1 :
本当にあった怖い名無し:
2 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 02:18:10.16 ID:j96D71Hy0
3 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 02:19:46.58 ID:j96D71Hy0
4 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 02:21:01.86 ID:j96D71Hy0
5 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 02:21:34.27 ID:j96D71Hy0
【マナー。その他】
1 連続投稿数は5〜10レスを目安にしましょう。
2 作品投稿は間隔に気をつけてください。場合に応じて間隔をあけましょう。
投稿前と投稿後に宣言すると、スレの流れがスムーズになります。
3 自分の意見に返事を期待する作者は、トリップを付けたほうがいいでしょう。
4 作者の偽者を防止する為にも、トリップを付けたほうがいいでしょう。(大事なことなのでry
5 個人攻撃、的外れな批難の類は流したほうが無難です。
6 496KBで警告メッセージが出力されます。
512KBでスレッドが終了なので、950からか450KBを過ぎた時点で新スレッドへの
移行を話し合いしましょう。
☆NG推奨
456 ◆T/kdltgIp.
自称「スレの後見人」
追い出そうとかまともな話し合いをしようとか考えないこと
スレが荒れるからおさわり禁止
得意のケータイを使った自演で自分より人気のある作家を攻撃するのが生き甲斐
暴れて喚いてみんなの気を引く構ってちゃんにエサを与えないようにしましょう
おさわりしたヤツもスルーされると思え。いい加減でそろそろ決別しようや
6 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 09:01:56.34 ID:nuuSnivc0
ソイヤ! 岡城ソイヤ!岡城ソイヤ!
保
保守管理age
11 :
本当にあった怖い名無し:2011/11/29(火) 21:17:55.30 ID:g0W2BZI90
あがってねーぞw
お久し振りです。
未だに時間が取れずにいますが、今日は変な時間に目覚めてしまい、眠れずにいます…
再び眠りにつけるまで、吉良編の続きを投稿します。
私に不快感を覚える方々は、スルーをして下さい。
いつもの事ですが、次に投稿する機会がいつになるのか解らないので、纏めて投稿します。
何卒、ご容赦願います。
- 6:30 死、緩かなる侵食 -
- 益子 和美 -
尚哉も美希も、私の後を追う事も無く、吉良君の家に避難をして行った。
尚哉が玄関のドアを開くと、ポッカリと口を開けた薄汚い闇の中へ、子供達は吸い込まれる様に消えて行った。
私は雨に打たれながら、実際に子供達に触れる事も見る事も、これが最期なんだな… と沁々思った。
子供達は去って行った。泣きじゃくり、私の後を追い縋る様子も見せずに去って行った…
哀しみも絶望も、戸惑いも切なさも、心の奥底から沸き上がる感情を総て圧し殺して、私はただ独り立ち尽くしていた。
- これで良いんだ。選択肢が1つしか残されていない以上、これで良かったんだ…
頭の中では理解をしていたつもりでも、何処か釈然としないモヤモヤとした気持ちに
私は自分が納得できる答えを探し出そうと、必死に考え倦ねた。
- 私が化け物になると分かっているから?
- それとも、私の考えを理解したから?
多分、その両方が正解なんだろうな…
そう考えると、余計に惨めに思えたが、その反面、どこかでホッと胸を撫で下ろす自分もいる。
最期の最後で、追い縋る我が子をこの胸に抱いてしまったら、私は離す事が出来なくなっていた事だろう。
私はもう直ぐ、死ぬ運命にある身なのだ。
そして、化け物になる…
もしも子供達を家に連れて帰ったならば、私は自分が産んだ子供達に噛み付き、そして喰い殺していた筈だ。
私は陰惨で残酷なこの想像に身震いをすると、その想像が杞憂に終わった事に、ソッと胸を撫で下ろした。
吉良君は、私の子供達を必ず護り通すと約束をしてくれた。
吉良君ならば、きっと私の願いを叶えてくれるだろう。
そう思うと、今度こそ心の底から『良かった』と思う事が出来た。
デッドマン乙!
待ってましたよ〜
『あぁ……』
私は独り、吐き出す様に声を漏らす。
何が『あぁ』なのか、何を差しての『あぁ』なのか、上手く説明が出来ない。
ただ、言葉にならない哀しみ、そして未練と安堵が凝縮された言葉なんだな… と私はそう解釈をした。
左手に握り締めた携帯電話からは、尚哉と美希の声がボソボソと聞こえている。
尚哉の声は、尻すぼみに小さくなって行くのに対し、それに答える美希の声は語尾が段々と強まって行く。
この調子だと、言い合いからいつもの口喧嘩がに発展すると思い、叱り付け様としたが止めた。
先ず遣るべき事は尚哉も美希も、そして私も、雨に濡れた服を着替えなくてはならないのだ。
最期の会話は、ゆっくり腰を落ち着けて話す必要がある…
私は門を通り施錠をすると、玄関のドアを開けた。
「玄関の鍵はどうしよう?」と、下らない自問に首を傾げたが、施錠をする事にした。
再び平和が訪れた時に、あの子達がこの家に、私達家族の家に戻る事が出来る様にと願いを込めて…
三和土を上がろうとすると、靴箱の上に飾られた写真が目に留まった。
写真に向かって左側から、久志さんは尚哉の肩に手を乗せ、日に焼けた肌に際立つ、白い歯を覗かせ顔を綻ばせている。
当の尚哉は、カメラを睨む様な気難しい顔をして、木の枝を刀に見立てて胸の前に掲げポーズを決めている。
私は亜弥と美希の頭に手を置き、微笑みながら、やや俯き加減で2人の娘の顔を覗き込んでいる。
美希はいつものポーズ。亜弥の頬に自分の頬を摺り寄せながら満面の笑み。
亜弥は美希の手を握りながら、屈託の無い笑みを溢している。
まだ1ヶ月も経っていない、家族でキャンプへ行った時の写真だ。
写真の構図は微妙に変わっても、いつもの配列といつもの表情。
- 私の大切な家族。大切な、大切な私の家族という宝物。
毎日欠かさず見て来た筈なのに、自然と見惚れてしまうのは何故だろう…?
ちょっとした物思いに耽っては自問自答を繰り返す自分を客観的に観てみると、
まるで子供の頃に戻った様な、新鮮でそれでいて気恥ずかしい感覚に戸惑いを覚える。
私はこのお気に入りの写真を、写真立てごと手に取ると、三和土を上がった。
すると、不意に感じた気だるさと、軽い目眩に襲われて思わず身じろいだ。
疲労と睡眠不足の為か、軽い貧血が起きた様に、目の前がチカチカと瞬いている。
腰が異様に重く、下腹部からジンジンとした疼痛も相俟って、必然的に動作が鈍くなる…
一瞬、生理が来たのかとも思ったが、それには10日以上も早い。
呼吸が浅く荒い為か喉も渇き、息苦しさに唾を飲み込もうとするが、唾液が分泌されない。
私は自分の身体を侵しつつある異変に戸惑い、浅い溜め息を吐いた。
- 私には遣る事がある。こんな事で挫けてはいられない!
私は自分を奮い立たせるべく、いま遣るべき事を、言葉に出して行動に移した。
『あーちゃんと久志さんの身体を… 身体を拭かなくちゃ…』
2人共、身体に血痕が付いている。拭いて清めなくては、2人に申し訳が立たない。
私は足を引き摺る様にして壁伝いに歩き、箪笥からタオルと久志さんの着替えと、そして自分の着替えを手に取った。
亜弥の着替えは白を基調とした、花柄の刺繍が襟や袖口に施してある、お洒落でやや大人びた洋服にした。
これは亜弥の七五三の為に用意した、高価な有名ブランドの洋服だ。
――――――――――――――――――――――――
ショッピングモールの一階に連なるテナントの前を歩いていると、店先に飾られていたこの洋服を、
亜弥は一目で気に入り、私が幾ら手を引いても、硝子越しに見詰めて離れなかった。
幾ら宥めすかしても埒があかず、終いには硝子に張り付き、亜弥は大声で愚図り始めた。
『あーちゃんのっ! これ、あーちゃんが着るのぉ!!』
私は必死に亜弥を宥めるが一向に収まらず、ショッピングモールを行き交う人々の視線が痛たかった…
久志さんは天を仰ぎ、大きく溜め息を吐くと、亜弥の頭を撫でながらこう言った。
『よーし、パパが買ってやる! その代わり、良い子にしような!!』
私は慌てて久志さんに服の値段を教えると、久志さんは『何ぃっ!?』と、素っ頓狂な声を上げ
値札と私の顔を何度も何度も見比べてから、亜弥の期待に満ちた顔を見ると、何やら難しい顔をして考え始めた。
- 久志さんは、本当に子供に甘かったなぁ… 特に亜弥には…
程無くして、久志さんは口を尖らせながら、溜め息混じりに亜弥を抱き上げると、意気揚々として店内へ消えて行った。
店員を連れて来ると、久志さんは亜弥にそっと耳打ちをした。
亜弥はご満悦といった表情で『これ、下さい!』と言うと、嬉しそうに久志さんの髭がザラ付く頬に自分の頬を摺り寄せた。
私は呆れながら久志さんに『こんな高い物を買っちゃってどうするの?』と聞くと、久志さんは
『今月はチャリで通勤するよ。後は1日当たり300円くらい、浮かせなくちゃ駄目かなぁ?』
と、やや強張った笑いを湛えながら答えていた。
「会社まで片道15km弱も自転車で通う気なんだ」と思うと、私は呆れて絶句をした。
久志さんは私の頭を優しく小突くと、続けてこう言った。
『なぁ和美、亜弥がこんなにおねだりをするなんて、きっと何か思う事があるんだろうな…』
『それに… ほら、見てみろよ。あんなに喜ぶなんて、亜弥に着て貰える服だって、きっと喜んでる筈さ!』
紺色に白抜きのロゴが目立つ、紙製の手提げを肩に掛けて跳び跳ねる、この時の亜弥の姿は、
今までの見せた事も無い、異常な程のはしゃぎ振りだった。
――――――――――――――――――――――――
目を細めて亜弥を見詰める久志さんの視線は、今になって思い返すと、何処と無く憂いでいた様にも見えた。
亜弥はもしかしたら、今日という日を予見していたのでは無いのだろうか?
