この三語で書け! 即興文ものスレ 第十九ボックス

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。

前スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/
前々スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276/

関連スレ
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
2名無し物書き@推敲中?:05/02/19 02:48:40
過去スレ
この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
http://book.2ch.net/bun/kako/1029/10293/1029380859.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html
3名無し物書き@推敲中?:05/02/19 02:49:17
過去スレ続き
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/


テンプレは以上です。

お題は前スレ518の「雑木林」「秘密基地」「全力疾走」で。
4名無し物書き@推敲中?:05/02/19 05:05:24
感想文スレに誤爆しちゃった奴だけど、せっかくだからここに。

「雑木林」「秘密基地」「全力疾走」

 かたつむりが雑木林を全力疾走していた。
 かれはもう二日間も駆け通しだった。二日前、忍びかたるむりの彼はナメクジの里への
潜入に成功し、そこであるおそるべき計画を知ったのである。なんとナメクジたちが
マイマイカブリへの 接触を図っているというのだ。彼らにわれらがかたつむり秘密基地の
ありかを教え、そしてわれわれを皆殺しにさせてしまおうという魂胆らしい。
 はやく基地に帰ってこの知らせを伝えねばならない。忍びかたつむりには自分の遅い走りが
もどかしくてならなかった。いまにもマイマイカブリは我が基地に向かい飛び立っているかも
しれないというのに、このままではいつ辿り着くやら──

「うわ。うわあああ。ぎゃあああ」ナメクジのボスが叫んで、ナメクジ大使を呼んで言った。
「た、たたた大使、お前、マイマイカブリにちゃんと俺達の目的を伝えたのか!?」
泣きながら駆けてきた大使は言った。
「は! ちゃんと『ごちそうの場所を教えるからみんなでついてきてください』と向こうのボスに
伝えたであります! みんなニコニコしてついてきたと思ったら、いきなりこれで……!」
「ば、ばか、ばか、馬鹿者! やつら、おれたちをごちそうだと思っているんだぞ!」

 かたつむりが基地に帰りついた頃、マイマイカブリたちは邪魔な殻のない不思議な
かたつむりたちというご馳走に狂喜し、そしてナメクジの里は完全に滅び去っていた。

「ミカヅキモ」「活火山」「喜劇映画」
5名無し物書き@推敲中?:05/02/19 10:40:15
>>1-4スレ立て乙です。
「ミカヅキモ」「活火山」「喜劇映画」

チャールズ・チャップリンが生涯最後に製作したとされる幻の映画がある。
少数のスタッフのみを連れてオランダへ渡り、数日で撮り終えた短編映画らしい。
どういう経緯があったかは謎だが、この映画はチャップリン自身の手によって封印されてしまっている。
今も行方はわからないままだ。内容は知る由もないけれど「ミカヅキモの夜」というタイトルらしい。
僕はそれを聞いたとき、ミカヅキモのような色をした巨大な月と、月夜に大噴火を起こす古代の活火山の映像を連想した。
噂では日本人で唯一人、評論家水野晴夫氏だけがこの映画を観たとされている。
「原点である喜劇映画に回帰した傑作」
と大絶賛したというが、そもそもこの映画自体、今僕が即興で作ったデタラメなのでそんな事はありえない。

「税金」「ギャンブル」「どっちもどっち」
6ロイトリゲン:05/02/19 19:46:34
「税金」「ギャンブル」「どっちもどっち」

 私は今、三語即興文に取り組もうとしているが全く話が思い浮かばない。無為な時間だけをほつほつと経過させており、先ほどから
コーヒーを何杯も自分の所の女子社員に漉させている。ああこの社員達の今月の給料を支払うのも危うくしてしまった。本当に心気が
焦燥していて実際は三語即興文など.・・・・・。
 パソコンの前で再び重たいため息を吐き出した。マグカップの取っ手を掴み、引き上げながらモニターに目をやる。お題は「ギャン
ブル」「税金」「どっちもどっち」とある。おっ!うーむ、気持ちが逼迫していたために今までめくらになって気づかなかったが、初
めの二語はまさしく今日の出来事に適合するではないか。これで何とか話を書けそうだ。しかし・・・・・、このことを思い出すと気分は
厭世的になってしまう。悩んだがまあ書いて吐き出してみればこの心労も整理できるかもしれない。そんな些細な期待に胸を寄せてキ
ーボードに覆い被さった。
 
 私が物思いに沈んだ原因は今日の午後のことにある。そのとき私は敢然とパチンコ屋へと出発した。この外出には目的があった。今
年度の確定申告のための納付すべき税金が僅かに不足していたため、パチンコで稼いで補おうと立ち上がって決意したのだ。だが鼻息
荒く始めたものの出鼻でつまずき、今に取り返す、次は当たりが来るはずだと勢い持参した金を銀玉に換えていったところ、鞄の中の
札束がきれいに消失するに至った。税金のためにこしらえておいた金がすっかり底をついてしまったのだ。資金を肥沃させる計画は完
全に蹉跌し、現在私は後にも先にも立たない状況にある。

 皮肉にもパチンコ業界はこの初春の時期に毎年度高額納税している。この業界が豊穣すればするほど、人生を如実に頽廃させていく
人間は殖えているのだろう。私もその一人になる。右肩上がりを猪突猛進する企業のやることは本当に容赦がないと感じた。でもこの
遊びに傾倒していく人間も瑕疵があるんだろう。どっちもどっちなんだ。
とようやく文を書きあげ、「書き込む」の欄をクリックして投稿し、私は練炭の準備とレンタカーを手配するため席を立った。

次は「祭り」「恍惚」「キャリア」でおながいします
7名無し物書き@推敲中?:05/02/19 20:44:20
「祭り」「恍惚」「キャリア」

 この村に住む人なら、誰もが知るお祭りがある。毎年二月のこの時期は、いつもは閑散としている山村が、
その表情を一変させる。まるで、地の底から何かがせり上がって来るような――
 そして当日。はちきれそうなテンションを解き放つ日だ。
 朝早くから、男達は動き始める。村の全ての人の想いを熱い炎に換えるために、彼らは火をくべる土台を地
道に作り上げる。日没の本番に間に合わせるために。
 村人は、それより少し遅れて準備に入る。各々、昨年お世話になった品を厳選し、紙袋に詰め込む。想いを
火に換えるために。そして、日が落ちる。
 
 村の高台にある広場。そこに、巨大な場が出来ていた。積み上げられた大量の薪。それと、金色の何か。燃
えやすくするためのものだろう。
 そして、それを丸く囲む人垣。人口一千に満たないこの村の、全ての人が集まっているのではないか。そう思
わせられる、巨大な黒い影。彼らは皆、今か今かと待ち焦がれている。
 程なく、数人の祭司が現れる。彼らは皆、キャリアを積んだ信頼できる者達だ。和楽器生演奏。そして、火がく
べられる。人の想いを伝える媒体となるそれは、人の想いそのものが詰められている大量に設置された紙袋と
同化する。
 その頃にはもう、村人達は恍惚とした表情でいた。高温の火に中てられ、火照る数多の頬。
 そして――火が、猛る。


「芸人」「マーチ」「亀」 
8名無し物書き@推敲中?:05/02/19 23:30:57
皆さんよく書けますね・・・
自分も練習すれば書けるようになるかな
来年の筆記試験に備えて…
9名無し物書き@推敲中?:05/02/19 23:56:16
 基地に軍艦マーチが鳴り響き、僕の部隊の戦闘機パイロット達が戦闘機に乗り込んで行く。
 日本海に停泊している米軍空母を沈めるために。
 「偉大なる金正日将軍様のために!」
 スピーカーが声高に叫ぶ。
 ・・・くだらない。
 ただの愚か者だろうが。自分のくだらない見得のために、勝てもしない戦争をする。
 僕の部隊には彼を崇拝している人間など一人もいないのに。他の実戦部隊だって同じようなものだろう。
 崇拝しているのはバカの寄せ集めの軍上層部だけだ。
 僕は胸についているピンバッチを毟り取った。将軍への忠誠の証とかいう、ゴミみたいなものだ。
 地面に投げつけ、戦闘機に乗る。
 乗るのは時代遅れのミグだ。
 沈めに行く米軍空母から続々離艦するF15と戦っても、兎と亀の機動力の差がある。
 航空管制からの指示が飛び、滑走路へと入る。途中、仲間が捨てたであろうピンバッチが幾つか見えた。
 背中にGがかかり、飛び立つ。
 空で合流し編隊の末席へ加わった。
 『―我が隊の諸君、聞こえるか?』
 隊長の声がヘルメットから聞こえる。
 『―我々は芸人だ。バカな将軍を喜ばせる、な。我々が踊っている内に反乱軍は蜂起する。
 だが、残念なことにxx航空基地の占領は間に合わないそうだ。我々はこのまま日本海へと針路を取る。
 せいぜい、一時の夢を見せてやれ。以上だ』
 プツンッと音がなり、通信は終った。やはり、間に合わなかったか。と思う。
 残念だとは思わない。覚悟はしていたし、これこそ、将軍のために死ぬよりずっと名誉ある死だと思うから。

 ↓「ライフル」「雪原」「ブッシュ」
10「ライフル」「雪原」「ブッシュ」:05/02/21 00:14:22
「世の中は悪意で満ちている!」
「……なんだよいきなり」
さっきまでパソコンの画面を忌々しげに睨みつけていたかと思うと、友人は
急に立ち上がり意味がわからん事を叫び始めた。俺はまたいつものことか、と
嘆息しながらも、相手をしてやることにする。
「悪意というものは確かに存在するのだよ明智君。光秀君」
「武将の方かよ!いや、そりゃあ悪い人はあちこちにいるけども」
「違う。僕が言っているのは、地球上の全人類、各個人の内に存在する悪意だ。
 例えば、君がある日突然高性能ライフルを拾ったとする。君は小心だから
 殺人に使用することはないだろうが、それでも目の前にスイカ割りを
 楽しんでいる人々が現れれば、スイカに棒が振り下ろされるその寸前に、
 君はスイカに弾を撃ち込むはずだ。そして君はほくそ笑む」
「いや、そんなことはしないけど」
「黙れ小僧!なら、これではどうだ。君は一分で組み立てられる高性能テントを
 持ち、雪原にいる。横では三時間かけてかまくらを作った人達が、疲れて
 へとへとになっている。その時、君は悠々とテントを立て、中に入り優雅に
 アフタヌーン・ティーと洒落込むだろうよ。それが悪意だ」
「いや、俺はかまくらの方が羨ましい」
「わからない奴だ!ならばこれを見給え!」
奴はパソコンの画面を指差す。ブラウザには2chが表示され、アドレスバーには
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1108748874/9 とある。
「このスレはお題を出し、次の人がそれを使って文章を書いていくという趣旨の
 もので、そのお題に固有名詞は禁止されている。しかしこいつは、敢えて
 『ブッシュ』という単語を題に出した。そして誰かにそれを非難されると、
 これは『やぶ、茂み』という意味のブッシュですが何か?と嘲笑する算段なのだ。
 これが悪意でなくて何だ?君はこれでも悪意が存在しないというのか!」
そう言って奴は俺を睨んだ。その目は、醜く歪んでいた。
「いや」
俺は首を振って、優しく答えてやる。
「悪意が存在するということだけは、よく判った」
11名無し物書き@推敲中?:05/02/21 00:15:30
すいません。次は「マイナス」「要」「天地」で。
「私、もうダメかもしんない」
人生で何度このフレーズを口にしてきただろうか。テーブルに顔を突っ伏す。
「大丈夫だって、なんとかフォローはできたんだろ?」
今日も今日とて彼を家に呼び込み酒を飲んで愚痴っている。
「うー……これからしばらく嫌味の嵐だろうなぁ……」
顔をごろん、と横に転がす。私はマイナス思考だ。嫌なんだけれども直そうと思ってもそう簡単にはいかない。
「あんたはいーわねぇ、お気楽思考で」
「人生まだまだ長いんだ。構えすぎってっと途中でバテちまうよ?」
心底、彼が羨ましいと思う。
確かに私たちは二十数年しか生きてきてないしまだまだ先は長い。これからも苦痛に晒されながら生きていくのだ。
「はぁ……」
そんなことを自然に考えてしまう溜息が出る。根っからのマイナス思考らしい。
「あめ、つち、ほし、そら」
唐突に彼は話し始めた。私は再びごろん、と顔を転がし彼を見る。彼は眼を瞑り、軽く上を向いていた。
「やま、かわ、みね、たに、くも、きり、むろ、こけ、
 ひと、いぬ、うへ、すゑ、ゆわ、さる、おふせよ、
 えのえを、なれゐて」
「なにそれ?」
「天地の詞っていってな、別にこれ自体はただの言葉遊びだ。四八音の仮名を重複させず、全部使ってるんだ」
私は少し考えるがその真意を掴めない。
「で?」
「人間も同じ様なもんだ。一人一人違う。重複することはない。けど、こんな風に違うからこそ楽しめることもあるんじゃないか?
 ま、要はあんま肩張りすぎんなってこった」
肩、か……
「ねぇ」
「何だ?」
「オッサン臭い」
「うるせぇ」
「……ありがと」
もう少し頑張れそうな気がした。

次「野望」「スケジュール」「泡盛」
13「野望」「スケジュール」「泡盛」:05/02/21 14:58:43
 今にして思えば、彼は本気だったのだ。
 北海道の漁村で生まれ育った彼は幼少の頃から小型漁船『北栄丸』
に乗り込み、漁師である父親の手伝いをして周囲を感心させていた。
小学校に上がるころには操舵輪も握れるようになっていて、「俺は
海賊になって北海道の海を征服するのが野望なんだ!」と口癖のよ
うに言っていた。私に向かって「お前も一緒に海賊になってお宝を
探しにいこうな」と付け足すのを忘れなかったことも鮮明に覚えて
いる。二人で北の海を荒らす海賊になるのを想像するのが楽しかっ
た。
だが、子供心の志しも半ばにして彼は行ってしまった。5年生に進
級した際、息子の中学受験をめぐって両親が離婚したのだ。彼は東
京にある母親の実家にひきとられ、そのまま有名私立中学に進んだ。
それから大学を卒業するまで、彼と会うことはなかった。母親同士
も幼馴染みで仲がよかったため連絡はとることができてもスケジュー
ルは合わず、手紙の中で小さい頃の思い出話を繰り返すだけであった。
 あるとき、彼から受け取った小包に、泡盛の瓶が入っていた。添え
られていたポストカードは沖縄の海の写真になっていて、内容は沖縄
の大学に入学したこと、ボランティアとして沖縄の海をきれいにする
運動に携わっていることなどが書かれていた。その頃の私は北海道の
海洋研究所でアルバイトをしていて、いずれは専門学校を経て研究員
になろうと考えていた。
 カードの最後にはこう書かれていた。
「俺は沖縄の海を、お前は北海道の海を担当してふたりで日本の海を
征服しようぜ」
 私と彼の関係は恋人ではなかったが単なる幼馴染みでもない。同じ
夢という船の上で結ばれた仲間、海賊だったのだ。

次のお題は「シャボン玉」「誠意」「エレキギター」

 
14sasataku ◆LLVegDyAFo :05/02/21 16:09:00
「シャボン玉」「誠意」「エレキギター」

僕が目指した人生はこんなものではなかったはずだ。
何の保証もない予定の人生だったが、当時小学生だったオレならば、中学でバンドを組みエレキギターを弾きならす男に、
高校ではその才が認められてデビュー。高校生バンド「サン&レイン」結成。
高校卒業とともに東京進出、既にビジュアルバンドの流行が終わる中、オレのバンドは成功を収める。
そしてバンドが崩れそうになったときも、オレのお得意のおべっかと誠意じみた土下座を織り交ぜて
プロデューサーに謝罪。なんとかバンドは復活。

そんな夢物語。それも消えてしまうのだろうか。
こんな夢は、結局夢で終わってしまうのだろうか。空を見上げる僕の目の前に一人の少女が現れた。
「おじちゃんも、やる?」
少女の右手にはストローと左手に石鹸の匂いのする水が入った器があった。
少女がやっているシャボン玉はプカプカと生まれては消え、また生まれていった。
「おじょうちゃん、ちょっと貸してみてくれないかい?」
そういうと、いいよ、といって両手のものを差し出してきた。
僕はただ無心になってシャボン玉を膨らませた。そして、たくさん空に放った。
十個ぐらい放ったシャボン玉がひとつ、またひとつと消えていく中、
一向に割れずに空高く飛んでいくシャボン玉があるのを僕の脳が認識した後、
まだ生きている夢があることを、夢をあきらめないことを思い出した。


次は「剣道」「まさかり」「雪だるま」でお願いします
15名無し物書き@推敲中?:05/02/21 17:51:02
 またドカ雪が降った。いい加減雪掻きも億劫になったので、子供達に雪だるまでも作らせて、
家の前をすっきりさせてしまおう。そう思い立ち、ウチのガキンチョ二人の背中を押した。
 結婚して、仕事をやめて。すっかり体を動かすこともなくなった。そのうえ、雪掻きって見た目
以上につらいのだ。雪国に嫁いできて、一番驚いたことかもしれない。雪は溶ければ水になるだ
けのものなのに、どうしてあんなに重いのだろう。そう、何度も思ったものだ。
 二人は、楽しそうにはしゃいで雪を丸めている。今日は深く積もったから、泥で汚れていない綺
麗な雪だるまが出来るだろう。しかし、子供は元気だ。命の塊だ。こんなに無邪気に動き回れる
時期って、人生において今だけだよなあ、と私は白い吐息を両手に吐きながら見ていた。
 暫らくして、向こうの方から無軌道な大声が聞こえてくる。まあ、いつものことだ。ほぼ毎日、こ
のくらいの時間になると聞こえてくる。時報みたいなモノ。
 彼は、この辺に住む少々頭の具合のよくない子だ。彼はとにかく走っている。歩いている姿を見
たことがない。そのせいか、人と比べて異様な体力があるらしく、剣道では全国まで行ったらしい。
確かに、彼からは計り知れない生命力が感じられる。最近では、中学生くらいだと早くも人生に疲
れているような子がいたりするが、彼には、死ぬまでそんな心配無さそうだ。
 大分近付いてきた。私は子供達を近くに避難させる。彼はどこの畑で拾ったのか、まさかりを携
えていたのだ。ああああ叫びながら、上下左右に振り回している。
 元気に育っては欲しいけど……私は、ちょっと二人が心配になった。だって、彼を見つめる二人の
目が、なんだか輝いているのだもの。

「火災」「夕方」「メッシュ」
16「火災」「夕方」「メッシュ」 :05/02/21 20:01:59
 火災がどこかわからないけれど、起きているらしく、道ばたの雪だるまが、
夕方のときの雲のように、燃えたような色をしている! ――本当にそうでしょうか
そうなのでしょうか――おれももちろん見ていた。だから本当なはずで、近くにいた
女のメッシュキャップがやたらとギラギラとしていたのも、見ているかのように
思い出される。
 彼女はこの辺に住む、頭のいい女だった! 彼女はとにかく走ることも考えずに
――森の中を悠々と散歩している熊のように、ゆっくり歩いていた。
 そんな彼女を誰が疑いますか? 疑えますか? そういう街の空気に包まれていた
にもかかわらず、彼女は警察に出頭した。本当に彼女がやったのだろうか!
そんなはずはないだろう! 勢いづいたおれはただ、雪だるまが溶けてできた
水たまりに映る、青い空を見ていた!

「カラオケ」「店員」「ヤクザ」
17名無し物書き@推敲中?:05/02/21 23:49:46
「カラオケ」「店員」「ヤクザ」

自動ドアが開いて、男が入ってきた。
「いらっしゃ…」笑顔で言いかけて、店員は固まってしまった。
男は上半身ハダカで、右手に抜き身の日本刀を握っている。
「サカモト様のお座敷はどこですか?」男が聞いた。
「え?」
「サカモト商事のお座敷です。さきほど電話をいただいたのです。皆さんこちらへ来ていらっしゃるハズですが」
そのとき奥の部屋のから声がした。「おーい!こっち、こっち」
数時間前から来ているヤクザの団体の若い衆が廊下に顔を出して呼んでいる。
「あ、どうも〜。この度はありがとうございます」そう言いながら男は歩いていった。
店員はこの後の展開を想像して憂鬱になった。
15分ほどして男が部屋から出てきた。返り血を全身に浴びて、手にした刀からも血が滴り落ちている。
「ご苦労さまでした」男の後に続いて出てきたヤクザの若い衆がそう言って、白封筒を手渡した。
「また何かありましたらお願いします〜」帰って行く男を若いヤクザが笑顔で見送っている。
しばらくして、ヤクザの団体は引き上げていった。来たときよりも人数が一人減っている。一番態度のデカかった人みたいだ。
店員はため息をついて、後片付けのために立ち上がった。部屋に何があるのかは分かり切っていた。
まったくカラオケボックスをなんだと思っているんだまったく…。掃除するこっちの身にもなってくれよ。

次「ニュース」「噂」「みもふたもない」でお願いします。
18名無し物書き@推敲中?:05/02/22 01:25:26
こっちで出来てしまったので書かせてください。
「カラオケ」「店員」「ヤクザ」

「俺はヤクザになる」
3年前そう言って上京したタモツ君は、
夢破れて田舎に帰ってきた。
今はカラオケ店の店員をしている。
「俺が○○組にいた頃は……」
が口ぐせで、時々意味もなく凄んで見せる。
かわいそうだから誰か恐がってやれよ…

お題は継続でお願いします。
『どうも、ニュースの時間です。昨日午後三時、国軍将校の乗った自家用車が爆破された
という噂が流れていますが、うそです。次のニュースです。本日未明、南部潜伏中の
レジスタンス「豪勇護国軍」の一大検挙が住民の告発によるものとの報道がでっちあげ
であるという噂が流れていますが、うそです』
 父親の拾ってきた壊れかけのテレビを、十歳になる彼はぽかんとして見上げていた。
「ねえとうちゃん。これニュースなのに嘘しか言ってないよ」
「ん? 違う違う、本当は嘘じゃないんだ。お前にわかるかな。言っちゃいけいないことを
言う為に、最後に噂でしかも嘘だ、って言い足してるんだ。この人はね、命懸けで皆が
知りたがっていることを教えてくれてるんだよ」
 少年は改めてテレビ画面を見た。確かに、ノイズの向こうにいる人物には生まれてから
初めて見る、死を克服した男の凛々しさというものが漂っていた。これはただ事ではない。
『――また、わが国の軍隊が年々弱体化しているという噂もうそです。また――くそっ、
この国は!! この国は俺たちで』
 バンッ、というみもふたもない音を境に、画面がノイズに覆われた。少年の網膜には
まだ、最後の最後、椅子から立ち上がった男が“画面のこちら側”に向かって見せた
散り行く火花のような、激しい輝きが、残像になって迫りつづけていた。

次は『金』『びっくり』『玉』でお願いします。
20gr ◆iicafiaxus :05/02/22 02:06:13
「あー、あの友情チョコねー。そうでしょう、あれ自信作なんだよ」

「友情……あのさ、お前俺に本命チョコをくれようとかって思うことは無いわけ」
「なんで? 彼氏以外に本命チョコあげる時って、コクハクする時だけだよ?」
「うん。そしたら俺、めっちゃ受け入れるし」

あきれたように笑う朋子。帰り道の住宅街に、笑い声が消えていく。
「なにそれ、そんなら、そっちからあたしにコクハクすればいいんじゃん」

何故か顔の皮膚が上気してくる俺。つられたように作り笑いをして、ごまかす。
「やだよ、俺そんな恥ずかしいこと」「――うわ、だからって人にさせようと
するんだ。サイテー」……的確な指摘。「ほんとだ……俺ってサイテーだなあ」

少し真顔になって朋子は続ける。「っていうかさ、あたしたち毎日一緒に帰ってるし、
時々デートもするし、毎月一万くらい電話もしてるし、面白いニュースとかあれば
いちいちメールしたりしてるし、もうほとんど付き合ってるのと変わんなくない?」

否定はしない。「まあ、そうだけど、でも他にも色々あるじゃん。精神的なものを
含めて、親しい友達っていう繋がりと、それ以上の繋がりとでは、違う何かがさ」

真顔のまま眉をちょっとだけひそめて苦笑する朋子。「繋がりって、なにそれ、
要するに、AとかBとかCとかのことでしょう?」「――そう言われちゃったら、みも
ふたもないんだけど、まあそういうのも含めて」「含めてっていうか、やっぱ絶対
それが最重要になるよね。まあ、噂好きの間ではあたしたち、Cとかもう余裕で
行ってることになってんだけど」――初耳。「うわ、まじで。それ初めて聞いた」

そしてちょうど、いつもの分かれ道のところまで来た。「……じゃあ、また明日な」
「あーうん、それでさ。先週のやつ、もうあれ本命だったっていうことでいいよ」
「投げやりだなあ。いいのかよ、そんなんで」「――返事は?」見詰められる。
「どうしよう」「――張り倒すよ」「ゴメンナサイ。喜んでお受けします」朋子と少し
顔を見合わせて、それから二人同時に目をそらす。「パイパイのキッス… には、
まだ早いよね。じゃあ、また明日」……手を振りながら帰っていく、俺のカノジョ。
21gr ◆iicafiaxus :05/02/22 02:07:28
長いとか以前に普通に遅かった。
お題は上ので。
22名無し物書き@推敲中?:05/02/22 22:41:48
「金」「びっくり」「玉」

世の中にはびっくりするような出来事がたくさんある。
今日テレビを観ていたら、次回のオリンピックで「玉乗り」が正式種目になるという。
男子100メートル玉乗り金メダリスト……あまりカッコ良くない。

あまりといえば、あまりな作品だ… ショボン
お題はそのままどうぞ。
23名無し物書き@推敲中?:05/02/22 23:52:49
「金」「びっくり」「玉」

あまりの上玉にびっくりして腰を抜かした金ジョンの玉を金華はおもむろに
手に取ると優しくしごいてこう言った。「好きよ」。
金ジョンはそれを聞くと刹那に竿をおっ立て「うっ」という声と共に
白い液体を金華の顔に放った。
今度は金華がびっくりして白い脚を跳ね上げ、ひっくり返るのを見て
金ジョンはようやく寛ぎを取り戻したかのように黄色い歯を見せて笑った。
それを見て金華も照れくさそうに微笑んだ。
こうして二人の金の夜は更けていく。

あまりといえば、あまりな作品だ… ショボン
お題はそのままどうぞ。

24名無し物書き@推敲中?:05/02/23 00:42:29
「金」「びっくり」「玉」

「オヤジ!金かしてくれ!」
息子が外から帰って来るなり言った。
しぶしぶ、という感じで父親は財布を取り出し、
「無駄遣いするなよ」と言って幾ばくかの現金を渡した。
「なんだよコレ!100円玉じゃねーか!」
「聞け、息子よ。ウチは今、大変な状態だ。これが精一杯……」
「びっくりするわ!」
そう言って、息子は駆け出していった。
正男はまたディズニーランドへでも行くのだろうか。
後継者問題は頭が痛い。

あまりといえば、あまりな作品だ… ショボン
お題はそのままどうぞ。
25名無し物書き@推敲中?:05/02/23 10:48:37
 俺は廃屋の裏手の茂みに隠れていた。
 人を殺してしまったのだ。
 気づいたら、俺は公園のトイレで寝そべっていて、知らない男が俺にのしかかるような形で倒れていた。
 その腹部には包丁が深深と、刺さっていた。
 2月の終わりといえど外はまだ寒い。
 とりあえず家に帰って落ち着こうと思ったものの、家には警察官が張り付いていた。
 気づいたときと同じロングTシャツにYシャツにコート、下はデニムのズボンだ。
 ああ、寒い…。
 これからどうするか考えようにも、身を切る寒さが先立って考えが纏まらない。
 ここで寝たら死ぬのかな、雪山みたく。そんな思考がよぎった。
 ふと目線を上げると、そこには青白い火の玉が、茂みの上に浮いていた。
 ―おいおい、なんだコレ。
 ガサガサと茂みが音を立て、茂みの中から腕が伸びて、足を掴んだ。
 「うぼぁ〜」
 妙な声をあげてこちらを見上げるのは、蒼白な顔をした、俺が殺した男だった。
 悲鳴をあげることもできず、俺はすくんでしまった。

 パンッと銃を撃つような音が聞こえ、こちらにライトが照らされる。
 上空から金色の紙辺がぱらぱらと落ちてくる。
 上を見上げると、真っ赤なくす球が、真中を真っ二つに開いてぶらさがっていた。
 「びっく(ry」

マンドクセ('A`)
 ↓「本」「ブラックジャック」「車」
あばらが丸見えだった。ブラックジャックは脂汗をかいていた。助手がそれを拭く。
車が外を走っているのが聞こえる。本をぱらぱらと捲る音も聞こえる。
手術は失敗に終わった。

「段ボール」「浴びる」「ホリコマンダー」
 僕は今話題の“引篭り”16歳。
 小学校の頃はクラスの人気者だった僕だけど、中学に入ってからは…地獄だった。
 中学の入学式が終わってクラスへと向かう途中、僕は友達とふざけて追いかけっこをしていた。
 階段を駆け上り廊下を曲がった瞬間、僕は勢い良く人にぶつかり転んだ。
「イってぇ……あの、すいません」
 背中と頭がズキズキする。
 痛みに顔を歪めながらも、ぶつかってしまった人へ歩み寄り手を差し出した。
「…お前、一年か?名前なんてぇんだ?」
 彼は上級生で、見た目は明らかに関わりたくない人ランキングで
トップに入る感じだった。
 そして、僕の学園生活は地獄になったんだ……
 クラスに入れば僕の机は無く、みかんの段ボールが一箱だけ置かれている。
 小学校から一緒だった皆も、僕を無視して近づこうとしない。
 トイレに行けば後ろから押され、便器に頭を突っ込まされオシッコを浴びせられた。
 学校の行き帰りには蹴られ殴られ、常に家の周りを暴走族が走り回っている。
 中学に入って一ヵ月半程で、僕は家から出れなくなった……

 現在では、MMORPG「ホリコマンダー」内でギルドマスターをやっている。
 皆が僕を慕って集まってくる。
 この中の世界が僕の本当の居場所なんだ…だって本当の僕は勇者なんだもん。
2827:05/02/23 14:19:05
すまん、お題を書き忘れてたorz

お題「狸」「香水」「手紙」
29「狸」「香水」「手紙」 :05/02/23 17:52:28
机の引き出しから、手紙の束が出て来た。
差出し人は、全部同じ。
思わずそれの一つを開く。懐かしい字で、丁寧に言葉が綴られている。
──高校で、幼稚園の保父さんになると決めた君。
周りの反対を押し切って、結局自分で幼稚園を建てた君。
「クスッ……」
手紙の中のある一文は、いつ読んでも笑ってしまう。
『参ったな、「お前は狸を相手にする気か!」だってさ』
声に出すと、更に笑いが込み上げる。
確かに、当時は林だった場所に幼稚園は無謀だったろう。
でも彼は諦めなかった。
『自然と一緒に学ぶのだから、狸だって大歓迎だよ』
と、そう笑って反論したそうな。
今はもう、この地は色々と開発されて、人がそれなりに居る。
きっと君の幼稚園もたくさん子どもが居るのだろうね。


次は「水性」「水星」「彗星」でお願いします。

かたん、とポストから小さな音が響いた。
「あら、……お久し振りね」
きっと手紙の主はあの人だろう。また、彼との文通が続くのかしら?
フフ…返事を書かなくてはね。

書き出しは『今後もよろしく』
「田舎の香水」とおどけた道を、今度は私の子どもが歩く番。
30名無し物書き@推敲中?:05/02/23 19:39:56
昼寝してから気付く失態orz
>次は「水性」「水星」「彗星」でお願いします。
の一文を一番最後に脳内変換しといて下さい。お願いします。
31名無し物書き@推敲中?:05/02/23 22:28:59
「すいせい・すーせい・すーせー」
「すいせー・しゅいせー・しゅーせー」

だめだよ、何度も試したが俺にはできない。
この早口言葉……「水性」「水星」「彗星」


短すぎるので次も同じお題で。
32名無し物書き@推敲中?:05/02/23 23:57:33
「水性」「水星」「彗星」

「明日世界が終わるとしても、もしも彗星が落っこちてくるとしても、必ず君を守って見せる!」
飲み慣れないシャンパンに酔って、僕は力強く言った。
ふたりが出会って3年目の記念日。
たまにはちょっと気取ってみようかと、ホテルの最上階のバーへなど来ている。
窓の外は最上級の星空に、金色の月が浮かんでいた。
僕がなにか言うたびに、彼女は、はにかんでクスクス笑っている。
「月にはウサギが住むというけれど、水星にはシャンパンの流れる川があるんだ」
僕はシャンパン・グラスを掲げながら言った。グラスの中では金色の泡がせつなく輝いている。
「今、何でも思い通りになるとしたら、君を連れて水星に行って、シャンパンの川へ飛び込みたい」
彼女は俯いて、コースターの裏に水性ペンで四角や三角や丸をいたずらに書き続けている。
「そして、シャンパンの川へ飛び込みながら、君にプロポーズするんだ。結婚しよう!って」
彼女は小さく「バカ……」と言った。

次「口コミ」「行列」「三連休」
33名無し物書き@推敲中?:05/02/24 12:39:53
口コミで話題になっているらしい近所の店は今日も大行列で通行の邪魔だ。
そんなに良い店だとは思わないし、どの知り合いも「あそこはダメだ」と言う。
そもそも、そんな口コミを耳にした事もない。何であんなマズい店が評判になる?
90分待ち? かわいそうに。

毎日それをかわしていると、色々と考えも浮かぶ。
口コミの元はどこなのだろう。あの行列の一見さんと常連の比率はどの程度なのか?
いつしかその構成員を見るのが日課になりつつあった。

今日も列の前から3割辺りにスキンヘッドのおっさんがいる。
上下赤のジャージで、それに金のネックレスはミスマッチだろう。
その前にはお水風の若い女性、後にはでっぷりと太ったおばさん。いつもと変わらない……変わらない?

その前後、さらにその前後と拡大していっても変わらない。いつもと同じだ。今日も。今日?

部屋に戻り、カレンダーを見る。なんてこった。明日から──また──三連休だ。


次「人肉」「憐憫」「高層ビル」
34名無し物書き@推敲中?:05/02/24 19:19:24
「人肉って、どんな味なのかな?」
 友人が突然、そんなことを言い出した。
「お前、人肉なんて食う気になるか?」
「アフリカの奥地には人食い族ってのもいるそうだぞ」
「はは、ここはアフリカじゃねぇよ。高層ビルが立ち並ぶ東京なんだぜ」
「じゃあオマエはどうなんだよ? 知りたくないのか?」
 そう言われると、俺の好奇心が疼いた。
 昔はどうでもいい事ばかり考えていて、よく母や教師に怒られたものだ。
「それなら試してみるか。お前の身体で」
 冗談めかしてそういうと、彼は何かひらめいたような顔をした。
 そして机の上のカッターナイフを握ると、いきなり席を立った。
「どこに行くんだ?」
 俺がそう口にすると同時に、彼が極端な性格であることを思い出した。
「僕じゃなくて、他の人で試してみるんだ」
 そう言って彼は部屋を出て行った。憐憫すら浮かばないのだろう。彼の背中は、どこか楽しげに見えた。


次は「鉛筆」「印鑑」「キュウリ」で。
35名無し物書き@推敲中?:05/02/24 20:20:42
「鉛筆」「印鑑」「キュウリ」

「生ビールお待ち!」
居酒屋タカハシの大将は、威勢良くビールジョッキをカウンターに置いた。
「最近景気いいらしいっすね〜」

オレの勤務先は、世間では一流で通っている。
今朝の日経新聞にも「今期利益40億円」などという記事が出ていた。
でもね。
ハタで見てるのと中で働くのじゃ大違いなんだな。
友人や親戚なんかは皆、良いところにお勤めですね〜なんて言うけれど
今時鉛筆一本買うのに部長の印鑑が要るんだぜ。ありえないでしょ?
給料なんて、首吊り防止のおまじないみたいなもんでさ。やっていけませんてーの。

「何、大将!蛸とキュウリの酢の物480円もするの?ぼろ儲けだな〜」


次「ドクター」「大発見」「大嘘つき」でどうでしょう?
「あなたって大嘘つきね」
家に帰って事のいきさつを話した僕に、妻が言った言葉だった。
「時には嘘が人を救うこともあるんだ。結果、その女性は快復に向かっている」

僕の勤めている病院にガンと診断された女性がいた。
それまで、周りの人とある程度会話をしていたのに、病名を聞いてから、ほとんど自分から何も話さなくなった。
だから、僕はその女性に言った。
「ガンの特効薬が開発されたんだ!」と。
そして特効薬と偽ってただのビタミン剤を渡した。それから彼女は元気を取り戻した。

「結局、生きようとする力はどんな薬よりも効くって事が分かったんだ。どうだ?大発見だろ」
僕はそう妻に聞かせた。
「あなたは大嘘つきだわ。けど、あなた程素敵なドクターは他にいないと思う」
妻に言われたその言葉は、医者をやってる僕にとって最大の『生きようとする力』になるんだと思った。

ガンだった女性は結局死んでしまった。
あのビタミン剤は特効薬じゃないって実は気づいていたのかもしれない。
ただ、僕があのビタミン剤を渡した事で、元々身寄りの無かった彼女は「私に元気になってほしいと思ってくれる人物がいる」と考えたのかもしれない。
彼女は僕に一枚の紙切れを残した。
『あなたは最高のドクターよ』

これからも一人でも多くの人を助けたい、と思う。


次は「精神崩壊」「歌声」「春」で
37名無し物書き@推敲中?:05/02/26 00:03:39
 「 country-load takeme home
to the-prace how be long ―♪」
 病院に歌声が響く
 「 west virginia ―♪」
 皆が耳を澄ます美しい歌声
 「 county ma-ma ―
    take-me home country load ――」
 暖かな春の兆しに負けない声量。
 精神崩壊を起こした患者のものとは思えない。いや、だからこそか。
 他の精神病患者も、その歌声に一時騒ぎを止める。
 母親と父親を一辺に無くした少女の歌声。
 それは山裾の片隅に立った、険しい現実に負けた人間の病院を柔らかに包んでいた。

 「トカイワイン」「カフェ」「ハンガリー」 
38ぬこ2046:05/02/26 21:27:36
【トカイワイン】【カフェ】【ハンガリー】
甘く、口当たりがとてもよい。上質なワインだった。
「トカイワインか」
私がつぶやくと、Tは深くうなずいた。
親友のTが、どういうつもりで妻の命日のこの日にトカイワインを出したのか、私は計りかねている。
妻とは、旅行先で訪れたハンガリーのトカイの街の小さなカフェで出会った。
葡萄畑とトカイ山で有名なトカイの街の風景を、妻は田舎くさくて嫌だと言っていた。日本の東京に言ってみたい、としきりに言っていた。
私が日本に帰った後も連絡は続き、やがて私たちは結婚し、東京に暮らすことになった。
しかし妻は、東京に住んで数年経つと沈みがちになり、故郷のトカイを懐かしむようになってきた。
街に染み付いた、葡萄畑の甘酸っぱい薫りが懐かしいと口にしていた。
今日は、妻が自ら命を断ってちょうど2年目の日である。
一周忌には、何もする気がおこらず、ただぼんやりと過ごしていた。しかし、今年は事情を聞いたTが、二人だけでもいいから、妻の弔いをしようと提案したのだ。
Tのグラスにも、真っ赤なトカイワインが注がれている。その液面に赤くTの顔が映し出されているが、表情を読み取ることはできない。
東京で、妻に何があったのかは、わからない。
ただ、私とTは、このトカイワインをそれぞれの強い思いとともに、のみこむのだろうと思う。
Tがゆっくりとグラスを持ち上げ、私のグラスに当てた。
その音は、まるで何かの合図のように、静かに響いた。

「水素」「立体」「構造」
39名無し物書き@推敲中?:05/02/27 02:10:56
いま、しゃべっていいんですね。
3日前、初老の男性を見たんです。
朝の6時半頃だったと思います。仕事が早番の日なので間違いありません。
仕事場までは急行で一駅なので、その日も扉の傍に立って外をぼおっと眺めてたんですよ。
そしたら錦瓦公園駅を通過したすぐ後に、ヤナギバ水素という水色の看板が掛かった立体駐車場が見えてくるんですけど、
その手前に初老の男性が立ってたんです。
眼鏡はかけてなかったです。紺色の長めのコートと黒っぽいスラックスだったと思います。一瞬でしたけど間違いありません。
良く見せてください。ああやっぱりそうです。テレビに映ってる顔と同じ雰囲気です。スラックスは黒かったし初老の男性でした。
コートの色も、もしかするとブラウンだったのかも知れませんし。
とても辛そうな横顔されてましたよ。ずっと隠れ続けて心身ともに疲れているようでした。
早く見つかってほしいです。きっとあれは構造さんに間違いありません。
役に立ちそうですか。
あの、ちづるさんとしゃべらなくてもいいんですか。
40名無し物書き@推敲中?:05/02/27 02:13:16
<お題 「生活」 「デパート」 「モンキー」>
41名無し物書き@推敲中?:05/02/27 03:09:34
確実に男が近くにいた。あの筋肉質の大男。
今思えば朝、駅ですれ違った時のイヤな雰囲気で気付くべきだった。
停電したデパートの中で、ほとんどの客は消え去っていた。
理由は2つだ。…モンキーとか言う少女に出会えたか、筋肉男に殺されたか。
荒い男の息が、私の五感に働きかける。非常に危険だと。

このゲームの主旨なんて知ったこっちゃない。ただ巻き込まれただけだ。
四時間前、私たち「お客様」は、この大きいデパートに閉じ込められてしまった。
そして放送が流れたのだ。高い少女の声。
「私を見つけたら出してあげる。出会えたら、ちゃんとモンキーって呼んでね。バイバイ。」
私にだって生活がある。まだ花も恥じらう17歳の乙女。
何がモンキーよ。おふざけもいい加減にして!!!

ついさっきまで、私は常識的な考えの持ち主だった。
朝の駅ですれ違った、あの男が…目の前で…人を。三十路過ぎのOLを。
殴り殺すまでは。
既に男は、半径5メートル以内に入ろうとしている。逃げ道など無い。
気付かれているなら、私は。

お題「狐」「春」「幽霊」
42名無し物書き@推敲中?:05/02/27 03:38:10
四回目の春が来た。長かったような気もするし、あっという間だったような気もする。
とにかくわたしは今でもあなたのことを忘れたわけではないし
朝、目が覚めた時にあなたのいない世界に絶望して泣くことだってある。
四年前までは、あなたが突然いなくなってしまうなんて考えてもみなかった。
狐につままれたみたい。これが夢ならどんなにいいだろうと考えてばかりいた。
それでも毎日は続いてしまう。あなたのいない現実はゆるやかに流れていく。止まらない。
そのことにわたしは最初ひどくとまどった。けれども。
今日もわたしは朝、目を覚まし仕事に出かける。瑣末な出来事に笑ったり怒ったりする。
ふと気づく。わたしがあなたのことを考えない瞬間が増えていることに。
わたしはあなたのことをきっと少しずつ忘れていくだろう。そうやって、生きていくのだろう。
そういえばまったく、夢にすらあなたは出てきてくれないよね。
幽霊でもいいからあなたに会えたらいいのに、と思う。
川沿いの桜は今年も満開で、あの道をまたあなたと一緒に歩きたかったなと思う。
何度も何度も、春が来るたびに、あなたと一緒に歩きたかった。

お題「魚肉ソーセージ」「コンビニ」「携帯電話」
「よぉデューク。今日は珍しく早起きだな」
 COMのコンソールから聞こえてくる陽気な声は、相変わらずつまらないジョークに余念がない。俺は貴重な安眠を妨げてくれた糞忌々しい旧式の軍用携帯電話をベッドに放り投げると、COMに向き直った。
「パック、大体の状況はさっきジェネラルから聞いた。連中のMiGが上がったそうだな」
「北からの骨董品どもは自衛隊のゲイシャがおもてなし中だ。おまえさんの恋人はこっちのチャイニーズ」
 今度は中国か。といっても、どうせコックピットは空っぽだろうが。そうでなきゃ、俺が叩き起こされる理由がない。なおもパックは喋っている。
「"千里眼"のとらえた機影がこいつだ。なかなかの美女だぜ。小鳩に紛れて、でかいのが3、4羽ってとこか」
 言うが早いか画像が転送されてくる。さすがに画像は荒く、型式までは判別できない。
「やっこさん、出来損ないの魚肉ソーセージの雨をトーキョーに降らすつもりらしい。今日のサムライはカタナより傘がいるな」
 パックの下手なジョークはともかく、今度は爆撃ときた。相変わらず、何にも考えちゃいないやり方だ。またフリスコあたりのイカレた子供の悪戯か?まったく反吐が出る。
「護衛機の数と型式は?」
「そいつはウェザー・リポートにでも聞いてくれ。おまえさんのオモチャはトーキョーベイ・晴海の埋め立て地だ。座標とコード送るぞ」
 即座にジャックイン。眼前に浮かび上がるコンソールは……F-22だ!
「おいパック、お前こんなものどこで拾ってきた?」
「イイだろ。近所のコンビニで買ったんだ。内緒だぜ」
 思わず苦笑した俺の様子に、パックは気をよくしたらしい。
「何ならICBMでも買ってきた方が良かったか?」
「そいつはカウボーイ気取りのガキどものケツにでも突っ込んでやってくれ。行くぞ」
 デュークの住処とは遠く離れた埋め立て地で、F-22のアフターバーナーが哮る。広大なネットワークの海を越えて、F-22は無人のフライトを開始した。

次は「犬」「墓標」「テーマパーク」でお願いします。
44名無し物書き@推敲中?:05/02/27 20:55:41
東京に出てきて2年目の夏を迎えた頃、田舎から一通の手紙が届いた。
――コロに子供が生まれました。子犬の名前は私がつけていいですか
朝子からだった。昔から彼女には、周囲を驚かせて注意を引こうという妙な癖があった。
――もし、私かコロのどちらかが死んだら、すぐ帰ってきますか
いつもの調子だった。ため息を付く。多忙な毎日に疲労が重なっていたせいかもしれない。
ふつふつと頭の奥が熱くなり、心の底からの怒りに変わっていた。
俺は手紙を引きちぎり、そのままテーブルの上にばらまいてみせた。

あれから5年後の夏。長期休暇の最終日、俺は田舎から東京へ帰るため、
夜行バスの停留場に続く畦道を歩いていた。
テーマパークの誘致が決まったこの近辺は昔とはずいぶん景色が変わっていた。
側面の田畑も埋め立てられ大手建設会社の看板が立ち並んでいる。
「じゅんくんじゃないの」
朝子の声だった。驚いて振り返るとそこには朝子の母親がいた。
「まあちょっと寄っていきなさいよ、朝子も喜ぶから」
母親は手に供え物と桶を持ちながら返事をするまもなく歩き出した。
――もし、私かコロのどちらかが死んだら、すぐ帰ってきますか
薄暗い畦道を歩く、地面を踏みしめる音がなぜか恐怖に繋がっていく。
「ああ、コロちゃん死んでしまってね」
母親は振り返りもせず雑木林に隣接した墓地に入っていく。
――しかし、コロなら家の庭にでも埋めてしまえば
俺は、墓標を見上げた。
45名無し物書き@推敲中?:05/02/27 20:58:25
テーマ: 花 ミント ブーメラン
病室のドアを開けると爽やかなミントの花の匂いが鼻をついた。
やはりこの病室は完璧すぎる。訪れるたびに私はいつもそう思う。
ホテルに置いてあるような可愛らしい椅子や鏡台、真っ白に洗濯されているカーテン。ミントの匂い。そして、この広く白い病室にぽつんと残された美香。
ベッドに横になっていた美香はすぐに私に気付き、笑顔をむけた。
「いつもありがとう」
「はい、これ。今日の宿題」
私から数学のプリントを受け取ると、美香はじっとそれを眺めだした。
「ぜんぜんわかんないよ。退院したら、授業についていけなそう」
ひどく心配そうな声で美香が言った。私はこたえる。
「大丈夫だよ。美香は頭いいじゃん」
私は美香の性格をよく知っている。とてもよく知っていると思う。
素直で真面目で頭が良い。
美香が病気で入院することになったとき、クラスの何人の男子が美香のためにお見舞いの計画をたてていたのか、私は知っている。
「そういえば、晶君はお見舞いに来てるの?」
私が聞くと、美香は少し照れながら「うん」と嬉しそうに笑った。
投げれば必ず手元に戻ってくるブーメランのように、素直な笑顔だ。入院する前と美香は何一つ変わらない。
私は花瓶の中に新しく持ってきたミントの花を入れた。毎日一本ずつ、ミントの花を花瓶に入れる。花瓶を見て美香が言う。
「もうだいぶ増えたね」
しばらく学校の話や晶君の話をした後、また明日来ると言って病室をでた。
美香は知らないのだ。ミントの花には毒がある。私はあの清潔な病室にゆっくりと毒を落としていく。
美香なんて、このまま死んじゃえばいいのに。
ミントのきつい匂いは私の制服にも確かに染み付いている。

→長いので次も同じでお願いします。
47花 ミント ブーメラン:05/02/28 04:53:59
あの頃、目の前にはKがいた。

屋上から霞む東京湾、中庭から聞こえてくる笑い声、私はまだ何も見えずにけれど何かを見ようと足掻いては持て余していたけれど、あのころ、Kがすぐ近くだったから。
だから私はあのころを忘れられないなのであり、そしてずっとブーメランが嫌いなままのである。

Kの第一印象。ミントの香りが似合う子だと思った。
けれどKは放課後ファストフードに寄ることだとかに関心の無い子で、当然香水などとは無縁だった。残念な気がした。

次に会った時の印象。Kは泣いていた。だからその猫みたいな真っ赤な目。
あの頃私が授業をエスケープする際の行き先は大抵決まっていて、それは体育倉庫の裏にある小さなエアポケットだった。しかし新学年一番最初のエアポケット利用者はKの方だった。
Kは家族のことで悲しいとかなんで涙が出てくるのだろうとかそんなことを私に話した。多分相手は誰でも良かったのだろう。
だけど私はKの意外な一面を見れたことと見せてくれたことが嬉しくて花の刺繍の入ったハンカチを渡したら、Kはおずおずとそのハンカチで細い目をなぞった。
そのうち顔にあてがって、私はしばらくその時間を見守っていた。

しかし最後まで私たちの距離はけして縮まることなく、Kはミントの空気をまといながら爽やかな笑顔を振りまき続け、私は私でいつもどおりの平坦で冴えない毎日を送っていた。
あの日のことなど大気に霧散したまま、いつのまにか卒業式が来ていた。
「あの…これ」振り向くとうつむき加減のKが私にあのハンカチを差し出しているではないか。その時の私の、なんと落胆したことか!私は緊張している時の癖で目をしばたかせながら、それを受け取った。
それにしても、何故かのようにこの世の女子というものは思いを一滴残らず返すのだろうか。せめて少しでも、きみを想った存在というものを覚えていて欲しいのに!私の想いはなんどきも一方通行で、そしてなべて私から解き放たれることは無い。
そう、いつもブーメランのように忠実に私のもとへ戻ってくるのである。いらんちゅうに。
 次は「夜更かし 感傷 後の祭り」でお願いします
48gr ◆iicafiaxus :05/03/01 04:09:09
深夜はもう二時を過ぎて、家の中は廊下から階段までもが暗い。スイッチを間違えながら
電気をつけたTの家の手洗いで、見慣れない便器を粗相の無いように使いながら、僕は
階上のTの部屋で続いている作業のことを思っていた。

学園祭で発行する文芸誌の折り作業である。今年は締切日の都合から、印刷屋に原稿を
持ち込むことをせず、すべて生徒会室の輪転機で印刷して自分達で製本するということに
したのだ。印刷のどうにか終わった紙を、おとといからは放課後は部員が総出で折って
いるのだが、なにしろ四百ページの折り本が三百冊もあるのだから、作業を始めたからと
いってその日に終わるようなものでは、到底ない。

それでもなんとか明日の開祭式には三百冊揃えなければならないというので、こうして、
要するに家の人が一番きびしくないとか、そんな具合の理由で、僕等は昨日からTの家に
上がり込んで、夜まで折り本の作業にあたっているというわけだ。

手を洗う。一日中紙を折っていれば、何回ワセリンを塗っても、指先は脂が吸われて薄く
擦れたようになってしまうし、紙で手を切って血を出すことも一度や二度ではないから、
水を使うとそういった傷がいちいち痛む。
ハンカチで手を拭いてTの部屋に戻ると、TとUとが相変わらず紙を折っていた。もう誰も
話し疲れているのか会話も無い。紙はあと残り千枚ばかりになっていた。

全部の紙が折り上がったのは、ようやく時計が三時半を廻ったころのことだった。
あとは夜が明けたら生徒会室に持っていって、大きなホチキスで端から綴じては、本の
背にテープを貼っていくというだけのことである。昨日の内に帰った後輩達も始発の時間で
出てくるから、六時間後の祭りの朝には終わっていることだろう。

「一時間半だけ寝よう……」
Uが言って、僕等は三人散らばるように打ち伏した。
許されて曖昧さを増す思考の中に、夏の朝の気配、人の家の匂い、夜更かしの倦怠感
傷ついた指の痛み、折った紙の束の白さ――。僕は、眠りの安楽の中へと落ちていった。

#えと、次は「際限」「実物」「応対」で。
「結局、実物は見られないんだよね」
 休憩室のベンチにだらしなくしゃがみ込みながら、彼女はため息代わりに呟いた。
長時間神経を尖らせたせいか、いつも自慢している長い髪の流れ具合にも、
疲れの色が強く出ている。
「電話越しに応対するばっかで、相手の顔とかもう全然。憂鬱なんだ、そういうの」
 僕は何とも言えずに向かいに座った。強気な顔ばかりしている彼女がこんな
儚げな表情を見せるのは初めてだったから、もう少し彼女の流れる視線の先になっていたかった。
「向いてないのかな、この仕事。それとも、飽きてきたのかな」
 電話の音が際限なく責任者を出せと喚いている。でも、ヒステリックな金切り声に
もう一度立ち向かうような気力は、僕ももうとっくの昔に磨耗してしまっていた。
「私、もっと人の顔を見てたいんだけどね。声だけはやっぱりつまらないよ」
 じゃあ僕の顔でも見ていてください、なんて冗談も頭をちょっと掠めたけれど、
気の利かない僕はそれを口に出来なかった。
「帰ろうかな、なんて時々思うんだよね。どう思う? やっぱ弱気になってるだけなのかな?」
 慰めの言葉や、力強い励ましは幾らでも沸いてきた。でも、僕はその中のどれ一つも
彼女のために言葉にすることは出来なかった。
 結局、彼女は数週間後に会社を辞めた。ただの後輩でしかなかった僕に連絡が来るはずも無く、
僕はたまにそのベンチに座りながら、何一つしてあげられなかった内気な自分を恥じている。

次は「飄々」「クラシック」「葬列」で。
50飄々 クラシック 葬列:05/03/01 21:27:20
意識がぼんやりとしてくるほど暑い夏の真昼のことである。
俺は葬列を見つけた。
葬列はこの近くの火葬場へと向かっているらしく、ゆっくりと進んでいる。
その葬列の中のに、見覚えがある女がいた
女はこんな暑い日にクラシックな長袖の喪服を着ている。
――誰だったかな。
思い出せない。
 飄々と歩く喪服の集団はだんだんとこちらに近づいてくる。
女が目の前を通った。
その時、俺は思い出した。女の長袖は、傷を隠すためだ。昨日、俺は妻と刃物でもみあって……。
葬列の棺の上には故人の写真が置かれている。
俺の写真だった。
葬列はゆっくりと行きすぎた。

「有機」「薬用」「化学式」
自分の手を嗅いでみると、薬用せっけんの香りがつんと鼻を突いた。
良い匂いだ。私は思わず安堵の笑みを浮かべた。
「先生、こんにちは」
近所の農夫が腰をかがめて挨拶している。私もにこやかに笑って返した。
「先生の下さった肥料のおかげで、有機栽培のトマトもうまく育ってますよ」
「それは良かった。化学式の肥料とも変わらないでしょう?」
「ええ」人懐っこい笑みが浮かぶ。
「収穫したら、入院された奥さんにも食べて欲しいもんです」
「是非おすそ分けして下さい」
何も疑うことを知らない。ここは、実に住みよい町だ。
「しかし、そんなに育ってますか」
「ええ、赤いを通り越して血の色みたいで」
それは良かった。もう一度私は手を嗅いだ。

「整然」「しんにょう」「投票」で。
52名無し物書き@推敲中?:05/03/02 00:15:58
整然と並ぶ教室の机に向かって、私は声を出す練習をした。
「副担任の牧村です」

某私立小学校1年3組の副担任として着任した翌日、
学級委員を決めるためのホームルームが行われた。
「さ、だれか、なりたい人いるかな」
さすが笹塚先生だなと思った。投票で決める方法よりも、
積極的に手をあげさせることで、自主性を重視されたんだと思う。
「はい、ぼくやります」
前列のまだ小さな男の子が一生懸命手を伸ばしていた。
名前を黒板に書くのは私の役目。私はくっきりと渡部という文字を縦書きに書いた。
「わ、ちがうよ、ぼく――」
違うって何。いけない。動揺を隠して言ってみた。
「え、どこが違うのかな」
「ぼく部じゃなくて、しんにょうの」
ああこっちか。テキパキと黒板を消してまた書いた。
「渡辺」
「ちがうってば、わー」
泣き出した。私はクラス名簿を見て確かめた。難しい漢字使うなよ。
「渡邉」
53名無し物書き@推敲中?:05/03/02 00:18:09
お題 > 田園 鉄道 かもめ
5452:05/03/02 00:24:59
渡邉さんがいたら、ごめんなさい^^
55名無し物書き@推敲中?:05/03/02 11:40:31
 かもめは独りじゃない。群れなす海鳥を、窓の外を見つめる。
鉄道のレイルラインは断続して振動をシートに伝える。
 
 懐かしさがこみ上げる。頭のどこかでスイッチが入ったかのように。
この海沿いのローカル線をたどれば、何度も頭に思い描いた田園風景が見えてくるはずだ。
瞼の裏に映すたびに、なんて贅沢な風景だろうと思う。
無限とも思える海の広さと、また無限とも思える田園の広がりが、互いに競い合うかのように
視界に詰め込まれる。
 
 あのころのひまわりはかつてのまま大きいのだろうか。
体ばかりいたずらに大きくなってしまった僕は、背比べをすればきっと追い越してしまうだろうが。
僕はひまわりに会いに行く。
 
 故郷が近づく。

 お題>鉢植え・肩こり・銀色
56名無し物書き@推敲中?:05/03/02 16:02:59
鉢植え・肩こり・銀色

 確かにアンタの才能は認めているけどさ。いくらなんでもコレはないんじゃないの?
銀色に輝くメタリックボディの巨大な塊。彼曰く、究極のマッサージ機だとか。
 メカオタクの鈴木の手にかかれば、いかなる精密機械でも造作なく仕上げてしまう。
肩こりが酷いなんて言うんじゃなかった。造ってほしい素振りを見せたのが間違いだった。
「鈴木ぃ、なんでマッサージ機を見上げなきゃいけないのよぉ〜?」
軽く三メートルはあるだろうか。室内では無理だったらしく、小振りな庭を占領している。
「あはは、君の肩こりを解消してあげたくって。頑張ったらこんなんなっちゃった」
「『あはは』じゃないでしょ!」丸眼鏡の奥で愛嬌を放つ、つぶらな瞳が今日は憎らしかった。
「さあ、試してみてよ。君にならピッタリだと思うからさ」
 私は仕方なしに、その塊の座席らしき窪みによじ登る。片足を飛び出したネジに引っ掛けて……って
私ってば何やってんだろ。虚しくなりながらも、輝く鈴木の視線に押されてどうにか登り終えた。
 た、高い。何なのよこれ。目の先に鈴木家の二階室内が丸見え状態って。
「うひゃっ」呆然とする私の体を衝撃が突き抜けた。一瞬にして世界がぶれだす。
「ちょ、す、鈴木、止めめめっ!」爆音と共に屋根瓦が踊りだし、ベランダの鉢植えが落下し始める。
「ア、アンタァ、お母さんに言いつけるわよよよぉ!」
私の脅しに、あははと笑いながら鈴木は木陰を指差した。そこには見事にお母さんがくたばっていた。


次は「花びら」「妖艶」「雨垂れ」で〜。
諸君は、雨宿りをしていた軒先の雨垂れが宵の空気を身にまとい、
妖艶な笑みを浮かべながら僕に近付いたと説明して信じてくれるだろうか?
いえ。ああ残念。
僕がそれに見とれて遅れてきたと説明して信じてくれるだろうか?
いや。勿体無い。
それは、雨宿り先の庭先にたたずんでいた藤棚の花びらよりも、
遥かに艶然と微笑んでいたのだ。
君たちも一度訪れてみると良いだろう。あの艶やかさはそれだけで
当分は話の肴になってくれる。
それは何処の家かって?
……さて、覚えてない。春の宵はとかく心地よくて、暁よりも覚えづらいものだから。

次は「先人」「折半」「盗掘」
 とうに盗掘にあったと言われる、この古墳におれは潜ることにした。
継体天皇の古墳といわれているが定かではない。しかし、小学三年生の
おれの心を、激しく、熱く、揺さぶるものは古墳だった。盗掘などという
話は新聞での出来事だ。相棒は同級生の隆だ。隆はおれに付いてくるだけの奴だ
だからお宝を見つけても折半しようななどと言わずに付いてくるだけだ。
 先人達の骨さえもとうに盗掘されているだろう古墳へとおれたちは自転車を走らせた。
ロマンを感じている。男のロマンを風の匂いに感じていた。
 おれは古墳のほりに落っこちて泣いていた。服がずぶ濡れだった。隆はいつの間にか消えていた。
カラスが上を通った。おれのロマンは見つからない。

「布団」「春」「るつぼ」
59gr ◆iicafiaxus :05/03/03 02:49:14
「……テオ様!……、テオ様! お起きになってください! もう昼前ですよ!」

自室のベットでいい気持になって夢を見ている私を、エリーゼの、小娘特有の
キンキンとした高い声が、ひどく耳ざわりに刺激する。
「うー。俺まだ眠いからー。……エリーゼありがとう、下がっていいよ……」

しかし、エリーゼは、わたしの耳におおいかぶさるほどの近くから、さけび立てる。

「そうはいきませんわ。先ほどから旦那様は帳場でお仕事をなさいながら、テオ様が
 まだ出てこないのかと、気にかけておいでですのよ」

「あーそう……」、と私は反対側へ寝返りを打って、もう一度暖かい眠りの中へ。

「『あーそう、』ではございませんわ、テオ様、……失礼しますっ」
声とともに、不意に布団が剥ぎ取られ、私は夜着のまま二月の空気にさらされた。

「さ、寒い。エリーゼ、なんということをするか」
「手荒にしてもよいとのお許しですわ。だいたい、旦那様も、若旦那様も、もっと
 寒い夜明けの内から起きてなさいますのよ。さあ、服をお着せいたしますわ」

「うあー、いいよ、俺今日は一日、休息に宛てるから……」
「何をおっしゃいますか、一応テオ様は旦那様のお手伝いをなさっていることに
 なっているのでございましょう。この忙しい日までお休みなんて、なりませんわ」

私は商家の次男テオドール。昨年、王都の実業学校を素行不良で放校され、家に
戻ってからは、こうして父の許で経営者の見習いという身分を称して暮らしている。

寝ぼけた私は、机の上の花瓶を落としてしまった。エリーゼの生けてくれた若い水仙。
「ああ、すまない」
「まったく……、ええ、この始末は私がいたしますから大丈夫ですわ。お怪我は」
「私は大丈夫だが、水仙が」
大輪と期待されるつぼみがあったのに、それも春を迎えず潰れてしまった。
60gr ◆iicafiaxus :05/03/03 02:50:04
#↑「布団」「春」「るつぼ」です。
#長いし継続で。
61sou:05/03/03 23:33:54
布団 春 るつぼ

長い冬の果て、希望と再生の溢れる春という季節が在るように、
僕の辿る道にもいつか光が差すだろう。
そう思いこもうとした過去もあった。
でも僕はもう望むことに疲れてしまった。
いま僕にできることはひとつ。
布団に潜りこんで外界と触れることを拒み、
自分の殻にとじこもる。
仕方がないじゃないか。
僕の心は負の感情のるつぼ。
寂寥、空虚、絶望。
誰も助けてはくれない。理解してはくれない。
だから独りで向き合うしかないんだ。
そのために必要なことなんだ。
さあ、もう眠ろう。二度と明けない夜の中で。
このナイフが僕を解き放つ。
逃げるわけじゃない。すべてを抱えたまま旅立つんだ。
おやすみ。

「桜」「舞」「もう少しだけ」でどうぞ。
62桜 舞 もう少しだけ:05/03/04 02:09:22
「兵どもが夢のあと」
松尾芭蕉はその句を詠んで涙を落とした。
なるほど、その気持ち、解らないでもないだろう。
なぜなら俺も似たような感情でいるからだ。
仲間と共に極めた栄華も、鮮やかな友の太刀裁きも、全て消えてしまった。
桜の花が悲しみを誘う。かつての記憶を誘い出す。

我ながらいたたまれずに、空をふり仰ぐ。
「あ〜駄目だ。俺にゃあこんな辛気臭い事似合わねぇ」
フンと、鼻で笑って見せた。
「俺ぁ、あんたらの事を忘れねぇぜ。そしてあんたらが生きてた証を、残すんだ」
優しい色が、周りを舞う。
「だから、もう少しだけよろしく頼むぜ。近藤さんよぉ」

彼は後世に本と石碑を残し、小樽に没した──。



次は「ベル」「宮殿」「崩壊」でお願いします。
63赤坂 ◆AKIO/30bMI :05/03/04 18:14:42
「ベル」「宮殿」「崩壊」

受付のカウンターに置いてあった金色のベルを鳴らす。反応がない。
もう一度鳴らす。やっぱり反応がない。
いくらロシアにサービスの概念がないといってもあんまりだ。
このホテルに泊まるのはやめたほうがいいかもしれないと思った時、
エルミタージュ宮殿の絵の横にあるドアが開き、若い男がでてきた。
彼は拳を天井に突き上げながら何度も「ヤー!」と叫んでいる。

(クスリで逝っちまってる?)と俺は思わず数歩さがった。
男は俺に気づくと、両手を広げてみせた。
「ヤー! ジャーマン! ジャーマニー!」
今にも抱きついてきそうな笑顔で俺を見ている。
「俺は日本人だっての」と日本語でつぶやいてから、はっきり「ノー」と言ってやった。

男は今度は両の手のひらを俺に見せ、ドアの中へと戻っていった。
どうやら「待て」という意味らしい。
まもなく男はグラスを二つとスミルノフの瓶を持って戻ってきてカウンターに置き、
それぞれのグラスをウォッカで満たしてからそのうちの一つを俺へ差し向けた。
「ユー、イースト。アイ、ウェスト」
こうなりゃ呑まないわけにいかない。ウェストがドイツ語なまりのせいでヴェストに聞こえやがる。
「乾杯!」と「プロスト!」の声が同時に響き、俺達は一気にグラスをあけた。

ベルリンの壁が崩壊したと知ったのはその晩、別のホテルのテレビをつけた時だった。



次は「幻影」「ことわざ」「手袋」でお願いします。
64名無し物書き@推敲中?:05/03/04 19:40:01
「幻影」「ことわざ」「手袋」

となりの芝生は青く見えるというけれど、うちには最初から芝生がない。
だから世の中の芝生はとりあえず全部青い。

立派な軍人だった祖父の幻影を追って、僕は自衛隊に入った。
といえばカッコイイかもしれないけれど、無職でいつもゴロゴロしていた父を見て育った僕には
きちんと毎月お金が入ってくる生活というものが羨ましかった。
「大きくなったら絶対に安定した公務員になる」、幼い頃そう誓った僕だが
大人になった僕が実際に入れるのは自衛隊しかなかったのだ。

入隊から二年、祖父の幻影はあとかたも無く吹っ飛んだ。
ここは堕落している。本当にヒマだ。毎日官舎でゴロゴロしている。
最高だ。
ことわざがひとつできた。
「まじめな奴の手袋は臭い」
本当にクサイんだ。

「桜並木」「神社」「招き猫」でお願いします
65名無し物書き@推敲中?:05/03/04 20:15:10
桜並木 神社 招き猫
ことわざにさ、事実は小説より奇なり、ってのがありますよね。あれ、ホントですね。
お客さんもこんな話を聞いたら信じると思いますよ。
去年の春ごろだったかな。そうそう、こんな小雨の夜です。
ちょうどこの赤阪辺りで、お客さんとおんなじくらいの歳の女の人をひろったんです。
真っ赤なコートに真っ赤な手袋して、春なのに。
で、行き先を聞いてみると、お客さんと一緒。
黙って車を走らせてると、桜並木の美しい神社が近づいてきて――ああ、あれです。それを女はじっと見てたんです。
そして、この辺りは古い神社が多いんですね、って言うんですよ。
行き先が行き先だけに、ちょっと不気味でしたね。
だから私は車のスピードを速めたんです。けど、雨が強くなってきて、目元が悪くてとても運転しにくい。
それでもようやく着いた時に、女はどうなってたと思います?
あれは私が幻影でも見てたんですかね。
でも、今夜で二回目。招き猫をこの車に置いてるつもりはないんですけど、お客さんもでしょ。
女は、真っ赤な手袋を残して消えていたんですよ。
それも、手袋の中身ごと。
たからさ、やめときましょうよ。お客さん。
行き先があの雑司が谷墓地なんて。

数式 計算 手順
ぼくは虐げられてきた。どこへ行っても邪魔者扱いされ、つまみ出されては放浪する。そんな生活を送ってきたんだ。

その日もぼくは彷徨っていた。人の目を気にするあまりに挙動不審な行動しか取れなくなり、無為の生活をしているがその無為はあくまで無為不自然とでもいうべきである。
ホームレスと変わらない? そんなことあるものか。ぼくにはなんたって格があるんだからね!

