【小説】ZOMBIE ゾンビ その31【創作】

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938本当にあった怖くない名無し:2011/11/09(水) 10:15:41.45 ID:78w1trV90
お、なんだなんだ。
デッドマン氏は大変だな。
じゃぁ僕、気が向いたら小説投稿するよ。きっとすごいぜ。
全2ちゃんが泣くぜ。
939本当にあった怖い名無し:2011/11/13(日) 08:17:53.31 ID:XA5j+g9JO
940プリニー南へ【SP204】 ◆7I1DeyaB5I :2011/11/13(日) 16:41:24.51 ID:DyqY0frRP
デッドマンさん、復帰お待ちしております!
941プリニー南へ【SP204】 ◆7I1DeyaB5I :2011/11/13(日) 16:42:38.49 ID:DyqY0frRP
白衣の悪魔in死霊地獄
(35)
 夏希と鉄郎はしばらく固まっていたが、すぐにバリケード作りに加わった。
 確かに、雪子が生きて戻ってくる可能性はある。
 夏希は雪子が死んだものと思っていたが、もし生きていてこっそり鍵を開けて戻ってきたら、どういう事になるだろうか。
 鉄郎が先に気づいて取り押さえられればよい。
 しかし、戻ってこないものと油断しているところに不意打ちをかけられたら…。
 薬剤部には多くの薬剤がある、それらの効果を把握している薬剤師にとっては武器庫も同じなのだ。即効性の麻酔薬、いや運が悪ければ致死性の毒を使われることもあり得る。
 雪子はおそらく夏希たちを「絶対に許さない」だろう。
 そうならないためには、扉が開かないようにするしかない。
 幸い薬剤部の扉は内開きになっているため、内側に重いものを置けば扉は開かなくなる。
 佳輪は薬剤カートを扉の内側に何台も重ねて置き、全てのタイヤをロックした。これでもう、簡単には動かない。

 バリケードができて一息つくと、佳輪はふっとため息をついた。
「他の薬剤部のみなさんを見殺しにするのは心苦しいですが…それでも、私たちの命を守るには仕方ないです。
 あの女じゃなくても、戻ってきた人が感染していたら困りますから…」
 そこまで言うと、佳輪は唐突に夏希と鉄郎の方を振り返った。
「ところで、あなた方の中に噛まれた人はいませんよね?
 いたら…発症する前にどうにかしないと」
 さっきまでの可愛らしい声とはうって変わった、低い声だ。
 あまりの変貌ぶりに、鉄郎も寒気を覚えるほどだ。
 しかし、これは正論だ。
 夏希たちがその目で見たように、あの病は感染する。感染すればいずれ発症してゾンビになるのだから、感染者が侵入した時点でそこは安全ではなくなる。
 絶対の安全を求めるなら、非道なようだが感染が疑われる全てを遮断するしかない。
「大丈夫だ、おれたちは誰も噛まれてない」
 佳輪を安心させるように答えながら、鉄郎は背中に冷や汗をかいていた。
942プリニー南へ【SP204】 ◆7I1DeyaB5I :2011/11/13(日) 16:44:11.32 ID:DyqY0frRP
(36)
 正面の扉の封鎖が終わると、佳輪は鉄郎にそこを見張るように言った。
「もし外側から扉がたたかれたら、すぐ私たちを呼んでください。
 私は、まだ封鎖する場所がありますから」
 そう言うと、佳輪は調剤室の奥へと歩いて行った。
 やることがなくなった夏希も、佳輪についていく。
 病院が大きいため調剤室も広く、連なって置かれた棚には豊富な種類の薬が並んでいた。錠剤、粉薬、水薬…夏希のずっと憧れていた光景が、そこにあった。
 夏希がなるはずだった薬剤師、その薬剤師が扱う数多の薬がここにある。
(ああ、あたし…やっとここまで来れたんだ!)
 正当な手段とは程遠いが、夏希はようやくこの空間の支配者になれた。
 その喜びに比べれば、病院で一緒に働いた仲間がほぼ全員死ぬことなど、夏希にとっては些細なことだ。
 夏希が看護師であることに変わりはなく、看護師が調剤を行うことは法律で禁止されているが、それももう関係ない。
 このまま死病が広がって日本が無法地帯になれば、法律など無意味だ。
 そうなれば、夏希だって…誰だって薬剤師になれる。
 その狂った未来を思い浮かべて、夏希は幸せを噛みしめた。

「あ、えーっと古沢先輩?
 お手すきでしたら、封鎖を手伝っていただけますか?」
 佳輪に声をかけられて、夏希はふと我に返った。
 見れば、佳輪は壁にある小さなドアの前に重そうな段ボール箱を積み上げている。
「ここは、エントランス近くの医療事務室につながっているんですよ。
 受付で外来の患者さんに薬を渡しに行くための通路です。薬剤部の人以外は使わないので、ここから人が来る可能性は低いですが…来られてからじゃ遅いですから」
「ふーん、そんな通路があったんだ」
 薬剤師が使うものというだけで、夏希には全てが新鮮で輝いて見えた。
 段ボール箱は重かったが、中に入っているのが薬を入れる袋だというだけで、その重さも心地よかった。
 そうして、夏希と佳輪は薬剤部を内から完全に封鎖してしまった。
943プリニー南へ【SP204】 ◆7I1DeyaB5I :2011/11/13(日) 16:46:36.20 ID:DyqY0frRP
(37)
 封鎖が終わると、佳輪は額の汗を拭いながらぼそりと漏らした。
「ところで…もう一人看護師の方がいましたよね。
 あの人は何も手伝ってくれませんけど、そういう方なんですか?」
 佳輪に言われて、夏希はふと涼子のことを思い出した。
 そして、腹が立ってきた。
 涼子はこの薬剤部に連れてきてやったというのに、少しも作業に加わっていない。自分たち全員の命を守る作業に、全然手を貸さなかったのだ。
 それだけではない、逃げている途中もわめいたりへたれたりで全く役に立たなかった。
 これは夏希でなくとも、怒りを覚えて当然だ。
「ちょっと涼ちゃん、あんた何サボってんだ!!」
 流しの近くで座り込んでいた涼子に、夏希は思いっきり怒声を浴びせた。
 すると、涼子は重たそうに顔を上げて、弱弱しい声で答えた。
「ちょ…ごめん、今はかんべんして…。
 何か、気持ち悪い…すっごい体が重い…ってゆーか、体中が不快なの」
 涼子の性格からして仮病ともとれるが、夏希はどうも違和感を覚えた。
 涼子はぐったりして、確かにいつもより顔が青白い。息遣いも苦しそうだし…何より、涼子のこんな弱弱しい声は聞いたことがない。
 涼子は感染防御がおろそかだが、それでも体調を崩したことなどなかったはずだ。
 その涼子が、こんなに具合が悪くなるとは…。
「涼ちゃん、もしかしてゾンビが怖くて耐えられない?
 汚物は平気なのに、意外だね」
「うーん…そう、かも…」
 確かに、目の前であんな怖いことが起こればショックで体調を崩してもおかしくない。
 涼子は汚物は平気だが、人の命やオカルトはまた別の話なのだろう。
 それでもどこか腑に落ちず、夏希はもう少し話そうと思ったが…それは鉄郎の声に遮られた。

