3 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 00:21:31 ID:JlXg11Y6
長編じゃないといけないのですか?
4 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:23:42 ID:/SjT2U5z
即死防止+景気付けの為に7回連続の長編を投下します。
宜しいでしょうか?
>>3短いのなら本スレでもこちらでも大丈夫だと思います!
>>4ぜひお願いします!
7 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:30:41 ID:/SjT2U5z
>>4 7回ならオケかと。それでは失礼致します。
<前回までのあらすじ>
2010年 秋
某国国防省は、アジアの或る国からサイバーテロの攻撃を受けた。
その内勤であるケンとその上司のボスは、ネットから出現した電脳の“虎”が、同じく
ネットから現れた謎の電脳少女(鬼子)に殲滅される様を見る。
その後、アジアの出張から戻った同僚から純銀の銃弾を受け取ったケンは、C■Aからの
スパイの存在や局間の確執等から、ネット世界の激動を予感した。
そして、ケンの学生時代の友人である山都武士は、仕事で赴いた日本の山奥の廃村で二
人の妖(鬼子と小日本)に出会い、弔った犬が着けていた銀の銃弾のペンダントからUSB
メモリを手にする。役場の人間に胡散臭いものを感じた武士は、彼らが来る前にメモリの
中身を確認しようとするが果たせず、ケンに衛星電話で相談を持ちかけるのだが――
というワケで、以下その続きです。
ヒューウヒュルル ヒュルルルヒュウウウー……
ブツッ
「……well」
「ハ、ハロウ、ディスイズタケシ・ヤマトスピーキン、メイアイ……」
「タケ! マジか!? 久しぶりだナ!」
「おおう、朝早くにスマンな、ケン!」
「No! ちょうど起きる時間さ、気にスンナ!」
「そうか? それかなりウソだろ、無理すんな!」
「……何故分かるwhy? まさか読心術でも始めたのかイ?」
「実はな、我が国は先日、世界に先駆けて“時差の再発見”に成功したんだよ」
「ワァオ! そいつは凄いなボブ!」
「誰がボブか」
「それで車輪の再発見はいつヨ?」
「逆行してどうする!」
寝起きだろうに、あっさり主導権を握られる。やはり肉が主食の国には敵わないのか?
「で、最近調子はどうよ? 転職したんだっけな、確か、えーっト」
「ハウスキーパーだ」
「そそ、そのメイドさん。ミニスカで脛毛まる出しで『おかえりなさいませご主人様〜』
つって土下座するオシゴト!」
「ちげーよ! 別荘とかの管理人!」
「え〜っ、その後ご主人様を押し倒して顔をピンヒールで踏むとかじゃないノ?」
「おい、趣向が変わってるぞ。……まあそれは兎も角」
もうそろそろ目が覚めただろう。
「実は緊急で相談に乗って欲しい事があるんだが、いいか?」
「よし、いいぞ」
相変わらず切り替えが早い。電話を通じて空気が張る。
「とは言っても長い話になるので、書いておいたメールを送る。だからPCを」
「だと思って既にボタンは押してある。OSは……今立ち上げ完了した」
やはり流石だ、これなら相談しても。……って何か横の方が明るく?
「すまんな、衛星電話のバッテリーが心許なくって……」
横を見ると、LANケーブルを玩んでいる妖(あやかし)の幼女が光っていた。
いや、光っていると言うか、丸い光に包まれている。服も先程のものから変わっている。
気になって見た蝋燭は、放つ光を幼女の丸い光が吸い込んでおり、蝋燭の残量も残り1セ
ンチほどに急減していた。
8 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:31:37 ID:/SjT2U5z
そしてその所為なのか、電話機のバッテリーは全回復していた。……ノートPCも。
「残量はどの位だ?」
気遣わしげなケンの声。しかしこれなら。
「あ、いや、問題無い。メールも今送信した」
「そうか、って、もう来たぞメール」
早いな。それに電話の時差も?
「それと電話の感度も良くなった様だな。本当に時差の再確認を?」
「バカな。いや、幼女の方の妖が光ってて、それで」
幼女は相変わらず丸い光の中で、3mのLANケーブルを、触らずに空中で様々な形にし
て遊んでいた。
「あやかし? ようじょ?」
「あーすまん、先ずはメールを読んでくれ」
頭が変になりそうだ。物には干渉出来ないんじゃなかったのか?
「ああ、そうする。……では電話はこのまま?」
「繋ぎっぱなしでいてくれ」
ネット関連に強い妖なんだろうか。やはり副業で怪しい事とかやってるんだろうか?
と思ったところで、門の外で虚空を凝視していた少女の方の妖が縁側に戻ってきた。
少し急いでる感じだ。
昔の時代劇のように、蝋燭の火に顔と片手を近づけ、吹き消そうとする。
しかし火はピクリとも揺らがない。少しムッとした表情になる。
熱いのを我慢して芯の根元を摘んでやる。消えかける火。反対に明るくなる表情。
指を離す。再び点く火。驚いた表情。
肩を竦めて見せると、さっきより更にふくれっ面になる。
その百面相に思わず笑ってしまった。
からかう人はキライです、という感じで他所を向く少女。その視線の先には幼女とPC。
「ああ、すまんすまん、ほら消したから」
一気に吹き消した。
それでも月明かりと幼女の光で、周囲は何とか見渡せた。
「誕生日パーティーでもやってるのか?」
しまった、電話機を握りっぱなしなのを忘れていた。
「いやスマン、少女の方の妖が戻って来てな」
見ると、少女は幼女と向かい合わせでLANケーブルを掴んでいた。
ケーブルから光が溢れ、彼女らの体に流れ込んでいく。
「もしかして、その妖の大きい方は、16歳から18歳くらいの日本女性か?」
「いや、俺の見たところでは14歳くらい……」
そして、少女の体と着物が少しだけ大きくなった。加えて僅かに光も帯びた。
「ああ、いや、17歳前後になった、今」
「今、なった? やっぱり誕生日……いや、角が有って着物は赤い紅葉柄ではないか?」
「ん? よく分かるな、その通りだ」
「なっ、なんということだ……」
「おいケン、なに一人で納得してるんだ!? 俺にも分かる様に……」
「地球の裏側に居る親愛なる友よ、いますぐ其処から離れるんだ!」
口調が急に切羽詰ったものになった。
「だから車は使えないし、役場の人間は山の麓で待ってるだろうし」
「裏山があるだろう、そこに逃げ込め!」
「何を焦ってるんだ? 明日の朝になれば役場の人間が来るだろうから適当に……」
「いや、多分そろそろ来るだろう。そしてそれは、タケが考えてるのよりもずっと怖い
人間の筈だ」
「何故そう思うんだ?」
「その大きい方の妖は、恐らくヒノモトオニコだからだ」
ヒノモト? 何処かで聞いたことがある様な……
9 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:32:27 ID:/SjT2U5z
「彼女は虎の天敵だ。その彼女が居るという事は、其処へ来る人間も虎と同じ目的を持っ
ている筈だからだ」
「虎? 何の話な、んだっ!?」
俺の前に立った少女(いや、ケンが言うところのオニコか)から紅い光が溢れ出す。
そして、両手を胸の上で重ねて目を閉じ、軽く俯いた。
(先ずは狗の埋葬のお礼を申し上げます)
な、なんだこの声? 直接頭の中に響いてくる様な!
(間もなく狗を追っていた者達が来ます。危険ですから貴方はここから動かないで下さい)
「おい、キミは何を!?」
「Hey!!」
「〜〜〜……!!」
ケンの怒鳴り声で左の鼓膜が破れそうだった。あ、という事は。
「ケンにも聞こえたのか? 今の」
「ああ、オニコは綺麗な英語をしゃべるんだな、驚いたよ!」
英語? 完璧な日本語じゃねーか、と言おうとしたところで。
「!……本当にお出でなすったようだ」
山から集落の入り口辺りに出てくる車のヘッドライト。エンジン音も微かに聞こえる。
無粋な、という表情で門の方を見るオニコ。
(これより散らして参ります)
言い残して、滑る様に門の外へ走り去った。
「よし、俺も……」
そう言って立ち上がろうとしたところで、幼女にブルゾンの端を掴まれる。
よく見ると、涙目になって首を左右に振っていた。行くなと言うのか?
「門からは出ないよ」
PCと電話を持ち、衛星アンテナを動かさないように注意しながら門まで移動する。
「…………」
幼女が何か言ってるようだったが、面倒なので一緒に抱えた。ほとんど重量を感じない。
庭先に置いてある衛星アンテナから門までは、ケーブルがぎりぎり届いた。
間に雑草が無ければ余裕だったろうが。
「おい、タケ」
門の横にしゃがみ込む。何故か門扉は無くなっていた。
「あいよ」
リュックサックから暗視ゴーグルを取り出し装着する。まさかこんな事に使うとは。
「何が見える?」
追っ手は車三台だ。
「あれは軽トラが三台だな。いま150m前で止まって降りてきた。全部で六人だ」
別の家の庭に止まった。そして荷台から何やら下ろし始めた。
「そいつらは武装してるか?」
ゴーグルをズームアップする。あれは……猟銃?
「ああ、少なくとも三丁の猟銃を持ってる」
更に、荷台の上で、天井に付けた何かを調整し始めた。あれはパラボラアンテナか?
「いきなり突っ込んでこないところを見ると、そいつらはある程度軍事的な訓練を受けて
る様な気がする。危険だな」
荷台の上の奴以外の五人が、その家の玄関辺りを叩き始める。
「離れたところにある家に突入するようだ」
「先ずは拠点の確保か」
「いや、なんか様子が変だ」
まるでその家が目標であるかの様な動きに見え……あっ!
「オニコが接触!」
10 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:33:14 ID:/SjT2U5z
五人の前に立つオニコ。何かを両腕で抱えているような姿勢だ。何も無いが。
五人は……何やらにこやかにオニコの両手の上から取り上げてる。何も無いが。
そして、美味しそうにそれを食べ始めた? いや、何も無いんだが。
「おいタケ、接触してどうなった?」
小脇に抱えていた幼女が、身をよじって此方を見上げる。問題無いという風な笑顔で。
「ああ、奴ら何か食ってる」
「そして腹ごしらえか。これは本格的に軍事の……」
そして五人が次々に倒れた。
それを見て、荷台に残ってた一人が猟銃をオニコに向けた。何やら叫んでいるようだ。
そして撃った。二発!
「おい、タケ!?」
オニコにはまるで効いてないようだった。
そして虚空から長物を取り出し、その男を薙ぎ払った。
距離的には届かない筈だが、その一撃で最後の一人も倒れた。
あの長物は薙刀か? もしそうだとしても、頭に“異形の”を付けねばならんだろう。
「……!!」
小脇の幼女が急にむずがりだした。降ろしてやる。
「今のは銃声じゃないのか!?」
「あっ!!」
パラボラアンテナが付いている軽トラの運転席あたりが光り、その中から金色の大きなも
のが飛び出してきた。あれは……虎? それも俺の車と同じ位の大きさの。
後ろに飛び退き距離を置くオニコ。彼女にとってもこれはヤバい相手のようだ。
間合いを計る動きになったところで、同じ場所からもう一体虎が出て来た。
「くっ、卑怯な! ……って?」
幼女がブルゾンの端を引っ張っていた。オニコのところへ連れて行け、という風に。
「む……よし、行くか」
詳しい事情は不明だが、今は役場の人間よりも、謎の巨大な虎よりも、この妖二人を助け
なければならない様な気がした。
それは焦燥感にも似た、矜持に根ざした使命感。
「おいタケ、行くって何処へだ? 現状を報告しろ!!」
「ケン、すまんが電話を切るぞ」
ゴーグルを外し、リュックに仕舞う。
「ちょっと待てタケ! それはお前が行かなきゃならない事なのか!?」
義を見てせざるは勇無き也。俺はオニコに“義”を感じたのだ。
「命があったらまた会おう!」
「タケ! おい……」
電話を切った。ケーブルも外した。
「行くぞ」
大事そうにノートPCを抱えた幼女を抱き上げ、車に走り寄る。
ドアを開錠し、幼女と共に乗り込む。
門扉の有無、庭の雑草の有無、此処へ来た時の屋敷の中の料理、今の男たちの振る舞い。
オニコには、人に幻影を見させる能力があるに違いない。だから車のエンジンも。
キーをポケットに入れたまま、スタートボタンが有る辺りを押す。
(見えているのは、以前乗っていた車のダッシュボードのそれだ。今乗っている車は、
スタートボタン方式だからな。俺は幻影を見せられてるだけなんだ)
すると、ボタンに指が触れるか触れないかのあたりで、エンジンがかかる。それは待たせ
過ぎだと言わんばかりのタイミングと轟音で。
それと同時に、ダッシュボードが今のワンボックスのそれに戻る。
幼女はセンターコンソールの上でシートにしがみ付いて、こちらを見上げてる。
準備良しと見て、ギアを一速に入れ車をスピンターンさせる。
エンジンの轟音、デフがロックした金属音、小石がフェンダーの内側を叩く音、舵戻し。
11 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:34:06 ID:/SjT2U5z
正面100m向こう、道の上に虎の一体。
そのままの動きで一気に三速にシフトアップ、フルスロットル!
轟音と共に加速する車体、目前に迫る虎。
「おらああああっ!!」
一気に虎を撥ね飛ばす!
フロントのアニマルバーが曲がったか、それなりの衝撃が伝わる。
虎はもんどりうって左斜め後ろに飛んでいった。
「どうだっっっっ!」
正面に迫ったオニコをパイロンに見立て、サイドターンで車を止める。
車から飛び降りる。幼女は俺の背中にしがみ付いてる様だ。
「……!!」
何ごとか叫んでるオニコの向こう、残った虎が撥ね飛ばした方の虎に向かう。
そして二体は重なり合い……合体した!
先ほどより一回り大きくなり、細部もよりヤバい形になっていった。
「そんなんアリかよ」
呆れつつ、倒れている人間を見る。
全員気を失ってるだけで命に別状は無い様だ。それどころか何やら幸せそうな表情で。
まあ此方は良いか、と思ったところで軽トラから新たな光が!
「なんだ!?」
またも巨大な生物が。今度は、鷲、か!?
翼長10mになんなんとする巨大なハクトウワシ。羽ばたいてオニコの上空に向かう!
「……! ……!」
背中の幼女が軽トラの運転席を指差す。
ああ、分かった。これ以上お客さんにご登場願うワケにはいかんからな。
軽トラに取り付く。
開けっ放しのドアの外から、案の定有ったノートPCのケーブルを引き抜く。
その最中、幼女が背中から降り、俺のPCを座席に置いた。
ケーブルを繋げという様なそぶりを見せる。必死な顔で。
「大丈夫なのか?」
外ではオニコたちが三すくみの状態だったが、他二体はオニコを最初の標的に決めたよう
だ。間合いと動きが変わっていく。
「……どうなっても知らんぞ」
先程抜いたケーブルを俺のPCに繋ぐ。と同時に幼女がそれに光を与え始めた。
オニコを見る。地上と空中との間合いを計りかねているのか、防戦一方だ。
爪や牙・嘴の攻撃に、長い黒髪は乱れ着物の裾は破れ始めた。
「待ってろ!」
車に戻ろうとした、その時!
「!!!」
丸い光りに包まれた。これは幼女が纏っていたもの、それが膨らんだのか。
桃色、いやそれより更に淡く儚い桜色。
その大きな光の玉が軽トラの運転席と俺を包み、そこから数々のオニコが飛び出していく。
そしてそれがオニコに吸い込まれて行くのと同時に、俺の胸のペンダントが銀色の光を車
に向かって放った。
轟音を上げるエンジン、それは恰も獣の咆哮の様な。
吸い込んだオニコは、角が延び、目の回りに隈取が浮かび、全身に強烈な殺気を纏った。
同時に、轟音を上げ光り輝く車からは、純白の獣が飛び出した!
その体長3m程の獣(いやこれは狗だ)の背中には翼が生え、地上・空中を構わず走りま
わり、他の二体を牽制する。
「くっ、くはっ」
何故だろう、ペンダントから光が放たれると同時に、今まで有った勇気の類が一気に無く
なった様な気分になった。
12 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:35:07 ID:/SjT2U5z
そんな俺の弱気と対照的に、オニコは空中の狗に飛び乗り、他の二体に対して絶好の位置
をとった。そして――
一閃!!
着物から舞い散るモミジの葉。オニコが放った一薙ぎで、虎も鷲も十字に断たれた。
その断面が光の粒になり、周囲に舞い散って消えていく。
そして最後には、その体全てが月夜の中に霧散した。
(一振りなのに何故十字の剣戟になるんだ? それも二体に対して同時に)
3m程の高さで停止する狗。
オニコも、まるで其処が地面であるかのような動きで狗から降り立つ。
(それじゃあまるで、時間を操ってるみたいじゃないか!)
不意に周囲が暗くなる。体を包んでいた桜色の光が離れたのだ。
ハッとして軽トラを見る。
そこに居た筈の幼女は、オニコの方にユラユラと飛んでいくところだった。
「あ……終わった、のか?」
桜色の光が無くなると、弱気も勇ましさも無い、普段の自分に戻った。
とりあえず車に近寄る。エンジンは止まっていた。
前部のアニマルバーも大した歪みではなかった。これなら走行に支障は無いだろう。
ホッとして、タイヤを背に座り込んでしまう。
「とりあえず一件落着、で良いのかな?」
中空に集まった二人と一匹(狗は翼を仕舞い、幼女を背に乗せていた)を見上げる。
幼女の放つ桜色の光が、それらを包み込んでいる。
元の姿に戻ったオニコが、先程の様に胸の前で手を重ねて目を閉じた。
(私たちは、同属のこの狗を迎えに来ていたのです)
(しかし、狗の現世の体は謀のモトを持っていました)
(この度は、その諍いに巻き込んでしまい、誠に申し訳ありませんでした。そして)
幼女がオニコの腰にしがみ付く。狗も先程までの険が消え、優しい表情だ。
そして、オニコは目を開け、現実の物に干渉しようとする時の表情になって口を開いた。
それは心のではなく、現実に空気を震わせる本来の意味での声で。
「ありがとう」
その一言で、辛うじて残っていた気が抜けた。
遠ざかり、月夜の中に消えていく二人と一匹。
それは俺の意識にも似て。
…………
……
「……い、……きな」
んん……
「おい、……な兄ちゃん」
う、なんだ、よ
「って?」
目が覚めた。地べたの上で横になっていた。
上を見上げると、見知らぬおっさんがしゃがみ込んでこちらを見ていた。
長靴にツナギっぽい服、その上にベスト、野球帽。
「おおい課長さーん、兄ちゃんが目ぇ覚ましたよー」
夜が明けていた。5時半頃かな。まだ暗い青空。結構寒い。
腹の上にいつのまにか俺のノートPCが。
それを横に置き、半身を起こす。背中からパラパラと小石が落ちる。
普通、こんなところで寝たら風邪引きは確実だが、何かに包まれていたかの様に、体には
何の問題も無かった。
13 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 00:36:42 ID:/SjT2U5z
「お、お早うござい……!」
おっさんが右手に持ってる袋、それって猟銃用のじゃないか!?
「ちょ……!!」
一気に夕べの記憶が蘇る。まさか俺、撃たれる!?
いや、でも、袋に入ってるという事は?
「ああ、すまんすまん。起き抜けに銃突きつけられたら、おっかないわなぁ」
そう言って、近くの軽トラの荷台に銃を置きに行く。
そのおっさんと入れ替わりに、スーツ姿の中年男性がやって来た。
「お早うございます。と言いましても、私どもも今しがた起きたばかりなんですがね」
照れ笑いする中年男性。ズレかけた黒縁のメガネを人差し指で直す。
ピンと来た、こいつは昨日の胡散臭い役場の上司だ。
立ち上がり、とりあえず返礼する。
「お早うございます。どうしてこんなところへ?」
「それはこちらのセリフですよ。昨日こんなところに泊まると聞いたものですから」
「ああ、そうですか」
「ここは嘗て人が住んでいたとは言え、怖いところなんですよ? 今では山犬やイノシシ
それに熊も出たりしますので」
それよりも遥かに怖いものが出たけどな。
「日が暮れても山から下りてこないようなら、迎えに行こう、という事になったのです」
そしてそれは、いま俺の目の前に立っているのだが。
「それはお手数をお掛けして、誠に申し訳ありません」
深く頭を下げる。
「でも何故皆で寝てたのでしょう?」
「さて、それが全く」
犬の事を聞いてこない。それ以前に昨日の胡散臭さが微塵も無い。
「俺たち全員、キツネにでも莫迦されましたかね?」
そうかもしれません、と苦笑いする課長さん。虎たちに操られなければ良い人なんだな。
引き上げる準備をしましょう、お疲れ様です、とお互いに言い合って別れる。
奥の屋敷、思った通り廃墟然としたものに変わっていた。
いや、これが本来の姿なのか。
其処へ向かおうとしたところで、猟師たちの会話が漏れ聞こえる。
「いやほんとだって、本当に鬼が」
「まったまたぁ」
「だから、お前らが鬼に喰われそうになってたから、ぶっ放したんだよ、二発!」
薬莢を取り上げてみせる。
「でもお前も寝てたんじゃないかよ」
「いやそれは」
「ああ、そういやあウチのじさまが言ってたなあ」
「緋ノ元の鬼子(おにご)は時間を喰らう、ってな」
はははと明るく笑う猟師たちにお辞儀をする。彼らも明るく手を振ってくれた。
「あ、そう言えば、ケンに電話しとかなきゃ」
そこへ場違いなプロペラ音が空の向こうから聞こえてきた。
「あれは……V22オスプレー?」
その音は、電話が既に手遅れである事の証だった。
「やべ、在日米軍まで動かしちまったか!」
焦って奥の屋敷へ走った。
衛星電話一式を回収しに。
そして、俺を此処へ来させた奴の手がかりを探す為に。
以上です。乱筆乱文にて大変失礼しました!
乙!
次も楽しみにしてます。
やってもーた
16 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/16(火) 01:09:43 ID:/SjT2U5z
>>14 ありがとうございます。
そして、前スレで励まして下さった皆さん、そしてなにより私の駄文を読んでくださった方
その皆様に前スレでの愚行をお詫び致します。
すみませんでした。そして、ありがとうございました。
>>16乙です。
前スレをヒワ×ヤイネタで締めくくった私に較べれば国防省さんはまともな人だと思います。
これはいかんと一念発起したかいがありました。何よりまた国防省さんの作品が読めて嬉しいです。
・・・・あ!そういえば、本スレに貼るリンクテンプレどうしよう?避難所に案があったとおもったんだけど…
19 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 07:57:48 ID:JlXg11Y6
わわっ迫力のバトルでした
>>11 狗の登場シーンには鳥肌
鬼子さんはやっぱりカッコイイです
20 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 08:02:22 ID:JlXg11Y6
自分も小話になりますが、挑戦してみました
初めてのSSです.4回投下させてください(最初の一つは設定)
21 :
小日本のお仕事 設定:2010/11/16(火) 08:03:56 ID:JlXg11Y6
鬼子さん魅了されてしまい
SSを書いたことなどなかったのですが、挑戦させていただきました
練習の意味も込めまして、ふと浮かんだ「お話のプロローグ」を投下させていただきます
<おおまかな設定(今回の話には関係ないことも…)>
・日本鬼子
代表設定を自分なりに解釈.いつも丁寧語で話すイメージ
・倭寇犬(やまと こうけん)
鬼子の使い魔であり、育ての親でもある
性別は不明で人間の女性にも男性にも化けられる
だが今は鬼子の使い魔であり必要がないのでめったに化けない
鬼子の使い魔になった経緯はいろいろある
みんなから「寇犬様(こうけんさま)」と呼ばれている
・小日本
とりあえず公式設定は準拠
たいそう鬼子を慕っている.得意な事は家事・雑用全般
とっても真面目な「男の娘」である
・日本猪(ひのもと しし)
小日本の使い魔.運動は苦手な小日本だが彼を乗りこなしている
小日本からは「シシさん」と呼ばれている
・ヒワイドリ
とりあえず公式設定は準拠.すぐに乳の話をしたがる
一方で子供には男女問わずにジェントルマン
小日本からは「ヒワイさん」と呼ばれている
・ヤイカガシ
とりあえず公式設定は準拠
小日本からは「ヤイカさん」と呼ばれている
(今回はでてくるだけ)
・日本鬼人(ひのもと おにひと)←おまけ…自分の妄想の産物です
謎の存在として登場するが種明かしをすると、実は鬼子の生き別れの兄
鬼子が「紅葉」で秋、こにぽんが「桜」で春ならば、鬼人は「紫陽花」で夏のイメージ
武器は日本刀.ビジュアルイメージは『Fate』の佐々木小次郎.でも寡黙な性格
たまに鬼子が危機に陥ると、颯爽と助けに来る
実をいうと鬼子には『月姫』のアルクェイドのような設定を妄想してるんだ
(鬼人さんは今回でてきません.ちょっと妄想垂れ流したかっただけですw)
22 :
小日本のお仕事 プロローグ1/3:2010/11/16(火) 08:17:59 ID:JlXg11Y6
>>21の本編
「秋ですね・・・」
箒で落ち葉を集めながら縁側へ目を向ける.そこには倭寇犬が日向ぼっこをしており、手前には日本猪と遊ぶ小日本の姿があった.
日本猪に跨った小日本は元気に駆け回っている.よく見ると日本猪の尻尾にヤイカガシがくっついており、目を回している
「こにぽん あんなにはしゃいで…」
いつもなら境内の掃除は小日本がやってくれているのだが、最近は悪霊退治で忙しく、神社のことは小日本に任せきりにしてしまった.
遊んでくれればよいものを「鬼子さまがお仕事をなされているのに、わたしだけが遊ぶわけにはまいりません」などと言って、三日ぶりに帰ってきたときには、神社はピカピカに磨かれていた
「寇犬様しあわせそう…」
倭寇犬は目を細めて小日本たちを眺めている.彼からすれば孫たちを見守っている気分なのだろう.ゆっくりと大きな白い尾がゆれている
そよ風が吹いては紅葉をひらひらと踊らせて、朝の木漏れ日はやさしく包むように彼らを照らす
―――心から美しいと思った
このようなときは短歌の一つでも歌いたくなる
「紅葉舞う 日が差す子らは うららかに 「ちちのはなしを しようじゃないか」―――・・・・・」
素晴らしい…朝だったのだ―――この卑猥な鳥さえいなければっ!
「ヒワイドリ・・・あなたは乳の話以外にすることがないのですか?」
「ないな」
即答である
「あるでしょう!あの光景を見てなんとも思わないのですか?」
小日本たちを指さす.とても楽しそうにはしゃいでいる.倭寇犬も嬉しそうだ
「ふむ、こにぽんに乳はないしな.寇犬様が女性に化けてくれr―――」
箒で殴ろうとしたが避けられた.素早さだけは一人前である
「こにぽんに手を出そうとしたら退治しますよ!」
純粋な子を卑猥な目つきで見るのは冗談でも止めてほしい・・・でも確かに女性化した倭寇犬の乳は完璧だった
「安心なされよ.我は鬼子さん一筋だ」
今度は箒で斬りつける.おのれ、すばしっこい奴め!
「しかし鬼子さん、着物に下着をつけるのはどうかと思うぞ」
・・・―――ハッと気付く. ヒラヒラと靡く白い衣
ヒワイドリの手には、私の下着が握られていた. いつの間に―――!?
「いくら人の子の贈り物とはいえ、鬼子さんの乳にこのようなものは不要だ」
手にした下着に頬を擦りつけたり、においを嗅いだりしている
あの変態めっ! 沸々と怒りが込み上げてきた.
「全く…鬼子さんの乳に装飾など、鬼子さんの乳の品を落とすものでしかないというのに」
清々しい朝だったのだ.連日の戦いが終わり、ようやく手に入れた幸福の一時だったのだ.
それを汚すなんて許せない.そろそろ堪忍袋の緒も限界だ
「そんなに飾りが欲しいのならば我を鬼子さんの乳にぃ―――!?」
手を伸ばし薙刀を取り出す.妖力によって着物がはためき、集めた落ち葉が舞い上がる
「フフッ・・・あなたには少し徹底的なお仕置きが必要なようですね」
ヒワイドリにニッコリと絶望的な笑みを返す.今日はゆっくり平凡な一日を過ごそうと思っていたが仕方ない.
さて、どうしてくれようか.去勢するのもいいかもしれない
「ま、待て!待つのだ鬼子さん! 我はただ乳の話がしたかっただけd――デバァ!」
****************************************
<あとがき>
鬼子さんの下着は、前に頭巾で角を隠して人里へ降りたときに、助けた女の子に買ってもらったものです.ちなみに一枚しかないので、洗濯中は着けてません
23 :
小日本のお仕事 プロローグ2/3:2010/11/16(火) 08:23:30 ID:JlXg11Y6
>>22の続き
ついつい遊び呆けてしまいました.シシさんとヤイカさんはとっても疲れたみたいで、寇犬様と一緒に眠っています.
鬼子さまは好物のわんこそばを買いに人里へ行かれました.わたしはお留守番です.
その間に家事をしようと思ったのですが、鬼子さまが全てやってしまわれていました.
困りました.これではわたしの立つ瀬がありません.
わたしも鬼子さまの買い物にお付き合いすればよかった・・・ん?
"あれは・・・ヒワイさん?"
神社の屋根いるのはヒワイさんではないでしょうか?
なにやらお顔が変形なされているご様子ですが、あれはヒワイさんで間違いないと思います.わたし目はいいんです.
「ヒワイさーん! そんなところでどうされたのですかー?」
わたしに気付いたヒワイさんはゆっくりこちらに目を向けます.
「こにぽんか・・・すまない…少し、一人にしてくれないか」
わわっ、どうされたのでしょう?
一人にしてくれと言われましても…友人としてそのようなことはできません.
ヒワイさんのお悩みを聞いて差し上げなければっ!
神社の屋根に上がるには、裏手の木から登らないといけません
あまり木のぼりは得意ではないのですが・・・ヒワイさんのためです!
「ヒワイさん、あの…わたしでよろしければ、ご相談にのります」
自然に問いかけようと思ったのですが、少し息がきれてしまいました.ヒワイさんは体育座りで深刻なお顔をされています...
「こにぽん・・・いや、大したことではないのだ」
そのような表情で大したことないといわれましても、信じられません.
「わたしには、話してくださらないのですか?」
わたしなどではお役に立てないのでしょうか?
そういうとヒワイさんは、悲しそうな顔をされました
「こにぽん・・・そんな、泣かないでくれ.だだ少し、鬼子さん(の乳)への想いが届かなかっただけなのだ…」
なっなんと!?それは愛の告白でございますか!?
「三日間、鬼子さんいなかったろう.我も鬼子さん(の乳)を見れなくて寂しかったのだ.
だから今日は少し、思い切って…な」
そして・・・フラれてしまったのでございますか… 鬼子さまはとても、お美しいですから けれど・・・
―――なぜでしょう?胸が痛みます
…泣き腫らされたのでしょうか、ヒワイさんのお顔は脹らんでいます...
「だから大したことではない・・・いつものことだ」
大したことない、いつものこと・・・そんな、そんな―――!
「鬼子さまへの想いを、そんな言葉で片付けないでください!」
「え?」
だったらなぜ、そんな真剣なお顔をなさっているのですか?わたしは人を想う気持ちは、何よりも美しいと思っています.それはヒワイさんの鬼子さまへの恋心も例外ではありません.
「ひとつ、お聞かせください.ヒワイさんの鬼子さまへの想いは、本物ですか?」
尋ねる必要などありませんでした.けれど・・・そう訊かずには、いられなかったのです.
まっすぐに、ヒワイさんの眼を見つめます.
「こにぽん・・・ああ、我の鬼子さん(の乳)への想いは本物だ(キリッ」
そしてわたし以上にまっすぐに、見つめ返してくれました.
"こ、これほど真摯な眼差しは今まで感じたことがございません!"
わたしの中のドロドロとした想いが、打ち解けていくのを感じました.
なぜだか少し悲しいですが・・・ヒワイさんの想いは、伝わってきました.
でしたらこれは、私の役目です!
「ヒワイさん、あなた様の想いに、私は深く共感致しました」
「なっ!?さすがはこにぽん! お主も所詮男子だったのd「ですからその願い『こひのもと』として成就を願います!」ちょ、いや、こにぽん何を―――!?」
〜あさきゆめみしこひのもと いろは萌え咲け恋の華!〜
「のわぁあああーーー!!」
****************************************
<あとがき>
ヒワイドリは子供の前ではジェントルマンなので、こにぽんの前で「乳」という言葉を使うのを自重していたのですが
それが思わぬ誤解を生むことに・・・ むろん、顔が腫れてるのは鬼子さんに殴られたからです^^
24 :
小日本のお仕事 プロローグ3/3:2010/11/16(火) 08:28:50 ID:JlXg11Y6
>>23の続き
買い物から帰ってきて、最初に目にした光景は、昼寝をしている倭寇犬と、それに寄り添うように眠る日本猪とヤイカガシだった.
自然と笑みがこぼれてくる.起こさないようにそっとしておくことにしよう
少し探してみたが小日本は見当たらなかった.もしかしたらどこかへ出かけたのかもしれない.
せっかくみんなの分のわんこそばを買ってきたのだが、どうやらお茶は一人でするしかないようだ.
「静かですね・・・」
わんこそばを味わいながら
ズズズッっとお茶を啜り
またわんこそばをいただく
たまに和菓子を嗜みつつ
またわんこそばを口にする
これがいつものお茶の時間.他に誰もいないのは寂しいが、しみじみとしてそれもいい.至福のひとときだと思う.
―――心から癒される
このようなときは短歌の一つでも歌いたくなる
「わんこそば 食するときは しめやかに 「ちちのはなしを しようじゃないか」―――・・・・・」
・・・朝の光景がよみがえる.どうしても私の至福の時間を奪いたいらしい
「またですか…いい加減にしなさいっ ヒワイドりぃいいいい!!?!?」
そこにいたのは―――
白髪に赤い髪がトレードマークの、絶世の美青年だった
****************************************
<あとがき>
以上で自分が思いついたプロローグ終了です.読んでくださった方、本当にありがとうございます(´▽`)
最初改行が多すぎて、投下に手間取ってしまいました.初心者ですみません...
こにぽん誕生前祝いのつもりで書こうと思ったのですが、なんだかヒワイドリが主役のようになっちゃった
授業中にふと「こにぽんが鬼子さんとヒワイドリの恋結びしたらどうなるかなー」と妄想して、pixivの擬人化されたヒワイドリを思い浮かべたらつい・・・
でもどうしても続きが思いつきません...遅筆で書く時間もとれそうにないので、これで終わりにします
また続きが思いついたらブログにでも書きとめようと思います
暇だったので書いていたものを投下。内容は少し硬め。
完結したやつではありませんが、まあ宜しくお願いします。
ひとまず二つレス使います。
フグには毒がある。でも、フグ自身はその毒に気付くことはない。無意識に、その武器を備えていて、無意識のうちに自分の身を守っているんだ。
……幸いにしてか、不幸にしてか、僕は自分に毒があることを知っている。でも、僕はフグでもヘビでもない。
ヤイカガシという、守り神だ。
神さまと言っても、きっと誰からも崇められない、身分の低い神さまだ。神さまに身分があるのも変かもしれないけど、疫病神というものもいるくらいだし、この国にはありとあらゆる神さまがいる。だから自然と身分が出来てしまうのだ。
カイカガシ一族は、このボヨボヨした皮膜から強烈な臭いを発し、その疫病神を追い払うことだけを生きるサダメとして、千歳の時を渡ってきた。何代も何代も、ただ疫病神を払うために。
月読サマや天照サマのように手を振るだけで世界に色を付けるような、そんな素晴らしい力はないけれど、何か湧き出る魔法のようなもので疫病神を撃退しているのだと、ずっと信じて疑わなかった。
友人のヒワイドリ君が言うには、確かに僕たちの一族には特別な魔法を備えていた。
「お前さ、言うの我慢してたんだが、ぶっちゃけ、マジでくせえ」
滲み出る粘液からの悪臭。これが、僕の魔法だった。疫病神だけでなく、ありとあらゆるものを退ける、疫病神より厄介な魔法だった。
急に、ヒワイドリ君のことが怖くなった。
随分と長い間親しくしていたけど、その間この体臭に耐え続けていたのかと思うと、何か、申し訳ないような、球体の上からするりと滑り落ちるような、そんな感覚が肝だか胸だかを一気に冷却し、川底に突き落とされた気分だった。
ヒワイドリ君としては何気ない一言だったのかもしれない。
でも、本当は僕のことを嫌っていて、昔馴染みのよしみで嫌々共に行動をしていたのかもしれない。
きっとこれは疑心暗鬼だ。ヒワイドリ君はそんなこと思っていない。そう心に言いきかすも、行動は真実を知る前とは明らかに違っていたのは言うまでもないことかもしれない。
とにかく、もうヒワイドリ君とは面と向かって話せなくなっていた。
フグには毒がある。その毒を恐れて、誰も近寄らずにフグは孤独を生き、孤独のままその身を海原の糧となるまでを日暮らすのだ。毒が消えるのは、転生を終えたあとなのだ。
そうして途方に暮れていると、いつも間にか日は山を掠め、空を赤く染めていた。今まで見たことのないほどの赤だったけれど、僕はその情景に心を動かされることはなかった。
小川に紅葉が浮いていた。赤く染まったそれは、焼け果てる寸前の祀り火のようでもあった。
紅葉なんて嫌いだ。その命を全うしてもなお、人々を癒し続けるのだから。生けるときはもっての外だ。
対する僕は一体何者なのだろう? そもそも疫病神を祓う存在でありながら、人々には感謝されやしない。そんな人たちのために、厄を払う必要なんてあるのだろうか?
