も頭を下げあっていた。
彼はやがて僕らの陣取ったテーブルの前にもやってきた。
「父が生前大変お世話になりました。ありがとうございました」
あっけにとられる僕らが何も言えずに頭だけを下げると、息子は店を出て行った。
大将は何事もなかったように、厨房の仕事を続け、僕らの注文を出す。
僕らはもう、何故かタエコさんのことは、話さなかった。
タエコさんは、どういう風に生きたかったのだろう。
生き終えた後は、どこに行きたかったのだろう。
渋茶色の滓が、僕のうすっぺらい心のどこかに積もったような気がした。

DVD ダイレクトメール 鎮痛剤
 ダイニングテーブルの上のダイレクトメールに埋もれたママからのメモを探し出す。

これは、私が学校から帰って一番にしなければならないことだ。

 ちょっとうっかりなところがあるママは、いつもお出かけ直前になって、私への伝言
を思いつく。それは大抵、もう、家をでなければならない時間の直前で、仕方なく彼女
はそこらへんにある広告やダイレクトメールの封筒に走り書きを残す羽目になる。

 保険会社、銀行、新聞社、ママがこの前の夏に新作のワンピースを買ってはしゃいで
いたお店からのダイレクトメール。そして、保健所からのお知らせの封筒に、あまりき
れいとは言えない文字が並んでいるものを見つけ出した。そこには、今日の帰宅が遅く
なること、冷蔵庫に雄藩が作りおいてあること、戸締りをすること、夜更かしをしない
こと、ちゃんと勉強をすること、といつも通りのことが羅列してある。

 私は代わり映えのない内容に、小さく鼻を鳴らして、その封筒をダイレクトメールの
一番上へ放った。そのまま、冷蔵庫の扉を開ける。上の段には私の嫌いなポーク・ビー
ンズ。私は顔をしかめて、音を立てて冷蔵庫を閉めた。

 スクール鞄の中から幼馴染のニナから借りたDVDを取り出すと、そのまま鞄をソフ
ァに放り投げて、テレビのスイッチを入れる。彼女のオリジナルなのか知らないけれど、

そのディスクは一般に売られているもので、ラベルも何も貼ってない。私は軽い気持
ちでDVDレコーダーにディスクを挿入した。無視の羽音みたいな小さな稼動音が静か
な部屋に響く。

 しかし、すぐに液晶テレビの黒い画面に光が入って、柔らかな波の音と、青い空の映
像が流れ出した。
 去年の夏に、ニナと二ナの家族と私の家族で行った南の島の映像だということにすぐ
に気がついた。走り回るニナと私の姿。パラソルを差したニナのママ。録画しているニ
ナのパパは声だけが時折混じる。そして新品のワンピースの裾を翻す、私のママ。
 ソファに沈み込み、ぼんやりとそれを眺めていれば、不意に、こんこん、とベランダ
のガラスを叩く音。
 カーテンを開ければ制服からパーカーに着替えたニナがいた。
 私が鍵を開ければ、ニナは私が何か言う前に、それでも一応「お邪魔します」と前置
きして、勝手に上がりこんでくる。
「あ、DVDもう見てる。一緒に見ようと思ってきたのに」
 少しだけ非難するように、ニナは私を軽く睨んできた。私は肩をすくめた。
 二人でソファに並んで、テレビを眺める。
 この旅行はとても素敵だった。南の小さな島にママと私とニナと、ニナの両親。昼間
は海で泳ぎ、夜は星を見上げた。
 素敵な思い出しかないのに、なのに、私は少しだけ気分が悪くなって、頭を抱え込む。
「頭がいたいの?」
 ニナの言葉に、私は小さく頷いた。ニナはごそごそとパーカのポケットを探り、小さ
な銀紙に包まれたものを取り出した。
「はい。痛み止め」
 彼女が差し出すそれは、どう見てもチョコレートだ。大手製菓会社の看板商品で、私
の好物でもあるのだから間違いない。訝しげに見返せば、私が言わんとすることを、ニナ
はわかっているというように頷いて見せた。
「悲しいときには甘いものが一番効くの」
 本当よ、タロがいなくなった時、リサがくれたチョコレートが一番効いたもの。
 生真面目な顔でニナは断言して、私の手のひらにチョコレートを乗せた。
 タロというのは、ニナが飼ってた犬の名前だ。
 去年、彼は天に召された時、ニナは大変塞ぎこんだ。私は彼女の笑顔が好きだったけ
れど、それ以上に、彼女の悲しみを感じ取っていたから、何も言えなかった。ただでさ
え、食の細い彼女はフルーツ・ジュースを口にするだけになり、徐々に青白くなる顔色
が怖くて、私は彼女が食べてくれないだろうかと、気に入りのチョコレートを携えて、
じっと傍にいることしかできなかった。彼女が口を開いたのは、タロの死から三日後の
ことで「ねぇ、そのチョコレート美味しい?」と、ふと思いついたように口にした。私
はびっくりしたけれど、すぐに「私が気に入るくらい素敵なチョコよ」といって差し出
せば、彼女は一粒口に入れてくれたことを思い出す。
 私はお医者様からの言葉を聞くように、ニナの言葉に神妙な顔で頷いて銀紙を剥いた。

甘いチョコレートの香りが鼻先を擽る。
「・・・甘い」

 カカオの苦味と、砂糖の甘さ。そして何よりも、もうママに会えないことを受け入れ
なければならないことに、泣きたくなった。

 ママがいなくなって、一週間目。久しぶりに発した声は、酷く掠れていたけれど、テ
レビから流れる波の音に混じることなくはっきりと響いた。
 私は明日、生まれてこの方、見たことのないパパに会うために、遠い外国に行かなけ
ればならない。
 その外国は、夏に旅行した南の島よりも、ずっと南にあるらしい。
「リサのパパがいる国もこんなところだといいね」
「そしたら遊びに来てくれる?」
「・・・たとえリサのパパが北極で働いてたとしても遊びに行くわ」
 ニナの言葉に私は、また泣きたくなって、でも、今度は我慢することなくニナの腕に
しがみついた。
「桜」 「たまご」 「フェンス」
4481:2008/03/19(水) 14:24:00
「おばさんは」「おばさんは」「おばさんは」
渋いバリトンの声。彼の見た目は全ての平均をとったかのように特徴がない。

「わかってる。綺麗な声だったのでしょう、おばさんは」
「ああ、うん・・・・・とてもね」

桜の木の向こうに校舎が見え、クラブ活動に励む生徒の声が遠くのほうで聞こえる。
土と草の香りの中、スカートを汚さないように気をつけながらしゃがみこむ。
キャベツの葉を一枚めくると小さな黄色い粒が付いていた。ちょうちょうのたまごだ。
小さな立て札に書いてある学級農園の文字がかすれてかなり読み辛くなっているのを
見て言ってみた。
「そろそろ書き直した方が良いんじゃあないですか」
「ああ、そうだね」
キャベツの葉を千切って立ち上がり、彼の方に掲げて見せた。
「青虫って可愛いですよね」
彼は少し凝視すると、合点したのだろう、たちまちの内に深く笑みを作りあげた。
「・・・・・あぁ、本当だ」
4492:2008/03/19(水) 14:24:46
私もにっこりと笑い返す。
「みんなも喜んでくれるといいな」
「きっと喜ぶ、理科の勉強にもなるし。いい発見をしたね」
「ええ、本当に」
「おばさんも蝶が好きだった」
彼は私のいとこで、彼の母親は私の母親の姉だ。
学校を囲うフェンスの外にある学級農園。ここで彼が話すのはおばさんのことだけ。
彼が話すおばさんの話を聞きながら校舎へと向かう。
フェンスを越えたら彼は普通の先生に戻ってしまうのだろう。
ひときわ強い風がふいた。
桜。桜だ。一面の桜。
上も下も右も左もなく、一身に柔らかく舞う桜。
白に、薄く赤みがさした花弁は、手の爪のようだと思う。
あの人の爪が散り吹雪いている。
そこまで思ってから気持ち悪くなって、思考を現実に引っ張り戻した。

「おばさんは手も本当に綺麗だ」

私は憎んでいるのではない。ただ可愛らしいと思っているのだ。
この17歳年上のいとこのことを。
450名無し物書き@推敲中?:2008/03/19(水) 14:27:44
霞 視神経 モデム
451名無し物書き@推敲中?:2008/03/19(水) 16:54:47
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。

次からは一応テンプレにお目通しよろ
452名無し物書き@推敲中?:2008/03/20(木) 22:50:37
すみません、気をつけます
453名無し物書き@推敲中?:2008/03/23(日) 14:03:16
霞 視神経 モデム

「意味がわからない」
段ボール箱から新品のモデムを取り出しながら俺は口を開いた。
「だからさ」椀に盛った麦チョコを口に運びながら悪友が言い直す。
「あんまりパソコンにかまけるのもどうかなってさ。目にも悪いし、なんかね、視神経がやられるんだって。みのもんたが言ってた」
「そのうちタイピングダイエットを推奨するよ、電器会社がスポンサーになったら」
そこまで言って会話を打ち切り、今度はモニタの箱に取り掛かる。確かに目には悪いかもしれないが、
仕事なんだからしかたがない。この引越しもさっさと済まさなければ今月の生活だって危ういのだ。「はさみ」「ドーゾ」ガムテープを切る。

霞が飛び出した。

玉手箱よろしく開封したダンボール箱から白い煙が湧き上がる。目を丸くしているとどこからともなく声が響いてきた。どこか聞き覚えのある声。
――奥さん、アレね、パソコン! あんな小さい文字ね、読んでると私は目が痛くなってくるんですがね。ナンとびっくり、科学的に視神経に悪いってのがわかったそうじゃありませんか!――
箱の中からラジカセとドライアイスを取り出して、お椀ごと逃走を図る後姿に力の限り投げつけた。
454名無し物書き@推敲中?:2008/03/23(日) 14:07:40
sage忘れた、すいません。

次のお題「蛸」「ネタ」「黒い月」
455「蛸」「ネタ」「黒い月」:2008/03/25(火) 12:15:00
▲ホームパーティーにて筋弛緩剤を誤飲した。ネタだった。
 本当は、飲むフリだけしてトイレで吐き出すつもりだった。そもそも、筋弛緩剤は静脈注射する薬品だと思っていたので、今から飲もうとしているそれが筋弛緩剤だとはつゆとも信じていなかった。
 だがしかし。口に含んだそれを誤って、思わずグイと飲み下してしまった私の体を襲ったのは、強烈な痺れと倦怠感だった。
 これはまずい、と周囲に救急車を呼ぶよう訴えかけるが、彼らは深い影に覆われた顔に、真っ赤な三日月状の笑いを貼り付けているばかりで、こちらの話を聞き入れようとはしない。
 いよいよ、まずい。
 かすれてゆく視界に最後に捉えたのは、天井近くでシーリングファンにゆっくりとかき回される薄い煙と、黒い月のようにユラユラと揺れる人々の頭だった。
▲蛸は、蛸壺に填まっていた。私の頭は蛸壺になっていた。遠く声が聞こえる。やがて、冷たい涙がひとすじ流れた。
 おうい、とこの世のものとは思えない虚ろに抜けるその声を耳にして、私は宇宙に放り出される寂しさを体感した。
 そんなものは、どこにもないのに。
 もう一人の私がヘラヘラ笑うと、私も、彼女に倣ってヘラ、と口端を緩めた。
 そうだ、蛸なんか食べてしまえ。耳の奥に指を突っ込むと、ぬめぬめと滑る蛸の足を掴んだ。なにくそ、と爪を食い込ませ引きずり出した先から食んでゆく。
 わさび醤油があれが、もっと美味しく頂けるが、これはこれで由。蛸は新鮮で、ほのかに潮と桃のような香りが入り混じっていた。
 どうやら私は空腹だったらしく、一飲みするたびに、ぐるぐると胃袋が蠕動した。寂しさが、満たされていく胃袋の重みで洗われていく。
△おうい。
 目が覚めたのは朝だった。いつの朝かは知らない。
 私は布団に横たわっていて、父が無言のまま傍らに座っていた。
 いや。「あなたはもう居ません」
 彼は、寂しそうな顔をして笑った。それから「良かった」と言い残し、儚く薄れていった。
△ひんやりする畳に足をつけ、障子を開け放つと一瞬、雪が降っているのかと見紛った。
 しかしそれは、梅の花びらが春一番にあおられて柔らかく解けていく、初春よりも新しい春を告げる薄桃色の雪だった。
 先ほどまでの寂しさとは、少しだけ色合いの違う寂しさに襲われて、私の涙はまた流れた。ほんの、束の間ではあったけれど。
456名無し物書き@推敲中?:2008/03/25(火) 12:17:08
次の三語は「夢」「鴨」「音」でよろしくー
457夢 鴨 音:2008/03/25(火) 23:03:37
広間は天蓋のようなドーム状になって空にむかう無数の天使が描かれている。中央には円いテーブル
があり純白のクロスが敷かれ、おぼろな蝋燭の灯りをうけている。目の前に用意された鴨の丸焼き
からは動物の臭いがする。私は椅子に座っていた。あたりの静けさは恐ろしいほど。私の他にはまだ
誰も現れていない。
私は何もすることがなかった。かといって何もしたいことがないので、何もしないというのは辛いことだ。
嫌でも身動きしてしまう。しかし、この静けさのなかでは指一本でも動かすことははばかる気がした。
何か、遠くのほうで、何かが床をこする音や食器のカタカタをぶつかりあう音はするたびに、私はほっ
とした。それはここにいるのは私以外にもいるということだからだ。誰かはいるということだ。しかし、
それもほんのわずかな瞬間でしかなかった。また再び永遠の沈黙がおとずれた。鴨からは真っ直ぐ
天井に向かってスジのような湯気があがっていた。
やがて、広間の端の薄暗がり、長々とした黒いカーテンの隙間から人々が現れてきた。男であり、
女であった。私の脇にも何人か座った。人々はささやきあい、まるで噂話でもするかのような、いやらし
い顔をしていた。私の隣りの紳士は赤いドレスの女の肢を撫でていた。
私が横目で見やると彼はこう言った。
「どうしたんですか、あなたはまるで夢でも見ているみたいですね」
私はその紳士の顔を見た。そしてこう言った。
「ありがとう、あなたにそう言って頂けると幸いです」 K

「バスタオル」「国旗」「地下室」
458バスタオル 国旗 地下室:2008/03/26(水) 14:46:42
床下には、地下室へ続く階段がある。バスタオルを手に、下る。
灯りなどなく、じめつく空気には黴臭い埃の匂いがする。なにもなくぽっかりと空いた漆黒。
外では雪が降っているだろうか。もうじき、あれが爆発する。
アナスタシア。お前だけが気がかりだ。私が愚鈍で無知なばかりに、不幸にしてしまった。
お前を痛めつけ放置したのは、国だ。私が生まれ育ち、恋をしてお前をもうけた国ロシア。――流行り病、か。
私が与した奴らは私を同胞と見なし、国旗を掲げよ、我らがロシアを我らの手に、と喚いた。
自分のしたこと、しようとしていることを恥じてはいない。ただお前が気がかりだ。
このタオルを抱かねば寝つけなかったアナスタシア。暗闇なればお前の寝顔を思い出すのも難くない。目の当たりにできる。
決して忘れない。だからこそ、私は縛られ苦しんでいる。だがお前の影にではなく、この国に。そう決め込む。

ただ……私はお前のことが気がかりだ。天に見放されはしないか――と。
私はどうなろうと構わない。また、お前以外のものがどうなろうとも。だがここは暗い。
お前を私から奪ったものが許せない。だからこそ、この道を選んだ。
だがこの部屋は狭く寒い。黴臭く、そのくせお前に気に入られたここは、タオル一枚ではどうにもならないほど――寒いのだ。


「推敲」「緑青」「ラプソディ」
459推敲 緑青 ラプソディ:2008/04/06(日) 03:43:48
そこまで明雄を駆り立てたものはなんだったのであろうか。
見上げると下倉山のほうに、境界線を曖昧にしたまま日が隠れるところであった。
足元を見ると昭雄のブルーのスニーカーは反射する光を失いかけ、緑青へと陰影を深め始める。
あぁ、そうだ。あれはガーシュインだ。
音楽の発始点を探し走っていた昭雄は足を止めて目を閉じた。
――ガーシュインのラプソディインブルーだ。

記憶の中のおぼろげな旋律を推敲しながら、耳に流れこんでくる音と照らし合わせる。
コミカルな響きが、13年前の懐かしく、そして忌まわしい事件を呼び起こし、昭雄は
そのまま農道にうずくまった。


「ネズミ」「指の皺」「悪性腫瘍」

460名無し物書き@推敲中?:2008/04/06(日) 06:41:23
>>459
文章も上手そうだし、いい感じだけどひとつだけ。
「緑青(ろくしょう)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%91%E9%9D%92
461名無し物書き@推敲中?:2008/04/06(日) 14:56:43
指の皺から顔の皺にかけ、大勢のネズミが駆け抜けていく。
ああ、気持ち悪いと思っていると、隣の女に声をかけられた。
「どうかしたの」
ひんやりとした表情が、まるで俺を否定するようにこちらを向いている。
「別に。いつものあれだよ」
「ああ、」と女は言う。「件の悪性腫瘍ね。全身に転移して広がっている」
「ネズミ、と呼んでいる。最近、ちょこまかと動いて鬱陶しいしな」
 と俺は言い、それから笑ってみせた。
「もっとも、あいつらの言うネズミより数倍タチが悪い種類のやつだけど」
だから、と女は言った。だから、駆除するわけね。
「ああ、月に頼んだ石っころが、もうじき俺の身体を直撃する。何発も、一定の間隔でもってね。
あいつらときたら、輝いてるものが大好きだから。皆、太陽に向かって逃げてる」
女は、哀れむように目を細め、俺の身体を凝視した。
「光の先には何があるのかしらね」
「さあ、神様でも夢見てるんじゃねえか。ただ、一つだけ言えることがある。それは、」
そこまで言ったところで、頭に小石がぶつかった。叫び声が耳元で響く。
俺は、痛みよりもむしろ感動を覚えながら言葉を続ける。
「ネズミにゃ暗いところがお似合いだってことさ」