また久志さんは、亜弥を独りにする事を忍びなく想い、共に逝く事を善しとしたのでは無いだろうか?
久志さんは自転車で通勤をしなければ、この危機を回避出来たと思う。
亜弥は…
だからこそ久志さんは、死に逝く亜弥の最期の願いを叶えてあげた様に思えてならなかった。
ボロボロに喰い千切られても、亜弥を独りで逝かせない為に、死力を尽くして帰って来たのだろう…
久志さんと亜弥には、母親である私にも及ばない、深い深い絆があるのだ。
私は… 私は、亜弥を堕胎する事に腐心していた女…
久志さんは、亜弥をこの世に誕生させる為に、可能な限りの尽力をした人…
そして、ルカちゃんは… ルカちゃんの懊悩を知ってから、私は亜弥を産む決心が付いたのだ。
久志さんは子供達や私に対して、自己犠牲を厭わない、そんな優しさに溢れた人だった。
そう想うと、総てに合点が行く気がした。
久志さんらしい最期だと想うと同時に、微笑ましくも残酷な死に様だと想えて、私の頬を涙が止めどなく流れ続けた。
泣けるだけ泣き張らすと、私は再び行動に移った。
こんな私でも、遣らなくてはならない目的があるのだから。
疼痛はいつの間にか、身体全体に広がっている… 踏み締める足取りが重い…
『は‥ あぁ…』
私は喘ぎ喘ぎ、身体を壁に預けながらキッチンへ向かった。
キッチンに立ち蛇口を捻ると、私は喉の渇きを潤す為に、コップに水を注いだ。
水を口に含みうがいをすると、急に胃がせり上がり鳩尾の圧迫感を感じると同時に、胃液を吐いた。
食道から喉を焼け焦がす様な痛みと、口内に広がる酸味と苦味は、褐色の糸を引きながら排水口へ流されて行った。
仕事の付き合いと言っては、二日酔いを繰り返した久志さんの言葉を思い出す。
『苦味には胆汁が含まれているけど、多分問題はないよ。一概には言えないけれど、胃液と一緒に
褐色や黒色の嘔吐が出た場合、血液が混じっている可能性が高いから要注意なんだよ…』
『あはは‥ 久志さん、私… 相当ヤバいみたい…』
嘔吐による涙なのか、絶望感から来る涙なのか分からないが、虚空に滲み揺れる久志さんの幻影に訥々と語りかけた。
再び胃が激しく収縮を繰り返し、私は茶褐色の吐血に喘ぐ!!
『はぁ、はっ‥ はぁっ! はぁ…』
焼け付く胸元を掻きむしり、歯を食いしばりながら写真を掴むと、私は久志さんを見詰め、心の中で語りかける。
- お願い! もう少しだけ… お願い!!
膝がガクガクと震え出し、もはや両足だけで身体を支える事も儘ならなくなって来た。
私はシンクに突っ伏し、血に汚れた口を拭うと、胃の収縮が治まるのを待ちながら、呼吸をゆっくりと整える。
口内に広がる錆び臭く苦い胃液は、音も無く『つ、つ―――っ…』と糸を引き、唇の端から断続的に滴り落ちている。
暫くすると漸く嘔吐感も治まり、私は恐る恐る喉の渇きを潤してみた。
決して冷たいとは言えない、生温い水道水が喉の渇きを潤し、焼け付く食道の痛みと、死に近付く焦燥感を鎮静化させる。
私はタオルを軽く濡らし、冷蔵庫からミネラルウォーターを取ると、着替えを小脇に抱え、亜弥と久志さんの待つ二階へと急いだ。
薄汚い階段を一段一段と昇る度に、私の足元は『ミシィ… ミシッ…』と湿った軋み音を立てている。
湿気に重く淀んだ空気が充満している為か、私の足取りも重く覚束無い。
階段を半分も昇り続けた時、膝の裏から背中に掛けて、堪えきれない激痛が不意に駆け巡る!
私は階段に両手を付いて伏せると、声を漏らして呻き声を上げた。
『はぁ! ぁ… あ、ぁ‥』
携帯電話からは相変わらず、尚哉と美希の声が漏れ聞こえて来る。
激痛は私の肉体を完膚なきまでに打ちのめすが、それに反比例して靄掛かった意識を明瞭にする。
私は激痛に悶えながら階段を這い上がり、亜弥達の待つ尚哉と美希の部屋へと向かった。壁伝いに歩き、這いつくばり、どうにか階段を登り終えた。
仄暗い二階の廊下を、私の浅く荒い呼吸音が重く埋め尽くして行く…
ほんの数メールの距離が、果てしなく遠い距離に感じられる…
私は重く覚束無い足を引き摺りながら、壁伝いに歩くと、漸く亜弥達の眠る部屋へ辿り着いた。
- 尚哉、美希 -
尚哉は服を着替え終えると、雨に濡れた髪をバスタオルで拭きながら、美希に向かって小声で話し掛けた。
薄暗い階段を登っている時も、吉良とルカの部屋に入ってからも、何度も繰り返して美希に約束を取り付け様としている。
約束というには余りにも理不尽であり、高圧的な物言いではあるが、尚哉に譲る気など毛頭なかった。
『美希!! 約束はちゃんと守れよ!』
美希は憮然とした表情を崩さず、尚哉へ向かって口を尖らせながら、捲し立てる様に早口で言い返す。
『なぁお、何でそんなに威張ってるん?』
尚哉は、質問に違った質問で返して来るこの美希の遣り方には、毎度の事ながら苛々とさせられた。
普段であれば、母親の和美が仲裁に割って入る所であるが、和美は今はここにはいない。
いや、今だけでは無く、これからは永遠に一緒にいる事は叶わないのだ…
尚哉も美希も、自分を取り巻くこれから先の境遇を、余り深く認識していない。
漠然とした不安の中心部にある、際限無く広がる哀しみの渦に飲み込まれ、時間の経過と共に沈み込んでいるだけであった。
誰かを気遣う余裕もなく、自分の意思を強引に美希へ押し付ける尚哉を、誰一人として叱り付ける者はいない。
尚哉の内にある、母親への想いを知ればこそ、誰一人、誰一人として、尚哉を叱り付ける事は出来ないであろう。
尚哉は再び重い口を開く。
『いいか、美希ぃっ! 約束だからな!!』
美希は尚哉を見詰めると、やや困惑した面持ちのまま頷き、そして尚哉へ問い掛けた。
『ねぇ‥ なぁお… 美希達、間違ってないよね…』
伏し目がちに幾度も瞬きを繰り返し、上目遣いで話し掛ける美希を、尚哉は逡巡しながら睨め付けたが、美希の問い掛けに合点が着くと、静かに自分の両手の平に視線を這わせた。
重い大型バールから伝わる、園長への殴打と頭蓋を貫いた衝撃…
冷たい大型バールから滴る、血生臭い脳漿と赤黒い血の滴り…
蘇る記憶に身震いを覚えながら、尚哉は美希へと視線を戻した。
美希も尚哉と同じ様に、ブルブルと小刻みに震える手の平を、ただただ黙って見詰めている。
尚哉は自分の内に宿る狂気を振り払うが如く、美希に短く一言だけ言葉を発した。
『間違ってなんか、無いよ!』
尚哉は美希の手を引くと、母親と繋がっている携帯電話を掴み、吉良のベットの上に美希と並んで寝転んだ。
母親との最後の会話を心待ちにしながら。
- 益子 和美 -
ドアを開けると、仄暗い室内は死臭を孕んだ陰惨とした空気が立ち込めていた。
壁際に眠る2人は血に汚れているものの、その死に顔は穏やかに思えて、私を蝕む『死』への脅威を再び麻痺させる。
雨に濡れて身体に貼り付くパジャマを着替えようともがくが、全身に広がる痛みが邪魔をして上手く服を脱ぐ事が出来ない。
悪寒と痛みに指先が震えて、ボタンを外す事も出来ずにいると、寡黙な時間は素知らぬ顔で、私だけを独り残して通り過ぎて行く。
指先も満足に操れない不自由な身体を、忍び寄る死の足音に急かされながら、私は必死に動かし続けた。
ボタンを外す事を諦め両襟を掴み、痺れる指先に力を入れて引き千切ると、ボタンは足元をポトポトと音も無く弾け散って行く。
貼り付く袖から腕を引き抜くと、パジャマに擦れた背中から脇腹にかけて、ジンジンとした痛みが波紋の様に全身に広がって行く。
私は苦痛に喘ぎながら上着を脱ぐと、乾いたタオルで上半身を拭き始めた。
腕を後ろに回す事など、想像を絶する行為に思えたので、濡れた下着を替える事は諦めた。
二の腕を拭き、脇から脇腹にかけてタオルで拭き始めた瞬間、剣山で脇腹を抉られる様なジグジグとした激痛に踞ってしまった。
『あ、 ぁ‥っ! 痛 っ‥ ぃ…』
私はゆっくりと、自分の足元から脇へ視線を這わせると、脇腹には野苺の様な発疹が所々に隆起していた。
その発疹は表面を紅色に染め、水疱の潰れた患部を暗紅色に変えていた。
帯状に広がるこの発疹を、私は知っている。
僅か4ヶ月前に患ったこの発疹について、医師から聞いた症状の説明を、私は無意識の内に呟いていた。
『これは水疱瘡のウイルスが… ストレスや過労などに依って、再活性化する病気…
稀に脳神経の一種の蝸牛… 「聴覚の神経」や… 他にも前庭神経‥ 「平衡感覚の神経」にウイルスが侵入すると… 聴覚障害とか目眩が起こる…』
『喉の知覚に関わる舌咽神経の場合は… 猛烈な喉の痛みがあり… それと、舌神経に侵入した場合は、ヘルペス特有の口内炎が出来る…』
『普通に生活していれば… 生涯に一度だけの病気… 後天性免疫不全…… 免疫不全!?』
『まさか… 嘘でしょ、嘘でしょう!』
私は痛みを忘れ亜弥の側に這い寄ると、痺れる指で亜弥の上着を捲り上げた。
『あ、 あぁ、やっぱり!! 何て事!? 何て事なのぉ!!』
はだけた上着からは、亜弥の蒼白く変色した肌を暗紅色の発疹が、丘が連なる様にして蝕んでいる!
