【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】6

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1通常の名無しさんの3倍
このスレは新人職人さん及び投下先に困っている職人さんが好きな内容でSS・ネタを投下するスレです
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前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】5
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2通常の名無しさんの3倍:2007/08/07(火) 03:42:11 ID:???
2げと
早速職人さん来ないかなとワクテカしつつ保守
3SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/08(水) 02:13:52 ID:???
6/

 ふわり……と、背中を押されたように感じたのは、ミネルバが加速を開始したからだ。

 ――ミネルバ発進、加速二十!
 ――加速二十パーセント、進路そのまま。
 ――視界クリア。敵影ありません。
 脳裏に反響する幻聴は、オペレイター席で聞きなれたブリッジクルーの声だ。艦長、
マリク、チェン。其処に艦内の状況を逐一報告する自分の台詞が重なっていく。
 ――機関正常、環境システムオールグリーン。総員異常ありません。
 最近、異常が無い方が却って不安な気分になる。余計な期待をすると裏切られると言う事が
骨身に染みてきた今日この頃だ。姉が乱闘を始めた位で一々報告していた頃が懐かしい。

 最悪を想定してさえおけば、要らぬ希望と余分な絶望を味わう事は無いのだろう。けれど夢も
未来も感じられなくて嫌な感じだし、何より現実は予想の斜め上を行くかもしれないでは無いか。
 だから願いは楽天的に、そして明るい未来が実現するように、努力は常に多目にしておこう。
なにか嫌な事件が起こるかも知れない、と不安になるよりは、忙しい方が格段にマシだ。

 もっとキャリアを重ねれば、そうした戦闘時の意識と平常時の此処との持ちようを上手い事
重ね合わせてやっていけるのだろうか。ザフトの有名な女性といえば"鳳仙花"シホ=ハーネンフース
が筆頭だが、明らかに軍人に向いた顔だった。メイリンの参考になるかといえば少し怪しい。
 なにより、戦争に慣れて行く自分を想像するのは少し嫌だった。
 戦争が終わって、連合とも小康状態に入ったから暫く戦闘は無いだろう、と思って入隊したのに、
いきなりきな臭い事件に巻き込まれてしまった。新型艦ミネルバでメインのオペレイターとして
失点の少ないキャリアを積んで民間に下りようと考えていた人生設計が狂いつつある。

 そんな考え事をしていたから、注意が散漫になっていたのかも知れない。
「おっと――!」
 肩をぶつけた拍子、前方の視界を塞ぐ書類の束が落ちそうになり、
素早く差し出された手によって半ばから奪われた。
「これ……士官室だろ? 半分持つからさ」
 開けた視界に映ったのは、前髪を染めたツナギの少年だ。主機関の修復を終えたのだろう。
「ん……それってちょっとだけ素敵。正直重かったの」
 油塗れの手で貴重な資料を持たれるのは抵抗があったが、連日の作業に疲れて居るだろうに、
こうした手伝ってくれるのは好感が持てたので、大人しくヴィーノの手を借りる事にする。
4SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/08(水) 02:16:02 ID:???
7/

 と、奇妙なものが目に入る。
「待って、それは何?」
 先へ行くズボンの後ろポケットに、見慣れた布の塊を目ざとく見つけたメイリンは、
マスターキーをぶら下げる囚人を発見した監視員の如くヴィーノを呼んだ。
「どうしてヴィーノがお姉ちゃんの靴下なんか持ってるの?」
 じっと睨むと、ヴィーノは顔を赤くして目を背けた。そんなに変な目つきをしていただろうかと
思ったが……まさかやましい所でも有るのだろうか?
「あ、これは……そのだな。誤解が無いように説明すると――」
 トレーニングルームで汗だくになっていた姉から預かった、という。
「そのままランドリーに入れちゃえばいいのにな、どうしてだろ?」
「これってシルクだから……」手洗いが大変なのだ。
 ヴィーノから返してもらったニーソックスは、少し油が付いていた。聞えないように舌打ちを一つ、
悪気が無いことくらいは分かっていたが洩らしてしまう。

「で……これってなんなんだ? ミネルバの中で資源の無駄遣い?」
 ヴィーノの関心は、大量のプリントアウトされた資料に移っているようだ。
「オーブの人達が自分たちも状況を把握したいからデータを下さいって……あの人たちに
端末を扱う権限が無いでしょう? でもこれって本当に資源の無駄遣いよね、アレックスさんは兎も角、
ナチュラルのアスハ代表はコンピュータがお嫌いなのかしら?」
 ミネルバ内に独立した端末はほとんど無いので、扱うには専用のアクセス権限が必要となる。
「その方が慣れてるってだけだろうと思うよ。俺だって端末よりは紙とペンの方が……ってプラントじゃ
本物の紙は珍しいけどな……アナログの方が書きやすいと思うし」
 メイリンは士官室の呼び鈴を押した。オーブの客人は、首を長くして資料を待って居るはずだ。
「今なら俺も暇だぜ、何か手伝えないのか?」
「ううん、ここまで運んでくれただけで充分。今はとにかく休んでて」
 ユニウス7の軌道データをプリントアウトしながら考えていた……軌道変更は無理だ。
「後で、沢山動かなくちゃいけないと思うから」

 ――過度な期待は裏切られるものだけれど、それでも願わくば、この拙い身による勝手な予想が
大外れでありますように。
 中から顔を出したシズル=ヴィオーラとアレックス=ディノに向けた社交辞令的な笑みの影で、
メイリンはそう思わずにはいられなかった。
5SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/08(水) 02:17:49 ID:???
8/

「――砕くしかない」アレックスの声は無味乾燥に、士官室の壁に吸い込まれた。

 ――矢張りお前はコーディネーターだからそんなに落ち着いていられるのか?
 即座に問い詰めるのが二年前のカガリだとするならば、汗一つ浮かべないアレックスが机の下で
きつく両手を握り締めて居る、と気付くのが今のアスハ代表だろう。

「どうやってだ――まさか核をプラントが使いはしないだろう?」
「メテオブレイカーという装置があります」
 独言のような言葉から一転、アレックスはカガリに対する敬語になった。
 小惑星の扱いについて、プラントは地球連合の半世紀先を行って居るのだそうだ。
「プラントはもともと小惑星から作りますもんなあ。あれだけ丸っこく成型でけるんやったら、
砕くんはもっと簡単ゆうことやね」
 香り立つカップをテーブルに並べながらシズルが和した。
「大きさが大きさですから、そう簡単な問題でもないはずですがね」
 アレックスは苦笑を隠しも為なかった。
「代表……オーブも宇宙開発の一翼を担ってきた歴史があるんですよ? メテオブレイカーともなれば
技術的に専門の話題にはなるでしょうが、プラントでは小学生が習う基礎知識です」
「む……言い訳をするとだな。国から打ち上げられた商品は、殆どが地球上で形にしていたものだ。
原料のまま打ち上げたりするのは一部のレアメタルと水くらいのものだぞ。プラントは有り物で何とか
暮らしていこうという、逆の考えだからな。私の知識は、大気圏の少し上辺りで止まっているんだ」
 戦争前には、マスドライバーの打ち上げオペレイター試験に合格していたのが密かな自慢だ。
「だったら逆に聞くぞアレックス。オーブは海産物を加工して宇宙に輸出していたが、オーブの
排他的経済水域内にある人工漁礁を面積の大きいところから順番に五つ言えるか、どうだ!?」
「……オノロゴ北ON−1漁礁、同南OS−2漁礁、カグヤ島タケトリ湾漁礁、
ヤラファス島北YN−1漁礁、同東YE−1漁礁です。面積は最初から順に――」
「わかった、もう良い……」
 そういえばコイツはエリートだった。まさかこんなローカル地理にまで詳しいとは――。

 重ねればカガリの身長を越えるファイルの束――プリントアウトされた資料――が、事態の重さを
その体積と質量で主張するかのごとく乱雑に士官室を占拠しており、さながらテロリストに囲まれた
人質という体のオーブ人達は肩身を狭くして話し合いを続けていた。
 代替紙製の資料がテーブルに置かれた紅茶を倒す事の無いように整頓するのが、現状カガリの
仕事だった。

「ユニウス7への接近ルートはどうなりますやろ?」
「小惑星帯をそのまま突っ切る……危険ですが、時間が無いならグラディス艦長はそうするでしょう」
「それでアレックス、破砕作業に関してオーブに手伝える事はあるのか?」
「――無いです」
6SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/08(水) 02:19:30 ID:???
9/

 二人してカガリを後方に下げようと言う風に話を持っていこうと為ているようだった。
「では代表、モーガウルの方はもうじきプラントに戻るそうやさかい、そちらに移って本国へ指示を……」
 その手に乗ってしまってはカガリは確かに安全になるだろうが何も出来なくなるし、アレックスが
カガリではなくシズルと通じ合っているというのはあまり気持ちの良い状況では無かったので――
「私はモーガウルには行かない――ミネルバと共に地球へ向かう」
――思いを一つと打算を二つ、抱えてそう答えてやった。

 シズルは怪訝な顔で、急な宣言をした上司を見つめる。カガリを計っている様にも感じた。
「……代表には、オーブに向けて非常事態を宣言してもらわなあきまへんえ?」
 それが出来るのはカガリだけだった。そしてデブリに囲まれた宙域から本国への通信は不可能で、
常識で考えるならば一刻も早く通信設備の整ったプラント方面へ脱出する事が最優先だろう。

「ただ現場に行きたいゆう気持ちだけやったら、そんなわがままで『アスハ代表』を
危険な場所へ連れて行く訳にはいきまへんな。なんや考えがあるんやったら別どす」
 アレックスに助け船を求めて視線を送るが、彼もまたシズルと同じ目をしていた。
場合によっては力づくでも後ろに下げるという目だ。
「非常事態宣言は出されなければいけない……しかし――だ」
 こんな理屈が通じるのか? 自身にも疑わしい考えでもって二人を納得させねばならない。
「もはや時間が無いんだ。セイランなら、私の影武者を立ててでも宣言を出してしまう」
 身内のそんなところを信用出来てしまうのは少し悲しかったが、セイランが何人かカガリの似姿を
用意している事は知っていた。
 否、わざわざ人間を出さずとも過去の映像或いはその加工品を使う位の事は躊躇無くやる禿げを
最低一人は知っている。それの息子のワカメがどうするかは未だ読めないが、父親に従ってカガリの
そっくりさんと抱き合って見せる姿はありありと想像できた。
「実際にできるのは、"アスハ代表"からのの暗号電文をでっち上げてしまう、位のことだろうがな」

「静観を決め込むのでは?」
「クレーターの中でハカリゴトに精を出すほど馬鹿じゃない」
「せやったら代表は……ミネルバと一緒にユニウス7まで行くと?」
「ああ、ミネルバと共に行く。一応言っておくが蛮勇で人気取りがしたいわけじゃないし――」
 紅茶を一口、喉を潤わせる。カフェインは興奮作用だったか? 深い味わいに心が落ち着くのは
淹れた人物の腕だろう。地球の香りがする紅茶は迷いがちの思考をすっきりさせてくれた。
「――当ては在るから止めても無駄だぞ? 矢張り彼らも先に動いてくれて居なければならないがな」
「……ムラサメの試験をしているクサナギどすか? 確か艦長は……ミナシロ一佐どしたなあ」
 イズモ級二番艦クサナギは、戦後のどさくさに紛れてオーブの宇宙軍に復帰していた。
「ミナシロ一佐がクサナギに上がる前、私は直接話をしたことが在る。本国に息子が居るそうだ」
 このような事態になれば、必ずユニウス7の近くまでやってくるだろう。
 カガリは宙図のある一点から赤いペンで線を引き、ユニウス7の予想軌道と交差させた。
「早ければこの辺で合流できるか……。高い確率でサハクが出張ってくると思うんだが……出来れば
鉢合わせにはなりたくないな」
 背の高いサハク家当主の顔を思い浮かべた。
7SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/08(水) 02:21:02 ID:???
10/10

「連絡艇を貸してもらわねばなりませんね。プラントの人間が其処まで協力してくれるかどうか――」
「信頼できるかどうかは私にもわからない。それはアレックスの方が詳しいのじゃないかと思う。
でも私は彼らもこの問題の解決に全力を尽くしてくれると信用はしている」
 悲劇の墓標を地球に落し、青き星を九十億の墓標に変えぬためにもそうするだろう。

「クサナギも必ず来ると信用している――」
 オーブに残った家族を救う為に、必ず来るだろう。

「そしてお前たち二人とも、私に必ず付いて来ると信頼している」
 カガリの拠り所は只一つ、信ずる人間が居ると言う事だけなのだから。
 正直な所、自分を代え難い人間だとは思っていない。

「二人とも心配するな――」
 カガリは迷う。己の有るべき姿と行くべき道は何か。

「私は爆発するジェネシスから生きて帰ってきたのだぞ――」
 アスハは弱い。アスハの枠組みから放り出されれば、戦う術を持たない。

「私の悪運は、そう捨てたものじゃないさ――」
 代表は若すぎる。経験も知識も判断力も、何もかもが足りない。

 自分の代わりにもっと有能な誰かがこの場に居ても可笑しくは無い。
オーブ代表の能力を最も疑って居るのは、他ならぬ自分だろう。
 だからこそアレックスには、オーブで一番自分を信頼して欲しい。
 だからこそシズルには、もっとも身近な態度で相談に応じて欲しい。
 カガリにとっては部下の信頼こそが唯一の武器なのだ。
 プラントに飛ばされたの自分に、二人は嫌な顔一つせずラグランジュポイントまで
付いて来てくれたのだ。その信頼に報いる為ならば、この身など幾らでも削って見せよう。
「しっかりと、最後まで私の面倒を見てもらうからな――」
 不敵な笑いを装いながら、不安におののく内心を晒すことが出来ず、無力感が全身を責めていた。
「仕方ありまへんなあ――」「お供しますよ――」
「そうか――有り難う」
 それだけをいうのがやっとだ。資料を眺める振りをして、動悸が治まるのを待った。

「では次だ。ユニウス7を砕く事の出来るタイミングは一体どの辺りなんだ?」
 泣くなら後だ。そう心に決めて、カガリはアレックスに聞いた。
8通常の名無しさんの3倍:2007/08/08(水) 11:06:06 ID:???
 それは奇妙な世界であった。
 例えば、補給を気にするものは、その世界の軍にはほとんど存在しなかった。
 動力を核にすれば、銃弾も推進剤も無限になるし、食料や補修部品などは、いつだって都合よく存在していた。
 そして一度得た名声や好意は、大抵の場合どんな事があろうと、どれだけ時が経とうとも無くならなかった。
 特に一部の人間に対するソレは、幼年期の友情が現役の戦友への想いを上回ったり、国を建て直した者への支持よりも、特に何もせず、ただ一人理念を唱えるだけの者への支持が常に上だったりした。
 あるいは、よくわからない原理で空を飛ぶ戦艦や機動兵器が一般的に運用されていたり、放射能汚染を起こすような危険な兵器が、いつの間にか地表の要塞砲として使用しても問題ないようになっていたりもした。
 他にも、宇宙のコロニーを全て破壊する、そうやって主義者が巨大な砲を発射しようという時に、何故かコロニーの指導者の政策を取り止めさせよう出撃する者たちがいたり。
 ましてや、その行動が世論に肯定されてしまったり。
 あまつさえ、それをやった者たちがその後、円満に権力を独占したりしていた。
 こんな世界を、奇妙と言わずなんと言う?
 まったく奇妙なこの世界において、これらの不可解な現象の数々は、しかしこの世界においては人々に奇妙だと認識されない。
 いや、彼らには認識できないのだ。認識できてしまった者は、世界から消される。
 だが、消されたからといって、そこで終わりではない。消された者はその後、洗脳作業にかけられる。
 それが成功すると、この世界へと戻される。そしてかつての人格や思考能力を失い、桃色の髪の娘に盲目的に従うようになってしまうのだ。
 これら世界を歪める行為を行っているモノども。ソレらは主に負債と呼ばれ、その成果たる歪みを補正と呼ぶ。

 さあ、奇妙な奇妙なこの世界。
 いっそキミも、歪めてみないか? ひょっとしたら、負債による歪みが矯正されて、まっすぐに近付くかもしれない。ひょっとしたら、もっと歪んで途中で折れてしまうかも知れないけれど。
 でも負債より、腕が良ければ大丈夫。きっと上手くできるはず。
 さあ、そこの職人さん。一丁、書いてごらんなさい――――
9弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:05:38 ID:???
少女は砂漠を走る!

第七話 正直者の宴(1/6)

「ボンヤリしてるぞ、全く。だから夜勤明けなんだから気にせず休んで良いって言ったのに……」
「だ、大丈夫ですっ! 眠い訳じゃぁないですから! ……そのぅ、たいして仕事しなかったですし」
 夕方の格納庫。座学の時間、師匠の顔がすごく気になる。仮眠も昼寝もしてないけれど眠くないのは本当。
「ココでしたか。マーセッド隊長、マーカス隊長が呼んでます。急ぎじゃないそうですが?」
「あぁ、すぐ行くと言っといて下さい。……今日は勉強は休みにしよう。補佐の仕事は大丈夫かい?」
「あ、はい。任せて下さい!」
 どうせ隣で立ってるだけ。それなら何とかなるだろう。顔が直接見えなければよそ事を考えるコトも無い。
「はは、正直だな。僕は部屋に寄る。チェンバレンくんを捜してきてくれないか? 彼にも多分関係する話だ」

「どういうコトです! 対テロ専は何も出来なかったんですか!? アーモリーなら近隣にいたはずです!」
 セカンドステージ強奪の話は『マーセッド隊』については代表でわたしが聞いた。ので、一応隊長に許可を
貰った上で、さっき隊長たる師匠に伝えた。ただ、部下も上司も居ない本当の員数外であるティモシーには
誰も伝える者がなかったらしい。今朝方まで師匠達の経歴や状況の調査をしていて、さっきわたしに起こされた
彼は、だから何も知らなかった。隊長のリアクションから行くと、伝えるのをホンキで忘れたみたいだけど。
「対テロ専主要3隊はアプリリウスで会議だったらしい。彼らがいればこうもあっさり、とは俺も思うよ」
 お披露目のスケジュールより前に泥棒が入って大事なお宝を盗まれた。しかも何故かプラントで一番偉い人
が来ていた、のみならず自らも泥棒を追いかけて、更には実戦に巻き込まれお宝は帰らずじまい。確かにエリート
を自認し、その立場まで背負ってしまっているティモシーのタイプの人間には我慢が成らない話ではあろう。
ザフトレッドが3人も配置されていたのだが、全員ルーキーだったのだとはさっき格納庫で聞いた。
 式典用のお飾り部隊ならこんなモンだ。とはバクゥのアンドレ隊長の話。けれど赤服とは言え初陣がコレでは
対処は出来まい、と自分と重ね合わせて思う。
 師匠が居なければわたしはどう転んでも死んでいたし、助かっても銃殺刑でやっぱり死亡。

「ミツキくんからテロリストでは無いらしいと聞きましたが?」
「どうやら連合の特殊部隊のようだが詳細は不明だそうだ。連合軍としては非公式に関与を否定している」
 なんで非公式なんですか? かえって怪しいです。と疑問をそのまま口にしてみる。
「わかってみればクダラン話だぞ。こちらも正式に発表していないからだ」 
 暗に情報が漏れた。と言いたいらしいが、直接口に出さないのが隊長らしくはある。

「ところで隊長、話はなんだったんですか?」
「あぁそうだった。先ずはエディ、4日後に到着する町で入院して貰う。コレは命令だから拒否は認めん」
 命令で入院する人はあまり聞いた事がない。
「モニカの読みではテロ活動の開始が近々であるらしい。なので事が起こるまでおまえを監視しておきたい
という事のようだ。対テロ専の資料では旧ザラ派に分類されてるらしいぞ? そうだったな、チェンバレン?」
「……今、赤い服を拝領しているのが何よりの身の証だと思って居ましたが」
「悪く思うな、開き直って体を治せ。そしてマーセッド隊の隊員2名はチェンバレンの指揮下に入って貰う」
 いきなり話をフラれて、さすがに顔色が変わるティモシー。
「君の身柄は当分我がマーカス隊で借り受ける事にした。マーセッド隊の2名も扱いは同様。
チェンバレン隊としてザクとファング計3機、我が部隊の切り札になってくれ。頼むぞ、チェンバレン隊長」
 一時的なものであれザフト内部での『隊長』の響きは重い。一応敬礼はしたものの二の句が継げないティモシー
と、いつも通りに涼しい顔の師匠。ティモシーを連れてこさせたのはこの為だったんだ。自分の立ち位置について
さらっと嫌みでかえすのも含めて、どうやら全ては師匠の読み通りってコトらしい。相変わらず狸だ。

 こんな大ダヌキを相手に駆け引きのある会話などわたしには出来そうにない。どうすればいいんだろう。
10弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:07:56 ID:???
第七話 正直者の宴(2/6)

 夜、時計は22:32を指す。徹夜明け、更にさっきまでフレアモーターについて調べていたので寝てない。
正直フラフラではあるのだが、眠れない。やはりこのままではダメだ。同室のメカニックの娘は今日は徹夜
なのだといってさっき出て行った。意を決してTシャツにショートパンツの寝間着姿のまま部屋を出る。

 上級士官用個室が並ぶ廊下にぽつんと一人立つわたし。「あのぉ。まだ、起きてますか……?」
控えめにインターホンに話しかけたわたしは、かなり驚いた表情の師匠に部屋の中に招かれる。
「いくら男女の差別がないと言っても、クルーには男性が圧倒的に多いんだぞ?。そんな格好で船の中を
うろついちゃいけない。いらない諍いの元だよ……。自分で思ってるよりも魅力的な女の子なんだよ? キミは」
 そして、あぁ取りあえずコレしかないか。と言いながら椅子にかけてあった赤い軍服の上着を横を向きながら
肩にかけてくれる。ちょっとだけ汗くさい。涼しい顔してても一応、汗はかいてたんですね。良かった、人間で。
「羽織るだけじゃなくて前もある程度閉じておいてくれよ? 前が向けないよ……。えぇと、先ずは座ってくれ」
 狸のクセに何処まで純情なんですか。つーかマジで赤くなってるし……。だが続く台詞はやはり狸だった。
「あ、あぁ、ゴホン……。うん、何の用で来たのかはだいたい見当が付いている。キミの推測を最初に聞こうか」
11弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:09:40 ID:???
第七話 正直者の宴(2ー2/6)

 取りあえず、自分の知っている事、思った事を砂漠の町で見た事も含めて全て話す事にする。
わたしは師匠はクロだと思います。そしてフレアモーターを使って何かをするならばユニウスセブン。
アレが地球に落ちるなら、被害は全地球規模で計算などせずとも効果絶大は確定。ティモシーはあり得ないと
いったが、プロがあり得ないと思っているのなら尚のこと。それに空の墓標と呼ぶ程に思い入れがあるのなら。
そして何より、それほどまでに愛しい人の悲しい思い出が詰まっているのなら、わたしならそうします。
 何故か最後は涙が止まらなかった。そして、30分泣きながら演説するわたしを師匠はただ黙って見ていた。

「推測が全て当たったとしてキミはどうしたい? どうせ僕はこの体だ、何処にも逃げられやしないが」
 否定はしないんですか? 師匠。キモチが空回りして体が勝手に椅子から立ち上がる。
「どうもこうも! だって、師匠が居なければわたしなんかは……。 いいえ! それより、その……」
 ここから先の展開なんて考えている訳がない。考えていたのは思った事を喋る所まで、だ。

「僕の目に狂いはなかったな。一切の予断を捨てて状況を積み上げ、結論に達する。やはりキミは優秀だ」
「えっ。あの、師匠。じゃあ……」
「首謀者ではないが関わっていたのは事実だ。間もなく証拠固めも終わるんだろうな。入院、即逮捕だろう」
 すっと立ち上がる。Tシャツの短い袖の右側が軽く揺れる。胸しか見えなくなってしまった。頭を上げて
高い位置から見下ろす目を負けずに睨み返す。
「ユニウスの件も当たりだ。対テロ専の連中が見えていない真実に、動機まで含めてたどり着くとは驚いた」
「わたしをダシに宇宙にあがるって言ったのは逃げるつもりだったんですか! そんなの、卑怯ですっ!!」
「そこはキミがあの町で聞いた通りだ。僕は初めからユニウスと運命を共にするつもりだった」
 キミを本国の後方部隊に配属してからユニウスへ行くつもりだったんだ。そう言うとわたしから目をそらす。
「空から見下ろしていたのではわからない事もある。地上では、当たり前だがキミたちが暮らしていたんだ。
そんな簡単な事すら、怒りと悲しみで見えなくなっていた。キミに会うまで気づく事さえ出来なかった」
 もう一度目が合う。
「空に拘ったのは僕が逃げたかった訳じゃない、僕と境遇の似ているキミを助けたかった。……最初は、ね?」
 不意に後頭部に彼の左腕が回ると額が彼の胸にぶつかる。赤い服は肩から滑り落ちていく。
「普通の人生をキミから奪った僕には、気持ちを伝える資格など無いだろう。……卑怯者と罵ってくれて良い」
 一瞬で腹は決まった。あなたのやりたい事が、仮に人類滅亡であったとしても、わたしは全力でお手伝いします!
「ちょっ、と……。し、その、エ、エディ、さん? 伝えるって、その、わたしのキモチも読んでて、それで……。」
 腕は優しく背中へと降りる。片腕だけの抱擁だけどしっかり、堅く抱きしめられて抜けられない。けれどわたしには
初めから抜ける理由などないので困らない。だから彼の背中に両手を廻す。彼が逃げていかないように。
「僕の事はエディで良い。最初にそう言った。……キミには生きていて欲しいんだ。もうキミに嘘はつかない」
 腕が緩むと顎が持ち上げられる。どうして良いかわからないわたしは、本能に従って目を閉じる事にした……。
12弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:11:37 ID:???
第七話 正直者の宴(3/)

 頭がまだボンヤリしてる。どれだけ時間がたったのかハッキリしない。いやがる体をベッドから強引におこす。
赤い服を拾うと今度はキチンと袖を通して腕まくり。ベルトで裾を引きずらない程度まであげる。
赤い上着。彼の汗の匂いがむしろ心地良く感じるが、こういう感じは変態、じゃないよね。……多分。

 最後に連絡を取ったのはキミが約束を破った日だ。と彼は言った。ティモシーの存在をダシに使って
【ユニウス落とし】の中止を提言したのだそうだが、その後は連絡が不通になってしまっているのだそうだ。
「見捨てられたのだろうな」
 そう言って彼は笑う。ただ決行予定がわからない。更にこの体だし、お尋ね者では空にも上がれず何処まで
キミを護れるかは疑問だ。いずれどう護ったらいいのかは、よくわからないが。そう言うと難しい顔になる。
確かにユニウスが落ちてくると言うなら、どんなカタチで何処にどれだけの被害が出るかなどわからない。
「対テロ専ではすぐに行動を起こすと言う見解らしいが、本当にそうならば間に合う部隊が近隣にいないな。
通常最外縁のモンロー隊までアプリリウス市にいるとは。既に設置はあらかた終わったと見るべきか……」
 ただ阻止は頭数がそろったとしてもかなり難しいだろう、とはさっき自分で言った話だ。阻止も避難も無理。
ならば、せめて最期の時は二人で……。青白い横顔を見る。わたしが護ってあげる立場だよね、コレは……。
「わたしがエディを護ります! 逮捕なんてさせませんっ!」
 現状、エディの政治的な力はかなり押さえ込まれていると見て良いだろう。そしてわたしは確かに下っ端では
あるが、友人という切り札を2枚持っている。ユースケとティモシー。彼らを上手く使えば彼を窮地から救う事も
出来るのではないか。地球自体を救ったりはもちろん出来まいがそれはそれだ。彼は少し諦めた顔をする。
「頭に血が上った時の顔だな……。言っても聞くまいが、あまり無茶な事はやめてくれ。僕は逮捕される事自体には
異存はない。心配事はキミの事だけだ。本当に、頼むから命に関わる様な真似はしないでくれよ?」

13弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:14:44 ID:???
第七話 正直者の宴(4/)

 部屋を出る時には時計は既に04:19を表示していた。とは言え明日はイチイチサンマルまでにブリッジに
あがればいいと隊長にも言われた。多少時間はあるし風に吹かれに。と、ばったり【切り札】の一枚と合う。

「ティモシー! こんな時間まで仕事してたの!?」
「そ、いや、あのぉ、そうなんだけど……さ。あのさ、ミツキ……。その服って、その」
 動揺の色を隠せない彼の顔。その彼と同じ色の上着を引きずりながら着ていた事に思い当たる。
純情でないとザフトレッドには成れないのかも知れないな……。内心ため息をつくと彼の望み通りの返事をする。
「寝間着でエ……師匠のトコにパラメーターの相談に行ったらそんな服でウロウロするなって怒られちゃった」
 そりゃ確かにそうだろうな。とあからさまにほっとした表情。こんな時間の不自然な話をあっさり信じる辺り、
仕事絡み意外はホントにアレだな。まぁ彼の憎めない部分ではある。それに、文句言われたのはホントだし。
「ところで明日の朝は遅いんだよな? 話がある。服を着替えて甲板まで付き合ってくれよ」

「何の話? 告白かしら♪」
 緑の服に着替えて甲板に立つわたし。彼にしては空気が重い、少しおどけてみせるがあっさりかわされる。
「それは後、まずはエディの事だ。次の町には予定より半日早く入る。病院には憲兵が直接連れて行くそうだ」
 多少怒った様な喋り方。何が言いたいの? あなたは回りくどいの、キライでしょ?
「それと、コレはオフレコなんだけど彼は今、フレアモーター絡みで名前がわかっている中ではもっとも上位の
人間だ。多分憲兵に拘束された時点で、病院に搬送される事は無くなると思って良い」
「ティモシー、それは、あの。師匠の……」
「連れ出すというなら明後日の夜までだ。それ以降は彼に会う事さえ難しくなる。気づいてないとでも思ってるか?
……ミツキがテロリストと一緒に行くなんて、オレとしては勿論納得いかない。けれどフェアじゃないのは
俺がイヤだ。だから材料は提示してやる。全て自分で決めて、行動しろ。プラントならもうとっくの昔に成人年齢は
過ぎてんだぞ? そして全て終わってまだココにミツキが残っていたなら、口説くのはその時だ。俺の気持ちは、
それまで封印しとく……。 さぁ、とっとと考えて行動に移せ。もう突っ立ってる時間なんかないぜっ!」

 一気にまくし立てるとそのまま船内へ戻っていく彼。ごめん、ティモシー。わたしは……。
 徐々に地平線の輪郭があらわになる。どうやら一枚目のカードは、思惑は無視して切られてしまった。
14弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:16:20 ID:???
第七話 正直者の宴(5/ )

 昼下がり、あまり偉くない級の士官室が並ぶ廊下。MPの腕章を着けた兵士がドアの前に立つ部屋。
わたしが敬礼をして事情を説明すると、何かあったら大声を上げろよ。と言いながらドアを開けてくれる。
 部屋の中にいるのはユースケ。何も知らないと言っている彼と話をしてみたい。と隊長に掛け合ってみた。
意外にあっさりOKが出たので拍子抜けする。反抗的でもなければ、何かを知ってる風でもなかったからだ。
とエディは言った。その何も知らない彼が連合経由でユニウスの事を知っていたとしたら。勿論それをユースケ
に吹き込むのはわたし。そしてユニウス落としが連合の仕業だとミスリードできれば、エディから監視の目は
一時的にでも離れる。ティモシーを如何にして誤魔化すかという問題は残るが、それはそれ。

「何の用だよ。ザフトのパイロットなんかに用はない」
「なんでいきなりそうなのさ! 何とかあんたをここから出したいのよ。協力してよ、あんたの為なんだよ?」
「出たからどうなるってもんでもないだろ。銃殺になりそうでもないしな」
 やはり認識がアマイ。聴取の結果ゲリラとしてザフトのMS何機かを損傷させているコトが判明している。
銃殺にならなくともそれなりに非道い目には遭うはずだ。但し、どの世界にも抜け道はある。重要な証言をする
のと引き替えに罰則をチャラにする、俗に言う司法取引。首領のジークフリート氏はまず無理だろうが、幹部
という訳ではない彼ならば。それにそれを判断するのは現時点では隊長だ。無罪放免は大いにあり得る。

「と言う事で、あんたには【蒼の息吹】から聞いた情報を喋って欲しいのよ」
 それでね、と言いかけたわたしを遮って喋り出す彼。
「何度も言ったけどホントに大したことは知らない。俺が知ってる事と言えば、せいぜい奴らの正体が
ファントムペインとか呼ばれてる連合っつーかブルーコスモスの特殊部隊だってのと、連中の目的が
大規模テロを画策した【この部隊】の殲滅だって事ぐらいだぜ? な? 取引の材料なんかには……」
「ちょっと! その話、誰かにした!?」
「いいや、誰も聞かないから知ってるんだと思ってたけど……」
「スイマセン! 師匠。じゃない、マーセッド隊長とチェンバレン隊長を大至急呼んでクダサイっ!!」

 何故かティモシーの補佐になってしまったわたし。我が隊長様は現在マーカス隊長と会談中である。
「チェンバレンがそう言うなら良いだろう。彼は解放しよう。しかし目的が、我が部隊の完全排除とは……」
 ユースケは軟禁状態から解放され限定的な条件は付けられたが艦内を歩ける様になった。しかし反対に
エディの立場は悪くなってしまった。彼の所為で付け狙われている様なものだから、仕方がないと言えばそうだろう。
もっともエディは今はまた具合を悪くして寝ているので軟禁状態であっても実質関係はない。とは言え彼を
護るどころか立場を悪くしてどうする、わたし。ユースケの解放との両面作戦だったのが失敗だったか……。
「エディについては直接関係ないのではないですか? そうであればミツキだって放し飼いにしておいちゃ
不味いと言う事になります」
 わたしのキモチ、彼のやったコト。全部わかった上で、それでもエディの事に気を回してくれるの……?
放し飼いって表現がちょっと気に食わないが。
「シライ君に関しては既に書類上は君の部下だし、現地で採用したのは俺だ。日付的にもデータ的にも
彼との関わりは否定されている。エディについては同感だが、俺の意向だけではどうにもならんこともある」
 但し、何か事が起こればその時点で拘束は解除するさ。隊長がそう言った所で会談は終わる。

「ねぇ、隊長?」
「ふざけんな! ティモシーで良い!!」
「じゃあティモシー、エディの事、なんで……」
「言っただろ? オレが妨害しているとミツキに思われるのは絶対イヤだ。それに、甲板で喋った情報はオレの
レベルの人間は知らない話だ。ミツキ以外には話せない。……幼なじみの彼の事は、あとは知らないぜ?」
15弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:17:46 ID:???
第七話 正直者の宴(6/ )

 誰かの付き添いと手錠があれば艦内の一部を歩いても良い。そう言う条件。だから不本意ではあるが今、
甲板の上のユースケの手には鉄の輪がはまり、そこから伸びたひもの先はわたしの手の中にある。

「やっぱり日の光はいーわ。ありがとうな。ちょっと暑いけど」
「文句言うな! 各方面に掛け合ってあげたの、誰だと思ってるのよ?」
 ホントの所は裏で掛け合ってくれたのは、知らない。と言いながら大部分ティモシー。彼は黙ってるけど
やってくれたってのはわかってる。しかも彼の場合恩に着せるのではなく、考えてる事はきっと逆な訳で。
ホント、まっすぐ。それでもわたしだってそれなりに動いたんだ。嘘はついてない。
「わかってるよ、いろいろごめんな。ところで俺が解放される時はおまえも一緒に?」
 彼は次の町以外の場所で近いうちに解放される事が決まっている。そして色々上手くいったなら
彼が解放される時、エディとわたしはこの船には居ない。

「わたしは拘束されてるんじゃないの! 真面目にパイロットなんだってば」
「何度もいろんなヤツにそう聞いたけどさ、どうもピンと来なくて。ところで興味本位で聞くんだけどさ。
あの腕のない赤服とは、その、そう言う関係なのか?」
 いつもそうやってバカにされていたからその類の話はスルー出来ていた。……昨日の夜までは。
赤い制服はまだわたしのクローゼットの中に吊ってある。キモチの制御が効かない。一気に顔が熱くなる。
「え、エディ……さんはわたしの……そう、MSの師匠なの! あの人の事、そんな風に言うな! バカ!」
「なるほど、片思いなのかぁ。まぁ若干胸はえぐれてるけどカワイイ部類には入るだろうし、いっそおまえから
言っちゃえよ。童顔だし、ロリ好みなら意外と落ちるカモ、だぞ。エリートなんだろ? 諦めるのはもったいないぜ」
 誤解したまま納得してくれた様だが、納得の仕方がムカつく! フンだ! こんな胸だってちゃんと……。 
危なく口が滑るトコだった。が、しかし……。エディはロリコン趣味なんだろうか。うぅ、若干ショック。
 ユースケ相手だとつい余計な事を喋りそうになる。昔もよく口喧嘩したっけ。たった2年前なのに遙か昔の
ことのような、もう戻らないオーブでの遠い記憶。

「みんな大丈夫かな……」
「負傷した人は居たし逮捕者も出たけど、死者は出なかったって隊長が言ってたよ?」
 赤き風の旅団は非戦闘員をほぼ全員ザフトに押さえられている、更にスポンサーになっていたザフトの
一部部隊も既にフェイスと憲兵隊による手入れがあったらしい。事実上活動は出来ないと見て良いだろうが、
それなら幹部以外はむしろ命の危険だけは無くなったのではないだろうか。
「あのさ。よくわからないんだけど、何が心配なの?」
「あぁ、実行部隊がまだ捕縛されてない。そして蒼の息吹の本拠地を知ってる人間もその中にいる」
「それじゃあ……」
「真っ正直に死ぬ気で突撃する可能性はある。いや、多分間違いなく突撃する」

「シライ君、位置は聞いたかね?」
「だいたいの場所しかわからないと本人も言ってまして」
「この近所だというなら戦闘になれば位置の特定は一発だ。だいたいで絞り込めるのであればな」
 隊長室。一応ティモシーを伴って隊長にさっきの話の報告をする。
「ファントムペインだかに打撃を与えるチャンスですよ、隊長。赤き風は装備はショボイが練度は高い」
「そう簡単に言うな……。ともかく該当地域の監視はさせる。情報は受け取っておこう。二人とも退室して良し」
 絶対に隊長は点数を稼ぎたいはずだ。ファングの準備をしておけ。と言うティモシーの顔を見れば点数を
稼ぎたいのは隊長だけではないのは丸わかりだ。彼が稼ぎたいのはスコアであろうがそこに大きな差はない。
戦闘になったとして介入するのは違う気がするが、有事の裁定になればエディの拘束が解ける。
わたしにとって大事なのはそこだ。結果、全員が戦闘を待ち望むと言う事か……。少し、ヤダな。
16弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:19:16 ID:???
第七話 正直者の宴(7/ )

「共闘するの? マジで!?」
 作戦の概要説明がないまま、待機からいきなりファング2はカタパルトで放り出された。あんまりだ。
『オレの判断じゃない、文句があるなら隊長に言え! グゥル射出タイミングは自分でやるからこちらへ……。
ティモシー・チェンバレン、ザク01! 出るっ!!』
 遅れて打ち出されるグゥルに滑らかに着地するとファング2機の上空に位置を取るティモシー。

 戦闘と思われる振動を確認したのが今から約17分前。ユースケの事前の証言の位置とほぼ一致した為に
マーカス隊はコンディションレッド発令。それから約5分後にチェンバレン隊にスクランブル、現在に至る。
 チェンバレン隊後方、遅れる事165秒で本隊のバクゥも出ている。足の速さと装甲、機動性でチェンバレン隊
の3機が斥候に選ばれた。要するに約2分半で赤き風の旅団に敵じゃないコトを説明して納得させた上で
一緒に戦いましょう! となった所でバクゥ到着。と言うシナリオな訳だが如何にも思い付きな作戦。
むしろ若いとは言え、幹部とまでは行かないにしろそれなりの地位にいたのがわかっているユースケを連れて
きて、無線で喋らせた方が早いんじゃ無かろうか。交渉役として有効な切り札と思われるユースケだが、
彼は前線には出さない。と隊長は判断した。彼は今、拘束を解除されたエディが付き添ってブリッジにいる。

『でもなぁ、ホントに交渉役がおまえで大丈夫なのか?』
「確かに不安ですよねぇ。せめて師匠が動ければ」
『煩い! ちゃんとミツキから話を聞いた時点で原稿作っておいたんだ! ほとんど推敲出来なかったけど』 
 なるほど。この程度の先読みが普通に出来なければ赤い服は着れないってコトよね。馬鹿真面目に原稿を
作ってる所がティモシーらしいと言えばそうだけど。

「間に、あわなかった……? ティモシー、場所は合ってるよね?」
 微妙にカムフラージュされた半地下の意外に大きな建物の周り。大きくえぐれた地面、ジン・オーカーの
ものと思われる残骸が散らばり、黒く焦げた戦闘車両が煙を上げる。仲間を心配していたユースケを連れて
こなかったのは正解だったかも知れない。
『降りて生存者を探す。二人は機体に残って周辺索敵』
『よぉ、隊長様。そう言うのは部下の仕事だぜ。俺が行く。あの機体だろ? おまえが気になってるのは。
それにラジオとセンサーはザクの方が良い。周囲警戒しつつバクゥのアンドレと連絡を取っておいてくれ』
 ファング3はコクピットハッチを開けると辛うじて形をとどめているオーカーの一機に近づき瓦礫をどける。
『残骸のつもり方が不自然な気が……っ! シルビオ! ハッチ閉めろっ! 大至急後退!!』
 ティモシーが声を上げる。シルビオさんの姿がコクピットに隠れた次の瞬間、オーカーのコクピットを中心に
光がふくらむ。爆発! 頭をもぎ取られ右腕を失ってゆっくりと後ろに倒れていくファング3。
『ミツキ! 動くなっ!! Gタイプは頑丈だ、シルビオは生きてる。慌てるとおまえも非道い目に遭うぞ!?』
「シルビオさんっ大丈夫ですか!? ……ティモシー! わたし、どうすれば良いの!?」
『ミツキ、センシングレベル最強に。パイロットの影を見せておいて地雷を仕掛ける……。腐れ外道めっ!!』

 結局ファング3は中破、シルビオさんも命に別状はないものの全身骨折12カ所。更に破片を浴びてベッド
からは当分起きられない。燻る元車両は数が判らないが、ユースケの話では実行部隊MSの総数は9機だった。6機分の残骸と離れた所で元ピートリー級だった鉄の塊が確認された。赤き風の旅団は事実上壊滅した。
「次は船に来るぜ? オレにも戦わせろ、裏切ったりしない。MSをかえす様に言いに行く。つき合ってくれ」

次回予告 第八話 作戦決行!
遂に本格的にエディが体調を崩してしまった。憲兵隊の到着も間もなく。もう時間がない!
なのに連合の部隊がこちらも本格的に責めてくる。もう! エディ、この非常時にだれと喋ってるんですか!?
17弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/08(水) 19:21:25 ID:???
ワープロソフトの設定を変えた所
字数の計算を間違った為、若干読みづらくなっちゃいました……。

今回分以上です、ではまた。

>>1
乙です
18通常の名無しさんの3倍:2007/08/09(木) 01:20:09 ID:???
>>3〜7
投下、乙です。
カガリが本編よりしっかりしてるのはシズルの影響もあるのかな?
とにかく、拙くとも頑張るところに好感もてます。前回のルナもかっこ良かったし
女性キャラが全体的に良くなってて好きです。GJでした。
19通常の名無しさんの3倍:2007/08/10(金) 08:40:34 ID:???
>>弐国
>>11>>12の間が抜けてるじゃないか!
いきなり服を着るなんてあんまりだ・・・www
あんたがじっくり表現したらイタチになるだろうけどさ

字数については気にしないでも良いと思うけどなぁ
自己緊迫プレイなんだろうけどw
20通常の名無しさんの3倍:2007/08/10(金) 20:45:21 ID:???
>>†
投下乙
メイリンの人生設計のくだりが如何にも普通の女の子な感じで良い
そしてシズルのセリフとキャラも世界観から浮いてない、むしろ必要に思えるあたりお見事
代表の立ち位置と己の力量をしっかりと認識するカガリがカッコイイな
なんか最近会話の部分が俄然ノって来た印象。次回も楽しみ

>>砂漠
投下乙
ギリギリエロシーン回避もむしろ妄想の幅が広がって好印象。言われりゃ確かに投下抜けに見えるwww
エディさん、うらやましい・・・。俺にロリコン趣味はないぞw
そしてただの狂言回しだと思ったティモシーもキャラと存在理由がハッキリしてきた。次回にも期待
ただ全体的に今回ちょっとリズムが悪い。詰め込みすぎではないか?
21新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 00:49:11 ID:???
>>1
乙です。

いつもよりも投稿が遅れてしまいました。
また、色々ありまして第十二話のタイトルを変更しました。
申し訳ありません。
22通常の名無しさんの3倍:2007/08/11(土) 00:52:31 ID:???
 それは、ゆめです。
 それは、ひとです。
 それは、ゆうぎです。
 それは、疑心暗鬼。狂意。殺意。阿鼻叫喚の世界。
 なら、何を信じればいい?

 ゆえに、それは創るのです。せいぎをあくががたおす、くだらないおはなしを。

 その柱となるものは、一つ。悪になりうる可能性を秘めた、自分と。
 その柱となるものは、一つ。正義になりうる可能性を秘めた、キラ・ヤマトによる。

 くだらない物語を。

せめて、夢の中だけは
第十二話 繰り返す
23新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 00:55:12 ID:JiP6C68C
 シン・アスカ。彼は正義を悪に立ち向かうまでに強める為の、餌。それだけでしかない存在。既に餌としての役割を十二分に果たした。さぁ、殺そう。どの道、世界が滅びるまでの些細なお遊び。
 どうせ自分はキラ・ヤマト以外に斃されることはないのだから。嗚呼、哀れな餌よ。せめて、せめて死後の世界では安らぎを得られるように……まぁ、尤も。
「尤も、死後の世界が存在するんならな!」
 くくっ、と笑いを噛み殺す。視界の左隅にバビとインパルスが入る。
 こちらに銃口を向けてつつ、周囲を警戒しながらホバリングしていた。無駄な足掻きを。もう、遅い。だから、始めよう。
 機体を操り、右手を高々と掲げる。

「さぁああぁ! これが貴様の望みだろう!? 最初の調整者、その血縁たるユーレン! くくっ、イイ感じにネジが緩んできちゃいましたなぁ。イエスイエス。さぁ、始めるよう。総ては、これからだ……リン!」
 アルは高らかに叫び、宣告し、パワーで指揮を執っているであろう己の右腕に声をかけた。
『はい』
「始まりだ! まずはガルナハン。その次にベルリン。そのまま世界全域。疑心暗鬼の芽を咲かせてやれぇぇ!」
『イエス、総ては、これから』
「嗚呼、なんと美しきこの世界……この美しき世界が。疑心暗鬼が満ち溢れる、狂意と殺意が入り乱れる阿鼻叫喚の世界に転移(しふと)しようとは……現在再び、世界は更なる混迷の一途を辿ることとなろうとは……」
『しかし、故に美しい。信じる者を失い、敵意と狂意と悪意とが咲き乱れる混沌の世界を現在此処に。総ては主の思惑通りに。調整者の思惑通りに』
「よろしい。さぁてと……シン・アスカ君だね?」

 いきなり手を上げたかと思いきやそれからさっぱり動かないMSが、“直接”こちらの機体に呼びかけてきて、さすがに俺も度肝を抜かされた。
 インパルスは最新鋭機だ。もちろん通信コードは秘匿。最重要機密、とまではいかないがそれに準ずる機密のはず。接触回線や目と鼻の先にいるのならまだしも、だ。
 こちらは数百メートル以上離れているのに。直接。何がどうなってやがる!
「COOLになれシン……」
 ふふ、そうだな、俺のことはSと呼びな! ふはははは!
『聞こえてないのか……にゃぁ?』
「気、気色悪ぅ! キモイんだよ!」
『言葉を慎みたまえ。君らは、KI☆NG、の前にいるのだ! 跪け! 命乞いをしろ! 世界から勇気を取り戻せ! あのちーへいせーんっ!』
 ううむ、どうやら相手にしたくない変態を相手に回してしまったようだ。イイ感じでトリップ、もといシャウトしている。
『シン! 一緒に破滅のじゅも……』
「テメェもかっ!?」
 ここに正常な人はいないんですかそうですか。
24新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 00:56:55 ID:???

「……はっ!?」
 思わず頭を抱え込んで、正気に返る。俺がやらねば誰がやる! いざボケの屍を乗り越えて行け!
「やいやいやい! いきなり回線つなげるって、あんた何者だ!?」
『もう一度だけ言おう。王だ!』
『シン、不味いぞ! 天空の城の兵器でやられてしまう!』
 コイツ、帰ったらぶん殴る。その危うい生え際の面積増やしてついでに焼き畑農業してやる。公衆の面前でやってやる。
「それで、王様が俺に何のようだ?」
『簡単だ。犬に与える餌は役目を果たした。そして犬の食い散らかした後始末をするのは飼い主である僕。つまり貴様は我輩に殺されるってことさ。至極簡単だろう?』
 犬に与える餌? 飼い主? 餌、はまぁ、俺と取れなくもない。飼い主は目の前の変態だ。だとすれば犬は? 非常に理解に欠ける言葉だ。何かの暗号か?
『気にする必要はない。ただ向こう岸の人に「もうすぐ団体さんが来ます」と伝えてくれればいい。それが君の運命だ』
 余りにもゆっくりとした動作で変態が操る機体がこちらを振り向いた。ゆっくりとこちらに右腕を振り下ろし、

『シン!』
「――ッ!?」
 アスランに言われてようやく気づく。右腕の先、右掌から淡い光が漏れていた。これはビーム粒子!
 慌てて――アスランに遅れて――回避行動をとる。しかし未だに光は放たれない。それどころかその輝きを増し規模を増し威力を高め研ぎ澄ます。
 そして、次の瞬間。哲学的に喩えるならば光の矢が、現物に例えるならばオルトロスに勝るとも劣らないビームが放たれた。無論それは既に斜線から外れていた俺たちを巻き込むこともなく虚空に溶け込んでいく。だがこれで決まりだ。あいつは敵だ。
「っぶねー!」
『らしくないな。兵士失格だ』
「黙れヅラ! あんた、武器は?」
『地毛だ! 無い。だが、急速で体当たりを仕掛ければ質量差で……っ!?』
 アスランが息を呑む音。何事かと再び敵のほうに注意を向ければ……
 何かが左腕から伸びていた。正確には左の掌から。50メートルを軽々超えるであろうビームの刃。だが、形が安定していない。あれではそのうち暴発するかバッテリーが干上がるかだぞ?
『失礼。威力の制御が難しくてねぇ。これと……これかな? ああもう、ややこしい』
 再び変態、というのも面倒なので男の声がコックピットに伝わる。同時にビームの刃は縮んでいき、それは普段見慣れているビームサーベルへと姿を変えた。
 ややこしいとかそういう範疇のものじゃない。一歩間違えれば機体がジェネレーターが暴走して爆発しちまうようなことを!


『……まさか、核エンジン?』
 ――!
 アスランの疑問を聞いて、俺は不意を突かれたように目を見開いた。核エンジンならばあのぐらいは許容範囲内だ。
 しかし、ならば、どこの所属だ? 地球軍か? ブルーコスモスの私兵? 襲う理由は? 階級は? 仲間は? 性能は? 既にバッテリーが危険域に達しているインパルスと満身創痍のバビでどうにかなるのか?
 もうVPS装甲の維持すら難しい。どうする。どうすればいい。勝てない。俺の短い実戦経験と本能の総てを動員させる。逃げる見込み、少なくともアイツが飛行できる時点で、これは難しい。デュートリオンビーム。そこまでいけるか? いいや、いけない。畜生。畜生!
『ん、御託はおいておくか……まぁ、死ね』
 そして、赤と黒に彩られた機体、仮称ボギーツーが空を翔けた。
25新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 00:58:27 ID:???

 ボギーワンの速度はインパルスを軽く上回るものだった。傍目から見てもフリーダムといい勝負。いや、それすらも上回るかもしれない速度。
 鍛え抜かれた完成というものか、奇跡的にこの予兆を感じ取れたアスランはバビを後退させたが、インパルスは、シンはどうだ。逃げ切れていない。
「シン!」
 無論、シンとてただの兵士ではない。先ほどまでふざけあっていたのだって、本心からではないだろう。あくまでユーモアを取り入れていただけだ。
 そのおかげでリラックスできたかと思ったが――さすがに、今のには対応できなかったらしい。ボギーワンのタックルを食らって吹き飛ぶインパルスを見ながら、アスランはそうぼんやりそう考えた。

「…………ぁっ!」
 ボギーワンのタックルをまともに回避できず食らって機体がきれいに一回転半した。その際、チラッとだけボート――いや、何かのサルベージ船か?――が見えたが、気にする時間もない。恐らくはここに漂着したか
 それはすさまじいGとなって俺に襲い掛かり、視界がブラックアウトする。
 急激なGには耐えれるよう訓練したはずなのに。甘えだ。油断だ。畜生! 油断さえしなければ!
 だが、気を失わなかったのは奇跡だろう。本当に。失っていたらこのまま地面とキスだ。二度と醒めることのない眠りに入るところだった。
 何とか視界を取り戻す。姿勢制御に不調。駆動系統も不味い。回復には時間がかかるが、相手がそれまで――
『私とて慈悲深い神に仕える僕ではないがそんな感じと思えば判りやすい。さて……三分間待ってやる!』
 こいつ、正気の沙汰か!?胸の内で驚愕しつつ機体に調整を加える。テストまでしている暇はないのでテストは無し。
 もとより、調整系は基本レイの手助けがあったから何とかなっていたようなもので……さておき、後数秒でシステムは総て復活する。三分間にはまだ余裕がある。何とか……
『時間だ! 逝け!』
「早っ……!」
 ほんの数瞬が及ばず、向けられる右手。当然のようにそこからは淡いビームの光が漏れていて――

「艦長、アンノウンワン、依然として変化認められません。本艦も弾薬等で不備があり、アークエンジェル……もしくはそれに順ずると思われる高性能艦とやりあうことなど……」
 副官の言葉を聴きながらも、タリアは考える。
 何故、攻撃を仕掛けてこない。目的は? 仲間は? 性能は? 所属は? まさかキース隊はコイツに……?
 そう考えると合点がいく。所属は判らないが……仲間の存在は薄いだろう。性能、アークエンジェル級と同等、もしくはそれ以上か。目的、本艦の駆逐?
 ならば何故狙わない、と。知らずにタリアは唇を噛み締める。藪を突いて蛇が出てくる、という可能性は大いに有り得る。だが、どうする?
「艦長、インパルス、フリーダム撃破に失敗した模様。ザク、大破。バビ、携帯、及び固定武装の弾薬が尽きました。なお、インパルス、バビは所属不明のMSと戦闘に移行したようです」
 メイリンが的確に報告した。この状況下において怯えもせず、うろたえもせず。はっきりとした口調で。それを聞いてタリアはほう、と口を丸めた。
 慣れたのか、突然の自体にも動転、動揺することが少なくなってきている。流石は名門ホーク家の出だ。無意識ながらにその貫禄、能力を見せ始めてきている。
 まったく、何故今頃になって……それに比べ姉は……思わずため息をつくタリアだったが、そんなことに構ってはいられない。
「インパルスのパワー、既にレッドゾーンです。しかし敵に邪魔されていてデュートリオンビームの照射は無理そうですね……」
「……解かったわ。ヴィラード隊に連絡を」
「ジャミングが激しいので……五秒お待ちください」
 正確には6秒半待って、スクリーンにウィラードの顔が映し出された。どうやら事態に気がついていたらしく様子があわただしい。
『大変だなグラディス艦長、既に補給を済ましたバビを四機、ディンを一機、バクゥを六機向かわせた。それまで耐えるのだな』
「はっ、お手を煩わせて申し訳ありません。作戦は……」
『判っておる。キース隊が全滅したのは……予想外だったからな。咎めはせんさ……』
 思わず相手の顔をまじまじと見やってしまう。嫌味をグチグチ言われるものだと覚悟していたのだ。
「………………」
「もういい。オーヴァー」
「……オーバー」
 あれが、前対戦から生き延びてきた猛者なりの配慮、とやらだろうか。どうやら自分もまだ、相手のことを深くは理解していないようだ。
 何はともあれ、ウィラード隊からの援護は心強い。時間が経てばコンプトン級も到着するだろう。それまでにアレが何らかの行動を見せなければいいが……
26新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 00:59:37 ID:???

「ウォォォァァッッ!」
 だから、それは本当に、体が勝手に動いてしまったんだ。
 シンの危機が迫っているのを頭で理解するよりも早く、体が動いてしまったんだ。これは、兵士には不要な感情だ。だが、俺はこれをむしろ誇らしく思うだろう。
 やはり、俺はただ失うのが怖かったんだ。結局、繰り返したくないだけだったんだ。情けない。ここに到達するまでに、どれだけの犠牲を払ってきたのか。
 つくづく情けない。キラ達が逃げたと悟ったときも、嬉しかったんだ。嬉しかった分、申し訳なくもあった。やっぱり、俺は軍人には向いてないと思ったよ。
 ――馬鹿だなぁ、俺。本当、馬鹿だなぁ。

『逃げりゃ死ななかったのになぁ……?』
 それは敵機の外部スピーカーから発せられた声だった。少なくとも、俺に向けられたものではない。
 何とか姿勢制御して敵を視界に入れる。そこには、はっきり言ってまったく予想だにしない光景が繰り広げられていた。
 ……バビがボギーワンに捕らえられている。簡単に言えば、そういうことだった。
「待てよ! させるかっ! この……っあ――!?」
 フリーダムを上回る剣速だったと言えよう。綺麗に四肢を分断していた。頭部すらも。まったく見えなかった。余りにも自然すぎて、まったく見えない剣速。
 気づける道理がない。疾すぎた。いつの間にかコックピットブロック――必然的にアルドールのある部位――すらも掴んでいる。
「待てッ! 止めろッ! そいつは……その人はッッ!」
 叫ぶ。無意識に、勝手に。だがアイツは不気味に笑い、嗤って俺に、
『こいつが大事か? そうだなぁ〜どうしよっかなぁ〜?』
 間を空けて、
『仕方がない……』
『青いんだよ……戦場は命の取り合いをする場だぞぉ……? それすら忘れたか、小僧? ほうれ、チャンスを与えてやるっ! 救いに行けぇぇぇァアッ!』
 再び叫んで、バビを海面に投げ捨てた。

 距離にして数十メートル。あと少しで完全に機能はダウンする。だが、バビを救う程度なら。程度なら。

 その数十メートルを、バビを拾いに行くのを、俺はほんの少し、時間にして一秒弱の間、躊躇ってしまった。
 ミネルバまでバビを抱えて辿り着けるかどうか。敵の追撃はあるかどうか。果たして間に合うかどうか。敵はこれを狙っている。罠だ、と。

 ――――――俺はその瞬間を、チャンスを、逡巡に使ってしまったんだ……!

 距離は伸びる。何故か。簡単だ。敵が繰り出すビームの弾幕に身動きを封じられ、思うように飛ばせないからだ。
 せめて後一秒、後一秒だけ……! 頼む……!

 が、結局、それは間に合わなかった。物理法則に従い高速で落下するバビの体を、俺は受け止めるどころか、触ってすらやれなかった。
 今海面はコンクリート、いや、それ以上の障壁となってバビを押し返そうとする。バビは、それを受け流すことも、耐えることもできないぐらいにぼろぼろ。
 どうなるか。木端微塵だ。そう、なにもかも、搭乗者も巻き込んで、木端微塵に――!

「ぁあ……ああ……」
 最近、俺はアイツのことを避けるようにしていた。何かと俺にケチつけるし、どこか哀れんだ目で見てくることもあるし、フリーダムにばらばらにされて、どこか見下してたんだと思う。
 それが――それが――それが――!
「ああぁ……あああぁぁ……!」
27新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 01:00:38 ID:???

 何故、失って、今頃になって気がつくんだ! ああ、何でもっと早く気づかなかったんだ!
 俺はただ単に、アイツを……あの人を、見返してやりたかっただけなんだ。だからああして避けていたんだと。いつか見返してやりたいから、ただそれためだけに……ッ!

「あああああああぁぁぁッッ! アアアアァァァァアアアァァッ! うわぁぁあああぁぁぁッッッ!」
 
 子供のように泣き叫ぶシンの声をお気に入りの音楽でも聴くかのように愉悦そうに顔を歪めてアルは母艦、パワーへと回線を繋げる。
「ククッ、いい感じで叫ぶじゃねぇィか……リン、不死身のアスラン・ザラ様の生死はどうとる?」
『貴方からの映像しかなかったので詳しくは判断しかねますが、脱出は容易かと。しかし、拾ってくれる者が……』
「そうかい、そいつぁ残念だ。俺ぁ、本当は殺したくはないんだよ……なんだ。ギャラリーは多くねぇとな」
 アルそうが言うと、リンの怪訝そうな声が返ってきた。
『意外です。自らの分身を造り、世界を破滅に導こうとした者の考えとは思えませんね』
「なぁに、あんときゃ、我輩がただ単に世界の可能性とやらを視たかったからそうしたまでよ……どのみち、スーパーコーディ様に防がれたからなぁ……偶然っての恐ろしいとはおもわねぇか? ククッ、ヒッ。まぁ結局、遺伝子が絶対ってのは十分に分かったさ……」
 アルがひとしきり嗤ったのを見計らって、リンがため息をついてそれに答える。
『……その偶然が可能性とやらでしょうに……それと、いい加減一人称を固定してくれませんか?』
「いやぁ〜だ」
『言うと思っていました。ウィラード隊の処遇は? ブルーワン、ツー、スリーが出撃の許可を求めているようですが』
 と、いきなりアルが黙りこむ。その間二秒弱。
「任せる。ただし、撃墜はされるなよ。いちいち回り巻き込んで爆発してたらわけねぇからなぁ……」
『ウィルコ。無理をなさらずに。既に貴方のその体は……』
「ゾンビみてぇなモンだろ? なぁに、まだ癌だって末期じゃねぇんだ……ヒッ、そこに痺れろ憧れろ! オ〜ヴァ〜!」
 回線を閉じ、インパルスへと目を向けるアル。インパルスはバビの残骸を前に、ただただ呆然と浮いていた。茫然自失とやらか。
 ふん、と鼻を鳴らしてアルが己の機体を巧みに操りインパルスへと近づけさせる。がっかりだ、とでも言わんばかりにため息をついて、
「アスラン・ザラが己の命を投げ出してまで守った者が……この程度の物だとはな。拍子抜けだ」
 呟く。よく見れば、その体は――そのほとんどが偽りによって固められていた。義手、義足、片目は義眼。首から見えるチタン板。
「まだまだ……まだまだ……」

「……え?」
 MSの状態に目を走らせていたメイリンは思わず素っ頓狂な声をあげた。
「どうかしたの?」
 訝しがる艦長の声が聞こえて、はっと我に返り、冷静を装って報告する。
「えっと……バビ、シグナル……ロス、トっ、です」
 自分でも気づけるぐらい焦っていることに気がついたメイリンは思わずため息をついた。再び画面に目を走らせる。やはり、そこには、バビのシグナルロストを表示する文字の羅列が、あった。
28新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 01:01:46 ID:???

「肉眼では未だ確認できませんね……我々も行かれては?」
 その申請を受けたウィラードは、一度目を閉じ、黙考する。
 ミネルバは良くやったほうだと言えよう。少ないMS数でアークエンジェルに深手を負わせたのだから。ならば、その後の害虫駆除は我々の役目というものよ。
 ならば……そう思って、ウィラードは指示を下す。
「うむ。ミネルバと合流しよう。移動は……頼む」
 圧倒的な数の差。たとえMSを保有していようがいまいが、アークエンジェルのように蛇というわけではあるまい。藪を突いて野鼠一匹、その程度が妥当だろう。
 ならばと思い、ウィラードは副官に移動の指示を任せた。絶対的な自信。勝利。それはウィラードだけではなく、皆が確信していたこと。
 さっさと終わらせようとウィラードが思っていると副官が、、
「そういえば何故ザクとグフの配備をなされなかったんですか?」
 またそれか。もう三人目だな。と思いつつ、投げやりに答える。
「ああ……なに、最近設立された特殊部隊行きとなったらしい」
「特殊部隊?」
「確か名前が……なんだったかな。ともかく、余り目立たん部隊にな」
「はぁ……」
 納得したのかようやく副官が押し黙った。ウィラード自身は納得していないのだが、上層部の命令ならば仕方がない。逃げられた責任は全員殉職したキース隊に押し付けてやろう。

「ブルーワン、ブルーツー、ブルースリー出撃、フェイズスリーまで移行」
 パワーの内部で三機のMSが配置につく。
 その独特な、イズモ級に酷似した中央艦首とガーティ・ルー級の両舷艦首を兼ね備えた三つのカタパルトのうちの一つ、右舷側の二番カタパルトに。
「進路オールグリーン。いつでもいけます」
 部下たちの報告を受け、一度リンはスクリーンに目を移す。既にミネルバはある程度の高さまで上昇し、陸地でこちらを迎え撃つ準備をしていた。
 レーダーによると多数のMSが接近しているらしいが――
「出撃を許可します。華麗に決めなさい」
 構わない。関係ない。どうせすぐ、ゼロになるのだから。

『ブルーワン、どうぞ』
 右舷カタパルトから一機の青緑ベースのMSが飛び出す。
 両腕に複合兵装防盾システムを組み込んだケーファー・ツヴァイを装備し、背部に備え付けられたバックパックに搭載されたシュラーク二門、胸部にスキュラ、頭部にイーゲルシュテルンを積み込んだ――
 ――さながら、鬼。
「カラミティ、イクゼェェァ!」

『ブルーツー、どうぞ』
 続いて緑ベースのMSが飛び出す。先ほどのMSとは違って何か甲羅のようなもの――背部パーツ――を背負っている。
 背部パーツに搭載された高出力誘導プラズマ砲フレスベルグ、フレスベルグの両外側に搭載されたレールガン、エクツァーン、両腕部に備え付けられた115ミリビーム砲を持っていて、なおかつ手中にはニーズヘグUが収められている。
 だが、一番の特徴はやはり背部パーツに取り付けられた四枚のエネルギー偏向装甲。それぞれが対角線上に備え付けられ、さながらXを背負うかのような形となっている。そのXは自然と本体を守るかのように前後に展開された。
 ――さながら、死神。
「え? これ笑うところ? フォビドゥンいくよ。ふひひ、サーセン、笑えないね!」

『ブルースリー……あー、どうぞ。暴れてこぉぃ!』
「ちょ、何だその間は! まぁいい、要望どおり、暴れてきてやらぁ! レイダー、出るぞ!」
 最後に、黒と赤に彩られたMS、いやMAがカタパルトから放たれた。
 その赤で縁取られた翼は総てを切り裂き、その眩く眸は獲物を捉えて放さず、確実に獲物を捕らえ、焼き殺す屈強な爪。
 ――それはひとえに視る者を硬直させ、場を騒然とさせ、確実に死を運ぶ……さながら、鷹。しかも、自在に姿を消せる、鷹。
29新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 01:04:04 ID:???