昔はそんなことなかった。こんな僕でさえ感謝されていたはずだ。でも、神が形骸化された今となっては、もう僕の存在価値なんて皆無と言っていいのだろう。
沢の葉は、次第に数を増していき、河のほとりの巌(イワオ)に宿る――ここが彼らの死に場所なのだろう。
僕も、どうせなら……そう思った矢先だった。
川上から、静かな歌声が聞こえたのは。
もみぢ葉の 流れてとまる みなとには 紅(クレナヰ)深き 浪やたつらむ
その、清静とした旋法を久しく耳にしていなかった。むしろこんなにも短くて歌が成立してしまうのかと驚いてしまったくらいだった。
懐かしい歌だ。これは確か、古今和歌集の一首で、ちょうど河口に溜まった紅葉を詠ったものだった。
すぐ上流に、少女がいた。今どき珍しい着物は、朱色をしていて、あの憎たらしい紅葉を服従させ、そのまま服として従わせているようだった。膝を折り曲げて畔にちょこんと座り、白い手はせせらぎにそっと触れ、形の変わる水晶を掬っていた。
夕陽は零れ落ちた珠玉に集光し、それから美しい魔法に変換されて、僕のアイリスを刺激させる。
少女は鬼だった。その頭から生える二本の角を見れば瞭然のことだ。元は国ツ神と呼ばれた守り神だったけど、間もなく転落し、人や神を卑しめる存在となってしまった。
その鬼が、目前にいる。
本能的な危機を感じ、冷や汗が滲み出てくる。僕たちにとって鬼は天敵だ。疫病神は祓えても、鬼は祓えない。その程度の紙級の神なんだ。
「どうしたのかしら? 浮かない顔したヤイカガシさん」
その声に肺が小さくなる。
知らぬ間に僕の天敵はすぐ側にまで近付いていた。もう足はすくんでしまって動けない。いや、鬼を見たときから、とっくに足はすくんでいたのだ。
「く、喰らうなら、早く喰らえ!」
精一杯強がることしか出来ない。噂では、鬼は嬲りに嬲ってから舐めまわすように口の中で四肢をかき混ぜながら喰らうのだという。死ぬのなら、せめて一瞬で死にたい。
「むぅ、なによ。私そんなにあなたのこと取って食べちゃいそうな顔してるかな?」
「と、当ぜ……」
言い掛けて、鬼の姿をまじまじと見返す。小さな僕と背を合わせようとしているのか、先程畔にいたときのように屈みこんで、それから小首を傾げて微笑んでいる。
冷静な第三者から見れば、どう見ても獣のそれではなかった。獣は僕の方だ、僕の中のヒワイドリがこの少女に喰らいつきそうになる。
少女は角があることを除けば、ごくごく普通の女の子であった。
……いや、それは違う。こんなに美しい人は、根気良く探り歩かなくては巡り会うことはないだろう。それも、都会ではなく山奥の村のような田舎で。
電気も通っていない世界に一つ佇む大屋敷。その中で静かに暮らしている箱入り娘……。そう、この長く真っ直ぐに伸びた黒髪なんてまさに和のお嬢様だ。
「それで、お前みたいなやつがどうしてこんな所にいるんだ」
話題を変える。これ以上沈黙を続けると何か抗えないものに屈してしまうような気がした。
「私は……ヒマつぶしだね!」
そんな偉そうに言われると反応に困る。
「ヒマなら適当に人でも襲えばいいんじゃないの?」
「そんな毎度毎度やってたら疲れちゃうよ」
殺ってる? 平然と残酷なことを言う女だった。
「それに、今だって……」
少女は言い掛けた言葉を呑み、僕の背後の見た。振り返ると、下流の方から小さな影がこちらへ向かってきているのが見えた。
もし続かせて頂けるのであれば、にこぽん投票が終わったときにでも。
あ、
>>25>>26の補足を。
私なりの鬼子、およびその他のキャラ、ストーリーを編んでいますが、どうも「HAKUMEI」の流れを含んだ作品になってしまってます。
というよりも、あの曲を聴いたのちに作品を書くとなると、どうしてもこうなってしまう……。
創作力に乏しいのです、はい……。お許し下さいませ。
28 :
たこら:2010/11/16(火) 23:53:11 ID:dIlmuuWo
中国でトラブル起こして日本に逃げてきた巨乳美人の女道士を鬼子のライバルにしたら面白いんじゃないか。当然、日本人が嫌いで金が大好きな高飛車キャラ。
あと、バチカンから派遣された金髪美青年のエクソシスト神父も出して、鬼子と女道士と三角関係になったりして。
そして、ラスボスは中国四千年の戦乱と虐殺と圧政の歴史を影から操り、人間の憎悪と怨恨の負のエネルギーを喰らって生きてきた魔神女禍にしたら、アニメの一期日本編の次に二期アジア編も作れたりして。
>>28 さの話 必ず世の人 萌えんずと 思へば書くべし あらねば書きそ
(その話で必ず世界中の人を萌えられるだろうと思うなら書くべきだ、そうじゃないなら書かないで欲しい)
彼女は何処にでも、何時でもそこにいる。
今日は何処かの地方都市の、その郊外の小さな公園のブランコにいる。近くの砂場では4-5人の子供達が砂遊びに夢中で、ママたちも他愛のない井戸端会議に花を咲かせる。
秋晴れの空は蒼く透き通り、秋風が時々に落ち葉を舞わせる。そんな何処にでもある、日常の平和な風景。
彼女は鬼だ。人の心に棲みつく鬼達と闘う。
時々、自問する。何故?自分はどうして鬼に生まれたのだろう?
優しいけれど無頓着な旦那さんに文句を言い、元気で騒々しい子供に手を焼きながら、公園のママ達のように集う。なんでもないけれど、そんな暮らしが出来ない。少し手を伸ばせば届きそうなのに、僅かな違いなのに。
彼女が闘う相手はなんだろう?人の心に棲みつく鬼達とは?何度か問いかけたが、誰も答えてくれない、虚しく響いた問いかけ。
砂場で子供の鳴き声が響いた。他愛のない、おもちゃの取り合い。ママたちも全く気がつかない程度の、何時もの公園の一コマ。秋風が公園に舞い込んで着物の袖を揺らし、立て掛けてあった薙刀の柄に少し触れた。フワッとそのまま流れ落ち、彼女の腕の下に戻った。
その時に子供の泣き声に気がついたママが、近寄ってきて子供を少しだけ叱った「お友達のお人形さんを勝手に取っては駄目でしょう。それはお空を飛ぶ鳥さんなの。あなたみたいに砂に埋めたらモグラさんになってしまうわよ」
叱られた子供は少しだけ不満顔だったが、向のお友達にお人形を突き返した。顔をクシャクシャにして泣いていた子供は、涙目になりながらニッコリと頷いた。
夕日が木漏れ日となって公園を照らし始めた。
三々五々、帰宅する人々の流れが早足で通り過ぎて、もう少しでこの公園も閑散とするだろう、何時もの平和で変化の無い日常。ふと気がつけば遠くでカラスが鳴いている。そろそろ帰ろうと思う。
彼女は強い。少し泣き虫だけれど。
「純真な子供」なんて言葉は彼女の前では空虚だ。彼女が闘う鬼達は誰の心にも棲みついている。いくら闘っても無くすことは出来ないけれど。
こんどあの病院に行ってみよう。ずいぶんと入院している少年の元へ。
>>30 彼女は何処にでも、何時でもそこにいる。
今日は大きな病院の、小児科の病室にいる。
大きく開け放たれた窓では、秋風がレースのカーテンを揺らしている。
彼女は随分と長く入院している少年のそば、窓際に置かれたベッドの片隅に
腰掛けている。
2人で小さな公園を見下ろして、遊んでい子供たちを眺めていた。
その時、ノック音と共にドアが空いて、あの医院長(少年は鬼瓦と渾名を付
けた)が入ってきた。この病院を支配する独裁的な男。少年の大好きな若い
研修医を、影で虐めているのを知っている。昨夜も廊下の片隅で怒られていた。
誰も何も言えないことをいい事に、カルテで頭をコヅキながら
「そんなことも知らなくて責任を取れるのか!?今週中にあの医学書を読んでこい!」
医院長は意地悪く一週間後に聴く。
「あの件はどうなった?」
しどろもどろのの研修医に向かって
「第3章の第2項、150ページに書いてあるだろう?お前は読んだのか?」
また怒られる。その夜は部屋の片隅で涙ぐんていたのを知っている。
鬼瓦はギョロっとした目で睨みながら、
「今日はちゃんと食事を取ったのか?夜は時間を守って寝ないと駄目だぞ」
いつも子供扱いをして、命令口調でしか話さない。だから、病院中がコイツを嫌って
いて、お医者さんも、看護師さんも、お手伝いさんも皆で、コイツがいなくなれば
良いと願っているんだ。それが僕の担当医だなんて!
少年の嘆きとは裏腹に、この病院は地方での一番人気と、治療実績を誇っていた。
実力のある医者が集まり、患者に対する治療とケアで、他の追従を全く許さない。
少年の両親も、最後の望みを託して、無理に転院させたのだ。医院長は独裁的な
男だったが、目的はシンプルで、たった一つだけである。
「患者さんに最善の治療を施す」
その為であれば全てが二の次となる。医院長は自分が院内で嫌われていることを
知っていた。昔からの慣習や当たり前の常識を、抗議の声にも関わらず全て無視
した。それでも従わない古参の人間も、強権を発動させて辞めさせたが心が傷んだ
誰にも理解されない男。
深夜遅くに帰宅すると、少年の病気に関する論文を、片っ端から読みあさる。
何か新しい治療方法は無いのか?研究は進んでいないのか?
自分でなくても良い、どこかに優秀な専門医がいれば、招聘することも厭わない。
少年はあらゆる事を憎んでいた。眼下に公園が見える病院に転院させた両親。
鬼瓦のような医院長。そして不自由な体に生まれた自分自身。
午後の風が少し強く吹き込んで、彼女の長い黒髪が舞い上がり、立て掛けてあった
薙刀にさらりと触れた。そのまま流れ落ちて、何事もなかったように元へ。
ふと少年は気がついた。そう言えば少しだけ元気になったかも知れない。一日
に一度だけれど、公園を散歩して外の空気を吸えるようになったこと。泣きだった
両親の顔が、心の底から嬉しそうな顔をしたこと。研修医が同期会に行ったら、
他を圧倒する実力が付いていたと喜んでいたこと。
こんどはあの小学校へ行ってみよう。一人暮らしのおばあちゃんの元へ
>>31 おばあちゃんは急いでいた。
只ひたすらに走る。他から見れば小走りしているとしか見えないが、一言を
伝えるため彼女の元へ全力で急いでいた。
「助けておくれ!」
出会ったのは、田舎の小さな学校だった。おばあちゃんの散歩コースで、何時も
座って一休みするベンチに、先日から先客さんがいるのだ。
「こんな寂しい所で、娘さんが何をなさっているね?」そんなことから会話が
始まった。それから毎日出会って少しだけ会話をすることが、おばあちゃんの
楽しみになっていった。
「それで娘さんは何をなさっているのかね?」
「鬼なんです。私・・・」
「鬼さんなのかね、それはまあご苦労なこってぇ」
別れ際に振り返ると小さな手を振ってくれる。
こんど自宅で、わんこそばでも振舞ってあげるかねぇ。おばあちゃんの小さな日常。
そんな日々が急速に悪化していた。
僅かな誤解が、小さな無理解が、ありえない不運が重なって、人々の憎悪が
炎のように燃え広がる。まるで枯れた山肌を蹂躙するように焼き尽くす。
おばあちゃんは知っていた。同じことの繰り返しであることを。夫を失い、
息子を失い、隣人を失った、あの日が目前に迫っていることに。
鬼さんは約束してくれた。
「何か困ったことがあったら、いつでも相談してくださいね」
他に頼むなんて出来なかった。自分は無力だと思う。それどころか、誰にも出来ない
ことを、あの娘にお願いすることに心が傷んだ。彼女が解決出来る保証など何処にも
ないが、おばあちゃんは一つだけ確信している。
彼女は強い。
巨大な力を持っているとか、そんな次元の話ではなくて、多くの悲しみを知っているが
故の強さ。
息が切れて転んだ。視界が地面まで落ちたが、そのことにしばらく気がつかな
かった。少し体が痛いけれど、路端の草を掴んで立ち上がる。片足を引きずりながら
急ぐが、殆ど歩いているのと変わらない。やっとベンチに座っている彼女が見えて
きた。おばあちゃんの只ならぬ様子で、彼女は全てを悟って立ち上がると、その姿が
全く変わっていた。
目が赤く染まり、着物の袖が乱舞する。それまでの優しい、穏やかな表情で
はない。普通の人であれば恐怖の余り、気絶をしているかも知れない。
「ドン!」
轟音を残して飛び去る。おばあちゃんは、その小さくなる背中に願う。
「人の心に棲む鬼達を退治しておくれ!」
>>32 彼女は飛ぶ。
国境を目指して猛スピードで、山々をの間を抜け谷を縫いながら、後ろに白い
飛行機雲を引きながら飛ぶ。1kmほど隣。同じように飛んでいる人が山陰から
見えたり見えなかったり。人?違う。擬人化したヒワイドリが、彼女と平行に
飛んでいた。こちらの視線に気がつくと、緊張感の無い顔で笑いかけられた。
スケベで乳の話しかしない。彼女は胸の話をされると少々困るのだ。
それでも知っている。彼が乳の話をするときは、彼女も消化しきれない、少し
イライラした時。彼が乳の話をすると何故か周りも落ち着いて、一件落着する
ことが殆どだ。
ヒワイドリが、少し体をこちらに向けて、上空を指さしている。
仰ぎ見ると、はるかに高い所に一筋の飛行機雲。多分、旅客機が飛ぶような高度
だろうから、動きが遅く見えるが自分たちよりも先行して、同じ速度で飛んでるが、
少し右寄りに進路を変更している。ヤイカガシ?
何時もパ○ツを狙っているとんでもないやつ。少し臭いのも気になるが、何故か
離れずに付きまとう。それでもこんな時は、あの大きな目だけは、頼もしいと思う。
先導してくれるのならと、彼女も同じように進路を変更。
眼下の集落を飛び去るときに気がつく。人々から憎悪が流れだし、黒い霧のように
集まり、国境へと向かっていることを。大河が一滴の水滴から始まるように、少し
ずつ集まって小川になり、支流となり、大河となって流れていく憎しみの濁流。
「人の心に棲む鬼達」
目を背けたい現実。彼女の頬に一筋の涙が零れたその時、背後邪悪な気配を感じて
身構る。胸に手が伸びて触られた・・・いつの間にかヤイカガシがすぐ隣を飛んで
おり、人差し指を立てながら追い越していく。何か言ったが聞こえない。そのまま
前に。文句の一つも言ってやろうと、口を開いた次の瞬間
「ドンッ!」
強烈な爆発音と共に、辺りは真っ白になり吹き飛ばされた。地面に叩きつけられそうに
なったが、寸前で高度を取り戻して振り返ると、ヤイカガシが猛烈な闘いに入っていた。
彼女はその場を急速に離れて先を急ぐが、苦笑いをするしかない。
「一つ借り」
「こにぽんしゅぎ! 雅」
一、
編む編むよ 恋ひの生糸を 紡ぎたり あむあむ柿を 口に頬張り
日が昇り すずめ鳴くなる つとめての いづれか遊ばん 鳥と魚とを
「請ひて言ふ 焼くことなかれ 小日本 乳の話を しようじゃないか」
「我もまた 話をせんと 思いたし 乞いて願わば 嗅がん妹髪(イモガミ)」
「鳥魚や 御無沙汰なりと 言い侍らん 乳なる話 莫斯科(モスクワ)に言へ
嗅ぎしがと 思えば花の 都なる 巴里(パリ)へ飛ばさん 我が愛刀」
いづれから ほのかに香る 時過ぐる 無常のつねも けしうはあらず
粗茶を飲み 渋柿食べて 鐘が鳴る 渡る烏(カラス)の やまびこ聞きつつ
二、
御祓い 助け終わりつ 我が袖は ふらねど散る散る たまむすぶ雨
ねびし身の ねねとも劣らぬ さまなれど わらべごころに 湯に入らまほし
「駆けつけり 湯浴みをすなる 音を聞き 大なり小なり これ褒美なり」
「こはあらず 悟り開けよ ヤイカガシ 唯一無二の 胸の道行け」
「鳥魚(トリウオ)や 御無沙汰なりと 言い侍らん 欧州旅行 逝くは宿世か
選ぶとき 刹那のときを 授くべし 閻魔惰天使 共に許さじ」
縁結び恋ひの素して手を合はし 今日も明日も 幸せの素
我がありか いふもさらなり 膝のうへ さるべき場所よ そなた失すまで
「こにぽんしゅぎ! 今時」
1.
恋の生糸を編む編む お庭の柿もあむあむ
今日はどっちで遊ぼかな? 鳥さんと魚さん
「おいおい頼むぜ小日本 俺は乳の話だけでいい」
「僕は鬼子たんと話したいだけ あわよくばクンカクンカ髪の毛」
「あらあら二人とも御無沙汰 乳の話はモスクワで
何かを嗅ぐならパリの街 連れてってあげるわ 薙刀で」
いづれからまったりサイクル いつもの日々を暮らしてる
お茶飲んで、柿食べて 遠くのカラス啼く夕暮れ
2.
お仕事終わって疲れた いっぱい汗かいちゃったね
お風呂入ろうねぇねぇと ちょっとだけあまえたい
「風呂と聞いてきますた(ガラッ!) うはwこれまじでご褒美だろwおいw」
「まだまだ悟(ワ)かっとらんなヤイカガシ 乳は数じゃねえデカさなんだ!」
「あらあら二人とも御無沙汰 欧州旅行逝き足りない?
閻魔かサタンに会いたいの? 選ぶ時間一秒あげるわ」
縁結び恋ひ結ぶ合掌 今日も幸せ訪れて
ねねと一緒、膝の上 ここが一番好きな場所
生まれて初めて同人SSを読んでみた(>>25-
>>33)
正直同人SSなんてのは「絵の練習するのはメンドクサイ、音楽なんて意味がわからん、造形なんてもってのほか」と、
自らの才能を開花させようとひとかけらの努力すらしない、ズボラで無能な「自称クリエイター共」の逃げ場だと思ってた。
しかしいざ読んでみると意外や意外、
>>25-26は気になる点がいくつかあるものの、割と読める文章だった。
いくつかの表現がもったいない点、韻を踏まない書き方で損をしてる気がするけど(たぶん推敲の際に「文章」ではなく「言葉」単位で修正したんじゃないかな?)
その中でも 「その声に肺が小さくなる。」 って表現が一番気になった。
普通に考えると、肺が小さくなる>息を吐き出す>安堵している表現?って感じでしっくりこない
「息を飲む」は美しい物を見た際や驚いた様子を表すけど、この場合(声だけに反応して、しかも逃げようのない恐怖が間際に存在する状態だよね?)は
普通に「呼吸が止まった」とかチープだけど「心臓を鷲掴みにされた」でいいんじゃない?
文章の視点がハッキリしてるから、後は多くの人に読んでもらってリテイクしていけばいい物書きさんになりそうで楽しみ。
それに比べて
>>30-33はラノベ世代なのかな?物書きってのを完全に舐めた、いかにも「自称クリエイター」な文章と感じた。
>>25-26に比べて「文章」の体をなしてなく、おそらく推敲すらまともにしてないと思われる(しててコレなら文才ないよ・・・)
誰視点での文章なのか(これが一番問題)、基本的に「主語」がない、所々で使われるムダに小難しい表現、「文章」としてではなくて「言葉と言葉」を無理に繋げた書き方、
一切の韻を否定した文章と(これは些細なことだけど)半端な位置での改行
小説なんかでは「最初の三行で読者を惹き付けなきゃダメ」って言われるけど(ラノベみたいなのはしらん。普通の文学小説とかの話)、
最初の一行目でいきなり韻をハズして損をしてる。
>>30:ムダな改行がないのに必要な「台詞行」の改行がされてないのが謎。描写で同じ行にいきなり違う物の描写が入ってるのも謎
>>31:ベッドに腰掛けて外の公園を見下ろせる構造の建物が謎。致命的に視点がコロコロ変わるのも謎。「誰が」が抜けてる所為で文章がイミフ
>>32:いきなり口語体スタート。唐突に老婆が凄惨な過去を背負った予知能力者になってのが謎。鬼子もテレパシストすぎて謎
>>33:国境ってどこの国の設定?飛行機じゃないのに飛行機雲?コミカルにしたいのかシリアルにしたいのか大迷走
とはいえ、脳内での設定を文章に起こせる程度にはなってるんだし、あとは読書量を増やして表現手法や文体を覚えて行けば・・・なんとかなるかもしれない?
条件反射でアンチだ上から目線だのと言わずに、冷静になって指摘した点を見直して欲しい
ただ「叩いてる」のではなく、具体例を出して指摘している意味を理解してもらえれば幸い
>>30-33は正確に理解するために何度も読み直すハメになった分、誰よりも俺は読んでると思うわw
感涙。
>>36 ありがとうございます。
そちらの文章は詩的な文章ですね。いいなぁ。
あとは、もう少し読者のことを考えながら、
バランスのいい描写を心がけるともっともっとよくなるんじゃないかなあ……?
>>37 まさか、こんな場所で真正面から批評を頂くとは……!
なるほど「韻」ですか。今までほとんど意識せずに書いてました。
推敲もかなり狭い視点で、かつ手を抜いた状態のまま上げてしまったと思います。
とても参考になる意見、ありがとうございました。
>>37 >>30-33を書いた者だが、真剣な批評をありがとう。
正直に言って、SSスレを舐めていたとしか思えなかっただろうが、サラサラと2時間程度で書いたので、
その通りですと言うしか無いw
続きは批評を胸に描写をするので、その時は遠慮無く論評をヨロ。
>>37>>38 >>30-33を書き直したい。
ちょっと忙しくて時間は取れないから、時間は掛かるけれど覗いて欲しい。
これだけ真面目な批評家が居るのだからチャンス。
>>38-40 無事に作者さんに伝わってよかったし、なにより前向きに捕らえてくれてありがたいです。
本当に駄文ならすっ飛ばしてレスすらしなかったと思うけど、表現したいものは読み取れましたしレスした甲斐もありましたw
よかった、おもしろかったってレスは自信にも繋がるけど現状を満足してしまいがちです。
上を目指すなら辛口コメント(当然真面目に向き合ってくれてるのは前提)でも自分の血肉としないと成長しないと思うのです。
読者も本気で読んでると、作者がどのくらい真面目に小説に向き合ってるのかも見えちゃうもんですしね。
>>38 本スレは上昇志向の方はほんの「ひとつまみ」しか居ないのでムダに荒れると判断しまして・・・
韻は「黙読」してるときでも重要ですねー
これだけで文章の読みやすさと「テンポ」が変わってきます。
特に軽快なシーンでは重要となりますので、頭の片隅にでも記憶しておいて頂けると幸いです。
・・・しっかし文章に関して多彩ですねw
>>39 すでに書きましたが「誰が」が分かりにくく、きちんと理解するために文章を何往復もしちゃいました・・・
あと
>>38にも書かれてますが、「読者不在の文章」になっちゃってるんですよね。
練習中の絵描きさん達は絵を描いた後、一晩おいて翌日冷静な目で作品を見直して・・・なんてやってるので、同じように時間をおいて推敲するといいかも?
かなりの辛口コメント(我ながらひでぇなぁと思うしw)に対しても挫けず向かい合える根性があるならきっと成長しますよ!
今更ですけど、別段批評家・論評家ぶるつもりはさらさらありません。
本スレでいくつか作品を投下させてもらってますが、何かを生み出すワケでもない住人が跋扈してる現状に憂いていただけです。
(作品にレスを貰うのは嬉しいですけど、反面「創発板なんだからお前もなんか生み出せよ!」という思いが最近募っておりまして・・・)
それで今までの色眼鏡を外し、SS作品を真面目に読んでみて「SS書きというのは本当に自称クリエイター」程度なのか、と興味を持った次第。
その上でこのような反応を貰ったことは非常に好ましくあり、SS書きの方々を見直すとともに当方も頑張らねば、と決意を新たにしたところです。
かような当方の我が儘とも言えるレスに対し、ここまで真剣に向き合って頂きましたお二人に感謝の言葉と、更に洗練された次回作が発表されますことを
願いつつ、当方もお二人に負けぬよう精進してまいります。
前回のあらすじ――白熱するヤイカガシ×ヒワイドリ、動き出したガンダムには謎の呪符が貼られていた。鬼子さんに忍び寄る日本狗の影。
巨大化した鬼子さんの反応速度はわずかに鈍くなっていた。何しろ通常の4倍ほどもある巨体である。
ヤイカガシの声がその耳に届いた時にはもはや手遅れの様子。敵の魔手は、すでに鬼子さんの周囲のビルにまで及んでいた。
ビルの影に潜む闇が甲殻虫のようにてらてらと蠢き、電灯が紫電の舌をちろつかせている。
それらは明らかに邪悪な存在の発露であったが、時は神無月、神の悪戯であるとは期待すべくもなかった。
「バン・ウン・タラク・キリク・アク!」
恫喝のような声で五つの呪文が唱えられ、その一句につき一本ずつ、電柱のような光線が生まれ、鬼子さんをぐるりと取り囲むように走った。
「『オォぉ〜ドゥァぁ〜(中居正広風に) 五芒星の陰陽道風結界、明王金縛りいぃ〜』!」
宙に浮かんだ五芒星は、不可思議な力で鬼子さんの体の自由を奪っている。縄のように縛り付けているのではなく、あたかも前から定まっていた物理法則のように彼女の力を自然といなし、その結界の中心に押し留めようとしている。
「ぐっ……これは……っ!」
動揺する鬼子さんの目に、ビルの向こうから飛んでくる人影が映った。
よほど引き絞ったバネで飛ばされてきたような高速、錐揉みする松の種のようなデタラメな回転。
「おのれ、日本(ひのもと)……狗(くぅ)っ……」
現れたのは日本狗、背後に煌めく翼の軌跡を残して、真っ赤な天狗の面を前に突き出し、山賊のような鎧を纏った偉丈夫だ。
そいつがFFの主人公を彷彿とさせる巨剣を、鬼子さんの頭の上でふるった。
「ふんぬぅぅうぅぇえいっ!」
ぱきゃん!
瀬戸物にヒビが入ったような音がして、鬼子さんの頭から般若の面がずり落ちた。
その瞬間、般若の面が苦悶の言葉を叫び、穴という穴から熱風と光を放った。鬼子さんの巨大化した体は穴の空いた飛行船のようにみるみる萎んでいく。
身長も6メートルから160センチ弱ぐらいに、GカップもCカップくらいに縮んで、籠に入れてもって帰りたいぐらいの16歳の女の子になり、依然宙に浮かぶ五芒星の下にへなりと座り込んだ。
どうやら完全に動きを封じられてしまったらしく、鬼子さんは微動だにしない。
偉丈夫は翼をひとふりして遥か先の路面に降り立った。
アスファルトを側石ごとえぐるほどの大きな爪を持った両足は、まるで獣の脚に酷似していた。獣の姿をしているのは脚だけではない、その腕、肩、首筋までもがすべて堅い体毛で覆われている。
まるでFF10の世界からひょっこりやって来た二足歩行の獣である。
「くぅちゃん……」
うつむく鬼子さんの脇に、般若の面ががしゃんと落ちた。
「その般若は煩いので黙ってもらった」
日本狗はおもむろに立ち上がると、鬼子さんの方に向きなおった。
鎧の至る所に貼り付けられた呪符が音もなく風にそよいで、獣の四肢に不気味な気配がまとわりついている。真っ赤な天狗の面の下からは、醜い獣の鼻つらがはみ出してひくひくしていた。
その鼻つらがもそもそ動いて、鬼子さんに人の言葉を投げかけた。
「これしきで動けぬとは。日本(ひのもと)の名が泣いておるぞ、日本鬼子」
「くぅ〜っ!」
どこからともなく、と言っても過言ではない何も無い場所からとつぜん童女が駆けてきて、その肩によいしょとよじ登った。
「ちょっと、私が乗ってあげるんだから屈むか手を貸すくらいしなさいっ」
日本狗をがじがじ噛んで文句を言っていた。一見すると普通の着物姿の女の子だが、日本狗と同様に夜目にも目立つ獣の耳を持っている。
天狗の面のかわりに卵形のキツネの面を頭に乗せ、梅柄の着物の裾から二本の尻尾をふさふさと動かしている。
耳には白いヘッドホンを装着し、膝の上でノートパソコンを開いてなにやらパチパチやっていた。
明らかに初めて目にする人物であったが、その顔は鬼子が以前見知った小日本そのものである。
「まさかあのデカブツが一撃とはねー。これだから鬼族の攻撃力は侮れないわー」
「大した分析力だな小日本、すでに分かりきった事を」日本狗は皮肉を漏らした。
「い、いいのよ趣味でやってんだからー。あんたこそあんな弱っちいの作ってどうすんのよー」
小日本は、こっちみんなと言わんばかりに天狗の面の長い鼻を押しのけた。
いったい何が起こっているのか、鬼子さんにはまったく理解できない事態だった。
「こにぽん……」
「気安く呼ばないでくれる?」
心の底から不快感をあらわにする小日本に、鬼子さんはじわっと目に涙を浮かべた。
「どうしたの、こにぽん、急にお姉ちゃんのことが嫌いになったの?」
「あらら、まだ気づかないわけ? お姉ちゃんはねー、キツネに化かされてたのよー」
「小日本、あまりしゃべり過ぎるな」
小日本は小言を言う日本狗の首にまとわりついてクスクス笑った。
「酒呑童子の血を引く貴女も、場合によっちゃ私たちの仲間に入れようかって話だったけど。幻術への耐性がゼロじゃ、ちょっと考えどころよねー。全然私たちの正体に気づかないんだから焦ったわ」
「私がキツネに化かされていたからって、どうしたの? こにぽんは、こにぽんでしょ?」
生成鬼子さんの真っ直ぐな表情に、小日本の表情が固まった。
「先にお風呂での質問に答えておくわ。高貴な妖狐さまが鬼と一瞬に暮らすなんて、言語道断。考えただけでも虫ずが走るっていうの。どうしてくれるのよ、この尻尾。毛が生え替わるまでにおいが抜けないじゃないの」
ふさふさの尻尾に鼻面を突っ込み、苛立たしげににおいを嗅いでいた。
そのとき、前かがみになった弾みでぶかぶかの狐の面がずれた。
小日本は尻尾に顔をすりすりしながら、まどろむネコのような声を出した。
「ふにゃあ〜、お姉ちゃんの匂いがするぅ〜、だい好き、だい好きぃ〜」
はっと我に帰った小日本は、慌ててキツネの面を被り直し、きょろきょろと辺りを見回した。
今のはいったい何だったのか、鬼子さんにもよく分からない。小日本はふいに動きを止めて、鬼子さんと見つめあった。
「……なによ、その鬼が豆知識をひけらかしたような顔は」
その時、日本狗は何の前触れもなくぐるると唸った。
不意にビルの屋上から声が響く。
「それを言うなら、『鳩胸が豆乳に出会ったような顔』だろう?」
日本狗はすぐさま臨戦態勢に入った。彼の肩に乗っていた小日本は、振り落とされそうになりながらノートパソコンを開いた。
「上だ」
「気をつけて、この品のないおっぱいジョークはヒワイドリよ!」
鬼子が見上げればビルの屋上、満月を背に痩躯の男が佇んでいた。
先ほど復活したばかりなのか、まだ復活のライトエフェクトが消えておらず、派手な服装のあちこちで星くずのようにキラキラと光っている。ヒワイドリ(集合体)は小日本をびしりと指さした。
「へぇ、とっくに俺の調べもついているとはさすがだな、そこの虚乳ちゃん」
小日本は喉を詰まらせたような顔をして、無い胸をぺたぺたとまさぐった。
「きょっ!? きょ、きょ、きょ……って、え、でもちょっと、字が、字が違う……! はっ……むかぁぁぁぁっ! おのれわらわを愚弄するとは卑劣な、断じて、断じて許さぬっ!」
キツネの面を真正面に被った途端、小日本の尻尾が扇のように持ち上がり、わらわらと数を増していった。
ヒワイドリは相変わらず涼しげな表情を崩さない。
「怪器《金狐の白面》か……やべぇな、こりゃ」
鬼子さんがなんとか体を動かして、懸命に声を振り上げた。
「やめて、あなたでは絶対にかなわない! ヒワイドリ、逃げて!」
「鬼子、違うな。敵うとか、敵わないとか、そんなのは問題じゃない」
ヒワイドリ(集合体)の目がぎらりと光り、苦みばしったように顔をゆがめた。
「愛しの女を泣かされて! 傷のひとつも作らずに逃げられるかよ! たとえそれが死亡フラグだと分かっていても、俺はゲットする!」
「身の程をわきまえん奴め……」
「ふにゅあああっ!?」
肩に乗っかっていた小日本を放り投げて、日本狗が前に進み出た。全身から放たれる殺気が吹雪のように吹き荒れ、彼の足元にうっすら霜がおりている。
対するヒワイドリは両腕を広げ、飛べない鳥が飛び立とうとするかのように、決意を秘めた目で日本狗を見下ろした。
「午後七時は酉(オレ)の刻(じかん)……イッツ・ゴールデンタイムだっ」
「力無きトリよ、お前はひとつ思い違いをしている」
その声が耳に届いたかどうかは定かではない、ヒワイドリの目がかすかに揺れた。
気づけば彼の頬の真横から、一本の剣のようなものが先ほど日本狗のいた――そして今はいない――場所に向かって伸びていたのだ。
日本狗が彼の背後で囁いた。その天狗の面の下で、獣の口吻が鋭い牙を剥いていた。
「午後七時は……戌(ワタシ)の刻(じかん)だよ」
>>42 先ず、ありがとうと言いたい。
今、病院編を校正中。明日、自分で赤ペンを入れたのを投下予定。
公園編の校正後を転載してもおけ?
それにしても2chは侮れない。
>>47 転載は権利者様でご自由にどぞー
プロットは俺が書いたワケでもないし、勝手にしゃしゃり出て他人の作品に手を入れただけだしね
あのうpろだは3日ぐらいで消えるから保存するなら早めにねー
つーかこうやって考えるとやっぱプロってすごいよなーって感心する
あんだけ意識しながら書いて、さらにネタだしながら資料漁りつつかっちょいい表現考えるんだから
病院編、まってるじぇー
49 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/19(金) 20:45:44 ID:nqM0iz3/
>>48 ありがとう。光速保存した。
>>30を
>>42が推敲した
改訂版を投下します。
彼女は何処にでもいる。何時でもそこにいる。
何処かの地方都市、その郊外の小さな公園。近くの砂場では4-5人の子供達が砂遊びに夢中
で、母親たちは他愛のない井戸端会議に花を咲かせる。
秋晴れの空は澄み渡り、秋風と共に紅葉が舞っている。そんな何処にでもある、日常の平
和な風景。
歳のころは15-6だろうか、その若さとは裏腹に見事に和服を着こなす女性がいた。彼女だ。
紅葉を意匠化した、それでいて鮮血を思い出させるような紅い和服。
それもそのはず、彼女は鬼なのだ。そして鬼の身でありながら人の心に棲みつく鬼達と闘
う。
彼女は自問する。
「何故?どうして私は鬼に生まれたんだろう?
優しいけれど無頓着な旦那さんに文句を言い、元気で騒々しい子供達に手を焼きながら、
公園の母親達のように集う。ささやかだけど、決して届かない夢。少し手を伸ばせば届き
そうなのに、僅かな違いなのに・・・」
彼女は自問する。
「何故?どうして私は戦うのだろう?
人々を守りたい。ただそれだけを思っていたはずなのにどうして私は・・・」
砂場で子供の声が響く。他愛のないおもちゃの取り合い。母親たちも気にしない程度の、
何時もの公園の一コマ。
彼女はそんな様子を見ながらそっと右手を出し、子供たちのほうに向かって軽く指先を弾
く。
その動作に合わせたように秋の風が公園に舞い込み、子供の声に気がついた母親が、我が
子であろう子供を少しだけ叱った。
「お友達のお人形さんを勝手に取っては駄目でしょう。それはお空を飛ぶ鳥さんなの。砂
に埋めたらモグラさんになってしまうわよ」
叱られた子供は自分の行いを恥ずかしがっているのか、ぶっきらぼうに人形を返した。顔
をクシャクシャにしていた子供は、涙目になりながらニコリと頷いた。
日も赤くなり子供達の影も長くなった頃には、帰宅する人々の流れが始まる。もう少しで
この公園も閑散とするだろう。
何時もと変わらない平和で変化の無い日常。ふと気がつけば遠くでカラスが鳴いている。
「純真な子供」なんて言葉は彼女の前では空虚だ。彼女が闘う鬼達は誰の心にも棲みつい
ている。いくら闘っても人の心から鬼を無くすことは出来ないのだ。
彼女は強い。少し泣き虫だけれども。
「こんどはあの病院に行ってみよう。ずいぶんと入院している少年のところへ」
彼女はそうつぶやくと公園を後にした。
そしてあれほど騒がしかった公園もいつもと同じ静かな夜を迎えた。
>>31を
>>37>>38>>42の指摘を参考にして推敲した
添削付の改訂版を投下します。途中で疑問に思ったことも()内に記載しました。
彼女は何処にでもいる。何時でもそこにいる(シリーズ化するので同じ表現)。
大きな病院の、小児科の病室(この段落は情景描写の段落なので鬼子の描写は不要)。
大きく開け放たれた窓からの風景は、最盛期を迎えた紅葉で山並みが燃えるように美し
く(後で鬼子の着物と合わせて、読者のイメージを膨らませる)、近くのショッピング
センターでは客たちが賑やかだ(後半で使う:少年には見えない)。
そんな何処にでもある、日常の平和な風景。
微風に揺れるカーテンのそばに、燃える山並みを染め映したような和服を着た(失敗?)
、歳若い女性が佇んでいる(少年を窓際に呼び寄せるため立たせる)。
随分と長く入院している少年は、ベッドから上半身を起こして、2人で窓に広がる風景を
静かにながめていた。
(シリーズものなので、鬼子の役割を省いたが、多少の説明は必要か?)
(ここから少年)
回診時間(病院を表現)?ノックと共にドアが開いて、大きな四角い顔をしたギョロ目の
(鬼瓦の由来説明)医院長(少年は鬼瓦と渾名を付けた)が入ってきた。少年の担当医で
病院を支配する独裁的な奴(少年目線の表現)。
殆ど人が訪れない病室で(少年目線で自分は孤独)、少年と気軽に話をしてくれる、大好
きな若い研修医を影で虐めて(鬼瓦悪役を読者にイメージ)いるのを知っている。
昨夜、トイレに行った時にも(目撃1を描写)廊下の片隅で怒られているのを見た。誰も
何も言えないことを良い事に、カルテで頭を小突き(漢字へ)ながら
「そんなことも知らなくて責任を取れるのか!?今週中に渡してあった(後への伏線:鬼
瓦は面倒見が良い)医学書を読んでこい!」
暫くすると意地悪く聴く。
「あの件はどうなった?」
しどろもどろのの研修医に向かって
「第3章の第2項、150ページに書いてあるだろう?お前は読んだのか?」
また怒られる。誰も居ない深夜の待合所で(目撃2:研修医=孤独感=鬼瓦悪役を読者に
イメージ)、涙ぐんでいたのも知っている。
鬼瓦はギョロっとした目で睨みながら、
「今日は食事を残したな。最近、遅くまで起きているだろう?(少年に目配せをしてい
る)時間を守って寝ないと駄目だぞ」
いつも子供扱いをして命令口調でしか話さない。だから、病院中が鬼瓦を嫌っていて、
お医者さんも、看護師さんも、お手伝いさんも、鬼瓦がいなくなれば良いと思っているん
だ(少年の心情だから口語で良いか?)。
それが僕の担当医!