「おい、来たぞ二人とも!!」
 鉄郎が、招かれざる者の来訪を告げる。
 雪子か、それとも他の誰かか…夏希と佳輪はすぐ近くにあった武器をとり、扉へ走った。
944本当にあった怖い名無し:2011/11/13(日) 19:56:32.07 ID:k4QI2s4f0
プリニー
相変わらず、つまんねぇな
もうちょっと読む人のことを考えた文章かけよ…
945本当にあった怖い名無し:2011/11/13(日) 20:15:49.71 ID:bg5Xc/SzO
>>944
お前、そんな事言ったらデッドマンはどうすんだよ!
また戻ってくるみたいな事言ってたし、あいつは小説投下とか言ってる連投荒しだぞ?
946本当にあった怖い名無し:2011/11/13(日) 20:27:38.14 ID:s8Gmkc+A0
プリニーやっぱり独りよがりの文章になってきたなw
はっきり言ってつまらん
947帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:37:13.18 ID:DwMdtB/a0
(1−1)
重苦しい厚い雲が空一面を黒く塗りつぶしていた。
普段、このような暗さなど気にもならないのだが、電力の供給が寸断されたとなると話は別だ。
一斗缶の中で燃える木屑の明かりに照らされながら、四脚の仮設テントから眺める空は恐怖に満たされていた。
気味の悪い感覚に陥りながら、肌寒い自身の体をソッと抱きしめる。
精神を蝕むような恐怖感に飲み込まれないように、その手に込められていく力は少しずつ強くなっていった。

おぞましかった。
目の前に広がる黒い雲がおぞましかった。
まるでこの世のものではない何かに見つめられているようだ。
何処か金縛りに似た状態に苛まれていると、不意に背後から男の声が聞こえた。
「……どうした?砂良」
「……ちょっと空を眺めてるだけです」

砂良(砂良)と呼ばれた女が、背後から気配を感じさせずに近づいてきた初老の男に振り向かずに答えた。
その態度が当たり前のように、男が隣に立つ。
「……足の調子はどうだ?」
「……おかげさまでだいぶよくなりました」

空を見上げながら返事をする砂良に、初老の男も遥か頭上を見上げる。
どす黒い雲の海を時折眩いばかりの稲光がいくつもの枝分かれを繰り返し、這う。
小さく溜息を吐き、目の前に広がる光景を眺め、更に深いため息を吐く……。
そこには学校と思わしき建物が崩壊し、瓦礫と化していた。
「……災害が起こってもう1週間経つが、救助は一向に来んな」
「……はい。火災のせいで、食べる物もいよいよ尽きるかもしれないって皆さん困ってました」
948帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:38:01.28 ID:DwMdtB/a0
(1−2)
辺りを見渡す砂良。
暗いグラウンドでは、同じような仮設テントがちらほらと設置されていた。
温かい焚き火に当たりながら、無気力に座る老人たちの姿に心が痛む。
村人総出で食料をかき集めたものの、全村民を賄えるだけの大量の物資は集まらず、
事態を重く受け取った数人の若者たちが、山や川で食べられる動植物を調達することになった。
確かに自然豊かなこの地には恵みに満たされている。
きっと何かしらん持ち帰ってくれることを切に願う……。
ただ人が摂取できる作物や野草などは、寒さが残る3月の気候の影響で僅かしか実っていないだろう。

嫌な現実が胸を痛める……。
どうしてこんなことが起こったのだろうか?
一週間前の出来事が鮮明に甦ってくる……。

2007/3/10
それはなんの前触れも無く、人々が築きし文明を破壊していった。
助けを乞う擦れた声、痛みに苦しむ唸り声、狂気の怒号、あらゆる場所から恐怖と悲しみに満ちた声が渦を巻く。
助けられなかった人々の表情が目に焼きついていた。
その光景は一生拭い去ることは出来ないだろう。
出来ることならば、全ての人々に手を差し伸べていきたかった。
だが言い訳は出来ない、言い逃れも出来ない、助けられなかった理由、それは紛れも無く自身の保身が優先されたからだろう。




帰らぬ街
〜使者が蠢く地獄の地〜
第一話「襲撃」
949帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:39:37.66 ID:DwMdtB/a0
(1−3)




パチッ……パチッ……。
少し強い風が吹きつけ、一斗缶の中で燃える焚き火から火の粉が舞い散る……。
「……先生、私、後悔してます」
「アホ、お前だけじゃない。俺もしてるに決まっとろうが……」

頭を撫でられた……。
60を過ぎた男の手は以前のようなたくましさが消えていたが、その温かな手のひらから感じられる優しさは健在だ。
否、歳を重ねるごとにその優しさは大きくなってきているようにも思える。
知らずの内に寂しい笑みを浮かべた。
「……なんだ?」
「……いや、先生も老けたもんだなあって。……もう何年の付き合いになりましたっけ?」