「HQ、こちら0301、43743エコーワン。ボギーをレーダーで確認。後50秒で接触する。セーフティ解除を申請する」
 空を、装備を一新したMA状形態のバビがバビ、ディンの編隊の先頭を突き進む。地をバクゥの編隊が突き進む。急遽MS部隊の隊長を仰せつかったエコーワンの乗るバビだ。
『待て……セーフティ解除を許可。任意による発砲を許可する』
 指揮官が言うと、一度頷いてから、
「了解。エコー、デルタ各機、HQからセーフティ解除の許可が下りた。合図と同時に仕掛ける」
『了解』
 全員の返事から少し間を空けて、雪が多少積もる400メートル以上の物体をはっきりと確認した。飛び出るような三つの艦首。中央はイズモ級のそれに、両舷は例のボギーワンのそれと酷似していた。
 船体後部も、やはりボギーワンのそれと酷似している。尤も、エコーワン自身にとってはまったく関係のないことだ。捉えて、撃つ。それだけのこと。目標を射線に入れ、狙いを定めようとした時――
 緑がベースの機体が二機、戦闘機が一機。取るに足らない。
「たったいま出撃したMSは無視しろ。全機、構え! 撃ち方用意!」
 大砲を背負ったMSが海に浮いてこちらに砲撃を仕掛けようとしてきている。マントのように展開されたシールドを持ったMSがこちらへ接近しつつある。だが、遅い、こちらのほうが早い。これで終わりだ。
 そう思って指示を下そうとする。が、
「全機……撃っぁ?」
 エコーワンは指示を下し終える前に、一遍の慈悲もなく――死んだ。絶命した。消え失せた。
 まさか、熱探知や音源探知による発見を恐れずにミラージュコロイドを使用する敵機がいようなど、思いもしなかったから。

「こちらエコースリー! どうなってんだ! 隊長がいきなり!」
 いきなりの事態に俺は思わず叫んじまった。だってそうだろ!? いきなり隊長の機体が胴から真っ二つになったんだぜ!? しかも同時に黒い鳥みたいなのが現れて、どっか飛んでいって! 幻覚か!?
『落ち着けエコースリー! ミラージュコロイドだ! どうせ高速移動はできん、先ずは散開す……ッ』
 今度は俺の隣でMS形態に変形していたエコーツーのバビが下からの砲撃に吹き飛ばされた。極太――本当に太い。艦砲かと見間違えるほどに――の緑のビーム。極太――これも同じく――の赤いビーム。やってらんねぇ! こうも!
『今度は下か! ちぃ、次は……あのX野郎か! ん? なっ、ビームが曲が……ッ』
 今度はエコーファイブのディンが曲がるビームに撃ち抜かれて爆散しやがった。畜生……ん? 曲がるビーム。曲がる……例のフォビドゥンってやつか!
 じゃあ地上のは……恐らくカラミティってやつだな。映像で見たことがある。ただあれはバズーカを持ってたけど……
 じゃあ、さっきの鳥は……レイダーか!? いや待て、あの三機はあんな能力を持っていたか? あんな威力を誇っていたか、あんな姿をしていたか?
 まさか――強化型!? しかもミラージュコロイドを使える、兵器の威力が強い……ってぇこたぁ! 俺冴えてる! ニュートロンジャマーキャンセラーだ!
 んなこと考えてると、急に目の前が真っ暗になった。これは……
「モビル……スーツ……」
『そういうことだ。悪いなおっさん。死んでくれ』
「ふふっ、ふざけるな! 俺は精鋭のウィラード隊のエコースリー! ささっ、さすらいのジョニーなんだぞ!?」
 錯乱した俺は意味不明なことを口走った。だが、相手のMSは大して同様もせずこちらに鉄球を向ける。
『そいつはよかったな……給料いくらだ』
「ひぐらし!? うごっ……」

 なんとも馬鹿らしいやり取りのあと、エコースリーは鉄球をまともにコックピットに受けて――その威力はさながら鉄鋼弾――絶命した。
30新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/11(土) 01:06:13 ID:???
「バビ、ディン部隊全滅! デルタワン、ツー、フォー、シグナルロスト! デルタはポイントアルファ、いやベータに後退!……駄目か、デルタ全滅!」
 焦っているオペレーターの声がブリッジに響き渡るが、ウィラードは呆気にとられてただ、ポカン、と口を開けているだけだった。
 無理もない。ウィラード隊は精鋭部隊。実戦経験を積んだものこそ少ないが、ミネルバにも見劣りしない練度。そのMS部隊が――全滅した。
「接近警報! 数二!」
 正面スクリーンに二体のMSが映る。一機はデータベースに登録されているカラミティに似た機体。一機はフォビドゥンに似た機体。
「……迎撃だ! 弾幕を形成しろ!」
「はっ! 弾幕を……ッ」
 副官の言葉は最後まで続かず、ブリッジを衝撃が襲った。あちこちで火災が発生し隔壁が閉じ爆発する。
「何で……」
 ブリッジの真ん前にフォビドゥンが迫り、その鎌を横なぎにはらった。それ以上のことは、巨大な鎌に体を両断されたウィラードには認識できなかった。

「ぼろいもんっすよねぇ! コンプトン級がボロ雑巾みたい! マグナムがゴム鉄砲に変わったのと同じぐらいすげぇ!」
 爆発。爆炎。その只中に在って、フォビドゥンはまったくの無傷だった。パイロットは愉悦に顔を歪め、卑屈に笑い、皮肉を言って述べる。
「うっせぇ! 面白味のない餌ばっかだ! 番犬食わせやがれ!」
 純白。白銀。その只中にあって、カラミティは不釣合いなほどに狂暴な力を放出していた。光れば既に機能を失ったコンプトン級を貫き、輝けばコンプトン級を抉る。
 パイロットは乱暴にそう言い捨てると、再び機体を操って火を吹かせる。
「ったく……しかし、コロイド粒子がどうたらとは聞いたが、いくらなんでもこれじゃ戦闘機動なんて取れたモンじゃないぞ。ジジイ、設定ミスりやがったな」
 二機の上空、深い灰色の空をバックに、黒い機体が浮かび上がる。赤で縁取られた翼部分。片手に持つ鉄球。口に当たる部位にある何かの発射口。煌く眸。
 それはやはり、余り良いイメージを連想させない、不吉な代物だった。それのパイロット……少年が忌々しげに呟いて、瞳を閉じた。
「………………」
 それは、静かな、ただ黙るだけのような黙祷。少し経って、彼は瞳を開き、下にいる二人に対して回線を繋げる。
「女神様の監視に移るぞ。パワー、聞こえてるか? 敵部隊は壊滅だ」
『お疲れ様……と、状況が変わったの。急いで戻ってきて!』
 出撃のときと同じ、まだ16〜7の女の声。それを聴いてふっ、と笑い、しかしそれをおくびも出さずに怪訝そうに声を上げる少年。
「ああ? 何があった? は、あ……? 世界規模で……って、おい、どういうことだよ、それ!」

「………………何で……アスランを……あの人を……何で俺じゃない……!? 何で俺を殺さなかったッ!?」
 コックピットの中で半狂乱になって叫んだ。例え無駄であろうと、知ったことか。あいつは……あいつは……!
『さぁねぇ……運命ってやつだろう』
「ふざけるなよ……何が運命だよ……そんな運命、俺は信じない!」
『だったら助ければよかったじゃないか』
「したさ! けど、けど!」
 けど! あの時迷ったから……!
『間に合わなかった。つまり、お前は運命に負けたということだ』
 その言葉を聞いて、俺は思わず息を呑む。返す言葉が浮かばなかった。余りにもその言葉が正論だったから。否定しようがなかったから。
『お前は、俺がアスラン・ザラを殺すという運命に勝てなかった! お前は弱い! 無様だ! ビービー泣き叫んで、納得いかないからって我侭言っている餓鬼と何ら変わらない!』
「あ……あぁ……違う、俺は、俺は……!」
『違わない! お前は弱い! 強い奴に隠れて生きる、汚い野郎だ!』
 もう奴の声は耳にすら入ってこない。もうどうしようもなくなって、俺は、
「違う……ちがっ……いやぁ……もう嫌だぁ……っ、う、ぅうっ……」
 ただ泣いた。それが逃げであろうと、泣いた。無様であろうと、泣いた。もう、嫌だった。何もかもが、嫌だったんだよ……大切な人が、この何年かで何十人も死んだ。もう、嫌なんだ……
『……屑が。殺す価値もない。そこでそのまま、無様に泣いて喚いて何かにすがって朽ち果てろ』
 もう、俺にはその言葉に反応することすらできなかった。ただ、泣いた。再び繰り返された大切な人の死に、俺は泣いた。



第十三話 虚無 に続く。
31通常の名無しさんの3倍:2007/08/11(土) 07:27:47 ID:???
連合Gの強化型がいい。
32通常の名無しさんの3倍:2007/08/11(土) 14:31:14 ID:???
これ読んでる間って瞬きの回数極端に減るからドライアイになるw
ともあれ作者GJ 素晴らしい。
33通常の名無しさんの3倍:2007/08/12(日) 07:56:39 ID:???
>>弐国
 エディがうらやま……じゃない。>>11>>12の間を探してチラ裏まで行ったのは内緒です。
 人間関係の緊張が高まって来た所に事件のクライマックスを持ってくる構成は流石です。
惜しむらくは状況を少し詰め込みすぎに感じたというところ。
 >>11>>12の間に3レス分ほど入れて二話構成にすれば良かったかと思います。
 続きを期待してGJ。投下乙です。

>>新人
 投下乙です。
 台詞回しが秀逸ですが、パロディに些か照れが見られます。
 悪役の使い方と描写が上手いです。GJ。
34exploration of character ◆8voT9TZJqQ :2007/08/12(日) 20:10:56 ID:???

Born to Lose

 孤立無援、四面楚歌。今の俺に相応しい言葉だ。
 もっとも、実際に歌が聞こえない分だけマシともいえる。
 聞こえるとしたらラクス・クラインの歌だろうからな。 ホントに聞こえたら吐気がする。
 新型に乗って威勢良く出たものの、戦果はサッパリで調子が上がらない。
 味方だけが案山子の様に棒立ちになって光と弾けて消えていく。
俺はそれについては何とも思わない。
戦場じゃあ弱い奴は死んで行く。良い奴も死んで行く。
 俺みたいなろくでなしがしぶとく生き残っているんだから間違ない。
しかし仲間が消えていくのは気に入らない。
 たとえ見た事もない連中だろうが、とり残されて行くって感じがして嫌だ。
 柄にもなくセンチになっているのはアウルとステラの事を思い出しち待ったからだろう。
世間じゃ柄にもない事をすると雨が降るって言うけど、俺にはビームライフルの雨が降ってきやがる。
 ……冗談としても笑えない。
「……ティング……まだ生……てるか……」
 ノイズ混じりの通信が入る。この声は確かオペレーターの野郎だ。
 軽口ばかりであんまりマトモな仕事をしない奴だけど、
見知った奴の声を聞くのは嬉しいものがある。
「残念だろうがまだ生きてる! お生憎様って所だろうがな!」
 俺は調子の上がらない苛立ちもあって、叩き付ける様に答える。
 馬鹿みたいな冗談を期待しながら返事を待っていると、
電話を思いっ切り叩き付けて切った様な雑音を最後に無線は完全に沈黙した。
 基地の方を振り向くと、基地は煙を噴出して凄い事になってやがる。
………そうかい。俺は独りぼっちで死ぬ運命なのかよ。
 俺は全てを失って死ぬ運命なのかよ。
 掴んだ物は全部砂の様に手からこぼれ落ちていきやがる。
 すっげえ気に入らねえ。
 孤立無援の花だったら精々一瞬だけでも咲き誇ってやる。
 一人で逝くのはシャクだから巻き込めるだけ巻き込んで道連れにしてやる。
 
 なあ、相棒。そうすりゃお前も淋しくないだろ?
俺にはお前がいて、お前には俺がいる。
 でも、それじゃ物足りねえから気合い入れて敵さんを地獄に連れてこうぜ?
35exploration of character ◆8voT9TZJqQ :2007/08/12(日) 20:23:36 ID:???
投下終了。
自分の拙い文章力ではこんな物しか書けませんでした。
もっと努力しないと。
36通常の名無しさんの3倍:2007/08/12(日) 20:33:18 ID:???
>>35
GJ!投下をお待ちしていました。
狂暴でシニカルなオクレ兄さんカッコいい!
例によってサブタイに意味がありそうですね。
閃光ハサクロスの投下をお待ちしております。
37通常の名無しさんの3倍:2007/08/12(日) 23:41:35 ID:???
>>exploration
 久しぶりの投下乙です。
 短い中に追い詰められたスティングの哀しい心情が詰まっていました。
 GJ
38 ◆8voT9TZJqQ :2007/08/13(月) 00:23:16 ID:???
すいませんタイトル間違えてました。characterじゃなくてpersonalityです。
まとめサイトの管理人様訂正をお願いします。
39機動戦史ガンダムSEED 30話 1/6:2007/08/13(月) 15:55:06 ID:???

 バサッ!と自分の寝室のベットに倒れ込むと、私は仰向けになって天上を見上げる。

 「見知らぬ天井……ではないわよね」 

 ベットの脇にある時計を見てみると時間は草木も眠る丑三つ時。とっくに深夜を回っていた。
 臨時に開催された総合幕僚会議が思ったよりも長引いたのだ。大まかな内容が決定し、
残りは艦隊の編成や補給等その他、細かい内容の検討の為に役に立たない私は追い出された。

 ミナ曰く「さっさと寝ろ」と言う訳なのだ。

 直ぐにシャワーを浴びて、ベットに直行している訳だ。ミナ達はというと、私が退席した後も
延々と会議の続行をしているという。”鋼”の名は伊達ではないのかしら?

 「やっぱりタフよね……」

 徹夜などモノともしないミナ達の態度に憧憬を覚えずにはいられない。自分など疲労で倒れてしまうだろう。

 「”己を知り敵を知れば百戦危うからず”と言うけれど……」

 会議中に船を漕ぐのだけは避けなくてはならない。代表の尊厳に関わるぞ、とミナやキサカに警告されている。
疲れた顔や疲労困憊の立ち姿をTVやネットで流されては堪らないと彼女らは言う。

 自分はオーブの”偶像”であり、”象徴”でもあるからだという。

 もっともな事だと思う。以前なら難癖つけてさかりのついた犬のように周りに喚き散らしていた頃が懐かしい。
できる事とできない事があると云う事を理解できた時点で、人は大人になるのだろうか……?

 
40機動戦史ガンダムSEED 30話 2/6:2007/08/13(月) 15:58:01 ID:???

 今の自分はオーブの代表首長であり、この国の全てのトップなのだ。
 トップがやるべき事は信頼できる人間を見極め集め、その中から優秀な人材を多く登用し、
彼等のが動きやすいように環境を整える事に尽きる。

 そして、彼等の意見と自分の考えと吟味しながら取捨選択して行動すると方針でいけばいいのだ。

 私自身は自分無能だという事を骨身に染みて理解している。
 だからこそ”賢者”の言には耳を傾ける度量程度はなくてはならない。
 たとえ、どのように権謀策謀に塗れた人生を送ろうとも……。

 私はそう思いながら、何時の間にか意識が遠のき、深い眠りに入っていった。
何故か意識が遠のく前に、彼の首席補佐官時代の頃の言葉を思い出していた。

 ――10年前。オーブが経済的に破綻寸前でまさに国家存亡の危機だった時の事を。

 ===============================

 ――サイ・アーガイルの日記。
(手書きである。パソコン等、ネット経由ができる代物は、危険過ぎて残せない)

 C.E74年9月某日

 ロゴスが壊滅した後、地球圏全域の大規模な動乱の引き金を引いたラクス・クラインによって
世界は空前の動乱の時代を迎えることになった。
 地球圏のほぼ全ての企業がロゴスに関与していたといわれる事になり、その結果、
世界の経済界は大混乱に陥り空前のインフレーションが招かれた。
 
 無論ラクス・クライン率いる”ラクシズ”にこの事態を収拾できる能力があるはずは無く、
ラクス達は、闇雲に武力による介入で混乱の鎮圧を図ろうと試みるが、余計に動乱の助長に混乱を掛けるだけであった。
 
 P.S追記で記入。

 特にユーラシア方面のラクシズの武力介入は、プラントに芽生えた反クライン思想の取り締まりの為に
後のラクス・クラインによるプラントの完全独裁政治への体制移行の切っ掛けとなった。
 
41機動戦史ガンダムSEED 30話 3/6:2007/08/13(月) 16:02:29 ID:???

 C.E74年12月某日
 
 本日、TVにおいて、ユーラシア連邦とラクシズは本格的な泥沼の戦いへと突入していった事を知る。
連中はユーラシアの一部で各少数部族の抗争に首を突っ込んだのだ。
それが次第に広がり、収拾の付かない事態へと突入していった。

 迂闊にも彼の少数部族を奴等はMSを使用し無理に武力制圧をしたのだ。
理由は、ラクス・クラインの説得に応じないというお粗末な理由である。

 余りにも馬鹿馬鹿しい理由の為に俺自身が、頭を抱え込みたくなった。

 ユーラシア連邦はその成立の歴史上、大小の国家による雑多な民族の寄り集まりである。
 それをラクス・クラインは最初、説得による収拾で治めるつもりでいたのだが、
雑多な民族の集合体が何たるかを知らずに、相変わらずのただ綺麗なオママゴトな説得をしたという。
無論、何ら具体的な政策を示すことは出来なかった。
 
 そりゃ、必然的に暴動は勃発するであろう。大小の理想とやらよりも一片のパンこそが彼等には必要であったからだ。

 それに国家に対して必要な財源は?資源は? 人々に必要な住居は?医療は?そして、肝心要である食料は?
この基本的な概念すら持ち合わせていないのだ連中は。

 口で幾ら奇麗事を言っても目の前にパンは現われないのだ。それならば、菓子でも食えばいいのだろうか?(ここでペン先が砕ける)

 奴等が破滅する事は、自業自得で知ったことではない。
だが本格的に連中と手を切らなければ、オーブが地球圏で孤立することになる。
早めに奴等に対する手切れを実行するべきであろう。

 だが同時に俺達は、地球圏のこの混乱に乗じて成さねばならない事があるのだ。

 
42機動戦史ガンダムSEED 30話 4/6:2007/08/13(月) 16:04:32 ID:???
 
 ===============================

 この動乱の時期を好機とみたのは実はオーブだった。
オーブの代表首長府は、この機に乗じて地球圏の経済的イニシアチブを握る為に、ロゴスが壊滅した事によって混乱した
世界の経済界に対して、動乱の地球圏屈指武力を背景に保護という名の隷属を求める事が可能となったのだ。

 それと同時に地球連合の主権的立場が取れる事を利用する事も忘れなかった。

これはラクシズの力を背景にした言わば、虎の威を借りた狐の戦法であり、漁夫の利を得る為に
何でも利用しようとする姿勢だった。

 要はラクシズの名声或いは、悪名だけを利用だけ利用する事である。

 ロゴスの傘下企業として多くの軍需複合企業体は壊滅寸前にまで陥ったが、
それに救済の手を際述べたのがオーブという訳である。
 
 他の地球圏の地球連合を初めとした国家は、「ブレイク・ザ・ワールド」から続く現実の動乱と
それに拍車を掛けたロゴス壊滅により経済界は壊滅、更にはラクス・クラインにより各国に於ける不当な武力介入。

 各国は自国の狂乱じみた混乱を収拾しようと躍起になり、しかも政府自体がまともに機能している国家は五指にも満たなかった。
強国である大西洋連邦も指導者を失ったのを機に、各地は分裂し、大陸では州単位での反乱や独立運動が始まるという混乱の具合だ。
壊滅したロンドンがあるグレートブリテン島では特にその傾向が高く、大西洋連邦からの独立を図ろうとしていたのだ。

 世界はまさに、空前の動乱の時代を迎えようとしていた。

 後世、この地球圏経済界の干渉と旧ロゴス派企業を傘下に治める事は、オーブを経済力を世界的な高水準に高め、
その財源による収入によって比較的短期間で軍事力の増大に成功する。

 同時に太陽系内の宙域開発の先駆けとなって、オーブは太陽系内の重要拠点宙域の多くを得る事になる。
が、それに相対してサイ・アーガイルの悪名は、次第に高まっていくことになるのだ。
43機動戦史ガンダムSEED 30話 5/6:2007/08/13(月) 16:06:38 ID:???

 ========================

 ……周知の通りメサイア戦役とは、ラクス・クラインとギルバート・デュランダルによる権力闘争に過ぎなかった。
それは互いに醜いエゴと地球圏全体のイニシアチブ獲得の為の武力による権力奪取の争奪戦のプロセスに過ぎない。

 歴史の過去を紐解いてみても、単なる使い古された権力の奪い合いである。

 ギルバート・デュランダルの政治的構想は明確で、旧体制下にある地球圏の支配体制を一時的にせよ破壊して、
自らが指導する政治体制による主権の獲得と戦争放棄の一案として自らが呼ぶ『デスティニー・プラン』と呼ぶ、
遺伝子による人間の数字的な解析を参考にした大規模な適性検査による人間の将来の可能性を示唆するプランを提示した。

 短期間で二度の殲滅戦争を実行した旧体制下の地球圏の政治体制に対して彼なりのアンチテーゼを示したのだ。
欲望が統制できない世界に対して、一時的にも統制する社会体制を構築するには画期的だったのかもしれない……実現すればの話だが。

 この可能性は、一方的な武力の弾圧によって完全に過去の仮定となった。
 ――ラクス・クラインである。彼女と彼女が率いるテロ武装集団によって。

 ラクス・クラインは”ロゴス動乱”乗じたデュランダルの統一政権樹立によるプロセスの隙を突き、
自らの武装私兵集団を利用して疲弊し切ったプラントを統治する彼を急襲するという戦法に出たのだった。

 当時のプラントは、レクイエムと呼ばれた大型兵器の攻撃を受けて一部に深刻な打撃を受けた直後の状態であったのだ。
そして、当時のプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、その対応に追われると共に、
地球圏をより効果的に構築するべく体制を整えようとしていたという。

 そこを、ラクス・クラインは短絡的に”レクイエム”を奪取したザフト軍を自らが危険だと判断し、急襲し殲滅することを決断した。
元々、バイオハザードで放棄されていた遺伝子研究機関があった『メンデル』で拾った一冊のノートを回覧したことによって
ラクスはデュランダルを一方的に危険視し、彼を倒す事を決めていたのだ。

 ラクス・クラインはデュランダルを一方的に”悪”と決め付け、まるで自らが正義の使者ように振る舞い、
一方的に彼女に相反する者を断罪してゆく。笑止というべきではないだろうか?
 
44機動戦史ガンダムSEED 30話 6/6:2007/08/13(月) 16:08:56 ID:???

 このメサイア戦役の中心の一つであるレクイエムシステムとは、軌道間全方位戦略砲とも呼ばれる
地球連合軍の戦略兵器システムである。

 月面ダイダロス基地に設置された巨大なビーム砲と、月の周辺に配置された複数の廃棄コロニーから成る。

 廃棄コロニーの内側には全面に、フォビドゥンが装備していたビーム偏向装置「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」が
設置されており、ビーム砲から発射されたビームはこの廃棄コロニーを中継(内部を通過)する事でその軌道を変え、
目標がどこに(例え月の裏側に)いても攻撃できる。

 またビーム砲の出力は極めて高く、目標にもたらされる被害はザフトの戦略兵器「ジェネシス」にも劣らない。
 
 彼女はこの自らが”危険”と断言したこの兵器を連合が使用し、プラントに攻撃を仕掛けた時も指一本動かさずに、自らの勢力を温存し、
ザフトによる月のダイダロス基地攻略を傍観していたのだ。

 これはいったいどういうことなのだろうか?
レクイエム・システムが危険ならば、彼女こそが真っ先に動くべきではないだろうか?
 
 しかも、ラクス自身はその主犯とも云うべきロード・ジブリールの逃走の補助をしているのだ。
 笑うべき事実ではないだろうか?

 当時、それに踊らされていたオーブのアスハ代表もまた滑稽というべきであろう。

 ――メサイア戦役と動乱渦中の人物について――より抜粋。
 
 C.E78にプラントで自費出版。後に発禁処分。




>>続く
45通常の名無しさんの3倍:2007/08/13(月) 21:14:28 ID:???
>>戦史
 投下乙。カガリの心がけ、サイの日記を通した過去の状況説明。
 プラントの人から見たメサイア戦役及びラクシズの動き、ですか。
出来れば、今だな前の出ていない小娘君辺りの意見も領りたいところです。
 作中人物の目線を借りて地の文で批判するならば、その対極としてラクシズ側の
日記や書籍を晒して欲しいと思いましたが……果たしてどんな電波になるんでしょうか。
 続きを楽しみに待っております。
アグレッサー部隊とは…
軍の演習・訓練において敵部隊をシミュレートする役割を持った専門部隊のことである。教官役でもあり、自軍のセオリーとは
異なった戦術を理解・把握する必要があるため優秀な人員が割り当てられ、エリート部隊となっている。
また、大西洋連合の母体である旧アメリカの軍などにおいては、敵役をシミュレートするのみならず、捕獲もしくは購入した
仮想敵の兵器を用いている場合がある。


もしもシンがオーブに残ったら 第一話 「闇夜を歩くようなものですよ、これは」上編


――L4プラント、アーモリーワン――

地球プラント間に起きた戦争後に作られたこの工業コロニーは、名の通りに軍事工廠としての役割を持たせられている。
その能力を生かして数多くのMS等の兵器が作り出されており、プラント最大規模の工廠とも言えよう。


『違う違う!この隊のジンは全て式典用装備だ!』
『マッケランのガズウートか!早く移動させろ!』
『ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!』

スイッチの入れられた通信機からは無数の指示がやり取りされている。
余りの慌しさに、入れたばかりの通信機のスイッチを切る。だが通信機だけではない。場外アナウンスによる指示が周囲一体に響く。

『軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う』
『第二整備班は第六ハンガーへ集合せよ』

耳をふさぐのも面倒とばかり、致し方なくそれを聞く。

「はぁ…なんかもうごちゃごちゃよね」
赤髪の少女は隣のジープ運転手に対して呟く。

「仕方あるまい、観艦式までそう時間は無いからな」

運転手はセミロングの金髪を風に流させながら、慌てた様子も無く運転をする。
数瞬前に、突如現れたMSの足に対してこの運転手は華麗な腕裁きで回避、ついでとばかりにMSの股抜きまでしてくれたのだ。
その出来事で冷や汗をかいた少女は、それを誤魔化すつもりで声をかけたのだ。

「ルナマリア、顔が少し引きつっているぞ」
「え、まじ?」
「気にするな、俺は気にしていない」
「アンタはよくても私がよくないの!」

ともかく、ルナマリアと呼ばれた少女は自分の頬を両手でさすり、少しでも顔の筋肉を柔らかくしようと努力する
ジープはそんな二人を乗せたままアーモリーワンの中央区画へと進んでいく。


同じアーモリーワンの区画内の倉庫の一つ――そこで一機のMSがメンテナンスハンガーに鎮座している。

「コートニー、FLCS(フライトコントロールシステム)のテストはどうなっている?」
コックピットに座り込んでいる赤いパイロットスーツの人物は目まぐるしい勢いでキーボードを叩きながら尋ねる。
「相性問題の方ならレポートを出した。当然解決してある」
それを答えるコートニー――ZAFTの整備兵の服を身にまとっている――も同じように携帯端末をワンハンドで入力しながら、もう片方の手で大型端末に情報を入力させる。

――FCSは?
――ターゲット選別にまだばらつきがある。重要度判定に使うデータは揃っているわけだから問題はそこ以外だ。
――個々の速度差による危険度判定が甘いんじゃないのか?
――ふむ、一理あるな。
――連携プログラムのムラも酷い。ZAFTの戦術ドクトリンを否定するわけじゃないが、単機でカバーする範囲が広すぎる気がする。
――そこは技術屋の関与できる範囲じゃないな。
――そうだったな。
会話を続ける間も二人の目は相手のことを一目も見てはいない。傍から見ると険悪な関係に見えそうであるが、これがこの二人の
関係のとり方だというのは周知のことだった。

「飛ぶだけなら観艦式には間に合うだろうに」
「――万が一戦闘になりました、けど本機は戦うことが出来ません、だから逃げますって言うのか、その時に」

パイロットの言う未来想定を聞いてコートニーは、一瞬口を閉ざす。
「開発者の一人として許せないな」

――しかし、その時はアーモリーワンが戦場になるということなのだが。
アーモリーワンに直接攻撃を仕掛られる相手がこの周辺にいるとは考えられなかった。



皮肉にもコートニーの予測を完全に打ち砕く行動を行おうとする集団がいた。

「よーし、ターゲット確認ってやつだな」
灰色に赤のラインが入ったマスクを被った男が舌なめずりする肉食獣のような笑みを浮かべて呟く。
服装は地球連合の軍服であるが、色がカスタマイズされており、ダークブラウンと黒で染められている。一見すれば彼が
正規軍人なのか疑問符が浮かぶところだが、周囲の軍人もとい部下達は彼を自分達の上司として認めていた。

「ガーティ・ルー、タイムスケジュール通り予定宙域座標に"静止"させました」

「お見事お見事、さすがはイワンだな」

マスクの男は副長席に座る――自身より確実に年上の――軍人に向けて賞賛を送る。こちらは正規の軍装である。
というのも今、イワンと彼の部下がやってのけたのは逆噴射を一切使わず、空圧噴射アンカーを周囲に浮かぶ隕石などのデブリ
に向けて放ち、その反動のみで艦の慣性を殺しきったのである。
言うは易いがこれが存外に難しい。というのも慣性量の計算の難易度の高さはもとより、アンカーを食らったデブリがその衝撃で
不審な動きを見せないように、可能な限りデブリの移動方向とアンカーの射出方向を同調させなければいけないのだ。
それもMSやMAサイズの重量ならともかく、戦艦サイズでやってのけたというのだからマスクも脱ぎたくなる気分である。
「ただの作戦準備行動の一つです、褒められたことでもありません」
イワン・リー、地球連合宇宙軍少佐の階級を持つ男は引き締めた表情のまま、艦体チェックをオペレーターに下していく。

「ノアノーク大佐、作戦開始まで1時間です。私はMSデッキで待機します」
ノアノークと呼ばれたマスクの男は、自分と同じ黒い改造軍服を着た女性――容姿は目麗しいが、正直あまり好みではない。
そのなんだ、胸が無いんだよな、彼女――に返事を返す。
「応!ついでだが俺の機体のチェックとかも頼む」
「分かりました。装備はミーティングどおりで」
彼女は無重力を慣れた体裁きで流れていき、奥のエレベーターへと消えていく。

それを横目で見終えると、ノアノーク――フルネームはネオ・ノアノーク、階級は大佐――は自分のいるブリッジ全体を見回す。

「さーて、俺達が歴史の1ページに残るか残らないかの大冒険がこれから始まるぞ」
緊張感のまるで無いその発言――しかしその言葉の重みが軽くなることは無い。

――上手にやってくれよ、スティング、アウル、そしてステラ。


MSの調整を終えるとコートニーは
「少し外に出てきたらどうだ?」
と提案する。よく考えればこの工廠に篭って一週間は自分の宿舎に戻っていない。寝起きは常にレストルームのソファーで
ある。観艦式が始まれば更に戻れなくなる帰還が長くなるはずだ。
――そういえばメール、出してないな。
父、姉と交わすEメールを一週間と空けるのはこの一年無かった。
なのでコートニーの提案を受けるのは吝かではない。
「2時間で戻って…」
言い切る前に返事を返される。
「駄目だ。推奨10時間、最低でも5時間は休んでおいてくれ。これは開発局からの命令だ」
「…わかった、コートニーの言うとおりにする。だけど何かあったらすぐ呼んでくれ」
「仕事をしている人間を呼ぶつもりは無いぞ」
つまりはこの休みはもう仕事してスケジュールに組み込まれている、ということだった。
…この作戦を組んだのはコートニーではない。恐らくは俺の体調の心配をよくするリーカあたりの発案だろう。
そうと決まればぐずぐずとする時間は無い。
すぐさまロッカールームに向かう。シャワーを手際よく浴びると普段着に着替える。軍服ではないのはマーケットモールなど
に足を運ぶつもりだからだ。軍服でも入店は許可されているが不要な刺激を与えるのは好むところじゃない。

工廠を出ると久しぶりの太陽の光――当然だが人工のライトであるが可能な限り太陽のそれに近づけてある。話によると紫外線
までも再現してるとのことだ――を浴びる。季節と太陽の高さを考えるとまだ昼前のようだ。
――ついでだから美味いメシでも食べてから戻るか。
早く戻る必要も無し、そしてメールの文も考える時間が要る。
それ故、普段なら車や市街地区画から工廠区画を横断する専用バスで移動する道を歩きで渡ることにした。

もしここで普段どおりに行けば、もしくはコートニーとリーカの心遣いを無視すれば――彼は出会うことも無かっただろう。


とびきりのご機嫌!
お気に入りのワンピースにお気に入りのサンダル、お気に入りの香水!
今日という一日は全てがワタシの為にある!

クルリとステップを踏み出す。そしてステップ二回から軽く身体を回転させる
その可憐さに、見られるべき存在であるショーケースウインドウが観客になり、彼女のその姿を瞳ならぬガラスに映し出す。

通行人は昼前にしては少なかったが、そんなことは気にもしない。
彼女は観客など求めていない、欲しいのは舞台である。この大通りは正に彼女だけのダンスステージと化していた。

「ご機嫌だねぇ」
「ご機嫌だな」
それを遠めから見る二人の少年は無味無感情の表情口調で言い合う。
「しかし、ネオもそうだがラナも物好きぜ。俺達になんでこんな服装させるんだが…」
打って変わって飽きれた表情で自分の着る白スーツをいじくる。着慣れないせいか、わずらわしい様だ。
「そうか?防護はともかく動く分にはむしろ楽だぜ。ま、生地が重いのがどーかと思うけど」
すると青髪の少年はその場で捻り宙返りをする。
――そういうお前もご機嫌だろうが。
だがよくよく考えてみれば自分もご機嫌なのかもしれない。こうしてステラやアウルとただ歩いているだけで楽しいと思える
のは初めてなのだ。
だからだろうか、珍しく彼――スティングの鋭敏な注意力は散漫となってしまう。
そして未だに踊っている少女ステラと、彼女の前を歩く自分と同じ年頃の少年が衝突寸前であることに。


「え?」

キスは初めてじゃない。
古い記憶なら母さんにしてもらったことはあるし、去年は姉さんにしてもらったこともある。頬限定ならマユにもしてもらった。

けど――見ず知らずの女の子、それも一目見れば思わず心臓が跳ね上がってしまうような愛らしい顔の少女としてしまったら
驚いてもしょうがないと思う。

――ファーストキスじゃなければいいんだけどな、彼女。
と変なことを考えると一瞬意識が途切らされた。


そして気付いたときには彼女はもういない。
残ったのは柔らかい唇の感触の残りと――無茶苦茶頬が痛いことだった。
――ああ、そうか。俺、頬にビンタされたんだ。

だけど頬の痛みよりは、もう微かでしかない唇の感触の方がよほど記憶に残っていた。


「うあああああああああああああああんんんんん!!!!」
「だーかーら!!落ち着けっての、ステラ!」
「うるっせぇえぞ、ステラ!」
「うわああああああああんん!」

泣き続けるステラを、スティングとアウルはそれぞれステラの手を引いて戦術的撤退、というよりは遁走をしつづけていた。
事の顛末を短く語る。
工廠方面から歩いてきた少年に正面からぶつかってしまったステラは――気付けば自分が相手を押し倒し、唇も押し付ける
結果となってしまった。

慌てて駆けつけたアウル、スティングの2少年はそれぞれ工廠から来た少年とステラを起き上がらせる。
そしてスティングが「悪いな、ちょっとこいつ浮かれていて…」と言おうとした直後に

「このバカぁああああああ!」
ステラが平手打ちを、誰が聞いても可愛らしかった罵声とともに放ち――見事に少年の頬にクリーンヒットしたのである。

「ファーストキスは大切なもので一回しかないってラナが教えてくれた。だからステラ、はんせいはしない」
スティングがステラに何故相手を叩いたのか、と聞いた質問の答えである。

これが普通の少女が放つものなら笑い話で済む、がステラ・ルーシュという少女ほど普通という言葉は似合わない。
スティングは驚きと同時に「このリスク、想像できる奴がいたらお目に掛かりたいぜ…」
アウルは普通に「あちゃー、こいつ死んだな」
と互いに考え――取った手は一つである。

三十六計逃ぐるにしかず――ステラの手を握るとスティングとアウルは一切後ろを振り向かずに走り出した。
ここで騒ぎになって捕まってしまったら笑い話どころの問題ではない。
半年ちかくの時間と、莫大な資金と人材を浪費して企てた計画が根本から崩れるかもしれないのだ。
ステラが大声で泣き出したのは走り出した直後からである。

――しかし、幸いにも二人が危惧したような事態は起きなかった。

というのも平手を受けた当の本人は大した怪我もせず、通行人が少なかったのも幸いして誰にも事を知られることはなかった
からだ。
ステラが"スイッチ"が入った状態で平手を放てば確実に少年の首の骨を小枝のように叩き折っただろう。スイッチが入ってない
故に大したダメージは――物理的には――なかった。

しかし精神的には一人の少年に一生消えることの無い記憶を刻みこむこととなった。
一言




ラッキースケベってレベルじゃねーぞ!!!(自分で書いといてなんだが
54通常の名無しさんの3倍:2007/08/14(火) 10:11:01 ID:???
◆eo6ipU2gaA氏、乙です。
このラッキースケベはシンではないのでしょうね。誰なんでしょう?
あとネオの姓はロアノークですよ。
55女神が住まう国 ◆w43rHqzb0U :2007/08/14(火) 14:44:07 ID:???
「そう。アスハがオーブの代表に…」
机上の地図を見ながら少女…否、地中海解放戦線『ラ・ミレス・ニア』リーダー、コニールはつぶやく。
「これでまた地球の勢力図が変わるわね」
コニールはひとつ大きな溜め息をつく。
「…また、地図から国が無くならなきゃいいけどな。まったく迷惑な話だ」
風光明美なウエールズが、草木も生えぬ荒野と化してしまったことは、まだ記憶に新しい。
「『迷惑』ってどっちが? “ラクミア”? それとも“オーブ”?」
窓にもたれ、夜空に浮かぶ月を見上げ青年は肩をすくめてみせる。
「どっちもさ。やるなら宇宙(そら)でやれってなもんだ」
「…アンタはこの戦い、どう見てんの? 是非、“ザフトレッド”の見解を聞かせてほしいわね」
コニールが笑う。
「“元”、な。今は流れの傭兵だ。間違えんな。…今んトコ、五分だな。いやわずかにラクミア優勢、かな」
「ふぅーん。理由は?」
「双方、遠距離大量破壊兵器はもう無い。となると戦場を決するのは、モビルスーツ戦が主になる。
地球が戦場になるなら宇宙(うえ)から降りてくるほうが有利だろ? 
それにオーブのモビルスーツは核動力じゃない。前大戦以降、核兵器の開発は全面禁止となったが、
それ以前の機体には当てはまらない。今のモビルスーツは稼働時間は限られる。
数年前の機体とは言えフリーダムは…いまだに最強だ。パイロットもな。…単純か?」
コニールは腰に手を当て、溜め息をつく。
「単純過ぎっ。アンタに聞いたアタシが馬鹿だった。オーブだって対空兵器ぐらい用意しているでしょ?
対モビルスーツ兵器も。それに…」
青年が後を取る。
「…“エノク・オーブ”、か」
コニールが頷く。
「彼らの乗るモビルスーツ…。情報を聞く限り、あの“暁(アカツキ)”の量産改良型らしいけど…。
先攻してオーブに降りたフリーダムを、戦闘不能まで追い込んだそうだぞ? 墜ちたわけじゃないそうだが…」
コニールの話に青年が目を剥く。
「アイツを墜とすのは後にも先にも俺だけなんだっ。チクショウ! なにやってんだよっ、アイツはっ!?」
青年は自分の左の手の平に右拳を叩きつける。
56女神が住まう国(ミレス編) ◆w43rHqzb0U :2007/08/14(火) 14:49:40 ID:???
そしてツメを噛む。イライラしている時の彼の癖だ。普段ならたしなめるところなのだが…。
「……。…ねぇ、オーブに行きたいの?」
コニールが言う。青年がギョッとした表情で顔を上げる。
「お、俺はっ!」
「…奥さん、オーブに居るんでしょう?」
痛いところを突かれた。青年は狼狽える。
「っ!? い、いや、別にルナとは結婚してるわけじゃ…」
「ごめん。イジワル言っちゃったね。ごめん」
そう言いコニールは青年の傍に行き、そして青年の胸に顔を埋める。
「コニール…」
青年の呼ぶ声にコニールは顔を挙げ、眼を閉じる。
「ん…」
影が重なり触れる唇と唇。青年はコニールの背に手を廻し、しっかりとコニールを確かめる。
「コニール。俺は…お前のことが…んっ!?」
唇が離れた時、青年が口を開く。が、コニールはもう一度、彼の唇をふさぐ。言おうとしたその続きの科白と共に。
「駄目だよ」
「コニール…」
「それから先は言っちゃ、ダメだよ。アンタはオーブに…行きなさい」
「いや、だけどっ!」
「…『ガナルハンの奇蹟』。アタシは忘れていない。
アンタはあの時、アタシ達を連合から解放してくれた。今度はアタシがアンタを解き放つ番」
「けどっ」
「…着いてきて」
「?」
そう言いコニールは、青年の手を引き外へ出る…。



続く…かな?
57女神が住まう国(ミレス編) ◆w43rHqzb0U :2007/08/14(火) 14:52:42 ID:???
お久しぶりです。

少女漫画ガンダム(らしいww)、お届けにあがりました♪

58柩 ◆lk4D7hUGQs :2007/08/14(火) 16:14:15 ID:???

種死ふかし話


昔々ある所にシン・アスカという少年がいました。
家族と仲良く平和に暮らしていたのですが、ある日戦争に巻き込まれてしまいました。
 家族は舞い降りた天使の無慈悲な一撃で遠い遠い所へと旅立ってしまいました。
シンはただ一人取り残され、泣き叫ぶ事しか出来ません。
すると、一人の兵隊さんが可哀相なシンを見兼ねてお空に浮かぶ国へと連れて行きました。
 シンはお空の国で一生懸命勉強しました。
勉強するといろいろな事が分かります。
戦争の元を作ったのは元いた国の王様が我儘だったからという事をしりました。
その王様は死んでしまいましたが、王様にはお姫様がいるらしいのです。
そのお姫様は王様よりももっと我儘で、皆を困らせているいるらしいのです。
シンは大きくなったら悪いお姫様をやっつけようと思いました。
お空に輝く星と、家族に祈りを捧げて誓いました。

 シンは一生懸命勉強すると、学校に入る事が出来ました。
 シンはあまり遊びをしないで勉強に励みました。
仲間はシンの事を変わり者と馬鹿にしましたが、シンは気にしないで勉強しました。
次第にシンの成績は上から数えた方が速くなりました。
すると、シンの周りに仲間が集まり始めてお友達が出来ました。
お友達の名前はレイとルナマリアです。
おすましさんのレイは、時々青白い顔をしていますが、学校一のお利口です。
お転婆さんのルナマリアはいつもお姉さん振っていますが、シンの面倒を見てくれます。
季節が何回か巡ると、シン達はお空の国の王様に赤い服を貰いました。
赤い服は一生懸命勉強したお利口さんの証です。
シンは守る為の力を手に入れる事が出来たのです。
シンは喜びましたが、大事な事に気付きませんでした。
 力は守る為以外にも誰かをいじめる力にもなるのです。

 続く
59通常の名無しさんの3倍:2007/08/15(水) 00:12:52 ID:???
 皆さん投下乙です。感想いきます

>>もしもシンがオーブに残ったら
 三点リーダーは…を二個繋げて『……』で使うのがベターです。
 シンがオーブに残っていると言う事は、ラッキースケベはシンではない、と言う事なのでしょう。
シンの設定と性格を変更しただけのものにならないよう注意、という程度ですか。
 続きをお待ちしております。

>>女神の住まう国
 何故にシンが不倫……じゃなくて浮気をして居るのか?
その辺りが書きたかったのか、必要だったのか、伏線なのか。コニールの
動きも含めて、唐突過ぎる印象が否めません。
 エノク=オーブが十六機のアカツキ量産型部隊でキラに二機落されている。
 一人ひとりがなんだか天使のコードネームを持っていて、エノクの誓いが幾つかあって……
 もう少し彼らに関する描写なり説明なりが欲しいですかね。
 設定資料で出されても困りますけれど。
 有る程度分量を纏めて読んだ時の方が面白いと感じました。

>>種死ふかし話
 種死のプロローグを昔話風にしただけ、という感じです。これ単体では
何処を楽しんでいいのか分からないですが、続きで再構成なりオリジナル設定なりが
出てくるんでしょうか?
 種死全部この文体で書き直す、というのであれば、かなりニッチな意味で面白いです。


 職人の皆さん、お疲れ様でした。
60通常の名無しさんの3倍:2007/08/15(水) 02:06:14 ID:???
職人さん投下乙です。
◆eo6ipU2gaA 氏は先に投下されている「もしもシンがオーブに残ったら」の職人さんと別の人ですよね?
>>54
誤字指摘ありがとうございます。個人名ミスとか、うあああああああOTL
>>59
当然シンだけではありません。その内容は作品を書きながら説明予定です。
>>60
同一です。期間が開いたのは、プロットや設定の考案をしていました。
62通常の名無しさんの3倍:2007/08/15(水) 21:47:16 ID:???
>>61
ガーティ・ルーの艦長も「イアン・リー」が正しい名前じゃない?
63通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 00:50:41 ID:???
せめて本編くらいはもう一回チェックしようぜ。
64女神が住まう国(ミレス編) ◆w43rHqzb0U :2007/08/16(木) 01:09:12 ID:???
青年はコニールのあとについてゆく。コニールは無言のままだ。
コニールは宿舎の近くの建物に入り、エレベーターの“R”へのボタンを押す。

エレベーターが開いた先は広い地下空間だった。等しい間隔でライトが据付けられている。
「ここは…?」
青年はキョロキョロと辺りを見渡す。
「知っていると思うけど、ガナルハンは旧時代の地下坑道が沢山あるんだ。ここはそのひとつ。…こっちよ」
しばらく歩いた先に、一人の壮年の男がいた。青年もよく知る人物だった。
「ライドのおっさん? なにやってんだよ、こんなトコで?」
“うわばみライド”。そう呼ばれるジャンク組合の長だ。かつてオーブのモルゲンレーテにいたそうだが…。
「ここを開けてくれ、ライド。アレをコイツに見せるから」
ライドが目を剥く。
「コニール…。いいのか? お前さん、これを見せるのは反対してたじゃ…」
「ライドっ! …いいんだ。開けてちょうだい」
「……。…わかった」コニールの眼を見、ライドはそれ以上は何も言わずに、大扉を開けるパネルを操作する。
===ゴ、ゴゴゴ…===
扉が開かれコニールと青年は中へ入る。
「……(何か在る)。…うっ!?」
カッ、カッ、カッ!
ライトのスイッチが入れられる。
照らしだされたのは…モビルスーツ! しかもこれは…。
「っ!? “ディスティニー”…なのか?」
青年が喉が一度上下に動く。細部はかなり違うが、間違いない、このシルエットはあのディスティニーだっ。
「…連合の月基地で廃棄処分にされるところだったのを、ライドの仲間達が回収したんだ」
「…………」
「それから巡りめぐって、ここに来た。そしてお前もここに…。まさしく“運命”だよな」
コニールがそう言って、笑う。
(また…お前に遭えるなんて…)。
青年は眩しげに見上げる。
「“ラ・ミレス・ニア”は、オーブに付く。これは先の代表会で決まったことだ。
これ以上地球を、ラクミアにいいようにされるのはゴメンだ。地中海も今はだいぶ落ち着いている。
お前はこれ…『リ・ス・ディ』に乗り、ミレスの勅使としてオーブに行き、
そのままオーブの為にそのチカラを使って欲しい」
65女神が住まう国(ミレス編) ◆w43rHqzb0U :2007/08/16(木) 01:12:20 ID:???
「コニール…、お前…」
コニールは右手を振り、言葉を遮るように言う。
「これはミレスの代表としての命令だっ。“シン・アスカ”! すぐに準備を整え、オーブに向かえっ!!」
「っ!!」
久しぶりに聞く自分の名前に神経が震える。かつてのパイロットとしての昂りが、再びこの身に甦る。
そして自分を見つめるコニール。意思の強い瞳。唇は真一文字に結ばれている。
(お前はなんてヤツなんだ。それに比べて俺は…)
シンはもう一度拳を握り直す。
「…了解した。シン・アスカ。準備が整い次第、オーブ代表首長国へ向かう」

彼の言葉を聞き、コニールはひとつ頷き、そしてなぜか目を背けうつ向く。やがてその肩が細かに震えだす。
「コニール…?」
コニールの口元が何事かを紡ぐ。だがそれは言葉としては聞こえなかった。
コニールは耐えきれないようにシンに背を向け、駆けていってしまった。

「コニール…」
シンは追いかけようとして、そしてやめた。例え追いついたとして、かける言葉が見付からない。
立ち尽くすシンにライドが背後から声をかける。
「ケイン…いや、シンよ。実際はな、コニールがオメエの為に四方八方に手を廻してコイツを探してきたんだ」「っ!?」
そう言うと、ライドは新しいディスティニー…“リ・ス・ディ”を見上げる。釣られてシンも見上げる。
「オーブや大西洋連邦からも技術者を受け入れて…な。コイツは名実共に“地球代表”の機体だ」
「…………」
「アイツの親父が死んで…、あの歳でミレスを引っ張っていって、この2年…。
今やユーラシア・ヨーロッパ諸勢力の一角になったミレスだが…。それはコニールの意思じゃなかった。
なのに、健気に頑張って…、地中海諸国をまとめあげやがった」
「…分かってる」
この一年、一番傍で見てきたんだ。いつ寝てるのかが不思議なくらいコニールは頑張っていた。

シンはコニールと、再び巡り逢った時のことを思い出す。


続く…といいな
66女神が住まう国(ミレス編) ◆w43rHqzb0U :2007/08/16(木) 03:24:38 ID:???
くっ…、また改行間違い…orz。

携帯からだと、きっちり10×行で収まるとどうしても改行するのを忘れちゃうんだよなぁ。ハァ…。
みなさん、脳内変換をよろしくお願いいたします。
67通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 06:53:39 ID:???
オーブの正式名称、変えるならそれなりにアナウンスは必要ではないか?
読み手が違和感を持たない程度には
68通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 16:13:51 ID:???
オーブの正式名称ってなんだっけ?
『オーブ首長国連邦』、だっけ? よく憶えてないや
69新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/16(木) 17:26:58 ID:???
オーブ連合首長国じゃなかったっけ?調べてないからなんともいえんが。
70通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 17:27:59 ID:???
あ、トリ外し忘れた。スミマセン。
71通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 19:39:21 ID:???
あのな、平成三部作ってのはGガン、W、GXの三作品のことを言うんであって勇者の三部作とは違うから
それに勇者の場合はやたべ三部作と高松三部作に分けられてるから気ぃつけとけ
これの下にちょこっと乗ってるからみとけっての

http://www.youtube.com/watch?v=vZit_Da9e-Y
http://www.youtube.com/watch?v=1fZnCL7hJks
72通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 19:58:58 ID:???
>>71
把握。
73 ◆w43rHqzb0U :2007/08/16(木) 21:43:02 ID:???
書いてる時は間違いないと(なぜか)思っていた。
反省はしてる。

3方視点からのSSは、自分にはまだ無理だったのだろうか…?
74通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 23:31:15 ID:???
>>71
だからなんだよw

>>73
そんぐらいのミス誰でもあるから気にせんほうがいいと思うよ。
75通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 00:19:38 ID:???
二次創作をやるときは
最低限の情報を集めてから始めて欲しいと思う。名前とか世界観とか。

いちおう経験談。雰囲気だけで短編書いて叩かれた奴の忠告。
76通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 00:30:18 ID:???
資料本をズラッと並べる必要は無いにしろ
Wikiくらいは目を通した方がいいと思う

イベントのネタを拾える時もあるし
77通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 00:50:01 ID:???
でも時間系列ははっきりしてないんだよね。
78通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 01:40:04 ID:???
今、まとめで見てきたが、『女神』意外と面白そうだな。
79新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 17:51:10 ID:???
「MSじゃなきゃ運べない物は後回しにしろ! とりあえず市民の生活が先だ!」
「C班手伝ってくれ! こっちに不発弾が大量に見つかった!」
「MSを壊すなよ! ただでさえ数が足りてないんだからな!」
 地球軍によるベルリン侵攻は、ベルリン市街に深い傷跡を残していた。不発弾は街中に散らばり瓦礫が道を閉ざし、子は親を亡くし、親は子を亡くし、市民は帰る家を失い、軽傷、重傷、重体、死亡――
 子は泣き、親は怒り、憎しみを込め、悲しみを込めて願う。
『もう二度と、こんなことが起こらないように』、と。だが、それは、その願いすらも、圧倒的過ぎる不条理の前では粉塵と帰す。

『ウラノスエイト。作戦領域上空まで後五〇秒。これから起こる総ては、無謀にも神に成ろうとしたものの、偽の神罰。新たな神の誕生の儀式.。ということにでもしておけ』
『グリーンワン。了解』
『グリーントゥー。了解』
『グリーンスリー。了解』

 そう、圧倒的過ぎる不条理の前では……

せめて、夢の中だけは
第十三話 虚無

 最初に気それに気づけたのは、ベルリンの空の監視役を仰せつかった監視塔の連絡員だった。
「ん、輸送ヘリ? ……ヴァルファウ……? 上層部からは何の連絡も受けてないぞ? ……こちらゴルフサーティーン、HQ、十二時の方角にヴァルファウを確認」
 その間にも輸送ヘリ、ヴァルファウはベルリン上空に近づきつつある。ややあって本部から連絡があった。
『こちらHQ。ヴァルファウの到着は予定にない。繰り返す。ヴァルファウの到着は予定にない』
「じゃあアレは……ん? 何かが降りて……MSッ!? HQ! たった今ヴァルファウからMSが降下した!」

 輸送機から切り離されるように降下した三機のMSは姿勢を制御し、ある一定の高度まで保つと背部に搭載されてあるパラシュートを一次開傘した。
 減速。地面は近づく。二次開傘。減速。そのままスラスターを盛大に吹かし――
 着地。二機のザクと一機のザクファントムが瓦礫の山と作業を行っていた重機、MS、作業員、難民に囲まれて降り立った。

『グリーンワン、降下に成功。最も身近な攻撃目標を確認。数、重機六、MS四、避難所三。攻撃を開始する』
 ザクファントムに乗る男がそういうと、脇に立っていた二機のザクがパラシュート用のユニットをパージした。そのまま各々の手にした七六ミリ重突撃機銃、ビーム突撃銃を周囲のMS、重機、避難所に向けて放ち始める。
 作業用の旧式ジンやMSですらない重機にそれは荷が重く……ましてや移動すらできない避難所はなすすべなく削られていく。無論、反抗しなかったわけではない。肉薄し、格闘戦にもつれ込もうとした者も居た。
 ただ、それができなかっただけなのだ。

 僅か二分半で周囲の攻撃目標――無論、先ほどの言葉通り避難所も含めて――を殲滅した三機は即座に警戒態勢に入る。その間にヴァルファウは無事着陸し、ザクから順に収容していく。
 最後にザクファントムが収容され、足早にヴァルファウはベルリン市街を離脱していった。
 降下する時間と収容する時間を含めても僅か十分弱のことだった。



「嬢ちゃん、こいつをちっと君の父親のところに届けてきてもらえないかい?」
 連合に街を占拠させられる前となんら変わらない生活を送り、なんら変わらない安くてそこそこ旨い飯を食し終わり、父親の仕事の手伝いに行こうとしていたコニールはマスターに呼び止められて振り向くと、
 マスターがカウンター越しに何かの書類のようなものをこちらに差し出そうとしていた。
「はいはい。これ、なに?」
「ちょっとした仕事に関する記述がね」
「あいよ〜」
 言って、差し出された書類を受け取り足早にコニールは店を出た。
80新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 17:55:58 ID:???
 さっと広がる日の光にコニールは思わず目を細めた。小さい掌で日を遮り、空を見上る。快晴だ。雲一つない空。だからだろうか。コニールはそれの存在に気がついた。
 雲一つない青空に、黒い――ここからでははっきりとは見えないぐらいぼやけている――三角形の飛行機が飛んでいた。
「……?」
 だが、まぁ、見間違いだろうと判断してコニールは街の外れで仕事の打ち合わせをしている父親の元へ急いだ。

「とぉさ〜ん。マスターが届けものー……って、誰も居ないじゃないか」
 コニールのその言葉通り、街の外れの建物、その一階の会議室には誰も居なかった。
(もう現場に行ったのか……?)
 そう思い、再び入り口に戻ろうとして――並外れた衝撃がコニールを襲った。何が起きたのかすら把握できないまま、目の前に迫り来る瓦礫の山を見て、コニール・アルメタの意識は途絶えた。
 まさか、大量の爆弾を頭上に落とされたなど……思いもよらなかった。

 ヘブンズベースへ帰還するパワーのブリッジでふと、アルは言葉を漏らした。ブリッジには古強者の操舵士とソナー室にいるソナー員。艦の状況に目を走らせるアルの副官、リン以外人は居ない。
 そう、パワーの自動制御は進んでおり、目的の場所への移動ならばブリッジにはほんの二、三人――少女はMSの管制以外こなせないのでアルとリン。アルは何もしないので実質リンのみだが――でも可能だったのだ。
「この世に神はいなかった。だが、調整を受けた一部の人類は、己を神と思い込み、人類に対して偽の、理不尽な神罰を下した。人類は涙した」
 そこで、アルは言葉を切った。操舵士が何事かと顔を向け、リンが刺々しい視線を送る。しかしそれを無視してアルは続けた。
「しかし、所詮愚かなるものどもは神には成れなかった。だから我らが神となる。神は現在(今)、この世界に誕生した。偽の神はその罪により更なる神罰を受けることとなる。調整を受けた一部の人類、神に成れなかった人類は涙した。
 世界は、人が人を疑い、憎み、殺す混沌の世界となる。本物の神の存在を悲しみ、恨み、怒り、怨じ、嘆き、叫び、狂い、憎み、愛し、享受し、拒絶し……」
 最後の方はほとんど聞き取れないほどの大きさとなっていた。
「先のブレイク・ザ・ワールドでさえもその序曲。今のテロでさえもその序曲。今から我らは神と成り、人類に、世界に恐れられる存在と成る。神。嗚呼、神。そう、私は神となる」
 そこまで言って、アルは肩を竦めながら、
「電波、妄言だ……要するに、コーディネーターは愚かにも神に成ろうとした。だが、それは失敗した。なぜならば彼らは愚かだったから。ならば我らは本物の神と成ろう。世界中に恐れられよう。人を疑い、人を憎み、人を殺す世界の只中で、神となろう……
 阿呆か、ガキの妄想じゃあるまいに……科学者の、ユーの考えることは分からんよ、神はいない。それだけで十分だろうにな」
「……奴は、嫌いです。言ってることが矛盾しすぎです」
 リンがぼそりと呟いた。

 ヘブンズベースの攻略に関しての段取りを整えていたザフトにとって、非常にありがたくない事件が世界的に発生した。
『えー、ベルリン上空です。酷い有様です。辺りには撃破されたザフトのMSをはじめ、復興支援のための民間組織の使用していたと思われる重機が残骸となって――』
 巨大スクリーンが映し出すのは例の巨大兵器が暴れた都市。ベルリン。巨大兵器の排除には成功したものの、被害が激しくザフトのMSを借り出してまで復興作業が続けられていたのだが――突如、謎の部隊による襲撃を受けた。
 それが二日前。ベルリンを発端に世界十七都市と小さな村、町が同じ謎の部隊、テロリストによる襲撃を受けた。結果、死者数役数十万の被害を出した。
 これに用いられた兵器は、今では余り活躍のない旧式の爆撃機。ザフト製の輸送ヘリ。その護衛機と思われるVTOL機。そして戦争の主力を担う人型機動兵器。モビルスーツ。その機種は……
81新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 18:01:53 ID:???
字数制限で書き込めなかったのも連投に含まれるのか……
82新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 18:04:09 ID:???
「ZGMF−1000、ザク、ZGMF−1001、ザクファントム、ZGMF−2000、グフイグナイテッド、どれもザフトのMS……」
 はぁ、と溜息を吐くデュランダル。その視線の先は世界的に発生したテロ、すなわち破壊活動とその被害、それに用いられた兵器についての報告書。
 ザク、と言えば今やザフトの主力MS。その指揮官機タイプのザクファントム。エース用に少数量産されているグフイグナイテッド。ザフトの新型可変MSバビ。ゲイツのマイナーチェンジ機ゲイツR。ディン。ジン。その他航空機爆撃機陸戦艇……
「これによって齎される民間人からの不信感は……酷いものだな。とてもじゃないがロゴスを討つなどとは言っていられないよ」
 その声に何を感じたのか、隣に立っていた秘書が怪訝そうな声を上げた。
「では、作戦は……」
「既に映像は世界中に出回っている。連合からの圧力も酷いものだし、協力を決めていた東アジア共和国も同盟の取り決めを延長したからね……それよりも、この事件に用いられたMSは……」
「はっ、つい最近設立された特殊部隊のものと一致いたしました。また、先日行方不明となっていた輸送艦隊のものとも。恐らくまだまだ増えるかと」
「ザフトの中に協力者がいたとは……少しも察知できなかったのかね?」
 その声に少し苛立ちが篭り始めてきた。秘書はその様子に戸惑いながら、
「はっ……評議会や攻撃軍の司令部もまったく。在り得ない事ですが……おそらく、バックに何らかの組織がついているものかと」
「名前も分からず、実態もつかめず、目的も解からず、なおかつ巨大な組織。馬鹿げたフィクションの物語のようだね……」
 言って、天井を仰ぐデュランダル。
(以前まで考えていたデスティニープラン、諦めて正解だったようだ……だが、この程度で終わるとも思えん。誰が……何のために? これでは……世界は、平和と程遠いものとなりうるかもしれんというのに。狂っている……)
(まるで……世界を滅ぼすかのように……)
(本物のラクス・クラインがオーブに襲撃を受けて失踪。戦場に混乱を齎すアークエンジェルの出現。本物のラクスの宇宙への脱出。
 アークエンジェルの追撃失敗。アスラン・ザラのMIA。世界的に発生したテロ……ここ最近はよくないことばかりだ。せめて本物のラクスと接触できればいいのだが……)
 その時、入室の許可を得たいといってきた者が現れた。アポはない。
「……ふむ」
 少しばかり考えてからデュランダルは入室の許可をした。入ってきたのは三十代の黒服を着た男。つい先日設立されたトラップ設置部隊の隊長だ。
「用件は何だね?」
 男は背筋をピンと伸ばし、威厳のある声で、
「先日のエンジェルダウン作戦にて、小型のボートで作戦を見守っていたのですが……負傷者を発見しました。恐らくは……」
 男がその負傷者の名を上げると、それを聞いていたデュランダルの目が大きく見開かれた。
「本当かね!?」
「はっ、事実です。しかし本人から提案がありまして……」

「バビはロスト、ザクは大破、インパルスは予備パーツに余裕がない……何つーか、大打撃だよなぁ、これ」
「アスランはMIA、シンはショックで引きこもり、世界的にザフトの兵器を使ったテロが起きて……なんつーか、重いよなぁ……」
 格納庫の隅で作業をほったらかし――というよりは直すMSがないし艦の補修作業は管轄外なので仕事がないのだが――にしていたヨウランとヴィーノはため息交じりに、この悲惨な現状に嘆いた。
 エンジェルダウン作戦が失敗に終わって、ウィラード隊を壊滅せしめた例の謎の部隊はそのまま消え去ってしまい、することのなくなったミネルバはジブラルタルに帰港していた。
 どうせ後数時間で作業は終わって手続きして、基地で待機となるのだから寝て待てばいいのだが、流石にこう空気が重いと寝る気にもなれず、といった感じで今に至る感じである。
「はは、まぁね……シンには会ってみた?」
 さりげなく休憩時間を持て余していたサイが苦笑を浮かべながら二人に歩み寄り、声をかけた。
「作戦が終わって以来ですよ……この世の終わりーみたいな顔してて、かける言葉は見つからないし……」
「嫌ってるように見えて、アスランの話題出すと不機嫌になりながらも一応聞いてたからなぁ……案外尊敬してたんじゃないんですか?」
83新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 18:05:44 ID:???
「かもねぇ……」
 そこで区切って、再びため息をつく二人。
「若いんだからため息つくんじゃないよ、まったく。じゃ、ちょっと艦長のとこ行って来るかな」
 言って、踵を返すサイを見つめながら、ヨウランは怪訝そうな声で彼に呼びかけた。
「……? なんでまた?」
 サイは、再びこちらのほうに振り向き、笑顔を浮かべながら人差し指を唇に近づけて、
「……禁則事項です」
『……俺、あんたよりはまともな人間だってはっきり言えます』
 二人が異口同音で告げた。
「……みくるは、いや、あの胸は、いいものだと俺は思うよ」
「分かってないなぁ……無口ロリに敵うものなんて無いってゆーのに。なぁヴィーノ?」
「いや、俺は朝倉派なのだが。二人とも邪道すぎ。やっぱこうでなきゃ」
「あんな激眉のどこが良いんだか。コスプレならみくるさん」
「胸なんて飾りですよ」
「無口ロリとか実際いたら引くっつーの」
 ……こんな不毛なやり取りが五分間続いて、マッドの投げスパナで三人とも頭部を強打したり、サイが艦長室に来るのが遅いせいでただでさえ機嫌が悪い艦長の機嫌が更に悪くなったりしたが、それは総てどうでもいいことである。

 暗い。明かりすらついていない。一度部屋に入ってみれば無人かと見間違えるほどに暗く、そこは静かだ。
 その部屋に、シン・アスカはいた。シーツに包まり、アレから一睡もせずに。眠れば一時間と立たずに悪夢を見てしまうからだ。
 父が、母が、マユが、ハイネが、技術スタッフの皆が、シンが殺してきたであろう連合の兵士が、ステラが、アスランが……近づいてきて、恨みの言葉を告げるのだ。
 その悪夢を見て以来シンは眠っていない。一瞬たりとも。ただ、シーツに包まって、暗い黒(くら)い、虚空を視界に捉え続ける。その眸には恐怖と虚無しか灯っておらず、生きているだけ、という表現がぴったりのように思えた。
 その部屋に、光が差し込む。いつもと変わらぬ表情のレイだった。
「……いつまでそうしているつもりだ」
「……」
 その問いの答えは沈黙で帰ってくる。さして気にした様子もなくレイは続けた。
「アスランの死は、確かに残念だ。だが……戦争に参加するということは、いわば死を覚悟することと同意義だ。アスランも覚悟していたことだ」
「……」
 やはり沈黙。そこで初めて感情らしい感情をレイは見せた。
「……お前は一人で全員を救うつもりか。お前は一人で戦争を終わらせるつもりか。お前は、戦争を何だと思っている?」
 そこで初めて、今まで沈黙を保っていたシンの様子に異変が見られた。しかし気にせずレイは続ける。
「ヒーロー気取りも大概にすることだな、シン。そうやって不貞腐れて、何時まで寝ているつもりだ。そんな心構えなら……軍を抜け……ッ!」
 レイの言葉は最後まで続かない。一瞬で飛び起きたシンに殴られたからだ。
 レイ自身、何故あんなことを言ったのか分からなかった。ただ、ああしているシンを見ていると無性に腹が立った。いらついた。あれから何があったのかをレイは知らない。ただ分かるのは――アル・ダ・フラガの生存。事実がどうかは分からない。議長ともまだ会えない。
 それらの八つ当たりかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、それとは恐らく、いや、確実に違う何かのせいで、シンに腹が立った。
 そして、シンの攻撃をまったく予想できずレイは殴り飛ばされた。
「……まだそうする元気があったとはっ、なっ!」
 すかさず立ち上がり殴り返す。シンが部屋の奥に吹き飛ばされた。その瞳の色は通路の明かりしか差し込んでいないのにもかかわらず、ギラギラと赤く輝いている。
「……何が、分かる……? レイに、大切な人を失ったことのないレイに……何が?」
 脳裏を過ぎる、自分と同じ存在の顔。しかしそれはおくびにも出さず、レイは応えた。
「分からないな。不貞腐れて眠りこけるような奴のことは、分からない」
 ふっ、とシンの眸が輝きを失った――様な気がした。
「……なら、放っておいてくれ……」
「……泥に塗れても、己の目的を失わない、無様と罵られても、己の信念を曲げない、お前はそんなやつだと、俺は思っていた。だがそれは過大評価のようだった。失望した」
 それだけ言って、レイは部屋を後にした。後に残されたのは部屋の奥の壁に背を預け、力なく俯くシンだけだった。



