【後日談】ボウケンジャー The Next Task【番外編】
『もしも轟轟戦隊ボウケンジャーが第二期シリーズに突入していたら……』
…を妄想するスレです。
投稿可能なのは『轟轟戦隊ボウケンジャー』に登場するキャラクターを使用した、本編の後日談をテーマにした二次創作作品のみです。
ギャグ、シリアス、小説(SS)、シナリオ、短編、長編など投稿する作品の形式は問いません。
◆基本設定◆
・第二期シリーズのタイトルは『ボウケンジャー The Next Task』
・投稿作品のタイトル名は、本編のサブタイトル風に【Task.数字(もしくは記号、単語) タイトル名】で統一。
・本編にて死亡、行方不明になったキャラの『安易な』復活は無し。
・その他の設定は全て本編に準じる。
◆ルール◆
・荒らし無用。荒らしはスルーすべし。荒らしに反応するのも荒らし行為とみなす。
・本編の世界観を壊さない事。本編をリスペクトするのは二次創作の基本です。
・他の特撮作品ネタ、特撮以外の他ジャンルネタ等の使用は『極力』避ける事。
・年齢制限が必要になるような内容の作品(露骨な性行為描写、過剰な残酷表現等)は厳禁。
・ネタスレですので、基本sage進行でお願いします。
・先にメモ帳などで全部書き上げてから投稿するのが望ましい。
・感想レスや雑談レスと区別をし易くする為、名前欄は作品名にするのが好ましい。
・長くなる投稿のタイトルはナンバリングする事。
・気に入った作品にはどんどん賞賛のレスを贈ろう。
・気に入らないネタは文句を言うんじゃなくてスルーする事。
・自分が気に入らないネタという理由で文句を言う奴はスルーする事。
・『職人は作品以外で雑談、言い訳をするな!』などと言う勘違いギャラリーはスルーする事。
・『自分じゃ投稿も出来ないギャラリーは黙っとけ!』などと言う勘違い職人はスルーする事。
※職人、ギャラリー双方がルールを守って楽しいスレにしていきましょう。
※詳細、関連スレなどは
>>2以降で。
「ミッション完了だ…見えるか、さくら姐さん!明石!未来は俺に任せろ!!」
ここは、『轟轟戦隊ボウケンジャー』の第二期シリーズ『ボウケンジャー The Next Task』の本スレです。
●東映公式:
http://www.toei-group.co.jp/tv/boukenger/ ●テレ朝公式:
http://www.tv-asahi.co.jp/bouken/ ●東映AG公式:
http://www.super-sentai.net/ ●原則として970を取った人が次スレを立てて下さい。
●970が不可の場合、以降にスレ立てをする際には有志の方が宣言をしてからでお願いします。
●他作品を貶める発言、或いは不必要に持ち上げる発言はスルー厳守でお願いします。
【スタッフ】
原作:七手二郎
制作統括:鈴森武幸(東映)
プロデューサー:ヘレック・シュドウィック 九木征志(テレビ朝日)
月笠淳 宇都宮孝暗 小森敬仁(東映)
矢田晃二 泉岳裕(東映エージェンシー)
脚本:會川降 大林靖子 小和屋暁 荒山稔久 武下純希
監督:諸畑敏 中澤祥三郎 松本昇 坂本細郎 渡辺負也 鈴街展弘
音楽:中山幸太郎
撮影:竹村文雄 小沢信吾
キャラクターデザイン:篠原壊 原田凶朗
アクション監督:石垣狭文(JAE)
特撮監督:佛畑洋
OPテーマ「ボウケンジャー The Next Task」MoB
EDテーマ「冒険者 NEXT ROAD」ライキックサバー
「ボウケンジャー The Next Task 主題歌」(OCOO-15845)
ロコムビアミュージックエンタテインメントより好評発売中! \1,260(税込)
「…pipi…太陽型恒星反応アリ…コールドスリープ解除…pipi…太陽型恒星反応アリ…」
…………どれだけ旅を続けたのか…何年…何光年…人類が作り出した単位が無意味に思える程…私達は遠く長い旅を続けていた…
コールドスリープとリップ・ヴァン・ウィンクル効果のお陰で殆ど齢をとっていない私達は…既に人類の作り出した文明全てを超越してしまったのかも知れない…
「プレシャス」という文明の足跡を捜し求める事すら無意味に思える……
……太陽系を脱出するまでは各惑星…矮惑星…小惑星の探査…観測…地球へのデータ送信と目まぐるしい忙しさだった…私の卑小な目的など達するヒマも無く…
冥王星でのゴードム文明遺跡を発見した時の興奮は恐らく人生最高のものだった…しかし…それが最初で最後のプレシャス発見…
太陽系脱出後…ボイジャーは次のプレシャスを目指す為…目標を太陽系型惑星系に絞り…光速の99.9%の亜光速航行に移った…そして私達は個々のカプセルでコールドスリープに入った……
……太陽型恒星に近づく度に覚醒し通常航行に移行…各惑星を観測…そして無反応なのを確認すると再び亜光速航行…コールドスリープ…永遠とも思える繰り返し…
無数の恒星系を通り過ぎ…無数の惑星を見た…地球型惑星も数知れず…でもプレシャスは無かった……
……亜光速航行中はもちろん星の粒など見えない…星虹以外の一切光の無い『闇』の世界…
「真墨はこんな世界を一人で抱え込んでいたのかな…」
そんな感傷に浸っていたのも始めのうちだけ…次第に私は何の感慨も受けない様になり…自分の卑小な目的も忘れていった……
……そして…いつからだろう…覚醒しても目覚めたカンジがしなくなったのは…体は目覚めているのに心は冷え切ったまま…
心を『闇』の世界に置いて来たように……
「……妙です…観測し得る全ての恒星ベクトルと宇宙背景放射が変化して…まるで一点に収斂され……」
「収斂される?そうか……ビックバン後、膨張しきった宇宙は収縮し始めるって説は知っているな?」
「……ビッグクランチですね…そして…収縮しきった宇宙は再び膨張して宇宙は幾度と無く再生を……」
「振動宇宙論か…それも有り得る。この変化というのは宇宙が収縮に転じたからかも知れん。」
「……つまり宇宙が…特異点に帰…る……」
「特異点…つまり『無』か…そうかもな………………………………宇宙の果てに行ってみたくないか?」
「……え……」
「このまま収斂されるベクトルとは逆に進路を取り続ければ…これはちょっとした冒険だな。」
「……久しぶりに聞く…そのセリフ……」
「そうだな自分でも忘れていた…………恐らくこれが最後のミッションになる…いいか?」
「……はい……」
「じゃあ、最後に地球を見ておくか?」
……もちろん本物の地球は見えない…それに…とっくの昔に赤色巨星と化した太陽によって…
モニターに映し出された地球は最後にキャッチした極微弱な光をムリヤリ補整した単なる青白い点……
……涙が溢れた…とめどなく頬を伝った…私は頬を拭う事も忘れ…ただただモニターを見つめた…
驚いた…まだ…こんな心が残っているなんて…
そう…私には確かに見えた…ただの青白い点が…緑豊かな青い惑星に……
……どちらからともなく一緒のカプセルに入る…この旅で初めての事…
「……牧野さん…ボイス…ワガママ言ってスイマセン……真墨…高岳さん…お別れも言えずゴメンなさい……蒼太くん…菜月…………私…幸せだよ……」
…冷え切った『闇』を温める互いの肌の温もりを感じながら…私達は永遠の眠りに向け目を閉じた……
……そして……全ては『無』に……
「…pipi…太陽型恒星反応アリ…コールドスリープ解除…pipi…」
……目覚めれば『無』が待っているのは判っている…最後にこんな夢を見せるなんて神様というのも余程…意地が悪いらしい…
「……ら……きろ……くら…起きろっ!」
…………!?…夢じゃない!
次元のカベを越えて平行宇宙へ?…ブラックホールに呑まれ時空を越えた?それとも…それとも……
「見えるか?これは現実だ!」
「…………は…はい!」
胸騒ぎに近い予感を感じた私達は、虚ろな意識の中、早速調査を開始した。
ここは太陽系型惑星系…その第三惑星は…間違いない!青い地球型惑星!!
今まで無数の地球型惑星を見てきた…でも…でも…今回だけは絶対今までとは違う!
「続けて第三惑星に接近!プレシャス反応測定だ!!」
「……………………有った…有りました!プレシャス反応です!!」
予感は確信に変わった!
「…………とうとう見つけた!これが俺達が探し求めていたプレシャスだ!!」
「はい!」
「いよいよ最後のミッションだ!コマンダーを分離し大気圏へ突入する!!」
コマンダーに大気圏脱出能力は無い…そう…この惑星が私達の旅の終着地。
逸る気持ちを抑え、ボイジャーからコマンダーを分離。
私達を乗せたコマンダーは青い惑星へと向かった。
目の前に迫る青い惑星……見える!白い雲!青い海!緑の山々!何から何まで地球そっくりの青い惑星。
所々には都市も見受けられ、明らかに知的生命体…イヤ!人類と断定しても良い生命体が、この惑星には暮らしている。
地形データ収集、降下ポイント選択の為に惑星を一周後…いよいよ大気圏突入。
大地が目前に迫る…見えてきた…青い海に囲まれた島…降下ポイントに選んだ「日本」だ!!
コマンダーは雲海に覆われた山間部の森の中へと軟着陸した。
ゆっくり大地に足を着けてみる…鈍りきった体が重い…二人で顔を見合わせ苦笑した。
「さぁ!早速アクセルラーでプレシャスの位置を確認だ!」
「プレシャス反応は…北東500m!地形データと照合すると崖の方ですね!!」
私達は互いの体を支え合い…ゆっくり歩を進めた。たった500mが今の私達の体には辛く感じられる。
でも…体を包む澄んだ空気…鼻腔をくすぐる花の薫り…耳に伝わる野草のさざめき…眼前を優しく照らす木漏れ陽…そして肩に感じる互いの肌の温もり…全てが体を癒してくれた…
森を抜けると視界一杯に青い空と雲海が広がった…
さっきまで見ていた宇宙より…どこまでも広く感じる!この光景が永遠であるかの様に…地球にいた頃はこんな事感じなかったのに…
「プレシャスはあの崖の上です…………ひ…人影が……あ!?」
「…………俺達は最高のプレシャスを見つけた様だ…」
「…………はい」
「今まで…今まで本当にありがとう…お前がいなければ…俺は闇に呑まれていたかも知れん…」
「え?…………はい…私もです…ありがとうございます…私を闇から救ってくれて…」
「…………」
「…………」
「……さぁ行こう!さくら!!」
「……フフ……『アタック!!』…を忘れてますよ!…………暁さん!」
「ミッション完了だ…見えるか、さくら姐さん!明石!未来は俺に任せろ!!」
「いつまでも仲間だ!」
「また会う日まで、お元気で!」
「みんなアリガト☆」
「Woom…Woom…Woom…」
「真墨、アクセルラー鳴ってるよ〜☆」
「へぇへぇ聞こえてるよ…どうせボイスだろ…」
「そうそう蒼太!『ボイスちゃん』は相変わらず完了報告しないとうるさいからね!」
「『ボイスちゃん』なんて気持ち悪りーなぁ!どうせ本当はムサ苦しいオッサンなんだろ?」
「フフ…」
「何だよ蒼太?俺様ヘンな事言ったか?」
「ハーイお終い!それまで〜!!それより真墨、早く出なよ〜☆」
「(カチャ!)ハイハイ聞こえてるぜ!如意棒回収完了だ………………………………え!?」
見えるよ…
真墨…
高岳さん…
蒼太くん…
菜月…
みんなが…見えるよ
【完】
コレを例として持ってきたという事は既存他作品のリスペクトはアリか
良スレ立ててくれた。乙!
他作品のキャラを登場させるのは厳禁だが、続編と言う性格上『The Next Task』オリジナルの新キャラや新ネガティブは登場しても良いかなと思う。
ボウケンの世界観は、かなり異質な存在でも許容出来ると思うので、その辺は各職人さんの判断に任せます。
既存の別戦隊キャラを使いたい職人さんは『クロスオーバースレ』『面接スレ』で頼んます。
>>15 つー訳で、世界観を壊さない程度なら他作品からのアイデア拝借は有りで。
>>16 サンクス!
良スレに育てる為に皆さん盛り上げていって下さいませ!
「あ!?…あ…明石さん…そ…それ私の…」
暁は自らの額を拭っていた布の質感に違和感を感じ、布をゆっくりと拡げる。
驚愕した!明らかにハンカチでもハンドタオルでもない!!
持っている暁の指が完全に透けて見える程の、真っ赤なシースルーの生地。鈍角な大きめの三角布と鋭角な小さめの三角布を合わせたような形。
三角形のうち、二角は細く光沢のある白いリボンで二枚の布同士を結び合わせ、一角は三角布と同色の光沢ある巾広の生地で縫い合わされ、ここだけ白い綿布が裏地に使われている。
二枚の三角布には小さな花柄の刺繍が幾つも施され、その花の中心は僅か1mm程の穴が開いて向こうが見える。また三辺の内、二辺は緩やかに波打つ可愛らしい大判のフリルで縁取られている。
さらに、小さめの三角布の装飾は華やかだった。上端中央部分にはバラを模したリボンが結ばれ、そこから下に向かって、白いレースの細いフリルが二本伸びている。
フリルの上端は15mm程の巾で離れており下端に行くにしたがって合わさっており、そのフリルとフリルの間は何の布も無く細長い二等辺三角形の穴を形成し、向こうが完全に見える状態だ。
暁は自身の血の気が引いていく音を聞いた…
これは明らかに、先刻さくらのクローゼットの引き出しの中で見つけたモノ…
「さっ!さくら!!ちょっ!違うんだ…」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!!!!
刹那であった。
さくらの拳が始動し、暁の腹部に到達するまで僅か0.0009秒。
宇宙の静寂に包まれたボイジャーの船内に鈍い打撃音が響いた…
さくらは力なく…その場に座り込み…深く…大きく…溜め息をついた。
「はぁ…………」
話は30分ほど前に遡る…
「…疲れた」
つい口に出てしまう程の疲労感だった。
地球を出てから半年。ひたすら惑星探査を繰り返し、宇宙怪獣との死闘もあった。
そして…冥王星でのプレシャス発見!言葉では言い表せない程の興奮!!
人類初の記念中継だというのに挨拶をさくらに押し付け、三日三晩、寝食を忘れ発掘をした。
先程、プレシャスを地球に向けて射出し、やっと一段落。さくらの計らいで半日程オフを貰った。
さくらは残務整理の為、コクピットに残っている。
「明日には、いよいよ太陽系脱出か…」
心地良い疲労感の中、暁の意識は眠りに入ろうとしていた……
しかし、薄れゆく意識の中、暁は自身の下腹部の熱さに気付いた。
「…ハハ…よっぽど疲れてるんだな」
俗説では、身体が異常に疲れると脳が『生命活動の危機』と錯覚し、種の保存の為、本能的に膨張するとされる現象。
また医学的には、血圧を上昇させる性質がある神経伝達物質『カテコールアミン』が体力の限界を知ることで、分泌が増量されることに起因し、結果的に陰部への血流も増加し膨張を促すと考えられている現象。
男性なら誰にでも覚えがある、いわゆる『アレ』だ。
この半年で暁が生理現象を処理したのは、ただの一度…『一人冒険事件』の時だけである。
明日にはコールドスリープに入る。いくら性欲の薄い暁と言えど、さすがに自身の欲望を処理しておこうという気になるのも仕方ない。
「…そうだ…蒼太に貰ったDVD…」
しかし、蒼太が餞別にとくれたお宝DVDは『一人冒険事件』の後、さくらに没収されている。
生理現象処理に極めて有効かつ、手っ取り早い媒体を断たれた暁は、仕方なく自らの『妄想』に頼る事にした。
「…キョウコ」
地球にいた頃の定番ネタではあるが、プレシャス発見の喜びに包まれた今は、あまりに不謹慎で背徳感漂う。
暁は即座に自身の妄想を打ち消した…
「…菜月」
天真爛漫な彼女が、戯れの中で無造作に腕に押し付けてきた、二つの膨らみの感触。
ソファーから放り出された、短いスカートから伸びる健康的な肢体と、チラと覗く三角地帯。
…だが、どうにも色気とは程遠い…物足りない…
「…ミュージアムの受付の女の子の胸元…行きつけの定食屋の若奥さんのうなじ…えぇっと…」
違う!全部違う!!
暁は閉じていた眼を見開いた。もともと蒼太、真墨に比べ女性経験の少ない暁である。使えるネタも少ない。
さらに、すっかり目が冴えてしまった今は『妄想』など不可能である。結論は一つ…
「DVD取り返しに行くか…」
責任感の強いさくらが、いくら自動操縦とは言えコクピットを離れるハズが無い!今がチャンスだ!!
暁は寝室を出て辺りを見渡すと、隣のさくらの寝室まで慎重に歩みを進めた。
二人きりの旅であるからか、さくらの寝室に施錠はされていなかった。
「これこそ、ちょっとした冒険だな…」
職務に忠実なさくらと言えど寝室は女の子らしく、大きなテディベアが一体ベッドに横たわり、部屋全体は微かなアロマの薫りで満たされていた。
しかし、女の子の部屋に侵入した好奇心、背徳感などは微塵も無かった。目指すは俺のプレシャスのみ!
机の引き出し…本棚…………見当たらない…残るはクローゼット。
予備の制服、作業着などの仕事着。パジャマ、Tシャツ、キャミソールなど地味な部屋着が並ぶ。
下部の引き出しを開けてみる…………下着だ…
しかし、スポーツブラ、綿ショーツと実用的な下着が並ぶだけ…………だけじゃない!
奥にひっそりと…赤いシースルーのベビードール…ブラとショーツ…黒い網タイツとガーターベルト…
…………暁は目的を忘れ…思わず手に取ってしまった…
「フゥ…異常なしですね」
さくらは大きなため息をついた。地球への最後のデータ通信は済ませ、残るは亜光速航行への移行、コールドスリープ装置の始動のみだ。
これには多少時間を要する。ただし数時間、モニター監視のみの単調な作業で気が緩むのも仕方ない。
冥王星でのプレシャス発見。
明石と旅に出て初めての大きな成果である。体中を幸福が駆け巡った。明石に着いてきたのは間違いでは無かった!
これから外宇宙に出て、更なるプレシャスを発見する事が出来るかもしれない…『二人』で。
眼前には宇宙の闇が拡がるが、さくらには目前に拡がる明るい未来が見えていた。
太陽系内では任務に忙殺され何も考えるヒマなどなかったが、今はゆったりとした時間が過ぎている。
時間にも心にも余裕の出来たさくらは、ふと地球の仲間を思い出した。
「菜月どうなったかな…」
蒼太、菜月に後押しされボイジャーに乗り込んだ。三人での作戦会議…という名の飲み会は幾度と無く開かれた。
最初は、菜月と蒼太の赤裸々な恋愛話についていけなかったが、菜月の一言でさくらは変わった。
『えへへぇ、昨日ねぇ、真墨とぉ…………チューしちゃったぁ☆』
さくらは、頬をピンクに染め目尻を下げた菜月を見つめた。
これは衝撃の告白である。さくらは思わず店内中に響く声で叫んだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
蒼太が思わずさくらの口を塞ぎ、周りの客にペコペコと頭を下げる。
菜月は動じず、相変わらずうっとりした表情で微笑んでいた。
……可愛い……さくらは思わず見とれた…確かに菜月は普段から可愛らしい…
しかし、目の前の菜月は普段の数倍可愛らしく見えた。少なくとも、さくらにはそう見えた。
「…私も…可愛く…なりたい…」
放心したまま思わずさくらは呟いた……もちろん、この独白を蒼太と菜月が聞き逃すハズもない。
かくして牧野、ボイスも巻き込んだサージェスの一大プロジェクト『ボイジャー密航計画』は本格始動する。
『ねぇねぇ、これサンタさんみた〜い☆さくらさん、こんなのどう?』
菜月が、白いファーで縁取られた真っ赤なベビードールとブラ&ショーツセットを手にし、さくらに差し出す。
さくらは入店して以後、ずっと俯いて床ばかり見ていたが、意を決して、チラと菜月の方を覗く。
「!?…む…む…む…無理ですー!透けてるじゃないですかー!?それにガーターなんて!!」
驚いた!機能性の欠片もない…もはやタダの『布キレ』である。
しかし、ニコニコとこちらを見つめる菜月の笑顔を観ていると不思議と『布キレ』が可愛く見えてきた。
宇宙空間ではワイヤー入りのブラが危険という事で、下着は全て耐久性、機能性重視のものを携行する予定だった。
しかし、菜月、ボイスの強い奨めで一着だけ『勝負下着』を携行する事になったのだ。
さくらも女の子だ、普通の可愛らしい下着位は持っている。別に誰に見せるとかではなく、休日位は見えない所も可愛いものを身に付けていたい。
さくらとしては、お気に入りの花柄の上下セットを携行するだけでも大冒険のつもりだったが…
『セクシーサンタ♪セクシーサンタ♪』
帰り道、菜月が妙な鼻歌を唄っている傍らで、さくらは真新しい紙袋をギュっ握り締め、恥ずかしさと高揚感を押し殺し、高鳴る鼓動に胸を押し潰されそうになっていた。
『密航計画』進行中、一度だけ二派に別れ意見が対立した事がある。牧野・蒼太と、菜月・ボイス・さくら。
議題は『明石にAVを持たせるか?否か?』である。
しかし、牧野の『医学的見地から見た妄想媒体の必要性』、蒼太の『性欲が前面に出たらお互い不幸になるだけ、男の生理を上手く処理してこそ、純粋な気持ちは生まれるんです。』という言葉の前に女性陣の感情論は敗北した。
「みんな…ありがとうございます…」
傍から見れば単なる笑い話だろうが、仲間の包み隠さない気持ちが嬉しかった。
「明日にはコールドスリープか…………着てみようかな…制服の下なら…バレませんよね…」
さくらは計器に異常が無いことを確認し、立ち上がった。
現状では、明石との間に大した進展はないが、太陽系最後の夜くらいはドキドキしていたい。
自身の乙女心に忠実でいたい…それが私の冒険。
さくらは自分の寝室へと向かった。
ふと、暁の脳裏に数日前の想い出が甦る。
さくらと手を握り、同じベッドで一晩を共にした夜。任務に忙殺される中、唯一熟睡出来た夜。
「……ん?」
暁は自身の鼓動が急激に高まるのを感じた。
この卑小な私的ミッションの最中、落ち着きかけていた下腹部が再び熱くなってくるのを感じた。
「バカな?…相手はさくらだぞ…」
今まで幾度となく死線を乗り越えてきた仲間…自分を追いかけ密航までしてきた頼れる仲間…
漆黒の宇宙の闇の中、未来を照らしてくれた掛替えの無い仲間…そんな仲間に…自分は何を?
ハハ…そう…さくらだって女の子だ…こんなの持っていたって不思議じゃないさ…バカだな俺は…
暁は自らの欲情を振り切る様に言い聞かせ、手にした物をしまおうとした…
『Weeeen…』
微かに聞こえる、コクピットのドアの開閉音。
しまった!さくらが…来る!?足音が近づく!イヤ、焦るな!!
静かに引き出しを閉め、クローゼットのドアを閉じた。
足早に部屋をあとにし通路に出た…………その時!角を曲がったさくらと鉢合わせた!!
「あ!明石さん!?」
「さ!さくら!?」
鼓動が高まる!相手に悟られてはいけない!!
さくらは流れる汗を悟られてなるまいと、ポケットからハンカチを取り出し額を拭った。
そして暁もポケットからハンカチを取り出し額を拭っ…………
「(…ハ!ハンカチじゃない!?…)」
暁は恐る恐る布を目前に下ろす…………
……………………ここは宇宙……永遠ともいえる静寂と…無限の漆黒の闇が…二人を包んだ…
とりあえず他スレのネタ転載でもして
神降臨を待つとするか
>>25 職人さんはこのスレの存在知ってるんだろうかW
一応自分でもネタ考えてみるよ
…で何も浮かばなかったら…またネタ転載でW
今一応初の作品の構成を練ってます。タイトルは決まってるんだけど…難しい!
28 :
名無しより愛をこめて:2007/04/02(月) 19:56:52 ID:+YLuHiwwO
職人さんに質問の為age
最大何文字までカキコミできますか?作品一応出来たけど区切りが文字数わかんない為投稿出来ない。
半角全角により違うからバイト数で言うと2043バイト、行数は32行が上限
31 :
26:2007/04/03(火) 22:16:54 ID:sDLna9BX0
お先に長編投下します。
5+1レスの予定です。
32 :
26:2007/04/03(火) 22:18:19 ID:sDLna9BX0
『村正の鍔』の確保は熾烈を極めたが、応援に駆け付けたサイレンビルダーの活躍により無事回収する事が出来た。
しかし『村正の鍔』を手にした映士は突如気を失い、サイレンビルダーが暴走を開始した!
辺りが夕日に染まる中、破壊の限りを尽くすサイレンビルダーに対し、防戦一方のダイボウケンであった…
「止めるんだ!映士!!」
「映ちゃん止めて!」
「クソッ!映士どうしちまったんだ!!」
仲間の呼びかけにも反応は無い。
周りへの被害を食い止める為、ダイボウケンは、ひたすらサイレンビルダーの攻撃を受け続けるより他無かった。
「…やむを得ないね。サイレンビルダーの動きを止める為に動力系を破壊して貰おうか。」
「動力系って、ネオパラレルエンジンをかよ?」
「ボイス!それではサイレンビルダーが爆発してしまいます!!」
「映ちゃん死んじゃうよー!」
ボイスの命令に三人は声を荒げた。
「イヤ。サイレンビルダーからネオパラレルエンジンだけを取り出して外で破壊するんだ。」
「こんなに暴れまくってるのに、どうやれって言うんだよ?」
「ブラック君、チーフでしょ。自分で考えてよ。無理ならサイレンビルダーごと破壊して貰っても良いんだよ。」
「…ボイスちゃんは相変わらず無茶言うなぁ…」
「ったく…仕方ねぇ…サイレンビルダーに接近し、格闘戦に持ち込むぞ!」
意を決し、三人はレバーを押し込む。
ダイボウケンは最大戦速でサイレンビルダーへと進路を向けた…
「み、皆さん、ちょっと待って下さい!サイレンビルダーからネオパラレルエンジンの反応が見られません!!」
ダイボウケンのコクピットに牧野からの通信が入る。
「牧野さんどういう事?菜月判んないー!」
「サイレンビルダーから巨大な生体エネルギー反応が…………恐らく『村正の鍔』の力で高丘君とサイレンビルダーが融合してしまっているのではないかと…」
「なんだとー!?それじゃあ打つ手無しかよ!」
「…いや…手段は無くもないんですが…」
牧野は思わず口篭った…しかし他には手段がない…………牧野は重い口を開いた…
「今は『村正の鍔』が高丘君とサイレンビルダーを支配している状態です。ダイボウケンのネオパラレルエンジンをサイレンビルダーに結合し…」
「結合?」
「ハイ…『村正の鍔』の力を上回るエネルギーを、サイレンボルダーの中へ送り込めれば…恐らく高丘君とサイレンビルダーの融合は解かれるかと思います!」
「牧野さん!それで映士は助かるんですね!?」
「…助かるには助かりますが…」
「牧野さん、どうしたの?」
「…今度は『村正の鍔』の力がダイボウケンに逆流するのでは無いかと…」
映士とサイレンビルダーを救えても、それでは振り出しに戻るだけ…いやむしろ…
「俺はやるぜ!」
「「真墨!?」」
「なぁに俺はチーフだぜ!『村正の鍔』なんかに負けやしねーぜ!二人は残ってフォローを…」
「何言ってんだか…水臭いよ…『チーフ』!」
「そうそう!真墨『チーフ』☆」
真墨の顔がパッと明るくなり頬が赤らんだ…
「チ、チーフぅ?…………」
蒼太と菜月は真墨の方を向き、軽く頷いた。
「…フッ…よし!今からサイレンビルダーの攻撃を交わしつつ接近!映士を救出する!!」
「そうそう蒼太!チーフたる者そうやって命令をしなくちゃね!!」
「真墨、本物のチーフみたい☆」
真墨の顔がさらに赤らむ。
「バカ言ってねぇで行くぞ!ミッションスタートだ!!」
ダイボウケンは右に左に攻撃を交わしつつサイレンビルダーに接近した!
幾つか被弾したもののサイレンビルダーに体当たりしたダイボウケンは、左手でサイレンビルダーの動きを封じつつ右手をおもむろに自身の胸に突っ込んだ!!
ダイボウケンの胸から大量のオイルが吹き出し、ネオパラレルエンジンが剥きだしになる!
続けて、おもむろに右手でネオパラレルエンジンを掴み取り、自身の前に掲げる!!
「行くぞ!」
次の瞬間、ネオパラレルエンジンをサイレンビルダーの胸にねじ込んだ!
「「「マックスパワーだぁぁぁぁ!!!!」」」
辺りを眩ゆい七色の光が包み込む!
七色の光は渦を成し、二つの機体は巨大な球体の白い光に包まれた!
やがて、白い光は爆発的に大きさを増していき…どこまでも拡がっていった…
《……士……きなさい…映士…起きなさい…》
「…ん…んん…か…母さん…」
《…映士…貴方がここへ来るのは…まだ早いわ…》
映士は眼前にぼんやりと母の姿を見た…
《…さぁ映士…仲間達の所へ戻るんだ…》
「…お…親父?…」
母の傍らには父の姿も…
二人は優しく微笑みかけた…
「…あぁ…親父…母さん………すまないな…俺はまだまだ冒険し足りないんだ…」
二人は微笑み頷いた…
《…次はお前が仲間を救う番だ…》
次の瞬間、映士の眼前を眩ゆい七色の光が照らした。
次第に視界が晴れて行く。
「…ダイボウケン…?…」
映士の意識がハッキリしたと同時に七色の光は消え…再び辺りは夕日に照らされた。
二つの機体は穏やかなオレンジ色に染まる…
「皆さん大丈夫ですか?サイレンビルダーからネオパラレルエンジンの反応が出ましたよ!」
牧野からの通信が入る。
すっかりパワーを使い果たし、変身を解除された三人が声を振り絞り答えた。
「…へへ…やったぜ…何が『村正の鍔』だ…」
「…そうそう蒼太…この位軽いですよ…」
「…え…映ちゃんは?…」
「……俺様はこの通りだ!ありがとよ…みんな!」
「…へへ…死に損ないが…」
サイレンビルダーの腕の中にダイボウケンは力無く倒れ込む。
日は落ち、辺りはすっかり闇に包まれようとしていた。
月明かりは低く覆われた雲に閉ざされ、まさに漆黒の闇であった…
数時間後…
サージェスの救護室に映士の声が響く。
「牧野さん!三人が目を覚まさねぇってどういう事だ!?」
「私にも確かな事は…恐らく『村正の鍔』の影響ではないかとでは…」
「畜生!俺様がヘマしなけりゃ…」
映士は部屋の壁を強く殴りつけた。
救護室の白い壁に映士の赤い血が伝う…
37 :
【次回予告】:2007/04/03(火) 22:25:46 ID:sDLna9BX0
「『村正』そのものを回収して封印出来れば、三人を救えるかもね。」
「…止めはしません…が…高岳君…………生きて帰るんですよ!」
「ジャリュウ!俺様の邪魔をするんじゃねぇ!!」
「あらら!ボウケンジャー?独りでお困りみたいね〜!!」
『Task.56 新しき風』
「手助けなんかいるか!三人は俺様独りで救わなきゃならねぇんだー!!!!」
38 :
26:2007/04/03(火) 22:37:33 ID:sDLna9BX0
スンマセン…1レス目のタイトルをミスってしまった…orz
【次回予告】は完全にオマケのネタですので【Task.56】を投下する予定はありません。
本当は予告の前に…
『今日のスーパー戦隊ヒロインは?』
『『『デカイエロー!!!』』』
…とかやろうとも思いましたが、グッと堪えましたW
アクション編は今回が初めてでしたが如何でしょうか?
次回は書き慣れたギャグ編かSF編にしようかな…と思います。
39 :
26:2007/04/03(火) 23:06:31 ID:sDLna9BX0
>>36 牧野のセリフ訂正致します。
×「私にも確かな事は…恐らく『村正の鍔』の影響ではないかとでは…」
○「私にも確かな事は…恐らく『村正の鍔』の影響ではないかと…」
やべー。面白かった。GJ!
41 :
名無しより愛をこめて:2007/04/06(金) 00:37:51 ID:PnDXTc5XO
作品待ちでage
>>26 Task.56が思いついたんだが書き上がったら投下してもいいか?
