1 :
名無し募集中。。。:
お前らカスですね
,,.ノ)
(;:;;◎・)∋
∋oノハヽヽ
(:;川o・ー・)) クルップ-
とと;:;フ(鳩)フ
.じ``(,,,,,,,)
GMから来ました
ずるいから来ました
5 :
名無し募集中。。。:03/10/30 09:37 ID:H4nW5mUl
おかえり
いつも羊にいます
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このスレは--
高卒でヒキコモリ、20歳で精神病院に入りながら
あらゆる迫害と戦い、ふり向くことなく、基地外としての自己を確立した
>>1の記録である。
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ここで小説書いてもいいですか?
内容は隔離された魔界街と言う異界の小都市で其々の青春を生き抜く
娘達の青春群像です。
じゃあがんがって40まで持って行くよ
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はいどうぞ
――― プロローグ ―――
人口が推定30万人弱の小都市がある。
市名は朝娘市(あさめし)。
関東の中心より北東にある某県の県庁所在地のある市より東方に有る
海に面したこの朝娘市は世界でもっとも有名な街の一つだ。
別名『魔界街』…
日本に有りながら日本の法律が適用できないこの小都市は日本国から…
いや、世界の理(ことわり)から隔世していた。
朝娘市は隣接する市町村…
いや日本とは『奇異な地割れ』によって隔離されている。
その地割れは一辺が20キロメートル程の六角形の形を形成していて
朝娘市を囲むように出来ていた。
地割れの幅は50メートル〜100メートル…
深さは…測定不能…一説には魔界に繋がっているとの噂だ。
そして、隔世のこの街と外界を繋ぐのは一本の橋だけ…
幅50メートルもあるこの橋は最高の強度を誇る最新の技術が使われている。
橋の下側に伸びている十数本の直径数メートルの極太のパイプは、
電気 水道管は勿論、あらゆる生活の為の光回線が伸びており、
日本と魔界街を繋ぐインフラの要となっている。
魔界街への流入は基本的には自由、簡単なチェックがあるだけだ。
しかし、出る時には自由は無い。
橋の外側で待ち構える日本側の自衛隊による厳重なチェックが必要だった。
魔界街へ入ろうとする一台のワゴン車があった。
チェックする自衛官が運転手の顔を見て上司の班長に目配せをする。
運転手は重大な事件を起こした指名手配犯に似ていたからだ。
しかし、首をすくめる班長は車内に武器の類が無い事を確認してから、すんなりと通した。
「班長、今のは…」
何故、あっさりと通行を許可したのか理解できない新入りの隊員に、半笑いの班長は
「放っておけ、猛獣の檻に何も知らないネズミが入るようなもんだ」
タバコをふかしながら新入りのヘルメットをポンと叩いた。
20年前…
芸能プロデューサーとして成功した、つんくという男がいた。
自分の芸能事務所が傾きかけた時、その男はあっさりと事務所を畳んだ。
つんくには野望があった。
日本のトップになる…
政治家として頂点に立つ事がつんくの夢だった。
芸能界での一時期の勢いは、つんくの貪欲な野望に拍車を駆けた。
「あの勢いを…駆け上る快感を永遠に!」
事務所閉鎖時に手元に残った数億円の金は初めての株で数十倍に跳ね上がった。
その泡銭で倒産寸前の製薬会社を買い取った。
子飼いの元アイドル崩れ達を使い、ライバル社の下半身スキャンダルを握り、
契約会社を次々と落とし、使い古した女達はゴミ屑のように捨てた。
関東の、ある田舎村『朝娘村』の中心地に本社ビルを構え
人口2千人弱の村の村長に就任したのは製薬会社起こして2年足らずのこと。
つんくは利益の殆どを村の復興に注ぎ込んだ。
翌年の人口は倍、更にその翌年は3倍に膨れる。
関係会社と下請け会社、その家族を次々と入村させ、
人口10万の市に格上げしたのは、それから5年後の事だった。
市の中心地にそびえる100階建ての超高層本社ビルの社長室から
自分の街を見下ろす市長兼社長のつんくは順調過ぎる自分の人生を
想いながら葉巻を燻(くゆ)らせる。
「ほっほっほ…ワシの言った通りになったじゃろう」
90度以上腰が曲がったしわくちゃな老婆がつんくの横で相好を崩した。
全ての成功の裏には、この老婆の存在が有った。
「あぁ…アンタの言う通りだった…素直にアンタに従った自分自身に感心するよ」
窓の外を眺めながら、つんくは次の計画への実行段階に入る事を決意した。
あの日…
芸能事務所が傾きかけた時…
自棄酒を浴びて酩酊しながら入った風変わりな店が、その後のつんくの人生を変えた。
『魔法堂』と書かれたその店を、酒で濁った頭の つんくは変わった飲み屋だと思った。
淀んだ空気のその店は、壁一面に異様な仮面や人形が掛けられ、
カウンターには見たことも無い変わった形の酒瓶が並んでいる。
酔いのせいか、空間も歪んで見えた。
「なんやぁ?けったいな店やな…まあええわ、ママァいっちゃん高い酒頼むわ」
カウンターに座りママを見た つんくの顔がギョっとする。
「…アンタその年で仕事して大丈夫か?」
年齢さえ定かではない黒尽くめの老婆が樫の杖を突いてヨタヨタと店の奥から出てきたからだ。
「ほっほっほ…おぬし、ようこの店を見つけたのぅ」
つんくの心配を他所に老婆はニンマリと笑う。
「…はぁ?」
「ここは人生の慇懃(いんぎん)に疲れ、迷い、苦しみ、酩酊した者が訪れる
虚ろな理が巣食う魔店じゃよ…」
「………??」
何を言ってるのか意味が分からない つんくはポカンと口を開けたままだ。
ヒッヒッヒと笑う老婆は、つんくに紫色の液体が入った小さなグラスを差し出した。
「まぁ飲みなしゃい…酔い止めの魔酒じゃよ」
「………」
グラスを一気に飲み干した つんくの酔いは完全に醒めた。
「この店は年に1人か2人しか客が来なくてのぅ…
まぁ一般人には見え難いようになっておるんだがのぅ」
「………」
「来た客には夢と引き換えに人生を賭けて貰っておる…
今まで成功した奴はおらんがのぅ、ヒッヒッヒ…」
「……そ、そうですか…じゃ」
そう言って席を立って手を振り出ようとする つんく。
「待ちんしゃい」
コツンと杖が鳴った。
恐る恐る振り返る つんくの目の前に10p程の黒い球状の空間が有った。
「魔界に繋がる空間じゃ…手を突っ込み抜けたら おぬしの願いは叶う」
「…ハハ…抜けなかったら…?」
老婆はニヤリと笑って答えなかった。
有り得ない…
そう思いつつも、目の前に黒い球状の空間が有るのも事実だ。
「さっき飲んだ魔酒は魔を惹きつける…
ほっほっほ、もう後には戻れんのじゃよ」
確かに、引き返そうと思えば出来る。
だが…何故かその選択は考えられなくなっていた。
もう、潰れそうな人生だ…
どうなってもいい…
つんくは空間に右手を入れて瞬時に抜き取った。
「うわぁぁあああぁぁああ!!!」
抜いた右手には黒い液状の蠢く物体が絡み付いていて
プツプツと湧き出る数え切れない小さな目が つんくを見ていた。
「ひぃ!…あぐぁ!」
その奇異な生き物は開いた つんくの口に入り消えた。
卒倒した つんくが気付くと目の前に老婆の顔が有った。
「ほっほっほ、魔を体内に入れた人間は久しぶりに見たぞぃ
普通はあのまま魔空間に引き擦り込まれて終わりじゃ」
「……ど、どうなんだ?…俺はどうなるんだ?」
つんくは老婆の細い肩を揺さぶった。
「じゃから言ったろうに…夢が叶うって…
それにはワシのアドバイスが必要になるがのぅ」
「………」
「…この地に来て50年…ようやくワシも、この店を畳むことが出来るわい…」
「……」
「ワシの名前はマジョユウコ…齢200歳の婆じゃ…日本では中沢裕子と名乗っとるわぃ」
「…俺は…つんくだ…」
「ほっほっほ、けったいな名前じゃのぅ…まあええわ、さあ立ちぃ」
しわくちゃな老婆の手が つんくに差し出された…
朝娘市がすっぽりと入る市の外郭に6本のタワーが建設された。
高さ50メートルにもなる三角錐の建築物は市の中心地にそびえる
『ハロー製薬』本社ビルを中心に六方に均等に広がり巨大な六角形を形成していた。
市民には観光目的の記念碑と説明し理解を求めた つんく市長に反対意見が出るはずも無く
あっさりと市議会を通過して市の予算で建設されたのだ。
2年の突貫工事で建設されたタワーは異様な佇まいを醸し出している。
「ついにこの時が来たようじゃな…」
深夜の社長室の中心に六角形の紋様を書き六個の蝋燭を立てたマジョユウコは
樫の杖をその中心に突き立てた。
「もうじき午前2時じゃ…」
壁掛け時計に目をやり、つんくを見た老婆は笑っていた。
「この六芒星の中心に魔空間を出現させれば、この街は魔界と通じる…」
魔空間と聞いて つんくは、あの時のおぞましい出来事が脳裏を過ぎった。
「…俺の野望は本当に叶うのか?」
「ひっひっひ、思いのままじゃ!おぬしの…そしてワシの願いもじゃ!」
「アンタの願い…?…聞いてないぞ」
少し怪訝そうな つんく…
「ほっほっほ…おぬしに比べれば他愛も無い願いじゃ…」
「……やってくれ…」
僅かな沈黙の後、重苦しそうに呟く。
----俺はマジョユウコの手足になっていただけなのかもしれない----
微かな疑念がつんくの頭を過ぎったが、ここまで来ては引き返すことは出来ない。
「ほっほっほ…」
突き立てた樫の杖の丸い瘤がボウと青く光りだす。
「いくぞぃ…」
何やら呪文を唱える老婆の目が光りだす。
「キェェエエエェエエ!!」
叫ぶと共に青い光の中心に黒い空間が浮かび出てきた。
----ブン----
世界が黒くなった…
「停電か!」
社長室の窓から外を見ると街全体が黒く塗り潰されている。
「な、なんだ!アレは!?」
街を取り巻く六個のタワーが青白く光り振動し、自ら放電していた。
その青白い炎は、まっすぐにこの巨大ビルに伸びてくる…
----ブォン----
マジョユウコが描いた六芒星が青く光り始める…
瞬間、異様な雄叫びが室内に響いた。
いや、朝娘市全体に響き渡った。
それは、人の物では無い…
地の底から湧き上がる無数の魔声の集合体だ。
----ドン!----
邪声が収まると同時に、ソレは来た…
「うわぁぁああ!!」
バリバリと耳を引き裂くような雷鳴と共に つんくは宙を舞う。
巨大地震が朝娘市を覆ったのだ。
ゴゴゴゴと鳴り響く地震の音は地中を蠢く魔界からの咆哮に聞こえた。
「マ、マジョユゥゥウコォオオ!!どうなってるんだぁぁぁあ!!」
「…ヒャハハハ…」
ガラガラと崩れる壁に紛れて魔女の哄笑が木霊する。
「き、貴様ぁぁああ!!知ってたなぁ!こうなる事を知ってた…!!!」
魔震とも呼べるその激震は一瞬とも永遠とも感じた。
気を失った つんくが気付いたのは割れた窓から朝日が差し込んで顔を照らしてからだった。
「……」
朦朧(もうろう)とする つんくの耳に初めて聞く声が届いた。
「おや、ようやく気が付いたかい?」
「…?…誰だ?…お前…」
「この服…分かんない?」
「…!!」
杖を持った黒マントと黒服…
妖艶な微笑みを湛える美女はマジョユウコだった。
「…お前…」
「あんたのお陰で若さを手に入れたよ」
齢200歳を越える老女の目的は永遠の若さだった。
其の為だけに魔術を学び研鑽し、巨大なエネルギーを呼び込む生贄を探した。
数年の内に巨大な資産と名誉を創り上げた つんくは、言わば魔術の為の人柱だったのだ。
「魔界のエネルギーは私に永遠の若さを与えたのよ!」
キャハハハハと笑う魔女を恨めし気に見る つんく。
「き…きさま…」
「フフ、あんたの街は崩壊したよ…見てごらん」
「……!!!」
つんくの目が驚愕のソレに変わる…
「…う…うがぁぁぁああぁぁぁぁああああ!!!」
ヨタヨタと立ち上がり壊れた窓に手を掛けた つんくは絶望の絶叫を上げた。
あちこちに火の手が上がる街はサイレンの音も無く静まり返り、
無残な残骸だけが残った廃墟の街に変貌していたのだ。
「さて…」
マジョユウコは杖に跨るとヒョイと窓から飛んだ。
「もう、アンタも、この街にも用は無いわ、強力な魔力も戻ったしね」
手を振って飛んで、高笑いを上げながら空の彼方へ消えていく魔女を呆然と見送りながら、
つんくはガックリと膝を突き、魔女の真意を見抜けなかった自分を呪った…
朝娘市は完全に外部から遮断された…
六芒星のタワーの外周は巨大な地割れによって隣接する市町村と別れ
朝娘市を完全な陸の孤島に化したのだ。
携帯も通じず、ヘリコプターも朝娘市に入れなかった。
地割れの上空に入ると機械類…エンジンが止まったのだ。
何台ものヘリコプターが地割れに飲み込まれ、行方が分からなくなった。
何よりも心配されたのは市民への被害だったが、
地割れにより遮断された50メートル足らずの向こう側は
底の見えない地割れより湧き出てるとしか思えない、
空気の歪みにより望遠鏡でも見えない状況なのだ。
あらゆる手を尽くしたが不可思議な力によって全ての救助活動は失敗に終わり、
朝娘市への救助は諦めざるを得なかった。
外部と朝娘市の接触は日本側から頑丈な橋を掛けるまで2年もの時間を有した。
街の人口は2/3まで減っていたが市民は自分達の手である程度まで街を復興させていた。
しかし…
時間がかかると思われていた復興は、ある企業によって急速に回復し
急カーブを描くように発展し、5年後には人口30万とも言われる小都市にまでなった。
『ハロー製薬』
つんくの企業は死んではいなかったのだ。
癌の特効薬を開発したのを皮切りに
次々と新薬を造り、発表する開発能力は世界でもこの企業だけだ。
その秘密は、次第に明らかになる『魔界街』に巣食う魑魅魍魎の類…
新発見の植物、生物…それらから抽出される物質が新薬開発の源だったのだ。
橋を渡してから1年後…
政府は朝娘市に対して隔離政策を取る事になる。
無断で持ち出される、それらの動植物が通常の人間界に牙を剥き出す
究極のバイオハザードの原因だと明らかになったのからだ。
朝娘市内では殆ど無害な動植物は
街を離れると、途端に凶暴な毒性を撒き散らす…
ある町は朝娘市から持ち帰った植物が噴出す謎のガスにより伝染病の蔓延で死の町になり、
ある市では獣人と思しき人間による大量殺人で数十人にも上る犠牲者がでた。
自衛隊が出動したその事件は朝娘市から観光で帰った人間が変異した姿だった事が後で分かり、
警官だけで対応しようとした警察庁長官が責任を取って辞職する騒動にもなった。
朝娘市からの出入りを厳重にチェックしだした政府は
この街が日本の法律さえ適用出来ない事を悟った。
朝娘市は日本から完全に隔離された、治外法権の特別都市に指定されたのだ。
そして、何時しか朝娘市は『魔界街』と呼ばれるようになる…
その『魔界街』…朝娘市の市長兼国会議員は つんく…
朝娘市独自の法律を制定し、自ら全ての権力を手中に収め、
不死身の復活を果たした この男は、
世界一の製薬企業『ハロー製薬』の社長兼会長になっていた…
――― 1話 不安 ―――
窓から見える空には名前も知らない鳥が羽ばたいて遠くに消えていく…
自分もあのように飛べたら、どんなにいい事だろう…
そうしたら、今、ここから羽ばたいて逃げれるのに…
逃げる…?
どこから…?
逃げられる事など出来ない事はとっくに分かっている…
でも…
飛んでみたい…
空を思いっきり飛んで、何もかも忘れたい…
そうしたら…
きっと…
車のフロントガラスから朝娘市の中心にそびえる『ハロー製薬』本社ビルが遠くに見える…
3月下旬の春の陽気に包まれていながらも、
魔界街の外側からは街並みが陽炎のように歪んで見えるのは、
地割れから湧き出る妖気の為だと皆が言う。
セダンの後部座席に乗る安部なつみは運転席の父親と助手席の母親を交互に見詰めた。
2人とも談笑し、和やかだ…
「見えてきたな…」
「噂通りの外観ねぇ…」
安部はハ〜と不安のため息をつく。
「どうした?なつみ…不安か?」
「…う、うん…ねぇ、やっぱり北海道に帰ろうよ」
「何言ってるの、お父さんは仕事なのよ」
「そうだぞ、しかも栄転だぞ、なつみも最初は喜んでたじゃないか」
「……」
『ハロー製薬』北海道支社に勤める父親は、薬の開発能力を認められ
部長待遇で本社勤務を命じられたのだ。
ハロー製薬本社勤務…
観光では人気が有るが、そこに住むとなると話が違う、
皆が忌み嫌う魔界街勤務を喜ぶのには理由が有る。
それは、地方支社と本社勤務では給与に雲泥の差があり、
日本の法律が及ばないこの土地では、様々な優遇措置を得られるのも大きい。
この栄転話しに乗らない手は無かった。
「…心配するなって、我が社の社宅は魔界街でも最高級のセキュリティレベルだ
変な怪物がいたって襲われる事はないよ」
「ハハハ…怪物って…」
「もう、お姉ちゃん心配しすぎ!」
何度かめのため息をつく なつみに妹の麻美が呆れる。
なつみが高校3年生、麻美は高校1年生の春である。
魔都へと繋がる橋が見えてきた。
「ずいぶんと広い橋だねぇ」
「朝娘市に繋がるのはこの橋一本だからな」
朝娘橋と名付けられてるこの橋は幅50メートル6車線の巨大橋である。
外界から魔界街に入る車線が一本に対して魔界街から出る車線は4本も有った。
しかし、その4本の車線は全て渋滞している。
危険な街と分かってはいても、怖い物見たさの観光客は後が絶えず、
帰りの橋の出口での、自衛隊による物々しい厳重なチェックに何時間も待たされようが
この街への観光ツアーは絶大的な大人気を誇っているのだ。
そして、もう一本の車線は『ハロー製薬』専用の車線だ。
こちらは魔都に入るのが簡単なチェックで済まされるのと同様に
出るのもチェックが簡単な手続きだけで済まされた。
『ハロー製薬』は絶対的に優遇されているのだ。
一般車に交ざり魔界街に入る安倍家のセダン。
「ねぇお父さん、なんでハロー製薬専用の道で行かないの?」
麻美の質問に父親は笑って答える。
「あぁ、あの道は専用車じゃないと駄目なんだよ」
「じゃあ、私達も出るときは、向こうの道の渋滞に巻き込まれなきゃ駄目なの?」
「まぁ、この車じゃそうだろうな、でも会社の車を使えば専用車線を使えるから
そんなに心配するな…って麻美はもう出る事を考えてるのか?」
「い、いや、ほら東京も近いし、休みの日には東京に遊びに行きたいなぁって…」
ヘヘヘと笑う麻美と、ハハハと笑う両親…
安倍なつみは、窓の外に流れて見える眼下の地割れを ぼんやりと眺めていた…
本当に何処まで深いのか分からない、魔震で出来た地割れの溝は
政府の調査団が数人の死亡者を出した為に諦めた事で、
謎のまま有耶無耶(うやむや)になっているのだ。
車の後ろの窓から空を見る、安倍なつみの表情は重い…
鳥達は魔界街には入らず、旋回して引き返していく…
あの街に入ったら出られない事を知っているかのように…
この橋を渡りきったら、もう2度と此方側には帰って来れない…
安倍なつみは、重い瞼をそっと閉じて、なんとなく そう思った…
――― 2話 吉沢と石川 ―――
「ふう、今日も良い湯だったぜ」
ゴシゴシとタオルで頭を拭きながら自分の部屋への階段を上がる。
「さてと…」
洗いざしの髪をバサバサと頭を振って右手で掻き上げ、
自分の部屋の机の引き出しに隠してあるタバコを取り出し、
窓枠に腰かけ、夜空を眺めながら一服するのが吉沢ひとみの寝る前の日課だった。
「ありゃ!今日は満月か…」
空は星が煌き、煌々と夜景を照らす月明かりが心地良い…
だが、吉沢は恐る恐る、パジャマの上から自分の胸を触ってみた。
「…やっぱり…なんか風呂に入ってる時モゾモゾしたんだよなぁ…」
自分の胸の膨らみを確かめて吉沢ひとみは明日の新学期の制服をセーラー服にするか
それとも、何時も通りの学ランにするか少し悩んだ。
吉沢の通う高校『私立ハロー女子高』は明日から新学年(3年生)の新学期を迎える。
「やっぱり、学ランにするか…」
一人勝手に頷くが、パジャマの首の部分を引っ張り、中を覗いて ため息をつく。
こんな体になったのは何時ぐらいからか…
思い出して、少し顔を赤らめた…
子供の頃から男勝りだった吉沢は何時も男子とばかり遊んでいた。
男子に混ざって、女子のスカートめくりをしてゲラゲラ笑っていた少女だった。
そんな吉沢も小学校を卒業する頃には、丸みを帯びた体型になり
男子にからかわれて、泣いて帰った事もあった。
女の子の体形のまま男子と遊ぶのが急に恥ずかしくなり
中学は女子大までエスカレーター式の私立の女子中学を選んだ。
そして当たり前の事だが、中二の二学期を迎える頃、少し遅い初潮を迎えた。
どんな作用が有ったのかは、勿論知る由も無い、病院にも行ってないからだが、
行ったところで治る訳でもないし、治す気も無い…
ましてや病院なんか「あっそう…で?」で済ますような街だ…
ここは『魔界街』なのだ。
生理はその初潮一回きりだ。
次からは無くなった。
徐々にではあるが男性器が生え、喉仏が出て、体もごつくなった。
「ハハハハハ…」
何故か笑いがこみ上げてきた。
「しゃあないだろ、なってしまった物はなってしまったんだから」
最初、親は泣いて神を呪ったが、吉沢はあっけらかんとした物だ…
その姿を見て両親も諦めがついたのか、男の子が出来たと今は喜んでいる。
そんな性格の吉沢ひとみ…
性別など、別にどうでも良かったし…どちらかと言えばこっちの方が面白そうだ。
同級生の反応を想像してニンマリしたり、悩んだり…
懊悩を繰り返し、出した答え…
暫くの間、隠して通学するつもりだった…が…直ぐにバレた。
「な、なに?よっすぃ!ソ…ソレは!?」
体育の時間にクラスメートの石川梨華が吉沢のブルマの股間の膨らみを
目敏く見つけ指を刺して叫んだのだ。
「わぁ!バ、バカ!ち、違うんだよ!コレは!」
何が違うのか分からないが、吉沢の嘘は石川が股間を握って完全にバレた。
「痛ッテェ!バカ!何すんだ!」
「…ゲェ!なに?本物?」
「うるせー…!!…って、お、お前等…」
吉沢の顔が蒼くなる…
クラスメート達が興味津々な顔つきで吉沢の股間ににじり寄って来たからだ。
「わぁぁああ!止めろぉぉおお!」
吉沢は男の体力で股間を触ろうと近づくクラスメート達を薙ぎ倒した。
ハァハァと息を切らして対峙する、一人の男と股間の膨らみを狙う女達の間抜けな光景は
体育の教師が怒鳴り散らして納まった。
職員室に呼ばれ、事情を聞かれたが
吉沢の処遇をどうするか教師達も決めかねず、結局暫く様子を見る事で落ち着いた。
数ヵ月後…
自分でも何故かは知らないが、月に数日間 女に戻る事が分かった。
女の体を担任に見せて…職員会議で出た結論は、学校に居ても問題無しとの事だった。
退学させられるのではと思っていた吉沢には、
少し拍子抜けだったが、ホッとしたと言うのが本当の気持ちだ…
吉沢はこの学校とクラスメート達が好きだったのだ。
満月の夜から数日間 女に戻ると分かったのは、高校に進学してからの事だ。
ぼんやりと満月の夜空を眺めていると、月に吸い込まれそうな…不思議な気持ちになる。
「よっすぃ…」
呼ばれて、声のする方を見ると月明かりに照らされた石川梨華が
路地にポツンと佇み、此方に向かって手を振っている。
「なんだ、オマエか…」
ピッと火の点いたタバコを石川に投げつけて吉沢はニッと笑った。
「わぁ!危ないなぁ、もう!」
「ハハ、待ってろ、今行くよ」
Tシャツとジーンズに着替えて、ベッドの下に隠してたスニーカーを履き
二階の自室の窓から跳び下りる。
「おいおい、いったい何時だと思ってるんだ?もう11時過ぎてるぞ」
頭を掻き毟りながら面倒臭そうに石川の存在を突き放しつつも、
吉沢は満更でもなさそうだ。
「へへ、会いたくなったんだもん」
そう言いながら石川は腕を組んでくる。
「ぁあ゙、もう離せよ!暑苦しい」
「いいじゃん…ってアレ?」
吉沢の胸の膨らみを見て石川は空を見上げた。
「なぁんだ、今日は満月か…ちぇ」
腕を離して頬を膨らませて、プイと唇を尖らせる。
「…オマエ、俺が女だと分かると、えらく態度が悪くなるな…なんだよ『ちぇ』って」
「だってぇ…」
石川は腕を後ろに組んで不満タラタラだ。
「あのなぁ、俺はオマエと付き合ってる訳でも、何でもないんだぜ…
そりゃまぁ、そのなんだ…弾みでキスぐらいはした事あるけどよ…」
吉沢はポリポリと鼻の頭を掻いて、少し照れた。
「私はその先に進みたいの!」
「ハハハ…って、ハァ?」
「いいじゃん!」
吉沢は呆れて空を見上げた。
「オマエ…アレだ」
「何よ?」
「ほれ…」
吉沢は満月を指差した。
「だから何よ?」
「満月は女を変えるって言うからな…」
「……?」
「サカリがついたんだろ?」
「…!!…よ〜っすぃ!!」
怒る石川に笑顔の吉沢…
石川はドキリとした。
吉沢の瞳に吸い込まれそうになった…
「バ〜カ、冗談だよ、ほら 送るから素直に帰ろうぜ」
「…う、うん」
「なんだぁ?急に しおらしくなって…変な奴だなぁ」
「…うん…変なの…」
スッと吉沢の腕に自分の腕を絡めて身を寄せる…
「わぁ!だから腕を組むなって!」
「いいじゃん…」
「……勝手にしろ!」
「勝手にするもん…」
「……」
月明かりに照らされる2人の影は恋人同士そのものに見えた…
「おいおい、可愛いらしいお嬢ちゃんが2人、こんな夜中に出歩いてちゃイケナイねぇ」
ビルの物陰から吉沢と石川に声をかける男の声。
無視する2人を物陰から出てきた男が呼び止める。
「待てや!娘っ子共!」
振り向く吉沢の声は気だるい。
「何の用?」
「ここは魔界街だぜ、こんな時間に俺達に呼び止められたらどうなるか…
答えは分かっているだろう?」
男は2人…見るからに悪人面の痩せ男とチビだ。
ダラリとポケットに突っ込んだ吉沢の右手の指がピクピクと動く。
(使うか…アレを…)
だが、こんな『魔界街を知らない』チンピラに『アレ』使うのもバカバカしい…
「ご、強姦でもするの?」
石川は怯えた振りをして吉沢の後ろに隠れて、背中にピッタリと身を寄せた。
(強姦って、コイツ…)
業とらしい石川の演技に、吉沢は苦笑する。
「…うん?」
吉沢は男達の足元を見て ある物に気付き、 腰に両手を置いて、
(駄目だこりゃ…ご愁傷様)と溜め息混じりに首を左右に振った。
「ねぇ…アンタ達、市外から来た人間かい?」
呆れついでに 分かってはいるが、一応聞いてみる。
「ハァ?何言ってんだ?」
立場を分かっていないのはお前達だ、と言わんばかりに歪んだ笑みを漏らす痩せ男。
吉沢は少しイラついた…その醜い笑いが癪(しゃく)に触った。
「だから、市外から来たのかって聞いてるの…これでも丁寧に聞いてるんだよ、答えな!」
「そんな事に答える義理は無えなぁ!」
「フ…」
「何が可笑しい!」
踏み出そうとする男に、右手を上げて制した吉沢は侮蔑の笑みだ。
「人間の心理かねぇ…恥ずかしさからなのか、舐められるのが嫌なのか…
市外から来た人間は大概 答えないんだよねぇ」
上げた右手が男たちの足元を指差す。
「見てみな…」
「…!!…な、なんだこりゃ!」
男たちの両足は足首が見えなくなる程、コールタール状の物体がネットリと絡み付いてる。
「ハハ、今頃気付いたのかい?名前は知らないが、皆 黒アメーバて呼んでるよ」
「う、うわぁ!うわ!」
ビルの陰から伸びている黒アメーバは男達を引きずり込もうと
膝までコールタール状のネバネバが絡みついている。
---パンパンパン---
男が懐から取り出した拳銃がアメーバに向かって火を噴く…
だが、効く筈も無くアメーバは男達の体を飲み込んでいく。
「わぁぁぁああ!!た、助けてくれ!!」
「知らないね…」
「そ、そんな…」
ブクンと飲み込まれた男達はそのまま物陰に引き擦り込まれて消えた。
「…いくらココがA地区(治安が良い地区)だと解かってても、
こんな時間に何の知識も無く、ビルの陰に隠れている奴はこの街では生きていけないよ」
タバコを取り出して咥える吉沢は、ビルの壁でマッチを擦り火を点けた。
「よっすぃ!格好いい!いよっ男前!!」
石川はパンと吉沢の尻を叩いてケラケラ笑った。
「バカ、ちゃかすなよ…それに俺は何もしてないぜ」
フウと紫煙を吐き出し、サラリとこんな台詞を言うところがまた、石川の心をくすぐる。
「フフ‥格好いい」
石川はマジマジと吉沢の顔を見詰めた。
「……ハハ‥ハ」
吉沢は半笑いだ。
「でも、コイツ等 銃使っちゃったね」
しょうがない連中だなぁと言うように石川は車列の少ない道路を
手をかざして何かを探すように眺めた。
「……あぁ」
吉沢は フゥとため息をついた。
現場から逃げるのも面倒だ…どうせ見付かり追いかけられる…
だったら、待ってる方が楽だ。
「来た…」
パトカーのサイレンが聞こえてきた…
実は魔界街は案外 治安は良い方なのだ。
その理由は絶対的武力を誇る朝娘市の警察組織にある。
許可の無い者の銃火器の所持 発砲は御法度、見つかれば射殺されても文句は言えない。
市民権を持つ者だけが朝娘市警察の許可の上で
自衛の為の所持が許されているのだ。
自由に入れるこの街だが、市民権を得るのは難しい。
いや、条件をクリアすれば難しくは無いが…
この街に入る人間は観光客以外、なんらかの理由が有る人間が殆どだからだ。
警察での指紋摂取、犯罪暦の有無、病暦、等が徹底的に調べられ、
住居の確保とソコを引っ越す場合の3年間の届出の義務…等々…
市外から来る「訳有り人間」が警察での調査など耐えられる筈が無い。
故に市民権を得るのが難しいのだ。
パトロール中の朝娘市警察の新人警官、後藤真希のパトカーに装備されている
高性能レーダーが発砲音を確認した。
『娘通り**−*番地の○×ビル付近から銃声を探知しました』
レーダーのスピーカーから聞こえる無機質な音声を切り、
ハンドルを回し急発進で現場に向かった。
新入りと言っても『魔界街』の警官は訓練の結果、殆どの銃火器を使いこなし、
武術も有る程度まで達していないと採用されない。
後藤真希は、若干18歳ながら殆どの試験をトップクラスで通過した
今年度最高の期待の新人だった。
後藤が現場に到着すると2人の少女が佇んでいた。
パトカーを降りた後藤の両手には自動小銃が握られている。
「手を上げて、頭の上で組んで」
言われた通りにする吉沢と石川。
「…高校生か?IDカードは?」
「家に忘れた…」
「あっ、私持ってます」
石川のポーチからIDカードを取り出して確認する後藤…
どうやら本物のようだ。
「ハロー女子高の生徒か…お嬢様なんだな」
「へへへ…」
石川はペロリと舌を出して愛想笑いだ。
「ふむ、じゃあ事情を説明して」
手を下ろさせて事情を聞く。
「市外から来た2人組みに襲われそうになった…それだけだよ」
首を竦める吉沢は全く悪びれてない。
「銃声は?」
「アメーバに向かってアイツ等が撃った」
「…ふーん、で?」
「ソイツ等は黒アメーバに襲われて、そのビルの陰に…」
吉沢は顎をしゃくってビルの陰を指した。
「アレか…チッ、やっかいなんだよなぁ、あの生き物は…」
聞かなきゃ良かったと後藤は少し後悔した…
成績トップの新人でも、嫌なものは嫌だ。
しかし、どのような理由であれ、人間を襲った生物は殺さなければいけない。
「ふぅ…分かった、お前等はもう帰っていいぞ…気をつけてな」
そっけなく立ち去る2人の女子高生を見送り、
後藤はパトカーから本署に連絡を取ってから、
助手席に並べられた武器類から火炎放射器を選び出し肩にかけた。
「チッ、つれない連中だぜ…」
本署からの返事は、取り合えず応援に行くが
それまでに処理しておけ、と言うものだった。
キュっと生物耐性の革ジャンのチャックを首まで締めて
ヘルメットを被り、後藤はビルの谷間に消えた…
取り合えず、一気にココまでUPしてみました。
小説の題名は考えてなかった、考えても良い案が出なかったので『魔界街』そのままにします。
>>21-40おお!ありがとうございます。
更新お疲れです
もうね、のっけから面白そうな展開
今後どんな風に話が続いていくのか楽しみです
他のスレ回ったら「HN募集中。。。」って名前の作者さんがいた…
知らずとは言え、失礼な事をしてしまった。
全然別人です、申し訳ない。
次回にはHN考えておきます。
>>79早速レスくれてありがとうございます。
明日もUPするつもりですので待ってて下さい。
小説総合スレでタイトルに惹かれて来てみたらやっぱり「新宿」だ……楽しみ楽しみ。
配役が面白いですね。ブルース系だとさらに嬉しいけど。
――― 3話 出会い ―――
安倍なつみが朝娘市に引越して来て一週間が過ぎた。
過ごしてみて分かった事が有る…
それは当初のオドロオドロしい魔界街の印象と現実は違っていたという事だ。
安倍の住む地区の治安が最高レベルの高級住宅街といった理由もあるが
そこに住む住民は普通に過ごし、変な生き物も見なかった。
そして、何よりも治安が良い事に驚いた。
この街の警官は何時も武装していて街をパトロールしている…
それも数が市外の都市なんかより断然多い。
最初に見かけた時は怖い印象が有ったが
一般住民が普通に過ごす分には、これほど頼もしい存在もなかった。
安倍は段々この街が好きになってきていた。
そして、今日は『私立ハロー女子高』の転入の日だ。
新調した真新しいセーラー服に身を包んだ安倍に
担任の石井リカは廊下で待つように言い残し、教室に消えた…
安倍の心臓はドキドキし始めた。
3年B組の表札を見ながら、どんな挨拶を言うつもりだったかを
思い出そうとしたが完全に忘れていた。
安倍の緊張は頂点に達していたのだ。
「あわわわ…どうしよう、どうしよう…」
オロオロし始めた所に石井から入るように言われ、恐る々教室に足を踏み入れた。
30名程の視線が安倍に突き刺さり、安倍の体は硬直してカチカチになった。
「ほら、なにやってるの?挨拶しなさい」
「は、はぃ!」
石井に促されてもピンと硬直した体は元に戻らない。
「え…え‥と‥あの…そ、その…」
「もぅ!…一回、深呼吸しなさい」
「は、はひ!」」
安倍は落ち着こうと深呼吸をする…その数、1回、2回、3回、4回…
教室からクスクスと笑う声がチラホラと漏れる…
5回、6回、7回…
「貴女、何時までやるつもり!」
石井に尻をペンと叩かれ我に返った。
「…!は、はい」
少し落ち着いた…
「あ…っと、初めまして、安倍なつみと言います…北海道から来たべさ」
ペコリと頭を下げる。
「べさ…って…」
「か〜わいい」
クスクスとまた失笑が漏れる…
安倍は昨日考えた挨拶を思い出して、滞(とどこう)りなく話した…
が、話しながら教室内のクラスメートをさり気無く見ていて、
奇妙な光景に目を奪われた。
奇妙と言っても2人の生徒なのだが…
廊下側の一番後ろの席の生徒と、窓側の一番後ろの席の生徒だ。
廊下側の生徒は「学ラン」を着ていて、安倍の事など興味が無いのか、
腕を組んで目と閉じて寝ているように見える…
(男子…?…何故?)
そして、さっきから安倍を見て、声を出して「うぉお」と感心したり
クスクス笑ったり、「キャハハハ」と声を出して笑ったりする
リアクションの大きい生徒だ…
それはいいとして、安倍が目を丸くしたのは、その生徒の頭の上で子猫が
丸まって寝ているいるからだった。
(なに?なんで頭の上で猫が寝てるの?)
目を白黒させてる安倍に向かって その生徒はニーっと笑って見せた。
「それじゃあ、席は…」
何処にしようかと教室を見渡す石井に向かって
「先生!ココ、ココ!」
と、頭に猫を乗せた生徒は自分の隣の席をバンバン叩いた。
「うん?どうしたの矢口さん、そこ空いてるの…よし、安倍さん、あそこの席に座って」
「はい…」
安倍が席に着くと矢口と呼ばれた猫娘はニンマリと笑って手を差し出してきた。
「オイラ…矢口真里、ヨロシク」
「は、はい」
握手をしながらも安倍の目は猫に釘付けだ。
よく見ると猫は子猫ではない、子猫並みの大きさだが
体型はシャム猫の成獣だ。
猫はチラリと安倍に一瞥を繰れると、欠伸をして頭の上で丸くなった。
「ハハ、コレか?」
矢口は自分の頭の上の猫を指差した。
「…はい」
「この子はオイラの使い魔の『ヤグ』」
「…使い魔?」
「そう、簡単に言えば、何でも言う事を聞くペットみたいなもんだよ…
フフ、私って魔女なんだよねぇ、まだ見習いだけど」
そう言うと矢口はヘヘヘと舌を出しながらニーッと笑った。
「後で、オイラが校内を色々と案内してあげるよ、なぁヤグ?」
「あ、ありがとう」
どういたしましてと、ヤグが「ミャーオ」と鳴いた。
初日の学校は午前中で終わりだった。
転校生が珍しいのか、クラスメート達は安倍の周りに集まり質問攻めにした。
少し困り始めた安倍を見て、矢口が間に入った。
「あ〜!もう、オマイ等、質問しすぎ!安倍さんが困ってるじゃん!
これからオイラが校内を案内するんだから、解散、解散!」
「なによ!」
「なんで矢口が安倍さんを独占する訳?」
「矢口の癖に生意気よ!」
口々に矢口を攻めるが、矢口がロッカーから自分のホウキを取り出すと、皆 口をつぐんだ。
矢口の手に有る そのホウキは、漫画や映画で見た魔女のホウキそのものだ。
「行こう」
安倍の手を取って教室を出る矢口。
「でも…」
「いいの、いいの」
白い目で矢口を見るクラスメート達に向かって小さく手を振って、
安倍は引きずられるように教室を出た。
それでも、ゾロゾロと着いてくる同級生達に矢口はホウキを振った。
魔力なのか、ボウと突風が吹き皆のスカートが捲れる。
「きゃ!」
「矢口!こらっ!」
「キャハハ!逃げるよ!安倍さん!」
「う…うん」
高笑いしながら逃げる矢口と一緒に安倍は走った。
トコトコと前を歩くヤグを道案内役にして、
矢口に校内を説明して貰いながら、安倍は気になっている事を聞いた。
「ねえ矢口さん」
「矢口でいいよ、みんなそう呼んでるから」
「…じゃあ、矢口」
「なんだい?…えっと」
「なっちでいいべさ、北海道ではそう呼ばれてたから」
ニッと笑う安倍の笑顔は天使のように見えた。
同級生達が安倍を囲んでキャーキャー騒ぐのも分かる気がする。
「なっちかぁ、…うん、可愛いな なっち…で、なんだい?」
「クラスにいた、学生服着た人って…?」
「あぁ、よっすぃか…うん、あれは男だよ」
「よっすぃ‥って男の人…?…いいの?ここ女子高だよ」
「いいんじゃないの?女だし…あぁ、本名は吉沢ひとみって言うんだけどな」
「…へ?…女?」
安倍は訳が分からないというふうに目をパチパチと瞬きする。
「フフ‥まぁ、その内、分かるよ」
「…ハハ…」
矢口の意味有り気な含み笑いが怖かった。
そして、もう一つ聞きたい事…
「矢口は何で自分の事を『おいら』って言うの?」
「ウッ…!」
「…?」
「小さい頃からの、口癖なんだ…直したいとは思ってるんだけど…
やっぱり おかしいかな?」
矢口は鼻の頭をポリポリ掻きながら はにかんだ。
安倍はニッコリ笑って首を振る。
「可愛いじゃん、矢口に合ってるよ」
「なっち…」
矢口の瞳が潤み始めた。
「でね、でねっ…」
更に、もう一つ聞きたい事。
「なんで、そんなに優しくするの?」
転校初日だからなのか分からないが、矢口は安倍に対してとても親切だった。
そして、矢口の事が好きになりだした安倍が一番聞きたかった事だ。
「え?」
「なんで?」
少し躊躇するも矢口は嘘がつけない性格なのだろう…
「…いや、私、魔女見習いだからさ…修行してるんだ」
「……?」
「良い事すると、魔力が上がるんだよね…」
ばつが悪そうに語った。
「…ふーん、魔力とやらを上げる為に優しくするの?」
ちょっぴりガッガリそうに言う安倍に矢口は慌てる。
「…あ、いや…違うよ…それは違う」
矢口は直ぐさま 手を振って否定した。
「じゃあ、何…?」
「…友達…」
ポツリと出た。
「え?」
「…いや…その、オイラ親友っていないんだよねぇ
ほら、魔女見習いだし…使い魔 持ってるし…皆、どこかで引くんだよ…」
「…そうなの?」
「心のどこかで怖いって思ってるんだよ」
矢口はポリポリと頭を掻きながら うつむいた。
「……」
「ハハハ…」
なんとなく寂しそうな笑顔。
「ね?そのホウキって飛べるの?」
安倍は業と明るく矢口のホウキを指差した。
「え?」
「魔女なんでしょ?」
矢口の顔を覗き込むようにしてニコリと笑った。
「…いや、まだ全然…今は飛べるようになる為に修行してんだよ」
「…ねぇ、貸して?」
安倍は右手を差し出した。
「うん?」
「そのホウキ、貸して」
矢口は黙ってホウキを手渡した。
「こうして飛ぶんだよね…」
安倍はホウキを跨いで飛ぶ格好をする。
「ねえ、飛ぶときって気合入れるの?」
「…え?」
「どうなの?」
「う‥うん、、まぁ」
「ようし!」
安倍は腕まくりをして、気合いを入れた。
5秒…10秒…20秒…
「ハハハ、無理、無…」
言い掛けた矢口は、次の言葉を飲み込んだ。
安倍の足元の空気が撓(たわ)んだ。
その撓みが渦を巻いて砂を巻き上げる…
フワフワと安倍のスカートを捲り上げた風は数秒の後にスッと消えた。
「う…うっそ〜〜!?」
疲れたのか、膝を付いてハァハァと肩で息をする安部を矢口は目を丸くして見詰めた。
「なっち!凄え!凄えよ!」
「そ、そう?…なんか知らないけど、風が出たみたいだべ…ハハ‥」
矢口は安倍の手を取ってギュッと握った。
その瞳は何かを訴えるようにウルウルと潤んでいる。
「な、何?‥矢口?」
「なっち、一緒に行こう!」
「え?…何処へ?」
「MAHO堂だよ!なっちもオイラと一緒に魔女になるんだよ!」
「え?‥え?…えぇええ!?」
安倍は又しても矢口に引きずられる様にして校門を出た…
今日はここまでです。
>>81 バレましたか…
ブルース系になるのは7話からになります。
あと、HN変えました。
更新乙。
なんか面白そうでつね。楽しみにしてまつ。
おじゃ魔女? ごった煮感覚で先が楽しみ。
>>96ありがとございます
>>97またもやバレた。正にソレです。
更新は明日の夜になります。
――― 4話 魔女見習い ―――
「ありがとうございましたなのです」
ペコリと頭を下げる辻希美は顔を上げるとニッコリと笑って
市外からの観光と思われる家族連れの客を外まで見送る。
小さい女の子にバイバイと手を振って、振り返り見上げる看板には
ポップ調の字体で大きく「MAHO堂」と書かれていた。
魔界街に来る観光客が集まる、比較的安全なこの朝娘市商店街の
一角に陣取るこの店は願いが叶う魔法グッズを売る小物屋だ。
白とピンクを基調とした魔女服を着る辻希美と加護亜衣は
学校が終った放課後と土日を彩るMAHO堂の看板娘なのだ。
「今日はこんなもんちゃうか?」
「もう、飽きてきたのです」
時計を見ると午後3時を過ぎる頃だ。
「おやつの時間なのです」
「よっしゃ、ほな向いのケーキ屋で何か買ってくるわ」
加護がレジを開けて千円札を取り出そうとすると、
後ろから樫の杖がニュッと出て悪戯な手をピシャリと叩いた。
「イタッ!何すんねん!…って…裕子ばあちゃん!」
「阿保か!お前等、店の金に手を出すとは不届きな!」
皺くちゃな顔の齢200歳を越える老婆は魔界街に舞い戻っていた。
「ちょっとくらいええやんけ、ウチ等タダ働きしてんねんから」
「ばかもん!お前等はワシの弟子じゃぞ!見習いの癖に
生意気言うんじゃないわい!」
「ののはケーキが食べたいのです!」
「うちもケーキ!」
「お、お前等…!」
手足をバタつかせてケーキケーキと叫ぶ2人は
こうなってしまったら手が着けられない。
「わ…分ったわい…ただし、一番安い…」
中沢が言う終る前に加護は万札を握って店を跳び出していた…
「一番高いの買いおって…」
恨めし気に睨む中沢を無視して口いっぱいにケーキを
頬ばる2人の魔女見習いは幸せの笑みだ。
「食い終わったらまた店番じゃぞ」
「え〜っ!今日はもう休みにせえへん?」
「ののも疲れたのです」
「お…お前等…」
ワナワナと震える中沢をフンと鼻で笑う加護。
「何言うてん、この店の魔法グッズだってウチ等が半分ぐらい造ってんねんでぇ」
「あいぼん の言う通りなのです」
「ばっかもん!魔法グッズを造るのも修行の一つじゃ!
毎回毎回効き目の無い物ばかり造りおって!
生意気言うんじゃないわい!」
「それがお年を召したお婆ちゃんが孫に対して言う事ですかねぇ…呆れるわ」
「そうなのです、お婆ちゃんは孫にお小遣いを上げるものなのです」
「バ、バ、バ、バ、バッカモーン!お前達は弟子じゃ!
孫でもなんでもないんじゃ!」
ハァハァと息を切らしながら怒鳴る中沢は
何故こんな事になってしまったのかと自分を嘆いた。
魔界街を創り出し、そのパワーで若さを取り戻し
復活した魔力で空を飛び、この魔界街を抜けたのはいいが
魔震で出来た地割れを飛び越えると急激に魔力が落ちた。
飛ぶ事さえままならなくなった中沢は着地して
自分の手を見ると干乾びたようになっている事に気付き愕然とした。
恐る恐る鏡を見て卒倒した。
人生の全てを賭けた魔法は約一時間の夢で終ったのだ。
魔界街に戻ればと思ったが、飛ぶ事も出来ない老魔女は
朝娘橋が出来るまで待つ事になる…
しかし、橋が出来て喜び勇んで戻った街はマジョユーコこと中沢裕子に
対して何も齎(もたら)さなかった…
若さを取り戻したい中沢は魔界街に留まる事を決意し、
新たな「MAHO堂」を開店したのだ。
若い弟子をとり、魔女に仕立て上げて、その魔力によって
若さを取り戻す計画は不出来な魔女見習い達と
中沢自身が抱える「ある迷い」によって遅々として進まない。
今まで数名の弟子を取ったが皆すぐ飽きて辞めてしまい、
残ってるのが、この辻と加護…
そして…
「裕子婆ちゃ〜〜ん!新人連れて来たぞ!」
勢い良くドアを開けて入ってきた矢口真里と
何も分らずキョトンとしてる安倍なつみだった…
「ちょ、ちょっと待ってよ…もう」
矢口に背中を押されて店の裏庭に連れて行かれた。
「こ、これは…」
そこは裏庭と言うには広すぎる空間が有った。
中央に魔法陣が描かれた綺麗に刈り揃えた芝生が心地良い。
「おぬし、魔女になる気が有るのかえ?」
腰の曲がった老婆に唐突に聞かれ、答えに窮する安倍に代わって
矢口が安倍を魔法陣の中央に立たせた。
すると、安倍の体がボウと僅かだが光りだした。
「ほう…オーラの量が違うな…」
目を細める中沢。
「ねっ、裕子婆ちゃん、見込み有るでしょ?」
ニッと歯を見せて笑う矢口と、目を丸くする辻と加護。
「なに?なに?なんなの?この光りは!…矢口ぃ、私まだ決めてないって」
光る自分の両手を見ながらオロオロする安倍。
「いいから、いいから…さ、婆ちゃん、やってやって」
矢口は安倍の困惑を無視して中沢を促す。
「ふむ…決まりじゃな」
老婆は自分の杖を安倍に持たせると何やら呪文を唱えた。
ボウと杖が光りだす…安倍の体と同じ淡いレモン色だ。
「な、なに?なに?なんなのよ〜?」
光が一箇所に凝縮するとソレは六角形の形になる。
「わぁ!」
瞬間、その光は安倍の額に吸い込まれた。
「へ?なに?なに?何が起こったのよ〜?」
その場にペタンと座り込んだ安倍は未だに何が何だか分らないようだ。
「儀式じゃよ…」
「儀式?」
「そうじゃ、ワシの弟子に…魔女になる為の『契約の儀式』をしたんじゃ」
「け、契約!?」
泣きそうな顔の安倍に向かって矢口と辻と加護が
「わぁー」と歓声を上げて、パチパチと拍手で歓迎した。
ヘナヘナと腰が抜けてる安倍に
矢口がMAHO堂のメンバーを紹介する。
「なっち、コイツ等が辻と加護で中学3年生、オイラと同じ魔女見習い、
そして、このお婆ちゃんが魔女の中沢裕子ことマジョユーコ、
みんな裕子婆ちゃんって呼んでるんだよ」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる2人に安倍も半笑いのままペコリと返した。
「さてと、ワシャこれからの事を説明するのは面倒じゃ、
矢口、後は任せたわい」
そう言うと中沢は裏庭に有る変わった形のベンチに腰を下ろした。
「なんと邪推の無い顔なんじゃ…」
安倍のキョトンとした顔を見ながら自然にその言葉が出た。
「…ふ」
目を白黒させる安倍を中心に、車座になって楽しそうに
これからの修行について話す魔女見習い達を見る
中沢の顔からは、自然と笑みが漏れる…
その笑みに自ら気付き、今度は苦笑だ。
この朝娘市をこんなにしたのは自分だ…
何も知らない娘達を魔女に成長させて、その魔力を全て吸収して
若さと魔力を取り戻そうと画策してるのも自分だ…
魔力を全て奪われた娘達が、どうなるのかは中沢は知らない…
知らないが…多分…普通ではいられないだろう…
中沢は溜息をついた。
辻と加護が屈託無くケラケラ笑う姿を見ながら
自分にこの娘達の未来を奪う事が出来るのかと自問した。
答えは、とっくに分かっているのに…
中沢は何時の間にか丸くなった自分に驚きながら、
自分を慕って毎日やってくるこの娘達を好きになっていたのだ。
また一つ、深い溜息をつき、中沢はそっと自分の部屋に消えた。
「安倍さん、見てて下さいなのです」
辻は自分のホウキに跨り精神を統一した。
フワリと浮いた体は5メートル程進んでペタンと着地した。
「今日はこんなもんなのです」
「おお、凄い凄い!」
安倍が手を叩いて喜ぶと、エッヘンと胸を張って得意満面だ。
「ハハ、何が『今日はこんなもんなのです』だよ、
毎日そんなもんじゃねえか」
「矢口さんだって10メートルぐらいしか飛べないのです」
鼻で笑う矢口に向かって辻はプゥと口を尖らせた。
「まぁ、こん中じゃ、ウチが一番 飛ぶんやけどな」
ニカッと笑う加護と への字の辻の頭にはハムスターが乗っている。
『ボンボン』と『マロン』と言う名前の2人の使い魔だ。
「ねぇ、その使い魔って、どうやって持てるようになるの?」
安倍も欲しくなったのだ。
「まぁ、少しでも飛べるようになれば、裕子婆ちゃんから貰えるよ」
「ふうん…どうやって飛ぶの?」
聞く安倍の足元にホウキがフワリと落ちた。
「それはオマエのホウキじゃ」
いつの間にか戻って来た中沢が、拾い上げるよう 安倍に促した。
「…軽い」
手に取ったソレは羽のように軽かった。
「フン、浮力が付くよう魔力を注入してあるからのぅ…乗ってみぃ」
「…うん!」
安倍はホウキに跨った。
「えっと…集中、集中」
2度3度と深呼吸をし、心を静かにホウキに集中すると無意識に飛ぶイメージが浮かんだ。
「…飛べ…」
フワリと浮いた…
そのまま、スウと滑るように前に進み壁にぶつかりそうになって、
慌ててホウキから手を離した。
「うわぁ!」
バランスを崩し、ドサリとホウキから転げ落ちて、
イタタ…と腰を擦りながら皆を見ると、全員目を丸くして口をアングリと開けていた。
「こやつ…背中に翼が生えておる…」
ポツリと中沢が呟いた。
「えっ?えっ?」
安倍は慌てて背中を見たが、そんな物が生えてる訳が無く、
慌てた自分が少し恥ずかしく、ヘヘ‥っと自嘲気味に笑った。
「す、凄え!凄えよ!なっち!やっぱりオイラが見込んだだけあるぜ!」
矢口が飛び掛らんばかりの勢いで抱きついてきた…
「ふむ、合格じゃ…」
中沢は、安倍の好きな動物を聞いてきた。
「パンダ」
即答した安倍にバカモンと一喝して、猫でいいかと問い直す。
「…うん」
中沢は懐から紙と筆を取り出し、中央に五芒星を描き安倍にその中に名前を書くように言った。
「名前…?」
「お前の名前ではないぞ、猫に付けたい名前を書くんじゃ」
安倍は自分の名前の一文字を取って『メロン』と書いた。
中沢はその紙を裏庭の綺麗に刈り揃えてある芝に書かれてある
魔法陣の中央にそっと置いた。
何やら呪文を唱える中沢…
すると、紙はプシューと煙を上げ、その煙が形を成し、白い猫が現れた。
「ソレがお前の使い魔じゃ…名前を呼んでみぃ」
使い魔の正体が紙だと分かって唖然としつつも、安倍は名前を呼んでみた。
「…メロン」
ミャーと鳴いた『メロン』は安倍の足に自分の体を擦り付けて甘えた。
「か、可愛い…」
トントンと安倍の体を駆け上り肩に乗った使い魔は
ヨロシクと言わんばかりに頬をペロペロと舐める。
「ハハ、良かったな、なっち!」
「これで、もうお友達なのです」
「なんか、めっちゃヤル気出てきたでぇ!」
最初は訳の分からなかった安倍は、いつの間にか追い込まれて出来た
今の状況が不幸なのかどうか考える事さえも忘れる程楽しくなり、
魔女見習いとして俄然ヤル気が出てきた。
「うん!ヨロシクね!みんな!」
ニコリと笑う安倍…の目がちょっぴり固まる…
(…アレ?…どうしてこんな事になったんだ?………ま、いっかぁ!)
ホウキを肩に掛けて矢口と共に帰宅した。
夕日に映る豪華なマンションは安倍の父親の勤めるハロー製薬の社宅だ。
「ウワァオ!なっち、こんな所に住んでるんだ、流石ハロー製薬部長だね」
「ハハ…まぁね」
安倍の母親はホウキを担いだ安倍と矢口に少し驚いたようだが、
もう、新しい友達が出来たと喜び、矢口を歓迎して向かい入れた。
自室でカバンに隠れていた「メロン」を解放する。
「だけど、どうしよう…」
勿論、魔女見習いとメロンの事だ。
「まぁ、隠すか、本当の事を打ち明けるか、どっちかだけど…どうする?」
「う〜ん」と考え込む安倍は母親の驚く顔が目に浮かんだ。
「やっぱり…暫く隠しておくしかないね」
そっとメロンの頭を撫でる。
「まぁ、メロンは大丈夫だと思うよ…窓を少し開けておけば勝手に
外に出て適当にやってくるから」
「本当?」
「うん、オイラもそうしてるから、呼べば戻ってくるしね…
でも、今日は抱いて寝てあげたほうがいいね、スキンシップも大事だから」
「うん、そうする」
「あと、魔法グッズだけど…」
矢口はMAHO堂で売る魔法グッズの説明をした。
店で売る小物の半分以上は何処かの問屋から仕入れた物に
中沢が魔力を注入した物だが、それ以外は弟子の矢口達が
作った品を置いている。
矢口が編み物とイラスト、辻と加護は粘土細工を作って売っていた。
物を作る時は使い魔を抱いて念を込めるように集中して作るのがコツとの事だった。
店の番は学校帰りと休みの日にするのだが、
普段は中沢の使い魔の木偶人形(MAHO堂が観光客の人気を呼ぶ
一つの要因である)が店番をしているのだ。
中沢は何枚もの使い魔の式紙を持っていて、必要に応じて使い分けている。
「ふーん…何を作ってもいいんだね」
安倍は矢口の説明を聞いて、作る物を決めた。
「おっ、もう決めたの?」
「うん…この部屋を見てみて」
「…?」
矢口は安倍の部屋を見回して、ある物に目が留まった。
「おお、コレなっちが作ったの?」
「うん」
本棚に飾られているテディベアのヌイグルミを取り出す
矢口の顔は感動のソレだ。
「私はテディベアを作るよ、名付けてナッチベア」
「うん、いいねソレ…あとはホウキで飛ぶ練習だね」
2人で顔を見合わせて、フフフと含み笑いだ。
魔界街に来た当初の不安は、そのまま期待に変わり
ムクムクと膨らんでいく…
空を飛ぶ夢…
叶いそう…
「よっしゃ!みんなでガンバローぜ!!」
「おお!」
安倍の激動の一日は、こうして終わっていった…
今日はココまで。
今回は、なんか抑揚が無い文章で申し訳ない。
イイヨーイイヨー。
気になってたんだけど、
中澤と吉澤の漢字が沢になってるのは何か意味でもあるの?
>>117 し、し、しまったぁぁあああ!!
もう、14話まで書き上げてて全部、中沢と吉沢だ!!
