この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期

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1名無し物書き@推敲中?
即興の魅力!
創造力と妄想を駆使して書きまくれ。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。
(※感想のほしい人は、1行40文字程度の改行で、5行以上15行以下の作品を推奨)

前スレ
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
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関連スレ
「この三語で書け! 即興文ものスレ」感想文集第9巻
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097775566/
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/
2名無し物書き@推敲中?:04/10/17 07:02:14
過去スレ
この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
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この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
3名無し物書き@推敲中?:04/10/17 07:04:44
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/

関連スレ
裏三語スレ より良き即興の為に 第三章
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1086127811/



------------------小説形式のお約束事項--------------------------

○段落の行頭は一字下げる
○……三点リーダーは基本的に2個で1セット。なお「・」(中黒)は使用不可
○読点は「、」 句点は「。」を使用
○セリフをくくるカギカッコの最初の 「 は行頭一字下げない
○「 」カギカッコ内最後の句点は省略する

-----------------------------------------------------------------
4名無し物書き@推敲中?:04/10/17 07:07:03
お題は前スレ最終作品の投稿までしばし待たれよ。
5名無し物書き@推敲中?:04/10/17 18:05:23
>>3といった勝手に決めたルールは無効です。
いつものように、1のルールを守って投稿してください。
一字下げについては、やりたい人だけどうぞ。
61/2:04/10/18 12:50:34
初投稿です。不備があったらごめんなさい。

お題「カレーパン」「不倫」「ケチャダンス」

 きついアイラインの舞台メイクを施した 女性がテーブルの上から
私に微笑みかける。
「これ……何?」
 思わずそれを手に取った私の言葉に、彼は カウンターキッチンの
向こうから振り返った。
「あー、それ?」
 彼は一瞬だけ私の手元を確認すると、手を 止める事なく答えた。
「うちの。今ケチャダンス習ってるんだって」
 そう、とつぶやきながら私は手に取った写真を元の場所に戻した。
外資系のホテルに勤務する彼の妻が、単身赴任でバリに行ってから
そろそろ半年だ。二人の間に子供はなく、それはキャリア志向の彼の
妻の意図でもあったようだが本当の所は私も知らない。このきついメイク
ではわからないが実際の彼の妻は仕事一途というのが嘘だと思えるくらい
あどけない顔立ちをしている。私とは、正反対の。
 休日の午後、郊外の一戸建てのキッチンで料理する男性を見守る女性。
絵に描いたような幸福だ。私達が本当の夫婦だったならの話だけど。
72/2:04/10/18 12:51:07
 私と彼は学生時代の友人でいわゆる不倫の関係ではない。彼が無造作に
妻からの手紙を出しっ放しにしているのも、そのせいだ。
 料理好きで一人で食べるのが寂しいという愚痴に私は付き合ってあげているだけ。
「今日は何を作ってくれるの?」
 前回は平目のカルパッチォと茄子のパスタだった。その前は懐石風のランチ。
「カレーパン」
 意外な料理の名前に私は唖然とした。
「中味はキーマカレーベースだよ」
 私の驚きに構う事なく彼は膨らんだドゥにオイルスプレーを吹きかけている。
「揚げずに焼くのがコツなんだ」
 彼は天板をオーブンに納めると換気扇の下に立ってタバコに火を点けた。
かつてこの家で妻と暮らしていた時の習慣なのだと思う。なぜかその気遣いを見て胸苦しくなった。
「ごめん、煙そっちに行った?」
 私の表情の変化を読み違えたのか彼は慌ててタバコを消した。
「大丈夫よ」
 私は笑顔を彼に向けた。オーブンからは、そろそろ小麦の焼ける良い匂いが漂い始めている。

次のお題
「薔薇」「しめじ(キノコ)」「自転車
8名無し物書き@推敲中?:04/10/18 17:30:42
ヒサシは泣きながら首都高速を自転車で爆走していた。
彼の愛族書だった薔薇族はその33年の長い出版期間を経てついに廃刊に追い込まれたからだ。
そのことを知ったのは趣味のインターネットであったが、薔薇族が廃刊に追い込まれた一つの理由に
インターネットの普及によるものがあることを知ったヒサシはその日のうちに自分のパソコンを売り払った。
ハードディスクにはヒサシが集めに集めたゲイ物の動画、写真、漫画などが保存されていたが
それを失うことを躊躇することも思いつかないほどにヒサシの心は熱く昂ぶっていた。
ヒサシはパソコンを売り払って手にした3万5千円の全てをハイウェイカードにつぎ込んだ。
このカードを全て使い切るまで走ることにしたのだ。
しかし自分が車をもっていなかったことを失念していたヒサシは仕方なく自転車、正確にはママチャリで高速道路を爆走していた。
「薔薇族!薔薇族!俺はお前にまだお別れを言っていないのに」
薔薇族で何度もお世話になった複数の男の陰茎がまるでしめじのように立ち並ぶが挿絵が脳裏に浮かんだ。
大事なオナニーの思い出が、この日遠い思い出になってしまったことを感じ、ヒサシはスピードを出すために前かがみになった。
走ることでしか今はこの心の昂ぶりを抑えられず、ペダルを踏むヒサシの足を激しく揺さぶりながら血は股間へ集まり熱を発し、そして心臓へと流れ込む。
火照る体を自ら苛め抜くことがヒサシが今出来るたった一つの弔いの手段だった。
軋む車輪、シャカシャカと揺れるカゴ、風に当って震える鈴、そして声帯を激しく震わせて泣く男の泣き声。
弔いの声が東京の夜を悲しく奏でる。
9名無し物書き@推敲中?:04/10/18 17:37:32
次のお題を書こうとしたら文字制限に……。
次のお題ですが
「チャンネル争い」「カーテンレール」「肉汁」
でお願いします。

あと
×立ち並ぶが挿絵が脳裏に浮かんだ。
○立ち並ぶ挿絵が脳裏に浮かんだ。
に脳内変換しててください。
10名無し物書き@推敲中?:04/10/19 19:17:13
ただいま、どうした、あかりもつけないで?なんだ、そんなところにすわって
なにそっちむいてるんだ。 ひろしは?はなこはどこだ。まだ帰ってないのか。
ん、お仕置きしたって、何で? チャンネル争い?
ふーん、押入れかな、いないな、どこにいるんだ?
なんだこのにおいは。おおきななべだね。なに煮てるの?いいにおいだね。
白いね 、肉汁が。豚かな。しかし、おおきな鍋だね、こんなんあったか?うちに。
おいおい、これは、牛刀じゃないか、牛さばく包丁だよ、買ったのか?
なにさばいたんだよ、すごいね。
買い物?ああ、買ってきたよ。カーテンレール。
しかし、どこにいるんだ、ひろしとはなこ。

「妻梨」「香華」「召人」
11名無し物書き@推敲中?:04/10/19 20:02:17
その人が「香華って知っている?」と聞いた。「ラーメン屋か?」と僕が言うと、
その人は僕の質問など聞こえなかったのか「じゃぁ、妻梨なら知っている?」と続けて聞いてきた。
「20世紀梨の親戚みてーなもんか?」僕が聞いたのだがその人は相変わらず何も答えなかった。
「じゃぁ召人って知っている?」とその人は続けた。
「鵲の橋って知っている?」と僕は聞いた。
「じゃぁ、織女って知っている?」とその人は聞いた。
「давёって知っている?」と僕は聞いた。
「お前は誰だ?」と僕は聞いた。
「お前は誰だ?」とその人は聞いた。
「お前はオナニーだよ」と僕は言った。
「じゃぁ、黄葉って知っている?」とその人は聞いた。
「何でも知っているんだね」と僕が言うとその人は「私、頭良いでしょう」と言って笑った。
「さよならだよ」僕はその人に向かって手を振った。
「じゃぁ、さよならだよって知っている?」とその人は聞いた。



NEXT 「万葉集」「日本舞踊」「召使い」
12名無し物書き@推敲中?:04/10/19 20:39:07
一本の、梨の木下で、処刑が、始まろうとしていた。
召人は、男たちに囲まれて、ぶるぶると震えている。男たちはここらで見かけない風をしていた。
聞いたこともない言葉が彼らの口から出る。 男たちの、目じりは裂けている。男たちは召人が
この世で出遭った、どんな男よりも、小さかった。しかし、手に手に光るものを持ち、それが、
一閃すると、草は、葉末が宙に舞い、木々は倒れた。男たちは、召人の濃い髭をあざ笑い、長い膝を蹴り上げた。
まったく、突然現れたこれらの、凶暴な男たちに、彼の村は一瞬にして、血の海と化したのである。父母も、兄弟もみんな殺された。
子供もすべてが、あの、光るものによって、滅ぼされたのである。妻はどこかに連れ去られた。
首が差し出された。眼のうらが真赤になった。男たちの高く笑う声を聞いたような気がした。そして、闇が訪れた。
香華を手向けてくれるものはどこにもいない。

妻梨は、別々に使用させてもらいました。
   
13名無し物書き@推敲中?:04/10/19 21:08:36
「万葉集」「日本舞踊」「召使い」

「万葉集はどう考えても固有名詞でしょう」と女が言った。
「うん」と男がうなずく。
「さすがのあなたでも屁理屈の言いようがないのね」
「屁理屈なんて言ってないよ。そもそも、屁理屈なんて言う必要もないしね」
「あら、そうかしら」と女は言って給仕人を呼び止める。

「醤油を持ってきてくださる?」と空の醤油さしを振りながら女は言った。
「まるで召使いに言ってるように聞こえるよ」と男は少し笑いながら言った。
「そういうのを屁理屈って言うのよ」
男はなぜそれが屁理屈なのか分からなかったが、それを質問しても意味がないことは知っていた。

次の話題についていろいろ考えをめぐらせ、男は言った。
「日本舞踊は固有名詞じゃないよね」
「それはそうよ」と女は言って、シュウマイに醤油をつけた。


「愚民」「存在」「印象」
彼は玉座に座りなおすと、大きくため息をついた。
国民達の要求に応じて行なった、数々の政策が思い出される。
半ば誘拐に近い形で行なわれた政略結婚。弱小異民族の僻地追放。
軍備拡張。中央集権化。そして、圧倒的戦力による、侵略と破壊。
なにもかもすべて、国民達の要求で行なったのである。それなのに。
「愚民どもが」
つぶやいた。呪詛ではない。ただ、あきれ果てただけだ。

玉座の間の扉が、大きな音を立てて開いた。鎧をまとった小柄な少年が、
不釣合いな大剣を振り上げ、こちらへと向かってくる。
どこにでもいる少年だ、と王は思った。特に印象に残るようなところはない。
こんなちっぽけな存在が。とるに足りない、辺境の異民族の小僧が。
「私の魔竜王国を、滅ぼしたというわけか」
声に出してみたが、新たな感情は何も湧いてこなかった。ゆっくりと立つ。
なにもかもが、もう嫌になっていた。 破壊し尽くす。 それだけを思った。
「死ね、勇者とやら」
手足が巨大化し、うろこに覆われた。尾と翼が生え、顔も変形を始める。
なにもかも、自分自身までも、破壊し尽くしてやる。その思いが、頭を支配する。
竜王は翼を広げると、戦いの開始の合図のように、ひとつ鋭い咆哮をあげた。


「ミスマッチ」「限定」「圧迫」で次どうぞ。
お母さんが今朝からソワソワしています。
無理もありません。
だって今日はジャスコの大バーゲンだからです。
朝からお母さんはチラシに穴が開くほど、いいえ実際穴が出来るほどの筆圧でチラシにマーキングしていました。
この日ばかりはお父さんも「おい母さん新聞を見せてくれ」とは言えません。
今日のお父さんはキヨスクで産経新聞を買うと思います。
お父さんが出かけた後、お母さんはNHK連続ドラマ「天花」を見終わったと同時に寝室へダッシュして化粧と洋服選びを始めました。
お母さんは三十分ほど化粧台の前で一人ファッションショーを行い、ようやく本日の衣装が決定したようです。
今日の衣装は赤・白・黄色の薔薇の模様が眩しいホワイトのワンピースです。
ウエスト周りが激しく圧迫されているのを子供の私の目線からでも確認出来たことに少しだけ悲しくなりました。
でも年甲斐もなく衣装に気合が入るお母さんが私は大好きです。
そして一時間のメイクが終わったらやっと出発です。
玄関で靴を選ぶときも赤のミュールを履いて、緑のジョギングシューズを忘れずにもっていくことにしたようです。
恐らく開店前にジョギングシューズに履き替えて目的の売り場まで短距離走する気です。
緑のジョギングシューズとカラフルな薔薇のワンピースはミスマッチですが、
一時の恥を選び最終的に勝ちを手にするのがお母さんのモットーなので私は何も言えません。
お母さんは私を助手席に乗せて運転している間
「卵はお一人様限定二パックまで……卵はお一人様限定二パックまで……」
とずっと呟いていました。
そしてついにジャスコに到着しました。
ですが今日は台風の影響でジャスコは臨時休業になっていました。
お母さんはとても悲しそうな目をしながら私の頭を撫でてこう言いました。
「卵なんて近くのスーパーでも構わないわよね」
「お母さん」
お母さんと私は暴風雨の中、車内で抱き合いながら泣き続けました。


次のお題は「崩壊」「目薬」「紳士服」です
16名無し物書き@推敲中?:04/10/20 21:11:32
点火終わってるじゃん
17名無し物書き@推敲中?:04/10/21 17:02:25
「崩壊」「目薬」「紳士服」

TVゲームにも飽きたのか、コントローラーを放り投げて兄貴が言った。
ことわざにいう、二階から目薬の実験をすると。俺はさからうのもなんだから、
言うとおりにした。
兄貴が二階の物干しから身を乗り出す。庭にいるおれの眼をめがけて、目薬を落とそうとしている。
物干しの手すりから身を乗り出し、でっぷり飛び出した腹を圧迫し、真っ赤にうっ血した顔を差し出す。
その手には小さな目薬がぷるぷると震えている。物干しのてすりは兄貴の体重を支えるには華奢に出来ていた。
大きな音とともに崩壊、俺の上に目薬の一滴どころか、兄貴が落ちてきた。俺はかろうじて身をよけたからよかったが、
兄貴は、庭の土に、めり込まんばかりに落下した。したたか、アタマをうったらしい。病院にかつぎこまれて、兄貴はうわごとを始めた。
 「紳士服」兄貴の口から思いもかけないことばが出る。
「紳士服がなんだって?」「紳士服」なんだかわからない。
「紳士服」朦朧としたアタマから出てくる言葉で、誰もわからなかった。
「紳士服がほしいんでしょうかねえ」母が言う。「あるぞ、青山に、3着1万で」とオヤジがつぶやいた。

「すぐれもの」「巣篭もり」「素潜り」
18五十歩千五百歩:04/10/24 05:49:51
「すぐれもの」「巣篭もり」「素潜り」

 さて、打ち上げだ。などと少々の気合を入れつつ、僕は何の打ち上げかも知らない。いわゆる「動員」されただけ。まぁ、ある程度女の子が来るらしいから、気合が入ろうと言うもの。
 駅前での待ち合わせ、きっちり5分前に着く。我ながら中々のサラリーマン振り。って、サラリーマンになったはずなのに、大学生に動員かけられるって…。
 とりあえず、面子がそろった所で、ニヒルにタバコをひっかけ、愛用のジバンシーで着火。趣味の良い娘ならこんな僕に、なんて思いつつ、大学生の女の子じゃこんな趣味はないだろう。
 年下で僕の趣味が分かるアダルトな感性を持ちつつ何処か抜け目が無い。それで居て、ガードの固さは程ほど。いないだろうなぁ、そんなすぐれもの。
 やっぱり、スーツは失敗だったか。
 人は見かけによらないと言うけれど、センスとはみかけに反映してしまうもの。いくらダークなスリーピースに細めのタイを締めたとしても、そしてどう百歩譲ったとしても、サラリーマンに見えてしまう。
 それこそ、シュノーケルしてたら素潜りだろうと言われるくらいの勢いだ。
 あぁ、再びスーツは失敗だった。
 しかし、めげていても仕方が無い。ようは目的さえ果たせれば良いのだ。逆に目的を果たせなきゃ、酷い間抜けだ。そしてその目的とは、3度目だ。当然、女の子。
 「平凡」
 そう、服装も平凡なら面だって平凡、身長体重だってご同様。財布の中身だって親の年齢だって平凡。残された目立つ方法はただ一つ。ユーモアのセンス。
 ってなわけで、今日の口説き文句はコレで決まりだ。
 「僕と巣篭もりしてみない?」

「うっちゃり」「みかん」「鎖」
19名無し物書き@推敲中?:04/10/25 06:47:58
age
20名無し物書き@推敲中?:04/10/25 12:08:56
「うっちゃり」「みかん」「鎖」


きまりては、うっちゃりだった。
土俵際での、みごとなねばり。さすがは横綱。
解説者の興奮した声が、テレビから聞こえる。
それを軽く聞き流しながら、私は、から揚げを揚げていた。
ひろ君は、さっきからテレビを真剣そうな顔でじっとみている。若いのに相撲好き。
だいたい、私の好きになるやつは、ヘンな好みをもっている。
ひろ君も、なんだかねばっこくて、濃い匂いがする。
普通の女の子なら、その濃い匂いに気づかないか、気づいても、ああ私にはちょっとねと言って黙ってしまう。
そういう人種だ。
私はまるで鎖につながれた犬のように、ひろ君の匂いにむせそうになりながらも近づいていく。
みかんを食べながら、ひろ君は言う。
「みたか、いまのすごいうっちゃり」
すごいうっちゃり、私はもごもごと口の中でおもしろい響きの言葉を転がしてみた。
粘って粘って、最後には勝つ。
「ああ、いかにもひろ君のすきそうなわざ」
ひろ君が奥さんと別れてくれて、私と結婚することになったら、それはまさにうっちゃり婚だ。
奇妙なおもいつきに、ひとりでくすくすとわらいだした。

「まほろば」「チーズ」「ミルク」
21「まほろば」「チーズ」「ミルク」:04/10/25 16:19:41
君の肌はミルクのような香りがする、と私が言うと、
彼女は、女だもん、とそう言ってはにかむような顔をして笑った。

大昔、大陸では日本の事をまほろばと呼んでいた。
「ほろば」とはサンスクリット語で東を意味する単語で、
つまり、要するにまほろばとは真東という意味だ。
彼女は、西からやって来た。
浅黒い肌、心の奥底まで見通すような漆黒の瞳。
運命というものが存在するならば、彼女との出会いがそれだった。
私は一瞬で恋に落ちた、君もいつか知るかもしれない、一瞬で恋に落ちる、
そうだ、それこそが運命なのだ。
二人で残った夕日が差し込む研究室で、サッカー観戦のデートに誘う、
あの時、私の声はきっと情けなく震えていたに違いない。
彼女がどうして、私の不器用な告白にうなづいてくれたのか、
彼女が帰らぬ人となってしまった今、私はその理由を知る術を持たない。

彼女の両足を肩に担ぎ上げ、私は彼女の性器を舐めんと顔を近づけた。
ナポレオンが夢で見たジョセフィーヌとは異なり、
彼女のそこからチーズの臭いはしなかった。
私がそうしているように、彼女もおそらく、私の臭いをあちこち嗅いでいるに違いない。
セックスは恥ずかしいな、と私は思った。
こんな恥ずかしい事は愛している人としか出来やしない、と私は思った。

「友達」「砂糖」「ヒル」
22名無し物書き@推敲中?:04/10/25 16:21:25
喫茶(まほろば)は、閑散としていた。カウンター近くに一組の、少年少女。
「マスター、まほろばってどういう意味?」少女がたずねる「なにふるえてんの?」
少女が笑って、少年の顔を覗き込む「え、いやなにその、・・・美しいところ、いいところっていみじゃなかったけ」
気をとり直すように、少年は続けた。
「昔の日本にも、チーズがあったんだって」
「醍醐味っていうんでしょ、知ってるよ。TVでやってたもの」
店のドアが開いた。一見して「その筋の人」大小が入ってきた。少年(・..・)
「コーヒー」野太い低音が店をふるわせる。二人をチラッと見やり、にやりと笑う。
タバコを取り出しながら「いいねえ、青春」「でましょうか」少年小声で
「いいじゃない、べつに」少女。普通の声で。「マスター、まほろばってどういう意味だよ」
その筋の人が尋ねる「魔法のロバじゃないすか。ヒヒヒヒ」と、小。
「いいかげんなこというんじゃねえぞゴルァ」少年の口から思いもかけない言葉が出た。
マスターが、コーヒー茶碗を落とす。少女はあっけにとられている。その筋の二人は、さらに、あっけに取られた。
「なにぽかんとしてんだよああ?あほづらさらしやがって。おお?」止まらない、自分でもとめようがなくなっている。
どうなるのであろうか、しーらないっと。私は、早々に店から出て行った。


次は「軽乗用車」「ストーカー」「虚栄心」
23名無し物書き@推敲中?:04/10/25 18:19:32
「友達」「砂糖」「ヒル」

友達あなた友達、真っ黒い男が、僕の肩を抱いて顔をこすり付けてくる。
野獣のにおいがする。同じ、人類か、これ、とぼくは、びびってしまう。
どうしても、生理的に、うけつけないものがある。ボクの握ったすし食べてね
と片言の日本語で言われて、僕は、不承不承 、その、なんともいえないすしを
手にする。おいし?ね 、おいしい?口に入れる前からもう、感想きいてくる、おんなかおまえ。
りっぱな黒人のくせに。見守っているので、恐る恐る口に運んだ。ウウウウあまい。何だこれわ。
あまい。塩と砂糖を間違えたのかと思って、質してみると、違った。確信犯だった。
砂糖のほうが断然うまいと聞かない。これも食べてよ、といってビンを開ける。塩辛だろうか、
なんだか、ぬめぬめしたものが、びっしり詰まっている。おれ塩辛嫌いなんだ。わるいけど。
しおからないよ、しおからない、たべてみてよ 、いいから、タベナイノカヨ、ミズクサイゾ、
ぎょろりとにらみつけられてはたべないわけにはいかなかった。これも恐る恐る口に運ぶ 、
なんだこれ?なんだよこれ?しりたい?コレ、ヒルダヨ、ヒル?そう、ひるだよ、おいしいだろ?        
  (゚д゚)

次は「軽乗用車」「ストーカー」「虚栄心」です。
24五十歩千五百歩:04/10/26 20:35:18
「軽乗用車」「ストーカー」「虚栄心」

 舗装されてない田舎道を行くのは、嫌いではない。けれど、それは歩きに限っての事。板バネのサスペンションじゃ、ゴトゴトとお尻が痛い。
 それでも天気が良いし、何となく気分も晴やかだから、窓を開け、タバコを一服。
 そう言えば、昔付き合ってた娘に言われたことがある。
「なんで、軽トラなのよ? ドライブにも行けやしない」
「引越の時に便利だろ」
「せめて、軽乗用車にしてよ。ホント、ドライブにも行けやしない」
 きっと、あの娘はドライブが死ぬほどしたかったのだろう。そう言ってくれれば、レンタカーくらい借りたのに。
 空調はおろか、パワステさえついていない5MTで鍛えたドライビングテクニックは伊達じゃない。その辺の外車の小僧くらい、レンタカーで煽って見せるさ。なんてのは酷い虚栄心。ハナの無い軽トラで鍛えたドラテクなんて、車庫から出すだけでこすってしまいそう。
 こんな事を思い出すなんて、我ながら少々未練がましい。けれど、ストーカーになるほどの気力も根性も無く、そしてさよならを言うだけの度胸だけがあった。
 ハイライトを咥えて、軽トラを転がして、さらに半そでを肩まで巻くりあげ、そんな田舎の農夫マガイがいまさらノスタルジックもないだろう。
 良い天気で、お尻が痛くて、あぁ、タバコが旨い。
25五十歩千五百歩:04/10/26 20:36:04
失礼、お題忘れてました。
「旋律」「神様」「リンドバーグ」
26名無し物書き@推敲中?:04/10/26 20:58:26
27五十歩千五百歩:04/10/26 22:22:45
>>26
失礼、偉大な冒険家だから、所謂固有名詞とは違うと認識していました。
「旋律」「神様」「富士登山」
28名無し物書き@推敲中?:04/10/27 03:53:03
富士山って何種類もあったっけ?
29名無し物書き@推敲中?:04/10/27 04:11:49
こういうのはお題継続でいいんじゃない?
30名無し物書き@推敲中?:04/10/27 10:41:47
「旋律」「神様」「富士登山」

「まってよお、おいてかないでよお」
「ぼやぼやしてると熊が出るぞ。食われても知らないぞ」
「食べやしないわよコンナ尻癖の悪いお釜、おいしくないわよ、熊だって、ひとめみりゃわかるわよ。
ってか、富士山に熊いんの?」追いついて顔を寄せて聞いてくる。まじかに見る白昼のお釜の顔って、
すごいものがある。ぞっとしてしまう。旋律。戦慄か。
清水の江尻に一泊。
富士登山を思いついたのは、お釜のkとの別れ話がこじれた挙句の、苦し紛れの一策だった。
富士山に登って神様にお願いすればいい知恵もうかぼうというものである。
困った果てに、神様にすがるというのは、尻暗観音のそしりをまぬがれないが、
ただれた関係を一掃するには、もう、神に祈るほかはないのであった。
「うわっ、この夕焼け!」さっきまでの弱音はどこへやら 、はしゃいでいる。
雲海を荘厳に染めなす夕映え。その感動に乗じて、俺は言った。「もう、終わりにしよう」
「でしょうでしょうでしょう、そうだとおもったわよ。登山なんて。いやっていったら、
ここから、おとす気?それとも、熊に、食べさせようって気なの」
まごまごしてると、また泥沼になると思い、俺は富士を一気に駆け下りた、尻に帆かける勢いで。
       
「溺死」「鼠」「人形」
31名無し物書き@推敲中?:04/10/27 11:49:54
 訂正      尻暗観音は、尻食観音の間違いです。
32名無し物書き@推敲中?:04/10/27 18:02:53
『溺死・鼠・人形』 
 
 溺死という選択肢を考えてみた。
 見た目だけを考えれば、確かに僕の体はいかにも浮いてしまいそうに見えるかも
しれない。
 でも大丈夫。ちゃんと沈むことは既に実証済みだ。
 ああ。それにしても、僕はどうしてこんなに行き続けてしまったのだろう。鼠に
かじられた時に見切りをつけるべきだった。こんな姿になってまで、生き続けるべ
きではなかったのだ。
 よし。明日必ず、ひと思いに海へ飛び込もう。水が染み込んでしまえば、僕の体
はもう二度と動きはしない。人形同然だ。
 ただ心配なのは、反射的にこのポケットから妙な小道具を出して、死を回避して
しまう可能性についてだ。
 そうだ。今日のうちに、この四次元ポケットを縫ってしまおう。

次は「カッター」「泡」「全貌」
33名無し物書き@推敲中?:04/10/27 22:22:11
「・・・そしたらさぁ、また険悪なムードになってるじゃん?」
嬉しそうに彼は語る。
「だからネ、ちょっとヤツラの頭を寒空の下に放り出して
やろうかと思って丁度、作成に使ってたカッターでちょっと
ベロを切ってさ、イカレた振りして暴れまわったのよ!!」
それがどうしたのか。まさか・・・?
「そしたら何故かあいつらが、泣きながら泡食って止めに
来ちゃってさ。その後からだぜ?ヤツラがおとなしくなったのは」
なんという事だろう!?これが伝説の14年間戦争終結の
全貌だったと言うのだろうか?
 ・・・まだ謎の部分をはらんでいるものの、俺は彼に対し
何とも言えない興味を抱きだした。

「絶望」「地下鉄」「金属」
34名無し物書き@推敲中?:04/10/28 11:40:41
「絶望」「地下鉄」「金属」

失ってしまった。
朝起きて、顔を洗い、鏡をのぞいて疲れた40才の自分の顔を見つける。
するといつも、その失ってしまったというシンプルな感覚がつきまとうようになった。
何を失ってしまったのか。
それは、自分でもよくわからない。
でもその感覚は、時間がたつにつれて、じょじょに強く深く、僕の体に染み付いていくようだった。
でも、絶望などという重い言葉は、もう忘れてしまった気がする。
ただ、感じるのは、そこにあるはずのものがないという喪失感。
なくしたものはなんだったか。
それは、簡単に名前をつけるとしたら、妻の里香と息子の康弘だ。
でも、その他の名前をみつけられないけれど失ってしまった大切でやわらかなもの。
僕はあれから9年以上たったいまも、まだみつけられずにいる。
簡単なサラダで朝食をすまし、部屋をでて会社へ。
取り残された、からっっぽの部屋。
この部屋は、9年前と何もかわりはしないのに、なぜか透明な淋しさが、そこらじゅうにこびりつくようになっている。
地下鉄のホームまでくると、すぐにいつもの電車がはいってきた。
ふいに、この電車が、どこか遠くまで僕をはこんでくれるような気分になる。
そのどこか遠くには、きっと僕が失くしてしまったたくさんのものが僕を待っているはずだ。
いやな金属音を立てて、列車は止まった。
目の前のドアが開く。僕は、乗り込むと、いつもの窓際の手すりにつかまった。
単身赴任を始めて10年目。
阪神大震災で里美と康弘を失ってちょうど9年目の朝だった。


「きらきら」「謎」「あらゆる」
35名無し物書き@推敲中?:04/10/28 13:00:50
『きらきら・謎・あらゆる』

「謎は謎のままでいいんじゃないか? 分かったところで、何かが変わるとは思えん……」
 元会社重役と思しき初老の男が、そんな風に投げやりな言葉を口にする。
「いいえ。私は、何故こうなってしまったのかがどうしても知りたいんです。きっとその先に
何らかの希望が……」
「はっはっは。あんたみたいな若いお嬢さんの言いそうなことだな。でもな、時には諦めることも大事だぞ」
 冗談じゃない。今日出逢ったばかりの人間の口から、そんな説教じみたセリフを聞きたくはない。
 私は風に翻弄され続ける髪をおさえ、先ほどから見ず知らずの男と立ち尽くしているこのビルの屋上から、周囲の町並みを見渡した。あらゆる物が動きを止め、昔どこかで目にした「東京大空襲」後に写されたモノクロ写真そのままの光景が、延々と広がっている。
「私たち以外にも、きっと生き残っている人がいるはずです!」
 強い衝撃を受けて気を失い、しばらくして地下鉄の駅から這い出した時にはこの様だ。何
が起こったのか、皆目見当がつかない。
「あ、海……」
 遠くに方に、きらきらと煌く水平線が見える。
「あそこまで行けば、誰かに会えるかもしれない。そうは思いませんか?」
 私の問いに、男は呆れるような笑みを浮かべた。
「ふふ……水辺に集まる動物じゃあるまいし……」
 それでもいい。とにかく今は、何か動く生き物が見たかった。この男以外なら何でもいい。
 とは言え、現時点での私以外の唯一の生存者とはぐれるわけにはいかない。私は彼の腕を力任せに引き寄せると、屋上にぽっかりと口を開けた階段に向かって、足を踏み出した。

次は「ショック」「騒音」「再会」
36名無し物書き@推敲中?:04/10/28 14:31:43
見つめる。息をする間ですらもったいないくらいのその時間。
少しの光も漏らさず留めておけるように見つめる。
さっきまでただの騒音でしかなかった音は、
今はっきりと意味を為す音として私の鼓膜をふるわせる。
軽いショック。背中に小さな手の感覚。
私が見つめる懐かしい光は、私が思うよりもずっと近くにいるようだ。
もう一度、今度は先ほどより少し強い感覚。光は大きくなって、私を囲んでいる。
ああ、もうみんながあんなに遠い。
そんなに悲しそうな顔をしないで。私は光との約束を果たすだけだから。
今も足に残る火傷の痕。あの火事の時、私はこの光と20年後の再会を約束した。
小さな手の主は20年前の私。光を纏って言葉を発する。
「迎えに来たよ」
私は微笑み、頷いて光に包まれる。
輪郭は薄くなり、形を為さない想念は上へ上へと昇っていく。
私も明るい光になれますように。
「───ご臨終です。」

お題は「弓」、「灰」、「都」
37名無し物書き@推敲中?:04/10/28 23:10:52
「やめようよ、照子ちゃん」
「いいから来なさい!」
照子はいやがる守男の腕をつかんで引きずっていく。
森の中。照子はあたりを見回し、ここいらでいいだろうと守男の手を離した。
突如解放された守男はころんと転がった。
「ひどいよ、照子ちゃん!」
涙目で抗議の声を上げた守男にひょいと投げられたのは赤い林檎。
「さあ、頭にのっけて立ちなさい」
照子は目を爛々と輝かせて笑った。
「やめてよ。失敗したら死んじゃうよ!」
「大丈夫よ。私は失敗なんかしないわ」
照子は弓を構え矢を番えた。石の森高校弓道部の主将、誰が呼んだかウィリアム・照子。
さすがに様になっている。
「ヒィッ」
守男は目を閉じた。両の脚はガクガク震えている。
「じゃ、いくわよ」
照子は弓を引き絞り、今まさに矢を放つ瞬間が訪れようとしている。
守男の脳裏に今までの人生が走馬灯のように流れていった。
といっても、守男のいままでの人生なんて大した事無かったので、流れていったのは
照子が山梨の田舎へ都落ちしてきて、同じクラスになってからの波乱の生活だった。
トスッ。
守男の頭の上に乗った林檎に照子が放った矢が突き刺さった。
「やった。大当たりぃ」
灰のように真っ白になった守男は滝のような小便を漏らした。
「あらあら、赤っ恥覚悟の大放出ね」
38名無し物書き@推敲中?:04/10/28 23:12:47
次の方は「腹巻」「小枝」「リュックサック」でどうぞ。
39名無し物書き@推敲中?:04/10/29 02:06:37
「もう帰ろうよ、ねえ帰ろうよう」
私はものすごく悲しい気持ちになりながら、農家の人が育てている柿の木によじ登っている悠くんを見上げた。
悠くんは私を見てもくれない。
楽しそうな目つきできょろりきょろりと柿の木を見回したあと、悠くんは木の中で一番大きな柿に目をつけた。
願いを込めて悠くんを見上げたけど、悠くんはするすると木をよじ登っていく。高いところの、しかも枝の先っぽにある柿目指して。
みしり、と小さな音をたててしなる音を聞いて、私は怖くて堪らなくなる。一杯入ったリュックを手が痛いくらいに握り締めた。
「悠くん落ちちゃうよ、やめてよ。柿なんて私の家にあるからあげる」
「俺はそんな小粒に用はねえんだよ」
口をつぐんでうつむく。なんだかお腹まできりきり痛い。それもこれも悠くんのせい。
でもしばらくそうしてる間に悠くんは柿の手前まで着いたようで、嬉しそうな声で私に叫んだ。
「ほら見ろ着いた!今から落とすんだから受け止めろよ!」
「…私受け止めらんない」
なんだかちょっと反抗してみたくなったのでそう言ってみる。
「うるせえバーカバーカ」
みし、とまた枝がしなる。悠くんはもう一歩手前だから今までよりちょっと大きく体を伸ばし、柿の実をがんと殴った。
みし、みし、ぎしり。でも柿の実は結構強いらしく、小枝からひっついて離れない。悠くんは、諦めない。
「やめてよもう!大きいのなら私が買ってあげるよ!」
ぎしり、と一際大きく枝がしなった。悠くんがしつこく実を殴る。
で、落ちてきた。でっかいのが。
…無理だよそんなおっきいの。受け止められないよ、私。言ったじゃない、言ったじゃない。
腹巻だってちゃんとしてきたのに、お腹と胸が痛くなって死にそうになった。でも受け止めなくちゃ。どうしても。
心臓がぎゅうと潰れるのを感じるより先に、私は手を突き出した。悠くんが、落っこちていた。

次の方「狸寝入り」「ナイフ」「足音」
40名無し物書き@推敲中?:04/10/29 02:46:50
眼下に広がる液体が赤色を伴っていることに気付くには、この寂寞とした漆黒の空間の中ではしばらくかかった。
赤色の液体と足元に無造作に落ちているナイフが、僕の視線の先にある狸寝入りしていると思われた人物に関わりがあると考える度に、僕の胃が固くなっていくのが分かった。
「死んでいる!?」
それは、確信というよりは揺るぎ無い疑惑と言った方が近い気がする。
恐怖心が募る度に、二の足が後退りしていく。
恐懼が満ち溢れた部屋には、僕の足音だけが何度もこだまして、僕の神経に染み出していた。

「傘」「時計」「教会」
41傘・時計・教会:04/10/29 10:07:13
黒い雲が空を、おおっている。落ちてきた雨の中、黒いこうもり傘をさして、
牧師はやってきた。教会のそばの、大木には、カラスの一団が、黒々と群れている
。いっせいに飛び立つ羽音は、大木の葉を散らし、牧師の耳にも響いた。
しかし、牧師は、一切の物音が耳にはいらないようだった。いや、物音のみならず、
周囲の事物一切が彼の意識に入っていないようなのだった。
それほどにも、いま牧師は、心奪われて、教会の中に入っていった。
「これは、黒魔術ですな」警部は、つぶやいた。
「確かに、これは、黒魔術です」牧師は答えた。祭壇には、うら若い女性が横たわっている。黒々とした髪が、祭壇から、滝のようにたれている。全裸で。
「金髪ですな、恥毛が。どっちを染めてんでしょうな」
「当然 、髪を染めてるんでしょう」
「金髪をですか?普通、ブルネットが金髪にそめるのはわかるんですが、
人もうらやむプラチナブロンドがそんなことしますかな?」警部は、懐中時計を取り出した「いや時間だ。じゃ、私は帰りますので 。後よろしく」帰っていった。

「夜勤」「病室」「うめき声」
42名無し物書き@推敲中?:04/10/29 11:49:51
「病室、夜勤、うめき声」

その病院は町外れにあって、昼なお暗い森を控えていた。
壁はうす汚れ、今にもくずれおちそうで、危うかった。
母親に 抱かれた子供が、其の壁の汚れを指差して泣ききだしたこともあった。
幽霊にみえたのである。
そこを出入りする人も、重病者ばかりのように、足元もおぼつかなく、
着ているものも貧しかった。
勤務する医者や看護婦の顔色が一様に蒼ざめていたのはなぜだったろうか?
そして、其の奥の病室には誰がいたか?
夜毎と聞こえるあのうめき声の正体は。
新人看護婦のある夜勤の夜に見たものは?乞うご期待!

「挨拶」「駅」「満月」
43挨拶、駅、満月:04/10/29 13:34:44
やまの端が白んでいた。
満天の星がいつか数えるほどになっていた。
「明るいね」
「月魄って言うんだよ」母は言った。
無人駅には、母とおれと、ふたりきりだった。
「いまどき、高校もいかせられんで、ごめんな」
都会に、調理師見習いで、就職するおれ。
「ちゃんと、挨拶だけはするんだよ、ほかのことはともかく、
そうしてれば、人はかわいがってくれるんだから」
「わかってるよ」
電車が入ってきた。一両だけの、電車が。
ゆらゆらと頼りない速度で入ってきた。
「ほら、月がでるよ 」母が言った。
山稜に、月が頭を覗かせている。頭を覗かせてから、五分とかからなかった。
山の上にぽっかり、満月が浮かんだ。満月だ。
おれとおふくろは、別離の悲しみをひと時忘れて、その満月に見とれていた。

「剃毛」「監禁」「乱交」
44高校生作家(自称):04/10/29 14:03:21
プラットホームに寂とした発車ベルが鳴る
「これで最後か・・・」
同僚は最終列車の車掌に挨拶した後に、ため息と共に言葉を吐き出した。
同僚の左むねにある私鉄のロゴを描いたファンネルマークが、月光に照らされて瞬間的に虹色に輝いた。
「仕方ないさ。いつまでも赤字路線のままではいられないから」
僕の建前が本音を制して口から出る。行き場のない悔しさを発散させるべく、僕は満月を睨めつけた。
満月はそれを嘲笑するようにより一層明るく輝きだした。
45挨拶、駅、満月:04/10/29 15:51:12
>>43
訂正  月魄を 月白に。
46剃毛・監禁・乱交:04/10/29 20:41:46
「おじいちゃん」ああ驚いた。
縁側で、うつらうつらしていると、背後から肩をたたくものがある。みんな留守のはずだったから。驚いたのなんの。
「あんた誰?孫の友達かね」「まあそんなものかな、いいお天気ね。散歩でもしたら?」
「うん?散歩はもうしてきたところだよ」「お昼ねちゅうだったの?」「まあそういうところだね」
わしの頭の残んの毛をつまんで、こういった。
「おじいちゃんの頭って、中途半端ね、全部剃っちゃいなよ、
剃毛しましょ。そのほうが、もっと、セクスィになるよ」といって、女の子はかみそりを持ち出した。
「そうかい、やってもらおうかな」かわいい子だったから、わしは、剃ってもらうことにした。
小春日和の縁側で、女の子が爺さんの頭を剃っている。のどかな昼下がり。縁側に、猫が帰ってきた。「あら、かわいい猫」
「帰ってきたか、向こうの墓場がこいつらの溜まり場でなあ、いつもじゃれあってるのがみられるよ、乱交ぱーてーじゃね」
「それにしても、あんたどこからあらわれたの?」「お部屋から」「泊まってたんかいな。いつから?」「3ヶ月になるかな」
「・・・・・・・」
「監禁されてんの」「監禁?」「そう、ずっと、監禁されてんの。おじいちゃんのお孫さんに」

「シャム双生児」「乳母車」「公園」
47名無し物書き@推敲中?:04/10/31 01:31:40
A「おい見ろよ。またあいつら乳母車で登場だ。いい年した大人が乳母車に乗っちまって。
見かけは大人なのに、子供の乗るべき乳母車に乗るなんて笑えないよ。」
B「まったくだね。いつになればあの大人…いや子供は自立できるのやら。聞いたかい?
あの子供、『僕達はシャム双生児のようなものだ。だから離れられない。』と主張してい
るそうだよ。」
A「ただでさえ笑いものなのに、そこまで行くと笑うに笑えなくなるね。公共の場である
公園にまで出てきて、あんな醜態さらしちまって。」
B「あの子供、乳母車なしじゃ、まともに外出できないんだろうね。外で見かけたと思っ
たら、近所の人に謝ってばかりいたよ。情けないったらないね。」
A「それは僕も見たことがあるな。あの近所の人の主張なんて、ちょっと考えれば嘘だと
わかることなのに、ただひたすら謝るだけ。怯懦な奴だよまったく。」
B「押している親の方もとんでもないことをしてたよ。なんでも、隣町に住んでいるちょっ
と厳つい風貌の人に対して、『うちの家を荒らしそうだ。』なんて無茶なこと言って、殴っ
ちゃったらしいよ。あんなに酷い言いがかりは中々ない。」
A「過去にもあの親は同じ様なことをしたよね。あれはたしか、今、乳母車に乗ってる子
供したんだったかな。」
B「その通り。今でこそ親子、いや飼い主とペットみたいな関係だけど、昔は仲が悪かっ
たんだよね。で、今の親が今の子供に対して無茶苦茶なこと言って、わざと喧嘩する方に
持っていったんだ。」
A「そして、子供は負けて、歯向かう事すらできなくなったと。被害者だと考えると、可
哀想だよね。あれだけ無茶なこと言われたら、喧嘩せざるを得ないからね。」
B「でも一回負けただけで、あれ程腑抜けになってしまうとは思わなかったよ。力の差が
ある喧嘩だったけど、あの頃の子供は輝いていたなあ。今は見る影も無いね。近所の人に
怯え、親にも怯えて擦り寄るだけ。親は親で無茶な言いがかりで何かと喧嘩したがるし。
この親にしてこの子あり。ぴったりな言葉だね。」
A&B「全くアメリカと日本って奴は……。」

次のお題は、「ベルト」「革命」「不朽」でお願いします。
48名無し物書き@推敲中?:04/10/31 15:08:55
「革命、ベルト、不朽」

パンがないなら、お菓子を食べれば、といったばかりに
マリィ・アントワネットは断頭台の露と消えた。
巨人はたいしたことない。と口走ったばかりに、3連勝のあと
4連敗くらって、日本一ふいにしたチームもあったっけ。
ベルトがあわないなら、サスペンダーにすればいいのにと 、社長に進言したら、
カムチャツカ支店に飛ばされた自分。まあ、女社長に、サスペンダーはきつかったか。
しかし、誠に言葉は恐ろしい。革命にも火をつけるし、負け犬をも奮起させる。
出世街道ひた走る男も、たった一言、ミスったばかりに、今では、カムチャツカ・・・
ゲーテの不朽の名言にもあったな「ちょっと待て、その一言が命取り」
ん、言ってなかったか?

 次は「牛」「修行僧」「強奪」なんかはどうでしょう。
49名無し物書き@推敲中?:04/11/01 20:42:47
牛の腹を切り裂いたら中から修行僧が出てきた。
「喝」とひとこといわれたので、驚いた私は、そのまま、牛の腹を、縫合して、
修行僧を其の牛の腹の中にもどしてしまった。それからだった、
夢にうなされるようになったのは。幾日も幾日も、其の夢は私を悩ました。
もがく、修行僧。牛の腹の中から出てこれない修行僧。
すき焼きも食べられなくなり、何者かに平和な日常を強奪され、
私は浮かない日々をすごしている。あのまま、修行僧を、
牛の腹の中に入れておいていいものか、誰か教えてくれないか。

「バーコード」「あめりか」「自然体」
50名無し物書き@推敲中?:04/11/01 21:03:35
市ねよ
実家のソバ屋を継ぐことになり、東京の零細企業を辞めて故郷に戻ってきた。
まだ五年しか経っていないのにずいぶんと変わったものだ。
私が故郷を去った頃はインベーダーゲームが流行っていたのに、
今ではバーコードバトラーが流行っている。
十年後あたりにはベイブレードあたりが流行るのだろう。
以前通っていた家の裏の定食屋はまったく変わらず残っていた。
主は、私が小学生の頃からよぼよぼの婆さんだったが、現在も健在だった。
婆さんは私のことを覚えていて、注文も聞かずに名物のあめりか定食を作ってくれた。
実のところ婆さんの料理はみんな野菜炒め定食なのだが、あめりか定食を始め何十通りもの呼び名があるのだ。
実際材料も微妙に異なっているのだそうだが、違いが分かるのは婆さん本人だけらしい。
故郷を去る前にほぼ全種類制覇したが、五年の間にまた新しいのが増えていた。
鼻血定食と自然体定食。次回とその次の回で食ってみよう。


「ゲバ」「事故」「スト」
いつも通りの朝食をとっている時の事だった。
「昨日も遅かったみたいだが、ちゃんと就職活動はしているのか?」
 厳格な父が、夜遅く帰って眠そうにしている兄貴をたしなめる様に言った。
「してるよ、昨日もその関係だったんだ」
 近所でも評判の優秀な兄貴が面倒くさそうに返す。
「何だ、そんな夜中に何処で何をすると言うんだ?」
「ああ、ゲイバーで面接だよ」
 一拍おき、父のズラがずれた。
 横で爺ちゃんの入れ歯が飛ぶ。母の湯飲みは割れ、婆ちゃんの目が輝く。
「なっ!ゲ、ゲ、ゲバ、ゲー……」
「ゲイ・バーだよ、兄貴そこで働くのか?」
 錯乱する父をほっといて普通にたずねてみた。
「ああ、まぁな、今度来てみるか?」
 そう言って兄貴は席をたった。返答したのは婆ちゃんだった。
「なんだ、何があったんだ、ストレスか?何かつらいことが……いくら世の中変った
とはいえ、まだまだ偏見は……風が吹いたからって……セットが崩れ……」
 呆けた親父はズレた話をぶつぶつ繰り返していた。
 その日以来、兄貴は事故死したことになった。
 兄貴、あっちの世でもがんばれよ。


「朝」「船」「底」
53名無し物書き@推敲中?:04/11/06 02:44:41
朝になったようだ。船の底から朝日が差し込んで来た。
もう幾度となく、天井にある船底を叩いている。転覆した時の衝撃だろうか、
小さいながらも無数の穴が開いている事は、苦労のすえここに辿り着いた僕達に希望をくれた。
穴の一つ一つではなく、穴が開いている事が形として、希望として瞳に映ったのだ。
後は一心不乱に船底を叩き、声を張り上げた。しかし、もう声はでない。
俺はいつまで持つのだろうか。隣で力なく横たわる彼女に視線を落とした。
まだ生きているようだ。俺は機械のようにただ情報を認識した。そこに感情はない。
それだけ俺の体力も失われていた。もうだめだ。そう頭によぎった瞬間、俺は一心不乱に叫んだ。
それは哀哭ではない。希望に満ちた叫びだった。彼女も起き上がった一緒に叫び出した。
お互い最後の力を振り絞った。
「ここだ!ここにいる!助けてくれ!」


「正月」「ランドセル」「第3セクター」
54中津川菜々実 ◆Flabby.Y0g :04/11/06 10:26:38
正月。
僕は毎年父方の祖父・祖母の家へ行く。いとこも来て一緒に遊び、僕は叔父さん叔母さんたちにお年玉をもらう。
今年はランドセルももらった。祖父の家は自分の家と近いけれど、お正月になっていとこが集合するとまた違う空気が流れる。
それもあいまって嬉しい。僕は歳の近い男のいとこに本屋に行こうと誘う。いとこはにやりと笑った。
母さんは行ってらっしゃい、寒くないようにね、と言って笑顔で送り出してくれた。何も気づかず。
祖父の家から100メートルくらい左に行くと曲がり角がある。そこを曲がってまっすぐいくと本屋だ。
母さんに手を振りながら、僕といとこは曲がり角まで走った。
曲がり角を曲がって少し行くと、どちらからともなく走るのをやめて歩き出した。二人は顔を見合わせて再びにやりと笑った。
本屋につくと、中には入らず左に曲がった。こっちには田んぼや野菜畑が広がっている。
そのまま横断歩道をわたって、ずっとまっすぐ行く。こんな田舎には似合わないほどのがれきの山がある。
ここに棲んでいる「彼ら」はこれを「第三セクター」と呼んだ。「彼ら」は、人ではなく「彼ら」という名前の生物なんだと主張した。
僕が「第一と第二はどこにあるの」と聞くと、彼らは笑って天に指をさした。少し怖かった。

「姫」「光」「花」
55「姫」「光」「花」:04/11/07 22:51:43
 ここは光溢れる花園。

 歴代の王達が遠征の記念に持ち帰った品々が所狭しと植えられた植物の楽園。
麗らかな陽射しが差し込む庭園には、大陸に咲く四季咲きの花を中心に、大陸でも
高所でしか見られない珍しい高山植物、北の寒冷地で雪解けに咲く薄青色の花や、
海を越えた島々で花開く原色の花果など、本来なら決して一つ箇所で同時に咲く姿
など見られないであろう名花・珍花の類が、お互いの美を競うように咲き誇っている。

 それぞれが放つ芳香も、決して他者の存在を寛容していないにも関わらず、この花
園全体では不思議と見事に調和していた。その芳醇にして濃厚な大気は、訪れる人
にまるで羊水に包まれた赤子のような安らかな心地を与えてくれる。

 そんな庭園の中でも一際目立つ大木の蔭で、白い大輪の花が静かに佇んでいた。
その真白な花は、春の穏やかな風に花弁をひらめかせながらも、ゆっくりと規則正し
く脈打っている。

「姫! 姫はここにござらんかぁ!」

 突如、庭園の静寂を打ち破るようにして現われた不調法者のつんざき声が、正面
入口方面から次第に大きくなって聞えてくる。

「おお、姫! やはり、こんなところにおらっしゃったか。さぁ、もう時間ですぞい」


 がんばれ、姫! 姫達の本当の冒険は今始まったばかりだ!



「神社」「飴」「写真」
56名無し物書き@推敲中?:04/11/08 00:07:00
「姫・光・花」
玉手箱を開けたとき、太郎は十八だった。箱の中から立ち上る煙が晴れてみると、
八十の爺さんになっていた。青春ひとっとび。太郎に青春はなかった。どうするよ。
返せ太郎の青春を。乙姫さまのとんだ贈り物。散々、太郎から搾り取った擧句、
地上でほかの女のものになるならばと、太郎を八十の爺さんにしちゃった。
乙姫の情けの玉手箱 、從來の解釋ではそういう。が、夲當は、
女の嫉妬の殘酷さがあの話にはあったんだ。
乙姫に、筆下ろしされて、女體の甘美さに目覺めた太郎、
乙姫樣に飽きちゃって、地上で、
いろんなおんなと遊びたかった。若いんだもの。十八なんだよ。
・・・それを姫は讀み取った。復讐の玉手箱。
花のかんばせも、しわくちゃの爺さんでは。ああ、氣の毒な太郎さん。
青春の光と影を味わうことなく、十八の紅顏から一足飛びに、
枯れてしまった自分をそこに見出したのでした。


57名無し物書き@推敲中?:04/11/08 01:12:47
「神社・飴・寫眞」

晝なお小暗い八幡神社の境内では、女の子が二人、遊んでいた。
自轉車が、二臺、神社の石疊の上に、立てられている。
石蹴りをしているらしかった。私は、あたりに人影がないのを見澄まして
近づいていった、さも、境内の寫眞を撮っているような樣子を取りつくろって。
しゃがんで、二人、何かを手にとって、まじまじと見つめている。ゆっくりと、
私も其の前にしゃがんで、みる。すっかり無防備な少女たち。下着の白がまぶしい。
私はカメラを構えて少女らをファインダー越しに覗く。フォーカスは、いうまでもない。
用意の飴を、ポケットから取り出す。「飴、食べる?」御河童が横にゆれる。
顏は笑っている。再度薦める。二人、顏を見合わせて、肩をすくめて笑い、
そろっと、手を伸ばしてくる。それから氣安くなった二人は、くすくす笑いながら私を手招きして、
神社の裏手に案内した。
濕氣た、神社の裏手に囘ってみると、二人は、なおもくすくす笑いながら、驚いたことには、
衣服をぬいでいるのだった。これは手間が省けるというものだしかし、最近のこどもはわからないなあ。
うれしさ半分不可解さ半分で、カメラを構えた其のときだった、背後に人の氣配「何をしているんですかこんなところで」
神社の禰宜だった。女の子たちが泣き出した。「だって、おじちゃんがはだかになれって」

「鮭」「三角關係」「歸郷」

58名無し物書き@推敲中?:04/11/08 02:51:53
>>57
漢字は正しく使おうね
59名無し物書き@推敲中?:04/11/08 06:37:29
「鮭・三角関係・帰郷」
馬鹿みたいだ。
平日の朝の10時に、牛丼屋のカウンターで気の抜けた顔をしている
三十路前の男は、あの店員にどう見えているだろうか。
前々から今日帰郷すると言ってあったのだが、実家は留守。
何故かドアの前に置いてあった昔の俺の通学かばんの中に
千円札が貼り付けてある裏の白いチラシが入っていた。
「お父さんと日帰り旅行に行ってきます。母より。」
だから、これでなんか食えと。ざけんな。
「おまたせしましたー」俺の前に差し出されたのは豚鮭定食。
手にしていた週刊誌を置いて箸を取る。
今の俺には衝撃的な三角関係など無縁のものらしい。
何もかも無くしたって、それくらいはまだわかる。
だが、寝る場所はある。少しうだうだすれば、またやり直せる。
そう思うと、陳腐な言い草だが、勇気が出てくる。
図々しい話だが。
あの両親の厚顔無恥は、しっかりと俺に受け継がれているようだ。
60名無し物書き@推敲中?:04/11/08 06:44:30
次のお題を指定すんの忘れた。
「ゴールド」「野菜」「三重螺旋」
61名無し物書き@推敲中?:04/11/08 15:46:28
「おとうさま、三重螺旋とはなんでせうか?」
「おお子供よ、おまへの好い度い事は、かうではないか?二重螺旋、さうだらう?
其れでさへ、おとうさまにはこたへる事がむつかしいのぢやが・・」
「さうです、其の二重螺旋でした。ぼくはまちがつてをりました」
「二十螺旋と云ふのは、子供よ、ぐぐつて見なさい、おとうさまにたづねるまへに、
まづ、ぐぐる事。さうすれば、おとうさまに恥をかかせないですむし、おまへ自身おとうさまのそばに來て、
ノネナール臭に惱まづにすむだらう、ね、わかつたかね」
「はい、お父樣、よくわかりました、僕も、お父樣の、加齢臭には、日ごろ、辟易してをりまして、
いつ言はうか、いつ言はうか、其の期をうかがつてをりましたが・・」
「おお、さうか、さうか、よくいつて呉れた、れいを云ひます。雄辯は銀、
沈默は金、ゴールドと云ひますが、此の御時節です、雄辯こそ金です。言ひかえねばなりません。
雄辯の出發こそ、まづ話してみる事、さうではありませんか、子供よ、よく言つて呉れました。
ところでお前は野菜はどうだね、好きかね?」
「野菜でございますか?」「さう、野菜、其の昂騰ゆゑ、お母樣がお困りの、あの野菜のことだよ」
「何故また?」「いや、事情があつてな、此れを使はねばお次にいけないのだよ」
「さやうでございましたか、また、あの、展開でございますね」
「さうだよ、もう、おちで、人を驚かすことなんか、みんなやられちやつてるからね、
 こまつたもんだよ、私たち白菜のものには」

といふわけでお次は「少年」「乱入」「殺戮」でお願ひします。
62名無し物書き@推敲中?:04/11/08 16:25:34
故郷へ向かうロートルの列車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。
流れる風景は、東京の大学に行くといって、家を飛び出した時とまったくといっていいほど変わってはいない。
きっと、小学校時代に始めて見たこの景色も、同じモノだったのではないだろうか。
こうして見ている内に、ふと、中学生時代の思い出が蘇る。
今からちょうど十年前、中学最後の夏。
私は幼馴染の少年達と共に、駅前通から少し外れた路地で遊んでいた。
その時、本当に偶然なのだが、中年のサラリーマンと思しき男が、一見してかたぎではない男にナイフをねじ込んでいるのを目撃した。
舗装されていない地面に伏せ、動くことのない人々と、黒光りする血溜りも。
そのひ弱そうな男は、屈強な大男から刃物を引き抜き、こちらへ向け襲いかかった。
殺戮の現場と男の行動に本能的な恐怖を感じた私達は、とにかく逃げた。
穏やかな日常に突如として乱入したスーツ姿の頼りなさげな中年に、街は騒然とした。
友人の一人は、途中で脚を切られ、大怪我を負ったが、命に別状はなかった。
賑わう商店街を走り抜け、人だらけの大通りを駆け抜け、鐘の鳴る踏み切りを通り過ぎ。

結局、その殺戮者は踏み切りで特急電車に轢かれ、死んだ。
あっけない最後だった。この思い出が恐怖をはらんでいないのは、自分自身、未だに分からなかった。

過去への旅を続ける彼を乗せ、カタカタと音を刻みながら、列車はただ、走り続ける。


次は「刀鍛治」「蝉しぐれ」「アスファルト」
 雲のずっと下のほうから日が昇ってきた。空は暗い紫に覆われていたが、西にある山々
は日に射し照らされて薄い青色に染まり出す。
 居並ぶ山々のとある中腹で、男が一人日の出を見ていた。辺りはまだ暗いまま夜の虫
が鳴いている。短く刈り込んだ白い頭髪に五本の指を立て掻きながら、男は足元に目を
落とした。アスファルトに白い線が浮かんでいる。その続く頂上に客の住む小屋がある。
 ひたと進むに従って辺りは緑を回復した。男の背に負われた大きな箱が日に当たる。
「まじぃな。はえぃとこ届かんと」
 登るほど息苦しく、足の重くなることに男は休み休み、それでも昼頃には小屋にたどり
着いた。夫婦らしき老男女が二人待っていて、着くなりお茶を用意した。男も疲れていた
ので休憩がてら招かれた。
「えれぃ遅ぅなってもて」
「それで材料と食料は大丈夫ですか」
「大丈夫でさぁ、急いで持ってきてぇ」
 荷を降ろすと男の方は材料を取り分けすぐさま鍛冶場へ戻ってしまった。
「刀鍛冶たぁ物好きでなぁ? こんなとこに住んどりゃぁ大変でしょう」
 細君はふふと笑って、次はまた一ヶ月したら来てくれと言った。辺りはもう夕暮れで、
男は遠くに蝉しぐれを聞きつつ頭髪を三度掻き混ぜた。

オーバーしたのでお題継続
64:04/11/13 13:50:13
刀鍛治 蝉しぐれ アスファルト

世界のバランスが崩れ始めていた。
最初に人々が気づいたきっかけは、どこの家にもある扉という扉の蝶番がぎりぎりと軋みはじめた
ことからだった。ふとした一人の主婦の、家のドアの調子が悪くてね…といった一言から、
あっという間に日本中、世界中の意見の一致をみるまでに時間は大してかからなかった。交通は麻痺、
工場も閉鎖、人々はメディアからの情報を失い、路頭に迷った。水道水までが赤茶色に変色した。
もはや中性的性質はこの世に存在しなかった。すべてが酸性に傾きつつあったのだ。当然ながら、
刀鍛冶のこの男も、鉄を打つ間に刃先から錆びつきはじめては仕事にならなかった。
男の飲むミネラルウォーターでさえ錆の味がした。職安からの帰り道、公園の木蔭で男は休んでいた。
男は蝉しぐれを浴びて、これからの生活について考えをめぐらしていた。子供がまだ幼かったのだ。
多くの人々が職を失ったが、この有り様では金など意味がありようも無かったものの、この男のように
職を求める人々は多数いたのだ。何より、どうしていいか分からずに、出来ることといえば職探しぐらいしか
なかったからだ。男は噴水のほうを眺めた。水の止められて浅くなった水溜りで子供たちが楽しそうに遊んでいた。
それから男は空を見上げた。昼間だというのに夕暮れのように一面が紅く染まっていた。
歩いて家に帰る途中、気温は40度を越えていそうだった。アスファルトを敷きつめた道路の所々からは
煙らしいものも上がって異様な臭気が漂っていた。何かしらの化学変化がおきているらしかった。
くらくらした頭のまま男が頬をつたった汗をハンカチで拭うと、それも赤茶に滲んでいた。
家に着いた途端に玄関で待っていた息子が飛びついてきた。男は一日中職安で立ちっぱなしだったので少し足がふらついた。
すると息子が残念そうに一言いったのだ。パパ、フラフラしてる。男はこめかみを押えた。男は脳みそまでが赤く染まるのを感じた。

『影』『月蝕』『高層ビル』
65名無し物書き@推敲中?:04/11/13 20:47:37
「そうか、今夜は月蝕だったなあ」。
男はふと、呟いてみた。
ここは高層ビル群の底に点在する小さな公園のひとつ。
傍らのケヤキの木が凍えるような月の光を浴びて、白い敷石に長く影を
落としている。
その月が明らかに奇妙な欠けかたをしている。
「月蝕なんて、この歳まで興味を持ったこともなかったのに・・・」
男は口元に微かな自嘲ともとれる皺を刻んだ。
掌の強張るような感触が男を現実に引き戻す。
月の明かりに手を翳すと乾いた血糊が先ほどの生々しい記憶を男に呼び覚ましていく。
「俺は人を刺してしまった」。
相手が誰なのかも知らなければ、顔も憶えていない。
行きずりの、そして刹那の出来事だった。
「今夜の俺は正常ではなかったな」。
男は他人ごとのように呟くと、もう一度明るく輝く月を仰いだ。
月はその下半分ほどに地球の影を映して清新な大気の中に浮いていた。
「地球も案外ちっぽけなもんだ」と思った。
「さて、行こうか」。
今度は小さく声に出して言った。そして男は歩きだした。

「山脈」 「緑」 「分水嶺」
66「山脈」 「緑」 「分水嶺」 :04/11/13 22:26:06
 緑の頭にシャワーをかける。適温のお湯を少しずつ。
4つであるが私は、頭を下に向かしてシャンプーをする。
「大丈夫か、ちょっと我慢しろよ」
緑は絶え間なく顔に流れる水を、小さな手で一生懸命はらう。
顔になるべく掛からないようにするのだが、後頭部に分水嶺があり、
耳の後をとおりシャンプーは顔に流れる。
「あとちょっとだよー」
きっちり洗い流して、顔をぬぐってやる。
「パパ、私我慢できたよ、偉い?」
弟が生まれてから、緑は誉められたがる。
「ああ、大きくなったな」
もう一度顔をぬぐってやる。緑は笑顔になった。
お風呂で子供の嬌声は響く。
「そろそろご飯よー」
妻の知子が呼ぶので風呂から上がると、ベランダから見える雄大な山脈が
夕日に照らされ赤々となっていた。
緑は「きれー」と裸のまま窓際による。
知子が緑ちゃん、服を着ないと湯冷めするわよと言った。

「テレビ」「みちくさ」「イデオロギー」

67そらまめ:04/11/14 09:21:22
「テレビ」「みちくさ」「イデオロギー」

 駅のまん前にあるスーパーKに立ち寄るのをやめて、すぐ手前にある路線バスを使って隣町のディスカウント・ショップに行く。
こういう日が週にニ回ある。土曜日と火曜日。テレビのアナウンサーは言う「本日は風が強いのでどうぞ皆さん、お気をつけください」
この手の「労い」の言葉もむなしく、私の心の中では空回りしている。
 バスの窓から眺める路地の樹木達が強風で斜めに傾いている。そして私も同じように、体勢を窓に寄りかけ、斜めに傾きながら運ばれて
いく。私以外の人達はこういうみちくさをよくするのかしら、それとも雑多な生活の中で我を日々殺しながら、辛うじて生存を保っている
のだろうか。そう思いながら、私は樹木達と心を共にする。
 彼らにもイデオロギーはあるのだ。本来の地で子孫を増やしたい。けれど人工的に植えこまれた樹木達には、そのことを伝えるすべも
なく、私と同じように、辛うじてここで生きているのである。

「針葉樹林」「カオス」「天秤」
68名無し物書き@推敲中?:04/11/14 11:14:49
「針葉樹林」「カオス」「天秤」

今日の昼飯と、カオス理論のレポート課題を頭の中で天秤にかけながら
暑い日差しの中、岩本町へ向かって歩いていった。
今日はレポート提出日だが、結局レポートは一枚も書くことができなかった。
ふと、ちりんという音が耳に入りわきをみると、風鈴屋の屋台が、涼しげに通り過ぎていった。
「どうやったら、あの風鈴の音がツンドラの針葉樹林に影響を及ぼすのだろうか?」
級友に頼めばなんということはなく、昼飯の時間中にレポートを写すことはできたが、彼の性格が許さなかった。
そんなことをつらつらと考えながら歩いているうちに、とうとう行きつけの定食屋へついてしまった。

「鉄瓶」「電送線」「縄文土器」
69名無し物書き@推敲中?:04/11/14 21:46:16
「電送線って一体何ですね?」俺は先生に聞いてみた。
「さあ、私もとんと現代文明に疎くてね。何でしょうね」と逆に聞き返されてしまった。
明日この辺一帯で大掛かりな電気工事があるらしいが、まあ商売の邪魔にならなければ何でもやってくれ。
俺のうちは代々古物商を営んでいて、この小さな店も中のガラクタも去年死んだ親父から譲り受けた物の一つだ。
うちの唯一の常連とも言ってよい先生とは大学で縄文土器の研究に没頭してるらしい、少し偏屈な50年配の男で、
まあ変人と言ってもいいくらい現代離れした感性の持ち主だ、とは俺の勝手な見立て。
今、先生は店の奥で一個の古びた年代物らしき鉄瓶に興味を持ったらしく、矯めつ眇めつ翳したり、
蓋を開けて中を覗いたりと忙しい。
俺は元々この仕事を仕方なくやってるだけなので、その鉄瓶のことなど何も
知らなければ興味もないし、買ってくれる人があれば、それでいいくらいの心意気だから、
「先生、よかったら持ってて下さいよ」と軽く声をかけると、「君、この鉄瓶の模様は
面白いな。借りていっていいかな?」ときたもんだ。
「先生、うちも商売ですから、そんなに興味があるなら買っちゃって下さいよ」と
言ってやると、「うん、でも今日はあまり持ち合わせがないから」と言う。
「じゃ、今手元にあるだけでいいですから」と言うと、先生は灰色の大きな蝦蟇口から
千円札を一枚取り出して「有難う」と言って嬉しそうに帰って行った。
俺は少し損をした気分になったが、急に人気のなくなった店の中で大きな放屁を一発放つと
そんなこともすっかり忘れて今夜の青年団の飲み会に思いを巡らせた。

「海」 「木漏れ日」 「そよ風」

70名無し物書き@推敲中?:04/11/15 01:04:11
海から上がって、男は砂浜を見渡した。
日に焼けた白壇のいろ。遠く見える高台に続く道のようだ。
そしてその色と競うかのように、緑に萌える松林がつらなっている。
頬をなでるそよ風が男の鼻に生き生きとした松の香りを運んできた。
命の息吹に自らの運命の皮肉を感じ取って、男は片頬をゆがめる。

「遅いぞ!」 木立のの影からもう一人、男の姿が現れる。
鼻すじの通った眉目秀麗な頤に、流行のハカマを粋に着こなす。
もののふとはかくあるべし!と清書してあるようだ。
だが今は待ちくたびれたのか、端正な顔を不機嫌にゆがめていた。
「なにをしていた!ムサッシー!」 声が轟く。
ムサッシーと言われた男は肩をすくめて無造作に伸ばした髪を揺らすだけだ。
しばし睨みつける。が、すぐに我を取り戻すと
「フン。心理作戦などこのコージッロには効かぬぞ」 と吐き捨てる。
ムサッシーはどうでもいいかのように頭のシラミを追い出しながら、
植物が生命を謳歌する場所で果し合いなどする人間の愚かさを思った。

そんな相手の顔をコージッロはおびえの現れと受け取った。
不敵に笑い、腰の得物に手を置いて宣告する。
「さあ! 今こそどちらが強いか決着をつけようではないか!」
これを聞くムサッシーの目の色が変わる。瞳が反転し緋色に燃え始めた。
同一人物とは思えない殺気がみなぎっていく。自らを戦闘モードに作り変えた瞬間だった。
言うが早いかコージッロも自身のモードをすばやく切り替える。
二人とも腰の原子破壊銃をいつでも抜き出す体制で相対した。
勝負は一瞬。
超人能力を持った宇宙武士は、瞬きの間に艦隊一個中隊を滅ぼせる力を持つ。
時が止まるほど張り詰めた時間が過ぎる。
と、木漏れ日の中でそよ風が松葉をなでる音。
それが合図だったのか、それぞれは銃を抜き放って――

「香水」 「蜃気楼」 「階段」
71そらまめ:04/11/15 07:48:38
「香水」 「蜃気楼」 「階段」
 
 彼女が手にしているのは僕の日記帳。芝公園の階段にしゃがみこんだまま
彼女は無言で僕の日記帳をパラパラと読んでいる。
 僕は彼女に日記帳を見られたことを知っている。
 何故って?
 それは僕の書斎のデスクに何事もなかったかのように置かれた僕の日記帳から、
彼女の香水が蜃気楼のように僕の嗅覚を刺激したからである。

「鶏肉」「レタス」「誤認」
72名無し物書き@推敲中?:04/11/15 11:03:33
 鶏肉をソテーして、レタスで包んだ。スパゲッティも付けてちょっとだけ豪華に
して多少の演出も加えた。これが僕の最後の食事である。つまりは最後の晩餐。

 僕は借金で首が回らなくなっていた。借金を自力で返す気力もなく、借金を
借りるときに無理やり入らされた生命保険で返すしか手はなかった。

 でも最後の気力を振り絞って当たる筈もない宝くじを買っていた。それさえも
外れてしまっていた。

 僕は鶏肉のレタス包みを食べながら宝くじを見つめていた。もう一度確かめて
見よう。新聞で確認していたのでインターネットでもう一度確認してみた。
 当たっている
私は間違っていたのだ。信じられない気分だった。僕は天国と地獄を行ったり来たり
忙しかった。この誤認のおかげで。

「スパゲッティ」「夢」「逮捕」
73名無し物書き@推敲中?:04/11/15 15:57:43
「君はいつもスパゲッティだね。よく飽きないね」呆れたような顔をして中年のの先輩が言う。
最近は言い訳をするのも面倒くさいので、苦笑じみた笑いで返すようにしている。
大麻密売グループのNO2と目されていた男の逮捕で一段落ついて、今は捜査本部近くの食堂で遅い
晩飯をとっているところだ。
「明日からまた忙しくなるぞ」。先輩の言葉を横に俺はスパゲッティを頬張りながら
過去に思いをめぐらしていた。
今は刑事という仕事をやってるが、かつては俺にも夢があった。
それは登山家になる夢だ。
「山登りでメシが食えるか」、親父をはじめ家族の猛反対でその夢を諦めざるを得なかったが、
刑事となって犯人を猟犬のように追い回す日々の中でも山への強い思いは消えない。
今の生活を捨てて、もう一度トライしてみようか・・・・