「舞台裏」「茶柱」「北向き」
462459:2008/04/06(日) 20:02:02
>>460
おぉ、なんか変だと思った。
青緑じゃなくて緑青ね……
恥ずかしいな
463名無し物書き@推敲中?:2008/04/06(日) 23:01:01
>>462
その恥ずかしさを見事に表現してみて。
464459:2008/04/08(火) 01:50:27
 静代は、鼻先に流れ落ちる汗を、薄汚れたタオルで拭いあげた。
静代の身長は、多少の円背の誤差を無視するならば145cmであった。
この畑で茶摘みをしている姿は、少し離れた場所からは認識できないのだった。

日焼けした鼻に、汗とタオルの摩擦が痛みとして知覚できた。
本能的に北向きに顔を背けると、自らの歪な影と相対することになった。
紛れもなく自分の影であるのに、静代はその影の黒さでもって、己の惨めな人生を
陰鬱なものとして認識せざるを得なかった。動けなかった。
背中の茶籠は、夏の日差しのせいで、揉み出す前から乾燥し始めて軽かった。いや、重かった。今の静代には重たくてかなわなかった。
耳には勢を増す蝉の声。目には鮮やかな緑の段々畑。

南のほうから、孫の声が聞こえても、静代は振り返らなかった。
茶の木がエンタシス柱のように膨満し、姿を隠してくれることを願った。

幸福な家庭。この秋にはひ孫まで誕生するという絵に書いたような穏やかな日々。
しかし、静代は未だに演じているのだった。
みなぎっている昼の舞台裏では、ただ後悔のみに身をやつす老女が一人佇むだけだった。



「1997年」「転落」「月面」



>>463
自分の間違いに気づき呆然とする恥ずかしさを描写してみたぜ
馬鹿にしてくれ


4651997年 転落 月面 :2008/04/08(火) 09:28:27
もしもかぐや姫が月に帰らなかったなら、と考えて、よく冷えたリモンチェッロをあおった。
彼女はどんな人生を送っていただろうか。
ぼんやりと考えながら、とっぷりと夜に浸かった窓外の風景を見つめた。
可愛らしいレースのカーテンを引いた出窓の向こうで、
とろとろとした闇の深い空中に、満月がぽっかりとその月面を見せている。

帝に娶られていることは、間違いがないだろうと思う。その先の話だ。
子を産んで幸せな日々を送っただろうか。
他にも女性と関係を持つ夫への嫉妬に苛まれただろうか。
それとも私のように・・・・・・私のように、全てを諦め、受動の歳月をただ流された
だろうか。夫の愛情を溢れんばかりに注がれる、「一番」の座から転落し、
散々苦しんだ挙げ句に、何も望まない人形の様な女になっただろうか。

そうではないと良いと思った。求婚者に無理難題を突きつけ、凛として
全てを薙ぎ払った孤高の姫が、そのようなありふれた、つまらない人生に落ち着くのは
やはり物語として美しくない。
溜息を一つ吐いて立ち上がり、古ぼけた時代遅れのプレイヤーに、カセットテープを
セットした。この様になるずっと前、婚約時代に、夫から贈られたテープだ。
緩慢な動作でスタートボタンをかちりと押す。十年足らずで、互いに何かを諦めてしまった
結婚生活を思う。このテープのように、二人の関係はとっくに古びている。互いの声には
ノイズの雨が入り、心に思うことは伝わらない。
漸く、曲が流れ出した。1997年、婚約指輪を贈られた年の、しっとりとした、
ヒットナンバーだった。


「眠る」「薔薇」「ひかり」
466465:2008/04/08(火) 13:55:16
『ぼんやりと考えながら〜』→『ぼんやりと物思いに耽りながら〜』です。
467名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:29:22
もうここに来てから7年。「今年の薔薇はとてもきれい」幸せそうな声。

1回目の冬は何も考えられなくて、2回目の冬は泣いているうちに終わり、そして眠った。
3回目の冬
自分がおかれた状況に思いをめぐらせてみた。
暗くてじめじめした場所で「私はどうして身動きできないのだろう?」
「私はどうしちゃったんだろう?」不安になるばかりで、その冬は何もわからないままで終わって、また知らぬ間に眠ってしまった。
4回目の冬
私の置かれた状況が少し見えてきた。胸にも首にも太ももにもわたしの体のあらゆる場所に何か巻きついていた。
「誰か助けて」ざらざらしたものが口に入ってきて、わたしの声は声にならないまま暗い場所に吸い込まれていった。
5回目の冬
聞き覚えのある声が聞こえた。
この声。この優しい懐かしい声。私の心も体も反応せずにはいられなかった。
「結婚しよう。ここに僕たち二人の家を建てよう。」
ああ、そうだ、思い出した。
彼は見晴らしのいいこの高台でプロポーズしてくれたんだ。早く返事をしなくては・・なのにとっても眠い。
春工事が始まり、夏彼と私のふたりのおうちは完成したようなのに、私は眠くて闇の中で、彼の笑顔を見ることができない。
6回目の冬、彼の声。
「きみとおなかのなかの子供にクリスマスプレゼントだよ。一緒にくらそう」 優しい声。懐かしい声。
「ありがとう・・・本当にプロポーズされた場所ね。ここであなたと暮らせるなんてとても嬉しい」
誰の声?わたしではない誰かの声。
闇の中で私の耳に響く誰か知らない女の幸せそうな甘い声。
7回目の春、







468名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:45:00
7回目の春、わたしはすべてを思い出した。
あの日私は大好きな彼のプロポーズの言葉にうなづいた。
そして「プロポーズ成功記念に植えよう」と言いながら
彼が手渡してくれた薔薇の苗を植えていた。
振り返ったとき、彼が「ごめん」って言って
スコップを私のほうに振りかざした。そして寝てしまったのだ。

ここで待っていたのに、すっかり忘れていた。
ひかりが差してきた。眠るのはもう終わりにしよう。
今年の薔薇はきれいでしょう、ねえ、愛するあなた。
469名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:52:17
長すぎました。初心者ですみません。

次の三語は
 「桜」「カレンダー」「忘れ物」でよろしくお願いします


470「桜」「カレンダー」「忘れ物」:2008/04/10(木) 17:59:10
カレンダーをめくる。青々とした葉の樹木の写真が、4月の文字と共に現れる。
春という季節が来ると、彼女のことを思い出す――
抱きしめると、彼女は口から鮮血があふれ出させた。暗闇のなかでも映えている。
彼女は口をぱくぱくと動かす。涙ながらに僕は耳を寄せる。
「私を忘れないで……。私だけを見ていて……」
僕は彼女を見つめた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、僕の左眼に触れた。
そっと桜の花びらが彼女の唇に舞う。彼女が僕の左眼を潰す。
ぬるりとしたものが僕から彼女の手を伝う。涙だろうか?
彼女の手が眼から離れていく。地に落ちる前に、胸でその手を受け止める。
苦痛にうめく。僕は花びらを手に取り、キスをした。涙が彼女に落ちた――
温い風が窓から吹いてくる。カーテンのなびく窓の先には、梢と花びら。
遠いのか近いのかは相変わらず判然とせず、まだ乾いてたままの風が右眼をなでる。
傍らに置いた写真立てには、二人並んだ写真とあの花びら。桜色というより、黒茶けた赤色の。
キッチンから僕を呼ぶ声。それに応えれば、胸に沸く妻との幸せ。
君が残したのは、左眼の痛痒。僕の忘れ物は、君への気持ち。




「回し蹴り」「フレンチキス」「押っ取り刀」
「長らくお待たせしてしまって申し訳ございません」
弁護士は助けとなるべく男の前に腰をおろしたわけだが、容疑者はふと考えながら指先でカチカチと机を
叩くだけだった。そして何度も逡巡している様であった。が、やがて沈黙は破られる。
「問題がある」
その言葉に弁護士は男を見やって肯いた。しかし男が言っていることを理解した訳ではなかった。
それでも弁護士は何度も肯いた。まるで犬が飼主にへつらうように。
「僕は暴行され、あげく蹂躙された。でもこの状況から抜け出すには罠からまずぬけねばならない」
「罠?」
「奴は僕に暴行をした、こうつけ加え。『回し蹴りだ』といい、そして『フレンチキスよ』といって僕を蹂躙した」
「はぁ(わけがわからんが)。奴とは女ですか?」
「わからない。が、それは重要では無い」
「そもそもあなたはあなたが被害を受けたとおりに法廷で話していただければよいのです」
「それは正式な話になりますね?」
「そうなりますな」
容疑者は憮然と頭をふった。弁護士はまるでお手上げだといわんばかりに肩を落とした。
「僕はそれを正式な形で証言しなければならない、ですね?たとえば輪姦された女性がそうであるように」
「致しかたない事情だ。でもあなたに何の問題が?」
「僕が正式に証明するには《回し蹴り》と《フレンチキス》と述べなければならない。裁判の性格上、
一字一句違っては駄目だろう。しかし、そう申しあげたとたんに間違いが生じる・・・」
その時、弁護士の携帯がなった。「失礼・・・」弁護士は電話口を隠すように容疑者に背を向けた。
しばらくして電話を切り、そして沈黙をした。
「隠していますね」弁護士は唇をあまり動かさずにいった。その結果、言葉は壁から聞こえてくるようでもあ
った。「弁護には真実と正確性が辻褄の不都合を許されませんが、あなたはその必要を感じませんか」
「密告があった、というわけか。でもあなたからは告げられぬ、と」
「あなたは容疑者であり、私は弁護士だ。正式に依頼をしたまえ」
「ああ、押っ取り刀、忙しき弁護士殿・・・」 ところで弁護士は苦笑した。そして彼が告げた。
「裁判はここで結審す、被告に有罪を宣告する!」
・・・正式に依頼はした、だがそれは依頼だけである。証言は・・・            K

「綿棒」「オフィス」「裸足」
472名無し物書き@推敲中?:2008/04/21(月) 17:32:16
 友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
 身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
 私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
 そうしてついに結構のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
 経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
 そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
 彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
 するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
 びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
 彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
 しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
 そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
 その時の彼の煌々とした顔といったら――
 私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
 
「梅雨」「傘」「駅」
473名無し物書き@推敲中?:2008/04/21(月) 17:35:43
すまん、キーワード入れ忘れた。ついでに修正・・・。


 友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
 身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
 私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
 そうしてついに決行のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
 経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
 そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
 彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
 するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
 びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
 彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
 しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
 そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て裸足になると、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
 その時の彼の恍惚とした顔といったら――
 私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
 
「梅雨」「傘」「駅」
474名無し物書き@推敲中?:2008/04/21(月) 17:42:57
X 麺棒 ○綿棒 これはひどい・・・orz
475名無し物書き@推敲中?:2008/04/22(火) 05:07:41
 雨は嫌いだ。
雨が降ると空気は重くなるし、湿気で髪はぐしゃぐしゃになる。
傘を差しても風が吹けば服は濡れるし、歩けば嫌でもズボンの裾が濡れる。
雨が止むことなく降り続く梅雨の時季なんかは、朝がこなければいいとさえ思っていた。
 そんな憂いを考えなくなってから、どれほど経つだろうか。
外に出る回数は少なくなり、やがて自分の部屋からも出ることがなくなった。
 最初は人の多い駅やアーケードが苦手なだけだったのだが、気付けば人を会うことさえ苦痛になっていた。
 何度も季節をやり過ごし、僕は現実から遠くへ逃げようともがいていた。

 梅雨が訪れる度、止まない雨は窓を叩き続ける。
その音は、僕は去年と変わらない場所にいるという事と、僕はまた梅雨を迎えたのだという事実を告げている。
僕は少しも逃げられてはいない。閉塞した日常。あの日から何一つ変わらない。
 僕にはまるで、朝がこなければいいという願望が、皮肉にも成就してしまったようにも感じられた。


「空気」「木」「暑い」
476名無し物書き@推敲中?:2008/04/27(日) 09:42:49
すべての自転車乗りはマゾなんだろうか?
いや、少なくとも真夏の昼間に山を登ろうとする自転車乗りはマゾの素質があるに違いない。
心理学の授業で人間は苦痛に快楽を覚える動物なんだと教授が言っていた。
私は、それを聴いた瞬間「なるほど」と思った。もちろん上り坂のあの苦痛を思い出してである。
しかし実際に太陽にうなじを焼かれながら動かぬ空気の中、森を越え
こいでもこいでも変わらぬ木位置を見ていると、何が快楽だ馬鹿やろうと
この場に教授がいたら「あんたは何も知らないと」言ってしまいそうになる自分を
発見して気が重くなった。いくら苦痛に晒されようとも自分を見失ってはいけない。
しかし、峠まではなんて遠いんだ。すでに足は硬く悲鳴をあげ腰は自分の肉体とは
思えないような違和感を持ち腕は焼けたようにいたい。
もう。金輪際山登りをやめて都市の運転に徹しようと思う。
そればかりか、今、自転車の向きを変え下ることが出来たらどんなに素敵なんだろうと思う。
努力なんてやめちまえ。暑くて熱中症になるぞ。ただ生きていたって努力するんだ。なんで好き好んで
努力なんてする? やめろやめろ、ふもとまで降りればおいしいビールがのめるぞ。
温泉に入って汗を流そうや。腹だって減ってるだろう? もうお前は十分やったよ。
誘惑が私の心をつかんだ。私は十分努力した。もういいだろう。
体を壊しちゃいけない。ペダルの動きをやめ、アスファルトに足をつけると
そのままガードレールにぶつかって倒れこんだ。
私は自転車を置いたまま坂を見上げる。空は高く白い雲がゆっくり動いている。
降りるか上るか? いや私はここでしばらく目を閉じていたい。
優しい自然の中に身を浸していたいだけだ。
477名無し物書き@推敲中?:2008/04/27(日) 09:47:03
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」

自転車乗りの人がいたら感想聞きたいです。
山を越える自転車乗りをバイクから見ていて自分が
もっとがんばらなきゃと思うことがあるので。
478名無し物書き@推敲中?:2008/05/04(日) 12:57:20
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」

「兄ちゃん、学生かい?」
不意に隣から声を掛けられた。
貴史がうつむけていた顔を上げると、肉体労働者風の中年男がニヤリと笑っていた。
「い、いいえ」
社会人5年目なのにいまだに学生に見られてしまうのはやはり童貞だからだろうか。
貴史は苦笑いをしてまたうつむいた。
「兄ちゃん誰に入んの? 俺、ここの嬢には全部入ってるからお勧めしてやろうか?」
中年男は得意気でそして馴れ馴れしかった。
「あのさ! 勘弁してくんねえかな!おっさんと兄弟とかマジ萎えんだよ!」
前の席に居たフリーター風の若者が振り返って怒鳴った。
「いいじゃねえか! 人類皆兄弟って言うだろ? 仲良くしようぜブラザー!」
中年男は怯んだ様子も見せずゲラゲラと笑った。
それに釣られて今まで無関心を装っていたサラリーマン風の男も笑い出した。
若者も笑い出し、ついには貴史もクスクスと笑い始める。
予約した風俗嬢に想いを馳せられるようになっていた。

次は「ダンベル」「ひざまくら」「火星探査機」
静かな着地だ――。過去6回同様、モニターの主要数値は良好に推移している。着陸時圧力
センサー値は、羽毛が舞い降りたようだ。これが象ほどもある地表探査機だなんて、火星
では露ほども思わないだろう。もっとも灼熱の荒野に思考体がいればの話だが……。

憧れだった宇宙飛行士。人類最遠の地、火星軌道船クルーに選出され1年が過ぎ……、残る
乗員は私一人。ダンベルによる筋トレを欠かさなかったアレスは船外活動中に漂流死。恋人
を失い精神が蝕まれたマーサは、NASA指令による薬物死。そして私は、予定回数分の火星
探査機の維持・管理、及び地球との交信を果たす。……半年後の後任を待ちながら。

軌道船が地球からみて火星の影に入ったとき、交信は出来ない。だから私はマーサの安置室
へ私は足を運ぶ。今宵は窓の外にフォボスが浮かんでみえる。私は彼女の側に跪く。彼女の
肢体の上にこうべを垂れ、神に祈る。

――ひざまくらの姿勢で朝を迎える。
陽光に照らされた地球は、彼女の瞳のように深く青く、とても美しい。
そしてこの上なく巨大な火星の地表は、相変わらずただの乾いた荒野だ。

次は「鼓動」「オレンジ」「ベビーカー」
480名無し物書き@推敲中?:2008/05/09(金) 12:04:15
手に下げた袋の中に沢山のオレンジを抱えながら、ベビーカーを押す母親がいた。
側に連れ添っていた少年は、母親の少し膨らんだお腹に耳をあてながら歩いている。
静かな鼓動――「動いた!」
そう言って少年は瞳をパチクリさせた。
「僕の子供だ!」
母親は頬を真っ赤に染めた。