100箇所程直すのか…しんどそうだ…でも、サンクス _| ̄|○
30分掛けて直しました(`・ω・´)
更新そして沢直し乙。
さらにあいののキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
これから出てくるであろう登場人物が楽しみワクワクドキドキ
更新乙!
ちと疑問
>安倍は自分の名前の一文字を取って『メロン』
ってあるけど、『安倍なつみ』のどこをとったの?
いいか、皆。これをよく見てくれ。
『安倍なつみ』
この『なつみ』をローマ字にすると『natsumi』、つまり『安倍natsumi』となる。
ここから『安』と『倍』の一部を消すと『メ、ロ』、
そして『natsumi』のaから後ろを削ると『n』となる。
これを繋げると『メロn』。
そう、この『安倍なつみ』とは『メロン』を表しているんだ!!
>>120 ありがとうございます。そう言って貰えると励みになります。
>>121 うわぁぁぁああ!またやってしまった!混乱させて申し訳ないです。
最初は『ナナ』って名前だったんだけど、
インパクトが薄いなと思って『メロン』にしたんだが… _| ̄|○
↓↓↓↓こちらに訂正します。申し訳ない…アカンな、今度からUPする前に読み直そう…↓↓↓↓
中澤は懐から紙と筆を取り出し、中央に五芒星を描き安倍にその中に名前を書くように言った。
「名前…?」
「お前の名前ではないぞ、猫に付けたい名前を書くんじゃ」
「…うっ、どうしよう どうしよう どうしよう…」
安倍が焦って、書いた名前は『メロン』…
自分の好きな果物が とっさに頭に浮かんだのだ。
まぁ、実際になっちの好きな果物がメロンなのかは分からないけど…
さて、寝ます。次の更新は月曜日の夜になる予定です。
>>122 m9(`Д´)ソレダ!!
ソレにしようw・・・・・・・・ _| ̄|○
「な、なんだってーー!?」のAAが欲しかった… _| ̄|○
楽しく読ませてもらってます。
ハナゲさんがんがって下さい。
ハナゲさんワードとか使うと文字の置換とか一発でできますよ。
――― 5話 キャラメル ―――
夕日の赤に溶けるように消えて行く、小鳥の群れ…
自分もあのように飛べたら、どんなに幸せなんだろう…
そうしたら、今、ここから羽ばたいて、
あの小鳥達と一緒に逃げれるのに…
逃げる…?
どこから…?
逃げられる事など出来ない事はとっくに分かっている…
でも…
飛んでみたい…
空を思いっきり飛んで、何もかも忘れたい…
そうしたら…
きっと…
きっと…
MAHO堂の帰り道、辻は加護と別れて一人で歩いて帰路についた。
街の中心地のハロー製薬の超高層ビルを見上げるのが好きで
たまに遠回りをして、この道を歩く。
「いつか飛び越えるのです…そして展望台にいる人達をビックリさせるのです」
ホウキを握る手にも力が入る。
「うん…?」
ハロー製薬本社ビルの巨大な出入り口から続く扇状に広がる
大きな階段の中腹でチョコンと座り、夕日の空を ただ見詰める
眼鏡と掛けた一人の少女が気になった。
木陰に隠れて、その少女の様子を伺う…
2分…5分…10分…
同じ姿勢のまま身動(みじろ)ぎもせず、ボウと空を見続ける眼鏡少女…
「…う〜〜!」
辻の我慢も限界になった。
「…何をしているのです?」
トコトコと近寄り、堪らず声を掛けた。
「…?」
夕日を遮って自分の前に立つ、ホウキを持ったセーラー服の少女に
声を掛けられて、紺野あさ美は フとその顔を見上げた。
ニコリと微笑む辻に紺野も少し はにかみながらも微笑み返す。
「小鳥…」
「…え?」
「夕日に消える小鳥を見てたの…」
「小鳥…?」
「あのように飛べたらいいなぁって…」
飛ぶと言う言葉を聞いて、辻の耳がピンと立った。
「本当に飛べたらいいのです」
辻は紺野の隣にペタンと座って一緒に空を見上げた。
「…あの?」
「うん?…ののですか?ののは辻希美っていいますです」
別に名前を聞くつもりでは無かったが、名乗られては答えない訳にはいかない。
「あ、私は紺野あさ美っていいます」
「ふうん、じゃあ、あさ美ちゃんだね」
慣れ慣れしい人だなぁと思いつつも紺野は「うん」と頷いた。
「あさ美ちゃんは何年生なのです?」
「はい?」
「ののは中三なのです、市立朝娘中学の三年生なのです」
「あ…私、学校行ってないから…でも、行ってたら私も中三です」
「おお、同い年なのです…でも、なんで学校行かないのです?」
ズカズカと人の心に入り込んで来る
この少女の質問攻めに紺野は少し辟易してきた。
「…病気なのかなぁ」
何故か答えてしまう。
「え?」
「だから、たまにこうして空を見るの…」
半分嘘とも言えない自分の答えに窮して、
辻が早く消えてくれたらと思った。
ふと見ると、辻はポケットに手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
「…あ、有ったのです」
「…?」
「はい」
差し出されたのは銀紙に包まれたキャラメルだった。
「ののは、このヨーグルト味のキャラメルが大好きなのです」
頬に手を当ててモグモグする、辻は満面の笑みだ。
「甘酸っぱいのが広がると幸せな気持ちになるのです」
辻に促されるように、紺野もそのキャラメルを頬張る。
「ね?美味しいでしょう?」
「…うん」
不思議な味だった…
普通のキャラメルなのに、何故かちょっぴり切なくなった…
「のの の、魔法が掛かっているのです」
「…魔法?」
「そうなのです、ののは魔女なのです」
「…ハハ」
何を言い出すのかと、今度は少し可笑しくなった。
「可笑しいですか?」
「…だって、魔女なんて」
「魔女は居るのです」
ニーッとする辻の手にはホウキが握られている。
「…ハハ、それで飛ぶの?」
「う…まだ…飛べないのです」
「…」
今度は紺野が やっぱりね とニーッと笑った。
「でもでもでもでも、絶対飛べる…」
ソコまで言って辻は気付いた。
「あさ美ちゃん、笑顔は可愛いのです」
「…?」
「ののはあさ美ちゃんが寂しそうに見えたのです」
「……」
ああ、それで声を掛けてきたのか と、紺野は思った。
「…変わってるね、辻さんって」
「え〜?ののは変わり者じゃないのです」
不満そうな辻に、紺野の溜息が一つ…
「じゃあ、不思議少女」
「うん、ののは不思議少女なのです」
こっちの表現は気に入ったらしい。
それから、暫く取り留めの無い話しをした…
話すのは辻だけで、紺野はもっぱら聞き役だったが
辻の話す非日常とも思えるエピソードは とても面白く、
物語のような…おとぎ話のようにも聞こえた。
「ですから、その続きが……」
ケラケラと笑いながら話しをする辻の目が、手持ちぶたさからなのか、
紺野のクルクルと指に丸める銀色のキャラメルの包み紙に気付いた。
「その、銀紙を貸して下さいなのです」
「…あ、ごめんなさい」
紺野はキャラメルの包み紙の小さな銀紙を申し訳なさそうに手渡した。
辻の長話しに紺野が飽きてきたと思われた と、思ったのだ。
だが、違うようだ…
「ヘヘヘ、こうして…こうして…」
辻が一生懸命に何かを折り始めたからだ。
「…うん?」
辻の胸ポケットから小さなハムスターが顔だけ出して覗いていた。
「つ、辻さん…それ?」
眼鏡を外して凝視する紺野の視線に気付いた辻は、可愛いでしょと微笑む。
「この子は、のの の使い魔の『マロン』なのです」
「マロン…?」
「だから、ののは魔女だって、さっきから言ってるのです」
そう言いながら出来上がった小さな折り紙を紺野に手渡す。
「…紙飛行機?」
「一緒に飛ばすのです」
辻の手にも同じ物が有った。
「…飛ぶんですか?コレ?」
「へへへ〜」
辻は立ち上がり、笑いながら「行くよ」と紙飛行機を飛ばす。
紺野も吊られて一緒に飛ばした。
「あ…」
キラキラと光りながらフワフワと飛ぶ小さな紙飛行機は
落ちそうになりながらも、自分の意思が有るように持ち直す。
「頑張るのです!」
「…飛んでる」
「へへへ」
「…本当に飛んでる…」
縺(もつ)れる様に飛ぶ2つの紙飛行機…
「もっと飛ぶのです!」
辻が手を広げてピョンピョンと跳ねながら紙飛行機を応援する。
座っていた紺野も立ち上がり、こぶしを握って見守る。
「…頑張れ」
思わず声が出た…
「あぁぁ」
風に煽られて落ちそうになる…
「頑張れぇ!」
「飛べ…飛べ…」
紺野は祈るような気持ちで紙飛行機を応援した。
フラフラと頼り無さ気に飛ぶ
紙飛行機が、自分の分身のように思えたのだ…
飛んで…
小鳥に成れない私の変わりに…
飛んで…
飛んで…
お願い…
「飛べー!」
「飛んでぇ!」
紺野の声が聞こえたかのように持ち直し上昇する…
「わぁぁあ!飛んだー!」
「やった…やったー!」
「……」
「…」
夕日に消える…キラキラと光る銀紙の紙飛行機を見送る紺野はハタと辻を見た。
「あの包み紙には、のの の想いを込めたのです」
微笑む辻の顔は何かを見透かしているように見える。
「想い…?」
「そうなのです」
「なに…?」
「紺野さぁん!時間ですよ〜!」
辻が答えようと唇を動かすと、背後から紺野を呼ぶ声が聞こえた。
ハロー製薬の社員証を胸に付けた、
20代半ばの眼鏡を掛けた綺麗な女性は腕時計に目をやりながら
休憩時間は終わりましたと紺野に告げた。
「あ…うん、今行きます…」
答える紺野は寂しそうだった。
「じゃあ、辻さん…」
肩を抱かれてハロー製薬ビルに消えようとする紺野の背中に
辻の声が届いた。
「あの銀紙は色々な想いを包み込めるのです!」
「…!」
「ののはあさ美ちゃんとお友達になりたいと思ったのです!」
「…!!」
「そう想いながら紙飛行機を折ったのです!」
「どうして…?」
そっと振り向いた紺野は、そう言うのが精一杯だった…
…さっき出会ったばかりなのに…
…どうして、そんな事言えるの?
…私が寂しそうに見えたから?
…私が病気だと言ったから?
…それで、同情したの?
そう聞きたかったが、言える筈が無かった…
言葉に出してソレを言ったら、本当に嫌われると思ったからだ。
辻に嫌われるのが怖かった…
紺野も、さっき出会ったばかりの辻希美という名の少女と友達になりたかったのだ。
「お友達になるのに理由なんか無いのです!」
「…!…」
ギュッと瞑(つぶ)る、紺野の瞳からポロポロと大粒の涙が零れた…
「…うん」
紺野は項垂れながらも静かに頷いた。
「約束なのです」
辻は右手を伸ばして小指を立てた。
ハッとする紺野のハートに結ばれる、指切りの約束…
「明日もキャラメル持って来るのです!そして、また遊ぶのです!」
女性に連れられハロー製薬ビルに消えていく紺野に、辻の声が届いたのか、
紺野はもう一度振り返り、微かに微笑んだ…ように見えた…
今日はココまでです。続きは明日になります。
>>125 >>126 ありがとうです。頑張りますです。
更新乙。
こんこん……
っていうか、なんかいいぞいいぞ。雰囲気が好きだな。
――― 6話 救出 ―――
翌日、辻はMAHO堂に寄らずに、そのままハロー製薬ビルに入った。
一般人にも解放しているこのビルは朝娘市の観光拠点にもなっているのだ。
ただし、入り口で一般用と社員専用とに分かれていて
社員用の入り口には武装した警備員が立ちはだかっている。
辻は迷いもせずに社員専用ドアをくぐり抜けた。
「待ちなさい、ここは一般人は入れないんだよ」
社員証の無い辻は案の定、警備員に呼び止められた。
「のの の、お友達がここに居るから、会いに来たのです」
胸を張って答える辻に警備員達は、しょうがない子供だなぁと顔を見合わせ、
じゃあ着いて来なさい、と 受付に案内した。
社員の子供が親に会いに来たと思ったのだ。
受付の女性はニッコリと微笑んで辻に用件を聞いた。
「お友達の紺野あさ美ちゃんに会いに来たのです」
辻も負けずにニッコリと微笑んだ。
「フフ、可愛いお嬢さんね、ちょっと待ってて、紺野あさ美さんね…」
パソコンで名簿を操作する受付嬢は、少し溜息を付いて答えた。
「う〜ん、紺野あさ美という者は、ここには居ませんね…
何かの間違いじゃないの?」
「そんな事は絶対ないのです!ののと同じ15歳なのです!
メガネを掛けた女の子なのです!」
「…15歳って、そんな年齢の社員…」
そこまで言って受付嬢はハッと何かに気付いたように言葉を飲んだ。
「…知り合いなの?」
ウンと頷いて辻はドカリと座った。
「呼ぶまで ののはココを動かないのです」
「……そう…」
受付の微笑みは消えていた…
だが、何を思ったのか、その辻の様子を見ながら
受付嬢は無言で何処かに電話を掛けた。
「…はい…ええ、そうです…お知り合いだそうです…はい…でも…」
辻に絆(ほだ)されたのか受付嬢は粘ったが…
「…あら?切れた」
切れた受話器を辻に見せて、諦めなさいと首を竦める。
「あさ美ちゃんが来るまで、ののは待つのです」
居なかったら諦めて帰るつもりだった辻も、何故か必死になっていた。
「もう…」
ため息を付いて、警備員に連れ出すように目配せをした受付嬢は、
エレベーターが開いたのを見て、近寄る警備員を今度は止めた。
「…あっ」
コツコツとヒールの音を響かせて辻に近付くのは
昨日 紺野を連れて行ったメガネの女性だった。
「あら?貴女は昨日の…」
辻を見た女性は、腕を組んで辻を見下ろす。
立ち上がり、辻はペコリと頭を下げた。
「ののは辻希美と言いますです、あさ美ちゃんに会いに来たのです」
「そう…でも残念ね」
そう言う女性は冷ややかだ。
「紺野さんは貴女とは会いたくないそうよ」
「え?」
「紺野さんは貴女と会いたくないと言ったの…
私はそれを伝えに来ただけ…帰りなさい」
改めて警備員に連れ出すように命じた女性は
腕を取られて引きずり出される辻を見届けて踵(きびす)を返した。
「嘘なのです!あさ美ちゃんが そんな事言う筈無いのです!
あさ美ちゃんは ののと お友達になったのです!」
「…嘘じゃなくてよ」
エレベーターに消える女性の口元が微かに歪む。
「嘘なのです!絶対嘘なのです!!」
足をバタつかせて叫ぶ辻の声がホールに空しく響いた…
MAHO堂に来た辻は見るからに落ち込んでいた。
「どないしたん?」
心配した加護が顔を覗き込んで聞く。
「あのね…あのね…ヒック‥ヒック…」
言葉にならない辻を皆で宥(なだ)める。
ミルクを温めて辻に「飲んで、楽になるから」
と与える安倍と矢口は辻が落ち着くまで待つ事にした。
「どうせ、詰らん事じゃろ、ほっとけ」
言い捨てる中澤に、ギロリと睨み付ける3人の目…
「…うっ!…わ、分ったわい」
ブツブツ言いながら中澤は2階の自室に消えた。
少し落ち着いた辻の途切れがちで言葉足らずな説明に
聞き耳を立てながら、大体の事が分った。
「許せへんな、その女」
「みんなで乗り込もうぜ!」
加護と矢口は、もうその気になっている。
「でも…」
渋る安倍は浮かない表情だ。
「あっ…そうか」
安倍の父親がハロー製薬の部長だと気付いた矢口は、
そっと安倍の肩に手を置いた。
「なっちはいいよ…」
「…うん…ごめんね……あっ!」
俯(うつむ)く安倍は何かを思い出したように、顔を上げた。
「そう言えば、私のお父さんが変な事言ってた」
「変な事…?」
「うん!」
安倍は以前父親が会社から帰って来た時に語った事を聞かせた。
父親自身も まだハッキリと確かめてはいないが、ハロー製薬では公然の秘密らしい。
すこし興奮しながら話す父親は話していく内に落ち込んだ…
落ち込む理由は、自分達の娘と照らし合わせたのかもしれない…
それは、会社で囲う少女の話だった。
どんな病気が感染しても、死なない体質の少女…
症状は出るが、ある程度まで進行すると それ以上の悪化は無い…
父親が言う噂話しでは、少女も別に嫌がる素振りも無いらしい。
だから…
その娘は…
新薬の試薬実験に適したモルモット…
次々とウィルスに感染させて、治験する生態実験…
魔界街が生んだ異生体の少女はハロー製薬の急成長を影で支えたのだ。
「……」
言葉の無い魔女見習い達は、辻の言う少女と
安倍が語る少女の姿が重なった。
「行くのです!ののは我慢出来ないのです!」
立ち上がる辻達を安倍は止めた。
「待って…今日、お父さんが帰ってきたら、私話してみる…
お父さんじゃ、その子を助けられないかも知れないけど、
せめて、会ってお話しを出来るようにはさせてみせる…
だから、助けるのは その後にしましょ」
辻、加護、矢口は顔を見合わせる。
確かに、今行っても どうする事も出来ないだろう。
追い返されるのは目に見えていた。
「うん、分った…そうしよう」
「安倍さん、お願いしますです」
辻も今日行くのを諦めたのか、ペコリと安倍に頭を下げた。
「うん、まかせて!」
そうは言ったものの、安倍にも自信は無かった…
中間管理職の父親の立場を理解している親思いの娘は
そんな重大な事を父親に言えるのかさえ自信が無かったのだ。
「ふん、魔女見習いの分際では、どうする事も出来んじゃろ」
自室で見習い達の映る水晶球を見る中澤は
気だるそうにフカしていたタバコを揉み消した。
「やれやれ…やっかい事ばかり運んで来る連中じゃわい」
水晶に映る見習い達は言葉も無く店を勝手に閉めて
其々帰路についた…
「挨拶もせんと帰るしのぅ…」
水晶に布を掛けた中澤の耳に2階に駆け上がってくる足音が聞こえた。
「裕子婆ちゃん、今日はヤル気が無くなったから帰るね」
ドアをカチャリと開けた見習い達が顔をチョコンと出して
バイバイと手を小さく振って、また階段を下りていく…
無言の中澤は、今日何度か目の溜め息をついた。
「…全く持って…やれやれ…じゃわい」
アーチィングチェアーに座る中澤の年老いた瞳には
窓から遠くに見える、ハロー製薬ビルの塔影が揺らいで写った…
夜9時を回ったた頃、ハロー製薬本社ビルの社員用出入り口に
一人の黒尽くめ老婆が立っていた。
警備員を無視して入ろうとする老婆に突き付けられる自動小銃。
「止まりなさい」
怪しすぎる その成りに不審を持つのも道理。
---カツン---
老婆の握る樫の杖が地面に響く…
入り口ドアを何事も無く入る老婆は棒立ちになっている警備員の
横を無言で通り抜けた。
---カツン---
もう一度響くのは広いロビーだ。
呆けた顔の受付に、つんくは御滞在かね と聞く老婆は中澤裕子だった。
つんく専用のエレベーターで会長室に直行した中澤は
約10年ぶりの対面を果たした。
重厚な椅子にドカリと座る つんくは最初目を見張って驚いたが、
数秒後にはゲラゲラと笑い出した。
「ハハハ!なんだ?元の婆に戻ったのか!」
「ふん、お陰様でのぅ」
「で?何の用だ…お前が俺に会いに来るという事は、
よっぽどの理由が有るんだろう?」
「大した事では無いわい」
「いくら俺でも、若返らせる事は出来んぞ」
嫌味な笑いを投げるつんく。
「娘っ子を一人、解放して貰いたい」
その笑いを無視して用件を告げる。
「…娘?」
「紺野あさ美と言う名前の子供じゃ」
「…ほう」
急に つんくの目が据わる。
「用は、それだけじゃ…」
「理由は?」
「教えん」
「…あの娘の親には相当な金額を支払っている、見返りは有るんだろうな」
組んでいた腕を解いて葉巻ケースから葉巻を取り出し咥えた。
「ふん、有る訳ないじゃろ…」
「……嫌だと言ったら?」
ピッと高級ライターで火を点ける つんく…
だが、紫煙を吐き出す事は出来なかった。
懐から五芒星の書かれた紙の束を取り出す中澤が
ソレを放ると、紙は妖物達に変化したのだ。
---カツン---
蠢きだそうする妖物達は中澤の杖の音で、その動きを止めた。
「…解かっとらんのぉ、おぬしに選択の自由は無い、
それに、もう解放してもいいぐらいは儲けておるじゃろう?」
齢200歳を超える魔女は つんくに新たな恐怖を植えつける。
「……分かった」
葉巻を吸わずに揉み消した つんくは従うしかなかった。
「明日、ワシの子供達が迎えに来る、黙って渡してやってくれ」
「…子供?ハハ‥孫の間違いじゃないのか?」
「ふん、どうとでも言え」
「……」
「頼んだぞい」
つんくは黙って頷いた。
踵を返して部屋を出ようとする中澤は立ち止まり、そっと振り返った。
「のぅ?未だにワシの事を恨んでおるのか?」
ふと聞いてみたくなった。
「…いいや」
ゆっくりと首を振る つんく。
「…」
「…まぁ、最初は恨んだがな…だが、今となっては感謝さえしてるよ、
お前の言う通り、俺は絶対的な権力を手に入れたからな…
フッ‥それに、今のお前の姿を見たら同情さえするぜ…
辛かったんじゃないのか?その姿で俺の前に現れるのは?」
溜め息混じりに語る つんくは、今の成功は自分の努力も然る事ながら、
魔界街を創り出した中澤の魔術による所が大きい事を充分に理解していた。
恨んでいない との言葉は つんくの本心だった。
「…ぬかせ」
フンと鼻で笑う中澤は再び踵を返してエレベーターに乗り込む。
その中澤に つんくの御世辞…
「若返った時のお前は最高に綺麗だったぜ!」
「……」
胡麻を擦るのには理由があった。
「この化け物達をどうにかして行ってくれ」
大仰に腕を広げて見せる つんくは部屋に残った妖物達が
どうなるのか、少し不安だったのだ。
「…只の紙じゃ、燃やすなり なんなり好きにせい」
エレベーターが閉まると同時に蠢く妖物達は元の紙切れに戻った…
やけに明るい部屋だ…
壁一面が白く染まり、天井には何年か前にリクエストした空と雲が描かれている。
窓も無い、この部屋のベッドの上で蹲(うずくま)り、
時計を眺めて時間を数えるのは何の為…?
注射の時間が近付くのを数える為…?
それとも、週一回の散歩の時間を早める為…?
ハハ…散歩は一昨日終ったばかりだよ…
白い患者服を着た紺野あさ美は
膝に顔を埋めて震えた。
…たすけて…辻さん…
…飛べないけど、貴女…魔女なんでしょ…?
紺野がこの施設に来たのは物心が付く前だ。
両親の顔さえ知らないこの少女は
病気治療の為だと何年も何年も頑張った。
自分の特異体質に気付いたのは、学年にして小6当たりか…
それからは、時計の時間を数えるのと
週一回の散歩の時間に見る空が人生の全てになった。
それでも、精神が崩壊しなかったのは、散歩の時間に見る空を飛ぶ鳥達と…
街を楽しそうに歩く同年代の子供達を眺めていたからだ。
自分も何時かは、あの中に入って街を歩きたい…
友達と一緒にオシャレをしたい…
出来れば恋愛話しもしてみたい…
それも、半分以上 諦めかけていた…
出会うまでは…
…辻さん…
一昨日、約束したよね…
お友達になるって…
私、待ってるから…
何時までも待ってるから…
来週も、あの場所で会いましょう…
ベッドの上で蹲(うずくま)る紺野が顔を上げた…
何時もの様にギィと音を立てて、重いドアが開いたからだ。
「紺野さん、お友達が迎えに来てますよ」
「…え?」
ドアを開けた女性の笑顔は、何処と無く ぎこちなかった…
ハロー製薬本社ビルを出た紺野は眩しい太陽と
ソレと同じ位輝く笑顔に出迎えられた…
「あさ美ちゃん!キャラメル食べますか?…………‥‥-
「裕子婆ちゃ〜〜ん!来たよ〜〜!」
何時ものように魔女見習い達がMAHO堂にバタバタと出勤してきた。
「いいから、いいから」
そう言われながら、辻に背中を押されてオズオズと
入って来たのは見た事もない少女だった。
「へへへ〜、新しいお友達なのです」
「あ、あの紺野あさ美といいます」
「ふん…」
深々と頭を下げる紺野を一瞥すると、中澤は自分の部屋に引っ込んだ。
二階へ上る階段の手摺りに手を掛けながら
「ちゃんと、仕事は出来るんじゃろうな?」
紺野の顔も見ずに聞く。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「ふん、それと、2階に空いてる部屋が有るから、勝手に使って良いぞ」
そう言いながら中澤は自分の部屋に消えた。
「いやったー!あさ美ちゃん、ココに住んでいいって!」
手を取り喜ぶ辻と、不思議そうな顔の紺野。
「どうして、私の事を分かったんでしょう?」
MAHO堂で住み込みで働きながら学校に行くと言うのが
この店に来るまでの道中で、皆で考えた答えだ。
それを、何故か中澤は知っていた。
「裕子婆ちゃんは大魔女やからなぁ」
関心する加護と
「やっぱり裕子婆ちゃんは何でもお見通しだな」
腕を組んで頷く矢口。
「魔女って…本当なの?」
「あー?疑っているのです!」
証拠を見せる と言って紺野の手を取って裏庭に連れ出す
辻と加護を「やれやれ‥またか?」と追い掛ける矢口。
「どうした?なっち?」
矢口はさっきから微笑むだけで喋らない安倍が気になった。
「う、ううん、何でもない…矢口、私ちょっと裕子婆ちゃんに話しがあるから」
安倍はそう言って、二階へ続く階段を上って行った。
「お、おう…じゃあ、裏庭で待ってるよ」
何か有るとは思ったが、矢口はソレ以上突っ込むのは止めた…
大事な話しが有るのならば、安倍の方から話してくれると思ったからだ。
昨日、安倍は父親に紺野あさ美の事を 聞く事は出来なかった。
父親の会社での立場…
自分が今住んでる、この社宅…
新しく出来た親友達…
父親に話したら、全て失ってしまうような気がして、
悩み、色々と考えていたら話す事が出来なくなったのだ。
そして今日…
「安倍さん、言ってくれましたか?」
辻に聞かれ「う、うん」と曖昧に答えた。
「よっしゃー!救出に行くでぇ!」
加護の気合いに辻と矢口は「おお!」と答える。
安倍は不安で胸を押し潰されそうに成るのを押さえて、
皆でハロー製薬に出向いた。
ドキドキと心臓が鳴るのが分かった…
言ってない事がバレたらどうしよう…
胸が張り裂けそうになった…
しかし…
結果は呆気ない物だった…
ハロー製薬で追い返されそうになったら、
絶対父親を呼んでもらおう と、腹を決めて臨んだが、
あっさりと紺野は解放されて、自由の身になったのだ。
「安倍さん、ありがとうなのです」
「流石、安倍さんやな」
「なっち、偉い!」
皆は安倍が父親に言ってくれた お陰で、
紺野が解放されたと思ったらしく、手放しで喜んだ。
「ハハ…良かったね」
安倍は、そう言うのが やっとだった。
謎が解けたのはMAHO堂で中澤を見た時だった。
全てを知っているかのような中澤の態度で気付いた。
どうやったのかは判らないが、中澤は紺野を解放するように
ハロー製薬に掛け合って、そして巨大企業が折れた…
安倍には そうとしか思えなかった。
ノックをして中澤の部屋に入ると
中澤は椅子に座り、転寝(うたたね)をしていた。
「あの…」
「何も言うでない」
中澤は その姿勢のままで静かに呟くように言った。
「お前が どうにか出来る事態じゃないのは分かっておったからのぅ…」
「……」
やっぱり、この人が手を打ってくれたんだ と、泣きそうになった…
「この事は お前の心の中に そっと仕舞っておくんじゃ」
「…でも」
「アホ…言い触らされると、ワシが恥ずかしいんじゃよ」
「……うん…ありがと」
この人は私の立場とかを想いやって 言ってくれてる…
安倍はそう思い、中澤に感謝した。
「それと、学校云々は面倒じゃから、ワシは何もせぬぞぃ」
もう部屋を出ろ と言わんばかりに、手でシッシッと犬を追い払うような仕草。
「うん!うん!それは、まかせて!」
安倍はトンと胸を叩いて、ドアを開けて部屋を出た。
「…裕子婆ちゃんって本当は優しいんだね」
ヒョコリと顔を出してニコリと笑う安倍はパタンとドアを閉めた。
「…ふん」
トントンと安倍が階段を下りる足音を聞きながら
手元に水晶球を引き寄せて裏庭の様子を見る。
辻がホウキに跨り、フワフワと浮いてるのを 紺野が目を見開いて驚いていた。
だが、その顔はキラキラと輝き、新しい生活への希望に溢れている様に見えた。
「…また、厄介者を背負い込んでしまったかのぅ…やれやれ じゃわい…」
そう言う中澤の口元は、微笑んでいるように見えた…
今日の更新はここまでです。
次回は金曜の予定です。
…やっと書き込めた
大量更新乙です。
うん。面白い面白い。いい感じですよ。
次の更新楽しみに待ってます。
>>167 そう言って貰えると励みになります。ありがとう。
じゃあ寝ます。
おもろい
配役にセンスを感じる
今日UPするつもりだったんですけど時間が無いので明後日になります。スマソ
>>169ありがとうございます。
( ^▽^)<マターリでいいですよ
――― 7話 石川と藤本 ―――
ホウキを担いだ2人の女子高生、安倍と矢口は
紺野の学校の問題もなんとか片付いて
爽やかな笑顔で学校の門をくぐった。
(紺野は辻と加護が通う同じ中学に転校生という形で入る事が決まったのだ)
それは、何時もの何気ない登校風景だった。
「…うん?」
その生徒が現れるまでは…
校門の辺りがザワつくので振り返って見ると、
黒塗りの大型リムジンが横付けになり、中から一人の生徒が優雅に現れた。
「何?あの人!」
驚く安倍に
「帰って来やがった…」
呆然とする矢口。
「ホ〜〜〜ホッホッホッホ!」
高らかに笑う生徒のセーラー服は安倍達のソレとは何処か違う…
素材と仕立てが違うのも然る事ながら、金の刺繍が施されている。
「アイツは生徒会長の藤本美貴だよ、しかも、ウチのクラスだ」
「げっ、あの人が?」
などと話していると、藤本が矢口を目敏く見つけ、近寄ってきた。
「たった今、極上ヨーロッパ旅行から帰って来ましたわ!
でも、矢口さん、貴女に お土産は無くてよ」
「いらんわ!」
嫌味な藤本に即答する矢口。
「ホ〜〜〜ホッホッホッホ、本当は欲しかったくせに…
うん?貴女は誰ですの?」
矢口の隣で縮こまっている安倍に気付いた藤本が見下ろす。
「あ、あの…転校してきた安倍なつみ です、よろしく」
ペコリと頭を下げた。
「ホ〜〜ホッホッホッホ、私(わたくし)は生徒会長の藤本美貴ですわ、
何か困った事がありましたら、何でも相談にのってよ」
「は、はぁ‥どうも」
「でも、小汚いホウキを持ってる所を見ると、貴女も魔女ゴッコをやってるの?
余り感心しませんわね、そろそろ、そんな お子チャマの遊びは
卒業した方がよろしくてよ」
「は、はぁ‥」
「矢口さん、私は校長先生に帰国の挨拶をしなくてはいけませんので
これにて失礼致しますわ、ホ〜〜〜ホッホッホッホ」
声も無く呆然とする2人を尻目に、藤本は高笑いを上げて、
優雅に職員玄関に消えていった。
「な、なんなの?」
余りの高飛車ぶりに目を丸くする安倍。
「アイツはハロー製薬の専務の一人娘だ…
この学校じゃ誰も逆らえないよ、特に教師達はね」
矢口は呆れた様に吐き捨てた。
昼休みなって藤本は ようやく教室にやって来た。
「ホ〜〜〜ホッホッホッホ、皆さんお久しぶりですわ」
その藤本を囲む、ハロー製薬おべんちゃら社員の子供達…
「ウザいのが来ちゃったよ…」
ウンザリしたように石川は藤本を一瞥して
吉澤に自分の弁当のオカズのタコウィンナーを
食べさせようと箸を持っていく。
「ハイ、あ〜〜ん」
「いや、俺は お前の方がウザ…モグモグ」
「どう?」
「ウィンナーに感想なんかあるかよ」
そう言う吉澤は満更でもなさそうだ。
「もう、愛情が込もってるんだから!」
「…ハハ」
何時もの昼休みの2人の光景が気に入らない人間が一人…
「そこっ!ここは神聖なる女子高なんですのよ!
特に石川さん!貴女 露骨すぎますわ!」
指を差しながらカツカツと歩み寄るのは藤本だ。
「私の目の前で ふしだらな関係は許しませんわ!」
腰に手を当てて見下す藤本の瞳は、ある感情に染まっている。
「ふしだらって何よ!私と よっすぃ は清い関係なのよ!」
「まぁ!貴女のお父様も私の所の社員なんですのよ!」
「…何よ!親は関係無いでしょ!」
目の前で いがみ合う2人にウンザリの吉澤は席を立った。
黙って廊下に出る吉澤を石川と藤本が追い掛ける。
「ちょっと、吉澤さん!何処に行くつもりですの!」
「…俺が居ない方がいいかと思ってね」
「貴方が出て行く必要は有りませんわ!」
「そうよ!よっすぃは悪くないもん!」
そう言いながら石川が吉澤の腕に自分の腕を回してしがみ付く。
「まぁ!」
それを見る藤本の顔は、明らかに嫉妬によって真っ赤になっていた。
「お前、離せよ」
石川を引き剥がした吉澤は、どうした物かと天を仰いだ。
「取り合えず一つ」
吉澤は指を一本立てた。
「藤本、親は関係無いだろ?自分の親を使って脅すのは止めろ」
「…わ、私はそんなつもりで…」
「じゃあ、どんなつもりだ?」
「…分かりましたわ」
吉澤に言われ、少しシュンとなる藤本。
「それと、もう一つ」
二本目の指を立てる。
「俺の前で言い争いは止めてくれ」
ペコリと頭を下げる吉澤は、コレは言っても無駄だろうな と思った。
それを聞いた石川と藤本は、顔を見合わせるとフンとソッポを向く。
案の定、予想通りの反応に吉澤は、やっぱりな と肩を落とした…
肩を落としながら三本目の指。
「まだ、何か有りますの?」
「よっすぃ、注文多過ぎ!」
その指は2人の下半身を指差した。
「まぁ!」
「きゃっ!」
どうやったのかは解らない…
解らないが、吉澤が犯人なのは確かだ。
2人のスカートはホックとジッパーが外され、足元に落ちていたのだ。
しゃがみ込む2人に向かって白い歯を見せて、
脱兎のごとく逃げる吉澤は廊下の角を曲がるとき
アッカンベーと舌を出してゲラゲラ笑って消えた。
「たまに少年のように無邪気になるよのねぇ」
「そこがまた、堪りませんわ」
スカートを穿き直しながら、2人はソコまで言ってハッとなり、
また顔を見合わせて フン とソッポを向いた…
学校の屋上の給水塔の上からプカプカ浮かぶ煙が見えた。
「見つけた…」
カンカンカンと音を立てて鉄梯子を上ってきた石川がヒョコッと顔を出して
ペタペタと這って、頭の後ろで手を組んで寝転びながら
咥えタバコでボウと青空を眺めている吉澤の隣に座る。
吉澤の吸っていたタバコを取り上げてフカした石川は
「うげ〜、よくこんな不味いの吸えるわね」
と、放り捨てた。
「あれ?」
吉澤を見ると、何時の間にか タバコを咥えて紫煙を吐き出している。
「ねぇ、どうやったの?」
吉澤が咥えてるのは、今 石川が捨てた
(石川が口紅代わりに使っているピンクのリップクリームが
フィルター部分に付いている)
吉澤から奪った吸いかけのタバコだった。
こういう不可思議な事は今回だけではない…
しかし、吉澤はニヤリと笑うだけで、何時も答えない。
「…まぁ、いいわ、それより気を付けてね」
「…なにを?」
「藤本よ、アイツ よっすぃを狙ってるわよ」
前から、何となく気付いていたが、今日の態度でハッキリした。
新たな恋敵の出現に、拳をパンパンと鳴らして「どうしてくれようか」
とブツブツ呟く石川を見て、「狙ってるのは、お前もだろ」と吉澤。
「もぅ、私のは純愛よ」
そう言いながら吉澤の胸に、身を委(ゆだ)ねる様に寝そべる。
「……?」
何時もなら嫌がる吉澤が黙って胸を貸している。
吉澤の瞳は紫煙が揺れて溶ける、遠い空を見ていた…
こんなに好きになってしまった…
石川は吉澤の瞳に吸い込まれそうになりながら
あの日の出来事を想い出した…
今日はここまでです。続きは明日か明後日になります。
>>171では、お言葉に甘えてマタ〜リと行きます。それでは。
オモロイ!
イッキニヨンダヨー!
ツヅキキタイ!
( ^▽^)<ドキドキ
----2年前----
---朝靄のテニスコートで、ラケットを胸に抱いた少女がポツンと佇んでいた---
---夕焼けのテニスコートで、ベンチに座り 折れたラケットを
寂しそうに見詰めていた少女を見た---
---夜更けのテニスコートで、その少女は うつむきながら涙を零していた---
風が鳴くテニスコートで 項垂れる少女を見詰め、
サラサラとした髪を掻き上げる Tシャツとジーンズの美少年の足元に
ひっそりと咲き乱れる白い薔薇の花弁が震えて舞った…
その少年はそっとラケットを取り上げて少女に渡す。
そのラケットにはR・Iのイニシャル…
「お前、朝から居ただろ…」
黙ってラケットを受け取った石川はハッと少年の顔を見た。
薄く微笑む少年は中学からのクラスメート…吉澤だった。
「ずうっと見ていたの?」
「……」
吉澤は答えなかった。
朝は登校の時…
夕方は下校の時…
そして、今は夜の散歩…
偶然、目に付いただけだ。
だが、説明するのが面倒な吉澤は黙って頷いた。
「お前、テニスが好きなのか?」
「…うん…でも、今日で諦める」
「…?」
「才能が無いって解かったから…」
寂しそうに答える石川は、励ましの言葉が返ってくると思った。
「そうか…分かった」
「えっ?」
「諦めたんだろ?」
「…うん」
「…じゃあな」
そっけなく帰ろうとする吉澤…
「ちょ、ちょっと…」
「…うん?」
「…何しに…来たの?」
「…お前が寂しそうにしてたから」
「…えっ…?」
吉澤の顔を見た石川のハートがドクンと脈打つ…
ひっそりと微笑む吉澤の瞳は吸い込まれそうに透明だった。
「でも、俺は 人を励ますってガラでも無いし…」
「…ハハ…」
「それに、テニスの事なんか、全然分からないしな」
「…うん…」
「それだけだ…」
吉澤はコートのアスファルトにマッチを擦ってタバコに火を点け、
そのままコートを出た。
「よっすぃ、タバコ吸うの?」
白い薔薇の花弁が舞う中、振り返る吉澤は薄く笑って夜霧に消えた。
ドキドキと心臓が鳴っていた…
破裂するかと思った石川は慌てて胸を押さえた。
中学からの同級生…
今まで只のクラスメートとしか思っていなかった吉澤が
こんなに格好良いとは気付きもしなかった。
胸に顔を埋めていた石川は、頭の後ろで腕を組み 青い空をボウと眺める
吉澤のタバコを取り上げて、そっと唇を重ねた…
「…好き」
「失敗したな…」
「…なにが?」
「あの時、声を掛けなきゃ良かった…」
出会った時の事を想う 石川の心を見透かしたかのように、吉澤は呟いた。
「もぅ、照れちゃって、可愛い」
今では、猛烈な石川のアタックに辟易する吉澤…
「あの時は、学校の行き帰りに偶然目に留まったから 声を掛けただけだ」
と説明する吉澤だが、石川は全く信用してない。
石川の脳内では、薄幸の美少女の自分を影で見守っていた
王子様の設定に出来上がっているのだ。
「貴女達!何をやってますの!もう、授業は始まってますのよ!」
給水塔の下から藤本の甲高い声が聞こえた。
「チッ、邪魔者が来た…」
いがみ合いながら屋上を出る石川と藤本を見送る吉澤は
もう一度、給水塔に上ろうと鉄梯子に手を掛ける。
「吉澤さん!貴方もです!」
「よっすぃ!早く!」
「……」
2人に怒鳴られ、吉澤は長い溜め息を付いた……
吉澤さん…
貴方は憶えていないでしょうね…
あの日の事を…
リムジンの窓から流れる街並みを眺めながら
藤本は、そっと俯(うつむ)いた…
幼い頃から我がままに育った藤本は
高校に進級する頃、ある悩みに直面した。
このまま、この性格が治らなかったらどうしよう…
自分の我がままで他人を振り回して
後悔する事が多々有った。
その事で、夜ベッドに潜り込んで眠れなくなった事も
数え切れない…
皆、自分を恐れて本心を明かさない…
多感な少女は自分の環境を嫌々受け止め、
自分の顔色を伺う大人達や同級生を蔑んだ。
だからなのか、自分でも嫌な性格になったと
自己嫌悪に陥るのだ。
そして、日々の生活の中で性格は変わる事は無く、
より一層悪くなる一方だった。
我がままによって生じる自己嫌悪…
このままでは心が分裂してしまう…
「ホ〜〜ホッホッホッホ」
しかし学校に来れば、何時ものように高笑いをする藤本。
パコンと後ろから頭を叩かれた。
「な、何を…」
振り向くと吉澤が立っていた。
「謝れ…」
「え?」
「謝れって言ってんだ、バカ」
「……」
吉澤の後ろには一人の少女が怯えていた。
先程、些細な事で皆の前で罵倒し、謝らせたクラスメートだ。
勿論、悪いのは自分だ…
その事で家に帰ってから自己嫌悪に陥り、
今日も眠れない夜を過ごすのは解かっている。
誰かに注意して欲しかった…
「お前…それで、よく毎日ぐっすりと眠れるな」
「…な!」
「それとも、後悔して眠れないのか…?」
藤本を射抜く吉澤の視線は、そのまま心に突き刺さる。
「謝ればスッキリするぜ…お前自身が、よく解かってるだろ?」
この人は自分の心を見透かしてる…
藤本の心がチクリと痛む。
「…さ、さっきは私が悪かったわ」
これでも謝った方だ。
「それだけか?」
何故か吉澤の言葉は心に響く…
「……ゴ、ゴメンナサイ…」
「ふん、やれば出来るじゃん」
ニヤリと笑う吉澤が、藤本の尻をペンと叩いた。
「きゃっ!何するの!」
ハハハと笑う吉澤は、いたずらっ子の様に藤本の
スカートを捲って逃げた…
その日から、自分でも性格が変わったと思う。
そして、眠れぬ夜は少なくなった…
眠れない日は、大抵 吉澤と話した日だ。
吉澤を想うと眠れなくなる…
----好きになったと言うの?私が?あの特異体質の男を?----
「有り得ませんわ!」
声に出して言ってみても、後の祭りだった。
藤本の心は吉澤に占領されてしまったのだ。
窓から見える青空に浮かぶ雲が 吉澤の顔に見えて、
顔を染める藤本は、鞄からある物を取り出して ジッと見詰める。
それは、吉澤に渡すつもりだった お土産…
日々募る吉澤への想いに、藤本は 今日渡せなかった
ヨーロッパ旅行の お土産の、高価なペンダントをギュッと握り締めた……
今日はココまでです。
次回は土曜の夜の予定です。
>>182>>183 期待していただき、恐縮です。では。
乙。
いつも楽しく読ませてもらってます。
乙です。
今一番更新が楽しみな小説です。
最後まで書き上げてくださることを期待してます。
――― 8話 魔界刑事 ―――
夜の帳(とばり)が落ちる頃、『スナックみちよ』の灯が ひっそりと燈った。
午前3時過ぎの明け方近くに開店する、繁華街の外れに有る
この店の本当の事業内容は勿論 飲食店のソレではない。
カウンターで水割りを作る店のママの平家みちよ が水割りと共に
一枚の写真を長い黒髪の美貌に差し出す。
「…コイツか」
水割りに口を付けながら写真を見る女性は、胸の開いた革ジャンの懐から
帯の付いた万札の束を2つ取り出し、カウンターに そっと置く。
「毎度、おおきに飯田さん…」
「…詳細を聞こうか」
取り出した手帳には朝娘市警察の紋章が飾ってある。
特殊捜査官に選任されてる、朝娘市警察の飯田圭織は
何処の部署にも属さない異端の はぐれ刑事(デカ)だ。
魔界街には銃火器が効かない犯罪者がいる…
魔人と呼ばれる犯罪者には、その者を超える超人で対抗する。
『魔人ハンター』
飯田圭織はそう呼ばれたいた。
情報提供を生業とする『スナックみちよ』を出る飯田が ふと横を見ると、
壁にもたれて欠伸をする美少年が片手を上げて出迎えた。
「…お前、来てたのか?」
「うんにゃ…今、来たところ」
壁にマッチを擦りタバコに火を点ける美貌の男は
眠そうな目を飯田に向けて薄く笑った。
「今から行くが、来るか?」
飯田から写真を受け取り、一瞥すると
そのまま返して黙って頷く。
「よし、今日はお前の腕を見させて貰うぜ、吉澤」
吉澤と呼ばれた美少年は、勿論 吉澤ひとみの事だ。
藤本美貴は勿論、石川梨華でさえ知らない
吉澤ひとみ の、もう一つ顔がココに有る。
約一年前…
吉澤は殺人現場に偶然遭遇し、初めて人を殺した。
鋏(はさみ)を持った男が一振りで被害女性の首を切断して
吹き上げる血飛沫を全裸の体に浴びて歓喜の身震いをする異常殺人を
目撃したのは、何時もの夜の散歩中だった。
全裸の狂人はそのまま射精した。
「ヒャハッ!」
吉澤の存在に気付いた狂人は
その日の2人目の生贄に吉澤を選んだ。
無表情の吉澤の唇はうっすらと笑っている様に見える。
「ウヒャヒャヒャヒャ!」
その微笑を殺人者は吉澤が恐怖で竦んで動けなくなっているから
と思い、両手に持った鋏を振り回し ゲラゲラ笑いながら、
一気に吉澤の懐に飛び込んで鋏を振った。
「……え?」
ドンと胸を蹴られて尻餅を付いた狂人はキョトンとしていた。
「血が付くだろ…離れろ」
侮蔑の表情で男を見下ろす吉澤の右手の人差し指には
鋏が2本 クルクルと回っている。
「……」
踵を返し10メートル程離れた吉澤が、そっと振り向き呟くように聞いた。
「返して欲しいか…?」
吉澤の右手に絡まる2本の鋏…
「…うん」
頷いた瞬間、男の後頭部に2本の鋏が突き刺さった。
「…返したよ」
崩れ落ちる殺人者に一瞥も繰れず、そっと その場を離れる
吉澤の前に立ちはだかる一人の影…
「見たよ…」
長い黒髪を靡(なび)かせる女性は警察手帳を見せた。
「……何を?」
「殺人…」
「…」
「…と、消える右手」
飯田圭織は警察手帳を胸の谷間に仕舞い、
ソコからタバコを取り出して火を点けて、一息吸った。
「…見えたのか?」
そう言う 吉澤の唇には たった今、飯田が火を点けたタバコが咥えられている。
無言でニーッと笑う飯田。
「…俺をどうするつもりだ?」
「殺人の現行犯で逮捕…かな」
不自然に自分の唇から消えたタバコを意に介さず、
飯田はもう一本タバコを取り出しジッポーで火を点ける。
「…なんてな」
フーと紫煙を吹く姿勢はモデルのように美しかった。
「……」
「お前が殺した屑は、どうせ私が殺すつもりだったからね」
「…じゃあ、お咎めは無しだね」
背中を向けて帰ろうとする吉澤を飯田が止める。
「待ちな…見逃さなくも無いが、獲物を取られたって所が癪に触るな…」
「じゃあ、どうしろと?」
「私の体にパンチを入れる事が出来たら、見逃し…」
言い終わらない内に飯田の顔面に吉澤の右手が瞬時に飛んできた…
が、パンチは飯田の顔面数ミリの所で止まった。
飯田の左手が吉澤の右手の手首を掴んで止めたのだ。
しかし、飯田と吉澤との距離は5メートル強…
パンチが届く距離では無い。
「さて、どうなるのか…?」
飯田の掴んだ吉澤の右手は、手首の先から空間に溶ける様に消えていた。
「私が引き寄せられるのか?…それとも、お前の体が此方に飛ぶか?」
吉澤の秘密の能力…
それは、右手を瞬間移動させる能力…
男になる特異体質と共に授かった秘密の能力は
目認出来る範囲に右手をテレポートさせて戻す事が出来るのだ。
しかし、右手が離れられる時間は限られている。
どちらが引き寄せられたのかは解からない…
解からないが、吉澤の右手は元に戻った。
右手首を掴んだままの飯田圭織を伴って…
「未成年はタバコを吸っては駄目だよ…」
吉澤の唇からタバコを取り上げ、ピッと捨てる。
「み、見えるのか…?」
吉澤は信じられない思いだ。
パンチを飛ばすと言っても、振りかぶる構えはしていない、
右手はダラリとズボンのポケットに突っ込んだままだ。
つまり飯田は、瞬間移動で目の前に突然現れた吉澤の右手を
刹那の速さで受け止めたのだ。
「さて、これで お前の殺人を見逃せなくなった訳だが…」
ニヤニヤ笑う飯田は、愕然としている吉澤のオデコを
人差し指でピンと弾いた。
「私の助手になるなら見逃すぜ」
そう言いながら飯田は右手を差し出した。
「…なに?」
「出せよ、IDカード…持ってるんだろ?」
「……」
吉澤が渋々出したIDカードを 持っている端末に差し込んで
本人確認した飯田は少し驚いた。
「お前…男の癖にハロー女子高に通ってるのか?
どういう事だ?あそこはお嬢様学校だぞ…」
首を竦めるだけの吉澤。
「ふん、中々ふてぶてしい奴だな…
お前が殺した屑の死体は、私が処理する…
吉澤ひとみ か…お前は帰っていいぞ」
飯田は顎をしゃくって帰るように促し、
そして、何事も無かったように帰ろうとする吉澤。
「ちょっと待て…」
帰っていいぞ、と言ったのは飯田だ、
だが、一つ聞き忘れた事が残っていた。
動揺も無く 無慈悲にも、犯罪者とは言え あっさりと人を殺した
吉澤の殺人業には余裕が有り過ぎる。
「お前、人を殺すのは初めてじゃないだろう?」
「…うんにゃ」
立ち止まり、首をゆっくりと振って否定する吉澤は、
殺人を追及する刑事としての飯田を恐れた訳ではない。
相手は人間の心など持ち合わせていない事は明らか、
ましてや、生きていたら害悪を撒き散らすのは確実な狂人だ。
人間はハエ蚊を殺して『可哀相な事をした』などと思う心を持ち合わせては いないのだ。
「ゴキブリの類を潰して悲観する奴はいないよ…」
犯罪者を虫と言い切る、吉澤の言葉を聞いてニーッと破顔する飯田。
魔人と呼ばれる『人間』を人と思わず殺せるパートナーが出来たのだ。
「今日から、お前も『魔人ハンター』だ…必要な時に連絡する」
振り向きもしない吉澤は軽く手を振っただけで、夜道に消えた…
白々と夜が明け始める午前5時…
飯田と吉澤は一人の男を待っていた。
ギャーギャーと喚くように鳴くカラスの群れが煩わしい、
舗装もされていないボロアパートが立ち並ぶ、長屋然とした古い町並み。
復興が遅れた この通称泥水町は、犯罪者が隠れるのには絶好の場所…
警察も足を踏み入れたがらない、危険度Aの集落帯の一つだ。
そして、警察の肩書きなどはココでは通じない。
そんな町に一人、いや吉澤と二人で平然と足を踏み入れる美貌の女刑事は
そこの住人にとって格好の慰み者、つまり生贄だった。
だが、生贄の条件は「普通」の女刑事の場合だ。
灰色のアパートの壁にもたれる飯田の足元にはピクリとも動かない
人間が3人倒れている。
獲物が来たと飯田達を取り囲んだゴロツキ共の末路だ。
路地の至る所から此方を伺っていた粘る複数の視線は
瞬殺されたチンピラを見て気配を消した。
「…ふん、それでも気配を消したつもりかねぇ」
飯田は周りを気だるそうに見回すが、動くつもりは無い。
雑魚を相手にする気はサラサラ無いからだ。
案外治安がいいと言われる朝娘市…
それは、警察が掌握している街の約8割の表の顔…
しかし、真の魔界街の裏の顔がココに有った。
『スナックみちよ』の平家からの情報だと、今日必ずこの道を通る筈…
写真の男は毒猿と呼ばれている殺人を生業とする暗殺者だ。
「ひでえ顔してるな…まさに毒猿だよ」
シゲシゲと写真を見る飯田は、初めて見る暗殺者の顔に表情を曇らせた。
この男に殺された人間は二十数名、全て毒殺だった。
どのように毒を盛ったのか解からないが、共通しているのは
被害者から検出される毒の成分…
優に20種類以上の毒を体内に入れられて殺される
被害者の姿形は毒によって腫れ上がり正視出来る物ではなかった。
正体も判らない毒猿に警察が掛けた懸賞金は200万円、
勿論、生死は問わない。
毒の痕跡しか残さない暗殺者は、その後も警察を嘲笑うかのように
自分の仕事を繰り返した。
暗殺を依頼する人物さえ、見付け出せないジレンマが焦燥感を生む…
そして一人、独自の捜査を開始した飯田の元に待ちに待った平家からの返答。
数える程しか、その存在を知らない『スナックみちよ』は
どのようにして情報を得るのか解からないが、
その信憑性は他の情報屋の比ではない。
200万円という懸賞金と同額の情報料を支払った平家みちよ からの報告は
毒猿の正体を朧気(おぼろげ)ながら浮かび上がらせる。
「ふん、コイツ自身が毒の塊(かたまり)って訳か…」
飯田は皮の手袋を嵌めて皮ジャンのチャックを全て閉めた。
毒の体で相手を触って殺す…
暗殺者の手口が見えたからだ。
果たして、毒猿は来た。
ヒョコヒョコと片足を引いて歩き、
スッポリと頭からフードを被った身長が150センチも無さそうな小男は
体を隠すように飯田と吉澤の前を通り過ぎるが、
妖気を漂わせる歪んだ空気は隠す事は出来ない。
「よう兄さん、人を殺して御帰宅かい?」
ピタリと立ち止まる毒猿。
「お前の住む糞みたいなアパートは突き止めたが…」
毒猿は肩を揺らしている…
笑っているのか、フードからはゲッゲッゲと篭もった声が漏れる。
「汚い毒が充満してるアパートで待つのが嫌なもんでね…」
毒猿は薄っぺらいフード付きのコートを脱ぎ捨てた。
「ここで待たせて貰ってた訳だが…」
「……」
横を向いたままの毒猿の皮膚は人の色を成していない…
「早速で悪いが…死んで貰うぜ…」
飯田に向かって振り向く毒猿の顔は正に毒に犯されたように浮腫(むく)み
肌は紫色に染まっていた。
ダラリと垂らした両手は異様に長く、手の甲が地面に付いている。
「ふん、思った通り、その長い毒手が武器だったか…」
戦闘体勢の飯田は前屈姿勢で体重を前に掛けて、
今にも飛び出さんばかりにジリジリと詰め寄る…
対する毒猿は後ろに体重を乗せて受けの構え。
どちらも口には笑みが漏れている…
----ドン!----
大気を突き破る瞬速の早さで一気に間合いを詰めた
飯田の正拳突きが毒猿の胸に叩き込まれた。
吹き飛ぶ毒猿は向側の壁に激突してガラガラと崩れるブロックに埋もれる。
「馬鹿め!」
ズカズカと歩み寄る飯田の体は闘気に包まれて周りの空気が歪んでいた。
ボン!とブロックを蹴散らして回転しながら飛び出した毒猿は
そのまま両手を飯田の肩口に叩き込もうと毒の手刀を振り下げた。
その両手首をガッチリと掴む飯田の両手。
----ボキン!----
両手を掴まれた毒猿の手首は、超人の握力でアッサリと折れた。
しかし、飯田の顔は苦痛で歪む。
毒猿の手首を掴んだ飯田の手の平はブスブスと煙を上げた…
皮の手袋をも腐食させる毒手は飯田の手の平を伝い体内に毒を塗りこんだのだ。
「ゲッゲッゲ‥オデの体に触れれば死ぬ…」
篭もるダミ声で笑う毒猿は折れた手首も気にしないようだ。
「成る程…」
それでも、ニヤリと笑う飯田は徐(おもむろ)に歩み寄り
万力の握力で毒猿の両肩を掴んだ。
ギリギリと肩に食い込む鋼の五指に今度は毒猿の顔が苦悶に歪む。
「吉澤!やれぇ!!」
振り向く飯田の先、20メートルの所に吉澤はポケットに手を突っ込み
気だるそうに立ち尽くしていた。
飯田に釣られて吉澤を向いた毒猿の胸に
ニュッとマグナムの銃口が突き刺さっていた。
そのマグナムを握る右手は手首より先が空気に溶けるように消えている。
----ドゴーン!----
飯田が吉澤に持たせていた、飯田専用の特製マグナムは
毒猿の胸にポッカリと風穴を開けた。
普通の人間が撃てば、その反動によって確実に腕と肩が砕けるビッグマグナムは
反動など関係無い吉澤の右手に託されていたのだ。
ガクリと膝を付いた毒猿の顔面に飯田の正拳…
超人と呼ばれる飯田の鉛の様に重い一撃は
毒猿の頭をスイカのように粉砕した。
「…ふう‥」
毒が回ったのか、流石にフラつく飯田はベルトのバックルから
注射器を取り出し自分の首に中身の血清を打ち込む。
「…お前の毒の成分は分かってるんだ…解毒剤ぐらい用意しとくぜ」
胸に穴が開き、首が無い暗殺者の屍骸を見下ろし
飯田は呟くように吐き捨てた。
一仕事終わったとタバコを咥え、
毒猿の屍を冷ややかに見詰める吉澤も漂々(ひょうひょう)とした物だ。
「で…どうするの?」
「吉澤、賞金の200万は、お前が貰えよ…
刑事の私は貰えないからな…
ハハハ‥高校卒業後の就職先が確定した祝い金だよ」
携帯で本署に連絡しながら、飯田は肩を竦める吉澤にウィンクしてみせた…
今日はココまでです。次回は月曜か火曜になる予定です。
>>196 >>197 ありがとん。
まだ、ラストがどうなるか考えてませんが、完結できるように頑張ります。では。
ゆっくり頑張ってね〜
飯田さんとよしこカコイイ
( ^▽^)<ドキドキ
――― 9話 挫折 ―――
何時もの様に朝娘市警察署に出勤した後藤真希は
自分の机で缶コーヒーを飲みながら新聞を広げた。
「…うん?」
社会面のトップ記事に特別指名手配犯の毒猿が殺され
被疑者死亡のまま起訴との記事が載っていた。
「……殺したのは‥一般の民間人…?!…民間人!!」
後藤の脳裏に、ある人物の面影が浮かんだ。
「やった!…やったね!市井ちゃん!!」
思わず声を出して喜ぶ後藤は、課長に毒猿を殺した民間人が誰かを聞いた。
「高校生だな…まぁ実際は飯田が殺ったと、皆思ってるがな」
「…こ、高校生?…市井ちゃん…以前ココ(朝娘市警察)に居た
市井ちゃん じゃないんですか?」
「市井…?……あぁ、アイツかぁ‥」
課長は思い出したようにタバコを吸った。
「毒猿を殺ったのは吉澤とかいう名前の高校生だが…
お前 何で市井を知ってるんだ?…
確か、アイツが辞めたのは、お前が入る一年以上前だったと思ったが…」
そこまで話して課長は呆然とする後藤に気付いた。
「おい、聞いてるのか?」
「…あ、は、はい…そ、そうですか…いや、いいです‥何でも無いです」
肩を落とした後藤は自分の机に もたれて天井を見上げた。
----何やってんだよ…市井ちゃん----
2年以上前、後藤の近所に市井沙耶香という朝娘市警察の巡査が住んでいた。
幼い頃からの近所付き合いの中で何時の間にか当たり前のように
仲良くなった市井は時が過ぎるにつれて後藤の姉のような存在になっていた。
その市井が、違法賭博組織の壊滅の為に特別チームに抜擢されたと
喜んで報告しに来た。
刑事になるのが夢と聞かされていた後藤も、自分の事のように喜んだ。
捜査は順調に進み、中でも市井の活躍は素晴らしく
黒幕を一人で逮捕したのが市井だった。
一人、署長賞を貰い、念願の刑事にも なれた市井は
有頂天になっていたのかもしれない…
刑事になってからの市井は変わった。
チームプレイを逸脱して、仲間が集めた情報を確認もしないで
身勝手に動き出す市井は、その後 仲間からの信頼を失った。
信頼を取り戻す為には、更なる成績が必要と考えた市井は
もう少しという所まで追い詰めた『毒猿』を単独行動で取り逃がした。
しかも、同僚2人の死を伴って…
同僚の2人は市井を庇って毒猿の洗礼を受けて殉職した…
追い詰めたのは良いが、暗殺の手口さえ掴めず
殉職者さえ出した捜査は完全に振り出しに戻ったのだ。
3人チームで編成された、毒猿捜査班は市井の独り善がりの行動のお陰で
失敗に終わり、市井は当たり前のように捜査から外され交番勤務に戻された。
そして、左遷された市井は警察を辞めた。
理由は毒猿への復讐の為…
----沙耶香!お前は逃げろ!!----
同僚の声が耳に張り付いて離れない…
捜査一課の生え抜き刑事から一介の巡査に降格した市井の取る道は
賞金稼ぎに転身して毒猿を殺す事だった。
「暫らく会えなくなるね…」
後藤の頭を撫でながら話す市井の瞳は
ある意思を持っているように見えた。
強烈な蒼い炎を湛える、強靭な魂の宿る瞳…
後藤はゾクゾクと背筋に走る市井の意思を感じて
自分の進む道を悟った。
「うん…私も警官になる!…そして、待ってるから…
市井ちゃんが帰ってくるのを…」
手を振って街に消える市井は
後藤の涙で滲んで見えた…
それから、連絡は無い…
連絡が来る時は毒猿を殺した時…
ずうっと、そう思っていた…
市警のホストコンピュータから、現在の賞金稼ぎ達を調べた後藤は
市井の名前を探し当てた。
---200X年0X月廃業---
市井は賞金稼ぎになってから僅か3ヶ月で廃業していた。
「どういう事…?」
近所の市井の家族は
「娘は元気にしてるから心配いらないよ」
と、いい続けてきた。
後藤自身も連絡が無いのが元気な証拠と
市井の両親を信じていた。
「…市井ちゃん…………‥‥-
その店を探し出すのに約一ヶ月程を要した…
市井の両親は後藤に心配を掛けまいと嘘を付いていたのだ。
その両親も一年以上連絡が無いと肩を落とした。
「真希ちゃん…沙耶香を捜して…お願いします」
涙を浮かべて後藤に頭を下げる母親…
「…分かりました…」
後藤は、そう答える事しか出来なかった…
---ギィ---
ドアを開けると、安っぽい音楽と淀んだヤニの臭いが鼻に付いた。
名前も知らない、いや、知りたくも無い場末のキャバレーだった。
女性だけのお客さんは‥と断るボーイを無視して
テーブルを一つ一つ回って見た。
キャップを深く被り、サングラスで目を隠した後藤を
最初は誰だか判らなかったようだ。
市井沙耶香は禿げたオヤジに胸を揉まれて
水割りのグラスを傾けていたのだ。
「なんだい、アンタ?…ちょっと誰か!」
市井は訝しげに後藤を見ると、摘み出せと言わんばかりにボーイを呼んだ。
「おい、お前!…」
肩を掴んだボーイの鼻が潰れた。
裏拳でボーイを突き飛ばした その手で
警察手帳を取り出して市井に放る。
「……‥」
手帳を持つ市井の手が小刻みに震えた。
「…捜索願が出ている…アンタの両親からだ」
「…‥」
市井は顔を上げる事が出来ず、ジッと警察手帳を見詰める。
「どいつだ!暴れてるって奴は!!」
用心棒らしき風体の男が店の奥から出てきて後藤を見つけた。
「テメエか!ゴルァ!!」
後藤は振り向きもせず、腕を振る。
「撃つよ…」
ピタリと額に当たった銃口に、用心棒は言葉を失った。
「この人は警官だよ…」
ポツリと呟く…
「…場所を変えよう…」
市井は顔を上げずに手帳を返した…
「親には 廃業した時に、アンタにだけは話すなって言ったんだけどなぁ…」
近くに有る小さな公園のベンチに腰を下ろし
市井は星空を見上げた。
「で…何か用でも有るの?」
メンソールタバコに火を点けて、フーと紫煙を吐き出す
市井の唇は禍々しく真っ赤だった。
「毒猿は死んだよ…」
「そう…」
そう言って俯(うつむ)く市井は暫らく黙り込んだ。
「ハハ‥良かったじゃん」
誰が殺したかも聞かずに
メンソールタバコを吸い終わってから出た言葉がコレだった。
「……なんで辞めたんだ?」
賞金稼ぎを辞めた理由を問い質す後藤…
声が震えてるのが自分でも分かる。
「…なんでだろうねぇ?」
市井は、まるで人事だ…
「…答えられないのか?」
胸にズシリと鉛が沈むような感覚に、出る言葉が重かった…
「……」
無言の市井の半笑いの横顔…
「…答えろよ…」
雲が月を覆い隠し、虫の声が辺りを包むように市井が呟く…
「…気付いたんだよ…自分の実力に」
市井から出る言葉も、同じ重さなのだろう…
「最初は出来ると思ったんだよ…」
「……‥」
「賞金稼ぎの仕事でも トップに成れると信じてたんだよ…」
「…‥」
「…でも、現実は違ってた」
「…」
「ハハハ!私なんか足元にも及ばない連中がゴマンと居る世界だったんだよ!