(ここまで少年)
>>50の続きです。
少年の嘆きとは裏腹に、病院は(歯切れよく)地方での一番人気と、治療実績を誇ってい
た。
実力のある医者が集まり、患者に対する治療とケアで、他の追従を全く許さない。少年の
両親も最後の望みを託して、様々な手を尽くして(両親は必死、心の鬼への伏線)転院さ
せたのだ。
医院長(読者向けなので医院長)は独裁的な男だったが、目的はシンプルで一つだけ(歯
切れよく)である。
(患者さんに最善の治療を施す)
その為であれば全てが二の次となる。医院長は自分が院内で嫌われていることを知ってい
た。昔からの慣習や当たり前の常識を、抗議の声にも関わらず全て無視した。それでも従
わない古参の人間を、強権を発動させて辞めさせたが心が傷んだ(鬼瓦のイメージをひっ
くり返したが、成功しているか?)。
誰にも理解されない男(読者に鬼瓦は孤独なことを伝える)。
深夜遅くに帰宅すると、少年の病気に関する論文を、片っ端から読みあさる。何か新しい
治療方法は無いのか?研究は進んでいないのか?(しつこいか?)どこかに優秀な専門医
がいれば、招聘することも厭わない(少年>プライド)。
彼女は少年を窓際へ促した(鬼子と同じ目線へ移動)。
少年はゆっくり(病気を表現1)とベッドから立ち上がり、慎重に歩を進めて(病気の表
現2だがやりすぎ?)近づく。彼女と並んで窓の外を眺めるが、風景のあらゆる事が憎ら
しく見える(読者に少年の心の鬼を伝える)。
美しい山並みの麓(山並みを駆けまわるのは無理)を、他の子供の様に駆けまわることが
出来ない(後で使う)。そんな病院に転院させた両親。自由に行けない眼下の賑やかなシ
ョッピングセンター(後で使う)。鬼瓦のような医院長。そして不自由な体に生まれた自
分自身(これの克服が鬼子の仕事)。
彼女は立て掛けてあった薙刀に触れて、上から下へ軽くなぞる(鬼子に能動的な動作をさ
せる)。
その動作に合わせるように、秋の風が窓から舞い込んでカーテンが揺れ、少年は思い
出した。
冬の雪山の静けさ、春の若葉の息吹き、真夏の命の逞しさ、そして秋の紅葉の装い。窓
に広がる季節の移り変わりを、眺めるだけでも楽しかったことを(少し詩的に表現)。
泣き顔だった両親が、心の底から嬉しそう(快方1:読者に快方傾向を知らせる)にして
いたことを。
週末に短い時間だったけれど、見舞いの友達とショッピングモールに行けた(快方2:読
者に快方傾向を知らせる)ことを。
そういえば、若い研修医が同期会に行ったら、他を圧倒する実力が付いていたと喜んでい
た(読者に鬼瓦を説明)。
少しだけ元気になったかも知れない(初めて前向きになる)。
今夜は食事を全部平らげて、明かりが消えたら夜更かしせずに寝よう(鬼瓦と和解1)。
明日は朝一番で、鬼瓦にお願いしたい(鬼瓦と和解2)事を思いついた。窓際に椅子を置
いて欲しい(窓の風景と和解)が、それくらいなら許してくれるはずだ。
彼女が闘う鬼達は、弱った人の心に棲みついて、自分自身を焼き尽くしてしまう(イマイチ
か?)。この鬼を無くすことは出来ないだろうが、これからも闘い続ける。
「こんどはあの小学校へ行ってみよう。これから運動会の出し物を決める教室へ」
彼女はそうつぶやくと病室を後にした。
(ラストが公園編と違っているのがアリか?)
>>50-51から添削を除いた改訂版を投下します。
彼女は何処にでもいる。何時でもそこにいる。
大きな病院の、小児科の病室。
大きく開け放たれた窓からの風景は、最盛期を迎えた紅葉で山並みが燃えるように美しく、
近くのショッピングセンターでは客たちが賑やかだ。
そんな何処にでもある、日常の平和な風景。
微風に揺れるカーテンのそばに、燃える山並みを染め映したような和服を着た、歳若い女
性が佇んでいる。
随分と長く入院している少年は、ベッドから上半身を起こして、2人で窓に広がる風景を
静かにながめていた。
回診時間?ノックと共にドアが開いて、大きな四角い顔をしたギョロ目の医院長(少年は
鬼瓦と渾名を付けた)が入ってきた。少年の担当医で病院を支配する独裁的な奴。
殆ど人が訪れない病室で、少年と気軽に話をしてくれる、大好きな若い研修医を影で虐め
ているのを知っている。
昨夜、トイレに行った時にも廊下の片隅で怒られているのを見た。誰も何も言えないこと
を良い事に、カルテで頭を小突きながら
「そんなことも知らなくて責任を取れるのか!?今週中に渡してあった医学書を読んでこ
い!」
暫くすると意地悪く聴く。
「あの件はどうなった?」
しどろもどろのの研修医に向かって
「第3章の第2項、150ページに書いてあるだろう?お前は読んだのか?」
また怒られる。誰も居ない深夜の待合所で、涙ぐんでいたのも知っている。
鬼瓦はギョロっとした目で睨みながら、
「今日は食事を残したな。最近、遅くまで起きているだろう?時間を守って寝ないと駄目
だぞ」
いつも子供扱いをして命令口調でしか話さない。だから、病院中が鬼瓦を嫌っていて、お
医者さんも、看護師さんも、お手伝いさんも、鬼瓦がいなくなれば良いと思っているんだ。
それが僕の担当医!
>>52の続きです。
少年の嘆きとは裏腹に、病院は地方での一番人気と、治療実績を誇っていた。
実力のある医者が集まり、患者に対する治療とケアで、他の追従を全く許さない。少年の
両親も最後の望みを託して、様々な手を尽くして転院させたのだ。
医院長は独裁的な男だったが、目的はシンプルで一つだけである。
(患者さんに最善の治療を施す)
その為であれば全てが二の次となる。医院長は自分が院内で嫌われていることを知ってい
た。昔からの慣習や当たり前の常識を、抗議の声にも関わらず全て無視した。それでも従
わない古参の人間を、強権を発動させて辞めさせたが心が傷んだ。
誰にも理解されない男。
深夜遅くに帰宅すると、少年の病気に関する論文を、片っ端から読みあさる。何か新しい
治療方法は無いのか?研究は進んでいないのか?どこかに優秀な専門医がいれば、招聘す
ることも厭わない。
彼女は少年を窓際へ促した。
少年はゆっくりとベッドから立ち上がり、慎重に歩を進めて近づく。彼女と並んで窓の外
を眺めるが、風景のあらゆる事が憎らしく見える。
美しい山並みの麓を、他の子供の様に駆けまわることが出来ない。そんな病院に転院させ
た両親。自由に行けない眼下の賑やかなショッピングセンター。鬼瓦のような医院長。そ
して不自由な体に生まれた自分自身。
彼女は立て掛けてあった薙刀に触れて、上から下へ軽くなぞる。
その動作に合わせるように、秋の風が窓から舞い込んでカーテンが揺れ、少年は思い出し
た。
冬の雪山の静けさ、春の若葉の息吹き、真夏の命の逞しさ、そして秋の紅葉の装い。窓
に広がる季節の移り変わりを、眺めるだけでも楽しかったことを。
泣き顔だった両親が、心の底から嬉しそうにしていたことを。
週末に短い時間だったけれど、見舞いの友達とショッピングモールに行けたことを。
そういえば、若い研修医が同期会に行ったら、他を圧倒する実力が付いていたと喜んでい
た。
少しだけ元気になったかも知れない。
今夜は食事を全部平らげて、明かりが消えたら夜更かしせずに寝よう。
明日は朝一番で、鬼瓦にお願いしたい事を思いついた。窓際に椅子を置いて欲しいが、
それくらいなら許してくれるはずだ。
彼女が闘う鬼達は、弱った人の心に棲みついて、自分自身を焼き尽くしてしまう。この鬼
を無くすことは出来ないだろうが、これからも闘い続ける。
「こんどはあの小学校へ行ってみよう。これから運動会の出し物を決める教室へ」
彼女はそうつぶやくと病室を後にした。
RTFてなんのファイル?
>>54 >RTFてなんのファイル?
RTF (リッチ テキスト形式)で、MS-Wordで読めます。
>>ID:nqM0iz3/
ちょwwおまwww
だいぶ読みやすくなったけど俺に引っ張られすぎだろうw
まだ結構文章の視線がおかしい表現はあるけど、導入部分は大正解。
シリーズ化するなら出だしを同じにするか、同じ韻を踏ませることで「あぁあの人か」もしくは「あのシリーズか」と一発で理解されるようになる
個々の内容をいちいち説明してても逆に成長しなくなっちゃうから、とりあえず色んな本を読むといいよ
ラノベは無理なく入れるだろうし、赤川次郎や菊地秀行でもいい。なんならタイプムーンの空の境界とか――
・・・そういや本スレの
>>176-177は構成がしっかりしてて面白い。型月の影響(?)も相当出てたがw ↑このラインが型月の特徴
国語の時間じゃないけど、彼とかソレとか代名詞(でいいんか?まぁ代入されてる奴だ)を意識して読んだり、章ごとに誰視点で書かれてるのかを
理解しながら読むと慣れない内は疲れるけど、自然と慣れて文章力が付くようになるよ
# 希望があればまた添削(?)も全然大丈夫だけど、テキスト内で書いた通り「数学に正解あって文学に正解なし」なので俺の書いたのが正解、
なーんてことはないってことだけは理解してねw
>>54 簡単に説明するとメモ帳以上Word未満のテキスト形式ファイル
HTMLのように色を変えたり太字に出来る上、Windowsなら確実に開ける(標準ソフトのWordPad)安心のファイル
Wordだとソフトを入れてないと見れない、単なる文字(プレーンテキスト)だと注釈がしにくいので使ったのさー
>>56 >ちょwwおまwww
>だいぶ読みやすくなったけど俺に引っ張られすぎだろうw
教わったばかりだから素直に添削したw
仕事も同じだけれど、伸びるやつは基本的に素直だよね。
># 希望があればまた添削(?)も全然大丈夫だけど、
ヨロ。待ってます。
>数学に正解あって文学に正解なし
それは基本が出来てからの話でしょうナ。
SS初投稿の俺には無関係な先の話。
誰か同じプロット、設定自由で書いてみない?読んで見たい希ガス
中国全土が、日本鬼子一人の手によって恐怖のどん底に叩き込まれた一方で、立ち上がる者たちがいた。
鬼子に対してではない。敵は北京、中国共産党だ。
新疆ウイグル自治区はウイグルスタン共和国、チベット自治区はチベット国を名乗り、独立宣言をした。
そして、かねてから独立派と大陸統一派の争いで揺れていた台湾が、台湾国として独立宣言をした。
全世界は、全ての独立を支持、承認した。
たった一人の化け物に敗れ去った人民解放軍には、もう独立を阻止する力はなかった。
現地人からの報復を恐れた漢族が、次々と逃げ出した。運悪く捕まってリンチされる者は後を絶たなかった。
「日本鬼子様は、アラーが遣わした正義の戦士なのだ」
「日本鬼子様は、祖国を救うために遣わされた御仏の使者だ」
それぞれの目線で、日本鬼子は讃えられた。
>>58 5行目で共産党が解放軍に変わった点とリンチを私刑と表記しなかった点以外は普通じゃん
ちなみに最終行はめっちゃ評価するwww
まぁイスラムは偶像崇拝禁止だけどな
うわわ、昨日は顔出せずにすみません……。
>>41>>46 まあ、一応こちらの方が経験積んでますからね……。
いや当然ですがプロではありませんよ、誤解防止。
>>49 おお、推敲したんですね……!
すらりらっと、清流のように読むことが出来て、なかなか気持ちがいいです。
ああ、この気持ちよさ、羨ましいなあ……。
色々あれこれと考えた結果なんでしょうね。
ただ、出来れば推敲したときの、「途中で疑問に思ったこと」は明かさずそっと伏せて下さると、読んでいて安心します。
まあ、そこだけ読み飛ばして改訂版を読めばOKなのでしょうが、
なんというか、ネタバレしてる推理小説を読んでいる感覚に近いというか……。
直した点を示したい、という気持ちは分かりますが、その直した点も探す楽しみが欲しかったなあ……なんて個人的な意見を。
どんな作家でも、自分の武器は本番になるまで隠しているもの……なんじゃないかなあ?
いやしかし、初投稿でこの文章力……凄い……。
>>57 > 仕事も同じだけれど、伸びるやつは基本的に素直だよね。
こりゃ一本取られたw
確かに仕事でも叩いて反応ない奴は伸びないし、逆に「なにをっ!」ってなる奴は伸びるもんなぁ
と、病院編ですが、めんどくさいこともあって前回みたいに注釈は入れてないですw
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1258813.rtf.html >>60 最近は歌麻呂さんとID:nqM0iz3/がいるおかげでSSスレが楽しいw
創作スレって本来こんな感じでブラッシュアップするために活用するのが正しいような気がするんだよねー
>>49は今見直すとやはり何点かまだ修正したいところがあります・・・(´;ω;`)
病院編もストーリーだけを楽しむには注釈付きの文章は確かにネタバレ推理小説に近い感じがあるw
プロットがいいのは間違いないんだし、注釈付きは外部に出しちゃっても確かにいいかもですね
>>60 歌麻呂さんからレスが頂けるとは光栄です。
>ただ、出来れば推敲したときの、「途中で疑問に思ったこと」は明かさずそっと伏せて下さると、読んでいて安心します。
今回限りです。SS初心者の不安?な心の内ですので、どうかお許しを。
>>38 >あとは、もう少し読者のことを考えながら、
>バランスのいい描写を心がけるともっともっとよくなるんじゃないかなあ……?
アドバイスがクリア出来ているか。さて?
>>61 SSに初めて来ましたが楽しかったです。
たまに投下しますので、レスを付けてやって下さいませ。
>>13の続き
「待たせたな」
「いえ、思ったよりも早かったですね。395号線は混んでいませんでしたか?」
「あそこが混んでない日があったら教えて欲しいもんだ」
アパートメントの玄関口、吐き捨てるように言うボスを部屋に通す。
「110号線を通った。急がば回れさ」
「あ、お久しぶりです」
マネージャも一緒だった。ASEANへの出張前以来か。
キッチンに行き、淹れておいたコーヒーと適当なスナックを持ってリビングへ行く。
「良かったら夕食の準備もしますが」
「おいケン、誰の運転で来たか察しがつくだろ? それでメシの話など」
「サラは平気ですがね。昨日も……」
真面目な顔でノロケ話を始めるマネージャ。
彼の車は(買い替えてなければ)ラリーチームから売り出された競技用インプレッサ。
以前乗った助手席の記憶。椅子が付いた水上スキーのような走り、降りた後の不快感。
食事の話は控える事にした。
「それで、その後友人からの連絡は?」
ノロケ話を遮って、ボス。マネージャと共に、ソファに腰を下ろす。
仏頂面のままスナックの袋を開け始める。……食べるのな。
「あ、はい。件の廃村から顛末を書いたメールを送ってきて、その後は」
「無いのか」
「はい。今頃は自宅へ移動中かと」
「何か添付物は?」
コーヒーを啜りながら、マネージャ。
「画像が13枚」
ソファの中央に座り、テーブルの上に移動しておいたPCで、それを開いてみせる。
「こうして見ると、オスプレイってのは異様な飛行機ですね」
紅葉の山の上に浮かぶ、不気味な質量感を持ったライトシアン。
「ケンの自室だから見る事が出来る。ボスの判断は正解でしたね」
モニターを興味深そうに見ながら、マネージャ。
そう、タケに通話を切られた時は焦った。叫びたいほどに。
その後、自宅で就寝中だったボスを電話で叩き起こして相談を持ちかけたが、その回答が
『風邪引いた事にして自室で連絡を待て』だった。
「ああ。ケンはどうせ仕事にならんかっただろうからな」
その通りだ。今日は一日、冬眠前の熊の様に部屋の中をウロウロしていただけだった。
「そのメールが届いた16時までは、生きた心地がしませんでした」
タケめ、電話だと怒られるのが分かってたから、メールだけにしやがったな。
今度会ったら日本食レストランでフルコースを奢らせてやる!
「友達思いだな」
そう言って、ボスがバッグからレターサイズの書面を出す。
「まあ、その間に省内で色々面白い情報を手に入れられたが」
渡される。マネージャを見ると、お前が見ろという素振り。
ああ、これはマネージャが集めたものなのか。
「他の画像を見ても?」
問い掛けるマネージャに首肯し、その書面を見る。
……なるほど、このオスプレイ出動命令の出元はNRO(国家偵察局)か。
通常でない飛行ルートについては、あくまでもテスト運用中のトラブルだと強弁してる。
しかし、マネージャの情報収集能力は凄い。同じ省内とはいえ、文官だけでも66万人を
抱える巨大組織、局間の壁も高い。そんな中で、僅か半日でこんな重要機密レベルの情報
を抜き出してくるとは。
「流石ですね」
マネージャに振る。
「日時と場所、それからある程度の状況を掴めてれば、大して難しい事ではない」
謙遜以前の、まるでそれが当然と言った風で。
「あ、NRO絡みという事は、情報の出元は」
「かなりの確率でCIAだ」
またか。先日会った、システム局のユリアを思い出す。
それにしてもマネージャ、局内では言い難い単語をズバリと。
「お、これは鬼子じゃないか?」
マネージャが開いた画像を見たボスが。そこには日本家屋をバックに、少しはにかんだ
表情の鬼子が写っていた。
「しかし俺らが見たのより少し幼いな。14歳くらいか。鬼子は二人居るのか?」
「ああ、いえ、その後17歳前後の容姿に変わったそうです」
「なんと、年齢すら可変なのか」
唖然とするボス。
「クリスが会ったという鬼子は、どのくらいの年齢に見えた?」
「コニーだ……」
モニターをウットリした表情で眺めるマネージャ。先程の鬼子のと同じと思われる建物
を背景に、幼女が写っている画像が表示されている。その10枚全て容姿が違う。
「おいケン、クリスを腑抜けにしてるこの幼女たちは何なんだ?」
肩を竦めて、ボス。俺もマネージャのこんな表情は初めて見た。
「それは小日本といって、例のファンサイト内で生み出されつつあるキャラです」
「つつある? そこにもう出てきてるじゃないか」
「タケからのメールでは、今回の廃村での戦闘で鬼子に力を与えたとか」
「なら尚更、生まれつつあるというのは変じゃないか」
「私たちが見た鬼子も、その時点ではまだ生まれつつある状態でした」
「……? 良く分からん。おいクリス、その中にお前が会ったコニーとやらは居るか?」
「居ません」
夢見るような表情で。
「では何故それらがコニーだと言うんだ?」
「自分でもよく分かりません。しかし、これらは全てコニーになるものだ、という事は
分かります」
「ますます分からん」
スナックを貪るボス。
マネージャは、小日本の世界に耽溺してしまった。
「今は、小日本の代表デザインを決める投票の真っ最中です」
PCを操作し、例のサイトを開いてみせる。モニターは余裕の30インチだ。
「これがその様子で、す、が……!」
驚いた事に、マネージャが見ている10枚と、2次投票に残ったそれらの容姿が合致し
ていた!
「日本人は、電脳世界の住人を現出させる事が出来るのか!?」
ボスが口中のスナックを噴き出す。
「分かりません。ひょっとすると、現出している鬼子や小日本が、サイトを見て自分を変
えているという可能性も有りますが」
寧ろ、そうとしか思えない。でなければ幾ら何でもこれは。
「そもそも、彼女たちは一体何なんだ? 間違っても人間じゃないし、かといって何かの
ホログラム等でもない」
!! ……確かにそうだ。俺は何故、今までその事を疑問に思わなかったんだ?
「しかし、この世界に居るし、その幼女の方とは手を繋ぐ事も出来る。と同時にネットの
世界にも存在している。まるっきり物理の法則に反してるじゃないか!?」
まるで怒ってる様に、ボス。
その怒りは、正解を見つけられない自分自身への腹立たしさか。
「私も疑問です。今は不明ですが、それを突き止める事は不可能では無いと思ってます」
「ほう、それはどういう道筋でだ?」
「彼女たちのような存在は他にも居ます。例えば“虎”とか、今回タケが遭遇したという
”鷲”等のような」
「それらが出現するところに、彼女らも現れます。しかも敵対しているようです」
「彼女らの線で分からなければ、その敵対してるものの方を調べれば何らかの手がかりが
掴めるやもしれません」
一気に捲し立てた。分からない事に苛立つボス以前に、それを疑問にすら思わなかった
自分自身にキレそうだったから、それを誤魔化す為に。
「“鷲”とは、まさか」
「ええ、タケによると巨大なハクトウワシだったそうです」
「それは我が国の……!」
「はい、それにCIAが絡むとなれば、事は意外と単純なのかも、です」
自分の言った事に自分で驚いた。これは意外と良い線ついてるんじゃないか?
「ふむ、一気に生臭い話になったな」
「ある程度のアタリがつくまでは、その線での調査を行うべきかと」
「ああそうだな、来週からの業務配分を考え直さなければならんな」
コーヒーを飲み干すボス。
冷めてると苦情が出たので、マネージャの分も一緒に淹れなおす事にした。
「正体を見つける前に、彼女たちの存在が世間に知れたら大騒ぎだな」
話が一段落して、空気が緩んだ。
「我が国ではそうでしょうね。しかし日本は、どうでしょう?」
リラックスしたボスを、少し苛めてみたくなった。
「あの国だって同じだろ」
「日本人は、彼らを見て最初は面食らうかもしれませんが、すぐに納得するでしょう。
なにせ八百万の神々の国ですから」
「まさか。いや、それよりも今“彼ら”と言ったな。その中に男性も居るのか?」
「ああ、男性は男性なのですが、大きな犬が一頭、仲間に加わったそうです」
「なっ……」
やりすぎて、ボスが黙ってしまった。口を開けっ放しで。
…………
「少なくとも」
沈黙を嫌ったか、マネージャが口を開く。
「我が国に於けるコニーの第一号のファンは、私だな」
「それなら鬼子のファン一号は俺だ」
ボスが胸を張って。
「特にこの、ダンシングモデルの鬼子がまた……!」
いつの間にか、ボスがサイトのページを切り替えていた。
「では私は? 犬のファン第一号ですか?」
「鬼子のファン、その二番目に認定してやろう」
「コニーの、以下同文」
「二番目なんて、妹にキスする様なもんですよ!」
「何してるのよ、兄さんっ!」
帰宅した俺を待っていたのは、玄関前での妹の叱責だった。
「全然家に顔を出さないから心配して来てみれば、なに、朝帰り?」
もう10時だが。
「兄さんは忙しいのだ」
無視して部屋に入る。
街外れにある分譲マンションの5階、角部屋。
普通に買えばそれなりの値段だが、これは仕事の都合で知った、所謂ワケアリ物件。
「忙しいって、何処へ行ってたのよ」
「山奥」
ワケアリといっても、安普請とかそういう理由からではない。
「そんなとこ行って何してたのよっ」
「うっさいな、フロ入る」
そう、出るのだ。幽霊とか色々。
例えばこの脱衣所兼洗面所の鏡に、腐乱しかかった人の死体が映っているとか。
だから貧乏人の俺でも買えたワケだが。
「あ゛〜、四日ぶりのシャワー……」
体の疲れが浮き出て流れて行く様だ。
頭からつま先まで丹念に洗う。そしてもう一度熱いシャワーを浴びて〆る。
「ふぃ〜、サッパリしたぁ」
「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
およそサッパリとは程遠い叫び声に迎えられる。
「どうした妹よ」
梅図か■お調の表情のまま凍りついている。
「パ、パンツくらいはいてよぉぉぉおぉぉぉおお」
妹よ、何故語尾にコブシを効かせる?
「いやあ、ちょっと湯汗が出そうだったから、冷ます為に」
腰をスイングして見せる。
「お、おにいちゃんのブァクァァァァアァァァアア!!」
ドタドタドタバタン。客間に逃げ込むマイスィート妹。
まあ、歳が九つも離れてるから、妹というよりも娘に近いんだが。
オシメを替えてやった事もあるしな。
それを言うと殴られるが。
「うう、寒っ」
妹を追い出せたので、さっさと服を着てリビングへ移動する。
しかしそう邪険にして良いモンでもないが。
何故なら、この部屋の魑魅魍魎どもを祓い出してくれたんだから。
いくら大学の神道学科生とはいえ、ことし入学したばかりで、限りなく一般人に近い状態
だったんだが。
いやしかし、ホント良く出来たもんだ。ひょっとして才能有るのかもな。
「さて、と……」
机の上にノートPCを置き、起動する。
…………
……
「兄さん、もう服着た?」
「まだだ」
ドアを少し開ける気配がする。
「あー、もう着てるじゃない」
「実はチンシコなう」
迫る足音。
「ウソばっか」
背中に手を乗せ、PCの画面を覗き込む。
胸や顔がこちらの体に当たりかかっている。
妹に限らず、女ってのは、なんで裸は嫌うのにこういう事には無頓着なんだろう?
「兄さん、これって英語の詩だよね?」
「ああ」
My heart leaps up when I behold 空にかかった虹を見ると
A rainbow in the sky. . 私の心は高鳴るのだ
So was it when my life began; . 少年の頃もそうだった
So is it now I am a man; . 大人となったいまもそうだ
So be it when I grow old, .. 年老いてもそうありたい
Or let me die! でなければ死をたまえ!
The Child is father of the Man; . 少年が長じて大人となる
And I could wish my days to be だから私は少年の頃の
Bound each to each by natural piety. 敬虔な気持を持ち続けたい
そう、USBメモリに入っていた、取り出し可能なファイルの内の一つ。
今、ネットでその訳文を探して、コピーしたファイルに貼り付けたところだ。
「なんていう名前なの?」
「たしか、ワーズワースの『虹』だったな」
「へえ、こういう趣味が出来たのね」
何故か嬉しそうにする妹。
「いや、これはある重要な機密のパスワードなんだ」
「はい? これが?」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をする妹。
「そだよ。鈴(れい)に分かるか?」
「分かるも何も」
何故分からないの? ってな表情で。
「単純な縦読み――」
「縦読み、って事は無いですかね?」
話が頭悪い方向に行ったので、堅い話を振ってみた。
タケが送ってきたメモリ内部のファイルを開いて、謎解きを始めたのだ。
MASSSOTAB
「まあ、普通はこう読み替えるでしょう」
MASS SO TAB
PCの画面上にテキストエディタを開き、その上に書き込んでみる。
尚、タケが送ってきたその他のファイルは、6つ。
その全てが何かの、200行から500行のプログラムコードだった。
ファイル名は単純に一文字が振られている。
e,m,n,o,O,w だ。
その中身は、始まりのコードが書かれたものと、終わりのコードが書かれたもの以外は、
何をする為のものか全く分からなかった。
試しにそれらのファイルの組合せを試してみたが、どの組合せでも意味のあるプログラム
の体を成さなかった。
「英単語ではあるが、英語じゃないな」
違うんじゃないか? という顔でマネージャ。
「まあ、これしか手掛かり無さそうだからな」
意外と(失礼!)面白がってるボス。
「TAB、だから右端を縦読みしろってんじゃないか?」
ボスの提案に従って、右端の文字を書き出してみる。
dynndeney
「これも意味が通じないな」
縦読み消極派のマネージャが。
「ふうむ、ならMASSだから、文章全体を右端に詰めてみたら?」
縦読み積極派のボスが。
のっけから手詰まりだったので、とりあえず具体案には全て乗ってみる。
.. My heart leaps up when I behold
.. A rainbow in the sky.
So was it when my life began;
So is it now I am a man;
So be it when I grow old,
. Or let me die!
. The Child is father of the Man;
. And I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.
「これだと、何処を縦読みすれば良いのか分かりませんが」
「そりゃお前、当然一番短い6行目の“O”の列だろう。」
「あ、はい……しかしボス、これだと1行目と8行目がスペースになってますが」
別にダメ出しをしたいわけではないのだが、流れ上そういう位置になってしまった。
「ケン、1行目と8行目の行末には、スペースが一つ打ち込まれているぞ?」
マネージャの指摘。
「ああ、そうですね」
改行キーが揃うように合わせ直してみる。
. My heart leaps up when I behold
.. A rainbow in the sky.
So was it when my life began;
So is it now I am a man;
So be it when I grow old,
. Or let me die!
. The Child is father of the Man;
. And I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.
これから、“O”の列の文字を抜き出してみる。
womoeOemn
「うーむ、これでも何の事か分からんな、って、ケン?」
まさか、これはっ!
プログラムコードのファイル名と合致する。違うのは二度使う文字が有る、という事だ。
「そうか、そうすれば……!」
「どうなるってんだ?」
縦読みと言った鈴に聞き返す。そんな単純な話では無いだろう。
「だいたい、MASSSOTABとかイミフだっつうの」
「ふっふーん、こういうのは大抵、キーボードに答えが書いてあるのよね」
得意げに。
「これを仕込んだのが日本人なら、だけど」
「んー、何処の国の人間かは分からないんだがな」
にしても、キーボードに書いてあるだと? ワケの分からない事を。
そんな単純なら、誰も苦労しないってーの。
「まったくさ……」
書いてある。キーボードのキーに平仮名が。
それを書き出してみた。
もちとととらかちこ
……まさか。
持人と虎 加知子
!!! これは不動産屋の社長と奥さんの名前じゃないか! (虎は別だが)
「ちょっと、兄さん!?」
荷物を持って駐車場へダッシュだ。
「急用が出来た、戸締りを頼む!」
玄関から、目前の非常階段を駆け下りる。
「ケータイ、また忘れてるよ、鳴ってるよー!」
「放っといてくれー!」
俺が開き出したファイル名を見てピンと来たのか、ボスもマネージャも放っといてくれ
た。そして、全てのファイルを先程の文字列と合う様にコピーして配置してみた。
「か、形に、なってる……」
これなら先頭から最後まで綺麗に通る。
しかもこのプログラムが意図してる事は恐らく――
「ボス!」
「その友人に連絡を取れ! 大至急だ!」
俺の表情からのっぴきならない事態と読んだか、速攻で指示が出た。
「はい!」
携帯電話で国際電話をかける。長い発信音。30回を数えた。
「電話がダメなら他の手を使え。手段は問わん、なんとしてでも連絡を付けろ!」
「イ、イエス、ボス!」
続きます。
あと2〜3回で終わるので、どうかご容赦頂きたく。
>>52-53を
>>61が推敲した改訂重版を投下します。
彼女は何処にでもいる。何時でもそこにいる。
どこか大きな病院、とある小児病棟のちいさな一室。開け放たれた窓からは、最盛期を迎
えた紅葉の山並みが燃えるように美しく、近くのショッピングセンターでは客たちが買い
物をする若者で溢れている。
そんな何処にでもある、日常の平和な風景。
微風に揺れるカーテンのそばに、燃える山並みを染め映したような和服を着た、歳若い女
性が佇んでいる。随分と長く入院している少年は、ベッドから上半身を起こして、2人で
窓に広がる風景を静かにながめていた。
もう回診時間だっけ―――ノックと共にドアが開いて、大きな四角い顔をしたギョロ目の
医院長(ボクは鬼瓦とあだ名を付けた)が入ってきた。ボクの担当医でこの病院を支配す
る独裁的な奴。
殆ど人が来ない病室で、唯一ボクと気軽に話をしてくれる大好きな若い先生を、影で虐め
ているのをボクは知ってる。
昨夜もトイレに行った時、廊下の片隅で先生が怒られているのを見た。カルテで頭を小突
きながら
「そんなことも知らなくて責任を取れるのか!?今週中に渡してあった医学書を読んでこ
い!」
なんて怒鳴っていた。
「あの件はどうなった?」
しどろもどろのになる先生に向かって
「第3章の第2項、150ページに書いてあるだろう?お前は読んだのか?」
また怒鳴る。誰も居ない深夜の待合所で、大好きな先生が涙ぐんでいたのをボクは知って
いる。
鬼瓦はギョロっとした目で睨みながら、
「今日は食事を残したな。最近、遅くまで起きているだろう?時間を守って寝ないと駄目
だぞ」
いつも子供扱いをして命令口調でしか話さない。きっと病院中が鬼瓦を嫌っていて、他の
先生も、看護師さんも、お手伝いさんも、みんな鬼瓦がいなくなれば良いと思っているん
だ。
そんな奴が僕の担当医だって?!
>>70の続きです。
少年の嘆きとは裏腹に、その病院は高い人気と、それに劣らぬ高い治療実績を誇っていた。
実力のある医師が集まり、患者に対する治療とケアで他の追従を全く許さない。少年の両
親も方々に手を尽くし、最後の望みを託してこの病院に転院させたのだ。
医院長は確かに独裁的な男だった。だがその治療方針―――目的は実にシンプルだ。
『患者の為に最善の治療を施す』
その為であれば全てが二の次となり、院内の声などを聞いている余裕はなかった。
結果として自分が院内で嫌われることを理解していた。昔からの慣習や常識を、抗議の声
を全て無視してきた。従わない人間や、患者を優先出来ない者は退職に追い込んだ。
―――誰にも理解されない男。
今日も深夜遅くに帰宅すると、少年の病気に関する論文を片っ端から読みあさる。何か新
しい治療方法は無いのか?研究は進んでいないのか?どこかに優秀な専門医がいれば招聘
することも厭わない。
彼女は少年を窓際へ促した。
少年はゆっくりとベッドから立ち上がり、そろりと歩を進めて近づく。彼女と並んで窓の
外を眺めるが、風景のあらゆる事が憎らしく見える。
美しい山並みの麓を他の子供の様に駆けまわることが出来ない。自由に行けない眼下の賑
やかなショッピングセンター。鬼瓦のような医院長。そんな病院に転院させた両親。そし
て不自由な体に生まれた自分自身。
彼女は立て掛けてあった薙刀に触れ、上から下へ軽くなぞる。
その動作に合わせるように秋の風が窓から舞い込んでカーテンが揺れ、少年は突然思い出
した。
冬の雪山の静けさ、春の若葉の息吹き、真夏の命の逞しさ、そして秋の紅葉の装い。窓に
広がる季節の移り変わりを、眺めるだけでも楽しかったことを。
泣いてばかりだった両親が、心の底から嬉しそうにしていたことを。
週末に短い時間だったけれど、見舞いの友達とショッピングセンターに行けたことを。
大好きな先生が他の病院の先生よりも実力が付いていたと喜んで話してくれたことを。
少しだけ元気になったかも知れない。
今夜は食事を全部平らげて、明かりが消えたら夜更かしせずに寝よう。
明日は朝一番で鬼瓦にお願いしたい事を思いついた。窓際に椅子を置いて欲しいが、それ
くらいなら許してくれるはずだ。
彼女が闘う鬼達は、弱った人の心に棲みついて、自分自身を焼き尽くしてしまう。この鬼
を無くすことは出来ないだろう。だが彼女きっとこれからも闘い続ける。
「こんどはあの学校へ行ってみよう。これから運動会の出し物を決める教室へ」
彼女はそうつぶやくと病室のドアとそっと閉じた。
>>70-71 子供を子供らしく喋らせる。
他もメリハリが効いて生きている。
細かいところまで目配せを欠かさない。
これだから2chは油断できない。
>>ID:oiWtSpvG
絶賛される程俺はすごくないから勘弁してくれ・・・orz
つーかすっげぇ恥ずかしいんだけどw
>>73 こまけえことはいいんだよ。
俺だって晒らし者なんだからアキラメロ(笑)
あ、
>>49で気になるところもヨロ
>>45 子の刻が23時から説と0時から説とがあるから、
午後七時って酉の刻でも戌の刻でもあるのか!
上手くできてるなぁ
皿に独立宣言は続いた。
中国東北部、かつて満州と呼ばれた地域が、満州国として独立宣言をした。
第二次大戦の時のような傀儡国家ではない、本当の満州人の国として。
こうして中国は国土の6割を失った。
もう中国はおしまいだ。
世界中の誰の目にもそう見えていた。
和解したはずのロシアは事なかれを決め込んで全く助けを出してくれない。
子飼いの北朝鮮に至っては問題外。
主席は逃亡するため、車を北京郊外に向けて必死に走らせた。
もう外国へ逃げる道は閉ざされた以上、無駄なあがきであったが、それでも逃げた。
だが、郊外の村に入ったところで、車は燃料切れで動けなくなってしまった。
村にあった車を奪って逃亡しようとした。
「車をよこせ」
村人を脅した。
「だ、黙れ! 誰がお前なんかに!」
村人は拒否した。すると、運転手が銃を向けた。
「早くよこせ__」
言葉が終わるか終わらぬかのその時だった。
「!!」
主席は、腹に焼け付くような痛みを感じた。
横には、銃を構えたまま、首のない運転手が倒れている。
静かに後ろを振り返れば、そこには……奴がいた。
フグには毒がある。でも、フグはその毒に一生気付くことはない。無意識にその武器を備えていて、無意識に自分の身を守っているんだ。
……幸いにしてか、不幸にしてか、僕はこの身に毒を抱いていることを知っている。でも、僕はフグでもヘビでもない。
ヤイカガシという、守り神だ。
神さまと言っても、きっと誰からも崇められない、身分の低い神さまだ。神さまに身分があるのも変かもしれないけど、疫病神というものもいるくらいだし、この国にはありとあらゆる神さまがいる。だから自然と身分が出来てしまうのだろう。
ヤイカガシ一族は、このボヨボヨした皮膜から強烈な臭いを発し、その疫病神を追い払うことだけを生きるサダメとして、千歳の時を渡ってきた。何代も何代も、ただ疫病神を払うために。
月読サマや天照サマのように手を振るだけで世界に色を付けるような、そんな素晴らしい力はないけれど、何か湧き出る魔法のようなもので疫病神を撃退しているのだと、ずっと信じて疑わなかった。
確かに僕たちの一族には特別な魔法を備えていた。友人のヒワイドリ君の一言で、僕は全てを悟ってしまった。
「お前さ、言うの我慢してたんだが、ぶっちゃけ、マジでくせえ」
滲み出る粘液からの悪臭。これが、僕の魔法だった。疫病神だけでなく、ありとあらゆるものを退ける、疫病神より厄介な魔法だった。
急に、ヒワイドリ君のことが怖くなった。
随分と長い間親しくしていたけど、その間この体臭に耐え続けていたのかと思うと、何か、申し訳ないような、球体の上からするりと滑り落ちるような、そんな感覚が肝だか胸だかを一気に冷却し、川底に突き落とされた気分だった。
ヒワイドリ君としては何気ない一言だったのかもしれない。
でも、本当は僕のことを嫌っていて、昔馴染みのよしみで嫌々共に行動をしていたのかもしれない。
きっとこれは疑心暗鬼だ。ヒワイドリ君はそんなこと思っていない。そう心に言いきかすけど、身体は正直だった。反射的にヒワイドリ君を避けるように行動するようになってしまっていたんだ。
とにかく、もうヒワイドリ君とは、面と向かって話すことなんて出来ない。
フグには毒がある。その毒を恐れて、誰も近寄らずにフグは孤独を生き、孤独のままその身を海原の糧となるまで、悲しみに暮れ、日々を暮らすのだ。
そうして途方に暮れていると、いつも間にか日は山を掠め、空を赤く染めていた。今まで見たことのないほどの赤だったけれど、僕はその情景に心を動かされることはなかった。
小川に紅葉が浮いていた。赤く染まったそれは、焼け果てる寸前の祀り火のようでもあった。
紅葉なんて嫌いだ。その生命を全うしてもなお、人々を癒し続けるのだから。枝にひっついているときはもっての外だ。
対する僕は一体何者なのだろう? そもそも疫病神を祓う存在でありながら、人々には感謝されやしない。そんな人たちのために、厄を払う必要なんてあるのだろうか?