次は「牛乳」「クリーム」「練乳」
481「牛乳」「クリーム」「練乳」:2008/05/10(土) 01:58:13
クリームと練乳は、牛乳からつくられる。
僕と妹は、いつも一緒にいた。
練乳の甘みに、クリームは想いを寄せた。とろける味わいに耽溺する。
僕らにとってはそれがごく自然で、過ちだと気づくには遅すぎた。

ミルククラウンはクリームのほうがつくりやすいはずだった。練乳は落ちるべきじゃなかった。
僕は慌ててベランダから下を覗く。飛ぶように階段を下りる。

苺のすっぱさは夢から意識を冷めさせるけれど、練乳はそれをゆっくりと緩慢にさせる。
コンクリート上のその白さは、赤みにまじって幻想的で――悲壮だった。

クリームと練乳は白く、交じれば境はなくなる。
白面に触れた僕の手はそれに似て淡く、消えるなら一緒にと願い――涙が落ちた。



お次の題 「通過儀礼」「コキュートス」「莞爾」
482名無し物書き@推敲中?:2008/05/11(日) 03:52:42
 人生におけるおおよその通過儀礼は、何の問題もなくこなしてきた。
特に大きな怪我や病気もなく七五三を迎え、小中とお利口な生徒として卒業し、高校では多少はっちゃけたりもしたこともあったけれど、無事三流の大学に入学して、今は就職することを許して貰うべく、お母さんに電話をしていたところだ。
しかしお母さんは私に「結婚」をして腰を据えて貰いたいらしく、就職なんてもってのほか、と反対されてしまった。
 順調な人生の中で初めてぶつかる問題。就職か結婚か――
 彼は私より二つ上で、私がキャンバスを見学していたときに彼が声を掛けてきたのがきっかけだ。
私たちが同棲を始めたのはちょうど1年ほど前。彼が大学を卒業し、一年二年と試験を受け続け、やっと中学校の先生になれた頃だ。
公務員といえども新卒の給料は二人で生活して行くには大変なようで、私が就職を切り出したときも反対はしなかった。
しかし、いつも莞爾な笑いを浮かべていた彼が少し悲しそうな顔をしたのがとても気がかりで、まだ就職希望の用紙を提出できずにいた。
 そこで背中を押して貰おうと、何事にも寛大だったお母さんに電話をしてみたのだが、そこで返ってきた返事は結婚をしろという言葉。
習い事をするのにも大学に行くことにも反対しなかったお母さんが、今になって私に反対をした。
 ――ここで就職を押し切ったら、彼やお母さんを裏切ることになるのかな……
『裏切り者はコキュートスで凍り漬けにされるんだぞ!』 昔の西洋かぶれのテレビアニメで聞いた台詞を思い出した。
 思い切れずにぼうっと携帯電話を眺めていたら、突然大音量と共に手の中で暴れ出した。
 友人の美砂からの電話だった。


「回り車」「遠く」「華やぐ」
483名無し物書き@推敲中?:2008/05/11(日) 23:22:29
 からからと、回り車が回っている。
 檻の中、ひたすらに走り続けるハムスターを見ながら、ベッドから上半身を起こした少女は口元にはかない笑みを浮かべた。
「おまえはいつも元気ね」
 弱々しく、細い声。
 青白い顔の少女は、そのまま視線を窓に向けた。
 ここからは、うっすらと夜空が明るくなっていることでしか、それとわからないほど遠く離れた神社で行われている縁日。
 その縁日には少女も誘われていたけれど、両親の反対でいけなくて。
 だから、寂しげな笑みを浮かべた後、少女は檻に目をやる。
「元気でいられるおまえも、きっと私と同じなのでしょうね。……檻の中にいて出ることができないのですもの」
 少女の呟きに気づいたのか、ハムスターが動きを止めて少女にそのつぶらな瞳を向けた。
「ふふっ、気にしなくていいのよ」
 優しい声で呟きながら、ベッドに倒れ込み、ため息を吐いた。
 縁日がどれほど華やぐものか、自信満々に教えてくれた少年のことを思っていたから、当の本人の顔が窓に浮かんだことに驚いた。
「いよっ、今日来れないって言ってたから、土産持ってきたぜ」
 来てくれたことが嬉しくて、そっとベッドから起き上がりた少女は華やいだ笑みを浮かべた。少年の楽しそうな笑顔に応えて。


「地鶏」「金色」「盛大」
484お題:「地鶏」「金色」「盛大」:2008/05/14(水) 11:28:36
地鶏。ピコーン! 宮崎県!
思い立ったが吉日。宮崎県へ出発したい俺は、飛行機を乗り継いで地元の空港へ向かった。
地元の空港。そのために飛行機。なぜ?
なぜならば、俺は地元を離れられない(難い)呪いに見舞われている。
呪いは距離を越え、時空を越え、個人を優に乗り越えて大局に作用する。
つまり、俺の地元、俺の家の近辺に住んでいる人々は皆、地元を離れられない呪いを患っていて、隣町にたどり着くまでに数年の時間を要する。
ゴメンね。俺のせいで。
多分、この呪いはコレクティングの呪い。物をコレクティングすること。それは愛だ。
愛しているからコレクティングするのではなく、コレクティングすることで愛が生まれる。
盛大に。分かるだろうか。
キリスト『そのもの』を愛しているのではなく、キリストを信仰している人々、ないしその教え、に感銘を受けたから、いや、止めよう。
、俺は愛をコレクティングしていた。だから、他人を傷つけることもある。
だから、他人から呪われることもある。呪いの数だけ、愛が屍を晒している。俺の背後で。
俺はそれをコレクティングしながら生きて、当然、コレクティングされる呪いも愛す。
愛はすべてだ。だから呪いは、俺を含む俺の半径全域を覆った。
平らな世界に浮かぶ、太陽のように金色に。そう、すべては金色に帰属する。
All in the golden dawn.
ほら、地平線が見えてきた。あれが夜明けだ。俺の町の終わりの始まり。
宮崎県へ至る唯一の脱出口へ、俺の搭乗する飛行機は、王者のように静かに腰を下ろす。

地鶏が、早く、食べたいナァ。










お次は「終わり」「下り」「行き止まり」でヨロシク
485名無し物書き@推敲中?:2008/05/14(水) 14:22:44
「終わり」「下り」「行き止まり」

世界の終わりって信じるか?
そう、世界の終わり。
おしまい。終焉。ジ・エンド。
まあ、お前が信じようが信じまいが、俺が酔ってようが酔っていまいが関係ねえ。
世界なんて終わる時には簡単に終わっちまうんだよ。

楽しかった。ありがとう。さようなら。

この三言で俺の世界はハイ、終了。
大げさだと?
そうかい、そうかい。
なら、試しにお前にもこの世の行き止まりって奴を拝ませてやろうか?
けっ! 余裕かましやがって。
あのな……俺に三下り半くれた女な……、明日からお前の嫁さんだ。

ニューワールドへようこそ、マイ・ブラザー!

次は「あみだくじ」「ゆりかご」「危機管理」
「『危機管理されたあみたくじ的人生を提供します。ゆりかごから墓場まで』
日本とは、つまりそういう国だベイビー。【2008年】と云う定点は、昭和天皇がご崩御されてから十九年! という二点間距離をとるロックンロール。
歴史に帰属すべき、我々のスタンスはZ軸を放棄して、Y軸すら放棄しつつある!」
とか。声明なんてどうでも良かったんだろう。
U-12テロ組織が結成され、U-15自衛軍が結成された現在となっては。

根本から、日本の危機管理能力を疑いたくなるような惨状、すなわちムーブメントが全学徒を覆ったのは、歴史観からして【異種】と表現しても差し支えないだろう。
これは、タームでは無い。これは、ピリオドだ。
来たるべくして、到来した【貴種】流離譚。神卸の儀式。

その頃の僕は、U-12側に属していて、【鉄砲玉、切り込み隊長、人間魚雷】といった物騒な言霊がズラリと並ぶあみだくじの突端をセレクトしていた。
結果、鉄砲玉。
『U-15の砦を単独で攻略しろ!』という無茶な任務を与えられて、それでも意気揚々と出立! ……してはみたものの、土台無理なものは無理だ。やる気だけで、どうにかなる問題ではない。
砦の近辺で、侵入のとっかかりを探してウロチョロしていたところを、自衛軍にとっ捕まり、なす術も無くあっさりと連行され、厳重に拘束。尋問の憂き目に!

でも、僕には秘策があったんだ。
人は歴史に従って生きている。歴史抜きで、人は語れない。
それが例えば、Z軸やY軸を放棄してしまったX軸のみの直線運動だったとしても。
僕らが、貴種で、本来の種から流離してしまった種であったとしても。
【2008年】はいずれ終わる。【2009年】はいずれやってくる。

やがてくる、ある日に。終に、僕は口を割った。
海よりも深く割れた僕の唇は、一つの事実を天に向かって突きつけた。
「ハッピー・バースデイ!」
僕は【13歳】になったのだ。

こうして、僕の中のU-12を支えていたイズムという名の神は死んだ。その、死の一瞬にだけは、確かに神があった。
U-12のためだけに君臨する神が自己に内在し、ピリオドを啓示するのを全身全霊で感じた。あまりにもあっけなくて、笑ってしまった。
「なんだ! まだちゃんとY軸もZ軸も日本に残ってるじゃないか!」

日本とは、つまりそういう国なんだ。ベイビー。
487名無し物書き@推敲中?:2008/05/14(水) 17:02:06
長すぎた・・・反省orz

次は「ロール」「クロール」「スクロール」でヨロシク
488名無し物書き@推敲中?:2008/05/14(水) 17:24:35
ロールパンナちゃんは
クロールが苦手なので、
ネットで泳ぎ方を検索するために
画面をスクロールさせた。
ロールパンナちゃんは泳げるようになった。

次は「山菜採り」「すし職人」「ストレッチ」


かくいう、俺。握れないものは無い。
なんてったって、すし職人だからな。
握らない、という選択は、すし職人である前提に反している。
だから俺は握るし、握る限りすし職人であり、ゆえに握れないものはない。

ある日、客がやってきてね。なんでも火星に山菜を採りに行ってきたんだとかで。
火星産のセリをやたらと持ち込んできてね。大将、ひとつ握ってくれ。って言うんだわ。
で、よ。山菜をパッケージングしてるケースを開いてみたら出るわ出るわ。
そもそも火星は、荒地ばっかりの植物動物不毛の地だからよ。
植物も攻撃的になっちゃって。これ、食虫(獣)植物ばっかりなんだわ。
良く検疫通ったね、っつーと、お客さん照れ笑いしながら、実は野生の火星産山菜を地球に持ち込むのが、宇宙基準法に違反してるとは知らなんだ。
だから、火星オークションで競り落としてきたんだ。「セリ」だけにね。ははは。
なんつって。まぁ客は笑ってりゃ済むけどさ。
俺は、うーん困ったね。とか正直、思ってたけど、ここで握らねぇとすし屋の名折れだ。っつーんで、まず目利きよ。
これがね、意外と握れそうだったんだわ。火星産のセリ。
生きたまんま天麩羅にして由、湯通しして由。
あとは、素直に身が崩れないように軽く握ってやるだけで由。

良し来た。と、俺は意気込んだね。
どんなネタでも眼鏡に叶えば握るのが俺だし、握れないものが無いのがすし職人だ。
まずは全長五メートルはあろうか、っつーセリの首根っこを左手で押さえ込むと、空いた右手でまな板に止めるための釘をセット。
さらに空いた前腕左手で、ハンマーを持って、空いた前腕右手でまな板を固定。それからひたすら、打つ。
その間に、後腕左手で天麩羅の下ごしらえ用準備。残った後腕右手は、まぁ、ストレッチでもやってりゃ良い。暇なのは今だけだ。
じき、行程が中盤から終盤にさしかかる過程で忙しくなる。

ともあれ、火星産のネタをこの手で握る日が来るとは。
地球もグローバル化、いや、ナショナルスペース化したもんだ。
すし職人だけはいつの時代も変わらねぇもんだと思っていたけど、時代の流れっつーのは恐ろしいねぇ。



次は「遊戯」「経済」「工作」でヨロシク
490名無し物書き@推敲中?:2008/05/14(水) 18:25:48
この程度の破壊工作は俺様にとってはお遊戯同然だぜ!
ここは例のパン工場だ。
こっそり忍び込みポリタンクから灯油を抜き取り
小麦粉を片栗粉にすり替えてやったところだ。
灯油も小麦粉も高騰を続けているから、これは大変な経済的損失だろう。
完璧だ!
でもやっぱり少しやり過ぎかな。
灯油も小麦粉も返してやろう。

はっひふっへほー!

次は「糸こんにゃく」「サンドペーパー」「プログレッシブ」

491名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 02:44:23
男は焦っていた。
探す指は緊張と興奮で震えて額には汗が浮かんでいる。
心臓は限界寸前まで鼓動し目は血走っている。
俺はもう駄目なのか? 男はそう思う。
時間が無い、ぎりぎりだ。俺はいつもそうやって生きてきた。
男はそう思った。
「あった!」

男はおもむろに糸こんにゃく袋をボールに出すと
サンドペーパーを広げモニターの前に座る。
男はいつも挑戦してきた。擦るために、新たな開拓者になるために。

「空ちゃん、逝くときは一緒だお、一緒だお、僕らはいつも一緒だおおおおお」

男が一物を握ろうとしたとき我慢し切れなかった
汚液がモニターに飛んでいった。
そう男は早漏だった。プログレッシブではあったのだが、、、



492名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 02:47:51


男 女 保健室
493お題「男」「女」「保健室」:2008/05/17(土) 12:57:41
 
 高校。イン・ザ・アウトサイダー。
 良く分からないけれど、と巧君は言う。
「誰かが毎日屋上から飛び降りているんだ。でも、誰一人死んだりしないのは、彼のお陰だ。彼って、誰なんだろう?」
 彼。ザ・アウトサイダー。
【性別不明の彼は、果たしてヒーロー足りえるかどうか】
 保健室の壁越しに、巧君とチャネリングしてみたりして。結論を導きだそうとするけれど、判明することはとても少ない。
 今、私がやりたいことは、保健室がもたらす安心感、閉塞感を母胎に喩え、その内側に存在する私を卵子、外側に存在する巧君を精子とメタファ。
 しかる風に、文学的作品を構成。
 更にその保健室は、高校という不安定ながらも、どこか抱擁を想起させる父性的男性像を私に思い描かせ(教師がおっさんばかりだからという説もある)、母親は父親の内側で再生する。
 マジで!? やっべぇ! 
 気持ち悪すぎる。胃袋が不気味に蠕動して、あ、これヤバい。リバースだ。
「ゴメン。耳塞いでて。それでも聞こえるかもしんないけど」
 あふれだすランチ。洪水のように、なんて美しくない。
 さながら、土石流のように。四川省の、あの。
 胃が空っぽになっても、まだまだ断続的な嘔吐感のアフターショックに襲われながら私は、バケツの底に堆積した酸味臭の黄色いゲルを見つめながら理解する。
「たぶん」
「たぶん?」
「本人は、どっちだって良いんだと思う」
「そうだね」
 私たちは、私たちの世代は、いつでも自意識が肥大化しすぎている。





次は「ロン」「パイロン」「二元論」でヨロシク
494名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 21:33:11
朝鮮人民軍空軍第三師団所属、
金龍(キム・ロン)は、
を、黄海南道海州市上空を、
中国軍から譲り受けた愛機、
強撃5で爆撃機とは思えないほど静かに、
落ちるように滑空していた。
いや、実際に機は着実に高度を下げつつあった。
強撃5の動力はすでに停止していたのだ。
離陸直後に、強撃5の支柱(パイロン)には亀裂がはしり、
時速200kmに達したころには、
パイロンにとりつけられていたエンジンにまで、
支障が出はじめていた。
その時点で龍が気づき、速やかに帰還すれば。
普通なら起こり得ないはずの事故だったのだ。
パイロンの亀裂にも、エンジンの故障にも、
あらゆる計器は異常を示すことはなかった。
ようやく、
機体の異常と絶望的状況であること悟った龍は死よりも、
これから起こりうるであろう惨劇に、恐怖した。
世界から見れば、龍の祖国は明確な悪だろう。
だが、龍はそんな二元論的な思想はもちえない。
悪も善もなく、ただただ祖国のために。
死など恐れていなかった。
最後は祖国のために死にたかった。
それが、どうして・・・
ただ静かに、龍と爆撃機は本来の務めをはたすことなく、
黄海南道海州市に落ちていく。
亀裂の走ったパイロンに、核を抱いたままに。

次は、大正・パソコン・F15Eストライクイーグルで。
495名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 22:31:21
「大正」「パソコン」「F15Eストライクイーグル」


「F15Eストライクイーグル!」

ピンポーン♪

「大正解!」

「商品はパソコン一年分です!」

「やったー!」

NEXT 「運転手」「4分33秒」「自由の女神」
496名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 22:52:24
タクシーの運転手に金を放って、僕は必死に走りだした。
今日は彼女の初の演奏会。しかも、NYのカーネギーホールでのデビューだ。
自由の女神の前で必ず行くと誓ったのに、遅刻するなんて情けない。
案内係を無視して、飛び込んだホールは静まりかえって、その場にいた誰もが冷たい目を向けてきて、彼女が苦笑を向けてきた。
椅子に座って鍵盤に向かうだけで何もしていない彼女。
……ジョン・ケージの4分33秒の演奏だったのだと気づいて、恥ずかしさのあまり僕は地面に座り込んでしまった。