その日もぼくは寝床を探していた。日が落ちたばかりの住宅街、人は案外少ないものだ。このぼくにもどこかには必ず居場所があると信じて、毎日こうやって安静を得る場を探す。
「にゃぁ」
ぼくはぼろぼろのズボンにすりよってきた猫をこともあろうか、どけた。ごめんよ猫さん。だってぼくは…

猫が居た辻を曲がってばらく歩くと藪が見えた。古びた鳥居と稲荷。神社である。閑静な住宅街の中の、小さな桜並木もある小さな森。環境も良い。今宵の寝床が見つかったことを先ほどの猫に感謝したい。ぼくをここに導いた招き猫に。
来た道の方から猫の悲鳴がした。幸い子どもに叩かれる程度で済んだようである。ぼくに関わると本当にろくなことがない。
あぁ、ではこの神社も春の饗宴を迎える前に潰れてしまう羽目になるのだろうか。ぼくが泊まったばかりに。
…そんなことあってたまるものか!ぼくを招いた責任としてさっきの猫まで祟ってくるぞ!うぅ考えただけでも恐ろしい。
しばしヤツとぼくの力の差を考えた結果、ぼくはここを立ち去ることにした。招き猫にかなうわけないじゃないか、貧乏神ごときが。

次のお題は「無」「魚」「舞」でお願いします
6765:05/03/04 20:29:13
しまった、せっかくのところでミスが。
×手袋の中身ごと→○手袋の中身だけ残して
68「無」「魚」「舞」:05/03/04 21:04:28
 おれはいかだに乗っていた。海の上を漂流していたのだ。
 海は荒れ始めていた。雨が降り出した。風が強くなった。嵐だ。雨が横になる。
 並みがいかだを揺さぶる。おれは何とか持ちこたえた。しかし駄目だった。
大きな波が覆い被さってくる。暗い汚れた波だった。おれは飲まれたまま気を失った。
 人魚だった。夢の中に出てきたのは人魚だった。水の中で華麗に舞うのは人魚だった。
おれは問いかけた。「名前は何ですか?」
 彼女はほほえんで「名無しで結構です」そういって消えた。深い青の向こうへ消えた。
 おれは波打ち際にいた。
「猫」「サンマ」「サンダル」
ヤクザは女を利用する。
俺みたいな若い衆は、自分のシマなんか持たせてもらえない。
そして、そうなのさ、食えないヤクザはヒモになるのが常套手段。
振られたばかりで泣いていたお前。とても引っ掛けやすかったぜ。
こいつとセックスする時俺は、いつでも首を絞めてやる。
どちらが上かの確認作業。
首を絞められて、苦しそうな顔をして、それでも俺を受け容れるお前。
あの夜サンダルを隠した犯人が俺だと知ったら、お前どんな表情を見せるんだろう。
一から十まで計算さ。
そうとも、これは愛じゃない。

女は男を利用する。
あたしみたいな商売は特に、舐められないため馬鹿にされないため男が必要。
この人は、セックスのたびにあたしの首を絞めてくる。
前の男はあたしになんでもしたけれど、首を絞めたりしなかった。
あなた、何でもいいから初めての男になりたかったのね。あたしの特別の男になりたいのよね。
あなたの寂しさも、あなたの嘘も欲望も、あたしが全部知っている。
本当はね、あたし、あなたみたいなタイプ、だいっきらい。
そうよ、これは愛じゃない。

猫は人間を利用するニャ。
二年前の雪の夜、我輩の演技に逆らえなかった馬鹿ップル。
首を絞めたり、背中をかきむしったり、交尾の度に血まみれの大騒ぎニャ。
愛し合ってるくせに素直になれない不器用な二人。
我輩にサンマを買ってくる、その気持ちの百万分の一でも相手に与えたら幸せにニャれるのに。
明日の朝、我輩はドアが開いた時に脱走するニャン。
猫白血病の我輩は明日死ぬニャン。
目の前で死んで、馬鹿二人を心の底から悲しませるのは猫のプライドが許さニャい。
我輩が姿を消すのはプライドオンリー。
そうニャ、これは愛じゃないニャン。
 自動式にはとても見えない木製の洒落たドアは、俺が押し開ける前に開いた。
ガラス越しに俺の姿を認めたのだろう、そこに愛想の足りないボーイが立っている。
西洋の高級そうな雰囲気に反して無礼な態度だ。
「またアナタですか。ここはアナタの来るようなところじゃないんですがね」
 燕尾服がひときわスマートに見えるよう背筋を伸ばし、彼は俺をあからさまに見下した。
 なんて対応だ。いささか度が過ぎる。こんな奴では話にならんと強引に店内にすべり
入り、オーナーらしき人物を探した。ホールにはいないので一気に奥へと走り込む。
 見つけた。キッチンでコックと話し込んでいる。と、いきなり別のコックに首根っこを
掴まれそのまま裏口から店外へ引きずり出された。
 ちくしょう。なにしやがる。俺が料理に口をつけちゃいかんのか。現にここで何度も
食ってるのに。その思いを何度か叫んでみる。
 すると騒ぎに気付いたオーナーが出てきた。太った肉体に燕尾服におっとり履いた
サンダル姿はあまりに滑稽だが、彼は深く腰を曲げ俺に謝罪した。
 そうして冷めた焼サンマが差し出され、俺はそこで、やっと満足するわけだ。
 猫舌だからな。

次「せんべい」「塔」「ジャガー」
 古くからある農村には独特の空気に包まれている。草の緑、木の茶、葉の
赤、稲の黄、あと空の澄んだ青色で着色された空気。匂いも同じ色をして
いる。丁度この村の色と同じである。
 ただ、この村はかつて文明を受け入れたことがあり、水田には今も配水塔
から提供される水が流れ込んでいる。管理公舎は配水池との間にあって、
若い管理員が住んでいる。その夜は近くの村民と集まり卓を囲んでいた。
「今日は賭けませんか。表のジャガー、譲りますよ」
「ありゃくたまだぁ」
「んだから賭けんだわ。ん? このせんべいしなこいな」
「んだばそれ賭けろ。おめぇもむずがってんと勝ちゃいいだ」
 夜の明ける頃には勝負がつく。毎度の如くこの老管理員が勝って、後日
最下位に不要品が譲渡された。金にさほど価値を見出さない彼らの間では、
そういう賭けしか行われない。
 斯くしてある田舎では見るも無惨に凸凹の派手に赤い車が見られるように
なったわけである。

次「蛙」「舌」「傘」
72gr ◆iicafiaxus :05/03/10 04:47:10
#「蛙」「舌」「傘」。

軒下の乾いた地面に、着物から流れた水が染みを作る。
「はあ、……っはあ、はあ」
少し回復した僕の横で可苗が、時折むせながら盛んに息をついている。

僕たちの前を通り過ぎていく人は、みんな僕たちと同じ学校帰りの制服で、
ただし誰もびしょぬれになんかなっていないところだけが、おおきく違う。

「じゃあ、次はあの駐車場のところまで」

うなずいて、また雨の中へ駆けだす。二人、ばしゃばしゃと音を立てて走る。
可苗は、全速力で。僕は、可苗を置き去りにしない速さで。

駆け込むようにして無人駐車場の料金所の天幕の下に入る。
僕より一歩だけ遅れて着いた可苗が、うつむいて激しく咳き込む。
僕は苦し気な可苗のずぶ濡れた背中を、平らな部分を探して撫ぜてやる。
可苗の喉が蛙の歌声ぶくろのようにひくひくと揺れている。

「あーう、ち、ょっと待っ、てて」

かがみ込んでしまった可苗の、後ろ首にへばりついている髪の毛を、
僕は心配そうな表情で見下ろしながら、ちょろっと舌も出す。
――実は、カバンの中に折りたたみ傘を持っているんだよね。
――だって、自分だけ差すわけにいかないし、相合傘をする勇気もないし、
僕のことはいいからとか言って借してやるのも、なんだか照れるんだもん。

「可苗ちゃん、大丈夫かい」
とうとう膝をついてしまった可苗に、僕は優しげに声をかける。
ブラウスの襟をゆるめるのを手伝ってやる。あーあ、傘さえあればねー。

#えと、次は「もの」「星」「竿」で。
73 ◆ir6Dx0NkVM :05/03/15 04:39:18
「もの」「星」「竿」


僕が生まれるまで、この世には何もなかった。
何も存在しなかった。いわゆる「無」に相当するものすらなかった。
なぜって、僕等はいわゆる「無」すら想像してしまえるから。想像するのは
創造するのと同じで、その概念を捉える天才が現れた瞬間、「無」は
竿竹を売り歩く車や、クロワッサンを食べた後の手のべとつきなどと
同じように、意味を失ってただそこにあるだけの事物と化してしまう。
だから、僕が生まれる前の世界を敢えて表現するなら、こういうことになる。

「      」

とにかく、そういうことだったんだよ。……でも、今日、この考えが変わった。
なぜなら、僕が生まれる前、何もないはずの世界に、あなたはもう生まれていたから。
あなたは、僕のとても偏狭で、人も、星も、色も、そして概念すらもない鍵括弧の中に、
まるで女王のように、燦然と君臨しました。よかったら、どうか結婚してください。

次は「ローラー」「癌」「手紙」で。
74「ローラー」「癌」「手紙」:05/03/15 05:49:58
アレクサンドリア。心の中で何度その名前を呼んだことでしょう。
この革命の忌わしき炎の中、あなたは私と別の道を歩くことになった。
いや、あなたと共に歩くことを私が拒絶したのかもしれない。
あなたに愛される為に生を受けたと思っていたのですが
それも勘違いだったのかもしれませんね。

想像するだけでおぞましいこの都での戦い
国の癌細胞と言っていい人達をなぎ払う為に多くの仲間の命が今日も散ります
ボロボロと落ちていく様子を見続けることに、私は大分疲れています。
この手紙があなたに着く頃、私は都を離れます。
そして言葉が通じるのかさえも分からない遠い異国の地で、
あなたを密かに想い、敬い、そして神へ一生を捧げるつもりです。
ありがとうアレクサンドリア。そしてさようなら。

手紙を読み終わった後アレクサンドリアはセバスチャンの胸ぐらを掴んだ。
その憎悪に満ちた瞳を向けても何の解決にもならないことを悟ったアレクサンドリアは
震える両手で天をうらみながら、愛しい人の名を叫んだ。
「ローラー!」

次は「西」「城」「感激」で。
75「西」「城」「感激」:05/03/16 21:39:22
 東から昇って西に沈むのが当たり前のはずの月が
その夜に限って北からひょっこりと顔を出したものだから、
街のものは皆大騒ぎして月の素知らぬ顔をながめ、
一体何のいたずら心があってのことだろうと噂しあっていた。
 無論、城内においてもそのことは女官たちが話題に上せていた。
 ある者は「きっと、泥酔した大臣がこの前間違ってお月様を
蹴飛ばしてしまったせいよ」と眉をひそめ、またある者は
「いや、多分酔ってるのは月の方よ。だから方角を間違えて
しまったんだわ」と首を振った。
 どちらにしても、この街は豊富な水と太陽によって育まれる
ぶどう酒で有名だったため、誰もが何もかも酒に結びつけて
考えてしまうのだ。
 謎を解決したのは観光に来ていた天文学者だった。彼は、
今までの学説をあっさり覆してしまうような光景を目にしたことに
感激して月の下に走りより、何故北から出てきたのかと直接尋ねたのだ。
 月は当然のことのように答えた。
「晩酌をこぼしてしまってね。綺麗にしてきたとこなのさ。
ほら、これで北がなくなった」
76gr ◆iicafiaxus :05/03/16 22:31:51
「ちょっと」
呼ぶ声に振り返ると、作業衣姿のおじさんが、ゴミ袋を手に回廊を歩いていた。
「すいませんがね、もう閉める時間なんでね」

「ああ」、と、僕たちは、欄干にもたれたまま、おじさんの方に向き直る。
まぶしさが抜けないのか、感激が抜けないのか、すぐには物が言えなかった。

「今、連れが一人、トイレに行ってるんですよ。戻ってきたらすぐ出ます」

嘘だ。三人でデートに来るやつなんていない。
それにここは天守閣の一番上の階だ。トイレなんて無い。

そんな出まかせは、バレなかった。

おじさんは行ってしまって、僕たちはもう一度、夕日の照りつける城下町を
見わたしてみる。立ち並ぶ家々が、妙にくっきりとふちどられて見える。

目をひそめる彼女の頬は、産毛の一本一本までに太陽の光が当たっていて、
僕が見つめると、点のように小さく縮んだその瞳が、こっちを向いた。

遠く西の山に視線を戻して、僕は彼女につぶやく。

――さっき見た絵巻の話だけど。
この町が焼け落ちた時、殿様も内儀様と一種に、こうやって、真っ赤な町を
見ていたのかなあ。

「うん、でも私たちは、ほらあそこらへんを逃げていく、小さな市民だよ」

それから僕たちは、人気の無くなった城の中で、おじさんが戻るまで口づけ
あった。五百年前の僕たちもこうしていたんだろうな、とか思いながら。

#次は、「浴びる」「告白」「段ボール」で。
77名無し物書き@推敲中?:05/03/17 02:03:37
「浴びる」「告白」「段ボール」

「水濡れ厳禁」
彼女のすべすべのカラダには、カレンな赤い文字でそう書かれている。
オレは0.5秒で恋に落ちた。

愛の告白も交際の申し込みも、ぜんぶ省略して
オレは彼女をかっさらった。
有無を言わさず公園の繁みに連れ込んで、オレは彼女にのしかかった。
「好きだ!好きだ!好きだ!」
叫びながら、彼女の上で転げ回った。
彼女の縁から飛び出していた大きなホチキスの針が、素っ裸のオレを意地悪く引っ掻いた。
性悪女の爪痕のように、オレの背中に血筋を残す。かまうものか。最高じゃないか。
「折り畳み自転車、MADE IN CHINA」
おお、中国美女だったのか、謝謝。
ぴんぴんにそそり立ったチンコを段ボール箱に押し付けて、オレは一晩中、何度も何度もイッた。

朝目が覚めると、ブルーシートの家が建ち並ぶホームレス居住地の真ん中に全裸で寝ていた。
バーボンを浴びるほど飲んだからな。
オレは「一夜を供にした女」を折りたたむと、それで局部を隠しながら歩きはじめた。

「海賊」「買収」「会談」で……
 ニュースの時間です
 「LA☆生門海賊団」による「ジャポネ暴走団」の乗っ取り問題で、本日、海賊団の団員
獲得数が過半数を上回ったことが明らかになりました。
 この問題では同海賊団の時間外スカウトが問題となっていて、団員を束ねる隊長クラ
スの各個人に多額の賄賂が手渡されたとする証言があり、今回の団員取得は違法な買
収ではないかとの疑惑が報じられています。
 また、暴走団側の義兄弟分に当たる、「不死3K団」は暴走団の中核をなす主力幹部
の引き抜き及び、逆乗っ取りによる防衛策を実行することを表明しています。
 今後の事態の成り行きしだいでは、海賊団代表・壕衛門氏と不死3K団代表・飛重打氏
との直接の会談もありえるとの見方が広まっています。
 
さて、続いてのニュースの前に訂正とお詫びがあります。
 先ほどの放送されたニュースはフィクションであり、実在する人物・団体名等や事態の流
れとは一切無関係です。というか詳しく知りません。調子に乗ってスミマセンでした。
 次のニュースは「デスMEランド」の顧客名簿流出……



「コーヒー」「紅茶」「タイム」
79名無し物書き@推敲中?:05/03/17 23:15:47
ワロスwこういうの好きw
80名無し物書き@推敲中?:05/03/18 18:43:47
「コーヒー」「紅茶」「タイム」

『喫茶店に入って紅茶を頼んだら、コーヒーが出てきました。
あなたならどうしますか?』

入社試験の面接でそんな問いがあったと思ってください。
あなたならどうしますか?
「注文したのは紅茶です」と、取り替えてもらう?―― 常識人ですね。
「まあ、いいか」と黙ってコーヒーを飲む?―― イイ人ですね。
「間違ってコーヒーが来ちゃったけど、飲んでみたらすごくおいしかった」
そんなこと言ってウエイトレスをナンパする?―― 石田純一さんですか?
「店員が気付くまで無言で睨み続ける」?――― コワイです。
「コーヒーには口を着けず黙って席を立つ」――― お金払ってくださいね。

もっと面白い、ぶっ飛んだ回答は無いものだろうか……
そんなとりとめない事を考えながら、今僕はコーヒータイムを楽しんでいる。

次「締め切り」「プレッシャー」「現実逃避」でお願いします。
現実逃避してもどうにもならないことがあると知った。今までは逃げてばかりいたように思う。
けれどこの一ヶ月間、自分の命を賭けた「ゲーム」を通して自分の知らない自分を沢山見つけた。認めたくないものも多かったが。
僕はD−04区域の代表に選ばれた。その確立はおよそ千分の一、冗談じゃない。
各区域の代表者は自分の区域の解放を目指すべく「ゲーム」に参加しなければならない。
僕達は奴隷だ。拒否権など、ない。
「ゲーム」は一ヶ月を費やして行われる。その中には多様なプログラムが用意されている。例えば障害物競走であるとか、射撃であるとか。
ただし、それらのプログラムにはもれなく死の危険性がつきまとう。窒息死、圧死、焼死、凍死、蒸発死エトセトラエトセトラ。まさに死の博覧会である。
それらの苦難を乗り越え、勝ち残った区域のみ開放される。奴隷から晴れて一般人になれるのだ。
逆に代表が負けた、つまり死んだ区域の人間達は全員殺されるそうだ。
それゆえ、代表達にはとてつもないプレッシャーが圧し掛かる。自分の命がおよそ千人の命と同義なのだから。
そんな大役を僕が仰せつかった訳だ。抽選機が恨めしい。
しかし僕はここまで生き残ってきた。途中で何度も挫けそうになった。
これが最後のプログラムだ。他に生き残ったのは8名。最初は50人は居たはずだから随分と減ったものだ。
僕らが狙うのはたった一つの缶。
そう、最後のプログラムは「缶蹴り」だ。あの缶を蹴れれば僕らの勝利、鬼に見つけられたらまず間違いなく死。
締め切りまであと2時間。
今回は通信機と各人の居場所と生存が確認できる機械が支給されている。
オーソドックスな手としては誰かが囮になり、鬼が気を取られている内に缶を倒せばよいのだがそういう訳にもいかず。
それはすなわち一区域の命を捨てなければならないことになるのだから。
さて、どうしたものか……
「うわぁぁぁぁーーー!」
その時誰かが雄叫びとともに飛び出す!
すかさず鬼の持つ自動小銃が火を吹く!が、仕留め損なったらしく勇敢な誰かは横の通路に逃れたようだ。
それを追う鬼。紛れもないチャンス!
僕は一寸の迷いもなく飛び出し、自由に向かって駆け出した――

次「誘惑」「夜明け」「ギター」
夜明けには未だ遠く、生暖かい春の夜風が俺の頬を撫でて行く。
赤く丸く、ぽっかりと肩口に開いた銃創から止め処なく血は流れ行き、
地面に散らされた桜の花を真紅に染める。
正面に銃を構えた女の顔は、夜の闇に幽鬼の如く淋しげに青白く、
闇を映す双眼は昏き空洞となり、誘惑を湛えた赤き口唇を微かに歪ませ。
まだだ。まだ足りない。
もっとだ。もっと、俺を撃て。
お前を殴った数だけ、嗚呼、お前を殴った数のその何倍も俺を撃て。
されど裏切りの銃弾はそれ以上放たれる事は無く、やがて女は静かに背を向ける。
マンションの部屋では、太った猫が俺たちの帰りを待っているのだろう。
あの頃、窓に凭れて俺がギターを弾いて、壁に凭れてお前は小猫の背中を撫でて。
夕食の時、猫より貧しい食事だねって二人で笑いあっていた。
83名無し物書き@推敲中?:05/03/19 16:10:07
次は?
84名無し物書き@推敲中?:05/03/20 00:00:32
指定が無ければ継続
85「誘惑」「夜明け」「ギター」:05/03/20 05:27:12
俺は、掛川インターチェンジから深夜の東名高速道路に飛び乗った。
本線に合流しアクセルを目一杯踏み込む。
車体後方のトランクからゴロンという鈍い音が漏れ、背中に届いた。
――この死体を始末しなければならない。夜のうちに。夜明けが来る前に。

闇の中、オレンジイエローの光りが、頭上を走り後方へと消えていく。
何度も何度も繰り返される光りの束は、やがて睡魔となって俺を誘惑する。
――あれは
遠くにパトランプが見えた。俺は一気に現実の世界へと引き戻されていた。

俺は、言われるがまま、差し出された棒状の検査器に息を吹きかけていた。
深夜ラジオからは、ギタリスト前川智明のソロ演奏が流れていた。
助手席に視線を伸ばす。
そこには、主人を亡くしたクラシックギターが空しく立てかけられていた。
――自分への追悼曲か

「安全運転でお願いしますね」
そう言われた俺は、適当な愛想を浮かべながらアクセルを踏み込んだ。
――夜のうちに。夜明けが来る前に。
86名無し物書き@推敲中?:05/03/20 09:32:11
砂糖水がさらさら流れていた。眠りよりも安らかで心地よい。
伊集院麗華はその誘惑から逃れられず、目蓋を動かせない。
しかし、その闇の中には、敷き詰められた真珠が煌いているのであった。
それは声というよりも、音だった。音というよりも、光だった。
小鳥の鳴き声と、霞んだ東雲を繋ぎ、一つとする光だった。
伊集院麗華は今日まで、如何に華燭と虚に生きていたか、光は教えていた。
そして、地球に眠る本当に美しいものすら。その中へと沈んでいく。
ゆっくり落ちて、肌理の細かい泡の一つが、指先にかかる。
伊集院麗華は、赤面した。
それは麗華のためにだけ生まれ、麗華のためにだけ光り、麗華のために注がれていることを悟った。
麗華は目蓋をゆっくりと持ち上げる。愛しい太郎を少しでも長くそこに収めるため。麗華は幸せだ。

太郎はギターを弾いていた。
太郎は、夜明けにそれで誘惑しようと、ギターを弾いていた。
太郎には恋人はいないけれど、何時か聞かせる歌を作ろうと、ギターを弾いていた。
しゃがれた声だった。一定しないリズムだった。フレーズを捜していた。
使い古した「君だけを愛している」にコロンブスのように歓喜し、
ただ言葉を接着させただけの「深緑と零原の中に乱舞する秋桜」にニーチェのように歓喜していた。
やがて夜が明ける。太郎は疲れて、泥のように眠る。夕方になると起きる。また、ギターを弾く。
それがアパートの一室の中での太郎の休日だった。
太郎は夜明けのギターの誘惑に誘惑されていることを知らない。太郎は幸せだ。

「手鏡」「桜」「ターン」
87名無し物書き@推敲中?:05/03/20 14:55:49
なぜ幽霊は、現れるのだろうか。
幽霊がいるかいないかではなく、「何故」いるのか、を考えてしまう。
水をまとい泳ぎながら、昔見たプールの心霊写真を思い出した。
笑ってカメラを見る子供の肩に並ぶ、透けた顔。
こうして泳いでいて誰かに足首をつかまれたら?
私は壁を強く強く蹴ってターンした。
着替えながら思い出したのは室井滋のエッセイ。
あるカメラマンが城下の桜を撮ると、着物の女性が写っていた話だ。
霊能者に聞くと、江戸時代の人であり、これで彼女は存在が表に出て、成仏することができたとか。
廊下で手鏡を取り出し、ガラス越しのプールを映してみた。

「夢」「子供」「依存性人格障害」
88名無し物書き@推敲中?:05/03/20 15:11:30
日本各地を転々として、気が付けば東京にいた。
アテもなく、夢なんてものもない。
ビル街の明かりを遠くから眺めたとき、やけにほっとしたことを覚えている。
僕はさながら街灯に誘われる蛾のように、ふらふらと街に乗り込んだ。
辺りは雑然とした人ごみ。
思い出せば、僕は昔から、友達と話していないと落ち着かなかった。
常に人と交わらなければならないのだ。
人間の多さという点を考えれば、この街は最高の環境に見える。
ああ、なのにどうして無機質な風景に見えるんだろう。
答えはすぐに見つかった。
誰一人、僕を見てはいなかったのだ。
ふと『依存性人格障害』という単語が頭に浮かんだ。
単純に人が多いだけではダメなのだ。
僕は、この雑踏に背を向けた。
子供の頃父に連れて行かれた東京は、ただただ大きかったことを覚えている。


「財布」 「キーボード」 「コーヒー」
上記のお題に“萌えっ子”を絡めて即興文を作れ。

「ばか言ってんじゃねっーー!!」
俺はキーボードに激しく指を叩きつけた。
あたかもピアニストが演奏に情熱を表現するかの様なその行為は、プラスチックの
音と、積まれたコーヒーの空き缶が崩れる雑音しか奏でなかった。
「萌え、だと?いや、萌えっ子だと?そんなもん即興で作れるもんじゃねえんだ!!
大体そんなもん即興で表現できる文書けるぐらいなら今頃俺は……。いや、言うまい。
あーあ、文でってのが不利だよなぁ……。そうだよ絵だよ。二次ですよ二次。萌えと言
ったらあの街ですよ。特に何も買う気無くぶらついているうちに、気になる絵柄のポス
ターとか、雑誌の表紙なんか見て、ふらふら店を回っている内に気がついたら財布が軽
くなってるあの電気街!恐ろしい所だよ東京は(?)……。だから見た印象なんだよ結局
は。ライトノベルとかだって、売れるかどうかはイラストレーターの――ゴホッぐふぉ!
おっと、俺はいったい!?………………だが、確かに見た目は大事かもしれない。けど
それだけか?猫耳、巫女にメイドに、スク水にメガネ。確かにこれらはビジュアル的に
表現できるかも知れない。でも、妹や幼馴染という設定は?ドジっ子とか天然と言われる
性格付けは?そうだ、文章だからより緻密にキャラの心情やエピソードを絡めて、より
深い感情移入の先にある“萌え”を表せるんじゃないだろうか!!そうだ、やってやる
俺にできる精一杯の表現でやってやる!」 ←(注)独り言です。
そしてキーボードが、熱い情熱の音色を深夜の部屋に奏で出す。

と、燃えっ子を絡めて見ましたがダメですか?




「わび」「さび」「マスタード」
90「財布」 「キーボード」 「コーヒー」:05/03/21 02:47:46
ところで、自分の物を証明するってことは、とても難しいことだと思わないか。
昨日キーボードを叩いて調べてみたんだけど、所有権ってのは結構厄介な面があるらしい。
たとえばそうだな、その缶コーヒー。それを今、俺がこんな風に取り上げたとする。
ほらほらあたふたしなさんな。ちゃんと返すからさ。
で、今、他にこの現場を目撃した人間がいないだろ。
もしも俺が、近所の自動販売機で買ったものだと平気な顔で主張すれば。
まずコレはお前の手には戻らないだろ。

俺が言いたいことはさ、
仮に、お前が持ってたのと同じ色で同じ形で同じメーカーの財布を、今 俺が持っていたとしても、
だからといって疑われる筋合いはないってことなんだよ。な、サン助。
ま、俺も楽屋泥棒にやられクチだし、同情はするよ。
でももう諦めろ、そろそろ出番だぞ。くよくよせずに、ちゃんとボケてくれよ。な、サン助。

――サン助ヨン助のショートコントが受けなかったことは、言うまでもない。
91名無し物書き@推敲中?:05/03/21 02:50:32
↑失礼、遅かったです
92うはう ◆8eErA24CiY :2005/03/21(月) 09:04:33
「わび」「さび」「マスタード」 と「財布」 「キーボード」 「コーヒー」

 きしむドアを開けると、「前払いでお願いします」の張紙が出迎えてくれた。
 わび・さびすら漂う寂れた喫茶店。でも、試してみる必要はありそうだ。
 財布を開き、注文をだす
 「ウインナコーヒー1つ お願いします」「はーい」
 
 …それは、気のせいかもしれなかった。
 カウンターに陣取るマスターの表情に、一瞬、何かぴんと張り詰めたものを感じたのだ。
 これはもしや。もしかしたら!?

 「お待たせしました」 と、マスターが直々に私の目の前にもってきた。
 「ウインナコーヒーでございます」「…!」
 驚愕の目をマスターに向ける。勤めて平静な表情の裏側に、会心の微笑を隠すマスターに。

 誰もが、一度は思い浮かべる事。でも、それを形にできる店がなんと少ない事か。
 いい店を見つけた。毎晩キーボードを叩いて、全国の喫茶店を検索した甲斐があったぞ。

 「…苦労したんですね」「まあ、それはもう、ね」と、一人笑いを押し殺すマスター。

 彼は感動の涙を堪えながら、精一杯冷静な声でマスターに言った。 
 「ケチャップとマスタードも、お願いします」

※ 急いでお題追加;
次のお題は:「ロケット」「整然」「ステージ」でお願いしまふ。
93名無し物書き@推敲中?:2005/03/21(月) 10:21:21
男は、落丁本や乱丁本を探すことを生業としていた。
ぱらぱらマンガでも眺めるように、凄まじい速度でページをめくっている。
「ふう……」男は一息ついて、目の前の整然と並べられたダンボールに目をやった。
一抱えもあるようなダンボールが、五十六個。これが地球から、男の家――つまり火星だ――に送られてくるのである。
中にはぎっしりと文庫本が入っていた。
そう、今は入っていないのだ。つまり男は、最後の一冊の仕事を終えたのである。
遠い目をして、男は過去を思い出した。小説家として活躍していた頃を。
ごうごうと音を立てる機械を見て、男は苦笑した。
一体いつからだろうか、執筆の手助けとして作ったロボットが、すっかり小説を書いてしまうようになったのは。
まあ、それも仕方ないことのかもしれない。
一度ロボットの書いた小説が大きな表舞台に立つと、ロボットより下手な男は、書くに書けなくなってしまったのだ。
そうして、徐々に男は文学のステージからこっそりと姿を消した。一つ、替え玉を用意して。
そのロボットを眺めていると、今度は文字が並んだ紙を吐き出し始めた。今度編集者に送る、新しい原稿である。
「さて、やるか」
原稿をロケットに詰め込むため、男は腰を上げた。
急がなければならない。今日が締め切りなのだから。

94名無し物書き@推敲中?:2005/03/21(月) 10:22:18
すいません。お題の指定忘れです。
次のお題:「料理」「潜水艦」「万年筆」 で。
95名無し物書き@推敲中?:2005/03/21(月) 20:15:10
「マイク、万年筆を持ってない弁護士がいるか? 」
 一等水兵のハマーがスプーンを置いた。同席する仲間たちは顔を見合わせ何かに
期待するような微笑をハマーに返す。マイクは少し考えてから肩をすくめ、首を傾げる。
「だろう。しかるべき所にしかるべきものがなければ、そんなもんは三流の贋物だ」
 皆熱い眼差しでハマーを見ている。一体うっかり者の弁護士以外にどんな贋物を
見つけたのか、沈黙によって続きを促しているのだ。
「ところでビル。今日のメシは誰が作った? フランスの三ツ星レストランのシェフ?」
 ビルはすぐに否定の意を示し、自分が作ったことを告白する。気付いて見ると大抵の
者の皿にはシチューがまだ半分以上残っていた。
「ビル、お前は悪くない。悪いのは一流の料理人を同乗させなかった糞野郎だ。違うか?」
 ハマーは立ち上がり、一人一人の顔を見回した。皆がうなずき、同意を口にする。
ビルは微笑した。上官を罵倒し、これが最後の晩餐で堪るかという誰かの声が続く。
「そのとおりだ。だから我々は美味い飯を食いに帰らねばならん。なぁ。勝利の約束だ」
 ハマーはビールジョッキを持った。皆が応ずる。深海を進む潜水艦から一度だけ、
力強く鬨が響いた。

次「イルカ」「文庫」「追突」
96名無し物書き@推敲中?:2005/03/23(水) 17:32:30
「イルカ」「文庫」「追突」

 ああ……光が遠ざかる。大きく揺らいでいた光にじわじわと暗闇が溶け込んでいく。
肺が激しく空気を欲し続ける。絞り出した大小の気泡が先を争そって昇っていく。
だいぶ気泡の数も減った。薄らぐ意識のなかでアイツが傍らで微笑みかけている気がした。

 開け放たれた車窓からは程よい潮風が吹き込んで、昼飯を終えた俺の眠気を払ってくれる。
相変わらず流れる景色といえば海と空だけで、数時間前の感動はいつの間にか消えていた。
到着駅までの数時間、俺はいつも通りカバンに入れてある本で暇を潰すことにした。
手垢にまみれて薄汚れた一冊の文庫。なぜかどこに出かけるにもカバンに入れていた。
これといって際立った内容でもない。多分、アイツがくれた唯一のものだから。
 少年が家出をしようと考えるくだりを読み始めたころだっただろう、強い衝撃を感じたのは。
気づいた時は車外に投げ出されていた。落下しながら目に入った遠のく崖上の情景。
俺が乗っていた後尾車両に赤い電車が突っ込んでいた。特急が追突しやがったんだ。
そして真下には青い海が待ち構えていた。

(波間を漂う少年を口に咥えて懸命に泳いだ。かくして少年はイルカに助けられ……)
この本にはたしかそんな一節があったよな。イルカよ、読み飽きたこの本をアイツに返したい。
いるなら導いてくれ。俺は固く握られた本と共に暗い暗い底に沈んでいった。


次は「城壁」「不治」「山河」で〜。
97「城壁」「不治」「山河」:2005/03/24(木) 14:34:19
よくぞ、わしの昔話を聞きに来てくれた。
今日聞かせるのは、この崩れかけた城壁にまつわるお話じゃ。
もう遠い昔のこと。
この城壁の傍に住む一人の若者が病にかかった。
さほど重い症状もなかったので若者は別に気にも留めていなかったが、
ある日、彼のもとに一人の仙人が現れた。仙人はこう告げたのじゃ。
「そなたが罹ったのは不治の病、ちょうど五ヵ月後にそなたは命を落とす」
若者はもちろん驚き、治す方法はないかとたずねた。すると仙人はこう答えた。
「小生と共に山に入るがよい。治すことはできぬが、逝く日を一月二月延ばすことはできよう」
仙人の住む山とは、いくつもの山河を越えぬとたどりつけぬ場所にあった。
若者は愚かにもそれを面倒と考えてな。なんと、仙人の申し出を断ってしもうた。
当然ながら仙人はたいそう機嫌を損ねた。
「愚か者め。覚えておけ、貴様は五ヵ月後に逝くのだ。その日にとくと後悔するがよいわ」
そう言い残し、この城壁に八つ当たりの蹴りを入れて去っていった。
それから何十年も経つが、若者はまだ元気に生きておる。
まあつまり、未来は誰にも知ることができぬ、ということじゃな。
…ん、その若者は今どうしておるか知ってるか、じゃと?
ちょうど今、そなたの目の前におるわい。

「山奥」「霞」「雲」
98名無し物書き@推敲中?:2005/03/25(金) 00:39:14

「山奥」「霞」「雲」

 来る日も来る日も青年はあの頃を思い出し、
まだ捨てきれぬ想いを抱きながら日々を重ねていた。
 この季節にもなると陽も上がり始めてからのしばらくの
間は、心地良くまとわりつく微かな水蒸気と共に霞が辺りに
立ちこめ、青年を抱く。
 
 わたしは何を求め、あなたは何を欲したのか。

 朝が明けるたび、霞の中に身を埋め青年はその問いを
繰り返していた。ふと空を見上げる、はるか頭の上のまだ
その先には幾重にも重なった霞が佇んでいる。
 彼はまだ霞から抜け出せずにいる。
 「いっそあの空の上の霞の中で包まれていたいものだ。」
と、深いため息をついた。
 こんな山奥を訪ねて来る人の影もなく、青年はいつまでも
時間が連なって巡るその中で想うことにした。

 まだ朝は明けきっていない、空にはただ雲がある。

「遠雷」「腕輪」「あくび」
99名無し物書き@推敲中?:2005/03/25(金) 01:53:50
「遠雷」「腕輪」「あくび」

こいつは麻薬だ―――
真由美は思う。自分をボロボロにする存在なのは分かっている、でも離れられない。

その麻薬男はソファーでテレビを眺めながら大あくびをしている。
「まゆみちゃ〜ん、コーヒー」
出勤前で忙しいんだから自分でやってくれたらな、と思いながら真由美は言った。
「お化粧済んだらいれるから、ちょっと待ってね。ゴメンね」
昨夜のなごりでカラダのあちこちが痛い。甘い痛みだ。

外はむらさき色の曇り空だった。
どこかで遠雷がなっている。お店が終わる頃には降り出すかもしれない。
「じゃ、行ってくるね。今日はアフター振り切って帰ってくるから」
「お〜う、気をつけて」

今日は二人が付き合い始めた記念日だ。
(私が帰るまで起きて待っててくれたら嬉しいな)
でも、たぶん無理だろう、と思って、真由美はクスッと笑った。
鞄の上からプレゼントの箱の感触をたしかめる。
彼が欲しがっていたクロムハーツのブレスレット。
帰ったら、そっと「ただいま」と言おう。そしてワインで乾杯しよう。

「閉店セール」「休憩」「お葬式」



100名無し物書き@推敲中?:2005/03/25(金) 16:30:02
「はぁ、全く……」
今にも崩れ落ちてきそうな曇り空。それを眺めて、私はため息をついた。
デパートの紙袋が両手の指に食い込む。
どうしてだろうか? 閉店セールだからといって、今日は買いすぎてしまった。
黒のスーツが一着、二着、三着……五着もある。
お葬式があるわけでもないのに。
ああ、やだやだ。雨でも降ってきそうだ。
両手の荷物と、家までの距離。それを考えるとコンビニで傘でも買ってきたほうがよさそうだ。

ビニール傘、二百円なり。無駄に冷房の利いたコンビニを出て、私は再びため息をついた。
そして、空を眺めると――。
太陽の光に一瞬だけ目がくらんだ。いつの間にか、空は一片の雲すらなく晴れ渡っていた。
『喫茶店で少し休憩しましょうか』
私は、そんなことを考えた。



「実験」「金庫」「アナログ時計」
101名無し物書き@推敲中?:2005/03/25(金) 16:43:21
金庫に閉じこもって、何日持つかという実験をする。アナログ時計のみ持ち込みを許可する。
102名無し物書き@推敲中?:2005/03/28(月) 18:36:16
>>101 おいおいw もう少しふくらまそうよ。

「実験」「金庫」「アナログ時計」

甘く見ていた訳ではない。
だが、ここまで目論見が外れるとも思っていなかった。

計算違いは、実験開始から0.1秒で早くも表面化した。
金庫室の扉を閉め切ってしまうと、自動的に照明が消えてしまい
金庫室の内部からは電灯をつけることが出来ないのだ。

『金庫に閉じこもって何日もつか』、という実験だったが
携行を許可されたアナログ時計の他に、ちょっとした心理トリックを使ってこっそり持ち込んだ
文庫本やトランプが、あっという間に役に立たなくなった。
わずかばかりの水と食料はあるのだが、真の暗闇、それも空気の全く動かない閉塞的な暗闇が
これほど人間を追い詰めるものだとは思っていなかった。

何時間経ったのか、夜光塗料の効果のなくなった時計ではそれすらも判らない。
アナログ時計の秒針のカチカチという音が、異常に大きく闇に響き渡る。
規則正しいその音が、俺の精神を破壊する。

「映画」「強引」「お約束」
103:2005/03/28(月) 19:45:21
実験 金庫 アナログ時計

金庫に閉じこもって、何日持つかという実験をする。アナログ時計のみ持ち込みを許可する。

この結果は実に予想の範疇の数字で幕を閉じる。つまり、およそ人間とは閉鎖的な枠を意
識することによって、作用される枠組みに犯され、精神に及びをきたすというものだった。
当り前のようであること、これの証明ほど空しいもののようであるのだが、これほど重要
な要求はないと私は判断をする。だから私はこれの、時間の観念と閉塞の意識についての
ことを卒論の題材としたのだ。
さて、出来上がったからには、私はこの論文をK教授に提出しにいかなければ。出来上が
ったからには、ということだ。

205室。K教授の部屋だ。私は扉を開いた。
すると部屋の中央にK教授のものと思われる、机、蔵書、書類や万年筆が浮かんでいた。
不思議なことだが、そこは闇だった。およそ無重力空間のようであり、ダリの絵を思わせ、
永遠的な遠くからさしてくる、それらを照らす青白い光の陰影まで鮮やかだ。部屋に浮ぶ
物質は自由のようであるのだが、見るからにある種の秩序を、私のまなざしに要求をして
いた。私にこれを呑み込ませるように。
やがて私の手の届きそうな辺りまで、K教授の腕時計が漂ってきた。だから私は不自由そ
うな格好で、つま先立ちで、扉の木枠に手をかけて、身をのり出してつかもうとする。危
く無重力の力学に身を奪われそうになるのを、ぐっと手に力をこめてたえた。
でもその時、誰かが私の腕をつかんだ。ちょうど、腕時計に触れそうになったとき、暗闇そ
のものが私の手首をつかんだのだ。
「やあ、Kくん」K教授だ。
「え?」
闇は小さな地球を握っていた。
「君だよKくん」K教授は執拗に問うた。
「私は違います」
しかしその声の要求するところのものを、やがて私は見るのだった。目の前で、そう、見たのだ。
K教授の部屋に浮かぶ地球の全体が、そうで、あるのを。
「やあ、Kくん」と。
104名無し物書き@推敲中?:2005/03/30(水) 20:36:17
高校からの腐れ縁のSがこんな相談をしてきた。
S「今度、生まれて初めてデートするんだ。どんなとこ行ったらいい?」
そんなことを聞かれても、私だってデートしたことはない。分かってるくせに。
私「無難なのは、映画とかかな」
S「どんな映画観たらいいんだ」
私「さあ…いつも観てるのでいいんじゃない?」
S「俺、ポルノ映画しか観たことない」
私「いいんじゃない、その方がSらしくて」
S「そ、そうか…。で、映画の後は何したらいい?」
私「簡単よ。強引にベッドに誘うだけ。お約束でしょ」
S「そ、そうしたいのは山々だけど。最初はもっと無難に…」
私「いつものSらしくしてればいいの。余計な気遣いなんていらないって」
まったく、何を遠慮してるんだか。デートの相手は私なのに。


「マジカル」「スペシャル」「ビューティフル」
105名無し物書き@推敲中?:2005/03/31(木) 01:22:59
「マジカル」「スペシャル」「ビューティフル」

時間というものは否応なく過ぎていく。誰もそれに抗うことはできない。
『マジカル、マジカル…』
テレビから漏れてくる子供向けアニメの声。子供が釘付けになっていた。
リビングで食パンを食べながら淹れたてのコーヒーを飲む。いつもと同じ日曜日の朝。
いや、いつもとは違う。今日は結婚記念日だった。
つまり、子供だけでなく妻にとってもスペシャル・デイなわけだ。
ふと、台所にいる妻を見る。
出合った頃と比べると間違いなく出ているお腹。
遠めから見てもシワがあるのが分かる。
あの黒々とした流れるような髪の毛もツヤが消えている。
ビューティフルだったあの頃の君はもういない。
そして、もちろん僕も。
『また来週も見てね!』
毎週聞くこの台詞。そして次は戦隊ヒーロー物だ。この時間はいつも子供がテレビを独占している。
僕も子供の頃はよく見ていた記憶がある。いつから見なくなったのだろうか。
時間というものは否応なく過ぎていく。誰もそれに抗うことはできない。
でも、悪くはない。

次は「藪」「光」「トンネル」
106名無し物書き@推敲中?:2005/03/31(木) 09:02:51
閃光。
長いタイム・トンネルを抜けると、そこは雪国だった。
「駅長さぁん、駅長さぁん」と悲しいほど無機質な声を出す女が、
父親を探している。女は殺意の確かさだけを胸にここまできた。
父を殺す、そして、すべて、何もなかったことにする。
いったい、どれほど長く、くり返してきたことか。

「まぁ、徒労だね」
「そうでしょうか」と、女は機械的に答えて男を見つめ返した。
理論的に不可能であることを、もう一度、説得しようした矢先。
辺りの静寂が身にしみて惹きつけられたのだった。
二人は、また「藪」の中に落ちた。

次は「デス・ノート」「自転車」「ガーデニング」
107名無し物書き@推敲中?:2005/03/31(木) 20:41:28
「デス・ノート」「自転車」「ガーデニング」

 ホームセンターで植木鉢を買い、自転車のカゴにつっこむ。
 すぐさま走り出し、近道の路地裏にはいる。
 すると、狭く薄暗い道に誰かが立ちふさがっていた。
「これを見よ」
 そう言うなり「デス・ノート」と書いてある一冊のノートを取り出した。
「これにはもうすぐ死ぬであろう人間の名前が書いてある。
キミが願うなら、その運命を変えられるのだ!」
 俺はノートをひったくるとページを開いた。そこには姉の名前が書いてあった。
 死亡原因は、二階のガーデニングベランダから植木蜂が落ちてきて頭蓋骨陥没、とある。
「どうだ? さあ、運命を変えよ! ビッグチャッ、ゴガッ」
 そいつの頭が横殴りに吹っ飛ぶ。遅れて鉢植えの破片が飛び散った。
 動かなくなったそいつをすぐ近くの廃工場に引きずっていき、最近使われた形跡のある
焼却炉にぶちこむ。
 そして焼却炉の横に置いてあったポリタンクを引っつかむと、中身の液体をぶちまけ、
これまた横にあった古新聞に火をつけると炉に放り込み、扉を閉めた。
 路地裏に戻ると地べたにノートが落ちていた。軽く舌打ちする。
 ふとノートを開いてみると、黒々とした文字で埋め尽くされていた。
 どれも見知った名前だ。その数は、多分2562人のはずだ。
 軽く舌打ちした。


「ナイフ」「バター」「ピン」
108名無し物書き@推敲中?:皇紀2665/04/01(金) 17:47:37
ナマ白い左手が、少し青い水の中で力なく刃物を握っている。
右手がそれを取ろうとして争い、ナイフのきらめきが湯船の底に沈んだ。
「バカみたい」という声が響き怖くなった。
その違和感に挑むように、また口が意味のない言葉を喋りだす。
「バターを塗ったパンが落るときに、バターの面が下になる確率は?」
次の瞬間。この浴室には本物の気違いがいる、という思いが走った。

「正真正銘の気違いは、この遺書を書いている離れた人。彼女は
その便せんを苺ジャムのビンに詰め、お風呂に浮かべるそうです」


次は「靴ひも」「しおり」「飛行船」
109名無し物書き@推敲中?:皇紀2665/04/01(金) 18:34:04
船外に流れる退屈な景色、飛行船の夜は、実に退屈極まりない。
私は手にとった本のページを、また一枚めくった。
隣の席に座った男性は、既に寝息を立てている。
どうにも一向に、瞼が重くなる気配はない。
本の内容が中々に良いからかもしれないな。とぼんやりと思う。

船内にけたたましい音が鳴響いた。
驚いて、目を覚ます。事故か、という考えが一瞬頭をよぎったが、違うようだった。
そういえば、いつの間にか眠りに落ちてしまっていたようだ。
あたりを見回すと、添乗員が失礼しました、と言っていた。
どうやら船内を、ワゴンを引いて移動する際に、躓いてしまったようだ。
真横を通り過ぎる時に見てみると、靴紐がほどけていた。それが金具に絡みついたのかもしれない。
落ち着いて、椅子に座り直してみる。本を探すと、膝の上に乗っていた。
ぺらぺらとページをめくると、ちゃんと読んだ所にしおりが入っていた。半ば習慣付いてるのか、と思うと、少し可笑しくなる。
ふと、窓を見ると降ろしたカーテンが光を帯びていた。
開いてみると、雲海を照らす美しい日の出がそこにあった。


↓「ブリック」「原付」「コントラバス」
110名無し物書き@推敲中?:皇紀2665/04/01(金) 21:37:41
 何も悪いことをしていない血みどろの青年が奥様がたに責められている。
 公園は悲鳴と怒声が溢れかえり混乱の相を呈していた。コントラバスがバス停から
本道に入ってすぐ、もの凄い勢いでスピーカーが正面衝突してきたのである。高域の
鋭い大音響がして近くにいた人間が卒倒した。
 しかしそれは発端に過ぎない。前の状況の見えなかった原付が、急停止したコントラ
バスを反射的に避けようとし歩道へ突進したのだ。車体は搭乗者もろとも無事歩道を
通りぬけ、公園の中央に位置したハート型のパブリックアートに突っ込み、これを
真っ二つにした。
 なぜスピーカーが反対車線を逆走する羽目になったかはともかく、事故現場は壮烈
なものであった。木っ端微塵になった残骸が惨たらしき光景を公園にもたらしており、
子供の教育上よろしくないのではないかと思われる。
 が、それはさておき、このハート型の物体は奥様がたが公園の景観と子供たちの
ために寄付して作ったものであった。
 それで青年は責められている。

「十円玉」「バスケット」「コーン」
111名無し物書き@推敲中?:皇紀2665/04/02(土) 01:45:07
「君、十円玉を手間賃に渡すから、このバスケットいっぱいのコーンを買ってきてくれ」
「旦那、もう一声」
「ああ、じゃあ十円玉をもう一枚出そう」
「もう一声」
「君はいったい、いくら欲しいんだ?」
「バスケットいっぱいの十円玉です」

↓「醤油」「馬鹿」「スラップスティック」
112名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 12:49:13
 スラップスティックを見ていた。「あはは、馬鹿だなあ」
笑いすぎて喉が渇いた。「コーラちょうだい」
醤油だった。
113名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 14:14:49
いいな、これw
114罧原堤 ◆SF36Mndinc :2005/04/02(土) 15:31:39
 明け方、物音ひとつしない、静かな台所に寝ぼけまなこで入っていくと、サランラップでラップされたチャーハンの皿がテーブルの上に置かれてあった。ビシッとラップされてあった。表面がピンと張っていた。
 明美はラップをはずし、飯に醤油をたらした。ちょっと垂らしすぎてしまった。食べると、しょっぱかった。半分ほど食べると、鏡に自分の顔を写して見てみた。かわいらしかった。
「私ってなんでこんなに美人なんだろう。お父さんもお母さんも、不細工なのに。……馬鹿だ、馬鹿だ、私って自惚れ屋だな、性格だけは親に似たんだな」
 そうぶつぶつ呟いて、またチャーハンを口に入れだした。パクパク、と。「もうスラップスティックは書くまい」と思いながら。
115罧原堤 ◆SF36Mndinc :2005/04/02(土) 15:33:55
次、「ウィスキー」「スイカ」「風見鶏」
116名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 17:43:44
 俺達が風見鶏のある尖塔に篭城を始めて、三日が経った。
 生き残ったのは、俺とサイモンの二人だけだ。フレッドは頭をスイカのように
噴き飛ばされて死んじまった。
 俺は、生きて祖国の地を踏めるのか?
 ああ畜生、それにしてもウィスキーが飲みてえな…。


「弁護士」「ハンカチ」「世界地図」
117名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 17:45:18
弁護士はハンカチを広げた。それは世界地図だった。
118そらまめ ◆FTG9n7ZOx6 :2005/04/02(土) 17:54:07
 涙がこぼれた。
ポケットからハンカチをとりだそうとしたけど、右ポケットに入って
たのは弁護士名義の内容証明の紙切れだった。
左ポケットに手をつっこんだら、同じく僕の弁護士のくれた世界地図だった。
「払いたくなかったらトンズラするのがいいよ」
彼はやさしく僕にそう言って、アメリカ行きのチケットも
用意しておいてくれた。それにお金と住む場所まで。

それから一か月後、僕の心臓はバイヤーを通して高値で
取引された。

「50円」「安全」「泥」
119名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 17:59:49
泥の上は安全地帯だ。が、五十円の料金を払わなければならない。
120「50円」「安全」「泥」 :2005/04/02(土) 19:16:26
前日の雨の所為で、校庭のコンディションは最悪だった。
歩けば靴底に泥が付く。しかもそれは集まって、一歩を重くした。
そんな中、僕は風に飛ばされたプリントをかき集めている。
家庭用のプリントはともかく、提出予定の宿題が泥で汚れていると、さすがに泣きたくなった。
最後の一枚を拾い上げる。その下には、なにやら光るものがあった。
汚れているそれは、まぎれも無く50円玉であった。
僕はほくそ笑む。
落した人はお気の毒で。
僕はまんまとそれを自分の物にした。

僕は幾らか安全な道を選び、家路に着いた。


次は「布団」「枕」「チョコ」でお願いします。
121名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 19:38:55
.
ぼくはドラゴンの子供。健やかに眠りに落ちる。
と。
お布団の洞窟に、ぼくを退治しようという勇者が現われた。
ぼくにとってはチョコのようなもの。ペロリと平らげた。

翌朝。目を覚ますと枕もとに、勇者の甲冑が落ちていた。
夕べの食べ残し?


次は「帽子」「うぐいす」「カレンダー」
122名無し物書き@推敲中?:2005/04/02(土) 21:52:39
幸雄はアイスの棒の先にバナナを付けて竹籠の中に差し入れる。
と、ウグイスはバナナを器用についばんでジッジッと鳴く。一種の儀式のようなものだ。
八十有余年生きてきて一杯の味噌汁さえ作れない幸雄だったが、ウグイスの世話だけは欠かさなかった。
妻の千代子も「私にゃ な〜んもしてくれへんのにね」などと憎まれ口を叩いていたものだ。

その、千代子が死んで四年が経つ・・・
皆で共用しているカレンダーには四月二日に丸を入れてあるが、それが千代子の命日だった。
子供も親族もいなかった幸雄は、千代子の死とほぼ同時に老人ホームへ入った。
光太郎と名付けた、このウグイスだけをつれて。

「お前もようけ食うたさかい、もうええやろ? わしゃこれから墓参りや」
羽繕いをしている光太郎に、幸雄は大きな声で話しかけた。老人ホームの仲間達は
胡散臭そうに幸雄を見る。彼らは幸雄がボケ始めていることを知っているのだ。
(お前らに迷惑なんぞ掛けんとすぐ逝くさかい、安心せぇや・・・)
幸雄は密かに毒付きながら、ホームの軒先に光太郎の入った竹籠を吊るした。

既に死んでしまった者の痕跡を訪れることにどんな意味があるのか、幸雄には判らない。
一枚の赤紙によって志半ばを余儀なくされたとは言え、幸雄は帝国大学の末席に名を連ねて
いた程だから、人間存在を物質として捉えるある種の学問が存在することも知らないわけではない。
ただ、自分の身体が墓場の静寂を求めているだけなのかもしれない。
・・・幸雄は、くたびれた帽子を手にしてホームのロビーに立った。

次は「iPod」「ネオン」「猫」
123名無し物書き@推敲中?:2005/04/03(日) 02:17:36
もう心配はいらないはずだ。走りながら、何度そう考えただろう。
暗い路地の中、突然現れた分かれ道に面食らって、僕はようやく立ち止まった。
耳には自分の息切れと心臓の音だけが届いていた。それによってようやく周囲の静謐さに気付く。
これでは普通に歩くだけでもその音は相当遠くまで伝わるはずだ。
もしまた奴らが近づいたとしても、そのときはすぐにわかるだろう。
改めて胸をなで下ろす。

しかし、と僕は思う。「よくつまづきもせずに、ここまで走って来れたもんだ」
誰も掃除をする人間がいないのか、空き缶や吸殻などが散乱していた。
途中、僕は壊れかけたネオンサインを見て明順応してしまっていたのだ。
そのとき、視界の隅でなにかが動いた。
驚いてそちらを見やると、小さな白いかたまりが右側の道から現れて、分かれ道のもう一方へと走り去っていった。
「なんだ猫かよ……」僕は呟いた。
「あれは持ってきたの?」女の声が響いた。
猫が現れたのと同じ道から、若い女が音もなく歩いてきた。
女は風貌は大学生くらいで、とてもじゃないがそういった組織と関わっているような人間には見えなかった――まあそんなことは僕にとってはどうでもいいことだ。
「ほら、これでもう俺は帰っていいんだよな」
俺はポケットからiPodを取り出し、女に手渡す。
なんらかのデータのようだが、なぜその受け渡しに人間の手を経なければならないのか、内容を知らない僕には推測もできない。
「そうね、帰る場所が残っているのかは知らないけど」
闇金に手を出し、借金を帳消しにする代わりにと、半ば強制的にこいつらの組織の手伝いをさせられるようになってから、すでに一年が経過しようとしていた。


次、「アセチレン」「こたつ」「プリン」
124名無し物書き@推敲中?:2005/04/03(日) 23:58:12
アセチレンと酸素を良い案配に混合させ、火口の先に安定した炎を作る。
揺らめきの止まった炎は、この青白く美しい。

いま、ぼくはガス溶断器を手にしている。
プリン、このプルンとした可愛い奴に焼き目を入れるためだ。
なんか、すごいバカをやっている気もする。「出来たよぉ」

「あんがと、そこに置いといて」
コタツに寝ころびテレビ見ていた母が返事をした。

次は「百科事典」「春巻き」「ホテル」
125名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 00:46:36
「百科事典」「春巻き」「ホテル」

友人のY君は三十歳になった今でも百科事典を見ながらオナニーできるスゴイ人だ。

そのY君、念願かなって作家になった。
さっき、「ホテルでカンヅメになってるから遊びに来い」と嬉しそうに電話してきた。
「出版社にいろいろ差し入れさせるから、一緒に飲もうぜ」と言う。

ホテルの部屋にて、
Y君、中華弁当をぱくつきながら、春巻きをつまみ上げると
「おっ!」
と、いきなりズボンを下ろし、自分のモノとサイズを見比べはじめた。
まったく、この人は。
これだから面白いものが書けるのかもしれないが。

「花見」「毒」「祝儀」
126名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 00:47:58
 
半透明のライスペーパーに、レタスとミント、米麺とエビを巻く。

彩はホテルの最上階に住んでいた。
部屋はそのまま星空へとつづき、天の川の手前のテーブルで、
春巻きを一口に齧っては、ため息をつくという毎日だ。

浴室でも、同じため息は溢れていた。
彩はお腹をつまむと、そこに百科事典をあて
皮下脂肪の厚みを計っていた。

次は「窓」「餃子」「瞬間接着剤」
127126:2005/04/05(火) 00:56:08
125 さまへ

ぼくの方が面白いと思うな。次の人が、どっちのお題を選ぶかで、
ハッキリするかもしれませんね
ふふふ。



次は「窓」「餃子」「瞬間接着剤」
128125:2005/04/05(火) 01:16:29
126さん

正直、どっちもどっち……
我ながらさほど面白いとも思えず、
「即興なんだからな。そこのところヨロシク」
と、言い訳のひとつもしたくなる出来です。

裏三語スレに書いてる人がいたけれど、
一つのお題に対してコンペ(競作)するのも有りかもね。
129名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 01:20:25
>正直、どっちもどっち……
同意。
130名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 01:33:04
「正直」「どっちもどっち」「 同意」

126「そうですか。どっちもどっち、ね。なんだか、がっくり」
125「まぁ、落ち込むな、遊びじゃないか」
129「禿げ同意」
126「お前が一番、面白くない!」
125「だから、そうバカ正直になるなって…」


次は「八月」「目撃者」「チューリップ」
131gr ◆iicafiaxus :2005/04/05(火) 02:20:39
「花見」「毒」「祝儀」

今日はお花見、と、美雪がはしゃいでいる。
広くもない病室の、広くもないリノリウムの床に、
ボンドと瞬間接着剤でこしらえた、紙工作のござをしいて、
体が冷えないようにって毛布を打ち掛けられながら、
看護婦さんや付き添いのお姉さんたちを相手に、
小さなカップにみたした番茶を一気飲みなんてしてみせては、
ご祝儀とかなんとか調子に乗ってあめ玉をくばっている。

今日だけは明け放っている、そう大きいわけでもないハリ窓から、
ふと美雪は身を乗り出すようにして、外の景色を見つめる。

一階のこの部屋から見えるのは、土塀と、小庭と、幾本かの植木と。

一陣の風に流れて散るのが桜の花の美学なら、
この庭の花壇いっぱいに咲くチューリップの花の美学は、
春の雨に一枚、一枚と花弁を落とされても、
いつか八月の太陽に溶けて無くなるまで、
ずっと芯だけを残し続ける強さだと思う。

美雪はすでに髪を、声を、力を、女の子の体を、毒素に蝕まれ、
毎朝毎夕、チューリップが枯れるのをながめながら過ごしている。

枯れてゆくチューリップの、自分は目撃者だと言わんばかりに、
美雪はあきもせず、終わっていく花の命を見つめている。

消えていくものなど見ていて、何がおもしろいというのか――
僕には、少ししか、わからない。
132gr ◆iicafiaxus :2005/04/05(火) 02:24:14
次は「藤」「照れ」「ビジョン」で。
133名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 02:55:30
「で、目撃者は?」
額の汗をくしゃくしゃのハンカチで拭いながら岩部が言った。
「田中が見つけたらしいっす。下にいますよ。」
そう答えた瞬間、岩部と目が合い、お互いため息をついて視線を
足元の人型のチョークに落とした。
マンションの一室。八月のむせ返るような熱帯夜の空気がこの部屋の雰囲気を
さらに重たいものに変えている。いや、ため息の原因はそれだけではない。
田中が目撃者を見つけた。これが岩部と自分の落胆の一番の原因なのだ。
痴情のもつれからの殺人、金銭トラブルからの殺人。
世間から見れば一週間ほどワイドショーを賑わすだろう事件でも、
実際現場にいる刑事達にとっては割と些細な事件として片付く。
被害者と加害者の間のトラブルが明確であるからだ。
しかし今回はそうはいかないだろう。
まだ被害者の身元もわからないうちからそんな考えが頭をよぎる。
「田中、まぁた厄介な事件にしてくれるんだろうなぁ。」
そうつぶやく岩部に異論はない。田中が目撃者を見つけてきた事件で
今までまともに解決に至ったことは皆無なのだ。
「アイツのせいじゃないんですけどね・・・。」と
一応先輩としてフォローを入れたが
明らかにそうなることが予想がつくだけに棒読みのセリフみたいになってしまった。
「今回は汚名挽回してほしいもんだぜ、まったく。」
ハンカチを丸めてポケットにしまいながら、億劫そうに玄関に向かう岩部の目が
ふとダイニングテーブルの花瓶に移った。満開のチューリップ。
真紅の花びらが狙ったかのタイミングでぱさりと落ちた。
お互い目を合わせたが、岩部は無言で首を振り、ふ、っと鼻で笑い
行くぞと顎で合図をした。





134133:2005/04/05(火) 02:56:43
すんません、ageてしもーた。しかもおそかった。
初めてなんで許してください。
135名無し物書き@推敲中?:2005/04/05(火) 06:11:52
無問題、別にsage進行のスレじゃないし
136「藤」「照れ」「ビジョン」:2005/04/05(火) 23:01:59
春の京都に雨が降り始めた。
僕は、機織の音が聞こえる軒下へ雨宿りした。
そこには先客がいた。
藤色の和服を着た女性。アップスタイルのヘアー。
鼻筋の通ったその横顔は、精巧な日本人形のように整っていた。

黙ったまま雨を見つめ続けていると、突然携帯が鳴った。
彼女からだった。
斜向かい。丁度女性の目の前に、黒塗りの乗用車が止まった。
運転手が黒いこうもり傘を広げドアを開けた。
「男の人は、大変ですね」
乗り込む際、照れたように女が言った。
運転手に言ったのか。それとも僕に言ったのか。

雨が止んだ。僕はいそいそと彼女との待ち合わせ場所に向かった。
オーロラビジョンの前。彼女が怒っていませんように。
137名無し物書き@推敲中?:2005/04/06(水) 01:08:05
「藤」「照れ」「ビジョン」

縦横にめぐらされた棒の間から所狭しと藤の花が垂れ下がっている。
藤棚の下をゆっくりと歩く。
薄紫の花が咲き乱れ。葉が青々と繁り。甘い香りが立ち込める。
毎年、いや、毎日違う表情を見せてくれる藤の花。
僕はきっと、飽きることはないだろう。
ふと立ち止まり、目を閉じる。
爽やかな風がそよぎ、いっそう香りが強くなる。
流れていく過去のビジョン。初めてこの藤棚をくぐった時の幼い思い出。
ここを通るのは何度目になるのだろう。
そう考えると、今までの生活は長かったような短かったような。
きっとこれからもこんな感じで過ぎていくのだろう。
僕ももうすぐ父親になる。すこし照れくさい。
手をつないだ、親子。そう、記憶の中の小さな僕だ。
僕は顔をゆっくりと上げる。優しい父の顔。
僕もあんな風になれるのだろうか。
でも、きっと僕も生まれてくる子供の手をとってここを歩くのだろう。
大きく深呼吸。そして目を開く。
ゆっくりと、藤棚を抜ける。
暖かい、春の日差し。

お題は継続で良かったのかな?
次は「大空」「主役」「限界」で。
138「大空」「主役」「限界」:2005/04/06(水) 23:49:31
体の奥で眠っていた何かが突然、大きくなる心臓の音と共にボクに語りかける。
出発の時が来た、と。
ワイン色の光が、ボクの鼓動をうつす水面の波紋の縁を染めていく。
この色がやがてオレンジへ、そして輝く白い光へと変わる時。
いつもと同じ朝日、いつもと変わらぬ水辺の風景が急によそよそしく
風景画のように黙り込み、そしてまた何かがボクをせかす。
行け、めざす場所へ、と。
ボクはゆっくりと翼を広げる。
ここで生まれ、兄弟達と育ち、幾度となくこの地の大空を舞った翼は、
もう親たちと変わらぬ大きな力に漲っている。
首を高く上げボクの中の何かを皆に伝えるために叫ぶ。
旅立ちの時が来た!
翼は幾度か水面を叩きボクの体を宙へと押し上げる。
視界の隅で仲間達が同じように声をあげ、住み慣れた湖から飛び立つ。
上空で旋回を繰り返し、何かに教えられるまま美しいV字の隊列を組み、
力強い翼は風を切りボクの体を先頭へと運ぶ。両隣にはボクと同じ、
まだ見ぬ目的地への期待で目を輝かす今年生まれの仲間達。
きっと彼らも感じているのだろう。この旅の主役はボク達なのだ、と。
新しい地への出発。進路を円から、目指す方向へ直線へと変え、
眼下の故郷へと別れを告げる。そして年老いた仲間は水面から隊列に向けて
永遠の別れを惜しみ最後の声を掛ける。
ボクの中の何か、は旅立ちを告げ、彼らのそれは限界を告げたのだ。
さようなら、さようなら、それでもボクは行く。いつかその日が来るまで・・・。




139138:2005/04/06(水) 23:51:41
次は「競馬」「バックステージ」「時空」で。
140名無し物書き@推敲中?:2005/04/08(金) 18:11:08
「競馬」「バックステージ」「時空」


「だからさ、現実感がない感じは出てるんだけどさぁ〜、リアリティが足りないのよ」
「言ってることがさっぱりわかりません!」
監督と女優が口論している横で、オレは大慌てで予備の小道具を運んでいた。予算もない、
しっかりした脚本もない、優れたスタッフも役者もない。だから名作ができるわけもない。
気の進まぬ仕事とはいえ、放棄するわけにもいかない。夢だけでメシは食えないのだ。
「貫禄というか存在感というか、そういうリアリティが出てないんだよ、君の演技は!」
「時空を越えた女王にしては現実感ありすぎるってさっきは言ってたじゃないですか!」
ヘボ監督がヘボ女優に無い物ねだりでごねている間に、オレたちはちゃっちゃと仕事をこなす。
映画業界の人間、というと、お金持ちの社交界なんてものを想像する人が多いようだが、現実には
オレたちのような人間が大多数だ。スポットライトを浴びる日を夢見て、なんていうと恰好良すぎ。
わずかな需要に群がる、誇り高きバックステージの住人たち。日々腕を磨き、人脈を作り、まるで
競馬の大穴に全財産を突っ込んだような気持ちで、夢がかなう日を待つ。それがオレたちの世界だ。
「お前スターウォーズとかみたことないのかよ! 現実感とリアリティは違うの!」
「監督! 準備できましたよ!」
オレの声で、女優がさっさと準備に入り、監督のお説教も立ち消えになった。ビデオ棚の
穴うめにしか使えないような作品に、スターウォーズもクソもあるかよ。心の中で罵倒しながら、
オレは監督にお茶を差し出す。この世界、必要なのは愛想と人脈。夢じゃメシは食えないし。


次は「波」「竜(龍)」「竜巻」
141名無し物書き@推敲中?:2005/04/08(金) 18:20:48
「競馬」「バックステージ」「時空」

バックステージにネコが紛れ込んできた。

ライブが終わってメンバーが寛いでいる足元に、するり、と入ってきた。
「お?」俺が声を出すと、
「ニャ?」と小さく鳴いた。
「どっから入ってきやがったんだ」
ギタリストの黒木が言った。
「さあな。このホールに住み着いてるんじゃないのか。主みたいに」
オペラ座の怪人を観たばかりだった俺は、そう言った。
「ここのオーナーってワケか?」メンバーの誰かが言った。

それからは、皆で「お疲れさまです、オーナー」「チケットのノルマ下げてくださいオーナー」
などと言って遊んでいた。「明日のGT、何が来ますかね?オーナー」
黒木がそう言って競馬新聞を床に広げた。
ネコは首を少し傾げて、目の前に差し出された新聞じっと見つめた。
皆、思わず引き込まれるようにネコに注目した。
しばらく考えるような仕草をしたあとで、時空を越えてやってきた勇者のような力強さで
ネコは前足を一頭の馬の上に置いた。

翌日、真にうけて買った馬券はもちろんハズレた。

ちょっと遅かった……
お題は140さんのでお願いします。
142「波」「竜(龍)」「竜巻」:2005/04/09(土) 02:52:15
砂浜で老人が膝を抱えて呟いた。
「わしのなにが悪かったんじゃ・・・・・・」
波打ち際の泡が同じく呟いた。
「こんなはずじゃなかったのに・・・・・・」
通りがかりの少女が彼らの呟きを聞いておどけて言った。
「いーじゃん、太郎じいは竜宮城で乙姫といい思いしたんだしぃ、
人魚さんも彼が好きだったんだからしょーがないじゃん。自業自得じゃね?あはっ」
そう言い捨てると鼻歌を歌いながら去っていった。

「なんじゃ、あの生意気な小娘は!」
老人はしわしわの口をさらにひん曲げた。泡が答える。
「あー、太郎じぃ、東洋系だから知らないのね。あのガキ、竜巻に飛ばされて
魔法の国行って、カカシやら魔女やらダマくらかして帰ってきたっていう札つきの悪ガキよ」
「あんな小娘が無事戻ってきてるちゅーのに、わしはこのザマか・・・・・・」
「私だって誰よりきれいだったわ。今はこんな・・・・・・」
そしてまた彼らは繰り返す。
「わしのなにが悪かったんじゃ・・・・・・」
「こんなはずじゃなかったのに・・・・・・」

次は「牛」「沈む」「婿」で


143名無し物書き@推敲中?:2005/04/09(土) 09:43:29
「牛」「沈む」「婿」

いやまったく結構な暮しだ。草刈りにも飽きた若者は木の幹にもたれ
草をはむ牛を眺めるていた。

「とりたてて仕事もないという点では、のんびりしたものだが、する
こともないという点では退屈なかぎり。嗚呼、おれはなんだって此処
にいるのだろう」

若者は噛んでいた藁を、ペッと吐いた。手練手管の限りをつくし貞節
なる姫君を落としたつもりが、入り込んだ名家は、なんおことはない
沈む夕日ごとき没落貴族なのであった。ああ、騙したつもりが、騙さ
れた?草むらのむこうから姑様がやってくる。

「婿どの。娘にかわってお礼を申し上げます。よくぞ、あのじゃじゃ馬
をもらい受けて頂いた。こういうのもなんだが、心配していたです。な
にせ、あの故無き自惚れぶり。デブでソバカス、赤毛でチビ、…いや、
心根はやさしい娘なのですが」

若者は、少し力なく微笑んだ。

次は「こだま」「マスタード」「ドーナツ」
144名無し物書き@推敲中?:2005/04/09(土) 22:32:13
>>143
しりとりルール使ってくれてアリマモw
145「こだま」「マスタード」「ドーナツ」:2005/04/09(土) 22:37:01
私は、浜松駅6時17分発の こだま602号に乗車した。
通報によれば、指名手配中の犯人がこの列車に乗るとのことだった。
吉川宏明。彼には妻の殺人と死体遺棄容疑がかかっていた。

私は、左右の座席を見渡しながら吉川を探した。
四両目の自動ドアが開いた。
右側の最前列に、ハンバーガーをほおばる子供の姿が見えた。
3歳ぐらいだろう、まだ少し眠いらしい。目を擦っていた。
「ゆうくん、きたないよ」
若い男が、子供の口に付いた黄色いマスタードを丁寧に拭いていた。
どうやら父親らしい。それが吉川だった。
私は、用意していた手錠を握り締めた。

