◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう23◇◆◇◆

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1名無し草
ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。
 前スレ http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1090846366/

お約束
 ■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
 ■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、スレも華やぎます。

関連サイト、お約束詳細などは>>2-6の辺りにありますので、ご覧ください。
特に初心者さんは熟読のこと!
2名無し草:04/11/28 16:34:44
◆関連スレ・関連サイト

「まゆこ」 http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028904997/
 意見交換や議論をする時に使うスレ。テンプレ相談などはこちらで。

「有閑倶楽部 妄想同好会」 http://houka5.com/yuukan/
 ここで出た話が、ネタ別にまとまっているところ。過去スレのログもあり。
 *本スレで「嵐さんのところ」などと言う時はココを指す(管理人が嵐さん)

「妄想同好会BBS」 http://jbbs.livedoor.jp/movie/1322/
 上記サイトの専用BBS。本スレに作品をUPしにくい時のUP用のスレあり。
 *本スレで「したらば」と言う時はココを指す

「有閑倶楽部アンケート スレッド」
 http://jbbs.livedoor.jp/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&KEY=1077556851
 上記BBS内のスレッド。ゲストブック代わりにドゾー。
     
「■ □ ■ 妄想同好会 絵板 ■ □ ■」
 http://www8.oekakibbs.com/bbs/loveyuukan/oekakibbs.cgi
 上記サイトの専用絵板。イラストなどがUP可能。
3名無し草:04/11/28 16:35:25

◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)

<原作者及び出版元とは全く関係ありません>

・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

・名前欄には「題名」「通しNo.」「カップリング(ネタばれになる場合を除く)」を。

・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・連載物は、2回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」という形で
 前作へのリンクを貼ってください。

・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。

・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
 確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。

・作品の大量UPは大歓迎です!
4名無し草:04/11/28 16:36:09

◆その他のお約束詳細

・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに「まゆこスレ」へ誘導)。

・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすいように、
 なるべく名無し(作家であることが分からないような書き方)でお願いします。

・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由です。

・950を踏んだ人は新スレを立ててください。
 ただし、その前に容量が500KBを越えると投稿できなくなるため、
 この場合は450KBを越えたあたりから準備をし、485KB位で新スレを。
 他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。
5名無し草:04/11/28 16:36:55

◆初心者さんへ

○2ちゃんねるには独特のルール・用語があるので、予習してください。
 「2ちゃんねる用語解説」http://www.skipup.com/~niwatori/yougo/

○もっと詳しく知りたい時
 「2典Plus」http://www.media-k.co.jp/jiten/
 「2ちゃんねるガイド」http://www.2ch.net/guide/faq.html

○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。

・どうしてもスルーできそうにない時は、このスレでコソーリ呟きましょう。
 「■才殳げまιょぅ■タロ無し草@灘民【4】」(通称:ちゃぶ台スレ)
 http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1096611291/
 (注)有閑スレのことだとバレないように呟いてください。このスレで他人の
    レスに絡んだり、このスレのログを他スレに転載することは厳禁です。

○誘い受けについて
・有閑スレでは、同情をひくことを期待しているように見えるレスのことを
 誘い受けレスとして嫌う傾向にありますので、ご注意を。
 語源など http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028904997/172
6名無し草:04/11/28 16:37:39

◆「SSスレッドのガイドライン」の有閑スレバージョン

<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。どこが良かったとかの
 感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。

<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を
 嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。
 レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を
 冷やしてスレを読み返してみよう。
 扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
 目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?
7まゆこスレ701:04/11/28 16:49:46
ちょっと早いですが、新スレ立てました。
SS(連載/短編)・感想・小ネタ等等、このスレもマターリ盛り上がりますように。
8名無し草:04/11/28 23:41:40
>1

乙です!
最近さびしい限りの本スレですが、匿名スレの利点を生かして
また投稿が増えるのを願ってます。

作家さん達、お待ちしております。
9名無し草:04/11/29 00:53:35
スレ立てお疲れさまです!

作家様方がまた降臨するのを、マターリお待ちしましょう。
きっとクリスマスネタがそろそろ…w
10名無し草:04/11/29 01:10:48
前スレ728さんのネタに触発されて冬物語書いてみました。
魅→悠のほのぼのです。

3スレお借りします。
11BE WITH YOU (1):04/11/29 01:13:23
ぱちんぱちんと耳慣れたリズムを刻んで碁石が鳴っている。
美童がかちゃかちゃと忙しなくメールを打ち、
気のなさそうに可憐が雑誌をめくる音がぱらぱら響く。

夏からこっち、どこまでも続く平和な日々。
閑をもてあましてしょうがない。

目の前に置かれたマグカップからゆらゆら湯気が立ち上る。
頬杖をついて、ぼんやりと白いそれを見つめた。
いや、正確にはその向こうを。

いつもなら閑だ閑だ、とわめく悠理もまた、頬杖をついて窓の外へ視線を向けていた。
何をそんなに眺めてるんだろう。
視線を追うと、吸い込まれそうに青い空がどこまでも広がっている。
柔らかな白い日差し。
穏やかな青のグラデーション。
同じ風景を目に映してしまうと、今度は違うことが気になった。

悠理は、何を考えてるんだろう。
12BE WITH YOU (2):04/11/29 01:15:15
「きゃ、いっけなーい。午後体育だったんだわ。急いで着替えなきゃ」
可憐の慌てた声に、いきなり現実に引き戻された。
授業開始5分前の予鈴に、いっせいに椅子が鳴る。
「命拾いしましたね、野梨子」
「あら、清四郎こそ投了をまぬがれてほっとしてるんじゃありません?」
足早に俺の後ろを通り過ぎながら、清四郎と野梨子が相変わらずのやりとりを繰り返す。
「魅録、コーヒー冷めちゃってるよ。何をそんなに考え込んでたわけ?」
肩を叩いてからかってくる美童に、「俺は猫舌なんだよ」と返事をしながら立ち上がった。
軽く伸びをしながらみんなの背中を見送って、悠理を振り返る。

「次は音楽だから俺たちも教室移動だぞ、悠理」
「ん」
聞いているのかいないのか、悠理はいっこうに動かない。
痺れを切らして、今度は強めに呼んだ。
「こら、悠理」
「あたい、自習で忙しいんだ」
ぺろっと舌を出して悠理が髪をかきあげた。
思いがけない仕草に、わずかに心臓が跳ねる。
隠れていた耳に小さなイヤフォンが見えた。
「魅録も、一緒にベンキョウする?」
クラシックじゃなくてロックだけどーー、悪戯っぽい笑顔とともに
片方のイヤフォンが差し出される。
俺は破顔して受け取った。
細いコードが俺たちを繋ぐ。
悠理を満たしていた音楽が、溢れんばかりに流れ込んできた。
13BE WITH YOU (3):04/11/29 01:16:22
授業開始を知らせる鐘が鳴った。
椅子の背にもたれながら、すっかりぬるくなったコーヒーに口をつける。
「猫舌なんて、嘘ばっかり」
「嘘じゃねーよ。今日は、熱いのダメなんだ」
テーブルの下で悠理が足を蹴ってきた。
苦いだけの液体を飲み干しながら、俺は睨むフリをする。
「じゃあ、これもダメだな。レッチリだもん」
眉をしかめて悠理がコードを引っ張る。
片手でイヤフォンを押さえながら慌てて取り繕った。
「俺、辛いのは好きなんだ」
「だから?」
「だから、半々でちょうどいいんだよ」
「ーーーーーーそっか」
悠理の顔から笑みが零れた。
俺は思わず目を細める。
夏の空を恋しがっていたに違いない悠理には悪いが、こんな風に過ごせるなら冬も悪くない、
なんて思ってしまう。


春が来ても、いつまでも、同じ時間を共有できたらいいよな。
14BE WITH YOU :04/11/29 01:18:48
オワリを入れるの忘れてました。
しかも、3スレじゃなくて3レスだし・・・。

ども、失礼しました。
15名無し草:04/11/29 01:55:05
>BE WITH YOU
小ネタを振った者です。
こういうほのぼのしたのが読みたかったので、とっても嬉しい!
それぞれの昼休みの過ごし方の描写に、頬が緩んでしまいました。
温かな湯気を感じるような、冬の一日ですね。
甘過ぎない、魅×悠のかけあいがよかったです。
16名無し草:04/11/29 11:55:09
>BE WITH YOU
新スレ→早速の作家様ご降臨、嬉しいです!
陽だまりみたいに、ほのぼのと温かいやり取り&空気感が
とってもイイですね。
熱すぎず辛すぎず(?)。何かこの二人に合ってるなぁと思いました(^^)
ステキなお話&ほんのり幸せ、ありがとうございました。
17秋の手触り[126]:04/11/30 00:00:22
長期に連載がストップしてすみません。

>>http://houka5.com/yuukan/long/l-29-2-06.html

「あー、何してんだよっ」
 美童の声で我にかえった魅録は、自分のとった行動の無様さに内心で舌打ちし
つつ、足の長いカーペットに音もなく転がったグラスを拾う。
「早く拭かなくては染みになりますわ」
 野梨子が素早くハンカチでカーペットを拭く。幸い、落としたグラスにはさほど中身
が残っていなかった。
 悠理の方は、剣菱精機社内で自分にセクハラをかけてきた八代を警戒し、微妙に
距離をとっている。
 八代はそんな魅録と悠理にニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ、勧められもしない
のに図々しくソファに座った。
「そんなに動揺しなくたっていいのに」
 どの口がそんな戯れ言を言うのだ。
 魅録はなんでこんな奇怪な状況になっているのか頭を悩ませたが、なんとか気を
取り直して、とりあえずそう聞いた。
「八代さん、なんであなたがここに?」
「野梨子と契約したからさ」
「契約……?」
 言葉の内容そのものだけでなく、彼が親しげに野梨子を呼び捨てすることを怪訝
に思い、魅録は首をかしげる。答えを求めるように野梨子の方を向くと、彼女は甚だ
不本意そうな表情を浮かべて説明しはじめた。

「……マジで?」

 説明が終わったと、呆れ返った魅録はとりあえずそうとだけ言った。
「本気だよ僕は」
 八代が無意味に胸を張り、堂々と言った。カタカナの「ろ」のつく四文字が魅録の
脳裏に浮かんだが、とりあえずは沈黙を守った。なんだか無意味に力が抜けてきた
のは気のせいだろうか。
18秋の手触り[127]:04/11/30 00:01:31
「いい男じゃない」
 ひそひそと可憐が野梨子に耳打ちする。いい男なのは間違いなかった。だが
まともな男とは言い難い。よっぽど野梨子は可憐に反論してやろうと思ったが、
そんな男とデートする羽目になった自分が余計に虚しくなるので、口を噤んだ。
「いい大人が女子高生のケツ追っかけて恥ずかしくねーのか」
 言いにくいことをずばっと口にしたのは悠理である。彼の傍迷惑な正確を、野梨子
ほどではないが彼女も知っている。剣菱精機の社屋で彼をノックアウトしたのは
たった二日前である。こんなものに付きまとわれて、野梨子も大変だなぁと悠理は
いたく同情した。
「確かにね。僕でもさすがにここまでベタなセマリ方は出来ないなぁ」
 同じ気障男である美童だが、彼は彼なりに口説き方には美学があるらしい。自分
の感情に素直な八代とは少しタイプが違う。
「もちろんそれだけじゃないよ。前から僕は、自分がどちらの派閥につくべきか調べ
ていて、気持ちはほとんど専務派に傾いていた。今回のことは、よく検討した末の
結論だよ。だから、野梨子のことがなくても専務派に寝返っただろう。第一僕は
巻き込まれただけで、自分の意思で反専務に属していたわけじゃあないんだ」
 一同の微妙な空気に八代は弁解するが、説得力があまり無かった。
 ふと殺気に気づいて魅録が横目で見ると、清四郎が微笑んでいた。
 魅録の視線に気づいて、一言。
「まあ、心強い味方であることは確かですね」
 眼が笑っていない。
(こえーよ、お前)
 ははは、と空笑いしたところでタイミング良く、玄関からノックがした。
 出て行こうとした野梨子を制して、少し悪戯っぽい表情をした八代が「僕が出るよ」
と立ち上がる。思わず顔を見合わせた魅録と悠理だったが、玄関先でばさばさと物を
落とす音がしたのを聞いて、思わず笑い転げた。
19秋の手触り[128]:04/11/30 00:02:48


 明らかに反専務派に属していると思われていた八代チーフが何故この場にいるの
か――傍目にもわかるぐらい、豊作は動揺していた。
 しかし事情を説明するにつれ、落ち着きを取り戻していく。最後に、彼は溜息をつい
た。だがそれは、安堵というよりも疲れにも似た吐息だった。
「ま、まあ事情は分かったよ」
 まだ疑わしそうな表情をしながらも、豊作は一応そう頷いた。
 清四郎が言ったとおり、孤立しかけている現段階では、心強い味方であることには
間違いない。彼が反専務派の放ったスパイでさえなければ。
(ああ、またそんなことを考えている)
 豊作は自分の思考に嫌気がさして、ふたたび溜息をつく。
 自分を支持してくれているはずの人間の中に、確実に裏切り者がいる。それもひとり
ではないだろう。
 実のところ、疑っている人間も何人かいるのだ。だがそれを魅録に言うだけの勇気
が自分にはない。
 まだ信じたいと思う気持ちが、豊作の行動を鈍くする。これではいけないのに。
 覚悟を決めなければならない。信じているだけでは、自分はこの会社を守れない。
 豊作は、じっと八代を見た。この若者は信じるに足るだろうか? たとえ言葉が真実
だとしても、味方に引き入れるだけの価値があるだろうか?
 へらっと笑っていた八代が、豊作の眼差しに表情を改めた。
 言いようも無い緊張感に包まれ、倶楽部の面々はとりあえず黙って見守る。
 それは時間にしては数秒のことであったが、何分にも及ぶ長い沈黙にさえ感じられた。
 ふと豊作は、八代の瞳が殊の外真摯であることに気がついた。
 肩の力を抜き、ふっと顔を逸らした豊作は「ありがとう。頼りにしている」とだけ言った。
 その言葉を聞いた瞬間、八代は何故か呆然とした表情を浮かべた。
20秋の手触り[129]:04/11/30 00:03:28
「さあ、みんな揃ったことだし、さっさと情報交換しないか。俺らも結構時間がないんだ」
 話が進まないので、魅録がようやく口を出した。本当はパーティーの後、すぐにでも
悠理とともに泥棒の真似事をする予定だった。しかし有閑倶楽部のほかのメンバーや
八代などが急遽参加するという不測の事態があったため、一旦ゆっくり話しをした方が
いいと判断してホテルの部屋をとったのだ。
 チームのメンバーが増えると出来ることが広がるが、その分齟齬も生じやすい。
 同世代の人間よりは人を動かすのには慣れているが、有閑倶楽部で司令塔の役目
を負うのは初めてのことだ。魅録は用心することにしていた。
 まず清四郎が携帯の細工に成功した人間について報告し、今度は美童と可憐がそれ
ぞれ手に入れた情報を語る。
「うーん、戸村社長の秘書は何も知らなかったよ。まあ本社ではなくても剣菱グループ
社長の秘書やってるぐらいだから、よく教育されてるだけかもしれないけど」
 でもあれは多分、何もないね。
 自信をもって美童は言う。彼にしてはかなり念入りに口説いたのだ。秘書のあの
うっとりとした表情を見ても、嘘はついてないだろう。
「怪しいのはやっぱり経理部だね。あそこに働く女の子二人が、そろって課の雰囲気が
変で仕事がしにくいらしい。それも最近、上司の命令で用途が曖昧な経費をほとんど
ノーチェックで通さないといけないんだって。なんかややこしいことに巻きこまれたら厭
だし、辞めたいって愚痴零してた」
「ふーん、一般の社員の子にも分かるような変な雰囲気があるのか。まあ経理部は
がちがちの反専務派らしいし」
「経理部は完全に黒ね。絶対関わってる」
 魅録の呟きに答えるようにして断言したのは可憐である。
 彼女は経理部長本人から直接情報収集している。
「して、その根拠は?」
21秋の手触り[130]:04/11/30 00:04:30
「だって魅録。いくら剣菱グループとはいっても、重役でもなんでもない経理部長が、
奥さんに内緒で愛人を囲えると思う? 単なる不倫だけならともかくとして、高級
マンションを買い与えて、外出その他全部制限する完全な『囲いこみ』の愛人よ?」
「無理だろうなぁ」
 そういって魅録が豊作の方を見ると、彼も頷いた。
 完全な囲いこみとなるとかなりの手当てを愛人に手渡す必要がある。ただの不倫と
違う点は、愛人は「契約」という関係なのだ。
「生活費抜きで、月40万ですって」
 まあそれくらいが妥当だろう。買い与えるマンションや生活費を加えると、ただの部長
程度では洒落にならないぐらいの出費が……。
(――って)
「そんなことまで本人から聞いたのか? えらく具体的な内容だけど」
「本人から愛人にならないかって誘われたのよ」
 あたしをなんだと思ってるのかしら。月40万で買える女じゃないわ、などぶつぶつ
言いながら可憐は髪を掻き揚げた。今のような大胆なドレスを纏うまでもなく、彼女
には匂いたつような色気がある。
 さすがだなと魅録は苦笑するしかない。
「美童の言うとおり、戸村社長の方は何も後ろ暗いところなんかなさそうだったわ。もと
もとクリーンなイメージのある人なんでしょ? 反専務派には違いないんでしょうけど、
人を陥れるようなことをするようには思えなかった。ま、パーティーではじめて会った
人間にぺらぺら内情を話すようなら人のトップには立てないでしょうけどね」
 そりゃあまあ、そうだろう。
「他には?」
「うーん、そうねえ。高砂っていう人……常務だっけ? なんかあの人に」
 変なところで可憐は台詞を切った。言い淀みながら、上目遣いで豊作を見る。
「経理部長がへつらってた。おかしくない?」
22秋の手触り[131]:04/11/30 00:05:14
 告げ口するみたいで嫌だけど、常務って一応豊作さん側の人でしょう?
 そう言いながら可憐は気遣わしそうな表情を浮かべる。
 ふと魅録は、豊作と高砂の間に流れていた他人行儀な空気を思い出した。
 一度胸襟を開いたら、情け無いまでにフランクな空気醸し出す豊作が、役付きの
中では唯一の味方である高砂に対して硬い態度をとる。
 それは。
「心当たり――あるって顔ですね」
 豊作の方をみやれば、彼はすこし青褪めながらも、しっかりとした表情で頷いた。
 それまで朧だった仮想敵の姿が、魅録の中ではっきりと形をなしていった。
 気の良さそうな笑みで、年下の上司を見守っているような態度をとっていた高砂常務
が、実のところ黒幕のひとりだったとは。
「ああ、気づいては、いたんだ」
 俄かに認めたくなかっただけで。
 静かにそう認める豊作に、魅録は厳しい眼差しを向ける。
「俺を――俺たちと一緒に戦おうっていうのなら、隠し事をなしにしてもらわないと困り
ます」
「そんな言い方ないだろうっ」
 豊作の代わりに抗弁したのは悠理だった。
 もちろん魅録にも、豊作の心情は理解できる。仲間に裏切られるというのは、男に
とって痛恨の極みだ。だがそんなことを言っている場合ではない。
 何も知らない状態で動くことほど危険なことはない。
「いいんだ悠理――すまなかった。これからは全部話す」
 豊作も己の否を認めて、潔く頭を下げた。
 そして隠し事がなくなったせいだろう。さっぱりとした顔で、彼は顔をあげた。
「今井メディカルが裏でかかわっているというのはみんなの知ってる通りだけど」
 そういって、経緯を語りだす。
23秋の手触り[132]:04/11/30 00:05:59
 告げ口するみたいで嫌だけど、常務って一応豊作さん側の人でしょう?
 そう言いながら可憐は気遣わしそうな表情を浮かべる。
 ふと魅録は、豊作と高砂の間に流れていた他人行儀な空気を思い出した。
 一度胸襟を開いたら、情け無いまでにフランクな空気醸し出す豊作が、役付きの
中では唯一の味方である高砂に対して硬い態度をとる。
 それは。
「心当たり――あるって顔ですね」
 豊作の方をみやれば、彼はすこし青褪めながらも、しっかりとした表情で頷いた。
 それまで朧だった仮想敵の姿が、魅録の中ではっきりと形をなしていった。
 気の良さそうな笑みで、年下の上司を見守っているような態度をとっていた高砂常務
が、実のところ黒幕のひとりだったとは。
「ああ、気づいては、いたんだ」
 俄かに認めたくなかっただけで。
 静かにそう認める豊作に、魅録は厳しい眼差しを向ける。
「俺を――俺たちと一緒に戦おうっていうのなら、隠し事をなしにしてもらわないと困り
ます」
「そんな言い方ないだろうっ」
 豊作の代わりに抗弁したのは悠理だった。
 もちろん魅録にも、豊作の心情は理解できる。仲間に裏切られるというのは、男に
とって痛恨の極みだ。だがそんなことを言っている場合ではない。
 何も知らない状態で動くことほど危険なことはない。
「いいんだ悠理――すまなかった。これからは全部話す」
 豊作も己の否を認めて、潔く頭を下げた。
 そして隠し事がなくなったせいだろう。さっぱりとした顔で、彼は顔をあげた。
「今井メディカルが裏でかかわっているというのはみんなの知ってる通りだけど」
 そういって、経緯を語りだす。
24秋の手触り[133]:04/11/30 00:06:40
「今井メディカルの研究開発センターのセンター長が、高砂常務と連絡をとっていた
んだ」
「なぜそれを」
「興信所をつかって、前から今井メディカルの動向を探っていたのは言っていた
だろう? うちの研究スタッフが向こうに何人か引き抜かれてるから、センター長は
とくに念入りに調査さいてた。それに引っかかったんだ」
 それもたった一度だけで、何の証拠にもなりはしないけれど。
「そう……ですか」
 何はともあれ、進展があった。
 いや、豊作はもともと知っていたわけだからそれを進展とは呼ばないのかもしれ
ないが、少なくとも情報は集まった。
 魅録の頭の中で、これから家に忍び込んで携帯に細工する人間のリストに、高砂
常務の名前がリストアップされる。
 魅録がこれから調べなければいけないことに思いを馳せた、そのときだった。
「引き抜きといえば」
 それまで沈黙をたもっていた八代が口を出した。
「さっき、引き抜きをかけられてるっぽい奴見たよ」
「えっ」
 思わずといった様子で豊作が腰を浮かせる。
「野梨子、さっきの写メール見せて」
「ええ」
 八代に促され、折りたたみ式の携帯電話を広げてみせる野梨子に、一同の注視
が集まった。
 八代は先ほど見かけたふたりの男について話してみせる。壮年の方の言葉は聞
きとることが出来なかったが、若い男の方は途切れ途切れでああるが、拾い出す
ことが出来た。
25秋の手触り[134]:04/11/30 00:08:56
     『剣菱の令嬢が今井の――輿入れ………もし、――』
      剣菱の令嬢が今井の家に輿入れの話がもし本当なら、

     『大丈夫な…ですか、その、僕をひ――ーという話は』
      大丈夫なのですか、その、僕を引き抜くという話は』

     「僕には……後がありません」


「魅録君の狙い通り、悠理さんと今井の令息との話は、けっこう揺さぶりになってる
みたいだね」
 のんびりと言いながらも、八代の眼差しは鋭い。
 これを目撃したときは、何かの役に立つかも、ぐらいにしか思っていなかった。
 しかし。
 高砂の件で青褪めていた豊作の顔色は更に悪くなって、白といって差し支えない
程になっていた。魅録もまた険しく口を引き結んでいる。
「このふたりの素性を知ってるんですね?」
 ああ、と呻くように豊作は頷いた。
「年のいった方の人間は、先ほど話していた今井メディカルの研究開発センターの
センター長だ」
 画面を指差しながら、気持ちを落ち着かせるように豊作はゆっくり言う。
「そしてもうひとりは」
 苦しくてならない、といった表情をする豊作のあとを継いで、魅録は言った。
 心臓が燃えている。打ちのめされる気持ちよりもずっと強く、魅録は血気に逸って
いた。

「剣菱精機の開発部の部長、高田さん、だ」


ツヅク
26秋の手触り:04/11/30 00:11:26
さっそくミスしてしまいました。
132は重複でした。
すみません。
27名無し草:04/11/30 00:29:21
清→可の微妙Hなクリスマスストーリー希望♪
28名無し草:04/11/30 00:36:38
>秋の手触り

ずっとお待ちしていたので、とてもうれしいです!
あいつか!裏切り者は!?という所で終わりましたね…。
毎回ハラハラドキドキさせられます。
緻密なストーリーで、書かれるのは大変かと思いますが、
また続きが降臨する日をお待ちしてます。
29名無し草:04/11/30 20:16:37
>秋の手触り

もう読めないかも・・と思っていました。
降臨めちゃめちゃ嬉しいです!
全員が揃ってのそれぞれの有閑倶楽部らしい活躍が楽しみです。
30名無し草:04/11/30 23:16:13
>秋の手触り
待ってました。
ドキドキの事件展開で、目が離せません。
魅録のチーム指揮も気になるし、八代氏の動向も注目です。
悠理の恋心が何処へ行くのか。出来れば幸せになって欲しいです。
31名無し草:04/11/30 23:21:19
>秋の手触り
お待ちしてました。
嵐さんのところへ言って読み直し、改めて密度の濃いお話に満足してます。
でも、いろんな人に裏切られて豊作さんつらそうだぁ。
がんばれ豊作!

>BE WITH YOU
こういうほのぼのした二人もいいですね。
微笑ましい感じでスキです。
32名無し草:04/12/01 19:29:15
鬼闇うpします。
>>http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1090846366/663 の続きです。
オカルトですので、苦手な方はスルーして下さい。
33鬼闇(89):04/12/01 19:30:46
刀守神社では義正から連絡を受けた神主が、鬼を退治するという輩を心待ちにしていた。
「鬼を退治するという若者がそちらに向かうので、刀を渡して欲しい。」

しめ縄で囲っている神殿の前で二回礼をした後、二つ拍手を叩き、再び一礼をする。
神主は縄をくぐり、中央に祭ってある『闘鬼丸』を手にした。
ずしりとした刀の重さが、今の切羽詰った状況を物語っていた。
外の悲惨な状況は知っていた。
鬼が手当たり次第に人を襲っているということを。

「千年の時を経て鬼が現れし時、四つの御霊と二つの鏡にて鬼を封じよ。さすれば御霊刀身
に宿り、再びこの世に光溢れん…か。」
この社に仕える者達より伝わりし言葉である。
恐らく『刀身』こそが、この刀のことなのだろう。
刀は代々この刀守神社でお守りしてきた。
しかし、刀を遣うとなれば話は別である。
代々仕えているからといって刀が遣えるわけでもなく、自ら戦いたくとも手も足も出ないというのが
現状なのだ。
今の時代、日本刀で戦える者などいるのだろうか?
まるで大海で一匹の魚を探すようなものだと、感じずにはいられなかった。

「滅びること…それも運命なのかも知れぬな。」
誰に聞かせるわけでもなく神主はそう呟き、再び一礼して神殿を後にした。
歩きながら大祓詞(おおはらえことば)を唱え、玄関へと向かった。
「高天原に神留坐す 皇吾親神漏岐 神漏美の命以ちて 八百萬神等を神集へに集へ賜ひ…」

――神は聞いて下さるのだろうか。それとも…
全てはこれから訪れようとしている者にかかっている。
「さて、どんな輩が来るのやら。」
玄関で立ち止まり、再び大祓詞を唱えながら神主は目を閉じた。
34鬼闇(90):04/12/01 19:31:55
――と、その時。
「失礼します。」
若者が二人、社務所へと飛び込んできた。

「君等が佐々先生の言う?」
「ええ。」
ただ一言だけ答えた清四郎とその後ろに立つ魅録を見て、神主は大きく息を吐いた。

――どんな猛者が来るのかと思えば、端正な顔立ちの若者が二人…か。
「これを…」
神主はそう言葉にするのが精一杯だった。

刀を受け取ったのは、黒髪の青年。
両親をはじめ代々神職としてこの社に仕えてきた神主には、人の気というものが見えた。
武道においては、技術に勝るものが気である。
小さな気はより大きな気に飲み込まれ、勝負が決する。
この青年に気は見えない。
よほどの使い手であれば気を操ることなど簡単なことなのかもしれないが、どう見てもこの若者が
武道に通じているとも思えなかった。
むしろ、後ろに立っているピンク頭の若者の方が猛々しい気を発している。
それでも――鬼を倒すまではいかないだろう。

清四郎は手にした刀を目の高さまで持ち上げた。
千年前に鍛えられた『闘鬼丸』は、魅録の持つ刀や美童が使用した三鈷剣に比べて遥かに重い
が、清四郎の動作に全く重さは感じられなかった。
左手で柄を、右手で鞘を持って、スッと30センチ程刀身を覗かせる。
キラリと光るその刀には、巻物に書いてあったとおり一点の曇りもなかった。
カシン。
清四郎は音を立てて鞘を戻すと、右の手の内に刀を納めた。
35鬼闇(91):04/12/01 19:33:16
「魅録、行きますよ。」
右手にぐっと力を込め、清四郎がそう口にした時、神主は清四郎の業火のような気を感じ、驚きの
あまり目を見開いた。

――このような強い気を感じたのは初めて…いや、二度目だな。
十数年前、雲海と名乗る和尚がこの刀守神社を訪れた。
人当たりの良い、ほんのりとやさしい気を漂わせるこの和尚と気が合い、泊まるように勧め、彼も
了承した。
早朝、なにやら激しい気を感じ、神主はそっと気の発せられる場所を覗き込んだ。
すると、そこには雲海がいた。
穏やかな気しか感じられなかった和尚が、猛々しい気を発して武道の稽古をしていたのである。
話を聞いたところ、武道における日本一の座を手に入れたとのことだ。
この人の良さそうな和尚が…と、驚いたことを神主は思い出していた。

――ようやく信用してもらえたようですね。
険しかった神主の顔がほころぶのを感じ、清四郎は満足そうな笑みを浮かべた。
「一つお聞きしてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「何方から武道を学ばれたのですか?」
この神主の質問に、魅録は驚きを隠せなかった。
隣に立つこの男が武道の達人だと見破る者は皆無といって良い。
それを、この神主はあっさりと見破ったのだ。
「人間国宝であられる、東村寺の雲海和尚より教わりました。」
清四郎の答えに神主はようやく笑顔を取り戻した。
「それならば間違いありますまい。宜しく頼みましたぞ。」

――神はまだ我々を見捨てておらぬようだ。
社務所を後にする二人の背中を見送っていた。
「まだまだ修行が足らぬな。」
そう呟くと、神主は社務所の中へと戻っていった。
36鬼闇(92):04/12/01 19:34:42
清四郎と魅録は鬼の待つ広場へと向かっていた。
社務所へは裏口にあたる北の方から入ったので、鬼のいる広場へは社殿をぐるりと回り込まなけ
ればならない。

「やられるわけにはいかないよな。」
魅録が険しい顔のまま、自分自身に言い聞かせるよう言葉にする。
「そうですね。では、究極の桃太郎になりますか。」
相変わらず冷静な清四郎の言葉に、魅録はほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。
知らぬ間に、刀を握り締める拳が白かった。
そんな魅録の緊張を察したのであろう。
「じゃ、俺は究極の共の犬ってか?」
少し軽口を叩くと、次第に拳にも血の気が戻ってきた。
「そういうことになりますね。」
清四郎の言葉に魅録も声を上げて笑ったが、目の前に広場が開けてくる頃には自然と笑いが消
えた。

鬼が立っていた。
何をするわけでもなく、ただ立っていたのである。
もっとも、その力や妖力は封じてはいるものの、圧倒的な威圧感は取り払われていない。

広場に出る一歩手前で足を止め、二人は鬼の様子を探った。
自分を倒しに来る人間を待ち構えているのだろうか?
太い腕を組んだまま、前方を凝視している。
痛いほどの静けさが、恐ろしさをより際立たせていた。

「美童達はどうしてる?」
「恐らくこの神社に向かっているでしょうね。先ほどの光がアイツらを導いていると思いますよ。」
清四郎の言葉を受け、魅録は視線だけで広場を巡らせてみたものの、まだ皆の来る気配はない。
ということは、玉の力が弱まっていると考えておいた方が良いだろう。
過大評価は命取りになり兼ねない。
37鬼闇(93):04/12/01 19:36:01
「すぐにやって来ますよ。ま、野梨子は少し遅れるかもしれませんが。」
「フッ。」
清四郎と魅録が顔を見合わせ、軽く笑った。
本人が聞いていたら間違いなく顔を真っ赤にして怒るに違いない。
「では、参りましょう。」
二人は鬼の前へと立った。


鬼の視線が二人を捕らえた。
二人は鬼を見上げ、鬼は二人を見下ろしている。
「でか…」
「あまりお相手したくないタイプですねぇ。」
しばらく睨み合いが続いたが、最初に動いたのは鬼の口。
「――人間などにやられはせぬ。」
鬼がゆっくりと動いた。

動き出した鬼に集中しながらも、二人は察した。
上空に居た時は掲げられた玉によって力を封じられたが、今は、皆がこの社に向かっている為、
玉は見えない。
やはり封印の力が弱まっているようだ。
「おまけに俺達が見えるらしい。」
魅録が鞘に手を掛けた。
「僕達に姿を晒した代わりに、鬼にも僕達が見えるようですね」
清四郎はスッと鞘から刀を抜き、魅録も中段の位置に刀を構えた。
ブンッ!!
鬼の丸太のような腕が襲いかかってきた。

ドンッ!
間一髪避けたものの、鬼の拳が叩きつけた地面には拳が潜り込んでいた。
鬼は腕を引き抜くと、清四郎の頭めがけて拳を下ろす。
38鬼闇(94):04/12/01 19:36:54
「おりゃーっ!」
その隙に魅録が鬼の背中へと刀を振り下ろした。
ガツッ!
魅録の手がジンジンと痺れた。
まるで岩に打ち下ろしたような衝撃だった。
「たかが人間に我ら鬼を倒すことなど出来ると思っているのか?」
鬼が振り向くと同時に腕を振り払った。

ドガッ!
清四郎はヒラリと身を交わしたが、痺れの取れない魅録には逃げられなかった。
刀で身を庇ったものの、魅録は二メートル程飛ばされ、地面と激突した。
「魅録!!」
「ああ、大丈夫だ。」
魅録は身体を起こし、口元を拭うと腕に赤い筋が走った。
口内には鉄の味が広がる。
「ってぇ……」
体中がジンジンと痛み、思わず魅録の口から呻き声が漏れた。
これでも力が弱まっているというのである。
封印前には決して遭いたくないな、と心から思った。

不意にタタタタッと駆けて来る足音が聞こえた。
「悪い、遅くなって!」
息を切らし、ぜーぜー言いながらやって来たのは悠理だった。
「わわっ!こいつが鬼なのか?」
驚きのあまり玉を落としそうになったが、さすが悠理、動物並みの反射神経でしっかりと掴んだ。
「悠理は朱雀の玉ですから、南の位置、その場で玉を出して下さい!」
「わ、わかった!」
清四郎の指示に悠理は大声で答えると朱雀の玉を掲げた。
再び玉は淡くぼぅっと光り、鬼の妖力を奪った。
39鬼闇(95):04/12/01 19:38:02
「二番手が僕?うわっ!これが鬼?」
次に息を切らしながら現れたのは美童だ。
清四郎は鬼の攻撃を避けながら、しかし現れた悠理や美童に攻撃の手が向かわないよう距離を
保ちながら大声で叫んだ。
「美童は玄武の玉、北に立って玉を!」
美童は大きく頷いて北の位置に立ち、きっと鬼を睨む。
「行くよ!」
玉を掲げ、再び淡い光が鬼の防御力を奪った。

「あたしが三番手ね。」
可憐もぜいぜい言いながら走ってきた。
「ヒッ!」
鬼を目の前にして、可憐も思わず声を上げた。
可憐の声が聞こえ、一瞬目を逸らしたその時。
鬼の攻撃が清四郎を襲った。
ブンッ!!
はっと気が付いた時には、既に鬼の腕が目の前に迫っていた。
とっさに身体を引いたものの、鬼の爪がわずかに腕へと突き刺さり、真横に払われた。
「つぅっ!」
みるみるうちに、清四郎の腕に赤く太い筋が現れた。
「清四郎!!」
「大丈夫です!可憐は白虎の玉ですから、西で玉を出して下さい!」
可憐に安心させるように、清四郎は務めて平静な声で指示を出した。
「オッケー!」
可憐は清四郎の様子を察したのか、一段と声を張り上げ、玉を掲げた。
淡くぼぅと光った玉が鬼の力を奪った。

「貴様ら…。人間など我ら鬼の餌食になっていればよいものを。」
清四郎と魅録が二人がかりで戦うものの、動きのある鬼に交わされてしまう。
肝心の動きが、まだまだ素早いのだ。
40鬼闇(96):04/12/01 19:38:57
先ほど封じた筈の動きは、封印の力が弱まっているせいか、鬼の素早さはやはり尋常ではない。
妖力、防御、力を封じた鬼に刀は傷を負わすことは出来るが、致命傷には程遠いものだ。
「ようやく、千年の時を待った。お前らに邪魔はさせない。」
鬼の動きが一段と俊敏になり、清四郎と魅録は攻撃をかわすことが精一杯だった。
「くそっ、野梨子はまだか!」

「ご、ごめんなさい、遅くなりました…。」
清四郎の声と同時に喘ぐような声が重い足取りと共に聞こえてきた。
野梨子は今にも倒れそうなほど苦しそうに肩を上下させているが、玉だけはしっかりと抱え、気丈
なことに鬼の姿を見ても息を呑むだけで、声を上げなかった。
「野梨子、早く東の青龍の玉を。」
野梨子は頷くと、玉を天高く掲げた。

四つの玉が空に掲げられ、再び玉に光が満ち、眩しいほどに輝き始めた。
そして――鬼の動きが止まった。
「今です!魅録!」
魅録は刀を振りかぶり、清四郎が鬼の懐へと飛び込んだ。
「おりゃーっ!」
「フムッ!」
前から清四郎が、後ろから魅録が鬼に向かって刀を走らせた。
ザシュッ!
バシュッ!

「ば、ばかな……」
鬼の伸ばした腕が空を掴み、ゆっくりと身体が倒れていった。
ズシン。
「お前らなんかに勝手にされてたまるか!」
「人間の力を思い知ることです。」
二人はカチンと音を立てて刀を鞘に収めた。
地面に横たわる鬼の身体はシューシューと音を立て、地中へと融けていった。
41鬼闇(97):04/12/01 19:40:06
「やったな、清四郎!」
魅録と清四郎はガッチリと握手を交わした。
「魅録もみんなもご苦労様です。これで物語のとおり、めでたし、めでたし、ですね。」
二人の下へ皆が駆け寄った。
「あたい、腹へったーっ!!」
悠理が口を開くと同時に、腹の虫もぐぅーっと音を立てた。
「そういえばお昼も食べてないし、私もお腹空いちゃった。」
可憐の言葉に美童が腕時計で時間を確認する。
「もう四時を周っているもんね、長い一日だったよなぁ。」

緊張感もほぐれた晴れやかな顔の中、一人浮かぬ顔をしている幼馴染に清四郎が声を掛けた。
「どうしました、野梨子?」
さっきまでの闇が嘘のように晴れあがった青空を見つめたまま、野梨子が呟いた。
「…鬼を倒したからってあの親子が生き返るわけではありませんけど、成仏できたのかしら?まる
で夢を見ていたような出来事でしたもの。」
そんな野梨子の肩にぽんと手を置き、清四郎はゆっくりと答えた。
「そうですね。だから僕達は忘れずにいましょう。」

古くから伝承してきた忠義を忘れ、人間が犯してしまった愚かな行為。
しかし、その愚かさを正すのも又、人間だ。
それを、自身が忘れなければ良いこと。
野梨子は大きく頷いた。

「では帰るとしますか、共の者よ。褒美はきび団子ですから安いものです。」
清四郎の言葉に異を唱えたのは犬、猿、雉役の魅録、悠理、美童だった。
「俺達、あんなに働いて団子一つかよ!」
「団子よりも可愛い女の子がいいなぁ。祥子さんみたいな。」
「あたい、一個じゃなくて腹いっぱいじゃなきゃやだ!」
悲しみを湛えていた野梨子の顔にもようやく笑顔が戻った。
「まぁ、悠理ったら。」
42鬼闇(98):04/12/01 19:41:37
「悠理には町の平和より目の前のきび団子よね。」
「可憐、言っておくけどな、あたいはそんなに人でなしじゃないぞ。そんな、食いもん目当てだなん
て、あさましいじゃないか。」
胸の内で自画自賛しながら、悠理は腕を組んでしみじみと語った。
――くぅ〜、いいこと言うなぁ、あたいって。

「すごいよ、悠理からそんな言葉が出るなんてさ。」
美童は素直に関心していたようだが、悠理のセリフを信じていない魅録からは無情な言葉が告げ
られた。
「じゃ、お前は無料奉仕つーことで。」
「へっ?」
「そうですね。あさましい僕達はご褒美を頂きにあがりますよ。きっと義正さん達がご馳走を用意し
て待っていると思いますから。労働の対価はきちんと頂かないと。」
義正の待つ佐々の家へ向かおうとする清四郎と魅録に悠理が抗議の声を上げた。
「ちょ、ちょと待ってよ。清四郎ちゃん、それは無いんじゃないの?」
清四郎に擦り寄りながらご機嫌を取ろうとした悠理に、野梨子が更なる追い討ちをかける。
「では、私達も参りましょうか、可憐?やさしい悠理に後はまかせて。」
「冗談だよね?あたいだけご馳走食べられないなんて…」
口をパクパクさせながら固まっている悠理に、可憐がにっこりと微笑みながら口を開いた。
「大丈夫よ、悠理。美童というお仲間がいるじゃない。だから後始末は宜しくね。」
可憐は右手を上げて掌をヒラヒラと振り、清四郎、魅録の後を野梨子と共に歩き出した。
「そ、そんな…僕まで?だいたい、悠理が心にも思ってないことを言うから悪いんだよ!」
悠理の巻き添えを食った感の美童は、怒りの矛先を本人へ向けた。
「何だと?何でもあたいのせいにするな!このお調子モン!」
二人がギャーギャー言い争っている内にも四人はどんどん歩いて行く。
それに気付いた悠理が大声で叫んだ。
「あっ、コラ!あたい達を置いていくなぁ―っ!」
「待ってってば!」
悠理と美童も四人の元へと駆けて行った。

           【つづく】
43名無し草:04/12/01 21:47:29
>鬼闇

冒頭、清四郎の格好よさに腰が砕けそうになりました。←清四郎贔屓。
魅録とのかけあいもよかった!
こういう二人の関係は、原作を彷佛とさせますね。
しかし、一気にラストかと思いきや、まだ続くのですか。
6人のさらなる活躍(?)、期待してます。
44名無し草:04/12/01 22:00:15
>鬼闇
43さん同意〜!
究極桃太郎清四郎、本当に格好いいですね。ううっヨダレが。
あれだけの緊張感の中でも有閑!なかけあいがたまりません。
続き、ワクワクして待ってます。
45名無し草:04/12/01 23:06:36
鬼闇、楽しみにしておりました!
最終回まであと少しでしょうか?
それも寂しいような楽しみなような。
46名無し草:04/12/02 01:12:09
>鬼闇
予想通り遅れてきた野梨子に笑ってしまいました。
なにはともあれ、鬼退治。無事に終わってよかったですね。
が、まだ続きが……なにが待っているのでしょう?
47名無し草:04/12/02 01:34:48
「横恋慕」を少しだけUpします。
前スレ>611の続き。3レスいただきます。
48横恋慕(98)魅×悠×清:04/12/02 01:35:53
「気付くのに時間かかりすぎだよ、清四郎。優等生の名が泣くよ?まァ、恋愛に単位があったら、
お前さんは間違いなく落第だねぇ〜」
小馬鹿にするように笑い出した親友の様子に、清四郎はすうっと目を細めた。
「つまり・・・ミモザさんは、ダミーだったということですか」

「ってゆーか・・・魅録達が勝手に勘違いしただけ。彼女も面白がって協力してくれてたんだ
けど、旦那の転勤でアメリカに行くことになってね。最後に可憐と野梨子の前で派手に喧嘩
してるとこ見せといたから、僕が『失恋』したらあいつらが慰めてくれるはずだよ」
軽く眉を上げ、美童はこともなげに言い放った。

「どうして・・・悠理にそうと伝えないんですか?僕の世話を焼いてる場合じゃ・・・」
ますますわからない、という表情で、清四郎は大きくかぶりを振った。


「勝てない勝負なんか、誰がするかよ」

戻ってきたのは、かつて彼に向けて清四郎が言った科白だった。
美童は子供のように唇を尖らせ、ずるずるとシートに沈み込む。

「最初からわかってたんだよ、お前さん達がお互いを気にしすぎるくらい気にしてることは。けど、
どっちもどうしようもない恋愛オンチだから、潮時が来るまで放っとくしかないだろうと思ってさ。
・・・僕は悠理に男だとさえ思われてないんだから、割り込む余地なんかないってことも、ね」
清四郎はじっとその言葉を受け止めていた。
少々、混乱しながらも。
49横恋慕(99):04/12/02 01:36:29
「でも・・・計算外だったのは魅録だよ!まさかあいつが悠理に惚れるとは思ってなかったからね。
その上、お前さんときたら、頑なに自分の気持ちを認めようとしないし、挙げ句に『勝てない勝負
はしない』だの、『お節介はやめてくれ』だの・・・トンチンカンもいいとこだよ!!」
両手を上に向けながら、美童は口の端を下げ、首を傾けた。
いかにも外人風のジェスチャーだ。呆れた、という感情を表現する時の。

「・・・だって・・・そうとしか・・・。僕は悠理を泣かせてばかりだし・・・あいつが笑顔を見せる
のは、いつだって、魅録と一緒にいる時で・・・」
ぼんやりと見開かれた黒い瞳を前に、美童は一つため息をついた。
「笑わせるくらい、僕にだってできるよ?だけど、あいつを泣かすことができるのは・・・」

言葉を切り、無表情に唇を噛み締めている男の胸を拳で突いた。
「清四郎。お前だけなんだよ」


清四郎は言葉を失ったまま、全てを見透かしているかのような、青い瞳を見返していた。
そして、右手でこめかみを掴むようにし、顔を覆った。
ややあって、その形のいい唇から、苛立たしげな呟きが漏れた。
「どうして・・・」

「何?どうしてもっと早く教えてくれなかった、とでも言う気?」
美童が意地悪く眉を上げると、清四郎は小さく首を左右に振った。
「・・・いいえ。どうしてそんな大切なことに気付けなかったのか・・・自分が不甲斐なくて」

それは、自分自身へ向けられた憤りだった。
大切なものを、見落とし続けてきたことへの。
50横恋慕(100):04/12/02 01:37:04
「全く同感だね。お前さんが悠理をしっかり掴まえてなかったおかげで、こっちは大迷惑だよ。
魅録ばかりか、見守る決意を固めてた僕まで・・・もしかしたらチャンスがあるかも、なんて淡い
期待を持っちゃった。お前らが牽制し合っててくれたら、『漁夫の利』ってやつ?で、傷付いた
悠理がこっちに転がり込んでくるかも、なーんて・・・」
少し寂しげに、美童は笑った。
「だけど、結局つけ込めなかったよ・・・悠理があんまり辛そうで。あいつは、いつだってお前を
見てたから」
さらに、小さく喉を鳴らして笑い出す。
「ほんっとに・・・惚れた女が他の男を見てるのに気付かないなんてさ、魅録も相当な恋愛オンチ
だよね。気の毒でもう見てられないよ!」
その時、清四郎がすっと顔を上げ、喋り続ける友人を見据えた。
その漆黒の瞳には、もう迷いはなかった。

「美童。剣菱に・・・車を、剣菱に回して下さい」

名を呼ばれた男は、おやおや、と笑った。
「只ってわけにはいかないなァ。・・・交換条件呑む気ある?」
揶揄するような口調にも、清四郎はしっかりと頷いた。僕にできることなら何でもします、と。

「二度と悠理を泣かせない?」
美童は軽やかに笑い、まるで冗談のように言う。
だが、その瞳の奥に真剣な光を認めた清四郎は、ぐっと顎を引いた。
「・・・約束します」

「そう。じゃ、しょーがないな」
髪を梳き上げた後、美童はノックをするように、コン、と車の窓を叩いて見せた。

その向こうに、二人のよく知る大豪邸が姿を現していた。
51名無し草:04/12/02 01:37:31
[続く]が入りませんでした。今日はここまでです。
52名無し草:04/12/02 13:27:20
>横恋慕
お待ちしてました(^^)。
清四郎が悠理の気持ちを知りましたねえ。
しかし美童もだったとはびっくりしました。最初から
読み返さねば。
このあと清四郎が剣菱邸で悠理とどう話し合ってくれる
か、脳内で勝手に妄想しながらお待ちします。うふ
53名無し草:04/12/02 14:05:02
横恋慕、とうとうクライマックス近し?ですね!
作者さんの書かれる美童が前々からめっちゃカコイイので、
実はこの3人のトライアングル展開で読みたいな〜と内心
思っておりましたが、ズバリ読みは当たってましたねw 
(清×悠←美。以前にこれで美童が勝つ・・というか清四郎がいつの間にかフェードアウトして
しまうパターンのお話があったので、今度は思いきり戦って清四郎に勝って欲しかった)
しかし敵に宣戦布告かと思いきや、もう応援モードかい。
諦めいいのね美童・・いい人過ぎるw ちょっと残念。
でも続き楽しみにしてまーす!
54名無し草:04/12/02 14:11:22
そういえば、ハウル見て来ましたが、ハウルが金髪バージョンの時は
美童とイメージが重なるのは私だけでしょうかw
弱虫でナルシーだけど、大事なとこでは女の子をきちんと守ってエスコート、
まさにツボをつくんですよね〜。
優雅で色気のあるしぐさとか目線や(ついでにキムタクのセクシーボイス)に
クラッと来ますので、美童ファンは必見です。
55名無し草:04/12/02 23:15:52
>横恋慕
おお、清四郎が素直になった!
しかし美童までとは驚きです。
ちっとも気付かなかったし、てっきりミモザさんに本気だったのかと・・。
次は清四郎と悠理が思いを伝え合えるでしょうか。
回り道だったけど、幸せになるといいです。
魅録は、誰が慰めるんでしょうか。
やっぱり美童と飲み明しかな。
56名無し草:04/12/05 17:12:06
イヤン。静かですね。
クリスマスネタやりませんかー?
清四郎のサンタ姿ってマヌケそうでいいなぁ。
罰ゲームとかでやってくれないかしらん。
誰かの家に忍び込んで見つからずにプレゼント置いてくるとか。


57名無し草:04/12/05 22:36:56
クリスマスといえば…。剣菱のお屋敷では盛大なパーティーが催されそう。
サンタはもちろん万作さんでw
従業員にも、金銀財宝入りのプレゼントをバラまくイメージ。
(掛け持ちデートを抜けて、ちゃっかり美童もプレゼントタイムには参加?)
ついでに、影でこっそり男性陣が画策して、女子にミニスカサンタのコスを
着せようとかしてたら、高校生っぽくてかわいいなぁ。
58名無し草:04/12/05 22:54:30
お話中すみません。
『鬼闇』ラスト、うpします。
>>42の続きです。
59鬼闇(99):04/12/05 22:55:26
「本当に有難うございました。お礼の言葉もありません。町を代表してお礼申し上げます。」
家へ戻った六人全員の無事を確認し、正義は涙を流して喜んだ。
義正と志津子、菊江の他にも、佐々の家には御神体を貸してくれた神社の神主と祥子までもが集
まり、黙ったまま六人に頭を下げた。

菊江は六人に向かって手を合わせ、深く皺の刻まれた顔を一段と皺くちゃにしながら笑顔で迎え
てくれた。
「いかった、本当にいかった。お前さん方に何かあったら、わしゃ死んで詫びねばと思っとったよ。
ほんとに無事で何よりじゃ。」
そう言って何度も拝む菊江に、悠理がポンポンと背中を叩いた。
「ばっちゃん、死んで詫びるなんて縁起の悪いこというなよ。あたい達はこうして帰って来たわけ
だし。どうせばっちゃんは、あと何年もしたら黙っててもお迎えが来んだからさ。」

悪気はないのだ。
悪気がないのは充分承知しているのだが、あまりの言葉に清四郎は手加減しながらも、悠理の頭
をペシッと叩く。
「こら、悠理!!」
魅録と美童は絶句し、可憐と野梨子はフォローしようにも二の句が告げられなかった。

どんな雷が落ちるのかと焦りまくっていた5人は、菊江の大きな笑い声に拍子抜けした。
「ひゃっひゃっひゃ、嬢ちゃんの言うとおりだ。でもな、わしじゃってそう簡単にくたばりゃせんぞ?
わしのような年寄りが目を光らせておかんと、またこの町がどうなるかわからんからのぅ。なぁ、
正義?」
「そうですね。ですから、母さんも元気でいて下さいよ。」
二人の目は穏やかそのもので、悠理以外のメンバーはほっと胸を撫で下ろした。
「そうよ、おばあちゃん。」
「いつまでも元気でいて下さいな。」
可憐と野梨子は心の底から菊江にエールを送り、清四郎、魅録、美童の三人も笑顔を浮かべな
がら頷いた。
「ああまかしとけ。」
60鬼闇(100):04/12/05 22:56:23
菊江は満面の笑みを湛え、穏やかな空気が流れる中、悠理だけが頭を撫でながらブツブツと呟い
ていた。
「ほらみろ、ばっちゃんはそんなことじゃ怒ったりしないって。」

「義正さんにお願いがあるのですが。」
茶の間へと場所を移し、皆が座ったところで清四郎が口を開いた。
「何なりと。」
義正の顔を真っ直ぐに見据え、清四郎は言葉を続けた。
「今回の事件は僕達ではなく、皆さんが退治したということにして欲しいのです。」
「何と!」
義正の目が驚きで軽く見開かれた。

「僕達は一介の高校生です。ごく普通の毎日を送りたいんです。もし今回のことが表沙汰になって
しまうと、普通の高校生活を送ることが出来なくなってしまいますから。」
「そうそう、あたい達、まだまだ遊びたいこといっぱいあるんだ!マスコミなんかに追っかけられる
のはゴメンだからな。」
悠理も手をひらひらさせながら眉根を寄せた。
「そうよ、そんなことになっちゃったらプライバシーもなにもあったもんじゃないもの。」
可憐も冗談じゃないわよ、とばかりに顔をしかめる。
プライバシーに人一倍敏感な反応をしたのが、美童だ。
「僕もそれは困るなぁ。マスコミに彼女達のことが全部ばれちゃったら、吊し上げを食らいそう…」
「英雄視されるのもちょっとね。」
魅録が首をすくめ、野梨子がにっこりと微笑んだ。
「そうそう、気楽な学生でいたいのですわ。」

どうやら本気で言っているらしいことを悟った義正は、しばらく腕を組んで目を瞑った。
六人は命をかけてこの町を人々を救ってくれた。
何も出来なかった自分達がマスコミに追いかけられること位、なんの苦もないはず。
「皆さんがそう仰るのでしたら、我々で事を成し遂げたということにしておきましょう。」
義正は意を決すると、快く承諾した。
61鬼闇(101):04/12/05 22:57:17
「おっちゃん、あたい腹減って死にそう…。早くご飯食べさせて。」
悠理が今にも死にそうな声を上げてテーブルに突っ伏した。
義正が笑いながら立ち上がると、料理を持ってくるよう志津子に声を掛けた。
「では、早速準備させましょう。食べきれない用意してお待ちしていましたからね。皆さん、本当に
有難うございました。」
義正が再び頭を下げようとしたのを、野梨子が制した。
「やめて下さいな、鬼をやっつけたのはおじ様達ですわ。」
「そうですよ。僕達は桃太郎というお芝居をしただけですから。」
清四郎の言葉を皮切りに、皆が後に続いた。
「そ、俺が犬。」
「僕が雉。」
「あたしと野梨子がおじいさんとおばあさん。」
可憐が悪戯っぽく微笑んで、大団円…という時、ここでも異を唱えたのは、やはり悠理。
「だから、あたいは猿なんてヤダよぉー!」
そんな悠理に野梨子が微笑みを湛えたまま口を開いた。
「あら、ぴったりですわよ。」
「野梨子!」
悠理の抗議の声も空しく、佐々の家は皆の笑い声で溢れていた。

「悠理ちゃん、お待たせ。」
志津子が悠理を憐れに思ったのか、道子がお手伝いさんを連れ、沢山のご馳走をお盆に載せて
部屋に入って来た。
「やったーい!おっちゃん、最高―っ!」
「現金なヤツ…」
さっきまでの怒りはどこへやら、諸手を上げて喜んでいる悠理に、魅録は呆れた口調で呟いた。
テーブルの上には食べきれない程のご馳走が並べられ、今日ばかりは無礼講とばかりに義正は
取っておきの酒を開けた。
皆は浴びるほど飲み、たくさん食べ、そして今生きている喜びと実感を噛み締めていた。
62鬼闇(102):04/12/05 22:58:08
「お世話になりました。」
翌朝も澄み切った青空を迎え、快適なドライブ日よりとなった。
六人は積みきれない程の土産と荷物を車に乗せ、義正と別れの挨拶を交わした。
「青洲さんにも宜しくお伝え下さい。君達も日本海の幸が食べたくなったら、いつでもおいで。大歓
迎だよ。」
そんな義正の言葉に、昨日のご馳走を思い出したのか、悠理が飛び上がらんばかりに喜んだ。
「やったーい!」

「また、遊びに来ますね。」
「私もバカンスに。」
「僕は祥子さんに会いに。」
「次はダイビングもいいよな。」
「今度はカンゾウの花咲く頃に。」
清四郎を筆頭に、六人が銘々別れを告げ、車へと乗り込んで佐々の家を出た。
義正と志津子は、車が見えなくなるまで六人を見送っていた。
「…ありがとう。」
そして二人は見えなくなった車に深々と頭を下げた。

六人が乗った車と行き違いに、何台ものワゴン車が佐々の家の前に押し寄せてきた。
バタン、バタンと音を立ててドアを閉める音が響く。
「すみませーん、NTVの者ですが。」
「新潟新聞の者です。」
「すみません、週刊オカルト誌です。」
車から降りたリポーター達は一斉に義道の方へと駆け寄ってきた。

「何か御用ですかな?」
――早速来たか。
それでも六人が出た後で良かった、と正義はしみじみ思った。
「今回の殺人事件のことで、お話を伺わせて頂きたいのですが。何でも鬼が現れたとかという話を
聞きまして、是非とも取材させて欲しいのですが。」
63鬼闇(103):04/12/05 22:58:57
右手に新聞社の腕章をつけた中年男性がいきなり義正にマイクを突きつけた。
「鬼――ですか?」
「ええ、町の方々はそのように仰られていますが。どなたが退治されたのかと。」
「桃太郎です。」
義正は志津子と顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
「はぁ?」
レポーターは予想もしなかった答えに、皆固まっている。
「ですから、桃太郎が現れたんですよ。犬、猿、雉を伴ってね。」

「ちょっと、冗談も大概にして下さいよ!」
レポーターにはそんな正義の答えをタチの悪い冗談にしか思えない。
――ちっ、大学の先生ともあろうものが、何をふざけている!