- 帯状疱疹が、幼い亜弥の身体を蝕んでいる!!
私は半狂乱になって、亜弥の身体を抱き上げ様とするのだが、思う様に力が入らない!!
『亜弥ぁ――っ! 亜弥っ!!』
指先は感覚が薄れて握力を失ってしまい、亜弥を抱き上げる事もままならない!!
私は自分の指先に噛み付き、指先の感覚を戻そうと必死に足掻いた!
噛み付いた右手の指先は『ゴリゴリ』と軋みながら上顎に振動を伝えるが、指先には鈍痛が広がるばかりで、感覚は戻らない!
左手の指先を齧ると、割れた爪から口腔に広がる温かい鮮血の滴りが… 生臭い鉄の匂いが鼻孔を抜けて…
- あぁ… 何だかとっても、美味しい‥
私は一瞬、何をしようとしていたのかを考えたが、温かな血のヌメリに舌舐めずりしていると、不思議な事に何もかもがどうでも良い事だと思えて来た…
首筋から後頭部に掛けて、ジワジワと痺れる様な感覚を覚えると、視界が徐々に狭まって行く…
浅く早い呼吸に胸を掻きむしりながら見る、瞬く視界は、黒と白との明滅を幾度と無く繰り返し、
やがて私を取り巻くこの世界は、静かに、静かにホワイトアウトをして行った…
それはまるで、いきなり濃霧の中に放り出されたかの様な、窮屈な閉塞感を伴う息苦しさと、
心細いながらも誰の目も気にせずにいられるという様な解放感とのジレンマに、心が揺れ動いていた…
- あぁ… それにしても、やけに喉が渇く‥
私は欲求の赴くままに、『んぐぁっ! うぐぅ!!』と鼻を鳴らし、指先を貪り吸い付き、そして歯を立てた!
鮮血が口腔に血生臭く粘り付いて、渇いた喉を潤して行く…
頭の芯から痺れる陶酔感に囚われると、直接脳を揺るがし響き渡る様な
『ヂュバッ! ジュボッ!! ヂュッ、チューッ!』
という吸引音を立てて、割れた爪に歯を立て続ける!
指先から溢れる、生温かい鉄の香りが『ジュワジュワ… シュゥワ――‥ ッ』と鼻孔を抜ける度に、
今にも頭の芯から溶け出してしまいそうなフワフワとした脱力感に、霞む意識を漂わせた。
血のヌメリを舌の上で楽しんでいるが、とうとう耐え難い喉の渇きに抗う事が出来ず、
喉を鳴らして指先にしゃぶり付き、吸い付き、齧り付いて、何度も何度も歯を立て続ける!
口角から顎先へ『ツツ――――‥ ッ』と滴る血の温もりと、喉に粘り付く生臭く酸味を帯びた鉄の味を嚥下すると、
指先からは徐々に広がる痛みが、鼓動に共鳴をして『ドクドクッ… ドクッ、ドクッ‥』と脈を打ち疼いている…
私はその不快に脈打つ痛みにも構わず、爪が割れ流血の最も多い人差し指に狙いを定めると、
抗い難い渇きを潤す為に、一心不乱にしゃぶり付き、齧り付く!
『ゴリィ! ゴリッ! グギギ… ゴギッ!!』
上顎と下顎の狭間で軋む、人差し指の第一関節からは、前歯を伝いながら血が口腔を迸る!
舌下面(前歯と舌の間)に溜まるヌメル血を舌先で掬い、前歯の裏に絡めながら人差し指にむしゃぶり付く!
『チュボッ! ングッ… ジュッ! ズゥヂュゥ―――ッ!!』
鼻息も荒く、吸引と嚥下を繰り返すが、一口にも満たない血の滴りでは、この『渇き』を癒す事が出来ない!!
私は最早、焦らす様なこの指しゃぶりでは我慢が出来なくなり、爪の生え際に犬歯で噛み付き、激しく指を引き千切りに掛かった!!
『ズゴォ! ‥ メキメギッ… ヌヂャッ!!』
見えざる力に依って、天と地を滅茶苦茶に撹拌し続ける様な強烈で急激な痛みが、私の全痛覚に牙を剥く!!
『ぐぅっ! っ‥ ぎゃぁぁぁああ゛!!』
眼前の濃霧が一瞬にして消し飛んでしまったかの様に、白く霞む視界は色彩を得て、私を激痛が襲う現実へと引き戻した。
悲鳴を上げ、のたうち回り、右手で左手の人差し指を握り締めながら、激痛に身体を震わせた。
涙と血の入り雑じった涎の滴が、床をポタポタと叩き、小さな血溜まりを作りだしている…
痛みに呻く度に、咽び泣く程に、鼓動は早まり、傷口は鼓動と比例して『ドックンッ! ドクンッ!!』と脈を打つ速度を早める。
涙痕が乾く間もなく駆け巡る激痛は、限界を超えた痛みと後悔の雫なのだと、今更ながらにこの異様な行為を認識させた。
爪を噛み砕き、指先を喰い千切る。この常軌を逸した行為の最中には、微塵も異常な行為とは考えなかった…
『痛っ! 痛いっ!!』
錯乱し得も知れぬ快感に酔い痴れる私を、指先からズキズキと脈打つ激痛が、意識を正常に引き戻す!
痛む人差し指を目の前に翳すと、中指側に縦から半分を残して、爪は綺麗に裂けて剥がれていた。
爪を失った指先は、滴る黒ずんだ赤い血の合間から、うっすらと白いモノが見えている。
鳥のササミを斜めに引き千切った様に、グシャグシャと肉の組織を崩しているが、
犬歯に沿って、綺麗に削ぎ落とされた肉の破片が指先からプルプルと揺れている。
私は自分の奇怪な行動に愕然とした…
自分が今、何をしていたのか、その行動を思い出す事も出来る。
『指から流れる… 自分の血を吸って、嫌悪感もなく恍惚としていた…』
私は喘ぎ喘ぎそう呟くと、背筋から粟立つ恐怖にうち震えた。
これはきっと、死から来る錯乱では無くて、『死の向こう側』にある『何か』が作用しているのだと、そう感じ取ったのだ。
- あぁ、喉が焼け付く様に渇く…
唇を湿らせ様と舌舐めずりをすると、鉄臭い血の味が口内に広がって行く。
血の滴りが口内へと浸透する程に、頭の芯から痺れる様な感覚が、私を再び狂気の虜にする…
私は心の奥底から『ダメ… もうやめて!!』と、自分に叫び続けるが、身体はその衝動を抑える事が出来ない!
左手を目の前に翳し、指先から『ポトリ… ポトリ…』と滴る紅い血を、『美味しそう…』と呟きながら見詰めていると、
不思議と激痛は甘美な快感へと変貌を遂げて行く錯覚に酔い痴れた。
私は再び、喉の渇きを潤す行為に心酔し出すと、視界は白く白い濃霧に包まれて行った…
私の頬を叩く、指先から滴る血の温もりが、何よりも心地よくもあり、そして渇きを潤す唯一の手段だと感じていた…
渇きを癒そうと、指先に齧り付こうとした刹那、窓の外から何やら騒々しい声が聞こえて来た。
私は渇きを潤す為に、声の聞こえる方向へと、舌舐めずりをしながら、覚束無い歩みを進めた…
- 益子 尚哉 -
僕は携帯電話から聞こえて来た、ママの悲鳴に驚くと、瞬時に脚立の橋を目指して駆け出した。
窓と窓を掛け渡す脚立に両手をついて、ママの元へと急ごうとするけど、美希が後ろから僕の服を引っ張って、脚立に上がる事も出来ない!
美希は僕に向かって大声で『ダメだよ!!』とか『危ないから止めて!!』って、泣き叫んでいる。
- 美希の泣き虫! 美希の嘘つき!!
- ママの前で絶対に、絶対に泣かないって約束したばかりなのに!!
支援
僕は美希を突き飛ばして、脚立の上によじ登ると、今度は美希が僕の左足を引っ張って邪魔をして来た!
- ママが泣いてるんだ!! パパは死んじゃったから、ママを助ける事は出来ないんだ!!
僕が! だから僕が!!
- ママはもうすぐ死んじゃうから…
だからこれ以上、ママが嫌な思いをしない様に僕がママを守るんだ!!
僕は美希を右足で蹴飛ばすと、脚立の上の板に立ち上がろうとした。
ギシギシと音を立てて揺れる脚立と、目の前に広がる地面までの高さに足がすくんで、立ち上がる事が出来ない!!