ハハハハ、信じられるか?この市井沙耶香様がだよ?ハハハハ!」
市井は立ち上がり、大仰に手を広げて見せた。
「だから逃げたんだよ!ハハハハ!やってられねえってな!」
「……」
「お笑い種(ぐさ)だよな!ハハハハハ!ハハハハハハハ!!」
「……」
「ハハハ!どうした?答えてやったぜ!笑えよ!八八ハハハ!!ハ ハ ハ ハ…」
「…」
笑い疲れた市井がベンチに座るのと入れ替わるように
後藤は立ち上がり、そっと その場を離れた。
少し離れてから振り返ると、市井はタバコに火を点けようと
百円ライターを回し続けている。
「…市井ちゃん?」
後藤の声が聞こえないかのように
火が点かないライターを回し続ける市井…
「一度も私の顔を見ないんだね…」
ピクリと市井が振るえて動きを止める…
「今日、会ってから一度も私の顔を見ていない」
サングラスを外して、市井の足元に放った。
「……」
目の片隅でサングラスを見る市井は怯えた小動物のようだ。
「こっちを向けよ!!」
「…」
市井は、またライターを回し始める…
「市井ちゃん!!」
「見れると思ってるのかよ…」
市井の声は震えていた。
「……」
「ふざけんじゃないよ!バカヤロー!」
足元のサングラスをワナワナと震える足で踏み潰す…
「な、なんで、アンタの顔なんか見なきゃいけないんだ!
こっちは見たくないんだよ!…もういいだろ、帰れよ!私の前から消えてくれよ!!
…ちくしょう、点かねえ!このライター!!…ちくしょう!ちくしょう!!」
市井は最後まで後藤の顔を見なかった…
----ちくしょう、ちくちょう、ちくしょう、ちくしょう----
虚無感に包まれながら公園を後にする後藤の耳に
何時までも市井の声が響いた…
いちーちゃん、つらいな
市井紗耶香ね
間違えないであげてね゚・(ノД`)ノ・゚・。
( ^▽^)<ごっちん・・・ドキドキ
ふふふ、また名前を間違えたようですな… _| ̄|○
市井は また出てくるので直しました(`・ω・´)
237 :
:03/11/28 15:52 ID:DsarlQ4Y
狼も羊もカス
ξ
川σ_σ||
TT
( `.∀´)<よく来たわね
保
――― 10話 転校生 ―――
魔界街に続く一本の橋が有る。
魔界と外界を繋ぐ其の橋を朝娘橋と言う。
真っ暗な橋の下から湧き上がる、魔界からの陽炎に揺らめきながら
朝娘橋を徒歩で渡る2人の影が有った。
黒いフードに黒いケープの女と
紫のマントと紫のトンガリ帽子の少女…
ケープの女のフードからは鷲鼻と鋭い眼光が覗き、
手にはゴツゴツした瘤の付いた樫の杖を持っている。
そして、マントの少女の手には体より高いホウキが握られていた。
「ねぇ、お師匠様、なんで車で渡らないの…?」
つぶらな瞳で聞く少女の言葉のイントネーションは、どこか訛っている。
「フ‥登場シーンってのは大事なんだよ」
「フーン…誰も見てないのに?」
「おだまり!」
キッと見据えられて少女は肩を竦ませる。
「それより…」
師匠と呼ばれた女の口がニーッと広がった。
「今日から この街が私等の事務所の活動拠点だよ」
「今までの東京の事務所でも良かったのに…」
「阿呆、ココは国税の税務調査が入れないから、ガッポリと脱税出来るんだよ、
それに、『お前達』が芸能活動を続けるには、もっともっと今まで以上に
この街でミステリアスな部分を演出しないといけないからね」
格好良い登場シーンとか言っておきながら下世話な話しを
得意気に話す女は勿論 魔女だ。
「まぁ、私達 魔女には相応しい街だよ…
探してた私の師匠もココに住んでる事を突き止めたし、ヒッヒッヒ…」
不気味に笑いながら懐から一枚の紙を出した魔女は中心に描かれている五芒星に
吐息を吹きかける、すると紙はカラスに変化した。
「お行き!中澤は この街の何処かに居る…
探し出すまで帰ってくるんじゃないよ」
バサバサと音を立てて飛び立つカラスは
一度 魔女達の上空を旋回してから街に消えていった。
「さて、私達も新しい事務所に急がなくてはね」
「…だから、車で…」
「おだまり!」
「…師匠」
「社長とお呼び!」
「…」
魔力を使って飛んで行ってもいいのだが、超売れっ子アイドル松浦亜弥を抱える
芸能プロ社長の石黒彩は、顔がバレて『忌まわしい魔女が社長だった』みたいな
スキャンダルに発展するのを恐れて徒歩で魔界街に入った…
もう一人の秘蔵っ子新人アイドル、高橋愛を伴って…
ハロー女子高の昼休み、安倍なつみと矢口真里は
校庭の外れでホウキで飛ぶ練習をしていた。
「やっぱり駄目だべ…」
項垂れる安倍のホウキの先には、安倍が作った魔法グッズの
『ナッチベア』が3個 寂しそうにプラプラと揺れている。
「……ふう」
矢口も腰に手を当てて首を左右に振る…
中澤に「背中に翼が生えている」と言わしめた
安倍の潜在能力は、ある欠点によって開花出来無いでいる。
「もう、怖がってちゃ駄目だよ!」
「…だって、本当に怖いんだよ」
地面に膝を付きガックリとする、安倍の弱点は高所恐怖症…
自分の背より高い位置にホウキを浮かせるとパニックになって
落ちそうになるのだ。
---へっ、とんだワシの見込み違いじゃったのぅ---
馬鹿にした様な中澤の言葉にムカつき、特訓を決意したが
恐怖を克服する事は一朝一夕で出来る程甘いものではなかった。
肩に乗る『メロン』が心配するなと安倍に頬擦りして慰める。
「…ハハ、ありがと」
使い魔に慰められると、余計に落ち込む…
「まぁ、特訓は始まったばかりだよ…
今日はこのぐらいにしとこうぜ」
「…うん」
矢口に肩をバンバン叩かれ元気を出すように言われても、
惨めに肩を落とす安倍は心底 落ち込んでる様に見えた。
「ニャ〜オ」
矢口の頭で丸まっていた『ヤグ』が何かに気付き矢口に知らせる。
「……うん?」
ヤグの視線の先、高校の校門に人だかりが出来ていた。
テレビカメラを持った人間が2人とマイクを持ったレポーターらしき女性が一人、
それにスタッフが数人…
「あっ!テレビの取材だよ…どうしよう」
落ち込んでいた安倍が急にソワソワしだした。
「…どうしよって…どゆ事?」
意味が全然分からない矢口。
「だって、なっち が魔女ってバレるかも…」
「…はぁ?」
「だってだってだって、バレたら大変だよ!」
「バレないし、バレても大変じゃないし…
ってか アレは松浦の取材だろ?多分」
「うん?…松浦って?」
「ほら、出てきた」
矢口が指差した先にはアイドルの松浦亜弥…
カメラは笑顔で登校しているシーンを撮影している。
「うっそー!なんで あやや がココに居るの?」
手を口に当てて驚く安倍に
「松浦はココの生徒だよ」
と素っ気無い矢口。
「工 工 エ エ エ エ エ!!」
安倍は知らなかった…
人気絶頂のアイドルがハロー女子高の生徒だった事を…
ハロー女子高2年の松浦亜弥は2年前東京に遊びに行った時に
石黒にスカウトされて現在に至る。
忙しいアイドルは市長兼国会議員兼ハロー女子高理事長の
つんく の特例措置を受けて魔界街と外界の行き来を
フリーパスで通り、高校の成績も単位も不問にして貰っていた。
魔界街出身の松浦亜弥は不思議な魅力を振り撒き国民を魅了する
スーパーアイドルとしてアイドル界の頂点にいるのだ。
「矢口、後でサイン貰おうよ」
「エ〜ッ、やだよ」
「なんでなんでなんで?あやや だよ!あやや」
「……」
ハシャギまくる安倍のミーハー振りに目が点になる矢口は
さっきまでの落ち込みようは何だったんだと
呆然と開いた口が塞がらなかった…
3階の教室の窓から校庭を眺めていた吉澤が「おっ」と声を出した。
「なになに?」
すかさず隣に駆け寄る石川の表情が一変する。
「なぁんだ、松浦じゃん…ちぇ」
テレビクルーに囲まれる松浦を見る
石川の顔は女の嫉妬のソレだ。
「……可愛いなぁ…って、イテテテテテテ、止めろ、冗談だって」
ボソリと呟く吉澤の声を聞き逃すはずも無く
石川は吉澤の耳を引っ張った。
「ちょっと、よっすぃ!あんなB級アイドルの何処が良いのよ!
なにさ、少しばかり可愛いからって!フン!」
「…オマエよりは…」
石川の鬼の形相に気付いた吉澤は
そこまで言って慌てて立ち上がり踵を返し、逃げの体勢になる。
「石川さんの言う通りですわ!」
「わぁ!」
振り向いたら藤本が仁王立ちになっていて、
こちらの顔も恐ろしく怖かった。
「皆からチヤホヤされて、さぞ性格が悪くなってるんでしょうね、
顔に性根の悪さが滲み出てますわ!」
「…ハハ」
どの面(つら)でそんな事が言える と、半笑いの吉澤。
「でも、可愛さやエレガントさなら私の方が上ですけど、
オ〜〜ホッホッホッホッホッホ」
「チャーミーさなら私も負けませんわよ、藤本さん、
ホ〜〜ホッホッホッホッホッホ」
「………‥」
おバカな高笑いをする2人を尻目に
コソコソとその場を離れる吉澤。
「ちょっと、何処に行くの?吉澤さん!」
「よっすぃ!なんで逃げるの!」
ギクリとする吉澤は天を仰いだ。
また、くだらない漫才に付き合わされるのかと思うと急に憂鬱になる。
それは、何時もの昼休みの出来事だった…
今日はココまでです。続きは明日…です、多分…では。
更新お疲れでつ。
新しい展開の予感ですね。楽しみにしてまつ。
辻達が通う市立朝娘中学校に市外からの転校生が来た。
「オマエ等、驚くなよ〜」
ニヤリと笑う3年1組の担任の江頭先生が
転校生を教室に呼んだ。
ガラリとドアを開けて入ってきた愛くるしい美少女に
教室中がどよめく。
「おおお!愛ちゃんだ!アイドルの愛ちゃんだ!」
「本物かよ?」
「マジかよ!」
口々に歓声を上げる男子生徒達にニッコリと微笑んで、
松浦亜弥の妹分との触れ込みで今話題の、
期待の新人アイドル高橋愛はペロリと舌を出してエヘヘと笑った。
「うおおおお!可愛い!」
「愛ちゃ〜〜〜〜ん!!」
吠える男子達とは裏腹に女子は白けながら顔を見合わせる。
「なんやねん アレ、なぁ のの」
「でも、可愛いのです」
「有名人と同級生ですか…」
一番後ろの席3列の加護、辻、紺野も其々の感想を漏らす。
「オマエ等!うるさいよ!しーしー!」
何故か何時も上半身裸の学級担任 江頭が、騒ぐ男子を静かにさせて
改めて高橋に自己紹介させる。
黒板にサラサラと書くのは自分のサイン。
「おお、やっぱり本物だ〜」と、歓声を上げる教室。
「はじめまして、高橋愛です、お仕事で一緒にいられる時間は
少ないかもしれないけど、仲良くしてね♪」
「うおおおぉぉぉおおおおお!!」
余りの可愛さに男子達は、さっそく虜に成り下がる。
「なんや、訛ってるやん」
イントネーションの訛りに加護が毒づく。
「加護さんも…」
「ウチのは大阪弁!訛りちゃうわ」
クスッと笑う紺野に、すかさず突っ込む加護。
「さて、高橋の席だが…」
男子全員がハイハイと手を上げて自分の隣を差すが、
江頭先生はバカ生徒を無視して紺野の隣を指差した。
「高橋、紺野の隣の席が空いてるから、ソコにしなさい、
紺野も この間 転校してきたばっかりだ、
新人同士仲良くするんだぞ」
一斉に肩を落とす男子…
「アホばっかりやで、ウチ等のクラスの男子共は」
加護は長い溜め息をついた。
紺野の席の隣に座った高橋が、3人に向かって微笑んだ。
「……?…」
愛想笑いで微笑み返す3人…
「よ、よろしく、私 紺野あさ美です、私も転校してきたばかりなの」
「ののは辻希美と言いますです」
紺野と辻の挨拶にも、微笑みは崩さず…
「貴女達、魔女見習いでしょ」
挨拶の変わりに高橋から出た最初の言葉がコレだった。
「え?なんで知ってるのです」
キョトーンとする辻の顔が何かに気付き、
口に手を当てて驚きの声が出るのを抑えた。
高橋のセーラーのポケットから顔を出す真っ白なハムスター。
「フフフ、この事はクラスの皆には内緒ね」
「……」
声も出ない3人に向かってニーッと歯を見せて微笑む
高橋の笑顔は、どこか意地悪そうに見えた。
高橋は仕事が有るので午前中で早退した。
授業の合間の時間に話を聞こうとしたが
新人アイドルは男子に囲まれて話すどころではなかった。
結局、話しは出来ず、高橋が魔女の件は謎のまま放課後を迎えたのである…
今日はココまで、次回は土曜の夜の予定です。
>>254 楽しみにして頂き感謝です。では。
地方からきますた
( ^▽^)<ドキドキ
262 :
名無し募集中。。。 :03/12/06 00:22 ID:/DHYUb6R
あげ
ふ
264 :
名無し募集中。。。 :03/12/06 17:30 ID:m4R+elnJ
(〜^◇^) <ちぇっく
265 :
おおお:03/12/06 17:35 ID:gThQ+bzu
537 :萌える名無し画像 :03/12/05 23:54 ID:JZ8K9pA3
コラ貼ってるくせにこのレス削除したり
アクセス規制したら法廷に引きずり出してやる
スレッドごと削除しろ
正義の味方が現れたみたいですよ
おい ハナゲ
スレの題名が紛らわしくて
へんなレスがいくつかあるけど
小説はマジおもろいです
がんがって
バーンと勢い良くMAHO堂のドアが開いて魔女見習い達が帰ってきた。
「裕子婆ちゃん!!大変なのです!」
「なんじゃい?騒がしいのぅ」
学校が終って直ぐ、息を切らせながら走って来た魔女見習いの3人は
日本茶をススっていた中澤を囲んだ。
「魔女見習いがいるのです!」
「ウチ等以外 魔女って居ないのとちゃうの?」
「有名人とお話し出来ました」
「高橋愛ちゃんっていうアイドルなのです」
「なんか、感じ悪かったでぇ」
「お友達になってくれるんでしょうか?」
「あやや の妹分なのです」
「あやや もなんや感じ悪いんちゃう?」
「今度サイン貰いましょう」
「……‥」
自分を囲み、ギャーギャー騒ぎ立てる3人に
プルプルと体を震わせる中澤…
「でねでねでね、ハムスターを持ってるのです」
「まぁ、ウチ等の使い魔の方が優秀に決まってるけどな」
「私はまだホウキさえ貰ってませんよ」
「………‥」
中澤の額に血管が浮き出てピクピクと動く…
「でねでねでね…」
「そいでなぁ…」
「ですから…」
「……」
プツンと血管が切れる音が聞こえた…
「…バ、バババババッカモ〜〜〜〜ン!!
じゃかましいわ!きさま等!!!」
ガバッと立ち上がり、額の血管を浮き出させながら
噴火する中澤に、皆 腰を抜かして尻餅を付いた。
「あっ、腰が治ってるのです」
「ほんまや、ピンとなってるやん」
「良かったですね」
「おぉ、曲がってた腰が…って、アイタタタタタ…」
激情の余り腰を伸ばしてしまって、
つい やってしまった乗り突っ込みも腰の激痛には耐えられず、
腰を押さえて蹲る中澤を心配する3人。
「大丈夫ですか?」
紺野が支えて椅子に座らせた。
「…やれやれじゃわい、オマエ等、もうちょっと落ち着いて話せ」
「あのねあのね…」
言葉足らずの辻の代わりに加護と紺野が
今日の出来事を話した。
「ふむ、成る程のぅ…」
目を瞑りながら聞いていた中澤は
聞き終わると、お茶を一口飲んだ。
「結論から言うと、思い当たる節が無い訳ではない」
「…やっぱり」
顔を見合わせ、頷き合う3人。
そこに、タイミング良くドアを開けて入ってきた2つの影…
「…あっ!」
「なんや、その格好!」
「お仕事じゃなかったの?」
紫のマントとトンガリ帽子の魔法のホウキを持ち微笑む高橋と
カラスを肩にとめる黒尽くめの目付きの鋭い女性…
「お師匠様、久しぶりね」
顔半分を隠していたフードを颯爽(さっそう)と外し、
石黒彩のドギツイ口紅に彩られた唇の端がキューッと吊りあがる。
「やはり、おぬし じゃったか…彩よ」
「フフフ…」
不適な微笑を湛える石黒…
その石黒を辻達が指を差してクスクス笑った。
「…魔女なのです、本物なのです」
「あの鼻は、ほんまもんやろ」
「鉤のように鋭く曲がってますよ」
「じゃかましいわ!魔女見習い共!」
言われたくない所を突かれて、顔を高潮させた石黒に一喝されて、
ピンと固まる3人だが、笑いを堪(こら)えている表情が見え見えだ。
「…コイツ等…」
今度は石黒の額の血管がピクピクと動く。
「でも、裕子婆ちゃんを師匠と呼ぶって事は…」
「弟子だったんやろ?」
「でも、随分若いですね」
また、ヒソヒソと始める3人に、訳知り顔の中澤がニヤケながらボソリと呟く。
「…彩は、もう80歳を越えとるわ」
「…ゲッ!」
「ババアやん!」
「詐欺みたいな物ですね…」
「キー!うるさい!!…って、なんだ?お前まで!」
ムカつく事を言い放つ小娘共に、本気で腹を立てながら横を向くと、
一歩引いて 信じられない という表情の高橋がアングリと口を開けていた。
「…師匠、この娘達を少し黙らせてくれ」
小娘達との言い合いは空しいだけだと思った石黒は
中澤に助けを求めた。
「そんな事より、何の用じゃ?」
石黒の要求を無視して、用件だけ聞く。
「……用という用は無いけど」
笑いを堪える3人と高橋を苦々しく睨み付けながら
石黒は店内を見回した。
「師匠が今、何をしてるのか気になってね…
おっと、私は今 こういう事をしてますの」
そう言って差し出した名刺には
『石黒音楽事務所社長』の肩書きが印刷されていた。
「…じゃから、なんじゃ?」
「今度、魔界街に事務所を開く事になりましてね、
その挨拶にと、こうして寄ったんですけど…」
石黒の顔が本来の余裕を取り戻し、不適な含み笑いを漏らす。
「随分と小汚い店ですね…売り上げは どの位有りますの?
まぁ、私共の年商はざっと50億は有りますのよ!
ホ〜〜ホッホッホッホッホ!」
石黒の目的は中澤を前にしての、この高笑いをする事だった。
「…嫌味を言いに来たのか?」
ウンザリしたように聞く中澤。
「違いますわよ、現実を解からせる為に来ましたの」
「……」
「もう、全てにおいて完全に師匠を超えたという現実をね」
その昔、最悪の性格だった中澤の元で修行した石黒は
いつか中澤を超える事を胸に秘めて修行に明け暮れた。
そして、イジメにも近い修行の中で、中澤の性格までもを受け継いだ石黒は
金の亡者に成り果て、人心をも操る魔法を駆使して今の地位を築いた。
中澤越えを果たしたと確信した石黒は、中澤の居場所を探り出し、
自分との差をハッキリさせる為に、この魔界街に来たのだ。
弟子の高橋を私立のハロー女子中学に通わせず、
辻達が居る公立の朝娘市中学に転校させたのも
弟子の格の違いを解からせる為の嫌味な行為だったのだ。
「…ふん、なんじゃい、わざわざ そんな事を言いに来たのか?…」
ブスッと横を向いて茶をすする中澤は、それでも まだ余裕が有るようだ。
「さて、ワシには、どうでもいい事なんじゃが…
オマエの肩に乗ってるカラスのぅ」
チラリと石黒の使い魔のカラスを見て
ニヤリと不適な笑みを漏らす中澤。
「ワシの事を探りに来た時、ちょこっと細工をした…」
「…何を?」
怪訝そうにカラスを見る石黒の表情が固まった。
「…く…」
首に違和感が有った…
触ってみると首に括(くび)れが出来ている。
「間抜けな使い魔にワシの髪の毛を一本付けておいたんじゃ」
「……」
「今、オマエの首を絞めているのは、ワシの髪じゃよ…」
ヒッヒッヒと笑う中澤が、杖を床に打ち付けると
首に食い込んでいる白髪はハラリと解けて床に落ちた。
「まだまだじゃのぅ、ワシを越える事は…」
ゲホゲホと咽(むせ)て、首を擦る石黒は
それでも余裕の表情だ。
「流石は私の師匠、器用さだけは今でも健在って所ね、
でも…知ってるよ、もう、飛ぶ事さえも出来ないって事を…
因る年波には勝てないねぇ…
私は老いさらばえていく師匠を この目でジックリと見させてもらうよ」
ハッハッハッハーと勝ち誇る笑いを残して店を出る石黒と高橋…
ちょっぴり深刻な場面に遭遇して、
言葉も無く顔を見合わせる辻、加護、紺野…
中澤の米噛みがピクピクと震えた。
「塩 撒かんかい!塩!」
中澤に言われて外に出た魔女見習い達が見たもの…
それは、アイマスクで顔を隠した石黒と高橋が
杖とホウキに跨り、空高く飛んでいく姿だった。
「と、飛んだのです…」
「なんでやねん!なんでアイツが!」
「…すごい‥本当にいるんだ‥魔女って」
歴然とした自分達との差を見せつけられた3人は
只々、呆然と見送るしかなかった…
今日はココまでです。続きは明日の予定です。
>>266へい、頑張るでぇ。では。
更新乙です。
愛ちゃんがこれだとあややは凄いことに……
続き楽しみにしてます。
――― 11話 ステーキとアイスクリーム ―――
魔界街には一般市民が近付けない場所がる。
俗にB地区と呼ばれる警察も足を踏み込むのを躊躇する、重犯罪者が住み付き、
魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する正に異界の地域だ。
(以前、飯田と吉澤が毒猿と死闘を演じた泥水町も、このB地区に属する)
ちなみに、一般人が住むA地区は朝娘市の8割を占め、
(その中でも安倍が住む最も治安が良い地区をS地区と言う)
残りの2割がB地区なのだが、B地区の住人でも
近寄らないのが、B地区の中心に有る僅かな面積の『C地点』
と呼ばれる、瘴気が漂う魔界と繋がる暗黒面である。
街外れに位置するB地区には警察により鉄条網のフェンスが
張り巡らせてあり、犯罪者達を隔離してある。
鈍く光る その鉄条網を道路を隔てた向い側に建つ
貧乏長屋の窓からボウと見る辻希美は、
MAHO堂での高橋愛との出来事にショックを受けて
物思いに耽っている様でいて、実はそうでは無い。
「お腹が空いたのです」
腹ペコなだけである…
両親は共働きで帰宅が遅く、いつも一人で夕食を作って食べる辻だが
今日 帰ってきて冷蔵庫を開けたら中には何も入っていなかったのだ。
ハロー製薬の下請けの更に下請け会社のライン工場で働く両親の
給料は甚だしく低く、B地区に隣接する 家賃が低い平屋建ての長屋横丁に
住居を構えるが、この家族はそんな境遇にも笑って過ごし、アッケラカンとしたものだ。
そして、辻が魔女見習いになると宣言しても、頑張れと励ましてくれる優しい両親だった。
「うん?」
隣の長屋の建付けの悪いドアがガラガラと音を立てて開けるのが聞こえた。
「久しぶりに帰ってきたのです」
週に一回ぐらいの割合で帰ってくる隣の住人が辻は好きだった。
「飯田さん、飯田さん、のの なのです」
勝手に玄関に入って呼ぶと、飯田圭織がヒョコリと顔を出して
ニーッと笑って手招きした。
「おいで のんちゃん、ご飯食べてないんだろ?」
「なんで分かるのです」
「ふふ、顔に書いてあるよ」
「マジでですか?」
手の甲で顔をゴシゴシと擦る辻を見てケラケラと笑う飯田。
週に一度しか帰らない飯田の冷蔵庫の冷蔵室には飲料水のペットボトルと
何に使うか分からない薬品類と注射器、湿布の類しか入っておらず、
日持ちのしない食品等は置いてなかった…
が、冷凍室には牛肉の塊とアイスクリームが入っている。
「よし、ステーキとアイスにするか」
腕まくりをする飯田は10キロ以上は有るステーキ肉の塊を
取り出してドンと まな板に乗せた。
「わぁ!ステーキなのです!のの は昨日 タマゴ掛けご飯だけだったのです」
パァッと顔を綻(ほころ)ばせる辻に向かってニッコリと微笑み
飯田は包丁を凍った肉塊に当てるとスッと違和感も無く切り落とした。
「凄いのです、飯田さんは何の仕事してるんですか?」
「ふふふ、秘密だよ」
ウィンクしてみせる飯田は自分の仕事を明かさない。
「それより のんちゃんはご飯を炊いてね」
「あーい」
米櫃(こめびつ)から五合の米を取って炊飯ジャーで炊くと
米の炊ける香りとステーキが焼ける匂いが
台所に漂い、辻のお腹をゴロゴロ鳴らした。
「はやく、はやく♪」
茶碗を箸でチンチン鳴らして待ちきれない辻の口からは
ヨダレの糸が引いている。
「ヨダレ、垂れてるよ」
食卓にステーキを運んだ飯田がご飯をよそいながら
半笑いで指摘した。
「もう、夜の9時なのです、お腹がペコペコ過ぎなのです」
「ハハ‥じゃあ召し上がれ」
「あーい、頂きますなのです!」
パクリとステーキ肉を一口頬張る辻は満面の笑みを浮かべながら
涙目になっている。
「う、美味過ぎるのです!」
「ハハハ、泣くほど美味しいのかい?良かったねぇ」
「うん!」
辻は一キロ、飯田は2キロものステーキを平らげ、
インスタントの味噌汁を飲んで、お腹を擦りながら一息付いた。
「あのねあのね…」
ソファーに腰掛け、アイスを食べながら辻の話しを聞く…
前に飯田に会ってから今日までの出来事を
楽しそうに喋る辻の笑顔を見るのが飯田は好きだった。
「そうかい、良かったねぇ」
相槌を打ちながら笑い合う 今の、この時間が飯田には
貴重な癒しのひと時だ…
話し疲れてウトウトとしてきた辻に毛布を掛けて
そっと頭を撫でながら寝かしつけると
「むにゃ、もう食べれないのです…」
と何の夢を見てるのか想像がつく寝言に飯田は苦笑した。
それでも、幸せそうな辻の寝顔を見る飯田の瞳は優しさに溢れている。
「不思議な少女だね…」
辻といると何故か心が和んだ…
それは、毎日の殺伐とした闘いの中でのオアシス…
飯田は辻と話す事で荒(すさ)みつつある心の均等を量っている気がした。
「ごめんください、希美 おじゃましてませんか?」
迎えに来た母親に手を引かれ、
眠そうに目を擦りながら飯田に手を振る辻を見送る…
こうして、飯田の英気は養われる。
「ハハ、明日も頑張るか…」
もう、何年も続いている ささやかな幸せに、飯田は励まされ続けているのだった…
今日はココまでです。続きは来週の予定。
>>276 どうもです。ぁゃゃは当分出てきませんが、実力は相当なモンになる予定です。では。
おぉ!なんか凄くいい雰囲気。好きですこーいうの。
徐々に接点を見せ始めた娘。たち。続き楽しみにしてまつ。
保全
――― 12話 死人返り ―――
「ゲホッ、ゲホッ…」
咳の中に血が混じり、意識が朦朧とする市井紗耶香は、
「死ぬ事だけが生の証」と自分に言い聞かせていた。
裸足に真っ赤なカクテルドレスを着た市井が
見上げる空には月も星も無く、濁った瞳には あの日のように淀んで見える。
後藤と再会した日から、殆ど寝ていない…
眠れなかった…
後藤と再会した日から「死」だけを考えている…
生きる気力は無に帰した…
だから、クスリに手を出した。
違法ドラッグから魔界街特製の魔薬にまで手を出したツケは、
左腕の関節が無残なまでに紫色に腫れ上がった注射痕の傷跡だ。
左手にウィスキーのボトルを持ち、フラフラと歩く先には
朝娘市が事故(自殺)防止の為に建てた高さ5メートル程の壁が
ベルリンの壁の如く永延と続いている。
この壁の向こうには朝娘市を囲む地割れが魔界の口を開けているのだ。
呆然と見上げた後、市井はおもむろにコンクリートの壁に指を食い込ませる。
薬物によって痛みも感じない体は、肉体の限界を超える力を発揮し、
爪が割れ抜けるのも無視して90度の角度の壁を這い上らせた。
ビューッと吹き上げる魔界からの風に髪を靡(なび)かせ
市井は だらしなく視線を落とした。
「私に相応しいドス黒さだな…」
目の前に迫る暗黒色に彩られた地割れの底は勿論見えない。
「…おお!」
強風に煽られ、バランスを崩した市井は地割れに落ちそうになり、
慌てて腰を下ろして苦笑いをした。
「…ハハ、これから死ぬってのにな」
最後にタバコを吸いたくなり、ポケットに手を突っ込むが
取り出したタバコの箱にはタバコが切れて入ってなかった。
「…チッ、最後まで使えねぇ人生だったなぁ」
タバコを吸う代わりに鼻歌を歌った。
歌詞を思い出そうとしても思い出せない、悲しいラブソング…
その鼻歌に共鳴するかのように地割れの底から唄が聞こえた…
「…ハハハ、呼んでるよ‥地獄が私を…」
ふと見上げる空は地獄と同じ漆黒の闇だった…
もう、どうでも良かった…
魔界街B地区に数箇所有る、C地点と呼ばれる僅かな面積の
誰一人として足を踏み込む事の出来ない場所が有る。
魔界と通じると言われる、その中心点から湧き出る瘴気は全てを腐食し、
空気に触れて薄まったソレはB地区を漂う。
犯罪者の巣窟のB地区を警察が隔離する理由がソコに有った。
そのC地点の中心点から瘴気と共に一人の影が湧き出た。
ズルズルと足を引きずりながら歩くソレは体中から瘴気が湧き出る歩く死人…
魔界街で俗に言う『死人返り(しびとがえり)』だった。
地割れに転落したと思われた人間が、ある日瘴気を携えて
ゾンビの如く街を徘徊する…
人々は死人になった理由を探し、噂し、そして忘れる…
この街では死ぬ理由など掃いて捨てる程有るのだから。
ただ一つ判っているのは『死人返り』は死人になった原因に向かい歩く…
自分が死んだ理由を求めさすらう様に目指すのだ。
だが、死人が その場所に辿り着いた事は一度も無い。
A地区に出た途端に警察の火力によって無に帰すからだ。
しかし、今回の『死人返り』は只の死人では無かった。
頭頂から爪先までをも黒い煙のように蟠(わだかま)る瘴気に包まれ、
顔さえも見えない死人は何故か真紅のカクテルドレスを着ていた。
スローモーションのように歩く跡には空気にさえも溶けない真の瘴気が
揺らめく綿毛のように続く。
A地区に侵入してから当たり前の様に武装警察に囲まれ、
放たれた銃火器にも平然と歩みを止めない死人に愕然とする指揮官。
「…幽体だ、銃が効く筈が無い」
射撃隊の一人がボソリと呟いた。
マグナムは勿論、火炎放射器の圧倒的な炎さえも通り抜ける
歩く死人の体は、物理攻撃が効かない 目に見える幽体だったのだ。
街を汚染する瘴気の足跡を残しながら向かう先は朝娘市警察。
其処に続く朝娘市中央通りは警察によって封鎖された。
「この道路は半年は使えなくなるな…」
「おい、目抜き通りだぞ」
「仕方ないだろ…」
別の射撃隊員達がゴクリと唾を飲み込む。
瘴気の毒に汚染された箇所は浄化するのに半年は掛かるのだ。
「専門家はまだか!」
苛立つ警官隊長は空を仰いだ…
「幽霊相手じゃ、私の出る幕は無いよ」
出動命令が出た飯田圭織は現場の隊長に
お手上げだと言わんばかりに肩を竦めて見せる。
「そんな…頼むよ、飯田」
「ハハ‥無理々々」
隊長に縋(すが)り付かれても、腕組みをして苦笑するだけの飯田は
黙って見ているしかなかった。
そこに…
「お主等、どきなしゃれ!」
警官隊と飯田を押し退けて死人の前に立ったのは署長に要請されて出てきた
魔人専門の賞金稼ぎの一人、退魔師の通称『陰陽婆』だ。
「おお、貴女は退魔師の!」
「世辞はよい、それより謝礼はタンマリと頂くぞい」
自分を見限り陰陽婆に擦り寄る隊長を鼻で笑う飯田は
退魔師の技に興味津々の顔付きだ。
「なんじゃ、おぬし‥」
その筋では有名な『魔人ハンター』飯田圭織に一瞥をくれる陰陽婆は
「黙って見てなしゃい」と馬鹿にしたように言い捨てた。
「ほう、見せてもらうよ」
ニヤける飯田の唇の端がピクリと引きつる。
「…ふん」
陰陽婆は両手を広げて気を溜め、パンッと目の前で指印を結んだ。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・行」
背骨の曲がった巫女姿の陰陽婆は九字を切り、
密教の呪法『死人送り』を唱えながら破邪の護符を死人の額に貼り付けた。
「キエーー!悪霊退散!!」
ドサリと崩れ落ちる…
「…なっ!!」
愕然と見守るギャラリー。
護符を貼り付けた瞬間、言葉も無く骨と皮だけを残して朽ち果て、
冥府に送られたのは陰陽婆の方だった。
骨の屍と化した陰陽婆を瘴気が包み込み、死人が歩き出すと
その骨は砂の様に崩れた。
「こりゃ、ヤバイかも…」
流石の飯田も深刻に為らざるを得なかった。
「な、なんて事だ…誰かアレを止める事は出来ないのか!」
警官隊長は歩みを止めない『死人返り』を、只 呆然と見守るしかなかった。
今日はココまでです。次回は未定です。
>>284 おまたせしてスマソ、ぼちぼちとやっていきますので、ヨロスコ。では。
( ^▽^)<ドキドキ
(;^▽^)<ハナゲタン・・・ハァハァ
――― 13話 魔女の条件 ―――
「なんで愛ちゃんが飛べて、のの達が飛べないのです」
「素質が違うんじゃないべか?」
「ああ、あっちは売り出し中のアイドルだしな」
「納得できへんわ!」
「私はホウキさえ貰ってませんよ」
MAHO堂で議論を交わす魔女見習い達は
テレビで生中継されてる『死人返り』の事件には無関心のようだ。
自分達が何故 飛べないのかを一生懸命解明しようと必死に話し合っている。
中澤は我関せずと、椅子に深々と腰掛けタバコをふかしてテレビを見ていた。
「もう、その娘に直接聞くしかないべ?」
「安倍さんは怖がりを治せば飛べるから余裕なのです」
「そやで、安倍さんは余裕持ち過ぎやで」
「お前等、なんで なっちを攻めるんだよ」
「私はホウキさえ貰ってません!」
「…ハ、ハハ‥」
溜め息を付く安倍は中澤に助けを求めて視線を送った。
「ふん、お前等 仕事もせんでウルサイのぅ」
「お客さん、いないのです」
「そやで…って、そう言えば 誰もおらんな」
「そうだな、何時もは忙しい時間なのに…」
「私はホウキさえ…」
「ねぇ、裕子婆ちゃん、教えて…愛ちゃんって娘が飛べる理由」
安倍の訴えるような潤んだ瞳に中澤は…
「…分かったわい」
安倍に懇願されて中澤は溜め息混じりに話し出した。
「お前達の目標は何じゃ?」
「…それは、飛ぶ事かな」
矢口の答えに皆頷く。
「それをクリアしたら、どうするんじゃ?」
小馬鹿にしたように聞く中澤。
「それは…」
全員、お互いの顔を見合わせて答えに窮した。
フンと鼻で笑う中澤はタバコを深く吸い込んで紫煙を吐き出す。
「それでは質問を変えるぞい、お前達は目標の為に
他人が不幸になっても構わんか?」
「…え?」
皆ポカンと口を開けた。
「自分の為に人が死んでも構わんかと聞いておる」
「…‥」
全員無言でブンブンと首を振った。
「出来んじゃろ?じゃが、あの娘には それが出来る、
そこがお前達が魔女に為れない理由じゃ」
「どういう事なのです?」
辻の質問に「やれやれ‥」とタバコを揉み消しつつ、
自分の私見じゃがと断りを入れて中澤は続けた。
「自分の目的の為には人が死んでも構わないと言う心構えが魔を呼び込む…
それが魔術じゃ、あの娘はお前達とは違って飛ぶ事が目標なのでは無い、
どんな目的が有るのかは知らんが、あの娘が飛ぶ事が出来たのは極めんとする魔道の
道程に有る通過点にすぎないんじゃ」
「よく分からないのです」
「…う〜ん、難しいわ」
それでもキョトンとする辻と唸る加護。
「つまり、悪い子じゃないと魔女になれないと言う事だよ」
「ああ、成る程なのです」
邪心も無い自分達が飛ぶという道程には、時間が掛かると理解して
声を落とす矢口の解説に、成る程と頷く2人。
「そういう事じゃ…じゃがな」
ニヤリと笑う中澤はテレビに視線を移して、皆に見るように促した。
テレビの生中継は陰陽婆の『死人送り』が失敗して
砂のように崩れ落ちる姿がビデオで繰り返し映し出されていた。
「げげっ!死んだのです!」
「大変な事になってるやん!」
「なに?この幽霊みたいなのは!?」
テレビに釘付けになる魔女見習い達に向かって
中澤は話しを続けた。
「石黒やワシ、ましてや あの娘には絶対出来ない…
いや、魔界街でもお前達だけにしか出来ない魔法がある」
そう言いながら席を立つ中澤。
「…え?」
「ホウキを持って、着いて来るんじゃ」
疑問を顔に表しながらも、中澤を追って店を出る魔女見習い達…
「私、ホウキ持ってませんよ」
「構わんわい」
紺野はMAHO堂に鍵を掛けて、CRUISEの看板を立てた…
ズルズルと足を引きずりながらスローモーションのように歩く
瘴気を身にまとった『死人返り』は、目指す目標であろう
朝娘市警察本署までの距離200メートルの所まで迫っていた。
辿り着いたらどんな事象が起こるかも分からない今回の事件に
現場の隊長は頭を抱えている。
「俺はどうすればいいんだ!」
署長も逃げの算段を図っていて、全ての責任を警官隊長に押し付けていた。
「どうしようも無いんじゃない?」
諦めたのか、飯田もタバコをふかして傍観の構えだ。
そこに…
「ああ!飯田さんなのです!」
「うん?」
後ろから声が聞こえて振り返ると、辻とその仲間達がホウキを持って立っていた。
「のんちゃん、どうしたの?」
チョコチョコと駆け寄る辻の頭を撫でながら聞いた。
「さぁ?よく分からないのです、それより飯田さんは刑事なのですか?」
「ハハ…バレたか」
別に隠していた訳ではない、
只、話すタイミングを逃して今までズルズルになっていただけだ。
「危なくなったら逃げるんだよ」
「アーイ」
辻の出現に少し驚いたが、見物にでも来たのだろうと思っていると
その後ろから杖を持つ腰の曲がった黒尽くめの老婆が
「どかんかい役立たず共」と、警官隊を押し退けて辻達の前に出てきた。
「だ、誰だ?アンタは?」
警官隊長は中澤に対して不審の目を向ける。
「ホッホッホ、おぬしの首、繋がりそうじゃな」
「え?」
中澤の言葉に、まさか、と思い口元が緩む隊長。
「あの妖物を退治すると言っておるんじゃ」
「えー!」
やっぱり、と驚き、口が笑いの形になる隊長。
「退治するのは、その子供達じゃがな」
「工エエェェェ、、」
嘘だろう? と口をへの字にして落胆する隊長。
「謝礼は師匠のワシがタンマリと貰うがのぅ、ホッホッホ」
「…ほ、本当に出来るのか?」
それでも、縋(すが)るしかなかった。
金にガメツイのは、どの世の婆も一緒だ。
中澤は子供達と聞いて唖然とする警官隊長を無視して、
ホウキを持つ手が震えてビビる弟子達を死人を囲むように立たせた。
「のんちゃん!」
緊張の面持ちでホウキを持つ辻に飯田が心配して声を掛ける。
それでも辻は、飯田の心配を他所に手を振って笑う。
「…のんちゃん…危険だって分かってるのか?」
「おぬし、辻の知り合いか?」
胸に手を当ててハラハラしながら頷く飯田に、
黙って見ておれ、と余裕の中澤は紺野にチラリと視線を移した。
「私は…?」
「お前には最後にやってもらう事が有る、この紙に念を込めながら魔法陣を描くのじゃ」
中澤の横に立つ紺野に白い紙と筆を渡す。
「え…?」
「ふん…お前には本当の意味での魔道士になって貰うつもりじゃ、
じゃから、ホウキなどという玩具(おもちゃ)はやらん、覚悟せい」
中澤は紺野にホウキを渡さない理由を告げた。
「…魔道士って、突然すぎます」
「ワシは前から考えておった、それより今は目の前の事が先決じゃ!」
眼前に広がる光景に、中澤は顎をしゃくって見せた。
「裕子婆ちゃん!どうすんだよ!?」
『死人返り』を囲んだのはいいが、どうすれば良いのか解からず、
矢口が堪らず声を出す。
「お前達の持ってる、そのホウキで妖物を扇ぐんじゃ!やれっ!」
中澤の声に反応したように、其々の使い魔が4人の頭にチョコンと乗った。
「わ、分かったのです!」
「おっしゃあ!」
「やったるでぇ!」
「や、やるべさ!」
訳も分からず連れて来られたが、その訳がようやく解かり、
覚悟を決めた4人は魔法のホウキを死人に向かって振った。
---ブオォォオオ!---
吹いた風は瘴気を霧散して浄化する…
4本のホウキが起こした風は瘴気を纏(まと)った顔さえも見えない死人に吹きすさび、
黒い煙のような瘴気を払い、真っ赤なカクテルドレスに身を包んだ死人の素顔を晒した。
「げげげ!」
「うぎゃー!」
「わぁぁあ!」
「ひぃぃいい!」
生前の面影を僅かに残している、ゾンビのような無残に爛れた死人の顔に恐怖し、
ペタリと腰が抜ける魔女見習い達…
だが、死人の歩みは止まっていた。
「何やっとるんじゃ!バカモン!風を送り続けるんじゃ!」
中澤の怒声にヨタヨタと立ち上がり、それでもホウキを振る4人。
「怖いのです!」
「バケモンだよ!」
「あかん、これは あかんでぇ!」
「夢に出るべさ!」
怖さからか、バタバタと振るホウキの風は勢いを増し
死人の動きを完全に止めた。
「これが、お前達にしか出来ない魔法じゃ!
邪念の無いお前達のホウキは魔を払う破邪の風を起こせるのじゃ!
高橋とか言う、あの魔女見習いには到底出来ない芸当よ!