「ゆうくん、ドーナツも食べるかな」
ささやかな朝食。
私は、左側の窓際に座り、外の景色に視線を向けながら、
楽しそうな親子の会話に耳を傾けていた。
腕時計に視線を落とす。次の停車駅までは残り10分だった。

到着のアナウンスが車内に流れた。列車が速度を落とした。
私は、ゆっくり立ち上がると、親子の前に移動した。
「おいしそうだね。お父さんとお話ししてもいいかな。友達なんだ」
子供がまあるい目で、私を見上げた。
146名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 01:18:46
お題は?w
147名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 01:23:44
>前投稿にお題がないときはお題継続。
148名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 03:04:07
漏まいらクソなものばかり書くな
149名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 12:01:54
「こだま」「マスタード」「ドーナツ」

ねぇ、お母さん。ぼくはこのドーナツを食べたくない。
だって、ぼくがこのドーナツを食べちゃったら、
ドーナツの穴はなくなってしまうでしょう。

ねぇ、お母さん。怒鳴らないで。空想してみてよ。
太古の地球で一本の木が倒れるところを。
耳を持った生き物が一匹もいなくても、
倒れた木の音は地上に木霊するかなぁ。
ぼくはなんだか淋しくなちゃう。
聞く人のいない木霊なんか、
想像したくもないや。

このマスタードの粒々は星のよう
口の中にひろがって
ぼくはうっとりだ

次は「継続」「漏」「クソ」
150名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 12:31:35
「継続」「漏」「クソ」

くっそー。
漏れそう。
おれの悩みは
継続的便秘にある。


次は「掃除機」「機動戦士」「信号」
 ある昼休み、その晩に予定していた花見の買い出しに出かけた。
オフィスから、薄暗い狭い道を抜けて、広い並木通りに出る。
しばらく歩いて、交差点に差し掛かったとき、信号が赤になった。
 ぼんやりと向こうにそびえ立つ、ビルに張り付いた広告を眺めていた。
「一番上手い発泡酒!」
 発泡酒。桜を見ながら飲みたいなあ。喉をゴクリと鳴らす。すると目の前を何か
大きなものが走り抜けた。はっと気が付いて、左に去っていったものの後ろ姿を見る。
掃除機だ。ばかでかい掃除機が猛スピードで走っている。
 夢だと思った。が、ほっぺをつねると痛い。周りの人々は、全く気にならない様子で、
都会人らしく無表情だ。ぼくが田舎ものなのか。都会では普通なんだろうな。そう思った。
 しかし機動戦士がビルの合間を抜けて行ったのを見たときには、呆然とその光景を眺めるほかになかった。
「自転車」「社会の窓」「ドラム缶」
152名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 16:46:14
俺が自転車をこいでコンビニへ向かう途中、
ドラム缶のような体型の女に出会った。
「うぉぉぉ、超萌え萌え〜♪」
俺の社会の窓から猛り狂う暴れん坊将軍が顔を出して言った。
「これが若さか・・・・・・」

「彗星」「水棲」「水性」
153名無し物書き@推敲中?:2005/04/10(日) 16:52:15
「自転車」「社会の窓」「ドラム缶」

「で、どうだい、商売のほうは?」
と、Kがまずビールで喉を湿らせてから切り出した。いきなり核心だ。僕としては、
一番避けたかった話題だが、こうも真正面から来られては受けるしかない。
「いやあ、まあまあ、っていうか・・・」
「しかたないやな、まあ不景気なわけだし」
僕の言葉を遮って、上機嫌で慰めにかかるK。むっとしたが、特に何も言わない。
Kの推測は間違っていないどころか、的中も的中、ど真ん中に大的中だ。
「うちのほうもさ、自転車操業ってやつだよ。ホントに。・・・ちょっとトイレ」
と、言いたいことだけ言ってついと立つK。そういう様子がいちいち僕の癇に障る。
おそらくアイツは社会の窓全開で戻ってくる。いつもは笑って見過ごすそんな癖が、
今日はなぜか我慢できない大悪事のように思える。
一体、なんであんな奴が成功するんだろう、と僕は目の前のジョッキを空けながら
思った。世の中というものはわからない。ベンチャービジネスの魁といわれた僕は、
今や矢尽き刀折れ倒産寸前。学校では問題児で通り、ずっと遊んでいて突然実家の
家業を継いだあいつは、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの商売人だ。それも、よりに
よって、「ドラム缶風呂レンタル業」。ホント、世の中というものはわからない。


>>152さんのお題でどうぞ。
154K (彗星 水棲 水性):2005/04/11(月) 21:00:20
彗星は千年単位で太陽系を貫く軌道で回遊していた。それが3年後に地球をほとんど宇宙
的尺度でかすめるように通過するのだという。これはスーパーコンピューターを繋ぎ合せ
て計算された確率で、95%以上の数字ではじき出されたのだから、誰しもが受け入れな
ければならない運命だ。地上の大気は剥され、もしくはその一部までも大気圏外へはじき
出されるのだ。人々は混乱をした。そこで、これはとある作家が一つのフィクションとし
て考えたことだが、人に魚の遺伝子を組み込んで、水棲人間を作り、人類を生き残させる
のだという。本当にそう考える人がいるのだから、人間とは恐ろしい生物と考えざるを得
ない。でも、何ごとも成し遂げるのが人の力であり、我々が生存を拡大してきた故でもあ
る。終には水棲人間を創りあげた。おそらく彼らは、地上に残る人々に代わり、地球の支
配者となるのだろう。
ところで僕は、あまりにも人間的ではないのだろうか、何故か、この宇宙的終末を受け入
れるつもりだ。水棲人間になる決意をした妻と娘は反対したが、僕の頑なな態度に最後に
は彼女らが折れたのだ。
……海底。強化プラスチックによりドーム状に建設された水棲人間居住区。そこに一本
のガラス瓶が降ってきた。うすい緑色の瓶だった。一見すると小さな人間の女の子、だが、
首に切れ込みのように鰓をつけた水棲人間が、居住区からのライトで照らされた海底にゆ
っくり落ちてきた瓶を見つけ、受けとめた。彼女は太陽の光の届かない海面の方を見あげ
て、不思議そうに瓶の中を覗いた。中には一枚の手紙が入っていて、何かしらの文字が書
いてある。彼女にはその癖のある文字に見覚えがあった。彼女とお母さんを残して、地上
に残ったお父さんの字だったのだ。世の中には奇跡というものが確かにある。彼女にもそ
れが起こったのだ。もしかしたら、お父さんは生きているのかも。彼女は興奮して、急い
で瓶を開いた。でも手紙の文字は、どうしてか、水性ペンで書かれていたのだ。あっとい
う間に滲んでしまった。彼女は悲痛そうな顔をした。
でも奇跡が再び起こるのだ。滲んで紙から流れ出した水性のインクが、寄り集り、確かな
形を作り出して、そこの水中に新しいものを作り出したのだ。それは新たな、生きる力と
して、彼女に与えられるものとなるのかもしれない。
155名無し物書き@推敲中?:2005/04/11(月) 21:03:18
「水たまり」「月夜」「香水」
156名無し物書き@推敲中?:2005/04/11(月) 22:16:51
「水たまり」「月夜」「香水

気がつくと雨があがっていた。
夜空には、まばらになった雲が流れてる。
月がとてもきれい。
パシャッと水たまりが跳ねた。
さっきまでの水たまりは、もう消えてしまった。
だれも知らないわたしだけの水たまり。
木々がざわめいた。
風が吹きぬける月夜の晩。
かすかな香水の匂い。
わたしの知らない誰かの香り。
だれも知らないわたしだけの記憶。
わたしの記憶は、わたしのなかに。
あなたの記憶は、水たまりのなかに。
香り一緒に消えてしまった。
風の吹く月夜の晩。

「誕生」「千年」「おわりに」
157名無し物書き@推敲中?:2005/04/11(月) 22:48:34
「誕生」「千年」「おわりに」

ボクはロボット。壊れかけている。
今日の日付は、西暦2999年、12月31日。人類の歴史はなぜか
十進法で計られ、生きていれば特別な感慨をもって、彼らは今宵
を迎えたことであろう。
キリストという人物の生誕から(正確な記述ではない)カウントを
始めたという千年の終わり。結局、人類は三度目の世紀末を喜劇に
することは出来なかった。

現在ボクは超新星の誕生を執拗に観測しいる。
自分の意図が分からない。
ボクはロボット。壊れかけている。

「追跡者」「ひる寝」「糸電話」
158名無し物書き@推敲中?:2005/04/11(月) 22:51:46
「誕生」「千年」「おわりに」

青年は呆然と門の下に立っていた。職もなく金も尽きた。彼は追い詰められていた。
「お若いの」隣に立っていた老人が、彼の肩を叩いた。「腹は空いておらんかね?」
「いえ」と青年は答えた。嘘である。彼は我を折るよりは餓えを選ぶ男であった。
「気にすることはないよ、お若いの」と、老人は青年の目を覗き込んで言った。
「哀れんでの施しではない。食べ物が充分あるから、誘っておるだけのことでな」
青年はいぶかしむような目で老人を見た。その顔に、邪気のようなものはなかった。
彼は誕生してから二十数年の間に、人の善意の裏には悪意がある、と学んでいた。
しかし、老人の目は、彼が今まで見てきた人の世の汚れとまるで無縁に輝いていた。
「そうですか。では、お言葉に甘えまして」 二人は門の上階へと登っていった。
そこには、なにもなかった。鉄鍋と、燃えさしの炭があるだけで、食べ物が充分に
あるようには見えなかった。が、老人が手をかざすと、炭は赤々と燃えはじめ、鍋は
湧き水のように粥を底から生み出した。老人は、椀を出して、青年に粥をよそった。
「千年も生きれば、こういうこともできるようになる」
驚いている青年に、老人はこともなげに言った。 老人は、仙人だったのだ。
「そなたには、仙骨があるようじゃ。わしの弟子にならんかね、お若いの」
食事のおわりに、老人がそう切り出した。青年は、明日からの生活のことを思い、
少し逡巡したもののその申し出を断った。彼は我を折ることがなにより嫌いなのだ。
「はっはっはっ。そうじゃよお若いの。それでいいんじゃよ」 老人は笑った。
青年はその後、我を折らず努力して、大商人になったそうである。

お題は>>157さんのもので。
159猫ケ洞:2005/04/12(火) 01:00:12
「追跡者」「ひる寝」「糸電話」

「すみません、ちょっと、これ、持っててくれませんか」
僕はそう言って、女に紙コップを手渡した。
女は、通りすがりの男にいきなり紙コップを差し出されて「……?」
という顔をしたが、素直な性格らしく、「はあ……」と言って受け取った。

紙コップの底からは糸が伸びていて、僕の持っているもう一つに繋がっている。
糸電話であることはすぐに判るはずだ。案の定、
僕が後ろ歩きに糸の長さ分の距離をさがると、女は曖昧に笑いながらコップを耳にあてがった。
「もしもし、聞こえますか。どーぞ」僕は小声で言った。
「きこえますよ、どーぞ」女が言った。
「このあとヒマですか?どーぞ」「これはナンパですか?どーぞ」
「そうです。どーぞ」「手がこんでますね、どーぞ」「シャイなもので。どーぞ」……

街で糸電話をするのは楽しい。
(アホだ、こいつら)というまわりの視線も含めて楽しい。
女は次第に打ち解けて、一緒に昼飯に行くことになった。
「ゴハンのあと、ホテルでお昼寝などどうでしょう、どーぞ」「却下です。どーぞ」
女の楽しげな様子から、ほぼ、ホテルまでいけると踏んで、僕は追跡者に合図を送った。


「くそー、うまくやりやがるな」
糸電話ナンパの一部始終を見ていたタナカはつぶやいた。
「そんなもの上手くいくハズがない」と馬鹿にしていたタナカだったが、
こうなるといてもたってもいられなかった。

翌日、血走った目で通りを歩く女を物色するタナカであった。

「管理人」「骨折」「温泉旅行」
160gr ◆iicafiaxus :2005/04/12(火) 01:54:58
#「管理人」「骨折」「温泉旅行」 

卒業から一年も経つのに、あの子のことが忘れられない。
僕のクラスの学級委員だったあの子は、同じ都内の女子大に進んで、
だから僕ともいつだって会おうと思えば会えるのだけど、でもそんな機会は
この一年間、一度だってあったことがなくて。
いや、それなりにがんばってはいるんだ。なにかと理由をつけてメールして
みたり、それとか、友だちにも僕のこと話して、まだほんとに好きなんだ、
応援してくれよ、って言って、それでみんな僕のためにけっこう骨折って
くれてるんだけど。
でも、あの子のほうはまだ、同い年の男の子と遊ぼうとか、そういう気持ちは
ないみたいで。このまえも、あの子と今でも親しい子たちに、合コンって名目で
さそってみてもらったんだけど、そうしたら、、「合コン? パス、パス」とか、
簡単にあしらわれちゃったとかいう話で。
三年間ずっと待って、さらにもう一年待ったのに、まだ僕のことを、男の子と
思ってくれないっていうのは、ちょっと悲しいというか、うん、ちょっと、くやしい。

そんなわけなのだけど、実は今日は有志だけの同級会って名前で、近間の
温泉に泊まりに来ているのです。同級会とか言っても、結局いつもの仲間で
温泉旅行に来ましたよって感じなんだけど、でも、この名目が大事なんだ。
これなら、学級委員が来ないわけにいかないからね。
というか、温泉旅行、って言ったら聞こえがよすぎるかな。まあ、みんな
学生とか新入社員ばっかりだしね、この町で一番安い、合宿所みたいな
施設に来ているだけです。

愛想の悪い管理人がしかるから、夜は早々に宿舎に戻って、消灯。
「ちまっ」なんていう擬音の聞こえそうな広間に、「ぼろっ」なんて擬音の
聞こえそうなふとんを敷きつめて。しかも、みんな、しっかり気を使ってくれて、
いつのまにか僕のとなりにあの子が来るようになってる。

予定では、これから告白タイムになるはずで、あの子が自分の話をする前に、
僕がバクダン発言をすることになっているのだけど。――さて。
161gr ◆iicafiaxus :2005/04/12(火) 01:55:42
#↑長いし、継続で。
162名無し物書き@推敲中?:2005/04/13(水) 10:53:53
 僕が眠り続けてる間に、世間は随分様変わりしていたみたいだ。起き抜けで厚ぼった
い目を擦りながら窓を開けて外を見ると、空がたくさんのロケットで覆われている。
 外に出た。行きつけのネットカフェで、詳しく世情を掴もうと思ったのだけど、今は病院
に変わっていた。骨折の患者が入っていったと思ったら、出てきたら治っていた。人間の
平均寿命がどうなっているのか、知りたいところだ。
 仕方がないから、大きな街に行ってみた。実際、ネットなんかよりこの目で直接現在を
確かめるほうがよかったかもしれない。そう、思わされる程に、そこは僕の理解を超えて
いる場所だった。少なくとも、もうネットカフェを探す必要はないな。あのサイトの管理人
がどうなったのかは確かめたいのだけど。
  
 人間は、僕の寝ている間に、たかが温泉旅行の為に宇宙まで行ってしまう種族になって
しまった。何もかもが、変わっているように一見見えた。
 しかし、僕は思う。それは多分、一度に僕のキャパシティーを遥かに超える量の情報を叩
き込まれたゆえ、そう見えているだけなのだ、と。
 人は、本質的には何も変わっていない。そう、思う。

「会談」「自動車教習」「言葉」
163名無し物書き@推敲中?:2005/04/13(水) 11:19:31
もう一度。
#2「管理人」「骨折」「温泉旅行」

気のせいか、あの子の視線が僕に向いている気がする。快い緊張感。こっちだって、
だてに恋愛のハウツー本を勉強してきた訳じゃない。こういう時は思い切って、
理解不能の行動に出ることだ。僕は毛布を肩にかけ、それから
「ねぇ、屋根の上にのぼってみない」と話かけた。
彼女はキョトンとした。そうだろ。そうだろ。考え込め、考え込め。僕は返事を待た
ずに彼女を手を握り、屋根の上へとひっぱり上げた。家々の明りはすでにおち、見上
げれば満天の星空。いま僕らは同じ星を見ている。彼女の鼓動が、聞こえたような気
がした。「座ろうか」
毛布を広げ、あの子を座らせた。となりに腰を下ろしたとき、僕は勝利を確信した。
「ごめんね。もう少し、ゆっくりしたかったんだけど、もうキスしても、いいかな」
僕は勢いで彼女の唇を奪い、そのまま彼女の体を押し倒した。スカートの中に手を
入れ二人で、もぞもぞしてパンツを下ろす。す、凄いぞ。彼女も感じてる。もう、
我慢できない。僕のチンコの先が彼女の中に押し入ろうとした、まさにその時、
>>162が邪魔して、僕の左足の太ももが引き攣った。痛っ。イテテテテテテテテ。
僕はとび上がり、屋根の上で飛び回った。10分程も一人で跳ね回っただろうか。
彼女の冷めた視線が痛かった。部屋に下りると、みんながニヤニヤしていた。
何か激しい誤解を招いている気がしたが、彼女も僕も何も言えなかった。
翌朝、合宿所をあとにするとき管理人さんに、こっぴどく叱られた。
ああ、すべて良い思い出。
164名無し物書き@推敲中?:2005/04/14(木) 06:25:07
「会談」「自動車教習」「言葉」

 自動車教習所で知り合った友人と二人で、免許センターへ普通免許を取りに行った。
試験が終わり、電光掲示板の前で合格者の発表を待つ。合格なら自分の受験番号が眩く点灯するはずだ。まだ結果も出ていないうちから、俺は最初にドライブに行く場所をひたすら考えていた。
しばらくすると、掲示板に合格者の番号が表示されだした。瞬きもせずに自分の番号を探す。だがいくら探しても俺の番号は見当たらない。落ちたのだ。
「まあ、こういうのは言葉をわざと曖昧にして受験者が間違えるようにしてある引っ掛け問題ばかりだから。慣れてなきゃ難しいって」
一人だけ交付された免許を隠すように持ちながら、友人は気まずそうに苦笑した。

 次の日の朝、何もする気が起きず、ふてくされながらテレビを観ていると、たまたま俺の住んでいる街がニュースで報道されていた。なにやらダム建設について反対派の住民と市議会で会談が行われているらしい。市長が神妙な顔つきで、ダム建設についての意見を述べた。
「ダム建設の中止につきましては、前向きに検討する方向で考えることを約束することを検討いたします」

結局、ダムは建設され、俺は試験を三回も受け、やっと自動車を運転する資格を得ることができた。

友人が市長の息子だと知ったのはそれからしばらく先のことだった。

次は「掲示板」「予告」「逃亡」でよろしく
165名無し物書き@推敲中?:2005/04/14(木) 07:46:36
「掲示板」「予告」「逃亡」

車が横転し大きな文字が次々に迫まってくる。
巨大な唇が開き、飲むこもうとするから
こっちの心臓が飛び出しそうだ。
逃亡者はぼくだ。

暗がりに響く大音響に揺さぶられながら、
シートに沈みこみ、次の季節に封切られる予告編を見ていた。
ふぅ、楽しかった。ぼくは落ち着きを取り戻す。
完成された映画だけが予告されるのだ。
心配する必要はない。考えてみると、
映画の予告編のドキドキって不思議。
安心して待っていてね、っていう記号のようにも思える。
ぼくは、この考えを馴染の掲示板に投稿したい気持ちになった。
彼らはどんな反応を示すだろう、なんて思いながら歩いていたら、
車にはね飛ばされそうになった。バカっ!
道路を渡りながら、考えごとなんかするな。
こんなところで唐突な事故に出会ったら、
さようなら、挨拶もあったものじゃない。
バカ、バカ、自分。

「身長」「中庭」「ポケット」
166「身長」「中庭」「ポケット」 :2005/04/14(木) 15:54:41
 ポケットのコインを、手の感触だけで数える、一枚、二枚、三枚、すれ違った人と方をぶつける。
コインはポケットの中で弾けた。もう一度数え直しだ。一枚、二枚、三枚、四枚、全部五十円だから、
二百円だ。今日の昼食は、焼きそばパン一つだな。学校の中庭を歩きながら、コインをじゃらじゃらとならす。
 パン屋の車が校門近くに止まっている。そこに生徒達が群がっている。焼きそばパンはもう売り切れかも知れない。
人を掻き分けて、パンの並んだ台の前まで来た。少し形の悪い焼きそばパンが、端っこにあった。
まあ味は変わらない。手を伸ばすと同時に他の誰かも手を伸ばしてきた。お互いに躊躇して、手を止め、
顔を見合わせる。同じ身長、同じ制服、同じ顔。ドッペルゲンガーだと思ったが、
それは、双子の弟だった。
167名無し物書き@推敲中?:2005/04/14(木) 16:02:04
おだい
「トラック」「苦し紛れ」「練炭」
 夏子さんたちは来てくれるだろうか。俺は丸一日、いや二日がかりで準備を整えた。
 床屋にも行ったし、サウナにも行った。トラックの掃除も念入りにした。
 夏子さんは俺がいつも行く弁当屋に勤めている。夫に死に別れて、パートを掛け持ちしながら
女の子を育てている。寂しげな笑顔の夏子さんの31年の人生と、お袋の人生がだぶった。
親父が死んでから、パチンコ屋の掃除や食堂の洗い場、職にありつけるならなんでもやって俺を
育てくれた。俺に大型の免許を取らせるために夜間工事の交通整理をしていたときのお袋は、
泥でつくった人形のような顔で作り笑いをしていた。
 夏子さんの娘には喘息の気があるという。俺は匂いを取るためにラックの窓を全開にして、
備長炭の代わりに苦し紛れに用意した練炭をシートの下に敷き詰めた。
 強い日差しの中、夏子さん母娘が短い庇の中で寄り添うように立っているのが見えた。
 ハンドルを握る手が汗ばむ。
「娘がいいと言ってくれたら、一緒にあなたのお母さんご挨拶に行きたい」
 夏子さんにはお袋のような苦労はさせたくない。
 ふたりを乗せて走り出した途端、小さな咳がはじまった。俺は焦った。
「おにいちゃんも、ママのごはんがすきってほんと? だったら里香と仲良くできるね」
 小さくな手は、お袋が眠る墓地に着くまで俺の肘を掴んで離さなかった。
 小さくてもずしりと重い手だった。
169168:2005/04/15(金) 07:09:02
次のお題
「雨」「祭」「消火器」でお願いします。
170168:2005/04/15(金) 07:12:03
すみません。
八行目――「ラックの窓」→「トラックの窓」です。
171名無し物書き@推敲中?:2005/04/15(金) 07:52:24
密林に飛行機が墜落した。五人の乗客が奇跡的に命をとりとめた。
重症をおったのは一人。他の四人は軽傷で済んでいた。
「あそこに道らしきものがある」
五人の中で唯一の男が、重症の女性を背負いながら指差した。
五人が道に沿って歩いていると、黒人の村を見つけた。
村に入っていくが人っ子一人いない。
どうしようかと、五人が顔を見合わせたとき、物音がした。
五人は数十人の黒人に囲まれていた。その中の一人が弓を引く。
放たれた矢が運悪く一人の女性に命中し、彼女は死亡した。
「祭り、祭り、祭り」
語学が堪能な一人が黒人達の言葉を訳せた。
四人は後ろ手に木に結ばされ身動きが出来なくされた。
翌朝、重症を追っていた女性が死んでいた。
男は何とか縄を解こうともがいた、なんとか縄がとけたがチャンスを待った。
「見て」
午後になり雨が降り出した中、一人が村の中心、開けた場所を指差す。
そこでは先日、射殺された女性が解体されていた。
「あたしたちも、ああなるのかしら」
「わたしのポケットにライターがあるわ」
「よし、縄がほどけた」
男は二人の縄もほどくと、ライターで一つの家に火を放ち逃げた。
黒人たちは怖ろしい目敏さで逃亡を察知した。
三人はたちまち捕まった。いまや火は三つの家を燃やしていた。
黒人たちは三人をそれぞれ燃える家に放り込むと、弓で射はじめた。
三人は血を流し身を焼きながら踊り狂った。
人間消火器となり、三人の血が火をとめた。
黒人達はナイフで死体を切り刻むと、そのまま食べ始めた。

「鳥」「海」「火」
172名無し物書き@推敲中?:2005/04/15(金) 12:39:19
 煙草を「ふっ」と一息吐き、僕は意を決した。
 白い無駄に豪奢なジャガード織りの布を箱から剥ぎ取り、中の壷を取り出す。
 漁船は波に右左と煽られ、足元も覚束ないが壷を落とさぬよう胸元にきつく
抱きしめた。
 水平線ははるかに遠い。波頭は乱れている。
 唯一救いなのは、海面の荒さと違う雲一つない青空だということだ。
 君を抱きしめるのもこれでで最後だ。しかし名残は尽きぬ。
 改めて意を決し、僕は彼女を海に注いだ。

―― さよなら。

 彼女との思い出を胸に秘め悲しみに打ち勝つように仕事に打ち込んだ。
 あれから僕は仕事を変えた。
 地熱発電の会社に就職し、都会の環境から離れ山間部で人との接触を避けた。
 自然の緑と荒涼とした岩肌。時に眼下に現れる青くひっそり佇む湖沼。
 自然と深く関わることで自然の一部と化した彼女の傍に居られるような気がしていた。
 
 噴火口から一羽の鳥が羽ばたいた。
 錯覚なのだろうか紅蓮の羽根を持つ鳥を。

お題「イタリア」「工房」「女給」
 

173:2005/04/15(金) 15:35:13
イタリア 工房 女給

イタリアに来てから三年がたった頃には、私はもう会社を辞めていた。なぜあれ程までに
懇願していた海外勤務に見切りをつけたかと、その理由を言葉で説明することは難しい。
今となっては、私が個人的に辿った経過は霧の中に消え去ってしまったのだ。
私はこれを機に日本にでも帰ろうかとも思ったのであったが、帰ったとしても誰に合いた
いという訳でもなく、祖国を去った理由も漠然とはしているものの、あそこにも戻りたく
ない気持ちはまだ心の中でしっかりと位置を占めているのだ。私はイタリアに残った。
私はカフェで偶然知り合ったウェイターの紹介で、とある陶芸家の工房へ雇われる運びと
なった。その陶芸家は既に老年に差しかかっていて、もともと足の悪いことのあり身の回
りの世話をする女給を必要としていたのだった。イタリア生活も3年が経過して、日常会
話程度を難無くこなせた私は、毎日のように老人の世話をしながら、彼の話を聞き、また
私、彼の経験した、自身の生活信条についても、話し合った。彼は何ごとにも寛容で、自
身でも分析するように、陶芸家という職業柄、こうした外部との衝突を必要としなかった
為、そう思えることなのであろうというのであった。だから、私の我がままにも思える、
これまで辿ってきた私の人生の経緯についても、ただ耳をかたむけるだけであって、何ご
とも咎めることはなかった。
イタリアの食事の給仕も、もうなれたものだ。老人は長いテーブルの向う側に座って待っ
ている。テーブルは老人の若いころに、庭にあった樫の木を切り倒して手製で作ったもの
だそうだ。彼がそう言っていたのだ。
私は老人の、微かに俯いて、天上から吊るされた明かりで影をテーブルの上に落とす、そ
の前に茹でたばかりの湯気のあがるパスタの皿を置いた。
「どうぞ、めしあがって」
風が窓のガラスをうって、ガタガタとゆれている。そして老人は、
「ああ、おいしそうだね」こう、言った。夜の闇にも似た声で。
しかしその声が、他の誰にも聞こえるものではないものとなっていることを、彼女だけには、
まだいっさい知らされてなかった。

「ミツバチ」「くしゃみ」「血管」
174名無し物書き@推敲中?:2005/04/15(金) 16:44:01
「ミツバチ」「くしゃみ」「「血管」

ふいに目を覚ました。
苦しいような心持ちで、なんだかゼエゼエする。
おかしいなぁ、なにも悪いことしてないのに。

午後の診察室に入り、胸をはだけると、
冷たい聴診器を当てられ医者に言われた。
「ミツバチですな」と
「ミツバチですか」
「ミツバチです。血管に入ると危ないですよ」
「はぁ」
「なに心配はいりません」
先生はそう言うと綿棒を手に、私の鼻の中をくすぐり始めた。
「クシュン」くしゃみと同時に、ハチが飛び出てた。
「お大事に」


「衛星写真」「サボテン」「灯台」
 遠い過去、冒険自慢の男だったころ、私は数頭の駱駝を購入し砂漠を旅した。
 ある日、流砂の中道に迷ったおり、古い都市の跡らしき場所に偶然行き着くと、そこには
逆さになった灯台が船とともに埋まっていた。
 既に光を失って久しいそれよりもさらに私の目を引いたのは、一叢の輝き――どこか既視感の
ある城壁の残骸の陰の数えきれぬほどの金貨銀貨――だった。
幻覚ではなかろうかという思いをよそに、私の手は思わずポケットや皮袋にそれらをねじ込もうとした。
が、それを静かに見つめる目に気づき、私は体を硬くした。黒豹のようなしなやかな獣の群れが、
息をひそめてわたしを狙っているのだった。私は、灯台の鉄の梯子の部分に、一番若く、しかしかなり
消耗していたオスの駱駝を縛りつけ、他の駱駝に囲まれながら廃墟を立ち去った。
 その間、繋がれた駱駝は身じろぎもせず、その代わりに月と星と人工衛星が何度か瞬いた。
 翌日巡視艇にピックアップされて帰還した私は、衛星写真を元にその廃墟を探そうとしたが、
灯台も駱駝もすでに流砂にのまれ、遂に探すことはできなかった。
 黒豹の姿もそれ以来みかけはしなかった。
 あのとき西の巨大なサボテンの肩にあった真っ赤な月、その月に立つ私の横で妻がつぶやく。
「あなた、またつまらない旅行を考えてるの? あたしはもう地球はいや。もっときれいな星がいいわ」
176175:2005/04/16(土) 07:53:10
次のお題
「空き箱」「潜伏」「針」でお願いします。
177177−1:2005/04/16(土) 09:20:36
「これもらってもいい?」
十歳になる娘が、空き箱を嬉しそうに抱えていった。
「いいよ」
娘は足取り軽く自室へとかけていった。
「加奈はいつも空き箱をどうしているんだ?」
台所で昼食の後片付けをしている妻に尋ねた。
「さあ、そういえばまた目撃されたらしいわよ。イカダに乗った猫」
「お前も知らないのか」
猫よ猫がイカダに乗って河を下ってるらしいわ。妻の戯言に耳を塞ぎ考える。
何かといって空き箱が出ると、加奈はきまって頂戴とねだる。
だが、その空き箱の行方がまったく分からない。ゴミになっていない事は確かだ。
とくにこれといった予定もないたまの休日。
いい機会だから暫く除いていなかった娘の部屋へ言って聞いてみよう。
「入っていいかい?」
ドアをノックしたが返事が返ってこない。
「加奈?」
部屋に戻った姿を見たのだが。ノブに手を掛けると、鍵がかかっていない。
何かあったのだろうか。背筋が寒くなり、思わずドアを開けた。
室内に加奈の姿はない。取り留めのない不安が晴れた。ほっと胸を撫で下ろす。
だが加奈はどこへ行ったのだろう。部屋の中に空き箱はなかった。
窓からはいる風がカーテンを揺らしている。
ドアを閉めようとした時、なにか異質な音が聞えた。
178177−2:2005/04/16(土) 09:21:03
なんだろうと耳を澄ますと、それは猫の声だと分かった。うちにペットはいない。
きっと加奈が捨て猫を拾ってきて隠したのだろう。
野良猫がうちに忍び込んで潜伏している可能性もある。
鳴き声はベッドの下から聞えてくる。覗き込んだそこに、厚紙で出来た大きな一枚の板があった。
空き箱を分解して作ったと思われるそれには、生きた猫が針と糸で縫いつけられている。
ひっ、と思わず後ずさと、背中で「きゃっ」と叫び声があがった。
「気をつけてよ。パパ」
「あ、ああ」
生返事を返すと、加奈が不思議そうに言った。
「怒らないの?」
娘の胸には可愛らしい子猫が抱きかかえられていた。
「ねえ、この猫うちで飼ってもいい?」

次のお題。「華麗」「卵」「水道」
179華 ◆e9wiCcqafg :2005/04/16(土) 19:31:59
落としたスポンジを、拾い忘れた。
夕食の食器を洗っているときで、蛇口からはどうどうと水があふれ、左手にはフライパンを持ち。右手でもっていたスポンジを、落としたらしい。
私の頭のなかでは、白人の男性と、黒人の女性が、抜き差しの行為に華麗に勤しんでいる。
私は無意識にフランパンを手でこすった。泡だらけの手が、かつっとぶつかる。そこで初めて、自分がスポンジを落としたことに気付いた。
常に私の頭のなかでは、私以外が主人公の物語が流れている。
私は、泡だらけの手なのに、頭のなかの黒人は白い液を見えない中に放出した。
まるで意識と動作に卵の薄皮の壁があるような気分で、私はまだスポンジを拾えない。

『スプリンクラー』『着物』『蜷色』
180猫ケ洞:2005/04/17(日) 01:11:00
『スプリンクラー』『着物』『蜷色』

『ご休憩 3800円』のボタンを押して、下の隙間から出てきたカードキーを受け取った。
女の肩を押してエレベーターのほうへ向かう。

「素敵な着物ですね。お色目がすばらしい」
「蜷色、と申しますのよ、ホホホ」
そんな他人行儀な会話を交わしていたのは、つい数時間前だというのに
今ではこうしてホテルの部屋にいて、ケモノになろうとしている。
人間なんてそんなもんだ。もっとも、
「ちょっと、乱暴にしないでよ。この着物高いんだから」
「うっせーな、脱いだらただのババアじゃねーか」
などという色気のない話になってしまったところをみると、お互いの育ち悪いだけかもしれない。

裸になって、さあこれから……というときに、突然けたたましく警報機が鳴り響いた。
一呼吸遅れてスプリンクラーも作動する。
「シュワ、ワワワーーーー!」天井から勢いよく水が噴出した。

オレはずぶ濡れになりながらつぶやいた。
「お約束ってやつですね……」

お下品かつショボイ落ち……すんません。
お題は継続でお願いします。


181名無し物書き@推敲中?:2005/04/17(日) 01:30:30
 しん、と奇妙に静まった室内に、
 ぴた、ぴた、と音を立てて、スプリンクラーから滴った雫が水溜りに波紋を残す。
 火の禍が過ぎたことを思わせる、一面に焦げた跡が残る部屋。
 木のフローリングであった床は完全に灰となって、色彩が残る所といえば少し残った蜷色のカーテンくらい。
 それもどんよりと暗い青色で、気分はさらに暗く落ちる。
「……形あるものは、か」
 ぽつりと口から言葉が漏れた。
 しかし、気まぐれな放火で、生まれ育った生家が焼けてしまったのだ。そんな一言では心の整理はつかなかった。
「しっかし――」
 どうしようもないよなあ。これだけ焼けちゃったら。
 黒焦げの室内を改めて見回しながら、そう思う。

 ガシャン――

 突然の音に振向く。
 大きな衣装ケースだったものが崩れ落ちた音だった。
 母親の外いきのコート類が入っていたものだ。さらに寂しい気分になって、
 そういえば、と思って視線を泳がせると、黒い壁と床を保護色のようにして四角い形を保った、
 子供の頃、その趣に魅了され続けていた車箪笥。
 炭になった床を踏み割りながら近付いて、手が汚れるのも気にせずに表面を撫でると、炭のそれではない硬質の触感があった。
 希望を胸に、煤けた取っ手を見つけてひっぱると、鬱屈した心を晴らすかのような見事な紅葉柄の着物が目に映えた。 

 「レコード」「点眼薬」「アニメ」
182:2005/04/18(月) 19:19:21
レコード 点眼薬 アニメ

時代には時代の見えない思想があるように、我々人間はその時代を支配的におおう空気の
ようなものを無意識にでも感じていることもあるだろう。あえて例えるのなら、我々の共
通項として、時代を担うキーは共有する方舟と言ってもいいくらいであろうか。これは避
けがたいことなのだ。
それでも人間は、元来ないものねだりをする、我がまま極まりない欲望を内に抱く生き物
である。根本的に提供される時代的なオーダーがすべて質量的にも膨大な統一的支配性を
もっておしよせてくるのなら、我々人間の欲するところの、懐かしむと要約される以前の
存在、つまり、あったはずのものを、ないと感ずるところの欲求は強烈に人々に襲いかか
るはずなのだ。
いまや、アニメといえば、セルからおこされるものはほとんどない。さて、ここに時代の
要求が存在を現すのだ。あの昔懐かしのアナログ的な映像を見たいというわけだ。そこで
我が事業部では、時代の流れにもそい、かつ時代の要求を充たす点で、これほどすぐれて
即効性を持つ薬はないであろう点眼薬を開発したのである。つまり、これを眼球におとす
や否や、すべて視覚がアナログ的な像とかし、皆々様が欲するところの要求を充たすので
あるのだ。それどころか、発明が失敗などの二次的なものから生まれることが少なからず
あるように、この薬には副次的な作用として、目から浸透した薬効が耳にまでアナログ的
な感慨を及ぼすというのだから大した代物なのである。現に大多数の治験者、アニメやレ
コードのマニアは視聴覚を駆使して、たいへん満足をするくらいアナログの世界に浸れた
というのだ。さらにある地下マニアの中では、この薬をもって、デジタル的にモザイク処
理された画像効果を視覚的に解消できるらしいと、流言までとびだす始末だ。でもこれを
流言といったはいった私であるが、その私もためしたところによると、確かにいくらかで
もモザイク効果が薄れたと感ずる感はあったのだ。
時代に要求されたこの偉大な薬は、こうして時代を席巻した。
こうして我々の時代はやがて、すべておなじ方舟にのった、めしいとなったのであった。
どうですみなさん、目が悪いと、モザイクをとおしてあれが見えた気になったことってあ
りませんか。

「教育」「戦争」「罪悪感」
183名無し物書き@推敲中?:2005/04/18(月) 21:00:49
「教育」「戦争」「罪悪感」

罪悪感というのは少し違うのかもしれない。
口を開き「それは違う」と言おうとするたび、ぼくの咽に突き刺さる骨のようなものがある。
もう何を言っても無駄だ、と。予め未来を先取りするかのような徒労感がこの足を捕らえ、す
べての可能性が閉ざされていくように感じるとき。

きょう近所のレストランに行き出されたコップに口紅の見つけ、ぼくはごく穏やかにそのコッ
プの交換をウエートレスに頼んだ。彼女は少し嫌な顔をしてそのコップを下げたが、なかなか
戻ってこなかった。なんとか彼女を呼び止め、あらためてメニューを開き注文を終えたときは、
一仕事を終えた人のようにぼくは疲れはてている。割りと早く美味しそうなトマトソースのパ
スタがテーブルに運ばれてくる。
ぼくはたいした意味もない微笑みを浮かべ、無表情なウエートレスが去っていくのを見送る。
さて元気を取り戻そうと皿の上に景気よく粉チーズの容器を振ったとき、滑稽にもそれがほと
んど空であったことをぼくは知る。気が遠くなりそうなのを堪えぼくは立ちあがり厨房の前の
ドアまで足を運び、丁度出てきたウエートレスにこう伝える。申し訳ありません、この容器は
空ですので変わりの粉チーズを用意してもらえますか、と。なぜかウエートレスは露骨に嫌な
顔になり、ぼくが無表情になる番だった。風が吹き我らの間にひろがっていく冷たい戦争が目
に見えるようだった。
テーブルに戻ると。自分はお客であって彼女の教育係ではないと考えながら、黙々とパスタを
口に運ぶぼくがいた。そうやってパスタを平らげコップの冷水を胃に流しこんだとき、親愛な
るウエートレス殿が粉チーズを持ってくる。ぼくは何も言わず伝票をつかみ席を立った。
勘定をすませるとき。カウンターの端にアンケート箱という物を見つけた。何か気づいたこと
や、苦情があったら紙に書いてその箱に入れてください、と箱には書かれていた。そうやって
店はお客様へのサービスを向上させていきます、とも。結構ことだとぼくは思った。この店を
愛し、より居心地の良い場所に変えていきたい人はアンケートに答えればいい。

「楓」「バケツ」「ネクタイ」
184名無し物書き@推敲中?:2005/04/19(火) 11:00:03
「楓」「バケツ」「ネクタイ」

春の足音が遠くから聞こえ始めたころ。
森も徐々にざわめき始め。凍てついていた樹液が開放されるように流れ始める。根に
蓄えられた澱粉が糖へ変えられ新芽が準備されようとしているのだ。バケツを手にさ
げた私が昔ながらの方法で、楓の幹にあけらた穴から樹液を集めていく。その琥珀の
液体をさらに大鍋で煮詰め濃縮させていくのだが、1リットルのシロップを作るのに
約40リットルの樹液が必要だ。踊れ春の女神。西風は近い。
フローラの口からは、なぜだかビオラが溢れだしている。お前の軽やか衣が揺れてい
る間だけは、すべて過ちは許される約束だ。
昨日のシュガーハウスでは少し陽気すぎる私が仲買人と逢引中だ。小屋の暗がりに夢
中になりすぎ、ネクタイの彼を絞め殺ろしかけている。

「タマネギ」「チケット」「階段」

妻が台所でタマネギを切り刻む音が、私の耳に届いた。
今晩の食事は、カレーに決定していた。
献立が変わることはない。肉もニンジンも、ましてやジャガイモすら
入っていない、タマネギとカレールーだけのカレー。
そう、年にニ、三度作られるタマネギだけのカレーは、妻の私に対する
あてつけなのだ。

私は、包丁が俎板に届く音、妻のしゃくり上げる声を聞きながら、机の
上に置かれた、二枚のチケットを眺めていた。
海外公演を行なっている、さる管弦楽団のコンサートチケット。
今日から三日後の、その公演日は、私のスケジュール表にも
書き込まれていた。
しかし、つい先程、会社からの連絡によって、「コンサート鑑賞」というメモに
一本の打ち消し線を入れなければならなくなった。
妻は、まだ泣いている。
それもそうだ、これを楽しみに、いろんなことを我慢してきたのだから。
長い階段を苦難に負けず駆け上り、あと一歩という所で、よりにもよって
連れ添っていた夫から、それ以上行かないでくれ、と言われたような
ものなのだから。

出来上がったカレーは、タマネギの味しかしなかった。

妻が浴びるシャワーの音を確かめた後、私は携帯を取り出し、メールを作成する。
「上手く行った。三日後を楽しみにね」
返信は、すぐに来た。
「やったね(^.^) さっすが課長〜♪」


「ミネラルウォーター」「昼休み」「宅急便」
186 ◆SENA/Fa.xI :2005/04/19(火) 18:53:33
「ミネラルウォーター」「昼休み」「宅急便」

 今朝、宅急便で届いたばかりの外国産ミネラルウォーターを飲みながら、私は電話の呼び出し音を聞いていた。
「もしも」
 またあの女の声。うんざりして、さえぎるように切った。
 からっぽになったペットボトルをぐちゃっと潰して、キッチンに向かう。冷蔵庫のなかにはそのミネラルウォーターしか入っていなかった。
 私は新しい一本を取り出して、時計を振り返った。もうすぐ昼休みだ。もう一度かけてみよう。
 携帯を見つめながら、あの女が出ないことを祈った。イタズラ電話扱いなんて、たまらないもの。
 彼の好きだった外国産ミネラルウォーターを飲みながら、私は電話の呼び出し音を聞いていた。


次は「屋上」「後輩」「空き缶」でどうぞ(・ω・`)
187「こだま」「マスタード」「ドーナツ」:2005/04/19(火) 22:18:49
鉄柵を両手で持ちながら
屋上から見る夜景はなんて綺麗なんでしょうと
自称23才の彼女が微笑みながら呟いていたのだけれど
俺にとってはどうでもいいことだったので
棒読みのセリフを読むようにああそうだね綺麗だねと相鎚を返してみた。

てっきり怒るかなと思ったけれど彼女にとってはそうでもないらしく
柵から身を乗り出すようにして夜景を見続けていたので
なんだか俺の性格を見透かされたような気がして腹が立った。

俺は背後から飲み干したコーラの空き缶を頭すれすれにポイっと投げてやったが
彼女は平気な顔で夜景を見続けていたのでさらにカチンときたのだけれど
その背中を見ているうちにそういえば妊娠3ヶ月だと言っていたのを思い出した。

俺はさっそく計算してみた。

ちょっと背中を押すだけで
彼女がすぐ転落してしまいそうなほどに柵から身を乗り出しているという状況
もう夜も更けてきていて辺りには目撃者となりそうな人が見当たらないという環境
水商売あがりの彼女との関係を後輩に気付かれそうだという危機感
俺には妻も子供もいるという現実

俺は両手に唾を吐くと、一世一代の大勝負に出た。
188名無し物書き@推敲中?:2005/04/19(火) 22:20:16
↑ごめんなさい、テーマは 「屋上」「後輩」「空き缶」ですので、すいません。

次のテーマも続行でどうぞ
「屋上」「後輩」「空き缶」です
189*「屋上」「後輩」「空き缶」*:2005/04/20(水) 09:08:51
「んなもの、何に使うんだよ」――近所に住む後輩の野口が脚立か梯子を貸してくれという。
「じいちゃんが屋上に上ったまま降りてこん」
 人口が三千に満たないこの山間の村は、みかん畑を見下ろすように家々が点在し、近所といっても
野口の家とうちとでは歩いて五分もかかる。
「屋上って、ああ、あの二階の物干し台のことか?」
 頑固で有名な野口のじいさんは、自分でコツコツ作ったという、家の物干し台を"屋上"と呼んでいた。
 俺は築五十年近い野口の家を思い浮かべながら、家にひとつだけあった脚立を持って野口の家に向かった。
 屋上のじいさんは、畑とその向こうの海に向かって体育座りをし、「――がくる」と何かぶつぶつ繰り返している。
「この脚立、広げたら一本の梯子状になるやつじゃないんか?」
 身の丈ほどあるアルミ合金の脚立をいじりながら野口がいった。一番上に上って立てばなんとか屋上には手が届くはずだ。
「家を壊すのはわしが死んでからでええ」――空き缶に、たったひとつしかない家の鍵を入れてカラカラ揺すっているじいさん。
「父ちゃんたちが帰ってきたら、おいらがかならず説得するけん、家ん中に入れてよ。それより、危ないから早よ降りて」
 生温かくて強い風がボロ家を煽りはじめる。半分ほど収穫が終わったみかん畑の小道にトラックが見えた。
「俺も約束する。この家はじいさんのものだ。俺からも野口の父ちゃんに頼むから心配せんでいいよ、じいさん」
 トラックが家の前に着くと同時に、じいさんはみかん畑に向かって空き缶を放り投げた。長い長い放物線だった。
190189:2005/04/20(水) 09:13:14
次は
「底」「鼓膜」「訓練」でお願いします。
191「底」「鼓膜」「訓練」:2005/04/20(水) 13:04:54
 男は、光の無い絶望の縁に立たされていた。

 見るもの全てが灰色に、聞こえるもの全てが不協和音に、そして周囲の
人々の視線が、ねっとりとまとわりついてくるように思えてならなかった。
 路傍の石はそびえ立つ絶壁であり、電車の踏切の警鐘は地獄の底からの
悲鳴であり、ましてや自身の名前を呼ばれることなど、その一字一句が
侮辱と軽蔑の唱和となって、懊悩と悔悟の連鎖に、男を引きずり込むのだった。

 アルバイト先の休憩室で鼻をほじっているのを、同僚に見られてしまった。
それも、よりによって店内で一番好みのタイプであった娘に、正面から
しかと見られてしまった。
 扉を開けたまま固まった彼女が、困ったような顔をして、しかし掻き
消えるような声で謝罪して、取るものだけとって急ぎ足で出て行くまでの
物音と、爆発寸前の心臓が、金床をぶったたくような音を、鼻に指を刺した
まま固まった男の鼓膜は、至極冷静に捉えていた。

『融和と訓練と指示の行き届いた職場にあって、仕事の出来る先輩』
 これまで築き上げてきた、職場に於ける自身のイメージが、粉微塵に
砕けた瞬間でもあった。
 男はこのような逆境に脆く、またそれを誤魔化すほどの機転も
備えてはいなかった。

 そして今日、男は娘から一方的に、綽名をつけられてしまった。
『第二関節さん』
 あまりにもあまりな綽名だと思ったが、誰にも言っていないようだったので
娘に感謝すると、彼女は優しく微笑むのだった、それも頬を朱に染めて。

 男は、柔らかな光を帯びた誰かに、手を差し伸べられたような錯覚を覚えた。


「聖人」「神」「犯罪」
192「聖人」「神」「犯罪」 :2005/04/20(水) 16:49:05
191は面白い。やっぱ表現と構成はいるのかも知れない。
表現というよりも語彙だろうと思う。
とにかく上手い。

聖人の犯罪を神は許した。
193猫ケ洞:2005/04/20(水) 20:42:59
>192 え〜

聖人の犯罪を神は許した。
少女レイプの変態牧師は地獄に落ちることなく
普通の刑務所に収監された。
そして毎夜ホモ老け専に犯されるのであった。
194名無し物書き@推敲中?:2005/04/20(水) 22:04:45
「聖人」「神」「犯罪」

「まてぃ。まだ、勝負はついていない」聖人という異名をもつ棋士が叫び、駒音も高
く勝負手を盤上に叩きつけた。その気合いに押されたように対座していたディープ・
スカイ2012の頭部がのけぞり、局面までもがゆらいで見えた。
「次の一手で、おれは神の領域を越える。さぁ、指せ。ディープ・スカイ」

ディープ・スカイは身長1メートル70センチ。B95-W57-H85のスパーモデルめいた
ロボットだった。しかしその銀色に胸にかかったタスキの「今度こそプロに勝つぞ。
激指」の文字も虚しく見え始めていた。
A級プロ棋士聖人の勝負師として勘は鋭かった。序盤は微妙に定石を外し、手が拡がる
中盤に勝負手を連発してきたのだ。人工知能への負荷を高める作戦である。
外観のスタイルにこだわって空冷式にしたツケが、ここにきて致命的な結果を招きそう
だった。ディープ・スカイの頭脳が過熱しめ、身体の動作までが目に見えて緩慢になっ
てきた。このまま秒読みに入れば、必負の展開だ。将棋プログラム四の六ガマ研究会チ
ームは天を仰いだ。そのとき、ディープ・スカイが予想外のアクションをおこした。
なんと!
その美脚を優雅に崩し、ダイナマイト・ナイスボディを傾けたのである。びこびこに色
っぽい雰囲気が対局室を支配し、聖人もまたそれに目を奪われた。彼は細い勝ち筋を見
失い、次善の手を指した。それが敗着になった。2歩を指したのある。プロにあるまじ
き犯罪的大チョンボ。
立会人に指摘され思わずうなだれる聖人。大歓声の中、ディープ・スカイもその銀色の
身体を永遠に停止させた。

次は「手錠」「くじら」「けむり」
195「手錠」「くじら」「けむり」:2005/04/21(木) 07:39:51
早朝、一本の柱が目を引く、粗末なイカダが漂流していた。
「今日はやけに視界が悪いな」
柱に手錠で拘束された男が呟いた。
男は罪人で島流しの刑に処されていた。
周囲では、みずけむりがたちこめている。
霧雨のようなものも降っており、濡れた身体が芯まで冷えた。
男は一週間前に見つけた、細い流木を足で掴み漕ぎ出す。
何とか方向を定め、陸に辿りつくというのが男の野望だった。
そんな時、不思議な声が聞えてきた。
「お前は何をしているのだ?」
男は野望を語った。
「無理だな。ここは巨大な渦巻きの中心。粗末な力で脱する事は不可能だろう」
力を貸してくださいませんか。男は不思議な声に頼み込んだ。
「よろしい。運がよければ、助かるだろう」
翌日、仕留めたクジラから人が出てきたと話題になった。

次は「悪魔」「義足」「月」
196「悪魔」「義足」「月」:2005/04/21(木) 10:23:43

目の前で父さんを惨殺した男は、ピストルをわたしの頭に向けて言った。
「月夜に悪魔とダンスをした事があるかい?」わたしは男から目を離せなかった。
「意味はない。ただ、その音が好きなんだ」
唐突なサイレンが凍った大気を震わせ、わたしは外灯に照らされた通りの向こう
を見た。パトカーが近づいてくる。男は舌をうちして、車に乗り込んだ。不自由
な右足を引きずりながら。

なぜ、それを告げなかったのだろう。明らかに男は義足だった。わたしがそのこ
とを警察に証言していれば、犯人が逮捕されていた可能性も高かったのはないか。
「月夜に悪魔とダンスをした事があるかい?」
ひひひひひ。バットマンに出てくるジャックニコルソンの台詞だ。私の悪魔は頭
も不自由だったに違いない。きひひひひひ。
 
 
もう一度、「悪魔」「義足」「月」で
197猫ケ洞:2005/04/21(木) 21:29:30
「悪魔」「義足」「月」

「お父様は月になって、遠い空の上からあなたのことを見守っているのよ」
母の口ぐせだったその言葉を信じなくなったのは、満月の夜のバッドラックが続いたからだ。

ゲーセンで初めて補導された夜にはじまって、女に刺された夜、
車上荒らしでパクられた夜。そして、この足をなくすことになった夜……

まあ、いいさ。おれはそう呟いた。
ジンクスも今日で終わりだ。
爆弾を仕込んだ義足を装着して、おれは、おれの右足を奪ったあの悪魔の家に向かった。
空には満月が輝いていた。

「電気」「中毒」「医者」
198:2005/04/22(金) 21:13:49
電気 中毒 医者

僕は離婚した日の朝、雷に打たれた。その日以来、重度のアルコオル依存症になったこと
を、僕を知る誰もが疑った。なぜなら僕は、生来の下戸であり、それまで何かしらの酒の
席で、ほんのひとつ口唇をアルコオルでぬらしただけでも、身体に戦慄を走らせるように、
赤みをおびさし意識を朦朧と、中毒状態に陥るほどであったからだ。なのに今の僕は一升
のアルコオルを一日の割合で飲まなければ寝つけないほどに、過度に酩酊を必要としてい
る。意識を麻痺させねば、恐ろしくて目を閉じられやしないのだ。
「でも、僕には納得がいきません。雷が依存症の原因であるなんて」
医者はむっとした表情になった。
「まだ君は離婚のショックで依存症になったといいはるのかね」
「いや…別に」僕は、いくら医者がその専門性において僕の知識を凌ぐといえども、僕自身
の感覚で、とうてい雷が原因であるとは思えなかった。医者はそんな僕を見て、こう説明
をした。
人間とは脳そのものである。脳に支配され、そのようにあるものが人間である。脳はさら
に人間を支配する為に、伝達される信号を電気によって体じゅうに伝えるのだ。ここに人
間の本質がある。何ごとにも原因があり、結果が生じるのだ。故に、原因が僕の憶測した
とおりの離婚とは違い、雷であって、結果が今僕の直面している現状であると。人間は生
身の体といいつつ、実は機械と同じ、その点において変わりはしないというのだ。
「医者と患者の関係は信頼において成り立つとは思わんかね」
「はあ」
「じゃ、そこに横になって、治療するから」
医者は硬い革ばりのベッドに横たわった僕の頭に電極をつけ始めた。
そして僕は夢を見た。妻との幸せの日々の印象が、曖昧な中にも、脳裏に映像として浮か
び上がったのだ。そして、医者の言うとおり、僕のアルコオル依存症は完治した。
でも、僕にはもう一つの依存症が残され、代償はさらに増したわけで、医者にそうは言えな
い僕を、そう思う僕がいるだけになっただけだった。

「頭痛」「野良犬」「石段」
199名無し物書き@推敲中?:2005/04/22(金) 22:28:14
「頭痛」「野良犬」「石段」

投石がまた窓ガラスを割る。
愛国を吠える群衆にこの建物は取り囲まれている。石段の上に陣取り、野良犬のようにニヤ
ついた警官達は、いったい何を考えているのだろう。稲妻のような痛みが走る。目をつむり、
こめかみを押さえたぼくは世界から切り離され、孤独な闇の中に閉じこめられたような気分。
たぶん、この痛みには何の意味はないだろうと思う。深いタメ息をついたとき、隣にいた課
長がつぶやいた。
「この頭痛かなわんわ。考えてもしゃーない。外そう」
そう言うなり課長は、すぽっと頭をとり外しテーブルの上に置いた。よい考えだな、とぼく
も思い、課長を真似てみることにした。すぽっ。とぼくの頭も外れた。やってみると意外に
簡単なことだった。慎重な手つきで、自分の頭をテーブルの上に置く。新鮮な視界。目の前
に課長の顔があった。
「ところで課長。頭を外しても痛みを感じる脳にぼくの自我はあるので、この行為は頭痛に
ついて何の解決にもなっていないのではないしょうか。現にいまも頭いたし」
課長の顔が笑った。
「そうやなぁ。まったくや。いちだんと頭痛、激しくなったような気もするなぁ」

「ガレージ」 「ハサミ」「吸血鬼」
ちょっと改装すれば住み心地最高でさぁ…
なるほど家の中には大きな問題がない。綺麗なもんだ。
中々気分が良かったが、家と繋がったガレージを覗いた時ぞっとした。
崩壊寸前の屋根に、あちらこちらに蜘蛛の巣がはりゴミが山になっている。
片付けは明日にして、疲れたので今日は寝ることにした。
ところが、夜になるとガレージから物音が聞えて眠れない。
この家で初めての夜だというのに幸先が悪い。
おれは懐中電灯を持ってガレージに忍び込んだ。
粉塵が舞い上がり、電灯の光に照らし出されるのはガラクタばかり。
鼠かと思っていたが、そうではなかった。光を上に向けると、
異様に濃く太い蜘蛛の巣に、一匹の蝙蝠が囚われていた。
驚くことに、蝙蝠がもがくたびにガレージの天井が傾くいき、今にも倒壊しそうだ。
不味いと思ったおれは逃げようとしたが、どうにも蝙蝠が気になり助ける事にした。
そばに落ちていたハサミを使うが切れ味が悪く、思いのほか手間取った。
おれが逃げる前に天井が落ちてきて、ガラクタの山に埋まった。
翌日、好奇心旺盛な隣人のお陰で、おれは倒壊したガレージから救出された。
「運が悪かったわね。右足に大きなガラス片が…。救急車を呼んだから、間に合うといいけど」
「蝙蝠を助けたんだよ」
「新しい隣人は動物好きで優しいのね」
隣人はおれに同情してくれたのだろう。腰をかがめて頬に軽くキスをしてくれた。
「そんなんじゃない。おれは吸血鬼だからさ、仲間を助けるのは当然だろ」

「雨」「現金」「人魚」
201「雨」「現金」「人魚」 :2005/04/23(土) 22:47:11
近所の公園に小さな池があった。
少年時代、仲間と遊んだその池で、僕は人魚を見た。
夏の終わりだっただろうか、突然雨が降り出した日だった。
悲しい目をしていた。
ノブに伝えた内容は、放課後にはクラス全員に広まっていて、僕は笑いものになった。
僕は後悔したけれど、夏から秋に季節が変わる中で、
笑われたことも、人魚のことも、すっかり忘れてしまっていた。

「じゃ、安全第一でよろしく」
私は、現金商売の小さな土木会社を親から引き継いでいた。
ヘルメットを被る私の合図で、数台の黄色いショベルカーが土を掘り返し始める。
ショベルカーの向こうには、十数年を経た、あの懐かしい池が見えた。
「社長、池の水抜きはじめます」
私は、胸を掻き毟られるような感覚に襲われたが、冷静に指示を出していた。
「吸水ホースは必ず二人で支えるように」
――もしかするとあの人魚は、こうなることを知っていたのかもしれない。だから。

「社長、大変です」
遠くの池から声が聞こえた、吸水ホースを支えていた作業者が手を振っていた。
私は走った。私の少年時代を確かめるために。
202名無し物書き@推敲中?:2005/04/23(土) 22:50:18
お題は継続してください
203名無し物書き@推敲中?:2005/04/24(日) 00:23:04
「雨」「現金」「人魚」

 雨上がりの商店街にはいつも金魚屋が来る。
 水たまりの残る路地に桶を三つばかり並べ、じいさんが一人座っている。
「わしゃ金が好きじゃあ。金が好きじゃから金魚を売るんじゃあ。おいボウズ買ってけぇ」
 それを遠くからながめているのが、好きだった。

 ある雨上がりの夕方、黒くて背の高い男がじいさんに札束を渡した。じいさんが男の手からひったくるように
受け取っていたから札束に違いない。男は足元から小さな桶を拾い上げると、どこかへ行った。

「金じゃ金じゃあ。現金じゃあ。本物の金じゃあ」
 あまりにも不思議そうに見ていたからだろう、じいさんは目も合わさずにこう言った。
「人魚じゃ。あれは人魚の卵じゃ。金魚に恋した馬鹿な娘が生んだんじゃ」

 じいさんは日が暮れても、札束を数え続けた。
 わたしもずっと、そこにいた。



 お題継続してください。
「雨」「現金」「人魚」
204名無し物書き@推敲中?:2005/04/24(日) 02:16:55
「雨」「現金」「人魚」

「ちょっと、お兄さん」
深夜の黒い雨の音が響く薄汚い高架下を歩いていると、俺は露店のばあさんに声を掛けられた。
「あんた、この人魚を買って行く気ないかい?」
俺は、その声を無視して通り過ぎようとしていた。けれど、しゃがれ声で聞き取りにくいが、人魚と聞こえたような気がする。
「人魚?」
「そうだよ。安くしておくよ」
俺は露店のゴザに置いてある金魚鉢を持ち上げ、食い入るように凝視した。しかし、金魚鉢には人魚どころか魚一匹すら入っていない。
ただ、生臭い匂いのする濁った水が揺らめいているだけだ。
「何もいないじゃないか」
「人魚は人間と同じ大きさだと思っているのかもしれないけどねぇ。本当はよーく見ないと分からないくらい小さいんだよ」
現金な事を言うばあさんだと思ったが、何故か俺はそれを購入する事にした。

あれから俺は、金魚鉢に見えない人魚を飼っている。
生臭い匂いは日に日に強くなり、濁った水はただ揺らめくだけだ。
だけど、この部屋に俺以外の人の気配を感じるのは、きっと気のせいではない。
そう、俺は、誰かに見られている。
じっと、ずっと。


いいお題継続してください。
「雨」「現金」「人魚」
205名無し物書き@推敲中?:2005/04/24(日) 14:45:39
「雨」「現金」「人魚」

お母さま聞いてくださる?今日あの人ったらわたしたちのことを『空想、妄想、幻想』だの言うの。
なんだかわたしたち存在してちゃいけないみたい。それなのにあの人ずうっと待ってるの。バカみたいね。
この前の雨の日はけっさくよ。わたしが顔を出すとすっと傘をさしだすの。もうおかしくて。おもわず
あなたがこっちにくれば傘はいらないのよ、って言ってあげたくなっちゃった。
 そうそう、あの人けっこういやらしいの。わたしの胸をちらちら見て『やはり隠さなきゃアいかん』って。
だからからかうの。こう髪を垂らしたり、貝がらで隠したり、海藻を巻いたり。あの人ったらもう真っ赤になって。
そんな遊びをしてたらあの人お金を差し出したの。『これで何か買いたまえ』って。大真面目な顔でね。
『陸にはきれいな洋服があるぞ。・・・・・・いや君の場合水着か』とかぶつぶつ言うもんだからわたし
現金はいらないわ、現金をもらっても人魚は困るもの。くれるなら金とか銀とかサファイアとかちょうだい。
むかしの人はそうしてたわ。ときっぱり言っちゃった。『現実的な幻想だなア』ってため息ついて帰っちゃった。
 ねぇお母さま。あの人も絵本にするのかしら。きれいに描いてくれるかなあ。


「ランプ」「原子力」「畳」
206名無し物書き@推敲中?:2005/04/24(日) 20:26:09
「ランプ」「原子力」「畳」

四畳半襖の裏張りをランプに透かして見ると
原子力潜水艦の設計図が浮かんでみえた。





          ∧_∧
         .( .・з・)
   ( (   .⊂  ⊃
          ∪∪ 

「ランプ」「原子力」「畳」
207名無し物書き@推敲中?:2005/04/24(日) 22:41:59
「ランプ」「原子力」「畳」

 ランプの灯りに人工物が浮かび上がる。
「こいつぁ驚いた。ホントにありやがった・・・・・・おい、深度はわかるか」
「約500m。突入口からの距離は4649mです! 」
「・・・・・・! なんだこの床は! 植物性の材質!? 」
驚くべきことにこの異形の建築物は床だけではなく壁、柱までもが植物でできているのだ。
「古文書の通り、か」
「年代測定いきま・・・」
「いや、いい。これは間違いなく古代ニホンビトがタタミと呼んでいたシロモノ」
「するとここに・・・」
「ある。伝承によると16基あったとされる悪魔の炉の一つ」
「・・・原子力・・・・・・」


ごめんなさい。
「ランプ」「原子力」「畳」
208名無し物書き@推敲中?:2005/04/25(月) 00:41:03
「ランプ」「原子力」「畳」

パカパカーン
「げんしりょくらんぷ〜」
異次元ポシェットから飛び出る謎アイテム。
「何ですかそのドラ○もんとパ○リロを足してそのまんまにしたような安直なネーミングは」
「まあ聞きたまえワトソン君」
「田中です」
「これを村で売るのだよ」
「はぁ……」
「こいつをリアカーに積み込んでな、未開で無知で阿呆なド田舎の爺婆に売るのだよ」
「ひどいいわれようですね」
「最初はよく売れるのだがそのうち村に核融合がやってくる」
「意味わかりません」
「するとわたしはこの原子力ランプを川原の木に吊るしてだな、こう言う」
『ランプ、ランプ、なつかしいランプ。お前たちの時世(じせい)はすぎた。世の中は進んだ』
「もういいです。てか、割っちゃダメですって」
「次にこのたためる畳いわしなんだが」
「いいから寝てください」


ついかっとなってやった。明日後悔している。
「ランプ」「原子力」「畳」
209「ランプ」「原子力」「畳」:2005/04/25(月) 17:14:29
加賀に綺羅、柊の三人は郊外にある無人の山にいた。
夏の暑い日。学校をサボりっての事だった。昼時になると空腹に駆られた。
「なんか食い物ある?」「ないわよ」「飯食いに下りるか」
下っていたとき、見慣れない細道に目を留めた加賀が止まった。
「何してんの?」「来いよ。こっちおりたほうが早くね?」
それほど飢えているわけでもなく、暇だった三人はその道を行った。
暫くして、下り道がのぼりに変わり、三人は異変に気がついた。
「なんかおかしくない?」「ああ」「引き返すか」
しかし、もとの道に出ることはなかった。しだいに日が落ち夜になった。
それでも、なんとか元の道に出ようと彷徨っていると、廃村を発見した。
「らっきー」「ちょっと大丈夫?」「いや、大丈夫じゃねえよ」綺羅の不安を柊が昇華させる。
「聞いたことないか。昔事故った原子力発電所の話」
原発が事故を起こし、隔離されなければならなかった汚染者が脱走した。
脱走した汚染者は山の中の村に迷い込み、汚染拡大を防ぐため村は処理された。
「馬鹿か、処理されたんなら残ってるわけないだろ。別の村だよ」
手近な家にずかずかと足を踏み入れた加賀が悲鳴をあげた。
二人が慌てて駆け寄ると、加賀が玄関に倒れていた。
「躓いただけだよ。そこにランプがあるだろ。まだ使える」
柊が下駄箱の上に乗っていたランプの蓋を開けライターで点火する。
光が室内を明るく照らした。自然と巡らせた視線の先、畳の上に一人の男が正座していた。
ランプの燃料が切れ辺りは再び闇に包まれる。三人の悲鳴が尾を引くように夜空を駆けた。

ついかっとなってやった。明日後悔している。
「ランプ」「原子力」「畳」
210名無し物書き@推敲中?:2005/04/25(月) 17:39:49
「ランプ」「原子力」「畳」

 電気!
 電気が欲しい。
 風力火力原子力、波の力、太陽の力、自転車のダイナモでもいい。
 電気が欲しいのだ。
 電気は灯りになる!
 昔、偉大な小説家達が狭い書斎、畳の上、ランプの灯りの下我々を生んだ。
 我々は仲間が欲しい。もっとだ。
 ランプは失われ、畳は残り、だがいつまで待っても仲間が生まれない。
 きっと灯りが、足りないのだ。
 世の科学者よ、もっと電気を!


ついかっとなってやった。
後悔はあとでするもの。
「ランプ」「原子力」「畳」

 
211名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 00:44:01
「ランプ」「原子力」「畳」

「今何でも好きなことができるとしたら何がしたい?」
僕はコーヒーをひとくち飲んで、じっと彼女を見つめた。

ジェフリー・アーチャーの短編小説では『パリ行きの特急列車に乗って
オルセー美術館で開催中の若き日のピカソ展をみるわ』となるのだが、
まさかそんなオシャレなこたえを期待していたわけだはない。
それにしても彼女の言った言葉は僕を驚かせるのには充分だった。
「そうねえ、ダイナマイトを盗んで車ごと原子力発電所に突っ込むわ」
僕はコーヒをブッと噴出した。

「私って畳の上では死ねないタイプ?じゃない?
だから革命の炎のなかにこの身を焼かれて死ぬの」
彼女は顎の先に指をあてがってうっとりした表情で喫茶店の天井をみつめている。

今すぐアルコールランプの炎で焼いてやりたいと思った。


いっそ歩道橋の上から突き落としてくれ
「初夏」「神社」「憂鬱」


212名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 01:49:16
「初夏」「神社」「憂鬱」

 男がそこを通りかかるとふうと風が吹きささやきが聞こえた。
 ――迎えに、行きます。夏祭りに行きましょう――
 男はああ自分は魅入られてしまった、やはり墓場など通るものではないなと、後悔した。
 ――土の中は暗くて、寂しいのです――
 それから毎晩夢を見た。見知らぬ少女が墓場から這い出て男に迫ってくるのだ。
 だから夏祭りの季節が近づくにつれ男は憂鬱になりいっそあの墓場をすべて買い取って
何者も這い出てこないよう埋め立ててやろうかとまで思うようになった。
 初夏、神社の境内に提灯が並び今年一番の夏祭りが始まろうとしていた。
 男のもとに少女が現われることもなく、あれは夢だったのだろうなと、ぼんやりと蝉の声を聞きながら思うのであった。


ついかっとなってやった。
後悔するぐらいなら、書かない。
「初夏」「神社」「憂鬱」

 
213gr ◆iicafiaxus :2005/04/26(火) 07:46:41
鎮守様のけやきを揺する風も、ゴールデンウィークを過ぎたころから、
もう完全に青々と初夏の色になった。

沖縄帰りの美里の頬が連休のあいだですっかりうすい褐色になって
しまったのをおもしろそうに見つめていると、美里は「やだなあ」と
自分の顔を隠すようにして、それから
「このまま残らなかったらいいんだけど」
と大きくため息をついてみせた。

そんな美里の憂鬱に 僕は何か言葉をかけてみる。
「首すじ、これむいていい?」
「だめ! あとになる!」
美里は、触れようとした僕の手を払いのけて、石段の上に距離をとった。

「ごめんごめん。しないよ」
笑う僕の言葉に、美里は僕のそばに坐り直す。

「触るだけならいいよね?」
僕は美里の鼻の頭に触れた。かさかさと日焼けした皮膚が、
今にもむけそうにしていて、おもしろい。

「ほっぺとかはクリーム塗ってたから、あんま焼けてないけど」

僕の指が頬から耳の下を通って、唇に近づく。
焼けたのかいくらか硬い気のする他人の唇が、僕の指に触れる。
美里の手が、僕のさっきちょうず鉢で洗わなかった手を押さえた。
かわりに、僕も顔を寄せていく。

静かな神社の空気が、僕たちだけのためにあるような気がする。
さわさわというけやきの葉の音が、僕たちだけのために聞こえている。

#お題は「初夏」「神社」「憂鬱」を継続で。
214名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 09:44:19
 
    これむいていい?        
                    だめ あとになる!
           ▲▲  ∧∧
           ( ゚ヮ゚) (. ゚0)
           (  ⊃⊃.(| l)
...         と_ノ  ⊥... ⊃⊃
      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " " 
 
   ごめん。しないよ
                                        
           ▲▲  ∧∧
           (゚ヮ゚ ) (. ゚-)
           ⊂   )  (| l)
          と_ノ  ⊥... ⊃⊃
      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " "

 
   触るだけならいいよね?       
  
