もろたーー!!

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54912話
 12.「火-葬-花」

 「どうして・・・。」

 藤本は一言、hydeを見て叫んだ。
 「どうして生きている!確かに仕留めたはずなのに!」
 辻は気がついたような顔をすると、座り込んで小川を摩る。
 
 「まこっちゃん!!まこっちゃん!!」
 そんな中、hydeは苦しそうな表情のまま種明かしをした。
 
 「お前に斬られる直前、『Shallow sleep』で浅い眠りに入ったんだ。
 この技は元々体力の即回復のためのものでね。あのまま食らったら即死
 だったろうが、眠っている間常に回復状態になれるから、なんとか
 斬られたダメージも、少しは回復した。…それだけの話だ。」

 hydeが一歩踏み出す。するとその胸辺りの赤い染みが広がる。そこから
 ゆっくりと、血が流れ落ちた。
 
 ポタッ。
 
  hydeが苦痛で表情をゆがめる。拳を握り締めると、一歩、また一歩と、
 ゆっくり3人に近づいてゆく。
 
 「もうやめろ!戦える体じゃないはずだ!!」

 藤本は思い切り声を上げる。その振動だけでhydeの表情は再び曇った。
 無理もない。藤本の攻撃は完璧だったのだ。アレを食らって、平気なはずがない。
 たとえ多少の回復をしたとしても、それは同じな事。
 それでもhydeは歩を進め続けた。
55012話:04/05/06 22:24 ID:kxAI6xoV

 「・・・やめる?」
 足を前に出しながら、hydeは呟く。
 
 「それは無理な話だね。もう少しで、もう少しで俺たちの計画は達成される・・・。
 ゴフッ!!」
 
 hydeの口から、赤黒く、生暖かい液体が弾き出された。明らかにhydeの体には
 限界が来ている。それでもhydeの目は、未だ死んでいなかった。
 
 「行くぞ。『HEAVEN’S DRIVE』」
 
 hydeの周りの空中に、いくつもの車輪が、現れる。
 「!!」
 その技は、紺野の『WHEEL OF FORTUNE』と酷似していた。つまりどんな技か、
 3人はよく知っている。なんとか意識をギリギリ保っている小川の表情は、
 更に青ざめた。車輪が回転を始める。次第に回転音でうなり声が、室内中を
 響き渡り、hydeが両手を横から前へ振ると車輪は勢いよく3人の方へと
 突っ込んだ!
 
 「うわ!!!」

 いくつもの車輪が、3人を壊れそうなスピードで迫る。まず車輪は小川に
 向かってスピードを上げた。小川はほとんど動けない。思わず目を瞑った。
  
  ガン!!!
55112話:04/05/06 22:25 ID:kxAI6xoV

 「・・・・?」

 小川は自らの肉体になんら衝撃がないことを疑問に思い、目を開いた。
 
 「のんつぁん?」
 なんと辻が、小川の命を奪おうと迫り来る車輪を、全て体を張って受け止めていた。
 hydeはそれを見ると、容赦なく車輪を増やしてゆく。

 「!!」
 あまりに数が増えた事で、辻は思わず小川を抱えて飛び、車輪をかわす。
 すると今度は壁に跳ね返って車輪が再び突っ込んでくる。
 それはまるでピンボールのように、室内中を縦横無尽に駆けてゆく。

  藤本は、狙いが2人に定められているのを確認した所で、2人には悪いが
 囮になってもらおう、と思った。構え、hydeの胸に、狙いを定める。
 さっき斬った所を、少しでもかすれば、勝機が見えてくるはず。
 目立った動きをしないように、剣の内側に光の魔法を込める。込めつつ、
 藤本は少し、後悔していた。
 回復呪文を習わなかった事を。
55212話:04/05/06 22:26 ID:kxAI6xoV