分かったら張り切ってやるんじゃ!」
中澤の言葉にホウキを振る全員が顔を見合わせて頷く。
「よっしゃー!やったるでぇ!!」
ほんの少し、魔女見習い達の顔付きが精悍になった。
魔女として、ちょっぴり希望が沸いたのだ。
「さて、紺野よ、次はお前の出番じゃ…その紙を杭状に丸めるんじゃ」
「…はい」
紺野は自分が描いた魔法陣の紙を言われた通りに丸めると
中澤が自分の杖で、その紙をチョコンと突いた。
「…こ、これは」
「それで、あの妖物の額を突くんじゃ」
紺野が手に持つソレは、白い杭に変化していた…
魔女見習い達を固唾を呑んで見守る警官隊員達の中に
愕然と膝を突いて震える巡査がいた。
「…い‥市井ちゃん…」
乾いた声を振り絞るように出したのは後藤真希だった。
見る影も無い、魔物と化した死人の目には、
この世に対する恨みの闇の光が宿っている。
「…何でだよぉ」
後藤の挙動に気付いた隊員が震える後藤を見た。
「…何でなんだよう!!」
立ち上がった後藤の噛み締める歯はガチガチと鳴っていた。
「ふざけるなぁぁあ!!さやかぁぁああ!!!」
雄叫びを上げる後藤の勢いに驚いた、周りにいた隊員達は尻餅を付いた。
「よし、行くんじゃ」
「は…はい」
中澤に促され、白い杭をギュッと握り締めた紺野が決意を固めて
踏み出そうとするのを誰かが腕を取って止めた。
「なんじゃ?お前は?」
「あの化け物の知り合いだ…」
中澤を見ずに死人を凝視する後藤の瞳からは涙が流れている。
「…い、痛い、離して!」
腕を渾身の力で腕を握られていた紺野が身を捻って振りほどく。
「どうするつもりじゃ?」
「貴女達がやろうとしている事を私にやらせてくれ…」
「無理じゃ」
「何故!」
即答する中澤と納得しない後藤。
「このワシの弟子は瘴気では死なん体質じゃ、
それでも浴びれば暫らくは毒によって苦しむ…」
瘴気の事を初めて聞いて「エッ?」と引く紺野の顔からサーッと血の気が失せる。
「じゃが、お前は死ぬ」
「…構わない」
「……」
「やらせてくれ…」
頭を下げる後藤の手に、紺野は そっと白い杭を握らせた。
「それを貴女のお知り合いの額に突き刺すんです」
「…ありがとう」
杭をギュッと握る後藤は無言で死人と化した市井に近付く…
「紺野…お前、あ奴は死ぬぞ」
何をしたのか分かっているのか、と中澤の言葉は攻めていた。
「……」
「紺野!」
「あの人は死にません…」
後藤を見詰める紺野はポツリと呟いた。
「…?」
「想いが伝わりました…」
後藤に掴まれた腕をそっと擦る紺野の額には珠のような汗が浮いている。
後藤を見詰める紺野は、瘴気の毒に怖気付いた訳ではなかった…
「中澤さん…私、賭けてみます…私が魔道士になれるかを」
「……そうか」
その言葉に何を感じたのか、中澤はそれ以上何も言わなかった…
4人の魔女見習い達が「??」とする中、
後藤は死人市井に徐(おもむろ)に近付いた。
「…市井ちゃん」
呼んでも答えるはずの無い死人の濁った目と
視線が合った瞬間、市井が何かの感情を持ったように後藤には見えた。
「苦しかったのかい…?」
後藤は魔法の杭を震える両手で握って大きく振り上げた。
「ぅ、、ぅぅうう、、、」
どちらが発したのかも分からない、嗚咽とも取れない声が漏れる…
「う、うわあぁぁあぁああ!!!」
叫びと同時に振り下ろした白い杭が市井の額に吸い込まれた。
いや、市井が杭に吸い込まれたのか…
瞬間的に死人は呆気なく消えたのだ。
前のめりに倒れる後藤を残して…
紙に戻った杭は風に舞い、ヒラヒラと紺野の手に戻った。
「やったー!やったよ!飯田!俺の首は繋がったよ!」
警官隊長は嬉しさの余り飯田に抱きつき、
怒った飯田の顔面パンチを食らう羽目になり、
大任を終えた辻達も、目の前で倒れている後藤の事も忘れ、
バンザーイと手を上げて喜んだ。
ギャラリーの歓声に包まれる中、
中澤は倒れている後藤に近付き、そっと手を置いた。
「…ふむ」
後藤の体を触った中澤は紺野を手招きして呼び寄せた。
「瘴気に汚染されとる…じゃが、死んではいない」
「…そうですか」
ホッとした様子の紺野は胸に手を当てて安堵の溜め息を付く。
「で?…魔道士はどうするんじゃ?」
勿論なるんじゃろう、と当たり前の様に聞いた中澤だが…
「…考えさせて下さい」
眼鏡をキラリと光らせた紺野は手に戻った魔法陣の紙を中澤に返した。
「な…!」
紺野はペロリと舌を出してニッコリと笑う。
「だって、私もホウキに乗って空を飛びたいですから」
夕日の赤が空を染め始めた魔界街メインストリートを覆う歓声の中、
意識の無い後藤を運ぶ、救急隊のサイレンの音だけが空しく響いた…
その日の夕方には魔女見習い達はすっかり有名人になっていた。
『死人返り』の残したメインストリートに残る、黒い煙のような瘴気の塊を
魔法のホウキで全て浄化掃除をしたのだ。
ホウキで掃くと瘴気は霧散して毒性さえも跡形も無く消えた。
ずうっと飛ぶ事を夢見て、無心で念じ通した彼女達のホウキは、
何時の間にか邪悪な魔を浄化する魔力を持つ魔法のホウキになっていたのだ。
「わぁぁ!凄いのです!」
「綺麗サッパリと無くなるなぁ」
「これで、有名人になれるやんか」
「掃除って、気持ち良いべさ!」
驚く報道メディアは掃除作業をテレビで中継し、得意気にカメラに納まった安倍は、
魔女見習いの事を家族に内緒にしてたのを思い出して青くなったが、後の祭りだった。
一人で帰宅して怒られるのが怖くなった安倍は矢口と一緒に帰ったが
訝しがる父親に一生懸命(魔女になって良い事ばかり)説明した甲斐が有って
怒られる事も無く、矢口も一緒に夕食を貰い一安心だ。
「なに〜?その猫、かわいい!!」
「へへへ、いいでしょ、何でも言う事聞くんだよ」
使い魔の『ヤグ』と『まろん』を見た麻美は自分も魔女になると
駄々をこねたが、これ以上家族に魔女が出来るのを恐れた
父親が絶対駄目だと反対して、麻美の唇を尖らせた。
慌てふためく父親を見て、顔を見合わせ吹き出す安倍と矢口に
釣られて笑い出す母親と妹…
ばつが悪そうに顔を赤くして照れ笑いする父親も、何時しか大声で笑った。
今日は良い事をしたんだ、と実感した安倍は
今まで家族に黙っていた胸のつっかえが取れて心から笑った…
一方、辻と加護と紺野は飯田刑事のオゴリで街一番の高級レストランで
ディナーをご馳走になり、初めて見る豪華な料理に目を輝かせていた。
「高そうな料理なのです」
ゴクリと唾を飲み込む辻は初めてのレストランにソワソワしている。
「ん〜、4人で50万ぐらいかな…」
あっさりと金額を言う飯田は腕捲りをして食べる態勢に入った。
「げっ!ご‥50万円!!えっらい御馳走やんか!」
値段で料理の価値を決める加護は、まだまだ お子ちゃまの域を出ていない。
「でも、いいんでしょうか?…そんな高い料理…」
チラリと飯田を見る紺野の目は、大丈夫なの?と聞いているようだ。
「ハハハ、私の金じゃないから大丈夫!」
支払いは勿論 朝娘市警察だから、財布の痛まない飯田は豪快だった。
「さぁ!食べようぜ!足らなかったらジャンジャン注文していいからな!」
「わぁ!すごいのです!いただきますなのです!」
「よっしゃあ!食ったるでぇ!」
「…いただきます」
億単位の損害が出る所をチャラにした魔女見習い達の働きを考えると
50万円の出費は安過ぎる位なのだが、嬉しそうに食べる辻達には丁度良いのかもしれない。
無邪気な3人を見詰める飯田の瞳が、そう語っているようだった…
今日はココまでです。次回も未定ってことです。
>>295いますよ。がんばってますよ。では。ばいなら。
ありゃ?クローズをクルーズって変換しちゃった。
全然気付きませんでした。許してね。
318 :
名無し:03/12/21 13:31 ID:Dptu5HEB
安倍の使い魔は確かメロンじゃ・・・・
>>318 しまった!これまた許してください。
でも、指摘してくれる方が複数居るって事は、呼んでくれる人が案外多いんだなぁ思い、
ちょっぴり一安心です。感謝、感謝っす。
呼んでくれる×
読んでくれる○
…俺って…_| ̄|○
ハナゲ・・・・気にするな
例え英語ができなくても
あと、『まろん』と『メロン』は自分も気になりますた・・・・
でもガンガレ
更新楽しみにしてます
――― 14話 魔人KEI ―――
魔界街に『人造舎』という人材派遣会社が有る。
どのような人材を派遣するかは、派遣を要請した人物の
住所や仕事は勿論、守秘義務を守れるか、何故要請するのか等
背後関係を徹底的に調べられる事からも解かる様に、
普通の人材を派遣する訳では勿論無い。
警察さえも中々近付かない、B地区に所在地が有る『人造舎』は
B地区内の住所をも転々と変えるので警察の力が及ぶのが不可能に近く、
そして、苦々しくも派遣会社の体裁を取っている この会社は、
魔界の住人を高額な金額で貸し出す、知る人ぞ知る魔界街の負の異産物だった。
その暗黒社会の雄、『人造舎』から派遣された、
刃物のような闘気に身を包んだ、文字通りの暗黒色の女が
『石黒音楽事務所』の社長室の重厚な革張りのソファに腰掛けていた。
用件は二つ、一つはドル箱スターの松浦亜弥の秘密を必要に狙う
一人のパパラッチの殺害。
もう一つは、石黒の商法を真似て魔界街進出を狙う
ライバル芸能事務所の社長の暗殺だった。
「…何故、自分で殺らないんだ?」
体にピッタリと張り付くラバー製の上下の黒いボディスーツに身を包んだ妖艶な魔人は、
石黒と対峙して直ぐに、魔女の正体を見破り疑問を口にした。
「殺しが本業では無いからね…それに血は見るのも嫌なのよ」
そう言いながら石黒は2枚の写真を差し出した。
「写真の裏にソイツ等の住所が書いて有るわ、
今はこの魔界街に住所を移して住んでいる…殺るのは簡単でしょ?」
石黒には、パパラッチを使って松浦を追い落す、
ライバル芸能事務所社長の歪んだ笑いが見えていた。
---パパラッチと芸能事務所社長の2人は組んでいる---
そう結論付けた石黒の出した決断は、邪魔者をこの世から消す事だった。
「殺しの確認はどうする?証拠は残さないよ」
写真を胸元に入れて立ち上がりながら聞く魔人。
「信用してるわ…でも、パパラッチの方は路上にでも捨てて置いて、
新聞を読んで溜飲を下げたいから」
散々追い掛け回され、腸(はらわた)が煮えくり返っている石黒は
変態写真屋を憎んでいた。
「…分かった」
そう言い残して、妖艶な女魔人は静かにドアを閉めて石黒音楽事務所を後にした。
「証拠を残さない殺し屋が、どう言う事だ?」
異様な死体発見の報に呼び出された飯田圭織は
その殺害方法に見覚えが有った。
未明に路上で発見された死体には血の跡も無い…
ただ左胸には綺麗な穴がポッカリと開いていた。
---心臓だけを抜き取る暗殺者…確か名前は…KEI---
「…害者は?」
死体の胸に開いた穴を無表情に見ながら、捜査官に聞く。
「はい、田代まさしと言う名前のフリーのカメラマンです、
最近、朝娘市に住所を移してます」
「住所を移した理由は?」
「志村と言う芸能事務所の社長からの誘いのようです」
「仕事が早いな…詳しく聞こうか」
フッと笑った飯田はタバコを取り出し火を点けた…
殺された田代の背後関係は数時間で調べ上げられ、
暗殺者を使う動機と資金を持つ人物は特定されている。
「松浦亜弥の事務所か…難しいな」
短時間でココまで解かったのには理由が有る。
日本の法律では非合法とされる捜査方法が許される
この街の法律によって、朝娘市警察の調査効率は日本の警察の比では無い。
そして、捜査が これ以上 進展しない事も事実のようだ。
魔界街最高実力者の つんく のお気に入り、つまり御墨付きを貰った事務所は
警察の権力を行使できる範囲を超えていた。
「だが、尻尾は掴んだ…」
「ち、ちょっと、飯田刑事、相手は松浦の事務所ですよ」
不適に言う飯田に 少し慌てた捜査官が、相手が悪いと宥(なだ)めに掛かった。
「勘違いしないで…松浦の事務所なんて興味は無いよ」
飯田圭織は『魔人ハンター』の異名を持つ孤高の刑事(デカ)…
目的の対象は石黒音楽時事務所などでは勿論無い。
「私の仕事は魔人を殺す、それだけだよ」
ニヤリと笑う飯田は、そのまま踵を返し現場を後にした…
朝娘市警察病院…
司法解剖を待つ田代まさしの遺体が横たわる手術室に
一人の女性がドアを開けて、堂々と忍び込んだ。
『スナックみちよ』のママ、平家みちよ は解剖前の
死体の胸に開いた穴に無造作に手を入れて10秒程瞑想する。
その短い数秒の内に額からドッと汗が吹き出た。
田代の体に残された暗殺者の殺意と思考…
命を持たぬ対象物(死体も含まれる)に対しては、
命を削る程の精神力の集中を必要とする、
平家のサイコメトラーとしての能力の秘密は飯田でさえ知る所ではない。
そして、極(ごく)限られた特定の対象物
(今回の場合、死亡した人物に残された殺人者の思考の痕跡)
を探る事によって確実に平家の寿命は縮まる。
※ただし、生きている人間だったら寿命を削る程ではない。
対象とする人物に触って精神集中するだけで、
その人間の情報が読み取れるのだ。
「…やっぱり、死体を探るのはキツいわ」
フウと溜め息を一つ付いて 手の甲で額の汗を拭うと、
何事も無かったかのように手術室を出た。
「…早かったね」
命懸けの能力を駆使した事を知らない飯田は ニコやかに
ドアの前で腕を組み、壁に寄り掛かって平家を待っていた。
「次のターゲットの名前と殺る日が分かったわよ」
命の灯火の代償の答えは、それとは似つかわしく無い曖昧な物だ。
しかし、死体から得られる情報は限られている。
それが限界だった。
「サンキュ、で、犯人はやっぱり?」
それでも、飯田には充分な情報だ。
「ええ、貴女の予想通り『KEI』の名前の暗殺者よ」
白い歯を見せてニーッと笑う飯田。
「でも、その前に…」
ニッコリと笑って右手を差し出す平家みちよ。
「へいへい…出張費込みだったね」
飯田が投げた、命の代償の分厚い封筒が
放物線を描いて平家の右手の平に吸い込まれた…
「お昼休みは終わりましたわよ…」
授業をサボって屋上の手摺りに寄り掛かりながらタバコを咥える吉澤は
呆とコバルト色の空を見上げていた。
「それと、タバコはイケませんわ」
「…ほっとけ」
隣に来て 同じ様に手摺りに もたれる藤本の顔を見る訳でもなく、
空に溶ける紫煙を見詰める吉澤は、本当にツレない男だ。
「本当に空が好きなのですね…」
チラリと見た、吉澤の横顔に自分の鼓動が高鳴るのを感じた。
「…お前も 見上げてみろよ、吸い込まれそうになるぜ」
タバコを手摺りに擦り付けて消す、不精な態度もサマになる。
「う、うん‥」
藤本は風がそよぐ、清々しい青空を見上げた。
フワリと浮かぶ白い雲が時の遅流を物語っているようで
いつも尖(とん)がっている藤本の心をゆっくりと癒すような気がした。
爽やかな風に柔らかな髪を靡(なび)かせて、
空を見上げる藤本の顔は、とても涼し気だ。
フと気付くと、吉澤が空を見詰める藤本の顔を横目で見詰めている。
「…な、何ですの?」
ドキリとする藤本を見る吉澤は薄く微笑む。
「お前も そんな顔をするんだな…」
「…え?」
「ちょっと、ドキリとしたぜ」
「…」
藤本はカーッと血が上り、顔が真っ赤になるのが自分でも分かり…
吉澤は それ以上 何も言わず、また空を見上げ、タバコを咥えた。
キューッと胸が締め付けられる感覚に、よろめきそうになるのを隠して、
吉澤と同じ様に空を見詰めた藤本の膝は小刻みに笑っている。
涙が出そうになって、必死に我慢した。
何故、我慢するのか解からない…
解からないが、抱き付きたくなる衝動を抑えるのが精一杯だった…
明かりを消した自室に、窓から差し込む月明かりが
手に持つ細い鎖に反射してキラキラと光らせる。
藤本は今まで渡しそびれていた、極上欧州旅行の時に買った
お土産のペンダントを見詰めていた。
家に帰ってからも胸の鼓動は収まっていない。
どうしても今日渡したい…
視線の先には、今まで一度も その番号に掛けた事が無い
携帯電話がベッドの上に転がっていた。
その携帯電話を見詰めていたのは、どのくらいの時間だろう…
気付いたら夜の0時を回りそうだった。
藤本は携帯を握り締めて、生まれて初めて一等地に有る豪邸を一人で抜け出した。
セーラー服の首には高価なペンダントが揺れている。
自分で外して吉澤にの首に掛けるつもりだった。
走って辿り着いたのは高校の外れに有る小さな喫茶店。
吉澤の自宅の場所を知らない藤本は、
その店に吉澤を呼び出そうと携帯を取り出した。
「携帯は外で掛けてね…」
深夜でも開店してる、コーヒーの香りが立ち込める小さな店の
優しそうな女性店主は、癒しのBGMと静かな空気をこよなく愛している。
「わかりましたわ」
肩を竦めながら外に出て、登録している番号を初めて押した。
ドクドクと心臓が高鳴っているのが自分でも分かったが
何故か冷静になれた気がする。
ヒンヤリとした深夜の外の空気と、決心した勇気が自分を取り戻させた。
プルルルル、、、
なかなか出ない相手は、寝ているのかもしれない…
10秒…20秒…
諦めかけて切ろうとした時、ピッと繋がる音がした。
「…あ、あの」
怯えた子猫のように、出た声はか細い声だ。
藤本の『冷静になった気がした』のは文字通り『気がした』だけだった。
ドクンドクンと聞こえる心臓の鼓動は止みそうも無い…
だが、頭に血が上ってボウとなりそうな意識の中で聞こえてきた
吉澤の声は、寝惚けた 不機嫌そうなソレだ。
『ンァ…誰だ?オマエ?』
「ま、まぁ!誰だ?って、誰に言ってるんですの!」
自分が必死な思いで電話してるのに その態度はなんだ、
と癇癪(かんしゃく)を起こした藤本は何時もの調子に戻った。
『……な、なんの用だ?』
それに気付いた吉澤の声も動揺しているように聞こえた。
「え?…あ、あの…」
用事…それを伝えるのが今一番必要な勇気だ。
『…用が無いなら、切るぜ』
「あ、有りますわ…」
『……』
「…あ、貴方に‥会いたいの…」
『…』
「…今すぐ…」
最後の言葉は消え入りそうに小さな声だった…
「おいおい、随分と おしとやか…」
言い掛けた吉澤が言葉を止めた。
「…おい!」
受話器の向こうから聞こえたのは明らかに藤本の悲鳴だった…
今日はココまでです。次回は来週になる予定です。
>>321 気にしてねえっちゅうの!w
でもガンガル
では。
( ^▽^)<ドキドキ ホゼホゼ
続き気になるっす
高級クラブから一人で出て来た、千鳥足でふらつく志村けん社長を
遠くから双眼鏡で見張る飯田圭織は、今日この時間に
『KEI』の名を持つ魔人が志村を襲う事を確信している。
平家の情報は信頼に足りるのだ。
飯田の仕事は志村の護衛ではない。
志村を殺害する暗殺者を殺す…
だから、志村を泳がせているのだ。
人通りの無い路地に入った、ほろ良い気分の志村は
電柱に向かってチャックを下ろした。
路地の奥からスーッと湧き出る黒い影…
ジョボジョボと長い用足しに ホッとした顔の志村に近付く、
体にフィットした黒ラバー製のボディスーツの女性のシルエット。
音も無く近付く、その女を確認した飯田は 双眼鏡を投げ捨て
道路を横切り、ダッシュしながら志村に向かって叫んだ。
「志村ぁああ!後ろぉぉぉおお!!」
キョトンとトボケた顔の志村は、後ろを向く間も無く崩れ落ちた。
自身の血の海に崩れた志村の後ろに立っているのは、
飯田が探していた『KEI』の名前の暗殺者…
妖艶な魔人の右手には、志村の心臓が握られている。
---ザン!---
路面の砂を巻き上げ、走り寄った飯田が
止まった場所はKEIの正面3メートル…
「…見つけたよ」
飯田の唇の両端がキューッと吊り上がる。
吊り上がったのは飯田の唇だけではない、
ブシュッと右手の心臓を握り潰したKEIの笑みも同じだ。
その右手がビキビキと音を立てて禍々しく鉤状に曲がる…
「それで心臓を抜くのかい?」
飯田の体から揺らめくオーラが立ち込め、
2人の間の空間が歪む。
「一応聞くが、アンタ…誰?」
右手から鋭角な闘気を発しながら素性を聞くKEIは、
飯田が胸元から取り出した警察手帳を見て辺りの気配を探った。
「安心しな、私一人だ」
「…じゃあ、アンタを殺しても誰にも知られない?」
「そう言う事だ」
飯田が言い終わると同時にKEIの右手が、滑るように飯田の左胸に吸い込まれた。
虚を付かれて、一瞬 前のめりになる飯田。
しかし、愕然としたのはKEIの方だ。
そのまま飯田の心臓を抜き取る筈のKEIの右手は止まっている。
「…甘いな」
唇の端からツーッと一筋の血を垂らしながら、飯田が歯を見せてニヤリと笑う。
超人の大胸筋は鋼の力でKEIの魔指を締め付け
あと数ミリで心臓に達する指をピタリと止めたのだ。
「ぬ、抜け…」
万力のような筋肉で締め付けられ、指が抜けないKEIは
腰を低く溜める飯田の拳が消えるのを見た。
---パンッ!---
刹那の正拳はKEIの左胸に綺麗に叩き込まれ、何かを破裂させる音を響かせた。
それは、ゲフッと鮮血を撒き散らす魔人の心臓が破裂した快音…
「…ぁぁああ…」
崩れ落ちるKEIの顔面に新たに叩き込まれた剛拳は妖艶な顔の形を破壊し、
十数メートルも体を回転させながら吹き飛ばして、路上にゴロゴロと横転させた。
「…うん?」
ズカズカと大股で歩み寄る飯田が歩を止める。
KEIの震える指が腰のポケットから注射器を取り出し、
それを自身の胸に注すのが見えたからだ。
そのまま大の字になって横たわるKEIは息をしていない、
だが、飯田は腕を組み様子を伺う。
KEIが最後に打った注射によって起こるであろう出来事に興味が沸いたのだ。
「…ほう」
ドクンとKEIの胸が波打った…
瞬間KEIは立ち上がり脱兎の如く逃げ出した。
KEIの打った注射の中身は即効性の魔薬だ。
破裂した筈の心臓は急激に鼓動し、全身の血が流れ出るまで心停止はしない。
吐血を繰り返しながら走るKEIは、持って後30分ぐらいだと思った。
それまでに…
風を切り裂く音に振り返ると、飯田が猛烈な勢いで迫って来る。
---やばい!---
思うと同時に、目の端に人間の姿が映った…
「貴様ぁあ!!」
飯田は止(とど)めを差さなかった事を後悔した。
「動けば潰す…」
KEIが右手に持っているのはドクンドクンと脈打つ心臓…
先程の志村とは明らかに違う方法で抜き取ったと分かったのは
持っている心臓が動いているのと、KEIの足元に倒れている
セーラー服の女子高生の胸から、うっすらとしか血が流れていない事で明らかだった。
魔界の暗殺者は、通りすがりの女子高生の心臓を瞬時に抜き取り
それを質にして逃亡を企てる。
「この娘は、まだ助かる可能性はある…
だが、私を追えば確実に死ぬ」
KEIは胸を膨らませてブオッと自身の血を噴出すと
その血は霧のように広がり、飯田の視界を血色に染めた。
「…オマエの事は忘れない!必ず御礼はさせて貰う!」
響き渡る言葉を残し、血色の視界が晴れた時には、KEIの姿は消えていた。
「こ…これを渡して…」
自分の胸に揺れている、薔薇の形をした宝石が付いているペンダントに
力無く手を当てて、心臓の無い女子高生は、抱きかかえる飯田に
最後の言葉を伝えるとグッタリと力が抜けた。
「…まだ、助かるかもしれない、待ってろ…」
携帯で救急車を呼ぶ飯田は、ピクリとも動かない女子高生の小さな鞄から
IDカードを取り出して、腰のポーチに付いている携帯端末に差し込んだ。
「ハロー女子高…吉澤の学校の生徒か…うん?」
端末に出たデータは最重要人物の星が点滅している。
「まずい事になったかも…」
ハロー製薬ナンバー2の藤本専務の一人娘の息は止まっていた。
「……?」
藤本の傍らに転がる携帯から声が聞こえる。
拾い上げて耳を当てると聞き覚えのある声…
藤本を呼び続ける、その声の持ち主は吉澤ひとみ だった…
ドアを開けた瞬間、KEIは大量の鮮血を吐きながらソファに突っ伏した。
「ち、ちょっと、どうしたの?人に見られなかったでしょうね!?」
仕事を終えて事務所の明かりを消そうとしていた石黒音楽事務所社長の
石黒彩は、慌てて窓から外を見回してカーテンを閉めた。
「た、助けてくれ…心臓を潰された」
体内に流れる殆どの血液を流したKEIの崩れた顔は青ざめ、
ヒューヒューと漏れる呼吸音は、死が目前に迫っている事を示している。
「あんた…魔女なんだろ…頼む…」
「潰れた心臓は元には戻らないわ、それに血を見るのは
嫌いだって言ったでしょ、諦めなさい」
まるで虫けら でも見るかの様な、醒めた眼差しの
鈍い光を放つ石黒の瞳は、KEIの右手に吸い寄せられた。
「代わりなら有る…」
KEIの血塗られた右手には、未だに脈打つ藤本の心臓が握られている。
「ほう…生ける心臓か、面白いわね」
抜き取った心臓に、死んだ事さえ気付かせないKEIの妙技に
何を思うのか、石黒の目が線のように細まった。
「一応聞くけど…志村は殺したのかい?」
無言で頷くKEI。
「そう…それは良かったわ」
KEIの持つ心臓を受け取りながら微笑む石黒は、
豪華な造りの棚から真っ赤な葡萄酒の瓶を取り出し
何やら呪文を唱えながら心臓に注ぎ掛ける。
「カオスと契約する事になるけど、覚悟はいい?」
自分の人差し指を噛んで血を滴らせた石黒は
飯田のパンチによって潰されたKEIの顔面と
左胸の心臓の辺りに血の五芒星を描いた。
頷く力も無くなりつつあるKEIは、縋る様に石黒を見た。
「本来の心臓の持ち主が貴女を殺すかもしれないわよ?」
胸の五芒星が捲(めく)れる様に開き、中から潰れた心臓が浮かび上がった。
「…た、頼む」
その言葉を最後に、KEIの潰れた顔は人の色を失う…
「OK、分かったわ…」
葡萄酒の詰まった心臓を、そっとKEIの胸に沈め、
唇の両端をキューッと吊り上がらせた石黒の笑みは、
魔女本来の微笑みに見えた…
今年はココまでです。
次回は来年ってことで、皆様良いお年を〜〜。
てか、書き溜めてたストックが無くなってきた…
何とかせねば…
羊って面白いね
347 :
名無し募集中。。。:03/12/30 22:20 ID:Q+/5OUTc
揚げ
お疲れ様
来年も楽しみにマテルヨー
350 :
ロリエッタム〜ン:04/01/01 17:47 ID:6aywkHxr
あけおめ〜
今年もがんばって
楽しみにしています
ごめんあげちゃった
>>350 あけましておめでとうございます。
頑張る所存で御座います。
美貴帝があ…
354 :
:04/01/04 00:37 ID:B1JEp/kd
DASH!!村から来ました。
355 :
名無し:04/01/05 23:09 ID:VEBAy03m
∴
――― 15話 俺達の翼 ―――
俺は知っている
この時間が永延に終わらない事を…
俺は信じている
ちっぽけな背中だけど、そこには見えない翼が生える事を…
だから、俺は忘れない
信じていれば、いつか空を飛べるという事を…
ずっとずっと…
輝いていた時……
「加護さん 紺野さん、今日の生放送は新曲を披露するから
必ず見てちょうだいね♪ じゃあねぇ」
アイドルらしい可愛さで2人に手を振って、迎えに来たワゴンに乗り込む
高橋愛を「はは‥」と半笑いで見送る、加護と紺野は「うん?」と顔を見合わせた。
「そういえば、ののは?」
「さっきまで居たのに…」
学校の帰りは必ず3人で帰るのに、昨日から辻の姿が見えない。
「昨日も授業が終わったら、何時の間にか消えてたやん」
「MAHO堂にも来ませんでしたし…」
「ののめ…何か隠しちょるな」
今朝、「昨日は何してたん?」と聞いても辻は「へへへ」と笑って誤魔化したのだ。
「何処に行ったんでしょう?」
考え込む紺野の肩を加護の手がチョンチョンと突ついた。
「あさ美ちゃん、あれ見てみぃ」
「…うん?…優君?」
同級生の浜口優が、何か鉄パイプみたいな物を大量に抱えて
キョロキョロと辺りを見回して、学校の裏口の外れに有る、
ロープが張ってある林道に隠れるように消えて行く所だった。
「何やってん?あの道は工事か何かで出入り禁止の筈やで」
「あからさまに挙動が不審でしたね」
「…あっ!」
2人同時に小さく叫ぶと 慌てて口を手で押さえて、木の陰に隠れた。
浜口に続いて、キョロキョロと同じ挙動で林道に逃げるように入っていくのは
同じく同級生の矢部浩之と有野晋哉だ。
「なんや、怪しいちゃうん?」
「皆さん手に何か荷物 持ってますね」
そして、クラスのツッパリ、加藤浩次と武田真治が偉そうに
大股で入って行く所を見て、2人の決心がついた。
「後着けるでぇ」
「はい」
林道を出た所には『第二グラウンド建設予定地』と書かれた小さな立て看板と
古臭い小さな廃屋とボロボロのガレージがポツンと建っていて、
そこから見下ろすような形で広がる、校庭程も有る雑草だらけの開けた敷地は
緩い斜面がスキー場のように広がっている。
「なんやココは?こんな風になってるなんて全然知らへんかったわ」
「でも、工事をするような感じが全くしませんね」
廃屋と化した工事小屋からは連中の笑い声が聞こえてくる。
そして、その談笑の中に混じってケタケタと聞こえる笑い声は…
「のの!」
「辻さん!」
窓から顔を覗かせた2人がビックリして声を張り上げたと同時に
中に居た辻達も「わぁ!」と大声を出して驚いた。
そこは、クラスの自称『ハンサム軍団』の秘密基地だったのだ。
「わぁぁ、、何ですかココは?」
小屋の中は一応綺麗に片付いていて、学校から拝借してきた
椅子とテーブルが並べてあるのを見た紺野は感嘆の声を上げた。
「どうせ、秘密基地とか言うんやろ?うち等の男子は子供臭くてあかんわ」
そう言って悪態を突く加護も、興味津々で室内を見回す。
「うん?どないしたん?」
気付くと、俯(うつむ)き頭を抱える男子達…
「辻の次はオマエ等か…」
溜め息を付きつつ、矢部がボソリと呟いた。
「矢部君達はエロ本が読めなくなって困っているのです」
ケラケラと笑い ポテチをポリポリ食べながら、辻が机の棚に隠してある
エロ本を数冊取り出して「ほらっ」と加護と紺野に手渡した。
「ゲッ」
ドぎつい表紙を見た加護は目を丸くしたが、
キョトンとした紺野は「?」と小首を傾(かし)げるだけ…
「わぁぁあ!辻ぃ、オマエ何見せてんねん!」
有野が慌てて加護からエロ本を奪い取る。
「阿呆、見るか!そんなモン!ねぇ、あさ美ちゃん?…って…あさみ…ちゃん?」
紺野に話を振った加護がポカンとするのも無理は無い…
紺野はシゲシゲとエロ本を捲って見ていたのだ。
「……減るもんでも無いですし」
そう言う紺野の眼鏡が、キラリと光る。
「ハ、ハハ‥そ、そやな…」
唖然とする男子と、加護の乾いた笑いが辺りを包んだ…
「オマエ等、帰れよ!」
加藤が両手で頭をムシャムシャと掻き毟りながら叫んだ。
「辻だけでイッパイイッパイなのに、もう嫌だ!」
昨日、辻に秘密基地が見付かってから散々な目(想像にお任せする)に有ってる
ハンサム軍団は、後2人も増える事に辟易し、呆れ果てた。
「ふーん、ええんかぁ?帰っても…」
そんなハンサム軍団を知ってか知らずか、加護の顔は目だけが笑っている。
「な、なんだよ」
何となく嫌な予感…
「うち等の口は軽いねん…何処でポロッと滑るか分からへんでぇ」
予感的中…
「……わ…分かったよ」
「分かれば、ええねん」
加護の勝ち誇った顔と、対照的な加藤の表情。
あっさりと、ハンサム軍団は完敗した…
「ちくしょう!」
負けた腹いせに加藤が取った行動は、
パーーーンと快音を響かせる武田に放ったビンタだった。
「あいぼん、あさ美ちゃん、こっちに来るのです!」
辻が2人の手を取って小屋の隣に建ててあるボロボロのガレージに連れ出す。
「おお、ココは俺達の夢のガレージやでぇ!」
ヘヘンと笑いながら3人に着いて来た、
普段は『おバカ』な浜口の目が輝いている。
「ジャーン!」
辻と浜口がガラガラと音を立てて開けたガレージの奥には
組み立て途中のグライダーが鎮座してあった。
「な、なんや!?」
「すごーーい!」
「どや、俺達が組み立てたんやで!」
胸を張る浜口と辻。
「オマエは造っとらへんやんけ…」
浜口が半笑いで辻に突っ込む。
「えへへへ…」
辻はペロリ舌を出した。
それは、自転車にパイプを取り付けて組み立てたグライダーだ。
ペダルを漕ぐと、自転車の前に取り付けられたプロペラが回る仕組み…
ブサイクにベニヤ板を骨組みに張り付けた翼…
何時出来上がるかも分からない彼等の夢…
学校が予算不足を理由に、放置したままの『第二グランド予定地』。
この なだらかで広い斜面を見て浜口が言い出した突飛な計画は、
只々毎日をグータラに過ごすハンサム軍団に活気を与えた。
「……」
ハンサム軍団と辻、加護が はしゃいでるのを遠く聞きながら、
太陽が傾くグランド予定地に佇む紺野は、
もう何分もの間 言葉も無く、グライダーを見ている。
「なんや?そんなに格好ええか?」
それに気付いた浜口が駆け寄り、紺野の隣に並んでグライダーを見上げた。
「凄い‥これ、優君が造ったんですか?」
紺野の感嘆の声に浜口は、恥ずかしそうにポリポリと頭を掻きながら頷く。
「まぁ、勿論 俺だけやないけどな…」
チラリと振り向く先には、矢部達と辻 加護が楽しそうに怒鳴りあっている。
「私も空を飛ぶのが夢なんですよ」
浜口に隣に座るように促しながら 草地の地面に腰を下ろし、
夕日が差し迫る空を眺める紺野は、浜口に振り向きニッコリと微笑んだ。
「…そう言えばオマエ等、魔女見習いだったっけ?
テレビで見たでぇ、格好良かったな、風がゴーッと吹いて」
「飛べませんけどね」
「ハハ‥そうか…俺も飛ぶのが夢やねん、
格好ええでぇ、俺が操縦して、あのグライダーで飛ぶねん」
微笑む紺野は、胸ポケットからキャラメルを取り出す。
「はい」
「…うん?」
少し興奮気味に話す浜口の目の前に、紺野の手の平に乗った
銀色の小さな包み紙が差し出された。
「サ、サンキュ」
甘酸っぱいキャラメルを頬張りながら何気なく紺野を見ると、
紺野は自分のキャラメルの包み紙で器用に銀色の紙飛行機を折っている。
「なんやソレ?」
「優君も折ってみて」
「…お、おぅ」
紺野が器用に折り込む紙飛行機を見ながら、同じ様に指を動かす。
「ハハハ、出来たで、ブッサイクやけど」
不器用な浜口が作った紙飛行機は形が歪(いびつ)だ。
「飛ばしましょ、一緒に…」
「あ、あぁ‥でも、ほんまに飛ぶんか?」
「想いを込めれば必ず飛びます…辻さんの受け売りですけど」
そう言いながら紺野は立ち上がりパンパンとスカートの裾を払う。
「そ、そやな…じゃあ俺は あのグライダーが飛ぶ事を祈って飛ばすわ」
「じゃあ、私も…」
此方を見てニコリと笑う紺野の顔が とても眩しく、
浜口の心臓がドキンと鳴った。
顔から火が出そうになる程 真っ赤になっている事が自分でも分かり、
まともに紺野の顔が見れない。
「いきますよ、それっ!」
「お、おぉ!」
ヒラヒラと頼りなく飛ぶ2つの紙飛行機は、
風に煽られビューッと空高く舞い上がった。
「やったー!」
「すげー!」
しかし、高く舞い上がったソレは直ぐにクルクルと回転しながら
ポトリと地面に落ちる。
「あ…」
「ハハハ、まぁこんなモンやろ」
そう言いながら、落ちた紙飛行機を拾い上げて紺野に手渡す時も
浜口は彼女の顔が眩しくて まともに見れなかったが、
紺野が少し寂しそうな顔をしてるのが分かり、何故か動揺した。
「な、なんやねん…そんな 落ち込むなや」
「…だって」
「ハハハ、俺なら全然平気やで」
「本当?」
「あ、当たり前やんけ」
その言葉に慰められた紺野はクルリと浜口に向き直る。
「ねぇ、優君」
「な、なんや?」
ドギマギする浜口。
「この紙飛行機、優君が造った飛行機に飾りましょ」
「おお、それは良い考えや!早速飾ろうや!」
「うん」
浜口と紺野がガレージの方に振り返ると、辻 加護、ハンサム軍団が
ニヤニヤしながら2人を遠巻きに見ていた。
「オマエ等、何イチャついてんねん」
腕を組んで半笑いの矢部。
「なんや、エエ感じちゃうの?」
ニヤつく加護。
「グッチョンは顔が真っ赤なのです、あさ美ちゃんの事が好きなのです」
辻の投げる言葉の直球は、ド真ん中のストライクだ。
「ア、ア、ア、アホ言え!んな訳ないやんけ!…な、なぁ」
動揺しまくる浜口が同意を求めて紺野に振ると、
紺野の顔も浜口同様、耳まで真っ赤になっていた。
ヒューヒューと囃(はや)し立てるハンサム軍団と辻 加護。
呆然と立ち尽くす浜口と紺野。
揺らめく夕日が眩しく射し込む、市立朝娘市中学校第二グランド予定地は
浜口と紺野の頬のように赤く染まっていた…
今日はココまで。続きは明日。
KEI編の続きは、この話が終わった後になります。 では。
ほんまに話の幅が広いなぁ。面白いです頑張ってください。
翌日、早朝から図書室に篭もる紺野は、飛行機の専門書を借り、
授業中も隠れて本を読み漁った。
「あ、あさ美ちゃん…?」
「……」
「あさ美ちゃんて…」
「…もう!忙しいので話しかけないでください」
「…いや‥だから」
「…?」
加護が目配せする視線の先には、何時もの様に上半身裸の担任江頭が
仁王立ちで紺野の後ろに立って睨んでいる。
「…あっ」
「紺野ぉぉお!廊下に立ってろ!!」
「…はい」
クスクス笑われながら廊下に出る、紺野の右手には専門書が握られている。
反省しているようで、実はしていない…
廊下に立つ間も本を手放さない、紺野の瞳は燃えていたのだ。
「今日は沢山勉強して来ました!」
放課後、例のガレージでグライダーの前に立つ紺野は
運転席の自転車のサドルをパンと叩いて皆にハッパを掛ける。
「私が絶対 飛ばしてみせます!」
すっかりハンサム軍団の一員になったつもりの紺野に
辻と浜口の目が「おお!」と輝き、
他の軍団員と加護の目は「エェ、、」と引いた。
そして…
「…だから、なるべく軽くしないと駄目なの!余計な物は取り外しますからね」
「マジかよ!せっかく頑丈に組み立てたのに」
「組み立て直しです!」
「…はい」
不良の加藤にも物怖じせず、腰に手を当て、参考書と睨めっこする紺野。
「さすが紺野や!」
「…浜口…オマエ…」
「なんや?」
「…いや、なんでも」
「……?」
紺野に感心しきりの浜口に、突っ込みきれない矢部。
やがて…
仕方なしに紺野の指示に従っていた軍団員達も、
紺野と浜口の熱意に感化されだし、何時しか作業にも熱がこもって来る。
「なんか飛べそうな気がしてきたで」
「最初は冗談半分だったのにな…」
有野と武田は顔を見合わせて、半分照れ笑いだ。
「うん?オマエ等何しとん?」
矢部が不思議そうに聞くのも無理はない、
辻と加護が翼に手をかざして、何やらブツブツ唱えているのだ。
「飛べるように魔法を掛けているのです」
「これで飛べたら、うち等のお陰やでぇ」
「…ハハハ、あっそぅ」
突っ込み役の矢部が「頑張りやぁ」と笑顔を見せた…
アルミのパイプを出来るだけ少なくし、ベニヤだった羽もビニールシートを使い、
ブレーキを尾翼の調整に改造して、プロペラも薄く削る…
それを見守る、機体の中央にチョコンと飾られた2つの紙飛行機…
顔中、油だらけに染め、笑い合いながら
3日掛けた作業は、完成まで もう少しという所まで来ていた。
「もう少しで完成なのです!!後は飛ばすだけなのです!!」
昼休み、大声ではしゃぐ辻の口を紺野と加護が慌てて塞ぐ。
「阿呆、誰かに聞かれたら どないすんねん」
「そうですよ、秘密基地は文字通りヒミツなんですから」
「大丈夫なのです♪」
何が大丈夫なのか、根拠も無くアッケラカンとした辻。
「先生とかに知られたら全てがパーになります」
「そうやで、今までの苦労が水の泡や」
「…う〜…分かったのです」
ブーッとホッペタを膨らませながら答える辻も、水の泡になるのは、やはり嫌なのだ。
そんな3人の会話を、弁当を広げながら
何食わぬ顔で聞く、高橋愛の口元は薄く微笑んでいた…
放課後、何時ものように作業するハンサム軍団と辻達。
「ふーん、面白い事になりそう…」
陰からコッソリと覗いた高橋は、独り言をポツリと呟く…
その微笑みは、まさに小悪魔そのものだった。
そして翌日、辻の顔は蒼ざめる事になった。
(のの のせいなのです‥ののが昨日大声で喋ったから…)
朝のホームルームで担任の江頭の口から秘密基地の話題が出たからだ。
「立ち入り禁止の場所でタバコを吸ったりエロ本を読んだり、
不良行為をしている連中がこのクラスに居るな」
ざわめく教室…
「チッ」
加藤と武田は舌打ちをして、ふて腐れている。
矢部 有野、そして加護も俯(うつむ)き、首を振っていた。
「特に、飛行機みたいなのを作って飛ばそうと計画しているらしいな、
これは危険だから絶対に許さん!」
血の気が引いた辻が、チラリと紺野と浜口を見ると
2人とも下を向いて体が震えていた。
「心当たりの有る者は後で先生の所に来るように、
罰として飛行機を解体させるからな!…以上!!」
ニヤニヤしているのはクラスの中で高橋ただ一人、
だが、その悪魔の微笑みに気付くクラスメートは誰一人いなかった。
ホームルームが終わり江頭が教室を出ると、
辻が机に突っ伏してワッと泣き出した。
「ごめんなしゃい!ののが悪いのです…全部のの のせいなのです」
泣きじゃくる辻に集まるハンサム軍団は、一様にシラケ顔だ…
だが、怒ってる様子では無かった。
「まぁ、しゃあないだろ」
「俺達も本気で飛べるとは思ってなかったしな…」
お互い顔を見合わせて頷き合うハンサム軍団は、
一瞬でも楽しい一時を過ごせた事に感謝していたのだ。
「でも、でも…」
「そんなに泣くなって、オマエ達のお陰で結構良い夢が見れたでぇ」
矢部にポンと肩を叩かれた紺野は
唇を震わせながらポロポロと涙を流している。
「……」
紺野の涙に皆が一瞬声を詰まらせた。
慰めの言葉は何にもならない…だが…
「オマエと浜口が一番一生懸命だったな…」
声を掛けずには居られない。
「うん?浜口は?」
加藤が浜口が居ない事に気付く。
「…居ないでぇ」
加護が教室を見回したが、浜口は消えていた。
ハッと辻と紺野が顔を上げる…
「基地に行ったのです!グッチョンは基地に行ったのです!」
立ち上がった辻が紺野の手を取った。
「あさ美ちゃん!のの達も基地に行くのです!」
「…うん!」
脱兎の如く教室を出る辻と紺野。
「おい、俺達も行くぞ!」
続く矢部に
「授業はどないすんねん」
と有野。
「阿呆!そんな事言ってる場合ちゃうで!」
加護は有野の尻を蹴って追い立てた。
「ちぇ、つまんない…」
出て行くハンサム軍団を見送る高橋愛は少し考えるとニコリと笑い
教室を出ると、連中と反対の方向…職員室に向かった。
辻達が駆け付けると、ガレージのドアが開いていて
浜口が一人でグライダーを押し出そうとしている最中だった。
「優君…」
「グッチョン、飛ばすつもりですか?」
黙って頷く浜口。
「まだ未完成やで、それ」
心配顔の加護の肩に手を置いた矢部は首を振って見せた。
「それでも、かまへん…」
グライダーを押しながら呻くように呟く浜口。
「壊されるぐらいなら今飛ばす…
これは俺の夢や…俺達の夢なんや!!」
機体を押す浜口の手に、そっと紺野の手が乗った。
「紺野…」
反対側の翼にはニカッと笑う辻と加護。
「辻…加護…」
黙って見ていたハンサム軍団も後に続いた。
「オマエ等…」
「浜口!何 涙声になってんねん!これは俺達の夢なんやろ!」
そう言う矢部の声も震えている。
「よっしゃあ!飛ばそうぜ!!」
「おおおお!!!」
加藤の掛け声に全員雄叫びを上げた。
「こらーー!!オマエ等ーー!!何してんだ!!」
ガラガラと音を立ててガレージから
グライダーが出されたのを見て江頭が声を上げた。
「馬鹿な真似は止めなさい!」
「そこを動くんじゃないぞ!」
4人の教師が駆け寄ってくる。
高橋の告げ口で慌てて飛んで来た、手の開いている教師達だ。
「ヤベェ!江頭達だ!」
「浜口!乗れ!」
「グッチョン、乗るのです!」
「優君、乗って!」
「お、おぉ!」
浜口が自転車に乗ってペダルに足を掛けた。
「おりゃあああ!」
加藤と武田が、走り寄って来た教師に体当たりをして止める。
「行けぇぇええ!浜口ぃぃいい!!」
翼を押す皆も其々声を掛けた。
「行け!浜口!」
「江頭は俺が止める!」
ゴロゴロと補助車に支えられて、動き出す機体…
「飛んでぇぇえ!」
「飛べっ!!」
ゆっくりとだが、緩い斜面を走る機体…
「ぅ ぅ ぅ う う う…!」
力を込めてペダルを踏む浜口…
---ブン ブン ブン---
それに合わせて勢い良く回りだすプロペラ…
「浜口ぃ!止まるんだ!!」
矢部のタックルを避け、追い掛けて走る江頭は機体と並んだ。
「……」
無言の浜口の額には汗が光る。
「浜口!!」
「先生…俺、行きます!!」
「…!」
江頭の顔を見た浜口の小さな瞳に何を見たのか、
江頭は走るのを止めて機体を見送った。
「飛べぇぇえええ!!」
「飛んでぇぇええ!!」
「行っけぇぇええ!!」
其々の想いを込めて走るグライダー…
「うぉぉぉおおおおおお!!!」
ペダルを漕ぐ浜口も全力を出した。
フワリと浮いた…
10メートル…
20メートル…
滑空したとは言えないのかもしれない…
だが、それでも満足だった…
翼が折れて、バランスを崩した機体は、音を立てて地面に叩きつけられた。
俺が目覚めたのは病院のベッドの上やった。
足の骨と肋骨が折れてた。
最初に目に入ったのが涙ぐんだ紺野の顔…
彼女の顔は俺には眩しくて、あんまり見られへんかったら
俺はバンザイをする矢部達と一緒に笑った。
紺野に聞いた話では、あの後 皆はごっつ怒られたらしい。
罰として一週間の便所掃除をくらったらしいけど
何故か皆はニコニコとして素直に罰を受け入れたそうや。
あと、手伝ってる店の、なんとか婆ちゃんにも怒られたって笑ってた。
江頭が病院に来て俺も怒られたけど、アイツはそんなに怒ってなかったな。
俺は、ほんまに、ええ友達を持った…
俺は、この出来事を一生忘れない…
絶対、忘れる筈が無いんや…
なぁ? 紺野…?
俺達は知っている
あの時間が永延に終わらないと感じた事を…
俺達は信じている
ちっぽけな背中だけど、そこには見えない大きな翼が生えている事を…
だから俺達は忘れはしない
信じていれば、きっと必ず空を飛べるという事を…
ずっと、ずっと‥ずっと…
光り輝いていた、俺達の時間……
今日はココまでです。次回は来週以降の予定です。
>>370 実は今回のは、KEI編がまだ書き上げてなかったので、(KEI編は結構長い)
あるアニメの一話からアイデアを頂戴して2日間で書いた物です。(すまん)
でも、結構こういう話しが好きなんですよ…ェヘヘ では。
。・゜・(ノД`)・゜・。ウワァァァァァァァァン!
感動した.......。
ええ話や。ええ話や。
ハナゲさん感動をありがとう。
名無しハネゲに感動 。゚(゚つД`゚)゚。
理事長カコイイな
まさか羊でこんな青春群像を見れるとは思わんかった
ヨカタよ
皆様、ありがとうございます。
嬉しい限りでございます。
――― 16話 心臓の記憶 ―――
ハロー製薬本社ビル地下5階…
30畳程も有る広い室内に有るのはベッドとそれに繋がる機械類、
そして7人の人間だった。
ハロー製薬の藤本専務、ボディガード4名、飯田圭織、
そしてベッドに横たわる藤本美貴。
藤本専務を囲むように立つボディガード達と
壁に寄りかかる飯田は、ある人物を待っている。
青白い光に包まれた室内に呼び出された人間が一人。
自動ドアが開いて入って来たのは、石黒音楽事務所社長の石黒彩だ。
樫の杖を持つ黒尽くめの石黒は、不適に室内を舐めるように見回した。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000039.jpg 「何故呼び出されたかは分かっているな」
専務の重い声が室内に響く。
無言の石黒は唇だけ微笑の形を作った。
「娘の意識が戻らない…お前が依頼した暗殺者の事を教えてもらおう」
「……」
あの日、藤本美貴は直ぐにハロー製薬本社ビルに設置されている
最高級の手術室に運ばれた。
最新鋭の人工心臓が取り付けられて、蘇生手術は完璧に成功した。
しかし、藤本の意識は一ヶ月近く(三週間)経った今も戻らず
眠り姫の如くスヤスヤと その寝顔を湛えている。
KEIと言う名前の暗殺者と石黒の接点は
志村けん暗殺事件の時には掴んでいた。
だが、藤本美貴が心臓を抜かれたのは、藤本が偶然そこに居ただけで、
今の意識が戻らない状況が、KEI又は石黒が絡んでいるとは
誰一人思っていなかった。
只一人、飯田圭織を除いては…
事件の後直ぐに、飯田は責任を取らされる形で停職処分になった。
本来ならば、事件が事件なだけに
(ハロー製薬専務の娘が殺されるのを見逃した)
免職は避けられない状況だったのだが、朝娘市警察にとって貴重な存在である
魔人ハンターの処分は3ヶ月の停職という形で落ち着いた。
藤本の意識が戻らない事に業を煮やした専務が
事件の洗い出しを命じて、初めて飯田の証言が出てきたのだ。
「抜き取られた藤本美貴の心臓は生きている」
KEIが抜き取った藤本の心臓が脈打つのを、目の前で見た飯田は
その心臓をKEIが自分の潰れた心臓の代わりにする事を確信していた。
今更になって自分に縋るハロー製薬に不審が募ったが
そんな事は微々たる物だ。
KEIを殺す…
それだけだ。
そして、藤本専務の目的は勿論、娘の意識の回復だ。
藤本専務と飯田の目的は合致した。
KEIを殺して、その心臓を取り戻す。
だが、そのKEIの居場所は皆目見当が付かない。
それならば、KEIとの接点を持つと思われる人物から聞き出す…
今日、石黒が呼び出された理由だ。
「私が暗殺者を頼んだ?…知らないねぇ、証拠でも有るのかい?」
「証拠は無い、だが、ここは魔界街だ、無理やり吐かせる事も可能だ」
藤本専務は顎をしゃくるとボディガード達が銃を構えて
石黒に照準を合わせた。
「…アンタ達、私の事は調べたのかい?芸能事務所社長以外の私の肩書きをさ」
「それ以外 何が有る?……!!」
怪訝そうな顔をする専務の表情が驚きのソレに変わった。
銃を握るボディガード達の手首が握った銃ごとボトボトと床に落ちたのだ。
呻きながら落ちた利き手を押さえる男達を冷ややかに見る石黒。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000038.jpg 「この部屋に入った時に私の髪の毛を数本飛ばしておいたのさ!」
キューッと石黒の唇の端が釣りあがる。
「き、貴様、何者だ!」
藤本専務が懐に隠していた護身用の銃を抜いて石黒に向けた。
「ヒャハハハ!撃ってみなよ!」
おもむろに歩を進める石黒は専務に近付く。
「貴様ぁああ!」
---パンッ!---
放った弾丸は石黒の胸の中心を貫いた。
ニーッと笑う石黒の体が薄くなりヒラヒラと人型の紙になり床に落ちる。
「…なっ!?」
その紙の中心には五芒星が描かれており、
専務の打ち抜いた弾丸は見事に五芒星の中心に穴を開けていた。
「ど、どういう事だ?」
藤本専務は事の成り行きを黙って見ていた飯田に振る。
「……」
飯田は無言で部屋のドアを見詰めていた。
「アンタ、私を殺したね…これで私がアンタを殺しても文句を言えない…」
声のする方向は飯田が見詰めていた自動ドア。
「…!!」
愕然とする専務。
ドアの前には石黒がヒッソリと佇んでいた。
「その髪の毛…何故、私を狙わなかったの?」
初めて飯田が声を出した。
「…強い相手とは闘わない…私の主義でね」
コツコツとヒールの音を立てて部屋の中央に進んだ石黒は
専務の足元に蹲(うずくま)るボディガード達に向かって言い放った。
「邪魔だよ、アンタ達のボスは殺さないから出て行きな」
藤本専務に促されて男たちが出て行くと
「な〜んてね」と、石黒が意地悪そうな笑いを浮かべた。
「強い相手とは争わないないけど、弱い奴は徹底的に叩くわよ」
石黒に『弱い奴』の烙印を押されたハロー製薬専務の首には、
石黒の髪の毛が一本、細い線のように巻きついている。
「…うぐっ!」
キューッと絞まる髪の毛に藤本専務の顔色が変わった。
「ま、まて…此方の非礼は詫びる」
ガクリと膝を付く専務は、絞まる首を押さえながら呻くように詫びを入れる。
「ふん、最初からそうしてれば良かったんだよ」
膝を付く藤本専務を見下す石黒が指を鳴らすと、髪の毛はハラリと落ちた。
「お前の その術…お嬢さんの心臓をKEIに入れたな、
そして、その娘の意識が戻る術(すべ)も知っている…と、見たが どう?」
壁に寄りかかったままの飯田は、タバコに火を点けて石黒の答えを待った。
「答えてもいいけど…保障が欲しいわ」
「保障?」
石黒が静かに頷く。
「そう、これ以上 私に付きまとわないって保障」
「…それは、俺が約束しよう」
藤本専務が喉を押さえながら答えた。
「だが、それは娘の意識が戻ってからだ…」
「…OK」
そう言いながら石黒はコツコツと自動ドアに向かった。
「最初に言っておくけど、殺し屋の居場所までは知らないわよ、
自分達で探しなさいね」
「分かった…で、娘さんの意識を戻す方法は?」
飯田も少しは見殺しにした責任を感じるのか、
それとも、吉澤を想う同級生という事情が気になるのか、
兎に角、藤本の意識が回復する方法に関心が有った。
「フフ‥貴女の考えた通り、その娘の心臓は私が移植した…
意識が戻らないのは、KEIが あの心臓とカオスの契約を結んだから…
心臓が元の場所に戻りさえすれば、カオスの契約が切れて
その娘も元通りに蘇るわよ…」
飯田を見ながら微笑む石黒。
「貴女の推測は全て正しいわ」
「何故、そんな面倒な術を掛けた?」
飯田は普通に移植しない事に疑問を感じた。
「面倒?私は医者じゃないわ…
それに、その娘が復活する時は完璧な方が良いでしょ?」
石黒は藤本専務に向かってウィンクをして見せた。
「私は優しい魔女なのよ…」
その言葉を残し魔女は自動ドアの向こうに消えた。
「それにしても、奴の居所が掴めないとな…」
腕を組んで考え込む藤本専務。
「アイツは私を殺しに来る…」
ポツリと飯田。
「ほ、本当か…?」
「KEIは私に怨みを持ってるの…」
飯田はKEIが最後に言い残した言葉を忘れてはいない。
----オマエの事は忘れない!必ず御礼はさせて貰う!----
KEIは そう言って飯田の前から消えたのだ。
「その日がお嬢さんの新しい誕生日になるわ」
余計な真似はしないでね、と専務に釘を刺して 踵を返す飯田。
今日はココまでです。次回は未定っす。
今回、挿絵を入れてみました。(´ー`)y−~~~
では。
飯田さんシブイ
挿絵の方は新鮮な感じで
本格的な小説読んでる気分になりますた
サシエカコイイ!!ハナゲモカコイイ!!
絵も描いちゃうなんて
ハナゲやるなぁハナゲ
『人造舎』の貸し出しリストに登録している人材は、
特に魔界街に住んでいると言う訳ではない。
それは、朝娘市警察の管轄が、市外には及ばないという事が主な理由…
足が付いても直ぐに逃げられるように、
朝娘市警察の手が届かない市外に住む魔人は多いのだ。
東京都港区、六本木ヒルズに有る高級マンション。
その高層マンションの18階に心臓を抜く暗殺者の部屋が有った。
豪華な造りの2LDKの洋室に有るベッドの上で『KEI』こと保田圭は
うなされる日々を送っていた。
新たな心臓を手に入れた保田の体は、拒絶反応に苦しみ
高熱にうなされ、身悶えする日の連続だった。
だが、拒絶反応の痛みは一週間で消えた。
魔人の体力が、拒み続ける心臓を吸収したのだ。
それなのに、眠れない日々が永延と続いた。
一ヶ月(四週間)たった今でも、ベッドの上で悶えるのには理由が有る。
眠ると、必ず見る夢のせいだ…
取り込んだと思っていた心臓は、未だに拒み続ける…
石黒が施したカオスの契約により、心臓には魂が宿っていたのだ。
その魂が悪夢を見させる…
…夢…
真紅の世界にポツンと佇む、一人の少女…
真っ赤な花弁が咲き乱れる、気高き薔薇の絨毯の下には
保田の動きを止める,、棘(いばら)が足に絡みつく…
その少女は保田に気付くと、微笑みながら近付いて来た…
見覚えの有る顔…
当たり前だ。
その少女の心臓は今、自分の体の中に有るのだから。
「…藤本美貴」
少女は、そう名乗った。
「返して頂きますわ…」
そう言って、藤本は細い腕を保田に伸ばす…
「ふざけるな!コレは私の物だ!」
ビキビキと音を立てて禍々しく変形した右手で、
保田は藤本の左胸の中心を目掛けて鉤手を振った。
だが、藤本の心臓を抜き取る筈の魔手は虚を掴む…
当然の事だ。
藤本の心臓は今、自分の体内で脈打っているのだから。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000045.jpg 「無駄な事を…」
藤本の後ろから、影の様に ひっそりと現れる、見た事も無い男…
冷たい眼差しの美貌の少年は、ゆっくりと右手を保田の左胸に向けて伸ばす…
---ドクン---
保田の心臓は、経験した事が無い胸の高鳴りに疼いた。
---ドクン---ドクン---ドクン---
「だ、誰だ…?」
自分の声が擦(かす)れている事が分かる…
「…吉澤ひとみ」
男とは思えない、ほっそりとした美しい指が胸に掛かった。
---ズズ・・---
指は、静かに、そして確実に心臓を目掛けて沈む。
---ズブ---ズブ---ズブ---
「や、やめて…」
冷ややかな瞳の吉澤………
ブチブチと音を立てて動脈を引き千切りながら、
握られた心臓は引き抜かれた。
「返して!それは、私の…!」
「貴女の物ではないわ」
吉澤の隣に寄り添う藤本がそう言うと、
真紅の薔薇の花弁がブワリと舞い上がり、保田の視界を奪った…
「わぁああ!」
保田は叫びと共に飛び起きた。
グッショリと寝汗を掻いている。
ハァハァと荒い息を付きながら、股間に手を伸ばして気付く。
濡れていた…
「…ふざけるな」
悪夢だ…
「…殺してやる」
有った事も無い人間を愛してしまっている…
「必ず私の手で殺してやる!」
保田の叫びに呼応するかのように、
ベッドの横に誰かが立つ気配…
「キサマ!!」
それは、ひっそりと不適に笑う藤本の幻影だった。
---リリリリリリ---
肩で息をする保田の耳に滅多に鳴らない電話の呼び鈴が届いた。
取った受話器の向こうから聞こえるのは、
リサと呼ばれる豆みたいな少女の声だ。
「…何か分かったか?」
保田は、有る事を自分の所属する『人造舎』に頼んでいた。
それは藤本美貴と吉澤ひとみ という、悪夢に出てくる人間の所在だった。
---藤本の事件はハロー製薬によって完璧に隠蔽されていて
同級生さえも(吉澤を除いて)事件そのものを知らない---
石黒に聞いても良かったが、彼女が知ってるとも思えないし、
知っていたとしても、これ以上 借りを作る事は保田のプライドに関わった。
『へへへ、分かったよ、藤本ってのはハロー製薬専務の一人娘で
吉澤ってのが、その同級生、事件が公(おおやけ)にならないのは
ハロー製薬がバックに付いてるからだよ』
受話器の声は、何時もの事だが やけに明るい。
『相手がハロー製薬じゃ、少しヤバイんじゃない?