昔はそんなことなかった。こんな僕でさえ感謝されていたはずだ。でも、神が形骸化された今となっては、もう僕の存在価値なんて皆無と言っていいのだろう。
沢の葉は 次第に数を 増していき 河のほとりの 巌(イワオ)に宿る
ここが彼らの死に場所なのだろう。
僕も、どうせなら……そう思った矢先だった。
川上から、静かな歌声が聞こえたのは。
もみぢ葉の 流れてとまる みなとには 紅(クレナヰ)深き 浪やたつらむ
その、清静とした旋法を、久しく耳にしていなかった。むしろたった三十一文字だけなのに歌が成立してしまうのかと驚いてしまったくらいだった。
懐かしい歌だ。これは確か、古今和歌集の一首で、河口に溜まった紅葉を詠ったものだ。
すぐ上流に、少女がいた。今どき珍しい着物は朱色をしていて、あの憎たらしい紅葉を服従させ、その言葉通り服として従わせているようだった。
膝を折り曲げて畔にちょこんと座り、せせらぎを揺らめかす白い掌から、どことなく甘い香りを漂わすビー玉の液体をぽろぽろと溢れ出ている。
夕陽は零れ落ちた珠玉に集光し、それから美しい魔法に変換されて、僕のアイリスを刺激させた。
これが僕と、そして神秘の幹の中に籠る鬼との出会いだった。
お久しぶりです。
前ここに書いたSSの初っ端をちょいと訂正して、
それから日が代わってから続きも落としていこうと思います。
合計で10レスになります。申し訳ございません……。
という告知を、今のうちに。
規制ない地域だからwktkしながらまってます
少女は鬼だった。その頭から生える二本の角を見れば瞭然のことであった。元は国ツ神と呼ばれた守り神だったけど、間もなく転落し、人や神を卑しめる存在となってしまった。
その鬼が、目前にいる。
本能的な危機を感じ、冷や汗が滲み出てくる。僕たちにとって鬼は天敵だ。疫病神は祓えても、鬼は祓えない。その程度の紙級の神なんだ。
「どうしたのかしら? 浮かない顔したヤイカガシさん」
その声に肺が小さくなる。
知らぬ間に僕の天敵はすぐ側にまで近付いていた。もう足はすくんでしまって動けない。いや、鬼を見たときから、とっくに足はすくんでいたのだ。
「く、喰らうなら、早く喰らえ!」
精一杯強がることしか出来ない。噂では、鬼は嬲りに嬲ってから舐めまわすように口の中で四肢をかき混ぜながら喰らうのだという。死ぬのなら、せめて一瞬で死にたい。
「むぅ、なによ。私そんなにあなたのこと取って食べちゃいそうな顔してるかな?」
「と、当ぜ……」
言い掛けて、鬼の姿をまじまじと見返す。小さな僕と背を合わせようとしているのか、先程畔にいたときのように屈みこんで、それから小首を傾げて微笑んでいる。
冷静な第三者から見れば、どう見ても獣のそれではなかった。どう見ても卑しき者ではなかった。
獣は僕の方だ、僕の中のヒワイドリがこの少女に喰らいつきそうになる。
彼女は癒しの者だ。少女は角があることを除けば、ごくごく普通の女の子であった。
……いや、それは違う。こんなに美しい人は、根気良く探り歩かなくては巡り会うことはないだろう。それも、都会ではなく山奥の村のような田舎で。
電気も通っていない世界に一つ佇む大屋敷。その中で静かに暮らしている箱入り娘……。そう、この長く真っ直ぐに伸びた黒髪なんてまさに和の香のお嬢様だ。
「それで、お前みたいなやつがどうしてこんな所にいるんだ」
話題を変える。これ以上沈黙を続けると何か抗えないものに屈してしまうような気がした。
「私は……ヒマつぶしだね!」
そんな偉そうに言われると反応に困る。
「ヒマなら適当に人でも襲えばいいんじゃないの?」
「そんな毎度毎度やってたら疲れちゃうよ」
殺ってる? 平然と残酷なことを言う女だった。
「それに、今だって……」
少女は言い掛けた言葉を呑み、僕の背後の見た。振り返ると、下流の方から小さな影がこちらへ向かってきているのが見えた。
「ねぇねぇ! いたよいたよ!」
それは、紅葉着の少女と同様着物を着ていたが、こちらは桜の吹雪をその着物に写し取っているようであった。姿も随分と小さい。二人の大和撫子が並ぶと、姉と妹か、はたまた母と娘のようにも思えてしまう。
が、こちらに神、及び餓鬼の気配はしない。当然鬼の気配も感じない。鬼に心を囚われた憐れな少女なのだろう。
昔はそうした子たちが鬼や天狗と共に山奥へ連れ去られていた。神隠しと呼ばれ、畏れられていたのがそれだ。
紅葉着の少女はそっと微笑み、囚われの子の頭を撫でる。
「ありがと。それじゃあヤイカガシさんを守ってあげて」
桜着の女の子は気持ちよさそうに目を細め、頷いた。
「それじゃあ、行ってくるね、ヤイカガシさん」
その静かな語りに、一瞬我を忘れる。その妖艶な瞳に吸い込まれ、ふと意識が戻る。
「え、ちょ――」
言い掛けたところで、僕は固まった。一陣の風が吹いたかと思うと、少女は風から薙刀を編み出し、殺気を含む大気――大いなる気を身にまとった。
喰われる。そんな危機を訴えかける本能が至る前に、畏怖の少女は風と共に去ってしまった。
遠くの山の広葉樹がさらさらと音を立てる。清らかな小川の岸には、呆然とする僕と、嬉しそうに手を振り見送る桜のちびっ子だけが取り残された。
「あの鬼はどこに行ったの?」
状況が掴めないがために、一応そんなことをちびっ子に訊いてみる。下流を見つめ、にへらと頬を溶かす横顔を見る限り、この幼女とあの少女の仲は睦まじいものなのだろう。
鬼に心を許してしまっているんだ。そんな人を信用してしまっていいのかは言うまでもないが、この子は破顔した顔をそのままに答える。
「ねぇねぇはね、鬼たいじ、だよ!」
ねぇねぇとは恐らくあの鬼のことだ。そして、同時に疑問も生じる。
「鬼退治? 鬼が?」
知らぬ間に、同族の殺戮文化は鬼にまで伝来してしまったのだろうか? 全くどうしてこう人間の負の文化だけが神の領域にまで広がるのだろう。
「で、ちっこい君は、ねぇねぇの所にはいかないのかい?」
この子があの少女のことを慕っているのは確実だろう。なら、どこぞの馬の骨――というか、こんな体臭のきつい僕なんか余所に放って――
「ちっこいって、ゆーなぁぁぁぁぁ!!!」
「でぅ!?」
いきなりアッパーをお見舞いされた。ちっこいって言うな? 冷静に考えれば、それはこっちの台詞だろう? ウシガエルと同じ程度の僕と、幼稚園生くらいのこの子とで、背比べをする必要もあるまい。
「ご、ごめん、悪かったよ」
これ以上何かされた魂の緒が切れかねない。問いただすべきものは数多あるけど、平謝りをしてやり過ごすことにした。
「むぅ、もう許さないんだから! もう口きいてあげない!」
いや、会って三分も経ってない関係だし、口聞くも何もないと思うんだけど……。
「わかった、もう許さなくてもいいから、ほら、もうねぇねぇのとこ――」
「ねぇねぇって、ゆぅぅぅ―――なぁぁぁぁ―――――!!!!」
「へぇ゛ぇ!?!?」
二度目のアッパーは、さすがに天照サマの元へ昇りかけた。
というか、さっきはねぇねぇって言っても大丈夫だったじゃないですか……。全く基準が分からない。
「ねぇねぇって言えるの、こにぽんだけだもん!」
「は、はぁ」
きっと譲れないプライドか何かがあるらしい。いや、あの鬼の洗脳かもしれない。ここから立ち去ったときの殺気もそうだけど、奴は可愛い顔をしるけど、油断したらそこで人生はゲームセットだろう。
「こにぽんはね、ねぇねぇがかえるさん守ってあげてねって言ったから守ってあげてるの。ねぇねぇ言ってなかったらかえるさんポイってしてるんだから!」
蛙。
まあ、あながち見た目は似てる。でも僕は両生類というか魚類の部類だと思う。これでもちゃんとエラ呼吸してるんだ。エラ呼吸する神だ。
それにしても、さっきのこの子の言ったことが本当だとしたら……鬼同士が戦っているなんて、そんな話聞いたことがない。
確かに「天地の開け始まりける」時代には神々が争ったことはあっただろう。神器を創造し、天と地をかき混ぜるように繰り広げられた戦争だ。
でもそのとき、「鬼」という存在は無かった。鬼はとある国ツ神が転落した存在が起源だからだ。鬼が生まれたのちも彼奴ら同士は争わず、また共生もしない無頼漢の輩たちのはずだった。それなのに、この現状はどういうことなのだろう?
「ねえ、かえるさん」
桜の子が声を掛けてきた。心なしか語調が荒い。
「ねぇねぇのとこ、行きたい?」
「どう見ても僕より君の方が行きたそうだよね」
「えへへ」
否定することなく、恥ずかしそうな笑顔で肯定する。
「で、どうやって行くんだ? まさか鬼の影も見えないここから追いかけるのか?」
紅葉の鬼が向かった先は、川の流れる先だ。源流方面の山々とは裏腹に、そちらは遠くの都市まで見える平原だった。ほとんど姿を消してしまった田畑の世界が、ここには広がっている。
「あのね、これ使って行くんだよ!」
と、この幼女は桜の袂から、花びらのようなものを舞い散らせた。
「なんだいこれは」
「恋の素!」
「コイノモト?」
うんっ!と大きく頷いている。何がそんなに嬉しいのだろう?
恋の素……数十年前に森澄雄という俳人が「鯉素」と掛けて使用していたとか言われている。が、噂程度にしか知らないからそれとの関連性についてはなんとも言えない。
ひらひらと散る日本の色は、この子には似つかわしくない慎み深さを内に含んでいた。花びらに慎みも包もないだろうけど、これは確かに息吹く気配を醸し出している。
「さくら舞へ舞へ〜、お空たかくへ〜」
謎の下の句を詠唱すると、恋の素はその持ち主と僕とを仄かに包み込んだ。もし僕が悪霊だったら浄化されてしまいそうな、不思議で不可視な温もりの床に腰を落ち着かせる。
もし仮にこの力を鬼に使ったらどうなるのだろうか?
そんな疑問が生じるが、それをこの娘に尋ねることはしなかった。いや、出来なかった。
なぜなら、この淡く包み込んだ恋の素が、停止状態にあった恋の素が、瞬間にして時速数百キロの等加速直線運動に直行したからだ。
神が物理を語るのもどうかと思うけど、これはまるで物理学者が何世紀も掛けて築きあげてきた物理法則をデコピン一発で弾き飛ばすが如く。まさに、神の力だ。
……ここで僕は気付く。おかしい、何かが変だ、と。
「君、どうして神器なんて持ってるんだい?」
そう、それだ。この、ごく普通の女の子が、ただ鬼に心を許してしまった憐れな少女が、どうして神器を使えるのかってことだ。
神器と言うと三種の神器を思い浮かべるかもしれない。代々人間の天皇が受け継ぐという八咫鏡・八尺瓊勾玉・天叢雲剣のことだ。
そもそも三種の神器は、天地創造の戦争や、その後の神々が精製した八百万ある神器のうちの三つだ。当然、それ以外の神器は神々が所有している。
でも、僕のような下級の神に神器を持つ権利……というか、神器そのものを造れる程の能力はなく、ある程度著名な神サマじゃないと持つことが出来ない。
恋の素なんて神器は聞いたことがないけど、でもこの非科学的な現象の体験こそが恋の素が神器である一番の証拠だ。
桜の女の子は、キョトンとしている。まるで、僕の質問が愚問であるかのような。
「どうしてって、こにぽんの恋の素はこにぽんの恋の素だよ?」
「それって、つまり――」
君は神サマなの……? それなのに、どうして神サマの気配がないの……?
その問いは、残念ながら相手に届くことはなかった。
なぜなら、この僕らを淡く包み込み、音速級のスピードで空を切り裂く恋の素が――減速と言う言葉を小学校で習わなかったのか――等加速を維持しながら地面に衝突したからだ。
恐らく辺りは砂埃が待っているのだろう。真っ暗で何も見えない。もしくはクレーターが出来ているのかもしれない。いや、その両方だろう。
「あ、着地するときにピョンって跳んでね」
今頃になって着地時の注意をされても困る。
身体が潰されないところが、僕がとりあえず神である、という証明なのだろう。僕が死ぬのは、数世紀にも渡る寿命が尽きるときか、鬼神によってこの身が引き裂かれるかのどちらかだ。
……それでも直で喰らった衝撃は痛い。痙攣する身体を起こす。舞い上がった塵は四方を吹きかう風によって少しずつ薄れていき、代わりに辺りを揺らすススキの穂が忙しなくに音を立てた。
囲まれた下流川岸。隣に恋の素を扱う女の子が立っていた。そして、芒ヶ原にぽっかりと空いた円形の空間に、紅葉の衣と黒い髪を揺らす背があった。
あの、最後に感じた殺気。そして、頭には般若のお面が添えられている。自身の身長を超過する薙刀を手に、じっと砂埃の先を睨んでいるようだった。
少女の相手をする黒い影が浮かぶ――それは、少女の背の倍はあるだろうか、あの絶滅したモアを髣髴させる輪郭に、僕は身震いがした。
それは、実は恐怖からではない。巨大な「鬼退治」をする鬼の姿からではない。
「ヒワイドリ……EX」
巨大な鬼の姿を隠していた幕が引かれ、その雄々しい純白に紅い鶏冠を持つ姿が露わになる。
時々その姿を見る。ヒワイドリ君は僕とほとんど同じくらいの小さな存在だけど、その一族が結集するとヒワイドリEX――彼らの真の姿――が具現と化する。
昔は「卑猥ノ鳥大神」と称していた御神だけど、西洋化の波に乗って改名したらしい。
武勇と慈悲の二つを併せ持つ、そのヒワイドリEX神が鬼と対峙している。
鬼退治、と言っていた。まさか、大神サマが鬼であるはずがない!
「やめてくれ!」
僕は駆け出した。今まさに攻撃に移ろうとしていた薙刀を持つ少女は、僕の存在に驚いたのか、紅葉色に変化した眼を大きくさせた。
「ヤ、ヤイカガシさ――」
「余所見する暇あるあらばぁぁ、乳の話をせよ! Talkin' Buster!!!〜チチノ ハナシヲ シヨウジャナイカ〜」
ヒワイドリEX神の嘴から野太い光線が紅葉の少女目掛けて発射された。伝導熱が僕の頭を焦がし、ススキの原に十尺五寸幅の道が出来上がった。
この様子だと、掠るだけで身を溶かしてしまうのだろうが、少女は人外の跳躍力でそれを交わした。
「甘いわぁ!」
躊躇いなく、再び大神の閃光が、今度は宙の少女に向かって放たれる。さすがの鬼も宙での自制は利かず、ただ重力に任せて自由落下の状態に入っている。
このままではモロに喰らう。僕は思わず目を伏せた。
間もなく大地を轟かす音が響き渡った。しかしそれは、先程ヒワイドリEXの放った光の轟音とは違っていた。金属と金属がぶつかり合うような、激しい雷鳴だった。
恐る恐る顔を上げる。熱線の放たれた場所には、桜色をした十角形の結界のようなものが張られており、そこから伸びた桃色の糸を辿ると、結界の下で二人の和装少女が無様な姿で倒れていた。
分からない。どうしてこうなったのか分からないけど、きっと桜の子があの恋の素を使って結界を生成したのかもしれない。僕に分かることは、二人が無事である、という結果のみだ。
「お、大神サマ、どうしてこのような酷いことをなさるのですか!」
僕は叫んだ。
こんなの道理に合わないことだろうけど、身を弁えるのならば、あの鬼を非難するべきなのだろうけど、でも僕の知っている大神サマは正々堂々としていて、不意打ちや無防備な者に攻撃は仕掛けない。
例え、敵がどんなに強くても。
「ヤイカガシさん、そこから離れて!」
よろよろと立ち上がる鬼が精一杯の声で叫んだ。
「その神は、『鬼』なのよ!」
「違うよ!」
僕は叫び返した。この御神は僕の友達なんだ。とても頼もしい存在なんだ。だから――、
気が付くと、僕の身は宙を飛んでいた。
脇腹の衝撃があとから伝わる。
「邪魔だ」と、大鳥が呟いていたような気もする。
ああ、そういえば。
僕は、ヒワイドリ君に嫌われてるんだったっけ。
とさり、と顔が泥で擦れる感覚。そして、遠くから汚れた人形を心配する幼い声がする。
「かえるさん!」
桜の子が僕の体を揺する。頭がくらくらする。
「ごめんね、ごめんね、こにぽんが守ってなかったから……」
「いや、いいんだ。……そんな価値のない存在だからさ、僕なんて」
そう、それでいい。僕なんて、泥に埋まって果ててしまうのが割に合っている。こんなに可愛い子に見守られるほど優遇されるような存在じゃない。
「そんなこと、ない!」
「え……」
桜色の着物の女の子は、目に涙を浮かべ、ぶぶんと首を横に振る。怒っているのか、額に小さな可愛い角を生やしているように見えた。
「そんなことないよ! かえるさんは、いなくちゃいけないの! だって、こうして会えたんだもん! せっかく会えたのに、別れちゃうのなんてヤだ……! ヤだよ……」
どうしてこの子はこれほどまで僕の志向に抗おうとするのだろうか?
きっとその答えは、ずっとずっと先になってから分かるんだろう、そんな気がした。
ススキが揺れ、空気が張り詰める。
般若の仮面を持つ少女は、静かにヒワイドリEX神との距離を縮める。
「許しません。もう、ここであなたを散らせてあげます」
凛とした声を合図に、その刃を相手に向ける。
「ならば、思う存分相手をしてやろうぞ!」
一気に間を詰めた神と鬼の錯綜に、僕は力なく見つめていた。居合、翼打ち、薙払い、頭突き、斬り込み、熱線……。
打ち合いのスピートはとても僕の目には負えなかった。でも隣の恋の素を使う女の子はススキ野の交錯に追い付いているようだ。
「ねぇねぇ!」
突如女の子が叫んだ。その声に戦う少女は一旦間を置く。
「あれ、みて!」
女の子の指す方向には、抗戦の体勢で構えるヒワイドリEXの姿があった。しかし純白であったはずの体毛がぼんやりと黒ずんでいる。湿地を駆けても穢れぬその絹の毛が、黒くなるだなんて前代未聞だった。
「化けの皮が剥がれてきたようね……」
鬼の子は、長い髪をなびかせ、不気味なほど美しく、笑った。
「あなたを、祓ってみせます」
「ほう、ならば、そうすれば良い」
鳥の大神が小さな存在を見下ろす。
「さして、そこのヤイカガシを冷酷にも突き放すというのならばな」
鬼は躊躇いなく薙刀を向ける。
まさか……本気、なのか?
「なあ、お前は一体何をしようとしてるんだ! 僕を助けようとしてるのか? 僕を嘲ってるのか? ……お前は、何者なんだよ!」
「……分からないの」
「分からないって……!」
「ただ、分かることは一つ」
薙刀を持つ小柄な姿が、紅く燃え上がっているような気がした。
「この日本鬼子、心に棲みつく鬼を祓う、天命に生きる!」
疾駆、そして
――萌え散りなさい!
それは、一瞬のことだった。
日本鬼子は、卑猥ノ鳥大神を両断した。鬼子の刀に、絶叫とどす黒い影がまとわりつき、そして、鈍色の中に吸い込まれていった。
大神はバラバラと身体を崩壊させ、そして、各々のヒワイドリに分化した。
風は収まり、やがて空には鳥が舞い、川では小魚が飛び跳ねた。
「お祓い、完了」
そう鬼子が呟くと、薙刀がさらさらと消えてなくなり、例のさっきもすっかり無くなってしまった。
「かえるさん、大丈夫?」
隣の女の子が心配そうにしている。いや、まあきっと大丈夫なのだろうけど、色々とまだ理解が出来ていないというかなんというか……。とにかく、今一番気になるのは、
「ヒワイドリ君は……」
「ヒワイドリさんなら、今は気を失ってますが、そのうち目を覚ましますよ」
それはよかった……。
「すみません、ヤイカガシさん。まさかいらっしゃってしまうとは思いもしませんでした……」
口調こそ優しいものの、その視線はジトリと恋の素を使う幼女に向けられていた。
「私と小日本は、鬼を退治する旅をしているのです。先程の薙刀を使って」
「それでね、こにぽんはねぇねぇの、あしすと、だよ!」
どうやらこの女の子の名前は小日本というらしい。
「鬼を退治って……じゃああの薙刀も神器ってこと?」
鬼も元はと言えば神サマだ。神器でなければ倒すことは出来ない。
「ええ。悪しき物ノ怪のみを祓うことが出来る神器です」
そんな神器があるという伝説は昔聞いたことがあったような、なかったような気がする。僕が生まれて間もない頃に、誰かから聞いたような……霞んだ記憶だ。
「それで、それをなんでヒノモトさん――」
「鬼子でいいですよ」
鬼子はにっこりと笑みを漏らした。
「あ、はい。えと、鬼子さんが持ってるんですか?」
問題は、何故神器を堕落した鬼が所持しているのか、ということだ。普通精霊以下に格下げされた神は神器を剥奪されるか破壊される。
鬼が神器を所持しうる可能性は一つ。それは、神器を所持する神を――これ以上のことは、僕の口からは言えない。
「それは……ごめんなさい、あまり言いたくないことなのですが」
「ああ、うん、いいよ」
と、ここで譲歩する僕に自己嫌悪する。いや、もしかしたら抱く気持ちは同じなのかもしれない。いかなる理由があろうと、神への冒涜は千歳の拷問に値するのだから。
ぴくり、と純白のヒワイドリたちが点々と起き上がりだした。
「ヤイカガシじゃねえか……」
「ヒ、ヒワイドリ君!」
思わず苦しそうに呼吸するヒワイドリ君の元へ駆けつける。もう仲は戻らないかもしれない。でも、走らずにはいられなかった。
幸いにして、外傷はない。鬼に憑かれていた疲労が溜まっているのだろう。
「へへ、驚いたぜ、おめえが俺のこと庇うとはよぉ……」
顔を引き攣らせて笑う姿が痛々しいけど、ヒワイドリ君らしくもあった。
「畜生、こっちは大変だったぜ。おめえが来た途端、悪霊の野郎が暴走しはじめてよ、制御するのにどんだけ力使ったと思ってんだよ……」
「制御? どうして?」
「はぁ? そりゃおめえがと……いや、当然だろ」
何かを言い掛けた口を塞ぎ、別の言葉を紡ぐ。
「と、友達だって言ってるのかい? 僕のこと、友達だって!」
「あーあー、うるせえな、だからどうしたんだってんだよ」
どうしたもこうしたもない。信じられなかった。
「だって、ずっと余所余所しくしてたじゃないか! 僕のこと嫌いになったんだと思ってたよ!」
「おめえだって俺のこと避けてたじゃねえかよ」
それは、ヤイカガシくんが他人行儀な振る舞いをしてたから……と、ここで話が一周していることに気が付いた。でも、そもそもの発端はヒワイドリ君の方だ。
「だって、君が僕のこと臭いって言って……。だからなるべく近付かないようにしてたんだ」
「あ? そんなこと言ったか?」
どうやら何も覚えていないらしかった。どうも落ち着かない憤りが体内で暴れまわる。
「ああ、もしかして」
と、何かを思い出したのか、白い翼で合点した。
「おめえさ、今もそうだけどよ、台詞がいちいちクセえんだよ」
……は?
「ああそれだ。だってそうだろ? 最近ずっとさすらいのヤイカガシぶってんじゃねえか。『俺は旅を続けている、そう、居場所を探し求める旅をな……』っつー具合にな」
そんなことない、と断言したかったけど、悔しいことに思う節があった。あってしまった。
「おめえさ、マジ中二病だろ。捻りがねえんだよ、捻りが! そりゃおめえの近くにいると臭えよ。でもこっちはとっくに慣れてんだってんだよ、馬鹿野郎が!」
「ご、ごめん……」
僕らの溝は、あまりにも浅いものだった。いや、そもそも溝なんてものはなかったのかもしれない。それくらいあっさりと、僕らの関係は元に戻っていた。
「しかし、いい姉ちゃん見つけたな」
と、ヒワイドリ君は鬼子さんを舐めまわすように見つめた――いや視姦した。
ヒワイドリ君一人だったら舐めまわすという表現で良かったと思うけど。
……そう、例えばヒワイドリEX神はヒワイドリの一族全員が集合して生まれる。
そのヒワイドリたちが、今このススキの原っぱに集結している、この図を想像して欲しい。
C、だなと、とあるヒワイドリが呟いた。
>>74 まぁ
>>49はいくつか気になる点を残してるけど(というかうpした後に気づいた)、そこまで大きな変更点はないお
・・・まぁあくまで俺視点でだけど。
つかみんな新人賞とか出さないの?
スクエニ文庫だかなんだかが4月ぐらいまでを締め切りに募集してたけど・・・
興味あってもプロットが書けないという、スタート地点に立てない人間はどうにもならんwww
すなおにさっき決まった小日本のフィギュアでも造ってくるお
「えと……何がCなのですか?」
鬼子さんが恐る恐る尋ねるも、それは愚問というものだ。いや、もはや愚か者としか言いようがないのかもしれない。
何故なら、
「無論乳の話だ」「当然乳の話だ」「いや父の話だ」「うむ、程良い」「あな、心ある乳なりけり」「あの幼女は俺のものだ」
「なら姉ちゃんは俺の嫁」「いや俺の嫁だ」「VIPから来ますた」「品乳なり」「乳の話をしようじゃないか」「乳の話をしようじゃないか」
ヒワイドリの卑猥な心を燃え上がらせてしまったのだから。
「鳥さんたち、こわい」
小さな恋の素使いが震える。当然の反応だ。目の前に広がっているのは、良い子は見ちゃいけないような光景なのだから。
「ヤイカガシさん、私は確か鬼を祓ったはずでしたが……?」
目を潤ませる鬼が、格好の餌食であるはずの僕に助けを求めた。
ヒワイドリの純粋な心と、卑しく汚らわしい心は、イコールで成り立つということをご存知ないようであった。
「それなら……」
だから、僕も天敵にアドバイスを送る。
「よし、逃げよう!」
「おい、ヤイカガシ! おめえ独り占めかよ! このムッツリ野郎めが!」
フグには毒がある。でも、フグ自身はその毒に気付くことはない。
……幸いにしてか、不幸にしてか、僕は自分に毒があることを知っている。でも、僕はフグでもヘビでもない。
ヤイカガシという、守り神だ。
神さまと言っても、きっと誰からも崇められない、身分の低い神さまだ。
ヤイカガシ一族は、このボヨボヨした皮膜から強烈な臭いを発し、その疫病神を追い払うことだけを生きるサダメとして、千歳の時を渡ってきた。
でも、この臭いは疫病神にしか効果がないのかもしれない。ヒワイドリ君も、小日本も、そして鬼子さんも、実は誰も僕の臭いを気にしてはいなかったんだ。
僕の中の、ヤイカガシというイメージがぼろぼろと崩壊していく。
……そして僕には、守り神という肩書だけが残るのだ。
逃げる三人と、雪崩れる白い雪の塊。
謂れ引く鬼と共に旅をするのも、悪くはないんじゃないかな……なんて、滑稽なことを思い巡らしながら、僕は夕暮れの沢岸を走り続けた。
続かない。
『綾』
1.
山の端 虹が掛かる日大きなあくびで目覚めた
今日はなぜだか騒がしくて 誰かにきいてみた
「祭りなのさ」の返事に 毎日が歌えさわげや
かってに踊りだすよ 心もおどる
長く黒い髪した つのの生えた女の子
遠くにいたよ 紅葉が舞った おいついた
さあこれからも一緒に二人で歩いてゆこうか
謂れ引く影のびる 秋の夕暮れ
二人の手と手をむすんで あいた手と手もむすんだ
小さな輪が世界のすみで生まれた
手と手をとって生きよう …なんてありきたりな言葉
だけどやれるよ 今ならほら恋の素
2.
初雪 白みがかる日大きなあくびで目覚めた
今日はなぜだか嬉しくて あなたの袖をひく
「鎌倉作ろ」の返事に 思わず外に飛び出すよ
お昼の豆乳鍋 心がおどる
ひえる白い指さき 息をはいて温めた
つららの垂れた萱葺き屋根のすずめたち
さあこれからも一緒に 二人でずっと一緒に
謂れ引く影もない 澄んだ冬晴れ
二人の手と手をむすんで あいた手と手もむすんだ
小さな輪が世界のすみで生まれた
「さむい」という息白いね 「そうだね」の息も白い
輪っかの中は きっと早い春の日
二人の手と手をむすんで あいた手と手もむすんだ
小さな輪が世界のすみで生まれた
手と手をとって生きよう …なんてありきたりな言葉
だけどやれるよ 今ならほら恋の素
>>88 新人賞には、数年前に出したっきり出してませんね。
厨房の落書きを乱暴にぶつけていたあの頃が懐かしいですね……。
フィギュア応援してます^^
その繊細な技術が欲しいです。
避難所からアク禁対応のコピペです。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1289585558/987 決まりましたね!こにぽん代表デザイン★
何かやろうと思って、『縁結び』キャラなのになぜか刀を持つことをネタにSS書いてみました。
勝手に本スレ
>>564さんの続きで書いてしまいます。
そのときだった。
表の戸を叩く音がした。日本狗はほっとした表情で言った。
「ようやく帰ってきやがったぜ……」
少女は顔をぱっと輝かせた。
「ねねさま!?」
しかし、戸を叩く音はどんどんと激しくなっていった。日本狗は眉をしかめた。
「自分の家に帰ってきて戸を叩くものですかね」
いつの間に目を覚ましたのか、モモサワガエルが身を起こしながら言った。
「解ってら。だけど普通の人間にゃこの家は見えないはず……」
「と、なれば」
モモサワガエルは袴の裾を払って片膝を立てた。
「お前はそのちっこいのを見ていろ。俺が出る」
日本狗はモモサワガエルを制して立ち上がった。居間から玄関に向かう後姿にはふさふさとした尻尾が付いていたが、機嫌よさげに一振り
した途端に、すぅっと見えなくなった。同時に大きな犬の耳も人のものに変わる。和装は奇異だが、ぱっと見れば人間の少年だ。
「誰だか知らんがそんなに叩くと戸が壊れるぜ」
ドンドンと叩く音は玄関に近づくにつれて大きくなっていった。
日本狗は軽口を叩きながらも、警戒怠らず戸を開けた。
「た、助けてくれ……!」
その途端、三人の人間が転がり込んできた。
一人はたいそう大きなカメラを首から提げていて、一人は女性、一人はスーツの男だった。
「何だ?どうした……?」
「ば、化け物が……!」
日本狗はとっさに頭に手をやった。変化しそこねたかと思ったが、そういうわけではないらしい。
「あ、あ、あれ……!」
人間の視線は玄関の外に向かっていた。狗はその視線の先を見る。
ざ、ざ、ざ、ざ、ざ……。
小さな畑の向こうの木々の間から、黒い瘴気に包まれた何かがこちらへ向かってきていた。
>>93の続き
「どうしたの?」
後ろから少女の声がした。狗はとっさに後ろ手に戸を閉め振り向いた。
「ばか、出て来るな。引っ込んでろ」
「鬼か!?」
少女の後ろからちょんまげ姿の男が姿を現した。日本狗は舌打ちをした。
「みていろといっただろうが馬鹿殿が」
「みていたさ。幼い太ももの健康そうな艶めきが躍動して目の前を通り過ぎて行く様子はまさに至福……ゲフッ」
少女に脛を蹴られてモモサワガエルはしゃがみこんだ。
そのときだった。ズシン、と屋根が揺れ塵が舞った。
「ひぃぃ!」
人間たちは腰を抜かして天井を見上げた。
「野に住む妖怪じゃない。……お前ら、何があったのか話してみろ」
日本狗は鼻をひくつかせて気配を嗅ぎながら言った。
「あ……あっちゃんが」
「あっちゃん?」
「同じ『月刊山ガール』の専属モデルで……」
女性が言った。スーツ姿の冴えなそうな男が続ける。
「今日は表紙の撮影で。彼女はキャスティングされていなかったのですが、現場に突然やってきて……『だましたなぁ!』ってすごい形相
で言ってあんな化け物に……」
「芸能界で『騙したな』と言えば悪者は監督かプロディーサーと相場が決まっています」
少女がこまっしゃくれた表情で言った。
「なんだプ、プロ……?」
日本狗は片眉を上げた。
「お前か?」
スーツの男に視線を向ける。スーツの男はプルプルと首を振った。
「と、とんでもない私はしがないマネージャーで……」
「違うんです!多分、あっちゃんが恨んでいるのは私なの!」
女性がわっと手の平に顔を埋めた。
「あっちゃんにカタヒラさんの事で相談されたの。私、絶対やめときなって止めて……だけど年間表紙モデルが私に決まって、あっちゃん私
とカタヒラさんのこと疑ってるんだわ」
「な、なにを……」
カメラを手にした男が動揺して言った。
ミシミシ、と屋根が軋む。
「くっそ、こんなときに鬼子がいないとは……」
日本狗は唇をかんだ。
「仕方ねぇ」
戸に掛けた手に力を入れたそのときだった。
「こにがやる!」
再び日本狗は振り向いた。少女が真剣な表情で少年を見上げていた。
「あなたがやったら人を傷つけちゃう。鬼は……鬼が絶つ」
「だけどお前……膝がガクガクいってるじゃねーか」
日本狗は口をきゅっと結んだ少女の瞳を見返した。
「ね、ねねさまが下さった刀があるもの。こにだって、ねねさまみたいに立派に鬼を退治できるもの……!」
そう言って、日本狗の傍まで歩み寄った。
「あ、開けて」
見上げる少女の表情に、日本狗はごくりと唾を飲み込んだ。そしてすうっと戸を開いた。
>>94の続き
フワッと黒い粘っこい瘴気が屋敷の周りを覆っていた。玄関の戸を境にそれは弾かれている。何か守りが施されているのだろう。
少女は一歩瘴気の中に踏み出した。続いて狗も外に出た。
「あ、あなた!人の心の荒ぶる魂よ、我が太刀の……」
屋根を見上げて少女が声を上げた。
屋根の上には細長い人間の手足を何本も突き出した蜘蛛のような姿の異形の者がいた。
「う・る・さ・い。だ・ま・れ・こ・む・す・め……!」
長い髪を振り乱した小さな頭から、擦れた声が絞り出された。
そして、髪がひゅうっと宙に舞い上がり……少女に向かって襲い掛かった。
「ボケ、突っ立ってるな!」
少女に届くかと思われたその瞬間、大きな白い犬の姿がその前に立ちはだかった。
髪はその白い犬の手足を縛しようと絡みつく。犬は首を激しく振り、鋭い牙で髪を食いちぎった。しかし次から次へと髪は犬に絡みつく。
「日本、狗……!?」
少女は目を見開いた。そして背負った長い太刀に手を掛けた。
「静まれ、止めて!」
そう叫びながら、必死で太刀を抜こうとした。だが、その刀は少女の身体には長すぎて刃は鞘から容易に抜けないのだった。
(ねねさまのばか……!どうしてこんな刀なんか……)
少女は焦りながら心の中で叫んだ。目の前で日本狗はどんどんと手足の自由を奪われ、長い口吻にも巻きつき、牙を封じられようとしてい
た。抜けない、抜けない!焦って柄を握る手が震えた。
「ねねさま――ッ!」
「遅くなってしまったわ。ごめんなさいね」
軽やかに鈴の鳴るような声がして、少女はハッと目を開けた。
パッと閃光が走り、半ば地面から離れていた狗の身体がドサッと地面に落ちた。
断ち切られた髪がバサリと落ち、残りの髪はザザザ、と屋根の上へ退いていった。
「……ねねさま!」
日本狗のうずくまる傍らに、真紅の着物の袖をはためかせた乙女が立っていた。
金色の輝きに似た色の角を、艶やかな黒髪の間から二本生やしている。
両腕には長いなぎなたを支えていた。
「鬼よ、悲しきその魂……いざ萌え散らさん!」
乙女はフワッと軽やかに飛び上がり、そして次の瞬間、乙女は目にも留まらぬ速さで薙刀を振るった。
「××××――!」
声に鳴らぬ声が里山に響き渡った。
屋根の上から、鮮やかな紅葉の葉が乱れ散る。赤、橙の乱舞が家の周囲を染め上げた。
その紅い葉に瘴気が吸い取られるようにして空気が澄んでいった。そしてその瘴気を浄化した紅葉は地面に溶けた。
>>95の続き
「誰か、この方を下に降ろしてあげてー」
屋根の上から暢気な鬼子の声がした。紅い着物の袖を振っている。
「やれやれ……」
足元で狗の声がして視線を下に戻すと、白い犬が身を起こして身体をぶるぶると震わせた。髪の残骸が宙に舞って地面に溶ける。
そして身体をしならせて屋根に跳躍すると、女性を口にくわえ、鬼子を背に乗せて戻ってきた。
「あっちゃん……!」
家の中から、女性が飛び出してきて狗が降ろした女性に駆け寄った。
狗の背から降りた乙女は、小鬼の少女に歩み寄った。
「コヒノモト、おかえりなさい」
「ねねさま……」
コヒノモトと呼ばれた少女は目を潤ませた。
「こに、何も出来なかった。こんな刀なんか……。ねねさまなんか嫌い」
握り締めた拳で涙をぬぐいながら、しゃっくり上げる。
「こに。辛い思いをさせてごめんなさいね。だけど、わたしはあなたにはその刀が相応しいと思っているの。……いいえ、その刀を使って欲し
いのよ」
「だって、抜けないの。使えないよ……鬼、切れないよぅ……」
「ふふ。それはね、斬ろうとしたら抜けないのよ」
「斬ろうとしたら……抜けない?」
「そう。斬るのは……わたしだけで十分」
ふ、と乙女は寂しげな光を瞳に宿した。
「ねねさま?」
訝しげに声を掛けたコヒノモトに、にこりと乙女は笑いかけるだけで何も答えなかった。
それから人間の女性二人の方へ向き直った。
「あっちゃん……!目を開けてぇ……」
コヒノモトも彼女たちに視線を移した。
抱き起こされている女性の顔は青白く、瞼は閉じられている。
「大丈夫よ。しばらく休んだら気が付くわ」
乙女は二人の傍に膝を付いた。
「ほら、こに、見える?切れてしまった繋がりが……」
コヒノモトはじっと目を凝らした。
ぽうっと淡く光る糸が二人の心から浮かび上がり、その繋がる先を求めてふわりふわりと揺らめいていた。
「彼女の心の鬼が噛み千切った糸よ。ほら、繋がりを求めてる」
コヒノモトは乙女の顔を見た。
「結んであげなくちゃ」
「そうね」
にっこりと鬼の乙女は微笑んだ。
「でもどうやって……」
「必要なものを思い描いてごらんなさい」
コヒノモトの手をとり、乙女は背の太刀を握らせた。
「結ぶ……」
コヒノモトは相手を探して漂う糸を結ぶことをイメージして、柄をゆっくり引いた。
ふわり……と桜の花びらが舞った。
するすると嘘のように鞘から刀身が姿を現した……と思いきや、それはいつの間にか赤い糸をつけた刺繍針に変わっていた。するすると鞘
から赤い糸が繰り出し、桜の花びらが吹き出してくる。
コヒノモトはその刺繍糸でしっかりと二人の心を結びつけた。
繋がった二人の糸は桜の花を一斉に咲かせ、舞い散り、見えなくなった。
コヒノモトは刺繍針を背中へ回した。と、いつの間にかそれは柄になっていて、カチリ、と唾鳴りを響かせて鞘に収まった。
「綺麗に萌え咲いたわね」
乙女はにっこりとコヒノモトに笑いかけた。
今度は、コヒノモトも笑い返すことが出来た。
>>96の続き
「あっちゃん……!」
気を失っていた女性が目を開けた。
「あら、わたし……」
「良かった!」
「何だか悪い夢を見ていたみたい。ごめんね、解ってたのあなたがそんなことするはずがないって。だけどどうしても抑え切れなくて……」
「いいのよ。わたしこそきちんと言えばよかった。わたしの心にいるのは唯一人、あなただけだって――」
カシャカシャカシャ、と異質な音が響いた。
「おま、なにやって……」
いつの間にか少年の姿に戻っていた日本狗がカメラを構えた男を怒鳴りつけた。
「いやあ、すごい!何もかもがワンダホー!」
カメラマンがいつの間にか家の中から出てきて、一心不乱にシャッターを切っていた。
「わんこ、悪いけどアレ、呼んできてくれない?」
それをみた乙女が肩をすくめて言ったそのとき。
「アレってもしかしてあっしのことでゲスかー?モノ扱い、ヒドイ!」
その場にいるすべての人々の鼻を猛烈な臭気が襲った。
中庭のほうから、奇妙な生物が飛び出してきたのだ。魚のような、蛙のような、獣のような……とにかく醜い異形のモノ。
そして次の瞬間、人間たちがバタバタと気を失って倒れた。
「さすがにキョーレツだなーヤイカガシの臭いは」
甲高い声がして、鶏のような良く解らない鳥が姿を現した。
「人間にゃ耐えられんだろな……」
モモサワガエルが腕を組む。
「記憶まで消えちゃうから便利よぉ〜」
にこにこと紅の着物の乙女が言った。
「さて、山道まで連れてってあげて。そしたら、今日はご馳走作るんだから」
「また俺かよ……鬼子」
「頼りにしてるわよ」
「鬼子たん、ご馳走って俺の臭いにご褒美?」
「馬鹿なこと言ってないで、買い物してきたものその辺に置いてきちゃったから取ってきて」
「そんなことより鬼子たん、乳の話を……」
「あなたはかまどに火を入れてきて。水も汲んでおいてね」
「ご馳走より腿を触らせてくれたほうがいいぞ鬼子どの」
「あなたは散らかっちゃったところ掃除してね」
コヒノモトは妖怪たちに纏わりつかれているその様子を見て、そこに自分の居場所が無いような居たたまれない気持ちになって、思わず声
を上げた。
「鬼子ねねさま!」
鬼子は振り返った。妖怪たちも幼い少女を見た。
そして、鬼子はコヒノモトにふわっと笑いかけた。
「お帰りなさい、小日本。今日はあなたのお祝いよ」
妖怪たちが微笑む中、小日本は広げられた鬼子の腕の中に飛び込んでいった。
>>98 ありがち小説ストーリー集ですか。
こういうSSなら、必要だろうなあと思うものは拾っていっていくといいんでしょうね。
新人賞送るような場合は熟読必須ですが、こういう場で徹底するとなると、多分何も出来なくなるでしょうし。
いかに読者を萌え散らすことが出来るか、それがこのSSスレの進む道……なんだろうなあ、と自分は思ってますしね。
しかし、実に参考になりました。ありがとうございます。
>>93 モモサワガエル、可愛いなぁ。無論こにぽんの可愛さには敵いませんけどね!