「絶対あった方がいいって〜!教えてあげるから、ねぇ〜。」
 松浦の一言を、藤本は無視していたのだ。
「ようは怪我する前に勝ちゃいいでしょ。」



55312話:04/05/06 22:27 ID:kxAI6xoV

  確かに怪我する前に勝てれば、回復呪文は必要ない。それにある程度の
 怪我なら耐えることが出来る。しかし、それは自分1人で行動している時、
 もしくは行動しているパートナーが、松浦のように実力者か、回復呪文を
 使える者である場合に限定される事を、藤本は気づきながら気づかぬフリを
 していたのかもしれない。
 このように、回復呪文を唱えられる人物自体が重傷を負ってしまった
 パーティーで、更にその者が自分より防御の面で明らかに劣る場合・・・。
  そんな特殊な状況、あり得ないと高をくくっていた。しかし今、目の前に
 ある現実がそれだ。もし、あのとき・・・・。
 そんな事を言っていてもしょうがないから、とりあえず今出来ることは、
 可能な限り早くhydeを倒し、回復呪文を使える人を探す事しかない。
 藤本は、静かに呪文を唱えた。

 『ヒヤシンス』

 そう、これは松浦がGacktに破られた、あの技である。
 そんな事を知りもしない藤本は、この呪文を使って一瞬にしてhydeの懐に
 到達した。藤本はフッ、と笑うと、思い切り剣を振り下ろす。
55412話:04/05/06 22:29 ID:kxAI6xoV

 『ブギートレイン-light-』

 ブギートレインの光魔法ヴァージョン。藤本の持つ必殺技だ。しかし剣が
 hydeの体を捉える前に、車輪が藤本の背中を強打する。
 
 「ぐっ!!!」
 更に数を増した車輪が、今度は藤本を集中的に襲いだした。ただ当たるだけなら
 まだ可愛い技かもしれない。しかしこの技の恐ろしい所は、車輪が常に
 高速回転しているために、下手すると肉が抉り取られてしまう事にあった。

 「あああああ!!!!」

 藤本はなんとか剣で防ごうと試みたが、努力もむなしく、ダメージを重ねてゆく。
 かすっても確実に擦り傷が出来、じわじわと藤本の体力は蝕まれている。
 辻がそんな藤本を見て、さっき藤本がそうしたように突っ込んだ。
 
 「やああああ!!!!」
 斧に気を思い切り込める。助走を付け、辻は飛び上がった。
 
 「NON ST..うわ!!!」
 たちまち車輪の大群が辻に突っ込んでゆく。それに驚いた辻は技を放てず、
 斧で車輪を斬った。車輪は弾かれそれぞれの方向へと散る。
 そしてそのうち一つの車輪が、無情にも・・・。
55512話:04/05/06 22:30 ID:kxAI6xoV
 
 グチャッ!!

 「!!」

 音がして、振り向いた瞬間、辻の表情が完全に凍りつく。
 その視線の先では、蒼紫色の固体が、車輪の高速回転によって掻き毟られ、
 パラパラと宙を舞っていた。
 ゆっくりと、固体は空中で分解してゆく。
 個体の間からは、ついさっきまで生きていた事を証明するかのように、
 微量の血が顔を出す。
  その頃、車輪は壁を跳ね返り、もう一撃、今度は安倍の元腹部を捉えた。
 無残にも体が真っ二つに割れる。
 それと同時に、舞い落ちる花びらは姿を消した。
 しかし何故か安倍の顔だけは、綺麗なまま、残されていた。
 多少蒼紫がかってはいるものの、それは美しく、儚い。
 目を閉じたその表情は、どこか安らかに見えた。その顔に、車輪の第三撃。
 
 「!!!」

 3人は、生気を奪われたような顔で、でも瞬きもせずに、その状況を
 ただただ見つめていた。そのときだった。
 
 ドサッ。
 
 腕だったと思われるものが、突然辻の目の前を落下する。
 その瞬間、辻の表情が一変した。
55612話:04/05/06 22:31 ID:kxAI6xoV

 「あああああ!!!!」

 さっき、恐怖と悲愴を胸に叫び声を上げた、あの表情とはまるで違っていた。
 その目は殺気立ち、あまりに辻のイメージとかけ離れたオーラを放っていた。
 
 「ああ!!!!!」

 声にならない声をあげ、辻はhydeに向かって猛進する。
 
 「何?!」
 hydeは慌てて車輪を全て操作し、八方向から辻を襲わせた。あっという間に
 辻を囲むと、そのまま体の方へと突っ込んでくる。
 しかし、なんと辻は、
 
 「(!!)」

 その場にいる全員は、自分の目を疑った。なんと辻は、たった一振りで
 車輪を全て破壊、機能停止させてしまったのだ。
 辻は尚もhydeに向け全力疾走を続ける。Hydeは更に車輪を追加して、
 辻に突っ込ませるも、結果は何度やっても同じだった。辻は確実に、
 hydeの目前にまで迫った。hydeはおそらく射程距離に入った辻の瞳を見て、
 身も心も凍るような感覚を覚える。
 その眼は、とても人と呼べる代物ではなかった。例えるならば、破壊神。
 辻の持つ斧さえ、hydeには信じられないほどに巨大な斧に見えた。
55712話:04/05/06 22:33 ID:kxAI6xoV