僕は身動きも取れずに、目を固く瞑って板の上で踞っていると、背後から美希の嬉しそうな声が聞こえて来た。
『ぁあ! ママ、ママァ!!』
『ねぇ‥ マ、マ…!?』
そして、少し間を置いて、美希の悲しそうな声を聞いた。
僕はゆっくりと前を向きながら、恐る恐る薄目を開けると、指先から血を流した左手が窓枠を掴んでいた。
カーテンから見える人影は、ユラリユラリと揺れながら、窓辺に近付いて来る…
目を見開き深く息を吸うと、僕は凍り付いたみたいに動けなくなった。
不思議なくらい、ゆっくりとゆっくりと時間が流れて行く…
雨の音も美希の声も、耳に蓋をされたみたいに何も聞こえなくなった。
自動車で山にドライブに出掛けた時に聞いた、『キーーーンッ』っていう、耳鳴りだけが僕の耳の奥で鳴り響いている。
息を吐く事も出来ない息苦しさに、目の奥が熱くなって来る。
頭の奥から『ドクドクドクドク…』と脈を打っている音も、遠くから振動だけが伝わって来る。
僕の見てる世界だけが、途切れ掛けたオルゴールの音みたいに、『ポロン… ポロ ロ‥ ン‥』と流れて行く…
何もかもが僕の中から消えてしまい、何も分からなくなって行く気がした…
それでも、一つだけ分かっている事がある。
それは‥ 揺れながら近付く人影は『ママだ!』という事だけだ…
- ウィンディ -
吉良吉樹へ振り返ると、だらしなく壁に寄り掛かりながら、大型バールを手に握り締めていた。
何とも『柔な男だ』と、ウィンディは侮蔑する事を禁じ得なかった。
吉良吉樹は、雨に濡れた前髪を左手で掻き上げると、降り頻る雨の彼方にある天を睨め付けている様に思えた。
ウィンディのモノクロームの視界の先に見える、吉良吉樹の眼光は衰えを知らず、凛と澄ましたいつもの風貌から転じて、鬼気とした強大さを窺わせた。
ウィンディは吉良が何故、これ程までに『生ける屍』の駆逐に拘るのか、皆目検討も付かなかった。
ルカの死後からの吉良吉樹は、脱け殻の様な目をして自室に籠り、決まった時間に自分に餌を与えるだけの生活を送る日々の繰り返しであった。
『硬く冷たい凍りの風』だけが、吉良吉樹の心の中で吹き荒んでいたのである…
ウィンディは、そんな吉良吉樹の変わり様を考え倦みながらも、ゆっくりと迫り来る『生ける屍』へ向かい、猛然と牙を剥き疾走する。
時折、左右にステップを刻み、水飛沫を上げながら駆け抜けるその姿は、風の被膜に覆われ降り頻る雨を切り裂いて行く。
ウィンディはルカの死後、風を共に駆け抜ける事が出来ずにいた。
吉良の手によって、鎖の呪縛を解き放たれた今、ウィンディはこの『狩り』を心底楽しんでいたのである。
疾風の如く地を駈れば駆る程、記憶の底から鮮明に『ルカ』が蘇るのだ。
『ウィンディ! 凄い、凄ぉーーーーい!!』
『ウィンディ! もっと速く! 風よりも速く!!』
ウィンディの記憶の底から、ルカの柔らかな喚声が聴こえて来る!
- 解ってる、解ってるさ! ルカ、ルカァ!!
ウィンディは前傾姿勢から、地に這う様に更に頭を低く沈めた。
一瞬、重心を前脚に乗せながらタメを作ると、しなやかなに後脚で地面を蹴り上げ宙を駈る!!
『ゴォォッ‥ ガァーーーーゥッ!!』
低く唸り声を上げ、『生ける屍』の左鎖骨へ牙を剥き噛み砕くと、吹き飛ばされた生ける屍は、錐揉みをしながら後方へと倒れ込む。
着地をすると直ぐ様、ウィンディは別の生ける屍へと向かって、水飛沫を上げて地を馳せる!
低空から繰り出す一撃は、右膝の上を噛み千切り、足を抉られた生ける屍は、水飛沫を上げてアスファルトへと崩れ落ちた。
ウィンディはこの狩りの中で、本能的に気付いた事が2つ程あった。
先ず1つ目は、どうした理由からなのかは解らないが、生ける屍には『痛覚』が無いという事だ。
『普通』であれば激痛に屈して、起き上がる事さえも出来ない程の一撃を加えても、『こいつら』は『普通に』起き上がり、襲い掛かって来るのである。
そして2つ目は、『こいつら』は、ウィンディを『敵』として認識していない事である。
いや、もしかすると、自分の動きが速過ぎて『見えていない』可能性があるとも考えた。
何れにしても主従関係が成立している以上、ウィンディにとっては、これは戦闘では無く『狩り』だと認識したのである。
ウィンディは崩れ落ちた生ける屍へと向き直ると、そのモノクロームの視界の先に吉良を見詰めた。
吉良は、鎖骨の砕かれた生ける屍の胸を踏み付けると、大型バールを両手で掴み、体重を掛けて、眼窩へ深く深く抉り込む!!
『ジュボッ! ニチャニチャ‥ グジョッ!!』
眼窩から脳を掻き混ぜる様に、大型バールを深く深く捩じ込むと、赤黒い血に混じって、眼球が眼窩からせり出して来た。
『ぉお!? ぶぅ‥ ぁ が、 ぁあ…』
生ける屍は、口から血の飛沫を吐きながら短く呻き、手足を激しく痙攣させると、やがて静かな完全なる躯と化した。
せり出した眼球は、降り頻る雨に洗われながらゆっくりと頬を伝い、アスファルトに『ポテッ…』と小さく弾けると、水溜まりの中をユラユラと漂い始めていた…
吉良は、俯せに倒れ込んでいる生ける屍の後髪を掴みながらアスファルトへ押し付けると、左の耳にドライバーを挿入する。
ドライバーの侵入は、いとも容易く鼓膜を『プスリッ!』と突破すると、中耳から三半規管のある内耳を貫き小脳へと達する。
生ける屍は低く唸りながら、アスファルトに膝まづく吉良の足に向かって、爪を立て激しく掻き毟るが、吉良は一向に動じない。
吉良は息を大きく吐きながら、右肩に力を込めると、ドライバーで生ける屍の脳を掻き混ぜる!
『グリグリ、グ、グ… グジャッ!! 』
ドライバーに絡み付く視神経の抵抗を断ち切ると、生ける屍の見開いた両目からは、
夥しい赤黒い血が『ブッ‥ ボォッ!』と噴き出し、その蒼白い頬を滴り落ちて行った。
吉良は左手に掴んだ生ける屍の頭を、投げ棄てる様に振り払うと、静かな動作で立ち上がった。
ウィンディは、吉良吉樹の心に吹く『風の匂い』を感じ取っていた。
『激しくも柔らかい、暖かな風』だ…
ルカの死に際に嗅いだ風にも似た、総てを包み込む穏やかな風であった。
ウィンディは思う。
吉良吉樹は、和美とその子供達の為に危険を省みず、身を呈して生ける屍を掃討しているのだろうと。
ウィンディには理解の出来ない事だが、ルカと同様にお人好しの吉良の事だ、きっとそんな所だろうと一応の納得をした。
ウィンディは『和美』が嫌いだ。
ルカに拾われ、吉良の家に住み出した頃から、ルカに対する『禍々しい悪意に満ちた湿った風』を感じて以来、この女を敵と見なして来たからである。
まぁ、和美に限らず、この界隈の人間共からは皆一様に、吉良とルカに対する敵意を感じていた訳だが…
そんな和美も、いつしかルカに対する『風の匂い』が変わった。
ウィンディは思い出す気も更々無かったが、いつの頃からかルカに対する『涼やかな風』を和美から感じる様になっていた。
その和美の心に纏う風の匂いが今、『邪悪な腐臭』を纏い始めている!
子供達の心に吹く風の匂いが、消え掛けた炎の様に激しく揺らめいていようが、ウィンディには一切関係の無い事であった。
元来、ウィンディは人間が嫌いで嫌いで堪らなかったのである。
吉良吉樹も和美もその子供達も、ルカ以外の人間に対して、ウィンディは決して心を赦さない。
壁に凭れ掛かり、天を睨む吉良を、ウィンディは苛立ちを隠さずに睨め付けた。
吉良はきっと、気付いていないのだ!
北側から『生ける屍』が来ない理由にも…
断続的に鳴り続ける、不快な携帯の振動音にも…
そして、和美の身に邪悪な異変が起きている事さえも!!
ウィンディは、雨に濡れたアスファルトを『バシャッ! バシャッ!!』と叩くと、『ガルゥ! ボォゥッ!!』と、吉良に向かって低く唸り声を上げた。
ウィンディは自分の、少々お節介じみた行為を隠す様に、背後から再び迫り来る『生ける屍』へ向かい、風を纏い水飛沫を上げながら地を駈る!!
- 吉良吉樹は、俺の合図に気付いただろうか…?
北側から微かに臭い始めた、ウィンディの大嫌いな臭いを振り切る様に、唸り声を上げて『狩り』を楽しむ事にした。
- おい! 糞野郎! 俺の合図に早く気付け! 気付いてくれ!!
捻くれ者のウィンディは、背後から迫り来る『生ける屍』へと向い、再び風を切り裂き、猛然と地を駈るのであった!
>>14 ありがとうございます!
こうした細やかな気遣いや応援は、私にとって最大の励みになります!!
本当にありがとうございます!!
また、今まで我慢をしてスルーをしてくれた方々、私の書いているモノを読んでくれる方々にも、併せてお礼を申しあげます。
次回の投稿で、吉良編も漸く一段落つく予定です。
出来るだけ間隔を開けない様に、時間を作って投稿をしに来ます。
吉良以降のモノを投稿する際は、スレの規約(?)を遵守する様に致します。
長々と、申し訳ありませんでした。
デッドマン氏乙です。おかえりなさいです。
あいさつはさておき、さっきから投稿しようとしているのに、たった数行でエラーがでてしまう。
忍者がレベルがどうのこうのと言ってた。ショックと眠気でぼんやりしてきたので、後日ググッて出直してきます。さようならw
更新されとるw
デットマン乙。新人乙。
両者とも頑張れよ!影ながら応援してるぞ。
いつの間にか災害当時を思わせるような悲鳴が彼方此方から響いてきた。
一体此処で何が起こっているというのだろうか?