「おい、どうした。冷めるぞ。何ポカンとしてるんだ、こいつ」
年上の相棒が怪訝そうな顔で俺を見ている。
「ははは、ちょっと考え事」。急いで皿の残りをかっ込んでコップの水をグッと飲み干すと、
「行きましょうか。今日は俺に出させて下さい」と一気に立ち上がる。
「いいのか?」少し白いものの混じった先輩の無精ひげの恐縮したそぶりを見ながら、
俺はもう一度夢を追ってみようと思った。

「鍵」 「駅」 「薔薇」



74名無し物書き@推敲中?:04/11/15 19:43:53
「鍵」 「駅」 「薔薇」

彼女が道端で拾い上げた物は鍵だった。
番号の書かれたタグが付属している。
彼女は、それが駅のロッカーの物であることに気がついた。
丁度、暇を持て余していた彼女は、小さな鍵と一緒に好奇心を握りしめ、駅まで行くことにした。

鍵とロッカーのナンバーを照合する。
番号が一致すると、彼女は子供のように無邪気な笑みを見せた。
彼女からすれば、悪戯に似た気分なのであろう。
鍵を差しこみ、右に捻ると、開錠の合図である鈍い音と、小銭の落ちる小気味良い音が重なる。
宝箱を開けるような気分で、彼女は扉を開ける。
視界に入ったのは真っ赤な薔薇の束だった。
あまりにも赤く、人工のように不自然な赤色をしている。
そして、薔薇にはメッセージカードが添えられている。
「愛してる」
彼女は気がついていない。
人ごみに紛れ、にやりと口元を醜く歪めた黒いコートの男の視線に。

「真空」 「音」 「ガラス」
75名無し物書き@推敲中?:04/11/15 23:29:01
「真空」「音」「ガラス」

「これは受け取れないわ。ごめんなさい」
1年間片思いで好きだった女の子に振られた瞬間だった。
 僕はガラスのオルゴールを新宿のアルタで買っていた。何日も前から
何回も下見をして、一生懸命彼女への誕生日プレゼントを選んだ。
 辺りは3月だというのに季節外れの雪が積もっていた。何年かぶりの
積雪らしい。
 僕は絶望の淵を彷徨っていた。意識がない感じだ。どこを歩いているかも
わからない。
 その時、ちりりんと音がした。目の前から自転車が来ていた。それをよけ様として
体を翻した瞬間プレゼントが腕からこぼれ落ちた。道路に転がったオルゴールは見事に
車に押しつぶされた。
 僕はじっと押しつぶされたプレゼントを眺めていた。そして、押しつぶされた箱から
壊れたガラスのオルゴールをゆっくりと取り出した。同時に何か押しつぶされていた心が
軽くなっていくのを感じていた。僕はオルゴールを回してみた。
雪で覆われたまるで真空地帯のような世界にオルゴールの独特の音色が響き渡った。
これで明日から生きていける。そんな気がしていた。

「ハンカチ」「リモコン」「辞書」
76そらまめ:04/11/16 08:07:51
「ハンカチ」「リモコン」「辞書」

 リモコンで裏部屋への扉が開くしくみになっている。そこは別世界。
ありとあらゆる国、時代の「辞書博物館」。僕は濡らしたハンカチを手にして、その
書庫の中へ足を踏み入れる。できるだけ埃を舞わせないように、静かに通路を
歩く。
探しているものは、ナポレオンの辞書。
『我が辞書に、不可能という文字はない』
そしてそれを証明すべく、ナポレオンについて描き残された書物を、一番上の棚から
そっと下へおろすのである。
 その瞬間、突然書庫が真っ暗になった。
 誰かがリモコンのスイッチを押して、僕を書庫の中にとじこめたのだ。

「酸欠」「雪」「鍋物」
77名無し物書き@推敲中?:04/11/16 09:24:03
「酸欠」「雪」「鍋物」

2chのAA(アスキーアート)キャラクターである”しぃ”は捨て猫で野良猫だ。
捨て猫で野良猫だから、いつも箱に入っている。

大晦日の夜、淳一はメイドロイド夏美を、こたつの向かい側に座らせた。
こたつの上では、鍋物がぐつぐつと煮えている。
メイドロイド? ただのダッチワイフのくせしやがって、何が「メイドロイド」だよ。
表情の動かないお人形を見つめ、純一は瞬間的に激怒し、心の中で毒づいた。
すぐに気を取り直し、思い直して、自分の隣りに恋人のように人形を座らせる。
僕のアパートに君が来たのはクリスマスイブ、君のおかげで孤独じゃなかったよ。
そんなわけあるか。そんなわけあるか。
再び、激昂した純一は、窓から人形を放り捨てる。
おまえが来てからずっと息苦しくて、毎日が酸欠状態だったよ。
あばよ、人形の恋人。
あばよ、くそったれの2004年。
吹き込んだ風の冷たさに、純一は身をすくめて窓を閉める。
部屋の中は暖かい。

雪が降ると、今でも作者は昔の彼女を思い出す。
どうして、あの時、彼女の事を追いかけなかったのだろう。
ストーカーみたいな行動が、ちんけなプライドには許せなかったのか。
たぶん、おそらく、一生作者は彼女の事を悔やみ続ける。

「箱」「窓」「彼女」
78名無し物書き@推敲中?:04/11/16 10:10:52
「箱」「窓」「彼女」

 彼女は箱の中に住み着いていた。それはまるで猫のように。
彼女は僕の家へ来たその日に、ふらっと出かけていってどこからか人が
二、三人入れる大きな箱を拾ってきた。僕がその箱に入ろうとすると牙をむいた。
完全に拒絶するのだ。
 しかし、機嫌がいいときもある。そういう時は僕も一緒に箱の中で添い寝した。
 彼女は何年も引きこもって生きていた。さまざまな偶然と事情が複雑に
絡み合って彼女は僕のところに来た。家族は完全に諦めていてむしろ僕に
感謝さえしている。
 ある日、僕が仕事から帰って箱の中を覗き込むとそこには彼女はいなかった。周りを
見渡してもいない。ベランダ側の窓だけが開いていた。僕はベランダに出て下を覗き込んだ。そこには川が流れていた。僕は川が好きで川沿いのマンションに住んでいた。
 もしかしたら。でも人が浮かんでいる気配もない。何のメモの残っていない。どうなってしまったのか。僕にはわからなかった。
 彼女は何日たっても戻ってこなかった。
 僕は猫を飼ってきてたまに箱の中で猫と添い寝をしている。彼女をずっと待ちながら。

「写真」「ポケットティッシュ」「高層ビル」
79ドンキング:04/11/16 15:26:20
「写真」 「ポケットティッシュ」 「高層ビル」

僕は膝を抱えて海辺の松林の中に座っている。
顔を上げると白く輝く砂浜の向こうに青い水平線が見える。

ズボンのポケットを探るとポケットティッシュと共に1枚の写真が出てきた。
それは幼馴染であり恋人でもある富恵の写真だった。
去年の夏、湘南で二人で撮った中の1枚だ。富恵の陽に焼けた笑顔が眩しい。
僕は富恵を待っているのだ。

昨日、僕はとある高層ビルから飛んだ。救急車のサイレンの音を最後に意識が
途絶え、気が付いたら、この松林にいたのだ。
一月ほど前、僕は些細なことから富恵を殺してしまった。
そしてその日の夜に、この松林の今僕がいる辺りに埋めたのだった。

やがて日が傾き、爽やかな海風にもようやく冷たさが感じられ始めた頃、
僕の膝の下の砂がふいに盛り上がり、華奢な白い手が出てきて僕の足首を掴んだ。
どうやら富江が来たらしい。
僕は努めて明るく声をかける。「ヤア、富江。元気だったかい」。

「案山子」 「非常階段」 「飛行機雲」
80:04/11/16 21:05:29
案山子 非常階段 飛行機雲

とある日曜日、その日は蒸し暑く、湿気でシャツが肌に張り付くほどであった。
太陽はほぼ南中して真上から照らしつけており、そこを飛行機雲が串刺しに貫いたところだった。
男が案山子をかかえて歩いていた。小学校の校庭で児童たちに作られた案山子であった。数日前より完成に近づき、
漸く容をあらわしてきたそれを、男は毎日のように窺っていたものであった。いつか盗んでやろうと。
男はむしゃくしゃしていた。女に散々貢いだあげくに、男は捨てられたのだった。ショックで仕事もやめた。
あまりに酷い扱いだ。それからというもの、男はアパート向いの校庭で子供たちがはしゃいでいる姿を見る度に、
何か、心の中から憎悪にも似た感情が日に日に大きく翳をなしてきたのに気づいたのだった。翳はとうとう男をおおった。
そして男は案山子を盗んだ。復讐のために。
今、男は校舎の裏へ回り、非常階段のところまでやってきたところだ。傾斜のために、ここからはおぶうほうがよさそうだった。
俯きに階段をのぼりながら、案山子を屋上から突き落とす像を想像して男はもう悦に入っていた。翌日、子供たちが登校をして、
花壇の花々の中で横たわる、哀れな案山子の姿を見たらどうだろうか…。男は声にして笑ったほどだ、ひっひっひっ、と。
柵を乗り越え屋上についた。
屋上の日ざしは強く、歩く度に汗は頬をつたった。ちょうど校舎の中央、時計台の上辺りまで案山子を担いでいった。
背にずしりとのしかかっていた。いよいよ、目星をつけていた、一番目立つ場所にたどり着いた。男は俯きかげんで担いでいた案山子を降ろした。
案山子の足はトン、と音を立てて背後についた。そこで男はまた、ひっひっひっ、と笑った。しかし次の瞬間、その顔は引きつった。
背中の案山子は微動だにせず、男が背負っていたにもかかわらず、今ではまるで男の方がかかえられているとでもいったように感じたのだ――――
月曜日、朝早く登校してきた子供たちは戦慄した。屋上に翳が見えた。初めみんなは案山子だと思った。案の定、確かに案山子だった。
しかし案山子のほかにも何かあった。案山子の容に、まるで磔にされるものが…案山子には見知らぬ男が悶絶の表情でくくり付けられて死んでいたのだった。

「つめきり」「アルコールランプ」「地下室」
81悲しき半魚人:04/11/16 21:32:06
「案山子」「非常階段」「飛行機雲」

標高百メートルほどのウド山の頂上に出ると田園が一望できる。
足元からなだらかに広がる広葉樹林も赤に黄色に色付き始め、ようやく秋の訪れを感じさせる。
隆男は双眼鏡で眼下の村を眺めていた。
刈り取りの終わった田圃には所々に傾いた案山子が点在している。
来週の日曜日、ここで隣接する○○市主催のクロスカントリーレースが行われることになっている。
その最後の下見に市の職員の隆男は来ているのだ。
一人娘の繭が昨日、市役所の非常階段から落ちて怪我をして病院に入院した。
幸い左足の骨折だけで済んだが、一つ間違えば大変なことになっていたかもしれない。
怪我は勿論だがなぜ小学生の繭が市役所に来ていたのか、隆男にはその方が気になっていた。
実は隆男は今、妻の洋子との離婚を考えている。原因は妻の浮気にあった。
おそらく協議で離婚は成立するだろう。
しかし繭の将来を考えると逡巡せざるを得ないことも事実だ。
どうしたものか・・・・・・。

双眼鏡から眼を離して、空を見上げると、飛行機雲がすっかり秋らしくなった高い空に
鮮やかなひとすじの直線を描いて輝いていた。

「かんざし」「紫陽花の花」「橋のたもと」
82悲しき半魚人:04/11/16 21:35:34
ゴメンなさい。    スルーしてね。 m(_ _)m ペコリ!
83名無し物書き@推敲中?:04/11/16 22:55:52
「つめきり」「アルコールランプ」「地下室」

 男は殺人事件を起こして逃亡、自宅の台所の下に簡易の地下室を作ってそこに隠れた。
男は用心深くて電気も引かず、明かりはアルコールランプでとっていた。
 それでも男は我慢強く隠れ続けて、殺人事件の時効が1ヶ月を切ったころに、急に爪が
伸びていることが気になって妻に爪切りを持ってきてくれるように頼んだ。男は手と足の合計
十本の指の爪を丁寧に切っていった。爪が爪切りにたまる形のものだったので爪を切り終わると
丁寧にゴミ箱に爪を捨てた。そして男は妻に爪切りを返した。
 時効が1週間に迫った日に、事件当時担当していた刑事が男の家に訪ねてきた。
刑事は妻に男から連絡はないか確認しに来たのである。しかし、妻はまったく何もないと冷静に
対応していた。男はそのやり取りを心臓が潰れる思いで聞いていた。
 刑事はさすがに諦めて帰ろうとした時に、何かを踏んだ気がして靴下の裏を確認すると爪が
刺さっていた。刑事はぴんときた。刑事はその爪を気づかれずに持ち帰ってDNA鑑定をした。
殺人事件の現場に落ちていた髪の毛と一致した。刑事はあの家にずっと男が住んでいると確信
した。刑事は男の家に踏み込む準備を始めた。
 そのころ男と妻は時効が成立したらこの家を売り払って、新しい土地でやり直そうと楽しそうに
話していた。
 
「ボール」「グランド」「敗北」
84:04/11/17 00:31:54
ボール グランド 敗北

僕は名古屋人だ。本日、事実上日本は、戦争で敗北した。東京と大阪に原子爆弾が落とされたのだ。
一つはロシア、もう一つはアメリカが落とした。申し合わせたような同時宣戦布告後、予告通り午前10時に落ちた。
僕たちはテレビの画面で、一瞬光った後に、サンドストームになるのを見た。全チャンネル潰れたことからすると、本当らしかった。
僕たちのニュースソースは一部のサーバーが稼動しているネットから得るものに限られおり、
幸いにも僕のは生きていた。そこからの情報によれば既に両国の特殊工作員は本土に潜入済みということであった。
どうして両国が宣戦布告したのかは誰も知らなかった。米露、どこからのソースも、何もそれに触れなかった。
だから僕たちはただ呆気にとられていただけだった。
僕は11時に野球の試合をする約束をしていたので、河川敷のグランドに行った。一人ぐらいは来ていると思ったが、
葦の林を抜けて一塁側ベンチ裏から顔を出すと、約束の時間を過ぎても誰も来てはいなかった。まあ、
12時まで待ってみて、それから帰ろうと思った。ベンチに仰向けに寝転んで、ボールを上に投げて、
空とキャッチボールをしていた。葦がそよ風で揺れながら歌っていた。ここは平和だった。
しかし突然背後の葦の林がざわめいた。僕はやっと誰か来たのかと思って、顔を上げると、外人だった。
星条旗を胸に縫いつけた米兵だった。すると同時に三塁側からも、外人が現れた。それは露兵ぽかった。
両者はお互いに気づくとすぐに林の中に隠れた。僕は一塁側ベンチで固まってしまった。
背後で米兵が何か言っていたが、僕は英語がわからなかったので、とっさにベンチの下にもぐりこんだ。
そこから様子を見ていた。沈黙が続いた。が、しかし、すぐに上空に飛来してきた飛行物体の発する音で静寂は破られた。
遠くからゆっくりと近づいてくるようだった。そして目映いばかりの閃光が・・・・・・
―――AP発外電、本日、日本時間午後12時、午前11時に発せられた中国の宣戦布告どおり、
名古屋市に原子爆弾一発が投下された。なお現在、米露中、三国の一切の意図は不明であり、随時世界各国は情報収集、
確認作業中とのことである。

「向日葵」「老人」「寺院」
85長い・・・スマン…:04/11/17 07:06:00
ボクは近所の寺院の境内に座り
ただじっと空を眺めていた。
雲が流れていく、風が通り抜ける
風と日光を肌に感じている、ただ座っているだけなのに生きていることを実感できる。
だから、ボクはこの場所が好きだ。
風はボクをつき抜け、向日葵たちの頭を揺らす。
風に倒せれても、すぐに負けるかと起き上がる。
寺院の敷地内にあるゲートボール場では、老人がゲートボールをしている。
笑い声や、悔しがる声、それは楽しそうな声だった。
ボクは将来、あんな老人のようになれるだろうか
ホームレスになったり、仲間も持てず一人寂しく死ぬんじゃないだろうか
無職を3年も続けていると、そんなことで夜泣き出しそうになる。
大人気ないかもしれないが、不安で不安で仕方ない。
そんな事を思っていると、突然老人が集まり騒ぎ出した。
みな不安そうな顔をして、何かに集まっている。
目を凝らし、老人の体の隙間をよく目を凝らすと、そこにはなんの変哲もないラジオだった。
何か放送してるのだろうか?
ボクは老人たちに近づき、ラジオの放送を聴いた。
「……そ、速報です、皆様、落ち着いてお聞きください、今、A国から発射された核ミサイルが我が国に向けられて発射されました」
冗談かとも思ったが、それよりも、なぜか喜びの方が大きかった。
―――将来の事なんて、どうでもよくなった……
「皆様、落ち着いて、各自治体の避難場所へ速やかに避難してください」
放送はそこで止まり、雑音だけが残った。
老人たちはあわてて、その場を去っていった。
ボクは避難など考えなかった。老人たちが忘れていったラジオを持って、まだ境内に戻った。
ラジオからは何も聞こえてこない……
ただ、風と日光に包まれながら、何年かぶりに思った
生きているって素晴らしい。
ボクは目をつぶった。
風と日光を全身に思いっきり感じて

「ハードディスクレコーダー」「瞬間移動」「コタツ」
86そらまめ:04/11/17 07:37:06
「ハードディスクレコーダー」「瞬間移動」「コタツ」

 コタツに入ると、僕のオヤジのオヤジの「ハードディスクレコーダー」が勝手に
起動しはじめる。僕はこたつで、ばあちゃんのつくったカブの煮物を食べる。ばあちゃん
の家に来るのは半年ぶり。

 ハードディスクの型は古いけど、入ってる中身はホンモノだ。食べはじめると同時に、僕の中でじいちゃんの
「ハードディスクレコーダー」が動きはじめる。遠い記憶の中にある、じいちゃんのクセとか、性格とか、知恵とか、
昔ここで聞かされた戦争話とか。
 じいちゃんはもういない。
 替わりに僕がプレーヤーになる。遠い記憶の中の「ハードディスクレコーダー」
の引き出しを、ゆっくりとあけていく。じいちゃんの戦争の話を思い出すと、僕は
若い頃のじいちゃんに会いに瞬間移動する。そしてそれを今、ここで再現するために、
僕はハードディスクプレーヤーになろうとしている。

「屋台」「年賀状」「マッチ売りの少女」
87罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/17 09:32:14
 酒に酔って、歩いていた。駅前を過ぎて、都会の喧騒の中に混じると、ぼーん、ぼーんと耳鳴りが聞こえた。
 屋台があったのでラーメンを食って、金を払うと少女が勉の足元に座り込んでいた。
「どうしたんだお嬢ちゃん?」
「お金ください……」
 親はいないのかと聞くと、少女は軽くうなずいた。
 十日ほどさんざん少女の体を痛めつけたあと、空樽の中に入れておいた。ずいぶん弱っていたが、まだ死んでいなくて、
「出してください」とか言っていた。勉はイラつくので、ヘッドフォンで音楽を聴いて過ごした。始末をつけなきゃな。勉は夜遅くなると台車で樽を運び出し、車に乗せて、山へ向かった。
 樽が入るくらいの穴を掘り終えると、樽ごと少女を生き埋めにした。
 暮れが近づくと勉は友人に年賀状を書いた。
 あけましておめでとうございます。
 クリスマスも終わりマッチ売りの少女は死にました(笑)と。
88罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/17 09:34:34
次、「筆ペン」「撤退」「シーラカンス」
89名無し物書き@推敲中?:04/11/17 10:17:12
     /三ミミ、y;)ヽ
   /三 ミミ、ソノノ、ヾ、}        ズバリ言うわよ。
   ,':,' __  `´ __ `Y:}       アンタねぇこんなことして
   }::! { : :`、 ,´: : j !:!        地獄におちるわよ!
   {:|‐=・=‐ i !‐=・=‐|:}
  r(   / しヘ、  )j
  g !  ` !-=‐!´ ,ノg
    \._ヽ _´_ノ ソ
  __,/ ヽー ,/\___
  |.:::::.《  ヽー/  》.::.〈
 //.:::.`\      /'.:::.ヽ\
90名無し物書き@推敲中?:04/11/17 11:53:54
「筆ペン」「撤退」「シーラカンス」

 その先生はシーラカンスと呼ばれていた。生きた化石。初老のシーラカンスはどちらか
というと、うだつがあがらないタイプで同僚の先生や小学生の生徒にも小馬鹿にされてい
た。テストの採点は必ず赤い筆ペンで、その達筆な字が、私は妙に好きだった。
 シーラカンスが張り切る場面もあった。運動会である。体力的な衰えもを贔屓目に見て
もなかなかかんばって走り回っていた。
 私がようく覚えいるのが騎馬戦での出来事である。4人1組になって1つの騎馬を形成
して5つの騎馬で戦う。大将騎馬の帽子を取ったほうが勝ちというルールで行われた。
攻めるときには大声で「進め」、不利になると「撤退」とシーラカンスの声はグランド中
に響き渡った。そのあまりの張り切りぶりが妙な滑稽さを引き起こして、父兄の中には何
人か笑うものもあった。

 私は役員を目の前にして無性にそのときのシーラカンスのことが思い出された。もうこの事業からは撤退するしかない。裸の王様になってしまった私は、きっとシーラカンスにも滑稽に映っているに違いない。

「幽霊」「カレンダー」「風呂」

91ドンキング:04/11/17 16:58:29
「幽霊」 「カレンダー」 「風呂」

「和子、湧いたよ」。小さく呟いて部屋に戻る。
しばらくして風呂場に入る気配に続いてポチャンと和子が湯に浸かる音がする。
和子は僕の妹だ。

去年、和子は死んだ。
ドライブ中、僕の不注意で側道の電柱に車が激突したのだ。
僕はかすり傷程度だったが、和子は瀕死の重傷だった。
割れた頭から流れ落ちる血が白いブラウスを濡らし、地面に滴り落ちていた。

風呂場に異変が起きたのは、和子の葬儀が終わって1週間ほど経った頃だった。
深夜に浴槽をコツコツ叩く音がするので、覗いて見ると誰もいない。
そんなことが暫く続いた後、試しに浴槽に湯を張っておいたところ、
今度は誰かが湯を使っている気配がするようになった。
僕にはそれが和子だと確信できた。
不思議に恐怖感はない。きっと血で汚れてしまった身体を洗いたかったんだろう。
それ以来、寝る前には必ず風呂に湯を張るようにしている。

カレンダーをめくる。
和子の幽霊が来るようになってから半年が経とうとしていた。
最近、僕は人と会っていない。鏡を見ると急に老けたように感じるのは気のせいだろうか。

「首都高」 「怪物」 「恋人」
92名無し物書き@推敲中?:04/11/17 23:52:07
「首都高」 「怪物」 「恋人」

 私はあの日と同じルートで、首都高を抜けて中央道に入った。
小仏トンネル付近でウインカーを出して路肩に停車した。
 私は、アイツが好きだったヒマワリをたくさん抱えてあの事故の
現場の前に佇んだ。ヒマワリを置いて手を合わせた。
「ひさしぶりだね。ごめんね遅くなって」少し涙がこぼれた。
「そうそう、あの時近鉄にはいっていたら今年は合併騒ぎに巻き込まれ
ていまごろ大変だったね。入団蹴ったりしなければね、こんな事故にも
あわなかったのに」
「さあ振りかぶって平成の怪物が第一球を投げました・・・」
涙が止まらなくなった。
「私は明日結婚します・・・。あなたは死んで私は生き残った・・・。
しょうがない・・ことだよね。」
「・・・・・・・・・」
「でもあなたは私の永遠の恋人だから・・・、許してください」

 私はすべてを吹っ切るように車を急発進させた。

「田舎」「お菓子」「猫」
93そらまめ:04/11/18 07:22:10
「田舎」「お菓子」「猫」

 僕の田舎には、猫の型をした落雁のお菓子がある。仏壇にお供えしてあるもの
だけれど、皆不気味がって、誰にも食べられないまま、捨てられていく。
 落雁のお菓子なんておいしくもなんともないし、あの原色の着色料みたいなものが
食欲をなくさせるのも本当のような気がする。けれどこの猫の落雁には着色料は
使われていないよう。僕は思い切って、猫の落雁のビニールをとりさって口にしてみた。

なんということだ・・・
これは落雁のお菓子ではなくて、あの日本古来から愛親しまれている、あの独特の甘味をもった
高級砂糖でつくられた猫のお菓子だったのだ。

「都会」「定食」「犬」
94悲しき半魚人:04/11/18 10:51:48
「都会」「定食」「犬」

都会の冬には弾力がない。無機質で鋭く硬い。
私は氷のようなビルの谷間を抜けて広い公園に臨む大通りに出た。
公園を右手に少し行くと、いきつけの蕎麦屋がある。
とにかく寒い。身体を温めるには思いっきり唐辛子を振りかけたうどんにかぎる。
「うどん定食」、店員にそう告げると、店の奥で蹲っているシーズーの兄弟に視線を投げる。
この店のマスコット的な犬で、その愛くるしさから店に足を運ぶ客も多い。

さて身体も心も少し温まったところで行きましょうか。あの冷たい戦場に。

「宝物」「成人式」「入院」
95名無し物書き@推敲中?:04/11/18 15:33:31

「宝物」「成人式」「入院」

 「そういえば成人式行ってなかったな、俺。」と、ふと入院先のベッドの上
で思った。短期間の入院なので別段寂しくも無いわけなのだが、私の心の中に
は何か心残りがあったのだろうか。

 そもそも高校を卒業して間もないうちに、ほとんど同窓会と化した成人式に
何の意味があるのだろうか?もともと人付き合いが良かったわけでもなく、
それといって式に出席すれば知り合いだらけなのだが... ともかく私は成人式
に行かなかった。その当日の午後に成人式に出席した友人から電話がある、
私は「寝坊した」と友人に伝えたが友人は私の本心を知っていただろう。

 それから私たちはいつものようにビリヤード場へと向かった。この先になにが
あるのか、その時の私はそんなことを気にかけていなかったのだろうか、今の私
は何を求めているのだろう。

  この世界に有り余る事象に隠された真実、それこそが宝物だ。

 いつか私に語りかけてくれた友人の言葉が、柔らかな布団の上に座る私の頭に
よぎった。


「歩道」 「写真」「眼」



96ドンキング:04/11/18 17:55:12
「歩道」 「写真」「眼」

下の歩道には先ほどの豪雨の名残が縞模様となって西日に照らされて光っている。
吹き上がるビル風が冷たく肌を撫でる。
眼を凝らすと遥か遠くに雨に煙る山々が望める。
林立するビルの街を跨ぐように虹が鮮やかなアーチを描いている。
いい写真が撮れそうな景色だな・・・・。  でも、もういいや。

今、僕は僕の短く長かった人生を閉じようとしている。
金網をよじ登り、ビルの側壁の縁に立つ。
今日は僕の誕生日、そして飛躍の日。
「ハッピー・バースディ。さようなら」、小さく呟いて僕は飛んだ。虹に向かって。

「堅物」 「機械」 「髪」
97名無し物書き@推敲中?:04/11/18 19:11:41
「堅物」 「機械」 「髪」

 機械で出来ているじゃないの。それ位堅いイメージがピッタリなのが
うちの旦那。とにかく真面目。きっと周りの人からも堅物で通っている
じゃないかな。
 でも一皮向けば人間なんてわからない。うちの旦那の場合は女。ありき
たりだけどね。顔?。まあまあかな。あたしが言うのもなんだけどちょっと
イケメン。携帯のメールチェックしたら、女と一日何回もやり取りしてるの。
仕事しろっていうの。まあこれもよくある話ね。
 でももうお終い。もうすぐ離婚するから。堅物でいい男のところに騙された
私も悪いのかもね。
 そうそうここにあるカツラだれのだと思う。もちろん旦那の。結婚してから
気づいたんだよね、髪の毛ないの。もうほんとびっくり。これも気づかないほうが
わるいのかな。でもこれは言ってほしかったわよね・・・。まあいいわ。
 そうだ、いまのあたしの楽しみ何だかわかる。あの女がカツラの秘密がわかって
びっくりする顔。それも風呂はいるとき取るんだよね。やっぱりかゆいんだって。
想像するだけで笑っちゃうわ。
 ああごめんなさい。こんな話聞いてくれてありがと。じゃあね。


「ハイカラ」「湖」「時計」
98そらまめ:04/11/19 07:11:10
「ハイカラ」「湖」「時計」

 ハイカラな時計が浮いている。これで終わったんだと、心底そう思った。
観光地とは言われているものの、冬の摩周湖を訪れる客はまれである。
 ハイカラな時計が浮いている。そして春になれば、いずれ片腕や片脚も
浮いてくるのかもしれない。
そのとき私はパリにいる。

「バゲット」「タルト」「プロバンス」

99名無し物書き@推敲中?:04/11/19 11:16:34
「バゲット」「タルト」「プロバンス」

 気だるい昼下がりの街中、程よく色付いた街路樹が私の気を引いた。
石畳の歩道を彩る落ち葉も目に鮮やかで、私の真っ赤なパンプスはさぞ憎んでいるだろう。
「あら、奥様ご機嫌よう」
 聞き慣れた声に顔を上げると、お隣の奥様がにこやかに笑顔を向けている。
「ご機嫌よう。お買い物の帰り?」
 彼女の大きめなバッグから頭を覗かせているバゲットを認めて軽く挨拶をする。
私の視線に気付いて、ちらとバッグに目を落とす。
「ええ、奥様ご存知? プロバンス。私の主人がここでなければ駄目っていうのよ」
 知っているも何も、私が一押しのベーカリーこそプロバンス。街角に出来たばかりなのに、
その風味は早くも多くの女性に知れ渡っている評判のお店。
「そこのスフレとタルトは格別よね。まだならお試しになって。私もこれから行くところよ」
「あ、奥様、バゲットならお早く。あまりなかったわよ」
 軽く会釈を交わして、通い慣れたプロバンスへ向かう。
 バゲットは売り切れでもいいのよ。私の目的は若くて逞しいほうのバケットなんだから。
 ……手が触れたあの日から続く、店員との不倫関係。気だるい午後の甘いひと時。


次のお題は「座興」「仮初」「ロザリオ」で〜。
100悲しき半魚人:04/11/19 13:24:27
「座興」「仮初」「ロザリオ」

仮初の恋にも今日でお別れ。
演出用のロザリオも今は必要ないわ。
最後に竜也をものにしたのは私。
真梨子と恵利の悔しそうな顔が眼に浮かぶわ。
私達3人で誰が竜也を落とすか賭けてみたの。
初めは座興のつもりだったけど、結構みんな本気になってしまった感じ。
でも達成した時点ですべては終わったの。
明日からは私達、またいつもの仲良し3人組よ。
ひとり可哀想なのは竜也だけど、しょうがないわね。

「草原」 「萌える」 「3日後」
101名無し物書き@推敲中?:04/11/19 17:26:09
「草原」 「萌える」 「3日後」

草萌える暑い夏の日の出来事だった。
僕は草原の真ん中にある棒状の建物の前にいた。その建物中では
朝から晩までチーズが作られていた。チーズを作る人二人、包む人一人、
社長兼、総務兼、経理兼、とにかくなんでもやる人が一人合計4人がそこで
働いていた。僕はそのうちの包む人に、どうしてこんなことをしているのと聞いてみた。
そうしたら「誰かがやらなければいけないことをやっているだけだ」答えた。もっともな
話だった。この世の中には、誰かがやらなければいけないことが、山ほどあった。
 僕は待ち合わせの時間より1時間早く来てしまったので、『赤と黒』を読み始めた。
時間になっても誰も来ない。3日後になってようやくベレー帽の男が現れた。僕は
『赤と黒』をすっかり読み終えてしまっていた。
「すっかり待たせてしまったね」ベレー帽の男は僕に言った。
しかし僕はすっかりぐったりして立つことすら出来なくなっていた。
「何も食べていないのかい」
「チーズは嫌いなもので」
ベレー帽の男はニヤっとした。僕はこの男から恨みを買っていた。だからこの待ち合わせ
も断るわけにはいかなかった。こんなことぐらいでこの男の気が晴れるなら、これも
いたしかたないことだと思った。

「富豪」「ミルク」「一坪」
102:04/11/19 19:41:57
富豪 ミルク 一坪

日本の人口は膨れあがった。いまや、基本的人権の条文は削除され、人も家畜なみに、
扱う者と扱われる者に区別さてていた。家畜側の人間は一坪の居住区を与えられ、
食事は日に3回の合成ミルクで賄われた。家畜側の人間の利用には、労働力とともに、
食糧としての役割もあった。労働力として使い物にならなくなれば、スープのだし、
合成タンパク・ミネラル・カルシウムなど滓でさえ残らないくらいにまで利用された。
原因不明の伝染病で、牛・豚・山羊でさえも絶滅した今となっては最も効率的な発想の転換と人々に歓迎された。
家畜側の人間は生まれながらにして家畜側と育てられたために、それを不思議なことだと思わなかった。
人は情報に縛られるものだ。だが稀に、運の良い者が決定機関のもの、
富豪といわれる金持ち階級に拾い上げられる者もいた。家畜にも容姿端麗で運良く生まれるものは、
観賞用、ペットとしての家族として迎えられる者もあったのだ。僕もその一人だった。
僕は富豪婦人にかわいがられ、教育まで受けさして貰った。太古の文学といわれる書物を読んだりもした。
そして僕は現実を不条理と感じた。僕は昔の家族を、家畜居住区に探しに行った。
みんなを説得しようとしたが、誰も僕を理解できなかった。みんなの言葉はギャーとかウーウーとか言うだけだったのだ。
僕は毎日、あたたかいスープを飲みながら、夫人に隠れて涙している。

「ブラックホール」「難破船」「地球」
103sou:04/11/19 21:48:38
人の願いが光の速さを超えたとしても。
それでもきっと僕の想いは、遠ざかる君の心に届かないだろう。
君の輝きは以前と変わらない。
しかし、その光を微かなものとしか感じられないほどに
僕らの距離は離れてしまった。
銀河の彼方で眩く燃える恒星の光も
地球から眺める僕の目には、闇に穿たれた点にしか見えないように。
僕は力なくうつむくばかり。
心の中心に生まれたブラックホールが、
僕から希望という名の糧を奪い取ってゆく。
そう、君の引力から引き剥がされた僕は
還るべき場所を失い、永遠の闇を彷徨い続ける
難破船のように生きていくのだろう。
いつまでも。朽ちるまで。
104sou:04/11/19 21:51:49
お題忘れました。
「写真」「雪」「松明」
105:04/11/19 23:26:34
写真 雪 松明

僕たちが雪山で遭難をしてから5日が経とうとしていた。僕たちはかまくらを作って寒さを凌いでいた。
近くの枯れ木を砕き松明をたいたので、明かりと若干の暖はとれたが、食糧がもう底をついた。
さっき一番若い女の子が死んでしまったので、あとは3人となった。吹雪はずっと止まなかった、
救助隊は来れないだろうと思われた。7日目に枯れ木も跡形もなく、なくなった。寒さは勿論、
夜の闇は相当心に堪えた。漆黒の闇が死そのもののように思われたのだ。夜の明ける間もなくまた1人死んだ。
僕と彼だけが残った。僕たちはあらゆる物を焼いて暖をとろうと試みた。死人の服まで剥いで暖まろうとした。
勿論有毒ガスのでる科学繊維は避けたが。彼が最初に死んだ女の子の荷物から何か見つけたらしかった。
それを僕に何も言わず差し出した。僕が笑った顔の写真だった。僕は彼女の死体がかまくらの隅で、
洋服まですべて剥され裸で横たわるのを見た。彼がその脇で一心不乱に荷物をあさっていた。
僕はただ彼が持ってきたものを食べたり、火にくべたりしているだけだった。もし僕が先に死んだら、
彼は僕の服も剥ぐのだろうか…僕は凍傷で動かなくなって投げ出されたままの足ごしに、
彼のゴソゴソと動く背中をずっと眺めていた。

「古文書」「インターネット」「感染」
106名無し物書き@推敲中?:04/11/19 23:34:16
 その男は昨日から一向に止まない雪の中、外套の襟を立ててベンチの前に佇んでいた。
停電のせいで職場を出るのが遅れた私は遅参を詫びようとしたが、
久しぶりに走ったお陰で大量の白い息と不健康な咳だけが口から漏れた。
「私も来たばかりだ。済まんが、火をくれないかね?」
 私が懐を探って残り二〜三本になったマッチを箱ごと手渡すと、
ありがたそうにそれを受け取り、煙草に火をつけた。
闇に包まれた街角で、小さな光があたかも大きな松明のようだ。
 彼は私にも一本勧め、今度の仕事についてポツリポツリと話し始める。
新雪を灰で汚すのを楽しみながら、いつも通り私はそれを黙って聞いた。
 最後に彼は写真と書類数枚を渡しながら、マッチ箱を示した。
「分かっている、面倒が済み次第すべて処分する」
 彼は軽く頷き、マッチと煙草を投げてよこした。
 
 私は彼と分かれてタクシーを拾いに駅へ向かった。
列に並ぶ前にゴミ箱へ向かい、煙草を投げ込もうとして、止めた。
尾行はついていないはずだが、用心するに越した事は無い。
 怪しげなビーコンを発しているかも知れない煙草を懐にいれたまま、
私はもう一人のクライアントと落ち合う方法を考え始めた。

「軍艦」「ウィスキー」「故郷」
107名無し物書き@推敲中?:04/11/19 23:34:48
リロードし忘れた(汗)

>>105で続けてください。
108名無し物書き@推敲中?:04/11/20 09:56:08
「古文書」「インターネット」「感染」

僕はある休日にインターネットに耽っていた。
作品のネタ探しに古文書関連で検索していた
すると突然、画面が真っ暗になり、キーボードが全く利かなくなった。
「あなたのお望みなんでもかなえます」
画面上に文字が現れた。新種のウイルスか?でも僕は躊躇することなく
「金持ちにしてくれ」と言った。
「いくらですか」
「1億」
「そんなはした金でいいですか」
「じゃあ1000億で」
「わかりました」
次の瞬間、僕の頭の上からお札がどかどか落ちてきた。それも新札。ぼくは狂喜乱舞した。
一生懸命お札を掻き集めた。そしてお札が、どんどん増えていって部屋いっぱいに溢れ、
ぼくはすっかり埋まっていた。これは1000億どころじゃない。
「やったー」と叫んだ。お札の圧力から来る痛みなど全く気にならなかった。

 僕はそこで目が覚めた、彼女が新札で僕のほほを叩いていた。
「新札見たことないでしょう?」
ウイルスに感染していたはのが僕の頭のほうだった。

「テニスコート」「高校」「うちわ」
109そらまめ:04/11/20 11:15:12
 顧問の青柳が、青筋を立てて怒鳴っている。
「そんな腰付きじゃ、新人戦は無理だな。ほらっ、しっかりレシーブしろ」
 僕には無理だ。こんな高校、明日にでもやめてやる。
 テニスコートには二人の部員に、顧問の青柳、副顧問のハッシー、それから
今日の夕方は副校長の神田も来ている。
「教頭、右手首のリハビリにもなるんじゃないですか」
 青柳が副校長に猫なで声ですり寄る。
「ラケットじゃないところがいいのかね」
「ええ、この重量なら、教頭の手首にも負担になりませんから」
 そう言って青柳は、うちわでピンポンボールを僕に向けて
打ち返した。

「398円」「くさび型文字」「モチベーション」
 しばらくぶりに出かけた駅前には販売用にディスプレイされたワゴン車が一台停まっていた。
 バナナの叩き売りよろしく安いよ安いよと声を張り上げるのは、鉢巻きを頭に巻いたうさん臭い中年の男。
 僕がワゴンに近付くと男はぐるりと振り向いて手にしたメガホンを突き出した。
「兄ちゃん、どう?ひとつ」
 どう、と言われて広げられた品物を見下ろし僕は混乱した。
「なにこれ」
「なにってくさび型文字だよ。ひとつ398円! 安いよ!」
 メガホンでポスンと叩かれた台に乗せられている型抜きされた文字。
 種類別にケースに入れられており、赤、青、黄色と色分けされているがその意図は全く持って理解しがたい。
「こんなの読めないの売れるの? 買ってどうすんの、これ。」
「そこだよ」と言いながら男は腕組みして顎でワゴンの上を指し示す。
「あれ、なんて書いてあると思う」
 ワゴンの屋根付近にはこちらも解読できないくねった文字。
「くさび型文字売ります、とかそういう事じゃないの」
「そうだ。文字自体は読めなくても、ここに売られているものを見ればなんとなくわかる。
何の言語で書かれているかは問題じゃない。例えば兄ちゃんが好きなねぇちゃんの名前を意味する言葉を買うとするだろ。
するといつもそのねぇちゃんと一緒にいるような気持ちになるわけだ。読めなくても、モチベーションの問題って事だな」
 なるほど。日本語なら他人から読めてしまって恥ずかしい思いをするが、くさび型文字なら自分にしかわからない。
「じゃあ、ひとつ貰おうかな」「毎度!」
 僕は自分の恋人の名前を探して、ふと手を止めた。
「ところで、どうやって望みの文字を探せばいいのかな」
「そりゃ兄ちゃん、読めないんだからフィーリングで探してくれ」


次は「エッセンス」「伸びた輪ゴム」「基地」
111sou:04/11/20 22:23:35
エッセンス・伸びた輪ゴム・基地

HRが終わるなり、少年は教室からいちはやく飛び出していった。
校門を抜け、学校の裏手にある山に向かう。
ひとかけの雲もない空の下、長い階段を登り、草むらを駆け、
木々に囲まれた道なき道を抜け…辿り着いたのは切り立った崖の上だった。
崖の先端で背筋を伸ばして立ち、眼下に広がる街並みを見回す少年。
優しく吹く風が、汗の吹き出した少年の顔を撫でる。
少年は満足そうに微笑むと、その場に腰を下ろして鞄の中を弄り、
家から持ってきていた漫画とスナック菓子を取り出した。
誰も来ない、誰も知らない場所を占有する満足感に
高所特有である解放感のエッセンス。
少年はこの景色の中で読書をするのが好きだった。
いわばここは少年の秘密基地である。
その証拠に、傍に立つ木の枝には伸びた輪ゴムが引っ掛けられており、
その垂れた先端には「第3秘密基地」と書かれたプラカードが
クリップで留められている。
数日後、この崖近辺が立入り禁止となることを、少年は知る由もなかった。
それでも少年はまたいつか、新しく第4の秘密基地を探し当てることだろう。
何度奪われても、何度でも探しだす。
少年が大人になる、その日まで。

次は「灰色」「堕ちる刻」「絶望」
112そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/21 12:10:15
「灰色」「堕ちる刻」「絶望」
 
 月堕ちる刻 闇の中に取り残された二人の遺体にキスをする。
絶望? 絶望は希望をもつ者のみに許された、最後の果実。
私には絶望するだけの、それだけの魂の欠片さえ残っていない。
血塗られた真新しいフローリングさえも、闇の中では何一つ
その痕跡を確認することすらできない。
闇に血塗られた灰色の街は、すべて私のもの。
私は次の獲物を探しに、小さな棺桶を荷台に乗せ
朽ちた果実を求めて
彷徨い歩く。

「夏」「おでん」「窮屈」
113sou:04/11/21 13:28:56
「夏」「おでん」「窮屈」

我輩は諸君に問う。例えばの話だ。世にはおでんという料理がある。
そう、大根やら玉子やら竹輪やらを雑多に煮込んだ、あれだ。
中にはウインナーを具とする輩もいるようだが、我輩はそのようなものを
正規のおでんとしては決して認めん! 邪道でさえあると断言しよう。
汁に肉の生臭さが染みこみ食えたものではないわ! 
そもそもおでんの歴史を紐解いてみればだな……いや失敬、話が逸れてしまった。
諸君は、それを冬にこそ食すものと思い込んではいまいか。
もしそうであるとするならば、そのような窮屈な思考は今すぐ
濁っただし汁と共に排水溝へ捨ててもらいたい。
美味いものはいつ食べても美味い。
それが紛うこと無き真実であり、真実から目を逸らすことは非合理的である。
ならば真夏におでんを食べることに対し、些かの疑問を持つ必要もないではないか。
なぜ諸君らは夏におでんを食さないか。それは諸君が凝り固まった常識の鎖に囚われ
自由な発想を阻まれているからに他ならない。
世界の変革は固定観念の打破より始まる。
諸君を新しい地平へ導く鍵として、今日の話を役立ててくれたならば幸いである。

お題「レタス」「新札」「サラリーマン」
114名無し物書き@推敲中?:04/11/21 16:44:57
「レタス」「新札」「サラリーマン」

 サラリーマンがよく立ち寄るスーパーで、僕は買い物した。
その日はどういう訳かサラリーマンばかりで、スーツ姿でない僕のほうが
むしろ浮いていた。
 レタスをカゴの中に入れて、レジの台に置いた。高校の制服の上にエプロンを
羽織った、目がくりっとした女の子がレジ係だった。女子高生はレタスを持って
ピッとした。
「158円になります」笑顔がチャーミングで僕は見とれた。
僕は新札の千円札を出した。しかし、女子高生はニコッとして
「新札は使えないことになっています」
「どうしてだい」
「店長の方針ですから」
僕はちょっと納得いかなかったので
「店長はどんな人だい」と聞いてみた。
「ただのサラリーマンです」女子高生はにこりともせず言った。
僕はそういわれて、店長もさらに上から言われてどうしてそういうことに
なったのかもわからず言ったのだと、妙に同情したい気持ちになっていた。

「夕日」「すずめ」「遺恨」
115名無し物書き@推敲中?:04/11/21 18:55:24
「夕日」「すずめ」「遺恨」

夕日を見るといつも胸が痛い。さわさわと耳鳴りがしてその場に突っ伏した。
真っ赤な太陽が布団の上に堕ちてゆく。私の目にはそれが紫色に写った。
空、天井に向かってすずめが駆けた。赤い空。
人間はロジックじゃない。恐れや不安は常に常に突き刺さる刃なのだ。
私はほうとため息をついて立ち上がる。コーヒーを入れようかしら。
白い蒸気が立ち上る中で、なんだか気分が安らいだ気がする。
一口すすってまた窓を見た。夕日はもう落ちていた。
そう、私は夜のほうが好きなの。一人のほうが好きなの。
孤独のほうが好きなの。
あの夕日に奥に見えたのは遺恨だったろうか。

「紙」「コースター」「思い出」
116名無し物書き@推敲中?:04/11/21 19:59:29
「紙」「コースター」「思い出」

俺は、勇気を振り絞ってちょっと叫んだ 。
「おい、やめろよ!」と。きっと声震えてた。

俺は産まれてから、一度もケンカなんてした思い出がない。
そんな俺が、秋葉からの帰りの電車で、
おばさんに絡んでいた爺さんに、やめろよと叫んだ。
爺さんがおばさんの顎をつかむのを見て、思わず声が出てしまったのだ。
「なんだ?やるのか?やるのか?」
爺さんと揉み合いになり、爺さんの手が当たったのだろう、
隣りに座っていた女性が「キャッ!」と短い悲鳴をあげた。
無我夢中で立ち上がり、爺さんの両腕をつかんだりしていると、
騒ぎに気づいたサラリーマンが助けに来てくれた。
後ろから羽交い絞めにして、穏やかに爺さんをたしなめる。
隣りの女性が話し掛けてきた。
「迷惑な人ですね」
「本当迷惑です」
派手過ぎず、地味過ぎず、落ち着いた雰囲気の小奇麗なお姉さんで、
なんとなくムーミンに似ていた。
「じゃあ、私、ここで降りるんで」
「あ、はい……」

何か報告する用紙を書かないといけないという事で、おばさんとサラリーマンと逃げようとする爺さんと、
団体で駅員詰め所に向かう途中で、俺は駅の階段を駆け足で上がって行く、
ムーミンによく似たお姉さんの後ろ姿のことを考えていた。
それから、魔女っ子戦隊ラブジュニアの初回限定版DVDに付いてくる特大コースターのことを考えた。

「電車」「男」「飯」
117名無し物書き@推敲中?:04/11/21 20:09:27
 幼少の頃住んでいた、今でも鮮明に思い出せるあの町に行ってみた。しかし、十数年ぶりに
訪れた懐かしき町は、思い出のそれとは似ても似つかなかった。僕は、前住んでいた家の近く
にあった定食屋に行った。しかし、時の流れは、味はそこそこだけれど人当たりのいいおじさん
おばさんが2人で切り盛りしていた定食屋を、牛丼チェーン店に変えていた。
 牛丼並盛を胃に押し入れた僕は、子供の頃幾度と無く通った通学路を辿る。しかし、案の定
景観を留めていない今の町では、正確無比に道を辿ることは限りなく不可能に思われ、今日は
諦めて帰ろうか、と思ったりもした。だが、今日諦めたら、次まとまった休みが取れるのはいつだ
? そして、休みが取れたとして何も用がないことなどそうあるのか? 僕には家庭もあるし、会
社のポスト上、休日も泣く泣く仕事に捧げねばならないことだってあるのだ。僕はしばらく、通学路
の看板の前で立ち止まって葛藤していた。
 何の気なしに上を眺めてみた。煮詰まると人は空を見たくなる。しかし、空は見えなかった。なぜ
なら、僕の前方には大規模な遊園地があり、頭上遥か高くを、ジェットコースターのレーンが覆っ
てしまっていたからだ。よくよく見ると、壁に頭上注意!≠ニ書かれた紙が貼り付けられてあった。
僕は内心毒づいたが、その時唐突に思った。諸行無常――人も、社会も、町も、定食屋も、皆平等
に変わりゆく。その変化には、皆色々な理由をつけて対応しているのだ。僕が今日ここに来た訳が
分かったのだ。もう、ここに来ることは無いだろう。

久々書いたが、オチがきまんねぇ……前はオチだけは決めてたもんだが。
「神楽」「笹」「菓子」
118名無し物書き@推敲中?:04/11/21 22:25:59
「電車 男 飯」〔「神楽 笹 菓子」〕
意識は朦朧として身体は振れていた。車輌が止まると、誰かが影を置き忘れたように電車から降りていく、
まどろむ私は視界の隅でそれをとらえていた。窓からの夜景は均一な闇、車輌が振動し、また流れだした。
私は寄りかかった冷たい手すりから体を起す。静かな車輌には、私と一人の男になったらしい。隣りの車輌にも人気はなかった。
その男は向かいの席で飯を食べていた。見た所、白米だけで、スナック菓子がおかずらしい。奇妙なことだ。
コンソメ味のポテチを弁当箱の蓋にあけ、箸で摘まんで口に放り、冷めた白米を頬張っていた。
パリパリ、クチャクチャ音をだして、私の存在など気にならないようだ。若い男で恐ろしく大きな身体なので、
弁当箱がOLのそれのように小さく見える。
私は走る夜景を見た、今どこを走っているのだろうか、次の駅で確認しよう。それにしても寒い。
ふと、男の視線を感じた。先程とうって変わり可愛らしい目つきだ。じっと私のわきに携えた、仙台みやげの笹かまの箱を見ていた。
緑色の帯で結えたやつだ。男は餓えた犬のように涎を啜った。「…あの、もしよろしければ、どうぞ」私はおずおずと笹かまの帯を解いて差し出した。
「いや、そんな」一応男は遠慮した。「でも、いいんですよ、車中で私が食べるつもりだったけど、起きたばかりで食欲もない。
帯も解いてしまったし、ね」「でも、悪いなあ」私は箱のうすっぺらな蓋をあけて男の前に見せた。艶のある笹かまがあった。
男は黙って箸で摘んだ。そして白米にのせて一緒に口に運んだ。また黙って食べ始めた。
駅につくと、遠くから神楽の陽気な調子が聞えていた。そこに車掌の笛が響く、男はクチャクチャ音をたてながら次の笹かまに手を伸ばした。

「ブルー」「煙草」「原稿」
119名無し物書き@推敲中?:04/11/21 23:24:22
「ブルー」「煙草」「原稿」

 僕は昔から、文章の書くのが苦手で、宿題の作文があっても
原稿用紙が真っ白で、何時間たっても1文字もかけなかった。だから、
原稿用紙の白が苦手である。でも最近はパソコンでメールや文章を書くので
背景の色をブルーやグリーンに変更できて助かる。そんな使用されなくなった
原稿用紙は肩身が狭い存在である。肩身が狭いといえば煙草も一緒である。
世界的な禁煙ブームで、煙草が吸える場所が限られてきている。しかし、
煙草も原稿用紙も絶滅することは考えにくく、しぶとく生き残っていくであろう。

「バイオリン」「海」「カーテン」
120そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/22 08:21:43
 海の奏でる波音というのは、バイオリン演奏後の余韻がずっと
続いているようなものである。私はカーテンに火をつけ、廃屋となった
この懐かしい家にさよならをつげる。
 明日になれば執行官があらわれて、こう言うのである。
「更地だと少しはマシかな」
 更地? ここは更地などではない。私と私と戯れた人々との、唯一の
思い出の地なのである。そしてそれは何世代にもわたって積み重なり、
その重さをひしひしと身体に感じとりながら、そうやって生きてきた
土地なのだ。更地? 更地などというものは、この土地にはない。

「幼虫」「ジャンク」「うたたね」
121名無し物書き@推敲中?:04/11/22 20:07:27
「幼虫」「ジャンク」「うたたね」

うたたねをしてしまった。
虫かごの中の幼虫の孵化はもう終わってしまっていた。また、見逃しちゃったか。
そうだ。いつだってそうだ。
私はいつも出遅れる。このとろさ、どうにかならないかなあ。
そもそも、なんで私は、生徒のために蝶の孵化の観察なんて、家でやっているんだろう。
子どもたちにものを教える仕事というのは、どうにも疲れる。
風邪気味なのか、くしゃみがでた。だるい。
ついてない。
最近はジャンクフードばかり食べているので、当然のむくいだ。
明日もきっと職員会議でヤリダマにあげられて、まともなごはんは食べられないかもな。
だるい。考えるだけでだるい。
だれか、このだるさをもらってくれないだろうか。
そんなことを考える暇があったら、はやく眠ればいいのに。
そうだ。もう寝よう。寝ることにする。
虫かごの中には、美しい蝶が、いっぴき。おやすみを言った。

次のおだいは「庭」「カーテン」「すきとおった」でお願いします。

122名無し物書き@推敲中?:04/11/22 22:23:57
 なかばまで透き通ったコーヒー。テーブルに置かれた薄い陶磁のカップをしばらく見つめていると
たまらない気持ちになって私はため息をつき、それから店内を、またも、ひとわたり見回した。
陽射しを完全に遮る紅いラシャのカーテン、テーブルの木目を橙色に染めるランプの薄明かり、
裸婦立像、ヴェートーヴェン……それらのもたらした最初の印象はたちまち一変せざるを得ない。
どうしてここに出てくるのがこのコーヒーなのだろう?一口つけてみると、見た目の通り、
コーヒーは薄い、粉っぽい味がする。たとえば日曜の午後、芝生の庭に白い長椅子を持ち出して
飲むのなら、薄いコーヒーだってかまわないと私は思う。あるいはドトールやエクセシオールで
これが出てきたって文句は言わない。鼻で笑って「所詮……」って言ってすませてしまう。
 でも、この風情にこのコーヒーはない。ありえない。濃密で厳粛な時間は、まるで渇きあがる
前の水彩画だったかのように、幻のように、薄いコーヒーに溶け出してしまう。
 不意に壁のむこうに、自動車の通り過ぎる音がした。私はもはや、壁のむこうに半身までも
ひきずりだされてしまっているのだ。もうだめだ。この薄いコーヒーを飲み終わるまで、必然と
偶然について私は考えるざるを得ない。このコーヒーこそ、自己完結すべき世界の落とし穴
なのだから。この種の偶然というのはまったく恐ろしいもので、そう、それは世界をたちまちに
崩壊せしめる重大な裏切りなのだ。廃墟と化した私の頭の中には、にわかに記憶から掘り起こされた
セイユーの魚売り場の匂いまで、今ではヴェートーヴェンと等価にひしめきあっている。
 もう、ほんとうになにもかもがだいなしだ。

 お次のお題は「あさはか」「目玉焼き」「本棚」で、よろしくどうぞ。


123名無し物書き@推敲中?:04/11/22 22:39:32
誤爆スマソ。
「少女」「歯」「水槽」で。
124sou:04/11/22 22:48:32
カーテン 庭 すきとおった

少女は小鳥の囁くような歌声で目覚めた。
いつもなら眠い目をこすり、温めたミルクを口に含むまで
泡沫の世界から抜けきれないものなのだが。
しかし今日に限っては暖かいベッドを恋しがることもせず、
さっさと起き出して窓際まで歩き、勢いよくカーテンを開けた。
眩い光が少女のすきとおった肌に刺さる。
額に手をかざし、目を細めながら窓外に目を遣る少女。
彼方まで続く、よく手入れの施された背の高い芝生。
光の加減で煌き、ときおり吹く風で一斉にゆらめくさまを見ると、
一面が緑の海に包まれているかのように感じられる。
その中に点在する木々はそれぞれ思い思いの実をたわわに実らせ、
景色に彩りを添えていた。
いつ見ても変わらない安息の大地。楽園の一部を切り取ったかのような常緑の園。
そして少女の知り得る世界のすべて。
そう、少女はこの広大な庭の外に何があるのかを知らなかった。
物心ついた頃から少女の心を占めていたのは、見知らぬ世界への好奇心。
そこにはきっと、何も起こらない退屈な毎日を吹き飛ばす何かがある、
根拠もなくそう思えていた。
やがて少女は身支度を整えると、誰にも気付かれないようにそっとドアを開けて庭に出た。
何度か後ろを振り返りつつ、芝生の上をどこまでも歩いてゆく少女。
どこまでも、果てしなく真っ直ぐに。

その後どれほどの昼と夜が繰り返されても、再び少女の姿を目にする者はいなかった。

125sou:04/11/22 22:51:25
失礼、124はスルーでよろしく。
126名無し物書き@推敲中?:04/11/23 00:52:24
「少女」「歯」「水槽」

 天井いっぱいに広がった水槽の中に、イルカが堂々と泳いでいる。
少女と母親は、手をつないで水槽のトンネルを歩いていた。少女はもう片方の手で
りんご飴をなめている。母親は目を輝かせて、天井のイルカにくいいっている。
 少女は何かを見つけたようで、突然走り出した。イルカが1匹、人間の手が届きそうな
位置まで降りてきていた。興奮していた少女は、足元を取られて、顔面から地面に突っ込んだ。
少女の泣き声が、水槽に反射して響き渡った。
「ほらほら大丈夫。痛くない。痛くない」
母親は少女を抱きかかえた。
「よかったね血は出てないみたい」
そういわれて一瞬少女は泣き止み、
「本当?」と笑顔になった。
「あら、でも歯が欠けちゃったね。大丈夫、また生えてくるから」
そういわれた少女は、自分の歯に手を当てて、欠けていると確認すると、
何とも言えない気恥ずかしさを隠すように、いっそう大きな声でまた泣き始めた。
そして、りんご飴は遠くのほうで砂混じりに汚れていたままだった。

「旅」「地図」「葬式」
127vv:04/11/23 01:11:49
「旅」「地図」「葬式」

真っ黒な服の人間がうろうろと、べらべらとおしゃべりをしている。
笑いながら。でもめそめそ泣いたり。
葬式。僕はもうこの世にいない人の顔を見て、きれいだなと思った。
眠っているのと変わらないじゃないか。
そっと指先で顔にふれて、頬をなでて、なんだか胸がつまった。
嗚咽がとまらなかった。なんにも理屈なんてなかった。
始まりがあれば終わりがある。出会いがあれば別れがある。
すべてはひとつの繋がりなのだ。そんな仏教の教えを思い出した。
彼女はまた旅を始めたのだろうか。白い地図を持って。
どこへ。
128vv:04/11/23 01:12:41
すみません。次のお題
「歌」「時計」「霧」
129sou:04/11/23 02:46:57
歌 時計 霧

四方を薄汚れた壁で囲まれた空間。
時計の針が刻む微かな律動だけが、静寂の支配を妨げている。
狭く、暗く、そして息苦しい。
鉄格子の隙間から覗く景色も、今は深い霧で包み隠されていた。
孤独と死の確信を紛らすものが何もない。
理由もなく心の奥底から湧き上がる旋律。
それを躊躇うことなく口ずさむ。
祖国の流行り歌。
知らずうち流れる涙。
果てることのない独奏――。
不意に轟く銃声。慌しい足音。近付く何者かの悲鳴、怒声、叫び。
それらを装飾音として呑み込み、さらに高らかに響く旋律。
やがて、どこからともなく歌声が重なり、いつしか斉奏の形を成す。
そして終演を告げるが如く、赤黒く変色した鉄扉が重い音をたて開いた。
流れ込む血と硝煙の匂い。
そこに佇むのは銃を携え、返り血を浴びた懐かしい仲間達の姿。
「無事で何よりだが、相変わらず調子外れだな。」
「ああ、凱歌にしちゃさまにならない」
救いの手は差し伸べられた。
帰れるのだ、我が祖国へ。

次は「手紙」「忘却」「明日」

130名無し物書き@推敲中?:04/11/23 03:13:14
「手紙」「忘却」「明日」

 僕のもとに一通の手紙が届いた。
 茶封筒に切手が貼ってあり中央に僕の名前がある、普通の封書が僕のもとに届いた。
 でも、僕にはそれは特別な意味を持っていた。

 ここは病院の一室。気付いたら僕はここに居た。
 その前のことは思い出そうとしても、真っ白になってしまう。
 あの時からこの部屋の中で起ったことが僕の全てで、僕の人生だった。
 あの日から、この部屋を訪ねて来るのは白衣をまとった人たちだけだった。
 家族や友達、そういった人たちは居なかった。
 記憶を失う前の僕は孤独だったのだろうか……
 思い出そうとしても、すぐに頭の中が真っ白な光に包まれてしまい、上手くいかない。
 そんな僕に先生は「焦ることはないよ」と優しく言ってくれるから、僕はそれに甘えることにしている。

 この手紙は僕のもとに来た、初めての外の世界のものだった。
 僕は嬉しくなって急いで、でも丁寧に封を開けた。
 中には昔の僕の欠片があるのかもしれないのだから。
 中には折りたたまれた一枚の紙が入っていた。
 僕はゆっくりと紙を開いた。
 手紙にはこう書かれていた。

 「事情があって今は会いに行けないが、必ずいつか君のもとを訪れることを約束しよう。
  だからそれまでの間は失われた過去を取り戻すのではなく、明日を生きることを考えて欲しい」

 僕は、差出人の名前を探した。
 しかし、それはなかった。
131名無し物書き@推敲中?:04/11/23 03:14:22
すいません、次のテーマを書き忘れてました。

「水槽」「太陽」「真夜中」でお願いします
132名無し物書き@推敲中?:04/11/23 03:23:13
何度もすみません。

一行目の
「僕のもとに一通の手紙が届いた。」文の前に
「全てを忘却の彼方に置いてきてしまった」がはいります。

コピペするとき、間違えて消してしまいました、すみません。
133そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/23 08:12:38
「水槽」「太陽」「真夜中」

 ピラニアを飼いはじめて三ヵ月になる。真夜中の大通り裏の河川で
見つけて捕まえてきた。よく噛み付くピラニアで、僕はその度に指に
ばんそうこうを貼ったり、腕に噛み跡が残った日には、夏なのに長袖
のTシャツを着たりしている。
 水槽に入れておくほど小さいものではないから、僕のベッドの真横に
添寝させる。
「たまには日の射す丘でピクニックとかしたいな、太陽の見える丘で」
と、ピラニアが僕の耳元で話しかける。
「じゃあ今日の昼から、近くの丘に行こう。それから二人で野草をとりに
いこう」
 彼は半分閉じたままの僕の目を見ながら、ベッドから出る。脱ぎ捨てた
ままのジーパンとピラニアのプリントシャツを着て、缶ジュースを買いに行った。

「干物」「携帯端末」「和解」
134名無し物書き@推敲中?:04/11/23 17:32:52
携帯端末でEメールがうてるって友達から聞いたので、いま、きみにメールしてます。
げんきですか?
最後にあったのは、まだきみが入院してるときでしたね。
退院したら、海の見える小さな町に引っ越して、魚釣りでもして暮らしたいなんて、冗談みたいなこと言ってましたよね。きみが干物をほしたりしてる姿を想像したら、僕はなんだか暖かいきぶんになりました。
たぶんそんな平穏な生活が、きみのしあわせなんだ。
退院して、本当にきみは僕のいる町から引っ越してしてしまったね。
あれからだいぶたったけど、きみのいるところからは、きっときれいな海がみえるんでしょうね。
僕は、そう、しんじています。
今まで大変でつらかったぶん、穏やかな暮らしがきみをまっていることを心から、祈っています。
長くなってしまいました。
最後に、僕はきみを見習って、元気にやってこうと思ってます。これからも、つらいときはメール送っていいですか?
それでは。
空の海にいるきみへ。
つぎのおだいは「土曜日」「小鳥」「消えない」
135名無し物書き@推敲中?:04/11/23 17:37:06
すみません。おだい未消化でした。さいど登校させてください。

携帯端末でEメールがうてるって友達から聞いたので、いま、きみにメールしてます。
げんきですか?
最後にあったのは、まだきみが入院してるときでしたね。
退院したら、海の見える小さな町に引っ越して、魚釣りでもして暮らしたいなんて、冗談みたいなこと言ってましたよね。きみが干物をほしたりしてる姿を想像したら、僕はなんだか暖かいきぶんになりました。
たぶん、そんな平穏な生活が、きみのしあわせなんだ。
退院して、本当にきみは僕のいる町から引っ越してしてしまったね。
まだきみときちんと和解してなくて、喧嘩別れみたいになってしまったのが、残念でなりません。
あれからだいぶたったけど、きみのいるところからは、きっときれいな海がみえるんでしょうね。
僕は、そう、しんじています。
今まで大変でつらかったぶん、穏やかな暮らしがきみをまっていることを心から、祈っています。
長くなってしまいました。
最後に、僕はきみを見習って、元気にやってこうと思ってます。これからも、メール送っていいですか?
それでは。
空の海にいるきみへ。
つぎのおだいは「土曜日」「小鳥」「消えない」
136名無し物書き@推敲中?:04/11/23 21:04:21
土曜の夜がやってきた。待ち遠しかった。
早くこの日がきてくれと、米屋でもらったイタリック調な数字が並ぶカレンダーに、
一年前から黒いサインペンで毎日×印をつけてきた甲斐があった。
金色のネクタイも買った。
黄色い背広も探し回って大阪府大阪市東成区で買った。
特注した緑と白の縞模様のワイシャツも昨日ゆうパックで届いた。
あとは待ち合わせ時間に間に合うようにぐっすり眠るだけ。
一式すべてを枕元に丁寧に置いて、そうそう車酔いのクスリも忘れないように。

室内灯を消して真っ暗になった部屋。
でも目を瞑っても消えないよ、僕の夢からも。
ああ、小鳥のさえずりも聞こえてきた。小鳥すきだもんね。

寝過ごした。



お題継続でどうぞ
137sou:04/11/23 22:31:43
彼氏と別れてから、もう三ヶ月。今のところ新しい出会いもない。
土曜の気だるい昼下がり、私はパジャマ姿のままベランダに出て空を眺めていた。
大きな雲が風に揺られて少しづつ動いていく。
目に映る景色の中で、時の流れを感じさせるものはそれだけだった。
今日もこのまま、何事も無く過ぎていくのかな。以前なら土曜日は特別な日だった。
二人でいろんな所へ出掛けた。おいしいものもたくさん食べた。
一緒に将来のことも語った。
そんな思い出は、消えないまま今でも私の心の大きな部分を占めている。
とはいえ、別れを切り出したのは私だった。原因は些細なすれ違い。
別に後悔してるわけじゃない。でも、こうして前に踏み出せない自分がいる。
ぼんやりと取り留めのないことを考えている私の後ろで、カタカタと物音がした。
先日、何気なくペットショップに立ち寄り、何となく購入した小鳥。まだ名前もない。
そいつが篭の中で餌の時間だと騒いでる。
別に寂しかったわけじゃない。でも、こいつのおかげで何か救われた気分になっていた。
さてと。今日は何だかサービス気分。たくさんお食べ。私は篭を開けた……刹那。
あっ! と叫ぶ間もなく、そいつは篭から飛び出して窓の外へ飛んでいってしまった。
私は突然の出来事に呆然として、座り込んだまましばらく動けなかった。
裏切りもの! 育ててやった恩を忘れたのか。いや、育ててはないんだけど。
ああ神よ、人生とは失うことなのですね。
その時、突然携帯の着信音が鳴り響いた。まさか逃げた小鳥が別れの挨拶のために電話を?
しかし携帯のスピーカーから聞こえてきたのは、懐かしい声だった。
「久しぶり、どうしてるかなと思ってさ」
別れた彼女への久々の電話なんだからさ、もう少し気の効いた台詞はないのかい!
そう思いつつも涙がこみ上げてきた。
ありがとう神様、失うものもあれば得るものもあるんだね。

次は「女装」「確信犯」「お約束」でお願いします。

138名無し物書き@推敲中?:04/11/23 23:38:50
 毎日6時の6両目。今日も見つけたスーツ姿のおにいちゃん。
私が座った目の前で、背筋をピンと伸ばしてつり革を掴むのも、
3つめの駅でこっくりこっくり眠り始めるようなフリをするのもお約束。
・・・・・・もしかして私に気があるのかなぁ。
 この前こっそり後をつけて本名もチェックしたし、
私の中では「こうちゃん」って呼んでることもまだ気付いてないみたい。
ちょっと呟いてみようかな「こうちゃん」って、
これってヤバイかな、確信犯それともストーカーっておもわれる?
「ギヤ!」・・・・・・

 私の趣味が女装というアブノーマルな方向に傾斜していった原因は単純なものじゃない。
・・・・・・情緒不安定、うつ病
 そんな薄っぺらい単語で私の心を司ろうとする精神科医の顔に嘔吐したのが昨日のことだった。
 今日も電車に乗らなければならない。エレベーターよりはまだましかと自分を慰めながら車両に乗り込む。
こうやって目を瞑って外界と内面を遮断しながら少しでも気が落ち着くように心を誘導していく。
そう、私のことは私が一番良く知っている。ゆっくり鼻から息を吸いそっと口から吐いていく。何度も何度も。
・・・・・・お願いだ、顔を見ないでくれないか
私の顔を見ないでくれ。お前だ、わからないのか。何を呟いてるんだ。
やめてくれ。うすら笑いを浮かべるな。その口を閉じろ。
伸縮するその得体の知れない波打つような気持ちの悪い物体を見せないでくれ。
・・・・・・私を怒らせるな

次は「花束」「幻想」「高速道路」
139名無し物書き@推敲中?:04/11/24 00:56:20
花束を、枯らした。
恋人からもらった、バラの花束。
だいぶ前から、枯れてたらしい。
今朝きづいて、でも、なんだか捨てられなくて、そのままにしてきてしまった。
高速道路の次のインターでおりれば、恋人のすむまちまでもうすぐだ。
ふと、バラが枯れてるのにきづかなかった自分のことを考えてみる。
ああ、やっぱりそれは、私と恋人の関係に似ているんじゃないだろうか。
恋愛のおいしく美しい幻想の時期は、もう、すぎてしまっている。
それからは、枯れるのをまつだけか。
遠距離恋愛のやるせない切なさや、あえない間の愛しさは、いつのまにか、ひとりの気楽さや耐えられない寂しさへとかわってしまった。
私は、次のインターで、おりなくてもいい。
このまま、自然とこの恋を枯らしてしまうのもいいかもしれない。
インターが、近づいてきた。
すると急に、バラの花束をわたしたときの恋人の笑顔がうかんできた。
うれしそうな笑顔。
このインターをおりて、恋人にあおう。
そして、帰りに新しいバラを買って、今度はきちんと水もかえ、枯らさないようにしよう。
突然、そんな考えがうかんだ。
私は、どうすればいい。インターは、もう、すぐそこだ。

次のおだいは「ポスター」「ストライプ」「ジャケット」
140vv:04/11/24 01:40:25
僕はジャケット一枚引っ掛けて外に出た。うす曇りの日だった。
風がびょうびょう吹いて、僕の心をなでて行った。
そのたびに僕は胸に強く手を当てて、話をするのだった。
悲しいかい?ねえどんな気持ちだい?
自分の感情が感じ取れないほど、僕は心を消していた。
喜びは悲しみを産み、希望は絶望にやさしく囁く。
それが恐ろしくて、羊のように己を閉ざしていた。
真っ白いポスターが風に飛ばされて空に舞った。
彼女は最後に会った日、ストライプのシャツを着ていた。
もう、行ってしまった彼女だった。
いつも気づくのはこうなってしまってからだった。
141vv:04/11/24 01:41:48
また忘れました・・・
「雑音」「ドア」「木の葉」
142罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/24 02:03:19
真綿色したまんこがふわふわと空を飛んでいた。
『母さん。あれなあに』
幼子がつぶやく。
『あれはねぇ・・・』母は口ごもる。『あれはねぇ、あのねぇ、・・・・ドーナッツよ』
『ドーナッツぅ? でもドーナッツって食べ物でしょ? あれ食べれるのぉ?』
『食べれるわよ。大きくなったらチンチンで食べれるのよ』
母はそう言うと、息子の股間を握りつぶした。
『あぅ、痛いよ、ママ痛いよっ!』
『うるせえ。糞がき。黙りやがれ!』母は握りつぶしながら息子の体を腕一本で宙に上げた。
釣り人がかかった魚を急に岸の方へ手繰り寄せるように母は息子のチンポを引きちぎって、むしゃむしゃ食べた。
食べながら、四つんばいになり、蟹のような動作で家路についた。
玄関のドアを開けると父が股間を木の葉で隠した姿で出迎えた。
『なんだまたおまえは蟹の真似をしているのか』哀れむような、宥めるような、不思議な口調だった。そして、叱責した。『いいかげんにしろっ!』
『うるせえ、チンポ食わせろ』
『チンポはこの前食ったばかりだろ。まだ生えかかったばかりだ。新しいのは』父は木の葉を取り生えかかったチンポを母に見せた。
『それでいい。それを食わせろ』チンポにありついた母の耳にはもはやいかなる雑音も入らないのであった。
143罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/24 02:07:49
次、『ぬるま湯』『ホッケー』『転落』
144名無し物書き@推敲中?:04/11/24 03:05:53
いつも気づくのはこうなってしまってからだった。
僕は、最後に彼女に渡した花束の事を思う。
ねえ、君。
喧嘩したデートの帰り道、衝動的に花屋で買って押し付けた、
あの夜のバラの花束は、もう枯れてしまったかい?