目の前に広がる光景から目を背け、隣に立つ男に目を向ける。
砂良の言葉に顔を傾け、記憶の奥底から過去を引き釣り出すその表情は可笑しなかった。

「……アホ、なにボケてんだ?お前が生まれた時から25年、ずっと隣の家で住んでただろ」
「そういえばそうだった。……由香とずっと一緒に育ってきたんだもんな…」

砂良の言葉に含まれていた娘の名に、遠い目をする。
あの子は今何処で何をしているのだろうか?
移動手段があればすぐにでも駆けつけてやりたい。
娘の身を案じる父親の顔が砂良の目に映る。
「……すみません。こんな時に思い出させて……」
「いや、いい。……アイツは大丈夫だ。中学で稽古やめたとはいえ、きっと今でもたくましく図太く、そしてしぶとく生きてるはずだ」
950帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:40:54.21 ID:DwMdtB/a0

そんな言葉を吐き出してみたものの、心の優しい我が子が平常心を保っているとは思えない。
大きな心配事が胸に圧し掛かるような感覚を覚えると同時に深い溜息をつく。
二人の間に広がる暗い空気はその重さを増すばかりである。
気落ちすることに耐えられなくなり、柱に立掛けてあった松葉杖を両脇に挟む砂良。

少し歩きましょう。と、小さな声で歩くことを促す。
静かに頷き、砂良の後に続く初老の男。
「それにしてもあの災害は俺たちが築き上げたもの殆ど持っていきやがったな」
「地震大国日本といわれる意味、今やっと理解できました。大事なもの、全部奪っていきましたね……」

歩くさなか、仮設テントから誰かがすすり泣く嗚咽が聞こえた。
無理もない、毎日人が死んでいくのだ。
食料だけでなく、医薬品も不足していることが原因だと重々承知してはいるが、人々の死に指をくわえて見守ることしかできないのは心に大きな傷を残していった。

いつの間にか負の感情は連鎖し、至る所で悲しみが溢れ、砂良自身も目に涙を浮かべていた。
「あまり深く考えんなよ。今は生きることを考えろ。それがみんなの助けになるはずだ」
「……はい」

言うまでもなくそんな励ましに気分が紛れることはなかった。
ただ信頼できる人に優しい言葉をかけられるのはイヤな気分ではなかった。
励ましにはならなかったが、幾許かは心が落ち着いた。
気を取り直し裏門を抜け、村の離れへ歩を進める砂良。
なにか状況が変わったかもしれないと期待しながら……。
そんな思いに駆られていると、遠くから幾つかの懐中電灯の光が迫ってきた。

「誰か走ってくる。……何かあったのかしら?」
「何だろうな?困ってるかもしれん。ちょっと俺が聞いてくるからゆっくり来い」
951帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:41:49.38 ID:DwMdtB/a0
(1−5)
と、走っていく師を見送り、松葉杖で歩きにくい農道をゆっくりと進む砂良。
おーい、どうしたんだ?師の声に懐中電灯を振り回す誰かの声が聞こえてきた。
「おお、二ノ宮の……えーっと……あー、義弘じゃねーか!」

目の前の人物のが記憶に当てはまるまでに僅かばかりの時間を要した男が素っ頓狂な声を上げる。
出来る限り早足で彼らへと近づく砂良は声の主が複数人いる事に気づくのだった。
やがてグループに加わった砂良を合わせ、7人が互いの無事を確認し会い、同時に拠点の現状を報告。
「そっちはどうだ?」

義弘が質問した言葉は至って当たり前のことだった。
「……ちょうどさっき避難してきた奴らが着てよ!……だけどもかなり取り乱してるんだ。精神科の先生がそっちに居たはずだから迎えに行くところだったのさ」
「……生存者の方がいたんですか?」

男の言葉を改めて確かめたいが為に砂良は疑問を投げかけると、皆同じように首を縦に振り、相変わらず忙しなく落ち着きがなかった。
そんな彼らに落ち着くように促す義弘が、一番体力を消耗している20代後半と思わしき青年の背中を支える。
しかしその背中を支えた時、ある違和感が全神経を凍りつかせた。
「……おいおいっ、お前、その背中どうしたんだよ。包帯ぐるぐる巻きじゃないかっ!」
「ああ、そいつ、取り乱した奴を押さえた時に思い切り背中引っかかれたんだよ」
「結構深く引っかかれたから血が中々止まらないんだ。そっちに医者が行ってるはずだから報告がてら連れて来たんだ」

呼吸が乱れすぎているのは一目瞭然、血を流しすぎた上に全速力で離れの集落からやってきたのだ。
血の巡りが激しい状況に、循環するはずの血液が体外に出て行っているというのは相当キツいものがあるだろう。
それでも男は見栄を張っているのか、態度とは裏腹に、強がりを口にした。が、それはあまりにも酷かった。
「……ぜはぁーー、ぜはぁーー、はは、は、はい。はい。ははははっ。……だだ大丈夫です」
952帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:43:30.97 ID:DwMdtB/a0
(1−6)

見るからに、明らかに、その青年の態度は平常心を保っているようには思えない……。
訝しげに男の背後に回る砂良。
別におかしな点は伺えなかった。が、そう思えたのは一瞬、突然男が尋常では無い悲鳴を叫び散らした。
「ぎょぁああああああ!」
「えっ!ちょ、ちょっと、大丈夫っ?!」

松葉杖を脇で挟み、突然前のめりに腰を曲げた男に手を差し伸べ、声をかける砂良。
そんな彼女の手の平を振り返り様に払いのける、突如としてその細い体を両手で締め上げてきた男。
「ちょ、ちょっと、な、なにすんのよっ!」
「……おい、なんかおかしいぞ!…砂良っ!そいつから離れろっ!蹴れっ!!」

義弘の叫び声に反応するかのように両脇に挟んでいた松葉杖に力を込め、体を支える。
そしてすかさず急所に右膝を叩きつける砂良。
「ごめんなさいっ!」
「ぎょえぇ!!」
「……おい、女っ!何するんだっ!」

