「やれ!」
吸血カメレオンの命令が飛ぶと黒ずくめの男達が少女達の背後に一気に忍び寄り、
誰彼構わずその小さな手をひっつかみ、無理矢理にその身体を押さえ込んで抱え上げる。
また一方では武器を持った戦闘員が人混みを追い散らす。白昼堂々の大胆な行動に、
周囲はパニック状態に陥った。
「きゃーっ!」
「ちび共大人しくしろっ!」
一人を抱え上げたらまた一人。そこはさすがに悪の組織の手際よさと言うべきだろうか。
次々と少女達の身柄を取り押さえたまま路地の奥へと逃げ去っていく。
「みんなっ!!」
異変を察した雅が単身工作員達に挑みかかるが、敵は下っぱとはいえ改造人間である。
片手で軽くあしらわれ、勢い余って尻餅をついてしまう。
「お前も少年ライダー隊・・・一緒に来て貰おうか!!」
工作員の手が無造作に雅の腕に伸び、そのまま力任せに引き上げる。あっさりと引き
起こされた雅の腹に当て身を入れると、工作員は肩に担ぎ上げてそのまま立ち去ろう
としていた。と、その時先ほど少女達が立ち寄ったピザ屋の自動ドアが不意に開くと、
中から先ほどの亭主が山高帽を投げ捨てて工作員達を追って走り出した。少女の悲鳴
が耳に届いたか、彼は一目散に走り出す。
「お前ら、待てぇっ!!」
ただごとではないと直感した戦闘員と工作員達は少女を連れたまま路地へと走り、
ピザ屋の亭主もその後を必死で追いかける。しかし、さすがに改造人間と中年男では
勝負にならないか距離はだんだんと引き離されていく。しかし、少女達をみすみす彼ら
に連れ去らせる訳にはいかない。
亭主は何かを決意したか、大きく両眼を見開いた。すると彼の顔面に不気味な文様の
ごとき筋が走り、次の瞬間光に包まれた男は高烏帽子を被ったような異形の怪人へと
姿を変えた。
「なんだアイツはっ!」
目の前で突如姿を変えたピザ屋の亭主に驚き戸惑うゼティマの一味。実は亭主は人間世界
に紛れて生きるオルフェノクの一人であった。ドルフィンオルフェノク、それが彼の名前
だ。やがて前を走るゼティマ軍団とオルフェノクは児童公園にやってきた。この突然の
乱入者を始末しようと、戦闘員達が散開してドルフィンオルフェノクを取り囲む。
「貴様・・・ゼティマの所属ではないな?!」
『知るかそんなもん!そのお嬢ちゃん達を放すんだ!!』
武器を構えた戦闘員達、先ほど人混みを蹴散らしていたあの彼らがドルフィンオルフェノク
の行く手を阻む。数名の工作員達が気を失ったままの少年仮面ライダー隊の少女達をいったん
下ろし服を脱ぎ捨てその正体を現すや、一斉にオルフェノクに対して襲いかかった。殺到
するゼティマ戦闘員達に対してドルフィンオルフェノクは孤軍奮闘、次々と敵をなぎ倒して
いくが相手もなかなかしぶとい。
何より、彼は人に危害を加えることを放棄したオルフェノクである。戦い慣れしていないせい
もあってか徐々に劣勢に追い込まれ、ついに戦闘員達に袋だたきにされ始めた。本来の力を
発揮できればゼティマ戦闘員に遅れをとることは無かったのだろうが、人でありたいと願う心
は戦いを遠ざけ、力を奪ったのかもしれない。
とうとうドルフィンオルフェノクは地面に倒れふし、戦闘員達は思う様攻撃を加えると足早に
その場から立ち去った。あろうことか少年仮面ライダー隊の少女達が、敵の手に落ちて
しまったのだ。