花束を、枯らした。
ホッケーの試合を見ながら喧嘩した夜、恋人からもらった、バラの花束。
私は、ハンドルを左に切る。
料金所のおじさんが眠たそうな顔でこちらを見ている。

「転落するようなときめきが欲しいの」
「ぬるま湯みたいな毎日が幸せなんだ」
「あなたとは合わないわ」
「君とは暮らせない」

銀色のワゴン車が、街角で止まる。
ストライプのシャツを来た女が、ドアを開けて飛び出してくる。
ジャケットを着た男に、抱きついてキスをする。

次「ドーナッツ」「魚」「不思議」
145そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/24 07:46:33
「ドーナッツ」「魚」「不思議」

「可愛そうに。こんなぶざまな姿にされて」
本田勝太郎は、テーブル皿に無造作にのせられていくイカリングを見ながら
不思議な哀れみをイカ達に抱いていた。
「もとは魚だったというのに。こんなドーナッツみたいな格好にされて」
 それはあたかも、世間で輪切りにされ、使いはたされた自分自身の姿の
ようでもあった。
「あなた。そんなイカ如きで物思いにふけっているようでは、先が思い
やられるわよ」
 妻は油の火加減に気をつけながら、同時に手早く、イカのハラワタを
塩漬けにして、勝太郎にさし出すのである。

「ハンバーガー」「肉」「普通」
146名無し物書き@推敲中?:04/11/24 15:21:55
「ハンバーガー」「肉」「普通」

ひとくち食べて、すぐに気づいた。
肉の味が、おかしい。
普通、ハンバーガーって、こんな味だっただろうか。
「ねえ、このハンバーガー、ちょっとわるいんじゃない?」
「そんなはずない、きのう、つくったばかり」
あいつはなんでもない顔をして、答えた。
「そう、ならいいんだけど。」
「そうだよ。それより」
「ええ、妹さん、だいじょうぶ?」
「それが、うまくない」
あいつは私の手からハンバーガーをうばうと、ぱくっと口にいれた。
「相手と、もめまくり」
「うん」
「なんかさ、相手は妹におろせとかいいだしたんだよ。
おれもそれきいて、なぐってやりたくなってきたね」
「そう」
「うん。だから、きのう、三人で話し合ったんだけどさ」
「どうなったの」
あいつは二口目を食べた。
「ああ。おどしてやった。これ以上妹をめちゃくちゃにするなら」
それから、にっこりとわらった。
「ハンバーグのひき肉にしてやるって」
相変わらず、私の口の中には、おかしな肉の味が。


「写す」「カメラ」「レンズ」
147名無し物書き@推敲中?:04/11/24 20:26:04
>>142
お前は最高wだ
148名無し物書き@推敲中?:04/11/24 20:43:50
自演乙
149sou:04/11/24 20:56:59
「写す」「カメラ」「レンズ」 

 俺様は最高級のデジタルカメラ。ドイツの職人が魂込めて作ったレンズに最新鋭の画像処理システム。フルサイズのCCDは白飛び黒潰れも無縁の世界。超広角からウルトラズームまで何でもござれ。おまけに手ぶれ補正搭載ときたもんだ。
 我ながらホレボレするじゃねえか、なあおい。
 しかしなあ、俺様の持ち主ときたら、この有り余る能力をまるきり使いこなせてねえ。撮るものと言ったら、鼻水たらした自分の汚ねえガキばかりときた。
 あのなあ、俺様はこんな被写体のために生まれてきたんじゃねえっての。世界の絶景やら歴史的建造物、もしくは可憐なギャル、レディ、アイドル。そういうモンを写すのが俺様の存在する意味なわけよ。
 お。話をすれば何とやらだ。早速来やがった。
 なんだ? また撮るのか? さっきも寝顔撮ったばかりじゃねえか。よくもまあ飽きねえもんだな、そらよ、スイッチオンっと。
 おーおー、相変わらずヨダレも鼻水も出し放題かい。無邪気に笑ってやがるぜ、まったく。俺様のジレンマなんぞこいつにゃ一片たりとも理解できねんだろうな。
 まあ、何つうか、可愛くないとは言わねえ。しかしやっぱり品てものを感じさせないと被写体としては失格だな、うん。
 ん、なんだ、立ち上がるのか。おっ、頑張れ、もう少し……よおし、よくやった。そのままこっちまで歩いてこい。俺様が最高の瞬間を激写してやる。よし、そうだ、そのまま……あーっ、転んだ!
 ふん、多少は頑張ったようだが、まだまだ修行が足りんわ。
 まあ、あれだ、しばらくはこいつの専属カメラで我慢してやる。
 
150sou:04/11/24 20:59:18
次は「炎」「証」「約束」でよろしく。
151「炎」「証」「約束」:04/11/24 23:44:02
 地面に転がっている石ころを蹴ると、それは元気よくじゃれるように転がって、
やがて他の小石にぶつかると元の石ころに戻った。もう夜虫の鳴く頃が終わって、
風は冷たく、月は雲の向こうでかすんでいた。ぼんやりした頭を無理に持ち上げて、
僕は整備された山道の路肩にはたと広がる空き地で、空を見ていた。
「毎年くるからね」
「あぁ夏だな、絶対だぞ」
 炎天下の、彼女が上京する日に交わした約束だ。だからそこに帰ってくることは、
僕にとって、また彼女にとっても必然だった。それほどに僕らはその何もない場所が
好きだった。田舎に住む子供にとって、いや全ての子供にとって、皆でいつも
遊んでいた場所は記憶に残るものだろう。僕はここで彼女と出会い、約束したのだ。
 五回目の夏はとうに過ぎていたけど、僕は彼女を待ち続けた。今年はなぜ
来ないんだろう。病気でもしたのか。疑問は日の経つごとに強まった。でも僕は待つ
ことしかできなかった。
 ……雪が降ってきた。風に荒々しく散らされながら、白いのが僕の頬に張り付いた。
彼女はもう来ないんだと証明された気がして、僕はそっと頬を撫ぜた。

次「警笛」「簿記」「ティッシュ」
152そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/25 19:17:00
 玄関のチャイムが貞子への警笛のように聞こえるようになったのは三ヶ月ほど
前からである。主人が帰宅するなり、テーブルの上にひろげていた簿記の帳面を急いで
引き出しへしまいこむ。
「お帰りなさい」
「今日は少し早かったかな」
「いいえ。私はいつだって、あなたの帰りを待ちわびてるわ」
哲夫は、貞子のこの優しさが、自分の生命保険の掛金に比例して
高揚していることに気づいていた。そして、貞子のなにげない
哲夫への気遣いぶりを感じる度に、頭がツンと痛くなって、時折
鼻から血が流れ落ちることがある。そんな時に備えて、哲夫のポケット
には常時、ミニティッシュをしのばせてあるのである。貞子に感づかれ
てはいけない、貞子への生命保険の掛金も、貞子の優しさと比例して
上昇しているのである。

「黄色」「プラスチック」「鼓動」
153sou:04/11/25 20:08:36
「黄色」「プラスチック」「鼓動」

このハートはプラスチック。
黄色く濁った想いを濾過し、透明な輝きを与えるもの。
だから僕は正しく生きられる。
このハートはプラスチック。
誰かの意思で型どられたもの。僕が作ったわけじゃない。
たとえ僕が誰かを傷つけても、それは僕のせいじゃない。
このハートはプラスチック。
揺るがぬ鼓動を打ち続け、感情の乱れを許さない。
喜びも感動も失ったが、怒りも憎しみも捨て去った。
このハートはプラスチック
これが人のあるべき姿。
僕が渇望の末に得たもののすべて。
こんなはずではなかったんだ。

「望み」「あの日」「夕陽」でよろしく。
154名無し物書き@推敲中?:04/11/25 21:14:29
夕日が包む、たそがれのとき。
いつもの夏の帰り道、夜顔のあまいかおりがした。
「卒業したら、はたらくことにしたよ」
詩織は、じっと前をみながら言った。
「そっか」
私はこたえる。隣を歩く詩織は、いま、何を考えている。
「瑠璃は、受験だよね」
詩織に言われて、私はうなずく。
「うん。だから」
そこで、私は言葉につまってしまった。この夜顔のかおる夏の帰り道を、詩織と私はいままでずっといっしょに通ってきた。
それも、この夏でおわってしまう。
私の気持ちを、詩織は感じたのだろうか。夜顔に近づいて、匂いをかいだ。
「いいかおり。私、絶対にわすれないよ」
詩織は私に言ってくれた。夕日でオレンジ色に染まった、詩織のきれいな横顔が、心にしみた。
詩織は静かにほほえんで、そして、私の一歩さきを歩きはじめた。
私も、わすれないでいよう。
あの日の夜顔のあまいかおり。まっすぐ前をみていた、詩織の瞳。
あれからもう十年がすぎた。
望みの会社に入り、幸せな今の私。詩織とは連絡が途絶えてしまった。
いまでも、夜顔のかおる夏の道は、すこしだけ、さみしい。

「粉雪」「薄紅」「橙」
155:04/11/26 19:24:33
粉雪 薄紅 橙

粉雪が霧雨のように降りはじめた。山間の集落は日も暮れたこともあって既にひっそりと静まりかえった。
通りには車のタイヤ跡が轍のようにうっすらと残り、家々からこぼれた黄色く淡い明りがそこに窓の形をうつしていた。
男がひとり、集落にまぎれ込んだ。真っ黒い外套を着て、フードを深々と被っている。
いつの間にか迷って狭い路地に入っていったようだ。
一軒の家の勝手口が明りをたたえて開いていた。男はふと中を覗く。夕食の片付けられた跡だけがテーブルの上に見られるだけで、
人の気配は無かった。部屋の真ん中には大きな鉄のストーブが焚かれていた。古いタイプの薪や墨をくべて暖をとるものだった。
男は敷居の低いその家に誘われるがままあがり込んでしまった。何故か、あがり込んでもいいような気がしたからだ。
湯飲みに残された緑茶からはまだ湯気がかすかに残っていたが、人はもう、いないように思われた。それでも、
薬缶はカタカタ蓋をならして緩慢な沸騰をくりかえしている。冷蔵庫は空だったが、男はその天井に置かれた、橙の乗った丸餅を見つけた。
正月の準備のものだろうか。男はそれに手をのばそうとした。そのときだった、男は胸の奥から飛び出してくるもの≠感じた。
それが何であるのかはわからなかった。男は突然つめたい床に手をついて跪いた。背中が波をうった。男は体から力の抜けてゆくのを感じた。
床を這い、外へ何とか出ていこうとした。
――――勝手口からは粉雪が室内にふき込んでいた。床は薄っすらと白くなっていた。そこに男がひとり倒れている。
口からは鮮血がこぼれ、床に積もった白い雪に薄紅のように跡をひいて残していた。

「カクテル」「ホテル」「蝋燭」
156名無し物書き@推敲中?:04/11/26 19:57:12
「粉雪」「薄紅」「橙」

お互いの葡萄畑を賭けて、ワインのテイスティング勝負を
しよう言い出したのは彼だった。
私も彼も、葡萄畑の経営は苦しく、ともに負けられない
真剣な勝負だ。
橙色の照明の下、最初のワインが運ばれてきた。
よくかき混ぜて透かしてみると、美しい薄紅色したロゼワイン
で、私はゆっくりとそれを口に含んだ。
しっとりとくるそのワインは、独特の味だった。
「俗にいう、粉雪の味わいだな」
私は余裕をみせて、彼にそう言ってやった。
瓶のラベルを合わせてみると一本目は、二人とも正解。続いて、二本目。
しかし、これにはちょっと罠がある。
実はさっき、私がワインのラベルをこっそりと張り替えておいたのだ。
彼は何も知らずに、二本目を飲み始めた。
これで、彼の大きな葡萄畑が、やっと私のものになる。私はその瞬間を
待ち続けた。
二人が同時に、ワインの名前を告げた。
そしてラベルを合わせてみて、びっくりしてしまったよ。
二人で顔を見合わせて、ばつが悪そうに笑ってしまった。
私も彼も、二人とも、間違っていた。
ワインは、私がラベルを張り替える前に、彼によってその中身もすり替えられていたんだ。

お題継続でお願いします。
157名無し物書き@推敲中?:04/11/26 20:45:57
↑かぶっていました。
すみません。
次は「カクテル」「ホテル」「蝋燭」
158K(かぶってもいいんじゃない?):04/11/26 21:03:51
粉雪 薄紅 橙
外灯で照らされた雪だるまは思いのほか大きく作られていた。赤い毛糸の帽子に、赤い手
袋、ふぞろいの眉、目には大きな橙がはめ込まれた変な顔の雪だるま、どうしてこんなに
うまく固まるのだろうか、彼女は不思議でならなかった。冷たく固まったその表面を撫で
ては見たものの、まったく見当もつかなかったのだ。「すいません…」背後から唐突に声が
して、彼女はひどく驚いて振向いた。若い男が立っていた。「どうかなさいましたか?」男
は慇懃にいった。「いえ…すいません、ちょっと雪だるまが気になって、」「雪だるま?」「え
っ、そうなんです、変だとお思いになるのはご尤もなんですが、雪だるまが気になっただ
けなんです」男はやさしそうに笑んで彼女の顔を見ていた。「私、こんな大きな雪だるまを
作れなかったんです、ずっと生まれてこの方こんな粉雪では雪が固まらなくて、小さく作る
のがせいぜいで、だから、不思議だなと思って…」すると男は笑っていった。「そうなんで
すか、僕はてっきり泥棒か、変質者かなと、」「えっ、私そんなに見えました?」「いや遠く
からだとね、そうなんですか……明日は休日ですよね、お時間あありますか?」「えっ?少
しなら、私受験生なんです、今塾の帰りで、」「そうですか、だったらきりのいいところで
家に来て下さい、この家ですから、お教えしますよ雪だるまの作り方、今日は寒いから早
く家に帰って休まれたほうがいい、」「はい、ぜひ伺いたいです」「よかった、お時間は取ら
せませんよ、ほんのちょっと、ちょっとしたコツだけなんです、では明日」男はそう言っ
て家に入っていった。彼女はその後ろ姿を見送った。
日曜日、彼女は鏡の前に座っていた。朝から勉強は手につかなかった。彼女は鏡の前で自
分の顔を見つめながら口紅を取ると、生まれてはじめて薄紅を唇にひいた。彼女はきりり
と笑ってみた、悪くはない、そう思いながらも、何度も紅をひきなおした。
159名無し物書き@推敲中?:04/11/26 21:12:34
飛び降り自殺があった。
ホテルの最上階にあるバーから、夜の都会へ、彼は羽ばたいた。
動機も何もわからない。
もしかしたらそんなものはないのかもしれない。
あるいは、無数の蝋燭が煌くような幻想的な夜景に魅せられたのかもしれない。

ただ、彼が最後に飲んだカクテルは。
夜間飛行。

「君、明日出張ね」
「は?」
 は、じゃないよ。と言って課長は眉をひそめた。昨日言ったろう。と付け加える。
「いやですね課長。断わったはずですが」
「喜んでいくと言ったじゃないか」
「ただしカプセルホテルじゃなくて温泉旅館なら、という条件でしたよ。せっかく長野に行――」
「そんなことに金使ったら怒られるだろ! 私が」
「私がとは何ですか。保身だなんて卑怯だ」
「卑怯とは何だ。ちょっと来たまえ」
「あ、またあそこに連れて行く気ですね。あの縄とか蝋燭とかあるところだ。いやだ」
「ちょっ、ちょっと君! 会社でなんてこと口走るんだ! 馬鹿な」
 いまやオフィス中の目を独占した課長は、カクテルでも飲んだみたいな顔して逃げ出した。
「あ、待って! ぜひ連れてってくださいよぉ〜」
 遠く非常階段の方から課長の、怒声のような悲鳴のような、判然としない叫びがコダマした。

次「ラッパ」「弾」「タブ」
161gr ◆iicafiaxus :04/11/27 02:48:11
「ラッパ」「弾」「タブ」

Hey Ya Ya Ya カモン カモン カモン カモン Ya Hey
Ya カモン カモン カモン Ya Ya O Ya Ya Come with me

俺は東京に出てきて三年 朝はバイト 昼もバイト
「もう疲れた」なんて言ってらんね だって夜んなりゃ俺らは最高 最上
最Hop な Beat たちを演奏 ぶっちぎる喧騒 これは戦争 俺の前奏曲

俺がマイク持って自分を語りゃ 光るおいらのラッパーの天性
こいつギターを弾いたら No.1 後ろの奴はドラムの先生

今はこんな風に俺たち貧乏 うちにゃたっぷり楽器のローンだ
だけどこうやって歌いながら辛抱 すれば時代はおいらのもんだ

Ya カモン カモン カモン Ya Ya カモン カモン カモン カモン Ya

「きっと売れる」とも言われた(O Ya) 「たぶんいける」とも書かれた(Ya Ya)
だけど俺たちゃそんなもんじゃねえぜ(ねえぜ)
キットでもねえ(Ya) タブンでもねえ(Ya) 俺たちゃ未来をつかむぜ(Ya Ya)

#ごぶさたです。次は「脱線」「さらに」「肉」とかで。
162そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/27 08:28:49
「脱線」「さらに」「肉」

クリスマス前夜だというのに、貞子の脱線ぶりは哲夫を
驚愕させるほどのものになっていた。クリスマスツリーを11月から
出して飾りつけをしているのはいいとしても、飾りつけてあるものが
尋常ではない。キャンディーはいいとして、パック入りの餅を
一つずつ紐につるして、さらに、するめや乾燥肉までぶらさげはじめたのだ。
『肉をぶらさげるなんて・・』哲夫は貞子に何か言おうとしてやめた。
貞子がこうなってしまったのは、保険会社の道端という男のせいでも
あるのだ。
「ツリーの飾り物を今夜のつまみにしないでね」
屈託のない貞子の笑みを見た瞬間、哲夫は慌ててポケットのティッシュに
手をのばした。
163そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/27 08:34:32
すいません、お題です。

「泡」「空気銃」「メルクマール」
164――――――――――:04/11/27 11:47:06

 ◆「この3語で書け!即興文ものスレ」感想文集第10巻◆
 http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100903523/

*************************
感想スレあります。もしよろしかったら、一見さんでも、常連さ
んでも、通りすがりの方でもよいので作品に対する感想を書
いていただければ幸いであります。既に感想が書かれている
作品の分でも結構、一言でも、感想に対する感想でもよいの
でよろしくお願いいたします。
*************************
165名無し物書き@推敲中? :04/11/28 03:45:30
「泡」「空気銃」「メルクマール」

あれが今度のメルクマール、ぼくは空気銃を構えた。
水棲人間のぼくにとって地上に住む旧人類は水の中では相手にならない。
ぶくぶく呼吸もできずに泡を吹くのは可哀相に思うが容赦はしない、
同情しても、いままで助けたりはしなかった。
しかし今回は女の子だった、豊かな髪が水の中で広がっていて、
めくりあがったスカートから、旧人類の発達していない、すんなりした足が
付け根まで見えた。ぼく達は水の中で目を合わせる。学校の旧文化の美術史で
習った人魚のようだ、年は16くらいだろうか。
彼女の目は黒かった。ぼくらはしばらく見つめ合う。彼女は目を逸らさなかった。
ぼくは旧人類への憎しみを束の間忘れて、彼女見た。
しかしちょっと考えて慎重にに引き金を引いた。
落とされたのか、落ちたのかは知らないが、この海域は死の海域だ。
彼女にもはや幸福はない。ぼくの銃からの弾は彼女にすい込まれ、
血は水の中でかげろった。
地上はもはや荒れ果て、回復不能だというのは政府のいうとおりなのだろう。
もうすぐ悲惨な戦争は種の淘汰という形で終わるのだろうか。

感想文に気付かなかった。66も俺が書いたのだが、前スレの感想が見れない。
もしよかったら66の感想も書いて下さい。






166名無し物書き@推敲中?:04/11/28 03:50:13
次は「髪型」「仕事」「調味料」
167そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/28 08:10:45
「髪型」「仕事」「調味料」

僕の仕事はそれぞれの調味料の袋に小さな穴を開け、特殊な化学物質を
混入させることである。この化学物質は、本当に不幸な人にしか
効かない。本当に不幸な人をしあわせにする物質−それ以外の人が
口にしても、微量の物質で無害なので何の影響も与えない。
近場のありとあらゆるのスーパーや商店、コンビニの陳列棚に置いてくる。
髪型は要注意なのだ。監視カメラに映像が映っても、同一人物だとは
気づかれぬよう、最善の注意を払って、ロンゲにしたり、アフロヘア
にしたり、ボウズにしたりするのである。
けれど先日スーパーの保安員に呼び止められた。
「ちょっと来ていただけますか」
僕はもうダメかと思い、腹に特殊スプレーを隠し持ったまま、裏の
従業員専用の休憩室へ連れて行かれた。そして言われたのである。
「言いにくいんですが、あなたのね。あなたの『香料』がキツすぎて
あなたの跡を通るお客さんから苦情が絶えないんですよ」
そうなのだ。僕は1年近く、風呂に入っていない。

「行列」「おしゃべり」「副業」
168うはう ◆8eErA24CiY :04/11/28 10:16:36
「行列」「おしゃべり」「副業」

 或る不調な電車会社の社長が一人、「他社視察」をしていた。
 視察といっても、他社の電車に乗るだけだが、車内アナウンスは変わらない。
 「携帯でのおしゃべりはご遠慮ください。メールも他のお客様の御迷惑となりますので」
 「車内での喫煙は、ご遠慮ください、ホームでの喫煙も同様です」

 「これだ!」社長は手を打った。危険な策だが、座して死を待つよりはましだ!
 3ケ月後・・・

 「当社は、車内で携帯OKでございます。どんどん携帯をかけて下さい、メールもどうぞ」
 「新しいサービスとして、車内喫煙を解禁いたしました。何本でもどうぞ、灰皿も常設です」
 崖っ淵の社長に、怖いものなど何もない。
 「もちろん、車内は不健康・喧騒極まりない状態です。いやな方は乗車を御遠慮ください」

 客の決断は早い。 今や携帯で話せる電車など、どこにもないのだ。
 タバコに至っては、ビルでも家でも、路上でさえ禁止という有様だ。
 ホームに大挙し、古い車両に行列をなす客を前に、社長は一息ついた、が。
 その一方、どうにも悩まずにはおれなかった。電車ともあろうものが輸送が副業とは。

※ 携帯。あんまり持ちたくない;

次のお題は:「廃校」「裸足」「椎茸」でお願いしまふ
169名無し物書き@推敲中?:04/11/28 20:03:06
「廃校」「裸足」「椎茸」

 椎茸、たけのこ、にんじんを混ぜた五目御飯を作った。それを
五目おにぎりにして、バスケットに詰めて、私は外出した。
 廃校になった小学校の校庭の前で、彼は待っていた。彼は靴下
を履かずに、素足のまま靴を履いている。今日も素足のままだ。
 校庭のど真ん中に、レジャーシートを敷いて、私と彼は靴を脱いで
あがり込んだ。彼は裸足で、私はストッキング。五目おにぎりを食べながら、
昔話に花が咲いた。ここは私と彼が卒業した思い出の小学校だからだ。
 彼は突然、裸足のままの足を、私の太腿に投げだしてきた。
「舐めて」
私は、どきどきしていた。前回、彼が私の足の指を献身的に舐めてくれたのを
思い出していた。私は、彼の足の親指からゆっくり舐め始めた。何とも言えない
感覚が、私を完全に支配した。私はこの儀式に、身も心も酔いしれていた。

「中指」「藍」「再会」
170gr ◆iicafiaxus :04/11/28 21:38:26
「中指」「藍」「再会」


ロスからの到着便を知らせるアナウンスがあって、やがて大きな荷物をかかえた
旅行者が次々と到着ロビーに増えはじめる。ここそこで大げさな仕草に再会を喜び
合ういくつもの家族たちに後れて、純香はぽっつりと姿を見せ、僕に手を上げた。
「 ― ハアーイ。元気だった? わざわざありがとうねー」
歩み寄った純香は、一年間の短期留学によっても、しかし、僕にハグをくれる
ほどには、アメリカナイズされてしまわなかったようで。


「……そのジーンズ」
夕暮れの東関道。佐倉の家へとクルマを駆りながら、僕は助手席の純香に言った。
「あれだろ。去年、出掛けに、千葉の『ペリエ』で」
「えっ? …そう、そうそう! よく憶えてるねー、そうだよ」

「……明日は? 名古屋へは、何時の新幹線で帰るの?」
「三時ぐらいには東京駅を出たいかなって。― それまで付き合ってくれる?」
「いいよ。それに、もし疲れてるのなら、昼過ぎまで寝てたってかまわないし」
「ありがとう」

僕はさっきから、純香の左手の中指に、見たことのないリングが気になっている。
前に会った時は新品だったデニムの藍が、こんなに抜けるほどの時間が経って。

そう。その去年、「ペリエ」で撮ったプリクラ。肩を抱くでもなく、頬を寄せるのでも
なく、ただ二人並んだ写真に、「永遠の友達以上」って書き込んで、二十四枚。
僕の分は、色が褪せないようにって思って、あれから冷蔵庫にしまいっぱなしだ。


#どうもうまく書けないけど…、このくらいで書き上がったことにさせて下さい。
#次は「位置」「語彙」「知恵」で。
171名無し物書き@推敲中?:04/11/28 23:06:51
「位置」「語彙」「知恵」

・・・・・・彼と彼女の位置関係は微妙な位置にあり

いやいや、ちがうな、“位置”がだぶってる。

・・・・・・彼と彼女の関係は微妙な位置にあり

うんうん、そうだな、ちょっとは脳味噌に知恵がついてきた。
でも、そもそも“位置”がおかしいな。それに彼と彼女だけってのもなぁ。
やっぱ二人よりは三人のほうが良いに決まってるだろ。
こうしてみるか。

・・・・・・彼と彼女と彼女の友達は微妙な三角関係にあり

いやいや、違うな。やっぱ親友だろ、親友のほうがなおさら。

・・・・・・彼と彼女と彼女の親友は微妙な三角関係にあり

やっぱりな、俺の語彙も増えてきたじゃないかぁ。でも、こうすればどうかな・・・

=1年後=

いやいや、このほうがいいな。

・・・・・・ネオガリレオ軍と地球連邦軍の位置は微妙な位置関係で、位置関係。
172名無し物書き@推敲中?:04/11/28 23:08:19
お題継続でどうぞ
173名無し物書き@推敲中?:04/11/28 23:13:19
…何をしたかったんだかw
ハリスンと一緒に本隊とはぐれてしまった。
深い森の中で自分がいる位置も分からない。
ハリスンに相談すると「腹減った」と言った。
ハリスンは「腹減った」以外の語彙を持っていないのだ。
食ったばかりで腹が一杯のときでも「腹減った」としか言わない。
ハリスンの「腹減った」を正確に解釈できるのは私だけだ。
今の「腹減った」は文字通り「腹減った」の意味だ。
ここ数週間は軍の粗末な食事ばかりだし本隊とはぐれてから何も食ってないのだ。
動物もいないし、近くに実がなってる木もない。
ハリスンが私を食おうと考えないうちに何とか知恵を絞らなければ…


「逃げる」「よく訓練された」「地獄」
175名無し物書き@推敲中?:04/11/28 23:54:59
>>171は上手いよ! 感動した!
176そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/29 08:07:12
 ロビーに飾ってある地獄絵は、貞子の趣味によるものだった。
井戸の中から女の手が三十本近く、ほうたらかしにされた紫陽花の茎
のように、にょきにょきとはえてきている。客はひくだろう、と思いつつも
腹違いの母親に牛耳られている自分を少しかわいいと思う。そうして義母
には何も言えないまま、地獄絵の斜め前の客用ロビーに座る貞子をちらりと
見た。彼女に動く気配はない。恐らく女性週刊誌でもめくっているのだろう。

野間正治は、先日雇ったフロント係のヤンキーの女に一目ぼれしていた。
この女は深井ルナという女性で、顔はこてこての和風なのに名前だけが
何か、彼女の深淵な生い立ちを語り尽くしているようでもあった。
深井ルナはよく訓練された女性で、貞子が「そこの花の剪定をして頂戴」
「それからお得意さんの橋爪さんと泉さんには、この煮物を届けて頂戴」
などと言いそうな気配を感じると、フロントから突然消えて、屋上の
露天風呂の清掃をしていたり、とにかく貞子から最も『遠い』位置に
雲隠れしていたりするのである。野間はそんな彼女の風来坊な感じに
惹かれていたのかもしれない。「あの子糖尿になったの、お金ちょうだい」
といわれたときに野間がポケットの中の有り金すべてを深井ルナにやって
しまったのも、そういう彼女の突拍子もない言動につい何か、なんとも
言えないやるせなさを感じていたからなのかもしれない。貞子はロビーの
客用の椅子に座って、小型の隠しモニターカメラにうつる正治と深井ルナの
行動パターンを見逃しはしなかった。動かないまま、逐一観察日記をつけている。
子離れの出来ない母親がまだここにしっかりと現存している。そして深井ルナも
、そんな貞子の行動パターンを逐一、紫のペンダントにしくんだ超小型隠しカメラで
逐一観察している。

「コニャック」「こんにゃく」「今夜食う」
177そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/29 08:10:58
すいません。「逃げる」がヌケていました。

 ロビーに飾ってある地獄絵は、貞子の趣味によるものだった。
井戸の中から女の手が三十本近く、ほうたらかしにされた紫陽花の茎
のように、にょきにょきとはえてきている。客はひくだろう、と思いつつも
腹違いの母親に牛耳られている自分を少しかわいいと思う。そうして義母
には何も言えないまま、地獄絵の斜め前の客用ロビーに座る貞子をちらりと
見た。彼女に動く気配はない。恐らく女性週刊誌でもめくっているのだろう。

野間正治は、先日雇ったフロント係のヤンキーの女に一目ぼれしていた。
この女は深井ルナという女性で、顔はこてこての和風なのに名前だけが
何か、彼女の深淵な生い立ちを語り尽くしているようでもあった。
深井ルナはよく訓練された女性で、貞子が「そこの花の剪定をして頂戴」
「それからお得意さんの橋爪さんと泉さんには、この煮物を届けて頂戴」
などと言いそうな気配を感じると、逃げるようにフロントから突然消えて、
屋上の露天風呂の清掃をしていたり、とにかく貞子から最も『遠い』位置に
雲隠れしていたりするのである。野間はそんな彼女の風来坊な感じに
惹かれていたのかもしれない。「あの子糖尿になったの、お金ちょうだい」
といわれたときに野間がポケットの中の有り金すべてを深井ルナにやって
しまったのも、そういう彼女の突拍子もない言動につい何か、なんとも
言えないやるせなさを感じていたからなのかもしれない。貞子はロビーの
客用の椅子に座って、小型の隠しモニターカメラにうつる正治と深井ルナの
行動パターンを見逃しはしなかった。動かないまま、逐一観察日記をつけている。
子離れの出来ない母親がまだここにしっかりと現存している。そして深井ルナも
、そんな貞子の行動パターンを逐一、紫のペンダントにしくんだ超小型隠しカメラで
逐一観察している。

「コニャック」「こんにゃく」「今夜食う」
178名無し物書き@推敲中?:04/11/29 19:00:59
「コニャック」「こんにゃく」「今夜食う」

とある気もだめし会場。宏と勇次は墓石の影に隠れていた。釣り竿にこんにゃく
をぶら下げていて、宏は釣り竿を大事そうに抱えていた。
「何、びびってんだよ」勇次は宏がそわそわしているのがおかしくて、からかいだした。
「しんとしててさ、マジで怖いよ」
「はは!」勇次は笑いを必死でこらえていた。
「じゃあ、気持ちがほぐれる遊びしよう。こんにゃく使って駄洒落考えて」
「こんにゃく今夜食う」宏は真顔で答えた。
「おういいね、他には」
「こんにゃくつまみに、コニャック飲む」
勇次は、宏がまじめに答えている所がおかしくて仕方がなかった。
その時、物の音がした。墓石の影から覗いてみると、女の子が二人近づいてきていた。
そのうちの一人は宏の片思いの相手だった。宏は違う緊張感で、釣り竿をびゅっと握り
締めた。
「いまだ、こんにゃく顔にぶつけて」勇次は宏に命令した。
宏は、片思いの子の顔を見た瞬間、こんにゃくを食べてしまった。勇次は今度はお腹を
抱えて笑い出し、止まらなくなってしまった。しかし、宏は、勇次に悟られずに、好きな
子を守れた、優越感に浸って満足していた。

「フリージア」「アップルティー」「後悔」
179名無し物書き@推敲中?:04/11/29 20:36:58
フリージアが咲きました。
と、書き始めて、すぐにペンは止まってしまった。
フリージアは、好きな花だった。健二が送ってくれたから、好きな花だった。
私は、今から、この手紙に何を書くつもりだろう。
愛の言葉だろうか。想像して、重いため息がでた。
健二が住所を知らせる手紙を送ってきてから、もう一週間になる。
また一緒に、あなたの好きなアップルティーでも飲みましょう、などどわざとらしくかいてある手紙だ。
その間に私が書きかけた返事の手紙は、これで七枚。
つまり私は、一日一枚のペースで、だせない手紙を書いているわけだ。
馬鹿な女。余計な計算をしてしまい、後悔した。
返事をしたら、健二にあうことになるだろう。
あうことになったら、先はわかっている。
また、ずるずるした関係だ。金とか女とか、健二のそういったルーズな性質に、私はまた精神も身体も食い殺されるんだろう。
フリージアの先に、うまい言葉が続かない。
そもそも、続けるべきではない。
私は一行しか書いてない白い便箋を、くちゃくちゃにつぶした。
あっけないほど簡単に、つぶれてしまった。


「奇妙な」「箱」「運」
180名無し物書き@推敲中?:04/11/29 21:03:49
「奇妙な」「箱」「運」

その箱を開けるべきか否か、俺は迷っていた。
差出人不明の奇妙な贈り物の宛名は、しかし確かに俺を指している。
伝票を見る。箱の内容物は「変化」とタイプされていた。
俺は、変わりたかったのかもしれない。
運がないと思った。精一杯頑張ったんだ、そういってもあいつは
戻ってきてはくれなかった。指輪はもうない。捨ててしまった。
行き場のない悔しさだけを残して、俺の時間は止まってしまった。
箱の中には何があるのか。開ければ何かが変わるのか。
開ければ、戻れない気がする。
開けなければ、進めない気がする。
嫌気がさす。こんなことにも迷ってしまう自分の性格にだ。
貴方は優柔不断すぎるのよ――あいつの人を小ばかにしたような声が、脳裏に響いた。
瞬間、全身が沸騰する。
そうだ、すべてが変わってしまえばいい。あいつにも、今の自分にも、この世界にも、
未練はない。ないはずだ。
俺は意を決した。

「銃」「みかん」「世界」
181名無し物書き@推敲中?:04/11/29 23:12:49
「銃」「みかん」「世界」

 コツコツと、アパートの階段を誰かが上がってくる。
僕は押入れの中に、銃を抱えて身を丸くしている。暗闇の世界の中で、
身を硬くして、銃をもつ手は汗まみれになっている。
 ことの始まりは、一ヶ月前に届いた宅急便。箱の中には、銃と
この銃でお前は殺されると書かれた紙切れが一枚。差出人の住所と名前は、
まったく身に覚えがなく、電話は現在使われていなかった。人から恨まれるようなことは
全く覚えがなかった。唯一気になったのが、コンビニでみかん味のグミを万引きしている
若いサラリーマンと目が合ったことぐらいだ。まさかそんなことで。
 その日から恐怖が始まった。閉めたはずの窓が開いていたり、部屋のドアが開いていたり、
何年も使っていないコーヒーカップがテーブルの上に置いてあったり。しかも、
コーヒーが飲みかけになっている。いつしか、少しの音にも敏感になり、人の
足音が聞こえてくると、銃を持って押入れに隠れるようになってしまった。
 コツコツとした足音が、部屋の前で止まった。ドアが開いて男が部屋に入ってきた。
僕は、すべてに決着をつけるために、男に飛び掛った。男は眼だし帽をかぶっていて
顔は分からなかった。僕は男の眼だし帽を必死に取りにかかり、ついに男の顔を露にした。
僕は男の顔を見て、すべてを一瞬で理解した。男は中学3年間、僕がリーダ格で虐めていた
奴だった。
「復讐に来た」
そう言われて、僕が一瞬ひるんだ隙に銃を奪われ、心臓に弾丸を打ち込まれた。
奴は、僕に言い訳も後悔する暇も与えてはくれなかった。

「新聞」「棚」「恐怖」
182名無し物書き@推敲中?:04/11/30 00:58:51
 新聞によると、棚が倒れるほどの地震だったらしい。
やはり自然災害は最大の恐怖だ。俺も油断するわけにはいかない。
と、思った瞬間、いきなり強い力が俺の腹を押さえつけ、
動けなくなった所に切っ先の鋭い鋼が落ちてきた。
奴は、僕に言い訳する暇も後悔する暇も与えてはくれなかった。

「こんにゃく今夜食う」
「おういいね、他には」
「こんにゃくつまみに、コニャック飲む」
人を小ばかにしたような声が、頭上に響いた。

 私を食おうと考えないうちに何とか知恵を絞らなければ…
そうだ、すべてが変わってしまえばいい。
あいつにも、今の自分にも、この世界にも、未練はない。ないはずだ。
俺は意を決した。
そして、あっけないほど簡単に、食われてしまった。


「りんご」「パンツ」「中だし」
183名無し物書き@推敲中?:04/11/30 02:14:39
オレの頭の中はえっちなことでいっぱいだ。
りんごをむさぼるように、女の身体をむさぼりたくてたまらない。
パンツの中はいつもギンギンで、中だしすることばかり考えている。

「彫刻」「異国」「美女」
184名無し物書き@推敲中?:04/11/30 02:46:20
ある高名な彫刻家がこの異国の地にやってきてから20年が過ぎた。
創作のために気候・風土の良いこの地を選んだのだ。
最初は思い通り作品作りに没頭できた。
次から次へと作品が売れ、いつしか巨万の富を得ていた。
しかし、この地には金を使える場所などあるはずもなく
周りにあるのは野生動物の住処となっている鬱蒼と茂る森林のみ。
彫刻家は悩んだ。
これまで創作に没頭してきたのでふつうの人が体験する
楽しみや経験をまったくしてこなかった、と。
その上ずっと一人ぼっちだったので老いた身に日に日に寂しさが募る。
せめてそばに誰かいてくれれば。いてくれるだけでいい・・・。
彫刻家はしばらく腕組みして考えたあと、そばにあった材木を一心不乱に彫り始めた。
それは彫刻家の考えうるとびきり美女の彫像であった。

「薬」「CD」「乾燥」
185罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/30 03:20:36
1/2

CDを聞いていた。ヘッドフォンをつけて。何時間も熱中して聞いていると時の経つのを忘れていた。
腹が減ったなあと思って時計を見ると、もう夕方の六時だ。おれは焦った。風呂場で乾燥老人を戻していたのを忘れていたのだった。どうなっていることやら!
乾燥老人はその名の通り老人を乾燥保存しておき、水に戻して使用するヒット商品だった。乾燥から戻った老人を煮て食おうが焼いていじめようが殺そうがこき使おうが自由なのであった。
もっともポピュラーなものが乾燥老人であって、なにも老人ばかりではなかった。乾燥人間とカテゴライズされた中のひとつに乾燥老人という商品があったのだ。
186罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/30 03:21:22
2/2

乾燥人間のほとんどが乾燥老人であった。なぜなら老人の人権が迫害されてからというもの老人狩りが頻繁に起こり、老人を保護する期間がなかったから、老人を乾燥機に入れることなど容易かったからである。
力の弱い老人たちが乾燥老人にされ、各家庭にいきかい、涙を目にたたえてその生涯を終える。今はそんな時代だった。おれが風呂場に行くと、乾燥から戻った老人が風呂のお湯を勝手に出して、水風呂から良い湯かげんにかえようとしていた。
もうすでにぬるま湯にはなっていたらしく、フンフーン♪と鼻歌交じりで久しぶりの風呂を満喫していた。
おれは怒りを何とか静めようとしたが、老人と目が合った瞬間おれの怒りが爆発した。やつはおれをあざ笑うかのようなまなざしで見たのだ。おれは心の中を見透かされているような気がして不快だった。
たしかにおれは万に一つの可能性にかけてこの乾燥人間が乾燥少女や乾燥婦人であることを願っていたのだ。何かの手違いや、女囚人、または闇で人身売買された少女などが乾燥人間に混じっていることもある。
みためは乾燥老人と変わらないのでたまに乾燥少女を引き当てた人などのうわさも耳にすることがあるのだ。老人は肩まで湯につかりながら、残念だったな乾燥少女じゃなくて、そんなふうな嫌みったらしい表情でおれを見ている。
おれは老人の頭を思いっきり蹴りつけた。そして湯に老人の顔をつけて窒息死させようとした。だが、老人には予想以上に体力があり、おれは老人の頭部をなかなか沈ませられないでいた。老人は顔をおれのほうに向けると、
「乾燥から戻った老人の皮膚は痛みやすいからクリームかなんか薬をつけていたわってやるのが定石じゃないのか!」と叫んだ。まさにそのとおりで、おれは返す言葉もなかった。


乾燥老人シリーズ第二段。次『優劣』『誘拐』『ユーカリ』
187罧原堤 ◆mm/T2n8mWo :04/11/30 03:24:27
>>186の二行目
期間→機関
188名無し物書き@推敲中?:04/11/30 03:43:25
ガスガスフルフルガスワンダフル(・∀・)
189そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/11/30 19:19:35
『優劣』『誘拐』『ユーカリ』

「ユーカリの葉を食べるのはコアラだけじゃないんだよ」
僕は女の子の前で葉をちぎって食べてみせた。
「おじちゃん、バカでしょ。ユーカリの葉には毒が含まれてるよ」
「うそだろう」
僕はあせって口から噛んだ葉を吐き出す。
こんな痛いげない少女を誘拐し、オーストラリアまで連れてきた挙句に
このザマか、と僕は女の子の胸にぶらさげてあるオレンジのペンダントを見た。
ペンダントの女性は僕の前の妻。
この子は僕の子だった。いや、今でも僕の子だ。あんなろくでなしの
男にこの子は任せてられない。僕とあの男に優劣をつけるなら、
明らかに僕のほうが上なのだ。
今頃日本では、クリスマスソングにうかれた若者達が、大阪の橋の上から
裸でダイビングでもしているんじゃないかと思う。
ここの海には飽きた。あんまり綺麗過ぎて、見慣れてしまった。
このままここへ永住しようか、それとも自首しようか。
その答えはこの子がその答えを求めてきた時に、提示しようと思う。

「冬」「夏」「置き手紙」
190名無し物書き@推敲中?:04/11/30 22:06:39
「冬」「夏」「置き手紙」

木枯らしの吹く冬の朝、泣き疲れていた私は、あなたの置手紙を見つけました。
筆まめなあなたのこと、きっと私への伝言や細かい注意や、もしかしたら
料理下手な私のためのレシピまで書かれているんじゃないかとまで思って。
涙の跡も忘れて、子供みたいにわくわくしながら封筒を開けて。
私は自分が怒っているのか、うれしいのか、悲しいのか分からなくなりました。
手紙にはただ一言、料理くらいできるようになれ、と。
もっと気の利いたことは言えないの。
私にだって、料理くらいできる。
帰ってきたら、きっと驚かせてやろう。
そんな強がりをいわせてくれる置き手紙。
もう帰ってこれないかもしれないのに。
思い切り泣いてしまいたいのに。
あのときの置き手紙のせいで、私は今日も一人で料理を作らなければなりません。
あなたを驚かせるために。
いつかまた出あう日のために。
暖かい紅茶を淹れて、待っています。
夏の太陽みたいに明るい、あなたの笑顔にまた会えると信じて。

次は「遺跡」「怪我」「猫」で
191名無し物書き@推敲中?:04/11/30 23:30:10
いやーすごいものを手にいれてしまった。
旅行中マヤ遺跡近くの土産物やで手に入れた伝説の薬草。
これを煎じて飲んだり塗ったりするだけであらゆる病気・怪我が治るらしい。

こんな貴重なものは滅多なことでは絶対につかわないぞ。俺の決心は固い。
早速部屋の隅に隠しておかなければ。このあたりでいいかな。
上にクッションを置いて偽装は完璧。

すると、窓の外からカップルらしき男女の話声が聞こえてきた。
「あれ?この野良猫足に怪我してるよ。ほら血がでてる」
「うわ・・・けっこうひどいね。でも俺たちにはどうしようもないよ」
「そうだね。だれか心優しいひとが助けてくれるといいね」「うん、もう帰ろう」

俺はカップルの会話を聞きながら缶に入った薬草をじっと見つめていた。
たかが一匹の野良猫だぞ?もし俺が重病や大怪我になったときにどうする?
うーむ。野良猫。うーむ。貴重な薬草。うーむ・・・。

そのうち俺は考えるのがめんどうくさくなり、動物にも使えるのかどうか
缶の裏の説明書を読みながら部屋の外へ出た。

「お笑い」「梅」「冬」
192sou:04/11/30 23:48:50
「怪我」「遺跡」「猫」

「隊長! お怪我はないでありますか!」
「うむ、何ということはない。しかし、いきなり壁穴から矢が飛んでくるとはな。さすがは古代の財宝が眠ると言われる遺跡だ、一筋縄ではいかんようだ」
「はっ! さすればこの私めが斥候の役目をさせて頂くであります」
「そうか、それは心強いな。頼んだぞ」
「はっ! 前方視界よし、左右指差し確認よし、それでは行って参りま……うああああ!」
「くそっ、今度は落とし穴か。おい、大丈夫か」
「だ、大丈夫であります! 何とか壁面の割れ目をつかんで踏ん張っているであります!
ですがこれ以上もたないであります!」
「そうか、すぐ引き上げてやる……むう、重い……ダメだ、私一人の力では引き上げられん」
「頑張るであります、隊長! 私にはまだやり残したことがあるであります!」
「そうだな、財宝を見つけるまでは……」
「いえ、それもそうでありますが、もっと重要なこと、命を賭してもやり遂げなければならないことがあるであります!」
「なんだ!?」
「最後のお題を消化することであります」
「そうか、そうだったな……しかし私一人の腕力では……猫の手も借りたいというものだ」
「隊長! 全然オチてないであります、うああああ……」

193gr ◆iicafiaxus :04/12/01 02:52:21
「お笑い」「梅」「冬」

三年生が受験だといって来なくなってしまってから、文芸部は僕と、この吉村という
女の子と、二人で引き継いだ。二年生がほかに居ないというのは、人手不足には
ちがいが無いのだけれど、人が居ないなら居ないのなりに、まあなんとかやっている。

もう季節も十二月ともなると、壁の薄い部室棟はなかなかに冷えて、僕らは部屋の中
でもコートを着っぱなしだ。今日もけっきょく放課後の活動は吉村と二人だけになって
しまって、電気ポットに温かいお湯が沸くのを待ちながら、話題の映画は原作と比べて
どうだとか、あの作家の新作を買ったからそのうち貸すよだとか、そんな話をしている。

六月に修学旅行で京都に行ったとき、北野天満宮で御守りと一緒に買った梅干し。三年
生が全員居る日に開けようねって言ってたら、そのうちだんだん先輩たちは来なくなって、
けっきょく戸棚にしまったまま冬になっちゃったっていう、まあちょっとしたお笑い草の。

それを今日はテーブルの上に出してきて、吉村と一緒に今フタを開けてみたところだ。
プラスチックのフタがとれると、のぞき込むようにして見ていた吉村が思わず「うあっ!」
とのけぞるほどに、あざやかな梅の香りが刺してくる。
僕はその大きな一つを指でつまんで、吉村の口元にそれを突きつけるように差し出す。
「え、なに、えっ、」とたじろぐ吉村に、「ほら、アーンして」となかば押し込むようにして
それを食べさせてしまう。
「ふあ、あたひ、ふっぱいの、だめなんだけど、」と吉村がおろおろしながら梅干しを
ほおばるのを、僕はにやにやしながら見まもる。すっぱい物のダメな吉村は、半泣きに
なって自分のつばきをすすりながら、降参とばかりに「ねええ、これもらってよお」と
歯でくわえるようにして差し戻す。僕はそのじゅくじゅくになって種も見えてる残り半分の
梅を、吉村の口びるに触れないようにしながら受け取る。

僕は「へはは、かんへふキフだー」とか言ってふざけてみせる。吉村の頬が夏の梅の
ようにわずかな薄い赤みを持つ。そう、お笑い草は梅干しだけで結構なのにな。

#次は「オリ」「鉄」「ドーム」で。
194名無し物書き@推敲中?:04/12/01 23:47:43
「オリ」「鉄」「ドーム」

オリの中?
こんなところで、あなたも妙なことを仰りますね。
私もよくは知らないんです。
ただ、それはとても獰猛で、異形の姿をしていると聞きます。
何でも、雨の夜にはオリを出て、町におり、人をさらうとか。
ここいらの人たちは、鵺って呼んでいますよ。
鳴き声が聞こえるそうです。
でもほら、所詮、噂ですから。
実際確かめてみれば、そんなのは熊だったり、猪かもしれない。
オリは丈夫な鉄でできてドーム状だという噂もどうでしょう。
見た人は、一人もいないのに。
まあ、調べようなんて思わない方がいい。
幽霊の正体みたり枯れ尾花。
どうです?そんなものでしょう?
要するに、想像力の問題なんです。
人間の想像の中にこそ、恐怖はあるんですよ。
だいいち、知っていますか?
鵺っていうのはね、得体のしれない、とにかく怖い怪物のことをさすようですよ。
奇妙な体験をしたここいらの人は、昔からみんな鵺の仕業と信じるんです。
わからない方が、いいことだってあるでしょう?
…え?
ああ、雨が降ってきましたか。
いかなければならない。
ねえ、あなた。
私をここからだしてくれませんか?


「音」「砂」「夜」
195名無し物書き@推敲中?:04/12/02 03:42:10
「音」「砂」「夜」

「ああ、もう! 眠れない!」
 琳太郎はいきりたった。砂の流れる音が隣りの部屋から断続的に聞こえてきて、それが耳障りになって眠れないのだ。
 隣りは弟の部屋だった。
(夜遅く、あいつは何をやっているんだ)
 琳太郎は湧き上がる憤りを押さえて、弟の部屋の扉を手荒く叩いた。
 もしもへらへらと出てこようものなら、琳太郎は殴りかかるつもりでいたが、しかし中から出てきたのは、
驚くほど虚ろな顔をした弟だった。
その予想外の様子に琳太郎は、怒気を根こそぎ吸い取られたように、唖然とした。
「おいおい、いったいどうしたんだ?」

「冷え冷え」「うら若き乙女」「ロールスロイス」
196名無し物書き@推敲中?:04/12/02 06:43:55
「冷え冷え」「うら若き乙女」「ロールスロイス」

琳太郎の弟は虚ろな表情のままで、琳太郎を強引に押しやり、自分も部屋の外に出ると後ろ手で素早く部屋の扉を閉めた。
閉まる直前、明かりも点けていない暗い暝い部屋の中で、ゆらりと動いたのは、あれは若しや、うら若き乙女の白い背中ではないか?
「琅次郎、お前、何をやっているんだ。部屋に誰かいるのかい」
先刻までの怒りは何処へやら、すっかり毒気を抜かれた琳太郎は、寧ろ気を使うような口調で、恐る恐ると弟に問い掛けた。
「兄さん」一拍置いて、口を開いた弟の声は、琳太郎が慣れ親しんだ陽気なものとは程遠く、どこか冷え冷えとした引きつったような声であり、琳太郎の心中に目の前にいる人間が本当に自分の弟なのかどうか訝しむ気持ちさえ生じさせた。
「兄さんは、兄さんにとっての幸せはなんだろう」
「待て待て。いきなり、そんな事を聞かれても答え様が無いよ。哲学問答は後で付き合うとして、取り合えず質問に答えてくれよ。中に誰かいるのかい」
「例えば金持ちに成る事は一つの幸せの形だろう。ロールスロイス、ドンペリ、絶世の美女も買えるかも知れないな、そういうものは全て金で手に入れる事が出来るんだ」
「琅次郎」
「解っているよ、兄さん。全て話す。今夜、全て話すつもりでいたんだ。今は結論を焦らないで、僕の話を聞いて欲しい。もう時間が無いんだ、本当に時間が無いんだよ、兄さん」

「砂」「部屋」「中」
197そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/02 07:45:38
 「砂」「部屋」「中」

僕の部屋は砂の中にある。蟻地獄にはまったのだ。
それで砂丘の地下の一室で、この蟻女と一緒に暮らしている。
「今日は稼いでちょうだいよ」
小太りの中年の女は、僕のテーブルに今朝仕入れてきた新しい
用紙と、新鮮なオレンジジュース、それからハムエッグトーストを
置いて部屋から出て行く。
逃げようとは思わない。居心地がいいのだ。それに無償の食料も
定期的に供給される。
蟻女は日中、他の若い男と遊びに出かける。僕はそのスキに逃げ出せる。
いや、無理だと思う。
砂丘の外の生活のほうが限りなく不安定で辛いのだ。

「アナログ」「葉」「水」
198sou:04/12/02 22:22:56
アナログ 水 葉

人は本来アナログ的な、有と無の狭間に揺らぐ存在。
されど時代は人に理由を求め、立ち位置の固定を望む。
水の流るるさまに似た生は許されず、
木立の葉が陽を求め伸びるが如く生きよと叫ぶ。

「あんた、またよくわかんないことをブツブツと。それより夕飯できたわよ」
「おう、今日は肉か? 魚か?」

次は 携帯 風 雷 でどうぞ。
199名無し物書き@推敲中?:04/12/03 00:30:11
「携帯」「風」「雷」

 こんな風の強くて雷の鳴る夜にひとりでバーなんて来なければよかった。
 隣に座る客はかものはしの女の子だった。
「おへそがなくなるから隠れなくちゃ」とバーテンダーにいって笑う。
 もともとかものはしにへそなんてない。これはかものはし的ジョークなのだ。
 尻を振ってちらちら見てくる。誘われているのだ。
 ぼくはディヴィッド・ベニオフの文庫本を読んで視線をやり過ごす。2001年。悪くない年だ。
 かものはしはマティーニを飲んでいる。くちばしが長すぎるからストローを使って。
 突然携帯電話が鳴り出す。かものはしは毛皮をごそごそと探って取り出す。
「洪水になった? それなら帰れるわ。わたし泳げばすぐつくものね」
 かものはしは電話を切るとぼくにウインクをしてカードで払って帰った。
 ぼくはため息をついた。下は一面の洪水なのだ。一難去ってまた一難か。

つぎは「かわうそ」「トランプ」「どしゃ降り」でお願いします。
200名無し物書き@推敲中?:04/12/03 01:40:38
土砂降りのなか、かわうそ君たちが仲良くトランプをしていました。
「それババだよ!」
「ウソつけ」
「ウソだよーん」
「どうでもいいから早く引け」
「じゃあ、これ!」
「それは本当にババだよ」
「ウソつけ」
「ウソつくよ。だって俺等カワウソだろ?」
「どうでもいいから早く引け」
「カワウソはウソをつきます。僕は三枚のうち二枚がババだと言っています。
 さて、ババを持っているのは僕でしょうか、それとも彼でしょうか」
「どうでもいいから早く引け」
「うーん…分かった! 答えはA地点から歩いて3分です!」
雨はますますひどくなるばかりでした。

「赤」「青」「マント」
201そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/03 08:42:59
「赤」「青」「マント」

 木製の古びたテーブルの上には、スーパーの半額シールのついた
ニ人分のチョコレートケーキと、それとキャラクターの絵柄のついた
マグカップ、赤いトマトと青いトマトが五、六個、シャンパンのグラス
とともに並べて置かれている。そして同じく中古のソファーの上には、
昨年の学芸会で息子が使ったマジックショーのマントがかぶせてある。
「今年も、なんとかクリスマスをむかえることができたね」
隣の部屋から老いた初老の男性が、片脚をひきづりながらテーブルに
近づいてくる。
「マントはいつもどおり、食後にめくってもいいのかしら」
「うん」
二人がクリスマスの晩餐を終え、一息ついてから、妻はソファーに
かけてあるマントをめくった。そこには今年無事退院した妻への
プレゼントとして、膝に負担のかからないような杖が置かれている。
「保(たもつ)からのおくり物だよ」
「今年は気の効いたものをくれたわね。昨年はひどかったけどね」
妻は初老の男性の後ろをちらりとみた。
食器棚の上には、四十年前に亡くなった息子の写真が飾ってある。
妻は贈り物の杖をつき、写真の前まで行き、ケーキの上に蝋燭を立て、
マッチで火をつける。
「ごめんなさいね。クリスマスなのに、あなたのケーキに火を燈すのを
忘れていたわ」
窓を叩く風の音で目が覚めた。
僕の枕元には、十年前に亡くなった母親と父親の写真が立て掛けてある。

「新札」「診察」「栗」

202名無し物書き@推敲中?:04/12/03 15:06:52
 急にお腹が痛くなったので、近所の病院へ行った。
そこは小さな開業医で、度々お世話になっている所だ。
診察を待つ間、痛み自体はほぼ引いていたが、精神的に疲れていた。
病気、とりわけ腹痛はまず肉体より精神から蝕んでいくからだ。
 医者からの「何か悪いものでも食べましたかね?」との問いに
ふと今朝食べた栗を思い出した。もしかしたら生のままだったのかな。
大事では無いとはいえ、事の発端が栗であると考えると、なんだか情けなかった。
診察を終えた後、一応、ということで薬をもらった。
お釣りに貰ったお札は、最近発行されたばかりの新札だった。
まだ見たことが無かったので、なんとなく嬉しい気持ちになった。
203名無し物書き@推敲中?:04/12/03 15:08:15
おっと三語書き忘れ。

「猫」「タバコ」「少女」
204名無し物書き@推敲中?:04/12/03 17:10:29
「タバコをすっていいですか?」
列車の隣に座った男が、私に尋ねた。
了承の意志を伝えると、男は礼を言い、古風なタバコをうまそうに吸いはじめた。
昼の二時。眠たい昼下がりの時間。
ヨーロッパの田舎道を、ゆっくりと列車は走る。
さっきから窓の外には牧草地が広がっている。
がらんとすいた列車で、私の前の席の少女は、猫を連れていた。
「あなた、日本人ですよね」
男が話し掛けてきた。
そうだと答えると、男は納得したように、何度も頷いた。
「なら、気をつけた方がいい。最近は物騒だからね。
駅に待ち伏せして、外人客の荷物をひったくったりする奴がいるらしい。
もしくは、列車のなかで…」
男はそう言って笑った。
列車が大きな音をたてて、駅に止まった。男が言う。
「そうそう、いいことを教えてあげましょう。奴らには、特徴があるんです」
「なんですか?」
私は聞いてみた。
男は席を立った。降りるらしい。
男は去りながら言った。
「例えば、古風なタバコと、猫とか」
いつのまにか、膝の上のバッグはなくなっていた。


「曲がり」「捻れ」「歪み」
205sou:04/12/03 23:57:36
曲がり 捻れ 歪み

頭を貫くような痛みとともに、俺を包んでいた闇は弾けた。
いつの間にか俺は、強く、そして湿った風に晒された高台に立っている。
そこから見下ろす景色は、ただ異質だった
辺り一面、葉の黒光りする木々が生い茂った密林。まるでタールの海のようだ。
ところどころ海を裂いて屹立する岩礁のように高層ビルが点在しているが、
そのどれもが不規則に捻れながら天を突いている。
空では紫色の雲が幾何学的に歪みながら層を成し、その切れ目からは
ナトリウムランプのように妖しく光るオレンジの空の色が見て取れる。
彼方に見える海岸線は幼児の落書きのように奇妙なほど幾重にも曲がり、
錆のように赤茶けた水が飛沫をあげて打ち寄せている。

おそらくこの不快な景色は夢なのだろう。
この夢は俺の心の有り様を暗示しているのだろう。
そして再び目覚めたならば、この夢のことなど綺麗に忘れてしまえるのだろう。
しかし俺は理解していた。俺は二度と目覚めない。眠ることもない。
命を断ったのだ、俺は。

フィルター ノイズ 旋律 でどうぞ
206名無し物書き@推敲中?:04/12/04 00:41:20
「フィルター」「ノイズ」「旋律」

 デビューして7年目のミュージシャンが藁にすがりつく心境で時空研究所に相談に行った。
 デビューしてしばらくはヒット曲に恵まれていたが、最近は鳴かず飛ばずがつづいていた。
 つぎの曲で当てなければレコード契約が切られてしまうのだ。
 所長はちょうどタイムマシンの試作品を完成したばかりだった。
「どうだろう、ただで乗せてあげるから、まず最初に試してみないか?」
 ミュージシャンは喜んで申し受けに飛びついた。こんなチャンスめったにない。
 ミュージシャンは20年後の世界に飛び立った。
 その世界では電気自動車が普及していて街行く人はカード式の携帯電話で地下鉄に乗っていた。成功だ。
 そこでミュージシャンは音楽ソフトショップに立ち寄りその年のNo.1ヒットソングを買った。
 ほどよくフィルター加工されてノイズのない洗練された音と美しい旋律が気に入ったのだ。
 元の世界に戻った彼はその曲に基づいて新しい歌を作った。
 その曲は大ヒットには至らずもスマッシュ・ヒットにつながり、ラジオで大量にオンエアされて、レコード契約もなんとか延びた。

 20年後。その年のNo.1ヒットソングは20年前のカバーソングだった。
 お金持ちになった所長はときどき考える。結局この歌は誰が作ったのかと。

つぎは「左利き」「ピアス」「古時計」でお願いします。
207名無し物書き@推敲中?:04/12/04 12:58:37
どう捉えるべきかわからなかった。このまま続けるべきか、
それとも普段使う左手に戻すべきか。目的は変わらないのだ。
左利きと右利きの違いをふと確かめたくなっただけなのだ。
摩擦によって生じるうねりにも似た快感は、たしかにある。
しかし、普段どおり行われているはずの小刻みな運動が、
いつもとフィットする部分が違うのか、まるで他人にして
もらっているかのような予想外な躍動感となって全身に染み渡る。
しかし、慣れていないため、すぐに疲れがたまりテンポ感が狂う。
普段は意識することの無いピアスの揺れまでが気になる。
が、それもまた、今日は大事なのだ。壁の古時計を見ると
すでに20分が経過していたが、そんなことはどうでもいい。
目的は変わらないのだ。今か今かと集中力を高める。
腹の奥底にある器官の先端をぐいと持ち上げ前方へ飛ばすような
イメージで、うねりをより一層増大させる。そして
さらに激しく手を動かした。だんだん目の前が熱くなる。
いつしか麻薬的感覚にも似たうねりへと変化していた。
もう細かいことはどうでもいい。あと少しで昇華する。

そのときふと背後に現実的な気配を感じた。いやむしろ遮られた。

オカン・・・

次は「パスワード」「生徒」「ヘッドホン」でお願いします。
208名無し物書き@推敲中?:04/12/04 14:31:10
毎朝見る、代わり映えのない登校風景。
電車の中で、いろんな制服を着た生徒が入り混じって
友達と談笑したり、ヘッドホンを付けて音楽を聴いていたり、本を読んだりしている。
僕は毎朝同じ電車の同じ座席に乗ってそれを観察している。
人が少ない最初の駅から乗っているので、席を取れないことは稀だ。
長年こんなことをしているからか、固定客の顔はだいたい覚えてしまった。
「おはよう、今朝もつまらなそうな顔をしてるね。」
と、前に立ってこちらを見下げてくる女子。
彼女も毎朝同じ電車に乗っていて、一年前向こうから声を掛けてきた事から知り合いになった。
以後、友達に格上げされ、今の関係は彼氏彼女という所に落ち着いている。
「うん、おはよう、今朝も変わらず綺麗だね。」
毎朝の挨拶を交わす、友達に聞かれたとき「随分ラブラブだな!」などと怒られたが、僕は気にしない。
きっと彼女も気にしないだろう。
「ありがとう、ところで、そろそろパスワードを教えてもらえないかな?」
「プライバシーですから、だめです。」
彼女は最近やたらと僕の携帯の暗証番号を聞きたがる。
携帯を勝手に盗んだら、暗証番号がかかっていたらしい。
随分身勝手だな。と言ったら、「これも貴方を愛するが故ですよ、許してください」と言われた。
僕と彼女の会話は何時もこんな感じで、僕の目から見ても少しおかしい。
だけど、反してずっとこんな関係を続けていきたいと思う僕がいる。
彼女はどう思っているかは知らないが、僕と同じ思いだったらいいな、と心から思う。
願わくばこの電車がどこまでも走りますよう――

「絹」 「空」 「川」
209名無し物書き@推敲中?:04/12/04 17:05:01
 彼女が川に身を投げたのは十二月の終わりの頃だった。
その白い肌に同調するかのように絹を纏い、季節が冬だからか、
まるで雪のような儚げな印象を与える。
川は冷たく、葉の無い木々が寂しそうに佇んでいた。

 岸に打ち上げられた彼女の肩に、小さな鳥が一羽、とまっている。
その鳴き声は、彼女の死を悼んでいるように、静かな旋律を奏でた。
まだ半分川に浸かっている腕が微かに、水に揺られている。
見えるはずのない瞳は開かれたまま、ぼんやりと一点を見据えていた。
その視線の先にあったのは空だった。
それは彼女の視線に答えるかのように、青白い光を放っている。
やがて肩にいた鳥はその空に吸い込まれるように、羽ばたいていった。


「姉」「DVD」「初めて」
210名無し物書き@推敲中?:04/12/04 18:49:55
DVDが、煎餅のように、パリッと割れた。
おい、高かったんだぞこのDVD。
二人きりの部屋が、急にしんとなった。
割ったのは僕の友人だ。
「ごめんよ。なんて謝ったらいいのかわからないけど…」
気まずい沈黙に耐えられなくなった友人が
ついに弱気なことを言い出した。
「わかってるよな。高かったんだぞこのDVD」
僕は、ちょうど真っ二つの半月になったDVDを
ずいっと友人に押しつけた。
友人はますます縮こまる。
「弁償できるお金はないけど、僕にできることなら、なんでもするから」
言ったな。僕は、ついにあらかじめ考えていたことを友人に言った。
「君のお姉さんを呼んできてよ」
友人は一瞬びくっとなった。しかし、覚悟を決めたようだ。
「わかったよ」
そして、すぐに友人の姉はやってきた。なかなか魅力的なお姉さんだ。
「どうしたの?」
きょとんとした顔で聞く友人の姉に、僕は土下座して言った。
「お願いです。弟さんと、つきあわせてください」


「鍋」「水道」「冷蔵庫」
211sou:04/12/04 21:19:38
鍋 水道 冷蔵庫

僕は冷蔵庫から取り出した肉や魚、野菜や茸を綺麗に皿に盛り付けた。
コタツの上ではコンロの上に乗っかった鍋が空腹を刺激する香りを振り撒いている。
僕は座ってコタツの中に足を突っ込み、思いついた端から具材を鍋の中に放り込んだ。
白菜が徐々にしんなりとしていき、肉や魚からは赤みが消えていく。
そんなさまをじっと見ている僕の心は、何とも言えない幸せな気分で満たされていた。
いい具合に煮えた具を次々と箸でつまみ、ポン酢に軽く浸してから口に運ぶ。
そのひと口ごとに、温かな波が心を震わせていく。
ふと遠くで爆発音が響き、鍋が微かに揺れる。僕は構わず食べ続けた。
次第に近付いてくる轟音。それは鼓膜を破らんばかりに大きくなっていく。
きっと飛行機の爆撃だろう。この辺りを草も生えない荒地にする勢いだ。
不意に窓ガラスが割れた。近所のビルの屋上に据え付けられた高射砲が破壊されたのか。
窓枠の外の景色は夜だというのに真っ赤に染まり、空に向けて飛び交う砲弾の群れが
花火のように夜空を彩っている。
無数の怒声と悲鳴も最初こそ折り重なって聞こえていたが、やがてそれも静まった。
部屋の壁も床も地震が起きたかのように激しく揺れ続け、
台所では水道の蛇口が壊れたのか水の噴出す音が聞こえてくる。
それでも僕は心乱すことなく、目の前の鍋と格闘していた。
最後の晩餐は鍋と決めていた。
それを今、心ゆくまで楽しむこと以外、僕にするべきことはないのだから。

味噌汁 米 ナイフ でどうぞ

212味噌汁 米 ナイフ:04/12/04 22:29:23
今日から自分で味噌汁を作らなければならない。
結婚した妹が作り方を書いていったからその通りにやるだけのことだが。
まず材料は…へー、米のとぎ汁を使うのか。
ここで、さっき無洗米を買ってきたことに気付いた。
しょうがないから無洗米を洗ってその水を使うことにした。
米のとぎ汁を鍋に入れて点火して、材料を切って入れる…か。
ここで、包丁は妹が嫁入り道具に持っていったことに気付いた。
しょうがないから工作用のデザインナイフでちまちま切った。
どうにか切り終えて鍋にいれた。
そして、味噌を買ってくるのを忘れたことに気付いた。


「雨宿り」「関白」「防人」
213名無し物書き@推敲中?:04/12/05 00:32:11
「雨宿り」「関白」「防人」とお題を出された、三語で書いてみようと思って検索してうんざりした
また万葉集馬鹿か!前にも見たぞ。てめーのオナニーじゃねーんだよボンクラ。
・・・・と思ったが、此処で書かずに立ち去るのは、IEを立ち上げ、
グーグルにコピペした私の労力。およそ東京ドーム200個分に相当するであろう莫大な労力を考慮した結果、
ラーメンを作りながら書くことにした。

雨宿りをしていると、関白がやってきた。関白はインド人だ。彼の名前はkan pa kul
紛れもなく関白だ。全宇宙的に異論の余地は無い。関白ってそういう意味じゃないよ等という奴がいたら
彼の靴下の臭いを嗅いでみると良い。彼の靴下の臭いは小宇宙だ。絶望の無色だ。誰もが彼の靴下を嗅いだ瞬間に関白のような顔になる
実際私は関白の顔は良く知らぬが、まぁ心の関白と言うことでよいだろう。
でだ、そこまで考えて防人に繋げるものが無いし、ラーメンも満員電車のサラリーマンのごとく煮えたぎっているわけだから防人もやってきたことにした。
更に雨宿りをしていると防人がやってきた。彼の名前は森崎。説明はいらないと思う。
僕たちは三人で雨宿りをしていた。ラーメン鍋は吹き零れていた。私は眠くなっていた。
関白も森崎(防人)も阿呆のように口をあけて空を見上げていた。まるで口をあけて見上げていたら雨が止むとでも思っているみたいだった。
湿気の所為か、関白の体臭がきつかった。森崎は馬鹿だからそんな事には気がつかないでまだ空を見上げている。
関白の体臭がきついので私はさっさとオチをつけようと思い、雨の中に飛び出した。
それを見て関白が小さく悲鳴をあげたので、僕は彼を振り返りナマステと言った
彼は微笑を浮かべて手を自分の前で組むとナマステと返した。何故か森崎もナマステと言った。
ラーメン鍋もナマステと言った。
今日はとんこつである。