 「ぅらぁぁぁ!!!」

 ズバッ!!!

 hydeはなんと、一瞬にして胴体を真っ二つに引きちぎられた。考える暇すら
 与えられることなく、hydeは屍と化す。命を失った殻は、音を立てて重力に屈した。
 しかし辻の攻撃は、それで終わらなかった。
 
 「ああ゛!!ああ゛!!」
 辻は何度も何度も、hydeを斧で斬り刻んだ。斬って斬って斬りまくった。
 その度にhydeだった殻は軽く地面を跳ね、どんどん細かくなってゆく。
 粉々になり、いよいよほとんどそこには何もなくなると、今度はさっきまで
 体があった地面に、辻は斧を立てた。
 
 「やめろ!!!」
 たまらず藤本は声を上げた。しかし辻はそれで動きを止めるどころか、
 ますます拍車がかかったようにスピードを上げる。
 辻の欠落した左腕部分からは、血が流れ落ちる。血が地面に流れ落ちると、
 辻はそこを斬った。そのときの衝撃で他の所に水滴が落ちると、
 今度はそこを斬った。

 「やめて!!!」
 
 小川が力を振り絞って、辻を後ろから抱きしめた。
 しかし、小川に強く抱きしめる力は残っていない。
 でも辻の動きはそこで止まった。

 「こんなこと、安倍さんが望んでいた事じゃないよ・・・。
 安倍さんの為にも、絶対革命を、成功させよう?」
55812話:04/05/06 22:35 ID:kxAI6xoV

 「・・・・うっ・・・・ぅ・・・っ・・。」

 辻は再び震え始めた。変わり果てた安倍を見た時のように体を震わせると、
 やがて涙を流した。斧が地面に落ちる。辻はスイッチが切り替わったかのように
 大声を上げてわんわん泣き出した。
 
 「・・・・・。」
 間もなくして小川がその場で崩れ落ちる。hydeの放った『虹』の威力は、
 予想以上に強力だったのだ。そして小川は自覚した。
 ・・・・・。
 小川は少しだけ考えると、通信機を取って声を出す。

 「中澤さん。」

 『・・・・なんや?』
 少しだけ間を置いた後、返事が聞こえた。
 「皆に回線、繋いでください・・・。」

 『・・・・分かった。』
 中澤は小川が何をしたいのか察し、悲しそうに答える。回線が繋がったのを
 確認すると、小川は話し始めた。
55912話:04/05/06 22:38 ID:kxAI6xoV
 
 「皆・・・聞こえる?私、小川は、もうすぐ・・・死ぬかもしれません。」
 『え!?』
 
 一斉にどよめきのような声が聞こえる。小川は満足そうに微笑むと、続けた。
 
 「でも、最後に一つだけ、言いたいことがあるから、聞いて?
 皆と過ごした日々、楽しかった。・・・・月並みだけど、絶対に
 ”生きて”ね・・・。」
 
 よほど無理をしていたのか、小川はそこまで言うと、一気に深い眠りに落ちた。
 
 「・・・・・・・。」
 二人は黙ったまま、小川の手を両サイドから握っていた。そして少しすると、
 安倍の残骸が残っている所まで歩き出す。

 「火葬しようか・・・。」
 「え?」
 藤本の声に対し、辻は回答に困った。
 
 「あたし達の手で、眠らせよう?こんな花びらじゃなくてさ。」
 「・・・うん。」
 
 藤本は剣を上に翳す。すると剣先から小さな炎が姿を見せる。
 藤本は、ぼやけた視界を左手で必死に凝らそうとしながら、ゆっくりと
 安倍に剣を向けた。1回だけ、深呼吸をすると、火をつけた・・・。
 
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