次 ジョッキークラブ チョコレート フランス
497名無し物書き@推敲中?:2008/05/19(月) 15:40:41
 遠くから、シャンパンの栓を抜くような音が断続的に聞こえた。フランスのとある田舎町。ここから程ない場所に
いわゆる『西部戦線』の塹壕帯がある。時は1918年、第一次世界大戦の真っ只中だった。
 日本陸軍・神崎大尉は木で出来た粗末な椅子に腰掛けながら大隊長を待っていた。
制服は泥にまみれ、顔は青白くやつれていた。故郷に帰れば数々の縁談が舞い込む神崎だったが、今の風体
では場末の娼婦も顔をしかめるだろう。神崎は目の前の壁に掛けられた鏡に写る自分を見て苦笑いを浮かべた。
「待たせてすまん、神崎君」
 執務室から出てきた大隊長は制服のボタンを掛けながら神崎に声を掛けた。神崎はまっすぐ室外へと歩き去ろうと
している大隊長の後に従った。野戦車に乗り込み村を出た頃、大隊長は始めて口を開いた。
「ジョッキークラブの馬鹿どもがな。また攻勢を企図しとる」
 神崎は大隊長の言葉に唖然とした。大隊長は歌うように言葉を続けた。
「あのアホども。チョコレートの舐め過ぎで頭の髄まで甘くなっとるんだろう。葉っぱが入ってこないからってな。止めたる。
その為にお前を呼んだ。わしらは日露の敗戦で勇猛と無謀の違いを学んだ。今度はあいつらに教育する」
 神崎は203高地で叔父を亡くしていた。大隊長は奉天会戦の壊走で父親を失っていた。無意味な突撃に何の意味が
あるのか。日本陸軍はそれを学んでいた。ともかくも、攻勢など馬鹿げている。ソンムを忘れたのか?
 神崎は憤っていた。


 5年ぶりくらいに参加します。うーん、落ちてねぇ。
 お題は継続。『ジョッキークラブ チョコレート フランス』でお願いします。
498名無し物書き@推敲中?:2008/05/20(火) 10:24:57
「ジョッキークラブに案内して欲しい」青年騎手がそういって案内されたところは、
チョコレートの香りがする不思議な一軒家だった。彼は戸惑いつつも家の扉を押した。
 中は喫茶店のような佇まいで、皺くちゃの老婆が三人、卓について何かゲームを広げている。
一人が振り返り、青年にむかって微笑んだ。あらお若い方、このお方?と、あとの二人は
ひそひそと囁き合っている。どうみても彼女らは騎手ではなかった。
「ポン・ジュース」一人が手を挙げて笑う。
「やあね、そこはボン・ジュールよ。あなたきっと落第するわよ」
「そうだったかね、ヒヒヒ。おフランスは難しいね」
 うしろの二人が擦れるような声で笑い出した。怪しい。実に怪しい雰囲気だ。
「あの、すいません。ここはジョッキークラブ?」
 おずおずと訊く青年に老婆の一人が答えるには、
「ええ。ここは魔女ッ子クラブ。みんなジョッキークラブって呼ぶわ」
「魔女ッ子……クラブ?」
 青年は混乱した。案内人め、間違ったな。
「あのすいません、来るところを間違えたみたいで」
「いいえ、ここでいいのよ。わかってたんだから」
「わかっていた?」
「ええ。そこのお婆さんが振ったサイコロのおかげで、あなたは幸運を授かるチャンスを得たの。よかったわねえ」
「あんた、今年のリーディングジョッキーになれるよ」
 青年は戸惑った。これは新手の詐欺だろうか。よし本当だとして、代償はなんだ? 魂か?
「いえ、遠慮しときますッ」
 青年は扉を押し開けると、逃げるようにしてその家を去った。あとには三人の魔女が残された。

「あーあ、またあたしの負けか。説得に成功すれば、コマを三つ進められたのに」
「下手に貫禄を出そうとしたのがいけなかったのかなあ」
 老婆らが背筋を伸ばすと、その姿がスミレ色の制服に身を包んだ少女達に一変した。
ひとりが卓上に広げた双六のコマを摘んで、壺に入れたサイコロをカラカラと鳴らし始める。
「なんにせよ、まだまだ未熟者ってことよ。ああいう男を騙すには、もっと凄みのある姿が必要ってこと」
「あーあ、あと二年で立派な魔女になれるのかしら……」

→次「華厳の滝」「手羽先」「テニス」

スープ。愛情をスパイスに加えると、旨みが増すらしい。
死ねばいいのに。いや、誰とは言わないけれど。
スープ。その旨みを、キチンと構成したいなら、手羽先というチョイスはグッドだ。ベリーグッド。軽く炒めたタマネギも一緒くたに煮込むと、なお良し。
コンソメは? とか、言い出す馬鹿は死ねばいい。

姉が。そんな理屈を振り回していた姉が、華厳の滝に特訓へ赴いたのは、二月も前のことだ。
お陰で、我が家には平穏が訪れ、俺は手軽にコンソメで淹れたお手軽スープを飲んでいる。やっぱり、コンソメ+卵がベストチョイスですよねー。
それにしても、華厳の滝ってどこにあるんだろう。
聞いたことはあるんだけど。行ってみたいとも思うんだけど。場所が分からないから放置。
そして、携帯が鳴る。ランボーのテーマ。姉だ。

平常心。取り戻したぜ、平常心。
やっぱ平常心がないと駄目だよな。不安定なんだよ。
インバランスっつーの? ディソーダーっつーの?
ふらふらしてんのは、良いんだよ。でも、根っこがないのは駄目なんだよ。わかるかな。わからんかな? わからなくてもいいよ。アンタはまだ子供だから。
ふふふ、姉ちゃんは一足先に無敵になったぜ。

無敵。
姉の電話は、そんな益体もない一単語を、天啓のように俺にもたらして、プツリと切れた。
無敵。良い言葉だ。姉の言葉は、なぜか俺に活力を与える。
俺は、自室の片隅に立てかけてあるテニスラケットに触れ、指先が真っ白になるまでガットを掴んだ。それから、自分に、言い聞かせる。
俺は、子供だ。だから、根っこがないかもしれない。でも、俺には、無敵の姉が居る。そして、この身には、姉と同じ血が流れている。

指先をガットから解くと、急激に血液が流れ出し、皮膚の裏を真っ赤に染めた。
ラケットをケースに収め、俺は「よし」と小さく呟く。
今日は、試合に最適の日だ。




次は「無敵」「根っこ」「子供」でヨロシク
500「無敵」「根っこ」「子供」:2008/05/23(金) 06:30:59
走り疲れて、どこかで休みたいと感じた。目をやると公園があった。あいつと昔よく遊んだ公園。今は子供が無邪気にはしゃいでいる。
「オレは正義の味方ジャスティだ!」
ガキ向けの番組でも見たんだろう、何人かで敵と味方にわかれて戦っている。
「違うよ! ぼくが正義の味方だよ!」
「なにいってんだよ、弱いヤツが正義を名乗れるわけねえだろ!」
ベンチに腰掛けながら、ガキたちの笑顔がだんだんと苛ついてくる。ハイハイ、正義ね。
「もう! ケンカすんなよ!」ガキのうち、聡明そうな一人が叫んだ。
『大切な人を守るのが、正義の味方だ!』
いつかの記憶と重なる。一瞬、呆けてしまっていたが、すぐに怒りが湧き上がる。走り寄り、そのガキの腹を膝で蹴る。ガキは吐いた。
「なにが正義だ。大切な人を守るだ。できもしねえこと言ってんじゃねえよ」言葉を吐く俺を、ガキが苦しそうに見上げる。
「お前も俺も、矮小な人間だ。できることとできないことの区別もつかない、愚直な人間なんだよ」
ガキを地面に捨て置き、公園を出て行く。休むには場所が悪い。とにかくここを離れなければ。
なにせ俺は犯人らしいから。幼馴染みの女性を殺そうとした悪辣な警察官という凶暴な犯人らしいから。


Next 「氷筍」「」「アウフヘーベン」「あえか」
501sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 03:05:01
あえか、氷筍、アウフヘーベン


「おい、おまえのエッセイのここ、あえかって言葉あるけど、どういう意味だよ」。
執筆の邪魔をされていらだった美依子は、夫の衛雄に毒づいた。「あなたってほんとうな教養のある人よね。編集者の鑑だわ。あえかはあえかよ。それくらいもわからないの?。だいいちなによそれ、氷筍?。缶チューハイなんか飲んであなた、それ、半分が砂糖よ」。
「おまえこそアウフヘーベンなんて高いブランデーがぶ飲みしてるじゃないか。俺がわかるわからないって言ってるんじゃないだろ。読者に通じるかって言ってんだよ」。
「通じると思いますけどね。あなたにはそうは感じなかったわけね」。美依子はそう言ってアウフヘーベンをあおった。
「私はただ編集者としてだな――」。
「なに?」。
「えっ?」。
「あえかの意味よ。はい、この場面よね。“氷点下20度の洞窟内はしんとしていた。岩肌は、あえかな――」。
衛雄は氷筍の缶をテーブルに叩きつけるように置いた。「自然に包まれるような、だ」。
「包まれるような?」。
「そうだ。一部の読者はそう思うだろう」。
「あなた。あえかってのはねえ」。美依子はそう言いながら辞書を取りに仕事机に戻った。「身が引き締まるようなでしょう。自分で辞書を調べてみなさい」。
「めんどくさいなあ。えーえーえー。おい」。
「わかった?」。
「読んでみろよ」。衛雄は美依子に辞書を渡すと氷筍の缶を手に取った。
あえかとはかぼそいというような意味である。
「“岩肌にはあえかな、たくさんのつららによる光景が広がっていた”。あえかな光景が広がってたのか」。
「……つららがね。つららがあえかだったのよ。あえかなつららがばーと広がっていて」。
「そうか」。
「そうよ。少なくとも包まれるような感じじゃなかった」。
衛雄はわずかに残った氷筍を飲み干し、美依子はわかってたわよなどと小声でつぶやきながらグラスに新しくアウフヘーベンを継ぎ足した。
502sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 03:07:44
次のお題は
「勝つ」「列」「菊花」
503名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 12:11:21
表テーマはさ、勝つために並んだいつかの菊花賞、ぐらいで良いと思うんだよ。問題は、裏テーマ。
俺はさ、裏テーマでさ、ガンダムの話をしようと思うんだ。
この時点で、ネタ的にどんぐらい脱落してるか知らんけど。
1st見ろよ! 1st! あれ、ファーストじゃねーか?
つーか、明日は菊花賞じゃなくてオークスだろーが。
どんだけ先取りだよ! だよ、だよ、だよ……(エコーのまま遠ざかる)
 
「という怒りを、アウフヘーベン的に抽出しました」
「なるほど。君は、風化してしまう怒りに、インパクトのある記号を付随させることで、一段階上の怒りへと進化させたのだね?」
「はい。ある種、アリストテレスっぽくもあります」
「素晴らしい! だがメタフィジコーは、このスレを観察していれば分かる通り、消費される一方なのだよ?」
「それでも僕は、Bキャンセルを押したくないんです」
「ほほう。欲しがりません、『勝つ』までは。というコトかな?」
「いいえ、キャンセル待ちをするぐらいなら、並びます。『列』に。誰よりも早く」
「ふふ、屍山血河を往く覚悟は既に備わっているということか! ブラヴォー! ならば、君は心ゆくまで男坂を登りつめるが良い。骨は、私が拾ってやる」
「年に一度の墓参りもお願いします」
「いいだろう。ねんごろに弔うよ。お盆には、必ず白い『菊花』を墓前に供えてな」
「お願いします」

遠ざかっていく、後輩(僕)の背中。やがて舞台から退場。
舞台、暗転。二秒後、スポットライトが舞台中央、両腕を天へとかざす先輩(私)を照射。

「書に善美なる魂を見出した若者よ、君の行く手には、幾多の艱難が待ち受けているであろう。しかし、私は、君の幸福を願わずにはいられない」

再び舞台、暗転。ガンダム。





次のお題は「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」でヨロシク
504lieb ◆SShzdr.d1I :2008/05/24(土) 15:17:56
「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」

私は蚊取り線香に、用心深く火をつけた。刹那のうちに燃え尽きる。
舞う風のなかに風鈴は、りんとも鳴らず脆く散る。
いつしか田には黄金の穂が、咲いてはあえなく枯れ朽ちる。
消える間際のあかとんぼは、晩霞の朱をまぶたに馳せる。
子供がつくった白いかまくら。なぜ逃げるよに溶けるんだい。
熊はやがて眠りから覚め、傾れ雪に人はたじろいだ。
萌芽の兆しを知ってか知らずか、空より緑雨が降りしきる。
私の心もつゆしらず、駆けて梅雨と名を変えた。
曇天は遥か空高く、すとんと抜ける青になる。
ひと年はかくも疾きものか。此岸はかくもはかなきものか。
人が死に往く幾年を、数刻に知る身の程に。



Next 「段平」「回向」「ボーゲン」
505sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 22:01:52
ボーゲン、回向、段平

雪山の村落、典念和尚はスキーを履いて檀家回りをする。今日も、すっかり曲がった腰のボーゲンですべる和尚の姿が見えた。
和尚は、とある檀家の庭先にひとつの盆栽をみつけた。養生の上からでもわかる、立派な枝ぶりの松もさることながら、和尚が本当に目をつけたのは鉢の方である。
たいそう立派なしがらき焼きじゃ。せいじさんはなんと罰当たりなことをしなさる……。
和尚は開いた戸からせいじに声をかけた。「おーいせいじさーん。せいじさーん」。
「おやこれは、和尚さま。こんなところもなんですし、ささ、お上がりになってどうぞお茶でも一杯」。
「いや、いいんじゃ。それよりせいじさん、あの松は」。
「あの松?。失礼ですがいったいどれで」。
「あの平段の」。
「平段?」。
「ほれあそこの平段平段」。
「平段平段、平段平段と……ああ、あれでございますか。おや、和尚さま、おわかりになられますか?。心得えがおありでしたとは……」。
「まあ少し。そんなことより、あんた、あれは――」。
「よろしかったらですが、おゆずりいたしましょうか」。
「ゆずる?。いやいや、あれは」。
「もちろんお代なぞは頂けませんです。すみませんがうちにお上がりになって少々お待なさっておいてください。すぐすみますので」。
「いい、いい。せいじさん、あの鉢はな」。
「ええ。その鉢からすぐ移し替えますんで。和尚さま、すみませんがあの鉢は貝原先生のお焼きになったしがらきでして、百万は下らないのでして……」。
「そうじゃ、あれはまさしく貝原先生のしがらきじゃ。せいじさん、あんたは、なんでそんなものを」。
「いえ。実はわけがありまして。たまーに、目敏いものがこの鉢を見つけます。立派な松だ、ぜひ5万でゆずってくれいや10万でも20万でも出すと言うのです。その度松だけお譲りさせてもらってりわけです」。
「せいじさん、あなたねえ」。
「先方さんが自ら望まれるんで。これも回向ってやつでしょうか。さ、和尚さま、移し終りました。あとでお寺に届けにあがらせてもらいます」。
506sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 22:08:23
下敷きは「猫の皿」でした。
“返歌”できなかった……。

次のお題、「ボタン、グミ、震災」。
507名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 22:12:14
しね、ボタンしね。グミ、まずいよグミ。震災、うざいよ震災。

つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。
508名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 22:44:36
コピペミステリー伊藤のナナハンターボつき一発見せてやれ

次は「ボタン」「グミ」「震災」で。
509奇子 ◆mgv.U.ZFE. :2008/05/24(土) 23:03:04
ハンターがある日森に入っていったんじゃ。なんのためだかわかるかな。
「狼をやっつけるためだね!」
そうじゃ……狼は悪い奴じゃからね。羊を食ったり豚を食ったり幼女を食ったり。
「おじぃさん、僕なんだかどきどきしてきた」
そうじゃろそうじゃろ。
しかしハンターはなかなか狼を発見することができなかったんじゃ。
「羊さんはいたの……?」
いた。わしがジンギスカンにした。
「豚さんは……?」
しょうが焼きにした。
「幼女さんは…?」
おまえのばぁさんじゃ。
「えっと……」
わしの武勇伝になってしまったな。
「どうしてハンターさんは森に入ったんだっけ……?」
そこがミステリーじゃな。そもそもその森は、金塊を奪った強盗が、金品に目が眩んだある男に殺されたことのある、曰く付きの森なんじゃ。しかし殺された強盗のズタ袋には金塊ではなく石の塊が……
おや寝てしまったか。
その強盗がおまえの父さんなんじゃが。
まぁ続きはいずれ……ゴフっ……?!
「ふふふ。毒が効いてきたようだな」
わしに何を飲ませた?!
「我が父の仇!」
ち、ち、違うんじゃ……。よく考えてみるんじゃ……。時系列がおかしいじゃろうが……。実は今の話には一つのトリックを仕掛け……ゴフッ。バタッ……。
「なんだと?!」

(しかし幾ら考えても、答えは永遠に失われたまま)



次回
「革命」「サービス残業」「マクドナルド」
510奇子 ◆mgv.U.ZFE. :2008/05/24(土) 23:09:26
次は
「ボタン」「グミ」「震災」
で良いよ。
511名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 23:16:42
ボタンってグミに似てるよねと彼女が言った。
震災のとき便利だよとぼくが言った。

つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。
512名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 03:50:09
 目の前にちらかっている瓦礫の山を見て、英明は愕然とした。
 精魂込めて築き上げ、あれほどまでに偉様を誇っていた彼の城が、見る影もなく崩れてしまっていたのだ。あまりに突然の事に言葉もなく、その場に膝をついた。
 世界大戦を経験した彼も、震災には抗しがたい恐怖を感じた。
 ボタンひとつで地球を破壊できる人類同様、この地球もほんの少し体を震わせるだけの諸作で人類の営みを根底から覆してしまうのだ。
 だが、それにも増して耐え難かったのは、震災に対する自分の認識の甘さだった。上部にばかり気を取られて、その土台がまるでグミのように軟弱ですべりやすいという事にまったく気づかなかった。
 仕方ない、もう無くした物は戻ってこないだろう。
 英明は半ば自棄ぎみに首をふった。夢も仲間も家族も、戦争で全てを無くした彼が唯一手に入れたものが再建の喜び、そして締観であった。
 また一からやり直すしかない。
 そう呟きながら彼は腰を屈め、床にちらかったマッチ棒を一本一本拾い集めた。
513名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 03:52:47
次は「瓦礫」「地球」「家族」
514名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 06:22:55
瓦礫の下に家族が埋もれているよと彼女が言った。
地球人だねとぼくが言った。

つぎは、発見、ミステリー、ハンター。
515名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 07:53:49
ミステリーハンター発見

次は「瓦礫」「地球」「家族」
516名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 08:09:19
発見、ミステリー、ハンター

俺か?。ただのしがない探偵だ。探偵といっても浮気調査が専門で、あとはたまに雑用のような仕事が舞い込んでくるだけだ。別に看板にそうと書いてるわけではないのに。
まあいい。今日はその雑用の方の仕事だ。依頼人は某テレビ番組の司会者だった。
その年齢の割りにはずいぶんとがたいのいい依頼人は言った。「困ってるんです」。
なんでも、依頼人の番組に出ている“ミステリーハンター”なる若い女の一人が、収録日にばっくれたらしく、彼女のアパートに行って発見してきてくれとのことだった。
……まあいい。なんにせよ飯の種だ。俺は現場に急いだ。
ここは中野区は早稲田通り。商業施設ブロードウェーの近くということもあって、若者から老人まで人間でごったがえす賑やかな町だ。
俺は渡されたメモの指示の通り高円寺の方へ向った。その時、こういう光景に出会った。
「ずいぶん広い学校だな。中野警察学校?」。そう、目の前には都内とは思えないほどの大きな敷地の、警察学校なるものの塀が伸びていたのだ。
さあ、ここでクエスチョンがある。
なぜ、都内にもかかわらず、こんなにでかい敷地があるのだろうか。


(続く)
517sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 08:51:35
「発見、ミステリー、ハンター」続き


正解は、そうだ。江戸時代に味噌屋だか醤油屋だかがあったからだ。
当時の建物はもちろん木造で、大豆でたっぷりの重たい大桶は、平屋に置くしかなく、味噌だか醤油だかの需要が高まるとともに、味噌屋だか醤油屋だかの桶の数も増えて行き、自然と大きな敷地になっていったのだそうだ。

が、そんなのはまったく今回の依頼とは関係のない話だ。先を急ごう。
中野警察学校から歩いて五分ぐらいなのところに、例のミステリーハンターの女のアパートはあった。
五分とは言っても道に迷ったりコンビニに寄ったりしたので三十分はかかったが。
アパートに近付くと、五、六人の主婦が、アパートをいぶかしげな目つきで眺めていた。腐っても探偵。俺は事件の臭いを嗅ぎ取った。
俺がアパートに近付こうとすると主婦の一人が声をかけてきた。
「あんた、入らない方がいいよ」。
そうは言っても飯の種だ。依頼人の信頼を守るためでもある。階段をのぼっている時ゲップがでた。先ほどのコンビニで買って食べた茹で玉子の匂いがした。
201号室。ここがミステリーハンターの女の部屋だ。しかし、チャイムを押してもドアノブをがちゃがちゃと回してもなんの反応もない。さてはやはり……。
ふと、俺はドアに張り紙がしてあることに気付いた。事件の核心に一歩近付いたか。俺は老眼の入って来た目を凝らした。
“このドアや他の窓は絶対開けないでください。警察にご連絡ください”。

518sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 08:53:47
次のお題「掃除、息子の部屋、ベットの下」。
519名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 09:36:47
歳をとるごとに潔癖の気が出てきた。最初は単に散らかっているのが厭だという程度のものだったのだが、
この頃では埃の一筋にも悪寒が走る思いがする。その範囲にしたってそうだ。リビングと書斎だけに向けられていた
私の意識は、次第に台所や物置場などにも広がっていった。
そして今日、残すところは息子の部屋のみ、という段階にまで私は来た。
そのために、前もって有給休暇を取得した。雑巾やクイックルワイパーは勿論のこと、オスバンなどの薬品だって購入した。
準備は万全を期していたのだ。
果たして掃除は始まった。まずは机の周りだ。食べ散らかしたポテトチップスの欠片や空き缶など、
片端からゴミ袋に捨てていった。燃えるゴミも燃えないゴミも関係ない。まだ使えるものだって構わず放りこんだ。
私は異常者なのだろうか。いくらか偏執に過ぎたのだろうか。
息子の反応も、その結果としてもたらされる事態にも、容易に想像はついたが、どうにも衝動を止めることはできない。
殆ど恍惚といってもよい表情を浮かべながら、私は掃除機をかけ、はたきを振り回し、雑巾を絞る。
正直に言おう。私は勃起していたのだ。
性への意識以外でそのような肉体的欲求が顕示されるなんてことは、もちろん、私は知らなかった。聞いたことも無い。
だが、実際に私は、はあ、はあ、と勃起していた。

一時間半が経った。息子の部屋は十分に満足ではないが、おおむね満足、という段階に達していた。
私は部屋の隅のベッドに、寝転がった。そして壁掛け時計を眺めながら自慰に耽った。
もう誰も私を止めることはできなかった。私自身ですらその行為は止められなかった。そして果てた。
所要時間はきっかり一分十五秒だ。悪くない。ああ、ぜんぜん悪くない。
散った白濁液が壁を伝っているのが見えた。おそらくはベッドの下の方にまで伸びていたのだろう。
私は迷った。つまり、拭き取るか否か――まあ、それは記念に残しておくのもいいだろう。
息子が帰ってきたら言おうと思う。
「どうだい、綺麗になったろう? 最後はおまえの手で綺麗にするんだ。ほら、ベッドの下だよ」


次のお題 「ギター、村上春樹、うんこ」
萌えキャラは語尾から始まる。
という定説通り、萌えキャラになりたい僕も、語尾から始めてみるうんこ。
今日から僕の語尾はうんこでうんこ。
さて、キャラ立ちはこの辺でオーケーでうんこ。

今日は村上春樹の話をしてみようと思うでうんこ。
村上春樹うんこ。
その執筆スタイルは、予め書き下した日本語を英訳し、それを再び日本語に変換し直すという、特殊な方法が選択されているでうんこ。
これにより、一文ごとの主題が前面に押し出され、また、キャラクターが能動的になる、という利点がゲッチュできるでうんこ。
そんな彼のルーツはどこにあるでうんこ?
これについては諸説あるけれど、個人的には庄司薫にあるという説を押したいでうんこ。
(ちなみに、村上自身は、処女作の後書きでデレク=ハートフィールドなる架空の作家について言及しているでうんこ)

彼の趣味で、最も良く知られているものの一つにジャズがある、と思うでうんこ。(最近文庫化された、東京〜も冒頭にジャズを持ってきていたでうんこ)
また、ジャズ以外にも様々な種類の音楽を愛しており、アフターダークに登場した通奏低音などを筆頭に、専門用語を比喩に用いるシーンが見かけられるでうんこ。
あと、彼、スガシカオが好きでうんこ。
良い音楽家は、その本人だけに備わっている和音(コード)で、音楽を構成している、とか何とか発言している記事を、読んだ記憶があるでうんこ。
これで『ギター』のワードを、クリアしたことにして欲しいでうんこ。

ラストに、彼とその歴史を同じくした(印象的にリンクしている、という意味で)人物に、江藤淳を挙げておきたいでうんこ。
詳しくは、各自で調べれば良いと思うでうんこ。
オマケで彼を慕う、若手(?)作家には、
伊坂幸太郎うんこ。
金城一紀うんこ。
古川日出男うんこ。
舞城王太郎うんこ。などが居ることも、挙げておくでうんこ。




次のお題は「玉子酒」「月見酒」「新巻鮭」でヨロシク
521sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 13:32:31
月見酒、玉子酒、荒巻酒


姉御の背中に彫られた鯉を
ふたり並んで、眺めてる
兄弟仲は、おやじの教え
古い男のヨオ、ベタな生き様サア

「あんたら、この商売、筋が要や
『シャブと売りには手を出すな』
亡くなった先代の言葉です
いいか、あんたら、
わたしらやくざもんを食わしてくれるみなさんのためしっかり働けるよう
兄弟どうし、仲良うやるんやで
さあ正月や。鮭食いなはれ。荒巻鮭、食いなはれ」
「姐さん
あっしらオヤジの人柄ァ忘れやしません
オヤジの言葉しっかり守って
組ぃしっかり守らせて頂きます」
「あんたら、ようゆうた
あんたらようゆうたでぇ
先代も安心しておられます
先代の言葉、歌わせていただきます」

シャブと売りには手を出すな
意地と見栄と思いやり
玉子酒、風邪時に
月見酒、したことない
手酌酒、本音だが
てめえの本音とあちらの面子
計ればきりないやくざ道
522sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 13:36:03
次のお題「ここって」「sageスレ?」「けもの道」

coccoよりもスピッツが好きで、だから俺は、けもの道と聞いて三日月ロックを思いだすんだけれど、実は古川日出男の方がもっと好きで、けもの道は、俺の中ではgiftになる。
とはいえ、遠野物語にだってけもの道は登場するわけで、一つの単語を指して、何がどう。と判別するには、圧倒的に知識が足りない。
知識。この時点では、ボキャブラリーと言い換えても良い。
ボキャブラリー。俺の知性が喫水線上に浮かぶ、道徳の海。
なぜ道徳と表現するのか。については、適切な日本語が思い当たらなかったから。
英単語から逆検索した。moralが最適だと、個人的には思うんだけどね。

さて、ここ。『ここ』って。
ここ、とはどこを指しているのか?
とか、云わないけど。俺は。
使い古された形而上学的問題に携わる探求は、ムスリム的に、コーランの教えに違反してそうな気がする。一神教だし。
同じ一神教を信仰しているよしみで、その程度の律法は守ってもいいんじゃね? とか考えている、今。
いや、実際は、定義して証明するのが面倒くさいだけなんスけど。

ただ、俺は、このレスを読んでいるお前と、必ずしも同じ世界に位置しているとは限らないわけで。
数学的帰納法で証明するなら、このスレのコミュニケーションにおける一方通行性は→情報が上位から下位に流れていることを示し→
相互交換は無し→なおかつ、俺は情報が下位から上位に流れるシチュエーションを体験したことがない→
つまり、他者の存在する世界は、常に俺の上位か下位に位置し→
よって、等位置であることが証明できず、同じ世界に位置しているとは限らない、という前提が反意として証明される。

だから、sageスレ?というお題を、あえて俺は質問として受け取りたい。
答えないけど!





次は「個人」「自由」「オルタナティブ」でヨロシク
524「個人」「自由」「オルタナティブ」:2008/05/25(日) 17:38:41
個人の自由じゃ。勝手にさせろや。ニートは存在がオルタナティブなんじゃ。


つぎのお題は「ここって」「sageスレ?」「けもの道」
ここってsageスレ? 選択の道は、けもの道。危ぶむなかれ、その己の道を。

次は「邦人」「誓約」「ルール」でヨロシク
526名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 19:36:08
「邦人て何?」と彼女が訊いた。
「日本人のことだよ」とぼくは答えた。
「じゃあ、誓約は?」と彼女が訊いた。
「自分で調べろよ」とぼくは答えた。
「ルールに縛られたくはないな」と彼女は言った。


つぎのお題は、不思議、人形、ラスト
527お題「不思議、人形、ラスト」:2008/05/26(月) 12:26:09
第二次ベビーブーム期に誕生した父親が、最後に消滅した。
既に、姉も母も消滅しているので、俺一人だけが我が家に残る。
4-3=1。うむ。
地球は、というか人類は、こうして緩やかに総体数を減少させつつ、終末期、いわゆる、『この世の終わり』を迎えているようだけど。
そのエンドロールは、あまりに穏やかすぎて拍子抜けしてしまう。
戦争も、飢饉も、伝染病もなく。
ただ自然災害的に訪れる、人の消滅を繰り返して、最後にはすべての人類が消滅してしまうんだろう。
幽霊船のように。未だ豊穣な、文明の残滓を地表に置き去りにして。

kaoru:不思議だよな
nao:だね。どーしてネット生きてんだろ
kaoru:電気だって水道だって生きてる。生活便利すぎ(笑)
nao:缶詰あれば数年持ちそう
kaoru:言えてる。娯楽たんねーけど
nao:でもネトゲ鯖、けっこう人いるよ?
kaoru:なにしてんの?そいつら
nao:フツーに狩りしてるw 娯楽大国、日本バンザイ
kaoru:いやいや(笑)

チャット。後、俺は人類が消滅し始める直前まで、大盛況だったネトゲ鯖を訪れるけれど、『人』は居ない。
俺のロールキャラだけが、ポツンと一人、NPCで賑わう町のど真ん中に立っている。
オーケー。今更だ。
俺は、理解しよう、自分に理解させよう、と笑う。
発電所、下水処理場。無人ロボットが、その耐久年数を終えるまでキッチリ任務をまっとうするだろう。
チャット。言語感覚が人間並みに発達したCPUによって弾き出された、乱数のキャッチボール。
あれだけの会話で、俺がkaoruかnaoか分かる人間は居るだろうか?

俺は、何度も心の中で反芻する。人類が消滅していく兆しを見せ始めた、夏の始まりに親友の薫が口にしていた言葉を。
「もう、人間は主役じゃなくて良くなったんだよ。人形(アンドロイド)が、人間に近づくんじゃなくて、人間が人形に近づく。そんな時代が来た。それだけ」

2-1=1。うむ。
俺はまだ、この世界で、人間のまま生きている。
528名無し物書き@推敲中?:2008/05/26(月) 12:27:51
長すぎた・・・反省orz

次は「霧」「帰郷」「始まり」でヨロシク
529「霧」「帰郷」「始まり」:2008/05/27(火) 02:55:27
交通安全を呼びかけるDJの声をカーラジオが発した。
大学生が高速道路で事故を起こしたニュースにちなんでのことだった。
春休みを利用して帰郷する途中の惨事だったという。
「車を運転される方は本当に気をつけてくださいね。ということで、
春は出会いと別れの季節です。始まりがあれば終わりがあります。
その終わりがまた新たな始まりだったりね。
これがまた桜の季節でもあったりするんだな」
再びDJがニュースを引っ張り出した。
何者かによって某所の公園で桜の枝が折られ、持ち去られたというのだった。
「何が面白くてこんなことをするんですかねえ」
凡庸なようでいて、DJは邪推や偏見を巧みに避けた。
そのとき、時速100キロで流れる景色のなかにぼくはあるものを発見した。
工事標識用の鞘に挿された桜の枝だった。死亡事故の現場なのだ。
その夜は風雨が強く、走行車両の後方には、必ず、人工の霧がついてまわった。
運転技術の未熟な大学生は、動く霧のなかでハンドル操作を誤ったのだった。
ひどい夜だった。

つづく
530「霧」「帰郷」「始まり」:2008/05/27(火) 02:58:05
つづき

「警察も捜査をしてるみたいですし」というDJの声が
ぼくの意識を現実に引き戻した。
「こういう手合いは早く捕まえてほしいものですね」
「捜査ねえ。してないよな?」
助手席にすわった相棒にぼくは同意をもとめた。
「管轄外だからな」
極めて屈折した相棒の返答を、ぼくは様式美としてたしなめた。
「警察には協力しようよ。自分だってそうなんだからさ」
531名無し物書き@推敲中?:2008/05/27(火) 21:51:18
お題忘れてるよ!
532名無し物書き@推敲中?:2008/05/27(火) 23:58:18
お題がない時は継続
533霧 帰郷 始まり:2008/05/30(金) 05:48:37
  私は今、暗いトンネルを白のワゴンに乗って走っていた。
  十数年ぶりの帰郷にも関わらず私の心中は穏やかなものでは無かった。ステアリングを握る手にも力が入り、ついついアクセルを踏み込んでしまう。
先々週の事だった。大学を卒業して以来プライベートの時間まで削り尽くしてきた会社から突然転勤を命じられた。もちろんそれが良い意味では無いことなど容易に理解できた。同僚等の間で「島流し」と称されたこの辞令を、私は冷静を装いながら受け止めた。
そんな最高に格好が悪い帰郷なのだが、楽しみな所もあった。小学生の転校以来あの土地を踏んでいない私にとって、きっかけはどうあれ帰郷する理由が出来たのが唯一の救いだった。
そんなやるせなさと楽しみが混ざり合い霧が掛った様にスッキリしない気持ちのまま、転勤先の事務所に到着した。一応本社の人間だったということで私の役職は所長。所長といっても私を含め全社員五人という子会社で、まさに「島流し」の名がふさわしい。
舗装されていない駐車場に車を停め、バックミラーで髪型を整える。そして助手席に掛けてあった背広を羽織ると私は車から降りた。