「ラーメン」「検索」「体臭」
214名無し物書き@推敲中?:04/12/05 02:56:26
まともな文を書いてない場合はスルーしてもいいんでしたっけ?
215名無し物書き@推敲中?:04/12/05 06:17:30
「ラーメン」「検索」「体臭」

──すでに延長ラウンドは3回を数え、もうガードする腕も上がらない。
酸素は筋肉で消費され、(観客には俺が青ざめて見えるだろう)、
途切れ途切れになる意識をチャンピオンの拳が現実へと引き戻す。
硬い石を芯に詰めたスポンジの塊が前方から降ってくる。
俺はそれをスウェイバックで躱す、何十万回も叩いて覚えたミットの位置に、
自分の二つの拳を叩き込む。
試合前にあれほど何を練習したんだっけ、脳のメモリを検索しても見つからない。
計量が終わって、減量のご褒美に今回はラーメンを食べたよ、美味しかった、
胃が受け付けなくてゲロっちまったけど美味しかった。
鮎子。試合前にさすがに女は抱けないな、勝利するまでお預けだ、
あいつ、体臭なんか無いくせに、ブーツはけっこう臭かったな、
チャンピオンになったら金持ちになれるのかな、あいつ、結婚してくれるかな?
硬い石を芯に詰めたスポンジの塊が前方から降ってくる。
俺はそれをスウェイバックで躱す、何十万回も叩いて覚えたミットの位置に、
自分の二つの拳を叩き込む。

「まとも」「場合」「スルー」
216そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/05 07:24:28
 「まとも」「場合」「スルー」

 係長になってからやたら部下の発言をスルーすることが増えてきた。
その理由は、ここの会社には「まとも」な部下がいないからである。
営業中に携帯にかけると、パチンコ店のジャラジャラという玉の音
がして、部下はこう言う。
「係チョ、ちょっと今お得意さんが例の商品買いたいって。偶然
会ったんですよ、パチンコ屋の前で」
「あっ、そう」
 私は会社の固定電話をガチャッと切り、こいつの首をはねるかどうか
一分間ほど考えた。こいつがこの程度どまりだったら会社に置いといて
やる。来月までにこいつのウソのつき方がもう少しマシになってきた場合、
首を切ろう。
 私は帳簿の数字を改ざんして、いつものポケットマネーを蓄えている。
今のあの部下なら、私のしていることに気づくことはない。

「コーヒー」「紅茶」「赤ワイン」
217名無し物書き@推敲中?:04/12/05 19:30:53
「コーヒー」「紅茶」「赤ワイン」

世界でいちばんすてきな女の子が昼下がりに紅茶を飲んでいた。
せっかく世界でいちばんすてきな女の子なのに、きみよりすてきな女の子なんていないのに泣いていた。
なにもかもがうんざりしてしまったのだ。
夜のバーテンダーの仕事も冴えない彼氏もブティックでの買い物も。
なにげなくテレビをつければソムリエがすました顔で赤ワインを飲んでいた。これでいこう。
とてもすばらしいアイデアに思えた女の子はテレビを消して紅茶を一気に飲み干した。

翌日女の子はソムリエの勉強をしようと半ば押しかける形でフランスに修行へ渡った。
そこでアメリカ人のコーヒー・ショップの彼氏と同棲して勉学に励んだ。
3年経ってソムリエ・コンクールで優勝して彼氏から結婚しようといわれたとき女の子はまたひとりで泣いた。
もうこれから先どこへも行き着かないではないか。
そして女の子は上海でコール・ガールになった。
それもいまやむかしの話。いまはどこでどうしているかなんて誰にもわからない。
心温まるひそやかな都市伝説のひとつだ。

つぎは「ソムリエ」「女の子」「上海」でお願いします。
218名無し物書き@推敲中?:04/12/05 20:59:00
ソムリエに一番必要なものとは、なんだろうか。
ここは、上海空港のターミナルビルにある、バー。
一人のソムリエが、若い女の子を連れた客に呼ばれた。
「この子にあう、ワインをもってきてくれ。値段はかまわない」
客の注文を受け、ソムリエは貴重なシャンパンをもってきた。
スパークリングの王様といわれる、ドンペリニョンの当たり年のものだ。
シュワシュワと淡い泡がグラスのふちではじけて、飲んでしまうのはおしいほど美しい。
客はこれをおおいに喜んだ。
「じゃあ君、今度はこの子の生まれ年のワインをいただこうか。
今日はこの子の24歳の誕生日なんだ」
客は上機嫌で言う。
しばらくして、ソムリエが、一本のワインをもってきた。
「生まれ年のワイン、おもちいたしました」
グラスには、宝石のように輝く、華やかな赤ワインがはいっている。
二人はおいしそうに、そのワインを飲みはじめた。
ソムリエがもってきたワインは、贅沢なシャトーマルコー。
ただし、24年ものではなく、30年ものだった。
どうやら、ソムリエに必要なものとは、鋭い洞察力らしい。


「水」「月」「土」
219名無し物書き@推敲中?:04/12/05 21:59:28
 薄っすらと照らす明かりを頼りに、彼は黙々と土をこねていた。
やや赤い、粘り気のあるその土は適度に水に濡らされている。
作られたものは数個あったが、その全てが人間をモデルとしているらしかった。
大きさは…かなりの労力を要したのだろう、実際の人間と変わらない。
その土人形は服を纏っておらず、性器と思われる部分はただ平坦で何も無かった。

 彼は地球で生まれ、一年ほど前からこの星に住み着いている。
タブーとされていたにも関わらず、ロボットに命を吹き込んだのである。
多くの批判を浴び、やがて地球に居場所を無くした彼は、宇宙にその活動の場所を求めた。
もちろん宇宙に、行く宛なんていうものは無かったが、偶然、宇宙の歪みに巻き込まれ、放り出された先がこの星だった。
そこには大気や海、大地があり、さらには地球における太陽、月の役割を果たす星まであり、
環境的には地球に酷似していた。
ただひとつ決定的に違ったのが、彼以外に生物と呼べるものがいなかったのである。
これこそ彼が求めた星だった。
──俺はこの星の神になる。
こうして誰にも知られること無くひっそりと、遠い将来、生命を持ち得る星が新たに誕生した。


「猫」「ハンカチ」「アイスクリーム」
220219:04/12/05 22:01:08
あ、ミスあった。まあいっか。
221名無し物書き@推敲中?:04/12/05 22:59:10
カリカリカリカリカリ
ふう・・・
3時間も勉強していると、ため息の一つもでる。
もうセンター試験まで一ヶ月と少ししかない、受験生にとっては頑張り時だ。
最近めっきり気温が下がってきたので、数週間前にコタツを導入した。
「ニャー」
と、コタツの中から我が家の猫が這い出てくる。
まだ若い、♀の毛並みが綺麗な猫だ。
コタツ導入から、僕の勉強の時はずっと傍らに居る。
かまってー、かまってー、とでも言いたげにくっついてくる。
丁度良い、休憩にするかな。
確か、お母さんがバニラアイスを買っておいてくれたはずだ。
コタツから這い出して台所に向う。
冷凍庫を開けると、確かにあった。ありがたい。
どうせだからコーヒーも炒れようか。
インスタントコーヒーと、皿に移したアイスを持ってコタツに戻る。
途中まで猫が迎えに来ていた。少し嬉しい気分になる。
定位置に座り直したら猫が膝の上に乗りたそうにしていたので、少し這い出して太ももに乗せてやる。
猫をなでながら、アイスクリームとコーヒーで一息つく。
アイスクリームを食べ終わったので、そろそろ再開しようと立とうとすると
猫が飛び上がって、少し残ったコーヒーを倒してしまった。
すぐに、ハンカチを水に濡らしてカーペットを叩く。
良くあるアクシデントなので、もう為れたものだ。
後片付けをして戻ると、もう猫はカーペットの上で寝ていた。
もう少し勉強したら僕も寝よう。

「午睡」「コタツ」「雪」
222そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/06 07:21:37
「午睡」「コタツ」「雪」

夏になってもコタツを出しっぱなしの僕。コタツテーブルの上には
三十年前のクリスマスに彼女からもらった「雪」が、特殊な瓶に詰められて
置かれている。
「この瓶の中に入れたものはいつまでたっても腐敗しないよ。梅雨の
しめっぽい季節でもカビも生えないし、猛暑の夏でも腐らない」
僕はつい、露店のイキのいいおじさんの言葉につられて買ってしまった。

コタツの上で僕はあれから三十年近く、考えに考えてきたのだ。
この瓶の中に僕の彼女への想いを入れたら、いつまでたってもその
淡い恋の感情は溶けないまま、何年も、何十年も維持できたのだろうか。

瓶の横ででかいズウタイがゴロゴロと寝返りを打っている。
僕の真横で午睡している女はきっと、この瓶のことをもう忘れているの
だろう。

「50円」「007」「二度死ぬ」
223:04/12/06 21:09:16
50円 007 二度死ぬ

僕たちはありふれたやり方の挨拶をして名刺の交換をした。彼の名刺には007≠ニだ
け書かれていた。灰色の紙だった。僕はためしに、ゼロゼロセブンさん、といってみた。
彼はハイといった。どうやらゼロゼロセブンさんなのだ。
彼は息つく間もなく、予め僕が依頼しておいた見積りの案を机のうえに提示してきた。提
示額が¥50円。あまりにも安すぎるため僕は怪訝な表情をしたらしい。まだお高いです
か?と担当者はいったのだ。僕は首を振った。僕は念を押して、この金額で僕たちの条件
にそったレベルで商品の供給が可能なのか問うた。彼はシンプルに頷いた。僕たちは互い
に手を握った。最終の合意とした。
それから実質的な打ち合わせに入った。彼との打ち合せは、予め要領が合理的に整理され
ていたので、瞬く間に終ろうとしていた。申し分ない。僕たちは全てが巧くいくような気
がした。僕は気が知れたとみて、思い切って彼らの秘密について、商品の提供する安さに
ついて聞いてみた。すると彼は平たんな調子の声色でいった。私たちはすべて二度死ぬこ
とになるからです、一度目に生きる場合には親会社で死ぬことになり、二度目でこの会社
に移ってきたのです。コストというものはおよそ原料費、人件費によって積算されるもの
です。二度目の原料、人生も二度目なら、ともに無に等しい、捨てられるゴミから生まれ
たもののようなモノなのです。まだ始まったばかりだが、究極のリサイクルですよ。今に
すべてに価値がなくなるかもしれませんよ。僕は意味がわからずに聞いた。するとあなた
もゴミから生まれたというのですか?彼はいった。ええ。彼はスーツの胸の辺りを開いた。
そこに永遠と宇宙がひろがって在るのを、僕は見た。

「泰然」「鼓動」「再生」
224sou:04/12/06 21:55:02
「泰然」「再生」「鼓動」

泰然とした時の流れをたゆたう人のさだめ。
いとか弱き人の体なれど、身は滅ぶとも意思は託される。
いつか再生を果たす魂に手渡すために。
そうして巡った輪廻の回廊の果て。
原初の想いは磨り減り、かすれ、人は伝えるべきものを失った。
だが心の片隅で微かに息づく鼓動の音が、
やがて人をあるべき道に引き戻す。
そこから始めればいい。人が変わるために。

お題継続でどうぞ。
225悲しき半魚人:04/12/06 22:48:33
「泰然」「再生」「鼓動」

母の脳細胞は二度と再生されない。
鼓動だけが生の証し。
泰然と庭を見つめる小さな母の背中。
真っ赤な鶏頭の花が今の彼女の友だち。

「片思い」「夢」「黄昏」
226そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/07 08:27:22
これまで僕の夢の中に現れる片思いの相手は、ほとんどといっていいほど
ぼやけた記憶映像だったのである。
光線が射し込んでまぶしくて顔がはっきり見えないか、黄昏の下で二人
絵に描いたような陰影をつくるだけ。
でも昨日の夢は違った。
くっきりとした表情、目、鼻、唇。
毛穴が見えるほどの精密な描写のボディー。
素肌のケツにくいこんだパンティー・ストッキング。
そして鮮明に耳の中へ入りこむ会話。
夢なのか。
夢であってほしい。
これが現実の彼女なら、あまりにも露骨で辛すぎる。

「稀」「たわし」「カマンベール」
227名無し物書き@推敲中?:04/12/07 10:49:38
冬の朝、かごめかごめが聞こえて、私は目が覚めた。
ああ、親父が帰ってくるな。
障子をあけてみると、庭には雪が薄く積もっていて、親父が植えた白い冬椿の花との境はわからなくなっていた。
椿の木には、燕がとまっている。
台所では、母が早起きして、カマンベールチーズを切っていた。稀なことだ。
「カマンベールの白は、雪の色」
そういって、母は高い奇妙な声で笑った。
母が笑うと、着物のカサカサという衣擦れの音も、かごめかごめに混じった。
「おはよう」
あいさつをすると、私はたわしで、昨日洗っていなかった鍋を洗い始める。
どこかで、椿の落ちる音がした。
かごめかごめが聞こえる。
ああ、親父が帰ってくるな。


「毬」「廊下」「雀」
228名無し物書き@推敲中?:04/12/08 23:26:56
「毬」「廊下」「雀」

 どこまでも続く・・・ 私を何処に居るのだろう。私の足が進んでいるのか、床が動いてるのか・・・
何処までも続く廊下・・・ 少し頭の中が浮ついているような、左あごの奥歯が微かに疼く。
雀の涙ほどになったように、自分の脳味噌の輪郭があやふやになっている。
周りには誰もいない・・・ 周りには誰もいないのか・・・

少女はゴム毬をついている。そして私は閉じ込められたまま・・・


「確かさ」「秤」「バイク」
229名無し物書き@推敲中?:04/12/09 03:54:47
メーターは150km/hを超えた。視界の端から風景が溶けてゆく。
(空飛べるわこりゃ…)
解けた風景の中、私とバイクもひとつになる。乾燥重量323kg+50kg。
石ひとつ踏めば死ぬ。その秤の向こうに生の確かさ。
石と釣り合う373kg。快感だ。

「大学」「セックス」「家族」
230名無し物書き@推敲中?:04/12/09 11:12:23
セックスが好きか。
家族でも聞けないような、ストレートすぎる質問をされて、困ってしまった。
「好き、好き、大好き」
カシスオレンジについてるオレンジをつまみながら、私はこたえた。
飲みすぎだ、二人とも。
「大学でも行ってれば、いくらでもできるよ」
オレンジの皮を、ティシュの上においた。
なんだか、汚らしい。
やはり早紀は、私の冗談に笑わなかった。
「そういうの、恥ずかしくないの」
早紀の顔は赤くなっている。怒っているのか、酔っているのか。
この子は、少し真面目すぎる。
わかりきっていることを、いちいち指摘していく作業ほど、無駄なことはない。
私だって、セックスしか頭にない子がいたら、ちょっとひく。
そして、それは普通だと自分で思うから、わざわざ言わない。
早紀は正しい。私は、間違っている。
でも、そんな明らかなことを指摘していく過程に、何の意味があるのだろう。
指摘しないと気付かない子たちなんて、早紀のまわりにはいないはずなのに。信用ないのか。
早紀に聞こうかと思ったが、早紀の酔いを我慢
している顔をみたら、その気はなくなってきてしまった。
カシスオレンジを飲んで、ため息をつく。


「公共」「福祉」「衛生」
231名無し物書き@推敲中?:04/12/10 23:12:23
「公共」「衛生」「福祉」

それはおともなくくずれさる

人として、人間の内に含まれた様々な要因が、個人と公共性の間でせめぎ合い、
葛藤し、一人の男の肉体の隅々に至るまで動めいてる。困惑と呼ぶのか慟哭なのか。
 たじろぐ男の前を衛生兵は強烈な白色の熱光線に照らされて、自らの身を現わしたり
覆おったりしながら合成の真白な帆布の擦れる音を確かめるようにその背後の福祉施設を
威嚇しながら佇んでいる。
男の肉体の内でそれら何もかもが混濁した時、白い帆布の中で

それはおともなくくずれさった。
「茶」「雲」「鷲」



232「茶」「雲」「鷲」:04/12/11 01:36:33
茶畑にガソリンを撒く。いたずらや嫌がらせではなく僕の仕事の一部だ。
秋の初め頃から脳に水虫ができるという奇病が流行りだした。
その奇病は脳水虫病と名づけられ、僕は国の脳水虫病対策委員に任命された。
任命当時は原因も分かってなかったので、対策委員と言われても雲を掴むような話だった。
最近になってどこぞの偉い学者が、脳水虫病の原因は茶だと言い出した。
まだ証明もされてない理論だったにも関わらず、政府は即刻茶畑を処分しろと指示を出した。
僕は何キロリットルものガソリンを渡され、国中の茶畑を焼き払うことになったのだ。
ガソリンの撒布が終わった。導火線代わりに細く伸ばしたガソリンの先にマッチを落とす。
茶畑はたちまち炎に包まれた。明日にはここに茶畑の無残な残骸がのこる。
達成感などはない。心にあるのは、これでよかったのかという疑問だけだ。
一羽の鷲が上空を飛んでいた。僕の仕事を嘲笑っているように見える。
僕も自分で嘲笑いたいぐらいだ。


「B」「S」「E」
233名無し物書き@推敲中?:04/12/11 01:37:06
「まぁ、お茶でも」
「いや、どうも」
 縁側に座って、遠く広がる山々を視界に据える。庭も緑が多く、足元には犬が寝そべっていた。
大きい奴だが、雑種だろう。湯のみに口をつける。空気と一緒に啜ると、渋い味がした。
 ふぅと一息、空を見上げる。のどかだ。透き通る青に雲が白く点じて、空だけを見ていると清水に
綿を浮かべたように見える。日は丁度屋根の向こうに居て、手をかざさなくてよかった。
 しばらく空を眺めていると、向こうから猛禽が飛ぶのが見える。
「あれは、鳶ですか」
「狗鷲でしょう、ほらもう一羽。あっちはメスですな」
 そう言って指す方を見ると大きいのがゆっくりと近づいてくる。はぁなるほど、と答えて茶を啜った。
低かったのでなかなか大きいと分かった。それから山風に乗って、ずいぶん高くへ上がる。
鷲は三十分ばかり静かな空で旋回と滑空をくり返していたが、やがて屋根の向こうに消えていった。
「行ってしまいましたか」
「ええ、二匹とも向こうへ飛んでいきました」
 空の湯のみを手渡して犬を見ると、身じろぎもせず空を見ている。ん、お前もああ成りたいか。

次「テント」「ライフ」「ランス」
234名無し物書き@推敲中?:04/12/11 01:44:57
「茶」「雲」「鷲」

宿舎で目を覚ます。
目覚ましがエマージェンシーコールではないのは何日ぶりだろう。
初冬の早朝、カーテンを開けると、窓の外は静謐な空気に満たされていた。
天気は晴れ。まばらに雲が見えるが、飛行に支障はないだろう。
シャワーを浴びて、パイロットスーツを着て食堂に向う。
おばさんに注文を言うと、直ぐに日本食の朝食を持ってきてくれた。
猛烈な勢いで食べ、早々と食事を済ませる。食べられる時に食べておきたい。
食事を終え、茶を飲みながら今日の予定を考える。

ジリリリリリ!!

最近聞きなれた、それでいて耳障りなのは変わらないけたたましい警報音。
方向○○に敵機影を――隊員は至急離陸準備を―――・・・
周りでまばらに朝食を取っていた隊員がドックへ走り出す。
この内何人が今日を生き残れるだろう。
F15のドックへ向う途中、雲の間を鷹が飛んでいるのが見えた。
自由に、それでいて力強く、青い空を飛ぶイーグル。
きっと彼らも、今日を生き残るために必死なのだ。
(俺も、せめて奴と同じくらい力強く飛ぼう・・・)
そう思った。

書き終わっちゃったので投稿します。
235うはう ◆8eErA24CiY :04/12/11 13:47:53
「テント」「ライフ」「ランス」 [B][S][E]

 12月も下旬となると、寒さもこたえる。
 老人は、テントに入ると赤い防寒具をかたく身につけた。
 離れた倉庫には空調も入っているのに、自分はこんな所で寒さを堪えている。
 ・・・なんともバランスを欠いた話だ。

 しかし彼には任務があった。、「住所・正体を秘する」必要があった。 
 今や、こんな忘れられた登山BASEのテント位しか身元を伏せる手段はない。

 「昔はもっと楽だったが」 彼はそう思うのだ。
 マスコミ、インターネットの発達が、彼をこんな所にまで追い込んでしまった。
 それでも、個人情報漏洩を考えると、彼にはもう、ここしかない。
 街は、店が飾り立てられ、人がごった返しているというのにだ。

 ある日、猛烈な寒波がやってききた。
 ライフラインなど途絶えたままのテントが、雪と氷に閉ざされた。
 それでも街は師走の大忙し、クリスマスセールの真っ最中だ。
 誰も、山中のテントの中なんて、気付く余裕などありゃしない。
 テントで凍死した白髭の老人とトナカイ、プレゼントで一杯の倉庫の事も。

※その日はいつもなぜか深夜残業;
次のお題は:「水着」「西瓜」「プール」でお願いします。
236そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/11 16:31:04
ここしかないのだ。
私はシリコン製の西瓜の中に一千万を入れ、三十ロックをかけた。
怪しまれないように、水着で自宅庭のプール掃除をしているフリをする。
「あなた、ただいま。精が出るわね。何か冷たいもの用意するわね」
「いいねえ」
私はプール掃除のフリを終え、プールから出ると、プール脇に置いていた
はずのシリコン製の西瓜がなくなっている。私は焦った。
貞子がいない。台所にも、風呂場にもいない。
あの女、西瓜ごと持ち逃げしたのか…

夕方近くになって貞子が帰宅した。
「おい、プール脇にあった西瓜はどうした」
「あら、台所で切ってあなたに出そうと思ったら、食品サンプルじゃないの。
それであなたの買ったスーパー言って、文句言って、上等の西瓜と交換して
もらってきたのよ」
「お前というやつは…」
貞子は怪訝そうな顔をして、私をきょとんと見ている。
三十年間コツコツ貯め続けてきたお金が、ホンモノの西瓜と化してしまった。
これで貞子と別れる機会を失ってしまった。
三十年間別れようと、努力に努力を積み重ねてきたのに。

「クリスマス」「半袖」「おかず」
237名無し物書き@推敲中?:04/12/12 00:29:59
半袖の白シャツに、ぐるぐる巻きの白いマフラーを。
しかも、手には真っ赤な色した、飴みたいな形の風船をもっている。
変な女だ。
終電に酔っぱらいはたくさん乗ってくるが、この女はそういうのではないらしい。
年齢不詳で化粧気もなく、顔から下との釣り合いがとれていなくて、ひどくおかしな雰囲気だ。
顔と顔から下の年齢差は、ざっと十歳。
女はすいた車内を見渡すと、くるっと私の方を向いた。やばい。
女はすすっと私に近づいてくる。
この、歩き方が、また妙で、長いスカートの中にある足を動かす様子はなく
まさに、滑るように、すすっと歩くんである。
私の目の前に女がやってきた。
年齢不詳女は、私に風船を差し出した。
「メリークリスマス。夜ご飯のおかずくらい、鳥肉でも食べればよかったのに」
女はそういって微笑むと、あっという間に、煙のようにふっと消えてしまった。
そうか、今日は、クリスマスだったのか。
私は、渡された飴形風船を握り締めながら、ぼんやりと考えた。
女は、サンタクロースかもしれないな。
何事もなかったかのように、クリスマスの最終電車は動きだした。


「リング」「螺旋」「ループ」
238名無し物書き@推敲中?:04/12/12 04:51:13
女優霊に憑りつかれて、早三ヶ月になろうとしている。
仲良くなってから、ぽつりぽつりと話してくれた内容によると、
舞台の上で巨大な照明装置の下敷きになったらしい。
美しさを妬まれたのよ、計画的殺人なのよ、と彼女は真剣な声で主張するのだが、
霊感がほとんどないらしい僕には、あいにくなことに彼女の顔はぼんやりとしか見えず、
その言葉の真偽を確かめる術はない。
水曜日、コンパで知り合ったメル友の美也子さんに誘われて二人でデートをした。
お洒落なボーリング場の非常口から、こっそり表に出て螺旋階段の下でキスをした。
肩の上で女優霊が、僕よりも興奮しながら、がんばれがんばれと僕を応援している。
そのとき、突然起こった大地震で地上の人間は全て死に絶える。
死んでしまった僕の60cmほど上で、女優霊が悲しそうな顔をしながら浮かんでいる。
大地震が時空平面に亀裂を入れて生じたタイムトンネルに僕の体と魂が吸い込まれる。
時間は巻き戻され、真夜中に僕は学生寮の自分の部屋で女優霊に首を締められる。
永遠に繰り返される三ヶ月と一日のループがまたもや開始されたのだ。

「豚」「千」「城」
239名無し物書き@推敲中?:04/12/12 21:43:13
真夜中、突然健は目を覚ました。
─泥棒か?
ガサガサと物音がしたのである。
しばらく澄まして聴いていると、荒い息遣いが、まるで側にいるかのように聞こえた。
ひどく動物的であり、時折呻き声に似たものが混じっている。
様子を見ようと自分の部屋のドアを少し開け、そっと外を見ると、そこには
鹿、蛇、さらには人間が混ぜ合わさったような、奇怪な生物がいた。
下半身が鹿でそれに蛇が巻きついており、上半身が人間なのである。
その生き物は、健を見ると笑ったように表情が緩んだが、またすぐに表情を引き締め襲い掛かった。
健が悲鳴をあげる前に、一瞬にして健の首を、その研ぎ澄まされた爪で掻っ切ると、
床に落ちた首をしばらく見つめた。
そして、何かを確信したかのように頷きながらその首を拾い、窓を割り、そこから宙へと駆けていった。
外は暗く、何千もの家が立ち並ぶ街は静寂に包まれている。
その生き物はどんどん空へと上昇し、雲を突き破ると、そこには城があった。
まるで昼は空に一体化するようにか、青い彩色がなされ、宙に浮いている。
門を開けると、鎧を纏った豚が3匹、丁重に出迎えた。
城の中を進むと、玉座には下半身がライオンで上半身が人間と大鷲の混合である生き物が座っている。
周りには何匹か生き物がいるが、そのどれもが二から三の動物が交じり合った姿をしている。
「ついに発見致しました」
そう言いながら持ってきた首を差し出すと、王らしき生き物がうなずく。
「ふむ。早速準備にとりかかろう」
はっ、と周りにいた生き物達は平伏し、各々が作業についた。

「靴下」「ストーブ」「時計」
240名無し物書き@推敲中?:04/12/13 04:13:20
時計が、時計がボンボンボンボン鳴ってうるせえんだよ。
止まれよ時計。もう古いんだよ、時を刻んで正確面か?そうか。
違うか?動かしてるの俺か?所有権を所持していますので。
でも止まるとあれだろ、じゃがいも煮えねえし。靴下乾かねぇし。
ってか必要なくなるか。
あーじゃがいも食べ頃。ここは暖かいね、火があるからね。
もうストーブ替わりで寒さもスッ飛ーぶ。ごめんごめん嘘。


「元服」「出征」「DVD」
241名無し物書き@推敲中?:04/12/13 22:51:18
なんか、このスレを読み込んだら、よくマスコミで書かされる
「三題噺」が上手くなりそう。

なんて妄想してみる
242名無し物書き@推敲中?:04/12/14 14:45:23
少しは上達するのかなあ。
短い文章でオチつけるの難しい。
243名無し物書き@推敲中?:04/12/14 18:03:22
書かないよりかはずっとマシかもね。
しかし、やはりオチが・・・。
244名無し物書き@推敲中?:04/12/14 20:12:32
上達するぞ。おれも素人以下だったが、50も書けば素人並にはなれた。
1/2    「元服」「出征」「DVD」
新進気鋭の若手アーティストが私の町にコンサートに来るというので、さっそくチケットを購入し公演日を首を長く伸ばして待ちわびていた。八幡太郎義家が元服したのもこの町だったけれど、今はすっかり寂れていて、
彼のような人気者がコンサートを開くのはこの町ではありえないようなことだった。彼は背が高くてとてもハンサムで、ずばり私のタイプだった。
学校でも彼の話題はよく出た。写真で見る彼は白馬に乗った王子様そのものだった。
休み時間に私は友達に今日の彼のコンサートに行くと告げた。みんなうらやましそうな眼で私を見た。私は心地よかった。
「よくチケット取れたわね。わたしもついてくわ。だって動いてる彼って見たことないんですもん」
「そうだよねー。彼ってメディアに露出しないから神秘的よね」
「まあ、それが事務所の策略なんでしょうけどね」口の悪い友人はそんなことを言った。「本当は歌が下手だからテレビに出れないのかもね」
「そんなことないじゃん。むちゃくちゃ歌唱力あるでしょ!」
「翔子って何も知らないのね。そんなのは編集で何とでもなるのよ。まあ今日のコンサートでわかるけどね。でも口パクかもしれないな。あんなカッコよくて歌唱力まであるなんて信じられないもん」
学校が終わると、私は鬱積した気持ちのまま友人とコンサートホールに向かった。ちょうど彼が建物の中に入っていっていた!
彼は写真よりもずいぶんカッコよかった。「へー。写真写りの言いのばっか使ってるのかと思った」友人が横で言った。私はホールの中に入りコンサートが始まるのを待った。
ライトつき、綾小路シュンヤが姿を現した。にしきのあきらのような白いスーツを着ていた。腕から何本も紐がたれている。私の胸がときめいた。
彼はステージの中央まで歩いてくると、マイクを持ったまま床に尻餅をついて、かえるのように足を開きM字開脚した。
2/2    「元服」「出征」「DVD」
そしてそのまま背中を床に寝かせて首だけを持上げて、第一声を発した。
「今日は僕のために来てくれてthankyou。一曲熱唱する前にみなさんに説明しておきたいことがあります。それは私のこの歌唱スタイルについてです。
これは別にふざけてこうゆう格好してるわけではないのです。この格好が一番発声しやすいからです。
こうやって歌わないとCDでのようには歌えないのです」そう言って、プッとおならをした。「すいません。別にふざけて屁をしたわけじゃないです。
この格好だとおならが出やすいのです」言い終わると、両腕をひざ小僧の裏側に通し、太ももを抱きかかえるようにして、マイクを股間の上立てて置き、顔をマイクに持っていって心に染み入るバラードを歌いだした。
彼の歌唱力は本物だった。彼はその後うつぶせになって、ロックな曲を歌い、起き上がってギタリストがソロを弾いているときに、ギタリストの肛門に浣腸を繰り返し、
ズボンとパンツを脱ぎ捨て、女性ピアニストが演奏しているにもかかわらず彼女の顔面にむき出しのちんぽを何度も擦り付けたりした。
夜も更け、コンサートが終わり、私は友人の待っている喫茶店に入った。
「どうだった?」
「あんまりよくなかったよ……実は彼ね、中国に出征して戦死した私のおじいちゃんの隠し子だったの……」
「えっ、それほんと!」
私は彼女に真実を語り始めたのであった。「彼はね、操られてるの……操られてるからなのよ、だからああなのよ、ああっていうのはね……なに言ってるかわかんないでしょうね」
「なに言ってるの? 翔子大丈夫?」
私は心臓が凍った。喫茶店の窓ガラス越しに綾小路シュンヤがいて、私をにらみつけていた。
私は指差した。「あそこ……」
「あっ! 綾小路シュンヤ!」友人が叫んだ。
綾小路シュンヤはマジックをポケットから出すと窓ガラスに私宛のメッセージを書きつけ、歩き去った。窓ガラスに“ひみつをもらしたものはしゅくせいする”と残して。
>>245-246は無し。
DVDをCDと勘違いしてた。
248名無し物書き@推敲中?:04/12/14 22:48:07
出征は明日ときまった。
弟は、くぐもった声でぽつぽつと話しだした。
その言葉は、やわらかな檻となり、私と弟だけの世界をつくってくれる。
檻が壊れないようにと、私は願うけれど、この居心地の良い弟との空間を失うということがどういうことか、私にはまだわからない。
雪原にねころびながら、私と弟は、手をつないで、全身にふりかかってくる雪をみている。
こうしていると、私の心は凪ぎのない海のように驚くほど穏やかなことに気付く。弟の出征に、私はまったく抵抗を感じない。
ただ、静かに、でも確実に、何かが壊れていく。
降り積もる雪が、ゆっくりと確かな物事の輪郭を奪っていくような。
そんな漠然とした恐怖の感覚を覚える。
寒気はもう感じなくなってきていた。
弟はわずかにわらった。
そろそろだね。
17歳。昔でいう元服を終えたばかりの年齢の少年は、すべてを許すような懐かしい笑顔でわらった。
DVDに焼き付けられた映像のように、私の体の記憶にはっきりと残る笑顔。
死とは、ゆっくりと胎児にまで還ることなのかもしれない。
愛が膨らみすぎたら、その先にあるのは明るく穏やかな死だ。
雪がとけて、春になったら、私と弟の死体はみつかるだろうか。
その時は、白くきれいな骨に還っていたいと思う。

「シスター」「メリッサ」「無限」

※自分は文章書きじゃなですが、三語で閃いた話を
まとめる作業が好きで書かせていただいてます。
楽しいし、文章も上達できればいいと思ってます。
249名無し物書き@推敲中?:04/12/14 23:39:40
彼女は毎日、祈りを捧げている。私は毎日、その様子を眺めている。
教会を訪れれば、彼女はいつもと同じに両手を組み合わせ、頭上にある十字架、それに張り付けられている姿に、ひたむきな祈りを捧げていた。
誰も立ち入れない、そこに在る確かな神々しさは、彼女を包み、祈りを価値あるものに見せている。私は椅子に座り、背凭れの硬さに居心地の悪いものを感じながら、その背中を見据えている。
彼女の姿を見ていると、それだけで清々しい気分に浸ることができた。それは、私にとっての神とは、神が授ける救いとは、彼女がもたらすものである、そう示しているように思えた。
それほど私は彼女に心奪われ、邪なる気持ちを胸に、彼女へと視線を向けていた。そういった日々の何と穏やかなことか。しかし、その穏やかさを崩したのは、彼女だった。
「あなたは、何を求めているのですか?」
ある日、私はそう聞かれ、言葉に詰まりながら答えた。
「まだ分からないのです。ですから私は、あなたの精練たる祈りから何かを得ようと、こうして通っているのです」
その言葉に偽りはなかったが、語らなかった部分もあった。けれど私の、そのような浅ましさを笑うように、彼女は笑みを見せて、こう言った。
「ならば、祈りなさい。神など、あんな不確かなものなど、信じる必要はありません。神ごときにひれ伏す必要もありません。行うべきは、祈りです。
どのような願いも、どれほど卑しい祈りも、無限の祈りの前には脆いものです。祈り続ければ、あなたの欲すものは容易く手に入り、悩むこともなくなるでしょう」
それを聞いて、私はこのように答えた。
「シスター。シスターメリッサ。では、あなたは一体、何を祈っているのですか」
彼女は微笑み、何も答えずに祈りを再開し、いつもの姿へと戻った。
以来、私は前までと同じく、毎日のように教会へと訪れているが、祈り続ける彼女を見ながら密やかに一つのことを祈り続けている。シスター、シスターメリッサ、あなたに対して、卑しい気持ちを祈り続けている。
この祈りは届くのでしょうか? あなたの語ったように、無限の祈りの果てに願いは叶い、あなたは私の前にひれ伏すのでしょうか?
そうなればいい、そう思いながら私は、静かな教会の空気の中で、あなたへと祈りを捧げ続けるのです。無限に、永遠に。

「クリスマス」「朝焼け」「さよなら」
「クリスマス」「朝焼け」「さよなら」

クリスマスの日、僕は彼女に結婚を申し込もうと決めていた。二階の窓から朝焼けの空を眺めながら、僕の心は希望と不安の間で揺れ動いていた。
給料の七ヶ月ぶんで買ったきらきら光るダイヤモンドをポケットに入れて僕は彼女の待つ遊園地へと向かった。
遊園地内には無料で遊べる遊具などもたくさん置いてありたくさんのファミリーが子供を連れてやって来ていた。
将来、僕も翔子と僕らの子供を連れて一緒に来れたらいいなとそんな想像をした。
でも、それは今日のプロポーズしだいでどうなるかはわからないことなどだ。もしかしたら彼女はまだ結婚など考えていないかもしれない。
結婚を前提に付き合っているのは僕だけで、彼女はそれまで付き合ってきただろうたくさんの恋人のように僕を思っているに過ぎないのかも知れない。
いや、もう僕に飽きてしまっていて、別れたがっているのかもしれないじゃないか。ほかに好きな男ができているかもしれない。
僕は彼女との約束場所の、小高い丘の下の、鯉が泳いでいる池まで歩いていった。彼女がいた。サンタクロースのような赤いだぶだぶのセーターを着ている。
「ごめん。待った?」
「うんん。いま来たとこよ」
「あの、大事な話があるんだけど……」
「なに?」
それからしばらくもじもじしていた。
僕らはだんだん気まずくなっていった。
彼女は僕がなにを言うのかわからず不安げな顔をしている。
その時だった。ギャアギャア叫び声が丘の上から響いてきたかと思うと、上半身だけタキシードで盛装し、下半身は丸裸の男女、
三十名ほどが、尻の下にダンボールを敷いてM字開脚した格好で丘の上から滑り降りてきた。彼らはみな、顔に満面の笑みを浮かべている。
性器を丸出しにして降りてきた彼らは、M字開脚したまま寝そべると太ももを抱きかかえて丸まって、揺り籠のようにゆれながらタバコをふかしはじめた。
「さよなら」彼女はそう言い残すと、僕らを残し去っていった。
言い訳の仕様がなかった。M字開脚をしている連中の中には彼女もよく知る僕の兄や妹たちも含まれていたのだから。
次、「休学」「アヒル」「火山」
252名無し物書き@推敲中?:04/12/15 18:24:33
 木々は赤く染まり始め、肌寒い風が肌に吹き付けるようになる頃、
僕はある山に登っていた。
 本来なら学校に行く時間であるが、先日休学届けを出してきた。
 山へ来た理由は、近いうちにこの山が火山活動を開始するのでは、
と言われているからである。もちろん危険ではあるが、噴火前夜の様子
をひとめ見てみたかった。
 山の中腹あたりに湖があった。
澄んだ水が美しく、僕の姿をゆらゆらと映す。周りの緑はたまに吹き付ける風に揺れている。
 しばらくそこで休んでいると、一羽のアヒルが泳いでいるのを目にした。
アヒルを見たのは初めてなのでなんとなく得した気分になった。
 そろそろ登ろう、と湖から離れようとした時、突然の地響きと共に山が揺れはじめた。
驚いて動けないでいると、さきほどのアヒルが突然泳ぐのやめ、その可愛らしい羽で空へと飛んだ。
 今にも噴火しそうで危ないというのに、僕はそのアヒルが描いた軌跡をたどるように、
空をぼーっと眺めていた。
 いつの間にか、地響きは鳴り止み、山は穏やかになっていた。
と、視線の端に明るい何かが飛んでいるように見えた。よく見ると、それは炎を伴ったアヒルだった。
その姿は神々しく、炎の赤が地毛の黄色と相まってより美しく見えた。
 その山がある地域に伝わる火の鳥の話を聞いたのは、それから幾年も先のことである。

「ティッシュ」「雪」「リボン」
253名無し物書き@推敲中?:04/12/15 19:29:53
くそ寒い。雪は加減知らずにばんばか降って積もって、空気すら凍える空の下、汚れた雪の固まる階段に腰を落ち着けて体を震わせる。
気晴らしに煙草を取り出して銜えて火を点ければ、冷たい煙が肺に入り込み、刹那ではあるけど寒さを忘れさせた。
寒い寒い寒い。何度も繰り返して死にそうになっていると、不意に目の前に影ができた。顔を上げれば時間帯に相応しくない女の子が突っ立っている。女の子は怪訝な顔で、手には湯気を立ち上らせる
カップを持っている。
「・・・・・・何よ、少女。こんな時間に何してんの」
階段に煙草の先端を押し付けて火を消して、吸殻をポケットにしまいこむ。女の子は無言のままカップを差し出した。
「・・・なに、くれんの?」
女の子はこくんと頷く。ならばと受け取って中を覗けば、琥珀色の液体がたゆたっていて、甘い匂いが立ち上ってくる。ココアだ。早速と口に含めば、温かい甘みと滑らかさ舌触りが寒さを打ち消してくれる。
急な温かさに突っ張っていた顔の筋肉が緩んで、途端に鼻水が出てきた。ずずっと鼻を啜って手の甲で鼻を拭っていると、いつの間にか少女がポケットティッシュを差し出している。
「・・・・・・あんがと」
受け取ってティッシュを取り出し、鼻をかむ。鼻水は盛大に溢れてティッシュをぐしゃぐしゃにした。それを嫌だったけど少女の手前、捨てずにポケットにしまいこむ。その際、あ、と思い出してもう片方の
ポケットに手を入れれば、やっぱりあった。手触りに満足して手を抜けば、真っ赤なリボンが指に巻きついている。
「ほら、あげる」
少女は怪訝な顔のままリボンを受け取った。もっと嬉しそうにしなさいよ、とか思ってたら空からソリが降りてきて、目の前にトナカイがざざっと滑り込んだ。
「だああっ、遅いわよ! 凍死さす気かよ!」
ふてぶてしい面構えのトナカイの腹に蹴りを入れる。トナカイはあからさまに目を厳しくして噛み付いてきた。
「うおっ、んなろっ、生意気なっ!」
トナカイとの白熱した戦闘を行っているうちに、少女は向かいの家に駆け込んでいってしまった。漸く戦闘を終えて、荒く息しながら、新しい煙草に火を点ける。
「・・・・・・あー、くそ寒い」
こんな寒い日に仕事だ。全くやってられん。寒いし。鼻水出るし。

「テレビ」「コーヒー」「時計」
254その1:04/12/15 23:02:55
ゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘が11回なった。古い柱時計が午後11時を指した。
再びコキコキと時計は刻み始め、静寂があたりを包みはじめた。
おばあちゃんの家はいつ来ても、時間が止まっているようだった。
丸いちゃぶ台に乗っかっている茶菓子の包みを空け口に突っ込んでからテレビをつけようと、
腰を伸ばす。リモコンなんてあろうはずがない。アンテナをがちゃがちゃとあわせる音が部屋中に響く。

大好きだったおじいちゃんが死んで、社会に出て久しいおれがおばあちゃんを尋ねたとき、
おばあちゃんはしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして喜んでいた。僕はおじいちゃんの死に目に
会えなかったことを後悔しつつ久々に童心に帰りくつろぐことにした。さいわい有給をもらい三連休にしたので
時間の心配はなかった。

一通り事が済むと、親と祖母は親戚と飲みに行くと言う。僕は挨拶も済ませたので断り、一人家に残ることにした。
いまどき都会ではお目にかかれない年季の入ったこの家に、たった一人。
することなんて全くない。が、またそれが僕には楽しかった。この静寂の中に身を置く事は、都会の雑踏の疲れ
を取り去ってくれるのだ。

テレビを見ながら寝てしまっていた。何時間寝てただろうか。まだ誰かが帰ってきた様子はない。
ちょうど示し合わせたかのように、時計の鐘が2回鳴った。深夜2時だ。
僕は異変に気がついた。さっきまで暗かったおじいちゃんの仏壇の部屋に電気がついている。
「あれ、もう帰ってきたの?」と僕はすき硝子の入った戸を開けた。
誰もいない。考えたら玄関に靴もなかった。たいして気にもせず茶の間に戻ろうとしたとき、
「健、健坊や。」と僕を呼ぶ声。聞き覚えのある、懐かしい声だ。
255その2:04/12/15 23:16:15
戦前の風格をいつも漂わせていた威厳ある祖父が、仏間に正座して構えていた。
不思議と怖くないもので、むしろ死に目に会えなかったことを悔やんでいたので、思わず言った。
「おじいちゃん。どうして僕をまっててくれなかったのさ。」
「わしゃあ待ったぞ。お前が来るのが遅いんじゃ。」ちょっと困ったような顔つきをしていた。
「でもおじいちゃん、急なんだもの。間に合うわけないよ。」
「お前に渡したかったもんがあるんじゃ。」そういって、奥の小箪笥からお守りを出してきた。
「これをお前に渡しとうて、それだけが気がかりじゃった。胸のつかえがとれた。」
「待てよおじいちゃん、今お茶でも入れてくるから、話でもしよう。」
僕はそういって仏間を出て台所へ向かった。

お茶の葉がきれていたので、インスタントのコーヒーをふたつ入れて持っていった。
しかし部屋には誰もいなかった。僕はふたつのコーヒーを持って茶の間に戻り、すすりながら
またうとうとした。

スズメのさえずりがふと耳に入り、目を開けたとき、祖母と母が帰ってきていた。
「あんた、こんなとこで寝とったの。風邪ひくよ。」
僕は昨夜のことをまともに言う気にはなれなかったが、母にひとつきいてみた。
「帰ってきたとき、仏間の電気ついてたかな?」 ついてなかったという。
僕の握っていたお守りを見て祖母が驚いたように言った。
「あんたそれ、どこから持ってきたんだい。それ、5年前のぼや騒ぎの時に燃えてなくなったと思ってたよ。
じいちゃんは口癖のようにそのお守りがあったから火事のときに助かったっていってたけど、何の因果かねえ。
そのお守りはね、おじいちゃんが兵に召集されたときに親が持たせてくれたものなんだよ。」

結局最後まで、昨日の夜のことは言わずに出てきた。おじいちゃんのお守りは、今でも僕の財布の中に
入っている。僕に孫ができたら、死に際にあげようかと満員電車の中で新聞を覗き考え込んだ。
「ばかもん。」というおじいちゃんの声がどこからか聞こえた。


「紙風船」「タバコ」「ウィスキー」
256プロローグ:04/12/16 10:37:42
 犯行の手口はこうだった。
あらかじめ紙風船にウィスキーを染み込ませておき、それをタバコの火で
発火させるというものだ。そのタバコはほんの少しの間だが、時限装置の役割を果たす。

 全国に店舗が広がるこの店は、最近上記の手口による火事が相次いでいる。
犯人像は特定とまではいかないが、怪しい人をみた、などの目撃情報も出てきている。
なぜわざわざ紙風船を使ったのはまだわからないが、なんらかのアリバイ工作だろうと
いわれている。また、何人かの従業員が失踪しているという報告もあった。
──誘拐? 内通者? それとも……?

         * * *

 僕は喫茶店で時間を潰していた。隣の席では男女数人がテーブルを囲んでいる。
なにやら話し声が聞こえる。
「次は──に──」
「でも──そろそろ────」
周りが騒がしくなかなか聞き取れない。
ふと時計を見ると、思っていたよりデートの約束の時間が近づいていた。
慌ててコーヒーを飲み干し、店を出た。

「鏡」「鎖」「ピアノ」
257名無し物書き@推敲中?:04/12/16 23:24:28
 さあ見てごらん、と促されて私は目をあけようとした。
しかし瞼を開いても何も見えやしない。暗闇がずっと続いているだけだ。
いや、違う。何か黒い布のようなもので目隠しをされているのだろう。
何故、という疑問を投げかける間もなく声はまた私に声をかけた。
「見えた?貴方、ワタシが見えた?」
 どこかで聞いたことのあるような声なのだが、後ろに流れる音楽にまぎれて思い出せない。
流れるピアノの旋律を振り払うかのように、私は首を横に振った。
「そう、見えないの」
 声は笑いながらそう言葉を綴った。まるで私を見下しているような口調だった。
「目隠しされてたら見えないわ」
 私がそう言うと、声は大袈裟に驚いたような声を出した。芝居がかった声で、それは言葉を続けていく。
「貴方が見ようとしていないだけよ。目隠しなんてされてないじゃない」
 突き放すような口調に私はムッとして、目を凝らして必死にその声の主を見ようとした。
だんだんと視界が開けてくる。

 私はその瞬間、言葉を失った。
目の前にあるのは鏡だけである。鏡の中の私が笑っている。そして唇から「声」が発せられた。
「見えた?貴方、ワタシが見えた?」
 そうして「ワタシ」は薄く笑って立ち上がる。すると私の身体は「ワタシ」を真似て立ち上がる。
両手、両足、首元、色んなところに、鎖が絡まっていた。
それが強制的に私の身体を動かしたのだろう。
「良かった、貴方がワタシを見てくれて。そうじゃないと面白くないもの」
 鏡の中のワタシがまたそう笑った。
彼女が動けば、私もそれに合わせるように身体を動かさせられる。
ああ、そうか。鏡の中にいるのは「ワタシ」じゃなくて「私」なのか。
「鏡の中、居心地はいかが?」
 そう「ワタシ」が呟く。私も声には出さずに同じ言葉を復唱した。

「うめぼし」「たくあん」「残飯」
258名無し物書き@推敲中?:04/12/16 23:55:38
残飯を食う毎日にも飽きた。
俺には素晴らしい力がある。才能だってある。今は休んでるだけで、望むべくして残飯を食う毎日、怠惰な日々を暮らしているのであって、本気を出せばこんな毎日ともさよならだ。
そんなことを高らかと宣言したって誰も信じないだろうけど、本当なんだって、真実だよ。
証明だってしてみせる。明日からは今まで出さなかった本気を出して、劇的に素晴らしく飛躍してみせる。
見てろよ、残飯を食う毎日ともおさらばだ。
まだ信じない奴ら、見てろよ。そして俺の言葉が本当だったと知った時、驚愕のあまり間抜けに口でも開いて、高い位置にいる俺を見上げればいい。
安心しろって、俺はあっという間に飛び上がるけど、お前らを見捨てたりはしない。
残飯だって恵んでやる。何なら、うめぼしやたくあんを付けてやってもいい。
だから見てろ、見ててくれ、何しろ俺は、誰かに見ててもらわないと本当の力も発揮できないんだ。それが俺の落ちぶれてる理由なんだ。残飯の毎日の理由なんだ。
見ててくれ、見ててくれ、俺は明日から、飛躍するから。

「暇」「嘘」「空」
259名無し物書き@推敲中?:04/12/17 16:11:27
「暇」「嘘」「空」 

もう一週間も小学校を休んでいる弟を連れ出して、公園まで出かけた。
「お姉ちゃんだって暇じゃないんでしょう?」と、ベンチに座って弟はちょっとすまなそうに言った。
「そんなことないよ。いつも退屈してる」
そう言ったものの私は今、余裕があるんだかないんだか自分でもわかっていなかった。
卒論は進まないし、就職も決まらないのに近頃は、まあなんとか卒業だけはできるだろう、
とりあえず卒業後も今のバイトを続ければいいだろう――と自分にいいわけしていた。
そして週一回の大学の日以外は、アルバイトしたり、駅前をふらふらしたり、
一日中家にこもってドラクエをしたりしていた。
平日の午前中から寒空の下、公園のベンチに座っている私たちは奇妙だった。
空は曇ひとつなかったが、張り詰めた冬の空気に、息が詰まりそうになる。
私も弟と同じで、逃げ場所を探しているのかもしれない。
「無理して学校に行くことないと思う。そのうちあんたにぴったりなところが、きっと見つかるよ」
言ったとたん、しまった、と思った。
「嘘つき。」弟はうつむいて言った。
平板な言葉のなんと役に立たないことだろう。自分でさえ信じてないことを、簡単に
口にするなんてばかだ。

「夢」「新年」「テレビゲーム」
260名無し物書き@推敲中?:04/12/17 19:51:34
布団から出てみると朝の8時。正月というものは高揚感からか目が覚めるのが早い。
僕は駆けるようにドタドタと階段を降り、親に新年の挨拶をした。
「朝ごはんは?」 早く雑煮が食べたくてせかすように言った。「はいはい。できたわよ。」
母が出したのはただのご飯と味噌汁だった。
「雑煮じゃないの?元旦からこりゃないでしょう。」すると母は少し神妙な面持ちで、
「元旦だから質素なご飯にするんでしょう。何言ってるの。」
「そうそう、お年玉・・・。」 と父は言った。この時をどれだけ待ってたか。
「今年は5000円な。早くよこしなさい。」僕は意味がわからなくなり、聞いた。
「いや父さん。それは僕にくれるものでしょ。」
「お前な。正月というものは子供が親にお年玉をやるものだろう。新年早々変なことを言うな。」
テレビをつけてみた。普段と別段変わりない番組ばかりで、特別番組なんてどこもやっていない。
友達に電話してみても、寝てるかテレビゲームをしている奴らばかりだった。
「おう、お前今年いくらお年玉あげたんだ?」なんて言葉が返ってくることもあった。
親が階段上って僕の部屋に来た。親戚をまわってお年玉をあげにいこうという。僕は声にならない声をあげて
親を振り切り、乱暴に靴を履いて玄関に飛び出した。外に出ると何もなくて、白地の世界が広がっていた。
そのうち重力の感じもなくなり、思うように体が動かなくなっていき、目の前がフェードアウトしていった。

布団から飛び起きた。息が切れていて汗をべっとりかいている。僕は夢と現実の区別がまだつかないまま、
3度ほど深呼吸をした。時計を見ると8時をまわっていて、下では朝食を作る音が聞こえる。
「元旦からいやな夢を見たなぁ。」おでこに手をあててぼそっとつぶやいた時、父さんが軽くノックをしてきた。
「おうい。お年玉・・・。」


「ラジオ」「タクシー」「深夜」
261そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :04/12/17 20:05:26
「ラジオ」「タクシー」「深夜」

この業界で生き残る為には、孤独な時間とどう向き合うかという人類普遍の
凡庸な悩みと折り合いをつけることにある。私は深夜ラジオのスイッチを入れた
まま車の中で眠りにつくタクシー運転手の気持ちが痛いほどよくわかる。
揺れる椅子に座ったり、なんとなく庭先の土をいじってみたり、小鳥のさえずりを
テープに録音してみたり、それらはすべて、孤独な空白を埋め合わせる為の
余興のように思われてくる。
一方的にしゃべるのは、何もラジオの音声だけではない。私の妻もそうなのだ。
一方的にしゃべりまくり、私はその度に、二階の自室に篭って、釣竿の手入れを
しはじめる。

「静寂」「パイプ」「蟹」
262名無し物書き@推敲中?:04/12/17 20:55:04
「静寂」「パイプ」「蟹」

サンタクロースだ。
ミチヒコは、布団の中で息を飲んだ。
クリスマスイブの真夜中。
部屋のドアを開けて入って来た、赤い服の老人。
目を覚ましたこと、気づかれないようにしなくっちゃ。
静寂の中、ミチヒコは息を止める。息を止めちゃだめだ。
すぅーはぁーすぅーはぁー。あくまでも自然な寝息で。
枕もとに近づいてきたサンタクロース、ミチヒコは薄目で確認する。
ふところから銀色のものを取り出したぞ。
シルバーレンジャーだ。きっとそうだ、間違いない。日曜朝のスーパーヒーロー。
シルバーレンジャーのシルバーナイフだ。
サンタクロースは両手で大切そうに持っているシルバーナイフを頭上に掲げる。
目を覚ましたこと、気づかれないようにしなくっちゃ。

野村家の一階にある夫婦の寝室は惨憺たる状況だった。
若い刑事がハンカチで口を押さえて表に駆け出していく。
まるで血のプールをぶちまけたみたいだ。
皮をはがれた夫人の腕は白い肉を露出させ、
こびりついてまだらに乾いた血が、忘年会で食べた蟹を連想させる。
ベテランの刑事は、子供部屋のある二階をちらと見やり、
暗鬱な気分に包まれる。

「部屋」「両手」「忘年会」
263262:04/12/17 21:00:29
推敲で「パイプ」消してしまいました……。

× ふところから銀色のものを取り出したぞ。
○ ふところから銀色のパイプのようなものを取り出したぞ。

苦しいけど、これに訂正。
264:04/12/18 00:06:37
部屋 両手 忘年会

俺はアルコオルによって眠ったはずだった。俺はいくら泥酔しようと、酩酊の状態であろ
うと記憶だけは確かに留めておくことが十二分に可能な奥義を所持す。つまりこれに間違
いはないはずだ、俺はつまり、目覚めた俺は我が家でとり行われていた、近所の知人たち
を集めて行なわれた忘年会の閉幕をこの通りに見たわけであろう。目覚めた俺の前には、
ベイジュ色のクロスの敷かれた丸テーブルの上に、びっしりと人間の肘より先を切り落と
された両腕が並びつらねてあった。血はしっかりと時間をかけ抜かれたのであろうと想像
されるほどに、クロスのうえに一滴すらこぼされていない、まるで蝋で形づくられたもの
のように置かれている。部屋全体を照らす明りは消され、テーブル上の間接照明だけが、
それを浮びあがらせているのだった。異様な光景といえなくもない。
俺はこの人たちの手を、十二分に理解をして確認をしていった。俺の妻に、二人の子供、
隣りの田中にその妻と子供、向いの鈴木にその妹だ。俺は彼らの手を見ただけで、どうや
ら判然と察することができた、つまり俺は彼らの手を以前より観察を意識的にせずとも、
無意識にとらえていたらしいのだ。手たちは総じて、両手を自然体として、ゆるやかな指
のしなりを伴って静止していた。それにしても彼らは、その手の持ち主たちは、肘から先
の腕だけを残しどこへ消えたというのだろうか。俺は不思議でならなかった。
俺は喉の渇きをおぼえた。水道まではすぐそこだ。しかし立ち上がれなかった。俺はもう
いちど両方の足を踏ん張って確めた、俺は酔っていたが確かに力強さを感じた。力強さは、
力を意識すればするほど確かに、そこに存在をした。俺は再び試みた、やはり立ち上がれ
ないのだ、俺は俺をもう一度確認した、俺は俺の体、足もとを見た。そして俺は、ふと感
づいた。つまり俺だってさえ、もうテーブルの上に残された肘から先の腕しか残されてなかった事実を確認したのだった。

「地下鉄」「寒暖計」「熱源」
265名無し物書き@推敲中?:04/12/18 18:25:43
地下鉄のホームへ降りると、冬の夜の冷たい風がコートの中に一気にはいりこんできた。
今夜はよく冷える。
そばの柱に設置された寒暖計は、実に摂氏五度を指している。
ラッシュ過ぎのホームには、私しかいない。
こういうのは嬉しい。
毎日疲れた体をひきずって帰りの満員電車に乗っているのだ。
たまには非日常感を味わうのもいいものだ。
それにしても、がらんとした無人のホームは、不気味なものがある。
地上は夜の闇、ホームはやけに明るい。
階段ひとつではっきりと境をしかれた明と暗の世界は、ひどく人工的で無機質な感じを与える。
線路はねじ曲がりながら闇のなかに吸い込まれていて、どこまでもつづいていそうだ。
ふと、寒さがました気がした。
地上の寒気が吹き込んでいるのだろうか。それとも、ヒーターなどの熱源が故障でもしたのか。
寒暖計はさらにさがっていた。
暖かい飲み物でも買ってくるか。
私は降りてきた階段のあるほうをみた。
しかし、おかしい。私はホームのはじからはじへと歩き回った。
私の降りてきたはずの階段が、ホームのどこにもみあたらないのだ。
ぷっつりと、なくなってしまった。
まさか。
階段がなければ、地下鉄のホームなど孤立した箱と同じだ。
ホームを歩き回るうちに、妙な圧迫感に気付いた。
息が苦しい。
そうだ。箱の中なら酸素の量も限られているではないか。
寒暖計はすでに一度を切っている。
混乱する頭の中で、ちかちかと電灯がやけに眩しい。
出してくれ。
息がつまって、ついに倒れた。
意識が、じょじょに、とおのく。
非日常の世界への入り口は、どんなところにも広がっているらしい。
「渦」「ヴォイス」「アゲハ蝶」
266罧原堤 ◆SF36Mndinc :04/12/19 04:43:26
宮内庁御用達。たしかにそう書かれた貼り札があった。
旅行の思い出にみやげ物でも買おうと思って何がおかしいというのだ。
「入ろうぜ」
「何だこの店は……」
店内には鞭や三角木馬など、いかがわしい商品しか置かれていない。
顔がどす黒い、店主と思しき老人が店の奥から驚くべき速さで歩いてきて、
「奥は大浴場となっております」
と、言った。
もうやけくそだった。その場で素っ裸になって風呂場目指して一目散に駆け出していった。なぜだろう。渦に飛び込みたかった。吸い込まれてしまいたかった。
欲求はそれだけだった。内なる心のヴォイスとでもいうのだろうか。騙されていると気づけなかった。
行き止まりだった。鉄格子が降りて、牢獄に変わってしまった。
アゲハ蝶が天井で交尾をしていた。
267罧原堤 ◆SF36Mndinc :04/12/19 04:47:12
「イルカ」 「歯医者」 「列伝」
268名無し物書き@推敲中?:04/12/19 09:28:18
40 名前:罧原堤 ◆SF36Mndinc :04/12/19 06:43:31
子供たちも宅間の肛門や股間を集中的に鉛筆で攻撃すれば前から後ろからの突き刺しに宅間も戸惑ったに違いない。


269名無し物書き@推敲中?:04/12/19 15:30:56
イルカになりたいと思ったのは、彼らがアルファ波なるものをだす、と聞いたからだ。
癒し、ヒーリング、アルファ波にはそんな効果があるらしい。
本当かはわからないが、イルカというのは、本来、知能が高いらしいので、じゅうぶんありうるのではないだろうか。
イルカになったら、私は、だれも傷つけることはない。
私の体は常に、馴れ親しんだ海水で満たされていて、透明な水の心地よさのなかで澄み切った時間の中を泳ぐ。
イルカは、投げ込まれた小石のおこす波紋でさえ、ゆったりと体で感じ、受け入れることができるだろう。
父が、じっとイルカをみつめる私を、不思議そうにみている。
水族館なんて、つまらないという顔だ。
ねぇ、お父さん、私がイルカになったら、お父さんはどうする。
歯が痛いからといって歯医者にいかなくても、イルカには自然治癒力がある。
つらいときは、それを敏感に察知して、そっと傍にいてあげられる。
お父さんを困らせている私より、ずっと、有益な存在だ。
でも、イルカになった人間の話なんて、学校の図書館に置いてあるどんな偉人たちの列伝にも書いてない。
「ほら、早く次の魚を見にいこう」
父は、私の手をひっぱった。
私はガラスケースから離れる。
ガラスの向こうのイルカたちは、ひどく幸せそうな表情で、私をみている。
「父さんについてくるのか、母さんにするのか、いいかげん、きめてくれよ」
歩きながら、父はいった。
いつまでも透明な時間を漂う、幸せで善良なイルカ。
明日また、先生に幸福なイルカたちの話をしてもらおうと思う。

「サウダージ」「サボテン」「独りの夜」
270名無し物書き@推敲中?:04/12/19 23:53:47
20階から眺める東京の夜景は、自然とは対称的にありながらも実に美しい。
私はワインを開け、グラスに注いで、ぐいっと飲み干した。仕事のあとはこの一杯がたまらない。
一企業の社長ともなると、こう贅沢でもしないととてもやっていけないのだ。決して楽をしているわけではない。
親元へは、電話はするがここ4年は戻っていない。4年前でさえ親父が倒れたときだった。農家だったのもあり、
私がその間手伝わなければならなかったのだ。考えても見て欲しい。社員1200人を抱える会社の社長が土いじり
である。それでも、親には若い頃にかなり迷惑をかけたので文句はいえない。幸い親父の病状もたいしたことがなく、
数日で自宅療養に切り替わり、その一週間後にはけろっと畑に出ていた。
こういうことを、いつも考えてしまうのだ。サウダージというやつだろうか、なにか物思いに耽ってしまう。
社長といえども人間だ。昔をなつかしんだりもするし、泣いたりもする。見た目は強固かもしれないが、中は
そうではないのだ。砂漠に咲くサボテンのように。私の周りにはこのことをわかってくれる人が親以外に思い浮かばない。
友達だってわかっていなかったし、上場企業のS社の重役の娘だって2年私と付き合っただけではわかっていなかった。
だから私は36にもなってまだ結婚してもいない。ただ結婚するだけなら、今の地位があればいつだってできる。
しかし、私のこの生活を影で支えられるような人は、故郷の土のような人は、このワインや夜景のような人は、
まず現れないだろう。うわべだけの感情を強要されるこのつらさは、なかなかわかるまい。その見返りに今の
地位がある、ただそれだけのことだ。
ロマネコンティを開けグラスに注いだ。バスローブ姿のままこの自分だけの夜景を見下ろし、独りの夜に静かに
再び乾杯した。

「神社」「地蔵」「石段」
271:04/12/20 00:07:37
サウダージ サボテン 独りの夜

一月二日を迎えようとしている。年の移りゆく昨日の慌ただしい夜はもう消え失せて、日
常の日々へと暦をめくろうとしている。二階の窓から見える両親の寝室も暗がりにつつま
れ、垣根の向こうの家々からさえ明り一つ洩れてはいない。村は既に眠りへと移行してし
まったのだろう。
僕は人口一万の村に生まれ、東京で今は暮らす。僕は年に一度の帰郷をして、風呂から
あがりベッドに滑り込み、そして明りを消してから何げに夜空を眺めていた。月夜は冷たく
乾いた空気をはらみ、僕を向かえた。今夜は眠れそうにない。
僕は昨日、車で昔の恋人の家を偶然とおりかかった折に、面影の残る女性の姿を認めた。
夫らしき男性と、子供と、そして大きな雑種の犬とをで戯れていたのだった。かつて僕は彼
女の交際を曖昧なままにして東京へ出たのだった。彼女はここに留まることを要求して、僕
はそれを拒否し、何も言わずに立ち去った。僕はいまだに、誰に対しても、そしてどんな言
葉でさえも伝えることが出来ないでいる。結局はそういうことだ。
僕は眠ることをあきらめ、クローゼット奥の書棚から家に残していった本を取り出し読も
うとした。両親は僕が家を出た後もまったくいじっていないのだろう、昔のままでそこは保
管されていた。書棚のフィツジェラルドの文庫本の前にはわずかなスペースが空いていて、
小さな鉢植えのサボテンが置かれていた。それは言葉もなく、僕を迎えた。サボテンは幾年
も水ひとしずくなく、生きながらえていた。もうそこにつけ加えて語る言葉は残されてない
ようなのだ。あの日から。 

独りの夜、サウダージ。
272:04/12/20 20:48:03
神社 地蔵 石段
僕たちは石段を二段とばしで駆けあがっていった。
僕たちはお小遣いがなくなると、神社に侵入をして、賽銭をちょうだいするのが常であっ
た。僕たちは誰となくポケットの中をあさり、口の中が寂しくなればいただきにと参上した。
今日も神社の裏手に廻って、前からこじ開けてある、ちょうど板で隠した穴から賽銭箱の
ある社ないに侵入をこころみた。容易にことは進んだ。いつだってそうだ。
今日はお札まであった。大収穫だ。僕たちは再び穴から抜けだして家路へつこうとした。
そこで弟が僕を呼びとめた。「ねえ、さっき僕たちが来た時に、あすこの鳥居のところにお
地蔵さんなんてあったかな?」「えっ?」鳥居の脇の、小さな木の影になった場所に一体の
苔のはえた、古びた地蔵があった。「気がつかなかったなあ」僕はそんなことより、盗んだ
お金で何を買おうかが気がかりで、どうでもいい様にいったのだ。弟も、僕のそのどうで
もいいような言い方に安心をし、「なに買うの、僕バニラのアイスクリームがいい」とせが
んできた。「そんなの幾らだって買えるぞ」僕たちは笑いあった。その日、僕たちは夕食が
進まないほどにお腹を甘いお菓子でふくらませ、眠りに就いた。
夜中、弟が僕をおこした。
「トイレ」僕は耳を疑った。「おまえいつも一人でいくじゃないか」「こわい」弟は眠けま
なこでいった。必要にせがむので仕方なく僕は弟にトイレまで連れ添っていった。弟の小
便が洋式便器にあたって飛沫をはねかえしているのが聞える、廊下に面した窓からは月明
りが青みがかって室内にさしこんでいた。トイレのドアの前で、僕は待っていた。音が止
むまで、でもしばらく弟が出てこなかった。「まだか、冷えるから早くしろ」僕は苛立って
いった。でも弟は出てこない。僕はいきりたって扉を叩いた。「まだかよ」すると、戸が音
もなくすーと開いた。鍵をかけてなかったらしい。「おい、何やってんだ」僕は弟に向かっ
ていった。弟は背を向けたまま、洋式トイレの便器に向かっていた。僕は背中を手で触っ
てみた。「おい?」それは冷たかった、石のように、まるで地蔵にでもなったようじゃないか。

「車椅子」「白壁」「マラソンランナー」
273名無し物書き@推敲中?:04/12/22 10:55:47
車椅子の操作というものは、案外、難しいものだ。
例えば少しの段差でも、乗っている人間には振動がとても響くので片側ずつもちあげてそっと降ろす。
坂道を下るときには、後ろ向きになり、介助者が車椅子を支えながらゆっくりと降りる。
乗り手には坂道の下がどうなっているのかわからないので、すべて介助者に任せるしかない。
介助者と乗り手の信頼関係がなかれば、車椅子の移動はスムーズにはいかないのだ。
義母が私を呼んでいる。彼女が、脳腫瘍の後遺症により下半身不随となり、車椅子に乗るようになって、もう半年だ。
こうやって天気の良い日は散歩にだしてあげることが、彼女のリハビリになると医師はいっている。
私は洗濯を干し終わったところだったので、散歩にでるにはちょうどよい頃合だ。
白壁にかこまれた東北の田舎の町並みを縫うように、車椅子は進んでいく。
夫の生まれたこの町は、水がきれいな町なので、白壁の美しい酒蔵が多い。
「今日はいい天気ですね」
私の言葉に、義母はあいまいな反応しか示さない。
それでも、話しかけ脳に刺激を与えることがリハビリになるのだという。
車椅子の中、陽射しにまぶしそうに目を細める義母。
この半年で彼女はだんだんと幼い顔つきに戻っていっているように私は感じる。
私は内心焦っているのだ。リハビリの効果はいつ現れるのだろう。
この焦りは、スタートをきったばかりのマラソンランナーが、残りの42.195kmを想像して絶望するような心境に似ていると思う。
とにかく先が見えないのだ。
車椅子が重く感じられ、ふいにとまってしまった。
義母が不思議そうに私を振り返った。
「ごめんなさい」
私は慌ててそう言うと、急いで車椅子を発進させた。
私の焦りはきっと義母にも伝わるのだ。この車椅子の振動のように、何倍にもなって彼女に伝わる。
着実に、しっかりと、走っていくしかない。
持ち手をぎゅっと握りなおし、白壁の酒蔵通りを歩く。

「サイレン」「ループ」「リライト」
274:04/12/23 19:28:03
サイレン ループ リライト

僕は小説を書いた。でもうまくない、しかも、どこが悪いのかさえもわからなかった。
そもそも判断の基準すら僕自身で的を絞れてさえいないらしい。僕は誰かに添削を頼もう
とし、掲示板を覗いてみた。あなたの作品リライトします$lが望もうとするもの、そ
れは自然と生まれ、育っていくものだ。便利な場所を見つけた、利用してみよう。
やがて誰かに添削されてきた。読んでみれば、なんてたいしたことない文章が返ってきた。
僕は不満だった。こんな文章で、僕のものが非難され、偉そうな文句とともに文章が返っ
てきたからだ。僕は不満のところを述べてみた、やがて答えが返ってきた。また僕は傷つ
いた。そして永延と非難中傷が始まった。これを人々はループと呼ぶらしい、後で聞いた
ことだが。
その時、実は遠くでサイレンが鳴っていたのだ。でも僕にはまったく耳にすら入っていな
かった。やがて僕は火につつまれた。でも結局は何のことはない、僕は後に病院のベッド
に横たわり、またふたたび書きこみを続けた。でもどうしてだろう、隣りのベッドの人も
夢中になって、僕と同じように膝の上に置いたパソコンに向かっていたのだ。
実は、僕はこの人から、ループに陥る、人間たちの感情のあやを聞いたのだ。でも何のこ
とはない、人間なんてお互いに顔を合わせて話してみれば、感情の摩擦なんてそう起こる
ものじゃない、彼はそういっていた。その日、僕は夢を見た、天使の夢だ、空まで飛んだ。
次の日に僕は殺された、犯人は隣りのベッドの人だ、orz。

