裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ

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1名無しより愛をこめて
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/l50

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、有志の方が
スレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
2名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 11:23:34 ID:e7onrh6J0
【過去スレ】
裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/l50(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/l50
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/l50(DAT落ち)
3名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 11:24:06 ID:RuSgY7vY0
【過去スレ】
裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/l50(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/l50
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/l50(DAT落ち)
4名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 11:26:12 ID:RuSgY7vY0
裁鬼達は人知れず戦っている

裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある

今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼達は戦う

○色んなな鬼のSSドシドシ募集中
○DA、クグツもおっけ!
5名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 11:27:15 ID:RuSgY7vY0
>2
ごめん被った
6名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 11:40:16 ID:RuSgY7vY0
SSに彩を添える絵師もよろしく(まとめサイトにて)
年表とかをまとめる整理屋も募集中

こんなもんかな?
7名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 12:59:52 ID:wbkqD4jPO
うんちぶりぶり
8:2006/02/15(水) 13:06:27 ID:Fcm/DPU1O
どんな小説だよ
9名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 14:13:01 ID:wbkqD4jPO
うんちぶりぶり
うんちぶりぶり
10名無しより愛をこめて:2006/02/15(水) 21:22:34 ID:UxdapxZ90
職人さん達は気づいたんか?
11弾鬼SSの筆者:2006/02/15(水) 22:34:34 ID:0GCcO6bC0
>>1
スレ立て乙です!

スレタイもリニューアルされましたね。

早速ですが、新スレ第一発目!今から投下させて頂きます。
12皇城の…:2006/02/15(水) 22:35:07 ID:PBI7d02x0
皆様スレ立てお疲れ様です。
m(__)m
13番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:37:10 ID:0GCcO6bC0
神奈川県」・横浜市/
とあるマンションの一室。幼い女の子が、母親に何かを謝っていた。
母親は、うつむいて謝る娘の頭を撫でてやりながら、やんわりと言い諭した。
「無くしてしまったんだから、仕方ないけど。いい、今度何か無くしたらお説教だからね?今回の事はしっかりと反省すればいいから」
何かを無くしてしまった為、母親に謝罪していた女の子はその言葉を聞いて、母親に飛びついていった。
「全く、甘えん坊さんねぇ。さぁ、涙を拭いて。明日にはおばあちゃんの家に遊びに行くんだから、いつめでもメソメソしてたらおばあちゃんも心配して泣いてしまうでしょ?」
そういいながら、母親は娘の背中を優しく擦ってあげた。

どこにでも有る、家庭の一日。そしてその一コマ。
日常とは一コマの継ぎ足しで、構成される物なのだ。

四之巻 『間に合わぬ力』

埼玉県・宝登山/
『音撃射・暴風一気!行くよっ!』
木々の開けた空間に佇む勝鬼は、魔化魍イッタンモメンに向けて音撃を放った。音撃管『台風』から放たれる清めの音は、イッタンモメンに打ち込まれた鬼石により増幅され、内部からイッタンモメンを攻撃した。
内部をグチャグチャにかき回される。イッタンモメンにしてみれば、清めの音と言うのはそう感じる物であった。
即爆砕とまでは行かないが、それでも終りは近づいている。イッタンモメンは清めの音を発している勝鬼目掛けて、尻尾の触手を伸ばした。
だが、勝鬼に触手が届くより早く、イッタンモメンの体に限界が訪れ・・・・触手共々爆砕した。
周囲に散らばるイッタンモメンだった塵芥は、風に散らばり・・・・その場から消えつつあった。
『ふぅ・・終りっと!』
顔の変身を解いた勝鬼は、彼の背後でサポートに徹していたダンキに例を言いながら近づいた。ダンキはその礼を聞き、笑いながら弾鬼にタオルを放り投げた。
「また、腕上げたじゃん。俺のサポート出る幕なんて無かったし」
「そんな事無いよ。今回のは思ったより成長が早くなかったからね。全てが上手く行っただけさ」
勝鬼は受け取ったタオルで顔を拭きながら、ダンキと並んで歩き出した。
「そういえば、ダンキ君。体の具合はどうかな?」
「ん?あぁ、今のところ快調だな。針を喰らった太ももがチョット痛ぇけどね」
14番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:40:03 ID:0GCcO6bC0
ダンキは先日、埼玉県・武甲山にてイレギュラーなヤマアラシと戦った。童子と姫はそれぞれ武者童子と鎧姫に変異し、ダンキに襲い掛かってきた。
ダンキも応戦し、何とか童子と姫を倒したが、その時点で負傷は大きかった。それでも、ヤマアラシに戦いを挑み、太ももにヤマアラシの大針を受けたが、成長途中の為ヤマアラシも本領発揮できず、何とか倒す事が出来た。
今回ショウキのサポートに就いたのは、体を休める為の休養をもらったのだが、逆に落ち着かずショウキのサポートを請け負ったのだった。
休める時に体を休ませるのがプロと言う物だが、ダンキはソレを拒否し『猛士』としての仕事を優先させたのだった。
「さて、早いトコ戻るか。安藤の奴も待ってるだろうしな」
「そうだね。イッタンモメンの写真撮れた?」
ダンキに着いて来ており、やはり危険ということで留守番を任した千明から、イッタンモメンの写真を頼まれたのだった。
「あぁ。ピンぼけしてたら張り倒されるかもな。聞いてくれよ!この間、俺が持ってる資料の一部見せたら激怒しやがったんだぜ!?ヤマビコを妖精か何かと思ってたら、あんな風貌だろ?
『こんなサルがヤマビコなワケあるかぁぁ!』って・・・俺のせいじゃないってのに・・はぁ」
「あっははは!でも、それは仕方の無い事なのかもしれないね。妖怪マニアなんでしょ?一般のイメージと魔化魍のイメージって凄く違うからね・・・僕も一番最初にイッタンモメン見たときは唖然となったからね」
二人は談笑しながら、その場を立ち去って行った。

「全く!信じられない!これが・・・これが、イッタンモメンだって言うの!」
案の定、千明はイッタンモメンの写真を見て激怒した。
「これの!どこが!一反の!木綿!だって言うのよ!ただのエイにツバメぶち込んだだけの融合生物じゃないのよぉ!見世物の河童のミイラじゃ無いって〜の!」
言ってはいけないことを言ってしまった千明に、助手席のショウキは笑いながら「そうだよねぇ」と同調した。
「この分だったら・・・・雪男や雪女・・小豆洗いも期待できそうにないわね〜」
がっくりとうな垂れる千明。
15番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:41:22 ID:0GCcO6bC0
車は山道を下り、次第に民家が目に付くようになってきた。
信号に引っかかり、停車する。ハンドルを握るダンキは窓の外に広がる、ある光景を見てショウキに指し示した。
今日は土曜日。
庭先には、小さい子供2人が元気いっぱいに走り回って遊び耽っている。だが、片方が転んでしまい大泣きしてしまった。もう片方の子が家に飛び込み母親を呼んできた。
母親は泣きじゃくる子供を優しく撫でてやり、呼んだ子供も同様に撫でてやった。
幸せな家庭の・・何気ないやり取り。
ダンキとショウキはその様子を見て、自分たちの仕事が世に確実な効果をもたらしている事を改めて再確認した。
千明は、未だ落ち着かない様子でカメラの液晶を睨みつけていたが、ダンキとショウキの面持ちに気が付き、何事か尋ねた。
「どうしたの?ダンキ君もショウキ君もニヤニヤしちゃって・・・かわいい娘でも居た?」
「あはは、違うよ。ほら、あの庭先」
「普通の・・家庭だと思うけど?」
「ん〜、そうだね。でもさ、ここから少し上がった山にイッタンモメンはいたんだよ?僕らが間に合わなかったら・・・・ね?言いたい事解るでしょ?」
ショウキはシートから振り返り、千明にそう説明した。
千明は屈託の無い笑顔と、説明を受け・・ようやく理解した。
「・・・日常を護った・・そういうこと?」
「うん!僕達の活躍は一般に知られてないけど・・・それでも確実に効果は出てる!それって素晴らしい事だと思わない?」
「そうね。何気ない日常だけど・・・・やっぱりかけがえの無い物なのよね・・・」
千明は窓ガラス越しにカメラを向けて、その一家の風景を写真に収めた。
やがて、信号は変わり車はゆっくりと発進した。
「あ〜、そういやさぁ。メシどうする?今朝から何も喰って無いじゃん?」
「そうだね。僕もそろそろ何か食べたいなぁ。安藤さんは?」
「私も、もうお腹ペコペコ。適当なファミレスで済ませちゃわない?」
昼食を取るべく、手頃なファミレスを探す事にした。だが、こういうときに限り中々見つからないもので、次第にダンキがイライラしだした。そこへショウキの携帯が鳴り響いた。
16番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:42:00 ID:0GCcO6bC0
あ、日菜佳ちゃんからだ・・なんだろうね?はい、ショウキです」
『ショウキさん!ダンキさんもいらっしゃいます?今、どちらにいらっしゃいます?』
今までに無い剣幕で、日菜佳はそんな事を聞いてきた。その声は余りに大きく、後部座席の千明にまで聞こえるほどだった。
「う・・うん。今は、飯能に居るよ。どうしたのさ?」
『今すぐ、神奈川の津久井に向ってくれますか?魔化魍が出たらしいんです!』
その言葉に、素早くダンキはブレーキを踏み、即座に進路を津久井へと変更する。
「そんな!あの方面なら・・たしか、歩の筑波さんが調査をしているはず!何も、兆候は無かったはずじゃ!!」
『それが、突然・・成体が現れたらしいんです!電話があった時には、住民の避難を別の方がしているとの事だったんですけど、その後すぐに連絡も途絶えて・・・』
「突然・・そんなバカな!一体どんな魔化魍なんです?」
『筑波さんが言うには・・・カラカサだと・・・』

日菜佳との電話を終え、手に入れた情報を整理する。
ここ数日の定期連絡では、魔化魍発生の兆候はまるで無かった。それが、突然現れたとの事だった。
現れた魔化魍はカラカサ。
「カラカサって、傘から片脚が生えてるアレよね・・・・あんなのまで存在してるなんて」
妖怪に詳しい千明は、重い空気の車内で独り言のように呟いた。
「カラカサって事は、音撃管か・・・大丈夫かショウキ?連チャンになっちまうが・・・なんだったら俺が」
ダンキは車を爆走させながらショウキの体を気遣った。だが、ショウキはダンキの提案を断った。
「大丈夫。まだ行けるよ」
「無茶と思ったら、無理にでも割り込むからな・・・」
「わかった。それよりも・・・着いてからだよ。住人の皆は・・・ちゃんと避難できただろうか・・・気がかりなのはソコだよ」
ショウキの言葉に、ダンキは何も言えなかった。だが、ここで最悪の事を口にするわけにはいかない。
「あぁ、とりあえず着いたら俺はすぐに住民の安否を確認する。ショウキは直ぐに魔化魍を追ってくれ」
互いの役割を決めて、現場に備える。
ダンキはアクセルを踏み込んで、車を更に飛ばした。
ただ、一つの思い。
間に合え・・・それを胸に・・・車を走らせた。
17番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:43:46 ID:0GCcO6bC0
神奈川県・津久井・某所/
余にも静かだった。
人が居ない。恐らく避難しているからだろう。
ダンキとショウキ。そして今回に限り、千明も行動を共にした。
「いいか、絶対に勝手な行動はするなよ?」
「う・・・うん。フォローに徹すればいいのよね?」
「ゴメンだけど、ダンキ君の手伝い、お願いね安藤さん!」
ショウキは音撃管『台風』を手にして、ダンキに合図を送る。ダンキは車の後部座席から、DAのBOXを取り出て全てのDAを稼動させた。
空に!大地に!散らばっていくDA達。
それを見送った後、ダンキとショウキ、千明は無言で走った。
まずは住民の皆を探さなくてはならない。ダンキとショウキは途中で分かれようとした。
だが、とある民家の脇にある道を通り過ぎたとき・・・・
「っ!」
「これ・・は」
「何・・このニオイ」
強烈なニオイが三人を襲った。
説明をつける事が出来ない・・・適した言葉を当てるなら・・・・・
『死』 『血』 『無残』
そこには・・・・片足の無い・・・無残な姿の住民が・・・・
「ひっ・・・し・・・しん・・」
口元を抑え崩れこむ千明をショウキが抱きとめる。
ダンキは手近な民家のドアを開けて、中へ入った。人の気配は無かった。だが、先ほどと同様の異臭が家中から湧き上がっている。
「・・・・・っ!」
家から出て、別の民家へ入る。そこも同じ結果だった。
「っくしょう!避難は・・したんじゃなかったのかよっ!」
ダンキはその場から駆け出し、大声で生存者を探した。
「誰か!居ないのか!!返事をしろ〜〜〜〜!」
18番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:44:59 ID:0GCcO6bC0
ダンキの後を追い、ショウキと千明も叫んだ。だが、返事は無い。
ダンキは声を上げながら・・必死に自分に言い聞かせた。生き残っている人は・・・必ず居る・・と。それだけを言い聞かせ、生存者を探して回った。
だが、村を走り回るにつれ、現実が迫ってきた。
異臭は先ほどの比ではなかった。
アスファルトは黒ではなく、夥しいほどの赤と交じり合い・・・形容不可な色となっていた。
そして、皆揃って『片足だけ』無くなった姿で横たわっていた。
恐らく・・・避難はしたのだろう。そして、避難した場所で・・・・カラカサの襲撃を受けてしまった・・・・・
ダンキは・・言いようのない怒りを・・・抑える事ができなかった。
「ダンキ君!無事な子が!」
その言葉に・・・ダンキは急いだ。
道をすべるように走り、ショウキと千明の元へ走る。千明は幼い女の子を抱き上げていた。だが、その幼い子も同様に片足が・・・・・
「大丈夫か?」
だが、幼い子はただ荒い呼吸を繰り返すだけである。
「意識はかろうじて有るみたいだけど、出血が酷い・・・」
ショウキは自分のTシャツを引き裂くと、太もも付近に縛り付けた。せめてもの止血だった。
「お・・かぁ・さ・・・・ん・・は」
小さな口から、母を呼ぶ声が流れる。その言葉に、ダンキもショウキも・・・千明も・・・なにも返してやれなかった。
「怒られ・・・ちゃう」
意識がハッキリしてきたのか、先ほどよりしっかりとした口調になっていた。
「え?」
千明はカタカタと振るえる小さな体を、しっかりと抱きしめて、聞き返した。
「足・・無くしちゃった。無くしたら・・お母さんに怒られちゃう・・・・」
三人は絶句した。
まず、少女の言葉に。泣き叫んでもおかしくないほどの痛みを伴うハズの・・・状態を、泣きもせず・・・・ただ、無くしたと。
「怒られちゃう・・・・」
カタカタと震えは強くなる。
19番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:46:00 ID:0GCcO6bC0
ダンキは・・・・羽織っていた上着を脱ぐと少女に架けてやった。そして、頭を撫でてやると
「怒られる?そんな事は無いさ。イタイの我慢してるじゃん!それなのに、怒られたら、お兄ちゃんがお母さんを怒ってやるよ!」
そう言って、少女を勇気付けた。
「でも、足・・ヒック」
「無くしちゃったけど・・・キミが無事なら・・・お母さんは怒らないよ・・・・キミのお母さんは、多分・・やさしいお母さんでしょ?」
ショウキも家屈みこんで少女に言う。
「うん。怒ると・・怖いけど。・・・・ケーキとか焼いてくれたり・・・ック・・・・いっしょに絵を・・・ヒック・・かいたり」
少女の言葉に、嗚咽が混じる。
少しは落ち着いたのだろう。しかし、なんと言う事か・・・・少女は痛む事よりも・・・・ただ、母親と交したであろう約束を守れなかった事に・・・痛みを忘れていたのだった。
だが、全身は・・震えが止まらず・・・出血も・・・止まらず・・・・その体は・・・・
「そっか、やさいしいお母さんだね」
「ヒック・・・うん」
そして、ダンキとショウキはその小さな手を握ってやる。震えは強く・・・・・手は・・・・・冷たくなっていた。
「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・お母さんは・・・どこ?お母さんに・・・・会いたい」
またもや三人は返す言葉がなかった。奇跡に近いのだ。少女が生きていた事自体が。
「よし!お兄ちゃんが探してきてやるよ!待ってろよ?いいな?」
「じゃ、キミは病院へ行こう?」
「そうだな。必ず・・・・お母さんも、連れて行くよ・・・」
ダンキが手を離し、立ち上がった。ショウキは一刻も早く治療を受けさせる為、少女に告げた。
「・・・注射・・コワイよ・・・・」
20番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:46:33 ID:0GCcO6bC0
大丈夫!キミなら大丈夫でしょ?」
千明を立ち上がるように促して・・・・車へ移動しようとした。
「メガネの・・・・・お兄・・・ちゃん」
ダンキはその声に振り向いた。
「お母さん・・・・・・見つけて・・くれる?」
「・・・・・・・・・あぁ、もちろんさ!」
「絶対・・・に?」
「・・・・・・・・・・・・あぁ。絶対だ」
少女はダンキの言葉に、初めて笑顔を見せて・・・・・
「・・・よかった・・・・・・・・・・・・」
全身の力を・・・・失った。

「え?」
千明にはそれの意味がわからなかった。
だが、ショウキと・・・・・ダンキには・・・・・・わかってしまった。
千明の手の中で・・・熱を失っていく体。
『死』とは・・・・そういう事であると・・・・・。


どれほど・・・・立ち尽くしていたのだろう。
10分?一時間?
爆発し、飛び散る家屋の破片を受けて・・・・・ダンキとショウキはようやく・・・我に返った。
21番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/15(水) 22:49:34 ID:0GCcO6bC0
家の屋根に佇む・・・・遠目には・・・巨木のようなモノ。
だが、その影はまるで畳まれた傘のような姿。

「お前か・・・・・・」
ダンキは・・・その家に近づく。
「お前が・・・・・・」
ショウキも・・・・ダンキの後を追い・・・・

無言で出される変身音叉と変身鬼笛。
無言で叩き、吹く。

額に翳し、鬼面を浮かび上がらせる。

隆起する石錐。
渦巻く疾風。

ただ無言で。
ただ一つの・・・感情で・・・・。

決して『鬼』であるモノが抱いて戦いに臨んではならないとされる・・・感情を胸に。

ただ静かに・・・纏った岩を吹き飛ばし・・・・
ただ静かに・・・纏った風を切り裂いて・・・・

『お前があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
弾鬼と勝鬼は・・・・弾かれたように静寂を切り裂き、修羅・羅刹の如き叫びを上げて、怒りのままに・・・・魔化魍カラカサへ飛び掛った。
      四之巻『間に合わぬ力』(前)  終
22名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 00:22:47 ID:OGYcWslPO
弾鬼SS
キタ――――――(゚∀゚)――――――
職人サマ乙です!
今回はいままでとはひと味違うシリアスめな展開がGJです
悲しみと怒りに燃える弾鬼&勝鬼がこれからどんなふうにカラカサに立ち向かうのか
おそらく初めて鬼達の抱える”現実”を目の当たりにしたであろう千明がどう変わっていくのか
楽しみです!!
23名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 09:30:43 ID:NLtq+VTp0
>1乙
くそ!初SSを弾鬼職人さんにゲットされた。
むしろそっちが当然かw
では脱力系SS投下します。
24響鬼序伝作者:2006/02/16(木) 09:40:02 ID:WYF31q5T0
新スレ乙&弾鬼ストーリー作者さん乙です!
今日には投下できると思いますので。いちお登場人物一覧を。
あくまで、役者はイメージとして。

(日高仁志)日高少年 栩原楽人

みどり  森絵梨佳

立花勢地朗  下條アトム

ヒビキ父  浜田雅功

ヒビキ母  相楽晴子

いちおこんな感じで。
25名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 09:42:34 ID:NLtq+VTp0
―ZANKI―
午前中だけの授業を終え下校する児童であるふれる校門前。
ザンキは月曜発売のはずのジャンプを何故か土曜日に手に入れ、児童の視線を独り占めしていた。
「ザンキさん!」しばらくすると蔵王丸が校門前のザンキを見つける。
「おう、待ってたぜ。」二人は『たちばな』に向かった。
開店したばかりの真新しい甘味処の『たちばな』に入ると、「こんにちは、立花かしゅみです」
二歳ぐらいの女の子が挨拶をした。「こんにちは、財津原蔵王丸です。」挨拶で返す。
ザンキは挨拶代わりにキスをしたが、香住実に大泣きされた。
逃げるようにザンキは蔵王丸と共にお店の奥の地下室に向かう。
「あ、ザンキさん、こんちわ」「ちわっす」地下にいたのは蔵王丸と同じぐらいの年齢の少年と、少し年上の男。
「この二人は鬼でな。ヒビキとサバキと言う名前がつく予定だ。」
ヒビキと握手する蔵王丸「財津原蔵王丸です。ヒビキくんよろしくね。」
「よろしく財津原くん。」ガンッ!いきなり殴られるヒビキと蔵王丸。
「なにするんですか!?」「バカ野朗!年上に対して”くん”だと?財津原さんだ!」
ヒビキをフルスイングで打っ飛ばすザンキ
「貴様もなにがヒビキくんだ!お前の方が年上だろうが!『ヒビキ、よろしくな!』だ!」
泣きながら首を縦に振り、今度はサバキに挨拶した。「…よ、よろしくお願いします、サバキさん。」
ガンッ!再び殴られる蔵王丸。「今度はなんですか!」
「バカ野朗!こいつは弦の鬼だ!お前とポジション争いをする相手だ!なに敬語を使ってるんだ!」
いや、敬語は必要だろうと思うヒビキとサバキ。しかし、ザンキには怖くて言えなかった。
「鬼を目指すなら上も下も関係ない、強い奴が偉いんだ!」もちろんそんなはずは無い。
しかし大人しく従う蔵王丸「えっく…うう…よろしくな、サバキ…」
泣きながら精一杯の勇気で挨拶した。
「よ、よろしく…」ひきつった笑顔のサバキは耳元で囁く
「あの、財津原…気にしなくていいからな…タメ口でいいよ…」いい人だ…蔵王丸は思った。
「良し!二人も先輩として後輩を大事にしろよ、みんな仲間だからな!」
さっきと言ってる事が違うし…
しかし、このもやしっ子が関東1,2を争う鬼になる事を二人はまだ知らなかった。

天気が不安定じゃなかったら続く
26名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 09:45:14 ID:NLtq+VTp0
>24
すいません!被りました!
27響鬼序伝作者:2006/02/16(木) 09:48:53 ID:WYF31q5T0
>26
いえいえ、大丈夫ですよ。まだ投下できないのでw
こっちこそすいません。
28名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 09:49:34 ID:NLtq+VTp0
>裁鬼職人さん&響鬼職人さん
ザンキSSでの若かりし頃の二人の設定は無視してください。
こんなSSに合わせる必要は微塵もございません。
でもサバキとヒビキにタメ口なのは先代に言われたからってことで。
29高鬼SS作者:2006/02/16(木) 12:55:11 ID:4a2TYq4q0
>>1さん、スレ立て乙です。

今回の話は再び四国に戻ります。
以前「霧裂く鬼」内で話題に上がった「ムジナ」、「要石」がキーワードです。
そして太鼓の鬼が対夏の魔化魍用に行うものと言えば…。

それではこれより投下させていただきます。
30仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 12:57:23 ID:4a2TYq4q0
1976年、文月下旬。
猛士四国支部に、所属する全ての鬼が召集された。支部長の小松が鬼達に告げる。
「今年も『太鼓祭り』の時期がやってきました」
小松からの説明が終わり、その後、翌日の「太鼓祭り」への景気づけとして宴会が催された。出向中のコウキは、上座に着席して料理に舌鼓を打っていた小松に、明日の「太鼓祭り」について尋ねた。
「やあコウキくん、どうしました?……ひょっとして私の説明が不親切でしたかな」
「いえ、その点に関しては大丈夫です。毎年七月末にムジナが現れ、刑部狸を封印した要石を狙っているという事、それを四国の鬼全てが出撃して防衛・迎撃するという事……」
「では何が疑問なのですかな?」
「この四国は霊場によって結界が張られているのでしょう?その結果夏の魔化魍の個体分裂も抑制されているのだと最初にお会いした時に聞きました。それなのに何故四国の鬼全てが出撃する必要があるのですか?」
コウキの疑問に対し、小松は相変わらず丁寧な口調で説明を行った。
「この地に現れるムジナは全て刑部狸の末裔なのです。だから結界の効果が極めて薄い。親のムジナは毎年二百前後の子を率いて現れるのです」
「二百……ですか」
一度に現れる数にしてはかなりの数である。
「そしてムジナは知能が高く、他の魔化魍以上に能力も高い。これは御存知ですよね」
コウキは頷いた。関西にもムジナは出るし、実際その駆除には他の夏の魔化魍以上に時間がかかる。
コウキは説明の礼を述べると、元居た席に戻った。隣ではキリサキが酒を飲んでいる。但し、明日に備えてかいつもより少量であるが。
31仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 12:57:54 ID:4a2TYq4q0
「キリサキ、君達も太鼓を使うのか?」
「そりゃ当然よ。狸どもは管や弦じゃ分裂するだけだからな」
毎年この時期が近くなると、管と弦の鬼は独自に太鼓の練習をしている旨を話した。
「本当は自分達、毎年コンペキさんに太鼓の練習に付き合ってもらっていたんです。でも今年はあんな事になっちゃって、それで……」
同じく正面で鰹のたたきを食べていたウズマキがそう言った。
「何故私に言わなかったんだ?練習ぐらいいくらでも付き合ってやったのに……」
「お前はコンペキの代わりにほぼ毎日出撃してただろうが。しかもその合間を縫って残りの太鼓使いに特訓……。休める時は休んでもらわなきゃならないだろ」
お前まで倒れたらどうすんだよ、そう言うとキリサキはぐいっと杯を飲み干した。
「さてと、折角だから他の鬼にも挨拶してこいよ。まだまともに喋った事も無い奴ばかりだろ?」
キリサキに勧められるままに、コウキは残る管と弦の鬼に挨拶するべく再び席を立った。
話題はやはり去年の夏の「三十匹殺し」の事ばかりだった。そして話しかけた全ての鬼が倒した数を間違えて覚えており、その都度コウキは訂正する事となった。
余談だが、翌月初めてコンペキに会った時もこの話題になり、
「確か巨大な魔化魍を二十匹倒したんですよね、歌って踊りながら。西城秀樹みたいに」
と言われてしまっている。
「……踊ってはいません」そう答えるのがやっとだった。
32仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 12:58:34 ID:4a2TYq4q0
翌日、四国支部一同は愛媛にある要石の安置された山に登り、三組に分かれて陣取った。
要石を中心に三方向に分かれ、それぞれ太鼓、管、弦の鬼が一人ずつ組を作っている。コウキはウズマキ、キリサキと組を作った。毎年同じ組でやっているのだという。
そして要石の傍には小松を初めとした猛士所属のいざなぎ流の太夫が集まり、祭文を唱えて鬼達がムジナを駆除するまでの間結界を張るのだ。
ウズマキが鳥型の式王子を二枚飛ばした。それと入れ替わるように別の式王子が二枚やって来た。他の二組が配置に着いたという知らせだ。
しばらく時間があるな、そう言うとキリサキは自分専用の音撃棒・酩酊を取り出すと練習のため空を打ち始めた。ウズマキも音撃棒・波浪を取り出した。
「そう言えば君達は毎年どれだけの数のムジナを倒しているんだ?」
コウキの問いにキリサキが答えた。
「十から二十匹の間ってとこかな。もっとも、太鼓の鬼はそれ以上倒すが。コンペキなんて去年は一人で五十匹近く倒してるんだぜ」
「コンペキさんは年々記録を更新していますからね」
ウズマキが相槌を打つ。
「話を聞くだに凄い人だなと思うよ、そのコンペキという人は」
「そうだな。実際に会ったらもっと驚くと思うぜ」
キリサキが言った事の意味を、この時のコウキはまだ理解出来なかった。
「ところでコウキさん、昨日の宴会の後に多々良さんの所へ行って何をしていたんですか?今日も一人だけ早くここに来て何かやっていたみたいですし」
「ん、まあな……」
ウズマキの問いをはぐらかすコウキ。何か考えがあるようだ。
と、そこへ緊急連絡用の隼型の式王子が飛んできた。ムジナが現れたという合図である。
「ショータイムの始まりだぜ」
キリサキが身構える。と、前方の木立の間から次々とムジナがその姿を現した。
33仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 12:59:03 ID:4a2TYq4q0
次々と現れるムジナの群れ。ざっと二十匹はいるだろう。三人に向かって歩いてくるムジナ。と、一匹が足元にあるピアノ線に足を引っ掛けた。
次の瞬間、地面に隠されてあった大きな網が複数のムジナを捕らえて舞い上がった。あちらこちらで同様の罠にムジナが引っ掛かっている。
「コウキ!まさかお前の仕業か!?」
「そうだ。昨日のうちに多々良さんと相談して準備し、今朝のうちに仕掛けておいた」
コウキが満足そうに答える。この罠で三分の二以上のムジナが動きを封じられた。
「好機到来!行くぞ二人とも!」
コウキの号令と共に、三人の鬼がそれぞれの道具を用いて変身した。
「罠に掛かったものはお前達に任せるぞ!」
そう言うと高鬼は音撃棒・大明神を手に、残ったムジナへと突撃していった。
ムジナが口から砂を吐き出して攻撃してくる。それを「大明神」で払いながら接近し打撃をお見舞いする高鬼。
「一匹たりとも先へは進ませんぞ!」

「破っ!」
音撃鼓・紅蓮を貼り付けて打撃を叩き込む高鬼。爆散し、土塊と化すムジナ。
「次っ!」
軽快なフットワークで攻めてくるムジナを次々と撃破していく高鬼。ある程度倒すと、霧咲鬼と渦巻鬼の様子を見た。
音撃鼓・黒潮を貼り付け、「波浪」を叩きつける渦巻鬼。だが腰が入っていない。
一方霧咲鬼は音撃鼓・酔鯨を貼り付け、「酩酊」を乱打していた。その叩き方はまるでドラムを叩いているかのようだ。
「何だ、その叩き方は!渦巻鬼、もっと腰を入れろ!霧咲鬼はちゃんと和太鼓の叩き方でやらないか!それでは清めるのに時間がかかる!」
「うるせえ!説教は後にしろ!それよりも第二波が来るぞ!」
その言葉の通り、新たなムジナの群れが現れた。もう仕掛けは無い。これからは小細工無しでの戦いになる。
「ある程度したら親が何処かに出てくる。そいつを倒すまでの辛抱だ!」
「言われるまでもない!」
「大明神」を手に、新たなムジナの群れへと向かっていく高鬼。霧咲鬼と渦巻鬼も後に続いた。
34仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 12:59:39 ID:4a2TYq4q0
どれ程の時間が経っただろうか。高鬼達は、第三波と合流し数を増したムジナ達と死闘を繰り広げていた。
「行かせん!」
隙を突いて奥へと進もうとするムジナの前方へと跳躍し、高鬼が「大明神」を叩き込む。
「狸どもが!狸汁にして食っちまうぞ!」
霧咲鬼と渦巻鬼も、それぞれムジナを相手に奮闘していた。
と、突然ムジナ達が一斉に腹鼓を打ち鳴らし始めた。
ぽんぽこぽんぽん……。
それを合図とするかの様に、大地震が一同を襲った。
「地震だと!?」
「先輩、これって……」
「ああ、今年はオオナマズか」
霧咲鬼達の会話を耳にして、どういう意味かと尋ねる高鬼。
「狸どもはな、毎年他の魔化魍と結託して要石を狙ってくるんだ」
「去年なんかミズチと一緒に出てきたんですよ」
どうやらムジナどもは、本気で要石に封印された刑部狸を解放したいらしい。
「周囲に胃袋は出ていないか?」
「ありません!どうやらここにはいないみたいです!」
「くそっ!このまま揺れる中で戦うのかよ!」
ぐらぐらと揺れる不安定な足場の上で、頭上目掛けて倒れてくる木々を避けながらムジナ達と戦う。かなり厳しい戦いだ。
数匹のムジナが奥へと駆けていった。
「大丈夫だ!向こうには親父達の張った結界がある!それに式王子も足止めをしてくれる!」
後を追おうとする渦巻鬼に、霧咲鬼が叫んだ。彼の言う通りだ。まだまだムジナはいるのである。
数分後、地震が収まった。おそらく他の二組のうちのどちらかがオオナマズを倒したのだろう。反撃に移る高鬼達。
すると、またもやムジナ達が一斉に腹鼓を打ち鳴らし始めた。反響し、山中に狸囃子が響き渡る。
そして、3メートルはあろうかという巨大なムジナの親が姿を現した!
35仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 13:01:18 ID:4a2TYq4q0
「今年は俺達の所に出たかよ!」
霧咲鬼が憎々しげに親ムジナを睨み付けながら叫ぶ。
親ムジナが身震いする。すると、それによって抜け落ちた毛から新たなムジナが生まれてきた。咆哮し、腹鼓を打つ親ムジナ。
「高鬼!あいつは太鼓専門のお前に任せたぜ!」
そう言うと霧咲鬼と渦巻鬼はムジナの群れに飛び込んでいった。
「でかいな……」
改めて親ムジナを見上げる高鬼。腕を振り上げ、高鬼目掛けて叩きつける親ムジナ。なんとかそれをかわすと、高鬼は接近して「紅蓮」を貼り付けようとする。
だが、親ムジナの尾が跳びかかる高鬼を弾き飛ばした。手から離れ、転がり落ちる「紅蓮」。
「くそっ!パワーが段違いだ」
樹上に避難した高鬼は、二本の「大明神」を握り締めながら親ムジナを見た。今度は頭上から攻撃を仕掛けるつもりだ。
しかし親ムジナは口から砂嵐を吹き出し、高鬼を攻撃してきた。砂嵐に巻き上げられ、そのまま地面に叩きつけられる高鬼。
「何やってんだ、高鬼!変身しろ!」
霧咲鬼の声がする。
「知ってるんだぜ、お前等太鼓の鬼は夏の魔化魍用にもう一段階変身出来るってな!」
「全く……。あれは体力を消耗するからそんなに使いたくないんだが、そうも言ってはおれんか!」
そう言うと高鬼は片足を勢いよく前へと踏み出し、二本の「大明神」を体の横で十字に交差させて構えた。
「はああああああああ……」
気合いを込める。すると、高鬼の周囲が熱で揺らめきだした。そのまま紅蓮の炎に包まれる高鬼。
「破っ!」
掛け声と共に、空気が爆発した。周囲にいたムジナ達が吹き飛ぶ。そして、舞い上がる土煙の中から、全身が真っ赤に染まった高鬼が姿を現した。
「高鬼紅……。悪いが見世物ではないのでな、早目に勝負を付けさせてもらう!」
そう言うや否や、高鬼紅は猛スピードで周囲のムジナに「大明神」の一撃を叩き込んでいく。音撃鼓が貼られていないにも拘らず、炎に包まれ爆発四散するムジナ達。
36仮面ライダー高鬼「響き交わす鼓」:2006/02/16(木) 13:01:57 ID:4a2TYq4q0
「次はお前だ」
親ムジナにそう告げる高鬼紅。親ムジナは陰火を高鬼紅目掛けて吹き付けてくるが、高鬼紅は跳躍でそれをかわすと蹴りを親ムジナの顔面に叩き込んだ。
地面に倒れ込む親ムジナの胴体に飛び乗り、二本の「大明神」を掲げる高鬼紅。
一方、霧咲鬼と渦巻鬼もそれぞれ「酔鯨」と「黒潮」をムジナの体に貼り付けていた。
「喰らえ!天罰覿面の型!破っ!」
二本の「大明神」を高速で親ムジナへと叩き付ける高鬼紅。霧咲鬼と渦巻鬼も音撃鼓を貼り付けたムジナに「酩酊」と「波浪」を叩き込んでいる。
ドンドンドン……。響き渡る清めの音。そして次の瞬間、親ムジナの体は爆発し塵芥へと変わった。
「よっしゃ!後は雑魚だけだぜ!」
調子付いた霧咲鬼が叫ぶ。
それから十数分後、今年度の「太鼓祭り」は一人の死傷者も出さずに終了した。

その日の晩は全員で近くの温泉宿に泊まり、戦いの疲れを癒した。毎年そうしているのだという。
温泉に浸かりながらキリサキはコウキに尋ねた。
「なあ、何で最初っから紅にならなかったんだ?」
「あれは必要以上に体力を消耗する。だからまさに最後の切り札なんだ」
そういうもんかねぇ、そう言いながらキリサキは首を回した。こきり、と音がする。
「ところでキリサキ!お前の太鼓の使い方はなっちゃいないぞ!ウズマキもそうだ!明日から私がみっちりとしごいてやるからな、覚悟しろ!」
「なっ!」
これにはキリサキも、そして体を洗っている最中だったウズマキも驚いた。
「夏はまだ続くし、毎年必ず訪れるんだ。ならばお前達には今以上の太鼓の使い手になってもらわないとな!」
そう言うとコウキは嬉しそうに笑った。 了
37名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 14:09:33 ID:vmjUuHdZ0
高鬼なら紅になっても違和感ないかも。
でも何年も前から太鼓祭りがあるのに
太鼓以外の夏対抗策の無い猛士ってどうなんだ?
アームド声刃とか作ってる場合じゃないような気が…
38名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 14:14:27 ID:vmjUuHdZ0
>ZANKI
なるほど好きでサバキさんを呼び捨てにしてた訳ではないとw
39名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 15:36:38 ID:NLtq+VTp0
−ZANKI−
やっちまった…裁鬼SSで裁鬼は元管の鬼とか言ってるし…。
先代斬鬼がもろに弦とか言っちゃた…。
40名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 16:04:34 ID:CQM89pvY0
大丈夫!先代ザンキさんの言う事だもの!次回では堂々と
「そうさ!サバキはれっきとした管の鬼さ!」って言っちゃうからw
41名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 16:13:25 ID:NLtq+VTp0
>40
おお!そうか!先代ザンキなら確かにそうだw
「サバキは関東1,2の管使いだ。」「え?確か弦…」ガン!
五メートル程飛ばされる蔵王丸。
これでいいんじゃんw(いいのか…?)
42名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 18:21:04 ID:02uMRrcP0
先代ザンキさん、マジにやっつまって
グッチ裕三さんと親指うpサインで納得してそうで怖い・・・ww
43皇城の…の中の人:2006/02/16(木) 21:46:15 ID:Fpyc1QF/0
マジデンジャーの後は仮眠ライダー鼾!

新しい仲間寝起さん!がんばるでごじゃりまするぅっっ!
44皇城の守護鬼:2006/02/16(木) 21:51:20 ID:Fpyc1QF/0



  肆、


 ガキ。いや、もう葛嶋か。
 君が鬼をやめることについては何も言わない。
 実際君はよくやってくれていたし優秀な鬼だった。
 肉体能力で他の者に多少劣る部分をデータを駆使することでカバーし、普通以上の戦果を
上げていた点は賞賛に値するよ。それだから君の引退は余計に惜しまれる。──何も言わな
いといったそばからこんなことを言ってはいかんな。
 さて、本題に入ろう。君の転属先、関東支部中央特区の話だ。「御所守」の通り名は君も聴
いたことがあるだろう。名前を知っているものは多いが、その実態を知る者は猛士上層部の中
でもほんの一握り。
 あそこは猛士の中でもXファイル扱いでね。国とある程度──深いかかわりを持っている部
署なので、宗家も直接指示を出すのは難しいのだと聞いている。成り立ちや七面倒くさいこと
は向こうで聴いて貰うとして、今は彼らの負っている仕事に関してだけ説明する
としよう。
 江戸城の抜け穴というのを知っているかね。城内から江戸市内に伸びていた避難通路だ。
 東京大空襲で幾つかつぶれてしまったが、当時のまま現存している。現在の御所守の仕事
はここを魔化魍の侵攻から護ることなのだ。それに付随して、魔化魍が潜伏してそうなポイント
…地下水道設備だな。彼らは毎日欠かさずこれらの巡視を行う。
 この抜け穴なんだが、いまだ持って利用価値が存在している。政治家連中の緊急脱出経路
として、緊急マニュアルに密かに組み込まれている。ふざけた話だ。
 さておき、江戸城が風水に基づいて建てられているのは知っているな?江戸城には付近の
龍脈が集中していて、抜け穴はこの龍脈を通っている。正確には龍脈をくりぬいて造られてい
るのだ。だから非常に壊れにくい。
 家康は江戸を繁栄させるために龍脈を操作したようだが、一部裏目に出たようだな。
45皇城の守護鬼:2006/02/16(木) 21:53:03 ID:Fpyc1QF/0
 この地区の魔化魍はこの龍脈の力を狙って沸いてくるのだよ。
 龍脈の気を吸い上げより強い力を得るため、というのがあちらさん──御所守の見解ら
しい。出現する魔化魍は例外なく龍脈の集中ポイント、つまり皇居の真下を目指して移動
するからな。それを阻止するために彼らは闘っているという訳だ。御所守たる所以だな。
 その甲斐あってか今まで中心部まで到達した魔化魍は皆無。だが、もし到達された場合
どんな事態になるかは予測不能ときている。
 事実、データを見る限り、特区の魔化魍は他地区の魔化魍に比べて飛びぬけて強力だ。
未確認ながら「知恵」や「感情」の類を持ち始めたという例もあるらしい。こいつは厄介
だぞ…?ただでさえ強力な魔化魍が、人並みの知性を持って計画的に襲ってくるというこ
とだ。
 それもさておき、あちらさんもご多分に漏れず人手不足らしくてな。
 鬼の補充のみならず、その仕事内容の特異性からバックアップ要員すらままならない。
 おまけに今年に入ってからは特に出現件数が多く、処理が追いつかなくなってきている
とあちらさんぼやいていてな。吉野にも以前から人員補充のオファーがあったんだが事情
はどこも同じ。さらに言えば機密事項てんこ盛りの部署だ、馬の骨を組み入れるわけにも
いかないときている。データ処理のエキスパートでもある君の現役引退は、今回、あちらさ
んにとっては渡りに船だというわけだ。君は「銀」志望だったと聞いたが、あそこのデータは、
研究者としての君の興味を存分にそそるものだと思うがね。
 ふん?その顔は、実態の知れない機関であるのに詳しすぎると思っているな。
 詳しくて当然だ。元々私も「御所守」なのだから……ただし、半世紀以上昔──戦中の話
だがね。空襲で脚を吹き飛ばされなければまだ現役だったろう。
 まあ、方輪の老いぼれでも吉野との橋渡しぐらいはできるからな。あちらへ行ったらハバ
キの坊主に伝えてくれたまえ。ガサラキは息災だと。
46皇城の…:2006/02/16(木) 22:23:11 ID:Fpyc1QF/0
ある日の佐伯家。リアルタイムで見ることのできなかったスーパーヒーロータイムを、仕
事明け石割と共に鑑賞するサバキの姿があった。

石割「あ、この仮眠ライダーって番組、猛士が一枚噛んでるらしいですよ…といってもオ
リエンテーリング部門だそうですけど」
サバキ「へえ、最近はそんなことまでするのか」
石割「衣装協力もしてるとかで…あ、ほら、鼾の変身寝袋、サバキさんのとそっくりですよ」
サバキ「おお、そういやそうだな…実はな、和馬のためにベルトを買ってきたんだよ。こな
いだせがまれてなぁ。」
苦笑するサバキ。
石割「ははぁ。お父さんらしいですね」
サバキ「うん、まあな。和馬が帰って着たら渡してやるつもりだ」
石割「…サバキさん、この鼾の変身前の俳優、どこと無く出会ったころのサバキさんに似
てませんか」
サバキ「そういや、俺の若いころに似てるかもなぁ」
石割「ベルト着けたとこなんてそっくりですよ」
サバキ「うん?そうか?」
ヒーロー番組の主人公に似ているといわれて嫌な訳は無い。
石割「…ちょっとベルト着けてみませんか?」
サバキ「バーカいい年こいた大人が…」
石割「いいじゃないですか、俺とサバキさんしかいないんですからちょっとくらい」
サバキ「……そうだな。ちょっとやってみるか」
ブリスターのパッケージを開けて、ベルトを取り出し着装するサバキ。
石割「お、結構似合いますよ!」
サバキ「そ、そうか?じゃあ、ここんとこをこうして、時刻をセットして、この寝袋にもぐりこん
で…変んん身っっ!」
ポーズを決めるサバキ。突然、石割が今まで見たことも無いようなさわやかな笑顔を見せ、
石割「じゃ、サバキさん、おつかれっした」
部屋の入り口に、たった今帰宅したばかりの綾子が、気の毒そうな視線を湛えて立っていた。
47皇城の…:2006/02/16(木) 22:24:38 ID:Fpyc1QF/0
SUuuuuuPERaaaaaaaHIiiiROoooTIME!!
See You Next Time!!
48名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 23:17:20 ID:02uMRrcP0
ZANKIで鶏のあったか鍋を楽しみにしてるんだがww
49名無しより愛をこめて:2006/02/16(木) 23:44:26 ID:CQM89pvY0
>>47
・・・・って、エェェェッ!?

皇城さん、次回も楽しみにしていますw
50響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」:2006/02/16(木) 23:55:16 ID:WYF31q5T0
仁・・・朝だよ、仁!!

小鳥のさえずりの中、目を覚ました少年。
いまだ心は夢の中か。

「・・・めぇりーさんのひつじ・・・ひつじ・・・ひつ・・ん?」

ひ・と・しぃー!!

母親の轟音で目が覚めた、しかし時計は遠い。

「お・・お母さん。え・・・と、今何時?」

異常に澄ましたした顔で母が微笑む。

仁君、今は朝の8時半ですよ、と。

「うわぁぁぁぁぁ!!ち、遅刻!!なんで起こしてくんないんだ・・・」

母親に怒鳴りかけたその瞬間、顔を上げた先にいたのは小柄ながら般若のような面構えをした
父親、志郎だった。

「おまい、何チンタラしとんのをおかんのせいにしとんねん!!はよ学校行けこのボケェ!!」

仁は、強烈な「目覚まし」を貰い学校へと向かった。
51響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」:2006/02/17(金) 00:08:49 ID:+RAXfCB50
全速力で学校へ向かうも、時既に遅し。
無情にも1時間目開始のチャイムが鳴ろうとしている・・・が。

「うおぉぉぉぉぉぉりゃ!!!っとぉ!!」

3階の校舎目掛けて全速力で階段を駆け上げる生徒が1名。
遅刻常習犯の日高仁、その人である。
教室へ向かう先生達を脱兎の如くゴボウ抜き。

「教室へ急げ♪ 急げ♪ もうすぐ授業 楽しみだ♪」

歌を歌いながら軽やかに駆け上がっていく・・・あと1歩で教室だ。
しかし。

ドン!!・・・何かにぶつかる。前方不注意は事故の前触れ。

52響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」:2006/02/17(金) 00:09:44 ID:+RAXfCB50
「うわぁ、ご、ごめんな・・・さ。あー!!」

教室の手前、あと1歩のところで邪魔をされた。
その相手とは・・・

「せ、先生。・・・げぇ。」

校舎に響き渡るチャイムの音色、そして目の前の担任、高田先生の笑み。
美人で優しいと評判の彼女が、笑みをたたえたまま仁に語り掛ける。

「残念ねぇ・・・日高君。今から・・・分かってるわね?」

そう、遅刻者には校庭10週。これがこの学校のルール、っていうかしきたりなんである。

平和な日々。こんな毎日が続くと思っていた、今。
だが、悲劇と別れはそんな日々の中に突然現れるのかも・・・しれない。

(後編へ続く)
53響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」:2006/02/17(金) 00:13:25 ID:+RAXfCB50
とりあえず、本日はここまでです。短めですいません。
54名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 09:23:05 ID:nfQog1Rt0
>47
それいいwその日の最後に投下した人はそれを付けるルールにします?
>48
あらwではどっかで投下しますw
>53
初期の響鬼ぽくて良いじゃないっすか。
55名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 10:03:37 ID:nfQog1Rt0
-ZANKI外伝RECIPE-
キッチンのセットの前に立つ平野レミとDA達。
「はい、最近、寒い日が続きますが風邪ひいてませんか?」
「ガウガウ」「あら喉が痛いって?じゃあ、今日は鶏のあったか鍋を紹介するわ!」
逃げ出すタカとワシ。

土鍋に水を入れ、出汁用の昆布をぶち込み火にかける。
「市販の出汁でもいいよ。昆布は水から出汁を取る事でおいしい出汁になるのよ。」
アームド声刃で食材をぶった切る平野レミ
「鶏モモ肉はお好きなサイズで、脂が苦手な人は胸とかでもいいよ。」
「生姜はスライス、ネギは5 cm程に切る。今日はシンプルにこれだけです。」
沸騰寸前の鍋から昆布を取り出す平野レミ
「鶏から出汁が出るので、そんなに濃くする必要はありません。」
切った材料を鍋に放り込むDA達。
「生姜が利いてる方が良い人は最初に昆布と一緒に入れてもおいしいわよ。」
鶏肉とネギがグツグツと煮える鍋、旨みを出すために塩をひとつまみ入れる。
あとは味ポン等で召し上がれ。
「シンプルに鶏肉の味を楽しむには最高よ、残った出汁でオジヤ、うどんなんかも
鍋物の醍醐味ね」
「グワグワ」「そうねシンプルだから自分流にアレンジするといいわね。」
「ではまた来週」手を振る平野レミとDA

次回予告
「裁鬼さんがカレードリアに…」「レトルトで作れるんですか…」
「チーズがとろけてる…」「簡単だぁぁ!」
『とろけるドリア』

56名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 12:30:20 ID:11bJd6LG0
凄え!-ZANKI外伝RECIPE- 一番ワロタw
最高っすね。この↑次回予告!
自分流にとかなんか取り入れてるしw

あと、響鬼序伝の中の方に…大変申し上げにくいんですが、
ヒビキさんの本名、日高仁「志」では…ガン!
五メートル程飛ばされる漏れ。
57名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 17:22:31 ID:T3BNC/WO0
>>55
ジョナサンで
・うっトリ ? トマらんシチュー
・レミタスマーボーライス
・トーフの冷味(れみ)デザート
・はまぐりのおツナサラダ
などのメニューを発表した平野レミさんに、鋭鬼さんがレシピを教わりたいって報告がw
58名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 17:46:46 ID:nfQog1Rt0
ジョナサンでバイトしてた時にシチューとマーボは作ってたw
59名無しより愛をこめて:2006/02/17(金) 18:42:31 ID:BixIkUP90
かつて先代斬鬼さんに弦を習いながらも
修行に身が入らなかったヒビキさんはきっと・・・

だからトドには自分の経験に基づいた説明ができなかったんだなw
60名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 09:39:12 ID:DVes5W4H0
―ZANKI―
ザンキの弟子となり約三ヶ月、まだ体が鍛えられていない蔵王丸は実戦には参加せず、
ベースキャンプで情報収集などのサポートに徹していた。
「えっとここは違う…」DAの情報から魔化魍の位置を絞る。
蔵王丸は次々に戻ってくるディスクをCDプレイヤーのような機械で解析し、
それを終えるとテーブルの上にポンと無造作に放り投げる。ガシャと音を立てDAの山が出来上がっていた。
「この馬鹿野朗が!」ガン!フルスイングで蔵王丸をぶん殴るザンキ。
蔵王丸はテーブルごと宙に舞った。
「なにするんですか!」「てめえ!DAを粗末に扱うな!!」ハッとする蔵王丸。
「DAは道具じゃねぇ。共に戦う俺たちの仲間だ!」ザンキは怒鳴る。
「鬼は一人で戦ってるんじゃねぇんだ。人や道具が鬼に力を貸してくれる。
そのお陰で魔化魍を退治できるんだ。」ザンキの言葉が痛いぐらいに胸に響く。
「女と道具は大切に扱えば答えてくれる。だから、ビスの一本まで大事にしろ。」
「キュイーン」茜鷹が戻ってきた。「お、ロプロスが戻ってきたか。」
「ガウガウ」「グワグワ」瑠璃色狼と緑大猿も帰ってきた。
「おお、ロデムに小林も帰ってきたか。」「え、全部に名前が?」
「当たり前だ。仲間だからな。」ザンキの周りを取り囲む三体。
「いいか、道具大事にしない奴は良い鬼になれない。」
キュイーンキュイーン…飛び回る鷹
「この『烈雷』も大切に扱ってるから今でも使えるんだ…。」
ガウガウガウガウ…駆け回る狼
「…古きを知り、新しきを知ると言う言葉のように…」
グワグワグワグワ…暴れまわる猿
「大切に…扱うからこそ…その価値を…」
キュイーンキュイーン、ガウガウ、グワッグワ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「じゃかあしい!!」ガン!ザンキは『烈雷』で茜鷹を叩き落した。
地面にはピクピクしながら火花が散る鷹。大人しくなる狼と猿。
「価値を知る事ができるんだ、いいか道具を大事にする鬼になれ。」
いや、あんたが大事にしろよ…蔵王丸は思った。

続けていいのか?と思いつつ続く
61名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 09:51:42 ID:Vkj8MoXtO
>>60
一応ツッコんでおこうか・・・

小林かよ!ポセイドンじゃないのかよw
62名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 10:19:18 ID:DVes5W4H0
>>61
ポセイドンは海だからねw
ブービーとか藤吉朗も多分居るw
しかし、イタリア人のセンスじゃねぇな。
63番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:02:22 ID:c0Y1Hcty0
六之巻「送る魂」

耳元が異様に冷たい。冬の木枯らしが耳にぶつかってくる。
出発していくらか経っただろうか。車道の脇に「三重県」と書いてある看板が見えた。
「あとちょっとだ、しっかり捕まってろ」
剛はソウキの腰に巻いた腕をぎゅっと絞めた。
比較的人気の少ない山道に弥勒が出たころには時計が3時を指していた。
山道を進み細い道へ出ると、右手に撤去されていないハエタタキのキャンプを発見し、
そこに弥勒を止めた。ソウキはヘルメットを脱いで弥勒を降りると、
すぐさまキャンプにあった地図を手に取り、それを見ると未帰還のディスクの数と位置を
地図に刺してあったピンを見て確認した。
「ここと、ここと、ここと、ここに3枚。いや、5枚は撒いといた方がいいかな」
ソウキはサイドバックから取り出したDAを鬼弦で起動した。
「・・・これは・・・」
剛はソウキの鬼弦の音波でディスクが
以前、自分をバケガニの怪童子と姫から守ってくれた機械の動物に次々と変形する様を見ると
何度も目をこすったあと自分の頬をつねってこれが夢でないことを確認した。
「あれ?直に出してるの見るのはこれが初めてだったけか。ま、こんなもんなんざぁ、
 普通に生きてりゃ見れんもんだからな。しっかり見とくんだぞ」
ソウキがそう言うと一斉にDA達は山奥へと向かい、探索を開始した。
日光に反射して様々な色に輝くDA達が剛には眩しく見えた。

蝿のディスクが見つめる先には、もがき苦しみながらも山を進むオオニュウドウの姿があった。
このディスクは昨晩ハエタタキが探索用に撒いたものだ。
オオニュウドウの胸から張り付いていた蝿叩鬼の音撃鼓が落ちた。その姿は普通のオオニュウドウと大差なく鎧のようなものは無かった。
ゆっくりと、そして力無くオオニュウドウは自らの巣へと戻っていった。
64番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:03:43 ID:c0Y1Hcty0
「・・・何、描いてるんですか?・・・」
「おまえだよ」
「・・・そういえば似てるかも・・・」
「『そういえば』は余計だろ、『そういえば』は」
「・・・あはは、すいません・・・」
剛はソウキと会話を続けた。ソウキに『話したいこと』を話すチャンスをうかがいながらも、自分の心のなかで葛藤している。

「ほんと、マタタキの奴はケチでケチで。あっ後、ミカヅキは、まあ俗に言うキザな奴なんだけど根は良いやつでさ――――」
雑談が10分ほど続いた。今のソウキの雰囲気なら、ささい且くだらないと思われる、いや、そう自分が自分で思っている
『話したいこと』が今なら話せるかもしれないと剛は考えた。
「・・・あの〜・・・」
「なんだ?」
「・・・うわっ!!!・・・」
剛の周りに群れをなして嫌な羽音を立てながらハエタタキの蝿のディスク6枚が帰還し、剛の耳元でホバリング?した。
「驚くなって。これもDAなんだぜ」
「・・・ちょっと、悪趣味ですね・・・」
「『ハエタタキ』さんのDAだからな。まぁこれにもいろいろと逸話点々があるんだが。また今度話してやるよ」
剛はただただ蝿のディスクに正直な感想を述べただけで、本当の『話したいこと』をソウキに話すことが出来なかった。
「当った。魔化魍は巣か。スマン剛。ちょっくらここで待っててくれるか?ちいとばかし遠いところらしい」
「・・・は、はい・・・」
ソウキは魔化魍の元へと向かった。結局剛は『話したいこと』について何も話すことが出来なかった。
65番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:17:54 ID:c0Y1Hcty0
「ここか・・」
オオニュウドウが食べ残した人間の衣服と思われるものが草や木の根が何重にも堆積して作られた巣の上に無造作に落ちていた。
その時、大きな手が上から降ってきた。ソウキは咄嗟の判断でそれを避けて鬼弦を引き、振り返りその手のほうを見上げると
そこにいた魔化魍の姿に絶句した。
空に突き抜けるように立つオオニュウドウの巨体がにび色から銀色に変化するとともに、体の一部が隆起し鎧を形作り、
それが固まると、オオニュウドウは全身を鎧で包んだ怪物へと変化していた。
送鬼は以前2度オオニュウドウと戦闘していたが今度のものは、そのどれとも違った。
送鬼は素早く鎧の怪物の足元へと接近した。オオニュウドウの場合その巨体やその体つきからして
オオニュウドウがその怪力を発揮したり、大きく動いたりしようとした瞬間、足元を攻撃して足をすくいさえすれば、
そのままバランスを崩して転倒するといったことが多い。まず相手の動きを誘発してこれを行うのが経験上有効なはずだった。
「まずっ」
素早くそして力強い拳が送鬼の体をかすめた。送鬼がその場に倒れた。
そこに鎧の怪物が平手を打ち付ける。すぐさま体勢を立て直した送鬼はなんとかそれを避ける。
直撃していれば蝿叩鬼の二の舞になっていただろう。だが、またもや鎧の怪物の拳が送鬼を襲う。
その攻撃によって辺りの草や木の根が大きく舞いあがると送鬼の姿はそこから消えていた。
鎧の怪物が力強く辺りを何度も何度も踏んでいくとそのたび大地が揺れた。
それを続けると、ついにタカのDAが巣の中から飛び出た。鎧の怪物はそれを素早く正確に捕らえると
腕に力をいれ握りつぶした。それまでDAだったものが鎧の怪物の右手から落ちる。
鎧の怪物はDAガ出た位置から送鬼が隠れているであろう辺りの草や木の根を見定めて大きく足で踏みつけようとした。
しかし、そのとき鎧の怪物の体にまたもや変化が起きた。みるみるうちにその姿がただのオオニュウドウへと戻る。
オオニュウドウは苦しみながらも辺りを踏み続けた。
堆積していた草が舞った。そして、それがだんだんせり上がってくる。オオニュウドウは遂に転倒した。
「音撃打・千手連打の型!」
巣の中から大きな足を押し上げて飛び出した送鬼は音撃鼓をオオニュウドウにセットし音撃をくわえた。
66番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:22:42 ID:c0Y1Hcty0
「・・・おつかれ様です。大丈夫でしたか?・・・」
「ん、なわけないでしょうが。痛てつつつつ」
ソウキがキャンプに帰還した。魔化魍を倒すことに成功したようだ。その顔は半分笑っていたが、
青みがかって輝く体には大きな擦り傷が付いている。
鎧を纏ったオオニュウドウの拳を避けきれなかったときについたものだろう。ソウキは着替えのためテントに入った。
テント越しに剛がソウキに話しかける。面と向かって話すのも何か緊張するので、このくらいの距離感が
剛にとって『話したいこと』を話すのにちょうど良かった。
「・・・ソウキさんみたいな大人の人でも迷ってたことってあるんですか?・・・」
いきなりストレートなことから話しに入った。
「そりゃ、あるさ。俺だろうが誰だろうが」
「・・・でも、何にもわかんないんです。僕。この先のこと。なんか、ほんとに僕だけみんなから置いてけぼりくらったような気がして・・・」
「悩んでたり、何か壁にぶつかってたり、そういうもんだよな。悩みゃいいんだよ、悩みゃ。答えを見つけるまでずっと。別にゆっくりでも良い。
 それも鍛えるってことだ」
「・・・『鍛える』・・・ですか。ソウキさん強いんですね。僕と違って・・・」
「俺が『強い』だって・・・?冗談言うなよ」
ソウキの体がはっと熱くなった。『強い』という台詞を聞いたからだろうか。
9年前に味わった感触に近いものをソウキは感じた。あのときとは場所もシチュエーションも違うし、
ましてや自分がテンキほどの『強さ』をもった鬼になったわけでもなかった。だが不思議とテント越しに伝わる剛の声から
おそらくあのときテンキが見たであろう、自分やサバキの姿が見えた。
「俺のサポーターにならないか?冬休みの間だけでいい。お前が今、探そうとしている『答え』の参考になるかは分からんが」
ソウキが呟くように、しかしはっきりと言った。
少しの沈黙の後、剛が答えた。
「・・・僕がサポーター。いいんですか?・・・」
「ああ」
ソウキがさらに返事を返した。
67番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:25:03 ID:c0Y1Hcty0
プチッ プチッ

オオニュウドウと送鬼の戦いの5日あと。
病室でサングラスをかけたハエタタキがベットから半身を起こして『エアパッキン』俗に言う『プチプチ』を
幾多の戦いで音撃棒を振るってきたその手で1つ1つ丁寧に潰していく。入院生活での暇つぶしには丁度いい。
早く鬼としての活動に復帰したい。だが、ハエタタキの体はそれに答えてくれない。
そのベットの横で付けっぱなしにしていたTVが突然消えた。
ちょうど「正確に言えば恐竜と哺乳類と翼竜とドラゴンの戦隊ジュウレンジャー」が放映されていたところだった。
病院のTV用のTVカードの度数が切れたらしい。
「ハエタタキさん。お見舞におやっさんがおみえになられましたよ」
ユラメキがそう言った。ユラメキのほうはハエタタキの世話ができるまでに回復しているようだ。
「よぉ。ほれ、これお見舞だからな」
おやっさんが部屋に入ってきてハエタタキに見舞品のハエタタキが好きな紅茶とヨーグルトと蜂蜜をわたした。
いつもより声が小さいのはここが病院だからだろう。
「おやじさん。ソウキは?」
確かに、おやっさんと一緒にお見舞に来るであろうソウキの姿が無い。紅茶があっても入れてくれる人がいない。
「ああ、あいつまた風邪で寝込んじゃってさ。今サポーターのサポートを受けてるところなんだよ」
おやっさんがすぐさまそう答えた。
「サポーターって?」「いつの間に?」
驚く2人におやッさんが返す。
「この前とったんだよ。素直な良い少年だよ。お前らも退院したら見に来るか?」
「ぜひ」
ハエタタキが返事をするとユラメキも頷いた。
少し間をおいてハエタタキが口を開いた。
「ところで見舞品の紅茶を入れてくれるのって・・・・・?」
「私に決まってるじゃないですか」
「大丈夫か?」
「大丈夫です!!ひいおじいちゃんが紅茶好きだったそうですから」
ユラメキの素っ頓狂な答えに辟易するハエタタキ。
そんな師弟の掛け合いを見るとおやっさんは軽く微笑んでハエタタキの復帰を確信した。
68番外編「仮面ライダー剛鬼」六之巻:2006/02/18(土) 11:26:45 ID:c0Y1Hcty0
そのころ、ソウキは『げんじろう』の一室で寝込んでいた。彼を剛が看病する。
オオニュウドウを倒した後、着替えのためテントに入り変身を解きはしたが、
全裸のまま剛とテント越しに数十分会話していたため風邪が再発したらしい。
「剛。初サポートだな」
ソウキはにこやかに言ったが、その後『げんじろう』全体に響き渡る大きなくしゃみをした。

つづく


次回予告
「我々の子のえさは新鮮で食べ応えのあるものが良い」
「今からマタタキのところまで行って来ます」
「この絵の、春香ちゃんのこと好きだったんだろ?」


次回「瞬く鬼」
69剛鬼SSの中の人:2006/02/18(土) 11:40:50 ID:c0Y1Hcty0
>>60
先代ザンキさん最高です。
今回も言動と違ってひたすら容赦ないところに萌えますた。
ロプロス、ロデム、ブービー、藤吉朗と先代ザンキさんが
日本に詳しすぎるのもワロス。
前スレにあった先代ザンキさんのプロフィールの
「その後なんか色々あって」の部分で何があったかが気になってきます。
70名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 12:18:55 ID:DVes5W4H0
剛鬼職人さんも、こっち初投下ですね。乙です。
真面目にSSを書かれている職人さんにコメント頂くと嬉しい反面、申し訳なさがありますね。
ってか、職人さんと読者の皆さん。先代ザンキを気にって頂いて大変嬉しいんですが、
敢えて言わしていただきます。お前ら、これが先代で本当にいいのかw

「その後なんか色々あって」は、マジでなんも考えてませんw
ある程度は脳内で考えていますが、ヨーロッパ時代とか書いちゃうと完全に違う話になりそうで、
響鬼から派生している世界観を壊す恐れがある為、書く予定はありません。
「E.U.R.O」とかWolf-Menとかは先代の本人談なので真偽があやふやなままにしときます。
71名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 15:52:44 ID:M8bmo3dd0
平野レミが出るssは初めてです。
「魂」に出ていたヴァン・ヘルシング風味な「響鬼」なのかと
思いきやそうでもなさそうなw

ロデムに小林(清志か?)ワロタ
日本にはいないけど、黒豹のDAって可愛いかも。
72名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 16:06:54 ID:ypEJnc6i0
ID違いますがZANKIの人です。
>71
そうヨーロッパ時代はヴァン・ヘルシング風のつもりでした。
あれってなんか似てる気がしてたし。
73名無しより愛をこめて:2006/02/18(土) 17:07:57 ID:h8ahMIQh0
もし本編(しかも井上脚本)で先代ザンキさんがこんなんだったら、
もう毎秒オロチ現象って位、大暴れてただろうけど・・・

このスレでは面白かったからOKw
74裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:10:19 ID:2nzir3UVO
三之章『観る音』

2011年。
某地方、神鬼村。
墓地から立ち上る線香の煙が、風に運ばれて散っていく。日菜佳が雷神のトランクに必要物を積み終え、墓石を拝む背中に出発を知らせた。
「ザンキさん…… 婆ちゃん…… 行ってきます!」
音撃真弦『烈斬』を背負うトドロキが、戸田山とよ之墓、財津原蔵王丸之墓に得意のポーズをとった。

山を歩いていたバンキは、変身鬼弦の振動に気付いた。木の枝を伝って来た緑大猿が、手の上でディスクに変形する。
「……!?」
携帯用ディスクリーダーで再生された映像に驚く。草木に潜み、裁鬼が身体を横たえていた。

「裁鬼さんが!?」
携帯をポケットに戻すと、イチゲキは走り出した。この三ヵ月間、手当たり次第に捜索を続けていたが、自宅から20キロしか離れていないこの山中に居るとは思わなかった。

連絡を済ませると、バンキも駆け出しながら、何度となく思い返していた、サバキとの日々を取り戻せる事に胸を躍らせていた。

別の山の麓に、不知火が停車する。助手席のドアを開けるヒビキに続き、運転席から降りた青年が木々のトンネルを歩き始める。
「悪いな、付き合わせちゃって……」
「いえ。 一人でも多い方が、サバキさんも早く見つけられると思いますから。」
「……ありがとな、明日夢。」
75裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:11:03 ID:2nzir3UVO
1983年。
木々は紅く染まり、20坪はある寺田家の庭に、秋風が裏山から落ち葉を運び続けていた。
竹箒が乾いた土の上を払い、塵取りに落葉を盛る。その落ち葉を麻袋に詰め込む佐伯栄は、額の汗を拭った。
「……」 「……」
曽我尊児が新しい麻袋を広げ、満杯のものを物置小屋へ入れに行く。
「……」 「……」
午後3時。テンキの妻・寺田さくらが、緑茶と茶菓子を盆に乗せ、縁側から和かな笑顔を、ジャージ姿の2人に向ける。
「さぁ、一休みしましょ。」
サカエとソンジ、今年23になる息子よりも若い2人を、さくらはまるで孫の様に迎えてくれていた。
落ち着いた和服に、控えめな蓮の帯。
弟子入り初日のサカエに「動きにくくないですか」と聞かれた時、50年以上和服に身を包んでいる彼女は、きょとんとした顔を見せ、無邪気に微笑むだけだった。
「助かるわ。 毎年秋になると、お庭を掃除するのも大変だったの。」
日が暮れると、外出していたテンキが帰り、庭に老人の顔を出した。
「風呂を沸かせ。」
サカエは頷き、風呂場の外で、古い火吹き竹―― の破片を踏んで窓を閉め、中でソンジが湯槽に栓をしてボイラーのスイッチを入れた。
午後6時半。風呂を上がった二人は、一番風呂を済ませていたテンキと、さくらの待つ茶の間で、卓袱台に用意された夕食の前に座る。
「いただきます。」
弟子入り初日に無言で食べ始めたサカエは裏山の木に一晩縛りつけられ、挨拶の大切さを身を以て知らされている。
今夜の献立は川魚の天麩羅と野菜の煮物、汁物と漬物。飯はおかわり自由だが、二人ともまだ、した事は無い。
「……ソンジ。 後で部屋に来なさい。」
テンキは早食いだが、ゆっくり味わっている様にも見える食べ方をする。茶を呑み終えると、奥の自室へ襖を閉めた。
76裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:11:45 ID:2nzir3UVO
さくらの隣で洗い物を手伝っているサカエに悪いなと言って、ソンジは襖を二つ開け閉めする。
地図や書類が置かれている書き物用の小さな机。床の間に掛け軸と花瓶。開け放たれた押し入れの中に、大小6つの木箱。
部屋の中央、座布団に正座するテンキは、失礼しますと言ったソンジを入れて対面に座らせ、今日買ってきた画材一式を贈る。
「……師匠、これは?」
驚くソンジに、若い姿に変身していたテンキは言う。
「自由時間、お前の暇潰しにな。 自然を絵にするのも、『鬼』に成る為にゃ悪くねえ事だ。」
「……ありがとうございます。」
二人の共同部屋に戻ったソンジは早速、サカエが施設から抜け出す際、リュックに詰めたスケッチブックの隣に、大きな紙袋を置いた。
「何か貰ったのか!?」
自由時間を得たサカエは袋を覗き込んだが、溜息を一つして押し入れから布団を出した。
「……俺達、いつ『鬼』に成れるのかなぁ。」 「……さあな。」
二人に対する施設、警察絡みの問題は、方法は定かではないがテンキに処理されていた。
二人は毎朝5時に起床し、テンキの後に続いて山を散歩する。戻ってくるのは7時頃で、朝食を済ませると8時に家の掃除が始まる。
廊下の拭き掃除に風呂掃除、畳(全室合わせて70畳)の掃き掃除と乾拭き、障子や襖も見落とさず、11時半頃から始まるさくら若しくはテンキのチェックに合格を貰うと、昼食を許される。
見落とし一つにつき、50回の腹筋と腕立てが待っており、二人が正午までに箸を持てたのは、弟子入りして6日目が初めてだった。
午後1時から庭掃除が始まるが、早く終わればテンキの山菜採りのお供や、さくらの買い物へ荷物持ちとして、朝の散歩以外に寺田家の外に出られる。
就寝時間は決まっておらず、夕食の片付けが済めば自由時間となってはいるが、無論外出は許されていない。
一度サカエが抜け出そうとしたが、庭でテンキに見つかり裏山の木に一晩縛りつけられ、規則の大切さを身を以て知らされている。
そんな生活が続いて50日が過ぎた。
77裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:12:32 ID:2nzir3UVO
さくらが女学校の同窓旅行へ出席する為、朝からいなくなると、テンキは早速若い姿に変身して、門の前に停めてある愛車に二人を乗せた。
「今日はお前達に、面白ぇ試験をしてやる。 ……これをしな。」
後部座席に並ぶサカエとソンジは、目隠しに黒い鉢巻きを渡された。
光は閉ざされ、暗闇の中、エンジンが始動する。
「師匠、ドコいくんですか?」
「言っちまったらつまらねぇだろ、サカエ。」
タイヤをガタつかせる道を右へ左へ曲がり、坂を上り下りして30分。
視界が効かないまま恐る恐る車を降りた二人に、テンキは言った。
「……よし! 今から始めるぞ!!」
肌寒い晩秋の空気の中、風が刄の様に二人の頬を切り付ける。
「……家に帰ってこい。 じゃあな。」
「え!?」 「師匠!?」
「目隠しは取んなよ。 それと、人に会っても俺の名前だけ言えば済むから。」
ドアを開け閉めする音の後、エンジンが動き出し…… 遠ざかって聞こえなくなった。
「……」 「……」
「どうするんだよ! ここドコなんだ!?」
「落ち着けサカエ! 目隠しだけは取るな! バレたら何されるか解らないぞ!!」
頭にやった手を思い止めたサカエは、想像に恐怖し、慌てて両手をジャージのポケットに突っ込む。
「……『いただきます。』言わなかっただけで、一晩山の中だもんな……」
「ああ。 この寒さだ、それプラス、滝に打たれろとか……」
二人は、まず冷静に現在地を思い描く事にした。
「寒い……」 「ああ。 屋外、しかも山の中だな。」
「地面は…… 土。 ちょっと草が生えてる。」 「乾いてるな。 水音も聞こえないし、川沿いじゃない。」
「……立ってる。」 「ああ、斜面じゃない。」
二人は途方に暮れた。鳥の鳴き声や木の葉の騒めきが聞こえるが、風の音に消されて、それらまでの距離が解らない。
「……這う?」 「……そうだな。」
78裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:13:35 ID:2nzir3UVO
手で地面を探り、膝を着くとソンジが声を上げた。
「どうした!?」
ソンジの右手には、何も感触が無い。ゆっくりと右手を身体の方へ、空中を移動させると、固まった土の壁に触れた。
「……崖かも。 斜めになった土が、ずっと続いてる。」
慎重に匍匐前進するサカエも、腕が空中で空振った。
「うわぁっ!?」
慌てて後退りし、ソンジの背中にぶつかる。
「危ねぇじゃねぇか!」 「こっちも死ぬところだったんだ!!」
そんな元気も、目の前を覆う暗闇には勝てない。膠着状態の二人は、ある匂いに気付いた。
「……何か、燃やしてるな。」 「……ああ。 下からじゃない。 横の方から匂ってくる。」
鼻を動かす二人に、足音を消して近付き、声を掛けた人物がいた。
「小僧達。 ここで何をしている?」
落ち着いた女声に上を向くサカエとソンジ。人と出会えた一瞬の喜びが去り、二人は暗い声を揃えた。
「テンキ……」
「テンキ? ……なるほど。」
人の気配を読める二人ではないが、数十秒の沈黙は、先程の人物が自分達から離れていった証拠として十分だった。
二人は匍匐を続け、とりあえず匂いの方へ進む事にした。足…… 否、腕場を確認しつつ、ゆっくり前進する。
庭で落ち葉を焼いていたテンキは、若い姿のまま、縁側で茶を呑んでいた。
「何だ、その年寄り臭い顔は。」
「……年寄りだから、しょうがねぇだろ。 お前も変わらねぇ癖に……」
猛士の封筒を持つシュキが、無表情でテンキの隣に座る。
「全く、気紛れな男だ。 細君は余程気の長い女なのだな。」
封筒を受け取ったテンキは、シュキの言葉を受け流して中身を確認する。弟子の登録書が、二人分出てきた。
「それにしても、『観音様』とは随分古いやり方だな。」
「なぁに。 アイツ達は、今まで余計なモンばっか見てきやがったからな。 たまには、眼ん玉に頼らねぇで、音で自分の周りを観る事も必要さ。」
79裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:16:49 ID:2nzir3UVO
寺田家の向かいに広がる田園、その畦道から匍匐を続け、サカエとソンジは家の敷地内に入った。
「……まだ、『四つ葉』の事を根に持ってるのか?」
「……無愛想なのは生まれ付きだ。」
母屋の角を曲がり、庭に二人が姿を見せた。
「……1時間弱、か。 ま、最初はこんなモンか。」
小声で笑うテンキに気付かず、二人は鼻を動かし続ける。
「良い匂いがするな。」 「腹減った……」
音ではなく、匂いに釣られてゴールした二人に拍子抜けするテンキを笑い、シュキは用意されていた串を、燃える落ち葉の中に刺した。
「……あの夜の事は、これで勘弁してやる。 見所有る弟子にも、喰わせてやるが良い。」
こんがりと焼けた薩摩芋の皮を捲り、シュキは二人を呼んだ。