おかしくなった男と一緒にやってきた男が、砂良の行動に怒鳴り散らしてきた。
怒鳴りたい気持ちも分からなくは無いが、突然抱きしめてきた。というより、締め付けてきた男に対して正当防衛をしたまでだ。
意味も無く締め付けてきた相手を蹴り飛ばして、何故そこまで怒鳴られなくてはいけないのだろうか?
言い訳というよりも、男の行動に非があることを全面的に責めてやろうと思っていた砂良の口より先に、
連れ添いの男が驚愕に満ちた悲鳴を響かせた。
「ていうか正二郎の取り乱し方、避難してきた奴とまったく同じじゃないかっ!」
「おい、おいおい、正二郎!大丈夫か?おいお…おおっ!ぐぇ!いでゃああブホォォ!」
953帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:44:02.08 ID:DwMdtB/a0
(1−7)

グシャッ!ブチブチブチッ!!
ヒューー!ヒューー!
一体何が起こったのだろうか?
懐中電灯の光に照らされた男の首から真っ赤な血液が吹き出ていた。
こんな光景、生まれてこの方、見たことあっただろうか?
そこにあるはずの皮膚が食い剥がされ、骨と食道がむき出しになっていた…。
突然の出来事に口元を押さえ、込み上げてくる気持ち悪い感覚を何とか堪え、冷静さを取り戻そうと必死に心を落ち着かせようと乱れる呼吸を整える。
「せ、先生っ!」
「さ、砂良、こっちこいっ。……こ、こいつ、狂犬病か?」

狂気にその姿を変貌させた男の行動を直視し、義弘が驚きの声を上げた。
無理も無い……。
狂気に取り付かれた男が獣の如く、抵抗する力も殆どない瀕死の人間に噛み付いていたからだ。
人肉がとても美味いのだろうか?
薄っすらと笑みを浮かべながら胸の肉や、腹の肉、ありとあらゆる部位に噛み付き、肉を剥がしていく狂人。
狂犬病とはまったく関係がなさそうな行動に、義弘も砂良も、臨戦態勢に入っていた。
「……砂良、逃げるぞ」
「……は、はい。先生」
「お、おいっ!俺たち置いて勝手に逃げんなよっ!」

恐怖に慄いた男が砂良の肩に手を伸ばし、足がすくんで思うように動けない自分を担いででも逃げろと訴えてきた。
その気持ちは分からなくも無い砂良が、手を差し伸べようとしたその時……。
「ぶえぇあああ!」
「お、おいっ!噛まないでくれ、な、なっ!…ひーー!…んぁあああああ!!
痛ぁあっ!ちょ、ちょっとやめてくれ!噛まないでくれーー!」
954帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:45:13.30 ID:DwMdtB/a0
(1−8)

狂人が男の腕に噛み付いていた。
人間の皮膚はこんな意図も簡単に剥ぎ千切ることが出来るのだろうか?
それとも狂人と化した男の力が恐ろしいほど強いのだろうか?
何度も何度も腕に噛み付き、滴る血液を吸い尽くす。
その光景に恐怖を感じた砂良が、口より先に松葉杖で狂人の頭を殴りつけた。
「やめなさいっ!」
「ぐはっ!」

地面に吹き飛んだ狂人が痛みにのた打ち回る。
あまりにも大げさな苦しみように、一瞬唖然としたが、その気持ちも一瞬で恐怖に塗り替えられた。
その訳は、腕に咬みつかれた男も突然豹変したからだ。
「ギヘェエエエアアア!」
「……ど、どうなってるの?」
「砂良っ、とにかく、とにかくだ!……噛み付かれたり、引っ掻かれたりするな!変な病気もらうかもしれないぞっ!」

義弘の言葉に全身が震え上がった。
砂良自身、このような現象を目の当たりにし、ただの病気が猛威を振るっているようには思えなかったからだ。
「こいっ!逃げるぞっ!」
「せ、先生っ!」

無理やり背を押される形で走らされる砂良。
強引に走らされた砂良の苦痛に満ちた表情に気付きながらも、歩を止める訳にはいかなかった。
「我慢しろ!今は逃げることだけに集中してくれっ!」
「いっ……たっ!……は、はいっ。……分かったからちょっと押さないでくださいっ!」
955帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:45:36.31 ID:DwMdtB/a0
(1−9)

「うるせー!走れといったら走らんかっ!」
師の取り乱しように砂良の抗議はかき消された。
目の前で起こっている現象が恐ろしいことは百も承知。
誰が見てもこのような惨状は恐ろしいに決まっている。
だが、師の態度は明らかにおかしかった。
「せ、先生。なんでそんなに怖がってるんですか?!」
「馬鹿野郎!お、お前、向こうから似たような奴らが走ってきてるのが見えねーのかっ!?」

一体このいい年をしたヒステリックなおっさんは何を叫んでいるのだろうか?
分からない、理解できないことだらけなのは分かっているが、そこまで怒鳴らなくてもいいじゃないか。と、
砂良は不機嫌に思いながら師が指差す方向に目を向けた。
「……な、何あれ……!」
「後ろ見るな!とにかく走れっ!ほんとになんかやばいぞっ!」

近くも無く、遠くも無いほんの少し離れた場所で、工事現場のライト付きヘルメットを被った男たちが違和感のある走り方でこちらに向かっていた。
何故こんな真夜中に、そして街頭も光らない道を大勢で走らなければいけないのだろうか?
あらゆる疑問に納得のいく答えは見出すことが出来ず、死に物狂いで走り出す砂良だった。

第2話に続く。
956帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 21:53:52.30 ID:DwMdtB/a0
誤字チェックしました。
投稿してから。
タイトルが間違っていました。正しくは〜死者が蠢く地獄の地〜です。
ちなみに今から5年前くらいに書いた小説の一部です。
以上、それでは失礼いたします。
957帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/13(日) 22:05:01.93 ID:DwMdtB/a0
ほんとごめんあさい。
砂良の名前(砂良)ってしてました。
正しくは(さら)です。ほんとごめんね。みんな……。
そして投稿規程の5〜10を超えてしまったわ。。
怒らないでね。もう誤字見つけても明日までしないよ。。
958本当にあった怖い名無し:2011/11/14(月) 03:51:23.82 ID:FIYctPzDO
プリニーさん投下乙です。
新しい作者さんも投下乙です。
959本当にあった怖い名無し:2011/11/14(月) 07:25:20.69 ID:lIXMXdwZO
イイネ
960本当にあった怖い名無し:2011/11/14(月) 10:20:59.47 ID:LdrHb5RG0
プリニーも頑張れ
新人も頑張れ