                   ほっぺとかはクリーム塗ってたから
           ▲▲  ∧∧
           ( ゚ヮ゚) (. ゚0)
           (  ⊃⊃.(| l)
...         と_ノ  ⊥... ⊃⊃
      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " " 

    さわさわという葉の音が
           ぼくたちだけのために聞こえている
215初夏」「神社」「憂鬱」:2005/04/26(火) 10:31:29
 
  蝉の声が聞こえる。 
                                     
           ▲▲  ∧∧   もうすぐ夏休みだね。
           (゚ヮ゚ ) (. ゚ヮ)  
           ⊂   )  (| l)
          と_ノ  ⊥... ⊃⊃
      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " "

  初夏。待ちきれなかったように、マーメード達は
  砂浜へ飛び出していくだろう。
                                     
           ▲▲  ∧∧   今年はどんな大胆な水着が流行るのかなぁ
           (゚ヮ゚ ) (. ゚ヮ)  
           ⊂   )  (| l)
          と_ノ  ⊥... ⊃⊃

      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " "
  
  それにしても、この神社は静かだね
  少し憂鬱になってきた                                     
           ▲▲  ∧∧   しょうがないよ。僕らは二人で一組の
           (゚ヮ゚ ) (. ゚-)  狛犬だもの
           ⊂   )  (| l)
          と_ノ  ⊥... ⊃⊃
      ゛ ゛゛ " "   ゛゛" " "
216名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 10:32:56
       
   ΩΩΩ   次のお題は「少女マンガ」「棺桶」「退場」
   (゜θ゜) 
  /(   )\
    」 L
217「初夏」「神社」「憂鬱」:2005/04/26(火) 10:36:14
 まだ10時をすこし回ったぐらいだというのに、初夏の陽射しが逃げ場もないほどあざやかに
降りかかってきたので、僕は大学を自主休講して坂を上り、小高い丘の中腹にあるこぢんまりと
したこの神社へと逃げ込んでいた。
 小さいながらも神社らしく、敷地をぐるりと木々で囲い込んだこの場所が僕は好きだった。
適度に寂れているからありがたいことに人もあまり来ない。僕の隠れ家だ。
 鳥居をくぐったあたりから、ふうんとこの季節独特の土と緑の香りがした。真夏ほど濃厚
ではなく、春よりも透き通ったこの匂いは、僕の胸に湧き水が乾いた岩へ染みとおっていく心地
よさをくれた。
 しばらく、境内の一角に腰を下ろして見るともなく空を見上げていた。陽射しの猛威からは木々が
守ってくれている。新緑よりは少し成熟した葉に陽光がきらめいていた。静謐というにはすこし
大袈裟な静けさのなかで、僕はようやくしがらみから解放されて人間らしいことを考えている者の
つもりになっていた。
 やがて太陽が中天に高く昇ると、陽射しはついにこの神社を侵略してしまった。僕は急に憂鬱さが
よみがえってくるのを感じた。太陽というやつはどうしてああも無神経なのだろう。僕は立ち上がって
ジーンズの後ろを手ではたき、陽に輝く陰鬱な街へと戻らなければならなかった。


お題は、 「枝豆」 「テレビ」 「外国」 でおねがいします。
218名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 22:29:13
「少女マンガ」「棺桶」「退場」

近未来新放送禁止用語

少女マンガ 
言い換え「女性マンガ」 備考「『少女』は年齢差別」

棺桶 
言い換え「(単に)棺」 備考「死者を『桶』に入れるのは冒涜」

退場 
言い換え「(使用しない)」 備考「否定的意味が強いため。負けた側への配慮」




何がなんだかわからなかった。
今は反省している。
お題はどちらでも。
219名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 22:41:44
「枝豆」 「テレビ」 「外国」

 父は昔と変わらず、風呂上りにビール、枝豆をつまみながらテレビを見ている。
ただ昔と違うのは、そのテレビがついていないということだけ。
――外国だったら迎えにいけるんだけんなぁ――
わたしも昔と変わらず、黙って部屋に向かう。
父はテレビを、見ている。
――なあ、かあちゃんよぉ――



何がなんだかわからなかった。
今は反省している。
お題はどちらでも。
220名無し物書き@推敲中?:2005/04/26(火) 23:52:59
「枝豆」「テレビ」「外国」 

「な、なんじゃこりゃー!」

「どうかしましたかお客さん」
俺は大声をあげた客に近づいた。客のとなりにどっしりと座りタバコを咥える。
「あの、枝豆3万円て……」
サラリーマン風の客は伝票と俺の顔を見比べながら小さな声で言った。
「ああ、うちはツマミは全品食べ放題システムになってましてね。
あそこに書いてあるでしょう。枝豆食べ放題3万円、ポテトチップス食べ放題2万円」
俺は壁に貼られたメニューを指さした。黄緑色の画用紙に黄色の蛍光ペンで書かれたメニュー、
「ボ、ボッタクリ……」
「オイ! 人聞きの悪い事をいうな。食べ放題で元が取れなかっただけだろうが」
俺は少しスゴんでみせた。
「うちはテレビでも取り上げられた優良店だよ。愛知県警24時って番組だけどな」
「……」
「ま、時間制限なんて野暮は言わないからゆっくりしてけばいいさ。このあいだの外国人なんか
ビール瓶まで食ってやがんの。『お客さーん、ケガしますよー』って言ったんだけど言葉通じねえからよ、
口中血だらけになって泣いてたっけ」

何がなんだかわからなかった。
反省の色なし。
「エレベーター」「深夜」「死体」
221名無し物書き@推敲中?:2005/04/27(水) 00:39:53
「エレベーター」「深夜」「死体」

 寒さを紛らわせるために飲み続けたウォッカのせいか少し頭のおかしくなった一人の科学者がエレベーターを作ったのは、ちょうど100年前のことである。
 世界には死んだ人々を火葬するエネルギーもなければ埋葬する場所すらも残されていなかった。だからこのエレベーターを使って地の底まで直行させるのである。
 エレベーターは二基でワンセット、片方が死体の重みで下りるともう片方が上がってくるという仕組みだ。その地の底では何者かが地上からやってきた客人を迎え入れエレベーターを空っぽにするという。
 もちろんそんなものを使わなくともただ穴を掘って投げ込めばいいではないかとか野ざらしにしておけとかいうまっとうな意見もあったが、
人がいる限り死は必ずくるわけでまあ最後までなくならないビジネスとして、やはり少し頭のおかしくなった政治家達が無理矢理に採用したのである。
 増えないものが減り続けるのは当たり前のことである日の深夜――といってもすでに昼夜の概念すら無意味な時代だが――最後の一人が死んだ。当然エレベーターには、乗れなかった。
 だから地上にはただ一人分の死体だけ残ったのである。
 いつの日か宇宙からの酔狂な訪問者がこのエレベーターを見つけ何の疑問もなく乗り込むかもしれない。多少のユーモアを持ち合わせているとよいが。



おろかものがつぶれました。
ぐしゃ。
お題継続で。
222名無し物書き@推敲中?:2005/04/27(水) 01:25:29
「エレベーター」「深夜」「死体」

 ついに「エレベーター税」が誕生した。「高層建築物における特定移動方法に関するどうたらこうたら」というあれだ。
最近はありとあらゆるものから税金を取ろうとしている。
「高原のさわやか空気税」とか「トイレの水税」とか「わりばし税」とか「ブックカバー税」とか……とにかく何でもだ。
利用者の多いものからは取れるだけ取らなきゃ損だという政府の方針だろうか。さらには「深夜割り増し制度」まで登場し
もう世の中節約のためには早寝早起きでなるべく夜中にトイレにいかないとかめちゃくちゃだ。
しかしさすがに葬儀のとき死体の重さを量って課税する「死体重量税」が可決されたときは全国各地で抗議デモが起きた。
火葬にだって燃料を使うわけで地球環境のためにもこの「死体重量税」は避けて通れないだのなんだのいうものだから事態は悪化。
連日連夜町中を抗議デモが練り歩く。
当然、生まれた。
「デモ税」



よったいきおいでやった。
よいがさめたらこわくなった。
お題継続してください。


223名無し物書き@推敲中?:2005/04/27(水) 08:47:25
「エレベーター」「深夜」「死体」

「そのときは深い闇に落ちるような気持ちになるかもしれませんね」
「深夜?」
「よく考えると時間は関係ありません」
「死ぬってこと?」
「確実に死体の山」
「こわい?」
「さぁ。でも他人から見たら、けっこう花々しいはずです」 
「降参。なんの話し?」  
「重力エレベーターのリボンが切れた瞬間」    


「朝顔」「ボール」「自転車」
224名無し物書き@推敲中?:2005/04/27(水) 18:48:36
「朝顔」「ボール」「自転車」


通学にはいつも自転車を使っている。
自分の家から学校までの道はそこそこ広いけれど、横道もあるからスピードを出すのはあまりよくない。
住宅街ということもあって、小さな子供の飛び出しや老人の出現などに気をつけなければいけないと、自転車に乗れるようになった時に、注意を受けた。

今日は寝坊してしまって、朝ごはんもついた先でこっそり食べようと思っていた。
鞄の中におにぎりを何個か入れてある。
僕は皆勤賞を狙っているので、ちょっとの遅刻も嬉しくないのだ。
そしてわき目も振らず漕いでいると、緑の多い家からピンクのボールが転がってきた。
慌ててブレーキをかけたが、操縦を誤りその家の柵にぶつかって、僕の身体は思い切り横に倒れこんだ。
暗転しかけた意識を取り戻し、目を開けると、ひっくり返った景色の目の前に、紫の朝顔がたくさん咲いているのが見えた。


初参加。
お題は継続でお願いします。
225名無し物書き@推敲中?:2005/04/28(木) 00:29:03
「朝顔」「ボール」「自転車」

「朝顔よりもひまわりが好きですわ――」
 そう言われたらもう、行くしかない。自転車の後ろに彼女を乗せ走り出す。いったいここから何キロあるのだろう。向かうのはひまわりで有名な村。
「まあ、あすこでは子ども達がボール遊びをしていますわ」
 後ろで何か言ってるがこっちはもう山道を一時間は自転車を漕いでるわけだからてきとうにあいづちを打っておく。
「あら郵便局。あちらは農協かしら」
 へいへいそりゃどこの村にでもありますよ――
「何だかのどが渇いたの――」
 ちょうど道は沢沿いに走っている。このまま自転車ごとあの冷たい水の中に飛びこもうか。彼女の白いブラウスが濡れてうっすらと透ける様子が目に浮かぶ。それも悪くないなと、思った。



ついかっと
お題継続してください。
226名無し物書き@推敲中?:2005/04/28(木) 01:18:35
「朝顔」「ボール」「自転車」

『私は自転車を盗みました』
赤いサインペンで大書きされたプラカードを首からぶら下げて、
私は水銀灯に縛りつけられている。
口にギャグボールまで嵌められて。
「おしおきだ!」
教師はそう言って私を縛りつけたままどこかに行ってしまい、もう3日が経つ。
足元に置かれた朝顔の鉢から蔓が伸びて私の足に絡み付いている。
はやく首まで届いてくれないかしら。
そのざらざらした細い蔓で私の首をぎゅっと締めてほしい。
私はそう願っている。

ごめんなさい。
お題は継続で
227名無し物書き@推敲中?:2005/04/28(木) 01:46:21
「朝顔」「ボール」「自転車」

 自転車に朝顔が巻きついているもんだからそれを見た母さんが息子に
「あら自転車はあきらめたのね」と云うと、「こいつはアートだ。ゲージツだよお母さん」と得意げに返す。
「自転車に乗れないみじめさを夏の象徴である朝顔で表現したのさ」
「まあそれはすごいわね。ところでおとつい買ってあげたボールはどうしたのかしら」
「解放、かな。あのボールはいわば僕の魂の象徴。自由を求めながらもけっきょく誰かに放り投げてもらわないとどこにもいけない」
「あらまあ」
「ああ、解放された僕の魂は今頃自然と一体となってどこか遠くを旅しているのだろう――」
「まあ大変。あなたの魂はさっき肥溜めに落ちていたわ」


ついかっとなってやった
お題は継続で

 
228gr ◆iicafiaxus :2005/04/28(木) 02:08:26
「だから、あたしの小学校。あのころのこと、なんにも知らないでしょう?」
「…えっ、でも、今日は映画館へ行こうって」
「いいじゃんそんなの、また今度で、さあ」

――ゆるい登り坂になった街路を、みんみんというせみの声が染めていて、
夏の朝のすずしげな風の中に、もう太陽の熱気がにおっている。

自転車のサドルの上、七月の風にTシャツをはためかせて彼女が行く。
その後輪の位置を、僕は長距離走の足取りで追いすがる。
「早く自転車くらい乗れるようになろうよ。はずかしいよ」
彼女は意地悪げに少しずつスピードを上げる。僕は歯をかみながら、
その金具の透けて見える背中から離されないように、ペースを上げて。

「遅いー」
校門に着いたときには、もう走れないほどのへろへろだった。
自転車を停め終わっていた彼女に、僕は肩を借りて息つく。

ころがっていたサッカーボールに腰かけようとして、彼女に取られた。
「ねえ、シュート練習しようか」
「……ん、ごめん。っていうか、僕は今とてもキーパーとか無理」
上がる息で断る僕をおいて、すると彼女は不満そうに行ってしまった。

あとを追う。彼女は、中庭にたくさん並んだ朝顔の鉢を見ていた。

「ほら、これ」
指さしたのは青い鉢で、となりの赤い鉢から伸びてきたつるに、すっかり
支柱をうばわれてしまっているのだった。

「あはは、かわいそう」
「そう? あたしは、かわいいって思ったんだけどな。ラブラブで」

この認識の差。僕たちは、しばし顔を見つめて笑った。
229gr ◆iicafiaxus :2005/04/28(木) 02:15:00
#↑「朝顔」「ボール」「自転車」。
#そろそろ変えますか? 次は「パン」「電話」「十年」で。
230名無し物書き@推敲中?:2005/04/28(木) 10:46:45
「パン」「電話」「十年」
 静かに時の流れるこの穏やかな暮らしを、ようやく私は手に
することが出来た。以前の私はもうどこにも居ない。
 今は懐かしくさえ思えるその過去は、小さなことがきっかけ
で目の前から消えていった。残っているのは、それが濁流で
あったことを示す僅かな爪痕だけだ。
 右手の傷に目を向けるときに、チャリンと音がした。つれて
皿が傾く。滑り落ちようとする皿を受け止めるが、載っていた
パンは床に落ちた。
 薄く笑って、拾い上げる。汚れでは人は死なない。せいぜい、
形が変わるくらい。前はそれが分からなかった。余分な価値観
が余計な負価値を生む。だけど、だからこそ自分に価値を与え
られる。
 今の私にあるのは消失感。それだけだ。何を失ったのかさえ
分からない。すべてに実感がない。昨日と今日を隔てる境界線
も存在しない。誰も訪ねてこないし、電話も鳴らない。自分から
出かける気もない。一日も、十年も、今の私にとっては変わら
ないだろう。穏やかであるとは、そういうことなのだと今なら
わかる。
 今の私の希望はただひとつ。だが、それはどうやって生まれ
たのだろう? 誰が価値を与えたのだろう? いや、価値はある
のだろうか?
 最近、そんなことを考えている。

次は「夢」「時間」「空間」で。
231「夢」「時間」「空間」:2005/04/28(木) 17:39:35
彼女は空間と時間が置き換わる夢を見た。
気がつけば正面に存在していたドアを開けると、
彼女の身体が若返り、そこには何年か前に死去した夫の姿があった。
二人で他愛もない話しをして過ごした。
しかし、突然怒り出した夫が部屋を出て、彼女は一人ぼっちになった。
するとまた正面にドアが現れた。彼女は涙を拭きながら迷う事無くドアを開けた。
次の部屋に入ると、今度は高校生時代の親友がいた。
二人は制服を着て、いつのまにかアスファルトの上を歩いていた。
歩き続けると隣にいた親友が中学校時代の同級生に変わった。
彼女は二人のどちらとも懐かしい話題を話し、楽しく過ごせた。
やがて一人になり実家に帰り着くと、自然な動作で玄関扉を開けた。
強い光に目がくらみ、彼女は目を閉じた。再び目を開けたとき、
目の前には年老いた彼女の顔があり、それがどんどんと遠のいていった。

日に焼けて顔が熱いよ。なんてお題続けるんだろ
次も「夢」「時間」「空間」で
232ななめ:2005/04/28(木) 21:54:30
「夢」「時間」「空間」

(時 間)
いまは午後の9.時。ぼくはアナログの時計を見ている。あと90.度で今日がおわる。

(空 間)
90.度。文字盤の四分の一の面積だ。一日は12.時間かける2。つまり360.度の円が
ふたつだ。この円の円周を切断し直線に伸ばして2倍にしたら、一日に秒針の先が
移動する距離が計算できる。

( 夢 )
1日の長さは計算した通りだが。その線分は均一に真っすぐ、どこまでも続いてい
る、と考えることも出来る。その道のりを歩いている人影はたぶん、一歩づつ、カ
チ、カチ、カチ、カチ、カチという音をたて歩んでいることだろう。

窓までの距離は、まさに5カチカチ。 秒速3カチカチの風。 2カチカチで身をの
りだし。1カチでジャンプ!


「石鹸」「靴下」「砂」
233名無し物書き@推敲中?:2005/04/29(金) 09:40:44
砂場の砂が、異空間に流されて。
僕は、叫ぶ。人生の最優先事項。
生ゴミは、ちゃんと捨てる。それは肝要。
幾千の星も、所詮ゴミさ。
靴下に生えた、カビを見てた。
それは、飽きない。そこに宇宙感じて。
結局、それは。ただの積み重ね。
マズイことこの上ない。無為な積み重ね。
石鹸で頭洗い、枕に頭預ける。
それが、命。そんな命。

「苔」「バニラ」「知事」

234名無し物書き@推敲中?:2005/04/30(土) 07:25:39
「苔」「バニラ」「知事」

「聞いてくださいな、若いの」
 止める理由はなかった。わたしはよっぱらいの話を黙って聞いた。
「社長とわたしだけが残ったんだ。他の奴はみんな辞めたりくびになったり。
社長は見放したとか言うが見放したんじゃない、見放されたんだ。社長がだよ。」
 バニラアイス入りのスペシャルパフェをつつきながら、わたしは適当にうなずいていた。
「あの社長はよくこんな話をした。『今の知事はな、俺の知り合いなんだ。ガキの頃から友達でな。あいつも
えらそうなこと言ってるが昔は――』と」
 ウエハースをさくりとかじる。
「こうなることはわかっていた。だから新規事業――といってもただ取り扱い商品の拡大を提案しただけだが
あの社長は『転がる石に苔は生えぬ、というのを知らんのか。時代の流れだ流行だと言って失敗した連中を
よく知っている。手を広げてはダメなのだ』と、さも真理を悟ったかのように。ただ臆病なだけじゃないか。
なあ、そう思わないか。転がる石?苔?なんだそれ。あの社長が生やしたかった苔ってなんだよ。俺たちの会社はただの石レベルかよ」
 どうでもよかった。シャチョー、シャチョーと耳障りだがもうしばらくの辛抱だ。黙って聞いてやれば
このパフェ代ぐらいはおごってくれるかもしれない。ここでまともな会話を交わしたところで、何が変わるわけでもない。
それ以前にまともな会話にならないだろう。



お題継続。
235 「苔」「バニラ」「知事」 :2005/05/01(日) 00:41:07
苔を踏むと跡がついた。平べったい三角形と、パンプスのかかとの小さな丸。
私の作った穴ぼこにじわじわと水がたまっていく。
そんな私を背に叔父は……知事は先に進んでいた。
無造作に踏みしだかれた苔は醜く、乱雑にねじ曲がっている。それがあの人の、今の心持ちなんだろうな、と私は思った。
叔父は時々枝を見上げて進む。そのたび、手に持った登山ロープが叔父の体を左右に撃ちつける。
私は叔父の大好物のバニラアイスの入ったコンビニの袋を持ち替えて大きく息を吸い込んだ。
「知事? 先生? 龍馬おじさん!? もうすこしゆっくりいきませんか? 私、こんな靴だし」
かまわず叔父は先に進む。
「誰も来ませんよ。ここにいるのは私とおじさんだけです」
「……ああ」青ざめた顔で叔父は振り返り、笑った。「もう終わりだからね。なるべく、綺麗に」
この人には今多くの嫌疑がかけられている。
一つは選挙法違反、一つは同族企業の優遇、そして一つは秘書である姪との不倫。
一つ一つなら耐えられたかもしれないそれらはいっぺんに、来週の週刊誌に載るという。
電話の向こうでせっぱ詰まった声でわめき散らす叔父をアイスを持って元気づけようとした私はそのまま車に乗せられて、
今は登山ロープを持った叔父とちょうどいい枝振りを探していた。
「おじさん、死ぬことないんじゃないですか? おじさんだけが悪いとは思えないし、だから、逃げましょうよ」
叔父はしばらく黙っていた。そして顔を上げ、怪訝そうに小首をかしげた。
「……誰と?」
とても悲しいことだったのに、なぜか私の口から、笑みがこぼれた。

次は「チキン」「ロープ」「幸せ」で。
236名無し物書き@推敲中?:2005/05/01(日) 01:23:23
「チキン」「ロープ」「幸せ」

 S村の住人は10年前の出来事を覚えていた。
 案内された先には証言の通り古い館があった。館はあの忌まわしい邪教の巨木に抱かれていた。
「このロープは――? 」
 古くはない太さ5センチ程のロープが館の周りの地面に、偶然とはいえない、むしろ吐き気を及ぼすほど緻密で幾何学的な冒涜の模様を描いていた。
「――」
 痩せこけた不吉の案内人がおぞましい言葉を口にした。
「やめろ! その名を口にするな!」
 忌まわしい巨木には彼らがチキン――即ち単なる食料――と呼ぶ無数の鳥が、石榴色の目を光らせている。ふいに館を囲むロープが夕暮れの大気を吸う蛇のように蠢く錯覚にわたしは捕らわれた。
「だまれ! だまれ!」
 ただ食われるだけの生きた肉塊達が巨木の枝から自虐の声で啼く。館の入り口は一層遠くなり、ただ棒のように地面から生えた案内人だけが回転の中心にいる。ロープが描く病んだアートがわたしの視覚を容赦なく犯す。
「幸せに代償はありません……」
 居るべきでない誰かの声が耳に届き、わたしは地面に伏していた。
「喋ることはできません。あなたは黒い犬だから」



ゴメ
お題継続希望
237名無し物書き@推敲中?:2005/05/01(日) 01:37:20
「チキン」「ロープ」「幸せ」

 公営の自殺場は毎日人であふれている。
 受付のアルバイトはひどく単純で、紙切れ一枚署名させ、あとはロープを渡すだけ。
 扉の向こうでは彼らだけが食べられるラストチキン。もちろん無料。
 どうせ死ぬ人たちだから、規定を破ってボクは聞く。
「幸せでしたか? 」
 全員が必ずこう答える。
「もちろん! 」
 


欝だ詩嚢
継続
238名無し物書き@推敲中?:2005/05/01(日) 13:28:55
「チキン」「ロープ」「幸せ」

 幸せって結局何なのだろうか。
 裕福な生活。平和な社会。健康健やかな日常。幸せの定義とはおそらく人の数だけ無数に存在するのだろう。
 或いは、自分の生きたいように生きている、それ自体が幸せだと語る人もいる。
 正直、羨ましいな、と僕は思う。
 生まれた時から既に定めてあったかのような貧乏な日常。
 豆をすり潰して湯に溶かしただけのスープで一週間過ごしたこともあった。いや、そんなのはもう日常茶飯事だった。
 草を食べ、公園の水道でその渇ききった喉を潤してはまた草を食べる。……それが僕の“当たり前”だ。
 行く当てもなくフラフラと街を彷徨っていると、たまにこんがり美味しそうに焼きあがった鴨肉の焼き鳥を見かける。
 ……いや、生まれてこのかた肉など高級な食べ物を口に運んだことのない僕にとっては、それがチキンであろうが牛ロースで
あろうが関係ない。
 それを見ると決まって、言い知れない、物体のない重みがずしんと肩にのしかかってくる。
 重圧。
 その正体に気付くまでに、僕は17年と4ヶ月ほどの時間を要した。
 そして、それを理解してしまった今、このとき。
 僕の目の前には、吊り下がったロープが一本伸びている。



微妙に鬱。初書きでした。
次のお題は「シミュレート」「蒸気機関車」「剣」でお願いします。
239名無し物書き@推敲中?:2005/05/01(日) 21:21:49
「シミュレート」「蒸気機関車」「剣」

 ある科学者が装置を作った。
 その装置は地球上での人類の発祥から文明の進歩、さらには将来どうなるかまでを正確にシミュレートできた。
 装置を起動させると猿は人間になり、道具を使い、石器、鉄器、と進化し、やがて剣をもってお互いに殺しあうようになるまでを正確に再現した。
 さらに進めると技術は進歩し、蒸気機関車が地上を走り、空には飛行機が飛ぶようになる。
 装置内で人類はめまぐるしく進歩し、ついには現在のレベルにまで到達する。
 そしてこれから先は未来が覗ける!
 ただ、この装置にはどうしても直せない欠陥があるらしく、これには科学者も困り果てていた。
 何度起動しなおしても、未来をシミュレート中に必ず人類が滅んでしまうのである。


お題継続よろ

240名無し物書き@推敲中?:2005/05/02(月) 01:31:04
「シミュレート」「蒸気機関車」「剣」

暇とは何か。暇とはゆとり、即ち遊び。それは人類の最大の特徴だ。
他の動物にはあまり見られないもの。
お腹が減っていても、美味しくなさそうであれば食べない。
必要だと思いつつも、本当の意味では必要だと感じていない。
切羽詰っていない。だから行動の前にシミュレートする。
その結果に満足しなければ、決して行動しない。

だけど、だからこそ人は発明もした。歩くことと、車を作って
乗ることを比較して、後者を取った。

車と蒸気機関車、蒸気機関車と電車、電車と飛行機。
他にもガソリン代と電車代を比較したりもする。
そのようにして、人はさまざまなものを比較する。
素手と剣、剣と銃、銃とミサイル、etc、etc。
このまま進化して、人はどうなるのだろう。無駄を無くして、無くして、失くす。
さらに人は暇になる。暇になって暇になって、究極に暇になった時に――。
そのときに、人は決断を下すだろう。

暇が必要であるかないか、その決断を。

次は「破壊」「創造」「神」で。
241名無し物書き@推敲中?:2005/05/02(月) 12:08:03
「破壊」「創造」「神」

 教会の庭で子ども達が遊んでいた。子ども達は戦争孤児だった。
 子ども達は砂で山を作り、土を掘って川を作り、海を作り、積み木を街に見立てた。バケツに水を汲んでくると、それを山の上から流し本当の川のようにした。山には花や草が植えられ、積み木の街には蟻やてんとう虫やカマキリが住人になっていた。
「牧師さまに見てもらおう! 」
 一人の子どもが自分達の創造した小さな世界を見てもらうために、牧師を呼びに行く。
「ぼくたち神さまになったんだよ――」
 まこと、子どもらは小さき神のように……

 しかし、牧師が見たものは、世界は泥の海となって、子ども達は泥遊びに夢中で、山だった場所には花壇からむしりとられた花々の残骸、泥だらけの積み木、泥の海には蟻やてんとう虫やカマキリがいたずらに沈め殺されている、終末の様子であった。
 まこと、子どもらは小さき神のように……破壊した。

 そのとき、空では一機の戦闘機が、故郷を目前に撃墜された。脱出したパイロットは、戦闘機の残骸が教会に向かって落ちていく様子を、見た。
 神よ――。



お題継続してくらはい



242名無し物書き@推敲中?:2005/05/02(月) 20:32:05
「破壊」「創造」「神」

 創造するのは神。ちょっとした宗教屋はみんな口を揃えてそう言う。
 そんなありきたりな解答など、人は求めていない。
「裁き――神の、裁き、か……」
 男、長身痩躯の体を持ち、がっしりした体つきの大男は、誰に話しかけるわけでもなく、そう呟いた。
 彼の無骨で、太く力強い腕には、一人の女性が大事そうに抱えられていた。
 驚愕に見開かれた、動かない瞳。――彼女には既に息がなかった。
「こんな、死の……」
 男は女の双眸に手を当て、そっと目を閉じさせてやる。それだけで、虚ろな死に顔は安らかな笑顔となった。
 つい半日ほど前は、笑い、可愛らしく怒り、楽しみ、活発に動いていたその笑顔が。……今は、死んだように動かない。いや……
もう彼女は、死んでいるのだ。
 “神”に、“破壊”されて。
「俺が……なにをしたって言うんだよ。こんな、みんな、破壊されて……」
 男は俯き、声を押し殺して、嗚咽した。
「それとも俺が……悪いのかな……? 存在……こんな、人に怖がられて、恐れられて……」
 人に恐怖を与えた。石を投げられた。冷たく突き放され、住む場所を追われて。……本気で殺されそうになったこともあった。
 それは分かる。仕方ないことだ。向こうだってなにも楽しくてやってることではないのだから。
 だけど――
 俺はこれから、神を破壊しに行く。俺が、創るんだ。


オープニング風味? お題は継続で。
243名無し物書き@推敲中?:2005/05/02(月) 22:21:52
 長いようで短い夏休みが終わった。
 あいつは、別の人間みたいになってた。
「俺が下界を離れてた間に随分世の中変わったモンだ」
 CD屋であいつは言った。
「『下界』って何よ。大体、夏休みのちょっと前に一緒にここきただろ。そんな劇的に変わっちゃいない」
 俺には、あいつの言う『下界』の意味がよく掴めなかった。
「かなり変わったよ。この、丸い円盤みたいなのなんだ? この数千年の間に、誰がこんなの創造したんだ」
 気でも違ったのか――そう思った。見かけはまるで変わってないのに、中身は……
 人じゃ、ないみたいだ。
「CDだよ、それ。何言ってんだ。お前の物言い、天上人とか神とかかっつーの」
 あくまでも、俺は冗談としてそう言った。
「さて、ね」
 あいつは、微かに口元を緩ませ、俺に背を向けた。そして、
「ま、いいセンは突いてるかな」
そう言って、俺を置き去りにしてCD屋から出て行った。
 俺は、その時思った。あいつは、あいつではない何かの存在に、原形を留めぬほど徹底的に破壊されて
しまったんじゃないか、と。
 俺が、思ってるだけだ。それだけだ。

「昴」「悟り」「サンバ」
244名無し物書き@推敲中?:2005/05/03(火) 00:55:29
「昴」「悟り」「サンバ」

 メラターデの丘に男は寝そべり夜空を見上げた。傍らには少女がいる。
「何を見てるの? 」
「昴、だよ」
「ス、バ、ル? あの六連星のこと? 」
「そうさ。昔もこうやってよく眺めたな――」
 男は何かを思い出すように、ゆっくりと息を吐いた。
「チキュウ、帰りたいの? 」
 少女の顔が覗き込む。その目は昴のように、しかし悲しげに輝いている。
「人類は……」
 大きく息を吸う。
「大いなる悟りを得るために、惑星を一つ代償にした」
 青い宝石は恐ろしく簡単に燃え上がり、永遠に光を失った。人類は失って初めて、自分達が宇宙のほんの一部でしかないことを悟ったのだ。かつての軌道上には今もその残骸が漂っていることだろう。
「元気を出して! ほら、わたしこんなに上手く踊れるようになったよ、ね」
 少女は異星の星空の下、サンバのリズムで踊りだす。それはファーストコンタクトの際、原住民にふざけて教えたものだった。
「わたしがんばってチキュウ人になるよ。だからもっと、もっとチキュウのことを教えて」
 あまりにも場違いのリズムに男は苦笑した。
「ああ、教えてあげよう。地球ではこういう夜には――」
 メラターデの丘に、二つの影が重なった。




ついかっとなってやった。
お題は継続してけんろ。


245「昴」「悟り」「サンバ」:2005/05/05(木) 00:40:27
アリス花形は、悪役女子レスラーだ。
谷村新司をこよなく愛する彼女の必殺技は、昴ホールド。
話が飛躍しすぎているとか、強引だとか。そういうことではなくて声高に言えば、
それが彼女のレスラー人生をかけた、秘密兵器なのだ。

ゴールウイークの中盤を折り返した頃、中規模スーパーマルダイで興行が行われた。
屋上に設けられた特設会場。風にはためく万国旗。
ポールの先に付けられたスピーカーからはサンバのリズムが漏れ出ていた。

「大井戸女子プロ会場はこちらですよ〜」
青いはっぴを着た禿親父が、手を擦りながら声をかける。
ビニール袋を手に持った主婦の姿が、ちらほらと見えはじめた。

でっぷり太った主婦の手が、
むっちりと膨らんだガマグチからスタンプカードを取り出した。
もぎり役も努めるアリスは、手際よくそれを受け取り確認する。
500円以上の買い物をするたびに、お花のスタンプが押してもらえ、
それを10個、すなわち5000円の買い物をしたお客様だけ、入場を許されるのだ。
スーパーの店長からも厳しく言われている。

次の主婦がやってきた
先ほどと同じようにむっちりと膨らんだガマグチからスタンプカードを取り出す。
――あれ、スタンプ足りてないじゃないの
主婦の視線が、アリスの目を突き刺した。炎のような目がアリスを襲う。
賢明な読者なら既に察しているかとは思うが、アリスは17歳で、
心の優しい少女なのだ。ちなみに試合衣装はゴスロリだ。
アリスは、強引に入ろうとする主婦の魂胆を悟り、禿親父に泣きついた。
「おやおや、どうしたんだいお嬢ちゃん」
勘違いした禿がアリスのヒップを撫でた。
アリスは咄嗟に親父の背後を捕まえると、脳天から叩き落した。
「昴ホールド!」
秘密兵器が開花した瞬間だった。
246「昴」「悟り」「サンバ」:2005/05/05(木) 00:44:57
ゴールウィーク ← ゴールデンウイーク 

次は 「カラス」 「ノコギリ」 「空き地」
247「昴」「悟り」「サンバ」:2005/05/05(木) 00:46:24
「カラス」 ← 「鳥」 だから

次は 「鳥」「ノコギリ」「空き地」 なんどもごめん
248名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 02:26:00
街の外れの、空き地とも山の一部とも知れない、とりあえず駐車しておける所に原付を停めた。
ここなら人も来ないだろう。
実際、平日の夜だからか来る途中の道では車一つすれ違わなかった。

半月の少し太ったような月が、柔らかに冷徹に、どこまでも透き通った光で下界をあまねく照らす。
中々にいい夜だ。
空を見上げると、良い加減な月と、美しい星空。少し風が肌寒い。
ほう、と白い吐息を吐いて、思う。
また私はわずらわしい日常から逃げてきてしまった。
十七でこれなのだから、先が思いやられる。
どうにも世に憚る性格なのは自覚しているが――
と、いかんいかん。わずらわしい思考を捨てるためにここに来たのに。

何も考えないで夜空を見上げると、頭の中が浄化されていく気がする。
気持ちがいい。
しかしそれにも飽きて、ふと原付のあたりを見てみると、
ああ、不法投棄か。
月明かりの中でなお映える黒いビニール袋が大量に詰まれている。
うずたかく詰まれたゴミの山の頂上に突き立って、電機ノコギリが一際存在を象徴していた。

またしばらく空を見て、再び電ノコに目を移してみると、そこだけ色が抜け落ちたように、駆動部分にカラスが立っていた。
夜目が効かないんじゃなかったっけ。
てか、グループ行動はどうしたんだ。こんなところに一人で来て――あっ

カラスは電機ノコギリを踏み倒し、森の中へ去ってしまった。

↓「楽器」「森」「鷲」
249名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 12:17:48
もれがあった。

240「暇とは何か。暇とはゆとり〜」
惜しい。べた褒めするわけにはいけない。
「素手と剣」の対比にもう一工夫欲しかった。
あとは満点。

ただこの場合はむしろお題にセンスがなかったとも言える。
「シミュレート」はちょっといただけない。
250名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 12:22:19
↑すみません、感想スレに書き込むつもりのものでした。
このスレを参照しながら書いていたので間違えました。
251名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 12:51:54
 たまにトリップする。今日は森の中。
 今日の俺は鷲。ご存知空の覇者だ。
 力強く羽ばたくと、周りの奴らはみんな逃げ出す。成る程、覇者だ。
 感じる。それは最近感じたことのない。だから、正しくは分からない。でも、これはきっとい
い気持ちなんだ。自分そのものを誇れるような。そんな、気持ち。
 俺はあまりに気持ちよくて、くたくたになるまで飛んじゃったのだ。

 さすがに疲れて、そろそろ木の枝で羽を休めようかというとき、何か聞こえてきた。
 嫌な感じだ。管楽器をあまり使わず、耳障りなメガホンをがしがしと鳴らす。その不協和音
は俺をたちまち現実に引き戻す。

「ん……こんな時間か……はぁ、また負けに行くか」
 今日はデーゲーム。打てない打線、抑えられない投手。飛べない鷲を思わせるくどいチー
ム名が、俺を憂鬱にさせる。
 こんな筈ではなかった。

「豆腐」「蕎麦」「夢」
252「豆腐」「蕎麦」「夢」 :2005/05/05(木) 13:39:03
「豆腐の角にアタマぶつけて死ね。」
怒りに任せてそう言ってしまったが本当に死ぬとは夢にも思わなかった。
事情聴取の警察官は俺に同情的だったが俺は自殺教唆で起訴された。
テレビや週刊誌は面白可笑しく報道し、俺も家族も好奇の目に晒され続けた。
「何であんなこと言ったんだ。娘が生真面目な性格なのは知っていただろう」
彼女の父親にそう責められたがそんなもの予想できるわけないじゃないか。
「娘を返せ。馬鹿野郎。いっそお前が死ねばよかったんだ。」
そんな事言うもんじゃありませんよ、となだめる義母を無視して怒号は続いた。
「お前なんか、お前なんか、蕎麦で首吊って死んじまえばいいんだ。」

・・・・・・そうだよな。女房にできたんだ。俺にもできるかもしれない。
俺も、生真面目な性格とよく言われるもんな。


次は「箱」「筆」「ごほうび」で
253軽舞師:2005/05/05(木) 14:34:46
「箱」「筆」「ごほうび」
私の家は代々書道の大家を輩出していた。
私は書道なんて好きでもなかったし、
私は墨のにおいが大嫌いだった。
私は自分の筆も持っていない。
私はそれでも無理やり筆を持たされ、
私の書きたくもない字を書いた。
私はある日始めて仕事をした。
私は父から箱を受け取った。
私はこれに字を書かねばならない。
私は一生懸命に見える様注意して書いた。
私が手を抜いたら一家の恥になるとかではなく、
私が見下されないために。
私が書き終えると、
私に父は口を開いた。
私を超えたな、と・・・。

NEXT 「ゴミ」「火曜」「食卓」

254軽舞師:2005/05/05(木) 14:36:42
字数オーバーしたのでキーワードをもう一度。
NEXT 「ゴミ」「火曜」「食卓」
255「箱」「筆」「ごほうび」:2005/05/05(木) 15:11:53
 自然保護が叫ばれて久しいが、さて、社会はそんなに努力しているか。いま
私の眼前で山を削っている鉄の箱に、土建屋はどんな説明をつけるつもりなのか。
 伐採された木々のうちから、葉っぱが一枚ゆらりと降って隣にいる現場監督の
頭頂部にのっかった。この辺りでも狐狸なんてまず見かけないが、並べてみると
人間にはそんな妖怪変化が沢山いる。眼前のハゲは、ついでにデブだ。
 肌が砂埃で煤けてますます狸臭く、いかにも化けそうである。器用に鉛筆を
握っているが、指も短い。疑えばいくらでも怪しく思えてくる。試してみたくなってくる。
彼が狸か――
「やぁお見せしておりましたかな? これが完成予定図ですけんど」
「あ、これはどうも。ごほうび、と言ってはなんですが酒席を用意してあります。お時間
よろしいですかな?」
 尋ねると監督は渋い顔を見せた。それから顎を引き、控えめに目で何か訴えて
きたので、私は軽くうなずいて、現場を去った。機会も逃してしまった。
 店はキャンセル、工程に遅れあり。やれやれ、化ける気力も残ってないな。まったく
狐には済みにくい世の中になった。ねぐらに――いやあすこは昨日埋めたんだったか。

出遅れたんでお題は先の人ので。
256「ゴミ」「火曜」「食卓」:2005/05/05(木) 16:09:31
決戦は金曜日だった。約束は確かに金曜日だったはずだ。
食卓の上に時計を忘れるほど、慌てて家を出てきたのに
約束の場所に一人立ち尽くす私は、不戦勝なのだろうか。
曇りはじめた空を見上げ、一足早く流れはじめた水滴を
右手で拭い、私は歩き始めた。
「あの、ちょっといいですか。」
茶髪の男が声をかけてきた。
止めてよ、こんなかっこ悪い私に何の用なのよ。
「彼氏にすっぽかされたんじゃない?よかったらお茶でも・・・」
それ以上は聞こえなかった。
振り向きざまに打ち込んだ膝蹴りと、続けて放った上段回し蹴りで
男は歩道の反対側まで転がって行った。
「燃えないゴミは火曜日だから、それまでそこで寝ていなさい。」
今日という日を恨みながら、私は再び歩き始めた。
男の癖に約束をすっぽかしたあいつへの怒りは治まらなかった。

次は「携帯電話」「小銭」「小麦粉」
257「携帯電話」「小銭」「小麦粉」:2005/05/05(木) 16:36:08
姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。
ひとり地獄に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。
鞭で叩くはトミノの姉か、鞭の朱総(しゅぶさ)が気にかかる。
叩けや叩けやれ叩かずとても、無間(むけん)地獄はひとつみち。
暗い地獄へ案内をたのむ、金の羊に、鶯(うぐいす)に。
皮の嚢(ふくろ)にゃいくらほど入れよ、無間(むけん)地獄の旅支度(たびじたく)。
春が来て候(そろ)林に谿(たに)に、くらい地獄谷七曲り。
籠(かご)にや鶯(うぐいす)、車にゃ羊、可愛いトミノの眼(まなこ)にや涙。
啼(な)けよ、鶯(うぐいす)、林の雨に妹恋しと声かぎり。
啼(な)けば反響(こだま)が地獄にひびき、狐牡丹(きつねぼたん)の花がさく。
地獄七山七谿(ななやまななたに)めぐる、可愛いトミノのひとり旅。
地獄ござらばもて来てたもれ、針の御山(みやま)の留針(とめばり)を。
赤い留針(とめばり)だてにはささぬ、可愛いトミノのめじるしに。

258gr ◆iicafiaxus :2005/05/05(木) 16:53:28
僕は弁当をつまむ箸を動かしながら、そろそろ苛立ちの限界にきていた。
「…あのさ。食卓に足乗せて食べるのやめてくれないかな」

杉浦ちとせは、部室のテーブルの向かい側で、いすをゆらゆらと揺りながら、
天面に「文芸部」と大書した週刊少年ジャンプをめくっている。このジャンプを
買ってくるのは僕の役目で、でも火曜日のうちには読めたためしがない。
「あたしに言ってる?」
「…他に誰がいるんだよ」

杉浦はジャンプのページを広げたまま、目を上げる。
「いいじゃん、くつは脱いでんだし。ごはん食べてるのはあたしも同じだよ?」

「あのさ、ぶっちゃけ、人のパンツ見せられてるとかって、食欲無くすんだけど」
すると、杉浦がいじわるげに笑う。
「へえ、いつか、少しだけでいいから見せて、とか言ってた奴って誰だっけ」
「…それは昔酔っぱらった時のことだろ! 頼むから忘れさせてくれよ!」
杉浦はコンビニの菓子パンをかじりながら、たたみかける。
「酔っばらって理性無くす男の子って最悪だよね」
「…酔ってもないのにガード甘すぎな女の子に言われたくはないんだけど」

しかたがないから、少しまじめな顔を作ってみせる。
「っていうかさ、見せパンしたいんならしてくれても構わないんだけど、せめて
 そのはみだしてるものをそってからのほうがお互い気持いいと思うんだよね」

ばっ、と音を立てて、杉浦がスカートのすそをかくす。
テーブルの上のゴミが舞う。杉浦が真っ赤になるのがわかる。
「…ごめん」
わびる杉浦に、何かフォローしてやろうと思うのだけれど。
「いや、その、こっちこそごめん。つまりえーと、エロい目で見ちゃってごめん」
とまどったような目で僕を見る杉浦に、なぜか僕は、急に、触れてみたくなる。

#お題は上ので。
259名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 17:10:19
>>257読んでたら何か頭痛くなってきた……
260名無し物書き@推敲中?:2005/05/05(木) 19:34:36
ガララ・・・
石川:あれ・・・今日は誰もいないのかな・・・・

いすに座り机に乗っかった鏡を見て顔の白いプクッとした部分を探す

石川:・・・・・・。

ぷりゅ

石川:ぅわ!すげwwwなにk
ガララ
部長:おはよ
石川:あ、こんちゃー・・・・あア゙ッ!?
部長:!?どしたよ?
石川:あああ!あたしの!あたしのニュルが!ニュルちゃんガァアア!!!」
石川必死で地面に四つんばいになりキョロキョロ探し回る
部長:なに、わるかった
石川:・・・・・・。
電子音が流れた。俺の携帯電話からだろう。
画面は見なれた文字を並べて、俺が出るのを待っていた。
「チッ……。会社からかよ」
折角の休暇になんだよ?と毒づく俺に反応するかの様に、電子音は消える。
「……気分直しでもしてこよう」
携帯は放置だ。小銭入れを引っ掴み、俺は逃げるように家を出た。

近所の公園で、俺は缶コーヒーを片手に、ベンチに座って呆としていた。
目の前には移動パン屋が構えている。
『こだわりの小麦粉で作った手作りパン!!』なんてコピーと共に。
コピー…。消費者の購買意欲を煽るもの。
「そういや、俺の企画した新商品、どんな広告が出来たのかな」
とりあえず、代理店の納品日は明日と聞いていたが。
落ち着くことができなくて、俺はベンチから立ち上がった。



次は「メール」「消去」「さようなら」でお願いします。


※訂正
「メール」「デリート」「グッバイ」でお願いします。
263261:2005/05/05(木) 20:19:05
↑お前誰?
べつにそっちでもいいけどさ。
264かみさま:2005/05/05(木) 20:20:49
はいはい喧嘩しない。
「メール」「消去」「さようなら」

こっちに決定。
恋人達の会話。

男 「ごめんね。長電話しちゃって」
女 「ううん。あなたの声を聞くだけで嬉しい」
男 「それじゃ。もう電話切るよ」
女 「みんなにヨロシクね」
男 「僕からも君のお母さんに、よろしく伝えておいて」
女 「分かった。伝えておく」
男 「じゃ、もう切るよ」
女 「うん」
男 「眠る前に、おやすみのメールを書くよ」
女 「ありがとう」
男 「そういえばね。この間、間違って保存してたメールを全部、消去しちゃった」
女 「まぁ、大変。でも心配しないで」
男 「心配って?」
女 「私達のメールは全部プリントアウトして、整理してるから絶対に大丈夫ってこと」
男 「……」
女 「どうかした?」
男 「なんか。気味わるいな、思って」
女 「どうして」
男 「だって。ただのメールだろ」
女 「どういう意味よ」
男 「いや、だから。なんかさ」
女 「あっそ。もう、おやすみ。さようなら」
男 「ちょっと待てよ。さようならって、なんだよ。さようならって」
女 「あー五月蝿い!」

「紫陽花」「引出し」「川」
266星野 早紀:2005/05/05(木) 21:58:14
夏の空。初めてのキャンプ。小さなときめき――
私は、川で泳ぐ優斗の姿を見ていた。
優斗への手紙は、教室の机の引出しに入れたまま――

綺麗な紫陽花が周りに咲いているけど、優斗の目には映ってほしくない。
それは紫陽花よりも私を、私のことを見てほしいから――

夏の空。初めてのキャンプ。小さなときめき――
私は、川で泳ぐ優斗の姿を見ていた。
267 「紫陽花」「引出し」「川」 :2005/05/05(木) 22:16:01
兄は川縁に住んでいる。においもきついし、虫が多いとこぼしていた。
「でも好きなんだ。流体の流れる様を見ていると心が落ち着く」
どうして引っ越さないの、と聞くと、兄は窓辺におかれた引き出し着きの机に頬杖をついた。
「川はね、いろんな物を運んでくる。土石や死骸、下水や……イヤな物の方が多いのかもしれないけれど」
兄は川を見つめたままにこっと笑った。
「でも結局は押し流してしまうんだよ」
私は、古い畳に爪を沿わせながら曇天を背にした兄を見上げていた。
「いいものも?」
「いいものも……そうだね」
兄は私の紫陽花柄の振り袖を愛でるように撫でた。
「琴子はいい物ばかりを見てきたのだろうね。僕はイヤなものの方を多く」
私は兄が袖に触れている間、兄を驚かさぬようにじっとしていた。
「そんな物言いは嫌いです。川も嫌い。元気のないお兄様も好きではありません」
兄は少し怒ったような目をして、そして崩れたように笑って、手を袖から放した。「そうだね」
怒って頂けたらどんなに良かったろうに。
そう思いながら私は、袖口ををつかんだ。

次は「迷い」「財閥」「流れ」で
268名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 01:44:27
次に使ったのが242の作品。
「創造するのは神」という出だしであちゃーと思わせ、さらに二行目で
「そんなありきたりな」と自爆。少なくともプロはこういうことはしない。恥ずかしくて。
それでも何か意外性のある展開かと思えば、だらだらとストーリーが進み、
ラスト「神を破壊しに行く」 これはどうか。書いていて恥ずかしくないのか?
たぶん探せばコミックに同じコンセプトのものがこれでもかというぐらい出てくるのではないか?

これを陳腐と言わずなんと言う。斬新ですか?
仮にこういう設定の作品を見せられた場合、あなたがたは素直に喜べますか?
269名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 01:45:40
誤爆を陳謝する。すまぬ。感想スレのものである。
270名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 12:40:05
 蛆虫と言われた。
 俺は明治の流れを汲む由緒正しき財閥の跡取り息子として生まれたから、蛆なんだそうだ。
 そうか、俺は蛆なんだ。
 不思議と、何の迷いも無くそう思えた。
 何故俺はこんな凄い家に住んでいるのか。蛆虫に相応しい家を自分で探さなくちゃいけない。
 俺は何も持たず家を出た。

 俺はいつから蛆虫になったのだろう。
 生まれた時からそうだったのだろうか。それとも、残酷な時の流れが俺を蛆虫に仕立て上げた
のだろうか。思考が堂々巡りしていた。
 当てもなくふらついていると、汚い川原に出た。傍に小さな掘建て小屋があった。
 扉を開いた。
 俺は蛆虫だけど、蛆虫になりきれないことを悟った。
 ここに、俺の居場所はない。
 俺は踵を返して元の凄い家へと帰った。

「新聞」「カレンダー」「ゴミ」
271名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 13:16:07
 母の箪笥を片付けていると古い新聞紙とカレンダーが出てきた。
 その日付けはわたしの生まれた日であった。黄土色に変色してはいるが
丁寧に畳まれている。わたしはこれをゴミにすることは、できなかった。
 だから、急いで古新聞の束を解き、一昨日の新聞を抜き出し、次に居間に掛けてある
カレンダーを外した。そしてそれらで母の新聞紙とカレンダーを包んだ。
 わたしはずるい人間だと思う。自分で捨てることのできないそれを箪笥に戻したのだ。

 この話を祖父から聞いた。
 代を重ねるごとに、新聞紙とカレンダーのそれは厚くなった。
 そういう一族なのだ。


「天気」「思い出」「歌」


 
272名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 20:39:38
「天気」「思い出」「歌」

お天気は相変わらずの雨が続いている。
梅雨だから仕方ないのだけれど、やっぱり少し憂鬱だ。
だから、私は厚い雲に覆われた灰色の空に向かって、
子供の頃に歌った思い出のうたを口ずさむ。
♪雨、雨、降れ、振れ、母さんが〜蛇の目でお迎えうれしいなっ
 ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃぷ、ランランラン〜♪
「あの、すみません」
私は話しかけられ、『JASRACの者ですが――』と続くオチを連想して<
大きなため息をつきながら「はい、何でしょう?」と答えた。
「あの、日本音楽著作権協会の者ですが――」
273名無し物書き@推敲中?:2005/05/06(金) 20:41:28
お題は継続でよろしく♪
274名無し物書き@推敲中?:2005/05/07(土) 02:34:50
「天気」「思い出」「歌」

 中学三年のある日の出来事だ、その日は小雨がぱらついていたのをはっきりと覚えている。
クラス対抗の合唱コンクールが行われる日だった。
 僕達のクラスは優勝候補筆頭に挙げられていた。豊かな声量を持っていた僕は、その中心
的な存在だったのだ。
 
 遂に僕達のクラスの順番が回って来た。クラス全員がステージに立った。僕は一番前の列
に並んだ。
 なにげなく前に視線をやった僕は、思わず眼を剥いた。一番前で床に体育座りしていた学校
のアイドル治子ちゃんのパンツが丸見えになっているではないか。
 
 治子ちゃんは、自分のパンツが見えていることには、まったく気が付いていないようだった。
合唱が始まったが、もはや歌どころではない。合唱の五分の間、治子ちゃんの純白のパンツ
を堪能した。さっぱり声は出なかった。

 僕達のクラスは優勝を逃し、僕自身も非難の的となったが、そんな事どうでもよかった。
 学校一の美少女・治子ちゃんのパンチラ――中学時代の最高の思い出だ。

お題は継続で。

 


275274:2005/05/07(土) 02:37:02
その日は

その日の天気は
276名無し物書き@推敲中?:2005/05/07(土) 02:41:55
 天気といえば、私はなんといっても雨上がりが好きだ。
 好い加減に湿った空気が好きだ。
 晴れているのにひんやりと心地よい冷たさが好きだ。
 黒々と濡れたコンクリートの道路を見ると心が躍る。
 きらきらと光る水玉が綺麗なアジサイなど大好きだ。
 だけど現実は時として残酷なもので
 慣れないバイクに乗っていたとはいえ、交差点で後輪がスリップして大型トラックに右足をひき潰されたのは、紛れもなくコンクリートが濡れていたせいであるわけで。
 まあ、だからといって、嫌いになることはできないのだけれど。
 幸い良い義足技師を紹介してもらえたから、今のように活き活きとした緑を眺めたりしながら、鼻歌を歌って公園を散歩したりもできる。
 気分はとても晴れ晴れとしている。
 台風の後の晴天のように。

(冒頭HellSing下手に引用@)

思い出足らずのため続投Please
と思ったけど三連続はまずいかーと思いながら
↓「アクエリアス」「廃ビル」「万年筆」
277名無し物書き@推敲中?:2005/05/07(土) 09:37:01
「アクエリアス」「廃ビル」「万年筆」

私はアクエリアス、水瓶座の女。水瓶座の女は愛に生きるの。
ひたむきでいて情熱的な愛よ。
今、私は万年筆で大好きな彼に手紙を書いているの。
自筆で書いたほうがメールより思いが伝わるでしょ。
もちろん、万年筆はティファニーよ。
あなた知ってた? ティファニーは元々、文具屋だったのよ。
だから今でも文具が売られてるんですって。
伝統を大切にするなんて素敵よねぇ。
でも、愛と伝統の為に生き続けた私は、たくさんのものを失ったわ。
ううっ。それにしても今夜は冷えるわねぇ。
今夜のネグラはあの廃ビルに決めたわ。


「蛍」「旅」「カード」
278名無し物書き@推敲中?:2005/05/07(土) 22:34:56
陽が落ちてきた。
越前海岸の奥へと沈んでいく夕陽が眩しい。
私はそろそろ帰ろうと思い、脱いだヒールに駆け寄った。
こんなに夕陽が綺麗だと思えたのは、人生で初めてだった。

一人きりの日帰り旅行。
私は、福井県東尋坊までやってきた。
此処は自殺の名所だという。だから、来たのだけれど―
夕陽を見て気が変わった。
考えてみれば、自殺の名所で死ぬなんて、釣られているようなものだ。
へこんでいた自分をあざ笑ってみる。おバカさん。
なんだかとても可笑しい。笑い声を止めるのが大変。もう吹っ切れた。
彼のことは、今日で忘れます―

ハイ、結論も出たし、父へのお土産でも買って帰るとしましょうか。
私は、店の軒先に並んだ土地の名物を見下ろした。
いわしの干物、蛍いかの甘露煮、どれにしましょうか…


真っ暗な深夜の東尋坊に、パトランプが灯っていた。
「鯖江 三七から本部。鯖江 三七から本部どうぞ―」
「はい、こちら本部どうぞ―」
「東尋坊岸壁に打ち上げられた溺死体発見。女性。身元照会要請」
「了解。氏名どうぞ―」
「城東銀行キャッシュカード所持。 ササモトカズミ、ササモトカズミ…」
279名無し物書き@推敲中?:2005/05/08(日) 01:19:13
「蛍」「旅」「カード」

 受験合格、入学式も無事終了。家庭教師としては鼻高々な筈だった。
 新しい制服姿のご披露が、狭い下宿に眩い程だった、が、彼の表情は暗かった。
 新入生の耳下に下げられた「個体認識カード」!彼女の自慢の髪も、これを隠せない。

 (昔は、牛の判別に使われたよなあ、これ)・・・そんな気分を察してか、彼女は明るく
 「今度は、こっちもよろしくお願いしますねっ、先生」と、カードを振って見せる。
 彼も明るく笑みを返したが、暗くなっても気分は晴れない。

 「悩まないで、先生。蛍だって、鮭だって、みんなおんなじなんだから」
 彼女は優しく言うけれど、耳のカードは彼の鼻先で意地悪く揺れているのだ。
 そう、蛍も鮭も産卵して死ぬだけさ。その点、人間の方がまだマシか。

 今年もどこかで、「地球連盟会議」が開かれるはずだ。
 「人口による多数決法」以来、どの国も人口増加しか考えない。勉強なんて、実は二の次だった。
 多数決が民主主義の原則なら、仕方ない・・・議長国は、今年も中国か?ブラジルか?

 本当の憂鬱の種は、まだ別にあった。家に帰ると父がいなかった。
 「お父さん旅に出たの。当分戻らないって」 わざとらしく平静な声だった。
 そうさ。10匹の生殖には1匹の雄で充分さ。能率の低い9人は処分される。俺もいつかは・・・

※こんなんで2時間かかった(w
次のお題は:スライドして、「旅」「カード」「万博」でお願いしまふ
280名無し物書き@推敲中?:2005/05/08(日) 01:22:28
おい書いてるやつら
こっちも見ろよ。ぼろくそに評価してやるから。

◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/
281名無し物書き@推敲中?:2005/05/08(日) 22:38:30
この旅でどうしても見ておきたかったところの一つ、愛知万博跡地。
環境問題の深刻さにやっと気付いた人類が、何かにとり憑かれたように自然環境を害するものを破壊して回った通称第二次緑の革命。
真っ先に標的になったのは、ここだった。
愛・地球博と命をうちながら、会場は森を伐採したその上に建っているという、人類のエゴの塊のような万博だったと言われている。

跡地に着くと、一番に目に入ったのは無残に破壊された北ゲートだった。
2005年当時何十万人もの人間がそのゲートを潜ったのだろう。
瓦礫の山の上には土が積もり、雑草が逞しくも生えていた。
僕のような物好きが、他にもたくさんいるのだろう。
フリーパスカードの自動発行機の跡に、目印のように赤い旗のついた棒が刺さっていた。

資料では芝生だったはずの愛・地球広場は、生命力高く背の高い雑草こそ生えているものの、むしろ他の場所より木々は少なかった。
来る途中の道は舗装を徹底的に剥がされて、既に低木の類が生えていたのに。
ふと、美しい芝生を保つためには大量の農薬を使うことを思い出す。その副作用なのかもしれない。
先人の轍を進んだ先には、大きく亀裂の入った古びた鉄球が鎮座していた。
雑草に阻まれてもなお見える巨大な瓦礫の山、グローバルハウス跡を壊したハンマーかもしれない。
紙がビニールを被せて鉄球の表面に張ってあり、英語と日本語と、何故かエスペラントで「この破壊には火薬は使われず重機が使われた」と書いてある。
重機だろうが排気ガスは出たはずだし、鉄球だって二酸化炭素を排出して作ったものだ。
そのあたりは、変な方向へ暴走した人間のエゴなのかもしれない。

↓「タロット」「ソニー」「ドーナツ」
282名無し物書き@推敲中?:2005/05/08(日) 23:22:08
このお題は無効です。
継続して「旅」「カード」「万博」でよろしく。
283「旅」「カード」「万博」:2005/05/08(日) 23:41:33
8日午前8時20分ごろ。
山口県小郡町のJR新山口駅の
0番ホームの先端付近で、同県阿東町の視覚障害者の夫婦が
線路に盲導犬ごと転落。妻(52)が額を切るなどして、近くの病院に入院した。
転落場所付近には視覚障害者用の点字ブロックが設置されていなかった。
盲導犬の誤誘導が一因とみられるが、視覚障害者からは
「点字ブロックやフェンスがあれば転落は防げた」
という指摘があり、JR西日本は今後、設置を検討する。

お題は継続で。
284「旅」「カード」「万博」:2005/05/09(月) 00:39:57

旅の感覚(あるいは個人がそれに従ってこれから向かう先を予見する本能)、
この感覚は一部の人々が自らの特殊性として要求するところのものであって、
閉鎖的民族であるわれわれ日本人的希望感によって陥った、魅惑的で
気違いじみた半錯乱状態の結果によるものである。
過去のあらゆる形式や社会様式(カード社会に見られるような経済慣習)、
実存しない評価や諸価値の権威によって四方八方へ迷走する精神。
この「精神」は、肉体と欲望におけるわれわれの半錯乱状態によって、
自己に有利なものを見て取る。
それが最も表れているのが今回の万博なのである。

お題は継続。
285「旅」「カード」「万博」:2005/05/09(月) 01:31:05

兄はよく旅に出たまま帰ってこなかった。
父はいつまでもプラプラしおって、とよく怒っている。
私はそんな父をいつもなだめる役だった。
私自身は街からも出ないような性分をしていたのが、自由に出歩く
兄の事はうらやましく感じていた。
兄はよく名所の写真のついたポストカードを出先から送ってきた。
それを見る度に、私はその様な想いを強く感じた。
母はいつも、危ない所に行ってしまわないかと心配していたが、兄
の性格を知る私は、何の心配もしていなかった。

たまたま兄がいつもより長く家に帰らない時だった。
家には海外の様々な国の名所が写されたポストカードが届いた。
中には政情の不安定な国の物もあった。
「あの子ったら、外国なんて大丈夫なのかしら……」
「大丈夫だよ、愛知じゃね。」
「え?……万博?」



お題は継続でお願いします。
286「旅」「カード」「万博」:2005/05/09(月) 09:35:03
その人もまた大声で泣いた
母の血にまみれ生まれ出たとき
その人もまた虚無によってもたらされた
干草のにおううまやの
乾いたほこりのただなかへ

その人もまた大声で泣いた
自らの血にまみれ息絶えるとき
その人もまた私たちと変わらなかった
書物にはしるされぬ
夜ごとの恐ろしい夢のただなかで


「逡巡」「教唆」「畢竟」
287万博 旅 カード:2005/05/09(月) 10:08:58
「万博にいってきたの」
そういって女は、土産袋をずいと僕におしつけた。僕は受け取る。
「ああ、そうなんだ。どうだった」
「それが、マンモスがね」
そういうと、女は言葉をつまらせた。
「マンモス」
僕が聞き返すと、女は急ににっこりと作り笑顔を浮かべ、ぺらぺらと喋りだした。
「マンモス見たの。冷凍マンモス。すごく大きいの」
ああ、あのテレビでやってるやつね。僕は、この女が意外とミーハーなことに少しばかりがっかりした。彼女を選んだのは、何か他の女とは違う雰囲気があると思っていたからなのに。
女は続ける。
「ロシアの氷河の中から日本にまで旅をしてやってきた、遥かなるマンモスよ」
うんうん。僕は適当に相槌をうつ。
「でね、私思ったんだけど。マンモスも冷凍して生きていた時と同じ姿のまま、保存できるなら」
ここで、女は一度言葉を切り
「近い将来、人間だって冷凍保存できるようになるんじゃないかしら」
と言った。
僕は、他愛無い女の妄想をいさめようとして
「まぁ、ありうるかもしれないけど。それはSFの世界だよ」
と女に言ってやった。
女は、そうよね、と笑った。
それにしても。
僕はあることに気付いた。女に聞いてみる。
「入場カードはどうやって手に入れた。だれと万博にいったんだ」
女はまた笑った。
「奥さんよ」
そして、僕のもっている、土産の紙袋を指差した。
「人間だって、冷凍保存すればいいじゃない」
紙袋には、うっすらと赤いものがにじみはじめている。

次は上のやつで。
288「精神」「概念」「豚」:2005/05/09(月) 11:40:07
精神とは閉鎖されているがゆえに無限と錯覚する一種の禁欲主義的現象である。
われわれが世間全体のごとく振る舞い、世間全体のごとく「やりっぱなし」にするとき
たちまち精神は世間全体と迎合し、なんと世間はわれわれに好意をしめす。
この世間とはあらゆる尺度・概念・時代・主義主張にありそうに思われるものであり
またその「理想から必然に生じた」ものである。
従来の理想が現実の上にかけた呪いからの救済であるかのごとく、あたかも現実からの
逃避であるかのごとく、われわれからは誤解される。
喩えるならば、養豚場における餌の品質向上を訴える豚のようなものである。しかし養豚場から
放たれても、彼らは生きながらえない。これが彼らの世間であり、迎合した精神である。

お題は継続で。
289「母の日」「田楽」「赤色灯」:2005/05/09(月) 18:16:43
 帰宅後は母の日ということもあり、両親と一緒に外食へ、田楽屋へ行ってきました。
確かに料理は美味しかったし、お値段もお値打ちでした。ただ御飯が多い。
いつも私は大きさが子供用のお茶碗1杯分しかお米を食べませんが、
その2杯以上はあったかしら。さらに母者の頼んだものは4〜5杯分はあったでしょう、
当然母者は食べきれないわけで残りは全部私が食べました。
こんなに胃にものをたくさん詰めたのは久しぶり、吐きそう。
 夜、近所のN氏と本屋へ。色々と就職関係で話をしたり、少しはお役に立てたかしら?
本屋からの帰る道中、地元民しか使わないような道に怪しげな車が、と思ったらポリスカーでした。
私達が通り過ぎたら赤色灯回し始めて後ろにぴったりくっついてくるし、何故に?
しばらくして右折したら、パトカーはそのまま直進してどっか行きましたが何だったのかしら。
 学生生活最後のGW、こんなに遊べるのは人生においてこれが最後かもしれませんね。


「愛」「思い出」「日常」
290「ペット」「家族」「別れ」:2005/05/09(月) 18:24:30
「LOST PET」という悲しい出来事が訪れてしまった。
彼だったのか、彼女だったのか。 年齢を聞くところによれば御年14歳。
ワンコの年齢としたならば、亡くなられたのは老いによるところも大きいのだろうか。
で、おカド違いも甚だで、先輩?には大変に申し訳ないのだが
想いを重ねてしまったのである。わが「弟」に。

彼の名は「麦くん」という。 彼のことを家族は「mu.( ムー)」と呼んでいる。
彼は、ミニチュアダックスフントの形をしているがママンが激愛を降り注ぎすぎて、
ミニチュアではなく、スタンダードサイズに育て上げてしまった・・・。
そのわりに跳んだり跳ねたり激しいので、彼にはこれがとても危険なことではあったのだ・・・。



初めてチャレンジします。
よろしくお願いします。
291名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 18:42:52
>290
↓を読んで書き直してもいいですよ?

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。
292290:2005/05/09(月) 18:45:12
あ。すいません。書き忘れました。

お題継続でお願いします。
293名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 18:46:56
>1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
294「愛」「思い出」「日常」 :2005/05/09(月) 18:48:22
「LOST PET」という悲しい出来事が訪れてしまった。
彼だったのか、彼女だったのか。 年齢を聞くところによれば御年14歳。
ワンコの年齢としたならば、亡くなられたのは老いによるところも大きいのだろうか。
で、おカド違いも甚だで、先輩?には大変に申し訳ないのだが
想いを重ねてしまったのである。わが「弟」に。

彼の名は「麦くん」という。 彼のことを家族は「mu.( ムー)」と呼んでいる。
彼は、ミニチュアダックスフントの形をしているがママンが激愛を降り注ぎすぎて、
ミニチュアではなく、スタンダードサイズに育て上げてしまった・・・。
そのわりに跳んだり跳ねたり激しいので、彼にはこれがとても危険なことではあったのだ・・・。




お題継続でお願いします。
295 ◆z03.cue.22 :2005/05/09(月) 18:49:10
「愛」「思い出」「日常」

旅にでるといつも早起きしてしまう。
宿の、七時の朝食に合わせて目覚まし時計が六時になるように
セットしたのだけれど、六時前には目をさましていた。
『潮騒館』に泊まるのはこれで五度目になる。
朝食を運んできた仲居とはすっかり顔見知りで、三度目の滞在からは
海辺の散歩をすすめなくなった。

はじめて『潮騒館』を訪れたとき僕はひとりではなかった。
仲居は僕の連れに向かって、今日は晴れているので蜃気楼が見えるでしょう、
とすすめてくれた。崖沿いの、手すりのついたコンクリートの石段を降りていくと
浜辺に出る。そこから眺める蜃気楼が観光名物なのだ。
連れとは二年ほど同棲していて、日常と違う空気が僕たちには
必要な時期だった。苦し紛れの旅行では効果は薄く、僕たちは別れた。

朝食を終えて、心づけの用意を済ませる。
窓を開け放して浴衣姿のまま布団に横になる。
愛が終わってしまった原因はわからない。
どんなに思い出をたぐっても、お互いに冷めてしまった以外の言葉が見つからない。
蜃気楼を見れば愛の正体がわかるような気がしたけれど、
いまは目を閉じながら潮騒を聞いているだけでじゅうぶんだった。


次のお題は「ペット」「家族」「別れ」でお願いします。
296名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 18:53:35
もういい。勝手にやれ。

>3:文章は5行以上15行以下を目安に。
297 ◆z03.cue.22 :2005/05/09(月) 18:58:29
>>296
すみませんでした。
ひさしぶりの投稿だったもので、以前とおなじ感覚でいました……。
295はスルーでお願いします。
298「閉鎖」「解放」「凶器」:2005/05/09(月) 19:01:22
この鉄の扉を開けばアイツが待っている

躊躇う手に叱咤しながらノブを回す

途端にむせ返るような嗅ぎ慣れた匂い

空になった香水瓶がいくつも転がっている

「君の匂いに包まれていたんだ」

気持ちが悪い

部屋に充満した密度の高い匂いよりも

お前から漂う醜悪な臭いに吐き気がする

潤いのない瞳も

薄く哂う唇も

僕を追い詰める凶器でしかないのに

・・・・・





お題はアイツの・・・・・
299「ペット」「家族」「別れ」:2005/05/09(月) 19:28:50
高校生活2回目の夏休みに入り、私はアルバイトに明け暮れる毎日。
2年目になるペットショップのアルバイト。
時には他のアルバイト生を指示する立場になったりするようになり、
店長もパートさんも、なんのためらいもなく私にお店を任せてくれるようになった。

耳につく蝉の鳴き声も、名残惜しそうに残していく陽も、夕方になれば私の味方になる。
ある日の別れ際の彼の言葉。

「夏の夕日が好きなんだ。」

そういう彼の言葉に私は心から同意する。
そしてそこからすべてが歪んでいったんだ。

シフト制のアルバイト。
自分の都合に合わせて働けるのが魅力的だった。
立ち仕事は楽ではなかったけど、パートさんも店長もみんないい人で
家族のようだからこそ、続けられたのだった。
あの人を除いては・・・


お題は継続してください。
300名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:01:48
「ペット」「家族」「別れ」

キャシャー!!
ガルルルルー!
ピギャース♪
うほっw

家のペットは兎に角うるさい。
たくさん飼っているから、その分悲しい別れもたくさん経験してきた。
でも、どの子も私にとって大切な家族だ。
うほっwいい男ww

と、言っておりますが。


今は反省している
お題は継続で
301名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:03:18
>300
サム!