「…引継ぎは以上です。チーフ、真墨、後はお願いします。」
「…あぁ…」
「ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ。」
「じゃ僕たちはこれで!」
「二人とも夜勤頑張ってねー☆」
夜勤担当の明石と真墨への引継ぎを済ませ、昼勤のさくら、蒼太、菜月の三人はラウンジを出た。
「お腹すいちゃったねー☆」
「そうそう蒼太!たまには外食でもしますか?」
「賛成ー!さくらさん何食べよっかー☆」
「…ごめんなさい、私はちょっと。」
…別に予定などなかったが、なんとなく断ってしまった…
…敢えて言うなら『オフ位は独りで居たい』といった所か…
「ん〜残念です。また今度ですね!」
蒼太は瞬時に理解したらしく、さくらの言葉にアッサリと退いた。
「えぇ〜↓つまんな〜い!」
「菜月ちゃん、仕方ないよ!」
「ぶ〜☆」
「そうそう!今日は僕がご馳走するからさ!!なに食べたい?」
「ん〜?そうだな〜☆あっ!菜月お酒飲みたーい!!」
「お酒かぁ…菜月ちゃんも『一応』20歳になった事だし…OK!行こっか!!」
「やったー☆」
真墨が菜月を発見してから2年。長らく年齢が不明だった菜月だが、サージェスの検査の結果19歳相当である事が判明。
真墨に発見された日を誕生日とし、ボウケンジャー加入から約1年、先日、菜月は晴れて成人と迎えた。
牧野主催のささやかなパーティーをラウンジで開いたのだが、作戦待機中であった為、成人のお祝いにはお決まりのアルコール類は一切なく、菜月は『お酒』デビューの機会を窺っていたのだ。
…二人っきりとは言え、蒼太君とですし心配ないですよね…………いや…しかし…
「…菜月の20歳のお祝いですもんね。やっぱり私もご一緒させて下さい。」
「当然!みんなで行きましょう!!」
蒼太は待ってましたとばかりに即答した。
…………しまった!元々、蒼太君も私やチーフと同じで、オフは仲間と過ごす事など滅多に無い…
何か考えがある…外食に誘って来た時点で気付くべきだった…
「早く行こ行こー☆」
菜月が蒼太とさくらの間に割って入り、二人に腕組みしグイと引っ張った。
「菜月ちゃん制服で行くのはマズイよ!取り敢えず30分後、ミュージアムの入口に集合って事で。」
「はーい☆」
「…了解です。」
…まぁ…何か考えがあるといっても、蒼太君ですし…大丈夫ですよ…ね…
30分後、私服姿の三人はミュージアム前に集まり、街へと繰り出した。
蒼太が案内したのは、ごく普通の個室ダイニングバー。
まぁ『お酒』デビューをするには、当たり障りの無い選択である。
三人は思い思いの品を注文し、シゲシゲと室内を見渡していた。
「…個室なら周りの眼が気になりませんね。蒼太君、よく来るんですか?」
「いいえ初めてです。さっきネットで検索して予約入れときました。……そうそう!女の子と二人っきりの時は、もっと良い所へ行きますよ!!」
「…フフ、正直ですね。」
まずはドリンクが運ばれて来た。
「…ハイ菜月のカルアミルク。蒼太君はコロナ、私が梅酒ソーダですね。」
「キタキター☆」
「さて、取り敢えず菜月ちゃんの『お酒』デビューを祝って乾杯しときますか!!」
「「「カンパーイ!!」」」
んぐんぐ…
「甘ーい☆ミルメークみたい!」
「…クスクス、それを言うなら『コーヒー牛乳みたい』ですよ。」
「へへ、間違えちった☆そうだ!蒼太さんのも飲ましてー!!…………苦〜いぃ↓」
「ハハ!菜月ちゃんにはまだ早いよ。」
「フーンだ☆菜月はもう大人だもーん!」
「ハイハイ判ってますよ!所で、さくらさんはいつも梅酒?」
「…そうですねぇ、後は桂花陳酒とかが多いですよ。蒼太君は?」
「僕は何でも飲みますよ。大勢の時はもっぱらビールかな?……そうそう!もちろん女の子と二人きりだったらワインですけどね!!」
「…フフ、さっきから自爆してばっかりですよ。」
「そうそう!前に飲んだ時は、チーフが日本酒をチビチビ、真墨は酎ハイをガブガブ飲んでましたね!」
「…クスクス、何だかイメージ通りですね。高丘さんは?」
「映士が来てからは、ネガティブの活動も活発になったし、なかなか機会が無いんですよね!」
「…高岳さん、今はレスキューで忙しそうですし。」
「あのね!あのね!映ちゃんは絶対トマトジュースだよ☆」
「「正解ーWWWW」」
この三人で外食するのは初めてだったが、アルコールが入った事もあり、場は和やかであった。
まもなく料理も運ばれ、あっと言う間にテーブルを埋め尽くす。
「「「頂きまーす!!」」」
「…こんなに注文しちゃって、本当に全部たべれるんですか?」
「大丈夫☆菜月ガンバルー!」
「ハハ!菜月ちゃんは大人だから、これ位ペロリと食べちゃうよねー?」
「もっちろん☆ムシャムシャ!……んぐぐ…ぐ…ぐるひいィィィィ!!」
「うわぁぁ!菜月ちゃん大丈夫!?」
「…クスクス、菜月ったら。スイマセーン!お水下さーい!!」
菜月は喉に詰まらせた事もなんのその、その後も暴飲暴食を続ける。
「プハー!くったくった☆菜月わ満足ぢゃー!!」
菜月はキャミソールの裾を捲り、お腹を見せてポンポンと叩いた。
「…な、菜月!蒼太君も居るんですよ!!」
「まぁまぁ、さくらさん。しかし、凄いお腹!これじゃあデザートは無理だね!!」
「デザートはいらないけど〜☆菜月は食後のゲームがしたいのだー!!」
「菜月ちゃん、ゲームって?」
「ヒヒ☆おーさまゲイム!!」
「「えぇー!?」」
たった三人で王様ゲームとは、明らかに自爆行為である。
菜月は、その恐ろしさを知らない。
どこから取り出したか判らないがペンを片手に、菜月は鼻唄まじりで割り箸に数字を書き込んでいく。
「おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪…」
「さくらさん、これは危険ですね。」
「…えぇ、完全に酔っぱらってます。早く帰らないとマズいですよ。」
「でも、今日の主賓は菜月ちゃんですし、一回くらいは言う事を聞いておかないと可哀想ですよね。」
「…仕方ありません。では一度だけやって、菜月に満足して貰いましょう。」
「じゃあ、僕が手元で割り箸を操作して、菜月ちゃんに王様を引かせます。」
「…そうですね。万が一、菜月が王様になっても、際どい事をさせる程の知識は無いでしょうから。」
「おーさまゲイム♪おーさまゲイム♪…できたー!!」
「「はぁ…」」
二人は顔を見合わせ、大きな溜め息をついた。
「菜月ちゃん!僕が割り箸もってあげるよ!!」
「はーい☆」
「…じゃあ皆さん引きますよ。」
蒼太とさくらは、無言でアイコンタクトを交わし、軽く頷き合った。
「「「おーさまだーれだ?」」」
「…………ヒヒ☆菜月ー!!」
ここまでは予定通りである…が!次の瞬間!!
「ぢゃあ、1番と2番わ☆初めてチューした歳をおしえなさーい!!」
「「えぇぇぇぇー!?」」
…まさかの展開…
二人の顔から血の気が引いていく…
「まずわ蒼太からなのらー☆」
「ぼ、僕からですか?」
「そうなのらー☆」
王様に成りきった菜月は、既に蒼太を呼び捨てである。
ここで逆らうのは得策では無い…蒼太は意を決した。
「中三の時です…」
「誰とぢゃー☆」
「えぇ!?それは聞いてないよ菜月ちゃん!」
「キッ☆」
「…一つ歳下の部活のマネージャーです…」
「どこでぢゃ☆」
もはや蒼太に逆らう気力は残っていなかった。
「…部室です…」
「キャー☆蒼太ヤラシー!」
蒼太の顔は恥辱に塗れていた。
「…死にたい…」
「なんか言ったか?エロ蒼太ー☆はっ!エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ♪エ…」
室内に菜月作詞作曲の『エロ蒼太の歌』がエンドレスでこだました。
蒼太はテーブルに突っ伏し嗚咽をあげている。
「うっ…うっ…えぐっ…ううぅ…」
「エロ蒼太ぁ♪エロ蒼太ぁ……あっ…思い出した☆」
「…な…菜月…何を?」
「ヒヒ☆次はさくらぢゃー!!」
「ヒィィィィ!!!!」
目の前にいるのは、もはや菜月では無い…
あえて言うなら…そう『黄色い悪魔』
『黄色い悪魔』がさくらにも牙を剥いて来たのだ!
「早く言うのらー☆」
「…えぇ!?…えーと…えーと…」
さくらは降参し、目を閉じ俯いたまま答えた。
「…高校三年の時です…」
「誰とぢゃ☆…むにゃ」
「…こ…婚約者です…」
「さくらは婚約者がいるのかー☆…むにゃ…むにゃ」
「…結局、破談になったけど…親同士が決めた婚約者がいたんです…」
「…それで…zzz」
追い詰められたさくらは、テーブルに突っ伏し両手で耳を塞ぎ一気に喋りはじめた。
…もう逃げられない…どうにでもなれ…
「…お互いの家の面子を保つ為でしたが…お互い似た境遇で…ある意味共感する所も…」
「…zzz…」
「…お互い高校を卒業したら家を出るつもりでした…それまでは親達を騙しておこうって話してて…」
「…zzz…」
「…卒業式の後…別れの挨拶と言うか…戦友としての情と言うか…所謂…恋人同士のとはまた違って…」
「…zzz…」
「…イヤ…小さい頃から決められた婚約者です…誰にも言えない悩みも打ち明けられたし…」
「…zzz…」
「…少しは好意が…で!でも好意と言っても…タイプの男性だとかでは…私が好きなのはチー…」
「…zzz…」
「…ん…zzz?…って菜月?…な、何、寝てるんですかぁぁぁぁ!!!!」
先程までの『黄色い悪魔』は何処へやら。菜月は大口を開けて、寝息を立てていた。
「…ハ…ハ…ハハ…………ふぅ…助かりました…」
安心しきったさくらが大きく溜め息をついた…次の瞬間。
「へぇ、さくらさんも素敵な恋をしてたんですね!」
「…そ、そ、そ、そ、蒼太君ー!?」
「スイマセン。泣き真似してれば解放されるかなと思って!」
次は『蒼い悪魔』が現れた…
さくらの顔に緊張が走る。
両拳に力を込め『蒼い悪魔』の攻撃に備えた。
しかし…
「さ!帰りましょうか!!」
「…えっ!?」
「菜月ちゃんは、僕が運びますから!」
あまりに拍子抜けする展開。
「…はは、そうですよね。帰りましょうか。」
「ゴメンなさい。僕のカバンだけお願いしていいですか!」
蒼太はカバンをさくらに渡し、菜月をヨイショと背負った。
支払いも済ませ、外に出る三人。
「…菜月重いですよね。タクシー拾いましょうか?」
「いえ菜月ちゃん位なら大丈夫ですよ!酔い覚ましに、ちょっと歩きませんか?」
「…はい、蒼太君が大丈夫なら。私も少し酔い過ぎたみたいですし、歩いて帰りましょう。」
サージェスの宿舎までの、数qの道程を二人は歩き始めた。
お互い恥部を知られたもの同士、なかなか口を開き難い。
沈黙を破ったのは蒼太だった。
「さくらさん、婚約者さんの事、好きだったんでしょ?」
「…ほ…本当そんなのじゃ無いんですよ。親同士が決めた仲ですし…こう、お互い秘密を知ったもの同士…」
「今の僕達もお互いの秘密を知ってますね。」
「…イヤだ蒼太君!ダメですよ!!菜月だって居るし!…それに…私は…」
「ハハ、違いますよ!お互いを知ると、距離が近づいたカンジしませんか?…って言いたかっただけで。」
「…ハ…ハハ…まぁ、確かに蒼太君の事が少し理解出来たカンジがします。何だか嬉しいですね。」
「僕だって、さくらさんの事が判って嬉しいですよ。…てっきりチーフが初恋なのかと思って心配で心配で…」
「…そ、そ、そ、そ、蒼太君なに言ってるんですかー!?」
さくらの顔は、夜道を照らさんばかりの勢いで紅潮した。
先刻の、ファーストキスの告白の時以上に赤面している。
「ハハ、少し話を急ぎすぎました。御免なさい。忘れて下さい。」
「…………」
さくらは話題を変えねばと思い、ふと空を見上げた。
「…今日は満月ですね。キレイ…」
「キレイですね。月か…月にもプレシャスってあると思いますか?」
「…そうですね。あるといいですね。」
「…………さくらさん、知ってますか。サージェスレスキューに続く、新しい事業プランの事。」
「…もしかして…宇宙探索計画…ですか?」
「さすがさくらさん。極秘裏に動いているプランですから、現場の僕達には何も知らされていないですけどね。」
「…昨年から、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との資金提携、技術協力が密になったので…予測はしていました。」
「僕もそこが気になって、つい調べてしまいました。まだ人員は未定の様ですが…」
「…高岳さんの様に、外部から人員を募集するのでしょうか…………あ!」
「レスキュー創設の時はどうでしたっけ……今回は…多分…自ら志願するんじゃないでしょうか…あの人は…」
「!」
さくらの脳裏に不安が過ぎる。
サージェスレスキュー創設時、当初は明石がそのメンバーに選出されていた。
結局は、明石の強い推薦で映士が選ばれたのだが、今回は未知の世界…宇宙…
誰よりも、未知の世界への冒険心に溢れる明石ならば…おそらくは…
「今日の僕達の様に、お互いを知れば、距離が近づいたカンジがします。その逆も有り得ませんか?」
「…距離が近づかなければ…お互いを知れない…ですか。」
「宇宙と地球は遠いですよ。同じ地球上で違う道を歩む以上の距離です。」
「…………」
「高校を卒業したら、お互い家を出て、違う道を歩むつもりだったんですよね。」
「…そう…ですね…」
「それに、最初から他人が決めた仲じゃ、反発もしたくなるかも知れませんね。特に思春期は。」
「だからこそ…ハッキリとした『想い』を…抱けなかったのかも知れません…」
「今は自分で決めた道を歩んでいるんだし、『想い』をぶつけてもいいんじゃないですか。」
月明かりのせいだろうか…さくらは、今まで目の前を覆っていた闇が晴れた様な気がした。
「そうそう!さくらさんに謝らないと…今日、誘った本当の理由は…」
「…フフ、蒼太君の事ですからね。ある程度は…………謝るどころか…感謝してますよ。蒼太君!」
「イヤ『黄色い悪魔』が現れなきゃ、僕も、こうも上手くは切り出せなかったんですけどね。ハハ!」
「…クスクス、本当『黄色い悪魔』サマサマですね!」
その時、蒼太の背中の上で菜月がゴソゴソ動き始めた。
「…むにゃ…ふぁ〜〜あ☆…ん?ここはドコ?」
さくらは、菜月の両ほっぺを軽くつねった。
「イタタタタ〜☆さくらさん何でぇ?」
「…仕返しです。ありがとう『黄色い悪魔』サン!」
【了】
保守age
>>44-53 前説代わりに他スレの転載で空気暖めておくか…
>>42 待ってたよー!ぜひぜひ頼んます!!
55 :
名無しより愛をこめて:2007/04/09(月) 00:26:46 ID:5D/g+7Vj0
保守ageミス&名前消し忘れスマソ
56 :
42:2007/04/10(火) 23:29:18 ID:aobGqnOo0
Task.56投下させていただきます。
初めて投下するので失敗するかもしれませんが・・・
全10レスの予定です。
「大変な事になったねー」
映士しかおらぬサロンに他人事のようなMr.ボイスの声が響く。
映士は苛立ちを覚え包帯の巻かれた左手を強く握りしめた。
「Mr.ボイス…どうすればアイツらを助けられるんだ?」
映士らしからぬ感情を抑えた声にMr.ボイスは少しばかり唸って言った。
「『村正』そのものを回収して封印出来れば、三人を救えるかもね…」
「で、そいつは何処にあるんだ?」
「さぁね。それを探すのがボウケンジャーの仕事だよ」
じゃあね、と言ったきり画面からMr.ボイスが消え、いつもの様にコンパスが表れ
た。
「畜生!!」
一人残された映士は振り返り思い切り拳を変形テーブルへと叩き付けた。
『村正』を手に入れればなんとかなるかも知れぬ。
だが圧倒的に情報量が少ない。
それはどのような能力を持ち、どんな形をし、何処に隠されているのか?
「どうしろってんだよ…」
こういう面での行動力の無さに映士は歯痒さを覚え強く唇を噛み締めた。
目覚めるとそこは一面薄暗い闇が包む世界だった。
両腕を付き上半身だけを起き上がらせる。
黒いジャケットの上からはなんの外傷も無いようだ。体の節にも違和感は無い。
視線を身体から目の前の闇へと移す。
何処までも闇が広がっていた。
***
「どうなってるんだ?」
『村正の鍔』は死人の魂を吸収し、それらを融合するプレシャスであったはず。
何故映士とサイレンビルダーが融合したのだろうか?
そして、この闇は何なのだろう?
「もしかして…」
この世界は、鍔の世界なのだろうか?
***
「真墨ー?蒼太さーん?」
夜の闇が広がっていた。歩いているけど何もなくてずっとずっと平らな場所。
「みんな何処にいるのー?」
声は反響せず闇に吸い込まれていく。
独りぼっちで怖くて、涙が出そうになる。頭を振って目の前を見つめ、また歩き出した。
宛もないのだけど。
「何処だ…」
牧野博士の調べにより『村正』は鍔、刀身、鞘の三つにより構成されるとわかった。
その内の一つ、刀身は神社の裏山に祠があり奉られているということである。
早速確保に向かうが山中は舗装されていない険しい道や崖が続き、なかなか進むことが出来ず映士の苛立ちが募るばかりだった。
「あっ…」
小さな崖を腕のみで登りきると映士の目の前には小さい広場のようなものが見え、中心には祠があった。
祠へ駆け寄り扉を開ける。中には日本刀の刀身のみが奉られおり、柄を掴み祠から出すと同時にけたたましい着信音が響いた。
『たっ、大変です!三人の意識レベルが低下してきています!!』
チェンジャーの画面から焦った様子の牧野博士の顔が大きく映し出される。
「わかった、すぐ行く!!」
「そのプレシャスを渡せ!!」
通信を切り、チェンジャーのカバーを閉じようとしたその時、赤い鱗の竜、ジャリュウ一族の残党が二匹映士の前へ立ちはだかった。
「ジャリュウ!俺様の邪魔をするんじゃねぇ!!」
映士へ迫る一匹の竜は映士を切り裂こうと腕を振るうが映士は軽々と避け、体勢の崩れた竜を足蹴にした。
竜はよろよろと後ろに下がるだけで再度こちらに向かおうとしている。
もう一匹も映士の背後にいる、このままでは分が悪いと判断した映士は切り立った崖へと走り出し大きく跳躍して飛び降りた。
「ゴーゴーチェンジャー・スタートアップ!!」
空に舞う映士は身体に銀の粒子が纏い、銀色の残像を描きながら緑の中へと消えた
長く続く石段を映士は息をつく間も無く駆け降りていた。
ジャリュウ達をなんとか撒くことが出来たが鞘は何処にあるか未だ情報が掴めず焦る気持ちが抑えきれ無い。
「鞘は何処にあるんだ!!」
「あらら!ボウケンジャー?独りでお困りみたいね〜!!」
「シズカ…!!ゲッコウ!!」
ダークシャドウの一味である風のシズカは上から映士を見下ろすように立ち、ゲッコウはその肩に止まっていた。
「なんかあったの?」
「…何もねぇよ」
顔を背け吐き捨てるように映士は言うとシズカはふうん、と呟き、何かを思案を始めた。
「“鍔”が暴走したのかしら?」
古来より日本の地で活動してきたダークシャドウ。日本に伝わる伝説やそれにまつわるプレシャスについては詳しい。
とは言えども少ない情報の中で答えにたどり着くのは些か不自然にと言える。
「どういう事だよ?」
「『村正』はね三つの部品でできてるの。まずあんたの持ってる刀身。人の血を吸うと斬れ味が増す。鍔は死者の魂を吸って融合させる。でもたまにこの二つは暴走してとんでもないことになるの」
息をつく間も与えないシズカの言葉に映士は顔を上げ頷いていた。
「その暴走を抑えるのは鞘の役目じゃ」
「しかし…鞘は何処に…」
灯りかけた希望の火は燻るだけで終わった。
三人を助けるためには“鞘”の力が絶対不可欠に違いないがそれの居所が掴めぬのならば意味が無い。
映士は肩を落とし力無く俯いた。
「手伝ってあげようか?」
シズカの急な申し出に映士は勢い良く頭を上げたがその瞳にはシズカに対する懇願の色は無かった。
「みんなが命をかけて助けてくれた命なんだ…手助けなんかいるか!三人は俺様独りで救わなきゃならねぇんだー!!!!」
尻上がりに強くなる映士の語調にシズカは小さく微笑んだ。
「そうそう、そうでなくっちゃ」
そう言うとシズカは背に手を回し長い棒状の物を取り出すと映士にそれを投げ、映士は受け取った。
「これは…?」
「鞘よ、あんた探してるんでしょ?」
「な、何でこんな物!?」
掴んだ鞘を驚いたように眺める映士にシズカはため息を一つ付いた。
「元々はアタシ達も『村正』を狙ってたの。鞘は手に入れたけどあんたが先に刀身手に入れたから。此処で戦うのも得策じゃないし、鞘だけじゃ売れないしねー」
言い終わるなりシズカは頬を膨らまし腕を組んだ。
「あ、タダじゃないからね。ボウケンブルーにデートしてって言っといて」
「ああ、任しとけ」
映士はシズカに背を向け鞘を持つ手を伸ばし鞘を掲げた。
「恩に着るぜ」
映士は言い残し、残る石段を駆け降りていった。
「なんだって…?どういうことだよ!!」
「わかりません…今解析中です」
全ての部品が揃い、村正は完成したが三人の意識は戻らないままだった。
工房にはパソコンの前でキーボードを叩き続ける牧野博士。
その後ろで落ち着かないのか右往左往と歩き回る映士と機械の上で分析されている『村正』があった。
「どうやら“鍔”は意識を持つプレシャスのようです」
牧野の椅子の背もたれに手を付き映士はパソコンの画面を覗いた。画面には数式が映され、横には鍔の全体像が映されている。
「“鍔”に直接脳波を送り込み、暴走の根源を…」
「そんなことできるのか!?」
「保障はできません、それに危険過ぎます!!」
「だがな…」
映士は付いた手を強く握った。
「何もしねぇよりは、何かしねぇと後悔するだろ…だから俺様はやる…」
「…わかりました…、此方も出来る限りサポートします。高丘君、『村正』を此方へ」
牧野は映士を黒いカウチに招き、映士は『村正』を手にしカウチへと向かう。
映士から『村正』を受け取った牧野はサイドのテーブルに置き鍔に工具入れから出したコードを取り付ける。
無言で促された映士はカウチに座ると差し出された村正を強く握り締めた。
「本当に良いですか?」
「ああ、勿論だ。行くしかねぇんだからな」
「…止めはしません…が…高丘君…………生きて帰るんですよ!」
映士は強く頷き、それを見届けると牧野はコードの端を映士の額に貼り付けた。
映士の意識が深い闇の中へと落ちていった。
瞳を開くと漆黒の世界が広がっていた。辺りを見渡すが人影は無い。映士の手には鍔こそ無いが『村正』が握られている。
刀をベルト通しにねじ込み、柄を握り鞘から刀を抜いてみると、光は射し込んでいないはずだが『村正』の刃は鈍く光っていた。
その時、ぐらりと地が揺れ目の前にはアシュに似た怪物が現れた。
「出て来やがったな、化け物」
怪物は緩慢な動きで映士に迫り、映士は迎え撃つように両手で刀を握り怪物へと走り出した。若干遠い間合いで怪物が左腕を振るうとその腕は素早く長く伸び、映士は虚を付かれた。
反応が遅れたが左腕を刃部で弾き斬りつけようと刀を振ると怪物の伸びた右腕は映士の脇下に入り込み胴を薙払う。そのたった一度の衝撃は重く、映士の身は軽々と飛ばされ、地に叩きつけられた。
「ぐあっ…!!」
目がチカチカと白み、身体の節々や内臓が悲鳴を上げたように痛んだ。流石に何度も食らうと不味い。
映士は起き上がりしゃがんだ状態から立ち上がろうと四肢を奮起させるが四肢は言うことを聞かない。
「畜生…」
『村正』を地に刺し杖代わりにしダメージで震える足を立たせようとするが…俺様はこのまま何もできないのか?
「いや、違う…」
映士は立ち上がり、背を伸ばして地に刺さる刀を抜いた。
「俺様には、明石の様に人を引きつける力は無い、さくら姉さんの様に冷静な判断力も無い。真墨みたく冒険の知識はねぇし、蒼太の情報網も菜月の不思議な力も無い。
だが、俺様はボウケンジャーの新しき風なんだ!!」
自由奔放に生きてきた自分はボウケンジャーに新たな命を吹き込んだ。生まれ変わったボウケンジャーは自分の居場所であり守るべき場所、仲間達。
「こんな所で、負けてたまるかー!!!!」
映士の身体に力が漲り、刀を片手に走り出した。
「うおおおお!!」
高く咆哮をあげながら近付く映士に怪物は腕を伸ばす。腕を鋭い跳躍で躱し、本体の眼前に駆け寄ると柄を握る手を頭上に上げもう片方の手を柄に添え振り下ろした。
刃は堅い鎧のような皮膚に覆われた怪物の身体を肩から真っ二つに裂こうとするが、刃は途中で止まり怪物の腕が映士を弾き、刀ごと転がった。
転がった反動で起き上がり怪物を視認すると怪物はもがき苦しんだ様子だが傷付いた身体は修復されつつあった。あと少し、と映士は舌打ちした。
ふと手を見ると白く巻かれた包帯が一部赤く染まっていた。強く柄を握ったせい傷が開いたようだった。
シズカの言葉が映士の脳裏をよぎる。
一か八かの勝負に出た映士は白い包帯を取り、血の流れ出している手で『村正』の刃を握った。
血を吸い斬れ味が増すのならば怪物の身体を真っ二つにできるはずと踏んでのことだった。
「血を吸ってやがらぁ」
血が流れ出している感触はあるが刃に血が垂れる様子は無い。ぞわりと身体中の毛が逆立つ感覚に襲われるが堪え、怪物を見遣った。
蠢いていた怪物は体勢を立て直すと先程とは違い猛スピードで映士へと迫った。
「さっきとは一味違うぜ…来やがれ!!!!」
映士はベルト通しに刺さった鞘を抜き、その先が迫る怪物の喉元へ向け片手で構えた。『村正』をもう片手に持ち下段に構える。
伸びてきた腕に向かい映士は正面から踏み込み、腕を鞘で払うと怪物の腕は弾かれ、体勢が大きく崩れた。
「食らえ!!」
長い腕を支えられず倒れそうになる怪物に向かい映士は鞘を投擲した。鞘は怪物の頭目掛け投げられ、深々と刺さり、同時に映士は地を蹴りもがく怪物へ肉迫する。
「これで終わりだー!!」
両手で大きく振りかざし、一気に怪物の肩から斜めに振り下ろす。血を吸った『村正』は本当に斬れ味を増したようで怪物をまさに一刀両断にした。
この一撃に全身全霊を込めた映士は肩で息をしながら黒い霧となり消え行く怪物の姿を見つめた。
静寂が包む世界に一際甲高い金属音が聞こえた。その金属音は薄れ行く黒霧から聞こえ、映士が見遣ると投擲した鞘と金属の何かが落ちていた。
映士はしゃがみ、手を伸ばそうとすると視界が揺れた。血を吸われすぎたらしい、映士は思わず苦笑いを浮かべ鍔を手にした。
サイレンビルダーから眺めた時よりは幾分妖気が薄れている。刀身に鍔を付けると留めもしていないのに鍔はぴたりと刀身に留まった。
映士は力が吸われるような感覚を覚えながら鞘を拾い、刀を納めた。すると地がぐらぐらと揺れ薄暗い世界が白く染まりだした。
『村正』を握ったまま膝が地を叩き映士は力無く倒れた。
***
随分と長い間この場所を歩いた気がする。アクセルラーも作動しない、一面闇の殺伐とした風景が広がるだけ。
足を止めるとその場にへたり込んだ。変に息があがり、頭がクラクラしているし、さっき揺れた時に転んだ傷がちくりと痛い。
「真墨、蒼太さん…映ちゃん…」
突然世界が揺れ、風が吹き白銀が風に誘われたように薄暗闇を浸食し世界が光り輝いた。
「銀色の…風?」
***
何があったんだろう?地が揺れ、風と共に世界が白み始めた。辺りはキラキラと輝き幻想的な雰囲気に包まれている。
手をかざし、広げるとシルバーリングが銀の世界を映し輝いた。辺りを見渡すと眩く光る一点が遠くに見えた。
「行かなくっちゃ」
***
気付けば走り出していた。感情のまま行動することをチーフを任された今は堪えていた。
しかし何故だか我慢が出来なかった。罠の可能性は否定できないがそれでも走り出さずにはいられない。徐々に光源に近付く。
「帰るぞ、仲間の元へ…!!」
「映ちゃん!!」
目を開いた映士に菜月は見下ろし声を上げた。映士はベッドに手を付き上半身をゆっくりと起き上がらせる。
「やっと起きたか」
「三日寝込んでたんだよ」
菜月の横に立つ蒼太と白い壁に腕を組みもたれた真墨は安心したように微笑み、蒼太はサイドテーブルの籠からトマトを取り出した。
「映ちゃん…ホントにありがとね…」
「助かったよ、ありがと」
菜月は涙ぐんだ目を映士に向け、蒼太はトマトを映士に差し出した。
映士は蒼太からトマトを受け取るとおもむろに囓り付いた。
「ごめん、シズカちゃんとデートしなくちゃいけなくて…もう行くね」
「あ、待って!!お土産ー!!」
映士の無事を確認するなり颯爽と病室を出た蒼太に身を翻し菜月はその後を追った。
「ダークシャドウの奴らが押し掛けてきたんだ…」
「だろうな…」
残された真墨はため息混じりに呟きベッド付属の椅子に座る。映士はシズカと交わした約束を思い出し苦笑いを浮かべた。
「映士…GJ」
「ああ」
サムズアップした拳を真墨が映士の前に突き出し、出された拳に映士は自らの拳をコツンと当てた。
窓から病室に風が入り、病室内を駆け巡った。白いカーテンが風に揺れ、たなびいていた。
67 :
42:2007/04/11(水) 00:43:13 ID:UaWkSdLp0
お目汚し失礼しました。
改行エラーに引っかかりまくり、読みにくくなってしまったかなと。申し訳ない。
全裸で反省します。
いやいや、ちゃんと30分の本編を見たような感じで読ませていただきました。GJです!
しかし全裸は…反省してることにはまったくなりませんよ?w
禿しくGJ!
本編と見紛うばかりの熱さ、完成度に感動
予告のタイトル、セリフからはシズカの加入…も匂っていたけど、良い意味で裏切られたよ
前回の伏線、設定をすべての回収してしまう手腕にも脱帽しきりです
ぜひ次回作も期待します
和太鼓の音と日本刀を構えた高丘を脳内再生しながら読みました。GJ!