当然、批評も色々だと思うが、まずは完成まで応援するぞ
961本当にあった怖い名無し:2011/11/15(火) 00:19:49.75 ID:giOvY4GX0
新しい人乙です!
無理にストーリーを進め様とせず、もっと描写をしっかりと描いた方が読みやすいかと思います。
962帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/15(火) 22:58:18.07 ID:ZevSHLjT0
ご声援、ご指摘ありがとう。。。
書き方、描写、小説を一杯書いていた時期を思い出しながら捜索していきます。
みなさんとがんばっていこうと此処に誓ってみようではないかっ!
でも次の投稿は週末くらいになるけどwご了承を。
963本当にあった怖い名無し:2011/11/17(木) 19:27:36.13 ID:aBXNaUX30
456?
964本当にあった怖い名無し:2011/11/19(土) 15:58:10.11 ID:qhLFJIqlO
965帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:00:32.53 ID:zMtL1XX40
息が止まりそうなくらい力の限り走るのはいつ以来だろうか?
胸打つ鼓動に痛みを覚えながら、義弘は無我夢中で走っていた。
何故そこまで走らなければいけないのだろうか?

走る理由を知っているにも関わらず、自身の行動に疑問を抱く。
何故走る?
それは殺される恐れがあるからだ。
では何故殺される?
それは分からない。
では走る必要は無いだろう?
延々と繰り返される自問に嫌気がさしてきた。

いい加減答えが導き出せない疑問を繰り返す事に疲れてきた義弘は思考を切り替え、
必死に走る隣の弟子に意識を集中させた。
「いいか。訳が分からんことはお互い様だ。けど、どうみてもおかしいのは理解してくれ」
「…理解してます。……けど先生、私がちんたら走ってると先生の身が危険です。だから先に行ってください」

自己犠牲になる代わりに生き延びろという弟子の言葉に苛立ちを覚える義弘。
自己犠牲になどさせられるか……。
可愛い教え子を見捨てるようなことは決して許されない。
そんな当たり前のことが分かるはずなのに、何故そのような言葉を口にしてしまうのだろうか?
考えるまでも無い……。
自分がどれだけ大事にされているか、改めて感じた義弘だった。
ならなお砂良教え子の申し出をキツく断らねばならない。
意志を固め、いつの間にか訝しげに顔をのぞき込んでいた砂良の目を見つめた。
「……安心しろ。俺はお前を見捨てたりしない。……だけど、今は年功序列じゃないんだ。レディーファーストの時代なんだぜ?」
「何言ってんですか先生っ!」
966帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:01:49.57 ID:zMtL1XX40
(2)
恐怖に染まった表情で義弘に怒鳴り散らす砂良。
一体この人は何をしでかそうとしているのだろうか?
全く持って予想だに出来なかった。
お願いだからもっと分かりやすく説明してもらえませんか?
目の前の師に訴えかける切望なる眼差しは、誰にも気付いてもらえなかったのは言うまでもない。
「……なんだよその目は……。まさか不服なのかよ?……俺はお前の先生だぞ?……可愛い教え子を逃がす為に今からあいつらとドンパチするんだ。立派な理由だと思わんか?」
「思わないし!しかも立派じゃないですから!」



帰らぬ街
〜使者が蠢く地獄の地〜
第二話「正体不明」



砂良と義弘の言い争いなどつゆ知らず、死に物狂いで駆ける村人。
被災し、大勢の死を目撃してきた。
しかし神はまだ辛い現実を突きつけてくる。
村人は鼻水も気にせずわめき散らしていた。

「はぁはぁっ!……ワシ、死にたくないよーー!腹空かせてるからって人間に食われるのはイヤじゃボケー!」
義弘と共に逃げてきた数人の内一番前を走る一人の男性が情けない声を上げた。
涙を一杯に流し、口鼻から体液をダラダラと見っとも無く流し続けていた。
発狂しそうな気持ちは分からなくも無いが、泣くか逃げるかどちらかにしてほしかった。

「離れの清水!」
「な、なんだよ!?」
967帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:02:24.21 ID:zMtL1XX40
(3)
背後から迫る異常者の凶器に満ちた視線を背中にチクチクと感じながら、義弘は後方で走る清水という男に怒鳴りかける。
必死に走って話す暇なんか無いぞ!と、そんな表現を含ませながら清水が答えた。
「今から俺がくい止める!……弟子と一緒にみんなを寺に避難させろ!」
「お、お前、頭おかしい奴らと喧嘩すんのか?いや、奴らは喧嘩するってレベルじゃねーぞ!」

「そうですよ先生!あの人たち、パニック障害起こしてるかもしれません!さっきだって空腹だったのか知らないけど、人を食べたんですよ!」

二人の「やめておけ」という言葉に怯みながらも義弘はこの役に一番最適なのが自分であると揺るぎない意志を伝えた。
終始嫌々をする砂良に比べ、何とか引き下がった清水。
「じゃあ遠慮なく行くからな!殺されそうになったら過剰防衛でもいいから身を守れよ!」
「ああ、じゃあ砂良と他の奴らのこと頼む。絶対寺に逃げ込めよ!……砂良、また後で!もしものことがあったら由香、いや、やっぱいいや……」

立ち止まる義弘が清水たちに背を向けた。
異常者たちとの距離が一気に詰まっていく。
ゾクゾクと背中に感じる恐怖にイヤな汗が額に浮かびはじめた。
そんな感覚を必死に振り払い、意識を整える。
さあ今から殺し合いが始まるかもしれない。と、震えそうな体を無視し、地面を見渡す。