第十四話 混沌に反するもの に続く。
84新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/17(金) 18:10:55 ID:???
えー、電波です。カオスです。何とか一週間のペースには間に合いましたが、土台がしっかりしていなかったからかgdgd感が否めません。土台しっかりつくってからやるべきだった……
途中で打ち切り、みたいなことにはならないように精進しますが……これは……
85通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 19:50:10 ID:???
>>84
どう見ても話は途中なのに
「応援ありがとうございました。先生の次回作にご期待を」
みたいにならないようにね。
86通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 20:14:03 ID:???
デ○ベ分がこんだけ出てきちゃうと今更抜けっつう訳にもいかないからなぁ。
○屋節に飲み込まれてるまま書いてない?
自分のものにできないとゴニョゴニョゴニョだよ。
87通常の名無しさんの3倍:2007/08/17(金) 23:33:23 ID:???
>>86
今回はひぐらしの鷹野分を感じた漏れがいる。
そのせいで余計狂ってどぼーんしちゃうタイプだな。
幾つもの作品を織り交ぜすぎて。初心者によく見かけるタイプだ。完璧を目指しすぎ。
正直、オチすら考え中みたいなら次回作に期待した方がいいかもしれんね。
ここまできたらとことん落ちるところまで落ちる。冗談抜きで。連載を止めるってのも手だとは思うが、そうすると筆を投げ出すことに慣れが出来ちまうからな。本人次第。
88通常の名無しさんの3倍:2007/08/18(土) 07:12:04 ID:???
>>新人
 投下乙です。

 デモンベイン? を全く知らないので何処をどうオマージュして居るのかは分かりませんが、
今回は話の流れより行の長すぎる所が気になりました。
 世界を大いに盛り上げるサイの談義は多分蛇足。
 シンに檄を入れるレイは良かった。今回一番の見所だと思います。
アスランは脱走しないパターンみたいですが、何かたくらんでいるみたいでそこが少し
楽しみですかね。
 続きをお待ちして居ります。
89通常の名無しさんの3倍:2007/08/18(土) 21:51:10 ID:???
>>女神
投下乙
ちょっとだけで良いから推敲の回数を増やそう
当初からセンスはすごく良いものがある気がしている設定は追々説明があるものと信じるww


>>せめて
投下乙
ロリコン談義の部分はもっと一般的な表現にすべき
そうでないと余計な説明が発生したり
読み手が疎外感をかんじてしまう

総じて自らの方向性を貫くべきであろうと思う
90通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:05:18 ID:???
 ザクレロのコックピットの中、マリュー・ラミアスは慎重に操縦桿を傾け、それこそ舞い降りる雪片のようにそっとフットペダルに足を落とす。
 ザクレロは、マリューでも制御できる速度でゆっくりと動き出し、その進行方向をヘリオポリスに定めた。
 前方、ヘリオポリスから脱出する光点を、ザクレロの複合センサーが確認。
 内5機を連合機と判断したが、それが奪取されたMSで有る事は確実だった。
 一瞬、マリューは戦う事を考えたが、このまともに動かせないザクレロで6機のMSを相手にするのは分が悪すぎると判断する。
 そして次には、敵がこちらに来ない事を祈った。
「・・・・そんだけ分捕ったんだから、これくらいは見逃しなさいよね。欲張りは嫌われるわよ?」

『敵がいるのだぞ! みすみす逃すのか!』
 通信機の向こうで騒ぐイザーク・ジュールに辟易としながら、ミゲル・アイマンは答えを返した。
「俺達の任務は、MSの奪取。それを完璧にこなす事が第一なんだよ」
『臆病風に吹かれたか! クルーゼ隊長の仇だぞ!』
 そう言う問題じゃないだろうイノシシめ。そんな感想が、思わず口から漏れそうになるミゲルだったが、言っても自分の立場を悪くするだけだ。
 ミゲルの役目は、要するに実戦経験のない若造共のお守り役。それでも、ここで任務を果たせば、明日の食事に繋がる。
 お守り役はお守り役で、ちゃんとその役目を果たさないと。
「だから・・・・」
『イザーク、俺は死にたくないぜ?』
 茶々を入れるかのように、ディアッカ・エルスマンの声が通信に割り込む。
『こんな、マニュアル読みながら動かしてるようなMSで戦えるかっての』
「ディアッカの言うとおり。初めて乗った連合製MSで、クルーゼ隊長を落とした新型MAに勝てると思うのか? 無理無理」
 ラウ隊長が、連合の新型MAに落とされたとの連絡は、ついさっき届いていた。
 エースである隊長・・・・しかも新型のシグーを一蹴した新型MA。それは確かにこの宙域に存在している。
 幸い、こちらに攻撃を仕掛ける意図はなさそうで、遠く離れた位置からこちらを監視しているようだった。
 この際、敵の気が変わって襲撃してくる前に、母艦と合流したい。
 こちらは、連合の新型MS5機を持っているとはいえ、乗ったばかりで操作に慣熟しておらず、戦力としてはとても評価できない。
 こちらから仕掛けるなら、少しばかり整備したり、機種転換訓練をしたりしてからでも遅くないだろう。
「とにかく、ここの先任は俺だ。まずは指示に従ってくれ。勝手な行動をしても、支援はしないぞ」
『ちっ・・・・腰抜けめ!』
 通信が切れる。幸い、イザークも勝手に敵に攻撃をかける事はしなかった。
 ミゲルは天を仰ぎながら呟く。
「はいはい、腰抜けですよ。俺は、死ぬわけにはいかないからな」
91通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:08:27 ID:???
「行ってくれたわね」
 遠ざかるZAFTのMSを見送り、マリューは安堵の息をついた。
 そして、操縦席にモニターにヘルプ画面を表示させて機能を確認しつつ、マリューは機体設定の変更をする。
「巡航モード・・・・これ?」 
 設定を変えると、暴れ馬のようだったザクレロの反応が、ずっと穏やかになったのが実感できた。
 流石に戦闘モードの加速力ではコロニー内は飛べないと判断して、より穏やかな加速と低速度での安定した飛行をする為の巡航モードにしたのである。
 巡航モードでは低速度故に戦えないが、敵も退いた様なので、戦闘はもう無いと判断したのだ。
 ザクレロは、ヘリオポリスの港湾部からコロニー内へと入り、そして強襲機動特装艦アークエンジェルが潜む軍用のドックへと進路をとる。
「こちら、マリュー・ラミアス技術大尉です。ザクレロ、ドックに入りました。着艦許可を」
『了解、ラミアス大尉。シャトル用のデッキに着艦してください』
 アークエンジェルに送った通信に、ナタルの声が答える。
 本来なら通信士が答えるはずで、これはおかしいのだが、マリューはそこまでは気付かなかった。着艦に備え、緊張していたのだ。
 ザクレロは大きすぎて、MSや通常のMAが出入りするデッキからでは入る事が出来ない。
 そこで、シャトルやランチを出入りさせるデッキに入る。
 見れば、アークエンジェルの船腹の一部が開放され、そこから発光信号が送られていた。
 確認すると、ガイドビームも出されている。これなら、自動操縦で着艦が可能だ。
 ザクレロが自動で着艦するように操作し、あとはコンピューターに任せて、マリューは操縦席に身を任せて深く息をついた。
 なにか、凄く疲れた気分だった。
 ややあって、コックピットが揺れる。ザクレロが、デッキに着艦した衝撃。
 じゃあコックピットハッチを開けて外に出るか・・・・と、考えたところで、マリューは自分の格好を思い出した。
「あ・・・・どうしよう」
 作業服の股間に広がる染み。Gに潰されかけた時に失禁して、そのままになっていた。
 さすがに、このままでは出られない。しかし、この中にこもったままでは、どうする事も出来ない。
「でも、ずっとこもってたら、乾くかも」
 情けない解決策を思いつき、マリューは苦笑する。
 と、その時、何の前触れもなくコックピットハッチが開いた。
 外からの明るい光がマリューを照らす。そして、のぞき込むコジロー・マードック曹長。
「大尉! 初陣って奴はどうでした?」
 コジローの笑顔を呆然と見上げた後、マリューは顔を赤く染めて股の辺りを手で隠した。
「あ、ちょっと! ちょっと・・・・待って・・・・」
 慌てるマリューを見て、コジローはちょっと驚いた表情を見せた後、何か悟った様子で目をそらした。
「あの・・・・見た?」
 マリューに問われ、コジローは着ていたジャケットを脱いだ。
「ああ、新兵はたいていやらかすんです。こいつを腰に巻くと良いですよ。下りたら、整備の更衣室へ行って、自分のロッカーから予備のツナギを持って行って良いですから」
「あ・・・・ありがと」
 差し出されたジャケットを素直に受け取り、それを腰に巻く。
 そうしてからやっとコックピットで立ち上がるマリューに、コジローは後は任せろとでも言うかのような目線を向けつつ笑顔を見せる。
「掃除をして、臭い消しもまいときます。なに、痕跡が消えるまで、ここには他の誰も入れませんよ」
 シートも汚れている。これを内緒で掃除すれば、マリューの粗相はバレる事はないだろう。
「ありがとう、曹長」
「いや、良くある事ですんで」
 気にする必要はないと笑うコジローを背後に、マリューはザクレロのコックピットを出る。
 入れ替わりにコジローがコックピットに入ったのを見送ってから、マリューは昇降リフトを動かして高所に位置するザクレロのコックピットから、ドックの床へと下りた。
 そして、そのまま急いで更衣室に行こうとする。
 だが・・・・その時。
92通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:09:33 ID:???
 ドックに無遠慮な声が響いた。
「うっわ、格好悪! こいつに比べたら、俺のメビウスのが百兆倍は格好いいぜ!」
 ドックの中、一人のパイロット・・・・ムゥ・ラ・フラガ大尉が、格納庫に置かれたザクレロを指さして笑っていた。
 戦闘が終わり、メビウス・ゼロでアークエンジェルに着艦した後、ザクレロの着艦を聞きつけてわざわざやって来ての行動だった。
「そこのパイロット! ザクレロを笑ったわね!? 時代遅れの役立たずに乗ってるくせに!」
 脊椎反射的に怒りを表し、マリューはムゥを指さして怒鳴った。
 それを聞き、ムゥも愛機をけなされて怒りを覚え、マリューに歩み寄る。
 しかし、マリューにある程度近寄って、彼女の体の一部・・・・正直に言うと、はち切れんばかりの胸を見た時、マリューと諍いを起すのは損だと考えを改めた。
「怒ったなら謝るよ。君がパイロットなのかい?」
「ええそうよ。正規パイロットじゃないし、初搭乗だけど」
 怒りを保ったまま、マリューはムゥをにらみつけて答える。
 ムゥは、最初の接触を間違った事を少々後悔しながら、挽回を目指して言う。
「そうか。でも、初搭乗でMS1機撃墜・・・・しかも、あの、ラウ・ル・クルーゼをだなんて凄いじゃないか」
「えぇっ!? アレ、ラウ・ル・クルーゼだったの!?」
 いきなり出てきたZAFTのエースの名に、マリューは驚きの声を上げる。
「ん? まあ、確実だね。あの、嫌らしい気配は他にない」
 答えて・・・・ムゥは不幸な事にマリューからかすかな臭いを嗅ぎ取った。そして、不用意にも何も考えず言葉を続けた。
「凄い戦果だった。初めてでそれだけやったんだ。漏らしたって気にする事無いさ」
 そのムゥの声に、廻りで働いていた整備員が手を止めた。
 そして、マリューを一斉に見て、それぞれに無言のまま反応を示し、そして作業に戻る。
 直後、マリューは、容赦なくムゥのその頭をぶん殴った。
「バっカじゃないのあんた!!」
93通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:10:52 ID:???
 しばらくの後、アークエンジェルのブリッジ。そこに、マリューとムゥの姿があった。
 マリューの中でムゥの評価は、「私の可愛いザクレロを嗤って、わざわざお漏らしを皆にばらしたバカ男」という所まで落ちている。
 一方のムゥも、マリューの評価を「胸はでかいが、メビウス・ゼロを時代遅れのゴミ扱いしたクソ女」という所で落ち着かせていた。
 要するにあの後、喧嘩になり、お互いが乗った機体の貶しあいになったのである。
 感情にまかせての言い合いは、呆れて下りてきたコジローに止められるまで続いた。
 そして今、二人はナタル・バジルール少尉に呼ばれてブリッジにいる。
 ちなみに、マリューは新しい作業服に着替えを終えていた。
 ふたりはブリッジで、ナタルから現状を聞いている。ナタルは、僅かに疲れた様子で、それでも毅然とした態度を崩さずに言った。
「艦長も、基地指令も、他の士官も全員が戦死。残ったのは下士官と兵だけで、それも足りない状態です」
 状況は最悪。それだけは理解した。
「艦は動かせるの?」
 少なくとも、通信士は居ないらしい。マリューは、だからナタルが直接通信に出たのだと理解した。
 マリューの問いに、ナタルは頷く。
「最低限の人員は居ます。本当に最低限ですが。ただ、艦を統率する者が居ません」
「艦長か・・・・」
 ムゥが唸る。艦長を欠いては、戦艦はまともには動かない。
「最高階級は、ラミアス大尉かフラガ大尉ですが」
 ナタルは、マリューとムゥを見ながら言った。
 それに、ムゥは即答する。
「俺はこの艦を知らない。艦長なんて出来ないぜ?」
「私は・・・・」
 艦長、やっても良いかなとか、マリューは考える。しかし、
「ラミアス大尉。実は、アークエンジェルには戦力がありません。大尉には、MAパイロットとして、これからも戦って欲しいのですが」
「え? 何で!? MAパイロットぐらい、他にも・・・・」
 マリューの問いに、ナタルは首を横に振った。
「敵の襲撃により、MAパイロットは全員が戦死しました。乗れると言うだけなら、他にも居るかも知れませんが、実戦経験があるのはラミアス大尉だけです」
「こいつ、MAパイロットなんじゃないの?」
 マリューは、ムゥを指さして聞いた。だが、直後にムゥは鼻でせせら笑って答える。
「俺は、あんな顔のでかい奴に乗るのはゴメンだ」
「何ですってぇ!?」
「フラガ大尉は、メビウス・ゼロがありますから。ラミアス大尉が、ザクレロに乗っていただけるなら、戦力はメビウスゼロとザクレロの2機を保有できます」
 激昂しかけたマリューを無視して、ナタルは戦力についての話をする。
 1よりも2の方が多い。単純な話だ。
94通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:12:22 ID:???
「じゃあ、艦長はどうするの?」
 少々ふてながらマリューは聞いた。ナタルは、最初から決めていた言葉を返す。
「暫定的に、私が指揮を執ります。お二人には、それを認めてもらいたいのです。何分、私の指示に従っていただく事になりますので」
 階級が低いナタルが、この場でより高い階級の二人を差し置いて、勝手に艦長を名乗る事は出来ない。
 だから、承認が欲しいという。
「俺はそれで良い」
「・・・・良いわ。ナタルなら、きっとやれる」
 ムゥは何でもかまわないからと承認し、マリューはナタルを信じてその職務を任した。
 というか、マリューは技術士官なので、艦の運用は門外漢なのだ。階級が高いという理由だけでは、人も物も動かせない。
 その点、ナタルはブリッジ勤め。マリューよりは艦長に近い。
「ありがとうございます。艦長としての任務、つとめさせていただきます」
 ナタルは二人に、軽く敬礼して答えた。そして、
「では、早速、失礼して・・・・」
 言いながらナタルは、艦長席に歩み寄り、通信機を手に取った。
 そして、基地及び艦内に向けて放送を行う。
「総員聞け! ナタル・バジルール少尉だ! ムゥ・ラ・フラガ大尉およびマリュー・ラミアス大尉の承認を受け、アークエンジェル艦長として命令を下す!
 技術関係者は、重要情報の回収。機密に関係有る物で、運び出せない物は全て破壊!
 陸戦隊はコロニー内の避難壕をまわり、連合国籍の者を全員集め、アークエンジェルに避難させなさい!
 残る全兵は基地内の物資を、洗いざらいアークエンジェルに運び込みなさい!
 作業完了後、速やかに全員がアークエンジェルに乗艦。脱出する。 総員かかれ!」
95通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:13:26 ID:???
 キラ・ヤマト。そして、彼の友人であるミリアリア・ハウ 、サイ・アーガイル 、トール・ケーニヒ 、カズイ・バスカーク。
 工業カレッジの学生一同は、シェルターを出てカレッジに戻っていた。
 戦闘の巻き添えを食って崩壊した建物を眺めながら、校庭に腰を下ろして話し合う。
「戦争、始まるのかな?」
 カズイが、不安そうに呟いた。
 戦闘は一段落ついて、ZAFTは今はコロニーの外にいる。しかし、いつまた攻めてくるかも判らない。
「オーブは戦争に関係ないのに」
 ミリアリアが言う。
 実際にはMSを開発していたわけで、少なくともヘリオポリスだけは戦争に関係がある。
 だが、それを知っているのはこの場ではただ一人で、そのただ一人であるキラは思考にふけって話を聞いていなかった。
 戦場で出会ったアスラン・ザラ。かつての親友の事で、頭がいっぱいだったのだ。
「これからどうなるんだろ」
 カズイのぼやきがまた漏れる。
 と・・・・そこに、遠くから車の音が聞こえてきた。
 トールが立ち上がって、音のする方を見る。
「連合のジープ? あれ、フレイじゃないか?」
「フレイだって?」
 その名を聞いて、サイが立ち上がる。
 その時には、ジープはかなり接近してきており、助手席で手を振るフレイ・アルスターの姿がよく見えた。
 ジープはそのまま走ってきて、一同の前で止まる。
 直後、ドアを開け放って、フレイはジープから飛び出した。
「サイ!」
 フレイはそのまま、婚約者のサイの胸へと飛び込む。
「・・・・どうしたのフレイ?」
 フレイを受け止め、彼女の背中をそっと撫でながら、サイは聞いた。
 フレイは少しの間、サイの胸に身を預け震えていたが、ややあって口を開く。
「サイ・・・・お別れなの・・・・連合の市民は、連合の戦艦でヘリオポリスを脱出するって」
 ヘリオポリスはオーブ領だが、フレイを始め連合国籍の市民はそれなりにいる。
 彼らには、アークエンジェルに乗ってヘリオポリスを脱出するよう、命令が出されたのだ。
 それを聞き、トールはジープに残っていた連合兵士に詰め寄った。
「連合の人だけが逃げるんですか!?」
 オーブ国民を見捨てて逃げるのかというニュアンスの問いに、連合兵は強く言い返す。
「オーブ国民は、ここに居た方が安全なんですよ!」
「どういう事ですか? 説明してください」
 ミリアリアがトールを抑えて割って入り、連合兵に聞く。
 連合兵は、言い聞かせる口調で、説明を始めた。 
「ヘリオポリス行政府は、連合軍の撤退と同時に無防備都市宣言を出します。
 これ以上、このコロニーを戦場とさせないために、外のZAFTに降伏するんです。
 プラントとオーブは戦争をしてませんから、市民の安全は保障されます」
 まあ、オーブ領内であるヘリオポリスで連合のMS開発が行われていたのだから、オーブが政治的にZAFTから締め上げられる事は避けられないだろう。
 しかし、それはオーブ政府が責任を取る事であって、オーブ国民には罪がない。危害を加えられる事はないだろう。
「ZAFTの兵士に逢わないよう、しばらくは家に隠れている方が良いかも知れません。
 不安でも、武器は絶対に持たない事です。ゲリラと間違われると殺されても文句は言えません。良いですね?」
 連合兵は、アドバイスを付してトールとミリアリアを諭した。そして、付け加える。
96通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:14:39 ID:???
「脱出と言えば逃げられるとお思いかもしれませんが、実際には軍艦への同乗ですから、敵に艦を沈められる危険がつきまといます。とても、安全とは言えませんよ」
「そんな危険なら、どうして連合の市民を脱出させるんです?」
 聞いたのはサイだった。フレイを抱きしめながら、思い詰めたように連合兵を見据えている。
「連合市民の場合、虐殺は無いにしても、収容所送りは確実です。政治的に利用される可能性もあります。連合軍として、保護しなければなりません」
 連合市民の場合は、オーブ国民の場合とは状況が違う。プラントの厚遇は全く期待できないのだ。
 説明を終えて、連合兵士はフレイに声をかけた。
「アルスターさん。そろそろ良いですか? 時間がありません」
「はい・・・・」
 促され、フレイは名残惜しそうにサイから身を離した。
「サイ、待っててね? 戦争が終わったら、必ずヘリオポリスに戻るから。必ずよ?」
「・・・・でも・・・・いや、わかったよ・・・・・・・・」
 サイは答えに詰まり、いくつもの言葉を飲み込んで、やっとそれだけを言う。
 そのまま、どうする事も出来なくて俯くサイ。
「サイ」
 フレイは名を呼ぶ。直後、サイの口に、フレイは唇を押しつけた。
「さよなら」
 そしてフレイは、泣き顔を隠す為にサイに背を向けジープに駆け乗る。
「行ってください!」
「・・・・・・・・」
 連合兵は、フレイの気持ちを思いやって、無言のまま車を走り出させた。
「フレイ!」
 後を追って走ったサイだったが、その足は数歩で止まる。ジープに追いつくすべはない。
 そしてサイは肩を落とし、大地に膝をついた。
「サイ・・・・」
 トールが、サイの肩を叩き、そして言葉に詰まる。なんと言ってやればいいのかわからない。
 かわりに、ミリアリアが気遣わしげに声をかける。
「大丈夫よ。フレイも言ってたでしょ? しばらく経てば、またここで逢えるわよ」
「でも、外にプラントの軍艦が居るんだろ? 逃げられるかな?」
 カズイが空気を読まず、余計な事を言った。
 直後、トールとミリアリアに睨まれ、カズイは黙り込む。そして・・・・
「・・・・フレイ」
 その名を呼び、サイの顔が苦悩に歪む・・・・・・・・

 一方。
 サイとフレイの愁嘆劇を横目で眺めながら、キラはフレイの事を心配しつつも、他の事を考えていた。
「アスラン・・・・」
 横恋慕の美少女なんていう浮ついた事より、かつての親友の方が大事だと・・・・
 しかしキラは気付いていなかった。サイを見るとイラつく自分と、だからこそ無意識にサイとフレイの事を考えず、アスランの事を考えている自分に。
 だが、悩んだにせよ、どうせキラに出来る事なんて何もないのだ。
 フレイを守って戦える訳じゃなし。アスランの真意を問い質しにZAFTまでいけるわけじゃなし。
 何せ、MSに乗ってる訳じゃないのだから。
97通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 00:15:47 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
98通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 01:02:49 ID:???
ザクレロ・ザムザザー・ヴァルヴァロ・カオス・ラフレシア・ゲルズゲー


の、6神(珍?)合体が見たいです。いやマヂで。
99通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 01:03:00 ID:???
中身はマジなのに題材がザクレロとはw
地上に降りる時どーするんだ?
100通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 04:16:34 ID:???
>>ザクレロSEED
 お久しぶりの投下乙。
 周り全員が真面目に戦争をして居る中で、ザクレロの存在だけが異様過ぎて
良い意味でシュールです。
 種世界においてはとてつもない異物の筈なのに、異物は異物としてまともに
対応してしまっているキャラクター達がとても魅力的に描けて居ると思います。

 文句なしにGJ。続きをお待ちしております。
101 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 22:48:41 ID:???
初めてSSを書くのですが投下してみます

CE75年……クライン政権が樹立されてから早くも二年の月日が流れていた。
前大戦の影響──特にブレイクザワールドの爪痕は色濃く残っていた。
プラント首都アプリリウス──そこの議長室でラクス・クラインはため息をついていた。
治安は悪くなる一方だった。今日もまた地球の方ではテロがあった。
ラクス政権になってからのテロにおける死傷者の黙祷をするだけで恐らくは1日潰れてしまうだろう。
犠牲者は数万とも数十万とも言われている。
景気の方も芳しくはない。世界中で最も裕福とも言えるプラントでさえも失業者の数は問題となっていた。
──デュランダル政権の方が良かった。影でそう主張するものも今では少なくはない。
テレビに出てくる批評家達はこぞってラクスを非難した。
元々ラクス・クラインは政治のせの字も知らないようなお嬢様だ。彼女なりに奮闘していたようだが、それにも限界はある。
支持率は下がる一方だった。
「失礼します」
ドアをノックする音とともに白服の青年──キラが入ってくる。
ザフト軍総指令官……それが今の彼の肩書きだった。
「ああ、キラ」
「大丈夫? 最近あんまり寝てないみたいだけど」
「いえ、大丈夫ですわ」
疲れたような笑みでそう言う。寝不足のために肌は荒れていた。
「治安のことなら僕もシンもいるから安心して」
「ええ、頼りにしてますわ……キラにもシンにも」
アスランがいない今シンとキラが実質的な守護の要だった。
世界最強のMSパイロットであるキラにそのキラを一度ではあるが破ったシン。
無慈悲なまでに正確なキラのフルバーストに野獣のごとき獰猛さを放ちながら襲いかかるシンの太刀筋。
如何なる数を持ってしてもその二人に叩き潰されるのが必然だった。
事実、今までも何度かいざこざはあったもののプラント本国への侵入を許すことはなかった。
102 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 22:50:06 ID:???
「少し休んだらどうだい? 君も疲れてるだろ? 今度一度休暇を取ってシンやルナマリア達とどこかに……」
「そうですわね。そうしますわ」
にっこりと笑顔で返す。
キラはそれを見て微笑んだ。
──アスラン、君はどうしているんだい?
アスランは現在行方不明だった。
世界を廻ってくるという伝言だけ残してどこかへ旅立ってしまった。
キラは昔からの親友の無事を祈りながらもラクスと口づけを交わした。
情欲というほどのものではない。それはお互いの愛情を確認しあうためにいつでもやっていることだ。
以前、シンとルナマリアからそのことでからかわれたが、キラは気にも止めなかった。
愛情を求めるキラ、愛情を与えるラクス。二人は幸せだったと言えよう。
こうして、二人でいるだけで彼らの心は満たされたのだ。
ふと、扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します」
赤服を着た男が入ってくる。ラクスの親衛隊の一人だった。
行為を邪魔されたことでラクスは不機嫌な顔になり、キラが宥めていた。
赤服の男は罰の悪そうな顔になるが、報告を始める。
「モニターをお付けください」
そう言われ、キラはモニターのスイッチを押した。
すると、緊急放送だろうか、一人の青年が椅子に座っている姿が映し出された。
隣にはお付きのものと思われる青年が一人立っていた。
どちらのものもサングラスに光が反射して目元は見えなかった。
「親愛なる皆様初めまして。私の名はアスラン・ザラです」
サングラスを取ると碧眼が現れる。
キラとラクスは驚きを隠せなかった。
だが、二人とも心の中では安堵していた。彼が無事でいてくれたことを祝福していた。
放送は続く。
「私がこうして話している理由は他でもありません。私、アスラン・ザラは現プラント最高評議会議長──ラクス・クラインについてです」
「……えっ?」
キラとラクスは同時に呟いた。
信じられないものを見るような目つきでモニターを凝視する。
動揺するキラやラクスとは正反対に冷静な表情でアスランは続けていく。
103 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 22:54:39 ID:???
「私は地球を廻り数多くのことを見てきました。餓えて苦しむ村、親を戦争で無くし戦災孤児となった子供、理不尽な理由でテロリストと見なされ虐殺される村人達……治安は悪化する一方で一向に良くなる兆しもない」
胸を痛くするラクス。
事実だった。今オーブとプラントを除いた世界はどこもそんな状況だった。
ラクスも話としてはそれくらいは知っていた。
だが、実際に見たことはない。元々裕福で恵まれていたラクスに餓えたものの感情など分かるはずもなかった。
一般人では一生かかっても食べれないような豪華な食品ばかりを食べてきたのだった。
それはアスランも同じだった。
だからこそ実際にそれらを見てきたアスランはさぞや衝撃だったのだろう。
話で知っているのと実際にこの目で見たのでは訳が違う。
アスランは絶望した。そして、その絶望が彼を変えたのである。
不意にギラリと瞳が光った。
──見ているかキラ。
キラにはアスランがそう訴えているかのように感じられた。
「我々のしたことは間違いだった。正しかったのはデュランダル前議長の方だった。今彼らに必要なのは自由でもなければ権利でもない。平和だ!」
ここぞとばかりに机から身を乗り出した。
それを見つめる側近の男。
そして、報道陣からのフラッシュ音。
「故に我々は現プラント政権のラクス・クライン……そして、現オーブ首相カガリ・ユラ・アスハに解任を要求する。そして、全世界へのデスティニープランの施行を認めて貰いたい。それが出来ない場合は実力行使も辞さぬつもりです。お二方の賢明な判断を望みます」
そこで放送は終わった。
キラとラクス──いや、全世界の市民達は唖然としていた。
「アスラン……」
消え入るような声でそう呟いたキラ。
信じていたはずの親友に裏切られた……今の彼を支配しているのは虚無感だった。
104 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 22:57:46 ID:???
当然だった。二年前ギルバート・デュランダルを倒し、世界から自由を守ったことを全て否定されたのである。
それもシンのような旧デュランダル派に属していたものからではなく一緒に戦ってきたアスランからだ。
「アスラン……君は……」
拳を強く握りしめる。
例え、彼が正しいのだとしても認められるはずはなかった。
「君が全てを否定するなら僕は──」
──君を否定しる。


2日後世界に向け、ラクスから言葉が発せられた。
それをお受けすることは出来ません、たった一言だった。
アスランはリモコンを投げつけてモニターを破壊した。
「キラ、ラクス……お前達がそう言うのならば、行くぞ。準備をする」
「はっ! 仰せのままに」
身を翻し歩き出す。部下にすぐにテレビ局へと連絡を取るように伝えた。
そのちょうど12時間後、ネオザフトを名乗る集団からザフトに向け戦線布告が言い渡された。


機動戦士ガンダムSEED 〜逆襲のアスラン〜
105 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 23:00:28 ID:???
投下はこれで終わりです。
非凡な身ですが、頑張っていきたいと思います
106通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 23:04:13 ID:???
>>105
 ssの感想は次の投下で書かせて欲しい。
 言いたい事は只一つ。『非凡』ってのは並みのものよりずっと優れているって意味だ!
107通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 23:08:37 ID:???
そこは非才と書くべきだった、とはいえ次回作にとにかく期待。
108 ◆MATdmc66EY :2007/08/19(日) 23:13:48 ID:???
>>106
何てこったい……
流石語彙のないのは私理のお家芸だ
……非才にしといてください。
109通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 12:48:21 ID:???
>>108
追い討ちかけて申し訳ないが
>君を否定しる。
これは……

続きに期待してます
110通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 15:51:59 ID:???
>>108
そしてトドメを刺すけど
宣戦布告だね
111通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 15:53:35 ID:???
>──君を否定しる。
烏龍茶吹いたw

種死後でシンが逆襲する作品はよく見るけど、アスランが逆襲する話って凄く珍しいんじゃないだろうか?
続きに期待してます
112通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 17:13:00 ID:???
種を自分流に改変したSSを書いてみたんだけど、
あちこち突っ込みどころ満載のへたれ文なんだけど、
このスレッドでいいのかな。


元は同じ学校で親友だったキラとアスラン。
やがてお互い地球とプラントと言う違った国に住むことになり別れを告げるが、
その国同士で大きな戦争が始まり2人はそれに巻き込まれていく…。
皮肉なことにガンダムのパイロットとして戦士の資質のある2人は
国の仲間を守るために戦場で対峙することになる、と。

アスランからそれを聞くクルーゼ。
アスランはキラは自分が仕留めると言う。
そんなアスランにクルーゼは言う。
「生真面目なのが君のいいところだがね、アスラン。
まずキラの説得を考えよう。
彼も元は我々と同じコーディネーターだ。
彼を仲間に引き入れることができれば、我々も心強いとは思わないか。」
「キラは苦しむでしょう…。」
「それを癒すのが君の役目だよ。」
「……。分かりました。失礼します。」
「アスラン。」「はい。」
「死に急ぐなよ。君の命は君だけのものではない。分かるね?」
「はい…。」
一人になったクルーゼはつぶやいた。
「キラ・ヤマトか…。忌々しいコーディネーターめ。
生かしてはおかぬ…。」

一方キラはフラガと話していた。
キラは深く傷ついているようで、言葉にも気力がない。
「そうか。辛いな…。すまない…。だが、辛いのは皆同じだ。
俺だって嫌になるさ。でも、仲間の命からは目を背けられない。
…悩むことはやめなくていい。答えを探し続けるといい。」
「…はい…。」と、キラはそれに頷いたものの、
彼のの表情は一層沈んでいくようだった…。
フラガは自分は残酷だと思った。けれども、この少年の力を借りなければ、
今のところ地球連合の主力となりうる戦力は乏しいのが現状だった…。
113112:2007/08/20(月) 17:15:29 ID:???
休日二人で会うアスランとラクス。
恋人同士の時間なのに二人は触れ合うこともなく、
ただ静かな時間が流れた…。ラクスがぽつりと言った。
「お疲れのようですね…。」「え…いや、すみません。」
「謝らないでください。ただ、いつもあなたは自分の心を押し殺して隠しているようで、
私は婚約者であるのに話相手にもなれないのかと…。」
「そんなことは…。僕から見てもあなたは魅力的な人だと思います。
ただ、あなたに聞かせられるような綺麗な言葉が見つからないのです。」
「……。戦争は仕方のないことだと思います。あなたは犠牲になっているだけです。」
アスランの表情が硬くなる。「…僕は自分でこの道を選んだだけです。
…名残惜しいですが、そろそろ失礼します。」
そそくさとその場を後にしようとする。
「私…!ごめんなさい!」「いえ、何もお気になさらず…。」
「アスラン、私、今度慰霊祭に皆の前で歌うのです!
私こんなことしかできませんけれど、心を込めて歌います!
聴きに来てくれますかっ?」
「…ええ、行かせていただきます。ありがとう…。」
アスランが軍人になったのは父を支えるため、仕方なく。
けれど、母の墓前で号泣する父を彼は裏切れなかったのかもしれない…。
ラクスはそんな彼の後姿を見て思った。
(私はあの方が嫌いではないのに、遠い…。
私たちの婚約で築かれたクライン家とザラ家の結び付き…。でも、何か怖い…。
お父様とザラ議長はまるで水と油のようだわ…。)
114112:2007/08/20(月) 17:17:47 ID:???
そして、キラとアスランは戦うことになった。
アスランを前にキラの攻撃は鈍った。
フラガが彼を叱る。「キラ!しっかりしろ!」
キラも夢中ではあるのだが…。
アスランは言った。「どうした、キラ?そんなものでは何も守れないぞ!」
「アスラン!やめてくれ!君とは戦いたくない!」
「ああ、俺だって止めたいさ。おまえが止めてくれるならな!」
「僕には守らなきゃいけないものがあるんだ!」「俺も同じさ。平行線だな…!」
火花が散った。アスランの攻撃がキラの機体を砕いた。
「うわあああああー!!!」フラガたちは目を見開いた。「キラっ!!」
そしてキラに言う。「キラ、冷静になれ!その機体から脱出するんだ!!」
「あ…あ…!!」キラは必死で抜け出した。
「さて。ガキにばっか頼ってられねえな。俺が精一杯お相手するぜ。」
そして、その戦いは終わり、
その場にいる全員がキラの姿を見失った。
彼は一体どこに消えてしまったのか…。

「宇宙のひずみ…?」「そうです、ラクス様。
宇宙にはそういうものがあって、そこに入ると思わぬ遠い場所へと飛ばされたりするそうです。」
「まあ、素敵ね。私も入ってみたいわ。くすくす…。」
優雅にお茶をしていたラクスだが、ふと争いのことが気になり、気を紛らわしに外に出る。
花園を歩いていた。(綺麗ね…。でも、今は皆誰も見てくれないのかしら…。)
そして、彼女は何かを見つける。「えっ…?」
少年が傷ついて倒れている。こんな争いのない場で。
「何故…!?た、大変…!助けなくては!」
そして、彼女は騒ぎにはせずに侍従を呼んだ。
「ラクス様!これこそ正に宇宙の…!」
115112:2007/08/20(月) 17:22:18 ID:???
キラは眠っていた。脳裏に美しい歌が響く。心地いい。
嫌なことは忘れて、ずっと浸っていたい…。
そして、彼は静かに目覚めた。目の前に広がるのは美しい風景だった。
広い庭の片隅にある小奇麗な小屋に自分はいたようだ。
どこからかあの美しい歌声が流れてきた。
彼はその声のする方へと歩いて行った。
声の主は美しい少女だった。花を愛でている。
その横顔は聖女のようだ。キラはしばらく立ち尽くした。
そして、少女と目が合った。
「あら…?目が覚めましたか?よかった…!」
ラクスは心から微笑んだ。
「あなたはどなたですか…。僕は…。」二人は話した。
「戦争は残酷ですね…。私の婚約者もアスランと言うのです。」
「あなたはどうして僕を許すんですか…。」
「ごめんなさい…。私はあなたが何者であれ、放ってはおけなかった…。
これはどうか私たちだけの秘密に…。」
「無責任だ!僕が悪意のある人間だったら、どうするつもりだったんです!」
「ごめんなさい…。でも…いい方でした…。」
「僕は、僕は!もう戦いたくない…!」
それから、キラは落ち着いた。もう戦争の道具になるつもりはないと言った。
そして、宛てもなく旅立って行った…。
116112:2007/08/20(月) 17:26:24 ID:???
またラクスはアスランと過ごしていた。
ラクスが何かを大事そうに持っている。
それはキラが身に忍ばせていたものらしく、ラクスが受け取っていた。
壊れた鳥の形をしたおもちゃだ。驚くアスラン。
「ラクス…!それをどこで見つけました!?」
「あ…これは…いつのまにか…庭に落ちていて…。
アスラン、図工は得意でしょう?直してくれませんか?」
「僕にそのことについて、正直に詳しく話してくれませんか?」
話を聞いてアスランは顔をくしゃくしゃにした…。
「キラ…生きていたのか…。ラクス、本当にありがとう…。」
彼は心からラクスに感謝した。
117112:2007/08/20(月) 17:30:04 ID:???
空ろな目で雑踏を歩くキラ。遠くで悲鳴が上がった。
そして、小柄な少年が後ろを気にしながら駆けていく。
キラはそれと衝突して転んだ。少年は悪態をつく。
「いってえ…!ぼーっと歩いてんなよ!石頭!…っと、それどころじゃない!」
しかし、立ち上がろうとして眩暈でひっくり返る。
周りを男たちが囲んだ。「ちっ、おまえのせいで追いつかれたじゃないか。」
「てこずらせやがって、サルガキが。ん…この茶髪のガキも仲間か?」
状況を理解したキラは…。「僕はこの男の子の仲間じゃありませんけど?
でも、酷いじゃないですか。大の大人が数人かがりで幼い子供を。」
「あーん?関係ねえなら手前は黙ってろ!」男がキラに向かってナイフを振りかざした。
キラはそれを受け止め、神がかった動きで男たちを一網打尽にした。
そして、彼らは逃げていった。少年はぽかーんとしている。

そして、隠れた落ち着いた場所に行き自分のことを語り始めた。
少年に見えたが、彼女は少女で、名はカガリと言い、
ある町でレジスタンスのリーダーみたいなことをやっているらしい。
大戦争が原因で次々と様々な町が不安な状況に陥り、混乱が起きているのだ。
「やっぱ力のある奴は違うな。私にも力があったら…あんな奴らボッコボコだぜ!
むしゃむしゃ…ごっくん…ゲホゲホゲホ!!
はあ…ふう…。なあ、おまえ私に力を貸してくれないか?」
キラは冷たく彼女を見やった。
「君は女の子だろ。そんな乱暴な言葉使いはやめたら。
それが人にものを頼むような態度?」
「おまえに関係ないだろ!!…あ、いや、頼む!頼みます!この通り!!」
「嫌だ。君のやってることは人殺しだ。」
「人殺し?こんな世の中で甘ったれたことを言うな!
皆自分のことしか考えない。だから戦って生きるしかない。
それは人の権利だ。」
「だったら死んだ方がいい。それにそんなことをしても無駄だ。
ナチュラルはきっとコーディネーターに勝てない。」
「おまえ…まるで死んでるんだな…。私は諦めない。
強さを補う別の力を手に入れればいいんだ。
キラ・ヤマト…たった一人で地球連合を支えるガンダムのパイロット。
もっとマシな奴かと思ったけどな。」
そして、カガリは不意にキラの胸に飛び込んだ。
「なっ!?」かと思えば、さっと離れ、にやりと笑った。
「これは私が貰っていくぜ、腑抜け野郎!」
手にしているのはガンダムのパイロットの認識キーだ。
そして、少女は駆けて行った。
「好きにすればいい。僕はもうガンダムには乗らない。
ガンダムはナチュラルには動かせない。」

118112:2007/08/20(月) 17:33:20 ID:???
カガリは15の時に父と縁を切り、家出した。
強い者に媚びて国を守ろうとするアスハ。
そんな父がナチュラルの造ったガンダムを隠していたことがばれ、
彼と国は立場を失い、アスハはいずこかへ身を隠した。
その代わりに立ち上がったのが、この家出少女だ。
ナチュラルは懲りずにガンダムを製造したが、乗り手を探すのは難しかった。
カガリは単身でそこに忍び込んで、ガンダムに搭乗した。
無茶な搭乗者の出現に周りは慌てたが、試してみなけりゃ分からないと当人は思った。
なんとも不器用な形であったが、一応何とか乗っている。
そして、速攻猪突猛進。彼女はこれで敵に立ち向かおうとするが、足をすくわれる。
その様子が報道されるのを見たキラは驚き駆け出していく。
結局自分は戦いの中に生きるしかないのだろうか…。
キラがその場にたどり着いた時、カガリは破れ、敵の捕虜となっていた。
アスハはそれに苦しみ、キラに娘を助けてくれと頼み、
キラとカガリが事情による生き別れの姉弟であることを打ち明ける。
彼はこうなってついに自分の意志を示したのだ。

カガリはザフトの牢獄に。ザラがそれを見に来た。
後ろにはアスランがいた。冷めた瞳でカガリを見つめていた。
「フン、ナチュラルを騒がせているレジスタンスのリーダーがこんなガキとはな。
皆の前で処刑してやる。それまで腐った飯でも食っていろ。」
カガリは燃えるような目でザラを睨み付けていた。
「…生意気なサルだ。立場を弁えろよ。」
ザラはカガリの胸倉を掴んだ。カガリは彼に唾を吐いた。
「くっ…!明日にでもこいつを処刑しろ!!」
夜、誰かの足音がカガリの元に近づいてくる。アスランだった。
「おまえは…!」「しっ!もうレジスタンスはやめろ。そうすれば、こっそりお前を助けてやる。」
「おまえ…。おまえは何でザラに従ってるんだ?」「ザラが俺の父親だからだ。」
「!…フン、おまえもあの腑抜け野郎と一緒ってわけか。」
「あの腑抜け野郎?」「ナチュラルに味方するキラ・ヤマトさ。」アスランの表情が固まった。
そして、2人は話した。「おまえはキラのほんとの友達じゃないんだ!
大切なものを守らないで、それ以外に何が残るって言うんだよ!
こんなのおかしいよ…!」少女の瞳から涙が零れ落ちた。
後に残されたアスランは…。
「キラ…。俺はどうしたらおまえを救えるんだ…。
俺にできるせめてものこと…。」
そして、彼は気付いた。自分にできることが何なのか…。
119112:2007/08/20(月) 17:37:53 ID:???
そんな中クライン派の者たちはナチュラルとの和解という道を考えていて、
ザラ派と意見を違えていた。
それを疎ましく思ったザラは、軍の力を強めて行き、
ついにクラインの非を問い、彼を投獄してしまう。
クラインに明日はなかった。自分が死ぬ日も近いと感じていた。
クラインは娘のラクスを逃がしていた。
ラクスは供の者と供に遠き地へ逃げて宛てもなくさ迷っていた。
どこかでキラのことを考えていた。そして、二人は再び出会った。
2人は驚いた…。そして、キラは彼女に言った。
「怯えないで。今度は僕があなたを助ける番だと思います。」
キラは密かに彼女を受け入れ匿った。
ラクスは彼の前で激しく泣いた。
「どうしてこんなことになってしまったの…!
争いなんて望んでないのに!それなのに、私は何もできないの…!
誰かが私を父を皆を助けてくれたなら…!」
「争いを望む人たちもいる。僕はそれを否定できない。
でも、争いがなくなればいいと望む人がいるんだ…。僕の他にも…。
ラクス、僕はあなたの力になりたい。そして、僕は僕の道を行く。
皆とは違う道を行く。あなたが望むなら、僕はあなたのお父さんを…。」
そう言って彼は彼女に手を差し出した。
「僕を信じるなら、どうかこの手を取って。」
ラクスはおずおずとそれに手を伸ばした。「キラ…!」「さあ、行きましょう。」
そして、彼はクラインを救出して、「新たな国」を創ると宣言した。
コーディネーターもナチュラルも関係ない争いのない国。
他国を攻めたりはしない。自分たちの考えを他者に押し付けない。
それでも、自己防衛の範囲で敵を退けるためになら戦う。そんな国だ。
キラは言った。「人は世界のために戦うことなんてできない。
けれど、大切な人を思う気持ちは皆同じだと思います。」
そこにはキラの友人たちとアスハの姿もあった。
120112:2007/08/20(月) 17:41:50 ID:???
クラインたちの声明に世界は揺れた。
戦いに疲れた人々の中でじわじわと変化が訪れて行った。
それにザラ議長は怒り心頭だった。
「おのれ、クライン!!くそ!くそっ!
屑め!皆屑ばかりだ!許さんぞ!!」
「議長、どういたします…。」
「殺せ!!私に従わぬ奴は皆殺すのだ!!忌々しいナチュラルどもを皆血祭りにあげろ!!」
そんな彼の元にアスランは現れた…。
「おお、アスラン…!おまえは父の傍にいてくれるな。
私と供にあり、私の敵を倒すのだ!」
アスランは静かに父に近づき、その胸を貫いた。
「ぐふっ!あ…ああ…!アスラン…貴様…!!」
「あなたの傍から人がいなくなる。その理由をあなたは考えるべきだ。」
傍にいる側近の兵士はあわてた。
「ご子息!あなたはなんということを…!!」
「黙るんだ。ザラ議長は戦争の失態の罪で死んだ。
これからは俺が軍を指揮する。
人に向けた刃は自分に返って来るものだ。
そうして全ては失われていく。
プラントはこのまま父と供に滅びるか?
この戦争を終わらせる!」

クルーゼはそんな皆の前から忽然と姿を消していた…。
「これは思わぬ展開だ。キラ・ヤマト…あの少年と馴れ合うか…?
いや、世界が変化したところで私はもはや救われない。
そして、人はやがて平和の大切さを忘れて行くものだ。
地獄に行くなら皆を連れてだ。滅びの紅い花が咲くのが見たいんだ…。」
彼は人の気配の全くないある閉じたラボにいた。
そこでずっと探し求めていたものを見つけた。
「ここにあるこの細菌兵器を世界にばら撒いてやる。
これは人の細胞をめちゃくちゃに破壊する。
醜悪な野心のために密かにこんなものまで作っているとは、
まったく我が父らしいことじゃないか。それも今や私の手にある。くくく…。」
しかし。「なるほどね。そういうわけか。俺がそんなことはさせないぜ。」
声と共にその場に銃声が響き渡る。
「フ、フラガ…。貴様…!何故私の元に…!!」
「さあ?因縁って奴じゃない?俺だって考えなしじゃないのよ。
へえ、仮面を外すと男前じゃないか。
事情はともあれ、おまえも俺も命をかけて戦ったのさ。
その結果だ。文句は言いっこなしだ。せめて安らかに眠れよ…。
さてと、これはとりあえず焼却処分だな。俺の親父もなかなか酷い奴だぜ…。」
121通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 17:44:40 ID:???
続きそうなのでC
122112:2007/08/20(月) 17:48:50 ID:???
これで終わりです。長々失礼しました。
やっぱり突っ込みどころ満載ですよね…。w
キラたちのキャラが違うだろとか、
戦いの中でまでトリー持ってたのかよとか、
カガリの行動がめちゃくちゃとか、
果たしてアスランにそんな権力あるのかとか、
新しい国つっても、それを保つだけの力はどっから持って来るんだとか…。
自分の発想力ではこれが限界のようです。
どうかお手柔らかにお付き合いください。

>>121
ありがとうございます。
123通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 18:16:40 ID:???
>>逆襲
投下乙
自らを卑下する事は全然無い
描写関係もそつなく書けているし、状況説明も説明臭くなくキチンと出来てる
端的に言ってかなり読みやすい
だからこそ細かい所で損しないように推敲をもう少しした方が良い
結構入り込んで読んでたので 『──君を否定しる。 』 は真面目に吹いてしまったww
それと一部改行の長い所が見える。多分ワザとではあるのだろうけど
40〜45字で改行してしまった方が読みやすいかも


>>112
投下乙
先ずは題名を
話自体は面白いと思うよ。あんたも卑下する必要はない
むしろ再構成の方向性に沿って設定がキチンと出来てるものと思う
ただ、全体の構成があらすじのようになってしまって勿体ない
連載の形を取りたくなかったのかも知れないが
書きたい部分をクローズうpして細かく書いてみても良いと思う
会話の部分などを見る限り、細かい描写は出来る人だろうと思うのでね
124週刊新人スレ:2007/08/20(月) 18:37:53 ID:???
夏休み特大号 目次(1/2)

 
 シズルとアスランを前に自らの成すべき事を思うカガリ。その彼女がもっとも頼りにする唯一の武器とは。
SEED『†』
>>3-7

 遂にエディの正体を知るミツキ。だが彼女の選択は訴追でも捕縛でも無かった・・・! 
少女は砂漠を走る!
>>9-16

 道化の仮面を付けた死神、アル・ダ・フラガは圧倒的な戦力と悪意をもってシンに襲いかかる!!
せめて、夢の中だけは
>>22-30,79-80,82-83

 孤立無援、四面楚歌。敵のただ中でビームの雨を浴びながら彼が思う事とは・・・。
Born to Lose
>>34

 オーブの象徴であるその女性は、ベッドの上で世界が混沌としていく経緯を思い出す。
機動戦史ガンダムSEED 
>>39-44

 アーモリー宙域に静止する怪しい艦影。そして運命は彼女を彼に引き合わせる。
もしもシンがオーブにのこったら
>>46-52
125週刊新人スレ:2007/08/20(月) 18:40:49 ID:???
夏休み特大号 目次(2/2)


 レジスタンスのリーダー、コニールが話す傭兵は、かつて『ガルナハンの奇跡』の中心に存在した男だった。
女神が住まう国
>>55-56,64-65

 昔々ある所にシン・アスカという少年が・・・。 ディスティニーを昔話口調で語る新機軸。
種死ふかし話
>>58

 隊長を一蹴されたミゲル達からの反撃もなく、無事に帰還するマリュー。そのころキラ達は。
機動戦士ザクレロSEED
>>90-96

 戦後、プラントを掌握したラクス率いるクライン政権。それに対して反旗を翻すのは、アスラン・ザラ!!
機動戦士ガンダムSEED 〜逆襲のアスラン〜
>>101-104

 戦いに巻き込まれていくキラとアスラン。彼らの見つめる未来は同じものか、それとも・・・。
無題
>>112-120


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お知らせ
当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。
また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。

編集後記:約10日間PCに触りませんでした。携帯で某所に出張してみたが携帯から書くのは大変ですな。
更に2週間分のアンカー打ちも非常に大変でした。宿題は残しちゃいけません。
126112:2007/08/20(月) 18:53:49 ID:???
>>123
ありがとうございます。
そんな風に言ってもらえるなんてマジで嬉しい〜〜!
細かい描写はいろいろボロが出るかもしれません…。
タイトル忘れてすみません。
じゃあ後付けでもよければ、「それぞれの願い」で。
127通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 20:48:45 ID:???
『見える男の話』

 俺には普通の人間にはない力がある。
 なに、たいした力じゃない。ほとんど初対面の人間と一瞬でわかりあうだとか、
テレキネシスでモビルスーツを呼び寄せたり金縛りにしたり、そんな力じゃない。

 ――戦場に出るとな、巨大な死神が見えるんだ。
 そいつはいかにも死神って姿をしていて、襤褸をまとい大鎌を持った黒い影として
俺の目に映る。もちろん他の奴には見えていない。あれは俺にしか、見えない。
 始めのうちはただ震えるばかりだったさ。どうして俺は、あんなロクでもないものが
見えちまうのかってな。ダガーに乗って戦場へ出るたび、敵なんかそっちのけで
死神から逃げ回ってたよ。

 だがその内、この力は案外役に立つってことがわかってきたんだ。
 死神は、戦場で人が死ぬと、そこに飛んでいって見えない鎌をひと振りする。
おそらく、魂を刈り取ってるんだろう。
 大事なのは、死神のいる位置や移動方向で、次に死ぬ奴がだいたいわかるってことだ。
 何度か、明らかに俺のほうへ来たことがあった。そのたびに俺は必死で逃げ回り、
気が付くと敵の集中砲火を奇跡的にかわしきっていた。
 つまるところ、奴の動きをよく見て、近づいてきたら回避運動に専念する。
これを守っていれば俺は絶対に―すくなくとも戦場では―死なないってわけだ。
 そうやって生き延び方を覚え、何人もの敵を自分の指で死神にくれてやった。
いつしか俺は昇進し、部隊を率いる身になっていた。

 あるとき、俺は同盟を結んだオーブとの合同作戦に駆り出された。
 新しく受領した機体、ウィンダム。スペックの上では、前大戦で伝説になった
あのストライクを越える、高性能量産機。唯一にして最大の弱点は、量産化に
際してコスト削減のためにギリギリまで薄くされた装甲だが、俺には関係ない。
 死神が見えている限り、俺が落とされることはないからだ。昔の偉い人が
言ってなかったか――『当たらなければどうということはない』って。
 しかし、まあ、あんなものを見る羽目になるとはな。
128通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 20:50:47 ID:???
 ――死神が、ずっと海面近くをうろうろして仕事に精を出している。
 戦端が開かれた当初はそんな動き方ではなかった。いつも通り、ビームで
撃ち抜かれたウィンダムやM1アストレイが爆発したあたりにふわふわ飛んでいって、
大鎌をひと振り。まるで収穫真っ最中の農夫だ。

 戦場が慌しくなったのは、アークエンジェルとフリーダムが乱入してきてからだった。
 噂ぐらいはもちろん聞いてる。胡散臭い英雄、伝説のモビルスーツ。しかし、
まさかあれほどのバケモノだとは。
 何が一番おかしいって、フリーダムが近くを通ると、死神がぶっ飛んで逃げるのがな。
まるで神の手に守られてでもいるように、あの機体は死神を寄せ付けない。
そしてもちろん、誰が何を撃とうと、奴にはかすりもしないんだ。
 奴は直接攻撃でモビルスーツのパイロットを殺すことはない。全ての攻撃が
コックピットを外れ、武装やメインカメラを破壊するように放たれている。
救助に手間をかけさせる作戦にしてもおかしい。フライトユニットが生きてるままで
放置される機体も少なくないからだ。
 だが、運悪く海に落ちざるを得なかった機体は……?

 量産MSは発泡金属で軽量化が図られてるとはいえ、小細工を弄したところで鉄の塊だ。
水に落ちれば沈むに決まってる。
 脱出できる奴は運がいい。しかし、そういうパイロットばかりじゃないのが戦場だ。
 フリーダムのワンマンショーが始まってから、空で死ぬ奴はほとんどいなくなった。
代わりに、機体が海面に叩き付けられた衝撃でシートベルトに殺された奴、脱出が
間に合わず海底に消えていった奴、脱出できたのに流れ弾で死ぬ奴が大量生産の
ラインに乗った。当然、死神は海面すれすれを這い回る。
 趣味なんだか、ゲームなんだかわからんが、フリーダムよ。気づいてるか?
お前たちが出てきた後のほうが、死神は良く働くようになったぜ。
 まるで俺の皮肉を聞き届けたように、フリーダムがこっちへ来た。無駄とわかって
いながらビームライフルを撃ちまくってみる。……当たるわけがない。
 そして、青い翼の影からのぞく死神の影。
129通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 20:54:42 ID:???
 冗談じゃない。反撃は諦めて、死なない程度に仕事をしたと上官に報告できる
ように撃墜されてやるとしよう。そう決めるといっそ清々しい気分になった。
 海面近くまで高度を落とし、脱出装置に指をかけて待つ。稲妻のように降ってくる
白い機影がふっと視界から消え――次の瞬間、衝撃と共に機体が傾いだ。
 海に落ちる前に! その一身でカバーごとスイッチを押し込む。シートが
レールに沿って滑り、空へ撃ち出された。

 視界の端には、青い光の尾を引いて飛び去るフリーダムが。そして、俺の目の前に
あの巨大な死神が佇んでいた。
 俺はコイツの顔を見たことがなかった。始めは怖くて見る気になれなかったし、
慣れてからはその動きを注視するのみで、やはり顔には気を配っていなかったのだ。
 ただ、なんとなく髑髏の仮面でもつけているのだろうと思っていたが――違った。

 どんな顔だったといえばいいのか、わからない。そこには無数の顔が重なり合っていた。
死んだ親父の顔、死んだ姉貴の顔、死んでいった部下や戦友の顔……みんな、故人だ。
知らない奴の顔はもっとずっと多く、ピアノとか弾いてそうなふわふわヘアーの少年やら
赤い髪の美少女やら、金髪の変態仮面やら―これはどこかで見たな―いろんな顔が見えた。
 そんな、数え切れないほどの顔の一つ一つを、俺は一瞬のうちに目撃し、その
全てを鮮明に覚えていた。おそらく、生涯忘れることはあるまい。
 魅入られたような刹那が過ぎ、気が付くと俺はパラシュートごと着水していた。
死神が、目の前で踵を返して去っていくところなど、二度とは見られないだろう。

 戦闘が終わるまで何とか生き延びた俺は、救助にあずかってのち、宇宙に
上がることを命じられた。
 俺はどこで戦っても死神を見る。きっと、宇宙でも見えるだろう。背景が黒くて
見えにくいかもしれないが、あれはどこの戦場にでも現れるに違いない。
 不思議と、以前ほどには死神が怖くなくなっていた。海の底まで魂を取りに行く
その姿を見て、考え方が変わったためらしい。
 おそらく死神というのは、戦場で散った者の魂が迷わぬように回収してまわる
存在なのだろう。集められた魂たちは死神の一部となるのか、消滅するのか、
はたまた輪廻転生<リインカーネーション>の連環に加わるのか……。
 なんにせよ、仕事熱心な連中であるのは間違いない。
 とはいえ、俺は死に美学を見出すタイプではないから、できれば彼らの世話に
なることなく、平和に臨終を迎えたいと思う。

<追記>
 ……ジェネシスみたいな大量破壊兵器が使われたら、世界中の死神が総動員
されるんだろうなぁ。あまりぞっとしない光景だ。

<了>
130通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 20:57:45 ID:???
勢いと雰囲気とゼロシステムの導くままに書いた。いまは反省している。
いや、最近「死神」流行りじゃん? 伊坂幸太郎の小説とか……。
131通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 21:24:23 ID:???
ゼロがそれを書かせたと言うのか!


一気に読んでしまった。投下乙でした。
132通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 22:09:35 ID:???
>>見える男の話
 凄い。短編として文句の付けようが無い。
 すばらしい作品でした。GJ
133SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 15:50:14 ID:???
1/

 コンタクトを使おうとしないのは、ネットゲームの廃人以上に目を酷使するからだ。
ディスプレイを眺め続けて三十時間が過ぎていた。
 深刻な眼精疲労と頭痛に悩むリョウコ=ワカサギは、ため息を吐いて座椅子にもたれた。
 放射線源と精密機械の充満する研究棟は本来専用スペース以外での飲食も喫煙も禁止だったが、
右手に珈琲、左手に火の衝いた煙草という完璧装備だけで落ち着くその姿を注意する者も無く、
リョウコは自由そのものだった。
 それはつまり、このだだっ広く放棄寸前の研究棟がリョウコ一人に与えられていると言う事で、
彼女が島流し同然の状態である事を意味していた。

 メガネを外して目頭を揉む。揉んでも予算は出てこない。
 出てくるものならば、一日中でも揉み続けて後悔は無い。
 阿呆らしく取り留めの無い思考が浮かんで消えるほどには、集中力の限界だった。

 観葉植物の一つも無く、殆どが人工物で占められた古い研究棟は、
電気代節約の為に人が通らない間の照明が落されている。
 だから、ドアの隙間から廊下側の明かりが漏れてきたのがチャイムの代わりだった。
 居留守が通じた事は無い。慣れた訪問者は、壊れたブザーを押し込むよりも先に
ドアを連打するのだ。騒音を浴びたく無いので、先んじて廊下に出る事とする。

 人の姿と声が、不意に寂しくなったのかもしれない。

 目にしたのは男と、少年だ。共に金髪で、共に整った身なりをしていた。
親子連れのワスプが何をして居るのか、と疑問に思ったとき、男の方がリョウコを向いた。

「貴方が――?」
 壁を指差しながら聞いてくる。
「……ええ」
 示されたのは、リョウコがこの研究棟に飛ばされてからした最初の仕事。
 ささやかな反逆の積もりで壁の空きスペースに貼り付けたもの。
 学会で多くの権威的研究者から失笑を浴び、苦笑を向けられたポスター展示だ。
「"超レンジグルーオン場による、陽子状態の励起について"」
 男はサングラスを押し上げながら、ポスターの主題を読み上げた。
「ははッ……なんだか一昔前のSFのような、トンでもと言われかねない話ですなあ」
134SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 15:52:48 ID:???
2/

 発想の奇抜さだけが取り得の、一発屋。
 それが、学会からリョウコに下された評価だ。
「……ウチに何か御用ですか?」
 刺々しいリョウコの口調を、自分の人生に絶対の自信を持つ者の余裕で青年は流した。
「しかし、とてもとても興味深い。一度目に為てしまえば忘れられなくなるほどです」
「はあ、それはどうも」
「少しお話を伺ってもいいですかな、二時間ほど……」
「――子連れの機材屋から新品を買うほど、うちは予算がありませんよ。
カタログなら置いていって結構、売込みなら帰ってください」
 その瞬間までリョウコは、男が子供を連れて同情を買った上で高い機材を売りつけようと
して居るのだと、本気で思っていた。

「おっと、失礼……」
 そう言って男はサングラスを外し、胸元に入れた。金髪碧眼の素顔があらわとなる。
「私は――」
 名前を最後まで聞く必要など無い。
「貴方は……!」
 静かな驚きが、疲労で磨耗した感情の水面に波を起した。
 流石に今の科学者……否、先進国に住む人間で、彼の顔と名を知らぬものは無い。
「……どうしてこんなところにおいでなんです?」
「いやあ、長旅の前の健康診断という奴でしてね。船出の前に、休暇をかねて昔の主治医に
診断してもらおうと。そうしたら従姉妹から子守りを押し付けられましてね」
 そういってスーツの袖を握る少年を見た。宇宙船の模型を手にした少年の関心は廊下に
張られたポスターよりも、廊下にはみ出たモーターポンプに向けられているようだ。
「ところが、この子が病院の雰囲気を嫌がりまして……」
「お薬のにおいがするところ、ぼくはきらーい。ねえねえ、これって何か出てくるの?」
「おっと、勝手に設定を変えちゃだめだよ坊や! それはこの人の大事なものなんだから」
 まあ、そういうわけですよ。という男の懇願を受けて、リョウコは久しぶりの来客を
研究室へと迎え入れる事になった。

「僕の"診察"まであと二時間と少し……その間、此処を見ていこうかい? アル坊や」
「うん……ジョージおじさん」
 時にコズミック=イラ十五年。
 ジョージ=グレンは、こうしてリョウコのうらぶれた研究室に足を踏み入れてきた。
135SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 15:54:32 ID:???
3/

 古びた珈琲メイカーが不安な音を立てて吐き出した黒い液体を、何の躊躇も無く
受け取ったジョージ=グレンは、リョウコの記憶が正しければ三十を越しているはずだった。
 これから木星まで行こうという人間が。こんなところで油を売っていて良いものか。
 ジョージ=グレンが良いと言えば、良いのだろう。

「大学病院棟までは結構な距離がありますよ。車を回すことも出来ませんが本当に良いので?」
「後で迎えが来るはずですから、お気遣いなく。これをつけていますから……」
 掲げた四角いプラスチックカード――研究棟の入場許可証を見てリョウコは納得する。
 構内のセンサーと連動したICチップを内蔵し、作業用の端末を持つ者ならば基本誰でも
その位置を知る事が出来る。
 それが必要なだけの、重要人物では確かにあるのだ。ジョージ=グレンという人間は。

 ジョージ=グレンの自己紹介等必要ないのだが、律儀な男は一通りの挨拶を行った。
ジョージが連れてきた病院嫌いの男の子は従姉妹の息子で、アル=ダ=フラガだそうだ。
「この研究室を与るリョウコ=ワカサギです。と言っても私一人の所帯なのですけどね」
「ふん、ひょっとして貴方の名前は、日本語でこう書くのではないですか?」
 そう言うとアングロサクソン系の男は、リョウコの本名を正確に表記して見せた。
『良子』でも『涼子』でもなく正しい漢字だ。
 初見で分かる人――然も英語圏出身――に会ったのは初めての経験だった。
「当たりですよ……親が両方とも物理屋でしてね」
 いささか自嘲の意味合いを籠めて言う。
「そして貴方もその血を引いている、と。遺伝子というのは重要な物です」
 感慨深げなジョージ=グレンは、木星の方を向いて居るのだろうか?