71 :
名無しより愛をこめて:2007/04/13(金) 04:07:29 ID:l8VToC9H0
深夜のビークル格納庫。
もうじき日付も変わりかけようとしているこの時間帯、普段であれば最低限の人員だけ残して静まり返っているはずのこの場所だが、ここ数日に限ってはサージェスの技術者や作業員が24時間体制で詰め、慌しく各自の作業に追われていた。
作業内容はビークルの改造。
14号機から18号機までの5台を合体させて完成する『ゴーゴーボイジャー』の…宇宙仕様への改造作業であった。
ネガティブとの戦いに一旦の区切りをつけ、サージェスが次に見据えた計画は…宇宙進出であった。
宇宙に眠る未だ見ぬ、未知のプレシャス。その確保と保管が目的である。
組織の威信をかけた一大プロジェクト。
場合によっては新たな人類の危機を防ぐ、重要なミッションとなるかもしれない。
しかも舞台は今までと違い、過酷な環境の宇宙空間である。
作業にも自然と熱が入り、あちらこちらで作業機械の音がけたたましく鳴り響いていた。
そんな中、この喧騒にやや似つかわしくない雰囲気を持つ、ある人物の姿が目に付いた。
コードネーム『ボウケンピンク』
ボウケンジャーのサブチーフ、西堀さくらの姿である。
さくらは、いつも気丈な彼女には似合わず、何か思いつめたような表情で変電設備の影に立ち、ジッと作業風景に視線を走らせている。
「…おや、珍しい?さくらさんじゃないですか。」
不意にトン、と肩を叩かれた。
振り向くとそこには、サージェス・メカニック担当の牧野の姿があった。
「どうしたんです?こんなところに顔を出すなんて珍しい。」
「牧野先生…いえ…ただ近くを通ったので立ち寄ってみただけです…」
「そうですか。ああ、よかったらもっと近くでご覧になりますか?」
さくらの視線がボイジャーに注がれているのを見て取ると、努めて明るく振舞いながら、ささ、どうぞと手で指し示した。
「あ…いえ…結構です…私はこれに…乗りませんし…」
少し表情を陰らせてさくらが俯く。
その様子を、牧野が気遣うようにジッと見つめる。
「そうですか…技術部自慢の装備が満載なんですけどね。興味がおありでしたらいつでもお見せしますよ。」
「ありがとうございます。」
静かな声でそう答えると、さくらの視線がまたボイジャーに向けられる。
…それから暫くの間、さくらが再び口を開くことはなかった。
長い静寂。
さくらは相変わらずそこに佇み、物思いに耽っている。
そして牧野はそれを見守るように…静かに傍に立っていた。
目の前に立つ、誇り高き戦士。
何者も恐れず、いつも熱く勇敢に困難へと立ち向かう女性。
今まで幾多の重責を、過去を、そして未来を、その背中に背負ってきた。
その後ろ姿が……今日はやけに小さく、脆く思えた。
「もう遅いので、お先に失礼します。」
どれくらい経っただろうか、さくらが振り返り牧野に告げる。
「そうですか。」
「ええ、先生もあまりご無理をしないようにしてくださいね。」
「私達の仕事は、無理をしてナンボなんですよ…ハハハッ!」
「ふふっ、そんなこと言ってるとまた倒れちゃいますよ? じゃ、おやすみなさ…」
「ちょっと、さくらさん」
「はい?」
「あの、もし良かったら…」
「?」
「私とお茶でも一杯…付き合いませんか?」
「…へっ?」
突然の『お誘い』に驚くさくら。そしてさくらの返事も待たず、牧野がさくらの背中を軽く押しながら…
「ささ、たまにはいいじゃありませんか。」
…と半ば強引にサロンへと通ずるエレベーターホールへ導いていった。
「すみませんねぇ、こんなオジサンに付き合わせちゃって。」
「とんでもない、気にしないで下さい。ホットでいいですか?」
「はい、ありがとう。」
さくらが二人分のコーヒーを運び、テーブルに置く。
二人以外は誰も居ないサロンで、並んで腰掛けてカップを口に運ぶ。
「この歳になるとね、たまにはお若い女性とゆっくり語らってみたくなったりするんですよ。ナンパなんて何十年振りでしょう。」
「ふふっ、意外な一面ですね。失礼ながらそういったことには、わりと無関心な方かと思ってました。」
「いやいや、こう見えても若い頃はね…なんて。胸を張って語れるほどの自慢話なんてありませんけどね。」
「でも、そのほうが牧野先生らしいです。」
「おや、随分微妙なご返答ですね。いかにも私が女性と無縁のような…」
「…あ…いえいえ!決してそういう意味では…」
さくらが目の前で手の平をブンブン振る。
「ハハハ、冗談です!今まで仕事一筋でしたからね。自分でよく分かってます。」
「私はそういう牧野先生のほうが好きですよ。」
「おやおや『好き』なんて言われると年甲斐もなく照れちゃいますね。」
「ふふっ…」
いつしかリラックスした気分で談笑する二人。
「……ところで、誘っといて言うのもなんですが、そろそろお休みになる時間だったんじゃないですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「そうですか…明日も早いんでしょう?」
「ええ…でもどうせ…最近は部屋に帰ってもあまり眠れないんです。」
「おや、何か悩みごとでも?」
「ええ…まぁ…」
「そうですか。解決、できそうですか?」
「……というより…最初から答えは決まってますから…」
「そうですか……」
「…………」
さくらは黙ったまま、テーブルの中央部をじっと見つめる。
じっとその視線を追う牧野。
そして少々神妙な面持ちで切り出した。
「…いつもそこにいる人の事ですか?」
不意に核心を突かれ、ハッとさくらが牧野に視線を移す。牧野は視線を正面に向けたまま、話を続ける。
「いつか話してくれるかと思って待ってたんですけどね。やはり背負い込んじゃいましたか。」
「先生…」
「さくらさん、あなたはさっき答えは決まっていると言いましたが…」
ゆっくりと椅子ごとさくらの方に体を向け、座り直す。
「あなた、本当にそれでいいんですか?」
「え…?」
不意にさくらの視線が泳ぐ。
「いつ帰るとも分からない任務。しかも会おうと思って会える場所ではないんですよ。そんなところに明石君が行くのを黙って見送るんですか?」
「そ、そんなこと言われても…私には…」
「何もできない、口を挟む権利もない。そう言うんですか?」
普段とは違い、少しきつい口調で語りかける牧野。
「だって、これはサージェスの決定ですし…それに残る私にも任務が…」
「この際そんなことはどうだっていいんです。」
「…牧野先生…」
「私が聞いてるのは、あなたはどうしたいのかということです。」
「……私、が?」
「そう。ボウケンピンクやサブチーフではなく『西堀さくら』さんが…です。あなた、このまま指をくわえて見ているつもりですか?」
「…私は…」
伏せていた視線をゆっくりと上げ、戸惑った表情で牧野を見る。
牧野がしっかりとした眼差しで見つめ返す。
「私……は……」
「『私は』?」
「私は……チーフ…いえ……明石さんと……」
牧野が微かに頷きながら、続く言葉を待つ。
「明石さんと……離れたくない……です…」
言い終えると同時に、両の瞳から涙がこぼれる。
「離れたくない……宇宙なんて、そんなの……嫌……!」
手の平で顔を包み、嗚咽と共に徐々に声がかすれていく。
「うん。」
傍に寄り、牧野がさくらの髪をクシャッと撫でる。
「そんな大事なこと…一人で抱え込むもんじゃありません。」
さくらが牧野の胸に飛び込み、声をあげて泣く。
「牧野先生っ……!私……明石さんと一緒にいたい……」
「うん、うん…」
優しく何度も、何度もさくらの頭を撫でる。
さくらは生まれて初めて、人の胸で心から泣き崩れた。
もし、私に娘がいれば…このくらいの歳なのだろうか。
もしその娘が、胸が張り裂けんばかりの事態に直面したとき、父親の私はどんな行動を取ってやれるのだろうか。
その娘の顔を…笑顔に変えてやることが出来るのだろうか。
「さくらさん。」
暫くそのまま時が過ぎ、さくらが落ち着きを取り戻した頃に牧野が優しく声をかける。
ゆっくりと顔を上げるさくら。
「いいですよ。」
「……?」
「行きなさい、一緒に」
「……えっ?」
「好きなんでしょう?彼が」
「えっ……でも」
「そりゃね、ボウケンジャーのチーフーとサブが同時に抜けるというのは、サージェスにとっても大きなリスクを背負うことになるかもしれません。」
「…………」
「しかしね、さくらさん。よく聞きなさい。組織があって人が在るのではない。人が在って初めて組織が成り立つのです。私はね、あなた方メンバーのことを『部下』だと思ったことは一度もありません。あなたは、私の大切な『仲間』です。」
さくらの両肩に手を添え、椅子に真っ直ぐに座らせて続ける。
「たった一人の仲間も幸せにできないような組織など、何の意味もないんですよ。私はサージェスが、そんな血も涙もない組織だなんて思っていません。人の心がちゃんと分かるからこそ、世界の平和も守れる。そう思っています。……そうですよね、Mr.ボイス?」
さくらがハッと視線を上げると、真っ暗だったモニターが突然灯り、Mr.ボイスの姿が映し出された。
「み、Mr.ボイス……!?」
目を見開いてモニターに見入るさくら。
『なぁに〜、牧野さん。ボイスが聞いてるって知ってたのぉ?』
「あなたのことです、だいたい察しはつきますよ。それよりどうなんですか?今の話。サージェスはうら若き女性の純真な乙女心を傷つけて、平気でいられるような冷酷かつ残忍な…」
『ちょ〜っとちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ〜』
「私は今ね、さくらさんの味方なんです。この子のためなら何だって言いますよ。」
『フン!柄になくカッコつけちゃって……ん〜、ピンクちゃん?』
「は、はいっ!」
さくらが腰掛けていた椅子から立ち上がり、姿勢を正す。
『話はだいたい聞いていたよ。レッド君と一緒に行きたいの?』
「……は、はい」
『そっか…君がここにいてくれると、何かと助かるんだがね。』
「…………」
ボイスの言葉にさくらが俯く。
『でもまぁ、6人の中でも君は今まで本当によくサージェスに尽くしてくれたからね。一つぐらい恩返ししないとバチが当たるかもね〜』
「……えっ?」
「それじゃあ…!」
さくらと牧野が同時に一際高い声を挙げる。
『ただし、遊びで行くんじゃないんだよ?これもれっきとした任務。レッド君はす〜ぐ冒険、冒険って言って横道に反れるからね。君がお目付け役として「四六時中」ちゃ〜んと監視しててよ?』
「…い、いいんですか!?」
『なぁに〜?嫌なの?だったらこの話は…』
「い、行きますっ!絶対行きますっ!!行かせて下さい!!」
慌ててさくらがモニターに前に駆け寄り、すがるようにモニターに手を添える。
『ハハハッ…それじゃ、よろしく頼むよ?ピンクちゃん!』
「はいっ!ありがとうございますっ!!」
無意識に最敬礼の姿勢をとるさくら。
その様子を牧野がウンウンと頷きながら、温かい視線で見守っていた。
『…ところで、話がまとまった後でちょっと言いにくいんだけどぉ〜』
暫くの後、ボイスが切り出す。
「?」
『ボイスが許可を出すことはできるんだけどさ、もし当のレッド君が「そんなの嫌だ」って言ったらどうするつもりなの〜?』
「あっ…そ、それは……」
笑顔の浮かんでいたさくらの表情が一瞬で陰る。
「そ、その時は…無理にご一緒するわけには……」
消え入りそうな声。その時。
「大丈夫です。」
牧野がさくらの傍へ進み、肩に手を置く。
「明石君は決してそんなこと言いませんよ。今までずっと、この子達を見続けてきた私なら分かります。絶対に大丈夫です。それに…」
『それに〜?』
「ちゃんと秘策を用意してあります。100%、置いていかれないための、とっておきの策をね。」
さくらの方を向き、牧野が蒼太を真似て人差し指をピッと立てる。
「先生……」
「うん…さくらさん。」
「はい。」
さくらと正面で向き合い、両肩に手を乗せる。
「明石君と、幸せになりなさい。」
「…はい…」
「フフッ、これは命令ですよ?」
再びさくらの瞳から大粒の涙が零れる。
牧野が、モニターに浮かんだボイスの笑顔と視線を合わせ、頷く。
『今日のピンクちゃんは泣き虫ですね〜』
「これでいいんですよ。これまでずっと、堪えてきた分が一気に溢れ出てきただけです。この子は今まで、いろんなものを一人でたくさん背負い込んできたんですから。」
「ありがとうございます……Mr.ボイス……牧野先生…」
さくらはポケットから取り出したハンカチで頬をぬぐうと、まだ涙目のままの瞳で、心底嬉しそうに微笑んだ。
「さて!これから忙しくなりますよぉ!」
パシッ、と両の膝を叩いて気合を入れると、牧野が立ち上がる。
「さくらさん。ボイジャーはこれから先、あなた方の住居にもなるわけですから改造の注文があれば今のうちに何でも言ってください。なんなりとお好みのように作り変えますよ。」
「そうですね…ありがとうございます。じゃあ近いうちに打合せをさせて下さい。」
さくらが少し照れたような笑みを浮かべて答える。
「はい、詳しい事は打ち合わせで……ただし」
「…『ただし』?」
キョトンとするさくらの耳に、牧野がそっと口を寄せて囁く。
「…ただし…ベッドは一つしか作りませんからね!」
その瞬間、さくらが耳の先まで真っ赤になる。
「も、もうっ!牧野先生っ!」
「おや?そのほうが都合が良いでしょう?そうでもしないと彼、鈍感ですから…進展ありませんよ?」
「…ぅ……それは困ります……って、何言わせるんですかっ!!これセクハラですよ!!」
「いやいや、それにボイスも『四六時中』監視と言ったでしょう?よろしくお願いしますよ。ハハハッ!」
「もう、牧野先生嫌いですっ!」
「おぉ怖い!私は格納庫に戻ります。おやすみなさい。」
おどけた顔で素早くエレベーターに乗り込む牧野。
片手を挙げて追いかけてきたさくらの目の前で、ドアが閉まる。
程なくして下がり始めた狭い空間で、牧野は一人満足げに微笑んでいた。
そう…これでいい…
私は…あの子達の…あの笑顔を見続けるために…ここにいる…
そのためなら…どんな事でもしてあげよう…
それが…私の夢…
私が本当に追い求める『プレシャス』なのかも…しれません…
【了】
これはピンクにあった『深き想い』じゃないですか!超ー好きな作品なんで有り難い!GJです!
そいえば>>18-
>>23て「一人ボウケン」(元スレの1)無いけど?
85 :
【Task.072 宇宙のプレシャス 】:2007/04/16(月) 23:40:41 ID:/0gwCaII0
出発から数日後の深夜
明石「さくらと一日交代とはいえ、一人で宇宙空間のモニター監視ってのもヒマだな…そうだ!そう言えば蒼太にヒマな時用のDVDを貰っていたな。中身は知らないが、まぁ眠気覚ましくらいにはなるだろう。」
(DVD再生開始)「…ん……これは!?……」
(数十分後)「…………ァ…アタック!……ふぅ…」
翌朝
さくら「あ…明石さん…あの…一人でボウケンするのは…」
明石「!?……さ…さくら知っていたのか!?」
さくら「……ゴミ箱に…」
明石「ス…スマン!これからは気をつける。ちゃんと自分の部屋で…」
さくら「ち…違いますっ!…………どうせボウケンするのなら……わ…私のプレシャスを!」
明石「ん?さくらのプレシャス?……何の事だ?」
同時刻、サージェスのサロンで蒼太のノートパソコンを覗き込むメンバー
蒼太「やっぱりチーフはチーフだねW」
牧野「やれやれ、明石くん相手では、さくらさんのミッションもコンプリート出来ないかもしれませんねぇ」
映士「ぶわーはっはっはははー!!!!明石の奴『一人ボウケン』見つかってやがるぜーWWWW」
牧野「フフ…『一人ボウケン』とは良い表現ですね」
蒼太「映士GJ!」
映士「つーか真墨ー!『さくら姐さんのプレシャス』って何だーW」
真墨「おいおい映士!本気で聞いてるのかよ…『アレ』だ『アレ』WWWW」
菜月「もー☆みんなだけ判ってズルイよ〜!菜月よく判んないィィィィ!」
ボイス「…………やっぱりピンクちゃん行かせなきゃ良かったかも…orz」
sage忘れスマソ…orz
このスレに合わせて多少ブラッシュアップしといたよ
ピンク板から持ってくんなよ。
何のための年齢制限板だと思ってんだ
過疎った本スレから出張してくんなよ。
何のための派生スレだと思ってんだ
>>87 内容は別にR指定じゃないから過敏にならなくても。
>>88 元のスレから持ってきて何が悪いんだよ。原点だろーがよー。
ピンクで読んだ時に全年齢板でも見てもらいたいと個人的には思っていたりもしたが
流石に一言もなしにこっちに持ってくるのはまずいだろ
なにも言わずに持ってこられるとパクリ乙とか言いそうになるからやめてくれ
>>90 誤解させてスマン
>>88は
>>87へのレスだ
本スレもエロネタに反応する荒らし居ただろ?
本スレが過疎ったから、てっきり今度はこっち荒らしに来たんかと思ったんよ
申し訳ない
そういう問題じゃなくて、向こうから勝手に持ってくるなよと
人の作品なら問題だが、自分の作品なら
持ってきてもかまわないのでは?
前に載せてたスレ知らない人は作品見れてありがたい。
そりゃスレ主もスルーするわなW
後半の荒れっぷりといったら・・・
元スレ知らずにここ来た人は見ない方が良いよ
向こうの流れがこちらに波及しない事を願うばかり
もしここもダメになったら他板に避難するしかねーな
確かに過疎をいいことに作品でなく、自分の主張を長文で垂れ流されるようになったら終わりだな
同じ量の文章読むなら演説よりSSの方がいい
99 :
名無しより愛をこめて:2007/04/23(月) 18:40:49 ID:F1z7Xfy/O
さあさあ雑談はこの辺にして
職人さま投下待ってますよー
100 :
名無しより愛をこめて:2007/04/26(木) 23:18:11 ID:j9VhnD4T0
100get
>>85 コレ読んでから、
『轟轟合体!ダイボウケン』 と、チーフのキャラソン(冒頭部)が
エロソングに聞こえてしまってしょうがない。
♪プレシャス追いも〜とめ〜 Ride On ボウケン!ぜ〜んか〜い!!♪とか・・・
↓元スレにあったやつ。これ好きな人って少ないのかなー…↓
103 :
1/6:2007/04/28(土) 21:49:45 ID:upH2L1W90
【ある日常 〜訓練〜】
明石「おいみんな、訓練始めるから集まれ」
真墨「訓練?」
さくら「珍しいですね」
映士「んだよ面倒くせぇ・・・」
菜月「くんれーん♪くんれーん♪」
蒼太「訓練って何やるんですか?」
明石「今日は『精神力を鍛える』訓練だ」
映士「ほう、面白そうだな。どうやるんだ?」
明石「ああ、やり方は簡単だ。
まず訓練する者を1名決めて、そいつと残った4名(明石除く)で会話をするんだ」
菜月「会話ってどんな?」
明石「4名は訓練者に対して、いかにもそいつが怒りそうな言葉を何でもいいから言うんだ。
訓練者はそれに動じることなく怒りを抑える。最後まで我慢できたら勝ちだ」
さくら「なるほど。何事にも動じない強い心と、相手のウィークポイントを見抜く
洞察力を同時に身につける効率的なトレーニングですね。さすがチーフです」
明石「そのとおり、さすがさくらだ。後でイイコトしてやる」
真墨「姐さん頬染めてんじゃねえよ!」
蒼太「なるほど、よく分かりました・・・でも、そういうことしちゃうと
後で変な遺恨が残ったりしませんかね?」
明石「これはあくまでも訓練だ。本気で相手をけなしたり罵ったりするわけじゃない。
その辺はみんな割り切ってもらって、遠慮なく相手を怒らせて欲しい」
全員「了解!!」
104 :
2/6:2007/04/28(土) 21:50:18 ID:upH2L1W90
明石「ではまず・・・映士、お前からやれ」
映士「俺からかよ!・・・しゃーねぇ、来いよ」
さくら「高丘さんなら簡単ですね」
蒼太「普段から短気だしね」
映士「バーカ、俺は高丘流の跡取りだぜ?いざという時の精神力の強さは筋金入りよ」
菜月「じゃ始めようよ、楽しみー♪」
明石「よし、じゃ制限時間は5分。耐え抜いたらクリアだ。始め!」
映士「さ、遠慮なくなんでも言っていいぜ?」
真墨「よし、じゃ・・・野菜バカ!」
映士「効かねぇな」
菜月「アルミ箔」
映士「おう、おっしゃるとおりで」
蒼太「『探すモード』ってネーミングださいよね」
映士「持ってないからって僻むな僻むな。なんだぁ?お前らそんなもんか?」
さくら「・・・・マザコン」
映士「くっ・・・・!」
さくら「マザコン、膝枕大好き、ママーおっぱーい♪」
映士「・・・てめぇオフクロのことだけは馬鹿にすんじゃねえよ!!」
明石「はい終了。42秒」
映士「・・・ハッ!・・・・つい」
さくら「だから簡単だといったでしょう?楽勝ですね」
真墨・蒼太・菜月(この人えげつねぇ・・・・)
105 :
3/6:2007/04/28(土) 21:50:54 ID:upH2L1W90
明石「次はそうだな・・・・お前、黒いの」
真墨「俺を色で呼ぶんじゃねえよ!」
さくら「終了。1秒です」
蒼太・菜月・映士(本当に次期チーフこいつでいいのか?)
106 :
4/6:2007/04/28(土) 21:51:28 ID:upH2L1W90
明石「次は菜月だ。みんな女の子だからって遠慮するなよ」
菜月「・・・みんな目が怖いよぉ」
映士「悪いな。オレ様、さっきからちょっとばかし機嫌が悪いんだ」
真墨「・・・同じく」
明石「その意気だ。それじゃ開・・・!」
さくら「純粋無垢ぶってんじゃないわよ、カマトト女」
真墨(いきなり大砲かよ・・・)
映士(しかもフライングぎみ・・・)
蒼太(僕の知ってるさくらさんじゃない・・・)
菜月「えー?ごめんなさぁい、菜月よく分かんなぁい♪」
さくら「くっ・・・!」
真墨・映士・蒼太(涼しい顔してその上を!?)
菜月「あれー?さくらさん黙っちゃったぁ♪みんなも何も言わないの?」
真墨「・・・天然」
菜月「分かんなぁい♪」
蒼太「媚売りすぎだよ」
菜月「分かんなぁい♪」
映士「お前みたいな女が一番苦手」
菜月「分かんなぁい♪」
真墨「くそっ・・・完全にスルーモードに入ってやがる・・・強い」
さくら「これじゃ何言ってもダメですね・・・」
菜月「あれれぇ?もしかして菜月が一番強い?みんなもうあと2分しかないよー?ふふっ♪」
明石「あと1分だ。お前時計も読めないのかバカ」
菜月「バカじゃないもぉぉぉん!!!!!!」
蒼太「・・・案外身近なキーワードが弱点だったんだね」
107 :
5/6:2007/04/28(土) 22:02:32 ID:upH2L1W90
明石「はい次蒼太」
蒼太「みんな、お手柔らかにねっ」
映士「あ、明石。その前にちょっと作戦会議開いてもいいか?」
明石「構わん。それも訓練のうちだ」
映士(おい・・・やっぱここはあの言葉しかねーだろ?)
さくら(もしかしてズバーンの前でケンカした時のあれですか?)
真墨(あれ言っちゃシャレになんねーだろ・・・)
菜月(でもでも、チーフは何言ってもいいって言ったよ?)
さくら(しかし・・・あれ見て下さい。もう既に何を言われるかおおよそ見当が
ついてるらしくて、こっちに向かって思い切りガン飛ばしてます)
映士(『アレ言ったら何すっか分かんねぇゾ?分かってんべ?あ?』って目だな)
菜月(白目のところが全部真っ赤になってる・・・やっぱやめとこうよ)
真墨(無難なところで手を打つか・・・訓練で命落としちゃ割りに合わねえ)
明石「お前らまだか?早くしろ」
映士「ああ、じゃ言うぞ。えっと・・・『ギター下手』」
蒼太「なにをおおおおお!あ、怒っちゃった(笑)」
真墨・菜月・さくら・映士「あははははは、やったー」
全員「あはははははは」
蒼太(みんな・・・ありがとう)
108 :
6/6:2007/04/28(土) 22:03:21 ID:upH2L1W90
明石「さて、最後は・・・」
ボイス「あーレッド君、ちょっと話があるから来てくれたまえ」
明石「はい・・・じゃ蒼太、ちょっと替わりに進行役やっててくれ」
蒼太「了解っ。最後はさくらさんだよね」
さくら「フン、これぐらい朝飯前です」
映士(てめーさっきはよくもオフクロを・・・!)
菜月(さっきの、内心結構効いたからね・・・!)
真墨(あん時の『ドロボウ!』の一言、忘れてねーからな・・・!)
蒼太「あの・・・みんなちょっと落ち着いて」
さくら「構いません、始めて下さい」
蒼太「はい、じゃぁ・・・・開始!」
映士「サージェスでもお嬢様気取ってんじゃねぇぞ?あ?」
菜月「まだ処女ってホントですか?」
真墨「クールどころか冷凍庫、友達もいねーんじゃねえの?」
さくら「・・・・それで?」
映士「てめーホントはナスが欲しかったんだろ?え?」
菜月「えっと、視界に入らないでもらえますか?」
真墨「お前が芸能界なんか入れるわけねーだろ!本気にしてんなよ!」
さくら「・・・その程度でどうやって怒れと?」
映士「ちきしょう・・・」
菜月「さすが・・・手強いね」
真墨「姐さんキモ座ってるからなぁ・・・」
さくら「蒼太君、そろそろ時間では?」
蒼太「あっ・・・はい。5秒前、4、3、2、1」
明石「悪い、今終わったよ。急な話で悪いが明日から宇宙探索の任務に行くことになった」
さくら「トンガリてめえぇぇこるあああぁぁぁぁ!!!!」
全員「姐さんを止めろっ!!」
喜怒哀楽をモチーフにしたやつだよね。オレは好きだよ。他のも楽しみにしてたけど…元スレが荒れてしまった。
110 :
名無しより愛をこめて:2007/04/30(月) 16:15:17 ID:LEgHJkSzO
構成のシリアス編
センスのギャグ編
っつー感じでどっちも好きだな
>>103 ワロタww
真墨が瞬殺なとこがイイ!!
チーフがオチかと思ったら姐さんだったのもヤラレマシタ!
いや〜職人の皆さんすごいなあ……
112 :
名無しより愛をこめて:2007/05/05(土) 16:57:49 ID:Y6Q2i2ClO
保守age
113 :
名無しより愛をこめて:2007/05/09(水) 07:27:40 ID:IFCrQ7ZUO
職人待ちage
元スレにあったダイボイジャーの宇宙戦闘編に触発されて、ちょこちょこ書き始めたんだが…
冒頭部分だけ、とりあえず投下するとかも有りでしょか?
キター!有りですよ!お待ちしております!
「……uum……uum……uum……uum……uum……」
朦朧とする意識の中、微かに聞こえる音。
「……警告……音……か……?」
ボイジャー艦内の酸素濃度低下を報せる警告音である。
随分、酸素濃度が薄くなったのだろう、鼓膜にズキリと痛みが走る。
…その痛みに続き、さらに右肩に激痛が襲った。
「クッ……」
先刻の戦闘で暁は右肩に裂傷を負っていた。
さくらの応急処置により止血されているものの、肩に巻かれた包帯は赤く滲んでいる。
右肩を左手で抑え、辺りを見回す。
「……ん……さくら……?」
さくらの不在に気付いた暁は、右肩の痛みに耐えベッドから身を起こした。
ヨロヨロと立ち上がり、ベッド横のモニターを点け、左手でキーボードを叩く。
「何!ダイボイジャー!?」
先刻、敵の攻撃を受けた際、ボイジャーは長距離航行形態『ゴーゴーボイジャー』であった。
しかし、目の前のモニターは、現在ボイジャーが中〜近距離戦闘形態の『ダイボイジャー』である事を示している。
「さくらの奴…………!!」
艦内には暁とさくらの二名のみ。
当然、ダイボイジャーを操縦しているのはさくらに相違ない。
暁の脳裏に不吉な予感が過ぎる……
「まずい!このままでは……」
ゴーゴーボイジャーによる通常航行ならともかく、ダイボイジャーを機動するには、とてつも無いプレシャスパワーをネオパラレルエンジンに送り込まなくてはならない。
二人の力を併せたとて、それは困難を極める。
ましてや、宇宙航行用にリミッターを解除したネオパラレルエンジンである……
さらに、さくらはアクセルラーを携帯しているため『ボウケンピンク』にスタートアップしているであろう。
生身の身体より、アクセルスーツ着用時の方がプレシャスパワーの伝導率は極めて高い。
アクセルスーツを媒介として、無尽蔵にさくらを動力源とする可能性……
つまり、プレシャスパワーを使い果たし、廃人に追い込む可能性も……
暁の目が険しい輝きに満ち溢れた!
意を決し、拳を握り立ち上がった……その刹那!
「ドゴォォォォン!!!!」
艦内に爆撃音が響き、大地震の様な振動が襲う!
「veem!veem!veem!……」
酸素濃度低下警告音が緊急警報に移行した。
壁に体を打ちつけられ、暁の顔は苦痛に歪むが、左手を支えに即座に立ち上がった!
「クソッ!急がないと!!」
暁は、救急セットからモルヒネのアンプルを探し出し、自身の右肩付近に針を差し込み注入した。
「グッ…ウゥ…」
続いて、部屋の壁に備え付けられた宇宙服に左手を伸ばし、不自由な右肩を庇いながら急いで換装した。
再びモニターに向かい、コクピットのさくらへと通信を試みる……
「…………ダメか!」
暁は通信を諦め、宇宙服の酸素ボンベを起動させるとバイザーを閉じ、出口へ向かう。
空気の流出に備え、壁に体を預け、扉の開閉スイッチを入れた。
「ドンッ!ゴォォォォ!!!!」
ドアが開いた瞬間、凄まじい勢いで室内の空気が通路へ流れ出る。
バイザーを閉じて、壁に身を隠していなければ、鼓膜が破れ、通路の壁に身体が叩き付けられていただろう。
暁は空気の流れが落ち着いたのを確認すると、通路へ駆け出した。
10m程走り、通路を突き当たると、壁にある20p四方程の透明アクリル板を左の肘で叩き割る。
「バギィィ!!」
暁は、中に見える赤い非常用コックを、全力で手前へ引いた。
「ギッ……シュゥゥゥゥ……」
通路の突き当たりの壁が上部にスライドし、奧に空間が現れた。
広さは人一人がやっと入れる程度で、遥か上方まで伸びており、側面には梯子が備え付けられている。
「……ヨシッ!」
暁は自らに気合いを入れ、梯子に手をかけ、昇り始めた。
「ダイボイジャー」形態に変形すると内部の構造も大きく変わってしまい、艦内の移動は極めて困難になる。
今、コクピットへ通じるのは、この通風口の様な狭い空間のみだ。
「グッ…ウゥ…ムン!」
モルヒネを打ったとはいえ、一段一段昇る度に暁の表情は苦悶に歪み、額からは脂汗が噴き出してくる。
20mほど昇った辺り、暁が右手を上段に掛けた時……
「ドゴォォォォン!!!!」
再びの爆撃音!
艦内を襲う衝撃で暁の左手は梯子から離れてしまい、身体を支えるのは右手だけとなってしまった!
「くっ…そぉぉぉぉ!!!!」
みるみる右肩の包帯は血が滲み、暁の顔は蒼褪めていく!
右腕は既に引き千切れそうだ!
「…こ…こんな所で…」
血の気を失った暁の視界がブラックアウトし、眼前に闇が拡がる……
最早、右手の指先にも感覚が残っていない……
「……ダ……ダメ……なのか…………さくら……スマン……」
……眼前の闇に……一筋の光が見える……
……光は拡散し……やがて一つの風景を形成した……
……青い星……白い雲……緑の山々……
……その崖の淵には……四つの人影が見える……
「……地球……?……走馬灯……か……」
……四つの人影は……大空に向かい声を上げている……
「!?……ま……真墨!蒼太!菜月!映士!」
……暁が目を見開いた瞬間!
緑の景色は瞬時に収縮し、再び暗闇に変わったかと思うと、眼前は元の艦内に戻った……
依然、艦内は大きく揺らいでおり、爆撃音が断続的に聞こえてくる……
「……フ……フフ……真墨……『地球』の未来は任せたぞ……」
暁の目に、これまでにないほど生気が宿る。
「……しかし……しかしな……宇宙の未来は……俺に……この『不滅の牙』明石暁に任せろぉぉぉぉ!!!!」
暁は全ての力を振り絞り、右腕で身体を梯子に引き寄せた!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
右腕は凄まじいまでに紅潮し、隆々と逞しい筋肉の塊へと変貌した!
右腕で懸垂し体制を整えると、続いて左手を右手と同じ梯子の段に掛けた!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
九死に一生を得た安心感からか、それとも未知のパワーを手にしたのか……
みるみる暁の顔色が戻っていく!
一度ならず二度、三度の衝撃、爆撃音……さくらが苦戦している事は明白だ!
最早、一刻の猶予も無い!
「待ってろ!さくら!!」
暁の目は、薄暗い空間を照らさんばかりに輝きを取り戻した!
そして、右肩の苦痛をものともせず、勢いを増し上へ上へと昇って行く!
……ただ上を……ただ一点を見つめて……
「見てるか!真墨!蒼太!菜月!映士!これが俺の『冒険』だぁぁぁぁ!!!!」
【了】
冒頭部分だけ……と予告しましたが、一応完結っぽく構成し直しました。
続きは気が向いたらという事で…w
お目汚し失礼致しました。
続きが気になりますねぇ。あるのなら楽しみにしてます。GJでした。
以前ピンク板に投稿した作品を、ここに転載しては駄目でしょうか?
(書いた本人です)
いちおう内容は18禁なしなのですが…
いいんじゃないの?
どうせもうほとんど見てる人いない過疎スレなんだし
自由に使えばいい
>>125 勝手に過疎るな。見てる人には不快に感じる。
>>124 全然OKですよ。待ってます。もしかして風シリーズ?
元々荒れた本スレからの避難所みたいなもんだから、荒れる位なら過疎った方が平和で良いかも?