2011年。
腕を押さえるバンキの所へ、イチゲキが辿り着いた。
「裁鬼さん!!」
その声も、イチゲキの顔も分からないのか、裁鬼は数十秒前にバンキの腕に斬り付けた音撃双弦を構え直す。
「イチゲキさん、やはり間島医師の診断通りの様です……」
哀しい表情のまま、バンキは首を横に振った。しかしイチゲキは足を踏み出す。
「裁鬼さん…… 僕です、イチゲキです。 ……分かりませんか?」
言語までも失っているのか、裁鬼は低く唸り、警戒するだけだった。
「……裁鬼さん! 石割さんですよ! 貴方の、サポーターの!!」
バンキの叫びも無意味に終わる。裁鬼は二人に駆け出し、双弦を振り回す。
「……バンキ君。 裁鬼さんを、連れて帰ろう。」 「……はい。」
変身鬼弦を弾く二人だが、裁鬼はバンキが鬼弦を額にかざす前に、その腹を蹴って吹き飛ばす。
「バンキ君!!」
変身を終えた一撃鬼がバンキに視線を向けた隙を見逃さず、裁鬼は至近距離で拳から灼熱弾を浴びせた。
「つ、強い……」 「やはり、気絶させるしかありませんね!!」
変身した蛮鬼が、何とか衝撃を堪えた一撃鬼の背後で立ち上がる。
裁鬼は、依然唸り声を発していた。
「裁鬼さん!!」
晴れ間は早朝だけで、昼前の空には再び灰色の雲が広がり、風が吹き始めていた。

三之章『観る音』 完
80裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/18(土) 23:18:56 ID:2nzir3UVO
【次回予告】

2011年。
再び行方を眩ました裁鬼。吉野はある決断を下すらしいと、イブキが鬼達に知らせる。

1983年。
本格的な鬼の修業を始めるテンキだが、サカエは再び心を閉ざし始める。そんなサカエにテンキは……

四之章『夜明け』(完成次第掲載予定)
81名無しより愛をこめて:2006/02/19(日) 10:31:14 ID:SMUSAp+G0
この過去と未来の交じり合うのは「火の鳥 太陽編」みたいでかっこいい!
過去編がキーポイントなんすかね?
ところで恭介は?以前あった「狂鬼」の作者さんが悲しい話にするって言ってたから、
採用してなんかあって居なくなった事になってんのかな?
82名無しより愛をこめて:2006/02/20(月) 10:13:35 ID:85f0jokB0
―ZANKI―
月日は流れ蔵王丸は中学校に入学した。その記念パーティーに呼ばれるザンキ。
オンボロの長屋の財津原家。家族は万年床で咳をする母と看病する姉。父は居ない。
四人も入れば、酸欠を起こしそうな部屋には蔵王丸の入学を祝う為のケーキがテーブルに在っただけだった。
それが精一杯のお祝いだった…。
「わあ!イチゴのショートケーキだ!」喜ぶ蔵王丸。
「こんなにいいものを…すまないねぇ私がこんなじゃなかったら…」
「お母さん、それは言わない約束よ。それにバイトが楽しいのよ」母を気遣う姉
「蔵王丸。これ。」姉は綺麗にラッピングされた箱を渡す。
「ありがとう!」興奮して箱を開ける蔵王丸。しかし、箱を開けて表情が暗くなる。
「え、万年筆…かっこ悪いな…」「……ごめん気に入らなかった…?」
「シャーペンの方が良かったな…」「ごめんね。そっちの方が良かったよね…」
弟の気に入る物を買えなかった事を悲しく思う姉。
「この馬鹿野郎が!」ガン!フルスイングで殴るザンキ。
「なにするんですか!?」「馬鹿野郎!その万年筆の為にお姉さんが何人の男に抱かれたと思ってるんだ!」
顔面蒼白になる母、必死に否定する姉。もちろん事実無根。
「万年筆は高級品だ。しかし長い間使える筆記用具だ。
お姉さんはいつまでも愛用して欲しくて必死にお金を貯めてプレゼントしたんだ…。」
注)BGMに『少年よ』が流れています。
「…お姉さんの最高のプレゼント…大事にしろ…」ザンキは万年筆を手渡す。
蔵王丸はそんな姉の気持ちを知らない自分を恥じた。そして姉の自分への思いに感動し泣いた。
「すいません!ザンキさん!」大粒の涙が頬を伝う。
「おいおい、俺じゃないだろ。お姉さんに謝るんだよ。」優しく笑うザンキ。
「ごめんね。お姉ちゃん。僕、一生大事にするね。」「…ありがとう蔵王丸。」
その言葉が姉にとって最高のお返しだった。家族は泣いた…嬉し泣きだった。
「あ、そうだザンキさんにも」「お、うれしいな」姉はザンキにも用意していた。
「弟をよろしくお願いします。」姉はフェルトで作ったザンキ人形を見せた。
ZANKIと刺繍されている人形は不恰好だが姉の感謝の想いが詰まっている…。
「うわっ!ださっ!」ザンキの言葉に財津原家は凍りついた…。

バトルとか一回も書いてないけど続く
83名無しより愛をこめて:2006/02/20(月) 10:20:23 ID:85f0jokB0
―ZANKI―
設定
財津原家◆ちばてつやの漫画に出そうなボロ屋
蔵王丸の母◆木村タエ(漢字がわからん)
ショートケーキ◆セブンイレブンで売ってるやつ
万年筆◆文房具屋でショーケースに入ってる高いやつ
>裁鬼SSさん
裁鬼さんヤバイ術に手を出したんすか!? 
84名無しより愛をこめて:2006/02/20(月) 12:39:43 ID:8w3VNctQO
裁鬼さんは黒い炎の限界越えじゃね?
85名無しより愛をこめて:2006/02/20(月) 18:34:32 ID:gsJS4lJL0
先代ザンキさんデリカシーなさすぎw
86高鬼SS作者:2006/02/20(月) 19:42:00 ID:p3lQ0bFk0
一つ書きあがったので投下を。

今回はまた時間が遡っています。
ところで「魂」読んできたんですけど、小暮さんやおやっさんの設定年齢が載ってないorz
とりあえず年齢描写は曖昧にしております。

>>82
今までで一番ツボにハマタw
かってに改蔵の「物事を根底からくつがえす一言があります」を思い出したのは俺だけだろうか…。
87仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:43:03 ID:p3lQ0bFk0
1970年。
この年、日本万国博覧会が大阪で開催された。いわゆる大阪万博である。
半年間の総入場者数は史上最多の6421万8770人。日本国内はもとより、世界各国からも人々が訪れた。
だが、そのごたごたに紛れ、人ならざるものも入り込んできていた……。

同年皐月。
当時のコウキは二十代前半。まだまだ荒削りな所が多く、諸先輩方に少しでも追いつくべく切磋琢磨していた。
そんな彼だが、研究室に入り浸り機械いじりをする癖だけは今も昔も変わらなかった。
その日もコウキは個室に篭って機械いじりをやっていた。ちらりと時計を見ると、休憩のため部屋の外に出る。
そこでは、開発局長の南雲あかねがレコードを聴きながら何かの書類に目を通していた。「あかねさん、あかねさん!」
コウキの呼びかけにあかねが顔を上げる。
「あっ、ごめんごめん。聞こえてなかった。どうしたの?」
にっこり笑いながらあかねが尋ねる。
「珈琲でも頂こうかと思いまして……。それよりも何を聴いているのですか?」
「え、聴いた事無いの?ビートルズのレット・イット・ビーよ。そりゃもう出てから二ヶ月経つけどさぁ、物凄く流行った曲よ?」
席を立ち上がり、サイフォンからカップに珈琲を淹れながらあかねが言う。
「すみません、洋楽には疎いものでして……」
「いい曲よ〜。ねえコウキくん、レット・イット・ビーってどういう意味か知ってる?」
珈琲を淹れたカップをコウキに渡しながらあかねが言った。
「『成るがままにせよ、そうすれば全て上手くいく』っていう意味なの。なんかいいと思わない?」
同意を求めてくるあかねに対し、コウキは珈琲を啜りながら「はぁ」と気の無い返事を返した。
88仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:43:33 ID:p3lQ0bFk0
「ところでそれは何の書類なのですか?」
「ああこれ?最近出没した魔化魍に関する報告書なんだけど、ちょっと、ね……」
「何かおかしな点でも?」
ううん、と唸りながらあかねは大袈裟に手を振った。
「と言うより、こんな魔化魍今まで見た事が無いのよ。これ、『歩』の人が撮った写真なんだけどね」
そう言うとあかねは書類に添付してあった一枚の写真をコウキに渡した。
「確かに、こんな姿の魔化魍は未だ見た事がありません」
その写真はピンボケしてあって被写体がまともに写っていないが、それでも今まで見てきたどの魔化魍とも異なっているのが認識できた。
「これは私の仮説なんだけど、こいつは童子と姫が海外から渡ってきてこの国で育てた魔化魍なんじゃないかしら……」
「海外から……ですか?」
「ちゃんと根拠はあるわ。まずはこれを見て」
あかねは一冊の古書を取り出してコウキに見せた。
「ここの記述を見て。西暦627年、中国の黄河から東シナ海を通って九州にカッパの群れが上陸したとあるわ」
飛鳥時代の話である。その時代には猛士なんて存在しないし、自分達のように鬼と化して魔化魍を清める存在がいたかどうかも分からない。
「他にもロクロクビのルーツに当たるヒトウバンも元々は中国産だし」
今この国にいる魔化魍のルーツの多くは大陸に求める事が出来るわ、そうあかねは言った。
「万博のごたごたに紛れて大陸から渡って来たと?」
「もう一つあるわ。気になって調べてみたら、二ヶ月前、敦賀港に着いた中国籍の貨物船で乗員が数名行方不明になっているの」
「それが奴らの仕業だと?」
「繋げて考える事も出来なくはないでしょう?」
「分かりました。とりあえず行ってきます」
そう言うとコウキは書類を借り、いつもの敬礼に似たポーズをして部屋を出て行った。
「ちょっとコウキくん!別に出撃命令は出てないわよ!……まったく、でもそこが彼の良い所なんだけどね」
そう笑いながら言うと、あかねは自分の分の珈琲を一口啜った。
89仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:44:06 ID:p3lQ0bFk0
滋賀県、野坂山地。
コウキはバイクに乗って目撃地点へ到着すると、すぐさま仮設キャンプを立てて式神を放ち周囲の捜索を行った。
数時間後、当たりをつけたコウキは山中へと分け入っていく。
「出たな……」
先を行くコウキの前に、姫と童子が姿を現した。その姿は両者とも中華風の衣装を身に纏っていた。明らかにいつもと違う。
姫と童子はコウキの姿を確認すると、すぐさま妖姫と怪童子に変身した。変身後の姿も今まで見た種類と一線を画している。
コウキは変身音叉を取り出し、近くの木に打ちつけた。そして自らの額の前へと掲げた。
激しい炎に包まれ、その中で鬼へと姿を変えていく。
「破っ!」
炎を払い、コウキは高鬼へと変身を遂げた。
謎の妖姫と怪童子が飛び掛ってくる。その両手の指には鋭い爪が生えていた。
爪による攻撃をかわし、掛け声と共に廻し蹴りを怪童子に叩き込む。だが吹き飛ばされた怪童子は器用に体を捩ると、木の幹を蹴って再び高鬼に飛び掛ってきた。
慌てて回避するも完全にはかわしきれず、爪が高鬼の頬を掠めていく。
さらに二体は高鬼の周囲を取り囲むと、牙と爪を使って一斉に襲い掛かってきた。
「くっ」
跳躍し逃れる高鬼。だが妖姫と怪童子もまた跳びあがり、空中で仕掛けてきた。
強烈な一撃を貰い、木へと叩きつけられる高鬼。
「こいつら……強い」
90仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:44:44 ID:p3lQ0bFk0
防戦一方だったかに見えた高鬼であったが、戦いの中で徐々に相手の動きを見極めていっていた。
妖姫の打撃を払い除け、隙を見て腹部に拳をお見舞いする。背後から襲って来た怪童子には、即座に体を屈めて足払いを仕掛けた。
そして音撃棒・劫火を両の手に握り、今度はこちらが攻めに転じる。
一撃、二撃と怪童子の頭を、肩を、胸を強く打ちつけていく高鬼。
「破っ!」
強烈な突きが怪童子の体を吹っ飛ばした。すぐさま今度は妖姫の方に向き直り、「劫火」を構える。
と、背後で倒れていた怪童子が起き上がり、口から火炎弾を吐いて攻撃してきた。予想外の攻撃に、背中への直撃を受ける高鬼。
体勢を崩した高鬼に、今度は妖姫が口から火炎弾を吐いて攻撃してきた。側転し、すかさず木の陰に隠れ体勢を立て直す高鬼。
と、妖姫の声が聞こえてきた。どうやら中国語のようだ。理解は出来ないが、こちらを嘲っている感じは分かる。
(あれを使うか。まだ成功率は高くないが……)
高鬼は二本の「劫火」の先端に付いた鬼石に、炎を集めた。そして妖姫と怪童子の前に飛び出すと、その炎を放った。
物凄いスピードで、高鬼が放った火炎弾をよける妖姫と怪童子。だが、二筋の火炎弾は軌道を変えると上空へと飛び上がり、そこで破裂して炎の雨を地上に降らした。
上空からの予想外の攻撃に、回避する事も叶わずその身を焼かれる妖姫と怪童子。
「鬼棒術・小右衛門火。鍛えた甲斐があったな」
すぐさま妖姫と怪童子の傍に走り寄り、また「劫火」での攻撃を仕掛ける高鬼。渾身の一撃を受けて妖姫が爆発し、塵へと変わった。
残った怪童子が襲い掛かってくる。その爪の攻撃を受け、右の「劫火」が弾き飛ばされた。
だが高鬼は鬼闘術・鬼爪で怪童子の顔面を貫き、真下に切り裂いた。妖姫同様、爆発し塵と化す怪童子。
「終わったか……。否、まだだ」
そう言うと高鬼は再び奥へと分け入って行った。
91仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:45:17 ID:p3lQ0bFk0
しばらく進んだ辺りで、低い唸り声が聞こえてきた。木々の間を何か大きな影が過ぎる。高鬼は慎重にそちらへと向かっていった。
そこには、漆黒の体を持った巨大な犬型の魔化魍がいた。爛々と輝く双眸が高鬼を睨み付ける。その無言の迫力に、高鬼は気圧された。
魔化魍が音も無く歩み寄ってくる。高鬼は両手の「劫火」を握り直した。
刹那。
漆黒の魔犬が牙を剥き高鬼に跳びかかってきた。素早く横にかわし、頭部に「劫火」で一撃を加える。
だが魔犬はダメージを受けた事に気付いていないかのように、風のように疾走していった。後を追う高鬼。
散々走り回された挙句、結局見失ってしまった。遊ばれているのだろうか。
次の瞬間、背後から魔犬が襲い掛かってきた。鋭い爪の一撃で高鬼の背中が切り裂かれる。
「ぬうっ!」
距離を開け、気合いを込めて傷口を塞ぐ高鬼。低い唸り声を上げ、威嚇しながら開いた距離を縮めにかかる魔犬。
「はああああああ……」
再び「劫火」の鬼石に炎を集中させる高鬼。掛け声と共に小右衛門火を撃ちだす。空へと舞い上がり、炸裂して降り注ぐ炎。魔犬にも見事直撃した。
しかし、これまたダメージを受けた様子も無く魔犬は高鬼に向かってくる。
(やはり音撃しかないか……)
いつでも装備帯から音撃鼓・紅蓮を取り外せるように構える高鬼。だが彼の予想だにしなかった出来事が起こった。
魔犬の体が四つに分裂したのである!素早く高鬼の周囲を取り囲む四体の魔犬。
四体の魔犬は、それぞれ口から火炎弾、石礫、突風、水流を放ち高鬼を攻撃してきた。回避出来ず集中砲火を喰らってしまう高鬼。
「くっ!」
高鬼は鬼法術・焦熱地獄を使った。全身から吹き出した炎が四体の魔犬の目を眩ませ、その隙に高鬼はそこから離脱した。
92仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:46:06 ID:p3lQ0bFk0
仮設キャンプへと戻り体力の回復を待ったコウキは、一旦山の麓まで下りるとあかねに連絡し、詳細を話した。あかねの方も魔犬について調べておくという。
食事を終えた時にはもう日は沈みかけていた。再度あかねへと連絡するコウキ。
「もしもしコウキくん?あなたが言っていた特徴を参考に調べてみたんだけど、ようやく該当する魔化魍が見つかったわ!」
「本当ですか!?」
「その魔化魍は多分ホウコウね。中国産の魔化魍よ」
ほんのちょっとしか資料が無かったんで見つけるのに苦労したんだから、とあかねは興奮気味に言った。
「鎖国していた時期を除くと、海外と何らかの交流があった時期に何件か報告があるわ」
「四体に分裂したのですが、その対処法については……」
「それがそこまで詳しくは書いてないの。ただ、戦った鬼がやられたとも書かれていないから、何か弱点はあるはずなんだけど……」
「そうですか……」
「あんまり力になれなくてごめんね……」
謝るあかねに感謝の言葉を述べると、コウキは電話を切った。
未知数の力を持つ相手と夜間に戦闘しても勝てないだろう、そう判断したコウキは明日の日の出とともに再びホウコウに挑む事を決意した。
その日の晩は雨が降った。あまり強い雨ではなかったので、夜明け前にはすっかり上がっていた。

日の出を待って、コウキはキャンプを後にした。手には音撃管・蒼穹を持っている。数で来るなら飛び道具が有利だろうという判断だ。
昨日の場所で変身し、現れるのを待つ。数分後、鼻をひくひくさせながらホウコウが現れた。こちらの匂いに気付いたのだろう。
「私を食いたいか?鬼の肉を食べた魔化魍は強くなれるらしいものな」
そう言いながら「蒼穹」から空気弾を連射する高鬼。それを素早く回避すると昨日同様分裂して襲い掛かってきた。
93仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:48:27 ID:p3lQ0bFk0
戦いは数十分間繰り広げられた。地上を、木々の上を縦横無尽に走り回っての立体的な戦いであった。流石の高鬼も疲れが溜まってくる。
「蒼穹」の鬼石は一発も減っていない。元々高鬼は管で仕留めるつもりは無く、太鼓で確実に倒すつもりだった。そのためには一瞬でも隙が欲しい!
だが、無常にも四体のホウコウの足が止まる事は無かった。おそらく焦熱地獄を使っても距離を取ってやり過ごしてしまうだろう。
(私が甘かったのか?もっと作戦を練って、場合によっては他の鬼に助力してもらうべきだったのか?)
爪や牙、口からの四種類の攻撃に高鬼の体はぼろぼろになっていた。傷の回復が追いつかない。
(駄目だ駄目だ!弱気な事を考えるな!そんな考えは死に繋がる)
冷静になろうとする高鬼。しかしどうしても勝機が見つからず不安になってくる。
前後を二体のホウコウに囲まれた。それぞれが口を開く。高鬼は半ば自棄になって前方のホウコウに突撃した。
と、昨夜の雨でぬかるんだ地面に足を取られ、高鬼は勢いよく転倒してしまった。それが幸運に繋がった!
対角線上に並んだ二体のホウコウは、それぞれが吐いた火炎弾と石礫をお互いまともに喰らってしまったのである!このチャンスを高鬼は逃さなかった!
「好機到来!」
直ちに前方の石礫を喰らったホウコウに「紅蓮」を貼り付ける。
「音撃打・刹那破砕!」
叩き込んだ「紅蓮」の一撃が清めの音を生み、ホウコウの体を駆け巡る。そして、爆発!
「まずは一体!」
次に高鬼は、火炎弾を顔面に受けて怯んだホウコウに「蒼穹」の空気弾を撃ち込む。攻撃を喰らったホウコウは四方八方に石礫を吐き出した。
この滅茶苦茶に吐き出された石礫は周囲で様子を伺っていた残る二体のホウコウにも襲い掛かった。事態は一転、高鬼有利に動きだしている。
石礫を跳躍でよけ、背後から「紅蓮」を貼り付けて刹那破砕を叩き込む高鬼。爆発し、塵芥に変わるホウコウ。
「残り二体!」
石礫が止んだ事で、残るホウコウが襲い掛かってくる。だがその上に、石礫を受けて折れた木が倒れてきた。慌ててよけるホウコウ。そこに隙が出来た。
「紅蓮」が貼り付けられ、刹那破砕が叩き込まれる。三体目のホウコウが土塊に変わった。
94仮面ライダー高鬼「異国からの来訪者」:2006/02/20(月) 19:48:59 ID:p3lQ0bFk0
「残るは一体!」
最後の一体が水流を吐いて攻撃してきた。その水圧で木々を薙ぎ倒していく。
「一対一ならこちらのものだ!」
軽やかな動きで水流をよける高鬼。そしてホウコウに「紅蓮」を貼り付けた。
「これで終わりだ!音撃打・刹那破砕!」
文字通りとどめの一撃がホウコウに叩き込まれる。爆発!舞い散る塵芥の中、高鬼は顔の変身を解き、一息吐いた。
ふとコウキは昨日あかねが聴いていた曲を思い出した。確か「成るがままに」であったか。まさにその通りだったな、とコウキは思った。

本部へと戻る前に、コウキはあかねへと連絡を入れた。
「もしもし、コウキですが……」
「コウキくん!?ひょっとしてこれからホウコウ退治に向かうところ?」
「いえ、ホウコウなら……」
「その事なんだけどさ、昨日の電話の後もうちょっと資料を探してみたのよ。で」
あったのよ!と嬉しそうにあかねが電話口で叫ぶ。
「ホウコウなんだけどね、分裂すると全部の能力が通常の四分の一になるらしいの。スピードもパワーも」
言われてみればそうだったような……。
「でね、スタミナも四分の一になっているわけだから、持久戦に持ち込んで一体ずつ倒せばいいの!」
無言のまま話を聞くコウキ。
「とは言え相手は鼻が利くから、戦うなら川の近くがいいわね。そういえば昨日の晩に雨が降っていたけど、そっちは今どう?」
つまり昨日の晩、雨の中逃げ回りながら戦っていたらもう少し楽に倒せたというのか。
「もしもし?コウキくん、聞いてる?」
もっと精進しなければ、コウキは心からそう思った。 了
95名無しより愛をこめて:2006/02/20(月) 20:09:15 ID:Qp57WJr00
ID違いますがZANKIの人です。
>>高鬼の中の人
タイトルみて一瞬先代ザンキ?!とか思いましたw
時代的に先代が日本に来たぐらいなので、
どっかで先代ザンキと小暮さんの絡みとかやってくださいw
個人的に見てみたいです。
96名無しより愛をこめて:2006/02/21(火) 00:45:28 ID:pOrTOm/t0
随分下がっていたのでage

今年に入って常駐していたスレが気付かないうちに二つもdat落ちしたので念のため
97名無しより愛をこめて:2006/02/21(火) 11:42:21 ID:VAOg6MjA0
―ZANKI―
中学生になって暫くすると蔵王丸は実戦を経験する事になった。
実戦と言っても戦闘を見学するだけであるが、それでも充分危険を伴う。
ザンキが側にいると言え蔵王丸は恐怖に怯えていた。
カエルの先導で森の奥に進む二人「怖いか?」「…はい、怖いです。」
「はじめての実戦だもんな。けどな蔵王丸…!?」森を抜けると川原に出た。
そこには寝そべるヤマアラシとザンキ達を見つめる童子と姫が…。
「誰だって恐怖はある…」鬼弦を弾くザンキ「だが怖がる事は恥じゃない…。」
落雷と共に現れる緑色の隈取の鬼。「本当の恥とは恐怖から逃げだす事…。」
『烈雷』を地面に突き刺す。「そして勇気とは恐怖を克服し戦う事だ。」
「斬鬼さん!弦は!」「いらねぇよ…まずは拳で捻じ伏せる!」
丸腰で童子と姫に近づく斬鬼「そこを動くな!俺が絶対に守る!」「はい!」
斬鬼の言葉が蔵王丸に逃げない勇気を生む。
「オラオラ…!」ドスドスと斬鬼は早く重い拳撃を繰り出す。
決まる度によろめく童子と姫。いつものパンチの比じゃない。
あれこそが本当の斬鬼…。師匠の姿。自分の目指すべき鬼…。
「ハァ!」力強い拳撃で姫を粉砕する、だが危険は再び襲い掛かる。
「斬鬼さん!後ろ!」斬鬼の背後めがけて迫る童子。「分かってる…」
斬鬼がベルトの音撃震を弾くと右足は帯電し輝く。「鬼闘術…雷電脚…」
閃光が走り、斬鬼の回転脚は童子の頭を粉砕した。
凄い!蔵王丸は師匠の技に驚く。「さてと仕上げだ。」
斬鬼は『烈雷』を逆手で握りヤマアラシに突っ込む。
鋭い針を豪雨のように斬鬼に放つヤマアラシ。「くっ!多いな!めんどくせぇ!」
だが、鋭く襲い掛かる針を斬鬼は避けることなく弦で払い退け懐に入る
そしてヤマアラシの足を切りつけ自由を奪うと素早く音撃弦を突き刺す!
「音撃斬!雷神招来!」ハードロックが響き渡りヤマアラシは粉砕した。
「ふう、どうだ蔵王丸?あれ?」振り向くとウニのような蔵王丸の姿が…。
「ひどいよぉ、斬鬼さん…弾いたのが当たりまくり…」ドテ!倒れる蔵王丸。
「すまない!つい夢中で!」

特にオチが無いけど続く。
98名無しより愛をこめて:2006/02/21(火) 11:49:15 ID:VAOg6MjA0
設定
鬼闘術「雷電脚」Raiden Kick ラディーン キック
音撃斬「雷神招来」Rising! Show Light ! (太陽よ)昇れ! 光を見せろ!

ここで募集とかいいのかな?駄目ならやめます。
関西出身の管の鬼の名前募集中です。
○一話限りの予定
○蔵王丸と出かける
○そこそこに見せ場あり
○見た目はあんまりかっこよくない予定
以上です。
99名無しより愛をこめて:2006/02/21(火) 22:15:09 ID:oRUY0UtP0
>98
俺が昔考えてた板尾創道(演じる役者本人と同じ名前)の鬼。
関西出身の鬼。ちなみに弾鬼の菅の師匠。
名前は頂鬼(いただき)、でどう?
100名無しより愛をこめて:2006/02/22(水) 08:52:38 ID:Q37mSQAs0
100取得
101名無しより愛をこめて:2006/02/22(水) 09:57:58 ID:YT0772pl0
>99
まとめサイトで見たことありますよ。
良い名前なんですが実はイメージキャラはすでに決まってます。
ネタバレになるから伏せておいたんですが考えて見ればもったいぶるSSでもないんでw
関西鬼のイメージはドランクドラゴン塚地さんです。史上初のデブ鬼ですなw
102名無しより愛をこめて:2006/02/22(水) 15:18:16 ID:YT0772pl0
―ZANKI―
放課後の学校。急ぎの用事はないので、のんびりと下校しようとする蔵王丸。
ガン!突然、蔵王丸は後頭部を殴られる。ここにもザンキさん!?と思ったが違った。
「ごめんなさい!」振り向くと女生徒と、床にばら撒かれた沢山の本。
どうやら山積みして運んでた本が崩れたようだった。
「痛かった?ごめんね?」女生徒は不安そうに聞く。「大丈夫ですよ。鍛えてますから。」
ふと名札を見ると「天道寺」の名前。名札の色からすると蔵王丸より一つ上の二年生のようだ。
「本当に大丈夫?」「ええ、平気です。それより一人で運んでるんですか?」
「うん、図書委員が誰も居なくてね。」「それは大変ですね。手伝いますよ。」
「ええ、いいよ…うわ!」女生徒は自分より背の低い蔵王丸が、大量の本を一気に持ち上げるのに驚く。
「結構、鍛えてます…」そういって図書室に運んだ。

「ありがとうね。」女生徒と蔵王丸はいっしょに下校した。
帰り際に自動販売機で女生徒がジュースを奢りたかったらしい。蔵王丸は素直に厚意に甘えた。
「いえいえ、僕の師匠が女性にやさしくできない奴は良い鬼…じゃなく男に成れないって、
いつも言うんです。」「師匠って事は何か格闘技?」あ、やばい。
口が滑りそうになる。「…え、えっとまあ、そんなとこですね。」適当に誤魔化す。
「へえ、素敵な師匠だね。」「え、、まあそうですね…。」素直にハイとは言えない。
「そういえば、君、名前は?」そう言えば自己紹介をしていない。
「あ、財津原 蔵王丸です。」「へえ、すごい名前ね。私は天道寺 裕香。」
「天道寺先輩ですか。」「裕香先輩でいいよ。」「じゃあ、そうします。」二人は笑った。
「じゃあ、私こっちだからバイバイ蔵王丸クン。」ニコリと笑って去っていく。
その笑顔は蔵王丸のハートをコルトパイソン並の貫通力でぶち抜いた…。

長いキッスの途中で(Fu-Fuさりげなく) 首飾りを外した(Fu-Fu 指先で)
友達の 領域(エリア)から はみだした 君の青いハイヒール
誰かRomantic止めてRomantic 胸が胸が苦しくなる
惑う瞳に甘く溺れて Hold me tight 切なさは止まらない。

Romanticが止まらないので続く。
103名無しより愛をこめて:2006/02/22(水) 15:24:46 ID:YT0772pl0
設定
挿入歌 「Romanticが止まらない」唄:C-C-B
天道寺裕香(てんどうじ ゆか)◆奥村夏未(お兄ちゃんおっはよー)
104名無しより愛をこめて:2006/02/22(水) 17:31:54 ID:DzzvLnBj0
Romanticが止まらないのにはワロwww
素敵な師匠だね。-素直にハイとは言えない。-ウンウン!ww
105名無しより愛をこめて:2006/02/23(木) 19:10:05 ID:hwi/rrbe0
―ZANKI―
いつもの様にベースキャンプで魔化魍を探索する蔵王丸、しかし様子がおかしい。
「キュイーン」コンドルのジョーが帰ってきた。飛行しながらディスク形態に戻り、蔵王丸に向かう。
ガン!「痛っ!」頭にディスクが直撃した。「おいおい!どうした?」
目を回し倒れる蔵王丸。

「そうか恋愛問題で悩んでいるわ・け・か…。」コーヒーを啜るザンキ。
「すいません、こんな話…。」恋で修行に身が入らない事を恥じる。
「気にするな。で、相手は?」「…あの二年生の先輩なんですけど…」
「ふふ…年上か、おませさんだな…。」不気味に笑うザンキ。
「よし、俺がなんとかしてやろう!」「え!お断りします!」
「ははは、俺が信用できないか?」「はい!」「…」慌てて端を逸らす。
「…いや、僕はまだ修行中の身です。人の命を守るべき鬼が恋なんて不謹慎だと思うんです。
もっとやるべきことがあると思うんです。」
「そうかな?」「え?」
「人の命を守る事も形を変えた愛だ…。もちろん恋愛と慈愛は違う、
だが、人を愛する事を知らない者に本当の人助けなんてできるのか?五体満足で助けたらそれでいいのか?
時には心に傷を負ってしまう人もいる。そんな時、本当の愛、優しさ、人の温もりを少しでも知っていれば、
ほんの僅かだが…その人の心も救えるかもしれない。」ザンキは少し悲しそうな目をして言った。
「今のお前は恋をする事で修行が疎かになると考えているが決してそうとは言い切れない。
愛する事で生まれる力もある。だから、精一杯、恋をしてみろ、それも修行だ。」優しく微笑む。
恋愛に対し罪悪感を抱いていた蔵王丸。だが、そんな事すら修行だと笑って言ってくれるザンキ。
蔵王丸の不安は一掃された。
「ありがとうございます。でも、まだ話とかできればいいかなって感じですね。」
「ああ、焦る必要はない。そうやって相手と接する事が大事だ。」
気持ちが楽になると今度は胸のモヤモヤ感に心地よさも感じられるようになる。
「なんて言うんですかね、この感じ。」「そうだな何だろうな…。」
「MajiでKoiする5秒前って感じですかね!」
うわ…ひでぇ…。蔵王丸の言葉に凍りつくザンキだった。

MajiでKoiしちゃいそうなので続く。
106名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 00:35:58 ID:LOItF7FW0
ヒヨワだった蔵王丸少年が段々毒されてきてるw
107裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/24(金) 01:05:42 ID:G3EDRQBHO
四之章『夜明け』

2011年。
丸腰の一撃鬼と蛮鬼は、裁鬼の攻撃を避けながらディスクを展開した。
浅葱鷲、茜鷹が牽制し、緑大猿、黄赤獅子が足を攻撃して転倒を試みた。
しかし裁鬼は音撃双弦で鷲と鷹を斬り払い、足元のディスクを踏み潰すと、二人との距離を跳躍で縮めた。
「……裁鬼さん! 目を醒まして下さい!!」 「一撃鬼さん!?」
一撃鬼は、装備帯から専用ディスクアニマル、白銀招を外して右拳に装着すると、飛び掛ってくる裁鬼にカウンターパンチを突き出した。
胸に打撃を食らい、吹っ飛んだ裁鬼は、木の幹に叩きつけられた。しかしすぐに立ち上がり、駆け寄る蛮鬼を回し蹴りで威嚇すると、天を仰いで絶叫した。
「さ、裁鬼さん……」
一撃鬼と蛮鬼が唖然とする目の前で、裁鬼は漆黒の炎を発する事なく、身体の各部から角を生やし、裁鬼・修羅へ変身した。
動きを封じようと掴み掛かった二人だが、何本もの刄状の角に切り裂かれる。
音撃双弦から、10メートル程の赤い火柱がほとばしる。
「まずい! 蛮鬼君!!」
釈迦から吹き出る炎、その横薙ぎの一閃が、咄嗟に伏せる二人の頭上を掠める。しかし斜めに斬り下ろされた閻魔の炎が、一撃鬼と蛮鬼を地面に埋まる程の衝撃で叩きつけた。
咄嗟に装着を解き、一撃鬼を庇った白銀招が、主人へのダメージを受け取って破砕した。
気を失い、素顔に戻った二人に歩み寄る裁鬼・修羅は、止めを刺そうとイチゲキの頭上に音撃双弦を構える。
――しかし、裁鬼・修羅はその手をゆっくりと下ろし、修羅を解くと再び木々の蔭にその姿を消した。
昼前から静かに振り出した雨に打たれていた二人が、トウキとソウキに発見されたのは、3時間後だった。
夕方、たちばなに集まった鬼達。意識を取り戻した二人とコナユキ、ソウキにトウキ、ドロタボウ討伐を済ませたダンキとゴウキが地下室に座っている。
「で、話ってのは何だ?」
再会の挨拶を済ませたヒビキが、おやっさんの隣に立つイブキに訊いた。
「はい。 ……今日の昼、吉野から司令が有りました。 サバキさんの事なのですが、今日の日付を持ちまして――」
イチゲキが、固唾を飲む。
「……全国の支部から有志を募り、捜索隊を正式に発足させる事になりました。 既に東北支部のフブキさん、中部支部のミカヅキさんが、こちらに向かっています。」
108裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/24(金) 01:07:15 ID:G3EDRQBHO
1983年。
年の暮に賑わう界隈を、テンキは若い姿でたちばなへ向かっていた。
「よお。 師走に、珍しい顔だな。」
買い物袋を下げた大柄なバンキと、僧の先代エイキ・鋭鬼坊が足並みを揃えていた。
「冗談は止めて下さいよ、テンキの旦那。」
大声で笑うバンキは弦の鬼。活動は春から晩秋に限られていた。
「 いやね、ウチのカミサンが、腹を膨らませまして。 ……勢さんへの挨拶ンついでに、安産祈願の御守りと、正月の注連縄を買いにきたんですよ。」
「おぉ、そりゃめでたいな! で、鋭鬼は?」
「あたしは、法事の帰りですよ。 お陰で寺の大掃除もまだでさ。 全くこの年の瀬に…… 仏さんなんか、新年まで放っとけば良いんだ。」
「……バチが当たるぞ、お前ぇ。」
マァ来年も一つ宜しくと別れ、テンキは年末休み初日のたちばなへ断りも無しに入った。
「勢の坊主。 来年の事なんだがな。」
こちらも大掃除を中断させたれた猛士関東支部長が、テンキの意見に、整理していた古文書の山を崩した。
「テンキさん…… 本気ですか?」
「弟子の教育になるだろ。 本部の相棒にも、そう伝えておけや。」
それから半月が過ぎ、テンキは庭で、目隠しをしたまま数メートル間隔の焚き火を避けながら歩くサカエとソンジを監督していた。
「熱っち!」
「愚か者! 枯れ木のはぜる音を聞き取らんか!」
炎に足を突っ込んだサカエは、倒れて転がり回る。
「む、無理ですよ師匠!!」
尻餅を着き、目隠しを取るサカエだが、ソンジは慎重に焚き火を避けきった。
「……何で出来るんだよ?」 「師匠の言う通りにしただけだよ。」
目隠しを外したソンジに、テンキは頷く。サカエは苦い顔をしながら、火の消えかかった焚き火を見つめていた。
109裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/24(金) 01:09:00 ID:G3EDRQBHO
「最近のお前、何かおかしくないか?」
夕食後の自由時間。縁側で枯れ木をスケッチするソンジが、隣で晴れた星空を見上げるサカエに訊いた。
「……お前の方がおかしくなってないか? 師匠の言うがままになりやがってよ……」
「今更、何言ってるんだ? ツッパって喧嘩やってた頃より、今の方が俺は楽しいよ。」
「……楽しい?」
「そうさ。 それに弟子入りしてから3ヵ月、師匠が俺達に、間違った事を言ったか?」 「……言ってねぇな。」
「だろ。 もう少し、素直になれよ。」
ソンジはスケッチブックを閉じ、サカエは雨戸を閉めた。

底冷えのする2月。魔化魍発生の電話が、寺田家に鳴り響いた。
妻からイッタンモメンだと知らされたテンキは、ソンジに自分の部屋から音撃管を持ってくる様に言い、サカエにテントその他、捜索拠点の準備を手伝わせた。
「……」
黙って車のトランクに荷物を積めるサカエを見るテンキは、足元の石を投げ付けた。
「うわっ!」
咄嗟に石を掴んだが、その大きさは野球ボールを越えていた。
「危ないじゃないすか!」
テンキは、歯を見せて笑い、「少しは成長しとる様じゃな。」とサカエの肩を叩いた。
車に乗った三人は、2時間後、湖の畔にテントを設置した。
家を出てからすぐに若い姿になっていたテンキが、大事に折り畳まれた和紙を取り出して広げる。
鶴と犬の式紙が、傍の林に消えていった。
「さぁて。 じゃ、サカエ。 俺と薪拾いに行くか。」
ソンジは野菜を洗い、夕食の準備を始めていた。万が一、テント付近に童子達が出現しても、テンキが防護用の呪術を施している。
薄暗い林は、湿った土を落ち葉が覆い、所々に動物の死骸があった。
「……奴等、ここいらに人間が居なかったからって、無茶苦茶しやがる。」
体液を絞られた猪や鹿に混じり、サカエは茶色く乾いた枯れ木の様な棒を見つけた。
「何だ、これ……」
真剣な表情で、テンキが言う。
「よく見てみろ、サカエ。」
棒の先が膨らんでおり、さらにその先は、細く5つに別れ、先端に白いものが光っていた。
「うわっ!」
犠牲者の腕を思わず投げ捨てたサカエは腰を抜かし、脇に抱えていた薪が散らばった。
110裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/24(金) 01:10:06 ID:G3EDRQBHO
テンキは、童子と姫が喰い残し、イッタンモメンに与え終えたエサの絞り粕と共に捨てたモノだと説明して、静かに手を合わせた。
「俺達の仕事には附きモンだ。 ……慣れろとは言わねぇが、ちっとは『人救け』の重さが解ったか。」
「……」
「こりゃ、大分と前のモンだ。 本体は結構育ってやがるだろう。」
土に犠牲者の欠片を埋め、戻ろうとしたテンキは、俯いたままのサカエを見つめた。
「どうした?」 「何か…… ショックで……」
日が暮れ、月明かりが揺らめく湖を眺めているサカエの脳裏には、まだ茶色い腕がこびり付いていた。
ソンジが隣に来て、カップに入った温かい緑茶を差し出す。
「聞いたよ、やられた人の、腕の事。」 「……何だろ、生命って。」
「え?」 「あの腕の人の事、俺は何も解んないけどさ…… 悲しい気持ちと、悔しさと、恐さが、いっぺんに入ってきた。」
サカエの瞳に、涙が溢れ始めた。
「俺さ…… 師匠と出会ってからも、どっかで嘗めてたんだ。 人救けとか、綺麗事を……」
「……今は、どうなんだ?」
「……嫌だ、人が死ぬなんて。」
「サカエ……」
「あの人の生きてきた事とか、家族とか、解んないけど、考えちまうよ。 それを全部、人を殺す為だけのバケモンが、奪ったり、悲しませたりするなんて……」
歩いてきたテンキは、サカエの頬に流れる涙を見て、ゆっくり頷いた。
「それが解りゃ、お前も『鬼』に成れるさ。 他人の為に泣ける人間に、悪党も不良も居ねぇよ。」
夜が更けた頃、月明かりを遮る二つの影が、空中を移動していた。
「こんな夜更けに人の子供が。」 「美味い汁を絞りましょう。」
童子と姫が足を伸ばし、水辺で小用を足していたソンジを狙ったが、何処からかの空気弾が、その足を砕いた。
「出やがったな!!」
テンキは両手の音撃管をサカエとソンジに預け、変身鬼弦を弾いて金色の炎を纏う。
怪童子、妖姫に変化した二体は天鬼の前に降り立ち、二方向に跳ねながら伸ばす足で攻撃する。
弟子達から音撃管『夕凪』と『朝霧』を受け取り、天鬼は二丁拳銃さながらの腕前で魔物達を撃ち抜いてゆく。
甲高い鳴き声が聞こえ、湖から白い腹を見せながら、イッタンモメンが飛び出した。
111裁鬼メインストーリー最終章:2006/02/24(金) 01:11:23 ID:G3EDRQBHO
二体を倒した天鬼は夜空に跳躍すると、高速で飛び回るイッタンモメンの背に立ち、両手の音撃管から足場に鬼石を撃ち込んだ。
堪らず平たい身体を揺らす魔化魍から降りた天鬼は、サカエに夕凪を投げ、装備帯から音撃鳴『風ぐるま』を朝霧にセットした。
「音撃射、『天静震後』!!」
吹き鳴らされた清めの音が、イッタンモメンを爆発させる。静かな夜が戻り、テンキは顔の変身を解くと、深い溜息を一つした。
東の空が、藍から水色に変わりかけている。
帰り支度を済ませ、テンキは運転席に乗り込んだ。
「思ったより、早く済んだな。 ま、今年はあちこち行くだろうが、途中で泣き言吐くなよ。」
後部座席の二人が、元気良く返事する。
走り出す車を、朝日が照らした。
「……人間、生きてりゃ悩んだり、迷ったりすんのは当たり前だ。 それで暗い時間を過ごしても、きっといつか、迷いは晴れる。 ……お天道様が、朝顔を出す様にな。」
「……」 「……」
「だから、いくらでも悩んで、迷って、泣いたり悔しがったりしろ。 それが、鬼の強さに成るモンだ。」
バックミラーを覗くと、決意有る表情の二人が、ハイ! と声を揃えた。
電話ボックスからの報を聞き、朝食を用意して待っていたさくらの耳に、エンジン音が入った。
「お疲れ様。 御飯、出来てますよ。」
「ああ。 ……だがその前に、コイツ等を何とかせにゃ。」
若い姿のままのテンキを怒らず、後部座席を覗いたさくらは、あら、と口を押さえて微笑んだ。
緊張の途切れた、無邪気な寝顔が二つ、お互いの肩にもたれていた。

四之章『夜明け』 完
【次回予告】

2011年。
捜索の手が広げられる中、裁鬼は魔化魍を倒し続けていた。裁鬼を逃がした事を詫びるイチゲキに、春香は頼み事をする。

1984年。
魔化魍の退治に同行し続ける二人だが、いつになれば鬼に成れるのか、焦り始める。ある日、テンキの外出中に、二人は変身鬼弦を……

五之章『強き心』
112名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 06:33:26 ID:eCm5ZHa40
裁鬼とサカエ少年の話がどういうリンクを
していくのか楽しみです。後、明日夢青年は
このお話にどう絡んでゆくのかも期待しています。
113名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 16:49:14 ID:hFLXz4gW0
鋭鬼さんのダジャレが先代譲りだったことにワロタ
114名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 17:11:42 ID:VlmgQmsC0
暇だったんで一本投下します。
115名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 17:14:58 ID:VlmgQmsC0
―ZANKI―
伊豆の海岸でバケガニの童子と姫と戦っている斬鬼。
それを岩陰から見つめる謎の男。
「今夜はパーティーがあるからな…一気に行くぜ!」
『烈雷』を構え、素早く姫を切りつけ、返す刀で童子も切りつける。瞬きをするまもなく粉砕する。
そして現れる巨大なバケガニ。「随分せっかちだな。オフサイド気味だぜ。」
バケガニのハサミを避けながら素早く懐に潜り込み叩き切る。
「音撃斬!パーティー楽しみ!」遊ぶ用事を入れている時の斬鬼は強い。
手を抜いている訳ではないが、百戦錬磨の斬鬼に只のバケガニを退治させる事は
タラバガニとアブラガニを見分ける以上に容易だ。斬鬼はバケガニを瞬殺した。
「さてとパーティーに行くか。」顔だけ変身解除して蔵王丸に近づく。
「お疲れ様です。」「ああ。ちょろいもんさ。さっさと帰ろうぜ。」
そんなウキウキ気分の二人の前に突如現れる40代のスーツの男。
「…私を弟子にしてください!」突然土下座をする男「ええ!?」驚く蔵王丸。
「この岩井川ジョニ男、あなたの戦う姿に惚れました!なんでもします!
是非、貴方の元で勉強させてください!」岩井川は頭を地面に擦り付けお願いする。
「あの…岩井川さん?…この仕事は命を落とすかもしれないんですよ…。」
この人が真剣なのは目を見ればわかる。しかし、想いだけでは人は救えない。
「命など惜しくありません!」「いやでも…」困り果てる蔵王丸。
「別に構わねぇよ。」ザンキから意外な言葉が出た。「え!でもザンキさん…」
「理由は聞かないが、俺の弟子になる事で何か救われるならやってみろよ。」
必死な岩井川から、ザンキは何かの救いを感じ取っていた。
そうだったのか、僕はまだ未熟だ…。
命だけでなく心までも救おうとするザンキの鬼としての心構えは蔵王丸に己の小ささを感じさせた。
「ところでサラリーマンだと思うんだけど宴会芸とかできる?」「え?」
「ザンキさん…まさかパーティーを盛り上げる為だけに…」ガン!
5メートル程飛ばされる蔵王丸。「裸踊りでもいいから、なんかない?」
そんな理由かよ…。

グッチとレミのパーティーなら参加したいので続く。
116名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 18:20:42 ID:VlmgQmsC0
設定
1980年代後半、日本はバブル経済の絶頂期を迎えようとしていた。
その景気の良さは、現在のITバブルや株取引と同じように加熱し、
金銭こそが正義と言わんばかりの世の中と化していた。
当時一番の人気が土地であった。土地を買えば数年後には何百倍になる。
そんな甘い考えは一般人だけでなく、大企業の長、果ては政治家にまで及び、
人々はその夢に溺れた。(詳しくは自分で調べて。)
ザンキの二番弟子、岩井川ジョニ男もその夢に溺れた一人だった。
岩井川ジョニ男は東京の普通の家庭に育ち、普通に進学し、普通に就職、普通に結婚。
唯一の楽しみは、ビールを飲みながらの野球観戦だった。
そんな彼に転機が訪れるのは、友人からの電話だった。
「絶対儲かる。」そんな甘い言葉と友人に対する信頼、そしてフィーバーしてる
日本経済はコツコツ派のジョニ男に甘い幻想を見せた。彼は家を担保にし、土地を購入する資金にした。
しかし、友人はお金を受け取るとドロン。
無一文になった彼に追い討ちをかけるように妻からの三行半。
彼はすべてを失い途方に暮れ自害を決意。断崖から飛び降りようとした時、
魔化魍に襲われるが、間一髪でザンキと蔵王丸に助けられる。
その後、ザンキをこっそり見ていたジョニ男はその戦いぶりに憧れ、
生まれ変わる気持ちでザンキに弟子入りしたのであった。
果たして彼の運命は!?
岩井川ジョニ男◆岩井ジョニ男(イワイガワ)
117名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 18:42:06 ID:1TS/y0Q90
>>113
なるほどそうか!……って蛍光灯だな、自分。

裁鬼さんと言うキャラがここまで広がるとは。
その後の明日夢も理想的な位置に落ち着きそうな予感(というか期待)。
裁鬼メイン職人さんの豪腕にはいつも敬服します。
一体あなたは何者なんだ。

>>115
なんとなく「30Minutes鬼」が思い浮かびました。
118名無しより愛をこめて:2006/02/24(金) 22:00:10 ID:pMiRFvyh0
>>117
「30Minutes鬼」って何?褒め言葉なの?
119響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:21:23 ID:m2u94nhP0
「仁志!!お前、また遅刻かよ〜」

「懲りないよね、ホントに。」

1時間目の授業は体育、運動場へ向かう仁志に2人の少年が語り掛ける。
仁志の親友の楽人と優一だ。幼い頃から、この柴又で泣き笑いを共にした掛け替えのない仲間だ。

「ハハ、いやぁ〜ごめんね。」

いつもの調子で笑う仁志。その憎めない笑顔に2人も釣られて笑う。

「そういや、今日久しぶりに3人で放課後遊ばない?ね、どうよ?」

仁志が2人に語り掛ける。

「うん、いいよ。で、どこに行く?」優一は即答する。

仁志は楽人の方へ顔を向ける・・・が。
楽人は何故かうつむいたままだ。

「どうしたんだよ、楽人。お前、腹でも痛くなった?ん?」

「ごめん・・・俺さ、今日ちょっと用事があるんだ。ごめんね、ホント」

2人を避けるように1人で運動場へ向かう楽人。
その後姿を追う、2人。

「最近、付き合い悪いんだよね、あいつ。」

優一の言葉に、ただ仁志は楽人の背中を見つめ続けるだけだった。
120響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:30:48 ID:m2u94nhP0
放課後、2人で柴又の道を歩く仁志と優一。

「でも、楽人。あいつ何か俺達避けてるように感じるんだけどさ。
とくに放課後。何やってんだろ、最近・・・・」

優一が呟くように言う。
それに合わせるように口笛を吹いていた仁志も返す。

「まぁ、楽人も楽人なりにいろいろあるんじゃない?
急に、その彼女とかさぁ。」

「彼女、んなワケないじゃん。あいつがモテるなら俺だって・・・」

「優一は相変わらずナルシストだねぇ〜ハハ」

他愛の無い会話、そして過ぎ行く町並み。
楽人の付き合いの悪さも、きっと他愛の無い理由だろう・・・そう思おうとした時。
街角の中に、一瞬・・・楽人の姿を仁志は見た気がした。

「あれ・・・楽人?」

「へ?どこだよ?」

仁志はもう1度、姿を見る。
間違いなく、楽人だ。だが、どこか学校の時とは雰囲気が違う。
楽人は誰かと待ち合わせしているようだ・・・誰かがやってくる。
複数の人間。その姿は・・・

121響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:43:55 ID:m2u94nhP0
「あいつ等・・・西中の不良だろ。なんであんな奴等と・・・」

仁志は優一の言葉を聞き、心が揺らいだ。
自分の身近にいたはずの存在が、どこか遠くなるように思えた。

「おい!!仁志、あいつまさかグループに入ってるんじゃないだろうな?
西中の連中・・・カツアゲでも暴行でもなんでもやってるって話だぜ。」

しばらく、楽人達の後を追っている仁志と優一。
夕暮れの公園に、その姿があった。楽人は、グループの仲間と共に小さな中学生の少年を取り囲んでいる。
おそらくはカツアゲの対象だろう。
周りに囃し立てられながら、棒切れを持って直立不動になっている楽人。
周りから聞こえる声、それは残酷であり愚かに聞こえた。

「おい、楽人!!これでお前が俺等の仲間になれるかどうか、確かめてやるよ。
な、やっちまえばどうってことないんだ。さ、やれ。」

棒切れが震える、楽人はただ無言で相手を見据えている。

「おい、なんだぁ?ビビっちまったのか?早くやってよね。面白くさぁ〜」

異様な光景を草葉の陰から見ていた優一と仁志。
ただ、怖い。そう思っていた仁志の横で優一は拳を握り締め、震えていた。

「ふざけんな・・・楽人。お前、こんなことして何が楽しんだよ!!」

122響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:44:25 ID:m2u94nhP0
草葉から姿を出した優一の姿に不良達の目線が集中する。
突然の乱入者に楽人の顔も引きつる。

「優一・・・お前、どうしてここに?嘘だろ・・・」

「あ〜そうか。君、変わりにお金くれるわけ?へぇ〜いいねぇ。
そういう心がけ。」

「やっちゃおうか?ね?」

優一の周りを囲む、不良達。そして、楽人もその中にいる。

「楽人・・・お前、目を醒ませよ。な?」

楽人は唇をかみ締め、棒切れを地面に叩きつける。

「ごめん・・・優一。俺、もうお前等とは違うんだ。」

夕暮れの公園、優一は無惨に殴られ、叩きつけられる。
信じていたはずの親友、楽人と仁志に裏切られ。
仁志はその光景をただ、震えながら見ているしか出来なかった。
弱い自分、それがあの時の「僕」だった。
123響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:48:11 ID:m2u94nhP0
次回 「代えなき友」

弱かった自分、そして今なら伝えれる。友への思いを。
変わってしまった過去は戻らない。
だが、今を変えることで何かが始まるのならば。

強くなりたい、そう思ったあの日を忘れない為に。
彼は今日も「鍛え」続ける。

仮面ライダー響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」

一緒に笑い、泣いたあの日々をもう1度。
124響鬼序伝 壱乃巻「嘆く空」後編:2006/02/24(金) 22:51:12 ID:m2u94nhP0
投稿遅くなり、申し訳ないです。
SS書きは修行不足で欠点など多々あると思いますがw
>56
指摘ありがとうございます!早速訂正しときました。
名前間違いはヤバいですよね。サンキューです。
125名無しより愛をこめて:2006/02/25(土) 07:10:34 ID:NEbsrQu00
優一と楽人w
ここの人ってみんなすげぇ。
さっきオリジナルヒーロースレの作品見たけど、
人に読ませるような作品でもないのにHPで堂々出してるし。
それ考えると本当にUGでやってる職人さんはすげぇ
126名無しより愛をこめて:2006/02/25(土) 17:05:28 ID:5Ll/WZC3O
裁鬼「須藤さん、三原さ〜ん、最弱同盟を結成しましょうよ〜(泣)」二人「一緒にしないで下さい」
127名無しより愛をこめて:2006/02/26(日) 01:11:11 ID:eWCHi9Ii0
このスレの裁鬼さんは最弱なんかじゃあないぞぉぉぉぉ
128高鬼SS作者:2006/02/26(日) 01:36:06 ID:MFSHsDru0
はじめに。
今回は「複数の敵が各地に現れて、それを同時に倒す」というネタをやってみようと思い書きました。
そういうわけで新しいオリジナルの鬼がまた出てきます。
問題なのは「どうせ今回だけだから」と、随分適当に設定した事です。特に約一名、ただのパロディです(苦藁)。
なるべく笑って許してやって下さい。

あと、時代的に合ってるはずなので先代蛮鬼さんを出させていただきました。
裁鬼SSでは彼が現役時代に使っていた音撃震が登場していなかったはずなので、こちらで勝手に設定させていただきました。

暇つぶし程度にお読み下さい。では投下します。
129仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:37:10 ID:MFSHsDru0
1973年。
この年、日本国内は混沌としていた。
日本赤軍による日航機ハイジャック事件や、中東戦争によるオイルショックの発生である。
世紀末を煽るかのように、ノストラダムスの大予言がブームとなった。
海外でも、ベトナム和平協定が結ばれ米軍がベトナムから撤退するも、当の戦争はその二年後まで継続した。

1970年代初頭、世界は不安定な足場の上に立っていた。

魔化魍。
出現には湿度や気温等の一定の条件が揃う必要がある。だが、科学的根拠に裏打ちされたそれらの条件とは異なる、第二の条件もあった。
魔化魍は社会が不安定になった時、イレギュラー的に発生する。
猛士の「王」や「金」は薄々感づいていても口には出さない。それは偶然の一言で片付ける事が出来るからだ。
しかし事実、退廃的な世に魔化魍は多く姿を見せた。

同年師走。
暮れも押し迫ったある日、何の前触れも無く一本の巨木が現れた。日本各地に同時に、である。
その木は文字通り生きていた。人を食らう事を喜びとした。魔化魍である。
この日、各地の鬼にとっての長い一日が始まった……。
130仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:38:19 ID:MFSHsDru0
午後三時一分、吉野。
コウキは研究室であかねからの説明を受けていた。
「まず午前五時三十二分、秩父山地で関東支部のバンキくんが目撃。交戦状態に入るも、連戦の疲労から隙を見て撤退」
手元のメモ帳に目を落としながら、あかねが説明を続ける。
「次は午前八時二十九分、霧島山。九州支部のヤミツキくんがヤマアラシの捜索中にこれと遭遇。数分間の交戦後、本来の任務に戻るため離脱」
次が午前十時五十六分ね、とあかね。
「大雪山で北海道支部のジョウキくんが遭遇。傷を負うも隙を見て撤退。次が午後零時十七分。越後山脈で北陸支部のドクハキくんが遭遇……」
その際サポーターの女性が負傷したそうよ、とあかねが心配そうに言う。
「最後が午後二時四十分、四国山地。こちらも遭遇した鬼は連戦の疲労から手傷を負い、そのまま撤退……」
以上がこの十時間近くの間に本部へと寄せられた各支部からの報告の詳細よ、とコウキの顔を見てあかねが告げた。
「しかし何なんですか、その巨木というのは。どの支部にも記録の無い魔化魍が、一度に五ヶ所も現れるなんて……」
「大丈夫、ちゃんと説明するから」
そう言うとあかねは一冊の和綴本を取り出した。かなりぼろぼろの本である。
「該当しそうなのは二つ。一つはコダマの森。但し、これは森そのものが突然現れたりする現象だから、木が一本だけの今回とは微妙に違うわね」
「コダマの森……ですか?それも初めて聞く名前ですね」
「何かやばい事の前触れらしいんだけど、まあここ何百年起きてないらしいし、あと百年は大丈夫でしょ」
根拠が無いながらも、そう笑って告げるあかね。
「ではもう一つは?」
ぱらぱらと本を捲っていたあかねの指が、とある頁で止まる。
「ナンジャモンジャの木よ」
そしてコウキにその頁を見せた。
131仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:39:03 ID:MFSHsDru0
そこには一本の木の絵が描かれていた。ごく普通の木である。だが、丁度幹のど真ん中辺りに巨大な一つ目が描きこまれてあった。
「目……ですか?しかし各支部からの報告では、外見はただの木だったとしか……」
ここに解説めいた文が載ってるんだけど……と言いながらあかねが説明する。
「ナンジャモンジャの木はね、生えてからしばらくすると、目が開くの。で、それと同時に花が咲く」
「咲くとどうなるのですか?」
途端にあかねは深刻な表情になって、こう続けた。
「花粉をばら撒く……。厄介な事に撒かれた花粉は、普通の植物をナンジャモンジャと同じものに変える性質を持っているらしいの」
「では、花粉が風に乗って各地に散布されたら……」
この国はお終いね、とあかねが言う。
「最後に目撃例があるのは幕末。薩摩藩の支配下だった琉球に現れているわ。その時はそれ一本だけだったらしいんだけど……」
花粉はばら撒かれたみたいね、とあかねは頁に目を落としながら言った。
「お陰で奇怪ヶ島に生えた植物が全てナンジャモンジャになって、生態系の回復に何十年もかかったそうよ」
古い文献だから何処までが本当かは分からないけどね、と大げさな素振りであかねが言う。
「まだ読んでない箇所もあるから大急ぎで読んでみるわ。目が開いてからじゃ遅いもんね」
と、机の上の電話がけたたましく鳴り出した。あかねがすぐさま受話器を取る。
しばらく何事か話した後、あかねは受話器を置くとコウキに告げた。
「……六ヶ所目よ。場所は櫃ヶ岳。ここのすぐ近くよ」
132仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:40:20 ID:MFSHsDru0
午後四時半。
櫃ヶ岳は本部がある吉野町からそう遠くない。バイクで現場に到着したコウキは、そこに聳え立つナンジャモンジャの木を目の当たりにした。
「こいつがそうか……」
何とも異様な雰囲気を放っている、
木の周囲には、小動物の骨が散乱していた。根や枝で捕らえ、突き刺し、その血肉を啜ったのだろう。
音叉を鳴らし、額に翳すコウキ。炎が彼の体を包み込む。
「破っ!」
炎を払い、仮面ライダー高鬼へと変身したコウキが姿を現す。
「私の属性は炎。葉っぱ一枚残さず焼き払ってやる!」
そう言うと高鬼は音撃棒・劫火を掲げ、炎を集中させた。そしてナンジャモンジャ目掛けて鬼棒術・小右衛門火を放つ。
空高く舞い上がった二筋の炎は、空中で破裂して炎の雨を地上に降らした。炎に包まれ、ナンジャモンジャの木が燃え上がる。
「好機到来!」
すかさず接近し、音撃鼓・紅蓮を貼り付けると、高鬼は「劫火」を大きく振りかぶって叩きつけた。
「音撃打・炎舞灰燼!」
その名の通り舞を披露するかの様に軽やかに、だが激しく「劫火」を叩き続けていく高鬼。
そして……。
爆発。炎に焼かれ、消し炭になりながらばらばらと降り注ぐナンジャモンジャの破片。
高鬼が「劫火」を装備帯に戻した刹那、地面が大きく揺れ動いた。
「こ、これは……」
次の瞬間、さっきまでナンジャモンジャが生えていた場所から、新しいナンジャモンジャの木が生えてきたのだ!なんという生命力!
流石の高鬼も言葉を失った。木は、先程と同じ大きさのものが寸分違わぬ状態でそこに立っていた。
そして、高鬼は戦慄した。ナンジャモンジャの木の、今まで閉ざされていた目が微かに開いたのだ……。
133仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:42:38 ID:MFSHsDru0
午後五時三十八分。
コウキは戦いを切り上げ、「歩」の家から吉野本部の研究室へと電話連絡を入れていた。そろそろあかねが何か対策を調べ上げている頃だろうと考えたのだ。
案の定、あかねは既に文献を読み終え、対策を見つけていた。
「……音撃が効かないわけじゃないの。各地に出現したって言ったでしょう?あの木は一本でも残っていると、他の木も瞬時に再生するみたいなのよ」
「……つまり、六ヶ所同時に叩け、と?」
口で言うのは簡単だが、実際にそんな事が出来るのだろうか。
「既に五ヶ所の支部には通達を出してもらってあるわ。各地で同時に音撃を叩き込む時間は午後七時ジャスト」
「何故その時間に?」
「ナンジャモンジャが花を咲かすのは生まれてから十四時間後。最初に目撃されたのが午前五時過ぎだから……」
「成る程。余裕を持って倒すためのギリギリの時間というわけですね」
コウキは腕時計に目をやった。残り一時間半を切っている。
「了解しました。やってみます。……否、やります!」
電話を切ろうとするコウキをあかねが呼び止めた。
「待ってコウキくん!気負い過ぎたら駄目よ。……こんな月並みな言葉しか言ってあげられないけど、頑張ってね」
「……はい。行ってきます」
受話器を置き、家人に礼を言うとコウキは外へと飛び出していった。
134仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:45:48 ID:MFSHsDru0
午後六時五十分、秩父山地。
真っ先に現場に戻ったのは、最初にナンジャモンジャと遭遇したバンキだった。
「全く、こんなのが各地に出てるなんて……。まさに世も末ってやつだな」
変身鬼弦を弾くバンキ。黄色い炎を纏い、その中で仮面ライダー蛮鬼へと変わっていく。
「はあっ!」
纏っていた炎を弾き、飛び掛ってこようとしていた根や枝を牽制、すぐさま予め地面に置いておいた腕時計を鬼弦の下に巻きつけた。
(これが無いと時間が分からないものな)
そして音撃弦・刀弦響に音撃震・補陀落を装着すると、前方へと駆け出す蛮鬼。
「うおおおおお!」
展開した刃で次々と根や枝を伐り落としていく。
「根や枝による単調な攻撃に、二度も遅れを取るものかよ!」
残り十分、果たして他の地域の鬼達はもう戦っているのだろうか。蛮鬼は「刀弦響」を振るいながらそんな事を考えていた。
次にナンジャモンジャの木は、葉を飛ばして攻撃してきた。この攻撃は初見だったが、「刀弦響」による斬撃をもって全て落としていく。
時間は刻一刻と迫っていた。そして……。
今まさに開こうとしていた大きな一つ目に「刀弦響」を突き刺した。
「音撃斬・冥府魔道!」
蛮鬼は勢いよく、「刀弦響」に装着した「補陀落」を掻き鳴らした。
135仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:46:36 ID:MFSHsDru0
同時刻、霧島山。
再びナンジャモンジャの木の下へ戻ったヤミツキは、変身鬼弦を鳴らした。
体を包んでいた闇を払い、中から仮面ライダー闇月鬼が現れる。
(まいったなぁ。もう他の所じゃ戦いは始まっているのかもしれん……)
腕時計を巻き、音撃弦・風邪(ふうじゃ)を右手で振り上げ、左手を添えて構える闇月鬼。彼は示現流の使い手であった。
根が、枝が、闇月鬼目掛けて飛び掛ってくる。
「おっと!もうやらせねえぞ!」
舞うように全ての攻撃を回避する闇月鬼。その名の通り、彼の戦いは夜間にこそその真骨頂を発揮する。
「今朝のお返しはさせてもらうからな!」
そう叫ぶと「風邪」に音撃震・中毒を装着し、刃を展開する。そして一気に懐へと飛び込んだ。
「えいっ!」
斬撃が幹から生えた枝を一本ずつ伐り落としていく。示現流は攻めの剣。彼の戦いに防御は無い。
そして、示現流は必殺の剣。二の太刀は有り得ない。
「ええいっ!」
気合一閃。「風邪」の横薙ぎがナンジャモンジャの木を真っ二つに伐り倒しした。轟音と共に地面に倒れるナンジャモンジャの木。
闇月鬼は腕時計に目をやると、すかさず切り株に「風邪」を刺し、その弦を掻き鳴らした。
「音撃斬・熱斗破散!でえいっ!」
136仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:47:36 ID:MFSHsDru0
午後六時五十二分、大雪山。
一面の銀世界の中で、ジョウキは再びナンジャモンジャと対峙していた。
お礼参りに来たぜ、そう言うと学ランと学帽を脱ぎ捨て、変身鬼笛を取り出す。
彼は十七歳、現役の高校生だ。既に冬休みに入っているが、自分の本分が学生である事を忘れぬため、常にこの格好で活動している。
笛の音とともに周囲が蒸気に包まれていく。
「おらっ!」
身に纏った蒸気を払い、中から仮面ライダー承鬼がその姿を現した。
先代承鬼である祖父の下、年端も行かぬ頃から弟子として現場に赴き、多くの経験を積んできた彼にとって、今朝の出撃はいつも通り簡単に終わるはずだった。
それだけに、一度撤退を余儀なくされたという事は彼のプライドを傷付ける結果となった。
「今日だけで学生服のズボンが二本もオシャカになったぜ。落とし前はきっちりつけてもらわないとな」
先端を向けた枝が承鬼目掛けて大量に飛んできた。その全てを拳で粉砕する承鬼。
「おらおらおらおら……!」
徐々に距離を詰めていく承鬼。と、今度は雪を押し退けながら地面から無数の根が迫り出してきた。こちらの動きを封じるつもりだ。
「鬼闘術・白金世界!」
掛け声と共に承鬼の姿が消えた。
否、消えたのではない。彼は鍛錬により五秒だけ身体能力を飛躍的に上昇させる事が出来る特技を持っているのだ。
極限までスピードが上がった承鬼は、これを使う度にあたかも周囲の時が止まっているかのような錯覚を覚える。
音撃管・星屑から鬼石を連射しながら接近する承鬼。
五秒経過と同時に、すかさず腕に巻いたタグホイヤーを見る。
「そろそろだな」
装備帯から音撃鳴・十字軍を取り外し、「星屑」に装着する承鬼。
「最後のとどめってやつだぜ。音撃射・波紋疾走!」
「星屑」から高らかに清めの音が鳴り響いた。
137仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:48:30 ID:MFSHsDru0
午後六時五十四分、越後山脈。
昼間とは一変して吹雪が吹き荒れる中、ドクハキはナンジャモンジャの木と対峙していた。
(この吹雪のせいで到着が少し遅れましたね。あと六分ですか)
鬼笛を取り出し、吹き鳴らすドクハキ。
体を包んでいた紫の煙を払い飛ばし、彼は仮面ライダー毒覇鬼へと変身を終えた。
音撃管・雑言から冷気弾を連射して戦うも、なかなか本体に鬼石を撃ち込む隙ができない。
(根や枝に撃ち込んでも意味はありませんからね……)
「雑言」による攻撃を掻い潜り、懐へ飛び込んでくるものに対しては口から紫の霧を吐いて攻撃した。霧を浴びた根や枝が瞬時に枯れる。彼の得意とする鬼幻術・毒舌だ。
時間は刻一刻と迫ってくる。
本来、魔化魍の隙を誘うはずのサポーターは昼間の襲撃で怪我を負い、今ここにはいない。
「全く、肝心な時にサポートをしないサポーターなど、まるでクリープを入れない珈琲の様ですね」
当時の流行語も交えながら軽く毒を吐く毒覇鬼。
と、視界に昼間襲われた際破棄した4WDが映った。
「あれは使えますね」
そう言うや否や、車体目掛けて鬼石を撃ち込む毒覇鬼。
ガソリンに引火し、大爆発が起こった。橙色の炎が周囲の闇を払う。衝撃と熱波に、ナンジャモンジャの攻撃が一瞬止まった。
「やっておいて何ですが、上手くいくもんですね。まるで漫画だ」
幹に鬼石を撃ち込む毒覇鬼。続けて音撃鳴・罵詈を「雑言」の先端へと取り付ける。
「丁度時間のようですね。音撃射・殺伐嵐!」
巻き起こる嵐。鳴り響く清めの音。幹に撃ち込まれた鬼石がその効果を増幅させる。
138仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:49:22 ID:MFSHsDru0
同時刻、四国山地。
紺碧鬼はナンジャモンジャの木と死闘を繰り広げていた。どうやらこの木には四国の結界は通用していないらしい。
根に締め付けられ、勢いよく地面に叩きつけられる紺碧鬼。
「ああっ!」
その衝撃で音撃棒・乙女が両手から離れて飛んでいってしまう。
続けて、枝が鋭い先端を向けて紺碧鬼に飛び掛ってきた。体術を駆使して枝を払う紺碧鬼。
それと同時に紺碧鬼は鬼闘術・舞踏髪で髪を伸ばし、地面に転がる「乙女」を掴むとナンジャモンジャの木に向かって駆け出した。
「はぁぁぁぁ……、いやあああああ!」
掛け声と共に強烈な回し蹴りを放ち、根や枝を纏めて粉砕する紺碧鬼。
「そろそろね……」
跳躍、ステップを駆使して間合いを詰める紺碧鬼。そしてナンジャモンジャの開きかけた目の真上に音撃鼓・結晶を貼り付けた。
「音撃打・惑乱鮮花!」
巨大化した「結晶」を音撃棒・乙女でリズミカルに叩き続ける紺碧鬼。清めの音が山中に木霊した。