ひときわ目立つ断末魔と思わしき声にビクッとしながらも、ただまっすぐに走ることしかできなかった。
ようやく寺が見えてきた。
だがそこはすでに混沌と化していた。
住職と思わしき人間が真っ白な目を光らせながら、人間の肉を引きちぎり食べていたのだ。
思わぬ光景に、胃から込み上がるものを感じながらも前へ進む。
帰らぬ街
〜死者が蠢く地獄の地〜
第三話「駆け込み寺」
「おいおい!なんか異常者の数が増えてきてないか!?」
「それでも寺へ走んのよ!……もし襲ってきたら死なない程度に叩いてやるわっ」
グチャグチャと共食いをする住職に警戒しながら脇を通り過ぎ、ようやく門をくぐり抜け境内に到着した。
「はぁ、はぁ、こりゃ参ったわ……。呻き声がそこら中から聞こえるじゃん……」
「ああ。それより、他のみんなは?」
辺りを見渡し、走ってきた方角も確認する。
誰もいなかった。
しかし確かに聞こえるうなり声。
明らかに囲まれていることを認識したその時、異常を来した住職が突然襲いかかってきた。
「わわあぁあ!」
「うお!?」
思わぬ不意打ちに地面に転げる二人。
頭を打った砂良が痛む場所をなでながら起きあがると、目の前に岸本が立っていた。
「岸本さん?……ちょっと何突っ立ってんの?早く逃げてっ」
「ぐげっ!ぎ、ぎぎ、ぎゃぁあ!」
「へっ?」
何故か岸本も豹変していた。
声高らかに雄叫びを発する姿に唖然としていると、横から住職が飛びついてきた。
「きゃああああ!」
足を捕まれ、恐ろしい力で引き寄せられる。
あまりの出来事に心臓が止まりそうな感覚に襲われたが、そんな感覚さえも気にならないくらい驚きに見回れた。
「ちょ!やめて!」
「ぶぁああ!」
大きな口を開いてきた。
真っ赤な血が糸を引く口内に吐き気を覚える。
だがその気持ち悪さも分からないくらい恐怖に染まっている砂良に、頭がおかしくなった岸本も襲いかかってきた。
「ごぁ!ごああぁぁ!」
「こここ!殺される!」
助けを求め、水野の方へ顔を向ける。
「うおぁぁ!こ、こいつ、すげえ力だ!」
しかし水野も手を噛まれた青年に掴まれ危機に瀕していた……。
当然唖然とした表情が浮かんだが、そんな表情とは裏腹に掴まれた足は忙しなく住職の顔面から逃れようとしていた……。
だがあり得ない力に抵抗し続けるなどいつまでも続きそうにはないようだ。
このままでは病気をもらい同じ末路を辿るか、それとも苦痛の果てに死を迎えるか、驚愕の事実に表情を歪めながら砂良は覚悟した。
「けど!」
松葉杖を握る左手に力を込める。
「返り討ちにしてやらぁあー!」
気合いなのか、それとも怒鳴り声なのか、どちらにも聞き取れる叫び声とともに松葉杖の先を突き出してやった。
「だあぁ!」
「ごはぁあぁっ!」
顔面に容赦ない一撃が見事に決まる。
思わぬ反動に体が仰け反って倒れていったのを確認することもままならず、今度は反対の手に持つ松葉杖を岸本の体に差し向けた。
「うわわわ!」
「ぎょぁぁあっ!」
わかってはいたが恐ろしい力で迫ってくる。
支えているだけではやがて立ち上がってくる住職に襲われ、危機的状況が再び繰り返されるだろう。
「うぁ!間に合ってぇ!」
その前になんとか状態を起こし、休んでいた左手の松葉杖を振り払い、岸本の足を崩してやった。
いまいち力が足りなかっただけに、バランスを崩してやった達成感は気分を爽快にさせる。
「水野さん!もうちょっと頑張って!」
「す、すまん!けど早く助けてくれると嬉しいっ」
なんでこんな大事な時に足を怪我しているのだろうか?
走りながら蘇る苦い思い出が一瞬脳裏をかすめていった。
「離せバカ!!」
「がっ」
松葉杖で体を支え、渾身の跳び蹴りを繰り出した。
我ながら大胆な攻撃だな。と、思いはしたが効果絶大のようだ。
予想以上に吹っ飛んだ青年に対し、罪悪感が芽生えたが今はそんな感情に囚われている時ではなかった…。
「ごめん!グズグズしてっ」
「い、いや、た、たすかったよ……。とにかく中心に向かったらまた門がある。そこでみんなを待とう」
ガタガタと震え、恐怖にひきつった表情を浮かべながら二人は奥へと進んでいった。
背後を振り返るとちょうど二人が立ち上がり、恐ろしい形相で周囲を見渡していた。
なんだ?おかしいぞ?と、異常者の行動に不信感を覚える砂良たち……。
「……おい、なんかやばくないか?」
「……うん。……ていうかごめん。気付くの遅かった。……
私たち、さっきより間近に囲まれてる……」
えっ!!
そんな表情を浮かべる水野。
寝言は寝ていえ!といわんばかりの表情で、砂良を睨みつける。
「……いや、ほんと。ほんとに嘘じゃないから。……だって、殺気というか、なんていうか、すごい何かがそこら中から溢れてるんだもん」
「……勘弁してくれ。……拳法かなにかしてるっていうのはわかったけど、訳の分からんことは……」
砂良に対して静かなる苛立ちをぶつける水野。
何故そう物事を後ろ向きにさせるような事をいってくれるのだろうか?
そしてその言葉を裏付ける確かな証拠、呻き声が森や茂みから聞こえてきた…。
「うう、また変なのが聞こえる!」
「にぐあぁ!」
ガサガサッ!と近づいてくる目に見えない驚異。
震え上がる足に力が抜けていく。
ひぃい!勘弁してくれ!
そんな心の叫びを打ち破ったのは突然現れた男の奇声だった。「ぐなぁああ!」
「うわぁぁあ!」
鼓膜を突き破らんまでの恐ろしい奇声。
真っ赤な血を浴びた恐ろしい姿。
極めつけは引き裂かれた腹の肉がだらしなく垂れ下がっていた。
見るに耐えない成れの果てに、水野の心臓は握りつぶされるような感覚に陥っていた。
「……なんなんだこいつらっ!」
「分からないっ!けどこの人……これで歩けるなんておかしい!」
そうこうしている内に岸本たちも立ち上がり、うなり声をあげながら近づいてきた。
異常なまでのタフさ、尋常じゃない人格、これはもう自分たちだけでは対処できないだろう。
想像を絶する思いも寄らない事象が起こっているのかもしれない。
「…………」
黙す砂良。
いい終わると右手に持つ松葉杖で、まるでトンファを思わせるような構えをとる。
今まで不意打ちばかりだったけど、今度はそういかないわよ。と、言いたげに表情を強張らせる。
その闘争心とは裏腹に、心は締め付けられるような震えに支配されていた。
「……水野さん、先に逃げて。私と一緒じゃあ高確率でイヤなことがあるわ…」
「はぁ!?なに言ってるんだっ!?突然構えるし何をいいだすかと思ったら……。映画の見過ぎだっちゅーのっ!あほっ!」
水野の逆鱗に触れてしまったようだ。
彼からしてみれば、今の台詞は気が触れた奴ら以上におかしかったのかも知れない。
水野の目を直視し、一昔前のグラビアアイドルを思い出しながら冷静に数分先の未来を予想、分析をした。
1まともに動けない。
2戦法はカウンターがメイン。
3人数が増える。
4食べられる。
5もしくは自分もおかしくなる。
「……」
だからといって、このまま引き下がる訳にはいかなかったのも事実。
「……あほでも、ボケでもどっちでもいいわ。でも、自分が原因で誰かに死なれるのはもっとイヤ。ほんとに私だったら少しは時間を稼ぐ自信があるのよ」
「じ、自信があるとかないとかじゃない!とにかくバカな行動起こそうと思うな!今は逃げるんだよ!」
しまいには「格好付けるな!」と、いわれる始末。
イライラした表情で睨まれながら、確かに水野に理があるのは明白だと一般常識的に痛感。
だからといえ、二人一緒に助け合いながら逃げるとなると、高い確率で死ぬ恐れがある。
だけど砂良は水野の言葉に従った方がいいかもしれない。そんな強い思いに駆られるのだった。
「はいはい、死ぬ気でやればなんだって出来る。水野さんと一緒に逃げますよっ」
やっと歩いてくれた……。
ホッと一安心するのも束の間、雨音に紛れ、森や茂みの影から数人の男女が飛び出してきた。
「ぎゃー!またでたー!…に、逃げろサナさん!」
本当は「砂良さん」といいたかったのだろう。
あまりの恐怖にもはや思い通りの言葉は出てこないようだ。
水野の言葉に振り返った砂良は、突然現れた男女が岸本たちに掴みかかる光景を見た。
「ちょっ、奴ら同類でも食い合うの!?」
「知るかボケー!こちとら生きるか死ぬかの時にそんなこと気にしてられるかー!」
危機がピークに達すると誰もが挙動不審になってしまうが、水野は明らかに言動がおかしくなっていた。
そして気づいてしまった。
自身の変化にも……。
いい意味で例えると、どうやらかなり観察眼になっているようだ。
気を入れ直し、もう一度岸本たちに注意を向ける。
ぐしゃ!
−ーーーぶしゅぅうう!
「き、岸本さんの腕が!……ちぎれた!」
「じ、実況するんじゃねぇ!……おぇっ!」
稲光と懐中電灯の明かりで真っ赤な血液が飛び散る様が、とてもリアルに映った。
あまりのショックで一気にこみ上げてきそうな何かを、必死にこらえる二人。
砂良は思った。
あれはもう人ではない。と……。
掴み合う異常者の行動に、いくつもの疑問が自身に課題を投げかけてくる。
だがこれらすべての現象に見合う答えはない。
大勢に体を引き裂かれ、にもかかわらず平然としている岸本の恐ろしい形相にただ逃げることしかできなかった。
つづく
恐ろしいことに全然書き込めないんです。文字数も全然入らない。
でも本当に恐ろしいのは、書き込めないことを調べるといっておきながら、何一つ調べなかった自分が恐ろしいんです。
創作はかなりスローですけど、かならずレベルアップしながら完結まで突き進んでいきます。
ではさようなら。
保守定期age
帰らぬ街乙!