「冗談だと思うのですか?ならば、人間が鬼を退治出来ると思いますか?」
正義の表情は至って真剣で、レポーターはぐっと答えに詰まった。
「それは、そうですが…」
そんな彼らにお構いなく、正義は続けた。
「あっ、そうそう、ひとつ訂正します。桃太郎のお供は、犬、猿、雉の他にもお爺さんとお婆さんが
一緒でしたよ。」
皆が呆気に取られている中、義正ははっはっはと笑いながら志津子と共に家へと戻っていった。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「そんな話はいいですから!」
「本当の話を聞かせて下さい!」
レポーター達の怒鳴り声だけが、夏の青空に響いていた。
64鬼闇(104):04/12/05 22:59:55
「はよーっ!」
悠理は車から降りると、野梨子と清四郎を見つけ、二人に向かって大きく手を振った。
「おはよう。」
「おはよう、悠理。今日も元気ですのね。」
悠理はあふぅと大きな欠伸をしながら答えた。
「寝不足だけどな。元気だけがあたいの取り得だし」。」
夏休みも終わり、今日は始業式というかったるいものがあるものの、勉強は嫌いだが学校が好き
な悠理は、こうしてきちんと登校してくる。
勿論、母、百合子に叩き起こされてだが。

「おはようございます、菊正宗様、白鹿様、それに剣菱様も。」
清四郎と同じクラスで副委員の喜久泉万里子と友人の桃川絵里香が声を掛けてきた。
委員会などで野梨子と悠理も面識はあるのだが、悠理はこの二人を苦手としていた。
何故ならば、万里子と絵里香から熱烈なファンレタ−を貰ったことがあるからだ。
「悠理様は夏休みをどのように過ごされましたの?」
野梨子と同じ位の身丈の万里子は、少し視線を上に移動させて悠理に問いかけた。
「えっとぉ…」
愛想笑いを浮かべながら答えに詰まる悠理に、清四郎が助け船を出した。
「僕達は小さな島で、倶楽部の皆と一緒に楽しく過ごしましたよ。」

「そ、そうなんだ。あたいたち、桃太郎ごっこして遊んでいた。」
そんな悠理の動揺にも気が付かないらしく、万里子は上目遣いで目をパチパチと瞬いた。
「相変わらず皆様は仲がよろしいですのね。剣菱様、今度は万里子達も誘って下さいね。」
悠理は困惑気味に曖昧な返事を返した。
「うん、考えておく…」
男共なら蹴散らせば済む事だが、万里子や絵里香のような女子はそういう訳にもいかない。
悠理ははぁと大きな溜息を吐いた。

「桃太郎といえば、佐渡の方で本物の鬼が出たそうで、皆様ご存知でした?」
唐突に万里子が口にした話は三人を一瞬で緊張させた。
65鬼闇(105):04/12/05 23:00:41
万里子の隣にいた絵里香もその話題に飛びついた。
「私もニュースや雑誌を見て驚きましたわ。佐渡にいる親戚に聞いてみたんですけど、本当らしい
ですのよ。」

最近ようやく下火になったとはいえ、この夏最大のニュースだった鬼来里の出来事は、マスメディ
アを大きく賑わせた。
一度義正から連絡があり、酷い目にあったと言っていた。
あの小さな村に連日のようにTV局や新聞や雑誌の記者が現れ、義正を筆頭にそれぞれの神社
の神主達もTV画面で窺い知ることが出来た。
結局のところ、真実は決して語られることは無かったし、警察も魑魅魍魎の類のこと、そんなこと
が正式発表されるわけもなく、鬼に殺された人々は曖昧なままの事故死ということになった。
それでも、人の口に戸は立てられず、と良く言ったもので、ワイドショーはこぞって鬼の出現を報じ、
霊能者と呼ばれる人達が忙しい毎日を送っていたようだ。
そんな世間を賑わせたこのニュースが、生徒同士が久しぶりに顔を合わせる今日、話題が上るの
は当然のことと言えよう。

「まぁ、鬼ですの?」
野梨子が驚いたように声を上げた。
「ええ。でも、地元の皆様で退治されたそうですが、菊正宗様はどう思われます?」
流石にこの手の話題を悠理に振っても答えが返ってこないと思ったのか、万里子は清四郎へと矛
先を変えた。
「昨今の時代に鬼と言われましても…。信じろという方が無理でしょうね。」
清四郎は腕を組み、真剣に考える振りをする。
「そうですわよね、菊正宗様の言うとおりですわ。」

頷きながら同意する万里子に、絵里香が反論してきた。
「でも、地元の神主さんやら皆様で、鬼の力を封じて退治したと聞きましたわ。」
清四郎はほぅと感嘆の声を上げ、しみじみと語った。
「それは凄い。本物の鬼を退治するなんて、僕にはとても無理ですよ」
二人には気付かない清四郎の含みのある言葉に、野梨子と悠理は隣で静かに微笑んでいた。
66鬼闇(106):04/12/05 23:01:39
「あっ、万里子さん、私、先生に早く教室に来るように言われていましたの。」
絵里香が思い出したように腕時計の時間を確認し、万里子へと顔を向けた。
「では、私達、お先に失礼しますわね。」
そう言って足早にかけていく二人を眺めながら、悠理がポソっと呟いた。
「お前ら、役者だよなぁ。」

「それよりも、悠理は夏休みの宿題、全部終わりましたの?」
野梨子の質問に対し、悠理ではなく、清四郎が口を挟んだ。
「僕がみっちり面倒を見ましたからね。」
清四郎の鬼のような家庭教師ぶりを思い出し、悠理は顔をしかめた。
「三日前からずーっとだじょ。昨日なんか夜遅くまでやらされたんだからな。あーあ、眠ぅ。」
ふぁーと悠理は再び大きな欠伸をした。

「まぁ、よく頑張りましたのね。では悠理、手を出して下さいな。頑張ったご褒美ですわ」
野梨子は手提げ袋の中をごそごそとかき回した。
「えっ、何かくれんの?」
悠理の目が喜々として輝き、眠気が一瞬にして吹っ飛ぶ。
「はい、どうぞ。」
野梨子はそう言って悠理の掌に包みを乗せ、少々重量感のあるそれに悠理は首を傾げた。
「何だこれ?」
「何って、ご褒美はきび団子に決まってますでしょ?お猿さん?」
野梨子はにっこりと微笑んだ。
「しつこい!」

ぷぅと頬を膨らませる悠理に、野梨子はクスクス笑いながら話を続けた。
「お弟子さんの一人が実家へ帰られたお土産だって、昨日持って来て下さいましたのよ。岡山でも
有名なお菓子屋さんのもので、お祝い事にも使える珍しい紅白のきび団子ですって。」
「いい加減、猿から離れろよ!それに…」
これだけは言っておかなくてはと、悠理は声を大にした。
「あたしは一つじゃやだってーの!」
67鬼闇(107):04/12/05 23:02:57
「おはよー。あら、悠理、何を拗ねてるの?」
プンプンむくれている悠理に声を掛けながら、可憐が近づいてきた。
「おはよー。」
「うっす。お前、朝からなに怒ってんだ?」
その後から美童と魅録が現れ、清四郎が呆れた様子で口を開いた。
「悠理が、きび団子一個じゃ足りないってごねているんですよ。」
「また食いモンのことか。」
「まぁったく。」
「だね。」
呆れたように、魅録、可憐、美童が呟いた。
「大丈夫ですわ、悠理。まだまだ沢山ありましてよ。」
そんな悠理をなだめるかのように、野梨子が箱ごと取り出してみせた。
「ほ、ホントか?」
再び悠理が目を輝かせた。

「ねぇ、野梨子、僕にも分けてよ。あっちで貰い損ねたし。」
野梨子が蓋を開けると、美童の腕がにゅっと伸びて菓子を摘んだ。
「俺、甘い物苦手なんだけどな。」
そう言いながら魅録も手を差し延べ、一つだけ手に取った。
「珍しいぎびだんごですね。僕も頂きます。」
そして、野梨子の隣に立つ清四郎も包みを手に取った。
「あら、清四郎、桃太郎は食べる方ではなく差し上げる方ではありませんの?」
珍しく菓子を手にした清四郎を見上げ、野梨子はクスクス笑った。
「僕だって相応に働きましたから、褒美を貰ったってバチは当りませんよ。」
「あたしにも頂戴。朝ご飯、食べそこなったのよね。授業中に、お腹が鳴ったら恥ずかしいし。」
可憐までもが箱からきび団子を取って行く。
目の前で菓子が次々と消えていく事態に、我慢ならなくなった悠理が大声を張り上げた。
「お前ら、あたいの褒美を横取りするなーっ!!」
悠理の雄叫びと皆の笑いに満ちた、平和な夏の朝だった。

          【終わり】
68名無し草:04/12/05 23:04:02
ようやく『鬼闇』を終わらせることが出来ました。
オカルトな上にマニアックな話でしたが、読んでくださった方、スルーして下さった方、
共に有難うございました。
誤字や言い回しなど間違いも多々あったかと思われますが、お許し下さいませ。
又、暖かいレスを頂いた時は、とても励みになりました。
重ねて御礼申し上げます。
69名無し草:04/12/05 23:05:52
>鬼闇
リア遭うれしいw
とうとう完結しましたね。お疲れ様でした。
最後は野梨子がきっちりまとめてくれて、なるほど、という感じです。
皆にご褒美を与える役、すごく似合ってます。
70名無し草:04/12/06 10:23:30
板移転に気づかなかった。

>鬼闇
連載終了お疲れさまでした。
歴史もからめた読み物で、さらに登場人物が有閑らしく活躍していて
とても楽しかったです。
紅白のきびだんごってあるんですね。食べてみたいw
次の連載をお待ちしてます!
71名無し草:04/12/06 19:27:57
鬼闇さん、すてきな小説をありがとうございました。
毎回楽しみにしていました。
次回作も楽しみにしています。
72秋の手触り[135]:04/12/06 20:00:41
>>25

 ――高田敏正。
 開発部にある研究室の室長である。
 研究員の引き抜きや重要な書類の紛失が相次いだとしても、豊作は彼を疑うこと
はなかった。高田は熱心な研究員たちをよく束ね、上司・部下を問わず、誰からも
信頼されている社員である。しかも、先日新プロジェクトを立ち上げたばかりである
加瀬の良き理解者にして親友のはずだった。誰が彼を疑うというのだろう。
 だが同時に魅録は知っていた。
 大人というものは複雑で、とても弱いものだということを。
「そうか。室長そのものが裏切っているなら、そりゃ裏かかれまくって当然だな」
 豊作と魅録の複雑な胸中を知らない八代は、あっさりとそう言った。
 確かに室長ともなれば、何だって出来るだろう。
「しかし引き抜きはともかくとして、機密資料の持ち出しは犯罪だろう。コンピューター
ウイルス云々もそうだ。そこまでやるだろうか」
 豊作が思案げに言う。今は警察に届け出てないが、もし当局の手が入った場合、
犯人が発覚する可能性はもちろんある。研究員としてそれなりに順風満帆である
彼が、そこまでの危険を冒すだろうか。
 研究室に繁く通い、高田には期待していたことから、豊作の胸中は揺れ動いて
いるようだった。
 するとそれまで口を噤んで話を聞いていた清四郎が、はじめて発言した。
「話を整理しましょう」
 紙を取り出して、ボールペンでさらさらと書き出す。
「分からないことがいくつかあります」

 (1)黒幕は誰か
   1.今井メディカルと反専務派のどちらが主体となって動いている陰謀なのか。
   2.反専務派の筆頭が社長でないのなら、誰か。 
     もし高砂常務が黒幕である場合、なぜ彼は裏切ったのか。
 (2)経理部長の金の出所は何処か
 (3)実際に機密資料の紛失やコンピューターウイルスに関わった人間は誰か。
    また誰の指示か。
73秋の手触り[136]:04/12/06 20:01:24
 つい二時間前に参加したばかりなのに、もう大筋の状況を理解している清四郎
に魅録は舌を巻いた。
 やはりこいつは侮れない。
 ただつるんでいるだけなら頼もしい仲間であるが、一歩引いて彼の大人びた横顔
を見たときに胸を焼く焦燥を、なかったことには出来なかった。
 魅録はすっと目を逸らす。
 ――脳裏に、彼の名を縋るように呼んだ悠理の声が蘇って、消えた。
「高田さんとやらの裏切りの理由も個人的には気になるでしょうが、とりあえず大局
には影響しないと思うので真相の追求は後回しと言うことにしませんか」 
 清四郎の淡々とした声を聞きながら、魅録は胸中で呟いた。――理由など決まっ
ている。あらためて探るまでもないだろう。
 今の魅録にならば、それが容易く想像することが出来た。

『頑張れよ。お前は俺たちの期待なんだからさ』
 そういいながら、高田は加瀬を羨望の眼差しで見ていた。
 きっとそれが答えだ。
 
 +  +  +

 これからの方針について話を固めたあと、今夜は解散することにした。
 しかし魅録と悠理だけは当初の予定通り仕事が残っている。
 行きはラゴンダだったが、目立たない黒の国産車に乗り換える。同時に服も黒の
タートルネックにジーンズに着替えた。
 これから何人かの家に忍び込み携帯にGPS付きの盗聴器を仕掛けることになるが、
魅録には他にもやりたいことがあった。
 他でもない高砂常務と高田研究室長の調査である。
 長い夜になりそうだった。
74秋の手触り[136]:04/12/06 20:02:04
「ふーん。趣味いいじゃん」
 当初の予定を消化し終わったときには午前二時を過ぎていた。もともと宵っぱり
である魅録と悠理はさほどの疲れもみせず、現在高砂常務の家の前にいる。
 悠理の呟きどおり、最後に忍び込んだ経理部長の家は成金趣味も甚だしかったが、
高砂常務の場合はさりげなくではあるが上質な素材で建築された洋風二階建て
住宅であり、品が良い。
「じゃ、さっそく入るとするか」
 バックパックに忍ばせた七つ道具を出して、魅録はすっと家に偲びよった。
 ざっと玄関周囲を覗いただけで、警備会社と契約しているのはすぐに分かった。
どこまでの警備か確認するために塀の周囲を歩く。どうやら一般のご家庭とさほど
変わらない警備内容のようであり、庭への侵入は問題なく出来そうであった。
 センサーのリードを切ったあと、念のため口元を隠して悠理とともに塀を乗り越える。
 一階は全て消灯されていた。代わりに二階は一室だけ明かりがついている。
 勝手口に回ると、扉に取り付けられたセンサーを調べてみた。
 ――運がいい。
 原理はリードとマグネットで出来ている簡単なセンサーであった。魅録はドアの
隅間に特殊な金板を差込み、センサーの発動をさけると、振動しないようにゆっくりと
鍵破りを試みる。
 カム送りという方法を用いて開錠するまでに三分。扉を実際に開けるのに一分。
 背後で悠理が関心するような、呆れるような吐息を漏らした。きっと警備総監の
息子が犯罪者の真似事なんて、などと思っているのだ。確かに褒められたことじゃあ
ないよな、と内心で同意し、魅録は苦笑する。
 もしここで自分たちが捕まれば、そのまま豊作の立場が危うい。それどころか、
会長である万作にも大きな影響を与えてしまうだろう。こういう手は、本来は上策とは
言えない。しかし。
(俺たち有閑倶楽部では、これが定石だよな)
 極めて政治的な手段で勝負に臨むことも出来た。徹底的に戦うことを決意さえすれば、
豊作にはそれが出来ただろうし、自分も手伝えることはある。八代や清四郎といった
切れる人間の助けもある。
75秋の手触り[138]:04/12/06 20:02:48
 しかし、それでは将来に禍根を残すだろう。中途半端な勝負の仕方は自分たちには
相応しくないし、そもそも出来ない。卑怯な手で攻撃されたならば、それ以上の手で
徹底的にやり返す。それが自分たちの流儀である。
 魅録と悠理は静かに侵入する。一階を物色するが役に立ちそうなものはなく、家人が
いる二階への侵入を決意した。念のため催眠スプレーを用意しながら階段を登るが、
運良く誰ともすれ違わなかった。
 廊下には四つの扉があり、電気の消えている部屋を選んで扉をあけた。寝室である。
 ふたつある寝台のうちの一つに中年の婦人が休んでおり、おそらく常務の妻であると
検討をつけた。となると、明かりのある部屋にいるのは常務本人。おそらく書斎か何か
にこもっているのだろう。
 魅録は充電器に差してある携帯電話を見つけ、にやりと笑う。
GPS付き盗聴器を仕掛けるとともに、モバイルをバックパックからとりだし、メモリーと
着信履歴を吸い出した。
 ――とそのとき。
「ううん……」
(!)
 婦人が寝返りを打ったため、ぎくりとふたりは硬直する。
 カチカチカチという時計の秒針の音がやけに大きく感じる。心臓が脈打つ音まで聞え
そうであった。
 息の詰まるような緊張の中、しばらく息を潜めていた。しかし彼女はそのまま起き出す
様子はなく、ほっと安堵の吐息を漏らすと、ふたりは作業を続行した。
 魅録が携帯電話を探っている間に、悠理はクローゼットをあけ、掛けられているスーツ
のポケットに手を突っ込み、中を物色する。
76秋の手触り[139]:04/12/06 20:03:52
 今日、彼がパーティーで着ていたスーツを見つけて調べてみると、内ポケットに牛革の
名刺入れを見つけた。
(ああ、これは中村のおっちゃんだな、これは井村……)
 知った人間がちらほらと混じっている。しかしながら当然、大半は知らない名前である。
 それらの名刺の束を眺めるともなく眺めていた悠理は、ふと眉を潜めた。
(……今井メディカル社長・新井雄二……?)
 今井メディカルと剣菱精機は、ライバル会社でしかない。何かしらの取引があるとも
豊作からは聞いてない。
 敵の名刺を持ってるなんて、やっぱり高砂常務は黒じゃないか――と兄のために憤り
ながら、悠理は苦い顔でその名刺をポケットに仕舞い込む。
 悠理は今井メディカルという会社についてよく知らない。それどころか、剣菱精機という
兄が専務をつとめる会社についてもあやふやである。だが今やすっかり今井グループ
全体について敵愾心を持っていた。
 兄が受けている攻撃だけでなく、今井グループの令息に迫られたという不快感もあって
の感情である。
 次にクローゼット内にあるチェストを探っていると、引き出しの底が重構造になっている
ことに気がついた。不思議に思ってはがしてみると、そこにあるのは紙切れ一枚。
 これなんだ、と魅録に視線で問うと、彼の表情が驚愕に満ちているた。
(株の売買の明細書だ。それも今井メディカルの)
 ライバル会社の多額の株券を持っているのは何故か。
 ――インサイダー取引。
 何の根拠もないひらめきであった。
 しかし、魅録の脳裏で急速に事件の全体像が結ばれていく。
 家に帰ったら、さっそくアレとアレを調べなくちゃな、と興奮気味にそう思った。
 まさにその瞬間だった。
 ガタン。
 隣室で、扉を開ける音がした。 ツヅク
77名無し草:04/12/06 22:52:12
>秋の手触り
おお!ドキドキの事件展開!!
二人と同じように、心臓がドキドキしました。
豊作さんは、裏切られて辛いでしょうが、きっと倶楽部のメンバーが何とかするでしょう。
そして八代氏の動向も気になります。
78名無し草:04/12/07 14:19:12
>鬼闇
映画のような、広がりを感じる
小説だと思いました。

大変、おもしろく読ませていただきました。
作者さま、お疲れ様でした。
79名無し草:04/12/07 18:13:20
>鬼闇
お疲れ様でした。原作のスケールが大きかった頃を思い出し、
とても懐かしい感じがしました。
最後まで桃太郎にこだわるところなんか「そんな感じ、
そんな感じ」と頷いてしまいました。
次回作、楽しみです。

>秋の手触り
おおう。話が急展開しそうですね。
しかしよく悠理が静かに魅録の手伝いができるもんだとか
考えてしまいました。花瓶を割るとかドジ踏みそうなのに。
えらいぞ!悠理!
80名無し草:04/12/08 21:11:01
嵐さんのところの30万hit祭について、まゆこスレで
意見募集中です。よろしく!
81名無し草:04/12/08 21:30:49
なんかしたいねー。
82秋の手触り[140]:04/12/09 00:06:34
>76

「華子。まだ起きているのか?」
 電気はつけないまま、高砂が妻に問う。クロゼットの隙間から見える彼は、パジャマの
上からナイトガウンを羽織っている。昼間はまだ暖かったが、確かに今夜はやけに冷え
込む。もうすぐ十月になるのだ。
(なんて考えている場合じゃなくて)
 埒もない考えに逃げそうになるのを叱咤しつつ、魅録はもし高砂がクロゼットを開けた
場合どうするのかを考える。――どう考えても、問答無用で出会い頭に殴り倒すか、
催眠スプレーを吹きかけるしかないだろう。ふたりとも彼に顔は割れているのだ。彼が
そのまま眠った場合は、そのようなことをせずにすむのだが、それでは彼が完全に眠りに
つくまでここに押し込められることになる。
「なんだ……気のせいか」
 腑に落ちないといった声ではあったが、一応納得したらしい。しばらくしたのち、衣擦れ
の音がした。高砂はそのまま寝ることにしたらしい。
 当然である。もう夜中の二時なのだから。
 しかし。
(あ―、最悪)
 暗くなる思考を誤魔化すために、胸中での呟きは軽い口調である。しかし、この状況は
いかんともし難い。なんせ――小柄な悠理の身体を、うっかりと腕の中におさめてしまい
そうになるぐらいに、クローゼットの中は狭い。無理な体勢のまま、硬直している。
 胸が苦しい。沖に打ち上げられた魚のごとく、魅録は咽喉をのけぞらせて上を向くと、
喘ぐように呼吸した。
 何度、彼女を抱きしめたか知れない。彼女から抱きつかれたことだって何度もある。
 けれど今、クロゼット内のパイプ棒に無理やり置いている手を、悠理の背中に回すこと
ができない。どうしてもできない。
 冷えた夜の空気の中、温かく柔らかな肌の匂いがした。
83秋の手触り[141]:04/12/09 00:07:35
 一時間後。
 ようやく高砂が完全に寝入ったという確信が持てて、ふたりは脱出を果たした。
 疲労困憊で車の中に戻ったふたりは、思いっきり伸びをする。
「どーする、この後……」
「あたい嫌だぜ、これ以上動くの」
 兄のために、目覚しい働きをしてきた悠理もきっぱりと断る。もともとパーティーで疲れて
いた上に、数々の家に侵入した作戦行動――最後に一時間クロゼットの中に閉じ込められ
たことが止めをさした。
「だよなぁ」
 うんざりと魅録も同意した。彼の場合、特に最後の一時間のダメージが濃厚であった。
 残すは高田の調査である。もちろんこれは当初の予定にはなく、後からオマケで組み
入れたものだ。消化しなくても別段困らない。
 数時間前、清四郎が指摘したように、彼の裏切りは精神的には大事ではあっても、今回
の事件全体からみれば些細な出来事である。剣菱という大企業からすれば、たかだか
グループ会社の中の室長のひとりなど路傍の砂に過ぎない。これは剣菱精機内に終始する
争いではない。果ては剣菱グループの会長になろうという豊作の失脚を狙った、造反劇
なのだ。
 それでも自分は剣菱の社員ではない。豊作を助けるのも個人的なことからである。つまり
は完全に利己的な理由からはじめたことであり、これからもそういうスタンスを持ち続ける
つもりである。少しでも関わったことは、全部詳らかにしたいと思ったっていいだろう。
「うーん、別の日にするかぁ? 早めに調べておいた方がいいんだろうけど、今日全部一片
にしないといけない理由もないし」
 魅録が妥協案を示すと、悠理が力ない声で言った。
「さんせぇ」
84秋の手触り[142]:04/12/09 00:09:59
 借り物だった車を持ち主に返すため、一旦寄り道することにした。そこでラゴンダに
乗り換えて、悠理を剣菱家に送り届ける。当然、魅録の足が無くなるので、今晩は
泊まらせてもらう予定だ。もう夜中の3時である。
 因みに借りたのは『Growth ache』のマスターである。数多い魅録のダチの中で、
目立たぬ車に乗っているのが彼だけだったという笑い話がついてくる。
 広くもあり深くもある交友関係をもつ魅録ではあるが、相手は良くも悪くもあくが強い。
「さんきゅー、マスター。車、車庫に入れといたから」
「おー、ちゃんとナンバープレートも元に戻しとけよ」
「心配するなって。もうちゃんとしておいたから」
「これでも真っ当に働いてるんだ。サツに御用なんてことゴメンだからな」
 言葉ほどには迷惑そうではない笑顔でマスターは出迎えてくれた。
 店にはもう客がいない。きちんとした閉店の時間の決めていないこの店は、明け
方まで営業してることも珍しくはないが、今日はもう片付けに入っているようだった。
「で、その子の名前、まだ聞いてないんだが」
 自慢の口髭を撫でながら、マスターが悠理に視線を注いでいる。そういえば、車を
借りにきたとき、紹介するのを忘れてた、と魅録は頭をかいた。
「前に話した悠理だよ」
「ああ、元気なお嬢さんか」
「おっちゃんの名前は?」
 悪気無く悠理がそう聞くと、永遠の少年を自称するマスターは傷ついたようだった。
だが気を取り直して、微笑んだ。
「俺のことはただ、マスターと呼んでくれたらい――」
「あ、大和田っていうんだ」
 決め台詞を、あっけらかんとした魅録の言葉に遮られ、マスターはいじいじと床に
指で文字を書き始めた。愛すべき厄介な大人である。一人娘に「お父さんキモイ」と
言われる日は近い。
85秋の手触り[143]:04/12/09 00:14:12
「大和田さんか。よろしくな」
「……よ、よろしく。まあせっかくだからなんか飲んでいってくれよ」
 にこにこと悪気なく笑っている悠理に、よろよろと立ち上がるとマスターは苦笑しな
がら勧めた。
 飲酒運転を容認するなんて不良中年め、といいながら、ちゃっかりと魅録もカウンター
席に座る。もともとザルで、全くといってアルコールが効かない体質なのである。もち
ろん違法である。
「じゃあ、あたいモスコミュール」
「俺はジントニック」
 それぞれオーダーしたあと、まったりと一息つく。マスターもオーダーを受けた後は
無駄口を叩かず、仕事に専念していた。
 居心地のよい70年代のイギリスロックが店内に流れている。時を止めたような
この店をつくった理由を魅録はマスターに尋ねたことはない。
 いつか話してくれるだろうかと思いながらマスターの背中を見ていた魅録は、ふと
隣にいる悠理がやけに大人しいことに遅まきながら気がついた。
 よく考えてみると、ずっとこんな調子だったような気がしないでもない。
 いつからだ?
 遡るようにして思い起こしてみると、ふと今井昇一の一件にあたった。
 苛立ちが魅録の中で渦巻いた。
 清四郎への嫉妬ではなかった。強く彼を思っているくせに、まったく表に出さず一人
で抱え込んでいる悠理に対してだった。
「元気ねぇな」
 呟くと、自覚のない悠理は一瞬何を言われたのか分からないような顔をした。
「ん。ちょっと疲れたからかな」
 平気な顔をして、そんなことを言う。1ミリほども嘘の匂いがしない。そういった自然
さだった。
86秋の手触り[144]:04/12/09 00:15:32
 元気だけが取り柄の単純な人間だと思い込んでいた。もちろんそれは正しくはあるだ
ろう。自分たちに見せている姿が偽りなどとは、魅録も思わない。それでも悠理もまた、
少女なのだ。魅録が到底理解することのできない少女という生き物なのだ。
「嘘をつけ」
 容赦なく魅録はそう言った。
 あけっぴろげな笑顔の下で、単純な言動の裏で、心をがちがちに武装している悠理が
ひどく苛立たしく、どうしようもなく愛おしかった。
 雫を垂らすような沈黙が落ちた。
 マスターがステアする音がカラカラと響いた。静かにグラスにジントニックが注ぎ込まれ、
悠理のオーダーしたモスコミュールとともにカウンターにそっとおかれるまで、彼女は何も
言わなかった。
 マスターは無表情に皿を洗い始めた。
「なんで……」
 悠理は取り繕うことを忘れたように、途方にくれた顔をしていた。笑ってしまうほど
子供っぽい表情だった。だからこそ魅録は笑えなかった。
 俺にはそんなふうに心情を吐露することを自分に許したとしても、清四郎の前だったら
お前は笑顔という名のポーカーフェイスを守るのだろう。
 魅録はただ、くしゃりと悠理の髪を掻き混ぜた。
 悠理はただ口を噛み締めると、涙を堪えるようにして下を向いた。収まりの悪い亜麻色
の髪が、魅録の指から零れてその横顔を隠した。

          ツヅク
87名無し草:04/12/09 01:01:38
>秋の手触り
立て続けの更新、とてもうれしいです。
悠理の想いも、魅録の想いも、どっちも胸がキュンっとなりますね。
どちらの恋も叶えてあげたいけど…どうなるのでしょう。
清四郎のクールさが辛いですね(悠理の気持ちに気付いてないとはいえ)。
じれじれしつつ、続きをお待ちしておりまする〜。
…ついでに、決めゼリフを攫われた大和田マスターに乾杯w
88名無し草:04/12/09 01:02:07
あげちゃいました。ごめんなさいっ。
89名無し草:04/12/09 02:59:27
>秋の手触り
マスターが可愛くて笑ってしまいましたw
バックボーンを知りたくなってしまうような、
持って行き方がうまいなーとも。
悠理と魅録、それぞれの想いが切ないです。
90名無し草:04/12/09 23:04:20
>秋の手触り
マスターって何者なんでしょう。
魅録の友人らしいといえば、これほどらしい人もいないような気がします。
悠理の気持ちが、いつか叶うといいなと思います。
91名無し草:04/12/10 01:13:30
>秋の手触り

悠理も魅録も切ないですね・・・。
夏の匂いの清四郎も切なかったし、忘れがちだけれど、
可憐も美童のことを思っているんですよね・・・。

心の中で思わず「切ないシリーズ」と銘打ちたくなりました。
92秋の手触り[145]:04/12/12 20:17:15
>86 連投すみません

 悠理がかすかに肩を震わせた。
 追い詰めるのは本意ではない。慰めるほど思い上がっているのでもない。悠理は
自分ですべてを決めて、毅然と自分の感情と向き合っている。魅録は掛けるべき言
葉を持たず、そっと彼女の頭を撫ぜた手を離した。
 こんなふうに静かな時間を彼女と過ごしたことはない。悠理との友情は常に喧騒
とともにあった。
 物騒な都会の裏路地で出会った。はじめて見たときは制服のタイツを破き、次に
会ったときは頬に傷を作っていた。きらきらと楽しげに輝く瞳は翳りを知らず、
また会いたいと強く魅録に願わせた。
 こんな彼女は知らない。
「もう遅い。帰るぞ」
 短く言って立ち上がった。頷いて、悠理もまた少し俯いたまま立ち上がる。視線
の先で、半分ほども減っていないカクテルがはじけた。
 男友達のように思っていた。それでも薄暗い照明の下で頼りなげに佇む悠理は、
いまや少女以外の何物でもなかった。
 逆説的のようだが、悠理はこの脆さを隠し通すことが出来るほど強かったのだ。
 魅録は思わず目を逸らす。そのままなおざりな挨拶をして店から出ようとした
魅録をマスターが呼び止めた。
 振り向くと、殊の外真摯な眼差しに出会い、魅録は立ち止まった。
「頑張れよ」
 思わず絶句した魅録にGrowth acheのマスターは少し笑って、カウンター越しに
その肩を叩く。魅録は唇を軽く噛むと、黙って頷いた。
93秋の手触り作者:04/12/12 21:46:53
すみません。
アップ途中で突然、2chに書き込めなくなりました。
書き込めるようになるまで、続きは少しお待ちください。
(この書き込みは、レス代行スレの方の善意で書いてもらっています)
94秋の手触り[146]:04/12/13 23:13:33
 少年少女たちが店の扉の外へ出て行くと、マスターは静かな笑みを浮かべたまま
煙草に日をつけると、店内の音楽のボリュームを下げた。
 感傷に溺れそうなこんな夜は、思い出の曲も遠ざけるべきだ。
 そのままカウンターに寄りかかって、紫煙の流れるその先を見つめる。
 語るべき言葉はない。回想する過去ももはや遠い。人生も半ばに差し掛かっている。
 自分は大人になったことを悔やむこともできないほど、あたりまえに大人になってし
まった。誰にもその流れを止めることはできない。
 魅録が抱える痛みが、純粋に恋ゆえのものなのか、自分には分からない。成長の
過渡期にある痛みであるのならば、いつかは感じなくなるだろう。――あたかも遅す
ぎる成長痛のように。
 マスターは灰皿に煙草を押し付けると、自分のためにシェイカーを振った。まだ未成
年だった彼に、今は亡い年上の女性が作ってくれたノンアルコール・カクテル。
 ――今はきっと、彼女よりも上手に造ることが出来る。
 甘ったるいその味を不服に思ったくせに、そのアジアンブルーの液体に、あとから
どんな酒を足しても満足のいく味になることはなかった。結局同じレシピのまま、
konflikt(葛藤)という名をつけて、店に置いている。
 分かっている。時は止まらない。
95秋の手触り[147]:04/12/13 23:14:05
 疲れたような溜息を漏らしたのち、助手席の悠理はうとうととし始めたようだった。
 ラゴンダに乗り換えたふたりは、剣菱邸に向かっている。
 もう朝は近い。それでもあと数日で十月になる空は、まだ闇の只中にある。今年は
例年になく寒い季節になるのだという。もんの少し前までは残暑を強く残していたとい
うのに、一度夏が去るとあっという間に秋となってしまった。
 夏には何も感じなかった。悠理が女らしくなったという仲間の言葉に、首を傾げた
だけだった。
 あのころの自分は、ほんの一ヶ月のちにこのような感情に振り回されることなど考
えもしなかった。いや――たった一日前まで、魅録は信じていたのだ。悠理と自分の
関係はずっと同じように続いていくのだと。
『俺もやっぱり長い付き合いの女は、女に見えないな』
 Growth acheで、魅録が親友たちに言った言葉である。
 それに対して美童が言った台詞が忘れられない。
『いくら友達でもさ、やっぱり僕たちは男で、彼女たちは女なんだよ』
 もはや指摘されるまでもない。友情を逸脱しようとしている自分に気づかぬわけに
はいかなかった。
 悠理の寝息を聞きながら、魅録は黙って車を走らせる。
 今しばらく。
 この感情に名をつけずに、胸にとめておこう。
 思いもよらなかった自らの臆病な心に、魅録は胸をかきむしりたいほどの葛藤を覚
えた。
96秋の手触り[148]:04/12/13 23:14:54
 しらじらと空が白み始めるころ、ようやく到着した。
 インターホンで広大な剣菱邸の入り口を開門してもらうと、車で敷地内にまで入る
。母屋となる一番大きな建物の前に横付けすると、助手席で眠りこけている悠理を
起こしにかかった魅録であるが、起きる気配がまったくない。仕方なく悠理をサイド
シートから抱き上げる。
 煙るような肌の匂いに、高砂家での一件を思い出して、やるせなくなった。
 友人である彼女にそのような感情を抱くことに罪悪感すら感じながら、つとめて意
識しないように彼女を運ぶ。
 ちょうど扉の前までついたところで、重い瞼を擦りながら、メイドのひとりが迎えに
出てきた。「松竹梅さま、お嬢様をありがとうございます――ささ、お嬢様。どうかお目
覚めになって」
 促すが、一向に目覚めない。魅録は苦笑いを浮かべると、自分が運びますからと
申し出た。自分ひとりで悠理を寝室まで連れて行く自信がなかったメイドはほっと安
堵して、申し出を受けた。
 悠理の寝室には数え切れないほど足を運んでいる。案内もなしに、魅録は彼女を
抱えて歩いた。
 それにしても呆れるほど広い部屋だ。ひとくちに悠理の部屋といっても、何室もあり
、その一番奥が寝室である。本来なら男性を通すはずのないところであるが、彼女
はそういった恥じらいをみせたことはない。
 悠理をベッドに寝かせると、起こさないように布団をかぶせた。今日は彼女も自分
もくたくたに疲れきっている。サボって、放課後だけ倶楽部に顔を出すことにしよう。
 そう思ったところで、バルコニーの方から朝日が差し込んできた。
 魅録は口元に笑みを浮かべると、悠理に向かってお休みと言って立ち上がった。

              ツヅク
97秋の手触り作者:04/12/13 23:16:19
連投のうえに、変なところでうpが止まってしまってすみません。
98名無し草:04/12/14 09:52:06
秋の手触りの作者さま

うpお疲れさまです。
続きを待っていました!

99名無し草:04/12/14 22:55:29
>秋
うぉぉぉ〜! 胸をかきむしりたい程、苦しい〜!
魅録がついに悠理への自分の想いに気がついてしまいましたね。
悠理が清四郎に恋していると感じた時から、
彼の心理がとても細かく書かれていて、ため息です。
連続して読めてうれしいです。続きをお待ちしています。
100名無し草:04/12/15 11:45:29
>秋の手触り
魅録の戸惑いや心情がすごく伝わってきます。
彼がこの先自分の気持ちにどう向き合うのか・・・
続きを楽しみに待ってます。
101悠理と清四郎 呪文編:04/12/19 03:53:25
悠理と清四郎うpします。

http://houka5.com/yuukan/short/cpsei/s16-605.html

時間設定は、クリスマス編の1年後(次の年の年末)です。
                  ○

 悠理。一つ提案があるんですが。

 うん?

 僕と悠理の間だけで通じる言葉を作りませんか。
 二人だけにしかわからない秘密の言葉。

 ……秘密の言葉? なにそれ。

 ずっと思ってたんですが、悠理は自分の気もちを表現するのが得意ではありませんよね。
 ときどき、僕には悠理が何考えているかわからない。

 ……そっか。

 たぶん悠理の中にはいろんな気もちが複雑に混ざっていて、
 それをうまく説明できない、そんな気がするんです。
 だから、うまくいえない気もちを一言で言える言葉を作ろう。

 ……どんな。

                  ○
除夜の鐘が続いている。
初詣に向うのか、寒さなどみじんも感じていないような笑顔のカップルが腕を組んで
悠理の横を通り過ぎる。
一陣の風が吹いた。凍てつくような空気に悠理は身をすくめる。
ズボンを履いてこなかったのを後悔した。
セーターにダウンジャケット、ミニスカートに分厚いタイツを履いた悠理の足に
しんしんと寒さが這い上がってくる。
くしゃみをしそうになった悠理の後ろから声がした。

「ずいぶんと軽装ですね。見てる方が寒くなりそうだ」

棘のある相手の言い方に悠理はムッとする。
振向くと和服にマフラーを巻いた清四郎が腕組みをしながら立っている。

悠理が何か言うより早く、すっと前に立って歩き出した。
「行きましょうか」
待たせましたね、でもなく、待ちましたかでもなく。
しかたなくついて歩き出したものの、以前のように温かい言葉を期待していた自分が
悲しくて鼻がつまった。

下駄がカラコロカラコロ冷たい音を立て、足早に悠理の前を歩いていく。
後ろから、時折小走りになりながら上着のポケットに両手を突っ込んだ悠理が追いかけていく。

空中に白い息を吐きながら、悠理は喧嘩した原因を思い出そうとしてやめた。
原因なんてあるようでなかった。
そもそも喧嘩した、という言い方は適当ではない。
ここのところずっと二人の間に何かモヤモヤとしたものが挟まっていて、
お互いに不満を持ち続けているような、ずっと喧嘩しているようなものだ。
長く白い息を吐いた。
再び小走りになりながら悠理は考えた。
考えに向かない頭をフル回転させたが、やはり明快な答えが出なくて、泣きたい気分になる。
答えが出ないのは、問題が難しいからか、あたしの頭が足りないせいか。
清四郎はなんでああやって早足で歩くんだろう。
あたしと歩くのはもう嫌になんだろうか。

追いかけても追いかけても、追いつかない。
立ち止まって待ってもくれない。

目尻に滲んだ涙が夜風に冷やされていく。

以前は喧嘩しても、いつの間にか仲直りして次の日には二人とも笑い合っていた。
それが常に清四郎の方が折れてくれていたことに、今さらながら悠理は気づく。
だが、ある時から彼は骨折って仲直りすることに疲れてしまったみたいだ。
終始にこやかだった彼が冷たい態度を取るようになったのは、いつからだろう。

自分から謝ったり、相手の機嫌を取ったりすることは悠理は大の苦手だ。
ましてや清四郎だったら、いつかは彼の方から折れてくれるだろうという考えていたふしもある。

小さなほころびを修復しないまま、時間が過ぎ、だんだんと穴は大きくなっていったのか。

悠理は唇を噛んで清四郎を追う。
彼の歩くスピードはますます速くなった。

待ってよ、清四郎。
待ってよ。
待って、と口に出そうとした時、突然清四郎が立ち止まりふりかえった。
思わず悠理も足を止める。

和服の袖に両手を入れた清四郎は黙って悠理を見た。
その視線に耐え切れず、悠理は横を向く。

「どういうつもりですか、悠理」

冷ややかな声が聞こえる。
悠理の身体に震えが走った。
今までに聞いたことのない、清四郎の冷たい声。
漠然とした嫌な予感が悠理に押し寄せる。
必死で足を踏みしめると、押し殺した声で答えた。

「……どういうつもりって」

静かなひんやりとした時間が過ぎる。
清四郎の射るような視線だけが悠理に突き刺さっている。
やがて彼は不気味な程落ち着いた声でこう言った。

「僕にはあなたの考えていることがわからない」


                  ○
  
  いいですか、悠理。『タマネギ』……これは泣きたい気もちのとき。
  『えび』……これは僕に会いたいとき。あいたいの「たい」で「鯛」で
  「鯛で海老を釣る」の例えからです。
  『タマ』は家に帰って寝たいとき。タマはよく寝ますからね。それから……

  かえってわかりにくいよ!
  それになんでわざわざ、こんなの考えるんだよ。

  悠理の気もちをもっと知りたいからですよ。
  悠理がなにを考えて、いまどうしたいのか、僕は知りたいから。

  悠理のことをもっと知りたいから。



                  ○
除夜の鐘がいつの間にか止んでいる。
「あ、そ」
つまらなそうに答えると、悠理は興味なさそうに地面を蹴った。
それからいかにも嫌そうな顔で清四郎を急かす。
こういったことは得意だ、と悠理は思った。
つまらない顔。つまらない態度。嫌そうな声。

「で。だから何」

あたしのこともっと知りたいってのは、もう終わっちゃったんだな、清四郎の中で。
もうあたしが何考えてるのか、清四郎は考えてもみてくれないってわけだ。

その時、吐き出すように清四郎が言う。
「そうやって挑発的な態度をとりますね。自分から少しは歩みよろうとか思わないんですか」

なんで、こんなに怒ってるんだろうな。
あたしに怒ったってしかたないのに。
そんな態度とられたら、あたしだってこんな態度とるしかないのに。
全然わかってない、清四郎。

「いや、別に」
しらけたような声を出すと、清四郎の声にさらに怒気がかかった。

「悠理。疲れますよ、そういう態度」
「もういいよ」

お説教はもうたくさんだ。
悠理はまっすぐに清四郎の顔を見ると言い放った。
「どうすんだよ、行くの、行かないの、初詣。行かないんなら、もう帰るけど」
「悠理、話をしてるんです」
「あたしはもう話無いから」

背中を向ける。一瞬の沈黙の後、静かな清四郎の声が聞こえた。
「わかりました、もういいです、悠理。さよなら」

ドキンと心臓が跳ね上がった。
背筋を寒いものが走る。
カランコロンと遠ざかる下駄の音。
え、いや。待って。
待って、清四郎。
さよならって。

さよならって、どういうこと………………清四郎?

悠理を静寂が包み込んだ。
次の瞬間、真夜中に不釣合いな子どもの騒ぎ声が聞こえ、釣られて悠理は振り返った。

そこには清四郎の姿は無かった。


                 ○
  めちゃくちゃ気分が悪くて、誰の顔も見たくないし、誰とも口を聞きたくない。
  笑いたくもないし、どっちかっていうとムスッとしてたい……けど、
  淋しい。誰かに側にいてほしい。できれば、僕に、……僕だったら悠理に側に
  いてほしい。そんな時の言葉は……

  そんな時あるかなあ。

  悠理はしょっちゅうあるんじゃないですか。
  これはなかなかいいのを考えたんですよ。ほら。

  ……なにこれ。

  僕と悠理の名前を二つくっつけて考えたんです。覚えやすいでしょ。

  ……呪文みたいだなあ。

                 ○

チャリンと音を立てて賽銭が木箱に落ちていった。
ゴロンガランと音の悪い鈴を鳴らして、手を叩く。

二人で行くはずだった神社の人ごみの中に清四郎の姿を見つけることはできない。

ふたたびポケットに手を突っ込みながら、悠理は境内に並んだ人の横を通り過ぎる。
誰も彼もが、家族や友人、そして恋人と寒そうに、でも楽しそうに語り合っている。
一人で歩いているのは自分だけだと、悠理は思った。
そのまま帰るのはあまりに淋しくてりんご飴を買う。
人の波を横目に噛り付いた。

高校生らしい女の子の集団から発せられた声に耳が引きつけられる。
「この神社、すごいご利益あるよー」
「まじー?」
「ほんとだって、もう一度あの人に会いたいってお願いして会えたことあるもん」
「きゃー、ほんと?」

悠理は再び人の列に並び直した。
終夜運転の電車に乗って、剣菱家の最寄り駅に着き、自宅までの道のりを悠理はひたすら歩いた。
普段運転手つきの車に乗っているので、駅から自宅まで案外と距離があるのに気づかなかった。
やっと家が見えるまでのところに来ると、聞きなれた鳴き声がした。

白い大きな猫が悠理を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。

「フク!」

どうやら夜、家に入り損ねたらしい。
抱き上げて頬ずりすると、猫の毛がひんやりしている。
愛猫に微笑みながら「フク、タマは?」と聞くと、女主人の手を滑り降り、タッと走っていく。
彼女の走っていった先に視線をやると、二匹の猫に擦り寄られている清四郎の姿を発見した。

にゃあん、にゃあんと鳴きながらタマとフクはぐるぐると清四郎の周りを回っている。
彼を見上げる二匹の顔は微笑んでいるようにも、彼を祝福しているようにも見え、
悠理は不思議な気持ちになった。

彼女の足音に気づくと、清四郎はゆっくりと顔を上げ、悠理の顔をじっと見た。
そして微笑んだ。
数時間前に見せた険のある顔とはうって変わった穏やかな表情だった。

その顔に勇気づけられて悠理は彼に近づく。
と、彼がこう言った。

「もう終わりにするつもりだったんですが」

悠理の足が止まった。
清四郎は静かに告げる。

「最後にもう一度、顔を見てから帰ろうと思って」
あくまでも笑みを浮かべている清四郎の顔を悠理はじっと見つめた。
「……終わりにするって、もうあたしとは会わないってこと?」
「……そうです」

淋しそうな顔で清四郎は悠理の顔をのぞきこんだ。

「悠理もそうしたいでしょう。僕とつきあうのに疲れたんじゃないですか」
「……疲れた」

悠理はキッと清四郎を睨んだ。
「疲れたよ。あたしの考えてることがわからない、とか、あたしが清四郎とつきあうのに
 疲れたんじゃないかとか、もう終わりにしようとか、そんなこといっぱい言われてさ」

清四郎はうなずいた。
片手で何かを差し出した。
「もう少し僕が大人だとよかったんですけどね。すみませんね、あなたを受け止めることが
 できなくて」
悠理の手の平の中に、なにかカサッとしたものが押し込まれた。

「悠理。僕はね悠理が好きですよ。たぶん一生それは変わらないと思う。
 だから悠理、幸せになってください。ほんとに」

眉間に皺を寄せて自分を見上げる悠理の頬に、そっと清四郎は手を添えた。
寒さに凍えて冷たい手だった。
愛おしむように、優しく彼女の頬を撫でると清四郎は呟いた。

「さよなら」
悠理の横をすりぬけると、再び下駄の音をさせて清四郎は歩き出す。
しかし、十歩も歩かないうちに清四郎は悠理の叫び声を聞いた。

「疲れるんだよ。なんで勝手に決めちゃうんだよ。あたしがどうとか、なんでわかるんだよ」

下駄の音は止まらない。悠理は清四郎に向って声を限りに叫んだ。

「わからないだろ、知らないだろ、清四郎」


知るもんかあんな奴。
自分であたしに寄ってきたくせに、自分であたしにキスしたくせに
自分であたしを抱きしめたくせに、自分であたしに付き合おうって言ったくせに。

なんでも一人で決めちゃって、なんだよ。
知るもんか、あんな奴。

手の中で何かがぐちゃぐちゃになっていた。
広げてみると、四つに折られたメモ用紙だった。
汗で破れそうになったそれを広げてみる。
文字が書いてあった。






「きく けん まさ びし むね  せいし ゆう ろう り」
 


               ○  

  悠理。言葉を作ろう。
  僕と悠理の二人だけの言葉。

  きくけんまさびしむね せいしゆうろうり

  なんだか呪文みたいだな。

  めちゃくちゃ気分が悪くて、誰の顔も見たくないし、誰とも口を聞きたくない。
  笑いたくもないし、どっちかっていうとムスッとしてたい……けど、
  淋しい。誰かに側にいてほしい。できれば、僕に、……僕だったら悠理に側に
  いてほしい。そんな時の言葉。

  きくけんまさびしむね せいしゆうろうり

  愛してるとか、好きだとか、口に出しては言わないけど、
  僕はいつも悠理のことを考えている。
  世界で一番とか、誰よりも一番とか、そんなふうには恥かしくて言えないけれど
  だいたい、いつもそれくらいに悠理のことを考えてます。
  
  もし悠理が僕に飽きたら、遠慮なく言ってください。
  むしろ僕は悠理が僕と嫌々ながらつきあってる、その方が怖いんです。

  きくけんまさびしむね せいしゆうろうり
  
  悠理、悠理。……なにを、一体なにを考えているんですか。

  ―――悠理?

                ○
下駄をカラコロ言わせながら夜道を帰っていく清四郎は、突然背後から飛び蹴りを食らって
前によろめいた。
迷惑そうにふりむく。

「何するんですか」

肩で息をしている悠理は片手を清四郎の鼻先に突き出した。

「これ返す」

清四郎は黙って、悠理を見つめている。
悠理は涙の痕が残る頬を紅潮させている。

「なんだよ、言いたいこと言ってさ。結局、清四郎はあたしのことなんかさ、
 全然わかってないじゃないかよ」
「そうかもしれませんね」
清四郎は苦笑する。
悠理は何かつぶやいた。

聞きなおそうとして清四郎が一歩近づく。
その途端、柔らかいものが腕の中に飛び込んできた。

悠理は清四郎の腕にしがみついた。
「わかってよ、あたしのこと」
「……悠理」
「好きなら側にいろよ。ずっと側にいろよ。死ぬまで側にいろよ」
「悠、理……僕は」
「きくけんびしまさせいしゆうろうり」

清四郎は涙でぐちゃぐちゃになった悠理の顔を見た。
熱でうかされたように悠理は『呪文』を唱えた。

「きくけんまさびしむねせいしゆうろうり。きくけんまさびしむねせいしゆうろうり」
「悠理」
「側にいてよ。さよならなんて言わないでよ、清四郎。
 もういい子にするから。わがまま言わないし、ふくれ面しないし、
 ちゃんと自分の気もち、清四郎に話すから」
ふいに悠理は自分の身体が強く抱きしめられるのを感じた。
耳元で清四郎の押し殺した声がする。

「悠理。いいんですか、僕で」
瞳を閉じると、溜まっていた涙が一気に頬を滑り落ちた。
「清四郎じゃなきゃ、嫌なんだ」
「悠理」
いっそう強く清四郎は悠理を抱きしめた。


「不安だったんです、いつも。僕とつきあうようになってから、悠理からどんどん
 笑顔が少なくなって。悠理は僕とつきあわないほうが幸せなんじゃないかって」
悠理もいっそう強く清四郎にしがみついた。
「いっしょだよ。あたしもいつも不安だったもん」
「……そうなんですか」
「うん」
「……」


澄んだ夜空をバックに、今まで一番優しい瞳をした清四郎が何か言った。
その言葉は覚えてない。
彼の瞳だけを覚えている。

あたし達はあんなにお互いを必要としていたのに、誰よりも淋しがりやで不器用だった。

清四郎。
優しくて、愛しくて、あんなにあたしを必要としていた人。
もう記憶も薄れてきて、彼と最後に交わした言葉すら覚えていない。
あまりにもあっけなく、その時は過ぎてしまい。

あたしがこんなふうにどこかで生きているように、たぶんあいつもどこかで生きているんだろう。

想い出は美しいと人は言うけれど。

彼の温かさをあたしは忘れない。

清四郎と過ごした時間、あたしはたしかに幸せだった。
あの時幸せだったから、今のあたしも幸せなんだと思う。

たまにあたしは口ずさむ時がある。

  『 きくけんまさびしむね  せいしゆうろうり 』

ありがとう。


<悠理と清四郎 呪文編 終わり>
117名無し草:04/12/19 12:56:01
>悠理と清四郎
ああ、仲直りして終わりねー、とほのぼの読んでたら
最後のレスで食ってた昼ごはんを全部吐き出しそうに
なりました(失礼)。
今はお互い他の人と幸せになっているのならいいですが。
でもこれって仲間としてももう会ってないってこと
なのですよね?(涙)
めちゃめちゃ寂しい結末に涙が・・・
118名無し草:04/12/19 17:05:12
>悠理と清四郎
1作めの時から密かに好きだったので、久しぶりのうp、嬉しかったです。
でも……でも、切なすぎる。二人の姿もだけど、文章一つ一つが
胸に突き刺さるみたいで、涙が止まりませんでした。
(清×悠も好きですが、基本的には他カプ好きなのに)

それにしても、PCの前で小説読みながら、一人号泣してる女……。
お見苦しいものを連想させる感想で、すみません(^_^;)
119名無し草:04/12/19 18:05:10
>悠理と清四郎
読み終わってから色々と考え込んでしまいました。
最後の一レスで>もう記憶も薄れてきて、
と悠理が言っているので、想いでを回想している時点で悠理はもう結構年なのかなとか、
何が原因で2人は別々の道を歩み始めたのかなとか・・・・
私も涙が止まりませんでした。
120名無し草:04/12/19 23:50:10
>秋の手触り
各々の恋模様と、企業陰謀と、ハラハラドキドキっすね。
季節、一巡でとおり越してるけどwこのところ頻繁にうpされて嬉しい。
作者さま忙しい中ご苦労様。

>悠理と清四郎
ええ、これってあのシリーズの一環なんですか?!
こ、こんな、締め括りが待ってたなんてええ・・・
121名無し草:04/12/20 00:03:52
『サヨナラの代わりに』をうpします。
http://houka5.com/yuukan/long/l-50-2-3.html
前スレ692の続きになります。
122サヨナラの代わりに (83):04/12/20 00:06:05
「私は、清四郎に何も聞くことができないまま、別れてしまいましたの」
食事を終えて最後のコーヒーを待つばかりになった時、野梨子がポツリと呟いた。
どこか途方に暮れたような表情をして、その視線は焦点が合ってない。
「清四郎は、私が聞けば話してくれたのかもしれません……」
野梨子が言葉を濁した時、タイミングよくウェーターがやって来た。
まずは野梨子の前に、次に俺の前にカップとソーサーを置き、それからミルクの入った
陶器の入れ物をテーブルの端に置いた。
野梨子はすぐにミルクを取ってカップの中に垂らし、スプーンでゆっくりとかき混ぜ始めた。
かき混ぜる速度とシンクロするかのように、野梨子が言葉を続ける。
その視線は混ざり合おうとしている液体に落とされ、その声は弱々しく張りがない。
「……少し前から、何だか様子がおかしいとは思っていたんですの。でも、何故か聞いては
いけないような気がして。……いいえ、本当は、逃げてただけですわ。悪い方にしか、
考えられなくなってしまって。もしかしたら、そうではなかったのかもしれませんのに」
俺の胸に、野梨子の言葉が鋭く突き刺さる。
俺も悠理に、聞けなかった。
……どうして他の男に走ったのかと。
……ソイツは、誰なのかと。
123サヨナラの代わりに (84):04/12/20 00:08:08
「なあ、野梨子。もしかしたら、俺達は似てるのかもしれない」
俺は尚もスプーンをかき混ぜる野梨子に話し掛けた。
途端に、野梨子の手がぴたりと止まる。
俯き加減だった顔が上がってその大きな瞳は見開かれ、俺の顔を不思議そうに見た。
俺としては突拍子もないことを言ったつもりはなかったが、野梨子にとってはそうで
なかったらしい。
「少なくとも俺は、ヘンに傷付くことを怖がって、吐き出さなきゃいけないことを
 呑みこんでしまった」
そう、あの頃の俺は、今まで生きてきた中で一番脆くて臆病だった。
冷静さに全く欠けていて、とにかく事を急いで、ひとりに戻った。
それからは何事もなかったかのように仕事に没頭して、日常を取り戻そうとした。
「魅録だけではありませんわ。……私も、聞きさえすればよかったんですわ。
 ……あのひとが、嘘をつき通そうと事実を語ろうと、それは瑣末なことでしたのに」
野梨子は複雑な表情を浮かべながらも、淡々とした口調で言葉を紡いだ。
ここがレストランでなければ、俺はその場で野梨子を抱き締めていただろう。
これまで神やら運命やらを恨んだこともあったが、もう、その気持ちはない。
全ては、野梨子へと辿り着くために必要なことだったのだと、今では思える。
124サヨナラの代わりに (85):04/12/20 00:09:32
「野梨子、待ったか?」
「いえ、私が早く来すぎましたの」
区役所の近くのカフェに、魅録は待ち合わせ時間ぎりぎりにやって来た。
私はと言えば、気が急いて20分も前にここに来てしまった。
窓際の席に座り、コーヒーだけ頼んで何気に窓の外に視線を遣って、逸る気持ちを何とか
落ち着けようとしていた。
「魅録、時間の方、大丈夫ですの?」
「コーヒー一杯くらい飲みたいところだが、悪いがそうもいかない」
私はカップをソーサーの上に静かに置き、席を立って魅録の後に続いてカフェを出た。
さりげなく、魅録の左手が私の右手を握り締める。
どちらからともなくふたり横に並んで歩き始め、程なく区役所の正面玄関に着いた。
入り口の案内板を見て、2階の12番カウンターへと向かう。
ちょうどそこには一組の、明らかに私達よりずっと若い二人が届けを出そうとしていた。
「ちょっと、座るか?」
魅録が、すぐそばにある椅子を指し示した。
週の真ん中の水曜日だからか、区役所自体、ひとが多くなかった。
「ええ」
私達は手を繋いだまま、並んで椅子に座った。
125サヨナラの代わりに (86):04/12/20 00:11:14
「じゃあ、行こうか」
5分ほど立って、若いふたりがカウンターを離れたところで魅録が立ち上がった。
胸ポケットに手を突っ込んで、朝出て行くときに持っていった封筒を取り出した。
まず三つ折にされた茶色の用紙を取り出し、封筒をまた胸ポケットに突っ込んでから用紙を
広げてそれを右手に持った。
私も立ち上がって、魅録の隣を歩く。
カウンターに着いて魅録が用紙を係りのひとに手渡し、私達は口を揃えて『お願いします』と
言った。
係りのひとは特に表情を変えず、用紙に目を通し始めた。
私は魅録を見上げ、それから係りのひとに視線を向ける。
昨日の夜、ふたりで何度も何度も間違いがないか見直したのに、心臓はそんなことに関係なく
鼓動を速めていく。
私は知らず知らずのうちに爪先立ちになり、カウンターに手をついて身を乗り出していた。
「それでは、こちらは受理いたします」
永遠とも思われるほど時間がたった後、係りのひとが抑揚のない声で言った。
私達はお互い顔を見あわせ、それから軽く頭を下げてカウンターを離れた。
魅録の左手が、再び私の右手を握り締める。
私達は後ろを振り返らずに歩き始め、区役所を後にした。
126名無し草:04/12/20 00:13:03
以上で、『サヨナラの代わりに』は終わりです。
読んでくださった方、スルーしてくださった方、本当にありがとうございました。

127名無し草:04/12/20 03:51:56
>サヨナラ
続きだ!と思ったら…終ってしまいました。。。(ノ_・。)
残念ですが、お疲れ様でした。
128名無し草:04/12/20 08:22:33
>サヨナラの代わりに
「いつか、きっと」から続けての連載終了お疲れ様でした。
二作品とも考えさせられる内容で面白かったです。
野梨子と魅録は元の伴侶に、どうしてなのか聞けばよかったと
思っているようですが、やっぱり聞かなくて正解だったんじゃないかと。
世の中には知らなくていいことがありますよね……
ともあれ、二人はハッピーエンドを迎えられてよかったです。
次の作品をお待ちしております。
129名無し草:04/12/20 08:40:56
>サヨナラの代わりに
作者さま、お疲れさまでした。
子どもな私は、どうしてなのか明白にしなければ
済まないところがあるのですが
この作品を通して知らなくてもいいことの意義を
改めて考えさせられました。
大人の世界をありがとうございました。
次の作品、お待ちしています。
130名無し草:04/12/20 10:01:11
>サヨナラ
文学としてはこの中途半端な感じが良いのでしょうけど
個人的には消化不良というか、スッキリしない読後感でした。
真実を知った二人が、その葛藤とどう向き合うのかが読みたかったのにぃ〜
更に言えば「いつかきっと」の数年後の4人の様子も読みたかったのにぃ〜
ここまで引っ張っておいて・・・作者さまったらイケズぅ。
(こうなったら自分で勝手にその後を妄想して楽しもう・・・くすん)
あ、でもとっても大好きな作品です。
これは文句じゃなくて素直な感想なので、気に触ったらごめんなさい。
本当にあなたの作品世界が好きでした。
次回作を心からお待ちしてます。
131名無し草:04/12/20 11:02:41
>サヨナラの代わりに
「いつかきっと・・・」と併せて私も大好きなシリーズでした。
独立したお話としてはこの結末ですっきりですね。
今後二人が結婚式のときにでも真実を知ることがあるのか?
その時に何を考えるのか?
清四郎と悠理はどうなるのか?
などなど未来は読者の手に、ということなのでしょうね。
美童と可憐から見た4人などを想像しても楽しんでいます。
132名無し草:04/12/20 11:26:50
>悠理と清四郎
ちょっぴり切なく可愛いシリーズで大好きだったんですけど
今回はいくらなんでも切なすぎです。泣いちゃいました。
これがシリーズ最終回なんでしょうか。哀しい

>サヨナラの代わりに
え?これで終わりなんですか?そんな〜
自分、想像力が乏しいのでみなさんのように
その後を想像して楽しめない・・・○| ̄|_
作者様、更なる続編か可憐美童編とか書いてくださいません?
133名無し草:04/12/20 13:37:31
>サヨナラの代わりに
「いつか、きっと…」からの連載、本当にお疲れ様でした。
登場人物の行動や、物事の良し悪し、自分の物の見方など、
色々な意味で、考えさせられる作品でした。
私も>>130さんのように、真実を知った二人がどうするのか、など
知りたかったのですが、全てを知ろうとする事で、かえって
自分や誰かを決定的に傷つけることがあるんだ、と思えば、
これでよかったのかな、と。
独特の、文学的な世界(お話)を、ありがとうございました。
134名無し草:04/12/20 19:18:58
>悠理と清四郎

改めて読み返してみたら、以前の悠理の独白がこの結末を
物語っていたんですね・・・。ううーん・切ない。
二人の不器用でもどかしい距離、埋めようとする呪文、
一生懸命な恋でしたね。切なくて、悲しくて、素敵でした。

>サヨナラの代わりに

連載お疲れ様でした。いつも楽しみに待ってました。
私もやはり清四郎と悠理が気になるのですが・・。
これは「魅録と野梨子」サイドの物語なのだな、と思いました。
続きをいつか書いてくださると嬉しいです。
有難うございました。
135名無し草:04/12/21 20:38:50
「横恋慕」をUpします。
今回は4レスいただきます。
>50の続き
136横恋慕(101)魅×悠×清:04/12/21 20:39:24
悠理の見舞いに来たと五代に告げ、魅録は一人で部屋へ入った。

カーテンの引かれた薄暗い部屋に足を踏み入れると、足音を忍ばせて天蓋のついたベッドへ
と近付く。仮病かもしれないと疑った自分を恥じながら。
薬が効いているらしく、彼の恋人は安らかな寝息を立てて眠っていた。

ふと、サイドテーブルに目をやると、キラリと光るものが目に留まった。
それは・・・自分の贈った卒業祝いだった。
一瞬胸が痛んだが、気を取り直してつまみ上げる。
具合が悪いから外したんだろう。それだけのことだ、と。

もう一歩ベッドに近付いた時、水指しの後ろに隠すように置かれた小箱に気付いた。
それが宝石を入れるケースだということはもちろん知っている。
だが、残念ながら彼がプレゼントしたジュエリーアキのかわいらしいデザインとは違った。
重厚で、上質な、紺色のベルベット。
なぜだか中身を確かめなくてはならない気がして、悠理の様子を横目で見つつ手を伸ばした。

こっそりと蓋を開けると、現れたのは見事な煌めきのダイヤのリング。

彼の心臓が、意志とは無関係にせわしなく打ち始めた。
まさか・・・?

いや、きっとおじさんかおばさんからのプレゼントだ。
もしあいつが贈ったものだったら、あれほど結婚を嫌がった悠理が、後生大事に持ってるはず
がないじゃないか。そう思おうとした。
派手好きなおばさんが選んだにしちゃ小さいし、シンプルすぎるデザインだが・・・。
震える手でそれをつまみ、息が止まった。
137横恋慕(102):04/12/21 20:40:33
刻印された日付けには覚えがあった。
あの二人の婚約発表の日。そして、S to Y というイニシャル。

凍り付く魅録の後ろで、空気が揺らいだ。

「・・・せ・・・・・・・・・しろ・・・?」

掠れた声に打ちのめされる。


背中の向こうで悠理が泣いていた。
こっち向いてよ、清四郎、とその声は呼んでいた。

夢の中でも、悠理は泣いていた。


「清四郎・・・なんで・・・」
悠理は立ち竦んでいる魅録の上着の裾をつかんだ。
「・・・・・・行かないで、ずるいよ・・・」
苦しそうにもう一方の手で胸を押さえながら、必死で上体を起こす。
そして、暗がりに溶け込んだその背中が、求めている男とは違うことを漸く知った。
「・・・みろ・・・く・・・・・・?」
男は振り返らない。
張りつめた空気の中、悠理はその手を放し、消え入りそうな声でごめん、と言う。
138横恋慕(103):04/12/21 20:41:22
「・・・なんでだ?なんで、あんな男がいいんだよ」
怒りに震える声が、血の気を失っている悠理の上に降り注ぐ。

「いつだってお前のこと、バカにしてばっかりで・・・お前を猫かなんかだと思ってんだ。
女だなんて思ってねぇんだぞ?剣菱が手に入るって理由だけで、お前と結婚しようとした
んだぞ!?あんな・・・あんな奴より、清四郎なんかより、俺の方がずっとお前を幸せに
できるんだ!」
押し殺した声を絞り出しながら、魅録は振り返った。
だが、悠理はじっと顔を伏せて唇を噛み締めるばかりだった。

右手を突き出し、彼はついに怒声を上げた。
「なのに、何なんだよ、これ!?なんでこんなモンまだ持ってんだよ、悠理!」
ぼんやりと彼を見返した悠理の瞳が、不意に彼の手元に注がれた。
「・・・それは・・・・・・」
言い淀む女の前で、魅録は軽く目を細めた。


それは、恋人であるはずの女の、明白な不実の証拠だった。
思い出という言葉では片付けられない何かが、確かにそこに存在していることの。
139横恋慕(104):04/12/21 20:42:08
「可憐には、貰ってないって言ったんだろ?あいつすっかり信じてたぜ。お前、意外と嘘つくの
上手なんだな」

不気味なほどに、落ち着いた声だった。
悠理はパジャマの胸元を握りしめたまま、ベッドの上で座り直し、顔を横へ向けた。
無言で自分を見据え続ける鋭い視線から逃げるように。

「貰ったんじゃ、ないよ。あいつが勝手に置いてっただけ。捨てる・・・つもりだった」

唇が震え、言葉にならない。
その掠れる声を追うようにして、魅録は吐き捨てた。
「・・・そうか。じゃあ、俺が捨ててやるよ」

くるりと背を向け、魅録は荒々しくカーテンを引いて窓に手をかけた。
彼の意図を察知した悠理は、声にならない悲鳴を上げた。



その時だった。
二人の後ろで、激しい音を立ててドアが開かれた。

悠理、という呼び声と共に。



[続く]
140名無し草:04/12/21 23:06:48
>横恋慕
クライマックスですね!
清四郎VS魅録が次回展開されるのでしょうか。
ドキドキしてしまいます。
141名無し草:04/12/22 00:46:22
>横恋慕
こちらもそろそろ大詰めでしょうか?
うーむ後を引く繋ぎだ。続きが気になる。悠里と呼んだのはいったい・・・

>サヨナラの代わりに
作者さまお疲れ様でした。
往年の金曜ドラマっぽくて「いつかきっと」の頃から好きでした。
142141:04/12/22 00:48:40
悠理の字、間違えた。うっかりしました。
143名無し草:04/12/22 12:36:46
>横恋慕
いよいよ佳境に入るのでしょうか。
3人の想いがどんな結末を迎えるのか・・・
続きをお待ちしております。
144名無し草:04/12/24 19:59:37
今日はイブですね。作家さま、すてきなクリスマス話をお待ちしてます。
145クリスマスローズ:04/12/24 21:14:17
>144さんのような声にお応えして、魅録単独のクリスマス短編をUPします。
3レスいただきます。

*******************

そういや今夜はクリスマスイブだっけか。と魅録は思う。
シンプルに鮮やかなクリスマスイルミネーションにトレードマークのピンク頭を照らされる。
はあ、と吐いた息は煙草をくわえているわけでもないのに白い。
どんなに暖冬でもこの時期にはきっちり冬将軍が下りてくる。律儀な将軍様だ。
クリスマス寒波の名前は伊達じゃない。

彼には特に予定はなかった。
倶楽部のほかの連中は、というと、可憐と美童は言うまでもなくそれぞれの相手とデートだ。
美童のほうはどうせ何人も掛け持ちでとびきり忙しくて体力を使う夜になっていることだろう。
可憐のほうは日付が変わる前にちゃんと家に帰って母親と過ごすに決まっているが。

いつも魅録と騒いで過ごす(大抵は他のシングルの遊び仲間も一緒にだが)悠理は今年は母親に引っ張っていかれてパリでイブを過ごしている。
一昨日、終業式が終わった途端に執事の五代が迎えに来てそのまま拉致られたのだ。
着せ替え人形にされてるんだろうなと魅録は苦笑した。

清四郎と野梨子にはクリスマスはほとんど関係ない。
純和風な白鹿家はともかくとして、すでに年間行事にさほどの夢も感慨も持っていない老成した姉と清四郎がいる菊正宗家でも特に何もしない日であるらしい。
いつものように本を読んで過ごしますよ、と笑っていた。
野梨子のほうは稽古事のお師匠さんの家で幼稚園生のお孫さんのためのパーティーがあるので参加するのだと言っていたが。
146クリスマスローズ:04/12/24 21:16:48
魅録は予定もないことだし、いつものように彼女のいないヤローどもと飲み明かそうかと思っていた。
そうして珍しく街を歩いていた。年末で取締りが厳しいのだ。飲酒運転で逮捕されて親を辞職させるのもマヌケだ。

ふと、彼の足が止まった。
そこには小さなフラワーショップ。
赤と緑のポインセチアが最後のチャンスと店頭に並べられている。
そしてイブのテーブルを飾るためのポットに入ったフラワーアレンジたち。
店の内部には正月向けの門松などの準備も始められているようだったが。

その中でも彼の目に留まったのは、白い花だった。
緑の茎にふわりと広い葉。
そして花びらの先が少し尖ったような丸い形の白い花。
札にはクリスマスローズと書かれている。

その花に、魅録は彼女の面影を見たような気がした。
真っ白で真っ白で、無垢なその花───

似合わないのはわかってるんだけどさ、と自分に悪態をつきながら、彼は店員に声をかけた。
147クリスマスローズ:04/12/24 21:18:57
ジッポーの蓋をかちりと鳴らして火をつける。少しオイルが燃える臭いがしてじじ、っと音が鳴る。
自宅には両親はいない。
昨日の母・千秋の誕生日に彼女にケーキと花束を渡すために父・時宗は彼女を追いかけてオーストラリアに行ってしまった。
暗い室内、ジッポーの火に照らされて先ほど手にしたクリスマスローズのミニブーケが転がっているのが浮かび上がる。
魅録はふーっと煙草の煙と共に長い息を吐いた。
あの人を想いながら手にしたものの、顔に似合わず情熱的な父とは違ってそれを彼女に渡すなどととても想像すらできない。
渡せないことをわかっていて彼はそれを手にしたのだ。
白い無垢な花。
それはとても彼女に似ていた。

かちり、と再び音をさせて蓋を閉じるとその小さな炎は消える。
明かりをつけていない彼の部屋を照らすのは小さな赤い煙草の火。
そして彼愛用の自作パソコンのディスプレイの青みがかった光だけ。
その中で、白い花がぼうっと月のように彼の目をひきつけていた。

ただ、白い花だけが。

              おわり
**********************

彼が誰を想っているのかはお好きに想像してください。
メリークリスマス♪
148名無し草:04/12/24 23:33:39
Merry X'mas♪
>144さんではないのですが、早速の作品うp、有難うございました!