いいなあ、鬼子のこの、やさしさというか、自らの使命に小日本を巻き込ませたくない気持ちが宿っているというか。
カッコいい文章で羨ましいです。
地の文の最初を一マス空けて下さるともう少し読みやすくなるかもなあ……と、その程度のアドバイスしか出来ません申し訳ありません。
アク禁解除されたら乳の話をしましょう!
>>100 ありがとうございます。
本スレの方に作ってみた告知してもほとんど反応がないので心配だったのですが、どうやら皆さん読んでくださっているようで安心です。
イラストはキャラクターの外見を創り、SSはキャラクターの内面を描く。
互いに支え合って成長していくと、きっと鬼子たちの世界は無限大に広がっていくんでしょうね……。
>>102 前ちょっと覗いてみたときは長編の山に圧倒されちゃって自分好みのSSを探すとこまで辿りつかなかったです。すいません
本スレに案内する時に「3レスで鬼子・こにぽんの日常コメディ」とか簡単な内容を書いてくれると取っつきやすいかも
信じられない。
何が信じられないって、こにぽんがこんなに重かったことに決まっている。いくら私が引いても、こにぽんは一寸たりとも動かないのだ。
「おーにーぎーりーたーべーるーのー!」
壊れたラジオカセットのように、どうしようもないことを何度も何度も繰り返し喚き続ける。周囲からの視線が気になって仕方がない。ただ歩くだけでも注目される二人組なのだから。
「ごめんね、こにぽん。今お金がないから」
「おーにーぎーりーたーべーるーのー!」
ぶんぶんと首を横に振り、バタバタと桜の袖をはためかす。もうこうなってしまったら全く私の言うことなんて聞いてもらえない。
空の下には大きな湖があり、それを色づいた山々が手を繋いで見下ろしている。湖畔に出来たばかりの広い公園があり、そこと湖を周回するように伸びる道に挟まれたここは、宿場町をモチーフにした店が立ち並んでいる。
つまり、お団子や饅頭、そして例のおにぎりなどなどの露店が所狭しと並んでいるのだ。
そりゃ、私だって食べたい。こにぽんと一緒にお団子を食べて、紅葉を眺めながら歌の一つや二つを詠いたい。
でも、残念なことに、人間界と同様に……いや、それ以上に深刻な不況に見舞われていしまっている。神様でさえも、神社を放棄して出稼ぎに行く時代だ。天照大御神さんと菅原道真さん以外の神様はほとんどそうしているんじゃないかなと思う。
当然、神ならざる私にお金なんてほとんど持っていない。
「おーにーぎーりー!」
こんな場所に来なければよかった、と言いたいところだけど、この近くに鬼が潜んでいるとの噂だから仕方がない。それに、私も戦う前に何かを口にしたかった。これでは上手く祓うことが出来ず、逆にこっちが穢されてしまう。
「そこのお嬢ちゃんたちや」
そんなとき、露店から年老いた女性の声と、なんとも食欲を誘う炭火の芳香と煙がして、私もこにぽんもその五感を刺激する方を向いた。
「鮎でもいかがかな?」
その白い煙は屋台から伸びていて、そしてその小窓から結晶した塩と焦げの黄金比を持つ串焼きの魚が焼かれていた。
「いえ、結構です。お金、ないんです……」
丁重に断ると、私のお腹は哀しそうにぐぅと鳴いた。隣の小さなお腹からも、ぐぅと鳴る。
「遠慮しなさんな。ほら、お金なんていらんから、好きなの選んで食べてええよ」
「やったぁ!」
こにぽんが急に軽くなり、まるで風に飛ばされる木の葉のように、その煙の元へ吸い込まれていった。私もため息をついてからあとに続く。
既に鮎の背中をはむりとするこにぽんは脇の長椅子に座り、足を投げ出した。
「すみません。いつか払いますから」
出来るだけ小さくて焦げ目の多いもの選び取り、美しい銀髪のおばあさんに頭を下げる。
「いいのいいの。お嬢ちゃんたちを見て、昔を思い出せたんだからね。それで十分」
と、私の服装を指差した。紅葉色をした、この着物を。
「あたしがアンタくらいの頃の話さ。隣の家は両親とも共働きでね、あのおチビちゃんくらいの子どもがいたんだよ。私がお守役で、鞠つきやらゴム飛びやら、遊んだもんだよ。当然、ヤマメ釣りもね」
おばあさんはひどくしみじみとした様子で昔を懐かしんでいた。
「そうだったんですか……。その方とはまだご近所でいらっしゃるのですか?」
もしそうならば、きっと、その方も美しい老婦人になっていることだろう。
「いや、もう引っ越してしまったよ。この湖が出来るときにね」
「え……」
山と山の合間に広がる水面の草原。この大きな大きな水の造形は、全て造られたものだというのだろうか? 公園も、道路も、そしてこの店たちも。
「私の家は、あの子の家より一段高いところに建っていたからね。立ち退きをされずに済んだのだけれども。……あの村は忘れ去られ、この湖が当たり前の存在として生きていくのかねえ」
「あの……ごめんなさい」
「ああ、いやいや。そんなつもりじゃあないんだよ。私は、こうしてここにやってくる人々が嬉しそうに笑ってくれれば、それでいいのさ」
おばあさんは、今まで何を思ってこの店を続けてきたのだろうか。この真新しい木造の露店を見て、ふとそんなことを思った。
「ねぇねぇも一緒にたべよ!」
無垢なこの子は、もう半分も食べてしまっている。まったく、食いしん坊なお姫様だ。
「おばあさん、ありがとうございました」
「いいえ。その子を大切にしてやって下さいな」
お礼を言うと、おばあさんはにこやかにほほ笑んだ。目の尻に深いシワが刻み込まれていた。
「なにお話してたの?」
こにぽんの隣に座ると、この子は嬉しそうに座ったままで飛び跳ねる。
「ん、とってもあったかいお話」
「きかせてきかせて!」
それは、私の口から言ってもつまらないものだと思う。あのおばあさんの言葉だからこそ、伝わる意義がある気がする。
でも、それを敢えて言葉にするのなら……。
「振り返り さだめを渡る この鮎見 いづれか祓はん 水際(ミギワ)宿る木
さ、これを食べたら鬼を退治しに行きましょ」
「でも、忘れちゃいけないよ?」
こにぽんは口に鮎の身を付けている。
「ふりかえり〜あゆみ忘れず わたるならば〜 いづれか払わん 鮎のお値打ちぃ〜」
あなたが駄々をこねたからでしょ……という愚痴は心の中で呟くだけにして、私も鮎を口にした。
何故だかとっても、しょっぱかった。
>>113 おお、これは参考になる意見……!
早速実践してみましたが、大丈夫でしょうか?
>>104-105 代表こにぽんのやんちゃな魅力たっぷりでいい感じですね。あのツリ目の笑顔が目に浮かぶw
秋の空気が感じられるのもいい!
こういう小編大好物なので、ああやって本スレに案内してくれればホイホイ食いつきますよ
おまいらごめん
長文うざいと思ってIDをNGに入れたらSSスレだった。本スレと間違った。
読めなくなっちゃった。・゚・(>д<)・゚・。
ちょい長SS
大急ぎで作りかけの手袋と編み物道具一式を片付け、台所で朝食の用意をあらかた終えた頃、外で妹のはしゃぐ声が聞こえてきた。もう起きたのか。
「……珍しい」
玄関から表の様子を見た瞬間、日本鬼子は呟いていた。薄い木の板に麻紐を通しただけの粗末なそりの上で、小日本が頬を上気させている。
「行けー! トナカイわんこー!」
そして頭の上に二本の木の枝を差した日本狗が、無軌道にそりを曳き続けていた。世にも不機嫌そうな表情で。
サンタごっこをしているのは一目で判るが……
「わんこー、あんたが小日本に付き合ってあげるなんて、どういう心境の変化なのー」
「訊くな! とにかく俺は、借りた恩を返してるだけだ!」
そこで気付いたが、彼らの後ろを、全身傷だらけのヤイカガシが猟犬さながらの勢いで追い続けていた。
「この薄情天狗小僧! お前のせいで昨日の夜は散々な目に遭ったんだぞ!」
「知るか! あの後こっちだって踏んだり蹴ったりだったんだよ!」
二人が言い争っている最中、山中からヒワイドリが姿を現してきた。てくてく二足で歩きながら、その妖怪は疲れた声で言う。
「おやまあ賑やかなことだ……そうそう聞いてくれ。昨日ひどい夢を見たんだよ。世界に満ちた非リア充の邪念が乗り移って、最強の翼を――」
その姿に気付いた日本狗の眼の色が、一瞬で変わる。
「ヒワイドリ……よくもノコノコ出てきやがったな……おいサンタ! クリスマスには鶏の丸焼きを食うのが
しきたりらしい! あいつを今日の晩飯にするぞ!」
「え、そうだったの!? よーし、この刀のサビにしてやるんだからー!」
鞘に収まった巨大な刀を振り回す妹と、それを乗せたそりを曳く少年に猛然と追い立てられる鶏が叫ぶ。
「ちょ、何この理不尽な流れはー!?」
鬼子は首を傾げた。良く判らない。とりあえず自分が寝ている間に、日本狗は妹に借りを作り、
ヤイカガシは日本狗にひどい目に遭わされ、ヒワイドリは日本狗を怒らせたらしい。
「……とりあえず、楽しい夜だったんでしょうね」
『んなわけあるかあぁぁ!』
完全に的外れな見解を述べて、小日本を除く全員に怒声を浴びせられた鬼子は、朝食を居間に並べるべく、涼しい顔で屋内へと戻るのだった。
――しかし気になる。
昨夜、一体何が起きていたのだろう?
その前夜。
山奥深くで、一匹の妖怪が苦しんでいた。
名前はヒワイドリ。人の情欲を喰らうことで存在を維持する、鶏に良く似たその妖怪は、自らを取り込もうとする暗い思念に蝕まれていた。
勝者と敗者がいなくては成り立たないのが恋愛だ。そんな詩的なことを、ある幼い少女が自慢げに語っていたことがある。
ならこれは、敗者の思念か。
自らを侵食する悪意の正体を理解するのと同時に、妖怪は漆黒の翼を背に持った、黒づくめの青年へと姿を変えた。
同時刻。
日本鬼子の家で眠っていた少年が、むくりと布団から身体を起こした。平素から悪い目付きを、眠気で更に凶悪にしながら、彼は呻く。
「何だ……こりゃ」
ここからそう遠くない山中に、異常なまでに膨れ上がった邪気がある。ひどく屈折していて、底知れず暗い何かが。
この雰囲気では人里に下りて好き勝手始めるのも、時間の問題だろう。
寝室から廊下に出て、居間の様子を窺う。妹に贈る手編みの防寒具を作ろうと、悪戦苦闘していたらしい。
糸玉と棒、作りかけの手袋と一緒に机に突っ伏していた日本鬼子が、炬燵の上に顔を乗せ、寝息を立てていた。
「ったく……」
できもしないことを大急ぎでやろうとするからこういう目に遭う。どうせ普段のこいつで勝てそうな相手ではない。
山に生まれた何かは、自分一人で片付ける。
日本鬼子の家を飛び出した少年――日本狗は、月明かりの中、夜の山を疾駆する。
その途中、鰯の身体と柊の四肢をもつ一匹の小さな妖怪と遭遇した。
「あ、わんこ! お前も気付いたのか!」
「当たり前だ。こんな洒落にもならん奴が近くに来たのに呑気に寝てられんのは、うちのお気楽姉妹くらいのもんだ。
ヤイカガシ、あんたはさっさと帰っとけ。怪我するぞ」
一瞬だけ足を止めて再び駆け出した日本狗に、ヤイカガシと呼ばれた妖怪も続く。
「こんなおっかないもんが近くにいたんじゃ、おちおち眠れもしない! 俺も連れてけ!」
「何だよ、自信ありげだな。あの侍もどきには変化できんのかよ」
「まさか! 世間は西洋の祭りで浮かれてんだぞ、全然力が集まらん! だから俺は当てにするなよ!」
そういえば明日はクリスマス――聖夜だったか。小日本と鬼子が浮かれていた気もする。
「ったく、肝心な時に役に立たねえな……いいから乗れ!」
並走していたヤイカガシを摘み上げて自分の肩に乗せ、少年は更に速度を上げる。木々の間を縫い、風のような速度で走り続けた。
そうして数分走り続けた後、視界の端に一人の男を納める。幸運なことに背後を取れた。しかも遠すぎもせず近すぎもしない、絶妙の間合い。
黒髪、漆黒の着物。その背中からは、夜の闇を塗り固めたような黒翼が生えている。
その後ろ姿を見て日本狗が最初に連想したのは、鴉だった。が、肩にしがみついていたヤイカガシの呻きが、それを否定する。
「ヒワイドリ……?」
馬鹿なことを。あの上から下まで白一色の能天気妖怪とは、似ても似つかない。
肩にしがみついている妖怪の呟きを無視して、天狗の少年は素早く右腕を振るった。
それと同時に生み出された真空の刃が、背を向けている男に一直線に飛んでいく。
直後に黒い翼が展開され、一度打ち鳴らされた。男に到達しようとしていた真空波は、その動作であっさりとかき消される。
「不意を突いてそれか……底が知れるな」
肩越しにこちらを見た男と視線が合った瞬間、日本狗は全身の肌が粟立つのを感じた。
「――しっかり捕まっとけよ、ヤイカガシ!」
小さな妖怪に警告した少年は、両の掌を突き出した。黒一色の男の周囲で、円を描くようにして風を巻き起こす。
そのまま加速度的に勢いを増した突風は一瞬で巨大な旋風へと姿を変え、砂塵を巻き上げ、辺りの樹木すらも根こそぎ持ち上げ始めた。
「おい! いくら何でもやりすぎじゃねえのか!?」
「加減なんてしてられるか! 五体バラバラにするくらいの気でいかねえと、こっちがやられる!」
「いや、これじゃあ俺も吹き飛ばされ――」
その言葉を残して、服にしがみついていたヤイカガシも強風に身体をさらわれた。遥か上空に消えていくその妖怪に、気を遣う余裕さえない。
額を伝う汗を拭いながら、日本狗は成り行きを見守る。出せる力を全て叩きつけた。これで終わってなければ、絶望的だ。
少年の祈りも虚しく、荒れ狂う竜巻が突如消滅した。ほとんど更地同然となった災害の中心地で、男は全くの無傷で立っている。
「……児戯だな。天賦の才は認めるが、それだけで我に勝てると思っていたのなら、自惚れていると言わざるを得ん」
黒翼を広げた男が、至極つまらなそうに続ける。良く見ればその顔は、人間の姿を模した時のヒワイドリの物と瓜二つだった。
「まあ、戯れの時間もこれで終わりだがな」
殺される。疲労と眼前に迫った死の恐怖で、少年は無意識のうちに両膝を地面に突いていた。
そして黒翼の男が足に力を込めた瞬間、鈴のついた黒塗りの鞘が、彼の足元の地面に突き立った。
「んな……」
見覚えのあるその鞘を見て狼狽の声を上げたのは、日本狗だった。そういえばあいつの姿を確認しなかった。
途中で見つけていれば、家に戻るよう言っておいたのに。
彼の脳裏に浮かんだのは、まともに刀を抜くことさえできない一人の少女だった。
「おい馬鹿餓鬼! こんな時に出てくるん、じゃ――」
が、現れたその姿を見て、日本狗の言葉は続かなくなった。
「――ごめんなさい。貴方が家を出ていく気配があったので、気になって追ってきてしまいました」
丈の短い着物の裾からは、すらりと細い足が伸びていた。自分よりも高い上背。鈴のような美しい女の声。髪型はあいつと同じおかっぱで、
その手には、今まで少年が一度も見たことのなかった、長大な抜き身の刀が握られている。少年の思い描く人物とは明らかに別人だ。
ただ、あいつが成長したらいずれこんな姿になるだろう。そんなことを考えているうちに、男が口を開く。
「不躾な者が多いな」
日本狗と男の間に立ったその女は、凛とした声で応える。
「子供を手に掛けようとする人に言われたくありません」
「何者だ。今までお前程の使い手に気付かなかったとは思えん」
「貴方が負の思念で力を得たように、私もまた、人々の想いの力でこの姿を得たんですよ。今しがたですけどね」
それを聞いた男の唇の端が、わずかに吊り上がった。
「……面白い。我とお前は、浮世を漂う輩の心に巣食う、陰と陽というわけだ」
男が背中の翼を打ち鳴らした。その黒翼と相対している女は、自然体に近い無形の位で刀を構えている。
「今すぐこの場を離れて下さい」
日本狗に背を向けたまま、女が優しげな声を掛けてきた。
「……そうしたいのは山々なんだが、生憎身体が動かない。さっきので力を使い切っちまった――」
「そうですか」
だから俺のことは放っておいてくれ。そう言おうとした日本狗を遮り、一瞬だけ振り返った女は笑顔で続けた。
「なら貴方は、私が守ります」
女の姿が消失したように見えた。しかし実際には、異常な速度で黒い翼の男の懐に飛び込んでいただけだ。
神速とさえ呼びたくなる女の一閃を、男は指に生えた長く鋭い爪で受け止めていた。
二人が交錯するのと同時に、鮮やかな無数の花弁が辺りに舞った。甘い香り。桜だ。
綺麗だ。こんな状況で場違いなことをぼんやり思う。思考が鈍っていく。幻覚作用か。それも相当強烈な――
「小賢しい」
男が女を弾き飛ばし、翼で突風を生み出した。その動作の隙を突き、一瞬で背後を取った女の刀が片翼を切断する。
「悲しい人。貴方は私が鎮めます」
「よく吠える娘だ」
二人の姿が消え、目で追うことすら敵わない戦闘が始まった。
両者とも、完全に日本狗とは別次元の強さだ。時折刀の閃きが見える度に、凍てついた冬の空に桜の花弁が舞い、少年の意識が遠のいていく。
十秒後か、それとも一時間後か。ともかく湿り気を帯びた音で、時間の感覚を失っていた日本狗は現実に引き戻された。
自分の竜巻でできた更地の中央で、二つの影が停止していた。女の肩には男の腕が、そして男の胸には女の刀が、深々と突き刺さっていた。
「哀れな女だ。いくらお前が足掻こうと、我はいずれ蘇る。お前は賽ノ河原で小石を積む童に等しい」
「知っています。それでも、私は私の役目を全うしたい」
男が再び笑う。
「……次に会える日が楽しみだ。その時は、お前を喰らう」
無数の桜の花弁へと分解されていった男は、そう言い残して虚空に散っていった。
後に残されたのは、手の平に乗りそうな大きさの、鶏に似た妖怪一匹だけ。
「……ふう」
地面に落ちていた鞘を拾い上げ、それに長大な刀身を納めながら、女は日本狗の許へ歩み寄ってくる。
「あんた……肩の怪我は、平気なのか」
深紅に染まった肩口を見て、少年は尋ねた。
「さっきの彼と同じで、所詮この身体は一夜限りのかりそめの姿ですから。もう貴方と逢うことも
――いえ、十年もすればこの姿になっているかもしれませんね」
女は背に向けて屈み込んだ。彼女の纏う芳香で、少年の瞼は更に下がっていく。
「それじゃあ家に帰りましょうか。部屋まで送ります」
眠い。が、これだけは言っておかねば。女におぶさった少年は、重い口を開いた。
「……助かった。あんたが誰なのかは知らないけど……」
くすりと、女が笑い声を発する。
「どういたしまして。――あの、お願いがあるんです。貴方が私のことを好きじゃないのは知ってますけど、
たまにでいいから遊び相手になってくれませんか」
ああ、やはりこの女は――
桜の香りを漂わせた女の背中に身体を預け、少年は寝息を立て始めた。
翌朝。
姉と一緒に使っている寝室で目覚めた小日本は、寝巻からお気に入りの着物に着替え、
廊下に出た。そしてきょとんとする。
「遊び相手になってやる。何でも言え」
壁に背を預けて立っていた日本狗を見て、少女は顔を輝かせる。
「……じゃあ、サンタごっこ!」
にっこり笑った少女は、そう言った。
終わり。ここまで読んだ方お疲れ様
>>109-112 ヒワイドリとヤイカガシ、なんだかんだで仲いいなぁ……。
それから、毎度毎度こにぽんに癒されます。悶え死にそうです。
戦うこにぽん、戦う描写、美しい……。ちゃんとストーリーが出来ていて、読んでて楽しかったです。
んー、いいなあ。
あるところに、日本鬼子に一目ぼれした男がいた。彼女の姿を垣間見て、男は「萌え散る」という感情を抱き、その結果生み出された言霊を十二首の短歌にして詠った。
日ノ本の 影に染まれる 紅葉着(モミジギ)の 立つ背は澤の 流るる様(サマ)よ
天伝ふ(アマヅタフ) 東の果ての かの島の光に編まれて 生まれたりけり
恋ひの素 人の心を 種にして いざ萌えにしが 西の果てまで
雑言(ザフゴン)も 罵り言葉も 悪口も 白たつ海(ワタ)の 日差しのやうに
荒波に 呑まるは無かれ 渡りたし 萌(メグミ)の光 己(オノ)が心の
地鳴(ヂナリ)にも 騒ぐは無かれ 一輪の 花は勝らん 千の戦に
日ノ本の 風に靡(ナビ)ける 黒髪の 生糸は笹の 流るる様よ
大和なる 誰(タレ)にも負けぬ もみじ葉(ハ)の もえ散るものぞ うるはしから
人(ヒト)が身の うちに眠れる 卑し事 いざ癒やしからん 妹(イモ)にゆかして
天(アマ)つ前 生きとし生ける ものならば いづれか姫を 愛ぜざりけんや
現世(ウツツヨ)は 間近の道も 見えねども 夜明(ヨア)く朝焼け えならぬものよ
踏みにじり 踏みにじれども 天(アマ)昇る あなをかしきや その故(ユエ)我が名
この歌はのちに【紅葉着の日本鬼子】と名付けられる。歌詞を作った人は「歌詞の人」と、音作る人は「おんがくのひと」と名乗るようになった。
その後、二人は「歌麻呂」「音麻呂」と名前を変える。
以下の長歌は、歌麻呂が「紅葉着の日本鬼子」の動画上げられたことを記念して詠んだものである。
ちはやぶる 神は失せりと 聞きしかど げに世にあるらん
日の本の 大和を照らす 天照らす のちの世照らす
面影は 現(ウツツ)に影を 生まねども 覚めねばいみじき 世を見れど
山をありきし その先の うつくし沢の 源を 辿り辿りて その先の
やがて小川は 契りなる 路(ミチ)に導き その先の 物をも運ぶ 大河(オオカワ)の
我らは進みて 澪標(ミヲツクシ) 秋のひとかぜ 焦がらしの
秋に萌えゆく 我が心 萌え上ぐる胸 悪(ア)しを燃やさん
さらぬなり いまだ果てざる 我が心 いかでともしび 吹消(フケ)るゆゑある
余談であるが、最後の一首は反歌といい、長歌をまとめたりその後を語ったりするものである。
以下は、歌麻呂がアカウントを禁止された後に避難用スレ書き込んだものである。「本スレの皆さんにも、「お疲れ様」と添えて書かれているため、就寝前の一首だと思われる。
鬼の子の 紅葉の着物を 着るを見て 出でても進まん 秋の日ノ本
以下は、各人物が神奈川の真鶴に訪れて詠う歌である。
【日本鬼子】
「真鶴の 箱根空木(ウツギ)の 花移り 我が面(モテ)移ろふ ここ背見ゆれば」
【ヒワイドリ】
「胸あまた 数ならざるか 益荒男(マスラヲ)よ 繁き森より 無二なる巨樹を」
【ヤイカガシ】
「なまめかし なのめならざる 珠の肌 定めて似合わん 生臭わが身」
【小日本】
「とげとげし 我摘み取りし 栗の鞠 いづれと遊ばん 鳥かなまづか」
以下は、歌麻呂が就寝する前に詠んだ長歌と、その反歌である。
あな夢に 鬼子と仲間 出でにしが 日のいづるとも 安らかな 日々よ過ぎゆけ そのほかいらぬ
争いは 何処の世にも ありしかど 願わく夢は 手を取る人々
「私は歴史的仮名遣いで詠ってますが、 当然現代語でも和歌の味は変わらないと思います。
古文調でも現文調でも、自分の鬼子たんへの思いを伝えたい、この気持ちが大切なのではないでしょうか。
それでいて、古典単語を少し覚えてみるとより楽しめるかもしれませんね」
と、歌麻呂は偉そうに語り、そして以下は現代語調の短歌を詠んだものである。
左手の 机の側の クエン酸 一口飲んで 紅葉を見やる
以下は歌麻呂が【秋灯】と題して詠った長歌である。
語り継ぐ 三十一文字(ミソヒトモジ)の 言霊よ 乱れる心 自ずから 口より奏でん
うるはしき 天地風(アマツチカゼ)を ほとばしる 喜び哀し 慈しみ いかでか伝えん
しろたへの 雪のまじれる 荒波の 心のあぶら したたりて 恋ひ慕ひたる
ともしびに 燃えうつる水 だうだうと 盛る気持ちを 放たまし いかでか伝えん
いにしえの 言葉にこもる 言霊も 今は絶えりと 音に聞く しかれど音は
異なりと 我は思へる 日ノ本の 出づる光の 初見空 いかでか伝えん いとしの我妹(ワギモ)
よひの身か 今なら空を 飛ばるべし すさべる心 いかでか伝へん
以下は歌麻呂がおやすみを詠う長歌である。
恋ひの素 澄んだ瞳に 揺さぶられ いかでか伝へん 言の葉を
ときめくうたを 書きしかど いにしへうたを 書きしかど いかでか伝へん 今の世に
選ぶ間際の 波際の 野分きの風に たかしほに いかでか伝へん 小日ノ本
我惑ひたり 時読(トキヨミ)を あな頼りたし 月読を 何時にか渡さん 恋ひのうた
選ぶ先にか 渡すべき 選ぶその日か 渡すべき さりぬべからん 選ぶのち すでに待つのみ うたはいできぬ
しかれども ときめくうたぞ え慣れざる しかりて渡すを 惑うもありけり
以下は、歌麻呂が掛詞を紹介するために詠んだ歌である。
ひさかたの 雨の降る上(カミ) 長雨(ナガメ)たり 浮き流(ナカ)る瀬に こ火は燃えにけり
ひさかたの 天の振る髪 眺めたり 憂き泣かる瀬に 恋ひは萌えけり
この歌によって歌麻呂は調子に乗り、以後活動を抑えることになる。
以下は、小日本の第一次投票中に少女を励ますために歌麻呂が詠んだ歌である。
肌寒み 重ねてさせまし 春ごろも 明日は北風 な悩みなどしそ
小日本が誕生した日。以下は歌麻呂が小日本誕生と同時に皆様へ向けて詠んだ感謝の歌である。
藍が夜 窓開けはなてん 宿世なる しるしあるらん 天の望月
その日は満月であった。
以下の歌たちは、ウィキより歌麻呂が詠った和歌である。
げにやげに しかれど紅葉へ 情あらば いづれか定まん 童のごとく
おのずから 萌え散るさまぞ をかしかる 騒ぎ煽るは 卑しごとなり
木枯らしの 寒さに負けぬ 胸の内
願はくは とくとく春よ 小日本 歌あらましかば 上げましものを
この場所に 重ねて上げば 落としたべ SSスレに 心も添えて
前回のあらすじ――日本狗(本作では犬人間)と小日本(本作では狐耳少女)が突然あらわれ、鬼子さんに猛威をふるう。ヒワイドリが助けに入るが、いつの間にか日本狗に背後を取られていた。
ヒワイドリの頬を温かいものが伝っていった。唇に鉄の味がして、見なくても血だとわかる。
だが、たとえどのような状況に置かれても彼のイケメン・フェイスが揺るぐ事はない。
「……ちょっと速すぎるぞ、わんこ」
「神仏の術に速さなどという概念はない」
ヒワイドリの背後から声がする。恐らく天狗の面を被った犬だ。
ビルの下では狐耳の少女がぴょんぴょん飛び跳ねて、小梅の柄の袖を振っている。黄金色の耳をぴんと立て、子どものようにはしゃいでいた。
「ダメよくぅたん、顔を傷つけちゃ! ささ、早くそいつを縛り上げて、こっちに渡してちょうだい。顔を傷つけないようにね! うふふ、私を侮辱した罪の深さ、たっぷり思い知らせてやるんだからぁ!
もぉ早くちょーだいよぉ! くぅたん早くぅ〜、こにがヒワイお兄ーたんと遊ぶのぉ! 待てないよぉ〜早くぅ〜! 早……あぁっ!」
自分がキツネの面を被っていない事にようやく気づいた小日本。どうやらさっき落っこちた弾みでどこかに転がっていったらしいが、アスファルトの路面は先ほどの等身大ガンダムの暴走で瓦礫だらけであった。
「あぅ、ま、まって、まってて、くぅたん……」
面がないままでは本来の威厳が発揮できないらしい、とてとてと瓦礫の間を探しはじめた。
「まっててよぉ〜!」
必死にお面を探しまわる小日本のふさふさの尻尾を見下ろしながら、ヒワイドリは深く息をついた。
「で、目的は何だ?」
「なんだ、今更だな」
「お前らみたいな敵は本来なら問答無用でゴミ箱行きなんだが、とりあえずそっちの建て前を喋らせてやると言っているんだ、それとも乳の話でもするか?」
「ふむ、すでに王手がかかっているのに態度がでかいな、不死だからか?」
日本狗が首を傾げると、口の端から牙がのぞいた。
「忘れるな、不死には不死なりの対処法があるという事を。ところでヒワイドリ、お前は女にも変化できるんだってな?」
「鼻息荒くしてないで真面目に言え、ふーふー当たってんぞ」
「荒くなどしていない。あの娘に《酒杯》は勿体ない、それだけだ」
ヒワイドリは言葉を咀嚼するような長い間をおいて、打ちっ放しのコンクリートが広がる自分の足元に目を向けた。
「……《酒杯》?」
小日本誕生前に合わせて終わらせる予定だったのが、いつの間にか長引いてしまった……。
スレ汚しになるかもしれんけど、しばらくの間失礼します。ごみーんに。
>>115-117 (;Д;)ウルウル
>>119 GoGo! ひのもとさん
日本狗カッコイイですねw
それからヒワイドリの乳の話への執念が並じゃない……!
スレ汚しだなんてそんな……! SSスレを盛り上げていきましょう!
こんなところが遭ったのか……
私も書けたら何か書いてもいいんですよね?
けど……話が暗い方向しか思いつかな(ry
>>121 いいんじゃないでしょうか?
今でてる作品もファンタジーや学園、現代、SF、和歌、詩などなどありますからね。
鬼子ワールドと、鬼子たちの雰囲気と言いましょうか、
イラストでは表現しきれない微妙な内面を描いて、鬼子たちの設定を作っていく……
なんて、そんな堅苦しくなく自由に楽しく書いていけばいいと思いますw
お互いにSSスレを盛り上げていきましょう!
本スレでも投下した、幻想風な詩。鬼子と小日本、秋と春をイメージ。で、リズム重視。
穂 野 香 刈 汲 和 詞 (ほのか かぐわし)
明 樹 採 葉 流 野 日 (あきと はるのひ)
継 菜 香 流 果 景 野 (つながる かげの)
明 樹 採 葉 流 野 日 (あきと はるのひ)
いま ふる あき さめ
もえ ちる くさ はな
また ふる はる さめ
もえ さく くさ はな
眺め 見てる 合わす しせん
笑う ふたり ながる もみじ
眺め 日さす そよぐ いぶき
笑う ふたり 舞うは さくら
雨上がり いちょう道 こがね いろの かがやき
川流がる よどむみず ときは わたり きよらに
山さとの みのるいね こがね いろの かがやき
日が沈む からす鳴く むすぶ みなも くちつけ
雪とけた さくらみち ふたり あるく そのさきの
川流がる あゆおよぐ かわら つくし なのはなと
山ふかく あそぶ子の まりの はずむ ぬくもりに
感謝して たんぽぽを ふくと 舞うよ 空たかく
区切りを、1語→2語→3語→5・5・3・3・4語→5・5・3・3・5語といった感じで増やしてみました、それだけ。
>>122 そうですか……
では話がまとまり次第投稿させてもらおうと思います。
125 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:31:55 ID:jJ1KnUi9
>>69の続き
「電話がダメなら他の手を使え。手段は問わん、なんとしてでも連絡を付けろ!」
「イ、イエス、ボス!」
携帯電話をテーブルに置き、PCを操作する。
とりあえずメールを。同じ文面で5通ほど送っておけば、ズボラなタケでも。
そう思いメーラーを立ち上げる。
文面は? いや件名は? 緊急さを感じさせるにはどうしたら? その日本語は?
と焦りながらキーボードを叩いていると、横に座っているボスが凭れ掛かってきた。
モニターを覗き込むのとは違う、生気の無い動きとその重量感。
「キミは、自分で淹れたコーヒーは飲まない主義なのかね?」
テーブルの上の携帯電話を取り上げられる。
「マネージャ、貴方は……?」
「薬は一杯目に入れた分しか無かったんだ」
立ち上がり、取り上げた携帯電話を胸の内ポケットに入れる。
ボスの上半身を慎重にソファの上に寝かせ、こちらも立ち上がる。
「……何の為に?」
「黙って行かせてくれればそれで良し、そうでなければ」
僅かに顎を引き、殺気を漲らせるマネージャ。
ついさっきまで小日本に耽溺していたとは思えない、まるで別人だ。
急な展開に怯みつつもテーブルの横に出る。出口は俺の背後。
「どうなるんです?」
護身用の拳銃は隣の部屋のデスクの中、マネージャの向こう側。
「それは採るべきでない選択肢だ」
中央に位置しているモニターを蹴って、マネージャにぶつける!
「それは」
あっさり避けられる。
「蹴るべきでもない」
マネージャの横を駆け抜けようとしたところへ、鋭いローキックが襲ってくる!
飛んで避けようとするが、動きに無理がありすぎ、自分で床にダイブする結果となった。
膝と肘をしとどに打ちつける。
「くっ……!」
急いで起き上がろうとする。が、体が痺れて思うに任せない。
「……?」
首だけマネージャの方に向ける。次の攻撃を避ける為に。
が、彼は攻撃どころか間合いすら詰めず、ただ其処に立っていた。
殺気も無く、どうした大丈夫か? と手を差し伸べてきそうな雰囲気すら漂わせて。
「敵と相対する時は、自分の行きたい方を見てはいけない」
全速力で立ち上がる。
自分ではそのつもりだが、実際には非常にノロノロとした動きにしかならなかった。
その、意識と動きの乖離が怖い。敵を目の前にしている時なら尚更。
しかもその敵が、あの……!
「では何を見ろと?」
まだ痺れの残る体を動かして、間合いを取る。というか怯えて下がる。
「相手の目だ」
思い出してしまった、こんな時に。
何故、ボス以外の人間がマネージャをクリスと呼ばないのかを。
「それは会話の時の話ですね」
それは、その後に続く二つ名を思い出させるからだ。
局内でも随一と言われる体術と、冷徹な性格、実行力。それらから付けられた。
文官にあるまじき、普通に生活していれば使う事の無いその名を。
126 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:32:42 ID:jJ1KnUi9
「これは失礼」
ゆらり、とした動きで間合いを詰められる。
あ、と思う間も無く繰り出される左の拳。
それを咄嗟に右手で外側に捌く。
(よし、カウンターで)
思った時にはその右腕を両手で掴まれ、肘を極められていた。
「がっ」
更に懐に入り込まれ、背中に乗せられる。
このままでは腕を折られてしまう。反射的に肘に力がかからない方向に動いた。
そして、その動きのままに投げられ、床に叩きつけられた。
「!!……!」
腰から全身に広がる激痛と痺れ。動くどころか呼吸すら出来ない!