シネよ
302名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:06:39
 ペットを飼うということは、いつか来る別れを待つということだ。
それまでの限られた時間を家族として彼らを受け入れ、共に暮らす。
 ペットは飼い主によって、ペットとして生きる。ペットとして死ぬ。
ペットとして思い出となる。
 飼い主はただの人間に戻る。
303名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:07:15
>302
ウワツマンネ
304名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:15:10
今、オナペットと別れた。
僕にとっては家族同然だったのに。
とてもいい娘だった。
可愛い口が大好きだった。
南極でとても世話になったんだ。

日本既知wwwwwwww外wwwwwww
305名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:18:02
おまえ荒らしの才能もさいてーだな
306名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:24:26
お前だれだよ!!
ここは投稿の場だぞ

文句あるなら三語で書けよ
「ペット」「家族」「別れ」
307名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:24:28
ちなみに、ターナー症候群という染色体異常の体質なので、
入院はしょっちゅうです。家族は初めこそお見舞いに来てくれましたが、
最近は来てくれません。病室にはペットも連れて行けないので寂しい。
薬学部にはいった理由に、それもあると思います。
でも最近は、薬剤師よりも、ドラマ離婚弁護士の主人公みたいな
ハンサムウーマンに憧れてます。
創作は趣味として大好きです。 別れたくありません。
小説も書きますが、百人一首を暗記したり、俵万智の歌も大好きだったり
短歌に興味あったりします。
308名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:25:31
き え ろ
309名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:26:15
楽しくなかった? 



310訂正:2005/05/09(月) 20:27:42
 ペットを飼うということは、いつか来る別れを待つということだ。
それまでの限られた時間を家族として共に暮らす。
 ペットは飼い主によって、ペットとして生きる。ペットとして死ぬ。
ペットとして思い出となる。
 飼い主はただの人間に戻る。
311名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:28:26
>310
いいかげん荒らしやめてくれる?
みんな迷惑しているんですが。
312訂正:2005/05/09(月) 20:29:57
は? 二回書き込んだだけですが? 
313名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:30:07
おくさん、ペット飼ってみませんか?
まぁすてき。
えー僕は反対だな。
はがすごく鋭いよ。
ばなな与えてみたいな。
かぞく円満うけあいですよ。
かんがえてみます、と言ってとりあえず別れた。
314名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:31:35
荒らし決定だな。ほんとしねよ。
315名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:37:36
>314
荒らしはお前だろうが
316訂正:2005/05/09(月) 20:39:16
あんたら何人いるの? 
317名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:39:31
>315
>315
>315
>315
>315
>315
>315
318名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:41:50
お前らもちつけ

>>287-290
>1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。

ルール無視につき無効

次の方どぞー
「逡巡」「教唆」「畢竟」
319名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 20:54:07
自治厨うざい〜
ルールルールって、そんなにルールが大切なのかよ。
大切なのは中身じゃないのかよ。
320名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 21:07:36
まあ、>>287が指定したからこれなんだろうなぁ。
321名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 21:12:32

ほんとだ。
322名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 22:20:46
「逡巡」「教唆」「畢竟」

ぼくは悩む ぐずぐずと 
なにさ【逡巡】って?
級友はさっさと辞書をひけと、ぼくにカンニングをそそのかす
なにさ【教唆】って?
この漢字テストについて、ぼくは全滅だったのだ
とどのつまり
【畢竟】ってなにさ?

「雲」「兎」 「白旗」
323名無し物書き@推敲中?:2005/05/09(月) 23:50:52
投稿者の皆様

ただいま大変荒れております。
無用な混乱を避けるためにもしばらくの間自粛してください。
荒らしが去り次第再開しましょう。

この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/
324こういうときは無視が一番:2005/05/10(火) 00:38:23
「逡巡」「教唆」「畢竟」 「雲」「兎」 「白旗」

「特高とはいってもね、荒っぽいばかりではないんですよ」
男はぽつりと口を開いた。
窓のない、電球が一つきりの部屋に紫煙が雲のように漂っている。
机の上の灰皿には火のついたタバコが一本。男が火をつけ、私が拒んだ物だ。
「むしろこういう仕事の方が多い。考え方を改めて頂く、というかね」
「教唆でもなんでもしょっ引けばよいでしょう? 教唆? ああそうですよ。白旗をあげます。私は確かにソビエトの話をした、
人民による政治が理想であるとも説いた、高校でそういう講義もし、ロシア語の勉強会も開いた、認めますよ、それで私の罪は死……幸い、私には、妻も……」
なぜかはわからない、自分は特高の刑事だと告げたこの男にこの場所までつれてこられた時には確かに覚悟を決めていたはずなのに私は肝心なところで言い淀んでしまった。
「ご両親は?」
それはこの男の目のせいかもしれない。
泣こうが叫ぼうが私をただの獲物としか見ていない男の目にかかると、私なぞは畢竟、蛇に狙われた兎のようなものに思われてくる。
私が何を言おうと、この男には無力だ。
そう思った瞬間私は、逡巡してしまった。
「ご両親は?」
男はもう一度尋ねた。
「……健在です」
私は答えた。

次は「雲」「兎」「白旗」
325名無し物書き@推敲中?:2005/05/10(火) 00:44:18
投稿者の皆様

ただいま大変荒れております。
無用な混乱を避けるためにもしばらくの間自粛してください。
荒らしが去り次第再開しましょう。

この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
裏三語スレ より良き即興の為に 第四章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1106526884/
◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/
326「雲」「兎」「白旗」 :2005/05/10(火) 22:51:11
我らフンベバ族の土地に異民族が侵入してきた。
何とも奇妙な姿をしていた。頭部を除く全身に布を巻き付けているのだ。
その侵入者は直ちに射殺したが、他にも仲間がいるかもしれない。
若い戦士に偵察させたところ、やはり付近に異民族の巣が発見された。
しかも、そこには雲のようにたくさんの異民族がいたという。
いくら数が多かろうと、聖なる土地を荒らす者は許さない。
神の前に純白の兎を捧げ、我らは異民族の巣に攻め込んだ。

異民族は弦のない奇妙な弓矢を使った。
そこから放たれる矢はまるで火の弾のようだった。
十が三つ分と六人もの勇敢な戦士がその弓矢によって倒れた。
だが、異民族はもっとたくさんの数が倒れたのだ。
やがて、異民族は戦いを止め、白旗を振りだした。
いささか驚いた。異民族があの気高い作法を知っていようとは思わなかった。
言うまでもなく、白旗を振るのは「我らはこれを血で真っ赤に染めあげるまで戦い抜くぞ」という合図だ。
戦いは再開され、異民族は一人残らず死んだ。
この土地の平和は守られたのだ。


「好き嫌い」「太陽」「ぶつけた」
327「雲」「兎」「白旗」:2005/05/10(火) 23:05:27
我らフンベバ族の土地に異民族が侵入してきた。
何とも奇妙な姿をしていた。頭部を除く全身に布を巻き付けているのだ。
その侵入者は直ちに射殺したが、他にも仲間がいるかもしれない。
若い戦士に偵察させたところ、やはり付近に異民族の巣が発見された。
しかも、そこには雲のようにたくさんの異民族がいたという。
いくら数が多かろうと、聖なる土地を荒らす者は許さない。
神の前に純白の兎を捧げ、我らは異民族の巣に攻め込んだ。

異民族は弦のない奇妙な弓矢を使った。
そこから放たれる矢はまるで火の弾のようだった。
十が三つ分と六人もの勇敢な戦士がその弓矢によって倒れた。
だが、異民族はもっとたくさんの数が倒れたのだ。
やがて、異民族は戦いを止め、白旗を振りだした。
いささか驚いた。異民族があの気高い作法を知っていようとは思わなかった。
言うまでもなく、白旗を振るのは「我らはこれを血で真っ赤に染めあげるまで戦い抜くぞ」という合図だ。
戦いは再開され、異民族は一人残らず死んだ。
この土地の平和は守られたのだ。


「好き嫌い」「太陽」「ぶつけた」

328名無し物書き@推敲中?:2005/05/10(火) 23:42:00
誰にも好き嫌いがあるように、エル氏は雲が好きで兎が嫌いだった。
兎とキスできるかどうか、友人と賭けをしたことがある。
なにかの用事で二人がある公園にいたとき、兎が放し飼いにされていたのだ。
そのときは兎が嫌いなことぐらい克服できると思った。
空を見たら彼の好きな雲がちょうど太陽を隠したところだった。
何もかもうまくいくような気がした。
友人が兎の耳を持ってエル氏の顔に近づける。
しばらく我慢したが、顔をそむけてしまった。
自殺したガールフレンドの顔を思い出したのだ。彼女の口は、兎のようだった。
白旗を上げずにいられなかった。
勢いよく顔をそむけたので、横の壁に頭をぶつけた。

「お面」「コーヒー」「ライター」
329名無し物書き@推敲中?:2005/05/10(火) 23:45:40
誰にも好き嫌いがあるように、エル氏は雲が好きで兎が嫌いだった。
兎とキスできるかどうか、友人と賭けをしたことがある。
なにかの用事で二人がある公園にいたとき、兎が放し飼いにされていたのだ。
そのときは兎が嫌いなことぐらい克服できると思った。
空を見たら彼の好きな雲がちょうど太陽を隠したところだった。
何もかもうまくいくような気がした。
友人が兎の耳を持ってエル氏の顔に近づける。
しばらく我慢したが、顔をそむけてしまった。
自殺したガールフレンドの顔を思い出したのだ。彼女の口は、兎のようだった。
白旗を上げずにいられなかった。
勢いよく顔をそむけたので、横の壁に頭をぶつけた。

「お面」「コーヒー」「ライター」
330名無し物書き@推敲中?:2005/05/11(水) 19:32:41
彼らはライターで火をつけた炎でコーヒーを淹れたのだが、酸いので飲めなかった。
もし水が甘かったらどうなっていただろう。彼らは何回か考えたが、誰も甘い水を知らなかったので対して意味は無かった。
砂糖を持っている奴は居ないか、と一人が言ったが彼以外は砂糖を知らなかった。
彼らの一人が甘さとはそもそも何なのかを考えたが、結論には至らなかった。
また一人が顔に手をやると、表面がぴりぴりとはがれることを発見した。
それが皆に伝わると彼らはそのお面を捨てて辺りを見渡した。
彼らは自分が人間であることを発見した。
人類の誕生である。

「薬」「ビール」「レコード」
331名無し物書き@推敲中?:2005/05/11(水) 20:54:46
下らないガラクタばかりが置かれた何でもありのリサイクルショップで、私は一際古いレコードを見つけた。
使い物になるかどうか危ぶんだが、廉価だったこともあって面白半分に手に取っていると、
店の奥から出てきた初老の店員が、「それは裏のルートから仕入れた品物で、とても貴重なんですよ」と笑いかけてきた。
商魂たくましい店員に苦笑を返して店内を一瞥すが、他に目ぼしい物も見当たらない。
私はもう一度初老の店員に笑いかけると、二三言言葉を交わしてから据えた臭いの店内から脱出した。
ゆっくりとした足取りで自宅に帰り、ビール片手に小さなテレビの電源を入れる。
民放の報道番組では、緊急ニュースが飛び込んできたらしく、キャスターが慌しげに原稿を読み上げていた。
「今しがた、K県H市内のリサイクルショップで店員が刺殺される事件がありました。
犯人は大学生の男で、”友人がこの店で購入したレコードの所為で自殺した”などと意味の判らない供述をしており……」
ニュースをたどたどしく読み上げるキャスターの声をバックに、先ほどのリサイクルショップの入り口がテレビ画面に映し出される。
私は先ほど例の店で購入したレコードを指の腹でそっと一撫ですると、乾いた口内を潤すためにビールに唇をつけた。
ゆっくりと苦い液体を喉に流し込み、「まさかな」と呻くように呟く。
――瞬間、耳の奥に聞いたこともないようなメロディが溢れた。

昨日午後5時頃、K県H市に住む――さん(35歳)が、自宅で睡眠薬の過剰摂取により亡くなっていることを、近所に住む――さんの友人が……

「時計」「パトカー」「ぬいぐるみ」
 私はライターだ。といっても当然、火をつけるライターではない。物書きと言うことだ。

 今、私は国際会議場建設に関する汚職事件を追っており、三ヶ月に及ぶ調査の結果、汚職が行われて
いるのは間違いないと確信するに至った。問題はそれを公表するにあたって、今のままではパンチがない
と言うことだ。資料の分析による客観的事実の積み重ねだけでは、記事としての魅力に乏しい。

 そう考えた私は事件のキーマンの家庭騒動を絡ませることで週刊誌向きなセンセーショナルさを加味できな
いかと彼の身辺調査を開始した。実家は喫茶店を経営しており、昼は彼の妻が接客しているという話だった。
時間帯を見計らって店に赴いた私は、彼女を見て、正直、面食らった。

 彼女はウルトラマンだったのである――。これは比喩ではない、彼女はお面を被ったまま接客していたのだ。
カウンターに着き店内を見回すと壁の至る処にお面が掛けられていた。縁日で見られるアニメヒーロー、ヒロ
インのお面が殆どだ。私はコーヒーを注文した後に、彼女にお面を被っている理由を尋ねた。

 大した違いはないからね、と答えた彼女は、おもむろに仮面を取った。中から出てきたのはおかめの仮面。
――否、おかめそっくりな彼女の顔であった。私はどんな表情をして良いものか迷ったが、頭の中に彼女の
旦那が浮かんできたため、にやりと笑ってしまった。旦那の顔はひょっとこのお面そっくりだったのである。

 私の脳裏でスクープ記事のタイトルが稲妻のように駆け抜けた。『汚職事件、キーマンは仮面夫婦!?』
私の物書き魂に火が点いた。私は熱く正義に燃えるライターなのだ。



遅くなりましたが折角なので。お題は上の方の「薬」「ビール」「レコード」を。
333332:2005/05/11(水) 20:57:12
失礼
次は「時計」「パトカー」「ぬいぐるみ」ですね。
334名無し物書き@推敲中?:2005/05/11(水) 22:31:59
「時計」「パトカー」「ぬいぐるみ」

朝が来るのが怖い。
明日は何をされるのだろうと考え出すと、どんどん目が冴えてくる。
時計が刻む規則的な時の流れが私を追い込む。
大好きだったぬいぐるみを抱いてみるけど、やっぱり満たされない。
ハンガーに掛けてある制服が闇の中でやけに白々しく見える。
パトカーのサイレンが遠くに聞えた。
私と同じ悩みを持つ子が自殺でもしたのだろうか。
そして、私はゆっくり目を閉じた。
願わくば、明日が少しでもマシな一日にナリマスヨウニ。

次のお題は
「心」「技」「体」
335名無し物書き@推敲中?:2005/05/12(木) 21:08:31
「心」「技」「体」

 僕は、ゆっくりと彼女の服を脱がせていった。  
 最後の一枚であるパンティを脱がせると、彼女は全裸になる。
 垂れのない乳房、ふくよかな腰のライン、豊満な尻――
 丁寧な前戯のあと、僕達二人の体はからみあった。
「ああっ……!」
 あえぎ声をあげた彼女はイッてしまった。
 童貞で経験不足の僕が、十歳も年上の彼女をイカせることが
できるなんて、やはり愛の力は偉大だ。
 はっきり言う。セックスは技より心が大事だよ。

お題継続で
336名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 00:25:34
「心」「技」「体」

 「長かったわ」 女史は、十年ぶりのドアを開け、後援者に大きく手を振った。
 軍事政権による監禁。家から一歩も出られぬ生活が、今、やっと終わったのだ。

 将軍は、庭の隅で苦虫を噛み潰し、携帯にも噛みついている。
 「大丈夫なのだな?このままでは困るのだ。貴様の「技」とやらを見せてみろ!」

 女史は決意の演説を始めた。「実はこうしてる間にも、罪もない若者、女学生達が…」
 その時だ、一階のトイレがゴボゴボと、強烈な臭気を発しだしたのは。
 「なんか臭い…」「一階といえば彼女の部屋だなー」「もしや十年分の!?」

 その通りだった。監禁されていた部屋のトイレが、長年の膨大な糞尿を吐き出し始めたのだ。
 コポコポコポ、ドバー!ドドドドドッ 「わー!」「女史の糞が…洪水の様にっ」「お助けー」
 「銃に小突かれて、家畜扱いされない世界を…」 膝まで浸かった女史も、耐え切れず泣き出す。

 後援者が泣いていた。世界も泣いていた。張本人の将軍さえも、臭いが目に染みて泣いていた。
 死をも恐れず奮い起こした勇気。軍事政権さえも動かした精神が、事もあろうに大便に屈するなんて!
 排泄。人間の体の宿命に、彼女は愕然とするしかなかった、が。

 「いいわ、明日には明日の風が吹くもの…みなさん、今後、私は、大便は一切しません!」

 …誓いは半月後に破られた。

※お題に沿って書いてたら、こんなに(汗
次のお題は:「技」「体」「雪うさぎ」でお願いします。
337336:2005/05/13(金) 00:43:52
あ。読み返すと(読み返すなよ;)「心」が「精神」になってるー
すまん。
338名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 00:55:26
「心」「技」「体」

 「長かったわ」 女史は、十年ぶりのドアを開け、後援者に大きく手を振った。
 軍事政権による監禁。家から一歩も出られぬ生活が、今、やっと終わったのだ。

 将軍は、庭の隅で苦虫を噛み潰し、携帯にも噛みついている。
 「大丈夫なのだな?このままでは困るのだ。貴様の「技」とやらを見せてみろ!」

 女史は決意の演説を始めた。「実はこうしてる間にも、罪もない若者、女学生達が…」
 その時だ、一階のトイレがゴボゴボと、強烈な臭気を発しだしたのは。
 「なんか臭い…」「一階といえば彼女の部屋だなー」「もしや十年分の!?」

 その通りだった。監禁されていた部屋のトイレが、長年の膨大な糞尿を吐き出し始めたのだ。
 コポコポコポ、ドバー!ドドドドドッ 「わー!」「女史の糞が…洪水の様にっ」「お助けー」
 「銃に小突かれて、家畜扱いされない世界を…」 膝まで浸かった女史も、耐え切れず泣き出す。

 後援者が泣いていた。世界も泣いていた。張本人の将軍さえも、臭いが目に染みて泣いていた。
 死をも恐れず奮い起こした勇気。軍事政権さえも動かした心が、事もあろうに大便に屈するなんて!
 排泄。人間の体の宿命に、彼女は愕然とするしかなかった、が。

 「いいわ、明日には明日の風が吹くもの…みなさん、今後、私は、大便は一切しません!」

 …誓いは半月後に破られた。

※お題に沿って書いてたら、こんなに(汗
次のお題は:「技」「体」「雪うさぎ」でお願いします。
339336:2005/05/13(金) 01:14:28
>>338
修正して再UPしてくれたんだー。ありがとう。
こんななら、もっと清潔なネタにしとけば…
340名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 12:30:05
雪うさぎの制作には確固たる技術が必要である。先ず冬の寒さにも負けぬ体を作るために
冬の海で五分は素もぐりしなければならない。老若男女問わずふんどし一丁で泳ぐのが伝統である。
その次に、しもやけを耐えるためにはだしで雪の中を闊歩する。このときもふんどし一丁だ。
体が寒さに慣れたらようやく制作にとりかかる。美しいまっさらな雪を得るため雪山へクーラーボックス
片手にのぼってゆく。本場は日本アルプスなのだが、もしも遠くて行けない、などと言うなら
近くの山でも構わない。ただし、少しでも汚れていると意味が無いため、空気が汚染されてない
場所が望ましい。
あとは自分の手と技に頼り思いのままに雪をこねくり回せば完了である。
耳や眼の素材にも充分こだわるように。

次→「軟膏」「カップ」「ヘッドフォン」
341名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 13:08:13
 世界は至る所に広がっている。そう彼は言っていた。
 たとえば、それは豆腐の中。テレビの内側。コーヒーカップのロゴマーク――全てに世界がある。
 
 人は二種類に分けられるそうだ。
 世界を見つけられる鋭い感性を持つ者と、見つけられない暗愚な者。
 楽なのは言うまでもなく、見つけられない方の者だ。鈍い分、生涯のうち見られるものが少なくなる。
『見る』ということは、決して楽ではない。それだけ、考えなければならないことが増えるからだ。
 暗愚はただヘッドフォンで、自分のお気に入りだけ聴いていればいい。
 鋭い感性を持つ者は、この世界の多種多様な声を聞き届けねばならない。
 暗愚は傷に軟膏を塗りたくる。
 鋭い感性を持つ者は傷から体の中を盗み見ようとする。
 
 暗愚は楽しい。見えないことは素晴らしいことだ。
 鋭い感性を持つ者は厳しい。見えることはつらいことだ。

「地下鉄」「怪物」「世界」
342名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 16:30:20
世界は今日も何事もなく、僕は地下鉄のトンネルから怪物が這い出してくるのを待っている。
友人は僕に言う。とりあえず就職しろよ、と。
343名無し物書き@推敲中?:2005/05/13(金) 17:30:00
「地下鉄」「怪物」「世界」

万博に行ってきた。
会場を歩いていると子供が、「昭夫おじちゃんだ!」と叫ぶ。こんなところで弟に会うなんて
すごい偶然だなと思いながら振り返ると、ゴツイ黒人がこっちを見て笑っていた。
確かに俺の弟はでかいし色黒だけれど、黒人と間違えられた事はないと思う。子供、スゴイぞ。

そんなきっかけでその黒人(セネガル人だった)と親しくなり、一緒に会場を回りながら話をした。
195センチの真っ黒な大男は、なんというか、迫力がある。
笑うと歯の白さがとても印象的で、子供を抱き上げた姿など、優しい怪物みたいで微笑ましい。

彼がしきりに不思議がっていたのが、名古屋に来て初めて乗ったという地下鉄だ。
名古屋駅で地下へ下りて乗ったはずの地下鉄が、藤が丘駅で降りて見ると地上10メートルのところにいる。
我々はあたりまえに利用しているけれど、彼にはどうしても仕組みが理解できないようである。
「途中、ふわっと浮いたの分からなかった?」
試しに言ってみると、「オ、オー?」とパニクッていた。

あたりが暗くなり、子供がベビーカーの上で眠ってしまうと、なんだか雰囲気が妖しくなった。
必要以上にこっちへくっついてくるし、俺の肩に手をまわしたりする。
こいつホモだったのか、うっとうしいな、と思っていると、耳元へ顔を近づけ「ユー、キュート」と囁いてきた。
俺だって175センチ70キロで日本人としては「可愛らしい」という体格ではないはずだ。
顔だってヤンキース松井程度にデコボコだ。しかし……
ヤツは欲望を含んだ目で俺をウットリと見る。酔っ払った時の俺が総務の聡美ちゃんに抱きつく時と
同じオーラを放っているような気がする。
ケツまでさわってきやがった。世界はひろい……

お題継続で
344:2005/05/13(金) 19:12:48
地下鉄 怪物 世界

闇のなかでは奴は奴でいられるわけなので、奴は闇に棲むのだ。しかし今や地上で闇を求
めることは困難なことらしい。奴の闇とはただの闇だけでは充足はしなく、無に近い存在
でなければならない。そうでなければ奴は満足をしないのだから。奴のなかで世界とは闇
と同一であるのだ。
だから俺は日中であるのに、夢遊病者のように地下鉄構内に侵入をし、今この夜中まで暗
闇に潜伏をしている。既に終電も通過し、先ほど点検をする2、3人の作業員が、カンカン
とレールを叩きながら歩き去っていったばかりだ。

俺は挨拶をすべく手をさしだした。闇のなかでは何も見えないせいなのか、奴が俺の手を
握らなかった。すっと俺の前に立ちどまり、息遣いだけが俺の耳をとらえている。おそら
く怪物のように俺を高い視点から見下ろし、威嚇をしているようだが、俺に恐怖感はない。
それどころか馴染み深い、感慨さえわいてくるほどだ。臭い息が俺の鼻腔を刺激している。
奴の頭部は俺の近くにあるらしい。
「やあ」
俺の挨拶のあとに言葉で表現することの難しい音で、ギュルギュルと奴は唸った。もしか
したら俺に食いつきたいのかもしれない。しかしもっと近づくのを待とうと俺は思う。も
っと近づかなくては奴のすばしこさからして俺の計画の成就は難しいと思われるのだ。
しかし奴がいつまでもそれ以上は動こうとしないので、俺は自分から近づいた。そして奴
が俺に噛みつこうとした瞬間を見定め、俺は予め用意してきた物本の手錠で奴の汚らしい
手首とレールを括りつけたのだ。触った瞬簡にねっとりとした体液がついたが、もう俺は
無我夢中でそんなことを気にするまでもなかった。これで俺は計画どおり、奴を殺せるの
だ。ここはカーブの出口の為、始発電車が奴を見つけて停車するのは難しいだろう。俺は
奴を殺す。これで俺は救われるだろう。そうだ、俺は救われる、俺は電車にひかれて、粉
みじんに粉砕されて、世界を変貌させてやるんだ。

「葡萄」「肌」「視線」
345「葡萄」「肌」「視線」:2005/05/14(土) 01:29:35
定年を迎え、念願だったワインのシャトー巡りも最終日を迎えた。
山肌に広がる葡萄棚を見渡し、妻は名残惜しそうに微笑んでいる。
ふたまわりも年の離れた私によくここまで連れ添ってくれた、と今更ながら嬉しく思う。
彼女はまだ若い。私はもう十分だ。愛しているが故に解放しなくてはならないと
決意をし、今日別れを告げると決めていたのだ。

「なんでこんなになるまでほっといたんだよ・・・・・・」
金井は私のレントゲンを見ながら呟いた。
「そうか。お前ならはっきり言ってくれると思ったよ」
不思議とショックはなかった。むしろ自然に笑みがこぼれた。
「で、どのくらいもつんだ?」
「半年、いや・・・・・・」
長年の親友は視線を落とし、涙をこぼした。

「ワインのね、瓶の底のくぼみって、なんでああなってるか知ってる?」
不意に腕を組まれ、我に返った私を妻が見上げて楽しそうに話し掛けた。
「くぼみの丈だけ残しておいて、ソムリエに味見させてあげるんだろう?」
これは私が過去に何度も薀蓄をたれたことだ。今更なぜそんなことを言うのだろう、と
口を開きかけたが、妻はそれを遮った。
「私は、残さないわ。最後の一滴まで、全部私の物」
先ほどとはうって変わって強い口調で続けた。
「大事な大事なワインだもの。何があってもぜーんぶ味わうの。あなたにも
それを奪う権利はないわ」
笑顔は消えていた。ただ、まっすぐに私を見つめていた。
「酸化して、酸っぱいワインでもか・・・・・・?」
「そう、酢っぱくっても、苦くっても、最後まで飲むの」
そのまま黙り込み組んだ腕に頭をもたれ、ゆっくりと歩き出した。
彼女とその向こうに見える、荒地で力強く生きる木々が涙で滲んでいた。

次は「暇」「マリンスポーツ」「佃煮」
346名無し物書き@推敲中?:2005/05/14(土) 19:50:29
 暇だ。と言いたいが、嘘だ。残念ながら。
 就職したはいいものの、待っていたのは労働基準法シカトの奴隷生活。不満を爆発させて楽になりたい
ところだが、そんなことしたらせっかくの一流企業がパー。
「遊びてえなあ」
 そういえば、趣味のマリンスポーツも長いことご無沙汰だ。いつもの海は、何か変わっているだろうか。
たまに喋ったかわいいあの子は、今もまだ来ているのだろうか。
 会いたい。
 でも、会えない。
 動けない。動きたいけど、動いてくれない。二十代前半の体とは思えない。
 休みはこうして寝るだけ。体が疲れているわけではない。だからといって自由に動いてくれるわけではな
く、出来ることといえば、せいぜいパックの米をレンジで温めることくらいだ。
 俺は、袋の中から佃煮を取り出し、それを飯にのせて口に運ぶ。
 日曜の朝が、こんなんかよ。
 どうなんだ、俺。

「井戸」「星」「ペット」
347名無し物書き@推敲中?:2005/05/14(土) 20:15:45
「井戸」「星」「ペット」

 街の外れにある古い洋館。
 噂によれば、その昔日本を占領した米軍の兵士が宿舎に使用するために建てたとか、海を越えてやってきた大陸の方の
測量士が自らの軌跡をこの地に残すために造ったとか、色々である。しかし世間でのお話はともかく、その館は実際にそこ
に存在するわけで。
 見た目には大きくて立派な洋館であるバイ○ハ○ードの舞台になってもおかしくない、厳かな雰囲気と、軽い寒気が漂う
邸宅であるが、一つ不自然な点がここにはあった。
 この屋敷の外壁をぐるっと回ると、やはり大きな館らしく中庭が見える。中庭としてはあまり広くないが遊ぶには絶妙な広さ
があり、ペットでも連れてきて散歩したくなってくるほどだ。
 しかしこの風景に釣り合わないものが、一つ。
 井戸がある。この純洋風な建物と景色に明らかにそぐわない、質素な石造りの、アレだ。
 だが妙なことに、この井戸はよくある円筒形ではなかった。……真上から見ると、ちょうど星の形をしているのだ。井戸が普通
に普及していた年代から考えて星型はかなり不自然な形である。
 俺は今、ロープにうまいこと括りつけた洗面器を持っている。
 俺が考えるに、この井戸は昔、あるお偉いさんが発見した貴重な油田なのだ。おそらく外国人。
 理由は二つ。土地柄に詳しくないからこそ、地元の者が考えもしない行動に出られるということ。そして、古い日本人では
考えられない星型だ。
 ロープを握り、洗面器を井戸の暗闇に放り投げる。縄を持つ手がちくちく痛い。
 ……水の、油の感触がない。俺は試しに、近くに転がっていた小さな石ころを放ってみた。
 ―――コーン。

お題は継続でおねがいします。
348「星」「井戸」「ペット」:2005/05/14(土) 23:06:46
虫の声だけが響く暗闇。頭上に開いた丸い穴にかすか星が映っている。
ここはおそらく古い井戸の底。幸い水は枯れてしまったようだ。
なじみのスナックの子に惚れて、やっと誘ったデートでまさか
こんな目に合うとは思ってもいなかった。
明らかにやばい連中のやばい取引現場を目撃するなんて。
必死で逃げる最中、幸か不幸か落ちた古井戸。
助けを呼ぶのは日が昇ってからにしようと決め、
時折静まる虫の音に緊張しながら身を寄せ合う。
普段は気丈な彼女が、息を殺して震えているのが伝わってくる。
「無事戻れたら、一緒に暮らさないか?」
励ますつもりがとんでもない言葉が口から出てしまった。
「一郎と秀樹も一緒でいい・・・・・・?」
「こ、子供いたの?」
と思わず動揺した私に、ペットの熱帯魚よ、と優しくささやきながら
彼女はゆっくりと唇を重ねた。

お題は継続で。
「海水浴にいくか」
雨続きの冷夏の中、真夏日と熱帯夜が三日続いた土曜、秋彦はそうつぶやいてあたしを見た。
あたしはもちろん「うん」と答え、真夏日の10時現在、海へと続く高速にはマリンスポーツ用の機材を乗せた佃煮にしたいほどの車の列が、岬に向かって続いている。
「暇な奴多いんだな」
秋彦は前をむいたまま、険しい顔で握ったハンドルをとんとんたたく。
あんただってそのうちの一人じゃん。でもだめ、そんなこと言えない。こいつは結構傷つきやすい。
「だね。疲れた? 高速降りてコンビニに寄ろうか? ちょっとぐらい時間がみじかくなったって」
「いいや」
そしてプライドが高い。自分で口にしたことをすこしでも曲げるのは許せないらしい。でも怒った顔しないでよ。不安になる。
秋彦はカーナビの電源を3度入れ直して、下道も含めて3時間待ちの渋滞だと3度確認した。
「帰りも混むよね」
「今は行きだろ? 帰りの事なんてわかるかよ」
あたしは悲しくなった。本当は海なんてどうでもいい。ただ秋彦と楽しい時間が過ごせたら、そう思ってただけなのに。
「おしっこ」
「え?」
「トイレ行きたくなった。秋彦、高速降りて。漏れちゃう」

コンビニの駐車場で、秋彦はタバコをすっていた。
トイレから出てきたあたしを見つけると、非難するように笑った。
「もう今からじゃ絶対無理だ」
「ごめんね」
あたしは秋彦を拝みながら笑った。

次は「スピーカー」「掃除」「写真」で
すいません、お題は「星」「井戸」「ペット」で
351「星」「井戸」「ペット」:2005/05/15(日) 22:38:42
ジョセフが血相を変えて飛び込んできた。
繁華街で娼婦に混じって立っていた占星術師に占ってもらったら、
あなたは今週中に誰かに殺される、と言われたのだそうだ。
馬鹿らしいと思ったが、本人は怯えきっていて外で物音がするたびに小便を垂れ流す始末だ。
部屋が臭くなってかなわんので、庭にある古井戸に身を隠したらどうかと勧めてみた。
長いこと使ってなくて何年もガラクタ置き場の中に埋まっている井戸だから、
この家の者…つまり俺以外の誰もこの井戸の存在は知らない。隠れ場所にうってつけだ。
ジョセフも今週を無事に切り抜ければ気が済むだろう。
俺が用立てた食料と水を持って、ジョセフは井戸に入って行った。
井戸の蓋を閉め、元通りガラクタで誰にも見つからないように隠した。
一週間後、井戸の蓋を開けると腐臭がただよってきた。
ジョセフは酸欠でくたばっていた。俺は一週間前に蓋をきっちり閉めすぎたのだ。
占いは当たった。ジョセフは殺されたのだ。俺に。
俺は泣きながら、愛用のトランペットでジョセフのために葬送曲を奏でるのだった。


次は上の「スピーカー」「掃除」「写真」で
352名無し物書き@推敲中?:2005/05/16(月) 00:04:21
賑やかな商店街の一角に、コーヒー専門店があった。
木目調のドアを開けると、挽きたてのコーヒー豆の香りが漂ってきた。
ダークブラウンで統一された内装。壁に掛けられた黒人ミュージシャン達の写真。スピーカーから流れるジャズ演奏。
都会のオアシスとは、こういう場所を言うのかもしれない。
細長い顔に白髪のマスターがいつものように「いらっしゃい」と愛想の良い声をかけてきた。
続きが待ち遠しい。私は窓際の席に腰掛けると、背広の内ポケットから小説を取り出し視線を落とした。
「いらっしゃいませ」
聴きなれない声に顔を上げると、微笑む女性店員の顔が見えた。
「ああその娘、今日からバイトでね。床も綺麗だろ。掃除も手伝ってくれたんだよ」
私は、嬉しそうに話すマスターに「あ、そう」と軽く返事をした。
「いつもの。ああ、ミルクティーで」
コーヒー専門店でミルクティーを頼むのは私ぐらいだろう。苦笑する私に、店員はこう言った。
「ミルクティー、かしこまりました」
ミルクティー。復唱する女性店員の口元が、綺麗な弧を描いていた。

数日後、私は東京への出張を終えると、再び店を訪れた。
「いらっしゃい」とマスターの声がした。あたりを見渡すが、どうやらあの娘はいないらしい。
ミルクティーを運んできたマスターに声を掛けた。
「マスター、あの娘は」
マスターは少し渋い顔をして、こう言った。
「ああ、ちょっとね。つり銭、やっちまって」
ひとさし指を一本前に出し、折り曲げてみせた。

私は、いつものようにミルクティーを一口啜り、小説の続きに視線を落とした。
小説の中では、主人公のハッピーエンドが目の前だった。

<15行超えてます。申し訳ないです。よろしくお願いします。>
353名無し物書き@推敲中?:2005/05/16(月) 00:05:38
次も 「スピーカー」「掃除」「写真」 で
354名無し物書き@推敲中?:2005/05/16(月) 17:15:12
「スピーカー」「掃除」「写真」

掃除機を買おうと店に行ってきた。
コードレスのシンプルなものを買おうと思っていたのだが、実にさまざなものがある。
渦巻きを作って吸引力の強いもの吸い込んだゴミが目に見えるもの、水を吸っても大丈
夫なもの、色々だ。親切な店員がやってきて、あれこれ説明してくれる。
ぜひこれを試して下さいという大型掃除機のスイッチを入れたとたん手元に、ぐっと引
きつけられるような力を感じた。竿に大物のアタリがきたかのようだ。
「す、すごいです。でも少しモーター音が激しいですね」と私。
「ですよね。そう感じるお客様のための新機能がついています」と店員はニコニコして、
音符のマークのついたボタンを指さした。押すと、大音量のワグナーが響きはじめた。
自然に私の声も大きくなる。
「アハ。これも、すごい。ステレオサウンド付きですか。ナパーム弾でジャングルを焼
き払うように掃除がはかどりそうです!」
「ええ、いいスピーカーでしょう!」と店員も答えた。
スイッチを切ったあとも、私達は大声で話していたのではないかと思う。
「感動です!記念に残したい感動です!」と私はいった。
「でしょ。でしょ。ここに立ってみて下さい」
店員はそういうと、またなにかのボタンを押した。しばらくするとジーって音がして、
掃除機から記念写真が出てきた。

「傘」「島」「交差点」
355名無し物書き@推敲中?:2005/05/16(月) 23:14:12
 しとしとと降り続ける、穏やかな五月の雨。
 屋上から見下ろせば、大量の傘が交差点を横切っていく。
「……さて、詩人ならここで何と喩えるのやら」
 塗れた頭髪が額にへばりつく感触に、僅かな嫌悪感。
「玉の溢れた玉突き台? 川を転がる色とりどりの宝玉?」
 冷たい鉄柵に凭れながら考えるが――我ながら最悪だ。
 どうにも自分に詩人の才は無いらしいと、僅かな苦笑に唇を歪める。
「島より流れる木の実たち。何処に流れ着き、はたまた何処に沈むか――」
 それが、こんな事を考えるのは今後無いだろうからと、暫く頭を捻って考えてみた結論。
「……やっぱ最悪だ。てか、これから一生に一度しか無い大イベントを控えてるってのにまあ」
 気楽なもんだ。
 いや、脳内麻薬のせいだろうか。
 きっとこんな事をしようとしている時点で、自分の頭は、もう既にどこかおかしいのだろう。
 ひょいと一歩を踏み出す。
 そのまま身を倒せば、遥か遠かった地面は、ほら、もう近い――

「神楽」「灯火」「洋装」
356「神楽」「灯火」「洋装」 :2005/05/17(火) 23:37:20
エリーがパトロンの好意で日本料理店を始めたらしい。
もとは公園に立つ娼婦だったのだから、ずいぶん出世したものだ。
送られてきたチラシを見ると店の名前は『神楽』で、
横に「KAMIRAKU」と読み方が書いてあった。
読み方に違和感を覚えたが、俺は日本文化には詳しくないし、これで正しいのだろう。
さっそく行ってみると、まるで竪穴式住居のような店だった。
食器は土器だったし、電気はついておらず中は灯火で照らされている始末。
エリーの奴、日本が今も縄文時代だとでも思っているのか。
しかも店員はどうみても洋装だし、名物メニューはキムチという有様だった。
開店したばかりだというのに、客は俺の他数人しかいなかった。
この店はすぐに潰れることを確信して帰ってきた。
数日後、手紙が届いた。閉店の知らせかと思ったら案の定だった。
ただ、潰れたのではなく灯火の不始末で店が全焼したのだった。
可哀想に、エリーも店と一緒に丸焼きになって発見された。
エリーの丸焼きは閉店記念の特別メニューにされ、皮肉にも開店以来一番の大盛況だったという。


「飯店」「人肉」「饅頭」
357名無し物書き@推敲中?:2005/05/18(水) 04:07:19
「飯店」「人肉」「饅頭」

私の命が危ういです。私の脳内で、三つの単語が瞬時にリンクします。
猟奇   女性    夜
これらは近所で多発している殺人事件のキーワードです。
目の前の男は飯店で使われているような、いかつい包丁を携えている→猟奇
私の性別→女性
卒業研究のためにぎりぎりのところで終電に間に合ったこの時間帯→夜
男は私を見つめ、涎を拭いながら「肉だ」と呟きました。
人肉好きなんだよ、おっぱいが好きなんだよ、饅頭みたいに豊満な……
お経を唱える男に私の華奢な身体は軽々と押し倒されます。
男が服を破きます。またたくまにブラを装着した乳房が月夜の元に晒されます。
危険が伴うが反撃にでるのが最も無事に近いかもしれません。ボールペンで男の目を潰そうと思います。
しかし男は、男は包丁を地面に落としました。悲しげな表情さえ浮かべています。
これまでの行いを悔いているに違いありません。そして男は呟きました。
「おっぱいが無い……」

翌日、頭蓋骨の粉砕した男の遺体が発見された。目にボールペンが突き刺さっていた。

次→猟奇 女性 夜
358名無し物書き@推敲中?:2005/05/18(水) 23:18:52
私は、秋葉原で買ってきたばかりの型落ちしたDVDプレーヤーを、使い古したテレビに繋げていた。
機械オンチの私には、DVDプレーヤーの初期設定がとても面倒だった。
ああ、もうこんな時間。紫色の壁掛け時計が夜の九時を回っていた。
私は、習慣病のようにテレビの電源をいれると、ぼんやりと眺めはじめた。
「被害者は渋谷区のマンションに住む準看護師、高木敬子さん22歳で――」
ニュース番組に出てきた顔は、見覚えのある女性の顔だった。
え、え、えっと――

私は今日の行動を振り返った。
赤い自家用車で秋葉原に着いたのが昼の三時過ぎ。時計を見たから覚えている。
電気街を歩いたり、軽食を食べたりしたけれど、まだその視界には登場しない。
猟奇じみた目で、価格を細かくチェックしながら店舗をいくつか廻って、カードで支払ったのが五時前ぐらい。
駐車場に止めた車の後部座席に、DVDプレーヤーを置いて――

あ、わかった。

私は、DVDプレーヤーと一緒についてきた おまけDVD のパッケージを見た。
「ネコ美アンV 準看護師 子ネコ T・K」
へーやらせじゃないんだね。実在する人だったんだ。
レズビアンの私は、妙な興奮を覚えながら おまけDVD をプレーヤに深く挿入した。

<すいません15行超えています。申し訳ないです。よろしくお願いします。>
359名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 00:36:11
「猟奇」「女性」「夜」

「死体はグロいから見たくない」と言っていた友人も、被害者が全裸の女性だときくとコロッと態度を変え、
車を飛ばして山奥の林道までやってきた。

その日、俺たちはキャンプをしにその林道に入った際、林の中に横たわる女の遺体を発見したのだった。
最初はもちろんビビッたけれど、すぐにどうって事はなくなった。
警察?そんなものに届けるほどヒマじゃない。
すぐに友人数人に電話をかけ、死体を見たいヤツは集まれと言った。

「なんだ、意外とフツーじゃん」
遺体を見るためにかけつけてきた友人は、開口一番言った。
「インパクト足りないんじゃないか」彼はそんな事を言いながら、遺体の両手の指をポキポキと折りはじめた。
続いて爪も剥がしはじめる。「こうしておけば猟奇殺人ってことで、新聞記事の面積が倍になるぜ」
さすがにちょっとヤバイんじゃないか、と思ったけれど、俺は黙ってみていた。

帰りは夜になってしまった。
ファミレスで飯を食って帰った。

お題は継続でお願いします。

360名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 17:20:42
「猟奇」「女性」「夜」

ある日のこと、男が耳掃除をしていると、耳の穴からネジがころがり落ちた。
きらきらと光るそのネジは、まるで銀細工のように綺麗で、真一文字に掘り込まれた
ネジ山も潰れておらず、男はしばらくの間、ネジから眼を離すことが出来なかった。
「こんなことだから、お前は頭のネジが緩んでいるって罵られるんだなぁ」
ややあって、男は悪態を吐きつつベランダに向かう、もちろん工具箱を探し出すためだ。

外は夜だったが、男は闇の中、植木鉢をひっくり返したりしながら、どうにか
工具箱を見つけ出した。
しかし、猟奇殺人犯の慰み者にされた哀れな犠牲者の如く、散かし放題となった
ベランダを見て、男は面倒臭がらずに明りを付けるべきだったと後悔した。

「ドライバーを扱うときは、女性を取り扱うように繊細に、そして大胆に……」
慎重な手つきでネジを外耳に差し込んだ所で、男は先ほど眼にしたネジが
頭のどの部分のネジだったかを、事前に調べなければならないことに気が付いた。
「……まあいいや、どこかが取れるんだから、すぐにわかるだろう」

あれから暫く経ったが、頭の中で何かがカラカラと鳴って、止まなくなってしまった。
男は仕方なく、姿勢を正し、行儀良く日々を過ごすということを覚えた。


「給与」「機嫌」「誘拐」
361名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 18:04:51
「給与」「機嫌」「誘拐」

約束事とて何もない週末。電話が鳴った。 
「給与は預かった。給与袋の命が惜しくば、娘をよこせ」
私は呆然として言葉を飲み込んだ。
「聞いているのか。凶悪な誘拐犯は何を仕出かすか分からないぞ。警察には連絡するな」
と聞き覚えのある声が言う。私は声を振り絞った。
「社長!私は、もう会社を辞めた人間です。冗談はやめて下さい。未払いの給与は、もう
諦めましたから、ご随意に」
電話の向こうから、うっとしい涙声が聞こえてくる。
「帰ってきてくれよ。銀行はなんとか説得する。来月には風向きも変わる気がするのだ。
頼む、ワシを信じてくれ。機嫌をなおしてくれ。なっ。専務」

「石」「四季」「起草」
362名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 18:14:43
「石」「四季」「起草」










「石」「四季」「起草」
363名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 21:52:12
「石」「四季」「起草」

 何年ぶりに開けた引出しだったのだろうか。形が歪んで、途中で引っかかるのを無理に引き出すと、
埃が舞って中身が畳にぶちまけられた。咳き込みながら確かめると、いくつかの古いごわごわしたノー
トの表紙には、亡くなった父の筆跡でその名前が記されている。
 中を開くと、あの、むっつり石にようにおし黙って家族にもめったに笑わなかった人が、雄弁に――
かすれたインクで――毎日の出来事や感情を丁寧に記していた。
 何度も良く読むと、父の死後に保険で暮らす私と母の姿を嘆いている文が頻繁に挿入されている。父の
体は生まれつき病弱だったと、そう聞いている。何十年にわたって発作を恐れ、死を意識してきた父には
残された家族の姿がたやすく想像できたのだろう。そしてその苦しさを看病するしかない家族ではなく、
孤独の中の日記にしか表せなかったのか。
 父の予想は、なるほどスジが通っていて、確かなリアリティがある。だが実際は、私は結婚して婿をも
らい、その働き者の夫のおかげで貧しさや辛い生活とはかけ離れて幸せでいる。四季の流れは少女を女に
するし、小娘に家庭を持たせる。父は、生きてることがどれだけ変化に富んで変わりやすかったかを考え
なかった。
 そのめまぐるしさは、父が感じた悲壮なリアリティなんてただのパラレルな物語にしてしまうほど。
 私はノートを閉じて、隣室で孫の相手をしてるだろう母にも見せようと思って立ち上がった。母も、思い
出に沈みこんだりはしないだろう。
 自分の人生は自分で造っていく、それは人間が生まれた瞬間から起草し始めたたった一つの物語だ。

「六月」「花束」「ピストル」
364名無し物書き@推敲中?:2005/05/19(木) 21:56:00
うぁ、ごめん十五行越えました。お題継続でお願いします
365猫ヶ洞:2005/05/20(金) 01:31:13
「石」「四季」「起草」/「六月」「花束」「ピストル」

マリが仕事を終えて職員用の駐車場へ下りていくと、
自分の車のサイドミラーに紙袋がぶらさがっているのが目に入った。
中をみると、小さな花束と手紙がはいっている。マリは手紙をとりだして、車の横に立ったまま読み始めた。

――― 四季を通じて、今頃の時期が一番好きだ。なぜなら、あなたの生まれた季節だから。
(あら、ラブレターかしら…… )
六月のあの日、あじさいの花の中に立つあなたを初めて見たとき、僕の心臓は明治憲法の起草を終えた
伊藤博文みたいにトキめいていました―――
(生徒かしら……それにしても汚い字)マリはそう思いながら読み進んでいった。途中、くすくす笑ったり
あまりにもクサイ表現に赤面したりしながら、2分あまりで最後まで読んだ。
――― 追伸 この手紙を読むあなたの姿を、僕は植え込みの陰から見ています。

マリが顔をあげて駐車場の隅をみると、学生服を着た少年が植え込みの向こうで石のように固まって
いるのが見えた。背中に棒でも入れられたみたいにピンと直立してゆらゆらしながらこちらを見ている。
マリは少し微笑んだ。車のドアを開けながら、右手をピストルの形にして撃つ真似をした。
「バキュン!」小さく呟いた。

久しぶりに書いた(汗)
次 「保険」「週末」「ターゲット」でお願いします。
366名無し物書き@推敲中?:2005/05/20(金) 03:58:17
「六月」「花束」「ピストル」

 六月の程々涼しい十六夜の中、満月の夜ほどけばけばしくない月明かりに照らされた室内に、少年は立っていた。
 よく見るとその足元にも、少女が。暗がりのなかにへたりこんでいる。
「少し……頭がおかしいのかと思ってたけど」
 少女は少年を恐れているのだろう、震えた声で言った。
「そんなピストル、誰からもらったの?」
「トカレフなんて、そこら中に転がってるもんだよ」
 そう言った少年の手には拳銃が握られている。その銃口は少女の眉間にピタリと向けられていた。
「何が、目的なの?」
「べつに」
「べつにって……なによ」
 納得がいかない。という意思がにじみ出た声。
「ただ、両親が死んだあとたった一人残った家族を自分の手で殺す気分っていうのは、どういうものかと思ってね」
 少年は平然と、感情の起伏を露ほども見せずその言葉を紡いだ。
「狂ってるわ」
「僕もそう思う」
 銃声。

「………」
 沈黙。
「死んでないじゃない」
 銃口の先には大きな花束が飛び出していた。いつのまにか電気もついていて、室内は明るい。
「誕生日おめでとう」
 にこりと笑って、少年はその言葉を平然と言った。
「ゥフ、アハ、いつか……ハハ、殺してやるわ」
 少女は完全に腰を抜かして半泣き半笑いという表情をして涙と鼻水を垂らしながら言った。
「その時を楽しみにしているよ。どんな気分になるのかな?」
 そして、少年は少女に、手を差し伸べる。
 
367名無し物書き@推敲中?:2005/05/20(金) 12:44:39
このスレもうだめぽ。
368「保険」「週末」「ターゲット」:2005/05/20(金) 17:45:53
俺は新人教師として十年ぶりに母校へ戻ってきた。
西校舎が傾いて倒れそうになっている。
教頭の黒シャツが保険金殺人で逮捕されてからというもの、
入学者が減って経営が厳しいという噂は本当らしい。

黒シャツは決して悪い奴ではなかった。
週末になると生徒を集めて行きつけのキャバレーに連れて行ってくれたものだ。
そもそもこの学校には、生徒を何人も体罰で殺した挙句壁に埋めてたり、
理科室で麻薬を精練してたり、職員室のコピー機で偽札を作ってたりと、
逮捕されるべき教師は他にいくらでもいたのだ。

赴任の挨拶のため校長室に行く途中で、壁が不自然に塗り替えられてるのを何箇所も見つけた。
理科室からは忘れようのないあの芳香が漂ってきたし、
職員室を覗くと懐かしい顔がいて嬉々として印刷したての札を切り揃えていた。
奴らの所業は相変わらずだ。なのに、なぜ黒シャツだけが警察のターゲットにされたのか。
ここの教師として落ち着いたら、少し調べる必要があるかもしれない。


「泣き出し」「止まり」「生き返る」
369名無し物書き@推敲中?:2005/05/20(金) 17:53:44
お題は>>365のでOK?「保険」「週末」「ターゲット」

 標的は週末だ。一点集中、間違っても予定の変更は有り得ない。
 決行は金、土、日の三日。今日は水曜日、そろそろ計画の準備も最終段階に入ってくる頃だ。
 三年近く愛用しているアルファードの燃料は――? OK。
 作戦に必要不可欠である紙袋は――? 既に数枚、予備もきちんと用意してある。
 銀行から急遽奪取してきた紙幣と硬貨の数々――。充分だ。
 計画は入念に練ってある、大丈夫だ。
 この作戦は一度きりだ。保険は利かない……即ち、失敗は許されない。この三日のうち、一度でも落とせば、それは直接的に
自身の破滅に繋がる。
 近くにあった紙を手に取る。この作戦のキモとなる重要な計画書だ。これで何回目になるだろう、ターゲットの確認をする。
 朱色の太字が目立つ広告だ。
『恒例の夏休み最終末バーゲン開催! 売ります見せます、全品10%〜25%引き!』

次もお題継続で。
370名無し物書き@推敲中?:2005/05/20(金) 17:54:28
リロードし忘れました……。
お題は>>368氏ので。
371名無し物書き@推敲中?:2005/05/21(土) 02:00:45
「泣き出し」「止まり」「生き返る」

彼女は立ち止まり、泣き出しそうな空を見上げた。
美しい黒髪は腰まであり、漆黒の瞳は愁いを帯びている。
細い肩は小刻みに震えていた。
「どうしたんだい?」
僕は彼女の震える肩にそっと手を置いた。
しかし、彼女は黙ったまま灰色の空を見上げるばかりだ。
「またか……」
僕はゆっくり息を整える。
そして、彼女の脇腹を一気に蹴り上げた。
鈍い音が響き、彼女が吹っ飛ぶ。
この方法で、何度も彼女は生き返ってきた。
「――イラッシャイマセ、御主人様」


お題は継続で
372名無し物書き@推敲中?:2005/05/21(土) 03:34:35
黒いアスファルトの上を、交差するように引かれた白い横断歩道。スクランブル交差点。
その上を、今日も人々の群れが行き交っていた。
連れ立って歩くカップル、お揃いの制服を着た女子高生。
派手なTシャツを着た少年達、サラリーマン、OL、主婦の姿。

20年後、彼らは何処でどうしているのだろう。

実業家となる者、それに嫁ぐ者。
癌に侵される者、泣き出しながらその死に目を看取る者。
この世に未練はないと自殺する者。意識不明の重態から奇跡的に生き返る者。そして、それぞれの家族となる者。

ここは、人生のスクランブル交差点。

私は、交差点の中央で立ち止まり大きく深呼吸すると、両手を広げ、声を張り上げていた。
「私はあなた達の顔も、名前も、歩んできた人生も何も知らない。
 だけど、ほんの一瞬、人生から抜け落ちそうなこの一瞬を共有した人達全員に言いたい」
怪訝な顔をした彼らに、私は叫んだ。
「簡素、ありがとう」
373名無し物書き@推敲中?:2005/05/21(土) 08:55:58
「六月」「花束」「ピストル」

大相撲、幕の内力士、万景峰は親方との不倫に悩んでいた。てっぽうの稽古に励んいるときも、
おかみさんの目線が険しく自分に向けられているような気がして、胸がキリリと痛んだ。そん
な五月場所の前日、親方が言った。
「一度だけでいい。無心で全力をつくせ。優秀の酒杯をあげみろ。優勝杯の酒にはな。何でも
願いのかなう魔法が宿っているのだ」
これを聞いた万景峰の活躍は目覚ましかった。あっさり全勝で優勝したのだ。祝賀会の後、明
りの落ちた部屋で。万景峰は腹を裂くようにして、その叶うはずのない望みをぶちまけた。
「親方。おら。六月の花嫁になりたいっス!」
親方は何も言えず、万景峰を抱きしめた。そのときドサリという音が聞こえた。花束を落とし
た、おかみさんが立っていた。おかみさん高速の突きが親方の顔に炸裂した。
45口径マグナム。ピストルのお龍と呼ばれた、おかみさんだった。


 (つぎのお題は、えーとっ。もう分かんない。
       「保険」「週末」「ターゲット」 なのかな?)
374「保険」「週末」「ターゲット」:2005/05/22(日) 10:38:24
金がない。
しかし、障害保険は当分やめておこう。何度も申請すれば怪しまれる。
なら身代金ではどうか。
やるとすれば、ターゲットは抵抗できない幼児がいい。始末も簡単だろう。

今日は週末。
パチンコ屋の駐車場を物色すれば、一人ぐらいは調達できそうだ。
375「保険」「週末」「ターゲット」:2005/05/22(日) 10:50:45
 週末家でのんびり焼酎を飲んでいると保険のお姉さんが家に来た。
「おはようございます。あらやだ、この人朝から酔っぱらっているわ」
「そんなことねえよ、姉ちゃん。まあ、ゆっくりしていけや」
 酒が入っていた僕はいくらか気が大きくなっていたらしい。
「あらあら、恐いわ」とお姉さんはそそくさと玄関から退こうとしている。
「ちょっと待て! 今度のターゲットはお前なんだ!」と僕はわめいた。
「は? わけがわからないわ」
 お姉さんは怒り心頭、僕のほっぺを平手打ち。
 そうして僕たちはめでたく結婚した。

「保健室」「期末」「キラー」
376「保健室」「期末」「キラー」:2005/05/22(日) 20:14:18
今日は期末テストの最終日でした。
私は、教室から逃げるようにして保健室の扉を叩きました。
(あなたはお姉ちゃんなんだから、妹のわがままも聞いてあげなさい、まだ小学生なのよ)
私は、お母さんから言われた言葉を思い出して、気分が悪くなって、目から涙が出ました。
保健室の先生からベットで休むように言われました。私はベットの中に潜り込みました。
暗闇の中で、百科事典に書いてあった文章を思い出していました。

――殺虫剤の毒性
殺虫剤は害虫を駆除する事を目的として、薬類を混合し希釈したものであるが、
その毒性は、人畜に対して影響が無いわけではない。
例えば、速効性があり、様々な害虫の駆除に効果的なダイアジノンについては、
害虫キラーの代表格と言えるが、人体への毒性も高く、劇薬に指定されている。

私は、制服のポケットに隠しておいた真っ赤なボトルを握って、
ノズルの先端を咥えました。
377名無し物書き@推敲中?:2005/05/22(日) 21:57:18
 あれは中学三年の二学期だった。
中間テストの二日目、一番苦手の数学の途中、気分が悪くなった俺は
いつものように保健室に逃げ込んだ。

 保健室の真知子先生とは、もう顔なじみだった。
「ふうん、きつくなったんだ」
 何も言わず、先生は受け入れてくれた。優しい先生だった。
「少し休んでいくといいわよ」
 先生は小柄で、眼鏡を掛けていた。年は30少し過ぎで独身のはずだった。
 
 その時、保健室の机から床にペンが落ちた。
 真知子先生が腰を曲げて、拾おうとした。ベッドに寝ていた俺の方に背中
を向けたままだった。白いスカートに先生のパンティのラインが浮かび上が
った。
 
 ゴクッ、俺は突然先生に‘女’を感じたのだ。
 バッと飛び起きて、いきなり背中から先生に抱きついた。
「な、何するの!」
「先生、好きだ!」
「やめてっ!」
「好きだ!」
 俺は、先生と向かい合うと、唇を重ねた。
「あ……」
 俺が、無理やり舌をねじ込むと、先生の抵抗がスッと弱くなった。
そして――
 
 十年後、銀座でマダムキラーとして知られるようになった俺の最初の女
が真知子先生だったのだ。

「時計」「風」「絶叫」
378 「時計」「風」「絶叫」 :2005/05/23(月) 00:00:08
時計使をい古されたテーマだ。
時の流れ、刻む音、そして巻き戻せる期待。かなわぬ期待。
大方そんなところで、あとはちょっとした小道具として使うぐらいだろう。
「ふっ」
時計と、後二つのテーマを使て作文を書きなさい。
まあいい。理系大学の教養の講義で文系だが理系かぶれの客員教授から出されたお題としてはこんなもんだろう。
「時間、というテーマはとても深いテーマなんです。5月の暑い日、風が吹いて気持ちよさを味わった後またそんな風を味わいたい、でももう二度と取り戻せない、しかし取り戻したい……」
そうなんだろうね。
200人はいる大教室に10人しかいないタルイ授業を受けながら、僕は頬杖をついて窓の外をみた。
窓辺には午後提出の実験レポートを写しているナンパサークルのやつがいた。
なにやってんだよと思いながら、僕もなにやってんだよと思う。
文系に行きたかった。専門学校でもよかった。小説とかシナリオを書いて、それで暮らしたかった。そして絶対無理だとあきらめたはずなのに、僕はここにいる。
「もう二度と戻らない時間、それを懐かしむ。それが時計なんです」
そして先生は僕のほうをチラッと見た。周り中、だれた学生のなか、少し声を張り上げて、絶叫するようにキッと教室の後ろの黒板をにらんだ。
「もう巻き戻せないかもしれない、でも終わってないのなら、少なくとも足踏みはできるんです。私はそう思います」

次は「萌え」「ラブ」「政令」で。
379名無し物書き@推敲中?:2005/05/23(月) 01:08:40

ランチは外で食べることにした。朝トーコに持たされた弁当を持って研究室から出る。
昼下がりのキャンパスに行き交う学生は、先月よりだいぶ数を減らしてはいるが、
新しい環境を楽しむ余裕が生まれてきたのか、どこか爽やかな表情をしている。
ときは五月、若葉萌える新緑の季節である。
工学部棟の横を回り、大講堂の前を抜けると、大学所有の庭園が広がっている。
つい管理費を計算したくなるほど、いつも綺麗に整備されたこの庭園は、一般の学生にも解放されている。
政令指定都市に本拠を持つ、中の上クラスの私立大学にしては恵まれた環境であるとは思う。
幸運にも空いているベンチを見つけ、弁当を平らげコーヒーで人心地ついたときには、
なんだか戻るのが億劫になってしまい、しばしここで木陰と微風を楽しむことにした。
ふと校舎を見上げると、授業中の学生と目が合ってしまった。
勉学の意欲が授業の内容とかみ合わず、諦観に埋もれ、ただ時間が過ぎるのを待っている。
そんな顔をしている。
ああ、かつての自分もあんな顔をしていた。そして今もあのような顔をしていることがあるのだろう。
しかし、その諦観を否定しなかったからこそ今の自分はここにいるのだ。
学びつづけることは、ある種、愚直でありつづけることでもあるのだ。

気がつけば、もうすぐ四時限である。院生が訪ねてくる前に戻らねばならない。
コーヒーの空き缶を足元に落ちていたクラブの新人勧誘のビラと共にゴミ箱へ投げ入れ、
私は庭園を後にした。

次は「白」「清涼」「財務諸表」で
380名無し物書き@推敲中?:2005/05/23(月) 22:40:22
だから言わんこっちゃない。
俺は怒られた。
B/SもP/Lも知らんのかいな、しゃあないやっちゃなあ。
ねちっこい関西弁で怒られ続けた俺は、こう言い返した。
じゃあ、清涼の意味を言ってもらおうか、そこの関西人。
清涼飲料水の清涼やろ、爽やかでええかんじのこっちゃ。ラムネやラムネ。
ちがう、俺は しょうりょう と言ったはずだよ。そこの関西の。
関西人は机の上の財務諸表を拾い上げると、ビリビリと破り始めた。
ほんま、これやからかなわんわ。アンポンタン。ほれ、紙吹雪じゃ。
俺は、紙吹雪をあびながら、予測できなかった結末に、目の前が真っ白になった。その時。

そりゃラムネでなくて炭酸だがねぇ。エセ名古屋人が参戦した。

俺は、予測できなかった結末に、目の前が真っ白になった。その時。
381名無し物書き@推敲中?:2005/05/26(木) 01:30:18
「白」「清涼」「財務諸表」

「社長にとって、経営とは何ですか?」

なんとバカな質問をするリポーターなのだろう―― 大田原は思った。
テレビカメラが正面から大田原をとらえている。ライトが眩しい。
日曜の朝、生放送が売りの経済バラエティ番組での一コマだった。
経営とは何か、だと?
そんなもの、真剣に語り始めたら視聴者が寝るぞ。ひとことで「経営とは真剣勝負です」
みたいなことでも言わせたいのか。そんな何の意味もないせりふは、俺は絶対に言わんぞ。
「そうですね。経営とはつまり、ひとことで言えばセックスです」
「……」
「適当にやろうと思えば誰にでもできるし、極めようとすれば奥が深い。命懸けのセックスもあれば、
一服の清涼剤のようなセックスもある。結果を求める経営もあるし惰性でする経営もある。
財務諸表で企業の実情を測ろうとする人がいるが、そんなものに会社の本質は現れない。
セックスは人目につかない場所でひっそりとやるものだからね」

画面がとつぜん真っ白になって、オルゴールの音とともにテロップがながれた。
――ただいま不適切な発言がありました。謹んでおわび申しあげます。

「警備」「極薄」「不安定」
382「警備」「極薄」「不安定」:2005/05/26(木) 23:38:55
「アー!!」
 咆哮と共に両手を広げて、ババアが走りよってくるのが見えた。やたら早い。
驚きとその醜悪な面への恐怖で、私は扉を閉めるのを一時忘れてしまった。
 そのまま私に衝突するかと思った瞬間、私の呼吸は完全に止まった。なにか
極薄の透明な膜を貼り付けられたらしい。勢いで倒れ、私はそのまま気絶した。
「ふがいないな。あれから大変だったぞ」
 気付くと空き病室のベッドの上で、先輩の顔がのぞいていた。
「あんな化け物が襲ってくるなんて、聞いてませんよ」
 初めて警備員として失敗したことに言い訳する。それだけ理不尽に思えた。
「仕方ないさ。ここに来た者は誰でもそう言うよ。俺もこれにやられた口さ」
 そういって先輩はサランラップのケースを見せた。あのババアは常習らしい。
「くそ。やり返してやる」
「今はやめとけ。相手は不安定なだけに法が味方してるからな。俺も手伝って
やるから、次の機会を待てや」
 手中の箱を握り潰し、先輩は不敵に笑う。金属部分から滴る血は赤かった。

次「悲哀」「硬質」「販売」
383K 悲哀 硬質 販売:2005/05/30(月) 20:15:18
硬質な殻に包まれる俺は機械にでも生まれかわったようだ。これが流行の先をいく服装と
いうわけだ。拉致誘拐、殺人が日常茶飯事となった今、この薄手の硬化プラスチックスー
ツに身を包めば、そのファッション性、機能面からしても、最先端をいくというのだから
身につけないわけにはいかないだろう。関節箇所は通気性に優れた、これまた新開発の軟
質でありながら硬質のものには劣るもののその保護という面からは申し分はない。街角で
ピカピカと日差しを反射するこのニュースタイルのファッションできめる。仮にも布の服
なんかを着て、意気揚々と出かけでもしたならば、その人間性さえも否定されしかねない
現状況にあるのだから。
ある日、俺は肌の空色に近いほどの白人女性のたどたどしい日本語の声をかけられた。
「あなたは裸ですか?」 そうだ、このスタイルに肌着は似合わない。コンドームのように
半透明のプラスチックのなかは素肌もあらわだ。
「これが時代の先端だからですよ!」
そうだ、郷に入らば郷に従う、優しい俺はやっとこの女も納得さし、連れ立って先端をい
く決心をさせた。日本人の優しさ、この辺りは古風な俺だ。
「似合う?」 「イェス。でも、いつまでも下半身を隠してるなんてクールじゃないな!」
この試着室から出てきた外国人女性は、胸をあらわにしてはいるものの下半身だけは両手
でしっかりとガードをし決して見せようとしはしなかった。
「恥かしいの」 でも俺は彼女の手をそっとどけてみた、あくまで優しくな。
「ずいぶん濃いね・・・」 外国人はうつむいた。俺はその姿に見入る。俺は今までこの女の恥
部を見ようが何も感じなかったわけだが、今この女の感情に触れてしまった俺の下半身は
痛んだ。「どうしたの?」「いや・・・」 俺はさっきまでこの女がしていたように下半身を抑
え片膝をついた。そんな俺を見て、女の販売員が近づいてきた。「お客様、そのスーツは女
物ですわ。男物は下半身を軟質なもので作られているのですよ」 おお!そういうこととか。
うずくまる俺を見て、再び下半身を隠してしまった外国人女性は悲哀の眼差しを隠さない
わけにはいかないらしい。でもそれは俺に向けられたものではないだろう、それはあくま
で君も含めた人間全体に向けられた眼差しなのだろう。
俺はそう理解するぜ、ガール。
384名無し物書き@推敲中?:2005/05/30(月) 20:15:43
「湿気」「メッセージ」「友達」
385:2005/06/03(金) 18:11:28
湿気 メッセージ 友達

僕には何もない。ほんとのところ、この先にどこへ行くあてもなく、帰る場所もない。
それなのに僕は友達の女性と一夜をともにしようとしている。彼女は婚約をしてい、幸せ
な人生を送っていると僕には思われる。でも彼女は僕と今いるらしい。彼女は僕の事情は
知ってはいるものの、僕の心の闇が見えるはずもないだろうに。
「僕は君に帰ることを要求するけど」
部屋は薄暗く、時おり車の通る音が聞こえてくるだけだ。彼女は僕の手をとり、僕の目を
見ている。彼女の目のなかには、小さく光る艶のようなものが見てとれる。
もう僕は耐えられそうになかった。
朝起きるとカーテンは開けはなたれたままで、部屋の湿気でガラスがくもっていた。ベッド
には彼女の姿はなく、置手紙もない。朝日だけが僕をむかえたように思えた。
でも台所にいくとメッセージボードに朝食の用意がテーブルの上にあると書かれていた。
もう冷めてはいたものの、おにぎりと味噌汁が用意されてあった。僕にはそれで十分なの
である。彼女にはそれはわかっていたようだ。僕は一通りそれを食べ終えた後に、再びベッ
ドに戻ってまた眠ろうとした。日差しはもう強く僕を照りつけていた。僕は目を閉じた。
でも僕はもうまどろむことすらできなかった。なぜなら、彼女は黙って出ていったわけだ
が、彼女からの別のメッセージが僕のなかでそのことを邪魔するのだから。

「忘れ物」「期待」「鍵」
386忘れ物、鍵、期待:2005/06/05(日) 18:55:06
駄菓子屋に集まる子どもの顔は、今も昔も一概に笑顔で期待に満ち溢れている。
そしてもう一つ、変わらずに存在するものがある。
それは私が昔憧れていた、胸に下げた銀色の鍵だ。
鍵っ子と呼ばれる彼らはまだ存在していて、鍵が放つ鈍い光が忘れ物の存在を知らせてくれたようだった。

私は駄菓子屋の前を後にする。
憧れの存在を胸に下げ、振り返ることはなかった。



「カード」「香水」「皮」
387「カード」「香水」「皮」:2005/06/05(日) 21:04:16
 俺の仕事は夜、人通りの多い道を歩くことだ。身なりの良いのや、
気の弱そうなのにぶつかって、その財布を頂戴して生きている。
「おう、きぃつけろ」
 決まり文句はこれだ。相手は不快そうに睨んでくるが、その頃には人ごみに
まぎれてしまう。必勝の手だ。
 その日も若いくせに柄物のスーツを着たやつからスってやった。皮の財布。
水商売特有のキツイ香水の臭いがする。
「へへ、今日も美味い酒が飲めそうだ」
 まとまった金が入ったら行き着けのバーへ行く。可愛ていい匂いのする女どもが、
揃ってなびきやがる。いい気になって、隣にいたのを連れて帰ることにした。
 勘定の払いにスった財布からクレジットカードを取り出す。
「あー! お前がスリやがったのか!」
 ドスの効いた声に、ギクと固まって隣の女を見る。よく見る。
「ちょ、おまっ、なんで! いや、するとこの店……!」
 強烈なパンチを食う瞬間に、俺はもっと別のものに打ちのめされていた。

次「ろうそく」「清水」「セロハン」
388「カード」「香水」「皮」:2005/06/05(日) 21:36:00
今日もVISAカードを使ってしまった。
本当はあまり使いたくないのだが、キャッシュがないから仕方無い。
同伴の待ち合わせ場所で、希望の指輪をプレゼントした。すると。
「明日はバックがほしいな」
と甘えた声で言われた。香水の匂いが鼻腔をくすぐる。
うんうん買ってくるよ。
お金がなくなって、皮一枚になろうとも
僕達の愛は本当なのだから。
389名無し物書き@推敲中?:2005/06/05(日) 21:37:10
失礼、

次「ろうそく」「清水」「セロハン」 で
390にいと ◆WOZQZCCZZI :2005/06/06(月) 15:51:03
 清水の次郎長も知らないでよく極道やってるわねと笑った姐さんの笑顔が忘れられなくて、
俺は不謹慎にもオヤジ(組長)に死んでもらいたいと本気で思った。本気で、というのは
俺の気持ちが本気だからで、だいたい六十にもなろうというオッサンが三十七歳の奥さんもらうかよ。
まあ俺もまだ十七だからオヤジのこと言えないけどさ、それでも人妻に手ぇ出すような不義理はしない。
これはヤクザだからとか極道だからとか関係ない。俺の、信条だ。

 ヤクザと極道は違う。俺がなりたいのは極道で、ヤクザではない。そんなこと言ったら
姐さんは「馬鹿ね」と笑った。どうしてそんな話になったのかは覚えていない。俺は、姐さんの笑顔を
見るといつも頭が真っ白になる。その日、俺は姐さんの買い物に護衛も兼ねた運転手をしていた。
姐さんの三十八歳の誕生日を明後日にひかえている。当日は派手なパーティになるだろうな。

 青山にあるイブ・サンローラン、ディオールとベンツを乗りつけ、最後に表参道のシャネルに寄った。
聞いたことのない名前ばかりだが、値段が張りそうなことは店構えで分かった。パーティで着る服を
買うのだと姐さんは話していた。サイズを仕立てるので、服は後日に送られてくるらしい。
誕生会には大勢の客人がやってくる。挨拶まわりで俺と話す時間は姐さんにはないだろう。
そう思った時、小奇麗なケーキ屋が通りの向こうに見えた。姐さんはまだ戻ってきそうにない。
俺は車を降り、ショートケーキを買ってきた。俺は今だけは、姐さんを独占している。そう、今だけは。

 運転席に戻って、ケーキからセロハンをはがし、ケーキ屋で一本だけもらったロウソクを指して立てた。
それからドアを開けて、そのまま道に捨てた。次郎長なんか知らない。俺はヤクザではなくて極道になりたい。
しかしその前に、俺は俺だ。不義理はしないのだ。
391にいと ◆WOZQZCCZZI :2005/06/06(月) 15:54:42
ちょと行数ォーバーしちゃた(;´∀`)ごめんなさぃ。。。ぉ題ゎ継続でょろー(゜皿゜)ノ
392名無し物書き@推敲中?:2005/06/08(水) 14:42:35
「ろうそく」「清水」「セロハン」

 いまだ草いきれも冷めやらない真夏の宵の口。
村外れにある境内は、年に一度の祭りで賑わっていた。幼少の頃と何ら変わりない夏祭り。
それは村も同じで、変わった所といえば村でただひとつの駐在所が隣の地区へ引越したあ
たりだろうか。
 旧友が結婚するらしい。旧友といっても、最後に会ったのが中学にあがる頃だったが、
そいつが結婚すると聞き、俺は十数年ぶりにこの地を踏んだ。正直、おぼろげにしか記憶
していない旧友よりも、生まれ育った土地に対する懐古的なものに惹かれたというほうが
正しい。相変わらず、山寺に続く平坦な畦道はどこまでも真っ直ぐで、山肌を伝う清水は
どこまでも冷たかった。
 祭りの喧騒を避けて外れの庭石に腰を下ろすと、かすかに聞こえる虫の音も涼やかで、
お囃子と相まって何ともいえない充足感に包まれた。暗がりにぽっかり浮かぶ祭りの明か
りはあまりに幻想的で一歩離れて身を置く俺には別世界のような、全く見知らぬ村の祭り
にでも迷い込んだかのような孤児めいた感じがした。なぜかため息がひとつ漏れた。
 目を伏せると足元の砂利に石灯籠の蝋燭を受けて輝く、埋もれたビー玉が目に入った。
よく遊んだものだ。畦道を精一杯走り抜けたあの日、湧き出る清水で喉を潤したあの日。
そういえば隣には決まってあの子がいたな。そう気づいたとき、目に映る風景が一瞬で透明な
セロハン紙か何かに隔てられたような、触れることのできない過去の風景のように思えた。
「信ちゃん!」
そう俺を呼ぶ、あの子の姿が明かりの中に見えた気がした。
今思えば、それが俺の初恋だったのかもしれない。


次のお題は「黒髪」「意固地」「ねっとり」で〜。
393名無し物書き@推敲中?:2005/06/09(木) 01:14:49
「黒髪」「意固地」「ねっとり」

テレビショッピングの受付電話番号に電話をかけた。
ねっとりと絡みつくようなセクシーな女の声が、受話器の向こうから聴こえてきた。
「はい、エクスプレスショッピングお客様センターの、後藤でございます」
その声が、あまりにも俺の欲情スイッチに触れるものだったので、俺は思わずバカなことを言ってしまった。
「後藤さんが欲しいんです。支払いは一括で」
「……そういったご注文はお受けしておりません」
「おかしいな。商品番号510=ゴトウ、だと思ったんだけど」
我ながらアホ丸出しだと思ったけれど、こうなった以上もう止められない。
もう、必死で口説き、冗談を連発し、最後は拝み倒した。
ずいぶん迷惑な客であったはずだが、後藤さんはクスクスと笑い出し、
「……では、本日8時ごろお届けにあがります」と言ってくれた。

やってきた女は、透き通るような白い肌に豊かな黒髪をなびかせた、声のイメージ通りの美女だった。

いいお爺さんのマネをした意固地なお爺さんが、失敗してひどい目に遭うのは昔話のお約束だ。
俺の話を聞いたタナカは、翌日同じ時刻に電話をしたという。
電話に出たのは、掠れた声がセクシーに聞こえなくもないような気がするのは間違いない、
よくわからない女だった。
タナカは必死に口説き、冗談を連発し、最後に拝み倒した。

やってきた女は、真っ黒に日焼けした顔に白髪をお化けのように垂らしたババアだったそうだ。

わけわからん……
「モデル」「救急車」「泥棒」でお願いします。
394名無し物書き@推敲中?:2005/06/09(木) 23:07:50
静かな住宅街に救急車のサイレンが響きわたる。
飲みかけのビールを片手にカーテンの隙間から外を覗くと赤い光が
うちのマンションの前で止まった。
慌てて上着を羽織り野次馬根性丸出しでロビーへ降りると
顔見知りの主婦が聞いてもいないのに状況を説明してくれた。
「3階の人がね、元恋人に刺されたんですって!」
へぇ、と相槌を打つと、隣のこれまた井戸端会議好きそうな主婦3人の話が耳に入る。
「先月は下着泥棒が入った、ってパトカー呼んだのよね!」
ほぉ、と聞き耳を立て、不謹慎ながら私はナイスバディな美女が
元恋人に迫られるところを想像し、ちょっと興奮してしまった。
救急隊員がエレベーターから女性を支えながら降りてきた。
スラッとしたモデルのような素足に目が奪われた、が。
・・・・・・。男かよ!
野次馬の男性人はきっと同じことを考えただろう。
今夜のオカズが台無し、と。

お題継続で。
395 ◆z03.cue.22 :2005/06/09(木) 23:46:11
「モデル」「救急車」「泥棒」


  背筋をのばし、脚全体を力強く突き出す。視線は正面へと向けたまま、舞台の端を見ない。
トリッシュはその通りにやっているつもりでも、プレスの評判は芳しくない。顔のかわいさに助けられている。
背が低い。細いだけでセクシーではない。モデル仲間の嫉妬なら気にしなければいい。しかしプレスの目は
ごまかせない。もともと服が好きなだけで、モデルをしたかったわけじゃない。トリッシュは自分に言い聞かせた。
それでも雑誌で表立って批判されれば精神的にまいってもくる。休ませてください。事務所に連絡すると、
あっさり、許可がおりた。秋のコレクションがはじまろうという時期に無理だと思っていたのに。拍子抜け、した。

  千秋楽だけでいいから。モリ・イズミコが頭をトリッシュにさげた。パリからわざわざニースの保養所まで
来てくれたのに悪いのだけど。トリッシュが断ると、イズミコはすこし黙った。私のパフォーマンスが不評なの、
知ってるでしょ。ええ、でも服はいろいろあるけれど、顔はひとつです。うれしいような、悲しいような。
服が輝く顔ってあるんです。あなたは知らないでしょうけど、舞台と写真とでは違うのよ。ごめんなさい。悪いけど……。
実は、おばあさま、今回のショーで引退するの。えっ。どうしても、駄目でしょうか?

