――― 25話 ショートエピソード01 ―――
俺の目の前にある橋の向こう側に奴は居る。
10年間追い続けて、やっと見付けた。
婦女暴行と殺人を犯した糞野郎だ。
被害者は女性だけ、12人…
昨日、俺は被害者の一人の少女の墓前に報告しに行った。
御両親は俺に頭を下げて、よろしくと一言だけ言った。
必ず捕まえて法廷で全てを明らかにしてやる。
死刑は確実な男だ。
死刑によって殺される前に、事件の全てを明らかにして、奴の闇を晒してやる。
俺は警視庁捜査一課の末席に座り、迷宮入り確実な事件を
追跡調査する仕事に従事している。
だが、今まで挙げた犯人は片手にも満たない数だ。
それだけ、俺に回ってくる未解決事件の捜査は難しい。
それでも、やっと、蜘蛛の糸をたどるようにして探し当てた。
定年前の俺の最後の仕事だ。
この橋の向こう側…
魔界街に犯人は居るのだ…
俺に見付かり、追いかけられた奴は、商店街の花屋の前で人質を取った。
店から出てきた、白い薔薇の花束を抱えた女子高生だ。
少女の首筋にサバイバルナイフを押し当て、奴は何事かを喚く。
おかしな事が起きた。
拳銃を取り出して構える俺に向かって、
花束を俺に向けた少女が言ったのだ。
「撃つのは、お止めなさい」 と…
「私に当たったら、どうするのです」 と…
言いながら、少女は奴から そっと離れて、
路上に停めてあるリムジンに向かった。
「岡村、出しなさい」
「…はい、美貴様」
運転手にドアを開けさせてリムジンに乗り込む少女は、そのまま街に消えた。
奴は…
奴は、絶命していた。
体中から、薔薇の枝が生え、花を咲かせ、血を流し…
その姿は干乾びたミイラのようだった。
朝娘市警察の検死に立会った俺は、唖然とするしかなかった。
奴の頭上に植え込まれた一本の薔薇は、全身に根を伸ばし、
血を吸い、芽を出し、新たな薔薇の花を咲かせたのだ。
このような事例は、珍しいが さほど驚くような事ではないと、検死官は笑った。
そして、言った。
「この男を殺した女性を、逮捕はできない」 と…
朝娘市警察署を出た俺は、唾を吐き捨てた。
喉がカラカラに渇いていた。
反吐が出る…
唾棄すべき街だ…
俺が10年の歳月を掛けて追い続けた犯人を
一人の少女が、あっさりと奪った。
もう、二度と魔界街に来る事はないだろう。
俺の刑事生活は、この事件で幕を閉じたのだ。
おまたせした割には短くてスマソ。今日はココまでです。
一応チョコチョコ書いてますが、次回更新も未定。 では。