これが“失礼”レベルなら、これより上のはどうなるんだ?
無感想な表情で見下ろすマネージャ。とどめの一撃なのか、少し屈んで右の拳を引いた。
「2〜3日、まともな食事は諦めてくれ」
鳩尾に正確な一撃を喰らう。
体の中心に激痛を追加される。このまま落ちるのか……
と思ったが、まだ意識がある。ひょっとして手心を加え過ぎたのか?
Witch of Deathにも、ミスは有るのかもしれない。
モニターをテーブルの上に乗せ始めている。警戒感のまるで無い隙だらけな背中。
これなら痺れが引けば反撃も可能か。
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
目の前が一瞬真っ暗になった。まさか休店日だとは。
「なんてな。社長は出張中だって言ってたじゃないか」
専務(奥さん)が。
自室のあるマンションから車で5分の場所、店が在るテナントビルの前。
車をそこに止め、その後ろの社長宅に向かう。
いつもは店で会っていた為、自宅に行くのは今日が初めてだ。
100坪はあろうかという広い屋敷、立派な玄関。呼び鈴を押す。
暫し待つが返答無し。
ふと見る、ビルの駐車場の社長宅の枠。そこに車は無かった。
「奥さんも外出中かぁ」
待つか出直すか。
逡巡した視界の端に、郵便受けから落ちるハガキが見えた。
「おっ?」
玄関傍の、給湯器の横に落ちる。
拾う。嫌でも目に入る文面、良く分からない漢字で埋め尽くされている。
宛名を見ると、『虎 加知子』となっていた。
「……あぁ」
郵便受けの中に戻す。
さて、どうしたものかと思ったところで、背後に人の気配が。
「やあ、お疲れさま」
社長が立っていた。
「この間はご苦労さん。廃村で何か面白いものを手に入れたんじゃないかね?」
40半ば、すらりとした長躯にダークグレーのスーツ。いつもと同じ優しい笑顔。
しかし何か違和感が。なんと言うか、存在感が希薄というか。
「毎度どうも。廃村ですか? いえ、特に何も」
もう一度駐車場を見るが、やはり車は無い。
「そうか? 何か有っただろう?」
127 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:33:24 ID:jJ1KnUi9
社長は出張に行ってた筈だ、少なくとも昨日までは。
「ああ、それが辿り着けなかったんですよ、カーナビで表示されない山奥だったんで」
とりあえずカマをかけてみる。
「着けなかった? 地図は持ってただろ?」
かかった。
「その地図は、社長が描いて下さったんでしたっけ?」
「そうだよ、キミの目の前で描いて見せたじゃないか、一昨日」
こいつか、こいつが俺を騙して廃村に行かせた奴か。
「あ、そうでしたね。ええ、廃村には着いたんですよ」
さて、こいつはどっちだ? 虎か鷲か?
「……ほう、それで?」
眉間に皺を寄せる社長。それに呼応する様に、横の温水器が動き始める。
まずい、奥さんが中に居るのか? ならこいつを、この場から引き離さなければ。
「犬を見つけましてね」
「ふむ、それはどんな犬だった?」
「尻尾が綺麗な犬でしたね。そう、ちょうど社長の影に映ってるのと同じ様な!」
影を指差してやる。尻尾は無いのだが。
「なっ……!」
手を後ろに回して、その上自分の影まで見る。虎か。なんて分かり易い奴なんだ。
そして、その隙だらけな上半身に渾身のタックルをかます!
「ぐっ!」
押し倒し馬乗りになる。社長に化けるとは、この妖(あやかし)許せん!
先ず2・3発殴ってやろうと思った瞬間、横の給湯器が異常な唸り音を上げだした。
「??」
そちらに気をとられると同時に、下から急に体を持ち上げられた。
「うわっ!」
背中から給湯器に叩きつけられる。
痛みと痺れでしゃがみ込んでしまう、給湯器に背を預けて。
妖のくせに現実のものに干渉出来るのか? 一体どうやって?
「く……、痛えなクソッ」
そこで思い出す、廃村で出会った妖の少女たちを。
彼女らは現実のものに全く干渉出来なかったか?
干渉する時には何をしていた?
「お前は……何なんだ?」
起き上がる社長、だったもの。それは一瞬四つん這いになり、大きな獣の様に見えた。
その様子を給湯器から出た蒸気が覆う。
「まさか、ライオン?」
「獅子、と言って欲しいね」
蒸気の中、立ち上がる獣。その姿は徐々に25歳位の青年のものに変わった。
ブーツに革のズボン、大きなボアが付いたノースリーブの革ジャン。鎖のアクセサリ。
プラチナブロンドの長髪に、高い鼻、完璧な碧眼。
「人間ってのは相変わらず弱っちいな。その程度で動けなくなるなんて」
日本語を喋っているのが不思議に感じられる風体だ。
「さて、犬が持っていたものを渡してもらおうか?」
ブルゾンの胸を掴まれる。
獅子の後ろに、蒸気と日の光が作った小さな虹が見えた。
「虹は七色」
「ええ? 虹は六色だろ?」
「何言ってるんだ? ケン。ほら見なよ、こんなに綺麗な虹なのに」
128 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:34:05 ID:jJ1KnUi9
ああ、この景色。留学した当初ホームステイしていた、タケの家の近所だ。
「確かに綺麗で大きいな。でも我が国では、虹は六色だと言われているぞ」
あの時は夕方に通り雨があって、それが急に晴れて東の空にそれが出て。
俺とタケと、そう、タケの妹の三人で眺めたんだ。
「ケン、それはな、虹彩の問題らしいぞ」
「コウサイ?」
「目の、色のついた部分の事さ。ケンのは青色だろ?」
「そうだな。タケのはブラウンだ。それが?」
「うん、どうもそれが原因で見える色の数が決まるらしいぞ」
「そんなバカな」
全くだ。タケは間違っていた。
目が青いから、青い色がよく見分けられないなんて迷信だ。
正確には緯度の都合であり、また光に対する認識の問題なのだから。
「でも実際に、日本では虹は七色が常識なんだよ」
「七色って、レッド・オレンジ・イエロー・グリーン・ブルー・バイオレット以外に何が
あるんだい?」
「あ、ええっと……うん、ブルーとバイオレットの間に藍があるんだ」
「アイ?」
「藍色。簡単に言うと深い青色の事さ」
「そんなもの、見えないぞ?」
「よく見なよ、他の色に較べて青だけ幅広く見えないか?」
「ああ、そういえば」
「そこの、色が暗くなってるところを藍色って言ってるんだ」
「う〜ん? 何か見える様でもあり、見えない様でもあり」
「ほら、よく見て」
「そう思って見れば、なんとなく見えてきた様な気も……」
虹は六色。でも今では見える、青と紫の間の色。
日が暮れて夜になる前の、青空が黒になる前の時の色。そう認識した。
それをタケに伝えると、彼は、それは黄昏時と言うんだ、と教えてくれた。
懐かしい。
薄暗いので立っている人がよく見えず『誰そ、彼』という言葉が訛ったものだとも――
「あ……起きちゃった?」
一面藍色の世界の中に忽然と現れた、突飛な衣装に身を包んだ桜色の幼女。
「もう少しなの。待っててね」
それは、あの時のタケの妹と同じくらいの年齢の。
「いたいのいたいの、とんでいけー」
目に映るのは、床に無様に横たわる俺と、その横に座って手を翳している幼女。
幼女の手から放たれる、桜色の暖かな光が俺の体を包み込んでいる。
それと同時に、いま俺は幼女と相対している。
体から2mほど離れた位置だ。
「…………!」
状況を認識すると同時に、後頭部に何か涼しい風が下から上に吹いたような気がした。
「クリスを嫌わないでね?」
幼女の問いかけ。目の前に居る幼女が言っているのだが、同時に、向こうで座っている
幼女の声である事もまた確かだ。
「キミは、日本鬼子の仲間なのか?」
このBBCのアナウンサーもかくや、というほど綺麗な英語は聞き覚えがある。
今朝の、タケからの電話での鬼子の声。頭の中に直接響く。
「こにぽんは、こにぽんだよ?」
こに……小日本の事か。マネージャはコニーと言っていたな。
「オーケー、こにぽん。キミたちには聞きたい事が山ほどあるんだ。まず……」
129 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:35:00 ID:jJ1KnUi9
「クリスを嫌わない?」
見上げてくる、哀願するように。
「あ、ああ……でもなんで?」
「クリスはね、マジメな人なの」
真面目? 俺とボスをこんな目に遭わせた人間がか?
「でも昔ちょっと間違った事をしちゃったから、それに気づいたから」
? ……何を言ってるんだ、こにぽんは?
「それを直すのに、皆を危ないところに行かせられないから、それで」
半泣きになる。
何を言いたいのか今ひとつ分からないが、マネージャに悪意が無い事だけは確かな様だ。
「うん、分かったよ、こにぽん」
「え、ホント?」
返事の代わりに頭を撫ぜてやる。
こうなんと言うか、撫ぜやすい高さに位置する愛らしい頭、優しい手触りの髪。
そして目を細めて受け入れる、その仕草。いつまでもこうしていたくなる。
俺もマネージャの事をとやかく言えないな、こりゃ。
「それで、キミたちはどういう存在なんだ?」
「こにぽんのこと?」
「鬼子も含めてさ。キミらは精霊みたいなものなのか? 何故触れる事が出来る?」
「え、えっと……?」
「アフレックさんの方は、もう大丈夫ですよ」
部屋の向こう側から、鬼子がやって来た。
アフレック、ってボスの事か。そう言えばソファの上に居ない。
「大丈夫とは? いや、それ以前にキミらはいったい?」
気色ばったのを嫌ったか、こにぽんが俺から離れ、鬼子の腰にすがりつく。
同時に、俺の体の横に座っていたこにぽんも、其処に来たもう一人の鬼子にしがみ付く。
「貴方が触れられると思えば触れられます。出来ないと思えばそれもまた是です」
「禅問答をしたいわけじゃない」
「貴方が、見えると認識しているから見る事が出来るのです。それは可能性の話です」
「もっと具体的に頼む」
「それでは、今の状態は如何ですか?」
「……え?」
倒れている自分、それを見ている俺。二人ずつ居る鬼子たちは、近寄り各々が一つに
なりつつあった。
「貴方は二人ですか?」
「いや、俺は一人だ」
この世にたった一人。存在の定義は、自分自身の自我に拠るもの。
「つまり、そういう事です。自分にそうするように他者の存在も認めたなら、その他者を
見る事も触れる事も可能になります」
「あ、いや、しかしそれは……」
「認識するという事。それは概念ではなく、あくまでも可能性の話なのです」
「意思の疎通が物理に直結していると?」
「自分の見ているもの、触れられるものだけが世界の全てではないでしょう」
「あ、待ってくれ、もう少し……」
二人は虚空に消えてしまった。
気がつけばソファの横で立っていた。バルコニーに続く窓の上辺りを見つめながら。
「……!」
倒れていたところに俺の体は無かった。当然だ。今は立っているのだから。
しかし、それにしても体が軽い。まるでたっぷり睡眠をとった後の目覚めの様だ。
「ケン……俺はとんでもない事を」
トイレの方からボスがやって来た。
130 :
国防省 ◆Oppai.FF16 :2010/11/25(木) 01:35:53 ID:jJ1KnUi9
「ボス、体は大丈夫ですか?」
「ケン、俺はもう鬼子のファンでいられない……」
「何がありました?」
話を聞いた。
倒れる寸前、クスリを盛られた事は分かったらしい。そしてその効き目が軽く一日分は持
続するだろうという事も。
そして寝ていた所を鬼子に起こされ、トイレに連れて行かれ、その、色々エグイ事をされ
たらしい。
他人の立場で聞くと、まあ解毒として当然の処置であり、その手際は寧ろ賞賛に値するレ
ベルであろう事は素人の自分にも分かるほどのものだったのだが、それが自分のアイドル
から受けた行為なら話は別だ。
哀れ、ボスは文句を言う先を見つけられずに、ただ萎れるばかりだった。
「あんな姿を見られてしまうとは……ああ、神よ……」
神の名が出て来たのに驚き、とりあえずボスを現実に戻す事を考えた。
「ボス、タケに連絡をとるところだったのですが」
「ああ、そうだな」
「実は携帯電話をマネージャに持って行かれまして」
「なに、クリスが?」
ボスの表情に力が戻る。
「はい。メールも考えたのですが、やはり電話の即時性には勝てないかと」
PCは無事のようだ。モニターもテーブルの上に戻してある。ただ、その画面は歪んで
端の方の表示が虹色になっていた。
「うむ」
「しかしタケは電話に出ません」
「さっきからどれだけ時間が経った?」
「あ、えーとですね」
いかん、体の調子がすっかり良くなっていたので、マネージャとの乱闘が(一方的にや
られただけだが)有った事すら忘れていた。
「あれから概ね30分です」
「それならもう一度電話をかけてみろ」
「あ、はい。しかし携帯電話が」
「俺のを貸してやる」
胸ポケットから出した携帯電話を、投げ渡される。
「おっと。お借りします」
ボスが携帯電話を所持しているという事が、ピンと来なかったのは内緒だ。
「…………」
長い呼び出し音。これは今度もダメか……?
「はい、もしもし?」
意外にも出た。そして意外にも(失礼!)女性の声で。
「あ、ケニス・コールと申しますが、タケは近くにいませんか?」
「え、ええ? ひょっとしてケン兄さん!?」
ん、この呼び方でこの声は?
「ああ、鈴(りん)ちゃんかー」
「ああん、おひさしぃー!」
鈴だ、タケの妹の。あんな夢を見た後のせいか、懐かしさもひとしおだ。
「久しぶり。積もる話もあるんだけど、タケに急用が有るんだ」
「こっちも今、取り込み中なのよー」
「え、どうしたの?」
「兄さんの部屋にまた妖が出たの。今度は凄く強烈な奴が!」
続きます、というか続かせて下さいお願いします。
あと1〜2回で終了します。
131 :
深山之鳥利:2010/11/25(木) 14:08:46 ID:6kk0wfYh
↑を書き込んだものですが一応トリ付けときます
133 :
ヒワイな名主:2010/11/25(木) 19:26:04 ID:esaXlZ0v
小日本の刀のについて何もなかったので、勝手ながら考えてみた。
この話ではヒワイやヤイカは擬人化したほうが受け取りやすいかも。
鬼子のいる山は相変わらず平和でございます。しかし山から一歩出た世の中は戦乱の世となっておりました。
ここに出てくる戦人は長年の戦を生き抜いた猛者でございます。
しかしながら、この日は村が襲われているという嘘の情報をつかんでしまされてしまいます。
騒動を収拾するため彼らの部隊はその村に向かいます。が、そこにいたのは大勢の敵軍でした。とさ
戦人「・・・・・・」」
ボロボロになった鎧を着た戦人は馬に体を預け山を駆けていた。目は虚ろでまるで生気がない。
戦人(まさかこの期に奇襲をかけて来るとはな。。それにしてもダメな家臣を持ったものだ
自分たちを犠牲にしてまで私を助けようとするとは・・・・) その目からは涙が流れていた。
山に響く馬蹄音。鮮やかな栗毛が真っ赤に染まり、その足跡の紅葉も紅から赤へ染まっていった。
そのうち彼は意識が朦朧とし気を失った。馬に預けていた体が弾みでずり落ち、紅葉の上に倒れた。
_________________
ヒワイドリ(以下:ヒ)「なんで俺まで食材の調達せねばならんのだ、まったく鬼子は俺を家来か何かと勘違いしておるわ。」
とか言いつつ道端のキノコを拾いながら、コレ食えるのか?と不思議そうな顔をしている。
小日本(以下:小)「勘違いも何も酉さんは姉様の下僕じゃないの?そんなこと言ってると姉様に言いつけちゃうよ?
ちなみにそのキノコは食べると性転換するみたいだよ。」
ヒ「マジか?!」 まさに仰天といったような顔をする。
小「嘘だよ・・・」小日本の冷たい視線がヒワイドリを刺す。ヒワイドリは逃げるように小日本の先を行く。
ヒ「あのガキ怖いなー。鬼子の小さい時のほうがまだ純朴なロリだったわ。」速足で小日本との間はどんどん広がる。
小「あっ ちょっと待ってよー!」小日本は走ったがヒワイドリの姿は深い山の中に消えてしまった。
小日本は追いかけるのをやめ、歩きながら食材を探し始めた。
探し始めて30分もって来たカゴの中には、さまざまな種類の木の実や野草が詰まっていた。
小(あいつは全く役に立たなかったと姉様に報告しなくちゃ)小日本がカゴをとり持ち上げ帰ろうとする。
・・・が予想外にカゴが重い。どうやら木の実の割合が多かった様で、一応カゴを背負ってはみるがカゴが地面から浮かない。
小(これはヒワイドリが戻ってくるのを待つしか・・・・)と考えてるところで、山の深くから何か聞こえる。
ヒ「−−−!−−−!」どうやら声の主はヒワイドリであるようだ。しかしまだ何を言っているか聞き取れない。
ヒ「−−へんだ!−−ーだ!」声がだんだん近づいてくると思ったら何故か声が無くなった。
小「何をやっておるのだアイツは。おおかた、目を輝かせながら巨大なキノコを私に手渡すのであろう。。。」
ヒ「変態だ!変態だ!おっ小日本変態だっ」ヒワイドリが現れた瞬間、小日本の閃光のような蹴りが首を強襲。
小「遅いんだよ!早くカゴ運びなよ!それに私がいつから変態になった・・?」小日本が次の攻撃の構えにはいる。
小日本の目は完全に狩りの目であり、ヒワイドリはその時股間に妙な寒気を覚えたという。(後日談)
ヒ「変態?・・・・あ!ずっと『大変だ!』って叫んでたらいつの間にか『変態だ!』になってたよv
それより本当大変なんだって!すぐそこで人が倒れてるんだ。」
言い間違いのくだりを完全にドSな顔で聞いていた小日本だが「人」と聞いてその顔は驚きに満ち溢れた。
134 :
ヒワイな名主:2010/11/25(木) 21:39:49 ID:esaXlZ0v
>>133続き
小「人?!こんなところに?」 ヒワイドリを少し疑う顔をするがその中にも好奇心が見え隠れする。
ヒ「マジだって。なんか怪我してるっぽいし恰好からしてドコかのお侍さんだねぇ。」
ヒワイドリは腕を組みながらこれはマジ という目でこちらを見てくる。
小「とにかくその人のところへ!」小日本はヒワイドリにカゴを担がせ彼の後ろを付いていく。
そこには彼の言うとおり人が倒れていた。しかも怪我はかなりの重症らしく、腹部に接している地面には
深く血を吸いこんだ紅葉がいくつもあり、出血の多さを物語っている。
小日本はその人間を見るなり目を真ん丸にし、口を手で塞いだ。おどおどしている小日本に対し
ヒ「どうする?この人間このままだと死ぬし、たとえ家に運んでもどこまで対処できるかわからないよ?」
常識から考えてこのような件で子供に決断を迫るのはあり得ないことだ。
しかしここは鬼と妖怪が住む世界、小日本は鬼でありヒワイドリは下級妖怪。むしろ上位の者に決断を求めるのは当たり前のこと。
小日本はすこし涙声で
小「助ける。。。死にそうな人を見殺しにするなんて、わたしは、、、できないよ」
ヒワイドリはそうですかと微笑み人間を担ぐ体勢になる。しかし背中には先ほどのどんぐりのカゴが。
ヒ「少し重いな。・・・・小日本こいつの鎧を外せ。どうせもう使うときは無いだろう。」
わかったと小日本は背伸びしながら鎧の紐をほどき、地面に落としていく。
ヒ「それに刀も」
小「わかってる」彼の腰に刺さった2本の太刀。藤色の鞘・黒色の鞘。黒色の方には薄らと花の絵柄が刻印されている。
彼女がその刀に触れた瞬間、いままで気を失っていた彼の腕が彼女の腕をつかんだ。
小「うわっ!!!」完全に目を覚まさないと思い込んでいただけに驚きも大きかった。
だが、掴んできた腕は力なく、すぐに元あったように宙をぶらぶらとしている。
その後すぐに家に戻った二人は玄関で大声をあげる。
小「姉様ーー!助けて!すぐ来て!」 ヒ「一大事だぞ!おい、鬼子はいないのか?」
ヤイカガシ(以下:ヤ)「全く騒がしい二人が帰ってきたらこれだ・・・・うおぉ!?」
なぜか雑巾をもって廊下の掃除をさせられているヤイカガシ。その頭にはきっちり頭巾が。
振り向きざまにみたのは2人ではなく3人であった。しかも1人は血だらけという大惨事。
彼らの騒ぎを聞いて奥から鬼子が現れた。
彼女はそれを目にし、眉に皺を寄せた。そして目を瞑り、無言でうなずく。
すぐに処置が行われた。鬼子だけでは手が回らないのでヤイカガシにも手を借りて傷口を塞いだ。
鬼子は終始無言。ヤイカガシもその空気を読んで何も言わずに作業を続ける。
小日本は枕元で「おじさん!死んじゃだめだよ!」などと励ましなのか心の叫びなのかわからないが大声をあげている。
処置が終わったのは夜遅くだった。鬼子もヤイカガシもさすがに疲れが見える。
そこに温かいスープとおにぎり、そしてどんぐりのクッキーがヒワイドリからの差し入れとして出された。
小日本は声をあげて疲れたのだろうか、食べる前に寝てしまった。
つづき
「《酒杯》は血によって受け継がれる鬼族専用の怪器だ、天狗や妖狐が奪っても使いこなせるような……」
そこまで言って、ヒワイドリはせせら笑った。震える肩に刃が重くのしかかり、服が切り裂かれていったが、彼は笑っていた。
「何がおかしい」
「なのに《酒杯》が目当てか。あーあ、分かっちまったんだよ、お前らの目的が」
刃が何かに気づいたように、ぴたりと進行を止めた。
日本狗はなにかの気配を察するように鼻をひくひくさせていた。
「お前たちが仲間に入れたかったのは鬼子だけじゃない」
「ほぅ?」
「《酒杯》の権威を利用して、背後の鬼族を丸め込むつもりだったな。むしろ本命はそっちってところか。
ところが鬼子は鬼族を従える器であるどころか同族殺しを行っている異端だった。要はお前らの目的にとって将来敵にも味方にも転ぶ可能性を持つ不安要素だってわけだ」
「ふむ、なかなか賢い鳥だな。ならば教えてやろう、私もお前たちの目的ぐらい、とっくに気づいているよ」
ヒワイドリは舌打ちすると、大声で怒鳴った。
「ヤイカ! まだか急げ!」
ヒワイドリの肩から素早く刃が引き抜かれた。
「遅いわ!」
日本狗は低くかがみ込むと、反動を利用して背後に飛び跳ねた。
ヒワイドリは背中に翼を生やして反対側へ飛び、完成される事なく終わった『九字印』を見下ろした。
九字印は退魔の術である、ビルの屋上の広さを目一杯に使ってマス目状の赤い光の線が描かれていた。しかしその直後に、地面をすり抜けてヤイカガシ(美形剣士)の影が浮上した。
「ヤイカガシ!」
片手に剣のような柊の枝を構え、和服を風になびかせつつ、上空の日本狗に急接近する。
「どうしたヒワイドリ、死亡フラグをゲットすると吠えた時のお前は、もっといい目をしていたぞ!」
「やめろ、こんな時に安易に死亡フラグを立てんじゃねぇ!」
「ふん、愚か……!」
日本狗は真正面から突っ込んでくるヤイカガシに向かって、目にもとまらぬ速さで五芒星を描いた。
「バン・ウン・タラク、キリク・アク! 『オォぉ〜ドゥアァぁ〜! 五芒星の障壁風結界、重量感たっぷりのシールドアタック仕立てぇ〜!』」
うぉう国防省さんGJ!
ヒワイな名主さんもゆっくりしていってね!ヽ(´ω`)ノ
137 :
ヒワイな名主:2010/11/26(金) 02:08:19 ID:4w7rmMd3
ヤ「ひとまず峠は越えたのか?」クッキーをスープの中につけてふやけた所を食べるという、
まさしく奇行と言える事をしているのはヤイカガシ。一仕事終わった後のティータイムは格別だなとか言ってみるが
皆、長い時間集中していたので疲れて誰もツッコまない。
ヒ「それにしても、この人間を連れて来たときに、えらく景気の悪い顔をしていたじゃないか。
昔人間にいじめられたのか?まぁ俺らの長い人生に一度くらいはあるかもけどよぉ
あんな顔しちゃ小日本が悲しむぜ?」
鬼子はスープで体を温めながら、あぁ・・そうだな。すまん とだけ言って俯いた。
ヤ「・・・・・」
ヒ「・・・・小日本、この人間にべったりだな。まだ話した事もないのに。話したら幻滅するだろうよ。」
鬼「小日本がここに来てから初めて会った人間だからなぁ。興味をもっても何の不思議もないわ。」
顔をあげ小日本の寝顔を見る。気持ちよさそうに寝る小日本の手には花の刻印が施された太刀が握られていた。
__________________________
小日本の夢 兼 戦人の回想 *ここでの私は戦人ですv
20年ほど前。私はまだこの村で祖母と一緒に暮らしていた。祖母は街道に団子屋を構えており、
私は毎日、祖母の仕立て作業を手伝っていた。村自体が山奥にあるのであまり人は来ないのだが
旅人なら必ず一度は訪れたいと言われた隠れた名店でもあった。
季節は春であったか。その日も同じように仕立て作業が終わり表に出てみると、一人の女性が表にある腰かけに座っていた。
彼女は山奥には似つかわしくない貴人のような立ち振る舞い、そして華麗な花柄の着物に身を包み、
まるで本当に桜を身にまとっているかの様に、彼女からは桜の香りがした。
私「さて、何をご注文なされますか?」普段なら村の訛りで接客するところだが、なぜか敬語になってしまった。
彼女の隣にお茶を置き話しかける。
女「おまかせしますわ。しかしココは年老いたお婆さんがやっていると思ったのですが、廃業したのかしら?」
私「祖母をご存じでしたか。私は孫で今の時間は祖母が薬草を採りに行っているところです。」
女「はい、以前に一度立ち寄った時に、美味しい団子をお土産にもらったので、改めてお礼がしたかったのですよ。
それにしてもまだ働いてるとは元気な方ですこと。」
彼女は大きな笠をかぶっており、顔をよく見ることができない。それに初心な自分には笠が無かったところで
正面から彼女の顔を覗くということは万年無理な話であろう。
席に三色団子と薬草団子を置き隣に腰かけた。ついでに自分のお茶も。
私「それにしても何故このような山奥に?しかも一人で?」 緊張してお茶の消費が激しいのは仕方ない。
女「ええ、あの山に。」と店よりも奥にある大きな山を指差した。
「あの山に綺麗な桜があるんですよ。とても大きくて見てると心が癒されるんです。」
私「それは知らなかった。ここに20年近く生きてきたけど、そのような桜の名所があるとは。
そこに一人で行かれるんですか?危ないですよ!これから日が暮れてきて山の中は闇に包まれるし熊や猪だってでる。
私で良ければご一緒しますけど?」
私は何言ってるんだー。。と言葉を発した直後に自己嫌悪に陥った。
その私の奇妙な行動がおもしろかったのだろう、彼女は笑いながら答えた。
138 :
ヒワイな名主:2010/11/26(金) 02:10:00 ID:4w7rmMd3
>>134>>137の続き
女「ははははvそれは心強いですわ!しかし私にはこのように護身用の刀もありますから大丈夫ですよ。」
私には、何が大丈夫なのか分からなかったが体よく誘いを断られたのはわかった。
その会話の後、新しい客が入ってきた。男2人組の見るからに彼女の持ち物を狙っているのがわかった。
2人の注文を聞いて裏に行こうとしたら、案の定、事は起こったのだった。
女「あら、大変!盗まれたみたいですわ。」それにしても足の遅い方々ですわね。と危機感ゼロの彼女。
私「何流暢なこと言ってるんですか!」私は店から飛び出しすぐに2人を追いかけた。
彼女言うとおり彼らは足が遅かったので、幸い持ち物は無事だった。
私が持ち物をぶら下げて店に帰ってみると、彼女はまだ団子の残りを食べ続けていた。
女「お手柄ですね。団子も美味しいですし言うこと無しの店ですわv」 団子を綺麗に完食し、
お粗末様でした と一言。笠をとって深々とお辞儀をした。
顔をあげた時、予想はしていたが私は心を打ち抜かれた。もちろん彼女の美しさに。
私「い・・いえ//これは全く普通のことですから///あのっ・・・こちらこそありがとうございます!?///」
また私は何を言っているのだろう。謎の礼を言いながら彼女の持ち物を渡す。
女「私の持ち物なんて大した物なんてないんですけどねぇ。。でもこの刀は貴重な物かも。」
じゃあ受け取ってくださいよ。と言うが全く受け取ろうとしない。
女「そう、、あなたはこの人が気に入ったのね。」 ぼそっと彼女は言ったので聞き取れなかった。
私「はい?もう一度言ってもらってもいいですか?」
女「その刀、あなたに授けます。」
私「・・・?」
その頃からだろう。私の運命は狂いはじめたのは。
>>125国防省氏
おお! 降臨なさった! 前スレからずっとずっとお疲れ様です。
ぜひぜひ、ラストまで書き抜いて下さい!
>>131 ああ、pixivのID持ってないんですよね……。この際にアカウントとろうかな……。
とりあえず、追歌への返歌
大空に 瞬く星の きらめきを 鬼を愛する 人と数えん
SSも盛り上がってきたなあ。 ヒワイな名主氏の作品もなかなか面白そうで。
本スレのほうも歌留多で盛り上がってるみたいだし。
よしゃ、自分も何か書かんといかんな。
SSスレの皆様にお願い
wikiに作品掲載するスペースが出来ました。
よりたくさんの人に読んでもらうため、過去スレにアップされた作品等をwikiに掲載する作業にご協力をお願いします。
短編小説のページにテンプレがありますので、それをコピーしてページを作成してください。
タイトルは『SS・作品名』でお願いします。
wikiにスペースが有っても
こっちで投稿はしてもいいんだよね?
143 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/27(土) 01:25:22 ID:1wRy/Htz
避難所よりコピペ
497 名前:名無しさん@避難中[sage] 投稿日:2010/11/27(土) 01:03:03 ID:pnEU0WaE0
#wiki 短編小説の扱いについて
さっきwiki見てきたのだが
なんか 26日、27日とSSと称してアイデアのメモ書き程度の物を
幾つも 書き込んでる人物がいるがまずいんじゃないかな
アレを最近見知った人が見たら「鬼子プロジェクトなんて実は何も中身のない
人たちの集まり」と思われかねない
そこで最低限でいいから掲載ルールを話し合う必要があると思うがどうだろう
-----------------ここから自分の意見-----------------
1 作品は作者本人が掲載する
2 テンプレ内容の記入は必須 作者名は固定が望ましい
3 推敲して自分なりに完成と思える物を掲載しよう、迷うならSS板へ
-----------------ここまで-----------------
498 名前:名無しさん@避難中[sage] 投稿日:2010/11/27(土) 01:10:46 ID:HPdTKjaY0
>>497 1,2は賛成だけど、3の「迷うならSS板」っていうのは反対
ただでさえダメな小説の見本市みたいになってんのに、これ以上駄作増やしてどうすんだよ、と・・・w
145 :
ヒワイな名主:2010/11/27(土) 02:43:32 ID:B85siRXO
>>138続き
彼女は刀と荷物一式を私に押し付けて笑った。その瞬間、突風が吹く。
私は目にゴミが入らぬように袖で顔を覆う。
私「すごい風でしたねぇ。」 袖から顔をあげながら彼女に話しかける。
しかしそこに彼女の姿はなく、代わりに桜の花びらがフワフワと漂っていた。
夕暮れになり今日あった事を祖母に話した。
祖「お土産のお礼? はて、そんな事があったような無かったような・・・」
私「おい、しっかりしてくれよ婆ちゃん。どうしても知りたいんだ。」
祖「思い出したぞ! あの人か!、、、誰が年老いたお婆さんだって?!あの時はまだ60にもなっとらんわい!」
私「え・・・?婆ちゃん今年でいくつだ?」
祖「あたしは92歳だよ。自分の祖母の年齢くらいちゃんと覚えたらどうだ?」
私「そうだったな。オレも今思い出したよ。」
祖「そうかあの人か。穏やかで美しい方だったぞ。あたしの作る団子が美味いと褒め倒すから
嬉しくなって、ついお土産を渡してしまったんだな。
今となっては当時のあたし位の年齢なのかね?どうだった?やはり皺の2、3本は深く刻まれてたかい?」
私の頭は少し混乱した。。
私「いや、オレより少し年上位くらいにみえたぞ?いってて20代後半と言うところだろうか。」
祖「お前の目は節穴か!?20代と50代をどうやったら見間違えるのだ。
・・・そうか今日来たのは私とあった女の娘かもしれんな。」
確かに年齢的に考えればそれが妥当である。しかし話したときの彼女の口調は
祖母との会話を、自らが体験した事として話しているようにしか聞こえなかった。
それに彼女の様な性格なら、まず先に彼女の母と私の祖母について話すだろう。
私「あぁ、娘だったのかもな。。。」そう言って会話に区切りをつけ今日は早めに店を閉めた。
夜になっても彼女のことが気になりしかたなかった。
何故一人で山へ桜を見に?何故私に持ち物を?何故あたかも自分が過去の祖母と話したような口調で?
考え込んでも当然答えが出るわけはなく、私は諦めて床についた。
146 :
ヒワイな名主:2010/11/27(土) 02:44:46 ID:B85siRXO
>>145続き
その夜私は夢を見た。
風景は今日の昼間と同じ。腰かけに座る私の隣には彼女がいた。
女「今日お授けした刀についてご説明をしに参りました。」昼間と違う表情、真面目な顔で話し出す彼女。
彼女は道に木の枝で絵を描き始めた。カリカリッと可愛らしい男女が描かれた。
「この刀は持ち主とその愛する人との縁(えにし)を結び、結ばれた縁を強く固いものにする。そんな力があります。」
と言って、絵の男と女の間に線を書き込んでいく。
「そしてこの刀は私たちの世界に居すぎたため、その力は増幅し、刀は意思を持ち始めました。
彼は忠誠心が強く、主の縁を必死に守ろうとします。」
絵にあった男女間を繋ぐ線に、まるで蛇が絡んでいくように線が書き込まれ太くなってゆく。
女「それだけならまだよかったのですが・・・・」 と彼女は続ける。
「力が大きくなり過ぎたせいで、主の周囲の人の縁まで操るようになってしまったのです。
今は鞘のおかげでそこまでの力はありませんが、刀身を出したらあなたの周りの人の運命を狂わせることになるので
絶対に鞘からは抜かないでくださいね。」
絵の中では男が持つ刀からウネウネとした線がいくつも出ており周りの人々の体を縛っている。
可愛らしい絵なのだが、おぞましい光景だった。
女「しかし鞘に入っているからと言って、周りへの影響が無くなるわけではありません。
ですが、些細な影響しかありませんし、彼自身は悪気をもってやっている事ではなく、
主を守ろうとする気持ち、多くの縁と触れ合いたいという気持ちからくるものなのです。
ですから、、、彼を捨てたりしないでくださいね。」 真面目な顔から一転、こちらに微笑みかけてきた。
わたしはその微笑みにどう返事をすればいいのかわからなかった。
彼女は立ち上がり私の前をフラフラと腕を組みながら歩く。
女「ねぇ、好きな人とかいるの?」 彼女は顔を私の顔にくっつきそうなくらい近づけながら聞いてきた。
思わぬ行動に夢にもかかわらず心拍数が上がる。 そして勢いよく首を横に振る。
女「そっかぁ、それじゃ早く好きな人ができるといいわね。」
そう言って彼女は笑いながら笠をかぶりはじめた。
女「今度あった時は一緒にあの山の桜でも観ましょ。
本当なら生きた人間は連れてけないんだけど、バレなきゃ大丈夫かなぁ」
また突風が吹きはじめる
男(待って!まだ聞きたいことがたくさんあるんだ!あなたはいったい誰・・・・)
声にならない思いが突風によってかき消された気がした。
147 :
ヒワイな名主:2010/11/27(土) 02:56:20 ID:B85siRXO
初めてSSというものを書いてみたが
初レスの初っ端に誤字があるというwもう恥ずかしくてたまらんw
そして小日本メインで書こうと思っていたのだが、なんか戦人が完全に主役だな。。
困っちゃうぜv
とりあえず話も後半に入り、シリアスな雰囲気から鬱展開にかわります。。
何故か自分で考えたシナリオの最後を想像して泣くという
・・・そんなこと言うとハードル上がるので皆さんは気楽に読んでいただけると助かります(・.・;)
このようなスレが有ったとは
すいません、物語の導入部みたいな感じでお話を作ってみたのですが、
SSというか、文章が苦手(長い文なんて書いたこと無い)もので、添削依頼もかねて
UPするのって有りですか?
お久しぶりです。
>>143 これは支援。
Wikiにはっついてるメモ書きのあれは何なんだろうなあ……。
>>147 ヒワイな名主氏
おお、ナイスです!
個人的には台詞前の「私」や「祖」を取り去っても誰が何を言ってるのか分かるようだといいんですが、
でもとってもキャラクターたちがイキイキしてますね!
誤字はドンマイです。自分も何個も紛れてます。どうやったら全部取れるんだろうなあ……。
さあ、是非その涙のストーリーを見せて下さい! 自分のペースで!
>>149 私が添削するとなると、結構気色の悪いものになってしまう可能性がありますので自ら添削を名乗り出ることはしませんが、
UPでしたら気楽にして下さると盛り上がるのでは……?
落とさずに気兼ねするよりかは、勇気を出して落とした方がいいと思いますよ。
……と、ちょっと乱文な気がしますが、お久しぶりでした。
>>149まず、たとえ本人の頼みでも、法に触れるような事が書かれていなかったら削除依頼は通らないよ。最初はみんな下手だから気にしないでいいと思うよ。
>>150歌麻呂さん
や、むしろ言ってもらえたほうが後々変なこと書かずにすむ指針になると思うので、言って頂けたほうが良いです。
>>152 どんまいです!