続く
534名無し物書き@推敲中?:2008/05/30(金) 12:25:04
即興文のつづきをいつまで待てばいいですか?
535名無し物書き@推敲中?:2008/05/30(金) 12:27:45
失礼。どちらかというとお題のほうを、いつまで待てばいいですか?
536名無し物書き@推敲中?:2008/05/30(金) 12:57:35
次は「霧」「帰郷」「始まり」でヨロシク
537オッケーまかしといて 霧 帰郷 始まり:2008/05/30(金) 17:57:37
深く立ちこめた霧があたり一面を覆い尽くしていた。
帰郷したいのだが、方角もわからない。
こうなったら最後の手段だと考えて、ぼくは強い決意とともに手を挙げた。
「ヘイ、タクシー」
開かれたドアの奥にぼくは体をすべりこませた。
ひとつの局面が打開され、新たな局面の始まりへと変じたのだ。
ぼくはおごそかに宣言した。
「とりあえず次の信号までまっすぐ」
538名無し物書き@推敲中?:2008/05/30(金) 23:01:45
>>553-554
ここに書くのも本当はナンセンスなんだけど、>>1にルール的な物が書いてあるんで参考にどうぞ。

>5: お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。

お題が書いていない場合は、同じお題で書けば良いということ。
書いている間に被ったらどうしようなんて心配はしなくても良い。
もし少しの差で先に投稿されても、出したければ載せてお題だけ前の人のを尊重すれば良いだけだから。
気楽に楽しくいきましょ。

http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/l50
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1140230758/l50
ここらで雑談と感想書いてるから参加してみたら。

で、最後にお題がないんで次も
「霧」 「帰郷」 「始まり」 ってことで。
539名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 15:13:36
墓を、持ってきた雑巾で磨いてやる。そしてたばこを線香代わりにして、最後に手を合わせた。
もう俺は両親と同じこの墓に入ることもないだろうが、別にもうそんなのは意味がないことだし、どうでも良かった。
ご先祖様、今までありがとうございました、とでも感謝すればいいのだろうか。楽に死ねますように。

そこから盗んだ自転車で五分ほど、やがて目的地に着いた。俺が帰郷したのはこれが目的だ。自殺の名所。
有名な場所なので写真も多い。
崖が垂直に切り立っており、さらに引き潮の時には、その下に鋭く盛り上がった岩場が姿を現す。身を投げれば、まず確実だ。
そして満潮になれば潮の流れがどこかへと運んでくれるというわけだ。しかも海流の関係で、一度流れ出せばもう日本には戻ってこない。
試しに例の自転車を落としてみると、ずっと小さな粒みたいになって落ちていった。冷や汗が出てきたので、腕で額を拭う。
あ、しまった。と思ったがもう遅い。眼鏡も落としてしまった。どうなったかは分からない。俺は目が悪いんだ。

最後に一服することにした。
頭の中を安っぽい煙で満たす。俺の不幸の始まりはいつからだろう。小学生の頃だろうか。いじめられっ子たちに目を付けられたのはそれくらいだ。
無理矢理運動会のリレーに出場させられ、それまでトップだったのに周回遅れにされて、クラス中のみんなから責められたりした。
勉強もからっきしだったし、テレビゲームですらド下手で、誰も仲間に入れてくれなかった。
そのうち、気づけば大人になっていて、もう借金で首が回らなくてパーだ。もうどうすればいいのか分からない。
そうするうち、霧が出ているのに気がついた。どんどんと濃くなってゆき、すぐに手の届く範囲くらいしか分からなくなる。
どちらへ行けば良いんだ? もうどうでもいいや。いずれ、崖の方向へ歩けば大丈夫さ。
闇雲にとにかく歩いていると派手に転んでしまった。頬に濡れた雑草が触れる。土の匂いがした。
と、大丈夫ですか、と声をかけてくる人がいた。いつの間にか霧が晴れていた。振りかえると中学生くらいの男の子が立っていて、俺の眼鏡をさしだしていた。
あなたのですか、と言う。ありがとう。俺は恥ずかしくなって引ったくるようにして眼鏡を掴んだ。
我ながら大人げないかと考え、もう一度、ありがとうと言っておく。俺は死ぬのをやめた。
540名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 15:14:44
↑「霧」「帰郷」「始まり」
↓「笛」「ねこ」「扇風機」

でお願いします。お題の指定を忘れてました、すみません。
541名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 18:43:00
ひきつづき

現スレ>>532
そのスカウター旧式ですよ

>>500 可
会話文中の含蓄に対して、行動が端的なせいか、構成が甘口。
あと、愚直の使い方がちょっと気になり。

>>499 拙作
最終段落の陳腐さは拭えず。
華厳の滝は栃木日光にあります。

>>498 良
オチが一つだけに絞られていない点が好。
ワード消化の甘さを補って余りある良。
>>537から振り返る中では、最好。

>>497 可
状況詳細を、前知識として把握していれば面白いのか。どうか。
文章として成立してるだけに、判断ムズカシ。

>>496 可
たしか絶対零度モジった演奏で、無音の音楽。4分33秒。
パス意図を汲んで(たぶん)構成した点はgj。オチ受けも良。

>>495 不可
絶妙に洒脱なトークがますます冴え渡りたい。

>>494 良
小説の神が、ふんだんに宿ってある文章は良いです。
細部が好。この分量で良くぞ、のラストシーンgj。
542名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 18:43:44
>>541
スレ違った。申し訳ない。
スルーしてください
543名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 18:56:04
「野球」「美少女」「ちくわ大明神」
これでヨロシク
544ベデンド・ホベイザ ◆fr6CRV8lSs :2008/05/31(土) 19:30:01
笛 猫 扇風機だよ。

 猫が扇風機に顔を向けている。風の勢いに目を細め、耳を後ろに折っている。後ろ足をたたみ腰を下ろし、前足をぴんと伸ばし、首も伸ばし、扇風機に届くよう顔をできるだけ高く持ち上げている。
「どうした。そんなに気持ちいいのか」
 傍らにあぐらをかいて座りながらそう訊くと、口を細くあけてミャーと答えた。音がかすかにふるえてビャービャーと聞こえる。前足の下から腕をいれて抱え上げ、あぐらの上に抱こうとすると、するするとすり抜けて扇風機の前に戻ってしまう。
「俺より扇風機のほうがいいのか」
 顔を近づけて横からのぞき込むと瞬きをして耳をくるっと振った。
「あっちいけ、ってのかよ。ったく」
 ご主人様をないがしろにしてはばからない。良い根性している。
「俺もそんなふうにできたらなぁ」
 背中をなでながら独りごちた。
 奥の部屋からピーとホイッスルが鳴った。ビクリとする。
「ほら、おれのお姫様のお呼びだよ。休憩終わり」
 立ち上がって伸びをした。うーんと唸ってベッドルームに向かった。
「よっしゃ。もう一発行ってみよう!」
 気合いを入れ直す土曜の夜。
 子作りも大変だよ。

「野球」「美少女」「ちくわ大明神」
545名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 21:53:07
野球部マネージャーの風子は、県予選開始前の失言を後悔していた。
もしこのチームが甲子園で優勝したら、宿泊所の男場に一緒に入って、
部員どものちくわの中からちくわ大明神を選ぶ、と宣言してしまったのだ。
いつもなら地区予選3回戦敗退がいいところなのに、俄然やる気を出した
野球部員たちは、あろうことか、夏の甲子園大会決勝まで進出してしまったのである。
試合は九回ウラを一点リードで迎えていた。ピッチャーの谷崎はMax120キロと
スピードこそショボいものの、ここまで神懸かり的なコントロールで防御率0.3を実現していた。
勝利の気配に興奮した男子部員たちが、風子の体をチラチラと横目で見ていた。
なにしろ、野球部開闢以来の美少女マネージャーといわれた風子である。それが、今夜……、
てなわけで、アルプスの麓はいつしかジャングルの熱気に包まれていたのである。
風子は焦った。このままでは勝ってしまう。勝てばみんなのオモチャになってしまう。
どうすれば、どうすれば……。
そのとき、風子の頭に閃くものがあった。彼女はベンチを出ると、ピッチャーの谷崎に
向かっていきなり大声で叫んだのだ。
「谷崎くん、先に言っておくわ、ちくわ大明神は、あなたよ!」
谷崎を除き、チームの全員が凍り付いた。監督は何事かと驚いたが、踵を返して
ベンチに戻った風子の凜とした姿を見て、何も言えなくなってしまった。
そして谷崎は急に大暴投を繰り返し、試合は逆転負けとなったのである。
翌日、満を持して告白しにきた谷崎を、風子は容赦なく振った。
こうして彼女の貞操は守られ、弱小チームは金星を逃し、少年たちの夢は潰えたのだ。
チンと汗と涙はがいかに固くなるかは、すべて女次第なのである……。

次「サッカー」「浴衣の娘」「飛行船」

546名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 00:59:56
>>545
うまいプロだな、次は素人の俺様が書いてやるw
547名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 02:57:50
「お父さんシリトリしょう」
七歳になったばかりの娘が言い出した。
「しりとりのり」 
「りさ」
「サッカー」 
「カ?ア?」 
「カでいいよ」
「かみさま」
「まゆ」 
「浴衣の娘」
「お父さん『の』は、反則だよ他のにして」
「じゃあ 夕日」
「飛行船」
「ん!?」
「終っちゃった・・・」

次 「バイブ」 「美少女」 「竿」
548名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 11:55:08
「お父さんが釣って。竿、一本しかないから」
歩美が言った。海釣りに来た太平洋で嵐に遭い、無人島に流れ着いて
はや2ヶ月。妻と船長は行方不明、生き残ったのは俺と娘の二人だけだった。
ぼろぼろになったシャツから溢れる歩美の肌は褐色に焼けて、若い体の
なめらかな曲線は、15の子供だとばかり思っていた歩美の「女」を、ことさら
際だたせていた。
「お父さん? 聞いてる?」
我に返る。いけない、俺はこの娘の父親だ。いくらこの子が妻の連れ子だった
からといって、劣情に負けるわけにはいかないのだ。この子を連れて日本に
帰るために、俺は自らのサバイブ能力をフルに使って、ここの生活を組み立てていた。
釣った魚を焼いて食べるともう夜だ。日が落ちると最近は少し冷えるようになった。
そしてこの夜、予期しなかったことが起こったのである。
「お父さん、そっちいっていい。ちょっと寒いの」「ん……いいよ」
暗闇の中で、歩美が肌を寄せてきたのだ。
「あたしね……お母さんが再婚するって言ったとき、反対したの。でも、いまはお母さんの
気持ち、よくわかる」「ん……んん」
「お母さんがいなくなって、あたしたち、どういう関係なのかな」
「家族……だよ」「家族?」「ああ」「どういう?」「親子さ」「それだけ?」「え?」
「違う形の家族があっても、いいんじゃないかな」「……」
歩美の裸体が月光に眩しかった。俺は、この夜、この美少女を……抱いた……。
「タブーなんてない。ここじゃ社会のルールなんて無意味よ。二人の人間が
 いるだけ……愛して、康二さん……ああ、ああ!」

ピピピ ピピピピ。俺は暗闇の中で目を覚ました。そうだ。今日は部長と海釣りに行く日だ。
港に着くと、チャーター船で部長と船長が待っていた。天気予報では少し時化るとの
ことだったが、そのほうが釣果はいいものらしい。部長は笑っていった。
「山下君。ずっと前から、君と一緒に遊びたいと思ってたんだよ。ふふふ……」
翌日、俺と部長は無人島に流れ着いた……。

次「竹藪」「秋の空」「ミッドナイト・エクスプレス」
549名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 14:11:30
>>548
釣れた!ギザワロス

釣り用語 バイブ=バイブレーションルアーの略
550名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 18:11:32
世の中には釣り用語と一般用語しかないのかよw
vibroseisとか仕事で使うが、この手の用語はいくらでもあるぞw
551感想NG 1:2008/06/01(日) 21:36:32
竹藪ごしに仰いだ秋の空は、次第にまぶしさと青みとを減じていった。
琥珀を溶かしこんだような夕陽の色に包まれながら、
ぼくは痛みにも似た寝心地の悪さを認識してはいた。
三輪車なみの速度で上空を移動する飛行船に、
散漫になりがちな意識の焦点がときおりあう。
それが広告用の小型機だとぼくはマスメディアを通じてあらかじめ知っていた。
うちわを手に、笑顔をふりまく浴衣の娘たちが、その両側面にプリントされている。
なんらかの選考基準で、美少女たちと飛行船とを起用した花火大会の広告だった。
きょう、ぼくが起床したのは、新聞配達員が最初の朝刊を配り始める時刻だった。
目覚めと同時に毛布を跳ね上げたそのさまは、
バイブスも満タンと評するにふさわしかっただろう。
身支度もほどほどに向かった先は駅前のバス・ターミナルであり、
ミッドナイト・エクスプレスで帰ってくるはずの恋人を迎えるためだった。
幾度となく竿立ちをくりかえす野生馬の境地かどうかはともかく、ぼくは待った。

つづく
552感想NG 2:2008/06/01(日) 21:38:09
つづき

しかし、終点であるはずのそのターミナルに、バスは姿を見せなかった。
代わりに現れたのはバス会社の職員であり、彼によって、
ぼくは夜行便の一台が事故を起こしたと知らされた。
やむをえない事情で彼女がその便に乗り遅れたことをぼくは願った。
しかし、まちがいなく彼女は乗車しており、その乗車券が天国への片道切符となった。
笹の葉のこすれあう乾いた音の下で、ぼくは何度目かの寝返りをうった。
サッカーに興じる児童たちの声が、道一本を隔てた公園から、いやに強い存在感をまとって聞こえた。
星々のまたたきを透かす闇の色は、いまだ地上のすべてを覆い隠そうとするそぶりを見せない。
553名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 12:46:35
で、お題は?w
人生。俺の人生。自由度は低い。難易度も、それなりに。
定期的に故郷へ帰る。クニへ帰る。難易度のボトムへ帰る。
ボトム。底に原点がある。底に。
そこから見上げたトップには、自由が幾らでも転がっているように見えた。
トップ。それは空で良いのだろうか。

ミッドナイト・エクスプレス。映画の題名。
そして、夜行列車の総称。鈍行もエクスプレスと呼称される。
つまり、愛称。北斗星、トワイライト、カシオペア、ムーンライトetcetc。
一つだけ拾い上げるなら、トワイライトのワードを拾い上げる。
日の出、日没後の薄明かり。夜が完全ではないことを示す、単語。

俺の故郷。俺の記憶。
故郷には、少年時代が埋まっている。発掘する作業は退屈で死ねる。
少年時代。そこには全てがあって、何もかもなかった。
それでも切ないのは、決定的な時間の差異が、未だ眠っている気がするから?

竹薮。気候条件に適している。
だから、僅かな時間の差異で、すぐさま林になる。森になる。
それでも藪と呼ぶ。適切な距離を保つ様が、日本人の気性を体現している。根は深い。深い場所に根がある。
時間の問題ではなく、記憶も、情緒も、何もかもが深い。

故郷の竹薮に分け入る。革靴で、乾燥した土を踏む。
秋の空のように、深い場所で未だ眠っているボトムを見つけようとする。
次第に西の底へと落ちていく太陽は、光量を減じ、もはや手元さえ危うくなってくる暗闇の中で、何の気はなしに空を見上げた。
物語の主人公になってしまったような気分で、自由なら、空に幾らでも転がっている、と、確信していた頃の自分をなぞる様に、見上げた空は。

変わってしまったのかどうか、一切分からない。
退屈はつづく。
555名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:08:14
次は「アラビア」「夜」「種族」でヨロシクー
556名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:15:24
アラビアの夜はどの種族にとっても納涼こそ最上の贅沢である

次のお題は、校門、汗、腕時計
557名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:39:41
春なのに朝の風はまだ冷たい、今年中学の新1年になった加奈子はしょっぱ
なから遅刻しそうになって必死で走った校門をくぐって腕時計をみた8時19
分、ギリギリセーフだった。気温は低いのに汗だくだった。必死で走ったのだ
から当然だ。
「加奈子じゃないか?なにやってんだ?」
「先生、セーフでしょ?」
「つかお前何しに来たの?」
「あ。。。。」
加奈子は間違って卒業した小学校に来たことに気が付いた。

次のお題 「角」 「気持ちいい」 「18才」

558名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:44:22
角を曲がると気持ちいい風が感じられた。18才になって最初の朝だった。

次のお題は、麒麟、エベレスト、虹
559名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:56:52
角を曲がるとさーっと気持ちいい風が吹いた。
ふと足を止めて小学校を見上げる。

―ふふ。そう言えばそんなこともあったっけ。

昔の失敗を懐かしく思い出し微笑む。
彼女は横髪を大人びた仕草で整えると歩き出した。
靴下の柄が左右で違っていることには気づいていない。
加奈子18才の春であった。

次は「茶碗」「排水溝」「グレーチング」



560名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:58:06
>>558
エベレストに登ると
虹の向こうに
麒麟が
見える
そうだよ。
561名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 22:46:03
>>559
558は無効?
>>560
お題無いなら俺の書いたの乗せるぞ
562名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 22:50:58
なぜわざわざ>>559に訊くのでしょう?
テンプレ>>1をよく読みましょう。
理解できないのなら参加を見送りましょう。
563名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 22:51:50
中国の金持ち、周は街の路地裏で占い師に声をかけられた。
「夢にとおりになさい、さすれば必ず良いことがある」
その夜不思議な夢をみた、麒麟にまたがって虹の橋をの上を駆ける夢だった。
中国では麒麟は演技の良い動物だ、これは吉兆と思い思い切った株投資をしてみた。
周の買った株はエベレストを登っていくかのごとく上がりつづけた。
周は気を良くしてその株を全財産を使って買い増した。
周は娘を大学に行かせる資金として貯めていたお金までつぎ込んだ
このお金は周がまだ貧乏だったころに必死で働いて貯めたものだった。
さすがに注文ボタンを押すときには迷った、しかし周の財産の全額と比べたら少ないお金
だったので結局使ってしまった。
一月後、その株の株価は3倍にもなっていた。周はそろそろ売り時だと思っていた。
周は別の投資先を見つけ翌日にはそちらに乗り換える予定だった。
翌日、株式市場が開く前に大変なニュースが飛び込んできた。
周の買った株の会社に粉飾決算が発覚したのだった。株価は連日ストップ安。
結局会社はそのまま上場廃止で周に戻ってきたお金はほとんど無かった。
周は占い師の事を思い出した。
「あの占い師め謝罪と賠償をさせてやるあるね」
周は占い師を探しに街に出かけた。
     つづく
564名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 22:56:47
次は「茶碗」「排水溝」「グレーチング」
565561:2008/06/02(月) 22:57:35
>>562

