狼から来ました

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794ハナゲ ◆hANagEBvfs

――― 25話 ショートエピソード01 ―――


俺の目の前にある橋の向こう側に奴は居る。

10年間追い続けて、やっと見付けた。

婦女暴行と殺人を犯した糞野郎だ。

被害者は女性だけ、12人…

昨日、俺は被害者の一人の少女の墓前に報告しに行った。

御両親は俺に頭を下げて、よろしくと一言だけ言った。

必ず捕まえて法廷で全てを明らかにしてやる。

死刑は確実な男だ。

死刑によって殺される前に、事件の全てを明らかにして、奴の闇を晒してやる。

795ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/06 17:06 ID:KIR6wSi/


俺は警視庁捜査一課の末席に座り、迷宮入り確実な事件を
追跡調査する仕事に従事している。

だが、今まで挙げた犯人は片手にも満たない数だ。

それだけ、俺に回ってくる未解決事件の捜査は難しい。

それでも、やっと、蜘蛛の糸をたどるようにして探し当てた。

定年前の俺の最後の仕事だ。


この橋の向こう側…


魔界街に犯人は居るのだ…





796ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/06 17:07 ID:KIR6wSi/



俺に見付かり、追いかけられた奴は、商店街の花屋の前で人質を取った。

店から出てきた、白い薔薇の花束を抱えた女子高生だ。

少女の首筋にサバイバルナイフを押し当て、奴は何事かを喚く。


おかしな事が起きた。

拳銃を取り出して構える俺に向かって、
花束を俺に向けた少女が言ったのだ。

「撃つのは、お止めなさい」 と…

「私に当たったら、どうするのです」 と…

言いながら、少女は奴から そっと離れて、
路上に停めてあるリムジンに向かった。

「岡村、出しなさい」

「…はい、美貴様」

運転手にドアを開けさせてリムジンに乗り込む少女は、そのまま街に消えた。
797ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/06 17:08 ID:KIR6wSi/


奴は…

奴は、絶命していた。

体中から、薔薇の枝が生え、花を咲かせ、血を流し…

その姿は干乾びたミイラのようだった。




朝娘市警察の検死に立会った俺は、唖然とするしかなかった。

奴の頭上に植え込まれた一本の薔薇は、全身に根を伸ばし、
血を吸い、芽を出し、新たな薔薇の花を咲かせたのだ。

このような事例は、珍しいが さほど驚くような事ではないと、検死官は笑った。

そして、言った。

「この男を殺した女性を、逮捕はできない」 と…



798ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/06 17:09 ID:KIR6wSi/



朝娘市警察署を出た俺は、唾を吐き捨てた。

喉がカラカラに渇いていた。


反吐が出る…

唾棄すべき街だ…

俺が10年の歳月を掛けて追い続けた犯人を
一人の少女が、あっさりと奪った。


もう、二度と魔界街に来る事はないだろう。

俺の刑事生活は、この事件で幕を閉じたのだ。






799ハナゲ ◆hANagEBvfs :04/05/06 17:12 ID:KIR6wSi/
おまたせした割には短くてスマソ。今日はココまでです。
一応チョコチョコ書いてますが、次回更新も未定。    では。