まぁマターリしてるなら、なんでもイイんだけどねw
>>124 待ってました!ぜひ頼んます
ピンク板とどんどん交流が深まれば良いですよね
>>125-
>>127 有り難うございます。ピンク版で通称「風シリーズ」を投下します。
少し改変しました。
・風のシズカ主役、ボウケンブルー(最上蒼太)準主役でお送りします。
・長いです。
・明石暁、西堀さくらは宇宙出張中なので出てきません。
・ダークシャドウがSGSにつきます。
・チーフになった真墨に対し蒼太は仕事中は敬語を使う、ということにしてます。
・幻のゲッコウがバルタン星人みたいに笑います。
以上がありえないと言う方、スルーでお願いします。
設定等(特にメカ戦)、かなりいい加減なところがあります。これは黙っていられない、
というミスが有れば、ご指摘お願いいたします。
とある山の、奥深く。空気は冷たく、澄んでいた。
「蒼太、時間は? …遅ぇな、あいつら」
「えーと、今予定より18秒遅れてますね。ま、想定の範囲内では?」
「訓練だからって、油断するなよ。こういうのはきっちりやってかねえとな」
一週間ほど前から、ボウケンジャー・チームの『山籠り』が行われている。今日は最終日だ。
新チーフ・伊能真墨と新サブチーフ・最上蒼太は、予め決めておいた集合地点で、間宮菜月・高丘映士組の
到着を待っていた。
「そうですね、今回は、実戦同様ですからね。でもまさか、あの人達にご協力頂けるとは…」
蒼太がそこまで言ったとき、菜月と映士が到着した。
「おう、もう居るのか、早ぇな!」
「お前らが遅いんだよ、1分遅刻! …よし、全員揃ったな、敵に気付かれないうちに、行くぞ!」
真墨の号令で四人が足を踏み出そうとした瞬間。空を切る鋭い音と共に、無数の手裏剣が襲ってきた。
「もう気付かれてるよ、ボウケンジャーの皆さん」
ご機嫌な声で登場してきたのは、風のシズカ。
「けっ、最終日だからどんなラスボスが来るのかと思ってたがよ、なーんだ、お前か」
「黙れ銀色!!」
シズカが投げた手裏剣を、映士は余裕でかわす。
「フォッフォッフォッ… 油断は禁物じゃぞ、ボウケンジャー」
いつの間にか、梢に幻のゲッコウがとまっていた。
「そうだよー。今日のあたしは、いつものあたしと違うんだから! じゃーん!」
そう言ってシズカが得意げに取り出して見せたのは、一振りの、小太刀。蒼太は、それに見覚えがあった。
「それは… 『風牙の太刀』!」
「なあに、蒼太さん知ってるの?」
「でもアレの、どこが太刀だよ。どう見ても小太刀じゃねえか」
菜月と真墨の問いかけに、蒼太は答えた。
「ええ、あれはまだチーフと菜月ちゃんが入る前、僕らが回収したプレシャスです。なぜあれが『風牙の太刀』
と言われるのかはわかりません。ハザードレベルも高くなかったし… ただ、言い伝えでは、空を切り裂き、
竜の力で敵を倒すということです。ま、ただの言い伝えですけどね」
「…でもなんでソレをお前が持ってんだよ」
「さては盗んだな?」
真墨と映士にそう言われて、風のシズカはぷーっとふくれた。
「ちょっとー、人聞きの悪いこと言わないでくれる? ちゃーんと、SGSから借りたんだから!」
「借りたあ!?」
「そうじゃ。いくらなんでも、4対1では訓練にならんからのう。こっちに多少のハンディがなくては、お主ら
も、折角こんな山奥まで来た意味がないじゃろうて」
「…つまり、シズカちゃんは、そのまんまじゃ僕たちに敵わないって、事だよね」
「うるさい、青いの!!」
飛んできた手裏剣を軽くかわし、蒼太が叫んだ。
「レディ!! ボウケンジャー、スタート・アップ!!」
(蒼太、それ俺の台詞… )
明石暁と西堀さくらが宇宙へと旅立った後、誰もが予想もしない事態が起きた。突然、ダークシャドウが、
SGSに全面降伏を申し入れてきたのだ。
当初は何か裏があるのではないかと、ボウケンジャー・チームも情報収集に奔走したりしたのだが、結局その
3ヶ月後には、彼らの申し入れを受け入れる運びとなった。ミスター・ボイスや牧野博士の漏らすところから推
測すると、この異例の早期解決の舞台裏では、ダークシャドウとSGSの間でトップ会談が行われたらしい。
「ま、どういう取り決めをしたかなんて細かいところは、キミ達に関係ないことなんだけどね」
いつもの、ちょっとムッとくる“上から目線”で、ミスターボイスはそう言った。
「彼らはキミ達の訓練を引き受けてくれるって。手強いネガティブが一通りいなくなったのはいいけど、キミ達
も平和になって、ちょっとダレ気味なとこあるんじゃない?こっちとしても有り難いことだよ」
そんなわけで、昔から影一族の修行場である、とある山奥までやってきたのである。さすがに日々、チームの
誰もが辛さを感じるハードな修行が待っていた。最終日の今日は、実戦訓練。影一族の持つプレシャスをチーム
が回収するという設定である。
「あっ! …きゃっ!」
「うっ、ぐわっ!!… 何だ、この速さは!」
『風牙の太刀』を手にしたシズカは、いつにも増して動きが速い。慣れぬ速さにとまどうチームに、シズカの剣
が襲いかかる。
「速い…! これがプレシャスの力?」
「ちっ、自信満々で登場したのも、伊達じゃねえってことか。だが、この程度じゃ、大したことはねえ… ハッ!」
“迅き冒険者”ボウケンブラックが、風のシズカを追う。しかし、まさに追いつこうとしたその時。
「うわあっ!!」
「真墨!!」
ブラックが、シズカの剣をくらって地面に転げ倒れた。
「おい、真墨、大丈夫か!?」
「…ああ、これくらい、何でもねえ… しかし、何だ、今のは? 俺はまだ、間合いに入ってなかったはずだ… 」
「へっへーん。だから言ったでしょ、今日のあたしはいつものあたしと違うんだって。ソレッ!」
気合一閃、シズカが風牙で空を切り払う。
「ぐああっ!」
「蒼太さん!!」
今度はブルーが切られた。
「こ、これは…かまいたち、ってこと?」
「あったりー! 当てた方には、はい、ご褒美! ハッ!」
「うわっ!」
また、ブルーが切られた。
「シ、シズカちゃん… ひょっとして… 僕を狙ってない…?」
「あらそーお? 気のせい、気のせい」
「もしかして、まだデートしてあげてないの、気にしてるとか… ギャッ!!」
「つまんないこと言ってると、なますにするよ。さあさあ、遊びはここまで!」
風のシズカが、空を舞う。
「来るぞ! 総員、アタック!!」
今度は真墨が、ちゃんと言えた。
この実戦訓練は、結果から言えば、ボウケンジャー・チームの勝利で終わった。なぜか風のシズカの攻撃を集
めるブルーが的になり、イエローとシルバーでシズカを取り押さえ、最終目的地である御堂に隠されたプレシャ
スをブラックが回収。ひとえに、チームワークの勝利である。
「うう…イタたたた… 」
訓練後、装備を解き、蒼太が傷を晒す。
「わ… 蒼太さん、いたそう… 」
「うわ、酷えな、こりゃ」
強化スーツのおかげで浅いとはいえ、蒼太の体には、かまいたちの切り痕が無数に散らばっていた。他のメン
バーもそれなりに負傷してはいたのだが、カミソリで切られたような蒼太の傷跡は、他の誰よりも痛々しい。
「おー、こりゃまた、なかなか威力のあるかまいたちじゃったのう。ま、かまいたちだけに、出血はそれほど
しとらんようじゃな。どれ、この薬草を擦っとくがいい」
幻のゲッコウはそう言うと、一掴みの薬草を差し出した。
「ありがとう、フクロウさん。蒼太さん、菜月がやってあげるね」
「優しいなあ、菜月ちゃんは… 」
しかしなぜだか不機嫌な真墨が薬草を取り上げ、蒼太の背中にゴシゴシと乱暴に擦り付けた。
「いだだだだーーっ!! お願い、真墨、もっと、優しく… 」
「うるさい、お前にはこれくらいで丁度いい!」
「…ったく、しょうがねえなあ」
その様子を呆れて評した映士は、ふと、風のシズカの持つ『風牙の太刀』に目を留めた。
「なあ、その刀、ちょっと俺様にも貸してみろよ」
「えええ?? なんでよー」
「どうせお前だって借りモンだろうが。いいから、貸せって」
しぶしぶ差し出すシズカから『風牙の太刀』を受け取ると、早速映士は藪に向かって一閃する。
「…あれ?おかしいな、何も起きねえ」
「ねえねえ、今度は、なつきー」
張り切って刀で空を切るが、しかし何も起きない。真墨も、蒼太も試してみたが、やはり何も起きなかった。
「おっかしいなあ… 」
「プレシャスにも相性って、あるんでしょうね。ズバーンみたいに、持ち主を選ぶとか。確か、僕らが回収した
ときも、試してみたけど何も起こりませんでした」
「でもよー、選んだ持ち主が、アレってのも、なんだかなあ」
「…なんか言った?」
シズカが振り返り、こちらを睨み付けた。
「ま、せっかくプレシャスに選んでもらったところで、やっぱり風のシズカは風のシズカだ。今日だって、
結局俺達が勝ったんだし。その刀も、竜の力で敵を討つって言われてるそうだが、俺の感じじゃ、そりゃ
ハッタリだな」
「逆に言やあ、風のシズカ程度を選ぶくらいだから、大したプレシャスじゃねえってこった、ハッハッハッ」
「…ううー、ぐーやーぢーいー」
真墨と映士に馬鹿にされ、歯ぎしりをして悔しがるシズカ。幻のゲッコウが笑った。
「フォッフォッフォッ… しかしお主ら、あまり長居をしている暇はないのではないか?『風牙の太刀』は、
こちらから直接返却しておくでな、さ、シズカ、儂らはそろそろゆくぞ」
バサバサという大きな羽音と共に、幻のゲッコウと風のシズカが、空へと飛び去っていった。
それから数日後。日は傾き、空には夕焼けが広がっている。
影一族の隠れ家では、薄暗闇の中、風のシズカが『風牙の太刀』を前にして、座り込んでいた。
「何じゃ、シズカ。お主、まだそれを返しておらんかったのか」
「ゲッコウ様… 」
シズカは不服そうだった。
「やっぱり、これ、あいつらに返しちゃうんですかあ?」
「そういう約束じゃからな。今、儂らの取引先といえば、SGSしかおらんじゃろう。商売は、信用第一じゃぞ」
「でも〜…」
ふくれっ面でそう答えるシズカに、ゲッコウは笑った。
「惜しい気持ちは、わかる。刀に選ばれるというのは、滅多にあることではないからの。儂はソレに選ばれん
かったが… 」
「…! ゲッコウ様、この刀を持っていたことあるんですか!? …それは人間だったとき?」
目を瞠って驚くシズカ。この刀を借りてきた時から、これにゲッコウが触ったことはなかった。そもそも、この
刀を所持するのは、梟の姿では、無理だ。
「フォフォ、いらんこと言うてしもうたわい。まあ、そういうことじゃ。年を取ると、つい昔話が出てきて
しまうのう…」
「ゲッコウ様…」
「儂はこれから、出かける。明日まで帰らぬでな… くれぐれも念を押しておくが、『風牙の太刀』は返しておけ」
「はっ」
シズカは畏まって頭を下げた。
いざ飛び立とうというとき、ゲッコウは一瞬気を変え、シズカの方を再び見やった。
「シズカ…」
「何でございましょう、ゲッコウ様」
「…強うなったのう…」
「…!?」
呆気にとられたシズカを残し、幻のゲッコウは飛び去った。
(ゲッコウ様が、私を、誉めた… )
風のシズカは、まだ驚き醒めやらぬ。
そもそも、SGSに投降するとゲッコウが言い出したときから、シズカは
(最近のゲッコウ様は、おかしい…)
と感じとっていた。
以前に比べ、よく笑うようになった。しばしば機嫌が良く、ものの言い方も、優しい。そんなゲッコウを、
生まれてから今までに見たことがなかったシズカは、却って不安を大きくしていた。
ボウケンジャー・チームの訓練のために『風牙の太刀』を借り、初めてそれを手にしたとき、シズカは目を
瞠った。ずっと前から自分の物だったように手に馴染み、触れているだけで五感が冴える。誰が何と言おうと、
これは自分のものだと、シズカは強く思った。
しかし、冴えた五感がさらに第六感を呼び、その第六感が、今やシズカに強く異変を告げている。
(ゲッコウ様は、何かをお考えになっている… 何か、いやなことを…)
不安げに、夕暮れの空を見上げる。日は沈んだばかり、赤黒い空をゲッコウの飛び立った方向へ見上げたシズ
カは、一つのことに思い至った。
(これは… 仙人ヶ原の方角…!)
刀を返せ、というのがゲッコウ様の言い付けだった。しかし、それは明日だって構わないだろう。
(…様子を見に行くだけでも…)
風のシズカは、『風牙の太刀』を持つと、闇の中に消えた。
同日の夕暮れ。SGSの、一般にはその存在さえ知られていない「執務室」で、一人の少女が、椅子に深く腰
掛け、うとうとと微睡んでいる。日暮れと共に、室内も闇に呑まれていく。
『レオナ=ジョルダーナ殿… 』
突然、“本名”を呼ばれ、少女はハッとした。
「誰ですか?」
闇の中を鋭く見やると、青い影が見える。
『幻のゲッコウにございます… 』
「ゲッコウ殿?」
闇に浮かぶ青い影は、確かに幻のゲッコウ… しかし、いくら目を懲らしても、闇の中とはいえ、その姿が
はっきりとしない。
『…術で、幻影のみで失礼しておりますじゃ』
「何か、緊急のご用ですか?」
嫌な予感に眉を顰める。
『はい… 実は折り入ってお願いがございましてな。今宵、きっかり真夜中、仙人ヶ原にボウケンジャー
を寄越していただきたい』
「え?」
『その時刻に、仙人ヶ原の封印を、儂が破壊しますでな』
レオナは目を瞠った。
「…!! そんなことをしたら… ゲッコウ殿は…」
『一度解かれた封印は、以前のように、堅牢ではありませぬ。そのうち、自然に崩壊してしまう… 知らない
うちに壊れるよりは、万全の体制の中で壊れた方が、よい。』
「…」
『あの時退治した“奴”は、そもそも奴の本当の力の、四半分もありませぬ。残りは未だ我が躰の内… あの
封印が解かれると同時に出てきましょう』
「ゲッコウ殿… 我々に降伏してきたのは、もしや、その為…!?」
『“奴”を我が躰中に封じたときから、この日が来るのは覚悟の上。儂はあやつを倒せなんだ、ならばこの身を
犠牲にして封じ、奴を倒せる者が出るまで何百年でも待つ…
それで、恥ずかしながら今日まで、老醜を晒しておりました。本来ならもっと早く決断すべきところ、しかし
ご存じの通り、何やらゴタゴタとしましたでな』
「ゲッコウ殿…」
『レオナ殿のところのあの連中も、少し人数が欠けておりますようじゃが… しかしそろそろ、封印の方が限界
に近づいておる、あまり猶予はありませぬ。ただ… 』
「ただ…?」
レオナが問い返す。
『覚悟の上、と申しましたが、ただ一つのことだけが心残りにござる。我が血を引く最後の一人、風のシズカ…
レオナ殿、どうか、あの子のことを、良きにお計らいくださいますよう… 』
「それは、そんなことはご心配いりません、でもゲッコウ殿は… 」
急き込むレオナ、しかしその言葉を、ゲッコウは遮った。
『レオナ殿… 最後の最後に、あなた様のような御方と知り合えた事、よき冥土の土産となり申した…
さらば!!』
「ゲッコウ殿!!!」
レオナは、自分の叫びで目を覚ました。
(今のは… 夢…?)
しかし、素早く辺りを見回した目に、一枚の青い羽根が飛び込む。レオナは指令マイクに飛びついた。
「ボウケンジャー、総員、緊急出動! 仙人ヶ原へ急行せよ! 繰り返す… 」
「おい、菜月、見つかったか?」
「ううん、全然。おかしいなー、前来たときは、確かにこの辺だったのに…」
総員出動命令を受け、ボウケンジャー・チームは、仙人ヶ原でミッションを開始していた。
「しっかし、あのトンガリ野郎、封印を戻したなんて、聞いてねえっての」
「…トリさん、まだ無事かなあ…」
「無事じゃなきゃ困るだろ、今頃この辺りは、戦場だって」
仙人ヶ原に急行する道すがら、彼らは説明を受けてきた。
幻のゲッコウが仙人ヶ原の封印を壊し、魔鳥を解き放つ… そう聞いたとき、メンバーの誰もが「あれはプレ
シャスとして回収したはずだ」と主張した。
『それが… あれは、仙人ヶ原に戻したのです』
牧野博士が、申し訳なさそうに告げる。
「ええっ、何故!?」
『それが、影一族との取引の一部だったんだよ… 封印は、あの地にあるからこそ、効くんだって言われてね』
ミスター・ボイスの声には、心なしか後悔の色が混じっていた。
『とにかく、レッド君とピンクちゃんがボイジャーで宇宙に行っちゃってる今、あの魔鳥を食い止めるのは難し
いよ。そこでキミ達には、幻のゲッコウを探し出して、何とか思いとどまってくれるよう説得してもらいたい。
封印は、より強力な、別のやつをこちらで何とかするからってね。でも万が一の時には…キミ達に、任せたよ』
しかし、肝心のその封印が、仙人ヶ原のどこを探しても見つからなかった。
「菜月じゃだめだ、おい、映士! お前、わかるか?」
「いや… こりゃ、結界か何かが張られてるな。影忍法ってやつだ」
「破れるか?」
「専門外。ま、どっかに、突破口はあると思うんだが…」
映士は頭を掻いた。
「しょうがねえ… 全員、散れ! 相手は幻のゲッコウ一人だ、発見したら、招集かけろよ」
「了解!」
今宵は、満月。月明かりの中、仙人ヶ原に、4つの影が散らばった。
風のシズカは、ひたすら走っていた。仙人ヶ原の封印まで、あと少し。しかし…
(おかしい… さっきから、同じところを回っているような…)
一面の芒野原ではあるが、仮にも忍である自分が、道を間違えるはずはない。
立ち止まり、刀を抜く。月光に風牙の刀身が煌めく。その光に一瞬、反射する空間が見えた。
(やっぱり… これは影忍法の、迷わしの術… ゲッコウ様は、ここに来てる!)
「はぁっ!」
一閃、空を横に切り裂くと、その向こうには、似てはいるが別の景色が広がった。シズカは、迷うことなく突き
進む。芒を踏み分ける音だけが、辺りに響く。
しかし、じきにシズカは、その音が一つでないことに気が付いた。
「誰だ!」
もう一つの音に向かって手裏剣を投げる。出てきたのは…
「ボウケンブルー… あんた、何でこんなとこにいるのよ?」
「ご挨拶だね、せっかく、影一族の危機に駆けつけて来てるってのに」
「危機って… ちょっと、何言ってるの、あんた何か知ってるの!? 教えなさいよ!!!」
シズカは、自分でも驚くほどの大声で、ブルーを問いただしていた。
「…シズカちゃんは知らないんだね。今夜、幻のゲッコウが、例の封印を壊すって」
「うそ… なんでそれを、あたしが知らなくてあんたが知ってるの… 」
「SGSに、魔鳥を退治して欲しいって、彼が依頼に来たらしいんだ。僕らは、彼を思いとどまらせようとして、
探しているんだよ。 …シズカちゃん、協力してくれる?」
シズカは、黙って、下を向いたままだ。
「影忍法で惑わされて、僕たち封印を探せないんだ。タイムリミットは、真夜中。もう、時間がないんだよ」
「…急がなくちゃ」
唐突に、誰に言うともない調子でそう呟くと、風のシズカが走り出した。ボウケンブルーが、その後を追った。
「シズカちゃんは、どうして、ここにいるの?」
走りながら、ブルーが聞いた。
「…嫌な予感がしたからだよ。ゲッコウ様は、最近、変だった…」
意外に、答えが素直に返ってきた。
「優しかったし… 笑ったし… あたし、何かおかしいって、わかってたのに… そんなゲッコウ様が、ちょっ
と、嬉しくて… 何、甘いこと考えてたんだろ、こんなに大変なことが起ころうってのに。ゲッコウ様が、
そんなことを決心されていたっていうのに… 」
泣いてるのかな、とブルーは思った。
「シズカちゃ… 」
「黙って! …ハッ!」
突然シズカが立ち止まり、空を切り払う。また、空間が開かれた。
その向こうにあったのは、仙人ヶ原の封印。幻のゲッコウが、中央の石塔にとまっている。
「ゲッコウ様! …やっぱり、ここに…」
「なんじゃ、シズカ。刀を返しに行けと言うたではないか」
言葉ほど責める様子もなく、ゲッコウは静かに言った。
「幻のゲッコウ… お願いです、封印を壊すのはやめてください!」
「ボウケンブルーか。お主がここにいるということは、ボウケンジャーが間に合ったという事じゃな」
「話を聞いてください!!」
「聞かぬ… 」
相変わらず穏やかな調子で、しかしその分凄みを増し、幻のゲッコウは答えた。
(こうなれば仕方がない、力ずくで… )
ブルーが飛び出そうとしたその時。
「喝!!!」
「うっ… !!」
「ああっ!!」
(か、金縛りの術…!!)
二人の体が、動かなくなった。口もきけない。
「じき、真夜中じゃな… そうそう、最後に、これだけは言っておかねば… よいか、魔鳥の急所は、
その心ノ臓じゃ。もっとも、それを攻撃するのが、どうにも難しいがの」
幻のゲッコウは淡々と語る。
「シズカよ… お前は、無理じゃ、下がっていろ。こやつらに任せるがいい。それから、その『風牙の太刀』
じゃがな、それは儂が魔鳥と戦ったときに使った刀じゃ。言い伝えの通りなら、奴を倒せると思ったのじゃが、
まあ、儂の時には、竜どころかかまいたちすら出なんだよ…
お前なら、修行を続ければ、いつかは竜の力を知ることができるかもしれん。よくよく、精進せい」
体は動かなかったが、ブルーの位置からはシズカの顔がよく見えた。風のシズカは、やはり動けず、声も出せ
ず、幻のゲッコウを真っ直ぐ見つめながら、ただただ涙を流していた。あらゆる感情を、思いを、溢れる涙でし
か示せないのだ。
目を背けたい光景。しかし、それすら叶わず、彼女の涙を見ているしかない。ボウケンブルー…いや、最上
蒼太は、この場で何も出来ない自分が、ただひたすら、悔しかった。
突然。
目も眩む光と共に、二人を爆音と爆風が襲った。同時に体の動きをとりもどしたブルーは、吹き飛ばされ
ながらも、風のシズカを抱きとめ、庇った。
「うっ…!」
かなりの距離を吹き飛ばされた。咄嗟に顔を上げると、封印の石塔は、そして幻のゲッコウも、跡形も、ない。
月明かりがふと遮られ、つられて上空を仰ぎ見る。
(なんてこった… )
巨大な怪鳥が、満月の光を浴びて、仙人ヶ原の上空をゆっくりと旋回していた。
「蒼太!蒼太!! 応答しろ、蒼太!!」
アクセルラーから、ブラックの声がやかましく響いた。
「はい、蒼太です」
「良かった… 無事か。何してたんだよ、今までつながんなかったぞ」
「…影忍法の、結界の中にいました。風のシズカと一緒に、幻のゲッコウを発見しましたが… 説得できません
でした、ミッション失敗です」
「そうか… 急げ、ダイボウケン、行くぞ!」
「はい!」
ブルーは、腕の中のシズカを見やった。いつもならこんなことをしていれば、平手打ちのひとつも飛んでくる
だろう… しかし、彼女は、ブルーに抱かれたまま、焦点の合わぬ目で空を見つめている。その目から、涙の筋
が頬を伝っている。
「シズカちゃん、僕、行かなきゃ…」
「…」
「幻のゲッコウも言ってただろ、怪我しないように、遠くへ逃げてね」
シズカは、力なく頷いた。
「蒼太、早くしろー!」
「はい、今行きます!」
風のシズカのことは気がかりだったが、さっき彼女は頷いた。きっと自分の身は自分で守ってくれるはず。
ボウケンブルーは、仙人ヶ原を、全力で駆け出した。
チーフ達と合流し、魔鳥の急所が心臓部だと告げる。そしてダイボウケンに乗り込もうとした時、ブルーは、
イエローにこっそり呼び止められた。
「蒼太さん、お願い、真墨を一人にしないようにして。…絶対、前のチーフとおんなじこと、考えてるから」
「…ああ、分かったよ」
イエローにはそう返事をしたのだが、内心、ブルーもこう考えずにはいられなかった。
(僕がチーフだったら、やっぱり同じ事を思いつくだろう。いや、チーフでなくても… )
状況は、それほどまでに不利だった。以前に戦ったときには、ボイジャーでさえ敵わなかったのだ。怪物の力
を弱める封印は今や跡形もなく、ダイボウケンの乗組員は… 定員割れ。
「それでも、やるしかねえだろが!いくぞ、フルパワー!!」
「了解!」
戦いが、始まった。
仙人ヶ原の封印跡で、風のシズカは、ただ、座り込んでいた。その頬を閃光が照らし、その耳に、絶え間ない
爆音が、痛いほど響く。
しかし、彼女は、まるで聞こえていないかのようだ。
長い間、そうしていた。
(あたしにはもう、何もない… ゲッコウ様もいない… そして… )
幻のゲッコウは言った、お前には無理だと。ボウケンブルーは言った、危ないから逃げろと。
(それで、あたしは、ただ逃げるしかできないってわけ…!)
シズカは、この仙人ヶ原で、裏切者に死の制裁を誓ったことを思い出していた。そう、あの時だって、結局奴
を倒したのは、ボウケンジャーだった。そして今、幻のゲッコウが、その存在をかけて葬り去ろうとした魔鳥と
戦っているのは… またしてもボウケンジャー。
頭を起こし、魔鳥と巨大メカの戦いを見上げる。もう何もないのなら、せめて、影一族としての誇りだけは守
りたい、いや… 守らねばならぬ。
(それが… ゲッコウ様の血を引く者として、あたしに出来る、最後の… )
風のシズカの目に、再び、光が宿ってきた。
(せめて、一太刀…!)
その一心で、風牙を抜く。
「…!!」
シズカは、目を瞠った。小太刀の鞘から滑り出てきた、月明かりに煌めくそれは… 紛れもなく、太刀。
『風牙の太刀』が、その真の姿を、風のシズカの前に現していた。
(…これは、結構… ちょっとした、冒険、かな)
ダイボウケンフルパワーで戦闘中、コクピットの中で、ブルーはそう考えていた。定員割れの中、足りないパ
ワーはそれぞれが補わなくてはならない。その為の訓練もしてはいたのだが、こんな強敵が相手では、していな
いのと同じ事だ。
エアコンが効いているはずの強化スーツの内側に、滝のような汗が流れる。心臓はさっきから爆発しそうだ。
息があがる。ただ、気力だけで持たせている。そしてそれは、他の2人も同じはずだ。
敵の攻撃は、単純だった。体当たり、掴みかかり、そして時折、絶叫と共に口から吐き出す怪光線。しかし、
そのどれもが強力強大で、しかも空中での動きは、その巨体にも拘わらず、信じられないほど、速い。またその
躰を覆う羽は、何か魔力が効いているのか、こちらの飛び道具では、殆ど傷をつけることができなかった。
空中戦は、戦闘初期段階で諦めざるを得なかった。頼みのズバーンは… 敵に3度、ヒットしたのだが、4度
目であえなく敗退。サイレンビルダーの方も、こちらと似たり寄ったりの戦況だった。
「映士、ビルダー、まだ動くか」
チーフが確認する。
『ああ、こっちは、まだ行けるぜ』
「ダイボウケンを踏み台にして、飛べるか?」
『…!! んなことしたら、ダイボウケンが… お前らだって、無事じゃ済まねえだろ!!』
「やってみなくちゃ分かんねえだろ、いけるな、蒼太、菜月!!」
「ええ、まだまだ!」
「菜月も、頑張れるよ!」
明るい声が、コクピットに響いた。
それがカラ元気だということは、シルバーにも分かっていたが… どの道、選択肢は多くない。
『…わかった、次のタイミングで、行くぞ。踏ん張れよ』
再び、魔鳥が近づいてくる。
『行けええええええ!!!』
(来る… !!)
ブルーは身構えた。ビルダーの重量が、一瞬ダイボウケンにめり込む。
「…っっ!!」
「…っん!!」
その衝撃に、もはや皆、声さえ出なかった。
ダイボウケンを踏み台にして、空中に躍り出るサイレンビルダー。繰り出した拳が、魔鳥に、強力なカウンタ
ーとなって命中した。
ギャアアアアアアア!!
戦闘開始から初めて、怪鳥の苦痛の叫びが、大地を震わせた。
「…やったか!?」
しかし、魔鳥は、そのまま上昇しながら旋回、再びダイボウケンに向かって急降下。
(そう簡単には、行かないね… )
ブルーは、思わず苦笑い。さっきのビルダーの衝撃は、まだ体に残っている。それは魔鳥も同じだろう…
と、思いたい。
「また来るぞ、踏ん張れえええ!!」
モニター一杯に、魔鳥の姿が飛び込んでくる。
しかし、覚悟したその瞬間、画面を青白い光が一閃した。
グギャアアアアアアアアアアアア!!!!
魔鳥の大絶叫が、マスクに保護された鼓膜さえ破りかねない勢いで、ボウケンジャーを襲った。
(一体、何が…? )
モニターを確認して、ブルーは目を疑った。
片足を切り落とされた魔鳥が、その苦痛に怒り狂いながら、激しく羽ばたいていたのだ。
「何が起こったんだ!」
「足片っぽ、なくなっちゃってる!!」
ブラックとイエローも、思わず驚きの声を上げる。
怒り狂った魔鳥が、またダイボウケン目掛けて突進してきた。しかし、また青の光が一筋…
今度は、皆、はっきりとその目で見た。
「シズカちゃん!!」
「風のシズカ!!」
ダイボウケンを、サイレンビルダーを足がかりとして、風のシズカが空を飛び、魔鳥を襲う。その手に握られ
ているのは… 青白い光を煌めかせる、太刀。
「あれ… 『風牙の太刀』じゃないの…?」
「小太刀だったはずだが… これが、伝説の力、か?」
それは既に、皆が知っている風のシズカでは、なかった。先日の訓練時より遙かに増した速さと、その超人的
な跳躍で、彼女はまるで羽が生えたかのように、自由に空を舞っていた。
彼女の攻撃の意図は、ただ一つ。
「シズカちゃんが狙ってるのは… 心臓だね。一人で、とどめを刺すつもりだ」
ブルーが呟いた。だが、不安に眉を顰めずにはいられない。幻のゲッコウが言ってたじゃないか、それがどうに
も難しい、って。
しかし、風のシズカは、ひたすら心臓を狙い、魔鳥の懐に飛び込んでいく。魔鳥の口が開いた。
「危ないっっ!!」
追いつめられた魔鳥が放った怪光線が、風のシズカを、ダイボウケンを、サイレンビルダーを飲み込んだ。
「…大丈夫か、みんな、状況を報告しろ!」
コクピットに、チーフの声が響いた。
「菜月、生きてまーす」
「蒼太、同じく…」
「映士、映士は!?」
『おう、俺様が、死ぬかよ。ただ、ビルダーは、ちょっと動かねえな』
ダイボウケンは、かろうじて動きそうだった。チーフが言った。
「…蒼太、菜月。お前らは、風のシズカを救出に行け。あんな奴でも、気が付いたら死んでましたってわけには、
いかねえだろうからな」
「だめ!!!」
イエローが叫んだ。
「真墨、一人でダイボウケンに残って、何するつもりなの!? 明石さんと同じ事、考えてるでしょ!」
「何のことだか、さっぱりわかんねえな」
「とぼけないで!! 絶対、だめったら、ダメ!! 蒼太さん、シズカちゃんのこと、お願いね! 菜月は真墨
のこと、見張ってなくちゃ!」
「了解。…菜月ちゃんも、頑張ってね」
ブルーは、外へ出た。仙人ヶ原は、先程とはうってかわって、不気味なほど静まりかえっている。
(奴はどうしたんだ… )
訝しんで空を見上げると、魔鳥は上空を旋回していた。
(流石に、用心はしてきているみたいだ。この隙に、早く… )
風のシズカを見つけるのは、簡単だった。アクセルラーでハザードレベルの高い場所を検索すると、果たして
そこには、風のシズカが横たわっていた。まだ、息はある。
「シズカちゃん、シズカちゃん」
「…なんだ、あんたか」
声を掛けると、意識を取り戻した。
「相変わらずだね、助けに来たのに」
「助けに来たって… 冗談でしょ、あたしがいつ、助けてくれって言ったのよ」
言いながら、シズカはよろよろと立ち上がる。
「ほら、足に来てる」
手を貸そうとするブルーを、シズカは激しく振りほどいた。
「余計なことは、しないでくれる!? …ボウケンジャー、あんた達こそ、引っ込んでな。あいつは、ゲッコウ
様の… 影一族の、敵だ。だから、あたしが、討つ!」
「無理だ!」
ブルーは、シズカの肩をつかんだ。
「君が死んだら… 僕は、幻のゲッコウに、どう言い訳すればいいんだい? 彼は、最後まで、君のことを心配
していたじゃないか」
「…ゲッコウ様…」
シズカは思わず視線を落とした。暫く、そのまま動かなかった。
しかし、風のシズカは、ゆっくりと顔を上げると、ブルーの顔を真っ直ぐに見つめた。月明かりの中で、その
目に宿る覚悟に射抜かれたような気がして、蒼太は、我知らず、たじろぐ。
「ボウケンブルー、あいつは、あたしに、やらせてよ」
「シズカちゃん… 」
「あたしは、そうするって、決めたんだから」
彼女は背を向け、歩み出した。
「シズカちゃん、君… 」
死ぬつもりじゃ… と言いかけて、ブルーは言葉を失った。一瞬肩越しに、風のシズカが振り返ったのだ。
(今… 微笑ってた… )
背を向けたまま、ふと風のシズカが立ち止まった。
「ボウケンブルー、いつものやつ、言ってよ」
「え?」
「ほら、いつものやつだよ」
「あ…」
ブルーは、ようやく気が付いた。
「シズカちゃん、今度、デートしようね。…絶対、だよ」
ありったけの、敬意と誠意を込めたつもりだ。
風のシズカは、後ろを向いたまま、返事の代わりに、肩越しに手をヒラヒラさせ、再び歩み出す。
最上蒼太は、遠ざかるその小さな背中を、見つめ続けていた。
「蒼太、風のシズカは、生きてたか?」
アクセルラーに、ブラックの通信が届いた。
「はい、あの… 」
「じゃ、すぐ帰ってこい。ダイボウケンで、最後の総攻撃、行くぞ。奴も弱ってきているらしい。ビルダー
も、動かねえ原因は簡単だったよ、牧野先生が遠隔操作で直せるってよ」
「チーフ、お願いがあります!」
ブルーは、思い切って言った。
「…何だ?」
「総攻撃は、待ってください。あの魔鳥は… シズカちゃんに、任せてあげてください」
「何言ってんだ、正気か!? …確かに、あのプレシャスの力はわかるが、それにしても… 」
「彼女は、きっとやります。僕は、そう信じてます!」
「落ち着け、蒼太!」
「お願いです! これは、きっと彼女の… 風のシズカの、“冒険”なんです!!」
「蒼太、お前… 」
「蒼太さん… 」
皆、思わず、絶句。
『…おい、真墨、どーする? 蒼太の奴、明石の生霊に取り憑かれちまってるぜ』
シルバーが、呆れて言った。ブラックは、ため息をついた。
「明石の生霊じゃ、しょうがねえな… 」
「チーフ…」
「ただし、待つのはビルダーの応急処置が終わるまでだ。映士、あと何分だ?」
『7分ちょい、ってとこだな』
「処置が終わり次第、ダイボウケンとビルダーで総攻撃だ、わかったな!」
「了解!」
ボウケンブルーは、仲間の元に戻ろうと走り出した。しかし、突然、轟音と共に、その足を崩すほどの猛烈な
突風が吹き荒れ、思わず手元の樹に縋りついた。
(な、何だ、これは… !!)
