549 :
12話:
12.「火-葬-花」
「どうして・・・。」
藤本は一言、hydeを見て叫んだ。
「どうして生きている!確かに仕留めたはずなのに!」
辻は気がついたような顔をすると、座り込んで小川を摩る。
「まこっちゃん!!まこっちゃん!!」
そんな中、hydeは苦しそうな表情のまま種明かしをした。
「お前に斬られる直前、『Shallow sleep』で浅い眠りに入ったんだ。
この技は元々体力の即回復のためのものでね。あのまま食らったら即死
だったろうが、眠っている間常に回復状態になれるから、なんとか
斬られたダメージも、少しは回復した。…それだけの話だ。」
hydeが一歩踏み出す。するとその胸辺りの赤い染みが広がる。そこから
ゆっくりと、血が流れ落ちた。
ポタッ。
hydeが苦痛で表情をゆがめる。拳を握り締めると、一歩、また一歩と、
ゆっくり3人に近づいてゆく。
「もうやめろ!戦える体じゃないはずだ!!」
藤本は思い切り声を上げる。その振動だけでhydeの表情は再び曇った。
無理もない。藤本の攻撃は完璧だったのだ。アレを食らって、平気なはずがない。
たとえ多少の回復をしたとしても、それは同じな事。
それでもhydeは歩を進め続けた。
550 :
12話:04/05/06 22:24 ID:kxAI6xoV
「・・・やめる?」
足を前に出しながら、hydeは呟く。
「それは無理な話だね。もう少しで、もう少しで俺たちの計画は達成される・・・。
ゴフッ!!」
hydeの口から、赤黒く、生暖かい液体が弾き出された。明らかにhydeの体には
限界が来ている。それでもhydeの目は、未だ死んでいなかった。
「行くぞ。『HEAVEN’S DRIVE』」
hydeの周りの空中に、いくつもの車輪が、現れる。
「!!」
その技は、紺野の『WHEEL OF FORTUNE』と酷似していた。つまりどんな技か、
3人はよく知っている。なんとか意識をギリギリ保っている小川の表情は、
更に青ざめた。車輪が回転を始める。次第に回転音でうなり声が、室内中を
響き渡り、hydeが両手を横から前へ振ると車輪は勢いよく3人の方へと
突っ込んだ!
「うわ!!!」
いくつもの車輪が、3人を壊れそうなスピードで迫る。まず車輪は小川に
向かってスピードを上げた。小川はほとんど動けない。思わず目を瞑った。
ガン!!!
551 :
12話:04/05/06 22:25 ID:kxAI6xoV
「・・・・?」
小川は自らの肉体になんら衝撃がないことを疑問に思い、目を開いた。
「のんつぁん?」
なんと辻が、小川の命を奪おうと迫り来る車輪を、全て体を張って受け止めていた。
hydeはそれを見ると、容赦なく車輪を増やしてゆく。
「!!」
あまりに数が増えた事で、辻は思わず小川を抱えて飛び、車輪をかわす。
すると今度は壁に跳ね返って車輪が再び突っ込んでくる。
それはまるでピンボールのように、室内中を縦横無尽に駆けてゆく。
藤本は、狙いが2人に定められているのを確認した所で、2人には悪いが
囮になってもらおう、と思った。構え、hydeの胸に、狙いを定める。
さっき斬った所を、少しでもかすれば、勝機が見えてくるはず。
目立った動きをしないように、剣の内側に光の魔法を込める。込めつつ、
藤本は少し、後悔していた。
回復呪文を習わなかった事を。
552 :
12話:04/05/06 22:26 ID:kxAI6xoV
「絶対あった方がいいって〜!教えてあげるから、ねぇ〜。」
松浦の一言を、藤本は無視していたのだ。
「ようは怪我する前に勝ちゃいいでしょ。」
553 :
12話:04/05/06 22:27 ID:kxAI6xoV
確かに怪我する前に勝てれば、回復呪文は必要ない。それにある程度の
怪我なら耐えることが出来る。しかし、それは自分1人で行動している時、
もしくは行動しているパートナーが、松浦のように実力者か、回復呪文を
使える者である場合に限定される事を、藤本は気づきながら気づかぬフリを
していたのかもしれない。
このように、回復呪文を唱えられる人物自体が重傷を負ってしまった
