2006年08月22日11時53分
100年未解決の難問「ポアンカレ予想」を解いたらしいと話題を呼び、数学のノーベル賞と言わ
れるフィールズ賞の最有力候補と目されるロシアの数学者グレゴリー・ペレルマン氏(40)が、授
賞式を目前に行方をくらましている。受賞者は日本時間22日夜に発表されるが、このままでは授
賞式に肝心の本人が現れないという珍事が起きる可能性が強いという。
同氏が勤務していたロシア科学アカデミー・ステクロフ数学研究所サンクトペテルブルク支所の
アナトリー・ベルシク室長は21日、「当然、フィールズ賞に選ばれるだろう。本人も自分の論文の正
しさを確信している」と述べた。しかし、上級研究員だった同氏は昨年12月に「自らの願い」により退
職届を出した。「今年1月からここには現れていない。今どこにいて何をしているのか、我々は知ら
ない」
ペレルマン氏が02〜03年にインターネットで公表した論文は、米国の数学研究所が「解いたら1
00万ドル(約1億1600万円)を出す」と宣言している7難問の一つ、「ポアンカレ予想」を解決したと
言われる。難問だけに簡単には真偽が判定できず、ほかの数学者らが同氏の理論を検証。今年に
入って、「お墨付き」を与えるような論文や研究者の発言が増えている。
40歳以下の数学者に与えられるフィールズ賞は、4年に1度の国際数学者会議で発表される。
同氏は22日からスペイン・マドリードで開かれる同会議での招待講演を断ったとされるが、それで
も彼がフィールズ賞を取れば、事実上、ポアンカレ予想の解決宣言になると期待が高まっていた。
ペレルマン氏の動向はロシアのメディアの関心も呼んでいる。イタル・タス通信によると、66年に
レニングラードの事務職員の家に生まれた。
ガゼータ紙によると、92年にはステクロフ研究所のセルゲイ・ノビコフ副所長に、ポアンカレ予想
に取り組み始めたことや基本的な考え方を伝えていた。同副所長によると、同氏は96年に欧州の
若手数学研究者に与える賞を拒否。さらに仕事上の昇進や、科学アカデミー会員への推薦も拒否
し続けたという。
同紙が伝える同僚たちの話では、100万ドルの賞金のことは知っていたが、まったく無関心だっ
た。元上司は、「目下、彼は報道機関とも誰とも連絡を絶っている。彼は私にもほかの同僚にも、自
分の個人生活に立ち入ってほしくないと警告していた。それが彼には、法律にも等しい規則なのだ」
と語っている。
サンクトペテルブルクのインターネットサイト「フォンタンカ・ルー」によると、数学の才能が優れた
子供たちが学ぶペテルブルクの特別な小学校でも「神童」として知られていた。タマーラ・エフィー
モワ校長や教師は「同級生の人気者で、音楽の才能もあり、ピオネール宮殿でバイオリンの演奏を
披露した。真の学者です」と話している。
〈ポアンカレ予想〉 フランスの数学者、哲学者であるアンリ・ポアンカレ(1854〜1912)が1904
年に出した幾何学に関する予想。例えば、ピンポン球とおむすびは同じものに分類するが、ドーナ
ツのように穴の開いたものは別に分ける、といった具合に多次元の空間の形を分類するための、あ
る条件を提示した。4次元以上では証明されたものの、3次元だけは未解決のまま残っていた。米
国人実業家がつくったクレイ数学研究所は00年5月、新しい千年紀(ミレニアム)を記念して、ポア
ンカレ予想を含む「21世紀を象徴する難問7題」を「ミレニアム問題」として発表、1問につき100万
ドルの高額賞金をかけた。この中で解けたと認定されたものはまだない。
ソース
http://www.asahi.com/international/update/0822/010.html