見落としました 投稿中止、出直します。
566名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 23:26:42
確かこの路地を抜けて次の路地を曲がって・・・
路地で迷った周は思わぬ光景出くわした、周の娘が街のチンピラに絡まれ今にも連れ去ら
れそうになっている、週は昔とったキネヅカの太極拳の必殺奥義をを繰り出してチンピラ
をぶっ飛ばした、チンピラは排水溝に落っこちた。
チンピラが溝のグレーチングを外して襲い掛かって来た。周は娘をかばってグレーチング
を背中で受け止めた。周は体勢を立て直すとまわし蹴りをチンピラの腹に決めチンピラを
撃退し、娘を連れて無事に帰った。
周の娘は3日前に家出をしていたのだが、株のことで頭がいっぱいで娘が居なくなっていた
ことすら気づかなかったのだ、そして周は気が付いた3日前どころかここ数年娘にほとんど
かまってやって無かったことを。周は目からうろこが落ちた。
「俺は何をやっていたのかあるよ。。。」
周は元々娘の幸せのために良い学校に行かせて、エリートと結婚させてやるのが夢だった。
そのために必死ではたらいて金を貯めてそれを元手に事業を起こし投資をし金を増やしま
くっていったのだった。しかし金を稼ぐことばかりに没頭し、娘を構ってやらなかった事を
後悔した。
                                 つづく
567名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 23:28:15
つづくとかアホか!
テンプレ読めアホ!
568名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 23:32:58
1年後、周は最後に手元に残った小さな餃子店を営んでいた、娘も店をずっと手伝っていた。
金持ちだったときより遥かに幸せに思えた。ただ一つ気がかりなのは娘を北京の一流大学に
行かせる資金はたまりそうに無かった。
「俺が不甲斐ないばっかりに苦労をかけてすまないあるよ」
「お父さんそれは言わない約束よ」
娘は茶碗を洗いながら笑顔でそういった。
そのとき電話が鳴った。
「へい、餃子の来々件あるよ」
「○X証券の珍ですが周さんが1年以上放置している株券の件について」
「株券って証券コード8033の株券の事あるか、あの会社はもう上場廃止あるよ・・」
「いえ、8031のことです株価が800倍になっております」
「え?」
「いやあ周さん先見の明がありましたね、当時上場直後で会社の規模も小さく不人気な銘柄
だったのですがアラブで井戸を掘っていて油田を掘り当てたらしく暴騰しましてね」
自分が買ったわけでもないのに証券会社の人は興奮して喋り捲っていたが周には心当たりが
無かった。
だが株は確かに買っていた1年前に娘のために貯めておいたお金で注文した時8033と入力す
るところを誤って8031と入力して注文したのだった。
誤発注でも注文は成立しているので周はまた大金持ちになった。めでたしめでたし。

15行を遥かにオーバーしたので 次の御代も「茶碗」「排水溝」「グレーチング」
569名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 23:37:56
>>567
感想雑談は感想スレへ
570茶碗 排水溝 グレーチング:2008/06/03(火) 07:37:41
疲労という名のバーベルをダース単位で抱えこんでいるような感覚は消えない。
しかし、フルマラソンを走り終えた時の達成感に似た感覚もはっきりと覚えていた。
ついにここまでたどり着いたのだ。世界中を駆けずり回った挙げ句、目的のものはご町内にあった。
しかも中学時代の通学路にである。灯台もと暗しもいいところだが、
過去よりは未来を、悔恨よりは希望を見据えるべきだろう。
いままさに、ぼくの目前には伝説の泉があった。それはごくありふれた排水溝の、
ごくありふれた集水漕のかたちをしており、グレーチングと呼ばれる蓋も、
格子の粗いごくありふれたものだった。じつにみごとなカモフラージュだった。
ぼくは気合いのうめきとともにグレーチングをはずした。
ふるえる手に伝説の茶碗をつかんで、屈みこむとヘドロの臭いがした。
飼い主と連れだった愛玩犬の爪がアスファルトの路面をうつリズミカルな音が、
あまりの臭気にたじろいだぼくの脇を通り過ぎていった。
なにげなく音の向かった先をふりかえってみると、
麦茶色の排泄物が、電柱の根元へときれいな放物線を描きはじめたところだった。
571名無し物書き@推敲中?:2008/06/03(火) 14:36:04
2レス以上になるなら全部書いてから間を置かずに投稿して欲しい。
次のお題が出るのか前のお題で継続していいのか判断しづらくて困る。

感想スレか裏に書こうか迷ったけど、あっちを見てない可能性もあるのでこっちに書きます。
武田勝頼の騎馬隊をフルボッコにした、織田信長の策を覚えておられるだろうか。長篠の、アレね。アレ。
鉄砲三段詰めって言うの? いや、それはどうでも良いんだけど。
俺が想像しているのは、この側溝に填まってるグレーチングが、あの作戦で使用されていた、馬防柵に似ているってコトで。
どうにか利用できないもんかな。オトヤ君。

正面対決? 用意できる火器に、向いてないよ。
ラップトップガンなんか、恐ろしく銃口跳ねまくるから。
すぐに死ねるね。暴発して死んじゃうかもしんないし。
それに、射程距離が全然不足してるよ。マカロフ一丁で、装甲車と対等に渡り合えるほど頑健なら、話は別だけど。

グラスホッパーズ。グラスホッパー。飛蝗。命名俺のチーム名。
構成員は十代の前半ばっかりで、そうだな、成長過程の肉体は、飛蝗の脚部の付け根ほどに脆いと思われる。

だろうね。グレーチング。グレーチング。側溝。側溝。
うーん、みんな嫌がるだろうけど、排水溝を使う手もあるよ。
汚水塗れになっても、戦意が萎えない前提の話。三丁目の犬飼さん家から、上級生が根城にしてる工場まで一直線。

犬飼。犬飼ね。茶碗爺の犬飼ね!
業突く張りの金の亡者。にして、幼児性愛者。虐待癖もオマケにつけてやる。でもね、オトヤ君。
そんなクソのクソにまみれて、クソどもをブッ殺しにいくなんて詩的じゃない? 因果、ここに極まれり。韻が、ここに踏まれまくり。

グラスホッパー。ホッパーズ。飛翔する者。
銃弾のホップが、距離を稼げないのなら、この足で稼ぐ。
遥かな距離を一瞬にして稼ぎ出す、グラスホッパーなこの足で。
緻密な筋肉の、柔軟性に富んだ躍動が。誇りを糧にして汚泥にまみれる精神の燃焼が、それを逆説的に証明するだろう。
だからオトヤ君、思うんだ。
誰の手によって犠牲の対価が支払われるべきか? それは、名付け親の、俺以外にないんじゃなかって。




次のお題は「アルタ前」「ギフト」「紅茶パーティー」でヨロシク
573名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 08:36:20
裏は見ていない人間も多いと思うのでこちらで。
>>556とか>>558とか>>560とか、荒らしと変わらんカキコは無視って以前住人で取り決めた気が。
あと最近変なお題を出す人間も増えたね。
自己満足なだけの奇を衒ったお題はしらけるだけなので自粛して欲しい。
「紅茶パーティーいかがですか?」
中国人らしき男が話しかけてきた。まただ。最近、流行っている。
真偽の程は分からないが、ネット上のアングラな掲示板では麻薬パーティーだとか、乱交パーディーだとか、はたまた新興宗教だとか噂されている。
「では案内しますよ。」
僕はいつの間にか中国人と一緒にアルタ前へと移動していて、しかも車に乗り込むところだった。
車内ではすぐアイマスクをかけられた。位置を隠すためか、やたらと何度も曲がり角を曲がる。
僕は何とか特定してやろうと思ったが、カーブが二十回を超えたところで諦めた。
ただ覚えているのは案外と優しい運転だったということだけで、次に視界が明るくなったのは、どこかマンションの玄関だった。
奥から女の人が出てきた。ようこそ、と微笑みかけてくる。いつの間にか中国人はいなくなっていた。
「私はアリスです。今日のテーブルをさせてもらいます。」
そうですか、ここは何処なんですか。森ビルですよ。森ビル、本当ですか。いいえ、でも森ビルで良いでしょう、場所なんて関係ないから。
そうして僕は奥へと通された。どこからか甘い香りがする。家族が紅茶好きの僕には、慣れた香りだ。
アリスさんがどこからかポットを持ち出し、丸いテーブルに置く。
「どうぞ腰掛けて。今日は紅茶を飲みに来たんでしょう。」
「はい。」でも、僕は紅茶を飲みに来たのだろうか。
「いいわよ、じゃあ私たちはお友達ね。」
いいわよ、というその発音にわざとらしさを感じて、こいつは元・男なんじゃないかと思った。
アリスさんはカップに紅茶をなみなみとついだ。ポットからは際限なく紅茶が出てくる。バケツほどの大きさのカップだった。
「ではどうぞ。おいしいわよ。」
ええわかります。じゃあ全部飲みましょうね。いやです。いえ、全部飲んで下さいね。はい。
僕は何とかバケツカップを全て飲み干し、また際限なく注がれてゆく紅茶の水面にオシャレなランプが映り込んでいるのを眺めていた。
はい、次をどうぞ。はい、気品のある味と香りで、とてもおいしいです。
アリスさんは僕の友達だ。僕はまたなんとか飲み干した。
アリスさんの椅子の後ろに、洗濯機が置かれているのに気がついた。紅茶の香りがする。

「焼き肉」「言葉」「魔法」
すみません、「ギフト」が抜けていました。
「紅茶パーティーいかがですか?」
中国人らしき男が話しかけてきた。まただ。最近、流行っている。
真偽の程は分からないが、ネット上のアングラな掲示板では麻薬パーティーだとか、乱交パーディーだとか、はたまた新興宗教だとか噂されている。
「では案内しますよ。」
僕はいつの間にか中国人と一緒にアルタ前へと移動していて、しかも車に乗り込むところだった。
車内ではすぐアイマスクをかけられた。位置を隠すためか、やたらと何度も曲がり角を曲がる。
僕は何とか特定してやろうと思ったが、カーブが二十回を超えたところで諦めた。
ただ覚えているのは案外と優しい運転だったということだけで、次に視界が明るくなったのは、どこかマンションの玄関だった。
奥から女の人が出てきた。ようこそ、と微笑みかけてくる。いつの間にか中国人はいなくなっていた。
「私はアリスです。今日のテーブルをさせてもらいます。」
そうですか、ここは何処なんですか。森ビルですよ。森ビル、本当ですか。いいえ、でも森ビルで良いでしょう、場所なんて関係ないから。
そうして僕は奥へと通された。どこからか甘い香りがする。家族が紅茶好きの僕には、慣れた香りだ。
アリスさんがどこからかポットを持ち出し、丸いテーブルに置く。
「どうぞ腰掛けて。今日は紅茶を飲みに来たんでしょう。」
「はい。」でも、僕は紅茶を飲みに来たのだろうか。
「いいわよ、じゃあ私たちはお友達ね。」
いいわよ、というその発音にわざとらしさを感じて、こいつは元・男なんじゃないかと思った。
アリスさんはカップに紅茶をなみなみとついだ。ポットからは際限なく紅茶が出てくる。バケツほどの大きさのカップだった。
「ではどうぞ。おいしいわよ。」
ええわかります。じゃあ全部飲みましょうね。いやです。いえ、全部飲んで下さいね。はい。
僕は何とかバケツカップを全て飲み干し、また際限なく注がれてゆく紅茶の水面にオシャレなランプが映り込んでいるのを眺めていた。
はい、次をどうぞ。はい、気品のある味と香りで、とてもおいしいです。
アリスさんは僕の友達だ。僕はまたなんとか、彼女のギフトを飲み干した。
アリスさんの椅子の後ろに、洗濯機が置かれているのに気がついた。紅茶の香りがする。
576名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 20:53:04
オフィス時計は午後10時を回っていた、目の前に書類が山と詰まれているディスクを見やりながら >>1 はつぶやいた
「魔法でも使ええればぱぱっと片付くのに」
>>1 は疲れていた、仕事にも、人生にも、ちまたでは硫化水素で自殺なんぞ物騒なものが流行っているが >>1 は死ぬ度胸もない。
とりあえず今日仕上げて置かないといけない書類だけは仕上げ終た。>>1 は急ぎではない自分の担当する見積もり書の類を明日に回すことにした。
「おう、西村ずいぶん遅くまでがんばったな、久しぶりに焼肉でも食いに行かないか?おごってやるらさ」
そう声を掛けてきたのは面倒見の良い課長だった。 >>1 は胃腸のほうも疲れていたのだが、久々の禿下田課長の誘いを断りきれなかった。
入社した頃から禿下田課長は >>1 の直属の上司だった。>>1 が入社したころは酒を飲めない >>1 によく焼き肉をおごってくれた。
>>1 は久しぶりに課長と焼き肉をつつきながら下らない世間話をしていた。そこへ別の客が課長のほうに近寄って来て言った。
「お?禿下田じゃないか?久しぶり、そちらの方は?」
>>1 とその客はお互いに自己紹介をした、どうやら禿下田課長の大学時代の同級生らしい、そのまま三人で同じテーブルを囲むことになった。
課長の同級生は気前良く課長と >>1 にビールを大ジョッキでおごってくれた。ほとんど飲めない >>1 も今日は3杯も飲まされた。
「イオナズン!!!」 なぜか課長の同級生が魔法を唱え出した、やけ具合の悪かった骨付きカルビが程よく焼ける。
「パルプンテ!」課長まで魔法を使い始めた。しばらく魔法の応酬が続いた跡にボインの萌え萌えメイドが目の前に現れ会計を求めてきた。
                                      つづく
577名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 21:20:17
良く見ると萌え萌えのメイドではなく焼き肉屋のおばちゃんだった。そう>>1はむちゃくちゃ危ない酔いかたをしていたのだ。
課長ら2人も完全に酔いつぶれて寝ていた、>>1 は三人分の支払いをしてタクシーを手配し、自分もタクシーで家路についた。
財布はスッカラカンになった、もうサラリーマンなんていやだ。。。
>>1 は自分のマンションにたどりついた、もう午後2時を過ぎているというのに「おかえりあなた」と嫁が迎えてくれた。>>1 疲れも酔いもこの嫁
の魔法の言葉で消し飛んだ。>>1 は嫁を抱きかかえてベットに向かった、そう、その紐を引っ張ると喋る1/1涼宮ハルピンのフィギアを。。。
578576-577:2008/06/07(土) 21:34:42
次のお題は前のを継承

「焼き肉」「言葉」「魔法」
579名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 22:13:23
>>576-577
だから「つづく」とかじゃなく、全部書いてから一気に投稿してくれー
580576-577:2008/06/07(土) 23:09:07
>>579
すみません、18行だから入ると思って書いたのですが、入りきらず切り取った部分がなぜか消えてしまい書き直しました。
581名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 23:53:17
行数ではなくデータ量で切られたんじゃないかな。
582名無し物書き@推敲中?:2008/06/08(日) 00:34:50
「焼き肉」「言葉」「魔法」

便利っていいよね。苦労しないしね。
『狭いマンションで呟いている』
魔法みたい。移動は早いし、店は多いし。
でも都会って人多いよね。しかも増えてるよね。
『壁を挟んで左右にも上下にも人がいる』
人がどんどん狭い場所に集まって、気分的に暑いよね。
『常に何かしらの音がしている』
暑い、焼き肉にされそうだよ。
『呟く言葉を聞く者はいない』

次:カレーライス スコール 瑞々しい
583名無し物書き@推敲中?:2008/06/08(日) 14:51:04
「カレーライス」「スコール」「瑞々しい」

今、僕は出張でタイに来ている。
タイは四月でもうすごく暑い。
日本とは大違いだ。
だって日本で四月といったらスキーも出来る時期だろう?

当地ではいつも屋台で朝飯を食べている。
ホテルで食べることも可能なのだけど、
出来れば現地の人がしている生活を体験してみたくてね。
今日はタイカレー(これはタイのカレーライスだ。とても辛い)を食べたんだけどその途中でスコールが来た。
スコールは雨期のこの時期、毎日のように来る。
ざっと降り、一時間ほどで止む。
そのあとすっと涼しくなる。

現地の人たちは傘を持ち歩かないから濡れても平気で歩いている。
僕も、と思うけどさすがにこれは真似できない。
仕事があるからね。濡れたまんまで行ったら困るだろう?