パーティーで、更にその者が自分より防御の面で明らかに劣る場合・・・。
そんな特殊な状況、あり得ないと高をくくっていた。しかし今、目の前に
ある現実がそれだ。もし、あのとき・・・・。
そんな事を言っていてもしょうがないから、とりあえず今出来ることは、
可能な限り早くhydeを倒し、回復呪文を使える人を探す事しかない。
藤本は、静かに呪文を唱えた。
『ヒヤシンス』
そう、これは松浦がGacktに破られた、あの技である。
そんな事を知りもしない藤本は、この呪文を使って一瞬にしてhydeの懐に
到達した。藤本はフッ、と笑うと、思い切り剣を振り下ろす。
554 :
12話:04/05/06 22:29 ID:kxAI6xoV
『ブギートレイン-light-』
ブギートレインの光魔法ヴァージョン。藤本の持つ必殺技だ。しかし剣が
hydeの体を捉える前に、車輪が藤本の背中を強打する。
「ぐっ!!!」
更に数を増した車輪が、今度は藤本を集中的に襲いだした。ただ当たるだけなら
まだ可愛い技かもしれない。しかしこの技の恐ろしい所は、車輪が常に
高速回転しているために、下手すると肉が抉り取られてしまう事にあった。
「あああああ!!!!」
藤本はなんとか剣で防ごうと試みたが、努力もむなしく、ダメージを重ねてゆく。
かすっても確実に擦り傷が出来、じわじわと藤本の体力は蝕まれている。
辻がそんな藤本を見て、さっき藤本がそうしたように突っ込んだ。
「やああああ!!!!」
斧に気を思い切り込める。助走を付け、辻は飛び上がった。
「NON ST..うわ!!!」
たちまち車輪の大群が辻に突っ込んでゆく。それに驚いた辻は技を放てず、
斧で車輪を斬った。車輪は弾かれそれぞれの方向へと散る。
そしてそのうち一つの車輪が、無情にも・・・。
555 :
12話:04/05/06 22:30 ID:kxAI6xoV
グチャッ!!
「!!」
音がして、振り向いた瞬間、辻の表情が完全に凍りつく。
その視線の先では、蒼紫色の固体が、車輪の高速回転によって掻き毟られ、
パラパラと宙を舞っていた。
ゆっくりと、固体は空中で分解してゆく。
個体の間からは、ついさっきまで生きていた事を証明するかのように、
微量の血が顔を出す。
その頃、車輪は壁を跳ね返り、もう一撃、今度は安倍の元腹部を捉えた。
無残にも体が真っ二つに割れる。
それと同時に、舞い落ちる花びらは姿を消した。
しかし何故か安倍の顔だけは、綺麗なまま、残されていた。
多少蒼紫がかってはいるものの、それは美しく、儚い。
目を閉じたその表情は、どこか安らかに見えた。その顔に、車輪の第三撃。
「!!!」
3人は、生気を奪われたような顔で、でも瞬きもせずに、その状況を
ただただ見つめていた。そのときだった。
ドサッ。
腕だったと思われるものが、突然辻の目の前を落下する。
その瞬間、辻の表情が一変した。
556 :
12話:04/05/06 22:31 ID:kxAI6xoV
「あああああ!!!!」
さっき、恐怖と悲愴を胸に叫び声を上げた、あの表情とはまるで違っていた。
その目は殺気立ち、あまりに辻のイメージとかけ離れたオーラを放っていた。
「ああ!!!!!」
声にならない声をあげ、辻はhydeに向かって猛進する。
「何?!」
hydeは慌てて車輪を全て操作し、八方向から辻を襲わせた。あっという間に
辻を囲むと、そのまま体の方へと突っ込んでくる。
しかし、なんと辻は、
「(!!)」
その場にいる全員は、自分の目を疑った。なんと辻は、たった一振りで
車輪を全て破壊、機能停止させてしまったのだ。
辻は尚もhydeに向け全力疾走を続ける。Hydeは更に車輪を追加して、
辻に突っ込ませるも、結果は何度やっても同じだった。辻は確実に、
hydeの目前にまで迫った。hydeはおそらく射程距離に入った辻の瞳を見て、
身も心も凍るような感覚を覚える。
その眼は、とても人と呼べる代物ではなかった。例えるならば、破壊神。
辻の持つ斧さえ、hydeには信じられないほどに巨大な斧に見えた。
557 :
12話:04/05/06 22:33 ID:kxAI6xoV
「ぅらぁぁぁ!!!」
ズバッ!!!