原因を探ろうとして、辺りを見回す。
「あ、あれは!!」
天地を、銀の絹糸が結んでいる… その正体は、竜巻。それが、一条、また一条と、月光に照らされ輝きなが
ら、次々に生まれている。そして、その中心に立つ、小さな青い影。
「シズカちゃん… 」
ここまで離れているブルーでさえ、吹き付ける猛風で、立っているのがやっとだった。しかし、風のシズカは、
微動だにしない。ただ、激しくたなびく髪と裳裾が、その威力を示していた。
ブルーは上を見上げた。相変わらず、雲一つ無い、満月の空。そこを旋回していた魔鳥は、この嵐にとまどい、
苛立っているようだ。
竜巻は、ゆっくりと、風のシズカを中心に円を描きながら移動している。生まれた時には糸のような細さで
あったが、少しずつ、互いに撚りあい、絡み合いながら、次第に天地を繋ぐ一つの柱となっていく。
(これは、何てパワーだ! 油断してたら、空の彼方へ放り出されてしまいそうだ…!)
吹き飛ばされないように必死で樹に、岩にしがみついていたブルーだったが、不意に、風が止んだ。
驚いて顔を上げる。
「…!?」
ブルーは、見ている光景を、咄嗟に信じることができなかった。
天地を繋ぐ柱となったその竜巻が、ふわりと空に舞う。月光を浴び、鈍い銀の輝きを放ちながら、天に向かっ
て上昇し、地に向かって下降するその姿は… 竜。
「これが… プレシャスの、本当の力… 竜の、力… 」
その光景を、信じられぬ思いで見ていたのは、もちろんボウケンブルーだけではなかった。
『何てこった、本当に出ちまったよ… 竜、が』
「ただの言い伝えじゃ、なかったのかよ…」
「…シズカちゃん、頑張って!!」
モニターに映るその光景を、何一つ見落とすまいと、3人は必死に見つめている。
風のシズカが、駆け出した。短い助走の後の、弾け飛ぶような跳躍。その足下に、風の竜が滑り込む。
風のシズカと魔鳥の、決戦が、始まった。
一筋の銀の矢のように、竜とシズカは魔鳥に飛び込む。しかし魔鳥も、そのスピードはまだ健在だった。
前後に、左右に、上に、下に。竜は、魔鳥の懐目掛け、あらゆる方向から仕掛けていた。
一瞬、取ったかと思った。しかし魔鳥はその巨大な羽で、竜とシズカを振り払う。
竜は振り払われ、宙に霧散し、風のシズカはその一瞬早く跳躍、魔鳥を飛び越えた。そしてまた、空中のシズ
カの足下に風が集まり、竜の姿が再び現れる。
魔鳥は素早く向きを変え、決して彼女らに隙は見せぬ。ボウケンジャー・チームの攻撃によるダメージも、風
のシズカが片足を切り落としたことも、この怪物の力を削ぎ落とした程度に過ぎなかったかのようだ。
風のシズカが手にする『風牙の太刀』は、遠目にもはっきりと、青白い炎のような輝きを立ち上らせていた。
一閃、振れば、稲妻のようなかまいたちが解き放たれる。その度に、魔鳥の叫び声が、辺りを切り裂く。
魔鳥の羽毛が、吹雪のように、仙人ヶ原中に舞い散っていた。
「ねえ、蒼太さんの言った通りじゃない? シズカちゃんが、本当にやるかも… !」
ダイボウケンのコクピットで、イエローが期待を込めてそう言った。
「ああ… まさか、ここまでやるとはな… 」
ブラックも、同意する。しかし、
『…そう思うのは、まだ早えんじゃねえか』
シルバーが、言った。
「どういう事だ?」
『ああいう刀ってのは、持ち主の『気』を吸い取って力を出すと、相場が決まってる。俺様の知ってる風の
シズカが、あのエネルギーをいつまでも使い続けていられるとは、思えねえ…』
「そんな… それで、シズカちゃんの『気』が、なくなっちゃったら…」
イエローが言えないその先を、シルバーが言葉にした。
『ああ… 竜は消えるだろうし、風のシズカは… 死ぬ、だろうな…』
「…映士、そっちはあと何分だ?」
『3分だ』
「竜が消えたら… 行くぞ、菜月、映士。…蒼太の奴、呼び戻さねえとな…」
そう言いながらも、ブラックはモニターを見つめ続けている。イエローも、シルバーも。
皆、その思いは、同じだった。
遙か上空で、風のシズカは、魔鳥とにらみ合っていた。
奇しくも同刻、竜の背の上で、彼女もボウケンシルバーと同じ事を考えていた。
(あんまり、遊んでる時間は、ないな)
最初に片足を切り落とせたのは、全くの幸運だったと、シズカは思う。ボウケンジャーが与えたダメージで
あいつは怒り狂い、我を失っていた、そこを、ラッキーにも不意討ちできたのだ。こちらも敵とみなしてからは、
あいつもなかなか、隙を見せてはくれなかった。
さっきから、あの怪物に傷はつけている。しかし、それ位ではあいつは倒せない。
自分の「限界」も、今、はっきりと見えてきた。
(あーあ、もっと、ちゃんと、修行しとけば良かった)
あたしが、こんな所で、こんな後悔をするとはね。シズカは、思わず苦笑した。
今更、命なんか惜しくはない。でも、ここまできて、あいつに止めを刺せないのなら…
(死んでも、死にきれぬ… )
しかし、その気持ちに、不思議と悲壮感はなかった。自分は、刀に選ばれた。そして、忍びとしては雲の上の
存在である、ゲッコウ様でさえ倒せなかったあの怪鳥と、このあたしが、ここまで戦えた。
(なんだろう、この、気持ち… )
死さえちらつくこの期に及んで高揚するこの気持ちを、一体何と表したら良いのだろう。
ふと、一つの単語が脳裏に浮かぶ。
(ボウケン… これがあいつらのいう、冒険って、やつか… 悪く、ないじゃん)
風のシズカは、魔鳥の懐を見やる。真っ直ぐに向かっていけば、待っているのは、あの怪光線。先程嫌と言う
ほど浴びたので、その威力は承知していた。
しかし、それでも助かったのは、風牙のおかげだ。
(あの時、コレは、あの光線を切り裂いた… )
だから、今度も切り裂くつもりだ。こうなったら、あいつの心臓まで、最短距離!!!
風のシズカは、竜の上で息を整える。2、3度、肩を回し、深呼吸した。
刀を構える。
(行け!!!)
一陣の風となり、竜とシズカは、怪物に挑んだ。
怪物の口が、開いた。
「うおおおおおおおおお!!!」
構えた刀が、光線を切り裂く。跳ね飛んだ光が、風のシズカの、服を、髪を、肌を焦がす。胸の悪くなる臭い
が、鼻をつく。刀を持つ腕が、肩が、ガタガタと震えてきた。
(堪えろ… 堪えろ!!)
限界は超えていた。しかし、彼女は前へ前へとのめり込む、突き進む。
時間にすれば、ほんの数秒の出来事だった。
ふっ、と、周囲が静まった。シズカの目前に、巨大な魔鳥の懐が立ちふさがる。
咄嗟に、切っ先鋭く『風牙の太刀』を構え直す。
「御免!」
風のシズカと、竜と、風牙が、魔鳥の懐に、突き刺さった。
怪物の断末魔が、仙人ヶ原を揺るがした。
ダイボウケンのコクピットで、モニター越しに見守る中、風のシズカが、竜と共に真っ直ぐ魔鳥に突き進んだ。
「おい、あいつ、正面突破するつもりだ!」
「ダメ!光線にやられちゃうよ!」
ブラックとイエローは同時に叫んだ。
銀色の風が、魔鳥の怪光線に呑まれる。二人は、声も出ない。
次の瞬間。怪物の大絶叫がダイボウケンを揺らした。
「な、何なんだ!?」
「真墨、あれ見て!!!」
イエローが悲鳴を上げる。
魔鳥の背を突き破り、竜が、飛び出してきた。
心臓を貫かれた魔鳥は、2、3度、力なく羽ばたくと、下降する。地上に堕ちるか堕ちぬうちに、その躰が
大爆発を起こし、仙人ヶ原に、飛び散った。
魔鳥の、最後だった。
『やった… やったぞ… 信じらんねえけど… 』
「…!! 風のシズカは!?」
「いるいる、竜の上に、乗ってる!!やったー、すごいよ、シズカちゃん!!!」
しかし、シルバーが叫んだ。
『消えるぞ、竜が!!』
風のシズカの足下で、銀の竜が、その姿を薄くしていく。
「やべ、あの高さから落ちたら、今のあいつじゃ…!!」
「いやあああああ!!」
しかし、一早く、行動を起こした者がいた。
「ブロウナックル!!!!」
爆音と共に、ボウケンブルーが、フルパワーで飛び出した。
飛び出しながら、ブルーは、最上蒼太は、ひたすら、一つのことを念じていた。
間に合ってくれ… 頼む… 間に合ってくれ… !!
菜月は、サロンで、椅子に腰掛けてほおづえをついていた。目の前のテーブルには、大きな花束。
エレベーターの開閉音で振り向くと、映士がサロンに入ってきた。
「よお」
「あ、映ちゃん、早かったね」
「そうか? 真墨は?」
「チーフは、まだ打ち合わせ中。もうすぐ終わるよ、待ってて、一緒にいこう」
「ああ。…蒼太のほうは、相変わらず、か?」
「うん… 」
菜月の顔が曇る。
仙人ヶ原での決戦から、数日が経過していた。竜が消えた後、遙か上空から落ちてきた風のシズカを、ボウケ
ンブルーが間一髪、受け止めることができた。完全に気を失っていたがまだ息がある彼女を、シルバーが病院に
緊急搬送したのだが…
「あれっきり、まだ、目を覚ましてないんだって。お医者さんは、極端に体力を消耗しているけど、特に致命的
な怪我はないって、言ってくれたんだけど… 」
その彼女の目が覚めるまで付き添わせてくれと言ったのは、蒼太だった。
『幻のゲッコウは、彼女の目の前で… シズカちゃんは、もう、独りぼっちなんだよ、少なくとも、彼女はそう
思ってるはずだ。せめて、目を覚ましたときに、誰もいなかったって思いは、させたくないんだ…!』
この主張は、他の3人の心を、それぞれ強く動かした。皆、孤独の辛さや痛みは、嫌と言うほど知っていたの
だ。
それから数日、蒼太は病院に張り付いたままだった。
「しっかし… すごかったな… 」
映士は、遠い目をした。あの戦いを回想しているのだ。
「うん… 」
「明石の奴が聞いたら、地団駄踏んで、悔しがるぜ… 」
「きっと、ね… 」
風のシズカは、暗闇の中で、うずくまっていた。
(あー、終わった、終わった… 何もかも… )
魔鳥を、自分のこの手で倒した。影一族の誇りだって、守ることができた。そして、このままずっとこうして
いれば、きっと本当に終われるだろう… もう、目を覚ますつもりは、なかった。
どれくらい、そうしていただろう。
(シズカよ… 起きぬか、これ)
「ゲッコウ様!」
二度と聞くことはないと思っていたその声を耳にし、シズカは思わず顔を上げた。
闇の中に、青い影が、ぼんやりと見える。
(シズカよ… ようやったな… まさか、お主があやつを倒すとは… 見事じゃった)
「ゲッコウ様… 」
(お前は、一族の… 儂の、誇りじゃ)
シズカは、胸が熱くなった。あれだけ頑張ったことが、その一言で報われた、と思える。
(じゃが… なぜ、起きぬ)
責める口調でそう言われ、シズカは青い影に訴えた。
「ゲッコウ様、あたしは、もう目を覚ましたくありません。目を覚ましたら… あたしは、ひとり…」
(何がひとりなものか、その手の温もりに気付かぬか)
…言われてみれば、右手が、温かい。
(その温もりを、大事にせい。これからは、お前はお前の道を歩むのじゃ、よき女となれ。儂のことは、忘れろ
…)
「そんなこと、できません!」
(するのじゃ。儂の下へは、ずっと、後で参るのじゃぞ… さらば、シズカよ… 儂の、娘よ… 孫よ… )
「ゲッコウ様ぁ!!」
シズカは遠ざかる影の後を追おうとしたが、右手を誰かに掴まれていた。振りほどこうとするが、
(その手を離すでない!!!)
幻のゲッコウが、一喝した。
(今の… 夢… ゲッコウ様が、あたしに… )
風のシズカは、ゆっくりと瞼を開けた。見慣れぬ光景に、少しとまどう。
「シズカちゃん… 気が付いたんだね、良かった… 」
声のする方に顔を傾けると、そこには、最上蒼太がいた。
「ここ… どこよ」
「病院だよ。あれから何日も、君、目を覚まさなかったから… 良かった、ホントに、良かった」
蒼太が、目を瞬かせ、顔を擦る。
「やだ、あんた泣いてんの」
「はは、ちょっとね」
その時、シズカは、蒼太が自分の右手を握っているのに気が付いた。
「…手、握ってたの、ずっと?」
「あ、ごめん」
蒼太が慌てて離した。
「…いいよ、ありがと」
「え? …じゃ、また、握ってていいかな?」
優しい笑顔でそう言われて、シズカはとたんに照れくさくなった。
「…好きにすれば?」
顔を背けてそう言うと、また、そっと、右手が温かくなる。意地を張る言葉とは裏腹に、まだ回復していない
気力・体力の中で、それが素直に嬉しかった。
その時、病室の扉が開く音がした。心臓が跳ね上がり、シズカは慌てて、手を引っ込めた。
「あ… シズカちゃん、気が付いたの?」
「ようやく、起きたか!」
真墨が、菜月が、映士が、ドヤドヤと病室に入ってきた。
「ほら、これ!きれいなお花でしょ? 今、花瓶に挿してあげるね」
日の差し込む病室に、色とりどりの花が光を反射して、それがシズカには眩しかった。
「ホント、悪運の強え奴だ。あれだけ戦って、生きて返ってくるんだからな」
悪たれながらも、映士の顔には笑顔が広がっている。
「全くだ… ま、良かったよ、今日これ持ってこれて。ほら、受け取れよ」
そう言って真墨が差し出したのは… 『風牙の太刀』
「うそ… だって、これ、あんたたちのでしょ…」
「上に掛け合ったんだよ。大変だったんだから、感謝しろよ」
「真墨ったら、ミスター・ボイスと大げんかしたんだから」
「余計なこと言うな!」
シズカは、『風牙の太刀』を手に取った。手に馴染む感触。これが、本当に自分のものになった…
「蒼太さんがね、空から落ちてくるシズカちゃんを受け止めてくれたんだよ。病院でも、ずっと、シズカちゃん
に付き添ってて… 」
菜月の言葉に、シズカは思わず蒼太の方を見る。にっこり笑い返されて、慌てて顔を背けた。
「全く、おせっかいなんだから…」
赤くなった顔を見られないように、枕に顔を埋めた。なんだろ、目が熱い…
3人は、あまり長居をせず、間もなく帰って行った。
「…疲れた、あたし、寝るよ」
まだ体力が回復していない上に、緊張したり赤くなったりしたせいか、本当に眠くなってきた。
「え… シズカちゃん、大丈夫?」
心配そうな蒼太に、シズカは笑ってみせた。
「大丈夫、今度は、ちゃんと起きるから」
そう、今度はちゃんと起きれるだろう。
ゲッコウ様の言ったとおりだ。あたしは、もう、ひとりじゃない。
日の差す、暖かな午後の病室の中。蒼太に手を握られながら、風のシズカが、すやすやと寝息を立てている。
<おしまい>
163 :
名無しより愛をこめて:2007/05/12(土) 15:36:49 ID:Mw9qKmqnO
禿しくGJ!!
本当に乙でした。
凄いボリュームでしたが、ワクワクしっぱなしであっという間に読めてしまいました。
次回作も期待してます。
すげえ・・・マジ力作。GJ!
ピンク板は見てないが、だいたいこの場面の後…というのは想像できるかなw
ただ一つ難点を言えば、明石が出てこないのなら、地の文の「ブラック」「チーフ」は
「ブラック」に統一した方がより良かったかなとも思う。会話の中ではいいけど。
どうしても「チーフ」というと明石のことだと思えてしまう。
まあちょっと揚げ足取りに近いけどね。
165 :
128:2007/05/13(日) 11:08:51 ID:F2hh7Ybr0
>>163様、
>>164様
感想有難うございます。特撮板で、これの「活劇」部分がどう評価されるのか
試してみたいという、自分の我侭で転載しました。
>ただ一つ難点を言えば、明石が出てこないのなら、地の文の「ブラック」「チーフ」は
「ブラック」に統一した方がより良かったかなとも思う。会話の中ではいいけど。
あ、そうか!
書いているとき、その辺りが引っかかっていたのですが、自分でうまい解決方法が
思いつきませんでした。地の文では色で統一するというのは確かにすっきりしますね。
>>165 いやいや「アクションシーン」も、もちろんGJでしたよ!
やはり「アクションシーン」は…
・読者がビジュアルを想像する為の的確な描写。
・スピード感を損なわない簡潔さ。
・擬音、動きの描写だけに頼らない豊かな語彙。
…どれが欠けても難しいのですが、素晴らしくバランスのとれた作品だったと思います。
大変、参考になりました!
…と最近、擬音に頼り気味の職人崩れが言ってみますw
167 :
名無しより愛をこめて:2007/05/14(月) 00:24:08 ID:SAaKRJay0
>>129-162 GJ!!
これだけの大長編を破綻なく纏めあげた構成力
簡素過ぎず細か過ぎず、読者の想像力を心地よく刺激する状況描写
的確で且つ知性に溢れるセリフ
そして何より本編への畏敬、愛が伝わってくる
しかし唯一、長編なんで行間を無くしてレス数を節約しようとされたんだろうが・・・
やはり行間、改行による「間」のコントロールは欲しかった所
読み易さの関係もあるけど、やはり豊かな表現力を遺憾なく発揮されるには掲示板特有の字数、改行制限に囚われず
行間、改行を駆使して、さらなる高みを目指して頂きたかったのが本音です
しかし、やはり近年読ませて頂いた二次創作小説の中でもベストと呼べる表現力だと思う
感動を有り難う!!
168 :
128:2007/05/18(金) 08:52:33 ID:A+rO7MVF0
>>166-167様
ご感想有難うございました。表現に関しては簡潔を心がけていたので
評価していただいて嬉しいです。
>しかし唯一、長編なんで行間を無くしてレス数を節約しようとされたんだろうが・・・
やはり行間、改行による「間」のコントロールは欲しかった所
今後の参考にさせていただきたいと思います。
有難うございました。
169 :
名無しより愛をこめて:2007/05/19(土) 22:32:49 ID:XZnADWMi0
保守age
ついでに……
現在、かなり冷酷非道残忍な新ネガティブの登場篇を執筆中です。
全年齢板なんで、なるべく控えめな描写を心掛けていますが、もしかしたら投下先を変更せざるを得ない内容かもw
完成は、まだまだ先ですがご報告まで。
ピンクとこちら、両方楽しみにしている者です。
作品を書き上げるのは時間も労力も必要ですよね。マターリが当たり前
ですし、書き込み少なくても過疎状態ってわけではなくって充電期間だと思います!
ファンは待っておりますので職人様、どうぞよろしくお願いします!
>122
燃えるチーフ(あ、チーフじゃないか)に萌えました。
さくら姐さんのことも気掛かりです。いつか続きをぜひ。
>128
ピンクだけにはもったいない力作だと思ってたので、こちら掲載は
嬉しかったです。次回作も楽しみにしております。
>169
冷酷非道残忍な新ネガティブ……かなり期待大です。
がんばってください!
職人の皆様のおかげで、ボウケンジャー熱が全然冷める気配がありません。
感謝感激しております!!
171 :
名無しより愛をこめて:2007/05/20(日) 16:46:01 ID:shFi5JG90
SPDとSGSの関係・・・
>>169 書き上がったのですが、お先にいいですか?
投下予定なのは前後編の前編になります
まだ後編は書き始めたばかりです
とにかく長いです
>>172 気を使って頂いてd
自分も前後編の予定ですが、まだ前編の2/3って所なんで、お先にどうぞです
楽しみにしてます!
174 :
172:2007/05/26(土) 22:45:50 ID:pmyUA4nZ0
では、お先に失礼します
全7レス予定です
「なんだよこれ…」
山奥の異様な光景に真墨は思わず絶句した。
目の前には大きな鏡が壁のようにそびえ、山の一部の覆っているようだった。
それを目の前にし呆気に取られたように皆は立ち尽くしていた。
その空気を断ち切るように映士は手を伸ばし壁に触れた。
「アシュの術じゃねぇ…もっと古臭い…」
映士は目を閉じ壁に触れた手に体中の全ての神経を集中させながら静かに呟いた
。
「プレシャスの力かな?」
わざとおどけたように蒼太は言い、振り返ると菜月は手にしたズバーンを強く握りしめ、何も言わず俯いていた。
「…菜月ちゃん?」
心配そうに声をかけると菜月は顔を上げ、歩み出した。
その顔は彼女にしては珍しく無表情であり、それに驚いた蒼太のそばを通り映士の横へ向かった。
「私…行かなくちゃ…」
「おい、待て!菜月!!」
真墨の制止も聞かず、菜月は自らの手を伸ばし壁に触れた。
手は壁に吸い込まれるように消え、やがて菜月の体を全て飲み込んだ。
「菜月!!」
後を追うように真墨が触れるが、壁は真墨を拒むように堅固にそびえていた。
壁には不安げな表情の蒼太や拒み続ける壁に拳を打ち付ける真墨と映士の姿が映されていた。
「菜月…どうしちゃったんだろう…」
菜月は込み上げる不安を隠せずに呟いた。
何かに誘われるように壁に触れたら一人だけ壁、言わば結界の向こうへと行くことができた。
なぜ自分だけかは解せないが今すべきなのはこの結界を解く事。結界の元を探す事なのだ。
結界の中は森林が茂り、これと言って変わった様子は無いように見える。
菜月は一歩一歩注意しながら進み、随分と歩き続けていた。
ふと視線を土から前に向けると開かれた場所が木々の向こうに見えた。
小さな丘のような場所であり、萌芽が茂っていた。
「あれは…」
丘の盛り上がった所、魔法陣のように赤い線が若草を染めている。
それは結界の元に違いないと、菜月は木々をかき分け、丘に足を踏み入れた。
見たところ陣は何重にも複雑に描かれている。菜月は結界の元に近付きながら注意深く陣の様子を伺う。
あと数メートル、というところで菜月は足を止めた。菜月の中に“嫌な予感”が沸き上がってきたからだ。
直感を信じ、それによって今まで幾つもの危機を回避してきた菜月にとってはそれは馬鹿に出来ない事。
左腕のアクセルラーに手を伸ばし、タービンを回す。
スーツを身にまとい、太股のホルダーからサバイバスターを取り出す。
ゆっくりと構えた瞬間、影に人の姿が見え、菜月は慌てて振り返り大きく後ろに飛び退いた。
人影が振るった剣を紙一重で避け、結界の陣の向こう側へ着地した。
「アナタは誰!?」
人影は細身の全身を隠すローブを身にまとい、フードで顔が隠れている。
口元だけが見えるが表情までは読むことが出来ない。
そして、手には黄金の片刃剣。
「…ようこそ…レムリアの…姫君」
「なんでそんなことを知っているの?」
さほど高い声ではないが、女性の声が発せられ、菜月は不思議そうに女性に問うが女性は何も言わず、佇んでいた。
「アナタの名は?」
「太古より…生きし魔女」
女性、魔女は手を伸ばしフードを取った。出てきたのは端正な顔つき。だが冷たいという印象が浮かぶ。
魔女はゆっくりと黄金の片刃剣を両手で構えた。
「レムリアの血…いただく…」
魔女が地を蹴ったのと同時に菜月は横に跳びながらサバイバスターの引き金を引いた。
エネルギー弾は地に着弾し陣を乱すと、パリンと何かが割れる音が聞こえた。
菜月が転がり起きあがるのと同時に魔女は先まで菜月の居た場所に止まった。
二人の間合いはそう遠くはない。
アクセルスーツを着用しているため菜月の脚力は数倍にもなり、そんな距離など瞬時に詰められる。
だが、魔女の持つ力は未知数である。菜月はどう対応すべきか思案を巡らせ、また魔女も剣を再び構え、菜月の動向を窺っている。
静寂、
先に破ったのは魔女。素早い動きで菜月に迫り、菜月は迎え撃つようにサバイバスターの引き金を引く。
放たれた何発もの弾丸は避けられたが一発は魔女の頬をかすめ、血が一筋流れ落ちる。
しかし魔女は動じようともせずに迫り、あと少し、というところで菜月はサバイバスターのハンドル部を回し刀身を出した。
振り上げた魔女の剣を跳ね返すようにサバイブレードを振るう。
キン、と数回の甲高い金属音は菜月と魔女の激しい攻防を物語った。
菜月が振るうサバイブレードを魔女は片刃剣で受け止めると力を持って押し返す。
怪力自慢の菜月だがサバイブレードと魔女の持つ片刃剣ではリーチが違い、また発揮できる力も違う。
不利と自覚した菜月は魔女の力を利用しながら後ろ手に跳んだ。
サバイブレードをホルダーに直し、腰部分から黄金の両刃剣、ズバーンを取り出した。
黄金の剣を両手で構えると、今まで表情を表さなかった魔女の目が見開かれた。
「剣は再び、人の手に渡ったのか…」
魔女は静かに呟いた。
「はあああっ!!」
菜月は剣を斜めに降ろし、魔女に駆け寄る。
再び金属音、
互いに黄金の軌跡を残しながら剣は振るわれ、一進一退の攻防が続く。
長く続くかと思われた攻防も菜月が放った剣は魔女の持つ片刃剣を弾き、魔女の片手が柄から離れた。
それと共に魔女の体勢が崩れ、チャンスとばかりに菜月が深く懐に入り込み、真一文字に斬ろうと剣を横に振りかぶった。
その瞬間、魔女の持つ片刃剣から唸るような轟音と共に突風が吹き菜月の身体が宙に舞った。
突風に吹き飛ばされた菜月は地に落ちた。
アクセルスーツを着用し、受け身を取ったおかげでさほどダメージは無く、また立ち上がった。
「まだやるというのか?」
魔女は腕を下げ剣先を地に向けている。
彼女の持つ剣は黄金ではなく黒く染まっていた。
菜月の背に悪寒が走る。
黒い邪気が目に見えるほど剣にまとわりついていた。
「まだ終わってない!!」
自らを奮い立たせるように叫びながら菜月は魔女の方へ駆け寄る。
魔女は菜月に向かって剣を振るうと黒い邪気が固まりとなり、音を立て菜月に迫った。
菜月は黄金の剣で邪気を受け止めるが邪気の力は止まることを知らぬかのように剣を押し返し弾いた。
黄金の剣は菜月の手から離れ高く空を切り、邪気は無防備な菜月の腹部に当たり、彼女を軽々と吹き飛ばした。
「きゃぁっ」
小さな悲鳴は木々の太い幹に打ちつけられる音にかき消された。
身体が軋む音が菜月の中で嫌に響き、意識が薄れた。
目の前の視界が開け、スーツが解除されたのが視認できたが身体が動かないようだった。
口元に笑みを浮かべたままゆっくりと菜月に魔女は近付こうとしていた。
意識はぼんやりとしているが危険だということはわかっている。
魔女が菜月の目の前に立つ。
何も言わず暗黒に染まる片刃剣を降り上げる姿は死刑囚の首を刈る姿を思い浮かべた。
剣が振り降ろされるがスローモーションのようにゆっくりに見え、菜月は恐怖に目を閉じ強く唇を噛んだ。
「サバイバスター!!」
聞き覚えのある声に菜月は目を開く。
エネルギー弾は目の前にいた魔女に着弾し、よろけて後ろに下がった。
菜月は目の前を着地した漆黒のスーツに安堵した。
「邪魔者め…」
魔女は憎々しげに呟くと霧となり消え失せた。
大きく舌打ちをしながら漆黒のスーツは宙に消え、真墨は振り返った。
「菜月、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
心配そうに尋ねる真墨に対し元気に答えるが、
立ち上がろうとすると足を捻ったのか痛みが足に走り、また倒れ込んだ。
「菜月ちゃん!」
倒れ込んだ菜月に真墨が手を差し出した時、二人の後ろから三つの影が見えた。
蒼太と映士、その二人の前にズバーン。
「ったく、お前だけ先に行きやがって」
菜月の無事そうな姿を見、安心したようで映士は笑いながら真墨に悪態を付いた。
「見失って困ってたらズバーンがついて来いって」
微笑みを浮かべた蒼太が言うとズバーンは誇らしげに腕を振る。
「おい、大丈夫か?」
先の様子を見ていたようで映士は菜月を見下ろし言うが菜月は首を振った。
仕方ねぇ、と映士が呟き腕を捲った。
その時、後ろからズバーンが映士を押し退けると菜月の身体をひょいと抱き上げ、
そのまま山を下りようと歩き始めた。
皆、呆然としてその後ろ姿を眺めていた。
「おい、待て!ズバーン!!」
いち早く我に返りズバーンに向かい真墨が叫んだ。
「ライバル出現だな」
映士はにやりと笑いながら真墨の横に立ち肘でつつく。
「早くしないとズバーンに取られちゃうよ」
蒼太も追い打ちをかけるように真墨に言うと真墨はズバーン追いかけ走り出した。
その姿を見、蒼太と映士は笑い、その後を追った。
空気は嫌に乾いていた。
182 :
172:2007/05/26(土) 23:04:20 ID:pmyUA4nZ0
1にTask.142と付けるのを忘れていました、申し訳ないです。全裸で反省s
後編を今書き始めたところですが長くなるので中編、後編と分けるかもしれません。
次回は男集一人一人にスポットを当てていこうと思っております。
ご指摘等ございましたらどうぞ、よろしくお願いします。
お目汚し失礼しました。
>>182 本編にあってもおかしく無い位、正統派な作品で楽しめました。
ただ一つ言いたい事は……
続きが気になって仕方ねぇぇぇぇwwww
>>172-182 GJ!