手を貸そうか?…勿論有料で』
「バカ言え…」
『ふふ‥そう言うと思った、じゃあ情報料は次の仕事が入った時に、
ギャラから天引きしとくから…』
皆から『殿』と呼ばれている、白髪で盲目の人造舎総帥と、魔人達の間を繋ぐ
連絡係のリサのハシャギ声を苦々しく思いながら、
頼んでいた情報をメモに取り、保田は無造作に受話器を置いた。
「……」
無言で胸に手を置いてみる。
トクントクン…と脈打つ心臓は、何時もより鼓動が早い…
仕事着のラバースーツに着替えて、部屋を出る保田の額には
うっすらと汗が滲んでいた…
今日はココまでです。次回も未定っす。
>>402 >>403 ありがとうございまふ。そう言って頂けると、挿絵描いて良かったよん、と思いまふ。
ヽ(´∀`)ノ では。。。
初めて読んだけどおもしろいね
つづきも期待してるよ
tes
藤本の心臓が抜き取られた日から、吉澤には心に誓った事が有る。
---絶対、仇を討つ---
藤本が事件に巻き込まれたのは偶然だ。
しかし、その原因が計らずとも、少しは自分に有ると 吉澤は思っている。
昨夜(飯田がハロー製薬で石黒と絡んだ日)、
事件以来(飯田も停職中の為、進展が無く連絡を取らなかった)、
久しぶりに連絡の取れた飯田から事情を聞いた吉澤は、
事件の背景に松浦亜弥の事務所が絡んでいる との飯田の説明を聞いて、
登校後、さっそく松浦の教室に乗り込んだ。
「松浦は居るか?」
教室に入るなり、クラスメイトに囲まれて幸せそうな松浦を見付けて
カチンと来た吉澤がツカツカと詰め寄る。
「お前に聞きたい事が有る」
「…だ、誰?」
刺すような吉澤の表情に怯えた松浦が廊下で待機している
ボディガード兼マネージャーで石黒彩の夫、真也を呼び付けた。
屈強な体格の真也は、空手の有段者で魔女の忠実な僕(しもべ)だ。
「貴様!ここは女子高だぞ!……わぁあ!!」
自分の性別をも省(かえり)みない身勝手な言い分を発しながら
教室に入ってきた真也は誰かに足を取られ、
ガラガラと机を倒しながら、前のめりに転んだ。
勿論、真也の足を取ったのは吉澤の見えざる右手だ。
「今の俺は下らない冗談を笑う余裕は無いんでね」
冷ややかに見下ろす吉沢の踵がグシャリと真也の顔面を潰す。
「もう一度言う、お前に聞きたい事が有る」
悲鳴が木霊する教室内で、吉澤の声だけが自棄に透き通って聞こえた…
吉澤は松浦から事務所の住所を聞きだし、
その足で石黒音楽事務所に向かった。
「お前が知っている石黒音楽事務所の事を全て話せ」
「…わ、私より、直接社長に聞いてよ」
「社長は今いるのか?」
「…多分」
吉澤の氷のように刺す視線に怯えた松浦が、
顔面血まみれの真也に吉澤を事務所に案内するように
命じた事で決着が付いた。
ふて腐れた真也の運転するリムジンは吉澤を石黒の元に運ぶ。
石黒に怒られる事を恐れた魔女の僕(しもべ)の真也は
吉澤をリムジンから降ろすと、そのまま松浦のマネージャー業に戻った。
「あら、いい男だねぇ…アイドル志望者?」
ノックもせず、重厚な事務所ドアを開けて入ってきた
無愛想な美少年の吉澤を見て、石黒が最初に発した言葉だ。
「アンタが雇った殺し屋の事を教えてもらいたい」
頬を少し染めた石黒の流し目を無視して、本題だけを聞く吉澤に
魔女の色目は落胆に変わる。
「なぁんだ、違うの?…ふう…その件は昨日、約束したんだけどねぇ」
溜め息混じりに話す石黒は、昨夜、ハロー製薬が示した
『以後自分達に付き纏(まと)わない』との約束を吉澤に話した。
「あいにく俺はハロー製薬の関係者じゃないんでね」
「じゃあ、何?」
「…藤本の同級生、それだけだ」
「まぁ、それだけの理由で殺し屋に挑むの?」
「…悪いか?」
「いいえ」
微笑を湛えながら静かに首を振る石黒は、
吉澤の青臭い言葉に胸がキュンと鳴る。
「…いいわねぇ、若いって、切なさが伝わってくるのよねぇ…
いいわ教えてあげる、でも、相手は殺し屋よ、
いくら喧嘩が強くても貴方じゃ死ぬだけよ」
吉澤の能力を知らない石黒は、
吉澤の行動を『若い青春ゴッコ』だと思ったのだ。
それでも石黒は、知っている事を全て吉澤に話す。
石黒の話は、昨日飯田から聞いた通りの情報以外 何も無かった。
だが、話していく内に新たに分かった事が有る。
それは、藤本の記憶を共有するKEIが次に狙う相手は
吉澤の可能性が高いという事だ。
「プライドの高い暗殺者は、邪魔な記憶を摘み取ろうとする筈よ」
「……」
「例えば、藤本さんが愛する人間とかね…」
訳知り顔でニンマリと話す石黒は吉澤の顔色を伺う。
「貴方、あの娘が好きなの?」
「…同級生と言っただろ」
「フフ‥まぁいいわ…気を付けなさい…いい男が死ぬのは辛いから」
そう言いながら、石黒は吉澤の首の後ろに手を回し
首に掛けていた、赤い宝石がポイントのペンダントを そっと外した。
「綺麗な宝石ね…」
ルビーの周りをプラチナの花弁であしらった、
薔薇の形を成しているペンダントヘッドの銀の首飾り。
それは、事件の翌日飯田から手渡された、
藤本が吉澤に渡す予定だったペンダントだった。
「殺し屋が貴方に近付いたら反応するように、
ペンダントに術を掛けてあげるわ」
「…術?」
「こう見えても私は魔女なのよ」
そう見えなくても石黒の鉤っ鼻は魔女そのものだ。
「悪い事は言わないわ、ペンダントが反応したら逃げなさい」
どのような術を掛けたかは知らないが、
奥の部屋に入って 暫らくしてから戻って来た石黒は、
薔薇のペンダントを吉澤の首に掛けながら耳元で優しく囁(ささや)いた。
石黒音楽事務所を後にした吉沢は路上に止めてある
一台のシボレーに気付いた。
運転席には知っている顔…
「よう…送るぜ」
パワーウィンドウが下りて顔を出したのは、
石黒を張っていた飯田圭織だった。
「アイツは俺が殺る…」
車中で吉澤がポツリと呟いた。
「…いいけど、何か掴めたのかい?」
ハンドルを握る飯田は、あっさりと仕事を吉澤に譲った。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000046.jpg 「KEIは俺を狙うらしい…
それと、奴が近付けば居場所が分かるアイテムを手に入れた」
Tシャツの胸に飾られた薔薇のペンダントが揺れる。
「ふうん、随分気前がいい魔女なんだな」
「…俺を気に入ったらしい」
「ハハハ、モテモテなんだな、お前は」
吉澤を好きになる女達は、どうも一癖も二癖も有るらしい。
だが、今はそんな事はどうでも良かった。
飯田は話を戻す。
「それよりも、お前一人で大丈夫か?」
「…抜く練習をする」
吉澤は右手をテレポートさせて心臓を抜き取る決意だ。
「そうか、じゃあ殺るのは任せるが、こっちも譲れない事が有るぜ」
「……?」
吉澤がKEIを殺す事を譲る変わりに、飯田は ある条件を付けた。
「……と、言う訳で、お前がKEIを殺るまで、張り付かせてもらうよ」
「…ご自由に」
「決まりだな」
アクセルを踏み込む飯田のシボレーは、爆音と共に街路地を駆け抜けた…
今日はココまでです。次回も未定。
>>413 ありがとうございますです。
がんばっていきます。 では。
お
こ
428 :
a:04/01/25 21:37 ID:dsysKBdw
ほ
---ハロー女子高---
藤本が登校しなくなってから一ヶ月が過ぎようとしていた。
そして、その日から石川を避けるようになった
吉澤が教室を飛び出してから一週間が経った。
自分の隣の席を気だるそうに見る石川は、
主の居ない机を見詰め、切な気な溜め息を付く。
何故、こうなったのか石川は知らない…
知らないが、藤本が登校しなくなった日から吉澤の態度も変わった。
話しかけても曖昧に「ああ」とか「おお」しか言わなくり、
最近では何を言っても無視する有様だ。
最後に交わした会話らしい会話は……たったコレだけ。
「もう、俺に関わるな…」
一週間前、石川に そう言い残して教室を出た吉澤は、
ある事件を起こし無期限停学の処分を受けた。
それは、一学年下の、アイドル松浦亜弥の教室に乗り込み、
制止する松浦のボディガードを半殺しにした事件だ。
吉澤は そのまま高校を飛び出し、それ以来 連絡さえ無い。
携帯にも出ないし、家に行っても会ってくれない…
理由も分からず突き放された石川の我慢は限界を超えていた…
「石川さん、どうしたんです?授業中ですよ!」
授業中にフラリと席を立ち、教室を出る石川に教師が声をかける。
「…早退」
ポツリと呟いた石川は、ある覚悟を決めていた…
石川は教室を出た足で吉澤の家に向かった。
急に自分を無視するようになった吉澤へ「何故?」の思いが強い。
---今日こそ絶対に会って話しをする、
出来なければ、吉澤の目の前で死んでやる---
悲壮な覚悟で向かった足は吉澤の家の近くの路上で止まり、
そのまま物陰に隠れた。
吉澤が 髪の長いモデルのように綺麗な女性と、親し気に話していたのだ。
その女性は吉澤の胸のペンダントを触り、感心したように頷いている。
呆然とソレを見詰める石川の顔から血の気が引いていく…
吉澤が約一ヶ月ぐらい前から掛けているペンダントは
今、親し気に談笑する女性からのプレゼントと、
石川は勝手に思い込んだのだ。
---それが理由?---
---ふざけるんじゃないわよ---
ユラリと現れた幽鬼の表情の石川に、吉澤と飯田がギョッとした。
嫉妬に駆られた鬼に吉澤が後退りし、飯田は
「…お、お邪魔みたいね」
と、造り笑顔で、石川を見ないようにしながら石川の横を通り過ぎた。
「な‥何しに来た?」
ある意味、KEIより怖い石川の存在に吉澤の喉がゴクリと鳴った。
「誰?…今の女?」
「…お、お前には関係…」
「ふざけるな!」
ビクリとする吉澤。
「私の気持ちを知ってるくせに!!」
「…あぁ、知ってる」
「だったら、なんで関係無い なんて言えるのよ!!」
「…お前、なんか勘違いして…」
「何が勘違いよ!今、この目で 見たんだから!!」
叫ぶ石川の声は震えている。
「……」
「わ、私の事が嫌いになったなら…ちゃんとそう言ってよ!!」
「……」
「言いなさいよ!!」
「…」
「言えよ!!」
「…」
それでも答えない吉澤は、黙って石川を見詰めるだけだ。
2人の間の空気は固まり、暫らくの時間 沈黙が続く…
「…もう…」
沈黙を破ったのは石川だ。
「もう、いいわよ…」
そう言って俯(うつむ)く 石川の口元は、引きつったような作り笑い…
「…今日は覚悟を決めてきたの…」
「…覚悟…?」
聞き返す吉澤に向かってコクンと頷く石川。
「何も答えてくれなきゃ、死ぬって…」
「ハァ?」
顔を上げた石川の頬に流れる涙…
「さよなら…」
言いながら、脱兎の如く走り出した石川は、道路に飛び出して両手を広げた。
そこに突っ込む一台のトラック…
目を閉じてトラックに轢(ひ)かれたと思った
石川が薄く目を開けると、そこは吉澤の胸の中だった。
「アホ…俺がお前を嫌う筈が無いだろう」
右手をテレポートさせ、石川の襟を掴んで引き戻した吉澤は、
そのまま石川の頭を抱いて耳元で呟いた。
何故、吉澤の胸に抱かれてるのか解からないが、そんな事はどうでもいい…
「だって、だって…」
ポロポロと涙を零す石川は、
吉澤の胸に顔を埋め、自分からギュッと抱きついた。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000047.jpg
---吉澤の薔薇のペンダトントがチクリと痛む---
「…お前には、随分と隠し事をしてて、済まないと思ってる」
抱きつく石川の髪を撫でながら、吉澤は自分の秘密をバラす覚悟を決めた。
「……」
今度は石川が黙る番だ。
「俺のせいで、藤本の心臓が盗まれた…
藤本が登校出来ないのは、その為だ」
「…」
「俺は藤本の心臓を取り戻す」
吉澤の静かだが決意のこもった言葉に、石川が顔を上げて吉澤を見る。
「…私も手伝う」
吉澤は、静かに首を振った。
「危険だから、今までお前を遠ざけていたんだ…」
「でも…」
「お前は黙って見ていろ」
そう言いながら、石川が飛び出した道路の向こう側に佇む人物を
射るように見止める吉澤の瞳は、静かな決意に燃えている。
先程から薔薇のペンダントがチクチクと刺すように
反応しているのは、そのせいだ。
黒いラバー製のボディスーツに身を包んだKEIは
射抜くような視殺線を吉澤に送っていたのだ。
「もう直 終わる…」
「本当…?」
「あぁ…この件が終わったら…」
吉澤の唇が石川の耳元で何事かを囁き…
それを聞いた石川の瞳はハッと見開き、
腰がカクンと抜けて、呆けた様にペタリと地面に座り込んだ。
呆ける石川の元を そっと離れた吉澤が進む先には
KEIが待ち構えている。
フと我に返り、石川が振り向く先には対峙する吉澤とKEI…
「よっすぃ…」
立ち上がり、駆け出そうとする石川を
後ろから抱き止める万力の美しき細腕。
「…吉澤の秘密を知りたいんだろ?」
飯田圭織は石川の耳元で囁いた。
「…貴女は、さっきの?」
「あぁ、吉澤を この世界に引き込んだ張本人だ…
変な勘違いをしないでね」
ニッと笑う飯田は石川を そっと離して警察手帳を見せた。
「警察の人?」
ウンと頷く飯田。
「吉澤の恋人かい?」
そう聞かれて真っ赤になる石川は、それでもコクンと頷いた。
「だったら、未来の旦那さんの仕事振りを最後まで見届けるんだよ」
飯田は対峙する吉澤とKEIを見詰める。
「よっすぃ‥警官になるの?」
「…あぁ、それも私と同じ『魔人ハンター』としてね」
余裕有り気に答える飯田だが、さすがに心配なのか、
吉澤とKEIを見る その額には うっすらと汗が浮かんでいた。
吉澤の顔を見た瞬間から保田の心臓はドクンと脈打ち、
近付く吉澤の姿に鼓動は激しくなった。
まだ日が高い午後の時間に、まばらだが人が行き交う路上で
向かい合う、吉澤と保田の間に流れる空気は、そこだけ温度が低い…
「保田圭と言う」
名乗る保田の声は枯れていた。
「何故名乗る?」
「お前の夢を毎日見る…」
「で…?」
「私は夢の中で、毎日お前に殺されている…」
「……」
「その夢でお前が名乗るんだよ…吉澤ひとみってね」
風に煽られサラサラとした髪を靡かせる吉澤の透き通る瞳を
正視出来ない保田は、ふと視線を外した。
「だから、私の名前も知って欲しくてね…それで名乗った」
吉澤は肩を竦めて「別に知りたくは無いが…」と続けた。
「何故、俺は夢の中でアンタを殺すんだ?」
スウッと吉澤が右手を上げて指差すのは保田の左胸。
「それが原因か?」
ハッとして心臓の部分を押さえる保田は、形相を変えて吉澤を睨み付ける。
「…やはり、お前…知っているな?」
ビキビキと音を立てて形を変える保田の右手…
薄く微笑む吉澤は五指を広げた。
「…返して貰うよ、ソレはアンタの物じゃ無い」
バッと5メートル程後ろに跳び、保田は構え直した。
「私が名乗ったのは、もう一つ理由が有る」
キリキリと軸足に体重を乗せて一気に距離を縮めるべく腰を落とす。
「それは…」
言いよどむ保田には、言葉に出来ない秘めた理由がある…
「死んでから、あの世で考えな!」
叫んで、一気に吉澤の懐に飛び込む。
瞬時に吉澤の懐に飛び込み、心臓を抜き取るのには
0,5秒もあれば充分な距離、5メートル。
たった5メートル…
しかし、その5メートルの距離は
保田にとって奇異な感覚に身を委(ゆだ)ねる夢幻の回廊になった…
視界に広がる真紅の薔薇の絨毯…
幻を見たのだ。
それは正に永延の時を彷徨(さまよ)う白昼夢…
吉澤の右手の指が一本一本自分の胸に溶ける様に沈み込む感覚。
毎日見る『悪夢』と同じ夢を 今 見ている…
これは夢だ…
解かっているが、どうしようも無かった…
吉澤はひっそりと冷笑を浮かべて、保田の心臓を握り締める。
「ぁぁああ…」
心臓を引き抜かれる感覚に全身が恍惚の身震いを始める。
「貴女の愛した男に殺されれば本望でしょう?」
耳元で誰かが囁いた…
「キサマ!」
声の主は薔薇の香りに包まれた美貌を湛える、藤本美貴だった。
その藤本の微笑みは、こう語っている。
---全てお見通しよ、貴女は愛する男を殺せない---
「ふざけるな!私は、断じて愛してなどいない!」
否定は空しい事だとは解かっている…
これは、夢なのだ。
「愛するなんて有り得ない!私は一流の暗殺者なんだ!」
それでも、否定する保田の叫びに、藤本は含み笑いで応じる。
「嘘を付かなくてもいいのよ…
証拠に貴女は彼を殺していないもの」
「殺してない…?」
「ふふふ…」と笑う藤本の声と、視界を覆う薔薇の花弁…
「…殺してない…‥?」
ハッと気付き、現実に戻った 保田の禍々しく曲がった鉤爪は
吉澤の心臓に突き刺さる事無く、ピタリと左胸の上で止まっていた。
「また、夢で お前に殺された…」
吉澤の冷たい視線に吸い込まれそうになりながら
独り言のように呟く、保田の唇からは一筋の血が流れている。
「…夢ではない」
表情と同様、冷たい吉澤の返答。
「なにを…!?」
そこまで言って保田は気付く…
吉澤を想うだけで高鳴る、自分のハートが鼓動していない事に…
ゲフッと咽(むせ)た口から大量の血を吐き、崩れ落ちる保田の視界の隅に
見覚えのある臓器が目に入った。
それは、吉澤を殺し、本当の意味で自分の物になるはずだった心臓…
ダラリと下ろした吉澤の右手には脈打つ藤本の心臓が握られていたのだ。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000049.jpg
「返してもらったぜ…」
愛する男は、にべも無く言い放つ。
「…どうやって抜いた?」
大の字になった保田の最後の言葉…
「…教えない」
保田の想いなど知る由(よし)も無い吉澤は、最後まで つれなかった…
今日はココまでです。
次回は、ちょっと先になりまして2週間後ぐらいになる予定です。
スマソ では。
446 :
ジェット ◆aJ1VZFRNi2 :04/01/27 16:26 ID:VEQjU2f+
カッケースレ発見!
ほ
ぜ
ん
穂是゛ん
n
フォ
スレタイからは想像しない世界がここにあった!
UnKOて
UnK0の言うとおりだな
狼ってどうやって板ボタンに登録するの?
ギコナビ使ってるんですが・・・
羊と鳩しかない・・・
>>457 狼は羊、鳩とは別の下の方の「雑談系2」にある
test
ほ
461 :
ねぇ、名乗って:04/02/07 09:13 ID:CNHSv/0W
なっちが最近全然出てこないな
登場人物が多すぎて、誰がどうなってるのかよく分からん
――― 17話 KEI後日談 ―――
朝娘市警察病院。
以前、パパラッチ田代の遺体が司法解剖された病室に
保田圭の死体がベッドに横たわっていた。
ベッドの横には大型の機械が静かに動いていて、
機械から伸びる2本のチューブが保田の死体の左胸に収まり、
透明なチューブからは、赤い血液が流動しているのが見える。
機械は大型の血液ポンプだった。
微かに動く保田の胸は呼吸している。
つまり、保田は生きているのだ。
保田の傍(かたわ)らに立つのは田代の時と同様、
サイコメトラー平家みちよ…
飯田が吉澤に、保田を殺すのを譲る代わりに付けた条件…
----「出来る限り綺麗に殺せ」----
その理由が此処に有った。
「さてと、貴女の記憶を全て貰うよ…
終わったら、そのチューブを抜いて機械を止めてあげる」
意識の無い保田の額に手をのせる平家の手の平は
肌と融合するかのように溶けて沈む。
「掴んだわ」
脳味噌を掴んだ平家の脳内に保田の記憶が全て入り込み、
必要な情報だけを選別し、それを引き出す。
死んでいる人間から情報を取り出すのと違い、
生きている人間から記憶を引き出すのは容易で、
引き出される情報にも雲泥の差がある。
殺し屋の情報が欲しい飯田が、吉澤に頼んだ殺しの条件は
この事を見越してのことだったのだ。
「凄い…KEIは『人造舎』の人間だったのね」
今まで謎のベールに包まれていた『人造舎』の深部の情報が
引き出せた喜びに、滑(ぬめ)る唇をペロリと舐める
平家の表情は恍惚のソレだ。
「この情報が有れば一生遊んで暮らせるわね」
ポンプの電源を切って手術室を出ようとした平家は
ふと振り返り、完全に冥府に旅立った保田の顔を見た。
その死顔は、安らかなのか、それとも無念なのかは分からない。
だが、一瞥をくれただけで向き直る平家の顔には、
哀れみの表情が宿っている。
それは、今まで生きてきた保田の記憶を垣間見た
サイコメトラーとしての職業病なのかもしれない…
知らずに涙が頬を伝っていたのだ。
他人の人生の記憶ほど、悲しいものは無いのだから…
平家は手術室を出ると、待ち構えている飯田に向かってウィンクをした。
「おおきに飯田さん、凄い情報が手に入ったわ」
「ふーん」
「いい物が手に入った代わりに、ただで一つだけ情報を提供するわよ」
「おいおい、一つかよ…」
「フフ‥商売、商売、あとは買ってね」
「ハ‥ハハ…」
平家がチラリと飯田の隣に目を移す…
そこには吉澤、それと石川という少女が待っていた。
平家を連れて来た飯田が居るのは当たり前だ…
まぁ、吉澤が居るのも理解できる。
だが、何故、吉澤の知り合いというだけで
石川梨華と名乗る少女が着いて来ているのか?
平家にとっては、どうでも良い事だったが、少しだけ気になった。
石川は平家に対して、興味を持っているようだったからだ。
だから、聞いてみた。
「私に興味が有るみたいね?」
石川はウンウンと頷く。
「何故?」
「だって、魔人ハンターには情報屋っていう強力なパートナーが必要でしょ?
飯田さんが平家さんを必要としているように…」
「…貴女も情報屋になりたいの?」
ニッコリと笑って「ハイ」と返事をする石川の後ろで、
飯田と吉澤が拝むように手を合わせ、苦笑いで「ゴメン」と合図している。
どうやら、石川という少女は無理矢理 着いて来たらしい…
「平家さんの弟子にして下さい」
「…ハァ?」
石川の後ろに隠れるように身を縮めている2人をキッと睨み付けると、
飯田と吉澤の拝み手はハエのように擦り合わせている。
「……ハ ハ ハ…」
乾いた笑いが警察病院の廊下に木霊した…
帰り道、平家は(石川が情報屋になる事を諦めさせるために)
手相を見てあげると、石川の手を取った。
「手相なんて見れるんですか?」
「ハハハ、まぁね」
勿論、過去を見ることは出来るが、未来の出来事を見ることは出来ない、
だが、テレビに出てるような占い師よりは当たるほうだ。
朧気(おぼろげ)ながらだが、漠然とした予知は出来るのだ。
「…うん?」
おかしな感覚だった。
石川にサイコメトラーの要素は全くと言って無いし、
将来においても無さそうだ。
他の能力についても、その欠片(かけら)さえも見当たらない。
只単に普通の女子高生だ。
だが…しかし…
極近い未来、確実に この娘の何かが変わる…
手相を見て、こんな感覚になったのは初めてだった。
「どうかしました?」
「いや…」
不安気に聞く石川に首を振って見せ、
「貴女、少し間 私の手伝いをしてみる?」
と、聞いてみた。
「本当ですか!」
手を叩いて喜ぶ、石川に微笑みながら頷いて見せた平家は、
自分に関心を寄せる、この少女の近い未来に起こる筈の
出来事?に興味が沸いたのだ。
「おい、いいのか?」
本気なのか、と聞く飯田に「ええ」と答えて、
平家は石川に「行きましょ」と促し、
呆然と見送る飯田と吉澤にニーッと笑って見せた。
窓一つ無い真っ暗な室内で、車座になって座る3人の少女…
白い布を巻いて目隠しをした少女達の中心には、
頭蓋骨が置かれていて、そのドクロをロウ台に
一本の太いロウソクが立てられ、揺らめく小さな炎が
瞑想をする少女達を薄く照らしていた。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000050.jpg 「死んだ!保田が死んだよ!」
「殺された!相手は手強いよ!」
「私達の秘密も盗まれたよ!」
「盗んだのは記憶を読み取る情報屋だよ!」
「ここの場所も知られたよ!」
「大変だ!あっちには警察が付いてるよ!」
「殺されるよ!次は私達が殺されるよ!」
「殺される前に殺さないと駄目だよ!」
次々に喋りだした少女達に
「その情報屋は、警察に情報を流したの?」
と聞いたのは、『人造舎』の連絡係、
3人の少女達が陰で『マメ』と呼んでいる新垣里沙という少女だった。
保田の動向を追うように社長の北野から指示されて
保田が自宅マンションを出てから、『六鬼聖』と呼ばれる
少女達を使い、その少女3人が力を合わせる事で可能になる秘術、
『鬼術其の一、千里眼』を用(もち)いて保田を追っていたのだ。
(ちなみに鬼術は其の六まで有るので六鬼聖と呼ばれている)
「警察には、まだ話してないよ!」
「でも、バレるのは時間の問題だよ!」
「早く情報屋を殺さないと、殺されるのはこっちだよ!」
「…で、その情報屋って?」
「知らないよ!」
「保田が死んだから、探れないよ!」
「これ以上は無理だよ!」
「…ちぇ、使えない子達だねぇ」
「なんだって!」
「許さないよ!」
「謝りなよ!」
「…ウグッ!…い、痛でぇ!!」
ギュルギュルと腸が捻じれる感覚に、新垣が腹を押さえて のた打ち回る。
『鬼術其の四、超念転』で内臓を掻き回され、
涙ながらに謝って、新垣は解放された。
「と、とにかく、殿に連絡しないと…」
顔面蒼白になりながら『六鬼聖』を睨み付け、
新垣はポケットから携帯を取り出した。
吉澤の無期停学は解除され、藤本も登校する事になり、
久しぶりに3年B組にも活気が戻っていた。
昼休み、弁当を広げていると 遅い登校の藤本の高笑いが
廊下に響いて来る。
「ゲッ、あの笑い声は…」
「また、石川と喧嘩するな」
仲良く弁当を食べていた安倍と矢口が顔を見合す。
その石川は嫌がる吉澤にベタベタと くっ付き、
廊下に響く藤本の高笑いを聞きながら、立ち上がり 手を上げて
「重大発表よ!みんな、聞いて〜〜!!」
と、クラスの注目を引いた。
「実はぁ、私とよっすぃは近いうちに結婚する事になりました〜!
きゃー!パチパチパチ」
どよめく教室に、目が点になる吉澤。
矢口はオレンジジュースを噴き出し、
安倍はコロッケを喉に詰まらせて咽(むせ)た。
「ななな、何言ってんだ、アイツ」
「が、学生結婚だべ!高校生夫婦だべさ!」
「この前、よっすぃが約束してくれたんだよ!」
皆に向かって手を振る石川はハッピーの極致だ。
「有り得ませんわ!バカバカしい!」
教室に戻った藤本は開口一番、石川を指差し怒鳴りつけた。
「吉澤さんは、私を命懸けで助けてくれたのよ!」
「だから、何よ?」
「それ程、私の事を想ってくれてるって事だわ、
愛情の深さが違いますのよ!」
「単なる同級生を救っただけじゃん、
よっすぃはね、私と結婚の約束をしたのよ!」
さすがにムッとする藤本に向かって、ニーッと白い歯を見せた石川は、
目が点になってる吉澤にニコリと少女のように微笑んだ。
「ねぇ、よっすぃ?」
喜びいっぱいで聞いた石川に向かって出た、
吉澤の答えは「約束してない」と、そっけない。
一瞬「へ?」と顔が固まる石川。
「何言ってんのよ!あの時言ったじゃない!結婚しようって!」
「言ってない」
石川の言う『あの時』とは、保田との魔戦の時、
吉澤が石川を抱きしめて、耳元で囁いた時の言葉だ。
吉澤は確かに『あの時』、『結婚しよう』と、言った。
だがそれは、殺気を放つ保田の存在に気付いた吉澤が、
足手まといの石川を黙らせるために付いた方便、
つまり、嘘の言葉だったのだ。
それを吉澤は、石川が浮かれて発表した、今の今まで忘れていた。
「言いました!」
「言ってない」
それでもシラを切り通す吉澤。
「言ったもん!」
石川は涙目だ。
フウっと溜め息を付いて「やれやれ…」と肩を竦める吉澤に、
藤本が「ほらね」と鼻で笑った。
「そんな事より、私と貴女では、歴然とした差が出来ましたのよ」
「な、なによ?」
「…私も吉澤さんと同じ世界に棲む人間になったという事」
フフンと勝ち誇る藤本の言葉に、ピクリと反応する吉澤。
「どう言う事よ?」
詰め寄る石川に背を向けた藤本は
「ホ〜ホッホッホッホ」と何時もの高笑いで返した。
「逃げるの?」
クラス中に恥を晒した石川はプルプルと震えている。
少し振り向いた藤本の横顔は、ポツリと囁くように呟いた。
「いずれ分かる事よ…」
高笑いをしながら、クラスの取り巻き連中と
談笑する藤本の背中を見る、石川の唇はワナワナと振るえ、
それを見た吉澤は、コッソリと教室から逃げ出した。
「…逃げたべさ」
「いつもの事だろ」
事の成り行きを見守っていた、安倍と矢口も
いつものクラスに戻ったと、顔を見合わせてクスリと笑った…
お久しぶりです。今日はココまでです。
次回更新も未定って事で、スマソ。
>>462 次回はなっちと矢口の物語です。
…確かに、解かり辛くなってるかも。。。
後で、登場人物紹介を書いて貼っときます。 では。
ハナゲ乙
やっぱ登場人物把握しにくいねぇでもガンガレ
でもこの三人のやり取り好きよ俺
藤本はとりあえず、白百合つぼみの成長したバージョンだと勝手に脳内変換
『魔界街』登場人物紹介
安倍なつみ:私立ハロー女子高3年B組。
MAHO堂で修行する魔女見習い。
使い魔は白猫のメロン。矢口と仲が良い。
ハロー製薬部長の父を持つ恵まれた家庭に育つ。
(真夏の光線の時のイメージ)
矢口真里:私立ハロー女子高3年B組。
MAHO堂で修行する魔女見習い。
使い魔は猫のヤグ。安倍と仲が良い。
(ミニモニリーダーの時のイメージ)
辻希美:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
家が貧乏で、同じ長屋に住む飯田圭織を慕う。使い魔はハムスターのマロン。
加護、紺野と仲良し。
(中三の時のイメージ)
加護亜依:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
小料理屋を営む母親と二人暮し。使い魔はハムスターのボンボン。
辻、紺野と仲良し。
(中三の時のイメージ)
紺野あさみ:市立朝娘中学3年。MAHO堂で修行する魔女見習い。
どんな死の病に感染しても死なない特異体質の少女。
ハロー製薬の実験体だったが、辻達に救出されて、MAHO堂に住み込む。
(5期新人の時のイメージ)
飯田圭織:朝娘市警察の特殊刑事(デカ)。別名、魔人ハンター。
(今のイメージ)
吉澤ひとみ:私立ハロー女子高3年B組。
魔界街での影響なのか?男に変わった元女。
ただし満月の夜は女に体に戻る。
右手をテレポートさせる事が出来る。
魔人ハンター見習い。家庭は極普通。
(4期で入った頃のクールな美少女の時のイメージ)
石川梨華:私立ハロー女子高3年B組。
吉澤を慕う天然ハッピーな女子高生。
夜中に外出しても怒られる事の無い複雑な家庭環境に身を置く。
(ハッピーなイメージ)
藤本美貴:私立ハロー女子高3年B組。高慢チキな生徒会長。
ハロー製薬専務の一人娘。吉澤を慕う。
魔人KEIに心臓を盗まれた事によって特殊能力を身に着ける?
(美貴帝なイメージ)
平家みちよ:『スナックみちよ』を経営するサイコメトラー。
普段は17時から0時まで営業するスナックママ。
だが真の家業は午前3時から開業する情報屋。
(スナックママのイメージ)
中澤祐子:MAHO堂を経営する、齢200歳の魔女。
辻達に辛く当たるも、実は可愛くてしょうがない。
(200歳の婆のイメージ)
石黒彩:石黒音楽事務所社長。中澤の元弟子の魔女。
あややと高橋愛の2人のアイドルを抱える敏腕社長。
(若く見えるが実は80歳の魔女のイメージ)
松浦亜弥:私立ハロー女子高2年A組に通うスーパーアイドル。
通称あやや。彼女の出自については不明。
(ぁゃゃのイメージ)
高橋愛:市立朝娘中学3年。辻達の同級生。
新人アイドル。石黒を師事に仰ぐ魔女見習い。小悪魔的な存在である。
(現在の高橋のイメージ)
後藤真希:朝娘市警察の巡査。魔人ハンターを志す。
(今のイメージ)
殿:犯罪組織『人造舎』主催。盲目の白髪鬼。
新垣里沙:犯罪組織『人造舎』の連絡係。
(豆のイメージ)
6期生:犯罪組織『人造舎』に所属する六鬼聖と呼ばれる3人組。
(今のイメージ)
小川麻琴:小川姓発祥の寺、小川神社の末妹。巫女さん。鬼拳小川流拳法の使い手。
(今のイメージ)
小川直也:小川神社の長兄。全国に散らばる小川一門を手中に治めるべく
小川家当主、小川龍拳と対立。鬼のように強い。
(そのまんま)
なお、この物語は日本とは魔震で隔離した陸の孤島、朝娘市、通称 魔界街で
繰り広げられる娘達の青春奇譚である。
>>477 人物紹介貼ったぜ。
>>478 ありがとうございます。
イメージは一応書いたけど適当なので、皆様のご自由に。
人物紹介乙
がきさんのキャラが俺のつぼだ
ハナゲ乙
人物紹介で登場人物のイメージがふくらんだよ
マコの登場が楽しみ
保全
――― 17話 昨日と今日と明日 ―――
どこかのビルの屋上で月夜を見ながら、探検を兼ねる散歩を
毎夜のごとく繰り返すのが、俺達の日課。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000053.jpg 『今日の お月さまは笑っているわよ』
『ああ、それは三日月って言うんだよ』
『ヤグさんは物知りなのね』
エヘヘと笑いながら俺に話しかける白猫のメロンちゃんは、
どこかオットリとした使い魔だ。
そんな、メロンちゃんが不意に言った。
『ヤグさん、メロンはねぇ、なっちから命令された事ないんだよ』
『そう言えば、俺もないなぁ…』
言葉は通じないが、俺の御主人、矢口真里の事は
手に取るように分かってるつもりだ。
メロンちゃんも、御主人の なっちの事は良く理解してるんだろう…
多分だけど…
『役に立ちたいと思ってるんだけど、メロンの事ペットとしか
思ってないみたいなの』
『俺も同じ様なもんだよ、悩みなんて、関係無い2人みたいだからねぇ』
『そうなのよ〜、ホウキで飛ぶ練習だって三日坊主だったし…
メロンはせっかく使い魔として生まれたんだから、
役に立ちたいと思って、何か大事件でも起きればいいなぁって、
いつも思ってるの〜』
『…ハハハ』
ニッコリと笑って、恐ろしい事をサラリと言うメロンちゃん…
素敵だぜ…!
高校の外れに位置する一般住宅街、
ここに俺のご主人様、矢口真里一家の住む公営団地が有る。
鉄筋3階建ての団地の315号室が、俺…もとい、真里の家だ。
ベランダから差し込む午後の日差しが心地良い、真里の部屋で
紅茶とケーキで寛(くつろ)ぐのは、勿論 真里とメロンちゃんの飼い主なっち。
そして、俺もメロンちゃんと陽だまりの絨毯の上で日向ぼっこをしている。
真里達の会話に聞き耳を立てながら…
「なっちの家のお父さんが羨ましいよ、うちのお父ちゃんなんて
休みだと昼間っからビール飲んで、テレビに噛り付いてるもんね」
あ〜あ、と溜め息交じりで語る真里に なっちがクスッと笑った。
「何言ってるべさ、矢口のお父さん格好いいよ、
リーゼントで目つきが鋭くて、ロックンローラーみたいだべ」
何回か遊びに来た事がある なっちも、日曜日に来たのは初めてで、
仕事が休みで家でゴロゴロしている、真里の父親さんを見たのも初めてのようだ。
玄関先でペコリとする なっちに対して、無愛想ながらもウィンクをしながら
ピッと2本指を立てて「よう、ゆっくりしていきな…」と声を掛けた、
真里の父親は俳優のような渋い声をしているのだ。
「…ハハハ」
乾いた笑いを発しながら真里が自分の部屋のタンスの一番下の
引き出しを開けて、何やらゴソゴソと探し出して取り出したのは、
一枚の古ぼけて色あせたCDレコード。
うん?…なんだソレ?
俺の疑問を、なっちが代弁してくれた。
「なにこれ?」
無言で差し出されたCDジャケットを見ていた、なっちの目が丸くなっていく。
「この、真ん中の人…矢口のお父さん?」
「そう…お父ちゃん」
俺も初めて知ったが、真里の父親は元歌手だった…
ジャケットに写っているメンバー5人のロックグループ『アローマウス』の
メインボーカル矢口永吉はエレキギターを抱えてタバコを咥えていたのだ。
「すご〜い!矢口のお父さん歌手だったんだ」
「…ハハ、オイラの生まれる前だから、よく知らないんだけどね」
「ふーん」
「今でもギターは大事そうに持ってるんだけどね…
オイラがちっちゃい頃は、よく弾いてくれたんだけど、今は弾いてくれない…
それにね、このCD聞くと、お父ちゃん怒るんだよ」
「なんで?」
「ハハ、オイラにも理由は分からないよ」
あれっ?
真里…なんか、寂しそうな顔してるぞ…
「あ〜、矢口ぃ聞きたいんだ?お父さんの演奏を」
「無理無理!休みの日は昼間っからビール飲んでる親父だよ」
キャハハハと笑う真里。
『ねえヤグさん、真里さんは笑ってるのに、どうして悲しそうなの?』
『……』
不思議そうに真里を見る、メロンちゃんの疑問に
俺は答える事が出来なかった…
ハハ…俺が真里を良く理解してるつもり、って言うのは
文字通り「つもり」だったんだ。
今回の事件が起きるまでは…
なっちとメロンちゃんが帰ってから一時間後、
玄関の呼び鈴が鳴ったので、真里と俺が出ると、
なっちが息を切らせて膝に手を付いてゼーゼー言っていた。
その なっちの右手には一枚のポスター…
「大変だべさ!」
『大変なのよー!』
なっちと肩に乗ったメロンちゃんが同時に声を出した。
まぁ、メロンちゃんの声は真里達には「ニャー」としか聞こえないけど…
「今ね、今ね、帰り道でコレを見つけて…」
ゼーゼー言いながら、なっちが真里に手渡したポスターは
どこかのライブハウスの演奏案内が書かれていた。
【今夜復活、伝説のロックグループ、アローマウス!】
そう書かれている、ポスターを目を丸くして見ている
真里の手を なっちが取った。
「行こう!もうすぐ始まっちゃうよ!」
『開演は7時からよー!』
「で、でも…」
「いいから!」
茶の間にいる親父さんを気にしている風の
真里を引っ張り出して、俺達は走り出す。
『ここよ、ヤグさん!メロンはライブハウスなんて初めてだからもう、胸がドキドキよ』
『あ、ああ…』
眩しいネオンに彩られた、店の看板を見上げながら
俺の心臓もドキドキしてきた。
チケットを買った、真里と なっちに抱かれながらドアを開けると、
俺とメロンちゃんは耳に入ってきた大音量の演奏にビックリして
一瞬逃げ出しそうになったが、真里の顔を見て大人しくした。
複雑そうな真里の顔は、何を考えているか俺にも解からず、
目を輝かせる なっちとは対照的に見えたから…
タバコのヤニが漂う、古びた感じの店内は薄暗く、
テーブルの客席は8割方埋まっていた。
客層も真里達よりは、かなり上のように…
って言うか、おっさんとおばさん ばかりに見える。
俺達は一番後ろのテーブルに座った。
ジーパンとTシャツの中年男達の曲は、小気味良いリズム&ブルース
が殆どで、俺達が店に入って最初に聞いた
大音量のロックは、結局その一曲だけだった。
2つ ジュースを買ってきてテーブルに置いた なっちは最初、
興奮して色々と真里に話しかけてたが、真里は「ああ」とか「うん」としか答えず、
なっちも、何となく真里の空気を読んで、ストローを咥えて大人しく演奏を聴いていた。
俺とメロンちゃんは、サラミを貰って食べた…
真里は最後まで無言だった…
彼等は、なっちから真里の事を聞いて、最初は驚いていたが、
次々と昔話を懐かしそうに話し出した。
ここはアローマウスの楽屋。
なっちが店の人に知り合いだって嘘?を付いて、
グズる矢口の手を引いて案内してもらったのだ。
「なぁ、真里ちゃん、永吉は元気かい?俺達は永吉を探してたんだぜ」
「…うん」
真里は相変わらず、無口だ。
「本当は、アイツがリードボーカルだから戻って欲しいんだけどな」
「ああ、アイツの声じゃないと、俺達の曲じゃないぜ」
「せっかく、再デビューする事が決まりかけているのに…」
彼等の元には、大手のレコード会社から再デビューの
話しが転がり込んできていた。
「なんで、矢口が生まれる前に解散したんですか?」
なっちは、俺が聞きたかった事を聞いてくれる。
たぶん、真里も聞きたい筈だ。
「ハハハ、なんだ?永吉から聞いてなかったのかい?」
顔を見合わせて、頷き合うメンバー達…
彼等の話しだと、最初のアルバムを出した時に、音楽の方向性が違うと
真里の親父さんが何故か言い出して、一方的にバンドを抜けたらしい。
結局、ボーカル不在が響いて解散になったらしいが…
当初は訳も分からずバンドを抜けた親父さんに対して
怒りを持っていた彼等も、今となっては、怒ってなかった。
ただ、水臭いとは思っているようだが…
理由があった。
デビューが決まった時には真里の親父さんは、皆に黙って結婚していて…
デビューという、大事な時期に結婚した事に親父さんは皆に気兼ねしていたんだ。
ある悩みを抱えて…
真里のお母さんのお腹には、真里が宿っていた。
でも、真里のお母さんの母体が芳しくなくて…
(真里は元気に生まれたんだけど、
親父さんは奥さんと子供…将来の事とか色々と考える所があったらしい)
事務所にもメンバーにも結婚した事を隠していた、真里の親父さんは、
真里の為に…
自分の愛する家族の為に、
デビューしたての収入が不安定のバンドを捨てて、
今の仕事(市役所勤め)に就いたのだ。
他のメンバーが、この事を知ったのは
それから暫らくしてからの事だったらしいが、
それまでの誤解や憎しみは解消された。
「ほい、真理ちゃん…」
リーダーのハゲのサムソンが一枚の写真を真里に手渡して見せた。
その写真を見た真里の唇がへの字に尖がっていく…
色あせた写真には、赤ちゃんの真里を抱えて笑う
真里の親父さんが写っていた。
「暫らくしてから、永吉の奥さんから、その写真が送られてきたんだ…
皆さんに、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした、って手紙を添えてな」
ポンと真里の頭に手を置いたマイケルがニカッと歯を見せた。
「でも、良かったぜ…真里ちゃんが、こんなに大きくなって」
「そんなに、大きくなってないべさ…」
涙目の なっちの突っ込みにメンバー達がドッと笑う…
「なぁ、真里ちゃん…永吉のヤツに伝えてくれないか…
俺達はオマエが帰ってくるのを何時までも待ってる、ってな」
「…うん」
結局、真里は「うん」しか言わなかった…
解かっているよ…
言葉に出して何かを言えば、泣いてしまうからだろ?
だって…
今…
現に…
泣いているもの…
店を出たとたんに、真里は両手で顔を覆って嗚咽を漏らした。
なっちは、黙って真里を抱きしめて頭を撫でてた…
『ヤグさん…真里さんが泣いてる…』
『…うん』
『でも、泣いてるのに、悲しそうじゃないね…』
『…うん』
『どうしてかな…?』
『……』
なぁ、メロンちゃん…
メロンちゃんは気付いているかい?
メロンちゃんだって、今、泣いてるよ。
メロンちゃんは、今、悲しいのかい?
違うだろ?
同じなんだよ。
俺も、真里も、なっちも、メロンちゃんも…
まぁ そういう俺は、涙が出そうなのを必死に我慢してるんだけど…
次の日曜日…
「お父ちゃん♪」
真里の猫なで声に、親父さんはギョッとした。
「な、なんだ?気持ち悪い」
「えへへ…デートしよか?」
「ハァ?」
「いいから、いいから」
親父さんの手を引っ張りながら、連れ出す場所は
勿論、あのライブハウスだ。
まぁ、開演は夜だから、それまでは本当にデートするつもりなんだろう。
俺はニッコリ笑って見送った…
だって、この後メロンちゃんが来る予定だから。
真里と照れる親父さんが出て行ってから一時間後、
ピンポーンと呼び鈴。
「あら?なつみちゃん、真里は さっきお父さんと出て行ったわよ」
玄関に出た お母さんに向かって、なっちと肩に乗ったメロンちゃんは
ニッコリと微笑んだ。
「うん、今日は、お母さんに用が会って来たんだべさ」
「私に…?」
『そうよぅ』
メロンちゃんが「ニャーオ」と鳴いた。
夜になって、俺達はライブハウスへの道をテクテクと歩いた。
なっちから事情を聞いた お母さんは微笑を湛えて、
そして、なっちはギターケースを抱えて。
メロンちゃんは夜空を見上げた。
『ねぇヤグさん、今日のお月さまは、まん丸よ』
『…本当だ、これはね、満月って言うんだよ』
俺はチョッピリ得意気に語ったが、そんな事は意に介せず、
メロンちゃんはニッコリしながら月を見てる。
『メロンねぇ、三日月の日から 毎日お月さんを見てたんだよ』
『へー…』
俺は『暇なんだね』と雰囲気をぶち壊しそうになる事を
言いそうになって少し慌てた。
『それでね、すごい事を発見したの』
『すごい事?』
『うん、とってもすごいの』
『な、なに?教えて?』
『あのねぇ、お月さまはねぇ、毎日少しづつ大きくなるのよ』
『う、うん』
『一昨日のお月様と昨日のお月さまは違うの』
『うん…それで?』
『そしてね、昨日のお月さまと今日のお月さまも違うのよぉ』
『月齢の事かな…?』
『メロンは気付いちゃったの、昨日と今日は一緒じゃないって』
『……?』
『だから、今日と明日も一緒じゃないのよ』
当たり前の事を すごい事だと言うメロンちゃん…
俺には、何が すごいのか良く理解できない。
だから遠まわしに聞いてみた。
『…ハハ、俺には、むつかしくて良く分からないよ』
『むつかしくないの』
『……』
『そういう事なの…』
なぁんだ、そう言う事かぁ…って…おいおい…
でも、俺に向かって微笑むメロンちゃんは女神様に見えた。
『ハ、ハハ‥メロンちゃん、まん丸のお月さま は良い事が有りそうだよ』
『そうなのよ、メロンもそう思ってたの!』
『よし、行こうぜ!』
俺とメロンちゃんは、お母さんと なっちを置いて
一足先にライブハウスに向かって走り出した。
「俺達の昔からのダチを紹介させてもらうぜ!」
もう、数曲終わった所なのか、俺達がライブハウスに入ると、
拍手の中、リーダーのサムソンが客席の後ろを指差した所だった。
スポットライトが当てられた客席は、勿論、真里と親父さんのテーブルだ。
「…お、俺は…」
親父さんは明らかに狼狽しているように見える。
「どうしたんだい?永吉…俺達はオマエさんを探してたんだぜ」
首を振って、ためらう親父さんの背中を真里が押した。
「お、おい、真里…」
「…いいから」
踏ん張ってステージに行くのをためらう親父さんを真里は押す。
「いいから!」
真里の声は震えていた。
ズルズルと真里に押されて、親父さんはステージ前に立ち尽くす。
「…歌ってよ」
「無理だ…」
「…なんでよ!」
「…勝手にバンドを抜けた俺には、歌う資格はない」
真里に促されても、拳を握り締めて項垂れる
親父さんは 怒っているようにも見えた。
「資格は無いかもしれないけど、義務はあるわ」
「…!!…オマエ」
振り向く親父さんの前には真里のお母さん…
なっちがチョコチョコと走り寄って、ギターケースを真里に手渡した。
「アナタは真里に自分の音楽を聞かせる義務があるの」
「……」
「ねぇ‥時々、遠い目で何かを考えてるでしょ?」
「…」
「私には分かるのよ、アナタが何を考えているかを…」
お母さんの言葉に親父さんの涙腺が緩んだ。
「ちっちゃい頃…」
「…む?」
「ちっちゃい頃、お父ちゃんはオイラを膝の上に乗せて、よくギターを弾いてくれた…」
そう言いながら、真里はギターケースを親父さんに渡す。
「…真里…」
「永吉…真里ちゃんはオマエが抜けた理由を知ってるんだぜ」
ステージ上からサムソンが手を差し出す。
「さあ!」
「…どうなっても知らねえぞ、俺は何年もギターを握ってねえし、歌も歌ってねえ」
「フン、そんな事は折込済みだぜ」
ニヤリと笑うサムソンの手を親父さんはガッチリと握った。
固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた お客さん達も
親父さんがステージに上がると、ワッと歓声を上げた。
勿論、お母さんも真里も、なっちもメロンちゃんも、そして俺も…
後ろを向いて涙を拭く仕草をする、親父さんの背中は震えている。
だが、振り向いた その顔は、今まで見た事も無い…
つまり、アローマウスのボーカルのソレになっていた。
「なっちぃ」
「なんだべ?」
ニコニコする なっちに真里が抱きついた。
「だ〜い好き!」
「わぁぁあ」
よろける なっちとキャハハハと笑う真里…
何時もと変わらない、登校風景…
何時もと変わらない、他愛もない会話…
だけど、今日の風景は昨日と違って見える。
ニッコリと微笑むメロンちゃんと目が合った。
あぁ…そう言う事なのか…
俺は、メロンちゃんが言っていた『すごい事』の意味を 今、理解した。
--- ねぇヤグさん、メロンねぇ すごい事を発見したの ---
--- お月さまはねぇ、毎日少しづつ大きくなるのよ ---
--- 一昨日のお月様と昨日のお月さまは違うの ---
--- そしてね、昨日のお月さまと今日のお月さまも違うのよぉ ---
--- メロンは気付いちゃったの、昨日と今日は一緒じゃないって ---
--- だから、今日と明日も一緒じゃないのよ ---
--- むつかしくないの ---
--- そういう事なの ---
今日はココまでです。
今回で書き溜めたストックを全て吐き出した。
ちゅう事で次回更新も未定です。
>>483 新垣の出番か…サブキャラのつもりだったから余り考えてなかった…
>>484 小川の出番は2、3話後になる予定だぜ。
次回は加護と石川の話になります。 では。
いい言葉だし俺も好きだけど、丸々引用するのはどうかと。
せめて出展先くらい。
とりあえず感動した
コミカルからシリアス・感動ものまで読めるなんて嬉しい限り
おはようございます。
>>509 う、確かに…その通りだ。俺はバカだ。素直に反省する。
ストックも無くなりかけ、ヤグ視点で書いてるうちに何か物足りなさを感じた俺は
遅筆ゆえに焦っていてメロンのフレーズを「まっすぐにいこう」から引用した。
うpした時、そう書けばよかった。そして、コレをうpした時は内心「_| ̄|○」だった。
こんなんで俺はいいのか?と。でも指摘されて、ちょっとホッとしてる。
自恥たる思いを内心秘めてるのは鬱なものだから。しばらく逝ってきます。
>>510 そう言って貰えると助かります。
これからは焦らず自分のペース書きますので、遅筆でも我慢してください。カシコ。
ハナゲ イキロ
( ^▽^)<ホゼホゼ
ほ
n日5日前公告
516 :
まんこ:04/02/21 23:07 ID:BrQTutgT
ho
ハナゲさんのこれの他に書いた作品ってありましたかね?
>>512 はい、死んでません。
>>515 ヤバイのか?
>>518 有りますよ、でも恥ずかしいから内緒です。
次回は水曜日の予定です。
今、書いてる真っ最中だよん。
n日になると一日一回以上の書き込みがないと落ちます。はい。
○ 一日以上間隔が空くと落ちます
△ 一日一回以上の書き込みがないと落ちます
つまり
>>519-520では落ちています
>>521 なるほど、わかりました。
んじゃ、保守。
保全
――― 18話 石川のアルバイト ―――
石川梨華が平家みちよの経営する『スナックみちよ』にアルバイトとして
来るようになってから、2週間が過ぎようとしていた。
勿論、情報屋見習いの修行の一環として手伝っているのだが、
本当の情報屋の仕事は滅多に無く、情報屋としての『スナックみちよ』を
開店するのは、依頼人が指定する日の午前3時と決めている。
その依頼人が来なくては話しにならず、
石川は平家の言うままに、アルバイトとしてホステスをしているのだ。
カウンター6席とテーブルが一つだけの小さなスナックは
常連客しか来なかったが、若い美人のチィママが入ったと、
今では、それなりに繁盛している。
そして、その石川はというと、水商売が肌に合っているのか、
すっかり馴染んでしまっていた。
石川が夕方6時から10時過ぎ頃まで接客する間に『スナックみちよ』から
店外に漏れるハッピーな笑い声は、外を歩くサラリーマンの足を止め
初見の客を店内に入れる呼び水となっている。
(営業時間は平日の夕方6時から0時までだが石川は高校生で朝が早いという
事情を考えて、平家が10時までとしたのだ、勿論、客は石川が高校生とは知らない)
その石川の楽しみが、ただで歌えるカラオケと、
もう一つ…
「平家さん、夕食取ってきま〜す」
客が少なくなった時を見計らって、店の隣にある小料理屋
『小料理加護』で食べる夕食だった。
女将一人で切り盛りする、この小料理屋は 平家の店と同様、
カウンターと小さな上がり座敷があるだけの、こじんまりとした店だ。
「女将さ〜ん、今日も適当に定食作って下さい」
いつものカウンターの席に座り、手を上げて注文する石川。
「はいはい」
和服に割烹着の女将は、とても優しい。
毎日、女将が日替わりで作ってくれる1500円の和定食は
とても美味しく、今日は鯖の味噌見込みとアサリのお吸い物
とオニギリの定食だった。
「いや〜ん、美味しい!」
お酒もイケる口の石川は、接客で飲むアルコールのお陰で
塩分が欲しくなり、この店で食べる夕食は格別だ。
「あらあら、お上手ねぇ」
ニコリと微笑む女将。
「もう、ココで食べるのが楽しみで、スナックでバイトしてるようなモンですよ」
そう言いながら、頬に手を当てて幸せの笑みを漏らす石川が
カウンターの隅に有る子供用の椅子に気付いた。
「女将さん、子供いるの?」
「え?…ええ」
何気なく聞いた石川の質問は、女将さんの寂しそうな表情を誘う。
「…うん?どしたの?」
「ハハ…梨華ちゃんに話しても仕方ない事だけどねぇ」
そう言って話しを切ろうとする女将に
「ハイ、どうぞ、話してみて、私が聞いてあげる」
と、石川は頬杖を付き 目を閉じて、聞く体勢を取る。
「ふう、しょうがないねぇ…一杯いく?」
女将さんは一合徳利(とっくり)を取って、盃をカウンターに置く。
「へへへ、そうこなくっちゃ」
石川を高校生とは知らない女将さんは熱燗をお酌した。
『小料理加護』は今は亡き夫と二人で開店した、夫婦の小さなお城だった。
娘の亜依も毎日のように店に来て夕食を取っていた。
だが、悲劇は突然やってくる。
夫の突然の交通事故死は女将を打ちのめした。
それでも、二人の思い出の店を畳む事が出来ずに、
一人で頑張ろうと決意した、女将の心の支えは娘の亜依だ。
一人で店を切り盛りするのが、初めての経験の彼女は
客のあしらいも未熟だった。
それが禍(わざわい)した。
泥酔した客が彼女の手を握って迫るのをピシャリと断る事が出来ず、
笑って誤魔化そうとした女の弱さを見せてしまったのだ。
酔い客を怖がって、泣きじゃくる娘の目の前で…
それ以来、娘の亜依は店に寄り付かなくなった。
今では、会話は殆ど無いと言う。
店を畳む事も考えたが、夫の残した店は守り抜きたかった。
だから、店を辞めてと頼む、娘の言葉にも耳を貸さなかった。
でも、何時かは解かってもらえると信じている。
そして今日も、女将さんは娘の為に、朝食を作り、洗濯をして、掃除をし、
夕食を作り置いて店に出る…
夜の仕事だというのに。
石川はしんみりと話を聞いていた。
ちょっぴり涙が出てきた。
「それって、娘さんが何歳の時?」
「6年生の時よ…」
「難しい年頃よね」
「…ハハ、しんみりしちゃったねぇ、もういいでしょ、この話しは」
「ハイ」と女将が石川にお酌をする…
「じゃあ、女将さんも」と、石川が酌を返した。
翌日、石川は、とあるアパートの前で中三の娘を待っていた。
勿論、娘というのは加護亜依の事だ。
カンカンと音を立ててアパートの2階の階段を駆け下りてくる
セーラー服の加護を目敏く見つけ、ニッコリ微笑んで前に立つ。
「…誰や?」
「加護亜依ちゃんね?」
「…そやけど」
「私は石川梨華、今日は付き合って貰うわよ」
「…へっ?」
「学校には、風邪で休むって電話しといた、声色(こわいろ)使ってね」
「ハァ?」
「さぁ、行きましょ」
加護の手を取って歩き出そうとする石川の手を
加護は振りほどく。
「ちょちょちょちょちょっと待った!」
「何よ?」
「全然、意味が分からへんねんけど、アンタ誰?それにドコ行くねん?」
「だから、石川梨華って言ったでしょ、梨華ちゃんでいいよ、
遊びに行くのよ、どこでも好きな所に連れて行ってあげる」
そう言いながら、石川は財布から万札を数枚 ピラピラと出して見せた。
「…アンタいったい何なんや?」
そう言いながらも加護はセーラー服の石川の後をチョコチョコと着いていく。
何者なのか興味が有るのと、石川が着ているハロー女子高の制服のせいだ。
「ハロー女子高の生徒なんか?」
「うん、そうだよ」
「ほう、ウチもハロー女子高には知り合いがおるで」
「へぇ、誰?」
「矢口さんと安倍さんという3年生や」
「アハハ、矢口真里と安倍なつみ?同級生だよ、あの2人は」
「ほんまか?」
「うん、しかも大親友」
「へ、へぇえ」
同級生だが、勿論、親友などではない。
加護の興味を引くために石川は、あっさりと嘘を付いた。
「学校で どんな事してんねん?あの2人」
「矢口は面白い子でねぇ、いつも鼻糞ほじって食べてるよ」
「矢口さんが?」
「それにトイレが我慢できずに、授業中オシッコ漏らした事もあるし」
「う、嘘?」
「本当よ、なっちは授業中にヨダレを垂らして寝てばかりいるから、
毎日廊下に立たされて泣いてるのよ」
「マジで?」
ウンウンと頷く石川は、有る事無い事、言うつもりだ。
「でも、どうして加護ちゃんは、矢口と なっちを知ってるの?」
「魔女見習い仲間や」
「へぇ、加護ちゃんも魔女見習い なんてやってるの?」
「おぅ、飛ぶのが目標やねん」
「ふーん、…でも無理かもね」
「なんでや?」
「親孝行できない子には無理かもって言ったの」
石川の言葉に加護の足が止まった。
「な、なんや…そう言う事か…ウチのお母ちゃんにでも頼まれたんか?」
「そう言う事だけど、女将さんには頼まれてないわよ、私が勝手にやってるの」
「…はぁ‥学校行くわ」
溜め息を付いて、踵を返す加護に
「もう、とっくに授業は始まってるわよ」と石川。
「なんとなく分かるのよ、加護ちゃん、
女将さんと仲良くなりたいキッカケが欲しいんでしょ、
私が作ってあげる…それには私と友達にならないと」
「…アンタなぁ」
振り向く加護に、石川は「ねっ?」とニッコリと笑い掛けた。
「と、友達になってあげてもええけど、お母ちゃんの事は別やでぇ」
「加護ちゃんが最後までそう言うんなら、それでもいいよ」
なんだかんだ言いながら、結局、加護は石川に着いてくる。
市中心部の朝娘市商店街にバスに揺られて着いた2人は
取りあえずゲームセンターに入った。
一万円を崩してジャラジャラと百円玉をポケットに突っ込んだ石川は
何千円分かの百円玉を加護の手に握らせて、加護をビックリさせた。
ゲーセンで、こんな金額を使った事が無いからだ。
「まずはプリクラ撮ろうか?」
「う、うん」
「その後は、対戦ゲームを飽きるまでやるわよ」
「う、うん」
「その後は、お昼食べてねぇ、その後は洋服見に行こうか
…後は美味しいケーキ屋さんでケーキを食べてねぇ、その後は…」
指折り数えて今日の行動の予定を立てる石川に、加護が慌てる。
「な、なぁ梨華ちゃん…いつも こんな金の使い方しとんのかぁ?」
「ううん」
石川は、あっさりと首を振る。
「へへへぇ、実は今、良いバイトしてるのよ、日給一万よ…
使い道も無いしね、パ〜ッと遊んじゃうの」
「は、はぁ」
「だから、気にしないでドンドン使っていいわよ…
あっ、よっすぃとのデート代は残さないと」
「…よっすぃ?…彼氏?」
加護の質問に、ニヒヒ〜ッと歯を見せる石川。
「そうなのよ、凄く格好良いのよ…それに強いし、優しいし、照れ屋なの、
中学一年まで女だったんだけど、男になったのよ」
「お、女???性転換手術でもしたんか?」
「違うのよ、体質なのよ、超能力もあるし」
「へ、へぇ」
目をキラキラさせて吉沢の事を話す石川の純真さに触れて、
加護は段々と、どこかで警戒していた自分の心が解きほぐされて行くのが分かった。
その後は、本当に石川の予定通り、お昼を食べて、洋服屋に行って
小物屋を見て、ケーキを食べた。
その間に話した、自分達の回りの出来事…
友達の事、MAHO堂の事、事件の事、矢口と安倍の有る事無い事…
お互いに興味津々な出来事の数々にビックリしあい、笑いあい…
加護は石川を本当に好きになっていた。
「なぁ、梨華ちゃん…梨華ちゃんも今日 学校サボったんか?」
「そうよ」
「家の人にバレへんのか?」
「バレても、いいのよ…誰も心配しないし」
「どういう事?」
「むふふ〜、私に比べたら、あいぼんは幸せって事よ」
「…?」
いつの間にか、石川は加護の事を「あいぼん」と呼んでいた…
石川の父親はハロー製薬に勤めている。
朝娘市に住む市民には、ハロー製薬勤務は羨ましい限りなのだが、
ウワベだけの幸せってのも有るのだ。
父親は愛人を作り、あまり家には帰ってこない。
寂しさを紛らわせる為に母親は、趣味の社交ダンスに夢中になり、
家事さえもやらなくなった。
典型的な家庭崩壊のパターンに、石川家も当てはまりつつあるのだ。
そんな家庭環境の石川家に比べれば、
加護のわがままで、疎遠になっている母子の対立など、ママゴトと同じだ。
「だから、加護ちゃんは幸せだって言ったのよ」
「そ、それで、梨華ちゃんは…平気なんか…?」
「…もちろん」
その言葉が石川の本意かは、解からない…
それでも、自分を見失無い石川は、自分の個をしっかり持っていると、
加護はちょっぴり尊敬した。
「そろそろ、日も暮れてきたわね」
「あ?あぁ、そやな」
「夕食、どこで食べようか?」
ニンマリ笑う石川に、溜め息交じりの加護は、目を閉じて首を振って見せた。
「…梨華ちゃんには負けたわ」
「決まりだね」
『小料理加護』に行く道すがら、加護は不安を訴えた。
「なぁ、ウチはどないすればええねん?」
「うん?どうもこうも無いよ、只、ご飯食べるだけだから」
石川は2人を会わせてから、どうするかは考えていなかった。
何とかなるだろうと、勝手に決め込んでいる。
「…うん」
加護も、ご飯を食べるだけと、自分に言い聞かせた。
「それより、黙ってて欲しい事が有るのよ」
「なんや?」
「ちょっと待ってて」
そう言うと、石川は近くの公園のトイレに消えた。
そして、散々待たせた挙句、出てきた姿は加護を驚かせた。
「おまたせ」
黄色のミニのスーツに着替えてきた石川は化粧をピシッとこなし、
まるで、今から出勤する夜の蝶のようだ。
「なんや、ホステスみたいやん?」
「そうよ、言ったでしょ、お金の良いバイトしてるって、
『小料理加護』の隣にある店なんだけどね、高校生って事は内緒にしてるの、
だから、女将さんには黙っててね」
「…ハロー女子高ってお嬢様学校って思っとったけど、
えらいイメージちゃうやんけ」
「そうよ、女は化けるのよ、特にチャーミーな女の子はね」
呆然とする加護に、石川はウィンクをして見せた。
「女将さん、どうも〜」
いつもより早い時間に来た石川に女将は
「あら、早いのね」と笑顔で迎えたが、
石川の後ろで、オズオズとしている自分の娘を見て、少し言葉を失った。
「女将さん、今日もいつものように…でも、2人前ね」
「え?えぇ」
はにかみながらも自分の娘に微笑みながら頷いて見せた女将に、
加護は俯(うつむ)いて真っ赤になるだけだった。
カウンターには常連のお客さんが2人座っている…
どちらも、店の雰囲気を楽しむように肴を摘まんで盃を傾けていた。
石川達の定食を作っている女将と楽しそうに談笑する客に、
加護は何故か不快感が無かった。
以前は客の男と話してる母親を見て、嫌な気持ちになったのだが、
それが、今は無い。
それよりも、微笑ましくさえ思える。
「ウチも大人になったんかなぁ…」
「うん?」
「な、なんでもあらへん…」
ポツリと漏れる加護の言葉に、ニンマリと笑う石川は、気分を良くしたのか、
「女将さん、熱燗一本」と注文した。
「あかんて、梨華ちゃん」
「しーっ、いいの」
「あかんて」
「大丈夫だって」
その会話を聞いてた客が「関西弁か、めずらしいな」と話を向けた。
「すいませんねぇ、お騒がせして、私の娘なんですよ」
「ほう、娘さんか…なるほど」
「うむ、そう言えば女将さんも関西弁を使う時あるな」
「女将さん…標準語ですよ」
熱燗を受け取りながら石川が客に聞いた。
「ははは、普段はそうかもしれないけどな、キレると怖い」
「キレる?女将さんが?」
「そうそう」
頷き合う客達。
「もう、止めて下さいよ、恥ずかしい」
そう言いながら石川と加護のカウンターに、ニシンの塩焼きの定食を出す女将。
「いいじゃないか、娘さんなら聞かせた方が良い」
「聞きたい、聞きたい」
箸を持ちながら、石川は加護をチラリと見たが、
加護は聞いて無い振りをして、「いただきます」と、黙々と箸を動かし始めた。
「…うむ」
何ヶ月前か店に酔い客が現れた。
酔っている客は珍しくは無いが、その客は泥酔していた。
常連の客が、泥酔者にキレかかったのを女将は抑えて、ちゃんと接客をした。
しかし、美人の女将に、言い寄る客が女将の手を取った瞬間、キレた。
話している常連さんの言葉に、加護の耳がピクリと動き、一瞬箸を止めた。
「関西弁でねぇ、聞いてるこっちが腰を抜かしそうになる程、
えらい剣幕でねぇ」
「で?で?で?」
「ははは、ソイツは女将さんにコップの水を掛けられて、慌てて逃げて行ったよ」
「格好イイ!女将さん、ヒューヒュー」
「もう、止めてよ本当に、恥ずかしい」
ハハハと店内に笑い声が木霊する…
だが、その中には加護の声は無かった。
「…ごちそうさん」
無言でパクパクと夕食を食べていた加護は箸を置く。
そして、そのまま お膳を持ってカウンターの中に入った。
「亜依…お前」
「…あ、洗い物ぐらい、手伝ったるわ」
顔を赤く染めながらも、腕捲りをする加護が
カチャカチャと皿を洗う音が小さく響く店内で、
女将さんの頬に一筋の涙が伝った…
女将さんと目が合った石川は、声を出さずに
「よ・か・っ・た・ね」
と唇を動かして、席を立った。
「じゃあ、私はバイトが有るので、後は あいぼん、ヨロシクね」
「あっ、待ちぃや、梨華ちゃん」
呼び止める加護の声を笑顔で無視して、石川は『小料理加護』を出た…
「今日は遅かったわね」
「えへへ、ゴメンナサイ…って、あれ?開店してないんですか?」
加護の店を出てから『スナックみちよ』に、
そのまま出勤した石川は、客のいない暗い店内を見回す。
「今日は久しぶりに本職の方に仕事が入ってね、
梨華ちゃん、今日は朝の3時に開店するわよ」
「え?」
「貴女、その時間に来れる?」
「ハ、ハイ、来ます、来ますとも」
石川はバンザーイと手を上げた。
平家の下に着いて、初めての本格的な情報屋の仕事だった。
とは言っても、見習いの石川は見学だけなのだが…
それでも嬉しかった。
吉澤の棲む世界に、少しでも近づける気がするのだ。
「で?依頼人ってどんな人ですか?」
「さあ?」
首を竦めながら、タバコを取り出してライターで火を点ける平家。
「さあって?分からないんですか?」
「ふふ、この店を見つけるだけでも、相当なモンよ、
後は、来た客にどんな依頼かを聞くだけ…
今日はソレだけよ」
「ふーん」
少し詰まらなそうな石川。
「ハハ‥さあ、分かったら一旦帰りなさい」
「は〜い…っと、その前に…」
「なに?」
「ロッカー貸して下さい…着替えなきゃ」
「……」
ロッカー室に消えた石川を溜め息交じりに見送り、
平家がカウンターのグラスの整理をしてると、
一人の客が入ってきた。
「あの…今日は営業してないんですけど」
「…依頼人の北野です」
白髪で杖を付いた、初老の男は灰色の渋い作務衣を着ていた。
「…約束の時間は違う筈よ」
灰皿にタバコの火を押し付けて、揉み消しながら、
平家は、この男を何処かで見た事が有ると思った。
「あの…?何処かで、お会い…」
そこまで言って気付いた。
魔人KEIの記憶に残された『人造舎』総帥の盲目の魔人…
北野の武器は手に持った仕込杖…
「いや〜、アンタを探すのに手間取りました」
破顔する盲目の男。
手に持つ仕込杖が一瞬光った…
「着替えましたよ〜」
セーラー服に着替えて出てきた石川は
カウンターで身動(じろ)ぎもしない平家を見た。
「どうしたんです?固まって」
「…梨華ちゃん…ちょっとおいで」
「はい…?」
近付いた石川の頭を、平家の右手が掴んだ。
「梨華ちゃん…動かないでね…私の全てをあげる…」
「どうしたんですか?」
「動かないで、私はこれ以上動けないから…」
「…は、はい」
合点がいかない石川の頭に乗せた、平家の右手が、
ズブズブと頭の中に溶け込むように沈んでいく。
「へ、へ、へ、へ、平家さん…な、な、な、な、何してるんです?