300文字も書き込めへん……。
忍者だか賢者だかわからへんけど、書き込めない理由がようやく分かった。
今日はもう寝ます。さようなら。
>>43の続き
寺に駆け込んでから数時間。
いつの間にか朝日が曇と山の合間から顔を覗かせようとしていた。
長い闇は終わりを告げ、砂良の心を僅かながら癒してくれた。
「にしてもこれは不味いわね。改めて思うわ」
「ですね」
ずいぶん前に落ち着きを取り戻した水野が呟いた。
しかしその目に宿るはずの光は燃えカスのようだ…。
というのも、門をよじ登った二人の前には豹変した村人が奇声を発し、訳の分からない奇行に及んでいたからだ。
異常なまでに顔を振り回す者、死体を貪る者。
冷静な目では見ていられない。
また自身の体を引き裂き、溢れてくる臓器を手に取り何となく観察する者までいた。
あまりにも強烈な光景に胃からこみ上がる感覚に目尻が熱くなった。
「見てらんない」
「だな。俺たちも中に入ろう。……それにしても社務所がほとんど綺麗に残ってたのは助かったわ」
振り返えった先にある社務所を眺めながら砂良は心に安らぎを覚える。
窓から溢れてくる湯気。
暖かい熱気がこもっているのは僅かな食材で朝食を作っているからだろう。
わびしさに包まれた現実に、一時の安息を皆にもたらす。
「私たちも入ろう。此処は精神的にキツいわ」
とはいうものの、目の前に広がる光景に極度のショックを受けないのが不思議でならない。
この数日、災害が原因で火に追われ、悲惨な死を遂げた人々の姿を目の当たりにして、いってみれば精神に異常を来していてもおかしくないことばかりだった。
否、思い返ししてみればかすかに残る記憶の断片が脳裏に蘇る。
助けを求める人を、いったい何人見捨ててきたか……。
悲しい悲鳴、地獄のような世界で狂気に目覚めるもの。
同じ町に住む近しい人間が牙をむく姿は、何よりも恐ろしかった。
知らぬ間に涙が溢れていた砂良。
激情に駆られていた災害当時や、異常者から逃げる時は何も考えなくてすんだが、心にゆとりを持つ途端、過去を振り返ってしまう。
助けたいと思っていたはずなのに、助けられたはずだったのに、結果誰も助けなかった。
塀の向こうから聞こえるおぞましい呻き声が、まるで自分を責めているように感じられた。
無念の死を遂げた死者はあんな風に地獄から助けを求めるような声をするかは分からない。
けど砂良にはどうしてもそう思えるのだった。
そんな砂良の内心を知らず、水野が口を開く。
「砂良さん、えずいてばっかだから涙一杯だぜ?」
それはあまりにも無神経な言葉だった!
帰らぬ街
〜死者が蠢く地獄の地〜
第四話「生存者たち」
昼過ぎ。
寺の住職が蓄えていたと思わしき食料が、蔵の地下から運び出されていた。
砂良たちより前に避難していた誰かがいう。
「食料は殆どないっていってたのに……。くそっ、なんて野郎だ……」
今となっては住職に弁解の余地はない。
外で奇声を発する異常者の仲間入りをしたのだから……。
遠からず男の悪態にもとれる愚痴を耳にし、砂良は炊き出しで配られた味噌汁片手に、ぼんやりと空を眺めていた。
「先生、生きてるかな……」
今となっては後悔ばかり。
正体不明の病気に冒され、感染までする恐れがあるというのに師は自分たちを逃がす為に自己犠牲という行動をとった。
老いた体に激しい動きはあまりできないだろう。
だから砂良は心配でたまらなかった。
温かな味噌汁をすすりながらまたぼんやりと空を眺める。
割と頻繁に目にした飛行機やヘリコプターはいつから見なくなっただろうか?
こんな災害に見舞われたのだからあちこちを飛び交っているはずなんだが……。
「砂良さん」
「……水野君。……あら、その赤いほっぺはなに?」
水野の頬はほんのりと赤い手形が写し出されていた。
その手形を作った張本人をばつが悪そうな表情で眺める水野。
「さ、さっきはすまねぇ。い、いや、申し訳なかったです。……砂良さんが悲しんでたのに無神経でした……」
「ほんとよ〜、もう。……でも私も悪かったわね。割と本気でひっぱたいたからまだ跡が残ってる」
そう。
早朝の水野の無神経な呟きに苛立ちを覚えた砂良は、思わず手がでてしまったのだ。
本気の平手打ちにバランスを崩し、地面へディープキスをした水野の情けない泣きっ面が思い出される。
だからといって人の死に、目の前の惨劇に無神経な事など豪語同断だ。
砂良じゃなくてもあの場に誰かしら居れば、間違いなく似たようなことをしていただろう。
「ところであれから何してたの?」
「知らないおばちゃんと便所作ってたー」
素っ気なく、だけど吐き出すように呟き答える。
せめて御手洗いって表現してよ。と、ひきつった表情を浮かべながらも砂良は味噌汁をすする。
「これからもっと酷くなるわよ。救助が無い限りスヤスヤ寝てられないわ」
「ああ。最悪の場合、トラックとかジープとか適当になんか乗って都市部に行かなきゃならん」
都市部。
幼なじみの由香がいるであろう街。
とはいってもこの田舎町からだと車で四時間はかかる全く正反対の郊外だ。
この災害で元々悪路だった道は更に酷くなっているだろう。
仲のよい幼なじみが浮かべる笑顔が蘇る。
その向日葵のような笑顔は今頃恐怖に染まっているはずだ。
……生きていればの話だが……。
ゾッとする想像に冷や汗が浮かぶ。
「……その際は私も行くわ」
味噌汁を食べ干し、立ち上がる。
「さて、これからどうしよう。私にできることはないかな……?」
「あ、それなんだけど、大人の人は集まってくれっていわれてさ。それを伝えに来たんだよ」
え、じゃあ謝りに来たのはついで?と、口が裂けてもいえない意地悪が思わず出掛かる。
「分かった。私たち大人が弱気じゃ、小さい子が心細くなるからね。頑張ろう頑張ろうっ」
空腹を満たしたこともあり、僅かだが心が晴れる。
人間とは面白い生き物だなと思う。
悲しくても、自分の殻に閉じこもっていても腹が減る。
何をするにもこの腹の虫たちを食料で満たさなければ何もする気が起こらない。
寺の外からは相変わらず恐ろしい呻き声が聞こえ、常におぞましい光景が甦る。
それでも砂良は生きる為に糧を食い、生き延びる為にずぶとい心を持たなければいけなかった。
もちろんそれは砂良だけではない。
恐ろしい光景を見続けてきた生存者は、誰しも恐ろしい光景が甦ろうとも食わなければいけなかった。
何を犠牲にして生き延びたのか?
それを思うと自滅の道を歩むことから解放されていた。
「……水野ですー。友達連れてきましたー」
必死に生きる人々の姿を眺めていると、いつの間にか応接室にまでやってきていた砂良。
早朝の取り乱しかたが嘘のようにのんびりとした口調で喋る水野。
応接室というより、まるで会議室を思わせるような中途半端な広さの部屋には沢山の人が集まっていた。
一人は猟銃の弾薬を数える者、また一人は僅かな薬品の名前をメモする者、賑やかさは微塵も感じさせない。
異様な空気に飲み込まれ、若干足元が震える砂良の傍でテレビを見ている者がいた。
「……やっぱりこれだよっ!……おっちゃんたちも見ろよっ!参考になるぞっ!」
『ヴエエエエッ!』
『キャアーーー!マイクー!やめてーーー!!』
テレビにはある人気映画が再生されていた。
ある女優が衣服と肉を引き裂かれながら血を噴出している残酷なシーンが描写され、映画にしてはリアル過ぎた。
映画の光景に、まだ陽も上らない早朝の出来事を思い出す。
稲光と懐中電灯に照らされた住職や岸本の姿を……。
「……病気の人にそっくりだ……」
思わず呟いく砂良。
その呟きに反応するかのように振り返ってきた少年。
「そうだよ!あまり関連付けたくないけど、この映画に出てくるゾンビとあいつら、似すぎてるよ!」
だからといって本当にそうなんだと思いたくない表情を浮かべる少年に、むやみやたらと雰囲気を悪くしようという意志は感じられなかった。
そんな少年を見つめ否定も肯定も出来なかった砂良。
興奮した少年の息遣いとテレビからの呻き声が部屋の中を包み込む。
「仮にそうだとして、どうやってそれを確かめるんだよ?」
隣で水野が口を開く。
まさにそうだ。
何故か冷たい表情で少年に言葉を投げかける姿に違和感を覚える砂良。
まるで、くだらないことに付き合ってられないぜ。と、今にも口から出てきそうな表情を浮かべていた。
けどもしその仮定が正しければ対策を練らなければいけない。
水野の内心は分からなくも無いが、両方のシナリオを想定しなくてはいけないかもしれない。
未だに睨みつけられている少年と水野の間に割って入る砂良。
「突然どうしたのよ水野君?……怖い顔したらみんなに嫌われるよ?」
「こんな状況なのによくそんな空想と現実を関連づけたりするな。確かに異常かもしれんが、ゾンビはないって。ないない…。はぁ、よくこんな状況でそんなこといえるなぁ」
一体何人が死んでいったかわからない状況で、悲しむどころか映画を見て興奮する少年が腹立たしかった。
両手で呆れてます。と、表現しながら大人たちの群れに潜り込んでいった水野を見送る砂良と少年。
「なんであんな言い方されなきゃいけないんだよ……」
少年はすねていた。
というより、突然見も知らない大人から怒りをぶつけられ半泣きになりそうだった。
そんな少年の肩に手を乗せささやかながらに慰める砂良。
「気にしないで。あのお兄さん自分のこと棚に上げるお馬鹿さんだから。さっきすっごくむかつくことあったから思いっきりぶん殴ってやったのよっ」
砂良の優しい言葉にホッとため息を吐く。
「いえ、俺が馬鹿でした。……あ、自分、木平真一っていいます。災害でみんな散り散りになってとりあえず此処に着たんです」
「……そう。大変だったね。私は霧乃砂良。……ついでだけどさっきの暴君は皇帝水野よ。ラスボスより質が悪いの」
ニコリと笑顔を浮かべながら小太り少年真一が小さく吹き出した。
砂良のつまらない冗談が受けたようだ。
こんな風に笑えたのはいつ以来だっただろうか?