>次回は男集一人一人にスポットを
気になって仕方ねぇぇぇぇwwww
185 :
名無しより愛をこめて:2007/05/28(月) 00:34:24 ID:agAGwSjz0
ageます
>>175-181 GJ!
実にボウケンっぽいんだけど、語彙や構成でここまで職人様の個性が出せるんかと感心しました
本編では菜月に比重が置かれて案外薄味だった印象のあるレムリア絡みの描写を、どの様に描いて頂けるか次回が気になります
間違えたここは・・・気になって仕方ねぇぇぇぇwwwwだったねw
186 :
172:2007/06/03(日) 23:17:50 ID:gNzPf1CA0
>>183様
>>184様
>>185様
ご感想ありがとうございます。
できる限り王道であることを意識して書いてみました。
遅くなって申し訳ないです。風邪ひいて寝込んでましたw
では、中編投下しますが、
・レムリア(+ズバーン)の設定の捏造
・本編死亡キャラの復活(後編で解決) がございます。
全10レス予定
魔女との交戦から数日が過ぎた。
その間に蒼太や真墨の調査により数点の事実がわかった。
「まず、これを見て欲しいんだ」
蒼太が変形テーブルに置かれたノートパソコンを操作するとサロンの画面に黄金の剣が映し出された。
「菜月ちゃんが見たのはこれ?」
映し出された黄金の剣は片刃の剣でまさしく交戦時に魔女が使用していたものと酷似していた。
「うん…似てるよね?」
スツールに座る菜月は後ろに立っているズバーンに尋ねる。
ズバーンは大きく頷きながら肯定の声を上げた。
「で、こりゃなんだ?」
テーブルに肘を付いたまま映士は画面を指差した。
「プレシャス“エクスカリバー”…一本目のね」
「え?」
蒼太の言葉に菜月は疑問符を浮かべ首を傾げる。
「菜月ちゃんから聞いた話をまとめて探したんだ」
じっと菜月と蒼太を見ていた映士は疑問の意を唱えようと口を開いた。
「だけどよ、剣なんてごまんとあるじゃねぇか?本当にこれで、」
「別の線から洗い出したんだ」
それまで黙り、ソファーから皆の様子を伺っていた真墨が映士の言葉を遮り言った。
菜月、映士、ズバーンの視線がソファーに座る真墨に注がれた。
真墨はじっと皆を見渡すと立ち上がりテーブルへと歩み寄った。
「そーいうこと。エクスカリバーは二本あるんだ。これはサージェス・ヨーロッパに残されていた文献にも書かれている」
再度視線は蒼太の元へ。
「此処からは僕の憶測も混じるよ。明石さんからズバーン発見時の事を聞いたときにアーサー王伝説と似ている所があったんだ」
「アーサー王伝説?それとズバーンがどんな関係?」
菜月は更に疑問符を浮かべた。
ズバーン発見時の話は前チーフの明石による報告書によって把握しているが先が読めず菜月は困惑し始めた。
「アーサー王伝説で有名な聖剣があるんだ。その剣は岩の台座に刺さり、誰も抜けずにいたがアーサー王はそれを抜いた」
「ズバーンの時とそっくりじゃねぇか…」
真墨の説明にこれまで暇そうに俯いていた映士は顔を上げた。
「そう、だから僕はズバーンはエクスカリバーじゃないか、と思っているんだ。まぁ憶測にしか過ぎないんだけど。」
蒼太は言い終わると息を吐き、先までとは違う真剣な顔つきになった。
「そのズバーンと対等に戦えるのは同じエクスカリバーでなくてはいけない。」
「よくわかんねぇけどよ…なんで一本目だって分かったんだ?」
「一本目の剣は折れて不幸の象徴とも言われている。これが菜月ちゃんの言ってた“黒い邪気”とも関連するんじゃないかな」
ま、そういうことだよ、と蒼太は一息付き、また辺りを見渡した。
そこで目に付いたのは食い入るように画面を見つめる菜月の姿。
「似てる…ズバーンに…」
菜月は呆けたような声で呟いた。
その声は消え入りそうで真墨は不安の眼差しを彼女に向けた。
真墨は時折不安を感じていた。
年の近い妹のような存在でもあり自分の庇護の元育ててきた存在でもある。
だがレムリアの文明の欠片や関連するプレシャスを発見した時、彼女は虚ろな表情を浮かべるのだ。
それは一瞬だが、その表情を見る度に何故か彼女は遠い存在なのだと実感する。
彼女は10万年前からやってきた古代人、なのだと。
「真墨?」
意識を思考の端に飛ばしていた真墨は蒼太の声で現在に引き戻された。
そんな真墨の姿をいつもの菜月は心配そうに見ていた。
「ああ、」
取り繕うかのように真墨が声を上げると画面が変化しミスターボイスが現れた。
「ボウケンジャー!異常事態だよ!!」
司令官の急な言葉に全員が身を固くし、画面に視線を注いだ。
夜が深くなり風もなく辺りは妙に静かだった。
前回魔女と交戦した山中を皆は駆ける。
辺りはうっそうと木々が茂り、今宵は新月のせいか闇に包まれておりヘッドランプだけでは心許ない。
前に菜月が発見した結界の陣近くに異変を表す反応があったらしく魔女がまた現れたと判断し急行している。
駆けながら真墨は横目で菜月を見たがスーツを着用した為ゴーグルの奥の表情は読めない。
真墨は溢れる不安を断ち切れずにいた。
開けた丘にたどり着くと人影が見えた。
皆のランプを当てると姿がはっきりと視認できた。
「またお前か!!」
真墨は片刃剣を手にした魔女に向かい吠えた。
「そんな危なっかしいもの早く渡して、ね?美人さん」
いつも通りに軽口を叩く蒼太だが緊張の糸が張り巡らされているのがわかる。
しかし魔女は応じず冷たい視線で射抜くだけだった。
「ああ!もう!!行くぞ!!」
魔女の反応に苛立ちを覚えた映士は単身魔女に走り出していく。
その後を三色のスーツが追うように駆け出した。
魔女は口元を釣り上げゆっくりと手を挙げた。
何かを呟くと魔女から光が発せられ皆の身体を包んだ。
菜月は光を手で遮り目を閉じた。少し間がたった後、目を開くと肌色の手が見えた。
慌てて手をどけると古代ギリシャを彷彿させる神殿の中にいた。
白い柱が幾重にも並び大きな神殿を支えているようだった。
菜月は更に辺りを見渡す。
中は意外にも広く、目の前には女神像のような白く大きな彫刻があった。
その前には台座が見える。まるで何か大きな捧げ物が置かれたような。
菜月は台座の前に歩み寄り女神像を見上げた。どこか懐かしい感覚に襲われ、胸が締め付けられた。
「ようこそ、レムリアの王宮へ…」
後ろから聞こえた声に菜月は振り返った。
「アナタは…!」
菜月の目に映ったのは菜月に向かい跪き頭を垂れる魔女の姿だった。
「姫君、リリーナ様。私はこの神殿で貴女の御両親に仕えていました」
菜月は魔女の言葉に驚き息を飲んだ。菜月は動揺を抑えるように強く拳を握りしめ、口を開く。
「アナタは…いったい何者なの?」
「私はこの王宮に仕える不死の魔女です」
魔女は顔を上げ菜月を見る。
前回とは違い敵意は無いが不可解な行動に菜月の緊張は解れぬまま。
何も言わず魔女は静かに立ち上がった。
「みんなは何処!?」
発光に眩み閉じた目を映士はゆっくりと開けた。
「な、」
なに?、と言いかけて息を飲んだ。
目の前に広がるのは先までの光景とは違う海。
海岸の岩場に立っているようであった。
いつの間にか変身が解除され、風が随分と強いせいか髪が流され顔にかかっていた。
「よぉ、高丘の!」
映士は聞き覚えのある声に驚き振り向いた。
「なんで生きてやがる…ガイ!!」
緑の唐獅子、それは高丘映士にとっての宿敵のアシュ“ガイ”であった。
「お前を殺すために決まってんだろ?」
軽い口調で伝えられる残虐な言葉に映士は唇を噛みしめた。
「お前のその身体も消え、魂も消えたはずだ…アシュはもうこの世から消えた」
淡々と感情を抑え映士は言った。
一度決着をつけた者との二度目の決闘はどうしても避けたい、という心情が働く。
ガイは映士の言葉を鼻で笑った。
「“アシュはもうこの世から消えた”だと?お前の憎むアシュの血は消えやしない…お前が死なない限りな!!」
ガイは地を蹴り、映士に素早い動きで迫り始めた。
急に鳴いた鳥の声に真墨は目を開けた。
辺りは深い森のようだが何処かで見たことのある気がし、また何故この場にいるのかと真墨は記憶を辿る。
全ては光に包まれた後、ほんの数秒でこのようなことになっている。
「何かの術か…」
真墨は呟きを漏らした瞬間に殺気を感じ取り本能のまま上手に飛び、木の太い枝に移った。
先まで居た所には鋭く折り鶴が刺さっている。
「まさか…!!」
「そのまさかだ、伊能真墨」
真墨の目の前の枝には闇のヤイバがいた。
「何故だ!お前は俺がこの手で倒したはずた!!」
「それでお前の心の中から完全に闇が消えたのか?」
嘲るような声色は真墨の心を揺さぶる。
噛みつきたい衝動を堪えた真墨は押し黙り、きつくヤイバを睨む。
その真墨の姿を見たヤイバは高笑いを上げた。
「そんなはずはないだろう…お前の心に闇がある限り、このヤイバ、何度でも蘇る…」
口元に邪悪な笑みを浮かべながらヤイバは背に刺さる刀を抜き真墨へと向けた。
「伊能真墨…いざ!!」
蒼太の前には荒廃した街が広がっている。
幻覚と蒼太は判断し何度も唇や舌を少し噛み気を正常に戻そうとするが無意味であった。
街の様子をじっくりと観察する。街のそこそこ大きな通り、道はアスファルトだが所々剥がれてしまい地面が直で窺えた。
道の両脇には大きなビル群、やはりコンクリートは薄汚れ雨の浸食を受けていた。
「荒れた東京ってところかな…」
蒼太は辺りを見渡していたがふと誰かの足音が聞こえ、その方を向く。迫る人影を見た瞬間、蒼太は息を呑んだ。
「どうだい?この街の様子は」
蒼太の目の前に立つのはまさしく蒼太自身。といえども服装は黒いパーカーにズボン、表情は固く目が鋭い。
蒼太は自分、過去の自分に瓜二つの青年に語り掛ける。青年は上着のポケットに手を入れたまま蒼太に近づく。
「君主制だったこの国は地下資源が豊富でそのおかげで国は豊かだったんだ。周辺国の侵略にも全国民で立ち向かう、素晴らしい国だった」
独り言のように呟いていた青年は蒼太の目の前で立ち止まった。
「なんで滅びたかわかる?」
「…軍上層部のクーデター、だろ?」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ苦しそうに蒼太は答えた。
「アンタの差し金でこうなったんだよ?わかってる?」
青年はポケットから取り出すと右手には小型の拳銃が握られ蒼太の鼻先につけられた。
「死んで償えよ…」
微笑みながら低い声で青年は言い、引き金を引こうとする。
蒼太は斜め前に身体を捌きながら青年の手を払った。
「みんなは何処!?」
菜月の怒声に近い叫びが神殿の中に木霊するが魔女は表情一つ変えない。
「断ち切れぬ宿命の輪に閉じ込めました。この場所に汚れた血などいりません。」
淡々と言葉を紡ぐ魔女に菜月は恐怖を感じた。
「何故そんなこと…?」
魔女は菜月に歩み寄り、彼女の横を過ぎて女神像の前に立ち、見上げた。
「私はレムリアの文明が滅びた後、この世界、人類を導いてきました…。繁栄のためレムリアの技術を伝え、時には私の数々の呪術をも伝えました」
しかし、と魔女は言い間を置いた。
菜月は何も言えず魔女の後ろ姿を見つめていた。
「文明が根付いた頃、人類は暴走を始めました。争いは絶えず、レムリアの宝を使い争うもの、
挙げ句には私欲のためにレムリアの遺跡を破壊する者まで現れたのです。もはや人類は愚かで救いようの無い者…」
神殿は静まり返り、菜月は息苦しささえも感じた。
魔女は目の前の女神像に手を伸ばす、その姿はまるで救いを求める手のようだった。
「ですが人類を止める者はいません。“救世主”は現れやしない、神も地を見放した…」
伸ばされた手は下ろされ、魔女の手が強く握られた。
「だから私は、人類を滅ぼしこの手で新たな世界を作る。私は新たな神となりエリュシオンの楽園を再び───」
「アナタは間違ってる、確かに無茶苦茶な事をしてる事だってあるけど…それでもアナタのやり方はおかしいよ」
「姫君、汚れた血に毒されたのですか?」
愕然とした様子を見せ、魔女は振り返る。
「確かに、菜月はレムリアの人だよ…でもね、みんなの事大好きだし、それにアナタは神様じゃない…。
人の運命は神様が決めるの!アナタが決めるものなんかじゃない!!」
菜月の反論に魔女は強い眼差しで菜月を射抜き、それに負けじと菜月も睨み返した。
魔女は下手に手を伸ばすと黒い粒子が彼女の手に集まり剣を象る。
瞬間、手には黄金の片刃剣が握られていた。
「エクスカリバー…」
菜月の呟きは魔女の耳に入り魔女は口元を歪ませた。
「この剣は正確にはカリバーンと言います。これもレムリアの宝…。
その剣が正しい心をパワーとするのに対し、この剣は憎しみや絶望をパワーとする…」
ゆっくりと魔女は片刃剣の剣先を菜月へと向け、菜月も両刃剣を取り出し魔女へと向けた。
互いの剣先は互いの喉元へ向かい、ピタリと止まった。
「始めよう、姫君、滅亡の儀式を!!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
197 :
172:2007/06/03(日) 23:42:37 ID:PX/YJ8ElO
最後で規制に引っかかり携帯からになってしまいましたorz
次でラストになります。
できるだけ早く書くように努めます。
お目汚し失礼しました。
うおお燃える燃える!! まさに王道的展開ですね!
GJです職人様、そして続きが気になって仕方ねぇぇぇぇwwww
超GJ!!
ムチャクチャ熱いっス!
このまま映像化して欲しいよー
何はともあれ……続きが気になって仕方ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
200 :
名無しより愛をこめて:2007/06/08(金) 20:53:14 ID:5qxG+bIHO
保守
201 :
名無しより愛をこめて:2007/06/13(水) 16:09:43 ID:VmrmdHMeO
GJ!! 早く続きがみたいです〜
202 :
169:2007/06/18(月) 04:33:01 ID:4rgTsuyZ0
やっと完成しました。
案の定、18禁になってしまいましたが、今回は性的描写部分をカットしたバージョンを投下します。
暴力描写については、そのまま修正を加えてませんので【R-12指定】位の内容と思います。
以下、ご了承頂けない方は何卒スルーでお願いします。
・本編には出ない新ネガティブの登場篇です。
・新ネガティブのベースになる古代文明は、文明の名称以外の設定は全てでっち上げです。
・実はネガティブ(プレシャス目的の組織)ではありません、別目的の残虐非道な組織です。
・サブタイトルにプレシャス名を使用してますが、プレシャス無くても成立する内容です。
・主演の『風のシズカ』が、新ネガティブに完膚無きまでにやられます。
・ボウケンメンバーは終盤に菜月と蒼太がゲスト扱いで出る程度です。
・直接的性描写は全てカットしましたが、それでも多少の間接的性描写は残ってしまっています。
・暴力描写、残虐描写がかなり多用されています。
・暴力描写初挑戦ですので、某板某スレのSSから暴力シーンの構成をパク……参考にさせて頂きました。
・今回は導入部ですので伏線貼りまくってますが、続編は構想中で投下は未定です。
・とにかく長いです。今回のR-12版は総レス数27です。
全体が四部構成になっています。
01〜06レス『戦闘』編、07〜14レス『幹部』編、15〜17レス『凌辱』編、18〜27レス『菜月』編です。
規制が無ければ全て投下、規制が有れば分割で後日投下するかも知れません。
では、投下致します。
「……石……っころ?」
シズカは、ふと林道で立ち止まり、足元の大量に転がる石の礫を一つ拾い上げ怪訝な顔をする。
ボウケンジャーを出し抜き、祠に祀られたプレシャス……『瓜生の蛭子像』の奪取に成功したシズカ。
追跡を避わす為、早足で林道を駆け始めたのだが……
先刻、祠に向かう時には林道に、これほど大量の石礫は転がって無かった。
「ん〜……これって……石偶!?」
石礫の表面には……人型?……の文様が刻まれている。
「!?…ヤバい!」
危険を察知したシズカは、とっさに石礫を投げ捨てた。
その刹那、投げ捨てた石礫が「グググッ」と大きさを増す。
等身大ほどになったかと思うと、粘土細工の様に『人型』へと変態した。
表面は凹凸の無い、つるりとした石灰色で全身に真円や半円、渦巻きの様な幾何学的文様が刻まれている。
姿勢が中腰なので身の丈は定かでは無いが、恐らくはシズカより大きい。
かなり細身の『人型』は背中を丸め両腕を力無くダラリと下げ、ジリジリと歩を進め間合いを詰めて来た。
頭部にある直径10p程の二対の渦巻き文様……恐らくは『眼』……でシズカを凝視している様でもある。
「ゲッ!亜人!?何なのよ!も〜!!」
敵である事には相違ないであろうが、一体のみと言う事でシズカにも多少なりとも余裕がみられた。
背中の刀を抜刀し、両の手で中段に構えニヤリと笑う。
「さぁ、相手したげるわよ!こっちは急いでる……んだ……から……って……えぇぇぇぇ!!??」
勇ましく刀を手にしたシズカが驚きの声を上げるのも無理は無い。
シズカの声に呼応するかの如く、他の石礫も巨大化し始めたのだから……
「ちょ…ちょい待ち!多すぎだってばー!!」
シズカが呆気にとられる間に『人型』の数は10体ほどに膨れ上がった。
そのどれもが同じ背格好……中腰で両腕を下げ、間合いを詰めて来る。
「くそっ……『付喪神』でも居ればなぁ……ったく!やるしかないか!!」
シズカは刀を中段から大上段に構え直し『人型』の群れに突進した!
「先手必勝!せいやぁぁぁぁ!!!!」
……と、シズカの動きに反応し『人型』の動きも早さを増した。
一段と腰を落とし両腕を胸元で交差し向かって来る!
<<ジャキィィィィン>>
間合いを詰めた『人型』の指先に鋭く長い爪が現れた。
眼前に迫った『人型』は、鋭爪でシズカの喉元を下方から狙おうというのだ。。
それまで交差していた腕を、下方から一気に『Y字』に拡げた。
シズカは『人型』の動きを予測していたかの様に、上体を大きく後方に反らす!
<<シュンッ>>
鋭爪は目標を外れ、シズカの胸元を掠め通る。
無防備にも『人型』は両手を上げて背中を晒け出した。
「いっただきー!」
シズカは刀を上段の構えのまま逆手に持ち替え、そのまま『人型』の背中に刃先を突き下ろす!
……が!
<<ジャキィィィン>>
刃先が弾かれた!?
刃零れこそ免れたが、さすが石礫から変態しただけあり相当の硬度の様だ。
しかし、シズカの攻撃により『人型』はバランスを崩し前傾姿勢で倒れ込む。
シズカはそれを見逃さず、ガラ空きになった『人型』の胸……大きな渦巻き文様の部分を膝で蹴り上げた!
<<グシャアァァァァ>>
シズカの一撃に『人型』の体は大きく後方に反転し宙を舞い……後頭部から着地する。
その瞬間『人型』は砂人形の様に崩れ落ち、大量の白い砂粒になった。
……かと思うと、砂塵を巻き上げ「ドサッー」と辺り一面に拡散した。
「なーる……胸の渦巻きかぁ」
なおも中腰で腕を交差し、胸の文様を隠しつつ迫り来る『人型』の群れ。
シズカは刀を下段に構え直す。
互いの間合いが詰まった瞬間、シズカは刀を下段からすくい上げ、大きな円軌道を描いて振り抜いた!
刃先が『人型』の交差した腕を上方に叩き上げる。
間髪入れず、眼前に晒された胸の渦巻き文様に、シズカは渾身の中段蹴りを見舞った!
「どおりゃあぁぁぁぁ!!!!」
蹴り飛ばされた『人型』は着地するより早く、宙を舞いながら爆散し砂塵と化していく。
「よっしゃあー!」
再び刀を構え直すと、なおも襲い来る『人型』を迎え撃つシズカ。
刀を振り上げ中段蹴りを繰り出し、確実に白い砂塵を増やして行く。
しかし『人型』の数は一向に減る気配を見せない……
「何なのさっー!全っ然、減らないじゃないのよー!?」
それもそのはず、辺りの石礫が続々と『人型』に変態していっているのだ。
シズカは嫌な予感に苛まれながらも、一先ずは目の前の『人型』を叩く事に集中した。
だが、次々と出てくる群れ……既に何体倒したか見当も付かない。
『人型』の残す白い砂塵だけが次々に増えていく。
「クソっ!しつこいっー!!」
さしものシズカにも疲労の色が見え始めていた。
繰り出す刀捌きは鈍く、中段蹴りの威力は低く、集中力は途切れそうになる。
「ん?何者……」
シズカは『人型』ではない『何者』かの気配……殺気を感じた。
しかし、今は目の前の『人型』で手一杯だ。
「だから、しつこいっつってんでしょ!アンタ達っー!!」
さらに『人型』はその数を増した様だ。
シズカは、なおも応戦し続ける。
しかし、数で圧倒する『人型』に集中力を削がれ、僅かに反応が遅くなってしまった……刹那!
「……しまった!」
後方の木陰から一条の矢が発せられ、シズカの背後に迫る。
<<ヒュンッッッッ>>
……とっさに身を翻すシズカ……しかし、完全には避け切れず右肩を掠めてしまった……
「痛っ!!」
全く致命傷では無いが、少々肉を抉られた右肩に痛みが襲う。
シズカの右肩を掠って行った矢は、前方の木に突き刺さった。
すぐさま振り返り、矢の放たれた方に向かい直し、刀を構える。
「ぐっ……どこだ?」
先刻感じた『人型』以外の『何者』かの気配の……仕業か?
「……ん?」
突如、全身の力が抜け始め、視界は暗く足元はおぼつかなくなり、その場で膝を付いてしまった。
「……ど……毒矢?」
更に、頭はぼんやりとし始め、激しい耳鳴りに襲われハッキリと音が聞き取れなくなる。
「……!?……動い……た」
動きを止めていた『人型』が再び動き始め、シズカにジワリと歩み寄る気配を感じた。
その数は……先刻以上かも知れない。
シズカは刀を支えに立ち上がり、ぼんやりと見える『人型』に向かって刀を振り抜いた。
しかし、刃先が当たった感触は無い。
「くそっ……ぐわぁっ!?」
攻撃を外し、ガラ空きになった脇腹に『人型』の拳がメリ込む……続けて二の腕、脛、頬。
『人型』の群れはシズカに寄り集まり、石塊の様に硬い拳で殴り、石棒の如き重い脚で蹴りつける。
いくら軽鎧を身に付けているシズカと言えども、一つ一つの打撃の重さは並大抵では無い……
「こ……この位で!まだまだぁぁぁぁ!!!!」
体中を殴打されながらも気丈に声を上げ『人型』を寄せ付けぬ様、応戦し続けるシズカ。
しかし、声に反してシズカの刀は『人型』に全く当たらない。
既に体力は限界を迎え……四肢にも力が入らなくなり、刀すら重く感じられて来た。
<<バヂィ>>
『人型』の硬拳で手の甲を痛打され、シズカは思わず刀を手離してしまった。
すかさず『人型』は刀を遠くへ蹴り飛ばす。
「……畜生ぉぉぉぉ!!!!」
だが、その声も虚しく背中を蹴りつけられ、砂埃を上げながら前のめりに倒れ込む。
なおもシズカの周りを取り囲み、容赦なく全身を蹴り上げる『人型』の群れ。
そして『人型』の放った剛脚が鳩尾にめり込む!
「グボォエェェ……ェ……」
口から紅血を吹き出し苦悶するシズカ。
……が、尚も刀に向かって懸命に手を伸ばす。
「……か……刀……」
その手を『人型』は容赦なく踏みつけた……
「あ゛ぁぁぁ……ぁ……」
シズカは……力無く悶え……
そのまま……地に顔を埋ずめた……
<<バシャアァァァァ>>
「………水?」
冷水を浴びせられ、シズカは覚醒した……
傷だらけ……蒼痣だらけの体に冷水が沁み、乾いた血溜まりが唇元にこびり付いている事に気付く。
すると、冷水浴びに続いて、今度は『何者』かに頭を踏みつけられた。
「痛っ……」
「フフ……随分弱った様子ですね」
シズカを足蹴にしているのは……声から察するに女の様だ。
毒矢の効果が薄れて来たのだろうか、今は意識がハッキリとし、その姿が見える。
視線だけを動かし、自分を足蹴にしている女を足元から上方へと睨み付けていく。
踵の高い、膝下まである赤い編み上げ靴。
膝丈のスパッツの様な黒い腰履きを纏った脚はスラリと細く長い。
「ぐ……くぅ……」
己に恥辱の限りを尽くす女の顔を目に焼き付けようと、懸命に視線を上げるシズカ。
上衣は、白い厚手の布を左右から重ねて羽織り、腹部をコルセット状の帯で留めている。
和装の様な作りの上衣には『人型』と同じ文様が浅葱色や萌葱色の刺繍で彩られており、実に煌びやかだ。
また、自らの脚線美を披露するかの如く、脹脛まである長い上衣の裾を大きく開け拡げている。
開け拡げられた裾からは、紅色の内衣をチラと覗かせ妖艶さを醸し出す。
……と突如、女は右手に携えていた自身の身長を遥かに越える『鉄製の長弓』を「スッ」と片手で掲げた。
次の瞬間……そのままシズカの右の掌の上に『長弓』の本弭を杖の様に突いた!
「あがぁぁぁ!!」
本弭を通じ、掌を襲う『長弓』の重み、手骨を伝う痛みにシズカの口からは思わず悲鳴が漏れる……
「フフ……はしたない声を上げて……そんなに私の美しさが気になるのなら……どうぞ」
女は頭から踵を外し、シズカの傍らに立ち位置を替えた。
シズカは女を睨みつける。
首や腕には様々な色の勾玉を何連にも施した飾りを提げており、身分の高さを窺い知れる。
麻紐を使い後頭頂部で結われた、背中まで達する程の長く美しい黒髪が風に靡く。
しかし、眼より下を白いショールで隠されて、肝心の女の表情は窺い知る事は出来ない……
いや……微風にショールが靡き……一瞬だけ見えた女の顔は……
「……原人……?」
その顔は少なくとも現人類の顔付きでは無い。
「……ハハ……まさか……このアタシが『サル』如きにやられるとはね……」
「『ヒト』如きが私の美しさに嫉妬ですか?」
「……五月蠅い……『メス猿』……」
「なんと野蛮な……影の衆の末裔とは思えませんね『風のシズカ』さん」
「……な……なんで……私の名前を……オマエは何者……?」
「まだ名乗っておりませんでしたね……私の名は『キサラ・ナ』」
シズカは痛む躯を立ち上がらせようとするが、足元に力が入らない。
「フフ……無様ですね」
「……た……たかが『メス猿』に『風のシズカ』様が……やられる訳ないでしょ……」
口では精一杯虚勢を張るが、体は全く言う事を聞かない。
「まだまだ元気がよろしい事」
『キサラ・ナ』は「スッ」とシズカに近づくと腰を落とし、左腕を鷲掴んだ……
「ぐああぁぁぁぁ!!!!」
「フフ……本当に……はしたない声だこと」
更に『キサラ・ナ』はシズカの左肘を在らぬ方向へ曲げ始めた。
「……そ……その程度じゃ……効かないもんね……がっはあぁぁぁぁ!!!!」
『キサラ・ナ』は手にしていた『長弓』を置き、いよいよ本格的に両手で力を入れ始める。
細身の体付きからは想像出来ない怪力だ。
「……ぐぅううぅぅ……」
額に夥しい脂汗を浮かべながら、蒼白の顔面で苦悶するシズカ……
左肘は本来の可動範囲を越え、いよいよ限界を迎えようとしていた。
「フフ……さぁ行きますよ……存分に泣き叫びなさい」
<<メギリッ>>
「あがあぁぁぁぁわあぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
鈍い音が響き、左肘が限界を超えた瞬間……その音を掻き消す様にシズカの絶叫が山中にこだました。
力無くダラリと伸びきったシズカの左腕が、みるみるうちに蒼褪めていく。
「フフ……もっと卑しく泣き叫んで良いのですよ」
「うぐぅぅ……ぅぅ……」
「我慢なさらずとも良いのに」
シズカの顔は脂汗と涙でグチャグチャになり、開け拡げられた唇元からは嗚咽が止む事が無い。
『キサラ・ナ』は、シズカが嗚咽を発する度に……妖美な笑みを零す……
<<せめて……せめて……右腕が動く間に……一太刀でも浴びせたい>>
シズカは、悶え苦しむ素振りを見せながら右手を背中の刀に回す。
柄を握った拳に力を込め……一閃!
<<ビュンッ>>
しかし……刃先は女の上衣の裾を掠めただけだった……
シズカの動きは完全に読まれていたのだ……
いよいよ、シズカの顔に絶望が走る……
「フフ……まだまだ御元気な様ですね……そんな悪い右腕は躾ねばなりません」
『キサラ・ナ』は『鉄製の長弓』をシズカの右上腕の外側に当てると、次に両手で右上方へ振りかぶった。
軽く笑みを浮かべ『長弓』の本弭をゴルフスイングの様に、シズカの右上腕へ目掛けて打ち下ろした!
<<ベギッィィイインン>>
「がぁああああっはぁぁぁぁ!!!!!!!!」
右上腕は外側に湾曲し、燃える様な熱さに包まれる。
シズカに出来る事は声にならない声を上げる事だけだった。
「ぐ……ぅぐ……ぁあ……」
「余り……お戯れになられては困ります……『カムゴ・ク』達……シズカさんを手伝って差し上げなさい」
『キサラ・ナ』は、ほくそ笑むと左手を掲げ「パチリ」と指を鳴らした。
それまで動きを止めていた『人型』……恐らくは『カムゴ・ク』と呼ばれるのだろう……
……が再び動き始め、倒れ込んだままのシズカにジワリと歩み寄る。
激痛に耐える事で精一杯のシズカは……逃げる事すら適わない……
<<ジャギィィィィン>>
一体の『カムゴ・ク』の手に、再び鋭爪が現れる。
シズカの前まで歩を進めると片手を高く掲げ、鋭爪を一気に振り下ろした!