スコールの降ったあとには、花売りの売る瑞々しく咲いているジャスミンの花に雨粒が光っている。
とてもきれいだ。
君にも見せたいよ。

次→「冷蔵庫」「お肉」「野菜」
584名無し物書き@推敲中?:2008/06/08(日) 16:14:25
「最近、どの野菜も高くてこまるよ」と彼女が言った。
「まるでお肉は安いみたいな言い方だね」とぼくは言った。
「いま、グラムいくら?」と彼女が訊いた。
「お野菜よりは高いよ」とぼくは答えた。
「冷蔵庫にこんなに入りきらないね」と彼女が言った。
585lieb ◆SShzdr.d1I :2008/06/08(日) 18:04:26
「冷蔵庫」「お肉」「野菜」


僕は冷蔵庫を開けた。冷えてしなびた野菜と赤みの失せたお肉がある。

この部屋は完全に包囲されているようだ。
屋外からメガホンの叫び声が投げかけられる。投降しろ、と。
――僕は人を傷つけた。このピストルで。
渋谷でこれを売買しようとしていた人をたまたま見かけて奪った。
消火器で殴ったら、2人ともぐったりとしてしまった。
そのピストルで銀行に押し入って適当に撃った。

窓の外には青い空がただ、ある。
メガホンを持った男(警部かなにかだろう)は、なにやら部下に指示している。

僕は冷蔵庫から野菜と肉を出して頬張った。銃口をくわえる。肉は鮮やかさを取り戻し、野菜は瑞々しくなるだろう。そうなるだろう。
メガホンの機械的な怒号が響く。お前のしたいふうにはさせないぞ、と。
そりゃ残念だ。僕は引き金を引いた。burn。


次題は「双生児」「マヨネーズ」「肌理」
586名無し物書き@推敲中?:2008/06/12(木) 21:33:01
 あるところに双子の兄弟がいた。ともに好物はソーセージであった。
 兄はウィンナーを愛した。ウィンナーにマヨネーズをたっぷり載せて、
毎食六本ずつ食べていた。 弟はフランクフルターを愛した。フランクフルターに
ケチャップをたっぷり載せて、やはり毎食六本ずつ食べた。
 世間は彼らをソーセージ双生児と呼んだ。
 彼らは自分たちの嗜好が度を過ぎていることをよく自覚していた。二人とも
二十五歳で結婚し、それぞれ子を儲けたが、家族に配慮して自分の献立を
妻子に強要しようとはしなかった。ただ自分だけは……自分だけは、毎食
必ずソーセージを食べられるように求めただけである。この配慮を肌理(きめ)が
細かいといわずして何といおうか。二人ともまさに紳士というべき男達であった。
 しかし二人とも四十歳で急死した。理由は言わずもがなである。

次「銀紙」「日光写真」「かざぐるま」
日光写真。分かるかな。日光写真。
黒いカーボン紙に、影を送ってやるとその部分だけが白く抜けるんだ。
シーツ。分かるかな。シーツ。
俺の目の前には、一枚の真っ白いシーツがあって、大きく赤い染みが、日光写真のように『抜かれていた』。

寝室。アウト。廊下。ラン。階段。ラン。玄関ホール。アウト。
行き止まりに世界。俺の世界。
俺の街。俺の生まれ故郷。俺のホームタウン。
俺にとって限りなくフェアな、愛され愛すべき世界。
今日の日差しは、比較的それらすべてを憎悪している。
分かるんだ。分からないことは何一つない。刃物が、筋肉や脂肪にインサートされる感触だって、明確に理解した。指先で。

柔らかい味のする風が、鼻腔をくすぐる。こびりついた鉄錆の匂いを、洗い流していく。この風は、マイルドだ。太陽のように、ありとあらゆる存在を排他しようとしていない。
見ろ。
山麓に理路整然と、形而上学に則って配列されたプロペラ式の風力原動機は、まるで夜店に乱立するかざぐるまみたいじゃないか。
あれがこの風を、山頂から吹き降ろす鮮烈な風を、撹拌して人々の下に送り届けているんだ。素敵。

そして、俺のお留守な足元には、陽の光に体躯を黒光りさせた蟻が、這っている。行列をなしてクリープ。クロール。行き先は、銀紙にへばりついたウンコみたいなゲル状チョコレート。
それらすべてを、覆う影。俺の影。憎悪されている太陽の光を一身に浴び、更にソレをプライベートな憎悪で重ね塗りした、真っ黒すぎる影。
白く光る世界を、逆に『抜く』、日光写真のよう。

眺めて数十秒。
視線を逸らして天を仰ぐと、青い空が黒く『抜ける』カゲオクリ現象。
いえ、オーロラです。あれはオーロラです。俺にフェアな俺の街が、俺にプレゼントしてくれた、イニシエーションの象徴です。
思索のタイムラグが、プロセスを経る間に、オーロラはみるみるうちに同化していきます。なぜならば、獲物が足りません。足りないのです、獲物。貢物、供物が。足りない。絶対的に。

だから俺の脚は、やがて駆動する。ラン。衝動がラン。理性的にラン。
玩具のような憎悪の太陽、マイルドな風、それらに構築された白い世界を、一筋の影が、粒子を振りまきながら駆け抜ける。
抜けていくようです。つまりは、日光写真のように。
588名無し物書き@推敲中?:2008/06/14(土) 02:51:54
次のお題は「京都」「喫茶店」「銀」でヨロシク
589名無し物書き@推敲中?:2008/06/14(土) 18:56:03
長げえよハゲ
590名無し物書き@推敲中?:2008/06/18(水) 00:54:38
わるい、いったんあげ。
「京都」「喫茶店」「銀」は考え中。
(「京都」「喫茶店」→「築地」→銀鮭→ああ強引→やり直し→戻る)
591iceage:2008/06/18(水) 00:55:23
age
592名無し物書き@推敲中?:2008/06/18(水) 12:42:32
お題 「京都」「喫茶店」「銀」

 京都にあるとある喫茶店。
そこの窓際の席で頬杖をつきながら、一人の男がさっきから手持ち無沙汰に、
銀のスプーンでコーヒーをクルクルとかき混ぜていた。
しばらくして男は、カップを口に近づけ二、三度息を吹きかけた後、コーヒーを飲んだ。
が、男はどうやら極度の猫舌らしく、コーヒーの熱さに顔をしかめた後、またスプーンでかき混ぜ始めた。
そんなに熱いのが苦手なら何故ホットコーヒーなど頼むのかと思うのだが、
それは、ある女に原因があった。
『ここの喫茶店ってね、ホットコーヒーがすんごくおいしいんだよ〜。一回飲んでみなって』
この男の彼女である女がそう言ってから一年後。
とりあえず飲んでみる事にした男だが、やっぱり合わないみたいだ。
男はそっとスプーンをソーサーの上に置くと、外を見上げた。
季節は冬、そして明後日はクリスマス・イブ。
アイツは今、何処で何をしているのだろうか……?
そんな事をふと考える男であった。

次のお題 → 「禁煙」「美少女」「扇風機」
593「禁煙」「美少女」「扇風機」 :2008/06/18(水) 18:43:53
 ある朝のことだ。通勤ラッシュの電車の中で扇風機になぶられていた一枚の広告が、
強く私の注意を惹いた。それにはこうあった。
「禁煙の強い味方! 新発売、禁煙パイプ美少女味!」
 美少女味。一体どんな味だろう。甘いのだろうか。禁煙マニアのひとりとして、これを試さずにはいられない。
その日の帰りに会社から三駅隣で途中下車した私は、駅前のマツキヨで件の品を買い求めた。
裏通りで箱を開け、早速一本試してみる。
――こ、これは!
 予想以上の本格派だった。パイプの後端がグミ様の材質でできた半球になっており、わざとだろう、
その表面は僅かにでこぼこしている。舌で転がすのに丁度いい大きさである。パイプの中からは
ほんのりと塩味のついた液が浸みだしてくる。僅かに脂っ気と苦みのある、かきたての汗の味だ。
私は思わず箱を裏返してみた。「禁煙パイプ美少女味 夕暮れの部室でB編」とある。
 素晴らしい時代だ。これをずっと咥えていれば、きっと禁煙できるに違いない。だが妻に見つかるとまずい。
私はセブンスターの箱にこの禁煙パイプを詰め替えた。家路の足取りは軽かった。
「おかえりなさい。あら、くわえ煙草? よくないわよ」玄関で妻は怪訝な顔をした。
「いや、禁煙パイプさ。今度こそ煙草をやめようと思ってね。君にも迷惑かけてしまうし」
 こういうときのポーカーフェイスには自信がある。すると妻は笑って答えた。
「あら、あなたでもそんな気遣いがあるのね。じゃあ一緒だ。実はあたしも禁煙パイプ始めたのよ」
「え? 君は煙草吸わないだろう?」
「うん。吸わないけど、禁煙パイプだけ吸おうと思って」
 そういって妻がエプロンのポケットから取り出したのは、極太葉巻サイズの禁煙パイプだった。
魚雷のような形をしていて、先端部だけが少し太くなっている。妻はそれをぱくりと咥えた。
「くちさみしひとき、こうやるっとね、だぃどころしごととか、はかどるほよ」
 微笑む妻を見て私は思い出した。薬局の「禁煙パイプ 美少女味」のとなりに、「禁煙葉巻 美少年味」が
売られていたことを。

次→「遠浅の海岸」「きゅうり」「古い自転車」
本日はお日柄も良く、掌編構成について考察したいと思われ。
まず今次のお題は、比較的発想、連想のしやすい三単語が提出されておらる。流れを汲めば、少年時代やら田舎やらの回想を、オーソドックスにまとめるのが最善であるか?
だからこそ、逆に好難易度、とも言える。意外性を付与し辛いのです。

と、いうわけで。焦点は、きゅうりに絞らる。遠浅〜と古い〜は、条件付けのある単語。これを積極的に起用すると、背景がある程度、定まってしまいまし。
もし、それらの単語を中心に配置するなら、修飾語の方をメインに据えるのがフェア? 縛りは十人十色ですが。

さて、きゅうり。連想。あー、河童。メイン河童、河童で行こう。
サブ。遠浅の海岸。これは、河童を名物にする福井の寒村に手伝って頂こう。
若狭湾ないし駿河湾沿いの。原発あるからね。なんか、河童(的生物)ぐらい育まれてそう。
装置と、舞台が決まったので、自転車に関しては一単語として踏む程度に留めとくかー。長くなると、あだ名がハゲになる恐怖!

はい。じゃ、まず主人公は海で自殺しようとします。母なる海、生命の海で入水自殺、しかも敢えて遠浅を選ぶエキセントリック。ロックな野郎だ。
やがて、彼は死線を彷徨うのです。泳ぎ疲れるまで生を掻き分け、死に挑む!
そんな彼だからこそ、目にするでしょう。河童を。川を流れすぎて、海に辿り着いた河童は、哲学的思想をミネラルのように育み、主人公を諭し、きゅうりを与えます。
きゅうり重要。これ、黄泉戸喫in黄泉路のアンチテーゼ・アイテムだから。

んで、シメで主人公を生へ帰還させる。後日、あの河童は、村興しのため遠泳に挑戦した漁師だったんだーとか、そんなオチつけても好い。多分、ここまで書こうと思うと1レス丸々必要なんだるう。というか、必要だった。





次のお題は「カラス」「新宿」「眼球」でヨロシク
595名無し物書き@推敲中?:2008/06/22(日) 01:49:21
長い。
596名無し物書き@推敲中?:2008/06/25(水) 12:27:33
ガラスのカラスの眼球が ビルの姿を歪ませる
コーヒーカップに踊る白 シャボンの玉吹く針金の輪のように
男どもは皆死んでしまった 女達は皆売られてしまった
風に混じる砂はパイプを伝って暗闇に沈み
薄弱な太陽は影の間を怯えたように渡るのみ
ああ新宿よ 血と汗と精液の街よ
お前は死んだ スーツの男がお前を殺した
欲望の穴蔵から曙光とともに白い手を伸ばして

次「山のあなた」「夜店」「白い肩」
597名無し物書き@推敲中?:2008/06/28(土) 11:44:26
5行以上15行以下厨独りぼっちwww
598名無し物書き@推敲中?:2008/06/30(月) 17:38:09
もう終わりだね
599名無し物書き@推敲中?:2008/06/30(月) 18:58:08
さよなら さよなら さよなら
600名無し物書き@推敲中?:2008/07/01(火) 00:11:22
規定の行数は守るように。守らない奴は荒らし。
601名無し物書き@推敲中?:2008/07/01(火) 22:28:56
隊長!規定の行数なるモノが見当たりません><
602山のあなた 夜店 白い肩:2008/07/01(火) 23:23:46

石段を登り終えた所で思いがけず夜店が一つ開いてあった。僕がこんばんはと挨拶をして門のよ
うに作られた狭い壁の間を入っていくと小さなせむしのような女がいた。女は小さな椅子に座っていた。
『どうぞ椅子におかけになってください』
僕も女と同じ小さな椅子に腰かけたが、夜店とはいっても何も売物はなかった。
『暑くありませんかそんな格好で』
先ほどまで僕が歩いてきた道は雪景色だったというのに、いわれてみればここはひどく暑かった。
僕が上着を脱ぐと女はわきにあった西洋風のスタンドにそれをかけ、『わたしも暑くなってきちゃっ
たわ』といって、一枚だけ身につけていたシャツをずらして白い肩を露出し足を組んだ。
『ところであなたがここにきた理由はわかっているわ。あなたは迷っているのでしょ。あら?驚いて
いるのね。そうゆうとこ可愛いわ。あなたが人生でこれまでして来た事も、これからして行こうと思
う事もすべて間違いということはごぞんじないのかしら。あら?今度は怒ってしまったのね。でも、
世の中に間違いはないと仰るのもわかるきはしますよ。そうそう、きっとあなたは考えすぎている
の。それが失敗。いいから私のいう事を黙ってきけばイイのよ!だからほら』
女は「山のあなた」という映画のチケットを僕に差し出しこういった。
『面白いかは知りませんけどね』
・・・僕は池袋の映画館をおとずれた。金曜日のオールナイトであるにもかかわらず人はまばら
だった。僕は一番後ろの席に座り映画を観ていたが、仕事の疲れもあってそのまま寝てしまった。
自分の感覚では眠っていたのは1時間くらいであろうと思われたので、起きた瞬間にはまだ映画
はやっているなと感じたのではあったが、既に人っ子ひとり館内にはいずに僕だけが座っていた。
しかも椅子は小さくて窮屈な感じがした。僕は何の気なしにのびをした。すると一番後ろの席に座
っていたにもかかわらず、誰かが後から僕の首に手をかけてきたのだった。
『動いちゃダメ、動いちゃダメ』 k

「熱風」「手帳」「バカンス」
 夜店で二匹のカラーヒヨコを購入しました。
緑とピンク。鮮やかに染まった彼らは、私の掌の内側で元気に囀っておりました。私は彼らに名づけます。緑がリーピチープ。ピンクがガブリエル・アネスト。
リーピチープは荒々しく粗暴で、ガブリエルは優しく正直でした。
 やがて一匹は精悍な成体へと成長します。
元の、鮮やかな色彩を放っていたニコ毛はすべて生え変わり、今では白い肩をいからせて歩く様が、可愛らしい鶏へと育ちきりました。
もう一匹の方は、残念ながら隣家に住む叔父さんに食べられてしまいました。ガブリエルは余りにも正直者であったため、逃げるということを知らなかったのです。
 残された、リーピチープは言います。
「彼を手厚く弔って頂きたい。その代わりに、わたしは恩返しをしましょう。つまり、わたしが奥の座敷に閉じこもっている間は、決して覗くな」
言われると覗きたくなるのが、人の性です。こっそり覗くと、予想通り、彼は自らの羽を材料にして、旗を織ってました。気づいたリーピは、深く嘆きました。
「あれほど‘見る’を禁止したのに、あなたは見てしまった。もう、ここには居られない!」
 彼は外に飛び出すと、翼を広げます。すわ、鶏のくせに飛ぶのか生意気な、となすがままに見守っていると、彼は大きく跳ね上がり、そこから、翼をグライダー代わりにして、山のあなたへと飛び去っていきました。
 そのとき私は、彼がなぜ緑であったのかを悟りました。彼は、飛蝗と鶏のハイブリッドだったのです。





お題は>>602を継続
604名無し物書き@推敲中?:2008/07/02(水) 17:25:13
長いのやめろ。とくに無理やり行数だけ合わせてるクズはもう書くな。
全角で450字以上は15行以下と認められない。
605名無し物書き@推敲中?
バカンスは人を放埓にします。
異郷の熱風に吹かれたある青年は、痛烈な性欲を覚えました。
一々売春婦を探したり、店舗やブローカーを探して居られない気分です。
どうにかやり過ごすために、彼は野外マスターベーション行為にふける決意をしました。
折角だから、一風変わったマスターベーションをしよう、と云う事で、路地裏に積み上げてあった木樽の入り口を穴に見立てて、イツモツを扱くことにしました。
左右を確認してから、慌しくジッパーを下ろし、穴にイチモツを差し込むと、なんとそこに待っていたのは、柔らかな肉の感触でした。
一瞬、不審に思いはしたものの、快楽がそれを上書きし、最早、青年は何も考えることができず、ひたすら腰を振り続け、果てました。

事を終えると、理性が帰ってきます。
彼は、木樽の積んであった石造りの建物の表に回ってみます。すると、そこは何の変哲も無いパブでした。彼は、店舗に入り、カウンターの向こう側に居る店員らしき人物に話しかけます。
「裏の樽のことなんだけど、ちょっと聞いていいかな」
店員は、彼にしたり顔で頷くと、一冊の手帳を手渡しました。中をパラパラめくると、人名らしきものが羅列してあります。
「これは?」
「あなたの名前を書いてください。順番が来たら、次はあなたに入ってもらいますから」





次は「縄張り」「遠吠え」「未成年」でヨロシク