では張らせていただきます。
<本文>
(むかしはなし)
___先ず「一つの鬼の唄」を童が唄った。
「鬼の居ない鬼ごっこ」の唄
それを聞いた周りの童部達は皆、その奇妙な唄に引かれ集まりだした。
「紅葉の葉に描かれたるは鬼の顔」
「鬼は紅葉となりて、名を隠す」
そんな戯事の唄は更に人を呼び集め、いつしか気づくと祭のような騒ぎと成り
幾千の童部の唄は、とうとう「八つの鬼」を召び出したのだった。
鬼を鬼で無くする為に、鬼らには「一つの名」が与えられた。
「ひのもとおにこ」と。
童部達は「戯事」に「祭り」に酔いしれる中で、八つの鬼の子らから一番鬼を決めようとした。
選ばれたるは長い黒髪、紅い目と紅葉柄の赤い和服姿、片手には大きな薙刀一振りを持った鬼の子である。
その鬼の子も大いに喜び、辺りを駆け回りそして、くるくると舞い踊りだした。
童部達も皆で踊り、祭りはまだ続くかの様に思われた。
すると何処からとも無く「鬼の子ら」とは明らかに違う声が耳に入ってきた。
「帰り道には気を付けなされ・・・」
それを聞いた童部達はふと我に帰りお互いの顔を見合わせた後、鬼の子の方を振り返る。
辺りの葉を萌やしながら勝手気のままに舞い踊りつづける鬼の子の姿が恐ろしくなり
童部達はその場から逃げ帰ってしまったのだ。
その後に「こひのもと」と名を与えられる禍(か)の子らが召び出されたのは、その話を聞いた
また別の童部達によって召び出されたそうな。
(ゆめうつつ)
「この子らに力添えしてやってほしい」
いつから其処に居たのか、いや、今自分が此処に来たのか。
暗闇・・・漆黒・・・・
とにかく「完全な黒」としか言いようの無い空間の中、突如話が始まる。
其処に「居る」のは、淡い銀色の髪を後ろで結わえ、目が青みがかった色白の「少女」である。
黒い空間の中に溶けることなく影もなく、その少女の紅白の和服姿がはっきり映しだされる。
そして一呼吸置き、涼やかな音で話は続く。
「粗方に式は完成しており、残りは我でも出来る事なのだが・・・其れでは効果が弱いのじゃ」
突如始まった話、そしてその「少女」が何者か解らないままで混乱しそうな
ものなのだが、何故か自分の心は妙に穏やかで落ち着いている。
式とは・・・と、問い掛けようとしたが、自分の声の「音」が出ていないことに気付く。
其処に有る「音」は「少女」の話のみである。
「そこもとに来たる邪を迎え討つよう、この式を施し、惹かれ導かれし鬼の子らを置いた」
「式」の意味は解らないが、突如頭の中に図形の様なモノと、人らしきモノが八つ浮かんだ。
この図形が「式」で、そこに置かれた人らしきモノが「鬼の子ら」なのだろう。
咄嗟にそれは予想できたが、やはり意味は解らないままだ。
「各々の持つ力は強いが、その立ち位置に未だ慣れておらんのじゃ」
「そして少々不安ではあるが鬼の子らより後に導かれし、かの子らを鬼の子らに預けた」
続く話に合わせる様に頭に浮かんでいる図形の中の「鬼」の横に「小さな子供」が、
それぞれ「八人」順に映し出される。
「祀り始めじゃが立ち位置さえ確りしてこれば、問題は無かろと思っておる」
「立ち位置を確り指せるために、力添えしてやってほしい」
「如何な形であっても良い、この子らを受け入れ、そして愛でてやってほしい」
「それこそが力添えとなるのです」
「もし、そちにその気があるなら、じんしゃうもんを尋ねなされ」
「少女」の話はそれから続いたのか、終わったのか。おおよそ覚えている記憶は其処までである。
(まよひが)
抜けるような青い空、少し肌寒いそよ風、大きなため息を一つ吐いた。
腰掛けていた岩から重い腰を上げ、太ももを軽く2,3度叩いて伸びをし、もう一度ため息をついた。
近隣の町人の話や文献から聞き読み拾った昔話を頼りに、赤や黄色の紅葉の葉が降り積もった山道を進んでるのだが、
積もった紅葉は一歩一歩踏み進む度にシューズを丸々包み込むほど深く、中々思うように足が運ばない。
時間ばかりが、だらだらと過ぎてしまっている様に感じていた。
この時期は山の日が落ちるのが早い、昼を回ったばかりだが周りの木も陰を伸ばし始め、うら寂しい色に染まってきていた。
こんな所に人なんて来るのか、いや途中で道でも間違えたか。
夢の中の話が気になって、調べていたら気になる符号点がいくつも見つかり
探さずには居られなくなっていた。反面、馬鹿馬鹿しいことに囚われ続けている
自分に腹が立ち、気のせいだったと言い聞かせる確固たる証拠が欲しかったのだ。
「・・・・あんな夢さえ見なければ」
深く考え込んでしまうぐらい現実味を帯びた夢だったのだ。
疲れや焦りから出る自問自答を考えるのも面倒になってきた、と思い始めた丁度その時。
目の前の視界が開けた。
周りに陰になるものが少ないせいなのか、先ほどより周りの日が淡く明るく差し込んでいる。
そして広場の少し先に、大きな黒みがかり苔むした岩が横たわっていた。
「あぁ、これがそうなのだな」
口から言葉を出したのは、これが違っていたらもう他を探す時間も無いから
これにしようと自分に言い聞かせるためだったのか、それとも
この「鬼」の顔のように見える「岩」が恐ろしく感じたからなのか。
「・・・特に何も無いな」
奇妙な気配と若干の異臭が気になり、夢はやはり夢だったと早々自分に言い聞かせ、
日暮れに入る前に下山しようと、きびすを返したが。
__当てはハズレていた。いや、むしろ気のせいではなかったから正しかったのか。
後に聞くとそれは「じんしゃうもん(人生門)」では無く、それは「きしゃうもん(鬼生門)」の
方だったのだそうだ。やはり途中で道を間違えてしまっていたらしい。
その鬼生門は、「鬼」が派生する場所らしく、たびたび鬼が現れては人を襲うのだそうだ。
そして、この少女はその「鬼」を退治してまわっているのだと屈託の無い笑顔で言いながら
机を挟んで座り、お茶を一杯もてなしてくれた。
そう、助けられたのだ。この笑顔でこちらをじっと見つめる「角の生えた」少女に。
<本文 結>
3パートに分かれてますが、こんな感じです。
稚拙な点や表現があると思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
>>153 な、なんだこれは……!?
凄く、続きが気になって仕方がない……。
一つ言うならば二スレ目の下から六行目「確りしてこれば」はどこかの(名古屋の?)方言で、「少女」には似合わないのかも、ということでしょうか。
「確りしてこれば」→「確りしてくれば」etc.... が良さそうです。
……と、ああ、なんかこちらが恥ずかしくなるくらい美しい文章でどう返事をすればいいのやら。
とりあえず、続きを希望します。ええ、気になって仕方がないのです。
こんな感じのお返事しか出来ずに申し訳ございません……。
>>153 興味深く読むことができました。面白い導入部だと思います
「少女」に助けられた人の心理を、もっと揺さぶってもいいかな、と感じました
例えば、夢に出てきた「何か」に一致する物を発見して、鼓動が高鳴った
誘われるように「ある場所」へ向かっていることに気付き、不安だけど進む、みたいな
最も気になったのは、「少女」が可愛いかどうか、書いてありませんw。重要事項だと思うなぁ
細かい点ではいくつかありますが、気にしないでどんどん書いちゃった方がいいと思います
自分の場合は、何度も読み返して、引っかかるところを修正する、って感じです
あと、…(三点リーダ)や―(ダッシュ)の使い方などの基本的な書式は、
SS初心者スレに書いてあります。いい文章なので、綺麗にしませんか?
159 :
ヒワイな名主:2010/11/28(日) 01:45:15 ID:8jeWJ+bi
>>150 確かに 私と祖母の場面は名前の方がゴチャゴチャして気になりますね。
名前表示をありかナシか迷ったのですか、情景描写?でそこを表そうとすると、
1レス上げるのに相当時間かかっちゃいます(p_-)
正直自分には時間がないので、今回だけはこの方法で通したいとおもいます(汗
>>157 読んでくださってありがとうございます!
二スレ目の「少女」はこの中では書いていませんが、「古い神様」なのです。
もっと雰囲気出したいのですが、いい表現ありますでしょうか?
>>158 読んでくださってありがとうございます!
>心理を、もっと揺さぶって
なるほど、もう少し心理描写を煮詰めてみます。そうすればもう少し感情移入し易くなるかな?
>「少女」が可愛いかどうか
確かに書いてないですねぇw バランス見て修正してみます!
>あと、…(三点リーダ)や―(ダッシュ)の使い方
そういうのがあるのですか!?
そういう決まり事が良くわかっていませんでした、読みに行ってきます。
>>160 すみません。大事な点が抜けていました
(まよひが) の人の年齢、性別です
それによって、心理描写が大きく変わると思います
ひょっとして「自分」で書きましたか?
>>160 うーん、そうですね。私の少ない語彙ですとほとんど参考にはならないかと思いますが、
「祀り始めじゃが、その立ち位置に慣れさえすれば……」
「祀り始めではあるが、かの子らの動きが慣れさえすれば……」
どうでしょうかね? あまり自信がない表現しかありません……。
あ、あと、二スレ目後ろから二行、
「それこそが力添えとなるのです」
というセリフ。ここだけ「です」なのは少し違和感を感じるような……。
「〜じゃ」「〜じゃよ」「〜となろう」etc....と変えると、その他の台詞と調和するかもしれませんね。
>>115-117 wikiのほうでもいいので、現代語訳もつけてくれませんか?
歌麻呂さんの現代語訳、ぱっと見て歌の意味が分かるし面白いから好きだったんだけど…。
>>161 仕事先からなので本文校正は帰ってからやってみます。
(まよひが)の人格はあえて設定していませんでした。(オリキャラで固定しないほうが良いような気がして)
なので、仰る通り「自分」語りです。そのせいで感情部分が淡々としてしまっていた事を省みて反省。
もし人物を固定するのであれば、考えていたのは民俗学考古学を専攻する学生で名前を「衣川暁(きぬかわ あきら)」
として考えていました。(名前の由来は後付で色々できそうだからw)
>>162 歌麿さんの世界設定が、なんだか自分のものと反りが合いそうな
気がします。(天津神と国津神的な考え方、鬼が鬼を払う行為)
宜しければ設定教えていただきたいです、自分的に似た方向性を持った方と
設定のすり合わせを一度してみたいと思っております。
>「それこそが力添えとなるのです」
自分も引っかかっていました。(直せよと突込みが出そうだ)
基本理念というか、自分のなかでこの世界観は「壮大な言葉遊び」なので
「じゃ」という言葉を余り多用したくなかったというのがあります。
でも考え直すと、有りな事に気づいたので修正してみます。
お付き合い頂き、ありがとうございます!
>>163 要望に応えて、現代語訳付けてみました。
[+]←みたいな所をクリックして頂ければご覧に出来るように致しました。
>>164 小説家にとって設定は命と同じもの……というのが私のポリシーですが、
「澪標」と「身を尽くし」を掛けた和歌を詠い、もはや鬼子に命を捧げた身でありますので、
それで更なるSS、鬼子たちの発展、向上を為すだろう……と、まあこんな自分でもわけのわからない雑言はさておき。
了解しました。設定のほう投下させて頂きます。
ただ世界観なんて即興で作ったもので、なにもまとめていない次第ですので、少々まとめに時間が掛かるかと思います。
……ここまでためておいて、実際はちゃっちい設定だった、という可能性もありますので、そこのところご了承くださいませ。
>>165 >>164の者です。
あわわ、すいません!「小説家にとって設定は命と同じもの」と、そこまで深く考えずに発言してしまいました(><;
かえって恐縮ですので、歌麿呂さんの和歌や小説より読み取ろうと努力します!
申し訳ありませんでしたぁぁ
167 :
ヒワイな名主:2010/11/28(日) 21:18:55 ID:8jeWJ+bi
>>146 数年が経ち私は祖母の家を出た。山の麓にある城で働くことになったのだ。
小さい頃から人々の役に立ちたいと思っていた私には嬉しい事であった。
働き始めてすぐに今の妻と出会う。静という名だった。出会ってからはトントン拍子で事は進み、
間もなく子供ができた。子供の名前は沙英という名で、妻の友人からとった名前らしい。
妻と娘のことはとても愛しており、私の生活は幸せに満ちあふれていた。
娘が七五三を迎えたころに、この世は乱れ始めた。都や大きな町との境界では戦が絶えない。
この国も山奥にありながら例外にはならなかった。
腕っぷしには自信があった私は、家族を守る為にも最前線の部隊で働くことを自ら申し出た。
初陣の時、私はお守りにはなるだろうと思い、抜いてはならないと言われた刀を腰にさしながら戦場を駆けた。
結果としてその戦には勝ち、自分の身にも大した怪我をせずに家族のもとに帰ることができた。
同じ部隊でも死者は多数出ており、城の者は軽い怪我だけで帰ってきた私を見て皆驚いた顔をしていた。
それからというもの、戦の度にその刀をさし出撃した。
勝ち戦が続くに連れて、相手にする敵が手強くなっていく。私も以前のように軽い傷で済む様なことは少なくなった。
苦しい戦況が続いた。出撃の度に多くの人間が戦場で屍と化し、いつの間にか初陣の頃からいた仲間は皆、戦場に散っていた。
そのような中で私も死を覚悟したときはあった。
遠くから射込まれた矢が私の肩にあたり、そのまま落馬。敵は数歩と離れてないところにいる。
敵はすぐに私を抑え込み、首を切りかかろうとする。
(すまない。静、沙英 私はもう終わりのようだ。沙英が大きくなるのをもう少し見守っていたかったな・・・)
瞼のうらには、3人で楽しく食事をする風景が出てくる。その瞬間、目からは涙がこぼれた。
敵が刀を大きく振りかぶり、刀は首めがけて迫って来るのが、目を閉じていてもわかる。私は死ぬのか。
しかし刀は首を襲いをしなかった。それに抑えつけていた、敵の体重も感じなくなった。
目を開けてみると、味方の一人が敵ともみ合っている。どうやらその見方は刀も持っておらず
あの敵に対し捨て身の攻撃をしたようだった。私はすぐに立ち上がり助けに行こうとするが、
間に合わず。彼は鎧と共に串刺しに、そして大量の血が噴き出した。私は駆け寄り、息を切らしている敵の首を落とす。
「大丈夫か!?待ってろ、すぐに血を止めるからな。」そう言って彼の袖をちぎり刀の刺さった彼の胸にあてがう。
よく見ると、体はまだ幼さがのこり、顔つきも子供だった。ちょうど沙英と同じくらいの年だろう。
少年はこちらを向いて涙を流しながら微笑んでいる。そしてそのまま彼は固まってしまった。
その後すぐに援軍が駆け付け、なんとか無事に城へ帰ることができた。
城の門をくぐると多くの人から歓声をもらった。
私の帰りを喜んでいる沙英の顔は笑顔で、その顔を見るのが嬉しい反面、強く胸が締め付けられた。
この戦の後も、仲間が犠牲になり自分が助かるという場面をいくつか体験した。
その度に私は犠牲になった仲間達の命を背負って生きている感覚になる。
戦場に出ることが、守ってもらった命をまた捨てに行くようで、実に申し訳ない気持ちになった。
しかし私の気持ちとは反比例するかのように、周囲の人々からの評価は高くなっていき
私の名前の冠頭詞には「不死身」や「天下の戦人」などが付けられた。
いつの間にか私は、兵士たちの中心におり、私が戦場に居るというだけで兵士達の士気は上がった。
そのような中で戦場に出たくないと思っていても、今の私の立場がそれを許さない。
ならば早くこの乱世が終わってくれと願ったが、年々戦の数は増え続けた。
>>166 いえいえ、「設定が命」といえるのは私のオリジナルの作品にのみ言えることですから気にしないて下さい。
むしろ自分の考えを整理できるいい機会ですので、投下させて下さい。自身SSを完遂するとは限りませんし。
……私のSSの核心をつく内容を述べなければ大丈夫だと思いますし、他の皆様の参考にでもなればなと。
本スレでも誰かが発言されてましたが、ある程度のまとまりがある方が他の創作の手助けにもなるかもしれませんし。
(無論まとまりの度が過ぎるとそれは形式的でつまらない論文のような文字の羅列になってしまいますが……)
以前キル子改変の鬼子を張っていたものですがちゅるやさん鬼子作ってみました。
ちゅるや
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ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃|:::|ノ:ヽ___l おにーん
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レ!小l● ● 从::::|、|ヽェェi
ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃|:::|ノ:ヽ___l
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今後の技術の上昇のためにAA保管庫をいろいろ探ってみたのですが、改変素材になりそうな…もとい髪形の似たキャラって結構いるものですね。
以前改変の素材にしたキル子、閻魔あい、そしてロリカード、遠野秋葉、糸色倫、蓬莱山輝夜などなど。
つづき
かなりの高度まで跳び上がっていた日本狗は、次の瞬間にはビルの屋上にまで到達していた。
古くは流星が生み出した空想の産物とされた天狗、日本狗の相変わらず凄まじい高速移動にヒワイドリは絶句した。これがただの妖になせる業だろうか。
「ぬわぁぁぁぁぁぁ!」
五芒星の盾で弾丸のように弾かれたヤイカガシが、コンクリートの床を突き破りながら次々と下階に落ちていく。
地上に到達した五芒星の盾はそのまま地面に光の刻印を焼き付け、ヤイカガシを地下に「封印」してしまった。
ビルの頂点で日本狗がゆっくりと立ち上がり、たちのぼる煙がむなしく風になびいていた。
「くっくっく……くはっはっはっは……」
日本狗はぐきりと首を鳴らし、空に向かって高らかに宣言した。
「力無き鳥よ、そこで指をくわえて見ているがいい。そろそろ戌四つ(オトナ)の時間だっ!」
「くっ……野郎!」
圧倒的な実力の差を前に、もはや愕然とするばかりだった。
日本狗の邪な目が、ビルの下の日本鬼子を捕らえた。
「哀れな鬼の子よ、お前の不幸もすぐに終わる……この《誅剣罰光》によって、苦しみも感じぬ間に霧にしてやろう」
空に描かれた五芒星の力によって束縛された鬼子さんは、さらに恐怖によっても動けないでいる。般若の面が失われたと同時に、彼女の本来持っていた力も失われたかのようだった。
「鬼子っ……!」
逃げろ、と言えない。ヒワイドリもまた彼女と同様だった。圧倒的な力を前にした恐怖、自分は戦闘要員ではないという言い訳、そういったものが彼の翼の自由を奪っていた。
(動け……動けっ……頼むよなんで動かないんだよっ……動けぇっ!)
そのときだった、
(ヒワイ!)
(この声は……)
ヒワイドリは思わずその名を口走った。
「ヤイカ!?」
自らの脳裏に直接響いてくるヤイカガシの声に、ヒワイドリは吐き気をこらえて尋ね返した。
「お前、一体どこでこんな精神的ハッキングを覚えたんだ!」
(聞け、私は今、宿体である魔除けの飾りから抜け出して、魂のままお前に話しかけている!)
「勝手に抜け出してくんな宿体に帰れ!」
(そう、今思えばあの夢はまさにお告げだったのだ。
私とお前が、尻フェチと胸フェチが、二つの世界が融合し、ともに世界を平和に導くべしという……)
「やめろ、俺にはなんの事かわからんがそれ以上しゃべるなっ! すごく不幸になりそうな気がするっ!」
(イッツ・ショウターイム!)
魂に抵抗は無意味だった、次の瞬間、ヒワイドリの全身をキラキラとまばゆい光の渦が包み込んだ。
「やめてぇぇ全身に力がみなぎってくるぅぅっ!」
(フュージョーン! ハァーッ!)
ヒワイドリは今だかつてない感覚に震えた。両手を見るとそこにあったのは自分の手ではなかった。
彼の手はどこからか柊の枝を取り出し、それを大きな剣に変えた。何らかのガスに引火して、炎のような光を放っている。
服装には先ほどの目も覚めるような派手さは微塵もなく、腕にはだぼだぼの袖が垂れ下がり、下は袴に足袋という、完璧な和装だった。
髪型はどうなっているか分からないが、視界にはうざったい黒髪が垂れ下がるままになっている。そして喉からは彼のものではない低い声が漏れてきた。
「融合……完了……」
(ちょっ!? えっ!? 何これ!?)
ヒワイドリはびっくりして声を上げたが、うまく声にならなかった。どう見ても体はほとんどヤイカガシになっている。
先ほどとはまるで立場が入れ替わったかのように、彼はヤイカガシに話しかけていた。
(ゆ、融合っ!? これ体ほぼお前じゃない!? バランス違うくない!?)
「何を言う、翼はほとんどお前じゃないか。翼だけはな」
ヤイカガシは柊の剣を構えると、眼下の日本狗に狙いを定めた。どうやら「飛べ」という意味らしい。
「気にするなヒワイドリ、パンツ盗まば穴二つ、正義を為すために多少の犠牲はつき物だ!」
(俺の体を返せーっ!)
日本狗が半身になり、イチローのごとくに剣を構えていた。それはどんな悪球をも確実に捕らえてヒットに変えてしまう、あたかも魔法のごとき構えであった。
「さらばだ、日本鬼子……!」
このスレすげぇ
気がついたら俺ひとりいらない子になってるwww
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>>169 凄く可愛いですね。
是非、まとめwikiのAAにアップして下さい。
>>169 乙。たまにAAネタとか投下してください。ぶっちゃけ、じぶんしかAAネタ投下する人いなくて…たまーに自分よか
上手な人が参加してらっしゃるようですが…あんまなくて寂しいかぎり。
>>172 GoGo! ひのもとさん
お疲れ様です!
そんな哀しいことを言わないでください……。
前スレからのとても心の支えになる作品じゃないですか。
日本狗の設定、参考にさせてもらっています。近々書けたらいいなあ。
>>169 おお、なんて癒しの鬼子たんなんだ……!
ちょこんと膝に載せたい。
>>175 あ、もしやあなたは一日一回(?)本スレに投下する、
あのほのぼのするAAの職人さんでは……?
毎度毎度、吐息が漏れてしまうくらい癒されます。
>>177 そういってもらえるとウレシイです。あのAAはいくつか目的がありますが…そのひとつとして、新規さん向けってのが
あります。たまに、ヤイカガシやヒワイドリなんかのネタキャラ(?)一色の流れがありますんで。
鬼子ネタを期待してやってきた人らが「なんだよ!鬼子ネタぜんぜんないんじゃないか!」みたいなのを緩和できればと。
あと、1日の終りにアイキャッチ的なイメージと、あの歌気に入ったんで支援的なものになればいいかと。
>>178 あ、『紅の鬼』の歌詞じゃないですか……!
ああいうのがあると、これからも頑張ろうって気がしてきますよ、ありがとうございます。
>>180 拝見してまいりました!
なるほど「和歌」が「言霊」でしたか、本当にありがとうございました〜!
参考にさせて頂きます(イイノカシラ)
それともう一度校正・追加してみたのを投下させて下さい。
今度は如何だろう…。
(むかしはなし)
――先ず「一つの鬼の唄」を童が唄った。
「鬼の居ない鬼ごっこ」の唄
それを聞いた周りの童部達は皆、その奇妙な唄に引かれ集まりだした。
「紅葉の葉に描かれたるは鬼の顔」
「鬼は紅葉となりて、名を隠す」
そんな戯事の唄は更に人を呼び集め、いつしか気づくと祭のような騒ぎと成り
幾千の童部の唄は、とうとう「八つの鬼」を召び出したのだった。
鬼を鬼で無くする為に、鬼らには「一つの名」が与えられた。
「ひのもとおにこ」と。
童部達は「戯事」に「祭り」に酔いしれる中で、八つの鬼の子らから一番鬼を決めようとした。
選ばれたるは長い黒髪、紅い目と紅葉柄の赤い和服姿、片手には大きな薙刀一振りを持った鬼の子である。
その鬼の子も大いに喜び、辺りを駆け回りそして、くるくると舞い踊りだした。
童部達も皆で踊り、祭りはまだ続くかの様に思われた。
すると何処からとも無く「鬼の子ら」とは明らかに違う声が耳に入ってきた。
「帰り道には気を付けなされ……」
それを聞いた童部達はふと我に帰りお互いの顔を見合わせた後、鬼の子の方を振り返る。
辺りの葉を萌やしながら勝手気のままに舞い踊りつづける鬼の子の姿が恐ろしくなり
童部達はその場から逃げ帰ってしまったのだ。
その後に「こひのもと」と名を与えられる禍(か)の子らが召び出されたのは、
その話を聞いた、また別の童部達によって召び出されたそうな。
(ゆめうつつ)
「この子らに力添えしてやってほしい」
いつから其処に居たのか、いや、今自分が此処に来たのか。
暗闇……漆黒……
とにかく「完全な黒」としか言いようの無い空間の中、突如話が始まる。
其処に「居る」のは、淡い銀色の髪を後ろで結わえ、目が青みがかった色白の「少女」である。
黒い空間の中に溶けることなく影もなく、その少女の紅白の和服姿がはっきり映しだされる。
そして一呼吸置き、涼やかな音で話は続く。
「粗方に式は完成しており、残りは我でも出来る事なのだが……其れでは効果が弱いのじゃ」
突如始まった話、そしてその「少女」が何者か解らないままで混乱しそうな
ものなのだが、何故か自分の心は妙に穏やかで落ち着いている。
式とは……と、問い掛けようとしたが、自分の声の「音」が出ていないことに気付く。
其処に有る「音」は「少女」の話のみである。
「そこもとに来たる邪を迎え討つよう、この式を施し、惹かれ導かれし鬼の子らを置いた」
「式」の意味は解らないが、突如頭の中に図形の様なモノと、人らしきモノが八つ浮かんだ。
この図形が「式」で、そこに置かれた人らしきモノが「鬼の子ら」なのだろう。
咄嗟にそれは予想できたが、やはり意味は解らないままだ。
「各々の持つ力は強いが、その立ち位置に未だ慣れておらんのじゃ」
「そして少々不安ではあるが鬼の子らより後に導かれし、かの子らを鬼の子らに預けた」
続く話に合わせる様に頭に浮かんでいる図形の中の「鬼」の横に「小さな子供」が、
それぞれ「八人」順に映し出される。
「祀り始めじゃが立ち位置さえ確りしてくれば、問題は無かろと思っておる」
「立ち位置を確り指せるために、力添えしてやってほしい」
「如何な形であっても良い、この子らを受け入れ、そして愛でてやってほしい」
「それこそが力添えとなるのじゃ」
「もし、そちにその気があるなら、じんしゃうもんを尋ねなされ」
「少女」の話はそれから続いたのか、終わったのか。おおよそ覚えている記憶は其処までである。
(いざなひ)
眠りに入って直ぐなのか深くまで落ちてからなのか、
夢の中で見知らぬ「少女」が度々現れては「妙な話」をしていった。
それはあまりにも現実味があり、目が覚めても暫くはその「少女」の顔が目に焼きついていたぐらいだ。
はじめは大好きな「伝奇モノ」や「小説」の読みすぎで夢にまで出ているのか、
ぐらいにしか考えてはいなかったのだが、その夢を忘れかけた位の頻度で、また同じ夢を見たのだ。
何かと心の隅に引っかかるのでメモだけでもと書き留めてはいた。
私の名前は「衣川 暁」(きぬかわ あきら)よく名前で男と間違われる。
読書好きで目が悪く、運動は苦手で勉強のほうも中の下ぐらいの平凡な人間である。
私の通う高校は特に偏差値的にも校風も特徴は無い、これまた平凡な所謂「普通の学校」である。
特に校則で変な縛りも無く、校外活動も独自に展開出来るので「民俗学・考古学研究会」なんて言う
あまり認識も無く一般的とはいえない活動をしていても、特に誰も周りも気にも止めていない。
でもそんな距離感を置いた雰囲気が私は好きだったりする。
まぁ、規定人数に足りていないので部費が出ないのが痛いと部長が言うぐらいか。
好きでやっている事だし、行動はもっぱら「一人で」だから気にはしていない
と言うのが今のところ。
来年は上級生になり、3名しか居ない自分の所属する部の方も自動的に私が「部長」になる。
その前に何か一つぐらいは「箔を付ける」ような研究発表しておいた方がいいと部長に
せかされて、何となしに「唄」について研究をしていた。
私と後輩一人の部に「箔」は必要なのかと疑問を抱きつつも、授業を終え研究会の部室に入り、
いつものスチール机の椅子に腰掛け、古い和歌集の研究書をぱらぱらと何気なくめくっていた。
日も陰り始め、あくびの一つでも出ようかと思ったそんな矢先、ふと一つの唄が目に留まった。
あの「夢の中」で聞いた「妙な話」と似たような「唄」が出てきたのだ。
私は咄嗟にページを開きなおし、そしてその「唄」の載ったページを食い入るように眺めた。
どうやら昔の童歌で「鬼」を唄ったものらしく、「邪を払う」唄なのだそうだ。
書き留めておいたメモを思い出し、手記帳に挟んでおいたメモを取り出し見直した。
部室に入ってきた先輩が後ろで私に声をかけていたらしいのだが、まったく気づいていなかった。
背中の下の方から何か妙な「不安」に似たような感情が体を侵食していくかのような、
うまく表現できないが、ソレが頭に達する頃には「周りの音」が消えていたのだ。
先輩はその時の私の様子に特段疑問も持たなかったらしく、
「熱心だねぇ、感心感心」と労った上、帰りに定番の「お好み焼き」を食べに行こうと誘ってくれた。
しかし、私の中で食欲よりも知識欲を抑えることが出来ないでいた。
いや、現実味が頭の中でぽろぽろと崩れ落ちて行くのを止めたかったのか。
「すいません、今日はチョッと用事があって…」とニッコリ笑ってその場を誤魔化し、
残念がる先輩を後ろ目に部室を後にした。
行動に移すのに、それほど時間はかからなかった。と言うより間を置きたくなかったのだ。
その「鬼の唄」が伝わると言う地方へ向かう切符を買ったのは、その日の下校途中であった。
(まよひが)
抜けるような青い空、少し肌寒いそよ風、大きなため息を一つ吐いた。
腰掛けていた岩から重い腰を上げ、太ももを軽く2,3度叩いて伸びをし、もう一度ため息をついた。
山へ入り上り始めでまだ10分と経ってないのに、この調子である。
近隣の町人の話や文献から聞き読み拾った昔話を頼りに、
赤や黄色の紅葉の葉が降り積もった山道を進んでいるのだが、
積もった紅葉は一歩一歩踏み進む度に足首までを丸々包み込むほど深く、中々思うように足が運ばない。
「やっぱり運動は苦手だわ…」
時間ばかりが、だらだらと過ぎてしまっている様に感じていた。
この時期は山の日が落ちるのが早い、昼を回ったばかりだが周りの木も陰を伸ばし始め、うら寂しい色に染まってきていた。
こんな所に人なんて来るのか、いや途中で道でも間違えたか。
夢の中の話が気になって、調べていたら気になる符号点がいくつも見つかり
探さずには居られなくなって動き始めた。動きつつも反面、馬鹿馬鹿しいことに囚われ続けている
自分に気づき腹が立ってきて、気のせいだった、あれはただの夢だったと
言い聞かせるに足りるだけの確固たる証拠が欲しかった。
そう、夢でなければ何なのだ。妙な「不安」だけが心に残り続ける。
「……あんな夢さえ見なければ」
疲れや焦りから出る自問自答を考えるのも面倒になってきた、と思い始めた丁度その時。
目の前の視界が開けた。
周りに陰になるものが少ないせいなのか、先ほどより周りの日が淡く明るく差し込んでいる。
そして広場の少し先に目をやると、またあの時のように「周りの音」が消えて行く錯覚に陥った。
凡そ、その風景に違和感しか与えていない様なバランスで、
大きく黒ずみ苔むしたゴツゴツとした一枚岩が其処に横たわっていた。
頭を軽く振り気を持ち直して、その岩に歩み寄った。
「あぁ、これがそうなんだ」
口から言葉を出したのは、これが違っていたらもう他を探す時間も無いから
これにしようと自分に言い聞かせるためだったのか、
それともこの「鬼」の顔のように見える「岩」が、また自分を現実味から引き離そうとしている
予感を帯びていたからであろうか。
どちらにせよ、私の中の「不安」が「恐れ」へ色変わりし始めていたのだ。
「……特に何も無いわね」
奇妙な気配と若干の異臭が気になり、夢はやはり夢だったと早々自分に言い聞かせ、
日暮れに入る前に下山しようと、きびすを返したが。
――当てはハズレていた。いや、むしろ気のせいではなかったから正しかったのか。
後に聞くとそれは「じんしゃうもん(人生門)」では無く、それは「きしゃうもん(鬼生門)」の
方だったのだそうだ。やはり途中で道を間違えてしまっていたらしい。
その鬼生門は、「鬼」が派生する場所らしく、たびたび鬼が現れては人を襲うのだそうだ。
そして、この少女はその「鬼」を退治してまわっているのだと屈託の無い笑顔で言いながら
机を挟んで座り、お茶を一杯もてなしてくれた。
そう、助けられたのだ。この笑顔でこちらをじっと見つめる可愛らしげな「角の生えた」少女に。
その少女は長い黒髪で、紅い目と紅葉柄の赤い和服姿。どこか遠い過去からその部分だけ抜いてとったのか、
自分がそこへタイムスリップでもしてきたのか。
私は今夢を見ているのか、それとも実は気づかぬ内に山道で足を滑らせて、滑落でもして死んでしまったのか。
何処からが夢で何処からが死後なのか全く判断もつかず、頭の中も全く整理できていないどころか機能していない。
只々、目の前に現れ飛び掛ってきた「魚の化け物?」の間を割って入り、
追い払ってくれたこの少女に言われるままに付いてきて、家に上がりお茶までご馳走になっているのだ。
これが夢でなければ何だというのだろうか。
夢ならばと半ば如何にでもなれと思い、今までの経緯とその足取りをこの少女に話してみた。
「たぶん、姫様のことかしら」
意外と言うのか、夢の続きなら予想通りというのか、少女からすんなりと答えが返ってきて
一時、私の思考が完全に止まってしまった。
続けて少女は言う。
「力添えについては私にも解らないけれど、お友達になってくれるのなら、とっても嬉しいわ」
少し照れ頬を赤らめながらも少女はニッコリと微笑んだ。
私もその笑顔につられて「あ、あはは、是非是非」と二つ返事で答えてしまった。
もちろん、これで夢から目覚めるだろうかと安易に思ってではあるが、でも何故か今は覚めてほしくも無いような、
そんなホンワカした良い雰囲気になっていたように思う。
ある程度時間は過ぎていただろうか、思考が回っておらず、取り留めの無い話ばかりではあったが
一通り話をした気がしたので、そろそろ戻りますと伝えると「では外までお送りいたしますね」と
少女が切り出したてくれたので、残っていたお茶を一気に飲み干し玄関口まで出た。
そろそろ夢も終わりかなと思っていたところに、今度は別の「角の生えた」少女がやってきた。
どうもこの二人は見知った仲であるようだと、やり取りで見て取れた。
こちらの少女も長い黒髪では有ったが、後ろで結わえている所謂ポニーテールである。
「じゃあ、よろしくお願いしますね、『地』の鬼子さん」
そう紅葉柄の少女が言うと、もうひとりの「角の生えた」白い和服の少女がそれに答える。
「ええ任せて、『雷』の鬼子さん。でも最近多いわねぇ外の人」
そう言って振り返り、白い和服の「鬼子」さんは私のほうを、その深く紅い色の目で興味深げに見ている。
「では、またいらしてくださいね」
そう言う紅い和服の鬼子さんへ私は「うん」と軽く相槌をうった。
「では、いきましょうか」
そう言って白い着物の鬼子さんは私の手をとった、少し冷たいが、やわい手の感触がリアルに伝わる。
その瞬間、奥の部屋の襖が勢いよく開き、ピンク色の和服を着た子供がこちらを指差した。
「ああっ、お客さんだ!ずるい!こにも……」
その子供は何か言いかけていたようだったのだが、私は先ほどまで家の玄関口に居たはずなのに
目の前の風景が一瞬にして変わった。
拍子抜けした顔をしていたに違いない。口をあけて突っ立っている私に白い和服の鬼子さんは言った。
「人生門まで飛んだの」
言っている意味が解らなかったが、夢の中だし場面転換かと自分自身で自己完結するようにした。
落ち着いて見てみると、その風景には見覚えがあった。
一休みするのに腰をかけたあの「岩」の前だ。
「私、ここに腰をかけて休んでいたの、そして少し進んだ先に大きい岩があって……」
慌ててそう言いかけると、「それで迷い込んじゃったのね!」と白い着物の鬼子とは別の声が聞こえた。
よくよく見ると先ほどまでは気づかなかったが、白い着物の鬼子さんの肩辺りに「何か」が乗って居る。
それは、小さいピンク色の服を着た「小人」だった。
目を見開いたまま「小人」を黙って見ている私に白い和服の鬼子さんは声をかけた。
「この子は私が預かっている『こひのもとちゃん』って名前なの」
そう言うと、肩口に居る「こひのもとちゃん」は「宜しくねっ」と小さい手をパタパタと振って見せた。
「ここはね、人が派生する特異点『人生門』ここから外の世界に出入りしているの」
小さいけれどはっきり聞こえる通った声で「こひのもとちゃん」は説明してくれた。
なるほどこれが「人生門」だったのかと、私はマジマジとその「岩」を見直していた。
「では、帰り道には気を付けて……」
そう聞こえて振り返ると、もう其処には誰も居なかった。
(あかつき)
一時目を閉じて、私は「夢の落としどころ」を考えていた。
「……いつ覚めるんだこの夢」
そしてまだ日が落ちきっていないことに気づき、時計を見ると、山に入ってからまだ1時間と経っていない事が解った。
「あれ? もう覚めてた……のかな?」
ふと「人生門」をみると、さっきまで有ったはずの「岩」が其処には無いのである。
一瞬方向感覚がおかしくなったのかと思い、あたり一面を二度三度を見渡すが、やはり「人生門」が無い。
いよいよをもって何処からが夢だったのか、まだ夢を見ているのか解らなくなっていた。
「でも、さっき飲んだお茶の味がまだ舌に残っている……」
また先ほど行った「鬼生門」まで戻るかとも思ったが、時間も無ければ勇気も無い。
それ以前に本当に行ったのかすら怪しいと思い始めていた。
とりあえずまた出直してみよう。
そう決着付けて、伸びる木の影に少し怯えながらも足早に山を下った。
後日、部活動で私が体験した事を覚えている限り、部長と後輩に話をしてみたところ、
なんとも予想通りな反応が返ってきた。
「うーん、お酒は20歳からだぞ、暁ぁ」
「吹いたお茶返してください、センパイ!」
確かに、家について自分の部屋に戻ってもまだ夢の続きの中に居るんじゃないかと
思っていたぐらいの体験だったかのだら、いきなりこんな話を持ちかけても、
この反応は仕方ないと持っているが、何とも釈然としない。
今度一緒に行きましょうよと誘ってみたが、これも文系部活の因果なのか、二人とも運動嫌いで山登りなんて
もってのほかと即答で断られてしまった。
これで終わったのでは「私の作ったおとぎ話」じゃないかと言うと。
「その通り!」と二人同時に突っ込まれた。
この時私は、この一連の体験を手記にしようと本気で決意したのであった。
もちろん「箔」がどうのこうのでは無く、「鬼」の真実を見極めるために。
<結>
7レス使用失礼しました。宜しくお願いいたします。
うわ、UPして気づいた
>>188 仕方ないと持っているが>仕方ないと思っているが
です。スイマセン
>>182-189 面白かったです。表現したいことも何となく読み取れた…と思います
新手の初心者詐欺ですか? 起承転結もできているし
それと、タイトルをつけてあげた方がいいと思います、ずっと後でもOKですが
いくつか、自分ならこう書くだろうという点についてまとめます
・繰り返し見る夢を分割して、日常描写と交互に記述
読み手に、主人公の疑似体験をしてもらう目的で、構成します
・私は〜などの人物紹介は、一人称のみの文章だと有効だと思います
例えば、こんな感じではどうでしょう? (よくあるパターンですが)
代わり映えのしない校舎が、何の特徴もない学校だと言ってるみたいだ
→主人公の感想が紹介と説明を兼ねる感じで記述
登校シーンなら、"たまたま"色々あるかもしれませんね
「よー、○○」と、"偶然"先輩に声をかけられて、苗字を言ってくれたり
教室へ行くと、
「狙わなくても平均点を取れる○○」と、"都合よく"悪友が名前も言ってくれたり
このように、わざとらし…ではなく、自然に人物紹介ができると思います
・カタカナ表記
ピンク色とか、いくつか使われていましたが、文章の雰囲気が純和風なので、
変えたほうがいいと思います
台詞で使うのはOKですが、地の文では桃色、薄桃色がいいかなと思います
"ホンワカした良い雰囲気"は気になりました
やわらかい、ヤワラカイ、どっちかと言うと平仮名の方が優しい印象だと思います
心地よい雰囲気にいつまでも浸っていたい、とか。「心」の字を使います
細かい記述については、このまま変更しないで半年後に読み返して、
「うわあぁ」と頭を抱える楽しみを奪いたくありませんw
次の作品を楽しみにしています
以上、何か少しでも参考になれば…
日本鬼子の家の縁側に腰掛け、ぼんやりと、しかし一見すると不機嫌そうな表情で午後の陽を浴びていた少年、
日本狗の耳に、幼い女児の声が届いた。
「あ、わんこー!」
家の奥から出てきた、背中に巨大な刀を背負ったその女児、小日本は、日本狗の隣にぺたんと座り込むと、
手に持っていた紙の束を差し出した。
「探してたんだよ。はい、これ読んで!」
受け取ったそれは、原稿用紙だった。こんな物、家のどこにあったのだろうと思いながら、
黒い革製の首輪を付けた少年は表紙のタイトルを読み上げた。
「『わんこのだいぼうけん』……?」
「SSって呼ぶの! 読んでみて! わんこが主人公なんだよ!」
それは予想がつくが、と思いながら小日本の顔を見返す。
期待に満ちた無垢な眼差しに真正面から貫かれ、彼女の遊びに付き合うしかないと少年は判断した。
「あ、ああ。判った」
気圧されながらも、彼は二枚目に目を通した。
最初のあらすじには、自分と同じ名前の好青年が、妖怪に捕らわれ全国各地に幽閉されている
『小日本』という名前の八人姉妹の姫たちを救う物語と記されていた。
体裁としてはこの家の主、鬼子が好んで読む小説に近いらしい。
そして三枚目の本文に目を通した少年は瞬時に悟る。これはまともに読める代物ではないと。
年端もいかない少女が書いたのだからある意味当然なのだが、まず登場人物がどこにいるのか判らない。
誰が喋っているのかも曖昧。時折入る文章も日本語としての間違いが目立つ。
読むふりだけを続け、機械的に紙をめくり続けていた日本狗は、数分後に原稿用紙の束を小日本に返した。
「……どうだった?」
期待と不安の入り混じった表情を浮かべている子供相手に、まさか本当のことを言えるわけがない。
「いや、まあ……面白かった」
「本当!?」
少女は大きな目を一層大きく見開き立ち上がると、日本狗に弾むような声で言った。
「じゃあ急いで続き書いてくるから、楽しみにしててね!」
「あ、ああ」
最後まで勢いに流され続けてしまったが……
「まあ、大した問題にはならないだろ」
そんな自分の考えがいかに甘かったかを、日本狗は後日、嫌というほど思い知ることになる。
そして翌日。
「わんこー!」
昨日と全く同じ状況が訪れた。つまり日本狗は午後縁側で日向ぼっこをしており、小日本は原稿を片手に駆け寄ってくる図だ。
違いがあるとすれば、少女の持つ紙の厚みが増しているという点だけだ。
まさか、という思いを抱きながら日本狗は先手を打って尋ねる。
「もしかして、この前の続きか?」
「うん!」
答えた少女は、昨日より重い原稿を渡してくる。無言で受け取った日本狗は、これまた昨日より重みを感じる手で紙を繰る。
元々まともに読んではいないが、それでも昨日と話が繋がっている雰囲気ではないのが判った。登場人物が増えたせいか
台詞の発言者はますます判別しづらい。そして話の中身が頭に入ってこない。
最後の原稿用紙に目を通すふりをして元に戻した頃には、かなりの疲労を感じていた。
「どう!?」
小日本の感想をねだる声に、頭痛すらする思いだった。こんなことを口にしていいのだろうか、という疑問を持ったまま、少年は口を開く。
「うん……面白いん……じゃないかな?」
「ありがとう! どんどん続き書くから待ってて!」
少年はひどい胸のむかつきを覚えていた。そしてその正体が良心の呵責だということに気付くまで、さして時間は要さなかった。
壁時計が夜の十時半を示す頃。炬燵に入っていた日本狗は、机を挟んで正面の座椅子に掛けている紅葉柄の着物を着た美女、日本鬼子に尋ねた。
「なあ鬼子。小日本はまだ書いてるのか? あの、SSってやつ」
「ええ。さっき部屋に布団敷きに行ったら、机にかじりついていたわよ。もうこんな時間なのに」
松本清張の二夜連続ドラマを観ながら同時にその原作小説を読むという荒業をやっている、額から角の生えた美女は、抑揚のない声で言った。
それを聞いた少年の気分はまた沈む。
「どうせすぐ飽きるでしょうけど、あんまりのめり込みすぎるのも考え物ね。もう寒いし、風邪引かなきゃいいけど」
「鬼子……お前読んだか? あいつの書いた物」
「読んでない。あんたの為に書いてるらしいから、私が読ませてと頼んでも見せてくれそうになかったし」
分厚い本の紙面とブラウン管を交互に見ながら、またしても鬼子は、さらりと聞きたくない事実を口にした。
「俺には文章の良し悪しなんて全く判らねえけど、あれはちょっと、つまらないんじゃないかと思うんだが」
「あんたがそう思うんならそうなんでしょうよ」
「いや、でも普段から本読んでるお前の方が正確な評価ができるんじゃないか?」
机の中央にある菓子入れの皿からせんべいを取った鬼子は、それを齧りながら答える。
「画一的な評価なんて下せないわ。音楽や映画なんかと同じで、小説だって個人の好みがある。私は楽しんでるけど、
あんたがこの本読んだって面白いと思わないかもしれない」
この本、と言って鬼子は清張の本を軽く持ち上げた。
「でも、面白い小説なんて滅多にないわね。図書館に置いてあるベストセラーに全て目を通したって、
本当に好きになれる作品なんてそんなにないんだから」
「マジかよ……」
「自分の好みをきちんと把握していけば、好きな作家とか作風で当たりをつけることもできるけどね。
人気作を手当たり次第に読むよりは、そっちの方が効率は良い」
「ならあいつの書いた物は、俺の好みに合ってなかったんだな……」
そこまで言って、日本狗は机の上に突っ伏した。自分がこうしている間にも、小日本は筆を握って拙い字を書いているはずだ。
「まあ率直な感想を言ってあげることね。本当に好きなら何を言われても書くことを続けるんでしょうし、
そうすれば自分の問題点に気付いて改善していくかも」
「率直な感想ね……簡単に言ってくれるよ。他人事だと思って」
「だって他人事だもの。あ、おせんべいがページの付け根に入っちゃった」
本を逆さにして振っている鬼子に恨めしげな視線を送り、日本狗は自室へと辞した。
そのまた翌日も全く同じ状況は再び訪れたが、決定的に違うことが起きた。
「ばかああぁぁぁ!」
小日本の絶叫と共に、原稿用紙の束が日本狗の顔面に叩きつけられる。眼前で舞う何枚もの原稿用紙の向こうで、
少女が家の奥へと走って行くのが見えた。
「まあ、当然の結果だな……」
鬼子の助言をそのまま採用したのは、失敗だったのかもしれない。間を置かず、
小日本の掛け込んだ部屋から啜り泣きの声が聞こえてきた。
散らばった原稿を全て拾い、揃えて自分の横に置く。罪悪感を意識的に頭の中から閉め出しながら庭先を眺めていると、
雑木林から小さな鶏と足の生えた鰯が躍り出てきた。
鶏の妖怪ヒワイドリと。鰯の妖怪ヤイカガシは、縁側に座っている少年の足元まで来て、非難の声を上げる。
「一部始終見てたでゲスよ」
「あんな小さい女の子を泣かせるなんて最低な――ああぁぁぁぁ……」
「全く、男の風上にも置けないでゲス。お前なんてさっさと――ぬぐおおぉぉ……」
「頭潰されたくなかったら、さっさと帰れ」
「はいぃぃぃぃ」
「わかりましたああぁぁ」
二体の頭部を踏みつけていた足を離すと、「覚えていろ」「借りは必ず返す」などと騒ぎながら一目散に山へ帰って行った。
「……後味悪いな」
冷たい風が通り過ぎ、隣に揃えて置いていた原稿用紙をまた散らしていった。
微かに甘みを帯びた、桜の香りが鼻腔を衝いた。
布団に入って眠りについていた少年はその匂いで意識を取り戻し、目を開ける。
毎日寝起きしている、何の変哲もない和室。静寂の中、居間の壁時計の秒針が動く硬質な音。暗闇と天井。その木目。
暗闇の中に、見知らぬ女が立っていた。
十五歳よりは下に見える。白い薄手の衣。丈の短い裾から伸びた細い足。闇の中にあって、
尚仄白く光を放っているような錯覚すら覚える、白くきめ細かい肌。
大きな瞳は憂いを帯び、その人形のように美しい面には、少女のみが持つ無垢さと、
成熟した女のみが持つ色香が混在している。しかし額の角だけは禍々しさを感じさせた。
そして小さな手には、抜き身の長大な刀が握られている。
「――あの物語の結末で」
女の向こうにある天井の木目が歪んだ気がした。咄嗟に日本狗は身体を横に転がす。
女の振るった白刃は、布団はおろか、その下の畳までも両断している。
中腰になりながら、少年は女と対峙した。熱を持った右頬に手を当てる。
粘性を帯びた液体の感触が手にこびりついた。
薄桃色の形の良い唇が、感情のない声で言葉を紡ぐ。
「あなたと私は、結ばれていたはずなの」
「小日本、なのか……?」
頬の傷から流れた濃厚な血の匂いを感じ取りながら、壁際まで後退した少年は問う。
「そうよ。判らなかった?」
嘘だ。見た目がどうこうではない。存在の本質が違う。
これが、心の鬼という奴か。
部屋の唯一の出入り口を塞ぐようにして立ったその少女は、口角だけを持ち上げて笑む。
「私、綺麗になったと思うの」
女がその場で刀を一閃した。
直後、不可解な現象が起きる。明らかに攻撃が届く間合いではないのに、
少年の肩はざっくりと裂けた。一層血の匂いが強くなる。
「あなたの眼には、どう映ってる?」
再び女の刃が閃き、同時に日本狗の足に深い刀傷がつけられた。
「ふふ」
野に咲く可憐な花のような微笑。しかし女の刃が振るわれる度に、平凡な暗い和室は鮮血に染まっていった。
女の動作に合わせて日本狗は何度か跳躍を試みたが、回避は成功しない。脇腹、額、肩、腿、脛。
程なく怪我をしてない部位を探す方が難しいような状態になった。
ここに至って、まだ日本狗は状況を把握できていなかった。小日本が鬼になった。なぜ?