hydeはなんと、一瞬にして胴体を真っ二つに引きちぎられた。考える暇すら
与えられることなく、hydeは屍と化す。命を失った殻は、音を立てて重力に屈した。
しかし辻の攻撃は、それで終わらなかった。
「ああ゛!!ああ゛!!」
辻は何度も何度も、hydeを斧で斬り刻んだ。斬って斬って斬りまくった。
その度にhydeだった殻は軽く地面を跳ね、どんどん細かくなってゆく。
粉々になり、いよいよほとんどそこには何もなくなると、今度はさっきまで
体があった地面に、辻は斧を立てた。
「やめろ!!!」
たまらず藤本は声を上げた。しかし辻はそれで動きを止めるどころか、
ますます拍車がかかったようにスピードを上げる。
辻の欠落した左腕部分からは、血が流れ落ちる。血が地面に流れ落ちると、
辻はそこを斬った。そのときの衝撃で他の所に水滴が落ちると、
今度はそこを斬った。
「やめて!!!」
小川が力を振り絞って、辻を後ろから抱きしめた。
しかし、小川に強く抱きしめる力は残っていない。
でも辻の動きはそこで止まった。
「こんなこと、安倍さんが望んでいた事じゃないよ・・・。
安倍さんの為にも、絶対革命を、成功させよう?」
558 :
12話:04/05/06 22:35 ID:kxAI6xoV
「・・・・うっ・・・・ぅ・・・っ・・。」
辻は再び震え始めた。変わり果てた安倍を見た時のように体を震わせると、
やがて涙を流した。斧が地面に落ちる。辻はスイッチが切り替わったかのように
大声を上げてわんわん泣き出した。
「・・・・・。」
間もなくして小川がその場で崩れ落ちる。hydeの放った『虹』の威力は、
予想以上に強力だったのだ。そして小川は自覚した。
・・・・・。
小川は少しだけ考えると、通信機を取って声を出す。
「中澤さん。」
『・・・・なんや?』
少しだけ間を置いた後、返事が聞こえた。
「皆に回線、繋いでください・・・。」
『・・・・分かった。』
中澤は小川が何をしたいのか察し、悲しそうに答える。回線が繋がったのを
確認すると、小川は話し始めた。
559 :
12話:04/05/06 22:38 ID:kxAI6xoV
「皆・・・聞こえる?私、小川は、もうすぐ・・・死ぬかもしれません。」
『え!?』
一斉にどよめきのような声が聞こえる。小川は満足そうに微笑むと、続けた。
「でも、最後に一つだけ、言いたいことがあるから、聞いて?
皆と過ごした日々、楽しかった。・・・・月並みだけど、絶対に
”生きて”ね・・・。」
よほど無理をしていたのか、小川はそこまで言うと、一気に深い眠りに落ちた。
「・・・・・・・。」
二人は黙ったまま、小川の手を両サイドから握っていた。そして少しすると、
安倍の残骸が残っている所まで歩き出す。
「火葬しようか・・・。」
「え?」
藤本の声に対し、辻は回答に困った。
「あたし達の手で、眠らせよう?こんな花びらじゃなくてさ。」
「・・・うん。」
藤本は剣を上に翳す。すると剣先から小さな炎が姿を見せる。
藤本は、ぼやけた視界を左手で必死に凝らそうとしながら、ゆっくりと
安倍に剣を向けた。1回だけ、深呼吸をすると、火をつけた・・・。
To be contniued...