「しかしまあ……もしも貴方の理論が新たな演算装置の発明につながったりしたならば、
大変な誤解を招きますなあ!」
「放っておいて下さい、そんな事!」
「いえいえ、いいお名前ですよ」
「そんな……とってつけたような事を」
 ふと、自分が三日もシャワーを浴びて居ない事を思い出した。何故思い出してしまったのか。
 分かりきった事、ジョージ=グレンが男性だと言う事に思い至ったからだ。せめて、
部屋中に堆積したタバコのにおいと消臭剤が、体臭を紛らわしてくれる事を願う。
「貴方には……ジョークの才能だけは無いようですね」
「ははあ、なるほど。木星まで往復する間の、私の課題ですな」
 恐らく死んでも直るまい、とリョウコは確かな実感を得た。
136通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 15:56:29 ID:???
4/

「ねえおじさん、このおばちゃんはなにをお勉強しているの? 文字ばっかりでつまんないよ」
「つまらない、は酷いんじゃないかな、アル坊や」
 ――2X才の私がおばさん呼ばわりされた事にフォローは無しか。
「ほら、昨日教えてあげただろう。
原子というのは何から出来ているか、覚えてるかいアル坊や」
「えっと……でんしとようしとちゅうせいし――だっけ?」
「そう、陽子と中性子が原子核を作って、その周りを電子が飛び回っている。
グルーオン(膠粒子)というのはその陽子と中性子を結び付けている力の事さ」

 世界を構成する四つの力。
 重力、
 電磁力、
 強い力、
 弱い力。

 そして力を媒介する四つのゲージ粒子。
 グラビトン、
 フォトン、
 グルーオン、
 ウィークボソン。

 リョウコが押っ立てて失笑を喰らった理論は、本来10の15乗分の一メートル
――原子核の大きさまでしか到達できない筈のグルーオンが、色荷(カラー)の
組み合わせによって遠距離まで届く相関場を形成しうる、というものだった。

 ジョージは八方言葉を尽くして説明していたが、アル少年にはちんぷんかんぷんの様子だった。
おそらくおやつの後には九割がた忘れて居るだろう。
 この子に必要なのは、スイッチを入れると音を立てて歯車の回るごちゃごちゃとした機械だ。
紙の上の、数学と抽象で構成された理論ではない。

 リョウコは戸棚の奧から、二組のポンプと工具を取り出してアル少年に渡した。
「アル君、こっちのばらばらの奴を正しく組み上げると右側の奴になる筈だ。やって御覧」
 幾つかの工具と共に床の一角にならべると、少年は目を輝かせて分子ポンプをいじり始めた。
勿論廃棄品だ。うっかりと稼働中のものを壊されてはたまらない。
137SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 15:58:33 ID:???
5/

「しかし……このスペースにあるような加速器では、目的の粒子を検出するには足りんでしょうな」
「予算が二桁少なくてですね。碌な観測装置も買う事が出来ない」
 真空漏れを直す予算すらなく、研究棟にあるすべてのポンプが絶賛稼働中だ。
電気代が嵩んで予算を圧迫する悪循環にはまっていた。
「三桁の間違いでしょう?」
 棟の様子を見て、ジョージ=グレンは笑った。
「軍部に予算をねだる気は無かったのですか?」
 不意に訊ねられて、リョウコはジョージの様子を伺った。
 冷めた珈琲を持つ男は、冗談で言った様子ではない。

「私が研究しているのは、原子核中の陽子を励起さるタイプの単なる"電池"ですよ?
ITER(イーター)の研究で融合炉実用化の目処が立とうかという今日び、
爆弾代わりの蓄電技術にそこまでの需要は無い……」
 口数が増えてしまったのは、図星をさされたからだ。
「確かに、私の考えるグルーオン場を形成して原子核の状態を左右出来れば、
高性能な電池を作ることが出来る――できますがね」
 電子の遷移状態を励起させたところでその溜められるエネルギーは数十eVでしかない。
これは乾電池という技術の理論的な限界だ。
 それがもし、原子核中の陽子を励起させ、遷移状態を保つことが出来るならば、
一原子辺りに数メガeV――数十万倍のエネルギーを溜め込むことが出来る。
 リョウコが爆弾代わりと言ったのは、励起状態を安定させる外場が失われた時、
蓄積されたエネルギーが光と熱の形で放出されて大爆発を起すだろうからだ。
 しかし――

「――しかし、貴方の理論から生み出されるのはそれだけではない、違いますか?」
「…………」
 リョウコにとって恐ろしいのは、ジョージ=グレンが何らかの正義感や義務感ではなく、
純粋な興味によってこの話題を続けている、と言う事だった。
「貴方の理論から導かれるグルーオン場は二種類、一つは数メートル程度の距離で、
原子核中の陽子に作用する。そしてもう一種類の場は通常の原子核と作用する事は無く、
数万キロ離れた場所であっても到達し、自由中性子を励起させ、陽子と電子への崩壊を促す」
「………………」
 リョウコが気付き、物理における世界中の権威が気付かなかった事を、
「もしもこの理論が完成してしまえば、世界中で原子炉が止まってしまいますよ?」
静かに、しかしはっきりと、ジョージ=グレンは指摘した。
138SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 16:00:18 ID:???
6/

 日が傾き、遮光カーテンの隙間から西日が差し込んだ。
「おじさん、おばちゃん、できたよーー」
 リョウコもジョージも沈黙した頃、アル少年は小さな体でモーターポンプを抱えてきた。
「へえ……アル坊や、このお姉さんに見せてみなさい、合格点がもらえるかな?」
「うん……はーい」
 アル少年が持って来たものは、完成品と寸分違わないポンプだった。
ためしに電力を与えて見ると、何の異音もなく動作を始めて空気を吐き出した。
「アル君……すごいな君は。別の奴をばらして中を見たのかい?」
「ううん、せっけーずを見たら作りかたぐらいすぐに分かるよ」
 部品から組み上げた振りをして完成品を持ってきたのかと間違えるほどだ。
どやら平面の設計図を見て、三次元的に想像することが出来るらしい。

 大人二人に手放しで褒められて、アル少年が頬を赤く染めた頃、研究室の扉がノックされた。
「ミスター、此処に居ましたか。それから……アル君も」
 リョウコの存在を完璧に無視して客人二人に声を掛けた中年女をリョウコは
どこかで見た気がした。しかし思い出せない。
「……どうやら時間切れ」
「そうみたい……ですな。リョウコさん、もし予算について問題があるのでしたら、
私が木星に行く前に相談してください。それじゃあ」
「じゃあねーおばちゃん……」

 ドアは無感情に閉じられ、廊下の明かりも自動的に消えて行く。
 最後まで"おばちゃん"を改める事無く、アル少年は去った。
 結局珈琲に口をつける事無く、ジョージ=グレンは去った。

 一気に人口密度が三分の一になった研究室で、肩に重くのしかかる疲労を感じた
リョウコは、椅子に寄りかかって深々と息を吐き――そして思い出した。
「――あの黒い長髪の女! サエコ=クルーガー……SEED研の奴か!」
 Superior Equipment in Evolution and Development institute
 先天的後天的超常付加能力研究所!
 生まれた後の肉体改造、意識改造から、胚の段階での遺伝子調整によって人類の
能力限界突破を目指す悪魔の巣。倫理から片足を踏み外した研究者たちの万魔殿。
 あの中年女は確か、難病で余命宣告を受けた自分の娘を冷凍装置に叩き込んだ上で
治療と称して絶賛肉体改造中の、手段と目的がいつの間にか入れ替わった――
139SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/08/21(火) 16:04:40 ID:???
7/

「……吐き気がする、なんだこれは」
 人類史上に残る天才、ジョージ=グレンの功績が脳裏に浮かんだ。
 設計図からあっさりと複雑な機械を組み上げて見せたアル少年の顔が浮かんだ。
「まさか、ジョージ=グレン…………」
 ははッ……なんだか一昔前のSFのような、トンでもと言われかねない話ですなあ。
「……どちらがだ、貴方は――」

 会話の終わり頃、ジョージ=グレンの残した言葉、
「仮にその、中性子を崩壊させる装置が実用化されてしまえば、今この世界をバランス
させている抑止力が全て台無しになって仕舞いますね」
 そんな事は分かっている。
「二次世界大戦以来、核を封じられてきた国は貴方の研究を諸手を上げて歓迎するでしょう」
 ただ少し、PRを行う相手と内容を選べば、リョウコの名前は少しばかり歴史に残るだろう。
 世界を目茶苦茶にした科学者の一人としてかどうかは分からないが、そうはなりたくない。

 このままいけば少しだけ性能の良い電池が出来るまで三十年、実用化まで更に二十年。
その頃には、人類は原子炉の恩恵から脱却していて、作り上げてしまった核爆弾の
威力にのみ頭を悩ませていたりするんだろうか?
 五十年、五十年と考えて見る。
 想像はつかないものだ。
 その頃にはひょっとしたら、ジョージ=グレンのような天才達が、大量発生している?
 三流SFの世界観に苦笑して、リョウコは眠気を覚えていた。
 さし当たっては、高性能爆発電池を作ろうとしている変人研究者、それでいい。

「ふむ……寝るか」
 人生百年の時代。たまには、憂き目に会うこともあるのだ。
 今のリョウコがどれだけサボろうとも咎める人間はおらず、失うものも無い。
 ならば――
「帰ろう。風呂に入ってご飯を食べて、ベッドで寝て、起きたら……」
 目が覚めたら、どうせ自分は研究を始めるのだろう。
 けれど偶には、工作の得意な坊やからおばちゃんと呼ばれないために、
冗談の下手な男から食事位は誘ってもらう為に――
 ――化粧をしても、いいかもしれない。

SEED『†』 his story  了

 と、いうわけで過去話。といっても本編のおおよそ六十年前。木星往還船の出発前。
NJと種バッテリーに関して、ミノフスキーばりの不思議粒子を導入して説明をつける、
という試みでした。それでは。
140通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 16:34:51 ID:???
>もしも貴方の理論が新たな演算装置の発明につながったりしたならば、
大変な誤解を招きますなあ
量子(さんの理論からつくられた)コンピューター?
141通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 17:08:25 ID:???
読む人を選びそうだけど、俺こういうくどいぐらいのSF考証大好き。
142通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 20:10:11 ID:???
>>見える男の話
投下乙
新人、ではないのかな。オレのレベルでは文句の付けようがない
フリーダムの扱いも秀逸
序盤の種以外を揶揄する部分にニヤッとした

>>†
投下乙
†から離れた種の短編としてもいける
実際の科学公証を元にした短編だと言われれば信じそう
量子コンピューター、気づくまで時間かかっちまった
頭堅くなったなぁorz
143通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 21:12:31 ID:???
まだジョージ・グレンがコーディネイター宣言してないころの話なんだよなぁ。

次は陽・電子さんかジョナサン・レール氏を主人公に頼むぜGJ!!
144通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 21:42:02 ID:???
ドクター・ビームのライフル開発秘話ではどうか


センスねぇ、オレwwwww
orz
145通常の名無しさんの3倍:2007/08/21(火) 22:02:53 ID:???
デ・ジ・キャラット星の王女の必殺技をひそかに解析した技術でいいんでないかい
146弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 20:50:06 ID:???
少女は砂漠を走る!

第八話 作戦決行!(1/8)

 朝の病室。けだるげなエディが横になったまま来客と話をしている。
「済まないな、チェンバレンくん。キミの部下なのに看護士の様に……」
「構わないよ。部下と言っても書類の上の事だし、メディカルチームの人手が足らないのも実際そうだし」
 昨日、シルビオさんが重傷を負ってしまったうえ、エディがかなり激しく体調を崩しわたしが着いている。
なので事実上チェンバレン隊は解散。それ以前からティモシーの部下だったわたしではあるが、
ティモシーからむしろ二人の面倒を見ろ。と言われて今は空いた時間に二人の看護をする事にした。
そのティモシーが彼の病室にやってきている。
「シルビオの具合は、今もまだ……」
「目覚めてないけど命に別状はないと。何せ骨折10カ所以上、頭に破片が当たらなかったのは奇跡だ……。
その、指揮を執っていたものとして済まないとは思っている。」
「あの判断は妥当だし、キミが地雷を見抜かなければ間違いなく死んでたさ。ところで用事は彼女。だろう?」
 一眠りするから連れて行くと良い、キミの補佐なんだからココへは頻繁に寄こさなくても良いぞ。
そう言うとわたしに目配せをしてエディは目を閉じた。

「わたしに用事、だったの?」
 病室の前の廊下。何故か不機嫌そうなティエリ−に問う。
「緊急事態だ。憲兵本部からの部隊到着が更に早まった。エディを連れ出すのなら今夜半までだ。」
 夜明け前に到着の可能性もある。そう言うとますます渋い顔をするティモシー。非常に状況が不味い。
連れ出すにしても当人の具合が良くない上に時間がない。いつもならば一日もすれば歩ける様になるのだが、
それではもう間に合わないと言う事だ。

「迷ってる暇はない。ファングを持ち出すしかないだろ? システムの目眩ましなんか多少しか出来ないぞ、
何より時間が無さ過ぎだ。夕方まで時間をくれ。上手く夕方以降に敵襲があれば良いんだけれど」
「……ねぇ、何故そんなに良くしてくれるの? バレたらアナタだってただでは……」
「オレがおまえに出来る事は悔しいけれどこんな事だけだ。それでこっちを向いてくれる事は無いだろうけど、
こんな事しか出来ないから仕方ない。ま、エディとミツキの友人としてサポートしていると思ってくれ。それに
俺はMSだけじゃない。エライ人達には言ってないけど実は情報系は大得意なんだ。絶対バレ無い自信は
有るからそれは気にすんな。実際、個人的には楽しんでやってる部分もあるしな」
 俺は赤なんだぜ? と言いながら足早に離れていく後ろ姿。わたしこそ彼にしてあげる事は何もないのだ。
ごめん、ティモシー。何故か涙が湧いてくるのを感じて慌てて袖で顔をゴシゴシ擦る。

 ティモシーが言外に言った【作戦】はこうだ。敵襲と共にファング3でエディと一緒に出る。戦闘の混乱に
乗じてそのまま戦線離脱。敵前逃亡罪を背負って行方不明。今の位置ならばさして離れていない所に町が
あるし、機密兵器のガイアはジャンク屋に売り飛ばせば彼の医療費と当座の生活費ぐらいにはなるだろう。
 問題は二つ。どうやって専用機ファング2の有るわたしがファング3で出撃するか。だいたいファング3は
まだ修理だって終わっちゃいないのだ。そして都合良く今日の夕方以降に敵襲があるかどうか。
こっちはわたしがどうこう出来る問題でさえない。
 どっちもハードルはかなり高いな……。
 ボンヤリと考えながら足は勝手に格納庫への階段を降りていく。
147弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 20:52:04 ID:???
第八話 作戦決行!(2/8)

 何となくファング2の足下まで歩いてくると意識せずにわたしの机に座る。今正面では砂色に真っ赤な右肩の
ジン・オーカーが整備を受けている所だ。ユースケがMSの返却と共闘を隊長に掛け合うとあっさりと許可が
下りた。マーカス隊長はいい人だがアマ過ぎるんじゃないだろうか。だいたい共闘と言うからには戦闘に出る訳
で赤い肩のジン・オーカーなど一番の標的ではないか。そうか、囮に使おうとしているのかも知れないな。

「メカマンはみんな良い腕してるぜ。あの機体のフローティング・バランスが一発でキマるなんて嘘みてーだ」
 ユースケがご機嫌でこちらにやってくる。
「お気楽なもんね。MSの整備が完了したら、あんたの仕事は囮なのよ?」
「わかった上でオーカーを返して貰った。何もしないで俺だけ生き延びる訳にはいかないからな」
 まっすぐな瞳、強く響く声。どうして周りのヤローどもはこんなヤツばっかり……。
「ユースケ、あんた死ぬ気……?」
「勿論死にたかぁ無いさ。けど、赤き風の旅団最期の生き残りとして一矢報いなきゃ気が済まない。
端からどう見えようが、あの人達がいなければ2年前に俺は野垂れ死んでたんだ」
 出来る事なら彼を助けてやりたいがエディの事もある。わたしはどうすれば。
「……オーブに、帰るんじゃなかったの?」
「今現状では無理だろうしな。生き延びたら考えるさ、それに俺だって簡単に死ぬつもりはないぜ?」
 ふと横を見れば取りあえず腕と頭を付けました。と言わんばかりのファング3が突っ立っている。アレでは
当分動かせない。ネガティブなイメージが頭をぐるぐる回りわたしは机に突っ伏す。何をどーしたらいいのさ!


「何を悩んでるんだ? 俺の事か?」
 突っ伏した頭の上から声がかかる。
「それも悩みの一つ。せっかく生きてるのにさ」
 机に突っ伏したまま答える。悩み事増やしやがって、全く。わたしはそんなに懐は深くないんだ。
「気にすんなよ。生き残ったらそんときまた考えりゃいいじゃないか」
 どうして自分の命をそんなに簡単に考えられるんだよ、あんたは。死んじゃったら全部終わりじゃんか。
「ところで悩みのもう一つを当ててやろうか。……ティモシー、だな?」
 がばっと上体を起こす。何か知ってるの? それなら彼が不味い事に……!
「ヤッパリか、わかりやすいもんなアイツ。何か言われたんだろ? で、おまえ、キチンと返事したのか?」
「……? え?」
「それにしても人は見かけによらないもんだな。あの生意気なエリートがロリコン趣味だとはな」
 …………っ。この馬鹿は……何を。
「だいたい厳密に言えばロリコンの基準からは外れてるだろう、おまえの場合は。キチンと年齢とか教えて
やったのか? 見た目はこうだけど実はってさ。そしたら幻滅して離れるかも知れないぞ。こう見えてホントは
ちゃんと生えてま……あぐっ!」
「何がロリコンの基準だっ! コッチは真剣に悩んでんだ、こぉのっ! バカっ!!」
「うわっ。何すんだよ! 間違った事は言ってねぇじゃねぇかよっ!! ヤメロって!!」
 わたしはユースケの顔を正面から睨み付けると、取りあえず重そうな本から順に思い切り投げつけた。
148弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 20:54:44 ID:???
第八話 作戦決行!(3/8)

 間もなく昼になると言う、本来で有れば一番和む時間。ブリッジはピリピリしていた。
「ローズ=マリー、間違いないんだな?」
「ハイ、間違い有りません。シルエットはアークエンジェル級に似ていますがライブラリの照合結果は否定。
但しエンジンの熱紋は合致率63%、いずれ連合系の機動巡洋艦のようなモノと思われます」
「現在セクターグリーン・アルファ21からブラボー16。距離150に3隻の存在を確認、微速で接近中」

 アークエンジェルの名前はわたしのノートにもある。前大戦時の連合の強襲揚陸艦でザフトから足付きの
コードネームで呼ばれた船だ。優秀な指揮官で、かつ自身もスーパーエースであったラウ・ル・クルーゼや
アンドリュー・バルトフェルドらを持ってしても撃沈するに至らず常に最前線にあって、更には最終的に
ラクス・クラインと共にたった三隻の船と十数機のMS、それだけの陣容で連合、ザフト双方を敵に廻し、
それでも最期まで撃沈はされず不沈艦とまで呼ばれた船だ。
 艦長や運用する人達の手際の良さは勿論あるのだろうが、船自体もやたらに高性能ではあるらしい。
いくらすげーとは言えフリーダム一機で護りきれるもんじゃねぇだろ?とはメカマンチーフの話。
 そもそも連合のものだったのだから、連合が相手で有ればそんな船を作って持っていたとしてもその部分は
不思議ではない。ただ何もここに来なくてもいい話だし、そんな高性能の船が三隻はどう考えても多すぎる。

「何故真っ正面に……、それだけ自信が有ると言う事か。索敵班は当該艦船をアークエンジェル級と仮定し
陽電子砲を警戒、高エネルギー反応、先端部の発光等に関して監視を厳となせ! 推定MS艦載数は!?」
「最大では30を越えます!」
 無茶苦茶だ。勝てる訳がない。そもそもがMSは定数に達しない艦載数しかなかったマーカス隊である。
今やバクゥが6機、オーカーが6機、ディンが2機、ザク・ウォーリアが2機。その他ユースケのオーカーと
ザク・ファントム、ファング2が動けるMSの全てだ。あのダガーLとか言うのが30機も出てくるならば、
アジャイルを数に入れても既に数で負けてる。オーカーとティモシー以外のザクは言っては悪いが
そもそも勝負にならない。
ファングを師匠やシルビオさんが使うのならば計算も出来るが、稼働可能はわたしのファング2が一機のみ。 
「全MSは出撃体勢、稼働可能機は予備機も含めて全て起動! 対艦、対空、対MS戦よぉおい!」
149弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 20:56:46 ID:???
第八話 作戦決行!(4/8)

「師匠、大丈夫なんですか!? 今ウロウロしたら……」
「今このときに寝ている訳には行かんさ。チェンバレンくんの指揮下に入る。指示宜しく」

 格納庫の一角、わたしは赤いスーツを着た二人に囲まれている。エディはどうやら腕を付けました。の状態
のままほって置かれたファング3を使うらしい。緑のスーツを着たユースケがメカマンの一人と話しながらリフト
で揚がっていくのが見える。ティモシーが頭を近づけて声を潜める。
「チャンスだミツキ、良いな?」
「へ?」
「敵を大半掃討したら先ずはファング3だ。偽装爆発で姿を隠す。それを助けにファング2が近づいた所で
もう一発。最終的に2機は残骸も残さずに消え失せる。きっともう、タイミングはココしかない。ハズすなよ?」
 なるほど、緊急事態への対応をしながら更に【作戦】のアップデートもしていたんだ。いつもながら関心。

「チェンバレンくん、そんな事をしてはキミが……」
「ミツキとガイアをさらうのはアンタだ、俺は関係ない。むしろ機密兵器と気になる女をさらわれて大憤慨だ!」
 どうやら大憤慨の部分は本当らしい。そして彼がそう言うならば周りからはそう見える様にしてあるのだろう。
そう言えばわたし本人が気付かなかったのにユースケはわかりやすいと言っていたのを思い出す。
彼はどう見えるかはともかく、腹の中を他人に見せるタイプではない。単純バカのわたしとは、そもそも違う。
「わかった。好意に甘えよう。この借りは……」
「返すというなら……、返すと言うならばミツキを帰せっ。出来ない事なんか言うな!」

 赤くなって横を向きながら声を荒げるティモシー。わたしはいつからこんなにモテる事になったんだろう。
エディが、いろんな意味でホントに始めての男(ひと)なのだ。ここまでまともに男の子とつき合った事さえなかった。
大体ここまで生きてきて、男の子と二人っきりで出かけた事すらないわたし。
 リアクションの取りようが、無い……。

「ミツキ、ガイアが2機なら義手も作っておつりが来るぞ。買いたたかれるなよ?」
「……済まない。ならばもろもろのタイミングはチェンバレン隊長に任せる。ミツキくんは当面ユースケくんが
落とされない様にして一緒にアンドレ隊の左翼に回ってくれ。僕が正面、隊長が右で良いのか?」
「わかっているならその通りに。擬装用の爆薬は既に準備してある。シールドの裏の……」
150弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 20:59:32 ID:???
第八話 作戦決行!(5/8)

『おい、ミツキっ!! なんで普通に空飛んで来るんだよ! MSだろ!?』
「わたしが知る訳無いでしょっ! コントロール、ローズ=マリー姐さん、聞こえてる? アレは何?!」
『ライブラリ照合の結果、既知のMSである事は否定。連合GAT系の新型と思われる。結論、わかんない。
総数は現在5。……ね、怪我なんかしないで帰るのよ!? あなたはあたしの弟子でもあるんだからね!』
 母艦を後方に置いたままワラワラと迫るダガーLの群れ。むやみに多い数以外はほぼ予想通り。予想を
超えたのは細身でダガーよりも目つきの悪いMSが空中から狙撃してきた事。空中ではディンより動きは
鈍そうではあるがビームライフルにビームサーベル。VPS装甲のファングにとっても驚異だ。しかも下に
降りればダガーLを更に凌駕する運動性。ハッキリ言ってたちが悪い。
 ふと横を見ればエディとティモシーはジャンプで空中戦を仕掛けている。特にエディは四足獣モードのまま
ビームファングで一機落とした。あんなの、人間業じゃない。ただ彼、片腕でしかも青色吐息だったはず。
……なんだけど。
アジャイルとディンが全機こっちに来る。当たり前と言えば当たり前だな。あの二人は上空の援護、要らない。

『上は無視して良さそうだな? 俺が突っ込んで気を引く。バクゥとミツキで各個撃破だ』
「ちょっと、勝手に決めないでよ! ……アンドレ隊長、わたし達は上は無視して下に集中。で良いですか?」
『そうだな、下の連中はどうやら全機オオグロ狙いの様だしな。オオグロ、用意は良いか? 落ちるなよ?
全機、着いてこい!! シライ、遅れるな!? 遅れたらファングと言えど集中砲火を浴びてお終いだ!』
「了解です!」

 大混戦。まだ敵はさほど数が減らずこちらもディン1機とアジャイル2,3機を落とされた程度。まだバクゥ隊
は抜かれていない。どうやら船同士も砲撃戦を始めたらしい。時折腹に響く砲撃の音が聞こえる。無線は既に
ジャミング最大。ほぼとなり通しという距離でなければ届かない。ダガーLのライフルをかわしてサーベルで
斬りつけるがダガーはシールドで受けると距離を取る。やはり機体性能だけでは如何ともしがたい。
エディのような、ティモシーのようなテクニックが欲しい! 音声はダメでもデータは送れる。データ画面には
刻々と変わる敵の位置と数がコントロールから流れてきている。光学観測で残り32機! 巡洋艦だって3隻居るのだ。
果たして大半を殲滅など本当に出来るだろうか。それが【作戦】発動の条件であるのに。

 突如ダガーLの群れの横合いからビームと砲撃が浴びせられる。2,3機煙を上げてゆっくり倒れていく。
砂の中からシートをかなぐり捨てて立ち上がる砂色で赤い右肩のストライク・ダガー3機とアストレイ2機。
オーカーもいる様だ。『赤き風の旅団』!
「全滅じゃなかったの!? それになんでストライク・ダガー!?」
『村の防衛隊の生き残りだ。連合、ザフト両方共、汚れ仕事の報酬はMSだった。純正型は貴重だからな』
 砂の中で潜伏はこの人達の十八番(おはこ)だったな、そう言えば。アストレイもMS図鑑に載っていたヤツ
とカタチが近い。顔なんかそのまんま。オーブに近いスジの依頼もあったと言う事か。
『あんたら4番隊は村の襲撃の時に全滅じゃなかったのか!』
『確かに隊長と副長はやられた。退却してからこっち、生き恥晒してる様で辛かったぜ! ユースケ! 2番隊
と4番隊の残党、指揮下に入るぞ! 全機整備は完璧! 1番隊副長としてしっかり仕切ってみせろ!!』
『赤き風最強の高性能お宝部隊、頼むぜ! 全機俺に続け! 2番隊は後方、ケツはバクゥに持たせる!』
 突如現れた寄せ集めのMS部隊は武器を手に一気に突撃を開始する。一糸乱れぬ統制を見せていた
ダガーLの群れがさすがにとまどった動きを見せた。その瞬間をバクゥ隊は見逃さずにサーベルを頭に
生やすと突っ込んでいく。
「ビームファング、ビームカッター展開! ライフルレディ確認! ……ファング2、突撃しまぁああす!!」
 わたしだって後れを取る訳にはいかない。今回は、そう言う訳には絶対いかないんだ!
151弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 21:02:25 ID:???
第八話 作戦決行!(6/8)

 ユースケとは離れてしまったが彼自身、そう簡単に落とされるタマではないし、赤き風の別働隊が彼と行動
を共にしている筈。そんな中、データ通信でファング3の援護に回る様に指示が来た。願ってもない話だ。
【GAT系の新型と思しき機影を更に4、上空に確認。特にチェンバレン隊長には十分な警戒を乞う】
 データが入ってくる。位置とすればティモシーの真正面。とにかくエディと合流しなきゃ!
 けれどわたしはダガーの動きに引きずられエディと距離がなかなか接近出来ない。モードチェンジで
目を眩ますとサーベルで切り伏せる。戦闘出来なくなれば良いんだ! 数を減らせ、撃墜は狙うな! 
アンドレ隊長がさっき言っていた言葉を思い出すと腕だけ更に損傷を与える。上空のMSの前にはアジャイル
とディンが壁の様に展開中。空中の機動ならディンが上、あれならこちらには来れまい。急いでエディの元へ。

 アジャイルの壁が揺らいで穴が空くと、黒い塊がこちらへ突っ込んでくる。ファングと良く似た顔が真っ正面
に見えるコーモリの様なシルエット。キモチワルっ!! その顔が光った。ホンの一瞬の差で足下の砂が
巻き揚がる。何だかわからないが足を止めたら不味い! ファング2がデータの突き合わせを勝手に始める。
【It approximates to Allied Forces MS GAT-X370 (Alias Raider). Details are uncertain.】
 Xナンバーの連合MS! と言う事は。アレもガンダム……!。一瞬躊躇した隙に悪趣味なコーモリから
一転MS形態になって、どこから取り出したのか鉄のタマを投げつけてくる。見た目だけじゃなくて攻撃も
悪趣味! ばふーんっ!! 大音声と共に砂を盛大に巻き上げてタマは砂漠に突き刺さる。
「何よ、それ!? なんのつもりよアンタ!!」
 ディスプレイはVPSがあるので直撃でも大丈夫と表示をしているが、中のわたしまで大丈夫な保証はない。
【最高速で衝突の条件での計算結果:パイロットは骨折程度、命に別状無し】の表示が遅れて出る。
当たったならば、ティモシー達ならともかく、わたしはきっと死ぬ。MSもパイロットも凄まじい。冗談抜きで
パイロットの腕はエディを越える。考えている暇はない。四足獣モードで逃げ回るわたし。情けない……。

 アジャイルが数機援護に来てくれた。ミサイルを撃つ。が、鉄球をぶんぶん振り回すと、繋がってるヒモの
部分でミサイルは全て防いだ。なんて非常識で無茶苦茶な機体だろう。だが見た目はともかく動きが早いし、
武器は勿論鉄球だけじゃない。アジャイルの援護を受けて尚、MS形態への変形が出来ない。アジャイルが
2機、黒い煙を吐きながら落ちていく。マズい、広い砂漠の真ん中で精神的に追いつめられていく。こちらを
振り返ったその黒い機体はまたしてもコーモリ形態になると『足』の部分に当たるクローをこちらに突き出して
突っ込んでくる。気持ちわりいぃいい! 何処までも人の神経逆撫でする装備ばかりの機体だ。どうやら
クローの中にはビームサーベルが仕込んであるらしい。そのサーベルを展開していない方の足が迫る。
「つかむんじゃない! 変態ぃっ!!」
 つかみ損ねたとわかると反対のクローのサーベルを一閃したが、それをすんでの所でかわす。ライフルの
照準を付ける前に変態コーモリは一気に上昇。上空で転回、再度『口』からビームを連射しつつ、同じ姿勢で
突っ込んでくる。
「ばかっ! コッチくんなっ!!」
 わざとやった訳ではない。ギリギリで見切って黒い機体を飛び越えるとビームファングに手応えがあった。
着地して振り向くと、背中に二本の傷が付いた黒いコーモリが傷から煙を噴きながら、スピードはそのままに
砂の上を滑る。やったか!? と思った瞬間、いきなり上昇に転ずると黒い尾を引き、そのまま見えなくなる。
「……。ふぅ。どっか行ったから、まぁ、良いか」
 マーカス隊の切り札と言われた身としては勿論、良いわけないのだが。
『さすがだな、ミツキちゃん。マーセッド隊長がべた褒めな訳だ!』
 アジャイルのパイロットから無線が入る。けれどそこまでわたしは自信家じゃない。偶々、そう。偶々だ。
落とした訳じゃないし、アレが戻ってきたなら、今度はどうなるかわからない。
 取りあえずアジャイルのパイロットへの謙遜もそこそこにエディの元へと向かう。遅くなってしまった…
152弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 21:05:36 ID:???
第八話 作戦決行!(7/8)

 やっとファング3が目視で見える範囲まで来た。現在もかなり激しく戦闘中
とても左手一本で更に適当に修理をした機体を操っているとは見えない。

 ……? ファング3の無線チャンネルが使用中の旨の表示が出る。この状況下で誰と何を喋るのか?
相変わらず激しく跳んだり跳ねたりしているファング3。見た目無線で交信中とは思えないが。それに喋ると
いうなら見通し数百mが限度。それもかなり高感度の無線機を使っての話だ。
 ザクとファング間での会話が有る程度の距離があっても成立するのは三機共が指揮官機として無線の
出力が大きいからだし、その三機でさえほぼ通信途絶なのが現状。ならばもう一方の電波の発生源は……。
 見つけた! 

【EHMV6D2型/地上索敵用高機動不整地走行車 ※識別信号偽装を確認、所属不明:注意】
 の注意書きと共にモニターに大写しになるジープ。
 ザフトのパイロットスーツを着た女性が器用に攻撃を避けながら運転している様だが、ジープなんか出して
いないはずだ。それに識別信号偽装……?
【使用周波特定中/NJ影響レベルB/妨害波検知・発信元特定FANG3/解析処理中・対抗策処理中】
 ……そして妨害電波の発生源はエディのファング3。つまり、アレは。
『……がわ……確かに起動条け……今回のタイミ……は見お……決行は……プロパガンダを行ってからと』
【無線周波特定/妨害波解析完了・逆位相発信開始/波形強制復元ON・ボイスブーストON/現在メリット2】

 ファング2はわたしが何かする前に二人の会話を盗み聞きする事に決めた様だ。わたしも【彼女】に乗る事に
して無線内容の記録をオフにする。ダガーLが斬りかかってくる。シールドで受け止めそのまま押しやると、
バランスを崩した機体にサーベル一閃。キレイに決まる。いつもこうならわたしだってエースパイロットなのに。
153弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 21:08:48 ID:???
第八話 作戦決行!(8/8)

『状況がそろったのよ。阻止出来る部隊は近隣に居ない。それに、ターミナルとか言う連中の事もある。
今のタイミングがベスト。それに地上のナチュラルどもがどうなろうと我らの知った事ではない。
そうでしょ? エディ』
『地上にはコーディネーターだって相当数暮らしていると何度も言った! それにまだ、モーターの数が
そろわないはずだ! 失敗してただ単に墓標を砕かれてはそれこそ……』
『心配にはおよばない。再計算の結果安定軌道から外すには、前回アナタに追加で集めて貰った分で十分
だったのよ。ついでにアナタのそらでの工作も効いている。阻止部隊が近隣に居ないなら動き出しなど
ゆっくりでも困らない。初速もアナタが言うほど要らない道理でしょう? 動いてしまえばもう止められない訳だし』

 この会話の内容は、まさか……! ダガー3機をライフルで牽制する。エディも依然戦闘中だが随所に
らしくない機動が見える。会話に相当気を取られている今、敵の新手を近づける訳には行かない。
『今すぐ中止しろ! 無差別に地上の人々を殺す必要は無いんだ!! ナチュラルもコーディネーターも
関係ない!! 普通の暮らしを奪われた悲しさは僕等が一番よく知っているじゃないか!?』
『く、はは、あははは……。下に降りてからアマちゃんになったんじゃないの? 既にモーターは稼働した。
墓標は間もなく安定軌道から外れる。アナタが実行に関して懐疑的なのは皆が知る所。阻止出来る状況で
話をしに来る訳無いでしょ? それに私たちに計画そのものをどうこう出来る訳がない。もう、遅いのよ? 
エディ』

『な、今なんと……』
『既に墓標は動いたの。間もなく軌道のズレも観測されるだろうけどもう遅い。空の墓標を止める事は
もはや誰にも出来ない……。サヨナラ、エディ。巻き込まれてキチンと死ねる事を祈ってるわ。
姉さんは先に行って待ってる。ほんの一時だったけどアナタと暮らせて、本当に楽しかった……』
『待ってくれ! 何をする気だ、ねぇさんっ! 僕は……っ!!』 
 言葉の意味を頭が理解する前に、いきなり無線に雑音が乗りジープは火球に変わる。火が収まった時
ジープだった残骸はただ黒い煙を上げるのみだった。あの人はエディの……。

『チェンバレンくん、聞こえるか? エディだ! ザク・ファントムでその位置ならアンコールワットに届く。
大至急隊長に中継してくれ! ユニウスセブンが落ちてくる! 即時戦闘中止の上、全世界規模で
プラント、連合他国籍問わずシェルターかそれに類する所への待避勧告を行う事を要請する! 
ミツキくんも聞いていたな? 出力最大オープンチャンネルで戦域全体へ中継! 敵味方は
もはや関係ない。説明は後だ! 頼む! 二人とも急いでくれ!!』


次回予告 第九話 それでも砂漠を走る!
もはや誰にも止める事の出来ない、落ちてくる空の墓標、わたし達を殲滅せんと止まない攻撃。
それでも……! わたしは最期まであなたと一緒ですっ! ミツキ・シライ、ファング2! 行きまぁす!! 
154弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/22(水) 21:11:23 ID:???
今回分以上です。

ちょっと字数が増えてしまったので、6レスの自己規制解除。
会話をシンプルにするのは相当難しいですね……。

ではまた。
155通常の名無しさんの3倍:2007/08/22(水) 23:03:31 ID:???
>>139
SF風のそれっぽい理屈付け、とても楽しかったです。
しかしそれ以上に気になるのがサエコママンとその娘さんの存在。
まさかシズルさん裏切りフラグ?!
156機動戦史ガンダムSEED 31話 1/7:2007/08/23(木) 00:27:25 ID:???
 
 C.E78年8月25日・オーブ連合首長国・首都オロファト郊外の某屋敷――

 オーブの首都郊外にある森閑とした森林地帯にその屋敷は存在した。
 
 表向きその所有地の持ち主は、オーブの某氏族の名義となっているが、実際にその氏族の家系は
数代前に途絶えており、名跡を継ぐ者はここ数世紀のあいだ存在していない。

 実際のところ、この地と屋敷の所有権は代表首長府によって抑えられており、
この場は非公式な会談場所としても有効に利用されていた。

 そして現在、この場所には地球圏の国際経済機構を左右しかねない非公式な
会談が行われようとしていた。
 先日、ユーラシア連邦にある軍需複合企業体の一つアクタイオン・インダストリー社が
オーブのモルゲンレーテと提携が結ばれ合同経営が発表されたばかりなのだ。
 
 だがこれは、あくまで表向きであり、実際の経営内容は一つの経済共同体によって内部は
ほぼ抑えられた形となり、実質的な強制合併のような形を取っていた。

 この経済共同体は、実際、オーブの”ホワイト・ヒル”が母体となっている”財団”と呼ばれ、
未だ小規模ながら、言わば第二のロゴスともいうべき経済団体として密かにアングラで
囁かれている存在によって統治されていた。

 ”財団”の今回の強制合併劇は、ユーラシア連邦への経済拠点の重要地の一つとして
彼の企業の力を手に入れる事だった。
157機動戦史ガンダムSEED 31話 2/7:2007/08/23(木) 00:38:17 ID:???
 
ユーラシア連邦の政府機関や各有力な諸勢力は、アクタイオン・インダストリー社が依然と変わらずに
自国であるユーラシア連邦の各国と地球連合加盟国に協力と莫大な献金の姿勢を
見せていることに満足し、直接に経営には口出しをして来ていない。

 実際に現在のユーラシア連邦は、この動乱期に軍国至上主義の時代に入っており、ユーラシア連邦に
所属する各国を軍部が弱体化した政府を押さえ、果ては、太陽系内の宙域の獲得と、強力な軍隊の育成に力を入れている。

 つまり、軍部の強化に積極的な協力姿勢を見せる企業に対して優遇措置を取っているのだ。
その中でアクタイオン・インダストリー社はユーラシアのその筆頭軍需企業として現在でもl屈指の名を為していた。

 その内情は”財団”がしっかりと把握していたが……。
 
 ―― ”財団”。

彼等の強みは、この動乱の世界で秩序たった国家として際立っている”オーブ”が
背後にあること。しかも、その背景には武力という最も目に付きやすい強力なオーブ軍という
世界屈指の機動戦力が背後に控えているのだ。

 ――安定した国力と武力。

 これを兼ね備えている国家は現在のところオーブ首長国連合だけである。
地球連合の大半の加盟国家は、動乱と内乱の繰り返しで未だに表立った国家秩序の回復に至っていないのだ。

 世界中は主に軍部主導の軍事国家への変貌。そして、内情も国内の反乱とラクシズ一派との泥沼の抗争。
更には、太陽系内の資源を巡る宙域争奪戦。世界は未だに大いに揺れていた。

 そして、他の連合非加盟国を言うに及ばず、しかも各国に所有する軍隊は、それぞれ師団や
細かい部隊単位で独立を始め、弱まった政府の指導力を無視し、独自に勢力圏の確保と
武力侵攻を始めている国も少なからず存在する。そして……。
158機動戦史ガンダムSEED 31話 3/7:2007/08/23(木) 00:43:26 ID:???

 ――動乱の蔭にラクス・クライン在り――。

 そう謳われているようになってから、ある程度の月日が流れていた。
 
 現在ラクス・クライン率いる武装勢力は、ザフト軍をその傘下に加え肥え太り、
全戦力を平和と自由の名の元に投入している状態だ。

 ラクスがプラントへと招聘された頃、プラント自体はラクスの”理想”とやらを実現する為の
一大宗教国家という様相を帯びてきたのだ。
 
 最高評議会とは名ばかりで、プラントの政治システムは既にその頃から独裁の気色に染まり始めていた。
 
 ある意味でファシズムの超国家体制を構築する下地が出来はじめていたのだ。ラクスの狂信者達曰く、
”ラクス・クライン”は神聖不可侵の存在であり、その意思に逆らうことは、即ち大罪であるのだというのだ。

 だがプラント内でも少数ながら、ラクスの存在を疑問視し、彼の者を何故に最高評議会の議長に据えるのか?と
いう意見の人間も確かにいたが、反対する少数勢力はその他の大勢によって暴力的に弾圧された。

 そのプラントの思想闘争に巻き込まれるように国際間の動乱は更に拍車を掛かった。
ラクス・クラインが地球圏全土に飛び散る火種と混迷に対して”平和の歌姫”の名の元に戦いを挑んできたのだ。
 
 ――そしてラクス一派、通称”ラクシズ”は十字軍気取りの”聖戦”を宣言する。
 
 熱狂と狂気に帯びた”ラクシズ”は世界中の紛争地帯に現れ、戦闘行為の停止を訴えながら、
銃を向けるて行くことになる。

 無論、ラクスその”聖戦”に迎合する勢力運動が幾多に発生するが、それ以上に反ラクス感情も高まっていた。
確たる証拠もなく、問答無用で、デュランダル前議長を抹殺した事が、地球圏に住む人々の
反ラクス感情を生み出す元の原因となっていたのだ。

 逆らえば、殺される――。ラクスも所詮ロゴスやブルーコスモスと何ら変わらないのだ――。

 このように世界各地で反ラクス感情が爆発し、各地で反ラクシズの抵抗運動が始まっていた。
159機動戦史ガンダムSEED 31話 4/7:2007/08/23(木) 00:45:38 ID:???

 ========================

 その部屋の中央の円形状テーブルには数人の男女が既に席に付いており、
先程からそれぞれ席に設置されたノート型パソコンから、この会議に必要な情報を確認していた。
 カタカタとキーボードを叩く音とマウスを動かす音、それに時折、テーブルに出された
軽食や飲み物をすする音が部屋に響いていた。、

 そこをトントン!とテーブルを指先で叩く音が室内に響く。そのリズムはかなりの素早さで小刻みだった。 
その音から相当に苛立っているのであろう。
 
 音の発信源は、周りの男女の中で一際立派な体格を持つ、金髪で見たところ50代後半であろう、
どう見ても軍人で将校の雰囲気を漂わせた黒い背広の壮年の男からだった。
 その男は、堪り兼ねたように向かい側に座る人物に苛立ちを隠さずに低い声で話しかけた。
 
 「……いつまで待たせるのだ?もう既に他のスタッフはそろっているではないか!」

 その人物は、男の怒声に、端正な顔立ちに美しい長い黒髪を肩に流しながら微笑んだ。
だが内心では、その壮年の男の俗物ぶりを冷笑しながらも、表には一片も態度を表さずに
優雅な姿勢を保っている。一見、完璧な彫刻のようだ。

 そして、テーブルに置かれているコーヒーを手にし、口につけると先程からの繰り返しを、
判で押し返したかのように男の質問に応じる。

 「――暫し、お待ちを」

 と、その声は落ち着いたテノールであり、女性の声であった。

 「先ほどから、そればかりではないか!!」 
 
 再び、金髪の壮年の男は、その長い黒髪の女性に向って既に予定開始時間が
過ぎている事に対して怒りを露にした。
 男は待つ事に慣れておらず、よく上からあからさまに命令を下す典型的な将校タイプの人間であるようだ。

 女性の方は、手馴れた様子で相手を見つめ返している。自分は、この手の人間を腐るほど見てきたのだ、と。

 
160機動戦史ガンダムSEED 31話 5/7:2007/08/23(木) 00:49:23 ID:???

 相対する黒髪の女性の方は、女性とは思えぬほどの上背があり、通常の成人男性並みの
体格を保ちながらも、女性特有の優雅さは失っていない。
 だが、同時にその眼差しは、永久凍土か鋼のように研ぎ澄まされており、男のその怒声に対して
微塵も意思の揺らぎがなかった。

 彼女は、その口元に笑みを湛えながら深い声音で変わらず再び答える。

 「――”将軍”。先程こちらへ向ったとの連絡を受けています」

 「っ……」

 将軍とその言葉に力を入れられ、男は自分の行為が、大人気ない事を今更ながらに気がついた。 
苛立ち、舌打ちを吐くが、それを女性は聞き咎める様な視線を相手に向けた。
 
 将軍はその視線をわざと逸らす。

 彼らは握手を交わしながらも、互いに隙を見せれば相手を社会的地位から突き落としたり、
或いはあからさまに抹殺しようとする、まことに心温まる関係にある。

 女性は将軍に辛辣な一言を吐こうとした。が、――そこへ物慣れた声が横から割り込んで来る。

 「ロンド卿。――こちらの事はお気になさらずに」

 彼らのその態度を中和するように、もう一人、”将軍”と呼ばれた男の隣には、
眼鏡を掛け謹直そうな官僚の雰囲気を持った40代の半ばと思しき壮年の男が座っていた。
そして、男の眼差しも周りにいる人物同様に、一般人とは程遠い暗い輝きを放ってた。

 「だが、”ミスタ・スティニツ”……」

 その言葉に、”将軍”は余りにも我々に無礼ではないのか……と言葉を続けようとするが、

 「――将軍、こちらが無理を申しているのですぞ?」

 
161機動戦史ガンダムSEED 31話 6/7:2007/08/23(木) 00:53:17 ID:???
 
 スティニツと呼ばれた男は、有無を言わさずに将軍の言葉を遮った。
その言葉に将軍は、大きくため息を吐くと、

 「わかった……。サハク殿、先ほどは大変失礼を致した」

 とロンド・ミナに謝した。同時にステイニツと呼ばれた男も、隣の”将軍”同様に深く頭を下げた。

 「お気になさらず、”将軍”。そして、ミスタ・スティニツ――」

 ロンド・ミナは儀礼的な微笑を浮かべ、スティニツに対して他意が無い事を示した。
そこに、扉が音を立てて開かれ一人の男がゆっくりと入室してきた。

 「――遅れまして申し訳ありません」

 そう居並ぶ出席者に対して、男は軽く一礼する。

 遅れて入ってきた男は、なかなか長身でまだ若く20台前半か半ば程度に見え、オーブ軍の軍服にコートを引っ掛けた姿だった。

 その詰襟にはオーブ軍、機動部隊総司令官の証である徽章が付いている。
その茶色の髪はオールバックにし後ろに流し、端正な顔には薄い色のレンズのサングラスを掛けていた。

 「アーガイル殿……。本日は、無理を申し上げまして――」

 スティニツは自分の席から立ち上がると友好的な微笑を浮かべ、まるで愛する家族を迎え入れるかのように、
彼を両手を広げて感謝の意を記した。男の方もスティニツに対して如才なく相手に応じる。

 「――いえ、私共も今回は、多大の投資を行っていますから」

 この男こそ、オーブ連合首長国・代表首長府、通称”ホワイト・ヒル”の実質的最高執政者であり、
オーブ軍最強と謳われる機動部隊の総司令官をも兼任し務めるサイ・アーガイル首席補佐官であった。

 サイも、スティニツに向って柔らかく微笑みながらもその抱擁を受け入れ、改めて友好の握手を交わした。
一通りの挨拶を終えると、サイも円卓のテーブルの席の一角備え付けられたパソコンの席へと着く。
 
162機動戦史ガンダムSEED 31話 7/7:2007/08/23(木) 00:56:22 ID:???

 「……サハク殿。貴殿らは、学生アルバイトをコンサルタントや軍人として雇っているのかね?」

 その様子に些か皮肉な目を向けながら、将軍は、ロンド・ミナにだけでなくわざと周りに
聞こえるよがしに言葉を吐いた。オーブの軍服を纏っているが、一見どこかの大学生のようにフランクな
雰囲気を身に付けている若い男に対して偏見を持った眼で見ていたのだ。

 彼から見るとサイ・アーガイルという男は高級士官用の軍服はまるで似合っていなかったのだ。
雰囲気的にも一国を統べる宰相や将官に見えない。まだしも、女性ながらもロンド・ミナの方が
それに見合うだけの外見と威厳を纏っていた。

 実際、オーブ軍の機動部隊の軍事力は優秀である。ハードウェアである機動兵器は世界でも
最新レベルのものを揃えており機動部隊の錬度も極めて高い。

 ことに指揮官の作戦指導能力が極めて高い評価を受けているのだ。

 だが突き詰めれば、ただ一人の人材がその声価を背負っているのは、オーブ国内では暗黙の了解でもあり、
それが、機動部隊総司令官のサイ・アーガイルその人であるのは公然の秘密となっている。

 将軍としては、この一見学生の風貌の若造が、世界屈指の強力な機動部隊の総司令官とは信じられない。
だが自分らが収集した情報や風聞によると、この男の指揮よってオーブ国内の反乱勢力の軍は叩き潰され、
それに乗じてオーブに侵略してきた他国の軍閥率いる軍隊も返り討ちにあっているらしい。

 しかも、”財団”成立にも深く関わっているらしい。油断はできない。だから牽制する必要があるだろうと。

 周りが僅かにざわめくが、当の本人である、サイ・アーガイルの方はといえば、
どこを吹く風という具合に将軍の言葉をさらりと無視していた。

 その様子を見ながら、ロンド・ミナは苦笑した。相変わらず、飄々とした男だと。
だが、敵に回したらこれ程、恐ろしい男はいないだろうということも彼女は知っている。

 「ご心配にはおよびません――。若くとも優秀な男です」

 彼女もサイ同様に、将軍のその皮肉をあっさりと受け流していた。





>>続く
163通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 02:31:37 ID:???
>>弐国
 投下乙です。
 ああ、とうとう。というクライマックスですね。

>>あの機体のフローティング・バランスが一発でキマるなんて嘘みてーだ
 こういうところでさりげなくナチュとコーディの違いを出すのは上手いと
思います。でもユースケには死亡フラグが……
 どうかみんなに生きていて欲しいと思えるストーリーでした。

 ミツキの、ロリコンへの二人称がエディと師匠の間で揺れていたのが、
少し混乱を招く元でしたかね。
 あとエディのおねえさんが、まあ出番の無さから仕方ないとはいえ、
充分にキャラクターを掘り下げられる事のないまま退場してしまったのが
残念でした。
 続きを期待しています。

>>戦史
 投下乙です。
 やっと「せんし」と入力で一発変換されるようになりました。
 ミスタ=スティニツの雰囲気がよさげです。どんな話し合いが
繰り広げられるものか楽しみにしています。

 >>まとめ管理人さん。
 まとめサイトのレビュー機能を使ってみたのですが、その時に
名も無き花散る頃 ◆FUs75gJ6A2氏  と
機動戦士ザクレロSEED 
のブックが第一単行本案内序の「その他の作品」内に、第二単行本案内所と
重複して置いてある事に気付きました。
 忙しい中お手数でしょうが、もしお暇がございましたら修正をお願いします。
164通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 03:32:09 ID:???
>>戦史
なんか既視感あるな…と思ったら
ラストのやりとりまんまバナナ魚のワンシーンじゃね?
嫁への皮肉かww
165通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 11:49:52 ID:???
>>砂漠
変態コウモリって、あんた言っちゃいけない事をwwww
でもミツキのセリフだと違和感とかイヤミとか感じないね
なんかホントにあのカタチを嫌がってるのを感じるw
あとチラ裏で日付云々と言ってたが知らんぷりしても良かったレベルじゃないか?
166新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/23(木) 23:37:26 ID:???
 世界中で大規模テロ事件が発生するちょうど二日前のこと。

「エクステンデッド03の調整がうまくいかない、か? 具体的に、どうなんだね」
 雪がちらちらと降り出し、無骨なMSが立ち並び巨大な格納庫と司令部が位置するヘブンズベースの敷地内を白銀に染め上げようとしている。
 そんな目、心奪われる光景を尻目に、暖房をおおいに利かせた部屋で部下からの報告を受けてそう切り返したのはエクステンデッドの調整についての一切を任されている管理職に着く中年の男だ。
 エクステンデッドを任せられる変わり者が多い、という逸話があるが、この男もそれに類するものだった。
 この男は、放任主義なのである。研究員から『問題があります』、と言われれば『そうか、任せる』と返すような。つまり、無能といえば無能なのである。
 これが何故無能ではなく変わり者、と見られるかは、エクステンデッドに対する態度だ。
 あるときエクステンデッドが訓練している風景を見て『彼らは動きが良いな。バスケなどをやらせたら名選手になれるだろう』や『うむ、絵になる』など。
 名指揮官ネオ・ロアノークの場合エクステンデッドらを兵器として見ず、出来得る限り交友を持っていたという話は連合内部でもかなり有名な話だが、それとはまた違うタイプなのだ。

 この人は学校の教師が向いているよなぁ……などと思いつつ、抑揚にかけた声で部下が続けた。
「はぁ、やけに野心的というか、力を求めるのは委員ですが、限度を無視した訓練を続けるんですよ。後、カオスとの適正が……」
「意欲的なのはいいことだ。だが、カオスとの? ロアノーク隊からはカオスとの適正率は90%越えだと聞いたが」
 うーん、と唸る上官。それを見て、意欲的なのはいいが限度を無視してるんですよ、と言おうとして、やっぱりやめた。上官はカオスについての説明を求めてきている。ならばそれについて話すのが筋だと、彼は思ったからだ。
「はい、カオスとの適正率は90%越えでした。しかし以前撃墜されてからというもの、全く……」
「ふむ。アンチカオス、それが彼の肌に合わないということはな……だが、それはどうしようもない」
 言って、キューバ産の葉巻の先端をギロチンカッターで切り落とす。
「と言われますと?」
 彼が怪訝そうな顔でそう言うと、それを聞いた上官は愉快そうに笑ってマッチに火をつけ、そのまま葉巻に火をつけた。
「そのままさ。彼個人の問題だ。心ってやつさ」
 意味有り気にそう言って、上官は葉巻を口につけた。目一杯吸って、葉巻を離し、少しずつ煙を吐き出す。部下はそれを見て顔を顰める。
「……自分、煙草の臭い、嫌いなんですよ」
「慣れることだ。若いの」
 そう言って、上官は窓の外の光景に目を向けた。釣られて部下も窓の外の光景に目を向ける。
 白銀の世界だ。何時攻め入られるかもしれないと言うのに、なんて美しい光景なんだろうか。
 雪が白銀の世界に染め上げる。あるものは雪を掻き出し、あるものはMSの整備に励み、ある者は訓練し、ある者はその光景に目を奪われる。
 今だけは、この地球連合軍司令部ヘブンズベース基地は、平和だった。世界がいつもこうであるのなら、どれだけ素晴らしい事か。
(いや、違うな。世界がいつもこうなら、人はこの平和に価値を見出すことなどできない、か……お寒いねぇ)
「そういや、研究員殺しの犯人は見つかってないんだったなぁ……」

せめて、夢の中だけは
第十四話 混沌に反するもの
167新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/23(木) 23:38:27 ID:???
 雪がちらちらと舞う中を、スティングは不機嫌になりながら歩いていた。
 何故か。それが分からないから不機嫌なのである。何か、何か大切なものを忘れてきたような、そんな感じだ。
 兎に角、スティングは苛立っていた。苛立っていることに苛立っていた。まったく訳が分からない。
 気晴らしに散歩に出てみたが、かえってこれじゃあ逆効果だ。
 だが、今のところ訓練の予定はない。軽くため息をついて立ち止まる。
 空を見上げ、この空いた時間をどうしようかと考えて、
「っくし……っち、うぜぇ……」
 くしゃみをしてしまった。みっともない。だが、冷えてきた。
 この季節にこの薄手の服じゃちょっと厳しかったか、と思い彼はゆりかごに戻ることにした。
 戻ることにして、彼は気付いた。間近で自分をじっと見詰める老人に。オリーブ色の戦闘服。
 こちらを刺し貫くかのような眼差し。ピッとした背筋。古強者、といった雰囲気を醸し出している。
 得てしてエクステンデッド、ファントムペインは目立つ存在だ。
 だからそれに慣れた彼は自分に対する視線には敏感の筈が──
 今まで気付けなかった? いや、そめそも気配すら感じられなかった?
 老人はこちらのことをじっと見つめ、注意深く観察していた。時節、ふぅむ、などと口から漏らしている。そして、ゆっくりと口を開いた。
「おぬし……スティング・オークレーか?」
 こんな老人と会った記憶はない。
「あ、ああ……」
 軍人か。スティングは何とか舌打ちを堪えた。厄介ごとに巻き込まれるのは御免だった。
「……まぁいい、貴様の上司、管理職のほうに案内しろ」
「……了解」
 管理職というには、あの地味で変わり者の男のほうだろう。苛立ちながら、スティングは男の元へと案内することにした。

 こんこん、と扉をノックする音が聞こえて、慌てて上司とその部下はチェスの駒を袋に詰め込んだ。葉巻も磨り潰し、机の上に散乱している物を整頓する。
「ちょっと待ってください。現在報告書のほうでもたついてて」
 嘘つけ、とは誰のボヤキやら。ともかく、引き出しにしまってあった報告書を机の上においてシャープペンシルを握って見せる。
 そのまま握った右手で部下に席を立つよう手振りでサインを出した。
 男は、部下がよっこらと重い腰を上げたのを確認すると軽く咳払いをしてみせた。
「どうぞ。葉巻臭いですがご勘弁を」
 促されて入ってきたのは三人の特異な組み合わせ。エクステンデッドに見慣れた警備兵。老人。
「こりゃ愉快な……何用ですか?」
「いえ、それが……」
 警備員は困ったようにエクステンデッドと老人を見比べた。ふむ、と唸り、黙りこくっている老人を食い入るように見つめる。
「……ジョージ大佐ですかな?」
 男が尋ねると、老人が陽気に笑い、
「がっはっは。ようやく分かったか小僧。とっとと糞教師になれといったはずだがな」
「……自分は別れ際に、次に会うときはアンタのお葬式で、と伝えたはずですが?」
「黙れガキ。それにしてもあの陸軍の糞新兵だったお前が今じゃ中間管理職か。人手不足もここに極めり、だな」
「……はぁ。あ、あんたに伝えなきゃいけないことがありました。ハルバートン提督、前大戦でお亡くなりになられましたよ」
 ハルバートンとはMS開発計画を支持した穏健派で有名な智将だ。
 ふむ、と老人、ジョージ大佐が一瞬黙りこくり、そのまま当然のように椅子に座ってから切り出した。
168新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/23(木) 23:39:58 ID:???
「惜しい将を失ったな。まぁ、あいつはカリスマはあったが戦術論にかけては糞みたいに突撃突撃言ってたから仕方ないかもしれんが」
 それを聞いて、困ったような笑い声を上げる男。流石に同意してはな、と呟き、突っ立っている警備員を下がらせる。
「はは……」
「ガルシアはどうした。グリマルディを生き延びたのは聞いているが」
「……要塞落とされたり制裁加えられたりして……まぁ、今じゃ余り噂は聞きませんね。不死身振りは健在らしいですが……」
 そもそもユーラシアと大西洋は仲悪いですからね、とも彼は付け足した。
 ジョージ大佐は再び愉快に笑うと、当然のように置かれている葉巻を手に取り先端を噛み千切る。
 そして口に残された切れ端を床にペッ、と吐き出した。さも当然のようにガスライターで葉巻に火をつける。
 目いっぱい吸って、目いっぱい吐き出す。マナーが悪い。

 何とか発言する隙を見つけ出した部下が、恐る恐る切り出す。
「あのー……ジョージ大佐、でしたっけ? 自分、聞いたことないんですけど……」
「もう退役してるからね。君は研究員上がりだから知らないだろうけど。あ、大佐が気にかけてた彼、前大戦の開戦初期になくなられましたよ。ほら、胸の大きい彼女がいる」
 ほら、と手でボール状のものを二つ表して見せる男。はっきり言ってセクハラである。
「あー、わしが最後に特別指導した新兵組の仲で一番成績がよかったあいつか。だから言ったんだ、糞MA乗りになどならずに歩兵になれと。技術仕官志望のラミアスの嬢ちゃんが可哀想だ」
「彼女の名前なんでしたっけ、フェイズシフト装甲については彼女が中心になってたはずですけど」
「完成品を見れないのが残念じゃったのぅ……名前は、マルー、いや、マリー、確かそんな感じだ。親父似で心優しいええ子だったよ。多少夢見がちではあったがな」
 うんうん、とうなずくジョージ退役大佐。

「……で、俺に何の用があンだ? あン?」
 今まで黙って静観していたスティングが声を荒げながら言い放った。
 お前さんにも関係する話だと聞かされて来てみたが……くだらない内輪話だけだ。彼が怒るのも無理はないだろう。
「すっかり忘れとった。オークレーの伝書――」
 そう言って、それが正しい表現ではないと気づいたのかジョージが言い改める。
「いや、遺書だな。すっかり忘れとったよ。いや、気づけたのに、気づけなかったというべきか……」
 目を伏せ、声のトーンを落として言うジョージ。 
「……ぁぁ?」
 親? そんなものはいない。気づいたときにはラボにいて、ラボで育って……ラボに来る前?
 スティングに来る前の記憶はない。物心ついたときからラボが家のようなものだった。ステラが居て、アウルが居て……
 ステラ? アウル? そんなやつは居ない。知らない。スティングは何とか舌打ちをこらえる。
 自分のうちに、もう一人の自分が居るようで得体が知れなかったからだ。
「へぇ、オークレーさんの。そういえばこの子は……いやはやなんとも。複雑な運命ってやつですね」
 意味有りげな言葉。しかしスティングにはそれを理解することができない。スティングが返事に困っていると、ジョージが振り向いた。
「小僧。お前を鍛えにきてやった。ありがたく思え、地獄の訓練を受ける機会を与えられた」
 不適に笑って、老いぼれアメリカ人は言った。
169新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/23(木) 23:41:32 ID:???

「また乗換えか……これで何度目だ?」
「細かいことを気にするな若いの。とっとと歩け」
 あれからスティングは半ば無理やり連れ出されていた。すでに何機の輸送機と輸送ヘリを乗り継いできたかわからない。
 今度はヘリから降りて車で行くらしい。あたりは緑が埋め尽くしていて、陽光さえなかなか入らない。ジャングル、といった表現が最適な場所だ。
「ここはアメリカだ。旧世紀にアメリカの兵隊が設営途中でほったらかした訓練キャンプがあってな。わしが土地を買い占めた」
 アメリカか。アメリカにもこんな場所が存在するとは。アメリカ=大都市、としか認識していないスティングにとってその言葉は意外だった。
「……何? ヘブンズベースがいつ攻められてもおかしくにで状況で離れていいのか?」
「うむ。基地一つ攻め落とすのに手続きはそんなにいらんが、連中の目的はジブリールその他ロゴス幹部の引渡しだ。これは難しい。いわば、蟻の巣を引っこ抜くのと同じだからな」
 よく分からない例えだったが、スティングは彼の迫力に圧倒されてとりあえず頷いた。

 それから数十分して、車が停車した。酷い悪路だったためにかなり泥で汚れている。
「ふぅ、で、なにすんだ?」
「簡単だ。その前に一つ、質問がある」
 質問? 多少迷ってからスティングが頷くと、それを見たジョージが続けた。
「強くなりたいか」
「……はぁ?」
「弱い連中と群れて混沌と化した戦場で、当たりもしない弾を撃つか。強くなって、、この混沌と化した戦場を終わらせるか」
「決断しろ。混沌に混じるか、混沌に反するか」
 この爺さんは何が言いたい、とスティングは思いつつ、強くなるという言葉は魅力的に思えた。
 だから、その問いにYESと答えた。

 まったく、NOと言っておけば良かったと、彼は後ほど、心底後悔した。



第十五話 何よりも優れた兵士 につづく


170新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/23(木) 23:45:30 ID:???
何とか投稿、と……
下手にオリキャラ登場させないほうがよかったかな?
しかし自分は一話に多数のことが詰め込めないなぁ、このままじゃ各勢力の話が出る分だけ話数が……orz
171通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 23:53:43 ID:???
あのー、ひょっとしてフルメタのファッ○ン爺と特訓キャンプ?
172新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 00:31:18 ID:???
携帯からのアクセス。打ちづらいです。

フルメタって、ジャケットですか?パニックですか?
確かにあの爺さんはハ■■■■軍曹(あと坂上教官要素を混ぜる予定)を何十倍にも薄めた感じです
というかあの爺さんはフルメタル・ジャケットの影響を受けすぎたかもしれません。つい最近見たので。今からでも修正した方がいいでしょうか?