悲しみに包まれていた災害以降、ささやかに笑うことは今日が始めてかもしれない。
だが悲しみは決して忘れてはならない。
頼りない笑みを浮かべていた砂良が途端に思い詰めた表情に変化させた。
「確かめてみたいね。水野君と同じこと聞くけど、方法まで考えてる?」
「……実はそれが一番の課題で……」
そんな二人の困った表情を少し放れたところで盗み見ていた水野。
協力してあげたい。
けど馬鹿らしい。
せめぎ合う気持ちが自身を苛立たせた。
水野の内心など露知らず、砂良は周りで聞き耳を立てていた数人の若者に声をかけてみた。
「死ぬのいやだから遠慮しとくよ」
「彼女残していくのは気が引ける」
「誰が行くかぁ!寝言いうと殺すぞぁっ!」
終いには怒鳴られ暴言を吐かれる始末。
びっくらこいた砂良は反論できず引き下がるしか出来なかった。
彼らが怒るのも無理はないだろう。
誰もが余裕のない極限状態なのだ。
勝手な行動は出来ないことを改めて感じる。
窓から差し込む太陽の光が砂良の苦悩する表情を露わにした。
分かっている。
自分もおかしいことを。
だがこの状況を少しでも理解したいのだ。
しかしこのまま何もせず、何も知らないままずっと立ち止まっていてはまた暗い闇に飲み込まれてしまうだろう。
それだけの恐怖を見てきたのだ。
今は動かなくてはならない、辛い過去を振り返る暇を与えないくらいに……。
小さくため息を吐き、真一に向き直る。
「とりあえず此処に呼ばれたんだから指示に従おうか」
「はい。そうしましょう。俺も少しは落ち着いたんで計画はゆっくり考えるよ」
互いに笑い合い、水野のほうへ歩き出す。
人々の話し声がそこかしこから聞こえてき、一体誰が何を話しているのか聞き取りにくい応接室に、突然誰かが部屋のドアを乱暴に開いてきた。
「やばいぞ!…みんなやばいぞ!あいつらが東の山手から入ってきたぞ!」
あまりの衝撃に胸が震えた。
入ってきた。侵入された。
また誰かが食われてしまう。
恐怖に染まる真一の表情に、砂良の顔は意外にあっさりとしていた。
そんな砂良の態度に一番に気づいたのはもちろん隣に立っていた真一と水野。
どうやら部屋にはいってきた男を見つめているようだ。
「あれ!?司君じゃないっ!」
「……ああ!砂良ちゃんじゃないかっ!どうして此処に!?」
それはこっちのセリフよ!
砂良がそう口を開こうとした時、耳をつんざくような悲鳴が応接室にまで聞こえてきた。
つづく
こんばんは。
いつのまにかレベル4になってました。
まだ忍法のことよく調べてませんが、引き続きやっていこうと思います。
それと読みにくい小説を読んでくださりdクスです。
まだまだ成長途中ですけど、長い目で見てもらえると励みになります。
では次回も作成中なんで、出来上がったら投稿します。
ではさようなら。
>>46 応援ありがとうございまうす。
年末定期age
今年中にデットマンが来る!
必ず来る!
63 :
ゾンビ:2011/12/31(土) 16:26:59.25 ID:Sk4i652EO
年末年始はみんな忙しいから、来月の連休くらいじゃない?
続きを凄く楽しみにしてるけど、待つしかないよねw
それでは作者さんも読者さんも良いお年を!
新年初保守age
新年明けましておめでとうございます。
そして僕生きてます。
今もう殆ど出来上がってますが、次の日曜日までにはアップします。
色々と突っ込みどころあるなんちゃって小説ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
では乙です。
>>59の続き
混乱の極みを超えた慌ただしさが繰り広げられていた。
必死の思いで迫り来る敵を退け、退路を切り開く。
いつの間にか司に手を引かれ、木平と水野が誘導してくれていた。
「あ、あれ?……司君?」
「……砂良ちゃん!しっかりしてくれよ!」
必死に社務所を目指す司たちに見事なボケを披露したことには気づけなかった。
それだけ現実に広がる光景は惨劇を極め、恐れに囚われた者の戦意を削いでいったのだ。
「ご、ごめんなさい。……手、離してくれても大丈夫だよ」
脇に挟む松葉杖をしっかり握り締め、至る所で暴れ回る異常者に注意する。
ほとんどの人間がすでに社務所に避難していたのが駆け込む先に集まっていた。
このままではまずい。
自分たちが標的になりやすく襲われやすい状況なのだと気づいた時、恐ろしい呻き声が迫ってきた。
「司君!横!!伏せてっ!」
「えええっ!?」
切羽詰まった砂良の声が司の脳に直接響く。
まるで砂良の声に反応するかのように地面に滑り込む司。
それを確認しきれる前に左手の松葉杖を振りかぶる砂良。
これが当たらなければ最悪二人とも死んでしまうかもしれない。
そうならない為にも司を信じて松葉杖をワンテンポ早く振りかぶったのだ。
途端、松葉杖に鈍い感触が伝わってきた。
グシャッ!っという表現が当てはまるであろう音が小さく響く。
「ぶ、ぶぶ、ぶん殴るわよ!」
恐ろしさのあまり、気が高ぶる。
もう戦うしかない。
けどまた水野に叱られるかも。それでも目の前の敵を追い払わなければどうなるかなんて分かったもんじゃない。
本気の力で人を殴りつけた罪悪感よりも勝る恐怖に、砂良は戦う意志を体現する。
「……かかってらっしゃい!!」
そんな様子をアワワワワ。と、砂良たちの危機を眺めることしか出来なかった水野が口元で両手をマゴマゴさせていた。
ど、どうすればいいんだ!?
思わずそう叫ばずにはいられないくらい、迫られた感に慌てふためく。
「水野のにいちゃん!さっきみたいに戦ってくれよ!」
「うっさい!ビビってんだよ!!」
長物を構え、進んで攻撃に移る水野を見届け、木平は司令塔に徹する。
やれこっちから迫る、やれあっちから迫ってくる。
指示は的確かもしれないが10近く歳が離れている子供に命令されるのは癪だった。
しかし此処は人生の先輩として、短気を起こすことはみっともない。
迫り来る異常者に容赦ない一撃を繰り返し叩きつけ、内心に芽生えた苛立ちのはけ口に利用する。
「だけど……」
なんてことを理由に殴りつけているのだろうか?
結局未熟なのは自分一人なのかもしれない……。
ますます自身の内面や臆病な性格が露わになっていく。
水野個人の問題だが、これ以上失態を砂良したくはなかった。
誰かを見捨てて逃げるなど二度としたくはない……。
「次はどいつを叩けばいいっ!?」
「あらかたやっつけたよ!あの二人の片が付いたら社務所に逃げましょう!」
木平が指差す方で、砂良が険しい表情で戦っていた。
足の負傷など微塵も感じさせない軽快な動き、まるで流れる水のようだ。
松葉杖を巧みに操り武器として扱う機転の良さ、冷静さ、全てが水野の上を行っていた。
「ほんとに拳法してたんだ……」
帰らぬ街
〜死者が蠢く地獄の地〜
第五話「正体」
――――――社務所
先の襲撃で東側の出入り口を封鎖。
耳を塞ぎたくなるくらい何度もドアや壁を叩く異常者たち。
執拗だった。
ガクガク震える砂良。
自分でも信じられないくらい暴れてしまった。
倒れてもなお真っ赤な血を吹き上げ襲いかかってくる敵のおぞましい表情が脳裏から離れない。
震える膝を抱え込むように腕を回し、乱れる呼吸を必死に整える。
「なんであんなに凶暴化したのよ……」
その言葉は異常者たちに対してか、それともあるいは……。
ハァハァと吐き出される吐息が白く立ち込め、空気に溶けていく。
目を閉じる。
嫌な光景ばかりが目に浮かぶ……。
本当に溶けていきたかった。
もう恐ろしい目にあうなんて、考えたくも無い。
溶ければどんなに楽だろうか?
不意に行動を別にした師の姿が見える。
血だらけだった。
親友の由香が泣いている。
肩にかかりそうな赤茶けた髪がフルフルと揺れている。
表情は見えない。
背中だけがその悲しさを伺わせ、砂良を責める。
だけどそれは紛れも無く幻覚に過ぎなかった。
しかしこのプレッシャーは今までに味わったことがないくらいの圧迫感。
『なんで、お父さんを助けてくれなかったの?』
ー私は見殺しにした訳じゃない!ー
今だ震える膝を強く押さえつけ、伏せていた顔を上げる。
「……砂良さん、大丈夫か?」
「木平君……」
木平の手には温かそうな湯飲みが納まっていた。
砂良の視線に気付くことなくそれを手渡す。
「……熱い茶だ。……お姉ちゃん、寒いだろ?これで温まってくれよ」
「……優しいじゃない。どっかの誰かさんとは大違いね」
ニコリと無理やり浮かべた笑みに木平が答える。
「あ〜寒い寒い、砂良さん隣に座るよ?」
ぴったりとくっつくように座る木平。
突然の出来事に驚きはしたが、特に嫌な気はしなかったので拒絶はしなかった。
足を崩し、木平の表情を伺う。
「……」
「………ありがと。……お茶、とても美味しいよ」
コクリ…。
静かに頷く木平。
俯いているのかそれとも上目遣いで周りを観察しているのか、よく分からない姿勢を保ちながら静かに黙り込む。
どうしたのだろうか?
あまりの恐怖に他人の温もりを、何よりも異性である女の温もりを求めているのだろうか?