午後六時五十八分、櫃ヶ岳。
高鬼もまた、ナンジャモンジャの木と再戦していた。
根、枝、葉による攻撃を回避し、間合いを詰める。
時間を見計らって「紅蓮」を幹へと貼り付けようとする。だが……。
「しまった!」
ほんの一瞬の油断から、右手の「劫火」を枝によって弾かれてしまった。その勢いで体勢を崩す高鬼。
「だが、これ一本あれば充分だ!」
体勢を立て直した高鬼は装備帯から「紅蓮」を外し貼り付けると、左手の「劫火」を右手に持ち替えて高らかと掲げた。
「音撃打・刹那破砕!」
渾身の一撃が振り下ろされ、炸裂した。清めの音が巨木の中を駆け巡り、その体を爆砕する。
「やったか……」
腕時計で時間を確認する高鬼。時刻は……。
「七時二分……?まさか!」
慌てて木が爆砕した場所に目を向ける。そこからは、既に新たなナンジャモンジャの木が生えてきていた。
139仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:50:49 ID:MFSHsDru0
蛮鬼「おいおい、ちょっと待てよ……」
闇月鬼「時間通りに音撃を決めたはずだぞ!」
承鬼「やれやれ……」
毒覇鬼「何処かの誰かが失敗しましたね。無様な……」
紺碧鬼「そんな!また再生するなんて!それに……」

ナンジャモンジャの木が、完全に目を開いた。それと同時に六ヶ所のナンジャモンジャの木に一斉に蕾が現れる。
(私が……私が「劫火」を弾かれた時、体勢を立て直すのに手間取ったせいなのか!?)
高鬼は自分を責めた。
蕾が徐々に開き始める、これが開ききり、花が咲いたらもうお終いだ。
「……まだ!まだ花は開ききっていない!もう一度だ!」
再びナンジャモンジャの木に接近する高鬼。さっきまで以上に強烈な攻撃が高鬼に襲い掛かってくる。
「うおおおおお!」
貫かれ、切られ、打ち据えられながらも前進を止めない高鬼。各地で戦う五人も同じだった。再び音撃を決めるべく向かっていく。
全身から血を流しながら、高鬼は再び「紅蓮」を貼り付ける事に成功した。
「行くぞ!音撃打・刹那破砕!うおおおお!」

「音撃打・惑乱鮮花!」

「音撃射・殺伐嵐!」

「音撃射・波紋疾走!」

「音撃斬・熱斗破散!」

「音撃斬・冥府魔道!今度こそどうだぁぁぁ!」
140仮面ライダー高鬼「邪眼開く時」:2006/02/26(日) 01:51:31 ID:MFSHsDru0
六ヶ所で寸分の違いも無く奏でられた清めの音が、ナンジャモンジャの木を文字通り土へと還した。
はらはらと、花弁が舞い落ちてくる。ふわりと地面に落ちると、魔化魍の花弁はすぐさま土塊となり崩れていった。
しばらく待ってみたが、もうナンジャモンジャの木が生えてくる気配は無い。
ある者は月の光が降り注ぐ中、ある者は荒れ狂う吹雪の中、ある者は光も届かぬ深い森の中で、顔の変身を解除すると一息吐いた。

バンキ「あ痛たたた……。体中傷だらけになっちまった……」
ヤミツキ「ふぅ……。もう二度とこんなのは御免だな」
ジョウキ「てめーは俺を怒らせた。それだけだ……」
ドクハキ「全く……。明日から移動が面倒になりますね」
コンペキ「はぁ疲れた……。帰ったらお風呂に入りたいな……」
コウキ「一時はどうなるかと思ったが……。まだまだ精進が必要だな」

午後八時四十三分。
本部へと戻り、報告を終えたコウキはあかねのいる研究室へとやって来ていた。
「私があの時ミスをしたせいで、もう少しで最悪の事態を招くところでした……」
「でも結果的には上手くいったわけでしょ?」
「それはそうですが……」
あかねが笑顔で珈琲の入ったカップを差し出した。
「ならいつまでも自分を責めちゃ駄目よ。はい、どうぞ」
コウキは黙ってそれを受け取り一口飲んだ。物凄く苦かった。

余談だが、コウキの性格は年を経る毎に傍若無人になっていった。「退かぬ、媚びぬ、省みぬ」というやつである。
周りの者はきっと、この頃の少し青い彼の方がまだましだったと思うであろう。
小暮耕之助の若かりし頃の一ページ、という事でここはまとめさせてもらいたい。 了
141高鬼SS作者:2006/02/26(日) 01:58:41 ID:MFSHsDru0
珍しく次回予告…

 (ザンキ?はて、そういえばその名、随分昔に聞いた事があったような……)

 「一人、研修生って言うのかな……。その人の面倒を見てもらいたいんだけど……」
 「私は弟子は取りませんよ。サポーターも必要ありません」

 「OH〜!待ってま〜した、あかねサ〜ン!」

仮面ライダー高鬼番外編「先代、襲来」
ある程度出来上がり次第、投下。

>>95
>どっかで先代ザンキと小暮さんの絡みとかやってくださいw
やっちゃいましたw
142名無しより愛をこめて:2006/02/26(日) 06:08:33 ID:4Pmh7iL5O
>>高鬼SS作者さん
もしかして承鬼さんは数十年後に娘さんをかばって殉職なさいますか?
143名無しより愛をこめて:2006/02/26(日) 09:24:50 ID:c7v4Zzb00
>>141
ありがとうございます!
こっちでも先代の太鼓のオーバーホールを小暮さんに頼むシーンとか考えてますよ。
じゃあ、投下後に欧州から日本に行く前日の話とかやってみますね。
144名無しより愛をこめて:2006/02/26(日) 20:25:39 ID:nu9w7g9/0
>86遅レスですが、おやっさんは56歳(音の巻より)
それにしても日本各地同時音撃シビレルッ〜☆
145名無しより愛をこめて:2006/02/26(日) 21:18:20 ID:JL7M8NLR0
コウキさんとZANKIさんがとうとう・・・・
うはーっ、楽しみッス!
146番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:33:20 ID:qRv9sV0S0
>前編は13から
番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻『間に合わぬ力』(後)

50m以上もある距離を僅か2秒弱で詰め、家屋の上に佇むカラカサ目掛け弾鬼は那智黒を振り下ろした。
だが、カラカサは僅かに早くその場から浮遊した。傘を広げるようにして弾鬼の一撃をかわし、ゆっくりとその場から移動した。
『誰が、避けていいと言ったァァ!』
弾鬼は屋根を蹴り『浮遊』しているカラカサに飛び乗った。だが弾鬼の重量が加わったにも関わらず、カラカサは安定したまま浮遊を続けた。
『ォォォォァァァアアアアア!』
弾鬼はあまりの怒りに音撃鼓を張り付ける事すら忘れ、那智黒をひたすらに叩き付けた。
勝鬼もまた、深い悲しみに平常心を失い、台風を打ちつづける事を辞めなかった。
『よくも・・・よくもよくもよくもぉぉぉ!』
だが、カラカサは自らに乗り攻撃を繰り返している弾鬼を僅かに不快としか感じていない様子だった。浮遊を続けたまま、ある一点で静止した。
そして、その場でまるで独楽のように回転し始めたのだった。
『ぉわぁ!』
急速回転に耐えられず、激しい勢いで吹き飛ばされる弾鬼。家屋に激突し、それでも勢い収まらずに地面をすべり、ようやく別の家の壁にぶつかり停止した。
『くっ・・・つぁぁ・・・・』
その間にも勝鬼は台風での射撃を止めなかった。
だが、やはりカラカサには僅かな不快という認識しかなく・・・・
広げた傘をたたみ・・・まるで流線型のロケットのように高速飛行してきた。
『何ィ!うわぁ!』
カラカサの全長は10mにも満たない、巨大魔化魍に属する中ではわりかし小柄な部類に入る。
だが、1.7mが平均の人間にはその大きさですら恐怖の対象になる。その身体を高速で飛ばし、勝鬼に体当たりを食らわす。避け損ね、まともに体当たりを受けた勝鬼は、まるで重さなど無いかのように宙に舞い上がり、地面に激突した。
『グ・・・ァァ』
激突の瞬間に風を纏い、ダメージを軽減したにも関わらず・・・勝鬼はすぐに立ち上がれないほどのダメージを受けていた。
147番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:34:22 ID:qRv9sV0S0
カラカサは相変わらずフワフワと浮遊している。
そのカラカサに、地面から蒼い閃光と化し弾鬼の蹴りが直撃する。だが、その浮遊に変化は無く・・再び高速回転し弾鬼を吹き飛ばした。
地面に激突し、毬のように跳ねる身体。
だが、弾鬼は立ち上がり・・・・怒りに任せて飛びついた。
勝鬼も幾分か回復したのか、カラカサに少しでもダメージを与えようと台風を打ちまくった。
『うぉぉ!オラァ!』
那智黒を振り上げ叩きつける。普段ならばどんなに硬い岩でも破砕して見せるほどの棒術も、怒りの感情のみで戦う弾鬼には引き出せなかった。
再度、地面に叩きつけられた弾鬼。起き上がり大地に足を叩き付け石錐を隆起させる。破砕する石錐は蒼い飛沫となり・・・・・・そのまま風に消えた。
『なにぃ?』
未完とは言え、強化体への変身を会得しつつある弾鬼は、土壇場で変身できなかった事に驚いた。
一度成功してからは、失敗した事など無く。むしろ変身所要時間は短くなっていたハズであった。
『なんで!変わらないんだよ!!』
魔化魍への怒り。土壇場で決める事の出来ない怒り。怒り・・・怒り。ただそれだけしか弾鬼には残されていなかった。
『鬼』本来の目的である『護』る心は・・・すでに小さくなっていた。
それは勝鬼も同じ事であった。一見、弾鬼に比べて我を忘れてはいなさそうでは在るが、普段に比べれば十分におかしかった。
ただ、叫び声を上げ・・・台風を乱射する。それしか出来ずにいた。
魔化魍カラカサは音撃管の鬼が担当する鬼である。その、本来の戦い方を忘れている。それ程に勝鬼もまた平常心で戦えていないのだった。
148番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:35:00 ID:qRv9sV0S0
『っそぉ・・よくも・・・あの娘を!皆を!村を!ゆるさねぇ・・・今すぐ打ち殺してやる!』
地面をに幾度も叩きつけられてなお、咆哮と共に立ち上がり、そしてまた叩きつけられる弾鬼。
『よくも・・・・・・よくも・・・・お前達は・・・お前らは・・・・いつもだ!いつも!』
台風を乱射し、体当たりをかわし・・・あるいはかわしきれずに吹き飛ばされても、やはり咆哮と共に立ち上がる勝鬼。
千明は憔悴した目で・・・・既に冷たくなった少女の身体を温めるかのように抱きしめ・・・弾鬼と勝鬼を見た。
「あれは・・・・誰?」
千明の目に映った弾鬼と勝鬼は、見知った弾鬼と勝鬼では無かった。
見た目、姿形は弾鬼と勝鬼だ。間違うはずが無い。だが、僅かな違和感。鍛え上げられた技は無く。激情に身を任せ、獣の如き疾駆と撃。猛る咆哮は正に獣のソレ。
今まで微塵も感じなかった感情が、千明の中に渦巻いた。
「・・・・あれが、ダンキ・・君?」
なんと禍禍しい事か・・・・・
以前・・・自分を助けてくれた時の、荒々しくもどこか神々しい姿はソコに無く。
まるで伝承に残る『鬼』そのものだった。
カタカタと震える身体。
『安藤千明よ!そっちの『鬼』は!本名!住所!』
彼は『鬼』だった・・・
『教えて・・貴方何者で何で『鬼』になれて・・・なんで・・何も言わずに去っていったのか・・・』
彼は『鬼』になれる人間だった。
『『鬼』もだけど、やっぱり『魔化魍』ね!架空と思われてた『妖怪』が実は存在してたなんて、ロマンチックじゃない!』
私は妖怪やオカルトが好きだ・・・・・
『私だって『妖怪』見たかったんだから!なのに危険だ!とか一人で行くなんてズルイ!』
でも、なんで今まで忘れていたのか・・・・・
千明は自分が『魔化魍』に一度殺されそうになっていた事を忘れていた。
そして、『鬼』も『妖怪』の内の一匹である事を。
ダンキに逢って、価値観が変わったと思った。
『鬼』とは人の心をも持ち得ていると。
そして、今はっきりと感じていた。
149番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:35:38 ID:qRv9sV0S0
千明は弾鬼と勝鬼に恐怖を感じていた。
人が・・・・化け物に立ち向かえるはずが無い。では、今化け物に立ち向かっている二人は・・・人間じゃ・・・無い・・・・・
『ぐあっ!』
弾鬼が吹き飛ばされ、千明のすぐそばに叩きつけられた。その身体からは、夥しい量の血が流れている。
『ヴァァァァァァァァアアアアアアアア!!』
咆哮と共に、本日何度目になるか・・・・宙を飛びカラカサへ飛び乗った。
その咆哮に、千明は・・・・・・
「ヒッ!・・・・・イヤ・・・・・イヤァァァァァァァァ」
悲鳴を上げ、少女の遺体を抱きしめたままその場から逃げ去った。
彼女は・・・・嗜好が特殊であったが、それでも普通の人間だったのだ。
「誰か・・・助けて・・・・」
どんなに本や文献を読んでも、興味と驚喜しか感じなかった千明は・・・・・正に夢にまで見た本物の妖怪『3匹』に激しい恐怖を抱き・・・・
「怖い・・・助けて・・・・」
その場から走り去り・・・ひたすらに走り・・逃げた。

幾度目の衝撃だろうか。弾鬼は小さな作業小屋を木片とトタンの屑に変えながら、大地に激突した。
『ぐぁっ・・・・っ・・・・』
ガン!と大地を殴り、カラカサを見る。
湧き上がる怒り。
『まだだ・・・まだ・・・』
弾鬼は立ち上がると、那智黒を握り締めて大地を駆けようと走り出した。
「へぇ、鬼じゃない」
凛とした声が響き渡る。その声に弾鬼は振り向いた。そこには二人の男女が。
男は着流しに上品そうな上着を羽織っている。女の方は、綺麗に着付けされ和服姿。共に山間の村には不向きな服装だった。
特に女性の方などそんな服装で歩き回れば裾など一時間もせずに擦り切れてボロボロになるだろう。
150番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:37:26 ID:qRv9sV0S0
「鬼達・・・・吉野の手も早くなったな」
その言葉に弾鬼は身構える。
『何者だ・・・童子と姫か!?』
その姿は、確かに童子と姫と同じ顔つきをしていた。
「大きな見かたをすれば、私達も童子達と変わらないわね」
「だが、それはお前には関係の無い事・・・」
言葉を紡ぐ二人に弾鬼は、益々の怒りを爆発させた。
『訳わからない事言いがって!じゃ、クグツかぁ!?』
那智黒をクルリと回転させ、突きつける。
「短気な男ね・・・」
女は掌を弾鬼に向けると、光の帯を放った。
咄嗟に飛び避ける弾鬼。光は弾鬼の後ろの大地を盛大に削り取った。
『なっ!』
「そんな身体でよく動き回れること」
女は着物の袖で、口元を隠しながら笑い、幾条もの光を放った。その全てを転び、転がり、飛び跳ねながらかわす弾鬼。女はその必死な様子が可笑しくて堪らないかのように、コロコロと笑う。
だが、男が女の動きを制すると、弾鬼に向けて言った。
「吉野の鬼。私達は、あの不良品を始末しに来ただけだ。一寸静かにしていろ」
言って指先に灯らせた光で文字を描く。
『縛』
描かれた文字が飛来し、避けようとした弾鬼の右足に張り付いた。途端重くなり、動かす事すら出来なくなる弾鬼。
『何だ・・・コレっ!・・・う・・おぉぉぉぉぉ!』
バタバタともがく弾鬼をよそに、男女は空中に浮かぶカラカサを見た。
「完全な失敗作ね。面倒だけど、既存のヤツを改造するよりも童子と姫を介して生ませた方が楽かもしれないわよ?改造はその後・・」
「そうだね・・・でも、一々クグツを動かしてと言うのも、面倒だ。いっそ全ての魔化魍を育てられる童子と姫を生み出した方が効率的かもしれないな」
151番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:38:18 ID:qRv9sV0S0
男女は、そう言うと空中に文字を書き、カラカサ目掛けて飛ばした。
『封』
空中を浮かぶカラカサに命中すると、淡いモヤがかかり・・・・10秒もしないうちにカラカサの姿を消滅させた。
弾鬼や勝鬼がどんな攻撃をしても、怯む事が無かったカラカサがまるで初めから居なかったかのように、綺麗に消滅したのである。
「さて、残るは貴方ともう一人の鬼ね。どうする?」
女が掌に光を生み出して、弾鬼に突き出す。身動きが取れない弾鬼には避ける術も無い。
『グッ!こ・・・のぉぉぉ!動けってんだよ!』
両手両足を動かそうと力を込めるが、ピクリとも動かず・・・
「さようなら。恨むのなら、その程度の呪縛術すらも解呪出来ない“自らの弱さ”を恨むのね」
今まさに光が放たれる瞬間、弾鬼の後方から圧縮された空気弾が連続で打ち込まれた。
だが、男と女は空気弾を光の壁のような物で防ぎ、何事かと弾鬼の後ろを見た。
音撃管『台風』を片手に蟷螂拳のような構えで男女と対峙するのは、先ほどまでカラカサと戦っていた勝鬼。
『キミ達が何物かは知らないけど、その禍々しい気配・・・誤魔化しきれないよ?キミ達だね・・・カラカサを倒したのは・・・』
「倒したのではない。封じただけだ。童子と姫を食い散らかし、気分で破壊と浮遊を続けるような失敗作は必要なかったからな・・・」
男はメガネを懐から取り出し着けると、再び指先で文字を書き勝鬼へと飛ばした。だが・・・
『その程度の攻撃っ!』
周囲に風を生み出し、光の文字を消し去った。その行動に多少なりと驚く男。
「ほう、なかなか」
『大方、キミ達のせいなんだろう?去年から今年にかけての魔化魍異常発生の原因は・・・・どうしてこんな事をするっ!』
台風を突きつけて問い詰める勝鬼。男は意外にもあっさりと理由を述べた。
「負けてられないから・・かな。お前達、吉野と鬼達に・・・」
『何ィ!』
『そんな・・理由で?こんな・・・事を!』
いきり立つ弾鬼と勝鬼を横目に女がまたもやコロコロと笑う。
「理解できるとは思っていないからな。さて、用も済んだ・・・帰るとするか」
男は、笑う女を引き連れて弾鬼と勝鬼に背中を向けた。
152番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:38:54 ID:qRv9sV0S0
『このまま返すと思ってるのか?』
『それ以前に情報を洩らしたままでいいのかな?』
台風を一発だけ威嚇射撃し、地面に伏したままとはいえ、闘志を失う事無く男女に言い放つ弾鬼と勝鬼。
「やれやれ。お前達のような未熟な鬼に見逃して貰うには許可が居るとは知らなかった・・・・それに、お前達のような鬼に漏れたところで、どうにか出来るほど“強い”鬼でもないだろう?」
男は立ち止まり袖を軽くまくった。そして、一振り腕を払う。
『お!』
弾鬼は、全身を拘束していた力から解放され、ようやく自由になった。
『今更、どういうつもりか知らないが・・・・親玉らしく、失敗作とやらの責任とって貰うぜ』
両手の那智黒をガチンと噛みあわせ、構える弾鬼に男は浅く笑うと左手を翳した。
「・・・・」
何事かの発音。弾鬼と勝鬼にはそれが聞き取れず、一瞬動きが止まり・・・
ヒラリ・・と一羽の蝶が飛来した。
パタパタと羽ばたいて弾鬼と勝鬼の間に飛び込んだ。
弾鬼と勝鬼はそれを確認してから、咄嗟に飛びのいたが時既に遅く、次の瞬間、激しい閃光と爆裂が弾鬼と勝鬼を襲った。

地面に倒れる二人。
胸の防具は割れ砕け、全身は更に血まみれとなっている。
男は、ゆっくりと弾鬼と勝鬼の近くに歩み寄り・・・・
「さようなら。吉野の未熟な鬼・・・・・」
それだけ言い放ち・・・・姿を消した。
153番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:39:40 ID:qRv9sV0S0
空は茜から黒へかわり・・・・星が見え出した。
だが、その星も次第に雲に隠れ・・・雨が降り出した。
「ダンキ君・・・無事かい?」
「あぁ・・・・・・俺達・・・あいつ等に完全に・・・・・」
そこから先の言葉を発する事が出来なかった。
ダンキはこれまで・・・・師である断鬼と、同じ太鼓使いである響鬼と肩を並べるべく、必死に・・・必死に鍛えてきた。強化変身への足がかりも得て、少しでも強くなっていると自信を持った矢先に、完膚なきまでに打ち砕かれた自信。
そこで『負けた』の言葉を口にする事は出来なかった。口にすれば・・・・・立ち直れなくなりそうだったからだ。
「悔しいよね・・・・・村も・・・・皆も・・・あの娘も・・・誰も救えなかったなんて・・・・・」
地面に倒れたまま・・・・雨に打たれる二人。身体はボロボロで身動きすらも取れない状態で・・・・悔しさのあまり涙を流すショウキ。
「こんな時に・・・こんな想いをしないように・・・・・・鍛えてたのに・・・・・何も・・・出来なかったなんて・・・・・僕の・・・鬼としての・・・時間は・・なんだったんだろう・・・・」
鍛えて、鍛えて・・・鍛え上げて・・・・。ただ人々と自然と・・・・共に在る命の響きを・・・・輝けるこの世界を護る為に・・・傷ついても立ち上がり戦い続けた。
それを護れなかった。次に悔しい思いをしないように、鍛えて・・・同じような事にならないように・・・鍛えた結果・・また同じ思いをして・・・・
「っくしょう・・・・強く・・・強くなりてぇよ・・・・」
ダンキも・・・・泥だらけ傷だらけの顔をぐしゃぐしゃにして涙を流しながら・・・・呟いた。
「強く・・・なりたい・・・・」
「強く・・・・・・・・皆を護れるぐらい・・・・強くなりてぇよ・・・・・・」
降りしきる雨の中・・・・・ダンキとショウキは・・・・それだけを口にして・・・哭いた・・・・。
パシャりと音を立てて、何者かがダンキとショウキの傍に立つ。
「そしたら・・・鍛えるだけだな。鍛え足りないなら鍛える・・・それだけだろうが・・・」
「トウキ・・・・か?」
土砂降りの中、現れたのはダンキ達の仲間、関東の鬼『闘鬼』だった。
154番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻:2006/02/26(日) 23:41:37 ID:qRv9sV0S0
「お前達も鬼ならよ・・・グダグダと愚痴る暇あるんなら・・・身体で示そうぜ?見てらんねぇぞ・・・まったく」
「トウキさん。どうしてここに・・・・」
「日菜佳ちゃんからよ、連絡があったんだよ。お前ら二人からの連絡が無ぇってな。元々今回のはイレギュラーにも程があらぁな・・・様子見って事で回されたんだがよ・・・結果こうなってたとは・・・・キツイな・・・現実はよ」
雨の中、トウキは傘も差さずにダンキとショウキを見据える。
「お前ら・・・悔しいか・・?」
「当たり前だ・・・・」
ダンキが強く言う。
「お前ら・・・強くなりたいか?」
「なりたいよ・・・・強く」
ショウキも言う。
「なら・・・・強くなりたいならよ・・・・立ち上がろうぜ・・・自分の力で。そんで・・・・強くなろうぜ・・・・・強くなるのに近道なんてもんは無ぇ。ましてや平らな道でも無ぇ。一歩ずつ・・・踏みしめて・・・・鍛えようぜ・・・」
僅かに動く・・・・・ショウキの体。
「強く・・・なりてぇ・・・・いや・・・なってみせる・・・強く・・・・」
ダンキも身体を必死に動かし・・・・
「もう・・・こんな思いは・・・・二度と・・・・・二度と・・・ゴメンだァァァァ!」
震える足で立ち上がった。
「僕も・・・・・これが・・・最後だ・・・・・二度と・・・・」
ショウキも立ち上がり・・・・
「なに・・・鬼はお前らだけじゃ無ぇ。俺も勿論・・・ヒビキもサバキさんも・・・・エイキもフブキもゴウキもイブキもバンキもトドロキも居る。皆でよぉ?護っていこうぜ・・・」
「おう!」
「はい!」
その言葉に返事をして・・・・ダンキとショウキは意識を失い、その身体をトウキが受け止めた。

     番外編『仮面ライダー弾鬼』四之巻『間に合わぬ力』(後)   終
155弾鬼SSの筆者:2006/02/26(日) 23:53:14 ID:qRv9sV0S0
前編投下してから間が空いたワリに薄い、内容になってしまいました・・・

最後のトウキ登場や、洋館夫妻・・ブチ切れたワリに大した事無い弾鬼と勝鬼など、疑問点ばかりですが・・残りの話で上手く消化できるように頑張ります。

ついでなので次回予告を置いていきます。

「休んでる暇なんかないじゃ〜ん!特訓特訓だよ!なぁ、ショウキ?」
「ダンキ。俺を超えたいなら・・俺と同じ特訓じゃ意味が無いぞ?自分だけの鍛えをやらなきゃな」
「ショウキ、二手に別れるぞ!!」
「この私を捕まえて、怪しいだと!? ……もう我慢出来ん!尻を出しなさい!尻を!」

 番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』  
156名無しより愛をこめて:2006/02/27(月) 01:12:36 ID:yz5gVgrx0
>>弾鬼SSの職人さま
 待ってました!!
 SS投下乙です。
 薄いだなんてトンデモナイっ!
 激しくも鮮やかなアクション描写と前回に
引き続き弾鬼&勝鬼たちの哀しみが伝わって
くるシリアス展開すごく良かったですよ。

 今回の千明嬢が『アギト』のときにギルス
に変わった涼をみてしまった真由美のようでした。
これから先、彼女と弾鬼たち”鬼”との関係はどう
なっていくのか!?

 次回予告からすると遂に”あのお方”が登場ですね! 
 はてさてどんな特訓とあいなりますか……?(笑)
 次も楽しみです(嬉)

 これからも応援してます!
 
157響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 前編:2006/02/27(月) 17:59:07 ID:6jsl97KS0
仁志はただ、怖かった。自分が感じたことのない「暴力」への恐怖心。
目の前で親友が傷付けられる現実から目を逸らしたい。

・・・どれくらい時が経っただろうか。
夕暮れは過ぎ、辺りはほとんど真っ暗になっていた。

「・・・優一。俺・・・」

優一は1人、公園の砂場に蹲っていた。傷つきながらも立ち上がり、笑う。

「悪いな、仁志。カッコ悪いとこ見せちゃって。」

仁志はその光景をただ、見つめるしかできなかった。
弱い自分、友を守ることさえ出来ない。それがただ、悔しかった。
そして、殴られても笑顔で立ち上がる。優一の姿が、仁志には何故か輝いて見えた。

−翌日、教室の席に楽人の姿は、無かった。
そして、担任から「楽人の転校」が告げられた。理由は「親の都合」。
だが、優一と仁志は本当の理由を知っている。
もしかしたら、あの時。俺が、楽人を追いかけようとしなかったら・・・

楽人も優一も、傷つかないで済んだかもしれない。

そんな思いが、過ぎる放課後。
優一はふと、仁志の顔を覗き込んで見透かしたように笑う。

「友達って、何なんだろうな。この前まではあんなに仲良かったのにさ。
ほら、小学生の夏休み。一緒に、森に出かけてさ・・・あいつ、ほら楽人。
いっつも弱虫で、俺の後ろにへばり付いて・・・」

158響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 前編:2006/02/27(月) 17:59:46 ID:6jsl97KS0
ちょうど、楽人の家に差掛ろうという時。
家の前に引越し用の車と積荷が置かれていた。その横で一人、荷物を積み上げる楽人の姿。

「あいつ・・・もう行っちゃうのかよ。」
優一が不意に、悲しそうに呟く。
さっきまでの元気そうな声とはまるで違う。

積荷を終え、家族と共に車に乗り込む楽人。
その顔は、住み慣れた家、町、そして人を惜しむようにも思えた。
急に優一が走り出す。楽人の乗る車を追いかけるように。
それにつられ、仁志も走り出す。何故か、胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じながら。


「楽人ぉ!!俺、怒ってなんかねぇから!!だから、また!!
戻ってこいよ!!また・・・また!!一緒に遊ぼうぜ!!」

助手席に乗る、楽人の顔が一瞬「ハッ」とする。
優一の顔にはひとすじの涙が見えたように思えた。
仁志は、ただ楽人の車を追いかけ、手を振ることしか出来なかった。

夕暮れの街。もう、彼はいない。
仁志と優一はただ、沈み行く空を見上げるしかなかった。

159響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 前編:2006/02/27(月) 18:00:46 ID:6jsl97KS0

−あれから何年の月日が経ったのだろうか。

みどり「懐かしいわねぇ。ヒビキ君。優一君、元気にしてた?」

たちばなで机を取り囲み、談笑する2人の青年と女性。
優一と名乗る、青年は胸に弁護士のバッチを付け精悍な顔立ちの中にも優しさが伺える。
もう1人の青年、ヒビキは気さくな笑顔を振りまきながらもどこか強さも感じさせる。

「でも、驚いたよ。あの遅刻魔で弱虫の仁志がこんなにカッコいいお兄さんになるなんてさ。」

ヒビキは笑う。

「ハハ、まぁね。こう見えても鍛えてますから。」

みどりは意地悪そうな笑顔でヒビキに突っかかる。

「でも、遅刻するルーズな癖は直ってないけどねぇー」

机を囲んで、笑う3人。穏やかな空気が流れる中。
不意に、優一がヒビキに語り掛ける。

「仁志・・いや、今はヒビキか。今日久しぶりに来た理由なんだけどさ。
楽人、覚えてるか?ほら、中学のときに転校しちゃった。
今日、あいつと同窓会で会う約束しててさ。お前、来ないかなって。」
160響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 前編:2006/02/27(月) 18:01:42 ID:6jsl97KS0
ヒビキの顔が一瞬曇るのを、みどりは見逃さなかった。
だが、それを振り払うかのようにヒビキは返す。

「覚えてるさ。忘れるわけ無いだろう?俺は、その為にも鍛えてきたんだから。」

優一の顔に笑みがこぼれる。

「じゃ、来てくれるのか!それじゃ、今日の午後五時。あの公園で待ってるぞ。」

ヒビキも笑い返す。

「おぅ、約束だ!」

−「ヒビキさぁーん!!大変ですよ、魔化網がぁー!!」

和やかな雰囲気を破壊する「声」
地下室から駆け上がってきた日菜花だ。

「なんか、大変そうだね・・・それじゃそろそろ。
仁志、約束通り。遅刻すんじゃねぇぞ?」

ヒビキはたちばなを出ようとする優一に応えるように手をかざし見得を切る。

「あぁ、約束だ。」


161響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 後編:2006/02/27(月) 18:02:40 ID:6jsl97KS0
−千葉 森林地帯−

「ここか・・・今日は何とか間に合わせないと。約束があるからな。」

森の中、こだまする声。
2つの異形がヒビキの前に現れる。

「鬼か・・・」

「鬼ですか、消えてもらいましょう」

木に音叉を合わせ、共鳴の音色を響かせるヒビキ。
額にそれを合わせた瞬間、体中の気が紫炎となり体を覆う。

「悪いけど、今日はさっさと片付けていくぜ!」

炎を打ち払い、ヒビキから鬼へと変わった戦士は強大な力に立ち向かう。

−あの頃の何も出来なかった自分。−

童子と姫の攻撃をかわしながら、次々と音撃棒を叩き込んでいく響鬼。
その力強さに、昔の弱い心は微塵も感じられない。

−だけど、今なら言える。人は変われるんだ、と−

「うぉぉぉぉぉぉ!!!とりゃあああ!!!」

全身の気を音撃棒に集め、烈火の剣を作り出す響鬼。
その剣が2つの邪悪を切り裂く。
162響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 後編:2006/02/27(月) 18:08:03 ID:6jsl97KS0
既に空は夕刻に近づいていた・・・響鬼の背後から咆哮と共に現れた巨大な影。
巨大な足が響鬼を踏み潰そうとするが、瞬時にすり抜ける。

「うわぁっーと!!予想通り、ヌリカベってことか。
さっさと終わらせてもらうからな・・・行くぜ!!」

−巨大な壁。あの時の僕なら超えられなかっただろう。でも、今は違う。−


悔しかった、だから強くなりたいと願った。
鍛えた。ひたすら、心も体も強くなる為に。
あの時なら、目を逸らしただろう目の前の壁も、今なら超えられる。

巨大なヌリカベの咆哮。地面を揺るがすような声にさえ、響鬼は身動ぎもしない。
ただ、壁の前に立ちはだかり修羅の如き気迫で声を挙げる。

「まぁ、昔の俺なら怖くて逃げ出したかもしれないな。
でも、今の俺は違うぜ。今の俺は・・・”ヒビキ”だからな!!」
163響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 後編:2006/02/27(月) 18:08:36 ID:6jsl97KS0
もう、既に空は日が落ちていた。
公園で待つ、2人の青年。

「仁志、遅いよなぁ。あいつまた遅刻かよ。これじゃ同窓会俺達まで遅刻だぜ?」

「でも、驚くと思うぜ、俺達が仲直りしてるって聞いたら。」


それから一時間後・・・寒空の下、ヒビキは公園へ着いた。
だが、もうそこには誰もいないのだろう・・・ただ、暗い公園の中で外灯だけで悲しく佇んでいる。
溜息をつき、公園を去ろうとするヒビキ。

「仁志!!お前また遅刻かよ!!」

「懲りないよね、ホントに。」

ヒビキの見た先には、あの時と変わりない2人の笑顔が、在った。

仮面ライダー響鬼序伝 「代えなき友」 了

164響鬼序伝 弐乃巻 「代えなき友」 後編:2006/02/27(月) 18:16:35 ID:6jsl97KS0
次回予告

別れの春・・・変わる日々、自分の進む道を決めた少年に見える現実。
夢と現実の狭間で悩む時、少年は新たな友に出会う。
同じ夢を目指す者同士、そして過激な師との出会い。

「俺、鬼になりたいんです。強くなりたいから。」

「君、名前は?俺は財津原、財津原蔵王丸」

響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」



165名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 09:35:38 ID:TdbWyUgu0
白面およびZANKIの人です。
響鬼序伝はいいすね。
一番、前半響鬼に近い雰囲気を出してる。
ちなみにこっちでも困ったんですが
みどりさんの話だと中学生ぐらいに鬼を目指した事になってますが、
公式だと20年近く鬼をやっていた事になるから設定年齢から逆算するに
小学生ぐらいから鬼をやってるはずなんです。
ホント本家が設定を守らないから…。
ちなみにZANKIならどんなこじつけもいけるんでwご自由に執筆ください。
読者の方もあちらが史実だと思ってくださいw
166名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 09:41:55 ID:TdbWyUgu0
ちなみに本家とはテレビの響鬼です。
167名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 11:25:58 ID:TdbWyUgu0
―ZANKI―
「たちばな」の近所にあるお寺の何百段とある階段を逆立ちで登り切る蔵王丸。
はるか下方には普通に登っている岩井川の姿。
「よし、次からはタイヤ背負ってやるぞ。」「はい!」気持ちのいい返事をした。
「あのザンキさん?」「なんだ?」蔵王丸は下に居る岩井川を見る。
「岩井川さんなんですけど、大丈夫なんですか?」「大丈夫?修行がか?」
「はい、いきなり鬼の訓練はきついと思います。昨日だって階段を登り切れずに途中で倒れましたし…。」
「そうだろうな、けどな…」優しくも力強い目で岩井川を見つめるザンキ。
「今のアイツを見てみろよ、40過ぎたおっさんが自分より年下の師匠と兄弟子の下で、
体中から体液を垂れ流し特訓する姿は最高に格好が悪い。だが、そんな事はアイツ自身も分かっている。
苦しいし、情けないし、惨めだ。けれど、一度、底に落ちた人間にはそんなものは関係ない。
どんなに格好が悪くとも自分自身に打ち勝たなければ、また底に落ちてしまう。
だから、アイツは死に物狂いで修行しなきゃいけないんだ…。」
時折、嘔吐しながらも登り切ろうとする姿は岩井川の決意の現れだった。
「地獄の底から這い上がる強さ、その目に焼き付けておけ…。」
上に居続ける強さと這い上がる強さ。
ザンキとは違う強さを持つ岩井川を蔵王丸は尊敬の眼差しで見つめていた。
クタクタになりながらも階段を登り切った岩井川に師は労いの言葉をかける。
「良く登り切ったな。」「ぜぇーぜぇー、ありがとうございます。」
その顔は苦しみながらも達成感に満ちていた。小さな達成ではあったがその意義は大きい。そう誰もが思った。
「この調子で頑張れよ。」ポンと肩を叩くザンキ、
だが、その衝撃で疲れ切った岩井川の足は崩れ、後方に倒れる。「あれ?あああ――――…。」
グシャっと聞こえちゃいけない音を出しながらゴロゴロと階段を転げ落ちる岩井川。
真っ白になる二人。恐る恐る蔵王丸が覗き込むと、そこには動かない岩井川の姿が。
「…足ってあんな方向に曲がりませんよね?…」「…」
「さてと、修行を始めるぞっ!」「って!?ええ?!ちょっとザンキさん!」
頑張り過ぎるのも良くないんだなと思う蔵王丸であった。

このまま殉職させてもおもしろいなぁと思いつつ続く。
168名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 11:50:15 ID:8W2O3Eeh0
>>165
ヒビキが鬼として活動し始めたのは16歳からって設定になってる
「20年近く」とあるが実際は15年
169名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 11:53:48 ID:TdbWyUgu0
>>168
サンクス
まあ確かに20年近くではあるが・・・。
ちなみに何情報?
170名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 12:23:19 ID:TdbWyUgu0
-ZANKI-三話目に登場したヒビキと名の付く予定の少年は
本名 東山 浩 で、あの後九州支部に移動になり
現在は比良鬼という名で活躍してます。ヒビキじゃありませんから。
171高鬼SS作者:2006/02/28(火) 13:34:25 ID:zhtb4tXJ0
はじめに。
人様のキャラクターを動かす事ほどドキドキするものはないです……。
もし-ZANKI-SSの雰囲気が全く出ていなかったとしたら、それはこちらの筆力不足です。
最初は話の筋道決めて書いてたんですけど、途中から暴走しまくって、結果オチも弱くなった感があります。

あと、全6話の構成になっています。
一度に投下するより3話ずつ分けた方が良いような気がするので、とりあえず前半を投下します。
後半は今夜にでも。

>>142
その前に祖父の隠し子に会いに仙台まで行くと思います。
2005年、長月某日。
その夜、猛士総本部開発局々長・小暮耕之助は、関東遠征の宿泊先で今日の出来事を回想していた。
(あのヒビキというのは見所がある。私の期待通り装甲声刃を使いこなしてみせた……)
彼の脳裏には三十年前の夏、自作の言霊マイクで大量の魔化魍を倒した時の事がありありと浮かんでいた。
あの日、技術の師である南雲あかねに言われた通り、小暮は全く新しい「言葉そのものを清めの波動に変える武器」を作りあげた。
(結局あれから三十年もかかってしまったがな……)
帰ったら真っ先にあかねの下へ成功の報告に行こう、小暮はそう思った。傍若無人で通った彼も、彼女の前では未だに素直になってしまう。
(あのイブキもミチビキ……あいつの父親に似ていて、どうも調子が狂う)
現総本部長・和泉一文字がイブキを名乗り鬼として戦っていた頃、小暮もまた鬼として戦っていた。
一文字は長男が生まれると、その子が二歳の時にイブキの名を譲り、自分はミチビキと名乗るようになった。その後しばらくはその名前で戦っている。
伝統芸能の家元よろしく、鬼の宗家もまたその名は世襲制であり、早い段階で子どもに譲り鬼としての自覚を促すのだ。
(しかし問題はあのトドロキだ。体の方は良いとして、心の方がまだ修行不足だ。全く、あの男に免許皆伝はまだ早いのではないのか?)
師匠の名は何と言ったか……、そう、ザンキだ。
(ザンキ?はて、そういえばその名、随分昔に聞いた事があったような……)
もう寝ようと思っていたのだが、急にその名が気になって寝るに寝られなくなってしまった。
何処で聞いたのか……。そうだ、あれは私がまだ二十代前半だった頃だ……。
小暮は自らの朧気な記憶を(やらなきゃいいのに)辿っていった。
1970年代だった事は覚えている。季節はいつだっただろうか。夏だった気がする。
その日、若き日の小暮=コウキはいつもの様に研究室で機械いじりをしていた。夜明け前に魔化魍退治から戻ってきてから、ずっと個室に篭っている。
疲れているうえに単調な作業をずっと続けていた事も重なり、いつしかコウキは深い眠りに落ちていってしまった。
と、そこへあかねが珈琲を持ってやって来た。よほど疲れていたのだろう、一向に目が覚める気配の無いコウキをあかねが起こす。
「無理は禁物よ、コウキくん。はい、差し入れ」
「……ありがとうございます。で、今度は何の用事ですか?」
珈琲を飲みながらコウキが尋ねる。あかねが何か差し入れを持ってくる時は、決まって何か頼み事がある時だ。
「また急な出撃命令ですか?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、その……」
やけに奥歯に物が挟まったような言い方をする。
「一人、研修生って言うのかな……。その人の面倒を見てもらいたいんだけど……」
「私は弟子は取りませんよ。サポーターも必要ありません」
「ううん、そうじゃなくって。その人はもう鬼になれるみたいなんだけど……」
寝起きのためか、言っている事がいまいちよく理解出来ない。
「兎に角、今日一日面倒を見てもらいたい人がいるのよ。一緒にこっちに来て」
あの時のあかねのすまなさそうな表情はよく覚えている。
あかねに連れられて、コウキは本部のロビーへとやって来た。
途中、向こうから来るすれ違った人は皆奇妙なものを見たような表情をしていた。それを見てあかねの表情がますますすまなさそうになっていく。
ロビーでその人物に会って、コウキはようやくその謎が解けた。彼らは実際に奇妙なものを見ていたのだ。そこには……。
「OH〜!待ってま〜した、あかねサ〜ン!」
そこには、胸部にハート型の穴を開けた学生服を着て、てんとう虫のブローチを付け、コロネを三つ並べたかのような奇妙な髪型をした男がいた。
男はザルバトーレ・ザネッティと名乗った。胡散臭い。偽名かもしれない。
男はミラノ出身と言った。胡散臭い。いくら伊太利亜でも、こんな格好をした奴が本当にいるのか?
男は欧州のモンスター退治組織「E.U.R.O」に所属していたと言った。胡散臭い。
「……そんな組織、本当にあるのですか?」
コウキは小声であかねに尋ねた。
「分からないわよ。今朝方突然現れてさ、とりあえずこの国の鬼の暮らしを見せてくれって。総本部長の許可は取ってあるみたいなんだけど……」
胡散臭い……。
「君も鬼なのかね?」
とりあえず本人に聞いてみる。
「OH〜、イエ〜ス。もっとも、向こうじゃ『Wolf-Men』と言いま〜す。狼男の事ね!」
胡散臭い。ゲロ以下の臭いがぷんぷんする。
「……伊太利亜人なのだろう?何故Yesなんて英語を使うのかね」
「あなた達日本人だって、夜の営みをする時はYes、しない時はNoって枕に書いておくでしょ?」
どういう例えだよ。大体、皆が皆そんな枕使うわけないだろうが。
「その衣装は……?」
さっきからずっと気になっていた事をコウキは尋ねた。
「これで〜すか?イタリアンマフィア風ファッションね。……1995年頃の」
「二十年近く先じゃないの!」
あかねがたまらず突っ込みを入れる。
「常に時代の最先端を行く、これが俺のポリシーで〜す!」
そう言いながらくるっと回るザルバトーレ。
「……その無意味に語尾を伸ばす喋りはどういう意味かね?」
「これで〜すか?まあ中国人が語尾に『アル』を、仏蘭西人が語尾に『ザンス』を付けるみたいなもんで〜す」
「付けるわけがないだろう!」
とうとうコウキも突っ込んでしまった。突っ込んだら負けかなと思っていたのだが……。
「OH〜、日本には来たばっかりなので勘弁して下さ〜い!」
「嘘を吐くな!日本に来たばかりなら、何故『ザンス』を知っている!何処でおそ松くんを読んだ!」
「空港の売店で」
本当かよ……。もう何から何まで全てが胡散臭い。
「コウキくんって漫画とか読むんだ……」
あかねが意外そうな口調で言う。
「まあこの喋り方が気に食わないと言うのであれば、普通に喋る事も出来ますがね」
途端に流暢に喋りだすザルバトーレ。
「き、貴様!私を舐めているのかぁ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れた。音撃棒・劫火を取り出し振りかぶるコウキを、慌ててあかねが押さえつける。
「ちょ、ちょっとコウキくん!落ち着きなさい!」
「離せ!離して下さい、あかねさん!」
「OH〜、これが噂に聞く『浅野殿、殿中にござる!』ですね。いやあ、キャメラを持ってくればよかった……」
騒ぎを聞きつけて、本部のスタッフ達が集まってくる。
コウキとザルバトーレ……ザンキというコードネームの男との出会いは実に最悪なものであった。
176仮面ライダー高鬼番外編 第弐話「DIABOLO」:2006/02/28(火) 13:40:05 ID:zhtb4tXJ0
「とりあえずこの国での鬼の活躍を見せてもらえませんか?」
結局……、コウキはザンキの面倒を見る事になった。心配だからとあかねも一緒に行動する事になった。
「今日一日の辛抱だから、ね?」
まだ不機嫌なコウキをあかねが宥めようとする。だがその横から、
「何処に配属になるかは分かりませんが、どうせなら関西支部が良いですね。京都の街は最高ですからね」
この発言にまた機嫌が悪くなる。
「でも絶対奈良は嫌ですね。ここは観光する所であって、住む所じゃありませんから……」
「吉野本部付きの私に対するあてつけか!」
「コウキくん!落ち着いて!」
再び「劫火」を取り出して振りかぶるコウキを、後ろからあかねが取り押さえる。
「疲れでイライラしてるのは分かるけど、ここは我慢してちょうだい」
「うう……、何故私が……。こんな任務は宗家の鬼がやればいいんだ……」
「ひょっとして泣いてます?女性の涙は美しいけれど、男性の涙はきしょいから俺の前では見せないで下さい」
烈火の如き形相で、変身音叉を取り出すコウキ。
「駄目よコウキくん!憎しみに心を染めては駄目!」
「日本は変わってますね。海外からの客人を寸劇でもてなすんですか?」
ば か も の !
コウキの叫びが本部内に木霊した。
177仮面ライダー高鬼番外編 第弐話「DIABOLO」:2006/02/28(火) 13:41:02 ID:zhtb4tXJ0
「……で、僕の所に来たのですか?」
イブキが正直迷惑そうな顔をする。
「頼む!この通りだ!」
コウキが頭を下げた。その瞬間、イブキも彼のサポーターの立花勢地郎も凍りついたように動かなくなってしまった。
それもそうだろう。あの偏屈で気分屋で傍若無人なコウキが他人に頭を下げたのである。これはある意味、魔化魍出現以上の大ニュースだ。
「……まあ確かに今日はシフトに入っていますけど、そうそう魔化魍が出るとは限りませんよ」
「これ、何て言うの?」
ザンキが、宗家が代々使っている音撃棒・山背水を乱雑に弄り始めた。慌てて止めに入る勢地郎。だが次の瞬間……。
「あ」
「山背水」は真っ二つに折れてしまった。
顔面蒼白になるイブキ。
(折るか、普通?)
口には出さないものの、コウキにはザンキがわざとやったとしか思えない。
(わざと折って……、あえてピンチが訪れるのを期待しているのではないか?)
これで今日、夏の魔化魍が出たらお終いだ。そしてそうなったら太鼓使いの自分が戦う事になってしまう。
(そうまでして私を引っ張り出したいか、こいつは)
敵意丸出しの視線をザンキに向けるコウキ。まさにコウキは今、猜疑心の塊と化していた。
とりあえず音撃棒はあかねが後日修理して届けるとイブキに約束し、その場は収まった。
178仮面ライダー高鬼番外編 第弐話「DIABOLO」:2006/02/28(火) 13:43:47 ID:zhtb4tXJ0
バイクで移動するイブキ・勢地郎コンビの後を、あかねが運転する車に乗って追うコウキとザンキ。
……出たのである、魔化魍が。
「どうやらイツマデらしいですから、音撃棒は必要ありませんよ」
イブキは精一杯の笑顔を作ってそう言った。
「君の笑顔、ぎこちないね」
ザンキが空気を読まずにさらっと言う。あかねがコウキを、勢地郎がイブキを押さえつけて宥めた。
お陰で車中は実に険悪な雰囲気である。
「ところでイツマデって何です?」
「巨大な鳥の魔化魍よ。人の死体に溜まった邪気から生まれるの」
ザンキの問いにあかねが説明する。
イツマデが現れるのは、誰かが死ぬ前兆だと昔から言われている。コウキは凄い嫌な予感がしていた。間違いなく後部座席にいる男のせいである。
赤信号に引っ掛かり、車が停止する。イブキ達は一足先に信号を抜けて行ってしまった。
「この国は信号が馬鹿みたいに多いですね。狭い国のくせに……」
「狭いは余計だ」
大体伊太利亜だってそう大きい国ではないだろうが。
「折角だから俺に運転させて下さいよ!」
「何!?」
そう言うと無理矢理後部座席から運転席へと乗り出してくるザンキ。
「ちょ、ちょっと!やめなさいって!」
「馬鹿者!大人しく座っていろ!」
「独逸のアウトバーンで鍛えた腕を見せてやるぜ!」
三秒後、あかねの愛車はガードレールを突き破り、田んぼに頭から突っ込んで廃車となった。


すいません、都合で3話も夜以降という事で!
179名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 14:08:17 ID:8W2O3Eeh0
>>169
俺が見たのは竹書房から出たパーフェクトアーカイブだけど、他の資料にも載ってるかな?
180名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 16:21:32 ID:TdbWyUgu0
>179
ありがとうございます。とりあえず、ZANKIを書く上ではどうにでもなるんで。
多分、ザンキ(松田さん)の設定はあんまりないはずですよね。
雷神が最初赤色で支給されたとかぐらいしかないはず…。
>高鬼SSさん
激しくGJ!です。こっちより面白いぐらいw
続き楽しみにしてますね。
181名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 19:33:22 ID:Qn+YxPJy0
せ、先代若い頃汐華初流乃さんだったんですか?
近所の病院で手当てを受け、見るも無残な姿になったあかねとコウキ、ザンキが現場に辿り着いた時には、もうイツマデは退治されていた。
「……散々でしたね、あかねさんもコウキさんも」
「うん……。あたしね、戦争で死んだお父さんが一瞬見えたんだ……」
あかねの目は虚ろなままである。いつも明るいあかねが、実に痛々しい。コウキは見ていられなかった。
「で、全ての元凶となった方は何処に……?」
「……動き易い服装に着替えてくるとか言っていた」
あんな事故だったというのに、ザンキは掠り傷一つ負っていなかった。「神のご加護だ」とかぬかしていたが、間違いなくあかねがクッション代わりになったお陰である。
「いやあ、皆さんお待たせ!」
来た。その場にいた全員が声のする方を見る。イブキが飲んでいた水を噴き出した。
ザンキの衣装は、まんま60年代グループサウンズの衣装のコピーだった。ご丁寧に長髪のカツラまで被っている。
「どうです?ナウいでしょ?」
「……色々言いたい事はあるがとりあえず一つ。お前、やっぱり日本初めてじゃないだろ」
「いいえ。来日したばっかりですよ」
「じゃあどうして60年代GSの格好を知っているのかね!?」
「……空港のレコード店で」
もう何が何だか……。
「で、そのイツモココカラとかいう魔化魍は何処にいるんです?」
「イツマデだ。……わざと間違えてるだろ」
イツマデならもう僕が倒しましたよ、とイブキが爽やかに言う。
「えええ!有り得ねえ!見たかったのに!いい加減にしやがれ、この優男!」
イブキの笑顔が引き攣った。無言のまま音撃管の銃口をザンキに向ける。
と、突然地響きがして、木々の奥からヤマアラシが顔を出した。
「ヤマアラシ!?報告には無かったはずなのに……」
「ここ数年、イレギュラー的に稀種が出現したり、その他の魔化魍が活動を活発にしているから、別段おかしな事ではないわ」
あかねがいつもの調子に戻ってそう告げる。しかし問題が一つ……。
「参ったなぁ。コウキさん、弦持ってきてますか?」
「無い。仕方ない、ここは音撃鼓でやるしか……」
「ここは俺に任せろ!俺は弦使いだからな!」
そう言うと一歩前に出るザンキ。彼はおもむろに手を頭にやると、長髪のカツラを取った。
さらにその下のコロネ頭も取り払う。
「それもカツラだったのか!!!」
コロネ頭の下には、短く刈り込んだ金髪頭があった。
「流石にヅラの上にヅラは蒸れたねw」
しかし、流石はプロ。ヤマアラシを前に表情が一変する。あれはまさに「いくさ人」の顔だ。
左腕を翳し、そこに巻きつけてある変身鬼弦を……。
「あ、ありゃ?」
無い。彼の腕に鬼弦は無かった。
「ああ〜!しまった〜!まだこっちに来たばかりだから支給されてねえぇ!」
「それ以前に彼、音撃弦を持ってないよね……」
「うん。変身したところでどうするつもりだったのかな……」
イブキと勢地郎がひそひそと話し合っている。結局、ヤマアラシと後から出てきた童子、姫はコウキが倒したのであった。
本部に帰ってきた時には、既にお昼を回っていた。皆お腹を空かしていた。ただ一人、コウキだけが疲れと空腹と眠気とで物凄ぉく機嫌が悪かった。
(今度から夜勤明けは必ず睡眠を取ろう……)
重くなってくる頭でコウキはそう誓った。
「大丈夫、コウキくん?今熱ぅい珈琲を淹れてあげるからね」
あかねが珈琲を淹れに向かった後、ザンキがにこにこしながらその場にいた全員にこう言った。
「皆さん、お近づきの印に俺が料理を作ろうと思うのですが、勿論食べますよね?」
時刻はとっくに午後一時近くになっている。コウキもイブキも勢地郎も異存は無かった。
本部の厨房を貸し切って、ザンキが調理に取り掛かった。
あかねが淹れてきた珈琲を飲みながら、しばし談笑する一同。
「何が出来るんだろうね」
「やっぱり本場の伊太利亜料理じゃないんですか?」
「ちゃんとコック服に着替えていましたし、期待出来ますね」
「まあ、材料や器具は揃っているんだ。これで失敗するはずはないだろう……」
と、その時、良い匂いが漂ってきた。その場にいた四人の腹が一斉に鳴る。
「皆さんお待たせしました!料理を作ってきましたよ〜!」
ザンキだ。見ると、お盆の上に出来立ての料理を載せている。
彼の作った伊太利亜料理の数々は、湯気を立てて実に美味しそうに盛り付けてあった。
「これは何です?」
「娼婦風スパゲッティです。黒胡椒が辛いので気をつけて下さいね」
一口食べてみる勢地郎。不安げに見守る残りの三人。
「……!これを作ったのは誰だ!」
目の前にいるだろうが。
「ゥンまああ〜いっ!こっ、これはああ〜〜っ!この味わあぁ〜〜っ!癖になると言うか、一旦味わうと引きずり込まれる辛さと言うか……」
「……勢ちゃん、そんなキャラじゃないでしょ……」
性格もぶっ壊れる程の美味さらしい。コウキ達も試しに一口食べてみる。
……ディ・モールト美味い!
「いやあ、喜んでもらえて作った甲斐があったってもんですよ!まだまだありますからね!」
そう言って再び厨房に引っ込むザンキ。
「次に何が来るか、実に楽しみですね」
会話が弾む。さっきまでの殺伐とした雰囲気は完璧に払拭されていた。
と、次の瞬間。
閃光とともに大爆発が起きた。爆風で勢地郎の眼鏡が粉々になりながら吹っ飛んでいく。
嘗て食堂だった場所の瓦礫の中から、爆風で髪は滅茶苦茶になり、煤で全身真っ黒になったコウキ、あかね、イブキ、勢地郎が顔を出す。
「うわわ!すいません!ついうっかり火力を強くしてしまって!」
同じく瓦礫の中から、めらめらと燃え上がり黒煙を噴き上げるコック帽を被ったザンキが、殆ど無傷の姿で謝りながら出てきた。
「……待て、火力がどうのとかの……問題じゃ……ないだろ……」
一体何をどうやったのだ?
鳴り響くサイレンと喧騒の中、コウキ達はザンキの顔を呆然と眺め続けていた。
この一件がきっかけで、ザンキは国へと強制送還される事となった。伊丹空港まではあかねが備品の車で送っていく事になった。
別れ際、ザンキが「お詫びに」と言って一枚の紙片をコウキ達に配っていった。
「俺が調べた、日本で一番縁起の良い四字熟語が書いてあります。これが俺の精一杯の謝罪の気持ちです。受け取って下さい」
そう言われると無下に断るわけにもいかない。コウキは折り畳まれていた紙片を開き、書かれた文字を見た。
そこにはでかでかとこう書かれていた。
「大 橋 巨 泉」
と、スタッフが現れてイブキに何か耳打ちした。所々出てくる単語を聞く限り、また魔化魍が出たらしい。
案の定、イブキが魔化魍が出た旨をコウキに告げる。ところが、それを聞いたザンキは「この国の魔化魍を見るまで帰らねえぞ!」と開き直ったのである。
結局、今朝同様イブキ達の後をザンキ、コウキ、あかねが付いていく事になった。
「まあ飛行機の時間までまだあるからね」
そう言うあかねも何処か不安そうだ。
現れたのはイッタンモメンだった。まず怪童子と妖姫が威吹鬼と戦い、粉砕された。いよいよ魔化魍との対決だ。
「あれが一反木綿?鬼○郎は?どうして○太郎がいないんだ?」
「なあ、そろそろ正直に言いたまえ。……どれだけこの国に滞在しているんだ?」
長い尾を巧みに操り威吹鬼を襲うイッタンモメン。その攻撃をかわしながら鬼石を撃ち込む威吹鬼。
流れるような動作で音撃鳴を取り付け、清めの音を鳴らす威吹鬼。だが、イッタンモメンは苦し紛れに威吹鬼目掛けて突っ込んできた。
と、そこへ……。
「雷電脚!」
ザンキが人間状態のまま、突っ込んでくるイッタンモメンの側頭部に跳び蹴りを叩き込んだ。あまりの出来事に唖然とするコウキ達。
音撃の効果で爆発四散し、塵芥へと還るイッタンモメン。舞い上がる粉煙の中から、さも自分が倒したかのように満足気な笑顔のザンキが現れた。
「何故あんな無茶をした?」
コウキの問いに、
「馬鹿野郎!」
何故か近くにいた勢地郎を思いっきりぶん殴るザンキ。眼鏡が衝撃で吹っ飛んだ。本日二度目である。
「俺は鬼だ。例え変身出来なくても、ピンチに陥った仲間を見捨てて平気でいられる程、俺は腐っちゃいないぜ!」
「お前……」
言っている事は分からなくもないが、何故勢地郎を殴ったのか理解に苦しむ。
「さてと、約束通り魔化魍は見たし故郷に帰るか」
ザンキが少し寂しそうに言う。上の判断である以上、こればかりはどうしようもない。
「日本の勇敢なる鬼達よ、アリアリアリアリ……アリーヴェデルチ!(さよならだ)」
(何故アリをそんなに繰り返す?)
挨拶を済ませると、振り向きもせずにその場から立ち去っていくザンキ。
「……行っちゃいましたね」
「ああ。……これでやっと落ち着ける」
「あ!」
突然あかねが大声を出した。
「彼、歩いて空港まで行く気?道は知っているの?」
まだそんなに遠くへは行っていまい。コウキ達はうんざりした顔でザンキの後を追った。
伊丹空港。
ザンキは改めてコウキ達に別れの言葉を告げると、その場を去っていった。「必ずまた来るぜ」と言い残して。
「折角だから飛行機を見送ろうか」
あかねの提案で四人は展望デッキへと向かった。
「あ、あの飛行機だよ。ほら、今まさに離陸しようとしてるやつ」
あかねが指差した飛行機は、滑走路を離れ、勢いよく飛び立った。その機体には英語で大きく「エジプト航空」と書かれてあった。
「……あいつ確か伊太利亜に帰るんだよな」
「でもちゃんとあの飛行機に乗ってましたよ……」
「と、いう事は……」
チケット間違えて買いやがったな!!!
ザンキを乗せたカイロ行きの便は、空の彼方へと消えていった。
数日後、コウキの下にザンキからのエアメールが届いた。カイロからだ。
「前略 税関で取り調べを受けたり、イスラエル側の人間に間違えられて命を狙われたりしたが、俺は元気だ。今はカイロで最高にハイな生活を満喫している」
こいつは何がしたいのだろう……。コウキの頭を疑問が過ぎる。
「約束通り、近いうちにまた来日するぜ。P.S こっちで吉村作治っていう日本人と仲良くなった。穴掘りが仕事らしい。ナイスガイだったぜ!」
以上が手紙の文面である。それと一緒に、スフィンクスに跨り満面の笑みを見せたザンキの写真が同封されていた。
ぶっちゃけコウキは、あの日の事は悪い夢だったと思うようにしていた。あの日、研究室で寝て、そのままずっと悪い夢を見ていたのだと。
事実コウキはザンキの事をもうすっかり忘れかけていた。食堂がぶっ壊れたのは、単なる瓦斯爆発だとずっと自己暗示を掛けていた。
それなのにこのエアメールである。この事実を認めるという事は、彼自身のアイデンティティが崩壊する事に繋がる。
悩んだ末にコウキは……。
エアメールを破いて「無かった事」にした。たとえ一時的であろうとも今の平穏を保つために……。
再び現代。
結局、小暮はまたザンキの事を思い出してしまった。ここしばらく平穏な年月を送っていたのに、とうとう思い出してしまったのである。
(予定を早めて朝一で吉野に帰ろう。ここにいると、これ以上の事を思い出しそうだ!)
その日の晩、酒を飲んで無理矢理眠りについた小暮は、夢の中で満面の笑みをしたザンキと再会した。
「よお!久し振りじゃん!」
しかも何十、何百ものザンキがわらわらと……。
「うわあああああああ!!!」
絶叫と共に飛び起きる。そんな事を五十六回繰り返して、ようやく夜が明けた。 了
192高鬼SS作者:2006/02/28(火) 20:43:07 ID:zhtb4tXJ0
番外編イメージソング(時代が違うとかその他突っ込みは言いっこなし)
サンドベージュ―砂漠へ―
作詞 許瑛子  作曲 都志見隆  歌 中森明菜(ここではザンキ)

サハラの夕日を あなたに見せたい さよならを私から決めた別離れの旅なのに
翼を広げて 火の鳥が行くわ 地の果ては何処までか 答えてはくれないの
砂も風も乱れて 逢いたいあなた
愉しすぎた笑顔が 月よりまぶしい これも愛なの?
星屑 私を抱きしめていてね アナ アーウィズ アローホ サンドベージュ(私は砂漠へ行きたい)
涙のヴェールも 渇きつくしたら 神秘の顔立ち
崩れる私を 支えてお願い アナ アーウィズ アローホ サンドベージュ
このまま一人で 眠りについたら 無口な女になるわ

ザンキ台詞「ベッカムの嫁に『ワナビーーー!』って言われながら殴られてえな」

主を失くした ラクダがポツリと 草求め果てしなく 一人さまようその姿
焼けつく砂丘に 窓からマアッサラーマ(さようなら)
私には愛ひとつ 空に返せなかった
元気でねとひとこと くちづけ交わし
何度も振り返れば あなたも泣いてた それも愛なの?
東へ行くのよ 唇かみしめ アナ アーウィズ アローホ ナイル(私はナイルへ行きたい)
夢に包まれた 子供に返って笑ってみたいの
遠くであなたが 呼んでる気がする アナ アーウィズ アローホ ナイル
破いた写真は 宙に舞い踊り 無くなってくだけなのに

勢地郎台詞「エジプトでぇ〜、ザンキがぁ〜、足がグンバツの女にぃ〜、出会ったぁ〜」

星屑 私を抱きしめていてね アナ アーウィズ アローホ サンドベージュ
涙のヴェールも 渇きつくしたら 神秘の顔立ち
崩れる私を 支えてお願い アナ アーウィズ アローホ サンドベージュ
このまま一人で 眠りについたら 無口な女になるわ
「……センキュー!」
193名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 21:54:36 ID:28KDvmss0
>171>祖父の隠し子に会いに仙台まで行く
東北支部で何かしら騒ぎが起きそうだな…
ついでに承鬼さんの親戚に『金冶鬼』という風属性の鬼がいそうだ。
194名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 23:01:30 ID:v/qw9sNc0
 番外編イメージソング、笑いが止まりません(ひ〜ん涙)
でも、その場で聞くと声でメロメロになっちゃうかも。
 ちょっと豪華すぎて頭がついていかないんで、
まとめサイト様のお力を借りて休みの日にゆっくり
皆様の世界を堪能させていただきます。
 まとめサイト様、いつもありがとうございます。
195名無しより愛をこめて:2006/02/28(火) 23:28:12 ID:As4/ap58O
195
196名無しより愛をこめて:2006/03/01(水) 09:27:23 ID:8WYNwWbF0
ZANKIの人です。
高鬼SSの人ありがとうございました!
想像以上の出来ですよ!しかもイメージソングまでw
今後の高鬼の作品に支障が出なければと祈るばかりですw
基本的にZANKIは1レスで話を完結させる為に、小ボケに対する明確なツッコミを省いてます。
なので高鬼ではボケとツッコミがきちっと成立してあり違う魅力が出たなと思いました。
自分の知らない先代が見れたのは非常におもしろかったです。ありがとうございました。

他の職人さんもおもしろそうなら使ってください。特に皇城SSさんとかw
197-ZANKI外伝Wolf-:2006/03/01(水) 15:56:47 ID:8WYNwWbF0
今回は172より始まる「仮面ライダー高鬼番外編」をお読みになってからごらんください。
高鬼SSさんに対するお返しとしての話ですが、かなり世界観が大きくズレてますので、
お気に召さない方はお手数ですが脳内で削除してください。

予備知識
ザルフ(ザンキの欧州での呼び名)
髭面の男(ザンキの上司、たぶん偉い人)
DMC(Devil may Cryの略 所属している組織の本当の名前らしい)

−バチカン市国内 某所−。
「ただいま帰国致しました。」薄暗い部屋に入るなりザルフは言った。
「ご苦労だったな、ザルフ。急にカイロに飛んでもらってすまなかった。」
ザルフを待っていたのは髭面の男。ザルフの上司のようだ。
「いえ、カイロでおもしろい日本人に会いました。これはお土産です。」
上司にツタンカーメンの仮面を提出するザルフ。
「ほう…これは世界遺産ぐらい価値があると思うが平気なのか?」
「ええ、代わりに日本のYomiseで買ったお面を置いておきました。」
「まあ、なら平気か…ところでDMCの事はバレていないか?」
「はい、適当にE.U.R.Oとか言いました。まあ、鬼の秘密を知る為にウルフの事は少し話ましたが、
胡散臭い行動を取りましたからね。事実だとは思わないでしょう。」
ザルフはアタッシュケースから三冊ほどのファイルを上司に渡した。
「では、簡単に報告を頼む。」「はい。」てんとう虫のブローチのスイッチをいれると、
ブローチから投影機の様に日本での様子が壁に映し出された。
「まず、日本のモンスター「魔化魍」です。やはり、欧州とは別のルートにより発生し、進化したと思われます。
おそらく、インドから中国、朝鮮の道筋を辿り日本に来たと思われます。
大まかな特徴としては品種の殆どが自然界から生まれる事です。」
壁に映し出される魔化魍の数々を見つめる上司。
「ほう、こっちの様に人間に寄生したり、人間に化ける事はあるのか?」
「いえ、例としては少数ありますが、こちらの様に人に溶け込むような事はしません。
基本的に人間から避けようとする傾向があるようです。」
ザルフは水を少し含み、喉を潤し、話を続ける。
198-ZANKI外伝Wolf-:2006/03/01(水) 16:00:20 ID:8WYNwWbF0
「詳しいデータは後ほど提出します。次に音撃についてです。」
何枚か“あかね”と言う日本人女性の写真が数枚映し出されたのち音撃武器が映し出される。
「彼らの音撃の技術は欧州より十年ぐらい遅れています。武器の性能は良いのですが、
それを扱う者の技術が劣っています。しかし、この「太鼓」タイプの武器は非常に面白いです。」
壁には高鬼が音撃を放つ姿が映し出されている。
「この太鼓ですが、こちらのドラムとは違い、パーカッションと衝撃波による二種類の波動で攻撃しています。
まず、パーカッションによりモンスターの細胞を分子レベルで狂わせ、非常に壊れやすい状態にした所に衝撃波を打ち込み破壊しています。」
「おもしろい原理だねぇ、ドラムに応用できるかね?」
「それはわかりません、体全体を使う独特のの叩き方をしますからね。」
次に映し出される音撃鼓と音撃棒。
「すばらしいのが、この武器は体外からの攻撃のみで倒せる点です。
ドラムでもパワーストーンを打ち込んだりと、通常の音撃武器は体内に武器の一部を侵入させる必要がありますが、
太鼓は外部からの音撃のみで済みます。これは先ほどの二種類の攻撃波が理由ではないかと思われます。」ザルフは音撃棒の破片を提出する。
「これはサンプルとして採取しました。分析していませんがオーラを持った木とかではないでしょうか?」
「ユグドラシルの木みたいなものか?」「そんな感じですね。」
「代々伝わったものらしいので、調べる価値はあります。」
再び“あかね”と言う日本人女性の写真が数枚映し出されたのち、今度は鬼の写真を写した。
199-ZANKI外伝Wolf-:2006/03/01(水) 16:05:36 ID:8WYNwWbF0
「これが“鬼”です。」「ほお、ウルフとは大分違うな。」
「そうですね、中国の“龍”に近いですね。」ザルフはコウキの写真を写す。
「この男はサムライみたいな男でして、なかなか見所があります。面白かったので散々おちょくりました。」
「ほお、なかなか声量のありそうな男だな…この眉毛がいいな。」
「彼を含め数人の鬼を見ました。特徴としては、スピードはウルフの半分にも及びませんが、
パワーは私並にあります。」鬼達が数人映し出される。
「なかなか良いデザインだな鬼は…。」
「鬼の特徴ですが、我々の様な特殊部隊と言った感じではなく、日本人が好きなブシドーに通じるようなものがあり、
鬼である事を、一つの生き方のように捉える傾向があるようです。その為か、彼らは多くの人員を使ったり、
トラップなどを使う戦術をあまり好みません。なので非常に効率の悪い戦い方をします。
しかし、ブシドーの精神は我々も見習うべき姿勢だと思います。」ザルフはブローチの電源を切った。
200-ZANKI外伝Wolf-:2006/03/01(水) 16:08:33 ID:8WYNwWbF0
「以上が簡単に調べた結果の報告です。後日、カイロでの件と一緒に提出します。」
「ご苦労、短い間に良く調べた。」「ありがとうございます。」礼をするザルフ。
「アメリカのアルフと東南アジアに向かったガルフの話も聞かなければなんとも言えないが、
統一退治部隊の発足は難しいかもな…。」上司は腕を組み悩む。
「そうですね、ですが、必要ないかもしれませんね…。」「…どうしてだ?」
ザルフはブラインドを開く。部屋に差し込む日の光が少し眩しかった。
「日本は「猛士」と“鬼”が人々を守っていました。多少の違いはありますが、
命を守る気持ちは我々と何も変わりません。おそらく他の組織もそうでしょう。
姿や形、言語、人種こそ違いますが、命を守り、平和を愛し、幸せを願う気持ちは万国共通です。
本当は統一部隊など作らなくても我々は見えないところで団結している仲間になっているのではないでしょうか…」
ザルフは必死に戦う高鬼達の姿を思い浮かべた。アイツ熱い目をしていたな…。
「…そうだな…仲間だな…。ご苦労だった下がっていいぞ。」
「はい、失礼します。」ザルフは荷物をまとめると部屋を出ようとした。
「あ、それと、この仮面を返してこい。」
「え?お気に召しませんでしたか?」
「いや…その…さっきから君の後ろに古代エジプト人が見えるんだよ…。」