>クリスマスローズ
一人過ごす魅録の姿が、ちょっぴり切ない、でも素敵なお話でした。
皆が別々のクリスマスなら、きっとこんな感じなんだろうなぁ。
クリスマスローズって、どんな花なんだろうと思い、ちょっと調べてみたのですが、
そうして読むと、改めて納得&想像を掻き立てられますね。
私も、慰められました(w
149名無し草:04/12/24 23:36:21
>クリスマスローズ
クリスマス話降臨!!
胸がきゅぅんとなっちゃいました〜。
白い無垢な花……というとやはり野梨子でしょうか!?
素敵なクリスマス話をありがとうございました!
150名無し草:04/12/25 10:33:58
>クリスマスローズ
わあ素敵なお話が!作者さまありがとうございます♪
私も最初は野梨子?と思ったのですが、
読み直して『可憐のほうは日付が変わる前〜』のくだりで
なんか魅録が可憐を良い意味で信じてるっぽくて
可憐もありかな、と思いました。
どっちにしても来年は魅録が想い人にブーケを渡せることを祈ります!
151名無し草:04/12/25 12:27:07
>クリスマスローズ
聖夜にふさわしい、すてきなお話でした。
読み手に相手の女性を想像させてくれるので、
好きなカプに脳内変換できるのも嬉しいですね。
倶楽部の女子は、ある意味皆無垢なので、
一人一人を順にイメージして楽しみました。
純情で一途な魅録、かなりかっこよかったです。
152名無し草:04/12/25 14:19:49
>クリスマスローズ
魅録好きとしては、うれしかぎりです。
ほんと好きなカップルでイメージできてよかったです。
私も 150さんと同じで読んでみて可憐もありかなと思いました。
作者さま、素敵なクリスマスプレゼントありがとうございました。
153名無し草:04/12/27 22:38:18
「横恋慕」、最終回までUpします。
11レスいただきます。
>139の続き
154横恋慕(105)魅×悠×清:04/12/27 22:39:24
俺は無言でサイドテーブルの上のリングをつまみ上げた。
ほんの数か月前に、俺が悠理に贈った小さな愛の証だ。
これを買った頃、俺はとっても幸せだった。悠理も、同じ気持ちだと信じてた。
掌にくい込むほど強く握りしめ、目を閉じる。

知ってたさ、本当は。いつだって悠理が真っ先に呼ぶ男の名は、俺じゃないことくらい。
気付かないふりを、していただけだ。


ドアが開かれた瞬間から、悠理の瞳は二度と俺に注がれることはなかった。
自分の名を呼びながら飛び込んできた男を、彼女はただ凝視していた。
想いの、全てを込めて。

男は肩を上下させながらも俺を見据え、凛とした声で言い放った。
「すまない、魅録。悠理を・・・奪いに来ました」


「ふざけんな!!」

渾身の力で叫んだのは、俺じゃない。
俺の背にしがみついたまま、悠理がガタガタと震えていた。
「いつも・・・いつも逃げるくせに。あたいのことなんか、なんとも思ってないくせに・・・
今さら何言ってんだよ、卑怯モン!」

だが、男は確かな足取りで一歩一歩近付いてくる。
悠理は俺の上着にしがみつき、息を詰めていた。
155横恋慕(106):04/12/27 22:40:02
彼はとうとう俺達の前に立ち、大きく一度息を吸った。
震えながら自分を見上げる女をじっと見つめ、口を開く。

「悠理。僕が馬鹿だった。ずっと、一番大切なことに気付けなくて・・・」
懇願するでもなく、照れるでもなく、清四郎はただ真っ直ぐに悠理に愛を告げた。
「でも、気付いたんです。お前が欲しい。他に、欲しいものなんて・・・僕にはもう何もない」

その時、俺は知ったんだ。
悠理が・・・どれほどこの瞬間を待ち焦がれていたのかを。


悠理は両手を重ねて口を覆った。
その唇から、男の名を呼ぶ音が漏れた。
「せー・・・しろ・・・・・・」

そのまま崩れ落ちた細い体を、俺はもう抱きしめてやることもできなかった。
心のひと欠片さえ、繋ぎ止めることはできないと、わかってしまったから。


「そっか。お前、こいつの名前を呼んだんだな。俺に抱かれながら、清四郎って・・・」
呟いて、思わず笑い出した俺を、清四郎が凝視する。
「魅録・・・・・・?」
笑いが後から後から込み上げて、涙が滲んだ。
「あー、バカバカしくてつき合ってられねーよ。熨斗つけてくれてやる、こんな女」
精一杯の捨て科白と共に、手の中の箱を床に放り投げた。
呆然とした瞳のまま、清四郎がそれを見下ろした。
156横恋慕(107):04/12/27 22:40:59
何か言いたげに俺を見る清四郎に口を開かせる隙を与えず、俺はサイドテーブルに足を
向けた。

謝られるのも、感謝されるのも筋違いだ。
ぶん殴って気を楽にさせてやるほど、優しくもなれない。
――これ以上、惨めになんてなりたくなかった。ただ、それだけのことだ。


「・・・ひとつ、教えてくれよ」
俺の声に、口を引き結んだまま清四郎は硬い顔を向けた。
「あの日・・・卒業の日だ。何があったのか、知りたい」
床に座り込んだままの悠理が、びくんと肩を揺らす。
それをちらりと横目で見てから、清四郎はまっすぐに視線を俺に向けた。
「眠っている悠理に、キスをしました。僕が・・・勝手にしたことです」

耐えきれずに、悠理が嗚咽した。
清四郎はゆっくりと瞬きをした後、奥歯を噛み締める。

「何だよ。キスだけか、いっそ寝取ってくれりゃ、話はもっと早かったのによ」
思わず、鼻先で笑った。
そんなことをするつもりじゃなかったのに、な。
157横恋慕(108):04/12/27 22:41:41
「・・・もう、俺はいらねぇんだろ。なあ、悠理?」
指輪を手に振り返ると、漸く俺の存在を思い出したかのように、ぺたりと床に座り込んでいた
悠理が顔を上げた。
「本当は最初から、いらなかったんだろ?」
「ちが・・・う・・・」
肩を震わせながら、大きくかぶりを振る。
その拍子に、たまっていた透明な雫が溢れ出し、頬へと伝い落ちた。
「ごめ・・・魅録・・・・・・一番好きだって、思ってたのに・・・ごめん・・・」
そう言って、両手で顔を覆い、しゃくり上げる。

言われなくたって知ってるさ。お前が俺を好きだってことくらい。
だが、もっと・・・早く気付くべきだった。
その愛情の種類が、俺が求める形とはほんの少し、そして決定的に違うことに。
そして。
彼女に横恋慕していたのは、自分の方だったのだ、と。


「・・・あばよ、悠理」
ポケットに手を突っ込み、もう一方の手を上げた。
「俺は、もうお前なんかいらねぇ。せいぜい・・・ご主人様にかわいがってもらうんだな」


俺の名を呼ぶ、愛した女の声が聞こえた。

振り返るほど野暮じゃない。せめて、最後くらいは格好つけたいからな。
ドアを抜け、煙草に火をつけながら階段を下りる。

いつもより、煙が目に沁みた。
158横恋慕(109):04/12/27 22:42:19
その日、珍しく自宅の邸内にいた剣菱豊作氏は、小さく溜め息をついた。

どうしようもないじゃじゃ馬だが、彼にとってはかわいい妹である悠理が、このところずっと
元気がないように見えて仕方がないからだ。やたらと部屋に籠っているし、あれほど仲の
よかった連中ともあまり一緒に過ごしていないようだった。
今日もまた彼女は熱を出してふせっているようだ。・・・健康だけが取り柄のはずなのに。
どう考えても、尋常な事態ではない。

だが本人にそれとなく尋ねても、別になんでもないよ、なんて返されてしまう。
脳天気な両親は、悠理が恋をしたせいで大人しくなったと喜んでいるようだが、どうも
何かが引っ掛かっていた。
魅録くんに恋をしているなら、なぜあいつはあんなに寂しそうな表情をするのだろう、と。
同じような瞳を見せた男のことが脳裏を過り、思わずうーん、と唸る。
――まさか。そんなことはありえない、よな?

ないない、と顔の前で手を振りながら苦笑し、ふと目を上げた彼は、見覚えのある車が
突っ込んでくるのに気付いた。まさに、玄関を破壊しそうな勢いであった。
159横恋慕(110):04/12/27 22:43:28
それには妹の友人の一人、スウェーデン大使の息子が乗っているはずだった。
先刻、五代からもう一人の友人、もとい、妹の恋人が見舞いに来ていると聞いたところだが、
まさか友人たちが勢揃いせねばならぬほどの容態でもあるまいに。
はて?と首を傾げながら、階段を降り始める。
そう言えば、美童くんは婚約騒動のことを気にしていたようだけど・・・今さら何かあるんだ
ろうか。もしかして、悠理の状態と関係のある何かが?

その時、車から予期せぬ人物が飛び出してきた。
黒髪の男…妹の元婚約者だ。

踊り場で思わず足を止め、駆け上がってくる彼をまじまじと見つめた。
バラバラだったパズルが、ひとりでに組み上がっていく感じがした。
「清四郎くん?いったい、どう・・・」
声をかけると、すれ違い様、振り返りもせず彼は叫んだ。
「見つかりました!欲しいもの・・・」
そして、そのまま一陣の風の如く駆け抜けて行った。

「悠理を貰っていきます!」
そう、背中越しに投げ付けて。


豊作の中で、パチンと最後のピースが埋まった。
額に手の平を当てて頷いた彼を、五代が目を白黒させながら見守っていた。
160横恋慕(111):04/12/27 22:44:21
ぱたんという音がした。
目の前にはただ、閉じられたドアがあって。
いつも支えてくれていたはずの魅録が自分に背を向けたことを、漸く悠理は理解した。
何と呼べばいいのかわからない感情が込み上げ、床を叩いて、泣いた。

どれくらいそうしていたのか、わからない。

「悠理」
耳元で、低い、優しい声が聞こえた。
ゆるゆると頭を廻らそうとした悠理は、焦点が合わぬうちに、思いきり抱き寄せられていた。


自分でも気付かぬまま求め続けていた温もりが、確かにそこにあった。
いつもいつも、ただ見つめることしかできなかった背中ではなく。

見上げると、潤んだ黒い瞳が自分を見つめていた。
「すまなかった、悠理。もう一度・・・最初からやり直すチャンスをくれませんか」

左手に、ひんやりとした感触が訪れた。
あの日受け取りそびれた指輪は、今もその指にぴったりだった。
「僕と、結婚して下さい」
清四郎は、そう言って微笑んだ。

目を閉じて頷いた悠理に、清四郎はそっと口づけた。
―――三度目のキスは、夢ではなかった。

唇が震え出し、悠理はその胸にしがみつくと、顔を埋めて泣きじゃくった。
受け止める清四郎の胸も震えていた。泣いているのかもしれなかった。

そうして、二人はただずっと抱き合っていた。
161横恋慕(112):04/12/27 22:45:03
鼻歌まじりに美童が帰宅すると、友人の一人がアポなしで彼を待っていた。
リビングで雑誌を読んでいた杏樹は、その旨を告げながら顔を上げ、思わず目を見張っ
たが、彼の兄は「あ、そう」とだけ言って来客の待つ部屋へと足を向けた。

「お待たせ〜」
ひょこっと顔を覗かせた美童を、魅録はあんぐりと口を開けて見つめた。
「な・・・どうしたんだよ、その頭!?」
信じがたいことに、彼の自慢だったはずの見事な金髪は、指の間をすぐに滑り落ちてしまう
程の長さに切り揃えられていた。
「似合う?ヘアメイクアーティストの彼女に切ってもらったんだ」
得意げに口笛を吹きながら、美童は前髪を掻き上げた。

「いや、似合うけど・・・。その・・・悪いな、勝手に上がり込んじまって。携帯もつながらないし、
デートなら邪魔しちゃ悪いと思ったんだが・・・」
まだ目をぱちくりしている魅録に、うん、と微笑み、美童は彼の隣に腰を下ろした。
「ごめんね。いろいろ面倒だから携帯切っちゃってたんだよね〜。何かあったの?」
「・・・面倒って、また女絡みかよ!?」
「まっね」
美童はくすくす笑う。
女と言っても、本当は今日彼が避けているのは、野梨子と可憐なのだが。
「ったく。お前さん、本命の彼女はどうしたんだよ・・・」
「ああ。僕、失恋しちゃったみたい」
へ?と言いかけた後、魅録は髪を掻きむしって笑い出した。
「そっか・・・それで切ったのか。ちょうどいいや。俺もなんだよ。今夜はヤケ酒につき合わそう
かと思ってさ」
美童は黙って頷いた。
162横恋慕(113):04/12/27 22:45:54
酔いが回ってぼやき始めた親友の隣で、美童は穏やかに微笑みを浮かべていた。
「こんないい男をフるような、見る目のない女はやめて正解だよ」
「おー、いいこと言うねえ、お兄さん!で?お前さんの方は・・・?」
「・・・僕も本気だったんだけどね。もう諦めることにしたよ。彼女が本当に好きなのが誰なの
かは、とうにわかってたことだし」
「なんだよ。それって・・・旦那のことか?」
魅録が眉間に皺を刻むと、美童は手を上に向けて差し出した。
「煙草、一本くれないかな」
驚きながらも魅録はそれを取り出し、二人で煙をくゆらせた。

部屋を満たしていく白い煙を眺めながら、思い出したように魅録が呟いた。
「俺も一度会って見たかったな・・・その人によ。美童がマジになるくらいだから、よっぽど
いい女だったんだろ?」
「・・・うん。すごくかわいい人でね。よく笑って、よく泣いて・・・子供みたいなんだ」
「ふうん?なんだか意外な感じだな。もっと・・・オトナな女性を思い描いてたぜ」
と、ちょっと首を傾げた魅録の前で、美童は軽く目頭を押さえた。
「あー、マルボロはやっぱキツいや」
「・・・・・・泣きたいなら、泣けよ。何なら貸すぜ?俺の胸」
魅録は親指で己の胸を突いて片目を瞑った。
だが、長い息を吐き出した後、美童は小さく首を左右に振る。
「僕は・・・後悔してないよ。彼女には、誰より幸せになって欲しいから・・・」
163横恋慕(114):04/12/27 22:46:31
しばらくその横顔を見つめた後、魅録は「そうだな」と頷くと、ポケットから何かを取り出し、
彼の手の中に落とした。
美童はそれをつまみ上げ、さすがにちょっと悲しい顔をした。
「魅録、これは・・・」
「やるよ。俺には必要なくなっちまったから・・・。取り巻き連れてツアーでもやれよ」
それは、卒業祝いに元恋人の両親から贈られた、豪華なクルーザーのキーだった。

美童はくすっと笑う。
「せっかくもらっても操縦できないよぉ。魅録も一緒に来てくれない?」
「めちゃくちゃいい女が同行するってんなら、行ってやってもいいぜ」
肩を竦め、魅録はポケットからもう一つ何かを取り出し、掌のそれをじっと見つめた。
「・・・・・・捨てに、行くかな。あの海に」

切なく呟かれたその一言を、美童は聞かないふりをした。
手元から瞳を上げ、いたずらに片目を瞑って見せる。
「じゃ、さ。とびっきりいい女紹介するよ。おかっぱとウェーブヘア、どっちがいい?」

一瞬ぽかんとした後、魅録はその場にぱったり倒れた。
「うわ〜、勘弁してくれよ!あいつらになんか、何言われるかわかったもんじゃねぇ。当分顔
合わせたくねーよー!」

好奇心剥き出しで詰め寄る女達を想像し、二人はどちらからともなく笑い出す。
広い部屋を、笑い声が満たした。
164横恋慕(115):04/12/27 22:47:22
「お節介しちゃってごめんな、魅録」
美童の呟きは、笑い転げている親友の耳には届かなかったようだった。
「でも・・・こうするしかないだろ?」
「え、何だって?」
滲んだ涙を拭いつつ、魅録は漸く顔を上げた。
そのままむっくりと起き上がり、彼は口の端にいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あー、笑ったらすっきりしたぜ。とりあえず・・・乾杯でもするか?こうなりゃヤケだ」
そうだね、と頷き、美童はボトルに手を伸ばす。

「俺達の、失恋記念日に〜」
魅録は笑い、高々とグラスを差し上げた。


そっと瞳を閉じ、美童は心の中で愛しい人の名前を呼んだ。
――告げられなかった愛の言葉の代わりに。

そうして。
グラスを掲げ、親友に向けて片目を瞑った。

「僕達が愛したひとの幸せを願って。・・・乾杯」




[完]
165名無し草:04/12/27 22:48:31
「横恋慕」は以上で終了です。
途中で話が膨らみ、長引いてしまってごめんなさい。
結局、美童が裏主役になってしまいました・・・。
最後までおつきあい下さった方、スルーして下さった方、ありがとうございました。
特に、感想や激励の書き込みをいただくと、とても励みになり、
どうにか最後まで書き上げることができました。この場で御礼申し上げます。
166名無し草:04/12/28 09:07:41
>横恋慕
おおお。お疲れ様でした。
悠理が本当に好きな人と一緒になれてよかったです。
でも美童が一番辛いところですね。
清四郎以外の誰も知らない彼の気持ち・・・
でもそのぶん、清四郎はしっかりとその事実を受け止めて
悠理を大事にしてくれるのでしょう。
魅録はいい男なのでちゃんと彼を心から愛してくれる女性
が出現します。きっと。

次回連載、楽しみにお待ちしております。
167名無し草:04/12/28 22:00:26
>横恋慕
素敵なお話をありがとうございました。
男の子が3人ともとっても良かったです。
3者3様に萌えました。
魅録の振られ方、気の毒だけどすっごくかっこよかったです!
168名無し草:04/12/28 23:11:47
>横恋慕
長期にわたる連載、本当にお疲れさまでした。
連載当初から、毎回楽しみにしていたので、淋しい気持ちもありますが…。
>167さんが仰ってるように、男の子三人(それに豊作さん)が、とても魅力的でした。
悠理もですが、最後は皆が気持ちの上で納得のいく、ある意味幸せ(?)な
結末で良かった、と思いました。
個人的には、魅録贔屓で読んでたので、ちゃんと幸せにしろよ、って感じですがW>清四郎

新作でまたお会いできるのを、楽しみにしています。
169名無し草 1/2:04/12/29 01:54:38
30万ヒット記念の話し合いがまとまったのでお知らせします。
経緯はここらへん。
ttp://aa5.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028904997/715-756


***  30万ヒット記念・キャラ祭り  ***

☆祭り日のキャラをメインにしたもので、好きな内容のものをウプしてください。
・短編、イラスト、キャラ考察、妄想小ネタ、etc…なんでも可です。
・カップルにする場合、相手は誰でもOKです。
11(火) 可憐祭り
12(水) 清四郎祭り
13(木) 野梨子祭り
14(金) 美童祭り
15(土) 魅録祭り
16(日) 悠理祭り
17(月) その他のキャラ祭り

☆短編・イラスト
・名前欄に「30万hit記念・<作品のタイトル>」と入れてください。
170名無し草 2/2:04/12/29 01:55:45
☆短編・考察・妄想小ネタ・etc
・本スレへのウプを推奨、どうしても気が引ける…という人は「妄想同好会BBS」の
 該当スレッド(*)へのウプも可です。
・該当日にウプ出来ない人は、断り書きを入れてコソーリ本スレにウプ。又は「妄想同好会
 BBS」の該当スレッド(*)へ。
・1作品10レス以下でお願いします。
・18禁ものもOKですが、タイトル欄に「R」と明記してください。
・その他のお約束は普段と同じです。
 *本スレの祭り日より先に、嵐さんが作ってくれるそうです。前倒しウプも可。

☆イラスト
・18禁でないものは「妄想同好会 絵板」にウプしてください。
・18禁のイラストは次のいずれかをすれば、嵐さんがHPにウプしてくれるそうです。
 ア.嵐さん宛にメールして添付する。
 イ.どこかのウプローダーにウプして、嵐さんにURLを知らせる。
 ウ.自分のサイトに一時的にウプして、嵐さんにURLを知らせる。
・18禁の場合、「局部がかかれていない(見えない)物であり、出版物として商業市場
 (同人ではありません)に出せる程度の物」でお願いします。

=== キャラへの愛に・・・燃えてみませんか? ===
171名無し草:04/12/29 03:15:36
>横恋慕、お疲れさまでした!
よかったねよかったね悠理&清四郎〜〜!
もうこれで新しい年が心置きなく迎えられる気分です。
ああ原作もこういうふうに(番外編でもいいから)
幸せに終わってくれないかなあ。夢です。
172名無し草:04/12/29 08:46:07
あ、横恋慕がUPされてたんだ。
ついに完結ですか、お疲れ様でした。
>「・・・あばよ、悠理」
柳沢信吾を思い浮かべてしまいました。魅録ちゃんゴメンw
悠理も苦しかったでしょうが、やはり魅録が切なかったなぁ。
でも、魅録も美童もいずれ素敵なヒトがみつかることでしょう。
清四郎と悠理は今度こそ幸せにならないとだね。
173名無し草:04/12/29 09:47:10
>横恋慕
完結おめでとうございます。
清四郎と悠理にはこれからいっそう幸せになる努力を。
魅録と美童には新しい恋の訪れがあると思います。
お疲れ様でした。
174名無し草:04/12/29 23:06:04
>横恋慕
作者さま、完結おめでとうございます。
愛しい人を奪い去られた魅録と真剣に思う気持ちを秘め続けた美童に
この先幸せが訪れることを陰ながら祈っています。
それから、この結末をあとから聞かされる野梨子と可憐の様子が
どんなものか気になってもいます。
また、何か書いてくださればありがたいなあと思っています。
175嵐 ◆F/MOUSOU1Q :04/12/30 02:46:26
>169-170に補足を。
まゆこスレでご意見をいただき、1月4〜5日頃に、
妄想同好会に補助スレッドを作ることにしました。
各キャラの祭りに合わせて計7本作り、スレ立て後、
1月中は書き込めるようにする予定ですので、
前夜祭・後夜祭などにご利用くださいませ。
176名無し草:05/01/01 11:54:06
あけましておめでとうございます。
みなみなさま、本年もよろしく妄想お願いします。
まずキャラ祭ですね。
楽しみにしております、もとい、鋭意執筆中です。

中断中の連載やリレーが復活することも祈りつつ。
177雌蕊 (清×可/20禁):05/01/02 22:46:30
清×可のR−20のSSを投下させていただきます。
エロ自体は大したことがないのですが、人によっては不快に感じられる描写があるかと思いますのでご注意ください。
あと清×可と銘打ってますが、ふたりは恋愛関係ではありません。
また、清×可というよりは可×清(可憐攻めで、清四郎受け)に近い内容です。
178雌蕊 1(清×可/20禁):05/01/02 22:47:21
彼女には、それぞれ使い分けている「いつもの香り」というものがある。
制服を纏っているとき、男に腕を絡めているとき。自分を演出することに長ける彼女は、
さりげなく、だが印象深い香りを選ぶ。
そしてシーツの波の間でしか嗅いだことのないこの香り。
けっして濃くはないというのに、気がつけば彼女の肌から燻るこの香りが、僕の脳髄を犯している。
一度銘柄を聞いたことがあるが、僕と寝るときには何もつけないのだと言い張って、教えてはくれなかった。
そんな筈はない。このような甘い香りが自然に発生するわけがないのだ。
「上の空ね、清四郎。もっと鳴いてちょうだい?」
僕に馬乗りになった可憐は、まるで絞めるように僕の首に指を這わせながら言った。
長い爪を立てられ、頸部の柔らかい皮膚がぴりぴりとする。
僕を睥睨するようにして見下ろす彼女は、何かが剥がれ落ちたかのように生々しい表情を刷いた。
それは艶っぽいを通り越して、どこか恐れすら抱かせるものである。
艶やかに波打つ髪が、汗ばんだ僕の胸板に張り付いた。
「くっ」
もう限界だと、朦朧と考える。
彼女の手首を掴んで僕の上から引き摺り下ろし、その腰を獣のように捉えて思うさまに突きたい。
そう思うのに、動くなとの言いつけを飼い犬のように守ったまま、
もどかしいほどに緩やかな可憐の腰の動きに身体を任せている。
「その顔、とても素敵よ。――だめ。その汚い手であたしに触らないでね」
いたぶるようにそんな言葉を投げつける可憐は心底楽しそうで、いっそ無邪気なほどだった。
一度顕在化した嗜虐性は、二度と隠れることはないのだろうか。
すでに彼女は、あきらかに人を弄ぶことでしか快楽を見出せなくなっている。
膣内をぐちゃぐちゃと貫かれるよりも、こうやって僕を責めているときの方があきらかに、
彼女の体は熱を持つ。
可憐自身の言葉を借りるとすれば曰く、「どっかイっちゃってる顔」で今、彼女は僕を見ている。
ふと素に戻った僕の前髪を、彼女はにこやかな笑みを浮かべたまま根元から鷲掴みにした。
そのままぐいと自分の顔の前まで持ちあげて、彼女は挑むように、殴りつけるように、その言葉を吐き出した。
「愛してるわ、清四郎。たとえあんたが情緒障害者で、誰も愛せなくとも。
こんなあたしを内心で侮蔑していたとしてもね!」
捨てるように投げ出され、再び寝台の上に転がされた僕は思う――馬鹿な女だ。
そう、馬鹿な女だ。勝手に狂ってしまった。
だが、月明かりの中、嫣然と存在するこの女は、なんて美しいのだろうか。
複雑な感情が鬩ぎ合う。どちらにせよ僕にとって特別な女であることには違いなかった。
僕を好きだと真摯に愛を告げた彼女を、自暴自棄になっていた僕が強姦したあの日から。
自分が誰も愛せない人間であることを、僕は随分前から知っていた。
誰のせいでもない。そのように生まれついただけの話だ。
思惟に耽ろうとしたその瞬間、言い様もない異物感を感じて、僕は身体を引き攣らせた。
排泄感に酷くよく似たその感触に、言葉が出ない。
可憐が僕の体内に、前触れなく指を突っ込んだのだ。
「あら、萎えちゃった」
硬さを失った性器が可憐の中から自然と抜けてしまった。しかし僕にそんなことを頓着する余裕はない。
嫌な汗を手のひらにかきながら、僕は耐える。
「後ろを犯されるってどんな気分かしら」
可憐は呟きながら、指を抜き差しする。
痛みしか伴わないその行為に、僕の性器は萎えたままであった。
しかししばらく経って、急に勃ちあがる。おそらく前立腺に触れたのだろう。
「ふ・・・・・・ぁ・・・んん」
嫌悪感と快感の間で、僕は呻くしかない。
快感とはいえど悦楽とは言いがたく、どちらかといえば苦痛でしかなかった。
僕の苦悶に気づいた可憐は、にやりと笑った。
髪をかきあげると、そのまま勃ちあがった性器を咥える。
苺のように真っ赤で毒々しい舌を見せつけるようにして嘗め回し、吸い付く。
そして指はそのまま前立腺を捏ね回し続け、一気に僕を追い上げた。
「ちょっと待って下さい、可憐!」
口腔内で射精することも、一方的に責められて童貞のように翻弄されることも、
何より、女のように喘ぐ自分自身に耐えられず、抗議の声をあげる。しかしどうにもならなかった。
「・・・・・・アッ」
聞くに堪えない声を発した僕は、恥辱とともに可憐の口腔内に射精した。
可憐は無造作にそれを飲み干す。ぼってりと厚い唇の周りに白い残滓がてらてらと光っていた。
僕はやってきた虚脱感に茫洋とした心地でいた。
「被害者みたいな顔するんじゃないわよ。あんたもあたしも同類なんだから」
甘い声で可憐は囁く。それは睦言に似て、しかし冷たい。その冷たさが僕には心地よい。
僕がこの関係を絶てずにいる理由だ。
「君と一緒にしないでください。僕は色魔じゃあない」
僕は鼻で笑うと、射精後の気だるさをおして、身なりを繕う。
シャワーも浴びず、そのまま制服のシャツに袖を通し、最後に蝶ネクタイを結ぶ。
「だから君を一生理解することもないだろうし、愛することなどもってのほかだ」
掛け値なしの本音を口にすると、可憐はまるで、こぼれ落ちんばかりに熟しきり、
らんらんと咲き誇る花のように笑う。
「酷い男。だから愛しているわ」

噎せ返るようなこの蟲惑的な香りは、まるで。



end
181名無し草:05/01/02 22:53:40
20禁なのに、sage忘れたままうpしてしまいました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
以後気をつけます。
182名無し草:05/01/03 10:00:35
長いこと鯖移転に気がつかなかったよw

>雌蕊
清×可のRに小躍りしました。
このカップリングって一番エロイと思うんですよねー。
情緒障害な清四郎にも、サドっ気ある可憐にも萌え萌えです。
183名無し草:05/01/03 23:26:27
>雌蕊
久々のR、美味しくいただきました。
清四郎って苦悶する表情がよく似合いますねー(笑)
病的な感じがする話が好きだったりします
184名無し草:05/01/04 14:25:39
>雌蕊

こういうお話もありだよね!
と鼻息荒く堪能させていただきました。
このカップリングって美味しいのに意外と作家さんが少ないので
次回作も楽しみにしています!
185嵐 ◆F/MOUSOU1Q :05/01/04 22:24:13
サイトが30万ヒットに達しました。ありがとうございます。
数字のあまりの大きさに、何やら夢のような・・・
どうかこれからも、よろしくお願いいたします。

それから、先ほど「30万ヒット記念・キャラ祭り」用のスレッドを、
>>2の「妄想同好会BBS」に作りました。
キャラ別スレッド6本+その他のキャラ用1本の計7本ありますので、
キャラ祭りの予備スレとして、ご利用くださいませ。
186名無し草:05/01/05 00:52:32
>185
嵐さん、30万ヒットおめでとうございます!
このスレが存続していけるのも、嵐さんのご苦労があればこそです。
30万ヒット祭、今からワクワクして待ってます。
作家さん達よろしくお願いします。
187名無し草:05/01/05 08:53:47
>185
30万ヒットおめでとうございます!!
嵐さんにはいつも本当にお世話になっています。
皆の知らないところでご苦労もあるでしょうに
ここまで続けてこられた嵐さんに敬意を表します。
ありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします。
188名無し草:05/01/09 14:29:12
保守っとこう!お祭りあるから書き込みないねー。
30万とは本当に凄い!楽しみだなぁ・・・。
189名無し草 1/2:05/01/10 22:25:24
あと2時間足らずで始まるので、念のためもう一度貼っとくね。
「妄想同好会BBS」の該当スレッドのとこだけ、手直ししました。


***  30万ヒット記念・キャラ祭り  ***

☆祭り日のキャラをメインにしたもので、好きな内容のものをウプしてください。
・短編、イラスト、キャラ考察、妄想小ネタ、etc…なんでも可です。
・カップルにする場合、相手は誰でもOKです。
11(火) 可憐祭り
12(水) 清四郎祭り
13(木) 野梨子祭り
14(金) 美童祭り
15(土) 魅録祭り
16(日) 悠理祭り
17(月) その他のキャラ祭り

☆短編・イラスト
・名前欄に「30万hit記念・<作品のタイトル>」と入れてください。
190名無し草 2/2:05/01/10 22:25:50
☆短編・考察・妄想小ネタ・etc
・本スレへのウプを推奨、どうしても気が引ける…という人は「妄想同好会BBS」の
 該当スレッド(*)へのウプも可です。
・該当日にウプ出来ない人は、断り書きを入れてコソーリ本スレにウプ。又は「妄想同好会
 BBS」の該当スレッド(*)へ。
・1作品10レス以下でお願いします。
・18禁ものもOKですが、タイトル欄に「R」と明記してください。
・その他のお約束は普段と同じです。
 *キャラ別スレッド6本+その他のキャラ用1本の計7本あります。
  該当日以後のウプも可。

☆イラスト
・18禁でないものは「妄想同好会 絵板」にウプしてください。
・18禁のイラストは次のいずれかをすれば、嵐さんがHPにウプしてくれるそうです。
 ア.嵐さん宛にメールして添付する。
 イ.どこかのウプローダーにウプして、嵐さんにURLを知らせる。
 ウ.自分のサイトに一時的にウプして、嵐さんにURLを知らせる。
・18禁の場合、「局部がかかれていない(見えない)物であり、出版物として商業市場
 (同人ではありません)に出せる程度の物」でお願いします。

=== キャラへの愛に・・・燃えてみませんか? ===
191名無し草:05/01/11 00:12:54
可憐祭開幕ですね。
何度も恋をしながらも、いつもギャグで不幸に落とされてしまう可憐さん。
一度はマジ恋もありましたが相手は幽霊でした。
そんなあなたが幸せになれる日を祈っております。

ていうか可憐て有閑メンバーのお姉さんみたい。
世話好きで、料理好きで、美人でおしゃれで。
やはり可憐なら自力で玉の輿を作ってくれると信じております。
可愛い燕を玉の輿に乗せてあげるのよ!可憐!
192名無し草:05/01/11 00:19:57
>191
激しく同意。<自力で玉の輿
あれだけのパワフルさがあれば、そういう相手を探すより、
自分で作った方が絶対早いと思う。
でも、夢見る乙女なところが、可憐らしいという気もw
お姉さんみたいでありながら、少女そのものだったりもする。
193名無し草:05/01/11 05:50:41
御大の「いい女系キャラ」ってあざといのが多いのに、
可憐はなんであんなに可愛いんだろう。
194恋はやさし(可→?):05/01/11 12:38:57
可憐の短編をUPします。
以前、クリスマスに投下された魅録話と同様に、相手は不明のお話です。
2レスいただきます。

****************

いつだって恋をするのが好きだった。
だって恋は女を美しく輝かせる栄養素だったから。

だけど、今度の恋は違った。

「ヤキが回ったわよ・・・ね。」
可憐がぽつり、と頬杖をついて言うのを、悠理が聞きとがめた。
「なんか言ったか?」
「なんでもないわよ。」
どうせ、あんたには関係ない話。

週末に無理やり引っ張って来られたスキー旅行。
可憐は彼女が大好きな柔らかいピンクのスキーウエアを着て、ロッジの外にはそれよりも少し濃いピンクの板と黄色のストックが立てかけてあった。
スキーがあまり好きではない野梨子は、今日は稽古事の日舞のほうでお弟子さんたちとの集まりがあるから、と断っていた。
野梨子は実家の茶道のみならず、日舞でもすでに名取として弟子を指導しているらしい。
なら腰はしっかりしてるからスキーはうまいはずだよね、と北国育ちの美童は首をかしげていた。
トイレを済ませるついでに可憐と一緒に熱いコーヒーを一杯だけ飲んだ悠理は、また外で華麗な滑りを披露し続けている男どものところへと帰っていった。
ちょっと羨ましい、と思う。
可憐の体力では彼らにどこまでもついていくなんてできないのだから。

前はこんなこと思わなかった。
男から守られて当然だと、そう思っていた。
でも今の彼女は、あの人の隣で同じものを見たいと思うことがある。
195恋はやさし(可→?):05/01/11 12:40:53
「結局、無理なんだけど、さ。」

可憐が得意なもの。
社交的な会話。
女の媚態。
そして何より料理を作ること。

だから、彼女は最後には決まって開き直る。
彼が帰ってくる場所、安らげる場所になれればよいのだ、と。

結局、それが一番大事なこと。

それってあいつの人生のパートナーになりたいってことなのかしら?
可憐は少し頬を染める。
まだこの恋を打ち明けてすらいない。
あいつはあたしを友人の一人にしか思っていない。
なのに、一人で先走っちゃってさ。

「ちょっと悔しい、かな。」
でも、恋に落ちるのは、あまりに簡単。

「なんか最近さ、可憐が雰囲気やーらかくならなかったか?あんまし男の話もしなくなったし。」
滑り降りてきた男三人に合流しながら悠理が言った。
すると彼らは互いに顔を見合わせて、くすり、と笑って頷きあった。
一人だけ、うっすらと頬を染めて───

****************

おしまいです。相手はお好きに想像してください。
196名無し草:05/01/11 17:01:55
相手は「?」とあるけど、個人的には清四郎で読みました。
>でも今の彼女は、あの人の隣で同じものを見たいと思うことがある。
こういうのってすごい萌えです。
197名無し草:05/01/11 19:22:44
>恋はやさし
本気の可憐と頬染める男子・・・w
3パターンでくまなく妄想させていただきました。ゴチです。

小ネタですが、黄桜の河童の格好をした可憐ってお色気MAXですよね。
河童可憐×和尚清四郎、なんてのも面白そう
198名無し草:05/01/11 20:39:03
30万hit、おめでとうございます。
短編うPします。
可+悠で9レスお借りします。
今日は聖プレジデント学園中等部の入学式。
漸く鏡から離れ、あたしは靴へと足を入れた。
いまいちカールが決まらなかったのはご愛嬌、初日から遅刻なんてしてられないもんね。
聖プレジデントの制服はとても上品で、自分がお嬢様になったような気分にさせてくれる。
そんな制服のスカートを翻して、あたしは玄関を飛び出した。
「行って来まーす」
「気を付けてね」
「任せてよ、ママ。絶対将来有望な坊ちゃんをゲットしてみせるわ!」
あたしは息を弾ませながら駅へと駆け出した。


満員電車の混雑から開放され、あたしは息を落ち着かせながら学校へと向かった。
最寄駅であるはずなのに、同じ制服の子はポツリポツリというところだ。
――皆何で通学しているのかしら?
あたしは頭を傾げながら、学校へと向かった。

あたしはキョロキョロと周りを見ながら学校へと歩いて行く。
やはり、歩いている人はまばら。
ほとんどがスーツを着た大人達。
一体、どういうことなのかしら?
まさか、日にちを間違えた……なんてこと、ないわよね?


――何なの、これ?ちょっと異様よ、この光景は。
それは、校門の前に出来ている大渋滞。
勿論、車は運転手付きの黒塗り高級車ばかり。
それらがずらーっと列をなして繋がっている。
校門まではまだ百メートル以上あるのに、車の列は増え続けている。
何だってこんなところで渋滞なんて起きているわけ?
「お嬢様、校門まではもう10分程かかると思われますが」
「名輪、めんどっちぃから、ここでいいよ。あたい、走っていくからさ」
あたしが渋滞の脇を歩いていると、そんな会話が耳に入ってきた。
どこかの車の窓が開いているようだ。
「あっ、お嬢様!」

男の人の叫び声と共に、後ろからバタンとドアが閉まる音がした。
あたしも吊られて後ろを振返る。
すると、金茶色でふわっとした髪のボーイッシュな少女が立っていた。
あたしとバッチリ目が合う。
「はよっ!」
少女がにこっと笑い、駆け出したかと思うと、あたしの脇を風の様にすり抜けて行った。

「おはよう」
あたしが挨拶を返した時には背中しか見えなかったけど。
――結構綺麗な子だったわよねぇ?マイライバル1号だわ。
あたしは段々小さくなる背中を見送った。

――どおりで駅に人がいない筈よね。
彼女と多分運転手さんらしき人の会話で解った。
この渋滞は送迎用の車による渋滞。
つまり、学校のお金持ち坊ちゃまや嬢ちゃまを、学校まで送り届ける為のものだってこと。

――いいじゃない!いいじゃない!!
あたしはこれから向かおうとしている学校に胸を弾ませていた。
さすが、聖プレジデント学園。
どうりで店に来たお客さんが、子供に通わせたい、って言ってた筈よ。
この学校にはお金持ちや良家のお坊ちゃまがいっぱい!
――こうなったら、必ずや押さえてみせるわ!
あたしは校門の脇にあったイチョウの木に、ぐっと玉の輿を誓って玄関へと入った。
玄関から真っ直ぐ教室へと向かう。
中を覗き込んでも、公立高校とさほど差はないと思う。
ただ、学園全体としてはクラッシックな感じが良い雰囲気を出しているし、何よりも通っている生徒
が違う。
あたしは、指定された席へと鞄を置いた。

「おはようございます」
隣にいた、艶やかな黒のストレートロングの少女が声を掛けてきた。
「おはようございます」
あたしもにっこりと挨拶を返す。
その少女はあたしの顔をじっと見つめて言った。
「小学部でもお見かけしませんでしたが、この学園は初めてですか?」
「ええ、初めてで心細かったの。私は黄桜可憐、よろしくね」
「私は、谷乃井沙織です。解らないことがありましたら、何でも聞いて下さい」
あたしはこの優しくて愛らしい沙織に、極上の笑みを返した。

あたしは仲良くなった沙織と一緒に講堂へと向かった。
これから始まるのは始業式。
かったるいけど、どんな男がいるのか物色しなくてはいけないもの。
あたしは沙織とおしゃべりしながら、入ってくる生徒をチェックしていた。


やがて全員そろったのか、シンとした静けさが漂ってきた。
痛いほど男子生徒の視線を感じる。
でも、それはあたしにとって生きるビタミン。
さっきも沙織から、可憐さんは綺麗で羨ましいと言われ、大いに気分を良くしている。
これじゃ、白鹿さんもうかうかしてられませんわね、などとも言っていた。
沙織が言うには、白鹿という女は小学部の頃から男子生徒にダントツ人気があったらしい。
あたしはさっきまで話していたことを思い出していた。
「どんな子なの?」
「そうですね、可憐さんがグラジオラスなら、白鹿さんは百合の花って感じかしら。容姿も美しいけ
ど、趣味がお茶にお花と日本舞踊、大和撫子ってあのお方の為にあるような言葉だと思うわ」
沙織はほぅと大きく息を吐きながら呟いた。
「ほんとうに素敵なお方で、私達にはちょっと近寄り難いの」

「じゃ、誰が一番もてるのかしら」
いい男の情報は同性に聞くのが一番早い。
あたしは目を輝かせながら沙織に聞いた。
「あら、それは間違いなく悠理様ですわ」
沙織がにっこりと微笑みながら答えた。

「ユーリ様?」
――ユーリ様ってことはハーフなのかしら?ってことは、顔も期待していいってことよね?
「女子にはダントツの人気ですもの」
再び沙織がほぅと大きく息を吐く。
どうやらこの女もユーリとやらに憧れているらしい。
「へぇ〜、そんなにカッコいいんだ?」
「ええ、白鹿様は男子に人気がありますけど、女子の一番人気は剣菱悠理様ですわ」

あたしのアンテナがピピッと反応した。
――剣菱って、まさか、あの日本有数の剣菱財閥……かしら?
「剣菱って、あの剣菱財閥の?」
「そうですわ」
沙織の目は恋する乙女そのものだった。

――神様有難う!!
これで狙いは決まった。
女子に一番人気で、あの剣菱財閥の息子、ユーリ。
あたしは戦闘態勢を整え、精神を集中させる。
――剣菱財閥、これは決まりってもんよ!!何が何でもゲットしてみせるから、剣菱ユーリ、覚悟
なさい!この可憐様の手に掛かれば落ちたも同然よ!!
あたしは式の間中、ホーッホッホッホと高笑いしたくなるのを賢明に堪えていた。


式が終了し、あたしは沙織と共に教室へと向かった。
その間も男子生徒の視線がこちらへと向いているのがわかる。
――明日は一体、何通のラブレターが来るのかしら?
あたしは虚栄心を満足させてくれるこの学校に入って良かった、としみじみ感じていた。

「代表の男の子も結構素敵だったわよね」
あたしは何気に新入生代表で挨拶をしていた、長身の男の子の事を口にした。
「菊正宗君のこと?彼もファンが多いと思うわ。頭脳明晰で、いつも学年トップなの。小学部でも生
徒会長をしていましたし、おうちも大きな病院を経営なさっているから、将来はきっと優秀なお医者
さまね」
「そうなの?」
――一候補に入れておこうかしら?
あたしは沙織の話を聞きながらそんなことを考えていたが、次の言葉であたしの気分が急にしぼ
んでいった。
「でも、彼には白鹿さんという素敵な幼馴染がいるから」
そして沙織はほぅと溜息を漏らした。

「さっきからひっかかるわね、その名前」
早速あたしの嫌いな奴の中に、白鹿の名前がインプットされた。
「そう?あっ、ほら、白鹿さんよ」
そう言って沙織が指差す方へと視線を移す。
「何時見てもお綺麗だわ」
再び溜息を吐く沙織に呆れつつも、あたしはその女を観察していた。
確かに男の子が好きになりそうな、小柄で清楚な感じの少女だ。
――なによ…大したことないじゃないの。
こうして、あたしの嫌いな奴ナンバーワンのトップに白鹿の名前が輝くことになった。

――とりあえずはユーリを探さなきゃ!
沙織からクラスを聞き出したあたしは、早速その教室へと向かった。
行動は早いに越した事は無い。
あたしは入り口にいた男の子に声を掛けた。
「ねぇ、剣菱ユーリはどこ?」
「あ、さっきまでいたけど……今はいないみたい」
男の子が真っ赤な顔であたしを見ているけど、こんな雑魚には構ってられない。

「じゃ、伝えてくれる?放課後、中庭で待ってるって」
あたしは要件だけ伝えてもらうようにお願いする。
「いいけど、君の名前は?」
「可憐よ、黄桜可憐」
あたしは軽くウィンクして、彼の期待にこたえてやる。
彼は嬉しそうにしているけど、あたしはユーリしか眼中にない。
「じゃ、頼んだわよ」
あたしはヒラヒラと手を振って、教室を後にした。
「わ、解った」
彼の上ずった声に、あたしは思わずほくそ笑んだ。


あたしは中庭で待った。
彼の視線からは先ずカールも美しい後姿、そしてゆっくりと彼の方へ向く。
――そして、あたし達は恋に落ちるんだわ!
ドキドキする胸を抑え、あたしは待ち続けた。

「おい、お前が黄桜可憐って奴か?」
段々近づいてくる声に、あたしの身体がピクって震える。
――いよいよだわ。
「そう、私が可憐……」
あたしはゆっくりと振り向いた。

「あんた今朝の!」
そこに立っていたのは、今朝挨拶を交わした、マイライバル1号。
何故、この女がいるのだろう?
「ねぇ、剣菱ユーリは?」
「だから、あたいになんか用かって言ってるだろ?」
まさか……
あたしの笑顔が一瞬にして凍りつく。
「あんたが、剣菱ユーリ?」
「そう、剣菱悠理。何か文句あっか?」

―――女に一番人気って、女?沙織ってば、オカシイんじゃない?
あたしは未だ固まったまま、あらぬ事を口にしていた。
「あんた、女に一番もてて嬉しいの?」
「そんな訳ねーだろ!一体何の用なんだよ!」
――ああ、こいつは正常なのね、良かった……って違うわよ!!

不意にあたしの目から涙が毀れた。
日本で一、ニを争うほど大きな玉の輿に乗れると思ったのに。
「もう!何で女なのよ――っ!!」
あたしは悲しい気持ちが止まらなくって、わっと泣いてしまった。

「何でって言われてもなぁ……」
おいおいと泣くあたしに、ユーリ、もとい悠理は、困ったように顔を覗き込む。
「この学園で一番モテるって聞いたし、おまけに剣菱だって……」
「息子って聞いたのかよ?」
鼻をすすった後、あたしはぷるぷると首を振った。
「お前って面白れーやつ」
悠理はあたしを指差し、腹を抱えて笑っている。
「もう!そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
再びあたしは、わぁーんと泣いた。

「何でそんなに玉の輿に乗りたいんだ?」
あたしが泣き止むのを待って、悠理があたしの顔を覗き込む。
「あたし、片親だからさ…」
何故話す気になったのだろう。
あたしはポツポツとその理由を口にしていた。

「あたしが小学校1年の時、パパが死んだの。それまでは平凡な家庭でさ、結構楽しく暮らしてた。
だけど、パパが死んじゃってからは、ママは働いてあたしを育ててくれたの。そしてね、頑張って働
いて溜めたお金、騙し取られちゃった」
あたしは涙を拭いて、はぁと大きく息を吐いた。
「ショックよねぇ。でもね、ママ、偉いんだ。その騙された自分が悪いからって一生懸命勉強して、
今じゃ銀座のお店のオーナーよ」
あたしは目を赤くしたまま、少し自慢気に胸を反らした。

「お前のかあちゃん、すげえじゃん」
悠理が感心したようにへぇーと唸っている。
「だからね、頑張ったママを楽させてあげたいの。せっかくこの美貌があるんだしさ」
「しょってるじゃんか」
「まっね♪」
あたしはフフンと鼻を鳴らした。
「お前なら出来るさ、きっとな」
悠理はそう言って極上の笑みを浮かべた。
「ところで、お前んちのお店ってクラブか何か?だったら父ちゃんに使うように言っとくし」
そんな悠理の言葉に、あたしは笑いながら言った。
「そう?じゃ、一番高いものを買ってもらおうかしら」
「高いといっても、せいぜい何百万ってとこだろ?」
あたしの言葉にも悠理はあっさりと言いのける。

――悠理ったら、ママのお店は飲み屋だなんて言った覚えはないのに。勘違いしたあたしを笑っ
たお返しをさせてもらうわよ?
可憐はにっこりと微笑みながら口を開いた。
「じゃ、宜しくね。今からママに電話しておくから。ジュエリーYで一番高いものを用意しておいて欲
しいって」

そんなあたしの言葉に、悠理はげっ、と叫んだ。
「おまっ!!宝石屋だなんて一言も言わなかったじゃんかよ!それに、ジュエリーYは母ちゃんの
良く行く店で、どんな高い店かってこと位あたいだって知ってるんだぞ!母ちゃんに怒られるじゃん
かぁ!!」
「あら?あたし、飲み屋だなんて言った?」
「いや……言ってないかな?」
「悠理って面白いやつ!」
あたしは言ってやった、悠理に言われたように。
あたし達は顔を見合わせ、ゲラゲラ笑った。

あーあ、せっかく日本一の玉の輿に乗れると思ったのになぁ。
いくらあたしでも相手が女じゃねぇ。
仕方ない、友達あたりで手を打とう。
悠理と友達になった日には楽しくて仕方がないだろうな、こんな風に笑ってさ。
明日も、明後日も、その後も。
きっと楽しい学園生活が待っている。
そんな気持ちを胸に抱え、あたしはルンルン気分で学校を後にした。

            【おわり】
208名無し草:05/01/11 20:57:36
すみません、間違いを発見しました。
<玉の輿を狙え(9)>の8行目、
可憐はにっこりと〜
   ↓
あたしはにっこりと〜の間違いです。

失礼しました。
209名無し草:05/01/11 21:44:50
>玉の輿を狙え
この話けっこう好きだ。中等部ネタって妄想の余地あっていいなぁ。
みんなのお姉さん的な可憐も素敵だけど、こういう少女っぽい可憐ちゃんも
無邪気でいいね。
210名無し草:05/01/11 22:00:35
>恋はやさし
私も男子3人・3パターンで想像させていただきました。
誰を当てはめても違和感が無くて、面白かったです。
本気の恋に落ちた可憐が、とても可愛い。

>玉の輿を狙え
読みながら、思わず声を立てて笑ってしまいました。
>「校門の脇にあったイチョウの木に〜」
など細かいコネタもツボで、面白かったですw

タイトル通りの、パワフルで自信に満ちた可憐が、これまた魅力的で。
可憐の、悠理と野梨子に対する印象の違いも、あり得るな〜と納得でしたw
211名無し草:05/01/11 22:08:04
>恋はやさし
トップバッター乙です。いよいよ祭りの開幕ですね。
可憐がしっとりとした感じでいいですね。

>玉の輿を狙え!
目のつけどころが面白かったです。
会話も小技が効いてますね。
212名無し草:05/01/11 22:17:38
>玉の輿を狙え
いかにも可憐って感じで、深く頷きながら読みました。
210さん同様、イチョウの木はツボw
213名無し草:05/01/11 23:55:32
小ネタです。

可憐が夜の街を歩いていて、たまたま辿り着いたカフェに入ったら、
そこにたまたま千秋さんがひとりでいる。千秋さんは煙草を吸いながら
飲み物はエスプレッソの無茶苦茶濃いヤツで、可憐は席に座ってカフェオレ
あたりを頼む。で、恋多き女ふたり、とりとめのない話をする…

という話を書きたかったけど、間に合いませんでした。
また、挑戦します。
214名無し草:05/01/11 23:58:27
滑り込みですが、私の可憐考


恋愛について
 玉の輿とは言いつつも、どっちかというと「愛されるより愛す」タイプだと思う。
 愛されているならそれでいい、ではなく、心底自分が惚れる相手でなければ絶対ダメという感じ。
 かなり年上(高校生にも関わらず、二十代半ば以上)とばかり恋愛している様子だけれど、
 もっと年が近い方がいい感じになるようにも思う。
 結婚は絶対、遅そう(笑) メンバーで一番晩婚に違いない。

友情について
 べたべたとした関係は苦手そう。
 ある面ではすごくドライで、ある面では人情家という両極端な印象。
 有閑倶楽部でばっかりつるんでるけれど、同じようにドライな感じの、
 ライバル兼友人ってな感じの、超美人な友達がいそうな気がする。

将来について
 ジュエリーアキを継ぐ! っていうのがやっぱり一番ありえそうな線かな。
 でも、自分から新たな会社をつくってそうな気がする。
 化粧品会社だとか、エステだとか、そういう感じのやつ。
 なんだか、意外とメンバーで一番成功しそうな気がする人です。
215名無し草:05/01/11 23:59:57
>213
読みたい!
216名無し草:05/01/12 00:09:40
清四郎祭りですな−。
何気に奴は
シリアス・変態ちっく・コメディ・ホラー、なんでも似合う。
いろんな作品読めたらいいな。
217名無し草:05/01/12 00:28:25
日付け変っちゃったけど。

>213
イイ女二人というのは絵になるね〜
次の機会でもいいので、ぜひ読みたい。

>214
恋愛と将来はハゲ同。
晩婚&実業家かなと思う。
倶楽部外の友人というのは考えてなかったなー
盲点だったかも。
218名無し草:05/01/12 00:31:04
>216
オールマイティだよね。
いじり甲斐がある…とも言うw
219名無し草:05/01/12 00:47:54
ごめんなさい、日付変わってしまいましたが、
可憐ネタ投下します。
「着いたぜ。降りないのか?」

バイクの振動が急かすようにあたしを揺さぶっている。
ここまで乗せてきてくれた男の声にパチンと弾かれて、あたしは凍る路上に降り立った。

駅から徒歩十五分の住宅街。
やや昔のデザインのありふれた家が並んでいる。
あたしの前に立つ家もその中の一つだ。

玄関先に子供用の砂場のおもちゃと三輪車が置いてある。
庭の柵にはまだクリスマスのイルミネーションが飾られたまま、楽しげに瞬いていた。

どこからか子どもの喧嘩する声が聞こえる。

あたしは辺りを見回した。
夜中に女が一人、意味ありげに特定の家を見上げている。
このあたりの住人に見かけられて、噂になりにでもしたら大変だ。
幸い人通りは少ない。
ホッとして門扉に近づくと、表札を確かめた。

木製のネームプレートにカラフルに塗られたこれも木製の文字が並ぶ。
見慣れた名前の下に見慣れない名前が三つ並んでいる。


振返ると、この小さな冒険の親切なパートナーに向って肩をすくめてみせた。
彼――松竹梅魅録はバイクを背に黙って煙草を吸っていたようだが、
あたしの視線に気づくと腕を組んだ。
「気がすんだのか?」
「うん……て、別に気がすまないから来たんじゃないわよ。ほんの好奇心」

魅録と目を合わせるのが照れくさくて、道路を視線を落とす。
「キコンシャってどんなところに住んでるのかなぁって」
「ああ」

了解なのか同意なのかわからない、ああ、を発した後、魅録は眉をしかめていたが
やがて疑問を口にした。

「知らなかったのか、奥さんもこどももいるって」
「うーんとねぇ」

手に持ったバッグを振り回し、その遠心力でぐるぐる回ってみせた。
「知っていた、ような気もする。そういうことを何回か匂わされた、わ。うん」
「匂わされたのか」
「えへへ。うん。そうなのよ。でもね、その時はもうあたし、結構……その
 結構……彼にね」
「うん」
「まいってしまってたと言いますか」
「そうか」
「ほれてしまってたと言いますか」
「ふん」

らしくねぇじゃん、可憐さんよと魅録が呟いた。
恥かしくて照れくさくて、あたしはぐるぐる回る。
「らしくないのよねぇ、ほんと。ほら、あたしって結構モラリストじゃない。
 不倫なんて真っ平ごめんだし、妻もこどももいる男なんて、もう! もう、もう、
 もう!……とんっでもございません、およびじゃございません」
「だろ」
「…………ねぇ? そうよねぇ。そうなのよねぇ。わかってるんだけどねぇ。
 あっ、魅録、魅録」
「なに」
「くさーいこと言うわよ、耳ふさいで! あのねぇ、ふふん、好きになった人に
 奥さんがいたのぉ」

魅録は耳をふさいでいた。
「くせー。聞こえねー」
「もっと聞いて。奥さんもこどももいるってわかっても好きなのぉ」
「……さいですか」
「ばっ」

歩き出す。
「ばっかばっかバッカな女よねぇ、あたしってばさ。諦めたくてここに来たのにさ。
 全然あきらめきれなーい」
ねぇ?と振返ると、黙って魅録がティッシュを差し出した。

「いいんじゃない? 馬鹿な女で。俺はさ、可憐。そんなお前が可愛いと思うよ」
「……忘れられないの」

真上に明るい月が出ている。
「忘れなきゃいけないのに、忘れられないの。思い出しちゃうの。どうしたらいいの?」

魅録が立ち止まり、あたしも立ち止まった。

「今すぐ忘れるなんて無理だろ。ほんとに」

気のせいか少し悔しそうに魅録は言葉を続けた。
「ほんとに好きだったんならさ。今すぐ全くナシにはできないさ」
「……うん。今すぐゼロにはできない」

身も凍るような寒さの中、魅録はあたしに向って微笑んだ。
それから小さな声で呟く。
「ま、ぼちぼちな」
「……そうね」
「俺でよかったらお手伝いするぜ」
「……ありがと」

魅録に向ってあたしは微笑んでみせた。

胸がズキズキ痛み、また涙が零れそうだったけど、
彼の笑顔に助けられながら、
あたしは可哀想なあたしの恋をそこへ置いておくことにし、魅録のバイクに跨った。

Fin

224名無し草:05/01/12 02:35:23
可憐祭りは終わっちゃいましたが、清四郎ネタが降臨しないようなので
こっそりレスしちゃいます。
>恋はやさし
誰をはめてもしっくりくるのがいいですね。
美童も普段は軟弱なイメージがつきまとうけど、
スキーは悠理も追い付けないくらいの腕前だし。
>玉の輿
目のつけどころがいいな、と思いました。
4人しか出会っていない頃の学園生活、妄想がさらに膨らみます。
個人的には、清四郎が目立つ新入生を見てどう思っていたのかが気になるw
>ゼロ
これ、すごく好きです。
魅録って、ちょっとぶっきらぼうなくらいがかっこいい!

続く清四郎祭り、楽しみにしてます。うきうき。
225名無し草:05/01/12 12:22:38
カプなし(恋愛要素0)清四郎短編投下します。
途中で鯖に文句を言われなければ6レスの予定。
タイトルは「菊正宗清四郎氏の平穏な一日」です。
(長いから省略されそう・・・)
5:00a.m.
枕元にぬっと手を伸ばす。そこにあるのは小さな電波時計。
常に電波で以って明石の日本標準時に自動的に針を合わせる正確無比な時計である。
もちろん、目覚まし時計として彼はセットしていた。
「ん。今朝もちょうどいい時間ですね。」
一応目が覚めなかったときを考慮して6:30にセットされた目覚ましが、しかし鳴ることは年に一度程度だった。
いつもこの時刻に彼は目を覚ます。

むっくりと起き上がると、乱れた前髪がふわさ、と顔にかかった。
あっふと一つあくびをする。
うん、と一つ伸びをすると朝の日課を行うべく着替えに手を伸ばした。

朝っぱらから道着に着替えてまずは町内を走る。そろそろ配達の最後の区画あたりにさしかかった新聞配達の中年男性と笑顔で挨拶を交わす。
さすがに東村寺は遠いので、別の近くの神社の石段を駆け上り、上で一休み。
そして降りてくると自宅の庭へと戻る。
そこでしばし型の稽古。
「フムッ」という気合とともにしゅっと掌底が空を切る音が響く。
続けてぶん、と長い脚が頭より高い位置で弧を描く。
最後に「ひゅーーーーっ」と長く息を吐く。常人であれば酸欠になって失神しかねないほどに長く長く。
最初と最後に丹田に気を込めるためにこの呼吸を行う。
それは子供の頃、和尚の下で稽古を始めたとき、受身よりも何よりも先に最初に教えられたことだった。
7:00a.m.
シャワーを浴びて汗を流すと制服に着替える。
もう時間が押してきているために、朝食をとりながら新聞を開く。ここでまず1紙目。登校してから生徒会室であと何紙かに目を通す。
「やだー、また新聞読みながらご飯なんか食べて。」
「どうせこのあと姉貴が持ってっちゃうんでしょ?」
姉・和子は毎朝新聞を大学に持っていき、講義室で優雅に読むのである。
ちなみに母がその地方欄つきの新聞を読むのは姉が帰宅してから。朝は残された経済新聞を読む。
母が株取引に必然的に詳しくなってくるわけである。
ばさばさと読み終えた新聞をきれいに畳み、姉のほうへと差し出した。
「トイレで読まないだけましだと思ってください。」
「当たり前よ!」

7:30a.m.
「おはようございます、野梨子。」
「おはようございます、清四郎。」
隣家の少女は今日も時間に正確だ。ぴったり同じタイミングで門を出てきた。
幼稚舎の頃から変わらず繰り返される習慣。自分が守ってやらねばと思いながら始めた習慣(初日にいきなり挫けそうになったのだが)。
そのまま学園までの道を歩く。さほど遠くはない。しかし野梨子の歩みに合わせて毎朝徒歩15分はかかる。
これが都立高校などなら自転車で通学するのが妥当な距離なのだが、聖プレジデント学園に自転車通学はありえない。車での通学がほとんどだ(可憐などは電車通学だが)。
ちなみに野梨子が自転車に乗れないからという理由ではない。「練習すれば乗れますわ!」と言い張るのである。
7:45a.m.
「おはようございますわ、白鹿さま、菊正宗さま。」
「おはようございます。」「おはようございます。」
学園が近づくにつれ、様々な生徒から声をかけられる。普段は彼らに近寄りがたいと思っている一般生徒たちもこのときばかりはさらりと声をかけるチャンスなのだ。
そして彼らに声をかける少ない機会にとびつく中等部や小学部の生徒たちも同様に声をかけてくるのだった。
背後で車のドアがばたん、と閉じられる音がする。ついでにそこらの女子生徒の歓声も聞こえるので、振り向かずともその主は知れた。
「おっはよー!お二人さん!」
野梨子はその声に満面の笑みで振り返っている。相手も眩しいばかりの笑顔を振りまいているのに違いない。
清四郎は眩しそうに女性二人のほうを見た。
「おはようございます、悠理。」
ぴったり野梨子と同時に、彼女に挨拶を返した。
そして車止めのほうではもう一台、女生徒の視線を集める車が止まっているようだ。
さざめくような女生徒たちのしゃべり声の波動が、正門近くの空気を揺らしていた。
「やあ、おはよ。」
と車から降りてきた金髪の青年が、その長い髪をさらり、となびかせながら片手をすちゃっと挙げた。
その気障な姿にまたも女生徒の悲鳴にも似たため息が溢れるので、清四郎は苦笑した。
「今日は可憐、いねえなあ。」
と悠理があたりを見回している。
「どうでしょうねえ?もう生徒会室にいるかもしれませんよ。」
可憐は一番電車が混む時間を嫌う。だからこの時間かそれより早く、そうでなければ大遅刻の9時過ぎに登校してくるのが常だ。
何しろ雨が降ったら靴やコートが濡れるのがイヤだと言って学校を休むくらいなのだ。
そして今日は早めに彼女は生徒会室にいた。驚いたことにピンク頭の副会長もそこにいる。
「珍しく早いですね、魅録。」
「んあ?ちょっと昨夜はダチがもめてな。片付いたのが朝だったから寝なおすのも面倒でそのまま来ちまった。」
と、魅録はトロンとした顔でテーブルに頬杖をついたまま説明した。
「結局朝までかかったのかよ。」
と悠理が呆れたように言う。彼女もその騒動の現場にいたようだ。(そして逃げたらしい。)
8:30a.m.-0:15p.m.
仮眠室で寝るように皆が言ったが、魅録は「一限から小テストだから。」と無理やり授業に出て行った。二限目から寝るそうだ。
清四郎はいつものように授業を受ける。
ああ、今日も世界史の教師がびくびくしている。どうも先日、彼の講義内容がおかしいと指摘してから妙な敵愾心をもたれてしまったようだ。
しかし明らかに彼の言っていた教科書外のマメ知識という奴は怪しげな俗説が多いのだ。教師たるもの史料を複数比較検討してその共通性、客観性を評価してから生徒に教えてほしいものだ。
数学教師はいつものように解説の意味がわからぬ生徒のために清四郎の説明を求めてきた。
化学の実験ではあまり清四郎は口も手も出さない。彼が手を出してしまってはすぐに終わってしまって同じグループの生徒のためにならぬためだ。
危険な事態にならないようにだけ注意をはらいながら時折アドバイスを与える。手順も他の生徒に考えさせる。
そして昼食前の現代文。この小説はすでに読破している。だが授業では初読のときとは違う味わいを噛み締める。読み飛ばしていた人物の心情などが取り上げられたりするので面白い。
0:20p.m.
ようやく目覚めたらしい魅録が似合わなくも全員分の茶を淹れて待っていた。適当にあった茶葉に湯を注いだだけという感じはしたが。
「魅録ちゃーん、怒ってる?」
いつものように貢物の弁当を両手一杯に抱えた悠理が、珍しくおずおず、と言った調子で生徒会室に入ってくる。
「あー、なんのことだ?」
昨夜、騒動の現場から逃走した悠理のことを見当違いに怒り続ける魅録ではない。
どうせ喧嘩場ではない現場に悠理がいたところで大して役に立たないからというのもあるが。
「それでな、清四郎、そいつらの話なんだが・・・」
と、魅録はちょいちょいと清四郎を手招きして話を持ち掛ける。
「ふむ・・・そういうことですか。それはそのお友達の知り合いとやら、お仕置きしたほうがいいかも知れませんね。」
聖プレジデントの他の生徒によからぬことをたくらんでいるとあってはね。
「暴れるんならあたいも混ぜろ!」
と、悠理が横合いから口を挟んだ。
このところ、悠理を初めとして有閑倶楽部の連中がいるとわかってて聖プレジデントの生徒にちょっかいをかけてくるものはほぼ0に近い。
チンピラ狩りも親から禁止された悠理は欲求不満が溜まっているらしい。
「もちろん、悠理にも働いてもらいますよ。」
にっこり笑った清四郎に、他の連中はへとへとになるまで暴れさせられる悠理の姿を想像し、少しだけ彼女に同情した。
当の悠理はその悪魔の笑みにも気づかずににこにこと弁当を平らげている。
1:30p.m.-3:30p.m.
5限目は音楽。今日は実技ではなく音楽鑑賞。作曲された当時の歴史背景や作曲家個人の人生などを思いながら曲を噛み締める。
最後は体育。休み時間が10分あるとはいえこの移動はちょっときつい。清四郎にとってはなんでもないが、他の連中はいつも体育の開始時にすでに息が上がっている。
ここ2週間ほどは陸上競技をやっている。他の者たちのフォームを観察して修正させてやるのが清四郎の目下の役割だった。
そして一日の授業が終われば、教室の掃除を済ませて放課後だ。

5:00p.m.
生徒会室での打ち合わせを簡単に済ませると一旦それぞれの家に帰宅。清四郎はいつものようにポロシャツにチノパンを合わせて上着を羽織った。

6:00p.m.
「よお。お前ら聖プレジデントの生徒に手え出そうなんざ、ふざけたマネしてくれるじゃん。」
にやり、とドピンクのライダースーツを着た女が笑んだので、男たちは色めき立つ。
「う、うるさい!お前らには関係ねえだろ!」
「関係あるんだな、これが。」
バイクに跨ったピンク頭の男もハンドルに頬杖をついてぺろり、と唇を舐める。
「有閑倶楽部をご存知ありませんか?」
一人離れた物陰で腕を組んで壁に背を預けた男を、一同はぎょっとして見つめる。
そして人相の悪い男たちのリーダーが叫ぶ。
「ひ、ひるむな!相手は3人だけだ!」
その声に弾かれたように押し寄せる奴らもしょせんは素人。
ヤクザやマフィアさえも相手にしたことがある(望んだわけではなかったが)彼らには準備運動程度の相手だった。
「軽い軽い。」
と言いながら次々と飛び蹴りをかます悠理を清四郎は後ろからにこやかに見ていた。
7:00p.m.
「こら!清四郎!一人で高みの見物しやがって!」
雑魚ばかりとはいえかなりの人数を相手にして汗だくになった悠理が文句を言う。
「ここのところ退屈してたようですからね。思う存分暴れられて嬉しかったでしょう。」
にっこり笑む清四郎に、魅録は苦笑し、悠理はいきり立った。
「この横着モン!」
えいくそ!腹減ったぞ!と怒鳴る悠理の頭を撫でながら、
「はいはい。夕食はおごりますから。」
と言う清四郎に、悠理は、
「当たり前だ!」
と睨み返した。
清四郎は魅録のバイクの後ろに乗り、悠理はやっとの思いで免許を取って買った自分のバイクに跨った。
どうせ彼女のご機嫌具合を予想した残る3人の仲間が彼女好みの店をキープして待ってくれているはずだ。

9:00p.m.
「あら、お帰りなさい、清四郎ちゃん。」
リビングに入ると母が顔だけ振り返って言った。
「なんだ、また出入りだったのか?」
珍しく早く帰宅した父もいる。
清四郎はにっこり笑って両親に言う。
「別に出入りというほどのことではありませんでしたよ。いつもどおり、です。」
その平然とした顔に、菊正宗修平氏も頷いた。
「まあ、いつもどおりだったようだな。」

風呂に入り、趣味の本を読んで11:00p.m.に就寝。こうして彼の平穏な一日は今日も終わる。
(ちなみに予習や宿題といったものは学校で授業中に済ませている。)
終わりです。案の定途中で文句を言われて7レスに。
長くなって失礼しました。

朝の描写ばかりやたら長いのはご愛嬌ということで。
未明に頑張る男でした。
234名無し草:05/01/12 13:45:52
>菊正宗清四郎氏の平穏な一日(省略しないで書いてみました)
すごく、彼らしい一日ですね。
なんか企画らしくていい!
毎日すごく穏やかに過ごしてるのに、ナチュラルに鬼畜臭いのがまたw
235名無し草:05/01/12 16:12:02
>ゼロ
可憐の辛い気持ちが痛いほど伝わってくるようで、すごく切ない…。
そんな可憐を見守る魅録の、さりげない優しさが素敵でした。

>菊正宗清四郎氏の平穏な一日
キャラ考察としても読めますね。面白い!
234さんと同じく、淡々とした日常の中の、さりげない鬼畜さ加減が
たまらなくイイですw 
悠理と、清四郎の前で授業をしなければならない先生方は
確かに大変だろうな…と思わず同情。
236名無し草:05/01/12 20:14:08
>ゼロ
もう既に魅→可なのかな。いずれ魅録とくっつきそうですね。

>菊正宗清四郎氏の平穏な一日
出た、毎朝新聞w
237名無し草:05/01/12 21:18:57
>菊正宗清四郎氏の平穏な一日
平穏と言えば平穏なんだけど、ツッコミ所満載なのが
おかしかったですw
他の5人も、らしくって。
特に、魅録のお茶の淹れ方には笑ってしまいました。
238名無し草:05/01/13 00:07:07
遅刻ですが、私の清四郎考


恋愛について
 生涯に恋は少ししかしないだろうけど、
 一度思い込んだら一直線ということで、怒涛の攻めをみせそうな御仁という印象。
 恋愛経験はさほどないのに、なぜか自信満々で勝負にもちこみそう。
 すごい勢いで口説いて→落として→結婚みたいな。
 

友情について
 あんまりいなさそう(笑)
 でも、彼に憧れている同性はたくさんいるだろうから、
 ただの同級生以上友達未満な人がわんさかいそう。
 クラブ活動もたくさん掛け持ちしてるみたいだし。
 その点で、魅録や美童といった男性陣との友情は(内心では)特に大切にしてる印象

将来について
 私的には和子さんの言うとおり実業家向きだろうと思うけど、
 トップより誰かのナンバー2としての方が似合いそう。
 司令官というより典型的な参謀タイプ。
 職に対しての拘りなさそうだから、いそんな職を転々とするのもありかも。
239名無し草:05/01/13 11:01:53
今日は、野梨子祭りですね。
今のところUPがないようなので、こっそりレスを。

>>238さん
乙です!
>典型的な参謀タイプ 
の部分など、なるほど…と頷きながら読ませて頂きました。

恋愛は、普段醒めてる分、好きになった相手には(彼なりに)情熱的かも。
ただ女心に疎い分、ここぞという時に、失言とかしちゃいそうだけど。

友達に関しては、憧れてる同性や、付き合いのある人は多いだろうけど、
もう一歩、近寄り難いんでしょうね(苦笑)
だからこそ、そこかしこに感じる、魅録や美童への友情の強さに萌え。
240名無し草:05/01/13 14:09:52
>194-195で「恋はやさし」UPした者です。
名前欄に「30万hit記念」と入れ忘れました。すいません。

今回は野梨子話で「恋はたのし」です。2レス予定。
今日も自然に顔が綻ぶ。
「朝からご機嫌ですね。野梨子。」
隣を歩く幼馴染の青年が少しばかり眉を上げて言う。
彼だって気づいてるだろう。おかっぱ頭の少女がここのところずっとにこやかであることに。
学校の行き帰りだけではなく、教室で、そして倶楽部で。

それに気づいているのも彼一人じゃない。
他の有閑倶楽部の連中はみな気づいている。(そして悠理などは不気味がっている。)

野梨子自身も、自分の変化に気づいていた。
用心していないとらしくなく鼻歌さえ出てきそうなほどなのだ。
うきうきと心が浮き立って、ささいなことが嬉しくて嬉しくて、世界中に感謝したい気持ちにまでなるのだ。

そして彼女自身、その理由を知っている。

あの人の姿を追うだけで、その気配を感じるだけで、顔が綻んでくるのだから。

これは恋?
こんなにも楽しい感情が?