「天下り」「深夜」「残業」
275sou:04/12/23 20:02:01
サイレン ループ リライト

薄暗い部屋のなか、男はソファに深く腰を下ろしていた。こめかみや額、首筋にいくつもの電極が接続され、そこから垂れ下がった無数のコードはさながら、男の自由を奪う拘束衣のように見える。
周囲の壁は黒塗りの機械がうずたかく積み上げられ、何かの合図か緑や赤のランプが時折点滅している。男はまどろみながら安らかな表情で、微かな明滅を眺めていた。
「メモリー・リライト、七十パーセント終了」
何者かの声が部屋に響いたが、男にはその声がひどく遠くに聞こえていた。
記憶の書き換え。
人は生きるうえで時に、大切な何かを失うことがある。そして大切な何かと過ごした記憶に縛られ、未来を閉ざすことがある。
それを避けるため、人工的に記憶を消去、または操作する。近年認められた、危うい倫理観の上に立つ最新の医学療法だった。男は間もなく、過去の呪縛から解放されるはずだった。
だが不意に、サイレンにも似た警報音が鳴り響いた。部屋の外から慌ただしい足音が響いてくる。
「メモリーループ、消去不能、消去不能、周辺の記憶の崩壊が始まります」
一度削除した記憶が、それに関連する記憶の影響を受けて何度でも甦ることがある。
それを無理に削除しようとすると、それ以外の記憶に悪影響を与えてしまう。
それがこの非常事態の正体だった。
男は脂汗を流し、嗚咽を漏らし始める。そしてひとりの女性の名を叫んだ。
「幸子! 幸子! ……すまない、俺はお前を守れ……なかっ……」
すべての言葉を吐き出す前に、数人の白衣の男が部屋に雪崩れ込み、患者である男の首筋に注射器の針を突き刺した。
急に訪れた静寂とともに、処置は半ばにして終了した。
「愛する人を目の前で殺された悲しみ、守れなかった後悔。そうしたものから解放してあげたかっただけなのだが……。やはり記憶は神の領域であり、人に踏み込むことは許されないというのか」
白衣の男のひとりが天井を仰ぎながら呟いた。
276名無し物書き@推敲中?:04/12/23 20:04:07
「サイレン」「ループ」「リライト」

頭の中にサイレンが鳴り響く。
それが何を意味するのか? もちろん、警告だ。
何に対して……? きっと、私の思考が道を踏みはずしたのだ。
だから私は慌てて思考を戻す。もう一度はじめからだ。ここで
間違えるわけにはいかない。ここが大事なのだ。要所なのだ。
私のひたいを汗が伝う。落ち着け、落ち着け、落ち着け……。

どれだけ時間が流れただろうか? 再びサイレンが思考を遮る。
……ふぅ。もう一体どれだけ繰り返しているのだろう? 思考は
延々とループしている。先の見えないトンネルは、確実に私の
疲労を蓄積させていた。
「ダメだ……」
私はついに投げ出した。いくら道筋をリライトしても大した変化のない状況に手詰まりだった。
ドッと疲労感が全身を襲う。だが、ここで諦めてはいけない。諦めてはいけ―――。 

そこで意識は消えた。

次は「夢」「鴉」「風鈴」で……、と思ったら3人目かよ!orz
277:04/12/23 21:06:57
夢 鴉 風鈴 天下り 深夜 残業

私は東京都職員から天下りをし、今ではその請負先、鳥獣駆除専門社に役員として勤める。
定年ももう近い。それでも私は、勤めを務めそのものと受けとめ、こうして残業代のつか
ない立場でありながら、最後まで残業をかってでているのだ。明日は都内街頭の各所で、
有害鳥獣駆除の一環として鴉の巣の撤去作業である。今日は準備作業のため部下の一人と、
最後の持ち物点検作業中だ。
「Kさん、もう帰られてもいいですよ、私一人で後はやりますから」部下は気を使いながら
いった。「ああ、でもこんな年になると、帰っても鬱陶しく思われるだけなんだ、君は結婚
はまだだっけ、そのうちに私の気持ちも分かるかもしれないよ」部下は苦笑いをしていたが、
実際は私のことを、こいつさえ鬱陶しく思っているのかもしれないな。そして私も苦笑い
をこぼす。
先ほどの部下と偶然にも一緒の終電に駆け込んだ、同じ車輌であった。深夜だというのに
車内は混み合っていた。「Kさんもこちら方面なんですか?」「ああ、君はどこなの?」「三
鷹なんです、実はまだ実家から出てないもので」部下はまた苦笑いをした。まだ若いのに
目尻の皺がくっきりと浮き出た。「私は八王子さ」私は部下が小さくかしこまっているのを
申しわけなく思った、でも家の場所なんて帰られるわけもなかろうて。
やがて定年を迎えた最後の日、あの時の部下は実家家業で作られる、風鈴をよこした。「家
で父が作っているんです、奥さんにお土産でも、よろしかったら」鳥の絵が描かれた風鈴だ。
その風鈴は今でも夏になれば家の軒下にぶら下がっている、妻がその音が気にいったのだ。
まるで心が洗われるようだといつも口癖のようにいう。
私は、そんな夏の夕暮れ、廊下で夕涼みをしながらふと眠り込んだりする、そんな時はき
まってある夢を見た。それは、私が今まで何千羽と駆除という名のもとに、息の根をこの
手で止めてきた鴉の夢なのだ。鴉たちは艶のある羽を身に纏い、いとおしく鳴くのだった。

「プライベート」「暇つぶし」「恋人」
278名無し物書き@推敲中?:04/12/24 01:54:12
恋人がないている。
受話器の向こう、恋人の声はだんだんと弱くなっていき、今は哀れなすすり泣きにかわった。
明日は出社時間が早いのに。
私は泣き声を聞きながら、明日会社に提出する資料の枚数を数えている。
恋人の情けない姿を知ればしるほど、私の頭はますます冷静になっていくようだ。
泣いて浮気の弁明をする男。
アイシテルやゴメン。
恋人の言葉が、まるで辞書からそのままとびでたような固い表情をして私の耳までとどく。
私はそれに、適当に相槌をうつ。
とにかく、むしょうに独りになりたいと思う。
明日も早い。電話をきりたい。
趣味や仕事に没頭できる、プライベートの時間がえらく懐かしい。
恋愛中、こういうときが周期をつくって巡ってくる。
孤独欠乏症とでもいおうか。
暇つぶしの恋愛ごっこに、幕を降ろすときがきたようだ。
「ごめん。もうあえない」
まだ何かいっている恋人を残し、私は電話をきった。
ガチャッと受話器をおく音。終幕の音。
急に、部屋に静けさが戻る。
私は、独りになった。
それは、期待していた独りとは違い、空っぽで何もない独りだった。

「君」「繋ぎ」「レクイエム」
279名無し物書き@推敲中?:04/12/24 11:51:58
生まれた病院からの腐れ縁のけん君が結婚することになりました。
相手は年少組の子だそうです。
けん君は年長組になっても恋人がいなかったのでとても心配していました。
「おれは5歳以上年下の女とじゃなきゃ結婚しない」
けん君はそんなことをいつも言っていました。
年少組はたしか3歳からしか入れないから、けん君とはその子は多くても2歳しか離れてないはずです。
もしかすると、本命の子が現れるまでの繋ぎなのかもしれません。
なにしろ年長組で独身なのはもうけん君だけなのですから、
愛がないのに形だけ繕ったんだとしても、けん君を責めるのは酷というものでしょう。
けん君の結婚式には年長組のみんなでお歌をプレゼントしようと決めました。
今のところ、候補は『別れの一本杉』と『レクイエムニ短調より 怒りの日』です。
楽しい結婚式にできるように頑張ろうと思います。


「雷神」「大剣」「弾劾」
280名無し物書き@推敲中?:04/12/24 20:11:04
靖男は一人息子をいとおしくてしようがない。しかも自分とは違い、できた母親に似て頭
がきれた。母親は弁護士なのだ。彼も同じ職場に立ちたいのだという。今日は彼の将来の
予行練習にお付き合いだ。
「ぱおうー、おまえは竜の騎士だな。当国家では剣は五十インチ以内と決まっておる、それ
なのにそなたがそのような大剣を所持していたとは、残念だがやむを得ないな」息子は裁判
官らしい。「裁判官、どうかお許しを」「ダメだ、我が国は法治国家である、そなたが国境を
越え、そむいたのはそなたの方なのだぞ」息子は豪気にいった。「裁判官!異議を申し立て
ます」母親だ。「なんだ」「被告が異国の者であろうと、弁護は必要と思われます」「そうか、
おまいが弁護をするのか、まあよかろう」息子はもじゃもじゃのカツラのずれを直した。「裁
判官、そもそもこの裁判自体が無効であります、なぜならあなた、当の裁判官本人が既に
弾劾されているではありませんか」「私が弾劾されているだと、まさか」「今朝あなたは当
国家の法を犯したため、本日早朝に手続きがなされました」「何だと、私が法を犯しただと、
バカな…」息子はうろたえた。「今朝、大日野家憲法五条を抵触した、おねしょをして布団
をぬらした罪でありますよ」「バカな…私が罪など犯すはずもない…」「証拠を提出します
か」「ウム…いや結構…私はめまいがするからな…当法廷は一時休廷といたす、おまい命び
ろいしたな」息子は靖男に向っていうと立ち上がった。そして、カツラをとって靖男の胸に
跳びこんだ。「ママ、ずるいよー」「まだまだね、さあ、パパとお風呂しなさい」
靖男は風呂場で息子に背を流してもらいながら、台所から聞こえてくる妻の鼻歌を聞いて
いた。息子は桶で靖男の泡まみれの背中を流してくれ、そして今度は靖男が息子の背中を
洗った。小さい背中だ。そこで息子がいった。「ねえ、パパはどうやってママと知り合った
の?」職場で知り合ったみたいなものだな、と靖男はいった。「僕もママみたいな人と結婚
できる?」もちろん、良い子にしていればね、と靖男はいった。「良い子?でも良い子じゃ
なくても、ママみたいな人と結婚できると思うんだ」
どうしてだと、靖男は聞いた。「何となく…」息子はそういった、
アレはなんなのだろう…息子は靖男の背中に描かれた竜神の肖像に思いを馳せながら。
281↑雷神 大剣 弾劾:04/12/24 20:21:43
お題忘れた、「いばら」「エルサレム」「聖杯」
282:04/12/26 19:56:03
いばら エルサレム 聖杯

エルサレムへの旅行中に僕は露店で聖杯を買った。もちろん観光地でよく見かけるような、模造
品にちがいない。ぜんぶで五つ、帰国後近所に配った。まれに僕と妻がその家々に出かければ、
だいたいが気遣いであろう、例えばリビングのチェスとの上だとか目立つ場所にそれは置かれて
いた。
不思議なこともあるが、時が経つとその家々に共通の不可思議な点が見られるようになった。あ
る者は宝くじに当選し、ある者(不妊症だったのだ)は念願の子が生まれた。それぞれの人が、そ
れぞれの人の望む形の幸せを偶然に掴んだのだ。この噂は近所にふれわたった。やがて一軒の
家(宝くじが当った内田家)にTV局の取材が訪れた。そして僕の知らないところでその映像が放送
されると、国内はもとより、海外からも取材の申し込みが我が家におしよせたのだ。彼らはその人
たちに普通見られるような、同じ質問を何度もした。僕はうんざりしていたので、その都度適当な
受け答えをした。TV局にせよ、ただの話題作りであろうから。
ところで僕はきっすいの日本人に違いない。父も母もそうだ。それなのに、僕への取材が放映(内
外で)されるや否や、あれはキリストだ、とTV局に投書が殺到したのだという。それがまた不思議
なことに、すべての放映された国々で起こった事件なのだ。僕たちは再び取材におわれた。ペル
ーからの取材班は僕にいばらの冠をつけ、十字架まで背負わせて撮影の協力をさせた。僕は疲
れきり、断る力さえ残されていなかった。とうとう、狂したとしか思えないのだが、聖職者と称するア
メリカ人がアイダホから訪れるといった考えられない事態にまで進展した。終に僕たちは、郊外へ
夜逃げするように引っ越すはめになった。
TVを点ければいまだに僕の話題で持ちきりだった。もしかしたら、ここにもすぐに取材がきかねない。
そんなある夜のこと、妻は僕と愛しあった後にいった、 「あなた、…背中を見てみて」 僕は姿見
の前にいって自分の背をうつした。そこには十字の形にくっきりとした痣が浮かび上がっていたの
だ。窓からこぼれる月明りに照らされ、それは鮮やかに形づくられていた。僕は振りかえった。そこ
に妻がいた。彼女は白いシーツを握りしめ、向けるまなざしがまるで化け物でも見るように、ベッド
にうずくまった。
283名無し物書き@推敲中?:04/12/26 20:06:30
お題、「円錐」「ポーズ」「洋館」
284ねこ:04/12/26 22:16:54
ほほう。こんなスレが・・・。
初参加、よろです。

「円錐」「ポーズ」「洋館」

 丘の上にある、イチョウの木に登って、沖合いの漁船を見つめていた。
夏の暑い日ざしも、高いところに登ると、海からの風が頬に当たるので心地良い。
「ねぇ、何が見えるの?」
突然、下から聞こえてきた声に驚いた俺は、バランスを崩して落っこちた。

「ごめん、急に声をかけたりしたから・・・・・・。大丈夫?」
目を開けると、見慣れない少女が、地面に転がった俺を見つめていた。
この辺のガサツで野性的な女と違って、栗色の長い髪と、天使の様な白いドレスのその娘は、
まるで、洋画に出て来るお姫様の様だった。

ジッと俺を見つめる、吸い込まれそうな瞳に少し気恥ずかしくなった俺は、慌てて飛び起き、
「大丈夫だよ!」って、ガッツ・ポーズを取って見せた。
「ねぇ、君、見かけない顔だね。都会の人?」
俺が尋ねると、その少女は、丘の向こうにある大きな洋館を指差して答えた。
「夏の間だけ、あそこに住んでるの。私、体が弱いから、空気と景色の良い所にって、パパが・・・・・・」
「確かに空気はいいけど、こんな寂れた漁村の景色は、見ても面白くないのじゃないかな?」
と、俺が話すと、少女は、少し寂しそうに微笑んだ。
「いいえ、この景色で十分。私ね、もうすぐ、目が見えなくなるの。円錐角膜っていう病気。
多分、このイチョウの葉が黄色くなる頃には・・・・・・」
それを聞いて、俺は思わず叫んだ。
「俺が大きくなったら、きっと偉い医者になって、その目を治してやるよ!」
285ねこ:04/12/26 22:17:25
 あれから、ずいぶんと時間が経った。俺がそのまま大きくなったら、本当に医者になって、
君の目を治しに行けたかもしれない。あのあと、すぐ、帰路を急ぐ俺の自転車に向かって、
カーブを曲がり損ねた車がぶつかって来なければ・・・・・・。 

 俺、医者にはなれなかったけど、君の目を治す事は出来たよ。
いつまでも、君を見守っているよ。俺は、美しくなった彼女を映す鏡を、、
俺自身の角膜で見つめると、静かに目を閉じた。


次のお題
「奇跡」「夢」「まぼろし」
286名無し物書き@推敲中?:04/12/27 17:36:02
ねこ
おたく>>1読んだ?
287:04/12/27 20:59:56
奇跡 夢 まぼろし

双子の妹が死んだ。
それ以来、僕は街角で通りすぎる人たちに僕のまぼろしとして妹の面影を見るのであった。僕は
何度も振り返ったりする、それはビルの谷間であったり、上下にすれ違うエスカレーターでのことだ
ったりした。あの時も駅のホームで…。
僕の命が助かったことは奇跡にちがいない。僕は一週間も危篤状態に陥って、助かっても植物状
態は免れないだろうといわれていたそうだ。僕はあの時、通過中の列車に突き出した手をとられ、
体ごと宙をまって、ホームに叩きつけられたらしいのだ。医者がいうには通過中の電車の窓に映っ
た自分の顔に、亡くなられた妹さんの幻影を見たのではないかとのことであった。目撃者の話から
すると、そういうことらしいのだ。でも僕にはそんな憶えはなかったのだが。
僕は病院のベッドに横たわり、そんなことを考えている。恋人は帰ったばかりで、そこの丸椅子を
触ればまだ暖かさは残っているのだろう。むいた林檎のかおりがする。
やがて病室の扉があいて人が入ってきた。コツコツと靴底が床を叩く音がした。
「夢でも見ていたんですか?
  さっきまでうなされてましたから」
看護婦は体温計を振りながら屈みこみ、僕の胸を開け体温計を差しこむ。そして僕に問う。
「怖い夢だった?」
僕は目を閉じた。ああ、これが夢でなくて何なのだろう。僕はこうやって夢を見ているんだ。
僕には彼女さえも僕の妹に見えたのだから。

「鞭」「牛」「外套」
288「鞭」「牛」「外套」:04/12/27 23:55:34
飛行機は順調にスペインに向かっている。
気分はあまり軽くない。なぜなら私は観光に行くのではなく闘牛をやりにいくのだ。
引退してから何十年もの時が流れていて、私はもう古希を過ぎている。
なぜそんな私が老骨に鞭打たなければならないのかというと、
現役時代に決着を付けられなかった一頭の牛がいて、
その牛が今頃になって私と決着を付けたがっているらしいのだ。

飛行機は無事にスペインに着いた。
スペインも今は冬なので肌寒い。上に着る物を持ってくるべきだった、と思ったそのとき。
一頭の牛が、角の先に外套を引っ掛けて私に差し出しているではないか。
私は外套を手にとって身に着けると、その牛をよく見た。
見覚えのあるその顔つき、全身の傷、まぎれもなくかつて戦ったあの牛であった。
彼が差し出していた外套は私が現役時代に使っていたもので、
彼と戦ったときにもぎ取られたのだ。
「今度はその外套でなく命をもぎ取ってやる」
彼の荒い鼻息は、まるでそう宣言しているように思えた。
私はそれに応じて現役時代そのままの不敵な微笑を返してやった。
私も負けるつもりはない。
私と彼との再戦…おそらく最後となろう勝負が行われるのは三日後である。

「サーベル」「スピン」「フラッシュ」
289名無し物書き@推敲中?:04/12/28 00:31:45
 
290名無し物書き@推敲中?:04/12/28 15:56:22
盛りageよう。
291名無し物書き@推敲中?:04/12/28 16:13:50
ツマラン
292名無し物書き@推敲中?:04/12/28 16:21:14
293:04/12/28 21:24:01
サーベル スピン フラッシュ

「エミちゃん、それじゃ次は寝そべって、そうそう、そこの暖炉の前」
おそろしく暑い午後。都内の洋館で撮影は行われていた。私はフラッシュを浴びながら体
をカメラマンの要求にそった形に姿勢をとらねばならない。布を恥部にはり付けた格好、
肢体を全面的に露出させ。
「エミちゃんいいよ、もっとこっちに集中して、そうそう……いいよ」
この髪の薄い小太りの中年カメラマンに指示され、私は踊り始めた。
BGMがABBAのdancingqueen、私はそれにあわせ踊るんだ。
「それじゃ、そこの壁に掛かったサーベル持ってきて、エミちゃんに持たせてよ」カメラマ
ンは助手に要求をした。「エミちゃん、それ口にくわえて踊ってみようか」
BGMにABBAのdancingqueen、それにあわせ私は踊る、口にはサーベル。
だんしーーんくいーん、やがんすうぃー、おんり、せぶーんてぃー
「エミちゃん、もっと動きつけてみようよ、君は女王様なんだよ、華麗に踊っているんだよ」
だんしーーんくいーん、やがんすうぃー、おんり、せぶーんてぃー
「いいよー、そこでスピンといこうよ、そうそう、君はダンシンクイーンなんだ」
私は回っている、回るんだわ、いつまで回り続けるのよ…。
だんしーーんくいーん、やがんすうぃー、おんり、せぶーんてぃー
「よーし、じゃ休憩にしよう、エミちゃん最高だったよ……
ん、どうしたのエミちゃん…もうサーベルはいいからさ、片付けちゃっていいからさ…ん?
どうしたのエミちゃん、サーベルはいいってばさ、エミちゃ……」
だんしーーんくいーん、やがんすうぃー、おんり、せぶーんてぃー……

「ジュース」「退屈」「うんてい」
294sou:04/12/28 23:28:43
ジュース、退屈、うんてい

学校が終わった後、退屈だった僕は近くの公園に行った。
そこではなぜか、ラッコがうんていにぶら下がって懸垂を繰り返していた。
それはもう、もの凄いスピードだ。
体の中にピストンでも埋め込んでるんじゃないかと思うくらい。
しかも、ものすごい汗。川に戻る前に干からびちゃうんじゃない?
「おう坊主、見せ物じゃねえんだ。気が散るからあっちいけ」
ラッコに叱られてしまった。
仕方なく僕はブランコに乗るふりをして、横目でラッコを観察することにした。
今度は正確なリズムでうんていを往復している。
ちょうど百往復したところでラッコは地面に降りて、
休憩なのかジュースを飲みはじめた。
あ、間違えた。ジュースに見えたのはプロテインだった。
つまみにゆで卵の白身を頬張っている。
運動後のタンパク質の豊富な摂取。なかなか科学的なラッコだ。
あれ? 誰かがラッコに話しかけてる。あれは確か、ボクシングジムの
有名な鬼コーチだ。あだ名は「おやっさん」
ラッコはシャドーボクシングのように腕の素振りを始めた。
おやっさんは「遅い、もっと早く! 流れるように打て!」とか叫んでる。
でも何か変だ。
パンチを打つんじゃなく、両手を揃えておなかの辺りに振り下ろしてる。
ああ、そうか。今までのトレーニングは全部、おなかの上に置いた貝を
石で割るためのものなんだ。ラッコも生きるためには、いろいろ大変なんだね。
そして一人と一匹はロードワークに行ってしまった。
ああ、また退屈になっちゃった。何か珍しいことでも起きないかな。
295sou:04/12/28 23:39:50
お題忘れ。
「正義」「選択」「生き残るのは一人」でどうぞ。
296名無し物書き@推敲中?:04/12/31 06:02:31
「正義」「選択」「生き残るのは一人」

「戦争が来たらどうしよう」と弟は言った。学校で平和学習の授業があったらしい。
まだ小学生の弟は、私の小さい頃とそっくりで、ひどく心配性だった。「ぼく、死ぬのいやだ」
私は夕刊から顔を逸らして、弟の顔を見た。うつむいて、ばかみたいに深刻な顔をしている。子供はやっかいだ。
「飛行機の音がすると、爆弾積んでるんじゃないかと思う。」
「来ないわよ、戦争なんて。」母が言った。
「爆弾なら、皆死ぬときは一緒なんだからいいじゃない」母はいつもこう理屈の通らない慰め方をする。
「みーんないっぺんに死ぬのと、一人だけ生き残るのとどっちがいい?
お父さんもお母さんもまこ姉ちゃんもみんな死んで、生き残るのは一人っていやでしょう?」
どうしてそんな二択が出てくるのか。それは究極の選択だった。
死ぬあとの世界も、自分以外の人がいない世界も、誰だって見たことがないのだから。
「どっちもやだ。死ぬのもやだし、一人もやだ」
子供には、戦争だろうがテロだろうが大地震だろうが殺人事件だろうが、みんな同じだ。
悪とか正義とかもなく、自分とそのごく周辺だけの、小さな世界。
大丈夫、怖くなくなるんだ。いまにびっくりするくらい図太く、ばかのように平和ぼけしていられるようになる。
そう思って夕刊へ目を戻す。彼の知らない名前の国で、今日も誰かが命を落としたそうだ。

「ニュース」「就職」「カフェ」
297名無し物書き@推敲中?:04/12/31 12:24:14
ニュースには、見慣れたいとしい顔が映し出されていた。
今日のこの日を、私はどれだけ待ち望んだことか。
これで、彼は私だけのもの。
大学の側にあるカフェで、彼をひとめ見た時から、私の透明な世界は急激に色を帯びた。
あの日。
彼にあった、あの日。単調で色のない、ぼんやりとした私の風景の中に、一滴、真紅の雫が、落とされたのだ。
就職先も、彼と同じ会社を選んだ。マンションだって、彼の家の近くに借りた。
苦手な飲み会だって我慢した。
そして、ついに彼から誘ってもらえた時は、本当に嬉しかった。
いろんなとこにデートに行って、夢のようだった。
でも、私は少し勘違いをしていた。
彼の奥さん。美人で、優しくて、上司の評判もいい。
気付かなかった私が馬鹿なんだ。
例えばアイロンのきいたシャツ、趣味のいいハンカチ、みがかれた靴。
耐えきれなくて、昨日私は彼女にあった。
妊娠、八ヵ月だって。
さっきからニュースは、妊婦の妻を殺した残酷な殺人犯の逮捕を伝えている。
いとしい人。
これで、やっとあなたは私だけのもの。


「アジア」「カンフー」「ジェネレーション」
298名無し物書き@推敲中?:04/12/31 12:30:02
「ニュース」「就職」「カフェ」

とうとう街中をちらちらと小雪が舞い始めた。予報では夜からだと言っていたのにな。
垂れ込める雪雲をチラと見やって、気持ち足早に通い慣れた塾に向かう。
 気ぜわしい年の暮れ。赤信号に捉まった通行人の表情もなんとなくせわしく見える。
角のカフェに目をやると、ガラスの向こうに同い年位の子たちが談笑している。
窓から漏れる暖かな別世界に、幾分かかじかんだ体が解きほぐされたような気がした。
 進学を決めたのはつい最近のこと。受験対策なんてこれっぽっちもしていなかったから、
知識を頭に叩き込む塾通いの毎日には音をあげそうになる。
就職も考えたけれど特に就きたい職もなかった私は、御多分に洩れず進学の道を選んだ。
 信号が青に変わって動き出す人たち。
たった今、私の右側を擦れ違った長髪で細身の女性はどんな生き方をしているのだろうか?
そして私を追い抜こうとしている左の大柄な男はどんな……。
 とりとめのない、いつものちょっとした不安感に満たされる。
 遠目に雪に煙る塾の青い屋根が見えてきた。現実に引き戻される青い屋根。
私は本格的に降り出した雪に身を縮ませてから、寒さを振り払うように玄関先までダッシュした。
来年の明るいニュースは大学合格でありますように。

お題の前の方ので。
299名無し物書き@推敲中?:05/01/01 05:38:16
ヽ( ・∀・)ノ●ウンコー
300そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/01/03 14:19:26
「アジア」「カンフー」「ジェネレーション」●ウンコー

うちの近所のレンタルビデオ屋は、正月だというのに客がいない。
それは置いてある商品も店員も●ウンコー だからである。
「すいません。ケビン・スペイシーとかジュリア・ロバーツの最新作
ないですか」と聞くと、店員はこう応えた。
「うちはアジア物のビデオしかないよ」
「それはないでしょう。いいです。じゃあ、せめてエロビデオくらいあるでしょ」
「カンフーものの絡みなら何本かある」
男はそう言って、レジの奥にある自宅兼用の男の自室から、彼のお気に入りの
ビデオを数本持ってきた。
 私は自分の目を疑った。彼が持ってきたのは、40年前のカンフー風味のエロ
ビデオで、パッケージの男女のヘアスタイルは、アフロなのか何なのかよく
わからない。ダッコちゃん人形のシールが女の胸に二つ貼り付けてあるのも
気になる。
「いいです。やっぱり。僕帰ります」
 新年に入ってこれほどのジェネレーション・ギャップをマジマジと感じたのは、
今回が二度目である。一度目は僕の妻に愛人ができ、その愛人は16歳であったこと。
そしてその愛人は、僕より指使いがうまく、おまけに女だったこと。

「酢飯」「記念切手」「ぶらんこ」
301名無し物書き@推敲中?:05/01/03 22:48:44
「酢飯」「記念切手」「ぶらんこ」

対面式のキッチンでごはんを火にかけていると、二階から太郎が降りてきて
「お母さん、赤ペン先生の封筒出すからタンスに入ってた切手使ったよ」と言う。
「ちょっとそれ、ママの大切な記念切手じゃない!」「えっ、そうなの!早くはがさなきゃ」
「なにやってんのさ太郎は、しょうがないなー。そーっとはがすんだよ」と、傍にいた花子が封筒に手をかける。
「やめろよ花子、封筒まではがれちゃうよ!」「ああ、ひっぱらないでよ!」
「もういいわよ、二人とも。切手は他にもあるから」
「ママ、ピアノの月謝袋お金入れてよ!」とせがみにきたのは夢子。
「えー、早く出しときなさいよ。いきなり言われたって用意できないんだからね」
するとバタバタバタン、と玄関から大きな物音がした。
「ママー、三郎がぶらんこで落ちて怪我した!」と次郎。
「うわあああああああ」三郎は顔を真っ赤にして泣いている。「こいつ、大げさなんだよ」
「あらあら、ひざのところちょっと擦りむいただけじゃない、泣き虫ねえ」棚から、救急箱を取り出す。
「お母さん、この切手はがれないよー!」太郎と花子が寄ってくる。
「月謝まだー?ピアノの時間に遅れちゃう」夢子が急かす。
「痛いよおおおおお、だってぶらんこ乗ってるとき次郎がワッて脅かしたんだ!」「おれのせいじゃないよ!」
「ああもうしょうがないわね、みんないっぺんに言わないで!あんたたちもう10歳になるんだからね!」
太郎が顔をゆがめた。「お母さん、なんだか焦げ臭いよ」
「いけない、酢飯を火にかけたままだったわ」
今夜は五つ子の誕生日恒例の、自家製手巻き寿司。「あーあ、焦げてる。作り直しね…」

「台風」「医者」「猫」
302名無し物書き@推敲中?:05/01/03 23:25:58
十数年振りに大きな台風が直撃した。
雨戸は凹むは瓦の割れる音は響くは、雨戸のない小窓から外を見れば太い幹の樹が斜めになっていた。
「こんな日に散歩でもしようかしら。うふ」
なんて愛猫に笑いかけると、でぶの三毛猫は欠伸しながらソファーに載るクッションの陰に隠れた。
「冗談だっての」
こんな冗談を口にしてしまうぐらい、暇だ。外に出られない、部屋には読み飽きたファッション誌と映りの悪いテレビと興味のないことばかり書いてる新聞しかない。
引っ切り無しに響く、ごうごう、という風の音が無駄に恐怖を煽る。過剰勤務がモットーの会社もさすがに今日は休みをくれた。でも急に休みになっても、ましてや家から出られないと、暇でしかない。
「・・・暇だわ。暇です。うふ、腕立てでもしようかしら」
思い立ったら吉日、何となく腕立て伏せをしてみるけど、八回で二の腕が震えて、九回で体が上がらなくなった。
カーペットにうつ伏せになって、揺れる毛足を見つめる。目の前でふわふわ揺れるそれを見つめていると、急に掃除がしたくなった。
「清潔が一番ですわ」
思い立ったら吉日、掃除機と雑巾と洗剤と消臭剤を手に、部屋中を歩き回る。カーペットを丸めて掃除機で埃を吸って、フローリングの床を雑巾で拭く。
床や壁や本棚に洗剤を撒いて、雑巾で丁寧に拭き取る。見る見るうちに綺麗を取り戻していく部屋の中を、追い出された埃が舞う。
「なう」
猫が気楽な声を上げて足に擦り寄ってきた。
「おう、埃っぽいか? 我慢しなさい。にゃうにゃう」
などと語尾を猫っぽくして話し掛けるけど、愛すべき猫のにゃんにゃんは答えてくれず、白いお腹を揺らしながら部屋の隅で丸くなった。
「ん、次の給料で炬燵を買おう。その時まで我慢してねん」
そうして掃除を終えて、次の日に風邪で倒れた。窓も開けずに掃除をして、埃を吸いまくったのが悪かったらしい。
台風の通過した外は雑多さに溢れていて、色んなものが散らばっている。新聞紙や瓦の欠片や自転車や青空を眺めながら、病院へと足を伸ばす。
医者は嫌いだけど仕方ない。有給なんてそうは使えない。風邪は早めに治さなければならない。
何しろにゃんにゃんが待っている。なんちゃって。

「鐘」「酒」「眼鏡」
3031/2:05/01/04 01:37:40
「鐘」「酒」「眼鏡」

新年を迎える瞬間の特にどの辺がおめでたいのか、説明を要求したい。
そんなひねくれた思案に身を投じてしまうのも、刑事という職業のせいだろうか。
一人でぬくぬくとコタツで温まりながら見る歌合戦がどんなにつまらなくても、細く生きる術も無い俺の食う蕎麦が矛盾の音をたてても、平和に除夜の鐘を聞く、そんな普通の大晦日なら文句なんて言わないさ。
「なんか腹立ちますね」
後輩の刑事が、白い息を天空に吐きながら言った。まったくだ。
ビルの屋上では、鼻眼鏡をかけて、半裸の中年男が酒瓶を片手に、「死んでやる〜」と愉快にそうに踊っている。
そして、このくだらない事件を取りまとめる責任者が俺だ。この職を選んだことがひたすら悔やまれる。
「毎年のことだよ……。この時期はたがを外す奴も変な奴も多い」
それが今回同時に起きているわけであるが。
今にもバランスを崩して、落下しそうになっている男は、情報によればお笑い芸人だという。全く売れない、という肩書きつきであるが。
自分の不才と、世間の冷たい視線と厳しさに中てられたのだろうか、男は自棄になっている。
死に際まで、自身の生き方を貫こうという姿勢には敬意を払うが……いかんせん、まったく面白くない。
この際、このまま死なせてやったほうが男のためなのではないかとも思えるが、これは職務である。俺が救うべきは彼自身ではなく、彼の命だ。
3042/2:05/01/04 01:38:38
「悪いな、芸人さんよ」
屋上の下には、トランポリンが準備される。俺はメガホンを手に取り、彼を説得しよう……そう思ったときだった。
「俺は〜歴史に名を刻む〜お笑いの〜道を〜」
即興と思える歌を口ずさみながら、男は酒を頭から浴び始める。
野次馬も、彼の行為にざわめき始める。まったく予想外の展開だった。
男は、おもむろにライターを取り出す。
「燃えて〜燃えて〜、燃え尽きて〜」
「おいおいおい……」
青ざめた表情で、後輩があとずさる。男が何をするかは誰の目にも明らかだった。
「着火〜〜〜!」
燃え上がった。酒瓶に入っていたのは、酒ではなく、もっと可燃性のある液体だったようだ。
直後、男はバランスを失い、空中に投げ出された。
トランポリンを作っていた警察官たち、は男の行動にひるんでいた。
燃える男はそのままトランポリンの真ん中に落ちるも、それはもはや叩きつけられたも同然だった。

「はは……」
俺は笑った。
状況を掌握していたのは、責任者の俺ではなかった。
ステージの上に立っていた、この男だ。
俺はただの客だった。
男は、人ごみの真ん中で、煙と異臭を振りまいていた。
雪のふる、都会の一角。ここは男の舞台を目の当たりにした大衆の悲鳴が喝采に聞こえるのは俺だけだろうか。
終幕を告げる除夜の鐘。
俺はこの男にひたすら拍手を送った。


長文失礼しました。
「夜」「雪」「数学」
305sou:05/01/04 23:31:38
夜 雪 数学

夜の訪れた公園。夕方から降り始めた雪はいつしか降り積もり、
まばらに立つ街灯が白い世界を暖かく照らしだしている。
そこに佇む人影がひとつ。
コートの襟を立て、男は何事かを呟きながら灰色の空を仰いでいる。
「世に起こる事象はすべて、一定の公式で説明できる。
ならば、私のこの世界における存在理由とて、解らぬはずはない」
男はこの数日、繰り言のように同じ言葉を発し続けていた。
思考もまた、同じ場所を何度も巡っていた。
「うっ……ぐっ、がああああっ!」
膝をつき、頭を抱え、腹の底から血を吐き出すような叫びをあげる。
男は精神は、出口の見えない堂々巡りに耐えきれず、すでに崩れかけていた。
その時だった。男の脳裏に何かが浮かんだ。
近くに落ちていた木の枝を拾い、雪の積もった広場を白板がわりにして
地面へ一心不乱に数式を書き込み始めた。
果てしなく続く公式。それはあっという間に広場すべてを埋め尽くした。
「そうか、やはり……」
「ある物」の存在が限りなくゼロに近づくほどに、世界はより良く機能する。
数式は男に対し、そう教えていた。
「くふっ……くくくっ……」
男は涙を流しつつも薄い笑みを浮かべ、コートのポケットからナイフを取り出した。
そして力を込めて己の喉に突き刺した。
鮮やかな血が、倒れた男の体を中心として丸く広がってゆく。
まるで、数式の正しさを証明するように。
そしてすべては、次第に静寂と雪のなかへ埋もれていった。

306sou:05/01/04 23:40:05
「代償」「原罪」「壁」でどうぞ。
307名無し物書き@推敲中?:05/01/05 11:09:53
壁が、高い壁が、私の前にある。
遠く聖地エルサレム、嘆きの壁。
荘厳で、重厚なその雰囲気は私を圧倒する。
古く昔からユダヤの人々の祈りを受け止めてきたこの壁は、今では私のように観光で訪れる旅人もいるほどの有名な場所だ。
壁にすがるようにして、女たちが祈りを捧げている。
ユダヤの女たちは、泣いているようだった。
私はそびえたつ壁を見上げ、遥かなユダヤの歴史に思いをはせる。
この壁は、聖書の時代から続く人類の原罪ですら洗い流してくれるのだろうか。
祈りや願いのかなえられたとき、その代償とはなにがあるだろうか。
すると、今まで祈りを捧げていた老婆が壁から離れた。祈りを終えたのだろうか。猫背ぎみに私の方へとぼとぼと歩いてくる。
私は老婆に尋ねた。
「毎日、お祈りにこられるのですか」
老婆は、黒のベールに隠されたしわくちゃな顔をこちらに向けて、答えた。
「もう、50年、お祈りしています」
「どんなことを祈るのですか」
「ユダヤの人々と、アラブの人々が、平和になりますようにと祈っています」
老婆はゆっくりといった。私はいままで、これほどまでに、純粋な心持ちのユダヤ教徒にであったことがなかった。
「すばらしいことです。50年経って、最初のころの気持ちと、何かかわりましたか」
私はこの讃えられるべき老婆の信心をもっと深く知りたいと思った。
しかし老婆は、これ以上話すことはないというように答えると、壁から去っていった。
「今では、まるでただの壁に話しかけているような感じです」


「ポルノ」「グラフィティ」「オーディオ」
308玉の尾:05/01/05 12:59:56
「ポルノ」「グラフィティ」「オーディオ」

「あなた、だいじょうぶ?」
渋谷駅の地下鉄の線路に、盛大にゲロをぶちまけていた俺の背後から女の声がした。
口から胃液を垂らしながら、首だけ曲げて振り返ると、綺麗なオバサンが立って
いる。40くらいの有閑マダム? っていうのか、毛皮のロングコートを羽織り
茶色の髪をアップにした白い顔の女だった。酔った頭に浮かんだのはソフトポルノの
題名、えっと、エマニエル夫人だっけ? 中学の時、親父のビデオコレクションから
偶然見つけた映画。あのエロい外人女に似てるよ、このオバサン。
「今の終電だったでしょ? おうちに帰れるの?」
「え? えっと、エマニエル夫人に似てますね」
俺の口は勝手に動き、心の中の感想を音声に変える。普段はこんなに滑らかな冗談の
言葉なんて出ないのに。接触の悪いオーディオシステムのように、途切れ途切れの
会話に、彼女はうんざりして帰ってしまった。初デートで見限られた挙げ句のヤケ酒。
オバサンの唇が横に大きく伸びた。いやらしく笑うと、俺の背中をなでながら言う。
「ありがと。よかったら、送ってあげるけど?」
俺は見知らぬエマニエル夫人と腕を組んで、大笑いしながら、駅の階段を登った。
大胆とヤケの混じった気分のまま外に出ると、路上に停まっていたオバサンの車の
助手席になだれ込み、夜景が流れ出すのを見た瞬間、俺は意識を失った。

翌朝、目覚めると俺の頭は、裸の女の胸の上にあった。白くやわらかな膨らみに
本能のまま吸い付くと、やさしい指が俺の頭をなでる。
「ありがとね。だれかにこのオッパイに、お別れのキスをしてほしかったの」
昨夜の曖昧な記憶が戻ってきて、俺は女の白い身体から顔を上げた。
今日、この人は、乳房切除の手術をうけるのだと言う。
「マンモグラフィティって検査で、ガンが見つかったの。だから、、」
女は赤ん坊を見るような目で、静かに俺をみつめている。
彼女の背後にはマリアの円光のように、厳かな朝の光りが射していた。

次は「ココア」「誘拐」「土下座」でお願いします。
偶然に全員がこの部屋で急に眠くなるということは考えられない。
犯人は昨日の夜のココアに睡眠薬を混ぜたのだ。
他にここにいた全員が共通して口にした物は他に一つもない。
だが、犯人はなぜそんなことをしたのか、まったく見当が付かない。
眠っている間に誰かが殺されるなり誘拐されるなり顔に落書きされるなりした様子はない。
そもそも、この部屋には登場人物全員が揃っていたのだ。
犯人自身も寝てしまって一体何ができるというのか…。
そのとき、例のココアを淹れた従業員の中川さんが突然床に土下座した。
「ごめんなさい!添い寝してくれる人が欲しくて…!」
…こうして、事件は幕を下ろしたのだった。

「四捨五入」「出前」「落書」
310名無し物書き@推敲中?:05/01/05 16:16:00
3行目の頭の「他に」は削除で
311:05/01/05 20:19:11
四捨五入 出前 落書

貧しい僕がこのパンフレットを見て気にかからないわけにはいかなかった。
 サービス期間中、お値段の百の位四捨五入いたします 
つまりこうだろう、五百円のカニチャーハンは千円であるが、そこからカニの身をぬきとっただけの
素のチャーハンにすれば通常価格が四百円、そう、無料というわけだ。なにも無理にカニが食べ
たいわけでもない、僕は素直に、虚栄心などかなぐりすてて素のチャーハンを注文した。―――
やがて、約束どおりの三十分以内に出前の若い配達人が来たので、僕は好奇心にかまけて聞い
てみた。「ねえ、君のとこ、こんなことで元とれるの?」
「はい?もちろんでございます。商売たるもの儲けなくてはいけませんから」
「すると、こんなサービス期間中にわざわざカニチャーハンなんて頼む人もいるというんだね?」
「まさか、みんな素のチャーハンですよ」
「え?これただでいいんだよね?」
「もちろんです、ありがとうございました」と、配達人は頭を下げて帰っていった。―――
次の日にはまた新しいパンフレットが玄関の受け口に投げ込まれる。すると今度は、 サービス
期間中、全品八十パーセントオフ ≠ニある。またも馬鹿げたことだ。しかも、この落書のようにも
見える表紙のデザインは僕にでもわかる、とある新進気鋭の有名な芸術家によるものだ。このデ
ザイン料だけでも大した金額にちがいない。それでも僕はこの寒空の中、いつも薄いジャンパー姿
であったので、厚手のコートを注文した。それは申し分なく冬の間中、僕を暖めてくれていた。
後で知ったことだが、この会社名は日本人権委員会邦人救済公社というものらしいのだ。で、結局
のところ我が国、日本国の破綻に発するところの世界恐慌は、誰も知らない間に始まっていたとい
うことであろう。結局、それは誰も知らなく、誰も責任もないわけであるが。

「木陰」「ひざ掛け」「柵」
312名無し物書き@推敲中?:05/01/05 22:20:52
「木陰」「ひざ掛け」「柵」

柵の内側では、眠そうな目をした羊たちがのんびりと草を食んでいる。
牧童のジョニーはその様子を眺めながら、木陰に腰を下ろした。
首から下げたタオルで額から落ちる汗をぬぐい、ため息をつく。
ひとまず仕事は一段落したが、ジョニーのやることは多い。
本当ならこうしてのんびりしている暇などない。しかし今なら厳しい
牧童頭の目もないし、少しだけでも休憩したかった。
ふと、汗を吸ったタオルを見る。使い込まれてくたびれた布きれだ。
いかにも自分にふさわしく、ジョニーは卑屈な笑みを浮かべた。
この牧場を見下ろすように建つ、丘の上の牧場主の館を仰ぎ見て、そこに住む人々を
思い浮かべる。たとえばあのお綺麗な夫人なら、今ごろは上等な毛織の
ひざ掛けをかけて、優雅なティータイムといったところだろうか。
自分たちの一ヶ月分の給料にも値する金を、薄っぺらい布に使うような人々。
ジョニーは頭を振って無意味な思考を振り払った。そんなことを考えてもどうにも
ならないのだ。そろそろ牧童頭も戻ってくる頃だろう。怒鳴られる前に仕事に
戻ろうと、ジョニーは重い腰を上げた。

次は「髪」「カレンダー」「雑巾」で
313sou:05/01/05 23:17:41
カレンダー 雑巾 髪

日捲りのカレンダー。その最期の一枚を剥ぎ取る時間が近づいている。
空は夕焼けの鮮やかさを失い、寂しげな青い闇が訪れつつあった。
女は雑巾で窓ガラスを拭いている。男は床に掃除機をかけている。
昨日まで雑然としていた部屋が、今は見違えるように整頓されていた。
やがて二人は手を休めて缶ビールをあけた。
「きれいになったね」
女は後ろで結んでいた髪をほどきながら、満足そうに微笑んで言った。
「ああ、最期の日くらいは、こういう部屋で過ごしたいものな」
男はゴミ箱に放りこんでおいた、山のような督促状を見ながら呟いた。
流れる静かな時間。
「……さて、最期の仕事が残ってる」
「そうね」
二人は大量の睡眠薬を口に含むと、ビールで喉の奥へ流し込んだ。
そのままベッドに横たわり、布団の中で静かな寝息をたて始める。
強く握りあったお互いの手。
二人に残された最期の仕事。それは幸せな初夢を見ることだった。
永遠に続く夢を。
遠くで除夜の鐘が鳴った。二人は安らかな寝顔だった。
314sou:05/01/05 23:21:31
「ロンドン」「蒸気」「ギルド」でどうぞ。
315玉の尾:05/01/06 11:33:01
「ロンドン」「蒸気」「ギルド」

ロンドンを立つ私が、飛行機で隣あわせになった婦人は、ノルウェー人だと言う。
北欧人らしい、しっかりとした骨格の上に、白に近い金髪が無造作に降り掛かり美しい。
水色のつぶらな瞳は、春の薄氷のように澄んでいる。自分は手工芸ギルドの刺繍職人だが
アジアの草花を見たくて日本に向かうところだと言う。言われてみれば、しっかりとした
固い手をしている。よく働いた勤勉な手は好きだ。私は、仕事以外で人の手を観るのは嫌いだが
彼女の手は、是非、観てみたくなった。私は、手相と霊感占いを生業にしている。
離陸後のビジネスクラスのシャンパンで乾杯し、ひと心地ついたあと、彼女の手を観せてもらった。
東洋人はみんな占いができるの?と彼女は聞くが私は笑って答えない。
なるほど。彼女の手には、金運の相が出ていた。それも、かなりの大金だ。その事を告げると
嬉しそうに首を振る。じゃあ、あなたはどんな運勢かしら?彼女が聞き、私は自分の手を広げる。
彼女と同じ金運の相が出ている。それも、もっと多額な金が。よかった、運勢は変っていない。
この飛行機はもうすぐ、上空で蒸気のように消える運命なのだ。エンジントラブルで乗客は全滅する。
そのためにこの機を選んだのだ。密かにつのった自殺志願者と共にこの機に乗り込み、事故死に便乗し
保険金目的の、前代未聞の集団自殺の達成が、私の目的だ。愛娘には、私の借財を上回る多額の保証金
が下りるだろう。彼女の明るい顔には、死相が浮かび始めた。可哀想に。さて、そろそろ来るぞ。
グラリ。

次は「勘違い」「メッセージ」「了解」でお願いします。
316名無し物書き@推敲中?:05/01/06 19:24:51
「勘違い」「メッセージ」「了解」

彼は見てくれは極々普通の流浪の旅人に見えなくも無いが、
実際は全国に散らばる秘密組織の幹部の1人だ。
幹部の中でもトップクラスの実力の持ち主。性格も残忍で、もし誰かが口を滑らせて機嫌を悪くするような事でも言えば、
きっとその誰かは彼の愛用する最高級の拳銃の的にでもなっているに違いない。
この日もとある任務のために、人里離れた辺境の村まで来ていたのだ。
それも、組織の存続のためには決してやり遂げなければならない任務。些細な勘違いやミスも許されない、
下手をすれば命にかかわる、きわめて危険な任務。
実際、彼は持ち前の射撃術と頭脳とで、数々の任務をこなしてきた。
今日もいつも通りの調子で行けば楽勝だろう、と、軽い気持ちで首領の命令にOKの返事をしたのだ。
その時、彼のコートの胸ポケットに入っていた携帯が、ぶるぶると震えた。
携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
「ナンバー46か?こちら、ナンバー49」
組織のメンバーからだった。彼の場合、メンバー以外からの電話やメールなどは、有り得ない事だったが。
「どうした」
「首領からのメッセージだ。ターゲットは、今お前がいる村の、たった1件の酒場に居る」
そう言われ、彼は辺りを見回してみる。と、「BAR」と味気なく書かれた看板の店がすぐ目に入った。
「あそこに居るんだな、連中は」
彼が確認するように尋ねる。尋ねるというよりかは、追求するような口調だった。
「首領の言う事なんだから間違いねぇさ。・・・あぁそれから、失敗は断じて許さん、との事だ」
「・・・了解。楽しみにしてな」
こう返し、電話を切った。
そして携帯の電源を切り、元通り胸ポケットにしまう。
「さて。いっちょ、殺らせて貰おうか」
誰にも聞こえないようにつぶやき、彼はまっすぐに酒場に足を向けた。

「不思議」「煙草」「野良犬」でお願いします!
317そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/01/06 20:55:31
「煙草を吸ってもいいです?」「どうぞ」
 私は同席した見知らぬ女性の横で、マイルドセブンを一本取り出した。
不思議なもので、二人の間に産まれてくる子供でもないのに、気持ちが
そわそわする。一方彼女のほうはいたって冷静で、何かの資格試験の本を膝元で開いた。
「何の試験なの」「インテリア・コーディネーターの試験」
「そうなんだ。仕事?」「ほんとは今年とりたかったんだけど」
 彼女は笑って僕のほうをみた。
「今日が試験日だったの」

「産まれましたよ」「女の子ですか、男の子?」
医者は僕達のほうを見てこう言う。
「可愛がって育ててあげてね」
横で助手の女の子が笑っている。
「母親のほうは助からなかった」
手術室で母親の野良犬がぐったりしている。目からは僅かに
涙のようなものが出ていて、目ヤニになって固まっている。
「どうしたらいいのかしら、わたし達」
 僕も彼女も自宅から学校に通っていて、家でペットを飼うなんてことは許されていない。
「二人の秘密基地で育てよう」「わたし、あなたと出遭ったばかりなのに」
「いいさ。なんて名前にする?」「そうね。マイルド・セブンなんてどう?」
「喫煙家にならないといいね」
 彼女は静かに笑って、僕の手からこの温かい産まれたての子犬をそっと彼女の胸に、引き寄せた。外では波の音が漂っていて、貝殻の
擦れる音まで僕たちの耳元に届いてくる。明日は雨だという。きっと明日になれば、それぞれの二人の運命も開けてくるんだと
そう思う。

「松」「竹」「馬」
318眼鏡君:05/01/06 22:58:10
松の木が庭にある。
私はぼうっと雨に濡れるその木を眺めていた。
「ねぇ、お父さん。どうしてこの木はとがってるの?」
「葉っぱのことかい?これは松の木でね。針葉樹っていうんだよ。」
「しんよーじゅ…?でもこの葉っぱは意地悪だね。僕の手をさしちゃうんだもん。」
国道を真っ直ぐ行くと竹の林がある、そこを抜けると馬がいるんだとよく父は私に言っていた。当時の私は本物の馬を見たことが無く、床に寝ている父を説得してその竹の林まで行きたがっていた。
子どもの頃は、父の言葉を信じていたが、大きくなるに連れて父もその話をしなくなり、私もだんだんとそのことを忘れていた。

父が死んでもう5年になる。私ももうあの頃の父と同じくらい年をとってしまった。体が弱かった父。
彼は本当にあの竹の林の奥の馬を見たのだろうか。
明日、息子を連れて確かめに行ってみよう。



「ピアノ」「帽子」「少年」
放課後の音楽室で、少年はピアノを弾いていた。
音楽に関して知識のない私には、それが何という曲なのか判別できなかったが、彼が
十歳かそこらという年齢に見合わぬ技巧の持ち主であることはわかった。
自在に動く器用な手が大きく動くと、野球チームのロゴが入った青い帽子がふらふらと揺れた。
それが気になって、少しばかり曲に集中できなくなる。私の気が逸れたのがわかったのか、
少年は手を止め、椅子の上でくるりと体を回して私の方を見た。
「部屋の中では、帽子は脱ぐものよ」
私が注意すると、少年は一瞬虚をつかれたように目を見開き、そして案外素直に帽子を脱いだ。
「脱いだよ」
「そう」
「あのさ、僕的には色々他にも言うべきことがあると思うんだけど。何で僕みたいな
子供が高校にいるの、とか、魂飛び出るほどステキな演奏ね、とか」
言われてみればそうだ。私も少年に習い、素直に行動を修正した。
「とても上手ね」
「うん。僕って天才だから」
誉められ慣れているのか、照れることもせず、少年は自信満々に胸を張る。
「今の、何て曲?」
「まだ決めてない。……ああ、そうだ」
どうやら少年の自作曲だったらしいが、今曲名をひらめいたようだ。
跳ねるように椅子から飛び降りる。
「お姉さん、名前は?」
「名前?」
なぜそんなものが知りたいのかわからなかったが、特に隠す理由もないので教える。
「じゃあ、さっきの曲の名前は『リエ』に決定!」
そんな簡単に決めていいものなのだろうかと思ったが、少年はとても楽しそうなので、
きっと構わないのだろう。
「もう一度弾いてもらえる?」
「勿論」
少年は帽子を私に押し付けると、身軽に椅子に座り、再び鍵盤に指を滑らせた。

「りんご」「梯子」「囲碁」
320眼鏡君:05/01/07 04:36:41
「りんご」「梯子」「囲碁」


「なぁ、同志。お前、3組の転校生を見たことあるか?」
同じクラスの飯田とは小学校のときからの付き合いで、桜舞い散る晴天の午後にも俺ら二人は外にも出ずに煙草の煙で真っ白になったこの二人の青春の聖地、
俺、楠田洋介様の父上が所有する大きくもない、まぁ持ち主の裁量に見あった一戸建の二階にある6畳の部屋で、棋譜ではなく三島由紀夫やエロ本、ケータイを片手に囲碁を打っていた。
「ああ、この前、学校に行く途中に、前川の文房具屋の前で見たよ。えーと、峠さん?だっけ?」
あれは水曜日だった。前日、夜更かしをして、いいとものオープニングをBGMに起きたら、一限目は我が校のアイドル、南ちゃんの生物だったことを思いだし、
一気に学校に行く気を無くしたんだけれども、家ですることも無く、
(まぁ庭ではじいちゃんが梯子を使って屋根に上ろうとしていたから、
ちょっと危険だとは思ったけど、手伝うのも面倒臭いし、第一何をしているのか皆目検討も付かなかったから無視。)
学校に向かっていた途中で、前川の文房具屋の前を通るときに向こう側から、俺の学校の制服を着た女生徒が、りんごを食べながらこっちに歩いてきた。
今の時代、りんごをかじりながら登校とは、
昭和少女漫画を思い出させますね、お姉さん。と心のなかで呟きながら、その時は彼女を一人の通行人として何も考えずにいた。
「同志、なにゆえ彼女の名前を知っている?」
煙草に火をつけた飯田は興味深そうに、
そして少しの嫉妬を顔に浮かべながら身を乗り出してきた。
「いやいや、この前の3組との日本史の合同授業で紹介されてたじゃねえか。」
「同志、俺は世界史クラスだ。」
その後、俺はこの転校生と仲良くなり、
二人が遭遇するいろいろな怪奇事件の謎を紐解いて行くのだが、その話はまた別の機会に。


次のお題。
「セックス」「嘘」「ビデオテープ」
 俺みたいにちびでガキでイケメンでもないやつがモテる訳もなく、今まで女と付き合ったことは一度も無い。従って飯島への答えは当然嘘だった。クラスメートのほとんどは経験があるみたいで、童貞なんて言ったらバカにされると思ったからだ。
「なぁ、お前やったことあるよな?」
 今日の放課後、俺が帰り支度をしていると、飯島はいきなりそう聞いてきた。何のことかと聞き返すと、
「バカ、セックスに決まってんだろ。まさか童貞か?」
「な、そそんなわけねーだろ! あるよ、つーかやりまくり」
 ホントかよ? とニヤついて聞いてくる飯島に俺は焦って有ること無いことをまくし立て、やがて経験があるということで落ち着いた。すると飯島は、傍らに抱えていたバッグから紙袋を取り出し、俺に押し付けるように渡した。
「んじゃ、いいモンやるよ。いやよかったよ、さすがに童貞に見せるわけにいかねーからな」
 中身が何なのかを問いただす暇もなく、飯島はひひひ、といやらしく笑って去っていった。俺はしばらく立ち尽くしたあと、袋の中を確認する。まぁ案の定というかなんというか、“いいモン”とは黒い直方体の物体、ビデオテープだった。

 ビデオは当然のようにAVだった。童貞には見せられないといっていたくらいだし、裏物なのかな、と、正直俺は期待していた。
 期待は、全く予想しない形で裏切られた。
 映像は素人が市販のデジカムで取ったと思われる不鮮明なもので、学校が移っているシーンから始まった。女生徒ばかりが出てくるところを見ると、女子高らしい。
 やがてカメラは動き出し、一人の少女を追いかけ始めた。人気の無い路地に入ったところで数人の男たちが彼女を取り囲み、声を上げる間もなく車の中へ。逃げ出そうとする彼女を、たくさんの手が羽交い絞めし、殴りつけ、やがて彼女はぐったりと動かなくなった。
 ――ビデオは、少女を拉致し、強姦し、殺して埋めるまでの一部始終を収めたものだったのだ。飯島はこのヤバいビデオを処理するために、俺を利用したんだ。

次のお題
「雪」「名前」「炊飯器」
322名無し物書き@推敲中?:05/01/07 10:17:11
母が死んだ。
通夜、葬式とめまぐるしく時間は過ぎ、私は感情を忘れたかのように
悲しみを私の中に染み込ませないよう忙しさで隙間を埋めていた。
一通りの葬儀が終わり親戚も帰り、日常の生活に戻った私は
ぽつんと一人取り残された様な気がしていた。
冬至も過ぎたばかりのまだ日も昇らぬ早朝、台所の中で私は母が使っていた
そのままの白い琺瑯で作られた汚れたガス炊飯器を見詰めていた。
この狭く冷たく暗い台所で過ごした母に、私は何もして上げられなかった。
そう思った途端、涙がとめどなく溢れてきた。うずくまり母の名前を呼んだ。
―― 母が応える声が聞こえた気がした。勝手口から、冷たいつっかけを
履き、外の様子を窺う。
いる訳はないのに。
牡丹雪が私の肩を優しく叩くように舞い降りていた。

次のお題
「バイク」 「少年」 「喫茶店」
323名無し物書き@推敲中?:05/01/07 11:54:58
「バイク」「少年」「喫茶店」

バイクを颯爽と走らせる、おそらく免許を取って間もない頃であろう少年。
バイクが向かうは、巷の女性たちの間で大人気の喫茶店。
店の雰囲気が如何とか、一番人気のレアチーズケーキが如何とか、値段が如何とか。
そんな、店の雰囲気と味の良さ、そして値段のリーズナブルさが3つとも好印象な店だ。
でも、今の彼にとってはそんなことはどうでも良い。
半年かけて粘り強くアタックし続けて、ようやくOKを貰えた彼女と、今日が最初のデートなのだ。
彼女がどうしても行きたいと言ってきかなかった、待ち合わせ場所でもある、例の喫茶店へ。
うっかり寝坊してしまった事が、彼をより焦らせ、バイクの速度を早くさせる。
彼女は一体店に入った直後、メニューを開いた直後、ケーキを口に入れた直後、どんな表情をするんだろうか。
そして今日の日を、どうやって楽しもうか。
そんな雑念が彼の脳裏で回りまわっていたお陰で、彼は自分が赤信号を見落とした事など、気づくはずも無く。
けたたましいクラクションの音ではっとした時は、時すでに遅し。
それは不幸にも、彼女が彼のことを今か今かと待っていた、その目の前で起こってしまったのだった。

キキー、ドッカン。

次のお題。
「不幸」「如何して」「神様」
 そこは深い森の中で、時間は夜で、頭上には木が生い茂っており、光源は半分に欠けた月しかない。自然林であるためそもそも見通しが悪いうえに、当然のごとく周囲は真っ暗。
 追われている人間が身を潜めるにはおあつらえ向きかも知れないが、不幸なことに、彼を追いかけている者たちは対象を探知するのに必ずしも光を必要としない。さらに向こうは複数で、おそらくすでに彼を取り囲んでいる。
 さて、如何にしてこの状況を乗り切ろうか。
 暗闇に身を潜め、男は呑気にそう考えていた。いや、よく言えば冷静に、とも取れるかもしれないが。
 ――ただでさえこっちよりでかくて速くて強いくせに、多勢に無勢、しかも手元にゃ拳銃ひとつ。まったく、神様ってヤツも意地の悪いことをするもんだ。
 自分で考えた冗談に口元を歪め、嘆息したそのとき、バッ、と音がするような勢いで男は背後を振り返り、狙いもつけずに引き金を引いた。破裂音が二つ。うなるような低く野太い悲鳴を背にして、男は走りだす。
 直後に左の茂みが揺れ、巨大な影が飛び出してくる。暗闇に光る鋭利な牙。前転してそれをかわし、銃を向けるもそこには既に姿は無い。
 舌打ちして走り出す、男。追いかける黒い影。その数は、どこにそれだけ潜んでいたのかというほど、夥しい。
 ――くそっ
 内心で毒づきつつ、それでも走る。思ったよりも数が多い。人間を狩る野獣。腹が人間しか受け付けず、故に本能的に人間を襲うという、遺伝子の神秘が産んだ化け物。
 野に放たれ勝手に増えたそれを駆除して回るのが彼ら“ハンター”の仕事。だが、逆に全滅させられることも少なくない。
 ――まぁ、四割が死んだらって考えりゃ、とっくに全滅なんだがな
 弾丸を放ちつつ、自分に皮肉を言う。この森に入ったハンターのグループはやつらにやられて散り散りになり、おそらくは彼しか残っていない。そして――
 カチン、という間の抜けた音がして、拳銃は弾切れを男に告げた。さぁっと血の気が引くのを感じる。これで、頼みの綱も切れた。
 絶望に襲われた次の瞬間、巨大な影が数個、いや五匹以上の獣が、背後から男に襲いかかった。悲鳴を上げる間もない。一瞬で首はへし折られ、男はただの肉塊と化した。


次のお題
「時間」「はさみ」「青」
325名無し物書き@推敲中?:05/01/07 14:49:56
突然海が見たいと彼女は言った。
それもいい。僕は夜の海へ車を向けた。
ヘッドライトの光軸は狭い道路を照らし出しその間を縫うように走る。
僕たちには時間がないのだけれど残された時間それを叶えて上げるのは
当然のような気がする。
カーステレオは、ずいぶん前から止めてある。今の二人には不要だった。
海岸に着くなり彼女は、着ている衣服をすべて脱ぎ捨て海に入る。
暗くて見えないけれど彼女の体のシルエットは、まだ暗いながらも
青い海を背景に美しくそして眩しかった。
今朝、会ったばかりの二人。インターネットで自殺相手募集で巡りあった
二人。短い人生だったけれど最後、不思議で現実離れした時間を過ごせた
ことを彼女に感謝した。
「ありがとう」彼女は僕にそう言うと裸のまま持っていた荷物から鋏を取り出し
海水に濡れた碧髪を一掴み切り落とした。
彼女に何があったかは、知らない。ただ熱い涙が僕の瞼から溢れ出し
反射的に僕は、裸の彼女を抱きしめていた。
そして耳元で死のうと呟く。うなずく彼女の顔には、何故か笑顔があった。

次のお題
「春」 「夢」 「幻」
326名無し物書き@推敲中?:05/01/07 15:58:05
 外はものすごい吹雪で、唸る風の音がうるさいくらいだけど、洞窟の中は意外なほど暖かい。
 そのせいで、僕らは未だに生かされている。
 スキーサークルの合宿で、僕らは冬の雪山にやってきた。まぁ学生なんてノリと勢いだけで動いているようなもので、大して滑れもし無いくせに調子に乗って上級者コースに挑戦したら、案の定転倒、コースアウト。
 斜面をどこまでも落ちていって、気がついたら自分たちがどこにいるのかわからなくなり、さらに悪いことに天気が崩れだした。夜になり、下手に動くよりは、ということで、偶然見つけた洞窟に避難することになった。
 それからずいぶんな時間が経ったと思う。ここに着いたときにはまだポツポツと起こっていた会話も、今では全くなくなっている。それほど消耗しているのだ。生きているのが不思議なくらいに、体が冷え切っている。
 まったく、自分がこんな状況に陥るなんて、夢にも思わなかった。
「真…くん…」
 そのとき、かすかな声が聞こえた。顔を向けるのも気だるく感じたが、ゆっくりと振り向いてみる。サークルのメンバーで、そして密かに、憎からず想っている高瀬三琴が、虚ろな目を向けている。
「真、くん……よかった……無事だったんだね……」
 三琴はそう言って、笑みのようなものを浮かべた。おそらく笑っているのだろうけど、筋肉が硬直してろくに表情が作れていない。
「心配……したんだよ……無茶するんだから……」
 消え入るような声で喋る三琴の目からは、涙がこぼれている。幻覚でも見ているのか、セリフが状況にそぐわない。僕は、ぐったりと想い体を何とか動かして、彼女のそばに近寄っていく。
「ごめんね……もう大丈夫だから。もう心配、かけないから……」
 そう言葉をかけると、今度ははっきりとわかる、満面の笑みで三琴は笑った。
「うん……春に、春になったら……また来ようね……」
 僕がそれに、うんと答えると、彼女はゆっくりと目を閉じた。ふっと体から力が抜け、沈み込むように、眠った。
327名無し物書き@推敲中?:05/01/07 16:40:41
お題ないよ
328名無し物書き@推敲中?:05/01/07 16:47:05
326さんはお題が無いことに早く気付いてくれ
329名無し物書き@推敲中?:05/01/07 16:53:06
>>328
無い時は前のお題で継続
330眼鏡君:05/01/07 17:56:50
ついうたた寝をしてしまった。
外では雨が降り始め、もう暗くなっている。
テレビをつけ、タバコに手をやったときに、
そばにおいてある写真がふと目に入った。
何気ない風景。しかも、ブレている。
高校の卒業旅行の帰りに電車の窓から撮ったたった一枚。
高校生活の3年間から離れがたく、
締めくくりの友達との旅行もまるで嘘で夢を見ているかのようだった。
それが現実だということに納得できず、
一枚も撮れなかったみんなとの写真。
写真にして残してしまえば現実になってしまう。
この楽しい生活も幻となって消えてしまうのではないか。と、
終始不安に過ごした旅行先での3日間。
そんな帰りの電車の中で、向かいに座ったあの子の顔は、
まるで、その三日間の自分の気持ちを表しているかのような悲しげな顔だった。
その瞬間、自分と同じ気持ちを持っている人を見つけた瞬間、
もう窓から見える桜は散り始めていたが、自分の中にやっと本当の春が来たような気持ちになった。
今夜、このぶれた写真の端に写っているぶれたこの子に電話しよう。


「枕」「マチ針」「マグカップ」
331名無し物書き@推敲中?:05/01/07 19:16:29
「枕」「マチ針」「マグカップ」


「足りない……」
私は途方に暮れながら、ド近眼ながらも必死に床に顔を近づけ探した。
もう就寝予定時刻を二時間も過ぎてしまっているのに。明日起きるの辛いだろうなぁ。
私が探しているのは、一本のマチ針。二時間前に裁縫で使ったものを紛失した。
私は一日を貫徹して終了せねば眠れない質である。
その貫徹したという概念こそが、安眠を約束する枕みたいなものなのだから、マチ針の一本でも容認するわけにはいかない。
ため息と共に、ぬるくなったコーヒーの入ったマグカップに口をつけると……
「痛っ」
何か口の中に異物が刺さった。まさかと思ってそれを取り出してみたら、案の定それだった。
眠気覚ましのコーヒーの中に、安眠を約束するマチ針……。
「ふざけるな!」
マグカップの分際がなめやがって、と私はマグカップを地面に叩きつけた。当然のごとく粉砕。あー、もういい。知らん。
私はそのまま床についた。

その日の眠りが恐ろしいほど安らかな眠りだったもんで……いやー、昨日までの私ってなんだったんでしょう?ずぼらも悪く無いのかしら?
とすがすがしく朝を迎えたのは一瞬でして、次の瞬間、マグカップの残骸を踏みつけた私の足の裏から、おやおや、恐ろしいほどの出血。どちくしょうめ。
「……ふざけるな!」


「白髪」「青春」「若葉」
332名無し物書き@推敲中?:05/01/08 02:27:21
 年の始めに近くの神社へ二年参りに行ったときの話。先を歩いていた息子が
おとうさーんと言って、私に手招きをした。何かを見つけたらしい。
それはおりからのぽかぽか陽気にだまされたのか、大晦日に降った雪に埋もれて
ちょこんと小さな顔を見せていた。鮮やかな緑若葉、中央に青い小さなつぼみ。
フキノトウだった。
 かがんで眺めていると後ろからのぞきこんでいた息子が
「おとうさん、しらがはっけーん」
と言った。
「抜いてあげるね。動かないで」
「いや、抜かなくていいよ。こういうのは福白髪って言って抜いちゃいけないんだ。
 ユウにもあるかな。見てみよっか」
 勇気に後ろ向いてごらんと言って、白髪を探してみた。
「なんか動物園のサルみたいだね」
「サル?」
「ほら、のみ取りしてるじゃん、ああいうの」
 勇気の髪を触っていると、子ども特有のあの匂いがする。青春を迎える前の、
ものの発酵する匂いとでも言えばいいのだろうか、甘いような酸っぱいような、
そういう匂い。
「あった?」
「・・・・・。うーんないなぁ。それっぽいのはあるけど」
「どんなの?」
「お父さんの白髪は全部真っ白だったろ。でもユウのは、髪の毛の途中が白い
 だけなんだよ」
 自分のことは端によせておいて、もしユウの福白髪を黒い髪の中で白く輝く
フキノトウみたいなものだと思えば、勇気のフキノトウはまだ雪に隠れている。
芽が出て、花咲く日まではあっという間だ。

「奈良県」「地図」「定規」
333眼鏡君:05/01/08 03:48:39
「奈良県」「地図」「定規」

「そしたらさ、明日は私バイトやから、いつもの時間には電話出来ひんけど、もしあんたが起きてたら知らせてな。」
通話時間は12分34秒やった。こんなこと珍しいから、
もっかい電話してあいつに知らせよう。
そう思ったけど、きっとトイレに駆け込んでる。
友達との飲み会の最中に席を離れて電話に出てくれたんやから。
話してる最中に何回も、
「トイレに行きたいねんけど、誰か入ってるねん。」
って言ってたからな。
あいつ、冬休みに東京に遊びにおいでやなんて言ってたけど…
本棚から日本地図資料集を探し出して、一番最初のページを捲る。
机の上に置いてあった定規で測ると16.3センチ。
奈良県と東京都の大体の距離。
「地図で見たら、短いわ。」
彼氏が東京の大学に行ってもう半年。
私らが付き合いはじめてたぶん2年ちょっと。
ふとそう考えた。
でも、遠距離恋愛なんて距離や時間でなんて測れないもんやって分かってる。
大事なんは、どれだけ寂しいかやわ。
日本地図資料集を放り投げて、仰向けになって寝転んだら、ちょっと涙が出た。

「芳香剤」「携帯灰皿」「紙袋」
334名無し物書き@推敲中?:05/01/08 04:53:15
 小さな頃、母親にこんな質問をしたことがある。
「男子のトイレはウンチ用としょんべん用があるのに、どうして
 女子のトイレは一つしかないの?」
 一度だけ連れていってもらった遊園地で、ぼくがトイレで用を足した後
だったのを覚えている。それ以外覚えていることは一つだけ、そのときの
母の言葉だ。まるで、長く辛い人生を半分ほど終えた結果、導き出した
一つの結論であるかのような言い方だった。
 母は、吸っていたタバコを携帯灰皿に押しつけてこう言った。
「男の方が偉いからよ」

 その25年後、ぼくは今駅の臭いトイレで同じように用を足している。
今吸っているタバコは携帯灰皿なんかには捨てない。吸い終わったら、
座っている便器の穴に放り込むつもりだ。ケツの穴に力をこめながら、脇に置いた
紙袋に目をやる。名前の知らない女優の古いポスターが飛び出している。中には他に、
空き缶、芳香剤、数冊の本、それと例の紙が入っている。
 三日前、仕事を世話してもらっている妻に出て行かれた。そして今日、妻から
離婚状とリストラの通達状が送りつけられてきた。それ以外、手紙もお金も何も
入っていなかった。
 妻に土下座してでも戻ってもらうつもりだ。
 芳香剤を取り出して、顔に近づける。いい匂いだ。せめてもの慰めだ。

「拳」「指輪」「籠」
335玉の尾:05/01/08 10:14:06
「拳」「指輪」「籠」

最近の私のマイブームは、知らない町を独りで、あてもなくうろつく事だ。
休日の昼間、通勤とは関係のない、見知らぬ小さな駅にふらりと降りてみる。
裏寂れた商店街を歩き回り、一見の独り客でも、へんに気を使わずに飲めそうな
小体なおでん屋や、焼き鳥屋などを開拓し、熱い燗酒を楽しむのが愉しい。

『やきとん リング』その店は、偶然降りた、国鉄の駅前の裏路地にあった。
ん?リング? なんとなく若向きの店かと思えたが、どこか惹かれるものがあり
思いきって汚れた暖簾をくぐってみた。入ってみれば、カウンターだけの狭い店だ。
煮込み鍋の温かい湯気がふわりと顔にあたる。まだ早いせいか、他に客がいなかった。
「いらっしゃい」と錆びた声で迎えてくれた親父も、柔和な顔の女将も感じがいい。
店のいたる所に、拳闘関係の新聞の切り抜きや、古い写真が飾ってある。
そうか、リングというのは、そっちのリングかと納得して、元ボクサーらしい親父に
焼き物を頼む。カウンターに乗せられた籠には、仕込みの終わったばかりの串ものが
ツヤツヤと新鮮な光りを放っている。うまそうなレバーやタンがひと塩で炙られている。
「おやっさん、つくねをタレで、あとお燗もう一本」
私が頼むと、親父の目つきがかわった。女将が、親父に目配せして急に店の暖簾を
入れて、戸締まりを始めた。おいおい、どうなってるんだ? 内心不安になりながら
出てきたつくねに、かぶりつく。ガチリ、と何かに歯が当たり、びっくりして吐き出すと
金の太い指輪だった。なんだこれ? 思わず、親父の方を見た途端、強烈な右ストレートが
飛んできた。女将も私の腕をつかまえて、羽交い締めにして締め上げてくる。
意識が遠くなりながら、「さあ、トットとさばいて、つくねにしようぜ」「はいはい」と
親父と女将の笑い声が聞こえてきた。私の顔には濡れ手ぬぐいが押しつけられた。ウグ! 