その後、アルフとガルフの報告を受け、協議した結果、統一部隊の発足は見送りになった。
理由として、共通の方法での退治が困難である事や、資金的な問題、
それに加えて現在の各地の組織が充分な活躍をしている点などが挙げられた。
しかし、今後、不測の事態に備えて各地のデータは把握しておく必要があり、調査は続行になった。
ザンキが再び日本に向かうのは、これから半年後の事である。

ちなみにツタンカーメンの仮面は無事、元の場所に戻されたが、代わりに置いていたお面を回収し忘れた。
その後、吉村作冶率いる高田馬場大学の発掘チームがツタンカーメン像と共に発掘し、
その春の学会で「古代エジプトにおける忍者ハットリくんの信仰」と言う発表して
失笑をかった事をザンキは知るよしも無かった。
201-ZANKI外伝Wolf-:2006/03/01(水) 16:19:44 ID:8WYNwWbF0
以上で後日談を終わります。
こんな事実があったんじゃねぇのぐらいの話にしといてください。
以前、欧州での話は書かないって言ってたんですが、
今回はコラボ企画と言う事で多めに見てください。
長々とありがとうございました。
202高鬼SS作者:2006/03/01(水) 17:33:51 ID:XitwQGq50
うわ、あいつやっぱりわざとカイロへ飛んだのかw
自分で書いておきながら、わざとか天然か分からなかったものでw

チラシの裏になりますけど、カイロへ飛ばす以外にも幾つか案があったんですよ。
全国行脚させて、今まで出てきたオリジナルの鬼達が一斉に吉野に苦情を入れてくるってのと、
完全にコウキの夢オチ扱いで、ザンキなんて人物が本当に居たかどうか誰も分からないというもの。
まあジョジョネタで最後まで行くならエジプトだろうな、と軽い気持ちで書いて、
ついでにまだそんなにメジャーじゃなかった頃の吉村先生を出したんですけど、そこを拾ってくるとは思いませんでした。

今回書いてみて思ったのは、「昔のおやっさんは弄り易い」という事ですw
今もう一つ軽めの話を考案しているのですが、場合によってはまたザンキさん貸してくださいね。
203ZANKIの人:2006/03/01(水) 18:02:28 ID:8WYNwWbF0
先代ザンキでよければいつでもどうぞ。
他にも使い方はご自由にどうぞ。
時間や空間ぐらいなら先代は簡単に超えて移動できますからw
いくらでも拾って返します。
高鬼SSさんに最後に一言 お前なかなかやるな(ニヤリ)
204DA年中行事:2006/03/01(水) 18:10:54 ID:CvCkcW1V0
高鬼SSさん、ZANKIさん、乙でした!おもしろすぎるわよアナタ達!
皇城さんテイストの先代・・・すげー気になる・・・・・・

と、人様のSSにワクワクしてるうちに3月に入りましたので、オレにも
一つ投下させてやっておくんなさい。
205番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:12:32 ID:CvCkcW1V0
見た事もない巨大な獣が、餌を眼の前に咆哮を上げる。
圧倒的な声量、圧倒的な質量。人々は逃げ惑う暇さえ与えられず、突然現れた巨大な
獣に薙ぎ払われ、引き裂かれ、嚥下される。
横倒しになった塗りの駕籠から、まだ幼い花嫁がまろび出て、自分とその行列に起こ
った避けられない悲運を見る。眼の前の地獄絵図を。
運命に恐怖し、嘆くその前に、幼い花嫁は今さっきまで一緒にいた友の名を呼んだ。
「シロや・・・・シロ・・・・」
姫様ァ、姫様ァ・・・・・疾く、そこは危のうございます、姫様ァ・・・・・・・
206番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:17:31 ID:CvCkcW1V0
弥生、三月
暦の上で春になったとはいえ、まだ日が浅い。少し標高の高いところでは、木々の間
で陰になったところに、雪国ほどでは無いものの土に汚れた雪が残っていた。
鬼に放たれた音式神達は、魔化魍の跡を追っている。
林の中を、誰も知らぬ洞穴の奥を、淀んだ沼のまわりを、里に通じる道を。
だが、探す魔物は見つからなかった。
魔化魍の探索をする音式神は、魔物を見つけても見つけられなくてもあらかじめ鬼に
命じられた通りの時間に鬼の元に戻る。シキガミがカラダを機械式に替え、呼び名を
DA(ディスクアニマル)と改めても、その取り決めは変わらない。
一匹のDAが、役目を終えて鬼の元に帰ろうとしていた。
空気に冷たさは残るものの、うららかな春の陽光や、芽吹き始めた木々の放つ独特な
芳香に惑わされることなく、DAは鬼の元へと急ぐ。
ふと
DAは気配を感じる。
207番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:18:47 ID:CvCkcW1V0
なんだろう?
人間の唯一の天敵であり、その存在を憎む魔化魍やその眷属のそれではない。
だが、動物や人間の持つ気配でもなかった。
DAは乾いた土の上を、音も立てずに進む。よく鋤を入れた畑は、新しい物静かな生
き物を受け入れる為にほこほこと柔らかく、ブロックで仕切られた花壇の土には、球
根が深緑の芽を出している。人家の庭だ。元は茅葺き屋根であったのだろうか、錆び
たトタンが広い平屋の屋根を覆っている。もちろん、そんな事はDAにはわからない。
手入れされた庭、磨かれたガラス戸、開け放たれた縁先に干された座布団。そういっ
たヒントを見なくとも、DAはその家から漂う雑多な匂いから、そこで人間が生活を
送っている事は間違いない、と確証を得ていた。
だが、家に近付くにつれ、自分が感じ取った異物の気配を強く感じる。
鬼を知らぬ人間に、見つかってはならぬ。
DAは自分でも覚えていないほど昔、鬼と交わしたいくつかの約束の一つを忠実に守
る為、あたりに気を配りながらその家に近付く。
誰もいないのか、家の中はひっそりと静まり返っている。しかし、無用心にも縁側の
障子は開け放たれ、座敷の中は外から丸見えだ。
煤けた太い梁、季節の花が生けられた仏壇、古い船箪笥、黒光りした茶箪笥、重そう
なケヤキの座卓、真新しいパソコンとFAX機・・・・・・・
そしてDAは、それに、気付いた。
208番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:19:54 ID:CvCkcW1V0
「これもハズレか・・・・」
成果の無かったDAをホルダーに収納し、イブキはため息をついた。
放ったDAの九割近くが魔化魍の姿を確認できないまま戻ってきている。探索ポイン
トを変更した方が良さそうだな、とつぶやいてから無意識のうちにかつての弟子の名
前を呼ぼうとしている自分に気が付いた。
もう、一人で出動する事にも、慣れてきたはずなのに。
苦笑いしながら、イブキはどさり、とナイロン製の椅子に腰を下ろした。
「おーい!来てたのかね!」
イブキは急に現実に引き戻された。振り返ると、林の中の獣道からビニール袋を持っ
た老人が、こちらにやって来る姿が見える。
「藤岡さん」イブキは老人の笑顔に釣り込まれるように笑って、立ち上がった。
「どうだね、見つかったかね?」
「いえ、まだ・・・・」
「そうかね。俺も昨日川田さんから連絡をもらったもんだから、ちょっと様子を見に
行ってたんだよ」
209番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:20:42 ID:CvCkcW1V0
藤岡も川田も、猛士の『歩』として随分昔から協力してもらっている。川田は山を挟
んだ向こう側にある村に住んでいて、今回イブキが出動したのはその彼から魔化魍ら
しきものの声を聞いた、という情報を受けての事である。川田の村の方には、イブキ
と同じ管の鬼であるトウキが出動している。
「藤岡さん、危ないですよ。魔化魍が出ているかもしれないのに」
「大丈夫だよぅ。今日は用心棒も連れてるしねぇ」
現代では聞き慣れない用心棒、という言葉にイブキは首を傾げる。
「藤岡さん、待って、待って下さいよ・・・・」
藤岡から遅れること数分、同じ道から息を切らして見慣れない青年が現れた。作業服
の胸のポケットに藤岡の住む村の名前と森林監視員、という縫い取りがある。
慌てて広げたままのDAホルダーに手を伸ばすイブキを、藤岡は笑い声で制した。
「まだちょっと頼りない用心棒だけどねぇ。でもアレが出たら、俺の替わりに食われ
てくれるぐらいの時間は稼げるよぅ」
随分な冗談をさらに大きな声で笑い飛ばし、老人は慣れない山道に足元が覚束ない青
年を、早く早くと手招きした。青年はまだ息を切らしたまま、イブキに頭を下げる。
「藤岡さんの弟子の田上です。えぇっと、鬼、の方ですか?」
イブキは生真面目そうな田上に微笑み「はい、鬼のイブキです」と挨拶した。
210番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:22:30 ID:CvCkcW1V0
DAは、おかしな影のようなものを見ていた。
人間の形をしているが、実体が無く、呼吸も体温も心音も確認できない。それに、姿
かたちが、DAが認識している人間と違う。
髪を丸く高く結い上げ、体の線が良くわからないほど布を巻きつけている者。
また、頭頂部に頭髪が無く、その中央に結った髪を一束乗せている者。
そんな集団が、普段DAが見ている人間の三分の一ほどの大きさで、階段状に組み上
げられた箱に座り、皆泣いている。
敵意が無い事は、DAにもわかった。だが、人間でもない。
「いたわしや・・・・・・・・・・・」
「・・・・・おいたわしや、姫様・・・・・」
姫様?
DAは単語を反芻した。どこか遠くで、ずっと昔に聞いた、懐かしい言葉。
「皆、泣くな、泣けば妾も切ね」
段の一番高い所で、少女が泣いていた。泣き顔を見せまいとしているのか、それとも
伝い落ちる涙を拭っているのか、腕の部分に長く巻いた布で顔を覆っている。
その姿を見て、DAはどこかが壊れたんじゃないかと思うほど、きつくカラダを締め
上げられるような感覚を覚えた。

211番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:23:58 ID:CvCkcW1V0
「こんな姿では、敵討ちも叶わね・・・・」
「・・・・・業が煮える」
「いたわしや・・・・・」
不思議なもの達は、僅かに魔化魍の気配を漂わせているが、魔化魍やその眷属とは違
う。むしろ彼等が抱いているのは、魔化魍への憎悪と恐怖だ。
魔化魍に命を奪われた人間だろうか?その思いだけが、肉体から離れ、ここで泣いて
いるのだろうか?
人間はそれを、亡霊とか幽霊と言い表すだろう。だが、DAにその概念は無い。
DA自体が、鬼と契約を交わした、獣の魂なのだから。
一番上の段で泣いていた少女が、顔を上げ呟く。「・・・・シロ、どごへ行ったんだ」
「姫様!」
DAは壇上の人々に、恭しく頭を垂れた。泣いていた人々が、一斉に声の方を向く。
「・・・・シロ・・・・・シロ、か?」
壇上の少女に懐かしい名で呼ばれ、DAはシキガミに、そして魂が離れる前の本来の
姿に遡った。
212番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:25:38 ID:CvCkcW1V0
「鬼って、やっぱり、命懸け・・・・なんですよね?」
田上の唐突な質問に、イブキは「ええ、まぁ」と苦笑交じりの相づちを打った。
藤岡に、どうしても家に寄って行けと乞われ、イブキは田上の助けを借りて、ベース
キャンプの撤去を始めていた。幸いここから藤岡の家までは徒歩で十五分ほどの近さ
である。山の向こう側で探索をしているトウキに連絡を入れたところ、あちらでもま
だ当たりが出ていないらしい。「藤岡さんの家って、まわりに人家無いし、どうせな
らベースをそっちに移しちゃえば」とトウキは電話の向こうで笑った。
なるほど。屋根の無い竜巻でベースを張っている自分には、かなり好都合だ。
藤岡の方を見ると、トウキの大きな声が電話越しにまるまる聞こえていたらしく「そ
うしなさいそうしなさい」と笑顔で大きく頷いている。
「わかりました。『たちばな』にも連絡を入れておきます」
電話を切ると、イブキは藤岡に「宜しくお願いします」と頭を下げた。
「ああ、構わないよぅ。ボロ家だけど、部屋数だけは多いからねぇ。イブキさん、あ
んたバイクだから一足先に行ってくれるかね?なぁに、鍵なんてかけてないからさぁ、
好きに上がって休んでるといい」
213番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:26:34 ID:CvCkcW1V0
藤岡の隣で、田上も笑っている。「お昼ご飯は、今採って来た山菜の天ぷらですよ」
と、老人の持ったビニール袋を指さした。
そうか、もうそんな時間なんだ。あきらが一緒の頃は、自分が何も言わなくても彼女
が食事の心配まで全部してくれていた。一人では、ついそういった段取りを忘れがち
になってしまう。イブキは『歩』の二人に甘える事にした。
「じゃあ、すみません」イブキはヘルメットを被り、アクセルを回した。
排気量の割に静かなエンジン音なのだが、もう会話を交わせるほどではない。イブキ
は二人に鬼のサインを投げ、老人の家に向かった。バックミラーの中で、手を振る二
人が小さくなっていく。ヘルメットの中で、イブキも笑顔だった。藤岡老人とその孫
のような田口。彼等に助けられながら、自分も彼等を護る。鬼にならなかったら、生
涯彼等には出会わなかっただろう。
老人の家は、山の中腹にポツンと建っていた。以前はもう少し何軒かあったらしいが、
皆不便な暮らしに見切りをつけ、残っているのは藤岡の家くらいだ。
玄関先に、村の名前が入った軽の4WDが停まっていた。田口が乗って来たのだろう。
老人の言った通り、広い平屋の家は鍵がかかっていないどころか、戸も開け放してあ
った。「お邪魔します」イブキは縁先から声をかけた。一人暮らしの老人の家は、き
ちんと清掃が行き届いており、藤岡の几帳面な性格と体調の良さを物語っている。黒
光りする梁や調度と、反比例するように真新しいPCとFAX機・・・・・
そして、イブキはそれを発見し、思わず声をあげた。
214番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:28:34 ID:CvCkcW1V0
「姫様、ようやっと御目文字が叶いました」
「なんと・・・・奇態な事もあるのぅ、シロ。お前とこうして言葉を交わせるとは。もっ
と近く来い、顔を見せれ」
今にも壇上から降りて来そうなかつての主に、シロは平伏す。
「もったいのうございます、姫様。幼子の私をお助け戴き、あまつさえ御手ずから養
育してくださった姫様のご恩に、報いる事ができませなんだ」
過日の不忠を詫びるシロに、主人の家来が優しく声をかける。
「シロや、それは我等も同じだわぇ。武家の子として生まれ、大事な姫様をお守りせ
よと言い付かったのに、あの魔物には刀を抜くこともならんうちに、命を落してしも
ぅた。それでも、お前は立派なものだわぇ。あれからずっと姫様から受けたご恩を忘
れ無ぇでいたとは、人間でもなかなかでける事で無え」
「おうよ、シロや。何も恥になんて思わんで、姫様のお近く行げ。姫様もずっとお前
を案じておられた」
さぁさぁ、疾く疾く、と促されシロは数百年振りにかつての主人の胸に抱かれた。そ
うだ、自分はずっと昔、こうやってこの人の胸に抱かれて養われていた。安全で温か
く、優しい心音を聞いていた。だが、今は。
「シロや、お前とこうして話ができるとは、成仏しないでも悪い事ばかりで無いのぅ。
お前は、今までどうしていたんだ?体も妾の側にいた頃とは随分違っているのぅ」
「あい、姫様。私もあの折、魔物に踏まれて命を失いました。ですが、ご厚誼を受け
た姫様や方々のお力になれなかった事を悔い、恨み、魂魄となってあの地に留まり、
何としても仇を討ちたいと思うておりましたら、力を貸してくれる者と出会いました」
「おお、何と忠義な。して、その力を貸してくれる者とは?」
「あい、姫様。鬼にございます」
215番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:30:44 ID:CvCkcW1V0
「うわぁ・・・・」
イブキは圧倒されていた。藤岡の家の座敷は襖を開け放す事で三部屋が繋がっている。
囲炉裏のある昔の居間、本来の座敷、仏壇を置いた仏間。一番奥の仏間に、段が築か
れ、古い人形が飾られている。高い所に古式床しい装束の花婿と花嫁が鎮座している
ので、それが雛人形であるという事はわかったが、その大きさが格段に大きいのだ。
カシラの部分だけで、自分の握りこぶしほどもあるだろうか。座った姿でおよそ6〜
70センチほど。大きさのせいか、古さのせいか、かなりの迫力がある。
その下の段には、三人官女や五人囃しの代わりに、内裏よりふた周りほど小さい侍女
や侍の装束の人形がはべり、箪笥や長持、その他イブキが名前を知らない精巧な道具
類が整然と並んでいる。イブキはブーツを脱いで吸い込まれるように部屋に上がった。
216番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:32:31 ID:CvCkcW1V0
「なるほどのぅ!」かつての主人は、少女らしい好奇心と熱心さでシロの説明を聞い
ていた。「ではその鬼達は、なんの見返りも引き立ても望まず、命を賭けてあの化け
物を退治しているんか」
「あい、姫様。私は、鬼と共に魔物を追っております」
「そうか、そうだったんか。おっかない目に遭っていねか?辛い思いをしていねか?」
「姫様と方々のご無念を思えば、何を怖気ることがありましょう!それに・・」と、シ
ロは自分の頭を撫でてくれる少女の顔を見つめる。「鬼も、姫様のように優しゅうご
ざいます」
主人はそれを聞いて、ホホホ、と笑った。「鬼というからには恐ろしげなものを、優
しいとのぅ。いや、良がった。お前が可愛がってもらっているなら、それで良いわぇ」
「姫様、二君に仕えた私をお許しくださいますか?」
「許すも何も、お前には申し訳が無がった。妾の我儘でお前を輿入れに連れて行った
せいで、お前まで巻き込んでしまった。どこか広くて景色の良い所にお前を放してや
れば良かったのにのぅ。そうすれば、お前は子や孫に囲まれて寿命を全うできたかも
しれなかったのにのぅ」
少女のお国訛りがシロを包む。シロは少女と共にあった穏やかな暮らしを、思いだし
ていた。

217番外 「報いる獣」:2006/03/01(水) 18:33:42 ID:CvCkcW1V0
一歩近付くたびに、雛人形が醸し出す違和感を強く感じる。
大きさの違和感、歴史を重ねた物の違和感、それが人家にある違和感。いや、多分そ
れだけではないはずだ。
なんだろう?
雛人形の前に立って、イブキは目を凝らした。

ふと、シロは現実に引き戻された。鬼が近くまで来ている。
今の自分は、魔化魍を追っているオンシキガミなのだ。
「姫様、私の鬼が参りました」

「あっ、コラ!」
一匹のDAが、大きな女雛を抱きしめるように巻きついていた。ニビイロヘビ。イブ
キが放った蛇型の音式神だ。

「見目良い鬼だのぅ」
「あい、姫様。私も鼻が高うございます。では、姫様」
「おお。立派に務めを果たしておいで」
218DA年中行事:2006/03/01(水) 18:35:55 ID:CvCkcW1V0
本日の投下はここまでです!うわー、長くてごめんなさい。
続きは、また、明日。もう少しお付き合いくださいませ。
219名無しより愛をこめて:2006/03/01(水) 21:07:09 ID:QZqUKHoD0
GJなりGJなり!
いいですね〜この雰囲気。
浮世離れした威吹鬼さんも適役。
古いお雛様って、生きてるようなのがありますよねぇ。
220名無しより愛をこめて:2006/03/01(水) 22:04:38 ID:AFd8GODy0
高鬼さん×ZANKIさん:最高でしたwwwww
漏れ的にはZANKI後日談の「龍」って…
気になって今日は眠れそうもありませんw

年中行事さん:「シロ」って漏れはてっきり
ルリオオカミに入った犬か何かかと…orz
すみません、狼でもないですねw
白蛇のシロだったんだ、と思ってますw
「大きな女雛を抱きしめるように巻きついていた」で
すげえほのぼのさせて頂きましたw

最後に言わせてください、御三方、激しくGJ!
221名無しより愛をこめて:2006/03/01(水) 23:40:01 ID:IW0hkRXf0
御三方、今夜も面白かったです。
DA年中行事さん、姫様がすごく可愛い。次の投下楽しみに待ってます。
222名無しより愛をこめて:2006/03/02(木) 00:54:07 ID:vmqpGyTR0
鋭鬼スレがお亡くなりになられますた…。
223裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:18:24 ID:7n9JhrBYO
五之章『強き心』

2011年。
台風の破壊的な雨風ではなく、8月とは思えない程、骨身に染みる様な冷たい霧雨が、夜の山を覆っていた。
獲物を探していたオオアリの姫の身体を、突然釈迦の刀身が貫く。
爆発する片割れの向こうに鬼の姿を見た童子は、武者童子へ変化した。
しかし裁鬼は修羅に変わると、武者童子の長剣を肩の角で絡め取り、更に鎧の薄い関節部に巻き付けて、その腕を細切れにする。
山の斜面を転がる武者童子は、白い体液を撒き散らしながら藻掻いたが、その首に突き刺さった音撃双弦が動きを止め、その交差と同時に魔物の身体は土くれと化した。
裁鬼・修羅は怪人が現われた方向に洞穴を見つけ、その中に入っていった。

夜の捜索に間に合ったフブキとゴウキに裁鬼を任せ、昼間のダメージを残していたイチゲキは家に戻った。
「お帰り、イチゲキさん。」
サバキの次男・篤志が、明日の休みに、捜索の手伝いをしたいと言ってきた。
イチゲキは笑顔を作ったが堪えきれず、今日裁鬼を発見し、保護しようとしたが、逆に倒されてしまった事を告げた。
「……すいません。」
20分後、煮魚と吸物から立ち上る湯気は、手を付けず俯く、風呂上がりのイチゲキを見つめる春香の視線に達する事なく消えていく。
「サバキは、鬼のままだったの?」
「……はい。」
春香は飯を盛りながら言った。
「彩子ね。 悪阻もひどい時期だし、明日から、私の実家に預けようと思うの。」
イチゲキに、断れる理由は無い。身重の身体のままサバキを探し続ける事は、2つの生命を亡くす可能性を悪戯に増やすだけでしかなった。
「……その代わり明日から、私がお供させて貰うわね。」
一瞬、何を言ってるのか解らなかった。
「ずっと待ってるつもりだったけど…… 沢山の人に迷惑掛けて、私だけ家でじっとしてる訳にはいかないわ。 宜しくね。」
その笑顔が、心の内から消えぬ焦燥感を必死で抑制している事に、今のイチゲキは気付けなかった。
224裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:19:12 ID:7n9JhrBYO
1984年。
家業を継いで3年になる勢地郎は、客の居ないたちばなの店内で新聞を広げていた。
戸の開く音に、いらっしゃい、と顔を上げた勢地郎の襟を掴み、シュキは声を低くして言った。
「勢地郎…… 今年の魔化魍を、全てテンキに任せるというのは本当か。」
苦しむ勢地郎は、眼鏡をずらしながら返事する。
「いや、テンキさんから言ってきたんだ。 な、何でも、弟子を育てる為に、実践の場を作りたいって……」
勢地郎を解放したシュキは、鋭い眼差しのまま呟いた。
「……まあ良い。 だが、例の奴が出た時は、テンキより私を優先しろ。 ……解ったな。」
頷く勢地郎に背を向け、シュキは去っていった。首を撫で、床に落ちた新聞を拾いながら、勢地郎は階段を降りていった。
「くわばらくわばら……」

真夏の太陽が煌めく川原。修業を続けていたサカエとソンジは、テンキの声に背負っていた米俵を砂地に降ろして汗を拭った。
「まあまあだな。 じゃ、3分休憩だ。」
二人の下半身は、川の水に濡れている。30キロの米俵を担いだまま、腰まで浸かる川の横断を繰り返して5日が過ぎていた。
荒い呼吸のまま、サカエが腕を組むテンキに質問する。
「師匠…… 俺達、いつ鬼に成れるんですか?」
横のソンジも、同じく答えを求める目でテンキを見続ける。
「『鬼』か。 ……俺が良いって言った時だな。 休憩終わり。 とっとと始めやがれ。」
夜。ソンジが筋肉痛の太股を揉みながら、サカエに言う。
「まだ、俺達って未熟なんだろうな。」
「……でもさ、身体は結構、鍛えてきたぜ? 岩登ったり、逆立ちで山降りたり。 ……そりゃ、師匠には負けるけどさ、童子となら、戦えるんじゃねぇか?」
二人が今までに見てきた魔化魍は、2月のイッタンモメン、5月のツチグモ、二週間前のバケガニの3種だった。
「いや、戦えるだけじゃ駄目なんだろうな。 ……倒せなくちゃよ。」
「……そうか。 人を守るんだもんな。」
「ああ。 ……守るんだからな。」
漠然とした目標と見えぬ未来だけが、二人の目の前にあった。テンキに弟子入りし、一年が過ぎようとしていた。
225裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:19:57 ID:7n9JhrBYO
数日後、テンキはさくらを伴い、知り合いの法事に出掛けていった。二人は弟子入り直後の様に家の掃除を任されたが2時間で終わってしまい、ソンジはスケッチを楽しんでいた。
「おい、ソンジ。」
サカエが、家の奥から呼ぶ。鉛筆を置いてテンキの部屋に入ると、サカエは古い木箱を開け、テンキの変身鬼弦を取り出していた。
「おい、それはマズいぞ!」
「大丈夫だよ! ちゃんと元に戻しときゃ良いんだから。」
制止しようとするソンジを気にせず、サカエはジャージを脱ぎ捨て、全裸で庭に立った。
「……俺は知らないぞ!」
「そう言うなよ。 ……俺達、どれだけ鍛えてきたか、コレで解るんじゃねぇか?」
僅かに反応したソンジは、サカエが左手首に着けた鬼弦を見つめた。
「……ま、やらないなら良いさ。 それとも恐いか?」
「……」
10分後。ジャンケンの結果、サカエが最初に変身する事になった。2メートル近い塀に囲まれている寺田家。全裸の少年二人に気付くのは、空飛ぶ小鳥だけだった。
「……行くぞ。」
震える指で弦を弾くと、独特の音が鳴る。その左手を額にかざすと、離れて見ていたソンジが驚いていた。
額が熱くなり、それは鬼面の形成が完了した証だった。
ソンジにニヤリと笑うと、サカエは天に左拳を突き上げる。途端に発する赤い炎が、サカエの身体を包んでいった。
左手を振り払うと、赤みを帯びた鬼の身体が、サカエの物になっていた。
「おぉ…… やったぜ!」
「おい、俺にも貸せ!!」
ソンジも青い炎に包まれ、光の加減で青色が混じる黒い身体を手に入れた。
「出来た! 出来ちまったよ、俺達!!」 「ああ! やっぱり、ちゃんと鍛えられてたんだ!」
「……でも、顔は変わってねぇな。」 「……ああ。 何でだろうな。」
突然、サカエがバッタリと倒れ伏した。驚愕するソンジも一瞬の眩暈を感じ、記憶が途切れた。
夕方。家の中で二人の名を呼ぶテンキとさくらは、脱ぎ捨てられたジャージを縁側で見つけた。
「馬鹿弟子共が……」
身体の変身も解け、全裸のまま気絶していた二人に、テンキは呆れ返っていた。
226裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:21:15 ID:7n9JhrBYO
無断で変身しようとした二人だが、特に叱られる事は無かった。
一週間後の早朝。カッパが出現したらしく、テンキとサカエ、ソンジは、人気の無い川原にテントを張った。
式神を放って6時間後に鶴が戻り、三人を童子と姫の処へ案内する。
「あ! 鬼の人だ!」 「わーい! 遊ぼ、遊ぼ!」
若干幼く、他の童子達から感じられる邪気の無い二体にテンキは歩み寄り、笑顔を見せた。
「今日は、トモダチを連れてきたぞ。 変身してみろ、サカエ! ソンジ!」
状況が飲み込めない二人は、言われるままにテンキから鬼弦を借り、身体の変身を完了した。
直ぐ様気付け薬を嗅がされ、いつの間にか二体と相撲を取っていた。
「コイツ等、何なんです?」
ソンジと交代したサカエが、黙って腕組みをしていたテンキに訊いた。
「何って、カッパの童子と姫だ。」
「じゃあ、何で倒さないんですか!?」
「……倒すさ。 ま、その前に、遊んでやれ。」
背を押され、土俵代わりの草に囲まれた砂場に倒れかけたサカエを、童子が支えた。
「はっけよ〜い!」 「うわっ!」
二体の笑顔に釣られるまま、サカエとソンジは時が経つのも忘れて相撲を取り続けた。
多少の違和感が有った鬼の身体を制御できず、昼過ぎまで投げられっ放しだったが、日没の頃にはコツを掴み、童子達との勝負は五分に成りつつあった。
「……そろそろ、か。」
変身した天鬼は、サカエとソンジを下がらせ、二体の前に立った。
「楽しかったか?」
「うん! 姫ね、こんなに楽しかったの、久しぶりだった!」 「童子も童子も! 村の子供達と相撲したみたいに、楽しかったよ!」
頷いた天鬼は、良かったな、と両の拳から鬼爪を出した。
「師匠……」 「……倒すんですか?」
背中に聞こえる弟子達の声を無視し、天鬼は童子達の腹に鬼爪を刺した。
「また、来年な。」
抵抗しない二体は頷き、無邪気な笑顔のまま、金色の炎に焼かれ、散った。まるでその様子を見ていたかの様にカッパが現れ、ケケッと短く鳴いた。
天鬼は装備帯から音撃鼓『陽炎』を外してカッパに貼り付け、音撃棒『炎夏』を構えた。
「……」 「……」
清めの音が山々に谺した時、何故か二人の頬は濡れていた。
227裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:22:27 ID:7n9JhrBYO
帰りの車、テンキは静かに言った。
「鬼ってのは、ただ単に魔化魍を倒すだけじゃねぇって、俺は思ってる。」
流れてゆく景色では、オレンジの西日が、ゆっくりその姿を隠し始めていた。
「だが…… 魔化魍の為に泣くのは、今回だけだ。」
後部座席の二人は、どうしてですかと訊いた。
「……今日のヤツみたいに、人を襲わねぇ魔化魍なんざ、本当は居ねぇ筈なんだ。 アイツ等も、お前達が今まで見てきたバケガニやツチグモみたいに、いつ人を殺すか解らねぇ。」
魔化魍は魔化魍、人はヒト。情けは自滅に繋がると、テンキは教えた。
「……でも、いつか魔化魍を倒さずに済む様にしたいです。」
サカエの言葉に頷いたが、低い声で呟いた。
「無理だな。 ……人間ってのは、線引に敏感なんだよ。 例え…… 『鬼』でもな。」
意味深な『鬼』という言葉の使い方を探られる前に、テンキは弟子に言った。
「お前達の顔が変身出来ないのは、まだ心が鍛え足りねえからだ。 ……まあ、今日の事で、幾分かマシには成ったろうがな。」
これからは精神面の鍛練を開始すると言われた二人が、鬼の顔に変身出来たのは、その年の暮れだった。

2011年。
山奥のテントから顔を出した明日夢は、雨避けに固定された傘の下にある焚き火に近付き、鍋の中身を混ぜた。
「……何でお前が残るんだよ、明日夢?」
「だって、ヒビキさん達は、サバキさんの事が有るしさ。」
テントから出た桐矢京介―― キョウキは、明日夢から差し出されたシチューを渋々口にする。
「美味い。」 「だろ。」
「ち、違う! 戦った後だから、何でも美味く感じるだけだ!」
素直でない性格は昔から変わらないが、二人は笑顔を交わす事に躊躇いを感じなくなっていた。
ドロタボウを倒し終えたダンキ達を帰し、キョウキは『歩』から知らされたオオアリの討伐に残っていた。
228裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/02(木) 01:23:11 ID:7n9JhrBYO
「大体、お前は中途半端なんだよ! 一年に一回か二回、気紛れにサポーターしやがって! 迷惑なんだ。」
「何言ってるんだよ、寂しがり屋のクセに。 それに、お前程、鬼の皆さんに迷惑掛けてるつもりは無いね。」
強気に成長していた明日夢は、3年前の事を躊躇無く言った。流石にキョウキは言い返せない。
沈黙を茜鷹の鳴き声が切り裂いた。しかしキョウキによって再生された音声は、童子の断末魔だった。
その頃、オオアリの巣だった洞穴から出てきた裁鬼は、右手の閻魔を軽く振り払い、刀身に残っていた炎の気を消すと、再び魔化魍を探し求めて闇に消えた。

五之章『強き心』 完

【次回予告】

2011年。
キョウキは裁鬼に挑むが、明日夢の目の前で倒されてしまう。 それを知ったイチゲキは……

1985年。
テンキから鬼の戦い方、音撃武器を習うサカエとソンジ。ある日、サカエは音撃棒を隣家に飛ばしてしまい、少女に鬼の姿を見られてしまう。

六之章『指切り』
229ZANKIの人:2006/03/02(木) 10:08:12 ID:75mxduXM0
>DA
雰囲気の良さは相変わらずですな。今夜も楽しみにしてます。
>220
一応、アメリカは"ジェロニモ"で東南アジアは"ハヌマーン"の予定でしたw
>裁鬼SSさま
ついに京介登場ですね。同じ渋い鬼なのに蔵王丸とサカエは正反対のキャラで面白いです。
230ZANKIの人:2006/03/02(木) 10:45:49 ID:75mxduXM0
―ZANKI―
少し汗ばむような天気の日曜日
蔵王丸はザンキに連れられ、鬼として一線を退いたバンキのもとを尋ねていた。
かわいらしい子供を抱いたバンキの奥さんは二人を床の間に通す。
「おう、良く来たなザンキ」「元気そうだな。」そこに居たのは片腕の大柄な男バンキ。
「あ、財津原蔵王丸です。」「お前が弟子か良く来たな。」
軽く挨拶をすると飾ってある音撃弦に気付く、古い物だったが丁寧にメンテナンスをされていた為、
未だに輝きは失っておらず、すぐにでも使える代物だった。
「いいだろ?それは俺が両腕だった時代の物さ…。」隻腕の元鬼は言った。
少し躊躇したが蔵王丸は思い切って聞いてみた。「あのどうして腕を?」
バンキは笑って話し始める。
「ああ、これか。いつだったか忘れちまったがな。俺は海でバケガニと戦っていた。」
バンキは懐かしむかのように「刀弦響」を握る。
「割とパワフルな奴でな、俺は岩の壁に投げつけられ、左腕は落ちてきた岩に挟まれ自由を奪われた。
まあ、腕は無事だったから、バケガニがこっちに来るまでに脱出する事は可能だった。
だがアイツは近くにいた子供に標的を変えた。俺は焦った。だが、どうにも腕は動かせない。
で、気付いた時には俺は左腕を叩き切ってた。」
「自分の…腕をですか…。」蔵王丸はゾッとした。
「ああ、でも腕一本で命が救えた。安いもんさ。」豪快に笑うバンキ。
「命を守る為に腕一本を犠牲にする。鬼なら当たり前の選択だが簡単にできることじゃない。
バンキだからできたんだろうな…。」栗羊羹を頬張りザンキは言う。
確かにそうだ。自分が同じ立場の時、果たして同じ事ができるか?
鬼の人たちは本当に凄い…蔵王丸は思った。
「こんな時、ザンキさんならどうしますか?」「そうだな…まず冷静に岩を砕いて…。」
ハッとする三人。「…いや!そ、そんなの無理だよな!腕を切るよ!スパッと!」
「そ、そうですよ!岩なんか砕けませんよ!」慌てるザンキと蔵王丸。
「…そうか…砕けば良かったんだよな…」改めて気付くバンキ。
「砕けないッス!岩砕けないッスよバンキさん!あんたが正しい!」
子供は冷静な判断が出来る子に育てようと思うバンキであった。

いや、きっと砕けなかったハズだから続く。
231DA年中行事:2006/03/02(木) 21:15:06 ID:yH8AS5Pd0
感想を寄せてくださったみなさん、ありがとうございました。
オラァ幸せモンですだ(⊃д`)

>裁鬼職人さん
いやもう、今回もハラハラな展開で・・・・春香さんはサカエさんを助ける事が
できるのでしょうか?そしてキョウキとアスムは?イチゲキさんは立派なパパ
になれるのでしょうか?ううっ、続きが気になるぅ。
>ZANKIさん
ああ・・・どこまで行ってしまうの先代。でもいっそ突き抜けて宇宙の果てまで
連れてってw

てなワケで、これから後編を投下します。
ズラズラと長いですよ、ごめんなさい。


前編は>>205->>217
232番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:18:07 ID:yH8AS5Pd0

「ほら、イタズラしちゃダメじゃないか。おいで」
イブキが呼ぶと、ニビイロヘビは女雛を抱きしめていたカラダをするすると解いたも
のの、女雛の方を振り返り振り返り、まるで名残を惜しむような仕草をした。
「お雛様が気に入ったのかい?お前は変わってるね」
ニビイロヘビはカラダを円盤に戻し、イブキの手に収まった。その場でデータを解析
するが、やはりこれも外れだ。だが、何かが聞こえたような気がする。イブキがもう
一度再生しようと音笛を構えた時、藤岡と田上が帰って来た。
「いやー、やっぱりバイクだと早いねぇ」藤岡はそんな事を言いながら家に上がり、
どっかりと腰を下ろした。田上は慣れた足取りで、鼻歌交じりに台所へ向かう。
「田上君て、おもしろい男だろぅ。去年まで東京で働いていたんだけどねぇ、なんだ
か水が合わなくて、この村の森林保安員になったんだと。まぁ、変わりモンだわなぁ」
「全部聞こえてますよ。師匠に変わり者なんて言われたくないですよ」
茶の道具を盆に乗せて、田上が座敷に戻って来た。
「この人はさぁ、山の事なんて全然わからないくせに、森林保安員なんてのになった
から、俺が一から教えてるんだよ。ついでに『歩』の仕事もね。俺も歳だもの、いつど
うなるかわからんしねぇ」
233番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:19:02 ID:yH8AS5Pd0
藤岡は妻を十数年前に亡くしている。子供達は皆、それぞれ結婚して家庭を持ってい
るが、この家には戻らなかった。
「そういう事なんです。あ、でも心配しないで下さい、秘密は守りますから」
田上はそう言うと、人差し指を自分の口に当てた。
「安心しました。よろしくお願いします」イブキも腰を下ろすと、改めて田上に頭を
下げた。待ってましたとばかりに、田上が質問を浴びせてくる。
「鬼をされてる方って皆さんイブキさんみたいに若いんですか?」
「いろんな方がいますよ。僕は、関東では若いほうですが・・・・」
「そうなんですか?あの、鬼ってどうやったらなれるんです?」
「吉野で改造手術を受けるんです」
「ええっ!?」
「冗談ですよ」
「ああびっくりした。そうですよね、改造手術なんて、ねぇ・・・・」
「あ、でも脳に鬼石を移植するんです」
「ええっ!?」
「嘘ですよ」
234番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:20:00 ID:yH8AS5Pd0
正直に反応する田上がおもしろくて、ついからかっていると、イブキの携帯が鳴った。
トウキと一緒に出動している五樹からだった。
「イブキ君、出たわ。童子と姫は今闘鬼が倒した。でも本体には逃げられたわ。地面
に潜ったから、きっとそっちに出る。闘鬼もそっちに向かったよ」
「わかりました。僕もすぐに向かいます」
イブキの顔が引き締まる様子を見て、藤岡と田上も腰を浮かせる。
「田上さん、藤岡さんと麓まで逃げて下さい。急いで!」
「わかりました!師匠は俺が守ります、イブキさん気をつけて!」
藤岡が田上の4WDに乗り込むのを見送り、イブキは半数のDAをその護衛に付け、
もう半数で逃げた魔化魍を追わせる。そして自分も五樹の言っていた地点に向けて竜
巻を駆った。

235番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:20:49 ID:yH8AS5Pd0

シロは再び魔化魍を追っていた。
地に潜り、掘り進み、餌の気配を感じると地中から飛び出して襲う魔化魍を。
それはかつて、輿入れの為に街道を行列していた主人とその一行を襲った魔化魍でも
あった。もちろん、同じ個体ではない。それでも、シロは貪欲に魔化魍を追う。全て
の魔化魍を根絶やしにし、塵芥にするまでは、自分の魂は休まらない。
あの時、婚礼を控えた十五歳の花嫁は、花婿に逢う事さえ叶わず魔化魍に呑まれた。
付き従った家来、中元、侍女、全て呑み込まれた。
泣き声も、悲鳴すら残す事無く。
口惜しや
その一念で、シロの魂は地上に留まった。
魔化魍を追え。
最初にそう命じてくれたのは、なんという鬼であったか。もう、覚えてはいなかった。
かつてシロと呼ばれていた事も忘れていた。ただ本能のように、魔化魍を憎み、追う。
一匹のオンシキガミ、ニビイロヘビとして。
岩と岩の間、清水の湧く細い隙間にニビイロヘビは滑り込んでいく。奥へ、奥へ。
・・・・・・ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
おぞましい心音が、確かに向かって来る。見つけたッ!DAは信号を出し、仲間を呼
び集めた。
236番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:22:58 ID:yH8AS5Pd0

完全な山道にさしかかり、竜巻を置いて駆け出したイブキの元に、数匹のニビイロヘ
ビが駆けつける。さぁ、早く!とDA達はイブキを招いた。
良くない方向だ。ニビイロヘビ達が向かっているのは、さっき田上の車が避難した麓
に通じる道路の真上にあたる。下手をすると、逃げる田上と藤岡の前に、魔化魍が現
れてしまう。
イブキは駆けながら音笛を吹く。切り裂く疾風が自分の身を包み、額に鬼石の熱を感
じる。
鬼へ!
風を振り払い、イブキは威吹鬼となった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・
地面が唸りをあげる。魔化魍が近い。威吹鬼は神経を研ぎ澄ました。
後ろだ!
「ガァァァァァァッ!!!」
地面を割り木々をなぎ倒し、巨体が威吹鬼に飛び掛って来た。白い胴体はぬめぬめと
粘液に光り、目の無い顔は赤い口だけが目立つ。背中に羽を生やし、退化した足があ
る事を除けば、冗談のように巨大なアルビノの蚯蚓のように見えるその魔化魍の名前
は、ウワバミだ。
237番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:23:48 ID:yH8AS5Pd0
威吹鬼はウワバミの攻撃を紙一重でかわすと、体勢を立て直し音撃管を構える。
だが、ウワバミも早い。威吹鬼の狙いが、僅かに逸れる。
「逃がすかッ!」
ウワバミは高く舞い上がると、威吹鬼めがけて急降下してきた。
迷わず鬼石を打ち込む。全弾命中し、鬼石がウワバミの顔面で赤い斑点のように明滅
した。しかし、その落下スピードが速すぎて、威吹鬼は音撃鳴をバックルから外す間
すらない。真っ赤な口を開けたまま突っ込んで来るウワバミを避けると、手負いの魔
物は地面に潜った。このままではまずい。地中深く潜られては、清めの音が効かない。
そして体が傷ついているという事は、手っ取り早く回復を図る為に、餌を探すだろう。
威吹鬼は眼下に見える道路に向かって、崖を滑り降りた。
「ガアァァァァァァッ!!!」
何ッ!?
ウワバミが崖を食い破って、滑り降りる威吹鬼に喰らい付いたのだ。鋭い牙が容赦な
く鬼の体にめり込んでくる。このままでは、烈風を吹く事ができない。威吹鬼は必死
に身を捩るが、ウワバミの牙はびくともしない。
その瞬間、威吹鬼の耳に、聞き覚えの無い少女の声が、凛々しく響いた。
238番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:25:46 ID:yH8AS5Pd0
「皆のもの、続けェッ!!」
キュィィィィィィィィィンッ!
アカネタカか?いや、アカネタカの編隊だ。だが、今の声は・・・・ぼやける威吹鬼の視
界に、奇妙な光景が飛び込んできた。
「積年の恨みぞ!」
「ええ、観念しやれ!」
アカネタカ達の背中に、小さな人が乗っている。手に手に刀や懐剣を構え、ウワバミ
に斬りかかる。幻にしか見えない小さな姿だが、ウワバミはわずかながらダメージを
受けているようだ。顎にかかっていた力が、少しだけ緩む。だが、ウワバミはあまり
にも大きい。威吹鬼を咥えたまま巨体を震わせ、幻を乗せたアカネタカ達を振り払う。
「怯むなッ!いま一太刀ッ!」
襷掛けの振袖姿も勇ましく、薙刀を構えた少女の幻がアカネタカから飛び降り、ウワ
バミの口元に斬りつける。
「鬼よ、大事無ぇか?気ぃしっかり持て!」
君は誰?そんな所にいたら、危ないよ・・・・
「ええぃ、頑固な魔物だの。妾が引導を渡してやるわぇ」
239番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:27:32 ID:yH8AS5Pd0
少女に続き、他の幻達もわらわらとウワバミの体に飛び移る。自分の置かれた状況も
忘れて、威吹鬼は笑いそうになっていた。なんだ、僕は幻に助けられるのか?

いや
そうじゃない。
護るのは、俺の使命。
俺は鬼だ。俺は、鬼なのだ。

「ハァァァァァ・・・・・・破アッ!」
威吹鬼は体内に気を溜めると一気に解き放した。大気が渦巻き、切り裂く疾風になる。
「ガァァァァァァッ」
ウワバミがたまらず威吹鬼を吐き出す。空中で身を捻り、血を滴らせながらも威吹鬼
は地面にしっかりと降り立った。
「鬼よ、魔物にとどめを!」

音撃射・疾風一閃!

清めの音が、林に、山に、空に染みていく。ウワバミのぬめぬめと光る体の動きが止
まり、撃ち込まれた鬼石が赤々と輝いた。
一瞬の静寂の後に起こる爆散。舞い落ちる塵芥。
ウワバミは、清められた。
240番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:30:34 ID:yH8AS5Pd0
「山菜天ぷらうどん、できましたよ〜」
田上が、ほかほかと湯気をあげるうどんを座卓に並べた。
あの後威吹鬼は、蛇行して緩やかに下る道路を辿ったおかげで魔化魍に遭遇せずに済
んだ田上達と合流し、ウワバミは確かに清めた事、童子と姫も山の向こうで闘鬼が倒し
た事を伝え、藤岡の家に戻って来た。満身創痍の威吹鬼と遭遇して、田上は鬼がどんな
に危険な仕事であるか、魔化魍がどんなに恐ろしい存在であるのかを理解したようだ。
藤岡は黙って、傷だらけの威吹鬼の肩を叩き、若い鬼の労をねぎらった。
山道に乗り捨ててきた竜巻をピックアップして藤岡の家に戻ると、一足先に帰っていた二
人がこの温かい昼食を用意して待っていてくれたのだ。
一室を借りて新しい衣服に着替え、トウキや『たちばな』に連絡を入れたイブキは、早速
できたての山菜天ぷらうどんに舌鼓を打つ。
「おいしい!」
「ああ、田上君はねぇ、料理は上手なんだよぅ。でも天ぷらはまだ俺には叶わないな」
241番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:31:09 ID:yH8AS5Pd0
「はいはい。師匠の天ぷらにはまだまだ叶いません」
楽しそうな『歩』の二人を見て、イブキは傷の痛みを忘れる。今日も生きてる。自分
も、田上も、藤岡も。そう言えば、とイブキは部屋の奥に目をやった。大きな古い雛
人形の顔が、さっき見た時より少し違って見えるのは気のせいだろうか。
「藤岡さん、あの雛人形って、古い物なんでしょうね」
「古いよぅ。あれはねぇ、享保雛と言って江戸時代に作られた人形なんだ」
江戸中期、享保年間に江戸文化は爛熟期を迎える。あの人形はその頃、越後の大名の
姫君の為に作られた物なのだ、と藤岡は語った。
「へぇー。でも、なんでそんな由緒正しい雛人形が師匠の家にあるんです?まさか、
師匠が大名の末裔だなんて言うんじゃないでしょうねぇ」
田上の言葉に、藤岡は大きく笑った。「違う違う。俺の曾祖母さんのそのまた祖母さ
んの姉さんだか伯母さんという人が、お城に奉公にあがってたんだと。そこで、まぁ、
なんだ、お殿様に気に入られたんだわなぁ、手がついた」
藤岡の母方の先祖はもともと、城下町で茶問屋を営んでいた。行儀見習いとして城に
奉公に出した娘の一人が藩主に見初めらた。茶問屋の娘は藩主の国許の側室となり、
女子をもうけた。町人の娘に産ませた子とは言え、藩にとっては大事な姫君である。
「ところが、そのお姫様が年頃になって、さぁ嫁入り、って時に事故に遭った」
242番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:32:33 ID:yH8AS5Pd0
「事故、ですか?」
「うん。嫁入り行列が山崩れに遭って、姫様も家来も、一人残らず死んだと。それで
母親はさ、娘と家来達を気の毒がってこの人形を作らせたんだって。ところが、贅沢
を取り締まるお触れが出て、あんなでかい雛人形をお城に置く訳に行かなかったんだ
わなぁ。母親の実家に隠しておいたんだろうねぇ。で、代々嫁に出る娘が雛人形と謂
れを受け継いでいたんだけど、俺の兄弟は男ばっかりだったし、俺の娘はこんなでっ
かい人形置く場所無いって言うしさ。で、爺さん一人暮らしの家にあるってワケ」
そうか、とイブキは凛々しい少女の幻を思い出す。
「藤岡さん、そのお姫様の名前って、わかりますか?」
「さぁねぇ。なにしろ大昔の話だし、大名の姫様の人形っていうのも本当だかどうだ
か。女はみんな、そういう話が大好きだからねぇ。分不相応な物を持ってしまったか
ら、そんな適当な話をでっちあげて語っているうちに、なんだか本当にあった話みた
いな気になってるだけじゃないかねぇ」
そうかもしれませんねと微笑んで、イブキはタラの芽の天ぷらを噛んだ。口の中に、
ほろ苦い春が香る。

243番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:33:37 ID:yH8AS5Pd0

食事を終えて、イブキは雛人形と向かい合っていた。その隣には、一匹のDAがいる。
さっきはありがとう。助かったよ。
イブキは心の中で、雛人形に語りかけた。人形は無言のままである。面長の気品ある
顔立ち、昔はさぞ豪奢であったろう錦の装束には綿が詰められ、二百年以上そのピン
と張った形を保っている。
イブキの傍らにいたニビイロヘビが、器用に段を登り、女雛にそっと自分の頭部を預
けた。まるでそれは、女雛に甘えているようだ。
「おや」その様子を見ていた藤岡が、後ろから声をかける。「その式神は、女の子か
ねぇ?」
「えっ?」
「だってお雛様が好きなんだもの、女の子なのさ」
「そう、なんでしょうかね・・・・」
「ああ、そうだよぅ。間違い無いよぅ」
藤岡は、この雛人形をそっくり郷土資料館に寄付するつもりなのだ、と語った。
「もう飾る事もないしねぇ。物置で腐らせるより、専門家に任せた方がいいのさ」
244番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:35:39 ID:yH8AS5Pd0

田上は少し前に役場へ帰って行った。日中は山の中を歩いていても、夕方には一度役
場に戻って、書類仕事をしなければならないそうだ。
「ウワバミが出た、なんて書きませんから」別れ際に田上はそう言った。
「もし書いたら、吉野であなたをDAに改造しちゃいますよ」
「えぇぇっ!?・・・って、イブキさん冗談ばっかり」
「いいえ、本当です」
イブキはにこやかに手を振った。何か言おうとする田上を藤岡が追い払う。
「田上君、式神がいつでもあんたを見張ってるからね。また明日!」
田上は口をぱくぱくさせながらも、山を降りて行った。
その車を見送りながら、藤岡がぽつりと漏らす。
「田上君が一人前の『歩』になったら、そん時は俺も引退するよぅ」
数日前に雛人形を見に来た郷土史家が、藤岡家の明治・大正期の古い道具に驚き「手
放す気があるなら、全て引き取りたい」と申し出て、藤岡は快諾したのだと言う。
「死んじまう前に、いろいろ整理しておきたいのさ。体が動かなくなったら、何にも
できないからねぇ」
藤岡はそんなふうに言って、笑った。
「静岡の倅がね、一緒に住まないか、って言ってくれたんだよ。まぁね、急ぐ事は無いん
だけどね。田上君をゆっくり育てるよ」
年輪を刻んだ笑顔を、穏やかな夕日が照らす。春の山郷は、暮れかけていた。

245番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:40:51 ID:yH8AS5Pd0

灯りの無い仏間は、大部分が仄暗い影に覆われ、部屋中のものが朧に闇に溶けている。
実体と影の境界が曖昧になったその部屋で、古い人形は大名家の年若い姫君になり、
オンシキガミは一匹の小さな白い蛇になった。
「シロや、今日の事で妾の気も晴れた。あの鳥に乗って空を飛んだり、楽しかったぞ」
「姫様御自らお出ましとは、私も驚きました」
「鳥達にも宜しく伝えておくれ。それと、あの見目良い鬼にも」
「あい、姫様。きっと伝えましょう」
そして、一人と一匹は、しばらく沈黙する。別れの刻限が近付いてきている事は、双
方ともわかっていた。やがて、花嫁が口を開く。
「シロや、息災にのぅ」
「あい、姫様」
誰かが、声をかける。「姫様、ご出立!」シロにも見覚えのある紋の入った塗りの駕
籠が、そこに準備されていた。もう、何者にも邪魔されない、姫君の輿入れ行列。
「さて、妾の婿殿は、さぞや待ちくたびれておいでだろう。皆のもの、参るぞ」
花嫁とその行列は皆晴れやかに微笑み、黄泉路へと静かに旅立って行った。
その昔、姫君の温かな手に助けられた小さな白い蛇は、薄く薄く煙るように消えてゆ
く静かな行列を見送り、鈍色に煌くオンシキガミへとその身を変化させた。

鬼よ、鬼よ。
この魂は、お前達と共に。
全ての悪しき魔物を地上から祓い清めるまでは
この魂を、お前達に委ねよう。
246番外 「報いる獣」:2006/03/02(木) 21:42:40 ID:yH8AS5Pd0

終章。


「ただいま・・・・」
「イブキ君お疲れ様・・・・って、なんでヘルメット脱がないの?」
「いや、あのぅ」
「どうしたの?怪我でもしたの?!イブキ君、ちょっと早くヘルメット取って!」
「あ、待って香須実さん」
「ダメよ、早く見せてみなさ・・・・・あ」
「あ」
「・・・・・ねぇ、このコはイブキ君の頭の上で、一体何をしてるの」
「話せば長い理由が・・・あ、痛い痛い痛い、引っ張らないで香須実さん」
「イブキ君がニビイロヘビ好きだってのは知っていたけど、まさか頭に巻きつける程
好きだとは知らなかったわ」
「いやそうじゃないんですよ、香須実さん。って、何で携帯構えてるんですか」
「写メ撮って、みんなに見せなきゃ」
「ちょ、やめ・・・やめて下さいよぉ、香須実さん」
「吉野のみどりさんにも送ってあげなきゃ」
「うわぁ、それはやめて、吉野だけはやめて、か、香須実さぁん」

                 =完=
247DA年中行事:2006/03/02(木) 21:45:46 ID:yH8AS5Pd0
>>220さん、大当たりw

ダラダラと長い話にお付き合い戴きまして、ありがとうございました。
補足。というか、蛇足。
桃の節句は古くは上巳の節句と言いまして、旧暦三月の一番最初の巳の日に穢れを祓
う行事をしたとか。てなワケで、ニビタンに登場願ったのでした。強引です。
さて、次回ですが。
お彼岸とか入学式とか考えたんですが、まぁ無難なところで花見ですかね。
ではまた、その頃に。
248名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 04:56:38 ID:yyaPU1bz0
DA年中行事さん、笑いあり、感動ありでした。ありがとうございます。
そうか、そういういわれで蛇なんですね。姫様、姫様〜すてきです。
イブキさんも脇の方々も魅力的で、じんとしました。吉野で改造手術(笑)。
主役のニビイロヘビGJ!
 花見ということは、けっこう近いうちに読めるんですね。次はどのDAかな?
楽しみにしてます。おつかれさまでした。
249名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 05:08:32 ID:yyaPU1bz0
あ、花見話前に、前スレ予告の魔化魍話が読めるのでしょうか?
DAの年中行事シリーズのあいまに、またすてきな話を読ませてください♪
 レスが下がってきてるので、次の職人さんは上げてから
投下で下げていってくださると丁度いいと思います。
この感想で上げちゃうと変な具合になっちゃうので、すいませんがよろしく。
250ZANKIの人:2006/03/03(金) 10:37:04 ID:9DFfMjLw0
では、あげつつ投下します。

>まとめサイトの人。
いつもまとめて頂いてありがとうございます。
このスレが続いているのも貴方様の影の支えの賜物だと思っています。
251ZANKIの人:2006/03/03(金) 10:39:46 ID:9DFfMjLw0
―ZANKI―
夏の訪れを感じられるほどの少し暑い日−。
蔵王丸たちは負傷した紫鬼の代わりにヤマビコを退治する為、奥多摩に来ていた。
ベースキャンプでDAをチェックする蔵王丸。その横でスーツの上にエプロンを着て、
カレーを作っている岩井川、キャンプと勘違いしているようだ。
「当たりはあったか?」「いえ、メロも原田くんも当たりがないですね。」
「ミキティもか?」「ええ、期待はずれです。」
(注)DAの話です。
「キュイーン キュイーン」二体の鷹が帰ってきた。
「しーちゃんとイナバウアーか…。」蔵王丸はDAをキャッチすると解析を始める。
「ザンキさん、当たりです。」「おお、しーちゃん流石だな。」
「ええ、イナバウアーとの相性は最高ですね。」
(注)トリノは関係ありません。
「ところでザンキさん今日は太鼓なんですか?」今日は音撃弦のチューニングをしていない。
「もうすぐ夏だからな。試運転も兼ねて太鼓を使ってみる。」
「夏だと太鼓なんですか?」「ああ、また今度説明する。お前もいずれは覚えろよ。」
ガサガサと荷物をあさるザンキ。「あれ?太鼓忘れた!」
「ええ!なにやってるんですか!」あきれる蔵王丸。
どうやら、あかねからの電話の時に置き忘れたようだ。
「まあ、いいじゃないか。弦でやる事にするよ。」
仕方なく、弦を引っ張り出しチューニングする蔵王丸。
「その間、岩井川のカレーを頂くかな♪」うれしそうにカレーの鍋を開ける。
「はい、お待ちを…あれ?」困った顔をする岩井川。
「どうした?」「…ご飯忘れました。」ガン!10メートル程飛ばされる岩井川。
「てめぇ、忘れるとは何事だ!やる気あんのか!」ぶちぎれるザンキ。
太鼓はいいけど、ご飯は駄目なんだ…。
事前にきちんと確認しないとね。と思う蔵王丸であった

イナバウアーは選手だと思っていたので続く。
252ZANKIの人:2006/03/03(金) 10:47:20 ID:9DFfMjLw0
もうちっと下げようと思うので連カキ

>数少ないZANKIファンの方へ
見てる人がいるか謎ですが、いつもZANKIを御覧いただきありがとうございます。
他の作者と違い、伏線一切無しのコントのような話で恐縮するばかりです。
感動とか大爆笑とかを狙ってはいないのですが、何かと暗い話題の多い世の中で、
クスッと小笑いを取り、ちょっとした精神的なサプリメントになれると嬉しい限りです。
今後とも白面の話ともども宜しくお願いいたします。
253名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 10:51:35 ID:8dvsICkpO
うんちぶりぶり
254名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 10:53:21 ID:8dvsICkpO
ドリルちんちん
255ZANKIの人:2006/03/03(金) 10:58:07 ID:9DFfMjLw0
ああうぜぇ。
256ZANKIの人:2006/03/03(金) 10:59:03 ID:9DFfMjLw0
さらにさげ。
257名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 11:10:06 ID:psUtW3vN0
私は楽しみにしてますよ。
258名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 11:48:03 ID:mf/Tx1E50
>>255-256
>>253-254は仮面ライダーの2次創作スレに沸いてくるので無視したほうが良いですよ。
259名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 12:14:09 ID:T8JoVcD/0
>>251
選手名っていうのは間違ってはないですよ。念のため。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%90%E3%82%A6%E3%82%A2%E3%83%BC

愚行とは分かっているがあえて言わせてもらう。
よく行くサイトで昔「ドリルクンニ」という造語が流行っていたのを思い出したw
260名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 13:25:26 ID:9DFfMjLw0
>258
すいません、分かってたんですが思わず本音が。先代が乗り移ったみたいですw
>259
ありがとうございます。そんな気はしてたんですけど、色々勉強になりました。
261ZANKIの人:2006/03/03(金) 13:26:13 ID:9DFfMjLw0
すいません!ageちゃいました!
262DA年中行事:2006/03/03(金) 14:36:48 ID:9VEJuEtd0
DA vs ZANKI

蔵王丸はその日、朝からウキウキとしていた。
先日、師匠から「そろそろお前専用の0号を用意してやらなきゃな」と言われたからだ。
もちろん自分の師匠の性格は良く知っている。もしかすると、この前のあの一言だって、ほんの思いつきで言ってみただけーテヘッ☆、となる
かもしれない。その前に、バカ野郎この俺がそんな事を言うわけないだろう百万年早いわこの大タワケ蘇りの森に捨てて来るぞこのチビッコ
め!と句読点も置かない勢いで罵倒されるかもしれない。
それでも。
万に一つ、億に一つ、師匠が本心から言ってくれたかもしれない。
そう思うと、やはり蔵王丸の心は弾んだ。僕専用のDA。僕と一緒に闘ってくれる、心強い相棒。どんな危険も省みず、僕の命令を忠実に守
ってくれる、強くて愛らしいオンシキガミ。毎日ピカピカに磨いて、夜は一緒に眠ろう。0号は、僕に懐いてくれるかな?ううん、きっと懐いてく
れる。師匠だって言ってくれたじゃないか。『女と道具は大切に扱えば答えてくれる。だから、ビスの一本まで大事にしろ』、と・・・・・・・・
言った先から『烈斬』でアカネタカを叩き落した映像は、蔵王丸の記憶から消去した。

「蔵王丸、お前専用の0号のデザインは何がいいんだ?」
「龍!龍がいいです!」
「龍?なんで龍なんだ?」
「それは・・・つ、強いからです!何よりも強い動物だからです!」
きっぱりと言ってから、蔵王丸はガンッと来る衝撃に備えた。だが・・・・骨の髄までビリビリ来る衝撃の替わりに、ザンキはにっこりと笑って頭を
撫でてくれた。少し荒っぽく。荒っぽすぎて、一晩寝て起きてもまだ首が曲がっているような気がするが、それでもザンキは自分の頭を撫でて
くれた。あれは、承知した、という意味に違いない。




263DA年中行事:2006/03/03(金) 14:38:12 ID:9VEJuEtd0
「蔵王丸、お前専用の0号機だぞ。大事にしろよ」
ガンッ!
意味も脈絡もなく、衝撃が蔵王丸の脳天を駆け抜ける。曲がっていた首がまっすぐになった。
「あっ!ありがとうございます!」
「早速起動させてみろよ」
「はいッ!・・・・・あ、でも、あのぅ・・・・・・・・」
「なんだ?」
「僕、まだ鬼弦がありません・・・・・・・・」
ゴギャッ!改めて首が曲がったな、と感じながら蔵王丸は5メートルほどぶっとばされていた。
「鬼弦?僕の鬼弦と言ったかバカタワケお前に鬼弦を支給するなんざ百万年早いわ大タワケ蘇りの森に捨てて来るぞこのコワッパめ!!」
ほぼ自分の想像通りの勢いと言葉で罵倒されながら、蔵王丸はじんわりと意識が遠のいて行くのを感じていた。霞む視界に緑色の物体がいる。なんだろう・・・・
ケロケロケロッ ケロケロッ ケロッ ケロッ
ああ、僕の0号機。僕の龍は・・・・・・ケロケロ鳴くのか・・・・・って、カエルじゃん・・・・・・・
「何ッ!?殺さないであげて、だと?俺がそんなケダモノじみた事をするような男だと思っているのかこのケダモノめ!!」
リュウケンドーのEDでのフリーキックもかくやというほどに構えたザンキの足が止まる。気絶した蔵王丸の手が、ザンキの足首をしっかりと掴んでいた。

こうして、蔵王丸とセイジガエルとの、長い長い日々は始まったのであった。

第一戦、ZANKI圧勝。
264名無しより愛をこめて:2006/03/03(金) 20:09:01 ID:jL6RvIQ40
ZANKIさん、面白い話?をありがとうございます。
最近私事でギスギスしているので、このまともかと思いきやクスっとさせられるSSで、とても心が和みます。
次も楽しみにしています。
265ZANKIの人:2006/03/04(土) 09:30:28 ID:90eMJGYk0
>257
ありがとうございます。今後ともごゆるりとお楽しみください。
>DAさん
自分じゃ書けないテンションですなw第二戦も楽しみにしてます。
ちなみに「烈斬」じゃなく「烈雷」なんですが…。
DAさんの今後の作品に影響が出ない程度に頑張ってくださいw
>264
心が和まれて嬉しい限りです。
私事で大変なのでしょうか?SSが心のサプリになるよう頑張りますが、
私事が緩和される事を強く強く望みます。
「いつも心にZANKIさんを…。」そんな気持ちで頑張ってください。

なんだこのレスw
266ZANKIの人:2006/03/04(土) 14:14:45 ID:90eMJGYk0
―ZANKI―
魔化魍退治を終え、「たちばな」の地下で今後のローテーションなどを確認するザンキと蔵王丸。
「やった、今年は太鼓での出動は少ないな。」「ザンキさんは太鼓が苦手なんですか?」
ザンキでも苦手なものがあるかと興味深々で聞いた。
「いや、そうじゃない。やたら分裂したり、大勢いたりするのがめんどくさいんだ。」
ザンキの性格からすると、もっともな理由である。
「そういえば、パワーアップとかしないんですか?」唐突に聞く蔵王丸。
「なんで?」「いや、流れ的にそろそろかなと、裁鬼・修羅とか、
弾鬼SSもちょっとだけ出ましたし、高鬼さんも紅になりましたよね。」完全に作者側で物を言う蔵王丸。
「ああ、それならあるぞ。」「え!?あっさりと!?」意外な一言が飛び出す。
「斬鬼・餓狼ってのが。」「かっこいい!どんな風になるんですか!?」
ついにバトルメインになるのか。蔵王丸の心は躍る。
「力は変わらないけど、スピードが異常に速くなる。」「え?どっかで…。」
恐る恐る聞く「カブト…ですよね?…」ガン!吹っ飛ばされる蔵王丸。
「うるさい!もっと前から思いついてたんだ!紅が出てたぐらいから!」
作者の私的感情を代弁するザンキ。それをぶつけられる蔵王丸。
「まあ、割と良く聞くパワーアップだからな。今更、新鮮味もない。」
「そうですね。違う路線がいいですね。」
一瞬で壊滅するドロタボウ達、バケネコとの高速バトルなどの構想がお蔵入りした。
「分身とかどうだ?」「んー、パワーバランスが崩れるし何より非現実的ですね。」悩む二人。
「羽を生やすか?」「強そうですけど、気持ち悪いですよ。羽鬼なんて。」再び悩む二人。
「斬鬼・落雷ってのは?常に雷が落ちるの。」「周りに迷惑ですね。」三度悩む二人。
「現実的に簡単になれるものじゃないから、今すぐにでも実践できそうなの…。」
「戦闘に応じて体の色を変えるってのはどうです?迷彩服みたいに。」ピンと閃く。
「おお!それは出来そうだし、効果的な気がするな。」ザンキも乗り気だ。
「名づけて斬鬼・変態!」
ガン!フルパワーで打っ飛ばされる蔵王丸であった。

変態から餓狼へのキャストオフを見てみたいので続く。
(色が変わるのは変態とは言いません。)
267名無しより愛をこめて:2006/03/04(土) 18:12:51 ID:uQjuglpX0
職人さんの皆さん、毎回面白いSSをありがとうございます。

ところで「仮面ライダー響鬼特写写真集 魂」の設定資料によると
『年に1回、陰陽的な暦の関係で魔化魍が全く出現しない日があり、
日本全国の鬼たちが吉野の総本山に集結して大会議(宴)を開く。』
と書かれています。

この設定、話のネタにならないでしょうか?
268名無しより愛をこめて:2006/03/04(土) 18:47:27 ID:dS3PEHoCO
うんちぶりぶり!!
269DA年中行事:2006/03/04(土) 20:39:23 ID:1WwvTBVX0
>>265
今回先代をお借りして、よぉっくわかりました。
この先代、勝手に走り出すんだわwそりゃ烈雷も烈斬になるってハナシっすよ。
ああもう恥ずかしくてほんとうに句読点を置けないですようあああ。
でででも、第二戦はいったいいつになることやら。ハイ。

>>267
吉野で大会議・・・・うーむ、気になるなぁ。どなたかお願いします(-人-)

そうか、「魂」にはそんな設定も載っているんですね。
オレはまだ響鬼本の類を一冊も買っていません。やっぱり一冊くらい買って
おいた方がよさそうだなぁ。烈斬とか書いちゃったしなぁ。恥ずかしいなぁ。


鋭鬼スレが、とうとう・・・・
鋭鬼SS職人さん、お待ちしています。
270高鬼SS作者:2006/03/04(土) 23:08:59 ID:ZWAnd6PA0
>>267
吉野で大会議…。
そういえば書いてあったような…。なにぶん立ち読みで済ませたもので。
幸い各地のオリジナル鬼を作ってあるので、今書いているのが終わったらやってみようかな…。

まあ下手な約束は出来ませんが。やるかも、ということで…。
(やるとしたら軽い話になるかも)

…はっ!毎年やってるんですよね。コウキとキリサキが三十年振りに会ったって設定どうしよう…。
そのフォローのためにも書くべきか…。
271ZANKIの人:2006/03/05(日) 08:53:41 ID:/m8wBaXZ0
>>267
じゃあ、前スレで言ってた全職人コラボ企画でやりたいですね。
スペシャルなんで時空を超えた競演で。
誰かがメインストーリを作ってそこにクロスオーバーするパターンと、
一人ずつが交代で各パターンとか。まあ、皆さんの許可がでればですけどね。
>269
おっけ!とりあえず、後日談を投下してみるよw
272名無しより愛をこめて:2006/03/05(日) 13:25:12 ID:kop1dcow0
全職人コラボ!!おお、隅っこに参加させてほしいです。
前スレで竜宮とか594替え歌とか投下させてもらってるのが気楽で楽しかったので
付け合せ程度の脇小話でお願いしたいです。
 高鬼さんの設定とか各連載職人様、シリーズ職人様も気になりますが、
自分が投下したきっかけが裁鬼さんメイン小説の面白さと
夏の河童の可愛さにに感激したからなので、
できれば吉野大会議前後企画で裁鬼メインストーリー様に意向をうかがって、
皆様の競演を読みたいです。
 高鬼SS様、ZANKIの人様、DA年中行事様、続き楽しみにしております。
273番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:22:24 ID:DMXyuvmC0
番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(前)

トウキがダンキとショウキの前に現れたのとほぼ同時刻、トウキの妻であるともえと息子でありトウキの弟子でもある敏樹が、半狂乱状態の千明を追いかけていた。
「足速いわねぇ・・あの娘。亡骸を抱えてるのに私達より早いなんて」
ともえが感嘆の呟きを洩らしながら、倒れた大木の幹を軽く飛び越えた。
「母さんが遅いだけだよ・・・僕先に行っていい?」
敏樹もまた、幹を飛び越えながら母親に言う。ともえは笑いながら、
「まぁ!言うようになったこと!いいわ、お父さんとの修行の成果みせてごらん?」
息子を見送った。
敏樹はグッ!と地面に足をめり込ませると、一気に加速した。
所々の障害物を利用し素早く走り、また高く飛びながら千明との間合いを詰め・・・
「そこまでだよ・・・お姉さん」
千明の前に出ると、その千明の動きを完全に止めた。
「ヒッ!」
千明は元来た道を引き返そうときびすを返すが・・
「落ち着いてくれないかしら・・・安藤さん」
すぐ後ろにはともえが立っていた。
「凄いじゃない敏樹・・・あんな早く動けるなんてお母さんビックリ」
「鍛えてるからね」
敏樹は何事も無く言い放ったが、その表情には笑みが浮かんでいる。
274番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:23:38 ID:DMXyuvmC0
「あ・・・・貴方達・・一体なんなの?」
既に正常な思考回路を失っている千明はともえと敏樹に叫ぶように言った。
「私は、トウキの妻でともえと言います。こっちの子は私達の子供の敏樹・・・・貴方を保護する為に来たの」
「ほ・・・ご・・・?・・・嘘だっ!私を・・・・・どうするつもりなの・・・・」
千明は少女の亡骸を未だ抱きかかえたまま二人から離れようとする。だが、ともえは両手を広げてゆっくりと千明に歩み寄った。
「行きましょう?その子を弔ってあげなきゃ・・・ね?」
「え?あ・・・・あぁぁ」
手の中に眠る少女を見つめ、少女を抱く手の力が弱まる。
「いや・・・・もう・・・鬼の人には関わりたくない・・・・・来ないで」
優しく差し出されたともえの手がゆっくりと千明に伸び・・・・・止まった。だが、
「ごめんなさい・・・お姉さん」
後ろから呟きと共に首筋に手刀が叩き込まれ、千明の意識を刈り取った。
「まともに話を聞いてもらえないって辛いね・・お母さん」
敏樹が自分の手を見つめながら・・・哀しく呟いた。