初めての恋は切なかった。
ふとしたことで泣けてしまうほどに、切なかった。
胸が痛くて、苦しかった。

だけど今の気持ちは、ただ楽しかった。
いつも誰かしらに恋をしている可憐を見ていたから、恋が様々な化学反応を起こすことは知っていた。
可憐は愁いを帯びて美しくなることもあった。
可憐は自信に満ちて悠理のように輝きだすこともあった。
そして近頃の可憐は優しげな透明な笑みを浮かべることが多くなった。(たぶんまた恋をしているのだ。)

いつだったか、毎日のように楽しそうに笑い転げていることもあった。
ちょうど今の野梨子のように。

だから、野梨子は気づいている。
いま、彼に恋をしているのだと。

あの人の姿を追い。
あの人の気配を追い。
あの人の声を聞く。

気持ちを告げるとか告げないとか、そんなことはどうでもよかった。
ただ、楽しかった。

すべての芸事が楽しくなった。
お茶もお花も踊りも、すべてに籠める感情が変わった。
季節の移ろいが美しかった。
風の囁きが優しかった。

「たぶんね、恋をしてるせいですわ。」
にっこり笑むと、隣の青年は「おや。」と言うようにまた眉を上げて、微笑み返した。

******************
おしまいです。
清四郎じゃないっぽくなりましたが、彼でも他の誰かでもいいつもり。
お好きにご想像してください。
243名無し草:05/01/13 23:56:27
>恋はたのし
うP有難うございました! 連作構成なのですね♪
恋をした時の楽しい気持ち、嬉しい気持ちが、短い中で
すっきり表現されてるところが、とても好きです。
思わず、うんうん、と頷いてしまう感じ。
次はどんな恋なのか・・・楽しみにしています。 
244名無し草:05/01/14 00:11:17
絵板の野梨子イラも素敵でつ!
絵師さん乙〜
245名無し草:05/01/14 00:40:17
またまた遅刻ですが、私の野梨子考
今回とくに、独断と偏見に満ちてるような気が(汗)

恋愛について
 私にとって一番謎です(笑) どんなタイプの男性とでも似合ってしまうような気がして。
 相手が変れば、恋の仕方も変るという風に、野梨子の恋はいろんな表情をもってると思う。
 反面、どんな恋をしようとも彼女の将来、人生は左右されないという芯の強さ(悪く言えば頑なさ)も。

友情について
 本編でもあるようにすごく不器用。
 その分、友情に対してはすごく真摯だと思う。
 相手にも自分にも求めるものが高いと思う。
 弱み(自分の恥ずかしいところなど)を見せることが、ともすれば清四郎以上に下手かも。

将来について
 家元として、堅実にこなしていくと思う。
 でも、私生活とは違って、仕事に対してはわりとフランクな考え方が出来るような気がするので、
 いろんな活動をしそうな気もする。
 結婚してもバリバリと働くでしょう。
246名無し草:05/01/14 10:34:54
今日は美童祭り。
大人な恋・コメディetc、いろいろなSS、キャラ考察などの
御降臨、お待ちしております。
もちろん、他キャラ祭りのしたらばうPも。

>245さん
連日のうP、ありがとうございます!
恋愛・友情ともに、不器用なところありますよね>野梨子
それ故に、心を許した相手に対する一途さ・一生懸命に接する姿が可愛い。
多面的なところがある反面、一本通った芯の強さが魅力的だな、と思います。

>絵板の絵師さん
野梨子イラ、昨夜拝見&レスさせて頂きました〜
(遅くなってしまって、本当にごめんなさい/謝)
改めて、乙です&ありがとうございました!
247名無し草:05/01/14 13:09:14
美童と言いますと、原作での扱いがあんまりですよね。
実はシリアスな恋愛話は彼はなかった。
(可憐ですら幽霊さんとシリアス恋愛あったのに)

だから彼のシリアスな恋愛を職人さんたちが書きたくなるのも
道理だと思います。

そして逆に恋愛不感症な彼の姿なんかも妄想したりなんか。
恋をしているように見せかけながら、本当は誰にも恋なんか
していない。根っこのところは女性不信・・・
なんて姿に萌えるのは私だけですか?

あ、でもギャグでいじりたおすのも好きです。
イジメ甲斐があるキャラですんで。
248名無し草:05/01/14 22:14:49
原作で一番好きなシーンが、美童が千姫に髪の毛引っ張られて
引きずり落とされるトコですw(9巻)
なぜかわからないけど、リアルで美しい恐怖顔が気に入っちゃって
あのシーンばっかり何回も読み返してしまったよ
「あひぃ!」っていうシャウトもナイス。
あんな姿に萌えられる男性キャラは後にも先にも美童だけだわ・・
249名無し草:05/01/15 02:13:01
遅刻ばっかりですみません。私の美童考

恋愛について
 恋愛や女性関係に熱中しているようでいて、一番そういうことを突き放して見てるのではないかと思う。
 もう趣味や嗜好品の範疇ではないかと(笑)
 反面、本当の恋をすれば何もかもを燃やしつくすような、そういう後のない恋をしそうな気もする。
 なんだかとっても悲恋が似合ってしまうような・・・ごめんなさい(笑)

友情について
 技術(テクニック)としてのコミュニケーション能力が馬鹿高いと思われるので、
 友達はたくさんいそう(しかも友人を選ぶタイプだと見た)
 意外とあんまり友達には依存しないタイプだと思う。
 だからといって薄情だとかそういうのではなくて、恋愛と同じくドライなのかも。

将来について
 スウェーデンに帰るだろうなと思う。
 華やかな職業よりも、組織の一員として、上司や部下から愛されるポジション。
(とある作品で新聞記者になったという美童の未来に、「ぴったりだ!」と思った私)
 落ち着きのある大人になりそう。
250名無し草:05/01/15 03:48:39
30万hitおめでとうございます。
ほんのり魅録→悠理です。
4レス使用させて頂きます。
25130万hit記念<きっかけ1>:05/01/15 03:49:59

 休日の朝。
 昨夜降っていた雨はいつの間にか青空へと変わっていた。
 名残を惜しむように水の匂いを含んだ朝の空気を吸い込んで、
悠理は大きく破顔する。
「雨、止んで良かったな!」
「ああ」
 つられて笑みを浮かべながら魅録はバイクに跨り、スペアのヘルメットを
悠理へ放り投げた。
「サンキュー」
「で、今日はどこ行くんだ?」
 いつものように自分の後ろに勢いよく跨った悠理に尋ねると、とぼけた声が返ってきた。
「特に行きたい場所があるわけじゃないんだけどさあ」
「おまえな。せめて行き場所ぐらい考えてから呼びつけろよ」
「いいじゃん。今日は暇だったんだろ」
 ツーリングに行きたい気分だったんだよ。そう言って、ヘルメットの奥で頬を
膨らます悠理に、魅録は呆れて苦笑を返す。
「そうだけどさ。いくら近場でも、目的地がないことには動きだせないぜ」
「あ〜そっか。そうだよなあ。うーん、じゃあどこにしようかな……」
 ぶつぶつと口の中で呟いてから、悠理はううんと空を振り仰いだ。

 頭上には冬の青空が広がっている。
25230万hit記念<きっかけ2>:05/01/15 03:51:01
「……海っ!」
「はぁ?」
「だーかーら、うーみ!海行こうぜ魅録!」
「うみぃ?まさかとは思うが……泳ぐのか?」
「んな訳ないだろ!さすがにあたいでも、今頃この辺の海で泳ごうとは
思わないぞ!」
 怒声と共に背中に軽い拳を受けて、魅録は軽い笑みを浮かべる。
「あー悪かったよ。……ま、この時期なら人も少ないだろうし、海も気持ち良いかもな」
 言うと元気な声が「うん」と嬉しそうに返事をした。
「そんじゃ、海へレッツゴー!」
「へいへい」
 勢いの良い声を背中越しに聞いて、魅録はバイクを走らせた。


 ぽんっと道路に出来た大きな水溜りを飛び越えて、浜へと駆け出した悠理の
背中に、魅録はおーいと声を掛ける。
「悠理、ちょっと待てって」
「やっだよー。あたいが一番乗りだもんね」
「はぁ、全くあいつは……」
 別に一番を争うつもりは微塵もないが、放っておくとどこまでも行ってしまいそうで
魅録は慌てて悠理の後を追った。

「早く来いよ、魅録!」
 既に波打ち際までたどり着いてしまったしまった悠理は、くるりと振り返って
こちらへ大きく両手を振っている。
「おっせーぞー」
「あほぅ。お前が早すぎるんだよ。そんなに急がなくて良いだろが」
 漸く辿りついた少女の頭に手を置いて、魅録はくしゃりと掻き雑ぜた。馴染んだ
猫のように柔らかい毛がさわさわと心地良く手の中で揺れる。
「あたいが一番だかんな」
「……分かったよ」
 魅録は口の端を小さく緩めた。
25330万hit記念<きっかけ3>:05/01/15 03:52:01
 暫く寄せる波と戯れながら歩いていた二人の間に、ぴゅうと強い風が吹き抜ける。
「さ、寒っ」
 亀のように首を縮めた悠理に、苦笑すると
「笑うなよ!寒いもんは寒いんだい!」
 仕方ないじゃん!と吠えられた。
「海に来たがったのはお前だろう」
「だって今日は天気も良いしさ、こんなに寒いと思わなかったんだよ!」
 そう言って悠理が大きく唸ったとたん、先ほどよりも冷たい風が海から吹き寄せた。
「うわっ……ッハ、ハックション!」
 通り抜けた冷気に悠理はビクリと体を震わせて、大きなくしゃみをひとつする。
 常に動きやすさを求めている彼女の本日の服装は、防寒対策の面がやや疎かに
なっているようだ。確かに冬の浜辺でこの姿は寒かろうと、魅録は苦笑するしかない。

(仕方ねえな)
 自分の上着でも貸してやるか、と脱ぎかけた魅録は、いつの間にか間近に
来て子犬のように見上げている熱い視線に気がついた。
(あー、これは、アレだな)
 腹が減ったと訴える見慣れた視線である。
「……しょうがねぇな。どっか入って飯でも食うか?」
 そう言うと悠理は見えない尻尾を振りながら、大きく頷いた。
(分かりやすい奴……)
 今更だけどよ。そんな事を思いながら、魅録は脱いだ上着を悠理の頭にぽんと被せた。
「それじゃあ、店に入るまで、ソイツを被ってろよ」
 すると、悠理は珍しく困ったように眉根を寄せた。

「でも、そしたらさ」
「ん?」
 下から覗き込んでいた悠理の大きな瞳が、ふ、と伏せられる。
「……魅録が寒いじゃん」
「………」
25430万hit記念<きっかけ4>:05/01/15 03:52:36
 瞬間。
 なんと言ったら良いか、分からない感情が魅録の胸に浮かんだ。
「……魅録?」
「あ、ああ……」
 不審そうな眼差しにハッと我に返り、魅録は浮かんだ気持ちを振り切るように
がりがりと頭を掻く。

「俺は大丈夫だから、気にするな」
「でもさ」
「あー。それより早く適当な店を探そうぜ」
 言いかけた言葉を遮るように強く言うと、一瞬何かを言いかけた後、
「うんっ!」
 と、大きく頷いて、悠理は勢いよく魅録の腕にぶら下がった。

「うわっ。危ないだろ、悠理!」
「へへへ。魅録ちゃん愛してる〜」
 お決まりの台詞で自分の腕に懐いてくる少女の意外な柔らかさに改めて気がついて、
魅録は誤魔化すように空を見上げた。
「……ほら、さっさと行くぞ」
「ハーイ」
 悠理の素直な返事を聞きながら、魅録は悟られないように小さく息を吐く。

 頭上に広がるは、気持ち良く澄み渡る冬の青空。
 吸い込まれそうな程、高く広がる空の色。
 その儚い青さが心地よく、何故だか少しだけ目に染みた。




   <終>
255名無し草:05/01/15 03:58:59
ごめんなさい、間違いがありました。
<きっかけ2>の
たどり着いてしまったしまった悠理→たどり着いてしまった悠理
です。失礼しました。
256名無し草:05/01/15 11:14:22
30万hit、おめでとうございます。
清+魅×可で4レスお借りします。
生徒会室には魅録と清四郎しかいなかった。
「魅録、可憐のことどうするんですか?」
ふたりになる機会を待っていたのだろう、席に着くなりそう切り出した。
「大学が別々になると今までみたいにはいかないですよ」
清四郎、魅録、可憐の3人は外部の大学に進学が決まっていた。
「清四郎…お前…何言ってんだ!!」
魅録は突然の清四郎の言葉にあせって、みるみる顔が赤くなっていく。
「隠しても無駄ですよ。魅録の気持ちはわかってますよ」
「…まいったな…いつからわかってたんだ?」
すでに可憐に気持ちを告げることを決めていた魅録はあっさり降参した。
「白状しましたね。確信が持てたのはあの事件のときですが、今思えば魅録は随分前から可憐のこと想っていたようですね」
清四郎は面白そうに笑った。
あの事件…いつもの様にひとりで情報収集に行った可憐がやばい相手に捕まり清四郎と魅録が助けに行ったあの時。
魅録は自分の気持ちに気付き可憐は自分が守らなければ、いや、守りたいと思った。
「おい!待てよ!俺が気付いたのもあのときだぞ!なんだよ、随分前って!」
魅録は完全に清四郎のペースに乗せられていた。
「可憐が鬼になって東北に行ったときでしたね、後姿でも間違いなく可憐だと言い切っていたのは!後姿ですよ!」
あのときは可憐を助けるので必死だった。あの時点では自分でも気付いていなかった素直な想いが清四郎の記憶に残っていたのだろう。
「…そんなの…他のやつの後姿でも…たぶん…わかる…と思うぜ…」
そうはいうものの可憐のときほど自信がないので語尾が弱くなる。
「そうですかねえ…いくら似てるといっても悠理と雅央を見間違った人は誰でしたかねえ」
清四郎は面白くて仕方がないというように笑った。
258名無し草:05/01/15 11:23:14
美童メインのSSが読めなかったのが悲しい……。
かといって、自分でなかなか書けないのも悲しい……(涙)

247さん、249さんにさりげなく同意。
たくさん彼女はいるし、優しいけど、どこか醒めてる感じですよね。
かといってシリアスな恋はさせてもらえないし、あんまりだ、御大(w
あと、頼りないようでいて、友達や彼女に、(変な意味での)依存はしていないし、
テニスの話の時みたいに、カッコイイ面もあるのに。

>きっかけ
魅録祭り。ほんのり恋愛風味ですね。嬉しい。
すっきりした、素敵な表現の文章と、
子犬のような悠理の可愛さ一つ一つに、激萌えですー。
互いをさりげなく思いやる二人の姿も、彼等らしくて(・∀・)イイ!
素敵なお話、ありがとうございました。
「あれは美童も見間違えてただろう!みんなだって、おまえだってそっくりだっていってただろうが!」
「そうでしたね、確かにそっくりでしたね。でも、もし、可憐にあれ位そっくりな人が現れたとしても魅録は見分ける自信があるのでしょう?」
(ああ、可憐なら絶対に見分けてみせるぜ)
「ああ…そりゃぁな…おい、清四郎!何言わせんだよ!勘弁してくれよ…」
魅録はますます赤くなり右手で顔を覆った。
「まだまだ甘いですよ、魅録。それに危ない時はまず可憐を気遣ってましたよね。いつもそれとなく可憐を守ってましたしね」
「清四郎〜! お前だってまず野梨子だろ!人のこといえるのかよ」
「まあ、僕の場合は保護者のようなものですからね。魅録とは違いますよ」
「清四郎〜 お前なあ〜」
余裕のある清四郎に魅録はお手上げだった。
「美童はしかたないが、清四郎にばれるとはなぁ…」
「あのときの魅録をみているのは僕だけですからね」
「あ〜あ、で、美童は何か言ってたのか?」
「『魅録は何もたもたしてるんだろうね!早く可憐に言っちゃえばいいのに!』って言ってましたよ。僕も同意見ですけどね」
清四郎が澄まして答えた。
「お前たちにいろいろ心配かけたが、可憐に言うよ!このままじゃ俺の気がすまないからな!!」
魅録はそういうとタバコに火をつけた。
「それを聞いて安心しましたよ。じゃあ、僕はこれで失礼します」
清四郎は力強く宣言した魅録に満足そうに微笑んで、片手を挙げて生徒会室を後にした。
魅録は可憐をドライブに誘った。
「可憐、お前最近、元気ないな?どうしたんだ?」
「えっ、そんなことないわよ!あんたの気のせいよ!なにいってんのよ!いやあね…」
「…無理すんなよ、可憐」
魅録は慌ててごまかそうとする可憐に優しく言った。
「あたしったら…みんなにばれてるなんて……」
「いや、他のやつは気付いてないと思うぜ。お前、うまく隠してたから…」
「魅録…!?」
可憐は突然の魅録の言葉に何も言えなくなった。
魅録も黙り込み沈黙が訪れた。

海に着き、魅録は車を止めた。
「…魅録…あたしね、自分で外部の大学に進学を決めたのに卒業が近づいてくるとひとりぼっちになるみたいで…うまくいえないけど…あたし……」
可憐は言葉を捜していた。
しばらく黙っていた魅録はハンドルにもたれかかりフロントガラス越しに海を見つめながら言った。
「可憐、お前はひとりじゃないよ。今まで程は無理だけどみんな会えるよ」
「うん」
魅録は緊張のために少し掠れた声で続けた。
「これまでは6人のチームワークもあったし、その中でお前を守れると思っていた。でも、お前が外部の大学に行くことになって……俺、正直焦ったよ、他の3人の目も届かないし、このままじゃお前を守れなくなっちまうからな」
魅録は可憐の瞳を見つめた。
「可憐、俺はお前が好きだ!! 大切に思ってる!! 俺じゃ玉の輿は難しいかもしれないけど…もし…もし、お前がいいといってくれるのなら…ずっとお前を守っていきたいと思ってる!!」
魅録は真剣な目をしていた。耳まで真っ赤になっていた。
「魅録!!」
(そうだった…魅録はいつも助けてくれた…守ってくれた…)
そのとき、可憐には最近の自分の不安で寂しい気持ちの理由がわかった。
「魅録!あたし…あたしも魅録のことが好き!!」
可憐はそう言うと同時に魅録の腕の中に飛び込んだ。
「可憐!!」
「魅録…あたしね…今、わかった気がする。みんなといつまでも一緒にいられないのが寂しかったの。でも、それ以上に魅録と離れるのがつらかった。どんなときでも絶対助けてもらえる、守ってもらえるって信じてた。他の人じゃそんな風に思えない。魅録だから信じられたの!!」
「…可憐、俺が今どれだけ幸せかわかるか?どれだけこのときを待っていたか…このままお前を離したくない!!」
「…離さないで!! ずっと傍にいて!!」
ふたりは強く抱き合い、互いの気持ちを確かめるように熱く唇を重ねた。

次の日、ふたりからの報告を清四郎を始め仲間みんなが喜び、仲間から恋人へ新しく歩みだしたふたりを暖かく見守った。

そして数年後、ふたりはあれから何度も来たこの海に来ていた。
可憐のお腹には新しい命が芽生えていた。
「可憐、からだ大丈夫か?無理するなよ」
「うん、大丈夫よ、ありがと」
「おい、元気に育てよ!お前達のことのことは俺が絶対守るからな!」
魅録は可憐のお腹に手を当て、優しく話しかけた。
可憐はその魅録の手に自分の手を当て優しく微笑んでいた。


Fin

262名無し草:05/01/15 11:40:04
30万hit記念・<守りたい>
おじゃましました。
263258:05/01/15 11:40:26
…………思いっきり、初心者ミスしてしまいました……_| ̄|○ 

>「守りたい」の作者様
うpの最中にも関わらず、本当に、本当に本当に申し訳ありませんでした(涙)
一体、なんとお詫びしたらいいのか……
本当にごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい(涙)

>専用ブラウザの皆様
もし可能でしたら、レス消去機能でお願いします(涙)

>IEなどのブラウザの皆様
……お詫びのしようがありません……本当に申し訳ありませんでした(涙)

逝ってきます……。
264名無し草:05/01/15 13:00:25
もうわかったから消えれ
(涙) (涙) うるさいよ・・・

「守りたい」さんの余韻も何もなくなるじゃまいか
265名無し草:05/01/15 20:52:41
おめでとうございます。
受験で全くPCを触っておらず半年ぶりほどに
携帯からおじゃましたら30万という事ですので祝辞をば。
春にまとめ読みするのが楽しみw
266名無し草:05/01/16 00:04:52
嵐様、30万HITおめでとうございます。
悠理+魅録で1レスお借りします。
26730万hit記念・<微睡>:05/01/16 00:05:34
 ここはもう自分の部屋のように慣れた場所だったし。
 家主はヒトがいるのにまるで気にしないで、さっきからなんか弄ってるし。
(また新しいメカか?好きだな、ホント)
 寝転びながら読んでいた週刊の漫画雑誌はもう読み終わっちゃったし。
(だいたい毎週読んでないから内容がよく分からないし)
 なんだかあたいは眠くなってしまった。なのに、
「おい悠理、そこで寝るなよ」
 ヒトが気持ちよくまどろみ始めたときそんな事を言われたら、誰だって腹が立つだろう?
「眠いなら家に帰れ。俺の布団で寝るんじゃねーよ」
 ……たとえ、相手の方が正しかったとしてもさ。

「いーじゃん、ケチ」
「ケチじゃない。おまえだって家に帰ってからゆっくり寝た方が良いだろ」
 今、車を呼んでやるからよ。宥めるようにそう言われても、あたいは全く動く気になれなかった。
 だって眠いしさ。
「……ここが気持ち良いんだもん」
「何言ってんだよ。俺のベットなんかよりもお前ちのでっかいやつの方が何倍も寝やすいに決まってる
だろ。横着しないでちゃんと帰れよ」
 帰れ帰れと言われれば、逆の事をしたくなるもんだ。
 ましてや、あたいは今とっても眠いんだからな。起こすなよ、とちょっとムカつきながらあたいは唸る。
「ヤーダーよー」
「悠理!」
 すると、ちょっときつめの声が降ってきたので、慌てて布団を被った。
「あー眠いなぁ。おやすみ、魅録」
 音が遮断された厚い布の向こうで魅録がなんか言ってるけど、別に気にしない。
 だって、眠いし。自分ちのベットよりも、ここの方が気持ち良いし。
 なんでか分からないけど、そうなんだからしかたないじゃん?
「ふわぁ〜あ」
 大きな欠伸をひとつして、あたいはまっすぐ夢の世界へ落ちていった。


【了】
268名無し草:05/01/16 01:34:43
>微睡
悠理祭りトップバッター、乙です!
1レスという短い中、日常のひとコマに、この二人ならではの
萌えポイントがが凝縮されていて。
流れるような、素敵な文章と共に、堪能させて頂きました。
>なんでか分からないけど〜
悠理のこの独白に、妄想が膨らみますw

>守りたい
今回のお祭りは、可憐話が多くて嬉しいです。
魅録の一途な思いと、友情を発揮する清四郎がいいですね。
爽やかなお話を、有難うございました。
269名無し草:05/01/16 14:07:25
>194-195「恋はやさし」、>240-242「恋はたのし」
の完結編で、「恋はたのし」です。

2レスか3レスです。いつものように相手は誰でもいいです。
すいません、上で間違えました。「恋はかなし」です。

****************

「悠理?」
男が気遣わしげに彼女を呼ぶから、彼女ははっと我に返った。
そっと彼が指の背で彼女の頬を撫でる。
その指を雫が濡らすのを見て、初めて彼女は自分が涙を流していたことを知った。
悠理はきゅっと唇を噛み締めると、笑もうとした。張り付いたような笑みになっていないか、それだけが心配だった。

こんな、こんなはずじゃなかったのに、な。

「なんだか最近、悠理が情緒不安定じゃありません?」
放課後の部室。野梨子が悠理の様子を眉をひそめながら見ている。
「そうねえ。なんとなく見当はつくけどね。」
可憐は訳知り顔で頬杖をついている。
二人は瞬間、目を見合わせると、同時に席を立った。
「悠理、うちの近くに美味しいカフェが出来たから連れてってあげるわよ。」

ずずっとバナナセーキを飲む。なんとなく懐かしいような甘い香。
悠理は向かいに座る親友たちに促されて口を開いた。

なんか、さ。別に辛いわけじゃないんだ。
怖いとか寂しいとかとも違って、でも胸が痛くて。
急に走り出したくなるような、なんかに焦るみたいな。
でもあいつの顔を見たら、痛いところが温かくなるんだ。
ほっこり温かくて、甘くて、なのに痛くて。
・・・泣くつもりなんか、ないのにさ。
変だよな。あたいらしくないよな。
それを聞いて可憐と野梨子は目を見合わせる。
なんとまあ、食欲と睡眠欲しか持ちえてないようなこの友人が、こんな感情を持つ日が来るなんて、ね。
「その気持ちの名前、教えてあげましょうか?悠理。」
可憐がにこやかに言う。
相手があいつだって言うならとことん応援してやるわよ。
可憐が見るところ、相手の男はまだ悠理の気持ちに気づいてない。
「恋、ですわね。」
野梨子も口元を綻ばせながら、答えを与えた。
こんな可愛らしい悠理の背中を押さずにいられようか。

「恋?あたいが?」
悠理が頬を真っ赤にしてぽかん、と口を開けた。
やっぱり自覚してなかったらしい。
「その、訳もなく涙が出たりするのも恋のせい?」
「悠理。“愛”という字に“しい”と送り仮名を振ったらどのように読むかご存知?」
唐突に野梨子が訊ねる。
「えと・・・“あいしい”?」
首をかしげながら言う悠理に、可憐ががくっとテーブルに突っ伏する。
「“いとしい”でしょ!」
とツッコミを入れる。
「そうですわね。“いとしい”。でもね、昔は“かなしい”とも読みましたのよ。」

恋をすると涙が出るのは、悲しいからじゃない。愛しいから。
いとしい、かなしい、コイゴコロ。
きっと、ね。

恋はやさしくて、たのしくて、かなしくて・・・あったかい。
女たちはそれぞれの恋を思い、微笑んだ。

                    おわり
272名無し草:05/01/16 18:51:55
恋シリーズの悠理、タイトルからして可哀想なことになっちゃうのかと
思ったけどそういうことだったのか。よかったわ。
悠理は本編で全く恋愛気ないだけに、逆に妄想がわくともいえるかも。
273名無し草:05/01/16 22:51:21
>きっかけ
悠理SSだと思って読んでたら、魅録SSだったのか。
魅→悠ってことだけど、魅×悠でも悠→魅でも読めそうですね。
>守りたい
ほんと可憐と魅録のが今回多かったですね。
>微睡
1レスながらもこの二人らしいお話で、原作にあっても違和感なさそう。
>恋はかなし
自覚のない恋愛初心者の悠理もかわいいけど、
女のこ達の仲良さげな感じのところが更にいいな。
274名無し草:05/01/17 02:00:54
美童&魅禄のSSもしたらばにうpされてたね。
特に美童のお話は無かっただけにウレシイ。
作者さん、どうもありがとう!
275名無し草:05/01/17 10:19:22
>恋はかなし
シリーズ完結、お疲れ様でした。
前2作が「たのし」「うれし」で、もし「かなし」だったら・・・とチョト
ドキドキしてたのですが、こっちの意味だったのですね(ホッ

>恋をすると涙が出るのは、悲しいからじゃない。愛しいから。
この部分、温かい感じがしてとても好きです。
粋な3部作、有難うございました。
276名無し草:05/01/17 10:21:49
書き忘れ。

>>274タソ
私も見てきた&激しく同意<美童SS。
というか絵板もだけど、うpがあると嬉しい。作者さん、ありがとう!
277名無し草:05/01/17 16:56:47
本日はその他キャラの日。
今のところSSがないようなので雑談を振らせてください。

素朴な疑問。
和子さんって清四郎といくつ違いなんでしょうね?
「剣菱家の事情」時点(=冬)「卒業できそうか?」と言われてる
から、医学部5年生かな?と思いますが。
(医学部の卒業試験は秋には終わるらしいです。
 6年生の冬だったらもう卒業決まってるはず。)
彼女に限って浪人も留年もしてないでしょうから、4つ違い?

あと年齢で言うなら豊作さんも悠理といくつ違いでしょう?
彼はどういう学校を卒業したのでしょう?
(聖プレジデント?東大?ケンブリッジ?)
皆様の思うところをお聞かせ願えればと思います。
278名無し草:05/01/17 17:39:27
和子姉さんは4つ差位かもね。
豊作さんは、10才位は離れていそうなイメージ。
気弱なだけで頭は良いんじゃないかな。
千秋さんはいくつなんだろう?40前後?
30万ヒットおめでとうございます。
有閑倶楽部はもともと好きでしたが、
ますます好きになるような気がします。
スレとまとめサイトのますますの繁栄を願って。


 頬杖ついて、私は溜息をつく。
 シベリア鉄道の二等席。車窓は変わらずウラル山脈を映し出していた。
 別れてきたときの押し殺した悲鳴のような妹の言葉が、私の胸を鈍く
締め付けていた。
 私のジャケットの右ポケットにはお守り。左ポケットには9 mmボディ。
まるで玩具のような拳銃だが、護身にはこれで充分だ。オムレツを作る
よりも尚、たやすく人を殺せる。
『オムレツって幸せの味がすると思わない?』
 卵を使ったもっともシンプルなその料理を、未だに私はつくれない。
 私はいつだって当たり前のことが出来ない子供であり、当たり前でない
ことが出来る子供だった。
『もう人を殺すのはやめて』
 可愛い私の妹。泣かせてしまった。
 今日の講演に響かなかったらいいのだけれど。
「一緒に食堂へ行きませんか?」
 先ほどから本ばかり読んでいた頼りない文学風の青年が、声をかけて
きた。顔立ちから同国者であることは間違いなかったが、どこか華やかな
身ごなしがロシア人らしくない。
 今朝、クラスノヤルスク発から乗り込んできた客だ。部屋に入ってくる
とき、先住者である私に挨拶をしてきたが、それからはお互いに好き勝手
に時間を過ごし、会話はほとんどしなかった。
 私は軽く眉根を寄せた。自分に声をかけるだなんて、顔に似合わずいい
度胸だ。普段から二等室しか使わないから必ず同室者がいたが、老若男女
問わず、私に声をかけてきた者はいない。
「私は一人で行く」
 つるむつもりはない、ということを暗に言うと、彼は戸惑ったように眉
を下げた。
「でもご飯は誰かと一緒の方が楽しいでしょう」
  ――姉さん、寂しくないの? わたしは一人のご飯なんて寂しいわ。
「それに食堂はもうすぐ閉まりますし」
 言われて、私は腕時計の時間を確認した。午後8時20分。オーダース
トップは8時30分だ。確かにもう時間がない。
「仕方ない、一緒しよう」
 私は如何にも仕方がないという風にそう言うと、何が嬉しいのか青年は
にこにこと笑った。
 お決まりのオームリに、スープ。硬いパン。
 昔から食堂車の出す食事は、気取ってばかりで旨くない。
 しかし身体に必要なカロリーと考えれば、充分であるには違いなかった。
もくもくと私は目の前にあるものを平らげる。
 それにしても幸せそうに飯を食う男だ。
「いやあ助かりましたよ」
 食後の濃いコーヒーを飲みながら青年は明るく言った。ロシアの男なら
ウォッカといいたいところだが、知的階級を自称する人間たちからはむし
ろアルコールは忌避されている。アルコール中毒は深刻な社会病だ。暗雲
たちこめるロシアには、そういった楽しみしかない。
「何が」
「一人で食事を摂りたくないのは実は僕自身でして」
 楽しいディナーを過ごしたいなら別な人間でも誘えば良かったのに、
なんて酔狂な。
 そう思いながらも、口にはしなかった。青年の笑顔は繊細で、誰かを
彷彿とさせて矛先が鈍るのだ。
「よく私に声をかけたな。大概の男は私の外見を見るだけで敬遠するもんさ」
 鍛えに鍛えた鋼のような肉体を私自身は誇りに思っているのだが、周囲
はそう見ない。
「強そうですもんねー」
 当たり前だ。
「最近の男どもが軟弱なだけだ」
「それを言われると面目ない」
 昔から運動と名がつくものは苦手でしてねぇと青年は言った。言葉どお
り、彼は華奢であった。だが意外と身体は締まっている。プリマだった妹
もまた、線の細さの割りに、質の良い筋肉と骨格を持っている。
 職業柄、そういうのを見抜くのは得意だった。
 反対に、これ見よがしな筋肉を持っていても、使えない人間は山ほどいる。
「強くなれたらいいんですけどね」
「なぜ」
 意外に真摯な表情をしていたため問うと、途端に青年はへらっと笑った。
「だって近頃の女性は、軟弱な男性ではダメなんでしょう」
 そう言って、青年はテーブルの花瓶にさしてあった一輪の花を手に取った。
「僕に出来ることといえば、花を贈るぐらいかな」
 口説かれているのだと、ようやく気づいたが無視をした。


 食堂車から出て、廊下に出ると途端に冷え込む。窓ガラスにはびっしり
と霜がこびりつき、まるで冷凍庫だ。足早に自分たちの部屋に戻るとほっ
と一息ついた。
「小さい頃、この国が嫌いでした」
 どこまでも暗い闇の向こうを見つめながら、青年は言った。しみったれた
自分語りに付き合うつもりはない。私はすでにベッドメイキングされた寝台
に服のまま寝そべった。私は旅に部屋着を持ちこまない。不要だからだ。
 鞄の中にはいつも一組の着替えとライフル。最低限の現金とパスポート。
そしてジャケットの右ポケットには妹の写真。左ポケットには9mmボディ。
 ガタンガタン。
 凍土が作り上げる救いようのないしじまの中、線路が軋みをあげる音だけ
が規則的に鳴っていた。
 私の返事がないことにも頓着せず、青年は語り続ける。
「寒くて、貧しくて、いいところがないって」
  ――私のために、人を殺さないで。
「まともな職では、弟たちを満足に学校に行かせることも出来ない」
  ――姉さんは、姉さんの好きなように生きて。お願いだから。
「今は?」
 気がつけば問い返していた。
「今はどうなんだい」
「もう弟たちは大人になっていて、僕の庇護なんか必要じゃないですよ」
 自嘲するように青年は笑う。
「でももう、いろんなものに永遠の別れをしてきてしまった。戻れないですよ」
 意味深なことを言う。
 永遠の別れ。私には馴染みがありすぎて、どうということもないものだ。
「ではあんたは何のために生きているんだい」
「さあ、何のためでしょうかねえ」
 考え込むように、ゆっくりと青年はそう言った。
 そして。
 遮るものが何もない鋭い朝日が、私の目を灼いた。
 座ったまま仮眠をとっていた私は、皮の手袋をはめると、ゆっくり立ち
上がった。
 朝が来たのだ。もうすぐ次の駅につく。
 ロシアの朝は、どうしてこのように真白なのだろうか。何ひとつ不純物の
混じらない厳粛な光。
 私は場所を確認するため、窓の外を見た。
 寒さを遮断するために嵌め込まれた分厚いガラスには、血痕が飛び散って
いたけれど、車窓の景色は何一つやはり変わらなかった。
 窓に映る自分の姿を見ながら、防寒用のロシア帽とコートを羽織る。
 私は次に自分の足元に視線を遣った。
 青年はジャケットの内ポケットに手を入れたままで、事切れている。朝日
に照らされ、彼の指に握られたものが、鈍い光を放っていた。
 反対のポケットには、弟の写真が入っているのだろうか、と私は少し気に
かかった。だが私には関係のないことだった。
「Прощайте(さようなら)」
 私はにやりと笑い、背を向けた。
 そして名も知らぬ青年のことを忘れた。
 列車が駅に着く前に脱出するべく、私は列車の扉をこじ開けると、極寒の
地へ飛び降りた。
 そうだ、帰ったら妹のつくるオムレツを食べよう。


 私はいつだって当たり前のことが出来ないふりをする子供であり、当たり
前でないことばかりしようとする子供だった。

終わり
タイトルが長すぎて、30万hit記念の文字が入りませんでした。
すみません。
あ、あとここのタイトルの「殺し屋」とは彼女ではなく、青年のことです。
彼女は一応、真っ当な職の人ですので。
もう殺さないで、というのは妹さんのわがままなのです。
分りづらくてごめんなさい。
287名無し草:05/01/17 21:01:01
>銃と列車と殺し屋のオムレツ
ナルホド!!青年が「殺し屋」だったんですね〜

描写がお見事です。素直に面白かった!
288名無し草:05/01/17 21:57:19
30万hitおめでとうございます。
五代メインのSSをウプします。8レスを予定しています。
 剣菱家の老練な執事、五代は一人、東京から遥か離れた地の剣菱系列の温泉旅館に来ていた。
正月もとうに明けたとあって、客も少なく静かだ。時間がゆったりと流れる贅沢さをかみしめ
ながら、五代はその日何万回目かになる豊作ぼっちゃまへの感謝の言葉を胸の内で唱えた。
そのまま昨日の出来事をつらつらと思い返す。

「五代、悪いんだけど、頼まれてくれないか」
「ぼっちゃま、なんでしょう」
「明日、僕の代理で旅館の視察に行ってくれないか」
「ご用命とあらば参りますが、この五代めにぼっちゃまの代わりなぞ勤まりますでしょうか」
「いつものようにビシバシ言ってくれるだけでいいんだよ。万事整っているか目を光らせてさ。
来月、大事な客をそこの旅館に案内する予定だからちゃんとやっているか見ておきたいんだよ。
ヘリは14時に出発することになっているから。」
自分にはヘリで移動など勿体無い、という五代の主張を押しとどめて豊作は言った。
「話はもうついているから。じゃあ、頼んだよ」

 そして今日、出発前になぜか嬢ちゃまがやってきて、おやつが詰まったリュックと
iPodなる音楽再生装置をよこした。
「嬢ちゃま、五代一人ではこんなに食べ切れません。嬢ちゃまがお召し上がり下さいませ」
「いーから、もってけって。iPodは後で返せよ」
そういう訳で五代はヘリの中で久しぶりにバナナを食べた。
イヤホンで嬢ちゃまが好きなシャカシャカいう音楽を聞きながら。
 旅館についてすぐ、五代はすべての事情を悟った。動転しながらすぐに電話すると、
豊作は笑いながら言った。
「うちにいたらいつまでたっても五代は休めないだろ?ちょっと遅いけど、正月休みだと
思って迎えのヘリが行くまで温泉にでもつかってのんびりしなさい」

 翌日の午後、五代は旅館のおかみさんの勧めに従い、ロープウエイに乗って旅館近くの
展望台に来ていた。ポカポカと暖かい日で、散歩は楽しかった。東京よりも暖かいこの地は
もうすでに春で寒桜が満開だった。歩き疲れた頃、展望台のレストランでお茶を飲むことに
した。座るとついつい遠く離れた主人邸に思いを馳せてしまう。

 思えば、昨年はひどい一年だった。クーデターや陰謀に巻き込まれるは、身代金誘拐などは
いったい何件起きたか数えきれず、自分はその度に身が縮む思いをしたものだ。
 邸の使用人は『変人ばかり』と言っていたが−−つい先日もそう口にした不届きものを五代
は叱りつけたばかりだったが、内心では五代もそうだと認めていた−−個性的な若様や奥様、
おやさしいぼっちゃまそして自由奔放な嬢ちゃま。
 自分がお助けすることができるうちはまだいい。だが、この五代もそんなに先は長くない。
自分亡き後、お邸はいったいどうなってしまうのだろうか。
 せっかく決まった嬢ちゃまの縁談は破談になるし−−もっとも破談になって嬢ちゃまは
喜んでいらしたから一概に悪い事とは言えないが。
 それにしてもぼっちゃまの結婚話はいったいいつになったら進むのだろう。ぼっちゃまは、剣菱財閥の長男でしかも適齢期なのに浮いた話ひとつないのも変な話だ。本来なら山のような
縁談が舞い込んでしかるべきではないのか。何につけても行動的な奥様がぼっちゃまの縁談
だけはすっかり忘れ去っているのも不思議でならない。
 つらつらと考え事にふけっていた五代が我に返るとあたりはうっすらと暗くなりはじめて
いた。時計を見るとすでにロープウエイの営業終了時間も近い。戻ることにして、乗り場に
向かった。

 近づくと先客がゴンドラに乗り込むのが見えた。五代が行くと係が小声で耳打ちした。
「次の便もすぐまいりますが」
「いや、これに乗っていくよ」
五代はゴンドラに乗り込んだ。

 百人乗りの広いゴンドラにはただ一人、先程後ろ姿を見た男しかいなかった。明るい所で
あらためて男を見ると、五代は係がなぜあんなことを言ったのかわかるような気がした。

 男はまるで体に合っていない汚れた皺くちゃのスーツを着ていた。元はグレーだったのかも
しれないが、今は汚れてなんとも形容のしがたい色になっている。襟がはだけたシャツも同様
に皺くちゃで遠目でみてもはっきりわかるくらい垢じみている。裸足にはかろうじて形を保っ
ている壊れかけたプラスチック製のつっかけ、俗に便所スリッパと呼ばれる代物を履いていた。

 年の頃は四十位だろうか。脂ぎった髪が被さった顔は白く青ざめていた。
無精髭のせいか顎が細く尖って見える。
痩せ衰えて頬骨がやけに目立ち、窪んだ小さな目だけが餓えたようにギラギラと輝いていた。

 五代は気の毒と思うよりも、むしろ男のことが気味悪かった。
なんとなく落ち着かない気分になりながら五代は空いている椅子に腰を降ろした。
さすがにここで身ぐるみ剥がされたりはすまい。
いやいや外見だけで人を判断するのはよくない。
それにしても、よくロープウエイに乗るだけの金があったものだ。
ここのロープウエイは決して安くはない。
その金で飯でも食べればよいものをノよけいな世話かもしれないが。

ゴンドラが動きはじめた。

「こんばんは」
思いがけず近くで声がして目をあげると、いつの間にか男が目の前に座っていた。
「こんばんは」
仕方なしに五代は相手をすることにした。
少しでも腹の足しになれば、と五代は嬢ちゃまのリュックからバナナを取り出し、男に勧めた。男が気を悪くしなければよいが、と思いながら。

「どこからきなすったかね」男が気さくな調子で尋ねた。
「東京です。あなたさまはどちらから」
「わしも東京からですよ」
 今どき自分のことを『わし』と呼ぶ人も珍しい。
この男も見かけよりも実際には年をとっているのかもしれない、と五代は思った。

「東京のどちらから」
「××区です」
「おや、区まで一緒ですか。××区のどちらで」
「瑞祥町です」
 五代の顔色が変わった。この町の名は遠い昔に主家の先祖がめでたい名を、と決めたもので
端から端まで剣菱家の地所であった。
「瑞祥町には剣菱様のお邸ただ一軒しかありませんぞ」
「その剣菱邸です。何かありますかな」
男は食べかけのバナナ片手にすまして五代を見返した。
「ありますとも。私はその邸のものだが、お前さんには見覚えがないからね」
「見覚えがないかもしれんね」男はせせら笑うように言った。
「私の知らない者がお邸にいる訳がなかろう!!」
五代は激高して、男をぐっと睨み付けた。

「それはお前さんがわしを知らないからそういうのだ。わしは三代前からあの邸にいる。
前のを壊して今の邸を建てる前からね。お前さんは会った事ないだろうが先々代は六十三で
ポックリ逝ったし、先代は四十にもならぬうちに食中毒で死んだだろう。」
 その通りであったが、五代は睨み付けるのをやめなかった。男は続けた。
「わしはお前さんが邸にやってきた時分も覚えておるよ。お前さんは主人に燕尾服を
出しておけ、と命じられて、頼まれもしないのにアイロンをかけて焦がしたね。
お前さんが夜中に隠れて繕ったのも見ているよ」
 たしかに、それはまだ自分が右も左もわからぬヒヨッコの頃のことであった。
先代様は青くなって謝る自分を笑って許した。そしてせっかく五代が直してくれたのだからと
しばらく継ぎの当った燕尾服を着てくれたのだ。五代が先代様は燕尾服の替えなど幾らでも
持っているのに気付いたのはそれから大分経ってからだった。
「なぜそれを」
五代は空いた口が塞がらなかった。先代様は五代の失敗を誰にも話さなかったはずだ。

「こんなこともあったね」
男は五代の問いには答えず、ペラペラと邸で起きた出来事を話し出した。
「寸分も違っていないだろう、それでもちがうかね」
「よくあっています」
「そりゃあ、あっているだろうよ。毎日見ているからね」
男は唐突に問うた。
「わしが何者かわかるかね」
「見当もつきません」五代は正直に答えた。
「わしは貧乏神だよ」
「はっ??!」
「わしは三代前から因縁あってあの邸にいる貧乏神だよ」

 五代は噴き出した。冗談にも程がある。10分で20億用意できる邸に貧乏神がいると
いわれて信じる人間がどこにいるというのだ。剣菱邸には金なら腐る程ある。
「おかしいかね」男はいたって大真面目だ。
「にわかには信じられません」五代は涙をふきながら答えた。
「わしは次々と厄災をもたらし、なんとかあの邸の財産を減らそうと頑張ってきた。
お前さんだってわしの存在を感じていただろう」
 たしかに、先程五代がぼんやり考えていたのはそういったものだった。
悪意のある存在。不幸を呼ぶもの。しかし、貧乏神だとは。

「今の家人はやたら丈夫でめったに病気にもかからないし、何度頭を打っても死にやしない。元々運が強すぎるのかもしれんが、わしの術が効かないなんてどこか鈍いんだと思うね。
成功したのは縁談の妨害くらいだ。財産を減らそうにも、いかんせん例の観音が増やす一方。
力ではあっちの方が上だからわしにはどうしようもない」
「もしや黄金観音の所在をご存じで」
「しかとはわからぬが、敷地内のどこかに埋まっているのだろう。
わしならそのままそっとしておくがね」
 男の言うことももっともなような気がした。五代は決して敷地の境界を変えぬよう、
主人に進言しようと思った。もっともこの先その必要に迫られることもないだろうが。

「とにかくわしはもう嫌になったからよそへ行くことにした。
だから、お前さんの心配もこれでなくなるわけだ」

 男の言葉に五代は肩に背負っていた重荷がとれたような気がした。
平穏な剣菱邸は案外退屈かもしれない、とちょっぴり思いつつも。
「では、あなたさまはどちらへお移りになられます」
「わしの行く先かね。財閥つながりで兼六財閥邸に行こうかと思っている。」
 五代は長年の宿敵の命運を喜んだらよいのか悲しんだらよいのかわからなかった。
未だにこの男の言う事が信じられない。男は五代の心中を見透かしたように言う。
「お前さんが嘘だと思うのならよく見ているがいい。
あっちには観音なんてやっかいなものはいないから、あっという間に廃れるだろうさ」
「え」
「だが、このことは他言無用だよ」
「はい」
 男は五代に食べ終わったバナナの皮を手渡した。
上の空で五代が皮を持参してきたゴミ袋にしまう間に、ゴンドラは降り場に滑り込んだ。
係が外から扉を開けると同時に男は降り、闇に消えていった。

 あの男の言うことは本当だろうか、といぶかりながら旅館に戻る道を辿っていると、
携帯電話が鳴った。
「ああ、五代。すまないんだが、明日の朝一番でこっちに戻ってきてもらえないだろうか」
「ぼっちゃま、いかがなされました」
「また母さんが家出しちゃったんだよ。父さんはめそめそしているし、どうしようもなくて」
「ぼっちゃま、安心なされませ。この五代がついておりますぞ」
 この分だと貧乏神がいなくてもまず退屈することはないだろう、と思いながら、
五代は上機嫌で豊作に請け負った。

おわり

ありがとうございました。
297名無し草:05/01/17 23:01:13
脇役にスポットライト当たるのってめったにないから嬉しいです。

>銃と列車と
おー、こういうシリアスなモルさんもイイ!
諜報員が転職っぽいモルさんも、しんみりするような日もあるんだろうね。

>貧乏神
けっきょく騒がしいの好きな五代がいとおしいです(笑)
あの家族に付合える執事も、相当なもんです
298名無し草:05/01/17 23:03:14
脇役にスポットライトあたるのが嬉しいです。

>銃〜
シリアスなモルさんいい!
諜報員が天職っぽいモルさんも、こんな日があるんでしょうね。
妹さんのオムレツ、モルさんにとっては本当に幸せな味なんでしょうね

>貧乏神
五代がいい味だしてますね。
結局、騒がしいのがすきなんでしょう(笑)
あの家族に付合えるんだから、五代も相当なものです。
299297=298:05/01/17 23:04:46
あ、書き込みに失敗したと思って、二重投稿してしまいました
300名無し草:05/01/17 23:35:32
>銃と列車と殺し屋のオムレツ
極寒のロシアを旅しているような気分になれました。
テンポもよかったし、面白かったです。
ただ、最後の殺し屋君は、モルさんを狙って返り討ちにあったのか、
自ら命を絶ったのかがちょっとわからなくて…。
すみませんが、よければこっそり教えて下さい、作者さま。

>貧乏神物語
i-podをシャカシャカさせながらバナナを頬張る五代、かわいい!!
彼の少し冷めた(だけど家族に等しい愛情を持って)目線で語られる
剣菱家の人々もラブリーでした。

お祭りももうすぐ終わりですが、最後が脇キャラというのもよかったですね。
作者さま方に感謝します。この一週間、楽しませていただきました。
301名無し草:05/01/17 23:59:21
>300
ごめんなさい、分りづらくて(汗)
あれは有能な諜報部員であるモルさんの命を狙った殺し屋です。
旧共産党圏の国がモルさんが持ち帰った情報を奪還しようとしたのです。
青年はロシア人の両親から生まれたけれど、育った国は別で、
ロシアに潜伏するにはちょうどいいとして、選ばれました。
で、彼はモルさんを油断させようとしていろいろしてみたけれど、
モルさんは胸襟を開く様子がない。
そこで(殺して奪い返すしかない)と思った彼は、
モルさんを狙ってジャケットの中から拳銃を取り出そうとしたけど、
引き金を引く前にモルさんにやられたのです。
(モルさんは彼が怪しいと気づいていて、様子を見てました)

あー、解説が必要な話なんて書いてすみません。
いろいろ書いているとごちゃごちゃしてきたので、
大方を省いたのです。
302名無し草:05/01/18 00:03:04
>301
300です。ありがとうございました。
大方そうだろうとは思ったのですが、
もしかして読み違えているのだろうか、と思ってしまって。
すっきりしましたw
303名無し草:05/01/18 00:14:14
お祭り面白かったです。皆さん乙!
304名無し草:05/01/18 00:17:34
そういえば、もう終わりなんですね(T_T)<お祭り
この一週間、とても楽しませて頂きました。
皆さん、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました!
305名無し草:05/01/18 00:23:56
お祭り、終わりですね。さびしい…。
投稿したかったけど何も思い浮かばず、読者として楽しませていただきました。

>278
脇キャラの年齢についての考察ですが、和子は23か24、
豊作は20代後半、26〜28の間くらいじゃないですかねぇ?
(さすがに30代ではないはず)
千秋は「若く見えるが40はとうに過ぎてる」と魅録に言われていたので、
43~4くらいかなあ。
大学を出てフラフラ遊んでいるところで時宗に出会ったなら、そんなものでは?
25歳くらいで魅録を生んだ計算になりますね。
306名無し草:05/01/18 00:39:33
お祭り終わりましたね…
いまさらですが、魅録考。悠理はまた明日考えます。

恋愛について
 非常にバランス感覚に優れているため、穏やかで優しい恋をしそう。
 相手や自分を破滅させてしまうような恋をしたときは、引き下がるでしょうね。
 現実的な意味で(結婚の相手に出来るという意味で)メンバーで一番モテる
でしょうが、けっして受身的な恋はしないタイプと思う。
 可憐と同じで、愛されるより愛する人

友情について
 原作でも名言されている通り、男に(健全な意味で)もてるタイプ。
 あんまり語ることがないなぁ。原作で語りつくされてるから(笑)

将来について
 警察の警備部門(SPや機動隊)などでバリバリ働いてそう。
 特殊技能が必要なところだし。
 SPだったら、体力だけでなく頭のよさが必要だし、ぴったりな感じ。
 でも何の仕事でも出来そうなので、彼の将来を考えるのは難しい…
307名無し草:05/01/18 00:57:59
>貧乏神物語
途中まではミステリー?と思ったら、有閑の魅力のひとつの異世界との混沌が
のほほんと書かれてて面白かったです。

>>306
魅録は意外とインドア派というのを何かで読んだ気がしますが、
確かに家に篭って何か没頭してるのが似合うので、将来は何かを発明して
ノーベル賞とかとって欲しいw
308嵐 ◆F/MOUSOU1Q :05/01/18 20:26:04
キャラ祭り、お疲れさまでした&ありがとうございました。
たっぷり楽しませていただき、一ファンとしても、まとめ
サイト管理人としても、大喜びしております。

以下、業務連絡を。
・妄想同好会BBSに作った、キャラ祭り関係のスレッド:
 今月末までは残しますので、後夜祭などにお使いください。
・作品の裏話をしたい方:
 BBSにある、「裏話スレッド」をご利用ください。作品を
 サイトにUPする際、後ろに追加させていただきます。
・作家さん・絵師さんで、修正したい部分がある方:
 メールや、BBSの「誤字・脱字 修正スレッド」で、
 お知らせください。サイトUPの際に、手直ししますので。

なお、作品のサイトへのUPは、関係スレッドを過去ログに
送るのと併せて、2月初め頃に行う予定です(もしかしたら、
今週末に1度目のUPをするかもしれませんが、一応、今の
ところの予定は2月初めということで)。
309菊正宗清四郎君の苦悩:05/01/21 23:54:23
 短編投下します。
 清四郎が悠理に片思いしているギャグものです。
菊正宗清四郎は苦悩していた。
どれぐらい悩んでいたかといえば、目が合ったカラスがまるで断末魔のごとき悲鳴を
上げて飛び去り、新聞の勧誘のおっちゃんが泣いて謝るぐらいである。
それでも自分がこのようなことで悩んでいるという現状を良しとしなかった清四郎は、
なるべくそのことについて考えないようにしてはいた。しかし監査のため立ち入った
漫研部で、怯えた顔の部長に腰を抜かされるに至って、このままではいけない、なんとか
しなくてはとようやく決意を固めた。

他でない、剣菱悠理のことである。

彼女との付き合いは長い。「知性の欠片もない」「大食い」「美的センスゼロ」などなど、
表向きはさんざんな扱いをしてきた。しかし実のところ、縁を切らないように細心の注意を
払ってきたのは清四郎の方である。というか、それに気づいていないのは悠理だけで

あった。隠し通させていると思い込んでいる清四郎を、周囲の人間は生暖かい目で
にやにやと見守っているのだが、当の本人はあくまでクールを装っている。
ほんの少し馬鹿である。
ともかくとしてあの手この手の姑息な手段は功を奏し、悠理はなんだかんだ言って、
菊正宗にべったりだ。はじめはそれで幸せを感じることが出来た。だが、清四郎はそれで
満足していられなくなったのだった。
(ああ、君がそんな可愛いからいけないのです)
パンツが丸見えなのにも気にせず、蹴りのひとつで男どもを沈没させるえげつない女
のどこが可愛らしいのか問い質したいところではあるが、この菊正宗清四郎という男、
高性能の盲目フィルターを標準装備している。その精度は日本に異常増殖する腐女子
並みであり、どんな真実でさえ都合の良いように歪めてしまえるという優れもの。
彼の中で剣菱悠理の言動は「ちょっとお転婆☆」程度にうつっているに違いない。
(僕は強欲だ)
溜息とともに、胸中で独り語つ。
(友人になれただけで幸せに思わなくてはいけないというのに、僕という男は……。
彼女と想いが通じ合えばと願ってしまう。この腕に抱きしめられたならばと)
切ない思いで菊正宗は瞳を閉じた。
(いや、それだけではない。出来ることならその可愛らしい唇に口付けることが出来た
なら……。ああ、どうせならついでにその可愛い×××を僕の×で×××って、
君の××顔を見ることが出来たならっ)
強欲というより、ただの変態である。
(――もう、我慢できない。この想いを悠理に伝えよう)
悶々とそういうことを考えている彼の様子は不気味で仕方ないものであったが、幸い
なことに周囲の人間には彼が何を悩んでいるのかバレバレだったため、大した問題とは
捉えなかった。
ただときおり美童グランマニエがとってもとってもとっても優しい笑顔を湛えて、彼を見
守っていた。


告白をすると決心したものの、どのように伝えるか清四郎は決めかねていた。全く自慢
にならないが、生まれてこの方、告白されることはあっても、自分から告白したことなど
自分にはない。
――それに、だ。
自分と悠理の間には、色気というか湿り気というか、そういうものが決定的に欠けてい
る。たとえホテルでふたりっきりになっているところを発見されたとしても、誰も疑っては
くれないだろう。
生徒会活動を終えてた後、清四郎は考え事をしながら、ひとりで街をぶらぶらと歩いて
いた。いつもなら野梨子と一緒に帰るのだが、今日は用事があると告げて、ひとりだった。
(こういうの悠理は好きそうだな)
奇抜さをウリにしたブランドのショーウィンドウの前で清四郎は立ち止まった。実際の
悠理が着る服はもっととんでもないものだが。
意外にあれで、悠理も女らしい格好が似合うのだからもったいないと思う。
ふと清四郎は、婚約騒動の見せた悠理の振袖姿を思い出した。あのときは何も思わ
なかったが、今思い出してみるとこう、なんていうか。

(うわ――) ※どピンクな妄想をしている模様です。しばし待て。

菊正宗清四郎の尊厳をかけて、その妄想の中身は他言しないでおこう。とりあえず
ショップの店員が、だらしない顔でショーウィンドウを覗き込んでいる高校生を気味悪
がっていた。
「いや、今のままがいいな」
妄想からようやく復活した清四郎は、自分に言い聞かせるように呟いた。
(悠理の可愛い面に気がついて惚れる男が出てくるとも限らないし。ただでさえあいつ
は警戒心がないというか、頼りないというか)
清四郎は男に迫られる悠理を想像して眉を顰めた。 ※取り越し苦労です。
「清四郎、何百面相してるんだよ」
背後から声をかけられ、我に返ると、美童グランマニエが小首を傾げてそこにいた。
「い、いや何も。君こそどうしたんですか。彼女のひとりとデートかと思ってましたが」
「いやー、もうすぐ落としたい子の誕生日だからプレゼントを買おうと思って」
複数の恋人を持つ彼にとっては、彼女の誕生日は、毎年どころか毎月やってくる納税
の義務のようなものである。
よくやりますよね、と呆れた溜息をつこうとした清四郎は、ふと引っかかりを覚えた。
プレゼント。
「そうですか。ちなみに何を買おうと思っているんです?」
さきほどまで、どうやって悠理に告白しようかと悩んでいた清四郎は、さり気無さを装っ
て聞いてみた。プレゼントにアクセサリーか何かを携えて告白。いいかもしれない。
「まだ決めてないんだ。無難なところでアクセサリーっていう手もあるけど――」
美童は笑顔で言い切った。
「――芸がなくてダメだよね」
芸のない男と断定された清四郎は、しばし渋面をつくる。
「指輪か何かを欲しがる人も多いんじゃないですか?」
「確かな愛情の形としてそれを欲しがる子は多いかもしれないけど、実際のところ、そんな
に指輪ってみんな揃って欲しがるアイテムじゃあないでしょ。人によって欲しがるものは
千差万別」
そりゃ確かに。
美童は美童なりにイロイロ考えているらしい。
軽い敗北感とともに清四郎は友人を見直した。恋というものを重要視していなかった
ときには思いもよらなかった感情の動きである。
そろって歩き出したふたりは、各店のショーウィンドウを冷やかしながら、会話を続ける。
「今回、僕がプレゼントをあげようと思ってるのは、自由奔放な人だからね。縛り付けられ
るのは好まないと思うんだ。アクセサリーとか時計とかね。そういうのはちょっと」
「そういうものですか」
「それでも男としては、身に付けるようなものを贈りたいじゃん? 独占欲のあらわれと
してさ」
とってもよく分かる。
いつのまにか講義の様相を呈してきた。
だんだん清四郎の考えていることが分かってきた美童は、にやにやと笑みを浮かべる。
「普段、そういう関係じゃないからこそ、ちょっと色気のあるものがいいかもね」
美童としては、悠理には香水か何かがいいと思っていた。
誕生日ではない日にプレゼントをされるだけで意味深なのに、そんなものを贈られて
は、いくら悠理でも清四郎の真意に気がつかぬ筈がない。悠理の柄ではないことは確か
だが、一応あれでも女だ。悪い気はしないだろう。気持ちを伝えるにはアクセサリーでも

十分だが、天邪鬼な悠理は絶対に身につけないだろうから。
美童は清四郎を誘導することにした。
「そのプレゼントを見るだけで、言葉がなくたって僕の気持ちが伝わるようなものにした
いし。ただの友達から恋人になりたいっていうのがよく分かる物がいい」
なるほど、それはいい手かもしれない。告白の言葉を口にするのは照れくさいし。
僕の気持ち、か。
清四郎は開校以来の秀才と呼ばれる頭をフル活動した。
色気があるもの。肌にずっと身につけるもので、でもアクセサリーや時計類ではないもの。
プレゼントを見るだけで、僕の気持ちが伝わるもの。
――分かった。
「美童。申し訳ないんですが、用事を思い出したので、ここで分かれていいですか」
いいよ。じゃあねー」
手をひらひらと振る美童に背を向けると、清四郎は早歩きで去っていった。
美童はそれを満面の笑みで見送った。
彼は真剣だ。
その真剣な思いをプレゼントとともにぶつけられては、悠理とはいえど彼の恋心に
気がつかぬわけにはいかないだろう。
思いが叶うといい。
清四郎がずっと悠理を好きだったことを美童は知っていたから。
いや、美童だけではない。有閑倶楽部の誰もが、面白がっているポーズを取りながらも、
清四郎の思いを見守ってきたのだ。

翌日。
「お、おまっお前、何の嫌がらせのつもりだ――っ!!!」
真っ赤な顔をした悠理にビンタされる清四郎の姿があった。

色気があるもの。
肌にずっと身につけるもので、でもアクセサリーや時計類ではないもの。
プレゼントを見るだけで、気持ちが伝わるもの。 
                ~~~~~~~~~
 
なんで怒られたのだろう。
菊正宗清四郎はつき返されたランジェリーを手に、真剣に苦悩していた。


 おわり

(欲望丸出しの清四郎ですみません)
316名無し草:05/01/22 01:10:25
>菊正宗清四郎君の苦悩
地の文のクールな突っ込みに笑いました。
清四郎って、こういう話が似合うんですよね〜w
317名無し草:05/01/22 13:39:42
>菊正宗清四郎君の苦悩
>ほんの少し馬鹿である。
ほんとに・・・。爆。作者様の冷静な視点がたまりません。
面白かったですー。ありがとうございました。
しかし、清四郎は悠理相手だとマヌケ度大幅UPですねぇ。
鬼畜からマヌケまで・・・。幅広いキャラだ。しみじみ。

318名無し草:05/01/22 18:01:47
>菊正宗清四郎君の苦悩
清四郎メインのギャグ、キター(・∀・)!
ちょっとお馬鹿な清四郎と、地の文のまともな部分と
突っ込みの落差に、思わず爆笑。
「あの手この手の姑息な手段」と、ピンクな妄想の中身を
小一時間問い詰めてみたい気がw

できましたら、シリーズ化をキボン>作者様
319名無し草:05/01/22 18:57:02
どうして清四郎ってばこうもギャク路線が似合うんでしょうw
×悠(×可もかな?)だと更にギャグ度がアップだし。
皆さん言うようにギャグからエロまでオールマイティーな男だ。


今更だけど、絵板の悠理すごいカコイイですねえ。
悠理も魅力的だし構図がまた最高。背景のヘリとか上手すぎる。
320名無し草:05/01/23 00:43:01
>絵板の悠理
私もあれかなり気に入っている。
札束が飛び交っているのも、悠理らしくていい!
ああいう馬鹿馬鹿しいくらいに、金持ちな悠理が好き。
原作で札束をアタッシュケースで用意するハッタリきいた剣菱家の人々に痺れます。
321秋の手触り[149] :05/01/23 05:21:16
>96