キャンプ、についてはそんな話をフルメタ(こっちはパニックの方)の掲示板で、そんなキャンプの話が上がっていましたのでそれを利用させてもらいました。
パニックはまだアニメでしか見ていないので内容はよく分からんかったのですがキャンプはつかえるかな、と。

もしかしてそのキャンプっていうのはラノベの方で使われてるものなんですか……?
だとしたらまんま模倣じゃんか自分……orz
その点も修正した方がよろしいでしょうか? 模倣したなんてことは勘弁願いたいので……
173 ◆YGRDijqlSQ :2007/08/24(金) 00:48:47 ID:???
>>172
まんまパクリにしか見えない。修正するべき。
でなきゃクロススレ行った方がいいぞ。
174通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 01:01:16 ID:???
>>172
現時点での最新刊でほとんどそのまんまやってる。ファッ○ン・ガッツじゃ!てね。
175新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 01:24:57 ID:???
>>173-174
了解しました。というよりぐぐって把握しました。
台詞等や設定も見てみましたが……まんま模倣じゃないか……orz
爺さんの口調とキャンプの話の修正(性格、経歴、過去話は後々の伏線とスティング強化の為に必要ですので勘弁下さいorz)をいたします。
ので、まとめの人、及び編集長。今回の話はスルーしてください。申し訳ありません。

再投稿は早ければ明日か明後日になると思います(この位の勢いでないと結構やばいです。シンが立ち直るところすら書けずに断筆状態になってしまいます)。
176通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 01:36:43 ID:???
>>175
間違ってもテッ○たんハァハァな爺を出したりせんようにw
177 ◆MM1fSSMNuI :2007/08/24(金) 01:48:59 ID:???
>>176
新人はラノベ版買ってない(らしい)から意味分からないだろwだいたいあんなキャラそうそう被ってたまるかw

しかし新人は夜更かししてるな、厨ならもう寝る時間w
178通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 05:25:18 ID:???
すいません、運命終了後から20年後の世界を舞台にしたSSを考えたんですが投下してみてもいいですか?
179通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 07:03:16 ID:???
十年後を舞台にした戦史さんが絶賛連載中ですから、
全く問題ありませんよ。
どうぞどうぞ。
180177:2007/08/24(金) 07:42:59 ID:???
C.E.94
――地球とプラントによる戦争が終わってから早20年。
地球では、地球連合の解体に伴いオーブを中心とした新地球連合が発足して軍の縮小・再編成が17年前に行われ、プラントでもその年にザフトの縮小・再編成が行われた。
新地球連合代表及びオーブ首長国連合主席のカガリ=ユラ=アスハとプラント最高評議会議長のラクス=クライン、そして双方の軍の総指揮官のアスラン=ザラとキラ=ヤマト。
彼ら4人の信頼関係と脅威的なカリスマ性のみでこの世界の平和は保たれていたようなものだったのだが2年前それが突如崩壊した。ラクス=クラインの死によって――


機動戦士ガンダムSEED E

PHASE-01「勇敢なる者」
181177:2007/08/24(金) 07:44:02 ID:???
街を一望出来る見通しのいい丘。その頂上に立つ一つの真っ白な墓石。
墓石の前に置かれた無数の花束の数から、この丘に眠る人物が如何に人々に愛されていたかがわかる。
時間は正午を過ぎた頃、その丘の上には一人の少年が佇んでいた。
少年は墓石の前に置かれた花束を一つ一つ丁寧に持ち上げては横に置いていき、墓石の正面に人一人分が通れるだけのスペースを作る。
そして墓石の正面でしゃがみ込むと、墓石に手を当てて何かを呟きだした。
「母さん久しぶり。ごめんね、ここ最近色々と忙しくてさ……聞いてよ、俺、ザフトの士官学校を主席で卒業したんだよ」
目の前の白い墓石に語りかけるように話す少年。しばらく目を瞑り沈黙した後、立ち上がり静かに目を開いた。
「やっぱ母さんは戦争が嫌いだから喜んでくれないか……うん、じゃあまたいつになるかわからないけど必ず来るからね」
別れの挨拶を済ませると、少年は顔を上げて天を睨んだ。その空のような澄んだ蒼色の瞳に何かを焼き付けるように。


プラント 軍事コロニー『アーモリーワン』
ザフトの新造戦艦グルヴェイグはこの日進水式を行っていた。しかし、この式典は異様な程の警戒態勢の中で行われていた。
何故なら、この戦艦はまたの名をミネルバU――そう、あのミネルバの後継艦であるからであった。
20年も前の話、ミネルバはこのアーモリーワンで進水式を行っており、そして旧連合によって『G』を3機奪取されている。
これがこの日の異様なまでの厳戒態勢に至る理由と言うのはもはや承知のことであったが、その警戒も杞憂に終わろうとしていた。
「どうやら私達の心配も無駄に終わったようですね、まぁ場所が場所だっただけにしょうがないですが」
グルヴェイグの艦長、ハル=ワーズワースはこの状況に安堵を浮かべながら言った。
たしかに連合とプラントのパワーバランスがいくら崩壊したとはいえ、連合が攻め込んでくる理由などはどこにもなかったのだ。
「そのようですね、ですがこの艦が無事に宇宙に出るまではまだまだ貴女も……そして私も気は抜けませんよ」
白服のハルに丁寧な口調で話す男は、ラファエル=ランドール。現プラント最高評議会議長で、長い黒髪が前々議長のギルバート=デュランダルを彷彿とさせる。
元々ランドールはクライン派ではないにも関わらず前議長ラクス=クラインの補佐を勤めていた男であり、議長と呼ぶにはまだまだ若かった。
だが、補佐を勤めていた時の仕事ぶりが他の議員から高い信頼を得ることになり、そしてその結果ラクス亡き後の議長の座に彼を押し上げたのであった。
しかしハルは、その若い議長にお構いなしに鋭い質問をぶつけた。
「……やはり『G』の事が心配なのですか?」
「ええ……さすが艦長さん、随分とお察しが早いようで。グルヴェイグの進水式をここで行うのもそのためのカモフラージュですからね」
ランドールは笑みを浮かべながらサラリと答えた。ハルはその笑みの裏の思考を読み取ろうとしていたが、その時艦内に突如アラームが響き渡った。
「どうしたの、一体!」
ハルが苛立ちを含んだ声で叫ぶ。すると、オペレーターの一人であるマリーネ=ホークが素早く状況を報告しだした。
「所属不明のMSが2機、おそらくアストレイタイプと思われる物がこちらに接近してきている模様です!既に応戦に出たザクウォーリアが数機……いや、数十機が撃破されています!」
「2機相手に何やってるのよ!マリーネ、MS隊を出撃させてちょうだい!」
すると、艦内に通信が入る。相手は不精ひげを生やした、30〜40代の男だった。
『ワーズワース、こっちはとっくに準備出来てるぞ!連中についてはどうする、落していいのか?』
「さすがカーネル、相変わらず仕事が速いのね。出来るなら拿捕、無理なら撃墜でいいわ」
『生け捕りか……趣味じゃねぇんだけどな、まあやってやるぜ』
カーネルはそう言うと通信を切った。20年前、ここで起きたあの事件を思い出しながら。
182177:2007/08/24(金) 07:51:33 ID:???
MSデッキにアラームが鳴り響く中、カーネル=チェンバレンは二人のパイロットに通信を入れ、必要とは思えない程の大きな声で喋った。
「おい、喜べおチビちゃん達!今日がお前らの初陣だ!敵は2機だが、既に数十の同胞がやられてる!ママの胸元に泣きつきたいなら今のうちだぞ!」
『何を今更……チェンバレンさん、あんまり俺達をナメないで下さいよ!』
パイロットの一人である、ロア=ド=フレイユは自信に満ち溢れた声で返した。
『そうですよ、私達を相手にした事を後悔させてあげるんだから!……まあ、ロアについてはわかりませんけど』
もう一人のパイロットの少女、アリス=オーウェルも冗談を言う余裕があるほど落ち着いていた。
彼らは二人とも士官学校を卒業したばかりの新兵だが、最終成績を同率2位で卒業している事からこの二人がいかに優秀な兵であるかがわかる。
『何だって、アリス!お前こそ後で「怖かったよ〜」なんて泣きついてくんなよ!』
『何よ、アンタこそ……』
「おい、痴話話は後に取っとくんだな!そろそろ行くぞ、今日の目標は敵の生け捕りで不可なら撃破だ!わかったな!」
『『了解!』』

アーモリーワンの地に3機のMSが降り立つ。ZGMF-1000Nジェイム――ザフトの「ネクストサウザントシリーズ」計画で開発された最初の量産期である。
このジェイムの特徴は、「ニューミレニアムシリーズ」のザクウォーリアの「ウィザードシステム」を改良・発展させた「ゾディアックシステム」を備えていることである。
「アストレイタイプって言ってもホントに初期の奴か……それが2機だけでザクを圧倒してるんだから何かあるに違いねぇな。お前ら、注意しとけよ!」
2機のアストレイがカーネル達に気づき、ビームライフルを放つ。それをカーネル機は避け、残りの二機がアクエリアスビームシールドで受け止める。
アーモリーワンは軍事コロニーであるため他のコロニーよりも強度は高いが、それでもたかがしれている。コロニーへの被害を最小減にするための対処であった。
『アリス、後ろからフォロー頼むよ!俺も前に出る!チェンバレンさんは左の奴をお願いします!』
『任せて!』
「1機は任せろってか?言うようになったな、おチビちゃん達!」
ロア機が前方に出て、アストレイ達と1対1の状況を作る。2機のアストレイは互いに向かって来るジェイムをビームライフルで牽制する。
「流れ弾ちゃんと受け止めてよ!」
散らされて撃たれたビームを可能な限りアクエリアスで受け止めながら進むロア機。進みながら腰に差したレオ高出力ビームサーベルを抜いて、斬りかかる。
『今だっ!』
『アンタの指示は遅いし、読めるっーの!』
アストレイの回避によりレオは空を斬ったが、その避けたところに今度はアリス機がサジタリウスビームライフルを頭部のメインカメラを狙って放つ。
アストレイはそれをシールドでなんとか受け止める。だが、ここまで見事に二機の攻撃に対処してきたアストレイも次の攻撃には対処出来なかった。
ライブラフライトユニットの両脇に配された半円の物体。その両方からまるで嘴や鋏のような形をしたモノが飛び出してきて、アストレイの両腕を掴む。
『これで終わりだ!』
アストレイの両腕を掴んだキャンサービームシザースを軸に、ロア機が上空を回る。動けないアストレイに対し、アリス機のサジタリウスがメインカメラに向けて放たれる。
アストレイのメインカメラに着弾するか否かの瞬間、アストレイの両腕はキャンサーによって切り落とされた。メインカメラと両腕を破壊されたアストレイは動きを止めた。
「そんな攻撃で俺様を討てると思ってんのか!」
一方カーネルも向かって来るビームを出来るだけアクエリアスで受け止めつつ、一気にアストレイとの距離を詰める。そしてライブラの両脇に配されたカプリコーンビームソードを両手に持つ。
「叩き斬ってやるわぁ!」
カプリコーンがアストレイの両腕を切り落とす。さらに、振り下ろした右腕をすぐさま上げて今度は頭部を破壊した。そして最後に残った左腕の方で両脚部を斜めに切り落とす。
カーネルと対峙したアストレイは一瞬にして見るも無残な姿になってしまった。
183177:2007/08/24(金) 07:58:26 ID:???
アーモリーワン宙域に浮かぶMSの残骸。これら全てがアーモリーワンを外部の敵から守る衛兵のMSであったが、それが全て破壊されていることを内部にいる人間達はまだ知らない。
そして、その残骸が浮かぶ宇宙に佇む1機のMS。そのMSは、かつてザフトで最強とも謳われたMSに酷似していた。
『エリオル少佐、アストレイがチェンバレン隊と戦闘を開始しました』
エリオルと呼ばれた男は宇宙にいるにも関わらずヘルメットをしていなかった。が、顔から鼻までをすっぽりと覆う仮面のようなものをしていた。
「そうか……なら、そろそろ行くか。所詮AIだ、"鬼の子"を相手にしてはそう長くはないだろう。君達は僕の退路の確保だけを頼むよ」
『承知いたしました。では、御武運をお祈り致しております』
通信が切れるとエリオルは一呼吸した。そして、目の前にあるコロニーを見ながら小さく呟いた。
「母さん、これはあなたが蒔いた種なんですよ?……僕を恨まないで下さいね」
宇宙の闇に溶け込んだ悪魔は、今アーモリーワンの中に向かおうとしていた。

2機の『G』が置かれているエリアEでは、たくさんの軍人や整備兵が走り回って作業をしていた。そんな中、一人ワイシャツにネクタイと正装をしている男が声を荒げていた。
「おい、お前ら急げ!絶対に奴らに『G』の存在を気づかれんじゃねえぞ!」
ヴィーノ=デュプレは怒鳴るように部下に指示を出し、大急ぎで2機のMSを運び出させようとしていた。
20年前からの特徴であった赤いメッシュは今も健在だが、はっきりと変わったものがある。ヴィーノは出世したのだ。今彼はザフトMS設計局の主任を務めている。
そしてこの2機の『G』は彼が設計局主任になってからの初の大仕事であり、設計から開発に至る全てに携わっている。こんなところで他所者に奪われてたまるか、というのが彼の心情であった。
その時、ヴィーノの焦りと苛立ちを嘲笑うかのようにアラームが区内に鳴り響いた。
「主任、敵襲です!」
「んな事はわかってる!とっとと運び出せ、『G』だけは死んでも守りきれ!」
若い整備兵に激を飛ばしながら、ヴィーノは20年前の事件を思い出していた。あの時の『G』は自分が関わっていたわけではないが、同じ場所で二度も同じ目に合うなんて馬鹿げた事は許せなかった。
しかし、そんなヴィーノの目に敵の姿が写った途端、彼はその姿に愕然とした。
「あれは嘘だろ……デスティニー……シンなのか?」
目の前に襲いかかるMSが、戦後姿を眩ました親友の愛機とあまりにもそっくりだったのだ。ZGMF-X42Sデスティニー、かつてザフト最強のMSとも謳われた機体が今敵として立ちはだかっていた。
その時だった。一人の少年がバイクに跨り、ヴィーノの前に現れた。
「おじさん、設計局の主任なんでしょ?俺を『G』のところに案内して!」
「……誰だ、君は?」
目の前に現れた少年は長めの茶髪に蒼い色の瞳をしていた。だが、雰囲気が今も脳裏に浮かんでいる親友とものすごく似ていた。
「名前なんて後でいいでしょ!それより早く後ろに乗って!」
気づいたらヴィーノはバイクに跨っていた。二人を乗せたバイクはものすごいスピードで走り出す。あまりのスピードにヴィーノは横に大きく体を振られたが、なんとか体勢を立て直した。
「しっかり捕まってて!でなきゃ飛ばされるよ!」
ヴィーノは言われて少年の肩をしっかりと掴んだ。だが、すぐにこの状況を疑問に思い少年に言葉をかけた。
「君!『G』のところに案内しろと言ってたけど、一体何するつもりなんだ?」
「え?何って……あのMSを返り討ちにするに決まってるじゃないですか!」
「返り討ちって!何馬鹿な事を言ってるんだ!大体君みたいな……」
「ごちゃごちゃ言わないで下さい!運転に支障が出ます!それから……あれじゃないけど『G』なら動かした事もあります」
「え……」
その言葉を聞いて、何故かヴィーノは彼を信じようと思った。本当にただ動かしただけかもしれないのに、だ。何がヴィーノの心を動かしたかはわからない、だがヴィーノはこの少年に賭けてみようと思った。
「止めてくれ!ここに地下に繋がる道がある!」
大きく弧を描いて止まるバイク。そこは少年には何もないように見えたが、少し歩いた先でヴィーノが足で地面を蹴ると鍵穴が現れた。
そこにヴィーノが鍵を差し込むと地面の一部が上に盛り上がり、地下に繋がる階段が目の前に現れた。
184177:2007/08/24(金) 08:02:32 ID:???
エリオルの駆るデスティニーは武装という武装を手にしていなかった。だが、右掌から放たれる光によって確実に抵抗する敵を葬っていた。
「逃げるトレーラーが2台……そんなわかりやすいフェイクで誰を騙そうとしてるんだよ!」
エリオルの怒号とともにデスティニーが右掌を広げる。次の瞬間、放たれた二つの光によって2台のトレーラーは破壊されてしまった。
「ここまで隠すのが上手になったとは……ザフトも少しは成長したようだね。一応これを持って来て正解だったか」
すると、デスティニーの背部に装備されていた二門の砲塔が両腰に移動してきた。マニピュレーターでグリップを保持すると、デスティニーの悪魔のような赤い翼から光が放出される。
「ザフトの皆さんは色々と読み間違えてるんだよね……僕のご主人は『G』の破壊をお求めでしてね」
二門の高エネルギー長射程ビーム砲、テュポンに光が集まっていく。その光は禍々しい赤い光。
「『G』共々消えろぉぉぉぉぉ!」
テュポンから光が放たれようとするその時だった。テュポンの両砲身を一条の光が貫く。
「くそっ!誰だ!」
テュポンが爆発するか否かのタイミングでパージを行い、なんとか無傷を保つデスティニー。だが、エリオルの心境は穏やかではなかった。

地下階段を急いで下る少年とヴィーノ。しばらくまともな運動をしていなかったヴィーノは息が切れ掛かっていた。
「さっき運びだせとか言ってたけど、あれはなんだったの?」
「あれは……ハァハァ……いわゆる……フェ、フェイクって奴さ…」
「おじさん死にそうじゃん、上で待っててくれてもよかったのによ」
「あいつは……まだ……OSが出来上がってないんでね……おい……ここだ」
二人の目の前に現れたのは2機の巨人、強者の象徴であるMS――それが一部の者の間で言われている、ガンダムという兵器なのである。
「ハァハァ……そうだ、手前の方の奴は……って、もう行ってるのかよ…」
膝に手をついて呼吸を整えながら話していたヴィーノを尻目に、少年は既に奥の方にあるガンダムのコクピットに向かっていた。
「おじさん、早くコクピットに入って!」
「……オレ言ったっけ、手前の奴はまだ未完成だって?」
「ううん、フィーリグってか……直感?」
やや困惑気味のヴィーノに少年は笑顔を作りながら言った。途端にヴィーノの心に何か暖かいモノが芽生える。
(コイツ……すげぇ奴かもしんないな……)
ヴィーノは今、自分の選択は間違っていなかったと思っていた。

「やはり"鬼の子"相手ではアストレイじゃ足止めにもならなかったか」
エリオルは視界に入ってきた3機のジェイムを見て呟いた。
「危なっ……!艦長の連絡が早かったからギリギリ間に合ったけど……何考えてんのよ、アイツ!」
遥か遠くでビームライフルを構えていたのはアリスのジェイム。この距離からビームライフルで標的を寸部の狂いもなく狙えるのは、MS戦の中でも射撃を得意とした彼女の為せる業である。
『くそっ!AIなんてチンケなもん使ったり、デスティニーのパチモンなんかに乗ってきやがって!どこの誰だか知らねぇけどザフトなめてんじゃねぇぞ!』
デスティニーとの距離を急速に詰めていたカーネル機が、カプリコーンを両手に持ちデスティニーを斬り払う。だが、確かにそこにいたデスティニーを斬った感触をカーネルは掴めてなかった。
『チェンバレンさん、後ろです!』
いつの間にかにカーネル機の背後にいたデスティニーの右掌が光を放つ。だが、ロアの声で状況を把握したカーネルはギリギリでコクピットへの直撃を避けた。
デスティニーの後方からロア機のキャンサーが迫ってくる。これをなんなく避けるデスティニー。が、それを見越していたのか今度はキャンサーの鋏が開かれてビームを放つ。
『決まったか!?』
デスティニーの前に爆煙が漂う。しかし、そこにはまだデスティニーはいた。デスティニーを覆うようにして光の翼が展開されていたのだった。
『ミラージュコロイドによる光学残像に光の翼の絶対防御……コイツはまるで化け物じゃねぇか!』
カーネルが苦々しげに言葉を吐く。カーネルのジェイムは先の攻撃で左腕とライブラを失っていた為、地上に立たざるを得ない状況だった。
「テュポンを壊されたんだ、せめて"鬼の子"の首くらい持って帰らなきゃ割りに合わないよ……でも、もうちょっと遊んでみるか」
エリオルが笑みを浮かべる。それと同時に、今度はデスティニーの姿が突然として消えた。
185177:2007/08/24(金) 08:04:28 ID:???
ヴィーノがコクピットに入ると、既に少年はMSを起動させていた。モニターにはザフトのシンボルが移された後に、数行の文字列が現れた。
Generation
Unsubdued
Nuclear
Drive
Assault
Module
「繋げて読むと……ガンダム、か。そうかここから……って、これ核駆動?」
「ああ、世間一般には知られてないけど『Dモデル』以降のMSには全て核が積まれてるんだよ。ラクス様がNジャマーキャンセラーの情報を公開しちゃったしな」
一瞬、少年の顔に陰りが表れる。だが、ヴィーノがそれに気づくことはなかった。数行の文字列が消えると、今度はモニター中央に1行だけ文字列が現れた。
ZGMF-X000E EX-NOUGHT
「うん?……エクスノートって言うんだ、コイツ」
「ああ、エキストラドレッドノートを縮めてエクスノートってね……ザフト最初の『G』であるドレッドノートに敬意を表してこの名前にしたんだよ」
ヴィーノは自慢げに語る。そんなヴィーノを横目で見ながら、少年はまた一つ尋ねた。
「この『X000E』の「E」って何?」
「それはこいつと向こうにあるイクリプスの総称、『Eモデル』の「E」だ。ただ単純に『Dモデル』の次のシリーズだから「E」にしたんだけどな」
「ふーん、そうですか……」
段々話に熱が入って来てるヴィーノを半ば無視しつつ少年は指を動かす。
「よし、これで後はOSを弄るだけだ」
「もうそこまで行ったのか?よし、なら代わ……」
ヴィーノは言いかけた言葉を飲み込んだ。その目に写る光景があまりにも凄まじかったのだ。少年はモニターに次々と表示されていく文字列を読みつつ、驚くべきスピードでOSを書き換えていた。
「何なんだ、君は一体……?」
ヴィーノは目の前の光景にただただ唖然とするしかなかった。その時、少年が指を止めて突然ヴィーノの方を向いた。
「そういえば名前聞かれてましたよね……サクヤです」
それだけ言うと、サクヤと名乗る少年は再びモニターの方に向き直して指を動かしだした。

突然姿を消したデスティニーにカーネル達は警戒を怠らなかった。だが、姿を消した悪魔はその3人を嘲笑うかの如く再び襲い掛かってきた。
「後ろよ!避けて、ロア!」
ロア機の背後に現れたデスティニー。ロア機は横に大きく動き、先ほどまでロア機がいた場所にアリス機がサジタリウスを連射する。だが、そこにいた悪魔はただの残像だった。
『残像!本物じゃないのか!?』
デスティニーを狙ってキャンサーを発射させていたロア機。だが、当然キャンサーは何に当たることもなく地面を削る。そして、空を斬ったキャンサーとロアのの間に今度は本物のデスティニーが現れる。
『やらせるかぁぁぁ!』
カーネル機が残ったスラスターを最大限に機動させて、カプリコーンを構えて突進する。だが、貫いたのは残像とロア機の左腕だった。
「残念だったね、"鬼の子"……貴様の首は僕がここでもらうよ!」
デスティニーの右掌が光り輝く。パルマフィオキーナ0が光を放った瞬間、カーネルのジェイムは光に包まれた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
アリスが叫ぶ。彼女に深い悲しみと言い逃れない恐怖が同時に襲い掛かって来た。目の前にいる悪魔が歪な笑みを浮かべてるように見えた。
『ちくしょぉぉぉ!動けよ!動けよ、ジェイム!』
爆発に巻き込まれ、相当なダメージを負ったジェイムの中で狂うように吼えるロア。だが、いくら吼えても彼のMSは動くことはなかった。
「遊びすぎたか、任務失敗だ……君達は生かしといてあげるよ、恨むなら恨みな。殺したいなら殺しに来ればいいさ」
デスティニーが赤い翼を広げて飛び立とうとしたその時だった。背後から猛スピードでMSが1機接近してきた。
『……待てよ。まだ俺が残ってるだろ!』
悪魔の前に現れたのは、「勇敢なる者」だった。
186177:2007/08/24(金) 08:12:40 ID:???
以上です。今回初めて自分の妄想を形にしててたので、大分拙いと思いますがよろしければ感想を頂きたいです。
187通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 08:46:00 ID:???
まずはGJ!
旧キャラであるキラ、アスラン、カガリの動向は次回かな。
個人的に新型量産型は武装を軽く説明してから戦闘して欲しかった。
オリ機体はイメージを掴み難いので戦闘中に固有名詞を連発されるときつい。
重箱の隅をつつくような気分だけど、AIのアストレイ2機にぼこぼこに
されるザフトのザクシリーズってどうよ? まあ後でスタゲのシステムを
改良して誰かの戦闘データを入れてあるって言われりゃそこそこ納得する。
それでもザクにもAI入れとけよ! ことにならね?
……まあAIで一個師団組んだモビルスーツ群ならロマンがあるか……
それとドレッドノートで思ったが、外伝読まないと話わからかったりするのか。
最後にデビュー? おめでとうございます。
筆力は十分すぎるほどだと感じました。完結まで頑張ってください。
188通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 10:03:47 ID:???
大体上の人が言ってるので(ヲイ)少しだけ。
WのMSがいるかのごとく錯覚したんだけどw
189177:2007/08/24(金) 10:18:24 ID:???
>>187-188
感想ありがとうございます。AIについては次の話で触れるつもりだったので今回は省略させてもらいます。
あと、ドレッドノートですが僕も外伝読んでないので名前だけ拝借した感じです。
一応今回出てきたMS&兵装についての補足を作ったので、よかったらどうぞ。

ZGMF-1000N「ジェイム」―ザフトの新型量産MS。「ゾディアックシステム」対応の為、パイロットの自由度がかなり高いMS。初期装備で「レオ」「サジタリウス」「アクエリアス」「ライブラ」付き。ザクよりはジンよりのデザイン
「ゾディアックシステム」―「ウィザードシステム」を改良・発展させたもの、全12種の兵装をパイロットが自由(干渉しあうものもあるが)に組み合わせることが出来る
「レオ」高出力ビームサーベル―この時代のザフトのMSの基本装備、普通のビームサーベル
「サジタリウス」ビームライフル―この時代のザフトのMSの基本装備、普通のビームライフル
「アクエリアス」ビームシールド―この時代のザフトのMSの基本装備、普通のビームシールド
「カプリコーン」ビームソード―対艦刀、一応2対で1セット
「ライブラ」フライトユニット―大気圏内での飛行能力、宇宙での機動力の付加。キャンサーとカプリコーンを両脇にマウント可
「キャンサー」ビームシザース―アシュタロンのアトミックシザースみたいなもの。名前にビームなのは鋏の中にビーム砲が内蔵されている為

ZGMF-X42S/Re「リファイン・デスティニー」―ZGMF-X42S「デスティニー」の改良機。主な改修点は翼状大出力スラスターの光の翼化、対艦刀&ビーム砲のオミット
「パルマフィオキーナ0」掌部ビーム砲―パルマフィオキーナの改良型、射程・威力が大幅アップしてビームライフルと同じ程度に。しかも、速射性・連射性ではビームライフルの上。射程によって威力調節可能なので、超至近距離でならカリドゥス並の破壊力もある。
「シュペール・ラケルタU」ビームサーベル―両太腿に1本ずつマウントされてる。使う機会少ない
「テュポン」高エネルギー長射程ビーム砲――ブラストインパルスの「ケルベロス」の改良型。Re・デスティニーのオプション兵器
190通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 16:12:30 ID:???
もちろん十三番目の武装としてサーペンタリウスが!


スマヌ
191新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 16:31:32 ID:???
 世界中で大規模テロ事件が発生するちょうど二日前のこと。

「エクステンデッド03の調整がうまくいかない、か? 具体的に、どうなんだね」
 雪がちらちらと降り出し、無骨なMSが立ち並び巨大な格納庫と司令部が位置するヘブンズベースの敷地内を白銀に染め上げようとしている。
 そんな目、心奪われる光景を尻目に、暖房をおおいに利かせた部屋で部下からの報告を受けてそう切り返したのはエクステンデッドの調整についての一切を任されている管理職に着く中年の男だ。
 エクステンデッドを任せられる変わり者が多い、という逸話があるが、この男もそれに類するものだった。
 この男は、放任主義なのである。研究員から『問題があります』、と言われれば『そうか、任せる』と返すような。つまり、無能といえば無能なのである。
 これが何故無能ではなく変わり者、と見られるかは、エクステンデッドに対する態度だ。
 あるときエクステンデッドが訓練している風景を見て『彼らは動きが良いな。バスケなどをやらせたら名選手になれるだろう』や『うむ、絵になる』など。
 名指揮官ネオ・ロアノークの場合エクステンデッドらを兵器として見ず、出来得る限り交友を持っていたという話は連合内部でもかなり有名な話だが、それとはまた違うタイプなのだ。
 この人は学校の教師が向いているよなぁ……などと思いつつ、抑揚にかけた声で部下が続ける。
「はぁ、やけに野心的というか、力を求めるのは委員ですが、限度を無視した訓練を続けるんですよ。後、カオスとの適正が……」
「意欲的なのはいいことだ。だが、カオスとの? ロアノーク隊からはカオスとの適正率は90%越えだと聞いたが」
 うーん、と唸る上官。それを見て、意欲的なのはいいが限度を無視してるんですよ、と言おうとして、やっぱりやめた。上官はカオスについての説明を求めてきている。ならばそれについて話すのが筋だと、彼は思ったからだ。
「はい、カオスとの適正率は90%越えでした。しかし以前撃墜されてからというもの、全く……」
「ふむ。アンチカオス、それが彼の肌に合わないということはな……だが、それはどうしようもない」
 言って、キューバ産の葉巻の先端をギロチンカッターで切り落とす。
「と言われますと?」
 彼が怪訝そうな顔でそう言うと、それを聞いた上官は愉快そうに笑ってマッチに火をつけ、そのまま葉巻に火をつけた。
「そのままさ。彼個人の問題だ。心ってやつさ」
 意味有り気にそう言って、上官は葉巻を口につけた。目一杯吸って、葉巻を離し、少しずつ煙を吐き出す。部下はそれを見て顔を顰める。
「……自分、煙草の臭い、嫌いなんですよ」
「慣れることだ。若いの」
 そう言って、上官は窓の外の光景に目を向けた。釣られて部下も窓の外の光景に目を向ける。
 白銀の世界だ。何時攻め入られるかもしれないと言うのに、なんて美しい光景なんだろうか。
 雪が白銀の世界に染め上げる。あるものは雪を掻き出し、あるものはMSの整備に励み、ある者は訓練し、ある者はその光景に目を奪われる。
 今だけは、この地球連合軍司令部ヘブンズベース基地は、平和だった。世界がいつもこうであるのなら、どれだけ素晴らしい事か。
(いや、違うな。世界がいつもこうなら、人はこの平和に価値を見出すことなどできない、か……お寒いねぇ)
「そういや、研究員殺しの犯人は見つかってないんだったなぁ……」

せめて、夢の中だけは
第十四話 混沌に反するもの

 雪がちらちらと舞う中を、スティングは不機嫌になりながら歩いていた。
 何故か。それが分からないから不機嫌なのである。何か、何か大切なものを忘れてきたような、そんな感じだ。
 兎に角、スティングは苛立っていた。苛立っていることに苛立っていた。まったく訳が分からない。
 気晴らしに散歩に出てみたが、かえってこれじゃあ逆効果だ。
 だが、今のところ訓練の予定はない。軽くため息をついて立ち止まる。
 空を見上げ、この空いた時間をどうしようかと考えて、
192新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 16:32:33 ID:???
「っくし……っち、うぜぇ……」
 くしゃみをしてしまった。みっともない。だが、冷えてきた。
 この季節にこの薄手の服じゃちょっと厳しかったか、と思い彼はゆりかごに戻ることにした。
 戻ることにして、彼は気付いた。間近で自分をじっと見詰める老人に。オリーブ色の戦闘服。
 こちらを刺し貫くかのような眼差し。ピッとした背筋。古強者、といった雰囲気を醸し出している。
 得てしてエクステンデッド、ファントムペインは目立つ存在だ。
 だからそれに慣れた彼は自分に対する視線には敏感の筈が──
 今まで気付けなかった? いや、そめそも気配すら感じられなかった?
 老人はこちらのことをじっと見つめ、注意深く観察していた。時節、ふぅむ、などと口から漏らしている。そして、ゆっくりと口を開いた。
「君……スティング・オークレー、だな?」
 こんな老人と会った記憶はない。
「あ、ああ……」
 軍人か。スティングは何とか舌打ちを堪えた。厄介ごとに巻き込まれるのは御免だった。
「……君の上司、管理職のほうに案内しろ」
「……あいよ」
 管理職というには、あの地味で変わり者の男のほうだろう。苛立ちながら、スティングは男の元へと案内することにした。

 こんこん、と扉をノックする音が聞こえて、慌てて上司とその部下はチェスの駒を袋に詰め込んだ。葉巻も磨り潰し、机の上に散乱している物を整頓する。
「ちょっと待ってください。現在報告書のほうでもたついてて」
 嘘つけ、とは誰のボヤキやら。ともかく、引き出しにしまってあった報告書を机の上においてシャープペンシルを握って見せる。
 そのまま握った右手で部下に席を立つよう手振りでサインを出した。
 男は、部下がよっこらと重い腰を上げたのを確認すると軽く咳払いをしてみせた。

「どうぞ。葉巻臭いですがご勘弁を」
 促されて入ってきたのは三人の特異な組み合わせ。エクステンデッドに見慣れた警備兵。老人。
「こりゃ愉快な……何用ですか?」
「いえ、それが……」
 警備員は困ったようにエクステンデッドと老人を見比べた。ふむ、と唸り、黙りこくっている老人を食い入るように見つめる。
「……ジョージ大佐ですかな?」
 男が尋ねると、老人が陽気に笑い、
「気づくのが遅いな。しかし――まだ軍人やってたのか。教師になれといわなかったかね?」
「……自分は別れ際に、次に会うときも私は軍人やってますよ、と伝えたはずですが?」
「そうかね? それにしてもあの陸軍の新兵だったお前が今じゃ中間管理職か。人手不足もここに極めり、だな」
「……はぁ。あ、あんたに伝えなきゃいけないことがありました。ハルバートン提督、前大戦でお亡くなりになられましたよ」
 ハルバートンとはMS開発計画を支持した穏健派で有名な智将だ。
 ふむ、と老人、ジョージ大佐が一瞬黙りこくり、そのまま当然のように椅子に座って切り出した。
「惜しい将を失ったな。だが……彼はカリスマはあったが戦術論にかけては突撃突撃言ってたから仕方ないかもしれんが」
 それを聞いて、困ったような笑い声を上げる男。流石に同意してはな、と呟き、突っ立っている警備員を下がらせる。
「はは……」
「ガルシアはどうしたかね。グリマルディを生き延びたのは聞いているが」
「……要塞落とされたり制裁加えられたりして……まぁ、今じゃ余り噂は聞きませんね。不死身振りは健在らしいですが……」
 そもそもユーラシアと大西洋は仲悪いですからね、とも彼は付け足した。
 ジョージ大佐は再び愉快に笑うと、当然のように置かれている葉巻を手に取り先端を噛み千切る。
 そして口に残された切れ端を床にペッ、と吐き出した。さも当然のようにガスライターで葉巻に火をつけた。
193新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 16:33:41 ID:???
 目いっぱい吸って、目いっぱい吐き出す。マナーが悪い。

 何とか発言する隙を見つけ出した部下が、恐る恐る切り出す。
「あのー……ジョージ大佐、でしたっけ? 自分、聞いたことないんですけど……」
「もう退役してるからね。君は研究員上がりだから知らないだろうけど。あ、大佐が気にかけてた彼、前大戦の開戦初期になくなられましたよ。ほら、胸の大きい彼女がいる」
 ほら、と手でボール状のものを二つ表して見せる男。はっきり言ってセクハラである。
「私が最後に特別指導した新兵組の仲で一番成績がよかったあいつか。だから言ったんだ。MA乗りになどならずに歩兵になれと。技術仕官志望のラミアスの娘が可哀想だ」
「彼女の名前なんでしたっけ、フェイズシフト装甲については彼女が中心になってたはずですけど」
「完成品を見れないのが残念だった……名前は、マルー、いや、マリー、確かそんな感じだ。親父似で心優しいいい娘だったよ。多少夢見がちではあったがね」
 うんうん、とうなずくジョージ退役大佐。

「……で、俺に何の用があンだ? あン?」
 今まで黙って静観していたスティングが声を荒げながら言い放った。
 君にも関係する話だと聞かされて来てみたが……くだらない内輪話だけだ。彼が怒るのも無理はないだろう。
「すっかり忘れていた。オークレーの伝書――」
 そう言って、それが正しい表現ではないと気づいたのかジョージが言い改める。
「いや、遺書だな。気づけたのに、気づこうとしなかったのか……ともかく、よかった。間に合ってよかった」
 と、目を伏せ、声のトーンを落として言うジョージ。 
「……ぁぁ?」
 親? そんなものはいない。気づいたときにはラボにいて、ラボで育って……ラボに来る前?
 スティングに来る前の記憶はない。物心ついたときからラボが家のようなものだった。ステラが居て、アウルが居て……
 ステラ? アウル? そんなやつは居ない。知らない。スティングは何とか舌打ちをこらえた。
 自分のうちに、もう一人の自分が居るようで得体が知れなかったからだ。
「へぇ、オークレーの。そういえばこの子は……いやはやなんとも。複雑な運命ってやつですね」
 意味有りげな言葉。しかしスティングにはそれを理解することができない。スティングが返事に困っていると、ジョージが振り向いた。
「スティング君。君に兵士の何たるかを教える使命を授かったのだよ。私は機会を与えられた。これで罪滅ぼしができるのだから」
 不適に、いや自嘲気味に笑って、老いぼれアメリカ人は言った。

「……おい、どこに行かせるつもりだ?」
「細かいことは気にしないでいい。君は私の言うとおり動きたまえ」
 あれからスティングは半ば無理やり連れ出されていた
 場所はよく兵士にもなっていないような者達を教育するための部屋。といっても、ブリーフィングルームなのだが。

 ブリーフィングルームの窓から、肩に雪がかかっている高性能機ウインダムの姿が窓から見えた。
 まるで疲れたその体を癒すように、ゆっくりと、確実に覆っていく雪――
 だが、そんな癒された機体でさえも彼が行く戦場では面白いぐらい落とされていく。
 無情なものだ。戦場。戦場? 自分が。一人だけで。違う。何故。
 スティングは首を振って、勝手に椅子に座ることにした。最近どうも記憶が曖昧だった。
「で、なにすんだ?」
「簡単だ。その前に一つ、質問がある」
 質問? 多少迷ってからスティングが頷くと、それを見たジョージが続けた。
「君は強くなりたいか?」
「……はぁ?」
「弱い連中と群れて、混沌と化した戦場で、何の利益にもならない弾を撃つか。強くなって、この混沌と化した戦場を終わらせるか」
「決断しろ。混沌に混じるか、混沌に反するか」
 この爺さんは何が言いたい、とスティングは思いつつ、強くなるという言葉は魅力的に思えた。
 そう、今の自分に足りないもの。それは力だ。力。力。力。力だ、力さえあれば俺は――……
194新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 16:35:03 ID:???

 だから、その問いにYESと答えた。




第十五話 優れた兵士 に続く
195新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/08/24(金) 16:36:10 ID:???
あー、昨日のもそうだけど推敲怠ってたなぁ……orz
196通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 17:44:47 ID:???
>>177
 まずは投下乙。文章力は充分だと思いますので、細かいところは
推敲を重ねる事で研磨してください。
 注意点としては一箇所。
 登場人物全員に名前をつけ、機体の武器全てに名前をつける事は、
全ての登場人物と全ての武器を名無しのまま扱う事に殆ど等しい、
と言う事です。
 一つ二つの武装とキャラクターに集中する形で描写して、後は
名無しの扱いでも構わないと思いますよ。
197通常の名無しさんの3倍:2007/08/24(金) 18:21:44 ID:???
>>SEED E
投下乙
先ずはみんなに言うように改行と言っておく
見てる人の環境はそれぞれだから一概に言えないが
40〜45字、単語を切らない位置での改行を願いたい

個人的には20年後の種の世界で普通にザクやアストレイが存在することに
むしろ違和感を持った。
おいおい説明は有るのだろうけど

それと>>189は完全に蛇足
設定自体は必要な時に作品の中で見せるカタチの方が良い
むしろ兵器名がごちゃごちゃになって読み手が混乱する
今本文がその状態
必要がない限り普通にサーベル、ライフルと言われた方がわかりやすい

せっかくなので設定にも一つ
ゾディアックシステム、12子宮の12種類は面白いと思うのだが
作中で全てを使い切る戦闘バリエーションはかなり難しいぞ
リファインデスティニーについても言いたいのだが
今後の展開にも絡むだろうから割愛する

文章自体は普通に読めるので少し推敲を増やせばいいと思う
説明するとこ、流すとこの取捨選択とかね
設定も既に固まってるなら後は見せ方。ツマランところで損するなよ?
198河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:09:58 ID:???
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜

第9話 「彼 −どうこう−」
(1/9)


「熱紋照合出ました!」
 バートが告げた照合結果にタリアは眉をひそめた。
 こうしてアレを実際に目にしたのは初めてだが、その名はもちろんタリアも知っている。
 しかし、それが何故ここにいるのかがわからない。
 ここは現在ザフトの勢力圏内だ。だからこそミネルバ一艦での航行が可能なのだから。
 それなのに、何故アレはここにいるのだろう? アレはザフト所属ではないのに。
「メイリン。コンディション・イエローを発令して。パイロットはパイロットルームで待機のこと」
「はい、艦長」
 タリアの指示に従ったメイリンの声が艦全体に響く。
 タリアは対応を思案する。
 相手はまだ目視できるギリギリのところにいるが、あの距離からでもこちらへの攻撃が可能な
装備を持っている筈だ。
 アレがザフト所属──百パーセントこちらの味方でない以上、MSを出すべきだろうか?
 この航路のどこかで議長推薦の新メンバーと合流する筈が、とんでもないモノと出会ってしまった。
 その時、相手の頭上で何かが光った。
 ブリッジ内に緊張が走る。
 だが、それはこのブリッジ内にいる者ならば誰もがよく知る意味を持った光──ザフトの撤退
信号だった。
「どういうことなの……?」
 誰に問いかけるわけでもなく、タリアは呟いた。
 ブリッジ内はしんと静まっている。
 その中でマリクが声を漏らした。
「あれ?」
「どうかした? マリク」
「はい。あちらの機関は停止しているようなのですが、その舷側に何か白い……白旗のような
ものが」
 タリアの問い掛けにマリクは自信なさげに答える。
「白旗?」
 タリアもモニタに目を凝らしてみるが、マリクの言うそれを確認することはできなかった。
 しかし、何かが点滅しているのだけはわかる。
「あれは……モールス信号?」
 マリクの呟きにタリアは一ヶ月前のオーブの領海外でのことを思い出す。
 タリアは無意識にその信号を解読していた。
 それは、ある一つの単語をひたすら繰り返している。
──アルファ、アルファ、と。
199河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:11:19 ID:???
(2/9)

 タリアはデュランダルの言葉を思い返した。
『君に預けたいんだがね』
『このディオキアには来られなかったが』
 そう。確かにデュランダルは一度も「彼」が「人」だとは言わなかった。
 だが嘘を言われたわけでもない。
 艦長やパイロットが自分の艦や愛機を「彼女」と称するのはよくあることだ。整備員の中には
「娘」とまで言うこともあるくらいなのだから。
「彼」という単語で対象を人間だと思い込んでしまったのはタリア自身だ。
 騙された、とまでは思わないが、面白くもない。
 タリアは複雑な気持ちで白亜の「彼」──アークエンジェルを見つめた。

  ◇ ◇ ◇

「艦長、アークエンジェルより入電です」
「出してちょうだい」
 メイリンの報告にタリアは答えた。
 しかし、ブリッジに通信は流れない。
「どうしたの?」
「それが……暗号電文なんです。一応ザフトのコードは全部試してみたんですが、解読できません」
 確かに相手は元々地球連合軍の艦だ。ザフトの通信コードは持っていないだろう。
 回線をオープンにするなり、国際チャンネルを使うなりすれば通話も可能だろうが、それでは
この周辺にいるすべてのものにも傍受可能となってしまう。
 アークエンジェルとの邂逅が議長の仕組んだことなのだとしたら何らかの手は打っている筈だ。
 そう考えたタリアの脳裏にある言葉が閃いた。
「メイリン、暗号コード『ダブル・アルファ』を試してみて頂戴」
「ダブル・アルファ、ですか?」
「そう。多分ミネルバ固有のデータベースの方に登録されていると思うわ」
 艦には軍全体で共有するデータベースと、その艦だけで利用される固有データベースの二種類が
保持されている。
 前者には敵艦やMSの情報、乗員の勤務記録等が登録されており、移動中の戦闘記録や敵の
新情報は各基地へ着いた際に統合される。
 もちろん他艦でも同じことは行われており、その全体の管理は軍本部で成される。
 後者はミネルバの生活物資の在庫状況や乗員の個人的記録等で、ミネルバ乗員以外に公表される
ことは補給状況以外はまずない。
 ダブル・アルファ──アークエンジェルの装備等の情報は共有データベースにあっても、
通信暗号コードはそこにはない、とタリアは踏んだ。
「探して見つかったら解読作業に入って。それからアスランにブリッジへ来るように伝えて」
「わかりました」
200河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:12:44 ID:???
(3/9)

 メイリンの呼び出しにより、すぐにパイロットスーツ姿のアスランがブリッジへ入ってきた。
メインモニタの中の白い戦艦に気づき、驚愕の表情に変わる。
 誰かに説明を求めるようにブリッジを見渡すアスランと目があったタリアは、彼に軽く頷いた。
 それを受けてアスランが心得たように入り口の脇で待機する。
 アスランの視線はメインモニタのアークエンジェルに釘付けになっている。
「艦長、ありました! ……あの、でも……」
 報告途中のメイリンの声が、躊躇したように途切れた。
「何か問題?」
「はい、あの……デュランダル議長の個人データベースに登録されてるんですけど……」
「議長の? 議長の個人データベースがどうしてこの艦にあるの?」
「多分アーモリーワンで乗艦された時に乗員登録したものが、抹消されてなかったんだと思います」
 なるほど、とタリアは合点した。
 彼が離艦したのはユニウスセブン破砕作業の最中だった。あの状況では個人データベースの
抹消忘れがあってもおかしくはない。
 たとえそうでなかったとしても、ディオキアで停泊中の整備の合間にコードを一つ登録する
くらいなら造作もないだろう。
「パスワードは? ロックされてる?」
「いえ、それは無いようなんですが、私なんかが開いちゃっていいんでしょうか?」
「そうね……いいわ、私がやるわ」
 タリアは艦長席を離れ、メイリンの所へ移動した。
 メイリンはタリアに席を譲るとさり気なく後ろを向く。タリアはメイリンらしい気の遣い方を
微笑ましく思った。
 タリアは立ったまま端末を操作してデュランダルのデータベースを開いた。
「メイリン、大丈夫よ」
 その言葉にメイリンは振り向き、タリアの肩越しにモニタを覗き込んできた。
 デュランダルのデータベースには、暗号コード「ダブル・アルファ」が登録されているだけだった。
 タリアはメイリンに席を返した。
「それで解読できそう?」
「えっと……はい、大丈夫みたいです」
 メイリンはモニタに流れる文字を目で追いながら答える。
「じゃあ続けて。それとみんな聞いて」
 タリアは艦長席へ戻りながら、声を発した。
「今の遣り取りで推測してると思うけれど、今回のアークエンジェルとの接触は議長もご存知の
ことよ。以後、そのつもりで対処して頂戴」
 タリアがアスランに視線を向けるとアスランも首肯した。何故か彼の表情に苦いものが混じって
いるようにタリアは感じた。
201河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:14:15 ID:???
(4/9)

 そこへメイリンから報告が入る。
「艦長、モニタに出せます」
「お願い」
 メインモニタに映ったのは、栗色の髪をした若い女性だった。
 その顔を見て、アーサーが「ああぁっ!」と叫ぶ。
「解読に手間取り応答が遅くなりました。ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。そちらは
マリアさん……だったかしら?」
『はじめまして。アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。お人違いではございません?』
「……そのようですわね。ラミアス艦長」
 ──後にブリッジクルーが語ったところによると、この時、ブリッジの気温は確かに氷点下まで
下がった、と言う。そして、これがミネルバ・アークエンジェル両艦長の初顔合わせであった。

  ◆ ◆ ◆

 ミネルバとアークエンジェルは邂逅した場所にほど近い場所に平坦な広い陸地を見つけて着陸した。
 タリアはレイとバートを伴って艦外へ向かった。
 こういった場合、艦長が直に出向くことはまずない。
 それは艦を預かる長としての責任だ。礼儀云々は相手が完全に信頼できる時に発揮すればいい。
 しかし今回、タリアは自身で直接アークエンジェルと交渉することを選んだ。
 それは相手が所属不明艦ではあるが議長の声掛かりであることと、アーサーでは荷が重く
なりそうな予感があった為だ。
 ブリッジには、アーサーの他に操舵手マリクと火器管制のチェン、それにメイリンを残してある。
 万一アークエンジェルに不審な動きがあったとしても、この三人がアーサーを補佐してくれる
だろうと算段したのだ。
 またアークエンジェルからの死角となる位置には、アスランが数名の兵とともに武装待機している。
 アスランがアークエンジェルに向けて武装することを躊躇していることはわかってはいたが、
タリアとアーサー以外に現場指揮を任せられるのはフェイスであるアスランしかいない。
 更に、シンとルナマリアは自身の機体で待機させている。コックピットに船外カメラの映像を
転送してあるので、突発事項にもある程度の対応はできるだろう。

 先に外に出たのはタリア達だった。
 それに少し遅れてアークエンジェルからマリューと精悍な顔つきの男が出てくる。
 男の顔面には大きな傷が走り、その片目から光を奪っていた。
『艦長のマリュー・ラミアスとアンドリュー・バルトフェルドです』
 どこかで見たことのあるその顔を思い出す前に、イヤホンからアスランの声が男の名をタリアに
告げた。
202河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:15:52 ID:???
(5/9)

 タリアは一ヶ月前、オーブでその名を聞いていた。ミネルバに迫った危険を告げる通信の中に
出てきたのだ。
 アークエンジェルに敗れるまで『砂漠の虎』と恐れられた男。
 身体の一部を失いながらも生き残った『不死身の男』と謂われた男。
 そしてヤキン戦後には、ラクス・クラインを守った英雄と呼ばるようになった男。
 オーブ出港後に取り寄せた資料には、バルトフェルドについてそう記述されていた。
 大戦後にはプラントを出国したともあったが、どういう経緯でか今はまたアークエンジェルに
乗艦しているらしい。
 どうやら予感は的中したようだ。
 バルトフェルドに続いて出てきたのはアスランと同じくらいに見える少年だった。
『キラ……? まさか……』
 信じられないといった口調でアスランが呟くのが聞こえた。
 その名にもタリアは記憶があった。
 アスランと同様にフリーダムのパイロットとして英雄の列に連なっている名だ。
 確かフルネームは、キラ・ヤマトだっただろうか?
 更に続いて出てきた少女にタリアは驚愕を隠せなかった。
「アスハ代表!?」『カガリッ!?』
 タリアとアスランが同時に少女の名を叫ぶ。
 気後れしたような面持ちで歩いていたカガリがその声に足を止めた。
「カガリッ!!」
 イヤホンからではないアスランの声が再度カガリを呼んだ。
 視線を転じると、アスランがライフルを持ったまま待機場所から飛び出していた。
「「アスランッ!?」」
 カガリとキラもやはり驚愕の表情でアスランの名を呼び返す。
「レイ、アスランを止めてっ!」
 タリアの命を受けて、レイがアスランへ向かって走り出した。
「キラ、離せっ!」
「駄目だよ、カガリ」
 声の方を見ると、キラがカガリの腕をしっかりと掴んでいる。
 視界の端ではレイがアスランを引き留めるのになんとか成功していた。
「あー、互いに驚きあったところで、話を進めるとしようじゃないか?」
 その場にいるほぼ全員が多少の違いはあれ呆然としている中で、逸早く立ち直ったらしい
バルトフェルドが声をかける。
 タリアもまた内心の混乱を押さえつけ、四人の前に立った。
203河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:17:21 ID:???
(6/9)


  ◇ ◇ ◇

 カガリに向かって走っていたアスランは、突然誰かに腕を取られてつんのめりそうになった。
 見るとレイがアスランの右手を両手で掴んでいる。
「何をするっ! 離せ、レイッ!!」
 もしカガリの消息が分かったならば、作戦行動中、いや、例え戦闘中であったとしても彼女の許へ
駆けつけ、救助に当たろうとさえ決意していた。
 そのカガリが今、目の前にいる。
 アスランはレイの腕を振りほどこうともがくが、レイはそれを許さなかった。
「隊長、落ちついてください」
 この場においても平静な声音のレイにアスランの神経は逆撫でられる。
「離せ! 離せと言っているっ!!」
「いけません。艦長命令です!」
「いいから離せっ。カガリがそこにっ!」
「だからです。アスハ代表は人質になっているのかもしれません。あなたが迂闊な事をして代表に
何かあったらどうするんです!」
「えっ!?」
 余りにも思い掛けないレイの言葉に、アスランは呆然となった。
 人質? カガリが? 何の? アークエンジェルの? キラ達の?
 レイの言った単語の意味は理解できる。しかしその内容が理解できない。
 呆然としたままレイの言葉の意味を考えるアスランは、突然にある疑問に思い至った。
──どうしてアークエンジェルにカガリが乗っている?
 その疑問は強靭な鎖のようにアスランの動きを封じ込めた。
 答えを求めるようにカガリに向けた視線とカガリのそれが絡み合った。
 相変わらず不安げな表情だが、無事な様子に少し安堵する。
 カガリの両肩を抑えるようにしているキラも多少状況に混乱はしているようだが、以前のような
危うい雰囲気は見られない。
「すまない、レイ。もう大丈夫だ」
 少しは落ち着きを取り戻したアスランはレイにそう告げた。
 その言葉を受けて、レイがアスランから手を離す。
 疑問については何一つわかっていないが、こうして出会えたのだ。その解はすぐに得られるだろう。
 そうしているうちに、互いの思い掛けない乗艦者に唖然としていた艦長同士が我に返って挨拶を
交わしていた。
204河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:18:48 ID:???
(7/9)


  ◇ ◇ ◇

「以前、オーブに寄港させていただいた時、貴方の知り合いという方からご忠告をいただきましたわ」
 隣の男に向けられた言葉に噴き出しそうになるのをマリューは必死に堪えた。
『アンドリュー・バルトフェルドって奴を知ってるか? これはそいつからの伝言だ』
 と、男がすました顔で言うのを聞いていた時の事を思い出したのだ。
 しかしマリューは緩んだ気持ちを引き締めた。
 今回の交渉は駆け引き上手のバルトフェルドに一任してあるので多少は気が楽だ。
 交渉内容もクルー全員と、言い方は悪いが口裏はしっかりと合わせてある。
 乗員数の少ないアークエンジェルだからこそできたことである。
 そもそも二つ名を持つほどの隊長であったバルトフェルドと、前歴は知らないが少なくとも
最新艦であるミネルバを任されるタリア。
 この二人と自分が同列にいるのがおかしい、と、マリューは思う。
 何せ自分はヘリオポリス襲撃のどさくさで艦長をやることになっただけなのだから。
 本来ならアークエンジェルがアラスカへ到着した時点で解任されるのが当然だった。
 今現在艦長を務めているのも、キラ以外にMSパイロットがいないから、という理由で
バルトフェルドが辞退した為だ。
 思えば連合に所属していた頃は、交渉事にはいつもムウとナタルが同席してくれていた。
 その二人は共に二年前の同日ほぼ同時刻に逝ってしまった。
 今、マリューの隣にはバルトフェルドが立っている。
 喪った二人より色々な意味でずっと頼りになり、しかし、決して代わりにはなりえない男。
 ブレイク・ザ・ワールド事件の直後、彼から一緒にプラントへ、と誘われた。
 深い意味がないのは分かってはいるが、胸がざわめいたのも確かだった。
 もしもあの時……と、考えていたマリューの思考はタリアの問い掛けで中断した。
「ところで、ラミアス艦長」
 マリューは一瞬だけバルトフェルドと視線を交わす。
 どうやら艦長同士の話し合いとなりそうだ。
 タリアが出てきた時点である程度の覚悟はしていたが、世の中そんなに甘くはないという事だ。
 心の中だけで溜め息を一つついてから、マリューはもう一度しっかりと気持ちを引き締めた。
 ここでマリューが対応をしくじれば累はカガリに及ぶ。
205河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:20:19 ID:???
(8/9)

「まず最初にお伺いしたいのは」
「どうしてここにオーブの代表首長がいるか、という事でしょうか?」
 タリアの言葉をマリューは強引に遮り、先を続ける。
 台詞を横取りされたタリアは一瞬鼻白むような表情を見せたが、すぐに頷いて肯定の意を示す。
「ええ。十分に納得できる説明をお願いしたいですわ」
「それにつきましては順を追ってご説明させていただきますが、アスハ代表が本艦に乗艦しておいで
なのは決して彼女の意志ではありません。代表は結婚式場から我々が無理矢理拉致したのです。
 そこのところはお間違いのないようお願いいたします」
 マリューは一旦言葉を切って、後ろを振り返る。
 マリュー達の数歩後ろでキラがカガリの両肩を掴んでいる。
 カガリの意識は半ば以上アスランに向けられていたようだが、マリューの眼差しを感じたのか、
その瞳がマリュー達を映した。
「拉致? あなた方と代表の関係を考えれば、失礼ですがとてもそうとは思えませんが?」
 再度のタリアの声にマリューは視線を彼女に戻す。
「拉致ですわ。──少なくとも代表をアークエンジェルにお連れした時には。
 代表がどうしてもオーブに戻る、とおっしゃるので、私どもは銃で脅させていただいたりも
しましたから」
 その言葉を聞いたタリアの目がスッと細められる。瞳に剣呑な光が灯るのをマリューは認めた。
「それならば我々ザフト軍としては、代表救出を敢行しなくてはなりませんわね」
「どうしても、とおっしゃるのならば、それも仕方ないでしょう」
 マリューはタリアとは真逆に唇に微笑みを浮かべる。
「しかし、それでは我々がここに来た意味がなくなります」
 タリアはほんの数秒怪訝そうに眉根を寄せていたが、すぐに何かに思い至ったらしくハッとした
表情を見せた。
 マリューはタリアの声にしない質問に答えた。
「そうです。我々がここにいるのは、デュランダル議長の意向もあってのことです」
「まさか、議長が……?」
 タリアの声音に混乱の色が混ざったのを聞いて、マリューは慌てて付け加える。
「もちろん、代表の拉致にデュランダル議長の関与は一切ありません」
 それを聞いてタリアの表情がほっとしたように少し緩んだ。
「アスハ代表は、我々の『こんな戦争を早く終わらせたい』という気持ちを理解してくださいました。
だからこそ、今はこうして我々と行動を共にしてくださっています。
 また、デュランダル議長──いえ、プラントの方々も同じ意志を示していらっしゃいます。そして、
同じ意志を持つ我々が少しでも動きやすいようにとミネルバとの同行をお許しいただけたのです。
──当然、非公式ではありますが」
206河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:22:15 ID:???
(9/9)


 それがアークエンジェルのクルーたちが選んだ道だった。
 今度の開戦は、やはり地球連合軍が強引過ぎたとしか思えない。その後に勃発している
レジスタンス活動への弾圧も含めてだ。
 だが、二年前とは異なり、今はアークエンジェル一艦のみ。搭載MSもフリーダムとルージュ、
二機のムラサメだけでは何の戦力にもならないだろう。
 一時期はスカンジナビア王国に匿われてはいたが、彼の国は今は連合の一部だ。
 万が一にもアークエンジェルの存在が知られれば、敵性国家として二年前のオーブのように
なるだろうことは想像に難くない。
 だからマリュー達はデュランダルにコンタクトを求めた。
 そしてそれは叶い、今こうしてここにいる。

 マリューの話を聞き、また、彼女からデュランダルの命令書を受け取ったタリアは、それに軽く
目を通している。
 マリューは息を潜めるようにして、タリアの動向を待った。
 ややあってタリアは顔を上げた。
 マリューから始まり、キラ、カガリ、バルトフェルド、そして少し離れた場所にいるアスランまで
ぐるっと視線を動かして、もう一度タリアのそれがマリューに向く。
「……わかりました。細かいことは色々と相談が必要でしょうが、これからよろしくお願いします。
頼りにさせていただきますわ」
 シャンと背筋を伸ばし、タリアは敬礼した。
 その表情からは最初に感じた険が消えている。
 マリューは反射的に地球軍時代の敬礼を返しそうにそうになったが、その手をタリアへ差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。グラディス艦長」
 マリューの手を戸惑ったように見つめていたタリアだったが、やがて微笑してその手を握り返す。
 周囲の空気が緩んだような気がするのは、マリューの錯覚だろうか?
 タリアの手を離したマリューは、ふとあることを思い出した。
「あっ、そうそう。デュランダル議長からグラディス艦長へ伝言をお預かりしてますわ」
「伝言?」
 訝しむタリアに、マリューは彼の言葉を伝える。
「『彼をよろしく』 ──と、お伝えすれば分かる、とおっしゃっていらっしゃいましたけど……?」
 タリアの目が軽く見開かれた。
 やがて、溜め息のように大きく息を吐き出した後、彼女はマリューに向き直った。
「ええ、確かに。──しっかりと受け取らせていただきました」
 タリアは、アークエンジェルを見上げた。
207河弥 ◆w/c45m7Ncw :2007/08/24(金) 23:23:43 ID:???
先月末の予定が、すっかり遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
中越地震やら同僚の入院やら、仕事に影響でまくってます。

それと前回のラスト近く、「〜パイロットはブリーフィングルームで待機して〜」は
「〜パイロットはパイロットルームで待機して〜」の間違いです。
重ねてお詫び申し上げます。
208通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 12:06:52 ID:???
>河弥
投下乙
ダブルアルファはキラかハイネかオリキャラかと思っていたので、
ああ来るとは少々驚いた
本編ではまったく接触のなかったアークエンジェルメンバーと
シンが今後どう絡むか楽しみ

誤爆すんなよ…自分
209通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 00:58:49 ID:???
>>河弥
 投下乙です。サブタイトルは、動向、同行のダブルミーニングでしょうか。
 よく考えればアークエンジェルの事である、と分かる伏線の使い方が
上手だと思いました。
 此処からミネルバとアークエンジェルで共闘のようですが、続きがとても
気になります。アスランとカガリ、タリアとマリュー、そしてシンとキラ。
それぞれの艦で対話、対比、対峙と多様な人間関係が生じてくると思います。
 GJでした。
210通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 09:10:40 ID:???
>>河弥 >>実録
 とりあえず単行本のレビュー(というか煽り文句?)を憑けて見ました。
編集長の真似事ですがやっぱり難しいです。見る人居るのかな?
 実録さんのは巫山戯すぎたかも知れませんが反省はして(ry
211通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 11:27:09 ID:???
>>177
文章は良いけど、内容自体は「20年前」のパクリですよね・・・
212通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 16:25:55 ID:???
>>211
すまん、20年前って何?
213通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 17:04:20 ID:???
>>210
レビュー乙! 上手く書けてると思いますよ。

>>212
作品の中で20年前の出来事が繰り返されている、という事ではないですかね?
214212:2007/08/26(日) 17:05:57 ID:???
>>213
すまん、その20年前ってのがなんなのか分からないのだが。
215通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 17:17:36 ID:???
少年がosを書き換えたり、とかじゃないかと思った
216通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 17:21:17 ID:???
仮面の人もいますね。
217Exploration of Personality ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/26(日) 18:01:46 ID:???
 