都内・某病院/
「いっちに・・・さんし・・・ごぉろく・・・しちはち」
病院のベッドの上で必死に腹筋をしているのは、先日カラカサと謎の男女にこっぴどくやられ、入院中のダンキだった。
病人には見えない健康さで腹筋をし汗を流し・・・・
「段田さんっ!」
がらっ!と音を立てて看護婦が一人入ってきた。その形相は怒っている。
「看護婦さんどうしたのさ?」
腹筋を停止して看護婦言う。
「どうしたのじゃありません!あなた、またトイレに納豆流しましたね!!」
「い゛!な・・なんでバレた・・・・」
「いい年してキライな物を残すのに隠すのは止めて下さいと、何回言えばわかるんですか!!」
「だってしょうがないじゃーん!俺ダメなんだよ・・あのにちゃにちゃした食感が・・・」
「黙りなさい!それに筋トレも禁止!・・・・全くあなたといい、お隣さんといい・・・怪我している時くらいゆっくり休めないの?」
ちなみにお隣とは、ショウキのことである。
看護婦はものすごい剣幕でダンキに注意をすると、肩で息をしながら帰っていった。
275番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:25:56 ID:DMXyuvmC0
それから数分後、ショウキが隣の部屋からやってきてベッドに腰を下ろした。
「僕のところまで聞こえたよ。あの看護婦さん、おっかないねぇ・・・」
「全くだ・・・。それにしても・・・そろそろ退院したいよなぁ・・・体鈍ってしかたないったら・・・あぁ〜もう!早く太鼓の練習したいのに!」
空想の撥と太鼓を使ってトレーニングするにも限界があり、ダンキの我慢は限界に達していた。
バババババ!と素振りをするも、すぐに脱力してしまうダンキ。大きく雄雄しい太鼓の音が聞きたくて堪らないのである。
と、そこへ
「おっ!やってるなダンキ!休んでなくていいのか?」
「ヒビキさん!」
ダンキの兄貴分のヒビキが見舞いをもってやって来た。
「いょっ!シュッ!へへ・・元気そうじゃん二人とも、これおやっさんからのお見舞いね」
「あぁ〜きびだんご!有難うございます〜」
「休んでる暇なんかないじゃ〜ん!特訓特訓だよ!なぁ、ショウキ?」
頷くショウキ。その二人を見てヒビキは笑いながら、備え付けの棚に包みを置き、パイプ椅子に跨った。
しばしの雑談に和む室内。だが、いよいよ話は重い方へと進んでいった。
「・・・あ〜。ダンキ・・ショウキ。今回の事だけど・・・気にするなって言ったら変だけど・・・・あまり深く持つなよ?お前達みたいな若い鬼は
・・・・なんていうかさ・・・人を助けるって事に関して・・強迫観念じみた物を持ちやすいって言うのかな・・・割り切れとは言わないけど・・・・」
ヒビキも上手く説明できないのだろう。言葉を捜しながらダンキとショウキに伝える。
「言いたい事・・・良く解ります」
「俺も解るよ・・ヒビキさん」
「うん。まぁ、俺もそういう経験あるし・・・立ち直れそうに無かった時だってあったけど、でも・・・自責の念に囚われて、また同じ事を繰り返すわけには行かないからさ」
戦いにおいて迷いは最大の敵である。迷いに取り付かれては己を滅ぼすぞ。ヒビキの言いたかった事はソレだった。
その言葉を聞いたダンキは、しばし何かを考え込んだ後、ヒビキに向い一つの願いを口にした。
「ヒビキさん、頼みがあるんだけど・・・・」
「ん?何だ?」
「ヒビキさんが紅に変身できるようになった鍛えの方法を教えて欲しいんだ。俺・・・もっと強くなりたいんだよ・・・頼む、このとおり」
276番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:27:04 ID:DMXyuvmC0
ダンキはベッドの上で精一杯身を折り、ヒビキに懇願した。
ダンキは事ある毎にヒビキに言っていた。
『俺は必ずヒビキさんに追いついて・・いや、超えてみせる』
ヒビキ自身笑いながらも、慕ってくる弟分を見守り、あるときは共闘しながらも見て来た。
常に鍛錬を怠らず、自信に満ち溢れていたダンキが頭を下げてまで助けを求めている。
「・・・・・ダンキ」
ヒビキはダンキの頭を上げさせてから、きっぱりと言い放った。
「ダンキ。俺を超えたいなら・・俺と同じ特訓じゃ意味が無いぞ?自分だけの鍛えをやらなきゃな」
ヒビキとダンキは別の人間だ。故に同じ事をしたからといって必ず同結果になるとは限らない。よしんば、同結果になったとしてもそれは『ヒビキ』の模倣品であり『ダンキ』では無くなるのだ。
そして、先を追いかけ並ぶだけでは最早完全な模倣品でしかない。
超えたければ自分で道を開け。自力で道と答えを作り、見つけながら鍛えろ。ヒビキはそう言いたかったのである。
「・・・・・あと、千明ちゃんの事だけどな。まだ立ち直れそうに無いらしい」
話題は変わり、千明の事になる。
ここ数日・・・酷いありさまで・・・日菜佳や香須実・・みどりが総出でケアをしているらしいが、鬼とそれに関わる事をひどく拒んでいる状態らしい。
「・・・そっか」
「・・・・やっぱりあの娘が・・・死んだ事が相当大きかったんだろうね」
ショウキが幾分か声のトーンを落として言う。ここは病院である。不要な単語は差し控えるべきだからだ。
「そういえば、あの村の『葬の儀』は?」
ショウキがヒビキに尋ねる。
「一昨日かな?吉野の葬鬼さんがちゃんと送ったみたいだ」
吉野の葬鬼・・・・鬼の中で唯一戦闘専門でない、被害者を弔う音撃の使い手の事だ。代々世襲制でその名を現代まで残している。
音撃葬『輪廻道程』により死者の御霊を天へ送り、迷い無く送る事で負の念を残さないようにする。それが葬鬼の仕事だ。
「そっか・・・ショウキ。近いうちに手合わせに行っとこうぜ」
「そうだね・・・・うん。それと・・・安藤さん・・・上手く立ち直れるといいんだけど・・・・」
「鬼を避けてるなら・・・俺らが行っても事態を悪化させるだけになりそうだしなぁ・・・・」
ベッドの上で暗い表情になる二人。
277番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:27:56 ID:DMXyuvmC0
出会いは偶然だったにせよ、ここ暫くの間、付きっ切りでいた人が自分たちに拒絶を示したと言う事は、やはりショックであった。
「まぁ、みどり達に任せてみようや。俺たちがヘタにやるよりよっぽど上手くやってくれるさ。もし、みどり達が何か協力してくれって言って来た時にこそ、ダンキとショウキの出番だからな。今は、しっかり体治すのが先決だと思うぜ?」
ヒビキがダンキとショウキの肩に手をやって言った。
二人して「ハイ!」と返事をすると、ヒビキは満足そうに例のポーズを取って笑いかけた。


群馬県・赤城山/
『音撃打!破砕細石の型ァ!ウゥオォォリャァァ!』
『音撃射!暴風一気!いっけぇ!』
二種二様の清めの音が木霊した。音撃を同時に受けて、魔化魍オオアリはいとも簡単に爆発四散し、その残骸を散らばした。
弾鬼と勝鬼が入院してから2週間程経った8月21日。
復帰第一線目の相手オオアリは、病み上がりを感じさせないほどのコンディションの二人には物足りないほどの相手だった。
『へへっ!参ったか〜!』
弾鬼が上機嫌で那智黒をクルクル回しながら、目の前をヒラヒラと舞う塵芥に向けて言う。
『お疲れ弾鬼君!』
勝鬼も台風をクルリと回しながら弾鬼の元へ歩いてくる。
二人とも顔の変身を解き、素顔を晒すとガッシリと肩を組んだ。
「へっへぇ!復帰第一線!完全勝利!完全復活だな勝鬼?」
「そうだね。これで、穴埋めしてくれた皆の分まで出動できそうだね」
二人は肩を組んだまま、意気揚揚!威風堂々!と歩きベースキャンプへと戻る為に歩き出した。
だが、その背後に小さい何かが飛来し・・・・・爆発した。
「うわぁぁっ!?」
「何だー!?」
背中に衝撃をまともに喰らい、肩を組んだまま吹っ飛ばされる二人。突然の事に驚き背後を見ると、地面には小規模ながらもクレーターが出来ていた。
「魔化魍!?別口か?」
「違うよダンキ君!アレ見て」
ショウキが指差す方角には、放物線を描いて飛来する物体が。それがダンキとショウキ目掛けて飛んでくるのだ。
「な・・・なんだよありゃ!うわぁぁ!」
278番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:28:34 ID:DMXyuvmC0
その内の幾つかがダンキとショウキの目の前に激突し、激しい閃光と衝撃を撒き散らす。もうもうと上がる粉塵の中から肩を組んだまま、まるで二人三脚をしてるかのように逃げ出すダンキとショウキが出てきた。
「ゲホッ!・・・・・あぁ〜もう!何なんだよ!」
「あれって、もしかして手榴弾?本物なんて初めて見たよ!」
「知るか!うわぁぁぁぁ!なんか降って来る量増えてないかぁ?」
だが逃げ惑う二人の目の前には岩だらけの壁が待ち受けていた。
「ダンキ君!前!前!壁にぶつかるよ〜〜〜!」
「あぁ〜もう!何だって肩組んだままなんだ!俺たちは!?」
壁に激突する瞬間、
「おいショウキ!! 二手に別れるぞ!!」
「ハイ!!」
二人はようやく互いの肩に回していた手を解き、ショウキは左にダンキは右にそれぞれ進路変更して爆発から逃げ続けた。
全力で走りつづけること数分。運良く林に逃げ込んだダンキは、走り疲れて立ち止まり膝に手を置いて呼吸を整えた。 
「ココまで来れば大丈夫だろ……」
ふぅ・・と、ため息をついて辺りを見る。
「ショウキは無事逃げれたかな・・・・それにしても何なんだよアレは!」
膝から手を離し、腰に当てながらこれからどうしようか考え込んでいると、ヒュッ!と風切音が鳴り何かが飛来してくる。
咄嗟に手で弾き飛ばし、地面に転がった物を拾い上げる。
「竹?」
手にした物は竹の破片だった。再び風切音がして同じく竹の破片が飛来する。今度は複数で、四方八方からだ。
「何なんだよ!!」
蹴りと手刀を交えて打ち払っていくが、数がどんどん増えてゆき・・・遂にダンキの顔面に幾つかが直撃した。だが、所詮は竹の破片。さしてダメージがあるわけではない。
あるわけではないのだが、短気な性格のダンキに火を付けるには十分すぎるほどの効果はあった。
「こざかしいなぁ!とっとと出てこいよ!!」
叫んだダンキの顔目掛けて、正面から木綿豆腐が音も無く飛来し、直撃した。次いで怒号が谺する。
「避けんか! 大馬鹿者!!」
ボロリ・・と木綿豆腐が地面に落ち、破片が足にこびり付いた。
279番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:29:13 ID:DMXyuvmC0
「・・・・・っ・・・・・誰だよ!姿見せろ!」
口の周りについた豆腐を舌で掬い取りながら、大声で怒鳴り散らす。だが、先ほどの声は発せられる事も無く、辺りは静かなままだ。
「ンの野郎・・・・隠れてコソコソと物投げるしか出来ないのかよ!出て来い卑怯者!」
「無礼者が!」
突然背後から声がして、尻に衝撃が走る。
「あいったぁ!・・・・・・・・・ってて・・・へぇ、ようやくお出ましか」
そこには年のころ50代程の男が手に警策を持ち立っていた。
「アンタだろ?爆弾とか竹とか豆腐とか投げたのは!」
「この無礼者!どう見ても私の方が年上だ!敬語を使いなさい!」
ズバシ!と太ももに叩き込まれる警策。
「いってぇ!何すんだ!オッサン!」
「敬語を使えといっているだろう!」
今度は肩に。ダンキは堪らず、関わってられるかとばかりに背を向けて逃げる。だが、謎の男は何処からとも無く縄を取り出すと
「そんな足で私の鬼鞭術から逃げられるとでも思ったか!未熟者!」
まるで空を駆ける蛇の如くダンキ目掛けて縄を投げ放った。
「うわぁ!」
両手だけでなく両足すらも縄で縛られその場に倒れこむダンキ。芋虫のようにウネウネと身をくねらせて縄から逃れようとするダンキに
追いついた男はダンキの尻目掛けて警策を叩き込んだ。しかも連続で・・・・
280番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻:2006/03/06(月) 00:30:31 ID:DMXyuvmC0
「全くもって不甲斐無い!その上、私に向って卑怯者とは!」
「ちょっと!やめ!あいたぁ!わかった!悪かったよ!謝るから!止めろって!」
「それが、人に物を頼む態度か!無礼者!」
謎の人物の警策攻撃はダンキが動かなくなるまで続けられた。
その後、男はダンキを担ぐと
「さて、次はもう一人の方だな・・・全く未熟者が」
ショウキの逃げた方へと移動した。

ショウキもまた謎の人物が仕掛けたであろうワナの洗礼を受け、地面に倒れこんでいた。
警策を手に怒りで震えている男が、ダンキとショウキを交互に見て深くため息をつく。
ちなみにダンキは意識を取り戻し、流石におとなしくしていた。
「……全く、見ておれん! ……まあいい。 どうだお前達! 強くなりたくないか!?」
「……何言ってるんです? てゆうか誰!?」
男の突然の言葉に、ショウキは至極当然の質問を返した。
「質問を質問で返すな!君は私の質問に答えれば良い! 強くなりたくないか!?」
「……怪しいヒトだなぁ。」
ダンキの言うとおりである。突如ヒトに向けてワナを張り、爆発物を投げ、尻を殴打する。怪しさ大爆発である。だが、その一言は男の自尊心を傷つけたらしく、
「何だと!? この私を捕まえて、怪しいだと!? ……もう我慢出来ん!! 尻を出しなさい! 尻を!!」
再びダンキの尻目掛けて警策を振りかぶった。
絶叫する悲鳴が木々を揺らした。謎の人物の目的・・・本題に入ったのはダンキが再び意識を取り戻した15分後の事だった。

     番外編『仮面ライダー弾鬼』五之巻『高鳴る歌』(前)   終
281弾鬼SSの筆者:2006/03/06(月) 00:39:31 ID:DMXyuvmC0
ZANKI職人さん、DA職人さんコラボSS楽しませていただきました。
呼吸困難になるほど笑ったのは久々でしたw
GJ!です!!
全職人コラボも面白そうですね。

裁鬼SS職人さん
毎回ドキドキモノのSSを有難うございます。
今回の弾鬼SS第五話ですが、四十三之巻「生まれ変わる双弦」を元に書かせて頂きました。
イメージを崩してないか心配ですが、ご容赦の程をm(__)m

282DA年中行事:2006/03/06(月) 13:18:35 ID:oaflInFu0
弾鬼さんキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!!!
ダンキさんもショウキさんも傷心のズタボロだったので心配してましたが、
病院のベッドで腹筋するほど元気になっていて良かった良かったw
千明ちゃんがまだちと心配ですが・・・・
今後もwktkで投下をお待ちしています。

コラボ企画、楽しそうですなw
皆さんの同意が得られれば、末端に加えさせてください。
あ、でも節分でDA達には宴会させてるなぁ。まぁいいやw

283名無しより愛をこめて:2006/03/06(月) 14:14:13 ID:/xHLIcEc0
>弾鬼SSさま
確かに千明が心配。次回は裁鬼SSでは見れなかったシーンが見れる訳ですな。待ってます。
>コラボ企画
思いつきで発案したんですが、今のところ結構良さそうな反応ですね。
読んで頂いてる方々に喜んでもらえるような作品になるといいので、
他の職人さんの反応を待ちつつじっくりと考えましょう。
時空を超えての共演もおもしろいけど、時間の経過をうまく利用した話もいいかも。
例えば、先代が壊した椅子に、数年後ダンキが座ると椅子が壊れてキレる。
それを見てサバキが懐かしむ。さらに何十年後かに次のダンキが同じことをやって、
師匠となった京介が懐かしむとか。
284ZANKIの人:2006/03/06(月) 15:24:44 ID:/xHLIcEc0
>283
すいません名前忘れてました!
285-ZANKI外伝Frog-:2006/03/06(月) 15:30:19 ID:/xHLIcEc0
(注)今回は262より始まる「DA VS ZANKI」をお読みになってからごらんください。
DAさんに対するお返しとしての話ですが、また世界観が大きくズレる箇所があり
ますので、お気に召さない方はお手数ですが再び脳内で削除してください。

予備知識
ガルフォード(DMCの開発部の人、昔はガルフの名前でベースのウルフマンだったらしい。)
小龍(ザンキみたいにDMCから極秘に派遣され、中国で龍をやってる人みたい。)

蔵王丸が意識を取り戻したのは十分後だった。
気付くと目の前にケロケロとセイジガエルが飛び跳ねていた。
「お、目を覚ましたか。」水をくれるザンキ。
水をゴキュゴキュと飲みながら蛙を見つめる蔵王丸。
「あの?ザンキさんが起動したんですか?」自分には鬼弦がない、
ザンキが起動させない限り、DAは変形しないはず。
「いや、違う。勝手に起動したんだ。」「え?そんなことあるんですか?」
「たまにいるんだよ。使用者の意思を読み取って変形できるのが、理由は不明だがな、
まあ、お前の事を気に入ったんだろ、大事にしろよ。」ディスクを手渡す。
「…あの、…りゅ…龍は?」たまには意思表示をしっかりしてみる。
「ああ、すまねぇ、RYUはイタリア語で蛙の意味だよ。」もちろんそんな事は無い。
「あ、そうなんですか?あ、すいません、僕の言い方が悪かったですね。」
本当か?と思いながらも、とりあえず言う事を聞いた。
「えっと、動くかな…。」蔵王丸がヒョイっとディスクを放り投げると、
鬼弦も鳴らしていないのにカエルは展開しアニマル形態になった。
蛙か…。ちょっと残念に思いながら蛙を見る。
ケロケロと目をグリグリ回しながら蔵王丸の周りを飛び跳ねる蛙。
「…へへへ…結構かわいいな…。」改めて見ると想像以上に愛くるしい。
蔵王丸は嬉しそうに蛙を触った。
286-ZANKI外伝Frog-:2006/03/06(月) 15:32:55 ID:/xHLIcEc0
「なんだ、折角、ドラゴンのDAを送ろうと思ったのに。」
公衆電話で国際電話をするザンキ、電話の相手は良く分からない人物…。
「ああ、すまないな…カエルを気に入っちまったようだからな。」
「小龍に頼んで、中国からオリエンタルタイプも手に入れたんだぜ。」
「すまないな。シルフにも礼を言っといてくれ。」
龍のDAをちょっとほしいなと思いつつ、ザンキは断った。
「ところでガルフォード、ゼルフがやったステルスって資料ある?」
「え?あるけど、鬼でやる気なのか?」「ああ、ちょっと試してみたいんだ。」
「わかった手配しておく、なあ、こっちにはもう帰らないのか…。」
ザンキは少し考え、星空を見つめながらガルフォードに話し始める。
「…戻れないな…こっちで種を見つけた…どんな花の種かわからない。
もしかしたら、花じゃないかもしれないけど、俺はそれを育てたい…
自分の持てる全てを教えたい、技だけでなく心もだ。」蔵王丸…お前ならきっとできる…。
「たまたま拾った種だったが、俺は運命だったと思う。
神様がもう一度俺にチャンスをくれたんだと…勝手にだがそう信じてる。
だから、まだ帰らない…帰れない…。」
星空を見上げながら話すザンキ、夜空には大きな満月。
そうか今夜は満月だったか…昼からやけに血が騒ぐ訳だ…。
ふと、電話の方を見ると度数の切れたテレホンカードが飛び出していた。
「あれ?切れてたの?」公衆電話に独り言を呟いていたようだった。
287-ZANKI外伝Frog-:2006/03/06(月) 15:45:02 ID:/xHLIcEc0
「なんだ、充電器は別売りなのか…。」蔵王丸は電気店で充電器を買って、土手を一人歩いていた。
「ファミコンのACアダプターでいいなんて便利だな。友達の家でも充電できる。」
吉野の技術力に感心しながら、蔵王丸はディスクを放りなげる。
ディスクは展開してカエルになった。ピョコピョコと飛び跳ねるカエル。
「蔵王丸くん!」突然、後ろから誰かが叩いた。「うあああ!」ヤバイ!見られた!
必死になってカエルを掴み隠す。蔵王丸が後ろを振り向くとそこには憧れの裕香先輩。
「はあ、はあ、どうも先輩…」息切れしながら先輩を見る蔵王丸。
「どうしたの?なんか怖い…。」「な、なんでもないっす。」
しかし、蛙は蔵王丸の手をするりと抜けて先輩の前に飛び出す。
「きゃあ!かえる?!…あれ?ロボット?」不思議そうにしゃがみ込み覗く。
ああ、ヤバイばれた!慌てて言い訳を考える蔵王丸。
「あの…僕の知り合いで…NASAで黒板消しのバイトしてる人がいるんです。その人がくれました。」
自分でも適当な言い訳だと思った。
「そっかNASAか!」あっさり納得する先輩。結構バカなのか?
二人の間をピョンピョンと跳ね回る蛙。そんな姿を見て先輩が唐突に聞く
「ねえ?名前は無いの?」「あ、そうですね。なんか適当につけますよ。」
どうせザンキにも言われるので蔵王丸は何か付けようと思った。
「おばあちゃんが言ってた。どうせ付けるなら最初に最高の名前を付けなさいって。」
天を指差し言う先輩。よくわからないけど説得力があった。
「最高の名前か…。」蔵王丸は悩む。
「0号機だから、ゼロですかね?」「え?ありきたりじゃない?」
我ながらいいかなと思ったが否定された。
「どんな名前がいいですかね?」「うーん、ぴょん吉とかケロ吉?」
「横文字がいいですね。」「ゲレゲレとかボロンゴとか?」
「ちょっと違うかな。」「あ!そうだこれいいかも!」閃く先輩。
「良いのが思いついたんですか?」「うん!」「どんな名前ですか。」
「ザクレロ!」

Σ(゚□゚(゚□゚*)

結局、名前はゼロになったが、このゼロが後にR2-D2並の大活躍をする事を蔵王丸はまだ知らなかった。
そして、作者も今後どうするかを考えてはいなかった。
288-ZANKI外伝Frog-:2006/03/06(月) 15:46:24 ID:/xHLIcEc0
-SPECIAL THANKIS-
DA年中行事さま

また、よろしくね。
289-ZANKI外伝Frog-:2006/03/06(月) 15:47:09 ID:/xHLIcEc0
>288
THANKSでした...orz
290名無しより愛をこめて:2006/03/06(月) 16:15:19 ID:t8Zirp5H0
ステルス…w斬鬼・変t(ry来るのか?!
おばあちゃんが言ってたテラワロスw
ボロンゴって結構いい響きだと思ったのは…漏れだけですね;
新作乙ですw
291267:2006/03/06(月) 22:26:20 ID:gdbxNCXB0
ま、まさか、自分の書き込みで全職人コラボ企画のきっかけに成りそうだとは?!
嬉しいやら、恐れ多いやら、職人さんたちの書き込みを読んでいて
大変恐縮しております。(汗)

コラボ作品が実現して出来上がるのを楽しみにしつつ、これからも
職人さんたちの作品を陰ながら応援させて頂きます。

>DA年中行事さま
『魂』には、他にも ヒビキさんの家族や鬼の経歴・宗家の表の家業・
あきらちゃんの出身地・おやっさんが鬼と出会ったきっかけ等、
TV本編では語られる事が無かった裏設定なども記載されており、
一読の価値はあると思います。
292まとめサイト:2006/03/07(火) 01:45:25 ID:F4HUE1G50
遅くなりました。新着を追加しました。
>>194 >>250
週末の旅行に行きたいがために詰め込んだ仕事に追われ更新サボりました。
お褒めいただいたのに、期待を裏切りました。すみません!

>「報いる獣」作者様
”健気なケモノ好き”なんで涙腺が緩みました。でも、明るい作風で読後ホンワカしました。

>鋭鬼SS作者様
鋭鬼さんスレ落ちてしまって残念です。続きが読みたいです。
感想を文章にするのが苦手なんで余り書き込まなかったけど、いまさら後悔してます。
続きが投下されることを願ってます。

>弾鬼SS作者様
本編で人間の顔がわかっていた分もっと見たい鬼達だったので、弾鬼と勝鬼がコンビで出てくると嬉しいです。

>前スレ
魔化魍サイドの話面白いです。
インド神話は最近他のジャンルで縁があったのでわくわくしました。

全部の作品に感想を書きたいのに文章を書くのが苦手で、もう1時間以上使ってしまいました。
感想を一言で言うと「面白い話が読めて幸せだなぁ。」なんですけど、
響鬼の世界に対するいろんな人のいろんな方向からのアプローチがあって、それがすごく楽しいなぁと思って読んでます。
293竜宮:2006/03/07(火) 07:07:52 ID:UW3mvvok0
まとめサイト様、更新や感想ありがとうございます。
ご好意でまとめてくださっているので、無理頼みをしておりますが、
ご自分の時間を大切に使ってください。
「面白い話が読めて幸せだなぁ。」は、ほんと同感です。
まとめていただいた形で、それぞれの話を読み直させていただいて
あらためておもしろいなあ、とほのぼの幸せになってます。
 魔化魍の項目までできてうれしいです。
たまに単発で何か投下させていただこうと思います。
294竜宮:2006/03/07(火) 08:26:11 ID:UW3mvvok0
みんなのいろんなジャンルが読めて幸せなので
替え歌投下しときます。

 みんなの歌(ドラえもんで)

こんなこといいな できたらいいな
あんな鬼こんな鬼 いっぱいいるけど
みんなみんなみんな 助けてくれる
ふしぎな音撃で 奏でてくれる
空を自由に飛びたいな
「ハイ!ディスクアニマルー」(大丈夫?)
アンアンアン
とっても大好き 響鬼達

シフトに準備 仕事におつかい
あんなことこんなこと大変だけど
みんなみんな 助けてくれる
猛士の道具で助けてくれる
魔化魍の童子と姫だ
「ソレ!音撃」
アンアンアン とっても大好き 響鬼達
295竜宮:2006/03/07(火) 08:39:30 ID:UW3mvvok0

あんなとこいいな 行けたらいいな
全国 あの島 たくさんあるけど
みんなみんなみんな 行かせてくれる
猛士の組織で かなえてくれる
吉野の大会議 行きたいな
「ウフフフ!魔化魍の出ない日にねー」
アンアンアン とっても大好き 響鬼達

アンアンアン とっても大好き 仮面ライダー

(追記:2番で「みんな」が一個少なかったりしてますが見逃しください。
最後の仮面ライダーは、元祖仮面ライダーの調子に変えて、
仮面ライダー、仮面ライダー、ライダー、ライダーと歌ってもよいかも。)
296竜宮:2006/03/07(火) 09:20:51 ID:UW3mvvok0
とりあえず、響鬼達にしましたけど、裁鬼達にした方が
このスレらしかったかなあ、と。
297高鬼SS作者:2006/03/07(火) 13:16:04 ID:HOvCZs060
まとめサイトの中の人、お疲れ様です。
ここの存在はSSを書く際実に役に立っています。改めてお礼を言わせてもらいます。

とりあえず一本投下させていただきますが、どちらかというと異色作になりました。
読んでいただければ分かるかと思いますが、ある番組の内容とリンクしています。
但し、具体的にその番組について触れているわけでもないので、あとは読み手の皆様の判断に任せたいと思います。

あとこれ三部構成になっています。名付けて「宝探し三部作」。
残りは明日、明後日に投下できたらいいなぁ、と思っております。
298仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:17:06 ID:HOvCZs060
1971年、皐月。
その日、コウキはいつもの様に魔化魍を退治して帰途に着いていた。その途中、道端に一人の中年男性が倒れているのを発見した。
衰弱が激しかったため、病院ではなくすぐ近くの吉野本部まで連れ帰る事にした。
研究室。コウキとあかねが会話をしている。コウキが連れてきた男性についてだ。
「どうするつもりなの、コウキくん?部外者をよりによって本部に連れてくるなんて……」
「申し訳ありません。ですが、人命に係わる事であった以上、自分としては最善の判断であったつもりです」
如何な責任でも負います、毅然とした態度でコウキはそう告げた。
と、机の上の電話に内線が入った。受話器を取り、二言三言何かを話すあかね。
「……医務室からよ。例の男の人、気がついたみたいよ」
コウキはあかねと共に医務室へとやって来た。ベッドの上では件の中年男性が点滴を打ちながら半身を起こしていた。
男性は地下堀衛門と名乗った。職業はトレジャーハンターだと言う。要は埋蔵金とかを探す仕事だそうだ。
「いい歳して、そんな夢物語を追っているのですか?失礼ですがご家族は?」
「おりません。ずっと独身のままです……」
「宝探しなんてやっているからですよ。今からでも遅くない、何処かに就職して……」
コウキの説教に、堀衛門はこう言い返した。
「大丈夫ですよ。宝探しはこれで終わりです。何故なら、ついに手掛かりを見つけたからですよ!ナチスの隠し財宝の!」
299仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:18:40 ID:HOvCZs060
堀衛門曰く、時価数十兆円にも及ぶヒトラーの隠し財宝が、ここ関西に埋められているというのである。
堀衛門は、ベルリン陥落前に財宝を密かに日本へと運んだ旧日本海軍の人物と接触し、ついに確証を得たというのである。
「彼はね、実際に財宝を隠した人物の事を知っていたんですよ!そして話を聞くうちに、それが大阪にある事が分かった!」
熱く語る堀衛門。
「……本当ですかね?」
「さあ……。ここの医師に頼んで脳波を検査してもらう?」
ひそひそと話すコウキとあかね。一方、堀衛門は完全に自分の世界に入っており、拳を振り上げて熱弁している。
「とりあえず関西まで来たのは良かったのですが、交通費や宿泊費をケチって不眠不休で歩いていたので、つい力尽きて倒れてしまったのです」
そこをあなたに助けられて、今こうしてここにいるのです!そう堀衛門はコウキに向かって叫んだ。
「そこで相談なのですが、発掘に協力していただけませんか?お礼はさせていただきます」
「何故私が……」
「待ってコウキくん!ここで協力して貸しを作っておくのも悪くないわ。条件は今日ここで見たものを全て忘れる事って言うのよ」
「成る程……」
コウキは条件付きで協力を約束し、堀衛門もその条件を飲んだ。しかしコウキには一つ疑問があった。
「しかし何故私達にそのような話をして協力を要請するのです?仮にその話が本当だとして、普通人に話しますか?」
コウキの問いに、堀衛門は急に深刻な顔になってこう言った。
「実は、これも調査の過程で分かった事なのですが、とある組織もこの財宝を狙っているらしいのです……」
その組織というのは、旧ナチスドイツの残党が結成したという国際的なテロ組織らしい。
何でも、堀衛門が会ったという人物のかつての上官がその組織に襲われて、その結果連中も同じ様に財宝の在りかを掴んだらしい。
早い話が堀衛門はコウキに最悪な事態が起きた時のボディーガード役を頼んだのである。
300仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:19:50 ID:HOvCZs060
大阪。
去年の万博による喧騒が嘘みたいに落ち着きを取り戻してきている。
堀衛門に連れられ、コウキ、そして「面白そうだから」と付いてきたあかねは、とある山林へと足を踏み入れようとしていた。
「ここです!この山林にナチスの隠し財宝があるのです!」
興奮した面持ちで説明する堀衛門。
あかねがコウキの耳元で囁いた。
「……ここ、猛士の私有地だよ」
「この山が、ですか?」
「うん。『歩』の人が管理を任されているはずだけど。事後承諾になるけど、後で連絡しておかなきゃね」
そう言うあかねの表情は何か心配事があるような感じだった。
しかしである。もし堀衛門の言う通りここに財宝が眠っていた場合、法律上この土地の所有者、すなわち猛士が財宝の半分を貰える事になる。
「数十兆の半分だよ。何だか夢が膨らんできたよね、コウキくん」
「そう……ですね。ええ、何だか私も夢が広がってきましたよあかねさん!」
施設の充実化や人員の補充、給料のアップや研究室への設備投資……、二人の夢は何処までも広がっていった。
「二人とも、何をこそこそ話しているんですか?」
堀衛門が呼び掛ける。見ると、彼は一人で山林の中へ入ろうとしていた。
と、そこへ二人の黒ずくめの男が現れた!
301仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:20:23 ID:HOvCZs060
「貴様等何者だ!」
黒ずくめの男のうち、背の高いほうがコウキ達に向かって言う。威嚇のためか、手にはナイフが握られていた。
「今この奥では俺達の上司が財宝の発掘に向かっている真っ最中なのだぞ!」
「げぇぇ!ま、まずい!もう発掘されかかっている!」
堀衛門が叫び声を上げる。
「貴様!もしや我々同様ナチスの財宝を狙っているのか!?」
今度は黒ずくめの大柄な方がドスの効いた声で言う。
「あの邪魔者以外にも財宝を狙っている奴等がいるとは……。早く上司に報告に行かねば!」
慌てて山林の奥へと駆け出そうとする黒ずくめの男達。だが、その背後には既にコウキが回り込んでいた。
「う!貴様、いつの間に!」
「お前達、堀衛門さんが言っていた『組織』の連中か?」
「我々の事を知っているとは……。仕方ない、俺達で消してやる!」
背の高い方がナイフで襲い掛かってきた。だがコウキは巧みにその攻撃をかわすと、音撃棒・劫火の一撃を頭部にお見舞いした。
「き、貴様!何処からそんな凶器を取り出した!」
「お前達に説明して私に何か得があるのか?」
そう言うとコウキは、大柄な方にも「劫火」の一撃をお見舞いした。大慌てで山林の奥へと逃げていく黒ずくめの男達。
「結構タフな奴等だな。加減したとは言え、私の一撃を受けてまだ動けるなんて……」

山林の中に入ったコウキ達だが、黒ずくめの男達の姿は何処にも無かった。
「ど、ど、ど、どうしましょう!早くしないと奴等に宝を奪われてしまう!」
「あなたもいい歳なんだから落ち着きなさい」
そう言うとコウキは懐から一枚の紙片を取り出した。紙はあっという間に折鶴の形になって飛んでいってしまった。式神を打ったのだ。
「何です、あれ?」
「私達と一緒にいる間に見たものは全て忘れる、それが条件のはずですよ」
そう言うとコウキもあかねも黙って何一つ語ろうとはしなかった。
数分後、式神が戻ってきた。
「早かったな」
コウキ達を案内するべく再び飛び去る式神の後を、コウキ達は追っていった。
302仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:22:08 ID:HOvCZs060
式神は、とある木の近くへとコウキ達を案内すると、再び紙片に戻ってコウキの手に舞い落ちた。
木の根元が掘られ、大きな穴が開いている。その中には蓋が開け放たれた大きな箱が入っていた。
もう既に発掘されてしまったのだろうか……。だが妙な事に、さっきの二人組が力なくその場に座り込んでいる。
「おいお前達、一体何があった?」
コウキの呼びかけに黒ずくめの背の高い方が答えた。
「……やられた。俺達の上司よりも早く、あの邪魔者が財宝を手に入れていた……」
「ざ、財宝は!その人物と財宝はどうなったんだ!?」
堀衛門が物凄い勢いで二人組に詰め寄る。
「……捨てたってさ」
「は?」
「太平洋に捨てたってさ。人間に悪の心を生ます汚れた宝など必要無いんだと」
堀衛門の体が膝から崩れ落ちた。勿論その後ろにいたコウキとあかねも、夢を打ち砕かれてしばし呆然としていた。

数分後、黒ずくめの男達が立ち上がった。
「じゃあ俺達は帰るわ。残念だったな……」
そう言い残すと、木立の奥へと消えていく二人。後には、まだショックから立ち直れないでいる堀衛門と、彼を心配そうに見つめるコウキとあかねが残った。
「ねえ堀衛門さん、そろそろ帰りましょ?今日泊る所なら私が面倒見るからさぁ……」
あかねが慰めの言葉を次々と掛けていく。ようやく堀衛門もこの場を立ち去る決心がついたようだ。
と、その時、突如さっきの黒ずくめ達の悲鳴が聞こえた。
「!この気配は、まさか」
コウキが異様な気配を感じ取る。これは魔化魍の気配だ。慌ててあかねの顔を見る。
「猛士が山を私有地にしている理由は、他より多くの魔化魍が湧く場所に一般人を立ち入れさせないためなの!行って、コウキくん!」
悲鳴がした方向へと走るコウキ。そこにはヤマアラシ、そして姫と童子の姿があった。
「お前達か……。悪いが今日の私は少し機嫌が悪い。容赦はせんぞ!」
やっぱり財宝の件で多少なりとも機嫌が悪くなっているコウキは、変身音叉を近くの木に打ち付けると、額に翳して変身した。
303仮面ライダー高鬼「魅惑する財宝」:2006/03/07(火) 13:23:17 ID:HOvCZs060
十分もかからないうちにコウキはヤマアラシを退治して戻ってきた。まだ成長しきっていなかった個体だったのも幸いしたのだろう。
「お帰りなさい、コウキくん」
「ただいま戻りました。音撃弦や予備の服を入れたバッグを持ってきていて正解でしたよ」
「弦が担当する魔化魍だったんだ。この辺りならヤマアラシってとこかしら?」
二人の会話をきょとんとした顔で聞いている堀衛門。
「あの……」
「何も聞かない約束ですよ」
コウキとあかねが同時に言った。
「兎に角、もう金輪際宝探しなんて御免ですよ」
そう言うとコウキはとりあえず声を上げて笑ってみた。
しかしこの時のコウキは知る由も無かった。数年後、また宝探しに自分が巻き込まれるという事を……。 了
304高鬼SS作者:2006/03/07(火) 13:27:30 ID:HOvCZs060
意味深な終わり方だったので次回予告を。

「なあ、これは覚えているか?ほら、例の財宝探しのやつ」
「ああ、あれか。忘れられるはずが無いじゃないか」

「君達には宝探しをお願いしたいと思います」
「何ぃ〜、宝探しだぁ?親父もとうとう耄碌したかぁ?」

「そうです。旧日本陸軍大将の山下奉文が埋めたとされる埋蔵金です」
「山下奉文……、あの『マレーの虎』の事ですか」

仮面ライダー高鬼「男達の世界」
早ければ明日にでも投下。
305ZANKIの人:2006/03/07(火) 14:14:18 ID:nt1Wzrqf0
とりあえず、やっときますか。

蔵王丸「わあ、ここが吉野本部か」本部を訪れる蔵王丸と裕香先輩
裕香先輩「おばあちゃんが言ってた、どうせするなら大冒険にしなさいって」
「次回もみてね!」手を振る蔵王丸と裕香先輩

SUPER HERO TIME See you next!

>竜宮さん
どら○もんの3番の歌詞をしっているとは只モンじゃありません。
>高鬼SSさん
堀衛門は数年後に粉飾詐欺をするんすかw

確かにここでは響鬼と裁鬼、どっちが偉いんだろう…。
306ZANKIの人:2006/03/07(火) 17:34:10 ID:nt1Wzrqf0
魔化魍異聞録

高天原より降り立つ二人 一人はイザナギ 一人はイザナミ
この世に国を作らんと、せっせと子を産み 国を作る
二人が始めに生みし子は 人の姿を持たず産まれた 不具の者
「これは我が子ではありません」二人は船に子を乗せ流した。
一人流れし不具の子は 誰かが蛭子と名を付けた。
海にぷかりと浮かんだ船は蛭子を乗せ 波の赴くままに流れいく
ゆらりゆらりと揺れる船は 蛭子の大きなゆりかご
海の波が母となり 大きな空が父となる けれど 蛭子は一人なり

西より来たる海鳥は蛭子の船に降りて問う。
「そなたは何故 一人なのか?」
「我は不具の子 生みし者は我を子とせず 海へと流し 我はこのまま死にいくのを待つのです。」
「何を言う 人の子のみが生きられるのか この世は混沌の気が混じりあう世
人にも鳥にも犬にも異形の者にも 生きる事が許されし世界 そなたは生き抜くのだ」
海鳥 天に舞い鳴くと 雲が船を覆い ポツリポツリと雨を降らす
蛭子 この雨 がぶがぶと飲み のどの渇きを潤した
海鳥は海に潜り魚を狩る 
蛭子 これを受け取ると 頭から尾まで ぺろりと飲み込み飢えをしのぐ
「我は東に向かわねばならぬ あとは己で生きぬくのだ」
「命を救いし恩人よ いつか貴方の力になります。」
海鳥が天に舞い日がいずる方角に飛ぶと 蛭子もそこへと船を漕ぐ
蛭子が百日 船を漕ぐと 蛭子の前に陸が見えん
その地はイザナギとイザナミの作りし国
蛭子はその地に降り立った。
307ZANKIの人:2006/03/07(火) 17:36:25 ID:nt1Wzrqf0
魔化魍異聞録

この地に降り立つ蛭子は、獣と草木と仲を深めん
けれど一人は寂しいと夜な夜な おんおん泣くばかり
草木は言う
「この森に人が入った その人に会いなさい」
「我は人の子であり人の子にあらず 醜き我に誰が会おうとせん」
「森に入りし子 その子 醜き余り 捨てられし子 そなたを決して嫌わん」
蛭子は草木に言われ その子を探さん 三日三晩森を彷徨い 女を見つける
その女 森でしくしく泣く 
「そなた何故泣く」
「我は人の子より産まれしも 人の子にあらず 我は捨てられました」
「我も人の子より生まれしも 人の子にあらず 我と暮らすか」
「いいえ 我は醜き角を持つもの そなたと一緒に暮らせません」
その女 頭に角を持つ人なり 蛭子は布を頭に掛ける
「こうすれば そなたの角は見えぬ そなたは人なり」
女は喜び 蛭子と暮らした
蛭子と女は子を作る 角を持つ子達が七人産む 後にこの子ら鬼と呼ばれる
308ZANKIの人:2006/03/07(火) 17:37:32 ID:nt1Wzrqf0
とりあえず、ここまでです。
古文風に直せる人を待ちつつ、また投下しますね。
309名無しより愛をこめて:2006/03/07(火) 21:56:29 ID:pyupV/Fi0
http://neetsha.com/inside/main.php?id=407
こういうスレに影響されて書いた小説なんだ
「励ましのお便り」とかもらえるとウレシス
310名無しより愛をこめて:2006/03/07(火) 23:23:30 ID:X5LWq9/00
裁鬼メイン職人様
なかなか好青年のきりやん、強く頼もしくなったあすむん、二人も成長したんだなあ。
そして2008年には一体何が……?引きも流石です。
河童の姫童子は師匠の頃からの慣わしでしたか。
前の話でもあのシーンはとても好きでした。
六之章を心待ちにしています。

職人さんがイパーイで幸せ( ´∀`)なのですが、面白い話を読める事に感謝し、
読み手も負けずに感想を書こうではありませんか。
(とはいえ、ここまでで悲しいほど時間がかかった)

……読み専って少ない?
試しに点呼 <読み専1 ノシ
311名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 00:28:29 ID:A1jf0N90O
>>115
遅レスでごめん。
「音撃斬・パーティー楽しみ!」

そのあまりの強引な適当さに、鼻水噴いたよ。しかも電車内で(笑)
312名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 01:42:00 ID:HAJD/a5h0
>>310
真の読み専は点呼にすら参加しないものだ。
313名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 08:46:02 ID:yLckoo6m0
たまに書き込む人はダメ?
314ZANKIの人:2006/03/08(水) 10:18:00 ID:+THW9wug0
―ZANKI―
「はずれですね。」「そうか…よし、撤収するぞ。」
ヤマアラシらしき反応があると思い、奥秩父の山で調査を続けていたザンキ達だったが、
結局、アカネタカの永田の勘違いだったようだ。そんな永田を虐めるリョクオオザルの武部っち。
「こらこら、喧嘩するなよ。」DA操作専用の弦を弾き、ディスクに戻す蔵王丸。
「ちょっと行って来ます。」岩井川は余った薪を森に返しに行く。
ベースキャンプも崩し、一通り片付けを終える。
「ザンキさん、終わりました。」「馬鹿野郎!」ガン!吹き飛ばされる蔵王丸。
「なにするんですか!」「気付かないか?」川を指差すザンキ、その指差した川からニジイロヘビが上がってきた。
「ああ!そうか!今日はこいつを入れていたんだ!」
慌てて回収する蔵王丸。「分かったようだな。」「…すみません…。」

「俺が昔いた所はな、鬼の様に単独で行動する事はなかった。最低でも三人ぐらいの
部隊を編成していた。」奥秩父の帰りの車中でザンキは言った。
「複数で戦うとなると、きちんとした作戦とお互いの信頼関係が必要になる。」
「鬼とは違うんですね。」「ああ、どっちが優れているという訳ではないが、自分自身
よりも、道具や仲間に信頼を置き戦う傾向がある。その為、普段から道具の把握、味
方とのコミュニケーションが重要になってくる。」ザンキの仲間に対する姿勢を垣間見える。
「一人だから気付く事がある、だが、仲間が居て気付く事もある。だから、
自分自身と仲間達を大事にするんだ。」「はい!」気持ちのいい返事をする蔵王丸。
「ザンキさん…僕は自分自身を鍛える鬼と仲間を大事にする狼になります!」
「ふっ、ガチャピン並のチャレンジ精神だな…でも、良い事だ。」嬉しそうに笑った。
鬼と狼か…こいつはどんな”男”になるんだろうな…。蔵王丸の将来が楽しみになる。
「あれ!?」突然、素っ頓狂な声を上げる。「どうした?」驚くザンキ。
「岩井川さんは?!」車を止め、車内を見渡す二人。
「……わすれちゃった。」「もう、ザンキさんたら!」

その後、岩井川は森で救出された。
時折、「空からオレンジ色の光が…」と謎の言葉を発していたが命には別状は無かった。

存在感はDAの小林の方があるので続く。
315ZANKIの人:2006/03/08(水) 10:40:00 ID:+THW9wug0
>311
パーティーを楽しみにしている陽の気を使った音撃なんでしょうw
書いてた思いますが、本気の先代斬鬼はどれくらい強いのだろうか…。
>310,312,313
ちょっとでも書き込みがあると嬉しいです。おそらく他の職人さんも同じと思います。
2chに書き込むのって結構勇気がいると思うので読み専が殆どだと思います。
けど、カウンターがあって実際数が千人とかあったら、ビビってSSが投下できなくなるかも。
まあ、表舞台でフューチャーされる事は無いと思うんで、ダラダラとお付き合いください。
316仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:28:27 ID:U0uYj85F0
2006年、弥生。
三十年振りに高知で盟友と再会した小暮は、その盟友=城之崎恭二と飲んでいた。
「しかしお前が四国支部長とは、未だに信じられんな」
「おう、俺だってまだ信じられねえよ!しかしよ、就任以来度々会議で吉野に召喚されてんのに、その都度お前は留守だもんなぁ。嫌になっちまうぜ」
「ははは、すまなかったな」
三十年振りの友との酒は、実に美味かった。思い出話にも花が咲いた。
「女房もお前に会いたがっていたぜ」
「コンペキくんか。当然会わせてくれるんだよな」
「おうよ!」
最近の近況等も語り合う。何でも、平成の大合併で支部のある物部村は消滅してしまったらしい。ほんの数日前だと言う。
社会的な事も含め色々と話したが、最終的にはやはり思い出話に移ってしまう。二人でノツゴを倒したこと、太鼓祭り、桂浜での最後の戦い……。
「なあ、これは覚えているか?ほら、例の財宝探しのやつ」
「ああ、あれか。忘れられるはずが無いじゃないか」
そう。この一件もまた、コウキにとって未だに忘れられない出来事となっているのである。

1976年、水無月。
当時の四国支部長である小松辰彦は、支部の財政難に頭を抱えていた。
当時の猛士は資金の問題にも頭を悩ませていた。特に、中央から離れた位置にある支部にとっては実に現実的な問題であった。
猛士が「TAKESHI」という名でオリエンテーリングのNPOとして活動し、サイドビジネスを展開し出すのは、立花勢地郎が事務局長に就任してからである。
帳簿を付けていた小松は作業を一旦止めると、今度は押入れの中にある資料の整理を始めた。人手不足の四国支部では「王」とはいえ雑用もこなす。
と、押入れの奥から古い小さな箱が見つかった。
はて、これは何だったかな。そう思いながら小松は埃を払い、蓋を開けてみた。
中には、一枚の地図と手紙が入っていた。
317仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:29:16 ID:U0uYj85F0
その日、シフトに入っていなかったコウキ、キリサキ、ウズマキの三人は支部がある物部村へと招集された。
「君達には宝探しをお願いしたいと思います」
「何ぃ〜、宝探しだぁ?親父もとうとう耄碌したかぁ?」
小松の発言に真っ先にキリサキが噛み付く。
「よせ!支部長に向かって暴言を吐くんじゃない!」
コウキがキリサキを宥める。
「いきなりの事に驚いていると思います。一から説明しましょう」
そう言うと小松は、先刻見つけた地図と手紙を取り出して三人に見せた。
「この地図には山下財宝の隠し場所が記されているのです」
「山下財宝……?」
「そうです。旧日本陸軍大将の山下奉文が埋めたとされる埋蔵金です」
「山下奉文……、あの『マレーの虎』の事ですか」
山下奉文将軍、第二次大戦中に東南アジア戦線で指揮を執った人物である。
読者の方にはこの名にピンとこない人もいるだろう。「シベリア超特急」で水野晴郎がやっているあの人、と言えば分かるのではないだろうか。
彼は終戦時に密かに軍資金を隠したという噂がある。それが「山下財宝伝説」である。
「しかし何故そのようなものがここに?」
「コウキくんは知らないかもしれませんが、山下将軍は高知県の出身で、場所もこのすぐ隣の香北町という所なのです」
将軍は若い頃鬼の戦いを偶然目撃し、猛士四国支部で一時期サポーターとして働いていたという。明治時代の話だ。
「成る程。将軍と猛士には繋がりがあったのですね。しかし財宝は彼が駐留していたフィリピンに埋められたと聞いていますが……」
「俺達にフィリピンくんだりまで行けってのか!?」
「落ち着きなさい、キリサキくん。詳細はこの手紙に書いてあります」
そう言うと小松は手紙を広げて読みだした。
その内容は、山下将軍が密かに部下を使って埋蔵金を故郷の高知へ運んだというものであった。
「信憑性はあるのですか?」
コウキのその問いに、小松は力なく答えた。
「正直五分五分というところでしょうか。……ですが今はこれに賭けるしかないのです」
「……そこまでうちの財政は火の車だったんですね」
ウズマキが言う。小松がこれまた力なく頷いた。
318仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:30:41 ID:U0uYj85F0
結局、色々と問題はあるだろうがそれらは全て一旦置いておいて、地図を頼りに山下財宝を探す事となった。
「絶対これって横領罪になりますよね!?」
道中、ウズマキが心配そうにコウキやキリサキに尋ねていたが、二人の返事はつれないものばかりであった。
まず、コウキはそんな旨い話を信じてはいなかったし、もしあったとしても五年前の一件のように無駄足に終わりそうな気がしてしょうがなかった。
一方キリサキは、財宝が見つかったら幾らかこっそり着服して新しいエレキギターを買うつもりでいた。
「馬鹿野郎、ウズマキ!いいか、宝探しってのはだな……」
男の浪漫だ、そう言い切るキリサキ。
「そんな小せえ事、掘り出してから考えたって遅くねえぜ。今はしばし日常を忘れて、浪漫に没頭する時だ。違うか?」
「流石は先輩!そうですよね!これこそが男の浪漫、男の世界ですよね!何だかさっきまでの自分がみみっちく思えてきました!」
「そうだろうそうだろう、わはははは!」
そして二人で「マンダム〜男の世界〜」を合唱し始める。数年前に流行ったCMソングだ。
そんな遣り取りを、コウキは物凄く冷めた目で眺めていた。
319仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:31:47 ID:U0uYj85F0
「地図じゃあこの山の中にあるんだけどな……」
地図を手に山道を登りながらキリサキが言う。
「本当に大丈夫なのか?遭難なんて嫌だぞ」
「うっせーな、心配すんなよ」
草を掻き分け、道無き道を進み、どんどん深い所へ向かっていく三人。最早鳥の囀りすら耳に入ってこなくなった。
「手紙には『山中の洞窟に隠した』って書いてあったからな。お前等も洞窟探せ!」
「探せと言われても……」
今三人がいるのは、日も射さない深い深い山奥である。そう簡単に探せるものではない。
とりあえず式王子を打とうとした時、物音がした。そして一組の男女が現れた。
「あっ、鬼だ〜!」「珍しいなぁ、こんな所に鬼が来るなんて」
どう見ても童子と姫である。
「ほんと、何処にでも出るんだな。ぶっ殺してやる!」
そう言って腕の変身鬼弦を弾こうとするキリサキ。だがそれをコウキが制止する。
「何で!」
「落ち着けキリサキ。こいつらからは邪気が感じられん」
おそらく、稀に誕生するという「人に害を加えないタイプの魔化魍」であろう。
「ねえねえ、さっき歌ってたお歌を聞かせてよ!」「あれってマンダムだよね?」
「お前等マンダムを知ってるのか!?」
どうやらさっきまでキリサキとウズマキが歌っていたマンダムに惹かれてやって来たらしい。
数分後、キリサキ、ウズマキ、童子、姫によるマンダムの合唱が行われた。それを見ていたコウキは……仕方がないので自分も一緒になって歌った。
320仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:33:36 ID:U0uYj85F0
一通り歌い終わると、童子が尋ねてきた。
「ねえねえ、どうしてこんな辺ぴな山奥に来ちゃったの?」
「宝物を探しに来たんだよ。お前等、この辺りにそれっぽい洞窟がないかどうか知らないか?」
童子と姫は顔を見合わせて何か話し合っていたが、すぐにキリサキの方に向き直るとこう告げた。
「それなら知ってるよ。でも……」「珍しい事もあるもんだね。今日で二組目だよ」
「俺達以外にも誰か来たのか?」
意外そうな顔でキリサキが尋ねる。確かに、このような場所に普通の登山者は来るまい。
「え〜と確か……ホリエモンって人が来たんだ」「やっぱり宝物を探してるって言ってたよ」
堀衛門!コウキは、五年前に出会ったあの自称トレジャーハンターの中年を思い出していた。間違いないだろう。
(あいつ、まだこんな事を続けていたのか……)
途中まで案内してあげるよ!元気よくそう言うと、童子と姫は手を繋いで歩いていった。
とりあえずコウキ達はその後を付いていく事にした。
321仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:34:24 ID:U0uYj85F0
しばらく進むと、目の前に探検服姿の中年男性が地図を見ながら歩いていた。姫が声を掛ける。振り向いた男性は、間違いなく地下堀衛門その人だった。
「ああ、さっきの親切な人……。あ!あなたは五年前にナチスの財宝探しの時にお世話になった奈良のコウキさん!どうしてここに!」
「……何故無駄に説明口調なのだ?」
再会を喜ぶ堀衛門と、あまり嬉しくないコウキ。とりあえずキリサキとウズマキに紹介し、その後自分達の目的を告げる。
「成る程、あなた達も財宝を……。分かりました。ここは五分五分といきましょう!」
「なあコウキ……。このオッサン、こっそりバラしちゃった方がいいと思わないか?」
バラす=殺すという意味に気付くまでに数秒を要してしまった。
「な、何を馬鹿な事を!人の命を守る鬼にあるまじき発言だぞ!」
「でもよぉ、俺達の取り分がごっそり減るじゃねえか。半分だぞ、半分」
邪な考えを巡らすキリサキを必死で考え直すよう説得するコウキ。本来なら音撃棒・大明神で尻でも叩いてやるのだが、いかんせん堀衛門の前なのでそれも出来ない。
「何をひそひそ話しているんですか?置いていきますよぉ!」
いつの間にか先に進んでいた堀衛門とウズマキがこちらに向かって手を振りながら叫ぶ。
ここで童子達と別れ、堀衛門を加えた一行は財宝の眠る洞窟へ向けて進んでいった。
322仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:35:01 ID:U0uYj85F0
必要以上に重装備の男=堀衛門と、最低限の装備しかしていない三人組。奇妙なパーティーは目的地目指して、道なき道を進んでいった。
「ふう。こうも暗いと地図を見ていて目が疲れてくるよ」
堀衛門がぼやく。彼もまた、独自のルートで情報を集め、地図を制作したのだという。
「先輩、この道で大丈夫なんですかねぇ」
不安げなウズマキに、コンパスと地図を見比べながらキリサキが答える。
「俺達の地図に示された方角とも合っているみたいだしな。まあ大丈夫だろ」
「実に楽天的だな。お前も、堀衛門さんも」
コウキが呆れたように言う。
と、目の前の視界が開けてきた。そして。
「あった……。洞窟だ……」
彼等の目の前に、大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。
懐中電灯を点けて中に入っていく堀衛門。コウキ達も後に続く。
「暗いなぁ。おいコウキ、お前の炎で照らしてくれよ」
「私だって最初はそのつもりだったさ。だが今は堀衛門さんがいる。迂闊に鬼の力は使えん」
一本道をただひたすらに進んでいく一行。
と、その時、財宝発掘隊の頭上目掛けて天井から無数の蛇が降ってきた!
「うわあああ!蛇!蛇だぁ!皆さん気をつけて!おそらく毒蛇です!」
そんな事を言いながら地面の上をごろごろと転がり、帽子や肩の上に落ちた蛇を振り払う堀衛門。
「あんな事してさ、逆に蛇が攻撃的にならないか?」
「と言うか……私の見間違いかもしれないのだが尻尾から落ちてこなかったかね、蛇」
すると次は。
「うわあああ!こ、今度は毒蜘蛛だぁ!」
確かに、やけに大量の蜘蛛が壁を這っている。さらに。
「うわあああ!今度は毒蠍だぁ!」
いくらなんでも日本に蠍はいないだろう。何を見間違えたのやら……。
「……キリサキ、我々だけでも先へ行こう。埒があかない」
「ああ、そうだな。おいウズマキ、行くぞ!」
「うわあああ!毒蛇に毒蜘蛛に毒蠍!ここの洞窟は魔化魍以上にやばいですよ、先輩〜!」
一緒になって地面を転がりまわっているウズマキの姿がそこにはあった。
323仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:36:07 ID:U0uYj85F0
ウズマキに喝を入れて、一行は再び前進を続けた。
「酷いですよ、コウキさん。音撃棒で尻を叩く事ないじゃないですか」
「景気づけだ、景気づけ」
と、目の前に一本の日本刀が刺さっている場所に着いた。道はここで行き止まりになっている。という事は、この刀の下に財宝が埋まっているのであろうか。
「随分と古い刀だな。刃が錆でぼろぼろだ」
近寄ろうとするキリサキを押し退け、堀衛門が刀の柄を掴む。
「何しやがる、オッサン!」
「苦節三十数年、遂に宝を探し当てたんだ!是非とも私の手で掘り当てねば!」
力を込め、顔を真っ赤にして引っ張る。だが刀は一向に抜けない。ぴくりとも動かない。
「ぬおおおおお!宝を見つける事は私の長年の夢だったんだ!挫けるもんかぁぁぁぁ!」
物凄い気迫である。鬼の中にもここまでの気迫の持ち主が果たしているであろうか。
「頑張るじゃねえか、オッサン……」
「どうします?何か歌でも歌って応援しますか?……マンダムとか」
「……よせ」
だが、悲しいかな刀は一ミリも動くことなく、堀衛門は力尽きてその場に大の字に倒れてしまった。
ウズマキが慌てて駆け寄るも、どうやら失神してしまったらしい。
次にコウキが挑む事となった。柄を握り、力を込めて引っ張る。固い。
(これは……人の力で突き刺したとは到底思えん)
「おおおおお!」
気合いを入れて力を込めるコウキ。それでもまだ抜けない。とうとうコウキは奥の手として変身音叉を取り出し、打ち鳴らした。
紅蓮の炎の中からその姿を現す高鬼。キリサキとウズマキも固唾を呑んで見守る。
流石に変身した鬼の力には敵わず、刀はあっという間に引き抜かれてしまった。
「やりましたね高鬼さん!」
「宝は、山下将軍の財宝はどうした!」
「それなのだが……この下には何も無いぞ」
何ぃぃぃぃぃ!二人揃って大声を上げる。洞窟内に反響して、実に五月蝿い。
と、突然高鬼の頭上から声が聞こえてきた。
「おお、その剣を抜いたそなたこそこの国の真の王……」
……アーサー王かよ。
324仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:37:04 ID:U0uYj85F0
天井を見上げる三人。そこには、さっきの童子と姫が張り付いていた。
「おいお前等!宝なんて何処にも無いじゃねえか!」
キリサキが怒鳴りつけるも、童子と姫は全く意に介さずそのまま天井から降りてきた。
「……ひょっとして君達の仕業かい?さっきの毒蛇やら毒蜘蛛やら毒蠍も」
ウズマキの問いに、童子と姫はにこにこしながら答える。
「うん、そうだよ」「でも毒は無いし、蠍なんて出した覚えはないよ」
キリサキがウズマキに加減無しの肘打ちを喰らわす。見事に鳩尾に炸裂し、ウズマキはそのまま地面に倒れて動かなくなった。
「馬鹿野郎が、オッサンと一緒に騒ぎやがって……。で、宝はどうしたよ。まさか罠か?だったらこの場で始末してやる!」
そう言うと音撃弦・宵闇を取り出すキリサキ。しかし童子と姫は相変わらずにこにこしたままこう答えた。
「宝はねぇ、ちゃんとあったんだよぅ」「でも使っちゃったんだ」
「使っただと!?」
「うん、そうだよ」「お散歩してたら偶然見つけたんだ」
話によると、童子と姫は数年前に偶々山下財宝を発見したらしい。そしてそれらは全て衣食住に使われたらしい。
「あのねあのね、私達ロッジを建てたんだよ」「そうそう。業者の人を呼んで建ててもらったんだ」
この童子と姫、かなり人間社会に迎合しているらしい。
「なあ、数年で全部使ったってのは嘘だろ……?」
「日本一周旅行にも行ってきたんだ!」「楽しかったよねぇ、温泉とかさ」
「いや、その、本当に全部、使っち……まったの……か?」
嬉しそうに頷く童子と姫。
「だからそうだって。で、記念に宝物があった場所に、一緒にあった刀を刺しておいたんだよ」
キリサキの手から「宵闇」が派手な音を立てて地面に落ちた。
325仮面ライダー高鬼「男達の世界」:2006/03/08(水) 13:38:22 ID:U0uYj85F0
結果、コウキ一人で気を失ったままの堀衛門とウズマキを担いで山を降りる事となった。
キリサキはと言うと完全に腑抜けとなっており、山を降りても暫くはうわの空で何かぶつぶつと呟いていた。
さらにその後、意識を取り戻した堀衛門が事情を知って泣きながら暴れだした。
あまりにも手が付けられなかったので、「大明神」で殴って大人しくなってもらった。上手くいけば今日の出来事も忘れてしまうだろう。
ちなみに、山中でコウキ達が出会った童子と姫はおそらくヤマワロだったのではないかと思われる。ヤマワロは握り飯等を与えると人間の手助けをしてくれるのだ。
童子と姫は別れ際にコウキにだけ金貨を一枚くれた。全部使い切ったというのはやはり嘘らしい。
この金貨は口止め料という事なのだろうか。
考えた挙句、コウキは金貨を受け取ってあげた。そして、悪戯は程々にするよう軽く説教をした。二人は黙ってそれを聞いた後、手を振りながら立ち去っていった。
ただ、結局四国支部の財政難が解決される事は無かったのである。

「いやぁ、あの時は散々だったよな」
そう笑いながら城之崎はビールをぐいっと飲んだ。
「実はな、オロチが起きた時に心配になって三十年振りにあの山へ行ったんだよ」
「まだいたのかね、彼等は」
「いたぜ。どうやって手に入れたのか、セグウェイに乗って遊んでやがった」
愉快そうにあの時の童子と姫との再会話をする城之崎。
「しかし、何だかんだで楽しかったのは事実だな。宝探しなんてよぉ」
「若かったんだな、俺達」
小暮もビールをぐいっと飲み干してしみじみと言う。
その日は、互いに酔い潰れるまで飲み続けた。
空には満天の星、地上には暖かな灯りと人々の笑顔。あの時の戦いの日々は、今のささやかな幸せのためにあったのだなぁと思う小暮であった。 了
326高鬼SS作者:2006/03/08(水) 13:43:52 ID:U0uYj85F0
三部作最終話予告

「……お客さん。多分コウキくんにとって最も会いたくなかった人よ……」

「よっしゃ。じゃあ早速サルベージに行きましょう」
「何?」

「……で、どうして僕の所に来たのですか?」

仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」
これも明日には投下。

すいません!早速先代をまたお借りしちゃいました!
327番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:23:10 ID:r2tzy6020
七之巻「瞬く鬼」

冬休みの直前のこと。今日は午後放下の日だ。
目前の田んぼに剛の自転車が少しづつ近づく。その顔は晴れやかだった。
いや、上の空だったといった方が良いかもしれない。
何を考えているのか?多分ソウキのサポーターになったことが嬉しくてたまらないのだろう。
妙ににやけた顔で前方不注意の自転車が田んぼに突っ込んで行こうとするその姿は傍から見るとどこか奇妙で可笑しい。
悪い癖が出ている。
「止まれ!そこの不審人物!!」
「・・・!!!!!!!って、また成美か・・・」
「命の恩人に感謝しなさい。また田んぼに落ちるところだったのよ」
「・・・命の恩人って、そんな大げさな・・・」
また1人で居る所を成美に止められた。こんなことばかりがあったせいか、
剛には少し前に知り合ったばかりの成美が不思議と以前からずっと仲が良かったように感じられた。
「なんかあったの?また医者とか?あのときみたいに早く帰っちゃってるから」 
「・・・ん〜。新しい事始めたっていうか・・・」
「新しいこと?なによそれ」
「・・・それは秘密っていうか・・・」
成美の厳しい追及はさらに続く。だが猛士の事だ。一般人におおっぴらにする訳にはいかない。
「ひどい・・・。剛と私の仲でそんなのありなわけ?」
「・・・あああ、あのね。まあ、鍛えてるって言うかなんていうか・・・」
「筋トレとか?」
「・・・心も鍛えてるっていうか・・あ、もう筋トレでいいよ・・・」
328番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:23:59 ID:r2tzy6020
はっきり言ってサポーターになってまだ数日しかたっていない上にソウキが風邪をこじらせたため、
やったことといっても風邪引きのソウキの看病とDAの扱い方を覚えたことぐらいだったが、
これからも続けていくだろうソウキのサポートという行為が自分を「鍛えて」くれる、
そう考える剛の期待が剛の口に「鍛えてる」という言葉を言わさせた。
「私にも始まったっていうか・・見つけたっていうか、そんなことがあるんだけどね」
「・・・それって、何?・・・」
「ま、まだ教えたくない」
「・・・僕にあれだけ言っといてそれはないんじゃないのか?・・・」
「悪い?」
「・・・あ、別に悪くはないけど・・・」
成美にそう返され剛は少したじろぐ。そこに、もう一つの自転車が割って入ってきた。友人の鬼田だ。
「こんなところで夫婦喧嘩か?ったくジャイアン、最近お前付き合い悪いぞ」
「・・・ごめん鬼田ちゃん。ちょっと急いでるから・・・」
剛は鬼田と成美に謝ると自転車で近道を駆けていった。
そんな剛を見ながら鬼田が成美に話しかける。
「変人に変って言うのも変だけどさ最近アイツ変だよ。ちょっと変わったっていうか。 お前もそう思わない?」
「いいんじゃない?変人が変わったんだから案外まともになったかもよ」
329番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:26:31 ID:r2tzy6020
「昼飯どうするんです?」
布団で寝込むソウキがメモ用紙に鉛筆で簡単な絵を描きながらおやっさんに話かけた。
「なぁに。お前は毎日飯作ってくれてるんだから、風邪の時ぐらい休め。店のうどんでも食うさ。分かったか風邪引鬼」
「カゼヒキじゃなくてソウキです」
「テンキさんにサバキとソウキは馬鹿だから風邪を引かないって聞いてたんだけどなぁ。
 ま、今年だけで2回もこじらせたんだ。馬鹿じゃないことが証明されて良かったじゃないか」
「変なことで誉めないでください。もう」
「よ〜し、早めにうどんでも食べるとするか。テラ、ちょっと分けてくれ」
「お、おやっさ〜ん!!」
おやっさんは1階の応接間から厨房へ向かうとバイトの寺島と一緒に自分の分とソウキの分うどんを作り、
少し経つとそのうどんを持ってまた応接間へ戻ってきた。作りたてのうどんからはもうもうと湯気が立ち込めている。
「ほんとに今日は客が入ってない。特に常連さんだね」
おやっさんがうどんを机に置いて自分の橙色の箸を箸立てから探しながらそうぼやいた。
「常連さんって?」
「昼のサラリーマンの入りも良くないし、この辺りの人で来てくれたのはヨネばあちゃんだけだった」
「どうしてですかね」
「ほら、お前の作ってくれてた『タケノコご飯』あったろ。
 あれの評判かなり良かったんだけど、お前が休んじゃってるからおしながきから消しちゃってさ。そのせいがあるかもしれん。
 あとな、お前はこのうどん屋のマスコットも兼ねてるようなもんだ。お前、ご近所じゃけっこう人気なんだぞ。
 お前がいるだけでご近所の集客力になる。まぁ常連さんが毎日必ず来るって訳でもないんだけどな」
330番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:28:55 ID:r2tzy6020
「へぇ〜。でもなんでヨネさんは?」
「じつはな・・・ヨネばあちゃんはお前に惚れてるだと思うんだよ。毎日『ソウキさんはどうされました?』って聞いて来るんだぞ。
 風邪ですって言ったら、あっ確かここに。ほらお見舞のお菓子までくれた」
「それだけで惚れてるって言われましてもね・・・」
「そうか・・・ヨネばあちゃんはお前のストライクゾーンの外か。何歳までならOKだ?」
「というか何でそんなこと聞いてくるんですか?」
「お前ももう25だろう。そろそろ結婚かと思ってなぁ」
「結婚なんて・・。俺みたいなまともじゃない奴に嫁さんなんて出来ませんよ」
「なんだ?もしかしてお前まだ」
「まだって・・・?」
おやっさんは極めて日本的な古い応接間の壁に飾られている1枚の絵を指差した。
「この絵の、春香ちゃんのこと好きだったんだろ?まだ未練とか残ってんじゃないの?ハハハ」
頬を赤らめるソウキを見ながらおやっさんは笑った。

剛は自転車をとばし『げんじろう』へとやってきた。剛は右手で戸をあけ暖簾をくぐる。
剛の頭の中には石坂浩二のナレーションがあの音楽に乗って流れている。
剛にとって見ればこの暖簾も『ウル○ラQ』でいうアンバランスゾーンへの入り口なのかもしれない。
「・・・こんにちは・・・」
剛は客のいない店から奥の部屋へと入った。
しかし、入ってきたタイミングが悪かったのか2人は応接間で話し込んだままで剛に気付いていない。
「未練なんてあるわけないじゃないですか!!第一春香は最初っからサカエの・・いや、サバキのことが好きで・・」
「顔が赤いぞ。それも急に取り乱してる」
「顔が赤いのは熱のせいです」
剛には春香という人が誰なのかは分からなかったが、その人物が女であり、
ソウキの態度からしてソウキと昔、なにか関係あったのだと考え、
その人がもしかしたら、ソウキの自分における成美のような存在なのではと予想した。
331番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:32:31 ID:r2tzy6020
おやっさんとソウキが剛に気付いたのは、剛が部屋に入ってきてからおよそ1分がたったあとだった。
そんなとき、突然店にの電話の音が鳴り響いた。おやっさんがすぐさま電話機の前に走り受話器をとる。
「ありがとうございます! 昔ながらの味噌煮込みを笑顔で提供! うどん処『げんじろう』です!!ってマタタキか。どうした?」
それから数分するとおやっさんは受話器を下ろした。ソウキがすぐに電話の内容のことを聞くとおやっさんがそれを説明し始めた。
「オオクビ退治に行ったマタタキがこの店にカバン忘れてったらしい。
 今、あいつがいるところが先代のマタタキさんの家に近いから今日の先代のマタタキさんの誕生日の祝い品を
 ついでに渡しとこうとかあいつは考えてたらしいが、その祝い品もそのカバンの中にあるらしくてな。
 それに取りに帰るにしたって魔化魍を倒してないのに帰るなんてことは出来ないからってことだ」
「そんなんでわざわざ呼び出さんでも・・・・・」
「いやそれがな、マタタキの奴、今日必ず祝い品持ってくって先代のマタタキさんに電話で約束しちゃったらしい。
 あの人の性格だ、祝い品忘れたなんて言ったら家に入れてもらえんぞ。
 かといって魔化魍を倒したあと先代さんの家に寄らないでそのまま帰っても、そりゃあ大激怒だろうね」
「変身前の形相まで鬼って言われた人ですからね・・・。先代のマタタキさんは」
「仕方ないからマタタキにカバン届けてくれる暇な鬼でも探してみるさ」
「あっ、そんなんなら俺、今からマタタキのところまで行って来ます」
「駄目だぞソウキ。まだ寝てたほうがいい」
「・・・それなら僕が行きましょうか?・・・」
「剛が?魔化魍はまだ倒されてないんだぞ。どうする?ソウキ」
「任せてみます。DAの使い方は昨日剛に教えてあります。それにマタタキもいますし」
「そうか・・・そしたら剛を向かわせるとするか」
「・・・ありがとうございます!・・・」
丁度また受話器が鳴った。マタタキからの催促の電話だ。
「今、ソウキのサポーターが3時にそこの湖の広場の方へ行くから―――」
おやっさんが受話器に向かってそう話すと、剛は地図とコンパスを貰って駅の方へ自転車を走らせた。
332番外編「仮面ライダー剛鬼」七之巻:2006/03/08(水) 15:35:34 ID:r2tzy6020
冷たい風があたりに吹く。目の前に広がる湖には薄く氷が張っている。
剛の左腕の時計の針が2時40分を指した。駅からこの広場まで列車を乗り継いだ後タクシーに乗って来たのはいいが、
少し早く着きすぎたようだ。近くにあったベンチに座った剛は暇を潰すため頭の中でしりとりを始めた。
「・・・(リンゴ、ゴリラ、ラッパ、パーマ、マケドニア、アッグガイ、イリジウムスポンジ、ジョージ=ジョースター2世、イソギンチャック、
   クライムバスター、タカヤノリコ、こころはタマゴ、ゴルゴムの仕業だ、ダイダロスアタック、――)・・・」
なぜか続けるうちに自然と内容がマニアックになっていったしりとりをそのまま続けながら剛は時計を見つめるがまだ5分しか経っていない。
「我々の子のえさは・・・あれか」
葉が落ちた木の陰から現われたオオクビ童子と姫が剛にゆっくりと近づく。
剛は童子と姫を確認すると貰ったばかりの鬼弦を引いて3枚のDAを起動した。
DAに翻弄される童子と姫をよそに剛は広場から走り逃げようとする。
だがそこにDAを払いのけながら変化した妖姫が立ちふさがった。妖姫は右手の針を構え剛に襲い掛かる。
「貴様も鬼か・・・ならば倒さねば・・・ん」
妖姫が何か言葉を発したかと思うと、その言葉はぶつぎれになって途絶え
高所から現われた小さな竜巻が一瞬で妖姫を巻き込み剛の前を吹き抜けた。
辺りにはその竜巻の起こす風に乗って大量の落ち葉が舞い落ちる。
それを剛は以前ソウキが蟹の怪人を倒した時のように、妖姫が死んで落ち葉になったのだろうと考え、
一瞬で妖姫を消し去った小さな竜巻が鬼であると確信した。
「・・・あなたは?・・・」
「危ないところだったな。先輩のサポーターくん」
竜巻のようなものを断ち切って現われた鬼、瞬鬼がそう言って剛に声をかけた。
剛はあの竜巻が現われてから1分もかからないうちに妖姫を倒し変身を完了した瞬鬼の一連の技に
正直言って政宗一成にそのプロセスを解説してほしいと思わせるぐらいのものを感じて驚愕した。