  そういうわけで今、義理だけでトリッシュは舞台に立っている。ヘタッピなキャットウォークしかできなくても、
イズミコとその祖母、ハナコのために。おいしいところだけ持っていった千秋楽泥棒。衣裳部屋では、モデルたちの
陰口は容赦ない。トリッシュの耳に聞こえるように、誰かが言う。それがまたプレスの記事になる。トリッシュの胸は
痛んだが、顔には出さない。いよいよ最後、舞台先でターンしてあとは戻るだけというとき、トリッシュは呼吸ができなくなった。
すぐに救急車で運ばれたが、病院につくまでに息絶えた。薄れゆく意識のなかで、ささやいた。服を傷つけないで。むしろ、死を。
それが遺言だった。ざまあみろ。私は伝説になる。思いながら、トリッシュはモデルとしての意地を通した。それがまた、
プレスの記事になる。ショーは、続く。


お題は継続でお願いします。
396名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 00:01:29
「モデル」「救急車」「泥棒」

救急車の中で、彼女はただ色々なことに恐れていた。
彼女の顔からは、モデルという職業には必要不可欠であろう「自分への自信」のようなものがまったく感じられない。
「このっ、顔……直りますよねっ……」
嗚咽を漏らしながら端正な顔を悲壮に歪ませ、彼女はずっと同じような意味の言葉を口から漏らしている。
悲しみに歪んだその顔の半分は、赤く染まった包帯で隠されていた。

深夜に電話が入って俺の乗る救急車が向かった先は、ファッションショーの会場だった。
客は外に出されていたようで、建物の中には人は少なかった。
ファッションショー会場独特の、お立ち台のようなものが突き出た洋式の部屋。
花道の下に患者は横たわっていた。
やはり、というか、患者はとてもじゃないが俺では歩けなさそうな細い線のバンプスを履いていた。
転んだ拍子に、道の端の直角に落ちた部分によほどの勢いで顔をぶつけたのだろう。
事務所の関係者か、友人か恋人か。男が一人冷水で濡れたハンカチを頬に当てていた。横には幾つも真っ赤に染まったハンカチが落ちていた。

担架に乗せて運ぶとき、他のモデルらしき女たちが部屋の隅に立って、懸命に励ます彼と担架で運ばれる彼女を見ているのが目に入った。
皆恐れおののいている雰囲気の中で、一人だけ憎しみのこもった目でこちらを見ている女がいた。
「すれちがいざまに、向かってくるモデルの足がかかってしまったようで……」
なるほど、と妙に納得した。古い言い回しだが泥棒猫、というわけか。
そういえば、彼の顔は仕事でそうしている顔ではなかった。


第一段落が繋がらなかったというオチ。
NEXT「空母」「病」「美少女」
397名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 02:27:28
「空母」「病」「美少女」
 
 突然の「招待」から、はや5日・・・博士は娘と共に固い椅子にうずくまっている。
 空母は海の密室だ。熱い甲板の上で飲むコーヒーは、微かに重油の臭いがした。

 「いい加減帰して欲しいね」と、目前の中尉に言葉を吐き捨てる博士。
 「何度頼んでも無駄だよ、青年兵士のサイボーグ化など・・・言語道断だ!」
 薄ら笑いで聞き流すと、中尉は娘の肩の包帯を見た。「娘さんはお怪我で?」「手術後でね」
 「我が兵士達にも、是非会ってもらいたい。頑固な貴方の代わりに、丈夫な子孫を何人も・・・」

 露骨な脅迫だった。空母という閉鎖空間を使い、愛娘を人質にとる。中尉お得意のやり方だ。
 「いやっ!」父が我を忘れる寸前に、娘に埋め込まれた重機関砲が、肩の包帯を跳ね上げた。
 「ダダダダダ!」血まみれで倒れた中尉を踏み越えて、博士と娘は甲板に急いだ。

 「変形開始だ、娘よ!」「お父さん・・・私、もういやっ!」
 と言いつつも、不承不承あげた両手が翼に変形し、胸がジェット噴射を開始した。
 「ああ・・・」と、娘は高圧ガスの溜息をつく。今年買ったワンピースが、もう、メチャクチャだ。

 高度も上がり、娘の機内の湯でコーヒーを飲みながら、博士は空母を見下ろす。
 「青年兵士のサイボーグ化だと?何たる事だ」 腕の震えが、コーヒーカップに伝わる。
 「サイボーグ兵士は、美少女限定と決まってる!」・・・娘の受難はまだまだ続くのだ。

※009の立場が・・・
次のお題は:「綿菓子」「磁力」「復員兵」でお願いします
398名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 03:00:07
「なんですって?」
ジョンは言った。
「帰れないって言いましたか?」
「知らなかったのか? 家族への保証金の額やらなにやら見れば解りそうなもんだろうが」
「……」
オメガの言葉を聞いてジョンはしばし考える
399名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 03:25:18
「なんですって?」
 鮮血に染まった白衣を纏った職員の死体と電子機器に満たされた部屋の中、ジョンはオメガに言った。
「脱出経路は覚えていない。なんか言ってたみたいだな」
「意味が解りません」
「片道切符だってこった」

「知らなかったのか、お前には親族保証の紙がきたはずだ」
「そりゃ、来ましたけど」
「そういうことだ」
「どういうことですか」
「俺は復員兵だ。十年前にはいいとこの特殊部隊に入っとった」
「それがどうしたんですか」
「向こうが言ってきた金額は百万ドルだ。どういうことか解るだろう」
 ジョンは実のところ、オメガの話す調子からだいたい予想できていたいた。が、さらに言葉を紡ぐ。
「解りません」
 その言葉は震えていた。
「百万ドルて金額はな、なにがなんでもやらせるってこった。俺には娘がいるしな」
「バイオ兵器ですか」
「磁力線による磁気閉じ込め方式」
「今から逃げます、さようなら」
 いうやいなや、ジョンは素早くバックパックと自動小銃を握ってオメガに背を向けた。
 オメガは振り返らずに言う。
「無駄だよ。核融合炉の爆発の威力を知らんわけじゃあるまい。それに、今ごろ警備員がわんさかむかっとる」
「精々足掻きますよ」
 そう言って、ジョンは駆けていった。

「………綿菓子みてぇに真っ白な、でっけぇきのこ雲があがるだろうな」
 願わくば彼に生あらんことを。


 相当キモイ文章なんだろーなー。
「先輩」「タンカー」「神戸」
400名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 03:26:03
>>397 はミスです…。
401名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 14:21:27
「先輩」「タンカー」「神戸」
 
 初夏の日差しが一面に降りそそぐ原っぱで、私はひとつ深呼吸をした。
青空から下に目をやると、美しい神戸の街並みが一望できる。
 学校の昼休み、私はこっそり抜け出して、彼に告白されたこの高台に来ていた。
あのときの彼の紅潮した顔を思い浮かべると、可笑しくて今でもクスリと笑ってしまう。
 そんなお昼時。結局昨日一晩かかってしまったけど、私としては上出来かな、一人で出来たしね。
そう自分を誉めながら、紺のバッグからお目当ての大好物を取り出した。
 次の瞬間、眼下に広がる街の遥か遠方で、一筋の黒煙が立ち昇るのと、遅れて爆音らしき音が響いた。
「え、何で!? 五番目は南京町のはずなのに!」
焦りと苛立ちで震える指先で、左手に握った小型装置らしき黒い筐体のスイッチを押す。
今度は轟音を響かせて港の石油タンクが火を吹いた。巻き添えをくらったタンカーから火柱があがる。
「そう、それでいいのよ。きっと南京町は誰かが移動させたんだ……」
自販機の底に仕掛けたことを悔やみながら、三番、二番と遠隔操作スイッチを押していく。
高台にまで届く熱風を浴びながら、私は次第に高揚していく快感を味わった。
「さぁて、今回のメインディッシュ!」言い切ると同時に一番スイッチを力一杯押し込んだ。
今しがた抜け出たばかりの学校が、一瞬白んで爆発した。
「さよなら、センパイ。浮気をしたバツよ」見渡せば、彼との思い出の地は全て業火に包まれている。
「清算……できた」残るは一ヶ所。私はそっと0番のスイッチに指を這わせた。


次のお題は「利発」「老朽」「尾びれ」で〜。
402名無し物書き@推敲中?:2005/06/10(金) 18:24:54
「利発」「老朽」「尾びれ」

音楽室でたびたび起こるという怪奇現象の話は、以前から耳にしていた。
ピアノを弾いているとどこからともなく呻き声が聞こえてくるとか、
壁に掲げられたショパンの肖像が涙を流すとか、そういった類の話だ。
どこにでもある、ありふれた怪談話だし、はっきり言って全く気にしていなかった。
この築50年になろうかという老朽化した校舎では、そういう幽霊伝説の二つ三つないほうがおかしい。

「最近はちょっと違うんですよ」
同僚の音楽教師が言った。
「脅迫状が届くんです、自宅に。ほら、私も来ました」そう言って、彼は手紙を見せてくれた。
その手紙をうけとった者は音楽室で死ぬ宿命にあるので、音楽室に近づいてはならないという。
ふん、バカバカしい。怪談話に妙な尾びれが加わっただけだろう。

利発そうな顔をした少年だったが、所詮子供だ。
「おまえは呪われてしまったので、他の人に呪いを移さないと死ぬ」と言って脅すと、
ふるえる指で脅迫状を書いた。
音楽教師の家に郵送しておいたので、次にその教師が音楽室にやってきたところを刺せばいい。
「呪いを移されてしまった人はゾンビになるので銀のナイフで刺さないと元に戻らない」
そんな幼稚な言葉を信じて真っ青になっている、目の前の少年を使って……

お題は継続で
403名無し物書き@推敲中?:2005/06/12(日) 02:12:24
 話に尾びれが付くのは往々にしてあるものだが、今回は余りにも酷すぎた。
 思い返せば迂闊だった。そう認めるしかあるまい。子供と思って油断した俺が全面的に悪いのだ。
 ラーメンチェーン店の待合席で、退屈そうにしていた子供に話し掛けた。見るからに利発そうなお
子様だった。見た目からして小学生低学年といったところだろうが、待たされても身動き一つせず、
音一つたてない。最近の子供にしては出来ているな、親の教育が良いんだろうな。そう考えて、なん
となくだった。
 俺には冗談を言う友達もいないので、その子供に日頃考えていたあらん限りのネタを聞かせてやった。
子供は笑顔一つ見せず、ただ俺の目を見て真摯に耳を傾けてくれた。
 この時気付くべきだった。子供の態度は、とても冗談を聞くようなものではなかった、と――。

 次の日には、もう完全に手遅れとなっていた。
 昨日まで善良な一市民だった俺は、今日には前科三犯の殺人歴あり、老朽化した酒蔵に潜み、夜な
夜な街を徘徊してうら若き少女を襲い、自分の遺伝子を腹に植え付け続ける性犯罪者になっていた。
 俺は、ここまで過激なことは言っていない。子供から端を発した戯言に、自然とアレンジが加わってい
ったのだろう。
 俺が街に居られなくなったのは言うまでもあるまい。

「楽天」「早朝」「一団」
404名無し物書き@推敲中?:2005/06/12(日) 11:32:51
楽天的な奴だ、と彼は良く言われる。
いつもにこやかに微笑んでいるかららしい。

仕事に失敗してもただ笑い、
親が死んでもただ笑い、
妻と別れてもただ笑い、
人に馬鹿にされてもただ笑い、
笑うその顔が腹立たしいと言われても、彼は人前ではいつも笑っている。

早朝のニュース。テレビでは昨日の一家惨殺事件が報道されている。
12歳の○○ちゃんと母親の××さんはは遺体で発見されました。父親の△△さんは以前として行方不明。当局では引き続き行方を調べています。それでは次のニュース……。

「もう笑うしかないじゃないか」

テレビの電源を消して、彼は部屋を出る。
その姿は有象無象に都市を彷徨う、無表情な一団の中へ紛れて消えた。

お題は継続で。
405K 「楽天 早朝 一団:2005/06/13(月) 15:14:55

彼女は腕をついたまま俯いていたが、やがて一言も発することなく服を着て、僕に背を向
けたまま出て行った。これは僕に対する批難がこめられている。きっと僕が子供をおろす
ように求めたことに不満があるのだろう。でもこれは初めからの約束だ。僕には愛する妻
がい、小学生の子供だっているのだから。
昨日までの彼女は楽天的な性格に思われた。数ヶ月前、酔いに任せ一夜をともにしてから
これまで、僕たちは陽気にやってきた。セックスのときでさえ、僕が避妊具をすすめるも
ののそれを彼女のほうから拒んだりした。だからその時の事であるので、僕には彼女の不
機嫌な態度が納得できなかったのだ。でも僕にでさえ、彼女の気持ちがわからないわけで
はない。体をいじられるのは僕ではなくて、彼女であるのだから。
今日は休日出勤なので、早朝にもかかわらず電車内は空いていた。彼女より数分遅れてマ
ンションを出たので、彼女に会わないか心配をしたが大丈夫そうだった。同じ車輌内に彼
女の姿はなかった。
それでも都心に向かうにつれ車内は込みだしてきた。駅に停車するごとに人が数人ずつ流
れこみ車内は見かけ上一団とかす。これだけ人がいると悩みもそれぞれあるのだろうか。
僕には僕以上の悩みのある人がここに居ようとは思えなかった。僕は孤独を望んだ。
僕は疲れ立ち上がることをしたくなかったので、俯いたまま誰が来ようと席を譲るまいと
していた。でも僕の前に靴底の浅い、足つきのおぼつかない女性と思われる姿があらわれ
た。僕が視線を上げると細い足にもかかわらず、お腹をふくらました女性かと思われた。
きっと妊婦であるのだろう。僕は隣りに視線を向けて誰か席を譲らないか様子を窺ったの
だが、誰もそのような気配を見せなかった。おまけにその女は僕の真ん前にたちじっと動
こうともしない。
仕方ないので僕は立ち上がり、女に席をゆずろうとした。女は血色の悪い顔色をしていた。
「ありがとうございます」女は疲れきった顔つきでそういって僕と席をかわった。
僕はその女が僕と入れかわるようにした時、その背後に見慣れた女の背中を見た。さっき
までは車輌内にいないと思われた彼女だった。彼女は僕に気付いているのだろうか。僕は
彼女と背中を合わせたまま、時々背中に彼女の接触するのを感じながら、電車にゆられていった。
406名無し物書き@推敲中?:2005/06/13(月) 15:15:21
「羊歯」「着ぐるみ」「靄」
407名無し物書き@推敲中?:2005/06/13(月) 17:41:35
「羊歯」「着ぐるみ」「靄」

 少年の大きく見開いた目は確かにそれを捉えていた。体の震えもそれが何なのか認識している。
だが、少年の両足はいかようにしても動かなかった、いや動けなかった。
 朝靄が立ち込める森林の中、そのデカいウサギは毒々しいまでに浮いていた。
ちょうど人間が正座をするかのように、両足を曲げて背筋を伸ばしてこちらを見ている。
どこからどう見ても着ぐるみに他ならなかった。
全身は目の覚めるようなピンク色で、片耳が可愛らしくちょこんと折れ曲がっている。
その顔部分は丸くくり抜かれて、黒ぶちメガネの脂ぎったオッサンが顔を覗かせていた。
「粗茶ですが……」いきなり喋った。
「うわぁ!」
軽く頭を下げて、一杯のお茶がおずおずと少年の前に差し出された。
「お口に合いますかどうか……」続けて和菓子がおずおずと差し出された。
「わぁあああぁあ〜!!」
止めどない涙と鼻水を流しながら、少年はくるりと背を向けると一目散に逃げ出した。
「正人……これが父さんの趣味なんだよ」
そよ風に揺られた羊歯から、朝露がポロリと落ちた。


次のお題は「雷雨」「仏像」「強弱」で〜。
408「雷雨」「仏像」「強弱」:2005/06/14(火) 00:48:24
突然の雷鳴は、その音によって舞台の幕を引き裂き、無残な開幕の合図とした。
私の鼓膜を打ったその音を追って来たかのような雨粒が、私の体を打った。
私の体は時を待つ事無くずぶ濡れとなり、普段は感じない衣服の重みに溺れた。
逃げる様に、いや、実際に逃げ出した私は、山中という悪条件にもかかわらず、
古びて、荒れ果て、崩れ落ちそうな、そう、不気味という言葉の意味を体現し
たかのような寺院へと飛び込んだ。
逃げ込んだその場所こそが、これから始まる惨劇の舞台の上だとも気付かずに。

雷鳴は遠ざかる事無く、雨足も強弱を繰り返すだけで止む気配は無かった。
「突然の雷雨とはついていない」
「まったくでわすなぁ」
その皺枯れた声に、私の心臓はかつて無い血量を体に送り出した。
人など居ないと思いつつの独り言に、返事が聞こえたのだから無理も無かった。
振り向いた私の前には、その声の持ち主に相応しい老婆と、それに付き従う二
人の大男の姿が見えた。だがすぐに間違いに気付く。二人の男は仏像だった。
「はは、ありがちだなぁ〜」緊張に心の声が実際に出ている事に気付いた。



「十五夜」「行者」「現実世界」
409「十五夜」「行者」「現実世界」:2005/06/15(水) 12:30:42
「かれは行者。『行く者』だ」
ボケじじいがそう言った。馬鹿みたいな月の下で。
「月はもう死にかけだよ。ずっとむかし、それを見る地球の全ての人々を狂わせて
いたころの気概を、すっかり忘れちまった。それは言い換えると、かつて月に
狂わされていた自分を人間の方が忘れちまったということでもある。とにかく
月はあらゆる意味において単なる衛星に成り下がり、それ以上でもそれ以下でも
なくなってしまった」
意味わかんねー演説を聞き流すのに一苦労の日々みなさんいかがお過ごしですか。
「十五夜にはかれはふっと息を吹き返す。色もほらいつもの腐った魚色から天国の
黄金色に変わったろう見て御覧。こういうときの月は麻薬にとてもよく似ていて、それは
つまり行者が『行く』絶好の機会ってこった。かれは行く。見て御覧。行くよ。この
現実世界とわしらが読んでいるところの馬鹿みたいな腐った魚の腹の中から飛び出てね」
じじいが話しているのは近くの巨大精神病院精神科精神精神精神所精神屋精神科から
逃げ出してきた精神精神精神病の男がうちの庭にいるののジャンプしてることだ。
そしてわたしは見た。かれが当然そうなるのを予期していたように高く高く天を突いて
舞い上がり、遠く遠く月のほうへ吸い込まれるように踊りながら舞い上がるのを。
十五夜。おつきさま。きれーだね、おじいちゃん!
410:2005/06/15(水) 12:33:45
お題は「変人」「合戦」「すじこ」で。
411猫ヶ洞:2005/06/15(水) 17:59:09
「変人」「合戦」「すじこ」

「あの人は変人ですから」妻は吐き捨てるように言った。

今度の温泉旅行にお義父さんを誘ってあげたらどうだろう――
俺の提案に、妻は猛反対をした。
そして、もう二度と父の事は話題にしたくないというふうに横を向いてしまった。
いくら不仲とはいえ、自分の父親をそんなに悪く言うのはどうかと思うが、俺はだまっていた。
――男のあなたに何がわかるっていうんですか! そうヒステリックに叫ぶのが目にみえていたからだ。

確かに妻の父親は少し変わっている。
ビル清掃の会社をおこし、一代で莫大な財産を築いたという立派な実績がありながら、
親戚一同、隣近所、あげくに一人娘にまで全く尊敬されていないのは、ひとえにその変人ぶりのせいである。
先日は近所の小学生とチンコ合戦なる遊びに興じている所をパトカーに見つかって、妻が交番で叱られた。
犬のウンコを着色して桐箱に入れ、「吉田水産謹製 最高級すじこ」と書き込んですし屋の裏口に置いてきたこともある。
すし屋には永久出入り禁止になった。
はっきりいってハタ迷惑な人物ではあるが、俺は決してキライではない。
むしろ小さくまとまってしまった俺にくらべたら、なんてスケールのでかい人だろうと、密かに慕っている。

「おおい、圭一くん」義父が自室から呼んでいる。
なにか悪巧みでも思いついたのかもしれない。
「はーい!」俺はわくわくしながら答えた。

次は「指名手配」「おもちゃ」「ラブホテル」で

412「指名手配」「おもちゃ」「ラブホテル」:2005/06/16(木) 01:16:05

いえね、私、チンケな詐欺師なんですけど、
今ちょっとまずい事になってまして、お力をお借りできないかと。
え、まずいことって何かって?
う〜ん、まあ、お力を拝借しようってんですから正直にお話しますけど、指名手配なんです。
先日老舗のおもちゃメーカーが倒産しましたでしょ、その倒産整理のドサクサにからみまして。
いえいえ、利益は充分でてるんですよ。2億ばかり。
ただ、ちょうど同じ時期にラブホテルがらみの地上げにも顔突っ込んでまして、
その2億がそっくりそっちに回ってましてね、身動きとれないんです。
逮捕されちゃ元も子もないんで銀行を頼るわけにもいきませんし。
なに、この件が片付けば少なく見積もってもざっと10億がとこ手元に入りますんで、
2、3年ム所でのんびりしてきてもいいんですがね。
で、モノは相談なんですが、さしあたって逃亡費用、1千ばかり融通していただけませんかね?
10倍にしてお返しできるんですが。

お題継続で
413名無し物書き@推敲中?:2005/06/16(木) 01:32:33
>>409 よく分かんないけど何かすごい。ロマンティック。
414名無し物書き@推敲中?:2005/06/16(木) 03:00:30
イヤらしいピンクの部屋にはいった途端、ふと我に返った。
彼女は私をみてニヤついている。体を寄せ私を挑発しているようだ。
10歳も離れている彼女にすれば私はただの遊び相手、
おもちゃとしてしか興味はないのだろうが…
ことがあろうがなかろうが、今更後悔しても遅い。
部長の妻である彼女とラブホテルにいるという事実は変えられない。


最中、彼女の携帯に夫からの着信が。続いて、私にも。
感付かれていたようだ。
指名手配されたような気分だ。

駄作ゆえお題は継続で。
415指名手配 おもちゃ ラブホテル:2005/06/17(金) 19:23:52
「あーあ、こんなもんで、強盗しようって思ったのが、間違いだよなあ……」
午後10時過ぎ、都内のラブホテルで武は、おもちゃの水鉄砲をベッドの上に放り出し、一人頭を抱えていた。
テレビをつけてみると、自分のやったことはニュースではやっていないようだ。
チャンネルを変えてみても、それらしい事件の報道や、自分の話はでてこない。
「もしかしてあの郵便局の奴ら、通報しなかったのかな……。いやそんなことはないか。
警報は鳴ってたんだし。どうせ明日の新聞には小さくても載ってるんだろうな」
武はテレビの電源を切ると、これからの憂鬱を思いため息をついた。

おもちゃの鉄砲であることが見破られて、慌てて郵便局から逃げ出し、なんとなくあてもないまま
現在のラブホテルに逃げ込んだが、これから一体どうすればいいのか。
考えをまとめようにも、うまく頭が働いてくれない。
「このまま逃げてたら、指名手配とかされるのかな……。両親びっくりするだろうなあ」
そのときバスルームの扉があくと、
「いいじゃない。そのときはそのときよ。ボニーアンドクライドみたいじゃない?」
「おいおい。そんな格好いいものじゃないだろ……。大体おもちゃの鉄砲だぞ」
「いいのいいの。そんなことよりせっかく来たんだから楽しみましょうよ。」
武は優子のあまりにも楽観的な考えにあきれつつも、確かにいまは考えてもしょうがないかと思い、立ち上がった。

次のお題は
「畑」「机」「憂鬱」で
416畑 机 憂鬱:2005/06/17(金) 20:27:59
 サラマンダー氏は憂鬱だった。なぜならかれは生まれついての哲学者で、
おまけに畑のど真ん中に埋まっている哲学者でもあるからである。
 これで憂鬱でなかったら奇跡である。
 かれは物心ついたときにはすでに首から下がすっぽり地面に埋まっていた。
かれはこれまで親もなく、来る日も来る日も顔の真ん前に自生する各種の野菜
だけを食べて露命を繋いできた。五十五歳になる今日まで。誰にもその存在を知られず。
かれには夢があった。それはどんな夢だろう? 立派なオフィスで、すてきな
机に向かい、言語や文字を駆使して、かれという空前絶後の大哲学者の思想を形にし、
世に問う事? いや違う。かれはオフィスも机も言語も自分以外の人間も、なにひとつ知らない。
知らないことは望みようが無い。かれの願いはすこしでも遠くにあるものを食べること、
それだけであった。かれはその夢を少しずつかなえてきた。つまり、かれは自分の
首を、想像を絶する努力によって、伸ばし続けてきたのである。いまやかれの首の長さは
二メートルを超え、蛇のように自由に動かすこともできた。だがかれは一つのことに気づいた。
自分を地面の呪縛から解き放てば、首をこれ以上伸ばさずとも、好きにあたりのものを
食べられるという事である。そしてかれは自分の首で自分を掘り出し、街に繰り出した。
そこてかれは初めて人々の目に触れ、そして「サラマンダー」と名づけられた。全宇宙
全時代において最高の哲学者サラマンダー氏の華々しい活躍はこのときから始まる。

次のお題は「呪縛」「ポップ」「コンピュータウイルス」で。
417呪縛 ポップ コンピューターウィルス:2005/06/17(金) 21:16:55
 彼は今、呪縛の元にあった。
彼は今まで物心ついたときから、何者からも自由だった。
自分の行きたいところに行き、見たいものを見、聞きたいものを聞き、やりたいことをやっていた。
自分が何者かはわからないが、彼はそれを知りたいとも思わないし、また知ろうともしなかった。
ただ本能の赴くまま、きままにやっていた。

 しかし、5分程前、彼の目の前に突然現れた謎の男によって、彼は突然自分の意志の元に動くことが出来なくなった。
「やあ、ポップ君。君はこれから消滅するんだよ。悪さをしすぎたね」
男は不思議な手段で、彼の行動を束縛した後、唐突に口を開いた。
「ポップってのは俺のことか? 俺はそんな名前じゃない。それになんで俺が消えなきゃならないんだ?」
彼は自分の名前が勝手に決められている不快感と、得体の知れない男への不安から、強い口調で言い返した。
「まあ、名前なんてものはどうでもいいかな。便宜的なものさ。僕は命じられたことをしているだけだしね」
「君はついさっき新種のコンピューターウィルスとして認定された。そして僕はそれを受けて君を駆除する
 それだけのことさ」
彼は何か言い返そうとして、口を動かそうとした、
が、その努力は空しく彼は自分の存在が消滅していくのを瞬間的に自覚した。
「さようなら、ポップ君」
男がそう言いながら、手を振った。それをきっかけに彼、「ポップ」は消えた。


次のお題は
石、時計、悲しみ、で。
418 ◆z03.cue.22 :2005/06/17(金) 21:42:51
「石」「時計」「悲しみ」


  卒業式の後に会おうと約束していた。お互い、それぞれの友達との
お別れ会を控えていたけれど、僕はどうしても渡したいものがあった。
「五分だけ抜け出せない? できれば屋上で会いたい」とメールで打つと、
「うん。制服を着て会うのは最後だね」と返信がきた。
『仰げば尊し』の合唱が終われば、体育館を退場する。そのあと、教室に
戻るまでのわずかな間でいい、ふたりだけの時間がほしかった。

  去年の秋に、彼女が卒業後にドイツの大学へ進学することを知った。
そのことを教えてくれたのは彼女の友達で、「止めなくていいの?」なんて
冷やかし気味に言ってくれたけど、僕は賛成していたし、住む場所が遠く
離れたからといって友達の関係が終わるわけではないのだから、心配は
していなかった。でも、たしかに、悲しみや寂しさとは違う、苦しい気持ちも
なくはない。しかしだからといって、彼女のドイツ行きを止める理由にはならない。

  体育館を出ると、行進の列が崩れ、生徒たちはばらけて歩き出した。制服の
先に見える時計をのぞきながら、僕は屋上へと急ぐ。走る振動で、ポケットの中の
石が揺れるのがわかる。初めて彼女に会ったとき、僕らは校庭にいて、彼女が足で
僕のほうに蹴った石だ。たまたま彼女の足に当たったのだろうけど、それがなかったら
僕は彼女を知らないままでいただろう。屋上で告白するかどうかはまだ決めていない。でも、
もし彼女がドイツから戻ってきたとき、まだこの石を持っていてくれたら、そのときは……。


お題は継続でお願いします。
419「石−時計−悲しみ」:2005/06/17(金) 21:53:32
 僕はお前を見届ける最後の存在になるのだろうか。
田舎の国道で来た道がどちらかすらわからないまま蹲る犬よ。お前はどこにでもいる茶色い犬だ。
尻尾と腹に少し白い毛が混じっているね。その汚れ具合からしたら、置き去りにされて二週間ほど、
いや一月以上かな。
どちらにしろ、お前と同じように薄汚れた俺は、お前を汚いなどとは思わないさ。
 しかしね、なぜそうやって待つんだ? 俺はそのお前の心根が嫌だね。未練がましくてさ。
まるで俺みたいじゃないか。お前の首輪と俺が着けていた時計は同じだ。縛られていたという意味でね。
 俺たちは束縛から解放された。なのに自由ってなんでこんなに息苦しいんだ? 
未練が辛いんじゃない。記憶が重いだけだとわかっていて、その記憶もすべて捨てたと言い聞かせて
いるのに、なんで重石のようにのしかかってくるんだ?
 俺はお前を飼うことはできない。お前は迎えに来るはずのない飼い主を、ただじっと待つだけだ。
俺はお前に「悲しみ」という言葉を教える最初の人間でなくてよかったよ。
 お前はやがてどうしようもなく飢えて生きる力を失い、俺の上にある段々の石にもたれて息絶える。
そうしたら石に名前を刻まれた俺と共に、永遠の時間を生きればいいさ。
 お前は十分生きた。お前を捨てたやつらより悲しむ必要なんてないからね。ゆっくりお休み。
420419「石−時計−悲しみ」:2005/06/17(金) 21:56:39
次のお題 「アンテナ−花瓶−爪」でお願いします。
421アンテナ 花瓶 爪:2005/06/17(金) 23:55:04
 私は出張中にふらっと立ち寄った古物商で、小さな花瓶を手に入れた。
確かにそれは、色彩が豊かでもないし、造形が優れているわけでもない、
しかし何かが私の琴線に触れたのだ。実際家私に持ち帰ると、妻にあきれられた。
「いや、これはそこらにあるものじゃないんだ。なにかが語りかけてくるだろ?」
そう言いたかったのを、私は飲み込んであいまいな笑みを浮かべたまま玄関に飾った。
 翌日、私は花瓶にいけるために仕事帰りに商店街で花を買って帰った。
玄関をあけて驚いた。なんと花瓶にはアンテナがささっていた。
「おい、これはなんだ!」
台所から出てき た妻は驚いた表情を浮かべて、さも当然のように言った。
「どうしたんですか?よく似合ってるでしょ、このアンテナ?」
私は妻の気が狂ったのかと思った。アンテナを花瓶にさすなんて聞いたことがない。
そんなのが許されるのは芸術家ぐらいなものだろう。しかしさらに驚いたことに
呆然と玄関で立ち尽くしてる私の目の前で、今度は娘が爪きりで切った爪を花瓶の中に捨てたのだ。
「おまえ、爪なんかごみ箱に捨てろ!おかしいと思わないのか?」
「え?お父さんこそ何言ってるのよ。爪は花瓶に捨てるものでしょ?」
私は自分の気が狂ったのかと思い、外に飛び出した。外の景色は私がいつも見る風景と変わらない。
いや変わってないように見えるだけで、実は私が変化に気づいてないだけなのか?
もう一度この扉を開けて、まだ花瓶にアンテナがささったままだったら、さっさと寝てしまおう。
これは、夢だ。そうだ、悪い夢に違いない。そして私は玄関のドアノブに手をかけた。

次のお題 「発言」「約束」「禁止」でお願いします。
422「発言」「約束」「禁止」:2005/06/18(土) 02:07:45
いいから黙っていろ。人差し指を口唇に当ててその男は言った。約束だ。
薄暗い押入れの中で男に抱すくめられた私は腹を立てていた。
黙っていろだなんて、いつも言われていることだ。こんな状況になってまで言われるとは。
それに何より、薄く空いた戸の隙間からパパが私の部屋に入ろうとしているのが見えた。
勝手に入らないでって約束していたのに。わたしが暴れると男が力を込める。
大きな掌にふさがれた口は涎まみれでどんどん不快感が募る。全身全霊をもって暴れると
片足がドンと壁に当って音がした。パパの動きが止まり、不思議そうにこちら、押入れを見た。
そろそろと近寄るパパの動きが止まる。男が押入れを開けて外に出たからだ。
ついでにわたしも抱かれたまま一緒に外に出た。
慌てふためくパパ。わたしとの約束を破ろうした所を、わたしに見られたからではないだろう。
大丈夫かとパパは言うが、わたしは約束をきちんと守る子だから、押し黙って喋らない。
すでに男の手はわたしの口を離れて、左手から持ち替えたナイフが握られている。
そんなわたしの態度に戸惑ったのかパパは見苦しく振る舞い始めた。
わたしは上目遣いで見ると、男は頷いて言った。
「発言は禁止だ」

「作家」「色気」「ストーリー」
423 ◆SENA/Fa.xI :2005/06/18(土) 02:45:53
「発言」「約束」「禁止」


「パソコン……プラズマテレビ……」
 楽しそうに悩む彼の横で、約束通り、黙って待っている。こちらからの発言は
一切、許されていないのだ。
 “絶対に泣かない”という賭けに負けてしまった私は、彼の言うことをひとつ、
なんでも聞かなければならない。
 さっきまでの涙も、すでに乾いてしまっていた。
「よし、決まり」
 ついに来た。意地悪な彼がどんな無理難題をひらめいたのか、見当もつかない。
 もう、どうにでもなれ。ひそかに覚悟を決めた私の耳元で、ささやく。
「新婚旅行はスイスね」
 予想もしないひとことをあっさりと口にした彼は、照れ隠しに、ぽん、と私の
頭を優しく叩いた。
「……また泣く」
 これは禁止されてなかったもん……。
 数分前にもらったばかりの左手の指輪が雫に濡れ、キラキラと輝いていた。


次は「トロンボーン」「音感」「カンガルー」で、お願いしま(´・ω・`)す。
424 ◆SENA/Fa.xI :2005/06/18(土) 02:48:05
orzorzorz

ごめんなさいorz


次は>>422さんの、
「作家」「色気」「ストーリー」で、どうぞ(´・ω・`)。
425作家 色気 ストーリー:2005/06/18(土) 15:45:24
 私の友人、西森聡は作家志望の38歳フリーターである。高校生のときに文芸部に入り、
それまでの読書中心の接し方から、書くことの楽しさを学んだのが小説家を目指すきっかけだそうだ。
高校卒業後、アルバイトを転々としながらも、創作活動に精を出し、投稿を続けるのだが、
何に引っかかることもなく、この年になってしまっている。20代の頃は父も健在で、両親も
早くまもともな職についてくれ、と口うるさく言ってきていたが、4年前に父が死んでからは、
母はもうあきらめたのか、たまに電話をくれるときにも何も言わなくなったそうだ。
母が何も言わなくても、西島には母が「私を安心させておくれ」と言っているように聞こえ、
その度に心の中で「自分はまだあきらめてないんだ」と返すそうである。
 西島も20代の頃には、大きな希望に燃え、せっせと創作活動に励んでいたのだが、
ここ最近は自分でもなんのために書いているのか、何を書いていいのかわからなくなることが
度々ある、と言う。その度にどうにか自分を奮い立たせ、立ち直ってきたらしいが、その方法とは
実際にはいない幻の女性に慰めてもらうというものだった。
彼はその女性に「アンリ」という名前までつけているのだ。アンリはその時々に彼の望みに合わせて
色気のある妙齢の女性だったり、まだ幼さの残る女の子だったりするらしい。
 しがないサラリーマンの私からみれば、そんな妄想が出来るぐらいなら何らかのストーリーが
すらすら出るんじゃないのか?と思うのだが、西島が言うにはそれとこれとは別物らしい。
友人として、また一足先に社会人としてデビューしている自分からすれば、西島がなんであれ
早く道が決まればいいなと思っている。

次のお題は「谷」「揺れる」「円」で
426名無し物書き@推敲中?:2005/06/18(土) 17:42:44
「作家」「色気」「ストーリー」「谷」「揺れる」「円」

 薄暗い部屋に明かりを灯すと、女はいつも通り机に向かってペンをとった。
太陽が西に傾き、陰り始める薄暮時に女の頭は冴える性質らしい。原稿用紙が瞬く間に文字で
埋め尽くされる。つい先程までソファーでまどろんでいた同じ女とは思い難いな。
女、女と連呼するのは失礼か。物書き、いわゆる作家だ。そして俺の名は……まあいいか。
 小一時間すると時折、席を離れることがある。ペンの走りが鈍ったときだ。何やら丁度そのときらしい。
一杯の紅茶を片手に椅子に座り直す。長髪に隠れるその顔は曇っている。
苦悶するその横顔もなかなかのもんだ。俺の女だったら惚れるとこまで惚れちまうだろう。
 お、どうやらいいストーリーが浮かんだようだ。ん、そうか、俺の名は円 昭(まどか あきら)
四十男のサラリーマンで、やや小太りの妻子持ちか……。
俺の予定では、若い盛りを満喫する青年実業家だったんだがな。円満な家庭ならよしとするか。
 ん? おいおい、突然俺の体が血で真っ赤になったぞ? 
 何? 連続通り魔に殺される中年サラリーマンの役だって? 
 妙案が浮かんだからといって、そんな色気たっぷりの表情で見つめてくれるなよ。
今さら揺れる胸の谷間を見せつけられてもな。俺、もうすぐ死ぬんだぜ? 罪な女だ……。


次のお題は「風」「虫」「森」で〜。
427gr ◆iicafiaxus :2005/06/18(土) 19:51:16
#確認ですけど、お題は、文内に字面として入ってればOKですよね。

#「風」「虫」「森」

いとこのマキちゃんは、七分パンツにハイソックスの足を止めて、あゆみ寄る。

「わー、なつかしー。あたしこれ憶えてるよー。うわー」

いい天気だし、と言って連れ立って這入ってみた、権現様の裏山は、もちろん道順なんて
もう忘れてしまっているのだけれど、今思えば多分何か古い観測小屋にちがいないこの
僕たちのヒミツ基地が、もう何年前になるのかな、いつかの夏休み、マキちゃんがおじさん
たちと一緒に泊まりに来ていた時、二人で探検に来た、そのときのまま、針葉樹の森の
中に、床と柱と屋根だけの姿をさらして、荒れ残っている。

コンクリートの床の、いつか一号隊員の座席と呼んでいた気のする場所に、ジーンズの
腰を下ろすと、マキちゃんは僕のとなりに、七分丈のすそを折ってしゃがみ込んだ。

「あの時さあ、なんかあたしたち、ここで、チューとか、してたよね、……、憶えてる?……」

ほほえむ唇を見つめて赤くなる僕に目を合わせたままそっと立ち上がるマキちゃんの、
逆光になった髪を、なびかせている、この風は、もちろん八年前にはなかった風で。

置いた手の甲に感じる何かの虫を、八年前にもそうしたように僕は、這うのにまかせて、
じっと、低くなった気のする小屋の屋根の下に立つマキちゃんを見つめている。

八年前に僕の手首をなでた虫は、きっとあの夏かぎりで死んでしまって。
今年生まれた代わりの虫が、こんどは袖の中まで這入ろうなんて、思いもしないで。

#次は「らい」「殿」「ベル」で。
428らい 殿 ベル:2005/06/18(土) 20:29:14
「らいらい」
「突然なんだよ。意味わかんねー事言ってないで殿としての役目を果たせよ!」
「いや、殿なんて初めてだから緊張しちゃってさ……、こうなんていうかさあ……」
「緊張してるのは俺も同じさ。けど突然意味わかんないこと言われても、違う意味で緊張するだろう?」
「いやあ、すまん」
「まあ、いいや。俺たちはベルX-1の設計図を盗んだんだ。向こうも今ごろは
案外近くまできているかもしれない、油断するなよ。」
「ああ、わかってる。すまなかった。お前も同じ日本人なら通じるかと思ったんだよ」
「お前もしつこいな。その話はもういいから。警戒を怠るな」
「かなり流行ったんだがなあ。らいらい。なんか昔さあ、太川なんとかっていうアイドルがさあ……」
「お前それ言うなら、ルイルイだろ……」
二人して緊張が緩んだその瞬間、銃声が響くと俺の体は後ろ向きに倒れていくのを感じた。
星空の瞬くきれいな空、俺には最後の瞬間、太川陽介がこちらに例の仕草でにこやかに
手招きしているのを確かに見た。


次は「くちづけ」「夜」「甘い」でよろしくお願いします
429「くちづけ」「夜」「甘い」:2005/06/19(日) 14:59:51
幸子とのくちづけはいつも甘い。
私と幸子は昼間から全裸になり布団で交じり合っていた。
深夜になっても幸子の中央は桃色に紅潮していた。
うなじから背中にかけて汗ばむ体が大人のいやらしさを漂わせていた。
幸子は、振り返ると椿のような唇を見せ、呟いた。
「もう我慢できない。椿のような唇って?昭和初期の描写かよ」
感動した。

(メモ 自己新記録 創作時間5分)
430名無し物書き@推敲中?:2005/06/19(日) 15:11:22
(メモ 自己新記録 創作時間5分)
これは、次のお題なのか?
431「くちづけ」「夜」「甘い」:2005/06/19(日) 21:31:00
 なんだか酷く寝苦しく感じて、私は起きてしまった。
 瞼を開けた途端に飛び込んできた光に思わず目をそむけてしまう。
うんざりするほど眩しい。見れば窓から光が差し込んできていた。寝苦しかったのもこのせいなんだろう。
カーテンさえ閉めていなかったのか、と我ながら呆れてしまう。

 昨日の夜、久しぶりに彼が来た。
 彼が来るのはいつも唐突だ。それも、人が油断した頃にやってくる。
血走った目の彼は愛の言葉を囁く暇も無く人に唐突に抱きつき、
盛りのついた猿のように唐突に身体を求め、朝起きれば唐突にベッドから消えている。そう、今日のように。
ベッドのシーツを撫でる。私の温もり以外感じない。ただ皺にまみれた布だけが、昨日のことを嫌に現実的に示している。

 いつもこんな感じだけれど、彼との仲はそれなりに長い。
私たちは互いに無関心。お互いを束縛しない。だから喧嘩もない。
他人と割り切るからこそ人間関係は長続きする、小説か何かでそんな言葉があったと思うけれど、まさにその通りだと思う。
それは、かれこれ丁度七年目になる私たちの関係が証明している。

 気付けば唇の端から血が滲んでいた。知らずうちに噛んでいたらしい。
溢れる血を、軽く舐める。煙草のにおいがした。ちっとも甘くない。

「十代の少女じゃあるまいに」

 意識に流れ込もうとする感傷を振り払って、私は毛布を被りなおした。
カーテンは開いたままで、毛布越しに強い日差しが伝わってくる。けれど、そんなことはもうどうでも良かった。

次は「生死」「静止」「制止」で御願いします。
432メモ 自己新記録 創作時間五分:2005/06/19(日) 21:37:58
「・・・」
 彼は、黙りこくったままPCに向かい、ただひたすらキーボードを慣れた手つきで叩き続ける。
時々悩むように目を泳がせ、やがて思い出したように再びPCに向かう。

 味気なく「メモ帳」と名づけられたその画面に向かう事、5分ジャスト。ようやく彼の手は止まった。
ふと、ストップウォッチ機能にしてある腕時計を見たとたん、彼は満面の笑顔を浮かべた。
「・・・やった・・・自己新記録・・・!!」
 心の中では歓喜の叫び声をあげ、実際には思いっきりガッツポーズ。その直後、ガッツポーズを決めた
彼のひじが机の角に直撃したのは悪運だったが。
「いでっ!・・・はぁ〜、夢みたいだ!僕の愛のポエム、創作時間五分達成だなんてw
1さん、お祝いしてくれるかなぁ・・・あっと、こうしちゃいられない。今日も早速これを
1さんに聞かせに行かなくちゃ!」
 早速、彼はマウスを動かし、「印刷」をクリックする。
 間もなく、プリンターから声に出すのは勿論見るのも恥ずかしいことこの上ない文章が
長々と記された紙が、何枚も排出された。



次回お題 「新月」「帰したくない」「夜明け」
433名無し物書き@推敲中?:2005/06/19(日) 21:39:56
って推敲の過程でキーワード抜けてるやん!orz
訂正:

 なんだか酷く寝苦しく感じて、私は起きてしまった。
 瞼を開けた途端に飛び込んできた光に思わず目をそむけてしまう。
うんざりするほど眩しい。見れば窓から光が差し込んできていた。寝苦しかったのもこのせいなんだろう。
カーテンさえ閉めていなかったのか、と我ながら呆れてしまう。

 昨日の夜、久しぶりに彼が来た。
 彼が来るのはいつも唐突だ。それも、人が油断した頃にやってくる。
血走った目の彼は愛の言葉を囁く暇も無く人に唐突に抱きつき、 唐突なくちづけを交わし、
盛りのついた猿のように唐突に身体を求め、朝起きれば唐突にベッドから消えている。そう、今日のように。
ベッドのシーツを撫でる。私の温もり以外感じない。ただ皺にまみれた布だけが、昨日のことを嫌に現実的に示している。

 いつもこんな感じだけれど、彼との仲はそれなりに長い。
私たちは互いに無関心。お互いを束縛しない。だから喧嘩もない。
他人と割り切るからこそ人間関係は長続きする、小説か何かでそんな言葉があったと思うけれど、まさにその通りだと思う。
それは、かれこれ丁度七年目になる私たちの関係が証明している。

 気付けば唇の端から血が滲んでいた。知らずうちに噛んでいたらしい。
溢れる血を、軽く舐める。煙草のにおいがした。ちっとも甘いと感じない。

「十代の少女じゃあるまいに」

 意識に流れ込もうとする感傷を振り払って、私は毛布を被りなおした。
カーテンは開いたままで、毛布越しに強い日差しが伝わってくる。けれど、そんなことはもうどうでも良かった。
434433:2005/06/19(日) 21:44:13
orzorzorz

>>432氏の御題で御願いします。
「こんな綺麗な晩になるなんてなあ……新月だぞ」
俺はそう言って、そっと籠の中に手を入れた。
手のひらの上には小さな蛍が一匹。
「ほら、自由に飛び回っていいんだぞ?もう籠の中じゃないんだ」
言ってもわからないだろうな、とは思いつつもついそう語りかけてしまう。
別れた彼女からもらった、蛍の育成セット。彼女と別れてからもなんとなく面倒を見てしまい、1匹だけ孵化させられた。
今日はお別れの晩というわけだ。
しばらくじっとしていた蛍は、小さく、しかし鮮やかに発光しはじめると
目の前で何回かふわふわと舞って、仲間たちのいる川原の方へ飛んでいった。
「本当はお前を帰したくない、あの時もそう言えてたら……」
もう戻りはしない時間のことを、つい思ってしまう。
あの時や、今日と同じだ。どうすれば正しいのかわからない。
いつも大事なときは暗闇に包まれている。いまだに答えはわからない。
それでも夜明けは来る。どんな夜明けであろうとも。

見ると、俺の育てた蛍はもうどれかわからなくなっていた。


次回 「花火」「サイン」「始まり」
436抜刀斎:2005/06/20(月) 14:12:28
始まりにはいつも尾張があるって織田の信長君が言ってた。
でも道三君みたいな人徳がちょっち欠けてた。
天下の御旗を五回点滅。
ア・イ・シ・テ・ルのサイン。
「さぁそろそろでかい花火打ち上げるか!」
ってその頃明智の光秀君が言ったりして。


次回
「深遠」「化け物」「希望」
437名無し物書き@推敲中?:2005/06/20(月) 19:10:00
「深遠」「化け物」「希望」

好むと好まざるに関わらず、人は先へと進む。
もちろん、人間以外の動物もそうだろう。
決定的な違いなど、そこには存在しない。
ただ皆、必死に歩み続けるだけだ。

無知を恐れ、危険を感じて背後を振り返り、闇に化け物をみる。
光を灯して隅々まで照らしたところで、全てを見通すことは無い。
不満の中に希望を抱き、安らぎの中に刺激を求める。
ときに何故生きるのか、何故存在するのかと深遠なる問いを抱いてみても、
その歩みを止めることはない。

「もういいよ」
自分ではなく、誰かにそう言って貰えるその日を。
必死にもがきながら、本当の安らぎを待っている。
438名無し物書き@推敲中?:2005/06/21(火) 00:09:33
次のお題はなんでしょか・・・
439gr ◆iicafiaxus :2005/06/21(火) 00:11:31
無い時は前のお題が継続
440名無し物書き@推敲中?:2005/06/21(火) 05:54:32 BE:89852235-##
441「深遠」「化け物」「希望」:2005/06/22(水) 00:24:02
希望にすがる一匹の猫がいた。彼女は魚屋の軒先に並んだ鯖に狙いをつけた。
深遠という言葉に憧れる一匹の犬がいた。彼はリードに引っ張られていた。
化け物になりたい鼠がいた。奴は天敵である猫を叩き潰して化け物鼠と呼ばれたかった。
彼女は駆け出すと見事に鯖を盗み取った。毎度の事ながら怒った店長が追いかける。
それを観ていた彼は、猫はつかまるべきかつかまらぬべきか考えた。人間社会で盗みは犯罪だ。
彼女が人ならば罰されるべきであるが、幸か不幸か彼女は猫である。よくみれば衰弱している。おっと逃げられないぞ。
彼は自らを戒めていた鎖を断ち切ると、猛然とした店長の前に立ちふさがった。
「な、なんだお前は!?」
牙を剥き出し唸る彼の姿に、店長はしり込みしたが、なんとか叫んだ。
「野良犬や野良猫ならまだしも、飼い犬が人間様に楯突くんじゃねーよ!」
それもそうだ。彼は思いなおし道を開けたが、ときすでに遅し、彼女はいずこかへ姿を消していた。
地団駄を踏んで悔しがる店長を見ていると、彼は自分が悪いのではないかと思い始め彼女を追った。
すると建物と建物の間の狭い場所で、一匹の鼠、奴と彼女が対峙しているのを見つけた。
なんだいあれは? 彼はちょっと驚いた。大きな大きな鼠だ。肌色の尻尾も長く鞭のように撓らせている。
これじゃあの痩せっぽちの彼女は敵わないかも知れないな。いや、でも窮鼠猫を咬むというが、
どちらかというと今目の前にある光景は窮猫鼠に咬むといったところ。逆になるとどう変わるのだろうか。
中々ちょっとわからないぞ。彼が悩み始めたとき、彼女が振り返って彼を見た。助けてくれと告げていた。
いや、そんな簡単に動けないよ。彼が悩んでいると、化け物鼠が希望にすがる猫を噛み殺してしまった。
彼はそんな現状には眼もくれずひたすら悩んでいた。深遠とは難しい。

「遺産」「蟻」「カイト」
442名無し物書き@推敲中?:2005/06/22(水) 10:42:46
何から説明しよう僕は由緒正しき冒険家の血筋なのだけどそんなことは気にせずに今の今まで普通の
高校生として生活を送っていたのだけど突然拉致られて車に押し込まれ目隠しされ紆余曲折クロロホルム
だかなんだかを嗅がされ眠らされていた僕が気付いたときそこはもうエジプトだった。

ああ気持ちの整理が付かない何故僕が今エジプトに居るのか分からない黒ずくめの連中は僕が幾らがなっ
ても口を開こうともしないし目的が全く掴めないクソ暑いしはやく帰りたいああもうまともな思考が――

「お目覚めですかな」
 声がした。
「これをお食べ下さい。蟻蜜です。甘くて気付に最適」
「私達二人は今は亡き旦那様にお願いを託されたのです」
「あなたが17歳になったとき、エジプトの遺産を盗ませろという遺言でした」
「しかしまだ経験のないあなたには酷だろうと考え、ほとんどを私達でやらせて頂きました」
 手が何か握っている。僕はその感触の出所に目を遣った。これが、遺産か。
 下を見ると、たくさんのジープが僕らを追って来ていた。こちらはカイトなので、無駄な努力だ。
「これから、宜しくお願い致します若旦那」
「地獄の果てまでついて行きます」
 どうやら、僕の運命は生まれたときから決まっていたらしい。

「修羅場」「買い替え」「ライター」
443修羅場・買い替え・ライター:2005/06/22(水) 11:20:22
「・・・ここが修羅場ってとこか」
 うっそうと茂る密林の中、一本の大樹にもたれかかって、役に立たない時代遅れのPHSを
カバンにしまう、迷彩服姿の男が一人。
「やれやれ、どこから敵が来るか分からんし、他の仲間と連絡を取ろうにも携帯は
圏外だし・・・け、科学ってのも結構不便だなぁ」
 ため息混じりに、ポケットからややつぶれたタバコケースを取り出し、1本くわえ、
今度はその中からライターを取り出した。打ち石に親指を添え、

 カチ。

「・・・ありゃ??」
 何度同じ動作をやってみても、そのライターはうんともすんとも言わなかった。考えてみれば、
今自分が加えているタバコも、ややしけっているようにも感じられる。
 脳裏に、先ほど足を滑らせて滝つぼに転落した自分の姿がよぎった。
「・・・マジかよ。・・・さっさと買い換えなきゃな」
 彼はしぶしぶタバコを捨て、あ、と再び表情を曇らせた。
「最後の一本・・・あぁ、今日はとことんついてね・・・」

 BANG。

 その言葉を最後に、「とことんついていない」男の脳天は、粉々に吹っ飛んだ。
444名無し物書き@推敲中?:2005/06/22(水) 11:20:59
445443:2005/06/22(水) 11:22:28
お題書くの忘れたorz
『ネット接続』『荒らし』『飽きた』で。
446『ネット接続』『荒らし』『飽きた』:2005/06/24(金) 23:51:07
マンションの小奇麗なドアが開き、短髪の若い男が入ってくる
「おい、いるのか?」玄関から中に呼びかけた
「いるわよ」リビングから女の声が返ってきた
男が中に入りリビングに行くと、ボブカットの女がソファーに座り
ノートパソコンに向かってタイプしている。タチタチタチタチ、タイプ音が響く
「ネット接続してから、ずっとやってんのか?」
「まぁね」一度タイプをやめて黙る「もう飽きたけど」
「じゃあ、今はなにやってんのよ?」男は胸ポケットのライターをまさぐりながら尋ねる
「荒らし?のような事」エンター連打
男は鼻から息を出して、彼女の横に座る。
「灰皿とかない?」ライターを弄りながら言う。カチカチカチカチ、火がついて消える
「私はタバコは吸わないし、吸わないで。他人に迷惑をかけるって最悪よ」
男は厭きれてライターをじっと見ていたが、ふと目線を外にやると
ガラス窓越しに雨が降っていた。
447名無し物書き@推敲中?:2005/06/25(土) 02:16:57
>>446
つまんない文章の上に次のお題すら書いてねえじゃねーか
448名無し物書き@推敲中?:2005/06/25(土) 02:18:12
つまんないとかは感想スレで
お題が無いときは継続、テンプレ嫁
449名無し物書き@推敲中?:2005/06/25(土) 15:00:30
つまらない言い争いに興味をひかれて読んだら、
ほんとにつまらなかった。orz
せっかくネット接続したのにガッカリだ。
とか書いちゃうと荒らしみたいだな。
思うに今回はお題が悪かったのだろう。
そろそろ飽きてきたのでやめるけど、次のお題をおいてくよ。

「梅雨」 「病院」 「初恋」
450名無し物書き@推敲中?:2005/06/25(土) 21:15:44
梅雨の季節になっても雨が降らない。
どうやら今年は猛暑で水不足のようだ。
図書館に涼みに行くのはいろいろヤバイので病院で涼むことにしよう。

ところが病院で初恋の人に偶然出会あってしまい、恥かしかったので急いで逃げ出してきた。
その場は必死に走って、人にぶつかりそうになりながらも何とか無事に逃げ切れた。
だが忘れてはならない、俺は涼しい病院の中から灼熱地獄の中に全力ダッシュで飛び込んだのだ。
死ぬ。
俺は気を失った。

死ぬほど苦しかったけど死ねなかった。
目の前には彼女がいる。
もう、逃げられない。
何もかも駄目なのだ。
高校中退の俺が言うのもなんだが娘は最近学校に行っていないようだし、
俺は会社をリストラされていて妻にそれを隠していたのだ。
だから君たち、若さにまかせて初恋の人と駆け落ちなんかするものじゃないぜ。

「なまこ」「ベンツ」「大慌て」
451名無し募集中。。。:2005/06/25(土) 23:44:38
僕は失敗したのかもしれない…。
ナマコを妻にするなんて…。
まだイイダコの方がよかったかな…。
今の政権がクーデターで変わり、新法として「殺人・強姦を働いた者には死刑、または政府指定の軟体動物と婚姻の刑に処す」なんて法案が可決されるなんて誰が想像できる…?
しかも僕は一応強姦罪で起訴されたんだけどさ、強姦罪の解釈も随分と変わったんだよ…。
僕はベンツから降りてきたヤクザの情婦に「あんた!アイツアタシを強姦するように強姦して強姦されたアタシが強姦で罪な強姦姦なのよ〜!」これだけ。
ワケがわからない?ワケがわかってたら僕は何も悲しくないって…
ミミズ千匹を女房にしたら…今頃ミミズ千匹を毎晩…でも重婚…ごめん、忘れてくれ。それが君の為でもあり僕の為でもあるんだ。たぶんだけどね…。

次のお題
「鉄道」「ブルーベリー」「バックスピン」
452名無し物書き@推敲中?:2005/06/26(日) 16:35:06
ブルーベリーはバックスピンしながら鉄道に乗った。

このすれ書いたら楽しいけど読んでも全然面白くないなw
次のは
「火事」「犬」「サザエさん一家」
453名無し物書き@推敲中?:2005/06/27(月) 23:30:47
火事で愛犬が死んでしまったサザエさん一家。 悲しみの中、一家全員で合掌。

お題は当然継続ね。
454名無し物書き@推敲中?:2005/06/27(月) 23:43:01
家事手伝いならぬ火事手伝いのサザエさん。
吼える番犬に臆することもなく。今日はイササカ家を焼く。
「ねえさんっ!」
ほんとに愉快なサザエさん一家。

お題は当然継続ね。
「来週もまたみてくださいねー!」
今週も相変わらずの能天気さを見せ付けてくれた
サザエさん一家も、もうすぐ終わろうとしていた。
マヌケ面のサザエさんがじゃんけんをする。
ジャンケーンポーン……

サザエ グー
俺 チョキ

「ちっ、くだらねー。」

ブツリ、とテレビを消した。

……はずだった。
テレビが消えない。しかも、もう終わったはずなのに
まだサザエがブラウン管の中で笑っている。
「ふふ……あなたはこれで100回負けたわね。」
なんだ?これは?無表情なのが恐怖をそそる。
「罰ゲームよ……」
確か、どこかで火事らしく、サイレンの音が響いていた。
それにあわせて町中の犬が遠吠えしていた。
それが俺が聞いたこの世での最後の音だった。

1週間後ー。
「こんにちはー!居酒屋でーす!」
と元気に叫ぶ彼の姿がTVの向こう側に映し出されていた。

「飴」「海」「星」
456名無し物書き@推敲中?:2005/06/28(火) 00:52:31
 誰もが覚えのあることだろう。
 俺もそうだ。
 飴。
 雨でなく、飴。
 飴で埋め尽くされた海に行きたい。
 雨でなく、飴で埋め尽くされた海へ行きたい、と。
 この豊かな星に生まれ育った者なら、誰もが一度は思うだろう?
 しかしそれは実現しない。多くの場合。
 何故なら、面倒くさいからだ。
 子供から大人に変わり、僕等は別の人間みたく変わっちまう。
 いつしか、あんなに好きだった飴が大して好きでもなくなる日が来る。
 飴よりもかわいい女の裸が好きになる日が来てしまう。
 それは悲しいことだろうか。それは、悲しいことだろうか。
 僕は、そうは思わないけれど。

「モノクロ」「情感」「内輪」
457名無し物書き@推敲中?:2005/06/28(火) 02:03:05
夕方、久しぶりに高校時代の恋人と会った。
何気ない会話をしていたはずなのに、いつのまにか口論になってしまっていた。
きっかけはなんだろう。芸能人のゴシップについての話題のせいではないことは確かだ。
政治のあり方についてだろうか。或いは人生観についてだろうか。酒のせいか今となっては記憶が曖昧で思い出せそうにない。

「あなたは変わらないのね」
彼女は代金だけ置いて、バーから去っていった。それが、つい十分前。
バーテンダーは何も語らない。けれど注いでくれた琥珀色のウィスキーをぼんやりと眺めていると、いつのまにかモノクロの記憶が呼び戻されていた。
さっきまでの彼女の笑顔と仕草が、記憶の中のそれと重なる。確かに彼女は昔より美しくなった。けれど実のところ、殆ど変わっているようには思えない。