な、な、な、な、なんか…脳味噌、触られてる気がするんですけど…」
「貴女を占った時見えた、近い将来何かが変わるってのが、この事だったんだね…
まさか、私が死ぬとは思わなかったよ」
「へ?」
瞬間、石川の頭に平家の記憶が入り込んできた。
自分の頭の中の容量が突然増えた感覚と、
平家が生きてきた人生の全て…
情報量が凄すぎて頭の中がパンクしそうになった。
超高速でダビングするように入り込む記憶の最後…
それは、白髪の爺の仕込杖がキラリと光って…
「キャー!」
叫ぶと同時に、へたり込む石川は、ピクリとも動かない平家の首筋を見た。
「な、なんとか間に合ったようね…」
薄く微笑む平家の白い首には、赤い線が…
一本の糸が巻きついてるように見える。
その赤い線が、ズルリとズレた。
ボトリと音を立ててカウンターに落ちる平家の首…
呆然としながらもブルブルと体が震える石川は、
暫らく経ってから呆けたようにヨロヨロと立ち上がり、
無言のまま平家の首をそっと抱きしめた…
プルルルル…プルルルル…
石川が携帯を握ったのは、それから一時間余り経った時だった。
『…はい、飯田です』
「……私です、石川です」
『石川?…あぁ、吉澤のガールフレンドか、なんか用?』
「………」
『…どうした?』
「…平家さんが……」
『うん?みっちゃんがどうした?』
「…平家さんが……死にました…」
『…なっ…』
最後の言葉は消え入りそうに小さかった…
『スナックみちよ』の前には数台のパトカーが止まっている。
その周りを野次馬が囲む。
警官達が抑える野次馬の中には、心配そうな加護の姿があった。
ショックを受けた石川の肩を抱く吉澤…
飯田は、今の石川から状況を聞くのは無理と判断して
帰宅させることにした。
「みっちゃんの遺体は、こっちで引き取る、後は帰っていいよ」
「…飯田さん、平家さんの遺言があります」
「…遺言?」
「はい…平家さんの遺体は『小川神社』に埋めて欲しいそうです」
「小川神社?」
「はい…平家さんは そこで巫女さんをやっていたそうです、
平家さんの能力は小川神社で憶えたんです」
「…何故、そんな事を知ってるの?」
「平家さんは私に記憶を残したんです…平家さんは私の中で生きてるんです」
「……」
言葉も無い飯田は、只一言「そうか」と呟くだけだった…
「わぁぁああ」
と、泣きながら、制止する警官を振りほどいて、
店内に入ってきた娘が石川に抱きついた。
「…あいぼん」
石川は加護をギュッと抱きしめる。
「その子は?」
「隣の小料理屋の娘さん…友達です」
「……」
抱き合いながらメソメソと泣く、石川と加護…
「吉澤、その2人を送ってやってくれ」
「…分かった」
吉澤に抱かれながら店を出る、石川と加護を見送る飯田は
やるせない思いに溜め息を付いた…
今日はココまでです。
次回は小川神社の話になります。
保守をしつつ では。
更新乙です。
だいぶ繋がってきてますます楽しみです。
ハナゲタソがんばってくだせー。
ハナゲ最高だよハナゲ
ただ一言言わしてくれ
みっちゃんいい子なのにね
ミチャーン・・・・・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
更新乙 ハナゲにやられっぱなし
保全
ほ
ほ
テスト
( `◇´)<いい子保全
( `◇´)<お礼はCD買ってくれればええよ
てすと
テスト
――― 19話 風雲小川神社 ―――
日本での小川姓発祥の地とされている『小川神社』は
先の大魔震を無傷で残った、朝娘市唯一の由緒正しき古寺である。
巷の噂では、鬼の神力で守られたとの説が有力だ。
鬱蒼(うっそう)と生い茂る、小川杉という種類の杉林に囲まれた寺院の門には
鬼の仁王像が2体、ドッシリと根を張るように構えている。
広い境内の中央に建てられている本館、小川堂に案内された
飯田、吉澤、石川、加護、辻、紺野の6人は
小川神社を主管する住職、小川家当主、小川龍拳(78歳)
の長ったらしい、小川姓発祥の説明を受けていた。
石川との繋がりで加護が着いて来て、その加護の友達繋がりで
辻と紺野が着いて来たが、飯田と鉢合わせした辻が喜び…
兎に角、妙な取り合わせの軍団は、死んだ平家が取り持ったのかもしれない。
平家の死から、一週間以上経過した今、石川も落ち着き、
「いざ小川神社へ」と、なったのだ。
(加護、辻、紺野のみ観光気分)
しかし、小川龍拳の話しは長すぎる…
かれこれ一時間も経過した頃、次に出た説話は、
小川神社の開祖、小川秀麻呂にまつわる神話だ。
この地の豪族、小川秀麻呂の領地の一つである朝秀村の美女達を鬼達が突如襲い始めた。
その鬼達を 類まれなる神の力で封印した秀麻呂の能力を
時の幕府が恐れ、古ぼけた寺へ追いやるが、その寺には鬼の総大将が…
と言う、嘘臭いその神話は物凄く詰らなく、欠伸を噛み締める飯田と紺野意外は
ウツラウツラと首が揺れている。
まさか、こんなに長い説法が待ち受けているとは思ってもいなかった
飯田の横には、首を縫合された平家みちよの遺体が入った
棺桶が横たわっている。
そして、龍拳の前には紫色の敷物に包まれた1億円が鎮座していた。
石川の口を借りた平家の遺言は、貯金の1億円を
小川神社に寄付する事も記載されていた。
記載と言っても、書いたのは石川なのだが…
石川の書いた遺言状は平家の筆跡そのもので、
誰も文句の言えない本物の遺言状となっていたのだ。
その1億円を見た小川龍拳が感激して、今の長い説法となっている。
100段以上も有る 寺院に続く登り階段を、一人で棺桶を担ぎ、
登ってきた飯田は、疲労の次に襲い来た、正座による痺れに
業を煮やし、右手を上げて龍拳を制した。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000054.jpg 「あ、あの、足を崩してもいいですか?」
「ふむ、辛いかね?」
「い、いえ、私ではなくて、この子達が…」
一番年上の飯田はバツが悪いのか、他の娘達のせいにした。
「ほっほっほ、では、足を崩して、お茶にするかのう」
そう言って龍拳が手を叩くと、巫女姿の10代の女の子が
お茶(小川煎茶)と和菓子(銘菓小川饅頭と小川ようかん)
を運んできてペコリと頭を下げた。
「末娘の麻琴じゃ、我が小川流拳法を使いこなす、
放蕩の末に家出した不肖の愚息の代わりになる、小川家の跡取りじゃ」
(小川麻琴の母親は麻琴が幼い頃に死亡している)
「いえ、跡取りは直也お兄様が…」
「あ奴は駄目じゃ、自分の欲にばかり目が行きおる」
「あ、あの…小川流拳法って?」
飯田の目がキラリと光る。
興味津々の顔つきだ。
「見てみるかね?」
「是非」
石川達も顔を見合わせてホッとした様子だ。
詰まらない説法を永延と聞かされるより、よっぽど面白そうだ。
「麻琴や、皆様を『小川道場』に案内して差し上げろ」
「はい…お爺様は?」
「うむ、ワシは現金…じゃない、平家の遺体を『小川奉納堂』に移してから道場に行く」
「…はい」
清廉な空気の漂う小川道場に案内された6人は、
小川龍拳を待つ間、末娘の麻琴に、平家の事を聞いた。
小川龍拳に接見した時、最所に平家の事を聞いた。
龍拳は平家が小川神社で巫女をしていた事は憶えていた…
だけど、たぶんソレだけだ。
龍拳は平家の思い出話しをしそうでいて、実はしない。
そして、例の長い説法になった。
皆が思った事は、「小川家当主は平家の事を忘れている」だった。
「私も小さかったので、平家さんの事は良くは憶えていませんが…」
そう言いながら、小川麻琴は平家が学んだサイコメトラーの秘密を明かした。
小川神社は家宝の、鬼の血で書いたと云われる巻物『小川鬼録書』に封印されている
鬼の神通力を身にまとう鬼術を一子相伝で伝える。
鬼術は其の二十四まで有り、門下生は、その内の一つを学ぶ事を許されていた。
勿論、素質の無い者には鬼術など、操れる筈が無く、
多くの門下生は小川家に伝わる柔拳術『小川流拳法』だけを学ぶ事になる。
平家は、生まれ持った素質により、『鬼術其の二 読心術』を会得して
自分のサイコメトラーの能力に昇華させた。
そして、小川姓を持たぬ平家は、小川家の決まりにより小川神社を下りたのだ。
(僧侶は全て小川姓なのだが、門下生とアルバイトの巫女は小川姓でなくとも良い)
「小川流拳法に鬼術を乗せた拳を鬼拳と言います」
「鬼拳…」
「鬼拳を受ければ人は死にます」
「麻琴ちゃんと言ったか…アンタは出来るの?」
「はい、多少は…」
ウズウズする飯田。
その鬼拳とやらを、自分の拳で受けてみたい…
魔人ハンターの血が騒いだ。
「あの…」
その飯田の心を読んだかのように、小川は別の話しを向ける。
「平家さんのお金、本当に助かりました」
「え?あ、あぁ」
「門下生も減り、寺の維持費も馬鹿にならないんです」
三つ指をついて頭を下げる小川。
「それは、私達じゃなくて、死んだ みっちゃんに言ってくれ、
手厚く供養してくれれば、誰も文句は言わないよ」
「はい」
そこに、小川龍拳がやってきた。
「安心せい、平家の遺体はワシが責任を持って供養する」
そう言いながら、チロリと辻を見る龍拳。
神聖なる小川道場に、辻は本館からくすねた
和菓子を持ち込み、加護と一緒にパクパク食べていた。
そして、龍拳の視線に気付き、
膝の上に置いていた その和菓子の山を、慌てて背中に隠した…
小川麻琴の流れるような演武は、どことなく中国拳法の太極拳に似ている。
しかし、そのスローモーションのような流れる動きから繰り出す拳は、
目にも止まらぬ速さで、ピシリと響く拳音は道場に木霊する。
「おお、格好イイのです」
小川饅頭を頬張りながら辻が感嘆の声を漏らす。
皆が小川の演武に魅入られている。
「その、拳に鬼術とやらを乗せるのかい?」
スクッと立ち上がる飯田は、我慢が出来なかった。
「試合ってみるかの?」
「是非」
「お爺様」
咎める小川麻琴に龍拳は「ほっほっほ」と笑った。
「こやつ等は大丈夫じゃわい、境内に入った時から全員が只者ではない
空気を発しておった、麻琴よ、気付かなんだか?」
「…はい」
「まだまだ、未熟じゃのう」
「…すいません」
「さて、試合の前に我が小川流拳法の発祥について語らねばならん」
「ヴ工"エ゙ッッ!?」
全員が半分腰を浮かし、奇声を発した。
--- もう、聞きたくない、絶対… ---
しかし…
「まぁ、聞きなさい…」
そう言うと、龍拳はドカリと座り、小川秀麻呂と鬼女との間に生まれた嫡男
小川鬼太郎が時の将軍の弾圧から寺を守るために開発した拳術、
『小川鬼生術』を一般用拳法『小川流拳法』に練り直した、
鬼太郎の末息子、小川刃鬼彦の功績を とつとつと語る。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000055.jpg この寺に来てから何百回も強制的に
見聞きさせられる『オガワ』と言う文字と言葉…
「……オガワオガワオガワ…頭から離れないのです」
「あかん…絶対夢に出るでぇ」
「ノイローゼになりそうです」
辻、加護、紺野はオガワ病に掛かりそうだ。
そして、一時間半後…
グッタリとする飯田達は、ようやく解放された。
「お待たせしましたな、飯田さん、さ、中央へ」
「あ?…ハ、ハイ」
龍拳に促され飯田は、試合を申し込んだのを後悔しながら…
それでも、やっと試合が出来る喜びに、背伸びをし、
ポキポキと指を鳴らしながら、小川麻琴の前に立った。
「飯田さん、オガワ…じゃない…がんばるのです!」
オガワ病に掛かった辻の声援に、気を取り戻して飯田はウィンクしてみせる。
「オガワ…じゃない…大丈夫なんでしょうか?」
「さぁ?でもメッチャ強い人なんやろ飯田さんって?…オガワ…ちゃうわ」
紺野(オガワ病感染)と加護(オガワ病感染)の心配に、吉澤はクスッと笑った。
「な、なんやねん?」
「フッ、お前等、可愛いな…」
「な…」
美少年の吉澤に見据えられて、加護と紺野は頬を赤らめる。
「もう!、オガワ…じゃない…よっすぃ!」
吉澤の隣に座る石川(オガワ病感染)が、吉澤の膝をキュッとつねった。
今回はココまでです。次回も続く小川神社。
>>552 今後、益々繋がる予定です。多分…
>>553>>554 だな、俺もそう思うぜ。…みっちゃんいい子なのにね …
>>555 すんません。ありがとうございます。
ちゅうことで、保守しつつ… では。
続きが楽しみだ。
( `◇´)ノ<みっちゃん保守
マコ!強いマコがみたいよ!
.
579 :
名無し募集中。。。:04/03/02 16:51 ID:WeBPUvV7
て
「始めぃ!」
龍拳の開始の言葉に、スッと構える麻琴。
飯田は片手を上げて試合を止めた。
「言っておきたい事が有る」
「なんでしょうか?」
「私は寸止めするが、麻琴ちゃんはフルコンタクトで突いてくれ」
「なっ?」
「それと試合の決着は、どちらかが参ったと言うまで…で、どう?」
「…腕に自信が有るようですけど、失礼ですが流派は?」
「我流…」
そう言いながら、飯田はポケットから警察手帳を取り出した。
「魔人ハンター…こう言えば納得して貰える?」
「……」
魔人ハンターの噂は知っている。
朝娘市警察の中でも『魔人ハンター』は3人しかいない。
一人は『妖人』、一人は『銃人』、
そして一人は、武器を使わず、人間を超越した肉体だけで敵を粉砕する『超人』…
沸々と湧き上がるように、体から漏れる『気』で解かる。
目の前に立つ飯田圭織は、多分、いや絶対その超人だ。
小川麻琴は祖父龍拳を見た。
黙って頷く龍拳。
「…飯田さん、此方も当てて構いません」
両手を前に突き出し、手の平を相手に見せて、腰を落とす形は『小川式受手の形』。
麻琴は飯田の攻撃を受けるつもりだ。
「まずは、私が攻撃していいって事?」
構えも何もなく、肩をグルングルン回しながら、
おもむろに近付く飯田の拳が消えた。
---パン!パン!パン!---
左、右、左と出した飯田の瞬速の拳は、全て麻琴の手の平で受け止められる。
飯田の拳と『受手の形』の接触は、シューッと音を立てて
麻琴の手の平から摩擦煙を上げた。
「ほう、結構ヤルじゃない」
ビリビリと痺れる飯田のパンチは、手の平に『気』を集めて受けていなければ
最初の一発で粉砕されている。
正に『超人』だ。
だが、見える、受けられる。
長兄の直也の拳は、こんな物ではない。
『受手の形』で前面に突き出す両手の隙間から、
飯田を覗く麻琴の口元は薄く笑う。
スッと前に出る麻琴は、「おっ?」と少し驚きながらも、繰り出す飯田の
拳、膝、肘、を『受手の形』でさばきながら、クルリと体を回転させて
飯田の懐に入り、体を密着させた。
両手を腰に溜めて、『気』を集中させる。
「波ッ!!」
飯田の横腹に当てた『小川式波動拳』は、飯田をドンッと吹き飛ばした。
「今の技、テレビで見た事あるでぇ!」
「すっげー!カメハメ波なのです!」
「今のがカメハメ波ですか」
加護、辻、紺野は「わぁ!」と声を上げる。
歓声を上げるギャラリーに「違います!」と思いつつ、
尻餅を付いた飯田に向かって跳んだ麻琴は、
『小川聖拳』を飯田の胸の真ん中に打ち込んだ。
ピシッと音を立てた直突きは、飯田の心臓を一瞬止めた。
これで、飯田の動きは完全に止まる。
後は、顔面に もう一度『小川聖拳』を当てれば勝ちだ。
勿論、寸止めで…
「…なっ!?」
倒れている飯田の右手が、麻琴の袴の裾を掴んで引っ張った。
バランスを崩した麻琴の足首を、飯田は体を起こしながら払う。
飯田と入れ替わるように尻餅を付いたのは麻琴だ。
「立ちな」
クイクイッと人差し指で、起き上がるように促す飯田は、余裕の笑みだ。
「あ‥有り得ない…」
普通の人間なら一撃で肋骨と内臓を破壊する
『小川式波動拳』を渾身の力を込めて打った。
普通の人間なら心臓が破裂する『小川聖拳』を本気で打った。
飯田圭織が『超人』と解かっていたからだ。
だが、本気で打ち込んだ『小川流拳法』は効かなかったのだ。
愕然とする麻琴は、祖父龍拳を仰いだ。
無表情の龍拳は無言のままだ。
「鬼拳は、まだ使ってないんだろ?」
上着の革ジャンを脱ぎ捨てた飯田は、黒のタンクトップだ。
「…はい」
「じゃあ、使いな」
仁王立ちする飯田は、麻琴を見据える。
「…いやです」
「なぜ?」
「…人に使った事が有りません」
「じゃあ、丁度良い、私に試してみな」
「…お爺様」
麻琴は再度、龍拳を仰ぎ見る。
勿論、試合を中止させる為だ。
「…麻琴よ、やって差し上げなさい」
「お爺様!私に人を殺せと、おっしゃるのですか!?」
「言うては無い、これ以上無理と判断したら、ワシが止める」
「でも、鬼術の解呪に自信が有りません…解呪は術者にしか出来ません」
「と、言う事じゃが…飯田さん、どうじゃ?」
龍拳は飯田に任せた。
「構いません」
「うむ、麻琴よ、決まりじゃ」
「……分かりました…」
何となく緊迫した場面に、吉澤を除くギャラリー全員がゴクリと唾を飲み込んだ。
小川麻琴は目を閉じて、両手を前に印を結ぶ。
「小・川・鬼・乗・手・超・捻・転」
麻琴の手の甲に梵字が浮かぶ。
ギュッと握った右拳を前に、スッと構えるは、『鬼拳超捻転』の形。
「…受けたら『参った』と、言ってください」
「参ったらな」
構えたまま腰を落とす麻琴の両足の指が、床を噛むようにキリキリと食い込む。
「行きます」
言うと同時に、ドンッ!と来た。
避ける間も無く(勿論、飯田は避ける気は無いが)、3メートルの距離を
一気に縮め、梵字の拳は飯田の腹のド真ん中に叩き込まれた。
何かが腹から背中に突き抜ける感覚の後に襲い来る悪寒…
ギリリと腹に食い込む、麻琴の拳に浮かび上がった梵字は、
溶けるように飯田の腹の中に送り込まれた。
「これが『鬼拳超捻転』、貴女の内臓は掻き回され、破壊されます」
「…ふーん」
冷や汗さえかかず自分の腹を擦る、飯田の顔には苦悶の表情は無い。
「や、やせ我慢はやめて、参ったと言ってください」
「…言わない」
ニッと歯を見せた飯田は、麻琴の襟を掴むと、そのまま背負い放り投げた。
どんな体勢からも、体を捻って猫のように着地する『小川式受身』で
ヒラリと床に身を置いた、麻琴の顔面に剛拳が飛ぶ。
「……ぁぁ」
寸止めされた、飯田のパンチは小川麻琴に死の恐怖を与えた。
当たれば、確実に死ぬ。
スイカのように吹き飛ぶ、自分の顔が見えたのだ。
ゴクリと喉が鳴る。
「…ま、参りました」
顔から冷や汗を垂らしたのは、麻琴の方だった…
今日はココまでです。
次回も小川神社です。 では。
圭織カッケー
ho
ho
STO
W
( ^▽^)<ドキドキ
598 :
名無し募集中。。。:04/03/07 23:59 ID:nB7WMElq
やべ、sage忘れた・・・
保守ありがとう。明日更新予定保全
(´・ω・`)おいハナゲよ、細かいようだが神社に古寺とか僧侶とかおかしくないかい?
ヽ(゚∀゚)ノ続き期待してるよ
>>603 うむ、俺も書く前に細かい所が気になって、神社と寺の違いを詳細に調べようと思ったがメンドイのでやめた。
そこで、ゴチャ混ぜにしようと思いついた訳です。いつもいい加減な事でゴメンチャイ。
まぁ、当初から小川神社は超特殊な神社という設定にしようと思っていたので、コレ幸いという事で…
小川神社には小川姓の墓地も有るし、僧侶もいるし神主(後で出てくるが直也は神主)もいるし
年に一度の小川大祭もあるし、盆には小川音頭を踊るし、大晦日には鬼の煩悩をも入れて
132回小川鐘を撞くという(書いてはいないが俺の脳内設定)身勝手な設定にしたのです。
神社→神道の神のまつってある場所 寺→仏教の僧がいる場所
>>605 ヽ(`Д´)ノウワァァン!!それぐらいは知ってるよ!!
元は仏様を祭ってる神社もあるし、
敷地内に神社とお寺が混在する所も多々あるわけですから、
そう細かい事は気にせずにって事で。
「それまで!」
龍拳が右手を上げて試合を止めた。
「…私の鬼拳が通じないなんて…」
ガックリと項垂れる麻琴。
「わぁぁ!」と歓声を上げて飯田を取り巻くのは
加護、辻、紺野の3人娘だ。
「さすがやで!飯田さん!格好ええわ」
「飯田さんが負けるはずが無いのです!」
「正に最強!強すぎますね」
やんややんやと、飯田をはやし立てる。
「ハハハ…」
勝利の笑みを振りまく飯田はポンと小川の肩を叩いた。
「ナイスファイト!やるじゃん」
そう言って握手を求める飯田の顔には珠のような汗が
ポツポツと浮いている。
「…?…や、やっぱり、やせ我慢してたんですね?」
「…ハハ…結構効くな…鬼術って」
ギュルギュルと捻じれる腸(はらわた)の激痛に耐えながら小川麻琴に
勝利した飯田は、顔面蒼白なくせに作り笑顔のままバタリと倒れた。
「わぁぁああ!倒れたやんけ!」
ビックリする加護達。
「い、飯田さん!い、今、解呪します」
抱き起こす麻琴は、先程結んだ鬼術の印を逆に結ぶ。
「はっ!」
腹部に当てた麻琴の右手に、飯田の患部に浮き出た
鬼の梵字がスーッと戻る。
「ど、どうです?」
「な…治んない…腸が捻じ切れそうだよ…」
青白い顔のままの飯田。
その顔を見て動揺した麻琴の解呪は、鬼の梵字を半分しか戻せなかったのだ。
「し…失敗だ…だから、嫌だって言ったんです」
麻琴はワッと頭を抱えて蹲(うずくま)る。
「おいおい、どういうこっちゃ?」
「早く治すのです」
「殺す気ですか?」
飯田の顔色を見て、只事では無いと加護達は色めき立つ。
「…だ、だってだって」
動揺を隠し切れない麻琴。
飯田がゲフッと血を吐いた。
「ちょちょちょ、ちょっと麻琴ちゃん、アンタやり過ぎたんちゃうんか?」
「もっと、手加減するべきだったのです」
「一億円も納めたのに、死んだら浮かばれませんよ」
飯田の血を見て、非難の矛先を麻琴に向ける。
「わ、分かりました…もう一つ方法が有ります」
半分浮かない、それでいて妙に艶(なまめ)かしくなった顔の麻琴は、
静かに加護達を見る。
「な、なんや、有るんなら勿体付けんなや」
「出し惜しみはダメなのです」
「さっさとソレをしてください」
麻琴の心中も知らない加護達は、早く早くと、追い立てる。
「飯田さん、嫌だろうけど我慢してください」
そう言うとゴクリと喉を鳴らし、
麻琴は飯田のアゴをクイッと持ち上げて唇を奪った。
「なんや、ソレ?」」
「チューしてるのです」
「なるほど、口付けでお姫様を救う原理ですか」
何故か見とれる3人組は、言いながら自分達も唇を突き出している。
「違います、鬼の気を吸いだしているんです」
しかし、麻琴のキスも飯田には効かない…
美しすぎる飯田の唇に心を奪われ本気でキスをしてしまったからだ。
飯田の顔色は益々悪くなる。
「ダメやんけ!」
「チューしただけなのです」
「淫らな下心が有るからです」
より一層、批判のボルテージを上げる加護達。
「…分かりました、では最後の手段を選びます」
悲壮な決意で語る麻琴の顔色は悪い。
「なんや、まだ有んのかい?」
「いったい何個、手段があるのです?」
「また、出し惜しみですか?」
勝手な事ばかり吠える加護達。
「私…自害します…」
「は?」
「へ?」
「え?」
「術者が死ねば鬼術は解けます…首を吊ってきます」
そう、寂しそうに言うと麻琴は立ち上がり、廊下に出ようとする。
「わぁ!何処いくねん!死ぬ事あらへん」
「そうなのです、飯田さんは死なないのです。多分」
「貴女が死んだら、飯田さんの立場が無くなります」
麻琴が死ねば、追い立てた自分達のせいになりかねない
加護達は、必死に説得を始めた。
「ま、麻琴ちゃんは悪うないやんけ」
「そうなのです、やせ我慢した飯田さんが悪いのです」
「残念ですが、自業自得ですね」
ワラワラと麻琴に縋(すが)って宥めにかかる。
「ほら、元気出しぃや」
「小川饅頭食べるのです」
「もう、ほっときましょう。あんな人」
チアノーゼで、顔色が変わった飯田には見向きもしない。
その珍妙な やりとりを見ていた吉澤と石川は
腹を押さえて必死に笑いを堪えている。
「…あ…あいつ等…‥」
死にそうな飯田も、苦笑するしかなかった。
「お前達、いつまで漫才をしてるつもりなんじゃ」
ウホンと咳払いをして、龍拳が割って入った。
「でも、お爺様…」
すがるような麻琴の目。
「ワシが解呪しよう」
「え?術者にしか、解呪はできないんじゃ?」
「ふん、その通りじゃ。じゃが、一子相伝の鬼拳小川流の伝承者だけは別じゃ」
そう言いながら龍拳は首に掛けて有る数珠を外した。
大粒の数珠の中に一つだけ、一際大きな形の違う白い勾玉がある。
「麻琴よ、鬼拳の最終項『鬼術其の二十四元鬼魂(げんきだま)』を知っておるの?」
「…はい」
「元鬼魂は呪術ではない、伝承者だけが受け継ぐ事が出来る この勾玉の事じゃ」
白い勾玉を見せる龍拳。
「これは開祖小川秀麻呂が倒した鬼の角で造った、『鬼録書』と並ぶ
我が小川家に伝わる家宝じゃ」
「…初めて聞きました」
「うむ、『鬼録書』と違い、これは秘中の秘じゃからのぅ…
これを身に付ける者は全ての鬼術が無効になり、解呪もできる」
飯田を覗き込む龍拳。
「今の勝負、引き分けとするが良いかな?」
「…何故?」
「確かに麻琴は寸止めされなければ死んだ。
じゃが、おぬしも麻琴が解呪してなければ、今頃は死んどる」
「……それは…」
「先程の麻琴の解呪で半分は鬼の気を吸出しておる。
おぬしの体力なら、あと三日もその状態を我慢すれば鬼の気も抜けて治るじゃろう」
「…三日も?」
少女と引き分けたとなると飯田のプライドに関わる…
だが、三日も今の状態が続くかと思うと気が遠くなる。
「どうするね?」
「…分かりました。引き分けで結構です」
「ふむ、決まりじゃな」
そう言うと、龍拳は飯田の腹に勾玉を当てる、
そして、たったそれだけで飯田の顔色が戻った。
先程の漫才を忘れて本気で嬉しがり、
バンザーイと手を上げる加護達に囲まれて苦笑いの飯田。
「野心家の直也がワシに手を出せないのも、この勾玉のせいじゃ」
麻琴に話しながら、数珠を首に掛けなおす龍拳。
「さて、平家の鎮魂火葬の準備もできてる頃じゃろう」
皆に着いて来るように促して、龍拳は道場を後にした。
小川神社の鬼火で火葬された平家は、その後に執り行われた
『小川葬』で魂を鎮め、一連の儀式が終わったのは夕刻近くだった。
「また、来なさい」
龍拳に そう言われ、送り出された飯田軍団は、見送りに出た小川麻琴に
手を振って小川神社の小川階段を下りた。
カァカァと、カラスが鳴く夕暮れの階段を、其々の思いで下りる飯田軍団。
「今日は、小川尽くしやったなぁ」
「おみくじ引くの忘れたのです」
「不思議な神社でしたね」
ケラケラと笑う加護達。
「戒名が平家じゃなくて、小川になってたけどいいのかなぁ?」
「いいんじゃねえの?兎に角、俺は疲れたよ」
ヘトヘトの石川と吉澤。
「…うん?」
飯田が足を止めた。
階段を上ってくる人影が見えたからだ。
三人の少女達の影と、2メートルはある大男の人影。
ケタケタ笑いあう三人の少女は、加護達と同じ朝娘市中学の制服を着ている。
すれ違った時、神主姿の大男はチラリと飯田を見て、僅かに会釈をした。
上っていく四人の後姿を見送りながら、
飯田は髪に隠れた、古い傷痕を擦った。
生まれてすぐに施設で育った飯田には、両親の記憶が無い。
知っているのは生まれて直ぐ出来たと思われる頭の傷だ。
額の上の頭皮にポッカリと穴が開いたように出来ていた 抉(えぐ)れた傷は、
大きくなるにつれて塞がり、今では髪に隠れて、目立たない。
その傷痕が、僅(わず)かながら疼いたのだ。
「でっけえ人なのです」
「あの人じゃないですか?麻琴さんのお兄様って」
「それに、あの三人の女の子、うち等の中学の一年生やで」
ポカーンと見送る上級生達。
「…うん?どうした?」
吉澤が石川の様子がおかしい事に気付いた。
「…あの三人の女の子…『人造舎』に登録されてる、
『六鬼聖』と呼ばれている魔人だわ」
「はぁ?本当かよ。子供だぜ」
吉澤の問い掛けに、静かに頷く石川。
「…平家さんの記憶が、そう言ってるの」
「後で…調べてみよう…」
疼く傷痕を押さえながら、飯田は踵を返した…
――― 20話 小川神社の乱 ―――
「爺殿、今日こそ その『元鬼魂』を俺に渡してもらおう」
小川堂で長兄の直也を迎えた龍拳は、ドカリと座り首を振って見せた。
「三週間ぶりじゃのう。何をしておった?」
「ふん、家出した親父殿を探していた」
「…見つけたのか?」
「まぁな…そんな事より、覚悟を求める話しがある」
「何ようじゃ?」
「爺殿は歳を取りすぎた。隠居しろ、後は俺が引き継ぐ」
「引き継いでどうする?」
「知れた事、小川家の再興、そして支配だ」
全国に二十四箇所在る小川神社は、時代に流れて信者も激減し、
今や存続の危機に陥っている。
総本山の朝娘市に在る、この神社の支援で何とかやってきている状況なのだが、
その支援も滞り勝ちになり、今では分社してくれと頼み込まれる始末で、
龍拳が歳を重ねるにつれ、全国の門下生も減り、
それに伴い拳法のレベルも落ちるばかりだ。
「直也よ、おぬしの考えには賛成しかねる」
小川直也の野望に、龍拳は哀れみ、そして恐怖さえ覚える。
小川流拳法で、あらゆる格闘界を席巻し、門下生を増やし、
神社と信者を倍以上に増やす。
小川姓を問わず。
その後に政界に進出し、小川家による日本支配…
無様で無謀なる夢は、直也自信を破壊し、狂わせる。
「爺殿、俺には出来る」
直也が上着を無造作に脱ぎ捨てた。
「…俺は今日、親父殿を殺してきた」
直也の首に掛かる、組紐に吊るされた奇怪な形の骨。
「おぬし、それは!」
愕然とする龍拳。
「親父殿を探した理由はコレよ、『元鬼魂』を相殺する骨。
即ち、消息不明の俺の妹、小川家長女『オニ子』の角を奪うためだ!」
小川家の開祖、秀麻呂と鬼の女との間に生まれた子の血が
現在の小川家にも僅かだが流れている。
しかし、生まれる子供は当たり前のように人間の子供だ。
だが、何百年も続く小川の血に、何代かに一人、
鬼の能力を持つ子供が生まれる。
即ち、隔世遺伝。
鬼の女の血を受け継ぐ、鬼の子供は必ず女児で、
成人した時の 類稀なる その美貌は、世の男を虜にすると伝えられる。
現在の小川家に、その隔世遺伝の子供が生まれた。
母親の子宮を角で傷付けながら生まれた鬼の子は
世に出た時、獣の咆哮で鳴いたのだ。
取り上げた産婆の手から鬼の子供を奪い取った、
父、龍之介は その場で小川流拳法を使い、額から突き出る鬼の角を叩き落し、
血まみれの子供を抱えて小川神社を出たのだ。
鬼の角と共に…
暫らくの後、一人帰ってきた龍之介は憔悴しきっていて、
心配する龍拳の話も聞かず、その日から性格が変わった。
名前も付けられていない鬼の子の消息も言わず、
世を悲観したように、捨て鉢になり、毎日のように遊び歩いた。
そして、行方不明の鬼の子供は、
誰が名付けるでもなく、『オニ子』と呼ばれるようになる…
龍之介は、龍拳の言う事を無視し、気まぐれに直也を殴り、
母親は毎日のように嬲(なぶ)られる日々…
堪忍袋の緒が切れた龍拳の逆鱗に触れ、父親も少しは変わったように思えた。
数年の後、病弱だが子宮も回復した母親が、末娘の麻琴を生んだ。
だが、麻琴を生んだのを境に 見る間に体が衰弱して、衰えていく母親…
その母の姿を見て育った直也は、
鬼の子が生まれた時から性格がガラリと変わり、
母親を心配するでもなく、放蕩を続ける父親を憎んだ。
そして、直也の必死な看病も空しく、薄幸な母親は、
誰を恨む訳でもなく、ひっそりと他界したのだ。
小川直也は、その日から心に鬼を棲まわす事になる。
そして、今日、実父 小川龍之介を殺した。
正式な名前も付けられず捨てられ、陰で『オニ子』と呼ばれていた、
顔も知らない妹の形見の『鬼の角』を奪い取るために。
幸薄かった母親の仇をとるために。
「爺殿の鬼拳は、最早 俺には通じぬ!
『元鬼魂』を渡すか、俺に殺されて奪われるか、好きな方を選べ!」
「おぬしにワシが殺せるのか?」
「殺せる!爺殿だけではない!親父殿を殺した俺には、
妹の麻琴さえ殺す事を厭わない覚悟が有る!」
「…狂うたか?直也よ」
「どうとでも、思え…」
仁王のように立ちはだかる直也に向かい、龍拳は静かに立ち上がった。
今日はココまでです。
書いていないけど、六鬼聖は階段ですれ違った時、
飯田と吉澤を確認しています。
(KEI編の時『鬼術其の一、千里眼』で飯田と吉澤を確認。
何故、六鬼聖が小川姓でもないのに鬼術を其の六まで
習得しているかは、後でちょろっと触れる予定)
ですが、平家の葬儀のためだけに来たと分かり、
(平家が小川神社出身とは驚いたが、それは単に偶然で
自分達の事が知られていないと確信)
深追いして、面倒になることを恐れて無視する事にしました。
あと、六鬼聖は石川が記憶を受け継いだと言う事は知りません。
石川が飯田に話した事は、犯人が北野という事だけです。
では。
チビ3人の掛け合いから直哉と龍拳のシリアスな場面まで 盛りだくさんにオモロイ
保
ハナゲあんた最高だよ
気が向いたらでいいんで
めちゃイケメンバーとこんこんのつづききぼん
保全
面白かった
ほ
629 :
ねぇ、名乗って:04/03/12 18:48 ID:ojcK0mKD
保全
ageてしまった・・・
スマソ・・・orz
ほじぇん
632 :
ねぇ、名乗って:04/03/12 22:37 ID:BnIlkMZ+
狼どこ?
保全
保
保全
朝ほぜん
保全。まだちょっとしか書いてない。スマソ。明後日あたりには何とか更新…
>>623ありがとん。
>>625よし、なんか考えるよ。
保全
昼保全
次の日…
飯田の貧乏長屋に小川麻琴が訪ねてきた。
辻と 楽しいお喋りをしていた飯田は、麻琴の顔色を見て
すぐさま部屋に通して、ベッドに寝かせた。
「いったい、どうした?」
「麻琴ちゃん、顔が紫色なのです」
「直也兄様が爺様を…殺しました」
「…な?」
「私は、闘っている兄様を咎めたのです。
ですが、兄様は爺様を殺し…
止めるようにすがった私に、
兄様は鬼拳『毒魔魅入(どくまみれ)』を使いました。
私は、逃げ出して…警察から、この場所を聞いて…」
「ど、毒って…解毒はしたのかい?」
「応急的な措置はしましたが、鬼拳は術者にしか解呪できません…
私は飯田さん達に、なんとかして欲しくて…」
そこまで言うと、麻琴はポロポロと涙を流し、泣きじゃくった。
「解呪するには、麻琴ちゃんの兄貴を殺せばいいのか?」
ブンブンと首を振る麻琴。
「私の事は、どうでもいいんです…
それよりも、神社を…」
「でも、解毒が先だろ」
オロオロする飯田。
呆然としながら、黙って聞いていた辻が、
何かを思いつきポンと手を叩いた。
「そうだ…祐子婆ちゃんなら…
MAHO堂の祐子婆ちゃんなら、治せるかもしれないのです!」
「あっ」と飯田も思い出した。
『死人返り』事件を解決した魔女の事だ。
「麻琴ちゃんをMAHO堂に運ぶのです」
「よし、行こう!」
飯田と辻は立ち上がった。
「その子供が、この世界で只一人『人造舎』総帥と連絡が取れる小娘か?」
小川堂で腰を下ろす小川直也は、『六鬼聖』が体の良い事を言って、
騙して連れて来た新垣里沙を小馬鹿にしたように睨み付けた。
「おい、総帥の北野に連絡を取れ。
小川家当主の俺が『人造舎』に入ってやると言ってな」
「本当に人材登録するつもり?」
腕組みをして余裕の新垣。
「あぁ、俺が負けたらな」
人造舎に登録する魔人は、いつもこうだ。
北野を殺して自分が総帥になるつもりなのだ。
だが、誰一人、北野を殺せない。
結果、登録者が増える事になる。
現在の登録者、『六鬼聖』を含めて27名。
そして、今日、28名になる。
「連絡取れたわよ、後、二時間ほどで来るって」
新垣がピッと携帯を切った。
「よし、境内で待とう」
新垣は『六鬼聖』を睨み付けて、鼻で笑った。
「小川さんが、人材登録されたら、アンタ達には罰を受けてもらうわよ、
私を騙して、こんな古くさい神社に連れて来た罰をね」
「何言ってんだ!」
「小川様が負ける訳ないじゃん」
「また、術を掛けるよ!」
「…うっ、それはやめて」
新垣は、忌まわしい激痛を思い出してビビリ声になった。
小川直也は人智を超えた力を持つ人材が欲しかった。
手っとり早い方法は人造舎を乗っ取る事だ。
北野を殺し、魔人達に小川流拳法を伝授し、
全国の小川神社に師範として、派遣する。
だから、直弟子の『六鬼聖』を人造舎に登録させていたのだ。
(※『六鬼聖』は小川神社で巫女のバイトをしている。
小川姓でもないのに、鬼術其の六まで習得しているのは、
密かに小川直也が教えていたからだ)
「さて、北野が来る前に…」
直也は胸にかけてある『元鬼魂』の数珠を外し、
少し間を置いてから鬼の勾玉を飲み込んだ。
体内に入れれば、鬼の能力が増すと考えたからだが、
今まで躊躇(ちゅうちょ)していたのには理由があった。
--人為らざる物になる--
その思いが拭いきれない。
鬼に飲み込まれる気がして、ならなかったからだ。
しかし、絶対に北野に勝たなくてはならない。
北野を殺さなくては自分の野望は達成できない。
「ウガァァァアアアア!!」
全身に激痛が走った。
毒に犯される如く、のた打ち回る直也の全身の血管が浮き出て、
プチプチと切れて、全身を血に染める。
何者かに、心を、魂を、乗っ取られる感覚…
「俺は!俺は!俺はぁぁああ!!」
大の字になった直也の胸だけが上下に大きく揺れていた。
「倒れてるが大丈夫か?」
血まみれで倒れている小川直也を見下ろす『人造舎総帥』北野と白衣の男。
心配する六鬼聖に囲まれている直也は、意識が朦朧(もうろう)としている。
「…大丈夫だ」
北野の声を聞いた直也は荒い息を付きつつ、立ち上がった。
「噂に聞く『鬼拳小川流』、その力を人造舎に
貸してもらえればありがたい事です」
「俺が負ければな…」
体が ふらつく直也を見て、北野がニヤリと笑った。
「人造舎に登録を希望する者は、大概が俺を殺して
乗っ取る事を前提に申し込んでくる。
だが、今まで誰一人成し遂げた者はいない。
その体で俺を倒すのは至難の業だと思うがね。
それとも、治してやろうか?」
北野は連れて来た、目つきの鋭い白衣の男を紹介した。
「この男は『魔界医師』財前、外科処理のスペシャリストだ。
俺が斬る人間を繋げてくれる」
北野が切り落とした腕や足を その場で繋ぐために
呼ばれた魔界医師は無表情のままだ。
「ひとつ分かった事がある」
「なんだね?」
「キサマは目が見えてる」
不適に睨み付ける直也を、溜め息混じりに見返し、
「…腕と足を一本づつ落とせば、泣きつくだろう」
そう言いながら、北野は仕込杖を腰に溜めた。
ビューッと一陣の風が境内を回り、消えた…
それが合図のように…
「…まいる」
ぎゅう、と握った拳は異様なオーラをまとい、浮き出た血管は
その凄まじい力を物語っている。
グンと拳を前に突き出す直也は、早くも鬼術を拳に込めた。
その時、ドクンと心臓が鳴った。
見る間に顔の形相が変わる。
「…鬼か…面白い」
ジリジリと間を詰める北野がペロリと唇を舐めた。
真っ赤に紅潮した直也の鬼の形相。
顔だけではない、額には角が二本、反り上がるように突き出ている。
『元鬼魂』を飲み込んだ影響が、直也の体に変化を与えたのだ。
北野の俊足の抜刀。
突き出した直也の拳を落とすのには、充分な間合いと技術。
そして、『漸巌剣』と名付けたチタン鋼の刃。
コンクリートの塊でも、鉄の壁でも切り落とす無敵の抜刀術。
北野が無敗の理由だ。
その、失敗する筈の無い、無双の抜刀は
十数億をかけて造ったダイヤモンドでも切り裂く超硬質チタン鋼の
刃が折れたことで、伝説に終止符が下された。
「ば、馬鹿な!有り得ん!!」
腕を切り落としたと思った瞬間に刃が折れた。
鬼に変わった直也の、気が、肉が、骨が、『漸巌剣』を折ったのだ。
狼狽する北野の腹に鬼拳『超捻転』。
肩口に『毒魔魅入(どくまみれ)』。
顔面に『濃漸瘴(のうざしょう)』。
胸に『肉骨憤(にくこっぷん)』。
脳天に『惨鉄拳(ざんてつけん)』。
憤怒の表情の直也は仁王立ちで言い放つ。
「俺の勝ちだ!!」
体内に送り込まれた鬼術は臓器、筋肉、骨を次々と破壊し、破裂させる。
「…ハハ」
ヘラッと笑った北野の上半身が爆発したように飛び散った。
下半身だけになった北野を愕然と見詰める財前。
「オマエの外科手術で助けてみるか?」
勝利したのと同時に鬼の角が消えた直也が
魔界医師に向かって不適に笑った…
「おい、新垣、これから登録している魔人を一人づつ呼び出せ」
さっそく人造舎総帥として指示を出す小川直也。
「…でも、半分ぐらいは要人警護とか用心棒とか暗殺の仕事で出てます」
「俺の言う事が聞けんのか?」
ギロリと睨み付ける。
「いえ、聞きます聞きます聞きますとも」
揉み手の新垣はポケットから携帯を取り出した。
「あの…直也様…」
心配そうな六鬼聖。
「…大丈夫だ、俺は鬼の魂に打ち勝った」
六鬼聖を見る直也の目は優しかった。
「本当ですか?」
「…ああ、本当だ」
ホッとする六鬼聖は顔を見合わせて「やったね♪」とハイタッチをした。
一時間後に現れたのは200キロの巨漢、曙太郎という魔人だ。
「俺が、新総帥の小川直也だ」
「…北野ヲ殺シタノカ?」
曙が、呆然と立ち尽くす新垣と財前を信じられないという表情で見直す。
「今日から、お前の名前は小川太郎だ」
「…ハァ?何イッテルンダ?」
「命令だ」
鬼術『仙脳術(せんのうじゅつ)』は、術を受けた者を催眠状態にする。
小川直也は、呼び出す魔人達全てに鬼拳に乗せた『仙脳』を掛けるつもりだ。
フラフラと夢遊病者のように体が振れ、
目がトロンとなった曙太郎こと小川太郎を
小川道場に待機するように命じて、
小川直也は、新垣に次の魔人を呼び出すように命じた。
MAHO堂の前に飯田のコルベットが停車している。
紺野は急遽CLOSEの看板を立てた。
中澤の呪術で直也の鬼術は解呪された。
それは、魔術の道を歩む歴史の違いを表していた。
中澤が調合した薬で麻琴の毒は抑えられた。
だが、解毒したとは言えない。
小川堂に有る鬼の解毒剤を飲まなければ完治しないらしい。
「この毒だけは特別じゃ…」
中澤の言葉に安倍と矢口が立ち上がった。
自分達も、力になりたいと自ら小川神社に赴いたのだ。
「まぁ、何とかなるだろ、ヤグとメロンもいるし」
「麻琴ちゃんの話を聞く限りでは、お兄さんは助けてくれる筈だべさ」
昨日の事件が起きるまでは、直也は妹想いの優しい兄だと分かった。
ただ、父親を憎んでいた事を除けば…
そして、出て行って6時間も過ぎようとしていた。
紺野の部屋でスヤスヤと眠る小川麻琴の顔を覗き込む飯田の表情は沈んでいた。
中澤の治療を受けている時に出た麻琴の話は、飯田にある種の焦燥感を植えつけた。
それは、直也が龍拳を殺害する動機を話す中で、避けられない過去の出来事だった。
話しを聞くうちに、それは疑問から確信に変わっていく。
『オニ子』の事だ。
飯田は物心がついた頃から、人間離れした怪力の持ち主だった。
通常、魔人と呼ばれる特殊能力者は魔震の影響によって
偶然に超能力を得られることが殆どだが、
飯田は生まれた時から人と違っていたのだ。
額から血を流し、血まみれになりながら施設の前に捨てられていた。
小学校に入学した頃には、大人にも負けない力を持っていた。
何故だ…?
それは自分が『オニ子』だからだ…
年齢、額の傷、捨て子、鬼の怪力、美女…
全てが自分と符合する。
飯田は麻琴の額を撫でながら、直也とすれ違った時に感じた
奇妙な傷痕の疼きを思い出していた。
小川神社から、矢口と安倍が帰ってきた。
その手の中には、小さな瓶が握られている。
「すんなりと渡してくれたよ、小川姓発祥の話しは辛かったけど」
今まで時間が掛かったのは、長い説法が原因だったのか
と、皆は納得し、小川家の人間は皆そうなのかと少し呆れた。
「おっかない人だったけど、事情を素直に話したのが良かったみたいだべ」
瓶の中の解毒剤を麻琴に飲ませる。
「お兄さんが言ってたよ。済まなかったって…」
「…そうですか」
少しホッとしたような麻琴。
それを見た矢口と安倍は顔を見合わせて、困惑したように項垂れた。
「どうしたんです?」
「…うん、あのね…」
「言ってください」
「…うん…次は容赦しないって」
「…え?」
「今度逆らったら殺すって…そう伝えてくれって…」
それを聞いた麻琴は沈痛な面持ちで「そうですか」とだけ答えた。
「…この一件が解決するまで、私の家で暮らさないか?」
飯田が麻琴の手を取りながら言った。
「え?」
「いいんだよ…のんちゃんも隣に住んでるし」
「…いいんですか?」
「勿論だよ」
縋るような麻琴の視線に困惑しながらも、
飯田の声は限りなく優しかった…
「まったくもって、やれやれじゃわい…」
ジワリと血が滲むように広がる不安感は、どこから来るのか…
「鬼が魔を呼び込むか…それとも…」
自室の水晶球で、皆の様子を眺めていた中澤は、
魔界街を覆う、不穏な空気を肌で感じ取っていた。
今日はココまでです。
とりあえず、小川神社の話は一区切りです。
てな訳で、次回更新も未定ってことで…
では。
ハナゲ イイヨーイイヨー ハナゲ
保全
鼻毛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
まっていますよ!
財前・・・(w
ハナケ..゙あんたやっぱり最高!