 魅録が目が覚めたのは正午を回ってからのことだった。
 天井には藍色の重厚な天蓋が垂れ下がっている。客室だということで、色合いに
少しは遠慮が見られるが、先日豊作の部屋で見たのと同じく、レースとフリルに彩ら
れた乙女の部屋がそこにある。趣味が悪い――というわけではない。基本的に百合
子はセンスが良い。だが日常的に使うには、インパクトが強すぎる。
 歯を磨いて、用意されていた部屋着をまとうと、階下に下りた。
 食堂に顔を出すが、剣菱一家の姿はない。豊作はもちろん出社しており、夫妻は傘
下企業の視察に回っているらしい。悠理はというと、まだ眠っている。
 昼食を軽くとると、途端に魅録はやることがなくなってしまった。放課後に、これから
の打ち合わせのために学校に行くつもりではあるが、それまで時間がある。
 食後の紅茶をとりながらぼんやりと考えていると、執事の五代に声をかけられた。
「おはようございます松竹梅さま」
「おはようございます。寛がせていただいてます」
 五代は控えめな態度で魅録の横に立った。礼儀に煩いように見えて、意外とこの
執事はざっくばらんな性格をしている。そうでなければこの家に勤めることなど出来な
いのだろう。
「どうぞごゆっくりしてください。ところで、松竹梅さまは本日も当家にご宿泊でしょうか」
「うーん、その方が都合がいいのだろうけど」
 剣菱精機を見て回った土曜日から今日まで、まだ家に帰っていない。長期休暇中
ならそれでもいいが、普通に学校もある今、それでは差しさわりがある。
「一旦家に帰ります。いろいろ必要なものもありますし。その後、またしばらく泊めて
もらってもいいですか?」
「すべて松竹梅さまのよろしいようにと、坊ちゃまから言付かっております」
「ありがとうございます――悠理が起きたら知らせていただけますか?」
「わかりました」
322秋の手触り[150]:05/01/23 05:24:10
 客室に戻ると、魅録は家から持ってきていたノートパソコンに、昨夜使ったモバイル
を繋げた。
 ノートパソコンは誰もが知っている有名メーカーのものであるが、入っているOSは
リナックス系の自作である。少し前に盗聴・ハック用に使おうと企んで、例のGPS付き
の盗聴器と一緒に作ったのだ。
 GPSの機能の方は、さすがに全てオリジナルというわけではない。数十万する市販
のソフトを知人から横流ししてもらったので、そのデーターを元に改造し、限界まで
小型化した。
 パソコンの起動させると、黒い画面が広がり、白文字で日付が現れる。そのひとつを
選択すると、おもむろに音声が流れた。
『もしもし、僕だ。今会議中だから、後にしてくれないか』
 ――よし。
 魅録はほっと一息ついた。
 今の声は戸村社長のものである。
 続いて、キーボードを叩く。するとマップが画面に広がった。矢印を探すと、正しく
剣菱精機社屋を指していた。
 盗聴機能も、GPSも正しく作動しているようだ。 
 ついでに何か重要なことが録音されていないか確認したが、特にないらしい。魅録
はノートパソコンを閉じた。
 どうやって豊作を陥れようとしている者たちと戦っていくのか、まだ方針がはっきり
決まっていない。しかしおそらく今井メディカルとの黒い関係――高砂常務の不正な
株取引、高田敏正研究室長の引き抜きあたりを追求していくことになるだろう。
 そうなってくるとやはり物を言うのは情報である。
(今日あたり、高田さんのことも調べなくちゃなぁ)
 いろいろあって、高田のことまでは手が回らなかったが、放っておくわけにもいくまい。
 清四郎は高田の件は「大局には変わりない」と言ったが、彼と個人的に関わって
しまった身としては、やはり気になる。
323秋の手触り[151]:05/01/23 05:27:29
 今後のことをあれこれと考えていると、扉をノックする者があった。悠理が目覚めたこ
とを五代が知らせにきてくれたのだ。時計を見ると三時を過ぎている。
 学校に行くにはちょうどよい時間だった。階下の食堂に向かうと、悠理がテーブルに
ついて、大量の食事を胃袋に納めているところだった。
 どう考えても一人前ではあり得ない大量の食料を、華奢な少女がガツガツと食べて
いる姿は、結構シュールだ。
(牛みたいに胃袋がたくさんあるんじゃないだろーな)
 清四郎が、悠理を解剖してみたいと漏らす気持ちも分からないでもないかもしれない。
「よう」
「あ、魅録。オハヨー」
 ニカっと笑う悠理に、同じく笑顔で答えようとした魅録は、そのままの表情で固まった。
「もちろん母ちゃんの趣味だよ」
 魅録の視線に気づいた悠理は、うんざりとそう解説した。
 椅子に座る悠理の足元に纏わりつく多摩自慢と富久娘が、うン十万するだろう繊細な
縫い取りのされたゴージャスな絹の前掛けをしている。はっきり言って、顔に似合って
ない。
 どうやら百合子女王さまの少女趣味はまだ続いているらしい。
 そんなことはこの屋敷を見ただけで一目瞭然だけれど。
「今日はどうする?」
 幸せそうにふっくらとしたトーストをかぶりつきながら、悠理が聞いてきた。まだどこか
寝ぼけなまこだ。
「俺は一度、倶楽部に顔出すつもり。どっちにしろ家に物を取りにいきたいから、外出
しなくちゃならんし。お前はどうする」
「魅録が行くならあたいも行く」
 欠伸をしながら、ようやく悠理は食事をやめて立ち上がった。 
324秋の手触り[152]:05/01/23 05:29:14
 先に登校の準備を終わらせた魅録は、バイクのハンドルにもたれかかると、煙草を吸
う。煙の行方を目で追っていると、取り留めないことが頭の中に浮かんでは消える。
悠理のやつ、どうやって学校に行くつもりだろう。そんなことを考えているうちに、本人が
出てきた。
「結構、外は涼しいな」
 呟きながら、悠理は当たり前のように元気よくタンデムシートに跨る。タイツをはいては
いるものの、スカートにも関わらず躊躇いがない。
「もう九月も終わりだからな。そろそろ制服も長袖の方がいいかも」
 そう答えると、魅録は携帯灰皿に吸殻を捻じ込んだ。だらしなく前かがみになっていた
上半身を起こすと、バイクのエンジンを入れる。
「あたい、バイク乗るの久しぶり〜」
「嘘つけ、この間俺が乗っけたばかりだろ」
 エンジンが温まるまでの時間、背中越しに他愛のない会話をして潰した。
 絡められた細い腕や、やんわりと押し付けられたまろやかな身体から意識を反らせる
と、魅録は空を見上げる。
「秋晴れだな」
 薄い青が高い空に広がり、涼しさを際立たせていた。
「な、魅録。寒くなる前にさ、どっか遠出しようよ」
 触れ合う背中から直接響く言葉に、瞳を細める。春先に敢行したツーリングの旅を
そっと魅録は思い出した。
「前みたいに?」
「そ。野宿だとか、サービスエリアとかで夜を明かしてさ」
 ――ふたりで夜空を見上げながら野宿して、こいつは最高のダチだって思った気持ち
はけっして嘘ではないのに。
 じりじりとした焦りのような、理不尽に怒りたいような、そういった訳の分からない感情
が咽喉元に詰まっている。
325秋の手触り[153]:05/01/23 05:30:09
「いいけどさ。その前にお前、バイクの免許取れよ。俺だって疲れるんだから」
 汚れるのも構わず、草むらで寝っ転がっていた悠理。男友達同然に傍にいる悠理に、
誇らしさすら感じていた。しかしあのときすでに、悠理は自分の知る悠理ではなかった
のかもしれない。
「ええ〜、魅録の後ろでいいよ」
「お前ね」
 だってお前は、いつだって同じ笑顔を見せるから。どの時点でお前が変ってしまったか
なんて、俺には分かりゃしない。
 気がつけば、お前は。
「魅録の後ろが、いいよ」
 馬鹿言ってろよと魅録は軽く笑って、スターターペダルを思い切り蹴った。



 聖プレジデント学園の高等部に到着すると、見つからないように本来は生徒会室である
部室に入る。
 そのまましばらく時間を潰していると、ホームルームを終えた面々が、ばらばらと入って
きた。
「あら、あんたたち来たの?」
「一応な」
「あたし、今日はすぐ帰るんだけど」
 一番最後にやってきた可憐がそう言って、化粧ポーチを取り出す。学校ではノーメイク
である可憐がわざわざポーチを持ってきている理由といえば、放課後のデートしかない。
「別に今日は特に用事があるわけじゃないからいいさ。デートか?」
「そ。江崎さんとね」
 江崎というのは、最近可憐がデートしている相手だ。まだ恋人というわけではないが、
熱心にその男のために料理を作っていることを魅録は知っている。どうやら家庭的な女
が好みらしい。
326秋の手触り[154]:05/01/23 05:31:17
「ふーん、けっこう続いているね。いい男なんだ」
「そうなのよ!」
 美童の言葉に、可憐は握りこぶしをつくらんばかりの勢いで力説した。そのまま話の流れ
で江崎という男についての話題が続きそうだったが、野梨子が手際よくお茶と茶請けを出
したため、自然と途切れた。
「あのあとどうでした?」
 温かい日本茶を飲みながら、秋だなとしみじみ和んでいると、清四郎が問いかけてきた。
 首尾よく幹部たちの携帯電話にGPS付き携帯電話をつけることが出来たこと、そして
高砂常務が今井メディカルの株券を多額に購入していることを報告すると、彼は面白そう
に笑った。
「それはいい情報です」
「だろ? 悠理の手柄だ」
「へえ」
 えへへと悠理は得意そうに笑う。
「じゃあ、早いうちにここ数年の今井メディカルの株の動きを調べておきます」
「俺は高砂が株を購入した日時を調べておこう」
「頼みます――しかし、高砂常務だけを落としても意味がない」
「そうなんだよなぁ」
 魅録はひよこ頭を掻いて、唸った。
 もともと高砂常務は専務派を装っていたのだ。その彼を失脚させたところで豊作にメリット
がないどころか、かえって足を引っ張られる。
「高砂常務が反専務派と通じている証拠を挙げなくちゃなぁ。上手く携帯で盗聴できたら
いいんだが」
「それを祈るのみですね。海千山千の狸たちと舌戦を繰り広げるよりも、動かぬ証拠を
つきつけた方が遥かに簡単ですから」
 魅録と清四郎が話し込んでいる反対側では、可憐と美童が野梨子をからかっていた。
「いつ八代さんとデートするんだい」
327秋の手触り[155]:05/01/23 05:32:07
「あたし心配だわぁ、この子ってば大人の男に免疫ないから」
「ほ、ほっといて下さいまし!」
「ほっとけないわよ。あんたって律儀だから、約束を反故にすることなんて絶対ないでしょ。
ほいほいついていって、キスのひとつでもせがまれたらどーすんのよ」
「ま、まあ、なんてこと!」
 言葉ひとつで世の男性たちの心臓を凍らせることもできる才女ではあるものの、基本的
に野梨子は純情である。からかわれて、可哀相なぐらい真っ赤になった。
 が、同時に彼女は負けず嫌いであった。
「わたくしだって、殿方とデートすることぐらい出来ますわ!」
 その声の大きさに、清四郎と魅録は思わず振り返る。
 まーたあいつら、野梨子からかってんなと思いながら、魅録は中断された話の続きをする
べく頭の位置を元に戻し、「それでさ」と言いかけた。
 しかし清四郎の姿がそこにない。
「おい、せいし――」
「そこまでにしてあげてください、ふたりとも」
 再び魅録が振り返ると、苦笑しながら話の輪に加わっている清四郎の姿があった。
「あら、清四郎は不安じゃないの?」
「不安じゃなくて、『面白くないの?』 の間違いじゃないですか、可憐」
「違いない」
 くすくすと美童が笑う。
「まあ、それこそ八代氏も大人なんだから、無茶なことを高校生に言ったりはしないでしょう」
「大人……かしら?」
 安心させるべく清四郎は言ったようだったが、野梨子はその言葉にかえって不安になった
ようだった。彼は八代のことをよく知らないのだ。
328秋の手触り[156]:05/01/23 05:35:29
 野梨子の不安に満ちた言葉に、話を遠巻きに聞いていた悠理も思わず、といった感じで
小さく笑みを零す。
 するとそのとき、期せずして野梨子の携帯のバイブが震えた。
「ごめんなさい」
 ほんの少しほっとしたようにそう断って、野梨子が環から抜けて、鞄の中の携帯を手に
取る。しかしディスプレイに表示された名前を見て、固まった。
 その様子にぴんときた美童がにやにや笑って促す。
「どうしたんだい。早く取りなよ」
「え、ええ」
 困ったように頷いた野梨子は、それでももう一度ディスプレイをじっと見詰めたあと、えいっ
と気合を入れて送話ボタンを押した。
「もしもし野梨子です。――ええ、はい、みんな集まってますわ。え? ――はぁ。もう。
戯れをおっしゃらないでください」
 一同は聞き耳を立てるものの、上手く伝わってこない。ただし、ときおり野梨子が顔色を
赤くしたり、怒ったりしているのでなんとなく様子は知れた。
「なんですって? それを先におっしゃってください! ――魅録」
 野梨子は携帯から耳を離すと、真剣な顔で魅録の方を見た。突然呼ばれてきょとんとし
た魅録に、野梨子は携帯を差し出した。
「例の高田室長とかいう人が、九月いっぱいで辞めるよう、辞表を提出したらしいですわ」


     ツヅク
329名無し草:05/01/23 21:42:21
>秋の手触り
いつもながら切ない心理描写がすごく好きです。
魅録のひよこ頭、かわいいー。
八代さん登場を待ってる私です。
次回あたりお目にかかれるのかなー。




330名無し草:05/01/23 22:27:33
>秋の手触りさん
さりげなく野梨子が可憐かばってたり、
野梨子を清四郎がかばってたりするのがイイ。
そしてそんな清四郎を切なく見てる悠理がイイ。
331名無し草:05/01/23 23:22:29
>秋の手触り
からかわれてる野梨子が可愛いw
だけど清四郎の胸中は複雑でしょうね・・・
魅録の想いの行方も気になるけど、事件も動き出しそうですね。
みんなの活躍に期待しています。
332名無し草:05/01/23 23:24:28
>秋の手触り
わーい待ってました。
もう魅録にしちゃえ、悠理。でもけっこう時間の問題かな?
可→美なんだったけど、江崎さんとやらと手をうってしまうつもりでしょうか。
こっちもうまくいくといいな。
333名無し草:05/01/24 00:16:05
ヤバイ。清四郎ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
清四郎ヤバイ。
まず極悪。もう極悪なんてもんじゃない。超極悪。
極悪とかっても
「万引きくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ極悪。スゲェ!なんか可愛らしさとか無いの。前科一犯だとか二犯とかを超越してる。極悪だし超ヤバイ。
しかも警視総監の息子と友達らしい。ヤバイよ、警視総監だよ。
だって普通の犯罪者は警察から逃げるじゃん。だって目の前で犯罪行為されると困るじゃん。いきなり息子が犯罪者とか分かったら困るっしょ。
だんだんエスカレートして、一年のときは盗聴程度だったのに、三年のときは身代金10億の犯罪者とか泣くっしょ。
だから普通の犯罪者は堂々としない。話のわかるヤツだ。
けど清四郎はヤバイ。そんなの気にしない。堂々としまくり。一般人が理解しようとしても小難しくてよくわかんないくらい頭脳プレー。ヤバすぎ。
極悪っていたけど、もしかしたら善人かもしんない。でも善人って事にすると
「じゃあ、清四郎の犯歴っていくつぐらいよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
とにかく貴様ら、清四郎のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイ清四郎に立ち向かった香港マフィアとか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。
334333:05/01/24 00:16:57
本当は魅録ヤバイの方が良かったかも
335名無し草:05/01/24 00:56:06
>魅録ヤバイの方が
こっちもお願いしますv
336小ネタ便乗:05/01/24 11:04:04
「野梨子の選んだ相手が君で、本当に良かった」
「清四郎ちゃん。これからも、野梨子をよろしくお願いします」

「おじさん、おばさん。野梨子は僕が一生守っていきます」

 ここまでは、何とか我慢できたのだが、俯いて、小さな肩を震わせてすすり泣く
白無垢の花嫁の姿に、僕の涙腺もだんだん耐えられなくなってきた。

 ん・・・。野梨子・・・君は笑っているのか?

「野梨子。何がそんなにおかしいのですか」
「だ、だって、こんなに前科のある方に嫁ぐのに、父様と母様ったら
 あんなに喜んで・・・」

「・・・・・」
 
337名無し草:05/01/24 21:16:54
>333/336
久々小ネタだーv
確かにあれだけのことをしながら、堂々としまくってるのは凄い>清四郎
虎の巻にもメンバーの犯罪歴は?っていうのがあったけど、
一番ヤバイのはやっぱり……(w
魅録の場合も、ぜひお願いしますv

>336、333と合わせて読んだら、飲んでたお茶でむせそうになった(w
あり得そうな会話が(・∀・)イイ!
知らないということは面白……(スマソ)恐ろしい。
338閑人戦隊:05/01/25 17:29:31
久しぶりに帰ってきました。
スレ22の552-556のお話のその後です。寒いので風邪引かないでください。

@@@@@@@@@@@@@@@@@
ここは東京のとある街角。今日も肩で風を切って歩くチンピラヤクザさんたちが悪さをしておりました。
(今はどっちかというと悪さをするのはオコチャマのほうが多いんですけどね。精神年齢が若い人たちですね。)
そこへ登場する5人の人影‥‥‥
「悪さをするのもそこまでだ!」
叫んだのは黄色いジャージの人物。歌舞伎の見栄のポーズで構えています。
「いつもお勤めご苦労様です!ジョ○カーの皆さん!」
赤いジャージの背の高い男が続けて叫びます。
「っひいーーーーー、っひいーーーーー‥‥‥って俺たちはジ○ッカーじゃない!」
「ついでに言えばここにフ○ンフ○ン大佐もいねえ!」
誰もそこまで言ってません。ノリがいいチンピラさんたちです。
「お前たちはいつも俺たちの邪魔をする謎の高校生戦隊だな?!」
気を取り直したチンピラの一人が言います。
すると、赤いジャージの男が腕組みをして胸をふんぞり返らせました。
「ちゃんと僕たちには名前があるんです。」
「そうよ!ちゃんと名前がついたんだから!」
可愛らしいピンクのジャージの女性があとを引き取りました。
「行きますよ。」と清四郎@レッド。(赤ジャージに黒いマフラー着用。)
「僕たちは」と美童@ブラック。(黒ジャージに赤いマフラー着用。)
「強きを助け弱きをくじく」と可憐@ピンク。(ピンクジャージに赤いマフラー着用。)
「ひまじーんせんたい!」と悠理@イエロー。(黄色ジャージにやっぱり赤いマフラー着用。)
「ゆうかーん‥‥‥」と魅録@ブルー。(相変わらず頭はピンクで青ジャージに赤いマフラー着用。)
「「「「「シックス!」」」」」
びしっとトーテムポールのポーズ(顔を縦に並べる)が決まりました。
チンピラさんたちは呆気に取られています。
「シックス‥‥‥のくせに5人じゃないか!お前ら!」
339閑人戦隊2:05/01/25 17:30:16
そこへ軽やかな足音が響いてきました。
「ちゃ、ちゃんと、6人、ですわ。」
息を切らしながらかけてきたのは、紫のジャージに赤いマフラーを着用した黒髪の小柄な野梨子@紫でした。
「み、みんなひどいですわ。私の、足が遅いの、知ってて、先に行くんです、もの。」
ぜーぜーと涙を浮かべながら文句を言う彼女の姿はやや悲壮なものです。
「なるほど、6人というのはわかった。」
チンピラのリーダー格の男が腕組みをしながら言います。
「だがな‥‥‥一つだけどうも納得行かないんだ。」
人差し指を立ててみせる彼の仕草はさながらシ○ーロック・ホームズ。
「『強きを助け弱きをくじく』ってのはなんだ!」
びしっと彼はそのまま人差し指で、可憐@ピンクを指差しました。
「あらあ?あたしそんなこと言った?」
可憐@ピンクは平然と言います。
「あなたたち、知らないんですか?」
清四郎@レッドが言うので、一同は彼に注目しました。
「タ○チャン○ンのテーマではそのように歌っていたんですよ。」
ふんふん、と鼻高々といった面持ちの清四郎@レッドに有閑シックスの面々は「なるほど〜」と頷きます。
「じゃあ俺たちはブ○ックデビルか!?○ミダ婆か?!」
チンピラさんたちは返します。
そのうちの一人が後ろで「あっ○だっくじ〜、あっみ○っくじ〜、○いってたっ○し〜あっみだっ○じ〜♪」と作詞作曲・桑田圭○のかの名曲を歌っております。
「俺たちはでっ歯じゃな〜い!」(○ケチャンマンの敵役といえば明石○○んま氏ですね。)
と一人が叫びました。
すると、美童@ブラックと可憐@ピンクが、
「っしぇーーーーー!」
とポーズを作りました。
340閑人戦隊3:05/01/25 17:31:38
「今はそんなことはどうでもいいんだ。」
魅録@ブルーがじろり、とチンピラの一団を睨みつけます。
その眼光の鋭さはさすがです。ですが‥‥‥
「お前にも聞きたいことがあったんだ。」
チンピラのリーダーは魅録@ブルーの胸元を指差しました。
「その『4416』ってプレートはなんなんだ!?」
そう。魅録@ブルーの青ジャージの胸元には、『4416』という数字の刻まれたプレートが縫い付けてあったのです。
「なんだ?これも知らないのか?」
にやり、と魅録@ブルーが笑みます。ここに見ず知らずの若い女性がいたら黄色い歓声を挙げそうなほどにニヒルな笑みです。
魅録@ブルーは体の横で肘を直角に曲げて構えました。
そして前後に腕の円運動を始めたのです。初めはゆっくり、そして段々と加速をつけて‥‥‥
「む〜ね〜○〜、○けてる〜、ぷ○ーとは〜、しし〜○じゅう〜ろく〜♪」
戦隊の他の5人が声を合わせて歌います。(著作権保護目的でかなり伏字を入れてお送りしています。)
「ゼ○ダラ○オンかよ!」
SLファンの胸を熱くさせた名作アニメのキャラですね。
「よし、お前らのコンセプトはわかった。じゃあその赤いマフラーは‥‥‥」
「ほほう?わかりますか?でも一つ訂正しますよ。」
一人だけ黒いマフラーを着用した清四郎@レッドが言いました。
「みんなのこれは『赤いまふりゃー』なんです!」
ぐっと拳を握り締める清四郎@レッドの独演会です。
「それなのに、僕だけが、僕だけが、衣装が赤だからって黒いまふりゃーを用意されてしまったんです!」
さめざめと地面に跪く彼の肩をとんとん、と叩くものがいます。
「泣くなよ、清四郎@レッド。あたいはお前には黒いまふりゃーのほうが似合うと思うぞ。」
優しく微笑んで覗き込む悠理@イエローに清四郎@レッドはほろり、とほだされました。
意外と賢い悠理@イエローは「だってお前のほうが美童@ブラックより腹黒だしさ。」という続く言葉を口にはしませんでした。
341閑人戦隊4:05/01/25 17:32:25
「それはともかく、有閑ジャー!」
「私たちは象○の炊飯器ではありませんわ!」
話しかけてきたチンピラに思わず野梨子@紫が舌戦で応戦しました。今まで黙っていたのは息が上がっていたからなのは言うまでもありません。
「じゃあ有閑シックス!お前らは何をしに出てきたんだ?集団ドツキ漫才か?」
「はっ、目的を忘れるところでした。そうです、あなたたちにお仕置きをしに出てきたんでした。」
清四郎@レッドが早くも立ち直って言います。
「そろそろ、だな。」
魅録@ブルーがぺろり、と舌なめずりしました。
「きっかけ頼むぞ!可憐@ピンク、美童@ブラック。」
悠理@イエローが後ろの派手な容姿の二人を振り返りました。
二人は頷くと懐から、可憐@ピンクが小さな鍵を、美童@ブラックが南京錠を取り出しました。
「おどろきもものきさんしょのき」
「ぶりきにたぬきにせんたっき」
「やってこいこ‥‥‥」
ばしいっと野梨子@紫の袱紗ツッコミが二人の顔面に決まりました。
「どこから大巨○がやって来ますの!」
「やっとシリアスシーンが出てくるかと思ったらヤットデタ○ンかよ!」
と、魅録@ブルーも自分の胸元のプレートを無視してなじります。
「だっていっつもボールをパスしていくのに野梨子@紫のところでダメになるじゃないか。」
袱紗を喰らって鼻血を流しながら美童@ブラックが抗議します。
「ボールだと?もしやそれはパスされるたびに色が変わって最後のアカ○ンジャーがキックするとトゲが生えて爆弾になるアレか?」
チンピラのリーダーが解説してくれます。
「ええ、そうですよ(一回も成功したことないんですけど。)」
と清四郎@レッドが答えます。
「やっぱりお前ら有閑ジャーだろ!」
342閑人戦隊5:05/01/25 17:33:19
ぴっこーん、ぴっこーん
「むむ、何の音だ?」
チンピラさんの一人がその音を聞きとがめます。
「はっ、しまった!タイマーが!」
「ちっ。三分たっちまったか!」
清四郎@レッドと魅録@ブルーが真剣な顔を見合わせます。
あなたたちは太陽電池で動いているのですか?
「時間がないな、野梨子@紫は仮○の忍者・赤○でいくか。」
悠理@イエローにちろっと見られて野梨子@紫は震え上がりました。
「ま、まさか、青影バージョンですの?!」
「いや、今日は忍術で連れ去られる木下藤吉郎バージョンだ!」
無情な魅録@ブルーの声と共に、どこからともなくワイヤーがするするとおりてきます。
がしっと彼女を捕まえた美童@ブラックと可憐@ピンクの手でワイヤーが紫のジャージに装着されました。
「よしっ、では撤収です!○ョッカーの皆さん、またお会いしましょう!」
清四郎が叫ぶと共に、有閑シックスのメンツは全員駆け出しました。
ただ一人、野梨子@紫は「あーれー」と言いながらスー○ーマンのような姿勢でワイヤーに吊るされて飛んでいくのでした。
(青影ちゃんの大凧よりは安全でしょう。)

ノ○ダーと○影とウ○トラマンが混ざったエンディングに残されたチンピラさんたちは、しばし呆然。
「なあ?俺たち何の悪事を働いたんだ?」
「さあ?」
「あいつら結局なにがしたかったんだ?」
「「「さあ?」」」

そうして今日も東京の平和は守られている‥‥‥たぶん。

                       おしまい
343閑人戦隊:05/01/25 17:36:07
おさむいギャグの連続技で正直すいません。
どうしても設定したキャラたちの得意技が入れられませんでした。

小ネタが全部わかった方、笑ってやってください。
344名無し草:05/01/25 19:50:57
く、くくく。

小ネタ全部分かっちゃいました。
懐かしかったですーありがとうございました!
345名無し草:05/01/25 23:20:06
うひゃーw
おバカだけど、みな一応イケメン(女の子はなんていうの?)戦士には違いないね。

小ネタ全部はわからなかったけど、こういう脱力系のも好き。
あと、↓これ桑田圭○の曲だったんだ、知らなかった。
>「あっ○だっくじ〜、あっみ○っくじ〜、○いってたっ○し〜あっみだっ○じ〜♪」
>と作詞作曲・桑田圭○のかの名曲を歌っております。
お久しぶりです。「可憐さんにはかなわない」うpします。
今回、美×野です。
>>http://houka5.com/yuukan/long/l-39-6.html

透き通った秋の風が吹いてきて、野梨子は思わず身を震わせた。
その肩にそっとタキシードの上着がかけられる。
見上げると、美童が黙って横に立っていた。

グランマニエ邸の屋上に悠理が持ち込んだ強力ライトが、彼の横顔を照らし出し
彫りの深いその横顔を更にくっきりと際立たせている。
青い瞳がじっと野梨子を見つめ、何か言いたそうに瞬いた。

野梨子は魔物に魅入られたかのように彼の瞳から目が離せなくなった。
やがてそっと彼の手が伸びてきて、野梨子の頬を伝う涙を拭った。
急に胸の鼓動が速くなり、野梨子はうろたえて目を伏せる。

美童が口を開いた。
「その涙は誰のものなの?」

はにかんで野梨子は首を振る。
「別に誰のものでもありませんわ。私の涙が誰かのものだったことなどありませんわ」

白い手がマジシャンのようにしなやかに動いて、野梨子の顎を上に向けた。
「そう。それなら世界中のトレジャーハンターたちは大きな間違いを犯しているってことだね。
 世界中でもっとも麗しくもっとも高貴な宝石がここにあるっていうのに」

やや翳(かげ)った青い神秘的な瞳を野梨子はじっと見つめる。
 美童ったら一体どうしてしまったのかしら。

一方美童は今自分の気持ちをはっきりと自覚していた。
 そうだ。大きな間違いを犯していた。世界中でもっとも愛しい人は……。
訝しく思いながらも美童の台詞に引きずられて、まるで芝居の練習のように応じてしまう口を
野梨子は閉じることができない。

「宝石はあなたの瞳ですわ。深い深い海の色。この世の誰も手に入れられぬ海の宝石」
「なんともったいないことを。僕の目を宝石だのと! こんなに間近に宝が光っているのにも
 気づかぬ私の目が。節穴だ、これは。早く墨で塗りつぶしてしまおう」
「ああ、どうか。そんなことはおっしゃらないで。あんまり美しい貴方の瞳を墨で塗りつぶす
 などと。そんなことは世界が終わりになっても耐えられませんわ」
「野梨子、優しい人」

美童がそっと野梨子の両手を握り締めると、野梨子は我に返って赤くなった。
それでも美童の瞳の呪縛から逃れられない。
向うで清四郎と可憐が目を丸くして、こちらを見ている。
 こ、こんなはずではありませんでしたわ。
 私がどうにかこうにか清四郎を騙して部屋に連れ込むはずでしたのに……。

「び、美童。あの、計画はどうなりましたの?」
小声で必死に囁く野梨子にかまわず、彼女の小さな頭に美童は唇を寄せた。
「計画? あなたの前には私の愚かで矮小な計画など脆くも崩れ去った。
 今の私にはただ、あなたに祈ることしかできない。ただ……」
野梨子の両手の指先にキスをする。

「ただ、あなたに受け入れてもらうことを」

可憐がうれしそうに小さな悲鳴を上げ、清四郎は驚いたというふうに首を振った。
野梨子は頭のてっぺんからつま先まで真っ赤になった。

「じょじょじょ冗談はやめてくださいな、美童。けけけけけけ計画が……」
「計画など、あなたの美しさの前には木っ端微塵。あなたの前では何人(なにびと)も
 計ることができまい」
野梨子はため息をついた。
「また美童に騙されましたわ」
逃れようとする彼女の頭を抱き寄せ、美童は囁く。
「まさか! 私に騙されたなどと。聡明なあなたが一体この愚かな私の何に騙されてくれたと
 言うのか。もしそうならば、それはあなたの慈悲であろう。そして私にとってそれは唯一の
 武器。今となってはあなたの慈悲にすがることしかできない」

いつの間にか彼の胸に抱きしめられていることに野梨子は気づき、つぶやいた。
「これがあなたのやり方ですのね。愛の言葉は愛のためにあるのではなく、ただあなたの策略の
 ためにあるのですわ。私の心はかわいそうに翻弄されて、行き場を失っています」
「私の胸に来てくれたら!」
「それはできませんわ」
その言葉を聞くや、美童はさっと顔を上げ、ぽかんと立ち尽くす清四郎を指差した。
「あのすだれ頭の男の下へ行くと? おお、それは愚かな選択です、女神よ。失礼。だが、
 愚かと言うほかはない」

込み上げる笑いを抑えきれずに、隣で苦しんでいる可憐を見つめ、清四郎は憮然としていた。
だが、美童の流暢な口説き言葉を目の当たりにして、心の中で舌を巻いた。
 美童には適いませんね、こういうことにかけては。

自分がやったら……やはりコントになってしまうのは避けられない気がした。
普通の人間がやったら笑ってしまうことを、さらりと嫌味なくやれるのが美童。
 それが彼の持ち味なんですね。

清四郎はグランマニエ邸の屋上を見上げた。
屋上では魅録と悠理が小さな声でラブ・バラードを歌い続けている。
彼らなりのコミュニケーション。

 僕は一体どうしたら……?

ふと隣に目をやると、笑い止んでいた可憐が立っていた。
相変わらず艶のある笑み、研ぎ澄まされた美貌。
清四郎と目が合うと、ふっと笑いかけてくる。
その視線に清四郎はクラクラした。

 彼女には彼女の武器が……。
 ああ、一体僕はどうしたら……。

清四郎の視線の先には熱心な美童の口説きに、野梨子が必死で抗いつつも陥落は目前だった。

「野梨子。君の愛を得られなかったら僕はどうしたらいい? 明日という日が耐えられない
 だろう、もし君という人が側にいてくれなかったら」
「なにをおっしゃる……たくさんいらっしゃるじゃありませんの、美童には。それともそのたくさんの
 方たちよりも、この小さな私の方がいいとおっしゃるの? まさか、そんなはずはありませんわ」
「それがあるのだ。今の僕にはその理由が。今朝まではまるで考えもつかなかったことが、今の
 僕にはできる」

ポケットから携帯電話を取り出すと、美童は後ろの池に放り込んだ。
野梨子が小さな悲鳴を上げ、口を押さえるのと同時にボチャンと音がした。

「驚いた?」
「驚きましたわ……そんなところに池があるなんて。気づかなかったですもの」
「それは些細な問題だよ。気にしないで……さて、我が君。あなたの覚悟を聞かせて」

野梨子はため息をついて笑って首を振る。
「私の覚悟はあなたのものですわ」
「喜んでいいのでしょうか」
「たぶん。でも言っておきますけど、私は怖いですわよ」
「あなたの為なら蛇でも鬼でも……」

美童が野梨子の唇にキスをするのを、可憐はうっとりと眺めた。
そっと清四郎の指に指をからめると、清四郎がどこか強張った笑顔を返してきた。

美童が再び口を開く。
「君の瞳はスウェーデンの夜空よりビューティフォー。イリュージョンな瞳の中に
 満天の星空がアイ・キャン・シー。」

清四郎が変な声を出したので、可憐は不審げに隣の彼を見上げた。
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもな……」
といいつつ、清四郎はよろめいていた。

 そっ、それは僕のための台詞だったんじゃないですか、美童っ!!

清四郎の思いなど知らず可憐が心持ち顔を赤らめてふうっと息をついた。
「なんだか、ロマンティックね。思い切りクサイけど、女なら耳が腐りたい台詞を
 一度は言われてみたいのよね」

再び美童の背後から強烈なライトが輝く。
野梨子は目を細めた。
「美童の背中から光が射してまぶしいですわ」
「いいのかな、野梨子・マイ・ラブ。貴女を今夜一晩僕のものにしても?」
「あら、それは私の心をということですかしら。それならば今夜一晩と言わないで、
 不実の君。私はあなた様の誠実に賭けたのですから」

再び野梨子の手を取り、その甲に恭しくキスをすると、美童は優しく野梨子を抱え上げ歩き出した。
その首にそっと野梨子が手を回す。

野梨子陥落。

恐るべき美童の技を目にした清四郎は唇を噛むばかりであった。
以上です。続きます。

あと一、二回ほどで終わる予定です。
353名無し草:05/01/31 07:35:39
スゴイ!
可憐さんの作者さんは演劇通ですね?
セリフがむっちゃシェイクスピアっぽいw

原作で演劇部の助っ人で共演していた美×野にピッタリな展開でした。
なにげに練習していたセリフをとられた清四郎が哀れでイイ!w
次も楽しみにしています。
354名無し草:05/01/31 22:04:55
>可憐さん
あはははは!美童ー!よくやった。
素晴らしい台詞にお腹が痛いです。ロミジュリですか?
ああ、でもあと2回で終了なんですね・・・!
いつまでも続いて欲しい可憐さん。
我儘読者ですいませんw。ほんと、好きです。
355THE SUN:05/02/01 03:12:13
ぬるいオカルト?清四郎視点で清×悠を書きましたので
1レスお借りします。
356THE SUN:05/02/01 03:17:23
カリッという音と共に男の左首筋に鈍い痛みが走った。
痛みは直ぐに消え、代わりに目眩しそうな程のエクスタシーが波の様に繰り返し何度も襲ってくる。
男は僅かに残る理性を無理に掻き集め首筋に纏わりついているソレに目線を落とす。
ソレは恍惚な表情で生温い血液を極上のワインでも味わうかのように、ゆっくりと血液を呑込んでいる。
透き通るくらい白く滑らかな肌、色素の薄い髪と瞳の色。華奢な肢体からは女の色香が溢れ出んばかりだ。
端正な顔立の中のその唇は紅蓮の炎よりも紅く紅く染まっている。
(・・・悠理・・・ああっ・・・なんて綺麗なんだ・・・)
「ごめん・・・清四郎。あたいの為に・・・」
「悠理。あなたらしくありませんよ」
清四郎は静かに微笑しながら、悠理を胸に引き寄せ柔らかな髪の中に顔を埋め口付けた。
「あなたの為なら僕の体中の血液を一滴残らず差し上げても本望だと思います」
「でも。こんなこと続けてたら清四郎が死んじゃうよ!あ、あたいそんなの嫌だよぉ・・・」
肩を震わせ薄茶のガラス玉みたいな瞳には涙が溢れそうになっている。
暖かな清四郎の両手が悠理の両頬を包み込むように触れ
真直ぐな偽りの無い黒い瞳で悠理の視線を捉え囁く。
「どうか・・・泣かないでください。あなたを守れるのは僕だけです。
どうか僕からその役を取上げたりしないでください。
愛しています誰よりもあなたを・・・あなただけを悠理」
清四郎はもう一度悠理を両腕で強く抱きしめた。
胸の中に悠理への愛おしさが今尚一層込上げてくる。
清四郎の言葉に悠理は最高の笑顔で応える。
(あなたには太陽のような笑顔が一番よく似合っていますよ。
もう本物の太陽を見る事は出来ないけれど僕にはあなたさえ居てくれたら
十分過ぎるほど幸せです。僕の・・・僕だけの太陽)
永遠に続く夜の闇の中でも二人一緒なら、どんな未来も明るく見える。
悠理という太陽が有る限り。





357名無し草:05/02/01 09:31:53
なんというか・・・うすら寒いです。
358名無し草:05/02/01 10:24:12
インタビュー・ウイズ・ヴァンパイアを思い出したよ。
359名無し草:05/02/01 11:24:32
某サイトのSSを強引に1レスに収めたらこうなりそう。このネタ偶然?
360名無し草:05/02/01 12:51:20
単にネタがかぶっただけでは?
このスレの住人が全部の有閑サイトを巡回してるわけじゃないでしょう。
ま、目くじら立てずw
361名無し草:05/02/01 18:22:43
絵板で見れなかったイラが、嵐さんのとこにウプされてるね。
有閑ならではのゴージャスさと3人の個性が良く出てて、
堪能しますた。絵師さん、乙です!
362名無し草:05/02/06 00:09:33
祭りの後の静けさですかね・・・
ちょっと寂しいので小ネタトーク。
女性陣を季節に例えると、私はこんな感じ。

・野梨子→冬
凛とした佇まいや、静けさの中にある厳しさ、
白銀の雰囲気などが冬を思わせるので。

・悠理→夏
照りつける太陽の明るさ・眩しさは、イメージ
そのまま。
変わりやすい雲の形や天候も、一見単純そうに
見えて、微妙に変化する悠理の姿を思わせるので。

・可憐→春
ポカポカとした温かさが、面倒見のいい姐御肌の
ところに、花々が競って咲く様は、艶やかな容姿に
繋がるイメージ。
桜の散り際の美しさも、恋に玉砕することの多い
可憐に重なるけど、これは言わぬが花かもw
363名無し草:05/02/07 17:37:55
>季節に例えると

乙です!
ぴったりな発想。
源氏物語の六条院が
各季節ごとの女性のイメージに割り振られていたみたい。

男性陣バージョンもきぼん。
364名無し草:05/02/09 11:12:55
あまり文章にするの苦手なんですけど、誰もが憧れるような婚約者(万作が決めた)
と清四郎の間で身悶える大人になった悠理って設定でストリー考えたんだけど暗くなってしまった。

365名無し草:05/02/09 14:36:36
>>364
西友厨は西友サイト逝け
366名無し草:05/02/09 16:22:03
>>365
誤爆?
367名無し草:05/02/09 16:58:14
>364
あなたのその妄想で悠理が婚約者との間で迷う相手が
清四郎ではなく魅録だったら、美童だったら、と妄想し、
更にそれぞれのバージョンで残り二人のどちらかが
漁夫の利を得たら、とめまぐるしく妄想した。
当方悠理スキー。誰が相手でもOKさ。

できれば書いて投下してくれ。

>363
思わず野梨子→明石の方、悠理→花散里、可憐→紫の上
って考えちゃったじゃんw
368名無し草:05/02/09 18:15:35
>>365
ヴァカ発見
369名無し草:05/02/11 09:46:50
妬みが見苦しい※※※スキー
370名無し草:05/02/11 11:03:20
三文字?野梨子?清四郎?
371名無し草:05/02/11 11:50:28
有閑は6人の仲間っぷりが魅力でもあるのに
○×△はあっち行けとか、この組合わせはどうだとか、
そういった自分の贔屓以外を敵視するようなたぐいの
書き込みには呆れるしげんなりする
372名無し草:05/02/11 11:54:01
小説を書くのは、初めてです。
文章、表現共に稚拙で未熟ですがうpさせて頂きます。
オリキャラ×悠理→←清四郎&美童となります。
このカップリング苦手な方はスルーして下さい。
7レスほどお借りします。
373摩天楼の幻:05/02/11 11:55:27
剣菱の後継者問題は急変を迎えていた。
豊作の次期会長就任への懸念や内部での勢力争い、兼六財閥との吸収合併の可能性などの
問題に現剣菱財閥会長の剣菱万作が、苦肉の策で娘悠理の縁談を急遽取り決めざるおえない
状況まで事態は悪化しつつあった。

「悠理。あなた清四郎ちゃんとはどうなの?」
「どうって、別に今まで通りダチだけど」
口の回りにデザートのホイップクリームをべったり付けて百合子を見やった。
「・・・そう」食後の紅茶に何杯もの砂糖を入れてはクルクルとティースプーンを
掻き回し、何か言いたげに悠理を見つめる百合子。
「かあちゃん!何杯砂糖入れたら気が済むんだよ。
なんかおかしいじょ悩みでもあんのか?」
怪訝な表情の悠理に、万作と百合子はじーっと互いの顔を見合わせると、
はぁーっと溜息を繰り返した。
「何なんだよ!溜息ばっか付いて。言いたいことが有るならさっさと言えよ!」
「実はなぁ・・・今、剣菱は危ないだがや。だ、だから、おめえが清四郎くんと結婚して
くれたらと思ってなぁ」
いい加減にしろ!と言いかけて悠理は言葉を喉の奥に押し留めた。
能天気な万作がいつもより頼りなげに小さく見え、これはいつもの二人の気まぐれかと
疑ったが、二人から剣菱の内情を訊くにつれて事の重大さに漸く悠理は気付いた。
自分が剣菱に相応しい相手と結婚さえすれば、数百万の従業員が路頭に迷う事も
無い。
だからといって、結婚相手などすぐに見付かる訳もない。
ない頭で悠理は考えた。
デザートもたった三人前しか喉を通らないほど考えた。

374摩天楼の幻(2):05/02/11 11:57:58
寝室のバルコニーからおぼろげな月を見つめて、今度は悠理が溜息を付いた。
あ、あたいは・・・どうしたいんだ?
月を見つめれば段々と清四郎の顔が浮んできた。
普段、悠理をペットかなにかとしか思っていない男。
いつも悠理をからかって苛めて楽しんでる酷い男、だけど誰よりも頼りになる
頼もしい清四郎。
あたい・・・なんでこんな時に清四郎のことなんか思い出すんだ?
もしかして・・・スキ・・・なのか?


悩む悠理をよそに、事態は更に悪化した。
豊作のミスによって剣菱は莫大な損害を出してしまったのだ。
もう後には引けなかった。
もはや悠理を嫁がせて経営を再建するしかなかった。
「悠理を悪代官の孫嫁にやるくらいなら、ドナリオに嫁にやるだ!!!」
万作の一言で悠理の嫁ぎ先は決まった。
アメリカを代表する企業一族ドナリオ家へ悠理は卒業と同時に嫁ぐ事になったのだ。
悠理は大人しく万作に従うしかなかった。
以前の清四郎との結婚騒動の時とは状況が、あまりに違いすぎる事くらい
悠理はもう十分わかっていたからだ。

375摩天楼の幻(3):05/02/11 11:59:36
婚約の内輪だけのお披露目に万作、百合子夫妻と悠理は、後日ニューヨークの
ドナリオ邸へと自家用ジェットで向かった。
万作の決断からおよそ一ヶ月の間、悠理は最低限の日常英会話、レディー教育を百合子の命で
徹底して施された甲斐あり無事?淑女の仮面を被れるようにまでなってた。

初対面の婚約者のトニードナリオは、何処となく美童に雰囲気の似た美しい男性であった。
しかし性格はいたって真面目で浮いた話もない誠実な男性だった。
仕事の腕もかなりのもので、甘いルックスからは想像も付かない切れ者。
類稀なる美貌と能力を兼ね備えた男は、淑女の仮面を被った悠理に一目で恋に落ち
二人は悠理の滞在中に何度となくデートを重ねることとなった。
デートの様子は、パパラッチ等の手で連日のようにゴシップ誌を賑わせた。
そのニュースは遠く離れた日本へ、有閑倶楽部のメンバー達へも伝わっていた。

「綺麗だよ悠理。君の様な素晴らしい女性と結婚できる僕は世界一のラッキーガイだね。
今夜はブロードウェーでミュージカル、その後はマーキースの最上階のレストランで食事でもして
ゆっくりと過そう。君にニューヨークの夜景を見せてあげたいんだ」
柔らかな微笑を湛え青い瞳に、恋の熱を潤ませながら悠理を讃えるその声音は何よりも甘く
心地よく悠理の耳に響いた。
女なら誰でも彼のような甘いルックスの男性にエスコートされたならば夢見心地になるのかもしれない。
トニーはそういうタイプの男性だった。
376摩天楼の幻(4):05/02/11 12:00:43
悠理は清四郎への仄かな思いにも気付かず、新しい婚約者のトニードナリオを見つめた。
激しい恋愛感情の末結ばれたわけじゃなくても時が来たらきっと愛せる・・・。
そう繰り返し心に魔法の呪文を掛ける悠理の姿は、どこか儚く消え入りそうで
トニーは一抹の不安を拭い去るようにフィアンセを片時も離そうとはしなかった。

「案外楽しかったよ!有難うトニー・・・あたしに気を使ってくれたんでしょ?
ライオンキングってディズニーのアニメだったよね」
悠理に気使い比較的難易度の低い英語力でも、楽しめるミュージカルを選んでくれた
トニーの優しさが今の悠理には嬉しかった。
「ううん。僕もライオンキング実は見たかったんだ!楽しんでくれて嬉しいよ」
悠理が喜んでくれて嬉しいと子供の様に無邪気に喜ぶトニーの姿が悠理の
胸にすーっと沁みこんだ。
窓の外にはニューヨークの夜景が宝石の様に浮かび上がっている。
目の前の美しい男は、自分だけを見つめてくれている。
極上のシャンパンはゆらゆらと小粒の泡が立ち上っては消えてゆく。
目眩がしそうだった・・・。
優しいトニーとならきっと一生楽しく過せる、と思う・・・。
377摩天楼の幻(5):05/02/11 12:01:52
きっと清四郎ならこんな風にあたいをエスコートなんて
しないだろうな。あいつ、あたいを何時もペット扱いして頭にくるよな。
って、あたい何考えてるんだ。トニーとのデート中にあんな奴のこと思い出して・・・。
宝石のような夜景を見つめながら悠理は小さく笑った。


2週間の滞在後、悠理は再び聖プレジデントに戻ってきた。
ゴシップ記事のお陰で、悠理の結婚話は誰もが知る事実となっていた。
有閑倶楽部のメンバーにもきっと問い詰められるに違いない、と思うと気が重かった。
そしてなにより清四郎に逢うのが怖かった。
「悠理!!あんた水臭いじゃないのよ!黙って結婚話を進めちゃうなんて!!」
可憐が鼻息を粗くして詰め寄ってきた。
助け舟を出すかのように清四郎が「今の剣菱の状況では・・・悠理の縁談なくしては
事態の悪化を免れることは難しいでしょう」と、お茶を啜りながらいつも通り冷静に答える。

「うん・・・なんか家ヤバイみたいなんだ。あたいがドナリオの息子と結婚すれば
剣菱は持ち直す、ってとうちゃんが言ってた」
窓辺に差し込む春の木漏れ日を見つめながら悠理は呟いた。
太陽の如き無邪気な笑顔の代わりに、大人っぽいしっとりとした微笑で返す
悠理は己の成すべき事を悟った大財閥令嬢としての切なさと美しさを漂わせていた。
378摩天楼の幻(6):05/02/11 12:03:07
「ドナリオっていったらアメリカ企業だよね。 
結婚したらアメリカに行っちゃうんだ・・・寂しくなるね・・・」と美童はもの悲しそうに呟いた。
いつまでも皆一緒にいられない事くらいは判っていた・・・。
しかしこんなにも早くに別れの時がこようとは考えてもみなかった、と言いたかったがやめておいた。

「悠理はそれで良いんですの?」たおやかな日本人形のような友人の瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。
「あたいには好きなヤツもいないし、頭も悪いから自力で剣菱を守ることも出来ないからさ。
それにドナリオの息子ってあたいの事マジみたいだし・・・良いやつだしさ・・・多分あたいも気に入ってる。
結婚したら幸せになれそう」
強がる悠理の言葉が本心じゃないことくらい皆には判っていた。
「悠理が決めた事なら応援するよ!俺達は一生ダチだかんな」と悠理を元気付けるかのように背中を
ドンと叩いた。
「あんがと」振り返った悠理の笑顔は例えようもなく美しかった。


379摩天楼の幻(7):05/02/11 12:04:01
悠理の婚約が決まってからの有閑倶楽部の部室は、どこか重苦しい空気に包まれていた。
そこから逃れたい一身で悠理は放課後、部室に寄ることを避け始めた。
いや、本当は清四郎の姿を見ればきっと心が挫けてしまうから。
剣菱を捨て、清四郎に逃げ出してしまいそうになる自分が怖かった。
「今日も・・・悠理は帰ってしまわれたのですか?」と野梨子は悲しげに睫を震わせて窓の外を見つめた。
「・・・ああ。授業が終わったと同時にな」バイクの整備をしながらも何かを考え込んでいる魅録。
可憐と美童は黙って清四郎を見つめていた。
清四郎はそんな二人の視線に気付かぬ振りで、骨董雑誌を読んでいたが一向にページが進まない。
張り詰めた空気を破ったのは美童であった。
「清四郎・・・お前素直じゃないね!」
「なんですか?突然」と訝しげに眉根を寄せて清四郎は美童を見据えた。
「僕が言いたいこと清四郎は判ってるよね!なんで自分の気持ちを押し殺すような真似するのさ」
普段は軟弱だ弱虫だといわれている美童にしては珍しいほどに声を荒げていた。
その目はまるで中世の騎士が剣の勝負でも挑むかのように真撃で、流石の清四郎も
一瞬たじろいだ。
たが一呼吸置くといつもの余裕の表情を取り戻し、清四郎は口を開いた。
「僕が気持ちを押し殺しているとは、どういうことですか?
僕はいつだって自分らしく生きていますけどね」
からかうような口調で訊き返す清四郎に一歩も譲るまいと美童は続けた。
「じゃあ清四郎は自分の気持ちに気付いてないんだよ!本当は悠理が好きだってね」
「要点が掴めませんね。何故、僕が悠理を好きだと思うのですか?
仮に僕が悠理を好きだったとしても悠理には素晴らしい婚約者がいるんですよ」
捲し立てるように清四郎は言及した。
まるで己自身に言い訊かすように。
380名無し草:05/02/11 12:47:27
終わり?
381摩天楼の幻(8):05/02/11 13:34:37
>>379の続きです。

「ふーうん。僕なら好きな子に婚約者がいようといまいと関係無いけどねぇ。
清四郎は怖がってるだけだよ!告白して悠理から拒絶されることを」
形の良い眉を片方だけ上げながら、くくっと笑った。
清四郎は何も答えようとはしなかった。
また無言で骨董雑誌のページをペラペラと捲っていた。


その晩、剣菱邸には突然の来訪者の姿があった。
つい先日JFKで悠理を見送ってくれたトニードナリオであった。
「・・・トニー・・・突然で吃驚してるんだけど・・・何故日本にいるの?
この間あたしを見送ってくれたばかりじゃ」
「あははっ悠理驚かせてごめん。実は万作さんに頼まれてね、
豊作さんのサポートに来たんだ。
ほんの一週間しか居られないけどね」
そういうとトニーは悠理を包み込むように抱きしめた。
トニーの抱擁はなんだか暖かくって安心できるような
今までに経験した事がないような、ふんわりとした感覚で
悠理から自然と笑みが毀れた。

382摩天楼の幻(9):05/02/11 13:36:22
二人は再会を祝して夜通し飲み明かす事にした。
ニューヨークで逢った悠理と日本で逢う悠理は別人のように
活発でよく笑う明るい少女で、新たな悠理の一面を知ったトニーは
益々悠理に惹かれていった。

「ねえ、悠理。君と一緒の時間を過ごせば過すほど僕は君に
惹かれていくよ。ニューヨークでの君も素敵なレディーだったけど
日本で逢う君はもっと素敵だよ」

「あ、あたいかあちゃんに言われてちゃんとレディーしてたけど
日本に帰ってから気が抜けちゃって・・・お前のこと騙すつもりじゃなかったんだぞ」
悠理があんまり可愛くって、でもおかしくってトニーはけらけらと笑い出した。
「そ、そんなに笑うなよ!ちゃんと謝ってんのに」
小さな子供のように頬をぷーっと膨らませた悠理が愛しくって
トニーは悠理の頬にキスをした。
真っ赤になって後去る悠理を引き寄せて、今度は悠理の紅い唇に口付けた。
悠理にとってそのキスは生まれてから三度目の異性との口付けであった。

キスって・・・相手によって感じ方が違うんだやっぱり・・・。

つづく
383名無し草:05/02/11 15:20:36
>摩天楼の幻
3度目の異性とのキスって・・・!誰と誰?
気になりますね。楽しみな展開です。

ただ小説を書くのは初めてだというだけあって、なにかこう、余韻がなくて残念。
話のあらすじをざざっと書き連ねたというか・・・
ゆっくり萌える暇もなく話が進んじゃった・・・って印象を受けました。
お話自体はとても面白いし文章もけして下手ではないと思うので頑張って下さい。
期待してます。(えらそうな感想でごめんなさい)
384名無し草:05/02/11 19:06:45
>摩天楼の幻
読み切りかと思ったら新連載ですね?
悠理大好きなので、清四郎&美童がどう絡んでいくのかすごく楽しみ。
無理に短くまとめなくていいと思うので、
作者さんなりの萌えを詰め込んでいって下さいませ。

ついでに、
>ない頭で悠理は考えた。
>デザートもたった三人前しか喉を通らないほど考えた。
みたいなテンポのいい文章、結構好きです。
まさに悠理、て感じで。
385名無し草:05/02/12 08:46:41
>>摩天楼の幻
作者さま、今後の展開が楽しみです。
続きをお待ちしています。
386摩天楼の幻(10):05/02/12 10:34:26
>>382の続きです
3レスお借りします。

静まり返った寝室で悠理は眠れぬ夜を過していた。
三度目のキスの感触を思い出すかのように、悠理は柔らかな唇に指を熨せ
ゆっくりとなぞる。
しかし思い出すのは、あの日の口付け・・・。
しっとりと甘やかに悠理の唇を切なげに求めた、あの男の唇の感触。
封印したはずの口付けの記憶とその感触が蘇りそうになり僅かに悠理の体は震えた。

同じ頃、清四郎もまた眠れぬ夜を過していた。
悠理とトニードナリオがゴシップ誌に載った写真を暫く眺める。
二人の姿が目の前にちらつき出し、清四郎の胸に鈍い痛みを与えた。
その残像から逃れようと写真から目を遠ざけたが・・・
消える事はなかった。




387摩天楼の幻(11):05/02/12 10:36:27
翌朝、いつものように清四郎は野梨子と並んで登校した。
見慣れた風景だ。
「清四郎。一つお訊きしてもよろしいですか」
「なんですか。改まって」
「昨日の美童が話していたことですわ」
正直にいえば、そのことには触れて欲しくはなかったが清四郎はゆっくり
口を開いた。
「・・・悠理を好きかということですね」
「ええ」
「・・・・正直、僕には判りません。昨晩もじっくり考えてはみました。
ですが・・・何も答は出ませんでしたよ」
清四郎にしては珍しく、跋の悪そうな苦い笑みを洩らしたが
昨晩は二人の姿がちらつき、熟睡出来ずにいたとはいわなかった。
「・・・・きっと時が来ればわかりますわよ」
「そういうものでしょうかね?」
「ええ」


二人が校門の辺りまで挿しかかると、黒いリンカーンが停まっていた。
見慣れた剣菱家の送迎車であった。
いつもは、名輪が開けるはずの後部座席のドアを、ブロンドの美しい男が開け、
車内に居る女性に右手を差し出していた。
その右手に細く白い右手が重なると、ゆっくりと中から悠理が車外に降立ち
「ありがとう。トニー」と笑顔をむけた。
さながら映画のワンシーンのように。

388摩天楼の幻(12):05/02/12 10:37:38
「悠理と婚約者の方みたいですわね。二人ともお似合いですわね。
そう思いませんこと。清四郎」
そういうと野梨子は清四郎の様子を覗うように、黒い瞳を清四郎にむけた。
「ええ。素敵なカップルですね」
清四郎は笑顔で応えたが、語尾は震えていた。
幼馴染の野梨子すら気付かぬほど僅かではあったが。
そして、またあの鈍い痛みが昨晩よりも強く胸に走るのを自覚した。
清四郎は、この痛みに名前があることをまだ知らない・・・。

「「おはよう御座います。悠理」」二人は同時に悠理に声を掛けた。
「お、おはよ」清四郎の声に悠理の体は一瞬強張った。
「そちらの方は悠理の婚約者の方ですね。僕達にも紹介して
頂けますか」
「あ、ああ」無理に笑顔を作るのに失敗したのか、悠理の顔が歪む。
「この二人は、あたいのダチで清四郎と野梨子。
で、こっちはあたいのフィアンセでトニーってんだ」
「「初めまして、トニーさん。菊正宗清四郎(白鹿野梨子)です。
悠理とは親しくさせて頂いてます。宜しくお願いします」」
「初めまして、トニーです。君たちの事は悠理から伺ってます
こちらこそ宜しく」悠理の微妙な変化に気付かなかったのか、笑顔で挨拶を交わし
トニーは「これから剣菱の本社へ向かう」とだけいうと悠理の目の端に軽く行ってきますの
キスをし立ち去った。
「Bey」とトニーの乗る送迎車に手を振ると悠理は、教室へと二人を残し掻けて行った。
”おまえ等も早くしないと遅刻だぞ”という言葉だけを残して。

389摩天楼の幻:05/02/12 10:40:57
レスを頂き、有難う御座います。
まだまだ至りませんが、これから萌所や余韻を楽しんで頂けるような
文章を書けたら、と思います。
390名無し草:05/02/12 11:47:13
>摩天楼の幻
わ〜い、続きだ!
清四郎の描写と、いい雰囲気の悠理とトニーの様子にちょっと萌え。
清四郎と野梨子の二人だけのやりとりも好きでした。
ただ、悠理たちが現れてからの清四郎と野梨子のセリフが一緒くたなのが残念。
それぞれのセリフをちゃんと分けて、それぞれのキャラらしい反応があれば、なお面白いと思います。
書きたいことだけを書くんじゃなくて、脇キャラの描写も面倒がらずに丁寧に書き分けることで話も膨らむし、萌えどころも増えていくんじゃないかな。
続きを楽しみに待ってます!
391摩天楼の幻(13):05/02/12 19:59:09
>>389の続きです。 2レスお借りします。
彼女は僕の目の前から風のように走り去っていった。
さながら風の精霊の如く。
遠い夏の日のように。
僕はゆっくりと天を仰ぐと遠い夏の記憶を呼び戻した。
あれは十年前、小学部の夏の郊外学習のとき・・・。
軽井沢への遠足に、まだ子供だった僕はわくわくしていた。
何か良い事が起こる予感がした。

「剣菱さん?やっぱり剣菱さんだ、こんな場所で何してるの?
クラスのみんなと逸れちゃったの?」
僕はクラスの皆から離れ一人軽井沢の街並を楽しんだ帰り道
森に続くテニスコートの片隅に、小さく蹲りながら今にも泣き出しそうに
なっている悠理を見付けた。
おてんばで喧嘩ばかりして先生を困らせてばかりの悠理とは思えない程
小さく弱々しい少女の姿に、僕が守ってあげなきゃいけないんだ、と思った。
だけどそんな悠理から返ってきた言葉は「ほっといてくれ」の一言。
照れているだけだってことくらい僕にはすぐわかりましたけどね。
だって、あの時の悠理の頬は、林檎みたいに真っ赤でしたよ。
それから、僕は悠理の手を取って僕等の宿舎に戻りましたよね。
でも、悠理は宿舎の手前で僕の手を振り払って「もうここでいい。
それから・・・あ、ありがとうなっ」って風のように僕の前から消えてしまった。
結構ショックでしたよ。でも、嬉しかったんですよ。
悠理の”ありがとう”って言葉。
僕はずっと悠理から、嫌われてるんじゃないかと思ってましたからね。

ふと気付けば清四郎の胸に走っていたあの鈍い胸の痛みは消えていた。
清四郎は、まだ気付かない。鈍い胸の痛みの原因も沈静の理由も。
392摩天楼の幻(14):05/02/12 20:01:01
僕が初めて悠理に逢ったのは十年前の夏。
僕は、飛級で大学を卒業し、たった一人の卒業旅行を両親に許してもらった。
見て周りたい国は沢山あったけど、まずはファーイーストの日本を選んだ。
理由は簡単だった、同じアパートメントに住む日本人女性から日本の事を
色々と訊かされていたから興味を持った。
京都、大阪、名古屋、東京と周り、僕は最後の目的地を軽井沢に選んだ。
アパートメントの日本人女性も彼女の旦那さんと何度となく
そこで過した、と訊いていたので素敵な場所に違いないと思ったからだ。
実際に素晴らしく環境の良い所で、趣味の油絵にもぴったりの場所だったよ。
だけど羽を伸ばし過ぎて少しばかり退屈していた。風景画を書くにも
書き尽して、モデルが欲しかった。
そんな時に、悠理に出逢ったんだ。
きっと悠理は僕の事なんて覚えちゃいないだろうけど。
泥だらけになっても、けらけら楽しそうに笑いながら子犬と走り回って
遊んでいたね。
モデルになってってお願いしら「かってにしろ」って頬を真っ赤に染めてた。
片時もじっとしていられない、無邪気で小さな天使の姿を何とか表現したくて
僕は夢中になって悠理をキャンパスに書き留めた。
翌日、僕は出来上がった絵を悠理に届けたくって、悠理の所に向かった。
悠理は同歳位の男の子と、仲良く手を繋いで歩いていた。
それが、清四郎だった。
僕は何となく声を掛け辛くってその場を去ったんだ・・・。
十年経って僕は、また君に出逢えた。そして清四郎にも・・・。
393摩天楼の幻:05/02/12 20:05:17
>>390
アドバイス有難う御座います。
脇キャラのセリフも、もう少し力入れてみます。

>391>392は清四郎とトニーの回想シーンとなってます。
相変わらず、稚拙ですが頑張ります。
394名無し草:05/02/13 02:45:50
いつになく新人に優しいw
395名無し草:05/02/13 02:58:08
新人 ちゃんとこのスレ最初から読めよ
396名無し草:05/02/13 13:37:33
>摩天楼の幻
面白いので続けて下さいね。
閑散としてたスレに新人さんが来てくれて私は嬉しいです。
ただ、自身のコメントは控えめに。
カキコにレスをつけるのも嫌がられます。>過去スレ参照
397摩天楼の幻(15):05/02/13 16:25:23
>>392の続きです。4レスお借りします。

悠理は数日振りに生徒会室へと足を伸ばしていた。
ドアノブを取る悠理の手は躊躇いのためか一瞬動きがとまる。
一呼吸置くと一気にドアを開いた。

「おす!」
数日振りの悠理の明るい声が生徒会室に響いた。
ちらりと生徒会室を見回す。
清四郎の姿が見えぬことに安堵と寂しさを感じた。

「悠理ぃ〜久し振り。どうしてここに来なかったのさぁ?
毎日、僕待ってたんだからねぇ」
「なんか、あたいに用でもあったのか美童?」
「うん、実は」と悠理を抱き寄せるように耳打ちを始めた。
美童に耳打ちされたかと思ったら突然、頬を紅く染める。
「あんた達、内緒話はないでしょーあたしにも教えなさいよ」
「可憐には関係無いことだから」片目を瞑りニッコリとする。
「じゃあ悠理、教えて」
「・・・・・」
「ダーメ。これは僕達だけのヒミツ。ねっ悠理」
「う、うん」
悠理は落ち着かない様子でモジモジとし出した。
相変わらず頬は紅く染まっている。

二人の会話が気になるのか、お茶を入れている野梨子も、よそ見をしながら
ちらちらと様子を伺っていた。
美童は悠理に何を話していらっしゃったのかしら?
昨日の清四郎のこと?そんな・・・いくら美童でも勝手に清四郎の気持ちを
悠理に伝えるかしら・・・。
そう思った野梨子の考えは、あながち全くの間違いでもなかった。
398摩天楼の幻(16):05/02/13 16:27:46
悠理は今度は目の前のお菓子も目に入らぬくらい、じっと考え込んでいた。
「悠理、あんた赤くなったり青くなったり変よ。何か悩みでも有るの?
お菓子にも手をつけないなんて」
可憐お手製のクッキに一向に手をつけない悠理に、見てはならないもの
でも見てしまったかのような顔つきで可憐は訊ねた。
「別になんでもないじょー」というと可憐のお手製クッキーを口一杯に頬張った。
「あんたその顔・・・フグみたいよ」
心配して損したとばかりに、可憐は厭きれた声を出した。


「そういえばさぁ、今日、悠理はフィアンセと一緒に登校してきたんだってね。
野梨子から聞いたんだ。
優しそうな素敵な人だったって野梨子が悠理のフィアンセのこと
誉めてたよ」
悠理は恨めしそうに、野梨子をちらりと見た。
「本当に素敵な方でしたわ。悠理をとっても大切にされてて。
まるで映画のワンシーンのように悠理をエスコートなさってましたわ」
「・・・映画のワンシーン??わるい。俺にはちょっと想像出来ない」
「悪かったな」くちびるを尖らせながら、バシっと拳で魅録を狙うが逃げられた。
「へーーぇ。悠理がフィアンセ同伴で登校ねー。
あたしも、そのフィアンセに会ってみたかったわ。
そうだ、近い内に紹介してよ!」と可憐は悠理にお手製クッキーを
もう10枚悠理に勧めた。恥ずかしがりの悠理は食べ物で買収しよう、という
魂胆がみえみえだ。
勧められたクッキーに、早速がっつく悠理を見て皆は厭きれたように苦笑いした。
399摩天楼の幻(17):05/02/13 16:30:07
「そーいや、清四郎は?」
清四郎の不在を承知の上で訊いてみる。
「清四郎なら、校長に呼ばれたって出てったぜ」
「ふーん」
「あら、悠理、清四郎の分のクッキーも狙っているんですの?」
「ち、ちがうよ」
憤慨して頬をぷーっと膨らませた。


―――ガチャ

生徒会室のドアが開く音がした。

ギクリ
悠理の肩が小さく震える。


「おや、悠理ここで会うのは久し振りですね」
清四郎の黒い瞳が悠理を映す。
暖かい春の日差しのような笑顔。

ドクン 
悠理の胸が波打った。
400摩天楼の幻(18):05/02/13 16:37:47
悠理は無意識に清四郎から、ぷいっと目を逸らす。

まともに清四郎の顔が見れない。

掌には汗が滲んでくる。

息苦しい・・・。

ちゃんと息吸わなきゃ・・・。

あたいオカシイ....?