つづく
333次回予告:2006/03/08(水) 15:36:33 ID:r2tzy6020
「この馬鹿野朗が!本場ナポリのナポリタンはこんなんじぇねぇ!!!」
「『カレーパンとカレードーナツの違い』お前にはそれが分からないのか?」
「だけど俺、それでもいいと思うんだ」

八之巻「叫ぶ愛」
334剛鬼SSの中の人:2006/03/08(水) 15:38:31 ID:r2tzy6020
全職人コラボの件は面白そうですね。参加させていただけるのなら、ぜひ参加したいです。
またZANKIさん、高鬼SSさん、DAさんのコラボに笑わせていただいた身として
そのお返しというのもおこがましいですが、
次回の剛鬼SSにはあの方に登場していただく予定です。

>高鬼SSさん
「ナチスの隠し財宝」「万博跡」「太平洋に投棄」
「1971年の5月」とくればあれですね。鉄箱の中身はやっぱり・・・・・・。
あと今回の話の童子と姫と多分3部作通じてのレギュラーであろう堀衛門がどこか可愛らしくて良かったです。
マンダムとセグウェイには笑いました。もしかしてあの童子たちはパソコンとかプラズマテレビとかそういうのも持ってたりして。
3部作の完結編も期待してます。

>ZANKIさん
今回は先代ザンキさんが珍しく全編真面目だと思って
びっくりしたのも束の間
「岩井川さんは?!」「……わすれちゃった。」
で吹き出しました。先代ザンキさん最高です。
これからも頑張ってください。魔化魍異聞録も応援してます。
335名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 17:32:22 ID:GKXvxRvz0
>>309のがなかなか面白かった。続きが楽しみだな
336名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 21:05:47 ID:qqNYRIwx0
とりあえず張り張り。

http://www.geocities.jp/maskedridertubaki/index.html

結構オモシロイよ
337名無しより愛をこめて:2006/03/08(水) 21:54:54 ID:cHtZG5gM0
>336
自分の?
338名無しより愛をこめて:2006/03/09(木) 00:48:32 ID:bcGWkPs70
剛のマニアックしりとりワロスw
アッグガイ出る辺りが…板違いスマソですけど;ゴルゴムの仕業です。
セグウェイに乗る童子と姫いいですね、ミスマッチ具合が(もちろん良い意味w)!
毎回旬な名前のZANKIさんのDAもまたww
339仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:20:04 ID:MQQ5l1Mi0
1971年より後だった事は覚えている。季節はいつだっただろうか。冬だった気がする。
その日、コウキはいつもの様に研究室で機械いじりをしていた。
と、そこへあかねが珈琲を持ってやって来た。
「精が出るわね、コウキくん。はい、差し入れ」
「ありがとうございます。で、今度は何の用事ですか?」
珈琲を飲みながらコウキが尋ねる。あかねが何か差し入れを持ってくる時は、決まって何か頼み事がある時だ。
「また急な出撃命令ですか?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、その……」
やけに奥歯に物が挟まったような言い方をする。
「何ですか。はっきり言って下さい」
「……お客さん。多分コウキくんにとって最も会いたくなかった人よ……」
一体誰だろう。と、何やら騒がしい声が近づいてくる。個室のドアが勢いよく開けられた。
闖入者の顔を見て、コウキは凍りついた。そして一瞬のうちに、忘却の深淵へ重石を付けて沈めてあった忌まわしき記憶が全て蘇った。
「よお!久し振りじゃん!」
そこにはあのザルバトーレ・ザネッティが、ザンキが立っていたのである……。
340仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:20:38 ID:MQQ5l1Mi0
「宝探しだと?」
ザンキの説明にコウキが途端に不安になる。
「そう!ここ関西の何処かにヒトラーの隠し財宝があるって聞いてさ、発掘のために来日したってわけ!」
胡散臭い笑顔全開でザンキが言う。
「ヒトラーの隠し財宝……」
間違いなくあの時のあれである。しかし財宝は何処かの誰かが勝手に処分してしまったのだ。
あの後、堀衛門のやけ酒にコウキとあかねは付き合わされ、朝まで飲み明かしてしまった。さらに二日酔いになった堀衛門の介抱までやる羽目になったのである。
「……彼には私達の知ってる事、みんな教えた方が良いと思うんだ」
「確かに、下手な騒動に巻き込まれたくないですからね……」
「何ひそひそ話してんの?」
あかねがザンキに、あの日の事を丁寧に説明する。途中何度も相槌を打ちながら、ザンキは話を全て聞き終えた。
「そういう訳だ。だから悪い事は言わん。さっさと国へ帰るんだな」
コウキが冷たく言い放つ。これでザンキも大人しく伊太利亜へ帰るだろう。
だが……。
「よっしゃ。じゃあ早速サルベージに行きましょう」
「何?」
「だ、か、ら、財宝を探しに行くんですよ、太平洋まで」
嘘だろ……。コウキとあかねは絶句したまま固まってしまった。
341仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:21:47 ID:MQQ5l1Mi0
「……で、どうして僕の所に来たのですか?」
イブキと勢地郎が本当に嫌そうな顔で聞き返す。特に勢地郎は、前回理由無くぶん殴られているので必要以上に警戒している。
「サルベージには人数が必要だからね。そういうわけだから手伝ってよ、優男に眼鏡」
ザンキがさらっと言う。しかもこいつ、この二人の名前を覚えていない可能性がある。
「頼む、手伝ってやってくれ!」
コウキが頭を下げた。本気で嫌なのだ、自分一人でこの男の面倒を見るのは。そのためなら頭ぐらいいくらでも下げよう。
しぶしぶ頷くイブキ。しかし条件があるらしい。
「太平洋という事は沿岸部に行くんですよね」
どうもイブキ達がこれから向かう地も同じらしい。勢地郎の話によるとバケカラスが出たらしい。
「バケカラスが姿を見せた場合、本来の任務を優先させてもらえるのであれば協力しますよ」
「よっしゃ!話が分かるねぇ。じゃあこれを渡しておくぜ。俺が調べた縁起の良い四字熟語を書いた紙だ!」
財宝が無事に見つかりますように、そう言いながらコウキ達に紙片を配るザンキ。
コウキは凄く嫌な予感がしていた。前回も確か、大橋巨泉と書かれた紙を渡されている。ただの人名じゃないか、と突っ込みたくてしょうがなかった事を思い出す。
(いくらなんでも今回は違うだろう……)
そう思いながら紙片を広げて、書かれた文字を読むコウキ。
そこにはでかでかと「大 橋 巨 泉」と書かれてあった。
「待て!一度ならず二度までも!どうして大橋巨泉なのだ?イレブンPMのファンか?」
「繰り返しはギャグの基本だからな。それに俺はゲバゲバ90分の方が好きだったが」
「……お前、やっぱりこの国に随分昔からいるだろ」
かくして、コウキ達は財宝探しへと向かった。
342仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:22:45 ID:MQQ5l1Mi0
「ふぁ、ふぁ、ふぁ〜っくしょん!」
真冬の海から吹く風は実に冷たい。ザンキはさっきからくしゃみをしっぱなしである。
「コウキさん、到着したのはいいのですが、どうやって財宝なんて探すんですか?」
イブキの問いにコウキが答える。
「あかねさんから預かってきた物がある。それを使おう」
あかねは前回の一件で三途の河を渡りかけた事を未だ引きずっており、発明品をコウキに渡すと自分は留守番をすると頑なに言い張ったのだ。
渡された包みを開けると、中から一台の機械が現れた。どうやらソナーの類らしい。
「よっしゃ!早速船を調達して海上に出ようぜ!」
ザンキが嬉々として言う。
「コウキさん、あの人どうやって財宝を引き上げる気なんですかね?」
イブキが尋ねる。確かに、ザンキは何も持ってきていない。
「まさか素潜りで引き上げろなんて言わないでしょうね……」
「有り得るぞ、あいつなら……」
「あ、それと海に潜るのは君達がやってよね。俺は風邪とかひくとヤバイからパスするわ」
満面の笑顔で言い放つザンキ。
次の瞬間、コウキの投げた装置の角がザンキの頭部に鈍い音をたてて命中した。血を噴き出し倒れるザンキ。
「私は帰るぞ!そんなにやりたきゃ一人でやっていろ、この大馬鹿者が!」
と、その時、水平線の向こうから巨大な何かが近付いてくるのが確認出来た。さらに、二つの怪しい人影が周囲に現れる。
「出たな」
(軽い話の時はやけに魔化魍が唐突に出てくるよな……)
童子と姫、そしてバケカラスである。コウキが音叉を、イブキが笛を鳴らし同時に変身した。
343仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:24:07 ID:MQQ5l1Mi0
怪童子、妖姫は高鬼と威吹鬼によって清められた。残るはバケカラスのみである。
「でかいな」
「ええ、バケカラスは魔化魍の中でも大きい個体が多い事で有名ですから……」
過去にもバケカラスによって旅客機が襲撃されたという情報が寄せられている。今回の個体も、一口で小型セスナ機くらいは飲み込める程の大きさだ。
「任せたぞ威吹鬼。私は後方支援に徹する」
「了解」
高鬼が鬼棒術・小右衛門火を放つ。その巨体故に降り注ぐ炎の雨を避ける事が出来ず、身を焼かれるバケカラス。
威吹鬼がここぞとばかりに鬼石を撃ち込む。
どうやら早目に終わりそうだな、とザンキを介抱しながら勢地郎は思った。と、その時。
バキャッ!
ザンキの目覚めの一撃が勢地郎を五メートル程宙へと打ち上げた。
(ああ、やっぱり今回も意味も無く殴られるんだ……)
自由落下の最中、涙を流しながらそう思う勢地郎。彼は頭から下の岩場に激突した。
「うおおおお、痛てぇ!よくもやってくれたな!……って、うおっ!でかい鳥!」
「目が覚めたか。全く、永遠に寝ていれば良かったものを……」
「高鬼さん、勢ちゃんの事も少しは心配してあげましょうよ……」
344仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:27:21 ID:MQQ5l1Mi0
急上昇し、空へと逃れようとするバケカラス。羽ばたきによる突風が高鬼達を襲う。
「まずい!今ここで空に逃げられたらどうする事も出来ない!」
前述の通り、バケカラスは旅客機を襲えるだけの高度まで上がる事が出来る。さらに航続距離も極めて長い。
「ここは私に任せろ!」
そう言うと高鬼はバッグの中から一本の縄を取り出すと先端に石を括り付け、バケカラスの足目掛けておもいっきり投げつけた。
縄は、上昇を続けるバケカラスの足に見事に絡みつく。それを力の限り引っ張る高鬼。
「は、早く音撃を!」
だが体格差もあり、徐々に高鬼の体が引っ張り上げられていく。
「よし!俺も手伝うぜ!」
ザンキが高鬼に手を貸し、一緒に縄を引っ張る。
威吹鬼が音撃射の体勢に入った。だが、清めの音が吹き鳴らされる直前、バケカラスがさらに急上昇を始めた。
「くそっ!悪あがきを!」
必死で踏ん張る高鬼とザンキ。しかし、堪えきれずとうとう高鬼は手を離してしまう。
その途端に空高く飛び去っていくバケカラス。
「参ったな。逃げられてしまった……」
足に縄と何かをぶら下げて、手負いのバケカラスはみるみるうちに遠ざかっていった。
「さあ、帰ろう。バケカラスの始末は他の鬼に任せればいい」
「念のために聞いておきますけど、あの人は……?」
威吹鬼がおずおずと尋ねる。勿論、バケカラスの足にぶら下がっていた「何か」の事である。
「法律に抵触しない方法があれば殺してやりたいと思っていたところだ。後はバケカラスに任せよう」
あっさりとそう言うと、顔の変身を解除し立ち去るコウキ。イブキもそれに倣い顔の変身を解除すると、気を失ったままの勢地郎の傍へと駆け寄った。
345仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:28:29 ID:MQQ5l1Mi0
数日後、コウキがいつも通り研究室で機械いじりをしていると、一本の電話が鳴った。
あかねも他のスタッフも席を外しており、仕方なくコウキが電話を受けた。
「もしもし……」
電話口から、二度と聞きたくなかった男の声が聞こえてきた。
「あ、もしもし?俺。ザンキさん。実は今モスクワにいるんだけどさぁ、パスポートもそっちにあるし、俺、どうやって日本に戻ろうかと思ってさ……」
どうやらあの後、バケカラスはソ連まで飛んでいったらしい。そしてザンキもその間ずっとバケカラスの足にぶら下がっていたようだ。
「ふぁ〜っくしょん!うう、寒い……。なあ、どうしよう。もしもし、聞いてる?」
「……永久凍土の中で一生眠ってろ」
そう言うとコウキは無情にも電話を切った。

さらに数日後、ザンキは何食わぬ顔でコウキ達の前に戻ってきた。どうやって出入国が出来たのかは分からない。
「さあ、今度こそ財宝を引き上げに行こうぜ!」
コウキは黙って音撃棒でザンキの頭を殴りつけた。
346仮面ライダー高鬼番外編「先代、再来日」:2006/03/09(木) 11:29:20 ID:MQQ5l1Mi0
イメージソング
間宮海峡冬景色(原曲・津軽海峡冬景色)
作曲 三木たかし  歌 ザンキ

モスクワ発のシベリア鉄道 おりた時から ウラジオストク駅は 雪の中
国へ帰る人の群れは 誰も無口で 海鳴りだけを きいている
私もひとり 不法入国船に乗り
こごえそうな鴎見つめ 泣いていました
ああ 間宮海峡冬景色

勢地郎台詞「シベリア鉄道でぇ〜、ザンキがぁ〜、殺人事件にぃ〜、巻き込まれたぁ〜」

ごらんあれがカムチャッカ半島 北のはずれと 見知らぬ人が 指をさす
息でくもる窓のガラス ふいてみたけど はるかにかすみ 見えるだけ
さよならあなた 私は帰ります
風の音が胸をゆする 泣けとばかりに
ああ 間宮海峡冬景色

水野晴郎台詞「いやぁ〜、ZANKIって本当にいいもんですねぇ」

さよならあなた 私は帰ります
風の音が胸をゆする 泣けとばかりに
ああ 間宮海峡冬景色
その後、ザンキはどういう経緯でかは分からないが、あの堀衛門と知り合って二人でナチスの財宝の引き上げに向かったらしい。
「今頃は海流に流されて深海にあるはずだよ?絶対無理なのにね」
あかねが呆れたように言う。コウキも同感であった。懲りない連中である。
後日、堀衛門がザンキにこき使うだけこき使われて入院したらしいという話を耳にした。真冬の海を潜水服も無しに素潜りさせられたらしい。
「肺炎だって。時期を考えなさいって話よね」
あかねが呆れたように言う。コウキも同感であった。本当に懲りない連中である。
さらに数日後、意外な事にザンキも入院したらしいと聞いた。これにはコウキも驚いた。
「潜水病にかかったらしいわよ。」
あいつも潜ったのか……。
「しかもハワイで」
あかねが呆れたように言う。どうやら海流に流されるままにハワイ沖まで行ってしまったらしい。
コウキもまた、呆れ果てて何も言えなかった。
これに懲りたのか、ザンキは二度と財宝の事を口にしなかったという。 了
348高鬼SS作者:2006/03/09(木) 11:39:14 ID:MQQ5l1Mi0
長々とお付き合いありがとうございました。
宝探し三部作と銘打っておきながら結局宝は出てこなかったという、タイトルに偽り有りの三作。
これも自由にやらせていただいた皆様のお陰です。

あとZANKIの中の人、またお借りしちゃいました。改めてお礼を。
349ZANKIの人:2006/03/09(木) 16:42:40 ID:nsfPUYym0
>高鬼SSさま
また、先代をお使いいただきありがとうございます!乙です!
先代がウィルス化して各職人さんに感染していくようで怖いですw
コウキとのからみは相変わらずおもしろいです。
一応、後日談として裏で別の目的で動いていたと言うストーリーは考えたのですが、
今回は色々と思う事があり、申し訳ありませんが、コラボ企画は自粛させて頂きます。
でも、ご自由に先代はお使いください。キャラの一人ですからね。
と言いつつも剛鬼SSさまとはコラボしますw まあ、一人一回って事で。
350336:2006/03/09(木) 22:26:50 ID:KAARZnOk0
>>337
答えは『NO』だ!!
351高鬼SS作者:2006/03/09(木) 23:01:46 ID:MQQ5l1Mi0
>>349
いえいえ、コラボしてもらいたくて書いたわけではありませんし、使わせていただいただけで感謝です。
「どうせまた裏で何かあるんだろうなぁ」と思いながら書いてはいましたが、
本当に宝探し目当てで個人的に来たというのもそれはそれで有りかなぁ、とw
352鋭鬼SSの中の人:2006/03/09(木) 23:20:12 ID:AbK5D5zK0
>>336
個人サイトを晒すのは良くないので止めましょう




……鋭鬼スレが落ちてしまいました
俺がSSの続きは八割方完成してながら、ハードボイルドペンギンと戯れてる間にゴットスピードしてしまってましたorz
俺がSS書くスレは落ちる事が多いな……ここは他に職人さんいるからいいけど、もう一つの方は気をつけよう……ハァ……






↓↓↓ 仮面ライダー鋭鬼十一話です ↓↓↓  
隙間から入り込む朝の冷気が吹雪鬼を睡眠から揺り起こした
カーテンを開けると、昨日の大雨が嘘のような青空を、北に帰る鳥の群れが鶴翼を作っていた
「ん〜……」
吹雪鬼はその恵まれた四肢を伸ばすと、深黒の長髪をふわりと掻き上げて客間を出た
まだ早い時間なので、あまり大きな音を立てないようにと吹雪鬼が歩きながら向かったのは
そんな時間から朝食を準備してるであろうアサの手伝いをするためだ
「両手を挙げてー腕の筋肉をほぐす運動!一、二!三、四!!」
ズドーーン……吹雪鬼はコケた
「ちょっと待ちなさいアンタ達ィ!!」
客間でラジオ体操をする鋭鬼と戸田山に悲憤慷慨を全身で顕しながら吹雪鬼は詰め寄る
「吹雪鬼さん、朝から大声だなんて非常識」
「どっちが非常識よ!」
「大声、おぉ怖え……あ〜、冗談はさておき、外見てよ」
吹雪鬼の無言の圧力に、ふざけることを止めた鋭鬼は窓の外を指した
それに従って視線を向けた吹雪鬼は、昨日の大雨で地面が泥濘と化したことを理解した
「それでも、非常識じゃないのさ。大体、まだみんな寝て……」
「ウチで御寝坊なのは康秀ちゃんだけだよ」
台所から出てきたのはエプロンをした奈々であった
目の見えない奈々に料理は危険ではないかと一瞬思わないでもないが、包丁を使うばかりが料理でもなく
台所に何があるかなどは、その家の住人なら目を閉じていても判るであろうと吹雪鬼は納得した
私にも何か手伝わせてくださいと腕まくりする吹雪鬼に、鋭鬼は声をかけようとしたのだが
(――馬鹿ッ!!)
昨日投げられた言葉を鋭鬼はどう返したらいいかわからない
その意味も、判らない
鋭鬼の知ってる吹雪鬼は、いつも颯爽としていて、闊達に笑い、その躍動は大胆で、何かの間違えで人間に生まれちゃった天使
(……は、言い過ぎか)
そんなことを考えてる間に、吹雪鬼に話しかけられる距離は遠のいてしまう
(昨日の吹雪さん、初めて見たな……)
自分がそうさせたのだという思いは鋭鬼にはまだ、無い



テレビでは昨夜の大雨で未だ水がひかない道路や、土砂で中断された道が映っていた
車で来た自分達が帰るぶんにはよいのだが、吹雪鬼はバイクなのでどうしたものかと鋭鬼は考えてるのだが
そんなことを本人を前に口にすれば、あの形の良い唇を尖らせて拗ねて見せるのがありありと浮かぶ
いや、朝のように突発的に会話するなら兎も角、今なんて声をかけて言いのかさっぱりわからない
朝食の時も、吹雪鬼は半ば意地になったように鋭鬼に話しかけるのだが、ギクシャクしてるというか……それは全部自分のせいなのだけれど
(ってことは案外気にしてない?怒ってないってこと?ノットアングリィー?)
と、あんぐりと口を開けて考えるのだが、いい加減付き合いも長いのでソレはないかと溜息をついた
「よいしょっと……」
長靴を履いて、ぬるかんだ土から大根を引き抜く
アサに頼まれて裏庭の畑から三本ほど引き抜いて、泥が服にかからないように持って歩くと、玄関で康秀と奈々が立っていた

「足、気をつけて歩いてな。あと、泥ハネにも」
「ん……」
盲目者用の白い杖と鞄を持った奈々は、康秀の見送りに小首を引くと、ねだるような仕草で康秀の腕に指を這わせた
「ん……いってらっしゃい」
康秀は奈々に近づきながら言うと、そっと口吻をした

(はぇ〜……)
そんな関係だったのかと、鋭鬼は奈々を見送る康秀を気の抜けたように眺めていた
羨ましい……一言、今の感情を選ばなければならないとするならそれだろう
あんな風にさりげなくお互いを求めて、重ね合う関係に自分もなりたいと……誰とまでは言うまではないが
「あぁ、鋭鬼さん」
「あ、あぁ……」
こちらに気づいた康秀に対し、何故か赤くなるのを感じながら答える
「大根か……裏口から入った方がいいな」
「あ、うん」
「ん?奈々を見送っててさ、公民館のね、役場の向かいの。ボランティアやっていてさ」
並びながら話す康秀に、一々頷きながらも、どこか心ここにあらずな自分を鋭鬼は感じていた



「なんだろう?なんか耳鳴りがしません?」
「……?」
吹雪鬼の水に浸かったバイクの整備を手伝わされながら、戸田山は訪ねた
鬼の聴覚は常人より優れてる
そのせいで要らない音まで聞こえてしまうのだろうと、吹雪鬼は答えながら、工具を取るように言った
「尤も、人間の耳なんて聞こうと思わなければすぐ近くの音でも聞こえないように出来てるからね」
不便はしないと吹雪鬼に言われたせいもあって、戸田山は修行不足かと首をうなだれた


冬の水道水は冷たい
が、じきに慣れる。それは感覚が麻痺するという事かも知れない
慣れるとはそういう事なのだろうか
「鬼の人は……」
一緒に大根を洗う康秀は、子供の頃に見た鬼の話をしていた
「あっという間に傷を治すんだね」
確かに。鬼の肉体は細胞を促進させつつ、気を入れることによって外傷を治す術がある
「アレを見て、いいなと思ったんだ」
「え……」
「アレを使えば、奈々の目も治るのかなって……思ったから」
鋭鬼は押し黙った。ヒーリング……治癒能力を自分ではなく他者に与える力を持った鬼は、居ないこともない
もうとっくに引退してるが、近畿と四国に居たはずだ
しかし、病気等を治す力ではない。あくまで外的な傷や毒を治癒できる能力だ
「知ってるよ。聞いたし、その時」
「そう……」
「でもさ、ガッカリするのが9割、あとの1割は……良かったって思ったんだ」
康秀が大根の水を切ると、最後の一本に手を伸ばす。流石に手際がよい
「だって、奈々の目が治っちゃえば一緒にいる口実が一つ減っちゃうだろ?」
「あぁ……」
鋭鬼は「良く判る」と笑った。自分も常々思ってた
心の1割。魔化魍が出てくれることを。そうすれば吹雪鬼と一緒に居られると不純な願い
「羨ましいな、康秀くんが」
「へ?」
「素直で、好きな人を守ることが出来て、常備電波三本で通じ合ってる訳だ」
鋭鬼が力を入れると、大根が折れた。気まずい顔をしてると康秀は「気にしない気にしない」と笑った
大根を籠に移して、手を拭いていると康秀の携帯が鳴った
「……ハイもしもし?」
鋭鬼は真っ赤な手を擦り合わせてると、今更ながらに冷たさを感じた
「鋭鬼さん、高いところ得意?」
「high!鍛えてますから!」
力コブを作ってニカッと笑う鋭鬼に康秀は釣られて笑った
「どうも、役場のスピーカーが壊れちゃって。修理がさ、昨日の雨のせいで来れないんだけど
 何か単に部品が外れてるだけとかでさ……うん、鋭鬼さんと一緒に行くよ。忘れ物とかないか、奈々」
よかった……まだ少し話し込んでいる康秀を見ながら、鋭鬼は思った
吹雪鬼と同じ所にいるのは少しばかり気が重かったのだ
「じゃ、行きましょ」
康秀は電話を切ると、しかめっ面で大雨の被害を話すニュースキャスターの映るテレビを消した





「シャッター街ってやつかな」
徒歩で役場に向かう鋭鬼と康秀は商店街を通っていた
「地方町村の悲哀って感じ?食品は郊外のスーパーで揃うし、ちょっと遠出すれば生活用品は市で買えるからねぇ……」
「大変なんだな商店街、客店外……」
車も余り通らない交差点の信号が赤になる
「この先に公園があってさ。SLがあるんだけど、子供の頃奈々とよく遊んだ。
 ずっとこの町で一緒に育った。好きになった。一緒に幸せになりたい……幸せにしたいじゃなくてさ」
「え?」
「一つ訂正しようと思ってさ。俺は奈々を守ってとか、思ったこともしたこともない。
 俺は奈々より強いなんて思ってない。ハンデであるとか言うと怒るんだ。人間、平等なのはたった一つ
 それは生まれた瞬間じゃなくて、何かをしたい、何かになろうって思う気持ちだって……奈々の受け売り」
信号が青に変わった
けれども鋭鬼の心は立ち止まったままだった
(俺は……関東に帰ってから……ずっと強くなりたいと思ってた。だから、師匠の残した格闘術を覚えて……
 シフトも多く取って貰って、がむしゃらに魔化魍と戦っていった。実際、自分でも強くなったと思ってる
 何のために?
 不敵鬼ちゃんに負けたくないと思った。あの天賦の才をもって生まれた吹雪鬼さんの妹に
 それまで比べようとも思わなかった響鬼さんにも負けたくないと初めて思った。努力家でベテランで才気もあるあの人に
 自分の力の無さが不甲斐ないと思ったから。大事な人を……守れない!!
 吹雪鬼さんより強くなりたかった。吹雪鬼さんを守れる……男に……なりたかったんだ……)
「鋭鬼…さん?ん?……奈々から電話だ。どうしたんだろ」
(近くにいて判ってた筈だった……吹雪鬼さんの実力
 そんな吹雪鬼さんでも傷ついて……。だから!吹雪鬼さんより強くなろうと思ったけど……遠かった)
それがどうしようもなく鋭鬼の前に立ちはだかって、鋭鬼は無意識の内に吹雪鬼を避けていたのだろう
同時に、彼女が居なくてもやっていけるという姿を、見て欲しかったのかも知れない
「……鋭鬼さん」
混濁した鋭鬼の思考を康秀の声が遮る
「避難警報が出てるんだって。昨日の大雨で土砂崩れが起きる可能性があるらしい」



「それで?奈々ちゃんは」
「役場で、電話対応ぐらいは出来るって。スピーカーが壊れてるから、一々電話と……こうして人海戦術で避難させるしかない」
鋭鬼たちと合流した吹雪鬼と戸田山は町民の避難誘導を手伝っていた
さっきとは打って変わって、ごった返す道路の中で戸田山はやはり違和感を感じていた
「やっぱり……耳鳴りが……大きくなった?」
「!!」
「吹雪鬼さん、コレ!!」
戸田山の言う耳鳴りはどうやら鋭鬼と吹雪鬼にも聞こえたらしい
いや、これは耳鳴りなどではなく
「これ、距離と方角は……」
「正面だ…真っ直ぐ向かってる……ッ!!」
「え?何のことッスか?」
「土砂だよ!ドッシャーって来てる!土石流だ!このままだと町が……」
鋭鬼が顔を向けた方向……その方向は役場があるということに、鬼達の会話を聞いていた康秀は顔を青ざめる
「奈々ッ!!」
「康秀さん!!」
溜まらず走り出した康秀を止めようと伸ばした手は空を切る
同時に、地鳴りが一般人の耳にも聞こえる程に響いて来たのに、吹雪鬼の端正な顔が苦虫を噛んだようにひしゃげた
土石流、雪崩、火砕流などは人の想像を遙かに超えて速く、重い
(どうする!)
吹雪鬼は思索する。人の知恵に乗り越えられないものはないってばっちゃが言ってた筈だ
人を、出来るだけ多くの人を助ける方法は……
――キィィィィィン
――ビィィィィィン
「!!」
吹雪鬼は聞き慣れた音を後ろに聞いた
二つ――変身音叉と変身鬼弦。こんな大勢の人が居る中で、鬼の変身……!!
「やぁあ!!」
「とぉぉ!!」
二陣の風が吹雪鬼の脇を通りすぎていく
「鋭鬼くん!戸田山くん!」
何を考えてるの!!と続けようとしたが、そんなことは明白だった

人の波を逆方向に駆け抜ける異形が二つ
「いいか戸田山さん、雷撃は使うな。地面が濡れてるから感電しかねない」
「はいッス!」
「それから…………近道使うぞ!」
言うやいなや、鋭鬼は跳躍し屋根の上を飛び回る
「成る程ッス!」
戸田山変身体もそれにならい雄飛すると、地の喧噪など知らぬ顔の青空が見えた
「あぁ!土石流が!!」
戸田山が叫ぶ間に土石流は町の外れまで差し掛かっていた
「大丈夫だ……この町はぁ……コイツが守る!」
鋭鬼は拳に気を込めた。彼の属性は鉱。緑のオーラが鋭鬼を包んだ





「はぁ…はぁ…奈々!!」
ようやく鋭鬼達に追いついた康秀が見たのは、土石流から町を守る鉄の壁だった
「これは……」
「鋭鬼さんの力ッス!鋭鬼さんは鉱物変化が出来るッス」
康秀の前に奈々を抱えた戸田山変身体が現れる
「奈々!」
「康秀ちゃん!」
一頻り抱きしめ合った後、康秀は鋭鬼に礼を言う
「これ、何か判るか?あの公園のSLだ。悪い、こんなにしちまった、ケド……信じられないくらい……保ってる」
鉄の壁に手を触れている鋭鬼の体は震えてる。土石流の圧力は支えきれる物ではない
速く逃げてくれと言いながら、鋭鬼は師の言葉を思い出していた


「手も合わせずに地蔵さまの供えもん食うな!」
「アイデ!」
骨ばった鋭鬼坊の拳骨が振り下ろされた
「痛……神様なんか信じてない癖に……般若心経で鼻かんでる男が!」
「阿呆。神なんざ信じとらん。だが、物に宿る魂は信じとるわ。ソウルじゃソウル。都市の方じゃないぞ?」
鋭鬼坊は三拝したあと、地蔵に供えてあった菓子を取り、分けた
「魂?」
「そうだ。物って言ってもな、何でも宿る訳じゃない。インクで印刷された般若心経に宿るかよ
 魂が宿るモンってのはな、ずっとその場所にあって、そこに住む色んな人間や動物に慕われたモンにこそ宿るのよ
 心を持って接した物には心が芽生えるのよ。判るか?日本人の美徳だ」
「……なんとなく」


「……判るぜ、糞坊主。機関車!負けるな!一緒に帰還者になろう!!」
――ピキ!
「鋭鬼さん!」
「嘘!熱いセリフ台無しじゃん!」
とは言え、鋭鬼の目算以上に耐えたこの鉄の壁は限界を迎えようとしていた
これが破れれば、引き絞った弓を放つかのように、土石流は茶色の竜となって町と人を飲み込むだろう
(諦めるか……崩壊した瞬間に新しい壁を構築ッ!やってやる!)
だが
――グワシャァァァ!!
(……早いぃ!!)
鋭鬼の視界が真っ黒になる。崩壊した隙間から押し出された土石流に鋭鬼は思わず目を閉じた
「………………!!」
鬼の体ですら無惨にも引きちぎり、余すことなく呷っていくだろう土石流は鋭鬼に届かなかった
「氷ってる……」
戸田山がかろうじて言葉に出したその背後には、変身した吹雪鬼の姿があった
白銀に輝く音撃管『烈氷・改』を構えている
「おめだ、さっさと動く!氷らせはしたけど、不自然に固めたから落石……落氷がくるわよ」
「吹雪鬼さん……」
「危ないトコや、落ちてきた土石は私が狙撃するから、早く避難を!」
吹雪鬼の烈氷・改は従来のピッコロトランペット型よりも銃身が長く、アルトトランペット型とも言える形状をしている
特性・機能も元々連射型だったのを調整して単射型にしていたのが従来の烈氷だったが、
烈氷・改に置いては最初からライフルとして設計されている。それにより一発の破壊力は比較にならない
また射程も倍以上のものになっており、まさに精密射撃が売りの吹雪鬼にカスタムメイドされた音撃管と言える
「……無理だ!土石流を氷らせるだけの鬼力を使って、もう歩くものやっとの筈だ!」
鋭鬼が吹雪鬼の肩を掴む。それだけで吹雪鬼はグラリと蹌踉めいた
「吹雪鬼さん!」
「狙撃するのに歩く必要はないでしょ?」
「……ッ!!」
「まったく、みんな見てる前で変身しちゃってさ。監督不行届じゃ済まないわさ」
吹雪鬼のその一言が、鋭鬼を非道く寂しくさせた
だからだろう。無理に止めることもせずに吹雪鬼に従った
吹雪鬼の射撃は正確で、鋭鬼は振り返りもせずに黙々と救助作業を続けた



身体は疲労しきってた。虚脱状態と言ってもいい感覚の中で、五感が研ぎ澄まされていく
波一つ立たない水面に、森羅万象、全ての物が映る……形容するならばそんな感覚
その水面に波紋が生まれる度に
「………」
焦ることなく、力むことなく、ごく自然に息を吐くのと連動して引き金を弾いていく
“吹雪鬼の七弾”と言えば、吉野では知られたものである
京都訪問中の総理に対し、鬼の有効性と今後変わらぬ猛士との提携を指針とさせるために組んだデモンストレーションにおいて
六枚の河川の上に並ばされた扇を悉く落とし、戯れで本部の『金』であり
企画者である高寺が総理大臣の頭の上に置いたリンゴを射抜いたのが吹雪鬼だった
「ウェーバーの魔弾を越えた妙技だ」
その芸に対し、高寺はそう絶賛した
優れた射撃能力があるからと言って優秀な管の鬼であるとまでは言わないが、この事によって吹雪鬼は実力以上の名の評価を得たと言える
「……スゥー」
また一つ、瓦礫が砕ける
銃はいい
吹雪鬼の実感だ
剣や槍、弓とは違い、最低限の殺傷力が使い手に左右されない
刀などは、修練を積まなければ首切りの道具としてしか機能しない、ただの肉包丁でしかなかった
弓などは更に厄介で、古代ローマにおいては戦争で捕虜にした敵の弓兵の指を切り落として弓を使えないようにしたという
その点、銃は使用方法を教えれば即戦力として使えるという文明の兵器だ
それを極める
「いい出来v」
改良したみどりには感謝してもしたりない
地元の東北支部ではこの改良は出来ないだろう。なまじ呪術に発達してるぶん、作る武器は使い手に左右されるものが多い
「…………あと十五分ってトコか」
土石流は全て氷らせたという訳ではない。弾もそんなに残っては居ない
だが、住民の避難は完了したし、巨大な岩盤、岩石は砕いた
町は悲惨な状態になるだろうが、なんの、人の心が砕けなければ何度だって直せるものだ
吹雪鬼は引き金を弾いた



「ここから先は救助隊がもう来てるみたいだから俺達にまかせた方がいい」
老婆を抱えた戸田山変身体に向かって、康秀は制した
「そのおばあちゃんで最期か?」
「そうッス!」
老婆にお礼を言われながら、抱き下ろす戸田山に鋭鬼が訪ねる
「鋭鬼さん!」
「……康秀くん」
「ありがとう鋭鬼さん。これから先はこの町に住む俺達がすることだ」
康秀に肩を抱えられた奈々が続ける
「吹雪鬼さんを連れて戻ってこれるのは同じ鬼の鋭鬼さんでしょ?」
鋭鬼は頷いた



「え〜先日の土石流の被災にあった――」
“たちばな”の店内にあるテレビの中でしたり顔を作ったアナウンサーがマイクを持っている
「君が真っ先に変身したと?吹雪鬼くんは自分が命じたって言ってるんだけどねぇ……」
日差しが強く感じた勢地郎は立ち上がると、カーテンを閉めた
「吹雪鬼さんは俺達を庇ってるんです」
「俺“達”?」
「あぁ…いや……戸田山くんの事はどうかお願いします。彼は居なかった事に」
深々と頭を下げる鋭鬼に、勢地郎は困った顔をして見せた
「幸いにして、町の皆さんが君たちの事を黙っててくれた事だし……」
溜息をついてテレビを見上げる
「アレは少し不味いねぇ……本部に報告しないわけにはいかないよ」
テレビのアナウンサーは土石流が引いた後の水が凍ってる事件について語っていた
言うまでもなく吹雪鬼の力の名残である
「はい……査問会にシュッと出頭致します」
「そのスモークサーモンどこからだしたの?」
「査問会とサーモンかい?なんちゃって……」
「関東の鬼を代表するつもりで行くように……」
勢地郎が頭を抱えていると、テレビから歓声が聞こえた

        ィ^⌒ヽ
       /ノiノノ从!
      ノqヽ゚‐ ゚ノリ   
   ミ  ⊂   ノ   
     ┠し'(_)    
    ≡   ┷┷    

                    _ ∩
                 ⊂/  ノi)   <イナバウアー!
                 /   /〃ク
           ≡≡≡≡し'⌒∪   
                '┴┴ ┴┴'


「ふ、吹雪鬼しゃん!?!!」
一面凍り付いた公園は子供達がスケート場にして遊んでいたが、その中に吹雪鬼が居たのだ
「あぁ、吹雪鬼君が居ると君から本当の事を聞き出すのが難しいと思って……目立ってるねぇ……」
あの人に目立つなと言うのが無理だ……鋭鬼は声を殺して笑うしかなかった
(本当に……)
鋭鬼は笑いながら涙が出てくるのを感じた
初めてあったその日から、ずっと変わっていない吹雪鬼に対するこの感情をどうしてくれよう
憧憬と思慕が綯い交ぜに成りながら、その存在は刻を重ねるごとに大きくなっていく
自分がそう思ってる限り、決して肩を並べる事は出来ない
なのに、彼女と隣り合ってる自分が想像出来ないのが悲しかった



「危ないから良い子も悪い子も真似しちゃメッ!だからね!」
いつのまにやら“フブキお姉さんのスケート教室”を開いた吹雪鬼は、子供達に向かって指を立てる
大人達は復興で忙しい。だがここいる子供達も、こうして元気な声をあげることで復興の一助となってるのだ
「吹雪鬼さん」
「奈々ちゃん……あら?」
吹雪鬼に声をかけた奈々の左手の薬指には輝きがあった
「へぇ〜……」
「こんな時なのに……ね」
奈々は指輪を見つめた。その輝きは目の見えない奈々の目にも見える輝きだった
「こんな時だからでしょ?」
髪を結って動きやすい格好でいる奈々に付いた埃を吹雪鬼は払ってやった
この町で汚れていない人間はどこにも居ない。それは素敵な事だと吹雪鬼は思った
「私ね、悔しかったんだ。私が下らない事に縛られてる間にあの二人が飛び出していった事に
 鬼って生き方だって教えられたのに……忘れてたのよ。あの二人と、奈々ちゃんや康秀くん達、この町のみんなを見て久々に初心に戻ったな」
(綺麗な笑顔……)
奈々は目に見えなくとも感じることが出来た
屈託のない強い生き方だと思った。今の自分もそうやって生きている
初めからそうだった訳ではない
人知れず多くの絶望を感じて、どうしようもない深い暗闇に独りぼっちと思っていた時もあった
「気高い夢を見ることだ。あなたは、あなたが夢見た者になるだろう。あなたの理想は、
 あなたがやがて何になるかの予言である……って、ばっちゃが言ってた」
幸せにねっと奈々の肩を吹雪鬼は叩く
「もちろん。……でも、今の吹雪鬼さんがかけれる言葉なの?」
「それは……」
「吹雪鬼さんは完璧過ぎるね。強すぎるの。私、目の見えないの結構利用したよ」
いたずらっ子のように笑った奈々に、それはどうしようもないなと吹雪鬼は返した
性分というのは難しいものだ
それを否定する生き方も出来ない性分なのである



アームドセイバーを開発する木暮の研究室の扉が開いてる事に気づいた
総本部の『金』である高寺は、開いてるドアをノックしてから木暮に声をかけた
「何か用か?」
「いや……まぁ、いい話か」
喫煙パイプを銜えた高寺は、新型のディスクアニマルの試験型を眺めながら口を開けた
「どうも、関東の方で不祥事が起きたみたいで」
「それがいい話なのか?」
木暮は振り向きもせずにアームドセイバーの調整をしている
「アームドセイバーの開発打ち切りが霞む事件でしょ?今度の会議は多分、その関東の鬼の話しで持ちきりでしょう」
「…………」
ペッと喫煙パイプをゴミ箱に吐き捨てると、高寺は顎を撫でた
「俺の言うとおりに作ってくれれば、研究だって続けさせてあげるってのに」
「治らなんな、そのへくわい者の性格も」
「お互い様で。俺は木暮さんや……先代荒鬼のように後ろ盾もないんで。気を抜けば足下をすくわれて真っ逆さまなんでね」
「“もう一回”ぐらい、痛い目に遭った方がいいんじゃないのか?」
木暮は手を止めてガラスに映った高寺の顔を見据えた
「経験とは、人々が自分の愚行と悲哀に与える名前である」
「ミュッセか」
それ以上は木暮は語らない。何を言っても無駄だろうと木暮は押し黙る事にした
それを受け取った高寺は、再びドアをノックして退室しようとした
「あ、そうそう。関東と言えば、宗家の三男坊と……吹雪鬼が居ましたね」
感傷を交えた声で高寺は呟いた
「査問会にくる関東の鬼、酒天院に泊まらせるらしいですよ」
「前の荒鬼の所にか。残酷な……」
「俺がそう準備しました」
「高寺ッ!」
木暮が立ち上げるより先に、高寺は廊下に消えていた
「…………もうすぐ十年にもなるか」
長く組織にいると、一つや二つでは済まない程の悲しい思い出も多くあれば、直接立ち会わなくても聞こえてくることもあった
木暮は溜息をついた
「やることをやるだけだ……」
アームドセイバーを完成させる。木暮はそのことに自己を没頭させようとした




「 十一之巻  (゚∀゚o彡°金メダル!(゚∀゚◎彡°金メダル!! (後編)  完 」
368予告:2006/03/09(木) 23:47:57 ID:AbK5D5zK0
――A.D1995
「今更やめることが出来ないのは見ればわかるじゃない。魔化魍の事を知ってしまっては戦うしかないじゃないの!」
――冬木風花
「冷たい言い方だが、猛士というのはああいうものだ」
――朱鬼
「吹雪鬼かッ!?」
――荒鬼
「アンタ達、待ちなさいよ!こんな事するからみんな死んじゃうんでしょう!!」
<伝説>
「こいつは……鬼だッ!!」
<覚醒>
「間違いない……あの時の鬼だ」
「あの少女か!?」
<再会>
再会は躍動する魂 解き放て吹雪鬼!

―― 仮面ライダー鋭鬼 十二之巻 ――
「 仮面ライダー吹雪鬼 壱 〜鬼を継ぐ者〜 」
369響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」 :2006/03/10(金) 00:08:21 ID:XX17xu9d0
2005年 晩秋

夕暮れの空を見つめながら、ヒビキは何かを「知った」顔をしていた。
ヒビキの肩に乗るのは、コガネオオカミ。何かをヒビキに知らせに来たのだろう。

「・・・そうか。わざわざありがと、な。
ザンキさん・・・・いや、財津原さん。今までありがとう・・・ございました。」


ヒビキはそう言うと、無言で空へ向かい
見得を切った・・・


響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」
370響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」:2006/03/10(金) 00:08:54 ID:XX17xu9d0
「もうすぐだねぇ・・・卒業式」

夕焼けの帰り道、中学生として学校に通うのもあと3ヶ月となったある日。
みどりの不意な言葉に思い出す仁志。

−そうだよな・・・俺、どうすんだろ。これから−

「仁志君はどうするのか決めてる?将来の事とか・・・ほら、やっぱ高校に・・・」

−高校・・・か。それが無難だよな・・・でも。−

「でもさぁ、仁志君。最近塾にも行かずにどこにいってるの?バイトしてるって聞いたけど・・・ねぇ、
聞いてる?ねぇ?」

「あ、いや・・あぁ。ごめん、ちょっと考え事しててさ。
バイトは、まぁ〜その。俺的には社会学習?みたいな」

夕暮れの中、仁志は1ヶ月前のある少年との出会いに思いを馳せていた・・・
371響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」:2006/03/10(金) 00:15:46 ID:XX17xu9d0
1ヶ月前− 浅草の書店

参考書を買う学生の中、一人呑気に漫画を立ち読みする仁志。

「ぷっ・・・あはは・・・ってうわぁ!!」

つい、漫画の内容に笑い転げ横の棚に肩をぶつけ本を落としそうになる・・・が。

「よっ・・・と。」

余裕で落ちそうになる本をキャッチし棚に戻す少年。
年頃は仁志と同年代だろうか・・・

「危なかったね・・・ほら、そんなところで立ち読みなんかして。
大丈夫?怪我はないみたいだけど。」

同じ年頃・・・だが、少年は仁志にはない「何か」を持っている気がした。
それが「何」なのかはその時の仁志には朧げにしか分からなかった。

−この人と話がしてみたいな・・・なんとなくだけど−

「あ、あの・・・ありがとうござ」

しかし、少年は既に書店の出口を出た後だった
372響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」:2006/03/10(金) 00:26:49 ID:XX17xu9d0
休日だけあって浅草の街は賑やかだった・・・すれ違う人々の笑顔に
仁志は癒されていた。

そう、彼らを見かけるまでは。

「おい、あいつ・・・楽人のダチじゃねぇの?」

「そうだよ・・・あいつだ。」

仁志は前から歩いてくる少年達に見覚えがあった・・・そうだ。
楽人を誘って暴力を振るっていた不良達。
怖くて何も出来なかった、あの時を思い出す。

「おい、お前・・・ちょっと来いよ。
なぁ?忘れたなんて言わせないよ。」

「そうだよ、ね?遊ぼうよ、ちょっと・・・」

仁志は、逃げたかった・・・でも。
−今、逃げたらあの時と同じじゃないか。-

「嫌だ!!・・・俺は逃げない!!」

373響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」:2006/03/10(金) 00:27:19 ID:XX17xu9d0
仁志の叫び声に、不良達は驚き、同時に不快になる。
おとなしく従うはずの「カモ」が反逆してきたのだから。

「はぁ?なんだよ・・・こいつ。ムカつかね?」

「ここでやっちゃおうか・・・」

言葉が投げ終わる前に飛んできた拳。

それは仁志の頬を抉った。

「う・・・うぁ・・・い、イテッ・・」

頬を抑え、地面に突っ伏せる仁志。

「ハハ、威勢がいいのは口だけかよ。じゃ、2発目・・・」

仁志が目を瞑り痛みを覚悟した瞬間、聞こえた声。それは、

「な、なんだよ!!お前、離せ!!お、おい!!こいつ何とかしろ!?」

仁志が目を瞑っていた間、不良達の泣き声と悲鳴が聞こえる。
そして、目を開いた仁志の前にいたのは・・・逃げ帰る不良達と
先程書店で自分を助けてくれたあの少年だった。
374響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」:2006/03/10(金) 00:31:00 ID:XX17xu9d0
「大丈夫?派手に殴られたみたいだけどさ。」

少年は自分の顔に出来た傷も気にせずに仁志を気遣う。

「その・・・傷。もしかして?」

少年は口の切り傷を唾を付けて叩くと手を目の位置にし
「敬礼」のポーズのような格好で言った。

「鍛えてますから」

と。

それが仁志、のちの響鬼と

蔵王丸、のちの斬鬼の出会いだった。


響鬼序伝 参乃巻 「出会う師」(前半 終)
375ZANKIの人:2006/03/10(金) 09:36:42 ID:wsoA7rL50
一行で感想を
>351
ありがとうございます。先代の目的は謎にしときましょうw
>鋭鬼SSさま
こっち初投下ですね。乙です。イナバウアー…w
>響鬼序伝さま
中三までに蔵王丸を立派にしますw

376竜宮:2006/03/10(金) 13:35:17 ID:6CKoYRSo0
>鋭鬼SSさま、ファンです。
いやあ、あいかわらず駄洒落がHighで
良いお話ありがとうございました。続きも平穏にはいかなさそうですね。
しかも挿絵付(笑)!
>剛鬼SSさま
 成美さんといい感じですね♪鬼さん達には皆幸せになってほしいです。
>高鬼SSさま
 きっとボウケンは太陽の塔があの顔で見守ってくれたことでしょう。
 イメージソング「間宮海峡冬景色」あいかわらず冴えてますね。
 この域の替え歌に達したいものです。
 しかし、勢ちゃんがかわいそうです(笑)
 次の投下で1行だけお借りします。
>ZANKIの人様
 それだけZANKIさんが魅力的ってことで。
 蛭子がいじらしくてかわいいですね。嫁にほしいです。
 無理に古文体にされなくても、今の語り調子が読みやすくて好きです。
>響鬼SSさま
 なんだか明日夢君に見せてあげたくなる光景ですね。 
付け合せ程度ですが、単発投下します。
377竜宮:2006/03/10(金) 13:41:48 ID:6CKoYRSo0
「桜色」

 蛇ににらまれた蛙。
今まさにその状況に置かれているのだろう。にじり寄ってくる柔らかな腕。
ほわんと開かれた唇。分かっていながらも、その場から逃げさることは
できないのだ。両腕でずりずりと体をひきずりながら、獲物をすでに眼中に
収め、もどかしいほどゆっくりと迫ってくる。
 さわさわと風が山の葉を揺らす。午後のやわらかな日差しが縁側から
差し込んでくる。
 最期の時を迎えるには美しすぎるほどに。 
378竜宮:2006/03/10(金) 13:48:48 ID:6CKoYRSo0

カプッ

 今日の攻撃はいきなり丸かじりだった。赤ん坊の歯のない口がぐいぐいと
ニビイロヘビの頭をくわえ、この世にこれ以上美味しいものがあっただろうか、
いや無い、といわんばかり。引っ張り、よだれまみれのディスクアニマルから
嬉しげに口を離すと、小さな手で胴体を振り回しだした。左右に投げ落とし、
大旋回、小さな手で性格にのど元に打ち込まれる天使の笑顔ラリアット。
そして究極の柔らかさで繰り出される最終奥義、自分まで海老ぞりバックドロップ!!
 だが今日は技は決まらず、つるりと滑った赤ん坊が、こてん、と床に後頭部を
ぶつけると、きょとんとし、それから痛さとわけのわからなさに泣き出した。
 いつものことながら、ニビイロヘビは頭をすりつけたり、鳴いたり、
さっきまでの仕打ちを忘れ、火のついたように泣く赤ん坊をあやしだした。
379竜宮:2006/03/10(金) 13:54:22 ID:6CKoYRSo0

 ぱたぱたと廊下を歩いてくる音がした。
「あらあら」
 品良く着物を着こなした彼女が、赤ん坊を抱き上げ、それからニビイロヘビも
抱え上げた。
「伊織、また、やんちゃしたんやね。そら、もう泣かんとき。ニビちゃんが
心配しとるよ。」
どこか息子に似たやさしい面差しと暖かいやさしい胸。抱き上げられると
ニビイロヘビも赤ん坊も心地良く、眠たくなってくる。
伊織はニビイロヘビを抱きしめながら、もう片手の親指を吸い出し、眠そうに
揺れだした。
「お布団まで連れて行ってあげるからね。今度はいっぱいお昼寝してな」
眠気で温かくなった息子の背中をさすりながら、軽やかなお喋りが続く。
380竜宮:2006/03/10(金) 14:05:57 ID:6CKoYRSo0
「あんたもありがとね。いつもお客さんの相手でかまってやれんから、
ええ遊び相手になってくれて。今日は壊されんかってんね。良かったね。
あんたが丈夫で、口に入れても安全やから頼りになるわ。
賢うがまんしてくれて感謝しとるんよ」
 布団の敷かれた部屋に運ばれると、ニビイロヘビの大好きな鬼がいた。

「なんや、今日は無事やったんか」
布団の中で寝息をたてる息子の腕から、そっとニビイロヘビを外し、
抱き上げてくれた。
「どうや、一緒にお茶漬けでも食うか?」
シュルシュルと滑り上がると、伊織の父親はニビイロヘビの頭や体を
撫でながら無事かどうか確かめてくれた。
「子守が仕事やないのに、すまんな。けど、子供の内からお前らと
仲良うするのも修行の一つやと思ってこらえたってや」
「子供の指は小さいから、つなぎ目に変に打ち込んでしまうもんな。
よだれだらけになって悪いなあ」
 そう言いながらも全然すまなそうではない。手ぬぐいでニビイロヘビの
全身を拭くと、自分の膝に子供を乗せるように、ぽんと置く。
「こんな天気の良い日には、きゅっと酒でも飲みたいなあ」
「旅館は年中無休やよ。晩酌で一本付けてあげますから、今はお茶で
がまんしといて」
 女将である母親が、少ない休暇の夫に茶を運んできていた。
「伊織の面倒も見んと、兄ちゃん達はどこに行っとる?」
けらけらと彼女が笑った。
「高鬼さんが鍛えてやるって、今頃山歩きさせられてますよ。
そのうち千本桜の奥千本まで走る予定らしいよ」
「そりゃあ、兄ちゃん達も大変やな」
381竜宮:2006/03/10(金) 14:17:00 ID:6CKoYRSo0
付け合せの奈良漬けをぽりぽりとかじりながら、ニビイロヘビの頭を撫でる。
たっぷりと酒粕に漬け込まれた野菜から、かむ度に芳醇な香りが漂う。
寝息をたてる息子の顔を見ながら、やさしく、その小さな指をつまむ。
「伊織、お前や兄ちゃん達は、どんな鬼になるんかなあ」
「向いてなかったら、かわいいお嫁さん連れてきてくれれば、旅館の仕事を
みっちり仕込んであげるわよ。勢地郎さんのとこの、しっかり者の香須実ちゃんや
伊織と同い年の日菜佳ちゃんやったら可愛いし、言うことあらへんわ」
「お前、まだ皆赤ん坊やのに、むちゃくちゃ言うな。そやけど、ニビイロヘビに
技をかける姿は、あれ、なかなか鬼の素質有りやぞ」
「親ばかやねえ。ねえ、ニビちゃん」
 彼女がニビイロヘビの前にも湯呑みを置いた。
ディスクアニマルに食事の習慣はない。
「気持ちだけね」
 湯呑みの中に、桜の花が花開いて浮かんでいた。
「桜茶やな」
「もうすぐ鬼の宴会やからね。ちょっと先にお祝い気分やよ」
「あれは会議やぞ。厳粛なもんやからな」
「はいはい。お酒も料理もたっぷり用意しときますよ」
食べ終わった食器を盆に提げると、夫達を残して部屋を出て行った。

 この鬼はあまり喋らない。ニビイロヘビも黙っている。
塩漬けされていた桜葉が湯にたゆとう。桜葉の香りを楽しみながら、
そっと赤ん坊の寝顔を見守っている。それだけだ。
茶をすすり、まどろむ。
 それもまた大切な思い出となっていくのだろう。
                         おわり
382竜宮:2006/03/10(金) 14:20:01 ID:6CKoYRSo0
追記
 タイトル「桜色」にするの忘れてました。暦で魔化魍の出ない日って、
どんな計算なんでしょうね。いつごろなのかなあ。
 イブキさんのお父さんがまだ現役のころにしたかったので、
高鬼SS様、高鬼さん貸していただきました。ご了承お願いします。
383名無しより愛をこめて:2006/03/10(金) 15:56:47 ID:WEgc+p2n0
年中行事さんの話でもそうでしたが、なんとなく
伊織ぼっちゃん=春風駘蕩ってイメージですね。
威吹鬼=疾風との対比がいいんでしょうね。
なかなか得がたいキャラだと思うな。好きですよ。

まあ、私の一押しは中年の星、サバキさんなわけですが……。
よみうりランド行きたいよう。
384ZANKIの人:2006/03/10(金) 16:52:59 ID:wsoA7rL50
―ZANKI―
ホットドックプレスが初体験ネタを特集する時期−夏。
そんな時期にザンキはバケネコを退治に浅間山に来ていた。
「今日こそは太鼓なんですね。」「ああ、そうじゃないと無理だ。」
二人はカエルの跡を追いながら、静かな森の中を歩く。
「なんで太鼓じゃないと駄目なんですか?」「ああ…それはな。…?!」
良いタイミングで朽ち果てた神社に出る。そして現れるバケネコの童子と姫。
「毎度、都合よく現れる…?!」しかし、ザンキは周りにいるバケネコの数に驚く。
「ザンキさん!この量は!」「参ったな、二十はいるな…。」
この数で素早い連携攻撃をされては例えザンキでもひとたまりも無い。
「仕方ない…。」ザンキは鬼弦を静かに三度弾く。「…今日だけ特別だ。」
いつもと違い三度、落雷を受ける斬鬼。落ちた雷は斬鬼の体を包み込み金色に輝く、
そして、その輝きが消えていくと、同じ様に斬鬼の姿も消えていった。
「…消えた!?」目の前の事態が信じられない蔵王丸。
「完全に消えてる訳じゃない。光の屈折等から位置を把握されてしまう。
だから、俺は高速移動と組み合わせ、殆ど見えない状態にする。名づけて…。」
蔵王丸の目の前を何かが移動した。次の瞬間、激しい太鼓の音と共に吹き飛ぶ童子。
「斬鬼…幻狼…だ。」
吹き飛ぶ爆音が戦闘開始の合図となり、バケネコたちは臭いを頼りに攻撃する。
しかし、通常の三倍で動く斬鬼にはその動きは遅く、例え大勢でも避ける事は容易い。
「…当たらんよ」素早く音撃鼓を取り付け、激しく叩く。
エコーがかかった様な太鼓の音が聞こえると、一匹、また一匹とバケネコは次々に消滅していく。
「すごい、数発で倒せるのか…。」「違うな、一発に聞こえるが正確には三発だ。」
突如横から聞こえる斬鬼の声。「え!?」「じゃ、続きをやって来る。」再び目の前を横切った。
そしてバケネコは誘爆されるかの様に次々と爆破していく。
その様子に興奮を隠せない蔵王丸。改めて斬鬼の強さを認識させられた。
「すごい、これが斬鬼・変態か…すごい!変態すごい!変態最高!斬鬼・変態万歳!」
「変態じゃねぇ!!」ガガガン!通常の三倍速でぶっとばされる蔵王丸であった。

1レスだとバトルがうまく書けないので続く。
385高鬼SS作者:2006/03/10(金) 16:57:12 ID:sc5RnLy90
>>382
いえいえ、他の職人さんのキャラを使ってばっかりだったので、逆に使っていただいて嬉しいです。
微笑ましいお話でしたね。
こちらではミチビキさんは関西弁を喋っていますが、うちでは標準語で続けさせていただきます。
下手に間違った言葉を使うとカッコ悪いんで…。
しかし奥千本まで走らせるとは…。相変わらずとんでもない人だw
386ZANKIの人:2006/03/10(金) 16:57:46 ID:wsoA7rL50
とりあえず設定
音撃鼓「斗雷」Try!やってみろ!
音撃棒「雷王」Light All!すべてに火をつけろ!
音撃打「疾風迅雷」Sweep GinLyme ジンライムをどかしてください。

ステルスフォームの原理
「説明してもいいけど、普通の人には理解できないな。」ザンキ談。
強い電磁気力と相対性理論と細木数子が関係してるらしい。
387高鬼SS作者:2006/03/10(金) 16:58:44 ID:sc5RnLy90
うおっ、間に入ってしまったか!
すいません!
388竜宮:2006/03/10(金) 18:27:12 ID:6CKoYRSo0
>高鬼SSさま
 ありがとうございました(^。^)
 わたしも奈良言葉は分からないのでエセ関西弁ですが、
なんとなくほわほわした話を投下したかったので。
 高鬼さんは何をしていただいても大丈夫なような心強さがありますね。
>ZANKIの人様
 天然口撃少年蔵王丸が渋く無口になる日は、来るのがもったいないですね。
 変態最高!
389裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:05:55 ID:2OpH2aMsO
六之章『指切り』

2011年。
霧雨の中、必死で後を追う明日夢に構わず、キョウキは木々の間を駆け抜けて行く。
茜鷹を再生した時、鍛えられたキョウキの聴覚は、音撃弦の振動音を捕えていた。
「どうしたんだよ!? 急に走りだして!!」 「裁鬼さんだ! 裁鬼さんが居たんだよ!!」
キョウキは装備帯から変身音叉を外して展開し、すれ違い様、杉の幹を叩いた。銀色の背中は、追い続ける明日夢の瞳の中で小さくなっていった。
思考、言語、感情、記憶、そして自我―― 全てを失っていた裁鬼の視界に、何かが滑り込んできた。
「俺は、イチゲキさん達みたいに甘くない! 覚悟して下さい!!」
両手にヒビキから受け継いだ烈火を構える響鬼〈キョウキ〉も、今の裁鬼には、魔化魍滅殺を邪魔する存在でしかなかった。
10分後、明日夢は漸く響鬼の戦闘場所に追いついた。しかし、そこには烈火・阿が転がり、岩を背にした響鬼が、肩口から鮮血を流していた。
裁鬼は修羅と成っており、肩、肘、踵の角を縦横無尽に操り、容赦無く響鬼の身体を切り刻んでいった。
「響鬼!!」
振り下ろされた釈迦を、明日夢から投げ渡された烈火・阿で受けるが、衝撃を吸収できず、遂に膝を着いた。
響鬼の頭上に構えられた閻魔から、赤い炎が噴き出る。
顔の変身が解かれたキョウキは、一瞬、逃げ出したくなった。しかしヒビキの弟子であった事がその気持ちを振り払う。
右の鬼爪を伸ばし、目の前にいる裁鬼・修羅の腹に突き刺した。
「うっ!?」
引き抜いた鬼爪の先端は、黒く焦げていた。同時に、繋ぎ止めていた意識が切れ、キョウキは倒れた。
躊躇い無く、閻魔が振り下ろされる。
「キョウキ――!!」
明日夢の叫びが、閻魔をキョウキの頭上5センチで停止させた。
裁鬼・修羅は明日夢を見た後、音撃双弦を装備帯に戻すと、足元で倒れているキョウキに視線を向けた。
「さ…… 裁鬼さん……」
明日夢の呟きを無視し、修羅を解いた裁鬼は闇に消えた。
日付が変わった頃、ベースに到着したゴウキとフブキは、明日夢に応急処置を施され、眠っているキョウキの痛々しい姿に、言葉を無くした。
390裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:07:06 ID:2OpH2aMsO
1985年。
春の日差しが、寺田家の桜の樹を照らしている。満開の花弁はそよ風に揺れ、その一枚が、朝の散歩から帰ってきたテンキの掌に降りた。
「……もう、春じゃな。 さて、朝飯にするとしよう。」
さくらが盛る茶碗を受け取り、サカエはソンジに醤油を取って貰う。テンキが、読み終えた新聞を畳む。
いつもと変わらぬ、午前7時の茶の間。
唯一、サカエとソンジが、2月から装備した変身鬼弦に依り、常に身体を変身させている事だけが、一般家庭には無い異様さを醸し出していた。
「さて。 今日からは、コレの扱い方を伝授するとしよう。」
寺田家の庭で、テンキは木箱から音撃棒を取り出した。黒い柄に赤い鬼石のものと、白い柄に青い鬼石のものだった。
「……」 「……」
「ホレ、早々と取らんか。」
しかし、サカエとソンジは両手を下げたままだった。
「師匠。」 「なんじゃ、サカエ。」
「……何で、弦も管も、2つずつ持ってるんですか?」
ソンジの問いに、テンキは暫らく考え、顎髭を撫でながら答えた。
「……格好が付くからじゃ。 ホレ、早々とせんか。」
年明けから弦を習わされた二人は、その日から太鼓の技を身に付ける事に汗を流した。
二人はテンキに、いつになれば独り立ち出来るのかと訊いたが、テンキは具体的な答えを明かしてくれなかった。
無論、一人前の鬼に成る為には、一人で魔化魍を倒さなければならない。
昨年に続き、テンキは関東の魔化魍を全て倒してはいるが、その数も8体。二人は音撃弦を手に、この3月、ヌリカベの童子と姫を任されただけだった。
二人が音撃棒を手にしてから、1ヵ月が過ぎようとしていたある日。テンキ夫妻は買い物に出掛けており、サカエ変身体とソンジ変身体は、葉桜の下で互いの音撃棒で組み手をしていた。
週6日、朝起きてから、夕方風呂に入るまで変身していれば、自ずから鬼の身体に馴染められる様に成り、人間の限界を超えた動きが出来るのも当然だった。
但し、顔の変身を伴うと、体力消費量は倍増する。その為、音撃武器で組み手をするのは、変身しない日の前日と定まっていた。
4月の対戦は、互いに2勝2敗。5月の初白星を得るのは自分だと、二人は激しく攻防を繰り返した。
391裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:08:33 ID:2OpH2aMsO
ソンジの振り下ろしが、サカエの音撃棒を弾き飛ばした。
「……俺の、勝ちだな!」
サカエの頭上で手を止めたソンジの喉元には、鬼石が突き付けられていた。
「……相討ち、だろ?」
仕切り直そうと離れた二人は、塀の向こう、隣家に落ちた音撃棒に気付き、「やばっ!!」と声を揃えた。
「取ってくる!」
「ああ、早くしろよ。 ……って、おい、サカエ!」
ソンジ変身体の声が届かぬ内に、サカエは鬼の顔と身体のまま、寺田家の門を出ていってしまった。
「すいませ〜ん!」
裏庭へ、隣家の母屋の角を曲がったサカエは、音撃棒を手にこちらを見たまま、静止した少女と目が合った。
「キャ――!!」
「ま、待て! 怪しいモンじゃない!!」
慌てて素顔を見せようとしたサカエだが、一気に全身の力を緩めてしまい、生まれたままの身体に戻ってしまった。
「キャ――!!」
「しまった!! ……おりゃっ!!」
鬼弦を弾き、再び変身しようと赤い炎に包まれたサカエに、少女は三度悲鳴を上げた。
「何やってるんだ!?」
駆け付けたソンジは、変身を解いた顔で、両手で目隠しをしていた少女と、頭を掻くサカエを交互に見た。
「カッカッカッ!」
夕方、朱に染まる山々に、テンキの笑い声が響いた。
「度し難い事じゃが、まぁ良い。 此処等の住民は皆、鬼の事を知っておるからな。」
自分の幸運に感謝しろと言われたサカエは、すいません、と頭を下げた。
山菜採りから戻り、風呂と夕食を済ませた二人は、いつもの様に縁側で自由時間を潰していた。
「……葉っぱ描いてて楽しいか?」 「それなりにな。」
音撃棒の手入れをするサカエと、葉桜のスケッチをするソンジ。玄関で、回覧板ですと声が聞こえた。
それから数分後、さくらに呼ばれた二人が茶の間に入ると、昼間の少女がテンキと談笑していた。
「あ。 こんばんは!」 「……こんばんは。」 「こんばんは。」
「済まんだな、ハル。 まぁ大目に見てくれぃ。」
「いえ。 私こそ、大声出しちゃって…… ごめんなさい。」
ハルと呼ばれた少女は、サカエとソンジに頭を下げた。
392裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:09:58 ID:2OpH2aMsO
「篠田春香です。 ずっとこの村に住んでたんだけど、暫らく街に居て…… 昨日、帰ってきました。」
テンキに促される前に謝り返した二人は、そのまま卓袱台を囲み、さくらも交えて1時間程話した。
「ハル…… ちゃんは……」
呂律を鈍らせるサカエに、春香は笑って言った。
「言い難いかな?」
「照れてるだけだよ、コイツ。」
ソンジにからかわれ、サカエは必死で否定した。
「違うよ! ……ハル、ちゃんは、中学生? 15歳ぐらいかな?」
春香は一瞬唇を噛んだが、直ぐに笑顔に戻した。
「ひどいなぁ。 ……これでも高3。 二人と同い年だよ。 でも、若く見られるのは…… 長所かな。」
笑みを絶やさぬ春香に、さくらが頷いた。柱時計が9時を告げ、遅くなってしまったと舌を出し、春香はテンキ夫妻に礼を言って帰っていった。
テンキが、明日は珍しく完全休養だと言い、二人は喜んだ。

サカエはテンキの釣り竿を借り、川原で穏やかな時間を過ごしていた。川の岸辺を急き止めた水溜まりの中では、数匹の岩魚が泳ぎ回っている。
ソンジの様に、時間を忘れる程没頭出来る趣味ではないが、他にする事も無く、川のせせらぎや木々の騒めき、小鳥の鳴き声を感じながら、欠伸を一つした。
「大漁だね。」
体育座りをした春香が、隣に居た。何時も周囲の気配を感じていたつもりだったが、サカエの苦い顔は気を抜き過ぎていた事にだけ依るものではなかった。
「……学校はどうした?」
「今日、日曜だよ。」
昨晩よりも親しげな口調で、春香はサカエに質問した。
「訊いていいかな? ……サッちゃんは、何で鬼に成ろうと思ったの?」
「……別に。 ソンジに訊いたら良いだろ?」
春香は、唇を尖らせて言った。
「邪魔しちゃ悪いもん。 ソンジ君は、絵が好きなんだね。」
小さな溜息をした後、サカエはテンキとの出会いを話した。
「親が居ないってだけで、周りから除け者扱いされてる気がしたんだ。 ……でも、それは間違ってた。 俺は、何でも人のせいにして、逃げてただけなんだよ。」
393裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:11:24 ID:2OpH2aMsO
真昼の太陽に煌めく水面を、五月の風が揺らす。おとなしくなった岩魚が、小さな気泡を出した。
「……ごめん、嫌な事訊いちゃったね。」
気にするなと言ったサカエに、さくらの作った握り飯を渡した春香は、寂しげな表情で去ろうとしていた。
「……なあ、ハル、ちゃん。」
振り向いた春香に、サカエは釣り竿を立て、釣り上げた岩魚を見せた。
「……食ってくか?」
持ち合わせていたマッチと新聞紙、手際良く集められた枯れ枝が揃うと、焚き火が完成した。
焼き上がるまでの間、サカエは春香に訊ねた。
「……なあ。 時々、悲しい顔してるだろ? 何でなんだ?」
串焼きの岩魚は、無意味な視線を春香に送っている。
「うん…… この辺、友達も居なくて、お父さんとお母さんは、麓の木材工場をしながら、『歩』の仕事をしてるの。」
中学に入った頃から、いつも自分が一人ぼっちの様な気がしたと、春香は俯いた。
「学校じゃ、友達と話したり、普通なんだけど…… 自分の部屋で、盲腸で倒れた時にも…… 苦しかったのに、誰も傍に居てくれなくて……」
畑仕事をしていた祖母の発見は遅く、気の沈みと共に、あまり丈夫でない春香の身体は全快に5ヵ月を要した。
「テンキさんとさくらさんには、小さい時から遊んでもらってたんだ。」
弟子を取ったと聞かされ、春香はテンキの邪魔になると、寺田家に足を運ばなくなっていたと言う。
「悪い事したな……」
焼けた岩魚を、サカエは差し出した。
「ううん、サッちゃんは、何も悪くないよ。 ……悪いのは、勝手に一人ぼっちだって決め付けて、俯いてた私。 サッちゃんやソンジ君の方が、寂しい思いをしてたのに……」
止まぬ風が、煙を川の方へ運んでゆく。
「……じゃあ、俺達の傍に居ろよ。 修業って言っても、最近は山で鍛えたり、庭で組み手してるだけだからさ。 師匠も駄目って言わないだろうし。」
首を横に振るが、岩魚を手渡したサカエは、そのまま春香の肩を掴んだ。
「悲しい顔…… すんなよ。 友達だろ? 一人ぼっちじゃないよ、俺もソンジも、ハル…… ちゃんも。」
394裁鬼メインストーリー最終章:2006/03/11(土) 02:13:38 ID:2OpH2aMsO
うっすらと涙を浮かべた春香は、サカエの瞳を見つめる。
「……友達? 友達に成ってくれるの?」
「ああ。 だから、一人の時、悲しい気持ちになったら、いつでも来いよ。」
サカエは、小指を立て、春香の前で曲げた。
「約束するから、泣くな。」
絡まった小指を解いた後、笑顔の春香にサカエは訊いた。
「……で、サッちゃんって、俺の事?」
「うん。 佐伯栄だから、サッちゃん。 ……サッちゃん、もしも、ちゃん付けが嫌だったら、私も好きな様に呼んで。」
結局、サカエは春香を呼び捨てにした。

2011年。
裁鬼捜索の行き掛け、たちばなに寄ったイチゲキと春香は、おやっさんからキョウキ重体の方を聞いた。
頭を下げる春香だが、イチゲキとヒビキは、裁鬼が明日夢の声に反応した事に、希望を抱いた。
「まだ…… 間に合いますね。」
「ああ、サバキさんは、サバキさんだよ。」
入り口を開けたイチゲキを呼び止め、ヒビキは言った。
「最近、童子達が武者に成ってるだろ? 用心に、これ持っていけ。」
イチゲキは、装甲声刃を渡された。

六之章『指切り』 完

【次回予告】

2011年。
洋館の男女は、武者童子達の様子に違和感を覚える。
その頃、コナユキの鬼弦を持ち出したソウキが、裁鬼の前に立ち塞がっていた。

1985年。
傷ついた雛を世話する、春香、ソンジ、サカエ。
雛を巣に帰しに行く頃、テンキは、山でバケガニの童子達を発見していた。

七之章『巡る命』
395裁鬼作者:2006/03/11(土) 02:26:28 ID:2OpH2aMsO
まとめサイト管理人様、毎度の更新ありがとうございます。

>コラボ企画

面白そうですが、各作品中での、『自然な』クロスオーバーの方が、このスレッドらしいかな、と思います。逃げてすみません。

>各作者様

当方の裁鬼話、商品でも何でもありませんので、使える部分はどんどん使ってやって下さい。
396ZANKIの人:2006/03/11(土) 10:42:16 ID:gmfF9a3B0
―ZANKI―
「困るんだよね。この営業成績じゃ…。」髭を生やした太った河童は言った。
それを聞き申し訳なさそうに下を見つめるだけの痩せた河童の河太郎。
「これから夏にかけて人間が増えるんだからさ、もう少し気合をいれて…。」
毎度聞かされる説教にはすっかり慣れてしまい、もはや、念仏にしか聞こえない。
しかし、今日は河太郎を驚愕させる一言が上司の口から発せられる。
「今月中に人間を一人殺さないとクビだからな!」「え!クビ!」
河太郎はトボトボと部屋を出ると、川原で一人寂しくきゅうりを齧る。
同期で入社した河童は自分を追い抜いてどんどん出世していく。取り残されて行く自分が情けない。
経理を希望してたのに人数の都合で営業に回され、やりたくもない仕事ばかりやってきた。
もし、自分の希望する部署に配属されていれば…そんな事を思う河太郎。
「河太郎くん!」ふと声をかけられ振り向くと、会計課の河子ちゃんの姿。
「また、怒られたの?」河太郎を気遣い声をかける河子。
「…うん、オラ、やっぱり営業向いてないよ…。」
「どうして?」「だって、人間なんて殺せないよ。血を見るが嫌いだし、
それに下手に襲うと鬼にやられちゃうじゃん…。」しょんぼりとする河太郎。
「河太郎くんは優しいからね…人を襲うなんて無理かもね…。」
同期入社の河子は河太郎の優しい性格を知っていた。
「オラ、もう遠野に帰ろうかと思う…」「え!」いきなりの言葉に驚く河子。
「人を襲うなんてできないよ…田舎でヒッソリと暮らすよ…。」
バシン!いきなり張り手が河太郎を襲う。
「馬鹿!ここでやめたら、ただの負け河童よ!」「でも、オラには人を…。」
河太郎の瞳をじっと見つめ河子は言う。「なら、一人だけでいいから…。」「え?!」
「一人だけでいいから人間を襲ってみなよ?それからやめても遅くないんじゃないの?」
どうせやめるんだから…そんな投げやりな気持ちが河太郎に決断をさせる。
「わかったよ、俺、最後にがんばってみるよ。」その言葉で河子は顔がほころんだ。
河子さん!母ちゃん見といてくれ!オラがんばるよ。
沈む夕日を反射する頭のお皿は、河太郎をより一層輝かしていた。

わけのわからん展開なので続く。
397響鬼序伝 参乃巻  「出会う師」 中編:2006/03/11(土) 23:22:06 ID:mBPUhtUd0
「へぇ、君・・仁志って言うんだ。
俺は財津原、財津原蔵王丸。まぁ、宜しく。」

手を差し出された仁志。そして、その手を握り返す。

「ざ、財津原・・・蔵王丸。え、あぁ。宜しく、あ・・・さっきは
助かりました。ホント、いや、ほんとに。」

仁志の顔の傷を見て、なにやら歩き出す蔵王丸。
それに連られ蔵王丸の後をついていく仁志。

「さっきは大変だったね・・・まぁ、生きてりゃ色々あるけさ。
どう?気分転換に。俺の行き付けの場所があるんだけど?
お茶でもどうかな。」

行き付けの場所・・・仁志はお茶、食べ物という言葉にすっかり
切り替えが出来たようだ。

「あ、行きます!!俺、ちょうど腹へってたし・・・」

仁志の立ち直りの速さに頬を緩める蔵王丸。

「君、変わってるな・・・・でも、いい性格してるよ。」

蔵王丸が向かった行き付けの場所、そこは・・・

398響鬼序伝 参乃巻  「出会う師」 中編:2006/03/11(土) 23:22:48 ID:mBPUhtUd0
「いらっしゃいませ・・・ん?どうしたんだい?蔵王丸君。
今日は友達と一緒かい?」

和風作りの茶屋から現れた男性。
年頃は30代だろうか、眼鏡をかけ落ち着いた印象を持っている。
彼が若かりし頃の立花勢地郎である。
蔵王丸は戸惑った表情で

「いや・・・まだ、その。なんていうか・・」

蔵王丸の言葉を遮るように、元気のよい声が聞こえる。

「はい、友達です!!っいうか俺の師匠かな?
ってか、さっきあったばかりなんですけど。」

仁志の不意な声に戸惑う蔵王丸に対し、つい笑いを堪えられない様子の勢地郎。

「ハハ、いやぁ〜君。面白いねぇ。珍しいよ、こんな子は。」


別れがあれば、出会いもある。後の仁志の人生を決める大きな岐路が
ここに、あった。
399響鬼序伝 参乃巻  「出会う師」 中編:2006/03/11(土) 23:37:05 ID:mBPUhtUd0
「そうか・・・君、よく逃げなかったね。偉いよ、うん。」

勢地郎は蔵王丸から仁志との出会いの経緯を聞き、妙に感心していた。
自分はただ、殴られただけで、何も出来ていない。なのに、何故それが
”偉い”のか?