 “偽りのヒロイン”

 いつの間にか私は私である事を忘れてしまった。
 否、私が何者であるのか忘れてしまった。
 ミーア・キャンベル。それが私の名前。でも、今はラクス・クライン。

 醜い私でも人々の希望になれると言われて言われて偽りの仮面を被った。
 でも、本当は脚光を浴びたかっただけ。華やかなスポットライトの光を浴びたかっただけ。

 偽りと言う仮面を被り続けた私は外見だけじゃなくて心の醜さも隠せると思った。
 確かに醜さは隠せたけれども、それは仮面の下でどんどん大きくなっていった。

 肥大した醜さは私を苛む。 背徳の都を滅ぼしたメギドの矢の様に私を貫く。

 一度身に着けた仮面は私に食い込んで離れない。
 無理矢理剥そうとすると気が遠くなる程の激痛が走る。
 しかし、身に着けたままだと欺瞞と虚構の夢を見させてくれる。
 いつしか私は夢を見る事に溺れていった。

 夢はいつしか醒める物。
 夢を見ていた私を現実はもの凄い速さで置き去りにする。
 目覚めた私はまるで御伽噺の主人公。
 現実から目を背けた私は喉元にナイフを突き付けれ、機械仕掛けの時代の奔流に突き落とされる。
 そこから這い上がる為には、本物にならなければならない。
 本物になれなければ、私には未来がない。
 未来が無ければ生きてはいけない。
 本物を殺して本物になる。 それが私に与えられた罰だ。
 成功したら、私は二度と私には戻れなくなる。別人になるのだ。
 永遠に偽りのヒロインとして生きていかなければならない。
 私という個人を求められる事がなくなる。
 欺瞞のレールを走る列車になるのだ。
 失敗したら全てが終わる。 私は醜いモノを晒け出して死ぬのだ。

 どちらが幸せなのか解らない。
 私の運命の行き先も解らない。


 ――神のみぞ知る。

218 ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/26(日) 18:04:28 ID:???
酉が割れたので酉を変更しました。

まとめサイトの管理人様、可能であれば私の項目を実録からExploration of Personalityに変更して下さい。
219通常の名無しさんの3倍:2007/08/26(日) 21:58:57 ID:???
>>212
>>213>>215-216の言ってることです。
「単なる繰り返し?」「そこまで真似をせんでも」みたいに感じたもので。
220逆襲のアスラン ◆MATdmc66EY :2007/08/26(日) 23:28:48 ID:???
アスラン・ザラの宣戦布告から二日が経った。
世界は再び混乱の渦に巻き込まれていた。
民達は衝撃を受けたというよりもまたか……といった感情の方が強かった。
二年前の戦争の復旧もまだ十分には進んでいない中三度目の戦争だ。
花は咲いてもまた吹き飛ばされるとはよく言ったものである。
民は双方の主張などどうでも良かったのである。
ただ、戦争が早期に終わっていることを祈るだけであった。
どうせ、どちらが勝ったところで大差はない、と民達は半ば悲観していた。
結局のところ四年前からさして生活は改善していない。
いや、むしろ、悪化していると言っても良いかもしれない。
景気は下がり、治安は悪くなる一方である。
だが、兵達もそうかと言われればそんなことはなかった。
クライン派でないもの達──特に旧デュランダル派や旧ザラ派の兵士達は心の中ではアスランを支持していた。
離反者も何人か出ている。
ザフトも一枚岩ではないのである。
そんな中ラクスに呼び出されたシンとルナマリアは通路を歩いていた。
シンの胸元に輝くのはフェイスの証。
シンの地位は元ラクス親衛隊隊長にして現在はトレイン隊のMS部隊副隊長である。
キラ・ヤマトと双璧をなす存在だった。
そんなシンと彼女──ルナマリアは恋人だった。
互いに手を握り合い温もりを確かめるように歩いていく。
気温が高いためシン達の手は汗でほんのりと塗れていた。
今オーブの方は夏だった。と言ってもプラントにはあまり関係がないのであるが。
せめて四季を忘れないためにも空調の温度が変えられる程度だった。
「アスランさんどうしたんだろうね?」
軽く問うようにルナマリアは尋ねる。
「知るかあんな裏切り者」
その問いかけに不機嫌そうに返すシン。
──何なんだあの人は。戦時中に俺とレイとデュランダルを否定しておきながら今頃誤りだったとは虫が良すぎる、とシンは思った。
よくよく考えれば分かる話なのだが、アスランは裏切りの常習犯である。
事実上彼はザフトを三度離反したことになる。
221逆襲のアスラン ◆MATdmc66EY :2007/08/26(日) 23:30:09 ID:???
一度目は実の父であるパトリック・ザラを……二度目はギルバート・デュランダルを裏切った。
そして、今度はラクス・クラインをも裏切った。
最初の頃はシンもラクスのことは信用さていなかった。
そもそも、彼女が動かなければシンの望む戦争のない世界は実現するはずだった。
それに彼女らが勝手なことをしなければハイネもステラもレイも死ななかっただろう。
信用どころか恨むにも十分過ぎる理由はある。
だが、彼はラクスのことを身近で見てきた。
親衛隊隊長として何度もラクスと話をしてきた。
彼女がどれほど苦労していたかシンは痛い程に分かっていた。
そして、彼女が本当に平和を望んでいることを知ったのである。
彼女のやったことが正しかったとシンは肯定するつもりはなかった。
ただ、シンも彼女の想いだけは認めていたのである。
だからこそ今、彼は今ザフトに所属している。
「何も知らない癖に……あいつが再び向かって来るっていうなら俺が叩きのめしてやるよ」
「シン……」
ルナマリアの心配をよそにシンはアスランを倒すことと口走った。
殺すではなく倒すと、そう言った。
それっきり会話もすることもなく、議長室の前に到着した二人はドアをノックする。
「どうぞ」
シンとルナマリアが部屋に入るとそこにはイザークとキラ、そしてラクスがいた。
「ディアッカは?」
「あいつらなら今は他の任務に出てる」
イザークの言葉にシンはそうかと反応する。
ちなみに、アーサーは部隊を率いて警護に勤しんでいた。
「さて、皆さんに集まって貰った理由は他でもありません。アスランについてです」
一斉にラクスの方を向く一同。
「現在アスラン・ザラ率いるネオザフトから特に動きはありません。しかし、あの宣戦布告からアスランが何もしてこないとは考えられません。恐らく近いうちにアスランから何らかのアクションがあると思います」
疲れたようにラクスはそう言う。
贔屓目に見ても顔色は良いとは言いがたかった。

「分かっているとは思いますがアスランの実力は本物です。並のエースでは時間稼ぎが関の山です」
222逆襲のアスラン ◆MATdmc66EY :2007/08/26(日) 23:31:30 ID:???
アスランの実力はキラやシンと同等──いや、下手をしたら二人を上回る可能性も否定は出来ない。
事実彼は四年前にキラを破り、二年前には錯乱していたとはいえ、シンを一蹴した。
「アスランは僕が倒す」
「アスランは俺が倒す」
シンとキラの声が見事にハモる。
キラは照れたように笑いながらシンを見る。
シンはというとばつの悪そうな表情をしていた。
「二人には期待していますわ」
クスクスと微笑むように笑うのはラクス。
照れたように笑うキラとシン。
男って奴は……とルナマリアは肩を竦ませていた。
「とにかくだ。アスランがどれだけの軍勢を率いているか分からぬ今俺達に出来るのは防衛戦力を増やすことだけだ。奴の出方を待つしかない」
「そうだね。僕達に今出来るのは注意することくらいだから。この話はこれで終わりにしよう。各自出来ることは限られているけど、精一杯やっていこう」
イザークの発言にキラは同意するように頷いた。
「では、この話はここまでにしましょう。皆さんはそれぞれの仕事に戻ってください」
ラクスのその発言でお開きになった。
シン達はラクスに向け敬礼をすると部屋を出ていく。
「シン、ちょっと良いかな?」
シンが扉に手をかけたところをキラに呼び止められる。
何だろうとシンは振り返る。
「ちょっと時間あるかな?」
シンはに有無を言わさずにそのまま強引に部屋の外まで連れていった。
シンは不機嫌そうな表情を浮かべるが、キラはそれを無視するように先導していく。
お互い特に話しかけることはなく無言のまま歩いていた。
「で、何ですか? 話って……」
痺れを切らしたように先に沈黙を破ったのはシンだった。
「あっ、うん。アスランについてだよ。彼はどうして今頃僕達を裏切ったんだろうって」
「そんなの知りませんよ。あんな裏切りもののことは興味はありませんから。向かってくるから今度こそ倒してやる」
あからさまな敵意を放つシン。
そんな様子をキラは悲しげな瞳で見つめていた。
223逆襲のアスラン ◆MATdmc66EY :2007/08/26(日) 23:35:40 ID:???
シンのことを考えるとキラは気の毒でしかなかった。
とは言っても彼も親友と敵対することには変わりがないのであるけれど。
「シン……アスランは強敵だ。相性の関係上僕のストライクフリーダムではアスランのインフィニットジャスティスには勝てない可能性が高いから」
接近戦特化型のジャスティスには遠距離戦特化型のフリーダムは分が悪い。
普通の相手ならばフルバーストさえ放てば、接近させる間もなく葬ることが出来る。
だが、相手はアスランだ。技量はキラとほぼ同じ。
フルバースト単発程度でどうにかなるような相手ではない。
つまりは遠距離から相手を接近させずに倒すしかない。
接近させてしまったら次の瞬間に達磨にされてしまう可能性も重々にあった。
かつてキラがアスランにやったように……。
「分かっています。俺が前で足止めをしてあんたが後ろからアスランをやる。やってやるさ」
シンは食ってかかるような声色で言う。
シンの瞳はギラギラとたぎっていた。
怒れる瞳──それを形容するのに最も相応しい表現だろう。
その瞳が見つめるものはキラだった。
いや、キラを通してアスランを見ていたのである。
「君は……アスランのことをまだ……」
信じていた。
信頼していた。
一度は裏切られた身ながらシンはアスランのことを見捨ててはいなかった。
だからこそ失望する。
怒れる瞳で彼を見ていたのである。
「あいつだけは許さない。二度も俺達の心を踏みにじって……あいつだけは俺の手で必ず」
「大変です!」
シンが全てを言い終える前に赤服の兵士がシン達に近寄ってきていた。
「どうしたの?」
息を切らしている赤服の兵士に気遣うように発言するのはキラだった。
キラはタオルを手渡し、赤服の兵士は額の汗を拭う。
「アスラン・ザラ率いるネオ・ザフトにオーブが占領されました」
「何っ!?」
「何だって!?」
驚愕の表情を浮かべる二人。
戦争はまだ始まったばかりである。
事態は芳しくはない。これからどうなるかは神のみぞ知ることであった。



終わりです。
前回誤字が酷かったですが今回はどうでしょう。
一応チェックしましたが正直心配です。
224通常の名無しさんの3倍:2007/08/27(月) 01:13:59 ID:???
>>Exploration
 投下乙、GJでした。
 ラクス=クラインという虚像偶像の上に立つミーアの危うさが、
硬めの文体で鋭く描写されていたと思います。
 文句無しです……というのもなんですので、あら探しをするように二箇所。
>>背徳の都を滅ぼしたメギドの矢のように私を貫く。

>>現実はもの凄い速さで置き去りにする。
 前者は、メギドの矢という直喩が強すぎて違和感を感じます。
 後者は、ここまでミーアの不安感を仮面、背徳の都等を比喩に
持ち出して描写していたところに「もの凄い速さ」と出てきたので
肩透かしを喰った感じになりました。
 重箱の隅をつつくような感じですみません、重ねてGJjでした。

>>逆襲のアスラン
 投下乙。 その心意気に敬意を表してGJです。
 ストーリー関係でだらだらせずに、アスランによるオーブ占領まで
持って行ったのはいいと思います。続きはかなり気になります。

 誤字と誤用が気になるでしょうから、先ずは細かいところからいきます。

 倒すことと口走った → 倒すと口走った or 倒す事を口にした。

 それから「民」は為政者目線のニュアンスを持ちますので、「民衆」や「市民」
の方がベターかと思います。

 シンは元ラクス親衛隊で現トレイン隊だ、との事ですが、アーサー=トライン
の事であれば誤植、トレインなる別人さんの事であれば説明不足です。

 次、改行。少し長すぎる行がちらほら見受けられます。他の職人さんを参考にして、
読みやすいリズムを探って下さい。経験的には四十文字強と言ったところです。
 行頭一字下げは、やった方が良いともしなくて良いとも言われます。個人的には
文の区切れで一字下げを行い、段落の区切れで空白行を入れた方が読み易いと
感じます。基本的にこういう手間は掛けて損がありません。

 余裕がありましたら、次は以下の点に気をつけてみてください
「最初の五行」「最後の五行」「視点と人称」

 長くなりましたが、投下乙でした。続きをお待ちしております。
225 ◆MATdmc66EY :2007/08/27(月) 01:25:19 ID:???
>>224
アーサー・トレインだと思っていました……orz
そっか……アーサー=トラインなんですね
226通常の名無しさんの3倍:2007/08/27(月) 07:38:46 ID:???
>>Exploration

まずは投下乙。アンタの文章を読み解くのは非常に難しい。
批評するの事は疲れるが、面白い。


硬質でソリッドな文章が面白いな。
内容もミーアの心情が手に取る様に解る。
断片的に与えられる情報で想像がかき立てられるのも良い。

欲を言えばもっと長い分量で読みたかったな。
そうすると氏の長所が消されてしまうかも知れんが。

しかしアンタの文章は良くも悪くも優しくないな。
短い文章の中に色々なメッセージが込められているんじゃないか?
物議を醸し出す可能性があるから敢えて書かんがね。
もし、俺の考えが正しければアンタは恐ろしい職人だよ。
貪欲なアティテュードにGJと言わせて貰う。


>>逆アス

まずは投下乙。

文章は川の流れの様な物だ。流れが一定の方が自然であると思う。

例をあげると、
>>一斉にラクスの方を向く一堂。
ではなく
一堂は一斉にラクスの方を振り向く。
の方が自然だと思う。

内容も面白く、ヒキも次回を期待させる良い物だ。
これからも頑張って欲しい物だ。
更なる精進を期待する。
227通常の名無しさんの3倍:2007/08/27(月) 12:31:35 ID:???
>>逆襲のアスラン

今気付いたけどラストがEXと被ってるぞ。
228通常の名無しさんの3倍:2007/08/27(月) 20:30:40 ID:???
>>逆襲
投下乙
先ず好みの問題かも知れないが
コメントと本文はわけた方が良いと思う

シナリオ的には上の人とは逆に
オーブが侵攻されたのではなくて、いきなり墜ちてしまったことに違和感を覚える
今後何某かの説明はあるものと思うのでそちらを期待

その他細かい所は上の人達が言ってるのでそちらを参考に
229Exploration of Personality ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/27(月) 20:58:08 ID:???

 “too much too soon”

 朝起きたら鏡を見る。それが俺の日課だ。
 鏡の向こうには恐怖に怯える俺がいる。非常に無様な姿だ。
 しかし、鏡の向こうの俺はまだ俺だ。少しばかり安堵する。
 何度も繰り返した儀式だけど、恐怖だけは拭い捨てる事は出来ない。
 出来損ないのクローンは短命であり、いつ命が尽きるのか判らない。
 日々死に怯えて生きる。地獄の苦しみだ。
 死の恐怖は俺に浸蝕して来ている。
 死ぬのが先か、狂気が俺を支配するのが先か。
 解らないし解りたくもない問題が、現実的なものとして俺の目の前に立ち塞がっている。

 ラウはどうだったのだろうか。俺と同じ恐怖を味わっていたのだろうか。
 自問しても答えは返ってこない。
 当たり前の話だ。俺は俺であってラウではない。
 遺伝子的には同じかも知れないが、それだけだ。
 俺が積み重ねて来た物と、ラウが積み重ねて来た物は別物だ。

 しかし、最近何故だか意識が混濁する。
 自分が何者なのか解らなくなる時がある。
 そんな時に限って何故か発作が起こる。
 薬の効きも悪くなってきているみたいだ。
 死期が刻一刻と迫ってきているのだろう。
 あとどれ程生きられるか解らないが、まだ死ねない。
 俺にはやる事がある。
 ギルが正しい世界を作るまで。
 俺みたいな子供が生まれる事が無くなるで。
 俺は一振りの剣とならなければならない。
 敵を屠り続けなければならない。
 戦う為に生きなければならない。

 俺の想いを無視して俺は終焉を迎えてしまうかもしれない。

 ――ただ、それだけが怖い。

230週刊新人スレ:2007/08/27(月) 21:25:17 ID:???
夏休み書き溜め大放出特大号 目次(1/2)


 見えないものが見えるその男は当代最強のMSと邂逅する。住人熱狂、珠玉の短編が此処に!
見える男の話
>>127-129

 うらぶれた研究室、煙草と珈琲に囲まれた女性を訪ねるのは・・・。設定に踏み込む前日談。
SEED『†』 his story  
>>133-139

 エディとミツキを逃がすべく『作戦』を画策するティモシー。激しい戦闘の中ミツキ達は果たして・・・!?
少女は砂漠を走る!
>>146-153

 オロファト郊外の某屋敷。円卓を囲む者達が到着を待つ、その人物とは。
機動戦史ガンダムSEED 
>>156-162

 C.E.94。ラクスの死は世界に新たな混沌をもたらし、アーモリーワンでは過去の悲劇が繰り返されようと・・・!
機動戦士ガンダムSEED E
>>180-185 新連載記念技術設定資料>>189
231週刊新人スレ:2007/08/27(月) 21:27:33 ID:???
夏休み書き溜め大放出特集 目次(2/2)


 全てがしっくり来ないスティング。そんななか彼が引き合わされた老人が問いかける事とは。
せめて、夢の中だけは
>>191-194

 ダブルアルファとの邂逅を果たすミネルバ。『彼』の正体とは果たして・・・!
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
>>198-206

 いつの間にか私は私である事を忘れてしまった・・・。心情を鋭く抉る短編シリーズを2作まとめて!
“偽りのヒロイン”
>>217
“too much too soon”
>>229
 

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お知らせ
当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
単行本編集部にご用の方は当スレにお越しの上【まとめサイトの中の人】とお声掛け下さい。
また雑談所とも一切の関係はありません。当該サイトで【所長】とお声掛けの程を。

一部作品については重複であり、また職人さんの意向もあり目次掲載を見送りました。
悪しからずご了承下さい。

編集後記
某所で職人テンプレに入ってました。職人諸兄にはホントに申し訳ない。
それとレビューの皆さんも。ホントに大したことやってないですから、マジで。
232通常の名無しさんの3倍:2007/08/27(月) 22:29:35 ID:???
>>Exploration

先ずは投下乙。

硬質で鋭い文章が心を抉るな。
しかし今回は少々あざと過ぎる様にも思える。
言葉を考えて使っているのだろうが、それが裏目に出たかもな。

サブタイのセンスは相変わらず良い。余談だが俺もあの曲は好きだ。

このシリーズを書いていてネタが尽きたら読者からリクエストを取るのも一つの手だ。以外と面白いかも知れんぞ。
出来ればギャグよりもこちらを進めて欲しいと思うのは俺の我儘。スルーしてくれて構わない。

更なる精進を期待する。

233通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 01:58:42 ID:???
>>231
逆アス忘れてるぞw
234通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 03:41:07 ID:???
他のネタスレで投下したSSをリライトした物をこちらに投下しなおしてもよろしいでしょうか?
そのスレではあまり受け入れられなかったので、こちらで批評して貰いたいのですが駄目でしょうか?
235通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 05:23:56 ID:???
>>234
西博士オンステージが200レスくらい続いて読む側が(通夜のような沈痛な面持)←とかに
ならなければおk。まぁそんな事はないと思いますがw
236通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 07:00:48 ID:???
>>234

此所はどんな物でも受け入れる新人スレだ。
貴兄の投下を待っている。

多くの職人諸氏が投下を回避するこのスレに投下をしようというアティテュードに乾杯。

237通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 07:08:01 ID:???
>>234
 あえて批評を為てもらおうというその心意気がGJだと思います。
どうぞ投下してください。
238週刊新人スレ:2007/08/28(火) 08:33:17 ID:???
新人スレ別冊付録 『逆襲のアスラン』

 アスラン・ザラの宣戦布告から二日。ラクスは自らの腹心を招集する。彼の狙いは果たして・・・
 新人スレのみに留まらず各所で話題沸騰の本作。その最新作を!
逆襲のアスラン
>>220-223



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編集後記
・・・はい、原稿落としました。本当に申し訳ないです。
勿論他意がある訳ではなく単なるコピペミス。以後気を付けます。
239“lunatic love”1/2 ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/28(火) 20:15:53 ID:???

 “call my name, please”

 カーテン越しに光が私の目を貫く。
 時計を見ると、もうお昼に近い。どうやら寝過ごしてしまった様だ。
 隣りにはシンが静かに寝息を立てている。その寝顔はまるで子供の様だ。
 今じゃ泣く子も黙るザフトのトップエースなのに、私には無防備な姿を見せてくれる。
 それはとても嬉しい事だ。
 ぼんやりとしながらシンの頭を子供をあやす様に撫でてみると、幸せを感じる。
 勿論、夕べシルクのベッドで愛し合った事も幸せを感じる。
 しかし、こんな風に気怠い疲労感を感じながら愛しい人の横顔をみるという事の方が、女としての幸せをより感じる事が出来る。

「……………………」

 でも、その幸せをシンが崩壊させた。
 寝言で私じゃない他の女の名前を呼んだのだ。
 私の幸せは一瞬にして砂上の楼閣の様に崩れ去った。
 目眩がして視界が真っ暗になる。私は重力に逆らおうともせずにそのまま後ろに倒れた。
 首だけ動かして横を見ると、テーブルの上に置いてある飲みかけのカフェオレが分離している。
 もう既に冷めきっているのかも知れない。
 まるで二人の心みたいね、と一人ごちるともう一度シンの横顔を見る為に振り向く。
 何故だろう。シンの顔がぼやけて見える。頬を冷たい何かが伝わる。
 多分、私は泣いているのだろう。
 裏切られた哀れな私の為に?
 誰かの代用品として扱われた私の為に?
 違う。この涙は私の為の物じゃない。
 シンと決別する為の涙だ。
 離れてまった二人の心は二度と交わる事はない。
 平行線の様に交わる事はない。
 昔アンタは私を守ってくれると約束したけれど、そんな約束なんていらない。

 私は、精一杯の偽りの優しさでアンタの事を包んであげる。
 紛い物の愛で貴方を虜にしてあげる。
 哀れなのは私じゃなくてアンタよ、シン。
 アンタが人生の絶頂を迎えた時、私が奈落の底に落としてあげる。
 それが私の細やかな復讐。
 でもね、あと10秒だけ待ってあげるわ。最後の慈悲よ。
 まどろみの中でも良いから……。

 ――私の名前を呼んで。

240“lunatic love”2/2 ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/28(火) 20:23:49 ID:???

 “ひとりぼっちということ”

 私の目の前でシンは静かに眠っている。多分、二度と目覚める事はないだろう。
 私が長い間盛り続けた毒は、ゆっくりと確実にシンを冒していった。
 そして、今日でとうとう致死量。私の細やかな復讐が成し遂げられる。
 シンが眠っているのはかつて愛し合ったあのシルクのベッドだ。
 皮肉なものね。あの時私の名前を呼んでくれれば、こんな事にならなかったのにね。
 語りかけてもシンは答えてくれない。
 寂寥とした寂しさが酸の様に私の心を蝕む。
 シンは静かに人からただの冷たい屍に変わっていく。
 
 やつれたシンの顔には昔の面影はない。目は落ち窪み、頬は痩せこけ、雪の様に白かった肌は土気色だ。

 哀れなまでに無残。でも、仕方無いよね。
 あの時に私がどんなに望んでも貴方は私の名前を呼んではくれなかったのだから。
 悲しいのだけれども、私の目から涙は出てこない。

 日に日に毒に体を蝕まれていっても、私に優しく微笑んでをくれた。
 私の事を疑いもせずに、気丈に微笑んでくれた。
 その微笑みを見ると心が抉られた。
 何度毒を盛るのを止ようと思ったか解らない。
 でも、アンタは寝言では私じゃない誰かの名前を呼ぶのよ。
 偽りの優しさが痛かった。欺瞞に満ちた微笑みが私の心を砕くの。
 私じゃない別の誰かに向けられた愛情が憎かった。

 欲しい物は手に届きそうな所にあるのだけれども、絶対に届かない。陽炎の様に私から遠ざかっていく。

 歪んだ渇望が私を狂わせていった。
 私も残酷だけど、アンタはもっと残酷。私じゃない誰かをアンタは望んでいるんのだから。
 その誰かに対する憎悪はアンタに向けるしかないのよ。
 永遠の孤独が私を狂わせた。

 ねえ、シン。一人じゃ寂しいでしょ。寂しいなら私の名前を呼んでよ。ずっとそばにいてあげるから。
 私は寂しいよ。だって私はアンタが好きなんだから。
 好きになった人をそう簡単には嫌いにはなれないよ。
 だから、私を一人にしないでよ。
 さよならなんて嫌だよ。
 私を一緒に連れていってよ。

――この寂しさがひとりぼっちということなんだね。

241 ◆6Pgs2aAa4k :2007/08/28(火) 20:25:47 ID:???
投下終了。
242通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 20:46:56 ID:???
> 離れてまった二人の心は二度と交わる事はない。
”し”が抜けてる。のめり込める完成度の高い作品なのでもったいない。
243通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 21:09:53 ID:???
>>lunatic love

まずは投下乙。

まさかと思ったがアンタか。アンタのSSは短いけど密度が高くて読み解くのが疲れるんだよ。
それだけやり甲斐がある。

この手のSSは読み手を選ぶから投下先を吟味するべきだったな。

ルナマリアの心情と業の深さが上手く書かれているな。冗談抜きで心が抉られる様だ。
だけど、それだけだ。
アンタの技量ならもっと別な見せ方が出来たと思うんだがね。それは高望みでもあるまい。

まあ、心情だけで完成度の高いSSを作りだした事は称賛に値する。

所々に歌詞や歌のタイトルがちりばめられているが、自然にそれを使っているな。
小ネタの使い方が上手くなっていると思う。

タイトルも凝っていて好感触。
ルナマリアとlunaticが掛けてあって、内容にあっていて面白い。

更なる精進を期待する。
244 ◆MATdmc66EY :2007/08/29(水) 00:59:53 ID:???
すいません、実はしばらくパソコンが使えないため携帯で書いているんですが、携帯だと一字空けがどうにも出来ないようなのでそこのところは大目に見て貰いたいです
245通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 12:48:35 ID:???
出来なくは無いので説明書読め。


あと編集長乙。ドンマイ
246通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 18:12:34 ID:???
>>244
ス無理ならこんなのにしたらどう?
スああ、スペースとりたかったのかと理解してもらえるかも。
スそして逆アスはいろんな意味で板一番の名作になれるよ!
247通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 19:14:59 ID:???
携帯なら わ の列の一番最後にスペースがあるからそれでおk。
248通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 19:20:36 ID:???
どうしてもみつからなけりゃ「□」で代用もありかな
249通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 19:37:31 ID:???
書式は本人の好きにした方がいい。
250弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:39:21 ID:???
少女は砂漠を走る!
第九話 それでも砂漠を走る!(1/7)

『補給急げ! チェンバレン隊の3機を優先!! バクゥ班も準備急げ! 最優先はファング3だ!!』
『コントロールから全機、パイロットは機体で臨戦態勢のまま待機。降機は認めない』
『ザク・01はブレイズに換装だ、間違えんなよ!? バクゥ8番機はR側の前足交換、部品用意!』
 戦域全体をわたしが走り回った後、一応戦闘は止んだ。ただ巡洋艦は距離を取って下に降りたもののこちら
を向いているし、地上のMSも全機を引き上げる気はないらしい。索敵班の話では3機組の3パーティが交代で
巡洋艦の前で臨戦態勢を取っている。ユニウスの事は関係無しで小休止みたいな感じ。向こうはユニウスが
落ちようがレセップス級2隻を落とすまでは戦いをやめないのではないかと思える。
 一応隊長へ連絡する。エディの処分? して欲しいのか? 隊長はそう言うとウインクをして画面から消える。

「おーつかれぇーっす! はい、どーぞ。冷たいぞぉ?」
 コクピットの入り口から体を斜めにして、チューブに入った飲み物を持って入ってくるメカニックは同室の娘。
「頑張って、そんで怪我なんかしないで帰ってきてよね? まだアナタ、例のカントクのヤツで見てない映画が
あるのよ。どんな感想を持つのか、アナタに見せたいんだー。病室じゃ再生出来ないからさ?」
 彼女は映画マニアなのだ。でもユニウスの話は当然全隊に伝わっているはずで、そうだとすればそう言う
タイプでない彼女なりに気を使っているんだろう。だからわたしも同い年だという彼女に普通に答える。
「いろいろありがと。でもファングに乗ってる限りはここより安全だよ。ディスク、割れない様に仕舞ってある?」
「当然! コクピットの衝撃吸収材と疑似PS装甲を使ったあたし特製ケースに仕舞ってカギかけてあるよ。
世界が滅んでもディスクは残る!」
 ガッツポーズの彼女。いろいろ洒落にならない気がするなぁ、ちょっと吹き出す。ホントに、ありがとう。

『ミツキくん、良いか?』
 モニターの隅。【秘匿/個別通話】と【for fang03】の表示がエディの顔の下に出ている。コンディションが
イエロー以上では怒られるんじゃなかったろうか。バイザーを上げた顔色は悪い。いつもなら寝てる顔色だ。
『チェンバレンくんの好意を無にするのは心苦しいが、先ずはこの部隊を護る事にしたい。砂漠に精通した
この部隊が生き残れば事後の復興支援が早い。勿論ユニウスから護るという訳にはいかないが』
「でも師匠。いえ、エディ。それではあなたが憲兵に……」
『やった事の責任は取らなければいけない。……キミに気持ちを伝えたのはやはり間違いだった。逮捕される
事に異存はないし、死ぬというならそれで構わないが、それ以降にキミを護る術が無い。僕の独りよがりだった。
ただ僕が解放されたかっただけなのかも知れない。謝って済む話ではないが、許して欲しい』
「謝らないでクダサイっ!! わたしだってあなたの事を……! それにエディはわたしが護るとあの日!」
 勝手に涙が零れきてヘルメットの中で顔を押さえる緩衝剤に吸い込まれる。 
『キミが護るべきは普通の人々の普通の暮らしだ。テロリストの命ではない。ぼ……』
 画像は前触れ無しにマーカス隊長の顔に変わる。慌ててバイザーを遮光設定最大で閉める。

『隊長のマーカスだ。全員良く聞いてくれ。ユニウスの軌道のズレが正式に観測された。何時、何処に落ちる
のか計算中だが赤道付近に落ちるのだけは確定だ。メテオブレーカーを装備した阻止部隊が現在急行中。
どうなるものかはわからんが、MS全機は信号と同時に即時戦闘中止で船に戻ってくれ。勿論、落着位置に
よっては此処も只ではすまんが、直撃しない限りは船が一番安全だ。尚……』

「ただ、一緒に居たいだけなのは。それはダメなんですか……? わたしは、わたしの……」
 彼の言いたい事、彼のやりたい事。途中でちぎれた言葉だけで全てわかってしまったわたしは、
ヘルメットを俯けて、鏡のように見えるであろうバイザーの裏側で、ただ唇を噛むしかない。
彼のやりたい事を全力で手伝う。そう決めたのは誰でもない。わたしだから…………。
251弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:41:06 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(2/7)

 夜の砂漠に展開した上で臨戦待機。連合(と誰も公式に肯定しない所属不明)の部隊にはまだ動きは無い。
まぁ何もない砂漠だ。最大望遠ならば例の巡洋艦の影まで見える。動けば直接見えるのだ。モニターの下側に
エディとティモシーの顔が接触回線の文字と共に浮かんでいる。現在ファング2の肩にザクとファング3が
手を置いているらしい。何か落ち込んでいるのを励まされてる様なカタチではある。そう思うとイヤな感じだ。
 但しモニターの下の方、並んだ二人の顔はわたしのことなど眼中に無い。
『もう一度聞く! 真面目に言ってるのか!?』
『キミにミツキくんとガイア2機を返す、それにテロリスト捕縛の熨斗を付けると言ってるんだ。不満か?』
『馬鹿な事を言うな! まだ機会はある、諦めなくても良いだろう? ミツキはそれで良いのかよ!?』
 ティモシーのわたしへの好意こそがこの【作戦】への原動力だ。当然納得は行かないだろう。
「わ、わたしは……。その……」
『もう良い! とにかく奴らを片付けてユニウスをやり過ごす。話はそれからだ! シナリオを組み直す! 
必ず二人とも無事にザフトの外へ放り出してやるからそう思え! 勝手に死んだらタダじゃおかないからな!!』
 何処まで良いヤツなのよ、あなたは。それにわたしだって納得している訳ではない。
訳ではないが、普通の人の普通の暮らしを護る。エディの言う事が理屈でなくてわかったから。
 ユニウスとセブンス。エディとわたし、普通を奪われた人間だからこそ、わかる事。そしてその後。
命がまだあったなら、こうなってしまった以上逮捕されれば極刑さえ視野にはいるが、それでも彼は罪を償う。
それが彼が命懸けでやりたい事。ううん、やらなくてはいけない事。だから……。
『それとエディ! アンタを逮捕する役なんか、どうゆう状況下になろうとも俺は絶対やらないからなっ!!』
 こつん、という小さな衝撃と共にティモシーの顔は接触解除の文字に変わった。苦笑いのエディの顔だけが
モニターの下に残される。

「エディ……顔色が。ホントに大丈夫ですか?」
『あぁ、大丈夫だ。マーカス隊を護りきるまでは死なない』
 真っ青な顔に脂汗。ただ彼が出なければ船2隻を護る事など出来ない、いまやマーカス隊MS全機の要。
右腕を無くしたエリートパイロット、戦術のスペシャリスト、MS技術の専門家。それがわたしの隊長、わたしの師匠。
そして、エディ・マーセッド。彼はわたしの……。
『キミの顔をもう一度、直接見る事が出来ない事だけが残念だ』
 ゆっくりと東の空に赤みが差す。わたしが喋ろうとした瞬間にデータ画面が激しく文字の羅列を流す。
勝手にクローズアップされる画面、やや浮き上がり始めた巡洋艦。敵が、動いた!
『隊長として命れ……、いやパートナーとして最後に約束して欲しい。……。僕がどうなろうがキミは生きろ!
ザフトに残る必要だって無い。生きて、僕の事も忘れて、普通に暮らしてくれ。セブンスの町を見たキミには
僕の言う、普通で有る事の幸せ。この意味が誰よりもわかっている筈だ。キミは普通の女の子に戻れ!』
 最大出力の緊急無線が入る。こつん。小さな衝撃があって接触解除の文字。隣でザクを乗せたグゥルが
浮き上がり始める。モニター左上に引き締まったティモシーの顔が像を結ぶ。

『ザク01から全機。敵が動いた。ミツキはユースケの隊と正面! エディは右のダガー、俺は右の空だ! 
左の残りはアンドレ達のバクゥに任せる、抜かれたらザク2機の他はオーカーしか居ないぞ! 発光信号には
細心の注意を払え。隕石で潰れて死んだら指を指して笑ってやる! 以上っ!! 各機、いいなっ!?』
『了解、上空は完全に任せるっ 下は一切気にしないで良い! 以上ファング3、オーバー!』
『1番隊副長オオグロ、了解。正面は任せて貰おう! ミツキ! 手筈通りにバッチリ頼むぜ!?』
「……ファング2、了解っ!」
 わたしの体は勝手にファング2を戦闘状態にし、ファング3は四足獣モードで加速していく。
戦闘前、エディにせめて一言。ささやかな、たったそれだけの望みを叶える機会は永遠に失われた……。
「ミツキ・シライ、ファング2! ……行きまぁす!!」
252弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:44:30 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(3/7)

 ユースケ達は動かず、ファング2は砂漠に一人立つ。そして敵はわたしを避ける様に左右に分かれていく。
「なんで……? って、来たぁぁあ!」
 モニターに【GAT-X370 Raider】の表示。機影は一気に大きくなる。例の変態コーモリ! 
何故わたしとタイマン勝負がしたいのよ。こっちは見るのもイヤなのに! 
とにかく足を止めたらお終いだ、走りながらライフルを撃つが全てかわされる。
当たるとはこちらも思っちゃ居ないが余裕を持ってかわした風なのがムカつく。サーベルを伸ばしたクローが迫る。
スレ違いざまにクローを振るうとそのまま加速、上昇していくコーモリ。上半分が切断されて無くなっている
シールド。さすがガンダム、他とはパワーがまるで違う! 上空で転回している隙に四足獣モードへ変形。
変態コーモリは逆に上空からMSモードに変形するとスピードは落とさずに鉄球を投げつけてくる。読めた! 
今度はこちらも余裕を持ってかわす。

 黒いガンダムが着地した瞬間横合いから打ちかけられるビーム。砂を巻き上げながら姿を現す赤い右肩の
MS達。砂に潜っての奇襲、赤き風のお家芸だ。
 そして知っているはずの連合のMSは、またもその良くも悪くもワンパターンの奇襲に引っ掛かった。
わたしはその機を逃さず真っ正面に突っ込む。鉄球が来るが避けずにスピードをあげる。かすっていく鉄球、
左のビームカッターがバーニアごと吹っ飛んだ様だが気にしない。鉄球のヒモを握ったレイダーの懐に飛び込むと
MSモードに変形する、スレ違い様に今度はわたしがサーベルを振り抜く。背後で激しく爆発が起こる気配。
『やったなミツキ! すげーぞっ! Gを落としたなんてスーパーエースだぜっ!?』
「あんた達のおかげよ? わたし一人で……なに?」


 目の早いわたし専用の設定の為にすこぶる早く流れるデータ画面。緊急、即時、待避の文字が何度も躍る。
コレは連合系部隊の緊急コールの様だ。とすれば。
『こちら4の3ストライク・ダガー、発光信号確認! お嬢さん、撤退だ!』 
253弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:46:50 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(4/7)

『ほぼ間違いなく砂漠(ここ)にも落ちる、落着まで後437秒、予測距離約200。シライ君!何してる!!』
 青い空に白い尾を引いていくつもの光が空を飛ぶ。むろんアレが何かは知っている。かつて『普通の暮らし』
を奪われた者達がさっきまで眠っていた墓標。今は地上の普通の暮らしを奪う忌むべき流れ星。
『ファング3、シグナルロストから既に320秒! ミツキちゃん、もう戻って! お願い!!』
 既に連合の船三隻は見えない所にまで退いていった。だからうちの機体も残っている訳はない。のだが。
「師匠! 大丈夫ですか!? 返事をして!! 回線開いてクダサイ! ねぇ、エディ!!」
 右腕が取れてバックパックも無くしたファング3は砂漠にひっそりと座っていた。
まさか……! ファング2、何してるの! 早く!! リンク確立、生体モニターは……繋がった! 
【脈拍低下/危険域、血圧異常、体温異常、発汗状態異常、意識レベル最低/操縦不能、瞳孔状態不明】
 それでも、生きてる!!

 ファング3を抱えて最大出力で船に戻る。全ての箇所が一斉にワーニングやらアラートを出してくるが
無視してむしろスピードを上げる。この状況下で駆動系の機械が一つでも壊れればいずれもう助からない。
「格納庫、シライです、3番か5番のハッチ開放して! 2機まとめて飛び込むから待避して内部は閉鎖!!」
『MSデッキ了解! 落着まで75秒、衝撃波の第一波は92秒後、ミツキさん! 何でも良い、急げ!!』
 ハッチにファング3を叩き込んでその上に被さる様に降りるとフタが閉まり始める。ほっとした瞬間鋼鉄のフタが
吹き飛ぶのが見えた。衝撃! 出撃ハッチに腕をめり込ませて機体を固定。艦長は怒るだろうか。
『転覆だけは避けろ! 第二波は角度が違うぞ! アトランタとは出来る限り距離を取れ、近寄ってるぞ!』
『モーター出力全開! 焼き切れるならそれでかまわん! 艦の水平保持に全力、艦砲も必要なら使え!』
 わたしはギシギシ軋むコクピットの中、ただ生体モニターの数字が少しずつ悪化するのを見つめていた。



 外は普通の砂嵐程度まで収まった。格納庫にいた全員が機体を降りたわたし達二人を遠巻きに囲む。
「まさか、もう一度会えるとは思わなかった。最期まで僕は幸せだったんだな。早く気づいていれば、キミにだって
もっと……。いろいろ済まなかったな……。そして、ありがとう……」
 座り込んだわたしの腕の中、エディはチカラを振り絞る様に話しかける。
「何を言ってるんですか! わたしはいつだってあなたと一緒ですっ! あなたが居なければわたしなんか……」
「う……、もう、良いんだ。全部忘れて、キミは、ミツキくんだけは……、幸せに、なっ……て……。約……そ、く」
 どうやら喋る事が出来くなってしまったらしい。頷く。エディは目が合うといつもの優しい笑みを浮かべる。
そして、一つ頷くと腕の中で静かに目を閉じた。
 そして次の瞬間、腕が抱える彼の体は一気に重くなった……。
254弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:48:52 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(5/7)

 師匠が寝ていた病室のベッド。わたしはそこで目を覚ます。両手と右足にはギプス。腹から胸にかけても
包帯がさらしの様に巻いてあるらしい。頭にも包帯、パイナップルみたいになってる? わかっていたなら
もっと髪を伸ばしておくんだったのに。顔がゴワゴワするのはなんでだろう? あれ? 右目眼帯?
「気が付いたか? ムチャするからそう言う目に遭うんだ。行動の前に頭で考えろ。死ぬトコだったんだぞ?」
「エディとの事は気づかなかったよ……。それなら気持ちはわかるがな。まぁ、出来ない事だって有るって事だ」
 ティモシーと隊長が体中包帯と絆創膏だらけでこちらを見ている。何があったんだろう? 
だいたい師匠はベッドを抜け出して何処に行ったのさ、全く。と思った瞬間、記憶が鮮明に蘇る。

 エディが腕の中で息を引き取った直後から、マーカス隊は二手に分かれて近隣の町の救援活動に入った。
そして憲兵本部からの部隊も、わたし達がまだパイロットスーツを着ているうちに到着した。
不機嫌そうな黒い服の憲兵隊長は、静かに眠るエディを袋に詰めるのを確認するとマーカス隊長に向き直る。
「被疑者死亡か、隊長。後で憲兵本部から呼び出しがあるぞ? せめて貴官は素直に応じて欲しいモノだな。
何故拘束しておかんのだ。……おい、とっとと運び出せ! 私物の搬出もいつまでかかっているか!」
 MPの腕章が2人、袋を担ぎ上げてごく普通に運び出して行く。

 視界が赤くなる程頭に血が上る。彼は、彼は何時だって! 彼は最期まで……!!。体が勝手に走り出す。
「止まれ! シライ君、何をする気だ!!」
「エディをモノみたいに扱うな! わたしの師匠なんだっ! 最後まで頑張ったんだっ! 丁寧に扱えっ!」
 走りながら手に持ったヘルメットを思い切りぶん投げると黒い服、憲兵隊長の頭に直撃した。ぱこーん!
間の抜けた音が響き、ゆっくりと倒れていく黒い服。エディまで後一歩。そう! あなたはわたしが護る!!
「触るなバカっ! あんたら何者だ、フザケるな! 普通の人を助けるのが軍隊の仕事じゃないのかよ!?
エディは助けたいって言ってたぞっ! こんなコトしてる暇有るのかよ! ドンだけエライんだよ、あんたら!!
エディを返せっ!! バカっ、スケベっ、へんたいぃっ! はぁなぁせぇよぉおおおおっ!! 」
 エディに触れる事さえ出来なかった。羽交い締めにされて思い切りぶん殴られる。そのまま床に転がった
わたしは、蹴られて銃の台尻で打ち付けられる。ごめんなさい、エディ。約束、また破っちゃいました。
あなたはわたしが護るって、そう言ったのに。その場での最後の記憶はわたしを蹴るたくさんの足。

「もっと早く止めれば良かったんだけど、いきなりだったから躊躇しちまった。ごめんな、顔にまで傷を……」
 止めに入ったメカの女の子が突き飛ばされた。そこからその場にいた全員を巻き込んだ大乱闘になった
のだという。だからアンコールワット付きのパイロット全員とメカマンの一部も絆創膏と包帯姿になっているらしい。
彼の包帯はその時の分だ。
「まぁミツキをやったヤツはミツキより数段非道い目に遭わせてやったけどさ」
 後日、本部の屈強な憲兵5人を文字通りの半殺しにした門で査問会にかけられたのだと聞いた。
さすが赤服。……ホントに、ごめん。

「やめろっ馬鹿者どもが! 自分の仕事を思い出せ、貴様らは何者だっ! そんな事をしている場合か!」
 見境が無くなって殴りかかってきた憲兵を振り払って、隊長が一喝すると取りあえず乱闘騒ぎは収まった。
その後隊長は憲兵隊長に呼び出された。そこでいったいどんな話し合いがあったのかは知らないが、
書類上からわたしの名前は消え、乱闘騒ぎでは無くティモシーを中心にケンカがあった事になったらしい。
 彼の所属する部隊の名前、それ自体がその強引な裁定を可能にしたらしいが、だったらいったいどれだけ
ならず者部隊だというのだろう。ティモシーも話に聞く先輩さんも、とてもそう言うタイプには見えないのだが。
255弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:52:26 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(6/7)

「えーと、その……。済みませんでした。わたしの所為でみんな……」
「気にするな、やりすぎた連中にはもうそれなりの対応をしてある。憲兵本部のバカ共から仇は取ってやるさ。
それより早く体を治して現場に復帰してくれ。復興支援の議長声明が出ているんだ。正直、人手がたりん」
「峠は越えたんだ、もう命に別状はないからあとは頑張って直せよ? あぁユースケはMSを取り上げて昨日
解放したけど連絡は取れる様になってる。アイツも心配してたから連絡してやってくれ。それからメカの
ポーリーンちゃんだったっけ、同じ部屋の子。ディスクは無事だと伝えてくれって言ってたけどなんの話だ?」

 誰もいない病室のベッドの上。寝ているのがイヤだったので何となく座ってただ涙が零れるに任せている。
右の涙は眼帯に、左の涙は頬に貼った大きなガーゼに吸い込まれて行く。
だから、零れているという表現は当たらないのかも知れないな。と思うが、そんな言葉遊びは今は意味がない。
ベッドの横には投げ出された簡易型の無線機とマイク。師匠の盗聴マイクか……。
 それが目にはいると、なんの感情も感じないのに、更に涙は流れた。




 砂漠の、無限とも思える変わらぬ景色。その上をレセップス級アンコールワットが滑る様に進む。
その陸上戦艦の甲板。わたしは手すりにもたれながら風になぶられ、日差しにあぶられている。

 ファングは2機とも回収されわたしは絶対安静。今朝やっと病室以外を歩くのを許可されたばかり。手すりに
つかまった所で仕事の足しに成る訳もなく、役立たずで無駄飯喰らいの状態は変わらない。羽織っただけの
緑の上着、左の頬のガーゼ、松葉杖と右腕を吊る三角巾。右目の眼帯。左目に刺さる日差しがキツイ。

「もうイイのかよ? ……包帯、ずいぶん無くなったな。先生に聞いたら実は背中が一番ヤバかったって?」
 隣に立つのはいろいろとわたしの怪我について世話を焼いてくれるティモシーである。どうやら怪我を負った事
それ自体にまで責任を感じてる様だが、それは背負いすぎじゃない? 死ぬ目にあったのはわたしの所為だし。
「鏡で見たけど、危うく脱皮してチョウチョになるトコだったみたいね。で、補給物資は降りてきたの?」

 基本的には打撲と骨折と擦過傷が主な傷だったのだが、乱闘の中、転がった銃剣が体中を、特に背中を
何度も何度も執拗に切り裂いた。背中の他、右の目尻と左頬にも傷が残る様だ。完全に成長が止まれば
その後手術で消せると聞いたし、個人的にも気にしていないのだがティモシーは、顔だけでもどうにかしてやれ!
と先生に喰ってかかったらしい。もう好きとかそう言うのを通り越して保護者みたいになってるな……。
「もう直接町に着いてるとさ。今回は井戸掘りどころか町全体を掘り起こすらしい。ヤレヤレだ。そうそう、
ミツキ用のMSも着いてるらしい。ケルベロスウィザード付きの白いバクゥ・ハウンドだそうだな? 
パーソナルカラーの特別機、すっかりエース様だ。俺はパーソナルカラー、却下されたのに……」
 あなたの場合は色なんてどうでも良いじゃない。あの腕前ならばこけおどしなんて不要だもの。
機体の色を好きに決めて良いというので白にしたのはそうなんだけど。
でもね隊長、わたしはあの機体だけはイヤだと何度も……。
256弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:54:32 ID:???
第九話 それでも砂漠を走る!(7/7)

「……ねぇ、オーブとも戦争になるってホント?」
 ついさっきブリッジのおねぇさんズから聞いた話。ディテールはともかく間違ってはいないと思う。
思うのだが、連合とならばともかく、出来れば間違いであって欲しい。
「仲良しじゃなくなるってくらいだ。今すぐ直接進行したりする訳じゃないから心配……。あ、ごめん、オーブは」
「いいよ、気にしなくて。戻るつもりなんか無いからさ。……戻ると言えば、あなたは何時空(うえ)に?」
「核ミサイルを撃たれちゃいろいろな。対テロ専はそもそも最前線部隊だから、エディの仲間を洗い終われば
元の仕事に復帰するってトコだよ。前線の鉄砲玉は多い方がってさ。洗うったって被疑者全員死亡だけどね」 
 その調査結果については連合各国はまるで信用していないらしい。ティモシーと、その隊長が調査したのならば
かなり確度は高いとも思うのだが、そのニュアンスまで連合に伝える術は確かにないだろう。

 入り口のドアノブを握ったまま何かを喋りたそうなティモシー。目が合うと何かを吹っ切るようにノブから
一反手を離す。
「……その、コレが落ち着いて、もし俺が生きていたら。その時は、なんだ、お茶でもご馳走してくれないか」
 つまり、これは……。けれどハッキリ言わないのは何故? だからわたしも曖昧にかえす。
「多分あなたは死なないし、それは構わないけど……。向こう傷だらけでガサツな女とお茶飲んで楽しい?」
「腕がもげようが片目が潰れてようがミツキには違いないだろ! 俺はミツキとお茶が飲みたいんだよ!」 
 そう言うとそのまま甲板から船内へはいる赤い服。
ドアが閉まる直前、いいなっ約束したからなっ! と怒鳴る声がドアの隙間から零れて、勢いよくドアが閉まる。
思わず顔に笑みが浮かんで、涙が出て止まらなかった。
 スケイルモーターの音を轟かせながらアンコール・ワットは次の町へ向けて変わらぬ景色の中を進んでいく。


 ティモシーは結局【封印した気持ち】を口に出すことなくシルビオさんと宇宙へ帰った。とは言いながら彼から
は2週と空けずにメールが来るのがうざったくもあり嬉しくもあり。
 わたしはマーカス隊に残って砂漠の町の復興支援を手伝い、白いバクゥを駆ってロゴスと戦った。
ある日隊長に戦う意義を正すと軍人は命令に従うのみだ。とだけ言った。同感だったのでそれ以降も文句を
言わずにマーカス隊長に従うことにした。
 エディの弟子の『責任』としてスコアも伸ばした。結果、『白き雌豹』などと言うあまり嬉しくないあだ名を貰った。
ティモシーの先輩さんは『戦場の踊り子』だというのに。うぅ、頭三つで牙だらけの機体共々、可愛く無い……。
 そして砂漠の廃墟で、墓標に家族と記憶を奪われた少女を拾った。隊長は連れて来たわたしには何も言わず
彼女を隊に雑用係として文句も言わずに置いてくれた。
砂漠にいたのでオーブに直接攻撃しろと命令が来ないのはありがたかった。
 わたしは約半年砂漠を走り続けた。そして空の上では機動要塞メサイヤが、墜ちた。
 事実上戦争は、終わった。

「戦争も一段落、デュランダル体制も崩壊、もしも君が望むなら今のタイミングならば退役は可能だぞ?」
「今さら退役を望んだりしませんよ、わたしには他に出来る事も無さそうですし。でも……、うん。だったらお願いが
あります。異動願いのフォーマットを下さい。……あぁ、隊長がキライとかそう言うんじゃないですよ?」
「ははは……。わかっているさ。そんな所に気をつかわんでも良い。で、何をするつもりだ……?」

次回予告 最終話 最後の約束
砂漠の町に駐屯する部隊を率いる女隊長の元へ、ザフト上層部から視察隊が訪れる。
そして普通の暮らし、そのカタチを模索するミツキの思いは空にかかる橋の上へと……。
257弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/08/29(水) 22:56:58 ID:???
今回分以上です、ではまた。
258通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:25:49 ID:???
「っ!」
 大地に膝をつき、うなだれていたサイ・アーガイルは、おもむろにその顔を上げた。
 そして、立ち上がるや、港とは逆の方に走っていく。
「おいっ、何処に行くんだサイ!?」
 トール・ケーニヒが、そう声をかけながら追おうとする。それを、ミリアリア・ハウが腕をつかんで止めた。
「そっとしといてあげましょうよ」
 サイは、婚約者のフレイ・アルスターと別れ別れになる。
 その悲しみを癒そうとしているのだと、ミリアリアは想像していた。
「・・・・そうだな」
 トールは、ミリアリアの言葉に従い、サイの背を見送るに終わる。
 サイは、市庁舎がある市街中心部に向かってがむしゃらに走っていき、やがてその姿を消した。
 見送りが終わったところで、カズイ・バスカークが言う。
「なぁ、僕等も家に帰らない? さっきの兵隊さんも、ZAFTが来るから隠れてろって言ったし」
「そう・・・・だなぁ。とりあえず、皆の無事は確認できたし」
「そうね、ここにいても、何もできないもの」
 トールと、ミリアリアは、カズイの言葉に賛同する。
 そして、トールはキラ・ヤマトに聞いた。
「キラはどうするんだ?」
「・・・・ZAFTが来るんだよね? 会いに行けないかな?」
 キラが返した言葉は、トールの質問に答えてのものではない。
 今までの話など聞いていなかったので、トールの問いに、反射的に自分の考えが口に出た。
 キラは、ZAFTがヘリオポリスに進駐してくるというのなら、アスラン・ザラに会えないかと考えたのだ。
 その答えに、トールは僅かに眉をひそめる。
「ヘリオポリスをこんなにした敵と会いに行ってどうするんだよ?」
「アスランは敵じゃない!」
 キラは、突然表情を怒りに変え、トールに向き直って叫ぶ。
 が、その怒りは、トールの前で萎れるように消えていった。
「敵じゃ、ないんだ・・・・」
 何か意味ありげに言うキラ。
 トールは訝しげにキラを見、同じく訝しげにミリアリアがキラに聞く。
「何かあったの? アスランって、誰?」
「昔の友達なんだ。でも、ZAFTの兵士になっていた」
「それは・・・・」
 キラの答えを受け、トールは言葉に詰まった。
 旧友と敵味方に別れての再会。どう答えたものか。
 気休めを言って慰めるには、トールの口は上手くなかった。
 と、トールが悩んでるところに、カズイが口を挟む。
「キラ、それあんまり言わない方が良いよ? みんな、ZAFTを敵だと思ってる」
「でも、アスランは敵じゃないんだ!」
「・・・・まあ良いけど」
 反射的に叫ぶキラに、カズイはもう忠告するのを止めようと思った。
「家に帰ろうよ。キラも帰った方が良い。僕は帰るよ」
259通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:27:43 ID:???
 ローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフの中。
 MSデッキからパイロット用の二人部屋に戻ってきたミゲル・アイマンは、同室のオロール・クーデンブルグの声に迎えられた。
「見つからなかったな」
 一足先に帰ってきていたオロールは、ベッドに腰をかけながら暗い表情で苦笑いしている。
「キザな仮面が気に入らない奴だったけど、こうなると哀れでしょうがない」
「ああ・・・・苦しまないと良いな」
 ミゲルもオロールに同調して頷く。
 ヘリオポリスからのMS奪取の直後、ミゲルやオロール等ガモフのMS部隊、そして連合MSに乗った赤服達までが周辺宙域を捜索していた。
 しかし、ラウ・ル・クルーゼが乗ったシグーは見つからないまま・・・・ついに捜索は打ち切られた。
 誰もいない宇宙を何処までも漂いながら、徐々に汚れていく空気の中で、いつか遠くない死を迎える時を待つ。
 宇宙で戦う者にとって常に覚悟しなければならない・・・・そして、出来るならば避けたい、最悪の死だ。
 ミゲルは、重い気分で自分のベッドに這い上がり、横になる。
 時間がどれだけあるか判らないが、少しだけでも寝ておこうと。
 そんなミゲルに、オロールは聞いた。
「これで、ミゲルがMS隊の隊長か?」
「そうなる。でも、赤服新兵達は俺の管轄外になるだろうな。肩の荷が下りたよ」
 ミゲルのどうでも良さげな返答に、オロールは舌打つように返す。
「赤服共は連合から奪取した機体でプラントに凱旋か」
「仕方ないだろ。そもそもが、議員の御子息達に箔を付ける為の作戦だったんだ。
 英雄が生まれれば戦意も上がる。目的は果たしたのに、このまま戦場を引っ張り回す方がどうかしてる。
 それに、俺達にだってボーナスぐらいは出るだろう」
「ボーナスか・・・・へへっ、そりゃ良い」
 オロールの嬉しげな声に、ミゲルは興味を覚えた。
「どうしたんだ?」
 聞いたミゲルの顔の前に、開かれた雑誌が突き出される。
 そこには、真っ赤なスポーツカーの写真が載っていた。確か、大人気の最新モデルだった筈だ。
「もう少しで金が貯まるんだ。ボーナスが出たら、一発さ」
 オロールは、それが楽しみでならないらしく、満面の笑みで続ける。
「俺、こいつを買ってストリートを乗り回すんだ。
 ミゲル、お前も乗せてやるよ。他の誰よりも先に乗せてやる。
 そして、後ろには女の子を乗せようぜ。なに、この車でナンパすれば飛び乗ってくるさ」
「ああ、そりゃ良いな。約束だぞ」
 ミゲルも自然、微笑みながら返す。そう言うのも良い。
 ミゲルは、ベッドに寝直して、睡眠を取る事に決めた。
 オロールはそれに気付き、邪魔をしないように自分のベッドへと戻る。
 ミゲルは眠りに落ちるその時、真っ赤なスポーツカーとそれを運転するオロール、助手席に座る自分、そして後部座席ではしゃぐ弟の姿を思い描いていた。
260通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:28:56 ID:???
「誰か!?」
 宇宙港の軍の管轄区入り口の通路に立っていた歩哨の連合兵は、走り寄ってくる人影に銃を向けて誰何した。
 人影・・・・サイはそこで足を止め、荒ぐ息を整えながら、大事に持ってきていた紙を二枚差し出す。
「帰化申請書! そして、兵役への志願書です! 連合軍に志願します!」
 大西洋連邦への帰化を希望する事。そして、その為に兵役につく事。
 書類が表すのは、この二つ。
 連合兵は驚き、思わず銃を下げる。
「落ち着けよ。何を言ってるんだ?」
 落ち着けとサイに言いながら、明らかに狼狽えている連合兵に、サイは落ち着いた様子で言い返した。
「連合軍に志願します」
「・・・・志願って、今の状況が判ってるのか? オーブ人なら、脱出しなくても・・・・」
「判ってます。でも・・・・」
 サイは、僅かな逡巡の後に、決意を込めてはっきりと言い放つ。
「守りたい人が、連合国籍なんです。連合の船に乗っているんです」
 フレイを守る為に、一緒にいる為に、サイは連合軍に入る事を決めた。
 この事は、友人達には内緒にしている。
 彼らを巻き込みたくない。特に、トールあたりは、一緒に志願するとすら言い出しかねない。
 だから、一人で決め、一人で実行した。
 崩れかけて閉業中の市庁舎から申請書を取ってきて、必要事項を書き込んだ後、ここまで走ってきたのだ。
 サイにそうまでさせたその決意は、連合兵も察した。
 幾つか、止めさせようと説得の言葉を探し・・・・そして言葉を見つけられず、連合兵は諦めて通信機を手に取る。
「・・・・わかった。確認してみる。待ってろ」

「志願兵? ・・・・わかった。書類がそろっているなら受け入れよう。まず物資搬入作業の方へ」
 ブリッジで指揮を執っていたナタル・バジルールに届いた確認。
 忙しい時間の中、ナタルは深く考えずに許可を出した。
 ともかく、人手が欲しかったのだ。
 アークエンジェルでは、凄い勢いで脱出準備が行われていた。
 連合国籍の市民の避難誘導とアークエンジェルへの物資搬入が急ピッチで行われている。
 脱出までのタイムリミットに設定した時間は五時間。とはいえ、これは目安にすぎず、敵に動きが有れば即座に対応する事になるだろう。
 一刻とて、無駄には出来ない。ナタルは、全ての作業を監督していた。
「どうした? 重要情報の回収は終わったか。残りがある?」
 新たに来た通信にナタルは答える。
 基地にあった重要情報の回収や破壊をしていた班から、手を付けられる場所は全て終わったとの連絡だった。
 コンピューターの中にあった情報や、機密書類などの重要な物に関しては処理したという。
 しかし一部、基地が破壊されてた事により、瓦礫などに埋まったお陰で近寄る事も出来ない物もあった。
 技術者の私物のコンピューターや、MS用の予備部品などだという。
 ナタルは、工兵かMAを使って破壊する事を考え・・・・
「残った情報は、MSに関係する物だけか? 連合の軍事に関わる物は? ・・・・無いか。
 MS開発の情報なら、放棄もやむを得ない。作業を終了させて、アークエンジェルに戻ってくれ」
 MSは、どうせ現物が敵に奪われている。情報の漏洩はもう避けられない。
 ならば、多少の追加情報は諦めて、人員を戻して脱出準備をさせるべき。ナタルはそう考えた。
 通信機の向こうからは、了解の声が返る。ナタルは通信機を置いた。
「残るは、避難民の収容と物資積み込み。そして・・・・」
 呟くように言って、ブリッジの天井を見上げる。
「港を出てから、ZAFTと一戦か」
 それは、他の何よりも困難な仕事だと、ナタルは頭を悩ませていた。
261通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:29:58 ID:???
 一方、MAパイロットの二人は、アークエンジェルの格納庫でシミュレーターをやっていた。
 シミュレーターに乗るのはマリュー・ラミアス。そして、教官はムゥ・ラ・フラガ。
 シミュレーターに表示されるTS-MA-04Xザクレロのスペックを見て、ムゥは呆れたように声を上げた。
「良く生きてたな。これ、正規のMA乗りでもなければ死ねるぞ」
 ベテランのムゥから見ても、ザクレロは人間の限界に挑戦でもしたのかと聞きたくなる代物だった。
 いや、格闘戦用MAなどというカテゴリーからして冗談にしか見えないのだが。
 高速で敵に突っ込み、近距離で拡散ビーム砲を浴びせ、ヒートナタで叩き斬るなんていう戦い方は自殺行為にも思える。
「加速でかかるGで、ペシャンコになるって話? 安心して、もう体験したわ」
 マリューは軽く言い返す。加速の洗礼には晒されていた。でも死にはしなかったと。
 しかし、ムゥはマリューの甘さを嗤って言葉を返す。
「気絶しなかったんだろ? じゃあ、まだまだこいつのスペックを引き出せてない。いや、引き出せなかったから助かったとも言えるか」
 本来の加速力を出していれば、マリューはすぐに気絶していた事だろう。
 パイロットが気絶してしまえば、MAはただの棺桶だ。撃墜か、もっと運が悪ければMIAが待っている。
 MIA・・・・戦場での行方不明の意味だが、広大な宇宙で行方不明になると言う事は、多くの場合、絶望に満ちた最後を迎える事を意味していた。
「何がどうあっても、五時間で、あのパンプキンヘッドを乗りこなせるようになってもらうからな」
「あんた、また私のザクレロを馬鹿にして!」
 ムゥの軽口に、シミュレーターの中からマリューが怒声を返す。
 しかしムゥは、冷静な風でマリューに言い返した。
「お前を馬鹿にしてるんだよ、お漏らしちゃん。悔しかったら、一人前になって見せろ」
「後で吠え面かかせてやるから、おぼえてなさい!」
「とりあえず、速度調整ができるように練習だな。自分の思った速度が出せないんじゃ、戦いようがない」
 ムゥはマリューを無視して、第一の練習メニューを決めた。
 もの凄く初歩的な事なのが、それだけにこれが出来ないと困る。
「ほれ、フットペダルの強弱だけで一定速度を維持してみろ。直進になれたら、旋回やロールもやるから、早く慣れろよ」
 シミュレーターは、一定の加速度や速度を外れると警報が鳴るようにしている。安定した動きを教える為に。
 しかし、直後に鳴り響き、いつまで経っても鳴りやまない警報に、ムゥは思わず天を仰いだ。
「不可能を可能にする男でも、こいつは無理かぁ?」
262通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:31:12 ID:???
「来たか! 物資搬入作業の手伝いをしてもらうぞ!」
 アークエンジェルの元まで来たサイは、そこで作業の監督をしていたらしい、如何にも無骨な姿の連合兵にいきなりそう言われた。
 アークエンジェルの置かれている港には重力はない。
 それでもサイは慣れた様子で、連合兵の側まで飛んだ。
「え? でも、書類は・・・・」
「大事に取っておけ! 後だ後!」
 書類も出してないし、兵士らしい格好もしていないサイを使うらしい。よほど、人手不足なのだろう。
 連合兵は、サイを見て無遠慮に言った。
「ひ弱そうだな? お前、何が出来る?」
「あ・・・・はい。工業カレッジの学生で・・・・」
「船外作業艇に乗れるか?」
 自分の技能とかを真面目に教えようとしたサイだったが、連合兵は全く耳を貸さずサイに聞く。
「はい、選択授業で資格を取りました。免許もあります」
 サイがとまどいながら答えるやいなや、連合兵は大きく頷き、アークエンジェルの格納庫内に入るように促す。
「動かせる奴がいなくてな。ミストラルが余っている。それで、荷物の搬入作業をしろ」
「ミストラル・・・・って、軍用機じゃないですか!?」
 サイは思わず声を上げた。軍に来て早速、そんな物に乗せられるとは思っても見なかったからだ。
 MAW-01ミストラル。旧式ではあるが、現在も使用されている立派な軍用機だ。
 連合兵について格納庫に入ったサイは、捨てられたように格納庫片隅に置かれた機体を見る。
 その側までサイを案内してから、連合兵は言った。
「ZAFTの機械人形が出てからは、ただの棺桶だ。戦闘に使う奴はいない。
 だが、船外作業には十分に使える。ひ弱な坊やが荷物を運ぶよりは役に立つだろう。
 火器管制のスイッチは入れるなよ。一応、武装はあるが荷物運びには必要ない」
「はい、わかりました」
 拒否するという選択は意味がないので、サイは素直にミストラルに乗った。
 中は、基本的には船外作業艇と変わらない。というか、民生用のミストラルになら、サイも乗った事がある。
 ミストラルを起動させ、OSが立ち上がるのを見守った。
 OSの中身も、民生用と大差ない。
 ただ違うのは、起動メニューの中に火器管制という項目がある事だった。
 機関砲二門という貧弱な武装ではあるが、これが兵器なのだと思い起こさせる。
「本当に軍に来たんだな・・・・」
 胸の奥に後悔がわく。今になって、怖いという気持ちがふくれあがってきた。だが・・・・
『おい! グズグズするな! 準備が終わったらさっさと格納庫から出ろ!』
 ミストラルの通信機から飛び出てきた、先ほどの連合兵の怒声が、サイの意識を現実に引きずり戻す。
「はい、今出ます!」
 サイは通信機に答えてから、ミストラルをゆっくりと動き出させた。
263通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:34:42 ID:???
『連合軍の脱出と同時に、ヘリオポリスは無防備都市宣言を出し、降伏します。
 これ以上の攻撃は、ヘリオポリスの崩壊があり得ますので、避けて頂きたいのです』
「なるほど、そちらの状況は判りました」
 ヘリオポリスの行政官からの通信に、ローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフの艦長ゼルマンが、ブリッジの艦長席に座して応じていた。
 ゼルマンは今、部隊指揮を執る役目を負っている。
 ラウ・ル・クルーゼはMIA。つまりは行方不明。
 ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウス艦長のフレデリック・アデスは、艦橋を破壊されて戦死。
 もうゼルマンしかいないのである。
「わかりました。ヘリオポリスへの直接攻撃は避けましょう」
 ヘリオポリスを破壊すれば、自国のコロニーを破壊されたオーブが、プラントに対して敵対するかもしれない。
 オーブは永世中立を謳ってはいるが、どう転ぶのかなど軍人のゼルマンには判断がつかなかった。
 ただ、無闇に攻撃して自国を不利にするような真似はすべきではないという自制はある。
「しかし、連合軍が抵抗する以上、どうしても戦闘に巻き込んでしまう可能性が・・・・」
『ヘリオポリスの、損傷部位のデータを今、送らせて頂きました。
 特に損傷の大きい部分への攻撃を避けるだけでもお願いします。
 それと・・・・ヘリオポリスを傷つけないように戦う為に、お役に立てばよろしいのですが』
 行政官の微妙なニュアンスを込めた言葉に、ゼルマンは興味を引かれた。
 直後、ゼルマンに通信士が声をかける。
「艦長、ヘリオポリスから送られてきたデータに、連合の新型艦のデータがあります」
「なるほど・・・・これは助かりますな」
 ゼルマンの答えは、通信の向こうの行政官へのものだった。
『いえ、これから降伏する身です。寛大な処置をお願いしたい』
 ヘリオポリスは尻尾を振る相手を変えてきたのだろう。いや、それとも行政官の個人的なサービスかもしれない
 何にせよ、ヘリオポリスは今、全力で保身をはかっている。
 所詮はナチュラルだからと内心で嘲笑い、ゼルマンは答えた。
「了解した。本国にも掛け合おう。ヘリオポリスの扱いも、貴方の身の保証も」
『ありがとうございます・・・・』
「では、これで失礼」
 行政官の媚びた台詞は、ゼルマンは最後まで聞く事もなかった。それよりも、早く考えなければならない事がある。
 ゼルマンは通信を切ると、現在残された戦力の確認を始めた。
264通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:36:03 ID:???
 ヴェサリウスは艦橋を失い、推進器も破損している。幸い、自沈する事はないが、とても戦闘には使えない。
 まともに使える戦力は、ガモフ一隻とガモフに搭載してあった三機のジン。
「いっそ、合流してから叩くか?」
 後続のローラシア級モビルスーツ搭載艦ツィーグラーが、合流する予定になっている。
 それには、ミゲル・アイマン専用ジンを始め、何機かのMSが積まれているはずだ。これは大きな戦力になる。
 しかし、合流予定日時はまだ先。合流してからとすれば、連合に逃げる時間を与えてしまう。
「やはり、今ある戦力だけで、一戦は避けられないか」
 連合MSが、戦力として使い物になるかどうかが判断のしどころだった。
 何せ、奪取に成功はしても、その後の実戦投入で失ってしまっては何の意味もない。
 ラウなら惜しみなく実戦投入を決断したかもしれないが、ゼルマンはラウと違い責任感の強い男だった。
 そこで、ゼルマンは連合MSを二軍と見る事にした。
 ヴェサリウスに搭載して戦場から遠ざけ、ガモフの背後に置く。ガモフの後背の索敵と、ヴェサリウスの護衛を任務とするのだ。
 では、残る戦力でどう攻めるか・・・・ゼルマンは考え、決断を下す。
「ジンをD装備で出撃準備させておけ」
 通信機を取り、言葉短くMSデッキに伝える。
 D装備・・・・「M66 キャニス短距離誘導弾発射筒」「M68 パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒」「M69 バルルス改特火重粒子砲 」
 拠点攻撃用重爆撃装備と呼ばれる、そのままの意味の任務に使われる装備だ。
 MAの様な高機動兵器に使うのは馬鹿げている。しかし、重突撃銃を易々と弾く装甲を持つMSに対抗できる武器は他にない。
 それに、ヘリオポリスから連合の戦艦が出てくるところを一気に叩けるのは、おそらくD装備だけだ。
「しかし、戦艦・・・・そして、新型MAか」
 ヘリオポリスから渡されたデータを、手元のコンソールに呼び出して読む。
 写真と、外観から予測したデータが主で、軍の内部資料的な物ではない。おそらく、オーブ側が勝手に集めた資料なのだろう。
 ただ、予測値であっても、その性能は明らかにローラシア級モビルスーツ搭載艦を超えていた。
 それは良い。MSが三機あれば、戦艦一隻など幾らでも落とせる。
 だがそれは、MSが戦艦に取り付く事が出来ればの話だ。
「やはり、新型MAの性能次第だな。張りぼてだと良いのだが」
 ゼルマンは呟く。
 しかし、クルーゼを落としたという一点だけを理由として、新型MAの性能を侮る事は出来なかった。
265通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:38:38 ID:???
 ナタルは、アークエンジェルのブリッジで艦長席に座り、コンソールに表示した時計を睨んでいた。
 そんな彼女には、各方面から最終報告が上がってきている。
 連合国籍の市民の収容は完了。一部、残る事を決めた者や、行方不明の者を除き、全員が収容された。
 物資の積み込みは概ね完了。基地の備蓄物資を相当量運び込んだはずだが、具体的に何があるかはまだまとまっていない。
 何か、足りない物があるかもしれないが、今はどうしようもない。
 タイムリミットに伴い、作業をしていた全連合兵はアークエンジェルに搭乗を完了。残っている者は居ない。
 アークエンジェルは今、その全機能を立ち上げ、出航の準備を終えていた。
 ナタルの見る時計が、時間が来た事を示す。
「・・・・アークエンジェル、出航!
 全クルー、戦闘準備! 港を出てすぐ、会敵するぞ!」
 ナタルの号令を受け、艦内各部署が動き出す。始まる戦闘に向けて。