「……俺、戦えなかった」
「……え、何をいってんの。……真一君は一番やってくれたと思うよ?」
砂良の言葉に顔を向け、疑問に満ちた表情を浮かべる。
「……ただ危険を知らせ続けただけですよ」
「それがいいんじゃない。……あのね、兵士はただ突き進むだけかもしれないけど、それをコントロールする司令塔がどれだけ勝敗に関わってるか知ってる?」
首を振る真一。
ニコリともう一度笑みを浮かべる。
「実は私も分かりませんっ」
心からの笑みに真一の頬が赤く染まった。
「……真一君の行動は私たちに必要だったわ。あなたが私たちを救ってくれたんだよ」
「そ、そっか……僕でも、人の役にたてるんだ」
しみじみ呟く真一に大きく頷く砂良。
「だけど、助けを求めている人を見捨ててまで生き残ってる僕って、ありえないよ」
「………!」
真一の言葉に砂良は優しさの欠片さえもかけてやれなかった。
同じ心境だったからだ。
真一と同じ境遇に立たされているだけに、フォローの言葉は浮かびもしない。
「……私も同じ」
「……そうなんだ。……でも、みんな似たような気持ちを抱いてるんでしょうね」
死んでいった人たちを思い浮かべ、何を思うのだろうか?
遠い目で何処を見るまでもなくぼんやりする木平。
周りの騒がしさにも同ずる事無く力ない目で空を漂う…。
「……砂良さん、聞こえる?」
「もちろん……」
この恐ろしい声は隙間から漏れてくる風の音ではない。
紛れも無く異常者たちが腹の底から吐き出す呻き声。
こんなにも喧騒としているのにも関わらず、その声は気持ちが悪いくらい頭に響いてくる。
耳を塞いでも無駄だろう。
既に体の奥底に刻まれたのだから…。
観念するまでも無く、ただ耐えながら恐ろしさに身を晒す。
力尽きたかのように相変わらず空を眺めていたその時……。
「お、俺ぁ見たんだぁあああ!」
誰かが突然叫んだ。
その声は明らかに怯えと苛立ちに染まり、同じ部屋に居合わせた者たちに緊張が走る。
重い腰をあげ、騒ぎの只中を眺める砂良。
中年男性が例えようも無いくらい恐ろしさに染まりきった表情で喚いていた。
遠めに見てもそれは異常すぎる光景。
その男は幾度と無く恐怖を味わってきたはずだ。
災害はもちろんこの襲撃で死ぬほどの恐怖をその心に刻み込んだはずだ。
なのに男の恐怖に染まった表情からただならぬ何かを感じる砂良。
一体何を見たというのだろうか?
知らぬ間に足が進んでいた。
真一の手を握り締め、進む。
そうしなければ騒ぎの只中に立ち入る自信が無かったからだ……。
そんな砂良の姿に気付いたのは水野と身の上話をしていた司だった。
「……おい、なんかヤバイ空気が漂ってきたぞ」
「……またかよ……。勘弁してくれ……」
四人がちょうど騒ぎの中に加わった時、騒ぎを起こした張本人が凄まじい剣幕を浮かべていた。
「おいおい、あんた何騒いでるんだよっ!外の奴らを興奮させるようなことするんじゃねぇえ!」
「黙れボケっ!……俺は見たんだっ!他の奴だって見てるだろっ!?……心臓が…心臓が飛び出してたんだぞっ!?」
男の言葉に、驚愕の事実に強い衝撃を受ける真一。
「……見間違いじゃなかったんだ……」
かき乱れるていた心が、霞んでいた疑問が、少し晴れた気がした。
得体の知れない異常者がもう既に息絶え、生きる屍としてこの地上を彷徨っているのだ。
雷鳴の如く胸打たれた真一に圧し掛かる恐怖は、誰よりも大きかったのは言うまでも無い。
抜けていきそうな魂を何とか心に留め、今後について一人模索する。
間違った情報を人々に植え付けることだけは避けなければいけない。
着眼大局とはこういう場合に使ってもいいのだろうか。と、以前何処かで見たことわざを思い出す。
有意義な時間はますますなくなるばかり、だからといって焦りは禁物だ。
可能な限り知恵を振り絞り、大人たちにどう対処してもらうか委ねなければならない。
肺肝を披くという言葉があるように、馬鹿な真似や身勝手なことをせず、ありのままを伝える義務が真一にはあった。
自分の行動に責任を持つなんて今まであっただろうか?
砂良の顔を見上げる。
胃が痛くなりそうだった。
とにかく身近な存在にだけは、今この状況を少しでも明確にしておかなければならない。
人間が人間でいる為にも、非現実的な状況を、真実を、知ってもらわなければこの先に待ち受ける結末はあまりにも残酷だ。
ありのままを説明出来る人、砂良の手を引く。
類は友を呼ぶとまでは到底行かないが、砂良も初めて会った時、ゾンビの存在をひとつの可能性として受け取ってくれたのだ。
「……お姉ちゃん、まずいよ。僕の予想、残念だけど当たりつつあるよ……」
「……うん。もうどうすることも出来ないね……」
不安そうな表情を浮かべる砂良に、真一はただ残念な表情を浮かべることしか出来なかった。
そんな自分が少し怖かった。
人の死に慣れ始めている事実に気付いたからだ。
「……どうすることも出来ないけど、これで過剰防衛出来る理由が出来たよ」
「確かにそうだな」
突然背後から聞こえてきた言葉に振り返る真一と砂良。
そこには司が立っていた。
「……司君……」
乃木司(のぎ つかさ)27歳
砂良の幼馴染、二ノ宮由香(静寂の空、帰らぬ街の主人公)の恋人。
最近は恋人由香との喧嘩が絶えず、仲直りをしては小競り合いの繰り返しだった。
不幸なことに出張先である由香の故郷で被災し、今に至る。
「……確かにそうだといったけど、仮にこれが紛れも無い事実だとしたら木平君……どう対処すればいい?」
「……救助が困難だということはもう分かりきったことだけど、まだ外国からの救助が望めるはず……。俺としてはしばらくは立て篭もってやり過ごすほうがいいかも……」
「でも真一、食料はどうなんだよ?俺たち2、30の大人はある程度は我慢できる。……けど、お前ら子供や老人はどうするんだ?」
司と水野から言葉が投げかけられる。
子供ながらに二人へ言葉を投げ返す真一。
心は極度に震えはしたが、尻尾を巻いて逃げる訳にはいかなかった。
「……俺もそれくらい我慢できるよ!……俺だけじゃない、他の奴らも出来るわっ!馬鹿にすんなっ!」
水野の心にも無い言葉に怒り露にする真一。
まともに水野の目を見れない真一は、肩をガタガタとさせながら静かに怒りを露にした。
あまりの恐怖でストレスが溜まるのは分からなくも無いが、何故目の前の男にこんなにも意地悪をされなければいけないのだろうか?
ひとこと物申したい衝動に駆られるが、事態が事態だ。
真一にはこの怒りを沈め、今後について話し合わなければいけない使命があった。
だが酷くやつれた表情を嘘に塗り替えるだけの気力は無い。
それでも今は話し合いをしなければいけない。
そうしなければ全員が死んでしまう可能性が大きいからだ。
とはいえ、何をどう話せばいいのやら……。
そんな心境に頭を悩ませていると、司が水野に反論している姿があった。
司、その存在を知ってまだ一時間も時は過ぎていないだろう。
その姿は誰よりも頼りがいのある姿に見えた。
「……今のはいいすぎだろ。何考えてるんだよ……」
「…………すまん。俺、どうかしてるわ……。どうすればいいか分かんないんだよ…」
悲痛な表情を浮かべ、誰にも顔を見られないように伏せる。
誰もが混乱の只中で苦悩していた。
それは水野だけではない。
司や砂良、この寺の中で生きる全ての人々が脆くなった心を引き千切られそうな思いに駆られているのは分かりきったこと……。
「……悪かったな。年下にあれやこれやいわれると腹が立ってね……。俺の未熟さだ。けど、今は無理なんだ。イライラするんだよ……」
「……ぼ、僕も気をつけます。ごめんなさい……」
いちいちストレスが溜まっている事を表現しないでくれ……。
疲れた表情を殺しながら、嫌な空気の流れをせき止める真一…。
どうやら水野とは仲良くなれそうに無いだろう……。
こんなあからさまな態度をされた日にはもう駄目だと思うしかない……。
そんな真一の内心を感じつつも、様子を見守っていた砂良が口を開く。
「……どうすればいいと思う?」
「今はほんとになんともいえないよ。……僕としては隣国からの救援を期待してます。……けどそれだけでは駄目です。……襲われたら……動けなくなるまで破壊しなければいけない…」
搾り出すように吐き出した言葉に砂良は黙りこくることしか出来なかった。
思いつめた表情を浮かべ、出口の見えない暗い闇の中で答えを探す。
そんな砂良の姿を眺めていると、少しだけだが勇気が湧く真一。
「……映画や本では頭を破壊するとそれで終わりですけど、そんなことが出来る武器は銃器しかないです……」
ようやく搾り出すように打開策のひとつだと思われそうな情報を簡単に説明し、武器の必要性を訴える。
だけどそんな武器は狩猟用品店くらいでしか手に入らないだろう。
とすると、豊かな山が資金源であるこの小さな田舎町で、銃器を売っている店はただひとつ。
「……学校の近くに狩猟用品店がありましたよね?……そこで銃器を手に入れれば
「そうね。……でもあそこもゾンビの襲撃でどうなっているのやら……」
両手を組み、「う〜ん」と困った表情を浮かべる砂良。
狩猟用品店に行かなければどうにもならないが、まずはそこまでに立ち塞がるゾンビの数が未知数だ。
大勢で向かっていかなければライフル確保は相当難しいだろう……。
砂良の困った表情を眺めていた水野が手を上げたその時。
「んがあああああああ!!!!!!!!!!」
突然一際目立つ声が部屋中に響き渡った……。
あまりの驚きに身を屈めてしまいそうだった体を奮い立たせ、悲鳴の出所を睨みつける真一。
そこには先ほどまで騒いでいた男性がどす黒い血液を噴水の如く口から吹き出していた……。
つづく
こんな小説でごめんなさい。というと2chで小説は書けないか。。
大丈夫。下手だけど、心は丈夫よ。