<<ビリィィィィ>>
為す術の無いシズカは、顔を背け瞼を閉じていた……が……
<<!?……アタシ……死んでない?>>
鋭爪により切り裂かれたのはシズカの軽兜と内衣、鎖帷子だけだった。
安堵の表情を浮かべるシズカの左右から二体の『カムゴ・ク』が歩み寄る。
『カムゴ・ク』はシズカの軽兜を掴み取ると無造作に投げ捨てた。
さらに中央を切り裂かれた内衣と鎖帷子を「バッ」と左右から開け拡げられる。
中からは、擦り傷や蒼痣だらけの柔肌が現れた。
また、脂汗や血液、失禁がグシャグシャに染みた下着すらも晒し出され、シズカの顔はみるみる紅潮する。
しかし、両腕を動かせず抵抗も出来ないシズカは観念した……
「……も……もう判ったよ……渡すよ……懐に入ってるから取れば……」
「?……何を仰っているのですか」
「……『瓜生の蛭子』よ……アンタ達も……このプレシャスが目的なんでしょ……?」
「『プレシャス』……聞いた事があります……『ヒト』が造った下らぬ文明の証ですね」
「……え!……ち……違うの……?」
「『ヒト』が造りし文明など紛い物……我等こそが真に世界の文明を継承するのです」
「……じゃあ……何でアタシを狙うのよ……?」
「我等の目的は『風のシズカ』さん……貴女です……正確には貴女の『血』です」
「!?…………」
予想外の答えにシズカは言葉を失った……
「そう……我等が世界を統べるべく選ばれし文明……『カタカムナ』の末裔とは言え、
その血が途絶えてしまっては全く意味が有りません」
「……カ……『カタカムナ』……?」
「純粋な『カタカムナ』の血統は、もう望むべくも無く……混血も致し方有りません
……とは言え単に『ヒト』と交わっても『カタカムナ』の血脈が穢れるだけ」
「……交わ……る……?」
……口にはしてみたものの、あまりに穢らわしくおぞましい、その響きにシズカの全身に鳥肌が立つ。
「貴女は『ヒト』とは言え……なかなかの血筋をお持ちの様ですね……『影の衆』の血を……
『カタカムナ』と『影の衆』が交われば……多少は期待出来ましょう」
「……な……何をするって言うのよ……?」
「フフ……御心配なく……我等の『儀式』に御協力頂くだけです……さぁ、始めましょう」
ようやくシズカは『キサラ・ナ』の、おぞましい目的を確信した……
だが既に逃れる術は何一つ残されていない……
「『ジトウ・ラ』様……御出で下さいませ」
「……ジ……トウ・ラ……?」
眼前の大木が大きく揺れ、その上方の枝に腰掛けていた大きな一つの影が宙に飛び出した。
地を揺らし砂埃を巻き上げ、シズカの目の前に着地したのは身の丈2m以上はあろうかという大男……
いや……正確には『キサラ・ナ』をさらに原始的にした……巨大な『原人』
その身に纏っているのは『カムゴ・ク』と同じ文様の白い刺繍を施した黒い生地の長い腰履のみ。
『ジトウ・ラ』と呼ばれる『原人』は、地面に倒れこんだシズカを繁々と眺め口を開いた。
「オ、オ姉チャン、コ、コイツカ?」
「左様に御座います」
『ジトウ・ラ』はシズカの喉元を右手一本で掴んで、軽々と持ち上げ自身の眼前に掲げる……
「……ぐ……ぐるじぃ……」
呼吸が出来なくなったシズカの顔がみるみるうちに青褪めていく。
「『ジトウ・ラ』様……殺してはなりませぬ」
「ウ、ウン、オ姉チャン」
『ジトウ・ラ』は右手の力を「フッ」と緩め、左手でシズカの襟元を掴み、右手を喉元から外す。
顔に赤みが戻り、シズカは九死に一生を得た。
しかし『ジトウ・ラ』は右手でシズカの脹脛から太腿、臀部へと撫で上げる。
「……ぁぁ……止めろ……ぉ……」
シズカとて『九ノ一』である……決して純潔な躯ではない。
プレシャス奪取の為『ハニートラップ』を駆使した事も、その行為に……ひとり涙した事も数多く有る。
しかし、それとは全く違う……恐怖……
『ジトウ・ラ』……いや……この『獣』に蹂躙される恐怖に、今は力無い声を漏らすしか出来ない。
このままでは……
<<これが……最後……>>
意を決したシズカは、最後の力を振り絞って『ジトウ・ラ』の鳩尾に渾身の爪先蹴りを見舞った!
<<ドゴッッッッ>>
シズカを辱めていた『ジトウ・ラ』の右手が離れていく……
「……効いた……か……?」
しかし『ジトウ・ラ』は表情一つ変えず、右手の人差し指で自らの鳩尾を「ポリポリ」と掻き始めた……
『絶望』
その言葉だけがシズカを支配する……
「全く手の掛かる方です……」
『キサラ・ナ』が指を鳴らすと二体の『カムゴ・ク』がシズカに歩み寄った。
一体はシズカの顔を鷲掴み、もう一体は手にしていた小瓶の蓋を外し、シズカの鼻先に近付ける。
「……睡眠薬……いや……媚薬……?」
シズカは顔を背け抵抗するが『カムゴ・ク』が、それを許さない……
<<もう……ダメかな……アタシ……………………ゲッコウ様……ゴメンナサイ……>>
シズカは軽く唇元を開き、自らの舌を強く噛み千切ろうと……奥歯に力を込めた……
<<グシャ>>
その刹那……『カムゴ・ク』がシズカの内衣を引き千切り、口に布切れを突っ込んだ!
『死』すら許されぬ……まさに……『地獄』
「……ふぐ……ぅ……うぅ……」
シズカは目を閉じた……涙が止め処なく溢れた……口を塞がれ……その嗚咽は誰にも聞こえない……
「!?……ぁ……あ……ふ……」
鼻腔に小瓶の液体の刺激臭を感じ……理性とは関係無くシズカの下腹部が……『熱さ』を溢れ出す……
耐え難き屈辱の中……シズカの意識は……ゆっくり……穏やかに……遠退いていった……
やはり連投規制に掛かってしまいました。
今回は前半部分のみで、後半は後日投下させて頂きます。
書いている私自身が、あまりの描写の非道さに不快感を感じた位ですから、もっと不快な思いをされた方も居られるでしょうが何卒ご容赦下さい。
お目汚し大変失礼致しました。
(´-`).。oO(過度の謙遜は不要・・・もし本気で不快なら投稿しなきゃいい)
>>218 御意見有り難う御座います。
今後の参考に致します。
……では、後半投下します!
「さぁ『ジトウ・ラ』様、存分に……」
「ウ、ウン、オ姉チャン」
『キサラ・ナ』の言葉を合図に『ジトウ・ラ』は『儀式』を開始する。
しかし、意識を失っているシズカが反応を示す事は無い…『ジトウ・ラ』は一旦動きを止めた。
「オ、オ姉チャン、コ、コイツ、ツマンナイ」
「……御意……」
傍らの木陰に寄り添い、無表情で事の次第を眺めていた『キサラ・ナ』がシズカに歩み寄る。
『長弓』の弦で人差し指の先を切ると、紅い血が「プッ」と染み出た。
『キサラ・ナ』は指先をシズカの肌に這わせ『カムゴ・ク』と同じ文様を描き出す……
「お目覚めなさい……シズカさん」
『キサラ・ナ』が指先の紅血を一滴、シズカの唇元に落とすと口内へと「スッ」と染み入った。
その紅血に呼応する様に、シズカの瞼がゆっくりと小さく開く。
「……『キサラ・ナ』様……」
『キサラ・ナ』を虚ろに見つめたまま、シズカがボソリと応える。
『ジトウ・ラ』の方へ向く様に、シズカの顔を動かすと『キサラ・ナ』は再び木陰へと戻って行った。
シズカの瞳に『ジトウ・ラ』の姿が映り込む。
「……どうぞ……『ジトウ・ラ』様……」
虚ろな目で自らの躯を『ジトウ・ラ』に晒け出すシズカ……『ジトウ・ラ』はそれを弄ぶ。
今までに無い反応を見せるシズカに『ジトウ・ラ』は眼を輝かせ、鼻腔を大きく拡げ鼻息を荒くした……
『ジトウ・ラ』による執拗な『儀式』にシズカは昇天し、脱力し切って倒れ込む。
虚ろに宙を見つめたまま、シズカは再び意識を失った……
「マ、マダマダ」
まだまだ物足りない『ジトウ・ラ』は、意識を失ったシズカに対し再度『儀式』を試みる。
興奮しきって我を忘れた『ジトウ・ラ』はシズカの両脚を握った手に力を込め、目一杯開き始めた。
<<ギシ……メリメリ>>
シズカの股関節は悲鳴を上げ、自らを襲う激痛にシズカは虚ろながらも覚醒した。
「……い……痛い……」
意識が戻ったシズカの眼前には、ぼんやりと『獣』……『ジトウ・ラ』が見える。
「い……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
覚悟をしていたとは言え想像を絶する、おぞましい現実にシズカの意識は一気に覚醒した。
両脚を動かし抵抗を試みるが『ジトウ・ラ』の怪力に押し返され、更に自由を奪われる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!痛゛ぁぁぁぁい゛!!!!」
『儀式』の終焉に向け『ジトウ・ラ』は無意識にシズカの脚を力一杯押し拡げた!
<<メギメギィィィィ……ゴギリッッッッ>>
……鈍い音が鳴り響く……
「あぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
シズカが顔を歪め、苦悶の声を上げた瞬間……『ジトウ・ラ』は欲望を吐き出し『儀式』を終えた……
脱力した『ジトウ・ラ』がシズカの両脚を手離すと……脚は在らぬ方向に開き……力無く倒れる……
【Task.99 瓜生の蛭子】(17/27)
「……は……はは……」
涙が溢れる……
蹂躙……陵辱……苦悶……愚弄……
どんな言葉を用いても表現出来ぬ程に、シズカは身も心も弄ばれ……壊された……
両腕両脚を動かす事すら許されぬシズカに出来る事は……その瞳から止め処ない涙を溢れさせる事だけ……
長らく沈黙していた『キサラ・ナ』が口を開く。
「……何者か掛かりましたね」
『キサラ・ナ』は周辺の警戒の為に撒いていた『カムゴ・ク』の石偶が変態していくのを察知していた。
青銅鏡を取り出した『キサラ・ナ』は手を翳す……鏡面に映った人影は……蒼色と黄色の戦士。
「ふむ……『ヒト』ですか……いや黄色の方は……只の『ヒト』ではない……フフ……実に興味深い」
『キサラ・ナ』は黄色の戦士から、現代の『ヒト』とは違う何かを感じた。
しかし、今の『ジトウ・ラ』に、次の『儀式』を遂行するだけの余力は残っていない。
一先ずは、この何者かが到達する前に、撤退しておくのが無難である。
『キサラ・ナ』は『ジトウ・ラ』に歩み寄り跪く。
「『ジトウ・ラ』様、ご苦労様でした……そろそろ時間で御座居ます」
「ウ、ウン、オ姉チャン」
立ち上がった『キサラ・ナ』はシズカを侮蔑の眼差しで、全身舐める様に一瞥し……
「フフ、ではシズカさん、また後日お会いしましょう……『吉報』……お待ちしておりますよ」
その言葉と共に『キサラ・ナ』達は砂塵を巻き上げ……幻の様に姿を消した。
シズカの心に……いや、体の奥にすら爪痕を遺し……悪夢は去ったのだ……
「菜月ちゃんは先に『瓜生の蛭子』に向かってて!」
「えっー!蒼太さんは?」
「この『人型』は何者かの罠だよ……ここは僕一人で何とか食い止めるから……ね?」
十体程は居るであろう『人型』と対峙しつつ、二人は言葉を交わす。
「う……うん……早くしないと『瓜生の蛭子』どっか行っちゃうもんね!」
「菜月ちゃん、そっちは任せたよ!気をつけて!!」
「じゃあ行くね……蒼太さんこそ気を付けて!」
菜月は何度も蒼太の方を振り返り、林道を駆けて行く。
蒼太の姿が見えなくなった辺りでアクセルラーを取り出し『瓜生の蛭子』の位置を確認し直した。
「東に300m……」
菜月は林道を逸れ、林に分け入って行く。
200m……100m……50m……『瓜生の蛭子』は目の前だ。
木立を抜けると、雑草の生い茂る平地に出た。
「えぇっーと、この辺りなんだけど?…………っ誰!?」
菜月は草むらに横たわる人影を発見した。
「かっ!風のシズカ!?」
そこに居たのは衣服をボロボロにされ、傷だらけの躯を晒け出している『風のシズカ』であった。
「だ……大丈夫?」
菜月は恐る恐るシズカに歩み寄る……
「えっ……?」
菜月は、間近で見るシズカの姿に驚愕した!
有らぬ方向に曲げられた両腕……考えられぬ程に開け拡げられた両脚……ドス黒く変色した全身の蒼痣……
そして脚の付け根付近に……夥しい量の『血』と……白い粘液?
「……」
菜月は言葉を失い、体の震えが止まらない。
未だ幼さの抜けない菜月と言えど、女性として許し難い仕打ちを受けたであろう事は容易に判断出来る。
「……ボ……ボウケンイエロー……アンタらも……『瓜生の蛭子』……取りに来たんだろ……」
シズカが口を開く。
「い……生きてるの!?」
菜月は感嘆の声を上げ変身を解除し、シズカの元に駆け寄る。
「確かに菜月は『瓜生の蛭子』探しに来たんだけど……な……何で……こんな?」
「……『瓜生の蛭子』は……手に入れたんだけど……ハハ……ちょっとヘマしてね……」
シズカは笑って誤魔化すが、状況証拠が全てを物語っている……シズカは更に続けた。
「……ねぇ……アンタ一人……」
「うん……蒼太さんは今……変な『人型』と戦ってる」
「……『カムゴ・ク』……」
「カムゴ……ク?」
シズカは何かを知っている様だ……が、菜月は上手く言葉を掛ける事が出来ない……
「……あいつら……胸に渦巻きあっただろ……そこを狙うんだ……」
<<シズカは『人型』と戦って……やられた?……敵である筈の私に……何故……そんな事を……?>>
菜月は、シズカの真意が判らず混乱していた。
「……何してんの……早く……伝えてやりな……」
「え?う……うん」
口を動かすだけでも辛い筈の状況なのに……しかし、それだけで全てを信じろと言うのは………
<<いや……これだけで十分だ!>>
菜月はシズカを信じ、アクセルラーを取り出し、蒼太に通信を入れる。
「そ、蒼太さん……そっちはどう?」
「ちょっと苦戦中かな?何とか逃げ回ってるよ!ハハ!」
「あ、あのね……『人型』の弱点は胸の渦巻き……なんだって」
「え……『なんだって』……って?」
菜月が無意識に発した言葉……
その言葉には明らかに第三者の存在が垣間見得る。
しかし、菜月の置かれている状況が判らない今は……
「そ……そうなんだ?有難う!試してみるよ!」
何者による助言かは判らないが、選択肢は無いに等しい。
ここは……駄目元でやってみるしか無いであろう。
結果を確認してから、このまま『人型』を殲滅するか、リスクは有るが菜月の元へ行くかを決めれば良い。
蒼太はアクセルラーの通信を開いたまま『人型』を迎え撃った……
「さぁ来い!相手して上げるよ!」
言葉が通じているとも思えないが、蒼太の声に呼応し二体の『人型』が向かって来る。
まずは『ブロウナックル』で二体の『人型』の両腕を吹き上げ、胸をガラ空きにさせた!
そこをすかさず『サバイバスター』を至近距離から連続で撃ち込む!
蒼太の見事な早技で発射された光弾が、胸の文様に命中し二体の『人型』は衝撃で吹き飛んだ!
<<ズシャアアアア>>
菜月の助言通り、目の前の『人型』は砂塵と化し、大きな二つの砂煙を巻き上げ四散して行く。
「ふーん……これなら……」
この助言を菜月に与えた『何者』かは恐らく信用出来る……筈。
菜月の身の安全は万全では無いにしろ、ある程度は保証されている状況に相違ない。
通信を入れたままにしていたアクセルラーで菜月に呼び掛ける。
「凄いよ菜月ちゃん!これなら全部倒せそうだ!……で、菜月ちゃんの方は?」
「う……うん……まだなんだ」
歯切れの悪い返答……菜月に助言を与えた者と『瓜生の蛭子』は何らかの繋がりが……
「そうか……よし!じゃあ全部倒したら、また連絡するね!菜月ちゃんも頑張って!」
蒼太は、それ以上詮索する事を止め通信を切った。
菜月には教えてないが、先刻、祠を捜索した時に『瓜生の蛭子』を奪って行った者の見当は付けている。
「菜月ちゃんも相手が『あの娘』なら多分大丈夫だよね……さ、もうちょっと遊んで行きますか!」
続々と迫り来る『人型』の群れに対峙した蒼太は『ブロウナックル』を構え直し、ほくそ笑んだ……
「……どうだった……」
「うん……全部倒せそうだって」
「……そう……お返しが欲しいって訳じゃ無いけど……頼みが有るんだ……」
「何……?」
シズカは視線を外し宙を見つめたかと思うと、そっと瞼を閉じ……深呼吸する。
「……あのさ……アタシを……殺してくんない……」
終始俯いて、シズカを正視出来なかった菜月が顔を上げ叫ぶ様に、シズカは眼を見開いた。
「な!何言ってるの!?ダメだよ!そんなのダメだよ!!」
シズカは真顔だった……『忍』の死の掟なのか……『死』を選択させる程の地獄だったのか……
潤んできた菜月の瞳を見て……シズカは視線を逸らす。
「……ハ……やっぱ無理か……アンタらはアタシと違って……『そんな事』した事無いよね……痛っ……」
「もう……喋っちゃダメだよ」
「……体は動かないけどさ……この通り……口は元気……っ痛!」
「無理しちゃダメだって……ちょっと待って……ね」
菜月は震える手で『救急セット』からモルヒネを取り出し、シズカに注射する。
更に自分のジャケットを脱ぎ、シズカに掛けると菜月の瞳から……涙が零れた……
「……ア……アンタ……何泣いてんのよ……」
「うん……こんな事しか出来なくてゴメンね……ゴメンね」
「……変な奴だな……ハハ……後さ……左肘と両脚……外れちゃってんだよね……入れてくんない……?」
「えっ!?……う……うん」
菜月は馴れない手付きで、シズカの指示に従いながら、左肘と股関節の脱臼箇所をハメ込んだ……
「……痛っ……ヘッタクソだねぇ……アンタ脱臼も直した事ないの……?」
「うん……ゴメン」
「……やっぱ……ボウケンジャーは皆『甘ちゃん』だなぁ……仕方ないか……へへ……」
「うん……そうだね」
「……まぁ……ちゃんと入ったみたいだし……出来たら……右腕も頼める……?」
いつもは敵であるシズカだが、口調はともかく自分を頼ってくれている。
ズタズタに引き裂かれたであろうプライドを、気丈にひた隠そうとしている。
菜月は、そんなシズカの想いに応えねばと涙を拭いた。
「そうだね……右腕も固定しなくちゃ」
菜月はタンクトップの裾を裂いて三角巾の様に使い、骨折している右腕を固定した。
「……あーあぁ……服破っちゃって……アンタ……お腹丸見えじゃん……」
「いーの……別にこの位」
シズカの冗談に応えねばと思いつつも、この位しか返せない自分がもどかしい……
「……あのさ……『瓜生の蛭子』……そこに転がってるよ……」
「えっ!?」
「……別にお礼だとか……そんなんじゃないよ……だから……勝手に持って行きな……」
シズカの意外な提案……しかし、今なら納得出来る。
「えっ……うん……でも……本当にいいの?」
「……腕がこんなじゃ持って行けないからね……バカ……預けるだけだよ……また返して貰うからね……」
「ヘヘ……簡単には渡さないもんね!」
ようやく、シズカの軽口に応える事が出来、自身に安堵した菜月は傍らの『瓜生の蛭子』を拾い上げた……
「後で『返して』って言っても知らないよ!」
そんな菜月の言葉に、シズカの顔も心なしか明るくなって来る。
……と、菜月のアクセルラーが鳴った。
「ハイ菜月です」
「菜月ちゃん『人型』は倒したよ!ちょっと疲れたけどね……ハハ……今から、そっちに向かうけど……」
「ダ……ダメ!今は……」
菜月はシズカの方をチラと見る。
今のシズカの姿は、とてもではないが蒼太には見せられない。
「……そうか……で、菜月ちゃん『瓜生の蛭子』は?」
「うん……回収したよ」
蒼太のアクセルラーの画面からは、服の裾を破った菜月と……開封された『救急セット』が見て取れる。
「……そうか……菜月ちゃん……『一人』で運べる?」
「ん?もちろん菜月一人で大丈夫だよ…………っ!?」
<<あっ!?……もしかして……蒼太さん……『瓜生の蛭子』の事を言っているんじゃなくて……>>
蒼太は、モニター越しの菜月の表情の変化を見逃さず、軽くウインクした。
「……傷とか、壊れちゃってたりは……してない?」
「ちょ……ちょっと傷付いちゃてるんだけど……ね……菜月一人で運べるよ……大丈夫……任せて」
「じゃあ大変だけど菜月ちゃんに任せるよ……僕は林道の所で待ってるから……ゆっくりでいいからね」
「うん……蒼太さん……ありがとう……ちょっと時間掛かるかも知れないけど……ゴメンね」
モニター越しの蒼太は笑顔で、ゆっくり首を左右に振り……軽く頷いた……
「……ボウケンブルーだろ……別に良かったのに……」
「ダメだよ!……ちょっと待ってて」
菜月は辺りをキョロキョロ見渡す。
すぐ近くの岩場に湧き水を見つけると菜月は駆け出し、ハンカチを水で濡らすとシズカの元に戻って来る。
「体、拭かなきゃ」
「……い……いいよ……」
「じっとしてて!」
菜月はシズカの肌に残る血痕や粘液を拭き取り始めた。
「……冷たっ……帰ってから自分でやるから……」
「帰るって、どこに帰るの?」
「……そ……そりゃあ……」
「トリさんは看病なんか出来ないよ!」
「…………」
「はい、動かないで」
確かに、こんな姿で帰ってもゲッコウに迷惑を掛けるだけ……
今のシズカは黙って菜月に身を委ねるしか無い。
菜月は岩場とシズカの間を何度か往復して、体を拭き続けた。
まだ、シズカの肌には切り傷や蒼痣が残るが、それ以外の痕跡は綺麗に拭き取れた様だ。
続いて、菜月は自分のスカートに手を掛け「スッ」と下ろし始めた。
「……ちょ……ちょっとぉ……アンタ何してんの……?」
「ん〜?そのまんまじゃ、お尻丸見えだよ!菜月は『スタートアップ』するから大丈夫っ!」
菜月はスカートを脱いでしまい、破れたタンクトップと下着、ブーツだけという格好になった。
嫌がるシズカを無視して菜月は、ジャケットの袖を通しジッパーを上げ、スカートを脚に通す……
<<ジィィィィ>>
菜月は、シズカに自分のスカートを履かせる……が、なかなかジッパーが上がらない。
「……ア……アンタ……細いんだねぇ……って痛たたたーっ!」
「ゴメン挟んじゃった……なかなか、お腹通らないんだもんっ!」
「……そう言う事……サラッと言うかな〜?……フフ……ハハハハハッ!」
「プッ……アハハハハッ!」
二人は顔を見合わせ笑った。
体を拭いても……ジャケットとスカートで肌を隠しても……疵痕が消える訳では無い。
訳では無い……が……いや……だからこそ……二人は……
「さ、行こうか……スタートアップ!」
ボウケンイエローとなった菜月は、シズカの背を起こす。
そのまま、シズカの背と腿に腕を回し「ヒョイ」と抱えた。
「……『お姫様抱っこ』かぁ……どうせなら……格好良い男にでも……して欲しかったわねぇ……」
「ゴ・メ・ン・ねー!」
菜月は軽く駆け足で走った。
「……うわっ!危ないって!まだ痛いんだから……ゆっくり行ってよ!」
「ふーんだっ!そっれぇーい!!」
「う、嘘ウソ!アンタで嬉しいですーっ!」
<<…………本当アンタで……良かったよ……サンキュ……>>
木立を駆ける二人の頬を……風がすり抜ける……
「あれが『レムリア』の血……ですか……名は……『リリーナ』……か?」
山の中腹、岩場に立つ『キサラ・ナ』が遥か下方に向かって青銅鏡を掲げ、手を翳している。
青銅鏡は、その遥か彼方の風景を映し出し……シズカを運ぶ菜月の姿を……
『キサラ・ナ』は『長弓』を構え、弦を引く仕草を見せる。
「まぁ良いでしょう……楽しみは後に取って置くものです……フフ」
『長弓』を下ろすと、踵を返し木立に分け入って行く『キサラ・ナ』
そこへ足元の覚束無い『ジトウ・ラ』が現れる。
「オ、オ姉チャン」
「どうされました『ジトウ・ラ』様」
「ア、頭ガ、痛イヨ」
『キサラ・ナ』の顔が曇る。
「御心配要りませぬ……私が付いております」
『ジトウ・ラ』が跪き『キサラ・ナ』は髪を撫でてやる。
そして指先を『長弓』の弦で傷つけると、流れて出た血を亜麻色の石礫に一滴垂らす。
「さぁ……お飲み下さい」
血に濡れた石礫を唇に押し当てると『ジトウ・ラ』は「ゴクリ」と飲み込んだ。
『ジトウ・ラ』は先程までと違い、足元も確かに力強く立ち上がる。
「そう……『ジトウ・ラ』様には、まだまだ働いて頂かねばなりませぬ……さぁ……参りましょう」
深い森の中……人智の及ばない闇の中へ……二つの影が消えていった……
以上です。
17レス目で本文にタイトル入れてしまった……orz
連投規制対策にPCと携帯と交互に使ってみましたが面倒臭いですねw
次は違う回避策にしてみます。
18禁バージョンの完全版も、近々某板の陵辱スレに投下するつもりです。
初の18禁作品挑戦ですが、興味持たれた18歳以上の方が居りましたら、ぜひ宜しくお願い致します。
では、長々と駄文にお付き合い頂いた方、有り難う御座います。
住人の皆様、お目汚し失礼致しました。
>>227の【Task.99 瓜生の蛭子】(22/27)でコピペ時に行を入れ違うというミスを犯しました。
以下の様に訂正して、お詫び致します。
**********
「……どうだった……」
「うん……全部倒せそうだって」
「……そう……お返しが欲しいって訳じゃ無いけど……頼みが有るんだ……」
「何……?」
シズカは視線を外し宙を見つめたかと思うと、そっと瞼を閉じ……深呼吸する。
「……あのさ……アタシを……殺してくんない……」
シズカは真顔だった……『忍』の死の掟なのか……『死』を選択させる程の地獄だったのか……
「な!何言ってるの!?ダメだよ!そんなのダメだよ!!」
終始俯いて、シズカを正視出来なかった菜月が顔を上げ叫ぶ様に、シズカは眼を見開いた。
潤んできた菜月の瞳を見て……シズカは視線を逸らす。
>>233 本編では見られなかった菜月とシズカの友情、
真意の読みとれぬ新ネガティブ
非道なシーンの緊張感と女性陣の温かなムードのメリハリがあり、とても面白く感じました。
次回作が楽しみです。
職人さんに質問です
連投規制対策なのですが
・
>>233様のようにPCと携帯から交互に投下
以外に何か方法はありますか?
236 :
197:2007/06/25(月) 23:59:43 ID:sObFMbgr0
「その程度か!高丘ァ!!」
映士はサガスピアを巧みに操りギリギリではあるがガイの攻撃を受け流していた。
反撃の機会を伺うがガイの猛攻は止まらない。
同じ獣の血を引く映士ではあるが、純血の獣には力では負ける。
防戦が続き何度か獣の鋭い爪が映士の身体を掠った。
畜生、と頭の中で毒づきながら映士は跳躍し身を引き距離を取る。
「高丘よぉ…逃げ出すのか?」
舌で唇を舐めずるガイは映士を挑発する。
闘争心に溢れ楽しげに戦う姿はまさに“闘魂”の持ち主。
映士はサガスナイパーを構え銃口をガイへと向けた。
「んなもんは俺には効かねよ!!」
再び迫るガイに向かい映士はエネルギー弾を発射するがエネルギー弾はガイの素手で弾かれた。
「親父はもっと強かったぜ!!」
「だまれ!!」
憎々しげに吐き捨てた映士は迫るガイに向かい駆け出した。
黒い粒子を身体から放出させながら──
木に飛び移った真墨は息を整えながら注意深く辺りを見渡した。
身を隠したヤイバを探し緊張の糸は張りつめたまま。
手持ちの武器は少なく虚を突かれれば対応のしようが無い、
故に位置を悟られぬように時折場所を変えては捜索を続けている。
何故ヤイバが蘇ったのか?また何故このような場所に“飛ばされた”のか?
真墨は思考を繰り返すが考えはまとまらず、また見えぬ恐怖に思考に身が入らずにいた。
背後からヒュン、と風切り音が聞こえ真墨は急いで振り返ると青い甲冑が目の前に迫っている。
「くっ…!!」
迫るヤイバを避けるために体勢を崩しながら真墨は落ちていく。
それを猛追するヤイバは青い残像を残しながら真墨に迫る。
真墨は恐怖を覚えながらもまた新たな策を考えていた。
落ちゆく軌跡に黒い粒子を残しながら──
廃墟と化した工場内を駆ける蒼太は並ぶドラム缶の隅に隠れると息を殺し、追っ手の気配を探った。
まるで鬼ごっこみたいだ、蒼太は心の中で毒づき自らを嘲笑した。
一つの気配が足音を立てながら工場の中に現れた。
「出て来いよ、弱虫」
蒼太自身の声でありながら全く違う印象を持たせる声が足音と共に廃墟内に響く。
蒼太は押し黙り気配を消し、青年の様子を窺っている。
「死ぬのが怖いのか?」
まるで嘲笑うようかの口調が蒼太に突き刺さり、静かに蒼太は固唾を呑んだ。
「前に進むしかない、だなんて言うけど振り返るのが怖いだけなんだろ?ただの弱虫だな」
蒼太は目を瞑り、唇を噛みしめた。罵声に耐えるよう強く拳を握る。
「ゲームはおしまい。出ておいで、殺してあげるから」
子供のように無邪気な声色と口調は青年の残忍さを一層かき立てる。
蒼太は恐怖に身震いしそうな身体を抑えながらもじっと機会を窺っている。
だが、一瞬よぎった絶望が蒼太の精神を黒く染めた。
蒼太も知らぬうちに黒い粒子は宙に舞い消えていった──
「きゃっ!」
菜月の身体は魔女の剣により弾かれ地に叩きつけられた。
白い神殿の中を菜月と魔女がそれぞれ剣を手にし戦い続けていた。
菜月は受け身もそこそこに立ち上がり息を整えながらも両手で剣を構え直した。
「随分と辛そうですね…」
「そんなこと無い!!」
魔女の言葉に反論を返したが、実際菜月の体力はそれほど残ってはいなかった。
一方の魔女は息一つ乱さず、菜月の剣を受け流しては出来た隙を確実につき、菜月の体力を奪っていた。
彼女の脳裏には一つの疑問が浮かんでいた。
彼女と対する魔女は戦うごとに強くなっている、いや時間が経つほどに力が増大しているように思えたのだ。
「お気づきですか…姫君?」
魔女はニヤリと笑いを浮かべると彼女の手にする黄金の片刃剣をゆっくりと地と平行に持ち上げた。
すると何処からから現れた黒い粒子が片刃剣へと集まり黄金を黒く染めていく。
魔女はくくく、と笑いを上げると口を開いた。
「今、別世界で姫君の仲間が“自分の敵”と戦っています。そして、そこで生まれる憎しみ、絶望がこの剣の力となる…」
黄金は真っ黒に染め、邪気をまとわせた姿は圧倒的な存在感を見せつけている。
再び現れた黒き刃に菜月の背に恐れに似た寒気が走った。
「憎しみや絶望はこの剣を強化し、力を与える…人間だってそう。憎しみ、絶望が人を変え、新たな進化を生む」
「憎しみや絶望は何も生まないわ…生むのは争いだけよ」
黒い邪気が剣から迸り空に消え、魔女の長い髪を揺らした。
魔女は黒く変貌した剣を下手に向け両手で持つ。
「争いが武器を生み、武器が更なる争いを生む…姫君の持つ剣とて例外では無い」
「ズバーンは武器じゃないわ!私たちが争いを始めれば止めてくれる…大切な仲間なの!!」
魔女は憎々しそうに表情を歪めると黒いスパークを放つ剣を下から斜め上に振るう。
邪悪な剣からは黒い衝撃波が発生し凄まじい速度で空を切り菜月に迫る。
菜月は真っ向から衝撃波に向かい剣で受け止めるが衝撃波は諸ともせず菜月を吹き飛ばした。
よろける菜月の身体を掠った黒き刃は菜月の頬や脚、腕を傷つけながら勢いが衰えず、神殿の白い壁を大きく抉った。
倒れた菜月は上半身を起こし、剣を再び強く握ろうとするが傷ついた左腕に痛みが走り強く握れずにいた。
同じく傷を負った左足も力が入らず大きく体勢が崩れたまま菜月は立ち上がった。
これ以上魔女との直接的な攻防は出来ない、菜月は悔しさに唇を噛んだ。
「闘争心を失わずに立ち上がるとは流石です…ですがもう終わりです!この剣の全ての力、最期に差し上げましょう!!」
魔女が感嘆に叫ぶと剣に轟々と黒い邪気が集まり、勢いからか魔女の髪は激しく揺れる。
菜月は黄金の両刃剣を優しく握った。
「ねぇ、ズバーン」
菜月は優しく剣に語りかける。
「菜月はね、みんなの事も守ってあげたいし、レムリアの事も守りたい…たぶんそれが菜月の使命かなって思うの」
菜月は微笑みながら今、別の所で戦っているであろう仲間を思い浮かべた。
「菜月にはやり残した使命がある。その使命が終わるまでは菜月死ねないの…」
微笑んだ口元を戻し、真剣な表情になると菜月は強い眼差しで魔女を見つめた。
「だから、ズバーン!菜月たちに力を貸して!!」
柄に温かみが宿った刹那、黄金の刃部から光が放たれ、神殿内を光に包み込んだ。
身体は鋼によって創られた。
しかし、この戦いにおいて何度も軋み悲鳴をあげる程に痛みが走る。
劣勢にも関わらず自らを振るい続ける少女は歯を食いしばりながらも相手の振るう剣に立ち向かっている。
彼女は自らを作った民の最後の生き残りである。
また彼女を守るために遺されたのが自分自身である。
彼女の身が舞い地に叩きつけられるが諦めずに何度も立ち上がる。
彼女自身、先程の黒い刃により傷ついたが痛みを堪えているようだ。
カリバーンが目の前で邪気を放ち、唸りを上げている。
「ねぇ、ズバーン」
彼女は戦いの最中にも関わらず微笑んで自らに語りかけた。
「菜月はね、みんなの事も守ってあげたいし、レムリアの事も守りたい…たぶんそれが菜月の使命かなって思うの」
彼女にとっての使命は仲間とレムリアを守ることならば、
「菜月にはやり残した使命がある。その使命が終わるまでは菜月死ねないの…」
我の使命は、彼女を守り、負の英雄剣カリバーンを打ち破ること!