なんでこんな心臓バクバクいってんだよ....。


「悠理....?」

「ごめん。あたい急用思い出した。帰る」
そういうと勢いよく飛び出して行ってしまった。

風の精霊ですか.....。

「僕は悠理に嫌われましたかね。なにかしてしまったんでしょうか」
苦笑いの清四郎。その目に暗い影と不安の色だけが色濃く浮き上がっていた。
「清四郎がなにかしたって?僕にいわせれば何にもしてないの
間違いだよ」挑戦的に方眉を上げてみせた。
「まあ、美童ったら、清四郎なりに考えているのですわよ」
「そうなの?」
「ええ、そうですわ」
「ふーん、そうなんだ」ニヤニヤと意味ありげに笑い始めた。
「なんですか、その意味ありげな笑い方は」
ちょっと、ムッとした表情の清四郎に、野梨子は小さくため息をついた。
401名無し草:05/02/13 17:37:29
投下終了なんだかくらい言って消えろ!
迷惑だなあもう・・・
402名無し草:05/02/13 17:46:23
いちいちウザーな香具師が一匹混じってるなw
へんな嫉妬か?
403名無し草:05/02/13 18:31:13
>>401-402
いい加減に汁
404名無し草:05/02/13 18:32:12
何に迷惑してるんだろう。
自分がネタやSSを投下したいわけでもなさそうなのに。
作者さん、「4レスお借りします」って、
ちゃんと断り入れてるしねぇ。
405名無し草:05/02/13 18:47:27
嫉妬というより、愉快犯っぽいカンジがするんだけど。
作家タンにいやな思いをさせて喜んでいる?
406名無し草:05/02/13 18:52:46
最近、暇だったからねぇ。
放置放置。
407名無し草:05/02/13 19:00:58
そんなことより、勝手にバレンタインのチョコ予想。

数だとやっぱり
悠理>>美童>>>>>魅録>清四郎
くらいになるんだろうか?

ちなみに毎年、6人全員(可憐&野梨子を含む)にチョコを贈ってる
コアなファンの女子も相当数いるかと思われる。
本気チョコでは、ダントツで魅録が多そう。
清四郎が最下位なのは、いわずもがな『女子』人気だからw
408名無し草:05/02/13 19:08:07
>407さん
ちゅうことは。
後輩男子生徒から恥ずかしげにチョコを渡される清四郎。
「僕のお兄様になってください…!」
さむいぼ立ったw 
409名無し草:05/02/13 19:26:16
>408
その手の呼び出しは、嫌な予感で上手に避けるのかな。
個人的には男殺しな彼に禿萌えだったりするけどw
410名無し草:05/02/13 19:59:27
>摩天楼の幻
どんどん続きが読めるのでうれしいです。がんばってくださいね。
4レスと書いてあったので別にいいとは思うのですが、
つづくと最後にあった方が(前は書いてらっしゃいましたよね?)
読者にはありがたいです。
4レスっていっても5レスになることもあるし、
作者さんが投下終了するのを待って感想書こうとしている人もいるかも…。
411摩天楼の幻(19):05/02/13 20:57:49
>>400の続きです。5レスお借りします。

お預かりしているメッセージは一件です。
------悠理、僕だけど今夜一緒に夕食でもどうかと思って電話したんだ
連絡待ってるから、返事を下さい-------

携帯の留守電にはトニーからのメッセージが入ってた。
機械的な応答メッセージのあとから、トニーの優しい声が、あたいの胸に響く。
なんか暖かいや。
まだ会議中かな、と思ったけど電話してみた。
なんとなくトニーの声が聞きたかったから。


「もしもし」
『悠理?丁度良かった、たった今、会議が終わったところだったんだよ。
夕食の件だけど、何が食べたい?』
「トニーの好きな物でいいよ」
『僕は好き嫌いないから悠理に合わせるよ。でも、もし決まってないなら
雰囲気の良いイタリアンレストランが麻布にあるんだけど、どうかな?』
「あたいは、そこで良いよ」
『じゃあ、8時迎えに行くから』
「わかった。じゃあ、またそん時な」
『待って、切らないで。』
「まだなにかようか?」
『あははっ。ようって程でもないけど・・・悠理』
「なんだよ」
『悠理、愛してる 』
「・・・そ、そんなこと電話でいうな!」
『あははっごめん、ごめん。でも本当の事だから』
「わかったよ。またな。それから遅刻すんなよ」
『了解。僕のプリンセス』
412摩天楼の幻(20):05/02/13 20:59:50
トニーは、あたいのこと愛してるって言ってた。
まだ、出逢ってから一ヶ月も経たないのに。
あたいの気持ちは.........どうなんだ?
トニーのこと嫌いじゃない。
むしろ凄く凄く大好きだ。
けど・・こういうの、あたいには難しくってよくわかんない。

「あら、悠理、今日はトニー君とデートなの?」
実に嬉しそうに百合子は訊ねてきたので、悠理は着せ替え人形に
されるかも、との予感が働き逃げ出そうと剣菱邸の階段を駆け上りかけた。
だが気が変り百合子を驚かす一言を言ってのけた。
「かあちゃん、あ、あたい、ちょっとだけお洒落したい!
今夜トニーとデートなんだ」
「ま、まあまあまあまあ、悠理からお洒落したいなんて言わせるなんて
トニー君の力は何て偉大なのかしら。
私に任せて。日本一、いいえ世界一のお姫様にしてあげるわ」
喜々とした表情で百合子は、消えていった。
”ちょっと待っててね”との一言を残して。
413摩天楼の幻(21):05/02/13 21:01:27
15分もしないうちに、百合子専属のエステティシャンやヘアーメイクアーティスト、
メーキャップアーティストなどあらゆる美の伝道師達が剣菱邸に集結した。
そして寄って集って悠理を徹底的に、足の先から頭の天辺まで磨き上げていった。
はっきりいって、悠理はここまで大袈裟なものは望んではいなかったのだが
百合子が張り切って仕切っていたので、押し切られた。

ヘアースタイルは百合子の『可愛い女の子』の趣味から、エクステで
ロングヘアーにされた。もちろん、緩めの巻き毛。
毛束を無造作に結い上げて可愛らしく、でもちょっとセクシーに。

メークは元が美人なので、自然に軽く色を熨せる程度。
くちびるも悠理の本来のくちびるの色を生かしシアーなグロスのみ。

百合子の選んだドレスは、上品なシャンパンゴールドのタイトな
ラインのキャミソールドレスだった。
胸元は緩やかなラインで程よく開かれ、背中はちょうどアンダーバスト
ぎりぎりの位置まで開いていて、膝丈より少し短いスカート部分の片方には
スリットの切れ込みの入っていたが、セクシー過ぎす尚且つ上品な色香を
かもし出すようなものだった。
アクセサリーもドレスに合わせて、中ぶりのダイヤ、イエローダイヤをあしらった
上品な存在感の物が選ばれた。
ミュールは全体を引き締める、黒いエナメルにラインストーンを幾つも
散り嵌めたヒールの高いものを履かされた。
414摩天楼の幻(22):05/02/13 21:03:32
完成された悠理の姿は、周りにいた全ての者を魅了した。
息を呑むほど美しかった。
さながら愛と美の女神。
将に、ヴィーナスであった。



「まあ、まあ、まあ、どうしましょう、どうしましょう。
あぁ悠理、流石私の娘だわ。
本当に綺麗よ。私こんなに綺麗な女の子見たことないわ♪」
感激と喜びの涙を流して百合子は愛娘を抱きしめた。
19年間、娘としてまともに弄くりまわさせてさえくれなかった娘から、
あの悠理から”お洒落をしたい”と言って貰えたこの日の感動を百合子は
生涯忘れはしないであろう。
415摩天楼の幻(23):05/02/13 21:06:07
「嬢ちゃま、トニー様がお見えで御座いまするぞ」
五代も悠理の華麗なる変身振りに頬を緩ませながら、トニー
到着の報告にやってきた。
「ありがと、五代」


剣菱邸の広く長い階段の上から、悠理はゆっくりと階下へ
トニーの元へと下りていった。


「トニー待たせてわるかったな」


広いエントランスに下り立つ前に、イングリッシュローズの花束を抱える
トニーに声を掛けてみたがトニーは身動き一つしないで悠理を、じっと見つめていた。
夢見心地で見蕩れていたのだ。
「・・悠理・・凄く、凄く綺麗」

つづく
416名無し草:05/02/13 23:37:40
出遅れましたが、久々の長編?中編?ですね。>摩天楼の幻
なんかヘンなのいますが気にせず続きを宜しくです。
直ぐでなく間あいてのもいいので。

ところで明日はバレンタインだけどなんか短編とか出るかな?
季節イベント物はネタが出尽くした感もあるので難しいけど…
417名無し草:05/02/14 02:10:34
>摩天楼の幻

まとめて楽しく読ませていただきました!
ただ、少々ルール違反なのも事実…
あんまり叩かれていないのは正直ラッキーだと思います。

新人だから が理由にならないのが2チャン。

最低限のマナーは守って欲しいです。

作品自体は応援しているだけに、とても残念です!
これからもがんばってください
418名無し草:05/02/14 02:43:48
リレー小説「有閑キャッツアイ」の続きを少し書かせていただきます。
3レスほどお借りします。
http://houka5.com/yuukan/long/l-40-4.htmlの続きです

今日のデートは、絶対に2人きりになる環境を作ってはならない。
絶対に人がいる所―例えば、映画館、レストラン、カフェ、デパート
そういった所でのデートに何としてでも持っていこうと悠理は考えていた。

こないだの様に、日本庭園で2人きり、ホテルの部屋で2人きりになんかなっていけない。
2人きりになって、清四郎から自分の正体について詰問されたらごまかしきれない。
だから絶対に今日のデートでは、2人きりになっちゃいけない。

悠理は、映画に連れて行って欲しい。その後、どこか美味しいお店へ連れて行って
と清四郎に頼むつもりだった。

しかし、悠理が口を開く前に
「さあ、行きましょうか」
清四郎は、やや強引に悠理の手を握った。
「え、清四郎・・・どこへ行くんだ?」
清四郎は悠理の問いかけには答えずに足を進めた。
戸惑いながら、悠理は清四郎に引っ張られるようにして歩いた。

やがて、数分歩いた後、清四郎は一台の車の前で止まった。
そして、悠理の顔を見ながら悪戯っぽい表情を浮かべて言った。
「今日は少し、遠出しませんか。箱根へ行きましょう。そしてゆっくりと向こうの旅館で一泊しましょう」
「え、箱根?清四郎・・・仕事は?」
「仕事は明日も休みですよ。悠理もここの所、先生業はお休みしているんでしょう?」
「ああ、ちょっと体調が優れなかったら・・・休むことにしたんだ。2学期から復帰する・・・」
「百合子さんにも許可も貰いました。何か不都合でもあるのですか?」

悠理は何も言えなかった。

別に・・・箱根へ行く事はイヤじゃないんだ。
でもな、あたい、今、お前にあたいの正体を言うわけにはいかないんだ・・・。
どうしよう・・・どうしよう・・・。
あたい、ごまかせるかな?

下を向き、パールローズに染まった唇をきゅっと噛みながら、
悠理は心の中で、色々な思いを吐き出していた。
「悠理、行きましょう。箱根へ」
清四郎は、さっき悠理の手を握った時よりも、強い力で悠理の腕を掴み、
有無を言わせず悠理を助手席に乗せた。

悠理がほんの少しの間、唖然としている内に、清四郎は運転席に座り、車を走らせていた。

どうしよう・・・。
あたいごまかせるかな?

***************

続きよろしくおねがいします。
422名無し草:05/02/14 08:09:48
>キャッツ
おー。ひさしぶりのキャッツ!書いてくれてありがとー。
このまま二人は箱根へ向うのか、それとも?
423バレンタインの奇跡:05/02/14 10:42:28
バレンタインネタを投下します。
美×悠で4レスお借ります
苦手な方スルーしてください。
知ってる限り被ってないと思いますが、万一ネタ被ってたらスイマセン。
今日のエミリーちゃんとのデートは十時からからだったので、僕は
八時半に目覚めた。
まだしっかりと覚醒しきっていない寝ぼけ眼を擦りながら、バスルームへ
向かった。
熱いシャワーで眠気を覚まそうとシャワーの蛇口へ右手を伸ばす。

ん?僕の手、なんだか一回り小さくなってさいかぁ?
まじまじと僕は右手を見つめた。

やっぱり一回り小さい・・なんで??
僕は気になって体全体を確かめた。
気のせいじゃない。
どこもかしこも小さくなってる。

恐る恐る僕は、鏡を覗いてみた。

「ぎゃーーーっ」

落ち着け、落ち着くんだ僕。

粗い呼吸を整えて僕はもう一度、鏡を覗き込んだ。

「・・・・」

鏡の中の僕は14歳の僕になっていた。


僕はそこら辺の服を引っ掛けると、真直ぐに悠理のところへ向かった。
清四郎のところでも良かったけど、こんなとんでもない超常現象は悠理の方が
頼れる、と思ったから。
いつものように、剣菱の悠理の部屋に入ろうとした時、僕は五代に
引き止められた。
「嬢ちゃまに、何か御用ですか?」
「うん。ちょっと悠理に大事な話があるんだ」
「坊ちゃまは、どちらの坊ちゃまですか?」
「何いってんの?僕だよ!びど・・」
そうだった、今の僕は美童であって美童じゃないんだっけ。
五代に説明してる暇はないから、僕は杏樹の振りをした。
「ぼ、ぼく美童の弟で杏樹です。美童の代わりに悠理さんに会いにきました」
なんとか五代を誤魔化すと、僕は悠理の部屋へ飛び込んだ。

悠理は半分寝ぼけたままで、僕の顔を見つめていたけど流石、霊感探知機
僕の異変を本能で嗅ぎ取ったみたいだ。

「お、おまえ、誰だよ」
ベットの上で羽枕を両腕で抱え込みながら悠理はガタガタ震えていた。

「悠理ぃ、僕だよぉ美童だよぉ。そんなに怖がらないでよぉ」
半分涙目で訴えながら美童は悠理に近づいていった。
捨てられた子犬のような瞳が涙で光ってる。

「おまえ、ほんとに美童なのか?」
「そーだよぉ、美童だっていってるじゃないかぁ。
信じてよぉ」
そういうと美童は泣きじゃくりながら、これまでの経緯を話した。
泣きじゃくる美童が可愛い。

「もう、いいから泣くな。あたいが何とかしてやるから」
自然と悠理は、美童の頭をなでなでしてみた。
悠理の優しい手の動きに、美童は安心したように柔らかな微笑みを
悠理に向けた。
「ところで、おまえ一体いくつの美童なんだ?」
「たぶん14歳」
「美童も12歳の頃は随分可愛かったんだな」
美童の両頬を両手の人差し指と親指で軽く摘むと悠理は太陽のような
明るい笑みを零した。

美童の胸がキュンと鳴った。

僕子供に戻って、ショックでおかしくなっちゃったのかな?
悠理がちゃんと女性に見えるよ。

「それよか、おまえその姿じゃ学校も行けないよな。
どうすんだ?今日、明日は休日だから良しとして」
「月曜まで皆には、この事まだ内緒にしててよ」
「それは良いけど、いつまでも秘密にはしてられないぞ」
「分かってる。でももうちょっとだけお願い」
「わかったよ」
悠理は14歳の美童の髪をくしゃりと掻きまぜた。
427バレンタインの奇跡:05/02/14 10:49:28

僕等は、この不可解な現象を解決しようと頭を捻った。
考えても何も打開策は浮ばなかったけれど。
「大丈夫だよ!なんとかなるって絶対元に戻れるから心配すんな。
それまでは、あたいんちに居ればいいよ」
くしゃりと悠理がまた僕の髪を掻きまぜた。
僕は、思わず悠理の細くて白い首に両腕を絡ませて
彼女の頬にキスをした。
「ありかとう悠理」悠理の頬が紅く染まった。
悠理、とっても可愛い。
僕は堪らず悠理の唇に僕のを口付けた。

蹴り飛ばされる、と覚悟してたのに蹴られることはなかった。
ただ頬の紅さが全身に広がっていくのを僕はみとめた。
悠理の白い肌は内側から紅い霧を吹きかけたように、みるまに
紅く染まり彼女の美しい姿態は、まるで芸術品のようだった。

悠理が欲しい。
僕はキスに怯える悠理に囁いた。
「・・悠理・・逃げないで。
僕の側にきて・・怖がらなくていいから」
その時の僕の声音は、他の誰に囁く時よりも甘く掠れていたに違いない。

結局、僕の体はバレンタインの日に元通り戻っていた。
19歳の僕を、照れくさそうに腕の中の悠理が見つめている。
「悠理、19歳の僕は、14歳の僕よりスゴイよ。
これから試してみようか」
「ば、ばかたれ。朝っぱらから何いってるんだよ」
恥らう裸の悠理を僕は、いつもより時間を掛けて美味しく頂いた。
おしまい
428名無し草:05/02/15 00:38:19
>バレンタインの奇跡
萌え萌え〜な話だけに、あえて苦言を書きます。
美童の一人称で語っている話が、唐突に三人称になってしまう場面が
あるので、読んでいておかしな気分になりました。
例えば425の、半分涙目で……(中略)……瞳が涙で光ってる。 など。
全体を一人称で統一する又は三人称にする、のどちらかの方が、
読者はスムーズに読めると思いますよ。
429名無し草:05/02/15 07:46:25
なるほどなぁ〜
このあいだから思ってたんだけど、ここに投稿したら小説うまくなりそだね

>摩天楼
トニーは実は子供の頃に悠理と会っていたっていう回想よんで
悠理=キョーコ
トニー=蓮
清四郎=ショータロー(これはいくらなんでもキャラちがいすぎだけど)
のスキビ妄想しちまいましたw

>バレンタイン
なんか萌えた〜ちょっと御都合主義ぽいけど見逃しちゃう(はぁと)
美×悠大好き〜
430名無し草:05/02/15 12:33:17
いきなりメンバーが総入れ替えになったかのごとく
添削が流行ってますなー。
ほどほどにね。

>摩天楼の幻
結構好きな系統の話です。
悠理のトニー以前の2回のキスがめちゃめちゃ気になってます。

>有閑キャッツ
お待ちしておりました!
続いてくれてうれしいです。はい。
2回目のデートでいきなり一泊旅行ですか。
やるのう。清四郎。

>バレンタインの奇跡
ちょっとシンプルすぎるきらいはありますが面白かったです。
やっぱ美童は手が早いなあ・・・
431名無し草:05/02/15 12:53:55
摩天楼の続きアップさせて下さい。
4レスお借りします。
432摩天楼の幻(24):05/02/15 12:57:12
>>415の続きです

「ばぁーか。はずいじゃんか」

照れ隠しにはにかんだように微笑む悠理は、震えるほど美しく
悠理から放たれた光のオーラに、トニーは思わず掌を翳し目を細めた。
その光は、あまりに眩しすぎたから・・・。


他の誰の目にも君を触れさせたくない.....。

君を見つめることを許されているのは

君を愛し君から愛を乞うることを許されてるのは

僕だけ....他の誰でもない僕だけに許された特権。

「なんて顔してるんだよぉ、あたいがお洒落してるの
やっぱり変か?」
「そんなことない。とっても綺麗だよ」
不安げな瞳で上目使いにトニーを見上げる悠理を
トニーは嬉しさ交じりの遣る瀬無い思いで抱き寄せた。
複雑な男心を押さえるようにトニーは悠理に口付けの許しを乞う。
「悠理.....キスしたい」
返事の代わりに悠理は静かに長い睫を伏せた。
耳元で囁かれる甘く掠れた音色は、どこまでも甘美に悠理の
肢体を通り抜ける。
そして、その口付は深く悠理を酔わせた。

遠い日のファーストキスのように、甘く切なく悠理の胸を締めつけながら。
433摩天楼の幻(25):05/02/15 12:58:19
・・昨日と違う・・この感じ・・あの時に似てる。
なんで・・トニーが?


その頃、清四郎と美童は西麻布のクラブにいた。
美童が清四郎を呼び出していたからである。
「またね、ミカリン」
「美童浮気しちゃだめよ」
「わかってるよぉー僕はミカリン一筋なんだから」
「いいわ。信用してあげる」
美童は今夜のお相手を見送ると、清四郎の元へ戻ってきた。
怪訝そうな表情の清四郎に、美童は軽く微笑むとタクシーを止めた。
「何処へ行こうというんですか?」
「麻布のイタリアンだよ。僕、夕食まだでお腹すいちゃったんだ」
邪気のない美童の笑顔に、清四郎はふーっとため息をついた。
「その為に僕を呼び出したんですか?」
「そっ、なぁーんてね。本当は悠理のことで清四郎に話があるんだ」
「また、悠理のことですか・・・」
清四郎はいささか疎ましそうな口調で応えた。
「そんなに怖い顔しないでよ」
「怖い顔なんてしてません。呆れてるだけですよ」

二人がイタリアンレストランに着くと見慣れた顔が目に入ってきた。
急用がある、と帰ってしまった悠理であった。
「あれ〜あそこにいる超美形の女性、もしかして悠理じゃない?」
「ええ、そうみたですね。それに婚約者の方も一緒ですよ」
悠理とトニー睦まじそうな二人の姿を改めて見とめると、
これまでに感じた事のない感情が清四郎の心に重く沸き起こってきた。
434摩天楼の幻(26):05/02/15 12:59:32
空虚と焦燥が清四郎の常のポーカーフェイスを少しづつ壊していく。

「へぇ〜フィアンセも凄い美形だね。まあ僕ほどじゃないけど。
悠理の急用って今夜のデートの事だったのかなぁ?」
「そうなじゃないんですか。あんなに着飾って・・」
清四郎の顔が僅かに不機嫌なものに変った。
「悠理、珍しくドレスアップなんかして、どういう風の吹き回しかね?」
「知りませんよ。僕に訊かないで下さい」
「清四郎、こわーい」
「・・とにかく僕等は二人の邪魔は出来ませんよ、良いですね」
「わかってるよ。デートの邪魔なんて無粋な真似、僕がするわけないでしょ」
美童はウェイターに何か耳打ちすると、悠理達から目立たないテーブルへと
案内されていった。


清四郎達が、ここに居ることを気付かない悠理はフィアンセに
有閑倶楽部の夢の様な大冒険や騒動を話して訊かせていた。
トニーが自分の知らない間の悠理を知りたがっていたからである。
435摩天楼の幻(27):05/02/15 13:01:26
「悠理は凄く良い仲間を持ってるんだね」
頬杖を付きながら、じっと悠理を見つめ微笑むトニーの青い瞳は
熱っぽく揺らめいていた。

「・・うん。あたいのダチは皆すげーいい奴等ばっかだから」

トニーの甘美なキスの味も甘い囁き声も悠理は知っている。
だが普段の悠理は女として見られることは殆どない。
まして熱を篭めた視線なんて知らない。
自分に対して真直ぐに向けられるトニーの熱の篭った視線に
悠理は困惑していた。

トニーあたいのこと変に思ったかな?今ちょっとシドロモドロになってたし。
それに、心臓バクバクいってる。
なんでだ?
トニーは”良い仲間を持ってるんだね”っていってただけなのに。

それに・・あんな目で見られると・・どうすれば良いか判らない。
イヤじゃない・・でも少しだけ・・怖い。
436名無し草:05/02/15 13:04:39
すいません。
435の最後つづく、を書き忘れました。
レスの無駄使い申し訳ありませんが、こちらで申告させて頂きました。
437名無し草:05/02/15 16:56:43
>430
添削が流行ってるというより
添削したくなるような話が流行ってるんだとオモ
438名無し草:05/02/15 21:26:01
>437
何様でつか?w
439名無し草:05/02/15 22:07:18
俺様w

でも>437には自分も同意。
ま、小説を書いたことのない初心者じゃ仕方ないとは思うけど。
みんな最初は初心者。アドバイスで上達できればOKってことで
新人さんにはくじけず頑張って欲すぃ。
440名無し草:05/02/15 22:17:10
ま、商業小説でも何でもないんだから中身が面白ければイイ。
441名無し草:05/02/15 22:24:49
そうそう。
ただで楽しませてもらってるんだもん。
何も読めないより、読める方が嬉しい。
また色んな連載が戻ってくるのも、気長に待ってます。
442名無し草:05/02/15 23:26:02
中身が面白くなきゃ、スルーするからいいんだよね。
でも中身はそこそこ面白いのに表現がうまくないと
非常に気になる。

>373の1行目から引っかかってしまった。
'急変を迎えていた'って日本語として変だよ。
'急変中だった'、'大きな曲がり角を迎えていた'なら判るけど。

誤字も多い。
>387 挿しかかると
>383 掻けて行った
>398 厭きれた声
全部は書ききれない。
辞書引くのをさぼっていては、いつまでも同じだよ。
443名無し草:05/02/15 23:38:27
>>442
あんた何様のつもり?あんたみたいな自治厨がいるから、
書きにくくなるって分かってる?
なんで、何も言わず「スルー」が出来ないの?

そこまで偉そうに言うのなら、あんたが書いてみなさいよ。
と言いたくなる。上手い文章が読みたいなら、そう判断した
作品は読まなければいいのに。つくづく言わなくてもいいことを
書いてる気がする。
444名無し草:05/02/15 23:38:59
あ、>>442ね。スマソ
445名無し草:05/02/16 00:10:09
12分後に脊髄反射でキャンキャン噛み付くなんて、
作者のジサクジエンにしか見えないよ。
愛読者なら、違う方法で庇ってあげればいいのに。
446名無し草:05/02/16 00:23:25
この前からうざい藻前消えろ
こっちは些細な事などきにしとらんw
面白い物さえ読めたらいいんだわ
447名無し草:05/02/16 00:37:32
ここを荒れさせて摩天楼の作者タソを書き難くさせたいなら、
446は見事に目的を達成してるなw
448名無し草:05/02/16 00:43:06
>なんで、何も言わず「スルー」が出来ないの?

誤字脱字だらけの文章が保管庫に納められても、
作者が恥かくだけだからほっとけ。

ってこと?
449摩天楼の幻(28):05/02/16 00:50:00
>>435の続きです。5レスお借りします。
うpされた物の表現、誤字脱字はご愛嬌でw
正しい日本語表現が浮ばない場合、カタカナ表記で英単使わせてもらいます。

『僕が悠理を奪うよ!』

美童の言葉が僕の心に鋭く突き刺さった。
その時僕は生まれて初めて、人を思う恋心などというものが
自分の中にあったという事に気付いた。
いや、気付かされたのだ。
そして、もう一つ。
かつて美童もまた、同じ女性を愛していたということも知った。
”遠い過去の思い出”、と美童はいっていたが・・・。

自分の中の悠理への思いに気付いた清四郎は苦しいんでいた。
やっとのことで、悠理への愛情に気付いてみたものの、悠理は
既に他の男のものとなるべく婚約中の身。
今更気付いたところで、もはや手遅れではないかと己の理性が諭す。
しかしもう一方で、どんなに困難な状況だったとしても気付いてしまった
悠理への思いをとめることなどは出来そうもない。
清四郎は理性と感情の狭間で揺れていた。

「ふーっ。恋とは何とも厄介なものですね」
苦い笑みが清四郎の口端から漏れた。

「相手があの悠理じゃねぇ。大変だぁ〜
おまえもアンソニーさんもこれから苦労するんだろうなぁ〜
ちょっと楽しみ・・なぁ〜んてね」
両手で頬杖をつきながら美童は清四郎に片目を瞑って見せた。
450摩天楼の幻(29):05/02/16 00:51:26
「アンソニー?」
清四郎の訪いかけに、美童は清四郎の考えを察知して説明を始めた。
「うん、アンソニードナリオ。トニードナリオの本当の名前だよ。
アメリカ人ってホントの名前よりニックネームを好んで使うんだよ。
ほらぁ、アメリカの前大統領なんて本名よりニックネームで
世界中に通ってたでしょ。彼の本当の名はウイリアムだけど
ビルで通ってたじゃない」

トニーの本当の名に清四郎は瞬時に記憶を辿り始めた。
確かに覚えのある名だったのだ。
しかし清四郎の広い交流関係を辿っても、その名に当て嵌まる人物は
思い浮ばなかった。

「どうしたのぉ?」
「いえ、何でもありません」
「変な清四郎」
美童はそういうと、お気に入りのシャンパンを口にした。
だが、清四郎の一言に噴出しそうになってしまった。

「美童は・・本当に悠理のことは、もう過去のことにして
しまっているんですか?」
「もぉ〜なんだよ。せっかくのシャンパン噴出しちゃったじゃないかぁ〜
僕はもうとっくに悠理のことは諦めたんだから、僕を気使う必要はないよ。
でも・・清四郎が本気を出さないなら、僕が悠理にもう一度アタックしちゃうよ!」
「・・・・・・」
「なぁーんてね。冗談だよぉ。清四郎は何も気にせず
自分と悠理のことだけ考えれば良いんだよ」

しばらくして清四郎が席を立つと、美童は離れたテーブルにいる悠理に
切なげな視線を向けた。
451摩天楼の幻(30):05/02/16 00:52:49
僕が悠理に初めて出逢ったのは可憐の紹介で有閑倶楽部のメンバーと
初めてハングアウトした夜。
あの晩は野梨子と可憐が不良達に拉致されて、みんなで助け出しに
行ったっけ。
悠理は女の子なのにめちゃくちゃ強くって、僕は度肝を抜かれたんだ。
結局最後は清四郎が相手のリーダーを倒しちゃったんだけどねぇ。

その後、僕も聖プレジデントの高等部に入学し、有閑倶楽部の
一員として楽しい日々を送っていた。
そしていつしか僕は、悠理の姿を目で追うようになっている自分自身に
気付いた。
最初は自分の気持ちを疑ったよ。
だって、悠理はどうみても女の子には見えなかったからね。
大食漢で喧嘩が大好きで、がさつで・・・。
でも、凄く可愛いところも一杯あるんだよ。
泣き虫で友達思いの正義感の強い優しい女の子なんだ。
そんな悠理だから僕は好きになったんだよ。
でも悠理が僕の気持ちに応えてくれるとは、僕も思っちゃいなかったさ。
だって悠理の目は他の誰かを追っていたから......。
だけど僕は気付いてしまったこの気持ちを、悠理に伝えずにはいられなかった。
だから出来るだけ悠理の負担にならないような告白の方法を選んだんだ。
結局ふられちゃったけどねぇ。
まぁ悠理の気持ち僕は知ってて告白したんだから、当然なんだけど........
やっぱり、ふられるのは辛かった。
せめてもの慰めにって僕は悠理に口付けを乞うた。
452摩天楼の幻(31):05/02/16 00:55:19
僕から悠理への最初で最後の..........口付け。
そう、あれは片恋の口付け。
今も忘れる事など出来ない僕の生涯で、たった一度きりの
甘く切ない本気の口付けだった。

一方的な口付けに、悠理は怒りもしないで僕を許してくれた。
僕はその時誓ったんだ。
悠理が本気で誰かを愛する時がきたら、その人と結ばれるように
僕が見守ってあげるんだって。

だから僕は、あの口付けと共に悠理への思いを封印する......。


「悠理」
「ん?」
「今夜は僕に付き合ってくれて有難う。
悠理が退屈してなかったらいいんだけど・・」
「そんな言い方すんなよ。あたい達は婚約してんだから
デートくらい普通だろ。・・そ、それに、あたいトニーと居ると
落ち着くっていうか・・とにかく安心するんだ」
悠理の薄茶の瞳が真直ぐにトニーの視線を捕えた。

悠理の真撃な眼差しにトニーは踏ん切りがついたかのように
悠理に訪い掛ける。
「ねえ、悠理。もし剣菱がこんな状況じゃなかったとしても
悠理は僕との結婚を考えてくれた?」
思いも寄らぬトニーの言葉は悠理を困惑させた。
453摩天楼の幻(32):05/02/16 00:56:01
「な、なんでそんなこと訊くの?」
「僕の質問に答えて」
「だから何で」
「僕は悠理を愛してる。誰かをこれほど愛せるなんて
信じられないくらい悠理を愛してる。
マンハッタンで君と過した二週間も凄く幸せだった。
でも君はいつも何処か遠くを見つめて悲しげだった」
トニーは堰をきったように己の心情を悠理に伝えた。
きっと初めて逢った時から恋に落ちていた。
小さな年下の少女に。
十年の歳月を経て再び巡り逢ったことを神に感謝さえした。
しかし愛しい人は遠くばかり見つめている・・・。
トニーは悠理の本当の気持ちが知りたかった。


「・・あたい、恋とか愛とか、よく判らない。
けど、トニーの事は嫌いじゃない。大好きだ。
ほんとは、結婚とか最初は乗り気じゃなかった・・剣菱の為にって
思ってたよ。ごめんなトニー。でも正直に言った方がいいと思うから・・」
「うん」トニーの瞳が悲しげに揺れた。
悠理はじっとトニーを見つめると微笑んだ。
その微笑みは、トニーが初めて悠理に出逢った時に見た微笑と同じで
トニーの瞳から悲しみの色を消し去る。
悠理は気持ちを伝える事を続けだした。
「これがどういう感情なのか、あたいには判らない。
だけどトニーといると安心するんだ。ほんとだよ。
それにトニーに抱きしめられると、嬉しいし見つめられるとドキドキする。
だから・・だから、あたいのフィアンセがトニーで良かったって今は思ってる」
悠理はトニーの瞳をしっかりと捕えて今の正直な気持ちを伝えた。
その言葉は粉砂糖のようにトニーの上に甘く降り濯がれ、トニーの不安な
気持ちを優しく洗い流す。
つづく
454名無し草:05/02/16 03:54:53
久々に来たらびっくりしたよ。
摩天楼タンが始まってからここはなんか変わった気がする。

厳しいようだけど、摩天楼タンが作った雰囲気のせいで他の作品が消えた気がする。
だからこそ、マナー違反には厳しく接するべきだし、内容の上手下手はともかく
作者タンがうpした物にいちいち反応しないほうがいい。
下手だろうと何だろと、一度うpされちゃったものはどうしようもないんだし、
スルーするしかない。

この雰囲気は摩天楼の作者タンと妙に新人擁護にはしった新人住民?が原因と思われ
古住民の復活をw
455名無し草:05/02/16 04:02:51
なんかなぁ…自分が原因になってんのに

>うpされた物の表現、誤字脱字はご愛嬌でw

その“w”は…
456名無し草:05/02/16 09:19:04
作家タン
ガンガレ 続き楽しみにしてますぅ
457名無し草:05/02/16 09:25:18
>455
同意。

正直、今までは絡まれて気の毒と思ってたけど、
ちと無神経過ぎ。
作者が煽り返してどうする。
気をつけますで流しときゃいいのに。
458名無し草:05/02/16 09:54:55
2ちゃんだから。
有閑スレは前々から細かいんだよね。
第三者の目で見てると、うぅ・・・重箱の隅突いてるようにオモ。
これ位で煽り返されたとヲモタ人、カルシュ−ム足りてるの?とオモ。
マッタリいこうや。
459名無し草:05/02/16 10:38:44
さりげない添削は、作家さんにとって良と思われますが、
それ以外のものは、違う次元のものに見えました。

文章構成など、内容を思いつくことすら
難しい読み手専門の、私にしてみれば、読めるだけで幸せです。
内容が好きな系統なら、尚、良しです。

元々、作家さんの、作った雰囲気が、荒れた原因とも思えません。

生意気言って済みません。
460名無し草:05/02/16 13:31:05
>>454
ルールには厳しく、添削はやめようって趣旨には賛成なんだけど

>厳しいようだけど、摩天楼タンが作った雰囲気のせいで他の作品が消えた気がする。
これは言いがかりだと思うよー。
もともと閑散としてたし、連載はうれしかったです>摩天楼
461名無し草:05/02/16 15:21:27
悪いけどマジレスさせてもらうよ。

たしかにここは、最近閑散としてたし、連載自体は嬉しいよ。
だけどそれ以外の、嫉妬だの他カプ派がどうだのと、
あまりにも幼稚で、他人が傷つくような、無神経なやり取りが多すぎる。
全てが作家タンの作った雰囲気とは言わないけど、きっかけにはなっていると思う。
優しさと甘やかし、批判・意見と叩きは違うんだよ。

作品はうpしてほしいし、出て行けとも言わない。
ただ、感情的なレスの人。新人さんならなおのこと、
スレの最初にある『お約束』を、まずきちんと読んでくれ。
462名無し草:05/02/16 20:20:36
>厳しいようだけど、摩天楼タンが作った雰囲気のせいで他の作品が消えた気がする。
これは言い掛かりだと思う。
スレが過疎化してるのは、摩天楼タソが来る前からのことだから。
けど、この言い掛かりとは別に、摩天楼タソにも問題はある。

>うpされた物の表現、誤字脱字はご愛嬌でw
わざわざこんなこと書く意図は何?「w」までつけて。
ここのところ、スレが微妙に荒れ模様なのに気付いてないの?

今までも、空気読めなかったり過去ログ読んでなかったりする
新人のせいで、ここは何度も荒れた。
新人を言い訳にする作家はもうお腹いっぱい。
463名無し草:05/02/16 20:48:51
叩きと批判意見の違いも判らないお子ちゃま(摩天楼タソ含む)は
個人HPのほうが合ってるから、そっちでやんなよ
ここは2ch
馴れ合いやマンセー意見だけを欲しがられても困る
464名無し草:05/02/16 21:22:53
魔天は最初のウpからルール違反してたもの。
>・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

レスの最後に無意味な改行を何行もいれ、誤字の見本市。
忙しい中編集してくれてる嵐さんの仕事増やすなんて
どうゆう了見なんだか。
465名無し草:05/02/16 21:29:34
自分は初日から鬼のように続いたあの連投に驚いた
466名無し草:05/02/16 21:35:42
>>464
え?嵐さんに喧嘩売ってたんじゃないの?
誤字直しますよってのにピキンときた作家が、
わざと誤字だらけの文を書いて挑発してるんだと思ってた。
あんな悪文は素では書けないでしょ。
467名無し草:05/02/16 21:51:09
>466
その言い方はあまりにもひどいと思うし、嵐さんにも失礼だと思う。
いくら2ちゃんでも、言っていいことと悪いことの分別ぐらいつけるべきでは。
このままだと本当に誰も来なくなるようで、自分はそれがいちばん怖い。
自分はどんな書き方でも気にならないし、他にもそういう人いると思います。
作家さんにはぜひ頑張って連載を続けて欲しいと思います。
468名無し草:05/02/16 21:51:37
>465
大量ウプ歓迎なんだから連投はやっていいとオモ。
驚いたのには同意w
469名無し草:05/02/16 21:57:15
>467
>自分はどんな書き方でも気にならないし、他にもそういう人いると思います。
ぱっと見作者タソを擁護してるようでいて、実は書き方が悪いことには同意してんのねw
手の込んだ叩きだ。
470名無し草:05/02/16 21:59:29
>467
でも誰が来てもこんな状態になるかっていうと、そうじゃないと思う。
現に摩天楼タソにも最初はみんな優しかったし。
私も最初は457のように気の毒って思ってたけど
ご愛嬌でwの発言でちょっとキレた。
471名無し草:05/02/16 22:13:14
>470
上2行に同意。

摩天楼さんだけが悪いとは全く思ってないが、
摩天楼さんの態度やSSに問題があったのは事実。

でも>449に書いてるのは、「今後誤字脱字を減らして
表現も工夫し、いい文にするよう努力する気はありません」
ってことだよね。
キレはしないけど脱力した。応援してたのに。
472名無し草:05/02/16 22:33:36
作家さんの言いまわし、第一言語は日本語じゃないもしくは
日本語をあまり使わない状況にいる。
誤字に無頓着に感じるのは、そのせいと想像してみた。
473名無し草:05/02/16 22:44:10
>472
私も同じように考えてた。
敬語がおかしかったし、日本語が母国語じゃない人っぽい。

でもさあ、清四郎や野梨子の敬語がおかしいと
激しく萎えるんだよね。キャラ違いすぎ。
カタカナ表記で英単語にすると書いてるけど、美童みたいな
キャラならともかく、他の連中には合わないよー
474名無し草:05/02/16 22:46:28
あんたら何様のつもりかしらんが
文句たれる割に熟読してんだね>摩天楼
ワロタ

作者さん気にせず続けてくらはい。
作品の大量うpは歓迎です。
475名無し草:05/02/16 22:50:50
かなり砕けたイディオム、使ってる部分があったからそう思っただけで。
清四郎や野梨子の敬語が云々とは思わないよ。>473

続き読みたいです。
476名無し草:05/02/16 22:53:50
>474
ヲチ対象だからじゃないの?>熟読



つか、祭りに乗り遅れまいと初めて読んだ人間もいる。ここになw
477名無し草:05/02/16 23:14:21
>>472
仮にその仮定が合ってたら、納得。
当方、留学経験あるけど外国人って口語や
筆記、スペルに拘んないからなw
鬼の首取ったかのように揚げ足取る七誌の方が、厨房。
金とって読まされてるなら、別だがw
そこまで、作者が読者にへりくだる必要ナシ。
読者が作家を煽てる必要もナシ。
478名無し草:05/02/16 23:21:06
ここで勝手な想像してて、魔天タソが日本語ネイティブな人だったら笑えるなー
479名無し草:05/02/16 23:24:08
第一言語が何であろうと関係ない。言い訳にもならない。
ここで交わされてるのは日本語。それだけ。
480名無し草:05/02/16 23:46:25
今日も、摩天楼UPさせて貰いにきましたがお騒がせしたようで。

それから、第一言語両方です。日本語使うことは稀ですが。
その為に無頓着で迷惑掛けたようですいません。
日本語勉強したら、続きown site作れたら続けます。

Thanks everyone
I hope see you guys again real soon
Cross your fingers
bye
481名無し草:05/02/17 00:29:06
ここらでマターリ妄想話でも。

原作の裕也×野梨子はあれで終わっちゃったけど、
その後って全然無かったのかなあ。
野梨子のことだから、まめに手紙出してそうな気がする。
裕也もたまには返事書いたりして。

ま、今ならメールだろうけど、有閑の世界にはレトロな
方が似合うと思うのでw
482名無し草:05/02/17 00:29:09
摩天楼さん可哀相。
うpしたいって言い始めから煽られてよね。
何役も自演で追い出した煽らー、さぞ満足でしょう。カプに嫉妬?
完璧な文章じゃないのに面白い内容に嫉妬?
あ、これ、煽りレス読んでの意見ね。
作家さんたち、今後は清×野しか書けなくなるか?藁
483名無し草:05/02/17 00:32:23
ほぼ同意>482
484名無し草:05/02/17 00:34:43
>481さんの妄想に便乗。
レトロには賛成だけど、なんか裕也とはあれっきりな気がするな。
初恋は淡い思い出として・・・みたいに。

なぜか清四郎が文通してたら笑える。

・・・実は、野梨子を諌めたのは嫉妬からだった。なんてね。
485名無し草:05/02/17 00:35:08
>>482-483こそがご本人のジエンとしか思えませんわね。
486名無し草:05/02/17 00:41:42
>484
突然、清四郎が登場するのにワロタw
嫉妬はともかく、野梨子の保護者を自認する身としては、
ちゃんと更生するまでフォローしなければ!な
責任感でやってたりとか。

で、なんで男と文通しなきゃなんねーんだよーと
文句ブーたれながらも、律儀に返事を出す裕也w
487名無し草:05/02/17 00:42:42
>481
魅録とチチのその後も気になる。
今までキスシーンがなかったのは、清四郎と悠里だけ?
488名無し草:05/02/17 00:44:33
483だけど、ほぼ同意って書いたはず。
煽り全員が自演とは思わんよ。
最初からカプに対して煽りが有ったのは事実だろ
そこそこ面白いのに、表現が悪いと批判したくなるような事を言ってる
ヤシもいたのも事実だろ>485
489名無し草:05/02/17 00:49:43
野ヲタは根深いのでスルーしれw
490名無し草:05/02/17 00:55:03
>487
野梨子はほっぺか睫毛のチュだけど、確かに清四郎と悠理は何もない。
美童、可憐、魅録、野梨子と恋愛話が来て、
清四郎おたくの自分は「次は清四郎の恋バナ!?」と
幼い胸をどぎまぎさせたけど…結局何もないまま十ン年。
悠理が目をハートにしたのは雲海和尚、
そして、清四郎が頬を染めた相手は窯変天目の茶碗…。
491名無し草:05/02/17 00:55:43
>488
空気読めないとこが似てるって言われるんだよ。
いつまで引っ張ってるんだか。
492名無し草:05/02/17 01:02:54
引っ張るなと言いながらもレスつける491も空気嫁ないねぇ。
魅録ネタきぼん。
493名無し草:05/02/17 01:04:46
   ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● |   
  |    ( _●_)  ミ  
 彡、   |∪|   )
/      ヽノ //
ヽ|       /
 |       /
 ヽ /  /
  / /ヽ
(´_ /ヾ_)

494名無し草:05/02/17 01:06:04
擁護や煽りレスに速攻喰らいつくのもなんだかなw

495名無し草:05/02/17 01:08:08
    ∩___∩   /)
    | ノ      ヽ  ( i )))
   /  ●   ● | / / 
   |    ( _●_)  |ノ /   ミロクネタキボン
  彡、   |∪|    ,/
  /    ヽノ   /´

496名無し草:05/02/17 01:16:38
ああ言えばこうのはスルーで。
丸一日2ちゃんに噛り付いてるに、まちがいない。
497名無し草:05/02/17 08:48:07
久しぶりにきたらこの荒れよう。
有閑倶楽部を愛する気持ちはみんな一緒でしょ?
もっと仲良くやろうよ。

人の文章がどうのという割には
的を射てるけどストレートに言い過ぎ。
言い方ってもんがあると思うんだけどな・・・。
498名無し草:05/02/17 09:59:50
て、いうかさー作者タンは別に悪い事してないじゃん。
それなのに、陰湿な言い方で煽るの気持ち悪い。
生温かく見てたけどw
マナーとかも、最初こそレス付けてルールわかってねーっつう
感じだったけど、そのあとは普通に書いてたじゃん。
誤字とかも脳内変換すれば、気にならん程度だったけどな。
まぁ、アンチは粘着だから、そこんとこ突きまくりたかったんだろなぁ。

とにかく、気にしない方がイイっすよ。
499名無し草:05/02/17 11:39:58
摩天楼〜の醸し出す空気もこの状況のきっかけだったろうが、
それ以上に>>365が荒れさせた原因に思う。
マナー違反を言えばこっちの方が露骨に確信犯で傲慢に感じる。
500名無し草:05/02/17 11:56:46
私、>461だけど、>499や>371に同意。
かなりわかりにくい文章だったかもしれないが、
>461のカキコは摩天楼さんというか、むしろ
>365や>369のような煽りや、それに反応したような
感情的なレスの人に言いたかったんだけどね。

ここは個人サイトでもないし、自分が贔屓のキャラやカプのためにだけ
ある場所じゃないんだよ。気に入らないなら何も言うな、見るな。
同じようなことで揉めるのは、いい加減にしてくれ。
501名無し草:05/02/17 12:12:25
落ち着いたら摩天楼再開して欲しい激しく続きが気になる
502500:05/02/17 12:14:05
ちょうど500だったのねw 

気に入らないなら → 単に感情的に気に入らないだけなら。

念のため訂正。
503名無し草:05/02/17 12:25:35
一見擁護に見せかけて、最初は応援してたけどwの態度が、ていうの
手の込んだアレだね プッ
504名無し草:05/02/17 12:35:21
そろそろ話題を変えてみよう。
清四郎の母の名前って原作には登場してませんが、
どんな名前が雰囲気合うと思います?

私のイメージでは「昌子」さんとか「雪子」さんて感じ。
505名無し草:05/02/17 12:45:28
>>504
清四郎母って名前未設定だったっけ。
「子」がついてそうに思うけど父修平で息子清四郎だからな。
どうでもいいけどこの家族って親と子の性格似てないね。
506名無し草:05/02/17 20:36:27
なんで清「四」郎なのかっていう謎もまだ解けてないしねー
507名無し草:05/02/17 20:50:16
子がつく名前には納得。
まさこだったら、正子の方がイメージに合うかも。個人的には。

>この家族って親と子の性格似てないね。
そうかな?
温厚そうで意外と短気な修平さんと、
すぐムッとする清四郎、結構似てる気がする。
それにしても、プライドの高そうな一家だ・・・。
ママも女医さんだったのかな。
相当な才媛でなきゃ、あの子供たちは生まれまい。
508名無し草:05/02/17 20:54:28
>506
以下、勝手に推測。
本当はママの方が菊正宗の三代目。(名前に三がつく?)
菊正宗病院に研修に来た若き日の天才外科医、
**修平が当時の院長に見初められ、跡取り娘の婿に。
(もしくはめくるめくラブロマンスを繰り広げててもオケ)
なので、清四郎には婿入りに対する抵抗がない。
というのはどうでしょうか?
509名無し草:05/02/17 21:19:48
>508
三千代とか三枝子とか?
510名無し草:05/02/17 21:35:21
>三千代とか三枝子とか?
そうか…。おばあちゃんみたいですな。
511名無し草:05/02/18 00:02:51
>>507
母は意外とほんわかタイプでないかと。
所謂、パーチーとか開いてそうなセレブな大病院院長夫人
という感じではないように見えるw
まあそれなりに誇りは高く、才媛でもあるんでしょうが。
512名無し草:05/02/18 01:38:01
野梨子母の名前も気になる
513名無し草:05/02/18 23:18:28
長く間をあけてしまってすみません。
これ、いただくわの続きうpします。

ttp://houka5.com/yuukan/long/stop/l-52-1.html
のつづきです
514これ、いただくわ -6:05/02/18 23:19:07
固唾を呑んで―――と言っては少々言い過ぎの嫌いがあろう。
だがモニタを見つめる五人の視線に薄からぬ不安の色があったのも事実である。
悠理のポイントは依然、停止したままだ。
「おかしいね。警備が厳しくて進めないのかな」
「違うな。ここは通路だ。こんなところで長時間立ち往生していればイヤでも
人目につく。なにか突発事故があって発信機を落としたと考えるのが妥当だろうな」
発信兼通信機は耳の凹凸にはめ込むタイプ。ちょっとやそっとのことでは外れ
ないシロモノだ。それを落としたとなると―――
漂いはじめたきな臭い空気。壁に掛かったアナログ時計だけが素知らぬ顔で軽快に
時を刻みつづけている。
「悠理、まずいことになってんじゃない?」
重苦しい沈黙に、可憐はシビレを切らして魅録の肩をツンと突付いた。
「ねえ、どうすんのよ?」
小突かれるまでもなく、魅録とて停止したままのポイントに不穏の空気を嗅い
でいたところだ。
一瞬の瞑目ののち。
静かに立ち上がると部屋の隅に置かれたツールボックスに歩み寄った。おもむろに
フタを開けて中から取り出したのはあの、天女の羽衣である。
「行くしかねえな」
魅録は羽衣をぐっと握り締め、続いてさまざまな機器を取り出し始めた。その神妙な
横顔は同じ男である美童から見てもドキリとするほど妖しい魅力を帯びている。
ふと傍らに目を遣ると、可憐が難しい顔付きで魅録の指先を見つめていた。
眉根をよせて瞳を曇らせるその姿はまるで、恋しい人の行く先をただ案じているしか
手立てを持たない非力な女のようだった。
可憐はもしかしたら―――美童はそう思った。
しかし彼女の頭の中は少々違っていたのである。
515これ、いただくわ -7:05/02/18 23:19:51
「ハア…」
大きな溜息がこだました。可憐の溜息の原因は魅録とその作品たちである。
なぜにここまで高度な技術力を世のため人のため、いやいや何より蓄財に利用
しないのかと甚だ訝しく思ったのだ。
だが理由など改めて考えるまでもない。
とどのつまり、やはり魅録はぼんぼんなのだ。警視総監の父、それだけでも十分
お坊ちゃまの称号に値するがその上に母親は華族の出だ。それも新憲法施行を
揚揚と乗り切り、漕ぎ出した資本制社会の大海原ではぶっちぎりの力漕をみせる
旧華族なのだ。ちなみにその遥か前方を、剣菱印の豪華客船が超音速で疾走する。
それは兎も角。
松竹梅家ならびに和貴泉家において金が金を産む構図は既に出来あがっている。
それ以上のものを求めるとすればそれは正しく守銭奴で、生粋のお坊ちゃまが
そのようなことに頓着するはずがない。無邪気に己の欲求を追及する姿にこそ
魅録の魅力があるのだ。
それはわかっている。しかしそれにしても、だ。
(…あーモッタイナイ、モッタイナイ)
可憐は無粋な妄想を展開させずにはいられなかった。
「ほれっ」
渋い溜息のワケも知らず、魅録は無造作に布の塊を放ってよこした。
「なによ、コレ?」
聞くまでもない。天女の羽衣である。
「自動体温調節機能もついてるぜ?」
お坊ちゃまはニヤリと笑った。
516これ、いただくわ -8:05/02/18 23:20:41
「あたし達も行くのォ〜?」
可憐の悲痛な叫びに野梨子がビクリと反応した。あたし達の達には美童、そして
自分をもが含まれているとわかったからだ。
「念のためだ、念のため。ま、いざとなったら働いてもらうがな」
「え〜ぼくが行ったってなんの役にも立たな…」
「男だろ。グズグズ言うな」
魅録の眼光鋭さに、一瞬にしてこれ以上何も言わせてはもらえないと悟った美童は
ボディスーツを持ちすごすごと隣室へ去った。
そのドサクサに紛れ、こっそりと部屋を抜け出ようとした野梨子を魅録は空気で
呼びとめた。
「わ、私には記録のお仕事が…」
弁明もろくすっぽさせて貰えぬうちに、野梨子にも布の塊が飛んできた。
絹のような手触りが今この場合かえってブキミな感触で、それを握り締めているうち
に悠理のスーツ姿がまざまざと脳裏に浮かび上がってきた。
ほっそりとした長い手足にうすい布地を貼りつかせ、しかしそのようなアラレもない
格好を物ともせずに涼しげな眼差しを投げていた悠理。さながらその肢体はサバンナ
を自由気侭に駆け巡るしなやかな獣のようであった。片や、自分と同じようにスーツ
を手にワナワナと震える可憐の体は言わずもがな。女の色香を具現化したようなもの
なのだ。気軽い普段着の時でさえ、その豊満な肉体は自己主張を惜しまない。
そんな女たちと同じスーツをこの私にも着ろ――――と?
「わ…わたわた…これ…ここれ…」
もはやロレツが回らない。
517これ、いただくわ -9:05/02/18 23:21:30
「心配すんなって。危ない目にはあわせないから」
見当違いなとりなしが耳に届くわけもなく。
「じじ実はわ私、けっけっ今朝からねつねつ熱が…」
とうとう子供の言い訳のようなことまで言い出した。そこへ何食わぬ顔をしてサラっと
くちを挟んだのが清四郎だ。
「体温調節機能がついているそうですから着た方が楽になりますよ?」
鉄仮面並のポーカーフェイスがほんの一瞬青年期らしい歓びの色に包まれた―――
と、野梨子は見た。
「ぃ、いやらしい!」
「…っ!」
不意に仰け反るほどの怯みをみせた清四郎。と言っても突然の金切り声に肝を
潰したわけではない。隠し果せているつもりの心の底を、ストレートに抉られた
からに違いない。
黙っていればいいものを、と傍で見ていた可憐は少々気の毒になった。
スペシャリストでゼネラリストなこの男が、万にひとつ人生の床板を踏み抜くと
すればそれは十中の九、その口が災いしてのことだろう。ケーンと鳴く雉がドテッ腹に
鉛弾を喰らうように。
しかしそこは清四郎、すぐに鉄仮面をかぶり直すと反撃に打って出た。
「野梨子は悠理が心配じゃないんですか。助けに行こうという気持ちはないんですか!」
論点のすり替えである。平常ならば打てば響くかに切り返す野梨子だが掌中の
羽衣がそれを許さない。
518これ、いただくわ -10:05/02/18 23:22:26
頭を小刻みに振りながら『イヤラシイ、イヤラシイ』と直球勝負を繰り返すのみである。
見かねた魅録がふたりの攻防に割って入った。
「野梨子、おまえ何をいまさら―――清四郎のムッツリは今に始まったことじゃない
だろ? さっウダウダ言ってねえで着替えろよ」
野梨子を諌めるための言葉が、計らずも清四郎を追撃してしまったことに無邪気な
お坊ちゃまは気付かない。弾丸のような清四郎の視線で背中を蜂の巣にされているとも
知らずにひとり着々と準備を進めている。
ああここにも雉がいた、と気の毒そうに首を振った可憐は仕方なく事態の収拾に腰を上げた。
「しょうがない。行くわよ」
野梨子の腕をひっぱり、美童が着替えに使っているのとは反対側の部屋へ誘った。
野梨子は円らな瞳を目一杯見開き、すがりつかんばかりに見上げてくる。いつになく
狼狽をあらわにするその姿が妙に可愛らしく、可憐はそっと囁いてやった。
「大丈夫よ。近付かなきゃ見えないんだから」
ぱっ―――と。野梨子の顔から憂いが消えた。
そうだ、近付かなければいいのだ。私としたことがどうしてそこに気付かなかったのだ
ろう。こうなれば恐いものはない。実動部隊でもなんでもやってやる。
敵中潜入の恐怖よりスーツ姿を見られる羞恥の方が上だったようだ。それが払拭された今、
野梨子はもう、無敵である。
「悠理、今助けてさしあげますわよ」
兼六金庫ビルの片隅で途方に暮れているであろう悠理を胸に描きながら、野梨子は羽衣に
袖を通した。

          つづきます
519名無し草:05/02/18 23:39:14
>これ、いただくわ
もう読めないと思っていたので、連載再開がすごーく嬉しいです。
6人の様子が目に浮かぶような、らしくってテンポの良い文章がイイ!
さりげに清四郎がやられているのもツボでしたw
520名無し草:05/02/19 01:18:11
>これいただくわ
いやびっくりいたしました。続きが読みたいと願ってましたが、
まさか実現するとは!うれしさより驚きの方が大きいです(w。失礼!)
感想ですが、面白いですね、大好きですこういうの。
1レスに2つも3つも小ネタがあってお得感いっぱいです。
欲ばりな可憐もびくりとする野梨子もむっつりな清四郎もイイ!
521名無し草:05/02/19 01:38:01
>これいただくわ
面白かった。
魅録が妙に無邪気なおぼっちゃまで、好きです。
+ばっさり斬られる清四郎、開き直った野梨子にニヤッとしちゃいますね。
これから、いったいどう動くのか気になります。

他の連載陣も、続きが気になってます。
作者様方のお帰りを、首をながーーーくしてお待ちしてます!
522名無し草:05/02/20 03:52:28
いきなりで申し訳ないですが、前回の有閑倶楽部辞典のうpからあと少しで
1年になろうとしています。
それで、もし、前回までの辞典作者さんがまだこちらにいらっしゃるようで
あれば、辞典の続きをお願いします。
523名無し草:05/02/20 10:49:30
私も辞典大好きでした!
またUPしてくださると嬉しいなぁ。
524有閑倶楽部辞典:05/02/21 13:39:04
なにやらリクエストをいただきましたので途中まで作ってみました。
あいかわらず偏見に満ちた文章でスマソ
525有閑倶楽部辞典:05/02/21 13:40:03
【姫百合の願い】ヒメユリノネガイ 魅×野
04/05/23〜04/06/14
沖縄で野梨子が拾った小瓶には、かつて沖縄戦で若い命を散らした少女の
恋人への手紙が入っていた。その日から野梨子の身に異変が起こり・・・
◆短い期間に集中してうpし、完結させる姿勢に好感が持てる。作品はか
なり好みの分かれるところ。力作だが沖縄の薀蓄が内容の大部分を占める。
今回読み直して魅×野だったことに気づいたくらい、萌え要素は少ない。

【鬼闇】オニヤミ 
04/07/20〜04/12/05
佐渡島に伝説の鬼が蘇った!六人の鬼との壮絶な闘いが始まる。
◆【姫百合〜】と作者が同じことが一読してわかる大作。カポーなし、萌え
どころなしという作者の衝撃的な前書きで始まる。萌えのない二次創作が
需要があるのかどうかはさておき、丁寧に鬼退治が描かれている。残酷描
写満載。

【月語りシリーズ】
十三夜 ジュウサンヤ 清&悠 04/08/01 三日月 ミカヅキ 美×野 04/08/19
有明の月 アリアケノツキ 可→魅 04/08/26 新月 シンゲツ 魅×可 04/09/01
◆「性的欲求」「男女の情念を教え込むのは酷」「あたしが処女だなんて」
などの魅惑的な言葉が並ぶシリーズ。

【大人の階段昇る・・・ 】オトナノカイダンノボル 
04/03/21 (未完)
◆第一回にして最終話シリーズ第二弾。第一弾の「これいただくわ」が先
ほどめでたく第二回がうpされたので、この作者にもがんばってほしい。
「連載してもいいですか?」のコメントやタイトルに機種依存文字が使わ
れるなどお茶目な行動に読者騒然・・・と思いきや、意外と優しい住人の
反応が印象的。
526有閑倶楽部辞典:05/02/21 13:40:51
【清四郎の自動車大変記】セイシロウノジドウシャタイヘンキ のほほん清×野
04/04/19〜04/07/16 (未完)
◆新人作家を見分けるこつは六人の談笑がやたら長い、もとい詳しいことと
清×野の場合、清四郎(野梨子)が恋心に気づくまでを延々と、いや丁寧に
描くことではないだろうか。そんな視点で本作を見れば間違いなく新人(当
時)であるが非常に面白い文章と着眼点、構成で引きつけられる。檻の一場
面に触発されて書いたと作者のコメントにあるがそういえば檻はどうしたの
だろう。とってつけたようだが続きが楽しみな一本である。

【憂鬱な雨の午後に】ユウウツナアメノゴゴニ 魅×可 清×悠 美×野
2004/05/12〜2005/02/15(連載中)
NYに暮らす魅録の元へ友人たちが訪れる。
◆文章に落ち着きがあるしたらば掲載作品。品良くすっきりとして読みやす
い。ぽつりぽつりとうpがある。作者の前書きによればこの先Rがあるらし
い。期待して待つべし。

【ラブラブ・クッキング シリーズ】ラブラブクッキングシリーズ 美×野 清×悠 
魅×可 04/10/08〜04/11/02
◆料理番組をネタにしたコメディ。お約束の展開だが擬音が無いほうが面白
いか。「つっぺ中」の意味がわからないが方言なのか誤字なのか。「つっぷ
している」ということか??個人的には次週の「野梨子の部屋」が見たい。
527有閑倶楽部辞典:05/02/21 13:41:48
とりあえずここまで。好き勝手書いて作者サンスマソ
528名無し草:05/02/21 15:07:49
ほんとに
529名無し草:05/02/21 15:15:04
【つっぺ】
鼻血がでたときにティッシュを鼻の穴に捻り込む行為

【つっぺ中】
つっぺ状態を維持していること


・・・・違ってたらゴメソw
辞典ワロタヨ
530名無し草:05/02/21 19:15:00
需要ありましたから>鬼闇

しかしこの辞典、本当になんというか…
531名無し草:05/02/21 19:43:28
辞典おもしろい。
SSについての記述に不満がある人もいるみたいだが、いいじゃないか別に。
書いた人の主観がはいるのは仕方ない。
ある意味マンセー意見よりも客観的で面白いけどなぁ。
需要がないと言い切ってるわけじゃなし、そう目くじらたてなさんなw

というわけで辞典の続きお待ちしてます。
532名無し草:05/02/21 20:14:45
辞典さん乙!
毎度笑わせてもらってます
前のと同じ人かな?
533名無し草:05/02/21 22:15:27
辞典というか感想?
534名無し草:05/02/22 00:43:07
客観的ではないと思うが乙です
535名無し草:05/02/22 05:07:02
>有閑倶楽部辞典
乙です!
毎回楽しく読ませてもらってます。
いいんじゃないですか<多少の主観入り
別に完全な批判や否定をしてるわけじゃなし。
私は辞典屋サンの着眼点とコメントの雰囲気、好きですよ。

続き、私もお待ちしています〜
536名無し草:05/02/22 07:47:11
まぁ多少の毒舌も笑ってスルーの方向で。
下手に擁護して作者のギャクギレ疑惑が浮上して
自分の好きな作家さんに迷惑かけてもイヤじゃん
537名無し草:05/02/22 11:23:17
まことに勝手ながら辞典さんを項目風にしてみた。

【有閑倶楽部辞典】ユウカンクラブジテン
03/3/20〜05/2/21(現在進行形)
最初は各キャラやこの本スレなどなどのまとめとしてスタート。
「媚薬」などについて鋭い見解を見せて人気を博した。
途中から本スレおよび同好会への掲載作品についてのまとめを開始。
どうしても辞典作者の主観が入りがちのため多少反感を買うことも
あるが、概ね好意的に面白がられている。
◆すべてのキャラやカプへの愛が感じられるので個人的に好印象。
今回リクに答えて復活。まだ取り上げられていない作品への批評も
さることながら、前回までに取り上げられた後に連載終了した作品
への追加見解も読んでみたいものである。



勝手しました。辞典作者さん、ごめんなさい。
538名無し草:05/02/22 22:24:04
>前回までに取り上げられた後に連載終了した作品への追加見解
これ、読みたいです。
辞典作者さん、気が向いたらお願いしますv
539名無し草:05/02/22 22:24:56
>前回までに取り上げられた後に連載終了した作品への追加見解
これ、読みたいです。
辞典作者さん、気が向いたらお願いしますv
540名無し草:05/02/22 23:08:31
お知らせです。


507 :ピロリ :05/02/22 15:04:03 ID:DwC5gxoB0
>>506
本日深夜and明日未明から明日いっぱい、、、

大規模な工事があるので
全サーバ落ちる可能性 99% だったりして

ttp://qb5.2ch.net/test/read.cgi/operate/1108830303/507
541名無し草:05/02/24 03:10:22
まだこの半年くらい前にスレ見つけて、たまにここ読みに来る者だけど、
数週間ぶりに来たらひどく荒れててがっかり。
これじゃ新しい人はもう試しに書いてみる気にもならないし、投下する勇気も出ないんじゃないか?
有閑オタが性格悪い人の集まりだとは思いたくなかったが・・でも陰険なやり口だね。
陰湿ないじめ(単なる煽りや叩き、とも違う)もココまで来るとひたすらみっともない。
確かに誤字脱字多いのは萎えるけどさ、2ちゃんでルールどうこうって仕切るのも馬鹿みたいだし
いちいち会社のお局さまみたく些細な誤字までほじくって言いがかりつけるのも加齢臭臭い。
はっきりと事実を言わせてもらえば、他の作品でも幾つもあるよ。
文章はやたらお耽美で一見達者でも「筋書きは考えぬいたのよ!傑作でしょ」臭プンプン、
酔ってるのはご自分だけだが内容が糞つまんないわくだらないわ、何かのパクりくさいわの話の数々。
でも書く人は苦労したんだからとどれもスルーして文句なんか言わなかったよ。
しっかしああいう意味のない古臭い作品群を書いて悦にいってるオバサンが、
新人や自分とカプ嗜好の違う者に対してはいじめ出して仕切ってるおばさんらなんだろなーと
思うとぞっとする。あほくさ。人の事言う前にくだらん昼ドラ展開小説書くな。
542名無し草:05/02/24 08:03:43
くだらん昼ドラといえば「女優杏子」「真珠婦人」「牡丹と薔薇」など
数々の神傑作があるが、ここの住人的はどれが好きよ?
私は可憐と野梨子で「ぼたばら」やったらおもしれぇなぁ〜とか思って見てたw
昔は「愛の嵐」とかにハマったなぁw
これは清×悠でちと読みたい。
543名無し草:05/02/24 08:12:54
昼ドラ展開・・・(人´∀`)ステキ!
544名無し草:05/02/24 08:37:57
青春ど真ん中胸キュン小説もやっぱり捨てがたいです。
清×野←魅で胸キュンキュンしたいです。(現実ではもう胸キュンすることないから)
545名無し草:05/02/24 08:52:01
542-544が必死に話をそらしてくれてるのにスマソだが、
間違いなくここ数週間で>541が一番の暴言を吐いたと思うね。
あ、釣りだった?w
546名無し草:05/02/24 09:30:47
昼ドラと言うと、「愛の嵐」以降は「砂の城」「緋の稜線」しか
見てないよ。(すごいとりあわせ)
「愛の嵐」を清×悠でというのには同意。
「砂の城」は美(プチフランシス)×野(ナタリー)だろうな。
前も話題に出てましたが、悠理=フェランでしょ。やっぱ。
「緋の稜線」の主役カプは清×野か、清×悠か。
どっちかというとヒロインの姉が野梨子っぽいけど。
和音さんは確実に可憐だw

青春ど真ん中胸キュンキュン。男性が魅録だと、女性が誰に
なっても漏れなくキュンキュンできそう。
ブラック魅録もたまには見てみたい誘惑に駆られますが。



昨日は関東地方に春一番が吹いたそうですね。
もうすぐは〜るですね〜、こいをしてみませんか〜
547名無し草:05/02/24 09:44:00
>541
ネタ振りしてまる間に出ていってくれ
548名無し草:05/02/24 10:20:21
いっそカプ別にスレ立ててくれ
549名無し草:05/02/24 12:08:40
カプ別は板のルールに反します。
スレだけではなく板のお約束も守ろうね。
そしてみんなで呪文を唱えましょう。

アラシハ ホウチガ ダイキライ スルースルー ツリモ アオリモ フミコエテ ユクガ スレノ イキルミチ
550名無し草:05/02/24 12:33:56
>542
自分はやっぱり「真珠夫人」だな。
というわけで清×悠で「真珠夫人」妄想。↓

清「悠理、今日という今日は夕食を用意してくれたんでしょうねぇ」
悠「あ、ああ!作ったぞ!ほら、すごいだろう」
清「え?本当に作ったんですか?!ああ、すごいじゃないですか!」
悠「でも味は保証できないから、これはこれで置いといて、うまい飯食いに行こう!」
清「いいえ、せっかく悠理がボクの為に作ってくれたんだか食べますよ」
悠「え、でも・・!」
清「いっただきま・・・・・・。」
悠「・・・。」
清「・・・。」
悠「あの・・・味は保証できないから、それ」
清「悠理、なんですかこれは!」
悠「あ、あの・・コロッケ?」
清「ほ〜う、お前にはこれがコロッケに見えるんですか、コロッケに!」
悠「お前だって、一瞬そう見えたんだろ!!」
清「それなら自分で食べてごらんなさい!」
悠「うえ〜ん、ごめんなさい!それはタワシで〜す、許して清四郎ちゃ〜ん!」


いかん、なんだか昼ドラから思いっきりハズれてしまった・・・。
551名無し草:05/02/24 12:39:59

タワシコロッケ、キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━ッ!!!!!