「あの・・・俺、別にあいつ等を負かしたわけじゃないし。
それに、殴られるのはやっぱ痛いし、怖いし・・・」

勢地郎は笑みを浮かべ、首を横に振る。

「うん・・・確かに君は何もしなかった。だけど、逃げなかったじゃないか。
どんなに苦しいことがあっても、辛いことがあっても。
そこから逃げてしまうのと、立ち向かうのとじゃ全然違うことなんだ。
君は、もっと自分を信じてあげるべきだよ。」

勢地郎の言葉に、仁志は不思議な感情を覚えた。
それは、「憧れ」でもあり「安らぎ」でもあったのかもしれない。

「自分を信じる・・・」

蔵王丸も静かに笑顔で頷く。

「そうさ、自分を信じれば少しずつでも、きっと強くなれる。
自分自身を信じて鍛えれば・・・ね。」

−ドン!!ドドン!!−

不意にたちばなの扉を叩く音・・・一瞬で蔵王丸の顔が青ざめる。

400響鬼序伝 参乃巻  「出会う師」 中編:2006/03/11(土) 23:38:01 ID:mBPUhtUd0
「まさか・・・”あの人”が来たんじゃ。」

勢地郎も張り付いたような笑みで語る。

「あ、あはははは・・・早かったねぇ〜。
ひ、仁志君。これから少し変な人が来るけど気にしないでね、ね?」

2人の明らかな動揺に不安を覚える仁志。
そして、勢いよく禁断の扉は開かれた。
現れたのは異人の男性。

「おい!!蔵王丸!!今から修行に・・・ん!?」

思わず顔を見合わせる、仁志と男。
身じろぎもせず、顔を見合わせる2人に息を飲む勢地郎と蔵王丸。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


長い沈黙の中。ついに口を開く、仁志。
発せられる言葉に息を呑む2人、そして対する男。

「・・・あの、鼻毛出てますよ。」

ずっこける3人。続く。
401響鬼序伝 参乃巻  「出会う師」 中編:2006/03/11(土) 23:39:23 ID:mBPUhtUd0
というわけで先代を出してみました。
ZANKI作者さん、お借りました。勝手にやっちゃってすんません(汗。
自分なりに先代さんとヒビキを絡ましてみます。
402DA年中行事:2006/03/11(土) 23:45:29 ID:qa3pQ4Du0
どたばたと仕事をしているうちに、SSがすげーいっぱい増えてるぅ〜w
目が追いつかない・・・嬉しい・・・・
高鬼SSさん、剛鬼SSさん、鋭鬼SSさん、ZANKIの人さん、序伝さん、
竜宮さん、裁鬼SSさん、皆さん乙です。みなさんの持ち味を堪能させて
頂いてます。今後も鬼さんたちの活躍をワクテカしながら待っています。
うひょー。

皇城さんも、お忙しいのかのぅ。
でも気長に次回を待っていますよ。

と、「ぽちっとな」としようとしたところでリロってみたら序章さん。
先代鼻毛でてるよ先代。
吹いてしまって膝の上の犬がビールくさいです。
あちこちのSSに先代が登場している時点で、ある意味コラボッすねw
403ZANKIの人:2006/03/13(月) 10:19:41 ID:Nu7DOSyP0
―ZANKI―
前回までのあらすじ
河太郎が人間を倒そうとがんばってます。

秩父の川原でキャンプを張るザンキ一行。DAで情報収集をする蔵王丸を横にザンキが岩井川を呼ぶ。
「岩井川いいもんやるよ。」呼ばれるままにザンキの下に来る岩井川に渡されたのは木魚。
「音撃鈴『仏滅』と音撃撥『冥土』だ。」確かに猛士のマークが入っている。
「ちょっとザンキさん適当な事言わないでくださいよ。」また悪ふざけかと思い蔵王丸は言った。
「いや、れっきとした音撃木魚だ。叩鬼と言う坊さん出身者が使ってた。」
いまいち胡散臭いので、試しに蔵王丸がポクッと叩くとDAはちゃんと起動した。
「すごい!本物だったんだ…。」「な?岩井川にはピッタリだろ?」
確かに太鼓、笛、弦を扱う岩井川の姿よりはこっちの方がしっくりくる。
「いやあ!嬉しいですね!」嬉しそうにポクポクと叩きまくる岩井川。
「しかしどんな音撃になるんですかね?」「爆裂木魚の型とか?」
ぷっ!思わず噴出す二人。
「ザンキさんたら!紅坊主の型とかどうです?」「うひゃひゃ、うまいな!」
そんな馬鹿なやり取りをひっそりと岩陰から除く河童の姿。
「…うわ、あの外国人と子供は強そうだな…。」ビクビクと様子を伺う。
例え生身の人間でもあの二人から異常なオーラを感じる…どうしようか。
しかし、河太郎はもう一人、人間がいる事に気付いた。
「あら、あんな所にもう一人いたのか?あれなら弱そうだ。」
河太郎はターゲットを岩井川に変えた。
「それじゃ、いってくるな。」運良く、強そうな二人はどこかへ消えた…。
「やった!チャンスだ!」素早く川から上がり岩井川に襲い掛かる河太郎。
果たして二人の運命はいかに!

我ながらグダグダな展開だなと思いつつ続く。
404ZANKIの人:2006/03/13(月) 12:09:15 ID:Nu7DOSyP0
あまりにグダグダになったんで一気に投下します。
405ZANKIの人:2006/03/13(月) 12:10:42 ID:Nu7DOSyP0
―ZANKI―
前回までのあらすじ…前回を見てください。

「クアー」河太郎は川から上がるといきなり、岩井川に殴りかかった。
ぺちん!不意を衝かれた拳撃だったが、メガネが跳んだだけでダメージはなかった。
「え、痛くない…そうか日頃の鍛えの成果が出ているのか!」勘違いをする。
「く!なんで効いていないんだ?!まさか、本当は強いのか!?」勘違いをする。
いつになく強気の岩井川は、なんと反撃を試みた!ぺちん!
「え、痛くない…やはり人間の攻撃なんか効かない!」強気になる河太郎。
「く!効いていないか!やはり魔化魍は強いな!」二人の戦いは続いた。
ペチペチペチ…。迫力の無い打撃音がこだまする…。
「なんで、音撃弦を忘れるんですか!」「お前も気付けよ!」そうこうしている間に、戻ってきた二人。
「あれ!?河童ですよ!」「おい!岩井川が戦ってるぞ!」
そんな驚く二人と同時に川原に現れた河子。「な!河太郎くん!?」こちらも驚く。
「ザンキさん!行かなくていいんですか?!」ザンキに加勢を促す蔵王丸。
「待ちな、どういう経緯かは知らないが、これはアイツの戦いだ。邪魔をする事はアイツのプライドを傷つける…。」
プライドがあったのか?と思いつつ蔵王丸は静観する。
しかし、ペチペチと進展しない戦いは一時間以上経過した。飽き始める二人と一匹。
「そうか河童も大変だね。」「クアクア(ええ、お互いに住み易い世の中になればねぇ)」
気付けば河子と一緒に、お茶を飲んでいるザンキと蔵王丸。
ペチン!ちょっとだけ大きい打撃?音が止まった。振り向くとクロスカウンターの形で動きが止まっている二人。
「岩井川さん!」「河太郎くん!」駆け寄る蔵王丸と河子。
顔が腫れ上がっている一人と一匹。激闘の後が深く刻まれていた。
「河太郎くん…がんばったね…」「河子さん、オラ勝てなかった…」
そんな河太郎に無言で首を振る河子、勝ち負けではない。その頑張りが何より嬉しかった。
しかし、そんな二人にザンキは『烈雷』の刃を向けた!
「なっ!ザンキさん!」慌てて止めようとする蔵王丸。
「黙れ蔵王丸…魔化魍を退治する…それが鬼だ…。」
ザンキの目はただ冷酷に、倒すべき敵として河童を見つめていた。

すぐに続く
406ZANKIの人:2006/03/13(月) 12:13:06 ID:Nu7DOSyP0
―ZANKI―
前回までのあらすじ…すぐ近くにあるんで見てください。
なお、河童語は自動的に翻訳してあります。
刃先を河子の首に近づけるザンキ。川原に異常な緊張感がはしる。
「俺は仕事を全うする…。」ガクガクと振るえ動けない河子。
しかし、そんな河子をかばい自分に刃先を向けさせる河太郎。
「やるならオラをやれ!」「河太郎さん!?」河太郎は腫れ上がった顔で河子を見つめる
「最後ぐらい好きな子の前で格好つけないと…」「河太…」河子の目に涙が溢れる…。
すると今度は河子が刃先を掴み自分に向ける…。「ならば、私も一緒に…!」「駄目だよ河子さん!」
昼ドラのような展開をする河童達、しかし、今度は岩井川がザンキの前に立つ。
「…ザンキさん…すいません…助けてあげてください。」岩井川が土下座をして河童達の命乞いをする。
「岩井川…自分のやっている事がわかっているのか?」「はい…」黙る二人。
だが、河太郎は岩井川を退かし、ザンキの前に立つ。
「あんた人間なのに良い奴だな…オラがやられればいいんだ。」覚悟を決める河太郎。
「いや!あたしが!」「いや!わたくしが!」一人と二匹はザンキの前でぐるぐると回った。
「ふ…人と魔化魍が心を交わせる事は知っていたさ…」ザンキは静かに刃を下ろした。
「ザンキさん…今までのは芝居…」驚く蔵王丸。
「ああ、こいつが人畜無害か調べただけなんだがな…まさか、友情まで産まれるとは…」ザンキは静かに微笑んだ…。
その後、河太郎と河子は、猛士がひっそりと人畜無害な魔化魍を保護している紙黄村に
引き渡される事になった。河太郎は搬送用のトラックに乗ると、きゅうりを蔵王丸に手渡し、にっこりと笑った。
「ありがとう!さようなら」蔵王丸はトラックが見えなくなるまで手を振った。
「あんな魔化魍もいるんですね…。」「倒すだけが鬼じゃない…良い勉強になったな…」
魔化魍ですら救おうとする鬼の姿に蔵王丸改めて奥の深さを知らされた…。
「これも岩井川さんのお陰ですね…あれ?!岩井川さんは?!」
「……一緒に乗せちゃった!!」「もう!」

このエピソード要らなかったなぁと後悔しつつ続く
407ZANKIの人:2006/03/13(月) 12:24:20 ID:Nu7DOSyP0
>序伝さま
お陰で先の展開が作りやすくなりましたw
408名無しより愛をこめて:2006/03/13(月) 12:40:19 ID:iEOV9kFJ0
>>391
最愛の妻との馴れ初めがストリーキング……
サバキさん超イカスカッコヨス
よみうりランドでも大活躍だったようで何より

そして明日夢とキョウキがなにげにナイスコンビで
そこはかとなく嬉しい。
409ZANKIの人:2006/03/14(火) 10:59:00 ID:FVoeYCRA0
―ZANKI―
「こんにちは。」夏休みも中盤に差し掛かり、夏休みの宿題を午前の内に片付け、
午後から「たちばな」にやってきた蔵王丸。
「あぁ、涼しいですね。」ジリジリと暑い日差しの中を歩いて来た蔵王丸にとって、
ひんやりと冷房の効いた部屋はこれ以上ない天国であった。
「あ、蔵王丸くん。ザンキが呼んでるよ。」おやっさんは客に氷あずきを出しながら言う。
「はい、わかりました。」蔵王丸は言われるままに地下へと向かった。
冷房とは違った特有の冷たさがある地下室でザンキは待っていた。
「おう、来たか。」対面に座る蔵王丸にザンキは木箱を見せる。
目の前に出された『音枷』と綺麗な楷書体で書かれている木箱。
「開けろ。」「…はい。」神々しさを放つ箱を丁寧に開く蔵王丸。
中にあったのは、ザンキも持っている変身鬼弦だった。「…ザンキさん」ザンキは音枷を手に取り言う。
「少々早いが、無理を言って吉野から送ってもらった。」「僕のですか…。」
コクリと頷くとザンキはいつになく厳しい顔で蔵王丸を見て言う。
「音枷の”枷”と言う字は、その名の通り”鎖”を意味する。これを着けると言う事は自分に鎖を掛ける事になる。
怒り、憎しみ、己の全ての鬼に鎖を掛け、自分と人の命を繋ぐ為の鎖を掛ける。
この恐ろしい程に重い鎖…付ける覚悟がお前にはあるか?」
音枷に付いている鬼の面が蔵王丸を睨む。まるで蔵王丸の覚悟を見定めるかの様に…。
「ザンキさん…僕は…」蔵王丸を不安が襲う…。
「不安に思う事は間違っていない。それ程に重い物だ…。」
しかし、蔵王丸は凛とした表情で言う。「…僕にはまだ重い鎖です。
けれど、もっと鍛えて、いつかきっと人を命を繋ぐ鎖にします…だから…僕に音枷をください。」
蔵王丸がそう答える事などザンキには分かっていた。
だが、その言葉は弟子の成長を見守る師としてはこれ以上無い程に嬉しい言葉である。
「…命を繋ぐ鎖にしようぜ。」「はい!」ザンキが音枷を蔵王丸に渡そうとした時、床を横切る影が目に入る。
「あ!ねずみ!」思わず持っていた音枷を投げつけるザンキ。
ベチャッと想像したく無い音が聞こえた…。沈黙する二人。
「…」「……洗えば使えるから!」
いきなり命の鎖は音を立てて砕けた…。

姫(芦名 星さん)が世界進出するので続く。
410名無しより愛をこめて:2006/03/14(火) 20:54:23 ID:fIbyMT1q0
とある地方都市
「まったく職人だらけのスレだな。次から次へとよくもまあ思いつくもんだ。
 こりゃあもう二次創作じゃない。オリジナルだろうがオリジナル!ええ?」
そう言いながら男はにやりと笑う。
「ふふふ…お前等、本当に『仮面ライダー響鬼』にはまっていやがるんだな。
 そうだろう……、そうだろうともさ!はは…あはははは……!!」

「あっ、こんなとこにいたんですか?本社から電話ですよ、高寺さん」



ZANKIの人さん乙です。
411名無しより愛をこめて:2006/03/15(水) 09:12:41 ID:tM+SnLs00
−新番組 予告−

愛?俺には向いてないな

夢?大してものは持ってない

義?さぁ・・・な。

だけど、俺には守るべきものがある。
それは自分自身。
自分自身の為に俺は人を守る。
ただ、それだけ。

音撃戦士 蛮鬼 近日公開。
412ZANKIの人:2006/03/15(水) 17:01:31 ID:IkLfKvtV0
―ZANKI―
まだ観光客が絶えない八月の後半−ザンキは伊豆でバケガニと戦っていた。
「音撃斬!お休み頂戴!」休みが取れずにイラついている時の斬鬼は強い。
連戦など感じさせないパワフルな音撃でバケガニを倒す。
「お疲れ様です。」顔だけ変身解除した斬鬼に近づく蔵王丸。だが、斬鬼の表情が優
れない事に気付く。「ち、今のでやっちまった。」斬鬼の鬼弦には亀裂が入っていた。
「予備が無い。しばらくは何も出来ん…。」
一応、バケガニは退治出来たので修理も兼ねて東京に戻る事にした二人。
車に乗り帰ろうとした時、海岸の岩場から悲鳴が聞こえた。
悲鳴の聞こえた場所へと向かうと、そこに居たのは倒したハズの童子。
蔵王丸が素早く釣り人を非難させると、ザンキは生身のままで童子の目の前に立つ。
「ザンキさん!鬼弦がありません!ここは引き返した方が!」
しかしザンキは顔色一つ変えずに言う「鬼弦がなくても俺は鬼だ。倒すべき敵がいるのに逃げる事なんかできねぇよ。」
ザンキは烈雷を構え童子に近づく。「よく見ておけよ…。」
無理だ!危険すぎる!…だが、そんな蔵王丸の心配は裏切られる。
普段とは違い列雷を薙刀の様に広く構え、剣と柄をうまく使い攻撃を繰り出し、
生身では受ける事さえ危険な攻撃も初期動作の段階で攻撃し封じていく。
いつもの豪快なザンキからは想像出来ないほど洗練された動きであった。
「すごい!あんな戦い方もできるのか!」引き出しの多さに驚く蔵王丸。
だが、一瞬、足場が乱れたザンキの隙を童子は見逃さない。大きなハサミでザンキの顔面を強打する。
「ぐあ!」飛び散る鮮血。しかしザンキは怯まない。
「痛ぇなゴルアア!」強引に烈雷で一閃すると童子は大きな音をたて吹き飛んだ。
「大丈夫ですか!」「当たり前だろ。」やせ我慢をしつつザンキは言う「例え、生身でも鬼である以上、
逃げる事は許されない。覚えておけ。」「はい!」
どんな時でも鬼は鬼でなくてはいけない。それを蔵王丸に示すには充分すぎる戦いであった。
「でも…もしかして僕の鬼弦でも変身できたんじゃ…。」「……」
「……早く言えよ!」ガン!海に突き飛ばされる蔵王丸であった。

バンキ好きなので蛮鬼の話を楽しみにしつつ続く。
413高鬼SS作者:2006/03/15(水) 20:49:55 ID:DxBNDar90
一本投下します。

お断り。
テングは公式じゃ「夏の魔化魍」とされているようですが、
TV本編じゃ威吹鬼が普通に音撃管で戦っていたので、こちらでも管使いは管で戦わせます。
414仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:52:48 ID:DxBNDar90
修験道の開祖にして、猛士総本部のある吉野山とも縁のある役小角。
彼は一組の夫婦鬼を眷属として使役していた事でも知られる。
夫の名は前鬼、妻の名は後鬼という。
両者は鬼であると同時に、日本八大天狗の一角としても数えられている。
このように、嘗ては鬼と天狗は同一のものとして認識されていたのだ。
今回はそんな天狗に関するお話である。

1976年、長月。
この年、日本史上最大の降雨量を記録した台風十七号が猛威を振るった。
その真っ只中で、関西支部は全ての鬼が総動員されて戦っていた。
研究室。いつもの通り珈琲を飲みながら書類に目を通すあかね。そこへ、ドアを開けてコウキが入ってきた。
「!コウキくん、あなた……」
医務室から戻ってきたばかりのコウキは、頭に包帯を巻き、頬や手の甲に絆創膏を貼った痛々しい姿で現れた。
「……やられてしまいました。『紅蓮』のメンテナンスをお願いします」
そう言って音撃鼓・紅蓮を差し出すコウキ。
「悪天候の中とはいえ、関西支部の綺羅星の如き鬼達がこんなにやられちゃうなんてね……」
「……申し訳ありません」
九月四日に発生した台風十七号は、そのまま関東から四国付近に停滞を続けた。そして本日八日に最大風速を叩き出している。
事件は丁度台風の発生と同じくして起こった。
京都鞍馬山。古くから天狗の住む山とされてきたこの山に、魔化魍テングが大量に発生したのである。
テングは魔化魍の中でも戦闘能力や知能が高く、その代わり一度に表れる個体数は少ないというのが相場であった。それなのに……。
「テングの数はどう?」
「京都を中心に大阪、奈良へと徐々に行動範囲を拡大しています」
数時間前、コウキは奈良に現れたテングを倒しに何名かの鬼達とともに出撃した。
辛くも全滅させる事には成功したのだが、コウキ以外の鬼は彼以上の重傷を負ってしばらく戦闘不能になってしまったのだ。
415仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:53:32 ID:DxBNDar90
「……実はね、セイキくんやドキくんもやられたって報告があったのよ。信じられる?」
「あの二人が、ですか?」
1970年代、混沌とした時代を反映したかのように各地で魔化魍が猛威を振るった。
稀種と呼ばれる個体の増加、海外からの魔化魍の侵入、何の前触れも無く百年以上も現れなかった種類が出現する等である。
そのためか、各地の猛士に所属する鬼も自然と強い鬼が多くなっていった。
特に、古より怨霊が溜まり百鬼夜行が跳梁する魔都・京都を抱えた関西支部には、前述のあかねの喩えのように強豪が揃った。
後にも先にもこれ程の優れた鬼が揃う事は無いだろうと誰もが思ったほどである。
聖鬼も怒鬼も実力は高く、故にこの二人がやられたというのは悪い冗談にしか聞こえなかった。
「光の聖鬼と闇の怒鬼、あのコンビがやられるなんて……」
「そしてあなたもやられた……」
「私はまだ戦えます!」
「落ち着きなさい。全く、四国に行って何か変わったように思えたけど、やっぱりコウキくんはコウキくんのままね」
外では風雨が更に激しさを増していた。
「しばらくは体を休めていなさい。『紅蓮』は私が責任を持ってメンテナンスしておくから」
そう言うとあかねは早速机に向かい作業を始めた。
コウキは彼女の背中をしばらく見つめた後、黙って研究室を後にした。
416仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:56:09 ID:DxBNDar90
それから数時間後、コウキに改めて出撃命令が下された。但し、今回は奈良の防衛ではない。引退者も含めた戦える全ての鬼とともに鞍馬山へと乗り込むのだ。
「そっか。上層部は『僧正坊』の復活を確信したわけね」
「その僧正坊というのがよく分からないのですが、一体何なのですか?」
「紅蓮」を受け取りに来たコウキがあかねに尋ねる。
「鞍馬山僧正坊。日本各地に存在するテング達の長の一角よ。最後に現れたのが徳川時代の初めだって資料に書いてあったわ」
幕府が開かれた直後という事は、三百年以上も前に鬼達が戦った相手という事か。
「知っての通り魔化魍は死なないわ。清めても土塊や木の葉に姿を変えるだけ。時が経ち邪気が溜まれば復活する……」
そして僧正坊は今年、復活した。
「それ以外に眷属たるテングの大量発生は説明がつかないものね……」
「あかねさん!早く『紅蓮』を返して下さい!一刻も早く京都へ行き、僧正坊を倒さねば……」
それがね……。あかねは申し訳なさそうにコウキに告げた。
「まだ修理は完了していないの。思った以上に破損が激しくて……」
「ではどうすれば……」
417仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:56:41 ID:DxBNDar90
あかねは一つの古い桐箱を取り出し、蓋を開けた。そして丁寧に梱包を解く。中からは一つの古い太鼓が姿を見せた。
「これは『火焔太鼓』。太鼓使いの鬼ならその名前は聞いた事があるんじゃないかしら?」
火焔太鼓。この国に存在する全ての音撃鼓の中で最も古く、最も名器とされる一品である。そしてこれはかの前鬼、後鬼が実際に使ったという伝説がある。
そのような代物を目の前にして、コウキは言葉を失った。
「使用許可を取るのに苦労したわよ〜」
いつもの調子であかねが言う。だが、次の言葉を言うあかねの表情は真剣そのものだった。
「コウキくん。私はあなたがこれを扱えるだけの太鼓使いだと見込んだうえでこれを渡すわ。あなたにこの重みが耐えられる?」
「火焔太鼓」を差し出すあかね。コウキはそれをしばらく黙って見ていたが、意を決してあかねから受け取った。
「やってみます。否、やります!これを持つという事の意味を!責任を!全てを背負ったうえで戦ってきます!」
コウキは改めて自分の手の中にある「火焔太鼓」を見た。物凄い威圧感を感じる。
伝説が本当かどうかは分からないが、過去に調べた際、作られて千年近くは経っているという結果が出ている。
永い時を経た器物には魂が宿る。ただでさえ霊木で作られているこの「火焔太鼓」に、霊的な何かが宿っていたとして不思議ではない。
「ま、気負い過ぎても意味無いけどね。コウキくんなら分かっていると思うけど」
いつもの笑顔であかねが言う。
「この天気の中バイクで行くのは自殺行為よ。車、私のを使っていいわ」
そう言って鍵を渡すあかね。さらに。
「それともう一つの『火焔太鼓』も渡しておくわ。念のために、ね」
「火焔太鼓」は左右一対で一組だ。嘗ては右を前鬼、左を後鬼が使っていたとされる。
二つの「火焔太鼓」を受け取ったコウキは、あかねにいつもの敬礼に似たポーズをすると研究室を出て行った。
418仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:57:22 ID:DxBNDar90
京都へ着いたコウキは他の鬼達と合流してミーティングを行った。その結果、四方から鞍馬山に登り僧正坊を討つ事となった。
「誰か一人でもいいから奥へと行き、僧正坊を倒す。皆さんそれだけに専念してください。もし仲間の誰かがやられても見捨てて先へ進んでください……」
イブキが集まった全ての鬼に向かって告げた。彼自身、そのような事を口にするのは辛いだろう。だがこれを告げるのは宗家の鬼としての責任でもある。
コウキはイブキ、アカツキを含む数名の鬼と共に北のルートから山を登っていった。
途中テングの襲撃に遭い、高鬼、威吹鬼、暁鬼の三名以外は自ら足止めのためにその場に残った。少しでも強い鬼を先へ行かせるためだ。
吹き荒れる暴風と斜めに降り注ぐ豪雨に何度も足を取られながらも、奥へと進んでいく三人。会話は全く無かった。
二度目の襲撃を受け、三人はそれぞれの武器を手に迎え撃った。
「きりが無いぞ!こいつらは無視して先へ進もう!」
高鬼が他の二人に向かって叫ぶ。このテング達は僧正坊が生み出しているはず。なら親玉を倒さない限り事態は好転しないだろう。
「先行します!」
そう言うと暁鬼は一人テングの群れの中から駆け出していった。
「高鬼さん!僕達も行きましょう!」
威吹鬼が高鬼に向かって叫ぶ。風の音のせいで叫ばないと何を言っているのか全く聞こえない。
テングの攻撃をかわしながら、高鬼と威吹鬼は暁鬼の後を追って走り出した。
419仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:57:58 ID:DxBNDar90
どれだけの距離を走ったのだろう。この天候のせいもあってか、距離感も時間の概念も全てが狂っていた。
ふいに開けた場所に出た。そこでは暁鬼が音撃管・水晶を使ってテングの群れと戦っていた。
「暁鬼!無事か!?」
「見て分かりませんか!早く加勢してください!」
「全く、相変わらず口の減らない……。行くぞ、威吹鬼!」
「はい!」
それぞれ音撃棒、音撃管を手にテングの群れへと突っ込み攻撃を開始する。だが明らかにこちらの分が悪かった。
「高鬼さん、『紅』は出来ないのですか!?」
「出来ないわけではないが、しかし……」
「紅」は全身に大量の熱を帯びる。短時間なら水中戦も可能だが、降りしきる豪雨の中ずっと変身を維持していられるとは到底思えなかった。
「……四の五の言ってはおれんか」
そう言うと高鬼は足元に置いてあったもう一つの「火焔太鼓」入りのバッグを威吹鬼に渡し、足を踏み出して精神を集中させた。
「はああああああああ……破っ!」
身に纏った紅蓮の炎を払い、中から高鬼紅が姿を現した。激しい雨がその体を打ちつける度に、もうもうと蒸気が上がる。
「行くぞ!暁鬼、どいてろ!」
高速で動く高鬼紅は次々とテングに「大明神」の一撃を加え、爆砕していく。
と。
「!高鬼さん、この気配は!」
「……来る!」
闇の中から、それ以上に漆黒の闇を纏った巨体がその姿を現した。
420仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 20:59:05 ID:DxBNDar90
「鬼か」
漆黒の巨体が人語を喋った。尤も、テングの中には人語を解するものもいるという事は過去に確認されているので別段不思議ではない。
「蘇ったばかりの体を慣らすには丁度良い相手だ」
吹き荒れる嵐の中でも僧正坊の低い声がはっきりと聞こえてきた。頭の中に直接語りかけてこられているような感覚だ。
烏と犬が混ざったような姿をした僧正坊は、6メートルはある巨体で周囲の木々を薙ぎ倒しながら、一歩一歩向かってきた。
装備帯から「火焔太鼓」を取り外し、高鬼紅が僧正坊へと飛び掛かる。
だが僧正坊は背中の巨大な翼を翻し、高鬼紅の体を弾き飛ばした。続けて、指に生えた鋭い爪で襲い掛かってくる僧正坊。
横殴りの風の中、いつもの素早さを発揮する事も叶わず、高鬼紅は僧正坊の攻撃をかわしきる事が出来なかった。掠めた爪が高鬼紅の体を切り裂く。
「高鬼さん!大丈夫ですか!」
威吹鬼の呼びかけに対し手を振って答える高鬼紅。
高鬼紅は何とかスピードで撹乱しようと試みる。だが次の瞬間。
高鬼紅の足元の地面が炸裂した。動きを止める高鬼紅に隙が生じた。
何事かと威吹鬼が周囲を確認する。すると、視界に「水晶」の銃口を高鬼紅の足元に向けた暁鬼の姿が入った。
「な、なんて事を!」
威吹鬼の呼びかけを気にも留めず、高鬼紅に注意が向いて背を見せた僧正坊へと「水晶」を向ける暁鬼。
そして暁鬼は鬼石を僧正坊の体目掛けて撃ち込んだ。だが命中した鬼石は僧正坊の体にめり込む事は無く、そのままばらばらと落ちていった。
「!こいつ、堅い……」
次に暁鬼は、僧正坊の爛々と輝く両目に狙いを定めた。だがテング達の襲撃を受けて体勢を崩してしまう。
421仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 21:00:09 ID:DxBNDar90
一方、隙の生まれた高鬼紅は僧正坊の一撃をまともに受けてしまった。衝撃で右手に握った「大明神」を手放してしまう。
「威吹鬼!私の『大明神』を!」
「は、はい!」
だが「大明神」を拾った威吹鬼の体を、僧正坊の尻尾が強かに打ちつけた。吹き飛ばされ、木々に体を勢いよくぶつけてしまう威吹鬼。
「どうした、鬼よ?三百年前に戦った者どもの方がまだ手応えがあったぞ」
僧正坊の嘲笑の混じった声が頭に響く。
(くそっ、このままでは奴には勝てん!どうすれば……)
左の手に握ったままの「火焔太鼓」を勢いよく地面に叩きつける高鬼紅。と、その時。
どくんっ。
「火焔太鼓」が脈打ったような気がした。
「む、それは……」
僧正坊が「火焔太鼓」を凝視する。さっきのは気のせいではなかったのか?
「それは『火焔太鼓』か!まさか……宿っているのか、その太鼓に!?」
宿っている?何がだ?
だが僧正坊の注意が逸れた今が好機だ。
「威吹鬼!『大明神』を一本私に!もう一本はお前が使え!」
「ですが、音撃鼓は……」
「そのバッグにもう一つの『火焔太鼓』が入っている!それを使え!」
高鬼紅が手を伸ばす。その手に渡るよう、力を込めて「大明神」を投げる威吹鬼。暴風に吹き飛ばされる事もなく「大明神」は高鬼紅の手に渡った。
と、突然僧正坊が翼をはためかせて空へと舞い上がった。
「鬼どもよ、天翔ける事の出来ぬ貴様等に我が倒せるものか」
急降下し襲い掛かる僧正坊。豪腕が木々を次々と薙ぎ倒していく。それを辛くも回避する高鬼紅。
「紅」で活動できる時間も残り少ない。高鬼紅は勝負に出る事にした。
再び急降下し襲い掛かってくる僧正坊。タイミングを見計らい跳躍した高鬼紅は、その背に跳び移ることに成功した。
間髪入れず僧正坊の背に「火焔太鼓」を貼り付ける高鬼紅。そして「大明神」を力の限り叩き付けた。
清めの波動が全身を駆け巡り、墜落する僧正坊。その隙を突き、今度は威吹鬼がもう一つの「火焔太鼓」を貼り付けた。
422仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 21:01:11 ID:DxBNDar90
「おのれ、鬼どもがぁぁぁぁぁ!」
呪詛を吐き、僧正坊が再び空へと舞い上がろうとする。体勢を崩し、その背から「火焔太鼓」共々落とされる高鬼紅。
撃ち落とすべく、高鬼紅は鬼棒術・小右衛門火で攻撃を仕掛けるが、この豪雨のためいつもの威力が出せない。
「くっ、限界か」
「紅」を解除する高鬼。悠々と嵐の中を飛び回る僧正坊。それを悔しそうに見上げる威吹鬼。
(力が、奴を倒すための力が欲しい……)
祈ったところでどうなるわけでもないと重々承知はしていたが、高鬼は強くそう願った。このままでは僧正坊は眷属を従えて街へと向かってしまうだろう。
――力が欲しいか。
何処からか声が聞こえる。
――真に力を欲するなら、その身を我に委ねよ。
声は、高鬼の頭の中にはっきりと響いてきていた。
(力を、くれると言うのか?)
――里を、人を、全ての悲しみを救うつもりがあるのなら……。
(……言われるまでもない!)
稲光が周囲を照らす。ほぼ間を置かずに雷鳴。どうやら近くに落ちたらしい。
――ならば力を貸そう。心せよ。
(礼を言う。だが、あなたは一体……?)
――我の名は、前鬼。
再度稲光が周囲を照らし出した。その中で威吹鬼は信じられないものを見た。
さっきまで高鬼が立っていた場所に、全く見知らぬ鬼が立っていたのである。
423仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 21:01:57 ID:DxBNDar90
稲光に照らし出されたその鬼の姿は、赤銅色の体、蛍火に煌く角を持ち、はちきれんばかりの筋肉の鎧を身に纏っていた。
「き、貴様は、貴様は……」
上空の僧正坊が狼狽える。
赤銅色の鬼は、僧正坊を一瞥すると、ぬかるんだ大地を蹴って空へと飛び上がった。
「す、凄い。空を飛んでいる……」
その鬼は、赤銅色の流星と化して本当に空を飛びまわっているのだ。鬼はあらゆる方向から僧正坊の巨体へと攻撃を仕掛ける。
「ぐおおおお!貴様!また邪魔をするか、前鬼!」
絶叫する僧正坊。前鬼と呼ばれた鬼は僧正坊の背に降りると、再び貼り付けた「火焔太鼓」目掛けて音撃棒を掲げる。
物凄い轟音と共に稲妻が音撃棒へと落ちた。帯電した音撃棒が、さらに炎を吹き上げる。
「ヴァジュラ!」
その声と共に前鬼が音撃棒を「火焔太鼓」へと振り下ろした。
次の瞬間、物凄い爆音が鞍馬山に響き渡り、次いで炎と雷に焼かれた僧正坊の巨体が空から落ちてきた。巻き添えを受けて数体のテングが下敷きとなる。
その背でさらに音撃棒を構える前鬼が、ふいに威吹鬼に向かって叫んだ。
「共鳴させる!手伝え!」
「は、はい!」
慌てて駆け寄り、再び「火焔太鼓」を貼り付ける威吹鬼。
「行くぞ!合わせろ!」
「はい!」
二人の鬼が、僧正坊の体に音撃を叩き込んだ。二つの音は共鳴し、増幅し、僧正坊の体を隅々まで広がっていく。
そして。
大爆発と共に僧正坊の体は塵芥へと変わった。未だ止まぬ雨と風が、変わり果てた僧正坊を綺麗さっぱり洗い流していく。
「終わった。後は……」
威吹鬼が周囲に目をやると、そちらも既に終わりを迎えようとしていた。
鬼石を撃ち込まれたテングの集団に向けて、暁鬼が音撃鳴・燦然を装着した「水晶」から清めの音を吹き鳴らす。次々と爆発四散するテングの群れ。
周囲に他にもテングがいないかを確認した後、威吹鬼と暁鬼はそれぞれ顔の変身を解除した。
「あっ、そういえば高鬼さんは!?」
周囲を見渡すイブキ。そこには、全身の変身が解除された状態で地面に倒れたコウキの姿があった。
424仮面ライダー高鬼「それぞれの責任」:2006/03/15(水) 21:02:41 ID:DxBNDar90
「堅かったでしょ、僧正坊の体?あの毛皮は『襟立衣』って言ってね、記録には兎に角堅いとしか書いてなかったんだけど……」
まさか管の攻撃を弾くとはねぇ、とあかねが言う。
「でね、伝承によると最初に僧正坊を倒したのが前鬼らしいのよ」
そう言いながらベッドに横たわるコウキの顔をあかねは覗き込んだ。
あの後、発生したテングはその大半が駆逐された。逃げ延びたものも、関西支部が総力を挙げて追撃している。
今回の鞍馬山での戦いには負傷者こそ多数出たものの、幸い死者は一人も出なかった。
「でもコウキくん、イブキくんの話じゃあなた、伝説の鬼になっていたそうじゃないの」
コウキはあの後丸二日間ずっと眠り続けており、今さっき目が覚めたところなのだ。
「その事についてなのですが、私にはその時の記憶が無いのです。確かに頭の中に声が響いてきたような気はするのですが……」
「まあ鬼も魔化魍も一概に科学では割り切れないからね」
何が起きても不思議ではないものね、とあかねは言った。
「でもこれは鬼も魔化魍もある意味同じもの、という見方も出来るわけだから……」
「だから、私達は鍛えているのです。この身が鬼となっても人の心を失くさぬように……」
そう言うコウキの目には強い光が宿っていた。
「……体には何の異常も無いわ。それと今回の件、上には報告しないでおくわね。当事者のあなたが記憶を失ってちゃどうしようもないもの」
イブキくんとアカツキくんにもちゃんと口止めしてあるから、そう言うとあかねは笑顔で椅子から立ち上がった。
「じゃあ私は行くね。久し振りにのんびりする事、それが今のあなたの任務よ」
「……はい」
そう言い残して、あかねは医務室を出て行った。
コウキは開け放してあった窓の外に目をやった。外には台風一過の青空が広がっている。
台風は十日にはもう関西を抜けて九州へと上陸していた。後にこの台風による被害は、死者161名、行方不明10名、負傷者537名だと発表された。
夏の終わりも近い。
まだ片付けていなかった風鈴がちりんと鳴った。コウキは目を閉じて再びまどろみの世界へと入っていった。 了
425歌舞く鬼:2006/03/16(木) 00:06:17 ID:fC6Cig8l0
2006年 春

関東の山中で魔化網と対峙する関東支部の鬼の2人、鋭鬼と吹雪鬼。
そして、その戦いに割って入る謎の「鬼」。
彼の正体は・・・

「あんた・・・!!」

「俺かい?名前なんて名乗るほどのもんでもないさ・・・まぁ、あんたらと同じ
鬼ってとこかねぇ?」

「・・・鬼!?」


歌舞鬼 -Flashback−


今、次元を超え花が舞う。
426歌舞く鬼:2006/03/16(木) 00:18:02 ID:fC6Cig8l0
−魔化網と対峙する2人の鬼・・・鋭鬼と吹雪鬼−
「こいつら・・・強い!!強過ぎるって!!」
「なんなのよ・・・いつもの奴等より・・・!!」

「鋭鬼君!!危ない!!」

今まさに鎧童子の一撃が手負いの鋭鬼に振り下ろされようとしたその刹那。
一太刀の光が童子を切り裂く。

「ウギャァァァァァ!!!!」

断末魔の悲鳴を上げ、爆散する童子。

「な、・・・何が起こったの・・・?」
「吹雪鬼さん、助けてくれたんですか?ありが・・」
「いえ、違うわ・・・ほら、あそこ。」

吹雪鬼が指差したその先立つ「影」
その影が日の光を浴び、ゆっくりと近付いてくる・・・敵か味方か。

「魔化網同士の仲間割れかしら・・・」



427歌舞く鬼:2006/03/16(木) 00:19:12 ID:fC6Cig8l0
吹雪鬼が見たそのシルエットはどこか「魔化網」に酷似していた。
思わず身構える吹雪鬼、鋭鬼。

「魔化網・・・なの!?答えなさい!!」

しかし、還ってきたのは明るく豪快な笑い声。


「ガッハッハ!!俺が魔化網?何勘違いしてるんだか・・・」

尚、2人の鬼は影への警戒を緩めない。
次に口を出したのは鋭鬼だった。

「じゃぁ・・・あんた!!」

また、影は笑う。

「俺かい?名前なんて名乗るほどのもんでもないさ・・・まぁ、あんたらと同じ
鬼ってとこかねぇ?」

「・・・鬼!?」

それだけ言うと影は濃くなった霧と共に姿を、消した。
428歌舞く鬼:2006/03/16(木) 00:32:32 ID:fC6Cig8l0
後日 たちばな

店で吹雪鬼の報告を聞いた勢地郎は書庫から
取り出した古文書相手に興味深そうに読みふけっていた。
「あの・・・なんか、分かりそうですか?」
「ん・・まぁ、そうだね。その鋭鬼と吹雪鬼が出会ったのは鬼?らしきもの
なんだよね?」
「そうです・・確かに相手は自分は”鬼”だと」

勢地郎は本を机に置き、しばらく唸り続けていた。
「そんな・・・いや、そんなことはありえない」
などと独り言を呟きながら。

同日 葛飾区 街中
「だ、誰か!!助けてください!!」
「い、今助けますから!!」

昼の商店街に響く悲鳴。なんでも、火事で燃えている家に
少女が残されているということらしい・・・
ちょうどそこに居合わせていたエイキは、一杯の水を頭から被ると
そのまま燃え盛る家へ向かっていった。
「必ず、助けますから!!」

429歌舞く鬼:2006/03/16(木) 00:34:53 ID:fC6Cig8l0
・・・しかし、10分以上経ってもエイキは帰ってこない。
その頃、エイキは燃え盛る家の中朦朧とした意識で階段を下りようとしていた。
しかし、先日の鎧童子との戦いが彼の体を痛め、本来の力を出せずにいたのだった・・・
少女を背負ったまま、意識を失いそうになるエイキ。

「だめだ・・・エイキを養ってないから・・このままじゃ・・・」

その時、炎の中から聞こえる誰かの声、そして伸ばされる手。

「諦めんじゃねぇ!!」


気が付けば、エイキは焼け落ちた家から少女と共に脱出していた。
目を醒ましたエイキの目の前には、見知らぬ青年の笑顔とエイキの勇気と
行動に感謝する住人達の姿があった。

「よくやったじゃねぇか。あんた、漢だねぇ・・・気に入ったぜ。」

青年はそれだけエイキに言うと、どこかへと姿を消していった。

歌舞鬼 -Flashback− Flash2へ続く
430ZANKIの人:2006/03/16(木) 10:43:44 ID:gGUO4gE/0
高鬼さん歌舞鬼さん乙です。
ところで前スレを埋めようと思って〆とか書いては見たけど、結局、埋んなかった。
良くわからないんだけど、ほっといていいのかな?
431ZANKIの人:2006/03/16(木) 14:19:06 ID:gGUO4gE/0
―ZANKI―
夏休みも終盤。休日だった蔵王丸は、一緒に氷あずきを食べようと裕香先輩を誘い、
「たちばな」へと向かう土手を歩いていた。
「真っ黒だね。」「ええ、先輩も焼けましたね。」会う機会は少なかったが、
お互いに充実した夏を過ごせたようだった。来年は一緒に…などと思う蔵王丸。
そんな楽しそうにしている二人の横に自転車に乗った少年が現れる。
「よーい、ドン!」突然、勝負を挑む少年。渾身の力でペダルを漕ぎまくる。
「うぉぉぉ!…あれ?」しかし、振り向くと呑気に歩いている蔵王丸達の姿が。
「へぇ、ビキニとは大胆ですね。」「でも、かわいい水着なんだよ。」完全に無視。
慌てて二人の前に戻る少年。「ちょっとまて!勝負から逃げ出すなんて、この弱虫!」
訳の分からない事を言われた蔵王丸。「挑みもしないなんて、男じゃないな!」
「なんですかね?」「さあ…、暑い日が続いたしね…。」ヒソヒソと気の毒そうに話す。
「勝てない勝負はしないのか?」そもそも自転車で徒歩に挑む事が勝負なのか?
相手にしない方がいいと思った二人は黙殺して進む。
「こらこら!」慌てて二人を止める少年。「まったく!何者かぐらい聞けよ!」
仕方なく蔵王丸は聞く。「…誰ですか?」少年は自転車の上から偉そうに言う。
「そんな事を君たちに教える必要はないね。何故なら僕は君たちとは住む世界が…」
「でね、海がすごく綺麗でね…」「へぇ、いいですね。」全く相手にしない二人。
「ちょっ!待て」再び二人を止める少年。
「なんですか!」キレぎみの二人。「なんで最後まで話しを聞かないんだ!」
「教える気がないんでしょ!」「分かったよ、今日だけ特別に教えてやるよ!」
イラつく二人を前に少年は天に指を指し名乗り始める。
「桐の谷を落ち、京で介護する男…桐谷京ノ介とは僕のこ…ごふっ!」
グシャ!少年の顔面に先輩の上段蹴りが炸裂する。三メートル程蹴っ飛ばされる少年。
「…消えうせろ…恥を知れ…」「…先輩?」唖然とする蔵王丸。
「あの…なんで…?」「……なんか…ウザかったんだもん♪」
結構、無茶苦茶だなぁと思う蔵王丸であった。

みんなFF12をやっていると思うので続く。
432名無しより愛をこめて:2006/03/18(土) 00:32:38 ID:YezHOLwa0
カブトネタと桐矢パパ(?)ネタを同時に持ってくるとは・・・。
なんだか恐ろしいことになってきたなZANKIシリーズw
433ZANKIの人:2006/03/18(土) 09:17:27 ID:X+CQGNwo0
>432
ごめんふざけ過ぎだよね。
最後にもう一回だけやらせて。
434ZANKIの人:2006/03/18(土) 10:07:16 ID:X+CQGNwo0
―ZANKI―
夏休みも明けて、二学期の最初の日。蔵王丸のクラスに転校生が現れた。
「桐谷 京ノ介くんだ。みんな仲良くな。」先生は黒板に大きく字を書き紹介する。
しかし、京ノ介は先生の書いた字を消し、自分で書き直す。
「先生の発音は南部のなまりが入ってます。」字とは一切関係が無い。
「僕は六歳の時にアメリカで博士号を取得した。医師免許を始め、国際弁護士、税理士、
公認会計士、保育士、栄養士、ポケモン博士、英検四級、そろばん初級。すべての資格を持つスーパーエリートだ。
わからない事があったらなんでも聞け!」自信満々に言う京ノ介。
ウーンと悩み先生は聞いた。「じゃあ、なんで日本の中学に入ったの?」
やれやれと言った表情をして京ノ介は言う「愚問ですね…異国の地でもやっていけるか、試しに来たんですよ。」
むしろ日本は母国なのでは?それにレベルも下がってるし…そんな事を思う蔵王丸。
「君すごい自信家だね。」先生は苦笑いをする。そんな先生の表情を京ノ介は鼻で笑い、天を指差して言った。
「世界の中心で自分は回ってる。そう思ったほうが楽しい。」鎮まりかえる教室。
「……それは楽しそうだな…。」
たぶん言い間違えたのだろうとは思いつつ先生は聞き流す。
「じゃあ、先生最後に自己紹介していいですか?」「え?今までのは?」
京ノ介は天に指を指し名乗り始める。
「桐の谷を落ち、京で介護する男…桐谷京ノ介とは僕のこ…ごふっ!」
決めポーズが終わる前に一斉に京ノ介に椅子を投げつける生徒達。
「ちょっ!みんなどうしたの!」蔵王丸は突然の事態に驚く。
「…なんか…ムカついた。」「…あれ?」このやり取りにデジャブを感じる蔵王丸。
慌てて椅子にうずもれている京ノ介に近づくと蔵王丸の記憶が蘇る。
「……君、この間の人か!」「今頃気付いたのかよ!」
無駄にキャラを増やしてどうすんだろうと思う蔵王丸であった。

ライダーバトルでもして適当に殺せばいいので続く。
435名無しより愛をこめて:2006/03/18(土) 12:37:37 ID:7VaAC8b20
そろばんは初級じゃなくて一級か初段のどっちかというつっこみは不許可ですか
というか正確にはそろばん〜級とかじゃなくて珠算〜級とか珠算〜段になるというつっこみは不許可ですかそうですか
436ZANKIの人:2006/03/18(土) 12:52:26 ID:X+CQGNwo0
>435
そうなんですか?普通に知らなかった。ありがとうございます。
まあ、こいつも胡散臭いキャラなんで、意図してないところでギャグになってよかったです。
ちなみに、キリヤではなくキリタニくんにしときます。
437高鬼SS作者:2006/03/18(土) 20:28:35 ID:aBJX6bM70
保守ageがてら投下。

一つだけお詫びと訂正があります。
番外編に出てきたイブキの音撃棒、山背「水」と書きましたが山背「風」でしたorz
投下してから18日も経っているのに今やっと気付いた…。
念のため山背「水」の方をググってみたんですけど、そんな単語無かったです…。
すいませんでした。

さて今回のSSはコウキとキリサキが大会議があるにもかかわらず三十年間会えなかった理由について触れています。
後付けです。
お陰で短いです。
ではどうぞ。
438仮面ライダー高鬼「戦う理由」:2006/03/18(土) 20:30:20 ID:aBJX6bM70
1976年、卯月。
この日、コウキは出向中の四国支部内にある研究室で機械いじりをして過ごしていた。
場所が場所なため滅多に訪れる事は無いが、何か用事があって訪れた場合には必ず入り浸っていた。
「本当にそういうのが好きなんですねぇ。手先が実に器用だ」
ここの「銀」である多々良勝彦が、作業中のコウキを見て感心したように言う。
「ええ。向こうでは新人の訓練用にトラップを作ったりもしているんですよ」
「ほぅ、トラップ。どんなものなんです?」
「網や縄を使って罠に掛かった相手を吊り下げるのが多いですね。あとは無数の竹槍が飛んできたり、場合によっては火薬も使います」
戦時中に落とされた不発弾なんかを流用したりする事もあります、とコウキはあっさりと言ってのけた。
「ははは……それはなかなか過激ですね」
半ば呆れたように多々良が頭をぼりぼりと掻く。
「そういえば一つ聞きたい事がありました」
作業の手を止め、コウキが多々良に向かって言う。
「キリサキの事なのですが」
「キリサキくん、ですか?」
「ええ。年に一度、日本中の鬼が吉野本部に集まって会議をする日があるでしょう?」
「ああ、あの日の事ですか……」
どうやら多々良にはコウキの聞きたい事の予想がついたらしい。
「去年まで彼の顔をその会議の場で見た記憶が無いのです。彼の外見や言動は目立つから、その後の宴会で注目を浴びないはずがない……」
多々良は困ったような顔をしてこう言った。
「あのですね、その……、彼の個人的な事に触れるわけですから僕一人の判断で勝手に喋るのは不味いと思うんですよね」
支部長に聞いてみたらどうです?そう多々良は言った。
439仮面ライダー高鬼「戦う理由」:2006/03/18(土) 20:30:53 ID:aBJX6bM70
研究室を後にしたコウキは、先程の疑問を四国支部長の小松辰彦に尋ねた。
「コウキくんは直接キリサキくんに聞いてみたのですか?」
小松の問いにコウキは肯く。
「はい。ですがはぐらかされてしまいました」
何か言いたくない理由があるのであろうという事は分かる。だが、本部での大会議を欠席する程の理由とは何か、それが気になってしょうがないのだ。
「……分かりました。全てお話ししましょう。ただ、この話を聞いたからといってキリサキくんへの態度を変えないであげて下さい」
そう言うと小松は静かに、まるで孫にお伽話を話す老人のように語り始めた。
「……小さな村があります。本当に小さな村で、それ故に余所者には冷たいところもありましたが、反面村人同士はまるで家族のように付き合っていました……」
遠い目をしながら小松は語り続ける。
「ですが十五年も前ですか、ちょうど恒例の大会議の前日、村は魔化魍に襲われ村人の半分以上がその命を失いました」
キリサキくんはその村の出身です、小松はそう続けた。
「歩」による避難誘導が遅れた事により、村人の半数が魔化魍の餌食となった。その中にはキリサキの家族も含まれていたという。
440仮面ライダー高鬼「戦う理由」:2006/03/18(土) 20:31:31 ID:aBJX6bM70
十五年前の1961年。
その日、村に着いた鬼が見たのは文字通りの地獄絵図だった。壊された家屋、家畜や住人の無惨な亡骸、風に乗って漂う血の臭い……。
そんな中、キリサキは一人、太い木の棒を握って童子に殴りかかっていた。全身傷だらけ血塗れの姿で、である。
どんなに払い飛ばされても彼は起き上がり、その都度立ち向かっていった。滝のような涙を流し、声にならない声を上げながら。
「魔化魍と童子、姫はその鬼に倒されました。そしてキリサキくんは我々に保護されたのです」
その鬼が現場に到着するのがあと一分でも遅かったらキリサキくんの今は無かったでしょう、そう小松が言う。
鬼や魔化魍を見てしまった彼に与えられた選択肢は二つ。全てを忘れるか、猛士の一員となるかである。そしてキリサキは後者を選んだ。
「……ひょっとしてキリサキは復讐のために鬼に?」
コウキが尋ねた。鬼が負の感情を抱いて戦う事は、最終的には自らの破滅を意味する。
「ええ。但しそれも最初のうちだけです。彼の師匠はその時現場に向かった鬼なのですが、彼にみっちりと心の方を鍛えてもらっていましたから」
それでもあの性格だけは直らなかったようです、と小松が苦笑しながら言う。
「ではキリサキが大会議に欠席する理由というのは……」
「彼は毎年、その際亡くなった人々の墓参りを欠かさずやっているのです。特に大会議当日は……、彼の御両親の結婚記念日だったらしいのです」
コウキは黙ったまま話を聞いている。
「だから彼は大会議当日とその前日は故郷に帰るのです。それが彼にとっての唯一の弔いの方法であり唯一の贖罪の方法なのです」
そう、これは彼の大事な人達に対する最大限の供養であり、あの日無力だった自分に対する唯一の贖罪でもあるのだ。
コウキはすっくと立ち上がると、小松に告げた。
「では私は行きます。大丈夫、キリサキには何も言いませんよ。あの性格ですからね」
そこへ多々良が入ってきた。
「良かった、コウキくんまだ居てくれて!近くに魔化魍が出たんですけど、担当がまだ経験の浅い鬼なのでサポートに行ってあげてくれませんか?」
「分かりました。ついでにその鬼もある程度鍛え直してやってきますよ」
笑顔でそう言うとコウキは多々良から地図を受け取り、敬礼に似たポーズを決めて出て行った。
441仮面ライダー高鬼「戦う理由」:2006/03/18(土) 20:32:10 ID:aBJX6bM70
コウキが出て行って直ぐに、多々良は小松に尋ねた。
「お話しになられたのですね」
「ええ、全て」
小松が静かに肯く。
「しかし彼には恐れ入ります。十五年もの間、一回も休まずに雨の日も風の日も大怪我を負った時でさえも墓参りを続けるなんて……」
小松はしばらく黙って多々良の話を聞いていたが、ふいにこう言った。
「……キリサキくんはここにいる九人の鬼の中で最も正しく、真っ直ぐな心を持っていると私は見ています。普段の言動も照れ隠しのようなものでしょう」
「どうしたんです、急に?」
「彼には将来、私の後を継いでもらいたいと思っています」
「本気ですか!?」
「ええ。たとえ吉野の方が何と言おうと、説き伏せてみせます。彼にはそれだけの器があると私は確信しています」
「まあ、支部長の慧眼は僕も知るところですが……、でも、いや、はあ……」
そんな多々良を尻目に、小松は静かに笑った。

一方、コウキは道無き道をバイクで駆けていた。
鬼の力を待つ人がいるのだ。人を救える力を。
前方に妖姫、怪童子と戦う鬼の姿が確認出来た。バイクを急停止させたコウキは変身音叉を打ち鳴らし、炎に包まれながら駆け出していった。 了
442高鬼SS作者:2006/03/18(土) 23:59:05 ID:aBJX6bM70
>まとめサイト管理人様

早速の修正ありがとうございます。
その仕事の速さには敬服いたします。
443仮面ライダー風舞鬼(オリジナルです。):2006/03/19(日) 23:45:25 ID:HanOo1x20
一の巻「風に舞ふ鬼」

2003年、3月16日――。
中学2年生の少年はもうすぐ受験生として重要な時期に入ろうとしていた。
今日も部活が終わり、帰宅すれば、2人の弟、祖父、母が居間でTVのニュースに
釘付けになって見入っていた。
「ただいま〜」「あら、今日は早いわね。」「部長が風邪だから、早めに終わった。」
ふと、TVに目を移すと、半壊した廃校がうつっていた。それは、この近辺にある
昭和時代の小学校だった。木造の校舎が崩れ落ち、全焼といってもいいくらいのありさまだ。
ニュースでは、「田舎の爆弾事件」というタイトルでキャスターが概要を読み上げている。
「こんな田舎で爆弾事件ねぇー・・・」と祖父がぼやいている。
まったくつまらないことをしでかす奴もいたもんだ。と少年は自室に入っていった。
翌日、学校では爆弾事件の話題で持ちきりだった。みんな、まさか地元でこんなことが
おこるとは思っても見なかったのだから、当然である。
紹介が遅れたが、少年の名は加藤辰洋。珍しい名だ。
昼休み、辰洋のもとに、仲のいい連中が集まってきて、春休みに事件が起きたトコに行ってみないかと
誘った。最初はまんざら行く気はなかったが、勉強の息抜きには、おあつらえ向き
だなと思い直し、行くことにした。このとき、辰洋の人生は大きく変わったのである。

続く。
444名無しより愛をこめて:2006/03/20(月) 13:50:03 ID:lFY9LKHL0
へとーぶろっく
445仮面ライダー鋭鬼:2006/03/21(火) 07:29:21 ID:8zIdi3ze0
日曜日に投下しようと思ってたですが……(プロットをちゃんと練ってないから無駄に長くなったんだよなぁ。反省)
後半は気力が落ちてきてて文が荒かったりw(っていうか、途中から和泉伊織の事を忘れて書いてた。ゴメン、威吹鬼・・・
仮面ライダー鋭鬼なのですが、今回は吹雪鬼の過去話で、大勢のオリキャラ(The諸刃の剣)が出てきます(彼等の名前に深い意味はありません
ご了承の程を
閉鎖された道路
表向きは工事中とあるが、それはその先の山に魔化魍が出た為だった
閑散としたアスファルトを照らす太陽の光を、二つの異形の影が遮る
「ぐっ……」
山の道に投げ出されたのは山吹色の左右非対称の鬼面を持つ鬼――蛮鬼だ
「大丈夫?」
「受け身は取りました」
彼の後ろで軽妙な着地をして見せたのは吹雪鬼だった
「グルルル……」
二人を見下ろす敵意の固まりは、頭部から背中にかけて鋭い針をいくつも持っていた
魔化魍・ヤマアラシである
「ガッガッ……」
その巨体では飛び降りることが出来ないのを知ってるのか、憎々しげに地面を蹴り上げて石を落としてくる
「威嚇よ。当たらないわ」
「わかってます」
蛮鬼はその音撃弦『刀弦響』を正眼に構えて対峙する
「ギィィ!!」
ヤマアラシに変わって飛び降りてきたのは童子と姫であった
「ヴァアッッバッ!」
同時にヤマアラシの特徴である、その背中の無数の針が二人の鬼に向かって飛来する
「だぁ!」
蛮鬼は横に避けながら、追ってくる針を刀弦響で捌き続ける
一方の吹雪鬼は華麗な身のこなしで針を避けつつ、ヤマアラシとの距離を縮めていた
「グルル……!!」
捌く一辺倒の蛮鬼は兎も角、確実に自分に近づいてくる吹雪鬼に焦りを感じるヤマアラシに向かい吹雪鬼は跳躍した
だが
「ギャア!!」
「!!」
飛びかかってきた童子に吹雪鬼はしがみつかれる
「グルルヴァアッ!!」
しめた!とでも言いたげな表情をしながら、ヤマアラシはその全ての針を吹雪鬼に向けて狙いを定める
「離しなさいよ!エッチ!」
童子を振りほどこうと吹雪鬼は焦るが、童子とてこの好機を逃がそうとするものではない
「グバアァア!!」
何百……いや何千もの針が吹雪鬼に向かって牙を剥いた
「……なんちゃって」
「ギ?」
「お触りの代金は高く付くわよ!」
吹雪鬼は渾身の力で右腕を振りほどくと、童子のみぞおちに鋭い肘突きを暮らさせた
そこから流れるような動作で一本背負い
「ゲェェエアアブェェェ!!」
大地に叩きつけられた童子の背中には無数の針が刺さっていた
吹雪鬼に楯代わりにさせられたのだ
「ギィ……」
その残酷な戦い方にヤマアラシですら一瞬怯む
その瞬間、ヤマアラシは腹部に焼け付くような熱を感じた
「グェ……?」
まるで全ての感情を忘れたかのようにヤマアラシは自らの腹部を見る
そこには姫を串刺ししした『刀弦響』がまざまざと刺さっていた
「ガ……ガアァァァァ!!」
怒りを取り戻したヤマアラシは『刀弦響』を投擲した蛮鬼を睨み据える
「ゲェェガヴァヴァァァ!!」
背中の針を蛮鬼に向けるが、蛮鬼は恐れもせずに向かってきた
それもそのはずだった
「これくらいしか残ってない針なら……」
「ギ……!?」
何時の間にやらヤマアラシの背に飛び移った吹雪鬼が、ヤマアラシの針をまるで雑草をむしり取るかのように引き抜く
「ぎゃああぁぁぁう゛ぁヴァジョベエアアァアガガァ!!」
山に住む鳥たちが一斉に飛び立つ程のヤマアラシの叫喚
ヤマアラシの最大の攻撃はこの針による攻撃だが、撃ち尽くした後すぐに生えてくるほど便利には出来ていない
当然、吹雪鬼と蛮鬼の、いや、鬼の魔化魍対策のマニュアルとして突く弱点はソコだった
「いくぞ……」
刀弦響を握りしめた蛮鬼が低い声で言う
「ウギ……」
「次はもっと……優しい動物に生まれ変わりなさい」
吹雪鬼は言い残すと、ヤマアラシから離れた。ここからは蛮鬼の独壇場だった
「音撃斬!冥府魔道!!」









「ミッションコンプリート!」
ディスクアニマルを回収した蛮鬼は若干上気した顔で言った
冷静沈着をモットーとしてる蛮鬼だが、まだ21才という青年なのでこれくらいは良いだろう
「アイチチ……!」
「どうしました?!吹雪鬼さん!」
車の影で着替えてる吹雪鬼に駆け寄った蛮鬼は慌てて顔を逸らした
「す、スミマセン」
セーターの裾から吹雪鬼の生足が見えたからだ
「ん?やだなぁ、そんなに目をつぶらなくても。ホラ、ちゃんと穿いてるって」
「め、めくらないでください!早くズボン履いて」
「そんなに見たくないの……?」
「そうじゃなくて!」
明らかにからかわれてると感じてるが、どうしようもない蛮鬼は取りあえず頭の中で円周率を数えていた
「今日は白だよんv」
「……!!サインコサインタンジェントーーー!!」
蛮鬼の絶叫で、せっかく戻ってきた鳥たちはまた空へ旅立っていった
「着替え終わったからコッチ向いて良いよ」
「……本当ですか?」
「私は蛮鬼くんを信頼してるから、蛮鬼くんも私を信頼してほしいな」
そういう言い回しをされては蛮鬼は反論も出来ない
「いや、さっきのアレは静電気がビリってきたからさーアハハ」
もうすぐ桜が咲く季節ではあるが、閑々とした山の温度は底冷えする寒さだった
「斬鬼さんとか、雷使いだから静電気感じないのかなぁー?いいよね〜」
「そんなこと、聞いてみなくてはわかりません」
「冷たい返事。だから私はこんなに厚着しなきゃなんない」
言いながら、胸元をパカパカと開けて空気を入れてる吹雪鬼の、その胸元とチラリと映った白い絹に再び蛮鬼は目をそらした
そんな蛮鬼を見ながら、どうして自分の周りの男はこうもウブなのか?いやそれとも自分がウブな男が好きなのかと
顔を崩さずに考える吹雪鬼である。結論としては「まぁ、面白いからいっか」なのだが
「そう言えば鋭鬼くん、今頃吉野に着いてるころかしら?」
査問会に出頭するために本部である吉野に鋭鬼は今朝向かったのだった
勝手に自分一人の責任にしたのは今思い出してもムカツクのだが、お土産に昔行きつけだった
和菓子屋の和菓子を沢山買ってくる事で手を打ったのだと、吹雪鬼は笑いながら蛮鬼に話した
「……随分と鋭鬼さんのこと、気にかけるんですね」
「ん?だって危なっかしいじゃない?彼」
生き生きといた顔で、その赤く血の通った唇から鋭鬼の名前を出す吹雪鬼に蛮鬼は呟いた
「僕も……危なっかしければ吹雪鬼さんに気にかけて貰えますか?」
「え?」
「なんでもありません。忘れてください」
早口で言い立てると、蛮鬼はケースにディスクアニマルをしまった
「………」
いつもは種類別にディスクを並べる几帳面な蛮鬼が、その時はおおざっぱに仕舞い込んでいた








「……何時間歩かせるんだ?」
駅で鋭鬼を迎えた本部の『金』である高寺という人物は、面倒くさそうに鋭鬼に一枚の紙を渡した
それは鋭鬼が今日泊まる場所の地図なのだが……

       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
       |                4 |
       |                  |
       / ▲←この山の麓ら辺  |
       /                /
     /               /
     /               /
    /              / 
   /□■□[駅]■□■□ /
 /             /
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「わかるかーーー!!」
地図の示す方向にただひたすら歩き続けて3時間、ようやく鋭鬼は不平を漏らした。人が良すぎである
(やっぱり、今回の件で嫌われてるのか?)
日が暮れて段々肌寒くなってきている。盆地は気温を溜めやすい
ましてもう山に入っている訳で、鋭鬼は両腕を手で擦った
「勝鬼さんみたく半袖で正気な人じゃないんだけどなー」
常時半袖で生きる同僚の姿を思い浮かべながら、鋭鬼は溜息をついた




スポーツバックを肩にかけて歩く鋭鬼の後ろ姿を二、三の影が見据えていた
「あれってさ……」
「だろうな……」
山伏の格好をしているが、その装束の色は漆黒だった
修験者というよりは烏天狗といった格好に近い
「ちょっと試してみない?」
「よせよ」
「そんなんだからいつまでも主席になれないのよ」
「別になろうとしてるわけじゃない。俺は今の位置が丁度良い」
二つの影は二、三言い合いをすると、一方が覆面を直すと鋭鬼に向かって跳びだした