「さあ、行きましょうかザクレロちゃん」
 マリューは、ザクレロのコックピットの中、ナタルの声を聞いていた。
 ザクレロは、アークエンジェルの外におり、アークエンジェルに先行して外に出る。
 待ち伏せの敵があった場合に、それを蹴散らす為に。
 ザクレロは浮上、練習の成果あってか、戦闘モードであるのにゆっくりとした動きで・・・・
 と、思った時、ザクレロは急加速した。壁に突っ込む・・・・直前に急制動。跳ねるような動きで、方向を変え、港出口めがけて疾走する。
「あああああっ! ストップ! ストップぅっ!」
 マリューの悲鳴が響き渡る。

「何やってるんだ・・・・」
 回線を開いていたムゥは、メビウス・ゼロのコックピットで舌打ちを打つ。
 メビウス・ゼロは今、アークエンジェルの中。
 アークエンジェルがヘリオポリスを出てから射出される事になっている。
 戦闘では、アークエンジェルの直掩と、ザクレロの後方支援を受け持つ。
 だが、マリューの操縦では、メビウス・ゼロが支援に出るまで生きているかどうか。
 やはり、五時間程度の練習では、付け焼き刃にもならなかった。
「・・・・死ぬなよ。そこまで、でかいおっぱいは貴重なんだ」
 誰も聞かない冗談・・・・あるいは本音を言って、ムゥは出撃の時を待つ。

 通信機からあふれ出すマリューの悲鳴に、通信士がナタルを困ったような目で見た。
 ナタルは一抹の不安を覚えながらも、冷静を装って命令を出す。
「作戦通りだ。ザクレロの後に続いて外に出ろ」
 アークエンジェルは、特に何の問題もなく動きだし、ザクレロの後を追う。
 今、アークエンジェルは、ヘリオポリスから出航した。
266通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 02:41:03 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
267通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 16:10:53 ID:???
>>弐国
 投下乙です。
 只管エディとミツキとの関係が描かれてきただけに、最後ミツキの爆発が
物悲しくなってしまいました。
 ティモシーが最後までいいキャラクターでした。
 上手く感想が書けません。最後、ヒロインに異名がつくのは恒例になって
いくんでしょうか、それからひょっとして最後に出てきた記憶喪失少女が
第四期のヒロインなのでしょうか?
 最終話をお待ちしております。

>>ザクレロSEED
 投下乙です。
 悲惨な目に合っているラウを気遣いながら危険なフラグ会話をこなすミゲル、
ザフト相手にきっちり対応しているヘリオポリスの行政に、勢いで連合入りする
漢なサイ。と展開そのものはどが付くほどシリアスに進んで居るのに、AAの
主力がザクレロ……。
 物語にザクレロを混ぜる匙加減と文章力が秀逸で、シナリオに引き込まれて
すらすらと読んで行けます。
 蛇足かも知れませんが、、『……』は三点リーダー『…』を二つ連ねて使います。
無粋ですね、はい。
 GJ.
268通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 19:13:23 ID:???
>機動戦士ザクレロSEED
ナタルがきっちりと艦長をこなしていてかっこよくて素敵です
ムウが飄々としていて素敵です
サイが一生懸命で素敵です
でもそれ以上にマリューがいっちゃってて素敵すぎます

できれば最初のレスの名前欄でも良いのでタイトルをいれてください
途中まで読まなければ、どの話か分からないのがもったいないです

269通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 19:40:28 ID:???
>>257
いよいよ次回最終回ですか
やはり、ハッピーエンドとはいかなかったのですね。

>>266
私のザクレロにザクレロちゃん吹いた
(ちゃんって顔か?)
マリューさん、すっかりザクレロちゃんに惚れ込んじゃってますね。
ザクレロへの愛が伝わってきます
あれは、いい物だ
270通常の名無しさんの3倍:2007/08/30(木) 21:53:07 ID:???
こんなスレが出来ました。語ろうスレの派生です。

http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1188388250/l50
271通常の名無しさんの3倍:2007/08/31(金) 09:14:08 ID:???
>>lunatic
投下乙
痛々しいまでの愛情みたいな物をひしひしと感じる
多少の恐怖と、そしてもの悲しさを感じるのは、ひとえに作りが
ルナマリアに心情的に肩入れ出来る様になってるから。なんだろうな
まさにタイトル通り。看板に偽り無しw

タイトルのダブルニーミングとかは上の人が書いてるので割愛
個人的に思うのは”タイトル以外”に主人公がルナマリアである事
の必要性があったかどうか
むしろ『無い』と言われればあ、そう。で終わりそうな話ではあるがね


>>砂漠
投下乙
良い意味で、ありきたりのハッピーエンドになるのだと思っていた。ちょっと意外
次回でどうオチを付けるのか、期待
普通の登場人物ならば喜びそうな、二つ名と専用機。両方気に入らないミツキに萌え

かなり文章を削った印象だが、(特に前回の戦闘開始直後と今回の対レイダー戦。違ってたらごめん)
むしろ前後編とかにしてさらに話をふくらませても良いのでは無いかと思う
何某かの縛りがあってのその文章だと言うのはわかった上での話


>>ザクレロ
投下乙
みんな言ってる事ながら、シリアスなシナリオ進行の中にザクレロが入ることで流れがねじ曲がる
やはりザクレロの”顔”が浮かぶのが大きいかな。種のデザインラインにあり得ない顔だしw
ザクレロマリューのキャラも絶妙
定期的に投下してくれるなら個人的に嬉しい

セリフ回しや状況説明も相変わらず破綻がない。安心して読める
『…』とタイトルについては上の人が言ってるので割愛
272通常の名無しさんの3倍:2007/09/01(土) 00:15:17 ID:???
夏休み終了記念投下待ち
273逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:21:07 ID:???
 オーブ占領の報告から四時間前……アスランはJ.Pジョーンズの艦長席に鎮座していた。
 かつてのファントムペインが搭乗していた艦である。
 ネオザフトはコーディネーターだけで構成されているわけではない。
 ザフト兵、連合兵、そしてオーブ兵……アスランの考えに同調した者達は数多くいる。
 それにはアスラン・ザラというネーミングが大きな役割を果たしていた。
 英雄アスラン・ザラの名は世界的に有名である。
 四年前ザフトの議長を務めていたパトリック・ザラの信奉者は未だに少なくはない。
 旧ザラ派の者達はアスラン・ザラを祭り上げることでその権利を拡大しようと画策していた。
 旧デュランダル派はデスティニープランの実施という甘言に踊らされていた。
 かつてアスランがデュランダルを否定し、反乱を起こしたものであるということを忘れているようであった。
 そして、どちらにも共通するのはラクス政権に反感を抱いていることである。
 結局のところ反クラインの象徴として彼を担ぎ上げているだけである。
 象徴として彼程適切な人材はいない。
 だが、彼もそれは理解していた。
 理解していたからこそそこに立っていられたのである。
 アスランはモニターから外を確認する。
 オーブに侵攻するには申し分ない戦力である。
 アスランは何度か時計を確認する。
 時は満ち足り。
「これよりオーブに侵攻する。邪魔するものは排除しろ。
ただし、民間人には出来る限り攻撃はするなよ」
 アスランの声が響き渡る。
 その声とともに待機状態にあったMSと戦艦が一気にオーブ領海に踏み込む。
 そこには待ち構えていたかのようにオーブ軍が現れた。
 アスランは予想通りだとばかりに笑みを浮かべていた。
 命令通りに邪魔ものであるオーブ軍を排除しにかかる。
 ムラサメがムラサメとがぶつかり合うという奇妙な構図である。
 その横ではウィンダムとバビが共闘し、ムラサメの相手をしていた。
 指揮官機であるグフは先行して道を切り開く。
 状況はネオザフト側が有利だった。
 とは言えオーブは数では勝っている。
274逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:22:49 ID:???
 オーブも小国とはいえ国家だ。一テロリストであるネオザフトに戦力で負けたりはしない。
 次第に抵抗が激しくなりネオザフト軍の進行速度が停滞していく。
 オーブ本土から次々とMS部隊が発進していた。
──頃合いか。
 アスランは椅子から立ち上がると格納庫へと向かった。
 そこにあるのはかつての己の愛機であったセイバーだ。
 インフィニットジャスティスは現在オーブにある。
 間に合わせのためとはいえ、それでも十分過ぎる力を持っている。
「アスラン・ザラ、セイバー出る」
 轟音とともにJ.Pジョーンズを飛び出した。
 戦場に飛び出してきたセイバーにオーブ兵達は動きを一瞬止めた。
──赤いMS。
 赤いMSはアスラン・ザラが愛用しているものだ。
 オーブ兵は緊張からかゴクリと息を飲み込んだ。
 そして、我を取り戻したようにオーブ兵はすぐにセイバーに攻撃を仕掛ける。
 だが、アスランは意にも介さなかった。
 ビームライフルによる的確な射撃でムラサメのコクピットを撃ち貫いていく。
 アスランが通った後には撃墜されたMSだけが残った。
 残ったものは絶叫しながらセイバーに攻撃を仕掛けるも軽くいなされてそのまま刃に貫かれその絶叫もかき消された。
 アスラン・ザラは強すぎた。
 ネオザフトの侵攻は止まらない。
 戦闘のセイバーが作った道をただ行けば良いだけだ。
 止まりようがない。
 アスランの視界にオーブ本土が映った。
 その前にいるのは最終防衛ラインを守るために集められたオーブの精鋭である。
 中央にはオーブの金色の守護神たるアカツキがいた。
「アスラン。お前をこれ以上進ませるわけには行かなくてな。悪いがここで帰って貰う」
 アスランの元にムゥ・ラ・フラガから通信が入る。
 律儀にもアスランはそれに応対する。
「その程度の戦力で我々は止まりません。死にたくなければ早く帰った方が良いですよ」
 そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「へっ、言ってくれるじゃねえの。だがな……ここから先には一歩も進ませないぜ!」
275逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:23:57 ID:???
 そう言った直後にセイバーに向け光が放たれる。
 セイバーは難なく避けるが、隣にいたディンが貫かれ炎上した。
 それを皮きりにオーブ軍が動き始めた。
 アスランはというと小さく息を吐くとギロリとした瞳でアカツキを睨みつけた。
 ビームサーベルを構え一直線にアカツキへと向かう。
 その動きを遮るようにムラサメがビームライフルを連射する。
 が、掠りもしない。まるで、ビームライフルが意図的にセイバーのことを避けているかのようだった。
 刹那、セイバーからアムフォルタプラズマ収束砲が放たれる。
 回避行動を取るも虚しく、光の奔流に包まれそのまま爆散した。
 フラガはその光景を一瞥するとビームライフルを放つ。
 正確無比なその一撃は初めてアスランに回避行動を取らせた。
 フラガはビームライフルを連射し続ける。
 アスランは思わず舌打ちをした。
 近寄らせなければセイバーではアカツキは倒せないからである。
 ヤタノカガミを持つアカツキ相手にビームライフルを放ったところで効果はない。
 むしろ、自分に跳ね返ってくるため攻撃を加えてはいけないくらいだ。
 逆にアカツキはいくらでもセイバーに対し攻撃を仕掛けることが出来る。
 つまり、この戦いアカツキはセイバーを近寄らせなければ負けることはないのである。
 だが、しかし相手はアスラン・ザラだ。
 後退しながらではあるが、徐々にアカツキへと近づいていく。
 そして、何度目かのビームライフルが来た瞬間に一気に踏み込んだ。
 急加速により強烈なGがアスランの体を襲うが、気にもせずビームサーベルをアカツキに向け放つ。
 危険を感知したフラガはビームサーベルを構えセイバーの一撃を防ぐ。
 ビームサーベル同士で鍔迫り合いをする。
 パワーはセイバーの方が上だ。徐々にアカツキを押し込んでいく。
 アカツキは蹴りを放ちセイバーの体を吹き飛ばした。
 強烈な衝撃がアスランの体を襲い、一瞬動きが止まる。
 PS装甲も衝撃まで消すことは出来ない。
 止めとばかりに踏み込んでくるアカツキの姿がアスランの視界に入ってきた。
276逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:25:10 ID:???
 アスランがスイッチを押すと、マズルフラッシュの閃光とともにCIWSが放たれた。
 PS装甲を持たないアカツキにCIWSの段幕は効果的である。
 怯んだアカツキに止めを指すべくビームサーベルを構え距離を詰めていく。
 だが、その動きはムラサメのビームライフルで分断される。
 これ以上近づくのは無謀と判断を下したアスランは一端距離を取った。
 アカツキからはビームライフルが放たれるが、検討違いの方向に飛んでいった。
 コーディネーターでないフラガにとってCIWSの直撃による衝撃はかなり堪えているようである。
 アスランは邪魔ものであるムラサメに向けビームライフルを放った。
 ムラサメはセイバーから放たれるビームライフルを避け反撃をした。
 虚をつかれたアスランは今日の戦闘で初めてシールドを使う。
 信じられないことだった。アスランの攻撃を避けられるパイロットなど数少ない。
 軽く舌打ちし、ビームサーベルを構えながらムラサメとの距離を零にする。
 放たれしサーベルがムラサメの体を捉え、そのまま機体を引き裂いた。
 何体かのムラサメは真横からビームライフルを放つ。
 アスランが回避行動を取った先にはアカツキがいた。
「しまった……」
「うぉぉぉぉっ!」
 ビームサーベルが絶叫とともに振るわれる。
 シールドごと右腕を絶ち切った。
 すぐに第二撃が来る。
 アスランはそれを神懸かり的な反応で避けるとCIWSを使い、強引にアカツキを突き放した。
 MA形態に変形し、一気にアカツキを突き放した。
 十分な距離を取ると再びMS形態に戻る。
「へっ、多勢に無勢だ。諦めな坊主」
「……今頃俺の部下が本土に到着しているはずだ」
「まさか、別動隊だと!?」
 アスランはニヤリと笑うだけだった。 フラガはやられたとコンソールを叩きつけた。
 まさか、アスランを囮に使うなどとフラガは夢にも思っていなかった。
 今更アスランから目を離すわけにもいかない。
 これ以上戦力を減らしてどうにかなる程、彼も甘くはなかった。
 かと言ってこのまま戦い続けるわけにもいかない。
277逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:26:24 ID:???
 ならば、どうするとフラガは自分自身に問う。答えは一つだけだ。
「お前をさっさと倒してカガリの方に向かう」
 アカツキは初めて自分から突撃を仕掛けた。


 包囲網を抜けたムラサメ部隊は首長官邸へと突撃をかける。
 手薄になっていた警備を破るのは造作もないことだった。
 地上にいるM1アストレイを一蹴するとサングラスの男は地上に降り立った。
 部下を引き連れ官邸へと侵入する。
「計画通りことを運べ」
 アスランが事前に仕込ませていたオーブ兵達に命令をかける。
 サングラスの男の男の言葉を受け、オーブ兵に紛れ込んだ兵達は近くにいた警備兵を射殺した。
 部屋に火薬の臭いが充満する。
 異変に気づいたカガリは国防本部に連絡を取ろうとしたが時既に遅かった。
「チェックメイトですよ。カガリ・ユラ・アスハ」
 周りの警備兵達は扉が開くとともに射殺された。
 カガリは銃を構えた兵達に囲まれる。
 武器も持たないカガリにこれだけの兵達を相手に出来る道理はない。
 渋々と両手を頭上に翳した。
「貴様何者だ……」
 カガリはリーダー格であるサングラスの男を睨みつける。
「おや、分かないかか。僕だよ」
 そう言ってサングラスを外す。
「お前は……バルト……フェルド」
 その姿はかつてのアークエンジェルクルーにしてカガリの天敵であった砂漠の虎──アンドリュー・バルトフェルドであった。
278逆アス ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 10:28:30 ID:???
段落変えを途中で完全にミスりましたね。
本来なら場面が入れ替わるところで持ってくるべきでした。
今回はここまでです。
279 ◆MATdmc66EY :2007/09/02(日) 11:38:14 ID:???
あっ……砂漠の虎はアークエンジェルクルーじゃなかった……。
またミスりました……。

それと一行空けについて教えてくれた方ありがとうございました。
280通常の名無しさんの3倍:2007/09/02(日) 13:05:25 ID:???
>>逆襲のアスラン
 投下乙です。引きが上手くてよいですね。
 誤字は……自分で探しましょう。推敲をもう一度した方が良いです。
全体的に、三人称で書かれて居るので特に戦闘の時に平易な感じ受けます。

 二十年後の世界に、アカツキやムラサメやセイバーが現役である辺りは
説明が必要だと思います。

 戦闘の時には誰か一人に視点を絞り、何がしたい、何をされたくない、
如何動きたい、といった意識の動きを少し描写した方が言いと思います。
 例えば爽快感を出したいなら、強い方に視点を合わせてばったばったと
なぎ倒す事に描写を集中します。緊張感を出したければ、弱い方に視点を
合わせて物事が上手く行かない描写をします。

 次に今回の場合です。今回は作劇上でかなり大きな問題があります。
それは『オーブが陥落した事を読者が知って居ること』です。よってオーブが
陥落するかどうか分からない、という緊迫感は既に失われています。
 その辺りに気をつけて見てください。

 シナリオは結構先が気になる出来です。次回を楽しみにしています。
281通常の名無しさんの3倍:2007/09/02(日) 13:09:34 ID:???
>>280
二十年後じゃなくて二年後の世界だからムラサメが主流なのは当然だと思うぜ
多分あんさんはガンダムSEED Eの人と間違えてる
282通常の名無しさんの3倍:2007/09/02(日) 13:26:37 ID:???
>>281 >>逆襲のアスラン
 すみません、素で間違えました。
283通常の名無しさんの3倍:2007/09/03(月) 14:02:56 ID:???
>>逆襲
投下乙
JPジョーンズ艦上からアカツキ対セイバー、首相官邸
一気に読ませる構成は巧い
台詞回しもキャラを壊す様な破綻無し
次回投下分にも期待


上の人と被るが、入り込んで読んでる時に誤字は勿体ない
つまらない所でケチを付けられない様に推敲の回数を増やすことを勧める
それから一部主語が抜けてる様に見える部分がある
スピード感はあるのに平べったく見える原因の一つかと
この辺も幾度かの推敲で改善されるはず
もう一つ、オール一字下げよりは個人的には段落下げの方が読みやすいのだが
前にも言われた通り、個人の好みの問題だろうからスルーしてくれていい

ついでに重箱の隅だろうけど
状況説明を見る限り、ネオザフトの主力がムラサメである理由がよくわからない
せっかく緻密に破綻しない設定を作っている様に見えるので
もしかするとその辺も説明する予定があるのかも知れないが、一応
284新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/09/03(月) 15:35:33 ID:???
「さて、始める前にいくつか質問させてもらう。パイロットは戦闘を始める為、最初に何を行う?」
 くだらない質問だった。もうすでに幾度も戦闘に出ているスティングにとってこれは挑発行為と等しく、答える気を失くさせるものだった。
「……答える必要あるか?」
「大有りだよ」
 ああいえばこういうタイプだと直感で悟った。ジョージは椅子に座ってじっくりと回答を待っている。
 答えなければ本番に移れないと分かり、スティングは観念して溜息混じりに答えた。
「……敵を落とす」
「残念。MSに乗り込むだ」
 どうやらジョージは自分をおちょくっているだけのようだ。スティングはようやくそれを理解し、席を立った。
「悪いが、遊びに付き合う暇は――」
「遊びだとはっきり言えるかね。私は事実を言ったまでだ。物事を近くから見るな。遠くから見ろ。遠くからみれば大きいものも小さくなる」
 ジョージの言葉に、スティングは引っ掛かった。誰かから聞いたことのある内容だ。
 それに、この男は何か言い知れぬ威厳を感じさせる。まるですべてを見定めたような目付き。
 気に食わない、が、スティングはこの場から離れる気を失くした。
 それよりも、この話を聞いてみたいという思いに駆り立てられたのだ。
 一度席に座り直し、ジョージを見つめながら不承不承頷いた。
「よし。合格だ。本題に移ろう。君は、この戦争をどう思う?」

せめて、夢の中だけは
第十五話 優れた兵士

 その話を扉越しに聞いていたエクステンデッドの管理という役職についている男は唸った。
「あー、あれか……」
 胸ポケットから葉巻を取り出し、慣れた仕草で火をつける。
『戦争の発端ではない。この戦況をどう思うか。現状は我々が不利だ。地球に居る市民の大半は連中に側についたと言ってもおかしくはない』
 扉越しに聞こえる声を耳にしながら葉巻を口に咥え、吸って吐く。
『今我々は、絶体絶命の危機だ。藁でも掴みたい気分だ……さて、この藁、大きければ大きいほど嬉しいものだ。その藁が……君だ』
「我々はピンチだ。君は救世主だ。自分を信じろ。こんな前時代的な洗脳紛いなことやるとはねぇ……」
 馬鹿らしい、といわんばかりに机を叩く音が聞こえてくる。当たり前だ。
 はぁ、と溜息をついて天井を仰ぐ。そろりと扉から退き、数秒して扉が猛々しく開け放たれた。中から青年が出てくる。
「はんっ。爺は家で寝てやがれ!」
 青年はこちらを一瞥してから足早に立ち去った。
「……あんた、なんだって旧時代的な洗脳なんか……?」
「うむ、最近の若いのには洗脳で言いかと思ったんだが……やはり無理やりしごくしかないか」
 腕組した老人が室内から出てくる。
 そのところどころ古傷の残る顔は苦々しく、同時に楽しそうでもあった。

「ッタク……」
 スティングは自室に戻ると真っ先にベッドに直行し、その身を投げ出した。
 天井を見つめる。いつもと変わらない、つまらないものだ。
「……ッ!」
 そして駄々をこねるように足をベッドに叩きつけた。
 スティングはくだらない話を聞かされて憤慨していた。
285新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/09/03(月) 15:36:42 ID:???
 カオスの調整をしようかとも思ったが、今はあの機体を見ることすら嫌だった。
 ――身勝手な我侭だと、自覚している。あの老人が嫌なのではない。自分が嫌なのだ。
 自分が弱いという事実に対して憤慨し、その憤りを他人にぶつけている自分が。
 だが、そうするほか彼に選択肢はなかった。訓練しても訓練しても……
 結果は変わらない。ただのベテランパイロット止まり。自分はもっと高みへと昇れるはずなのに――
 いや、高みにいたのだろう。おそらく以前は。自分でも分かる。ここ最近迷いが生じてきているのだ。
 迷いは決心を鈍らせ、判断を鈍らせ。いくら足掻いても変わることのない結果。
 この迷いは何だ? 分からない。分からないからイラつく。イラつくから……
 あと少しだ。あと少しで何かがつかめそうだというのに。彼にとってそれは目前であり、遥か彼方にあった。
 まるで……陽炎――否、そう、蜃気楼にも似たものだろう。追えど追えど決して近づきはせず、されど遠のきもせず。
 どっちつかずの元凶に対して、スティングは半ば諦めかけていた。
 やがてスティングは津波のように押し寄せてきた睡魔に勝てず、目を閉じた。

「パワーの最終調整OKっす! 水密の点検も終わりました!」
 水兵が叫ぶ。
 ここ、三番潜水艦ドックにアークエンジェル級三番艦パワーはあった。
 元々は他のアークエンジェル級と同じく飛行能力も備わってパワー。前大戦では末期に地上で開発が終了した艦でもある。
 MSの量産が優先されていたのと調整不足もあって今まで埃をかぶっていたのだ。
 戦争が終わってから調整も済み、宇宙送りとなる予定だったが、水中戦力に不安があった地球軍上層部はこの艦の大改装を決めた。
 アークエンジェルのように前に突き出た滑らかなカタパルト部分をガーティー・ルー級のものと同規格にし、主に対艦、対MS用魚雷を増やし、
 艦上面部にイーゲルシュテルンを増設、ゴットフリートも前部後部に二門ずつ増設した。
 更にMSが水中でも出られるよう専用のカタパルトを前部の両舷カタパルトの外側に設置。
 もちろん上面部のカタパルトからはMSや戦闘機も出撃できる。陽電子砲が無いのはその破壊力ゆえの扱い難さから、といったところか。
 水中では高速かつ強力、隠密に行動できる潜水艦として、浮上すれば小規模の戦闘空母としても行動できる。
 欠点といえば飛行能力が無いことだが、宇宙航行能力ならまだ残っている。さらに艦の自動制御化も進んでおり少数人数で運用できるのも利点といえば利点だ。
 で、この艦の艦長が――

「ご苦労様。助かったよ。よし、注水開始!」
 アル・ダ・フラガ。その人だ。地球連合軍の佐官用の軍服を身に纏っている。
 外見上中年、に見られるが、実年齢はその十を軽く上回る人物でもあった。
 パワーがある場所に注がれる怒涛の水の流れを見ながら、アルは武装コンテナに腰を乗せ何かの液体が入った瓶を口にした。
「っく……んく……」
 瓶から口の中へと運ばれる液体。液体の正体はかの有名なスピリタスウォッカだ。
 喉を刺すような痛みに耐え、いや、この痛みすらも愉しむように口を歪め、瓶から口を離す。
「……ふぅ」
 空になった瓶を脇にそっと置き、静かにため息をつく。
 格納庫内は出航準備で慌しく動き回る整備員と水兵、それと各部署の者たちの出す音と流れる水の音で埋め尽くされていた。
「……歌姫さんはどう動くのかねぇ……まぁいい。始まりだ」
 再び瓶を手に取り、アルは立ち上がった。
 その目にはまだかまだかと出番を待っているパワーの姿があった。

 はぁ、と誰かの口から漏れたため息を聞いて、俺は、目の前で甘そうなミルクコーヒーを啜っているエリスを見た。
「いよいよしゅっぱーつ、だねぇ……」
 それを感じたのかエリスが気の抜けた声をあげる。
 その言葉が余りにも間抜けに聞こえて、俺は噴出しそうになるのを必死に堪えた。
286新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/09/03(月) 15:37:53 ID:???
 ここはアークエンジェル級三番艦、パワーの内部。食堂区画だ。品揃えが良い。極東の名物から西欧の名物まで何でもこいだ。
 ちなみに俺は腹が減っていないのでホットミルクを堪能してる。十六歳にしては背が低く、小柄なのだ。死活問題なのである。
 エリスは十七歳。茶髪のポニーテールとくりりとした大きな瞳が印象的。やや小柄。そのくせ俺よりは背が高い。
 人懐っこい雰囲気がまた。俺的には非常にグッドなのだが、馬鹿なのと時節毒舌になるのが……玉に瑕どころか亀裂。
「マサフミ、今噴出しそうになったね? 逝ってみる?」
 人懐っこい笑顔を浮かべながら、エリスがあっさりと。
「それはどう捉えて欲しいのかね」
「ご想像にお任せします♪」
 ……洒落にならん。格闘技と白兵戦術でこいつに勝てるのは大の大人ぐらいだろう。多分。
 深くため息をつくと両手を挙げ、降参の合図を出す。捕虜に対する暴行は何とか協定で禁止されているのだ。うはは。
「ったく……負けそうになると尻尾を振る、まるで犬みたいだね」
「……ゴールデンレ「チワワ」……」
 長い沈黙。酷い、酷すぎる、このアマいてこまされてえのか! そんな胸中とは裏腹に俺はへへぇ、と頭を下げる。いつも通りだ。
 ただ違うのは、これから俺たちにとっての初任務を行う、といったところだろうか。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、搾り出すようにエリスは声を出す。
「……ようやくだね。ようやくあのコーディネーターを……」
「だな。あの孤児院での暮らしが嘘みたいだ。俺は今じゃ、レイダーマークツーっつー兵器に乗ってるし、あいつらもMSに乗ってるし……お前も最新鋭艦のオペレーターだ」
 そう、時とは流れるのが早いものだ。ついでに感情にもよるが。あの時は長く思えた一秒も、今じゃ早すぎるぐらいだった。
「そだねー……」
 逃げるんじゃない。戦うんだ。隠れるんじゃない。闘うんだ。
 あの時のひ弱な子供じゃない。今じゃ俺たちは優れた兵士なんだ。人よりも多く、速く人を殺せる兵士なんだ。


 あの時とは――……
                                                ――……違う。


 部屋の外から自分の名を呼ぶ声に気がついて、スティングは目を覚ました。
 調整の時間までにはまだ余裕がある。それが何故――と考えて、声の持ち主が先ほどの老人だということに気がついた。
 まだ眠たい気持ちを抑えて対応する。
「……んだ?」
「うむ、君と戦闘訓練をしたくなって見てな。もちろん君の得意なMSでだ。どうかね?」

 ――嘗めているのか? 流石に今度ばかりはスティングも本心からそう思った。
 何年も前に退役している老人が基地内を勝手にうろついて、自分の得意とするMSで戦闘しようと切り出してきた。
 あのアンチカオスに乗るまでに自分が何機のMSを使いこなしてきたと思っている。
 ストライクダガー、105ダガー、スローターダガー、ダガーL……ザフトのも含めると十機は越すであろうMSを使いこなしてきた自分に。
 確かに最近は不調気味だが、こんな老人に遅れをとるはずがない……!
 いいだろう、思い知らせてやる。最も完成度の高いエクステンデット03の俺を嘗めたことを、後悔させてやる……!
「やってやろうじゃねぇか! 糞爺!」
 怒気を混じらせて高圧的に言い放ったにも拘らず、老人はさりとて冷静に、当然のように切り替えしてきた。
「爺に糞つける前に自分のケツを拭くことを覚えるのが先だろう。優れた兵士とはそれができるやつのことだ。糞餓鬼」



第十六話 単純構造の機械は直りやすい に続く。
287新人 ◆CtcY.CRZDQ :2007/09/03(月) 15:40:59 ID:???
予定よりも大幅に遅れてしまいました……
一応次回辺りでシンの方を終わらせて、その次にスティングと行きたいですが……ヘブンズ戦をどうするか……悩みどころです。
あと最近三点リーダーとダッシュを多く使う癖が再発してしまいました。使いすぎは注意しないと。

では……
288週刊新人スレ:2007/09/03(月) 18:22:15 ID:???
 幸せは砂上の楼閣、愛情は純粋な程に残酷。某スレで物議を醸した作品が新人スレに登場!
lunatic love
>>239-240

 涙を隠して戦い続けるミツキ! だが、やがて来るはずのエディとの別れのカタチなど彼女は知る由もなく・・・。
少女は砂漠を走る!
>>250-256

 フレイの身を案じるサイはアークエンジェルへ。そしてアークエンジェルはザクレロを護衛に出航する・・・。
機動戦士ザクレロSEED
>>258-265

 オーブ占領の報から四時間前。オーブ沖、J.Pジョーンズの艦長席にはアスラン・ザラの姿があった。
逆襲のアスラン
>>273-277

 始める前にいくつか質問させてもらう――。老人とのやりとりにいらだつスティング。一方のパワーでも・・・。
せめて、夢の中だけは
>>284-286

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289通常の名無しさんの3倍:2007/09/03(月) 20:12:06 ID:???
>新人
とりあえず目に付いたところだけざっとですが

前半のスティング独白部分は、よく書き込まれていてキャラへの感情移入も
しやすく仕上がっていると思いました

逆に中盤の「パワー」については少々難解なところが目に付きました
本当に私見なのですが、艦名が日常的に使用される「パワー」という単語
なのはどうかと思います
例えば「おい、パワーが落ちたぞ」と書かれている場合、読者は艦が沈んだのか
動力が0になったのか、咄嗟に判断がつかない可能性があるからです

人称を変更するのも表現方法の一つとして有りだと思いますが(何度も書きますが
あくまでも私見です)、もう少し場面変換をわかりやすくした方が良いと思います
空白行を1行ではなく2〜3行にするとかで、大分印象が変わると思います
この辺りは多分他の方からもご意見があると思いますので参考にしてください

>286レスの先頭「アークエンジェル級三番艦」はその前の段落で説明されて
いるので冗長に感じました
290赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:27:57 ID:???
どうも、初めまして。どの位の長編になるか解りませんが初めて投下させて貰います。
ちょっとグロいのと設定を少し弄ったネタですが御意見ご感想があれば幸いです。では一分後に投下始めます。
291赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:29:30 ID:???
 機動戦士ガンダムSEED異聞 〜REVENGE WERWOLF GIRL
                 -02 how 「Two women who lost fate」

 消えていく―変わりは満たされる焼け焦げた油の匂い
 消えていく―変わりは燃える街となぎ倒される木々
 止まらない―涙は頬を伝っていく
 響いていく―嗚咽と怒りと悲しみが木霊の様に消えなくて
 おかされる―頭の中をぐちゃぐちゃに蹂躙されてボロボロで

 少女はただ平凡な一般市民であった。別に貧乏だとか金持ちだとかは揶揄される事も無い
 平凡な生活をその島で送っていた。世界が戦争中である事はニュースで知っていた。
 自分がコーディネイターであることも知っていた。ナチョラル、コーディネイター問わず友達も居た。
 けれど、そんなものは爆風とともに消し飛んでしまい、何の価値も無くなってしまった。
 振り返れば誰も居ない。そして、少女と共に生を受けていた弟は片腕だけになっていた。
 無いのだ。手から先が。笑う笑顔をも、あちこちと外を駆け巡っていた足もこれ以上その手に未来に生産されることはなくなった。
 僅かに残ったのはその弟の誕生日、家の中を駆け巡る様に喜び踊っていた弟の大事な携帯電話。
 少女の住んでいた国は負けた。戦争で敗戦したのだ。詳しい政治なんかは解らない。
 ―ある日突然、避難命令が出て
 ―ある日突然、ミサイルが降り注いで
 ―ある日突然、MSが空を掛けながら戦火を広げていた。
 ―気が付いたら何も残っていなかった。
 
 少女は布を……元はなんだったか解らないそのぼろきれの塊を纏いながらも火の粉を防ぎ、荒廃した街の中を歩いていく。
 煤けた肌はその携帯電話一個を握り締めながらも、力ない足取りで歩いていく。街には既に連合軍の兵士が上陸を果たしていた。 
 ふと、目の前に迫る自動車の走行音と上げられる砂煙。連合の軍服を着た兵隊の男二人が自分を舐める様な視線で見ていた。
 止まる車。何やらひそひそと二人で話をしている。少女は自分は関係ないと思っていた。だから、そのまま通り過ぎようとする。
 少女の近くに寄せられる様に止められた連合のジープ。少女は気付かない。

「戦争孤児か? また、随分と若いな。オーブはろくに避難もさせてなかったのか?」
「ふん。アホな首長を選んだものだな、オーブも。最後は自爆したらしいぜ? 戦争は起こす事より後始末が大変なの知ってて死に逃げか?」
 
 言葉は理解できていたが、そんなことには興味が無かった。否、今興味があることなど何も無い。皆無だ。
 どうして良いか少女は解らない。オーブ軍は既に全面降伏による武装解除。連合には避難民キャンプを設けながらも何かの捜索をしていた。
 しかし、少女にとってそんなことはまるで関係なく、オーブの失策など如何でも良い事であった。
 もう、何も無いのだ。学んでいた学校も、住んでいた家も、守ってくれた親も。想っていた弟も。
 そんな心にぽっかりと穴の開いたまま少女の結論は死の文字が示されたのであった。
 海に落ちてそして、何もかも忘れながらそのまま藻屑になってしまおう。
 そうすれば、家族が居るところにいける。典型的な破滅へと続く思考パターン。死ぬことしか少女の頭の中にはなかった。
292赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:31:55 ID:???
「……で? どーするよ? 結構可愛いぜ?」
「如何するって、おいおい。”後で此処からも利益を出して貰うんですから蝿〈マスコミ〉が飛びつく様な事はし無いで下さいね?”だろ。
 まして、此処は中立だし、相手はナチョラルかもしれない」
「ばーか。テロリストかもしれないだろ?」
「はぁあ!? あんな女の子がか?」
「アホ、テロリストは妊婦も赤ん坊も爆弾にしやがるのは中東やアフリカで経験済みだろ? そんなことをする前に”臨検”しねぇとな?」

 兵士の一人が車から降りると少女へと話し掛けて来る。少女は兵士の言葉など認識しない。
 食い物がどうだとか、避難キャンプに案内するだとか言っているがそんなことを彼女は聞き取る気が無かった。
 声にも振り向かず、段々と男の語気が荒くなっていく。そして、段々と声は怒鳴り声になり、罵声になっていた。
 ふと、男の声が止まる。「ああ、コレはダメだ。コイツは狂信者だ。俺は中東で見たことがある。きっとアスハ信者だ」とか何とか言っている。
 次の瞬間銃声が鳴り響く。その音に少女はようやく認識した。天に向かって放たれた弾丸。
 兵士からすればただのけん制だったのだろう。しかし、少女は認識してしまったのだ。
 そう、その”力”を。鉄の鉛玉を吐き出して皮膚を易々と突破し、肉を貫き骨を砕くその力。”銃”だ。
 絶望の中にその”力”の魔力が忍び込んでくる。ああ、銃だ。アレは痛い。アレを撃てば人が死ぬ。
 アレをちらつかせれば、どんな大人でも屈する事が出来る。力だ…力だチカラだちからだチカラダ”力”だ!
 
「―。……こせ。……よこ…―その…ら…」
「あ?何だ、狂信者のガキが。お祈りか?それとも、命乞いか?」
「…こせ……せ―その力……俺によこせ!!!!」
「なっ!?」

 少女は言葉と共に、相手へと飛び掛っていく。兵士はナチュラルだったのだろう。
 少女は陸上選手並の俊敏な動きと共にその男の手に持っていた軍銃へと手を掴みかかる。
 女の腕とは思えない力にその兵士は驚きを隠せないでいた。もみ合っている内に、ぱんっと音が響き渡る。
 少女は認識する。”よく解らないが”兵士は白目を向いていた。
 ”よく解らないが”兵士は口から赤いもの溢れている。多分トマトジュースか何かだと少女は思うことにした。
 ”よく解らないが”今頭のほうへとボタボタとトマトジュースが滴りおちている。
 ”よく解らないが”掴みかかっていた兵士はグッタリとして崩れ落ちている。
 ”よく解らないが”眠かったのだろうか?兵士はその場で眠ってしまった。トマトジュースを零しながら。
 ”よく解らないが”もう一人の男は車から出ながら銃を此方に向けている。
 取り合えず少女は眠っている兵士から力を拝借する事にした。まぁ、寝ているのだろうから次に目を覚ました時に返しに行けば良いと思った。
293赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:33:34 ID:???
「之、借りるよ。おやすみ」
「て、てめぇ!こりゃ、事故じゃすまされねぇぞ。こんなところで……な、その手に持っているもんをさっさと置け!
 そんなのは女が持つもんじゃねぇ! ほら、だから下ろせと言ってるだろう!」
「つ……いけよ…せ――。これ―……」
「下ろせと言っているんだ! 聞こえないのか! 下ろさないと撃つぞ!」

 少女は兵士にへと御願いをしているが、兵士はさっきからやかましく力を離せとわめき散らしている。
 少女には兵士の言い分が理解できなかった。何を言ってるんだ?借りると言っているんだ。
 ちゃんと返すんだから、一寸位良いじゃないか。全く、あの金持ちの連合なのにけち臭い事だと想った。
 そんな如何でも良い事より、少女は御願いを聞いて欲しかった。なので、銃口を向けながらも兵士に御願いをしている。
 けど、兵士は御願いを聞いてくれない。少女は困ってしまった。なぜか理由を考えた。
 そして、結論はすぐに出た。ああ、あの兵士も力を持っているからいけないんだ。それじゃ無理だ。
 なら、もっと大きな力が要るじゃないか。少女は躊躇なく引き金を似引いていく。
 その反動で吹き飛ばされろうになったが奇跡的にその弾丸は兵士の持っていた銃を撃ちぬく。
 へしゃげながらも手に何発かとわき腹に少し食らった兵士は泣き、喚き、呻いている。男なのに情けないと少女は思った。
 それでも軍人と言う人種なのだろうか。オーブはこんなやつらに負けたのかと想おうとしたが、結局何も想えなかった。
 車に近付きながら怯える軍人を見ながらも、少女はまるで同級生にノートを見せてくれる笑顔と同じ顔を兵士に向けながら言った。

「一番偉い奴のところへ連れて行けよ。アイツが誰だったのか聞かなきゃいけないから。だから、早く車を出せって言ってるんだよ? な?」

 そう、それは少女が少女でなくなり始めた時であり、世間でCE70に起きた連合によるオーブ進行が終了した数時間後。
 爆散したモルゲンレーテ本社。倒壊しているマスドライバー。全て連合の欲しい物が失われた筈のオーブでの事だった。
294赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:34:44 ID:???
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ブルーコスモスの盟主の一人。ムルタ・アズラエルはその惨状にため息を漏らしていた。
 全く、こんなに壊してしまっては丘で食事どころではない。もう一寸綺麗に殺したり壊せないものかと
 冗談染みた願いを考えながらその島へと降り立っている。
 見事に連合の勝利に終わったこの戦いもアズラエルにとってはまだ終わっていなかった。
 彼は宇宙と地球の狭間に居る双子蝙蝠から一つの情報を得ていた。それを、奪いに……基、分かち合いに来たのだ。
 彼にとって、こんなちっぽけな島の自治権など、あの技術に比べれば二束三文以下の価値でしかなかった。
 そのお目当てのモルゲンレーテもマスドライバーも無いこの島で盗掘に等しい行為を連合軍の部隊に行わせている。
 軍隊とはやや離れながらも、トレーラーハウスの中で、じっくりと発掘計画を練っていた。
 成果は無かった訳では無い。新型三機テストも兼ねた事や敵の新型MSのデータが僅かにでも取れたこと。
 それは成果であったが彼にとってはまだまだ。ソンナモノはフルコースを食べた後のガムに過ぎない。
 デザートとメインディッシュが自爆されたなら御土産の一つでも持ち帰らなければ気分がすまなかったのであった。

「全く、本当に自爆なんて馬鹿のやる事ですか?折角の日の出の象徴だというのに。やはり、持ち出してしまわれましたかねぇ」

 アズラエルは頭を抱えていた。相手の馬鹿さ加減に頭を痛めていたのだ。
 いや、彼はアスハを馬鹿だとは思っていたがそれが此処まで事を煩わせるとは思ってもいなかった。いや、之もアスハの知略かとも思われている。
 ただ、彼は失敗した人間の知略には興味が無かった。それより、彼にとって有益なモノを探し当てる方が先決であった。
 しかし、現実に周りを見てみれば、努力虚しく爆散したモルゲンレーテの中からは何も残っていなかった。
 ほとほと疲れきっている様子を滲ませながらもデスクからがゆっくりと立ち上がりながら、女性に目配せをして外に出ることにした。
 その女性はとても綺麗な女性だった。黒いスーツを着込み、サングラスを掛け、長い黒のストレートヘアを粗末なゴムで結っている。
 首筋に僅かな刺青を入れている以外は多少マッチョな印象を与えているがただのスタイルの良い女性でしか見えない。
 女は何も言わずに銃器を一通り懐や腰などに備え付けながらも手早く準備をした後、その顔をゆっくりとアズラエルに向ける。
295赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:40:59 ID:???
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ブルーコスモスの盟主の一人。ムルタ・アズラエルはその惨状にため息を漏らしていた。
 全く、こんなに壊してしまっては丘で食事どころではない。もう一寸綺麗に殺したり壊せないものかと
 冗談染みた願いを考えながらその島へと降り立っている。
 見事に連合の勝利に終わったこの戦いもアズラエルにとってはまだ終わっていなかった。
 彼は宇宙と地球の狭間に居る双子蝙蝠から一つの情報を得ていた。それを、奪いに……基、分かち合いに来たのだ。
 彼にとって、こんなちっぽけな島の自治権など、あの技術に比べれば二束三文以下の価値でしかなかった。
 そのお目当てのモルゲンレーテもマスドライバーも無いこの島で盗掘に等しい行為を連合軍の部隊に行わせている。
 軍隊とはやや離れながらも、トレーラーハウスの中で、じっくりと発掘計画を練っていた。
 成果は無かった訳では無い。新型三機テストも兼ねた事や敵の新型MSのデータが僅かにでも取れたこと。
 それは成果であったが彼にとってはまだまだ。ソンナモノはフルコースを食べた後のガムに過ぎない。
 デザートとメインディッシュが自爆されたなら御土産の一つでも持ち帰らなければ気分がすまなかったのであった。

「全く、本当に自爆なんて馬鹿のやる事ですか?折角の日の出の象徴だというのに。やはり、持ち出してしまわれましたかねぇ」

 アズラエルは頭を抱えていた。相手の馬鹿さ加減に頭を痛めていたのだ。
 いや、彼はアスハを馬鹿だとは思っていたがそれが此処まで事を煩わせるとは思ってもいなかった。いや、之もアスハの知略かとも思われている。
 ただ、彼は失敗した人間の知略には興味が無かった。それより、彼にとって有益なモノを探し当てる方が先決であった。
 しかし、現実に周りを見てみれば、努力虚しく爆散したモルゲンレーテの中からは何も残っていなかった。
 ほとほと疲れきっている様子を滲ませながらもデスクからがゆっくりと立ち上がりながら、女性に目配せをして外に出ることにした。
 その女性はとても綺麗な女性だった。黒いスーツを着込み、サングラスを掛け、長い黒のストレートヘアを粗末なゴムで結っている。
 首筋に僅かな刺青を入れている以外は多少マッチョな印象を与えているがただのスタイルの良い女性でしか見えない。
 女は何も言わずに銃器を一通り懐や腰などに備え付けながらも手早く準備をした後、その顔をゆっくりとアズラエルに向ける。

「何処におでかけですか?」
「外に少し出るだけですよ。舟の次は此処で缶詰では息が詰まります。……準備する前に聞かないんですか?」
「アズラエル様が何か特別な武装を要求する場合、先に言いますから。
 何も言わなければ、此方はいつも通りの”万全の準備”で十分です」
「やれやれ、完璧過ぎるというのも考えものですね。ま、嫌いじゃありませんけどね? では、行きますよ。アスカ」
296赤頭巾 ◆sZZy4smj4M :2007/09/04(火) 11:42:20 ID:???
 アスカと呼ばれた女の声は淡々としていた。抑揚の無い、まるで機械の様な、ただ言葉を発しているだけ、あくまで物事の円滑な任務遂行のための確認。
 会話と言う概念がその女から抜け落ちているのではと思えるほど、彼女は何も無かった。
 そんな彼女をアズラエルは気に入っていた。否、正確に言うとマイナス面が非常に少ない為、自然と評価が上がっているのだ。
 人間何にしてもミスや誤りは出てくる。時に利害が一致しないことで多々問題が起こる事がある。
 しかし、アスカと呼ばれた女は違っていた。徹底した滅私奉公による忠誠。任務の事よりVIPの要望の中でいかに任務を全うするかを考える。
 何より自分に干渉しない事がアズラエルには心地よく、わざわざ本社から呼び寄せたほど、優秀なボディーガードだった。

「粉塵は此処まではきませんね。ん〜良い空気だ。オーブも木々豊かなものですね。アスカも確かオーブ出身でしたね?」
「はい。と言っても既に記録は抹消されていますが」
「国を焼く決断をした僕を恨みますか?」
「いえ、私は訓練されてますし”知って”いますから」

 アズラエルは「結構」と僅かに言葉を返したまま、満足げな表情を見せながらもナビを起動させる。
 画面に映し出されるのはオーブ本島の大まかな地図。
 それを、見ながらも何処から見て回ろうかと思案していると……ふと、遠くから自動車の走行音が聞こえる。
 音のする方向をよく見れば、連合の兵士がジープを飛ばして此方へと向かってくるのが見えていた。
 最初アズラエルは通信が通じにくい状況から、わざわざ兵士をよこして朗報を伝えに来たのだと思った。
 しかし、アスカと呼ばれた女は違っていた。さっと短機関銃を肩に掛けながらもS&Wシリーズと思われる大型の拳銃を構えていく。
 その大きな銃は女の体には似合わないほどの黒々とした銃身を向けながら次の瞬間、その銃口から火が吹かれる。
 その放たれた50口径のマグナム弾は軍用のジープの装甲を貫通し、エンジンを炎上させていった。
 しかし、車は止まらない。アスカは叫びながらもアズラエルを突き飛ばしていく。

「下がって下さい! どこか物陰に隠れて!」

 アズラエルを気遣う言葉とは裏腹に次に構えられたサブマシンガンが突進するジープの運転席へと掃射される。
 ずた袋の様にボロボロになっている連合兵士はまるで穴の開いた水風船の様に血の水芸を披露しながらも息絶えているのが確認された。
 アスカと呼ばれた女は後悔した。こんなことならもっと火力の高い武装をすれば良かったと思った。
 しかし、その後悔でVIPを殺してしまうほど彼女は無能ではなかった。サブマシンガンを捨てて、再び大型の拳銃を構えながら今度は的確に狙いを定めていく。
 心臓の鼓動を早まり手にはじっとりと嫌な汗が分泌される中、二発目の弾丸がその銃身から吐き出されていった。

                                            Next to -01how 「WOLF girl meets mercantile of DEATH」
297通常の名無しさんの3倍:2007/09/04(火) 19:57:53 ID:???
>>新人
 投下乙です。
 スティングの心情に絞った描写は良かったです。ジョージのキャラもいい感じ。
ですが新人氏の魅力は悪役アル=ダ=フラガの描写にあると思います。モデルがあるのか
どうかは分かりませんが、登場の短さの割に存在感があります。そこにGJ。
 場面転換の時には、上でも言われていますが二、三行空けた方が分かりやすいです。
マサフミとエリスのキャラ作りは悪くないと思いますが、エリスの紹介が四行程度で
終わっていて、却って印象が薄れた気がします。動作一つにつき特徴を一つ紹介する
程度のペースで書いて見ては如何でしょうか。
 身長を気にするチビマサフミは結構良いです。

 細かいところでは、もう少し改行を短めに。
 一人称での地の文は推敲の余地あり。

 あの時とは、違う。
 あの時とは――……
                     ――……違う。
 二つ並べましたが、スペースや改行は作者が心を込めたほどには読む人の
印象に残らないと思います。むしろ読み易さを重視した方がベター。

 パワーの意味が混同する問題については、コードネームでも割り振って作品内で
混同されないようにするか、""や『』つけて読者に混同されないようにするか。
適当な方法で読者が区別できれば特に問題無いと思います。


>>赤頭巾
 投下乙です。以下は個人的感想ですのであしからず。
 シナリオについてはまだ判断が付きませんので次回の投下で。

 第一印象としては演出過多です。繰り返しは程々に。
 それから(携帯からかも知れませんが)改行を考えてみてください。
場面転換の為に――を連続させていますが、閲覧環境によっては二行に渡って
格好が付きません。最後、次回の副題も、行の先頭に持って来なければ高い確率で
千切れます。

 文章はかなり纏まっていて読みやすいと思いましたが、三点リーダー「……」と
ダッシュ「――」は偶数個ずつ。

 最後、副題についてですが、サブタイトルは思ったほど注目される物でも無いと
思います。短編であれば、三十行の中の一行として充分推敲の対象になると思いますが、
長編であれば何百行もある内の一行で、簡潔な方が個人的には好みです。
298通常の名無しさんの3倍:2007/09/04(火) 21:53:23 ID:???
不覚にもナチョラルに吹いた
299SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:12:49 ID:???
11/

 パワー・オン。
 スーツからシンの生体情報を受け取ったシステムがパイロット認証を行い、
操縦席の各種モニターを順次点灯させた。OSが待機モードで起動。事前に入力された
データに従ってシートの形状が調整され、スーツを纏ったシンの体型と一体化する。

 メッシュ素材のアンダーウェアとの間に薄い空気の層を作る構造によって、
スーツの居住性はとても高い。トイレに行く事を考えさえ為なければ、生涯を
パイロットスーツだけで生活できる。
 それでもシンが奇妙な居心地の悪さを感じてしまうのは、
先程からヨウランがちらちらとこちらを見ているからだ。

「システムオンライン、マザーに接続。軌道情報更新……インパルスは
時間が掛かるよな。設定再編。ヨウラン、そっちは残りどの位だよ?」
「あと三十秒! 推進器周りの調整が終わったら直に手伝うから待てって。
分離、変形、合体……浪漫を満足する為にゃあ、手間暇掛けて当たり前!」
 天井の低いインパルス専用格納庫の事で、ヨウランは壁に張り付くように端末を
引っ張ってくる。蛇のように宙をのたうつケーブルは脇で回収しながら這ってきた。
 インパルスシステムの核であるコアスプレンダーは一機でザクが賄えると言われ、
製造にも整備にも大量の資源と資金を必要とする。

「……うん? イエローアラート。ソードシルエットのジョイントにバグがある? 
再起動……駄目だ。ヨウラン、ここどうなってるんだ?」
「この前カオスと戦闘した時に、シン、お前結構無理矢理な分離と合体をしたろ?
インパルスは賢いから、シンの無茶に答えようとして設定を少しずつ変化させるんだ。
再設定された数値が現実の機械部分にとって無理があったりするとこんなエラーが出る」
 本当は放っておいてもいいんだけどな、といいつつもヨウランが端末を接続すると
瞬く間にエラーは取り除かれた。システム、オールグリーン。

「サンキュ……」
「設定値を五%減らして上限を設定しただけ。シン……あのさ」
 コクピットをヨウランが覗き込む。
「本気であんな事を言ったわけじゃないんだ。信じてくれよ」
 つかえを取り払うような気配だった。
「休憩室での話しかよ、今言う事じゃないって」
300SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:15:01 ID:???
12/

 バイタルシャフト内の休憩室、レイがユニウス7破砕の方法について
知りうる限りの薀蓄を披露していた時のことだ。
 ――これで全部チャラ、却ってすっきりするかもな。
 それは場の重苦しい空気を紛らわせようとした、性質の悪いジョークだったのだろう、
しかしその場にはシンが居た所為で、ルナマリアとレイの表情が同時に凍った。
 そして、ヨウランの言葉を聞きつけたアスハが休憩室に乱入してきた。
 事件としてはそれだけだ。

 ――それが、共に平和を望んだコーディネーターの、本当の気持ちなのか!?
 アレックスに諌められて鎮静化するまで、感情の激発を見せたアスハだったが、
ユニウス7の落下阻止に全力を尽くして欲しいと話すと、明らかに意気消沈した
雰囲気で休憩室を去った。
 破砕、という言葉を使いはしなかった。
 背を向けたアスハの姿は、年相応に小さかったように思う。オーブという一国が
乗って居るのだと思うと頼りない。しかしその小さな肩に手を当てる二人の随員が、
休憩室の取り残されたザフトの兵士を振り返った。
 アレックスは哀しそうな目をしていたし、シズルという女性からは冷たい目線を浴びた。

 アレックスを追いかけようか、とも思った。しかしアレックスが三歩分の距離を開けた時、
シンは自分の着て居る服を思い出した。自分の立っている場所を思い出した。

 エリートの証ザフトレッド――コーディネーターに流れる血潮、ナチュラルの返り血。

 オーブを焼かれザフトに渡ったシンと、プラントを捨てて地球に移ったアレックス。
 かつてナチュラルと共にあったシンと、かつてプラントと共にあったアレックス。
 ザフトの兵士を見るその姿は、オーブの三人を見つめるシンと良く似ていた。
そう思った瞬間にシンが感じたような孤独を、アレックスもまた覚えたのだろうか。
歩み方が似ていながら、目指してきた方向が真逆であったが故に、シンとアレックスとの
距離はその実、誰よりも離れて居るのだと感じる。
 それは三歩を動いて埋めれば、それでなくなるという距離ではない。
 思わず、口を吐いて出た言葉がある。それはきっとアスハを更に傷つけただろう。
もし他人の話を聞く耳がそのときのアスハに残っていたならば、だけれど。
301SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:16:52 ID:???
13/

「気に為るなよ。宇宙に住んでいないお偉方に、プラントの事を分かる訳が無い」
「でもさ、シン。お前は元々……」
「今はザフトだよ、ヨウラン。俺が赤だっての忘れて無いか?」
 パイロットスーツに光るザフトレッドの襟章を見せ付けて、シンは笑った。
「俺だってプラントに上がるまでは、宇宙がこんなに厳しい所だって知らなかったんだ。
壁一枚向こうに空気が無いのが、とても怖い事だって知らなかった」
 コロニーの外壁、MSの装甲、宇宙に出て行くのならばそれらが必要になる。

「地球じゃあ、何かミスをしたっていきなり空気がなくなったりはしない。
何処かには水も食べ物もある。だからコロニーも同じじゃないかって安心してたよ」
 実は違った。
 永劫に続くと思っていた暮らしも、砂上の楼閣に過ぎなかった。文明生活は
NJの一発で崩壊する。国家の中立と平和は三日で崩れ去る。
 それが分かってしまった今、むしろアスハはプラントにすむ人々の不安を理解できる
人間なのかもしれない。

「地球に住んでるナチュラルもさ、多分今回の事で知ってしまうと思う」
 たとえザフトが作戦に成功しても、多くの人間が大気圏は弱く薄いものだと、
地表に大気を繋ぎとめる重力は時に攻撃的だと知る。
 プラントの人間が感じる宇宙の厳しさと、地球に住む人間は実は無関係では
いられないのだと、否応無しにしるだろう。
 ならば――そんな厳しい世界に住む者達は、コーディネーターは何者なのだ。
「また、俺たちコーディネーターが宇宙の化け物だって呼ばれるようになるかな?」
 ヨウランの不安も、理解できた。
「……嫌だけどな。ブルーコスモス以外の人もそう思うかも」

 格納庫前方の情報ディスプレイに、発振準備を告げるカウントダウンが灯った。
「……わかったよ、シン。この話は此処までにする」
「ああ、どうせならさ、俺たちがユニウス7を地球に落すつもりは無いって、
言葉じゃあなくて行動で見せ付けてやろうぜ。仕事をすればいいんだ」
 そうだ、ユニウス7を止めて見せればアスハもアレックスさんもわかるはずだ。
「……俺はユニウス7まで行く事が出来ないけどな」
「だから俺が居る。おれがヨウランの分も仕事をする。ザフトのヨウランは
ユニウス7を地球に落すつもりは無いって、お前の整備したこのインパルスで
証明してみせる……行って来るよ」
「……おう」
 シンの突き出した拳に同じく握りこぶしを当てて、ヨウランは笑った。
302SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:19:19 ID:???
14/

 ミネルバに走る僅かな振動だけで、ルナマリアはインパルス発進が分かった。
どうやらそれはアレックス=ディノも同じ様だ。
「行ったか……代表、我々も急ぎましょう」

 ミネルバの最も下部、連絡艇の発着ポート。搭載された連絡艇は、艦底部分が
一部分離するようにして発進される。連絡艇はミネルバを発進後、作業宙域を迂回
してオーブ宇宙軍の戦闘空母クサナギまでの要人輸送任務をこなし、ミネルバに帰還する。
 案内と見送りを勤めるルナマリアは、艦長がこの場に居ない非礼を詫びた。

「気にしないで欲しい。ユニウス7の落下阻止に全力を尽くしていてくれる事、
こちらも充分に理解している」
 デュランダルはこのままミネルバに乗艦、ユニウス7での作業を見守る事となっていた。
 アスハ代表は立った三人で乗り込んできて、たった三人で静かに去る。思えば
ミネルバに迎え入れ、そして見送るのがルナマリアである。
 簡単な挨拶のみで、アスハ代表は連絡艇の中に消えた。後には随員二人が残る。

「……でも意外でした。アスハ代表ならユニウス7に接近するミネルバの方に
残りたがるものだとばかり思っていましたから」
 オーブ側とザフトとの交渉によって、作業の邪魔になる可能性からクサナギは
ユニウス7へ近尽く事の出来る距離をある程度制限されている。
「クサナギの方に下がって、後ろから指示を出されるんでしょう?」
「まあ実際、代表がそれだけで満足する人だったなら、まだ安心して
護衛していられるのだけれどね。それじゃすまないから苦労もする」
「ミネルバに残らはるんやったら、その方がまだええんやけどね」
 明らかに疲れた様子のアレックスとシズルは、異口同音にため息を吐いた。

「いや、まさかユニウス7の欠片が落ちていく中をクサナギでオーブまで帰ろうとは
しないでしょう? クサナギは宇宙用の戦艦です……し――?」
 何気なく言ったつもりの冗談に随員二人は固まっていて、ルナマリアは失言を
聞かせてしまったかと本気で不安になった。
「代表が先に乗り込んどって良かったなあ……」
「ええ、代表ならば『いいアイデアを聞いたぞ!』とか言って実行しかねない。
そしてそんな時に限って『こんな事もあろうかと』なんて言って大気圏降下用の
新型ユニットを持って来るモルゲンレーテの社員が居るんだよ」
「それがオーブやもんなあ……」
 オーブ脅威の科学力、経済的規模で行けば弱小国家のひとつでしかないオーブが、
世界で唯一完全オリジナル可変MSを量産体制に乗せたあたりは、プラント、連合の
技術陣にとってはある種のオカルトとして認識されていた。
303SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:21:59 ID:???
15/

「では、そろそろ発進の時間ですね。お元気で、アスラン=ザラ」
「む……そちらこそ、気をつけて。ルナマリア=ホーク」
 むしろようやく言われたか、という様子でアレックス――アスランは挨拶を交わした。
「最後まで黙っていてくれるものだと期待していたよ」
 あれだけ目立っておいてそれはない。
「やっぱり何人かは分かります。シンは貴方の事を良く知らないみたいですけれど。
みんな、ミネルバを救って下さった英雄に遠慮していただけです」
 でも、とルナマリアは付け加えた。
「最後くらい、本当の貴方にお礼を言っても良いでしょう?」

 個人的に聞きたい事は沢山ある。しかしシンがアスハ代表に対して出来たような事が、
ルナマリアはついに出来なかった。
 どうして、オーブに居るのか。
 どうして、プラントに居ないのか。
 さらに遡るならばどうしてザフトを抜け、三隻同盟などという組織に居たのか。
 聞いて見るにはまだ縁が無いのかもしれない。
 再び会う事があったならば質問してみよう、そう心に決める。普通ならザフトレッドと
オーブの官僚、会い見える事はなかろうが、不思議とこれが今生の別れだ、とは思わなかった。

「名前が本物ではないからと言って、その思いと行いが偽物になる訳じゃない」
「え……?」
 アスラン=ザラは、ルナマリアを通してもっと遠くの場所を見て居るようにも見えた。
「実はね、会議中の事なんだが、デュランダル議長にこう言われたんだよ。
偽名を使う事は自身の存在を偽る事にならないか、と」
「初耳ですよ、アスランさん」
「グラディス艦長とアスハ代表が居はる時に。やっぱり偉い人は騙せまへんな」
 シズルが説明する。議長も意地が悪い事だと、ルナマリアは思った。
「そして俺はそれに対して答えを出す事が出来なかった。その時は、な」
 ザラの名はプラントに深い色の影を残している。それを偽り、新しい名を使って
オーブに生きる事は、大きな苦悩があったのではないかと察する事が出来た。
 国家代表の側近をやっていて、正体を隠し通せると本気で思っていたのかは、
聞いてみないと分からないが。
「だが、今のが俺なりの答えだ。アレックス=ディノは欠片も偽りでなく、俺だ。
俺はオーブの随員アレックス=ディノとして生きて行く……」
「軽率でした……ミスター=アレックス」
 自然と右手を差し出す事が出来た。握り返してくれた手の力強さを、次に会う時までは
絶対に忘れまいと思う。
 アスハ代表を追ってアスラン……いや、アレックス=ディノは連絡艇へと乗り込んだ。
304SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/04(火) 22:25:41 ID:???
16/16

 手順上、最後に乗り込む人間が名簿にサインを行う事となっている。手渡した
書類にプラントとオーブの公用語――英語と日本語で達筆なサインを入れたのはシズルだ。
「貴方の入れた紅茶がもう飲めないと思うと寂しい物ですね」
「あら……寂しい思って貰えるんがお茶だけやなんて、その方が寂しいわあ」
 そう言った少女のような笑顔は、同性だというのに見とれるほど美しかった。
「そうそう、前から言お思てたんやけど……」
 別れだというのに楽しそうなシズルさんである。これはこの人の余裕なのだろう、
見習うべきところがあると感じる。
「……なんでしょうか?」
「確かにあんさんには似合っとるけど……黒しか着けへんのはどうと思います。
……はい、名簿」
「……? どうも」
「それじゃあね。いつかまた会いましょ」
 そうして藤色の美女は背を向けて、連絡艇へのタラップを渡って行った。
 ルナマリアはと言えば、乗員名簿を持ったまま呆けている。一房はねた前髪が
疑問符の形になって揺れていた。
 一秒、二秒……十秒。
 脳裏に電撃の走ったルナマリアが、顔を制服と同じ色に染め、膝上二十センチまで
丈を詰めたミニスカートを両手で押さえたとき、連絡艇のハッチは既に閉鎖を始めていた。
「み…………見えたのでありますかッ!」
 効果音をつけるならば、にやり。そんな満面の笑顔を閉まりかけのハッチから覗かせて、
シズル=ヴィオーラもまたミネルバから去って行った。

「な……あ……え――?」
 驚きが覚めやらぬ中、ほぼ無意識の動作でハッチを潜る。
 閉鎖確認、分厚い隔壁の向こうで急減圧が始まった。
「え……嘘、冗談? 本当に見えたの、それも何回も?」
 減圧完了、すぐさま連絡艇発進の表示が走った。はやく格納庫に行かなければ。
自分の出撃時間も迫っている。
 のろのろとしか動かない足を止めて、ようやくルナマリアは客人の去った
ハッチの向こうを睨みつけた。

 ――次に会うときは、絶対に見られない!
 ルナマリアは敗北感を拳で握りつぶして心に誓う。
 張り合う所を間違っていると指摘すべき妹は、残念ながら艦橋に居た。
305通常の名無しさんの3倍:2007/09/05(水) 10:20:53 ID:???
>>せめて
投下乙
次回あたり何か動きがあるのだろうかと思わせる展開
そろそろ物語的に動くかな? 次回投下分も期待

細かい文章周りは上の人達が言ってるので割愛
個人的にはどうにも回を重ねるごとに文章がぞんざいになっている気がする
若干の人称のぶれと三人称の時の地の文にそれを感じるな
緻密な描写とスピード感が持ち味の筈
推敲云々は自分でもわかっている様なので改善を期待

で、艦名に関して。違和感の理由がわかった。上の人達thx
他のアークエンジェル級と同じく天使の名前ではあるのだが、
上の人達の言う様に『』でくくってしまうか
ワザとパゥワーとかパワァみたいに『訛って』みても良いのかも知れないな

>>WERWOLF
投下乙
種死と逆の主人公が置かれた立場が目を引く
文章は淡々とした描写が好印象
主人公? の一人称等、ちょっと状況が掴みづらいか
次回投下分でお話が進むと思うので期待して待つ

改行が長い部分があるのが気になる
切りたくないのかも知れないが40〜45字、
単語を切らない部分での改行を願いたい
ここからは私見だが
序盤、少女よりの三人称だが人称がぶれて見えるのが勿体ない
むしろ一人称にしてしまった方が良かったかも
306通常の名無しさんの3倍:2007/09/05(水) 13:03:17 ID:???
保守
307SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/05(水) 15:04:05 ID:???
独言

「前略、おふくろ様、お元気ですか。俺は余り元気ではありません、なぜなら……」
 書いている内容を口でなぞりながら文面を打ち込んでいる手が止まる。

「……なぜならフリーダムとかいうど阿呆が俺の可愛いゲイツをぶち壊して
くれたからです……だめだ。どうも感動に欠けるな。これじゃあおおふくろ殿は泣かねえ」
 頭をかくと五分刈りの頭からフケが粉雪の如く舞った。五十時間も風呂に入っていないせいだ。
モニターの光を反射してきらきらと輝いていたフケだが、すぐに換気口に吸い込まれる。
「どうやら俺には文才が無いようだぜ……おふくろの腹に置き忘れてきたかな?」
 紙に筆で書いているならば、丸めてゴミ箱に放り込む事も出来ただろうが、
電子データはそうも行かない。大人しくデリートキーで消去した。

「……暇だな」
 親への手紙をしたためる作業に飽きても、目が冴えてしまって眠れない。
「恨むぜおふくろ殿。もう少し言語学的才能に恵まれるようコーディネイトしてくれりゃあ、
地球圏を感動させる一大叙述詩って奴を書けたかもしれないのによ……」

 やたらと忙しいパイロットの激務から開放された事で湧きあがる開放感を、
その後に訪れた助けが来ない焦りを、身を燃やすような敵パイロットへの怒りを、
自分の運命を察した瞬間の背筋を凍らせる恐怖を、全てテキストに残す事が出来れば、
歴史に残る作家の一人として名を連ねる事が出来たかもしれないのに。
「でも時間がありすぎて何を書いたら良いのか分からなくなっちまったよ」
 一人の時間が長すぎて、気持ちの持っていくところを忘れてしまった。

「正直なところ、今の感想を聞かれりゃあ"臭い"しかないしな」
 はだけたパイロットスーツから漂う自分の体臭に辟易して食欲を失っている。
食べかけのレーションが回転してモニターに当たっては跳ね返るのを繰り返していた。
「どうせおふくろ殿に送る手紙は軍本部にもう渡して或るもんなあ……」
 地球送りにされた頃書かされた遺書に何と言葉を残したか今頃気になった。
「……ってしまった! 実家に俺の私物が送られたら日記がおふくろ殿に読まれちまう!
不味いぞ、それは死ぬほど恥ずかしい――!」
 ……って、もうすぐ死ぬけどな。
308SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/09/05(水) 15:06:02 ID:???
 突如戦線に乱入した機体にスラスターを破壊され、宇宙を漂うMSに
閉じ込められてからはや二日。鋼の棺桶と化したコクピットのモニターで
点滅を繰り返す数字は、いまや秒の単位に一桁を残すのみとなっている。
「時間切れ、か。あばよ、おふくろ殿」
 薄暗い操縦席に残された最後の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「やれやれ、生まれて初めて空気の美味さってものが分かりかけてきたんだが……」
 ささやかな電子音が電力の枯渇を告げる。
 換気装置が停止するかすかな音がしてコックピット内部の空気の流れが止まった。
「……どうにも言葉にならないや」
 何時終わるとも知れない暗闇と静寂がコックピットに満ちた。










今は無き向上スレに投下した物の再調整ver.


309弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:14:54 ID:???
少女は砂漠を走る!(1/4)
最終話 最後の約束

 緑に包まれた砂漠の町。その横には先ほど降りてきたザフトのマークの付いた大型シャトル。機体冷却を待って
タラップが降りると白い服に身を包んだ青年将校が降りてくる。タラップの先にはザフト地上軍の略装制服を着た
数十人が敬礼で出迎えるがシャトルの規模には全く見合っていない。その白い服はタラップを降りきると、
出迎えの先頭に立つ帽子のつばとサングラスで表情が見えない、緑の服の女性に敬礼を返す。
「暑い中、出迎えご苦労、シライ隊長! ……直接合うのはアンコールワット以来だな、元気そうで安心したよ」
「遠路はるばるお疲れ様です、チェンバレン隊長! ご立派に成られましたね。……彼女出来た?」
 マーカス隊からミツキと共に異動した、二人を知る一部の人間は失笑し、そうでない者は炎天下の中凍り付く。
彼女が知るよりも若干精悍な顔つきになった白い服のティモシーも当然、笑顔のまま凍り付いた……。
 
「約束、こんなカタチで果たしちゃって悪かったね。今度時間があったらカフェでおごるよ。セブンスにもまともな
コーヒー飲ませる店が出来たんだけど、今回、時間なさそうだもんね。良かったの? 町長より先で」
 MS5機と隊員約50人を擁するセブンスオアシス守備隊の隊長室。アイスコーヒー二つの載ったテーブルを
挟んでミツキとティモシー。新設された駐屯部隊の長であるミツキは帽子は脱いだがサングラスは取らない。
 そして左の頬に、整ったオトナの顔立ちに成りつつある彼女には似つかわしくない傷が見える。
「新たに設立したシライ隊の視察も今回の仕事のうちだ。……まだ美容整形、やってなかったのか」
「確かにセブンスに常設部隊は無かったものね。……イヤな言い方。まだ成長中なのよ? とくにオッパイとかさ」

 そう言えば。と一瞬彼女の胸に目をやったティモシーは目のやり場に困ると赤くなって横を向く。『司令』が
困るのを楽しげに見るミツキ。ただ話自体は嘘ではなく身長も胸も未だに日に日に大きくなっている。
それは良いのだが、そのたび背中の傷が彼女に七転八倒の苦しみを与えた。
 だからこれくらいの憂さ晴らしは、彼女にすれば許される範囲なのだと思っている。
それにこんな話をして素直に赤くなってくれるのも彼ぐらいしか居ない。
 ただ、彼に良心の呵責などを感じられてしまうと彼女としても困る。だからサングラスは取らない。
目尻の傷は頬のそれより深いし、目立つ。彼女はコーヒーのグラスを手に取ると話を別に振った。 

「エラくなったのは聞いたけどフェイスだなんて言ってなかったじゃん」
「なんだよ急に。不本意だから言わなかった。白服だって先輩が着るはずだったのに、あっさりヤメちまったし」
 襟飾りにぶら下がったフェイスのバッジ。彼とすれば本懐ではないのかな。と思った彼女は、彼の場合は
全て自分で勝ち取ったモノ以外は要らないのだったな。とすぐに思い直す。
「ところで例の拾った子はどうしてる? 娘にしたって言ってたけど記憶は戻ったのか?」
「そう言う言い方しないでよね? 順調に自分が女の子なのと、歳とお誕生日は思い出したよ?」

 砂漠でミツキが拾った、自分の名前さえわからずブレイク・ザ・ワールド以前の記憶がすっぽり抜け落ちた
少女。12歳だという彼女をまだ20歳にさえ成らないミツキは養女にした。彼女がコーディネーターであったのは
きっと偶々で、ナチュラルでもきっとミツキの気性を見れば躊躇無くそうしただろう。妹だって良かったモノを、
いきなり母になると言うのは、それはあの事件への彼女なりの贖罪のカタチなのだろうか、彼にはよくわからない。
「順調にって。……おい、思い出したの、それだけなのか?」
「思い出したくないんだろうから良いじゃない? 学校でも上手くやってるみたいだし。大事なのはこれからの
思い出よ? ……なーんてね。ごめん、柄じゃないよねー」
310弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:16:26 ID:???
最終話 最後の約束(2/4)

 彼女は笑いながら無くなったコーヒーのグラスの氷をカラカラ鳴らす。だが彼女は逆に忘れる事が出来ない。
忘れようとするたびに背中の激痛が彼女をあの日に呼び戻すのだから。ティモシーはサングラス越しの瞳を
伺うが、かなり濃い黒のレンズには彼の顔が写るばかりだ。思い出せない娘に忘れられない母親か。世の中は
皮肉な所でバランスを取るモノだな。そして【彼】を忘れられない限りは……。

「町長のトコに行くなら公園にも寄ってよ。こないだ書いたけどさ、ユースケがあそこで穴掘ってるはずだよ」
 何故かセブンスに流れてきたユースケは水関係の技術者として町の復興に一役買ったのだとティモシーは
聞いている。こっちも贖罪、か。時間は人生などあっさりねじ曲げる。自分の制服を見るとコレだって贖罪なのかも
知れないな、と思う。ミツキの件で自分の力の無さ加減を嘆いたあげくに、白服にまで成ってしまった。
「明日まで居るんでしょ? 夜にうち、寄っていきなよ。娘を紹介するからさ?」




「ミツキかぁさん、ユースケさんだよー!?」
 玄関からユースケを伴ってパジャマを着た少女がリビングへとやってくる。
「いらっしゃい。……こんな時間にそのカッコ? これから仕事? じゃブラックね。アンタはもう寝なさい?」
 ぶぅぶぅいいながら自室へ引っ込む少女を見送るとコーヒーメーカーに水を注ぐミツキ。

「今晩システムを止めるんだよ。だから例の配管も今晩復旧するんだ。第二調整池が使えないと後々困る」
「ところでこんな時間になんの用事? またサリーちゃんとケンカした?」
「バカ言え! それにケンカしたってココになんかこねぇよ。おまえは茶化すばっかで解決しねぇだろうが」
 彼女の親友とは既に家族ぐるみでつき合っている彼である。じゃあ何しに来たのさ。と言いながら湯気の
上がるコーヒーカップを二つ持ってソファに座るミツキ。
「ティモシーが急に今晩帰る事になったからよろしく言っといてくれって。今朝会ったんだろ?」
 言われればヒィィイインと遠くでエンジンの音が聞こえるのに彼女は気づく。もう臨界は越えている音だ。
「チェンバレン隊長にはお会いしたけどティモシーには会わなかったなぁ」 

「そんな事ばっかり言ってるから……。気持ちはわかんないでもないけどよ、だけどほら、アイツだって……」
「彼にはもっと、こう、お上品なお嬢さんが似合いなのよ。わたしみたいのは、ねぇ。素性だって宜しくないしさ」
 そう言うとミツキは目尻の傷跡にそっと手を触れる。サングラスを外した時の彼女の癖。
セブンスの事、ティモシーの事、俺の事、そして自分の体に残った傷跡の事。いろいろ気にしてるクセに
知らんぷりしやがって。ただユースケはそれは口には出さない。
「そうだ、もう一つ。オーブに帰りたいってんなら何とか出来るかもって言ってたぞ?」
 現プラント議長とオーブのアスハ代表は親友の間柄だ。そしてティモシーは今、議長直轄部隊たるフェイス。
それくらいしか出来ないのだがな。と言った顔はユースケには本当に申し訳なさそうに見えた。
311弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:18:18 ID:???
最終話 最後の約束(3/4)

「アンタはどうなのさ」
「サリーの両親の事もあるし、行かないよ。砂漠は俺を拾ってくれたんだ、恩返ししないとな。おまえは?」
「わたしも行かないわよ。わたしでなければセブンスの部隊はまとめられないし、今はもうプラント籍だもん。
結局オーブはわたしに何もしてくれなかったしね。アンタとおんなじよ? 砂漠に恩返ししなくっちゃ」
 セブンス守備隊の大部分は元赤き風の構成員とマーカス隊からの異動組。彼女が集めた以上、
今隊長を降りる訳にはいかない。それにセブンスオアシスでの暮らしは大変ではあるが不満がある訳ではない。
むしろここしばらくは好ましいとさえ感じるミツキである。オーブへの気持ちが無くなった訳ではないが
娘の事もある。そう言う事情を背負っている以上、事、これに関しては言い訳の材料には困らない。
「ティモシーにも恩返ししてやれよ? ははは、もう行かなくっちゃ。明日の打ち上げの時間が遅れちまったら、
町中怒るだろうからな、コーヒーご馳走さん。……あぁ、彼の事はちっとは真面目に考えてやってくれよ?」


 深夜。寝室の奥、ウォークインクローゼットの中。緑の服に囲まれて隠れる様に一着だけ赤くて長い制服。
ミツキはその赤い服の左の袖を両手できつく握りしめると頭を服の胸に埋めて、ただじっと立っていた。





 次の日の午後。隊長室でマイクを握るミツキ。
「レーダーサイト、及びモニタリング担当以外は予定通り1450から70分間休憩とする。時間まで帰還するように」
「ね、隊長ぉ。ホントに良いの? お休みにしちゃって」
「レーダーの人達は休まないし。それに農業実験都市としての復旧まではあと半年、今の所はただの砂漠の町。
そんな所を襲っても強盗だって赤字なだけでしょ? だからわたしが隊長やってても平気な訳でさ。
姐さんも外、出て来て良いですよ?」
 机の上のインターホンが鳴る。
『隊長、娘さんがいらっしゃったので駐機場にご案内しました』
「ありがとう、ごくろうさま。あなたも休憩に入って良いよ? どうせもう、今日はお客さん来ないからさ」


 駐屯地に駐機された、三日月と花のマークの付いた白のケルベロス・バクゥ・ハウンド。その背中。
帽子を目深に被ってサングラスをかけたザフトの制服の女性とジュニアハイスクールの制服の少女が並んで座る。
「凄い!! 見て見てミツキかぁさん! 虹だよ!? あんなに大きく!!」
「見てるよ、横にいるじゃんか。明日からは噴水、毎日あがる様になるってさ。やっと町がまともに治ったわね」
 水管理システムの再構築、貯水タンクの修理、増設。生活用水、農業用水の完全な確保。下水を含めた循環システム。
そしてそれらが完全に機能している事を示す砂漠の噴水。セブンスの町は完全に復旧した。
「ホント凄いよ、ユースケさんのおかげなんでしょ? わたし虹って始めてみたよ!? ホントにきれー!」
 彼女の場合は過去に見た記憶を忘れているだけなのかも知れないが、セブンスの虹を覚えていれば
それで良いだろう。ミツキは嬉しそうな、普通なら兄弟分しか年の離れていない娘の横顔を眺める。
 舗装の上には本来の目的を全うした噴水のおかげで、埃が盛大に落とされていることだろう。
水の匂いと一緒に空気の純度が上がった気がする。
312弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:20:42 ID:???
最終話 最後の約束(4/4)

 はしゃぐ娘を横目にティモシーも見ていけば良かったのに、とミツキはボンヤリと彼の事を考える。
 今度彼と会う時までに顔の傷だけは治しておこう。完全に消えなくとも彼が安心してくれる様に。
そしてカフェでコーヒーを飲みながら正直に話をしようとそう思う彼女。勿論彼の事はキライではなかった。
 けれど。彼女の思いは一気に深くなる。あなたはガサツで、顔も、脱いだら体も傷だらけな女で良いの? 
エリートの特務隊なのにオーブからプラントに潜り込んだ素性の怪しい女で良いの?
 既にサングラスの奥の瞳は噴水を見ていない。
「あの日封印したあなたの本当の気持ち、それはまだ、……?」
 つい口に出してしまって慌てて娘の横顔を見る。相変わらずのはしゃいだ顔を見てほっと息をつく。

 ここに来て初めて顔の、体の傷が気になった。傷は果たして本当にキレイに治るのだろうか。背中の傷など
娘が初めて見た時、可哀想だと言って一晩中しがみついて泣いた程だ。それに実際には背中だけではない。
体中に傷はある。右腕に至っては、二の腕とほぼ同じ長さの傷があるし、左手の中指もちょっと角度が違う。
 気にしないと言い張ってあの日以来病院にさえ一度も足を運んだ事のない彼女ではあったが、
一方で暑かろうが夜だろうが仕事中は、長袖長ズボンの制服とサングラスのスタイルを崩した事も無かった。
もっともサングラスに関してはほぼ失ってしまった右目の視力矯正の意味合いもあるのだが。


『腕がもげていようが片目が潰れてようがミツキには違いないだろ!』
 彼にしては辛らつな言葉。それを思い出すとミツキは帽子を脱ぐ。そしてサングラスも思い切って外した。
 彼が見る機会を得る前に背中の傷だけは何とかしたい。彼にアレを見せるのはいくら彼女でも、いやむしろ
彼女だからこそ抵抗がある。でも顔より体の傷なのは、果たしてそれは普通の女性の思考なんだろうか、
と少々深刻に考える。いくらでも普通の女性に近づきたい。初めてファングに乗ったあの日以来、初めてそう思う。
それに彼女が男性に背中を見せる機会、それはつまり……。
 此処までガサツでいなければいけなかったが故に、その分人の事など本当は言えない純粋で純情な彼女。
噴水から飛んできた水の飛沫が、赤くなった顔をゆっくりと優しく濡らしていく。

 彼女の脳裏にファング2のモニターが蘇る。
『……最後に約束して欲しい。……。僕がどうなろうがキミは生きろ!』
 橋が落ちた日から彼女を支えた言葉。『命あっての物種』、先ずは生きる事。そして……。
『……僕の事も忘れて、普通に暮らしてくれ。キミには、普通で有る事の幸せ。この意味がわかっている筈だ』
  モニターの中、エディは普通の暮らしをしろと彼女に言った。
男性を思って、顔や背中の傷の事で悩む今、彼女は普通の女性なのだろう。
空への橋と共に崩れ落ちた彼女の普通の暮らし。そのカタチは果たして今と似ていたのだろうか。

『だから、今度こそ約束をまもってあなたの事は、……忘れます! エディ、良いですよね!?』
 
 太陽に向かって呟くと大きく伸びをする。彼女はオーブを出た日から、初めて体全体が伸びた気がした。

「ねぇ、ミツキかぁさん。ホントに橋みたいだねー。明日から噴水の時間になったら毎日見れるんだよね?」
「太陽さえ出てれば、ね。どっちかって言うと噴水自体の方がメインなんだけど、アンタには関係ないかぁ」
313弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:22:25 ID:???
エピローグ 〜新たな橋〜

 オープンカフェの庇の下。お気に入りの場所に座ってからずいぶん時間が経つ。
スーツを着て、後ろ手に花束のようなモノを下げた青年が落ち着かない様子で店のカドに突っ立っている。
わたしは前に比べるとかなり色を薄くしたサングラス越しに、それをずっと見ている。
 彼らしいと言えばそうなのだけれど、挙動不審で通報されたらどうしよう……。
そうなったら、MPの腕章を着けて駆けつけてくるのはわたしの部下だ。あぁ、頭痛い……。
きっと気づいていないと思ってるだろうな。まぁ約束の時間まであと五分有る事だし。
 約束の時間ちょうどにコーヒーを持ってきてくれるように注文する。味なんかガサツが服を着て歩いてるような
わたしにはわかりようもないが、お気に入りではある。一番おいしいのを飲んで欲しいと、それはそう思うのだ。
彼は時間かっきりに『到着する』つもりなのだろうから。

 降り注ぐ日差し。目尻の傷はあと数回通院しなければならない。薄くなったとは言えファンデーションで
上手く隠れているだろうか。汗で流れていないか心配だ。なにせ普段化粧などとは縁のないわたしである。
やっぱり前の濃いサングラスにすれば良かった。

 学校に行く前の娘の声が蘇る。
『今日、あの写真のカッコいい人と会うんだよね? バッチリ決めてきてよ! そうじゃないとわたしが
ラブレター出しちゃうんだから……。おこんなくても良いじゃない、あははは。行ってきまぁあす!!』
 わたしの自室のデスク。何もないその上に、一枚きり。大きな船をバックにした集合写真。
真ん中付近、赤い詰め襟の二人に挟まれて緑の詰め襟のわたし。彼女はきっとその写真でしか彼を知るまい。
 いっちょ前に人の心配なんかしちゃって、マセガキが。大体、彼が素性の知れない小娘のラブレターなんか……。
ハッとして頭を左右に軽く振る。娘の冗談を真に受けてどうする。わたし。

 気が付くと膝の上で握りしめた左手が真っ白になって震えている。
そもそも何故わたしが緊張する必要が……。

 約束15秒前。彼はゆっくりとこちらへ歩き出そうとして……。
目が合っちゃった! 気を使って知らんぷりしとこうと思ったのに。
いくらわたしがバカだってそれくらいは、わかる。うーん、気まずいなぁ……。

カフェの庇に水の当たる音がする。そうか、噴水を見せたくて待ち合わせをこの時間にしたのだった。
勢いよく吹き上がる噴水、水の匂い、綺麗に掃除された空気の味、コーヒーの香り。そして七色のアーチ。

「あ……。よ、ようミツキ。待たせちゃったみたいだな、その、すまないな」
 ティモシーは、恥ずかしそうに笑うと、如何にもバツが悪そうにこちらへ近づいてくる。
「え? あ、あの、気にしないで良いよ? そのぉ、わたしも、うん。……そう、さっき来たばかりだから!」
彼の背中の向こうには、虹の橋がハッキリと見えた。

 橋は再び架かった。ならば橋を渡る努力を再開しよう。幸運にもわたしは、一人ぼっちじゃないんだから。 


=おわり=
314弐国 ◆J4fCKPSWq. :2007/09/05(水) 19:24:14 ID:???
妄想OVAシリーズ三つ目終了です。住人の皆さん、ありがとうございます。
投下時の文章量の増減は今後の課題、ですね。
7話〜今回にかけて読み辛かったことをお詫びします。

>>267,269,271
やはり普通のハッピーエンドの方が後味良かったでしょうか。
前二作と違って実はほぼ当初のプロット通りだったりするのですけど……w

>それからひょっとして最後に出てきた記憶喪失少女が……
実はティモシーを殺さなかった為に見せ場が無くなりまして……ww
削ると自分の中で、ミツキのイメージから外れる為にあえて削りませんでした。
なので彼女の存在自体が不自然かも知れませんね。すいません。
大当初のプロットから居た割りに、実は名前も見た目の設定も無かったりします。

>むしろ前後編とかにしてさらに話をふくらませても……
状況によってはその方が良かった回もあったかも知れませんね。今後検討します。

今回分、以上です。ではまた。
315機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:40:38 ID:???
 ザクレロはヘリオポリスの港口から、ザクレロから見て左側の壁に体を擦るようにしながら宇宙に飛び出した。
 削れた壁材が、火花となってザクレロを取り巻き、その機体を宇宙に鬼火のように輝かせる。
 直後、二本の光条が港口の前で交叉した。ザクレロはその光条の隙間を擦り抜ける。
 その光……ビームを放ったのは、ミゲル・アイマンとオロール・クーデンブルグのジンだった。
「正直には出てこないか!」
 ミゲルは舌打つように声を上げる。
 ザクレロが飛び出した瞬間に、M69 バルルス改特火重粒子砲 で予測射撃を行った。
 単純にまっすぐ出てきたなら、今の一撃はザクレロをとらえていただろう。
 しかし、ザクレロは壁面に体をすりつけるようにして飛び出し、攻撃を避けて見せたのである。
「オロール! 敵はやるぞ!」
『見たかよ! どうする本物の化け物だ!』
 ミゲルの通信に、オロールの興奮した声が返る。
 その声に混じるもの……ミゲルが感じたそれと同じものが、ミゲルの心の奥にも宿っていた。
「ああ……ふざけた姿だぜ」
 僅かな手の震え。
 ミゲルは、操縦桿を強く握りしめてその震えを消す。
 恐怖……闇に潜む猛獣を恐れるのと同じ、原初的な恐怖。
 鬼火のように燃えるザクレロの姿が、それと対峙する者達の心に恐怖を植え付けていた。
「手はず通りだ。俺達で押さえるぞ!」
 ミゲルは通信機に向けて声を上げ、恐怖に揺らぐ意識を戦いに引き締める。
 今は怯えている時ではない。それは、オロールにもわかっていた。
『了解! 猛獣狩りだ!』
 ミゲルとオロール、二機のジンは、一時飛び去ったザクレロを追って身を翻した。

「あっ……危なかったぁ……」
 ザクレロのコックピットの中、マリューは胸をドキドキさせながら青ざめた表情で言った。
 思いっきり操縦ミスをして、壁を擦った時にはどうなる事かと思ったマリューだったが、結果としては無事に外に出られたわけだ。
 なお、操縦ミスのお陰でジンの攻撃が当たらなかったという幸運には気付いていない。
「それより、敵は!?」
 気を取り直してモニターを見る。複眼センサーが捉えた状況が、表示されていた。
「敵は二機……」
 ザクレロを追尾するのは二機のジン。ザクレロが港口から飛び出した際に、二機は後方に置いてきてしまっていた。
「出航の邪魔はさせないわよ!」
 言ってマリューは操縦桿を引く。
 方向転換。機体を斜めに傾けながら緩やかに旋回して、ザクレロは二機のジンへ向かう進路を取る。
316機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:42:05 ID:???
「オロール! 上下から挟み込む!」
 一旦離脱した後、旋回して戻ってきたザクレロを前に、ミゲルはオロールに指示を下した。
 自分達を狙ってるのだろうザクレロは、目標めがけてまっすぐに突っ込んでくる。
 それに対し、ミゲル機はザクレロの正面下方、オロール機は正面上方に位置して、それぞれが武器のトリガーに指をかけた。
「ミサイル全弾ばらまけ!」
 ミサイルは、機体を重くして機動性を損なわせる。
 だから早くに撃ち尽くし、敵にダメージを与えると同時に機動性を少しでも上げる。
 ミゲルの指示に、通信機からオロールの声が上がった。
『化け物、お前にもボーナスくれてやるよ!』
 直後、ミゲルが、そして一瞬の後にオロールがトリガーを引く。
 ジンに装備されているM66 キャニス短距離誘導弾発射筒から、大型ミサイルと小型ミサイルが各四発ずつ。
 M68 パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒から、六発のミサイルが発射された。
 二機あわせて計二十八発のミサイルが拡散するような軌跡をたどり、そして向きを変えて包み込むように一つの目標……ザクレロを目指して突っ込んでいく。
 マリューの目にはそれが、まるで宇宙に広げられた投網の様に見えていた。
「な……ミ、ミサイル!? 避け……ぐぇ……」
 吠え猛るミサイルアラートを聞きながらマリューは、とっさに操縦桿を左に一気に傾ける。
 直後に、発生する横向きのGが、マリューを操縦席からもぎ取らんばかりに横へと押しやった。
 ザクレロはそんなマリューの状況はさておいて、操縦に忠実に従い、左へと進行方向を曲げる。
 だが……遅い。
 右側から迫るミサイルは、ザクレロの動きに応じて進路を変えてきている。左側から迫っていたミサイルは、完全に直撃コースを……
「あ…た…るぅ…かああああああっ!!」
 Gに押し潰されながらマリューは、必死で操縦桿のトリガーを引いた。直後に、ザクレロは拡散ビームを吐き出す。
 ザクレロの口腔からあふれた閃光は、左側から迫ってきていたミサイルの群れを包み、宙を彩る光球に変えた。
 その傍らを、爆散したミサイルの放つ炎に炙られながら、ザクレロが高速で飛び抜ける。
 ザクレロの後に続いた生き残りのミサイルの群れは、爆散したミサイルに惑わされ、あらぬ方向へとその進路を変えて宙をむなしく彷徨った。
「やった……」
 ミサイルアラートが消えたコックピットで、マリューが安堵の息を漏らす。
 しかし、そこへ新たな警告音が襲った。
「!? 撃たれた!?」
 モニターに表示される被弾を知らせる警告。イエローアラート……ダメージは、機体の戦闘力に影響を及ぼすほどではない。
 被弾箇所は背部。直撃ではあるが、装甲は何とか耐えてくれた。
「良くも傷つけてくれたわね! 乙女の柔肌に!」
 理不尽にも、自分が傷つけられたかのように怒って、マリューはモニターの中に敵を探した。
 先ほど、ミサイルを撃ち放ったジンが、大型の銃……M69 バルルス改特火重粒子砲を手に持ってザクレロに追いすがろうとしている。
 重粒子砲の攻撃は当たった。しかし、そのジンの中でミゲルは、背中に嫌な汗が溜るのを感じていた。
「直撃の筈だぞ」
 思わず呟く。
 ミゲルの射撃は、ザクレロに直撃していた。しかし、ザクレロは装甲表面を焼いた程度で、殆どダメージを受けたようには見えない。
 この敵は、不死身の化け物ではないのか? そんな愚にもつかない想像が、心の奥から沸き上がってくる。
『あの数のミサイルを全部振り切った上に、ビームが利かない……どんな化け物だよ』
「落ち着け。ダメージは行っている筈だ。不死身の化け物なんかじゃない」
 ミゲルは、通信機から聞こえたオロールの声に答える事で、自らの恐怖心を押さえつけた。
 そう……敵は神世の魔獣ではない。連合が作った機械兵器だ。そう、自分に言い聞かせる。
「それに、俺達の役目は、こいつを引きつける事だ。時間さえ稼げればいい。後はガモフがやる」
『わかってる……おい、来るぞ!』
 オロールの声が、恐怖に囚われたものから、普通に緊張したものへと変わっていた。
 モニターの中、ザクレロは再度方向を転換し、ミゲルとオロール達に突っ込んできているのが見える。
 凄い勢いで距離を詰めてくるザクレロに、ミゲルとオロールのジンは重粒子砲を構えた。
317機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:44:42 ID:???
 ヘリオポリス港口。
 アークエンジェルは、ザクレロがジンと交戦状態になっている事を確認してから、その姿を港の外へと現わした。
 慎重に船を進めるアークエンジェル。そのブリッジの中、索敵を行っていたジャッキー・トノムラが声を上げた。
「敵艦……下です!」
「何だと!」
 ナタル・バジルールは、驚きに声を上げた後、一瞬だけ表情を苦悩に歪めさせる。
 港口からではヘリオポリス自体が邪魔になって死角になっている位置から、ローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフが姿を現わしていた。
 そこは、アークエンジェルの背後、下側に位置する方向である。
「イーゲルシュテルン用意! アンチビーム爆雷射出!」
 ナタルはすかさず命令を下した。
 しかし、それは遅く……
「全兵装、撃て!」
 ガモフのブリッジで、艦長のゼルマンは指示を下した。
 その指示を受け、450ミリ多目的VLS四基が、937ミリ連装高エネルギー収束火線砲二門が、450ミリ連装レールガン二門が、125ミリ単装砲二門が火を噴く。
 狙いは、アークエンジェルの無防備な艦底。そこに、次々に着弾を示す爆発が煌めいた。
 そして、VLSから放たれたミサイルが、砲弾に遅れてアークエンジェルを目指す。
 その内の二発は、アークエンジェルに届く前に対空機銃イーゲルシュテルンに絡め取られて爆散する。
 しかし、二発はアークエンジェルの艦底に突き刺さり、さらに大きな爆発を起させた。
「ダメージは!?」
 攻撃を受けた事による激しい振動が収まるや、ナタルはオペレーターに聞く。
 オペレーターは、各種データに目を走らせ、答えた。
「ビーム砲、直撃二、至近弾一。ラミネート装甲に蓄熱有り。
 砲撃、艦底部に直撃六。内、装甲貫通二。
 ミサイル、艦底部に直撃二。
 戦闘継続は可能です」
 負傷者や死者も出ているかもしれないが、今はそれをチェック出来る時ではない。
「そうか……ならば、反撃する。バリアント、スレッジハマー用意! 目標、後方敵艦!」
 後方下面に位置する敵に攻撃できるのは、110cm単装リニアカノン「バリアントMk.8」二門と、艦尾大型ミサイル発射管の内、後方に向けられた十二基だけだ。
 艦の側面に付けられたリニアカノンが、旋回して後方を向く。
 艦尾大型ミサイル発射管の内、後方に向けられた十二門に艦対艦ミサイル「スレッジハマー」が装填される。
 方向転換すれば他の武器も使えるのだが、対艦戦闘中に向きを変えるような悠長な真似はなかなか出来ない。
「メビウス・ゼロの射出急げ。ザクレロは何をしてる?」
「ジン二機と戦闘中です」
 索敵手のジャッキーが、ザクレロが二機のジンを相手にしている事を報告した。
 ザクレロを戻せば、ノーマークになった二機がアークエンジェルに襲いかかるだろう。ザクレロは使えない。
 ナタルは、すぐさま結論を出した。
「メビウス・ゼロに、敵艦への攻撃を指示しろ」
 直掩機が居なくなってしまうが仕方がない。
 何としてでも敵艦を牽制し、アークエンジェルの向きを変え、正面から対峙しなければならないのだ。
318機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:46:06 ID:???
 アークエンジェルへの初撃の成功に、ガモフのブリッジでは、クルー達の歓喜のどよめきが沸いていた。
 が……アークエンジェルが爆沈する事無く、前進を続けているのを見て、どよめきは落胆の色を混ぜて途切れる。
「敵艦健在です」
 落胆するクルーに比して、ゼルマンは落ち着いていた。
「かまうな。我々は良い位置を取ろうとしている」
 見た目、アークエンジェルは武装の殆どが上部に向けて付けられているのがわかる。
 それを、ヘリオポリスの行政官からもらった資料で確認したゼルマンは罠を張った。
 アークエンジェルが、港でどう停泊していたかによって、どんな向きで出てくるかは読める。
 そこで、アークエンジェルの最も弱いであろう方向……背部下面から襲える位置に艦を伏せたのだ。
 その罠にアークエンジェルはまんまとはまっており、抵抗出来ないままに攻撃を喰らっていた。
「VLSに対空ミサイル装填。ミサイル迎撃に使う」
 ゼルマンは、アークエンジェルが後方に撃てる武器の一つ、対艦ミサイルへの防御を固める事を指示した。
 そして、操舵士に前進を指示する。
「連合新型戦艦の弱点は背部下面だ! 押し上げるように追うぞ!」
 ゼルマンの指示に従い、逃げるアークエンジェルを追って、ガモフは背後から追っていった。
「敵艦より、攻撃来ます!」
 オペレーターが叫んだ直後に振動。
 軽い揺れの中、さらに報告は続く。
「対艦ミサイル十二発接近。対空ミサイル迎撃……」
 モニターの中、こちらに迫ってきていた光点……対艦ミサイルの噴射炎に向かって、こちらから発射した対空ミサイルが飛んでいくのが見えた。
 対空ミサイルは、対艦ミサイルの側で爆発し、周囲に撒き散らした破片でミサイルを傷つけ、押しやって軌道をずらす。
 そんな、対空ミサイルによる攻撃を抜けたのは四発。しかし、その対艦ミサイルには次に、対空機銃による迎撃が行われる。
「……撃墜八発。対空機銃による迎撃……成功。突破ゼロです」
 対空機銃から打ち出された銃弾の奔流に巻き込まれ、対艦ミサイルは全て撃ち落とされる。
「砲撃による被害は、艦首に至近弾一発です」
「ふん、単装砲ごときでは、艦はそうそう沈まない。倍返しだ」
 アークエンジェルが使えるのは110cm単装リニアカノン二門のみ。
 対して、ガモフは持てる全武装を使用できる。火力では圧倒しているのだ。
「それに……もう一つ仕掛けがあるからな」
 ほくそ笑むゼルマンに、オペレーターが新たな報告をする。
「敵艦より、MA出撃を確認。メビウス・ゼロです。後続の機はありません」
 ガモフのモニターには、ガモフへ向かってくるメビウス・ゼロの姿が映し出されていた。
319機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:47:12 ID:???
 ムゥ・ラ・フラガは、メビウス・ゼロのコックピットの中、軽口を叩く。
「対艦戦闘か。俺って頼られてる?」
 ザクレロと違い、専用の射出口を使用できるメビウス・ゼロは、素早く戦場に展開できる。
 宇宙へと飛び出したメビウス・ゼロは、そのままガモフへと向かう進路を取っていた。
「とはいえ、きついな」
 ムゥは、通信機に声が入らないよう小声で呟く。
 MAは本来、軍艦を単機で撃破出来る兵器ではない。
 よほど好条件が揃わない限り、ヴェサリウスを戦闘不能にしたような真似は出来ないのだ。
 案の定、近寄ったメビウス・ゼロに、ガモフは持てる対空火器を振り向けてきた。
 六基の58ミリCIWSが、対空ミサイルを装填した450ミリ多目的VLSが、二門の125ミリ単装砲が作り上げた濃密な弾幕が、メビウス・ゼロの行く手を遮る。
「隙がなければ作る……か」
 ムゥは、隙を探してガモフの周囲を巡り始めた。
 ガモフが弾幕に切れ間を作ったその瞬間に飛び込めるよう、隙を狙いながら。
 しかし、その間にもメビウス・ゼロをめがけて対空機銃は弾丸を吐き散らしている。
 一瞬の不注意、一つの操縦ミスが死を招く状況で、ムゥは飛行を続けていた。
 一方、そんなムゥの決死の攻撃を受けるガモフ。こちらは、たかが一機のMAを相手にしての事であり、余裕を持っていた。
 そして……ゼルマンは、勝利が見えた事の喜びに口端を笑みに歪める。
「これで直掩機が居なくなった。我々の勝ちだ」
 それは予定されていた事。
 ナイトを全てキングから引き剥がし、チェックメイトをかける一手。
「信号弾三発放て。予定通りだ」
 ガモフから打ち上げられた信号弾が宙で炸裂して、光を放つ三つの球となる。それは、出撃の合図だった。
 ヘリオポリスに張り付くようにしがみつき、動きの一切を止めて隠れていたジンのモノアイが鈍く光る。
 そのジンは壁を蹴るようにしてヘリオポリスから離れると、アークエンジェルを追った。
 それは、アークエンジェルでも察知する所となる。
320機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:48:20 ID:???
「敵MS出現! 後方上面から来ます!」
 索敵担当のジャッキーが声を上げた。
 その事実の示すところを悟り、ナタルはサッと表情を青ざめさせる。
「はめられた……!」
 直掩機の居ない状況で、攻撃手段に乏しい後方から、敵艦と敵MSによる十字砲火を受けるのだ。
 不利ですませられる状況ではない。致命的だ。
 ナタルの心の中を、冷たく重苦しいもの……絶望が染める。
 しかし、戦場はそんなナタルに、立ち上がる時間を与えてはくれない。
「敵艦より砲撃!」
 再びの振動。ミサイル攻撃こそ無くなったが、ガモフはまだ主砲と副砲をアークエンジェルに向けている。
「ビーム砲、直撃三、至近弾一。ラミネート装甲の蓄熱が限界値に到達。
 砲撃、艦底部に直撃三。内、装甲貫通二……」
 アンチビーム爆雷で威力が弱まっているとはいえ、ビームの直撃が続けばラミネート装甲の蓄熱が廃熱処理能力を超えてしまう。
 超えれば、ラミネート装甲は溜め込んだ熱で船体にダメージを与え始めるだろう。
 それに砲撃も、無視できないダメージをアークエンジェルに与え続けている。
 何にせよ、これ以上の攻撃を受ける事は危険だ。
「後方のジンからミサイル! 十四発来ます!」
 オペレーターの被害報告が終わらぬうちに、ジャッキーの報告が響く。
「イーゲルシュテルン用意! ヘルダート放て!」
 ナタルは素早く命じた。
 艦橋後方ミサイル発射管から対空防御ミサイル「ヘルダート」十六発が放たれて、迫り来るミサイルの群れに殺到する。
 ヘルダートの爆発に巻き込まれ、次々に破壊されるミサイル。流石に生き残ったミサイルはなかった。
 だが、ミサイルが残した爆発の残光を貫き、光条がアークエンジェルに突き刺さる。
 直後、今までにない激震が、アークエンジェルを襲い……ブリッジには今までにない警告音が鳴り響いた。
 艦長席から投げ出されないよう、しがみついて耐えていたナタルに、被害報告をするオペレーターの悲痛な声が聞こえる。
「ビーム着弾! ラミネート装甲の蓄熱限界を突破しました!
 影響を受け、船体各所に被害が拡大しています!」
「く……」
 自分ではダメだったのかと、ナタルは口惜しく思っていた。
 艦長の真似事でも頑張ってはみたものの……所詮は紛い物か。
 多くのクルーや、連合国国民達を巻き添えにして、ここで負けなければならないのは……
 しかし、うちひしがれながらも、ナタルの口から出たのは、あきらめの言葉ではなかった。
「まだだ! まだアークエンジェルは戦える!
 艦上方にアンチビーム爆雷!
 ザクレロを呼び戻せ!
 ヘルダート、コリントスM114用意! MSを叩け!」
 声を上げるナタル。しかし、その目からは涙が一粒こぼれていた。
321機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:50:51 ID:???
 幾度もの振動に揺れるアークエンジェルの中、格納庫で、サイ・アーガイルはミストラルに乗ったままでいた。
 搬入作業終了後すぐの出航だったので出る間が無く、すぐに戦闘だと聞いていたので何となく乗り続けていただけなのだが……
 今は、ミストラルに乗っていた事を良かったと思っていた。
「こいつにも鉄砲がついてるんでしょう? 出してください!」
 通信機に向かって声を張り上げる。相手は、ブリッジの通信士。
『ミストラルで出る気か!? 死ぬぞ!』
 馬鹿を言うなと言わんばかりの反応だが、サイはここでは引けなかった。
「どうせ、この艦が沈んだら、みんな死んじゃうんですよ!
 なら、やらせてください!」
 戦闘は正直、怖い。
 それに、何をすれば良いのかも、はっきりとはわからない。
 それでも、この艦に乗っているだろうフレイを、自分が何もしないまま死なせてしまう事は出来なかった。
 可能なら守りたい。命を賭してでも。
 それが、自分に出来る事だと思ったから、連合軍に志願したのだ。
「お願いです! 砲台の代わりにくらいはなって見せます!」
『……わかった。確認する』
 通信士は、サイの熱意の前に折れた。
 もしサイが、ついさっきミストラルに乗ったばかりの学生だと知っていたら、誰も出撃は許さなかっただろう。
 しかし、サイは書類を提出しては居らず、サイの身上を知っているのは、数人の兵士だけだった。
 何より、連合基地に居た兵士を洗いざらい詰め込んだこの艦の中では、どんな兵士が乗っているのかを正確に把握している者など居なかったのである。
 それ故に、サイの事は連合のMAパイロット訓練生か何かだという誤解が生まれていた。
「……艦長。MAパイロットが、ミストラルで出撃すると言ってます」
 通信士は、ブリッジのナタルに報告し、判断を仰いだ。
「MAパイロット? 居るとは聞いていない」
 ナタルは、一瞬の思考の後に答える。正規のMAパイロットは、全滅したはずだ。
「どうも新兵らしいのであります」
 通信士はそう答えたが、事実はそうではない。しかし、今は事実を調べる時間などあるはずもなかった。
 ナタルは少しの間、考えを巡らせる。
 ミストラルで出撃しても、MSに対抗し得ない事は知っていた。
 しかし、今はアークエンジェル自体が危機にある時。僅かでもMSに隙が出来れば、それが転機になるかもしれない。
 パイロットを捨て駒にするような判断だが、打てる手は何でも打とうと……決めた。
「許可すると……いや、私が言おう。通信を回せ」
 ナタルは判断を下し、それを通信士に伝えさせようとしたが、思い直して自分が直接言う事にする。
 パイロットを死地に送り出す事への罪悪感から、パイロットに一言詫びたいと思ったのだ。
「つなぎます」
 通信士が通信を回す。手元のコンソールに、ミストラルのコックピットのサイが写り込んだ。
「……若いな」
『若いと戦いには出せませんか!?』
 サイの姿に思わず呟いたナタルだったが、直後に返されたサイの問いには首を横に振った。
「いや、出撃を許可する。MSに対して攻撃をしかけ、一瞬で良いから動きを止めろ。出来るか?」
『やってみます』
 緊張と押さえ込んだ恐怖に顔を青ざめさせながらも、サイの決意は固く、その目に迷いは無い。
 ナタルは、サイを前にして詫びの言葉は言えなかった。その決意を汚すような気がして。
 だから、ナタルは別の言葉を言う。
「必ず任務を果たせ」
『わかっています。必ず、この艦を守ります』
 サイの返事を聞いて、ナタルは通信を一方的に切った。そして自嘲含みの苦笑混じりに呟く。
「任務を果たせか……もっと違う事を言うべきだったかな」
322機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:51:59 ID:???
 アークエンジェルをガモフが追いつめる一方、ミゲルとオロールのジンは、マリューのザクレロとの戦いを続けていた。
 戦うに連れ、ザクレロへの本能的な恐怖が薄らいでいるのは、ミゲルとオロールが優秀な戦士である事の証だろう。
 しかし、戦闘の状況は芳しくはなかった。
「くそっ! 追い切れない!」
 ミゲルがトリガーを引く。ジンが持つ重粒子砲がビームを放つが、それは高速で宙を走るザクレロの後ろを抜けていくに終わった。
 大きくて重く、取り回しの難しい重粒子砲では、ザクレロを追い切れない。
 それに、何とか当たっても装甲に阻まれ致命傷にはならない。
 装甲の弱そうな所を狙うという対艦戦闘などでのセオリーも、ザクレロ相手では速度が速過ぎて無理だ。
 ザクレロは単調にまっすぐ飛んで時々突っ込んでくるといった戦い方しかしないので、今のところは何とかなっている。
 元々ザクレロを引きつけての時間稼ぎが目的なのでそれはそれで良いのだが、倒す事が出来ないのはしゃくだった。
 そして、苦々しい思いをしているのは、ザクレロのマリューも同じ。
 ザクレロを駆り、その速度に潰されかけながら頑張っているのに、未だジンに有効打を与えていない。
「こんの、チョロチョロとぉ!」
 大回りで旋回しながら方向をジンに定め、突っ込みをかけて拡散ビームを放つ。
 しかし、ジンは小回りが利くところを活かして、巧みに射線上から逃げ回る。そして、チマチマとザクレロにビームを当ててくる。
 簡単に言うと、マリューがザクレロを上手く扱えず、攻撃が単調になってしまっている為に逃げられているだけだ。
 だが、だからといってマリューが急にザクレロを上手く扱えるようになるわけでもない。
 闘牛士に翻弄される闘牛の様に、何度も突撃を仕掛けるのみである。
 ただそれも、いつまでも繰り返しては居られない。
323機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:53:10 ID:???
『ザクレロ聞こえますか?』
「……は……い」
 突然に聞こえた通信に、突撃時のGに耐えていたマリューは苦しい思いをしながら返事をした。
『現在、アークエンジェルが攻撃を受けています。早急に戻ってください』
 通信士は、アークエンジェルの危機を伝え、戻ってくるように連絡した。
 その連絡を聞きながら、マリューはオロールのジンに向かう。
 慌てて進路上から逃げ出すオロールのジン。
 拡散ビームのトリガーを引くタイミングを逸し、マリューはそのままザクレロを通過させる。
「アークエンジェルが!?」
 攻撃の間が空いてから、マリューは驚きの声を通信に返した。
 そして、即座に状況を確認する為、複眼センサーが戦場を広範囲に捉えて得た情報を改めて見る。
 すぐに、アークエンジェルがガモフともう一機のジンから不利な後方からの攻撃を受けているのがわかった。
「……わかったわ。すぐ行くから、ナタルに泣かないで待ってなさいって伝えて!」
 あの真面目なナタルだから大泣きはしないだろうが、涙目くらいにはなってるだろうと軽口を叩き、マリューはザクレロの進路をアークエンジェルの方へと向けようとする。
 しかしその時、進もうとした先をビームの光条が走り、ザクレロの行く手を遮った。
 それをしたのはミゲル。彼はザクレロの動きから、ザクレロがアークエンジェルの方へ行こうとしたのを察したのだ。
 ミゲルは続いて、ザクレロとアークエンジェルの進路上に割り込み、追い払う為に重粒子砲を撃ち放つ。
 その攻撃にはオロールも加わり、二人してザクレロを追い始めた。
『もう少し、俺達と遊んでいってくれないと困るんだよ』
 ミゲルが、わざわざ共用周波数で軽口を叩く。これはマリューにも聞こえていた。
『本当は、おっかねーけどな』
 オロールも、共用周波数でからかうように言う。
 コックピットの中、マリューは自分も共用周波数で通信を開いた。
「強引なナンパは嫌われるわよ、坊や達。わかったら、そこを通しなさい!」
 通信を送った後、一瞬の沈黙。そして、返信。
『うっわ、まさか女かよ!? 顔に似合わねーっ!』
『嘘だ。俺はそのMAには吠え声以外は認めねーぞ!』
 ミゲルとオロールの無遠慮な驚きの声。
 マリューは一瞬の内にぶち切れた。
「私のザクレロを馬鹿にするんじゃないわよ!」
 思わず、今まで加減していたフットペダルを思い切り踏みつける。
 直後、今までにない急加速。伴う強力なGの発生。
 ザクレロは一気に宙を切り裂いて飛ぶ……
324機動戦士ザクレロSEED:2007/09/05(水) 23:54:45 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
325通常の名無しさんの3倍:2007/09/06(木) 09:16:07 ID:???
>>†
投下乙
萌えスレではルナマリア不要論さえあるなか
強く可愛いルナマリアを書けるあんたはエライ

>>独言
それもあんただったか・・・
何かタッチが当時の向上スレの空気とは
明らかに異質な感じだったのを覚えてるよ
今にして思えば†氏のタッチ、なのだな


>>砂漠
投下乙。そして完結乙
結果的にミツキが救われる流れが良いな
ちょっとあんたを見る目が変わった

チラ裏で良い訳云々と言っていたのは人称のことか?
気にするほどじゃないと思うが


>>ザクレロ
投下乙
主人公と主役機が交代しているだけで、他は淡々と種シナリオを進む
なのにどうしてこんな惹かれるのか
キャラの設定もお見事。原作のイメージを壊さないでザクレロキャラになってる
サイの今後に不安を残す展開。次回の投下を待つ

閲覧環境と好みにもよるだろうが、ちょっと字が多い印象
多少空白行を入れてみても良いかも知れない
326通常の名無しさんの3倍:2007/09/06(木) 13:31:31 ID:???
>>弐国
 完結乙でした。
 最後にミツキが歩いていくだろう未来への展望が開けて、これはこれで
いいものだ、と思いました。ミツキがエディの服を抱いて彼を忘れる決心を
つけたところでしんみりとしてしまいました。
 三作もの妄想OVAシリーズを完結させた構成力はすばらしいものだと思います。
展開はかなり王道の部類に入るのに、料理の仕方が上手だと思いました。

 第四期も期待して待っております。
327attitude ◆Q/9haBmLcc :2007/09/06(木) 22:39:27 ID:???

 be too late

 “prelude”1/2

 かつて戦争があった。
 少年は家族を失い、怒りと悲しみに包まれながら力を欲した。
 二年後、再び戦争が起きた。
 少年は過酷な戦争を生き抜き力を手に入れた。
 しかし手に入れた力が無力だったという事をその身に刻まれて敗北した。
 そして、敗北を味わった少年は大人になった。
 力を望む事を諦めて世界を動かす為の歯車となったのである。
 理想を諦めて現実を受け入れるという覚悟を持つ。それが大人になるという事なのだ。

 平和という物は嵐の前の静けさに似ている。平和になった時点で、次の戦乱への秒読みを始める。
 砂時計の砂の様に時は流れ、砂が無くなると戦乱を迎えるのだ。
 人類の歴史はそれの繰り返しである。

 そして今、零れ落ちる砂が尽きた。
 ――戦乱という運命の歌劇の序曲が世界に響く。
328attitude ◆Q/9haBmLcc :2007/09/06(木) 22:44:45 ID:???
 be too late

 “prelude”2/2

「やあ、調子はどうだい?」
 演習を終えたシン・アスカを出迎えたのはキラ・ヤマトだ。
「別に。良くも無ければ悪くもない……。至って普通ですよ」
 珍しいな、と思いつつ部下に解散を告げて彼を応対するシンの姿は、かつての様な不作法ではない。
 あまり好きではない人物だが、一応は上役である為に一応の礼儀は尽くす。
 それが組織にとっての潤滑油になるという事を知らない程シンはネンネではない。
「演習を見させて貰ったけれど、結構良い動きをしているじゃないか」
 キラはにこやかな笑みを浮かべてシンにゆったりとした足取りで歩み寄る。
「まだまだと思いますけどね。上には上がいますから」
 上には上、つまりキラとアスラン・ザラの事だ。
 二つの戦乱が生み出した二人の英雄には未だ及ばないとシンは自覚している。
 その自覚を逆撫でする様なキラの物言いに、シンは思わず不躾な言い様になる。
「無駄話をしに来たわけじゃないでしょう。用件は何です?早くシャワーを浴びたいんですけど」
「ああ、ごめん。……悪いニュースがあってね。君に知らせようと思ったんだ」
 手を合わせて頭を下げるキラにザフトの白服の威厳はない。
 白服を着ていると言うよりは白服に着られている、という印象だ。
「悪い二ュース? またアスランが何かしたんですか?」
 お道化て冗談めかしたシンの言葉に、キラの纏う空気が変わった。
 お愛想笑いにも似た笑みは消えて、瞳に冷たい光が宿る。
「良く解ったね。君は話が早くて良い。……アスランがオーブを出奔してプラントに対して兵を挙げた。」
 シンは、あの人は全く懲りないな、と溜め息をついて天を仰いだ。
「アスラン討伐には君の部隊が選ばれる事になっている。詳しい事は後で書面で送るから、覚悟を決めておいてくれ」
 キラは更に言葉を続ける。その表情には複雑なもの、色々な感情が浮かんでいる。
「覚悟?」
シンはその言葉に引っ掛かるものを覚える。キラの様子が先程とは全く違うので疑問が思わず口に出てしまう。
 キラは、厳かに口を開き冷徹な言葉を紡いだ。
「――ああ、覚悟だ。アスランを殺す覚悟だよ」


329attitude ◆Q/9haBmLcc :2007/09/06(木) 22:47:03 ID:???
be too late投下終了。
書く暇が少ないので少しずつ投下していく予定。
330通常の名無しさんの3倍:2007/09/06(木) 23:04:36 ID:???
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】7


このスレは新人職人さん及び投下先に困っている職人さんが好きな内容でSS・ネタを投下するスレです
短編・長編問わず投下できます。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を、
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。
週刊新人スレ編集長、まとめ単行本編集長、雑談所「所長」にも感謝の乙! をお願いします。
荒れ防止のため「sage」進行推奨

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁
スレ違いの話はほどほどに
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう

前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】6
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1186425541/l50

まとめサイト
ttp://pksp.jp/10sig1co/
雑談所
ttp://pksp.jp/rookiechat/


はねられました。どなたか宜しく
331通常の名無しさんの3倍:2007/09/06(木) 23:20:26 ID:???
 たちました。

【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】7
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1189087856/l50

>>ザクレロSEED
 投下乙です。
 種世界へのザクレロの取り入れ方が自然で秀逸だと感じました。
実際のところはザクレロが無くとも面白い種SSになっただろうと思います。
でもザクレロの存在が面白すぎる。
 上の人も言っていますが、改行と空白行に気をつければ
より読みやすくなると思います。

>>attitude
 投下乙です。
 ひょっとして感想を書かれていたアティチュードの方ですか?
本編後で少し大人なシンと冷淡なキラ、そしてアスラン。
続きをゆっくりお待ちしております。
332通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 00:17:30 ID:???
>>329
投下乙です! アティーの人って言い方も変ですが、アティーの人?

>>331
スレ立て乙です!
400レス行かずに次スレw
333通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 10:08:02 ID:???
正直容量でアウトになるほど一レスが濃いんだよな


せっかく梅レスだし、新人スレのスレタイらしく教えて!エロイ人!コーナー

最大改行数と最大文字数、誰か知ってたら是非
改行は48行だっけ?
334通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 12:22:59 ID:???
最大改行数は48行だよ。文字数は携帯からだと全角1028文字なんだ。
PCの場合は知らないよ。他のエロい人よろしく。
携帯からだと上手くスペースが入らない場合があるから良い子の職人さんは気をつけようね!
335通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 14:37:51 ID:???
このスレではまとめの1ページに入るのが全角1200文字らしいので
改行文字分の余裕を考えて1150文字/レスくらいが良いと思う
336通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 14:59:30 ID:???
 このスレはまず容量不足で落ちるのでレス数を気にすることなく、
少し短めに区切って投下した方がまとめ管理人さんの手間が減る、
ということかな?
 例えば、勝手に名前を出して済みませんが戦史さんの作品は
まとめサイトで分割されて居る事は少ない。
 逆に四十五文字かける四十八行くらいは一レスで入るので、
二十行くらいで半分に割るようにして最初から分け目を入れて
置くのも良いかも。
337週間新人スレ:2007/09/07(金) 15:38:10 ID:???
ちなみに何個なのか知りませんが、アンカーの数にも制限があるんですよ

私以外関係ないですかそうですかそうですね



他のスレでやりたい奇特な方向けに参考まで
338通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 15:53:58 ID:???
後、容量多いのを何回もレスしてると途中でアクセス規制に引っ掛かったりする事もあるみたいですしね。
連投規制は掛からなかったのにと言う事例もあるみたいでそこ等辺が良く解らない。

>>337
あーえと、ちょいと其方に質問。
やっぱ週刊さんの場合、紹介する手間も考えて其方の発刊?と同時に次の話を投下した方が良いかしら?
339通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 16:31:57 ID:???
それでは七スレ目が立った事だし、六スレの新人名鑑。

柩 ◆lk4D7hUGQs
種死ふかし話

◆MATdmc66EY
逆襲のアスラン

112
それぞれの願い

見える男の話

177
機動戦士ガンダムSEED E

赤頭巾
機動戦士ガンダムSEED異聞

attitude ◆Q/9haBmLcc
be too late

 今レスも多くの職人がデビューしました。
(中には百戦錬磨の方がいるっぽいですが)
340週間新人スレ:2007/09/07(金) 17:46:39 ID:???
>>338
一応投稿ボタンをポチる前にリロードしてます
何度かそれで助かってるもんですからw


まぁ私の場合、立場はあくまでも職人さん方の沿え物でして
むしろこちらの都合なんか無視して頂いて結構でございます
どっかの人の様にドMとかそういうわけでは無いですがwww
341通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 18:41:37 ID:???
定期誘導

このスレは間もなく容量オーバーです
作品投下予定の職人さん諸氏は

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までお越し下さい
342通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 18:44:02 ID:???
連投は10個、だよね多分
新シャアでは連投規制食らったこと無いけど
343通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 19:02:51 ID:???
OOがどうなるか知らないけど、始まれば新シャア扱いなのは間違いない所。で
種死の時の様にスレ立て即、即死判定。DATオチ。なんてコトがない様に
即死判定回避用に2,3レス分のテンプレがあった方が良いと思うんだ

以外とこの辺の雑談、纏めてテンプレ化したら便利かも
字数とか改行とか書いてみるとまず最初に悩むトコだろうし
新人スレだし

なによりココの住人は投下した人にたいして
テンプレ嫁とか冷たくいわなそうだしね
344通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 19:10:38 ID:???
>>334
この場合の48行は自動で入る(?)一番下の1行込み?
っつーか入るよね、下に1行・・・
345通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 19:40:28 ID:???
ご苦労様の使い方を最近知った…

>>職人さん
しばらく読んでなかったけど、まとめサイトや編集長の目次利用してやっと8月の投下ラッシュ分読み終えました。
長時間かけて考えて、改行とか文字数とか本当にお疲れさまです。
ほとんどの作品が好きです。いつも良質な作品をありがとうございます。

>>編集長
携帯からなので週間新人スレを画面メモして、しおり代わりに利用してます。
それぞれの作品の煽り文句がすごい上手いです。
毎週考えるのも大変でしょうが楽しみにしてます。本当にお疲れさまです。

>>まとめの人
種死ふかし話が入ってませんでした。めずらしく忘れてますかね?
いつも睡眠時間を削ってまとめているのでしょうか?
更新が止まることなく、投下ラッシュにも遅れることもなく本当にお疲れさまです。
編集長はオフィス勤務らしいですが、まとめの人のDQNな職業が気になるw

>>雑談所のギャンブラー
雑談所にパチンコだの競輪だの書き込んでるんじゃねーぞカス!
SSスレになにか関係あんのかボケがぁ。
先月の家賃未払いどうすんだ?今月は2ヶ月分まとめてだぞ!!このクズ!
いい加減にしろよ俺!!
346雑談所所長:2007/09/07(金) 20:30:05 ID:???
メールフォームに質問がきていたので雑談代わりにこちらへ。

>>職人さん達宛て
・文章を書くコツはなんですか?
・好きなキャラは誰ですか?・好きな作家or職人さんは?・サイトを持っているなら教えて下さい
・Sってホントですか?
・Mってホントですか?
・〇〇さんは××さんとアチチなんですか?
・批評のアティテュードの人ですか?

こんな質問が来ていました。誠に勝手ながら一部伏せさせて頂きました。

編集長には
・パクっても良いですか?
他GJ多数です。

まとめの人には沢山の労いの言葉が届いていました。

批評の方々にも多数GJと労いの言葉が届いていました。
以上、雑談所所長がお届けしました。
347週刊新人スレ:2007/09/07(金) 21:42:35 ID:???
>>346
色々乙です
意外とマメですな。雑な人なのだと思っていたww
ゴメン


>・パクっても良いですか?

どうぞ
348通常の名無しさんの3倍:2007/09/07(金) 21:49:25 ID:???
定期誘導

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>>346
・Sってホントですか?
・Mってホントですか?
・〇〇さんは××さんとアチチなんですか?

伏せた意味ナサスwww
349雑談所所長:2007/09/07(金) 22:03:43 ID:???
>>編集長
俺は雑ですよ。雑談所作ったままずっと放置してたからねぇ。
気付いたらメールがドッサリ来てて驚いたwww
350通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 02:40:06 ID:???
 なんで職人宛の質問がメールフォームに舞い込むんだろう?
新人スレって特性上、職人は答え難いと思うのだけれど。

 即死回避にある程度のテンプレを用意した方がいいというなら、
ある程度考えて見ましょうか。

 字数制限、改行のススメ、編集長、まとめ、雑談所の事。
『……』と『――』の基本。
 タイトルを入れた方が区別しやすくていいですよ。
(週刊新人スレの目次に『無題』で載るのは少し寂しい)
 いきなり設定資料を載せるのは遠慮した方がいいですよ。
(今まで人物紹介、設定資料の類で何も言われなかったのは
戦史さんの人物紹介くらい。それも二十話以上投下してから)

 他になんかありますか?
351通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 03:45:19 ID:???
タイトルの他に作者さんなりに第1話とかPHASE01とかプロローグ等入れて下さい。
と言うのもお願いします。
352FAQ〜テンプレ案〜:2007/09/08(土) 05:41:48 ID:???
〜スレについて〜

Q、新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
A、ようこそ、本当に投下しても大丈夫です。アドバイス、批評、感想がもらえます。
  ただし最初は辛目の評価が多いです。

Q、○○と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
A、ノンジャンルスレなので大丈夫です。ただしノンジャンルスレなので、クロス元を
  知らない読者が居られることも理解してください。

Q、00(ダブルオー)のssなんだけど投下してもいい?
A、新シャアである限りノンジャンルなので大丈夫です。

Q、××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
A、基本的に職人さんの自由です。移転元のスレに筋を通す事をお勧めします。
Q、△△スレが出来たんだけど、其処に移転して投下してもいい?
A、基本的に職人さんの自由です。移転先のスレに挨拶する事をお勧めします。

捕捉:新人スレは、他のスレが荒らされたあるいは落ちた場合の
   緊急避難先としても機能した事があります。

Q、○○さんの作品をまとめて読みたい
A、まとめサイトへどうぞ。
Q、○○さんのssは、××スレの範囲なんじゃない?
A、事情があって新人スレに投下している場合もあります。
Q、○○さんの作品が気に入らない。
A、スルー。

Q、読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
A、雑談所へどうぞ。
353通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 05:43:28 ID:???
〜投下の時に〜

Q、ssを書いて来ました。投下したいんだけど。
A、名前欄に作者のお名前とトリップ、本文にタイトルを書き、
  長編であれば第何話であるのかを書いた上で投下してください。

捕捉:ss本文以外は必須ではありませんが、タイトルは入れた方が良いです。

Q、短編です
A、名前欄に作者の名前(+鳥)、本文の最初にタイトル。

Q、長編です
A、名前欄に作者の名前+鳥、本文の最初にシリーズの題名と第○話+副題。
  あるいは
  名前欄にシリーズの題名+鳥、本文の最初に第○話+副題。

Q、私のssにはこんな設定が出てくる(予定)なのですが――
Q、私のssにはこんな人物が登場する(予定)なのですが――
Q、私のssはこんな作品とクロスしているのですが――
A、設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介はssの中で描写した方が良いです。

捕捉:話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
   あるいは
   此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
   という場合ならOKとされる"こともあります"。
   おそらく最善手は、人物紹介か設定披露の為に短編を一個書き上げる事です。

Q、投下制限を受けました(字数、改行)
A、四十八行、全角二千文字強が限界です。
  本文を適当に分割したうえで、名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……
  と番号を振って投下してください。
Q、投下制限を受けました(連投)
A、連続投下十回位が限界です。時間の経過か支援を待ってください。
Q、投下制限を受けました(時間)
A、投下の間隔は最低一分(六十秒)あかなくてはなりません。


このままじゃいろいろ問題があると思うので、修正宜しく。
354訂正、修正宜しく。:2007/09/08(土) 05:52:03 ID:???
〜書く時に〜

Q、長い沈黙は…………………で表せるよな?
Q、―――――――――!!! とかでスピード感を出したい。
Q、空白行を十行位入れて、キャラの言葉に出来ない感情を行間に落とし込む!
A、三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ連ねます。
  『……』、『――』という感じです。感嘆符「!」と疑問符「?」の後は
  一文字空白を入れます。
  そして記号や………………!! 空白行というものは――――――!!!







  作者が思う程には強調効果が無いので注意。

Q、じゃあ、何度も何度も何度も何度も何度も何度も言葉を繰り返して強調すれば?
A、同じ言葉を繰り返す事は、必ずしも意味や意見を強調しません。
  単独の表現を反復する事は語意や文意を強めないからです。
  言い換えれば、単調な描写はそれを反芻する読者の印象に残らないという事です。

Q、第○話、って書くとダサいと思う。
A、別に「PHASE−01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも
  「同情できない四面楚歌」でも、読者が分かれば問題が無いです。
  逆に言うとそこでどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
  ただし長編では必要な情報でもあります。

Q、文章を書くコツは?
A、上手い人かエロイ人に聞いてください。

Q、改行で注意されます
A、大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われております。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑のダッシュが全角四十文字、↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 こんなのを書くのに一時間以上も掛かった。後は頼みます。なんか蛇足のところがありそうです。
355通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 12:16:14 ID:???
>>352-354テンプレ案乙
修正の必要がないくらい完成されてると思いますが。
第○○話のとこで吹いたww
356通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 16:05:21 ID:???
そんじゃあ後は職人さんが適当に次スレの抱負を述べる、
とかでもしましょうか。
357通常の名無しさんの3倍:2007/09/08(土) 16:08:54 ID:???
定期誘導

このスレは間もなく容量オーバーです
作品投下予定の職人さん諸氏は

【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】7
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までお越し下さい
358通常の名無しさんの3倍:2007/09/09(日) 18:32:24 ID:???
何でも屋さん復活祈願!
359通常の名無しさんの3倍:2007/09/09(日) 19:25:52 ID:???
俺も祈願!
360ラウ・ル・クルーゼ:2007/09/09(日) 20:17:24 ID:???
umeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee
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361ラウ・ル・クルーゼ:2007/09/09(日) 20:20:06 ID:???
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362ラウ・ル・クルーゼ:2007/09/09(日) 20:21:23 ID:???
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363ラウ・ル・クルーゼ
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