「お、ラッキー……」
足下に転がっていた木材を拾う。
恐々と笑みを浮かべ、前方から走ってくる異常者の数を確認。
1、2、3……5……8。
数を数えながらどんどん顔が青ざめていくのがわかった。
舌打ちを何度も繰り返し、迫る8人を相手に戦わなくてはならない現実が足をすくませる。
どうやって気絶させようか?
剣術道場の師範代として、1人目にやられるわけにはいかなかった。
968帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:02:38.43 ID:zMtL1XX40
ーーだけどなぁ。最近の奴らは平気で人を殴るし、火をつけるし、さっきだって人間食ったんだからな。
たかが剣術の師範代だからってただのか弱い老人だし……。

「何をされるかわかったもんじゃない。一発でしとめてみよう」

気付けば深く呼吸していた。
ため息に似た深いため息などいつ以来だろうか?
妻が亡くなった二年前の記憶を懐かしみながら、もう一度深く息を吐く。
一瞬ではあるが目を閉じ、妻や由香、砂良の姿を思い浮かべ、足らない勇気を補った。
僅かではあるがこれから乱闘するには十分な鋭気を養えたかと思うと、肩の震えがほんの少し治まった。
「スゥ〜……あんたら正気かぁ!?それ以上近づくと殴るぞ!」

返事がない……。
何故返事がないのだろうか?
砂良がいうように本当にパニックを起こし、精神に異常を来したのだろうか?
無理もないだろう。
災害で大切なものを失い、着るものや食べるもの、医薬品などの物資がないのだ。
また、目の前でバタバタと死んでいく生存者たちの無念が、生きている者の精神を蝕んでいき追い打ちをかける。
だからといって気が触れた彼らに対しそんな甘い目で受けとらえていいのだろうか?
彼らの仲間は異常さに駆られ、人を食い殺したのだ。
異常を通り越して鬼畜の所業としか考えられない。
969帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:03:01.76 ID:zMtL1XX40
(5)
もう考える時間はなかった。
木材を構え、ついに迫ってきた異常者に飛びかかった。
絶対殺すな。意識を奪え。
相手を気絶させるには微妙な力加減と適所を打たなければならない。
頭の中で何度もイメージを浮かべながら、義弘は震える手に握る木材を振りあげ、打ち落とした。
「どりゃぁ!…………げっ!」

遠くで義弘が異常者に対して殴りかかる姿が見えた。
背中を無理矢理押される形で走り、曲がり角に差し掛かったところだ。
義弘の一撃目は目視をする限り勢い余っているようにも思えたが、小さな明かりに照らされた彼の姿は夜の暗さに覆われて一撃の威力は計りかねた。

「ちょっとお弟子さん、前見て走ってくれよ!」
「イタタ!わ、わかってますけど足が痛いんですよ!」

清水の怒鳴り声に抗議する砂良。
ちょっとは負傷者を労ってほしいな。と、思いながら、治りかけの足を庇いながら一番前を走る男性に声をかけた。
「おじさん!足早いから先に学校に行ってもらえませんか?みんなを避難させなきゃ!」
「うっせー!そんな余裕はないんじゃー!わかったら黙れ!殺すぞ!」

一瞬場が静まった。
何故そんな暴言を吐かれなくてはならないのだろうか?
砂良を支えていた清水もその言葉には唖然とした表情しか浮かべられなかった。
チラッと互いの目を見合い「あの人大丈夫?」と、アイコンタクトする砂良。
「いいや駄目だ。結構来てるな」と、そんな表情を浮かべる清水に砂良はドン引きしてしまったのはいうまでもない。
故に余計腹立たしく思えてきた。
970帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:03:19.62 ID:zMtL1XX40
(6)
「ちょっとおじさん!あんた、誰のおかげでこうやって逃げられてると思ってるのよっ!」
「だからうっせーって!……ワシに指図するなら自分の力で逃げてからにしてくれ!これだから女って奴は……!」
「おいっ岸本!……お前、ちょっと度が過ぎるぞっ!」

そうだそうだっ!
清水の抗議の言葉に回りの仲間は同意の声を上げていた。
あまりにも自分勝手な独りよがりにほとほとと呆れ果ててるようだ。
ブーイングの嵐にふてぶてしい笑みを浮かべ、砂良を舐めるように眺める岸本と呼ばれた男。
「おおう、おおう、よく見たら結構いい体してるなぁっ!……おっと、失言だ。とにかくワシはさっさと逃げる。まぁワシもそこまで鬼じゃないからな。寺に逃げ込んだらしばらくは門、閉めないでおいてやるよ」

言葉のひとつひとつに棘があり、極めつけは異性である自分に対して明らかな性的対象としての目を差しを向けていた。
何故そんな風に罵倒され、性的対象として舐めるように気持ちの悪い目を向けてくるのだろうか?
一体自分が何をしたというのだろうか?
まだ何も知らない被災者に寺に避難してもらうだけのことではないか。
例えこの状況が理解されなくとも、いくらでも寺に逃げてもらえるような言葉は沢山あるはずだ。
それさえ考えようともせず、岸本は我が身を第一に考えているのだ。
「清水さん、私、こんなおっさんと逃げるのは嫌です!……私はゆっくり行くから、学校に避難してる皆に寺へ逃げるよう指示してくださいっ!」
「何言ってるんだっ!……岸本の下衆なんかほっとけって!……このボケがっ!」
「痛ぇええ!」

砂良の苛立ちに感化されたのか、あからさまに地面を蹴って砂粒石粒を岸本に叩きつける清水。
争っている場合ではないのに何故岸本はあんな態度を取るのだろうか?
不快指数100パーセントの清水の目は明らかに苛立ちを通り越して殺意に満ちていた。
「清水っ!お前なにしてくれとんのじゃっ!此処に包丁があったらお前、後悔してるとこだぞ!?わかってんのかぁっ!」
「わかりたくねーわっ!クソがっ!」
971帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:03:57.50 ID:zMtL1XX40
(7)
岸本への罵倒に少しは気が治まった砂良。
それにしても本当に岸本の態度は目に余るものがある。
災害により誰もが精神的に参っている時なのに、自分ひとりだけが助かろうとしている身勝手な岸本に天罰が下ればいいのにな。と、黒い雲の向こうへ切に願う。
そんな砂良の苦しい内心を汲み取ったのか、同年代と思わしき一人の若い青年が突然名乗りを上げた。
「すいませんっ!俺、水野っていいます!……清水さん、ずっとお弟子さんを担いで疲れてきたでしょう?俺が代わりますから先に学校へ行って下さい!」
「……水野君?……いいのかっ?!」