552名無し草:05/02/24 12:45:41
>550
じゃあ今度は清×悠で「牡丹と薔薇」。


清「悠理、今日という今日は夕食を用意してくれたんでしょうねぇ」
悠「あ、ああ!作ったぞ!ほら、すごいだろう」
清「え?本当に作ったんですか?!ああ、すごいじゃないですか!」
悠「でも味は保証できないから、これはこれで置いといて、うまい飯食いに行こう!」
清「いいえ、せっかく悠理がボクの為に作ってくれたんだか食べますよ」
悠「え、でも・・!」
清「いっただきま・・・・・・。」
悠「・・・。」
清「・・・。」
悠「あの・・・味は保証できないから、それ」
清「悠理、なんですかこれは!」
悠「あ、あの・・ステーキ?」
清「ほ〜う、お前にはこれがステーキに見えるんですか、ステーキに!」
悠「お前だって、一瞬そう見えたんだろ!!」
清「それなら自分で食べてごらんなさい!」
悠「うえ〜ん、ごめんなさい!それは財布で〜す、許して清四郎ちゃ〜ん!」


ごめん、まんまパクってみたw
553名無し草:05/02/24 12:48:52
西友で別の板に立てていい?
エロよみたいから
554名無し草:05/02/24 12:50:07
サイフステーキモキタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━ッ!!!!!
555名無し草:05/02/24 12:53:27
タワシコロッケに財布ステーキ
昼ドラ伝説の神アイテムを2つもここで拝もうとは…
556名無し草:05/02/24 13:02:06
しかしどっちも昼メロ臭ゼロだなw
557名無し草:05/02/24 13:33:21
昼メロを真面目に演じさせようとすると。(男女別50音順です)

清四郎:マジになりすぎてSMに走りそう。
美童:マジになりすぎて女優にビンタくらいそう
魅録:赤面して演技にならなさそう。

可憐:マジになりすぎて・・・普通に似合うな・・・
野梨子:マジになりすぎて乳ポロリとかしてしまいそう。
悠理:マジになればなるほどギャグになるか、
   これでもかとひどい目にあわされるかのどっちか。
558名無し草:05/02/24 15:05:21
乳ポロリもいいが、
個人的には腹から水枕大爆発が見たいw
559名無し草:05/02/24 15:08:18
↑知らない人のために説明すると
「ぼたばら」で川上麻衣子が妊娠したと嘘をついて
腹に水枕を仕込んでいたのだが、もみあってるうちに
水枕が破れ、すごい人間大噴水と化したシーンがあった。
560名無し草:05/02/24 15:19:54
>541
漏れも一年前ぐらいからここ見てるけど、上半分に同意。
541がどの話のこと言ってるのかワカンネだし、自分が書けないから
昼ドラだと思ったこともないけど、ここの住人は確かに陰湿だな。
541程度で暴言て言うのは、このスレしか知らないからじゃね?
561名無し草:05/02/24 15:40:07
2ちゃんのしかも難民にいるような人間に何を求めようと言うのかw



だけだとなんなので、ネタに乗る。
水枕爆発。野梨子だと確かに似合いそうだ。
女装した美童だとマジでギャグなわけだが。
そういうしおらしいことをする悠理だったら野梨子以上に儚く見えて
萌えるかもしれん。
562名無し草:05/02/24 15:54:56
↓以下 「@年前からここを見ている」禁止。

そういう漏れは半世紀近く前からこのスレを見ているが・・・w
563名無し草:05/02/24 16:02:11
半世紀!すげぇなぁw
このスレと有閑の歴史を感じるね。
50年前はまだ生まれてないよ自分。
564名無し草:05/02/24 16:14:49
>561
野梨子のインチキ妊婦姿・・・萌えっ

しかし昼メロってネタの嵐だな。
下手なギャグよか笑える。
565名無し草:05/02/24 17:54:43
自分も>>541は大方では同意だけどな。最後部分はともかく。
語気が荒いのと収束したことを今更とは思いますが。(と今更レスする)

>>542
>可憐と野梨子で「ぼたばら」
どっちも牡丹タイプに向いてないような。
一見牡丹のようでいて実は香世が向いてそうな野梨子に
「役ただずのブタッ!」とか言って欲しいわw
566名無し草:05/02/24 17:58:21
あと、前に誰か言ってたけど、
悠理は「温泉に行こう」の薫あたりかな。
567名無し草:05/02/24 18:42:49
昼ドラでも何でもいいが、性格腐った同人ババアは逝ってよしだな げら
568名無し草:05/02/24 18:44:58
はいはい。挨拶はすんだ?>>567
心置きなく逝ってらっさい、どこへでも。ばいばーい。もう来なくていいよ。
569名無し草:05/02/24 18:51:07
さっそくババアが釣れたようで プ
570名無し草:05/02/24 18:52:25
2分後に、喰らい付く位には自覚してるんだね。

571名無し草:05/02/24 18:54:44
なんか面白いヤシが湧いてるなw
暇だから相手してやろうか?ウジムシちゃん。
572名無し草:05/02/24 19:00:03
蛆虫だってw
脳内に大量に巣くってそうだね。

つうか荒らすなよ。
573名無し草:05/02/24 19:04:23
いや〜あ。本当に食い付き早いですね。よっぽど閑なんですね。
ちゃんとセックルしてる?w
あんまり男っ気ないと、こういうイタイ人出るんだよね。春も近いし。
と言うわけで、くだらない揉め事は止めてねぇ。
574名無し草:05/02/24 19:08:03
>蛆虫だってw
>脳内に大量に巣くってそうだね。
>つうか荒らすなよ。

>つうか荒らすなよ。

>つうか荒らすなよ。


>さっそくババアが釣れたようで プ

さてこの場合荒らしはどっち?
荒らし認定が嫌ならおとなしく去った方が身の為ですよ。
575名無し草:05/02/24 19:16:39
>571が悪いな。
自分がそじゃないならレス付けるなと言いたいが。
576名無し草:05/02/24 19:20:31
>569
にはおとがめなしですか、>575=>569チャンw
おっと「あたしは>569じゃありませんが」なんてレスは結構ですよw
おっしゃるとおり、これ以上続けると荒らしになってしまいそうですから。
さよなら、かわいそうな人。
577名無し草:05/02/24 19:24:49
はあ?あたくしは573、575ですけど。
イタイ同士で罵りあうと、誰もかけないでしょ。わかる?>576大人になりなさいな。
578名無し草:05/02/24 19:28:16
じゃぁここで空気を変えましょう!

てなわけで小ネタを一つ。

悠理「清四郎・・・あのね、セックルしよう」
清四郎「ゆ、悠理・・・いいんですか。でも笑わないでくださいね」
悠理「笑ったりなんかしないよ」

30分経過。

悠理「 プ」
清四郎「ゆ、悠理! 笑わないでって言ったでしょう!」
悠理「ご、ごめん」

さらに30分経過。

悠理「 げら」
清四郎「悠理!」

オソマツ様でした 
579名無し草:05/02/24 19:32:44
いやーほんと、不気味な人多いですねココ。
ネット(2ちゃん)にへばり付いてるんでしょうか?
有閑への見方まで変りそう。
なんて言うか・・・とにかく凄いスレですね。
580名無し草:05/02/24 19:39:32
不気味って言うか薄気味悪いよね。
粘着気質の人が多いんでしょうね。
自治してくれる人も、ボランティアで良いとは思いますが、
煽りとも変らずの方が多いので余計にスレが荒れてるし。
このままでは、作家さん来てくれないですよ。
他のスレのSS作家さんは定期的に更新してくれてるのに、ここは
常に荒れてて続きも読めないなんて最悪です。
581名無し草:05/02/24 20:23:14
釣り煽り耐性つけてスルーしませんかもまえら
582名無し草:05/02/24 21:42:20
落ち着いたのになんでわざわざまた荒らすの?
583名無し草:05/02/24 22:53:49
釣られるアフォがいるから荒れるんでしょ。
584名無し草:05/02/25 00:55:38
本当にせっかく話題変えて小ネタ振ってんのにスルーできない人がいるから困る。
もう小ネタふる気も失せた。無駄な努力した私が1番のアフォ
585名無し草:05/02/25 12:57:51
こうやって、ネタふってくれる人もSS書いてくれる人も去ってゆくんだね。
スルーできずにレスつけた人、反省してください。
586名無し草:05/02/25 17:37:13
清四郎は神
http://music4.2ch.net/test/read.cgi/musicnews/1109318642/l50

芸速にこんなスレが立っててドキドキした。
実際は忌野清志朗なんだが。
587名無し草:05/02/25 19:50:14
短くても良いので萌え萌えな話読みたい!
お願いします投下してくだされ−−−!!!
588名無し草:05/02/25 20:00:14
なかなか作品が投下されないので、過去を振り返ってみたり。

みなさん、このスレに定住するようになったキッカケって何?
私は「愛と青春の〜」なんだけど。
あんなに美童と悠理が萌えるキャラだとは思わなくて(どちらかといえば清野派だった)
がつんとやられたような感じで、スレに嵌ってたなぁ。

今は暴走愛が好きなので、考えてみれば壊れる清四郎が好きなだけかもしれないとも
思ってみたりするのだけど(笑)
589名無し草:05/02/25 20:29:01
美童萌えますよね!
ほんとは、清四郎スキーですが美童の萌えキャラ振りにハマリますたw
590名無し草:05/02/25 21:09:05
私は1週間ほど前初めてここにきました。それ以来はまってしまい、家事を
おろそかにし(家族にとっては迷惑)、睡眠時間を削り、
嵐さんのところで今までの小説を楽しみながら片っ端から読んでいます。
(嵐さん作家の皆様ありがとうございます。)

まだすべて読んだわけではないのですが、清×野が基本的には好きなので、
清×野のお見合い編は気に入っています。
いろいろ読んでいるうちに悠×美や野×美もいいなと思ってきました。
(美童株アップ)
野梨子は誰とカップルでもいいんだけれど、清四郎には野梨子だけを
想ってて欲しいと思ってしまう。単に自分が野梨子になって清四郎に
想われたい〜っていう願望なんですが(笑)
591名無し草:05/02/25 21:32:14
剣菱家の事情2と有閑新ステージが大好き。
これで二次創作の世界にはまりました。ええ、もう頭まで浸かってるw
特に新ステージ編は、ハラハラドキドキとさせられたよ。
カプは清×悠か美×悠が好きぃ
清四郎のお相手が悠理だとテンポイイっていうかダントツ。
もう萌えまくりっす。
美童の場合は、相手が誰でもあんまり変らないけど悠理の時が一番かな〜
592名無し草:05/02/25 21:32:21
>590
私も清×野大好きなので、その願望よくわかります。
お馬鹿で恋愛オンチの清四郎もいいけど、
個人的には、クールだけど純愛系の清四郎が好きです。
たしか、手紙編だったかなぁ。「アマノガワ」の清四郎、
一番私好みです。
593592:05/02/25 22:07:30
今、嵐さんの所に行ったら、「アマノガワ」が消えている・・・
どこに行っちゃったんだろう。寂しいなぁ。
594名無し草:05/02/25 22:14:18
私は、清×野のお見合い編と、「想い出がいっぱい」かな。
2chをウロウロしているうちにここを見つけたんだけど、改めて有閑に嵌った。
「想い出がいっぱい」や「可憐さん〜」で美×野・清×可の魅力に気付いたり。
あとここで、実は清四郎スキーなのかもしれない、と気付いたw
>558と同じで、壊れてく姿も好きだけど、好青年の清四郎も好き。
595名無し草:05/02/25 22:33:46
きっかけ話便乗。
小学生の頃に友達から借りたりぼんで、初めて読んだ話は瑠璃子チャン&井戸から婆さんガバーの回だった。
(万華鏡どうこうも怖いし話も怖くて、他の連載も全部読まずに即日友人に返しにいったよ・・)
数年後、次に読んだ話はりぼんについて来た別冊ふろく(美童&悠理テニス試合の、幼女誘拐事件の話)。
その時は、ああこの漫画は美×悠基本のお話なんだなあと勘違いして萌えてましたw
美童の本当の性格もよく知らずにかっこいいなあと・・。
それで興味を持って単行本を揃え全話読んだのですが、
何だか清×悠もいいボケつっこみコンビでお似合いだなあと思いはじめた時にちょうど
剣菱家婚約騒ぎの話が連載されたので、やはりこれで決まりだよなと、以来ずーっと清×悠萌えです。
でもやはり今だにたまに美×悠萌えはしますね。原作で美童がたまに男らしさを見せる時w
だから、ここのスレの作家さんの書くカコいい美童にはどきどきですよ。
悠理のキャラの特徴は分かりやすいからみな一定かと思ってましたが、
作家さんによっては女らしく悩むタイプだったり、ギャグ色強かったりと受け取り方も色々なんですね。
(自分はいまだに原作の「あたい」には違和感を感じてしまうのですが)
とにかく、最終回は恋愛話になるだろうという先生のお言葉を信じて原作の再開を待っていますw
596594:05/02/25 22:39:42
アンカー間違えた。>588です。
私が最初に読んだのは、小学生の時、「りぼん」で豪華客船の話。
美童の女装姿(つーか外見)と悠理の言動のせいで、
最初、美童と悠理の性別を勘違いしてたよ(汗)
597名無し草:05/02/25 22:40:16
>>591
私もそれ好き。というか妄想スレのマイ原点。>事情2と新ステ
これで清×悠と魅×可のよさに気が付いた。
それ以前はイチオシが単に魅録だっただけで特にカプとか関係なく
有閑が好きなだけだったけど。
あと確かにSSのおかげで美童株はアップするね。

ごちゃまぜで各種カプが混在してるから定期チェックしてるので、
これからもこのスレはそうあって欲しいと願う。
598590:05/02/25 22:43:24
>592さん、同志がいてうれしいです。
「アマノガワ」読んだことないので読んでみたいです。
(なくなっているんですか。残念。)
私も壊れた清四郎も悪くはないんだけれど、やっぱりクールで
恋愛下手な清四郎のほうがいいな。
普段はクールで野梨子の保護者然としているのが、野梨子と二人っきりになると
野梨子のほうが清四郎を包んであげているとか…かなりつぼです。
599592:05/02/25 23:31:21
「アマノガワ」の清四郎って、恋愛下手って感じではないです。
嵐さんのとこの過去ログの15(535から)でまだ読めました。
おすすめです。あと清×野ではないけど、「天気雪」も大好き。
600名無し草:05/02/25 23:41:23
唐突ですが全員入り乱れの泥沼恋愛モノが読みたくなったな。

6人の片想いループとか、可憐を巡って男たちの攻防とか。

あとね、お姫様野梨子が1人だけ気づかないでのほほんとしてて
裏では他の5人が泥沼恋愛劇を繰り広げてるとか。
(別パターンとして誰か1人だけ冷めた視線で皆の泥沼心理戦を
 観察してる話とかもありかな)

女の子3人で美童争奪戦を繰り広げるギャグ話とか。
(しかし美童が本気になったときには全員我に返ってて彼は振られる)

漠然としたイメージは多々あるんですが、正直あらすじとして
まとめられませんでした(つまりSS化も困難)。すいません。
どなたかこれで妄想を刺激されたらネタにしてくだされ。

もちろんカプなし話も大好きです。
601592:05/02/25 23:53:59
>590さん
間違えました。元スレッドの過去ログ、15の574〜でした。
すみません。
602590:05/02/26 00:34:16
>592さん、教えていただいてありがとうございます。
思わずお礼いう前に早速読んでしまいました。
いいですねぇ〜。なんだか心が温かくなりました。
こういう清四郎ももちろん大好きです。
夜、寝る前にこういう胸がちょっとキュンとなって、心温まる作品を
読むといい夢が見られそうな気がして嬉しいです。
603名無し草:05/02/26 01:18:44
なにかいいネタはないかと考えてみました。

萌えるもの。

和服姿の野梨子が小さな白い石の椅子に腰かけている。
空に向けた彼女の手のひらの上には鳥の餌がのっている。
綺麗な色の羽をした小鳥が一羽やってきて
手のひらの餌をついばむ。

野梨子は手を掲げたままじっとしている。
手の上の小鳥の重みを感じている。


そこへ本を読みながら歩いてきた清四郎。
野梨子に気がつく。
彼女に見惚れるうちに、ゆっくりと本を持つ片手が下へ降りていく。


てなシチュエーションが見たいですw
604名無し草:05/02/26 01:58:39
私も萌えシチュエーション考えました。

本を返すため、清四郎宅を訪れた野梨子。
しかし、留守だったので、彼の部屋で待つことに・・・
なかなか帰ってこない清四郎。待ちくたびれた野梨子は
ベッドでうたた寝してしまう。

しばらくして、東村寺から帰った清四郎は、とりあえずバスルームでシャワーを浴び
部屋へ戻ると、野梨子が自分のベッドで眠っている。
さあ、どうする清四郎!!!!

っていうのはどうでしょう?
605名無し草:05/02/26 02:28:44
妄想に任せて、美×悠でお風呂場。へタレです。嫌な方スルーで。
「美童の髪・・・綺麗だな。絹糸みたいだ」
「ホント?」クスっと美童は笑って訊き返す。
「ああっ」
悠理の白く細い指が美童の髪を掬い上げる。慈しむようにその髪の一束を指先に絡ませる。
柔らかな、その感触を楽しむように唇に寄せ口付けた。体の芯が熱くなる。
(あぁ・・・あたい本当はこうやって美童の髪ずっと触りたかったんだ・・・
ホント女みたいに綺麗なヤツだな)
悠理は美童の胸に頬をすり寄せた。女性よりも白く滑らかな肌が心地良く、
うっとりと、その感触に浸る。
たまらず美童も悠理の柔らかな髪に、顔を埋めキスをすると甘い匂いに
彼の理性も砕けそうになる。
悠理の細い腕が彼の首に絡み付いて離れない。
(このまま悠理を食べてしまいたい・・・)
美童は悠理を抱きしめ、彼女の首筋に唇を這わせた。
「あっ・・・」
紅く色付いた唇から甘い吐息が漏れた。
「ここ・・・ここが感じるの?」
熱く潤んだ色素の薄い瞳が美童を見上げる。クスっと小さく笑うと美童は
悠理の敏感な部分をツツっ、と舌先で舐めあげ吸い上げた。
「はぁ・・・ん、ん、ん」悠理は唇を噛み締め、声を上げることを必死で押さえる。
熱い、体か熱を持ってるように熱い・・・。
「声・・・我慢しないで。気持ち・・・いいんでしょ?
ねえ・・・悠理、僕に・・・わかるよう・・・聞かせて」
悠理は恥ずかしさに左右に頭を振った。
「悠理の意地っ張り。でも・・・僕の前で意地を張るのは許さないよ」
美しい美童の顔に悪戯な笑みが浮んだ。

と、ここまでしか無理ぽ。
606名無し草:05/02/26 20:59:37
有閑の同人って有りますか?
あれば欲しいな〜
607名無し草:05/02/27 00:09:34
鬼畜な清四郎が悠理を無理やり自分のものに。
清四郎の異常なまでの執着心と愛に雁字搦めにされて
逃げられずな悠理。
そこへ美童が悠理を助け出しデメタシ、デメタシと思いきや
更にどんでん返しっていうの読んでみたいw
とにかく壊れた清四郎がスキー
608名無し草:05/02/27 01:00:03
魅録×和子、豊作×野梨子、清四郎×プリスカ等のカプも
あったら読みたいです。
609名無し草:05/02/27 01:16:53
>608
魅録×和子って新鮮な組合せだ。
私も読んでみたい。
でも想像つかない・・・。
610名無し草:05/02/27 10:30:32
最近黒野梨子マイブーム。
可愛い顔して清四郎を奴隷扱い。
ヤバイ野梨子が楽しい・・・。病気だな、自分・・。
611名無し草:05/02/27 20:47:37
新ステージ編読み返したよぉ〜悠清イイ!
親切な作家さん、続編書いてほしいなり。
612名無し草:05/02/27 23:16:34
サザエさんを観ていてふと思った。

波平=清四郎
フネ=野梨子
サザエ=可憐
マスオ=美童
カツオ=悠理

魅録が思いつかないなぁ。
613名無し草:05/02/27 23:59:36
>608さんの書き込みに妄想をかきたてられ、豊作×野梨子の小ネタです。
苦手な方はスルーでお願いします。

「豊作さん、お時間です」
午前6時。
白鹿(旧姓剣菱)豊作の朝は、妻野梨子に起こされることで始まる。
「お洋服はいつものところに掛けてありますから」
豊作が寝ぼけなまこで妻を見遣ると、既にきちんと身支度を整えている妻が部屋を出ようとしている。
豊作はいつもここで二度寝しそうになるが、すんでのところで思いとどまって布団から這い出る。
実はまだ新婚の頃二度寝してしまったことがあり、その時は朝ご飯抜きだけにとどまらず3日間口を
聞いてもらえず、1週間エッチさせてもらえず散々な目にあった。
その記憶は結婚して3年になろうとする今も豊作から消えることなく、眠りに落ちる寸前で豊作を
引き止めてくれているのだ。
「あと30分遅く起きても、間に合うんだけどなあ」
豊作は妻に言えないことをひとりごちてはみるものの、そうこうしているうちに着替えが
終わったので上着を手にして静かに部屋を出た。

ヘタレな豊作さんを書いてみたかったんですが、ここで挫折…。
614名無し草:05/02/28 19:07:44
美童悠理は萌えキャラですね。

豊作と野梨子もお似合いかも。
615名無し草:05/02/28 19:55:29
落ち着いた頃に何ですが、清悠投下したらどうなるか?
ここで清悠物、完成させるの難しいかな?
616名無し草:05/02/28 20:47:26
>615
投下してくれるの?つづきものなのかな、楽しみ。
荒らしとか出てきてもスルーで私は読ませていただきます。
617名無し草:05/02/28 20:55:19
>607
刺激されました!鬼畜清四郎!
悠理を襲ってRあり。
豹変鬼畜清四郎。
それを知った倶楽部の連中による大激怒。
美童による悠理救出。
しかしそこで待ちうけていたのは意外な事実。
鍵を握るのは和子だった─────

というシチュを考えて勝手に萌えてます。

>610
黒野梨子!格好いいっす!
清四郎を奴隷扱い。
それを知った可憐が清四郎を救おうとするのだが、
野梨子に丸め込まれた美童の反撃に遭う─────
そして魅録と悠理はどうする!?

なんて想像しつつ。



なんか先日までの昼メロ妄想がまだ脳内に残ってるようです。
618608:05/02/28 23:15:14
>613
野×豊、本当に読めるなんて・・・
ありがとうございました。
野梨子って、自分にも他人にも厳しそうですねw
619名無し草:05/03/01 23:07:38
一条ゆかりの漫画「有閑倶楽部」で是非ホリエモンと有閑倶楽部の対決を描いて欲しい。w
620名無し草:05/03/01 23:55:29
一条先生って、続きを描く気あるのだろうか・・・
なんか、このまま終わってしまいそう。
621名無し草:05/03/03 07:26:34
今年初めて覗きに来たけど、さびれてる。
おっ、と思うSS有ったけど終了してるし。
残念。
622名無し草:05/03/04 18:05:12
まぁ、マターリと待ちましょうよ(*´∀`)ノシ
623<暴走愛>:05/03/04 20:51:03
おひさしぶりです。暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系R有りなので、お子様、苦手な方はスルーお願いします。

清×可×豊です。
>>http://houka5.com/yuukan/long/l-51-08.html

情事のあとの気だるさが二人を包んでいた。
喉が渇いたと可憐が言うと清四郎は裸のまま、ベッドを降り階下へ誘う。
人がいないとはいえ、他人の家を服も着ずにうろうろするのには抵抗があったが
清四郎の瞳に嫌と言えないまま、可憐は差し出された手を取った。

廊下を二人の歩くぺたぺたという音が聞こえる。
可憐の前を清四郎の背中が歩いている。
首から肩にかけての線が綺麗だった。
さっきまでこの体に抱かれていたのかと思うと、可憐の奥でうずくものがある。

真っ暗なキッチンにつくと、清四郎は廊下の灯りだけをたよりに冷蔵庫へ向う。
彼の背丈ほどもある冷蔵庫の前に立ち扉を開けた。
ガチャリという音と共に中から冷気が流れ出す。
庫内の明かりが二人の顔を照らし出した。
ミネラルウォーターの大きなペットボトルがたった一本だけ入っていた。

コップを探す可憐に清四郎はペットボトルを差し出した。
このまま?と問う可憐に彼はうなずく。
可憐が水を飲むところがみたい、と。

戸惑いながら可憐は立ったまま蓋を開け、ペットボトルを持ち上げた。
果たして水の重みで腕が震え、狙いがはずれた水が彼女の顎を濡らし、裸の胸の上に滴り落ちる。
胸から滴った水は彼女の下腹部を、腿を、膝を、爪先を濡らす。
黙って手の甲で口元をぬぐう可憐からペットボトルを受け取ると、清四郎は自分も口をつけて飲んだ。
彼の喉を音を立てて水が落ちて行くのを可憐はじっと見守る。
やがて飲み終えるとペットボトルを冷蔵庫にしまった。
振向きざまに可憐をかき抱くと荒々しく唇を重ね、左手で彼女の乳房を強く掴んだ。
そのままキッチンの冷たい床に可憐を押し倒す。

可憐の柔らかな髪が乱れて床に広がる。
彼の性急さを恐れ、反射的に押し戻そうとした腕は清四郎によって組み伏せられていた。
繰り返される口づけに息を合わすのがやっとだった。
息が乱れ、呼吸が苦しくなる。
清四郎は相変わらず、可憐を床に押さえつけている。
「痛いわ……」
呟く彼女の耳元で清四郎が囁いた。
「可憐……」

彼女の右手をとる。
長く整えられたダークチェリーの爪の上にスパンコールが輝いている。
清四郎はその指を彼女の下腹部で誘う。
自分の指が感じやすい部分に触れ、可憐は顔を背けた。
「いや」
「可憐、自分で……」
「いや……」

清四郎が可憐の細い指を動かし、彼女自身を愛撫する。
ゆっくりと動かしていると、みるみるうちに赤く熟し、潤ってくる。
熱い息を吐く可憐に清四郎は囁き続ける。
「自分でした方が気もちいいですか」
「やめて」
「もっと動かして。一番感じるところに触れて」
体を起こし、今度は可憐に清四郎自身をあてがう。
「可憐、見てください。ほら可憐の綺麗な指の間から僕が入っていく」
清四郎が入っていくと可憐は小さく呻いた。
逃げようとする手を許さずに愛撫を続けさせる。
可憐は首を振って熱い泣き声を上げた。
彼女の太腿が清四郎を締め上げる。
「可憐が欲しい。全部」
唇に口づける。
なだめるように可憐は微笑んだ。
彼女の微笑に一瞬清四郎の動きが止まる。
彼は穴の開く程彼女の顔を見つめると力いっぱい抱きしめた―――。

627<暴走愛>第3章(38):05/03/04 20:53:36
昨晩の余韻でうつらうつらとしていた可憐は、突然応接間の扉が開け放たれた音で目を覚ました。
扉に手をかけて仏頂面をしているのは剣菱豊作だ。
あわててソファから立上がる可憐をじろりと睨むと、いらただしげに問いかけた。
「悠理は?」
可憐は首をかしげた。
「私もさっきから待ってるんです」
彼女がそういうや否や豊作は扉を拳で叩いた。
「やられた! 悠理の奴」
足を二回鳴らすと、ふいに可憐を指差して眉をしかめた。
「君、あの、黄桜さん。これから暇?」

時間に追われているわけではないのだが、暇ではないのだ。
今日も例のごとく先輩の手がけたジュエリーを剣菱家に持ち込んで悠理に選んでもらう予定だった。
お願いして可憐が自分で手がけたものも数点紛れ込ませてある。
昨日の今日で厚かましいような気もするが、悠理が駄目なら誰か上客を紹介してもらえるかもしれない。
「いえ、あの……」
可憐が口を開くや否や豊作は遮った。
「待った。忙しいなんて言うなよ。悠理の友だちは皆暇に決まってる」
「はあ?」

唖然とする可憐をよそに、豊作はにやっと笑ったように見えた。
「違った? わかった。君を暇にしてあげよう。悠理になんの用? 待った、当ててみせるよ。
 その君が抱えているケース、宝石だ。そうだろう。見せて」
無言の可憐からケースを受け取ると豊作は開けて、肩をすくめた。
「当たりだ。たくさん持ってきたね。じゃあ、そうだな、手を出して!」
「はい?」
「手」
628<暴走愛>第3章(39):05/03/04 20:54:08
可憐が差し出した両手の上に、豊作はちょいちょいと選んだ指輪を五、六個乗せる。

「こんなとこかな、お買い上げだよ。まいどあり〜でしょ?」
可憐は手の上の指輪を見つめたまま、黙っている。
豊作は腰に手を当てた。
「何? 足りないの? うーん、悪いけど後のは僕は好みじゃない。君の手に乗せたのだけだな、
 センスがいいのは」
手のひらの上から視線をはずさずに可憐は呟いた。
「あの、でも困るんです」
「なぜ」
「これ全部あたしがデザインした指輪だから……」

一瞬きょとんとした後、豊作は「そう」と呟いた。
再びケースを覗き込むともう一つ指輪を選び出し、可憐の手の上に乗せた。
可憐は笑顔になった。
「ありがとうございます」
「あとで請求書はうちに回しておいて。さてとこれで用はすんだわけだな。
 この後の君は僕のものってわけだ」

真顔になる可憐に豊作はにやりと笑う。
「怯えなくていいよ。捕って喰うわけじゃない。何、簡単なことだよ、退屈なパーティーを
 二つ三つはしごしてもらうだけだ。悠理を同伴する予定だったが逃げられてね。
 誰か頼んでもいいんだけど、どうせ同伴なら美人がいい。君もそう思うだろ?」

629<暴走愛>第3章(40):05/03/04 20:54:47
さっきから可憐は豊作にどういう表情をしていいのかわからなかった。
失礼な人だが頭の回転は早いようだ。お坊ちゃん特有の無神経さを持った神経質といったところか。
しかし仮にもお客様だ。
そう考えると可憐は営業用の笑みを浮かべた。

「ええ。そう思いますわ。パーティーには是非とびっきりの美人をお連れくださいませ。
 お目が高いですわ、豊作さん」
豊作は口に手を当てて笑った。
「そうそう君はそうして笑っているといい。美人は特だね。そうだ、こんな話を知ってるかい。
 かの有名なアインシュタインに美人女優が言ったんだ。『あなたの頭脳と私の美貌を
 持った子供が生まれたらすばらしいでしょうね』アインシュタインはこんな返事を書いた。
『あなたの知能と私の容貌を受け継いだ子が生まれたら恐ろしいですね』……けっさくだろ?」

可憐の笑みが引きつった。


続く
630名無し草:05/03/04 23:16:11
>暴走愛
やっと豊作登場ですね、待ってました!
原作とは違って強引なところが結構ツボです。
清四郎とよりを戻したかに見える可憐が、
剣菱の嫁になった理由などが、今後解き明かされていくわけですね。
第一部の続きがすごく気になっていたので、楽しみにしています。
631名無し草:05/03/05 00:03:16
作家さん戻ってきた。
他の作家さん達も待ってます。帰ってきてくれ〜い。
632清×悠:05/03/05 05:11:57
其の一
桜の花が舞う頃に僕らは家族三人になる。
去年の今頃には僕の隣でおまえが寄り添ってくれるとは思いもしなかった。
おまえは僕にとって触れることも叶わぬ女神だった。

―――悠理、僕はおまえが好きなんです。おまえが僕以外の
誰かを愛するなんて僕には耐えられない。

縁談の決まった悠理を囲んで仲間だけの祝賀会。
酒には強いと自負していた僕が、悠理の縁談話に心を乱され
酷く悪酔いしていた。
告白なんてするつもり、なかったんですよ。
婚約騒動中おまえを酷く苦しめた僕に、おまえを愛する資格も
告白する資格もない、と思ってたんですから。
生涯この思いを胸に秘めて生きていくつもりだったんです。本当なんですよ。
気づくと仲間たちは悠理以外酔い潰れて眠っていた。酒豪の魅録さえ。
悠理とふたり酌み交わす酒は、いつもよりもほろ苦い味がした。
どちらともなく幼い日々の懐かしい思い出話をしはじめて
おまえの屈託ない笑顔が他の男のものになる、そう思うだけで
気が狂いそうだった。
この思いを秘めて悠理の幸せを陰ながら見守ると決めていたのに。
それなのに僕は気づけば情けないくらい涙を流して、悠理に愛の
告白をしていた。
「悠理、僕はおまえが好きなんです。おまえが僕以外の誰かを
愛するなんて僕には耐えられない」
悠理の華奢な体を強く抱きしめて、僕は返事も待たず彼女の
紅く濡れた唇にくちづけた。
僕の眼から流れ落ちた涙が頬を伝い、悠理の頬を濡らす。
「せーしろ......あたしも、おまえが好きだ」
彼女は小さな声で呟くと、わんわん泣きじゃくった。
届くことなどない、と思っていた僕の初恋はこうして実を結んだ。
633清×悠:05/03/05 05:13:22
其の二
「せーしろ、ちょっとこの毛糸玉持ってて」
僕の愛する妻は、産まれてくる赤ん坊の為に慣れない手つきで
帽子を編んでいる。
四苦八苦する妻のそんな姿も愛しい。
「はいはい、そんなに悪戦苦闘して、ちゃんと出来上がるんでしょうね」
僕は妻の髪を、くしゃりと掻き揚げる。
妻は頬を小さな子供のように膨らませ右ストレートを僕目掛けて
繰り出した。
予想がついていた僕は、あっさりとその手を受け止め
愛おしさを篭めて、くちづけた。
ちらりと妻の様子を窺うと、案の定白い肌を薔薇色に染めて
照れている。
「悠理、赤ちゃんの帽子は後にして......ね、良いでしょ」
大きなお腹を労りつつ、僕は深く悠理にくちづける。
「ば、ばか!こんなに大きいお腹でどうやってすんだよ!?」
息継ぎの為に僅かに離れてしまった悠理の唇が僕を焦らす。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんとしてあげますから、ねえ」
宥める様に、丸め込む様に僕は悠理の首筋にくちづけ
耳元で囁いた。
「赤ちゃん生まれたら、すぐに二人目作りましょうね」
妻は「せーしろうの変態」というと、嬉しそうに益々、薔薇色に
耳まで染めて身を寄せてきた。
ねえ悠理、子作りでギネスに挑戦も僕たちらしくて良いかも
しれませんね。

終了
634名無し草:05/03/05 05:16:51
うわーっ。最初にお断りレス入れたのに入ってませんでした。
済みませんm(_ _)m
今更ですが、妄想小ネタで清×悠でした。
このカポが嫌いな方で、読んでしまった方済みませぬ。
635名無し草:05/03/05 07:53:13
>>634
あまりうるさいことは言いたくないけど
まずはお約束を読んでくれい。
636名無し草:05/03/05 07:57:55
済みませぬm(_ _)m
妄想任せに清×野編の小ネタもうPします。嫌いな人はスルー方向でお願いします
2レスください。
637清×野:05/03/05 08:00:13
其の一
僕と野梨子の仲は大学三年の春休みに幼馴染から
恋人へと変化した。
というものの依然、僕らは清い交際で恋人らしい進展はないに
等しかった。
交際を始めて三ヶ月目に初めて手を繋いだ。
野梨子の頬にくちづけたのは、交際から半年も過ぎた頃だった。
交際から一年が過ぎたある日。
「野梨子さえ良かったら、ふたりで一泊の温泉旅行にでも行きませんか」
人よりも理性を多く持ち合わせた僕にも限界が近づいてきた。
野梨子を抱きたい。その白い肌にくちづけたい。
そんな欲求が爆発しかけたある日、僕は野梨子を一泊旅行に誘った。
「温泉なんて素敵ですわね。どうせなら満開の桜がみえる温泉が
よろしいですわね」
意外にも、野梨子は僕の誘いをあっさりと受け入れてくれた。
こんなことなら、もっと早急に事を運んでも良かったですね。
緩みそうな口元に気合を入れ、野梨子の華奢な肩を引き寄せて
ふたり一緒に、予め用意していた温泉地のパンフレットから旅先を選ぶ。
638清×野:05/03/05 08:02:56
其の二
ひらひら、と桜の花弁が野梨子の頭上に舞い降りる。
彼女は降り落ちる花弁を愛しげに手のひらですくいとめ、顔を
寄せて香りを楽しむ。その姿さえも愛らしい。
「野梨子、夜も更けてきましたよ。そろそろ部屋に戻りませんか」
野梨子は大きな黒い瞳で僕を見上げる。
その刹那、桜の花弁が彼女のくちびるに舞い落ちた。
そして僕の理性は、あっけなく砕け散った。
彼女の桜の花弁のようなくちびるに、僕のものを近づける。
愛しい人のくちびるは、あたたかく桜の匂いがした。
「清四郎、こんなところで酷いですわ。人が見ているかもしれませんわよ」
野梨子は頬を紅色に染め、口元をその細く白い手で覆い隠した。
「大丈夫ですよ。見てるのは桜の樹だけです。心配なら
この続きは部屋でしましょうか」
僕は少し意趣返しをしてみる。野梨子の白い肌が耳まで
紅色に染り黒い瞳も涙に濡れていた。このまま野梨子を抱きしめたい。
そう思った瞬間、野梨子がゆっくりと口を開いた。
何かを決意した時の強い意志のある瞳で僕を見詰める。
「清四郎が全て教えてくださいな。わたくし、何にも知らないんですのよ」
野梨子を横抱きに抱え上げ僕はふたりの部屋へと踵を返した。
僕らの夜はこれから始まる。
終了
639名無し草:05/03/05 11:06:28
>清×野
しっとりとした雰囲気で、美しい桜と2人の情景が
目に浮かんできました。
素敵なお話をありがとうございます。朝からいい気分です。
640名無し草:05/03/05 12:38:47
>清×悠
ほのぼのしつつもちょこっとエロいところがいいです。
なんか悠理相手だと体力任せに子沢山になりそうなところが
うまく切り取られているかと。
GJです。
個人的に編み物する悠理に萌え。

>清×野
これまた野梨子相手だとこうなるよね、という側面がうまく
表現されてますね。
桜という和風な小道具がくるところなんか、らしいです。


このあとは清×可もあるのでしょうか?
どういう話になるのか楽しみです。
641名無し草:05/03/06 00:09:00
妄想小ネタで清×可編でうPします。
嫌いな人、スルー方向でお願いします。2レスください。
642清×可:05/03/06 00:11:32
可憐との再会は、大学を卒業した三年後の春。
母親のジュエリーAKIを本格的に継ぐ為に彼女は、一人遠く離れた
異国の地へと旅立ったのは聖プレジデントの高等部を卒業して間もなくだった。
あれから七年の歳月を経て僕らは再び再会した。
「ジュエリーAKIの海外進出、おめでとう御座います。可憐も今や
立派な宝石商のマダムですな」
七年の時を経て美しさに磨きが掛かった可憐は、今を盛りと咲き誇る華の
ように艶やかで、さしもの僕も驚嘆した。
「清四郎が誉めてくれるなんて嬉しいわね。でも何にも出ないわよ」
可憐は誇らしげに華のような微笑を浮かべ、出逢った頃からの
トレードマークの自慢のカールを、ふわりと靡かせた。
彼女の髪から仄かに漂う桜の花の香りが僕の鼻腔を甘く擽る。
「可憐は今後も外国を拠点として私生活と仕事を続けるつもりですか?」
友人として可憐の将来が気になったのか、それとも別の意味で気になったのか。
「うーん、それが、まだ決めかねてるのよね。日本に居てもデザインの勉強は
続けられるし」
将来を決めかねて、揺れる可憐は悩ましげに甘い吐息をついた。
女性に対し、さして興味のない僕から見ても、彼女の女らしさと色香は
賞賛にあたいする。
643清×可:05/03/06 00:15:17
其の二
それは、互いに知りえない空白の七年に、彼女を取り巻いてきた
男達の成せる業か、と見知らぬ男達に、僕はあらぬ嫉妬心を抱いた。
嘗て、ただの一度も彼女に対し恋愛感情など抱いた覚えもないのに、と
僕の口から自嘲の笑みが零れた。
これから、一層、彼女を美しくするのは僕でありたい。
大輪の華を余すことなく味わい、吸い尽くし、また華開かせて.....。
「可憐、僕とふたりでジュエリーAKIを世界的な一流ブランドにしましょう。
あなたと僕なら、可能です」
可憐との再会から三ヵ月後のプロポーズ。
彼女は眼を見開き僕を見つめた。あの日、僕を虜にした華のように
艶やかな微笑で。
僕の腕の中の彼女の髪からは、あの日と同じ仄かな桜の花の香りがした。
あの日、僕の心を本当に捕えたのは.......この甘く優しい可憐自身の持つ
桜の香りなのかも知れませんね。
僕は可憐の桃色の唇に深く口付けると彼女にもう一度、囁いた。
「愛してます、可憐。結婚してください」
終了

これにて、妄想小ネタ清×有閑三人娘、桜シリーズ終了です。
読んでくれた方、スルーしてくれた方、レスくてた方、有難うございました。
644名無し草:05/03/06 15:29:51
>>634
さ、三人か。それぞれ凄腕だなあ清四郎・・。
乙ですた。
清×悠好きな自分はやはり一番最初のがツボ。
よく考えたら「僕は」って丁寧な言葉に続けて「お前が」って、
不自然な言葉遣いの告白なんだけど、それがあの二人らしさなんだよねw 
原作でも可憐や野梨子には「君」だけど、悠理にだけは「お前」呼ばわり。
関係性をよく表わしてるね。飼い主みたいで可愛くて好きだ。
645名無し草:05/03/06 21:45:01
二次創作に関わるスレですし、無関係では無いと思うので
貼っておきます。言論の自由が侵されようとしています。

見ろ。とにかく見ろ。(((( ;゚Д゚))))ガクガクブルブル
ttp://www.uploda.org/file/uporg53095.swf

スレはこちら
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1110002315/
646名無し草:05/03/07 00:11:29
>清×
同じ作者さんなんですよね?小品ながらもそれぞれにいい味です。乙。

>>640
自分も悠理ってなぜか子沢山になるイメージ。細っこい腰なのに。
647646:05/03/07 00:15:10
よく見ると清×有閑三人娘、桜シリーズと書いてありましたね。すまそ。
648<暴走愛>:05/03/07 00:29:27
<暴走愛>うpします。可×豊です。
649<暴走愛>第3章(41):05/03/07 00:29:57
>>629
「剣菱豊作さま、いらっしゃいませ」
出迎えたレストランのオーナーが豊作の連れに目をとめると感心したようにうなずいた。
豊作はさも誇らしげに可憐を振り返り笑ってみせる。
まるで最新式の玩具を誰よりも先に手に入れた小学生のように。
新しいドレスに着替え、髪を美容院でアップにした可憐は豊作に微笑み返しながら
気づかれぬように嘆息した。

柔らかなイエローベージュのドレスはNYで一番高いと言われているデザイナーのもの。
胸にあしらった花のモチーフが大人の可愛らしさをアピールしている。
絹だけあって素肌にまとわりつかず離れすぎず、サラサラとした着心地だ。
店内にいる客の視線が一斉に自分に注がれるのを感じる。
綺麗な子ね、と誰かが囁く声が聞こえた。
可憐は胸の中で呟く。
ドレスは最高。連れは最低。

豊作が見立てたドレスに着替えた後に二人で顔を出したパーティーは
政財界の重鎮ばかりが集まる息が詰まりそうなほど堅苦しいものだった。
女性はほんの数えるほどしかおらず、しかも可憐のように若くて着飾った女性など
皆無と言っていい。
これでは悠理ならずとも逃げ出したくなるだろう。
周囲から浮きまくった可憐は、無遠慮にじろじろ眺められて辟易した。
しかもパートナーである豊作は誰かと話し込んでしまい、可憐はほったらかしのままである。
一人淋しくワインを飲みながら可憐は豊作を恨んだ。
お客じゃなかったらヒールで蹴り倒して帰ってくるところなのに。
可憐は不愉快だった。
650<暴走愛>第3章(42):05/03/07 00:30:32
似たようなパーティーを引きずり回された後、今度は豊作の行きつけの店とやらに連れていかれる。
初めて行く店だった。
料亭ではないが一見さんお断りの雰囲気が漂うレストランだ。
かなり遅い時間ではあったが、豊作は顔パスのようだ。
華やかなパートナーが注目を集めるのを見て、豊作は意気揚々としてみえる。

可憐の好みも聞かずに豊作はワインを注文する。
料理も「おまかせでいいね」と有無を言わせない様子だ。
反論する気は毛頭なかった可憐は黙ってメニューを閉じた。

ワインが運ばれてきた。
一口味見した豊作はたちまち眉をしかめた。
「これ違うね」

あわててソムリエはラベルを確かめる。
どうやら間違った銘柄を出してきたらしい。
とんでもないミスだ。
たちまち豊作の機嫌が悪くなり、支配人とオーナーが飛んできた。
頭を下げる彼らに豊作はくどくどと文句を言い続ける。

「どういうこと? よりによって女性を連れて来てるのに。僕に恥をかかせるつもり?」
「申し訳ありません。けしてそのような……。こちらの単純なミスでして」
「お粗末だね。失望したよ。天下のパレシオがこんなことじゃ。今日のことは母さんにも
 伝えておくよ」
百合子の名前が出ると、オーナーが大弱りの顔をした。さぞかし上得意なのだろう。
「豊作さま、どうか……」

席を蹴って店を出て行きそうな剣幕だった豊作はオーナーにあれこれなだめられて
やっと彼らを解放した。
可憐に大仰に肩をすくめてみせる。
苦笑いをしながら可憐は胸の中で盛大にため息をついた。
651<暴走愛>第3章(42):05/03/07 00:30:58
彼女が席を立つと豊作はぽかんとした顔をした。
「どこへ行くの」
「すみません、大事な用事を思い出したので帰ります」
あくまでも艶やかに笑う可憐に豊作は急におろおろとし出した。

「用事って……もう十時だけど」
「ええ。ですから急がなくちゃ」
歩き出す可憐の腕をあわてて豊作が捕まえた。

「待って。あの……電話番号聞いていいかな。その、一応」

一応ですって。
豊作の言葉を可憐は反芻する。
「あとでお届けする領収書に店の電話番号は書いてありますので」
「いや、店じゃなくて君の電話番号を」
「私のうち、電話無いんです」
「電話が……無い?」

真に受けて呆気にとられる豊作に可憐は噴きだしそうになる。
困った顔で豊作は首を振った。
「じゃあ君に連絡を取りたいときにはどうすれば?」
「そうですね、伝書鳩でも飛ばしてください。今日はありがとうございました。
 それでは」

優雅にドレスの裾を翻し去っていく美女の後ろ姿を豊作はすっかり毒気のぬかれた顔で
見つめていた。


続く
652<暴走愛>:05/03/07 00:31:50
すみません。>>651は第3章(43)です。間違えました。
653名無し草:05/03/07 08:10:00
>暴走愛
これから豊作と結婚した理由がわかっていくんですね。
ドキドキしてきました。
654名無し草:05/03/07 22:55:05
>暴走愛
ああ、可憐かっこいいなあ。
…豊作の我がままおぼっちゃんぶりにはむかつくけど(笑)
655これ、いただくわ -11:05/03/10 20:09:17
>>518
承諾させたのは自分ではないが、とにかく野梨子も着替えているのだ。自分も着替え
ないわけにはいかない。
だがもとを正せば、今回の潜入を悠理ひとりに任せたのはこの羽衣が原因だった。
いつもならガッチリ脇を固める清四郎が今回は潜入時のユニホームがこれと聞き、二
の足を踏んだのだ。
魅録はと言えば、あらたに手に入れた通信機で司令塔の役目を担うことになっていた
から、彼を行かせるわけにもいかない。
どうしたものかとあぐねているところへ吉報がもたらされた。ターゲットの警備はし
ごく手薄だと言うことが判明したのだ。
これなら悠理ひとりでもなんとかなりそうだ。ならば――と適当な理由をこねくり回
して単独潜入を承諾させたのであった。
しかし事ここに至っては仕方がない。男にはやらねばならない時がある。
心を決めて衣服を脱ぎ捨てた清四郎は羽衣に片足を突っ込んだ。もう一方の足も入れ
てヨイショっとひっぱり上げるとうすい布地が身体の凹凸を容赦なくなめ上げていく。
「…やっぱり」
危惧していた通りだ。――いや、危惧していた以上にそれは露骨すぎた。
どこをとっても鋼のような強靭さを見せつける肉体の、極々一部だけがとってつけた
ようにマシュマロなのだ。もちろん鋼にだってなれる。だがそうなったらなったで、
なおさら忌々しき問題だ。
「さすがにマズいですよ、これでは…」
と、独り言のように言いさした背中に魅録が何かを投げてよこした。コツンと当たっ
て床に落ち、足元でころげ回るのはいびつなお碗型の物体。
「安全第一だからな」
プロテクターであった。無論これも彼のお手製である。
656これ、いただくわ -12:05/03/10 20:10:03
特殊カーボンファイバーを採用することによって最軽量・高強度を達成したこの上な
く頑丈な防具で、これを装着していればどんな衝撃を受けようともその中身はびくと
もしない優れものだ。
しかし激しい衝撃を受けた場合、中身は無事だが骨盤がもたない可能性はある。
この際、骨盤より中身重視。そこのところを記録係の野梨子にどう説明しようかとい
うのが目下の懸案事項であった。
胡散臭そうに拾い上げた清四郎であったけれども、安全性を説かれては無下につき返
してしまうのも躊躇われる。まあ物は試し、と装着を試みた。
付け心地は――悪くない。いやむしろ心地よい。
「ほほぅ…」
おもわず感嘆の声が洩れた。通気性も抜かりなく考慮されているらしく圧迫感がまる
でない。開発者と呼ぶよりも、魅録は職人と呼ぶにふさわしいと認識を改めながら姿
見をのぞき込み――思わず目を見張る。
「こ、これはっ…」
ますます強調されているではないかッ―――――――いや、待てよ?
これは中身ではない。防具なのだ。防具であるからには多少目につこうが恥ずかしが
る必要はない。男には守らねばならないものがある。
「そちらの準備は終りましたか」
すべての迷いから解脱した清四郎が清々しく振り返ると、自分と同じく羽衣に身を
鎧った魅録が背中をむけて立っていた。
形良い筋骨をうすい被膜でくるんだうしろ姿はまるでアラバスターの立像だ。
しかしそれを見せつけるためにわざわざ後ろ向きになっているわけではあるまい。
現に肩をすぼめてどこかモジモジとした態である。
657これ、いただくわ -13:05/03/10 20:10:38
「魅録?」
声を掛けるとやっとこちらに向き直った。その頬はほんのり桜色に染まっている。
「…さすがにちょっと照れるよな」
わかりますよ、その気持ち―――ポンっと肩を叩いてやりながらふと見ると、魅録の
プロテクターが自分のそれよりもほんの少し大きい気がした。
少し、嫌な気分になった。
――「準備できた?」
可憐だ。
「開けるよ?」
こちらは美童の声。向こうも着替えが終ったらしい。さすがにモデル並の造形美を誇
るふたりだけあって、その声音には羽衣による屈託など微塵もない。
「あっ、ああ」
と、生返事を返すとスッと扉が開かれて、そこに浮かび上がるはふたつの生首。
「ぎゃッ!」
彼我の距離およそ3メートル。改めて羽衣の威力を痛感する。
ふたつの首の下の方、ドアの陰からは野梨子のナマ首ものぞいている。紛れもなく親
友たちではあるのだけれど、やはり頭部だけとなると少々うす気味が悪い。
「…なあ、もうちょっとこっち来て座れよ」
自分が着せておいて、気持ちが悪いから近付けとは言えまい。
「こっち来いって。声、聞こえねえから…」
「じゅうぶん聞こえてますわっ」
けっきょく野梨子だけが廊下に正座したまま作戦会議が始まった。
658これ、いただくわ -14:05/03/10 20:11:16
「目標、兼六金庫ビル、所在地○区東町8番地。地上50階、地下5階、白亜のビルです」
清四郎が状況を説明する間、廊下の野梨子は膝のラップトップで軽快にキーボードを
鳴らしている。すっかり堂に入ったそのようすを清四郎はご満悦の体で眺めているが、
単に彼の丹精ばかりとはいい切れない。魅録の功績によるところも大なのである。
「今から1時間半前の連絡を最後に悠理の消息は不明。ポイントは18階で止まって
います。経過時間から推測して上下4階以内で迷走中といったところでしょう」
清四郎がここまで言い終わると、それを待ち構えていたかのように野梨子が声を張り
上げた。実際――待ち構えていたのだ。
本来ならばここからが今回の司令塔である魅録の檜舞台となるわけなのだが、そんな
ことには一向お構いなしで野梨子は凛々といい放つ。
「救出班は2名とします。速やかに悠理を発見、保護してください。残り3名は更な
る不測の事態にそなえて車中待機。
現在時刻1400時。お昼どきをかなり過ぎていますので悠理の残存スタミナが懸念
されます。救出班は十分な食料の携帯をお忘れなきよう――」
その堂々とした態度たるや敏腕参謀さながらで、ついさっきまでスーツはイヤイヤと
駄々を捏ねていたとは到底おもえない。やりますね、と清四郎は賞賛の眼差しを
送ってやる。
実動2名に待機3名。配分もいい。
その実動2名はもはや決まったも同然だが、一応は司令塔である魅録の意向も確かめ
ておいた方がいいだろう、と清四郎は水を向けてみる。
「ところで編成はどうします?」
「それはもちろん清四郎と魅…」
と、つづけざまに指令を下そうとする野梨子であったが――
「清四郎、先発を頼む。俺は無線でサポートする」
すっぱり言い切った魅録。
「俺には道具の設置作業もあるしな」
659これ、いただくわ -15:05/03/10 20:11:58
しまった――と野梨子は臍を噛んだ。
いわれてみれば着替えにはいる前、魅録は道具箱をガサガザと引っ掻き回していたで
はないか。まったく前線に出ないということはなかろうが、後発になることは十分に
考えられたことだ。
――清四郎がニヤリと笑っている。
では改めまして先発人員は…、と澄まして言い直してみたけれど、当然のように無視
された。
素知らぬ顔でパートナーの物色をはじめる清四郎。いかにも真摯な顔付で、あなたの
采配に敬意を表してのことですよと謂わんばかりのそのようすは、先刻の直球勝負の
お返しというわけなのだろう。
「さて、どなたに行っていただきましょうかね」
美童、可憐があからさまに顔を背ける中、真っ向からするどい視線を射掛けてくるの
は当の野梨子だ。目論見が外れた憤懣も手伝ってその視線は空間を貫かんばかり。尖
りに尖って、そして恫喝する。
『私をご指名なさったらどうなるか――おわかりですわよね?』
彼女が祟れば斯くやありなんと云う生首姿で恫喝されては、さすがに清四郎もこの上
のいじわるは気が引けた。
――本当のことをいえば、その名を呼んでみたい気もしたのだけれど。
咳払いをひとつ。
ひょいと首をまわして、その拍子に目にとまった仲間の名前をつぶやいてみる。
「では可憐」
「ちょっと、なんであた…っ!?」
「さあ出発だよおっ!」
慌てふためく可憐を見返りもせずに、美童は軽い足取りで部屋を出て行った。

     つづきます
660名無し草:05/03/10 22:29:54
>これ、いただくわ
続けて読めて嬉しい〜。
ふっ、と吹き出してしまうような掛け合いや、テンポの良さがかなり好き。
プロテクターのビミョーなサイズの差にこだわる二人とか(笑
清四郎と可憐の珍道中も楽しみにしてます。
661名無し草:05/03/11 00:26:38
>これ、いただくわ
いつもおもしろい。
特に野梨子が。
次も楽しみです。
662名無し草:05/03/11 01:14:56
>これ、いただくわ
楽しい話で好きです。
ボディスーツを着たみんなを想像したりして…。
悠理のために食料を忘れないのもいいですね。
続きが楽しみです。
663名無し草:05/03/11 01:27:56
>暴走愛
お待ちしてました〜。いよいよ第一章に向けて動き出すのですね。
豊作さんの別の面をうまく描いてるなぁと思いました。
それをはねつける可憐に拍手。続き、楽しみにしています。

>これ、いただくわ
こちらも、続きが読めて嬉しいですー。
流麗な文章と、おとぼけなストーリーとのギャップがたまらないですw
野梨子の言動や清四郎の反応など、笑いどころ満載で。
先発隊の人選など、予想を少し裏切る展開もイイ。続きが楽しみです。
「可憐さんにはかなわない」うpします。
>>351
また風が吹いてきた。
自分の腕にやわらかな腕がそっとからみつくのを感じて、清四郎は傍らの彼女を視線を向けた。
そこには可憐が艶やかな笑みを浮かべている。
「清四郎」
甘い呼びかけに清四郎はコホンと咳払いした。

「お坊ちゃま、お嬢さま、どうぞこちらに」
振り向くとグランマニエ家のメイドが立っている。

メイドに案内された部屋はさっきまで男同士、女同士で集まっていたどちらの部屋とも違う
ものだった。
カーテン、ベッドカバー、ソファのクッション、床の絨毯に至るまでワインレッドで統一されている。
メイドが窓のカーテンを閉めながら美童の伝言を伝える。
「美童さまが今夜はこちらにお泊まりくださいとのことです」
「……どうもありがとう」

恭しく頭を下げるとメイドは部屋から出て行った。
清四郎は力なくソファに腰かけると、両膝に肘をつきどうしたものかと思案に暮れた。
「こちらにお泊りください」のメッセージが意味することはただ一つ。

「この部屋で可憐と仲良くしなよね」(美童スマイル)
 それは、
        ↓
「この部屋でエッチしてもいいからね」(美童スマイル)
 ということだろう。つまりは
        ↓
「むしろ、やっちゃいなよこの部屋で!」(美童スマイル)
 と、美童にすすめられているわけで、だから
        ↓
「ここでやらなければ男じゃないね」(美童スマイル)
 …………。

清四郎は深いため息をつきそうになったのを、可憐の手前あわてて飲みくだした。
そうはいってもですねぇ。
僕には美童直伝のお芝居は向いてなさそうだし、
だいたいセリフを美童に持ってかれちゃいましたしねぇ。
どうしたらいいのかなぁ。

可憐は黙って窓辺に立っていた。
窓の外を眺めていたが清四郎の視線に気づくと、微かに笑ってみせる。
心なしか緊張しているようだ。

彼女の微笑みにつられるように清四郎は立ち上がる。
ゆっくりと窓辺の可憐に近づくと、おびえたように彼女は清四郎を見上げた。
その表情にやや戸惑い、清四郎は可憐の頬に触れる。
「怖がらないでくださいよ」
頬を赤くした可憐はうつむくと小さく呟いた。
「あたしには清四郎が怖がっているように見えるわ」
違いない。
清四郎は内心呻った。
何が怖いと言って、すでに歯止めが利かなくなっている自分の気もちが怖い。
本能のおもむくままに走って、可憐を傷つけてしまうのが怖い。
かと言って何もせずに一晩明かして、可憐に「この意気地なし」と思われるのはもっと怖い。

どうにか表情を取り繕うと、にこやかに清四郎は可憐に話しかけた。
「たとえ話をしましょう。目の前にきれいなガラス細工がある。すごく細かくて
 手に取ったら壊してしまいそうだ。でもとても魅力的で、見ているだけでは我慢できない。
 触れたい。持ち上げて近くて見たい。けれど壊したくない。一体どうしたらいいと思います?」
恥らうように瞳をふせた可憐はきゅっと唇をすぼめ、何か考えていた。
やがてこう答える。
「あたしにはそのガラス細工の気もちがよくわかるわ。彼女はきっと手にとってほしいと思ってる。
 思い切って触れてほしいと思ってる」
清四郎の瞳が可憐を見ている。
「でもどうやって触れたらいいのかわからない。壊してしまいそうで怖い」
「清四郎にだったら壊されてもいいって……思ってるわ、きっと。だからいいのよ。清四郎なりの
 やりかたで触れて」

じっと二人は見つめあった。
可憐はそっと清四郎の首に腕を回す。
清四郎は彼女の体を優しく抱きしめると耳元で囁いた。
「可憐の唇が恋しいんですが」

長い可憐の指がゆっくりと清四郎の唇に触れ、なぞった。
「あたしも」
やがて清四郎の顔が可憐の顔に重なる。
二つの唇は優しく挨拶を交わした。
優しく可憐は囁いた。
「清四郎……前から聞きたかったことがあるの」
声を上ずらせながら清四郎が応じる。
「なんですか……」
「髪の毛は何使ってまとめてるの?」
「え? ワックスですけど……」
「そうなんだ。自分で買ってくるの?」
「いや、母か姉貴が……。それがなにか?」
「なんでもない……。ただ、ずっと気になってたから」

二人はきつく抱きしめあった。
以上です。続きます。次回で終わります。
670名無し草:05/03/13 13:40:10
>>可憐さん
地の文がきれいで可憐もすごく魅力的ですね
可愛くて大好きです
美堂のこましっぷりもw

続き楽しみにしてます
671名無し草:05/03/13 16:48:19
>可憐さん
素敵!笑いとロマンが溢れてましたw
清四郎、ワックスだったんだワックスだったんだワッ(ry
気になってたんです〜!
次で終わり・・・寂しいです。最終回、楽しみにしてます。
672名無し草:05/03/13 21:50:35
>可憐さん
たたみかけられる美童スマイル。脳内でどんどん大きくなって、笑いました。
そして、ウイットに富んだ会話&素敵なキッスのあとに、髪のことを気にする可憐さん。
あなたには本当にかなわない(笑)。もう、とっととやっちゃって!清四郎。
次回で最終回とのこと、寂しいけど楽しみにしてます。
「可憐さんにはかなわない」最終話うpします。
可×清、魅×悠、美×野です。
爽やかな秋風がその日の午後も吹いていた。
楽しげな笑い声が聖プレジデント学園の通学路に響き渡る。

ほがらかな笑顔で先頭に立って来るのは美童と野梨子だ。
やや遅れてこれも楽しそうに魅録と悠理が並んでついてくる。
そして少し離れてむっつりとした清四郎とふくれた可憐がやはり並んでやって来る。

清四郎と可憐の不機嫌の理由はどうやら美童のニヤニヤにあるらしい。
「……それでさ、聞いてよ。二人とも中々口を割らないからさ、かまをかけてみたんだ。
 白目になっちゃった?って……」
思い出しては噴出しそうになりながら美童は手振り身振りで魅録に説明する。
魅録はわけがわからないという顔だ。
「何? 白目って……」
「だからさ! かまだよ、かま。『あれ、なったでしょ、白目』って。
『いや僕も初体験のときは驚いたの何のって。女の子の目がこうググッと上に上がっていってさあ、
 あっという間に白目だろ? 最初はびっくりするけど、あれ女性が感じてるってことだから
 男にとってはうれしいことなんだよね』とかなんとか言ってさあ」

野梨子はキョトンとしている。
やっとわかったとばかりに魅録がニヤリとした。
「ああ、なるほど白目ね。そういや俺も最初はびっくりしたな」
男二人でニヤニヤしながら後ろを振向くと、黒い雲に覆われた清四郎がますますムスッとした。

先を急かすように魅録が美童をつついた。
「で、清四郎はなんだって?」
「それが傑作だよ。『そういえば白目でしたね』だって!」
魅録が噴いた。
「そういえば白目!」
笑いすぎて息も絶え絶えになった美童がすまし顔の清四郎のマネをする。
「『夢中で驚きもしませんでしたが、ああいう時の白目も乙なものですな』だって。白目だよ、白目!」
「普通は驚くよな」
「ていうか、白目向かれたら僕、もう、できないよ〜っ」
「でも清四郎はやったんだな。さすが俺らとは違うな。さすがネ申」

道行く人がけたたましい笑い声に何事かと振向く。
悠理と野梨子は男二人の馬鹿笑いに冷めた態度だ。
清四郎はと言えば握り締めた拳が白くなっていた。
可憐が美童たちの後ろから怒鳴る。
「ちょっとぉ、他人をコケにするのもいい加減にしてよね。
 あんたたちだって初めての時は似たようなもんでしょうが!」
少し笑いを引っ込めて美童がすましてみせた。
「ま、そりゃね。それにしたって清四郎よりはましだと思うけ……おとと」
野梨子の鋭い視線に美童は言葉を飲み込んだ。

鼻をふんと鳴らすと可憐は清四郎を気づかった。
「いやぁね、汚れてしまった人たちって。気にすることないわよ、清四郎」
そう言って彼の顔を見た可憐は清四郎がすっかり機嫌を直しているのに気がついた。
清四郎は可憐にむかって意味ありげな微笑みを浮かべた。
「ま、そういうことですね。美童にもピュアな気もちを取り戻してもらいましょうか」

考え考え野梨子が呟いた。
「私も白目でしたの……?」
ぽっと頬を赤くした野梨子に笑いながら美童が弁解する。
「そうじゃなくて野梨子……」

そんな美童たちの前に立ちふさがるものがいた。
気がついた美童の顔がみるみる内に青ざめていく。
「わわ」
野梨子がいぶかしく思う間もなく、回れ右をして逃げ出そうとした美童を
あちこちから伸びてきた手がつかまえた。
捕縛された美童は情けない笑いを浮かべる。