次は、「風呂」「寝床」「強欲」でお願いします。
336名無し物書き@推敲中?:05/01/08 10:35:48
「拳」「指輪」「籠」
  
 彼は自称世界一のトレジャーハンター。
 俺に盗めない財宝なんて無い、と豪語する。
 とは言っても、やっている事はただのこそ泥だが。
 この夜も、とある洞窟へ、大昔に海賊が隠したと言われる財宝を求めてやって来ていた。
「おらおら、邪魔だァッ、どけどけ!!!」
 彼の拳が、襲い来る獣たちを豪快に吹っ飛ばす。
 彼は拳法を心得ており、元々力の強い彼ならではの特技。
 その辺の狼やらも、彼にかかればただの犬っころに過ぎない。
「手ごたえ無ぇなぁ・・・そろそろ最深部か」
 指をコキコキ鳴らしながら、彼は再び歩き出した。

「お、発見だぜ!」
 どうやらここが最深部らしい。まるで見つけて下さい、とでも言うように、
宝箱が1つ置かれてあった。
「罠かも知れねぇな・・・慎重に行こうぜ、俺」
 自分にそう言い聞かせながら、ポケットから少しさび付いた、くねくねと曲がっている
針金のようなものを取り出し、宝箱にねじ込み、しばらくぐりぐりと回す。
 カチャリ、と鍵のはずれる音がするのには、10分もかからなかった。
 そっと宝箱のふたを開け、そして、ひどく感激した。
「おぉ〜!!エクセレント!!」
 中には、洞窟一帯を照らさんばかりに、山ほどの金銀財宝が輝いていた。
「この瞬間がたまんないんだよなァ〜♪ この指輪とか、良い仕事してるじゃねぇか。」
 宝箱を持ち上げ、持ってきていた籠に流し込む。
 宝箱の中身を全て籠の中におさめ終わった彼は、意気揚々と洞窟を後にした。

 その後に、財宝の中のほぼ半数がメッキやらアルミやらで出来た模造品であると質屋の主に告げられ、
彼が酷く落胆したのは、また別の話。

次のお題は「桜」「難破船」「約束」で。
337風呂・寝床・強欲 1/2:05/01/08 12:42:23
「君の名前は?」
 穏やかな声に尋ねられて、少女は戸惑って寝床の上で身を小さくした。
「おや。もしかして、言葉がわからないのかな? ここの孤児院では教育もまともにして
いなかったと聞いているが…そこまでひどいのか」
 怯える少女の眼差しに、高そうな服を着た品のいい青年は呟いて眉をしかめる。
「わか、わかり、ます。言葉、私、わかります」
 青年の表情に少女はどもりながら口を開いた。聞かれたことにすぐ答えないと、また
怒られて殴られる。条件反射的にそう応えて、けれども青年の問いに対する答えを持っ
ていない自分に蒼ざめて目を見開いた。
 名前。
 そんな上等なものは、もっていない。
 少女の言葉に黙って続きを待っていた青年は、冷や汗を流しながらがたがたと震えだ
した少女に慌てて少女の前にひざをついた。
「君! どうしたの。気分でも悪くなったのかい?」
「ごめ…ッ、ごめ、ん、なさいっ、ごめんなさい! 名前、…ない。私名前ない……ッ」
「え?」
「番、号なら。あります。367番。それしか、持ってない…!」
 痩せ細った体をこれ以上ないほどに縮めて、震えながらごめんなさい、と繰り返す少
女の姿に、青年の瞳に誰のものへとも知れぬ怒りがよぎった。
「なんてことだ…」
338風呂・寝床・強欲 2/2:05/01/08 12:43:13
「ご! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
 ひっと叫んで身を小さくした少女は、いつものように拳か蹴りが飛んでくるのに備えて
頭と腹をかばう。だが、いつまでたっても衝撃は襲ってこず、少女はきょろりとした目で
恐る恐る青年を見上げた。
 あったのは、とても優しい眼差しだった。
 そんな風に見詰められるのははじめてで、少女は呆然とする。
「怯える必要はないんだよ」
 優しい声と、柔らかな笑顔だった。
「強欲な院長は処罰された。ここは、これから国の管理下におかれることになる。君の
権利は回復されるんだ」
 青年の言うことは難しい言葉が多くて、少女は首をかしげた。
 そんな少女の様子に青年は僅かに苦笑して、彼女を怯えさせない仕種でそっとその
痩せ細った体を抱き上げた。
「そうだね。君は、これからわたしと一緒にいこう。まずはお風呂だね。それから食事を
して、二人でゆっくりと名前でも考えようか」

 なにかが変わる。昨日と違う明日になる。それだけは判って、少女はこくりとうなずいた。


短くまとめるの難しいですね。
次は「初春」「遅れ」「うろこ雲」でお願いします。
339gr ◆iicafiaxus :05/01/08 21:08:28
#「初春」「遅れ」「うろこ雲」「桜」「難破船」「約束」。

クラスメートに別れを告げながら予備校の玄関を出て、僕は二月の風に
コートの襟を立てる。直子は、いつもの場所、玄関から少し離れた自動
販売機のところで、コーヒーの缶に指先を暖めながら待っている。

「ああ、遅れてごめん。先生に質問してたんだ。待ったかな?」
「ううん、あたしの方も今日は授業伸びちゃって、今来たとこだよ」
「そうか。それならいいけど」
「それ、生体情報学入門っていう講義なんだけど、すごく面白いんだ。
 来年うち来たら、絶対取りなよ。あたしのおすすめ」
「へえ、『生体情報学入門』かあ。憶えとくよ」

僕は思い出す。一年ともう半分も前、直子が推薦入試に受かったって時、
二人で学校の裏の土手に並んで坐って、うろこ雲が全体もう夕日の色に
なっていくのを見ながら、春には僕も行くからね、って約束した時のこと。

「あたしに義理立てしてるんだったら、やめた方がいいって思うよ」
直子は言う。でも僕は最後まで、この場所にしがみついていたいんだ。
昨日の英文読解で読んだ話にも出て来た。マストも甲板も失って、それでも
一人だけ最後まで船橋を離れず、ついには帰還したという難破船の船長。
(僕は、その船長になるんだ)
ポケットの中の手をぎゅっと思いっきり握る。直子がけげんそうに僕を見た。
初春のまだ冷たい風に、どこか遠くない桜の匂いを感じている。

#次は「草」「強い」「床」で。
340「草」「強い」「床」:05/01/08 22:09:35
 強く草の匂いがする床に、俺はべったりと貼り付いている。正確には、床から
草の匂いがするのではなく、俺が貼り付いている縁側の横にある庭の、草刈され
たばかりの部分から、草の匂いがしている。草の匂いなんて貧乏臭い。硝煙の匂
いでもすれば、戦いの予感がして、今の俺の心境にピッタリとマッチする。しか
しここは日本の、平和な田舎の、農家の縁側だ。残念なことに、庭でテントウシ
が、フィ〜ンと間抜けな音を立てて飛んでいた。
 ハッと緊張した。耳を押し付けている床から、トットッと音が伝わって来たか
らだ。来た。来たぞ。奴が来たぞ。奴の足音だ。方角で、奴がどこから入って来
たのかも分かった。
 そっと体を起こし、そろそろと玄関へ移動する。チャンスは一回きりだ。廊下
から玄関を覗く。いた。奴だ。俺は玄関に躍り出て、全身で奴を捕獲した!
「フギャアアアアァァァァッ!」
「よしお! 何やってるの! この馬鹿息子!」
 奴の悲鳴と母さんの怒声が同時に響いた。俺は母さんに蹴られて玄関の引き戸
に衝突した。奴は俺の緩んだ手から、自由な世界へ駆けて行った。俺はキィーン
と痛む頭を抱えて叫んだ。
「何しやがるこのクソばばあ! あいつは俺のプラモを無茶苦茶にしたんだぞ!」
「いい加減にしなさい! 動物のやることでしょ! 乱暴はいけません!」
 母さんだって俺を蹴飛ばしたじゃないか、と俺は思った。しかし、母さんの目
が獲物を前にしたライオンのごとく爛々と光っているのを見て、口を噤んだ。俺
は世の中の理不尽を感じた。
(いつか仕返ししてやるからな、あのクソ猫)
思ったことは、口に出ていたらしい。俺は母さんに殴られた。

next:「錯覚」「みかん箱」「医者」
 思い切って俺は、彼女に何故医者になる道を選んだのかを聞いてみることにした。その
ときの俺にはそれだけでも精一杯の行為だったんだ。当然、二人の間にはメスを入れる瞬
間の手術場のような緊張が走る。けれど、今の俺たちに必要なのは切り出す勇気、そう、
いつか授業で先生が言った思い切りの良さって奴が必要だったんだ。彼女は震える手を擦
りあわせて「寒いね」と言った後、ぼそりと答えてくれた。畜生、この娘はなんでこんな
時にもえくぼを窪ませるんだ。錯覚してこっちが震えそうじゃないか。
「みかんがね……。ううん、ただのみかんじゃなくて、みかん箱に入ったみかんなの」
 彼女の頬だけがリンゴのように赤くて。
「あれって私の家三人だけだからいつも残っちゃうの。お父さんがいればそうじゃなかっ
たんでしょうけど、私のお母さん、ああいうのいつも腐らせちゃうの。それでね、その
……腐ったみかんや腐りそうなみかんの青白いカビを、包丁で……取り除いてたの――」
 彼女の透き通る白肌の手が、くいっくいっと包丁さばきを演じている。
「ごめん、ちょっと僕、用事を思い出した!」

「台所の母さん、見てみろ。な、あの手つきだ」
 彼女は今、リンゴを切っている。みかんは手で剥く食べ物だ。


「食事」「血」「蛆虫」
342名無し物書き@推敲中?:05/01/09 12:15:59
久々の休日。俺は家族サービスのために、外食へと出かけた。
今日のディナーはご馳走だ。目の前には油の乗った肉が置かれている。
しばらくロクなものを食べていなかった俺にとって、この食事には本当に食欲をそそられる。
俺の家族全員がそう思っているだろう。しかしこの量は、全員でも食べ切れない。今度お隣さんに分けようと思った。
いただきますと口の中でいい、肉に手をつける。切り口からじわっと、肉汁が流れてくる。
そしてその肉を一口、口に運ぶ。やはり上手い。こんな肉、生まれて始めてだ。
肉の傍らにあった、赤褐色の水を飲む。上手い。熟成された味だ。大体、30年物だろう。
いつか親父が
「本当に上手いモノは家族がいてこそ上手い」
と言っていたが、その通りだ。
家庭ができる前はこんな極上肉にありつける訳もなかったし、なにより一人で食べるのと一家団欒の食事では格が違うという物だ。
まだまだ小さい息子は一心不乱にそれを食べながら「美味しいね」と言った後、
「こんなご馳走食べさせてくれて、パパありがとう!」
と笑っていってくれた。
それを聞いて、俺も微笑む。息子の笑顔を見るためにも、明日も頑張ろう、と思った。


「で、これが仏さんか。ったく、蝿がたかるまで見つからなかったとはな」
「げ……警部補、この死体、蛆虫まで湧いてますよ」


「月曜日」「泥」「リボルバー」
343名無し物書き@推敲中?:05/01/09 20:37:35
週末の間にデスクやチェアにまで浸透するかのように蓄積した冷気を駆除すべく、
2台の中古エアコンが音をたてて稼動する月曜日の早朝の会議室で、
経営システムコンサルタントを名乗ったその男は滑舌よくプレゼンを進めていた。
「以上がSWOT分析による当該プロジェクトの現状把握です。ここから導かれる戦略は・・・」
高い身長に日焼けした肌、引き締められた口元から覗く歯は、不釣合いなほどに白かった。
こちらの業界に合わせたのであろう、無難にまとめてあるネイビーのスーツとグレーのタイも、
野暮ったさを感じられない今風のデザインで、自分の今着ている吊るしの三倍の値はするだろう。
「一律した開発環境への拘泥は、逆に進行の停滞を生むと考えられます。
お手元の資料40ページを御覧ください・・・?」
どうやら気が付いたらしい。ページを捲る音はほとんど聞こえない。
開発メンバーのうち、彼の話をまともに聞いているのは私と部長の二人だけであった。
残りのスタッフは、焦点の合わない目でテーブルを眺めるか、俯いてまぶたを閉じている。
たいしたものだ。コンサルタントは戸惑った顔をほんの一瞬しか見せず、
すぐにまたスクリーンの前で滑舌のいいプレゼンに戻った。
しかし、彼は確かに我々に流れる諦観を感じたはずである。
私と部長を含む開発スタッフ全員がプロジェクトの失敗を確信している。
いかに優れたリボルバーといえど、打ち込むべき銀の弾丸が存在しなければ無用の長物である。

次のお題「地方都市」「協働」「電子」
344名無し物書き@推敲中?:05/01/10 02:40:50
「……このように、弊社のSOA設計は様々な地方自治体の電子化事業に
おいて高い評価を得ております。JSPによる共通設計はサーバ側OSを
選ばないため、既存システムとの統合も容易です」

 私はそこで一旦言葉を区切った。目の前に並ぶ市関係者は、予想通り
8割がちんぷんかんぷんという様子だったが、実績には強い興味を示した。
 私はある地方都市H市の電子化事業提案募集に応じて自社システムの
説明に来ている。強力なライバルM社がいるとはいえ、勝算は十分。
 私はここでさらに強力な切り札を出した。

「さらに、弊社システムは既存実績を生かして、地方自治体間の結束を
強める電子自治体協働イントラネットを提案いたします。これは近隣自治体との
データ共有によるサービス向上を実現するもので、導入済みである隣の
K市との結合に始まり、さらに県内全域……」

 そこまで言った瞬間、場の温度が3℃下がった。私は焦りでしどろもどろに
なりつつ、残りの説明を終えた。

 結局、H市のシステムの受注はできなかった。
 H市の地域と隣接するK市などの地域との抗争が織り成す近世以前の歴史を
事前に調べなかったのが、私の敗因だった。

次のお題「牡蠣」「神棚」「湯たんぽ」
345そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/01/10 10:39:44
「牡蠣」「神棚」「湯たんぽ」

 この島に大量に流れ着くものは椰子の実ではなく、牡蠣の貝殻である。
私は子供の頃、牡蠣の尖った部分で足の甲を切った。そのとき近所の家を借りていた
デュランという青年が、私を彼の家に抱えて連れて行き、私は逃げるすべもないまま
彼の寝室へ運ばれていった。
 寝室のちょうど斜め隅に青い神棚が祭られている。私はデュランに
「足が痛い、足が痛い」
と大声で泣きわめき、彼は布団の中にある湯たんぽの残り湯を大きなバスタオルの上
に流し、それから私の足首に消毒液をかけ、少し黄ばんだ包帯を私の足首に巻いた。
 彼はわけのわからない言葉で私に話しかける。
 後になって分かったことだが、彼が話していたのは古代ローマのラテン語で、彼は
古代ローマ人の末裔だということも知った。そして彼がこの島に流れ着いたのは、
彼の祖先の犯した神への冒涜によるもので、彼は何世代にも渡り、その汚名を彼の
背中に背負ったまま、この牡蠣の島に居座るようになったのである。

「ローマ人」「文献」「歴史」
346:05/01/10 20:05:54
ローマ人 文献 歴史

彼はローマ人だ、そう私が主任から耳打ちされた時の途惑いを想像してもらいたいものだ。
K氏、主任と、ちょうど三人でならんで廊下を歩いていた際のことである。この国際人類
研究センターにおいて長を務めるK氏、彼がローマ人とは?
今や過去の古文書等の文献はすべて電子化し保存され、その研究が国際協調の下ここに各
国から情報を集約され行われている。主任いわく、その電子化された後(でもそのような資
料は見つからなかった)の破棄されようとしていた文書を資料室で偶然目にしたことに話は
さかのぼる。彼の見た何気ない電信資料には、過去、このセンターの研究室で行われた実
験の落し子としてK氏がこの世に誕生した詳細が記されていたというのである。K氏はア
ルプスの永久氷河に埋れていた古代ローマ人の死体から検出したDNAで合成されたのだ
そうだ。
合成される生物、それは今では珍しいものではない。動物園、植物園、家畜のそれら、人
工的にこの世に誕生したものは少なくない。それでも、それら一連に見られる特徴として、
短命にこの世を終る運命をおわされているはずだ。しかしK氏は最も古参の年長者、ゆう
に六十は越えているだろう。理にかなってない。だから私は真面目に取ろうとはしなかっ
た。それに彼が何者であろうと、私に何の影響があるだろうか。
歴史とは過去から掘り出されるものだ。私の仕事はその歴史をひもとくこと。私はこの電
子化された文献を頼りに、過去を現代に持ち出す。そしてそれは動く事のない過去の事で
ありながら、今を生きる私たちにとって日々更新されていくものだ。
K氏がやって来た。「お茶でもどうだい?」
私はパソコンのモニターを閉じ立ち上がった。私はK氏とならんで廊下を歩いていく。や
がてK氏は立ちどまる。「?」
K氏。彼は今、目の前でゆっくりと床に崩れ落ちようとしている私を見ている。まるで初
めから私が今ここで倒れることを知ってでもいたかのように。K氏は手帳を取り出し、何
やら書き込んでいる。「どうやら寿命が尽きたようだ」

「港」「クレーン」「発煙筒」
347名無し物書き@推敲中?:05/01/11 22:37:07
「港」「クレーン」「発煙筒」

朝霧にかすむ港は、静寂に包まれていた。凪いだ海から昇り始めた太陽が、
公園の遊具のようにたたずむコンテナやクレーンを柔らかに照らす。
男は目を細めて水平線を眺めながら、タバコの煙をふっと吐き出した。立ち上る
紫煙は、優しいこの光景に妙になじんでおり、それがおかしくて男は苦く
笑う。
タバコを口にくわえ、ポケットのコートから発煙筒を取り出す。タバコの先に
くすぶる熱を近づけ火をつけると、すぐさま派手な色合いの煙が吹き出し、
白みがかった青空へ向かって伸びていく。
待ちかねていたかのように、遠くから聞こえてきたサイレンに、唇の端を歪める。
ほぼ同時に、水平線の向こうから水面を駆けてくるモーターボートの姿が見えた。
乗っているのは男の仲間だ。何もかも手筈通り。だが、これから先の展開は、
男にもわからなかった。捕まるか、逃げ切るか、後は運次第。
さて、どちらが速いかな。
男はまるで他人事のようにそうひとりごち、発煙筒を足元に投げ捨てると、
深くタバコの煙を吸い込んだ。

「雪」「ウオッカ」「毛皮」
348そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/01/13 08:54:08
「雪」「ウオッカ」「毛皮」

巣鴨神社にある早朝の冬のベンチには、酒づけの男達がいつものように
のっしりと腰掛けている。
右端の長椅子に座っているのは須磨大吉という男で、浅草の夜店で買ってきた羊の
毛皮コートをはおり、片手には紙コップ、日本酒の瓶をベンチに置いて、鼻歌を
歌っている。
「おい、大ちゃん。差し入れだよ」
「よう花ちゃん、生きてたかい?」
「冗談じゃないよ。盲腸の手術代払えないんなら角膜でも売ってきてください、って
あの鬼婦長に言われたよ」
 田崎花太郎はウオッカを須磨に手渡して、須磨の真横に腰掛けた。
「雪の朝は気持ちいい。境内のゴミがすべて見えなくなる」
「ここの境内はいつだって綺麗じゃないか」
「窃盗に賄賂に恐喝、性犯罪、この境内の中で昨年どれだけ逮捕者が
出たか知ってるのか」
「さあ。知らないね」
 須磨は境内に降り積もる雪の中で、このまま泥酔しあの世に行っても
いいのではないかと、ふとそう感じた。それは体内の血中アルコール濃度
が上昇したせいでもあり、肌に刺さるようなこの寒さの中で判断力が麻痺
したせいでもあった。

「氷」「焼酎」「人工皮」
349名無し物書き@推敲中?:05/01/13 12:05:45
「氷」「焼酎」「人工皮」

「ショーチュウ?」
 私は聞きなれない言葉に思わず聞き返した。息が白い。
「しょうちゅう、焼酎な」
 ナガジマが答える。今、一番欲しいものは何か――そう尋ねて返ってきた答えがそれだった。
 ツールボックスから医療キットを取り出しつつ、適当に話を続ける。
「お酒だっけ?」
 自分の脚に大きく開いた裂傷にメディカルスプレーを吹き付けてから、最後の人工皮膚を貼り付けた。
「ああ、合成アルコールじゃない、天然のアルコールだ」
「レトロねぇ」
 ――ちくしょう、これで治療キットも底が尽きた。私はメディカルスプレーを放り投げる。
スプレーは弧を描いて氷原に落ちた。
このあとで治療が出来る機会などあるかどうかもわからないが、
この追い詰められた現状をより一層示しているようで腹が立つ。
「……数ヶ月前かな、ワタナベがどこからか手に入れてきやがったんだ」
「あら、初耳だわ」
 そのワタナベも死んだ。生き残りは私達二人だけ。
 持続時間にはまだ余裕はあるが、念のため鎮痛ワクチンを打っておく。
これさえあれば、痛みも寒さも感じずに済む。
「あんたには悪かった、なんせ量が少なかったからな」
 立ち上がって、治療のために脱いでいたジャケットを身に纏った。
 バイザーを下げ、ランドパッシブソナーを起動させる。
「どうだった?」
 機能チェック。
「最高だったよ、あの味が忘れられん」
 ナガシマの声に反応し、発声方向がバイザー表示された。まだ使える。
「そう、じゃあ帰ったら一緒に飲みましょ」
 私は立て掛けて置いた機関銃を手に氷原へと歩き出した。

「生物」「貝殻」「スプレー」
350名無し物書き@推敲中?:05/01/13 12:59:52
スプレーを使って、貝殻に色をつける。
真っ白な貝殻は、ひどく小さなキャンパスで、彼女の絶妙な指先の操作により、鮮やかな青色を帯びてきた。
深い海の青、彼女自身の目の色にそっくりな澄んだ青。
海色の貝殻は、これでちょうど十個つくり終えられた。アトリエの真ん中にどんと置かれた大きな木の机のうえに並べてある。
彼女はその一つを手に取ると、そっと貝殻を耳にあてた。
海の音がした。
貝殻に刻まれた波のざあざあという遠い音が、彼女の耳に届く。
生物の体には、死んだ後にも強い記憶が残る。この波の音は、小さな貝殻の記憶だ。
彼女はしばらく音に聞き入った。
それから、十個の貝殻を持って、アトリエのそばにある、海へ出た。
貝殻はすべて、この海の浜辺に打ち上げられていたものだ。
目の前の広い海は、汚れた緑色だった。
何年も前から、汚染がはじまっていて、生物の住めるような環境ではない。
彼女はその緑色の海のなかに、十個の青い貝殻を投げ入れた。
すると海は大きなキャンパスとなり、いつのまにか、あの澄んだ青色が一面に広がっていた。

「星型」「新しい」「一つ」
351名無し物書き@推敲中?:05/01/14 12:03:52
「星型」「新しい」「一つ」

人の視覚は、光が網膜に与えた刺激を脳が受容した結果生じる感覚だ。
つまり、僕が何かを「見る」とき、そこに脳の再編集が行われているという
ことである。人はものをありのままに見ることは出来ないのだ。
ならば、この星型マークの向こうも、脳味噌がちょこちょこっと応用を利かせて
くれたら見えるのではないか、と僕は目を細めたり何度もまばやきしたりして
みる。が、忌々しい星型マークはテレビ画面に映る女の胸と股間の辺りに
ぴったりと貼りつき、剥がれるどころか透けてみえる気配さえない。
僕は深いため息を一つ吐いた。画面には先ほどとは別の新しい女が現れたが、
僕はもはや無駄なあがきはせず、諦観をもってその星型マークつきの女を眺めた。

「落涙」「悲しみ」「希望」
352名無し物書き@推敲中?:05/01/14 16:25:21
「落涙」「悲しみ」「希望」

 居間で母がはらはらと落涙していた。別に悲しみに打ち沈んでいるわけじゃない。
いつものことだ、どうせお涙頂戴のドラマでも見てたのだろう。
 ――くだらない。私は心の中だけで吐き捨てると、そんなことなどお構いなしに聞いた。
「お母さん、机の上にあった本知らない?」
「本?」
 テレビの方を向いたまま母が答えた。
私はその様子になぜか腹が立って強い口調で問い直す。
「そう。本よ、ハードカバーの。机の上においてあったでしょ?」
 母がようやくこちらを向いた、目が兔のように赤い。まったく、情けない姿だ。
 少し考えるようにしてから答える。
「ああ。汚れるといけないと思って、そこの棚に――」
 果たしてそこに私の探していた本はあった。
 私は本を引っつかむと部屋に駆け戻った。本は良い――。夢と希望を与えてくれる。
 ベッドに体を放り投げると、本の続きを読みはじめる。
 ――場面はクライマックス、母親が娘に家族のあり方を説いている。
しかし娘はそれを受け入れられず、二人は決裂してしまうのだ。
 私は落涙しながらそれを読んでいった。
 
「ハサミ」「鉛筆」「定規」
353名無し物書き@推敲中?:05/01/14 17:06:30
a
354名無し物書き@推敲中?:05/01/14 18:00:55
今日の六時間目は、道徳だった。
議題は"いじめ"。皆にいじめに対する思いを発言させ、最後に教師の総評で締める。
勿論、そこに僕の発言はなかった。クラス全員、担任の安藤までグルになって虐められているのだ。
いくら俺が優秀だったからといって、この仕打ちはどうかと思う。
そんなわけで、俺は少し状況を打開しようと考えた。

やめてくれ、と安藤の情けない悲鳴が聞こえる。それを鼓膜で感じた俺は、絶対的な立場の違いを見せ付けてやる。
安藤を階段から突き落とし、安藤のかばんから鉛筆を五本取り出す。芯の先が鋭く尖っている。
それを俺は、抑えつけた安藤の右手、親指に突き刺す。痛みを顕にした安藤が暴れているが、こんな中年の筋力では俺は弾き飛ばせない。
次は定規だ。プラスチック製のそれを奴の口に突っ込む。もがき苦しんでいるが、そんなことはどうでもいい。
喉元まで突っ込んでやる。
奴のカバンを探り、次の道具を探す。すぐに見つかった。鋭利な刃が鋭く輝くはさみを取り出し、安藤の眼前に見せつけてやる。
奴の醜い顔が恐怖に歪む。それを見て、俺は笑みをこぼす。今までのツケはまだまだ払い終わってはいない。

道徳の授業は進んでいく。
355名無し物書き@推敲中?:05/01/14 18:05:07
続きキボンヌ!
356名無し物書き@推敲中?:05/01/14 18:22:02
ああ、ごめんね。
「魔王」「勇者」「求人情報」
357名無し物書き@推敲中?:05/01/14 18:33:46
「ハサミ」「鉛筆」「定規」

 クラスの男子が虐められている。弱った男子を数人がハゲタカの群れのように取り囲む。
 バカなガキ、そして愚かな教師までもが加担していた。
 私は、ただただそれを眺めるしかなかった。
 ――なぜなら、私は女子だから。
 
 ある日、バカな先生がその男子に仕返しされていた。
 かわいそうに、血まみれだ。
 でも、私はただただ黙って見て見ぬ振りをするしかなかった。
 ――なぜなら、私は女子だから。
 
 私は部屋のドアの鍵をかけた。これで誰も入って来れない。
 押入れからボロボロになったぬいぐるみを取り出す。
 ――私も暴力に加担したかった。バカなガキ共に混ざって、一緒にあの哀れな男子を気の済むまで殴りつけたかった。
 でも、それは出来ない。なぜなら、私は女子だから。
 虐められた男子を思い浮かべながら、それをひたすら殴りつける。
 いつもはそれだけで満足していた。でも今日は違うのだ。
 文房具を取り出し、鉛筆を突き刺す。ハサミで切り刻み、定規を突き刺す。
 私の中の暴力性が、もっともっとと絶叫している。
 私は思うがまま、ぬいぐるみに投影したあの愚かな教師を破壊し続けた。
 
>>356
お題変更無しかと思って書いてしまった。折角なので貼っとく。
358名無し物書き@推敲中?:05/01/14 18:59:27
たぶん、勇者にでもなったつもりなんだろう。
それで、俺が魔王だ。
絶対的な正義という大義をかかげて、彼らは蛇のように絡んできた。
そして、舞台裏では、意志のない無数のロボットが、鋼鉄の瞳でこの舞台をじっと観察している。
楽しそうだな。いいから、助けてくれ。
いまさらそんなことを言えた立場ではないが、俺は口から血がでて止まらないのだ。
「なぁ、あん時は、俺になんていったっけ?」
いやな声で笑いながら、彼は断罪を続ける。いつもは、ひ弱そうな声で泣いていたくせに。
「あんときあんたは、デキの悪い生徒は高校にこないでいいって言ったよな」
腹が蹴られて、俺はまた大量に吐血した。
もう、目の前が真っ赤に変色しみえる。バイオレンス映画の一場面のようだな。
「それからなんだっけ?うすのろ?愚図?俺は全部おぼえてるぜ」
悪かった。うすのろは俺だよ。
そう言おうとするが、もはや言葉は赤い血の海に溶けてしまい、小さな呻き声になった。
ロボットどもの一人が、教室のドアに鍵をかけるのが見えた。
生きていれば、明日、求人情報誌を買ってこよう。
頭のなかにがんがんと、獣の高い笑い声が響いている。

・おだいは継続でお願いします。
359名無し物書き@推敲中?:05/01/14 20:35:03
奴は勇者だったのか。
魔王はアイツ。魔物は僕たち。
先に逝くのはアイツ。
「次は誰かな?」
勇者と目が合う
「ま、待ってくれ!」
映画で追い詰められたチンピラが必ず言う台詞だ。
いつから僕はこんなに弱くなったのだろう。
「いいや、待てないね。もう十分待った」
勇者は楽しげに笑っている、それとも苦しそうに?
「デキの悪い生徒は悪い生徒は学校に来なくてもいい!」
それは魔王の台詞。口調までそっくりだ。
何かが当たる感触、焼けるような痛み。
なんだ、胸にカッターナイフが刺さっただけじゃないか。
「うすのろ!愚図!……」延々と続く罵倒の言葉。
最前列の生徒のかばんから、求人情報誌がのぞいていた。
薄れゆく意識の中、無意味なことを考える。今の僕が必要としている仕事は何か。
教室中に楽しげな笑い声が響いている。

いつもはROMなんだけど、初めて小説を書いてみました。
お題は継続でお願いします
360名無し物書き@推敲中?:05/01/14 21:26:03
 腕時計がぶるぶる震える。新たな指令が来たらしい。
 僕は、腕時計兼用の通信機の側面についたリューズを強めに押した。本部との回線が
開き、顎長の顔が小さなスクリーンに現れた。
「新たな指令だ。すぐ現地に向かってくれ」
「ちょっと待ってくれ。さっきの騒動で足に怪我をして治療している最中だ」
「5分で終わらせて急行してくれ。君は我々に雇用されていることを忘れるな」
「雇用、ねぇ……」

――雇用。確かに僕は雇用されている。求人情報誌に載っていた風変わりな募集に僕は
応募し、雇用されたのだ。「勇者募集」というタイトルは普通じゃないが、給料は
日払いで2万円、しかも継続的に仕事があるのが魅力だった。
 しかし「勇者」の仕事について数日、既に僕は給料が少ないと思い始めていた。
本部からの指令は24時間ひっきりなしに来る上に、麻薬取引の現場を押さえるだの
やくざの争いを止めるだのといった危険な指令がしばしばあり、その割に装備といえば
スタンガンと小さな防弾ジャケットだけ。本部から指令してくる男の顔が魔王に見えてきた。
もう潮時かと思った矢先の指令だ。

「現場は君の目の前の角を左に曲がった先の建物。悲鳴が聞こえるから部屋はすぐ分かる」
「ああ、行けばいいんだろ、行けば」
 僕は言われた方に向かった。ものすごい悲鳴で現場はすぐに分かった。
 僕は、悲鳴がする教室のドアに手をかけた。


次は「とうもろこし」「明星」「社長」。
361名無し物書き@推敲中?:05/01/15 14:42:35
お題:「とうもろこし」「明星」「社長」

「宵の明星って、なんだか寂しげだと思わない?」
 明美が、僕に話しかけるでもなく、そう呟いた。
 僕が答えたものかどうか迷っていると、明美が続けた。
「あら、ごめんなさい。やあね、感傷にひたるなんて、私ももうトシかしら」
「とんでもないです!」我ながら驚くほどの大声を出してしまい、すぐに顔面が火照ってきた。
 まっすぐ前を向いていられず、運ばれてきたばかりのポタージュスープをすするが、
熱せられたとうもろこしの粒が唇に触れるや、僕はまたも情けない声を上げてしまった。
「ふふっ、ありがとう」明美は、にやりと小悪魔的に微笑んでみせる。
 が、すぐに先ほどまでの憂いをおびた表情が立ち戻ってきた。
「もう、こんなことやめた方がいいのかも。あの社長も、そろそろ懲りたんじゃないかしら」
「いや、まだだ。僕には夢があるし、あなたにも目標がある。まだ、それを達成できていない」
「……私たちって、みんなが寝静まった夜にしか輝けない、あの明星みたいね」明美は窓外に目をやる。
「でも、見てくれる人は必ずいるし、見せてやらなきゃならない。星の輝きだってバカにできないってところを」
 明美は、少し驚いた様子だった。僕がこんなに熱っぽく語るのは初めてだからだろう。
 明美の目が、手駒を見る目から仲間を見る目に変わったのは、ようやくこの時からだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次は「爆発」「雪景色」「シナモン」で。
362:05/01/15 20:52:35
爆発 雪景色 シナモン
「いっぱい買ってきてもらったから、一つどう?」病室で偶々二人きりだった少女に僕は切
り出した。僕は少女がまた拘りを見せ、何も言わずに断りを入れるだろうと想像していた
のだが、今日は黙ったまま僕のほうへ手をのばしたのだ。この少女は常に無口の質であっ
た。だが、今日、寝転んだまま胸に押し当てて読んでいる本に集中している彼女はパンを
受け取ると、ぽろぽろと屑をこぼしながら頬張った。僕は念をおして互いの感情の確認をこ
ころみた。「おいしい?」彼女は頷いた。心が一度溶解をしてしまえば後は安らかに流れた。
それからというもの彼女は堰を切ったように僕に毎日しゃべりかけてくるのだった。棚の
上に置かれたクラスの寄せ書きのこと、友人の悪口や先生の離婚の話まで事情の知らない
僕に話して聞かせてくれた。どうやら彼女は寂しかったらしいのだ。
ある夜、消灯時間も過ぎた頃のことだ。「ねえ、起きてる?」彼女は暗闇からいった。「ん?
起きてるよ」いつもならこの時間に彼女が起きていることはないだろう。僕は不思議に思
った。「あたしね、もうすぐ退院なんだ」そうゆう事か、子供ってやはり単純だ。「あたし家
で療養することになったの」…そうか、もしかしたら、この子は自分の最後を確信している
のかも。僕はスタンドの明りで読んでいた本を枕もとにおいて上を向いた。「そうか、君も
退院か、家でお母さんにたくさん甘えるんだな」カーテンで仕切られた僕たちの間の静寂
は重かった。「ねえ、明日にはもう地球ごと爆発でもしちゃったほうがいいと思ったことな
いの?」「あるわけないさ」「そう…」
いつの間にか彼女は僕のベッドの脇にいるらしかった。カーテンの向こうに影がゆれてい
たのだ。でも僕は気付かない振りをした。
やがて時が経つとまた彼女はベッドに戻ったようだった。その日僕は眠れなかった。
朝、目が覚めると僕の枕もとにたくさん紙袋に詰め込まれたシナモンパンがあった。僕は
窓を開けた。外は夜の間に雪景色へと変り果てていた。そこにはずっと病院の中庭を駆け
抜け、裏のコンビニのほうへ向かう小さな足跡が続いていた。行きと帰りの二つの方向だ
った。僕はすっかり空になった病室で、次の患者をただ待っていた。シナモンの甘い香り
がそこを充たしていた。

「盥」「赤ん坊」「言葉」
温泉街の高等学校、部員二人の文芸部。部室では暖房も火の気も使えない
決まりだから、冬の日は下の温泉場で汲んできた金盥のお湯だけが頼みだ。
今日も放課後は盥に足突っ込んで、二人で読書。

冷めてきたお湯の中に寒奈の足があるから、つれづれにゆびの間をさわってみる。
寒奈の顔をのぞき見る。
「あのさ。水虫がうつるからそういうことはやめてくれない」
文庫本から顔も上げないままで寒奈が言う。
「失礼な。俺水虫なんかじゃないよ」
僕はばしゃっという音を立てて、盥から足を上げる。
「あゝ、あたしは和也君から下半身の病気をうつされて……」
寒奈は本をひざに置いて目を上げる。意地悪く片方の頬が笑ってる。
「だから俺は水虫じゃないってば。それになんだよ、その人聞きの悪い」
僕は足を盥に戻す。ぐい、ぐい、ぐい、と寒奈の足を踏んでやる。
「あのちょっとそこのお兄さん、あたしの足踏んでるんですけど」
「……そうですね」
聞かない顔をして、足の爪で寒奈の足のうら側をなぞってやる。
「!きゃっ」
赤ん坊のような声を出して寒奈が体をもじる。盥を蹴って、ごん、という音がする。
落ちそうになった寒奈のひざの上の文庫本を僕は受け止めようと手を出す。
文庫本は止めたけど、足のことがおるすになってた。盥を踏み倒す。
寒奈のスカートが盥のお湯でびしょぬれになる。
「……。……あたしにカゼを引け、と」
「ごめん」
「あゝ、和也君のせいであたしもうパンツまでぐしょぬれだよ」
「……」
「いやマジで。ていうかしょうがないな、ジャージに着換えるからあっち見てて」
僕はその言葉通りにあっちを見てる。
「つーかさ、寒奈、ふつーにさ、俺のせいでぬれたりすることとかってあるの」
後ろ頭に、がこん、と、金盥の一撃。ああバカになる。

#縦長だし、お題継続で。
364名無し物書き@推敲中?:05/01/16 12:38:28
赤ん坊の泣き声が、えらくうるさい部屋であった。
弥一がうんざりして書き物の手を止め、妻の小春を見やると、小春はすでに金網の大きな盥を用意していた。
盥には小春が朝方から庭先にだして暖めておいた日向水がはってある。
暖かい日向水にしばらくつけてやると、この子は落ち着いて眠るのです、と弥一は小春に聞かされていた。
小春は、日向水は赤ん坊の身体を強く丈夫にするという姑の言葉を、熱心に信じているようだった。
赤ん坊を抱き抱えると慣れた手つきで服を脱がせ、日向水のはいった盥にいれた。
この時、ぴしゃっと水がはね、弥一の着物に雫がかすかにとんだ。
弥一はとたん、不機嫌になる。
「寄席に行ってくる」
弥一が言うと小春はうなだれた。
失敗を後悔している顔だと弥一は思った。しかし、そんな小春を愛しいとは思えない。むしろ、暗い女だと弥一は軽蔑した。
小春は弥一がこんな真昼から寄席に行くというのを咎めないし、その行動を怪しみもしない。
弥一が妙という地主の娘のところへ通っていると町ではもっぱらの噂になっているのも気付かぬようである。
小春は奉公先の店で重宝されるほどよく働く女であったが、弥一には黙々と赤ん坊の世話をしたり飯をつくる小春が薄気味悪いのではないかと噂されている。
弥一は家をでると、庭先の椿を妙にもっていくために少しつんだ。妙によく似合う、美しい赤椿の花である。いつの間にか、部屋からは先程の泣き声は聞こえなくっていたが、弥一がそれに気付くはずもなかった。
弥一がいなくなった部屋の中、小春はじっと金盥のなかをみつめていた。
日向水には赤ん坊が浮かんでいる。
苦しそうに息をする赤ん坊の頭を、小春はゆっくりと日向水のなかに押しつけた。
それを何度も何度も繰り返した。

「紫煙」「式場」「部屋」
365名無し物書き@推敲中?:05/01/16 13:26:42
「紫煙」「式場」「部屋」

「なんでこんなところに私を呼び出したわけ?」
あるホテルの部屋で今にも泣き出しそうな女とバスローブを着て対象的に落ち着いた男が話している。
「そんなの、式場見る帰りに寄りやすいからに決まってるだろ?
女はそうだよな。いちいち細かい事を気にする」
「だからって…式場があるホテルに呼び出さなくてもいいでしょう?」
女は長い間信じていた。二人の絆は鋼よりも硬いと。
それは男の心変わりによってしつけ糸以下の弱さになって。
いわゆる『金持ちのお嬢様』の家に婿養子として入る。逆玉ってやつだ。
「煩いな…やっぱお前は中卒の女って感じの発言しかしないよな。
でも、お前の体は最高だ。結婚してからも慰めてやるよ」
そうして二人は非生産的な営みをするのだった。

女がふと目を覚ますと、男が隣で紫煙を意味もなく吐いていた。
男の肩越しに見えるこの景色が好きだったと昔を懐古する反面
あのタバコを男の目に押しつけたらどうなるだろうと考えながら
男の腕に頭を預けながらまた眠りについた。

「枕」「豆腐」「イミテーション」
366名無し物書き@推敲中?:05/01/16 17:43:33
唐揚げ
367名無し物書き@推敲中?:05/01/16 18:25:57
「枕」「豆腐」「イミテーション」

 ひとりのオヤジが、山口百恵の「イミテーション・ゴールド」を歌い上げている。
 当人は陶酔しているようだが、おおかたの客は、そのだみ声にうんざりといった様子で、店を出る者すら見受けられた。
 俺はというと、もはや脳のすみずみにまでアルコールが行きわたり、なんらかの感情を抱くことすら億劫になっていた。
 体を起こしているのが怠くなり、腕を枕にしてカウンターに伏せると、すぐに吐き気が襲ってきてあわてて体を起こす。
「ねえ、もう今日はこのへんで……」いつもは飲ませ好きなママも、さすがに気を遣ってくる。
「うるさい、今日はとことん飲むんらよ!」
 状況は理解できている。大丈夫だ、何ら支障はない……。
「……と、ちょっとタカさん!」ママに揺り動かされて目を覚ます。
 しまった! 俺は周囲を見回す。ターゲットは、まだそこにいた。意識を失っていたのは、ごく短い時間だったようだ。
「……すまない。揚げ出し豆腐ひとつ」
「これでラストオーダーですからね」ママが奥に引っ込む。
 俺は手早く、例のオヤジの浮気現場を写真に撮る。酒が進み、痴態はずいぶんなことになっている。
 これなら、民事裁判の証拠として必要十分だろう。
 仕事とはいえ、こんなものを撮らされて、さぞやカメラも憤慨していることだろう。
 そろそろ足を洗うかな、と、俺は絶品の揚げ出し豆腐をつつきながら考えていた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次は「松の内」「腐葉土」「ステンレス」で。
368名無し物書き@推敲中?:05/01/16 22:40:13
「タイコさん、一緒になろう」
「えっ、でも私、ヒバオさんのことよく知らないし……」
「僕もタイコさんのことよく知らないよ」
「えっ、私のことが好きで言ったんじゃないの?」
「好き嫌いの問題じゃないよ。それに、僕は頑張るよ。君の重量に耐えようと思ってるよ」
「何よそれ。失礼ね! 女の子に体重の話をしちゃいけないのよ。それに、わたしそんなに
重くないわ」
「じゃあ乗ってみなよ」
「その手には乗らないわよ。ヒバオになんか乗ってやるもんですか」
「その手って何だよ。俺は早くことを済ませようとしてだなあ……」
「なによ。ヒバオなんて腐葉土になればいいんだわ」
「なんだと? ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねえよ」

「ほんとーに、ぐちゃぐちゃ言ってんじゃないよっ!」
 突然、会話をしている二人の後ろから大声がした。二人はぎょっとして声の方を振り返っ
た。白衣に衛生帽、マスク、手袋をつけたおばさんが、目を三角にしているのを二人は見た。
「年末に間に合わせなきゃいけないのに、そんな調子じゃ、松の内にすら間に合わないよ」
ステンレスの作業台を背景に、おばさんは言った。かなり怒っているようだった。年末の締
め切りを目前に控え、今、この工場は昼食もゆっくり取れないほどの忙しさだった。
 二人は、視線を交わした。共に、もう少し遊びたい気分だった。しかし、おばさんの怒り
が怖いのも共通だった。だから、しぶしぶ同時に、おばさんに了承の返事を返した。そして、
祝いものである焼鯛の箱詰め作業に戻った。
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次は「ハイビスカス」「黒煙」「青空」で。
369名無し物書き@推敲中?:05/01/16 23:54:28
青空を背に咲き誇る真っ赤なハイビスカス。
どうしてもそれが見たくて、あたしは1人、沖縄に降り立った。

5年前、彼と旅行へいった沖縄。
バスで沖縄をめぐったな、あの時も、こうやって。
そうそう、この海岸線、覚えてるわ。2人で「なんて綺麗だろうって」はしゃいだよね。
5年前は2人だった。でも今日は、あたし1人。それだけが、あの時と違ってる。

旅行の帰りのことだった。
家まで送ってもらい、いつものように車の窓越しにキスをした。「また行こう。」と言って、彼は
いつもの角を曲がって行った。家に入ろうとした次の瞬間、聞こえてきたのはどぉんという衝撃音。
振り返って目に入ったのは、立ち上る黒煙。トラックが突っ込んできたのだ。信号を無視して。
彼は、ブレーキをかけるひまさえなくあっけなくこの世を去った。

あたしの中の赤いハイビスカスは、真っ黒な煙に覆い尽くされて、その瞬間、世界から色が消えた。
通夜でも葬式でも、あたしはなぜか涙が出なかった。

今日、彼の5回忌が東京で行われている。あたしは、こうしてあの時の思い出を、辿っている。
失われた色を取り戻したくて。
そうして、辿り着く。2人でハイビスカスを真中に、くっついて写真を撮った場所。
空と海の一面の青を背に、真っ赤に咲き誇るハイビスカスは、あの時と同じだった。

「『また行こう』って言ったじゃない・・・!」
気が付くと涙がこぼれていた。たくさんの観光客にも気にせず、あたしは泣いた。

ねぇ、あなたがいなくなっても、あの時の空と海の青も、ハイビスカスの赤も、今でも同じように
鮮やかよ。大好きだったよ。ほんとだよ。忘れないから、絶対。
咲き誇るハイビスカスに、あたしはそっとキスをした。

次、『猫』『ケーキ』『天の川』
370名無し物書き@推敲中?:05/01/17 14:07:03
「彦星ってイイよな。一年にたった一回、天の川を渡るだけで済むんだからさ」
 店でケータイをいじりながら俺は一人つぶやいた。登録件数は300を越えている。その
ほとんどがうちの店に来る顧客だ。中年のオバハンが大半だが、客商売である以上、営
業メールは打たなくてはならない。特に、今日はクリスマスイブだ。のんきにケーキなん
ぞ食ってるヒマはない。
「あ、ミヤちゃん? 俺、銀虎? そそ、ギンちゃんよ。いやー、声聞きたくなってさ」
 特に常連の客には電話を入れる。もちろん、営業用の猫なで声。たとえ、そのミヤちゃ
んが今年で四十六になる巨漢のオールドミスでも、いかにもこっちが惚れ込んでいるよ
うに演技しなくてならない。なってみてわかったが、ホストに求められるのは、美貌など
ではなく、この演技力と日々のたゆまぬ営業力なのだ。
「ふう、なんとか片付いたかな……」
 一通り、クリスマス用の営業と接客を終えて、俺は時計を見た。もう十二時過ぎだ。
ヤバイ。
 俺はあわてて店長にあいさつすると、店を飛び出した。
「パパ、おそーい」
「ゴメン、ゴメン」
 雪の中で、娘が待っていた。

お題「ハンマー」「いちご」「海」
371名無し物書き@推敲中?:05/01/17 19:06:00
正直ビバオはダメ夫age
372名無し物書き@推敲中?:05/01/17 19:54:12 ,
タイコ可愛いよタイコ
373名無し物書き@推敲中?:05/01/18 00:42:09
ドライブするのは久しぶりだ。今日は飛ばして1時間の海へ向かう。

「ねえ、この曲なんていうの?」
助手席で彼女が訊いた。

「ベートーヴェンのハンマークラビアって曲。ソナタの1つだよ。」
と俺。

「ソナタ?ふぅん。なんだか、怖い曲。でもかっこいいね。」

彼女とは2週間前にメールで知り合ったばかりで、会うのは今日が初めてだ。
初対面で、いきなりドライブなんてまずかろうとは思ったが、意外に彼女は
すんなりと、「ドライブいいじゃん!」とOKを出してきた。
会ってみると、美人じゃないが、笑顔がかわいい子だった。

いつも俺が車の中でかけるのは、クラシック。
特に好きなのはベートーヴェンだ。
正直、クラシックなんてださいと思われないかと思ったが、かっこいいねと
言われ、悪い気はしない。というか、ほっとした?って感じだ。
まあこれも、いわゆるお世辞の1つかもしれないが、こうやって会話を続け
てくれる彼女に、俺は好印象を持った。
さて、変なことを話して、呆れられないようにしないとな。ハンドルを握り
ながら俺は思った。

ふと甘酸っぱい気持ちが胸に広がる。
馬鹿だな、いちご世代のガキじゃあるまいし今更何をどぎまぎしてるんだか。
そんな自分に気づいて、俺は笑った。

海はもう少しだ。


次のお題「牛乳」「雑貨」「鏡」
374名無し物書き@推敲中?:05/01/18 02:58:22
 あれは確か、幼い頃。僕の頭を優しく撫でてくれた人の面影も思い出すことが出来ない
程の遠い昔。僕はここに立っていた。
 名も知らぬ町の、ここは……。雑貨屋だ。 
 辺りには色々な雑貨が、所狭しと並べられている。五月の空のように真っ青な天鵞絨の
テーブル掛けや、大きなクマのぬいぐるみに、ブリキのロボット。その中で僕の目を釘付
けにしていたのは、ぴかぴかと光る真鍮のポツトの中に満たされ、温かそうな湯気を漂わ
せていた牛乳だった。
 あの頃から僕は、あの温かい牛乳を口にしたくて、ここでこうやって眺めていた。
僕がずっとずっと、欲しかったもの。与えられなかったもの。 
 ふと首を巡らせると、古びた鏡が目に入った。そこには、禿げ上がった頭に、おなぐ
さみ程度の白髪を乗っけた、弱々しい老人が映っている。
 それが僕自身であると分かった瞬間、僕はとても眠くなって、眠くなって……。僕はゆ
っくりと目を閉じる。
 僕の瞼が世界を遮蔽するその瞬間、温かな牛乳の匂いが、僕がずっと欲しかったものが、
僕の鼻先を優しく撫でて、そして消えた。
375名無し物書き@推敲中?:05/01/18 03:01:35
 ごめん。次のお題は「らくだ」「街灯」「青」
376:05/01/18 20:42:04
らくだ 街灯 青

青い月夜の事です。らくだが砂漠をとことこ歩いていくとぽつんと明りが照る一角があり
ました。遠くから見ただけだとそれが何であるのかは分りませんでしたが近づくとまるで
街灯であるかのように柱に明りがぶら下がってあるのでした。よくもこんな人気がない所
にこんな物があろうとはらくだはらくだながらに不思議に想いました。でもあくまでらく
だはらくだでありますので不思議に想ったというのは曖昧な感じなだけでした。さらにら
くだが想うに柱には張り紙が糊でべっとりとはりつけてあってこう書いてあるようなので
した。つまりただの真っ白けの紙なだけでした。これは何だろう?それでもらくだはらく
だでありますのであまりにもお腹がすいていたらくだは何がなんだか分りはしませんでし
たがそれを食べようとしました。その時でした。らくだの目の前にある白紙の空白に不思
議な思念のような物が滲むように浮かんだのでした。らくだは首をかしぎました。
―――道化が踊っていましたでも道化は自身の道化ぶりに疑いを持ち始めるのでしたとい
うのも静寂が道化の天敵とでもいうわけなのに静寂の対蹠物である物が道化の目差す所で
あるにもかかわらず道化が道化として道化を演じれば演じるほど静寂の深さはその方の深
遠へとのびていくからでした深遠が深ければ深いほど道化を見る人々の目は近くそして遠
くに感じられるのでしたところでとうとう道化は道化として首を縛る結末を得ようとする
のでした梁に縄を通し首に繋ぎました馬鈴薯のはいっていた木箱を台にして乗りそしてそ
れを蹴ったのでした道化は吊るされたはずでしたところが箱の倒れたとたんにそれまで床
であった所には深遠が拡がって梁から吊るされた縄までもがどこまでものび続ける始末な
のです道化は気絶寸前でどこまでも落ちていくのでした―――
らくだにはその思念のような物が何であるのかは分りませんでした。しかしそういった事
が分ったのでした。でもらくだはらくだであります。この砂漠においてらくだにかせられ
た事はただ歩く事のみでしょう。らくだはそこを立ち去りました。残されたのは街灯のよ
うな柱の明りでした。
そして砂漠ではらくだの息遣いがシロッコのように通過していくだけなのでした。

「馬脚」「ハンドル」「羞恥」
377名無し物書き@推敲中?:05/01/19 17:02:38
らくだ
間に合わなかったので「馬脚」「ハンドル」「羞恥」追加。

「いくら探したって無駄。とうとう馬脚を露わしたのね。
あの湖の町は伝説の中だけの存在。その命を失いたくなければ諦めるべきだった……」
「君があの時受け入れてくれれば、ツクイルのことはそのまま忘れていたさ。
君といつまでも一緒にいたかったんだが。一年間世話になったな」
俺は窓を蹴破り二階から飛び降りた。そして車のハンドルを握り、夜の砂漠へ逃走した。
逃走中あの時の彼女の表情が羞恥でなく、諦めの表情に見えたことを思い出した。
その後、部族の人たちは追ってこなく、すんなり逃げられたが、走行中に車が故障した。
原因が分からず衛星携帯電話で助けを呼ぼうとしたが、何故か電話が通じない。
地図によると一番近くの町が60km先にあり、徒歩で夜明けまでたどり着けそうもない。
水と食料は充分ある。日中テントで日光を避け、日が沈んでから歩いて行くことにした。
車内で寝ていると、トントンと音がする。見付けられたか。
覚悟を決めて車外に出ると、顔が黒いベールに隠れた女性が、らくだを連れていた。
そして女性は、らくだの背を指差し、こっちこっちと合図している。
助けてくれるのか。でも何で女性が夜中、人里遠く離れた砂漠に?
ピンと来て、危機的な状況だからと自分を納得させ、女性に助けてもらうことにした。
GPSを持っていこうとしたが、その時GPSがまったく別の場所を指していて、壊れていた。
女性の背中の後ろでらくだに跨り、砂漠を移動していると、街灯が見えてきた。
379378:05/01/19 17:40:10
夜が明けると、そこには地図には無い湖が広がり、中央には水上の町が広がっていた。
ここは伝説の湖の町ツクイル? いや間違いじゃない。こんな近くに。
案内され浮き橋を渡り町まで来て見ると、町は支柱に支えられ、湖の深くへ続いていた。
その後、町に上陸し、建物の中に入り、長い廊下を奥へ奥へと向かった。
そして中央の巨大な礼拝堂らしいところで立ち止まった。その間誰も見かけない。
すると突然地面が揺れ始めた。
「また会えてよかった」女性は黒いベールを上げた。
「ごめんね。私もあなたといつまでも一緒にいたいから」
礼拝堂? が沈んでいる。いや長い廊下、ツクイルも一緒に沈んでいる。
逃げようとした時には、廊下の向こうから水が押し寄せてくるのが見えた。
「馬脚を露わしたのは君の方じゃないか」一瞬にして水に飲み込まれた。
「古い肉体を失う代わりに永遠の命をあげる。精霊に生まれ変わるの」
湖の奥に沈んでいく中で、彼女が服を脱ぎ捨て、青く透明な裸体が見えた。
そして意識が薄れていく中で、羞恥している表情の彼女に抱かれた。
すると自分の体も青く透明に変わって行くのを感じた。

次のお題は「錬金術」「マイクロマシーン」「彼女」
380名無し物書き@推敲中?:05/01/19 19:26:24
お題は「錬金術」「マイクロマシーン」「彼女」

「ついにできたぞ!」
薄暗い部屋に男の声が響いた。
彼の目の前には奇妙な機械が一組。
「錬金術マシーン」と、でっかくプリントされたそれは、一つしかない机を占領して、えらそうにしている。
「これで長年の私の夢が実現できる…」
長年一人で研究していたせいで、すっかり独り言が癖になってしまっているようだ。
その奇妙な機械に男は愛しげな視線を送ると、おもむろに別の箱のスイッチを押した。
「キュイーン」
軽快な起動音とともに奇妙な機械たちが起動する。
「ははは、やったやった!」

「コンコン!」
突然部屋のドアがノックされる。
ぴくっ。男の体が緊張する。
「竜太?今日買ってあげた最新型のパソコンね。高かったんだから大事にしてよ。」
「……」
男は何も喋らない。
「全く。パソコンで勉強なんてしないんだから、学校に行けばいいのに……」
足音が遠ざかっていく。
足音がほとんどきこえないくらい遠くに行ってから、男はやっと息をついた。
「待ってたよ。ハードディスク、マザーボード、その他マイクロマシン達…みんな僕の彼女さ」
男は再度愛しげな視線をパソコンに向けると、キーボードをたたき始めた。
彼が部屋に引きこもって265日、パソコンが壊れて三日目の朝だった。

次は満月、空中、デジャヴ(既視感でも可)でお願いします
381sou:05/01/20 01:02:07
満月 空中 既視感

知らないビルの屋上。
降りそそぐ、やわらかい満月の光が照らしだす君の横顔。
ただ遠くを見ている。
空中で絡みあう、幾千の時を超えた星の光に微笑みながら。
なにもない静寂のなか、ふれあう肩から伝わるぬくもりが、
僕の心を満たしてゆく。
君は誰?
微かな既視感。でも、きっと僕らは初めて出会った。
遙か遠い昔に紡がれた、約束の糸を手繰りよせて。
やがて訪れる目覚めが僕らを引き離すとも、
またいつか出会うだろう。
その時まで僕は忘れない。この夢を。
そして二度と離さない。君のことを。

感想は不要です。お題継続でどうぞ。
382名無し物書き@推敲中?:05/01/20 01:45:32
欝死。
383名無し物書き@推敲中?:05/01/20 09:03:05
いいもの書けば その鬱は消える
384満月 空中 既視感:05/01/20 21:53:49
 夜。街の明かりもいくらか消えて、人気のない道を街灯が薄暗く照らし出した。
彼は夜通し何もない空間を切り取って、寂静の舞台を作りだしているのだが、
時折黒猫がその場を横切り、途中でふと立ち止まって、一瞬小さなジオラマが
出来ることがある。それは鑑賞者に、どんな芸術家の手を持ってしても
再現されない未知の美と感銘を与えうるが、芸術を解さない猫と街灯には
何の価値も見出されないのか、同じことをくり返した既視感に飽き飽きしている
のか、すぐに猫は去ってしまい誰にも見られることなく消滅する。
 特にこの夜は雲がなく、空気が透き通って大きな満月が見えていた。空中は
光に満たされ、街灯の光は、普段よりも淡く舞台を浮かび上がらせた。完全な
闇は周囲から失せ、その集約された黒い姿が二つ、街灯の後ろ、万年塀の上を
歩いてそれぞれ舞台へ入場してきた。
 しかし、もしそこに画家がいても、この光景の為に筆を動かす気は起こらなかった
だろう。ただ胸の内に秘め、生涯誰にも教える気にならなかったはずだ。
 いま月を背に見られる黒猫のシルエットは、誰の目にも黒猫のタンゴを想起
させたからである。

次「通信」「会計」「靴下」
385:05/01/20 22:34:22
満月 空中 既視感

その人は空中に浮かんでいる満月を手にしようとした。
小さくて野球ボールだいの大きさでありながら、立体的陰影をともなったクレーターをも
つその物体は満月そのままの月に違いない。それが目の前であきらかに月の在り様で光を
放っている。
またその人の隣には胸をあらわにした女の屈みこみ、髪をかきあげる仕種もあった。女は
その人に対して、その人の何ごとかについて指摘をする事を行っているようだった。
「ねえ、ここはこうよ」
しかしその人はその女に指摘された箇所を眺めてみたものの、さっぱりそれを呑みこむこ
とが出来なかった。なぜならその女のボールペンの先で指し示し、指摘した箇所はその人
の掌をとり、その開かれた皮膚の上にきざまれた筋のどれか一つであったからなのだ。で
もその人は頷いた。沈黙とはそういう意味がこめられたものだろう。
女はその人の身体を、体中にボールペンでなぞるように指摘していく。月はそこを公転して
いく。
これらの光景はその人にとって既視感をともなった感慨をよせるものだった。まるで新し
い、神秘的な出来事の一部分であるにもかかわらず。
―――その人はそれを寛容をもって呑みこむのだった。それがその人にかせられた自由で
もあるかのように。
今、その月がその人の手のなかでは、その掌の開かれたばかりのかすかに残された湿り気
に向かってふくらみつづける光を放っている。
「通信」「会計」「靴下」

「我々がやるしかないのだ」
シバワンコ少佐は言った。澄んだ目でクルーを見わたす。
「艦隊司令部はエンジニアたちを見殺しにするつもりらしい。同志大尉、行動計画を」
副長のフルチンスキー大尉が前に進み出た。
「見てくれ。眼下にあるのは連邦軽衣料・下着生産省管轄の工業惑星『ノボエピロシキヤIV』だ。
コンビナート運営のため、CPペリメニに四十六家族のエンジニアが居住しているが、
同惑星からの通信は一度きりのSOSを最後に途絶した。四地球日前のことだ。
本艦はこれより第二種ボルシチ軌道に遷移してノボエピロシキヤIVに降下、
CPペリメニの同志エンジニアたちを捜索および救出する。質問は?」
クルーは沈黙でもって艦長と副長への篤い信頼をあらわした。
「スパシーバ。貴様らのソビエト魂を見せてやれ」

「すごい……。靴下でいっぱいだ……」
まだ幼い顔をした士官候補生が真空管画面を見てつぶやいた。
「作りすぎたんだ」フルチンスキー大尉は、白い量塊がうごめく惑星表面から目をそらした。
「靴下ばかり作りすぎたんだ。くそっ、男ものの靴下に埋もれて死ぬなんざ最低の死に方だぜ」
「それでも『ノボエピロシキヤIV』に降りるんでありますか」            コスマッチ
「あたりまえだ! 司令部のブルジョア帝国主義者どもには好きに言わせとけ。俺たちは船乗りだ。」
フルチンスキー大尉は妻の形見のマトリョーシカを握りしめた。
彼女は水産省管轄の漁業惑星『イクラXII』で命を落とした。鮭の卵の塩漬けに埋もれて死んだ。
やはり単品種大量生産と貨物宇宙船不足による在庫急膨張が原因だった。
『会計年度中の生産ノルマ達成』結局これだ。党の役人のせいで彼女は死んだ。
フルチンスキー大尉の手はいつしかマトリョーシカをふたつに割っていた。
「同志大尉、なかの人形が落ちましたよ」
中に入れ子になっていたのは軍人人形だった。『わたしのコンスタンチン』と妻の字で書かれてある。
大尉は嗚咽をもらした。人の目など気にせず、声をあげて泣きたかった。
そのとき、艦内に聞きなれた楽曲が響きわたった。パルナス警報である。
フルチンスキー大尉はマトリョーシカをふところにつっこむと、真空管画面を食い入るように見た。
「宇宙戦艦ズブロッカです!」
「さてさて。我々に追いつけるかな」シバワンコ少佐が静かに言った。
388名無し物書き@推敲中?:05/01/21 02:24:08
お題「解読」「解説」「解脱」
389名無し物書き@推敲中?:05/01/22 01:36:15

「解読」「解説」「解脱」

 岩下君、いいかね。

 いくらネットが高速になったからと行って、解脱できたりはしない。
80年代じゃあるまいし、ましてや60年代でもない。21世紀の若者が
そんなインチキ宗教にかかったりしていたら、恥ずかしいだろう?新
しいマックはどこまでいっても、モノリスになったりしない。

 いや、語の解説を求めているわけじゃないんだ。そんな日本語、私
だってわかってる。中国人だからといって馬鹿にしないで欲しい。て
いうか、まず、私の話こそ「解読」して欲しい、神のメッセージより、
遥かに易しいと思うんだがな。

 それにその単語はゲドクと読むんだよ。カイドクじゃないし、ああ
そっちの方は貝の毒のことだから。どんなにそのサイトを漁っても、
跳ぶクスリの調合は出来るようにならないんだ。出来るのは熱冷まし
ぐらいだけど、それも違法だから。

 なあ、悪いこと言わないから、早く仕事をしてくれ。

#次のお題は、「大雪」「おととし」「猿回し」で。
390名無し物書き@推敲中?:05/01/22 11:55:18
おととしは大雪で中止された池上寺の猿回し
東京都大田区池上にある池上寺で、おととしの初詣に猿回しが行われる予定だったが、
大雪のため中止になった。
今年の初詣では無事に猿回しが催され、多くの見物客が集まった。
自分の身長の倍以上の高さのバーを飛び越えたり、
2.5mはありそうな竹馬を乗り回したりと、猿の芸が多くの見物客を賑わせた。

次のお題「霊の世界」「外部脳」「人工知能」
391sou:05/01/23 01:17:18
霊の世界 外部脳 人工知能

「ジャパネット・カタカタ、本日のオススメ商品はこれ!
魂コピー機『たマッシーン』これは便利!
名前もベタだし、見かけも一見するとただの棒きれ。
ところがどっこい、こいつは使った人の魂をコピーして、
外部脳として使用できる優れもの。
パソコンのUSB端子に繋げれば、
人工知能CPU兼、超大容量記憶装置として使えちゃう。
魂のバックアップをとっておけば、将来的な痴呆、記憶障害に対する
保険にもなりますね。まさに人生に対するリスクマネジメント!」
「うわー、便利ですねえ。でも操作とか難しいんじゃないですか?」
「いえいえ、使い方はいたって簡単、鼻の穴の奥までずいっと差し込むだけ。
あとはインストーラが機動して数分後には魂の吸い出し完了って寸法。
至れり尽くせり、機械は苦手なおじいちゃんも、これなら安心!
魂やら霊の世界なんか信じない現実主義者も
一度使えば離れられないほど便利なこの機械、本日は特別価格……
なんと! 九千八百円でのご奉仕!」
「えーっ! やっすーい!」

「革命」「自由」「僕らが得たもの」でどうぞ。
392菊龍:05/01/23 13:19:31
僕らは革命に成功した。
三年の月日を得て高圧的な支配者達から自由を勝ち取ったのだった。
志半ばで去っていった者もいる。
しかしそれでも、今こうして革命を成し遂げたのだから、その先輩達にもようやく顔が立つ。

こうして僕らが得たもの。
それは、我がさいたま市立第二中学校のジャージの廃止だった。
これで来年からの後輩は極彩色のジャージを着なくてすむ。
僕は隣に座る副会長と共に穏やかな笑みを浮かべるのだった。

「ブルマ」「サブマシンガン」「さいたま市立第二中学校」
393名無し物書き@推敲中?:05/01/23 13:55:45
さいたま市第二中学校の教師(32)が生徒にわいせつな行為を強要し、逮捕されました。
教師は「セーラー服と機関銃はもう古い。これからはブルマとサブマシンガンだ」などと言い、
授業中、女生徒をブルマに着替えさせ、エアガンを持たせたということです。
警察では再犯防止のためにブルマをズボンにするなどを学校側に求める方針ですが、
生徒からは「買い直すのはもったいないから、選べるようにして欲しい」という声もあがっています。

「アロエ」「携帯」「自転車」
394菊龍:05/01/23 14:44:27
アロエ 携帯 自転車

「あの、もしもし……」
僕は携帯電話を手に取り、花屋へと電話をかけた。
好きなあの娘へと送る花。しかし僕は花に詳しくない。
直接送るのも恥ずかしいので、配達を頼もうと思ったのだ。
『はいらっしゃい!来々軒です!出前ですか?』
「え?あ、はい……」
来々軒とはまた変わった名前の花屋だ。
「……えーと、実は彼女へのプレゼントが欲しいんですけど………」
『プレゼントの品………ですか』
少々悩むように電話の主が答える。
『……じゃあ、今話題のアロエを使ったものがあるんですよ!
結構人気もありますし、ヘルシーなので女性にも喜ばれると思いますよ!』
「あ、じゃあそれで」
花の事は正直良くわからない。適当に決めてしまった。
『じゃあ味はどうしましょう?』
「味、ですか………?」
今はアロエにも味付けをする事がはやっているのだろうか。しかし食べてもらうわけじゃない。
「いえ、味付けは別にいりません」
『は?』
「鑑賞用でいいんで」
『は、はあ、わかりました……。……容器は返してくださいね?』
今は鉢植えすら返さなくてはならない不況だったのか。
「あ、でも彼女大きいのが好きなので、少し大きいのをください。
 1bくらいのを」
『1m!?自転車に積めませんよ!そんな大きなラーメン!』
「………ラーメン?」

長くなった。落ちもない。スマソ
次のお題→「アロエ」「ルイ14世」「ルパン3世」
395ルゥ@久しぶりです ◆1twshhDf4c :05/01/23 16:18:38
「アロエ」「ルイ14世」「ルパン3世」

「暇やぁー。まぁくん、どっか連れてって」
那美子はソファの上にだらしなく寝そべったまま、頭だけを重そうに上げている。
「せっかくの日曜日やし、晴れてるんやもん。出かけるしかないと思わへん?そうやなぁ……例えば、海とか」
「はいはい、真冬の海に行ってどないするねん。現実逃避しとらんと……明日のテスト落としたら追試受けなあかんで。
もうルイ14世は覚えた?フランス革命は?恐怖政治は?」
「あー、もうわかってるって。ルパン3世とホームズやろ?テストなんてどうにでもなるて」
「ルパン3世とホームズはちゃうで。ほんまにわかってるんか?」
嘲笑すると、那美子は顔を真っ赤にさせながらも眉間にしわを寄せていた。
「うるさいなぁ、まぁくんは。大学生は中間テストがなくてうらやましいわ」
不貞腐れたように教科書を読む那美子はかわいかった。
高校の頃は俺も苦労したもんだ、と高校時代の苦しかったテストを回想しつつ、アルバイト情報誌に目を落とした。
今度は飲食店以外のアルバイトにしようと考えていたとき、那美子が突然後ろから抱きついてきた。
「勉強おしまい。な、まぁくん、どっか連れてって。買い物でもいいから。アロエヨーグルトとモンブラン食べたい」
「あー、もうわかったから。しゃーないなぁ、那美子は」
頭をくしゃりとなでると那美子はうれしそうに微笑んだ。
やっぱり那美子は笑顔が一番似合う。
仲良よく手を繋いで街を歩く俺たちは、たぶんカップルにしか見えないんだろう。
カップル……というのは間違っていないが、本当は兄妹などと誰が思うだろうか。