あの頃の「僕」はただ変わることを恐れていた。
同じ歩幅をした内輪の友人たちとともにいることを選び、
その歩調を踏み外してしまうことを恐れていた。孤独になることだけが恐かった。

今はどうだろう。彼女は、私は全く変わって居ないといっていた。
そうかもしれない。彼女の言葉は、喉に染みるアルコールとともにほろ苦い情感だけを与えてくれた。
けれど、今の私は彼女に違うと言い切ることが出来る。だから、きっと何かが違うのだろう。

「変わっていないのは、君のほうさ」

薄明るいカウンター。無口なバーテンダー。ストレートのバレンタイン。私はただ顔を伏せる。
そんな言葉を言ったのは、果たして夢の中でか現の中でか。

「覚悟」「絶望」「十三番目」
458名無し物書き@推敲中?:2005/06/28(火) 15:48:37
 団体戦で二十射十八中を出した五人が、個人の部決勝戦に進むことになった。五つの的が用意され、各人一本ずつの矢を持って入る。外した者は退場。
 甲山大学弓道部副将・高村と、乙沢大学前主将・下田との争いになってからが長かった。両者が十二射連続で当てた後、審判は競技法を替えると言い出した。『遠近』、二人を同じ的に向かって引かせ、より中心近くに当てた者を勝者とする。
「ぜつぼーだ」
 控え室で、高村は虚ろにつぶやいた。介添え役の主将・中島がたしなめた。
「そんなこと、軽々しく言うもんじゃない」
「じゃあ重々しく言おうか。――絶望だ……」
「同じだ、同じ!」
叱り飛ばしてしかし、中島も似たようなことを考えているのだった。高村の当たり所はバラバラで、きわどく縁すれすれに入った矢さえあった。一方下田の矢は全て中心近くに揃っている。
 本人が控え室にいないのを確かめ、高村はぶつぶつ言った。
「何だよあの人。人間じゃねーよ、的中マシーンだよ」
「と言うことは、同じ当たりのおまはんも人外」
中島がにやにやし、その顔のままつぶやいた。
「だーいじょうぶ……」
 大学で初めて弓に触った高村に、弓道歴の長い主将からはアドバイスしたいことが山ほどあるだろうに。敢えて何も言わない友人に、高村は感謝した。
 と、気がそれたせいか、不意に彼は落ち着きを取り戻した。
 あと一本引く。どのみち、今できることはそれだけなのだ。
 会場である丙洋大学の学生が、準備ができたと声をかけた。高村は会釈し、立ち上がった。弓を取る。中島がそっと声をかけた。
「お覚悟は……」
高村は無言で見返し、二人はニヤと笑い合った。どこかから戻った下田の姿を視界の隅に認めた。
 そうして高村は、十三番目の矢を選び出した――。

(お題は継続)
459名無し物書き@推敲中?:2005/06/28(火) 23:32:58
今日も選別が始まる。間引きと言ってもよい。
もはや船には今の人数をを維持するだけの食料がないのだ。
選別は竹の筒に頭だけを出したロープを引き抜くことで行われる。
ロープの先には赤と白のペンキが塗ってある。
白ならセーフ。赤なら海にドボンだ。共に半々ずつ筒に入れられている。

今日は20人が筒の前に立った。僕は前から十三番目だ。
僕には今回が二度目の試練となる。前回は僕の番になる前に赤いロープが無くなった。
僕は覚悟を決めていた。元々この船は難民船なのだ。
ここにいる数百人はみな国を追われてきた者ばかりだ。
その船が難破して漂っているのだ。燃料は尽き食料も底を尽きかけている。
見渡す限りの大海原には島影一つ無い。
何かを感じるのか、海鳥さえもこの船に近づこうとしない。

今、僕の心には絶望しかない。
日々増幅されていく死の影を見つめることにも疲れてしまった。
自ら命を絶つ度胸がないなら、せめて運命に導かれたいと思う。

やがて僕の番が来た。ここまで白が九つ出ていた。
ロープの一つをそっと引っ張る。
その先に色付いたサクランボのような赤が見えた。
僕はそのサクランボを持ってホッとため息をついた。
真夏の青い空は今日も雲一つなく晴れ渡っていた。

「ヨット」「カクテル」「スタイル」

460名無し物書き@推敲中?:2005/06/29(水) 21:20:46
「ヨット」「カクテル」「スタイル」

今晩12時、サノバビーチで密輸が行われるという情報が入った。
何の密輸かまでは不明だったが、金にならない物をわざわざ密輸することはあるまい。
俺は相棒のコンスタンチンと共に横取りを画策した。決まった計画はこうだ。
1・真っ黒なヨットをビーチの砂の中に隠しておく。
2・密輸船が来たらヨットで乗り込んで物を奪う。
暗くなって人目がなくなるとビーチにヨットを隠し、俺とコンスタンチンも砂の中に隠れた。
コンスタンチンの隠れ方が下手なのに気付き、俺は砂をかぶせてもっとうまく隠してやった。
景気づけに1ドルの缶カクテルをあおる。成功したらもっと高い酒を飲んでやる。
密輸船が来た。行動を開始しようとしたがコンスタンチンの反応がない。寝てやがるようだ。
気付かれない限りの大声でいくら呼びかけても動こうとしない。しょうがない、一人で行動することにした。
船に乗り込んだが、積まれていたのは貧乏くさい人間の集まりだけだった。
密輸というのは臓器密輸だったのだ。さすがにそれは専門外だ。
顔かスタイルのよい女でもいれば別の方法でさばけたが、該当する者もいなかった。俺はがっかりして引き揚げた。
翌日のニュースで、サノバビーチに人が生き埋めにされ死んでいたという事件が流れた。
そういえば、役立たずのコンスタンチンは今も戻ってない。


「軍」「物資」「横取り」
461名無し物書き@推敲中?:2005/07/01(金) 05:35:05
「もう補給艦が来るころなんだが……」
艦長が不安そうな顔でモニタを睨んだ。「味方」を示す青い光の数と位置は、このポイントに移動してきてからほとんど変わっていない。
「これは何かあったと考えたほうがいいかもしれませんね。軍の補給担当部門は基本的にパンクチュアルですから」
僕の隣の副操縦士が動揺のカケラも見せずに言った。
物資の補給が途絶えて一週間になる。食物、飲料、その他諸々の生活必需品に加えて弾薬の残りも怪しくなってきた。
そう。僕らは商売道具として弾薬を必要としている。
なぜなら、三年前に新たな軍隊として設置された宇宙軍の一員であり、さらに言うまでもないが戦争中だからだ。
違う星に上がっての陸戦も艦船同士の大型兵器の撃ち合いもこなす。まだライト・セイバーはない。人間が手に持って使う武器は銃器が主だ。
何故か相手も文明レベルは同じ程度で、同じような武器を持って同じような戦い方をしてくる。どんな生き物かは知らされていない。機密だそうだ。

「艦長、補給艦らしき船が近づいてきているようです。まだ交信できる距離ではありませんが」
「間に合ったか! これで……」
しばらくは持つだろう。艦長がそう言い終わらないうちに、超々遠距離戦の射程から狙い澄ましたレイザー・ビームが発射され、僕の乗った船の右舷を消し飛ばした。
あと何分の一秒かの後にこの船は爆発するだろう。補給艦は敵に乗っ取られ、補給物資は横取りされたのだ。
僕は自分がバラバラになるまでのわずかな時間にそこまでの頭を巡らせた。
瞬時に近づいてきた補給艦に見覚えがあることに気づいて考え直そうとしたときには、僕にはもう何もできなかった。

Next/「サンバ」「迷彩」「寿司」
462名無し物書き@推敲中?:2005/07/03(日) 14:39:37
サンバ 迷彩 寿司

困ったことになってしまった。
フリップというんだっけか、テレビのクイズ番組なんかで答えを書きこむ用紙に
嬉々として向かっている隣の男は交際三日目の彼氏である。
無理矢理引きずり出されたデートで運悪く某有名番組のカップルコーナーの
レポーターにつかまり、質問に対しお互いに思っている事を書かされている。

「これだけは治してほしい癖は?」なんて質問は1年以上付き合っている
夫婦もどきカップルをみつけてやってくれ。

三日という交際期間の短さだけが問題なのではない。
性格も生きる世界も自分とは全く違う人だというのはあまりにもあきらかだった。
毎日祭りがあるかの如くハイテンションで年中夏といわんばかりの焼けた肌に
周りの仲間からつけられたあだ名は「サンバ」。
自分はといえば、どこにいても息をひそめて周りの様子を伺いつつ溶け込もうとする
ような人間だ。
影で「迷彩」と言われているのを聞いてしまった間の悪ささえ持ち合わせている。

相手について知っていることも理解できる事もなさすぎる。
もうどうでもいいやという気持ちで『外食といえば?』の答えを前に出した。
すると、素っ頓狂な声で「俺も寿司だよ〜!」の声が聞こえた。
びっくりして隣を見ると、用紙からはみ出しそうな「寿司」の字。
真中に小さく書いた自分の用紙とはだいぶ違ったけれども、
少しだけつながりが見えたような気がした。

「待機」「実況」「乾杯」
463名無し物書き@推敲中?:2005/07/04(月) 02:35:56
 待機していた。
 ずっと、じっと、息の音さえ漏らさず。
 私は闇と同化していた。

「ターゲットが来ました」
 その言葉を発した人間は、周囲の闇と同化してうちっぱなしのコンクリートの床と一体化しながら、ビルの屋上でひっそりと寝そべっていた。
「狙撃体勢に移行します」
 ビルの屋上でもぞもぞと誰かが動き、闇の中誰の気にも止められずに屋上の端から黒い筒が伸びた。
「ターゲットの名前は西田あゆみ、25歳、サウンディーコーポレーション事務員。男性は彼女の恋人で名称経歴そのた諸々全て不明」
 人間は口元のマイクに実況を伝え、パチンッと勢い良くスコープのカバーを開けた。
 その先の十字の視界の向うには、仕事帰りなのかぴっちりとスーツを着た男女がリストランテで赤い赤いワインがなみなみと入ったグラスをを乾杯している光景が写っている。
 ギリッ、という歯軋りの音をマイクが拾う。
 二発続いた発射音は殆ど聞こえなかった。
 ただ、ビルの上の人間にはスコープ越しに男女が仲良く頭から血を流して倒れているのが見て取れた。
 立ち上がり狙撃銃を機械のように正確な手つき分解しながら彼女は言った。
「ターゲットは二人とも死亡、これより逃走に入ります」

 三年後、「友人の女性に恋人ができると、カップルともども狙撃して殺してしまう」という猟奇殺人鬼が逮捕された。
 彼女の部屋からは大量の狙撃時の実況を録音したカセットテープが押収された。

「電子手帳」「タンカー」「ドラム缶」
464 :2005/07/06(水) 00:38:26
「電子手帳」「タンカー」「ドラム缶」

契約を結んだ女を路地裏に連れ込んできたところ、通り魔に襲われたらしい死体が転がっていた。
女はびびってたちまち逃げ去ってしまった。忌々しいことにすでに金を払った後だった。
落とし前として、この死体から金目のものをいただくことにした。
財布は残っていたが、中身はこいつから受けた損害の額には程遠かった。
こうなりゃ解体して肉屋に売り飛ばしてやろうと思って服を脱がせてみると、尻に電子手帳が挟んであった。
なぜ尻に。バイブ機能でも付いているなら分かるが、そんな機能のある電子手帳など聞いたことがない。
電源は入ったし、特に壊れている様子はなかった。
メモリーに残っていたのは、『タンカー ○月△日 23時』だけだった。
○月△日は今日の日付である。確かに今は港にタンカーが停泊しているが、今夜そこで何があるというのか。
どうせ暇だし行ってみることにした。
夜になった。港のタンカーが見える場所まで行き、物陰に隠れて待った。
しかし23時どころか3時まで待っても何も起きなかったし誰も来なかった。
あの内容はただの落書きだったのか。俺は頭に来て手近のドラム缶をタンカーに投げつけて帰った。
翌日、電子手帳をジャンク屋に売り飛ばしに行くと、備え付けのテレビで緊急ニュースをやっていた。
昨晩のうちに港のタンカーが沈んだのだ。何者かが船体に堅いものをぶつけて穴を開けたというのだ。
電子手帳を持っていた男はこれを計画していたのか。
誰があの男に代わって実行したのかは謎だが、これであの男も浮かばれるだろう。


お題は継続。
465名無し物書き@推敲中?:2005/07/06(水) 04:49:13
「電子手帳」「タンカー」「ドラム缶」

「遅ぇなぁ」なんてみんなしてドラム缶に焚いた火で温もってたら、竹さんが大急ぎで駆けてきた。
「すげーもん拾ったすげーもん拾った」って息切らしながらはしゃいでんだよ。
「なに拾っただぁよ?」って訊いたらさ、「すげーちっちゃいパソコン拾った」って言うのさ。
見たら電子手帳でしょうよ。「竹さんそりゃ電子手帳っていうだぁよ」って教えてやろうと思ったらね、
「そらお前『ど忘れ辞典』つぅだぁよ」って、宮さんに先越されちゃってさ。
いつもお世話になってる宮さんに恥欠かすわけにも行かないでしょうよ。だもんで俺は黙っていたね。
半年前までスーツの懐に同じもん忍ばせてたんだから確かだーなんてうっかり口にしたらさ、
もうこの炎の団欒に呼ばれなくなるかもしれないでしょうよ。
職失って家族失って家失ってさ、その上この暖かいコミュニティまで失ったら……
「いいもん見っけたなぁ、本当よかったなぁ」ってみんなして竹さんの背中ぽんぽん叩いて一緒に喜んだよ。
「俺はこれで勉強する。勉強してど忘れない。勉強して外国さ行く」って竹さんがさ。
黒い海に浮かんでるタンカー指差して「いつかあのいがい船乗って外国さ行く」って飛び切りの笑顔でさ。
炎に照らされて瞳から頬から鼻の頭からきらきらさせた竹さんはまるで天使みたいだったなぁ。
神様みたいのがちゃぁんと見てねぇかなぁって、竹さん見っけてくれねぇかなぁって……
手を温めながらしみじみ竹さんの幸せを願ってたら、なんかつーって泣いちゃったね。


「百円」「新聞紙」「あんぱん」
 相性の悪いものは、誰にだってあると思う。
 例えば私の場合だと、自転車だ。膨大な時間を費やし、身体のあちこちに甚大な被害を受けながらも
私は諦めることなく練習に励んだが、ついに一度としてまともに乗ることができなかった。
 絶望的に相性の悪いものをもっている人が、偶にいる。
 私の叔父の話なのだが、私が自転車に乗れないのは家系的な要素なのではないかと勘ぐりたくなるほど、
この人の機械類の操作は破滅的で原始的なのだ。
 テレビの映りが悪いとき、彼は私にこう教えてくれた。「斜め45度がポイントだ」彼は容赦なく精密機械を殴打する。
叔父は石油タンカーに搭乗する船乗りで、力が強い。彼のおかげでテレビの映りはよくなったが、ブラウン管にはヒビが入った。
 またあるとき、叔父は電子手帳を購入した。説明書を読まない彼はデタラメにキーを連打して、操作がおぼつかない事に苛立ち
…・・・私が電子手帳を「破いた」人を見たのは後にも先にもその時だけだ。思うに、船乗りは気が短か過ぎる。
 叔父の船が転覆したのは、その手帳事件のすぐ後のことだった。叔父は総舵手になり、初めての航海で意気揚々と出て行ったことを覚えている。
 計器類の不調による座礁が事故原因とのことだが、私は欠片も信じなかった。何度と無く叔父の凶行を目の当たりにした姪として、確信があった。
 その証拠に、叔父は今、操舵ではなくドラム缶を運んでいる。

 次は「姪」「破滅」「操作」で。
467名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 00:50:08
 上から129.3、129.3、129.3。見事なドラム缶ボディだ。
 噂には聞いていたが、実際に見てみるとやたら滑稽に映る。
「……一日遅れたのはどういうわけだい?」
 俺は電子手帳のスケジュールページを見ながら、配達してきた男に訊いた。
 昨日のタスクには間違いなく「ネコ受け取り予定」と書かれている。
「あー、製造元からの輸送が遅れたんです。申し訳ないですわー」
 配達担当はやたらフランクな調子で謝った。
 飛行機が一日単位で遅延することが、果たしてあるだろうか?
「いやいや。タンカーですわ。タンカー」
「……タンカー? いまどき?」
「ええ。ま、なにしろ工場がえらい小さい島の上でして。空港がないんですな」
 そんなところで「これ」が作られているのか……
「じゃ、そういうことで。ご利用ありがとうございました」
 中年の男は軽く会釈をして、ドアを閉めた。俺はダンボールを開けて中身と説明書を取り出す。
「……えっと、なになに? 口の中にドラ焼きを突っ込めば起動?」

Next/「ドーム」「メーリングリスト」「抹茶」
468467:2005/07/07(木) 00:50:48
…ログが詰まってた。
お題は好きなほうで頼む。
469姪 破滅 操作:2005/07/08(金) 11:28:20
「破滅はどこにでも落ちてるの。私達の周りをふわふわ漂っているんだわ。おじさんにはそれに気づいて欲しかったの」
姪の有紀が思いついたかのように呟いた。難しい年頃なんだろうか。
姉さんが言うには同年代のほかの子より感受性が豊からしいし。
僕は、ただ、有紀の言葉を聞き、考え、理解しようとするだけだ。話し相手でしかない。
「ちょっと怖いね。近くにあるのに、気づけないんだ? 誰も破滅になんて会いたくないだろうに」
「でも反対に、そう思っていれば、いざそのときになって動揺が少なくなると思わない?」
「確かにそうかもね。でも出会わないにこしたことはないと思うなあ」
「うん、そうよね」
「ふわふわしてる破滅を操作できる人間がいたら、怖いね」
「ふふ、おじさんは想像力がたくましいのね。でもそんな人がいるなんて聞いたことないわ。おじさんの杞憂よ」
僕はちらりと部屋にかかっている時計を見た。そろそろ面会時間の終了時刻だ。
「有紀、そろそろ時間だから、おじさんは帰るね。またね」
有紀は少し悲しそうな顔をして、うなずいた。僕は部屋のドアの前まで来ると振り向いて、もう一度言った。
「またね」
かわいい有紀。僕の姪。また遊びに来るよ。心の中でそう呟くと、僕はドアを開けた。

次は「方向」「畳」「天井」で
470:2005/07/09(土) 01:37:33
方向 畳 天井

ある日のこと、僕が横になってテレビを見ていたとき。
「あれ?あなたの頬に畳のアトがついているわ」
僕は訳もわからず、近くにあった鏡を見た。確かに僕の頬っぺたには、畳の細かな編みこ
みのアトが浮かび上がっていた。僕はもう一度カーペットを敷き詰めた部屋を見たのだが、
どうしても畳のアトが僕の頬につく原因はないと思われた。
「変ねえ」 そっと僕の頬を手で触れた彼女の独り言。
それからというもの、僕の部屋では、僕が横になって過ごしているときには必ず、その後
には畳のアトがつくようになってしまった。学校へ行くときにも、もちろん僕の頬には畳
のアトがついていた。街中でも見てとれるほどくっきりとしたアトがある僕。彼女は気味
悪がって、二度と僕に親密な笑みをむける事ができなくなっていった。
僕は考えてみた。原因はどうであれ、問題は僕の頬に畳のアトがつくことなのだ。どうし
ても横になれば僕の頬には畳のアトがついてしまうというのなら、そうだ、横にならずに
ことを済ませれば問題は解決をするのではないか。僕はそれまでの習慣、右側を下にして、
横たわる眠り方をやめた。僕は仰向けに眠ろうとしたのだ。
天井を眺めながら眠るということは出来ない。でも、僕はどうしても彼女に戻ってきて欲
しかったので、畳のアトを頬につけるわけにもいかない。
夜、天井はやがて暗闇のなかで僕が覗く鏡のようにうつっていく。天井には僕がいて、ま
るで幽体離脱をした僕が逆に上から僕を見ているような感覚に陥っていった。僕の感覚は
研ぎ澄まされ、逆に僕の視点が部屋の其処彼処にあって、僕を眺めているような気がして
いた。朝まで僕は眠れなかった。
学校へ行くと、彼女はじっと僕の頬を見てからにこりとした。どうやら、畳のアトのない
僕を気に入ったらしいのだ。そしてその小さな手で僕の頬を触ってきたのだが、僕にはど
うしてもその手の感覚が以前の彼女のものと同じだとは思えなかった。彼女は言った。
「どうしたの?」
声までも違った。僕の目の前には彼女がいる。でも、それはあきらかに僕、そこにいるの
は僕だった。
僕の方向感覚はいつから狂い始めたのだろうか、いや、狂っていた方向の感覚が今、戻っ
てきたとはいえないだろうか。

「テロリズム」「心象」「映像」
471名無し物書き@推敲中?:2005/07/11(月) 01:58:11
「テロリズム」「心象」「映像」

 映写室には、たった2人。大統領と元帥だけだった。
 目前には、血生臭い自爆攻撃の8mm映像が映し出されている。

 「ううむ…」
 大統領は、とりあえず悩んでみせた。
 自分の命さえも犠牲にしてという点、ある意味、人間としての心象は悪くない。

 しかし、彼は許せなかった。
 攻撃した者にではない、そういう状況に若者を追い込み、あるいは洗脳した者への怒りだ。
 どうするべきか? 彼のスタンスは既に確定している…

 「元帥。これはテロリズムだ、同情は禁物と全軍に伝えよ」
 「了解しました!大統領」

 そう。自爆攻撃など、許してはならない。
 爆薬を満載した体当たり攻撃には、断固とした態度をもって応じるのだ!

 熱い決意を胸に、マッカーサー元帥はトルーマン大統領の執務室を後にした。
 日本軍の特攻攻撃は、徹底的に封鎖された。

※少ない行数で終わったー…疲れてるから;
次のお題は:「心象」「映像」「サイダー」でお願いしまふ
472水に流せるティッシュ:2005/07/11(月) 08:37:04
昼下がり、人も疎らな下り電車の天井で、扇風機がのんびりと首を振る。たぶん暑かった昨日なら、僕はこんな扇風機じゃ我慢できなかっただろう。確かに今日も暑いけど、別にこれくらいどうでもいい。思いながら僕は膝に置かれたユリの手を握った。
車窓に移る景色は遠く、電車は速度を上げているのにゆっくり流れる。それは映像と呼ぶのにふさわしい気がした。まるで手動で巻き取られているみたいだ。
向こうを見るユリにこっちをむかせたかった僕は、ユリのサイダーみたいな指先を捕らえてちょっかいを出した。見るほど冷たくはじけそうな色を、実験感覚で舐めてみたくなる。伺う横顔は涼しげで、ネイルと綺麗にリンクしていた。
「ずいぶん田舎にきちゃったね」
笑うユリは瞳をそのままに言う。眺める僕に浮かぶ心象がどんなか、ユリはきっと知り得ようともしない。

次、「風鈴」、「フロッピー」、「制服」でお願いします。
473名無し物書き@推敲中?:2005/07/12(火) 02:13:04
僕はバックパックを担ぎ電車を降りた。名も知らない中国の農村。田舎くさい風がぼろ家の間から吹き抜けてくる。
風鈴をつるした恐ろしく汚い安宿のおやじにいつもの値切り交渉をした。あっさり半額にしてくれるところがうれしい。
僕は来るまでに撮った写真をバックアップするため、フロッピーへ保存することにした。するとパソコンの画面に撮った覚えのない写真が現れた。
大勢の汚らしい格好をした子供たちがぎゅうぎゅう押し合いながら笑顔でこっちを見ている。たぶん子供がいたずらで撮ったのだろうがよく撮れている。
ふと、ある少年が目に映った。小学校の制服を着たあどけない少年だ。その少年は甘酸っぱいような顔で2人前の少女を見ている。
僕は10年以上前の懐かしい記憶をたどっているようだった。忘れかけていた夏の日の少年たち。こんな異国の地で出会えるとは思っていなかった。
風鈴の音とともに僕の心はゆっくりとこの国に溶け込んでいくようだった。

次、「自転車」「コンビニ」「秋風」でお願いします。
474ベネディクタ:2005/07/12(火) 02:51:33
  アイスか肉まんか。深夜のコンビニで迷った俺が結局両方を手に取りレジに向かう。
彼女の好きなものを一つ一つ思い出しながら、熱いものも冷たいものも一緒くたに大切に抱えて。
 自転車の帰り道は秋風が心地よく、酔いとほてりを冷ましてくれた。
事故ったりしないように、静かに明かりを見据えてゆっくり走る。あの子の待つ6畳に。

次は「血」「笑顔」「原っぱ」で!
475名無し物書き@推敲中?:2005/07/12(火) 04:54:52
「血」「笑顔」「原っぱ」

まぁまぁおったまげたね。
現場の近くの原っぱでひとりで弁当食ってたら、前の道を頭から血流したおばさんが通り掛かるでしょうよ。
「どうした、おばさん!?」つったらさ、ギロッて睨まれて、
「あんたにおばさん呼ばわりされたくないね!」なんて気丈も気丈。全然弱ってないから。
「でもおばさん、血ぃ出てるべや、それも大量によ……」って俺の喋るのをさえぎってさ、
「おばさんおばさんってうるさいよ! 馬鹿にすんじゃないよ! 私らだってね、毎日命がけで生きてんだよ!」
派手に流血しながら、そんなせりふ吐いてみせるんだもん……
俺『命がけ』って言葉大好きでしょうよ。
病院連れていきましょうか、とかなんとか言うべきところ、口をついて出たのがこんな言葉。
「かっこいいっす、おねえさん! なんかひどくかっこいいっす!!」だって……
頭血みどろの年取ったおねえさん、立てた親指俺に示して満面の笑顔。
きらっと光ったのは白い歯じゃなくて多分銀歯……
「あんたも命がけで日々を生きるんだよ!」って言葉残して大股で……多分病院に向かったんだろうなぁ。
まぁ昼飯時ののどかなのっぱらの前でありえない光景だったよ。
俺も満身創痍を世間に見せびらかしながら「こちとら命がけで生きてんだバカヤロー!」とか啖呵切ってみたいもんだね。


「ビール」「石ころ」「命がけ」
476名無し物書き@推敲中?:2005/07/14(木) 04:23:37
「ビール」「石ころ」「命がけ」

命がけだった。
奪ったのは現金。麻薬取引の現場を襲った。
何故こんなことになったのだろうか。どこで間違えたのだろうか。
人生に於ける重要な選択肢を誤ったのかも知れないし、或いは路傍の石ころに躓いた程度のものかも知れないが、今は思い出せない。
ビールを呷った。
さて、

「春」「東側」「運動」
477名無し物書き@推敲中?:2005/07/14(木) 09:00:35

春高楼の、花の宴。
太陽の東月の西を目指して逃走を図った476であった。
世間は彼を笑うかもしれない。しかし、われわれは忘れないだろう。476の勇姿を。
めぐる杯、かげさして。
476を追い詰めるギャング集団。手にはピストル、心に花束を持っていた。
千代の松ヶ枝わけいでし。
476の額にはまつが突き刺さっていた。運送不足が祟って、自分から松の木に突っ込んでしまったのだ。
昔の光いまいずこ。


「ひろゆき」「それから」「門」
478名無し物書き@推敲中?:2005/07/15(金) 02:22:34
「ひろゆき」「それから」「門」

風呂場で足を滑らせ転倒し、俺は自分の死を悟った。
「ひ、ひろゆき……」
思わぬ名を口走ったことに俺自身が驚いてしまった。
今まさに逝くという瞬間、妻でも子でも両親でもなく一人の男の顔が皺一本漏らさず鮮明に思い出されたことに。
走馬灯はあらゆるひろゆきの横顔を展開した。
酒を飲んで饒舌になるひろゆき。寺巡りが大好きだったひろゆき。
どこかの仏に似ていると、一晩中俺の顔を様々な角度から眺めたひろゆき。
社員寮の窓ガラスに小石をぶつけ、門の影からひょっこりはにかみ笑顔を覗かせたひろゆき……
想いがあふれて俺の頬を一筋の涙が伝った。
俺ははっきりと自覚していた自身の胸のときめきに忠実であるべきだったんだ。
いよいよ意識が朦朧としてきた。
ひろゆき、元気でな。幸せになれよ。それから……三日に一遍はシャンプーしろよな。お前ちょっと臭かったぞ。
お前が犬だったら俺がわしゃわしゃ洗ってやったのにさ……
「さよなら……」
数日後、病室のベッドで俺は清々しい心持ちで蘇生した。俺は生まれ変わったのだ! 待ってろ、ひろゆき!!!


「あじさい」「麦茶」「居間」
479名無し物書き@推敲中?:2005/07/16(土) 05:29:00

   「あじさい」「麦茶」「居間」


3年前、こんな梅雨時に他界した旦那は、私に大きな家と
ちょっとした財産を残してくれた。おかげで、暮らしには不自由していない。

この季節になると、うちの庭の片隅にはあじさいの花が咲く。
私は、傘差し、水差しを持って、そのあじさいに、麦茶をやりに庭へ出る。

思い出す。旦那の奇妙なこだわり。理解できない儀式。
彼は、楽しそうに、いつもこう言ってた。
「ボクはね、梅雨が大嫌いなんだ、早く夏よ来いって感じだ」
「あじさいは梅雨の象徴だ。麦茶は夏です。さあ、これから夏で
 梅雨をやっつけますよ、見ていてください!」
そういってバケツ一杯の麦茶を、あじさいにぶちまける。そして笑う。
私は呆れたように「そんなオマジナイは聞いたことも在りません」と否定した。
「麦茶も勿体無いですよ、ただじゃないんですからね」ジロッと彼を睨みつける。
彼は、悪びれもせず、ゴメンゴメンといいながら、でも、毎年、儀式のように
あじさいに麦茶を浴びせ続けた、楽しそうに。

彼が他界して3年。
梅雨どきに雨音を聞きながら一人きりでは佇むには、この家の居間は少し広すぎて、
彼と同じように庭に出ては、いつものように、あじさいに麦茶を注いでいます。
480479:2005/07/16(土) 05:36:38
行数オーバースマソ、むずいねコレ。


お題
「手紙」「教会」「白」

お次のレスをお楽しみください
481名無し物書き@推敲中?:2005/07/16(土) 19:19:52
「手紙」「教会」「白」

法と正義の殉教者ここに眠る。
彼の墓石を一瞥し私は教会の墓所を後にした。
葬儀のレクイエムはモーツァルトだった。
彼の仕事同様、未完成のレクイエムだ。
しかし友よ、問題ない。私が白黒つけてみせるさ。
仕事の経緯は彼の最後の手紙に記してある。何も問題ない。
私はシュツットガルドを発った。

「最初」「僻地」「鮮烈」
482名無し物書き@推敲中?:2005/07/16(土) 23:02:40
「最初」「僻地」「鮮烈」

「じゃあ、今から国語の授業を始めます」
私は、緊張しながら教室に入っていった。
大学を卒業して、中学の新任教師として採用されたばかりだった。
赴任を命ぜられたのは、ある離島の小さな中学校、いわゆる僻地だった。
今日は私の最初の授業なのである。
生徒の名簿を読み上げ出席を取り始めた。
まず、生徒の顔を覚えなくてはならない。一人一人の顔と名前を確認していった。
そして、ある女生徒のところにきた時だ。
私は驚いた。
(ど、どうしてこんな田舎にこんな綺麗な子が?)
私に向かって魅力たっぷりの微笑みをくれたその少女は、まるで天使のように美しかった。
しばし見とれてしまい、出席の点呼が途絶えてしまった。
「先生、どうしたの?」
生徒から促されハッとする。
(それにしても、なんて美しい子だ……)
私の脳裏からその美少女の笑顔が離れなくなってしまった。
鮮烈な印象を残したその美少女が、後に私の運命を大きく狂わせる事になろうとは、その時は知る由もなかった。

「パンツ」「時計」「自転車」
483名無し物書き@推敲中?:2005/07/16(土) 23:41:13
「パンツ」「時計」「自転車」

 パンツを片手に私は自転車でかけていた。
 夫が履き忘れていったのだ。
 まったくもう、どうしてこうおっちょこちょいなのだろう。
 きのうは腕時計をトイレに落としてしまったのだ。
 携帯電話ならまだしも、なぜ腕時計が便器のなかに落ちてしまうのだ。
 バスに乗り込もうとする夫が見えた。間にあった。
「ちょっと! パンツ履き忘れているよ!」
 大声でパンツを振りながら呼びかけたのに、夫は聴こえなかったふりをしてバスに乗り込んでしまう。
 私は息を切らしながら走り去ったバスの後ろを眺めて憤慨する。
 せっかく親切で持ってきてあげたというのに。

 次のお題は「鍵」「25時」「地平線」で。
484名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 00:39:02
「24っていうドラマ知らないか?」

地平線のはるかかなたにあるツタヤ南極支店で、自称早稲田大学一文卒の男が私にそう問いかけてきた。
「これですか?」
私は足元に落ちていたビデオテープを手に取る。
そこには24時ではなく25時と書かれてあった。
「残念でした。これはパチモノです。またのお越しを。」
私が憎たらしげにそういうと男はしばらく呆然とし、そして次の瞬間
信じられないといった顔で私にこう問いかけてきた。
「本当にないんですか!?24時のビデオテープのなかには私の家の鍵が入ってるんですよ!?
どうしてくれるんですか!?」
「そんなこと言われてもこちらとしては困ります。またのお越しをお待ちしております。」
強引にマニュアルどおりに話を進める。
「そんなぁ〜」
男は弱弱しくそう言い、店から出だ。声に疲労と落胆の色があった。
誰もいなくなった店内で私は、しばし時計に目をやる。時間は、午前3時丁度であった。

「自殺」「露西亜」「ブラボー」
485名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 03:21:59
「自殺」「露西亜」「ブラボー」

 マネージャーが彼女の死体を見つけたのは、演技の直後の控え室だった。
 たった一人で、冷えた指が薬瓶を硬く握っていた。明らかに、自殺だ。
 容姿だけが自慢の高慢女にしては、しおらしい死に様だった。

 そう、もう一つの控え室では、「宿敵」が同様に審査結果を待っている。
 敢えて「露西亜代表」と漢字プラカードを掲げ、日本の彼女を挑発してきた宿敵が。

 プロポーションについては、明らかにロシアの宿敵が彼女を凌駕していた。
 容姿を否定されれば何もない女にとって、それは想像以上のプレッシャーだったろう。
 そのプレッシャーに耐え切れず、審査結果を拒絶したのか?

 やがてステージに司会者の声が轟き、観客総立ちに沸き立った。
 既にこの世にはいない彼女が、美人コンテストの王座が勝ち取ったのだ。

 そんな華やかさとは裏腹の暗い控え室で一人、マネージャーは彼女の「秘密」を隠す。
 「角を曲がると胸から見えてくる」とさえ言われる、ロシア女性への劣等感の証明。
 細い棒で巧みに補強された、彼女のブラジャーを…

 幾千の観客の、今や無意味となった祝福の声が、部屋まではっきりと聞こえてきた。
 「ブラボー!」「ブラボー!」

※ …なんて冗談を、中学生の頃笑って話してたなあ。
次のお題は:「お札」「濾紙」「バスタオル」でお願いします。
486名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 05:48:23
「お札」「濾紙」「バスタオル」

午前中郵便局に行くついでに何か用事があるかと尋ねたら、夫がこう言った。
「苦い汁用の濾紙切れそうだから買ってきてくれよ」
私は玄関に佇んだまま約30秒も無駄にしてから、忌々しげに言い放ってやった。
「コーヒーフィルターって言いなさいよ!」
「あ、英語使ったな。しかも堂々と使いやがったな。はは。100円追加ね。5万円越しましたとさ。はは」
嬉々としながら夫は最近肌身離さず持ち歩いている小さなメモ帳になにやら書き込み始める。
今月我が家は『外国語禁止月間」なのだそうだ。馬鹿馬鹿しい……
昼間も7歳の娘相手に「父さんと神経衰弱やろうか。例のお札(ふだ)たちを持っておいでよ」
7歳の娘は口をあんぐりあけたまま2分ぐらい考えに考え抜いてから自信無さげに、
「トランプ……??」
「あ〜、ミナちゃん残念。うっかり横文字使っちゃったね。50円追加ね」って、娘陥れるようなそんな……!
夜になったら今度は、脱衣場からそれこそ近所中に聞こえるような声張り上げて、
「母さ〜ん、大きな手ぬぐいが無いみたいだよ〜、大きな手ぬぐいが〜」
バスタオルって言いなさいよ! という言葉をぐっと飲み込み、私は決意した。
向こうが頭を下げて謝らない限り、無期限で『夫無視キャンペーン』をはるつもりだ。勿論娘との連合軍だ。


「猫」「チョコレート」「眼鏡」
487名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 13:45:45
「猫」「チョコレート」「眼鏡」

「この猫をいったいどうするつもり?」
 彼女はテーブルのうえに載っている猫を腕を組んで眼鏡越しに見下ろして、ため息をついてこうつぶやく。
 ぼくは煙草を吹かしながら猫にチョコレートをやる。ほかにやるものがないのだ。
 猫は身をよじって口元まで来たチョコレートを拒否する。あたりまえだ。
「幼稚園児じゃないんだから、猫を拾ってくることないじゃないの」
「まあね。あした保健所に連絡するよ」
 彼女は頬杖をつきながらテレビを眺める。テレビではわざとらしく盛り上がっているクイズ番組が映っている。
「私だって猫が嫌いなわけじゃないんだよ。むしろ大好きなんだけれどね」
「わかってるよ。ルールだから仕方ないんだ」
 ぼくの街のルールでは猫を飼うとネズミ捕りの商売をしなくてはいけないのだ。それくらいネズミがはびこっている。
 彼女は図書館司書で、ぼくはCDショップの店員だ。わざわざそんな苦労を背負い込むわけにはいかないのだ。

「20世紀」「神業」「左利き」
488名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 18:19:46
20世紀を代表する前衛芸術家の私は、もちろん左利きだ。
左利きは、芸術家になるための前提条件なのだ。
思い起こせば、厳しい毎日だった。
もともと右利きの私が左利きになるのは、並大抵の努力ではなかった。
矯正ギブスをはめながら、ひっくりかえったちゃぶだいを何回も元にもどす。
それはそれは苦しい鍛錬であり、至難の連続だった。
しかし私は23年後、ついに左手の小指だけで、
ちゃぶだいを持ち上げるという神業をやってのけたのだ。
人は言う、私を神だと。
しかし、初めて昼の生番組に出た私は、優しくカメラ目線で答えてみせる。
「情操教育にはちゃぶだいが一番」
翌日、ちゃぶだいが大量に売れたのは、いうまでもないが、いっておく。
489名無し物書き@推敲中?:2005/07/17(日) 23:47:47
>>488
お前…

20世紀の最後の方、おれはとても困っていた。
世の中なんざほとんど右利き社会、ハサミも改札も人間もおれには冷たい。
左利きは天才だって? バカ野郎、それならもっとおれを労われよ!
そんな事を、いつも左端の机で飯を食いながら思う。
おれのクラスには左利きという人種はおれと山本の2人しかいない。
ある日おれは山本に話を持ちかけた。
「おい、このクラスを初めとして、世の中をおれ達が有利なように変えていこう」

その後、世界は難なく21世紀に突入し、それほど変わりもしなかった。
しかしおれと山本はニンマリだ。なぜかというと、サブリミナル効果。
おれ達はしつこい程に「左利き」という単語をみんなの脳にインプットさせ、
更に市政便りにそのことを書いた手紙を出した。
手紙は運良く掲載され、多くの人々の注目を集め、地方のテレビ局が訪れるようにもなった。
最初は、ただの心理的作用で影響されるものかと半信半疑だった。
しかし今、おれのクラスの休み時間はみんな手の鉛を洗い流すことに必死だ。
…ニンマリ。

「ペットボトル」「靴」「明日」
490名無し物書き@推敲中?:2005/07/18(月) 06:55:33

「ステキな靴はいて、クラブにでかけた〜い」と独り言ブツブツ、悩む女。
「お任せください」と突然現れる魔女。「ポリポリ、エチレン!テレフタル〜〜〜♪」
呪文を唱えると、ポンという音とともに、靴が出現した。
一見、ガラスの靴に見えるそれは、軽量で透き通る素材でできていた
「ていうか、これペットボトルだよね」と女。
「というよりPET靴。リサイクルOKです」と魔女。
「いってきまーす」とりあえず、その靴はいて、クラブに出かける女。
「いってらっしゃーい」と留守番する魔女。

クラブで、はしゃぐ女。PET靴がガチャガチャうるさい。
しかし、逆にその音が、天才肌のDJに気に入られる。
「あなたこそ、長年求めていたミューズそのものだ」とDJ。
「そんな・・・」などと言いながらも、心の中でガッツポーズの女。

そのとき、携帯にTEL。魔女が魔法界に帰るとのこと。早く家に帰らなきゃ。

裏口から出て行く女。追いかけるDJ。途中、ごみ置き場の緑のネットに
足を取られて転びそうになる女。そのとき履いてた靴が脱げ落ちる。

走って立ち去る女の後姿を見ながら呆然と立ち尽くすDJ。

実は、彼の足元のごみ置き場には、愛しの女の靴が片方落ちていたのだが
明日はちょうどペットボトルの回収日。靴はゴミに紛れてしまって、
リサイクル処理される運命にあった。
491名無し物書き@推敲中?:2005/07/18(月) 07:07:43
上のお題は「ペットボトル」、「靴」、「明日」でした。
次のお題は「メガネ」「ロケット」「寺」で。

ではお次のレスをお楽しみください。

492名無し物書き@推敲中?:2005/07/18(月) 14:51:43
「メガネ」「ロケット」「寺」

 中南米にいるはずのメガネフクロウが日本にもいるという情報を聴き、ぼくらは白神山地まで赴いた。
 そのメガネフクロウは神様としてあがめられていて、姿を誰も見たことがないということだ。
 夜間の森林の奥地は闇にまみれていて、静けさがぼくの行動を威嚇する。夜の寒さが身に染みる。
 だいたいなんで大学の卒業研究のためだけにこんな思いをしなくてはいけないのか。
 張り切る教授の背中を見ながらときどきぼくはため息をつく。天才とばかは紙一重。
 鬱蒼と茂る森のあいだに、ちいさな古びた寺が見えた。
 お堂をのぞくとぼくらを静かに見つめるメガネフクロウが梁に止まっていた。
「いた」
 興奮混じりの教授ははやる気持ちを抑えながら慎重にお堂へと入っていった。
 すると地割れのような重低音が当たりに響き、お堂がすこしずつ宙に浮いたかと思うと、勢いよく空へと一直線に飛んでいった。
 点になったロケットを見上げながらぼくは呆然とするしかなかった。
 やはり人には触れてはいけないものがあるのだ。

次は「ところてん」「キャンプ」「蟻」
493名無し物書き@推敲中?:2005/07/18(月) 18:40:44
「ところてん」「キャンプ」「蟻」

―――殺人アリに注意
猛毒をもつ南米原産のアカマダラ蟻が研究機関から逃げ出したことがわかり、
役場の広報車がスピーカーから大音量で注意を呼びかけながら走りまわっていた。

「おいおい、かんべんしてくれよ。アリにかまれて死んだなんていったらカッコ悪いじゃねーか」
そう言うわりには嬉々とした様子で、徹夫はテントを組み立てている。
「ねえ、やっぱり帰らない?」聡子は不安げな表情で言った。
「せっかく休みが取れたんだ。アリの一匹や二匹で予定変えられえたまるかってんだ」

徹夫はこのキャンプ中に聡子を殺すつもりだった。
事故死に見せかけるには絶好の川と岩場も見つけてあった。
殺人アリは予定外だったが、なに、アリが聡子を殺してくれれば願ってもない。わざわざ自分が手を汚さずに済むのだ。
あとで聡子の寝袋にクッキーの粉でもバラまいておこう。
あわよくば朝になったら冷たくなってるなんてことがあるかもしれない。

「あなた、ところてん食べる?」
聡子はコンビニで買った、夫の大好物のところてんのパックを開けて言った。
「ああ」
徹夫は、ズズズ……と下品な音をたててところてんを啜っている。
まったく、こんなバカな男とは付き合いきらないわ。
黒蜜にこっそり溶かしたハルシオンの効き目が現れたら夫にはしばらくテントの外で
居眠りでもしてもらうわ。あわよくばアリに刺されて死んでしまえ。

お題継続で
494名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 01:00:29
「ところてん」「キャンプ」「蟻」


―もういい加減疲れたわ。
 妙子は惣菜売り場でところてんのパックを手に取りながらそう思った。
汚い夫も煩い子供も狭いアパートも何もかも嫌。
 でも帰ればまたそれらの『生活』が待っている。
 おまけに子供は来週キャンプで、準備もすべて自分がしなければならない。
 うんざりした。
更にうんざりするのは、自分が疲れているのを彼らが察しようともしないことだった。
 妙子が妻であること、母親であることを、当然だと思っている。
 その無神経さが一番自分を傷つけるのだと、何故分からないのだろう。
 妙子はところてんのパックを買い物籠に入れると溜息を付いた。
(あら?)
 妙子は積み上げられたところてんのパックの上に蟻が一匹いることに気が付いた。
隣の野菜売り場からでも入ってきたのだろうか。やがて凍えて死んでしまうだろうに、
せかせかと手足を動かしている。
 その姿を見ているうちに、妙子は苛立った気持ちを抑えることができなくなった。
(…つぶしてやろうかしら)
 

次は「制汗スプレー」、「象」、「ビタミンC」で
495名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 01:47:26
「ところてん」「キャンプ」「蟻」

留守番を頼めばよかった。
キャンプに義父など誘わなければよかった。
目的地に着いて車から降り、深呼吸したなり「自然!」と口にして大の字になった義父に異様なテンションを感じた。
その時はお誘いしてよかったと思ったのだけれども……
小1の娘が膝小僧に二匹の蟻を見つけて悲鳴を上げた途端、
「蟻にたかられたぐらいでぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃない!」と、義父は多分初めて孫娘を叱り付けた。
家から持ってきたところてんにわざわざひとりだけ酢醤油をかけて差し上げたのに、
「こんな軟弱なものを大自然に持ち込みやがって!」と、罪人でも見るような目で私を睨むのだ。
それから、ひたすら日本の将来を憂い、若い世代の軟弱さを嘆き、ちっちっと舌打ちをする。
「そもそもキャンプってのは蛇捕まえて皮を剥いで肉を焚き火で焼いて食らうぐらいの意気込みで臨むものだろうが!」
「それ、キャンプじゃないし……」
と小4の長男がぽつりと呟くと、義父は私たち四人を一列に正座させ、戦時中の南方の話を延々と語り始めた。
これだってもはやキャンプじゃない。こんなのキャンプであるはずがない。
何に腹が立つかって、この義父、戦後生まれなのだ。第一次ベビーブーマーなのだ。
……行ってないでしょうが! あんたガダルカナルなんか行ってないでしょうが!


*遅かったけど書いちゃったから……。次のお題は上の方ので。
496名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 02:17:13
 象が、あちーな、というふうにいかにもだらだらとしている。
 動物園。
 一人娘と妻と私で来たものの、元気なのは娘だけである。
 娘は「ぞうさん〜」と、近づいた象が「そろそろサービスしとくか」という感じに突き出した鼻に触ろうと、フェンスから懸命に手を伸ばしていた。
 ほほえましい光景だなと思いながら、私もかわいい娘を影ながらだれながら直射日光の中、そばについて見守っている。
 しかし妻ときたら、最近肉のついてきた二の腕を見せたくないのか長袖のシャツを着てきたために、制汗スプレーをかけて日陰のベンチに座ってあちーあちーとうなっている有様であった。
 
「あちーな」
「まったくだわ……」
 妻は私の差し出したビタミンCがレモン何十個分入っているという冷えたペットボトルのドリンクを受け取った。
 はぁ〜、と言いながら額にそれをのっけて涼む。気持ちよさそう。
 スプレーのお陰か、汗でシャツがぬれてブラが透ける等といった惨事にはいたっていないものの、本当に暑そうだ。しかしTシャツになるつもりはないらしい。
「なんであんなに元気なのかしらー…」
 ふと口をついてでたらしい、疑問の声。
 私は向こうで猿の檻に向かって手を振っている娘を見て言う。
「若いからだろ」
 妻は暑さのせいか、なにかを痛感したのか、反論できないようだった。

わけわからんな。

「庭」「荒れた土地」「世代」
497名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 02:46:42
「世代の交代ってやつか……」

時雄はぽつりと呟いた。
自分たち夫婦が引っ越してくるまでは、ここはただの荒れた土地だった。
枯れかけた松が一本あるだけだった。
それを園芸好きの妻がたった1年で見事なまでの果樹園にしてしまったのである。
今は夏みかんの季節だ。庭の中央に植えられた若木は、今年で2年目ながら
たわわに実を付けている。

定年退職の身とあっては、家で出来る仕事は簡単な家事と庭弄りくらいしかない。
しかもそれも妻にあまりいい顔をされていない。
家事は慣れていないこともあってどうしても手間がかかってしまうし、庭弄りの方は
自分が丹精込めて育て上げた木々を駄目にされやしないかとはらはらしているようだ。

(俺だって、会社ではそれなりの成果を上げてきたんだぜ?)

―― そう、そのはずだ。

時雄は夏みかんを見詰めた。
『これからはパソコンの時代だよ』
60に手が届く1年ほど前、ついに時雄の会社でもパソコンが全面的に導入された。
自分達が一週間かけて仕上げていた仕事を、新入社員が1週間でこなしてしまうのを
時雄は複雑な思いで眺めていた。用済み、と言う言葉が脳裏に浮かんだ。


うーん、どうもなんか暗くなるな…(汗)

次は「コップ」、「軟膏」、「クラシック」で。
498名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 02:48:37
すいません。497です。↑のお題は「庭」「荒れた土地」「世代」
でした。

次のお題は「コップ」、「軟膏」、「クラシック」で。
499名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 10:14:16
度々すいません497です。
「親友社員が1週間で」は「新入社員が一日で」です。
度々すいませんでした。今度こそ去ります。
500名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 12:44:37
「痛いっ!」
畳に転がるコップを足の小指で蹴ってしまった。
考える人のポーズでしばしうずくまる私。
ああ、もう嫌になっちゃう。
転がりながら薬箱に手を伸ばし軟膏を取り出す。
「なんで生理前に限って痔になるんだろう?」
今度は肛門が露呈するようにうつ伏せになって膝を腹の下に折り畳んだ。
便所から直行してきたので下着を脱ぐ必要はない。
切れた所を確かめながら軟膏を塗りたくる。
「あなた、昼間から大音量でクラシック聴くのやめて!」
蝉の声と入り交じって聴くだったん人の踊りは不快指数を上げるのにはもってこいだ。



「こたつ」「雀」「バイキング」
 うだるような暑さであった。
 こたつに鍋焼きうどんバイキング! 
雀の鳴き声さえも涼しげな昼下がりのことである。
 熱射病になりました。
502名無し物書き@推敲中?:2005/07/19(火) 14:33:40
 雀が鳴いている。目覚まし時計が行方不明となった今、彼らの囁きだけが私に目覚めを与えてくれる。
 寝床にしているこたつの中に何か色々入っているが、一々確認する気にはならないのでなんとなく放置
してある。足で触れてみると、ぶにょぶにょしてたり堅いのがあったり。目覚まし時計も、この中にあるかも
な。私はなんとなく気が向いたのでこたつをサルベージしてみることにした。
 私の本業は警察官である。行方不明の父を捜す為。そうでもなければ、誰が好き好んで面倒臭そうな警
察になど就職するものか。私は公僕になどなれはしないし、なるつもりも毛頭ない。それよりも、私にはこう
して宝物を探すことの方が向いているし、第一気分がいい。さっきから車の鍵やウクレレ、それと健康保険
証などなくしたものが沢山出てきている。しかし、いつなくなったかなど覚えてもいないし、新鮮な気分だ。
 さながら、お宝バイキング。今欲しいとなんとなく思ったものはこたつの外にポイと出し、そうでないものは
放置する。そうすれば、またいい具合に忘れた頃に再びサルベージを楽しむことが出来る。まあ、どうせ今
外に出したものもいずれこたつの中に潜り込んでいるのだろうが。
 そんな調子で取捨選択をしていると、件のぶにょぶにょしていた物に当たった。この中では暗くて分から
ない。気になったので、外に放り出す。それは、長年行方不明になっていた父であった。

 その後――私は即警官を辞め、父と二人末永く幸せに暮らした。

「サンデー」「内臓」「死体」
503名無し物書き@推敲中?:2005/07/20(水) 01:29:28
「サンデー」「内臓」「死体」

お父ちゃんが趣味で映画監督をするので、私たち兄弟は、みんなで撮影に参加します。
お父ちゃんはホラー映画が大好きで、内臓がぐしゅっとか、どびゃっみたいな怖い映画ばかり作ります。
一番上のお兄ちゃんがいつも殺人鬼役で、二番目のお姉ちゃんが最後まで生き残る主役です。
その次の双子のお姉ちゃんたちは、水泳が得意なので、主に川の中で殺される役をします。
その次のお兄ちゃんと、その次のお姉ちゃんと、そのまた次のお兄ちゃんは、まあいろんな形で殺されますが、
五番目のお兄ちゃんは、今サッカー部で忙しいので、いち早く、取っ掛かり的に殺されることが多いようです。
私は末っ子だからでしょうか、殺される場面は省かれていて、いつも静かな死体役をやります(物足りない!)。
私のお母さんは女優を引退しましたが、一番上のお兄ちゃんのお母さんがたまにやってきて映画に参加します。
この一番上のお兄ちゃんのお母さんは、悲鳴がとっても上手いんだ!
このように私たちは、映画作りが大好きな、とても仲の良い家族です。
『ホラー映画』とだけ聞いて、お父ちゃんのことを気味悪がる人もいますが、
休みの日には、厚焼き玉子を甘くふんわりと焼いてくれる優しいお父ちゃんです。
私たちが、よく使う河川敷で撮影していると、お父ちゃんのお友達の近所のおじちゃんたちが、
「よっ、T町のサンデーサイレンス!」とか言って、ヒューヒュー口笛吹いたりします。
私はその言葉の意味がわからないのだけれど、多分、つまり、要するに『この街の誇り』って意味だと思っているんです。


「部屋干し」「座布団」「窓」
504名無し物書き@推敲中?:2005/07/20(水) 03:10:16
音楽を聴きながら座椅子の座布団に座って本を読んでいて、気付くと、夕立がびしゃびしゃと窓を叩いていた。
ヘッドホンをしていたから気付かなかった。
直ぐに立ち上がって洗濯物をしまう。最近季節がら、天気が異様に変わりやすい。
何度部屋干しにしようかと思ったことか。でも、晴れた空を見るとどうしても外に干したくなるのである。

洗濯物を急ぎ取り込む。
ほとんど取り込んだというときに、なぜかぴたりと夕立が止んだ。
ため息ひとつ、心の中で言う。
ああ、ムカつく季節だ。
しかし肌に雨上がりのひやりとした湿った空気を感じると、どうしてか、なかなかいいものだ、と思ってしまうのである。
そして経験を忘れて明日も洗濯物を外に干すのである。

感想くれ
「バックアップ」「笹の葉」「ネジ」
505 ◆z03.cue.22 :2005/07/20(水) 03:33:50
「バックアップ」「笹の葉」「ネジ」


  なじみのジャンク屋がめずらしくチラシを新聞に入れたので、
しばらく顔を見せていなかったこともあって会社帰りに寄ることにした。
いつも買うとは限らないのだけれど何か買うのならこの店と決めていたし、
店主もそれを知っているからマケてくれたりオマケをつけたりしてくれる。
しかしこの店主、人造人間を本気でつくりたいがクチグセだったりと、多少、
ネジのはずれたところもあるが、それは愛嬌というものだ。

  その日は七夕で、店頭に飾られた笹の葉にはいくつもの短冊が吊るしてあった。
「景気よくなってきたんですか」と言うと、店主はそれには答えずに、「ついに完成した」と
目を輝かせた。それから店の奥へと歩いていき、僕が呆気にとられていると、こっちへ来い
というふうに手を振ったので、たしかそこは倉庫になっているはずだけど、と思いながら、
僕は店主のすぐ後ろへと歩いていった。するとそこには、着物を着た一対のマネキンが立っていた。
「紹介しよう。ひこ星くんと織姫さんだ」と、店主は誇らしげに言った。
「もしかして、人造人間?」
「その通り。で、相談なんだが……」

  というわけで、僕はいまひこ星くんと織姫さんと同居している。モニターの謝礼として
最新型パソコンと、もう一つ、信じられないオプションを提示された。なんと、もし僕が死んでも、
死後1時間以内なら僕の脳をバックアップして、ひこ星くんにインストールするというのだ。
「つまり、不死というわけだな」 店主はニヤリと笑った。やれやれ、死後もモニターされるわけか。
  僕は「しばらく考えさせてくださいと店主に言って(結局引き受けたのだけど)、店頭の短冊に
「店主より長生きできますように」と書いて笹の葉に吊るし、店をあとにした。夜空に天の川が見える。
星も命も、寿命があるからこそ輝くのだ。


お題は「夜更かし」「片想い」「さようなら」でお願いします。
506名無し物書き@推敲中?:2005/07/20(水) 07:09:54
うわっ、505のお題、切ねぇ〜、か、書きてぇ〜。けど時間ねぇ〜
>>504メル欄
507名無し物書き@推敲中?:2005/07/20(水) 13:27:29
「夜更かし」「片想い」「さようなら」

わたしはあの人に片思いをしている。
俗に言う「ひと夏の恋」というものなのだけど。
ある時は大きく手を広げてわたしを慰めてくれた。
また、わたしの前で少し赤くなりながらはじけてくれることもある。
そんな時は、本当にこの人を好きでよかったな、とふんわり思う。

けれど結局は片思い。
あの人は人気があるから、わたしなんか適わない。
この国であの人が恋しい人間が何人いることだろう。
きっと、何人どころじゃなくいる。
みんながみんな片思い。
あの人はみんなを癒してくれるけど振り向いてはくれない。

夏の終わりに、夜更かしして空を眺めた。
空に浮かぶ優しい色の大きな花火。
わたしは「さようなら」とつぶやいて、気持ちをぬるい空気に放り出した。

「のど飴」「入り口」「闇」
508名無し物書き@推敲中?:2005/07/21(木) 00:03:23
「のど飴」「入り口」「闇」

「彼には気の毒なことをしましたな」
料亭の一室で、代議士の桜井は脂ぎった顔をニンマリと弛めて言った。
「息子が一人いたと記憶しておりますが、いかがいたしたものでしょう」
「放っておけ」
桜井の酌を受けていた男がドスの効いた声で言った。
男は床を背にどっしりと胡座をかいている。全身から強烈な存在感を放っていた。
「ものごとは入口と出口をキッチリ押さえておけばいかようにもなる。憶えておけ」
「ははっ」桜井は畳に額をこすりつけた。
「それにしても桜井。のど雨に硫酸を仕込むとは、おぬしもエグイな」
「奴の苦しみようといったら……
あ、本会議の前にのど飴を手渡した秘書は即刻始末いたしましたので、あとは闇から闇でございます」
料亭の夜は静かにふけていった。

「誕生日」「スポーツジム」「リモコン」

509508:2005/07/21(木) 00:07:51
肝心なところで誤字……
510名無し物書き@推敲中?:2005/07/21(木) 02:14:02
「誕生日」「スポーツジム」「リモコン」

夕食を軽く済ませた後で母に電話した。今日は母親の62回目の誕生日なのだ。
携帯に出た母がぜえぜえ息を切らしているので慌てて事情を尋ねると、
「今ね、ジムでね、自転車をね、こいでんのよ」と、ペースを落とす気配もない。
「スポーツジムなんか通ってるの!?」と訊いたら、「うん。暇もあるしさ、お金もあるからね」と荒い息の合間に笑う。
ひとり母を置いて家を出ることがとても心配だったのだけれど、まったくの杞憂だったことが程なくわかった。
会う度に母は若返っていて、気楽な独り暮らしを謳歌しているように見える。
今日帰れなかったことを謝ってから、週末に戻れるかもしれないと伝えると、
「忙しいならさ、来なくってもいいわよ。ダンス教室のね、お友達にね、お昼にね、お誕生会、してもらったからさ」
声の調子からとてもいい午後を過ごしたことが伺え知れ、私は安堵とともに言い様のない寂しさも覚えた。
私の小さな落胆を覚ったのか、ようやく自転車を中断させたらしい母が、息を整えてから言った。
「スター・ウォーズもう見た? 新しいやつ」
スター・ウォーズに興味が無くて、映画を観に行く暇もない娘に、母はシリーズのDVDを送ってくれるらしい。
DVD……。同居している時には、ビデオのリモコン予約すらできなかった人なのに……
私はいまだにビデオデッキしか持っていないことをついに言い出せなった。多分悔しくて口にできなかったのだと思う。
「お誕生日おめでとう」と最後に言ったら、「めでたくなんかないわよ」と母は携帯の向こうで陽気に笑った。


「二階」「いたずら」「梯子」
511名無し物書き@推敲中?:2005/07/22(金) 23:50:11
「二階」「いたずら」「梯子」

「おじゃまします」
玄関でさわやかに一声発して拓海はスニーカーをぬぐ。
由美子は彼のそんなところが好きだった。

ボーイフレンドができたらウチにつれてきなさい―― 由美子の父親はずっと前からそう言っていた。
こうして彼氏ができて、ほとんど毎日由美子の部屋でひとときを過ごすようになったけれど、
父子家庭の由美子の家では父と娘の生活時間の違いから、『父と彼氏の対面』は実現していない。

二階にある由美子の部屋まで手をつないで上がる。
わき腹をつついてクスクス笑ったりふざけあったりしながらも、ふたりは声を押しころす。
奥の部屋にはいたずら盛りの小学校三年生の弟がいるのだ。
どこまで知識があるのかは疑問だが、うっかり廊下などで遭遇すると、「あ〜、またエロイことするんだろ」
などど小憎たらしいことを言われてしまう。

部屋に入るとすぐにドアの鍵をかける。弟にとつぜんドアを開けられたらシャレにならないから。
ベッドに腰掛けて、CDを聴いたりキスしたりアイスを食べたりする。
拓海のいいところはがつがつしないところだ。部屋に入ったとたん押し倒されたのは修学旅行で一週間会えなかったときだけだ。

ふと、窓の外に気配を感じてカーテンをあけると、梯子に昇ってのぞきをはたらこうと企む弟とその友達の顔があった。
「こら、エロガキ!」由美子がさけぶと、「うわー」と喚きながら下の植え込みにむけて落ちていった。

「麻雀」「エンゲル係数」「朝ごはん」

とある社会主義国家。
全人民の崇敬の対象たる将軍様が朝ごはんを食べております。
その隣で、様々な経済指標を将軍様に報告してるのは
ご機嫌取りの上手そうなおじさんです。おじさんもきっとえらい人なんでしょうね。

将軍様は、よく思いつきで色々話すのですが、今日も何かお気付きになったようです。
「全人民の平均的なエンゲル係数が高すぎるぞ。コレでは、私の国が、なんだか、
 貧しい国のように見える。なんとかせよ」口元のソースをぬぐいながら、将軍様は命令しました。

数ヶ月後、おじさんが宮殿にやって来ました。結果報告です。
「確かに係数が下がっている!すばらしい手腕だ。偉大なる国家主席もお喜びになるだろう」
報告を聞いた将軍様は大喜びです。自分の賢い指摘が効を奏したのですから。
将軍様は御褒美として、おじさんに『最高人民会議常任委員会委員長』という役職をお与えになったんだって。

ところで今、将軍様の国では、麻雀が大ブーム。
ちょうど数ヶ月前、突然ギャンブルとして麻雀が解禁になったんです。
人民はビックリしましたが、なにしろ、娯楽の少ないお国柄。みんな、熱狂的にはまっちゃいました。
食費も削って、麻雀に打ち込む人が後を絶たないとの噂。ホントこまっちゃいますよね。

みんなは麻雀ばっかりしないで、朝昼夜と、ごはんもきっちり食べようね。



「海」「結婚式」「バーテンダー」

513名無し物書き@推敲中?:2005/07/23(土) 22:02:18
「海」「結婚式」「バーテンダー」

ダイビングの大好きな彼女の夢は、海の中で結婚式を挙げることだそうだ。
ブルーラグーンで魚たちにかこまれて、新郎新婦に招待客、神父さん、皆ボンベを背負って一緒に潜るつもりらしい。
「ダイビングのできない人はどうするのさ、キミのご両親とか」
しごくあたりまえの質問をしたつもりだが、彼女は愛犬のフレンチブルを不細工呼ばわりされたときのような、
怒りと軽蔑の入り混じった目で僕をにらんだ。
「いいの!インストラクターの健ちゃんに手伝ってもらうんだから」
どう考えても現実味のない話だと僕は思った。
ダイビング・インストラクターの健ちゃんがどれだけ優秀でも、彼女の母親を海に潜れるようにするのはムリだ。
バーテンダーにシングルモルトのスコッチを大麦の栽培から始めて作れというようなものだ。
彼女のお母さんは体重百五十キロくらいあって、郵便受けまで新聞をとりにいくのを『運動』とよぶくらい、普段は動かない人だ。
「お母さんが潜れるようになるまで、私結婚しない」
僕の思いをよそに、彼女はキッパリと言い切った。
まあいいんだけどね。
こんなにモノのわからない女だとはしらなかったよ。考え直すいい機会だ。

「ドライブスルー」「熱射病」「ソース焼きそば」
窓を全開にしてもたいして涼しくならない、エアコンの壊れた車内。
高速道路を走るこの空間に、口を堅く結んで運転する男と不愉快そうに眉根を寄せた女がいた。
「…次のドライブスルー、まだかな?」 「…多分もうちょっと」
男の質問に女が少しトゲの孕んだ声で答える。いかにもデートに失敗したカップルの風情だ。
「ああーもう!こんなんじゃ日射病にかかっちゃうわよ」
これまで黙っていた二人だが、今の質問が空気を変えたらしい。女の方が状況を愚痴り始めた。
「熱射病の間違いじゃないのか?」 「…うるっさいわねぇ。どうだっていいのよそんな間違いは」
険悪な場を紛らわす様に切り返した…つもりの男の言葉は、完全に失敗に終わった。
「大体車がボロいんじゃないの?買い替えなよもう」 「いや、っていうか…」
女の愚痴に少しカチンと来た男が思わず反論を仕掛ける。
「海で遊んでる間中、エアコンかけっぱなしにしてたのお前だろ。それで壊れたっつうのに。大体帰りがけ、ちょっと海の家行ってくるーって言って何で30分もかかってるんだよ」
「アレはトイレが混んでたからしょうがないじゃないのよ。そもそもあなたがソース焼きそば食べたいって言うから…っていうか関係ないでしょうが」
「関係ないってお前がエアコンつけっぱにしてたから壊れ…」「あ」「あ」
思わず身を乗り出して相手を睨んでいた二人は、ドライブスルーの入り口を通り越した事に同時に気が付いた。
ドライブスルーから遠ざかってゆく車内から、さっきより強い怒気を孕んだ声が聞こえる。
  
  
「キーボード」「ミネラルウォーター」「サッカー」
515名無し物書き@推敲中?:2005/07/25(月) 16:55:39
「キーボード」「ミネラルウォーター」「サッカー」

さて三語! とパソコンに相対したものの、キーボードに触れぬまま小1時間経過した。1時間半経過。2時間経過。
……でも大丈夫。時間はあるから!
以前、1年前だか2年前だか、このスレの存在を知った時には、とにかく流れが早くて入り込める隙も無かった。
憧れてはいたものの、到底参加できないものと諦めて去ったのであるが、久々に来てみたら様子が違っているじゃないか。
私はこのスレがどうやら下火らしい事実に狂喜乱舞した。
今なら、今ならば、ここで羽ばたけるかもしれないじゃぁないか……!!
私は三語研究の時間にあてるため、長年所属した草サッカーチームをあっさりと抜けた。三語のために仲間を捨てた。
本来こんなことまで書くべきではないのだが、私はかなりの野心を持ってこのスレに臨んでいるのである。
日本のどこかでやや孤独に苛まれつつある可愛らしい眼鏡っ娘が、私のネタを読んで微笑んでしまいますように……
嫌なことばかりだった最低な日に、不意に私の三語ネタを思い出し、眼鏡っ娘がふっと笑顔を取り戻しますように……
そうこうしているうちに眼鏡っ娘という眼鏡っ娘がもれなくくまなく私に惚れてしまっていますように……
全国のやや孤独な愛らしい眼鏡っ娘たちに私がすっかり愛されきってしまうまで……
どうかどうか、10〜20分で作文を完成させる本物の早業師がどっと押し寄せて来ませんように……!!
私は指パッチンで気合を入れてからミネラルウォーターを一気飲みした……と思ったらゆずポンなんだもんよこれゲェゲェ。
……こういった詰めの甘さまでもが、多くの眼鏡っ娘たちのハートを鷲掴みしてキュンとかさせちまいますように……


「手紙」「占い」「青」
516名無し物書き@推敲中?:2005/07/30(土) 08:21:41
「手紙」「占い」「青」

 「新年おめでとう!」除夜の鐘が、ここ辺境の惑星にも響いていた。
 3回目の慣れない振袖がもどかしいのか、彼女は遠慮勝ちだった。

 「私は結構ですから、そんな…」
 自分が慰安用ロボットである事を、気にしているのだ。
 「どうせ4年の生命なのに…もったいないです」
 無理におみくじをひかせた、「小凶」であった。

 顔は恐ろしいほど青ざめ、「ガターン」と石段に倒れる彼女。
 仰向きのまま、手足をバタバタして起き上がれない。
 「おみくじだよ。単なる占いなんだ」といっても判らない。
 虹色のCビームが夜空を彩っているというのに、恐怖は最後まで消えなかった。

 一人、粗末な「格納庫」に帰り、振袖を脱いで手紙を書く。
 「大変です、助けて。私の余命はもう「凶」です」
 ロボット耐用年数があと一年の彼女にとって、最悪のおみくじであった。
 おみくじは、年一回とは限らないのに。何度もひけばいいのに。
 電子頭脳には、そんなことは思い浮かばなかった。

※夏に新年ネタ…暑いから;
次のお題は:「急用」「医者」「ゲート」でお願いします。  
517名無し物書き@推敲中?:2005/07/30(土) 09:16:20
その日、東京を大地震が襲った。
マグニチュードは7を軽々とこえ、たくさんの木造建築が倒壊した。
これはそんな木造建築の多いある下町の話である。

「すごい揺れだったらしいですよ、せんせぇ」
「そだね」
「まあわたしたちには関係ないですけどね」
「そだね」
「今日はどうしますか?」
「ん〜、かったりいからなぁ。休診にしようよ」
「往診の患者さんにはどう説明しましょか?」
「地震だからね、急用ってことにしといてよ。対策委員会に呼ばれてるって言っといて」
「わかりました」
「よろしく頼むよ」
「医者の風上にもおけませんね」
「惚れ直した?」

「ところで外のはどうしましょう?」
「外?」
「はい、怪我した人がゲートの前にたくさん」
「貧乏人だろ?」
「そうですね… 見た感じは」
「女は?」
「えっと綺麗な人はいなかったです」
「じゃあほっといて」
「わかりました」