長い説法は複線だったのかー。すごいぞハナゲ。
>>(ry)美女… 全てが自分と符合する。
のとこワロタよ。
保全
ほ
紺野と浜口の話を書こうかと思ったんだが、まったくアイデアが出ない。
話の糸口さえつかめない。だもんで、まだ一行も書いてない。すまん。
…どうしよう。修学旅行にでも行かすかな。
まってるよー!ハナゲさん
待ち保全
ほぜん
保
明日うpします保守
ほ
――― 21話 修学旅行前夜 ―――
「お前等、好きな者同士で班決めをしろ」
ホームルームの時間、江頭の言葉でワイワイと気の会う者同士で
修学旅行の班を作る。
「うち等はいつも一緒やけど…」
加護、辻、紺野の3人は高橋を誘った。
「愛ちゃんも入るか?」
「…入ってもいいけど」
これで4人…
後は男子のグループと組むだけだ。
「おい、俺等と組むか?」
矢部がハンサム軍団を率いて加護に話しかけた。
「…まぁ、ええけど」
「よっしゃ、決まりや」
何故か浜口がガッツポーズ。
40名のクラスは其々小さなグループを作ったが、
加護達はハンサム軍団を入れて、計9人の大所帯になった。
「よーし、決まったな。じゃあ班長と副班長を決めるんだ」
江頭に言われて、其々グループごとに机を並べて、班長を決める。
「はいはいはい!のの が班長さんをやるのです!」
辻が張り切って手を上げる。
「ええ!辻ぃ、オマエで大丈夫か?」
加藤が、不安気に突っ込む。
矢部の方が班長に向いてると思ったからだが、
「大丈夫なのです!」
との辻の一言と、
「じゃあ、私が副班長しますから」
と紺野がサポート役の副班長に名乗り出た事で、皆が安心した。
「よし、決まりやな。紺野、ほんま頼むでぇ」
矢部に肩を叩かれて、ハイと頷く紺野。
「班長さんは偉いのです、みんな、のの の言う事を聞くのです」
「おい辻、班長って何をするのか知ってるのか?」
加藤の脳裏に、また不安がよぎる。
「知らないけど、大丈夫なのです」
「……ハァ…」
と、長い溜め息。
「加藤さん、大丈夫です。私がしっかりとサポートします」
グッと拳を握ってみせる、紺野の瞳は燃えている。
「本当に、本当に頼むぞ!紺野!」
紺野の手を取ってギュッと握った加藤の瞳は、
すがる様に涙目になっていた。
「じゃあ、辻さん、みんなの意見を聞いて、二日目の班行動を決めてください」
「うん?」
「だから、二日目の午後3時から、班ごとに見学する場所を決めるんです」
「そうなの?」
「…はい、旅のしおりに班ごとの予定を書いて、先生の許可を頂くんです」
「あーい」
「…」
紺野の仕切りに、班員が涙ながらに頷く。
大変だが、頑張ってくれ…と、その涙は語っていた。
「じゃあ、みんな何処に行きたいのか言って下さいです」
「俺は、京都タワーに上りたいな」
「うちは絶対嵐山に行くでぇ」
「うんじゃ、俺は手塚治虫ワールドだな」
「私は、京都市動物園」
「俺は風俗博物館や」
其々、勝手な事を言う班員の希望をメモに取りながら、
「後は、のの の甘味処の店を入れて…」
と、全員の希望をしおりに書き込んで
「できたー!」
と、教壇の椅子に座っている江頭に見せに行く。
「オマエ、2時間で全部行けるか?やり直しだ!」
江頭に怒られて、スゴスゴと帰ってくる。
辻がチョイチョイと手招きして、紺野を教室の隅に呼び出す。
「…ダメだったのです」
「当たり前です。全部回ったら一日かかります。
みんなの意見を聞いて、みんなが納得できるように
まとめるのが班長の仕事です」
「う〜〜、だって、全員の希望を叶えたいのです」
ヒソヒソと話す、辻と紺野を
大丈夫かよ と、呆れ顔の班員達。
「…なんとか削れる所を削りましょう」
「……わかったのです」
そうは言ったものの、辻では意見をまとめる事ができず、
宿題となってしまった。
放課後…
「私の意見は譲らないわよ。
あ、後、嵐山モンキーパークも追加しててね」
そう言って、高橋はバイバーイと手を振って、
迎えに来たマネージャーの車に乗り込んだ。
「…アイツ、業とイジワルで言ってんな」
加護が腕を組んで、ベーっと舌を出した。
「なんとかなるのです」
辻はアッケラカンとしたものだ。
「……ハァ」
紺野は思い詰めたように溜め息をついた。
MAHO堂の手伝い中も、ふさぎ勝ちな紺野を心配して
「考え過ぎも あかんでぇ、もっと気楽にしぃ」
と、声を掛ける加護にも
「…はい、ありがとう」
と返す声は重い。
そんな紺野の心配事も知らない辻は
鼻歌で楽しく仕事中だ。
「のの!ののも、ちゃんと考えなきゃ あかんでぇ、班長やろ」
紺野を不憫に思ったのか、加護が怒る。
「あさ美ちゃんは考え過ぎなのです。
ダメだったら、ヤベッチ達の意見をバーッと削るのです」
「のの!あのなぁ!」
ツカツカと詰め寄る加護の肩を紺野の手が押さえて止めた。
「…辻さんの言う事も、一理あります。
私が心配性すぎるのかもしれません。
全部回るのは無理なんだから、私達の行く所と、
矢部さん達の行く所を一ヶ所づつに絞ってもらおうと思ってます」
「…う、うん。それが、ええかもな」
「じゃあ、とりあえず私達が行く所を決めましょう」
「ののは、食べる所が有ればいいのです」
辻がハイハイと手を上げて入ってきた。
最初に自分の行きたい所を引っ込めた辻は、
自分なりに心配はしているのだろう…
「あと、愛ちゃんの意見は無視して構わないのです」
「ああ、それは大賛成やな」
「でも、愛ちゃんの意見も聞かないと…」
「ええねん、アイツはイジワルで言うてんねんから」
「…じゃあ、こうしましょう。愛ちゃんの行きたいモンキーパークは
嵐山にありますので、加護さんの行きたい嵐山と一緒です」
「…まぁ、ええやろ」
「それで、決まりなのです」
「…よかった」
初めて、紺野がニコリと笑った。
夜…
高橋が住んでいる石黒音楽事務所の呼び鈴が鳴った。
「はいはい、どなたですか?」
石黒が出ると、紺野はペコリと頭を下げた。
「なぁんだ…師匠の所の魔女見習いか…なんか用?」
「あの、愛ちゃんいますか?」
「うん?愛?…いるよ、ちょっと待ってて」
そう言って、石黒は面倒臭そうに頭を
掻きながらも、高橋を呼んでくれた。
「…なんの用?私、眠いんだけど」
パジャマ姿のまま出てきた高橋は、もっと面倒臭そうだ。
「ちょっと、話しが…」
紺野は、さっき決めた予定を高橋に話す。
「…だから、愛ちゃんの意見も入ってるから…」
「あ〜、もう分かったわよ」
壁に寄りかかって黙って聞いていた高橋が、眠そうに話しを遮る。
「…でも」
「別に、私の意見なんか無視して良かったのに…
ちょっと意地悪で言ってみただけだから」
そう言って、紺野をチラと見た高橋は少しニコリと笑った。
「でも、わざわざ言いに来てくれたんだ…電話でも良かったのに」
「…ちゃんと直接言ったほうが良いと思って」
「……」
「じゃあ」
そう言って、寂しそうに背を向ける紺野の背中に高橋の声。
「ありがと。嬉しかったよ。あさ美ちゃんって優しいんだね」
振り返る紺野に向かって、高橋はバイバイと手を振った。
「また、明日ね〜!」
「う、うん!」
帰り道を歩く、紺野の表情は晴れやかだった。
「あ〜、もう、面倒臭いのです」
帰宅した辻は、そのまま飯田の家に転がり込み、
ソファに寝転がって手足をバタつかせた。
「班長なんて、やらなければよかったのです」
「ハハ‥でも、楽しみなんだろう?」
旅のしおりをペラペラめくりながら飯田が笑った。
「へへへ、実はそうなのです」
「…羨ましい」
ちょっぴり寂しそうな小川。
小川麻琴は、小川神社の事件以来、
飯田の家に居候させてもらっている。
そして、週に一回ぐらいしか帰宅しなかった飯田も、
小川を心配して、毎日ちゃんと帰るようになっていた。
「麻琴ちゃんは学校に行ってないんですか?」
「うん、小学校卒業してから、行ってない。
修行がきついし、それに、勉強は直也お兄様がみてくれたから」
「…そうなんですか」
少し、しんみりとした雰囲気。
「じゃあ、のの達の学校に入ればいいのです。
そうすれば、修学旅行にも一緒に行けるのです」
「入るのはいいけど、修学旅行は無理だろ」
ハハハと突っ込む飯田。
その飯田が、ハッと何事かを思いついた。
「でも、一緒に行く事は出来るな」
「行ける訳ないのです」
「行けるよ〜」
そう言いながら、飯田はニーッと笑い、
辻の脇腹をコチョコチョと、くすぐり始めた。
「ニャハハハハハ、止めるのです。キャハハハハくすぐったいのです」
「ほら、麻琴ちゃんも、のんちゃんをくすぐるんだ」
調子に乗った飯田が小川を煽る。
ゲラゲラと笑う辻の声が、貧乏長屋に響いた…
翌日から、副班長の紺野が行動を起した。
意見がバラバラなハンサム軍団を説き伏せ、
自分が決めた予定を無理矢理ねじ込んだ。
そして夜、一人一人の家を回って、頭を下げる。
「なんやねん、わざわざ、来てくれたんか?」
「だって、みんな我がままなんだもん」
最初に行った、浜口の家…
「よっしゃ、俺も手伝ったるわ」
「本当?」
「ああ、もちろんや…それに夜やしな、女の子の一人歩きは危険やで」
「ありがとう、優君…」
紺野の笑顔に、照れる浜口…
「ハハ‥、じゃあ最初は矢部の家に行こうか」
「うん」
紺野の行動にハンサム軍団達は、驚き、恐縮して、素直に納得した。
その紺野が、修学旅行の前々日、熱を出して学校を休んだ。
心配した辻班が全員で、放課後、紺野を見舞いに行く。
紺野は自室のベッドで寝込んでいた。
「なんやねん、旅行は明後日やで」
「大丈夫かいな?」
紺野の青白い顔を見てハラハラする、浜口と有野。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ…」
コホンコホンと咳をする紺野が、皆に ある物を手渡した。
それは、一人一人、名前が入ったお守りだった。
「…昨日、徹夜で作ったんです。
良い事がありますように…って、
いっぱい思い出ができますように…って」
手渡されたお守りを見る皆は言葉が無い…
バラバラな辻班をまとめる為に、一人走り回り、
楽しい旅行にする為に、心を砕き、
全員の安全を祈って、徹夜でお守りを作り…
頑張った代償が、今の紺野の姿だった。
「…私のも ある…」
高橋が、自分宛てのお守りをギュッと握った。
「て、徹夜なんて、するなよ」
目が真っ赤になった加藤は、鼻をすする。
「そうやで、そんなんで旅行、行けへんようになったら…切ないやんけ…」
矢部も涙声だ。
「…うん、ごめんね…でも、作りたかったの」
この中学に編入する前までの十数年、人の温もりを知らずに育った少女は
今までの青春を取り戻すように、一生懸命に生きている。
「紺野…」
「あさ美ちゃん…」
浜口と加護はエグエグッと喉を鳴らして俯(うつむ)き、すすり泣いている。
ウエーンと辻が紺野に抱きついた。
「ごめんなしゃい。班長は ののなのに…」
「…大丈夫です。今日と明日、グッスリ眠れば治ります」
「ほ、本当ですか?」
ウンと頷く紺野。
「紺野…絶対来いよ」
普段は無口な武田が、口を開いた。
「班長が頼りない俺等は、副班長のオマエが頼りなんだからな」
怒ったように言うと、武田は部屋を出て行く。
それに釣られる様に、紺野に声を掛けて部屋を後にする辻班…
「…あさ美ちゃん…ありがと…」
最後に手を振りながら部屋を出た高橋の瞳に、
光る物を見た紺野は、こぶしをギュッと握って俯(うつむ)いた…
「みなさん…お見舞いに来てくれて、ありがとう…」
…楽しい修学旅行になりますように…
――― 22話 修学旅行初日 ―――
早朝、高速道路を180キロオーバーで飛ばす、黄色と黒のツートンのコルベット。
「怖い怖い怖い!」
目を見開き絶叫するのは、助手席に乗った小川麻琴だ。
「なに言ってんの!あっちは新幹線なんだから、
もっとかっ飛ばすわよ!」
飯田圭織は、更にアクセルを踏み込む。
ギアチェンジしてアクセルを踏み込むたびにグンとGが掛かり、
そのつど、麻琴は仰け反り悲鳴を上げる。
「大丈夫だって、この車は特注だから、事故っても死なないって」
「死ぬ死なないの問題じゃないよ!」
ギャーギャー騒ぐ麻琴の膝には、辻が作った旅のしおりが揺れていた。
奈良公園に着いた飯田と麻琴は、さっそく辻達を探す。
「しおりには、11時半に奈良公園って書いてるけどなぁ」
「広いですからね…」
鹿がウヨウヨ歩く公園内をキョロキョロ見渡していると、
そこに修学旅行生の団体がゾロゾロとやってきた。
「来た来た、あの制服だよ」
コソコソと隠れながら近付き、生徒達の一番後ろに並んだ。
「いいかぁ!ここで昼食を取って、12時30分には次の場所に行くからな!」
裸の上半身にジャケットだけ羽織った江頭が、拡声器で指示していた。
「では、他の人に迷惑をかけないように!」
バラける団体の中に辻達を見つけた飯田は、コッソリと近付き、
辻の背中から抱きつき、「ワッ!」と声を出した。
「わぁぁああ!ビックリしたのです!…って、あれ?飯田さん!」
ニヒヒーと笑ってピースサインをする飯田と、ペコリと頭を下げる麻琴。
「麻琴ちゃんも!どうしたんです?」
「あんた等、何しに来たん?」
「…言葉もありませんね」
驚く、辻、加護、紺野に「着いてきちゃった」と、飯田。
「え〜〜!」
「私達も、のんちゃん達に混ぜてよ」
ニッと歯を見せた飯田が、辻班の男子達と高橋に「よろしくね」とウィンクする。
「だ、誰やねん、辻…」
矢部は、どんな取り合わせなんだと、革ジャンの飯田と巫女姿の麻琴を見比べる。
「紹介するのです。飯田さんと小川麻琴ちゃんなのです。
飯田さんは刑事で、麻琴ちゃんは巫女さんなのです」
「い、いや…オマエ達と、どんな関係やねん?」
「お友達なのです」
「…そ、そうか」
いまいち納得できないが、女子が増える事はいいことだ。
特に、美人の飯田は、加藤のハートをズキュンと射抜いた。
「いやいや、いいんじゃないの、いいんじゃないの?なぁ、真治」
加藤に肩をポンと叩かれた武田は、呆然と麻琴を見ていた。
そして、ハッと武田に気付いた麻琴もビックリしたように目を開く。
「…た、武田君?」
「…麻琴か?」
見詰め合う2人…
只ならぬ雰囲気の2人に、「うん?」と一瞬固まる皆。
「知り合いなの?」
「は、はい」
飯田に聞かれてハッとした麻琴は、少し頬を染めた。
「…武田君は、去年まで小川流拳法の門下生でした。
3年生になって、受験勉強のために辞めましたけど」
「そうか…」
飯田は麻琴の背中をポンと叩いた。
「2人で、お昼 食べてきな。つもる話しもあるだろ?」
「…で、でも」
「いいから、いいから」
飯田に背中を押されて、歩き出す2人…
見送る飯田の瞳は、遠くを見ているようだった。
「さ、私達はグループで仲良く食べようね」
辻班に向き直り、仕切りだす飯田。
「で、でも、あいつ等!」
いきなりの展開に、口を尖らせる加藤。
なんか雰囲気の良い2人に、少し嫉妬を覚えたのだ。
「君、名前は?」
「か、加藤です」
「じゃあ、加藤君、お姉さんと一緒に食べようねぇ」
飯田にニコッと微笑まれた加藤はフニャ〜と相好を崩した。
「あぁぁあああ!!」
バックを開けた浜口が叫ぶ。
「どうしたんです?」
怪訝そうな紺野。
「弁当…忘れた…」
ガックリと項垂れる。
初日のお昼は自宅から持ってきた弁当を
公園内で食べる事になっていたのだ。
「しょうがないですねぇ…じゃあ、私のを半分あげます」
「…こ、紺野ぉ…」
浜口にとって紺野は、正に女神様だ。
弁当を忘れた事を神に感謝する浜口は、
「じゃあ、俺、ジュース買ってくるわ。ちょい待っててや」
そう言って、売店に駆け出した。
「アホやで、アイツ」
首を振りつつ加護が溜め息を付いたが、
もっと、アホな事が起こった。
売店からニコニコしながら帰ってきた浜口が、
煎餅(せんべい)をポリポリ食べてた来たからだ。
「美味いなぁ、この鹿センベイって。味が濃いねん」
全員、ブッと噴き出す。
「ほんまもんのアホや…」
ポカーンと口を開ける矢部。
「鹿センベイを食べる人には、お弁当は分けません」
プイッと横を向く紺野に、「なんでや!」と、浜口は頭を抱えた。
「武田君…元気だった?」
「…ああ、麻琴は?」
「う、うん」
「龍拳様は、御健在か?」
「……」
「?…どうした?」
「…」
大樹の影の木漏れ日の中、麻琴を見た武田は焦る。
俯(うつむ)いた麻琴はポロポロと涙を流していたのだ。
「おい…まさか?」
立ち尽くす武田の胸に、麻琴の額がチョコンと当たった。
「…暫らく、このままでいさせて…」
「……」
武田は、そっと麻琴の頭を抱きしめた…
「あっ!あいつ等!」
公園内を見回りしていた江頭が、武田が巫女を抱きしめているのを見つけた。
注意しようと踏み出す江頭の襟を、後ろから誰かが掴んで止めた。
「貴方、江頭先生ね?」
「だ、誰だね君は?」
「…あの巫女姿の少女の…姉のような者よ」
江頭が飯田の手を振り解こうとするが、万力の力でビクともしない。
「あの2人…少し見守ってあげてよ」
「何言ってるんだ!離しなさい!」
飯田がパッと手を離した拍子で、江頭は尻餅をついた。
尻餅を付いたままの江頭に向かい、しゃがんで顔を近づけた飯田は
ニーッと笑いながら、胸元から警察手帳を取り出して見せる。
「貴方の生徒の、辻希美の親戚みたいな者でもあるの」
「…辻の?」
「そう、だから、修学旅行に勝手に着いて行くわよ」
「な〜に、言ってんだ!ダメだ、ダメだ!」
「邪魔はしないわ、勝手に後を着いて行くだけだから。
ただ、私達と辻希美達が一緒に行動しても、
見て見ぬ振りをして欲しいだけよ」
「ダメ、ダメ!そんな事は許されないし、
現に今、あの2人は抱き合ってるじゃないか!」
フと目付きが変わる飯田。
「…おい江頭。アンタ授業中に裸になってるんだってな」
口調も変わった飯田は、江頭のジャケットを掴んでシゲシゲと見る。
「…今もジャケットの下は裸だしな」
「が、学校公認だ…」
「公然ワイセツ罪」
「校長も公認してる…」
「知らないね」
「……」
「逮捕…しようかなぁ」
プツプツと薄い額から汗の球が浮き出た、江頭の喉がゴクリと鳴った。
「…あっ!用事を思い出した!」
急に立ち上がった江頭は、薄ら笑いを浮かべて、その場を立ち去る。
逃げるように消えていく江頭に、バイバーイと小さく手を振って、
飯田は、ベンチに腰を下ろした麻琴と武田を遠くから見守る。
何を話しているのかは分からないが、
武田が俯(うつむ)き、首を振っている所を見れば察しがつく。
麻琴は多分、あの武田という少年が好きなんだろう…
どうなるかは分からないが、この旅行が終わる頃には
麻琴には立ち直って欲しい…
その為に連れて来たんだから…
「飯田さん!時間なのです!」
班長の辻が、ケタケタ笑いながら飯田に駆け寄ってきた…
次の目的地、法隆寺に向かう朝娘市中学校のバスを追いかける飯田のコルベット。
二車線の所で、辻達のバスに並んでクラクションを鳴らして、
コンバーチブルスイッチを押す。
メタルトップの電動コンバーチブルが開き、オープンカーに変身した
コルベットは、飯田と麻琴の髪をなびかせた。
「おーい!のんちゃーん!」
バスの窓に向かって手を振る飯田を見つけた辻達も
「飯田さーん!」と、窓から身を乗り出して手を振る。
「おーい!飯田さーん!」
一番張り切って手を振るのは加藤だ。
江頭が苦々しく飯田を見ていたが、飯田と目が会うと、
不気味な愛想笑いを返す。
「気持ち悪い先生ですね」
「ハハハ、いい先生だよ」
武田との再会が嬉しかったのか、麻琴も楽しそうだ。
3台の朝娘市中学のバスと並行して走るコルベットは
次の目的地に着いた。
五重塔、大宝蔵院、夢殿とゾロゾロと見学する中学生達と一緒に歩く
革ジャンの美女と巫女。
麻琴は法隆寺の巫女と何回も間違えられて、
一般観光客の写真撮影に何度も納まった。
東大寺の金剛力士像、大仏殿、二月堂と回る時も同じだ。
「巫女の格好は失敗しました」
「うん?、俺はそのほうが…」
「え?」
「あ、い、いや、なんでも…」
麻琴と並んで歩く武田が、そこまで言って顔を赤くした。
「ハハ‥青春やなぁ…」
何故か達観したような物言いの矢部。
「アホ…」
その矢部に向かって加護がボソリと呟く。
「飯田さんも、俺等と同じホテルに泊まるのか?」
「そうよ」
イヤッホウと手を上げて喜ぶ加藤。
「私達の部屋は最高級の部屋だから、遊びに来ていいよ」
「いやったぁあ!」
ガッツポーズの加藤。
紺野と高橋は顔を見合わせて、ヤレヤレと溜め息をついた。
初日の予定を終えた一行は、バスで京都に向かった。
京都の『桐堂旅館』という温泉旅館で2泊して、
3泊目が大坂の『浪速旅館』という宿に宿泊して帰省する日程なのだ。
夕方に着いた一行は、思ったより豪華な造りの温泉宿に
「おお!」と歓声を上げて喜んでいる。
飯田は、それを横目に見ながらチェックインの手続きを取った。
飯田の予約した部屋は中庭の離れに有る、一泊7万円の特別室だ。
前金で全額現金で支払った飯田に、麻琴が目をパチパチさせて驚く。
女将自ら案内する部屋は、なんとも豪華なつくりで、
飯田と麻琴2人で使うには広すぎる位だ。
ひとしきり部屋の説明を終えた女将が
「どうぞ、ごゆるりと…」と、深々と頭を下げて出て行くと
「疲れた〜〜」と、飯田がゴロンと大の字になった。
「あの…飯田さん」
「うん?」
「いいんですか?」
「何が?」
「こんな立派な部屋…」
「ああ、心配無用だよ」
「でも、お金がもったいない…」
「…ハハ、金なら経費で、いくらでも落ちるから大丈夫」
「え?」
「私の上司は、朝娘市警察署長ただ一人ってことだよ」
魔人ハンターと言えど、給料は一般警官達と大差はない。
ただ決定的に違う事がある。
どこの部署にも所属しない飯田の直属の上司は署長一人だけだ。
普通の刑事達が領収証を落とすのに、何に使ったかの説明と
課長のハンコが必要なのに対して、
飯田は、署長室に行って「よろしくね」と、領収証を手渡すだけで良かった。
特注のコルベットも、それで買ったし、平家に渡していた何百万単位の
情報料も、それで支払っていたのだ。
「ひぇええ、なんでも有りですね」
「…まあね」
魔人ハンターの棲む世界をちょっぴり知って、
ホウと溜め息をつく麻琴に向かってニコリと微笑む飯田。
「ささ、ひとっ風呂浴びようか?」
飯田は立ち上がりながら服を脱ぎ捨て、
部屋についてる 豪華な檜の内風呂に入っっていった。
部屋で荷物を下ろした辻達は、そのまま大広間に集まった。
もう夕食の用意が出来ていたのだ。
学年担任の先生が宿泊施設での注意事項を話している。
辻はアクビを噛み殺しつつ、周りを見て浜口が居ない事に気が付いた。
「あれ?グッチョンはどうしたんです?」
「腹壊して部屋で寝込んでるよ」
呆れ顔の加藤。
「え?」
「昼に食べた鹿センベイが中(あた)ったんだろ」
「アホやで」
「…優君」
紺野はハ〜〜ッと長い溜め息をついた。
修学旅行の楽しみの一つは皆で食べる夕食だ。
「おかわり」
「はい」
副班長の紺野は、甲斐甲斐(かいがい)しく
御櫃(おひつ)から、ご飯をよそい 皆に手渡している。
「おい、副班長にばかり やらせないで班長もやれや」
矢部に言われて辻がブー垂れる。
「ののは食べる事に忙しいのです。
男子の分はカメラ係の有野君がやればいいのです」
「へ?俺?」
首にカメラを ぶら下げた出番の少ない有野がキョトンとする。
「いいわ、私が男子の分をやってあげる」
そう言って高橋が、ご飯係を買って出た。
「…きょ、恐縮っす」
有野が、恐る恐る茶碗を差し出す。
「フフ」
高橋がクスッと笑って、茶碗を受け取った。
週に半分も学校に来ないアイドルの高橋は、
余り友達も出来ず、教室でも少し浮いた存在になっていた。
その高橋も辻達に少しづつ ほだされて、輪の中に自然と入ってきている。
「旅行って、ええもんやなぁ」
また、物知り顔風の矢部。
「アホ…」
加護がボソリと、また呟いた…
風呂から上がって、女子の部屋に行こうと
辻達の部屋に電話した加藤はガックリと膝を落とした。
辻班の女子達は全員、飯田に呼ばれて出て行って居なかったのだ。
飯田の部屋が、どこに有るのか分からず、
部屋に篭もり、飯田から誘いの電話が掛かってくる事に、
いちるの望みを掛けて座して待つ。
布団をかぶり唸っている浜口をチラリと見て、
「鬱陶しいなぁ、オマエ!」と毒づく。
「鹿センベイなんて5袋も食うからだ、バカ!」
「でも、鹿センベイって人が食っても大丈夫ちゃうんか?」
矢部が、浜口のバッグから、鹿センベイを見つけて取り出した。
「なんやこれ?一袋30円って…
オマエ、これって本当に鹿しか食べられへん、
本物の鹿センベイちゃうんか?」
ビリリと袋を開けて、ウッと咽る。
「うわっ!くさっ!」
袋をよく見たら、「鹿専用、人間は食べられません」との注意書き。
「こんなの食ったら腹壊すでぇ」
「…だって…紺野が…」
お昼の時、鹿センベイをバリバリ食べて帰ってきた浜口に
「鹿センベイを食べる人には、お弁当は分けません」
と、プイッとソッポを向かれた浜口は、
泣きながら その場を逃げ去ったのだ。
「浜口ぃ、オマエ、紺野に振られるな」
矢部に頭をポンと叩かれた浜口の顔は益々青くなっていく。
「オマエの お守りだけ、効かへんのとちゃうんか?」
「…うぅうう」
浜口のバッグに付けられた、紺野の手作りの
お守りが、寂しそうに揺れた。
「それにしてもよ…」
加藤が、部屋のベランダで椅子に座り、物思いに黄昏て
窓の外を見ている武田に近付き、向側の椅子に座る。
「オマエはいいよなぁ。いきなり彼女が出来てよ」
「彼女じゃないよ…」
「いい雰囲気だったじゃねえか?」
「……彼女のお爺様が死んだらしい」
ポツリと呟くように言う。
「…え?」
「彼女のお爺様は、俺の拳法の師匠でもあった…」
「……」
「飯田さんだっけ?
彼女はいい人だよ…
傷ついた麻琴の心を癒すために、辻達に着いてきた…」
「…そうか」
「俺は、この旅行中に、出来る事は何でもするつもりだ…」
「…ああ、頑張れよ」
加藤が、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、武田に渡した…
飯田の部屋に呼ばれた辻班女子達は、
部屋の豪華さにビックリして開いた口が塞がらない。
「なんや、この部屋!うち等とは、えらい違いやで!」
部屋の中央の大きな座卓には、食べきれない程のご馳走が並び、
でかい船盛に箸を伸ばしていた飯田が、
「あんた達も、食うのを手伝って」
と、手酌で日本酒を空けていた。
「あーい、いっぱい食うのです」
辻が早速 箸を持って刺身に飛びつく。
「辻さん、さっき あんなに食べたのに…」
「アレとコレは別腹なのです」
「別腹の意味、ちゃうやろ」
「あの…私も混ざって良かったんですか?」
少し恐縮気味の高橋。
「ああ、全然構わないよ…って、アレ?どっかで見た顔だな」
「アイドルの高橋愛ちゃんなのです」
辻の紹介にペコリと頭を下げる。
「おお!そっかそっか!魔女の社長の所の娘か」
ポンと手を打って納得の飯田。
「え?…社長の事、知ってるんですか?」
「あ…うん、まあな。ちょっとした因縁ってヤツね」
訳有り顔でニヤリとする。
「……?」
「まぁ、そんな事より、ゆっくりしていきな」
そう言いながら、飯田は何本目かの徳利を空けた。
「うわぁぁあ!凄いですよ!みんな来て見てください!」
紺野が縁側に立って、皆を手招きして呼ぶ。
「なんや、なんや?」
「なんなのです?」
ゾロゾロと縁側に集まった辻達が「わぁ!」と歓声を上げた。
景色が絶品な日本庭園の中庭の向こうに見える、
緩やかな山並みの斜面に揺らめく大文字焼きが、
幻想的な夜景を醸し出している。
「すご〜〜い」
「綺麗やなぁ…」
其々に感嘆の溜め息を付く辻班と麻琴…
嬉しそうな、幸せそうな、麻琴の顔を見て、
飯田は目を細めた。
小川神社の事件を解決すると飯田は約束した。
だが、どうやって解決したら良いのか、方法が まったく思いつかない…
飯田が乗り込めば、小川直也と殺し合いになるのは目に見えていた。
それは絶対に避けたかった。
麻琴は自分の本当の妹であり、直也は血を分けた兄であった。
自分が『オニ子』である事を打ち明ける事も考えたが、
そうする事は飯田自身が、心のどこかで完全に拒否している。
今まで、相手を殺す事でしか、事件を解決した事が無い飯田には
事件解決への糸口さえ見出せないでいるのだ。
その前に…
傷心の麻琴を何とかしたかった。
「わぁ!火が飛んで『犬』の字になったのです!」
「ほんまや!」
「これでは『犬文字焼き』ですね」
大の字が犬の字になるハプニングに
腹を抱えてケタケタ笑う娘達…
友達か…
私では無理だな…
麻琴の こんな笑顔、見た事が無い…
自分を本当の姉と知らない麻琴の笑顔は、
飯田には、眩しく、切なく、胸が締め付けられそうになる。
旅行が終わったら、辻達の中学に転入させよう…
友達は絶対必要だよ…
「飯田さんも、こっちに来てください!」
手を振って飯田を呼ぶ、麻琴の笑顔に「ああ」と答える飯田は、
何故か泣きそうになるのを必死に我慢した。
翌朝…
午前5時に飯田の部屋の電話が鳴った。
「…はい」
電話に出たのは麻琴だ。
『中庭に来てくれ』
声の主の武田は、そう伝えると電話を切る。
(麻琴は武田だけに、自分の部屋番号を教えていたのだ)
麻琴が着替えて中庭に出ると、
ジャージ姿の武田が、一汗掻き終わっていた所だった。
「稽古するぞ」
そう言って、武田はスッと両手を前に突き出し
小川流拳法の基本形を構える。
「…うん」
流れるような小川流拳法の演舞を、同じ動きで演じる2人…
チュンチュンとスズメが鳴く中庭で、
朝日に照らされた2人の拳音が、ピシリと響いた…
今日はココまでです。次回も続く修学旅行編は更に盛り上げる予定です。
投票スレでメチャクチャ褒めてくれた人がいました。
嬉しかったですが、褒めすぎだろうと、恥ずかしかったです。
恐縮です。頑張ります。アリガトウ。 では。
\( ^▽^)/<ハナゲキターーー
>>711 オマイも投票してくれたか…
アリガトン!!!!
ハナゲ君話はいいからエロ挿絵描いて。
紺野の初期設定なんかすっかり忘れてた
ハナゲ氏は最期までプロットあるの?
おっと、トリップ付いてないのは、今友達の家にいるからです
そんな巨乳美貴帝じゃないやい!
でも...(;´Д`)ハァハァ
ハナゲタン(;´Д`)ハァハァ
今日のハロモニで奈良(鹿&鹿せんべい)出てきましたね
――― 23話 修学旅行2日目 ―――
「おい、浜口、朝食はどないすんねん?」
「…朝は、ええわ」
布団を被ったままの浜口が、心配して聞く矢部に、気だるそうに答える。
「なんや、まだ腹痛いんか?」
「…すまん」
昨日、鹿センベイを調子に乗って食べた
浜口の体調は戻らず、朝食を取らずに京都観光に向かう。
そして、事件は清水寺で起きた。
「おお、これが清水の舞台か!」
「あんま大した事あらへんな」
「ほんまや、落ちても大丈夫やろ」
「アホ。落ちたら死ぬわ!」
高さ13メートルの清水の舞台でワイワイ騒ぐ、ハンサム軍団。
「優君、危ないですよ」
「大丈夫や」
心配する紺野を余所(よそ)に、
またしても調子に乗った浜口が手すりから身を乗り出して、
手をかざして風景を眺めた。
昼近くになって腹痛が治った浜口は、
昨日の夜から何も食べてない事を忘れてしまって、
自分の体力が落ちている事に気付いていない。
「危ないから、はしゃがないで下さい」
「大丈夫やって、紺野」
身を乗り出しすぎた所で、クラッときた。
「わぁあ!」
バランスを崩した浜口は、清水の舞台から落ちた。
「わっ!優君!」
「バカ!浜口!」
「ぐっちょん!」
「はまぐちぇ!」
身を乗り出して、転落する浜口を見る辻班。
その、辻班を飛び越えて清水の舞台から飛び込む、もう一人の影。
「なんや!」
「あれは!」
「鳥だ!」
「弾丸や!」
「いや、飯田さんや!」
高さ13メートルの懸崖に縦横に柱を組んで張り出した
通称『地獄止め』 を蹴って、落下する浜口に追い着いた飯田は、
浜口を抱きしめて、身を捩(よじ)って自分の背中を地面に向けた。
ドンと落ちた地面から1メートル程バウンドして、バタリと大の字になる飯田。
「…ぁゎゎゎゎ」
飯田をクッションにして助かった浜口は、
ピクリとも動かない飯田を呆然と見ている。
「わっ!」
その飯田の指がピクッと動いた。
「わわわわ!」
パチリと目を開け、ムクリと起きる飯田。
「大丈夫だった?」
平然と立ち上がった飯田は、土埃を落としながら浜口に聞く。
「そ…それは、こっちが聞きたいがな…」
浜口の腰がヘナヘナと抜け落ちた。
「ありゃ?」
飯田が見上げると、江頭をはじめとする朝娘中学の教師達と生徒達が
舞台の手摺りから身を乗り出して、こちらを見ている。
その顔は全員、顔面蒼白になっていて、アングリと口を開けていた。
飯田は照れ笑いで「大丈夫だよ」と、手を振ったが、
江頭は、そのまま泡を吹いて ぶっ倒れた。
「ババババババッカモ〜〜〜ン!!迷惑ばかりかけやがって!!」
昼飯を取るために移動するバスの車内で、江頭のカミナリがバリバリと落ちる。
「浜口!オマエは今日の昼食と夕食は抜きだ!!」
落ちたカミナリは浜口の空きっ腹に響いた。
「こ、紺野ぉ…」
紺野をすがる様に見た浜口は、プイッとソッポを向かれて、ガックリと肩を落とした。
「ぷっ、ありゃ完全に振られたな」
「最初っから見込みなんて、あらへんとちゃうの」
「さすが、HAMAGUCHEの異名を取るだけあるぜ」
クスクス笑うハンサム軍団。
「オマエ達も連帯責任で、今日の昼飯は抜きだ!」
江頭はハンサム軍団をギロリと睨み付ける。
「げっ!」
「ウソやん!」
それを見て、クスクス笑う辻、加護、高橋。
「何笑ってる!辻班全員だ!」
江頭は腕組みをして辻達を睨んだ。
「えっ!」
「ウソ!」
「…」
目が点になる辻達。
「…す、すまん…」
消え入りそうに謝る浜口を、辻班全員が睨み付けた…
「のんちゃん達、来てないね」
昼飯処のレストハウスで極上ステーキ定食を食べながら、
朝娘中学の団体を横目で見る飯田は、辻達を探した。
「さっきの件で怒られたんじゃないですか?」
麻琴がモリモリとステーキを口に運びながら、
キョロキョロと探す振り。
小川麻琴は、昨日と今日で、すっかりと元気を取り戻していた。
「まぁ何処かで食べてるんだろう、こっちはこっちで楽しもうぜ」
「はい」
ニッと笑う飯田は、更に松坂牛ステーキを追加注文した。
昼食を終えてバスに乗り込む朝娘中学の生徒達。
辻達のバスの後ろに付いて発進する飯田のコルベット。
後部座席に陣取るハンサム軍団が窓をドンドン叩いた。
「うん?なんだアイツ等。泣いてるんじゃないか?」
前を走るバスの後ろの窓を叩く加藤と矢部と有野は
涙目で何かを訴えているように見える。
「きっと、飯田さんを見て嬉し泣きしてるんでしょう」
辻と加護も加藤達の間に割り込んで、
窓を叩いて何かを訴えている。
「あぁそうか。浜口って生徒を助けたから、
ありがとうって言ってるんだな」
昼食時間、罰としてバスに閉じ込められた辻班が、
昼飯抜きになったと、必死に訴えている事を知らない飯田と麻琴は、
「おーい!」と笑顔で手を振って答えた。
結局、浜口のせいで、その日の辻班の行動は教師達の監視付きになり、
二日目の班行動は自由も無く、重苦しい物となってしまい、
浜口の辻班での立場は、益々惨めな物となってしまった。
宿に帰り、夕食時間を一人、部屋で反省する浜口。
コンコンとノック。
「…誰や?」
黙って部屋に入ってきた紺野の手には、
皿に乗ったオニギリが2ヶとタクワンが3切れ。
浜口を不憫に思った紺野は、皆に内緒で、
オニギリを握って持ってきたのだ。
「こ、紺野…」
「みんな には内緒ですよ」
浜口は、修学旅行の前日に家で食べた夕食から今の時間まで、
鹿センベイとポテチ以外何も食べていなかった。
約二日ぶりに食べた、米は腹にしみる。
「美味い…美味すぎるで…」
何故か涙が出てきた。
「あまり心配させないで下さい」
微笑み交じりに溜め息をつく紺野の顔。
ウンウンと噛み締めるように頷く浜口は、
自分の顔が真っ赤になっている事に気付いていない。
「…じゃあ」
皿を持って部屋を出る紺野を見送った
浜口は「うしっ!」と小さくガッツポーズを作った。
「浜口、オマエ何ニヤついてんねん。腹立つわ!」
夕食を終えて、ゾロゾロと帰ってきたハンサム軍団は
妙にニヤニヤしている浜口に気付いた。
「な、なんでもあらへんがな。さ、風呂行こうや」
バンバンと矢部の肩を叩いて、
「ハッハッハ」と高笑いで部屋を出て行く浜口。
「なんや?アイツ?」
矢部が加藤と顔を見合わせて、「解からん」と首を振った。
夜…ハンサム軍団は、何もする事が無く、そそくさと布団を敷き
ゴロリと横になってダベっている。
監視対象になった矢部達の部屋の前には、
江頭が椅子を持ってきて陣取り、見張っているのだ。
「ちっ、ついてねえなぁ!」
ブツブツ文句を垂れる加藤。
「…お、俺、明日の自由行動に掛けるわ」
横になった有野が、天井を見ながら呟いた。
三日目の大坂は、午後の3時から3時間の自由行動が有る。
「何を掛けるんや?」と矢部。
「か、加護を誘ってみようと思う…」
「は?」
「…ちょ、ちょっと ええなぁと思うてんねん…」
有野は真っ赤になっている。
「オマエ…ハハ‥まぁ、頑張れや。
…そうかぁ、じゃあ俺はスーパーアイドル愛ちゃんでも誘ってみようかな」
そう言って、矢部はタバコを取り出して立ち上がり、
火を点けて紫煙を窓から外に吐き出す。
「よしっ、ほなら俺は紺野を誘うで!」
自信有り気な浜口。
「オマエは無理ちゃう?」
突っ込む有野も、何故か自信有り気だ。
「ほっとけ」
先程の紺野との出来事は、浜口に余裕を持たせた。
「待て待て待て…って事はよ、有野は加護だろ。浜口は紺野。
真治は麻琴って娘で、矢部は愛ちゃん…」
指折り、人数を数える加藤は、
「よっしゃ!」と笑顔でガッツポーズ。
「なんやねん?」
矢部がタバコを吸い終わり、戻ってきた。
「俺は飯田さんって事だよな?な?」
ニヤニヤと一人で納得する。
「イヤッホウ!なんか楽しくなってきたぜ!」
加藤は嬉しくて、布団の中で手足をバタつかせた。
「辻は どないすんねん?」と呆れ顔の矢部。
「あんなガキみたいなのは、ほっとけって!」
加藤の笑い声がゲラゲラと響く京都の夜…
修学旅行最終日は、波乱を含んだ旅になりそうだった…
今日はココまでっす。次回は明後日あたりに…と思ってます。では。
>>722 ははは、マジで?
\( ^▽^)/<ハナゲキターーー
ハマグチェバカーーー
>>734 マジマジ
736 :
625:04/04/07 21:38 ID:k1v76K1+
やっぱあんた最高だよハナゲ
( ・e・)>シ はなげビ〜〜〜ム
朝娘中学に入学して〜〜〜
おっさんだけど......._| ̄|○
最初からずっと読んでるけど面白いですねぇ。
>>736 教師なら行けるぞ!
――― 24話 修学旅行3日目 ―――
3日目の朝食時間の30分前。
修学旅行中、紺野のオニギリ以外、ろくな物を食べてない浜口は我慢できず、
ホテルの従業員が大広間に朝食を運んでいるのを横目に、
オヒツから、ご飯を勝手によそって塩を振って食べていた。
そこを江頭に見付かった。
「浜口!キサマ!何してる!」
「あ…いや、まだ一杯も食べてへん…」
「ババババババッカモ〜〜ン!!オマエは今日も飯抜きだ!!」
「えっ!ウソやん!」
「ウソじゃない!」
「……」
こうして、浜口は修学旅行中、
一食も皆と卓を囲む事が出来ずに終わる事になった。
大坂に着いて、お好み焼きの昼食時間も
一人でバスの中で時間を潰す事になる。
すがるような、浜口の小さくつぶらな瞳も、
さすがに ここまで来ては同情を引く効果が薄れ、
皆呆れて、掛ける言葉も無くバスを降りた。
「あかん…さすがにポテチも飽きてきたわ」
飽きたと言いつつ、仕方なしにポテチをポリポリ食べながら、
紺野から貰った お守りを取り出して見る。
「全然、効かへんかったな…」
窓から見える、雲がお好み焼きに見えた…
そうは言っても、午後の3時から、
3時間の自由行動に期待しない筈が無い。
大坂御堂筋の道頓堀商店街。
その商店街の近くの『浪速旅館』に荷物を置いた朝娘市中学一行は、
江頭の注意事項を聞いた後、6時まで自由行動になった。
勿論、飯田と麻琴も、この旅館のスィートルームに宿泊する。
「さて、どこに行こうか?みんな決まってるの?」
旅館のロビーで、辻班に合流した飯田が、皆を見回す。
「別に決まってないけど…」
そう言いつつ、武田が麻琴に、着いて来いと合図を送る。
「う、うん」
じゃあね と、恥ずかしそうに皆に手を振りながら
街に出て行く武田と麻琴。
「やるなぁ、真治」
感心しながらも、ソワソワしだす 有野と加藤。
「アンタ等なにソワソワしてんねん?アホちゃう?」
呆れ顔の加護は、「ねぇ?」と紺野に同意を求めた。
「ハハ、そうですね」
はにかむ紺野をチラチラ見ていた浜口が
勇気を出して、ズイと紺野の前に出る。
「な、なに?優君?」
ちょっとビックリする紺野。
「あ、あのなぁ、紺野…お母ちゃんのお土産、一緒に探して欲しいんやけど…」
顔を真っ赤にしながら、紺野に手を差し出して頭を下げる浜口。
「なんです?その格好?」
「お願いします!」
深々と頭を下げて手を差し出す。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000057.jpg 「ね、ねるとん や…」
「告白タイムなのです」
「ハハ‥やるねぇ」
加護、辻、飯田がポカンと口を開ける。
「…あ、あの」
困惑の紺野も真っ赤になる。
「お願いします!」
手を差し伸べつつ、ジリジリと前に出る浜口は必死だ。
「…仕方ありませんねぇ」
そう言いながら、紺野は浜口の手を取った。
「よっしゃあ!やったでぇ!」
ようやく、お守りの効果が出てきて、会心のガッツポーズを取る浜口と、
その浜口を見てクスクス笑う紺野は、武田達に続き街に消える。
「あちゃー、成功したやん」
「ぐっちょんの恋が実ったのです」
「ちょっと、感動的だな」
唖然としながらも、感心する加護、辻、飯田。
「よし、有野、行け」
小声の加藤に、肘で突付かれた有野の番。
「お、お、お、お、お願いします!」
意を決した有野も、浜口に続き 加護の前に飛び出し手を差し出した。
「はぁ?ウチかい?」
ポカンと口を開ける加護。
「お願いします!」
有野も必死だ。
そこに…
「アホ、なにやってんねん」
有野と加護の間に入った、矢部が顎をしゃくって
「ちょっと、付き合えや」
と、加護を促す。
「え?あ、う、うん」
ポケットに手を突っ込んで玄関を出る矢部に
チョコチョコと着いて行く加護。
「やべっちが あいぼんを かっさらったのです!」
「…すごい」
何故か感動する、辻と飯田。
ガックリと膝を付いて、出て行く2人を見送る有野の頭を
ポンポンと叩いた加藤は「オマエじゃ無理だったんだ」と侮蔑の笑みだ。
「さてと…」
ウンウンと咳払いをして、学生服のカラーを直す加藤は飯田に向き直る。
「…じ、じゃあ、私は のんちゃんと甘い物食べに行くから」
不穏な空気を感じた飯田は、そう言って、辻の手を取り 走り出した。
「えっ?」
目が点になる加藤。
「バイバイなのです!みんな6時には帰るのです!
これは班長命令なのです!」
飯田に手を引かれた辻が、残った3人に手を振って出て行く。
「…そ、そんな…」
呆然と佇(たたず)む加藤は、
キョトンと立っている高橋愛に気付き、チラリと盗み見る。
「あ、あのぉ…愛ちゃん?」
「なに?」
「俺と‥いや、俺と有野の2人を愛ちゃんのお供に…」
「加藤君は飯田さん狙いじゃなかったの?」
「い、いや!めっそうもございません!」
「本当?」
「ほ、本当です!」
そう言いながら、土下座をする加藤。
「ほら、オマエも土下座するんだよ!」
加藤は、振られたばかりで呆然としている有野の頭を押さえて
一緒に土下座をさせる。
「お願いします!この通りです!」
床に頭をこすり付けて お願いする2人の間を通り抜けて、
高橋はキャップを深々と被り、サングラスをかけて、ニコリと笑った。
「あ、愛ちゃ〜ん…」
高橋の微笑みを「OK」と受け取った加藤は、涙を流さんばかりに喜ぶ。
考えてみれば、アイドルと街を歩けるなんて夢のようだ。
「ゴメンね」
「へ?」
出た言葉は加藤を固まらせる。
「私、一人のほうが気楽なの」
「…」
タタタと駆け出して、玄関から消える高橋を呆然を見送る『振られ2人組み』。
「ち、ちっくしょう!!」
無情の加藤の叫びと共に、
加藤のビンタを食らった有野の頬が、パーンとロビーに響いた…
>「大坂×」御堂筋の道頓堀商店街。
「大阪○」御堂筋の道頓堀商店街。
間違えちゃったぜ。
@ノハ@
ハナゲキタ━━━━━━⊂´⌒つ‘д‘)つ━━━━━━ !!!!
|:::::::::::::::::::::
|:::::ノノハヽヽ:::
|::::川*’−’ )・・・ハナゲタソ・・・キタ・・・
|:::::(⊃ へへ:::::
|:::::::ヽ人___)__):::::_____
/
/
庵は雛型あきこにビンタしてほしいな
岡村先生は出てこないの?
萌え六大系統
行為系…他の属性はそれほど重要ではなく、そのキャラとの恋愛やエロに萌えを見出すタイプ。
身体特徴系…巨乳やふたなり、ロリペド、つるぺた、髪型などの身体的特徴に萌えを見出すタイプ。
職業系…メイドや看護婦、学生などの職業に萌えを見出すタイプ。
特技系…お弁当作りや格闘能力などの特技に萌えを見出すタイプ。
性格系…ダウナー、知欠、能天気などの性格に萌えを見出すタイプ。
人間関係系…幼馴染や妹、主従関係などの人間関係に萌えを見出すタイプ。
┏━━━━━行為系━━━━━┓
┃ ┃
身体特徴系 職業系
┃ 萌 ┃
性格系 特技系
┃ ┃
┗━━━━人間関係系━━━━┛
自分の系統の萌え 100%
隣り合った系統の萌え 80%
ふたつ先に位置する系統の萌え 60%
一番遠い萌え 20%
人間関係系保全
明日か明後日うpします。
( ^▽^)<ドキドキ
( ‘д‘)<ハナゲハナゲ
まだなのハナゲ
加藤は道頓堀商店街の ど真ん中の道を、辺りを睨み付けながら
ふて腐れたようにノシノシと歩く。
それにオズオズと続く有野。
勿論、地元の不良に絡まれる。
路地裏に連れて行かれても、ニヤリと笑う加藤は
あっさりと返り討ちにする。
だてに魔界街の不良をやってる訳ではないのだ。
「バ〜カ!おととい来やがれってんだ!」
逃げる不良達に石を投げつけて、パンパンと手の埃を払う加藤。
「なに弱い者イジメやってんの」
その加藤の襟首を掴んでポイと放り投げるのは飯田圭織だ。
「い、飯田さん!着いて来たんですか?」
尻餅を付いた加藤は、ビックリすると同時に顔を綻(ほころ)ばせる。
「偶然、見かけただけだよ」
「喧嘩したバツとして何か驕るのです。これは班長命令なのです」
飯田の後ろから 辻がヒョコッと顔を出して、ニッと笑う。
「は、はい!はい!なんでも驕りますよ!班長殿!」
イヤッホウと喜ぶ加藤。
「オマエも喜べ!ばか!」
何故か浮かない顔の有野の頭をバチンと叩く。
有野は、加護に振られたショックを未だ引きずっていたのだ。
「呆れた男子だねぇ」
駄々っ子のような加藤に呆れつつ、
飯田は「じゃあ、蟹道楽ね」と、加藤と有野の肩をポンと叩く。
「はい!行きましょう!蟹道楽…って…えぇぇぇえええ!?蟹道楽!!」
急に財布の心配をしだす加藤。
飯田と辻は顔を見合わせてプッと吹き出した…
土産物屋を覘く、武田と小川が、不良に絡まれた。
先程、加藤にやられた、不良達だ。
武田の学生服の校章が、加藤と同じ事に気付いた不良達は、
仕返しとばかりに、このカップルに因縁を付けたが、如何せん相手が悪すぎる。
加藤同様、あっさりと返り討ちにあった連中は逃げ出した。
「オマエのその格好が、悪いんじゃねえの?」
武田は、小川の巫女姿が、因縁を付けられた原因じゃないかと疑る。
「じゃあ、武田君と同じ制服になる…」
「…うん?」
「飯田さんがね…来週から武田君達の中学に転校させてくれるって…」
少し はみ噛みながら、頬を染める小川麻琴。
「そ、そうか…」
「嬉しい?」
「あ、あほ言え…」
真っ赤になりながら鼻の頭をポリポリと掻く武田。
それを見ながら小川がクスクス笑った。
ブラブラと一人で探索する高橋愛は、ある光景を見つけて物陰に隠れた。
それは、加藤と武田に返り討ちにあった3人の不良達が
浜口と紺野に因縁を付けている所だった。
勿論、浜口の学生服の校章を確認しての恫喝だ。
紺野を背中に庇う浜口は、胸倉を掴まれ、凄まれているが、
紺野の手前、引くに引けないでいる。
その浜口の態度が、不良達の逆鱗に触れた。
そうっと顔を出して、事の成り行きを見守る高橋。
「ハハ、格好つけちゃって…って、ありゃ!」
浜口がグーで殴られた。
「もう、あさ美ちゃん、魔力でやっつけなさいよ」
浜口の後ろでオロオロしてる紺野を「何してんのよ」と、イライラしながら見てると、
一台の車高の低い改造車が連中の前で横付けして停車した。
「あ、押尾さん。丁度いい所に来てくれました」
ペコペコと頭を下げる3不良。
「コイツ、ちょっと絞めちゃってくださいよ」
浜口の髪を掴んで顔をグイと持ち上げる。
車の窓から顔を出した、押尾と呼ばれた男は、
ギラつく目付きで浜口と紺野を舐めるように睨む。
「生意気な顔だな」
下卑た笑いとドスの効いた声。
「そうでしょう?やっちゃって下さいよ」
「よし、乗せろ」
浜口と紺野は無理矢理、車に押し込められた。
「あっ、拉致られた…」
高橋は慌てて自分のバッグから、一枚の紙を取り出す。
「後を着けるんだよ」
そう言って放り上げた紙は、カラスに変化して
バサバサと翼を広げ、高橋の上空を一回りしてから
黒い拉致車を追いかけた。
「ここが有名な道頓堀川や」
人通りの多い道頓堀橋で、矢部と加護は橋の手すりから
濁った泥流を眺める。
「見てみい、きったない川やでぇ。
こんなドブ川に飛び込む奴の気が知れんな」
ハハハと笑う矢部がタバコを取り出して火を点けた。
矢部と同じく道頓堀川を眺める加護は
さっきから、ずっと無口のままだ。
その加護がチラリと矢部を見る。
「…うん?どないした?」
「…タバコ」
「別に大丈夫やろ」
学生服の矢部は、そう言いながら 煙の輪を作ってポンポンと噴出す。
「…体に悪いんとちゃうの?」
「…そうか?」
加護に言われて、口に咥えたタバコを取ってシゲシゲと眺める矢部。
「…ほなら止めるわ」
ピッと弾いたタバコが放物線を描いて泥流に落ちた。
淀む川は色んなゴミを運んでくる。
そのドブ川を暫くの間、眺める2人…
「な、なぁ?」
加護は聞きたい事が有った。
「なんや?」
「…な、なんで うちを誘ったん?」
矢部は、少し考えてから
「…有野がな」
と答えた。
「有野がどないしたん?」
「有野が、昨夜(ゆうべ)オマエを誘う言うて、張り切っててな」
「…それで?」
「…少し、ムカついた」
「ハァ?」
矢部は手すりから離れて背中を向けた。
「嫉妬かもしれへん」
チラリと振り返る矢部の横顔…
「さ、行くで…」
スタスタと歩く矢部の背中…
「う、うん」
その背中の後に着いてチョコチョコと歩く加護の頬は
道頓堀川に差し込む夕日のように赤くなっていた…
その矢部、加護と すれ違う、キャップを深く被ったサングラスの女子…
「あれ?今の愛ちゃんとちゃう?なんか、焦っとるみたいやったで」
加護が振り返り、雑踏に消える高橋を目で追った。
「そうか?んじゃ、正体がバレて、ファンにでも追い駆けられてんちゃうか?」
「そっか、アイドルも大変やねぇ」
しみじみと頷く加護。
「ハハハ、オマエじゃアイドルに なれへんからなぁ、嫉妬すなよ」
「誰が、あんな子に嫉妬すんねん!」
プイと横を向く加護に、からかう様に笑う矢部。
そんな2人の会話を知る由も無い高橋愛は、
上空を飛ぶ一羽のカラスを追いかけていた…
車で拉致された浜口と紺野は、どこかの川の河川敷で降ろされ、
橋の下に引っぱり込まれた。
「何すんのや!オマエ等!」
茶髪と金髪に両腕を捕られて、もがく浜口の声は震えていた。
「ギャハハ、コイツ 女の前だからって威勢がええの!」
ドンと浜口の尻を蹴って転ばせるロンゲ。
「オマエ等、適当に そのバカの相手をしてやれ」
押尾が、大事そうに自分のバッグを抱える紺野を
後ろから羽交い絞めにして胸を鷲掴みにする。
「キャーー!!」
「やめろぉぉおお!!」
「はぁ?やめるか、バ〜カ!」
ゲラゲラと笑う押尾が、子分に顎で合図を送る。
ニヤニヤ笑うロンゲが浜口の鳩尾に拳を入れた。
「うげぇ!」
「やめてぇぇえ!おねがい!!」
「うひょう!いい声で鳴くぜ!」
浜口の呻き声と紺野の悲鳴を合図に、リンチが始まる。
「おらぁ!」
ドスッ!
「どうした?ヒーロー!」
ボカン!
「お姫様を助けたいんだろ!」
バキッ!