☆那美子、大学生にもテストはあるねんでヽ(`Д´)ノw
 次は「ブランデー」「五里霧中」「PSP」でお願いします。
396菊龍:05/01/23 17:02:23
「ブランデー」「五里霧中」「PSP」

「うがぁぁぁ!」
突然、隣で酒を飲んでいた彼女が騒ぎ出した。
「突然なんだ」
「なんであんたずっとそんなオモチャで遊んでんのよぉ!
 あたしあんたの恋人なんだよ!?それを前にしてゲームとはなんたる精神かぁっ!」
「オモチャじゃない、PSPだ。初期不良はあるがなかなか快適だぞ?」
「そんなこと聞いてないっ!!」
ダンッ!とテーブルにブランデーがストレートで入ったグラスを叩きつける。
「こんなせまっくるしいところに男と女が二人っきり!
 それならする事なんて決まってるでしょーが!」
と言ってブランデーを飲み干す彼女。
………今のこいつは五里霧中。つまり、周りが見えてない。
「よし、じゃあするか」
そう言って彼女をベッドに押し倒す。
「あ……♪」
顔を赤らめる彼女。
「その前に、この衣装に着替えてくれ」
「……って制服じゃないのよっ!」
「女子校生プレイ。萌え」
「死ね変態野郎!!」

五里霧中の使用方法間違ってるかも……。
Next Key Word 「パンチラ」「イラク」「誘導ミサイル」
397パンチラ イラク 誘導ミサイル:05/01/23 17:24:04
緊迫したイラク情勢を打開するために、今日、政府は
本日付けで現地に全国から130名の女子高生を派遣したと発表しました。
派遣された女子高生の一人は
「誘導ミサイルより、君のパンチラが必要だという言葉で、イラク入りを決めました」
と語った。
なお、イラク人道支援組織の一部からは、この時期にパンチラとは不謹慎きわまりない、首相の常識を疑う、との抗議の声もあがっている。

ネクスト「煎餅」「みかん」「こたつ」
398gr ◆iicafiaxus :05/01/23 17:24:26
#「ブランデー」「五里霧中」「PSP」

「――ああ、もう」
あいかわらず「圏外」にしかならないケータイを僕は苛立ちまぎれに大きな音で
パタンとたたんで、かつて掲示板を兼ねていたらしい板張りの壁にもたれる。

「どうしたの?」
足元で僕のすそを引くのは、今回の小旅行の同行者ということになってしまった
姪っ子の麻理沙ちゃん。あのさ、地面にすわるときは新聞かなにか敷かないと、
そのガールズジーンズが砂ぼこりで汚れちゃうよ。ましてこんな今にも廃止され
そうなバス待合場の暗い部屋の隅っこなんて、掃き溜めみたいなものじゃんか。

「だから、バスは来ないタクシーは来ない、ケータイもつながんないしさ」
峠越えのバス、一日一本とは言ってたけど、土休日運休なんて聞いてないよ。

「月曜日まで待ってればいいんでしょ? いいじゃん。麻理沙、へいきだよ」
黄色のPSPをいじりながら呑気に答える麻理沙ちゃん。いや、いいはず無いって。

町へ戻るバスも日曜の午後まで来ないし。旅館なんてあるような場所じゃないし。
この建物は雨はしのげても風は吹きっさらしで。食べるものはさっき買ったアメと
カロリーメイト二箱しかないし。飲めるものはペットボトルの緑茶が終わったら、
お土産のブランデーと、あとは手洗いの水道の水くらいか。なんだよこの状況。

あーもう、こんなとこで夜明かしなんてできないってば。僕のコートならともかく、
麻理沙ちゃんのガールズブルゾンなんて全然防寒着になってないし。
だからもう八方塞がり、五里霧中というか、もうどうしていいのかわかんないってば。

あー電子音がイライラするなあ。ねえ麻理沙ちゃん、少しは一緒に考えようよ。

#お題は上ので。
399名無し物書き@推敲中?:05/01/23 18:17:17
「ていうかさぁ」
我が家のこたつの向かいに座っている彼女が言った。
「何でこたつにみかんなのかな」
…?
「こまかい…なんていうの?繊維?みたいのが掛け布団に散らかるじゃん?
 それだったらむしろ煎餅とかがコタツの上に乗ってたほうが良くない?」
「いや、おま」
「煎餅だったら散らかっても掃除機とかでとれるしさ、みかんの繊維が張り付いたら困るじゃん
 それに机の上に皮が置きっぱなしにすると次の日干からびてて見栄えが良くないし」
「だから」
「その点煎餅なら」
聞けよ、人の話を。
「干からびる心配もないし。机の上に散らかってても直ぐ手で払えるし、みかんの繊維だとなんか
 べちゃっとして手に張り付くしやっぱり煎餅のほうがいいと思うんだけど」
そう言って彼女はみかんを一房口に運んだ。
その隙をついて発言する。
「こたつに」
「それにみかんって妙にすっぱいやつがあるじゃん?あれが当たると正直困るし」
聞けって。
「どう思う?」
やっと発言の権利がもらえた。
「こたつにはいると足から水分が抜けてくから、みかんの方がいいだろ。煎餅だと悲惨な結果になるぞ」
彼女は限界まで目を見開いて、言った。
「なるほど…」

ネトクス「ビール」「ウィスキー」「任天堂DS」
400菊龍:05/01/23 18:48:40
「ビール」「ウィスキー」「任天堂DS」

「……でもさぁ」
彼女後ろから任天堂DSを取り出して言った。
「煎餅は煎餅で、お茶さえあればいいんじゃないかな」
…?
「お茶とかコーヒー、あとジュースとかの飲み物があればいんじゃない?
 それだったらむしろ煎餅がコタツの上に乗ってたほうが良くない?」
「いや、おま」
「煎餅だったらいいお茶請けになるしさ。あたし煎餅だったらお酒でも飲めるよ?」
「だから」
「その点煎餅なら」
聞けって、人の話を。
「ビールとかあたし何杯でもいけそう。あ、君はウィスキーが好きなんだっけ?」
そう言って彼女は任天堂DSに向かって連射を開始する。
その隙をついて発言する。
「アルコールは」
「それにみかんじゃお酒のつまみにならないし。お茶請けにすらならないよね」
聞けって。
「どう思う?」
やっと発言の権利がもらえた。
「アルコールは、水分を分解するのが速くなるし、例え何か他の水分を取ったとしても、トイレに行くのが近くなるぞ。」
彼女は手をとめて言った。
「……そっか。君との温もりに水を差されるってわけね」

スマソ。ちょっと苦しい
次回「バチカン市国」「バカップル」「バンパイア」
401名無し物書き@推敲中?:05/01/23 21:25:46
「バチカン市国」「バカップル」「バンパイア」

「ところで…」
我が家のこたつの向かいに座っている彼女が言った。
「何でバチカン市国なのかな」
…?
「狭い国内に郵便局や銀行とか、いろいろ詰まってて狭くない?
 それだったらむしろローマ内のバチカン区域とかのほうが良くない?」
「いや、おま」
「もともとムッソリーニとの諍いで生まれた訳だしさ、
 イタリア新婚旅行のバカップルがバチカン市国観光ビザとか取ろうとしたら困るじゃん。
 それに無理やり銀行とか入れて都市機能の体裁整えなくても済むし」
「だから」
「その点区域にすれば」
聞けよ、人の話を。
「バカップルが観光ビザとか迷う必要もないし。キリスト教だけの特殊なあれとかもなくなるし、国扱いだとなんか
 キリスト教だけ特別で「おにいちゃん、メッカ市国はなくなってしもたん?」って話になるし」
そう言って彼女はみかんを一房口に運んだ。
その隙をついて発言する。
「こたつに」
「それに頭のてっぺんが禿た宣教師派遣されてきたじゃん?ああいうのが教科書に載ると正直困るし」
聞けって。
「どう思う?」
やっと発言の権利がもらえた。
「バチカン市国が無くなったらバンパイアの存在が公に出るよ」
彼女は限界まで目を見開いて、言った。
「やつらが退治してたのか…」

スマソ。ちょっとしつこかった
nekst 「ビール」「バイオリン」「熊」
402菊龍:05/01/23 22:24:27
「ビール」「バイオリン」「熊」

そう俺は今、なぜか熊を目の前にしている。
「あああ酔った勢いであんなこと言うんじゃなかった…!!」
手元にはバイオリン。俺は流れの音楽家だった。
大昔に少し習っただけのバイオリンを片手に酒場をまわる生活。
そんな俺はついさっき、酒場で大嘘を吐いてしまったのだった。
俺は実は格闘家で剣士で勇者で魔法使いの王子なんだ……!
出るは出るはホラの連続。酒の勢いも手伝って、俺は伝説の死せる賢者にまで祭り上げられた。
しかし悪いことはできないもの。突如、その村に熊がエサを求めてやってきたのだった。

「うぁぁぁ俺を食べてもまずいってまずいまずい」
必死で説得するものの敵は説得に応じない。
熊は実は俊足であるから逃げられないし、死んだふりなんてもちろん通じない。
「うぷ……。さっきのビールがまだ残ってやがる……!」
しかし、俺はふらつく頭を集中させ、今できる最良の考えを実行する!
「必殺!音楽でみんな楽しく!」
そう叫んで、手元のバイオリンを弾く俺。所詮、酔っ払いなんてそんなものである。
しかし、その音色に森の奥からひょっこりと顔を出した者がいた。
熊の、子供。
俺のバイオリンも捨てたもんじゃないな、と心の中で思いながら弾き続ける。
3曲ほど曲を弾き終わった時、そこに熊の姿は無くなっていた。

Next「魔王」「ナノマシン」「児童ポルノ規制法」
403名無し物書き@推敲中?:05/01/23 22:55:10
「魔王」「ナノマシン」「児童ポルノ規正法」

ごく微小ながら、体内の精密な画像を撮影・送信できるナノマシン。
つめの先ほどの機械だが、家が一軒買えるほどの値段がする代物だ。だから
盗難されたときは、てっきり金目的だと思ったのだ。
「すいませんでした……」
目の前でガックリとうなだれている男は、なんとこの超高性能マシンを、覗き目的で
盗んだというのだ。確かにこれを使えば、バレることなく覗き見できることはできる
が、まったく信じられない。欲求不満もここまでくると天晴れだ。
男は聞いてもいないのにうだうだと言い訳を続けている。
いかにもモテなさそうな風貌だが、こういうところもモテない原因だろう。
「ホラ、児童ポルノ規正法ってあるじゃないですか。あれのせいで幼女ものって手に
入りづらくなっちゃって」
「……児童ポルノ? 幼女もの?」
男はいやらしい笑みを浮かべた。モテないモテるどころではない問題だと、
ようやく気づいた。
「近所に住んでる女の子、すっごい可愛いんですよね。それでつい」
背筋を悪寒が走った。
この冴えないくたびれた男が、不意に、魔王のようにまがまがしくいびつな
存在に見えた。

次は「スタートダッシュ」「巻き返し」「ゴールイン」で
 ――バーン。
 そしてトリガーは引かれた。
 その日ある学校では、翌日決行予定の運動会の準備が行われていた。子供達の、聞く人
によっては発狂しかねない類の奇声がそこかしこで聞かれ、先生達は彼らをやっと統制して
グラウンドにテントを貼り、競技ごとにラインを引き、また当日に間違って退場門から入場
しないよう、行進練習を入念に行った。
 あるクラスでは短距離走で点を稼ごうとスタートダッシュの練習をしている。一方では小道具
を用意するクラスがあり、また別のクラスは白い帯にゴールインと書いたゴールテープを作成
する役目を与えられたようで、そのテープを使って首を絞めあったり、身体を縛りあって遊んで
いた。巻き返しの動力源となるかは疑問だが、応援の練習もごく不誠実に実施された。
 準備は順調に遅れていた。大人が生徒に期待する作業量は、労働者が生徒である所までは
考慮されるが、好奇心とか悪戯心といった子供と不可分の要素はなぜか無視される。それで
大人達は日が沈んでもまだ保護者用の椅子を並べる作業をしていたし、子供達の何人かが
残って先生の手伝いをしていた。
 ある子供がふざけて小道具箱からピストルをとりだし、先生に向ける。別の子供が物凄い
形相で口を開き、彼を止めようと――

次「トナー」「混乱」「楽園」
405:05/01/24 20:18:23
トナー 混乱 楽園

「Kさん、ちょっといいかな?トナー切れちゃったから総務に行って貰って来てよ」
お前にまかされた資料の整理の為に残業をしているのに。「課長、もう総務閉まっていると
思うんですけど」私は書類の陰から呟いた。「ああ、何だって?もう居ないの、俺たちが仕
事してるのに。しようがねえな、じゃあ買って来てよ」「は?もう十時まわっていますけど」
勘弁して…あなたは帰りたくないのかも知れませんが、私はもう…。「ああ、何だその口の
きき方は?仕事だよ」課長は近づいてくる。「何でお前がこうやってここで働かしてもらっ
ていると思うんだ。だいぶリストラもされたよな、お前の友達もみんな。なのにお前はお
仕事頂けてるわけだ。どうしてだろ?」臭い息が私にかかる。こいつは胃が悪いに違いない。
「なあ、行ってらっしゃいよ。探して来いってば」――――

「何だ遅かったな」「どこも開いてません」「ああ、ちゃんと探したの?」「…探しました」
私は睨むような課長の視線を浴びて、渋々コピー機へ近づいた。「まだ叩けば、何回か使え
るかもしれませんから」私はコピー機を開け、空のトナーを取り出して何度も叩く。思い
っきり、わざと大きな音を出して何度でも。「なあ、」課長が腰をおとした私の後から手を
すべりこませてくる。こうやってこいつは何度でも私をいたぶるつもりなんだ。
私はしがみついたコピー機のボタンを闇雲に押してしまう。コピー機は一度に発せられた
私の必要性のない要求に対しても混乱もせずにされるがまま動く。空のコピーをしたり、
どこかにFAXを送ったりしている。私もこのコピー機のように何も考えずにこれを従順
に受け入れる事が、私の存在意義へと結びつくとでもいうの、私には分らない。私は意識
の混沌とした楽園、その対極の明瞭な地獄絵図の、両方の混乱の中で自分すら制御出来な
い。
私は涙のつたった顔を拭う。目の前の小さな化粧鏡が私の顔を映していた。薄暗くされた
オフィスビルの一室、そこでトナーからこぼれたカーボンの汚れが私の顔に迷彩の施しを
する。

「無気力」「ラジオ」「電波」
406名無し物書き@推敲中?:05/01/24 20:30:00
( ´Д`)y──┛~
407名無し物書き@推敲中?:05/01/24 22:44:57
「無気力」「ラジオ」「電波」

 三畳一間の狭い部屋で、ぼくたちふたりは肩を寄せ合って座っていた。
裏手を電車が通り抜けて、部屋が縦に横に揺れて窓ガラスがガタガタ鳴った。
しばらくしてジェット機が屋根を掠めて飛んでいくと、電波が乱れるのか、ラジオに
不快なノイズが混じった。鼓膜を直接ひっかくような音に、背筋が寒くなった。
「これじゃ聞こえないよ」
 彼女が手を伸ばしてラジオのスイッチを切った。人の声が消えて、ぼくは不安になる。
「ねえ、こういうのって楽しいのかな」
 不意に彼女が呟いた。ぼくはびっくりして彼女の横顔を見つめた。
「私思うの、こんな無気力な毎日でいいのかなって」
「いいんじゃない? 他にすることもないんだし」
 ぼくはまたラジオを付けた。ちょうどコマーシャルが終わって、明るい声が溢れてくる。
「そうだね、でも来週は遊園地に行きたいな」彼女は縋るりつくようにぼくを見た。
 ぼくが口を開きかけたとき、表で物凄い音がしてダンプカーが部屋に突っ込んできた。
いま流行のスローモーション映画みたいに彼女と並んで弾き飛ばされながら、ぼくは
思い出した。ぼくたちの時間は、もう7年も前に止まってしまったんだってことを。

次のお題
「リンゴ」「万年筆」「オリンピック」
408無気力 ラジオ 電波:05/01/24 22:48:44
無人島漂着二日目の朝。
「やっぱりラジオの電波、届かないや」
「うーん。困ったわね」
「これじゃ、外のことがぜんぜんわかんないよ。この島がどこなのかだってさっぱりだ」
「遭難で無気力は一番の敵よ。しっかりなさい」
「姉さんは気楽すぎだよ」
「ポジティブシンキングよ。そうしないとおかしくなってしまうわ」
「そうだね。ポジティブ。姉さんがいなかったら、俺は一人きりで耐えられなかったと思うよ」
「そんなこと言わないの。私たちは一人じゃないんだから。二人でここからの脱出法を考えるのよ」
「わかったよ。絶対に助かってみせよう」
太平洋の無人島、鳴らないラジオを傍らに置いた一人の男が、二つの裏声を使いながら何やら呟き続けている。


「熊」「猫」「烏」
409408:05/01/24 23:01:58
次→リンゴ 万年筆 オリンピック
410名無し物書き@推敲中?:05/01/24 23:16:50
「リンゴ」「万年筆」「オリンピック」

 真っ赤なリンゴは、少し毒々しくも思える赤みを湛えていた。
 私はそいつの表皮を袖で擦り、艶が少しばかり失せた個所にかぶりついた。
「さあ、もうちょっとだ。あと一頑張りだ」
 私はまもなく〆切を迎える、とある文芸賞に投稿するための原稿に
ひたすら没頭し、くたびれた脳裏に思い描いた光景を、ざりざりと書き進めている。
 筆は十歩進んで二歩下がるといった具合。
 万年筆自体は、二本ばかし駄目にしてしまったが、まだ備蓄はある。
 そしてこのリンゴは、妻の差入れだった。
 曰く、原稿を書き進めながら気分転換を兼ねた間食、とのことだった。
 こういうとき、気の利く妻に感謝せずにはいられない。
 リンゴをあらかた食べ尽くしたその時、隣の部屋から寛大なファンファーレの
残滓のような、か細くも甲高い音が漏れてきた。
 私は時計を見上げ、それがオリンピックの開会セレモニーであることを悟った。
 妻が私に気を配り、音量を下げてくれたのだろうが、はっきりと聞こえてしまった。
「早く、あんなファンファーレを、自分と妻の為に鳴らしてみたい」
 そんな願望がちらりと浮かんだが、それは創作の波に揉まれ、すぐに消えていった。
「さあ、もう一踏ん張りだぞ」
 苦労を共にしてくれる妻の為に、私は再び原稿に没入していった。


次のお題
「熊」「猫」「鳥」
411名無し物書き@推敲中?:05/01/24 23:28:53
「熊」「猫」「鳥」

 鳥がいた。
 木の上でピーチクパーチク鳴いている。その木の影に隠れるようにして、猫がいた。
木に爪をひっかけて慎重によじ登ると、鳥の止まっている枝の根元までやってきた。
 鳥は猫に気がつく様子もなく、鳴いている。
 猫は身構えると、全身の筋肉を、バネを放すように解放して飛びかかった。
 一飛びで鳥の懐に飛び込むのと同時に、牙を鳥ののど笛につきたて、
前足で獲物が逃げないようにしっかりと捕らえる。
 二匹が動いたことで枝がしなり、重さに耐えきれずにボキリと折れて、
猫と鳥は落下をはじめた。
 猫は空中でクルリと回転して、姿勢を安定させた。
 そこへ熊が凶暴な前足で猫と鳥を叩き、二匹はその勢いで地面に叩きつけられた。
 熊は意識を失った二匹を口に放り込むと、モグモグと食べて、歩き去っていった。

次のお題は「布団」「テレビ」「彼女」
412名無し物書き@推敲中?:05/01/25 00:04:08
「布団」「テレビ」「彼女」


 しばらく干していない布団は、まだ十分な暖かさを残していた。
 僕は室内を念入りに見まわし、人の残していく僅かな痕跡を探し出そうとする。
 つけっぱなしのテレビが、毎度おなじみの馬鹿馬鹿しい漫才を垂れ流していた。
 小さな炬燵の上で、僕が飲むはずの粗茶が湯気を立てている。しかし、そこに
あるべきものが無い。いるべき人がいないのだ。
 彼女は、何処へいってしまったのだろう。

 いつものように、彼女が先に帰ってきて、僕は一時間遅れて帰宅する。
「色々あって、だるいから、横になってる」
 そういって、彼女は僕の寝床に潜りこみ、静かな寝息を立て始めたのが
ほんの十分前だった。
 そして、 ほんのちょっと席を外した間に、彼女はいなくなってしまった。
 僕は念の為、炬燵の中や押入れの中まで捜してみたが、彼女はいない。
 部屋から出ていったなら、安普請の玄関はいつものようにとんでもない
音を立てるはずだ。

 ぽたり、ぽたり。
 テレビの音を絞ると、雨漏りの音が浮かび上がってきた。
 丁度、炬燵の上のお茶に、しずくが落ちている。
 そのお茶の中に、小さな彼岸花が浮かんでいた。
 僕は、上を見上げた。
 見上げて、僕は後悔した。
 何故、あんなに丈夫なネクタイを買ってしまったんだろう。
 彼女の体重に負けない、丈夫なネクタイを。


次のお題
「酒」「女」「オーケストラ」
413名無し物書き@推敲中?:05/01/25 03:05:58
「酒」「女」「オーケストラ」

喜十郎は職場でひとり浮いていた。
ごうごう吠える溶鉱炉、立ちのぼる蒸気は喉に障つて、圧延ローラの軋みがひどい。
鬱々としたサイレンが鳴れば、一日三交代の第二シフトのさあ始まりだ!
「喜十のやつ、また呆けていやがらあ」
転炉の操作台で、同僚Aが拡声器で怒鳴った。「彼女通るぞ、場所あけろッ」
喜十郎ははつと気付いて身を引いた。
融鉄を充満させた巨大な量塊が、肥えた妊婦の足取りで喜十郎の目の前を横切つてゆく。
「やめちまえッ。貴様のような役立たず、やめちまえッ」
喜十郎は何度そう職長に言われたか知れない。
そんなシフト空け、喜十郎はいつも同じ立ち飲みの安酒をあおつてさらに喉を痛めるのである。

「てめえ死にてえのかッ」同僚Aが叫ぶ。
また、喜十郎は呆けたように突っ立っていた。同僚Aは身を引いた喜十郎の胸元を、力をこめて突いた。
「今日という日は我慢がならねえ。貴様ッ、どういうつもりだッ」
「聞こえるんだ」
「なにッ……」
「音楽が聞こえるんだ。高炉の、転炉の、コンベヤの、圧延ローラの、起重機の音楽が聞こえるんだ。
でっかいオーケストラだ。産業のオーケストラだ。俺は産業の音楽を聞くんだ」
同僚Aは首を振ってなにも言わなかった。「さっさと喜十を外せ」と職長に訴えたのもむなしく、
喜十郎はしばらく経つたある日、圧延ローラにのされて死んだ。
第二シフトの欠員は次の日補充された。

お題「枢機官」「銃士隊」「妖婦」
414名無し物書き@推敲中?:05/01/25 12:22:36
国語辞典 [ 枢機官 ]の前方一致での検索結果 0件

国語辞典 [ 銃士隊 ]の前方一致での検索結果 0件

国語辞典 [ 妖婦 ]の前方一致での検索結果 1件

あやしいまでの美しさをもち、男を惑わす女性。


415名無し物書き@推敲中?:05/01/25 21:08:51
「枢機官」「銃士隊」「妖婦」

 最強無敗の枢機官パンダであるササは妖婦コアラのゆかりと並んで小高い丘の上に立ち、
列を成して迫り来る敵軍のペンギン銃士隊たちを見下ろしていた。
「むふふ。むふむふ。むひひひひ」「オホホ。ひょひょひょ。ひょへへへへ」
二人はこれから始まる殺戮と悦楽の宴を思い、湧き上がる歓喜に身をよじった。
「よしゆかり、まずは『ペンペンころころマシーン』だ!」ササが満面の笑みを浮かべて言った。
「アイアイサー!」ゆかりはかたわらに置いてあるアンテナのついた大きなリモコンを拾い上げた。
 ゆかりがウフフフフと妖しく笑いながらリモコンをいじくり始めると、空に一機のリモコン
飛行機が舞い上がり、ペンギンたちの方に向かってかろやかに空を駆けた。

「敵機!」
ペンギン銃士隊隊長シーフードは空を見上げた。遠くから小さな飛行機が近づいてくる。
しかし不思議なことに、それは単なるラジコンであって、爆弾も重機も取り付けられていない
ようなのだ。いったいなぜそんなものをわざわざ飛ばそうというのか。シーフードが訝しがる
間にも、ラジコンはどんどん近づいてきて、ついにかれの真上に到達する。シーフードはつられて
首を真上に上げ、そして、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。背後のペンギンも巻き込んで。
「うへへ。ぴょぴゃぴゅぴゅぴゅ。にまままま」「うふんあはんみょみみみみにょーー」
シーフード隊長を先頭に、ドミノ倒しのようにころころ順番に倒れてゆく数百匹のペンギンたちを見て、
ササとゆかりは狂おしいほどの喜びに悶え続けるのであった。戦乱の世は、まだ始まったばかり。
416名無し物書き@推敲中?:05/01/25 21:10:12
次のお題は
「アル中」「シュルレアリスム」「動物虐待」
417ぬこ2046:05/01/26 01:18:02
「アル中」「シュルレアリスム」「動物虐待」

最近よく言われるシュールというのは、つまり、シュルレアリスムの略で、非日常的な奇抜なものごとを指すらしい。
ならば彼女のようなアル中のキッチンドランカーの毎日は、私からみればそれは充分にシュールといえるのであろう。
しばらくその日常を観察することにする。
彼女は時折サクラ(同居の猫、雄5歳)に思い出したように絡んで、手で叩いてみたりする。
これは動物虐待であるが、キッチンドランカーの動物虐待とは、なるほどシュールである。
ダリの味のある絵画やフロイトの深層心理論のようにそこに芸術性はないのだろうが、シュールにはかわりないのである。
しかし、アルコールなどの麻薬性やのある物質によって脱日常し、シュールな世界を作り出す、もしくは体験するという試みはきわめて危険な行為である。
彼女を観察していればわかるが、シュールな世界の独特の魅力にとりつかれ、中毒をおこすからである。
危うい非日常の高揚感を得るために、また麻薬物質を求めるようになり、手放せなくなる。
麻薬物質が切れると彼女はイライラしはじめ、声を荒げたり、サクラを虐待したり、あちこち落ち着きなく動き回ったりする。
彼女の主人が彼女にねだられてアルコールを与えるのも問題があるだろう。
私はといえば、彼女とサクラの間を仲裁したりとなかなか大変なのである。
これからは、彼女に例のものを与えないよう彼女の主人に注意していきたいと思う。
彼女のシュルレアリスムとは、まったく人騒がせなものである。

三年B組 鈴木優太 『またたびによる猫の脱日常についての観察』


お次は、「交渉」「高尚」「校章」など如何。
418菊龍:05/01/26 22:20:48
「高尚」「交渉」「校章」

「君って、交渉得意?」
「はぁ?」
同じクラスで生徒会長を務める幼馴染が、俺にそんな事を聞いてきた。
「いや、みなまで言うな。君は交渉は得意だったはずだ」
うんうん、と勝手に頷く彼女。
こういうときのこいつは、絶対何かたくらんでいるのだ。
「前々から意見があったんだよ。『この学校は校章が格式ばり過ぎる』ってね」
うちの校章はライオンを中心に鶴に亀に十二支に七福神に数々の縁起物がごちゃごちゃしている。
「この高尚すぎるものを変えるってのが、君の仕事ね」
「これを高尚というか、貴様は」
まあいい。どうせ俺が校長相手に熱弁を奮うのは初めてではないし、なかなかおもしろそうだ。
「………今回の作戦名【コードネーム】は?」
「名づけて、高尚なる校章を哄笑を交えた交渉の変更作戦!」
「哄笑はいらないだろ。ってかまんまじゃん」
俺は苦笑交じりに溜め息を吐いた。


次のお題は「チラリズム」「ネコミミ」「バイオハザード」
419gr ◆iicafiaxus :05/01/26 22:51:55
吾輩とこの五十嵐嬢とを僅かなる例外として,吾が同輩たる三年生徒の諸名は,
悉くが,その受験の為と称して,部室に屯ろするの歓を自ら抛棄してしまった。

吾輩は,吾が愛するところの形而上学研究会の後輩一同並びに,吾が心中私かに
大いに恋慕するところの女性たるこの五十嵐嬢とを,一刻の喫茶歓談の友として,
祝すべき形而上学研究会部室において,放課後の余業に親しんでいるわけである。

吾輩の思うに,受験勉強とは何物であるか。それは諸生らの考えているように,
愛する者らとの高尚なる茶話の時を投じて猶余るほどの重大事であろうか。否。

後輩らは今日は形而上学的なる映画を観覧するの目的によって匆々に学園を去った。
しかるに吾輩は,「ハウルって,あれ落ちるとか滑るとかあるじゃん,やめとこうよ」
なる五十嵐嬢の助言に諾とし,嬢と二人のみにて部室に残留して書物を再読している。

半刻余りの後,不図,吾輩が卓子を隔して正対している五十嵐嬢の様子を窺えば,
嬢はなんと,卓上に伏したる形のままに午睡に陥っているではないか。
なんということか。吾輩の顔前ただ二尺許りに,天女にも紛う五十嵐嬢の寝姿が。
否,斯様の事は初めてではないが,然しこの明眸皓歯なる嬢のそのまた頬の可憐さよ。

打ち流れたる黒髪の陰に,制服の片襟が,校章の重量の為であろうか,僅か許り
開くように下がっていて,その内側の五十嵐嬢の白めいた膚が吾輩の目に這入る。
その膚は見えうる限りでも,突起した両の鎖骨の間合から更に内へ続いていて,
無粋なる制服の紺のなす陰翳の内で,心無しか膨らみを帯びているように思われ,
然し斯辺から先は光の暗さと視線の狭隘さとによって,何らの見えるものも無かった。

うむ,吾輩は五十嵐嬢の乳房の隠れていたことを無念に思ったか。否,否,断じて否。
吾輩は助平者ではないし,従って徒らに嬢を仮想なる性交渉の相手に据えたことも
無い,一度として無い。吾輩はただ形而上学的な興味に於いて……

嬢が胸の辺りを手掻いた。刹那その乳房とそれを護る乳留が顕れる。
吾輩の作為は最早一つに決まってしまった。圧し倒す。
目醒めて何か言う五十嵐嬢。口唇を以ってそれを塞ぐ。これが嬢の体。これが僕の体。
420gr ◆iicafiaxus :05/01/26 22:52:57
お題は上ので。
421ルゥ@大学の試験どうするんだろ ◆1twshhDf4c :05/01/26 23:18:12
「チラリズム」「ネコミミ」「バイオハザード」


しまった! ……と思ったときには遅かった。
ドアが閉まりそうな電車に駆け込もうとした瞬間、中からあわてて出てきた人物と衝突し、自分の鞄の中身をぶちまけてしまったのだ。
「――っ」
相手は思い切り尻餅をついたらしく、お尻をさすりながら座り込んでいる。
「すみません」と謝罪をしつつ、俺は急いで鞄の中身の回収に当たろうとした。
学生の必須アイテムである教科書、筆記用具、ノートやプリントの類、友人から借りた『DEATH NOTE』と『バイオハザード』、ここまではいいのだ。
問題は、次の2冊の本だった。
――某エロゲーの同人誌と、少々マニアックなアニメ関連の雑誌。
この駅はローカル沿線にあり、利用者の9割5分は俺が通っている学校の生徒か教師だった。
自分で言うのもなんだが、俺は学校の花形的存在である。
告白されたこと20数回、男友達も多く、教師からの信頼も厚い。
だから、というのもおかしいかもしれないが、世間では冷たい目で見られるこの趣味を今までひた隠しにしてきた。
誰であろうとこの2冊の本は見られたらまずい。
「あ……」
しかし、どうやら少々遅かったようだ。
その2冊を尻餅をついている人物にばっちり見られてしまった。
せっかく、カタギを装ってきたのに……、と逃げ出したい衝動に駆られたが、もうどうにもならない。
がっくりとうなだれている俺に相手は声をかけた。
「このエロゲー最高だよね!」
「は?」
「他のエロゲーと違って、大胆な表現じゃない……えと、なんていうのチラリズム? が逆にそそるんだよね」
俺はあっけにとられて、一瞬フリーズしたが、相手の熱弁にこちらも燃えてきてしまった。
「そうそう、ネコミミの設定ははベタといえば、ベタっすけど、制服とマッチしてて、こうネコミミ好きにはたまりませんよ!」
周りの人たちの奇異な視線を集めつつ、俺は1時間弱ほど、駅にて校長先生とエロゲーの話に花を咲かせていた。

☆少々長くてすみません。
 ――ちなみに当方女です……。
 次は「ポップコーン」「チャーミング」「総論」でお願いします。
422名無し物書き@推敲中?:05/01/27 00:37:15
DEATH NOTEワロスw
423名無し物書き@推敲中?:05/01/27 01:46:04
「ポップコーン」「チャーミング」「総論」

僕は彼女と喧嘩すると、いつも「アメリカンごっこ」をして仲直りする。
この遊戯の中で僕はボビー、彼女はヘレンと名乗り、お互いアメリカンに成り切る。
ただこれだけの事だが、これが意外に楽しいのだ。

「ハーイ!ヘレン!今日もチャーミングだね!」
「あら、ボビー!あなたも今日の格好、とてもクールよ」
「サンキューヘレン。それよりどうだい、これからポップコーンでも食べないか?」
「うーん、それもグッドアイデアだけど、実は家にママの作ったプディングがあるの。
 ご一緒にいかが?」
「ワオ!それはいいね。なんせ君のママのプディングといったら……」

僕らはこの辺りでいつも耐え切れなくなって吹き出してしまう。なぜなら僕らは
正真正銘のアメリカンだからだ。日本人が持つアメリカ人のイメージというのは、
僕らにとってとても面白い。彼女は「プディング!今時プディング!」と言って
笑い転げている。
しかしまあ、こんな下らないことで笑い合えるのも、僕らがアメリカ人だからか。
総論としては、僕らこそ日本人が考える理想的なアメリカンだといえるのかもしれない。

次は「自然死」「露骨」「フィナーレ」で。
424法学部生@試験逃避……:05/01/27 01:54:52
「ポップコーン」「チャーミング」「総論」で書いてしまったので……次は>>423の三語でお願いします。

 賑やかな昼の学生食堂の片隅で、僕は親友と向かい合って座っていた。
「で、俺の電話にも出ずに映画を見に行って、そこでその女の子を引っ掛けたんだな?」
「なんだい、人聞きの悪い。一目惚れだよ、一目惚れ」
 そう言って彼はお茶を啜った。僕は黙って彼の白糸のように華奢な指先を見つめていた。
「薄暗い映画館の中で、彼女はうっかり自分のものと間違えて、俺のポップコーンの箱に
手を突っ込んでしまったのさ。そこへ俺もポップコーンを食べようとして手を突っ込んだ」
「ふーん、それってなんていうエロゲー?」
 彼は僕に最大級の哀れみの視線を向けた。飼う気もない不細工な捨て犬を見つめるような目。
「すまん、続けてくれ」僕はため息をついてチキンカツを頬張った。
「それからすぐに間違いに気づいた彼女がハッとして俺を見たね。俺も彼女を見る。そうしてその
彼女の目が綺麗なんだ。まつげが長くてとってもチャーミングで、その瞬間バチバチッと電流が」
「だからなんていうエロ」
「しつこい」
 それきり彼は口をつぐみ、騒々しい食堂の中で僕らだけが沈黙に包まれた。
 しばらくして彼が口を開いた。話したくてウズウズしていることは先ほどから百も承知である。
「まあそんなわけで、映画が終わるまでずっと彼女と手を握り、見つめ合っていたわけさ」
「先週末に前の彼女と別れて、もうその体たらくか。まったくチャラチャラしたやつだな」
「いや、恋人になったわけじゃないさ」
「なぜだい? もしかして、もう遊んで捨てたとか……」僕は想像して少し鬱になった。
「いや、俺流恋愛講義の総論から言えば、彼女は優しそうだったし可愛いかったし、まったく問題なかったが」
「勿体無いことをするもんだな」
 そこで彼は手を止めて、じっと僕の目を見つめた。
「その各論部分で、彼女は重大な違反を犯していた。映画が終わったときに彼女はトイレに行ったんだ」
「なんだと」僕は思わず立ち上がった。
「それくらいで可愛い女の子をみすみす逃すのか? バカにしてるよ!」
「違うんだ」彼は虚ろな目をして呟いた。「彼女は男子トイレに入っていったんだ」
425名無し物書き@推敲中?:05/01/27 01:55:30
「ポップコーン」「チャーミング」「総論」

俺は一人映画館にいた。

ぶらりと一人で来たってんならまだ様になるが、実際の所は惨めなもんだ。
クリスマスコンパで知り合ったアイツ−上総論子と流行のラブロマンスを見に来たんだが、
「ゴメン!キミに誘って貰えて嬉しくって忘れてたけどアタシ今日追試だった!ホントゴメン!!」
と言い残すやいなや、ポップコーン片手にポカーンと口をあけた俺を置いて飛び出していきやがった。
活発な(というか何もかもを吹き飛ばす嵐のような)ところに惚れたとはいえ、
流石に男一人映画館に置いてけぼりにされると、少し付き合う事を考え直したくなる。
まだこれで映画がアクションとかならマシだ。しかし上映されているのはラブロマンス。
俺は盛大に溜息をついた。

「まぁ勿体無いしな」 チケット2枚分。券は姉貴から貰ったとはいえ、金を溝に捨てるのは惜しい。
ポップコーンも残ってるし、中央のいい席に陣取ってるし、せっかくだから最後まで見ることにした。
話の筋は良くあるネットで出会った二人の愛の物語。ただし、出会った二人は男同士なのだが。
お互い気づかず「キミはなんてチャーミングなんだ」 「貴方もとてもダンディよ」なんて、
チャットで愛の囁き交わしたり、ラブメールのやり取りをしたりしているのを見ていると、
これはラブロマンスじゃなくラブコメでもなくて、コメディなんじゃないのか?なんて思えてくる。
というかコレを俺らに見せてどういう雰囲気にするつもりだったのかと。俺は姉貴を呪った。

「虹」「警官」「廃墟」で。
426425:05/01/27 01:56:31
スマ。更新かけずに書いてしまった。お題は>>423で。
427名無し物書き@推敲中?:05/01/27 07:11:40
「自然死」「露骨」「フィナーレ」

玄関を開けると、セミが一匹仰向けになって死んでいた。
生命の儚さを憂うよりもまず邪魔に思った俺は、その死骸を足でどかそうとした。
俺のコンバースが彼に触れようとしたその時、セミはけたたましく鳴き、羽をばたつかせた。
 ―――まだ生きてたのか。
俺の足にも満たない小さな夏の一季語は、文字通り虫の息で生への執着を見せた。
しかしこの真夏の太陽の下ではこのまま自然死を待つより今フィナーレを迎えてしまった方が楽だろう。
そう思った俺はセミを掴むと焼けたアスファルトへ叩きつけ、羽の生えた侍を「介錯」した。

 その夜、俺はセミの夢を見た。家の玄関でセミが露骨に俺がしたことを攻め立てる。
「お前、自分がしたことわかってんのか?俺はあのあとバラされて蟻の巣行きだよ。
俺らは土から出て一週間しか生きられないんだぞ・・・」
そこまで言ったのを聞くと、俺はセミを踏み潰した。

じゃあ次は>>425
「虹」「警官」「廃墟」でよろ

428名無し物書き@推敲中?:05/01/27 08:43:44
「虹」「警官」「廃墟」

 ドサッ
「これで最後だな」
 深夜、廃墟の一室に一人の男がいた。
 彼の足元には大きな布にくるまれた“何か”が横たわっている。
「どいつもこいつも、この俺を馬鹿にしやがって」
 男はタバコを吸いながら、他者への憎悪と軽蔑の煙を吐き出し部屋を出て行った。
 階段を下り入り口まで差し掛かった時、外からサイレンの音が聴こえてきた。
「くっそ!なんでばれたんだ!?」
 次々と集まるパトカー。建物の周りは既に警官に囲まれていた。
 男は踵を返し階段を駆け上がり、先ほど“何か”を置いた部屋へと戻ってきた。
「やれやれ、ついてねぇな・・・」
 男は壊れかけた椅子に座りながら、懐から拳銃を取り出した。
━━数時間後 
 日が昇り朝日が差し込めた部屋に、綺麗な赤い虹が掛かった。

次の御題
「人形」「少女」「破壊」 
4291/2:05/01/27 12:19:06
「人形」「少女」「破壊」

その女は、完全にイっていた。
焦点の合わない眼で虚空を見上げ、薄い唇の端から泡を零し、全身を弛緩
させて、ここではないどこかへ、女の言う「素晴らしき世界」へと、達しつつあった。
俗に言う、オーヴァードーズ。人為的快楽の過剰摂取、というヤツだ。
その源となった薬物は、女が昔取った客であるペテン師から貰ったものらしかった。
結局、それは粗悪な麻薬でしかなかったようだ。

男は、人形や置物でも見るかのような眼差しを女に向ける。
別れ話がもつれにもつれ、女が執った凶行は、男の前で自分の命を断つ行為だったようだ。
女の見上げる先に視線を巡らし、男は深々と息を吐く。
「死体ってのは、重いんだぜ」

生まれた時からの、幼馴染だった。
しかし、男の家庭はそれなりに普通で、女の家庭はそれなりに悲惨だった。
かつて、少年だった男の心を射止めた可憐な少女は、やがて金策と欲に溺れる
阿婆擦れへと昇華していった。
4302/2:05/01/27 12:20:38
男は、女のことを愛していた、それ故に、女の全てを受け入れてきた。
「だからといって、こんな方法で、しかも俺の前で、イっちまうことはないだろうに」
どこか夢見心地の頭を、ぼりぼりと掻く。
女の昇華――なんとなく、堕落とは呼びたくなかった――を、停めるべきだったのだろうか。
そんなことを思い、躊躇いと共に首を振ったその時。

「――止メル必要ハ、ナカッタワ」

女の声が、聞こえたような気がした。いや、確かに聞こえた。
男は女に向き直る。
女は、いつのまにか起き上がっていた。
歯を剥き出しにして、獣のように咆哮を上げる。
そして、男がそんな馬鹿なと思う間もないほどの敏捷さと膂力を以って、男を破壊し尽くした。
女は薬の力を借りて、唯一の願望である所の、男を永遠に自分の物とする願いを適えたのだった。

その殺害現場は、訓練された警官達が口を押さえ、えづく程に凄惨を極めていた。
蒼白い顔をした刑事が、現場から物証として検出されたカプセルを掲げる。
ビニールに納められたそれは、市販のビタミン剤だった。


お題「威圧」「略奪」「愛」
431名無し物書き@推敲中?:05/01/27 21:17:13
「金を出せ!」と、深夜のコンビニに一人の強盗が入ってきた。
一人でレジ打ちをしていた女性店員は強盗の言うとおりに金を詰めた。
金を詰め終わり、強盗が油断を見せた一瞬の隙をついて、
ナイフを持っていた手をつかみ、それを力任せに奪うと、強盗はしりもちをついた。
その際、強盗がかけていたサングラスがとれた。
「・・・ロウ君・・・?」
彼女はその強盗の顔に見覚えがあった。中学時代の恋人だった。
強盗は金の入ったバックを置いてそのまま逃げていった

・・・あんなに優しかったロウ君があんなことをするなんて。
いや、もしかしたら違うかもしれない。眠くて、見間違えただけかもしれない。
・・・ロウ君、今どうしてるかな・・・
彼女は、業務時間が終わると、眠気も忘れ、押入れから卒業アルバムを取り出し、
「ロウ君」の住所を調べ、手紙を書いた。 返事はこなかった。

お題「二年生」「試験」「眠気」
432名無し物書き@推敲中?:05/01/27 22:25:34
高校二年の期末試験。
特別やる気もなく、多少優秀に作られた脳だけで中の上あたりの高校に入った僕にとって、
三日間に渡る期末試験というものは以外と眠気を誘うものだ。
1,2限目は、眠いようなら寝るようにしている。
しかも目の前に広がっているのは、見ているだけで眠くなる古典の長文。
試験だから寝るなんて論外か?
いいや、僕は元来やる気のない人間なんだ。
大学という次の道しるべに向って、突き進む訳でもなく、ただとぼとぼと歩くけばいい。
なら、眠ったっていいだろう?
どうせ推薦を取れるわけも無い、それにこんな試験をクソ真面目に受けなくても、三年には進めるのだ。
それに、窓からいい感じに照る太陽が、暖房とあいまってとても気持ちよい。
僕は解答用紙の上に問題用紙を重ね、もしよだれが染みても解答用紙が汚れないようにして、机に伏した。
とろとろと、意識に帳が下りてくる。
そのうち、僕はすとんと眠りに落ちた。

next「大学受験」「会場」「騒音」
433名無し物書き@推敲中?:05/01/27 23:03:56
>>431
「威圧」「略奪」「愛」ってどこに入ってるんだ?

>>432は「二年生」じゃなくて「二年」としか書いてないし。
特殊な能力という物は、特殊な場面で使ってこそ真価が問える。
大勢の人間がいる中、話し声一つない。大学受験の会場はただ筆音だけが響いている。
きっとここにいる人間は誰しも、今日この日のために並々ならぬ努力をして来た事だろう。
だが自分は違う。今日まで勉強なんてしてこなかった。その点では不合格になる自信がある。
だが、俺には能力がある。人の頭の中が読めるのだ。読むというより感じるというべきか。
つまり、任意の人間の思考と同化できるのだ。
作戦はこうだ。まず頭よさそうな奴と同化する。試験半分までいったら次の人間と同化。
最初の奴と半分目までで同じ答えの物を確定として記入。残りは二人目と次の同化の奴とで
答え合わせ。最後に時間が余ったら全体の答えあわせ。
少々解答用紙が汚れそうだが問題なし。文殊の知恵作戦とでも名づけよう。
能力を使うには騒音などのない静かな環境が必要だが、試験会場は最適と言える。

さて、最初のターゲットは……こいつだ!うむ、よく勉強しているな。あってんのか判らん
けど。
よし、半分まできたから次は……お前だ!
……な、何だこいつは!解答用紙の上に問題を!?それになんだこの眠気?同化してるから
俺まで……まずい!
そのうち、俺はすとんと眠りに落ちた。



次「予定外」「就職」「仲違い」

435名無し物書き@推敲中?:05/01/28 01:23:45
「予定外」「就職」「仲違い」

予定外の事が起こるもので、就職が決まっていた会社が倒産した。
三月をもって大学を卒業した俺は、四月をもって新社会人になるはずが、
こうして桜の木の下、スーツで体育座りなんぞをしていたりする訳だ。
入学式の帰りだろうか。真新しい制服に身を包んだ女子高生をはた目に、
職安から帰りの俺は雲ひとつない青空を見上げてタバコをふかしていた。

仲間でもいれば心強いのかもしれないが、あいにく無職の仲間はいない。
違う大学に行った悪友は音信不通だし、大学のツレは無事就職できたし…
いや、きっとこんなマヌケな状態になっているのは俺だけじゃないはずだ!

そう思った俺は、いつものように携帯で2chを見始めた。
春の風の中、満開の桜の下で。何だか女子高生の視線が痛いけど。

次は「線香花火」「大仏」「チャーシュー麺」で。
436423:05/01/28 04:12:08
「線香花火」「大仏」「チャーシュー麺」

「私のペニスの長さは」
テーブルを挟んで斜向いに座っている男が急に話しかけてきた。
「このチャーシュー麺に入っている全ての麺を合計したのと同じ長さなんです」
「はあ」
私は多少戸惑いつつも相槌を打ち、今まで視野に入っていなかったその男を改めて
観察した。年の頃は三十から四十といったところだろうか。瀟洒な背広を着こなし、
表情も大仏様のように柔和で、特に異常な印象は受けない。
このような人物の口から、極めて流暢にペニスという単語が放たれるのを目撃した私は、
お線香だと思って火をつけたら実は線香花火だった時のようなトリッキーさを感じた。
まあこのご時世で、時間は深夜、そして舞台は場末のラーメン屋ともなれば、突拍子も
ないことを口走りもするだろう。社会が悪いよね、社会が。そう独りごちて、何気なく
その男の前の器の中身に目をやると、そこにはきしめんが入っていた。

私はその瞬間初めて、恐怖した。


次は「一石二鳥」「三寒四温」「五臓六腑」でお願いします。
437婿多糖類:05/01/28 13:35:57
一石二鳥、三寒四温、五臓六腑

問『五臓六腑とは本来体のどの臓器を指すのかすべてあげなさい。』
問題をみたとたん、僕は観念した。ゴゾウロップと読むんだろうか。アイヌ語みたいな響きだな、となんとなく感じる。
とりあえずこれで国語も落とすとなると、僕の期末試験の戦況はすこぶるまずいことになる。
次の問題は、三寒四温という四字熟語の意味について、当てはまるものを選択肢から選ぶというやつだ。これもパス。
四字熟語の問題がこんなに出るとは、ヤマが外れた。
国語のヤマはり担当だった、友人の寺山が言うには、教科書に載ってる『こころ』という小説を何度も読んでおけば、先生受けもいいし、出題範囲のヤマもしぼれて一石二鳥ということだったのだが。
まあ、追試まで時間はあるし。
僕が諦めて暖かい教室の陽気に誘われるまま昼寝の態勢に入ろうとすると、斜め前の席の寺山が何やら指で合図をしている。
外してすまん、ということらしい。
しょうがない、焼そばパンとコーヒー牛乳で手を打とう。
僕は了解の合図を送ると、ゴゾウロップの問題に葉緑体と書き入れ、眠ることにした。

次のお題は「春」「眠り」「暁」をご用意しました。
438名無し物書き@推敲中?:05/01/28 16:09:40
「んッ・…良く寝たぁ〜」
そう言って僕は起きた。
久しぶりに体が軽いというか、背骨に走る神経の調子が活発というか。
いつもの朝より寝起きがいい感じがする。
いつもは母親に起こされているのだ。高校生にもなって何だが、自分で起きられたのが少し誇らしい。
僕は元来、毎朝体はだるくて、一分一秒でも長く寝ていたいと思っている人間で、
重い体を引きずって熱いシャワーを浴びなければ、朝飯を食べる食卓で居眠りしてしまうほど朝に弱い人間なのだ。
「なんかいい感じだな」
やっぱりというか、シャワーも早くて済んだ。
顔を洗ってシャンプーをして、体を洗って髭をそるだけで10分も掛からなかった。
いつもはそれだけの作業に15分か20分は要すのだ。
「あれ?朝飯まだ〜?」
毎朝朝飯が食卓の上に置いてあるはずなのに、今日はなぜかない。
「おかあさー…ん…」
あれ、そういえば、今日はお母さんは友達に会いに東京に行ってしまったのではなかったか。
慌てて時計を見ると、登校時間を20分ほどオーバーしていた。
これが「春眠暁を覚えず」というやつか。と思った。

nekst「烏龍茶」「トッポ」「午後ティー」←※午後の紅茶
439名無し物書き@推敲中?:05/01/29 00:03:23
「烏龍茶」「トッポ」「午後ティー」

寒空の下、自販機の前で舌打ちをした。
『午後ティー』ロイヤルミルクのボタンは赤く点灯している。
まぁ、同じお茶だからこれでいいか……。
俺はホット烏龍茶を仕方なく購入し、彼女の待つ車へと急いだ。

「ごめんな、午後ティー売れ切れだったんだ」
そう言いながら、俺は暖房の効いた運転席で一息ついた。
「えーー!私はロイヤルミルクティが飲みたいって言ったのに」
助手席の彼女はかなり不満だったようだ。
寒い中、買ってきた俺への労いの言葉すらない。
俺はまたか……と思うと同時に少し悲しくなった。
でも、彼女は初めて付き合った女だ。
気に入らないことがあっても、多少の事は目を瞑ってきたし、
ワガママもなるべく叶えてきたのだ。

「ホント……アンタって全然使えないのよね」
彼女の俺に対する文句はさらに酷くなっていった。
ボロクソに言われ続け、さすがに腹が立ってきた。
俺は苛立ち抑え、努めて冷静を装う。
「なぁ、前から言いたいことがあったんだ……」
「何よ……急に改まって」
彼女はそんなオレの態度に怯んだのか、大人しく俺の言葉を待った。
「お前、トッポ・ジージョそっくりのクセして図に乗りすぎ!!」

次のお題「鍋」「ストーブ」「湯気」
今日は俺の熱い話を聞かせてやるぜ。
当時俺の部屋には卓上コンロという物が無かった。
台所には据え置き型の動かせないコンロがあるだけだった。
その冬俺はどうしても鍋が食べたかった。それもぐっつぐっつと煮えたぎる熱い奴だ。
そいつを部屋に持ち込み、立ち上る湯気の向うにテレビなんかを見ながら、一杯なんてね。
それには卓上コンロが必要なのだ。だが無い物はしょうがない。俺は代わりのものを探した。
ふと目に付いたのは、部屋を暖めていた古い型の石油ストーブ。
天板が金属むき出しで、よく餅焼いたり、やかんを乗っけたりしておくやつだ。
閃いた。こいつの上に乗っけちまおう。早速俺は台所であらかじめ温めた鍋をストーブの
上に置いた。ストーブの火力は最大。石油タンクがポコポコゆってる。
そして心ときめかせながら鍋のふたを取った。湯気のもっわ〜っとのぼって視界が曇った。
うむ。成功、と思いきや、どうやら火力が足りないらしかった。徐々に湯気が薄くなる。
それでもまぁ保温の役目はあるようなので、テレビの前にそいつを置いて、ディナースタート。
だがすぐに致命的な欠陥に気づいたね、熱いんだよ。俺が!ストーブの前の、俺が!
そりゃそうだ、本来部屋を温めるための熱量を一身に浴びてんだから。しかも火力最大!
瞬く間に噴出す汗を拭いながら、それでもなんかもう意地で食ったね。
陽炎の向うでゆがむテレビ見ながら、必死に食べてたら鍋の横で熱燗してた酒が倒れたよ。
水蒸気爆発!と思うぐらい湯気が!やばいアルコールが!?……

俺「とまぁ、俺も若いころは熱かったって話さ」
友人「ストーブの裏側から食えばよかったじゃん」
俺「……っていう小話だよ!」



次は「もうすぐ」「夏」「否定」
441423:05/01/29 01:49:05
被ってごめん。せっかくだから出させてくれ。お題は440ので。


「鍋」「ストーブ」「湯気」

連れ添ってもう三十年になるのか。私は食事の支度をしている妻を眺めながら、
ふとそう考えた。そんな私の感慨に関心がないのか、もしくは見抜いているのか、
妻はただ淡々と準備を進めている。
どうやら今夜は鍋らしい。息子二人はとうに自立して家を出たため、具材は昔に
比べて大分減ってはいるものの、それでも鍋というとどこか心に浮ついた気持ちが
出て来るものだ。その気分だけは今も変わらない。
「そういえば」
カセットコンロの火を点け、妻が半ば独り言のように呟いた。
「昔、雄一がそこにあったストーブで火傷したことがありましたっけねえ」
「……ああ、そういやあったな。あの時は俺が担いで病院に連れて行った」
そうだ。二十年程前のちょうどこの時期だった。それ以来、家ではストーブではなく
電気ヒーターを置くことになったのだ。妻は続けて言った。
「もう子供達もいませんし、またストーブにしましょうよ。灯油は手間ですけど、
 その方が暖かいし、お湯も沸かせますし」
何十年ぶりのストーブか。それもいいな――そう思った時、私の心に様々な思いが
去来した。仕事のこと。息子達のこと。そして妻のこと。ストーブが呼び水となって、
今までの情景が急に蘇ってきたかのようだった。
「湯気がすごいな」
私はそう言って眼鏡を外した。しかし、妻には見抜かれていたに違いない。
442名無し物書き@推敲中?:05/01/29 04:11:05
「もうすぐ」「夏」「否定」

「……なんでよ、なんで何も言わないのよ」
 朝子は怒りと悲しみと焦燥がぐちゃぐちゃに混ざり合ったような、絶望的な表情であたしに突っかかってきた。
 どこぞの木にはりついているだろうセミどもは、当然のことながらあたしたち二人を慮ることなどなく、不遜に鳴き続けている。
 今朝のお天気お姉さんは、今日はこの夏一番の真夏日となると自信たっぷりに主張したはずだ。しかし、今のあたしの中はどこか麻痺しているのか、38度の太陽の熱波がいまいちうまく認識できない。
 もうすぐ夏休みも終わって学校が始まるが、その前にどうしても朝子に伝えなければいけなかったので、近所の公園に呼び出して、あたしは朝子にその事実をありのままに話したのだ。
「……朝子、ごめん」
 あたしは淡々と、力ない口調で言った。実際今のあたしに力らしい力なんてこれっぽっちもない。多分あの時に、余すことなく使い果たしたのだと思う。
 朝子はあたしの無感情な態度に気を悪くしたのか、両手であたしのTシャツの胸元を力任せに引っ掴んだ。
 あたしは一切抵抗しない。
「否定しなさいよ! 否定してよ! お願いよ真紀、嘘でしょ? 嘘って言って」
 あたしは何も言わない。
「……純を、殺したなんて」
どこぞの木にはりついているだろうセミどもは、言うまでもないがあたしたち二人を慮るわけもなく、飽きもせずに鳴き続けている。

Next「コイン」「霧」「居合い」
443名無し物書き@推敲中?:05/01/29 12:36:48
「コイン」「霧」「居合い」

ジョニーは戦場に行った。そして帰ってこなかった。
「メイ、僕はきっと帰ってくる。それまでこれを預かってて」なんて、外国の桜のコインを残して。
幼馴染だった。結婚の約束もした覚えがある。アタシよりチビなのに忍者とか侍とかが大好きで、
居合教室に通い出した時は「今日から僕も侍だよ!」って大はしゃぎだったっけ。

「戦争が終わって5年…… あ、6年か」 ジョニーのママに戦死通知は見せてもらった。
だけどアタシにはジョニーが死んだなんて信じられなかった。
ジョニーとアタシはたくさんの約束をした。ジョニーはチビだけど約束を破った事はなかった。
だから絶対生きている。きっと帰ってくる。ずっと待ってる、なんて思っていた。
「もう6年なんだよね」 帰ってこないかも、という気持ちはどんどん大きくなってくる。
霧がどんどん心を覆っていく。アタシはどうしたらいいんだろう。


ジョニーは結局帰ってこなかった。アタシは結局一人でおばあちゃんになった。
でもやっと気がついた。帰ってこなければ迎えに行けばいい。迎えに行けばいいんだ。
アタシはジョニーのコインを、落とさないようぎゅっと握り締めて、静かに目を閉じた。
霧の晴れた心は澄み切った青空だった。

次は「髷」「髭」「鬘」(まげ、ひげ、かつら)で。
444423:05/01/29 18:12:22
「髷」「髭」「鬘」

「えー、今も昔も人の悩みってのは変わらないもんでして、何百年前の刀や銃で
 ドンパチやってた戦国時代にも、頭の薄さ、いわゆる禿ですな。これで悩んでた
 人がいるっていうから面白いもんです。まあそれだけなら一向に構わないんですが、
 その人物というのがなんと殿様だった。それでちょっとややこしい話になる訳です」
「今なら鬘だの植毛だの、色々手はあったんだろうけども、勿論その当時にはそんな
 ものはない。そのうちお殿様は髷も結えないくらいの禿げになっちゃった。これは
 困ります。一国一城の主に威厳も何もあったもんじゃない。それでそのお殿様が
 どうしたかっていうと、酷い事に家来全員の頭を全部剃っちゃったんですよ。そんで
 もって更には、武士の嗜みである髭まで、毛を見るのは許せないってんで剃らせた。
 横暴ですな。さすがに女中なんかは助かったようですが」
「さて、戦国時代の終わりといえば関ヶ原。この殿様の国も当然参加することに
 なりましたが、それが折悪く西国側だった。負け戦に次ぐ負け戦で、ほうほうの
 体で逃げる訳です。しかし追手はすぐそこまで迫っている。殿様と少数の家来は、
 もう命あっての物種ってんで刀も鎧兜も脱ぎ捨てて、ちょうど目に入ったお寺に
 飛び込む。そこでさすがに殿様、もう覚悟したか座禅を組んで死を待つことにした」
「そして扉が開き追手が入ってくる。これまでか、と皆が思った時、追手がこう
 言うんですよ。――御坊達、この辺りで武士を見なかったか、とね。追手はまさか
 頭を丸めて座禅を組んでいる集団が標的だとは思わなかったんでしょうなあ」
「とまあこういった話です。……え?サゲはどうしたって?困ったなあ。こりゃあ
 出来るだけ言わずに済ませたかったんだ。でもまあしょうがないですな」
「怪我なくて良かった、とこういうことです。お後がよろしいようで」


次は「素人」「ロック」「風情」で。
445名無し物書き@推敲中?:05/01/30 01:56:37
「素人」「ロック」「風情」

 進路希望調査とかいう紙が回ってきた。
「ここに将来なりたい職業を書いて提出するように。」
担任の先公がこの紙に記入すべきことを説明すると、
俺は第一希望と書かれている欄に希望の職業を書いて担任に渡した。
それを見た担任は一言、書き直せ、と言い放った。
頭にきた俺は
「書き直す気はありません。それが俺の希望する職業です。」
とだけ言い捨て、そのまま自分の席に戻った。

 数年後、俺はその時紙に書いた職業、ロックスターになっていた。
出すアルバムは全てミリオンヒットを記録する超特大大物スターだ。
夢を実現させた俺は、俺の夢を否定したあの頃の担任に、
いかに自分が人を見る目に関して素人かということを痛感させてやりたかった。
俺はあいつに会うため、当時通っていた高校へと車を走らせた。
 学校に着くと、目的の物はすぐに見つかった。
あいつはどこかへ行ってきた帰りらしく、俺から少し離れた場所に停めた車から降りてきたところだった。
「久しぶりっすね。」
俺は後ろから声をかけた。
俺に気付いたあいつは、少し驚いた様子で嬉しそうに笑いながら言った。
「おお、久しぶり。今やスターだな。すごいじゃないか。」
「先生に書き直せといわれた職業に就くことが出来ました。」
俺は優越感と厭味をこめたセリフを吐き出した。
すると、あいつの口から予想もつかない意外な答えが返ってきた。
「いや、書き直せと言ったのはお前がロックスターを間違ってロッフスターと書いてたからだ。
俺はお前がスターになると思ってた。お前の書く詩は風情があったからな。」
その時初めて、誰からも馬鹿にされ続けてきた自分の夢を、この人だけが認めてくれていたということを知った。
 
 俺はそれからしばらくして先生のことを歌った曲を書いたが、あまり売れなかった。

次は「切手」「アルコール」「ライター」で  
446名無し物書き@推敲中?:05/01/30 16:29:59
「切手」「アルコール」「ライター」

ある日の夕刻、ふと兄に手紙を出そうと思った。
俺は引出しの中を漁り、古びた切手と便箋を見つけだし、インクの切れかけた
万年筆を滑らせ、どうにか手紙を書き上げた。

兄は無類の酒好きで、嫁や子供を投げ捨てて、一升瓶にすがりつくような男だった。
家族に逃げられ、親族からもはじき出されている、どうしようもない男だった。
だが、魂までアルコール漬けになっているとしても、あの男は紛れも無く、俺の兄なのだった。
だから、そんな兄を見捨てることなど、俺には到底出来なかった。

便箋を封筒に収めた後、俺は懐からライターを取り出し、煙草を吹かした。
それは、三日振りになる煙草だった。
美味い。何度吸っても堪らなく美味い。

あの悪夢の法律、禁煙法が施行されて、十五年が経つ。
喫煙、という言葉が国語辞書から消え、ニコチンを取り扱う企業は取り潰された。
今や、一本が同じ大きさの黄金に喩えられるまでになった闇煙草の、肺や背筋に
染み入る味を噛み締めつつ、俺は先日、兄から届いた、とても短い手紙に目を通していた。

  煙に魂を溶かし込む俺の弟へ。
  いいかげんに煙草を止めろ。

やなこった。
俺は胸中で悪態を吐き、声の代わりに煙を吐き出した。


次のお題「灰」「燃焼」「桜」
447「灰」「燃焼」「桜」 :05/01/30 18:24:18
春と呼ぶにはまだ早く、庭先の空気は少し肌寒い。
縁側にすわり、目の前の木を見上げていた。
「また、思い出してるの?」
後ろから声がする。振り向くと彼女が立っていた。
「この季節になると、いつもあなたは桜を眺める。……でも、あなたは花が咲くのを
待っているわけじゃない……」
返事をしない俺にかまわず彼女は続ける。
「……花が咲いたって、あなたは“彼女”の方を向いたままそれに気づかないのよ」
少しだけ語気が荒くなる。彼女が“彼女”と呼ぶ人。

昔と言うにはまだ早い。幼かった俺が、俺たちがいた時代。桜がまだ咲かない季節。
弱弱しい命の火を細く細く、長く長くと、消かけるぎりぎりで燃やしてきた“彼女”
最後の桜を待たずにそれが消えてしまった時、その時から俺の中の想いが燃焼を始めた。
気付いた心、訊けなかったこと、伝えられない事、取り戻せない時間、後悔。

いろんな物を燃やし始めた俺に、彼女は錯覚だと言った。
いつも俺たちを見ていた彼女も、俺の変化に気付いた時、何かを燃焼させ始めたのだろう。
俺の中の想いが燃え尽きて灰になるまで、彼女もまた咲かない桜を見続けるのだろう。



次「引越し」「階段」「お皿」
448名無し物書き@推敲中?:05/01/30 18:47:56
どゆこと??
449:05/01/30 19:15:49
灰 燃焼 桜

一般に春に生き物の再生の予感を感ずる一方で、私にとってのそれは、毎年くりかえされ
る、夢遊病者のような私と友人が申すあだ名によって抱かれる印象で説明がつくだろう。
私は妻が庭の桜で、しかも満開の黒々とした横枝で首をくくってぶら下がっていた、あの
光景のまえに平伏した時以来、いまだにその春の想いから更新されていない。後日に妻が
私には内緒で精神科に通院していたと判明はしたものの、あの朝を迎えた私には、そんな
言い訳は通用しなかった。ことの前夜におこった、他愛もない口喧嘩から勃発した一夜の
別居状態、それこそに括られてしまった私はまっ逆様にどん底へ突き落とされた精神の陥
落のままでこり固められてしまったのだ。こうした春が毎年のように私へやってくる。親
族は私を心配して、毎日のように様子見に誰彼をよこすのが常であったが、私の情態は年
ごとに悪くなったのだ。
とうとう見かねた親族たちは、私が桜咲くあの光景に精神の憂鬱を繋ぎ合せているのでは
ないだろうかと訝り、それを切り倒そうと言い出した。私もあえて反対はしなかった。木
は切り倒された。細かく切断され、ドラム缶でくり返し焼かれた。後に残ったのは灰だけ
だ。灰は庭にまかれ、新たな命のもととなる。

やがて四季はめぐり新たな春が訪れる。私は新しい伴侶を迎えていた。彼女は前妻の自殺
の事は知らない。庭で私の手作りした物干しに洗濯物をむすびながら、廊下から見つめる
私に声をかけてくる。この声は私を癒すようだ。去年までの憂鬱な春の日々はまさに夢で
あった。妻が庭でつんだ花を持ってきた。「今、蝶々がとまったばかりよ」そう言って一輪
ざしにして私の前に置いていく。また洗濯物を干している。私は幸せだった。
でもその時、ふと、私はこんなにも幸せでいいのだろうか、と再び蝶がとまりに来た黄色
い花にむかって思ったのだった。蝶は花にとまる。すると目の前で、その細々とした脚元
からあのドラム缶の紅蓮のような炎につつまれ、燃焼して消えてしまうのだ。後には灰す
ら残らない。
私は妻を見て、今のことを気づかれはしなかったか確認をした。妻は背を向けて洗濯物を
干している。私は安心をして、また再び蝶が寄ってこないように気をつけるべきだと心にと
めた。
450名無し物書き@推敲中?:05/01/30 22:50:15
「ね、このお皿懐かしくない?」
俺の隣で引越しの手伝いをしている音音(ネネ)が言った。
娘の両手には、白い瀬戸物の皿が納まっている。
薄い皿だった、音音のその白く細い手と相まって、俺は今にも儚く壊れてしまいそうな印象を覚えた。
「お母さんと一緒に、どっかの工房みたいな所で作らせてもらったんだよね」
それは妻と佐賀に行った時に作った皿だった。頭の中にその時の思い出が次々と浮かんでくる。
妻の友達がやってた伊万里焼きの工房で、家族で一枚づつ作らせてもらったんだっけ。俺と音音の皿は割れちゃったんだよな。
でも彼女の皿だけは割れなくて……。ああ、やっぱり、とても綺麗だ。
音音の両手の中に収まっている伊万里焼の皿を見て、思った。
白磁の透明感のある白に、梅の花がぱらぱらと咲いていて、亡き彼女の人柄まで思いださせる一枚だった。
「じゃ、これお皿用の箱に入れてくるね」
そう言って、音音は立ち上がった。割れ物用の箱がある一階に下りるつもりだろう。
「あー、俺も水飲み行くよ」
そう言って俺も立ち上がった。
トントンと、音音の細い足が階段を叩く。
そして、足を滑らせた。声も出ずに、そのまま前のめりに倒れこむ。終点までまだ半分も階段がある。
俺はとっさに音音の首襟を掴み、引き上げた。
片手を手すりにかけて、音音の体重が片手にかかった。
カシャン…。
甲高くない、静かな音が階段に響いた。
皿は真っ二つに割れていた。
「…お母さんのお皿が…」
娘が絶望の声を上げた。
『いいわよ、音音が助かって良かったわ』
亡き妻の声が聞こえた。
不思議と、俺はそれを違和感なく、自然に受け止めた。
「ああ、壊れたな。でも、音音が助かってよかった」
俺は妻の声を代弁した。
皿は修復に出さないようにしよう。

↓「煙草」「葉巻」「ヒュミドール」※葉巻を品質を落とさずに保管する特別な箱。
451名無し物書き@推敲中?:05/01/30 23:10:08
「引越し」「階段」「お皿」

妻が亡くなったのをきっかけに引っ越してからというもの、毎晩息子に起こされる。
「パパ、お皿を洗う音が聞こえるよ」
「きっと誰かいるんだ」「ママが帰ってきたんだ!」
耳を澄ましてもその様な音は聞こえない。
最初の数日は泥棒が入ったのかと思い、寝室がある二階から用心して階段を降り、
音が聞こえたという一階の台所を覗いたが、誰も見当たらなかった。
一時的な、子供によくある現実と夢の混同だと思ったが、それは約三年続くことになる。
「パパ、掃除機の音が聞こえるよ」
「今日は静かだよ。きっと本を読んでるんだ」

かくして新しい住居での生活は、奇妙な、息子の頭にしか存在しない同居人と共有する
こととなった。その奇妙な同居人の行動は息子の亡き妻への記憶がもとになっているようで
あり、さながら息子がこの世とあの世とを繋いでいるように思われた。
 煙草を片手に、上司らしき中年男が若い部下に説教をしていた。
「どうも成績悪いよね君」
「すいません」
 上司は煙草をもみ消して
「明日から来なくていいよ」
 部下をあっさりクビにした中年男は午後出席した会議にて居眠りして、
社長に起こられた。
「そんなに眠いなら家に帰って寝なさい」
「すいません」
 社長は葉巻を一服すると
「明日から来なくていいよ」
 社長が帰宅すると妻が待っていた。
「この箱だれか女から貰ったんでしょ。手紙を見つけたわ」
「すいません」
 女の名前と連絡先の書かれた小さな紙をヒュミドールごと――

次「付属品」「明治」「ポートレート」
453423 ◆ir6Dx0NkVM :05/01/31 09:09:28
「付属品」「明治」「ポートレート」

突然だが、芥川龍之介と菊池寛のポートレートを頭に思い浮かべてみて欲しい。
人によって様々だろうが、多くの人は、芥川を顎に手を置いて俯き加減で横を
見ているポーズで、菊池を多少しかめっ面で眼前を見据えているポーズで脳裏に
描いたのではないだろうか。私は、この二人のイメージの違いが、そのまま
二人の文学に対する姿勢の違いに繋がると思うのである。