「だから、ズバーン!菜月たちに力を貸して!!」
仲間よ、我が力を使い、自らの敵を打ち払え!
古代に生まれし姫よ、我と共に敵を打ち破ろう!
姫のその強き願い、しかと受け取った──!!
「どうしたガイ!そんなものか!!」
攻撃に見切りを付け、映士は隙をつき反撃に回り形勢は逆転した。
獣の体力も底を尽きかけているがもはや本能のみで戦っているようだ。
今の状態ならば高丘流の術も効くが錫杖無き今は陣を描くのに時間がかかる。
戦いに終わりが見えそうになかった。
『仲間よ、我が力を使い、自らの敵を打ち払え!』
その声と共に映士の視界の端にきらりと何かが輝いた。サガスピアでガイを振り払い、光の束を掴む。
「これは…」
光の束は急に具現化し、錫杖へと姿を変えた。
錫杖を手にした映士はよろけながら立ち上がったガイを見て口を開いた。
「終わりにしようぜ!ガイ!!」
錫杖を手にした映士は術を唱えガイを束縛し、ゆっくりと近づいた。
「俺を魂滅しようと血は耐えぬ…わかっているだろう!?」
「アシュの血は確かに憎い事もあるがな、それでも俺様を迎え入れてくれる仲間がいる。
アシュが滅んだ今、仲間と過ごす時間が俺様の全てなんだ!!」
映士は唐獅子の目の前に立ち、両手で錫杖を握る。
「さらばだ、ガイ…高丘流、アシュ、魂滅!!」
錫杖の端が地に着いた瞬間、断末魔が響きながらガイは霧散し消えた。
残ったのは爽やかな風だけだった。
『仲間よ、我が力を使い、自らの敵を打ち払え!』
真墨は地を蹴って飛び上がり光源を掴み取った。
誰の声かもわからぬが妙な安心感と共にずっと近くにいたような親近感が真墨の中に湧き出した。
光源はラジアルハンマーと化し真墨の手の中にあった。
「こしゃくな!!」
対峙していた闇のヤイバは飛び上がる真墨を追い飛び上がった。
木の幹を蹴り方向を変え、別の木に飛び移った真墨はすぐさまスコープショットを取り出した。
真墨に続き方向を変えたヤイバに向かい鉤縄のワイヤーを放つ。
ワイヤーは迫るヤイバの腕に絡まるが、それだけではヤイバの動きを止めることができない。
真墨は近づいてきたのを確認するとスイッチを入れる。
ワイヤーに電流が走り、ヤイバは苦しそうに息を詰め動きが緩慢になった。
真墨はヤイバの身体をスコープショットごと放り投げ、落ち行くヤイバを追った。
「またこの手でお前を葬れそうだな!!」
落下しながら渾身の力でヤイバにラジアルハンマーを叩きつける。
ヤイバの落下の速度が増したかと思うとすぐ地に落ちた。
苦しげに火花を散らしながらよろよろと立ち上がるヤイバの前に着地した真墨はラジアルハンマーを構えた。
「最期に教えてやろう…光があるところに闇がある、光が闇を作りだすのだ…」
「最期に教えてやる!その闇を照らすのは光だ!!」
真墨が叫ぶとヤイバの膝が地を叩き、爆発が起こった。爆風が消えたとき、ヤイバの姿は跡形もなく消えていた。
「他の奴らは大丈夫か…?」
真墨は不安げに木々の合間から見える空を見上げた。
「畜生…」
青年はビルの物陰に隠れ、辺りを確認すると憎々しげに吐き捨てた。
先までは工場内に追いつめていたというのに、いつの間にか逃げられており街中を探し続けている。
人の気配すらも感じ取れない、その事は腕利きと言われた青年にとって屈辱的なこと。
青年は上着のパーカーを脱ぎ、ビルの陰から通りに向かい投げ捨てた。
パーカーはそのまま落ち、何のの反応も無い。青年は一息付き通りに出た。
「鬼ごっこは終わり、だね」
自分とよく似た声域の声が後ろから聞こえ、青年は銃を手に振り返った。
蒼太は振り返った青年の眉間にサバイバスターの銃口を突き付け青年の動きを牽制している。
青年は銃こそ手にしているが蒼太の牽制により銃口は横に向いたままであった。
蒼太はサバイバスターの引き金に指をかけており不審な動きがあれば直ぐに銃弾は放たれる。
「だまれ…ッ」
「…悔しいか?」
きつく蒼太を睨む青年に低く静かな声で尋ねるが、青年は答えずにいた。
「…自分のスリルだけを求めても強くなんてなれない。
本当の強さは正確な判断力と仲間を、人を思いやる余裕、熱い気持ちだよ。
僕の尊敬している人はみんなそうさ。昔の僕なんて二流以下さ…」
蒼太の言葉に青年は悔しげに舌打ちをし、口を開く。
「てめぇは結局のうのうと生き延びるのか…!?何も償わずに!!」
「本当に悲しいのは人々の流した涙を全ての人が忘れること、生きることは死ぬよりも苦しい、
だから僕は十字架を背負ったまま僕は生きるのさ。」
蒼太の言葉に青年は歯を剥き唸る。
銃口は眉間から外れることなく定まっている。
「それに知ってるか?偽善者みたいに見えるところで祈るんじゃなくて、
祈る時は隠れてしなさいって…懺悔は隠れてするものだよ」
幼子に物を教えるような明るい口調と声──それは単に嘲っているだけだが、
反して蒼太はゆっくりとサバイバスターの引き金を引く。
「目標が無いとき左に向かう癖、治したほうがいいよ」
言い終わると同時に銃弾が放たれる青年を貫いた。
青年は力が抜け後ろに倒れ動こうとしなかった。
「死のうとした時に止めてくれた人がいたんだ…」
蒼太は目を閉じ、今は遥かな旅路に付いた二人の背を思い浮かべた。
目を開くと手にしていたサバイバスターは黄金の粒子と化して消えた。
「そうか、」
蒼太は空を見上げながら、ありがとう、と呟いた。
空間全てを包む光は収束し、光源から菜月の姿が伺えた。
菜月が手にする黄金の両刃剣はなおも眩いほどの光が放たれている。
小爆発にも似た光は一瞬で菜月の身体を包み込み、柔らかな温かみを与え先ほどの満身創痍の身とは違い身体が軽くなっていた。
「ズバーン…ありがとう」
菜月の目の前には魔女と依然負のパワーを放ち続ける漆黒の片刃剣。
黄金の剣から放たれる力に魔女は目を見開き、顔つきが明らかに変容した菜月の姿にも驚きを隠せなかった。
「ズバーン、行こう!」
黄金の剣を両手で構えながら菜月は魔女に駆ける。魔女は剣を振るい菜月に対し、漆黒の衝撃波で迎え撃つ。
威力を増した衝撃波は地を深々と抉りながらも菜月の身体を横真っ二つに裂こうと迫り来る。
迫った漆黒の衝撃波を菜月は光り輝く剣で受け止める。
衝撃波は菜月の身体ごと剣を押し戻そうとし、それに負けじと菜月は力を込めた。
輝く剣は漆黒の衝撃波を切り裂き衝撃波は霧散し消えた。
「なんだと!!」
驚愕の声を上げる魔女に向かいまた菜月は駆け出す。
魔女は行く手を阻もうと衝撃波を繰り出すがたやすく蹴散らされ接近を許した。
輝く刃と漆黒の刃が甲高い音を立て交わる。
白と黒の残像を残す剣戟の応酬はまさに“しのぎ”を削る攻防を物語っている。
しかし、それも終わりに近い。
確実に魔女は圧され、徐々に綻びが見え始めていた。菜月は後ろに跳び間合いを取り、柄を強く握った。
「これで終わりよ…“ゴールデンクラッシュ”!!」
下手に剣を振りかぶりながら鋭い跳躍で魔女との間合いを詰める。
剣を下から上へ振るうとするとその剣を受け止めようと魔女は剣を振った。
白と更に黄金の光をまとった菜月の剣は魔女の漆黒に染まった剣をへし折り、そのまま魔女を斬った。
魔女は胸に大きな傷を負い、後ろに何歩かよろけながら歩き、
キン、と折られた剣が落ちた音がした後、膝が折れ地面についた。
息を上がらせながら菜月は魔女の表情を伺い驚いた。
「な…、なんで…?」
魔女は口元に微笑みを携え、表情は安らかであった。
魔女の口から一筋の血が流れ出したが、物言いたげに口を開いた。
「私が真に求めていたのは…永遠の平穏…死だったのかもしれません…」
「なんで…?」
途切れ途切れの苦しげな声を魔女は上げ、前に倒れそうになったのを菜月は跪き受け止めた。
「姫君、リリーナ様…貴女に伝えたいことがあります……」
魔女は虚ろで支えられながら菜月の瞳をじっと見つめた。
「レムリアの言葉で“リリーナ”とは…“太陽の子”…ご両親は貴女に…
万物を照らし…万物を導く者になって欲しいと…言っておられ…まし…た…」
魔女は苦しげに咳き込むと大量の血を吐いた。
顔や服が血で汚れるのを厭わず菜月は魔女を支え続けていた。
「駄目よ!お願い死なないで!!」
「貴女は…優しい人だ…私は…貴女の命を…狙ったのに…」
「そんなことどうでもいいの!!」
菜月の悲痛な叫びに魔女は優しく微笑んだ。
菜月は片手でポケットの中から救急キットを取り出し、処置を試みる。
キットの中から鎮静剤のアンプルを出したとき、魔女の冷たくなった手は菜月を制した。
「私は死ぬ…いや、早くに…死ぬべきだった…」
菜月の瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、手からスルリと落ちたアンプルは地に転がった。
「ねぇ…貴女の本当の名前は…?」
「…メディア…復讐の…魔女…転生術を繰り返し…生きてきた……」
メディアは再度血を吐いた。体温は急激に下がり、顔は青ざめていく。
「メディア!しっかりして!!メディア!!」
菜月は首を横に振りながらメディアに声をかけるが、
メディア自体もう耳が聞こえないのか目の輝きが消え、手を菜月の頬に添えた。
「貴女は…万物を…照らし、導く……太陽…であってほしい……リリーナ様…
貴女は…黄金に輝く明日…の創造者…なのです…から……」
言い終わるとふっと微笑み、メディアの力が抜けた。
倒れ込んできたメディアの身体を菜月は抱きしめ、メディアの長い髪に顔を埋め嗚咽を漏らした。
辺りはメディアの結界が解かれ夜闇に包まれていた。
菜月は仲間が見守る中、メディアのその冷えた身体を抱きしめていた。
風は無く、ひっそりと静かな夜に菜月の悲しい嗚咽が響き続いた。
250 :
197:2007/06/26(火) 01:39:48 ID:IKRWF5aH0
長々と申し訳ありません。これが一連のラストです。
話の大筋は決まっていたのですが途中でスランプに陥り書けねぇぇぇぇぇ!!になってました・・・
ネタが少々ながらあるのでまたいつか投下しに参ります
お目汚し失礼いたしました
>>235 駄文にお付き合い頂き、ご感想まで頂いて有難うございます。
感謝感謝です。
前半、後半は敢えて描写を変えてみたのですが、メリハリがついていたとの事で内心ホッとしておりますw
今回、1ヶ月半程要したので、次回はいつになるか解りませんが、何とか伏線回収に努めたいと思ってます。
>>236ー250
菜月の強い愛に感動!
アクション描写、心理描写の的確な筆致。
改行、段落ともに思案された跡が窺えるバランス良い構成。
気持ち良く読み進む事が出来ました。
完結との事で「続きが気になって仕方ねぇぇぇぇ」と言えず残念ですがw
次回作、気長に待ってます。
252 :
名無しより愛をこめて:2007/06/28(木) 00:50:00 ID:rO8nOPkwO
253 :
名無しより愛をこめて:2007/06/29(金) 03:51:33 ID:GiK6C7Qs0
>>252 有り難う!
頑張って次回作の構想練ります。
地球でのミッションもいいけど宇宙ミッションのも読みたいなーってことでどなたか職人様宜しくお願いします!!
>>254 俺は元スレにあった様なギャグ短編が読みたい↓
16 名前:名無しより愛をこめて[] 投稿日:2007/02/12(月) 13:38:18 ID:/LnXtbVGO
明石「『熱き』冒険者!ボウケン『レッド』」
さくら「『深き』冒険者!ボウケン『ピンク』」
明石「『果て無き』冒険魂!轟轟戦隊ボウケンジャー!!」
さくら「…………明石さん…やっぱり毎回これ言うの辞めませんか…」
明石「いや、これをやらないと俺のプレシャスのハザードレベルが上がらないんだ。さぁミッションスタート!アタック!!」
さくら「……はぁ……(私のプレシャスのハザードレベルは下がりっぱなしです)」
17 名前:名無しより愛をこめて[] 投稿日:2007/02/12(月) 13:45:20 ID:unuVytIj0
明石の熱き冒険者はさくらの深き冒険者へといざなわれてゆくのであった。
18 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 13:47:10 ID:unuVytIj0
そして果て無き冒険スピリッツ。
19 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 13:50:18 ID:/YqHO0C7O
「迅き冒険者」と「強き冒険者」すらあっちの意味に聞こえてきて困る
20 名前:名無しより愛をこめて[] 投稿日:2007/02/12(月) 13:58:58 ID:/LnXtbVGO
経験値が高そうな蒼太が「高き冒険者」なのも意味深w
「眩ゆき冒険者」って?
21 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 13:59:42 ID:unuVytIj0
>>20 そりゃあ透過光でんがな。
22 名前:名無しより愛をこめて[] 投稿日:2007/02/12(月) 14:21:06 ID:/LnXtbVGO
明石「熱きシンボル!充血レッド!!」
真墨「迅き持続時間!黒光りブラック!!」
蒼太「高き経験値!血管浮き出てブルー!!」
菜月「強き魔性!色素沈着イエロー!!」
さくら「深き天井!ほんのりピンク!!」
映士「眩ゆき透過光!…………って俺様だけお題が難しいだろー!!」
23 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 14:44:52 ID:3soY/njbO
ゲイ用語に銀マラというのがあってだな・・・。
24 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 14:48:02 ID:1e0yH3YJ0
>>22 神々しいほどにテカっていると思われw
27 名前:名無しより愛をこめて[] 投稿日:2007/02/12(月) 15:20:27 ID:/LnXtbVGO
映士「眩ゆき銀○ラ!テカりシルバー!!」
リュウオーン「ほぉ…なかなか良い銀○ラだな」
ヤイバ「フフ…銀○ラは頂いた!」
クエスター「高丘のぉ〜お前が銀○ラだったとはなぁ〜」
ガジャ「銀○ラ♪銀○ラ♪」
映士「や、辞めろ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
明石「ん?どうした映士…こんな所で全裸で倒れて…ははぁ、さてはお前も服無き全裸魂に目覚めたか!!」
映士「……う、うぐぅ(ち、ちょ!違う!!)……」
使い方あってる?
38 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 22:07:44 ID:HUi3yFA30
月に続き火星のプレシャス確保後
明石「次は木星だ!行くぞ!」
さくら「はい!…あ!明石さんアステロイドベルトでSPDが検問やってますよ。」
明石「構わん!正面突破だ!」
さくら「はい!…………ん?えぇぇぇぇ!!!!」
バン「オイ!そこの宇宙戦艦止まれー!」
数日後
TV「…太陽系連続プレシャス窃盗犯が逮捕されました。自称冒険者の明石暁容疑者(25)。容疑者はプレシャス窃盗については認めつつも『盗ったんじゃない確保したんだ』『ミスターボイスを呼べ』『これもちょっとした冒険だ』などと訳の判らない供述をし…」
映士「ぶわーはっはっはっはぁぁぁぁ!!!!明石の奴つかまってやんのーWWWW」
菜月「さくらさんは出られて良かったねー☆」
蒼太「そうそう蒼太!SGSと西堀財団が協力すれば保釈金くらい訳ないですよ…でいくらでしたっけ?」
さくら「…はぁ…5000億です…」
牧野「明石くんには出せない額ですねぇ。」
ボイス「SGSは出さないよ。無関係だからね。」
真墨「…………orz」
40 名前:名無しより愛をこめて[sage] 投稿日:2007/02/12(月) 22:37:10 ID:U2rHna1L0
>>38 その後ボーゾックの協力で脱獄する明石
「これもちょっとした冒険だな」
面接ネタが生まれてからは、元スレでもギャグ短編が見られなくなったので寂しい……
……ってことでどなたか職人様宜しくお願いします!!
今度のレンストに漏れの大好きなデンジレッドが出るよ記念で、とりあえず予告だけでも…
Task.D デンジ星の遺産(○月×日放送)
微弱だが強力なプレシャス反応をキャッチして、荒廃した星に降り立った明石とさくら。
そこで二人は、ベーダー一族と名乗る怪物に襲撃される。窮地に陥った二人を救ったのは、
かつて地球に飛来したベーダー一族と戦った、「デンジマン」と名乗る五人の戦士たちだ
った。一方、地球でも、東京の荒んだ大気を吸収し、ベーダー一族の残党が目を覚ましつ
つあった。
クロスオーバーネタかな?読みたい気もするが純粋に宇宙プレシャス回収ミッション系が読みたいっす。
261 :
名無しより愛をこめて:2007/07/04(水) 04:39:10 ID:8z1ZpOX6O
宇宙ネタ?
またクレクレ赤桃厨か
いい加減にしろ
赤桃厨とか言う以前にageてるお前がいい加減にしろ。
まぁまぁ……気持ちは判るがスルーしときましょうよ
多分、元スレ住人と思うけど、元スレ落ちたのが余程腹立たしいんだろうな……
ここは厨もアンチも無く、マターリ平和だから嫉妬してるんでしょ
まぁ敢えて言えば、今はシズカネタと菜月ネタがこのスレの主流かな?
職人様は気になさらずに得意なネタを投下して下さいねー
シズカや菜月は本編で深く掘り下げられてないから書きやすいのかな
マターリしてるこのスレ好きだ
自分は想像力乏しいから宇宙探索系思いつかなくて地上での話ばっかになってるww
今は真墨と蒼太メインの話を構想中だけど書き終わったら宇宙探索系も頑張ってみるよ
宇宙行ったのは赤と桃だから仕方ないと思う……。
というか宇宙編と聞いたら、ただ宇宙船の中でひたすら
赤桃がいちゃいちゃしてるとこしか思いつかないおまえの想像の
貧困さに俺が泣いた。
ボウケンプロのナイスコンビで宇宙のプレシャス回収やら
異星人と遭遇とか、かなり面白そうですよね〜
職人様、宇宙探索編もどうぞよろしくお願いします!!
とりあえず宇宙の小惑星で赤桃がジャミラと遭遇。泣けるで。
まあさぞやボイジャーの中でセカイ系なことしてんだろうなあの二人。
しかしボイジャーというネーミングは最初からあのラストを考えてたんだろうか。
そして宇宙人に改造されてヴィジャーを名乗って帰ってくるんだろうか。
トレッキー!
未だに元スレ住人が居ると思いこんでんのがスゲー
ほとんどの住人が元スレって何?どこ?状態だろうに
>>多分、元スレ住人と思うけど、元スレ落ちたのが余程腹立たしいんだろうな……
▲
未だに元スレ住人が居ると思いこんでんじゃねえぞダセエ粕共が
勝手に決めつけてんじゃねえぞオラァァエ―――――――――ッッ
ほとんどの住人が元スレって何?どこ?状態だろうが・・・必死だな雑魚共が
まったく…ときめくぜ
>>268 必死すぎてツマランよ
今、特板で煽りと言えば昭也風だろwwww
>>268以外の住人の方全て
マターリ空気を汚されて、つい我慢ならず感情的にスレ汚ししてしまいスマソ……
>>264 確かに宇宙編は難しいですよね、自分も最近は地上編ばかりでw
真墨と蒼太メイン編も難しいとは思いますが期待してます!
271 :
名無しより愛をこめて:2007/07/07(土) 05:34:43 ID:OlH41yY3O
糞スレ
太陽系を脱出し、まだ見ぬ宇宙のプレシャスを探索する明石とさくら……
さ「明石さん!RB26星系から大量のDETT波が検出されています!これは大発見ですよ!」
明「そうか……ハザードレベルはどの位だ?」
さ「これは凄いです!既存の宇宙物理学を覆す……って、スイマセン!ハザードレベルは0です」
明「プレシャスでは無いんだな?」
さ「ハイ。プレシャスではありませんが大発見です!早速、調査しましょう!」
明「スルーしろ」
さ「え?」
明「プレシャスで無いならスルーしろ……これは命令だ!」
さ「えぇぇぇぇ!!!?」
こんなんしか思いつかないw
ぶった切りワロスw
太陽系を脱出し、まだ見ぬ宇宙のプレシャスを探索する明石とさくら……
さ「明石さん!CA18星系にはブラックホールが観測されてます!危険です引き返しましょう!!」
明「そうか……で、CA18星系から発振されているハザードレベルはどの位だ?」
さ「これ以上接近するのは危険です!今なら間に合います……って、ハザードレベルなんかどうでも良いでしょう!!」
明「プレシャス反応は検知されているんだな?」
さ「ハイハイ!ハザードレベルは『4』です!!スルーして構わない小物です!直ぐに、脱出しましょう!!」
明「突入しろ」
さ「え?」
明「どんなに小物だろうが、プレシャスが有るなら突入しろ……これは命令だぁぁぁぁ!!!!」
さ「テメェ一人で逝けぇぇぇぇ!!!!」
暁「あの冷酷無残な人類が、このような芳醇なプレシャスを作る……文明の魔性というやつだ」
さくら「シャッキリポンとしたこの手応え!」
虹一「この大馬鹿者!この足跡はイエティの証拠だぞ!それを消してしまいおって!
この足跡程の価値もないお前が!死ね!死んで償え!」
牧野「これは凄いよ!明石君!!」
ここから先が思いつかん、誰か頼む……orz
ま、姐さんなら例えブラックホールの中でもチーフに着いていくんだろうな。
277 :
名無しより愛をこめて:2007/07/15(日) 19:28:26 ID:WeHhAap8O
age
牧野がかけよった所には、見たこともない獣の骨が。
「これは凄い発見ですよ!」
その横では明石親子の壮絶なる親子喧嘩が行われている。
明石虹一はイエティの足跡をひたすらたどってやってきたが、
プレシャス探索で4日間飲まず食わずだった暁とさくらが
熊だと思って格闘してさばいてステーキにして食べていたのを
発見してしまい怒り心頭。
ではさくらさんより何かコメントを。
「ええ、美味しかったです。肉には臭みもなくて……」
頑張ってみましたがこんな程度ですた。スミマソン。
ボウケンジャー版おいしんぼ!GJ。
280 :
名無しより愛をこめて:2007/07/16(月) 09:00:52 ID:NbX0PaVEO
山岡…暁
栗田…さくら
海原…虹一
富井…牧野
までのキャスティングはともかく、後が難しいな
真墨…京極
な訳ないしw
>>278 さくらのために格闘するチーフモエス。
(姐さんは「私、食べる人」なイメージ)
しかしその後の父子喧嘩は子供っぽい応酬炸裂とみた。
282 :
233:2007/07/17(火) 06:02:24 ID:UksWBLIZ0
283 :
名無しより愛をこめて:2007/07/18(水) 19:20:36 ID:52hmn/qKO
親子喧嘩の横でチーフに着くかお義父様に着くか苦悩する姐さんが想像できた。
「ねぇねぇチーフとおじちゃんなんで喧嘩してるの?」
姐さんはどこ行った?www
喧嘩仲裁してるんじゃない?
さ『チーフ…いえ、明石さん!落ち着いてください!お義父様も!冷静に!』
290 :
【Task.0196 ぶった斬るその名はダイチョウリュウ】:2007/07/26(木) 18:59:52 ID:dfp8QX5H0
暁「くそっ! 宇宙のプレシャス『Zメタル』で生み出されたロボの力がこれほどとは……!」
さ「それに迂闊に手を出せば、融合したタンカー内のガソリンが爆発して大惨事に……」
映「承認はまだか! こういう時のために追加されたのが、ゴーゴーファイヤー・ゴーゴークレーンの合体機能だろう!」
牧「しかし……、成功確率は30%。失敗すれば街は壊滅ですよ」
ボ「このままでも壊滅だ! シンメトリカルフォーメーション、承認!!」
真・映『よし!!』
「――合体シフト、オン! ファイヤー、クレーン! シンメトリカルフォーメーション!!」
真・映『完成! ダイチョウリュウ!!』
……この後どうしよう……。どなたかお願いします。
291 :
名無しより愛をこめて:2007/07/26(木) 18:59:58 ID:Q0HshmMQO
保守
すいません、sage忘れました。
なんでガ〇ガ〇ガーネタかが解らん。
>>290 ぶった斬り乙
ただ言いたいのは
ボ「シンメトリカルフォーメーション、承認!!」
ではなく
ボ「シンメトリカルフォーメーション、承ぉぉ認んんんんんんんん!!!!!!!!」
であるという事だ
>>290 続きを頑張って考えてみようとしたのですが、
メカ!ロボ!って全然わかりません!!
だ、ダメだあああ〜〜
どなたかよろしくです!!
がオが胃がーも知らないぜシクシク。
ダイチョウリュウって大超竜???
大長竜??
続きは無理だがボイジャーに代わる新ロボ登場編なら何とか……
297 :
名無しより愛をこめて:2007/07/31(火) 23:26:00 ID:e4N43GRJ0
ボイス「バーニングレジェンドダイボイジャー!発動承認!!」
さくら「了解!バーニングレジェンドダイボイジャー、セーフティデバイス、リリーヴ!!」
なんだと
作品待ち+保守
明石チーフ、さくら姐さんに換わる新レッド新ピンクを思案検討中。ちなみに高岡の新チームも。どなたかアイデアをください。
つ面接スレ
あと「高丘」な
303 :
名無しより愛をこめて:2007/08/23(木) 13:00:04 ID:9fUCWUstO
>>300 面接スレとは違うんだよね?ならば待つのみ。
で、age。
304 :
名無しより愛をこめて:2007/08/25(土) 22:48:55 ID:OO0bioIvO
愛知のキチガイ脳糞古川は神だと思っている。
半年ほど前の正月休みに両親と愛知のキチガイ脳糞古川の実家(もんじゃ焼き屋)に 食べに行った時の話。
両親と3人で鉄板を囲んで食事をしているといきなり脳糞古川が玄関から入ってきた。
もんじゃ焼き屋に似合わない勝勝負服ないでたちで。
脳糞古川が「私いつもの〜」と言って二階へ上がろうとすると、
店内にいた高校生集団が「脳糞古川さん!」「脳糞古川さんかわいいー!」などと騒ぎ出し、
脳糞古川が戻ってきてくれて即席サイン会になった。
店内に13、4人ほど居合わせた客全員に店内にあった色紙を使い サインをしてくれた。
高校生達が脳糞古川の母校愛知のキチガイ高校トラウマ部だとわかった脳糞古川は いい笑顔で会話を交わしていた。
そして脳糞古川は「またね〜」と二階に上がっていき、店内は静かになった。
私と両親は脳糞古川の気さくさとかわいさに興奮しつつ食事を終え、会計を済ませようとレジに向かうと、
店員さんが階段の上を指差しながら 「今日のお客さんの分は出してくれましたから。また来てくださいね」と。
あれには本当にびっくりした。
だからカズコピペは一箇所だけカズの名を残せと何度言ったら……
素人がカズコピペに手を出すな!
某日。香港屈指の有力者ヤン氏の死と共にヤン氏の企業が総崩れとなり
会社の買収や邸宅の差し押さえが進むなか、ヤン氏所有の美術、骨董品なども
売買に出され、そのうち、かなりいわくつきの商品が
マカオのカジノで極秘にオークションにかけられるらしいとの情報があった。
時を同じくして、香港島での謎の巨大ロボ戦が繰り広げられ、その後、
街の立て直しなどのゴタゴタもあり、警察やレスキュー、
そしてサージェス香港支部での人出が足りず、
日本支部に協力の要請があったのだ。
Mrボイス「プレシャスがどんなものかはわかってないらしいんだけど、
どうやら花の形をしたものや女性の顔をしたものとか、何かの部品のような
ものらしいね。はっきりと危険なプレシャスだとわかれば、回収しなければ
いけないよ」
蒼太と菜月はマカオのカジノの従業員として潜入し、
真墨と映士は客として潜入することとなった。
菜月「わ〜い海外旅行って初めて〜!」
真墨「お前なあ、遊びじゃあ……思えばよくパスポートとれたよな…??」
蒼太「そこはそれ、なんとでもなりますって。」
映士「オイ待てよ、俺様は日本語しかしゃべれねえんだからな。」
牧野「もちろん、私も鑑定師として同行しますよ♪」
全員「え…?」
オークションの噂はネガティブシンジケートにも流れていた。
知った顔も登場するであろう。
香港で暴れた謎の巨大ロボと関係ありげな大企業にも動きがあるとの情報もあり。
たくさんの波乱をかかえ、新チーフのボウケンジャー、ミッションスタート!
アタック!
電映版ゲキレンジャーその直後のお話として書いてみました。
作品待ちの間のつなぎとして見ていただければ嬉しいです。
どなたか面白い続きをよろしくお願いします。
いやあれは個室ダイニングだったハズだぞw
つか黄色い悪魔の続編読みたいな〜
310 :
【Task.予選九位 洗顔の迷子空港】:2007/08/29(水) 22:25:38 ID:akkX1qbL0
チーフかなりキョドってたなw
312 :
名無しより愛をこめて:2007/09/06(木) 16:29:00 ID:BpF53qRRO
新作待ちage
>>203-216 >>220-232 >>234 の【Task.99 瓜生の蛭子】作者です。
次回作宣言したものの、なかなか進まない状況が続いています。
代わりと言ってはなんですが【Task.99 瓜生の蛭子】の後日談の短編を書いてみました。
では、投下致します。
<<コンコンッ>>
病室の扉をノックする音で、うたた寝をしていた菜月は目を覚ます。
「ん?ふぁ〜あ……ハイ、ちょっと待って下さぁい」
菜月は椅子から立ち上がり、シズカの眠るベッドをカーテンで覆い隠すと扉の方へと向かった。
菜月が白い引き戸を開けると、廊下には少女の姿のレオナが一人で立っている。
「イエローちゃん『風のシズカ』はどんな様子?」
「うん、良く眠ってるよ」
「良かった……少しいいかな?中じゃ……ちょっと……」
レオナの言葉に、菜月は静かに扉を閉め、廊下に出た。
二人は病室の向かいの長椅子に腰掛ける。
「とりあえず検査結果出たよ。陰性……大丈夫だって」
「そぉ……良かっ……た」
安堵した菜月は、壁に背中をもたれ掛けて大きく息を吐いた。
「後は全治3ヶ月って所。機能障害も無いし、傷跡も残らないだろうって」
「うん……で、敵の事は解ったの?」
菜月の問いにレオナの顔が曇る。
「イエローちゃんの気持ちは判るけど、サージェスは其処まで干渉出来ないんだ」
「だって!だって……このままじゃ……」
それ以上の言葉が見つからない菜月の瞳には、うっすらと涙が見て取れる……
「参ったなぁ……」
『ボイス』の姿を借りていればともかく、目の前で菜月の涙を見せられては、レオナと言えども……
「今は、牧野さんとブルー君に任せようよ……ね」
一見、一時しのぎの言葉だが、レオナにとっては最大限の譲歩である。
菜月は、そんなレオナの言葉に応え顔を上げた。
「うん、そうだね……」
シズカの回復を待てば、敵の情報は得られるであろうが、今は牧野と蒼太の調査結果を待つより他無い。
「今はブラック君もシルバー君も居ないし、焦っちゃ駄目だよ」
「そうだね……そうなんだよね……」
菜月は自分の心に言い聞かせる様に呟いた。
「また新しい事が解ったら報告するよ。イエローちゃんは傍に付いててあげて……それじゃ」
レオナは立ち上がり、振り返る事も無く廊下を歩いて行く。
レオナを見送った菜月は、不意に立ち上がると自分の頬を「パンパン」と両手で叩いた。
「しっかりしなくちゃ!」
菜月は再び病室に入ると、ベッドの傍らの花瓶を手にする。
「お水換えてくるから、待っててね」
菜月の言葉に気付く事も無く、窓際のベッドに横たわるシズカは穏やかな寝息をたてていた……
<了>
お目汚し失礼致しました。
では……
>>316 最初に言っておく。
もし続編も18禁内容であれば 当 該 ス レ で や れ