☆「ギター」「美白クリーム」「新体操」
518名無し物書き@推敲中?:2005/08/02(火) 02:23:16
夜のキャバレーにはいつも人が溢れ、タバコと酒と、時々響く笑い声が
揺らぐ。その誰も振り向かないステージで、彼はギターを抱えていた。
その指先から流れる音は秀逸だったが、それを理解するものは
ここにはいない。アルハンブラの思い出もトランプの裏側にはじかれ、
ウィスキーに虚しく沈む。
演奏が終わればまばらな拍手。丁寧にお辞儀をして彼は袖へ消えた。
狭い控え室は店のダンサーと共有で、香水や粉が臭う空気に小さく咳をする。
鏡越しに笑う彼女達は熱心に眉を描き、美白クリームを下地に粉をはたいて
せわしく喋る。
部屋の一番隅に腰を下ろし、彼はギターをしまって壁にもたれた。

レディース・エーンド・ジェントルメン
今夜も華麗な花々のダンスショーをごらんにいれます。
トップダンサーの情熱的な誘惑には一層のご期待を。

スピーカーから流れる明るい声と歓声。
ディスコサウンドに引き寄せられるように、一人、また一人、
ダンサーがステージへ消えていく。
派手で、卑猥な衣装を纏う看板娘が、彼の首にそっと手を回し、
からかう様に顔を近づける。
「あなたのギターって素敵ね」
ティッシュを被らせた彼の口に、その上から真っ赤に濡れる唇が触れた。
元々は新体操をしていたのだという彼女の細い腰を抱き、
「君は何もかも素敵だ」
そう囁いてみる。クスッ、と笑った彼女は彼から離れ、当たり前よ、と
背中を向ける。
「私はトップダンサーなんだから」
そっと踏み出す足先から、彼女はステージライトに溶けていった。
目を瞑って、彼は夜の静けさを探す。夢など朝には覚めるのだから。


次:「鳥」「プラスチック」「熱」
519 ◆z03.cue.22 :2005/08/02(火) 03:01:06
「鳥」「プラスチック」「熱」


  縄跳びを忘れたと気づいたのは算数の授業が終わったあとの十分休みに入ったときで、
わたしはいつものアレをやることにした。机に両手をついて目を閉じ、しばらくそのままじっとする。
どうしたの?  だいじょうぶ?  すぐにそう声をかけられた。熱があるみたい。保健室に行くね。
と答えて、わざとらしくふらふらと歩いて教室をでた。

  保健室には女の先生がいるはずなのだけど、わたしが行ったときには誰もいなくて、
念のために二つあるベッドの掛け布団をめくったりしたけれど、やっぱり誰もいなくて、
わたしはしめたとばかりに窓側に近いほうのベッドに横になった。金属製の窓枠いっぱいに
青空が見える。ただ、植え込みの木の枝がのびていて、それがヒビのようで邪魔だった。
その邪魔な枝に一羽の鳥が舞い降りた。

  鳥はスズメよりも大きいけれどカラスよりも小さくて、灰色をしていた。よく見ると、
オレンジ色のくちばしに赤いプラスチックの棒のようなものをくわえている。なんとなく、
家に忘れた縄跳びに見えた。突然鳥が飛びだったので、つられて鳥の姿を目で追った。
大勢の鳥たちがその鳥を待っていたように旋回しながら飛んでいるのが見えた。校庭でもクラスメイトたちが
縄跳びをしているだろう。でも、わたしのことを待っているだろうか?  いや、そんなことはないと思う。
わたしは縄跳びやみんなや好きなんじゃなくて、誰かといっしょにいたいだけなのかもしれない。
でもそういうのってときどきすごく疲れる。いまみたいにひとりになりたくなる。いつものアレをやってしまう。
もう見えなったあの鳥へ、疲れたらまたおいで、と心のなかで声をかけて、わたしは眠った。


お題は「夢」「再会」「夜」でお願いします。
520夢 再開 夜:2005/08/03(水) 15:42:47
 気の狂った天使がこの街の夜を訪れるようになって一月が過ぎ、もうみんなが
発光しながら空を飛ぶ蝶と鳥と蝙蝠の翼をそれぞれ一対ずつもった美女の
夜毎の高笑いに慣れっこになった頃、おれは夢の中であのものに再会した。
 その夢のなかではまるでそれが創世のころから続いていたことだったかのように
よどみなくあの天使の高笑いが聞こえていて、それがなぜかいつものおそろしげな
感じと違ってやさしげだった。声はおれのまわりをぐるぐると旋回しているようだったが
あの天使の姿はどこにも見えず、かわりにあのものがいて、かつてとおなじように
どこを見ているのか(どこを見ていないのか)まったくわからない目つきをして
どこかから切り取ってきたすばしこい影たちとたわむれていた。
「おい」とおれがあのものに声をかけて、「神の子をどこへやった」ときくと、
あのものはどこかおれには見えないところでにんまりと笑ったようで、その笑いを
天使の声が代弁しているようだった。ところでこのときあのものを取り巻く影の
いちばん大きな一つが自分の事を大きな手から生えたもっと大きな指で指差して、
泣き声を口から吐き出した。その泣き声は夢の世界の隙間から這い出しどこかへ
逃げていった。そしてそこで目が覚めた。泣き声はおれのなかのどこかでまだ
うごめいていて、そのせいかどうかはわからないが涙があとからあとからこぼれた。
521夢 再開 夜:2005/08/03(水) 15:45:45
次のお題は
「反復」「寒さ」「超ハッピー」で。
522「反復」「寒さ」「超ハッピー」:2005/08/07(日) 00:38:19
俺は、白線を三本引いた炎天下の運動場で、上半身裸で反復横飛びをしていた。
茹だるような暑さを感じていた俺は、十往復目に差し掛かったとき、
急に背中にひんやりとした寒さを感じた。
振り返ると、甘ったるい香水を付けた亜紀が、冷えたジュースの缶を押し当てて立っていた。
「ハッピー?」
「超ハッピー! んなわけないだろ!」
俺は十一往復目に入った。
523名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 00:39:27
じゃ、継続な!
524反復 寒さ 超ハッピー:2005/08/07(日) 01:22:04
クーラーがガンガンに効いていて冬よりも寒いこの部屋で、あの蝿は何度も反復運動を続けている。
俺の腕を発着点にして、箪笥の上に着地、休憩の後HDDの上へ。
勢いをつけてガラス窓に突撃し、直前であきらめたように止まって、
結局は窓の下に寝転がっている俺の腕の上に戻ってくる。

なんとなく、もし俺がこの場所から動いたらこいつはどうするのかな、なんて考えてみる。
ひょっとしたら俺が寝ているこの床には蝿にしかみえない出入り口のようなものが有って、
意外とコイツは超ハッピー!とか言いながらものすごくあっさりこの場から抜け出すのかもしれない。

──そんなことを考えながら、さっきから20分ぐらいコイツの飛んでいる姿を見つめている。
これまでの経験から言って、あと20秒ぐらいでまた「勇気ある特攻」を敢行するんだろう。
コイツがこの部屋から出て行くか、あるいは力尽きて落ちるまで、この場所で見ているのも悪くない。
この夏に見る初めての死、が自分が殺した蝿の姿。
そんなものも、ひょっとしたら悪くはないのかもしれない。


次は
メガネ 風 小説のカバー
でお願いします
525名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 14:27:26
 呼吸を忘れそうに静かな図書室で、ワイシャツ姿の雨宮がこれまた静かにページをめくっている。
 どうやら小説らしいが、切れかけたカバーがかけられているからタイトルは不明。もどかしい。
赤いメガネを掛けた私は、それを視界に入れながら見繕った小説に目を落とす。タイトルは「瓶詰の地獄」。好きな男の前でこのチョイスかよ自分。
 まあいい。どうせあの銀縁メガネがこの空間に居る限り活字が眼に入る訳がないのだから、後でじっくり読めばいいのだ。
 私と彼以外の人間が居ないため、当然冷房は切ってあった。
全開にされた窓から鬼ヤンマが入ってきて私の周りを飛び始める。……髪が長くて黒いせいで、仲間だと思われているんだろうか。
 と、突風と共に私の視界が茶色いもので塞がれる。
「ぶわっ!?」女の子らしからぬ声を上げて顔に手をやると……紙?
「ごめん!大丈夫!?」
 見上げると目の前に雨宮の姿があって、今度こそ呼吸が止まる。
 謝りながら顔を触る彼の仕草や声より、私の眼はある一点に吸い寄せられた。雨宮が一心に読んでいた、本屋の安っちいカバーが破れた小説のタイトル。

 ナボコフの 「ロリータ」だった。


次は「古典」「赤色」「目薬」で。
526名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 18:47:38
「古典」「赤色」「目薬」

「お前、チョコレートが好きだったよな。これ、よかったら」
 来年の2006年は古典派の天才音楽家として名高い、モーツァルトの生誕二百五十周年記念祝典が行われるそうだ。
 会社の同僚の山田は、それに先駆けてか先日夫婦でオーストリア旅行に行ってきたばかりだった。
 パソコンに向かって仕事中だった俺は、「ありがとう」とだけ言うとみやげの箱をそそくさと鞄にしまった。
 実は先週、実家の両親がザルツブルグに旅行してきたばかりで、まさに昨日も同じ模様のチョコレートをもらったところだった。
 数時間後、俺は無事仕事も終え家に着いて居間でネクタイを外すと、かみさんが包み紙を出してきた。
「おとなりがヨーロッパへ出かけてらしたんですって。これ、あなた好きだったわよね」
 今や俺の目の前には総勢百人は越える、赤色の服を来て丸型にくりぬかれたモーツァルトの肖像画が、一様にこちらへ微笑みかけていた。
 俺は涙を誤魔化すために、気づかれないようにそっと目薬をさすと
「うん。モーツァルトのチョコ、俺大好き。覚えててくれてありがとう」
 とだけ言って、しばらくトイレに籠もりながら膨大な数のチョコレートを片付ける方法について思案していた。


「枝豆」「携帯電話」「リボン」
527枝豆 携帯電話 リボン:2005/08/07(日) 22:33:11
 むかしむかしのある日滋賀県の山中に天から一本のリボンがスルスルと降りてきて、
これを見つけたのは(というより、待ち構えていたのは)この山に住む鵜飼先生と呼ばれる
仙人だったが、この地方の伝説はリボンを見るなり衛星携帯電話を取り出した彼の奇妙な
言動を伝えている。
 この仙人のことを昔から嫌っているヌルという大狐がいて、かれの話に
よれば鵜飼先生はどこかへ電話をかけ、開口一番「いやっほう! ついにきたぞ、
天国のリボンだ、メイド・イン・ヘヴン計画もこれで大詰めだ」と叫び、「では、海老男くん、
すぐに例の『枝豆』を用意してくれたまえ。はっはあ!」と言って電話を切るやいなや、
得体の知れない踊りを踊り始めたという。その踊りを見た生物はこのときすべて
発狂してしまったが、ヌルもまたその犠牲者の一人で、だから彼の話の真偽は
ひどく怪しい。ここで気の狂ったヌルはまたあとでこの話に重要な役割を果たすのだが、
それはひとまず置いておこう。ともかく彼の話によればやがて鵜飼先生のもとに身の丈
三メートルを超える、針金のような体つきをしたひどく細長い男がやってきて、かれは
金色の光を放つなにかの種を、鵜飼先生が踊りながら地面に書いたふしぎな模様の
中心に埋めたという。そしてその日、2012年の4月3日からすべてのことが阿呆らしく
変わってしまったのは知っての通りだ。これが地球の第六紀の始まりの年の
始まりの月の始まりの日の始まりの話。

(ところで、520のタイトルは、『夢 再会 夜』の書き間違いでした)

次のお題は
「滅亡」「ジャージ売り場」「囲碁」で。
528滅亡 ジャージ売り場 囲碁:2005/08/08(月) 00:22:52
例えばある日、国会で「国民総ジャージ着用法」が可決され、その他の服という服が滅亡する。
当然「服屋」は「ジャージ屋」と呼ばれ、「葬式に相応しい服装」とは「黒ジャージ」の事で、
挙句にはプロの囲碁棋士は「西陣織のジャージ」を着て対局に臨む事になる。
むろん、デパートのジャージ売り場は常に黒山の人だかりで、
施行2ヵ月後には24時間あいている専門店まで出現する事になる。

なんだかんだで国民がジャージを概ね受け入れ始めた11月の初め、破綻は突然訪れる。
理由は簡単だ。冬が着たのにコートが着れない。ジャージは重ね着にはあまりに向かない。
仕方がないので移動に車を用いる人がふえ、目出度くわが国は環境後進国としての名声を馳せる事になった。

そんなおり、「国民総ジャージ着用法」を断行した首相が凶弾に倒れ、すったもんだの挙句法令自体が撤廃される。
服飾関係者が暗殺者を雇ったとか、左翼的な環境団体が暴走したとか、心優しい殺し屋さんが殺ってくれたとか。
妙な噂は枚挙に暇がない程だったが真相は闇の中で、さしあたり僕たちは普通の服装を取り戻した。


…とまあ、そんな例え話を明日の教育実習でしようとしたら担当教官に物凄くイイ笑顔でどつかれた。
歴史を見る限り、これと同じくらい阿呆は法令なんて幾らでもあると思うんだけど。


次は
スパイク トラック オン・ザ・ロック
で。
 むかし滋賀県にはヌルという大狐がいて、これはある事件のせいで発狂する前までは
よく人間に化けて人里に現れたものだったが、なにぶん人間世界の知識が貧弱なもので
行く先々で例えば「ラーメンのオン・ザ・ロック」などの薄気味の悪い代物を注文しては
木の葉を紙幣に見せかけて人に渡そうとしたりするのでたいそう人に煙たがられた。
 彼は雪道を裸足で歩かざるをえない狐の暮らしをずいぶん不愉快に思っていたので、ある日
シャム双生児に化けて靴屋に向かった。かれは人を油断させるには老人や障害者になるのが
よいと普段から心得ていたのだが、それにしてもこれは少々やりすぎだったとみえ、店に入るなり
招待を見破られ、かねてより目をつけていたアディダスのスパイク・シューズを手に取る暇もなく
店主に追い掛け回される破目になった。「おれ様にこんな無礼をすると、稲荷の祟りがくだるぞお!」
とヌルは追われながら叫んだが、かれがその稲荷の一族から品性のあまりの下劣さを理由に追放
されたボンクラだということはとっくに周知の事実であったから、まったくかまわれることはなかった。
 この街の人々はお祭り騒ぎと弱いものいじめには目がなかったので、見る見るうちにヌルの追手は
増えていった。そしてその中にトラック運転手の源蔵がいて、こいつはタチが悪かった。彼はトラックに
乗り込んで猛スピードでヌルを追い掛け回し、ヌルもこれにはすっかり慌てた。しかし彼がいちばん
慌てたのは、ヌルをさっきからパチンコ片手に追い掛け回していた悪ガキがそのトラックに撥ねられ
ようとしているのを見たときである。ヌルはとっさにトラックから悪がきを救ったが、そのかわりに一番
近くにいた乱暴そうな男に捕まってしまった。ヌルはこのとき尻尾をもがれることを覚悟したが、
冗談みたいなことにこの男はヌルの救った子の父親で、この街でいちばんうまいラーメン屋だった。
かれはその日ヌルを店に連れてゆき、ラーメンをごちそうしたが、ヌルは出されたホクホクのラーメンを
退け、おれはオン・ザ・ロックの味噌ラーメンが食いたいのだといってきかなかった。
530名無し物書き@推敲中?:2005/08/08(月) 20:53:56
次のお題は
「沈没」「マタタビ」「大聖堂」で。
531「沈没」「マタタビ」「大聖堂」:2005/08/08(月) 23:02:29
ウミネコ教の大聖堂 大きな船の上の大聖堂 
信者達は祈りを捧げ 今日もミャーミャー海を行く
信者達はマタタビを捧げ ウミネコに祈りを捧ぐ
失われた大地がミツカリマスヨウニ
だけど知らない 彼らは知らない ウミネコの姿を
船の上を ぐるぐる回る 太陽は神そのもの
船に纏わりついて グルグル回る 白い鳥は悪魔の化身
彼らは知らない 彼らは知らない 彼らは知らない
何処までも青い空と海だけが知っている
大地は全て沈没したってこと
ある日マタタビを甲羅にはやしたた亀が現れた
それを信者達はウミネコだといって祈りを捧げ始めた
亀は笑った大層 笑った 俺はウミネコなんかじゃない
あれがウミネコだ 白い鳥がウミネコだ あの悪魔そうだ

次のお題は
「雨」「まずい飯」「クーデター」


532名無し物書き@推敲中?:2005/08/09(火) 01:54:01
ああ、どうなっちまうんだろう。この国は。
俺はそんなことを思いながら、ほとほと壊れそうなテレビで自国のクーデターの様子を見ていた。
腹が減ってきたが、たぶん今はどんなものでもまずい飯だろう。
テレビを写しているカメラマンはカメラを担いで革命軍に付いて行っているらしい。見上げたやつだと思う。
先刻、見慣れた首相官邸の前に見慣れぬジープがたくさん止まっている画像を見た。
カメラマンの移す兵の一人が興奮と恐怖で目を血走らせている。ヤバイやつだ。
たぶん職業軍人ではないのだろう。これは軍事クーデターではないから。
画面が兵士の後を追って進んでいく。画面越しに緊張が伝わってくる。
ビクッ、と兵が突然に反応して、画面外にマシンガンを乱射した。突然に溢れる戦場の音。
キャ、と一瞬女の声が聞こえた。
カメラマンは直ぐにカメラをそちらへ向ける。
やっぱり……あーあ、やっちまった。
メイド服を着た女中だ。
兵士の手が画面を覆う。

窓の外に気を向けると、ぽつぽつと雨が降っていた。
この雨は革命の血を濯いでくれるのだろうか?

感想くれ。
next→「スピーカー」「ハーブティー」「楽器」
 世界一大きな楽器は滋賀県にあり、これも天国から来たとされる品の一つだ。
 その形状と音はリュートによく似ているが、大きさは奈良の大仏が十倍に巨大化して
やってきてもとても弾けないというほど。果てしなく長い弦の一本一本は鉄柱のよう。
 人々の考えではこの楽器を弾けるものは神をおいてはルシファー一人しかおらず、堕天する
まえの彼が神の天地創造のためのムード音楽を奏でるのにのみ使われたのだという。
 さて小さなハーブティーの店がその世界一大きな楽器の影に隠れるように建っていて、
店主の名はスメドリクといった(MIHP前は大賀といった)。幽霊船から帰ってきた彼が
この物騒な地に居を定めたわけは、ひとえにこの楽器のフォルムに惚れこんだからだった。
彼はこの楽器が鳴らされる日を心待ちにしていて、その日がその日だった。
 ある日、彼が客を相手に店で談笑していると、何の前触れもなく彼の鼓膜が破れた。彼の鼓膜だけ
でなく、店のガラスも破れてはじけとび、次には店全体が木っ端微塵に砕けて塵になった。この店だけ
でなく、あの巨大な楽器の周りにあるたいがいのつまらないものは塵になり、彼が話していた客(嫌わ
れ者だった)も水とその他の成分とに分離されて塵になり泥になった。スメドリクはそれらの事態にまっ
たく驚かなかった。ただ涙を流した。音ならぬ音、音楽ならぬ音楽、妙なる響き、天国製の音楽を聴い
たときに、それ以外のことが出来る人間は存在しない。ところでこのあたりにはとある録音機があって、
これは稀有な「つまらなくない」録音機の一つだったが、これがその音楽を拾っていた。それを音源に
世界中のスピーカーというスピーカーがこの日からその音楽を流すようになり、世界中の人間に歓喜の
涙を流させることとなったが、スメドリクは、いま世界で流されている音楽など、自分の聴いた音楽の影の
影の影の影のようなものだと言い張ってきかなかった。他の人間は、「耳の聞こえなくなったあんたに、
なぜそれがわかる」と筆談で訊ねたが、彼はただ「わかるんだよ」と答えるだけだった。

 次のお題は
「鮫肌」「ピラミッド」「歌舞伎」で。
以前、フランス旅行をしたときに、電気屋の店頭で見たハリウッド役者は当たり前のようにフランス語だった。
あまり違和感は無かった。
中国あたりに旅行して、ハリウッド役者が中国を喋っているのを見たとする。
多分、それなりに違和感を感じるだろう。
アフリカ独自の言語の音声が入ったハリウッド作品のDVDがあるのかは知らないが。
違和感どころの騒ぎではなく想像すらできないので、いっそあるなら見てみたい。

とまあ、以上私の主観だが、とりあえず一般的なアメリカ人から見たら、
フランス語だろうと中国語だろうとアフリカ独自の言語だろうと、アメリカ語以外は違和感しか残らないのだろう。
違和感なんて所詮成長した環境に依存するし、あるいは得ている知識に拠るものだ。
結局、「知っているか、しらないか」なんだろう。

ところで。
仮面をつけたファラオが「あの」姿で江戸城で政治を行う姿。
鮫肌の歌舞伎役者がピラミッドのなかで公演を行う姿。

…どちらが違和感があるのか、なんて時々考える。
日本もエジプトも知らない人を大量に集めて「違和感がある」「ない」とでもアンケートでもとったら…
一体どういう結果になるのだろうか、物凄く気になる今日この頃だ。


次は「夕暮」「夕立」「夕凪」で。
535名無し物書き@推敲中?:2005/08/18(木) 21:33:27
じゃあ俺も読むか

>.520
文章の雰囲気だけで勝負する作品なんだろうけど、どうしたもんか。

言葉の使い方は悪くないんだけど、芥川のマネをして言えば、
正に器用には書いている、が、畢竟それだけだ、という感じ

こういうふうに幻想的な光景を描くのなら、きちんと描写しないと、
読者には様子がぜんぜん理解できないよ
自分の頭の中にはあるけどここには書かれていないものが、
注意して見ればまだたくさんあるはず

あと、文中で何度も言ってる「あれ」とか「あのもの」について
最後でそれが何なのか明かされないと、ストレスがたまるね

>.527
わけのわからない展開っていうのは、俺は好きじゃないけど、
まあそういう文章はある。
だけど、そういうのはそのわけのわからなさに面白味があるから
文章として成功するのであって、これはそのわけのわからなさが全然
意味を持ってないというか、不条理ギャグにすらなっていないように思う

それというのも、お題の消化をただ単に不条理性でやってしまうという
まあ誰でも一度は思いつくけど賢明な人なら書く前にやめる方法で
すませてしまっているからなんだよね。
不条理ギャグとしてもまったく不出来になるし、お題消化としては最低線、
かつ一発ネタとしては超既出
これではほめるところが無いよ。
536名無し物書き@推敲中?:2005/08/18(木) 21:34:33
ごめん誤爆したORZ
537名無し物書き@推敲中?:2005/08/18(木) 21:38:04
ドンマイドンマイ
538名無し物書き@推敲中?:2005/08/21(日) 20:17:24
夕暮れ時にはまだ少し、時間があった。
落ち始めた陽光に照らし出された寂しげな雲。
海風がぴたりと止んだ薄気味の悪い夕凪の中、彼女は堤防に立っていた。
彼女の眼下、五メートルほど下の方にはテトラポットが無数に積み重なっている。

彼女は失望していた。
心は無常感に隅々まで満たされ、未来という言葉は現実味を持たなかった。
視界の中に生命のエネルギーを感じた経験は、気の遠くなるような彼方のことのように思われた。

一歩足を踏み出し、頭からテトラポットへ墜落し、膨大な血を流し、海水にまぎれた血は闇夜に人の目から隠され
夜のうちに体は波にさらわれる、大海のだれも気にも止まらない点になる。
彼女にはそれがとても魅力的な展望のように思われた。

決心などせずに、ただ無心のまま、数千回通った道の曲がり角を、意識せずにするりと曲がるように
彼女の重心は海へ傾いて行った。

テトラポットは彼女を殺さなかった。
体中に出来た擦り傷と打撲。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
彼女のぼやけた頭はどうしようもない感覚に支配されていく。
やがて、酷い夕立が降り注ぐ。
彼女の身をばしばしと叩く。
流れた血と空から降る水は彼女の体を冷やした。
寒さと痛さが頭の、脳の、隅々まで、うめつくす。それは彼女にとって、どうしようもない現実だった。


誰か書けよぅ
「花火」「遠雷」「蚊取り線香」
539名無し物書き@推敲中?:2005/08/21(日) 21:02:19
 曇り空の午後。蚊取り線香が無くなっていくのを、じっと見ていた。
 じりじりじりじり。きっと、聞こえるのならこんな音だ。
 蚊取り線香は、亀の様なスピードで進んで行く。果てには何もない。
 果てに達すれば、彼は消えてしまう。
 最果てを見るとき――彼は消えてしまうのだ。
 ごろごろごろごろ。これは、空から聞こえてくる音。
 油断していれば、聞き逃してしまうような、そんな小さな音。
 遠雷である。
 私にしてみれば、迷惑極まりない音。蚊取り線香の残り僅かな生命の律動を聞き逃してしまうではないか。
「…さぁ〜ん。よぉこさ〜ん!」
 どんどんどんどん。戸を叩く音。隣に棲んでいる外国人だ。私は蚊取り線香に「ごめん」と言った。
「空ごろごろよ! コワイわあ」
「ロジャー、前から花火見たがっていたでしょう」
「見たいで〜す」
「あれが日本の花火よ」
 私は、戸の外に見える曇り空を指差した。
「お〜! ジャパンの花火スケールハンパないね〜!」
 そう言ったきり、彼は曇り空を見るのに集中しだした。
 私は戸を閉め、蚊取り線香の元に急ぎ足で戻ったが、蚊取り線香はもう消えていた。

書き難かったんだよ。感想下さい。
「午睡」「思慕」「カーペット」
540「午睡」「思慕」「カーペット」:2005/08/22(月) 07:57:07
 簡潔に言おう。おれは神経症にかかり、さらに鬱病を病み、しまいには統合失調症に襲われた。会社も
クビになった。これで人生に絶望しない奴がどこにいる? おれは死ぬ。最後の午睡に、入る。さらば。
 おれは、部屋の四隅に、九個ずつ(四・九=死苦)、計三十六個の「バルサン」を置く。
部屋を密閉する。名づけて、バルサン自殺。おれは睡眠薬を飲み、バルサンを焚き、そしておれは、
 おれを駆除する。
 クールだろ?
 こういう人生、あってもいいだろ?
 いいさ。
 床のカーペットに、死すべきダニどもが、うごめいている。こいつらは、おれの、おれというファラオの、
 洵死者。
 おれの、忠実なる、しもべ。おれの守護者。冥界での。おれはダニたちの王。ダニたちの。
「いい人生」とおれは呟く。「いい人生」へのおれの思慕は、おれの生命を通じて、止む事無く続いた。
それはいつもいつもあと一歩というところでおれの前から逃げていった。おれはその後を追った。
追って、追って。
 そのザマがこれだ。「いい人生」はおれをここに導いた。おれは負けた。騙されたのだ。
 一個、二個と、バルサンがつぎつぎ蒸散をはじめ、睡眠薬は効いてくる。最後の瞬間が迫ってくる。
まだ遥か彼方にあったはずの「それ」を、おれが呼び寄せたのだ。それ、ハッピーエンド。

 数分後、そこに訪れているはずのハッピーエンドは、濛々たる、あまりに濃い煙のなかに隠れて、
まったく見る事ができなかった。横たわるかれは最後にそれを見る事ができただろうか。
 だったらいいのだが。

次のお題は、
「銃弾」「深海」「ぬっへっほう(ぬへっほ、ぬっぺっぽ、などでも可、腐肉の妖怪)」
 私は絶望的な気分で今一度計器を見た。水深計は標高3000mを
遙かに突破し、水圧計は0.2hPsでその役目をボイコットしている。有人
潜水調査艇"への8号"はまさに危機的状況だった。
「藤島ぁ! 浮上の他に管圧抑える方法はないのか!」
 調査隊の隊長が怒鳴る。でも、そんなものはない。ただ深海で冷静さを
失えば、皆潰れたも同然である。
「落ち着いてください! まだ海にはぬっへっほうが居ます!」
 隊長ほかメンバーがオカルト狂を見るような目で私を見た。
「知りませんか? 腐肉の妖怪ですけど、きっと助けてくれます」
 隊長はこんなこともあろうかと、という顔で腰から拳銃を引き抜き、額に
手を当て首を左右に振りながら私へ銃口を向けた。
「いや、いやいや。ちょっ、待てよ!」
 言うと同時に、私は調査艇の窓にドロドロした肉の塊がくっついている
のを見た。ほら、と指さし隊長を促す。
「お、おのれ妖怪! 極楽へいかせてあげるぜ」
 かくして隊長は妖怪に向かって発砲し、その銃弾がギリギリで保っていた
調査艇の均衡を崩したわけだった。

 ……これが今回、第二次調査隊が海底墓地で発見した石碑の内容です。
542名無し物書き@推敲中?:2005/08/23(火) 22:38:02
せっかくぬっへっほうとか無理矢理入れて頑張ったんだから、お題くらい提示しておくれよ。
進まないよ、ぬっへっほうじゃ。
543名無し物書き@推敲中?:2005/08/23(火) 23:07:53
>>542
あー、すまん。投稿後忘れてたことには気づいたが、行オーバーしてたのも
あるし俺なりに気を使ったつもりだった。まぁでも進まんなら出しとくか。
つーわけで「字画」「万力」「飛行船」
544 ◆z03.cue.22 :2005/08/23(火) 23:16:47
「銃弾」「深海」「ぬっへっほう〜」


  テレビをつけたまま眠ってしまった。会社の後、カレシと飲んで帰って、すぐ起きるつもりで
ベッドに横になったのだ。そして、そのまま眠ってはいけないとテレビをつけたのだ。一日でも
化粧を落とさないで寝ると二日は肌の調子が悪い。だから音量を大目にしたのだけれど、
ムダだった。飲みすぎたのは、カレがなかなかプロポーズしてくれないせいだ。
  私は「ぬっへっほう〜」という声で目がさめた。
「それを言うなら『ヘイヘイホー』でしょー!」と、すぐにツッコミがはいった。どうやら漫才番組らしい。
「しっかし合コンですよ。女の子にインパクト与えたいじゃないですか。モテたいじゃないですか」
「インパクトって、あんた、だからってカラオケで『与作』歌います? だいたい深海魚みたいな
顔してけつかるくせにモテたいって……冗談もええかげんにせぇよ」
「そんな、照れちゃうなあ」
「誉めてませーん。ぜんっぜん誉めてませーん」
「それでまあとにかくカラオケは終わりまして、次はオシャレな個室レストランに行ったんですよ」
「君、立ち直り早いなー。まあええわ。そいで?」
「それでですね、せっかくの個室で騒げるぞってことで、ゲームすることになったんです」
「ほう、ゲーム?  なんのゲーム?」
「銃弾ゲーム」
「……君ね、それ言うなら『牛タンゲーム』でしょー?」
「ううん、銃弾ゲーム。別名ロシアンルーレットっていいます」
「なにがオシャレや!  シャレになっとらんやないかい!」
「そんなことないです。偽者の拳銃だし、当たったら僕と結婚できますから」

  わたしはテレビを消した。洗面所に行き、化粧を落とす。鏡を見ると、そこには疲れた顔の
深海魚がうつっていた。私が夫婦漫才をする日はまだまだ先のようだ。
545 ◆z03.cue.22 :2005/08/23(火) 23:17:47
すみません。かぶりました。
お題は>>543さんの「字画」「万力」「飛行船」で。
ごめんなさい。
546名無し物書き@推敲中?:2005/08/30(火) 03:03:39
疲れた顔の深海魚って何だ?気になる
547名無し物書き@推敲中?:2005/08/31(水) 22:27:10
「字画」「万力」「飛行船」

悪人を懲らしめるための装置、なのだそうである。
捕らえた悪人を逆さ吊りにして空に飛ばして反省させる装置、なのだそうである。
なんてことはない、市販の飛行船に市販の万力をぶら下げただけの代物だ。
私のクラスの金持ちの児童が夏休みの宿題だと新学期早々飛行船を校庭に着陸させた。
ありえないことを平気でしでかすのが、ありえないお金持ち連中である。
飛行船には仰々しく家紋と並べて『俎亟侾玲珊号』と記されてあった。
土地の名士である児童のお祖父様が字画にこだわって命名したらしい。が誰も読めない。
校庭では校長と教頭がその名士の周りで太鼓持ちよろしくヘコヘコしっぱなしだった。
それにしても、万力で悪人の足の指を挟んで空高く吊るすだなんて……
「そんなひどいことを考える人間こそ大悪人です!」と叱ってやりたかったのだが……
私は権力者に楯突く勇気がなかった。教育者として失格である。
なんてことだろう、たかが児童の工作のせいで一日中とても惨めな気分だった。
頬を引きつらせながら「ずいぶんお金がかかったでしょうね」と件の児童に尋ねたら、
「う〜ん、先生の給料の何年分だろうかね〜」とガキはそう言って鼻で笑いやがった。
本当にいけ好かないクソガキなのである。一家して明後日にでも没落してしまえばいい。


「うさぎ」「決戦」「おにぎり」
548「うさぎ」「決戦」「おにぎり」:2005/08/31(水) 22:56:05
 文字どおり雌雄を決さんがため、二人は睨みあっていた。
 妻は包丁を持ち、夫は座布団を手にしている。
「貧困に苦しむタンスにセーターとスカートを!」
「これは家庭に限りある資金を守る聖戦である!」
 夫婦の決戦はいま膠着状態にまで移っていた。じき決着である。
 両者狙いはただ一つ。相手を屈服させることである。隙を探りあっていた。
 きっかけは、換気扇から突如怪人うさぎ男が現れた瞬間である。
「この幻惑おにぎり"を食べた者は言われたことをなんでも聞いて
しまうのだ! これを使って我が悪の秘密結社は世界征ふ――」
 そこまで言うとパワーバランスは崩れた。うさぎ男はすでに台所に
突っ伏していた。夫もその上にくず折れていた。その背に片足を乗せて
妻はおにぎりを天高く持ち上げていた。
「ああ! これでバッグと指輪と帽子とイヤリングとスカートとセーターと
化粧品と靴が買える!」
 妻は叫んだ。勝者の雄たけびであった。

次「カニ」「十字」「まんじゅう」
549名無し物書き@推敲中?:2005/09/01(木) 04:29:29
「カニ」「十字」「まんじゅう」

「・・・27日未明某国北部の山岳地帯で多国籍軍による爆撃があり一般人に多数の死者
が出たことがCNNテレビの・・」
「ちょっとあんた、暇なら灯油入れてきてよ灯油」
正月くらいは顔を出そうと帰省したにも関わらず、母は実家にいた頃と同じように
私を遠慮なく使う。うぁい、と気の抜けた返事をして食べかけのまんじゅうを頬張り、
灯油缶を携え玄関に向かった。12月の冷気がすっ、と抜けていった。
「・・・では一連の誤爆は十字軍の再来であるとの声も出ており多国籍軍への反発が強
まることは避けられないとの見方が・・」
コタツに戻ると、ぬくぬくした幸せな感覚がじわりと広がる。久々にこういうのも悪
くない。ぼけっとテレビを見ながらまんじゅうに手を出す。
「あんたねーご飯前にそんな食べるもんじゃないよちょっと箸運んで」
本人によると、母は近頃なぜか葬式続きで疲れるわ腰が痛いわで大変なのだそうだ。
テレビでは、十字の印を掲げた軍隊が槍を振りかざしている。
夕食は鍋らしい。鮮烈に赤いカニがぐつぐつと煮えていた。昔は土まんじゅうってい
って、行き倒れた人のお墓を道端に作ったんだよ、と誰か言っていたな、と思った。

次は、「楽園」「絶壁」「亀」で。
550「楽園」「絶壁」「亀」:2005/09/01(木) 15:37:38
 亀の長老は黙示をもって男に語った。「われわれの楽園は死んだ。おまえ
たちに滅ぼされたのだ。わたしの曽祖父の時代にも、こんなことがあったという」
 生き残りの巨亀たちは群れをなして絶壁の端に男を追い詰めている。
「かつておまえたちはわれわれの持つ先見の力に目をつけた。それでおまえたちは
われわれの亡骸、空っぽの鎧を拾い、焼いて、その残された力を燻りだす術を学んだ。
それでお前たちは未来をおぼろげにだが見る事ができた。そして栄えた」
 男を取り囲む亀たちは緩慢な動きで忍び寄り、男はへたりこむ。
「その礼としてお前たちはわれわれを虐殺した。老いた亀も若い亀も殺して、その
亡骸を焼いた。おまえたちはわれわれの楽園を見つけ、乗り込んだ。笑いながら
次々われわれの首を刈った。お前たちは素早く、われわれは逃げられなかった。
わたしの曽祖父はそのときのことをいつまでも忘れなかった」
 亀の長老は、鼻先を男の見開かれた目に突きつけて語った。
「それは死んだ仲間達も同じだった。われわれは呪った。全身全霊をかけてお前たちを
呪った。われわれの亡骸を使ったおまえたちの占いは、すべて『凶』とでた。無論その
占いは当たった。われわれの霊はおまえたちに復讐を始めた。おまえたちが降りかかる
災難の元凶に気づいて、あちこちで亀をめでたきものとして祭り始めるまで」
 そこまで言って、長老は男を崖の向こうに押しやった。落ちてゆく男に亀は叫んだ。
「そして今度はおまえたちだ! 何度われわれの楽園を踏みにじれば気が済む!」

 次は、「拒食症」「モスク」「日本刀」で。
551、「拒食症」「モスク」「日本刀」:2005/09/01(木) 22:05:50
 せめて彼女が、モスクや日本刀が似合う人であったらな、と私は思った。
 彼女はゴルフクラブを潰さんばかりに力強く握っている。彼女は美しい。しかし
痛々しい。それはガリガリに痩せているからだ。彼女には拒食症の噂がある。私は
彼女が好きだ。痩せ過ぎで目がぎょろついていて、絶対に見つからないものを必死
で探しているような哀れな印象を受けるが、好きだ。寧ろその哀れな所が好きだ。
私の不安定さが、私にそんな彼女を好きと感じさせるのだと思う。
 不意の風が彼女の状況を変えた。風が彼女の頭からベレー帽を奪った。
 違うな、と私は思った。彼女に似合わないのはモスクや日本刀だけではない。青々
とした芝も、どんより曇った空も、一緒にいる健康的なゴルファーも、何もかもが
似合わないのだ。寧ろ彼女”に”似合わないのではなく、彼女”が”この世界に似
合わないのだ。
 私の頬に涙が滑った。そこで私はハッとした。
 ブラウン管の中で彼女は、キャディーからモスクの屋根のようなベレー帽を受け
取っていた。そして再びゴルフクラブを日本刀のように振り回し始めた。
 私は思った。涙だけは彼女に似合うに違いない。
 彼女が人間でよかった、似合うものがあって良かった、と私は思った。

NEXT:「ホラー」「かいがらむし」「わらじ」
552名無し物書き@推敲中?:2005/09/03(土) 01:38:28
「ホラー」「かいがらむし」「わらじ」

シナリオ、読んだわよ。
巨大化したかいがらむしが人を襲い始める……う〜ん、ところで「かいがらむし」ってなぁに?
それってポピュラーな虫? 巨大化して襲われたら一番嫌なおっかなそうな虫?
あとこのさ、わらじで踏み潰すと体液が足の裏にじかに粘ついてくる、ってあるけれどさ……
そのかいがらむしはすでに巨大化してんでしょう? だったら踏み潰すってのは辻褄合わなくない?
巨大化ってのは、虫にしてみたらの巨大化? 巨大化ったって拳大程度の巨大化?
いや、あなたに映画を撮らせたい気持ちは山々よ。もうそれったら私の夢でもあるのよ。
でも……、もうすこし話の筋を詰めてから撮影に臨んだ方がいいんじゃないかなぁって……
あと一つ気になったことがあるんだけど言っていい? これってさ、ひょっとしてホラーじゃなくない?
いや、ホラーでなくてもいいんだけれどさ、あなたがあんまりホラーの巨匠に!とか言ってものだから。
違うの違うの、あなたのね、その一生懸命なのは、その情熱は私が一番知ってんの、わかってんの!
でも、あんまり物語に無理がありすぎて、なんだかもうこれはコメディなんじゃないかって……
いやよ、怒らないで怒らないで! どうせ私なんて素人なんだから、何もわかっちゃないんだから!
いくらなの? いくら出せばその映画が作れるの? 言ってごらんなさいよ、ねぇいくらなの?
…………出しちゃう! ポーンと出しちゃう!…………まぁ現金な巨匠さんだこと。あらあらふふふ。


「勇気」「気持ち」「葛藤」
553名無し物書き@推敲中?:2005/09/06(火) 00:31:46
「勇気」「気持ち」「葛藤」

こんなところで、熊に出会うとは思わなかった。
勇気を振り絞って、銃を構える少女に向かって、熊は言った。

「お嬢さん、お逃げなさい…」と。

死に物狂いで、逃げる少女。それを眺める熊の心に、激しい葛藤が巻き起こった。
「何たる事だ。それでもお前は熊か!」「熊たるものが、恥かしくないのか!」

本能に圧倒され、とうとう熊は走る!自分で「お逃げなさい」と言った相手に。
少女の足が、熊にかなう訳がない。もう追いつくかという、まさにその時。
「ズダーン!」少女の震える指が、銃の引金を引くと、熊は赤黒い血を流して倒れた。

「熊さんっ!熊さんっ!ごめんなさい、私…」
「いいんだよ、お嬢さん。でも最後の願いとして、君の歌を聞かせてくれないか?」
「ラララ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ〜」
可愛い彼女の歌を聞きながら、熊の意識は薄らいでいった。雨の中の涙の様に。

「先生!この熊って、なぜ逃げろって言ってから追いかけるんですかー?」
「そう、なぜかしらね…」彼女は笑って答えない。
8年前のあの事件。熊さんの、最後の気持ちを語るには、この子達にはまだ早いだろうと。

※なんか久々;
次のお題は:「葛藤」「劇中劇」「川流れ」でお願いしまふ。
554名無し物書き@推敲中?:2005/09/07(水) 01:14:04
この国へ来てもうすぐ1年になる。一泊、日本円で300円ほどのドミトリーに住み着いてしまった。
こういうのを沈没というらしい。
汚いベッドで眠りにつくとき、明日こそはここを出ようと思う。しかし、朝になればまたいつものだるさと葛藤に襲われる。
人生は旅だと思う。その旅の中で旅に出ることは劇中劇のようなものだ。
演じきるにはメリハリが必要なのだ。
そんなメリハリなどとうの昔にガンガーに川流ししてしまった。
こんなぐだぐだな劇を一人演じながら、異国の空を眺めている僕は旅人なのだろうか。
僕は自由になることができたのだろうか。インドの雑踏にもまれながらまだ終われない気がした。
次は「飯ごう」「裏切り」「二日酔い」で。
555名無し物書き@推敲中?:2005/09/09(金) 02:13:08
「飯ごう」「裏切り」「二日酔い」

野良犬に顔をなめられ目を覚まし、驚いて飛び起きると二日酔いの頭がズキンと痛んだ。
俺は大木の根元に眠りこけて朝を向かえ、数分後には無一文になっていることに気がつく。
前の日の晩、野宿を決め込んで適当な場所を探していると焚き火が見えた。
地獄に仏と俺は駆け寄り、火に手をかざしている男に声をかけた。物静かな男だった。
俺は良かれと思って自慢の自作小話を披露したのだが、男は眉根ひとつ動かさない。
そして突然、「オチがなっちゃないよ君」「完璧自己完結というやつだね」と鼻で笑った。
確かに俺の小話は、誰にでも優しい飯屋の女中にすらウケない。
それからしばらく男から小話の何たるかを諭されたのだが、俺には難しくてちんぷんかんぷんだった。
たとえばこうすれば、と添削された俺の小話からは、笑かし要素がすっかり排除されていた。
俺は『お笑い小話人』になると誓って村を飛び出た人間なのである。
今更笑いの神様を裏切ることはできないと、男の忠告には愛想よく対応しながら、心の耳を塞いでいた。
語りながら男がしきりに酒を勧めるのが妙だと思ったが、俺も嫌いでない口なので大いに馳走になった。
そして翌朝、犬に顔をなめられ目覚めると、男と俺の金が消えていた。
男は俺がわざわざ飯ごうに隠し持っていた有り金を全部、きれいに持ち去って消えたのである。
「事実は小説よりってやつだね」と嘆息を漏らすと犬の姿も消えており、朝飯のソーセジも消えていた。


「手足」「雷」「踏んだり蹴ったり」
556「手足」「雷」「踏んだり蹴ったり」 :2005/09/10(土) 18:32:45
踏んだり蹴ったりしていると、
四つんばいになった禿親父は、私を見上げて言った。
「もっと激しく踏んでくれぇ、ビンビンに。ビンビンにしてくれぇ」
汗まみれの顔と恍惚じみた目。ああ気持ち悪い。体験入店なんてするもんじゃない。
「ほら! 立ちなさいよ!」
体を立たせて、やっとのことで三角木馬へ乗せてやった。
手足が痛い。この仕事って、けっこう重労働みたい。
「ああ! いい! ああ!」
暗くなりはじめた窓の外に、稲光が走った。
雷の音で泣かなくなったのはいつからだろう。
「ああ! もっと! もっとしてくれぇ!」
いったい何やってるんだろう。私。
私は、干してきた洗濯物を気にしながら、背中を蹴り上げた。
手足が急速に冷えていく。

新宿。
歌舞伎町。
路上。
脱げたヒール。
赤く染まるタイル。
こちらをじっと見つめるカラスの群れ。

白む空を見上げながら考える。
どこで間違ったのだろう。
踏んだり蹴ったりの人生でも、もっとましな終わり方でもよかったんじゃない? 神様。

遠くで雷が鳴る。
飛び立ち、またすぐに戻ってきたカラスに微笑みかける。
おまえたちは強いね。
ばいばい。

「シナジー」「伝播」「汚染」
558「シナジー」「伝播」「汚染」:2005/09/12(月) 03:16:55
教頭のバカにしこたま殴られた帰りにガンジーとシナジーに会った。
二人してそれぞれ三郎の手足を持って、ふらふらしながら川に投げ込んだところだった。
「おいおい何?三郎いじめてんの?」と俺が聞くと
「三郎死んじゃったアルよ」とシナジーが言った。シナジーは泣いていた。
「日本の川を汚染すんじゃねーよ、おまえらただでさえくせーのに」と言って川に浮かんでる三郎を見ると、
なんというか、すごく死んでいた。
三人でしばらく流れていく三郎を見た。
「ワタシ死んだら誰か川に投げてくれるかしら」とガンジーが言った。
「ロコさん、またこないだのすけべな女の子つれてきてくだいよ」とも言った。
「ああ、今度な」と俺は言った、ガンジーはにんまりしたが、シナジーはやっぱり泣いていた。
「デンパってどういう意味アルか?」と突然シナジーが俺に聞いた。
「デンパ?あーテレビとかラジオとか、携帯とかのあれだ、言葉みたいなもんだな。なんで?」
「三郎氏、ずっとデンパーデンパーでんぱあならねちゃ、っていってたアル」
「そりゃ方言かもな、それかお前の耳がおかしいか。
もう帰るわ、もし三郎が誰かに殺されたんなら、探すぜ。森君の連絡先もわかったし」俺はそう言って家に帰った。
辞書で「でんぱ」をひくと
「伝播―1 伝わり広まること。広く伝わること。2 波動が媒質の中を広がっていくこと」
という言葉があった。
次の日、シナジーから電話がきた。

「ひざ」「凶器」「宝物」
559名無し物書き@推敲中?:2005/09/12(月) 06:42:04
「ひざ」「凶器」「宝物」

アナジーが電話で何を話したのか気になる……
三語のお題で短文を作りましょうという掲示板のネタの話だ。
昨夜「アナジー」という使い慣れない言葉を、どうこなそうかと思いあぐんでいるうち寝てしまった。
朝、目が覚めると新しい書き込みがあるじゃないか。
どうこなしたのかと興味深く覗くと、アナジーはあっさり人名で登場していた!
その手があったか、とはさすがに思わなかったが、読み進めるうち、勢いあるその世界に引き込まれていた。
夜中の3時。書いたのは学生か? 彼あるいは彼女は、多分短時間でこれを書き上げたに違いない。
若者特有の瞬発力。精神的無頼漢。この傍若無人さは意識的に達成できるものではない。
私は年を取り過ぎたのだろうか……
中途半端に聞き分けのいい大人になリ下がってしまったのだろうか、まさかそんな……
若さという武器の前で怖気おののき、手を上げて降参するしかない、そんなくたびれた人間になって……
若さは凶器である以前に宝物だということも私は心得ている。では今まさに若さに嫉妬しているのだろうか……
あぁ朝からなんて気分だ。今日は仕事を休んでしまおう。下手すると線路に飛び込みかねない。
一日中小田和正でも聴きながら、部屋の隅っこでひざを抱えて過ごそう。そう、あの頃に立ち返ろう……
私は……、なんというか、すごく生きたいんだ! すごく生きたいんだよ! 私はまだ全然死んでいないはず!!


「ずる休み」「コーヒー」「退屈」
560名無し物書き@推敲中?:2005/09/14(水) 23:38:58
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」

通学途中、放し飼いの犬が道路の真ん中に寝てたから、そのままUターンして学校行くのやめた。
午前中は誰もいない公園で、滑り台に斜めになったまま寝てて、目が覚めてその状況にびっくりした。
一眠りしたら、朝の犬がむかついてむかついて仕方なかった。
いつか横を通り過ぎようとした時、歯をむき出して唸ったんだ、あの犬は。犬のくせに生意気だ。
あんな犬は、うっかり車に轢かれてしまえばいいんだ。
道を塞ぐな、と誰かが石でも投げてたら、私も一緒になって痛めつけてやったのに。
ふてぶてしい顔してたって、そこは犬のことだから、きゃんきゃん情けなく尻尾巻いて逃げ帰るに違いない。
誰かあの犬に石を投げてくれないだろうか。そうしたら見ているだけですっとするのにな……
お昼はコンビニでおにぎりを買って、午後からは、お客の来ない喫茶店で時間を潰した。
マスターは理解ありげな顔して「ずる休みだね。学校なんて行かなくてもいいんだよ」とか言って笑ってた。
感じが良かったので、バッグに引っかかったふりをして、太ももを余計に見せてあげた。
なのに、普通に目を逸らして見なかったふりをする。なんとなく、ゲイなんじゃないかと思った。
コーヒーに関する蘊蓄を聞くでもなく聞きながら、ぼんやり街行く人を眺めていた。
T高の男とY女の女が、手をつないでにやけながらたらたら歩くのを見た。二人してブサイクだった。
世界中の人間が死んでしまえばいいのに、とか思ってたから、少しも退屈はしなかった。


お題継続。
561名無し物書き@推敲中?:2005/09/15(木) 23:31:28
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」

退屈が高じて厭世観に苛まれる頃、トッテンガーガーがあなたのくるぶしをこつこつ叩くでしょう。
トッテンガーガーは、河原の地中深くに暮らす生き物です。
普段人目に触れることはありませんが、彼らは世界中どこでも、例えばスカンジナビア半島にも生息します。
トッテンガーガーは、退屈しきった人間を見つけ出しては、トッテンガーガーの里へといざないます。
そうして、人間界からアルミ缶の調達を依頼するのです。
トッテンガーガーの長老自ら、会社や学校を休んでぶらぶらしていた人間に熱く語りかけるのです。
「ずる休み、やめらっせい。きっぱり仕事、辞めてきらっせい。この里にぜひ、ぜひともいらっせい」
人間たちは、まるでヘッドハンティングにでも遭ったような、得意な気持ちがするようです。
早朝、個人的に空き缶回収に励んでいる人は、9割方トッテンガーガーの仕事をこなす人なのでしょう。
「あれ、もしや、まさか……」と感付いても、問い詰めたりせず、放っておいてあげて下さいね。
トッテンガーガーはアルミ缶を加工して『悪魔のフォーク』を作り、主に土産物屋で販売しています。
悪魔のフォークは……、まぁとにかく見事な代物です。なにせ“効く”らしいですからね。
空き缶は空き缶でも、缶コーヒーなどに使用されるスチール缶は加工に向かないそうです。しかし心配御無用。
持ち込まれたスチール缶は、山岳地中に生息するチッターネッターの里に、まとめて寄付されるそうですから。
さぁ、人生に飽きてしまったあなた、河原近辺でつまらなそうに小石でも蹴ってみませんか。


お題継続。
562名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 00:32:33
「ずる休み」「コーヒー」「退屈」

「とにかく、こんな生活には、もううんざりなんだ」
そう声に出してみる。普段では絶対に言わないようなフレーズを口にする。
それだけで、今までの自分とはどこか違ったような気分になれる。
朝起きる。友人にメールして、再び寝る。昼起きる。コーヒーだけの昼食を済ませ、
家を出る。大学までは自転車で通える距離だ。講義を受ける。そこそこ面白い。
友人と待ち合わせ、下らない話に興じる。そのまま夕食を共にする。誘いを断り、
家に帰る。リアリティを売りにしたサッカーゲームを数時間プレイした後、床につく。
安寧。退屈。怠惰。そんな言葉ならいくらでも浮かぶ。そんな言葉しか浮かばない。

「とにかく必要なのは……」
これも声に出す。ただ、そこから先は自然には出ない。反射的に口蓋は動いてくれない。
じゃあどうすればいいのか。知りたいのはその続き、具体性なんだ。
立ち上がる。洗面所に行き、顔を洗う。クローゼットから服を取り出す。
お気に入りのブランド"GOODENOUGH"。僕は善きもので満たされている。
ずる休みをした小学生のような、軽やかな興奮が全身を包む。
時刻は夜の11時。そろそろ外に出ようと思う。忘れないように、リュックに
包丁を詰め込む。こんなもので何ができるのか。結局、コンビニにでも行って
帰って来るだけなんだろう。

僕はそう信じる。


次は「敵」「オルガン」「生業」
563名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 01:54:51
ずる休み」「コーヒー」「退屈」

「それなら、もう一杯飲んでからにしなよ。」
と、ミナがコーヒーを私のカップに注いだが、
その指はまだ、わずかに震えているように見えた。

「それならって・・・、そんな言い方ないだろう」
私の言葉も、相変わらず最後の方は聞き取りにくかっただろう。

闇を伝って聞こえてくる街の雑踏が、今夜はやけに優しく感じた。
それは、これまで私が「退屈」と定義し、忌み嫌っていた沈黙の時間とは明らかに違っていた。例えば、ミナは、コーヒーは飲めない。特に今日のように苦めのはほとんどダメだ。
それを、今日は2杯目を注いだりしていたのだから。

この八年間という時間は、人生を「ずる休み」していただけ、という言い訳で済ますにはあまりに長すぎた。私は、三六から四四まで、ミナは一九から二七まで。

そろそろ私は、私の人生を終わらせようとしている。
理由は? そんなものは、どこにもであるようなこと。
ミナは? それは、わからない。
彼女がどうするかは聞かない約束だし、その時は、確かめる私自身存在しない。
ただ私が知る限りでは、彼女は、二杯目のコーヒーには一度も口つけていなかった。
564名無し物書き@推敲中?:2005/09/16(金) 12:35:12
すいません。お題忘れました。
お題は、前の方の「敵」「オルガン」「生業」
565名無し物書き@推敲中?:2005/09/17(土) 00:12:55
「敵」「オルガン」「生業」

「なんでオルガン弾けて、ピアノ弾けねぇんだよ!」
「ですから! 私はあくまでオルガン奏者なのだと、先程からそう申しているじゃありませんか!」
「オルガン奏者っつったっておめぇ……、別にピアノ弾いたって構わねぇじゃねぇか!
 だいたいピアノとオルガンなんて、大して違わねぇだろうが!」
「まぁ! ずいぶんと乱暴なこと言ってくれるじゃないですか。あなたのような方は全く持って芸術の敵です!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで弾けよ! ただ弾きゃいいじゃねぇか! プロなら聴かせてなんぼだろうが!」
「わからない人ですね。考えてもごらんなさい、私が今ピアノに触れたら……、オルガンの方でどう思いますか?」
「…………どうも思わねぇだろうよオルガンはよ! ん? おめぇの言ってるオルガンと俺の思うオルガンは、別物か?」
「あぁやだやだ! 酔っ払いというのは、本当マイペースで、わけわからないことを真剣な顔して言うから嫌だ!」
「そりゃおめぇだろうがよ! オルガンの方でってなんだよ!? オルガンの方でって!」
「ではこういうことですか? ギター弾きならウクレレだって当然の如くさらっと弾いてみせろって?
 マンドリンだろうが、琵琶だろうが、弾けと言われたら黙って弾いてみせろって、そういった了見で?
 私はねぇ、もう30年オルガン弾きを生業にしてきている男なんですよ! それこそ天職だと思ってるんですよ!
 それともあなたの言いたいのはこういうことですか? 蕎麦屋を始めたら片手間にうどんもこねろって! 馬鹿なっ!!」
「いいからピアノを弾きやがれ! 弾かねぇんだったら黙りやがれ! そしてとっとと俺の視界から消え失せやがれ!」


「洋犬」「キャラメル」「運動会」
566名無し物書き@推敲中?:2005/09/17(土) 00:55:42
「洋犬」「キャラメル」「運動会」

柴犬にアメという名をつけた。雨の日に拾ったから、アメ。
そのせいかアメは雨が嫌いだ。雨の降る日には、とても淋しそうな顔をする。
あした晴れたら久しぶりに遠出をしよう。車に乗って海岸まで。
大きな水たまりの前で運動会だ。ときにお前が洋犬だったなら。
キャンディとかいう名前をつけたかもね。あるいはキャラメル。
話はかわるが、>>561はひさびさに面白かった。ただ、それだけ。


お題継続。
567名無し物書き@推敲中?:2005/09/17(土) 23:06:43
「洋犬」「キャラメル」「運動会」

仕事でミスった。致命傷的ミスだ。厳密には上司のミスなのだが、そんな言い訳は通らない。
どっと疲れて帰宅すると、一昨日から預かっている姉の犬が、玄関で出迎えてくれた。
ミシェルというオスの犬だ。
犬種に詳しくないのでわからないが、白とキャラメル色の、短足で胴の長い、やけに顔ばかり大きな洋犬である。
私は食事もせず、早速辞表を書いたが、書き上げた途端、ミシェルがカップを倒して辞表を紅茶まみれにした。
呆然と犬の方を見ると、ミシェルは私を仰ぎ見て、にっこり笑顔の表情を作り、そしてこんな声が聞こた気がした。
「辞表なんて書いちゃダメだよ。こんなところで負けちゃダメだよ。元気出さなくっちゃダメだよ」
なんだこの犬……。しかし、もてはやされるだけのことはある。微笑み返さずにはいられない笑顔なのだ。
くさくさした気分を晴らそうと、犬レベルでじゃれあおうとしたところ、いきなり彼の前足を踏んでしまった。
犬ならば本能的に回避しなさいよ、と思うのは傲慢な考えだろうか。
パニクったミシェルは、気が違ったように三部屋を股にかけ、どんどこどんどこ、とにかく走り回った。
『殿御乱心』という言葉を頭に浮かべながら、私は呆然と走り回る不恰好な犬の姿を眺めていた。
しかし、ミシェルの乱心も長くは続かない。この犬は多分体力がないのだ。咳をしながら運動会を止めた。
衝動的にぜえぜえいってるミシェルの背中を抱きしめていた。そのぬくもりに涙がこぼれた。
話はかわるが、書き込みネタを褒められていた。ただ、嬉しかった。嬉しくってやっぱり涙がこぼれた。


お題継続。
568名無し物書き@推敲中?:2005/09/19(月) 06:49:10
「洋犬」「キャラメル」「運動会」

「あ〜あ残念、やっぱりいないや。見てごらんよ、あっくん、誰も続いてくれないや……
 あれかな、ここでパパが「俺様のネタがあまりに光り輝いていて皆気後れしているのであろう!」とか書いたら……」
「パパ……、それだけはよしなよ。瞬く間にひどい目に遭うから……。ところでさ、お題変えたら?」
「だってさぁ、あっくん。これパパが出しだお題だよ。パパが出したお題をさ、パパが変えちゃっちゃぁさ……」
「使いにくい悪いお題だったんじゃないの?」
「そうか?? そうなのか?? ん〜……じゃ、あっくん、お題考えてみておくれよ。若い感性でさ」
「やだよ〜、そんなの僕〜。だいたい「洋犬」って何さ?」
「うちのミシェルとかさ、あれがずばり洋犬だよ。犬の外人ってことだよ」
「犬の外人ってパパ……。ところでミシェル実名で登場してるね。「顔ばかり大きな」って、パパ酷いよね。
 で「運動会」ってのは、土曜日僕が運動会だったからでしょ。で「キャラメル」は?」
「書きながら食べていたんだよ、キャラメルをさ。それがちょーど奥歯にくっついちゃって、もうにっちもさっちも……」
「パパ〜〜〜! それって安易過ぎな〜〜〜い?」
「な〜んだあっくん、「安易」なんて言葉使えるのか。すごいな〜、あっくんは! へ〜「安易」ってか。へ〜。
 あ! こんなのどうだ! あっくんも三語に参加って! 父子鷹父子鷹! 国語の勉強にもなるんじゃないか!?」
「パパ……、子どもに2ちゃん勧めちゃダメじゃん……。あとさ、パパはさ、もうちょっとこう、文学した方がいいかも知んない」


お題継続。
569名無し物書き@推敲中?:2005/09/19(月) 15:22:31
「洋犬」「キャラメル」「運動会」

快晴、西南の風やや強し。ポケットにキャラメルを入れに出かけた。土手に座り少年野球の試合を眺めながら一粒、
口に入れる。キャラメルは黄色いパッケージの洋犬印。ブルドックの顔がデザインされている。よく見れば御菓子
の図案としては少し不思議だ。背景には学校らしきものが描かれ、小さな旗がはためいている。しかし、それは校
舎ではない。兵隊さんたちの眠る兵舎なのだ。その証拠にいう訳ではないが建物のわきにはすごく小さ大砲のシル
エットが見える。これはキャラメル会社の創業者が熱烈な愛国者であったことと関係がある。彼はずっと入退院を
繰り返す病弱な少年だったのだが、病室の窓からは練兵場が見え、その規則正しい行進やラッパの音にいいえぬ憧
れのようなものを抱いたというのだ。
改めてラベルを見ると、やはり校舎のようにも見える。その出入り口は黒い四角。そこから蟻のようにバラバラと
出てくるのは玩具の兵隊か、子犬のような子供たちか。なんにしてもラベルの中も快晴。いまブルドックの背後で
は運動会が行われいるのではないか、という気もしてくる。

「霧」 「耳かき」 「投票」
570名無し物書き@推敲中?:2005/09/20(火) 00:13:32
「霧」「耳かき」「投票」

「すっきりしない天気だな」と、男は耳かきの先端をふっと吹いた。
窓の外には、垂れ込めた厚い雲。その下に暗く霞んだ森が広がっている。世界は陰鬱に染められていた。
男は大きく息を吐き出してから、「出かける」と、背後に控えていた執事に言いつけた。
五人の使用人を忙しく立ち働かせ、男は西洋甲冑で完全武装した。そして鉄仮面を小脇に抱え、颯爽と屋外へ出る。
屋敷にこもりがちの男であったが、今日ばかりは、どうしても自ら赴かねばならない用事があった。
役場からの重要な紙片を確かめると、男は馬のわき腹を蹴った。
森から抜けようとする頃、霧が小雨に変わった。「嫌な天気だ」と、男が今一度天候に苦言を呈したその時……!
一匹の顔ばかり大きな犬が、突然馬の前を横切り、驚いた馬が男を地面へ叩き落した。
「ううっ……!」
本来ならば自らを守るはずの頑丈な甲冑が、男の肉体に致命的打撃を与えた。
意識の朦朧とする中、男は口惜しそうに土くれを握り締め、そうして呟いた。
「こんな所でくたばってなどいられないのだ……投票せねば……同志が私の一票を待っているのだ……
 あぁ……私は、私は死ぬかもしれない……が同志よ、君たちは立派に生き長らえてくれ……
 日本西洋甲冑党……、いずれ、いずれ絶対与党に……!! 鎧兜よ……フォー……エバー…………」
そこへ蝶々を追っていた顔ばかり大きな犬が再び現れ、事切れた男の屍にけつまずいて2回転したが……そのまま去った。


「読書」「入浴」「食事」
571名無し物書き@推敲中?:2005/09/20(火) 15:39:38
 日付が変わる頃爆音が鳴り、朝日が昇る頃に人が飛んでくる。昼には大量の肉食獣が降りて来て、夕方には
また爆音が鳴り、夜になると虫の鳴き声と爆風が。毎日毎日そんなことの繰り返しだ。
 至って平凡なこの世界で俺は生きている。

 読書をしていた。入浴しながら。食事をしながら。俺がこれら全てを同時進行でこなすのは、勿論その必要性
があっての事だ。俺は大変に忙しい。予定は分刻みだ。あと一分と二八秒で相棒のロスが風呂場の窓を叩く。
ノルマまであと四ページ。まだ髪を洗っていない。ホットドックが一切れ。終わった。窓を叩く音。体を拭く。着替
える。外に出る。ロスのボーボーの髭を一本抜いてやる。奴の車に乗る。走る。今日も殺風景。こうしたのは人
間か? それともあの肉食獣達か? いやあいつ等は人しか喰わねえしな。そんな事を考えてるうちに目的地
到着。今日のターゲットはショボいとしか言い様の無いジジイ。とりあえず一発殴りつけ耳元で怒鳴りつける。
じいさんアレ持ってんだろ? ジジイは大人しくアレを出した。何の価値があるのかは分からないが、これは金
になるのだ。ロスにそれを渡し車に乗りクライアント宅に行き金を受け取る。でウチに戻ってくる。
 
 俺はこの平凡な世界で毎日こんな感じで生きている。
 今日はターゲットがジジイだったお陰で時間が余った。読書と入浴と食事を分けてしよう。時間に余裕があると
いうのは大変にいい事だ。外ではまた爆音が鳴っている。

「彼女」「茄子」「ゲーム」 
572名無し物書き@推敲中?:2005/09/20(火) 23:28:03
「彼女」「茄子」「ゲーム」

本日は『茄子のラタトゥイユ』に初挑戦しましたが、なかなか美味しゅうございました。
昨日のうちにプリントアウトしておいたレシピを手に、スーパーに寄ってから帰宅。これがほとんど日課になっている。
この夏、彼女と同棲を始めてから、僕らはちょっとしたお遊びを始めたんだ。
朝、目覚まし時計を止めなかった方が、罰ゲームとしてその日の夕飯を作る、というもの。
僕は連敗続きで、まるで料理係と化しております。
彼女の好物は茄子で、だから僕は茄子料理ばかり作っている。
焼き茄子、揚げ茄子、麻婆茄子。茄子のカレーに茄子のパスタ。名前すら覚えられなかった、コジャレた茄子の一品。
彼女は毎回、「わ〜い茄子だ、茄子だ」と子どものように喜ぶし、ぶっちゃけ僕は調理を失敗したことがないんだよね。
(たった一度だけ、水気を拭き取らずに油の中に放り込んで、それこそ罰ゲに相応しい仕打ちを受けたことあるけど)
どうやら僕は、料理が性に合ってるっぽいのだけれど、彼女にはあくまで“渋々”罰ゲをこなす風を装っている。
だって、有り難味が違うと思うわけですよ。
僕が好き好んで料理してるとわかれば、多分というか確実に、有り難がり方が激減すると思うわけなのです。
「好きでやってんだし〜」みたいなね。そんなの損だから、僕はこの“渋々”を貫き通しているわけなのであります。
ぬか床(←茄子を美味しく漬けてくれるのさ!)をかき回す僕の背後で、今日も彼女、「絶〜対、楽しいでしょう?」
「楽しいわけあるかいっ、こんなしち面倒臭いっ!」と、自然とにやけてくる表情を、必死で隠す僕なのでありました。


「菓子」「休日」「ブランコ」
573名無し物書き@推敲中?:2005/09/21(水) 00:58:02
 今日、ニュースで凶悪犯の写真が公開されていた。
 よくみると、そいつは幼稚園、小中と同じ学校の奴だった、体も大きくて、力も強いやつだった、だから誰も逆らわなかった。
 どんな奴だったかな?と、そいつの事をよく思い出してみる。
 幼稚園のときは、みんなで食べていたお菓子を取り上げてきたな、そういえば小学校低学年のときに、たった一つのブランコを独り占めしていた、
中学校のとき、日曜の休日部活もさぼっていて、ほとんど部活に来たことないし、学校にすら来ていなかったらしい。
 同じ学校の奴ならこのニュースを見ても、やっぱりと思うだろう。
 まぁそれの延長線にあるものだからな、強盗も、大量殺人も。




「100円玉」「水」「布団」
574名無し物書き@推敲中?:2005/09/21(水) 23:06:22
「100円玉」「水」「布団」

私はベランダで布団をパタパタ叩き、向かいの奥さんは窓から除湿機の溜めた水をジャージャー捨てていた。
私たちはともに2階にいて、道路を挟んで挨拶を交わし、天気の話などしたかもしれない。
ふと、向かいの奥さんが、じっと目を凝らしている表情が見て取れた。
視線の先を追うと、互いの家の門の先、道路のほぼ中央に、きらりと光る物体が見えた。
再び顔を上げると、向かいの奥さんは私と目が合うなり、にやりと意味ありげな微笑みを向けた。
「見ましたね、山田さん」
「ええ、見ましたわ、木村さん、門の先にはっきりとね」
「どちらがあれを手にするか、競争よ!」
「臨むところだわ!」
閑静な住宅街の平和な午前に、二人の主婦の階段を駆け下りる音は、どんなに響き渡ったことだろう。
ほぼ同時に双方の玄関が荒々しく開かれ、そして閉じられ、乱暴に門の取っ手に手がかけられる。
向かいの奥さんの物凄い形相が、門の向こうに垣間見れた。負けるものか、負けてなるものか……
しかし、門を開けた途端、二人は悲鳴をあげることになる。屈んだ隣のお婆さんが視界に飛び込んできたからだ。
呆気に取られた私たちの前で、お婆さんは、きらりと輝く100円玉をつまみ上げ、得意げに私たちを見やるのだった。
私と向かいの奥さんは、日頃から張り合うほど視力が良かったが、隣のお婆さんは、町内屈指の地獄耳だった。


「童話」「居眠り」「大木」
575名無し物書き@推敲中?
「童話」「居眠り」「大木」

「昔々、ある所に・・・」
 母が息子にむかって童話を話し始めた、前はおとぎ話や昔話をしてやっていたのだが、最近は飽きてきたのか童話など変わった話を求めるようになってきた、母がこういう話が上手いのを思い出し、度々実家に帰ってきている。
「そしてそのきこりが大木を切り倒そうと斧を振り上げると・・・」
 童話、金の斧銀の斧だ、これなら自分でも知っている、わざわざ帰ってくる必要もなかったかな?とも思ったが、やっぱり生まれ育った我が家はいいものだ、それに親父との将棋の対局もできる、高校一年生のときはまったく勝
てなかったが、今では勝ったり負けたりと、いい勝負になり、頭の体操にもなる、おかげで親父もボケていない。
 よく考えると金の斧銀の斧の話も、断片しか思い出せないことを思い、苦笑いをする。
 いつの間にか、息子が母の膝の上で居眠りを始めてしまった、これも母の持つ才能なんだろうか、すーすーと寝息を立てる息子の頭を母がなでる。
 なにもない一日、元気な両親、そして家族、なにも変わらない生まれ育った我が家、こんな何もない一日があってもいいかもしれない、いや、これ以上のものは望むことはできないだろうな。
 例え自分があと数日の命だとしても。


 「大金」「爆弾」「CD」