宮本顕治は芥川の文学を「敗北の文学」だと評したが、これは何も芥川が自殺した
という理由だけで言ったのではない。明治から大正、昭和に入るにつれて、文学は
どんどん大衆化していった。そして「地獄変」の良秀程ではないにしろ、極めて
真摯な芸術信仰者だった芥川は、その現実を決して真正面から見ようとしなかった。
その姿勢こそが近代的視点から見た「敗北」であり、「ぼんやりとした不安」の
一原因にもなったのだと考えられる。
対して菊池は、芸術が大衆のものになったという現実を受け入れ、「真珠夫人」
などの通俗小説で一躍時の人となる。そしてその後も、文藝春秋社の設立や映画
会社の社長就任などを経て、実業家として成功する。ただ、菊池が心の底から
大衆に迎合する事を望んだかというと、それは疑わしい。菊池が常々「生活第一、
芸術第二」と繰り返し言っていたのは、芥川のように「芸術第一」になれなかった
がための強がりだとも容易に想像出来るからだ。

自らを芸術の付属品だと見做していた芥川。そして芸術を自らの付属品だと
見做した菊池。二人は一時期非常に親しい仲だったが、その文学人生は
驚くほどに対照的だったといえる。


次は「蜜柑」「トロッコ」「歯車」でお願いします。
454蜜柑 トロッコ 歯車:05/01/31 19:48:42
 父方の祖母が愛媛で蜜柑農家をやっていて、先日お招きを受けた。当時幼かった
私たち兄弟は家族揃ってのお出かけに大喜びで、旅程の始終騒ぎまわっていた。
 父の実家は大家族で、作りこそ古いものの大層立派な邸宅が建っていた。挨拶も
そこそこに、遊びたい盛りの私たちは従兄弟の誘いを受けて山へと飛び出した。
大きな黄金色の蜜柑が鈴生りに実る木々を潜り抜け、一気に頂上へ駆け上がると、
蜜柑の収穫に精を出す中年男女がいた。家業を継いだ叔父夫婦だった。
「よう、いらっしゃい。蜜柑狩りをやってみるか?」
 私たちはこの提案に魅せられた。本気で動く子供は侮れぬもので、程なくしていくつ
もの蜜柑かごが一杯になっていた。それは到底人の手で運べる量ではなく、私たちは
二人がかりで蜜柑かごを抱えたまま立ち尽くしていた。
「おうおう、よく頑張ってくれた。こっちに持ってきな」
 叔父が手招きする足元に、銀の線路があった。荷降ろし用のトロッコで、ケーブルカー
よろしく歯車のついた本格的なものだった。叔父は手際よくかごをトロッコに積み込み、
その先頭に私たちを乗せて駆動スイッチを入れた。たちまちトロッコは風のように木々の
間を滑り降り始めた。
 あまりの歓喜に声もない私たちを乗せ、トロッコは走る。線路の向こう、祖母の待つ邸宅へ。
 楽しい楽しい、夏休みの帰省生活の始まりへ。

次のお題は「警戒」「帽子」「アルコール」で。
 夜の街は治安が悪い。とくに酔っ払いは多く、喧嘩があちこちで起こっている。
あすこでは取っ組み合い、こっちでは何を食ったか自慢まじりの怒鳴りあい、
そこでは何を食ったかの見せ合いまでしている。夜って汚い。
 私はできるだけ目立たないようこの歓楽街を歩いていた。絡まれるのはまずい。
腕力に自信はないし、ここで飲み食いする金もなく、ましてモドスなんて、
シラフで出来るわけがない。はやくお家に帰りたい。
 そうして肩をすぼめて暗い顔して歩いていたら、肩を叩かれた。警戒しながら
ゆっくり振り返ると、桜の紋章をつけた帽子に制服を着た糞真面目な顔があった。
かなり驚いた。なんで俺なんだ。もっと声をかけるべきがいるじゃないか……。
「どうも、お一人ですか。ああお帰りですね。アルコールの入った連中多いです
からね、事故や事件が多い。気をつけてください」
 だそうだ。わざわざこんな地味な男にまで声を掛けるとは、なんて真面目な
警官だろう。たぶんすぐ刺されるタイプだ。
 こうしてなんとか帰宅した。今日最高の成果はこの拳銃だ。

次「ゴールド」「事件」「自慢」
456名無し物書き@推敲中?:05/01/31 20:54:26
「警戒」「帽子」「アルコール」

「帽子をかぶったクマだったそうだ」
 酒でもやっていたのだろう、と切り捨てるように返す。
 あたりまえだ。こんな都会の真ん中で、そんなものがうろついていてたまるか。
「もちろんアルコールの検査もしたさ。結果はあらゆる面で白。つまり、彼女は帽子をかぶったクマと現実に遭遇したんだ」
 馬鹿馬鹿しい。そんな戯言を真に受けて、この警戒態勢なのか。
 警察も暇をもてあましているらしい。客商売の身としてはいい迷惑だ。
「どうかね。ともかく俺は暇ではあるが。こうしておまえの店でサボるくらいの余裕はあるし、真面目な話、ベア・ハントに興味もないしな」
 男のグラスに酒を注ぎ足してから、自分の分を一気にあおる。
 こうも客が来ないのでは商売あがったりだ。酒でも飲まなければやってられんさ。
 最後の一滴を喉に流し込んだとき、ドアベルの音が軽やかに響き渡った。
「がう」
 不良警官以外の客がくるとは、正直意外だ。この街は、思ったより根性の座ったやつらが多いらしい。
 その客は帽子を脱ぐと、ついたてに丁寧に引っ掛けた。どすどすと床を鳴らしながらカウンターに進んでくる。
「今日はハニー酒がお奨めですよ」
「がうがう」
 自分でもくだらないと思うジョークに付き合ってくれるとは、気のいい奴だな。
 今日はこのまま店を畳んで、この三人で飲み明かすか。
 酒はいい。心を豊かにしてくれる。

お題は↑で。
457名無し物書き@推敲中?:05/02/01 22:46:21
「ゴールド」「事件」「自慢」

事件はおきた。
昨日、夜中四時頃…。
俺にとって、ロールプレイが一番エキサイトしてくる時間帯だ。
俺は一時までのコンビニのバイトを済ませて、この前買ったDQ8をプレイし始めていた。
二時、てつのけんを売店で買ったものの、洞窟の宝箱でそれを発見して萎える。
三時、売店で新発売のはがねのけんを手に入れようと、苦心し始める。
俺は子一時間ためて、ゴールドを溜めた。
これで、明日バイト先ではがねのけんを自慢できる。
バイト仲間の高校生と、どちらが先にクリアできるか競っているのだ。
やっと、8000ゴールド溜まってはがねのけんを手に入れる。
主人公に装備させて、
ガチャンッ…プツン…
ブラウン管の色が、網膜に少しの残像を残して消えた。
最後にセーブしたのはてつのけんを手に入れた時だった。
ブレイカーが落ちた理由は、飲もうと電子レンジに入れたホットミルクだった。

↓「バイオリン」「弓」「コイン」
458名無し物書き@推敲中?:05/02/02 00:05:24
「バイオリン」「弓」「コイン」

デパートの広告に、屋上でバイオリンショーと書いてあり、すぐ近くだから見に行くことにした。
見に行くと戦隊のものショーをやっている。
敵の怪人は、弓矢を持っていて、
矢を放つと、煙が出てスピーカーから迫力ある爆発音が聞こえてきた。
出入り口の近くにガチャポンがあり、子供がコインを入れていた。
そのガチャポンをよく見ると、バイオマンと書いてあった。

↓「最終兵器」「彼女」「知略」
459名無し物書き@推敲中?:05/02/02 17:31:11
「最終兵器」「彼女」「知略」
風が強く、寒い冬の夜だった。
僕は公園のベンチに一人で座っていた。彼女と、この場所で会う約束をしていたからだ。
僕の彼女は人間ではないらしい。それは先日友人から『お前の相手は言うならば最終兵器だぞ』と言われたことからもはっきりしていた。
彼女という言葉は、人間らしすぎる響きで、今の僕はそう思う事で、自分を慰めているのかもしれない。
人間の定義はなんだろう、と考えたときに思い浮かぶのは意志があること、ほかの動物よりも知略にとんでいることだと
言った教授の言葉だ。でも、僕はそうは考えない。僕が彼女を人間だと思えば僕の中では彼女は温もりのある立派な人間
ではないのか。ほかの誰が違うと言っても僕が、僕だけがそう感じていればそれでいいのではないか。
何故、それを周りの人間は異常だと捕らえるのだろう。考えれば考えるほど無限の迷宮に迷い込むように
答えが遠のいていく気がした。
股に手をやり、彼女のために準備を整えた。
僕は静かに彼女をパンツの中へといざなった。

『梵妻』『盆栽』『凡才』
460名無し物書き@推敲中?:05/02/02 18:58:44
『梵妻』『盆栽』『凡才』
墓参りを終え寺の庭の盆栽を眺めていた。
すると妻が、腕も同じで凡才だと言った。
私には盆栽の良し悪しがわからない。
ふと、庭の向こうを見ると梵妻が盆栽の手入れをしている。
私たちはそそくさと帰った。

↓「人間」「アンドロイド」「メイド」
461名無し物書き@推敲中?:05/02/02 19:06:36
墓参りを終え、寺の庭の人間を眺めていた。
すると妻が、形だけのアンドロイドだと言った。
私には区別がつかない。
ふと、庭のむこうをみるとメイドがアンドロイドの手入れをしている。
私は勃起した。
462凡才梵妻盆栽:05/02/02 19:07:06
 ところで天才と凡才を分ける要素とはなんだろうか。例えば盆栽の天才が
いたとする。すると彼の育てた盆栽は美しい空気を出す。また別に凡才が
盆栽を育てて、二つを素人の前に出してみる。並べると素人は天才の盆栽
を見分けてしまうのである。
 京に真宗の大変高名な僧がいた。僧は大層盆栽が好きで、いつもこれを
世話しておった。
 ときにこの真宗では、妻をとる習慣がある。大黒とか梵妻と言われているが、
この僧も妻を貰うことになった。候補は二人いて、どちらをめとるべきか彼は
悩みに悩んだ。よし誰ぞに相談しようと、小僧さんを呼んでこれに話したら、
「そんなら盆栽を見せたらどうです。和尚さんの盆栽は大変素晴らしいもの
ですから、これを一目で見抜けた方がお嫁さんに相応しい。なに偽者は私が
作りますから大丈夫です」
 というのでこれにならって、見合いをすることになった。さあ選ぶ段になってみると、
二人とも困った顔をしている。結局二人とも小僧さんの盆栽を選んでしまった。
 いや、素人でも天才の盆栽は見分けられるというお話。

次「速読」「開場」「プレート」
463名無し物書き@推敲中?:05/02/02 19:07:23
次は
『ちんちん』『陰毛』『枯葉』
464名無し物書き@推敲中?:05/02/02 19:10:22
墓参りを終え、寺の庭のプレートを眺めていた。
すると妻が突然速読出来る? と聞いていた。
私にはそんなことが出来ない。
ふと、奥を見ると開場の主催者がいた。
私は一礼した。
465462:05/02/02 19:11:20
消化はえー。遅出しスマン
466そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/02/02 19:11:28
「人間」「アンドロイド」「メイド」

みなさん、こんにちは。僕はアンドロイド。人間にはなかなか馴染めない。
それは僕がメイド・イン・木星のせいもあるけれど、奴らはどうして
宇宙人をこわがるのか、さっぱりわからない。だって君達も僕らにとったら
宇宙人なんだし。きっとこわがられる理由はここにあるんだ。それは僕が
こんなに流暢に日本語を操っているから。
彼らは僕をとっつかまえて、何か注射で青い液体を僕の右腕に注入した。
僕は眠たくなって、その場でぐっすり眠ってしまった。

「どうします? こいつ」
「ほっておけばいい。自分を何かエラい人間だと勘違いしてる奴らは
ごまんといるんだから」
「でも用心したほうがいい。どこかの国のスパイかもしれない」
「そんなはずはないだろう。だってIDも身分証明も、血縁関係も皆
はっきり分かっている。奴はどこにでもいるイカレ野郎だよ」

私は彼らと話していてときどき気が変になる。彼も私も、同僚も
アンドロイドも、みな私なのに、私が正気に戻ったとき、私の中
から彼らの記憶がすべて抹消されているのである。

「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」

467名無し物書き@推敲中?:05/02/02 19:14:25
墓参りを終え、寺の庭のスキャンを眺めていた。
すると妻があれは誤算よね、といってきた。
私は何を言っているのかわからなかった。
ふと、奥をみると空間にゆらぎがあった。
私はびっくりした

お題は>>463
468そらまめ ◆tMNW0aqEpQ :05/02/02 19:24:09
次「速読」「開場」「プレート」
『ちんちん』『陰毛』『枯葉』

プレート・テクトニクスの講義を終え、私は大学前のバス停で
速読用のテキストを開いて読みはじめている。「開場」という
言葉は聞きなれないものだったが、気にせずに読み進めていると
ちんちんを丸出しにしたまま、陰毛も隠さずに歩いてくる一人の
『原始人』が私のほうへ近づいてくる。私はアダムとイブのことを
思い出した。何故隠すのか−それは隠すことで、罪の意識がよりくっきりと
人々の心の奥底に焼きつくからである。私は速読本にはさんでおいた
フランスの枯葉を、その『原始人』に差し出した。
『原始人』はは何も言わないまま、大学の並木通りを裸足で歩いている。
二人の警察官が駆け寄ってきて、『原始人』に任意同行を求める。
一人の警察官は「すまた」を用意していて、その脇で数十人の学生達が
携帯カメラで『原始人』をパチパチと撮っている。

「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」
469名無し物書き@推敲中?:05/02/02 21:11:41
「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」

ウイルススキャンをしたらBlasterの感染が報告された。
この誤算で、ウイルス対策の考えがゆらいだ。
Web閲覧だけで感染するウイルスがあるとは思ってなかった。
Blasterの場合、感染しているPCが、ネットワーク上の他のPCに対しても、
特定ポートに感染プログラムのデータを送って、感染させる。
今回の感染により、感染対策だけでなくバックアップにも力を入れることにした。

↓「認知」「脳」「クオリア」
470469の修正:05/02/02 21:20:42
「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」

ウイルススキャンをしたらBlasterの感染が報告された。
この誤算で、ウイルス対策の考えがゆらぎ、悩んだ。
Web閲覧だけで感染するウイルスがあるとは思ってなかった。
Blasterの場合、感染しているPCが、ネットワーク上の他のPCに対しても、
特定ポートに感染プログラムのデータを送って、感染させる。
今回の感染により、感染対策だけでなくバックアップにも力を入れることにした。

↓「認知」「脳」「クオリア」
471名無し物書き@推敲中?:05/02/02 23:52:27
「認知」「脳」「クオリア」

「じゃあ、私がこのパスタを美味しそうって思った事もクオリア?」
彼女はメニュー表でカルボナーラを指差して言った。
「そう、それは志向的クオリア。でも、君が脳の中でカルボナーラってパスタ
を具体的に思い浮かべただろう?それは感覚的クオリアだよ」
彼女は分かったような困惑しているような複雑な表情をした。
「……私自身が脳の中でカルボナーラをイメージして、
美味しそうって思った事がココロの正体って事でいいの?」
「まぁ、クオリアだけが心の正体って訳じゃないけど、自我を科学的に語る上では必要だね」
そんな、めずらしく知的な会話をしているうちにパスタが目の前に運ばれてきた。
もちろん彼女はカルボナーラを注文していた。
濃厚な白いパスタは次々に彼女の口に入っていく。
僕はその彼女の口元が『エロチックだ』と認知した。

「映画」「最低」「食通」
472ふしはら ◆SF36Mndinc :05/02/03 06:47:32
「映画」「最低」「食通」

映画は諸悪の根源だ。この世にあるビデオテープやDVDを全部かき集めて燃やしたいぐらいだ。
昔の焚書坑儒のようにだ。映画監督を穴に落として土をかぶせて窒息死させてやりたい。
そうされて当然の奴らなんだよ。よく映画好きとかがテレビに出ている。この映画も見ました、あの映画も見ました。馬鹿か。
だからなんだよ。お前らは小説を読めないから映画なんて見てんだろう。あの映画のここがすばらしいですね、とか語るなよ。
映像が素晴らしいとだけ言っておけばよろしい。ストーリーがどうのこうのと知ったような口をきくんじゃねえよ。そんなもんは小説のパクりだったりするんだよ。
ほんとくだらねえ奴らだ。最低のくずやろうどもなんだよそういう奴らは。そういう奴らの読む小説ってさ、最近書かれたものばっかじゃんか。今ベストセラーになってるのをとりあえず買っとくみたいなな。
ミーハーなんだな。あさはかなんだね。食通が多いしね。うまいもんに目がないからな。そういう奴らは。あそこの店はうまいとかそればっかなんだね。会話のないようがだ。
本当に屑なんだよ。見かけだけを装うって奴らなんだよ。たとえばセックスするにしても、恋愛ごっこしてからやるしな。全部雰囲気とか社会通念上良いとされている概念を自分に帯びさせようとしているだけだ。
そして本物をそのくだらない社会通念で攻撃するからな。馬鹿は数が多いからな。その馬鹿たちが作り上げた考えで、少数の本物を攻撃する。多数決で攻撃する。馬鹿多数、本物少数だからね。
ほんと死ねば良いのにと思うよ。自分の卑しい欲望が強すぎるから、それを隠そうと、良い服を着たりして、人に変わってるねって言われまいとする奴らだ。平平凡凡の癖に自分を普通以上と思い違いしてやがるから、
話にならないよ。思いっきり腹を蹴りつけて子供を産めない体にしてやろうか。
俺の部屋には読む気もしない本がたくさん転がっている。

次、「肩甲骨」「ビーム」「濃厚」
473名無し物書き@推敲中?:05/02/03 12:34:15
「肩甲骨」「ビーム」「濃厚」

 早朝の通勤電車は、やはりいつものごとく満員御礼だった。
老若男女の区別なく、人が飯粒のようにぎっしりと詰まった
鉄の箱は、一条のビームの如く、都心を目指して走り続けていた。
俺は乗降扉に張り付くように立ち、曇ったガラスに映る、俺に
瓜二つで、実に精彩を欠いた男の顔を、睨みつけていた。
 苛立ちや嘆きの想いはとうに過ぎ、今は諦めだけがあった。
唯一、そんな諦めの中に希望を見出すとすれば、この立ち位置が
俺の毎朝の定位置であったことだろう。
 目的地まであと三駅となった所で、線路はカーブに差し掛かった。
それは俺の立つ扉側に膨らんだ、大きなカーブで、ここを過ぎる時に
車両内での乗客の位置関係が変化することもある。
俺は背中に来るであろう重圧に備え、二の腕を扉に押し当てた。
刹那、車両全体が振動し、背中に暑苦しい重圧が――。

 重圧は訪れなかった。
代わりに、両方の肩甲骨を優しく包み込むように、小さな手が添えられた。
そして、誰かが背中に身を預けてきた。軽い。とんでもなく軽い。
鼻腔をくすぐる心地よい香りは、息継ぎすら困難な車両の中にあって
はっきりと判り、俺は鼓動が早まるのを意識した。
 しかもその誰かは、俺の背中にやはり小さな頭を寄せ、濃厚の愛撫の如く
擦り寄って来たのだ。
俺は動けなかった。動いて、振り向けば、何かが終わってしまうと思ったから。
 ふと我に帰ると、電車は目的地をとうに過ぎていた。
人は少なくなり、車両内の重圧はすっかり無くなっていたが、背中に
残った柔らかなぬくもりは、俺の中でいつまでも燻り続けていた。

次「狂気」「転生」「対」
474ふしはら ◆SF36Mndinc :05/02/03 16:22:12
475名無し物書き@推敲中?:05/02/03 16:46:12
>474
ごめんね。スルーしてごめんね。
476名無し物書き@推敲中?:05/02/03 17:50:12
「狂気」「転生」「対」

 風薫る五月。
 鬨の咆哮は大地を揺るがし、芽吹く草原は程なくして人馬と血煙渦巻く戦場になった。
 ……見飽きた夢だった。いつの頃からだろう。高校にあがる頃だったかもしれない。
当時の俺は、鬱屈した環境がこんな夢を見せるのだろうと思うようにしていた。
 佩いた得物は人肌を渇望するかのように、するりと抜けて肉にその切先を沈めていく。
迸る血潮にまみれながら、寄せる剣戟をいなしては敵兵を捌いていった。
 俺は無敵だった。いかなる剛勇の士も俺の前には無力だった。軍神でさえ、俺の武威に
平伏すかもしれない。いや、軍神が転生した御形こそ俺なのだ。
 脆い世界で繰り広げられる狂気の宴に、いつしか酔いしれるようになっていた。
 しかし今の俺の姿は、残念なことに軍神には見えないだろう。
鎧は寝間着に、刀はサバイバルナイフと、何と貧相なものか、こん畜生。
広大な戦場も、夜の帳に包まれた六畳間だ。
 俺は禿げかかった親父の頭髪を掴み、脂でくすんだ寝室の天井へ掲げてみた。
あの中の俺は決まって、片手に高く首級を掲げて血染めの大地に対す、蒼天を見上げるのだ。
いまだ鮮血を垂れ流す親父の頭部を見上げて、俺は大きく勝鬨の声をあげた。


次は「リベート」「御者」「三つ巴」で〜。
477名無し物書き@推敲中?:05/02/05 09:59:00
「リベート」「御者」「三つ巴」

2年前、
取材旅行でオレはイギリスへ行ったんだ。
ヒースローからレンタカーでランカスターへ向かった。
途中、ある寂れた村に立ち寄った時のことだ。タバコを買おうとして
「キャメル2箱ください」といったオレに、店番の爺さんは
「ここいらじゃ、よそ者に売るタバコは無い!」と言う。
普通、タバコは税収につながるのでよそ者ほどありがたい筈なのだが・・
話が見えなかたオレは、予定外ではあるがこの村を取材することにした。
封建的なイギリスの田舎町、悪くないかもしれない。
取材を進めてみると、わかってきた。
この過疎の村には、観光客誘致に対して賛成派/反対派がくっきり分かれているのだ。
あいあらさまに無視する者もあれば、こっそりホテルにやって来てリベートを置いていく者もいる。
いいこと書いてくださいね、ということか。
中でも印象的だったのは「御者の組合」と「馬車馬の組合」との争いだ。
観光収入に依存する御者組合と、馬の労働環境を守ろうとする馬車馬組合との争いは、
村にただ一台存在するタクシーのオヤジも巻き込んで三つ巴のリベート合戦に発展した。
それぞれから現金や酒・女の接待を受けたオレは、またレンタカーで本来の目的地へ走った。
原稿はまだ書いていない。

「水彩画」「ビデオテープ」「不燃ゴミ」
 とある夫婦の団欒。
「ビデオテープは何ゴミか?」
「不燃ゴミでしょ」
「じゃあ問題です。ビデオテープを描いた水彩画は何ゴミでしょう?」
「可燃ゴミ? ちょっと、つまんないから話題変えてよ」
「いやいやいや、じゃあ、ビデオテープを描いた水彩画を
描いている所を録画したビデオテープはなーにごーみだ?」
「……粗大ゴミ」
「あっはっは、違うなあ。じゃあね、ビデオテープを描いた
水彩画を描いている所を録画したビデオテープに――」
「粗大ゴミ!」
「違う違う。いい? そのビデオテープに描かれた水彩画は何ゴミだ?」
「粗大ゴミってば!」
「あっはっは、駄目だなぁ。正解は不燃ゴミさ」
「ちょっと粗大ゴミ! あなたのこと呼んでるんだけど!」

次は「なんと」「正体不明」「怠(読み方なんでもok)」でお願いします。
「主任、2番窓口になんか正体不明な人が来てるんですけど……」
昼の休憩後フロアに戻ってきた俺のもとに、困惑の表情を浮かべた女子社員がやってきた。
入社3年にもなって客の応対も満足にできないのかと、視線だけを厳しく返す。
とりあえず問題の窓口まで向かう。女子社員に背を向けた瞬間から営業スマイルを作った。
2番窓口には、部屋の中なのにカンカン帽を目深にかぶった男が座っていた。
「大変お待たせ致しました、えっと、本日はどういったご用件でお越しでしょうか?」
穏やかな声音を作り、ゆっくりと話しながら相手を注意深く観察する。
30歳代後半、中肉中背、肌は浅黒く少しくたびれた印象を受ける。だが、俯いているので、
帽子が邪魔していまいち表情は読み取れなかった。
「……ちょっとおたくの商品の説明を聞きたくて……あ、これ名刺です」
男はボソボソと喋りながら名刺を差し出してきた。慌ててこちらも名刺を出しながら、失
礼の無いように名刺交換をする。ちょっと怪しい印象だが、意外とまともな……。
「……あの、大変失礼ながらこちらなんとお呼びすれば……」
名刺には(株式会社ヒマジン 営業課 怠 泰三)と書かれていた。
なまけ?たいぞう? いや、たいたいぞう か?というかこの社名も……。
「あ、スミマセン。それ昔のでした。皆さん読めないし間違ってるので新しく作ったんだ
った」そう言って新しく名刺を差し出してきた。
当然読み仮名を期待して受け取った俺は、名前を読もうと口をあけたまま固まった。
(有限会社ヒマジン 営業課 怠(読み方なんでもok)棒三)
帽子の影で男の口尻が少し引きつった。笑ったように見える。
カーン。俺の頭の中に戦いのゴングが響く。ふっ、確かに正体不明だ。まぁいいだろう。
そもそも人間の正体なんて名刺ごときでわかる訳が無い。俺の目で見極めてやる!
俺はフレンドリーにファーストネームで呼ぶことにした。
「たいぞうさん、今日はどの商品について説明しましょう?」
「ぼうぞうです」



次は「朝」「魚」「体操」
480名無し物書き@推敲中?:05/02/06 13:25:06
「朝」「魚」「体操」

卒業記念に乱交パーティーを開くことになった。
前日は良く寝て体力を温存し、朝から体操などして本番に備えた。
変態プレイ用の魚も買った。
マ○コから半身はみだした尻尾がピチピチ跳ねる様子を想像して勃起した。

下ネタすまん。
次、「ベビーオイル」「結婚詐欺」「株式公開」
481名無し物書き@推敲中?:05/02/07 18:36:18
「ベビーオイル」「結婚詐欺」「株式公開」

 私は結婚詐欺師。目的の為には手段を選ばない女。昼は淑女のように、夜は娼婦のごとく、
狙った獲物の理想像を演じ続けるアクトレス。これまで数多の男どもを騙し、欺き、裏切って
生きてきた。そんな私の次なるターゲットは、近年、株式公開も果たしたベンチャー企業の若社長。
いくらやり手のビジネスマンといえども、私にかかれば赤子も同然。二人が出会い、恋愛関係に
至るまでたいした時間はかからなかった。彼をものにするまで、あと少し。
 そうして、迎えた幾度めかの夜。ついに最後のセキュリティを解く機会が訪れた。ベッドの背に
もたれながら、彼は改まった口調で語り始めた。「君に話しておきたいことがある。解ってもらえるか
不安だけど」私は内心とは裏腹に神妙な面持ちで身構えた。これで、堕ちる。「……実は僕には、
こういう性癖があるんだ」と言って彼はおずおずと、黒いバッグから小さなボトルを取り出した。
それはベビーオイルだった。さらに他にも涎掛け、おしゃぶり、哺乳瓶。……なるほど、いわゆる
幼児プレイというやつである。なんだ、と拍子抜けした。その程度の変態趣味ならなんの問題ない。
どんなニーズにも完璧に対応する、それがプロフェッショナル。私は一瞬だけとまどいの表情を
浮かべた後、ぎこちない笑顔で頷いた。心配そうだった彼の顔がぱっと明るくなった。「ありがとう。
それじゃ早速」と、彼は嬉々として白い布切れを手渡した。「これに着替えてくれないか」

「……よーしよしよし、可愛いお嬢ちゃんでちゅねー」
私は結婚詐欺師。目的の為にはオムツさえも穿きこなす女。

お次は「海岸」「ドーナッツ」「影」
482菊龍:05/02/08 20:21:51
砂浜を、少年と少女が手をつないで歩いている。
俺は海岸沿いのベンチに座りながら、それをぼんやりと眺めていた。
突然、目の前に影がさす。
「自分、何してるん?」
後ろを見上げると、同い年ぐらいの快闊そうな女の子が笑顔を浮かべていた。
「……ナンパか?」
俺がそう言うと、その子は苦笑しながらベンチの隣へと座る。
「そんなとこや。な、兄ちゃん暇やろ?どっか遊びにいかへん?駅前のマクドとか」
「興味ない」
一言そう言って立ち去ろうとする。
「あ、待ってぇな!じゃあミスド行こ、ミスド!最近この近くにできたんや!」
「……初対面なのに、なれなれしい。何で俺がそんなことを。」
心底ウザそうな声を浴びせ、そのまま歩き出す。
「………うち、あと1年しか生きられへんねん………」
その子の言葉に、足を止める。その表情は、とても嘘をついているようには見えなかった。
「………なんてな!はったりやハッタリ!いやぁこうしたら男も同情してくれるかと……」
「……ドーナッツ、おごれよ」
振り返って一言、そう言ってやった。
「………へ?」
「行かないのか?」
女の子は一瞬固まった後、極上の笑顔で駆け寄ってきた。
「じゃあなじゃあな、ミスドの後はカラオケかゲーセン!あ、そうそう、うちの名前は………」
俺達は繁華街へ向かって歩き出した。

すまん、関西弁初挑戦。
次回お題「夕日」「爆弾」「スパッツ」
483ロイトリゲン:05/02/08 22:24:04
 俺は見慣れたキャンパスを図書館に向かいながら歩を進めていた。寒い寒い冬でもう夕
日が出ている。向こうにいるカップルは一本のマフラーを二人で使っている。ずいぶん
嫌なものを見てしまったものだ。おい!おまえら見苦しいぞ、と言いたいがもとよりそ
んな勇気は無い。ペッと花壇につばを吐く。俺だって本当はあんな姿を求めてこの大学
に入ったのだ。こんな心の底まで荒んだ人間になるとは、入学当初の期待に胸を膨らま
すあの頃の自分には到底想像しなかったことだろう。また俺はうつむいて歩いた。
 図書館の手前10メートルほどの所にきたので少し顔をあげるとスパッツをはいた男の
姿が目に入った。太った男だ。男の目は狂気の赤い眼で鈍く光っていた。尋常じゃない
。そしてそいつはジャケットのポケットから爆弾を取り出し、カップルに奇声をあげなが
ら突進していく。「キャー」カップルの女は叫び、男の方はわけも分からず呆然としてい
る。「や、やめろ」俺はそいつを追いかけた。すばらしい加速で俺はその太った男にすぐ
に追いつく。足をかけて倒し爆弾を取り上げた。まだ安全キーは外されていない。訳が分
からないがとりあえず安心を得た。とその時だ。いきなり俺の目の前が赤くにごり、俺は
安全キーをぬいて爆弾を右手に振りかぶり先ほどのカップルに向かって腕を振り下ろした
のである。
 
次「シルクロード」「猫」「サーフィン」で
484名無し物書き@推敲中?:05/02/09 00:57:47
「シルクロード」「猫」「サーフィン」

戦後の混乱期に生まれ、貧しい家庭に育った。
生きることで精一杯の時代だった。
人一倍の努力はしてきたさ。
苦しい時もあったが、おかげで人並み以上の幸福を手に入れることが出来た。
振り返ってみれば充実した楽しい日々だったな。
もう一度生まれ変わっても、また同じ人生を歩みたいと思う。
最近、娘のボーイフレンドに教わってサーフィンを始めた。
定年退職をしたら、妻と二人シルクロードの旅に出たいとも思っている。
陶芸もやりたいね。
人生、まだまだこれから一花咲かせるつもりだ。

私のご主人様は、私に向かってそんな妄想をぶつぶつ呟いている。
6畳一間のアパート。安酒と交通整理のバイトの毎日。唯一の希望はロト6のクセに。
私は猫。いいから早く猫缶あけてくれ。

次「坂道」「バス停」「相談」
485名無し物書き@推敲中?:05/02/09 20:15:53
「坂道」「バス停」「相談」

 放課後、帰り道で級友に声を掛けられた。以前から密かに憧れていた女の子だった。彼女
とはこれまで親しく話しをする機会などほとんどなかったのに、いったい何だろう。ギアチェンジ
する心臓の音が、身体の内側で響いた。いっしょに、校門から続く長い坂道をゆっくりと下って
いく。隣で自転車を押す彼女は、なにやら躊躇しているようだった。さっきから先の続かない
「あのね」ばかりを何度も繰り返している。夕日に照らされたその頬は仄かに朱に染まっていた。
相談事でもあるのだろうか。それとも──膨らむ薔薇色の期待は、なかなか収まってはくれなかった。
 やがて、話が進まないままバス停に着いてしまった。次のバスまではまだ時間がある。
仕方なくベンチに腰を下ろした。彼女も隣に座る。「それで、何?」「うん……あのねー」彼女は
意を決したようにこちらを見つめた。視線が交錯する。いやがおうにも緊張が高まった。
「実はね、わたし、山本君のことが好きなんだ」「それでね、出来れば貴方にも協力して欲しいなー
って思ったんだけど」……ピンクな妄想の彩度が急激に失われていった。代わりに、綿菓子の
ような白い靄に意識を占領された。山本とは、私の幼馴染の名前である。なんて、馬鹿だったんだろう。
 いつまでも返事のない私に、彼女は「……駄目、かな」と細い眉をよせて訊いてきた。私は
精一杯の強がりで微笑み、なんとか、答えた。「わかった、応援する。うまくいくといいね」「よかったー」
彼女は喜色満面といった表情を浮かべた。「ありがとうねー、ヒロミ。それでさぁ、山本君って─」
彼女が問いかけてくる、うまく理解できない、適当に相槌を打つ。北風が目尻を拭った。バスは、まだ来ない。

次「リップ」「チャンス」「黒猫」
486名無し物書き@推敲中?:05/02/09 21:00:41
「リップ」「チャンス」「黒猫」

何度告白しようか迷った。だが、出来なかった。
黒猫が俺のアパートに迷い込んで住み着き、それを探していた彼女に一目惚れした。
チャンスが無かった、と言うのは言い訳だ。自分が小心で口下手だからだ。
それを友人に相談すると、一本のリップクリームをくれた。
何でも、どこぞの国のマジナイが掛かった品で、これをつければ唇の滑りが良くなり、スラスラと言葉が出てくるらしい。
ただし、一つ条件が有ると言っていた。それは、本当にしゃべりたい最初の一言を言うまで口を開いてはいけない。
なんとも胡散臭い品だった。外観も、普通にそこら辺の薬局に売っているモノと変わりない。
だが、俺はそれに賭けてみることにした。無いよりはマシ。何かのきっかけになれば良い。
そして、俺は彼女を呼び出して告白することにした。喫茶店に呼び出すのは前日成功した。
一張羅に着替えて俺はリップクリームを唇に塗り、口を閉じた。クリームはポケットに入れる。
部屋を出てすぐ、大家さんが挨拶してきた。いつもは挨拶を返すが、会釈ですませる。
喫茶店までの途中、何度も口を開きそうになったが、その度に注意を思い出す。
そして、無事喫茶店に辿り着き、彼女の前に腰を下ろした。
口を開こうとして愕然とした。そして、ポケットの中を確認して、泣きたくなった。
ポケットの中に入っていたのは……俺のリップに塗られたのは「超強力スティック!!」と書かれた、スティックのりだった。

次の方「夜」「日本刀」「延髄チョップ」
487菊龍:05/02/10 00:07:24
「夜」「日本刀」「延髄チョップ」

暗い廊下を感覚を研ぎ澄ませて彼は歩いていた。
この学校のどこかには今、得体の知れない何かがいるはずだ。
彼のガールフレンドを、どこかに消したしまった何かが。
息を殺し、足音を消し、風のように、相手に気付かれないように。
牛歩のように闇の中を歩く。
瞬間、彼の頬に液体が触れた。
「うわあああぁぁぁぁ!!」
叫び、錯乱しながら護身用に家の蔵から持ち出した日本刀を我武者羅に振り回す。
その時、素早く廊下の影から駆け寄る者がいた。
「うぐっ……!」
鈍器で殴るような音ともに彼は崩れ落ちる。
「……ふぃ〜。とりあえず俺様の延髄チョップで眠ってもらったぜ」
深夜なのにサングラスをかけた長身の男が闇の中に話しかける。
「乱暴なのは、よくないと思います。」
暗闇の中から現れたのは、小柄な女性だった。
「ま、厄介事はプロに任せておけってことだ」
男は廊下の奥に目をやると、その中にうっすらと蠢く物を見つけた。
「………来ます。援護します」
「いや、お前は下がってろ。そこの彼女を食われた少年とな」
小柄な女性は、こくりと無言で頷いた。

次!「マラカス」「触手」「二丁拳銃」
488名無し物書き@推敲中?:05/02/10 01:43:10
「マラカス」「触手」「二丁拳銃」

 [告訴状]    
被告人 「二丁拳銃のヤス」こと毒島ヤス男 39歳 住所不定
右の者、平成17年2月9日午前0時30分頃、東京都新宿区二丁目の路上で飲食店店員の男性に対し
「マラカス練習の音がうるさい」などと因縁をつけ殴打したうえ現金2万円を奪い、さらに股間に触手を伸ばし
散々弄んだあげくに「店で見るよりブスじゃねーか」などど暴言を吐いたものである。

次「趣味」「すごい!」「人間なんて」
489名無し物書き@推敲中?:05/02/10 23:56:49
「趣味」「すごい!」「人間なんて」

幾度、紙が投げ捨てられただろうか。
貴重な森林を削り、作られたこの紙は捨てられるためにあるのだろうか。
もしそうだとしたら、運命とは酷なものだ・・・
そんなどうでもいいような考えすら生まれてくる。
僕はものを書くのが好きだ。
しかし、今まで趣味の域を出ることはなかった。
ただ、物語を考え、書くことが好きだった。
今はただ、文芸部の奴らを見返すために文字を書いている。
それまであまり人に見せたことのなかった文章は、そいつらによって辱められた。
自分たちは何も作り出すこともできないのにも関わらず。
一通り、部員の作品は目を通させてもらった。
あまりにも酷く、お世辞でも面白いとはいえないようなシロモノだった。
そんな奴らに、確かに自分の作品も大したものではないかもしれないが、侮辱されたのだ。
なにが悪いとか、どうしたほうがいい等といったアドバイスなど与えるわけでもなく。
ただ駄目だ、と。
文章を書く。見返すために。
何か賞のひとつでも取ったならあいつらは「すごい!」と掌を返したようにバカみたく賞賛するだろう。
人間なんて、そんなものだ。
金に弱い。名誉に弱い。権力に弱い。そんな生き物だ。
文字を書く。ただひたすらに。
幾枚もの紙を犠牲にして。
アイデアを捻り出す。出来うる限り。
差し迫る締め切りと戦う。
動機は不純かもしれない。ただ、やる気を出させてくれたことだけは彼らに感謝しなければならないかもしれない。
今はただ、物語を綴るのみ。
負けるわけにはいかないから。

次は「ブレイクダンス」、「駅」、「自転車」でどうぞ〜。
490名無し物書き@推敲中?:05/02/11 00:25:30
彼の趣味は他人とは少し毛色の違ったものだった。
いわゆる魔術というものを研究する事。それが彼の唯一の趣味なのだ。
その原因は少年時代のある体験にまで遡る。
一緒に遊んでいた友達とも別れて、一人帰り道を歩いているとき、彼は殺人を目撃する。
逆光で影絵のように見えたそのシルエットは、モズの早贄を連想させる。
その犠牲者は巨大な爪で串刺しにされていたのだ。
大の大人を串刺しにして、なお余るほどの爪を持ったもの。
影は面倒そうに腕を振るってに、既に息の無い男を地面に叩きつける。
泣いて逃げるのが普通なのだろうが、そのときの彼はそれをしなかった。
「すごい……!」
替わりに出てきたのは感嘆の言葉。
「ほう、人間なんて皆同じ反応をするもだと思っていたがな」
影はそれだけ呟き、興味を失ったように彼から視線をはずした。
そして、黒い霧のようなものになって霧散していったのだ。
そのときから、彼は普通の生活を止めた。ただ、あの影が何者であるのか。
それに関連のありそうなことを調べる毎日が続くようになった。
そして今も、彼の研究は続いている。

# 次は489さんのお題でどうぞ
491名無し物書き@推敲中?:05/02/11 01:15:55
駅前の違法駐輪にはほんとうに辟易させられる。
その日も僕は駅から出ることができなくて困っていた。
車椅子のスロープを自転車が塞いでいて、通れないのだ。
夕陽をバックに立ちはだかる自転車はモンスターのように見えた。
でも、そこに勇者が現れた。
彼はにっこり笑って僕の肩をたたくと、踊り始めた。いわゆるブレイクダンスってやつだ。
彼はアクロバティックに手足を振り回しながら、モンスターに向かっていった。
モンスターは勇者には敵わない。
手足がヤツらに当たるとまるで紙のように吹き飛んでいく。
そのまま彼はモンスター退治を続けて、ついには一匹残らず倒してしまった。
彼はもう一度僕に向かって微笑むと、回転しながら薄墨色の空へ消えていった。

次は「いわし雲」「演劇」「トラック」
492菊龍:05/02/11 01:55:38
「いわし雲」「演劇」「トラック」

今日は文化祭。
空にはいわし雲が広がり、その奥にある青空と太陽は僕達に声援を送ってくれているかのようにすがすがしかった。
午前中はあっと言う間に終わり、僕はこれからこの学園祭の名物のリレーに出る。
その名も「文化部対抗リレー」。
文化祭ゆえに、文化部という訳がわからない理由で僕達演劇部は走らされるのだ。
しかも、この文化部対抗リレーは各部独自のパフォーマンスによって観客を笑わせる事を競うのだが、その結果によって次の年の部費も決まってしまうというはちゃめちゃな物だった。
「よーい、どん!」
無闇に元気なチアガール声によっていっせいにスタートする文化部達。
僕達演劇部は演劇をしながらトラックを一周する。
「ロミオーーー!」
「ジュリエーーーーーット!」
ちなみに僕がロミオ役。ジュリエット役の女の子の前をひたすら走り続けるだけだ。
ここで発声することにより観客の笑いを誘う戦法だ。
ふと横を見るとパソコン部がすさまじいスピードで走っている。
光、ADSL、ISDNと背中に貼って、それぞれが別々のスピードで走っているのだ。
しかしその光の上をいくスピードがあった。
その背中には「無線」と書かれている。
一瞬目を疑ったが、よく見るとそれはアマチュア無線部だった。

「一般相対性理論」「釈尊」「ジル・ド・レ」
493名無し物書き@推敲中?:05/02/11 10:47:10
「先生!テーマが大きすぎて書けません!」
「喝!良く知らない事柄でも断片的な知識の寄せ集めで書くのがプロというものじゃ!」
「でも先生。お題に固有名詞は避けるというお約束は・・・」
「えーい、うるさい!ここまで確信犯的に出してくる以上492には何か狙いがあるのじゃ」ビシッ!バシッ!
「あ、痛い。何するんですか!やめてください」
「まだまだ〜次は三角定規の角攻撃はどうじゃ、おりゃ」
「イ、イタタ、先生、よだれ出てます。今の先生は釈尊よりジル・ド・レに近い気が…」
「やかましい!それを言うならきちんと一般相対性理論でワシの位置を説明してみろ!」
「あの、どうせ書けないならこんなレスしないほうが…」
「うむ…」
「そういうことで、お題は継続でお願いします」
494名無し物書き@推敲中?:05/02/11 11:05:20
「一般相対性理論」「釈尊」「ジル・ド・レ」

私には最早一刻の猶予もなかった。
いささかの余裕はあるものの、確実に限界は忍び寄ってくる。
普段ならばこんなことになるはずもなかった。
何故、今日に限ってどこも空いていないのか?
会社でも、駅でも、挙句の果てはコンビニでも無理だったのである。
これは誰かの陰謀なのか?
そう思わざるを得ないほどであった。
どこかで粘り強く待ち続ければこうはならなかっただろうか。
もう神も仏もなかった。釈尊なんて糞食らえだ。
少しでも時間の流れを止めたかった。
一般相対性理論によると、そうするには高速で移動しなければならない。
今の私は、光の速さすら越えたい気分だったが。
家まであと少し。
駅の近くに家を買わなかった自分を、この時ばかりは呪った。
家は、最後の望みであった。この時間であれば、恐らく大丈夫であろう。
ドアを開き、鍵をかける間もなく一目散に駆け込む。
そして、辿り着く寸前に愕然とした。
パジャマ姿の我が息子がまさに入ろうとするところを見てしまったからであった。
そう、トイレに。
それを止めることもできなかった。
無常にも「ガチャリ」と施錠の音が聞こえる。
ドアの前で立ちすくむ。
ただ断罪を待つ、ジル・ド・レのように―

次「引力」」「ウエハース」「エンジン」
495名無し物書き@推敲中?:05/02/11 15:09:36
「引力」「ウエハース」「エンジン」

「人生はウエハースの間に挟まれたクリームみたいなものね」
そう言って彼女は物憂げにアイスティーをかき回した。
都心のホテルのプールサイドには僕達の他に人影もなく、人工的な椰子の木が静かに揺れていた。
水面で反射した太陽の光が、彼女の横顔をキラキラと輝かせていて、それを僕は美しいと思った。
「子供の頃にはあんなに魅力的に思えたのに。慈しむように舐めている時間は、本当に幸せだったのに……」

彼女はその先何を言おうとしていたのだろう。あのとき上空を飛行機が横切らなければ、
ボーイング747のジェット・エンジンの音が彼女の口を塞がなければ、僕にも何か出来たのだろうか?
デッキチェアから立ちあがった彼女はそのままホテルの屋上へと向かい引力に身をゆだねた。

次「バレンタイン」「汚い」「計画」

496名無し物書き@推敲中?:05/02/11 21:29:58
ほんとはわかってる。
わかってるんだってば!!

準備はできてる、計画も順調。
まだまだつたない子供だけど、このくらい汚いことはできるの!!
野望は大きく、予算は小さく。
学校の帰りにコンビニに寄るのは禁止だけど、スーパーは誰もとがめないのよね。
あえて家とは反対方向の、でも友達の家の近くの行ったことのあるスーパーに寄る。
ぐるりとまわって、普通のようにバレンタインコーナーでチョコレートを購入!!
ジャージの入った鞄にビニール袋ごと詰め込んで、さぁ、決戦はおうち。

かぎを開けましょ、かぎを閉めましょ。
靴はいつもと同じ、放りだして。
そーっと、おとうさんの目覚まし時計の裏にかばんから出した一番かわいかったラッピングの箱をひとつ。

そして足音ひそめてまた出て行く。
お母さんは五時を過ぎなきゃ帰ってこない、お父さんはみんなが寝てから帰ってくる。


これできっと、来年には私には兄弟ができるはず!!



ちょっとお子様な感じで。
次「踊ろう」「都」「さぁ」
もうすぐ、この世界は終わる。
この一年で地球は突如姿を現した「蟲」によって脆くも瓦解した。
かつて世界の先端を走ってきたアメリカも、ヨーロッパももはや見る影はなくなっている。
恐らく、生存者はごくわずかだろう。
人間が蟲達に対抗する術は全くなかった。
核兵器ですら、何の役にも立たなかったのである。ただ被弾点の周辺に破滅をもたらしただけだ。
もし、蟲を駆除できたとしても汚染が酷くてどうしようもないだろう。
中国の状況から見て、数日もしない内に蟲達はこの島国に辿り着くだろう。
逃げ道は、無い。
そういえば先進国のお偉いさん方の中には宇宙に逃げた人もいるようだが、どうするのだろうか?
地球には戻れないし、火星も今だ人の住める環境ではない。
ただ、食料か酸素が切れるそのときまで彷徨い続けるのだろうか。
まぁ、どうでもいい話だが。
街では人それぞれ、最後の時を迎える準備をしている。
「さぁさぁ皆さんご一緒に」
僕は英雄でもないし、マンガの主人公みたいな凄い能力を持っているわけでもない。
「さぁさぁ皆さんご一緒に」
最後くらいは明るく死にたい。
「歌おう 踊ろう」
同じような考えを持つ人は少なくない。だから今日も街の一角でお祭騒ぎが行われる。
「歌え!踊れ!」
君と一緒に。皆と一緒に。
「遅かれ早かれ人は死ぬのだから」
リズムに合わせて人々が踊り、歌い、あるいは叫ぶ。
「楽しまなければ人生損だ!」
僕も踊る。君も歌う。皆が笑う。
僕たちの最後の都で。
「祭りも今日でお開きだ!」
遠くから破滅の鳴き声が聴こえる。
「さぁさぁ皆さんご一緒に さぁさぁ皆さんご一緒に……」

次「祈り」「暇つぶし」「生真面目」
 俺の同級生に飛び抜けて生真面目な男がいるんだ。今日は彼のことについて話してみようか。
えーとそうだなあ、とりあえず彼のことはKと呼ぼうか。Kは自動車販売会社に勤めている。
だけど嘘をつけない性格のために成績は良くない。自分の扱っている自動車の欠点を洗いざらい客に喋ってしまうんだよ。ははは。
そりゃあ完璧に仕上がってる車はないさ。長所に客の目を向けていかないと売れないのにさ、このご時世。
でも彼は車が好きだからそんなことしてるんだろう。それはそれで満足してるんだろうさ。

 そんな性格だから当然恋人なんかいなくて、休日は暇つぶしのため一人でドライブをして過ごしている。
外で遊ぶっていったってKは生真面目な男、遊ぶって事を知らない。ガイドブックを片手に神社に参りに出かけているんだ。
初めはKもKなりに仕事の事を悩んで祈願に出掛けているのかなと思ったけど違うんだよ。そんな願をかけに行っちゃあいない。
Kは恋人がほしい、彼女を助手席に乗せて車を走らせたい、そう境内の前で祈りを捧げていると俺の繰り返す詰問に辟易してとうとう明かしてくれた。
ははは、俺もしつこい男だ。やつにとって仕事は趣味だからどうでもよかったんだよ。

 当然俺は美容院へいけ、ブティックで金を使え、合コンに顔を出してみろと誘ってやったけど全然だめ。Kはそれは私には向いてない、緊張して疲れてしまうと断るんだよ。ははは。
で、相変わらず神社に祈りに出かけてる。やれやれ一生恋人なんてできないだろうと俺はあきれていた。と、そしたら昨日のこと。Kが今付き合っている人がいると人を紹介してきた。
驚いて会ってみると綺麗な黒髪で肌が白く美人だった。祈りは通じるものなのか、とさらに驚愕していろいろ聞いてみたら納得したよ。彼女の職業は巫女だってさ。

つぎは「音楽」「豊か」「席替え」でよろしくね☆
499名無し物書き@推敲中?:05/02/12 23:31:53
 放課後、僕は音楽部の部室へ行く。
 もう冬が近い、授業は終わり、既に西の空は茜色に染まリ始めていた。
 渡り廊下を歩くと、練習室からバイオリンの音が聞こえてきた。
 防音設備が中途半端なため、少しばかり音が漏れるのだ。
 だれかな、と思いながら歩みを進める。
 音は次第にはっきり聞こえるようになり、僕はその音色に惹きこまれていった。
 豊かな表現だな…。ふと、そう思う。
 美しい、澄み切った音色、これは…。
 一抹の寂しさを感じ、目の下におかしな感覚を覚える。拭ってみると、何時の間にか涙を流していた。
 涙を拭って、練習室の小さな覗き窓を見る。
 そこでバイオリンを弾いていたのは、自分のクラスの女子だった。
 いつも教室の隅でぼーっとしている子だ。別段気になっていた子でもなかった。
 世の中、解らんものだな。気にも留めていなかった女の子が、僕に涙を流させる。

 「なぁ、俺ピアノやってるんだ。今度一緒に演らないか?」
 久しぶりに音楽に涙を流した次の日、奇跡的に席変えで隣同士になった彼女に、思い切って言ってみた。
 その奇跡が、何か意味のあるように思えたからだ。
 「メンデルスゾーンは知ってるかしら、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲」
 「知らないな、でも、練習するよ」
 「じゃあ、明日楽譜を持ってくるわ」
 と、彼女は微笑みながら言った。

 ↓「アルカイダ」「H&K」「アメリカ」
俺は軍ヲタが嫌いだ。ファミレスの奥のボックスシートでメガネをかけた
デブの3人組が大声で騒いでいる。聞きたくもないが甲高い大声で叫んで
いるので嫌でも耳に入ってくる。その中の一人がアメリカ陸軍払い下げと
思しき緑色の大きなバッグから、アルカイダの工作員か武器商人のごとく
テーブルの上にピストルを並べ始めた。その異様さに店内の雰囲気が妙な
感じになってきた。「S&W」、「H&K」荷造り用のタグを括り付けら
れた武器の山に恐怖を感じた俺は店を出た。

次「電話」「通報」「逮捕」
501sou:05/02/13 20:07:49
電話 通報 逮捕

年代物の調度品が並べられたホテルの一室。
そこに茫然と立ち尽くす男が一人。
足元には豚のように太った男が二人、血だまりの中、
静かに横たわっている。
男にとっては幾度となく見てきた光景だったが、慣れるということはなかった。
ふと窓際に置かれた電話のベルが鳴る。
男は歩み寄り、黒革の手袋で包まれた手で受話器を取った。
「ご苦労。これで例の法案は廃案に持ち込めるだろう。
同志よ、革命の日は近い。さあ、通報される前にその場を去りたまえ」
フィルターのかかったような、くぐもった声が告げる。
だが男は何も答えない。
「どうした、同志よ。何をしている。君が逮捕されるようなことがあれば、
我々は多大な労力を払って、君を始末せねばならなくなる。それは避けたい」
聞こえる声は、明らかに焦りを含んでいる。
男はさらに間を置いてから、静かに語りだした。
「……違う。こんなことで俺の望む国は創れはしない。
屍の上に築く世界は、その代償に見合ったものでなければならないはずだ。
お前達に俺を導くことはできない。俺の命は己の信念のみに捧げる」
「我々に牙を向けるということか? 君も理解しているはずだ。
どれほど力を持った個人とて、権力の前では無力に等しいと……」
そこまで聞いて、耳障りだと言わんばかりに男は荒く受話器を置いた。
部屋を去る男。その顔は強固な意志と覚悟を湛えていた。
しかし数時間後、その顔は血の気の失せた青白い死人のものになっていた。
巨大な力に抗い、理想を求める者の末路とは、いつの時代も同じなのだろう。
502sou:05/02/13 20:10:19
「唇」「微かな震え」「忘れない」でどうぞ
電話口から聞こえる声は、年の染みた男の声だった。
男は冷静に質問を投げかける。
名前は何か。
住所はどこか。
それから……あの人の事について少々。
僕は、自身が恐ろしくなる程単調に答えていた。
手が不思議と震える。頭から、それこそ比喩抜きで血の気が引いた様な感覚でいた。

やがて電話は切れる。男は最後まで冷静だった。
受話器を置いて一息つく。しかし、安堵許されない。
これから家にはお客が来るのだから、その支度をしなければならない。
「さて…」
ゆっくりと踵を返す。部屋には鉄分を含んだ匂いが立ち込める。
「ねぇ、もうすぐここにお客さんが来るんだ。最初になんて言えば良いと思う?」
彼女の頬に触れる。愛しい人。とても奇麗な人。
「本当に奇麗だ。僕の贈った真っ赤なドレスが、良く似合う」
彼女の髪を撫でる。やわらかな、茶色。
でも、いつの間にメッシュを入れたの?
いいよ。似合うよ。今度教えてね、鮮やかに赤を出す方法を。
「僕も、お揃いの赤い服を着たいな」
そう言って、自らの腹部に、喉に、刃物の後を付けた。
これはほんの少しの賭け。
あの人達が持ってくる逮捕状を受け取れば、僕の勝ち。

いらっしゃい。
通報したのはこの僕です。



次「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」よろしくお願いします。
504503:05/02/13 20:37:31
ごめん。推敲してたら被った。
私のは忘れて下さい。
505菊龍:05/02/14 19:08:53
「唇」「微かな震え」「忘れない」

彼女が振り返る。
「じゃあ、ここでお別れ」
彼女はいつあふれ出してもおかしくないほどの涙を溜めて言った。
「ほら、止まってないではやく行ってよ」
彼女からは今にも崩れ落ちてしまいそうな危うさを感じる。
その危うさは、彼女に残された時間が長くはないということを嫌でも感じさせた。
「はやく行ってってばぁっ!」
彼女は眼を合わそうとしない。
彼女の肩へ手を回し、そのまま抱きしめる。
「………………。」
無言で強く抱きしめ、彼女の唇にそっと口付をした。
口を離すと、微かな震えを抱きながらも彼女はやっとこちらを見てくれた。
「………忘れない」
例え彼女とはもう二度と会えなくても。
例え死を暗示する残酷な言い方でも。
「お前がいなくなっても、絶対に忘れない」
そう言って、強く、強く。
彼女が潰れてしまうんじゃないかと思う程強く。
その華奢な体を抱きしめた。

次は「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」〜
506妻梨 香華 召人:05/02/14 21:12:15
「妻梨……それ、君の名前?」
「変な名前だといいたいんだろ?」
香華は頷いた。
「召人て名前も変だよね」
召人は自信のなさそうな声で、香華に訊いた。
「うん。変な名前だよ」
美しい名前を持った香華が笑った。


「オマンコ」「あ、ずっぽり」「ぐっちょりたっぷりと」

507名無し物書き@推敲中?:05/02/14 22:33:58
506?
「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」

世界一辛い唐辛子はハバネロ種だそうだが、
辛いといえば僕の彼女も相当辛い。

今日はバレンタインデー。
仕事は定時で切り上げて、彼女は僕のところへ来た。
「はい」と言って、カバンの中から取り出したのは発砲スチロールの大きな箱。
保冷剤と一緒に入っていたのはチョコレート、ではなくて蟹だった。
「男がぐちゃぐちゃ甘いものを食べてると、性格まで甘くなる!」
そう言う彼女が用意してくれたのは蟹チゲだった。
地獄のように赤いスープの中でぐつぐつと煮えている蟹。
日頃から色々と手厳しい彼女は、今日も「甘い甘い。それじゃ世間は認めない」
と僕にたくさんのダメ出しをする。
辛い料理と辛いご意見。
それでも「ほら、蟹のハサミってハートみたい!」なんてはしゃぐ彼女を見ると
(これはこれで幸せかもしれないな)と思う。
本当は甘いもの大好きなんだがな…

「催眠術」「再生紙」「サイボーグ」
508名無し物書き@推敲中?:05/02/15 01:46:30
催眠術 再生紙 サイボーグ

目やにも残る目で食べられそうなものを台所から発掘し、反対側の座布団をどけてこたつにもぐりこみ、邪魔なものをどけてシーチキンの缶を開ける。
いつ買ったか覚えていない食パンにシーチキンをはさめ、マヨネーズを波状にししょうゆを少々垂らす。
二つにたたむと、シーチキンが少しあふれたがこたつ布団で手をふきつつも食べる。
「買い物でも、行こうか」
「いいよ、どこいこっか」
「んー……あれ、ユニクロあるとこ」
コンビニ以外の名前が相方から出たことに驚いたが、それは食パンに隠した。
「ん、あそこに雑貨屋あったじゃん。アロマオイルでも買おうかと」
驚いた顔で相方の顔を見返す。
「眠れなくてさぁ。肌もぼろぼろ、こんなんじゃ、バイトの面接にも行けないよ」
お互い交互にシャワーを浴び身支度をし、放置していたゴミたちをそれぞれまとめ
途中のゴミ捨て場に行く。
「さすがにあのババァも昼間はいないか。ゴミ場取締りサイボーグめ」
両手に下げたゴミ袋をどすっと放り投げる。
「ロボコップとババアボーグ、どっちがいい?」
「シュワちゃん」
笑いながら、煙草に火をつけるもののフィルター側に火をつけてしまい、舌打ちをしながら新しいものに火をつける。
「つか、分別してるなら、こんなにゴミ溜めないっつの」
「でも、あのババァとかにはさ、再生紙にできるだけゴミのほうがうちらよかいいんだろうね」
「いや、ゴミは家賃払わないぞ」
「ん、だねぇ」
きっと、お互いを必要とする人はいないんだろう。
再生されることは叶わない。けれど、催眠術を使うサイボーグが雑貨屋で買えるなら一緒に行くくらい、その程度には
互いを必要としてるんだ。
家賃を払ったり、一緒に買い物したり、誰かに少しでも関わっている限り僕らは生きていく。
必ずいてほしい、なんて望まないから。それでも、生きていく。

「手を伸ばして」「差し込んだ夜」「探してよ」
509名無し物書き@推敲中?:05/02/15 02:52:08
 ねぇ、探してよ。私はいつも、君のそばにいるから。
 急速に、意識が夢を飲み込んでいく。
 瞼の上に手を当て、現実に戻った事を確認する。
 なんだ、あの夢は。もう十年も前の事なのに、顔まではっきりしてた。
 十年前、病気で死んだ美咲だ。
 そばにいるって、なんだよ。お前から居なくなったんだろ?
 何処を探せばいい。
 探せば蘇るのか、お前は…。
 気づけば、手には濡れた感触があった。
 
 何分か、何十分か。どれだけの間、目の上に手を当てて、間から暗闇を見ていたか解らない。
 だけど、脳が妙に覚醒してしまって、まったく眠れそうにない事は解った。
 ふと、彼女のことを思う。
 ―そういえば、あいつは妙に夜空が好きだった。
 寝袋を持ってバスに乗り、山奥まで行って、望遠鏡で一緒に空を見た。
 そして、あいつは決まって、宇宙の広大さと星空の美しさについて語るのだった。
 ああ、そうか。
 俺は手を伸ばして、ベッドの横のカーテンを捲った。
 隙間から、新月の夜の黒が差し込む。
 何故か窓は開いていて、空は満天の星空だった。

↓「赤玉」「繁華街」「夜」
510名無し物書き@推敲中?:05/02/15 18:11:45
冬の金曜日の会社帰りに繁華街をふらふらと歩いていた。
家に帰っても誰も待つわけでもないし一杯飲んで帰ろうと思った。
赤い提灯のない横丁にあるいつもの居酒屋に入る。
「いらっしゃい」とおやじさんがいつもと変わらぬ快活な調子で叫ぶ。
「焼酎のお湯割りちょうだい」と言ってカウンターに座った。
おやじさんはお湯割りを出しながら、
「今日は珍しい赤玉が手に入ったんだ」と言ってくしゃっと笑った。
赤玉とは卵のことだろうかと思ったけれども、
別に珍しいということもないので、
「何だい。赤玉って?」と聞いた。
親父さんは「赤玉は赤玉だよ」と言って、鋭い目を光らせて私の顔を覗き込んだ。
「知ってるんだろう?」
「いや、知らないよ」と言って焼酎を飲む。
「またまた、今更照れなくても」とまたわからないことを言うので、
「照れているわけじゃないんだよ。本当に知らないんだ」と言った。
「あんた、どうしちまったんだい?」とおやじさんは目を見開いている。
「あんた、あんたじゃないだろ」
おやじさんは恐ろしいといった様子で後ずさった。
「何言ってるんだよ。おれはおれじゃないか」と言ったとき、
自分の声が違っていて驚いた。
そうして自分の着ている服も趣味と合わないのに気がついた。
「どうしたんだおれは」とトイレの鏡を覗いてみると、
まったく知らない男が映っていた。

511510:05/02/15 18:13:28
お代忘れ
「犬」「金縛り」「チョコレート」
512名無し物書き@推敲中?:05/02/15 22:02:17
「犬」「金縛り」「チョコレート」

嫌なものを見てしまった。
二階のベランダで布団を干していると、隣家の犬が庭で震えているのに気がついた。
犬、名前は幸太郎というのだが、それは普段から悲惨な生活を強いられていた。
飼い主は近所でも不気味がられている変人で、
発作的に棒で殴ったり、餌を与えなかったりの虐待行為を繰返していたが
ついには、鳴き声がうるさい、と先日から「電気ショック首輪」を取り付けていた。
以来幸太郎は、吼えるたびにビリビリと流れる電流ですっかり萎縮して、生気なく横になっていることが多かった。
今日目にしたのは、その幸太郎に向かって隣人が小石を投げている所だったのだ。
哀れな犬は鎖につながれているため逃げるに逃げられず、反射的に吼えようとするとビリビリ電気がくるので
尻尾を丸めて小さくうずくまる他ないようだった。
私はおもわず目をそむけた。そして何かできることはないだろうかと考えた。
少し落ち着いてからそっと様子を見に行くと、幸太郎は金縛りにでもあっているかのように小刻みに震えていた。
近づいた私を見上げる目はとても哀しい色をしていた。
私は決心し、家に戻ると一日遅れのバレンタインチョケレートを作りはじめた。
農薬をたっぷり入れたチョコレートを。

次「遺言」「キヤッチボール」「記憶」
513名無し物書き@推敲中?:05/02/15 22:14:58
学校から帰る途中、挙動不審な男を見た。
男は背中を丸めるようにしながら、一軒の家の門の中をちらちらと覗いている。
この辺り一帯は閑静な住宅街で、人通りもあまりない。ひょっとしたら空き巣かもしれない。
危険かもしれないと思いつつも、勇気を出して地域の防犯に協力することにした。
「おじさん、なにやってるんですか?」
弾かれたように男が振り向く。おじさんなんて呼んでしまったが、思ったより若い。20代半ばくらいだろうか。
「な、な、な、なんだい、君は。何か、よ、用?」
かなり狼狽しているらしい。まともな言葉になっていない。
ゆっくりと、何をやっていたのかともう一度たずねる。
「ちょ、チョコが犬に取られてしまったんだ。でも僕は犬が苦手で…」
少しは落ち着いてきたようだ。要するに犬からチョコを取り戻せなくて困っていたらしい。
付近住民がパトカーを呼ぶ前に、俺はチョコを取ってやることにした。
幸いにも犬はおとなしい性格で、俺が近づくと裏庭のほうへ去っていってしまった。
ところが、男の言っていたチョコなどどこにもない。困っていると、男が素っ頓狂な声を上げて走ってきた。
「チョコだ、チョコだ! 俺のチョコだ!」
そういいながら、男はさっきの犬がした糞に顔を突っ込んでニコニコ笑っている。
ああ、なるほど。こいつはきっとバレンタインデーの犠牲者なんだ。きっと辛い思いをたくさんしてきたんだ。
そして挙句の果てには精神を病んでしまったのか。なんてかわいそうなヤツなんだ……
そう思いながらも、家の主人が帰ってきてパトカーを呼ぶまで、僕は金縛りにかかったように立ちすくむことしかできなかった。

次のお題はテンプレ通り>>512さんで
514名無し物書き@推敲中?:05/02/15 23:50:51
あなたはあの日と同じ服を着て、同じ顔で私を待っていた。
人気のない公園の、秋晴れた空を行過ぎる風は涼しくて、それでもあなたの少し厚手のジャンパーは少し季節外れだ。
白い額を打つ深い茶の髪が、首筋に一筋張り付いている。大きな鏡のように美しい目が小さく笑う。
それは永遠に忘れることさえないと思った私たちの、最期の記憶そのままだった。
「今日はいい日だねぇ」
小さく言葉を投げられる。女性にしてはいつも低めだな、なんて考えていた柔らかな声だ。
言葉のキャッチボールを上手く投げ返せずにただ目を伏せた。俯きそうになるのをぐっと堪えた。
多分、泣くのを堪えるようなひどい顔をしているだろう。
それでも、あなたはにこにこと笑っている。あのやさしい表情、世界で一番好きだった姉の姿。
できることならこの美しい時間のまま暮らしたかった。生きたかった。
それでも私は涙でぼやけ始める視界を遮るための赤いボタンを力いっぱい押した。

世界が翻る。六畳一間。見守る老いさらばえた夫。私。
遺言はもうなかった。それを叶えてくれた姉ではない人物に、ありがとうを言う力さえも、もう。
私は記憶再現機の赤いボタンに触れながら、目を閉じたまま笑う。
さよならさえも言わずに笑う。


次のお題は「操」「300円」「工事中」でお願いします。
515名無し物書き@推敲中?:05/02/16 00:28:05
朝、学校に行こうとしたらいつも使っている道が工事中のため通行禁止に
なっていた。仕様がないので、迂回路となるガードレール下を通ることにした。
薄暗いし人通りも余りないので正直そこは通りたくないのだが仕方ない。
やはり、人は少ない件のガードレール下。
私は自然と足早に歩いていた。
「そこのあなた!そうボブカットの眼鏡かけたそこの君!」
すると、何やら妖しげな辻占いに声をかけられた。ておうか名指しされた。
「すいません、急いでますので」
無視すればいのに、私は丁寧に詫びを入れて歩き去ろうとした。
すると、その辻占いの人――怪しさ極まりない紫色のフードを目深に被って
はいるがまだ若い女性のようだ。は大声で
「貴女!300円で操失うことになるわよ!分かった!?」
などと大声を張り上げた。うわー周りの人こっち見てるよ恥ずかしい!
私は恥ずかしさの余り駆け足で学校へと向かうことになった。
余計、恥ずかしい行為だというのは分かっているが、こればかりは自分で
もどうしようもない性質なのだ。

昼休みになって、私は財布を忘れてたことに気が付いた。
その事を仲の良い友達に話したら、彼女は満面の笑みで
「いいよ。いいよ。内藤ちゃんは良い子だからねぇ。今日は
あたしがおごっちゃる!」
と気前の良いことを言ってくれた。それで、私が喜んでいると
「た・だ・し・昼食は私と二人っきりで屋上で摂ること〜♪」
と、条件を付けてきたが私は気にしないことにした。
300円でサンドイッチと飲み物を買ってもらった私は・・・・・・
誰もいない屋上で友達の突然の愛の告白と共に・・・・・・
操奪われました・・・・・・私も彼女もことが好きだったから
別にいんだけど、私の操は300円かと思うと・・・悲しくなりました。
516515:05/02/16 00:29:33
書き忘れ。
次のお題「猫」、「百合」、「十字架」
517名無し物書き@推敲中?:05/02/16 12:10:46
「猫」「百合」「十字架」

 喉の奥から絞り出したような声は紛れもなく野良の寅吉のものだった。
満天の夜空に響く猫のだみ声ほど哀れなものはない。軒連なる風景が、廃墟とまでは
いかなくとも家人のいない廃屋といったような、うら寂しさを見せるのは気のせいだろうか。
 先の一声で、そんな他愛ないことを考えたせいか気持ち緊張が和らいだようだ。
 君に出会ったのはいつだったか。何となく草木萌える春を思わせるのは君の影響かもしれない。
容姿は言わずもがな、その声に俺は幾度となく骨を抜かれたことか。色町のメス猫連中の嬌声に
なびきもしなかった昔の俺を思うと可笑しくてたまらなかった。
 愛の告白と洒落込もうか。道すがら切り取った一輪の百合の花をみやげに、君の屋敷に行くところだ。
一歩踏み出すごとに、また不安が頭をもたげるのは仕方がないことなのだろう。
あのチョーカーに光る銀の十字架を見るたびに、言い知れぬ劣等感を感じてしまう。
自分で言うのは気が滅入るが、ごくありふれた風体の俺が惚れるのは筋違いじゃないか。
振られた惨めな俺が、来た道を引き返す姿が薄ぼんやりと浮かんでは消えた。
 いつもと変わらぬ魅惑の君は庭の片隅で涼んでいた。その流れる腰のラインを放っておく男はいない
ことは分かっていたつもりだった。背後の小山がのそっと動くと、寅吉が不細工な声をひとつあげた。
美女と野獣。惚けた頭でつまらないことをポッと思い浮かべて、野獣以下なのか俺は、と欝になった。


次は「じり貧」「天然色」「立役者」で〜。
518名無し物書き@推敲中?
「じり貧」「天然色」「立役者」

彼女の燃えかすが風に吹かれて舞っている。
朝から降り始めた大粒の雪が、私にはそう感じられた。
ハルミちゃんの墓石の前には、昨日の命日に小学校のお友達が供えてくれた花。
彼女が好きだったオレンジ色のガーベラ。
彼女との思い出が脳裏によみがえる。
母親のような優しさで私を守ろうとするハルミちゃん。まだ小さな子供なのに…
天然色の脳味噌で、白い歯を見せてニカッっと笑うハルミちゃん。
どこへ行くのにもついて行きたがる、ちょっとわからずやのハルミちゃん。
あの日、私を追いかけて道路へ飛び出してしまったハルミちゃん。
大人の私がもっと気を付けていてあげればよかったね。
急ブレーキの音が聞こえたとき、思わず立ちすくんでしまって助けに行けなかったんだ。
ようやく気を奮い立たせて君の近くに行ったとき、君はいつもの無邪気な笑顔で何か言おうとしていた。
ポンコツで、気が優しくて、オツムが少し足りないハルミちゃん。
正直、君の将来を考えるとき、私の心は路頭に迷っていた。
やっと生命保険が下りて、じり貧だったウチの経済状況は一転したよ。
パチンコばっかりやっている、このロクでもない父親を、君は救済する立役者になった。
その事を心に刻み付けて、君の分まで生きてゆくよ。

「雑木林」「秘密基地」「全力疾走」