清水の問いかけに気合を込めて返事をする水野に曇りはないようだ。
早める足を一旦緩め、砂良の体を支えさせる。
師である義弘より若干若そうだった清水にも疲れの色が浮かんでいたことにようやく気付いた
「二ノ宮のお弟子さん、俺、ちょっくら学校へ知らせてくる。一人で十分だからお前らは先に寺へ向かっててくれ」
「……清水さんっ、ごめんなさいっ!……申し訳ないですけど、私は足手まといになるからそうさせていただきますっ!」

途中の分かれ道で水野へ指を指し示す砂良。
分岐点で学校を目指す清水と別れ、一秒でも早く寺を目指す。
しかしそんな砂良たちの前に様子がおかしい男が一人うずくまっていた。
あまりに不自然な体勢に違和感を浮かべ、負傷者だと認識する水野と砂良。
一番前を走る岸本は、そんな負傷者のことなど眼中にないのは明らかだ。
案の定猛スピードで負傷者のすぐ横を何も言わずに走り抜けようとした時、違和感が一気に戦慄へと塗り替えられるのだった。
「うぁぁあ……ぁあ〜〜……」
「ん?なんだキサマはっ!足掴むなっ!」
「……ちょ、ちょっとあの人、かなり怪我してるように見えるけどっ」
「……怪我っていうか、あの人、背中抉れてないかっ?!」

何故あんなに怪我をしているのに喚き散らさないのだろうか?
まるで猛獣か何かに深く引っ掻かれたような傷からは、血液がドクドクと溢れているのが懐中電灯で照らしていて理解できた。
しかもその傷の程度は致命傷だと思えるにも関わらず、岸本の足に掴みかかり、絶対に離そうとしない。
そんな人間の何処にそんな力が残されているというのだろうか?
972帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:05:00.12 ID:zMtL1XX40
(8)
恐々と負傷者の姿を眺め、早く手を差し伸べてやらなければいけない。と、自分を支えてくれている水野に前へ進むように促す。
砂良と同じようにありえない姿で辛うじて生きている人間に恐怖を抱きながらも、助けなくてはならない使命感に奮い立ち、
前へ進む水野。
だがそんな彼らの目の前で、岸本が掴まれていない足を上げ、負傷者の顔面にかかとを叩きつけてしまった。
「ああっ!うざいぞっ!この死に底無いがぁっ!」
「グボアッ!……うあああぁ…あぁぁあ………」
「!……岸本のジジイッ!なにすんのよっ!」
「おいおっさんっ!いい加減にしねーかっ!ほんとに承知しねーぞっ!」

一瞬の出来事で頭の中が真っ白になった砂良……。
時を同じくして凄まじい稲光が辺りを眩いばかりに包み込むと、大粒の雨が降ってきた。
唖然としてその光景を眺めることしか出来なかった砂良たちの前で、岸本は力を緩めるどころかますます叩きつける力を強めていった。
容赦の無い無慈悲なる暴力に、金縛りのような感覚に捕らわれていると、一緒に逃げてきた他の男たちが岸本を取り押さえようと飛び込んでいった。
「おいっ!やめろっ!」
「岸本ぉぉお!」
「ひっ!……クソどもがああっくそっ!離せっ!離さんかっ!」

ガリッ!
「ひぎゃあああ!こ、こいつ引っ掻きよったぁあああ!ぼげがああああっ!」

突然のことで恐怖に引きつった岸本がこれまで以上の力で負傷した男の顔面を踏みつけると、見るも無残な姿に変わり果てた負傷者が、ついに岸本を掴んでいた手を離した。
だがそれでも負傷者は相変わらず呻き声を上げながら走り去っていく岸本へ手を伸ばそうとしていた。
一体何が起こっているのだろうか?
徐々に頭では処理できない現象のひとつひとつに気付き始めてきた砂良。
何故あれだけ蹴られてもなお、岸本の足に掴みかかれたのだろうか?
というよりもあれだけ蹴られて気絶しないなど、とてもじゃないがどれだけ頑丈な人間でもそれはないはずだ。
あらゆる疑問が浮かぶごとに、少しずつ目の前の負傷者に対して疑惑の目を向け始める砂良だった。
973帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:07:37.83 ID:zMtL1XX40
(9)
「……お、おかしいわよ。なんで気付かなかったのかしら?……あの怪我した人、さっきの奴らに似てない?すごく似てない?」
「おいおいっ、何言い出すんだよっ!……あれは明らかにっ…」
「ぎゃあああああ!!」
「うおぁああああ!や、やめろっ!おいっ!やめなさ……いぎいいいい!い、痛い、痛い痛いっ!」

砂良の負傷者に対する疑惑が向けられている最中、負傷者が男たちの手に噛み付いたのが暗がりでも分かった。
濁った水溜りに真っ赤な鮮血が水面に揺れながら広がる…。
手のひらの半分を食いちぎられた男が、顔面を地面に叩きつけながら痛みにもがき苦しむ姿に心臓が止まりそうになった。
二転三転する状況の中で、思考回路が寸断されそうになりながらも、ついに砂良の疑惑は確信に代わった。
「あの負傷者もさっきのと同じよっ!絶対そうだわっ!」
「み、みたいだな。……なにが起こってるんだよっ!」
「く、くそがぁあああ!さっきのと一緒ってどういうことだ!水野ぉぉ!」
「痛ぇえ……。け、けど、とにかく俺たちも逃げるんだ……!」