「や、やあ。由布子ちゃん、亜美ちゃん、京子さん、ナターシャ、ウェンディに桂鈴……」

胸の前で腕組みをした美女たちが十重二十重に美童を取り囲んでいる。
「美童。風の噂に聞いたんだけど、こちらのお嬢さんと真面目に恋愛するから
 もう遊びの私たちとはつきあえないんですって?」
つめよられて美童は目を白黒する。
「へ? だ、誰がそんなことを!? ぼ、僕そんなこと言ってな……」
野梨子の冷たい視線に美童は言葉を飲み込む。

美女たちは腕を組みなおした。
「どうなのかしら、美童」
じろりと野梨子が美童を見た。
美童は赤くなったり青くなったりしていたが、やがて観念して頭を下げた。
「その通りです。もう君たちとはつきあえません。ごめんなさい」

野梨子が微笑んだ。
美女たちも優しく微笑んだ。
美童もほっとして顔を上げた。

中国系美女が呟いた。
「ヤッチマイナー!」

遠ざかる美童の悲鳴を聞きながら悠理が魅録に囁いた。
「あれ助けなくていいの?」
「いいんじゃね、自業自得だろ。嗅ぎつけられるようなヘマするからだよ」
そう言いながらも気になって振返った魅録の視線の先に、やけにうれしそうな
清四郎の姿がうつった。
悠理が叫んだ。
「あっ、なんか売ってる」

露店でヨレヨレのジャケットを着た長髪の男が詩集のようなものを売っていた。
「嬢ちゃん一冊買ってかない? 泣けるよ」
興味深々で悠理は詩集を手に取った。
「これ、おっちゃんが書いた詩?」
「いんや知り合いの知り合いの知り合いに頼まれて売ってるの」

パラパラッとめくった悠理の顔が急にバリバリと音を立てて赤くなるのを見て
魅録は不思議に思って自分も一冊手に取った。
表紙をめくると目に飛び込んできた文字があった。

『 悠理に捧げる愛の詩       松竹梅 魅録 』

「でえっっ???」
あわててページをめくると

『はじめてアイツを抱いた。泣かせちまった。俺って……ツ・ミ・な・男?』
『悠理に出会って恋を知った。俺……生まれてはじめて生きててよかったって思ったよ。
 おまえはどうかな……悠理?』
『やばい。自信ない。俺アイツを幸せにできるんだろうか』
『もうダメ? やばい』
『やばい』
『ちくしょー』
『やばい』
『やばい』
『もうだめか。可憐? いやいややっぱり悠理だ』
『悠理……。クサイけど俺のところへ来いよ、早く』
『愛』
『LOVE』



可憐は前方で魅録が何か騒いでいるを聞き首をかしげた。

「わあっっ。俺の日記じゃねぇか! 悠理、読むなぁっ、読まないでくれっ。
 おっさん、これ全部買う。買うから売って!」
「あいよ、一冊百万円……冗談冗談。一万円ね」
「高いよ! ていうかこれ全部俺の日記じゃないか。どこの世界に自分の日記に一万円
 払うやつがいるんだよ」 
「嫌ならいいよ」
「ちょちょちょちょっと待て」

すったもんだのあげく取引が成立して詩集を全部風呂敷に包んで持ち帰ろうとする魅録に
長髪の男が呼びかけた。
「それね聖プレジデントの学生さんにすごい人気だから売れるよ。さっきもお兄ちゃんたちが
 来る前に何十冊も売れたから」
「み、魅録。大丈夫?」

道に倒れて動かない魅録に向って悠理が心配そうに話しかけている。
その横を笑いをこらえた清四郎と可憐が通り過ぎた。
含み笑いをしながら可憐は清四郎に聞く。
「なによ。清四郎がやったの?」
「さあどうですかね。美童と魅録にはいろいろ世話になりましたから、ほんのお礼を、ね」
「やあねえ。気がきいてるじゃない」
クスクス笑いながら可憐は清四郎の腕に手を回した。

と、後ろから聞いたことのある声がした。
「清四郎! 今、帰り?」
振向くとにこやかな顔の菊正宗和子が立っていた。
さっと手を離す可憐をちらっと見ながら清四郎に寄ってきた。

「ねえ、今日は家でご飯食べるでしょ。お刺身買って帰るから、一緒にデパートに付き合って」
「え、いやあの、今日はちょっとこれから予定が……」
「あら、何かしら予定って。まさか、可憐ちゃんとデートじゃないわよねえ」
「い、いや……」

姉に対してなぜかしどろもどろの清四郎の前にずいっと可憐が進み出た。
「そおなんです。私と清四郎、これからデートなんです」
冷ややかな目で和子は清四郎を見た。
清四郎は沈黙している。
和子は可憐に微笑んだ。しかしその目が笑っていないのに可憐は気がついた。
「ああら、そう。いいわねえ。それじゃあ……」
ニコニコしていた可憐は次の和子の言葉に愕然とした。
「私も一緒に行っていい?」
弟のデートになぜに姉がついてくる?
まっ、まさか、和子さん……。

あんぐりと口を開けた可憐の前で、清四郎がやれやれといった顔を見せた。
「だから姉さんには言いたくなかったんですよ。デートについてきて一体何を
 するつもりなんですか。どうせ又ぶち壊すつもりなんでしょう」
和子は口を尖らせる。
「ちょっとずいぶんな言い方ね。清四郎があんまり女の子にうといから心配なの。
 最近の子ってね、すごいのよ。ねえ可憐ちゃん?」

清四郎が額を押さえた。
いまや可憐は確信していた。
清四郎の姉、菊正宗和子はいわゆる強度のブラコンなのだと。

「可愛い弟が変な女に弄ばれてるんじゃないかって思うといても立ってもいられなくって。
 やっぱり姉である私が清四郎を守ってあげないとねえ。あ、変な女って可憐ちゃんのことじゃないからね」

穏やかな秋の陽射しの中、可憐と和子の間で目には見えない光線がばちばちと飛び交った。
にっこりと可憐は笑う。
「あら心配いりませんわ、お姉さま。清四郎なら私が体を張って守りますう」
艶やかに和子も笑みを浮かべる。
「頼もしいわあ。体を張るのって可憐ちゃん得意そう。唯一の武器っぽいもんね。
 あっ、それからお姉さまって呼ぶ必要は「今後も一切ない」から和子さんで言いわよ」
「ああ、お姉さまっていかにも年上ですって言ってるみたいで嫌ですよね。じゃあ、もしも、
 なんですけど私が清四郎の家族になったりしたら何てお呼びしたらいいですか?」
「そうね、「絶対ない」と思うけど、もしそうなったら 和 子 様、とでも呼んでもらおうかしらあ」
「わあ、素敵。女王様みたいですね。了解しましたあ」
ひきつっている清四郎の前で姉と恋人は不気味な笑いを浮かべた。
急に和子がこちらに向き直ったので清四郎はびくっとした。
「そういえば清四郎。可憐ちゃんにはあのことナイショにしておいてね。
 知られたら恥かしいわ。可憐ちゃんが嫉妬で眠れなくなっちゃうかもしれないし」
唇に人指し指を当ててみせる和子に清四郎は目をむいた。
「何を言ってるんですか、姉さん。そうやって誤解をまねくような言い方するのはやめてくださいよ!」
可憐が前へ進み出た。
「何かしら清四郎」
「いやいやなんでもないですよ」
和子が清四郎を押しのける。
「あら、聞きたあい? しかたないわね。恥かしいけどお話するわ……。実はね清四郎のファースト
 キスを奪ったの私なの」
固まる可憐に清四郎はすがりついた。
「赤ん坊の時の話なんです。赤ん坊の時の話なんです。聞いてくれ、可憐っ!
 僕にはどうすることもできなかったんだあ!」

ふん、と鼻で笑うと可憐はさらに前に進み出た。
「キスくらい。あたしだってしました」
和子もさらに前に出る。
「それに。あたしは清四郎の裸だって見たことある」
清四郎は絶叫した。
「それも子どもの時だあ!」
和子はぎっと清四郎を睨んだ。
「違うわ! 高校生になってから見た」
清四郎は頭をかきむしった。
「いつ見たんですかっ」
「お風呂のぞいたのよ」
「のぞかないでくださいよっ」
ふふん、と可憐はさらにさらに前に出た。
「裸なんか。あたしだって見ました、清四郎のハ・ダ・カ」
和子はムッとした顔になった。
「あら、もう清四郎としたの。いやらしい。だから最近の子って……」
可憐が叫んだ。
「まだ綺麗な身体ですっ!」
清四郎が声にならない声で叫んでいる。
和子はニヤリと笑った。
「ふうん。まだなんだ」

和子の圧力に負けそうになりつつも可憐はぐっと胸を張った。
「ええ、まだです。でももうすぐです」
疑い深い目で和子はじろじろ可憐を眺めた。
「どうかしらねえ」

可憐は叫んだ。
「あの、和子さん。いくら清四郎のこと愛していても、清四郎はあなたの弟ですから!
 清四郎とエッチできませんし」
ぷいっと和子は横を向いた。
「できるもん」
清四郎が騒いだ。
「できません!」
可憐と和子と清四郎が揉めているところにやっと追いついた美童、魅録、悠理、野梨子が
耳にしたのは可憐の絶叫だった。

「と・に・か・く! 清四郎を愛してるのはあたしですから! 清四郎を守るのもあたしですし!
 清四郎にキスして、清四郎の貞操をもらうのはあたしですから!!」

彼女の叫びは通りの向こうを歩いている人まで振向かせている。
頭をかかえてうずくまる清四郎に美童は同情の目を向けた。
魅録は顎をさすり、悠理はうれしそうに笑い、野梨子は困って顔を赤らめる。
爽やかな風が彼らを一撫でして通り過ぎていった。




ああ、やっぱり。


             可 憐 さ ん に は  か な わ な い 






<終わり>
長い間おつきあいいただきありがとうございました。
楽しく書かせていただいた上、
温かい感想をいただき皆様に感謝しております。
本当にありがとうございました。
685名無し草:05/03/14 00:24:26
>可憐さんにはかなわない
連載お疲れ様でした。最後の最後まで、腹抱えて笑わせていただきました。

>「と・に・か・く! 清四郎を愛してるのはあたしですから! 
>清四郎を守るのもあたしですし!
>清四郎にキスして、清四郎の貞操をもらうのはあたしですから!!」
最後に和子さんと言い争いした挙句のこの台詞、是非是非可憐さんには
この言葉どおりに清四郎の貞操を奪っていくところまでいっていただきたいと
切に願っています。
686名無し草:05/03/14 17:49:44
>可憐さん
お疲れ様でした!ラストまで最高に面白かったです。
ブラコン和子姉さん、ツボにはまりました〜!
このお話の有閑メンバーは本当にかわいくって大好きでした。
作者さま、ありがとうございました。
687名無し草:05/03/14 22:31:32
あ、「可憐さんには〜」だ。完結乙でございます。
ハチャメチャでパワフルでとことん清いまでのギャグ路線で、
こういうのも漫画(文字だけど)っぽくて楽しかった。
可×清なのにドロドロでもなく(ある意味ドロドロ?)、
しっとりでもない、コテコテギャグコメディが新鮮だった。
688名無し草:05/03/14 23:03:59
>可憐さんにはかなわない
ちょっとだけ復讐された美童と魅録、
かわいそうなはずなのに、いい気味だと思っちゃったのは、
彼らがかわいい清四郎を虐めていたからでしょうか。
ラスト、和子さんの登場に大爆笑でした。
作者さん、最後まで笑わせてくれてありがとう。
可憐ちゃん、清四郎をよろしくねー!
689名無し草:05/03/17 07:59:51
基本的に可×清は嫌いなカポですが、「可憐さん」だけは好きで読んでました。
時々スルーしながらの飛ばし読みでしたが面白かったです。お疲れ様でした。
690名無し草:05/03/17 23:07:36
読むだけえらいな。
自分は苦手なカポー(原作上でも今後の展開での可能性がなさげ)はスルーだわ。
文章は面白そうだけども、ありえないから読んでてどうしても違和感あるんだもん。
691名無し草:05/03/18 10:03:35
>>689,>>690
まず空気を嫁
692名無し草:05/03/18 11:11:07
>>691
いいかげんスルー覚えろって。スルーできないあんたが1番ガン
693名無し草:05/03/18 23:21:39
また※※※スキーか
694名無し草:05/03/19 00:18:46
だーかーらーぁ。どっちもど(ry

>アラシハ ホウチガ ダイキライ スルースルー ツリモ アオリモ フミコエテ ユクガ スレノ イキルミチ
695名無し草:05/03/19 10:16:42
>>693
名前3文字って誰と考えてみたら
清四郎以外はみなそうだった
696名無し草:05/03/19 10:22:29
あ、漢字だと二人に限られるのか 
有り余る想像の余地を残したヒントをどーも
別にどうでもいいけど
697名無し草:05/03/19 13:41:23
百合子
698名無し草:05/03/19 15:16:50
瑠璃子
699名無し草:05/03/19 15:35:33
真理子(美童ママ)
700名無し草:05/03/19 17:33:43
富久娘
701名無し草:05/03/19 22:43:27
わーいいっぱいいる〜
702名無し草:2005/03/23(水) 09:32:53
便乗・保守ー。

緋沙子
摩利絵
あゆみ
703名無し草:2005/03/23(水) 10:16:56
「摩天楼の幻」の作者様
めげずに続きをお願いしたいです。
私個人としては好きな作品でした。
704名無し草:2005/03/23(水) 22:11:41
>702
誰?って思ったけど、どうにかわかった。
このラインナップなら、ついでに久美子(出羽桜)も入れてあげてw
705702:2005/03/23(水) 22:45:25
>704
レスありがと。確かにそうだねw でわ。

(浦霞)緋沙子
(高清水)摩利絵
(吉乃川)あゆみ 
(出羽桜)久美子 というコトでw
706名無し草:2005/03/23(水) 23:14:57
(ラッシャー)さやか を入れるのは反則でつか?w
707名無し草:2005/03/23(水) 23:44:09
>705
 このラインナップなら、(沢の鶴)美智子  はいかがでせう。

>706
(鬼ころし)あやこ

しかし、探せばまだまだ増えそう。
そろそろこの人誰?ってかんじだけど。

 
708名無し草:2005/03/24(木) 00:02:22
さやかちゃんはわしの心のひまわりだっただ
709名無し草:2005/03/24(木) 10:47:51
アケミとサユリも忘れちゃいけないだ!
710名無し草:2005/03/24(木) 22:12:49
有閑ってみんなお酒の名前だよね。
てことはアケミとサユリも何かあるの?
誰か知ってたら教えてほしいっす。
711名無し草:2005/03/24(木) 23:06:56
>アケミとサユリ
そういえば、そんなお酒知らないなあ。
あるなら知りたい!
712名無し草:2005/03/24(木) 23:13:03
アケミは御大の子分の名前(松苗)
サユリはしらないけど、吉永サユリか一条サユリ?
713名無し草:2005/03/25(金) 01:27:38
昔、サユリという名前のアシがいたとか?
714名無し草:2005/03/25(金) 15:31:54
タマとフクにはお酒の名前を充ててるのに
一条センセーちょっと細部に甘かった(笑)?
アケサユワインなんてのがとあるファンサイト作品に出てたが
もちろん作者の想像だと思われ。
あ、ファンサイトネタはたたかれそうなんで
どこの作品?とかって聞かないでね。
715これ、いただくわ -16:2005/03/26(土) 00:09:18
>>659
はやる心に足の運びもおぼつかない。バタバタというよりもヨロヨロといった様
子で剣菱の老練な執事・五代が駆け込んできた。ここは剣菱邸の奥まったところ
にある一室、万作の執務室である。
「若、若っ、あれはやはり兼六めの仕業でしたぞっ!」
豊作の部屋に押し入った賊の探索を、五代は独自に続けていたらしい。
誰しもが警戒を解く、その優しげな風貌は探索業務を気持ちばかり助けはしたが、
やはり老体にはキツイ仕事だ。もともとほそみの頬がさらにこけ、目の下には隈
まで浮いている。ソファにちょこんと座って葛餅をつついていた万作は、労るよ
うな眼差しで五代を迎えた。
「けっ兼六めは、はっはじめから坊ちゃまの…」
疲労の色濃い顔を上気させ、ふところに呑んだ調査書を気忙しく取り出そうとし
た五代に向かい、万作はふかく頷いて応えてやる。
「そら端っからわかってるだがや」
キョトンとする五代。説いて聞かせるように万作は言葉を継いだ。
「豊作が金に飽かせて世界中から掻き集めた古文書だ。その値が上がらねぇわけ
 ねえだよ。足がつかねえように転売したふうにみせかけただけだがや。も少し
 まともな金を動かしておいたらわしも気付かんかったかもしんねぇのに…あの
 ジジイは昔から渋チンだからなあ」
今更ながら主人の洞察鋭さに感服し、五代は黙って調査書をテーブルに置いた。
「んでもこうして証言をとってきてくれたのは助かるだがや。わしもあん時ゃ、
 頭に血がのぼってしまって奴のシッポを掴むのを後回しにしてしまっただよ。
 よく気が付いてくれただなあ」
心からの労わりに五代は深々とこうべを垂れた。
716これ、いただくわ -17:2005/03/26(土) 00:10:00
「それにしてもわからねえのは、どうしてそこまでして豊作の宝もんを欲しがった
 かっちゅうことだがや…」
とそこへ、当の豊作が書類の山をかついで現われた。
被害当初、すわ再起不能かと周囲をハラハラさせた豊作であったけれども、いつの
間にやらすっかり元気を取り戻して、今では何事もなかったかのようにせっせとデ
スクワークに励んでいる。
「父さん。こことここにサインをください。これでメテス社の買収は完了ですよ」
こう見えて豊作、存外鷹揚なところがある。個性の強い面々が居並ぶ剣菱家では没個
性の立場に甘んじているけれども、これでも小心と鷹揚という相反した性質をあわせ
持つ、世間ではあまり例を見ないタイプだ。
腹に喰らった賊の一撃はたしかに効いた。だが長い人生だ、そんなこともたまにはあ
るさ。それに盗られた古文書もいつか又競売に掛かる日も来るだろう。そうしたら又
買い戻せば良いのだ、と今ではすっかり暢気に構えている――と言うよりも、あの事
件そのものを早くも忘れかけている。
「あっ吉野堂の葛餅ですね。おいしそうだな、僕もいただこうかな」
テーブルの上に置かれた紙束の表紙には『古文書盗難事件 報告書』の文字が墨痕あ
ざやかに躍っている。しかしそれに目をとめる風もなく、豊作はいそいそと葛餅を取
り分けにかかる。
だがそんな姿が、五代の目にはなんとも健気に映るのだ。
ああ坊ちゃまはご無理をなされている。若や私に心配を掛けないよう、わざと明るく
振る舞っておられる――
近頃の五代、豊作の笑顔を目にするたびに思わず目頭が熱くなるのを禁じえない。
717これ、いただくわ -18:2005/03/26(土) 00:10:43
五代の執事としての忠勤は先代から続くものだ。さらにその前には五代の父が剣菱の
先々代に仕えていた。
だがその父は不幸なことに早世し、それからさほど間をおかずして母までもがあの世
へ旅立った。五代は幼くして天涯孤独の身の上となってしまったわけだ。
そんな彼を懐深くに抱え込むようにして、先々代は言ったものである。
『これからは儂を父とも思え』
幼い彼を不憫に思ったのもあろうがそれと同時に、その父の並々ならぬ忠誠に報いた
く思う気持ちがあったのだろう。子供心にも有難さがジンと沁みた。
家族同様、剣菱の屋敷に住まわせてもらい、その上学校まで出してもらって、晴れて
執事見習いとなれたのがハタチの年。代替わりしていた先代について、やっとこれか
ら恩返しの真似事ができると喜んだのも束の間、その頃すでに臥り勝ちとなっていた
先々代が―――とうとういけなくなった。
『倅をたのんだぞ』
死にゆく者とは思えぬ力で五代の手を握りしめた先々代。
枕頭には先代と、そして青年期に足を踏み入れたばかりの万作がじっと端座してふた
りやり取りを見守っていた。
『旦那さまぁ…』
親を亡くすのは三度目だ。胸の裡がわやわやに乱れてどうにも言葉が見つからぬ。
そんな彼を包み込むように老人のまっすぐな眸が見つめていた。
三分か、五分か。いずれそれくらいの時間をただじっと目と目を合わせて言葉もなく
語り合い、やがてふうっと老人の頬がほほえみに弛んだかと思うと、静かにその手が
離れていった。
その離れ際だ。筋の浮いた大きな手が、幼い日に五代の頭をそうしてくれたように、
彼の膝頭をいとおしげに撫でたものである。
『ありがとうよ、五代』
718これ、いただくわ -19:2005/03/26(土) 00:11:37
それが五代に対する、先々代の最後の言葉であった。
以来五代は妻も娶らず、先々代から受けた恩を徳として剣菱一筋に励んでいる。
「ほら五代もおいで。一緒に食べよう」
自分の分と五代の分、豊作はきちんと等分に盛り付けて茶まで淹れてやる。
老いた執事の双眸にふたたび熱いものがせり上がって来た。
これも寄る年波のせいか。否そうではあるまい。
五代はこのまめまめしい御曹司を――どこか先々代の面影を残す豊作を――深く深く
愛しているのだ。
「…では遠慮なく頂戴いたします」
そう言って葛餅の小皿を持ち上げた、その時である。不意に豊作の目が報告書に吸い
寄せられた。
メガネの奥でパチクリと瞬きをくり返し、表紙に書かれた一文字一文字を咀嚼するか
のように読み下したあと、豊作はにっこりと五代をふり返った。そして云うのだ。
「ありがとう、五代」
五代はあわてて顔をふせた。返事をしようにも咽喉が詰まって声にならない。
「いえいえ…」
どうにかそれだけ言葉にするといそいで餅をほうり込む。
豊作に取り分けてもらった葛餅は、とても優しい味がした。
そして大盤振る舞いのきな粉でちょっと――いや、かなり噎せた。

     つづきます
719sage:2005/03/26(土) 19:16:50
>これ、いただくわ
五代大好きです!!五代はホント事ある毎に感動で涙を流してそうですよね。
五代と豊作&万作との絆にぐっときました。
この作品は有閑メンバーが皆、らしくてとても好きです。
素敵な作品ありがとうございます。続きお待ちしております〜〜!
720名無し草:2005/03/26(土) 20:26:12
>719
初心者?約束事読んで書き込めば。
確信犯?釣られてやるよ。
721名無し草:2005/03/26(土) 20:41:04
私も五代好きだー萌えないけどw
722名無し草:2005/03/26(土) 23:15:20
2ちゃんは仕方ないけど、汚らしい言葉使いや態度の
女性が多くて引く。
ネナベぶってるのかしら?
それなら失礼。
723名無し草:2005/03/27(日) 00:26:55
>これ、いただくわ
メインキャラの掛け合いの次は、剣菱邸に場面が移るわけですか。
うーん。面白かったです。
悠理が(自分のために)大変な目に遭ってる時に、
優雅に葛餅食べてる豊作兄ちゃん。あんまりらしくって笑いました。
次回はどう展開するのか、期待してます。
724名無し草:2005/03/27(日) 23:00:31
大盤振る舞いのきな粉に噎せるって描写がうまいなーと思った。
本筋じゃないところでも表現がいい味出してますね。
まめな豊作さん、イイ!
725名無し草:2005/03/27(日) 23:15:03
>これいただくわ

オツです。
珈琲じゃなくてきな粉でむせるのがGJ。
期待しています。

ところで有閑倶楽部の家計簿&スケジュール管理ソフト、落とした人いる?
726名無し草:2005/03/29(火) 02:49:25
短編をうpさせていただきます。
魅×悠です。10レスお借りします。
727春の嵐(1):2005/03/29(火) 02:50:36
「雨が来そうだな」
「・・・ああ、今のうちに飛ばすぞ」
たがいの声が勢いを増しはじめた風に吹きちぎられる。海岸線の国道には二人を乗
せ疾走するバイク以外にひとつの影すらない。まばらに点在する松林が次第に大き
く鳴り騒ぎ、途切れ途切れに見える灰色の海は白い波頭にささくれ立っていた。悠
理は温かい背中にヘルメット越しにきつく頬をつけ、回している腕に力をこめた。
728春の嵐(2):2005/03/29(火) 02:51:30
ささやかな港を抱き込んだ漁村の外れにようやく滑り込んだときには、激しく降り
出した雨と潮の飛沫で二人ともぐっしょり濡れそぼり冷えきっていた。
食事処を構えた小さな旅館が土産物屋や民家に混じってぽつんと一軒建っており、
吹き荒ぶ風に背を押されるまま引き戸をくぐる。
声を発することすら覚束なく、小刻みに揺れる手で、魅録は促されるままフロント
の台帳に記入した。ピンク色の短い髪からぽたぽたと滴たり落ちた水滴が、書き込ん
だばかりの文字を滲ませた。
「まあ、大変だったでしょう。今日みたいな日は漁も休みだし、あまりおかまいも
 できませんけど」
黒光りのする古びた台を挟んで、紅色の着物をつけたまだ若い女性が申し訳なさそ
うに微笑む。
「いえ。雨が止むまで休ませてもらえれば…」
グローブを握りしめたままの手の甲で額を拭いながら、魅録もぎこちなく笑みを返
した。わずかに目線を上げ、腕に巻いた時計を確かめる。重く垂れ込めた雲と鈍い
海の色に閉じ込められ、時間の感覚を失しなっていたが、まだ午の三時前だ。
夜になる前に出発できれば、夜半すぎには東京に戻れるだろう。
それを聞くと女性は目を丸くし、破顔した。魅録の肩越しに、立ったままの悠理に
うなずいてみせる。
「この雨は今夜いっぱい降りつづけますよ。ゆっくりしていきなさいな」
729春の嵐(3):2005/03/29(火) 02:52:18
通された二階の部屋は八畳の和室で、日に焼けた畳と海を望む窓があった。
天気のいい日はさぞ気持ちのいい部屋だろうが、ガタガタとサッシが揺すぶられ夜
のように暗い。
「下にお風呂がありますから。それと、濡れたものはあとでおあずかりします」
お茶を煎れ、畳に手をついて仲居が退がると、立ちすくんだままの二人だけが残っ
た。無言で顔を見合わせる。首をかしげ途方にくれた表情の悠理に、魅録は何を
言おうか戸惑った。
湿気た空気に重苦しい沈黙がまとわりつく。
「あ、茶菓子!!」
視線を逸らせたのは悠理だった。机の前に座り込むと勢いよく盆の上の菓子に手を
伸ばしている。
「お前なあ、せめて茶でも飲んであったまれよ」
ほら、と湯飲みを差出し魅録も口をつける。
苦く熱い液体が喉を滑り落ちると、芯から冷えた身体の奥に小さな火が点るようだ。
両手で湯飲みを包み込み、悠理がはぁ、と大きく息をついた。
730春の嵐(4):2005/03/29(火) 02:53:12
「なあ、やっぱり部屋別々にしてもらえばよかったな。まさかなあ…」
「ん、いーよ、別に」
「つっても、やっぱり、なあ」
魅録の分の菓子まで平らげ悠理はにこにこと満足気だ。
時折閃く雷の光にも、「おー、すげー!!」とはしゃいでいる。
「なんだよ、元気じゃねーか」
「なんだよ?」
「いや、別に」
憮然とした魅録の前に窓辺から悠理が走ってきて、思いきり首をかしげて覗き込ん
でくる。まるきり男山と同じ行動に、魅録は笑って悠理を小突いた。
部屋の隅にきちんと畳まれていた浴衣を押し付ける。
「とりあえず着替えろよ。いくらお前でもそのカッコじゃ風邪ひいちまう」
「なんだよ、どうせ馬鹿だからだいじょぶだよ」
抱え込んだ浴衣で顔の半分を隠し、悠理がつぶやいた。
わずかに赤みを帯びた目が、ふて腐れたようにすいと逸らされる。
「あほ」
「…あほだもん」
悠理がくるりと背を向けた。
731春の嵐(5):2005/03/29(火) 02:54:13
「着替えるからむこう向いてろよ」
「へーへー」
出てようか、と声をかけようとしたが、なんだか過剰に意識しているようでそれも
躊躇われた。
結局、点けたばかりの明かりを消し、あぐらをかいて壁を向いた。濡れた服と悪戦
苦闘する悠理の気配に苦笑しながら煙草をふかす。
そうして煙の行方を眼で追った。狭い部屋だ。そうでもしないと気が紛れない。
背後でどんどん服を脱ぎ捨てていく悠理の身体が、暗い中に浮かぶ様を想像してしまう。
振り返って腕を掴めば…。
いや、そんなことしたらあっさり返り討ちだよな。
「魅録、なに笑ってんの」
おそるおそる、といったように悠理が覗きこんできた。
思わずバランスを崩し、後ろ手をつく。気がつけば指の間の煙草は吸い口の長さを
やっと残すのみだった。
「あぶね」
慌てて灰皿を引き寄せ、煙草を捩じ込んだ。
視界いっぱいに映る銀色の皿に執拗に灰を押しつぶす。
一瞬捉えた悠理の姿は洗いざらしの紺色の浴衣と濡れた髪のせいか、か細くどこか
頼りなげだ。
ここのところずっと、魅録の目に悠理はそう映った。いや、本人が意識していない
にせよ表情にそのまま直結する悠理の変化に、仲間が気づかない筈はない。
悠理が胸に抱え込むモノを知りつつも、気づかない振りをする彼らの優しさこそが
正しいのかもしれない。
だが、魅録は堪えられなかった。
いつもと変わらず笑う悠理にさえ、腹が立ってならなかった。
732春の嵐(6):2005/03/29(火) 02:55:56
「魅録も着替えれば」
「そうだな」
魅録の目の前に白い手が差し出された。掴んで立ち上がれ、ということらしい。
ふつう、逆だろ…。
躇いを振り切って掴むと柔らかな感触に似つかわしくない、思わぬ力強さで引き上
げられた。
「お前…」
「な、なに?」
「ふつう、逆だろ」
立ち上がった後、魅録は無言で悠理を見下ろしていたが、やがて低い声を押し出し
た。悠理は掴まれたままの掌をいそいで引き抜き、戸惑いをあらわにして魅録を見
上げている。
「お前だって一応女なんだからさ」
「は?」
目をぱちぱちさせる悠理に、魅録は言う。
「浴衣の合わせ目がさ。ほら野梨子がいつも着てるようにすればいいんだよ」
「…べつに、どっちだっていいじゃん」
悠理が顔をしかめた。泣き出しそうにも見える。野梨子、という名前に反応したの
かもしれなかった。
怒ったのか、悲しんだのか、どちらにせよ無理に笑うよりはましだ。
「よかないだろ。反対にすると死人なんだぜ」
「うひゃあっ」
言い終わるか終わらないかの間に、悠理が血相を変えて魅録の懐に飛び込んできた。
733春の嵐(7):2005/03/29(火) 02:56:48
「ゆゆゆゆ幽霊っ」
「あほ、んなわけねーだろ」
「うっ、後ろに何か…!」
魅録は呆れて笑ったが、悠理はしきりに背後を気にする。が、自分では振り返るこ
とが出来ないほど怖いらしい。仕方なく見てみると、襟に小さな羽虫がとまっていた。
その羽で、首筋を撫でられたのに違いない。
魅録の指にそっとつままれ放られると、それは薄い羽を透かし天井へとのぼって
いった。魅録の胸に齧じりつき、悠理はこれ以上ないほど肩を震わせている。
気の毒に思いながら笑いを押し殺し、宥めるように髪を撫でた。
縺れた冷たい髪が指先に絡まる。
…これまでは、清四郎の役だったんだよな。
だが、彼が昔のように悠理の髪を撫でることはもうない。それを思うと、安堵を上
回る感情が押し寄せてきて、魅録をやるせなくさせた。
きっと、同じことを想っている悠理が可哀想でならなかった。
734春の嵐(8):2005/03/29(火) 02:57:29
「う――っ…」
震えが、小刻みなものに変わっていく。
ブルゾンを掴み、悠理は必死に嗚咽を堪えていた。
「いいんだぜ、泣いても」
そう言うと、悠理はぶんぶんと頭を振った。
声を上げて泣けるのは、清四郎の前でだけなのか。
そっと細い背を包み込み、魅録は自分に言い聞かせるように強く言った。
「これからも、俺はずっとお前のそばにいる。だから、安心していいんだ」
何度も何度も繰り返し、髪を撫でる。どのくらいそうしたのか胸元を掴む手に
しだいに力がこもり、悠理が堰を切ったように泣き声を上げた。
激しい慟哭もろとも、きつく悠理を抱きしめる。
ずっと、泣くこともできずに、長い想いを実らせた二人を祝福した悠理。
何もできず、見ていただけの自分が歯痒かった。どうしてもっと早くこうしてやら
なかったのだろう。
幼い子どものように、自分の腕のなかで泣きじゃくる悠理がただ愛おしい。たとえ
悠理が恋い願う相手が変わらないのだとしても、自分もまた同じだろう。
きっと、未来永劫。
735春の嵐(9):2005/03/29(火) 02:58:07
「…ありがと、魅録」
「いや、落ち着いたか?」
「へへ。ごめん、ぐしょぐしょにしちゃった」
そろそろと顔を上げ悠理は照れたように笑った。
赤く染まった鼻の頭や腫れた瞼が痛々しいが、白い頬に涙の跡はない。
「いいさ、どうせびしょ濡れだったんだ。っと、悪ぃ。せっかく着がえたのにな。 
 風邪ひいちまう」
「だいじょぶだよ、馬鹿だもん。それに、魅録あったかいしさ」
濡れた魅録の胸にふたたび頬を寄せ、悠理がぽつんとつぶやいた。
「ごめんな、悠理」
「…なんで?」
「俺、今日雨になるって知ってたんだ。こんなひどくなると思わなかったけどさ。
 それなのに、晴れだって連れ出した」
「…うん」
もしかしたら悠理も知っていたのかもしれない。驚いた様子も見せず、頷いた。
「ありがと、魅録。…晴れたら戻ろう、みんなのとこへ」
「ああ」
「だからそれまで、もうちょっとだけこうしてて…」
腕の中で、悠理がつぶやいた。穏やかさを取り戻しはじめた呼吸と背に回された
掌の熱を感じ、魅録も瞼を閉じる。
736春の嵐(10):2005/03/29(火) 02:58:49
窓の向こうは雨と風とが狂おしいうなりを上げ、海の轟きが迫っている。
港に繋がれた船は高い波にあおられ、木の葉のように揺れているだろう。
だが、いずれ澄んだ空と太陽の光りを受けて煌めく海が全てになるに違いない。
――――今はただ、待つしかできない。

                              <おわり>
737名無し草:2005/03/29(火) 08:11:58
>春の嵐
魅録は悠理を連れ出してみたものの
まだ悠理の中に清四郎を思う気もちが強く残ってるのを見て
なにも言えなくなっちゃったのかな。
この二人の続き読みたいです。
738名無し草:2005/03/29(火) 11:09:40
>春の嵐
久々のうpありがとうございます。魅×悠ですね!
読んでいて、自分の胸の中にも、何ともいえない気持ちが込み上げてきました。
魅録のもどかしさ(複雑な気持ち)と、悠理の姿が画で見えるようで、
切ないけれど、余韻が心地好いというか……こういう雰囲気、大好きです。
素敵なお話を、ありがとうございました。
739名無し草:2005/03/30(水) 11:26:46
>738
何で久々のうpってわかるの?
740738です:2005/03/30(水) 12:19:21
>738
あ、ゴメンナサイ。何度か書き直してるうちに、文章間違えてました。
「久々の」は、「魅×悠ですね」の前にきます。
(魅×悠は、確か久々だったから)

>うpありがとうございます。久々の魅×悠ですね

と読んで下さい。誤解を招くようなレス、本当に申し訳ありませんでした。
741738です:2005/03/30(水) 12:21:41
自己レス。アンカー間違ってました。
>738 ではなくて >739 でした。 逝ってきます。
742名無し草:2005/03/30(水) 13:09:15
新連載行きます。
4−5回で終わればいいと思ってますが未定です。

魅×悠×清×野のどろどろスクランブルです。
目標はオカルトじゃない「世/に/も/奇/妙/な/物/語」です。

「正しい街」、今回は4レスいただきます。
743正しい街1:2005/03/30(水) 13:09:58
───なんで自分はここにいるのだろう?

目覚めて最初に彼女を襲ったのは、喩えようもない違和感だった。
目の前に自分を包み込む裸の胸。それは結婚して1年になる夫のもの。
だが、今の今まで自分がいた場所とは違う気がした。

さらりと亜麻色の猫毛を揺らしながら起き上がってみる。
まだ窓の外は薄暗い。
男性もののパジャマだけではひんやりとした空気が肌を刺す。
そこは自分が生まれ育った豪邸とは似ても似つかない、だけれど世間一般には
“高級”と呼ばれるマンションの一室。
最初に目に入ったのは、ベッドの足元のほうに置いてあるAV機器。
夫の趣味でかなりマニアックな品揃えがしてある。
もちろん10年や20年も前までのように大袈裟に大きければよいというものでは
ない。
デジタルが普及し、音質も改善された。
いかなメカマニアの夫でも改造の余地はほとんどないほどに完成されたコンパ
クトな品。

だけど全部デジタルってのもちょっと寂しいよな。
そう苦笑して一つだけ購入してあるのが一台だけ調和を乱している、アナログ
のレコードプレーヤーだった。
アナログで聞きたい曲もあるんだって言ってた。
でも自分はそんな曲は知らなくて、その気持ちは理解できると頷いた友人の
ほうがやっぱりこいつのことを支えてやれる奴だと思って‥‥‥

‥‥‥あの二人が結婚したのは正解だったって胸を撫で下ろしたんだ。
744正しい街(2):2005/03/30(水) 13:10:39
「悠理?起きたのか?何時だ?」
不意に夫に声をかけられて悠理はびくりとした。
そしてぷるぷると頭を振ると、まだ寝転がっている夫のピンクの髪に触れた。
「まだ5時。トイレ行くだけだからまだ寝てろ。」
「あー。」
むにゃむにゃと寝返りすら打たずに、それだけ彼は答えた。
そして彼は腕の中から離れてしまった愛妻の代わりに仰向けのまま枕を抱え
込むと、その枕の下で再度寝息を立て始めた。
相変わらずひどい寝相なんだからな、と悠理は笑んだ。
枕の下で苦しくないのか?
もっとも寝相の悪さにかけては自分も人のことを言えた義理じゃない。
今まで何度、隣に眠る男をベッドから蹴り落としたことか。
普通に考えて体重差があるんだからやすやすと相手を動かすことなどできない
はずなのだが、それでこそ悠理らしい、と男は苦笑いするばかりなのだ。

あ、でも魅録は怒る、か。

ふと頭に浮かんだ考えに悠理はまたも愕然とした。
さっきからなんなんだろう。
そんなことはありえるはずがないのに。
他の男と寝たことなどないはずなのに。

高校生の頃までの仔犬同士のような付き合いを乗り越えて、大学時代に魅録と
付き合い始めた。
そして大学卒業を待って結婚したのだ。
確かに付き合い始めるまで多少の紆余曲折はあった。
だが、結局悠理は魅録を選んだ。彼女をずっと見守っていてくれた魅録を。
745正しい街(3):2005/03/30(水) 13:11:22
台所に立つ。
別にこんな時間から朝食を作ろうというのではない。

そう。友人連中皆が驚いたことに、悠理は魅録と付き合い始めてから家事を
覚えた。いつまでも彼に甘えていたくなかったから。
彼を支えられる人間になりたかったから。
だから、そうして彼女は家事をしていたのだから。
この台所は彼女の城であるはずなのだから。

ほとんど音をさせずに引き出しを開ける。
軽くて音がしない、剣菱ハウスデザイン株式会社の製品。
このシステムキッチンは、家事を覚えた悠理と、その友人たちとでモニターを
してデザインしてもらったのだった。
だから友人たちの部屋の台所も配色などの違いこそあれ、ここと大差はない。

とはいえ、どこに何をしまって置くかまでは一致しない。
いくら仲がよい彼女たちとは言ってもそればかりは各自の使いやすさが優先
されている。

悠理が祈る気持ちで開けたそこでは、漆塗りの夫婦箸が黒と朱色の光沢を放っ
ていた。
これは結婚祝いに野梨子と、その実家である白鹿家から贈られたものだった。

ほっと、吐息が悠理の口から洩れた。
そうだよ、な。
746正しい街(4):2005/03/30(水) 13:12:10
バカバカしい考えだと思う。
なんで本当はここにいるべきが自分ではない誰かだと思ってしまったのか。

魅録と結婚してすでに1年。
いまや魅録は母の実家である和貴泉のグループ会社であるネットでの旅行予約
システムを引き継いで、さまざまな事業へも手を伸ばし始めていた。
機械いじりが好きで好きでたまらなかった少年のような魅録がいつ変わった
のか、悠理ははっきりと覚えている。
悠理にとっては思い出すことにまだ痛みを伴わずにいられない、あの日。

でもやっぱりシステム開発とかの事業をさかんにやってるんだから、実業家の
道を選んでも魅録は魅録でしかありえないのだ。
そして友人を大事にして、義に篤い。
そういうところを捨てきれない彼は実業家としては危うさを孕んでいると友人
連中が心配してしまうほどだった。
だがそんな心配は要らない。

それでこそ悠理が愛した彼なのだし。
それでこそ彼を信頼して事業提携しようという者も多いのだし。

表向きは完璧に人付き合いをこなして、実業家として大々的な成功を収めて
いる、時に冷酷なあの男とは、違う。
あいつにくらべたらささやかな業績ではあるけれど、だけど魅録の人脈は堅く
て確かなのだ。

悠理はそこまで考えるとほっこり優しい気分になった。
そして再び緩やかな眠りに落ちて行くために夫の腕の中に帰っていった。

                         つづく
747名無し草:2005/03/30(水) 14:17:18
>春の嵐
魅×悠ステキですー!やさしい魅録に萌えました〜
悠理切ないけど、魅録が側にいてくれれば大丈夫ですね。
続編がぜひぜひ読みたいです。

>正しい街
新連載お待ちしてました!スクランブル四角関係楽しみです。
次回に清&野が出てくるのでしょうか。続き気になってドキドキします。
748名無し草:2005/03/30(水) 14:47:30
>>春の嵐
しっとりとした雰囲気で、読み入ってしまいました。
魅録の優しさが、なんだか切ないです。
この後の二人の行方がとても気になります。

>>正しい街
新連載、嬉しいです。
この先どんな展開が待っているのか、続きをお待ちしてます。
749名無し草:2005/03/30(水) 22:01:19
>正しい街
ぐいぐい引き込まれるような描写ですね。
オカルトはちょっと苦手ですが、そうではないとのことなので、
続きを楽しみにしています。
個人的にドロドロは好きです。特に、この4人のw
もう一組の夫婦の登場は次回でしょうか。お待ちしてます!
750名無し草:2005/03/31(木) 18:10:14
>正しい街
続きを楽しみにしています。
751名無し草:2005/03/31(木) 23:27:12
正しい街、椎名林檎だね。
好きな歌なのでなんかうれしいかも。
悠理の声って椎名林檎っぽいかもしれないなと考えたことある。
752名無し草:2005/04/03(日) 22:28:02
摩天楼の続き読みたいよー
753名無し草:2005/04/04(月) 18:19:09
うん、読みたいね。
754名無し草:2005/04/06(水) 18:02:17
東京はいよいよ桜が咲き始めたね。
桜を見ると有閑倶楽部の卒業‘できなかった’事件を思い出すよw
755名無し草:2005/04/06(水) 21:34:47
今年二十歳になります。
彼らを追い越していく自分が悲しい
756名無し草:2005/04/07(木) 21:47:26
755>
その気持ちわかる。
和子さんも、豊作さんも追い越してしまったよ。
757:2005/04/10(日) 04:44:49
御無沙汰致しております。
http://houka5.com/yuukan/long/l-49-6.htmlの続きです
758檻(154):2005/04/10(日) 04:45:59
窓を開けると、九月の心地良い風が頬を撫でた――。

秋といってもまだほんの入り口なので、風は冷たくは無い。
が、そういってもそれは起きて動き回っている人間の感覚で、眠っている人間にとっては寒く感じるかもしれない。
――この子はどうなんだろう。
小鳩詩織はベットに横たわっている少女――久遠寺小夜子の整った寝顔を見ながら
数秒迷った挙句、そっと窓を閉めた。
ベットの側のパイプ椅子にどっかりと腰を下ろし腕時計に見ると、時刻は十時四十分――式開始二十分前を表している。
十一時には、開始の合図として園内に花火が上がる予定だ。
それまでに小夜子が目を覚ましてくれればいいが。
小夜子の人形のような顔を再び見ながら、詩織は深く溜息を吐いた。
綾香の元へ帰るのが遅れ、行動に不信感を抱かれればそこからほころびが出る――。
そうでなくとも、綾香はこういう奸計には人一倍敏感なのである。
それは他の誰よりも、詩織がよく知っていた。
二度目の深い溜息と共に顔を上げると、小夜子の枕元の花瓶に目がいった。
真っ紅な彼岸花が数本、活けてある。
何もこの花にしなくてもいいのに――詩織は苦笑する。
大方スタッフ連中の誰かが何も知らずに活けたのだろうが、それにしても不謹慎だ。
彼岸花は『彼岸』という言葉がそのまま意味するように、あの世を象徴したあまり縁起のいい花ではない。
花や植物に関しては明るくは無い詩織あたりが知っている位だから、世間では言わずと知れた事実ではないのだろうか。
例えその事実を除いたとしても、この紅く毒々しい色をした花はこの『救護室』という
傷を癒す為の場にはそぐわない。
季節の花にしても、秋桜とか百日紅とか他にいくらでもありそうなものだ――。
そんな事を面々と考えていると、ベットの中の少女が意識が戻ったのか、軽くうめき声を発した。
759檻(155):2005/04/10(日) 04:47:49
長い睫が、二、三度、痙攣する。
お姫様のような小夜子が目覚めるその姿は、まさしく幼い頃
絵本の挿絵で見た『眠り姫』の目覚めのシーンを連想させた。
「気が付いた?」
恐らく自分は今、どぎつい顔をしているのだろう――詩織は自分をそう分析していた。
こういう時に他人に対して、優しくしたりいたわったりという行為が、自分は苦手なのだ。
だが予想に反して小夜子は、恐れるでもなく動揺するでもなく、目だけを左右に動かし
今自分が置かれている状況を、冷静に判断しようとしているようだった。
「伊吹さぁん、彼女、目を覚ましたわ」
詩織は小夜子の落ち着いた様子を見て取ると、自身の背後にある白いカーテンの向こう側に向けてそう叫んだ。
ガタガタと椅子を引く音がしてカーテンが捲れると、ショートカットの白衣を着た女性が無表情で小夜子を見つめている。
『伊吹』と呼ばれたその女性は、格好から見るにこの救護室の主であり、医師であるらしかった。
「二十分程、コーヒーでも飲んでいらっしゃいな。
ここは私が見ておくわ――何かあったら、携帯で呼ぶから」
一見ねぎらいの言葉にも聞こえるが、語気は有無を言わせぬそれであり、要は体のいい人払いだった。
だがそこは心得ているのか、伊吹と呼ばれたその女性は簡単に礼だけを述べ、静かに部屋をあとにした。
そしてそれを待ち構えるかのように、詩織はバタンというドアが閉まる音と同時に、素早く携帯のダイヤルを押し始めた。
「――小鳩よ、救護室の監視カメラをオフにして頂戴。盗聴機能もね。
私の従姉妹が背中に怪我をして運び込まれているの。衣服を脱ぐから――そう。
――許可? 許可なんて要らないわ。私がそうしろと言ってるの、これは命令よ」
一方的に捲し立てて電話を切ると、十秒と経たないうちに部屋中からプツンプツンと
小さな機械音が聞こえてきた。
その音の数から察するに、十といわない数のカメラや盗聴装置が設置されていると思われる。
詩織は念の為部屋の隅々まで見て周り、全て装置が切れている事を確認すると
最後にドアに鍵をかけ、元いたパイプ椅子にどっかり座り込んだ。
760檻(156):2005/04/10(日) 04:49:23
「さてと――」
小夜子は上半身だけをようやく起こし話を聞く体制に入ったが、薬の効き目がまだ切れていないのか
ぼんやりと俯いていた。
「アンタの冒険談を詳しく拝聴したいところだけど――あんまり時間が無いのよ」
詩織は自らのポケットからタバコの箱を出し、小夜子にちらつかせ
小夜子が無言で頷くと、手慣れた仕草でタバコの先に火をつけた――。
「単刀直入に聞くわ――アンタをこういう目に遇わせたの、誰?」
言葉に反応しない小夜子に特にいらつく事も無く、詩織は淡々とタバコをふかしながら先を続けた。
「薬を嗅がされる前なのか後なのか判らないけど、アンタ、何発かくらったんじゃない?
致命傷になりそうに無い場所にキレイに数箇所、痕があるわ。どっちにしても、素人じゃないわね。
喧嘩に相当手慣れてるか、そうじゃなければ武道を底々たしなんでるか――違う?」
そこにきて恐らく意識を取り戻して初めて小夜子は目を大きく見開き、少なからず感情を表した。
「あともう一つ――これはさっきいた伊吹っていう医者の見解なんだけど、アンタを眠らせた薬っていうのは
特殊な薬で、普通の睡眠薬とは効能がかなり異なっているらしいわ。
医療現場ではごく限られた一部の分野の治療でしか使用されないらしいし、一般人はまず使わない
――というより、入手するルートが無いに等しいそうよ」
詩織はまだ半分も吸っていないタバコを、灰皿の中で揉み消した。
平静を装ってはいるが、この尋常ならざる事態にその実、心中穏やかではないらしい。
761檻(157):2005/04/10(日) 04:51:05
「――清四郎さんです」
詩織の動作は、二本目のタバコを箱から取りかけたまま止まった。
小夜子は詩織の顔を見つめ、彼女が意味を把握していないの悟ると、もう一度ゆっくりと説明を始めた。
「朝――九時を少し回った頃、電気管理塔の裏で清四郎さんに遇いました。
話をしている内に口論になって、揉み合いになった後――薬で眠らされました」
「電気管理塔の裏なんかに、何の用だったの?」
「――爆弾を、仕掛けに」
「爆弾」
口の中で小さく復唱して、パイプ椅子の背もたれにこめかみを押さえながら、再び深くもたれた。
「『爆破』――それがアンタたちの作戦なのね」
「はい」
詩織は今日の作戦内容が、どんなものであるかを知らされていない。
作戦内容を聞いてどうなるものでもなかったし、美童も深くは話そうとしなかった。
詩織の役目は、小夜子を自分の従姉妹という存在に仕立て
兼六スタッフ内での小夜子の位置の安全を確立するという、それだけの事だった。
「その爆弾はどうしたの?」
「清四郎さんが持ったままで居るのか、処分したのか……どちらにしても、もうあの場には無いと思います」
「『思います』って事は、持ち去った現場を見ている訳じゃないのね。何を根拠にそう思うの?」
「口論のきっかけとなる原因が、爆弾だったからです。彼は、爆破装置の撤去を私に要求しました」
小夜子は花瓶に活けてある彼岸花を一輪手に取り、ゆっくりと茎を回し始めた。
762檻(158):2005/04/10(日) 04:52:49
「彼、どうあっても結婚したいのね」
「いいえ、それは違うと思います」
小夜子は持っていた彼岸花をそっと花瓶に戻し、そのまま詩織と目線を合わせた。
「彼は結婚式から脱出を試みるはず――いいえ、恐らく最初から結婚などするつもりはなかったんです」
「ちょっと待ちなさいよ」
詩織は三本目のタバコを手にしていたが、結局火を点けないまま灰皿の中に押し当てた。
「アンタの意見、矛盾してるわよ。脱出するつもりなら、どうしてアンタたちの手を借りないの?
仮に借りる気が無いにしても、アンタを殴って気絶させるまでの意味がどこにあるのよ」
いささか興奮気味に捲し立てた後、詩織は半ば手癖のように、四本目のタバコを箱から取り出した。
「口論したって言うんなら、何か話したんでしょ、清四郎君と。
言いなさいよ、何話したの」
次第に語気が荒くなり、まるで警察の取調べ尋問のようだと自分でも感じる。
「それは――申し上げられません。野梨子さんのプライベートに関する事柄も含まれていますから」
「ノリコ?……ノリコって、清四郎君の隣に住んでる幼なじみっていう、あの子?」
「はい」
詩織は記憶の糸を辿って、データを抽出する。
脳裏に浮かんだ顔は、目の前の小夜子に勝るとも劣らないほど整った顔立ちの、日本人形を思わせる少女だった。
だが野梨子に関する記憶が甦っても、それは清四郎の支離滅裂な行動とは結びつかない。
これが今流行の韓国ドラマだったりすれば、野梨子に嫉妬させたいが為の
清四郎シナリオによる擬似結婚という線も考えられるが、『菊正宗清四郎』という器は
そんなありきたりな純愛ドラマを繰り広げるには、余りにも大きすぎるように感じられた。
アレはそんな男じゃない――詩織の勘は、そう告げている。
自分の手を全く汚さずに事を進めるか、仮に汚すのならば自分がやったという形跡を片鱗も残さずに処理するはずだ。
彼には、それだけの才覚がある。
763檻(159):2005/04/10(日) 04:54:12
「警視総監の松竹梅時宗さんと、御懇意ですか?」
小夜子の声に、考えに熱中していた詩織は我に返った。
「『御懇意』って程、大層な仲じゃないわね」
実際、結婚式の警備の打ち合わせで何回か会っただけで、会えば思わず顔がほころぶような砕けた間柄ではない。
「松竹梅さんと連絡を取る事は、可能ですか?」
「ええ、今日は警備の関係で彼とはいつでも連絡がつくようになってるわ」
それでは――と前置きをして、小夜子は真剣味を帯びた顔つきで、詩織を見つめた。
「彼に頼んでいただきたい事があるのですが」
「……頼み?」
「はい。先ほどの話に出てきた白鹿野梨子さんを、至急保護して頂きたいのです」
また、『野梨子』だ――。
詩織は軽く頭を抱え、小さく舌打ちをした。
先ほどから出てくる『野梨子』というキーワードは、詩織の頭の中で今回の一件と上手く絡み合わず
少なからずイライラの原因となっている。
「保護、という形をとる意味が判らないわ」
通常、『保護』といえば庇う、助ける、守るなどの意味合いが含まれているが、一体何から野梨子を保護するのかが判らない。
「私の推測がもし当たっていれば――野梨子さんは今日の式中に、死に到る可能性が多分にあります」
「しっ、死ぬっっ!?」
ガタンと大きな音を立てて、パイプ椅子が倒れる。
突拍子も無い言葉が小夜子の口から飛び出した為、詩織は大人気なく動揺してしまった。
「死ぬ――死ぬって、誰かに殺されるっていうの?」
だとすれば、その為の保護なのか。
「他殺……とは、一概に言い切れません」
「じゃあ想いを寄せる清四郎君が結婚してしまうから、当てつけの自殺とでも?」
小夜子は小さく首を振る。
「完全な自殺でもありません。強いて言えば、『限りなく他殺に近い自殺』です」
764檻(160):2005/04/10(日) 04:55:33
「先ほども申し上げましたが、これはあくまで私の推測に過ぎません。
ただ、外れれば過剰な妄想狂の戯言で終わりますが、万が一、推測通りに事が進んでしまったら、後悔という一言では済まされません」
「白鹿さんから事情を聞いて、自殺を思い止まらせるという手は駄目なの?」
自殺をするというならば、それ相応の事情があるだろう。
すんなり解決という訳にはいかないだろうが、第三者の視点から新しい解決策を見出すという方法は取れないだろうか。
「あの方はある意味、清四郎さんの上を行く方だと思います。
恐らく私達が何かを聞き出そうとしても、上手くかわされて終わりになるような気がします」
詩織は野梨子の風貌を、脳の中に再度引きずり出した。
確かに『隙が無い切れ者』の部類に入りそうな人間ではあるだろう。
「この場合、何の拘束力も無い私達より、警察の方に見張っていていただいた方が効果があると思います。
自分の身が公的機関に委ねられれば、野梨子さんも自殺という手段に出難くなると思いますし
他者から危害を加えられる可能性も低くなると思います」
冷静に解決策を提示する小夜子を見ながら、この子もまた、いわゆる『切れ者』タイプなのだろう、と詩織は考えていた。
ただ、この話し方やちょっとした仕草、物事についての考え方から察するに、野梨子というより――。


「アンタ、清四郎君に似てるわね」
つい、心の中で思ったことが、口をついて出てしまった――。
「あの子、ここ一週間、綾香の所に住んでたのよ。アタシは綾香の秘書みたいなもんだから
清四郎君とも、行動を共にする機会が結構あってね。今のアンタの意見や話し方聞いてたら、何となく似てるな、って思ったのよ。……あ」
765檻(161):2005/04/10(日) 04:56:59
最後の『あ』は、恐い位厳しい表情で詩織を見ている小夜子を見て、出た言葉だった。
「……っと、悪かったわ。話の腰を折るつもりじゃなかったんだけど。
アンタの意見、的確だと思うわ。アタシはアンタの提案通り、警視総監に連絡して白鹿さんの保護の件、頼んでみる。
アンタは気に掛かるだろうけど、ここで寝てなさい。
さっきも言ったけど、アンタの嗅がされた薬は特殊な物なのよ。目が覚めても三十分もすれば、また強烈な眠気が襲ってくるわ」
また、妙な場所で倒れられても困る。
今からは、詩織自身が右に左に動かなければならない――。今度こそ、フォローは出来ない。
「じゃあ、行くわ。とりあえず、白鹿さんは保護したら警官の護衛付きでここへ連れて来るから。
アタシはその後、式場で清四郎君に付いて彼が妙な行動に出ないよう、側で監視するわ。
アンタは式が終わるまでに、アタシ達が次に取るべき行動を考えておいて。
アンタの仲間の『清四郎奪還組』の四人には、大人しくするようにアタシが直接伝えとくわ。何かあったら、これで連絡なさい」
詩織はそう言って、予備の携帯を小夜子の枕元に置いて立ち上がった。
「詩織さん」
小夜子は詩織が『清四郎に似ている』と言った直後から今まで、険しい表情を崩さないままだった。
「お話したい事が、あります」
話の腰を折った事が、そんなに気に喰わなかったのだろうか、と詩織は訝しがった。
だが野梨子捕獲を『大至急』と言ったのは、他ならぬ小夜子だ。悠長に話などしている場合ではない。
「話なら、式が終わって聞くわ」
「いいえ!」
――締め切ったドアの向こうまで聞こえるような大きな声に、詩織は思わず固まった。
「今が、いいんです。今ここで、詩織さんに聞いて頂かなければいけません」
諦めて、詩織は溜息まじりにパイプ椅子に座り直した。
「そんなに凄い顔つきで話すのなら、さぞかし重要な内容なんでしょうね」
「――そうかもしれません」
詩織の皮肉が効いた言葉にも、小夜子は笑いもしなかった。
766檻(162):2005/04/10(日) 04:58:25
「そんなに重要な事なら、仲の良い友達とかに話したら? そうよ、それこそ白鹿さんとか、剣菱のお嬢様とか――」
「私の事を知り過ぎていたり、情が入りあっている間柄だったりする人間に話すには、この内容は適しません。
――逆に、私の顔も知らないような人に話しても、当然ですが意味はありませんが」
要は、顔見知り程度の人間に聞かせるのが一番適しているという事なのだろうか。
だとしたら、確かに自分は適していると言えなくはない。
「先ほど、詩織さんが言われた事ですが――」
「さっき、ってどの話?」
「私と清四郎さんが似ている、という話です」
「ああ――」
やっぱり、と詩織は内心うんざりした。小夜子は話の腰を折った事に、恐らく未だ腹を立てているのだ。
「だから、悪かったわよ。アンタが真剣に話してたのに、茶々入れたりして」
「――怒っているんじゃありません」
小夜子は再び彼岸花を手に取り、手の中でくるくると回した。
「似ていて、当然なんです。私達は――受け継いだ遺伝子が、同じですから」
紅い彼岸花の花びらが、ひとつ、またひとつ、真っ白いシーツの上に落ちていく。
「私達は、兄妹です」
人は、時として突然衝撃的な出来事に遭遇した場合、脳がそれをストレートに受け入れられない場合がある。
今の詩織が正にそれで、非常に判りやすいはずの一文を、わざわざ曲解して解釈していた。
「それは、アンタが……清四郎君を、兄の様に慕っているって……事、よね?」
「――いいえ」
小夜子はもう、険しい顔はしていない。
ただ、何かを見失った旅人のように、儚く、悲しげな顔をしていた。

「私――久遠寺小夜子と菊正宗清四郎は、血の繋がった兄妹なんです」

気の遠くなるような台詞を聞いた後、詩織は遠くで花火が上がる音を聞いた。
午前十一時――式開始の合図の花火だった。
767:2005/04/10(日) 05:00:19
本日は以上です。
再開早々、倶楽部内メンバーが一人も出ずに申し訳ありませんでした。
読んでいただき、ありがとうございました。
768名無し草:2005/04/10(日) 12:25:28
>檻
やたっ!復帰おめでとう!
そして急展開ですね(笑
いつも楽しみに読んでいたので連載再開がうれしいです。
檻さんの意表をつくストーリーにはハラハラドキドキです。
次回を楽しみにしてます。
769名無し草:2005/04/10(日) 13:26:28
檻>>この先の展開が楽しみ。次回をお待ちしています。

家では影の薄い豊作さんですが、
何かのきっかけで、清四郎が惚れこんでしまうくらい「実は切れ者」だった
と、いう様な話が読んでみたいと思う昨今・・・
770名無し草:2005/04/10(日) 15:36:22
檻 作者様 復活大感謝です。
この日を心待ちにしてました。
私も引き込まれて読んでいたんで
続きを読むことができてとても幸せです。
771名無し草:2005/04/10(日) 17:16:25
>檻
お待ちしておりました!!今すごく嬉しいです。
予想もしなかった展開にぐっと引き込まれました。
有閑メンバーたちは今どうなっているのでしょうか。面白いです。
続きもお待ちしてます!
新しく連載を始めさせてください。
中学生時代の魅録、悠理、清四郎を中心に
危ない感じのお話です。

中編です。
微かな鳥のさえずりと共に公園に朝がやってくると
路上に転がった俺―松竹梅魅録―の上に満開の桜の花が出現した。

風に吹かれて花びらが一枚、二枚と俺の上に落ちてくる。
きれいだな。
体を起こそうとして、俺は腹の痛みに呻いた。
そのまま又寝転がる。
声を出した拍子に殴られてきっと痣になってるはずの頬も痛んだ。
明るくなった空を見て、ため息をつく。
殴られたり蹴られたりした傷の痛みもあるが、
それ以上に殴ったり蹴ったりしたおかげで俺の体は
クタクタで起き上がれないほどだった。

また花びらが降ってきた。
眠くて俺は目を閉じた。
すると近くで小さな声がする。

「死んでるの?」

目を開けると誰かが俺の顔をのぞき込んでいた。
影になってよく見えなかったが、知らない顔のようだった。
無視して目を閉じようとすると、そいつは腹が立つことに
痛む頬を指先でぐいと押しやがった。

「なあ。死んでるのかって」

俺は顔をしかめて起き上がると、威嚇の意味も込めて凄んでみせた。

「・・・るせえな。誰だよ、おまえ」
そいつは俺をのぞき込んだ姿勢で道にしゃがみこんでいた。
膝を抱えてニヤニヤと笑っている。
汚いトレーナーにジーンズを着ていたが女の子だ。
眠いのを起こされたのと傷をつつかれた痛みで俺は胸糞悪かった。
そいつを睨みつけたが、向こうは怖がる気配もない。
こんなことを言った。

「すごかったな。喧嘩。一人で何人も相手にして。強いんだな、おまえ」

昨夜のことだった。
ツレが高校生にからまれたのを助けようとして、はからずも俺は夜の公園で
大立ち回りを演じたのだった。
だがどうやら俺が孤軍奮闘している間にツレは逃げてしまったらしい。
友だちがいの無い奴だ。

「・・見てたのか。すごかねえよ。負けてんじゃねえか」

ん? ひょっとしてこいつは昨夜からここにいるのか?

「おい。おまえ帰らなくていいのか」
「あっ」

急に女の子は立ち上がるとピョイピョイピョイと飛ぶように歩き出した。
ぽかんとその後ろ姿を眺めてるとふいにふり向いたそいつは
再びタッタッタと戻ってきて俺に囁いた。

「またな」

そして再び走り出すとあっという間に公園から姿を消した。
俺は煙に巻かれた気分で呟いた。

「なんだ、あれ・・・」
ガードレールを飛び越えると剣菱悠理は公園の入り口に横付けされた
ロールスロイスの窓を叩いた。
すぐに中から運転手が出てくると、丁寧に車のドアを開ける。
悠理は車の中に飛び込むと、腕組みしたままウトウトしていた男の首に抱きつき
キスをした。
その男―いや、男の子と言った方がいいだろうか―菊正宗清四郎はうっすらと
瞳を開けると「やあ、悠理」と呟く。
「玩具は見つかりましたか」

再び目を閉じると、窓にもたれて眠りにつこうとする清四郎の頬を悠理はピタピタと叩いた。
「起きろよ、清四郎」
「寝かせてくれよ。一晩中、悠理につきあわされて眠くて眠くて・・・」
「起きろってば」
押し問答の後、悠理はむりやり彼をシートの上に押し倒しその上に跨ると
嫌がる彼の唇に自分の唇を強く押しつけた。
「痛いよ、悠理」

悠理は運転手にうちへ帰るよう告げた。
清四郎が悠理の下から小さく呟く。
「その前に僕の家に寄ってくださいよ」
「だーめ。清四郎はあたいんちに来るの」
「・・・学校は? いつもの時間に家を出ないと野梨子が怒る」
「怒らせとけばいいじゃん。清四郎、絶対帰さないもん」
体を起こした清四郎をしがみつくようにして悠理は抱きしめた。
ゆっくりと走り出した車の窓にヨロヨロと公園から出てきたピンク色の頭がちらっと映った。
悠理は薄茶色の瞳を細めて、桃色の髪を見送った。
彼女の服の下から少年の手が潜り込んだ。
「君はいつも強引なんだから」
悠理は照準を清四郎の顔に戻すと唇の端を上げた。
困ったような少年の前髪をかき上げると、
彼の唇に舌を差し入れた。

頬と腹を押さえながらヨロヨロと歩く少年―松竹梅魅録の横を、黒いロールスロイスが
ゆっくりと通り過ぎて行った。


まちがえました。 >>774 は1ではなく2です。
778名無し草:2005/04/13(水) 20:02:56
>Target
新連載!魅×悠×で危ない話!
しかもターゲットにされちゃったらしい魅録!?
あり得ない感じの清×悠のかけあいも、めちゃくちゃツボです。
(中学時代なのに、こんなにいちゃついちゃっていいんでしょうか?)
車中の二人は恋人同士なんでしょうか。そこに魅録が絡んじゃうんですか。
ドキドキしながら、続きをお待ちしています。
779名無し草:2005/04/13(水) 20:38:58
>Target
わ〜、新連載嬉しいです!!何だか、不思議な感じのお話でドキドキしちゃいます。
魅録×悠理×清四郎とは、またまたそそるCPです〜。
そして、悠理が奔放な感じでかっこいいです!
これから、魅録はどんな風に関わっていくのでしょうか。
悠理と清四郎は一体どんな関係なのか、など疑問がいっぱいです。
続きお待ちしております。
780名無し草:2005/04/13(水) 22:07:45
>Target
新連載嬉しいな。
読みやすくて一気に読めました。
清四郎と悠理は、裏では秘密の関係(魅録だけが知ってしまった)なのでしょうか?
それとも皆の前でもラブラブ?(ありえないかw)
今後が凄〜く楽しみです。
がんばってくださいね!




781名無し草:2005/04/13(水) 23:26:05
最近単行本が出てないですけど、どうなってるのかな?
782名無し草
単行本が出ないのは新作が発表されてない為