「は〜喉乾いた〜。でも自動販売機なんてないよな〜」
鋭鬼は再び溜息をつく
「あれ?そういや財布何処だっけ?アレ?アレ?」
慌てて体中を叩き始める鋭鬼。ようやくカバンのポケットに入っていた財布を見つけるが慌ててたせいか落としてしまう
「ああもう!手がかじかんでるせいだ」
埒もないことを言って身をかがめる
――ストン
「は?」
いきなり目の前に突き刺さった物体。黒光りするそれは……
「これってクナイだよね?あり得なクナイ?」
「流石は本物の鬼ね……私の気配に気がついてさりげなくかわしてみせるとは!」
「!!」
鋭鬼の首筋に冷たい感触
声の距離からしてそれほど長い刃物ではない。小太刀であろう
「オニオニ(オイオイ)物騒なもの突き付けないでくれよ。鬼って何のことですか?」
変身で失敗したばかりなので、出来るだけとぼけてみるのだが通じないらしい
「………」
鋭鬼は困った。何が困ったって、沈黙が一番苦手なのに、相手がそれ以上何も話してこないのにだ
「あのさ、仮にも鬼である俺がこうも簡単に後ろを取られるってあると思う?」
「どういう……」
「後ろ、見てみろよ」
ハッと振り向く影に向かって鋭鬼は当て身を繰り出す
「うっ!?」
「馬鹿正直なんだから」
小柄な鋭鬼では当て身の威力は弱いが、それでも常人以上の筋肉によって生み出された瞬発力は相手を吹き飛ばすのに申し分ない
「これ、物騒だから仕舞っておくよ」
「なっ…」
山伏の持っていた小太刀を腰に差すと、その異形を鋭鬼は見つめた
「天狗でも雪女でもない……まして童子や姫というわけでもない」
「疾ッ!」
山伏の掌拳が飛んでくるが、鋭鬼は半身をずらしてかわした
(二連撃だな)
「疾ッ!」
予測通り、山伏は攻撃をかわされた体制から右足を軸に回し蹴りを展開する
(型通りの動きだが……)
「射ァ!!」
身をかがめて回し蹴りを避けた鋭鬼に向かって、山伏の足は踵落としを実行してくる
ホーミングミサイルのように、しつこく素早く追いかける山伏の足が鋭鬼の肩に直撃する
「う……」
が、その足は元々鋭鬼の頭を狙っていたものだった
「いい体術だ。でも俺みたいなチビに回し蹴りは動作が大きすぎる」
鋭鬼は山伏の顔面に突きだした正拳を離しながら忠告してみせた
「すっぴんを晒して貰おうかな?」
鋭鬼が笑う。しかし有無言わせぬ強い口調でだ
「……失礼しました。関東から査問会に出頭されにきた鬼の方ですね?」
そう答えた声は高く、女の声だった。先程は声を作為的に低くしてたらしい
「キミは……」
「近畿の猛士の『と』が一人、壬生美岬(ミブミサキ)と申します」
軍隊における敬礼のような構えと口調で答えたモノだから、鋭鬼も釣られて背筋を伸ばしてしまった



「ここ、酒呑院寮は猛士本部が出資者となって『角』や『飛車』『金』の育成をおこなっています
 と言っても、創設してまだ十年もたってないのですが……」
自主訓練をしていた所、酒呑院とは逆の方向に向かう鋭鬼を見つけたのだと壬生は説明した
「酒呑院の名前の由来となった酒呑童子を倒した源頼光の配下である頼光四天王は鬼だったとも伝えられています」
「……衒学趣味は壬生の悪いところだ」
壬生と自主訓練をしていた信貴山真矢(シギサンシンヤ)が抑揚のない声で茶々を入れる
その言い回しが壬生の勘に障ったか、押し黙って信貴山を睨み付けたのだから鋭鬼としては居心地が悪い
先程からずっと黙ってる三人目である名和永禮(ナワナガレ)は一向に助け船を出そうともしない
これが日常茶飯事なのか、元々名和が無口なのか、会ったばかりの鋭鬼には計りかねることばかりであった
山の麓道にそびえ立つ建物は、古さは感じられるが、それが気品とも取れる荘厳な建物であった
町中にあれば浮くだろうが、木々に囲まれていると、まるで推理小説にも出てきそうな異世界の空間だった
「もともと院長である光厳寺先生の家の建物なんですけどね」
鋭鬼が感想を言うと、壬生は短く答えた。それ以上は信貴山の言うところの衒学趣味にされられてしまうとでも思ったのだろう
最近では珍しいポニーテールまんまな髪型を揺らして先頭を歩いていく
聞けば、ここの候補生の内主席だという
よくよく自分は才女と縁があると思いながら、すこし気が張りすぎてる感じのする壬生の背中が微笑ましい鋭鬼だった
「関東の鬼って、知られてる?」
「一応、現役の鬼の名前は教えられます。けれども有名と言えば……」
鋭鬼が信貴山に話しかけた時、壬生の足が止まる
何のことはない、目的の場所についたのだ
「院長、失礼します。関東の……鋭鬼さんをお連れしました」
院長室と書かれた部屋の前で、きびきびとした動作と声で壬生は言うと、扉を開ける
「関東じゃ、先ず宗家の威吹鬼さん」
壬生に続いて部屋に入る鋭鬼に、信貴山は続けた
「それから響鬼さん。この二人ならここの人は大抵知ってますね」
「ふぅん…」
当たり前も当たり前だが、自分の名前が無い。少し悔しいというのが本音である
「それから裁鬼さんと斬鬼さん……それに吹雪鬼さんですね」
「吹雪鬼さんが?」
言っては失礼だが、各地を転々とする吹雪鬼は同業の鬼では名こそ知れ、学生の間では知られづらいでのはないかと思っていた
鬼になった最短記録保持者の響鬼や関東一の弦使いを競った裁鬼と斬鬼に並ぶほどの名声があるとは……
「“七弾”も有名ですし……それに、ウチの院長の愛弟子ですから。吹雪鬼さんは」
「え?」
吹雪鬼の師匠……考えてみれば、それが居るのは当たり前も当たり前なのだが
人と人は思いもがけないところで出会うものだと、鋭鬼は単純に驚いていた
「ようこそ。初めまして。いや、来るのが遅くて心配してました。貴方は悪い人だ。初対面の私をこんなに心配させるなんて」
「え…あ…すみません……」
「あ、別に嫌がかって言った訳ではないのですよ。私がここの院長である光厳寺光太郎(コウゴンジコウタロウ)です」
手を差し出した男は、細目で面長の顔をしていた。といっても目が垂れ気味で微笑みを絶やさないので
生き仏のような穏やかさを感じさせる男だった。歳は四十と幾つかと言ったところか
一つ気に入らない所があるとすれば、並み以上に背が高いことだった







生活の上での注意点と空き時間に生徒との修行につきあうという約束を二、三約束したあとで
光厳寺はお茶を啜りながら「あと他に質問はありますか?」と訪ねたので鋭鬼は数度逡巡したあと
ついに切り出した。その間、光厳寺はただニコニコと笑って鋭鬼を見ていたのをよく覚えている
「えっと……吹雪鬼さんの師匠なんですか?」
「ん?」
予想してなかった質問だったのか、光厳寺は一瞬目を丸くすると
「あぁそうだよ。そうか、いま関東にいるんだったね……あの子は」
“あの子”という言い方に、立ち入る合間もなさそうな程の親愛の響きを感じた鋭鬼はそれだけで口を噤んでしまう
「もう…十年もなるんだなぁ……。あぁ、つい感慨に耽ってしまった」
「あの……どうして吹雪鬼さんは鬼に……」
昔、吹雪鬼が語った言葉を思い出す。“鬼になった理由を話すと初恋まで話さなきゃならない”と
吹雪鬼との会話は些細なことでもよく覚えてると、自分でも呆れるが
「ん?結構、長い話になるよ。お酒は飲むかい?」
「いえ、下戸で……」
「ではもう少し茶菓子を持ってこよう」
立ち上がる光厳寺を見上げながら、一つぬぐい去れない思いが鋭鬼にはあった
この男こそが吹雪鬼の初恋の人ではないかと一抹の不安……
まさかと思うのだが、光厳寺の吹雪鬼を呼ぶ声がそう感じさせてしまう
茶菓子を取りに行って戻ってくるまでの時間が鋭鬼にはとても長く感じた






苛ついていると耳たぶを擦るのが蛮鬼の癖だった
「間に合いそうにありませんね……」
魔化魍を退治したあと、“たちばな”で威吹鬼の弟子であるあきらの高校合格のお祝いをやる予定だったのだ
現役大学生である蛮鬼と吹雪鬼の二人は威吹鬼に頼まれたこともあって、あきらの家庭教師をしたりもしていた
「渋滞にガッチリ捕まっちゃったわね〜」
「すいません。もっと空いてる道を選んでいれば……」
運転席の蛮鬼が律儀に頭を下げる
「ふむ……まぁ、お祝いは逃げないって。なんなら後で威吹鬼くんと私達とあきらちゃんでやってもいいんだし」
「それはそうですが」
前の車のランプが消える。僅かに動く車。再び止まる
「あきらちゃん、高校受かって本当に良かった。っていうか、受験受けてくれてよかったって感じ?」
「そうですね」
猛士としての生き方に全てをかけてるようなきらいのあるあきらは、当初は高校を受験する気が無かったらしい
ただ、威吹鬼が言った方がいいと言ったので、尊敬する師匠の言うことならばと
そこは素直で真面目なあきらは不平も言わずに一心不乱に勉強をした
「ちょっと一途で思い詰めやすい子だからね……そういう時期は誰にでもあるけど」
「吹雪鬼さんにもあったんですか?」
「ん?」
腕の時計を見てから、吹雪鬼は背もたれに深く腰をかける
「長い話になるけど、暇つぶしにはいいでしょ」
「どんな話なんです?」
「私が鬼になるまでの話よ……」







――1995年 初夏
京都の小料亭の一室に若き日の文室光太郎は呼ばれていた
呼び出した主は目上の方なので早めに付こうと足を運んだのだが、どうやら先に待っているらしい
廊下を渡りながら、木々に残る僅かな桜色に趣きを感じないではいられない
「久しぶりだな、光太郎」
着流しを着た粋な壮年の男が座って待っていた
いや、その逞しい肉体に騙されそうになるが、角張った顎に生える髭の多くは白い
「これは……荒鬼さんも御息災で何より」
荒鬼と呼ばれたその男は短く頷くと、顎で光太郎を座るように促した
「修行は進んでるか?」
「はい。夏の会合の頃には吹雪鬼を襲名してると思います」
荒鬼は向かいに座る光太郎は慇懃な声で答えた
威圧感のある自分の前でも物怖じしたことが一度もなかったこの光太郎のことを荒鬼は非常に買っている
「そのことだがな……単刀直入に言おう」
「何か?」
「頼みたいことがある」
頭を下げた荒鬼に、これは容易ではないことだと光太郎は察したが
光太郎も荒鬼には随分世話になったし、常日頃から父とも慕っている荒鬼の頼みならば多少の無茶なことでも聞いてやる気持ちでいた
「俺の婿になれ」
「は?」
「頼む」
短く区切って言うと、荒鬼は両の手を畳に付けて頭をさげた
「あ、頭を上げてください」
「では聞いてくれるか?」
「いや、しかし、頭を上げて貰わなくては詳しい話も聞けません」
丁度その時、料理が運ばれてきたものだから、物凄く恥ずかしかったと光太郎は今でも記憶している
「今の俺には息子がいない」
「……はい」
荒鬼の息子は魔化魍退治の際に命を落としている。もう十年以上も前になるだろう
「娘の小佐夜が一人だが……あれを鬼にするわけにはいかん」
それは光太郎もよく知っている。荒鬼の妻との約束なのだ。一人残った娘だけは鬼にしないとの
「俺もいい加減、鬼を続ける歳でもなくなった。だが、半端な者には“荒鬼”を継がせるわけにはいかん」
近畿の鬼は総本部があることからか、その多くが代々鬼を襲名してきた家柄であることが多い
特にこの目の前にいる男の鬼の名、荒鬼は宗家を支える四柱家とも呼ばれる格式の高い家であった
「俺は生まれてこの方、お前ほどの男を見たことがない。あるいはそれは俺の不幸かも知れん」
「恐縮です。しかし……」
事情としては判るが、光太郎の家――吹雪鬼も又、先祖代々から続く鬼の家である
「私は吹雪鬼を襲名するために育てられてきました。今は代理として姉が吹雪鬼を名乗っておりますが」
「そなたには弟もいよう。それに、元はと言えば荒鬼は吹雪鬼の本家筋にあたるではないか」
格としては確かに荒鬼の方が上である。傍目に見れば悪くない話でもある
「吹雪鬼の名は……宗家である威吹鬼から山吹鬼らのように“吹”の名を拝領した家でございます。
 格は下がりましょうが、私はその名に誇りを持っております」
「済まなかった。だが、その誇りを承知で頼みたいのだ」
どうやら“頼む”とは言ってるものの、断らせる気がないらしいと光太郎は察して、どうしたものかと眉をひそめた
「小佐夜の気持ちも無視して……」
「アレはお前ならば祝言をあげても良いと言っている。お前が気に食わんのなら結婚をしなくても構わん」
「方便から入るとは、随分と回りくどいことをしたようで……」
「言うな」
「ご心中察します……」
とは言ったが、続く言葉が出てこない
他に弟子を育てて……などという方策などハナっから頭にないのだろう
ハッキリ言って、引くも地獄、行くも地獄である
断れば非道く男を下げる事になるだろうし、自分は生涯この事で後味の悪い思いをひきづるだろう
そして、自分が荒鬼を継がないとなれば、この向かいの男は決して他の男に荒鬼を継がせず、ついには荒鬼が途絶える事になる
かといってここで「判りました」と答えれば、文室の、吹雪鬼の親族から何やらから何と言われるかも判らない
最悪、勘当も覚悟した上で答えなくてはならないが、それは吹雪鬼の嫡男として育てられた自分の半生の否定だ
「難しい事を押しつけていることは判っている。一両日置こうか」
「いえ、この場で決めます……」
「それでこそ、俺が見込んだ男だ」
それから何分、何時間たったか判らない
しかし、したたり落ちる汗が、初夏の草の匂いを乗せた涼やかな風に当てられて、こんな時だというのに気持ちよかった
「……では」
「うん」
「……これにて、この場より光厳寺光太郎を名乗らせて頂きます」
それだけ言うと光太郎はスッと立ち上がり、出された料理に箸も付けずに立ち去った
そのススとした動作に、改めて光太郎に感心しながら、荒鬼は彼の後ろ姿に向かって頭を下げた










1995年は阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた年だった
「今年はよいことが続かないな……」
「まだ半分じゃないか。気の滅入ることをいうな」
「う、ん…まぁ、いいことが無いわけじゃない。俺達みたいな若輩も夏の会合に参加出来るというのは異例の事だ」
盛夏の熱い日差しの下で、吉野の本部に勤める若い二人は語り合っていた
「だがな、高寺」
「何だ?」
「ああいう陰気な事件はなぁ……」
「判っているさ。陰の気は魔化魍を呼ぶ。今年や来年の初めまでは忙しくなるだろうな」
アイスコーヒーを飲み干すと、高寺は白倉に「そろそろ行こう」と促した
今年に入って代替わりした総本部の本部長はなかなかに刷新的で、年に1回魔化魍が活動しない日におこなう大総会と
夏至と冬至の日におこなう総会に、希望者全員を入れるとした人だった。総本部で『金』に成り立ての高寺と白倉には全くありがたい事だった
「おい、大変だぞ!」
そんな二人に、彼等と同期の『歩』である男が衝撃の事件を伝えた
「百士鬼が返り忠だ!柊鬼、壱鬼、怒鬼……三人もやられた!」
「なんだって……!?」



その年の夏の総会は重々しい空気で始まった
「………」
「皆の者、すでに聞いてはいよう……」
そう一言目に放った総本部長の顔は、夏の強い日差しに照らされて、苦渋がその場に居た全員に判るほどだった
「何故……百士鬼さんが……」
百士鬼とは当然面識があった。弟も又しかりで、非道く狼狽えていた
「ただ抜け出すなら兎も角、不意打ちで三人も同僚の鬼を手にかけている……鬼祓いは免れないだろう」
「兄上……そんな」
「俺はもう荒鬼だ。兄と思うな」
おそらく、鬼祓いには宗家の鬼たる威吹鬼が――和泉稲妻が当てられるだろう
(もし……その時は、俺も名乗りを上げよう)
荒鬼の格ならば、威吹鬼を鬼祓いでサポートするのは順当な役であるはずだ
「兄上……百士鬼さんを……」
「救ってくれと頼むのなら、その男には頼まない方がいいぞ」
袖にしがみつくような弟に釘を刺したのは朱鬼であった
「荒鬼はすでに百士鬼の殺し方を考えているからな」
「!!」
弟のまさかという目に、沈黙で答える。要らないことをする女だ。だが大した洞察力であもある。年の功か
(勝てるかな……)
百士鬼はベテランと言っていい。天狗や雪女との戦闘経験もある
「……では、百士鬼を破門とし、鬼祓いを行う。行う鬼は威吹鬼!良いな。異論のある者は名乗りをあげよ」
静かに手を挙げた。だが、以外だったのは自分以外にもう一人手を挙げた男が居たことだ
「威吹鬼では不安が残ります。一対一で百士鬼に確実に勝てるでしょうか?」
その若い男は公衆の面前で言い放った
(ものには言い方というものがあるだろう……)
彼の言い分は尤もな訳だが、仮にも宗家たる威吹鬼に向かって「貴方では役不足だ」と言い放つに等しい
和泉稲妻は良くできた人間だから起こりもしないだろうが、その周りの人間までそうはいかない
「本部長……」
別段、その若者を助ける気でもなかったが、ややっこしくなる前に発言をすることにした
「百士鬼は地形をよく心得ています。威吹鬼さんに余計な負担をかけない為にも、私がサポートで入りたいと思います」
「なるほど」
同じ若輩でも、“荒鬼”の言葉には耳を傾けるのが組織というものだ
「兄上……」
「俺のようになりたくないと言うのであれば、鬼にはならないのだな」
本来は吹雪鬼を継がなくていい弟に、今では重圧がかかってることを済まなく思いながら
だがだからこそ手厳しい指導をしなくてはならないとその時は思っていた
「では次の議題だが……開いた三人の鬼を埋めなくてはならない。今いる『と』の中から三人選考を行う」
「反対です!」
「お、おい高寺……」
またあの青年だった。隣の同じくらいの男が出過ぎる彼を止めている
(高寺というのか……)
「現在の『と』の中で変身を習得してから1年以上の人は居ません!そんな未熟な人達を『角』に昇格させるのは危険です
 まして、魔化魍との戦闘で使い物にならなくなってしまえば、対価費用としてこれほど悪いものは……」
「言葉に気をつけたまえ!!」
思わず立ち上がっていた
「また君たち二人かな?」
総本部長は何やら楽しげであったような気もするが、こんな時に周りに気を配る余裕など無かった
「人は物ではない。費用として換算するものでもない!」
「……すみません、言い過ぎました」
案外あっさりと謝った。俺はこの男に対しての評価を変えるべきかも知れないと思いながら続けた
「とは言え、私も彼の意見には賛成です。そのような学徒動員のようなことは……」
「うむ。もっともなことだな」
本部長の感触は良かったように思われた
けれども、その日出た結論は
「現在の『歩』から『角』を三人だす。異論は許さぬ。これは決定事項だ」
「な……」
「尚、その選定に関しては以下の者に一任する。先ず、朱鬼……」
「は!」
「それに荒鬼に高寺君だ。期待してる」
(何を……!!)
思わず立ち上がろうとした俺を抑えたのは朱鬼だった
「冷たい言い方だが、猛士というのはああいうものだ」
猛士という言葉を組織と置き換えても良いかもしれない
俺は若かったから、その割には賢しかったせいもあって、理解できても到底納得は出来なかった



「それから……」
話に一区切りを置いた頃には、光厳寺の持ってきた一升瓶は半分ほど無くなっていた
その外見に似合わず、酒豪らしい
半日歩き続けた鋭鬼は空腹でもあってので、茶菓子の殆どを一人で平らげてしまった
「百士鬼は一度美濃の国境で逃した。跡を追って関東に入った所で鬼祓いに成功した
 尤も、百士鬼にトドメを刺したのは朱鬼で、彼の最期や何故猛士を抜けたのかまでは判らない
 あるいは、その最期を見届けた朱鬼は知ってるかもしれないが……私が知らなくても良いことだ」
言葉を区切ると、光厳寺は一升瓶を見て飲み過ぎたと感じたか、コップを置いた
「そのまま関東に入った。もう一つの任務である鬼に昇進させる『と』探しがあったからね……
 先に言ってしまえば……私はキミに謝らなくてはならないかも知れない
 その『と』こそ……キミの先代の鋭鬼なのだから……」
「!!」



「ココまでは私が師匠に又聞きした話……」
「鬼の裏切り者……百士鬼……」
「とても強い鬼だったそうよ。当時最速の鬼と呼ばれ、響鬼さんの紅のようにその人も百士鬼・黄金っていう形態を持ってたって」
蛮鬼は吹雪鬼の話を聞きながら、百士鬼の気持ちを考えようとした
何を思い、猛士を抜け、かっての仲間を傷つけたのか?おおよそ理解しがたい行動だった
「私はその時……まだ中学生だった……」
「吹雪鬼…さん?」







「かざはなー、何ボーっとしてんのよ?自由時間終わっちゃうでしょ?」
その言い方はいい加減辞めて欲しいと言ったところでどうしようもない
自分の名前は“ふうか”なのだが、“かざはな”と読める。愛称が本名より長くなってどうするのかと抗議したこともあったが
「“かざはな”の方が何て言うの?こう…綺麗じゃん?」
じゃあ“ふうか”という名前は綺麗じゃないのかとも言い返したくもなるのだが
「はいはい、待ってよ〜」
冬木風花は自棄が混じった顔で同級生の所に向かった
「電車、乗り間違えないでよ……」
どこか抜けている友人に向かって注意した。そんなんだから、自分はシッカリしようとしているウチに
仲間内で保護者的な扱いで頼りにされてしまうわけなのだが
「だから〜、そっちの電車じゃないって!!」
まぁ、しっかりしている事は悪くない。中学生活に一度きりの修学旅行なのだから
東京駅の中で、間違った線に乗ろうとする友人達を見咎めながら風花は思った


(……だっていうのに)
東京の電車は何でこんなにも混むのだろう……呆れながら、まぁそれでも賑やかに会話する私達も大した物だと考えてると
お尻の辺りにゴツゴツと角張った手…男の手の感触が当たる
いや、当たるだけじゃない。スルスルと撫で回して来る
ガッツリ食いついてくる訳ではなく触れるか触れないかの位置にある手が逆に嫌悪感を感じさせる
(コノッ……!)
体中の血が逆流し、沸騰しそうだった。見かけこそ清楚でお淑やかな片田舎のお嬢様な風花だが、中身はそうは出来ていない
初めての東京でこんな出来事にあって竦んでしまうような心臓も持っていない
爪が食い込む程、拳を握った風花であったが電車が減速していく反動で蹌踉めいた
次の瞬間、満員電車の扉が開く
(あっ……そういう卑怯な事!)
電車を降りる者、乗る者、こうなっては犯人が何処にいるか判らない
(悔しい!!)
そんな風に意識が別の所にあったからだろう。友人達からはぐれ、人の波に押されてホームに降りそうになった
「きゃっ!」
「風花!?」
電車のドアが閉まる。「まずい!」そう思ったとき、視界が急に進んだ
「わっ?!」
――プシュー
背後からドアの閉まる音がする
「大丈夫?」
関西のイントネーションで聞いてきたのは、風花の手を握って引き寄せてくれた男だった
年は二十代後半に見える。自分から見てすでにオジサン以外の何者でもない年齢だが、どことなく若々しい
格好がというより雰囲気がだ。それでいて老成したような表情も垣間見せる不思議な男だった
背が高い。自分も女性としては標準以上で男より大きいときもあるが、見上げてみるしかない身長差があった
「……どうも」
凄く不機嫌な声だと思った
痴漢の犯人を取り逃がしたからだとは理解してるが、それと助けてくれたこの男は全くの無関係だ
「……楽しい修学旅行で嫌な思い出を共有する必要はないだろう」
「高寺さん?」
連れの男が口を開く
「さっきの駅で降りていったが、警察より怖い人が追っていったので安心しろ」
それだけ言うとその男は、助けてくれたもう一人を引っ張って人混みを移動した
同時に友人達が近づいて話しかけてきたから、あの男はそういう雰囲気が嫌いなのだろうと納得した





痴漢を殴り倒した朱鬼は、虫けらでも見るような目でその男を見た後タクシーを拾うために道路に出た
(百士鬼……)
美濃で百士鬼を取り逃がした後、鬼候補の『と』選考の為に先に関東に入っていた朱鬼は
威吹鬼と荒鬼の追う百士鬼に網を張る役をやっていた
結果的に朱鬼が倒してしまうことになったのだが……
『終わら…ないね……人間、鬼、魔化魍…螺旋地獄を現世で彷徨い続ける……』
(黙れ!)
『どれほど…魔化魍を憎んでも……その炎で焼いても……焼け残った灰は再び形をなして現れる……』
最期の百士鬼の顔は何故か安らかそうだった。勝手な男だ。自分だけ楽になって逝った
――カツン!
「!!」
「鬼の割には悪い顔つきをしてるな」
朱鬼の足下に投げつけられたそれは、一見何か判らなかったが、所々焼けこげてない所を見るにディスクアニマルのなれの果てだと確認できた
「童子と姫のオリジナルか……」
「街中で変身するのか?」
変身音弦を構えた朱鬼に、時代錯誤の大正風の格好をした男女が訪ねる
「生憎、私の優先順位はお前達の抹殺だ」
「そうか。それはよかった」
「私達も遠慮しなくていいと言うわけだ」
男女がそう言いはなった直後、反対の車線に止めてあった車が突如炎上する
「!!」
朱鬼が振り向いた時に見たのは天高く舞い上がったあと、ビルの屋上を駆けていく火の玉だった
「カシャか……ハッ!」
慌てて前を向く朱鬼。そこに男女の姿はやはり無かった
「未熟だ……」
焦げたディスクアニマルを踏みつぶして悪態を付くと、朱鬼はポケットベルを取り出して荒鬼と関東支部である“たちばな”に連絡を入れた




「運わるすぎぃ〜」
隣の友人が嘆くのも無理はないと、風花は思った
「なんで私達の乗ったエレベーターが停止するかなぁ……」
「まぁまぁ、いい土産話でしょ?」
人混みにも飽きたし……等と前向きには考えているが、そこは年頃の女の子なのでもっと買い物を楽しみたかったと思わないでもない
風花達が入った複合施設は5階と6階が工事中だったことから、このエレベーターの停止もその関係で
すぐに元に戻るだろうと楽観的に考えていた
しかし
――ガコン!
「え?」
天井から大きな音と、揺れを感じた次の瞬間だった
身体が一瞬フワリと無重力の様な感覚の後、身体全身全てを押さえつけられたような衝撃が奔ったのは
「う……」
エレベーターの線が切れて落下したのだと認識したのは暫く後だった
「みんな……大丈夫?」
反応がない。気絶してるようだった。中には頭から血を流してる者もいる
風花は武道をやっていたお陰か、上手く受け身をとれたといったところらしい
フラフラと揺れる視界の中で風花は手すりに足をかけながら、天井を開けた
身体が柔らかいとことがひょんな事で役立ったと、こんな状況でも笑ったのだが
暗いはずのエレベーター外部の空間は赤日の光と熱さで満ちあふれていた
「なん…なの?」
「人?……出てくるな!!」
「え?」
鉄の箱の中に響く声を辿って上を向くと、そこには太陽があった
それは日常で見る太陽ではない
理科の資料集や図鑑に載ってるような、赤々と燃え広がり、コロナやプロミネンスを吹く火玉としての太陽だった
「え……」
それが向かってくる
「逃げろ!」
さっきの声が再び命令する
「ドコによ!それに……友達がまだいるのよぉ!!」
「判った!」
それは非道く頼もしげに聞こえた声だった


「判った!」
光太郎は……いや、荒鬼はカシャに迫られる少女にそう叫ぶと、渾身の力で鉄柱を蹴った
重力と反動で落下するカシャを追い抜くと、少女を庇うように立つ
「荒鬼になってからは吹雪鬼の技は余り使いたくないのだが……」
気を両手に篭めると、荒鬼の手が凍りで守られる
「迷惑な所に……逃げ込んでくれた!」
「ギ……」
カシャを受け止める荒鬼から霧が巻き上がる
「ギギギィ!!」
カシャは回転を止めると、荒鬼の手を足蹴りして間合いをとった
「貴方……人間なの?」
助けた少女が、晴れた霧から覗く荒鬼の姿に驚愕の声を上げる
「後で説明はする……先に答えから教えておくと……鬼だ」
「ギャアァァアアアアァァ!!!」
カシャが唾液を撒き散らしながらその鋭い爪を荒鬼に向けて飛びかかる
「鬼?」
少女が訳のわからないといった顔をするのを横に、荒鬼はバックルにささった音撃棒を抜く
「音撃棒“烈旋”」
「太鼓の撥?」
音撃棒を選んだのは、一番被害が少なくて済むからだ。また夏の魔化魍には相性が良い
荒鬼は本来、管の鬼である
尤も、管しか出来ないような男に先代の荒鬼がその名を託す筈がない
「ハ!」
烈旋でカシャの攻撃をいなしながら、音撃鼓『竜巻』を取り付ける
「音撃打“金剛飛燕”!!!」
勝利を確信しながらも、決して力を緩めることのない一撃がカシャに放たれた



「出来れば……エレベーターの線を切る前に倒して欲しかったですね」
“たちばな”の店内で電卓を弾く高寺は、カシャによる損害とエレベーターで怪我をした女子中学生の治療費を計算して溜息をついた
「もう一週間も前の事を、いい加減しつこいな」
荒鬼が高寺に向けて苦笑いするのだが、それでいて睨み付けられたような感覚を与えるのがこの男だった
「東北の朱鬼から文が届きました。『角』に昇進させる『と』としてお墨付きに値する者がいたそうです」
「それを先に言え」
「一応、我々も承諾を得なければ本部には回せませんが」
「朱鬼さんが認めたなら俺は文句は言わないよ。新潟から朝一でやってきたのに、また……秋田だっけ?遠すぎる」
荒鬼は新潟にいる『と』に合って、『角』への昇進に耐えうると判断してきたばかりだった
「再来年には新幹線が開通しますから、随分と近くなりますよ」
「へぇ……」
高寺という男は人間というよりは機械と言った方が納得出来るほどの情報量と計算力を持つ男だった
裏腹に、正確は酷くつっけんどんで、いい加減な個人主義者だった
「その『と』のデータです。目を通して置いてください」
渡された履歴書に荒鬼は目を通す
「冬木藤千代。女。使用音撃は太鼓。コードネームの希望は奮鬼……女性らしくないコードネームだな」
美人なのに……と履歴書を投げる
「……ん。今の言葉は忘れてくれ」
「今の?“美人なのに”と言う言葉ですか?」
「恐妻家と言うわけではないのだが……結婚したばかりなのに、随分と長く家を空けてしまっていて俺は後ろめたいのさ」
憫笑を見せる荒鬼にも高寺は無関心だった
「兎に角、後一人と言うわけです。鋭鬼さんを待ちましょう」
後一人の候補はすでに上がってた
鋭鬼の弟子である江戸英太郎である
今回の鬼不足に付いて鋭鬼に話したところ、鋭鬼は

「あぁ、俺もそろそろAGEなんで元の江夏衛二に戻ろうと思ってたんよ」
「あ、いや、そうではなくて……」
「師匠、それでは鬼の数が増えないでしょう?」
扇子を片手にパンパンと畳を叩いてはしゃぐ鋭鬼を、弟子である英太郎が嗜めた
「あぁ、そうか。でもまぁ、鋭鬼を譲っても“ええき”に!とは思っとったわ」
「師匠……」
「天鬼の奴がよ……」
一回り年上である天鬼を呼び捨てにしながら、鋭鬼は続けた
「アイツの弟子の裁鬼が結構いい働きをしてやがる。面白くねぇ。俺の弟子も結構やれるってトコをみせてやりてぇな」
「では……」
鋭鬼の強烈な個性に当てられて閉口している高寺がまとめに入ろうとすると、鋭鬼はそれを遮った
「まだだ。コイツは後一年は手元に置いておきたいってのが正直な気持ちだ
 技はまだ荒削りだし、何よりコレが無い」
と言って荒鬼に付きだしたのは扇子だった
「は?」
「だからぁ、センスがないって言ってんだよう。笑いのセンスが」
「笑い……」
高寺が冷笑して見せるが、鋭鬼は頓着しない。むしろ英太郎の方が高寺を睨み付けていた
「が、俺も猛士に世話になって長い。ま、俺も猛士の為には結構骨を折ったがね。マジで何回か折ってるぞぉ!」
ガハハと品無く笑う鋭鬼にも嫌な顔一つせずにいる荒鬼が高寺は理解できなかった
人格者という一言で片付けられるような思考回路が高寺にはない
「というわけでよぉ。ま、一週間くれや。みっちり修行させて取りあえず鬼としての格好はつくようにコイツをするからさ」


それから丁度一週間である
「勢地郎さん、みたらし一つ貰えますか?」
店の奥に向かって荒鬼は注文するのだが、返事がない
のれんを押し上げて中を覗くと、勢地郎が電話の受話器を置いたところだった
「あぁ、悪いんだがねぇ……」
「魔化魍ですか」
すぐに出ましょうと駆けだした荒鬼が開けたドアの前に二人の男が立っていた
「丁度良いときに調度してきたぞ!新しい鬼を!パンパカパーーン!」
「鋭鬼さん!」
「そう呼ばれるのも、今日までだろうよ」
一人で盛り上がる鋭鬼を横に、英太郎が魔化魍の場所と種類を聞いた
「結構街に近いですね……どうしました?」
「いや……朱鬼さんに恨まれるかなと思ってさ」
出現した魔化魍の名前はノツゴだった
朱鬼とは因縁が深い








(……鬼)
夜行列車に乗っていた身体は節々が痛かった
「……なぁんで来ちゃったんだろ?」
好奇心は人並みにある方だと思ってはいたが、学校を休んでまで東京に……あの鬼に会いにきた
(人知れず、人を襲う魔化魍と戦ってる……鬼という人達……)
あの後、あの男に――偶然にも電車で助けてくれた男だった人に教えられた鬼の事を反芻する
「アテもないくせに……私は何がしたくてココに来たんだろう?」
冬木風花は呟いた
冬木風花はちょっとした名家に生まれた。江戸時代から続く家の次女で
少し年の離れた姉の名は藤千代。この時知るよしもないが、彼女は鬼になった
そして一回り年の離れた芙実という妹がいた
祖母は男子が欲しがっていたのだが恵まれず、その分、女としても冬木の人間としても恥ずかしくないようにみっちりと鍛えられた
台所に立てば料理人として食べていける程の料理を作れるし、袴を穿いて薙刀をを持てば並の剣士では相手にならないほど強い
礼法作法や琴、生け花、習字、詩歌などもお手の物で、学問においても優秀な成績で通ってきた
それは三姉妹共通してることだが、どうしたことか姉である藤千代は随分と破天荒な性格に育ったし
風花も又、常識人ではあるが良い子ちゃんではないつもりでいる
まだ将来の事を考える程には成長していない。ただ、鬼に出会ったことは僅か15年の人生において尤も鮮烈な出来事だった


ノツゴの鋭利な角が英太郎の腹を貫いていた
「英太郎さん!!」
慌てて助けに入ろうとする荒鬼を鋭鬼が押しとどめる
「死んだらそれまでだ……」
「それはそうですが」
「信じろ。俺を信じろ。俺が育てた英太郎を信じろ!」
そこまで言われて荒鬼に反論の術はない
「お……おおぉぉ!!」
「英太郎!ノツゴは捕食を行う時に口を見せる!そこが弱点だ。口を狙えは朽ちるぞ!」
串刺しのまま振り回される英太郎に鋭鬼のアドバイスが届く
「判り……ましたぁ!」
英太郎はあえてノツゴの角を食い込ませると、距離を縮める
「食いたきゃ食いな!ただし、音撃鼓だがな!!」
英太郎は音劇鼓『白緑』を投げ込むと童子に展開させた
「キャシュアァアァ!?!」
「音撃打……」
鋭鬼より渡された二本一対の音撃棒『緑勝』をL字に構える
「必殺必中!!」
清めの音がノツゴに響き渡る
だが……
「ノツゴを倒すには力不足だな」
もがくノツゴの尻尾の攻撃を払いながら音撃を続ける英太郎変身体を見ながら、高寺は冷静にいった
「ノツゴは上級の魔化魍といってもいい。あれで充分合格だ。新人に一人でシフトを組ませるわけでも無いしな」
荒鬼は言うや否や、音撃弦『光魔』を鞘から抜いた
ノツゴに最も効果のあるのは弦である
音撃震『牙忍』をセットすると荒鬼はノツゴに向けて駆けだした
「音撃斬…閃光結晶!!」
「ギュアアァファガオアオアガジグギャバァ!!」
いつ聞いても魔化魍の断末魔は気持ちの良いものではない
そう感じながら荒鬼は最期の一掻きを鳴らした
後に残ったのは肉片になった魔化魍と、それが暴れて無惨に折られた木や砕けた岩、抉れた大地だけであった
「ギ……ギィ!」
「童子と姫か……逃げたどころで魔化魍を失ってしまえばいずれ消える運命だろうに……
 まあいい。あとは英太郎さんを応急手当をして病院に運ばないと」
高寺が事務屋らしくテキパキと手配しようとしてると、その肩を荒鬼は強く掴んだ
「童子と姫は俺が追いかける」
「要らないでしょう。どうせ……」
「“どうせ”何だ!!」
荒鬼の怒声に眉をひそめる高寺
「万が一にも犠牲者が出たらどうなる?現場を知らない人間が口を出すな」
「……失礼しました。どうぞ。英太郎さんの手当は俺達に任せて」
高寺は抑揚のない声で荒鬼の手を退けた
「……少しは俺にむかついたらどうだ?」
「どういう意味です?」
「普通はムカツクもんだと言っている」
今は余計な口論をすべきでないと思いながら、荒鬼は話してしまっていた
「俺は凡百な人間じゃないつもりなので。荒鬼さんこそ、随分と人が出来たお人柄で」
「コレは地だ」
「俺もです」
こんな辛辣な自分が自分の中にあったとのかと驚嘆していたのは荒鬼の方だった
「悪かった」
「早く童子と姫を追いかけてください。ここは街にも近い」
今度は一般市民に被害者を出さないように……と存外に含んでるように感じられたのは自分の卑屈さだと荒鬼は思い、駆けだした






路上に、それも余り人も車も通らない場所に踞ってる人を見れば助けるのが当たり前だろう
ただし、その踞ってる者は人間ではなかったのだが
「大丈夫ですか?」
風花は声をかける
泥まみれで着ている服もボロボロであったが、それで素通りするほど人が悪く出来ていない
「……う…」
「今、誰か呼んできま……」
「シャアァ!」
首の皮一枚で風花はその者が繰り出した手刀を避けた
日頃の鍛錬の成果だが、これほど鋭い突きにあったのは初めてだった
それに、その伸びた爪は人外の物だった
「シュアアァ!!」
その者の皮膚は硬化し、嘗め光る鈍色となって風花を襲った
「コレって魔化魍?運が良いの、私」
慌てて距離と置くと、家の蔵からくすねてきた小太刀を抜く
「でも分が悪いみたい……」
本当なら槍か日本刀を持ってきたかった所だが、目立つしかさばるので護身用に選んだのが小太刀だった
「懐に入れば……」
アスファルトを尺取り足で距離を詰めると、風花は一気に跳躍し小太刀を大上段に構えた
「ヤァ!!」
童子も釣られて両手を上に向ける
「かかった!」
風花は腰を逸らしながら、腕を引きつけて童子の開いた胴体を狙う
これが日本刀なら胴を真っ二つにするどころだが、小太刀なので、一旦胸に寄せてから一突きを入れる
「ギャアァ!」
「やった!」
余り嬉しくない童子の返り血を浴びながら、風花は勝利の笑みを漏らした
だが
「ギュワアアァ!!」
童子は怒り狂って風花を睨み付けた
「嘘……」
同時に風花は死ぬと思った
逃げれない間合いに入ってたし、この化け物を人間の尺度で考えた自分の愚かさに怒りを通り越して呆れた
どうやら自分は、自分や周りが認める程大した人間ではなかったようだと、何故かそれが一種の欣快にもなって押し寄せた
そでれいながら、どこかボンヤリと他人事のように「死ぬのはいやだな……」と思った
「ガァ!」
――タァーーン
「……ァ?」
風花に向かって吼えた童子は刹那、銃声と共に脳漿をぶちまけて倒れた
「大丈夫……か?」
駆けつけた異形こそ、風花の探している……鬼だった
「間違いない……あの時の鬼だ」
日が暮れかかって、青みがかった荒鬼の身体が何とも言い難い色をなしていた
それが一層、彼をこの現世の者には思わせない不可思議なモノかであるような感覚を風花に与えていた
「あの少女か!?」
荒鬼も気づく
「三度も出会って、三度も助けられた……凄い偶然だね」
「あ…あぁ……」
童子の返り血を浴びた少女が、屈託無く笑う姿に、荒鬼は不覚にも頬に朱が刺すのを感じた
妻に悪いと思いながら、美しいモノを美しいと感じられる人の感性は素晴らしいモノだと
どこか突飛な考えで、自分を許していた
「なんで……ここに居るんだ?」
中学校の修学旅行が一週間もあるななど聞いたことがない
だとすれば何故彼女がココにいるのか
「もう一度会いたかった。何でかはわかんないし……こうして会ったらどうでもよくなったよ」
風花は地面に腰を下ろすと、赤い光を通す黒髪を揺らした
「弟子に……なるか?」
昼と夜の隙間で世界が錆朱色に染まる
そんな刻だったからか、荒鬼は自分でも思いもよらない言葉を吐いていた
「え……」
“弟子”の意味もわからない風花はただきょとんといった顔している
その顔はただの童女の顔だった
「いや…忘れろ」
自分のようにそれが運命なら兎も角、何も知らない少女が鬼になる必要はないのだ
さっきの英太郎、自分が追っていた百士鬼、そして目の辺りにしてきた朱鬼の姿が、全てではないにしろ鬼の姿だ
「忘れないよ……」
「何?」
「もうすぐ……夜になる。月がでる」
「それがどうした」
年の割に大人びいた顔をすると、荒鬼は改めて風花を観察していた
「月は太陽のことをきっと知らないんだろうね」
「ん?」
「月が太陽の輝きを知ってしまったら、月は恥ずかしくて輝けなくなってしまうでしょ?」
太陽はもうその半分を大地の胸に埋めていた
「太陽を探しに来たのか?」
「太陽よりもっと強い光を探しに来たの。きっと」
「……月も太陽の事を知らない。太陽は自分の身を焦がして光りを発している。それより強い光ならなおさらだ」
荒鬼は顔の変身を解いた。始めた会った時とは違ってどこか寂しそうな顔になったと風花は感じた
「いい大人なんだから責任とってよ。弟子にしてくれるんでしょ?」
華やいだ声で荒鬼を追いつめる風花を、それこそ大人の傲慢さで睨んだ
「鬼は各地方で受け持ちがある。俺は近畿の鬼だ。東北に住むキミを弟子にするには不都合だ」
「もう少し、いい女になってから来いって事?」
風花は荒鬼の否定を肯定に受け取って、更に生意気に答えてた
「その時になったら、考えてやる」
“人が出来た”のはやはり地だ……愚にも付かない答えを返した荒鬼は考えた
手厳しく返した方が自分の為だったのだが、そうも出来ないように生まれたらしい

その日、英太郎は“鋭鬼”を継承し、引退を暫し先延ばしにした先代鋭鬼は“延鬼”というコードネームを名乗った






「それが……」
「あやまらなきゃと……ちゃんと修行を終わらせてから英太郎くんに鋭鬼を継がせたかった」
光厳寺は鋭鬼に向かって頭を下げた
先代の鋭鬼が……英太郎が魔化魍との闘いで命を落としたのはそれから数年後の事で、彼が責任を感じる必要も無いだろう
鋭鬼はそう思ったし、それが普通の反応だろうにと、鋭鬼は逆に光厳寺を好意の目で見た
「実ははじめましてと言ったが、先々代の鋭鬼さんの葬式の時にキミを垣間見た事がある
 ……出来れば、こうして猛士として会いたくなかった。どうして……みんな鬼になろうとするのか……」
鬼を育ててる者のセリフではない。だというのに、その言葉がこれほど似合う男は居なかった
そう感じるまでに重厚な存在感を見せる。それはこの男が並の過去を背負ってる訳ではないということだろうか
「遅くなってきた……もう少しだけ続けて、今日は終わろう」





――1996年、春 京都
日傘をさした着物を着た女性が歩いていた
流石は千年王城……古風なものだと感心しながら、あのような人ならばこの判りにくい町もよく知っていようと声をかけた
「すいません」
「はい?」
年の頃は二十代後半といった頃だろうか
振り返ったその顔は、スッと通った鼻と、艶やかな白磁の肌が小顔にキリリと張り締まったようだった
一言でいうならば美人なのだが、やや厳しい感じを与える女性だと感じた
笑えばまた印象が違うだろう……そう頭で考えながら、風花は訪ねた
「ここら辺で荒鬼という名前の人の家を知りませんか?」
「荒鬼……それは光厳寺光太郎のことですね?」
「え?えっと……たしかそんな名前だったかも?知ってるんですか?」
顔だけでない。言い方も随分とハッキリと、迷いなど一つもないかのごとく言う
よく通る声が、切り口上と相まって非道く威圧してくる
「私は荒鬼をよく知っていますが、貴方のことは知りません。どういう用が荒鬼にありますか?」
「弟子入りです」
風花は負けないように強い口調で答えた
「聞いていませんね。でも嘘をつく必要もないでしょう。つくならもっと上手い嘘もありましょうし」
整った眉を微動だにせずにその女性は言いはなった。やはり無駄に手厳しく感じる
「案内する間に貴方のことを聞かせて貰いますがいいですか?」
「構いません。聞かれて困ることなんてありませんから」
「それは嘘でしょう?そんな人間は居ませんよ。それはそれとして、先ず名前から訪ねましょうか?」
「冬木風花といいます。季節の冬に木、風花と書いてフウカと読みます」
「雅な名前ですね。私が知らない名前です。そう、私の名前は小佐夜と申します」
小佐夜はカツカツと草履下駄を鳴らすと歩き始めた。そのペースはあくまで自分のペースで人に合わせようとしない
「弟子入りと言いましたね」
風花が「はい」と答える前に小佐夜は続ける
「あの人が認めたという事ですか?」
「半分」
「半分?」
「後の半分は押しかけです。百の文より一の行動ってばっちゃも言ってたし」
歩く速度を変えないまま、小佐夜は風花をじろしろを見定めるような目で直視してくる
「荒鬼の事をどう思ってます?」
「どうって……まだよく知らないし……」
「よく知らないのに弟子になろうと?」
風花は言葉につまる
「よく知らなくても、感想の一つや二つはありましょう。好きや嫌いと単純なことでもいい
 私は貴方の事を嫌いではありませんよ。ボヤボヤとしてるわけでもないし、勘の強い方でもない」
どこも同じのように見える曲がり角を小佐夜は曲がる。風花は慌てて付いていくと小佐夜は信号を待っていた
「目標……です」
「目標?あの男が?」
「というより、鬼が、です。けど私は鬼をあの人しか知らないし、あの人に……こう、運命的なものを感じます
 目標もなく努力することは、とても辛いことでした。何のために自分を磨かねばならないのかと
 それでも邁進できる自分は少し異常だと感じますが、目標が見つかったら人並みになれるかと」
才能は働かせる場所が無ければ腐ってしまうか毒になってしまうだけである
反対に無能な働き者こそ害悪にしかならないものはないが
「働き者の才覚者は参謀にまでしか慣れませんよ」
「は?」
「似たもの同士ですかね。荒鬼と貴方は」
信号が青に変わる
風花は知るよしもないが、この門を右に曲がれば光厳寺邸はすぐそこである
しかし小佐夜は左に曲がった
「荒鬼という鬼は……猛士発足前から受け継がれてきた由緒正しい鬼の名です
 代々光厳寺家の跡取りが継承してきました。ですから貴方は荒鬼のコードネームは継げませんよ」
「はぁ…」
由緒正しいと言われても、猛士や鬼のありがたさがよく判ってない風花に敬えというのは酷だ
「ま、今の荒鬼のように婿養子という手もあります。貴方の場合は嫁入りですね」
「なっ……そんなこと!……婿養子?そう、だよね……結婚しててもおかしくないか」
「………」
何をガッカリしてるのだろうと風花は自分の心が判らなかった
そんな風花をよそに、小佐夜は続ける
「今、宗家の三男である伊織さまの後見人も拝命しています。ま、貴方が弟子入りできたなら、伊織さまは兄弟子といったところです」
「伊織……」
「最近では……鬼殺しの荒鬼と陰口を叩かれてます。一年前の百士鬼の鬼払い、
 それから本部の意向を伝えて、現役の鬼に破門や引退を勧告する役割を最近ではもっぱら請け負わされていますからね
 実力があると言うことです。その鬼が反対して攻撃してきてもねじ伏せられる実力があるということですから
 もちろん魔化魍も倒していますが。本部も後ろめたいのか、関東から戻ってきた伊織さまの後見などという名誉を与えましたよ」
誰に悪意が向いてるのか判らない言い方だった
荒鬼のようにも思えるし、本部のようにも思える。あるいはその両方か、誰でもないのかもしれない
「あと…そうそう。もう一つ荒鬼の陰口と言えば、随分と気位いの高い奥さんを持ってと笑われておりましょう
 荒鬼の妻はね、先代の荒鬼の娘でした。幼少のころよりなかなかの才幹があって、打てば響くような会話を子供ながらにしていました
 荒鬼は兄が継ぐつもりであり、別段鬼の修行をする必要もなかったのですが、
 先代の荒鬼はおもしろがって兄と一緒に鬼の修行に彼女を連れ回しました。それは彼女にも楽しいことでした
  ところが、ね。先代荒鬼の息子というのが父のサポートで魔化魍と対峙してるときに攻撃を受けて帰らぬ人になりました
 先代の荒鬼の妻は泣き崩れ……一時はひどく夫に対して罵詈雑言、怨嗟呪詛の言葉を吐いたものでした
 誰が一番辛いか判りますか?それを見ていた一人残された娘です。兄を失い、父を呪う母を見なければならなかった娘ですよ」
風花は言葉を発せずにただ聞いていた
「……その娘は、鬼になりたかった。死んだ兄の代わりに、死んだ兄が安心できるように。そして自分の為に
 例え兄が荒鬼を継いでも、別の名で鬼になろうと思っていましたから。子供心に
 だから、兄が死んだ後は彼女は彼女なりに必死になって修練を積んでいました
 けれど、息子を失った先代荒鬼の妻は、一人残った娘だけはもう危険な目に遭わせず、ただの女として幸せになって欲しいと望みました
 そういう母の思いを、娘はどうして裏切れましょう」
再び曲がり角に差し掛かった。横に見える信号が黄色に点滅してるから、
もうすぐ横断歩道を渡れるだろうと思ってると、小佐夜は普通に右に曲がったから風花は少しあせった
「それで、荒鬼の血を絶やすことは出来ないと思った先代の荒鬼が連れてきたのが今の荒鬼です
 筋目も悪くない……元々は吹雪鬼を継ぐ文室家の嫡子でしたから
 それだけなら、娘は反発したことでしょう。自分より劣る者が本当は自分が手を伸ばして取るつもりだった
 荒鬼の名を軽々と取っていったのですから。それはまぁ、思慮足らずな事ですけど
 彼とて、吹雪鬼を継ぐ筈だったのに先代荒鬼の横やりで、無理矢理に婿養子です
 でもそういう彼の気持ちに気づけないほど、まぁ娘の心も幼かったのでしょう
 今の荒鬼――文室光太郎の事は娘はよく知ってました。幼なじみともいうか……光厳寺と文室のままなら
 それは淡い恋心の成就だったでしょう。文室光太郎はそれこそ兄をも勝るような努力と才覚を持ってた方でしたから
 非道い話です。筋目も悪くなく、鬼としても私より優れ、荒鬼の名も持っていった。娘に残ったものはなんでしょうか」
「………」
「そういう捻じ曲がった娘――妻の、ついつい辛辣になる言葉に一々怒りもせずに付き合う荒鬼を見るに、自分に矮小さを感じずには居られないでしょう
 でもね、その娘はそういうことでしか、もう夫に甘える方法を知らないのですよ……着きました」
名家だけあって光厳寺邸は、なかなかに古く立派な建物だった。
もっとも、風花の家も同じ事がいえるので気後れはすることがない
「ありがとうございました」
「……荒鬼は良い人ですよ。師事すれば、よい鬼になれるでしょうね。鬼になりたいですか?」
相変わらずの切り口上で彼女は聞いてきた
「はい。光厳寺小佐夜が、子供の頃に憧れたように」
風花もまた、負けないように強く答えた




風花が訪ねてきた後、もう光厳寺の家にすっかり馴染んだ荒鬼は夕食を居間で取っていた
「約束はしたが……忘れるようにしていた」
「ひどい人」
茶碗に御飯を盛った後、荒鬼に差し出した小佐夜は笑いもせずに返した
「むぅ……まさかコッチの高校を受けるとはな。追い返す口実が思い浮かばん」
向かいに座ってる和泉伊織も、その幼い顔を捻っているようだった
「もしや、追い返す策でも考えていますか?伊織さま」
「はい」
ハキハキとした声で無邪気に答える伊織だったが
「そういう事は、幼い者が考えることではない。子供が大人になろうとするな」
婚約からもう一年経とうとしてるが、荒鬼と小佐夜の間にまだ子はない
けれども荒鬼は存外子供好きな性格で、かつ教育好きな性格のようだった
「いいではないですか。なかなか将来有望に見えますが」
「うん?」
「後ろめたいことでも?」
性格はコレだが、旧家のお嬢様として教育を受けてる小佐夜は俗に言う女の仕事を嫌がる訳ではない
煮魚の禅を運んでくると、荒鬼と伊織の前に並べて、あとは自分も食事を取ろうとする
「まさか自分の半分も生きていない娘に……」
「あら、彼女が娘だから後ろめたいのですか……」
「………」
ここで「キミがそう言うことを気にするのではと思った」等と言おうものなら
小佐夜は際限なく言葉の端々から揚げ足を取り始めてチクチクと一々正しい事を言い始めるだろう
それが判ってるから荒鬼はただ黙った
悪い女ではない。まぁ、男にとってよい女でもないが
「男は忍耐だな、伊織」
唇を曲げて伊織に荒鬼は愚痴る
まだ十かそこらの伊織は、生真面目に「はい」と答えたのだった
(うぅん……歳は離れてるが、兄弟弟子で競い合わせるのは悪くないな)
明日、再び訪ねてくる風花を弟子に迎え入れる決心が付いた荒鬼だった




――それから数年
その日、高校から帰ってきた風花(当初は寮に住んでいたが、今は光厳寺邸に住み込みで暮らしている)は
玄関に荒鬼以外の男物の靴があることに気がついた
「鬼を……辞める?」
「それで威吹鬼の名を伊織に継がせたいと思って……」
「判りました。伊織を宗家にお返しします」
客間で荒鬼が話していたのは威吹鬼――伊織の兄である和泉稲妻だった
孔明(昨年生まれた荒鬼の一子)の世話で手が離せない小佐夜に変わって
茶菓子を持って行った風花は偶然にも二人の会話を聞いてしまう
「辞めるんですか?まだ現役でいけるでしょう?」
「いや……どうも性分じゃないんで……」
と相変わらず人見知りの激しいこの青年は、風花の目も見ずに答えた
「それで、今度の任務には伊織を連れて行こうと思いまして……戦ってる“威吹鬼”の姿を見せておきたいんです」
「“任務”?魔化魍退治ではなく……か?」
荒鬼は綺麗に手入れしてある顎を撫でた
初めてあったときも三十幾つに見えなかったが、今でもそうだ。二十後半で通ると風花は思った
一方の風花は、昔から早熟であったが、最近ではめっきりと大人になった。美しくなったと言い換えても良い
それでいて男っ気がなく、割かし荒鬼にべったりなものだから、要らぬ噂まで立てられている
まぁ、荒鬼に対して恋愛感情がないかと言われれば正直な話、嘘であると風花は自覚していた
「朱鬼さんの件、ようやく決定しました」
「威吹鬼さんと俺が狩り出されるあたり……破門ということだろうな」
「はい……」
朱鬼が弟子である財津原蔵王丸ごとノツゴを攻撃した事件は、当の蔵王丸が事の子細を黙していたせいもあって、
本部の決定が難航していた。結論としては蔵王丸の傷は精密検査の結果、音撃によるものに間違いないと判断され
朱鬼は懲罰査問会を待たずに破門に決定した……それが前日の話である
「破門か……査問会ぐらい開いてやればいいだろうに」
「朱鬼さんが大人しく現れると思いますか?」
「……そうだな」
後で聞いた話だが、朱鬼の破門を急いだのは高寺であった
高寺と白倉は今や、若くして本部での重要な職にある出世頭だった
「それで……です。朱鬼さんが大人しく捕まるとは思えません。だから偽の情報を流します
 『ノツゴ』が出たと……おびき寄せたところで、朱鬼さんを拘束します。僕と荒鬼さんと吹雪鬼さんで」
「姉さんもか……」
吹雪鬼の名は、未だ荒鬼の姉が代理で継いでいた。もうすぐ弟も継ぐのに申し分ない力量になるだろう
荒鬼はあれだけ教育好きな男であったが、この弟だけは一度も指導をしていない
光厳寺の人間として文室に関わるのは無用というけじめらしい
「三人だけではなく、“飛車”や“と”もサポートします」
「まるで獣狩りですね」
風花が冗談めかして言ったのだが、威吹鬼と荒鬼は黙ったままだった







山里の小屋に隠れた荒鬼は、朱鬼が誘き出されるのを待つ間、隣の高寺に声をかけた
「コレを考えたのもお前だそうだな」
「えぇ……」
「後味が悪いぞ……」
「余り味覚は重視しない方ですから……」
いまではデスクワークが主な高寺が、現場に来るのは珍しいことだった
この男は近ごろでは内部粛正と経理改革で辣腕を振るっている
どうやらこの男は中央集権主義者だったようだ。個人主義と組織主義が同席してる
魔化魍に対するために強力な鉄の組織を作り上げる……それがこの男の理想だった
高寺の持つ携帯電話が鳴る。このころはまだ珍しいソレを、組織に取り入れたのも高寺だった
「……吹雪鬼さんは間に合わないかもしれません」
「そうか」
理由を聞く必要もない。事実として間に合わないということがあるだけだ
吹雪鬼のサポーター兼弟子である弟の事を思えば、こういう汚れ仕事を見せないで済んで良かったと思わないでもない
「そういえば、白倉と吹雪鬼さんは……随分と仲が良いようで」
「意外だな。人の噂に興味がある奴だとは思わなかったが?」
「噂に鈍感な者が組織を運営するのは不幸ですよ。ま、一番よく聞く噂は俺の悪口ですが」
けろりとした顔で高寺は話す。反対に白倉は良い噂を多く聞く
彼は人当たりが良く、後輩の面倒見も良いことで人気があった
「それと同じくらい聞く噂が荒鬼さんと風花の不倫疑惑ですが」
「人の弟子を呼び捨てにするな」
「そんな事言ってるから……来たみたいですね」
現地の「歩」に案内される女性の姿は間違いなく朱鬼だ。殺気走ってるのは相手がノツゴと聞いたからか
後は、荒鬼他、反対側に潜んでる風花や、威吹鬼らの包囲網に誘い込むだけだ
「よし……いいぞ……上手くやって……」

「キシャアァァァァァァァァァァァーーーー!!!」

「何!?」
「ノツ…ゴ?!」
競り上がった大地の殻を破って現れたのは、サソリのような尻尾とクワガタムシのようなツノ、巨大な身体をもつノツゴだった
「馬鹿な……本当にノツゴが現れたというのか……」
「高寺、作戦は中止だ。待機してる鬼全員でノツゴを仕留める。他のスタッフは村人を避難させろ」
当然のことながら、ノツゴが出たというのは嘘の報告なので村人は残ったままだった
「駄目です」
「!!?」
いつのまにやら背後に居たのか、若い男が立っていた
見覚えが無いわけではない。たしか白倉が可愛がっていた本部の「と」だ
「これも作戦の内です」
「何!」
荒鬼は高寺を睨み付ける
「知らない……俺は知らないぞ!!」
荒鬼が初めて見る高寺の慌てた顔を余所に、その男は極めて事務的な声で辞令を伝えた
「現時点を以て、本作戦の指揮官は白倉さんに移ります。これは本部の決定です」
それで全てを察したのか、高寺は壁を強く叩くと絞りだすような声で呻いた
「あのクソジジィども……ッ!!」



あのノツゴを追い込んだのは本部の別働隊だった
ノツゴと朱鬼を戦わせて両方が疲弊、あるいは一方が一方を倒した後に、もう一方を拘束する
「拘束……?」
「現時点で本部にノツゴの生きたサンプルがないからな。好ましい事態は、ノツゴが朱鬼を倒すパターンだ」
白倉が言い終わるか終わらないかの時に、風花は彼の襟首を掴んで壁に叩きつけていた
「ふざけるな!その為に村民の皆さんは……」
「人柱さ……」
「お前は魔化魍か!童子か!姫か!どれにせよ人間じゃないでしょう!!」
「風花さん!」
風花と一緒に待機していた伊織が、彼女を抑えようとする
それを振り払う風花の柔らかい脇腹に冷たい鉄が当たる
「生身で鉛玉を喰らえばただでは済まない……」
「白倉さん……そんな人だったの」
かろうじて言い返す風花とは対照的に、伊織はまさしく開いた口が塞がらないといった感じだった
「私だって好きでやってる訳じゃない!こんな作戦!」
村全壊の責任は、作戦の前責任者である高寺が負わされる
高寺の失敗を白倉がフォローして大事には至らなかった……それが本部の用意したシナリオだった
「それを……呑んだの?」
「断れなかった……私がやらなくても、別の誰かがやるだけだ」
「白倉ァ!」
「免罪符になる訳じゃない!だが、高寺に引導を渡すのは私の方がいい。本部に恩を売って……私がアイツの代わりに登り詰める!」
「そんなことじゃ…ないでしょう!」
細身の腕のドコにこんな力があるのかと思うほどのパンチが白倉の頬を殴りつけた
「人が死ぬかもしれないんだよ……それを守るのが鬼でしょう!猛士でしょう!」
すぐさま白倉の部下が風花と伊織を拘束しようとした
「離せ!」
「拘束はいい!変身音笛を奪え!」
それは宗家の伊織を拘束する訳にはいかないという判断だったのかも知れない
けれども、白倉にそこまで冷徹な命令を下せるとは思えなかった
この命令は彼の甘さと優しさだろう
「!!」
しまったと思ったときにはもう遅かった。風花と伊織の音笛は奪われる
「キミが一番聞き分けが無いと思ってた……そして、無茶して出ていって死ぬかも知れないとも」
「自分の手を汚さないで沢山殺しておいて、目の前で一人救ったからって……」
「偽善だろうと……多少は心が軽くなる」
「吹雪鬼さんをワザと遅れさせたでしょう?」
心底軽蔑するような顔で風花は白倉を見下ろした。伊織もまた、無言で白倉を睨んでいた
銃口が風花を向いている
「何も……言うまい」
「言う立場にないんだよぉ!!」
風花は叫んだ





「わあああぁぁあぁぁ!!」
ノツゴに叩きつけられた朱鬼は、身体をトタンの小屋に埋めながら憎き仇を睨んだ
「ノツゴ……おのれ……ノツゴォ……」
そんな朱鬼など眼中に無く、ノツゴは暴れ回り、村人を追い立てていた
もっとも、村人の安否など眼中に無いのは朱鬼も同じであったが
「えっ……どうして?」
その凄惨たる舞台に、裏方で待機する役者も含めて出尽くしたかと思われた
だが、その現れた二人は確かに出演予定の二人だった
「吹雪鬼かッ!?」
オフロードバイクに跨った吹雪鬼とその弟の姿に、それでも手を出すなと気勢をあげる朱鬼
「……朱鬼さんを抑えといて。おかしいな?どうして威吹鬼さんや光太郎がいないの?」
弟に指示を出しながら、変身音笛を吹雪鬼は鳴らした


「どうするんです……?」
嘲笑うことが白倉への抵抗だった。流石に隣の伊織はそういう相手を罵る芸当が出来る育ちではないようだったが
「うぅ……」
「あのノツゴ、強いですよ。突然変異種みたい。朱鬼さんも歯が立たなかったんだから……」
風花が挑発したその次の瞬間、外を見張っていた白倉の部下が声を上げる
「吹雪鬼さん!」
次に聞こえたのは、建物の中まで聞こえてくる吹雪鬼の悲鳴だった
「!!」
声にならない声を上げた白倉と同時に、風花は周りにいた白倉の部下を蹴り倒すと外に向かった
「待て!」
「待たない!」
掴みかかる白倉の部下を伊織が食い止める
「風花さん!行って!」
「音笛も無しにぃ!」
「あるからやるんじゃない!私が猛士で学んだことよ!」



「シィー…ヒィー…シュー…」
吹雪鬼の呼吸は明らかにおかしかった。ノツゴの攻撃で貫かれた胸が痛々しい
呼吸器系がやられたのだと、吹雪鬼を抱える文室変身体は焦った
「大丈夫!?」
「冬木さん!」
風花が駆け寄る頃には吹雪鬼の変身が解けていた
もはや鬼の身体を維持する気力すらないのだ
危険だ……吹雪鬼の裸体を着ていたパーカーでかくしながら、文室変身体に安全な場所に移動して応急手当をするように支持した
「でも冬木さん……」
「これ……借りるわよ」
吹雪鬼の変身音笛だ
特に認証とかは必要のない代物、問題ないはずだ
振り返れば、ノツゴに強襲する威吹鬼と荒鬼が居た
「風花!危険だ、手を出すな!」
荒鬼が背中越しに命令するが、聞くつもりはなかった
あの背中……あの背中を見て彼女の人生は変わったのだ
ここで守られては、ここの数年の意味が無くなる
冬木風花は変身音笛を吹いた
氷雪が風花を包み、裂帛の気合いと共に弾け飛ぶ
「ハァッ!」
現れたのは縹色に白のラインを持つ鬼……見習い
「せ、成功したぁ〜」
若干気の抜けた声を出しながら、吹雪鬼の音撃管『烈氷』を手に取り、ノツゴに向かって駆けた
実を言えば、最近変身できるようになったばかりで、三回に一回は失敗してたのだった
(私ってば昔から悪運が強いってばっちゃが言ってたもんね!)
「風花!」
この荒鬼の言い方は、決まって風花を怒るときの言い方だった
この時も風花は怒られる!?と思った。しかし
「管の鬼の三重奏を決めるぞ!」
「師匠……」
「良いんですか?荒鬼さん!」
威吹鬼が確認する。風花に出来るのかと
「こいつは……鬼だッ!!」
ノツゴのツノを蹴り、木の上に身を構える荒鬼
「出来ます!」
威吹鬼と荒鬼と自分が丁度正三角形を描く位置に風花は陣取った
「うぅ……」
「!!」
瓦礫の下敷きにされた村人の姿がソコにはある
魔化魍に対する怒りが荒れ狂う龍のようになって風花の全身を奔った
「風花!力むな!」
「師匠……ッ!」
「お前のここ一番での勝負強さ、買ってるぞ!」
威吹鬼、荒鬼、風花変身体がそれぞれ音撃鳴を音撃管に装着する
ノツゴの身体には威吹鬼と荒鬼の撃った鬼石が嫌と言うほど埋め込まれてはいるが、果たして堅い殻に覆われたノツゴに効くかどうか……
否、三人の音撃が共鳴すれば効かないはずが無い!
「音撃射…疾風一閃!」
「音撃射ァ鬼岩一閃!!」
「音撃射!凍衷華葬!!」
山に笛の音が共鳴し響き渡る
「ビェギュシャアァアアーーーー!!!」
(いける!)
荒鬼が手応えを感じた時だった
(音撃が弱まった!?)
威吹鬼が風花変身体を見る
(……うっ……初めての音撃には……スタミナが足りない……ケドォ!!)
腹に力を為、大地を力の限り踏みつけた
強い意志。鍛えられた身体、地球と共鳴する感覚、その三つが響くとき、鬼は初めて清めの戦士となれる
(頑張れ……風花ァ!)
風花ならば出来る。荒鬼は疑わない。信じておのれの音撃を一層強く吹いた
――ブワッ!!
ノツゴの巨大な身体が宙に巻き上げられた
三方からの風が上昇気流を起こし、絡み合い、竜巻となってノツゴを引き裂こうとしていた
「ギュブエェエェーーーーー!!」
遠心力によって贓物が身体の外に引っ張り出される苦痛をノツゴは味わっている
だが、その苦痛ももうすぐ終わる
自らの死をもって……
魔化魍に理性があるかは判らない
ただ、諦めにも似たようにノツゴは暴れるのを辞めた
ある種の静寂が訪れる
だがそれはただ一人の復讐者によって破られた
「ノツ…ゴォォオォォォ!!」
(朱鬼さん!?)
(余計なことをっ)
(えっ……)
朱鬼は音撃弦『鬼太樂』を構えると、上空のノツゴに向かって怒声を発した。それはまるで獣のような声
「音撃奏ォォォォォォォォ震天ンンッ動地ィイィィィィ!!!」
矢のような速さでハーブ型の音撃弦から放たれた清めの音がノツゴを突き上げる
「ギュギャゲァアアァァァァーーーーーー!!」
「威吹鬼さん!風花!音撃をやめろ!!蓄積された余剰エネルギーが爆発を起こすぞ!!」
ノツゴの断末魔に掻き消された荒鬼の声は悲痛だった
そして
――カッ!
光が満ちた






後には惨々たる光景だけが残った
焼けこげた木造家屋、焦げ付いたトタン、もう二度と実をなす事はないだろう柿の木
そして、多くの呻き声
元から犠牲者を想定してた猛士の救急活動は早かった
けれども取り返しのつかない……
「引き継ぎは完了した。本部での事務処理が残ってる。一緒に来てくれ、高寺」
白倉の感情を殺した声に、高寺は黙って従った
「アンタ達、待ちなさいよ!こんな事するからみんな死んじゃうんでしょう!!」
それが風花の精一杯の叫びだった
風花も又傷ついていた。添え木をした腕を、首から吊している
「朱鬼の護送は任せます」
風花の怒りを受け止めずに、白倉は威吹鬼にいった
直接の元凶である朱鬼はうなだれたまま、動かない
流石にこの事態に答えてるのだろう
逃走防止に張られた封印の札と、身体を巻く鎖が、罪人のようだっった
「まだ……鬼を続けたいか?」
傷ついた風花の肩を荒鬼が抱きしめる
「言ったはずだろ。強い光は……」
「今更やめることが出来ないのは見ればわかるじゃない。魔化魍の事を知ってしまっては戦うしかないじゃないの!」
「風…花……。冬木風花……」
荒鬼は風花の艶やかな髪を煤で汚れた手で抱いた
鬼になって……後味の悪いことばかりじゃなかった
妻や子を愛していたし、魔化魍を倒して人に感謝されるのは嬉しいことだった
和泉伊織やこの冬木風花の師匠になれた事は幸福な事だった
だから……
「俺は……これからも鬼だ……」
「私もです……師匠……」


そんな二人を仰ぎ見る伊織に、兄である威吹鬼は声をかけた
「伊織……悪かったな」
「いえ……とても……勉強になりました……」
風花よりもさらに若い……なのに気を張ってるその肩を威吹鬼はポンと押さえつけた
「気を張るな。……命を大事にしろ。他人のも、自分のも。それ以外はもっと楽に構えてていい」
「こんな時にそんなことは……」
「こんな時だからだ。な?伊織。お前の笑顔はいい顔なのだから」
弟の今にも泣き出しそうな顔を見ながら、威吹鬼は戦う決心をした
鬼として魔化魍と戦うのではなく、宗家の人間として猛士と戦うことを





夜も更けたというのに“たちばな”の店内から明かりが漏れていた
「ま〜だやってる。案外、主賓のあきらちゃんは帰ったあとで弾鬼くんあたりがどんちゃん騒ぎしてそうだけど」
「……あの、その後はどうなったんです?」
「ん?ちょうど区切りがいいとこで“たちばな”に着いたじゃない?また今度ね」
吹雪鬼は助手席のドアを開けると、蛮鬼に「早く早く」と促した
弾鬼ほどではないが、吹雪鬼も馬鹿騒ぎは嫌いじゃない
その笑顔に何やらはぐらかされた感じもしないではなかったが、蛮鬼は諦めて車を降りることにした
荒鬼の事などは調べれば幾つかの事は判りそうだが、吹雪鬼の“また今度”を蛮鬼は楽しみにすることにして車のエンジンを切った







「今日はここまで……かな。私も帰って妻や子の顔を見たいしね」
院長室の机のライトを消すと、光厳寺は微笑した
その笑顔が今は寂しそうに見える
「査問会は気にしなくていいよ。そんなに手厳しい罰があるとは思えない
 ま、ゆっくり京都奈良見物をしていくといい……暇が出来たら私が案内しよう」
光厳寺は鋭鬼が泊まる部屋の鍵を出すと、案内するといって部屋を出た
その後ろ姿を追いかけながら……吹雪鬼も、こうして彼の背中を見ていたのかと愚にもつかない思いが鋭鬼の頭をぐるぐると回った
「ここだよ。端の部屋になるね。眠たいだろう?……というか、一応ここは寮だから、生徒達に模範を示して貰わないと」
お酒を飲んだからか、光厳寺はほんのりと赤い顔をしていた
寝ろと言われたが、彼の話を聞いた後で寝れるだろうか……
今は放っておくと現れる光厳寺への見当違いな嫉妬を抑えるので精一杯な鋭鬼には判らないことだった







―― 仮面ライダー鋭鬼 十二之巻 ――
「 仮面ライダー吹雪鬼 壱 〜鬼を継ぐ者〜   完 」