下卑た笑いの不良達にボコボコに殴られ、
浜口は血を吐き、額が切れ、顔が腫れ上がってくる。
「…こ、紺野に手を出してみろ…ぶっ殺す…」
それでも紺野を守ろうとする気概だけは立派だ。
「だから、やってみろって!ギャハハハ!」
「テメーが死ねや!」
「今の一声で死刑決定な!」
浜口がボロ雑巾のように崩れ落ちても、
不良達の蹴りは執拗に続いた。
ピクリとも動かず、顔の形が変わり、
もう、誰の顔さえかも分からなくなった頃に
ようやくリンチも終焉を向かえる。
何故こんな事になるのか理由が全く解からない。
最初、「やめて」と叫んでいた紺野もショックで声が出なくなっていた。
顔が真っ青になりガタガタと震える紺野は、
自分が押尾に体を弄(なぶ)られている事も気付いていなかった。
「よし、今度はコイツを輪姦すぞ」
押尾が紺野の腕を取って、車に引きずり込もうと停車している自分の車を見た。
その顔が驚愕する。
ボンとボンネットが開くと同時にエンジン部分にドンと火がつき
煙が上がり、タイヤがバンバンと音を立ててパンクしたのだ。
「な、なんだ!?」
ガラスが全て割れ、車体にボコボコと銃撃でも受けたような穴が開く。
「……」
完全にオシャカになった車を呆然と見ていた押尾と不良仲間。
「グギャ!!」
押尾が自分の太腿を押さえて転げ回った。
「押尾さん!」
駆け寄る不良達に囲まれた押尾の太腿は肉がめくり上がり
ドクドクと血が出ていた。
「アンタ達…死ねば?」
声のする方を見ると、ピクリとも動かない浜口の傍に
帽子を深く被りサングラスで目を隠した、紺野と同じ制服の少女が立っている。
その少女の右手には、拾った小石がジャラジャラと握られていた。
http://blanch-web.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/data/IMG_000058.jpg 「…なんじゃ!テメーは!」
歩み寄ろうとした金髪の右肩がボンと破裂して、血が噴出す。
少女が投げた小石が金髪の肩に当たって、肉を裂き骨を砕いたのだ。
「あ、愛ちゃん!」
紺野が高橋に気付き、駆け寄る。
「…あさ美ちゃん…殺していい?コイツ等」
そう言いながら高橋が投げた小石は、茶髪の手の平を貫き、
小石と同じ大きさの穴を開ける。
「こ、殺しちゃダメ!」
「じゃあ、殺さない」
しかし、投げる小石はロンゲの顔面に命中、
無残にも鼻が跡形もなく消えた。
「でも、半殺しにする」
足元に落ちてる小石を拾って投げる格好は少女のソレだし、
投げる小石のスピードも、たかが知れている。
だが、不良達に当たる小石は肉を潰し、骨を砕いた。
絶叫を上げて転げ回る押尾達の阿鼻叫喚の地獄絵図は、
激痛によって声が出なくなるまで続いた。
高橋が押尾に近付き、顔面を蹴り上げる。
グシャリと鈍い音がして、押尾の顎が潰れた。
「きったないわねぇ…慰謝料貰うわよ」
そう言いながら、失禁し血まみれの不良達のポケットから財布を取り出して、
車中で浜口と紺野から奪った金を含めて、財布の中身を全て抜き取った。
「命だけは助けてあげる…さぁ消えなさい。這ってでも」
命令されても動ける筈がない。
全身の骨が折れているのだ。
だが、呻きながらも這い出す血まみれの不良達。
それは、高橋の言葉に無理矢理操られている木偶人形のようだ。
這い逃げる不良達を見届けた高橋は、浜口の頭を膝に乗せて
血をハンカチで拭き取る紺野を見た。
「それじゃ、拭いきれないよ」
そう言って、自分のバッグから飲料水のペットボトルを
取り出して「はい」と、紺野に手渡す。
「…ありがと」
ペットボトルの水でハンカチを湿らせて、血糊を拭い取る紺野は
ポロポロと涙を流していた。
「…ねえ愛ちゃん」
不意に聞きたくなった。
「なに?」
「…どうやったの?」
さっきの殺人技の事だ。
「どうやるも何も、只、アイツ等が死んでもいいと思って投げただけよ」
「…それだけ?」
「あさ美ちゃんも魔女見習いなんでしょ?念を込めるなんて基本技じゃん」
ふうっと溜め息を付きつつ、何故こんな事を聞くんだ、と、高橋は訝しげだ。
「そんな事もできるんだ…」
紺野は、以前中澤が紺野達に言って聞かせた
紺野達と高橋の資質の違いを思い出した。
魔女になる目的の違いが、今の紺野と高橋の違い…
高橋は目的の為なら平気で人を殺せる人間なのだ。
「あさ美ちゃん?」
「なに?」
「私が出て行かなかったら、あさ美ちゃんはアイツ等を殺してたよ」
「…え?」
高橋の言葉に、スーッと血の気の引く思いの、紺野の涙が止まる。
確かに、瀕死の浜口を目の当たりにした紺野は
メラメラと湧き出る殺意を自分自身感じていたのだ。
---何故、そんな事が分かるの?---
「あさ美ちゃんのバッグの中…式神入れてるでしょ?」
「…!!」
紺野は愕然とした。
護身用に いつも持ち歩いている五芒星が描かれている
魔法陣の紙の事を高橋は知っていた。
そして、ソレを初めて使いそうになった事を…
(魔法陣の紙は中澤に持ち歩くように言われて、いつも鞄の中に入れているのだ)
「どうして、それを?」
「だ か ら、魔女見習いでしょ?感じるじゃん」
高橋は呆れたように首を振る。
目的の為なら平気で人を殺せる高橋は、
キレて自分を見失い、不良達を殺してたかもしれない紺野の心理状態を
感じ取って、「それなら自分が」と不良達を懲らしめたのかもしれない。
「そんな事より…」
驚きを隠しきれない紺野をよそに、
本当に…本当に、そんな些細な事はどうでもいい、と言った感じの
高橋が、ボコボコに腫れた浜口の顔をしゃがんで覗き込む。
「酷いやられようだね」
そっと浜口の顔を撫でる。
「あ…う、うん」
「こんなになるまで、やられて、ダサすぎるよね」
フンと鼻で笑う。
「え?」
「弱いくせに、格好付けるなって感じ」
指で浜口の鼻をピンと弾く。
「愛ちゃん!」
咎める紺野を無視して、スクッと立ち上がる高橋は
「でも…少し格好良かったよ」
と、浜口を見下ろす。
「…え?」
「少し、見直したかも」
ポンポンとスカートの裾を払いながら言う。
「え?え?」
「少し、好きになったかも」
浜口を見る高橋の顔は微笑んでいた。
「え?え?え?」
何故か動揺する紺野。
その時、ウ〜ンと唸りながら浜口が意識を取り戻した。
「気付いたみたいね」
「ま、優君!」
「…おぉ、紺野…アイツ等は…?」
意識がぼやけていても、紺野の身が気がかりな浜口。
「浜口君、憶えてないの?」
腰に手を当てた高橋がヤレヤレと呆れたように聞く。
「あれ?…愛ちゃん…なんでココに?」
「浜口君が、アイツ等をボコボコにやっつけたんだよ」
悪びれていても、高橋は浜口に花を持たせたかった。
「…は、ほんまか?」
「本当よ、格好良かったんだから。ねえ、あさ美ちゃん?」
高橋は紺野にウィンクして、話しを合わせろと合図を送る。
「う、うん。格好良かったよ、優君」
合わせた紺野の言葉は嘘ではない。
「…そっかぁ、無意識の俺は無敵やな…良かったな紺野…」
そう言いながら、浜口がまた意識を無くす。
スヤスヤと笑うように目を閉じる所を見ると今度は眠ったようだ。
「ハハ…バカ」
「本当…バカ」
紺野と高橋は顔を見合わせてクスッと笑った。
その紺野の顔が、何かに気付きハッとなる。
「愛ちゃん…もしかして、最初から見てたの?」
ニーッと歯を見せて笑う高橋は、
上空を舞う式神のカラスを呼び戻し、魔法陣の紙に戻しながら、
「私は帰るから、あさ美ちゃん達も遅れないで来てね。
また、夕食抜きになっちゃうよ」
そう言いながら、夕日の中に走って消えていった。
浜口の意識が回復するのを待って、タクシーで浪速旅館に戻ったのは
夜の7時をまわっていた頃だった。
玄関には仁王立ちの江頭が待っていたが、
浜口の姿を見ると、慌てて警察に連絡すると騒ぎ出した。
警察に連絡されると困るのは紺野の方だ。
不良達は今頃、死んでるかもしれないのだ。
だから、自分が不良達に絡まれている所を
浜口に助けられて、相手も相当の怪我をした筈だから
警察沙汰にはしないでと、懇願して、その通りになった。
罰として、またしても浜口だけ夕食は抜きになった。
そして、看病の為、包帯を巻く為、紺野は夕食の時間を抜け出して
浜口が寝ている、辻班男子の部屋に入った。
上半身裸の浜口は全身痣だらけで、
よく骨折しなかったと少しホッとした。
「はい、これで良しっと」
ペンと背中を叩かれて包帯だらけの浜口は「痛てててて」と仰け反る。
「フフ‥散々な修学旅行でしたね」
「ほんまや」
クスクスと二人で笑うが、笑うのも一苦労の浜口は
またしても「痛てててて」と布団の中で仰け反った。
「もう、ちゃんと寝てください」
「…すまん」
「格好良かったよ…」
頬を染める紺野。
「…失敗した」
「…?」
「感覚が全然あらへん…」
顔が腫れ上がって感覚が麻痺している浜口には、
紺野の唇の感触は得られなかった。
「残念でした」
ペロッと舌を出して照れ笑いの紺野は
「エヘヘ」と笑って、部屋を出た。
「ほんま、ついてへんわ…」
そう言って、自分の唇を触る浜口…
紺野のお守りは、確実に効いている…
フニャフニャ笑いの形を作る 浜口の唇が、そう物語っていた…
今日はココまでです。やっと修学旅行編が(;´Д`)オワタ
誰かのリクエストに答えて紺野とハマグチェのその後を書いたが
こんなに長くなるとは思わなかったぜ。
ちゅうことで次回からは殺戮が始まります。 では。
\( ^▽^)/<キターーーー
ハマグチェがいい思いするのはなぜか悔しい・・・
俺は愛たんに萌えることにする。
782 :
ねぇ、名乗って:04/04/22 07:11 ID:AvfuI7jR
お塩が復活してなっちに手出さないことを祈る・・・。
783 :
ハナゲ:04/04/22 21:11 ID:yaG4PINf
ハァ━━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!
ハナゲGJ!
( ^▽^)<大の大人が(ry
ダメだな、オレはこういう青い話が大好きなんだ。
( ^▽^)<大の大人が保全なんて(ry
4月最後の保全
ハナゲハナゲ
ハナゲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
( ^▽^)<おーい、ハナゲー!まだかーーーーー?
ハナゲは抜かれました。また生えてくるまであと2週間はかかります。
――― 25話 ショートエピソード01 ―――
俺の目の前にある橋の向こう側に奴は居る。
10年間追い続けて、やっと見付けた。
婦女暴行と殺人を犯した糞野郎だ。
被害者は女性だけ、12人…
昨日、俺は被害者の一人の少女の墓前に報告しに行った。
御両親は俺に頭を下げて、よろしくと一言だけ言った。
必ず捕まえて法廷で全てを明らかにしてやる。
死刑は確実な男だ。
死刑によって殺される前に、事件の全てを明らかにして、奴の闇を晒してやる。
俺は警視庁捜査一課の末席に座り、迷宮入り確実な事件を
追跡調査する仕事に従事している。
だが、今まで挙げた犯人は片手にも満たない数だ。
それだけ、俺に回ってくる未解決事件の捜査は難しい。
それでも、やっと、蜘蛛の糸をたどるようにして探し当てた。
定年前の俺の最後の仕事だ。
この橋の向こう側…
魔界街に犯人は居るのだ…
俺に見付かり、追いかけられた奴は、商店街の花屋の前で人質を取った。
店から出てきた、白い薔薇の花束を抱えた女子高生だ。
少女の首筋にサバイバルナイフを押し当て、奴は何事かを喚く。
おかしな事が起きた。
拳銃を取り出して構える俺に向かって、
花束を俺に向けた少女が言ったのだ。
「撃つのは、お止めなさい」 と…
「私に当たったら、どうするのです」 と…
言いながら、少女は奴から そっと離れて、
路上に停めてあるリムジンに向かった。
「岡村、出しなさい」
「…はい、美貴様」
運転手にドアを開けさせてリムジンに乗り込む少女は、そのまま街に消えた。
奴は…
奴は、絶命していた。
体中から、薔薇の枝が生え、花を咲かせ、血を流し…
その姿は干乾びたミイラのようだった。
朝娘市警察の検死に立会った俺は、唖然とするしかなかった。
奴の頭上に植え込まれた一本の薔薇は、全身に根を伸ばし、
血を吸い、芽を出し、新たな薔薇の花を咲かせたのだ。
このような事例は、珍しいが さほど驚くような事ではないと、検死官は笑った。
そして、言った。
「この男を殺した女性を、逮捕はできない」 と…
朝娘市警察署を出た俺は、唾を吐き捨てた。
喉がカラカラに渇いていた。
反吐が出る…
唾棄すべき街だ…
俺が10年の歳月を掛けて追い続けた犯人を
一人の少女が、あっさりと奪った。
もう、二度と魔界街に来る事はないだろう。
俺の刑事生活は、この事件で幕を閉じたのだ。
おまたせした割には短くてスマソ。今日はココまでです。
一応チョコチョコ書いてますが、次回更新も未定。 では。
800 :
名無し募集中。。。:04/05/06 21:53 ID:sNlOnPk5
800ゲットだゴルァ!!!
\____ _____
∨
,--------,-----------、
/∧∧ / ̄ ̄|.| ̄.| ̄.||
______[/_(゚Д゚ )___/ニ]_____|.|__|____||
.l0i=Θ=iOiヲ,__,--.、{----={-----=-{|
ニニニ[曰[[ロニ// ̄~|ト|ニニニ|// ̄~|ト_7 ==3
(X(T ̄ ̄T.(X( O )======|X( O ) ==3
´ゝゝ ノ ̄ ̄ゝゝ___ノヽゝ_ノ ゝゝ__ノ
ハナゲキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
ミキサマになにがあったのー?
あっ、やおいゲット。
>>801藤本は、こうなっとります
心臓抜かれる
↓
魔術を掛けられKEIに移植
↓
取り戻すが術は掛かったまま
↓
特殊能力発現
85年組好きなんで楽しみだ
ハナゲガンガレ
↑すいません。誤って送信してしまいました。
素敵な展開の予感!!
最初からROMってますが、久々に魔界都市に似た空気にドキドキです。
ハナゲさん、Good Job!!!
最近ほのぼのが多目だっただけに
>>808が言うようにヒサビサに他とは異質な都市なんだな というのを改めてオモタ
810 :
ねぇ、名乗って:04/05/08 21:45 ID:xs26UqGv
狼のみなさんは好きです。
瑞鶴レス続×89 U F A も う だ め ぽ sage作戦進行中
( ^▽^)<ハナゲハナゲ
812 :
ねぇ、名乗って:04/05/10 18:50 ID:YZ001Xh0
正直どのスレもキモすぎて鳥肌たった
――― 25話 ショートエピソード02 ―――
平家みちよの記憶の全てを受け継いだ石川梨華は
『スナックみちよ』も当然のように受け継いだ。
身寄りの無い平家の財産は億単位で、小川神社に寄付した一億円を引いても
数千万の現金と、この店が残っている。
新装開店した店の名前は『スナック梨華』。
営業日は月、火、木、金、の4日だけで、
営業時間も夜の6時から10時までの4時間だけだ。
営業許可証は、平家の残した情報と引き換えに、飯田圭織が手を回した。
高校に通いながら、遊び半分の感覚で仕事ともいえない仕事をする。
つまり、趣味で「水商売ごっこ」をしているのだ。
内装をモノトーンに変えた店内は、以外と落ち着いていて、
以前からの常連客は石川の接客が楽しみで、足げく通う。
そして、従業員が一人増えた。
カウンターでシェイカーを振る、黒のチョッキと蝶ネクタイのバーテンは
その美貌で、新たな女性客を呼び込む。
吉澤ひとみだ。
石川に誘われ、嫌々ながらも石川の事が半分心配な吉澤は
ボディガード兼バーテンダーとして、自給2千円という低給にも拘わらず
律儀にも仕事をこなしている。
それでも、カウンターに座る飯田圭織に水割りを
差し出す顔は、まんざらでもなさそうだ。
---カランカラン---
ドアが開いて、一人の客が入ってきた。
「いらっしゃ…」
白い薔薇の花束で顔を隠した その姿は、見た事がある制服を着ている。
て言うか、ハロー女子高のセーラー服だ。
しかも、金色の刺繍が散りばめられている…
「開店祝いに参りましたわ」
薔薇の花束からヒョコッと顔を出したのは、藤本美貴だ。
「ちょ、ちょっと、アンタ!何しに来たの?って言うか、何でココが分かったの?」
接客中のテーブルから立ち上がり、石川がツカツカと歩み寄る。
「調べれば、すぐ分かる事よ。それより貴女は接客中でしょ」
そう言いながら石川を無視する藤本は、カウンターに座り、吉澤に薔薇の花束を手渡した。
「ちょっと!私の店よ!」
ムキになる石川に、フンと鼻で笑う藤本は、石川の耳に口を近づけて囁く。
「高校生だって、お客さんにバラすわよ。あと学校は退学になるでしょうねぇ」
「…うっ」
「分かったら、貴女はテーブルで接客してなさい」
シッシッと犬でも追い払うように石川に手を振り、吉澤に向き直った藤本は
「貴方おすすめのカクテルをお願いするわ」と、カウンターに肘を付いた。
「…OK」
吉澤はカクテル棚からウォッカベースのローズウォーターを取り出し、
淵を水で濡らし塩の花を咲かせたカクテルグラスに注ぎ、
シャンパンを足し、藤本が持ってきた白い薔薇の花弁を一枚浮かべた。
「どうぞ…」
すっと差し出したカクテルから香る、薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。
「なんて お名前のカクテル?」
「ノーブルローズ…」
「まぁ」
「そう、高貴な貴女にピッタリのカクテルです」
カクテルに口をつけた藤本の頬が染まる。
「気高き薔薇は、散る時も美しいと聞く…」
水割りのグラスを置いた飯田が、タバコに火を点けた。
「……?」
「オマエからは血の匂いがする…」
気だるそうに紫煙を吐き出す。
「どなた?」
先程立ち寄った花屋で、人を殺してきた。
藤本の首にナイフを突き出した狂人だ。
「この人は刑事さんだよ。藤本、オマエの心臓を取り戻すのに尽力した人だ」
「…そう」
吉澤に紹介され、軽く会釈をする藤本。
目を閉じてフッと笑う飯田は、一万円札をカウンターに置いて立ち上がった。
「まぁ、吉澤の彼女なら、悪い奴じゃないだろう…」
ポンと藤本の肩を叩き、
「オマエも、私達のチームに入るか?」
そう言い残し、店を出て行った。
「チーム…?」
不思議そうに聞く藤本。
「…この店と同じだ」
飯田のグラスを片付けながら吉澤。
「どう言う事ですの?」
「警察『ごっこ』…」
吉澤はニヤリと笑った。
「…あの刑事さん、出る時なんとおっしゃったか聞いていて?」
「…?」
「私の事を貴方の恋人と言ったのよ」
「…ハァ?」
「私も、その『ごっこ』に付き合うわ」
微笑む藤本は、一気にカクテルを飲み干す。
後ろのテーブルからガタンと立ち上がる音が聞こえる…
振り向く藤本の瞳に、プルプルと拳を震わせる石川の姿が映っていた…
ミキティあんたも高校生だよミキティ
ハナゲおもしろいよハナゲ
_, ,_
(; ´Д`) 美貴様ハァハァ・・・
( ´、_ゝ`)y-~~
823 :
保:04/05/19 12:15 ID:5g8Ks0w/
全
傷心保全
――― 26話 夏のソナタ ―――
7月の、日差しが眩しい午後のカフェテラス。
白いサマーセーターに、サラサラとした茶髪、メガネを掛けた
甘いマスクの男の眼差しは涼しげだ。
うつむきながら紅茶に口を付ける女性は、男とは対照的に影が薄い。
いや、薄いどころか無惨にさえ見える。
目には隈ができ、肌はカサつき、顔色は血が通っていないかのように青黒い。
だが、男を見る瞳だけは情熱的に輝いていた。
「残念だが、君とはもう会わない事にしました」
「そう…」
「今でも、君を想う気持ちは変わりません…」
「本当?」
「ええ、でも今日でサヨナラです」
「…分かったわ。でも、最後にもう一度だけ抱いてください」
女の懇願に、一瞥をくれただけで椅子から立ち上がった男は首を振る。
「それは、お断りします。貴女の体は汚(けが)れ過ぎてしまった」
「それは、貴方の生活費を稼ぐ為に…!」
「僕は汚れた女性は嫌いです。特に貴女のように体を売る女性には触りたくも無い」
「そんな!…あ、貴方がしろって…!」
「サヨナラです」
立ち去る男の背中に ぶつかる女の絶叫。
「ヨン様ぁぁああ!!」
叫ぶ女は近い将来自ら命を落とすだろう…
そのように暗示を掛けているからだ。
男は自ら蛇眼と名付けた、人を操る術、『邪眼』の持ち主だった。
蛇眼に魅入られた女は、全てをこの男にささげる。
唇から発する『言霊』を蛇眼に乗せて女を虜にし、
体がボロボロになるまで、自分に尽くさせる。
体を売り、クスリに手を付け、寝る事も惜しみ男の為に働き捨てられる。
この男に食い物にされた女は数え切れない。
そして男は、警視庁から指名手配を受けた。
さすがに裏社会からも目が付けられ、東京に居られなくなり、
逃亡しながら辿り着いたのが魔界街だったのだ。
この街なら、日本の法律もヤクザも手が出せない。
そして、魔界街最初の餌食は、今捨てた女だ。
唇の端だけを吊り上げて笑う、ヨン様と呼ばれた男は
次の獲物を物色する事に決めた。
『スナック梨華』の前に一台の高級リムジンが止まっている。
藤本美貴は何故か毎晩のように通う常連客になっていた。
バーテンダーの吉澤と楽しい一時を過ごすのが目的だが、
ママの石川を からかうのも楽しかった。
「オマエ、変わったな…」
吉澤がグラスを拭きながら藤本に話しかける。
「そうかしら?」
「…ああ」
確かに藤本は変わった。
何が変わったと聞かれれば、雰囲気が変わったとしか言いようがない。
以前のようにトゲトゲしさが無くなり、高笑いもしなくなった。
見た感じはそれだけなのだが、何かが違う。
身にまとうオーラが違っているのか、
それとも、ただ単に大人になっただけなのか…
「ふふ、それは貴方にとって嬉しい事なのかしら?」
「…そうかもしれん」
目を閉じてフッと笑う吉澤に、薄く微笑み返す藤本。
「オマエには白い薔薇が良く似合う」
吉澤が藤本のセーラー服の胸のポケットに挿してある
一輪の白い薔薇を差して、藤本を見詰めた。
「まぁ、お上手ねぇ」
藤本の頬が薄ピンク色に染まる…
そんな雰囲気の2人を歯噛みしながら睨み付け、
テーブルで他の客を接客する石川。
カランカランと音を立ててドアが開き、一人の男が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
カウンターに座る男に、吉澤が注文を取る。
「あの女性と同じ物を…」
椅子を2つ空けて座る藤本のカクテルを見て、同じ物を注文する男。
「かしこまりました」
出されたカクテルに口を付け、
「素敵な味です」と吉澤に話しかける男は、
勿論 間接的に藤本に話しかけているつもりだ。
店の前に横付けしてある、リムジンを見て入店したのだが、
その車の持ち主が、お嬢様風の女子高生だと一目で分かった。
店の中で、只一人、違ったオーラを醸し出していたのだ。
それは、高貴な薔薇のオーラだった。
次の獲物を探していた、蛇眼の持ち主は歓喜に震えた。
こういう お高くとまった女を自分の奴隷にするのが唯一の楽しみなのだ。
蛇眼の威力を発揮するには、視線を合わせて言霊を発せばよい。
男が話しかけようとした所に、接客が終わった石川が入ってきた。
藤本と男の間に座り、藤本に向かって
「いつまで居るつもりよ!」と毒づく石川は男に向かって
「いらっしゃいませ〜」と営業スマイルを見せた。
「ほう…」
男は石川の美貌に気付き、ニヤリと微笑む。
「素敵な方だ」
そう言いながら石川の瞳を見詰める。
藤本を落とせなかった場合の保険にと、石川に蛇眼を仕掛けたのだ。
「僕はペィ・ヨンジュンと言う者です」
ポーッと頬を染める石川の肩越し、藤本にも名乗ったつもりだ。
「まぁ、じゃあヨン様とお呼びしてよろしいのかしら。私はママのリカと言います」
天使の微笑みと自賛する、マダムキラーの微笑みは
蛇眼の威力を持って石川を呆気なく落とした。
「で、そちらの方は?」
藤本に話を向けるが、石川はプイッと藤本の事は無視する。
男の下心に気付き、嫉妬したのだ。
「おやおや、どうしたんです?」
「もう、意地悪な人」
石川は男にしなだれ掛かり、二の腕をキュッと捻った。
その光景に、ハァ?と、吉澤が咥えていたタバコをポトリと落とし、
それを拾い上げた藤本が、また吉澤に咥え直させた。
「あちらの邪魔をしてはイケなくてよ…」
藤本が店のマッチを擦って、吉澤のタバコに火を点ける。
「私にタバコの火を点けさせる事が出来るのは、貴方だけなんだから」
フッと甘い吐息でマッチの火を消す藤本は、魅惑的な瞳で吉澤を見詰めた。
「…ハハ」
「ウフフ…」
何故か顔を赤くする吉澤に、カクテルを傾ける藤本…
絵になる大人の関係と言った所か…
藤本のセーラー服を除けば…
「僕達も お仲間に入れてください」
石川に しなだれ掛かられたままの優男は、
カクテルグラスを軽く上げて、藤本と吉澤の間に割り込もうとする。
「……」
無視する藤本。
「お願いします」
男はカウンターに身を乗り出して、藤本に笑いかけた。
こんな高貴な雰囲気を持つ女は出会ったことがない。
男は、どうしても藤本を手中に収めたかった。
だが…
「私に話し掛けないでくださる?無粋ですわ、見て分からないの?」
吉澤との雰囲気を壊されたくない藤本は、視線も合わさず見下すような物言いだ。
「そのような悲しい事を言わないでください。薔薇のごとく美しき人よ」
余りにも臭い台詞に吉澤が下を向いてプッと噴き出し、藤本が目を閉じて軽く首を振る。
「お願いします、せめてお名前だけでも…」
内心ムッとしながらも、微笑みを絶やさない男は
立ち上がり、藤本のもとに歩もうとする。
その後頭部に銃が突きつけられた。
「下衆め、お嬢様に近付くな」
リムジンの運転手が何時の間にか現れ、近付き、男に銃口を当てていたのだ。
「岡村、お止めなさい」
岡村と呼ばれた、猿みたいな顔の小柄な運転手兼ボディガードは、
藤本に一礼をして引き下がる。
「今日は帰ったらどうだい?」
ヤレヤレと溜め息を付く吉澤が、男に帰るように促した。
「分かりました、今日のところは退散します。
でも、僕は諦めませんよ。貴女みたいに美しい人は初めてだから」
肩を竦(すく)めながらも自信有り気な笑みを絶やさない優男(やさおとこ)は
ペコリとお辞儀をして、店を出た。
「何だったんだ?…変な男だったな」
いくらなんでも あの男は自分に酔いすぎだろ、と、少し呆れ気味の吉澤。
「変?それどころじゃないわよ。見てみなさい、石川さんを」
冷ややかに石川を見る藤本。
石川は頬を染めながら、男が出て行ったドアを見詰めている。
その表情はどこか悲しげだ。
「あぁ、ヨン様…」
「ハァ?」
妙に艶かしく体を捻る石川に、唖然とする吉澤。
「おい、大丈夫か?」
カウンター越しに肩を揺する吉澤の言葉にハッとした石川は、
キョトンとしながら、夢から醒めたように少しの間 呆けていた。
「おいおい、しっかりしろよ」
「あ〜ん、もう、よっすぃ」
吉澤にペチペチとホッペを叩かれた石川が、その手を取って頬擦りをする。
どうやら元に戻ったようだ。
吉澤が、長い溜め息をついた。
「岡村、いますか?」
少し考えてから、藤本は岡村を呼ぶ。
「ハッ、ここに」
外に出た筈の岡村は、藤本の言葉に何時の間にか姿を現し、頭を垂れた。
「今の男、着けなさい」
「かしこまりました」
一礼をして、踵を返す岡村。
心臓を抜かれた事件以来、藤本に付けられた岡村は
元々藤本の父親のボディガードの中で一番優秀な男だ。
もう、二度と娘を危険な目に遭わせたくない藤本専務が
親バカ振りを発揮したのだが、岡村というボディガードに
守られた藤本は、親の気持ちも知らずに危険に飛び込む。
「オマエの運転手も変わってるな」
「ふふふ、優秀な運転手よ」
携帯で代わりの運転手を呼ぶ藤本は、吉澤にウィンクして見せた。
「あっちぃ!」
元朝娘市駅のバスターミナル跡に造られた、
噴水公園のベンチに腰を下ろした矢口真里は、夏の太陽によって
熱を持った腰掛け部分の熱さに驚き腰を上げた。
「ハハハ、そんなに熱いの?」
ソフトクリームを買ってきた安倍なつみが、笑いながら矢口の分を渡した。
「サンキュ」
今日の学校は午前中に終わり、MAHO堂に直行するのも
詰まらない2人は、今は公園となっている元朝娘市駅で
時間を潰していたのだ。
ペチャクチャと、取りとめもない話しをしていると、
2人の前にサマーセーターを着た男が立って、
優しそうに微笑んでいる。
「地元の高校生ですか?」
「…はい」
訝しげな矢口と安倍。
「いや、旅行で来たんだけど、やっぱり魔界街は不安で…」
「一人で旅行ですか?」
「はい、できれば案内してくれたらなと思いまして。
あ、勿論 お礼はしますよ」
どうしようか、と、顔を見合わせる矢口と安倍。
「僕はペィ・ヨンジュンといいます」
「外国の人ですか?」
「はい、朝鮮半島から来ました」
『スナック梨華』が開店するまでの暇つぶしにブラブラしてたら、
藤本と同じ制服の女子高生が目に付いた。
時間は、まだ有る。
日本の女は全て、穴の開いてる糞袋だ。
陵辱しまくって何が悪い。
この男の信念だ。
優しく微笑む男の蛇眼は矢口を見詰めた…
男が魔界街の危険な所も見てみたいと言う事で、
連れて来たビルの廃墟で事件は起きた。
危険と言っても、矢口、安倍のレベルだから、
そんなに危険な所ではない。
せいぜい、夜に人影が歩き出すとか、妖物の類が徘徊するといった
低レベルの危険建物だ。
男は「危険だからダメだよ」と注意する矢口と安倍を無視して
廃墟の中に入っていった。
「君達も来なさい」
男の言霊が矢口の脳に響き、蛇眼が体を束縛する。
男は奇異に思った。
矢口は蛇眼で呪縛できたが、安倍は掛かってはいないようだ。
だが、術に掛かりにくい女も今までに何人かは居た。
安倍もその類だろうと思った。
現に矢口と共に建物の中に入ってきたからだ。
「何故、君達をココに案内させたか分かりますか?」
微笑を絶やさない男は、机等が散乱するコンクリートに囲まれた
部屋ともいえない部屋に2人を連れ込み、振り向いた。
メガネの奥から覘く涼しげな瞳は、よく見ると不気味だ。
と言うより、粘っこくて嫌らしい、邪淫が透けて見える。
唇の両端を吊り上げると益々、淫らな笑みが鼻につく。
「僕は君達のような、女の子を食い物にする お化けなんだよ」
「ハァ?ど、どういう事だべ?」
嫌悪感を剥き出しにした安倍が、矢口の袖を取って後ずさりをする。
「僕のために、君達の全てを捧げて欲しいって言ってるんだよ」
「な、何言ってるべさ!矢口、帰ろう!」
矢口の腕を取る安倍の手を振り払う矢口。
「…ごめん、なっち」
「矢口…?」
「おいら、この人、好きになったかも…」
そう言いいながら、矢口は男にトコトコと近付いていく。
「それで、いいんだよ真里」
男が矢口をそっと抱きしめる…
甘い匂いが辺りに充満しだす…
男の武器は蛇眼と言霊だけでは無かった。
体から発する、女性を淫らに狂わす淫靡フェロモンが最終武器なのだ。
この『ヨン様フェロモン』を嗅げば、蛇眼が効き辛い安倍も落ちるだろう。
男は取り合えず、矢口の淫らな恥態を安倍に見せ付けて、
安倍を落とす事にした。
「わぁぁあああ!」
ギュッと抱きしめると、矢口が叫んだ。
今まで感じた事も無い快感が、股間と脳髄を痺れさせたのだ。
「その机に両手をつきなさい」
男の言葉に従う矢口は、自分でも訳が分からず、
机に手をついて尻を突き出した。
「君は、まだ処女かい?」
言いながらセーラーのスカートを捲り上げ、白い下着を足首まで下ろした。
「や、矢口…」
愕然と矢口を見る、安倍の膝はガクガクと震えている。
「ほう、もう濡れてるのかい?」
ニヤつく男は、矢口の尻に右手を持っていき、股間を中指で撫でた。
「わ!わぁぁあ!!」
ビクンと体を振るわせた矢口の内股は、自分の体液で濡れ光っている。
濡れた中指をベロリと舐める男は、安倍に向かいイヤらしく笑いかけた。
「真里が終わったら、君の番だよ。それまでに自分で慰めていなさい」
男が再び矢口の尻の割れ目に指を持っていく。
「わぁ!わぁあ!わわわぁぁあああ!!」
安倍に喘ぎ声を聞かれたくない矢口は、必死にビックリしたような叫びをあげた。
「や、矢口!」
「わぁあ!なっちぃ!見るな!おいらを見るなぁあ!!」
必死になって頭(かぶり)を振る矢口の体がブルブルと振るえ、
股間からは湯気が立ち上り、ピチャピチャと聞きたくない水音が室内に響く。
「も、もう止めてぇええ!!」
安倍は、膝が震えて立っているのがやっとで、
矢口を助け出そうにも、歩ける状態ではなかった。
安倍自信も、男の淫靡フェロモンによって、濡れていたのだ。
「では、一回目のフィニッシュとまいりましょうか…」
充血した目をギラつかせる男は、股間から指を抜き、
改めて突き入れようと五指を淫らに動かした。
そこに…
「いいかげんに止めたらいかが?」
3人目の女性の声が室内に響く。
凛として美しい声は、誰のものかを 男に直ぐに分からせた。
「ほう、貴女は…」
室内の入り口に立つ藤本美貴は、男を蔑むように見詰める。
男は、本性剥き出しの下卑た笑いに顔が歪む。
この部屋には自分の淫靡フェロモンが充満し、自分を直視する藤本に
蛇眼を仕掛けるには充分だ。
と言うより、もう蛇眼は送っていた。
「貴方には、その薄汚い笑いがお似合いよ」
蛇眼を送り続ける男の視線を真っ直ぐに受け止める藤本の瞳は、
冷徹でいて、限りなく透明な光を放っている。
「高貴な貴女の微笑みには敵いませんが…」
矢口を離し、藤本に向き直る男は、自慢の天使の笑顔を作る。
「や、矢口!」
「…な、なっちぃ」
バタバタと這いながら矢口に近付く安倍は、ハァハァと息を付く矢口を抱きしめた。
抱き合いながら泣きじゃくる安倍と矢口を冷ややかに見下し、
藤本は静かに男に近付いていった。
「藤本…気を付けるべさ。アイツは…」
「アイツは…何?」
「あぅ…」
言いよどむ安倍は、何故こんな事になったのか分からないし、
自分の体を襲った恥感が恥ずかしくて言葉に詰まった。
「もう少し、遅れてくれば良かったかしら?」
その言葉の意味を知り、顔が真っ赤になる安倍と矢口。
冷たい視線でクスッと笑う藤本は、矢口の痴態を
呆れながら黙って見ていたのだ。
「ほう、君達は知り合いでしたか…」
藤本と安倍の会話を黙って聞いていた男は、
藤本の肩に手を掛けようとして、スッと体を避けられ 空かされた。
「つれない人だ、こんなにも美しいのに…」
すでに淫靡フェロモンと蛇眼と言霊を使っている。
男には余裕があった。
藤本は確実に術に掛かっている筈なのだ。
男は藤本と同様に安倍と矢口を見下す。
こんなションベン臭い貧乏娘とは明らかに違う
藤本から漂う高貴な佇まいは、男の欲を掻き立てる。
藤本を性奴隷にして、財産を食い尽くす。
下衆な欲望は、男を饒舌にする。
「この娘達が、草むらに佇む名も無き花なら、
ただ風に そよいでいればいいだけの事…
だが、貴女は違う」
「どういう事?」
「貴女は白き薔薇の定めに生まれた…
華やかに、そして、激しく生きる為に生まれたのです…
僕という存在を得て」
藤本の胸ポケットに差してある一輪の白い薔薇…
藤本は そっとその薔薇を取り、男のサマーセーターの胸に挿した。
「光栄です。貴女のような気高き薔薇は美しく咲くために存在している…」
男は、ここぞとばかりに超天使の微笑みだ。
「私…白い薔薇が赤く染まる瞬間が好きですの…」
藤本が初めて男に微笑み返す…
「そして、その薔薇が美しく散る瞬間も…」
微笑み返した理由は、死出の はなむけ…
「素敵な言葉です…」
藤本の言葉の意味を知らない男は、藤本に口付けしようとして
足を踏み出そうとするが、自分の意思が無いように体が動かなかった。
「貴方の事ですのよ」
薄く笑う藤本は、男の胸に咲いた薔薇を見詰めていた。
「…?」
自分の胸に咲いた薔薇を見る、男の顔が愕然と固まる。
白い薔薇は赤く染まっていた…
体内に根を張り、全ての血を吸い尽くす藤本の白い薔薇…
吸い尽くした血で赤く染まった薔薇は、文字通り美しく散った…
「…俺の術…効かないのか…?」
うつ伏せに倒れ、白蝋のような顔になった男の最後の言葉…
「術?…なんの事ですの?」
男を見下ろす藤本の顔はピンクに染まり上気している…
だが、その火照った顔を見る事は出来ない…
男は顔を上げる事も無く、絶命したのだ…
「岡村」
藤本の呼びに影のように現れる、猿(ましら)のような従者。
「体が、火照ってます…家でプールの用意を…」
「ハッ」
「その前に…」
藤本は、泣きじゃくる同級生をチラリと見る。
「この二人を家に送って差し上げなさい」
藤本は今日初めて同情の念を持って、優しく微笑んだ…
今日はココまでです。ちょっぴりエロですまん。
次回更新も未定って事で・・・ では。
ハナゲキタ━━ノノ#`ハ´)━━!!!!
ハナゲのくせにチンコMAXですよハナゲ
850 :
ねぇ、名乗って:04/05/27 09:09 ID:ENpxq+fA
オラ (゚听)イラネ
オ、オスカァァァァァァァル!!!!!!!
ほpぜn
853 :
名無し募集中。。。:04/05/30 00:43 ID:odM/uM3A
狼dj
_, ,_
(; ´Д`) 美貴様ハァハァ・・・
/ / }
_/ノ.. /、
/ < }
ry、 {k_ _/`;, ノノ パンパン
/ / } ;' `i、
_/ノ../、 _/ 入/ / `ヽ, ノノ
/ r;ァ }''i" ̄.  ̄r'_ノ"'ヽ.i ) ―☆
{k_ _/,,.' ;. :. l、 ノ
\ ` 、 ,i. .:, :, ' / / \
,;ゝr;,;_二∠r;,_ェ=-ー'" r,_,/ ☆
【ラッキーレス】
このレスを見た人はコピペでもいいので
10分以内に3つのスレへ貼り付けてください。
そうすれば14日後好きな人から告白されるわ宝くじは当たるわ
出世しまくるわ体の悪い所全部治るわでえらい事です
ho
ze
ハナゲ、マダー!
859 :
ハナゲ:04/06/08 22:11 ID:3pbdeyNq
ハナゲ〜エロ過ぎるよ
次はなっちでお願いハナゲ〜
>>859 だから絵を書いてる暇があるなら本文をこ(ry
いや、ウソデスYO
いつもありがとう
862 :
ハナゲ:04/06/08 23:16 ID:3pbdeyNq
864 :
860:04/06/11 00:40 ID:MlHaa1/r
ナッチ キタ━━((●´ー`)!!!!
ハナゲ乙!そしてGJ!
_, ,_
(; ´Д`) なっちハァハァ・・・
――― 27話 魔界アイドル ―――
夏の青空にポッカリと浮かぶ白い雲が一つ漂い、ツバメが一羽 弧を描き、
他のクラスの生徒達が談笑する ハロー女子高の屋上で
矢口はコンクリートの床にペタリと座り、呆けたように その雲を眺め、
隣に佇む安倍は、スカートの裾をパタパタと仰いで中に風を入れていた。
今は昼休み。
藤本が蛇眼の男を殺した事件から一週間が過ぎ、
事件の翌日から矢口は、ボウとする事が多くなった。
一番の被害者は矢口なのだから仕方ないと、安倍は見守るように付き合っている。
「おいら、悪い娘になっちゃったかも…」
不意に独り言のように呟く矢口。
「はぁ?悪い子?なに言ってるべさ」
矢口の隣に膝を抱えて座り、ハハハと、受け流す安倍。
「…あの時さ」
「うん?」
「あの時、なっちは何考えてた?」
「何って?」
「おいらはさ…おいらは、あの男が死ねばいいと思った」
「…」
「で、藤本がアイツを殺したろ。おいらはザマァミロって思った」
「……」
「心底、スカッとしたよ」
「…あ、あの時は仕方ないんじゃないの…?‥」
「そうかな?」
「…‥」
安倍は、『あの時』の矢口の行動を思い出し、言葉が出なくなった。
あの時…
矢口の目の前で、蛇眼の男が殺された時…
藤本の死の薔薇で 葬られ、血まみれになりながら死んだ
蛇眼の男の死体を、矢口は何事かを叫びながら、狂ったように踏み付け 蹴り続けた。
安倍と藤本の運転手が蹴り続ける矢口を抱えるように引き剥がしたが、
矢口は手足をバタつかせて「離せ」と泣き喚いたのだった。
結局、藤本邸で鎮静剤を打って貰って落ち着いたのだが、
藤本は終始 冷笑を浮かべていた。
「なぁ、なっち」
「なんだべ?」
「おいらは今でも あの時の事を思い出すと、体が震えてくるんだよ」
そう言ってパンと拳を合わせた矢口の両手は小刻みに震えている。
矢口の体の震えは、陵辱されかかった事を思い出してからなのか、
それとも、男が殺された事を思い出してからなのか、
安倍には どちらか図りかねた。
その安倍の胸に押し寄せる、なんとも言いがたい不安…
だから安倍は、話題を変えようとし、話をそらそうとしたが…
「…そ、そう言えば、藤本って いつの間に あんな技使えるようになったんだべ?」
出た話題は、事件に関わり合う内容だった。
「アイツ…おいら達を見下して笑ってたな」
「元々そういう奴だべ」
「…おいらも藤本みたいな技が有ったらなぁ」
溜め息交じりに言う矢口。
「な、なに言ってるの。あんな技持ってたら…」
「うん、殺してたかも…」
ポツリと出る矢口の言葉は、安倍の胸騒ぎを増幅させた。
「や、矢口!ダメだべ!そんな事言っちゃダメだべ!」
安倍は立ち上がり、何かに駆り立てられるように叫んでいた。
矢口が人を殺すなんて考えられなかった。
そして、そんな事を言う矢口が信じられなかった。
矢口が、安倍の知らない矢口に変わりそうで、急に不安になり、そして、怖かった。
ポカンと安倍を見上げる矢口は、涙目の安倍の剣幕に少しビビッた。
「も、もう、あの時の事は、金輪際忘れるべさ!約束だべ!」
ピッと小指を突き出す安倍の勢いに、思わず矢口も指を差し出そうとした時…
「こんにちわぁ」
聞き覚えの有る声が後ろから聞こえた。
その声はテレビでよく聞く、愛らしい声だった。
「…あ」
振り向く2人にニッコリと笑いかけるのは、スーパーアイドル松浦亜弥だった。
仕事が超忙しいアイドルは、週1回か2回しか登校しない。
学校に来ても、ぁゃゃの取り巻き連中に囲まれて、身動き取れない身だ。
そのぁゃゃが、昼休みに一人、屋上で安倍と矢口の話しを
こっそりと聞いていたのだ。
「ぁ、ぁゃゃが何の用だべ…?」
思いがけないアイドルの登場でキョトンと顔を見合わせる安倍と矢口。
「…話、聞いちゃった」
ペロッと舌を出す松浦。
「へ?聞いたって?」
「あっ、お話しするのは初めてですね。私、松浦亜弥といいます」
アイドルはペコリと頭を下げる。
「知ってるって…」
ハハと、半笑いで突っ込む矢口。
「私も、2人の事は知ってますよ。安倍さんと矢口さんですよね」
営業スマイルで、ニーッと白い歯を見せる。
「なんで、知ってるべさ?」
「師匠つながり。私のとこの社長が貴女達の師匠の弟子だったって。
…聞いてなかった?」
訳知り顔で、フフンと鼻で笑う、松浦の様子が怪しくなってきた。
腹に一物を持つ、松浦の本当の姿がピョコンと顔を出した瞬間だ。
「あっ、あの意地悪な魔女の事だべ」
安倍は、石黒が現れた時の 中澤との剣呑な やりとりを思い出した。
「フフフ、そう。その意地悪な魔女が私の事務所の社長なの」
「へぇ」
「で、社長と高橋愛ちゃんから聞いてたの。MAHO堂っていう店に、
出来の悪い魔女見習いがゴロゴロいるって」
「むぅ!」
ほっぺをプーと膨らませる安倍。
「成る程、確かに出来が悪そうね」
ニヤニヤと薄ら笑いを始めた、アイドル。
「なんでだべ!」
安倍はカチンと来た。
「魔女にしては甘すぎるって事。よく分からないけど、嫌な思いをさせられたんでしょ?
だったら、殺せとは言わないけど、ソレに見合う復讐ぐらいしないと」
毒を吐き始めた松浦は、初めに見せた愛らしい笑いは消えうせ、
テレビでは見せた事もない、嫌らしい笑い顔になっている。
「復讐するも何も、相手は殺されたんだよ。おいらの目の前で…」
松浦の変化に驚きつつ、矢口が ぶっきらぼうに言い返した。
「ふーん、面白そうね。聞かせてくれる?
魔女の先輩として、何かアドバイスできるかもよ」
こういった話しが好きなのか、松浦の目が輝き始めた。
「……いいよ」
少し、間を置いてからの矢口の返答。
「ちょっと、矢口!」
安倍の注意を無視して、矢口はポツリポツリと話し始めた。
「キャハハハ、面白〜〜い。あの高慢チキな生徒会長、
なんか有ると思ってたけど、人殺しだったのね。…まぁ、この街じゃ珍しくないけど」
鎮痛な面持ちの矢口の話を聞き終えて、腹を抱えて笑うアイドルは
やはり、どこか頭のネジが 抜けてるのだろう。
松浦は2人に向かって、右手の指を2本立ててVサインを作ったのだ。
「…ピース?」
何故ピースなのか解からない安倍。
「ハハハ、違うよ。私が今まで殺してきた人間の数」
あっさりと言う松浦。
「…2人?」
余りの、あっさりさ加減 に、つい聞いてしまう矢口。
「20人ちょっとかなぁ」
「…ハァ!?」
「ここ2,3年で、有名人が結構死んでたでしょ。
あれって、私が殺したんだよねぇ、邪魔ばっかりする奴等だったから。
…あっ、勿論 証拠は残さないよ」
アッケラカンと告白する松浦には、微塵の後悔も感じられず、
驚きを隠せない安倍と矢口が、信じられないと、顔を見合す。
確かに、ここ2年ぐらい週刊誌を賑わした、有名人の連続不審死は
不慮の事故で済まされたか、突然の病死となっている。
「でぇ、矢口さんだけどぉ…
間違ってないよ。何か技を覚えて、殺したい奴は殺しちゃえばいいのよ」
清純アイドルには似合わない 物騒なアドバイスに安倍が突っかかる。
「それの何処がアドバイスだべ!変な事を言うと怒るわさ!」
「フフン。甘い‥甘すぎるわねぇ、アンタ達…
いいわ、私が貴女達を真の魔道に導いてあげる」
せせら笑いながら そう言うと、松浦はパチンと指を鳴らした。
すると、何処に隠れていたのか、安倍と矢口の使い魔の
メロンとヤグがトコトコと走り寄って来て、松浦の両手の甲にチョコンと乗った。
「あっ、メロン」
「ヤグ」
不敵に笑う松浦が手の平を返すと、使い魔達はボンと煙を上げ、
元の五芒星の描かれた紙に戻った。
「式神を使い魔として使わず、ペットのように飼っているからダメなのよ」
松浦がニッと笑うと、指に挟まれた式神はメラメラと燃え始めた。
「あぁあ!メロン!」
「ヤグゥ!」
慌てて松浦から五芒星の紙を取り上げた時には遅かった。
使い魔達は灰と化していたのだ。
「な、なんて事するべさ!」
「テメー!何しやがる!」
「ハン?何言ってるの。使い魔と言っても、ただの紙だよ。
猫の形をしていたから、どっかの猫の霊が憑いてたんだろうけど」
「うるさい!いくらぁゃゃだからって許さないべさ!」
「おい!キサマ!ヤグを返せ!」
「ウフフ、殺したくなった?」
唇だけ微笑みの形を作る松浦。
「な、なにを!」
「…何言ってやがる!」
「私を殺したくなった?」
スッと松浦の目が据わる。
「ソレとコレとは話しが別だべ!」
「そ、そうだ!」
「殺意を抱くってのは大事な事なのよ…」
フッと踵を返し、横目で2人を誘うように話を続ける。
「…午後の授業はサボりましょう。
着いて来て、面白い物を見せてあげる」
「ネッ♥」
そう言って、再び振り向いた松浦の笑顔は、
完璧なアイドルスマイルに戻っていた…
今日はココまでです。今からぁゃゃ描くぜ多分。 では。
もつ
ゑはいいから続きを(ry
まーあややも楽しみだが
ハナゲ〜やっぱハナゲだよハナゲ〜!乙
6時間もかかったのか……ある意味すげーよ、ハナゲ
絵は描かなくていいよ・・・
そんなアフォなハナゲが好きだぜハナゲw
TENと同じノリになってきたな。
>>885 オレは両方好きだ!
ハナゲハァ━━━━━━;´Д`━━━━━━ン !!!!
鼻毛タンさいこー!
_, ,_
(; ´Д`) ゆゆたんハァハァ・・・
ハナゲ、マダー!
マネージャーの真也が運転するワゴン車の後部座席で
安倍と矢口は自分のホウキをギュッと握っている。
午後の授業を抜け出して、松浦に
「ある場所に連れて行くから、それなりの準備をして」
と、言われ、とりあえずホウキを持ってきたのだ。
「ねぇ、ここ数週間で この街の空気が変わっている事に気付いていた?」
窓の外を見ていた松浦が、訳知り顔で聞いてきた。
「空気?」
顔を見合わせて、キョトンとする安倍と矢口。
「その顔じゃ全然 解かってないみたいね」
フフンと小馬鹿にしたような顔の松浦。
「どういう事だべ?」
「…私は、週に一回か二回しか この街に帰ってこないから
余計に解かるのかもしれないけど、帰るたびに街の空気が違うのよ。
…まぁ簡単言えば、魔界の空気が濃くなってきていると言う事。
このままじゃ、近い将来 朝娘市自体が本当に魔界に飲み込まれるわ。
だから、その原因の場所に これから確かめに行くのよ」
そう言いながら松浦は2人に飴玉を渡して、自分も頬張った。
「マジかよ?だ、大丈夫なのか?」
渡された桃味の飴を舐めながら矢口が聞いたが、
「フフ…大丈夫じゃなかったら、死ぬかもしれないわね」
と、松浦が返したので、「ウグッ」と飴を喉に詰まらせた。
「し、死ぬって…何処なの?その場所って?」
矢口の背中を擦りながら、安倍が聞く。
「見えてきたわよ」
車の前方を促す松浦。
「あの山は…」
ワゴン車のフロントガラスから見えてきたのは、以前、小川麻琴を
救うために解毒剤を貰いに行った事の有る、
小川神社が所在する霊山『小川山』だった。
安倍と矢口には普通にしか見えない小川山も、
師匠の石黒を凌ぐ潜在能力を持つ松浦亜弥には、
霊山から渦を巻いて立ち上る不気味な妖気が、
魔界街に降り注ぐさまが見て取れているのだ。
駐車場にワゴン車を止めて、真也を含む4人が降り立ったのは、
鳥居がそびえる小川神社の入り口だ。
「見える?」
鳥居に向かって顎をしゃくる松浦。
「何がだべ?」
「結界よ」
松浦は、アンタ達には見えなくて当たり前、と、当然のように答える。
「はぁ?結界?」
「そう、この山一帯に侵入者を感知する結界が張られているわ。
一般の参拝客と、私達みたいに意識して侵入する外敵とを区別する、
意識帯がバリヤーのように張めぐらされているわよ」
そう言いながら、松浦が小川山を見上げた。
「外敵って…おいら達がかよ」
「先輩達は違うかもしれないけど、私は敵意を持って入るわ。
…確認したい事が有るの」
「確認って何だべ?」
「私を敵として認識するって事は、私のバックにいる
魔界街の最高権力者の つんくを敵に回すって事よ。
その覚悟が、この神社に居る連中に有るのか確かめるの」
薄く笑う松浦の微笑みは、2人の喉をゴクリと鳴らした。
「し 市長さんって、ぁゃゃのファンなの?」
「そうよ、私の一番の支援者…」
桃味のキャンディをパクンと頬張るアイドルは、
小川神社の鳥居を楽し気にくぐった。
小川神社の境内に有る、小さな御堂の中で、六鬼聖の3人娘は
ドクロの水晶に映る、松浦とマネージャーと2人の一般高校生を
キャーキャーとハシャギながら見ていた。
「ぁゃゃだ!本物のぁゃゃだ!」
「サイン貰おうよ!」
「でも、結界に引っ掛かったよ!」
「ふーん…で、ヤバイのかい?」
ほの暗い御堂の中で腕組みをして、壁に寄りかかる新垣里沙は、
アイドルが結界に反応した事を訝しがる。
「結界に引っ掛かったから何か企んでると思うよ!」
「あの大男がヤバイんじゃない?」
「でも、たいした事ないと思うよ!」
「ちょっとぉ、『思う』って何よ…頼りないねぇ」
フウッと溜め息を付く新垣。
「なんだって!」
「バカにすると許さないよ!」
「また腹痛の術を掛けるよ!」
「うっ!…じゃ、じゃあ私は何人か連れて様子を見てくるよ」
少女には似つかわしくない極太の眉毛がピクピクと動き、
腸が捻じれる地獄を味わいたくない新垣は、
いそいそと御堂を出て行った。
楽しげに鼻歌を歌う松浦を先頭に、安倍 矢口 真也の4人が
小川神社に続く階段を上っていくと、
眉毛が太い少女を先頭に、2人の男が立ち止まっていた。
「さっそく来たわね」
松浦の唇の端がキューッと吊り上がる。
その松浦の背中を安倍がツンツンと指で突付いて小声で聞いた。
「なっち達は何をすればいいんだべ?」
「…何の為にホウキを持ってきたの?
ヤバくなったら飛べばいいじゃん」
意地悪そうに、松浦が答える。
「と、飛べないべさ」
「…じゃあ死ぬかも」
言葉もない安倍に向かって そっけなく返した松浦は、
新垣と向き合い、黙って相手の出方を伺った。
「…聞きたいんだけど、何しに来たの?」
腕を組んだ仁王立ちの新垣は、松浦を見た瞬間、
ただのアイドルでは無い事に気付いた。
「とりあえず、魔界街を代表して言うわ。
…この神社から湧き出す妖気を止めてほしいんだけど」
ぶしつけに聞いてきた新垣に、松浦も すぐさま本題を切り出した。
「ハァ?魔界街を代表?…バカじゃないの?
アイドルだからって、この街の代表なんて笑わせるわ」
プッと吹き出した新垣が、後ろの2人の魔人に目で合図を送る。
前に出ようとした魔人達に向かって、ピッと右手を挙げて止めた松浦は、
「私のバックには、つんく が居るのよ」
と、一歩前に踏み出し、
「私を襲えば、この街の最高権力を敵に回すという事が解かって?」
そう言って、セーラーの胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
つんくが松浦の支援者なのは事実だ。
だが、今の松浦の行動を つんくが支持するかと言えば、
それは つんく本人に聞いてみなければ分からない事。
つまり、松浦が勝手に魔界街代表みたいな顔をして、
ハッタリを言ってるだけなのだが…
もし、それが事実なら…と、顔を見合わせてビビる2人の魔人は
新垣が唯一命令する事ができる、下っ端中の下っ端魔人だ。
ピクピクと新垣の眉毛が動く。
「だ、大丈夫よアンタ達。いずれ この街は小川様が支配する事になるから」
そう言いながらも、松浦を恐れた新垣は一歩引く。
「へぇ、本当?」
冷ややかに言い返しながら、松浦は五芒星が描かれた紙を手の平で返すと、
その紙は銀色に煌くホウキに変化した。
「やゃゃやや、やっておしまい!」
そのホウキを見て慌てた新垣に命じられて、襲い掛かろうとした魔人達は
突然舞い上がる強風に煽られ、ズズッと後ろに下がる。
「フフン、少しはヤル気になったみたいね」
純銀製のホウキを軽々と手に持つ松浦が、自分の後ろを振り向くと、
安倍と矢口が自分達のホウキを魔人に向けて、必死に振っていた。
「じゃあ、私も…」
言うと同時に松浦も銀ボウキを振る。
松浦の銀ボウキは風が出ない。
その代わりに、針状になったホウキ部分の銀を無数に飛ばす。
そして、危険な銀の針は放射状に放たれ、2人の魔人を一瞬にして針ネズミにした。
言葉も無くドサリと崩れ落ちる魔人達と、悲鳴を上げて血に染まる新垣里沙。
魔人の一人を盾にして、針地獄を辛うじて避けた新垣も
肩や足に十数本の銀針が刺さり、転げまわって泣き叫んでいる。
「今、殺した2人は『魔人モドキ』ね。あっさりと殺され過ぎ、弱すぎるもん。
でも、このバカ娘の悲鳴を聴いて本当の魔人共がワラワラと湧いて出てくるよ」
転げまわる新垣を見下す松浦。
「ほ、本当の魔人?」
「な、なんだそりゃ?」
松浦の殺人技を目の当たりにして、
ドキドキドキドキ 心拍数が跳ね上がる安倍と矢口。
「あら、言ってなかったっけ?この神社には30人近い魔人が棲んでいるわよ。
どういう理由で集まったかは、私は知らないけど、師匠(石黒)が言ってたわ。
…さて…どうする?先輩達」
と、ニヤニヤ笑いの松浦が、2人に顔を向けた。
「ど、どうするって?どどどどどどうするべさ!?」
「さささ30人って!どどどどどどうすんだよ!?」
顔面蒼白になった安倍と矢口が顔を見合す。
「逃げる準備をしたほうがいいんじゃないの?」
言いながら松浦は純銀製のホウキに跨る。
「来たぞ…」
マネージャーの真也が初めて口を開いた、
と同時に階段を猛ダッシュで駆け下りて逃げ出した。
「ゎゎゎゎゎわわわわわわ!マネージャーが逃げたべさ!!」
「あのマネージャー、何しに着いて来たんだよ!
ボディガードじゃなかったのかよ!!」
慌てて安倍と矢口もホウキに跨る。
まだ何も見えてないが、安倍と矢口にも分かった。
物凄く嫌な感じの気が、こちら目掛けて向かってくる。
そして、ドスドスと階段を駆け下りてくる複数の足音も聞こえてきた。
「じゃあ、お先にぃ」
銀ボウキに乗った松浦が、手を振りながら上空に上っていく…
「と、飛んだべさ…」
「バカ!おいら達も飛ばなきゃ、殺されるよ!」
ガチガチと震えながらもホウキに念を集中…集中…
……集中…‥出来ない…
…出来ない‥
‥出来‥
…集中‥出来る訳がない!!…
パニックになる2人の目に、物凄い形相の魔人曙太郎の巨漢を筆頭に、
10人程の明らかに人とは思えない連中が走り下りて来るのが見えて、
安倍と矢口の何かがキレた。
「ぅわぁぁぁぁあああああああああああ!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああ!!」
いきなりボンッと飛んだ。
縦横にクルクルと回転しながら、地上から一気に飛び上がり、
気付いた時には、上空50メートル程の高さでフワフワ浮いていたのだ。
「ウフフ、やったじゃん」
呆然とホウキに跨る安倍と矢口の間に、スーッと割り込んだのは、
銀ボウキを横座りに、ニコニコと笑う松浦亜弥だ。
「しししししし死ぬかと思ったべさ…」
ハァハァと荒い息をする安倍が安堵感から力が抜ける、
と、ヒューッと真っ直ぐに落下し、慌ててバタバタと手足を動かし、
なんとか持ち直して、また上ってきた。
「ハハハ、慣れるまでは、気を抜いちゃダメですよ。安倍先輩」
屈託無くケラケラと笑う松浦の顔を見た矢口は、
本当の松浦亜弥の顔を見た気がした。
「…マジで死ぬかと思ったよ」
安堵の声をポツリと漏らす矢口。
「ね、必要でしょ?必殺技」
矢口に向かって、松浦がニーッと白い歯を見せた。
「……かもな…」
矢口は複雑な表情で、そう答えた…
突然 バーンと音が聞こえた。
と、同時に松浦の銀ボウキが尻尾のように何かを叩き落とす。
「うん?自動防御が働いた…」
そう言って、両手の指を丸めて望遠鏡のようにして音の出る方向、
つまり、魔人達が集まっている下方を見た松浦が、
「ヤバいよ。もっと高く飛んで」
と、2人を促し、訳が分からない安倍と矢口を、もっと上空に導く。
雲を見つけ、そのの中に隠れる3人。
その間中、パンパンと断続的に音がして、その度に松浦の銀ボウキが
尻尾のように動き、キンキンと音を立てて何かを弾いていた。
「どうしたんだよ?」
矢口が聞いた。
「あの魔人連中の中に、銃の達人が居て、私に狙いを定めていたの」
ちょっと心外な顔の松浦。
「ええッ!!」
驚く矢口と安倍。
「大丈夫、雲の中なら撃ってはこないわ」