手首をきつく握り締めながら、止血する男が苦しそうにこの場から逃げることを勧めた。
拒否する理由はない。
砂良の同意を得る前に動き出した水野。
この場に留まるにはいかない。と、何かかが心に警告を出しているのがじわじわと感じられたからだ。
しっかりとした足取りで小走りに進みだし、間近に迫った負傷者の表情を恐怖の眼差しで伺う。

「うっ……!?」
負傷者の目はまるで白濁とした濁りを帯び、本当に目が見えているのか疑ってしまうほど白く濁っていた。
水野と同じようにその表情を確認した砂良も負傷者のありえない姿に警戒心を最大限に高めた。
人でありながら人で無いような負傷者に対する介抱の気持ちが無くなった瞬間だ。
その気持ちの切り替えで、ようやく気付けた事実に我が目を疑う。
「こ、この人っ!心臓がむき出しになってるじゃないっ!」
「ま、マジかよっ!……な、なんでこんなに動けるんだっ?!ありえないじゃないかっ!」
974帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/20(日) 23:11:23.66 ID:zMtL1XX40
(10)
あらゆる疑問の渦に飲み込まれ、もはや答えなど見出すことは出来なかった。
あまりの出来事に冷静さを欠いていることはもちろん理解しているが、説明不可能な現実にただただ唖然とした表情を浮かべる。
目の前の人間は一体何故動けるのだろうか?
むき出しになった心臓は生命活動を証明する為の、凝縮運動を繰り返していないのだ。
動けるはずが無い、生命活動ゼロの死者が活動しているなどありえなかった。
あまりの怖さに肩が引きつるような感覚に襲われる砂良。

残忍だといわれてもいい。
責められてもいい。
今は一刻も早くこの場から逃げ出したい。
少しでも早く逃げられるように、砂良は必死に前へ進むのだった。



第3話に続く。


ごめんw
小説を書きたい。もっとすばらしいのが作りたいと思えば思うほど、書き方が変になる。
描写が下手だw
さて、次の話は改善できるようになんらかの参考書物をみてみるよw
じゃあlまた週末くらいに。
975本当にあった怖い名無し:2011/11/21(月) 01:21:21.49 ID:yuMjG4HE0
帰らぬ街乙!
描写は…凄く残念だと思う。誤字も多い。
それでも最大限の妄想力を駆使して楽しませてもらってるよ。
プロみたいに、文章で情景を見せながらサクサク進めなくて良いと思う。
一つの場面だけに数レス使う位でちょうど良いんじゃないな?
今回は登場人物がイマイチ把握しきれない。全力疾走で走ってるのか小走りなのかも良く分からない。

今後に超期待してるよ。話を進めながら改善していこう!
下手でもいい。ラストまで頑張ってね!
応援してます!
976本当にあった怖い名無し:2011/11/21(月) 01:55:56.64 ID:3XixjD2pO
>>975
下手とか禁句じゃないか?
でもそうやって考えると、デッドマンは擬音とか描写も上手かったよな?
今月も終わりそうだけど、そろそろ来るかな?
977本当にあった怖い名無し:2011/11/21(月) 02:13:19.01 ID:3XixjD2pO
次スレ立てようとしたけど、俺にはやっぱり無理だったorz
デッドマンが戻って来るかも知れないし、まだ需要はあると思うんだが…
住人は少ないけど、次スレってどうなんだろうな?
978本当にあった怖い名無し:2011/11/21(月) 12:22:30.66 ID:HqrHnDVx0
新人乙。
次スレは必要。
979帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/21(月) 20:24:09.40 ID:Cl3Wf3/e0
>>975
>>976
>>977
>>978
応援ありがとう。折角いい人たちが見てくれてるんだから、態度も改めて小説も改めるように頑張りますよ。
とにかく見やすく読みやすくをモットーに、簡素に物語を伝えられるようにします。
ていうかいい練習場所が見つかって嬉しいw飲酒書きも改めます。
980本当にあった怖い名無し:2011/11/22(火) 00:00:17.28 ID:Vfo/Ywaf0
>>979
頑張れ〜

ラノベや携帯小説の作家が陥りやすい、変に凝った文章にしようとしちゃうのは避けたほうがいいね
水嶋ヒロ先生は、その辺を指摘されて酷評されちゃったしね
とは言っても、ここは自由投稿なんだし、のびのびやっちゃって
981帰らぬ街 ◆t.eYzLRP8F57 :2011/11/22(火) 20:18:20.90 ID:GoXtHiAJ0
>>980
応援ありがとう。
のびのびやりながら、みんなのご意見を超活かします。
982本当にあった怖い名無し:2011/11/22(火) 21:08:03.23 ID:klM9ITny0
誰もいなければ次スレ立てに行きましょうか?
983本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 01:41:39.49 ID:scQGsJn7O
>>982
長文連投荒しデッドマンは書きこみ禁止
↑これもテンプレに追加してくれ
今のところ456は大人しく投稿中だなw
984本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 02:31:38.55 ID:j96D71Hy0
立ててきましたよ
【小説】ZOMBIE ゾンビ その32【創作】
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/occult/1321982252/l50

>>982
ごめん、さすがにそこまでできない
楽しみにしている人も散見できるし、それでも賛否両論なら各自で対処してください
985本当にあった怖い名無し:2011/11/23(水) 23:51:38.79 ID:scQGsJn7O
>>984
乙!
だけど散見できるっていっても多分一人か二人だぜ?
俺は話が完結しないのにいなくなったデッドマンが許せないだけだぞ?
叩いてるつもりはないけど完結しないならスレの無駄になると思う
俺も混ぜて期待してたから期待してた分だけ裏切られた気がしてるヤツもいるだろ?
そういう意味だよ
986本当にあった怖い名無し:2011/11/24(木) 00:05:18.45 ID:8ywQDpPT0
投下ワクテカ
987本当にあった怖い名無し
>>985
期待している人間が少数かそうじゃないのか
嫌っている人間が少数かそうじゃないのか
匿名掲示板でそれを言い出して何になるのって
だからそう思う人はNGにでも突っ込んどけばいいんじゃ?