俺がひどいことを言ったから? そこまでのことだったのか?
生き残るためには、殺すしかないのか?
痛みと出血、そして女の発するひどく甘い桜の香りで、思考が鈍磨していく。
血を吸った首輪、鬼子に貰ったその品の留め金に手を掛けた少年は、脱力した。
――もういい。
要するに言われた方はそこまで傷ついていたということだろう。どうせこの世に未練があるわけでもない。
あの女に拾われていなければ、どこかで野垂れ死んでいたはずの命だ。
「さよなら」
慈愛と憐憫の響きを伴った声だった。女の刀が持ち上がる。
しかし次の瞬間、その胸には白い刃が生えていた。
「なっ――」
木製の戸が弾けるような勢いで倒れ、悲鳴を上げかけた小日本がその下敷きになった。
扉のあったその向こうにいたのは、前蹴りを入れた姿勢で硬直している日本鬼子だ。
少年と視線がぶつかるなり、殺意に近い程の怒りを瞳に浮かべた鬼子は、地の底を這うような声で言った。
「……五月蠅い。今何時だと思ってんのよ」
倒れた戸には、鬼子の愛用している薙刀が突き立っていた。扉越しに小日本の貫いたのか。
「く、はっ……」
「あらこにちゃん。ちょっと見ない間に随分女らしくなったじゃない」
戸の下で苦悶の声を上げながらもがく小日本に気付き、鬼子は屈み込んだ。
「でも犬っころ苛めに夢中になるなんて感心しないわね。それに、こんな出入り口に突っ立ってると危ないわよ?」
「ねえ、さん……」
不快げに眉を顰めた鬼子は、小日本の背に立っていた薙刀を引き抜き、
その首を一瞬で刎ねた。小日本に似た女の姿が、一瞬で黒い靄の塊になって霧散していく。
「貴方に姉さん呼ばわりされるなんて、不愉快」
「鬼子……今のは」
「小日本から現出した鬼でしょうねえ。にしても……」
吊り上がった目尻で部屋を一瞥した鬼子は、最後に日本狗を見た。
「ひどい有様。明日ちゃんと部屋を掃除しなさいよ」
「そっちかよ……鬼かてめえは……」
「鬼よ。一目で判るようなこと訊かないで」
冷ややかに突っ込まれた。
「全く……こんな時間に起こされる身にもなりなさいよ。こにだって部屋で寝てるのに。
番犬やるつもりがあるなら、あの程度の雑魚は自力で倒して頂戴」
「あの姿で出てこられたら……躊躇うだろ、普通……」
「あら、ああいう子が好みだったの? でも妹があんな感じに育っても、あんたとの交際は認めないからね」
「茶化してんじゃ……ねえ……」
闇に閉ざされかけていた視界が、突然反転して真っ白になった。
投げやりな小日本の声で、日本狗は目を覚ました。真新しい布団の上で身体を起こして、伸びをする。
傷にはきちんと包帯が巻かれているし、部屋の血痕も綺麗に落とされていた。
「御飯持って来たわよ」
傷の入った戸が開き、粥を乗せた盆を持った鬼子が入室してきた。ろくに物音を立てていないのに、
自分が起きた気配を瞬時に察知したらしい。日本狗は時々、この女が恐ろしくなる。
「結構寝てたわね。もう昼過ぎよ」
「あれだけ派手にやられたんだから、大目に見ろよ。お前がこの部屋を片付けたのか」
「何で私がそんなことしなきゃいけないのよ。都合良く朝からヒワイドリとヤイカガシがうろついてたから、
とっ捕まえて掃除してもらったのよ」
あいつらが何かの役に立つこともあるのか、と日本狗は驚きを禁じ得なかった。
「小日本はどうしてる」
「あんたをやっつけるって、朝から庭で剣の素振りしてるわよ。元気が有り余ってるみたいだから、
後ろから刺されないように注意するすることね」
「……そうか」
そのまま後ろに倒れ込み、少年は布団の上で横になった。
「もう少し寝るから、まだ飯はいいや」
「そう。食べたくなったら呼んで」
あっさりと踵を返して部屋を出ていく鬼子を見送り、日本狗は瞼を閉じた。そして昨夜の出来事を回想する。
客観的に見て、綺麗な女だったと思う。
あいつがああいう女になる頃、俺は一体、どんな奴になってるんだろう。
面から聞こえる小日本の声を聞きながらそんなことを考えていた少年は、再び眠りに落ちていった。
おわりってつけるの忘れた
乙。なんか、日常と非日常の境界が曖昧な書き方に少しゾクリときました。こういうのを見ると
お馬鹿話以外のキャラも揃い始めたなって思ったり。
#まとめwikiに掲載推薦
>>182-189 作者さんが、これ以上の推敲しない&転載許可があることが前提ですが、まとめwikiに掲載を推薦します。
面白いので是非と思いますが、あと2名の推薦者が集まるかな?
ってか、SSの推薦って初めてだと思いますが、こんな感じで良いのでしょうかね?
ID:OgpVM0vyさん、うまいなぁ。いろんな意味でw
文体も読みやすく文章も内容も面白いし日本鬼子の本筋である心の鬼退治もキレイに表現できてるので
私も推薦したいです。
「日本狗」の表記問題と皮肉効きすぎくらい?
何かあるとすれば。
寝そべると、くしゃりと鮮やかな葉っぱの絨毯が音を奏でた。
紅葉山に広がっていた朝霧の露だろうか、葉っぱはひんやりと冷たく、火照った全身の熱をそっと吸いとってくれる。
空は青い。雲一つなく青い。夏のように群青色をしているわけでも、冬のように白んでしまっているわけでもない。青を眺めて、僕は身体を宙に浮かすような気分に浸る。
とさり、と葉の潰れる音がする。
僕の隣で鬼子さんが横になって空を眺めていた。ん、と身体を伸ばしている姿がなんともいえない艶めかしさを薫らせる。
「軽い運動のあとの伸びは格別ね」
気持ちよさそうにため息を漏らしているけれども、僕は違った。確かに気持ちはいいけどpも、とてもじゃないけど格別だなんて言える気分じゃない。
「二日間走り続けてあとの軽い運動、ね……」
運動不足の僕にとっては……いや、例えマラソンのランナーだとしてもさすがに四十時間耐久ランはキツイのではなかろうか?
もう息も絶え絶えで、吸っても吸っても酸素が結びついてくれない。
「ふひぁ〜」
鬼子さんに擦りつくように小日本が寝転がった。こちらは休む暇なく睡魔と戦っている。
おかしい。わけが分からない。
人外の存在にわけも何もないのだろうけど、とっくに合理化されてしまっている僕のような下級の神にとっては、人外な人体構造に困惑するばかりだった。
「はぁ……はぁ……」
と、僕と同じように息切れして肺をひゅーひゅーと鳴らす存在がいた。
「か、観念したか、姉ちゃんよぉ……」
ヒワイドリ君だった。
そう、こいつのせいで……こいつらのせいで、僕らは延々と走り続けられたのだ。
逃げに逃げ続けた結果ヒワイドリ一族を少しずつ脱落させることが出来たものの、ヒワイドリ君だけは僕らの逃避行に――鬼子さんのお尻にしっかりとくっついてきたのであった。
「……逃げようと思えばあと二日は逃げられますけどね」
「マジかよ……」
マジかよは僕のセリフだ。これ以上走ったら天ツ神の住まう世界へ引っ越せざるをえなくなる。
「でも、あなたはヤイカガシさんとも仲が良さそうですし、もし宜しければご一緒に旅をしませんか?」
その一声に、ヒワイドリ君に圧し掛かる疲労の荷は全て吹き飛んでしまったようだ。
「鬼子ルート来たぜええ!!」
何を言っているんだ、この卑猥な鳥は。
「宜しくね! 鳥さん!」
小日本がひょこりと起き上がり、結んだ髪を揺らした。
「おう、早速だが乳の話を――」
白鳥は、即座にその小さな胸を見つめる。
「――十年後、しようじゃないか」
「じゅーねんご?」
「ああいや、なんでもねえ、なんでもねえんだ」
「むぅ、きかせてくれないといじわるするよ!」
ぱっと桜を散らして立ち上がった小さな女の子は、てこてことヒワイドリ君を追いかけはじめた。
幼い子に優しいのか、胸が小さな子にはそのような雑言は慎むのだろう。さすがはヒワイドリEX大神の分け御神だ。きっと、小日本とヒワイドリ君はいいコンビを組むことになるんだろうなと、一人心の中で呟いたのだった。
「鬼子さん、その、ヒワイドリ君と一緒に旅をしちゃっていいんですか?」
どうも無意識に敬語を使ってしまう。あんなに鬼を疎んでいたはずなのに。
とにかく、僕の友人は小日本に対しては害のない存在なのだろうけど、少なからず鬼子さんに対してはその卑しい気持ちを爆発させるだろう。
「大丈夫ですよ」
返事はあっけないものだった。
「もし身の危険を感じたら、萌え散らせてあげればいいのですし」
と、空の薙刀で僕を一突きし、あどけなさの残る笑顔を見せた。
……萌え散らせちゃかえって逆効果だってことは先の戦いで証明済みのような気がするけど、その指摘をする気はなかった。
「それに、ヒワイドリさんから単に逃げただけではないんですよ。寄りたいところがあったから、そのついでに逃げてきたって言ったほうが正しいのかもしれません」
「寄りたいところって言うのが、ここなんです……ここなのか?」
しばらくの間はいつも通りを意識して話そう。別に敬語を使っちゃいけないってことはない。だからこれはきっと僕のねちっこい、ハリボテの自尊を保つためなのだろう。
「うん。もう少し歩いたところだけど」
小日本がヒワイドリ君を捕らえた。暴れる鳥の首を掴み、ぶんぶんと振り回す。小さな子どもは何事にも本気で取り組む。その意味を何となく理解した。
「あ、思ったんだけど――」
ふと、疑問に思っていたことを口にする。
「小日本の恋の素を使えば、一瞬でここに着けたんじゃ」
瞬間移動の能力。あれさえあればどんなところにでも、文字通りひとっ飛びで行ける。ヒワイドリ群も撒くことが出来て、一石二鳥ではないか。
鬼子さんが少し難しそうな顔をした。神器の解説ほど難解なものはないとある神は語る。単純な神器でさえも、人間が全てを語るならば生涯をその神器に捧げなければならないほどなのだから。
「ヤイカガシ君、あのね、恋の素はどこでも瞬間移動出来るってわけじゃないんですよ。あれはこにぽんと縁を結んだ――つまり、友達になったものの所へ向かうものなんです。
確かに目的の場所にこにぽんが縁を結んだ方がいます。でも、あの、着地するときにその方の家を壊しかねませんから……」
ああ、と合点する。あんなものが屋根にでもぶつかったら、きっとその家は粉砕炎上してしまうだろう。この山が黒い炭の山になってしまう可能性も考慮しないといけない。
「ヤイカガシさんは、ヒワイドリさんと一緒に旅するのは嫌ですか?」
「そうじゃないけど……」
むしろ嬉しい。知り合いがいると言うのはとても落ち着く。でも、絶対鬼子さんに迷惑をかけてしまう。それだけは避けたいところだった。
小日本が振り回していたヒワイドリ君が宙を舞う。どうやら手を滑らせたようだった。
そんな微笑ましい光景を見ていると、どうも自分の考えが馬鹿馬鹿しく感じられるようになってきた。
「私は、どんな縁でも大切にしていきたいと、そう思っているんです」
どこかで聞いたことのある言葉だった。僕はただぼんやりとその話を頭の中でお手玉のようにくるくると回していた。
さらり、という音と共に、隣の少女は長い黒髪を揺らして起き上がる。
「さあ、行きましょう。もう少し歩かないと」
「あ、ねねさま待って!」
「おいおい、どこ行くんだよ!」
三つの声と、三つの足音が通り過ぎる。桜の女の子と白い鳥の神の戯れ事が終わると、木々の葉が擦れる音とその上のヤマドリの鳴き声と、遥か遠くの滝ツ瀬が奏でる律動が世界を支配した。
ああ、思い出した。小日本が言っていたんだ。せっかく会えたのに別れるのなんて嫌だ、と。あの子もまた、縁をとても大切にしているんだ。
神器を使う鬼と、神器を使う人間の子……いや、そもそも少女は人間なのであろうか?
「おいヤイカガシ! ふけこんでねえでとっとと来いや!」
鳥の友人の叱咤で我に返る。そうだ、そんなことはどうでもいい。
今は、みんなと一緒にいられる、それだけでいいじゃないか。
獣の遠吠えが聞こえた。物騒なアヤカシに食べられる前に、早く合流してしまおう。
山の頂に、貧相な茅葺き屋根の小屋が見える。地面は赤黄の葉が敷き詰められ、壁は湿気で黒ずんで所々穴が空いている。小屋の入口であろう引き戸は、もはや障子ない格子と言ったほうが適切だろう。
「くーたーん!」
坂を登り終えて聞こえた第一声は、小日本の愛らしい声だった。ぺたぺたとわらじを鳴らして駆ける。走りにくそうな長い袖からは、桜の花びらと鮮やかな葉っぱを散らしている。
両手両足を広げて宙を舞った。転んだかと思ったが、それは違った。
「くーたーん!」
その小さな身躯は、大きな懐に吸い込まれた。
「おお、大きくなったね、こにぽん」
その大きな耳、粉雪をまぶしたような白く長い髪、鋭い眼差しの先の温もり、季節外れの単衣はなだらかな髪と同様純白で、そしてその裾からは何故か悠々しい尾がはみ出ている。
「くうたん、こにぽん、おとなになったかな?」
「ああ、凄く美人さんだよ」
「えへへー、よしよしー」
桜の姫が雪の賢犬の頭を撫でる。この耳と生えた男は気持ちよさそうに白い尾を振り、その部分だけ土の面が露わになる。
「……で、誰だこのイケメン野郎は」
僕の疑問を、ヒワイドリ君が代替してくれた。
「あの方は……お狗様ですよ」
何やら口籠った様子の鬼子さんが答える。
「狗? 種族を聞いてるワケじゃあねえんだよお嬢ちゃん」
相変わらず品のない調子で聞き返すけれども、朱色の少女はそれ以上は何も話さず、誰とも顔を合わそうとはしなかった。
「おや、新しい仲間かい?」
一通り撫でられた狗の擬人が僕らに気が付いたようだ。
「あたらしいお友だちだよ! えっとね、かえるさん!」
「いや、ヤイカガシです……」
「それでね、あっちが鳥さん!」
「ヒワイドリだ!」
小日本は僕らのことを単なる声を出す生き物だと認識しているらしい。一応神なんだけど。
「はは、なかなか面白そうな輩じゃないか」
狗は目を細め、けらけらと笑った。意外と上品な笑いだからこそ、逆に腹が立つ。
「で、アンタの名前はなんなんだよ、犬畜生」
「おいおい、初対面に畜生はないんじゃないか?」
ヒワイドリ君の暴言を柔軟に交わしている言動に思わず歯軋りをする。
「まあ、名前なんてとりわけて考えたことがないからなあ。いいと思うよ、犬畜生で。あながち間違ってないだろうしね」
「なっ……」
ヒワイドリ君の攻撃が一旦止んだ。
「人間からは日本狗って呼ばれてるし、こにぽんからはくうたんって呼ばれていて、鬼子からはお狗様と呼ばれてる。狗っぽく呼んでくれると分かりやすいかな」
一通り話し終えて、まあ宜しく頼むよ、なんて軽い口調の括り言葉を添えた。
僕は魚の神様で、ヒワイドリ君は鳥の神様だ。
でも、これだけは言える。ボロ小屋に招かんとする後姿を見て、本能的に確信した。
こいつとは犬猿の仲、決して相容れない存在なのである、と。
松の柱、竹で編んだすのこ、スゲで作られた敷物。外見もみすぼらしいものだったけど、内は更に貧しく、粗末な家の代名詞と呼べるもので建てられていることがよく分かる。
そして、そんなオンボロで薄暗い小屋に、所狭しと放置されている骨董品の数々――平安時代の鎧、江戸時代の日本人形、梓弓、雉の剥製……。
こうありとあらゆるものが、ありとあらゆるものだけで、カビ臭い小屋は満杯になっていた。白狗に案内されたのはいいけど、とても三人と二匹が入れる空間じゃない。
見せたいものがあるんだ、と言ってその狗はこの骨董の森を掻き分け潜入していく。分け入っても分け入っても青い山、という俳句がなんと美しいことだろうか。
「しかし、こいつぁただもんじゃねえ多さだな。数集めりゃいいってもんじゃなかろうに」
恐らくこの鳥は乳の話をしているんだろう。品乳を嗜むヒワイドリ君は数多の乳より唯一無二の乳なりと常日頃口癖のように謳っている。
「ヒワイドリ、残念ながらこの品々はどれも一級品のものなんだよ」
甲冑が喋った、と思ったら甲冑の更に奥にある十二単の向こう側からだった。
「ほら、そこの兜はあの将門の片身で分け御魂が宿っている。それを関東にでも持っていけばとんでもないことになるだろうね」
心なしか、目の前の星兜のところで青白い仄明かりが揺らめいているような気がする。
「それからそっちの人形。奈良時代の詠み人知らずの魂だと思うけど、夜になると時々吟じるんだよ、長歌を」
よく見ると、無機質な眼差しがじっと僕の瞳を捕らえて離そうとしない。
「あっちの梓弓には――」
「ああ、わかった、わかったよ!」
急に隣で大声を出すから、思わず体液が全身から溢れ出てきてしまった。ヒワイドリ君が羽根を逆立て、鳥肌を露わにしてしまっている。
ただ、人間にとっては謂れのある壺、呪い殺しの雛人形だとか囁かれる品々なのだろうが、僕らにとってはやや違う解釈を抱く。
本当に呪われているものは怖いけど、つまりこれらの品々は全て御神体なのだということだ。
この骨董の中には、神と行動を共にし、手助けをしてくれる「霊具」も含まれているのかもしれない。神器を扱えない僕らにとっては喉から手が出るほど手にしたいものでもある。
ふと違和感を感じ、隣に目をやる。幽霊に感知したとかそういう話ではない。僕は幽霊を見ることが出来ない。ただ鬼子さんの気配が感じられなかったからだ。
鬼子さんは確かにいる。隣で清楚に座している。でもまるでその魂が御神体に憑依してしまったかのように、ぼんやりと光の漏れる壁を見つめていた。
「あの、鬼子さん?」
反応はない。その顔は何故かほっこりと微笑みを浮かべていて、この薄暗さも乗じて自ずと恐れを抱いてしまう。
「鬼子さん?」
「え、あ、はい?」
はっと魂が納まった鬼子さんがようやく返事をしてくれた。鬼子さんが呆然とするなんて珍しい。
「見つかった見つかった」
骨董林から顔を出した白衣の狗の顔には、蜘蛛の巣のように邪気が溜まっていた。一体この奥に何があると言うのだろう。
彼が手にしているのは、四尺はあるであろう刃渡りと、三寸はあるであろう幅を持つ巨大な太刀であった。その全長は小日本と同じか、それ以上はある。
深みのある黒漆の鞘と藤色の下緒がいかに時を積み重ねてきたものなのだろうか。
常世と思われる夢から目覚めたのか、ふとその鞘に魂が宿り、やおら僕らを見つめていた。
とりあえず今日はここまで投下。
日本狗を出しましたが、まだ完全には描ききれていません。
一応、イメージとしてはイケメン系の狗さんです。
ショタ派が多いようですが、あえてこちらを選択させて頂きました。
大丈夫かな……?
>>182-188 ううううんっ! 美味しい! すごく美味です!
読んでいて気持ちがいい……。
誤字というか重複表現が一つ。
>>186二段落目
「……山道で足を滑らせて、滑落でもして……」
「滑らせて」と「滑落」の意味が被っていますので、どちらか一つを消した方がいいかなと。
あとは
>>191氏も仰っておりましたが、カタカナ表記は控えたほうがいいかもしれませんね。
特に鬼子やこにぽんの描写内の外来語はせっかくの仄かな雰囲気を壊す可能性があるかもしれませんね。
(こにぽんの仕草に対する擬態語「パタパタ」はいいと思います。無邪気な感じが出ていて)
そんなこんなで、
#まとめwikiに掲載推薦
>>182-189 転載OKで尚且つ推敲を終えたものであるならば、と言うのが前提ですが。
>>192-198 あはれ、らふらふたる律動かな。……技巧的で音楽的で、新古今調の語り口ですね。
その律動がずっと続いてくれればなお良かったですね。最初の八行のリズムが凄く心をふるわせました。
……と、思ったら
>>195でその理由が分かったような気がします。「うあ、やられた!」と思わず呟いてしまいましたよ。上手いなあ。
(それにSSらしく上手い具合に短くまとまっているという……。脱帽です)
#まとめwikiに掲載推薦
>>192-198
208 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/30(火) 10:08:24 ID:KFJ6DI0G
ID:OgpVM0vyさん
ほぼ
>>201と同じなので省くが、面白かった 因みに私は問題なしと判断してますが
読んでる最中、思わずにやけましたw では自分も貴方の作品を推薦で
>>192-198の作品について
wiki掲載の推薦票は既に集まってるけどこの後どうしたらいいんだろうね
前例がないから分からないや
本人にやってもらうべきなのか
それとも推薦したんだからこっちでやった方がいいのかな
可能なら運営にやってもらうのが一番公式的な雰囲気が出てかっこいい気もするけど
避難所あたりに掲載申請してみた方がいいのかね? まあ作者の許可が最優先だけど
211 :
創る名無しに見る名無し:2010/11/30(火) 15:49:41 ID:KFJ6DI0G
今はちょっとタイミングが悪いな、避難所が混乱中
可能なら運営にして貰うのが一番かな、やはり
推薦×3確認(今ここ)→作者許可→誰かが避難所にて掲載申請、まではやって良さそうだが
>>211 >推薦×3確認(今ここ)→作者許可→誰かが避難所にて掲載申請、まではやって良さそうだが
作者許可の扱いがどうでしょうかね?例えばもう少し積極的に掲載する方向で
推薦×3確認(今ここ)→1〜2日待つ→誰かが避難所にて掲載申請→まとめwikiに掲載→作者に拒否されたら削除
実際のところ掲載を拒否されることは少ないと思います。
以前に本スレにアップされていた鬼子編集長?のSSとか面白かったので拾い集めてみたい。
絵はうpろだに残りますが、SSは消えてしまうのが惜しいw
ですよねー。>消えるのが惜しい
だからSSスレは別の方が良いと思ってるんですよ。
隔離されてる!って自虐に走ってる人もいたけど。
日本鬼子ファンサイト 創作支援wiki
ttp://www43.atwiki.jp/onikos-saku/ に、どうしたら読みやすい書庫(?)を作れるか考えませんか?
まず、シリーズごと、作者別にはなっていた方が良いと思うけど。
>>213 >だからSSスレは別の方が良いと思ってるんですよ。
>隔離されてる!って自虐に走ってる人もいたけど。
例えば妥協案なのですが、こんなのは如何でしょうか?
1.まとめwiki →
>>211 or
>>212の何れかを採用して、支持が多い作品をアップ。
2.創作支援wiki → 完結した作品は基本的にアップ(但し
>>213の読みやすい書庫を要検討)
こちらにも載せておきます、鬼子を思ふ手習歌。
大体の句が字余りなのは仕様です&過不足なく文字が揃っているのか心配ですが……。
ちよふせてん いますゑをみたり ほむけそら ゐなれぬわろはへ
ねゆるあさめ えうつくしきかや ひのもとおにこ
千代臥せてん 今末を見たり 穂向け空 居慣れぬ我ろ延へ
寝ゆる朝女 え美しきかや 日本鬼子
千年の間身を隠していたとしたら、今行く末を見ている。それはまるで一方に倒れる穂の空のように、まだ居慣れない「俺」も心を寄せなさい。
眠っている朝焼けの女性。ああ、美しいよ、日本鬼子。
そんな感じの歌。上代の文法と東の方言が使われてしまっています。作るの難しい……。
>>213 掲載数が多くなるまでは、タイトル、作者別表示で。
ソートできれば、尚良いと思います。
携帯で読みたい人って、どのくらいなのかな?
詳しくないので、その辺りの対応って必要になるか、さっぱり
つづき
鬼子さんの窮地を悟ったとき、ヒワイドリ(翼)は彼の意志とはほとんど無関係に羽ばたいていた。
(ヤバいっ……!)
「急げ、ヒワイ!」
ヤイカガシ(美形)の体をグライダーのように運んで滑空、急接近するヒワイドリ(翼)。
だが、距離がありすぎる。視界の中心に捉えていた日本狗の姿は、まもなくこつ然と消えた。
またしても神業のごとき速さ、五階建てのビルを一瞬で駆け登る高速移動である、彼らが追いつけるはずもない――はずだった。
(うぉぉぉぉっ!?)
今までにない加速感にヒワイドリ(翼)は絶叫した。
白鳥のように優美な翼が空を打った瞬間、周りの空間がぐにゃりと引き伸ばされ、ヤイカガシ(美形)は極光に向かっているかのごとき色彩の渦の中を飛んでいたのだ。
長い長い色彩のチューブの先に、いままさに鬼子さんに向かって飛んでいる最中の日本狗の尻尾が見えた。
いままで肉眼では決して捉える事の出来なかったはずのふわふわの背中だ。
(な、な、な、なんだこの体、すごい力がみなぎってくるぅ!?)
「臆するな、ヒワイ!」
ヒワイドリには、ヤイカガシの言葉が自分の放ったもののように脳蓋に響いた。
「ヒワイ、感じるか、砂を数えるがごとき悠久の稚戯を! 星のごとき神々の戯れを!
これこそ陰陽道の究極、陰と陽の融合っ! 天かける鳥と地およぐ×××の合体!」
(先生、×××って一部伏せ字なのはなんでですか……うぉうっ!?)
日本狗と接触した瞬間、ヤイカガシの柊の剣と日本狗のハリセンが火花を散らした。
すぱしーんという芭蕉の句にさえ詠まれていそうな軽快な響きがして、両者は電光石火のように乖離する。
日本狗は後ろ向きに走るチョロQのように荒々しくビルに着地した。
ふわふわの毛が落ち武者のように逆立っている。
(ヤイカガシ、あのハリセンは?)
「《誅剣・罰光》と対を為す《駄剣・マサオ》だ」
(対を為すのか……)
「あの二本を同時に抜くのは……私も初めて見る」
(よくわかんねぇけど今なら簡単に避けられそうな気がするぜ!)
思わぬ一撃をもらったためか、大剣を前に突き出し、ハリセンを肩に担ぐ二刀流の構えをみせた日本狗は、お面を被っていてもひどく狼狽している様子がうかがえた。
「なんという凄まじい霊気、そしてその翼……ヤイカガシ、貴様はいったい……!?」
(あーあ、なんか形成逆転しちゃったみたいだぜ、ヤイカガシ先生。なんか言っちゃってよ)
「ふっ」
融合という名前にも関わらず、翼以外の肉体のほとんどがヤイカガシ(美形)に乗っ取られたヒワイドリは、さらりと不敵に笑った。
「ヒワイなるヤイカガシと呼んでくれ」
(ば、バカなーっ!!!)
外には聞こえないはずのヒワイドリの叫びと日本狗の叫びが偶然にもハモった。
地上の日本鬼子は、彼女を守るヤイカガシに熱い視線を送っていた。
「ヒワイなるヤイカガシ……それが本当のあなたなの?」
瓦礫の山でお面を探していた小日本はしばし手を休めて、ぽうっと見入っていた。
「ひ、ヒワイなるヤイカガシさまぁ……はわわ」
(ぐぅぅぉぉぉっ!×2 おいヤイカガシっ! なんか俺の存在が形容詞化されてるじゃねぇかっ! 大事なことを言い忘れてんじゃねぇっ! この翼は誰のもんだ!?)
「戦う前にひとつ、大切なことを言わなければならない」
日本狗は攻撃の手を休めて、ヤイカガシの口上に聞き耳をたてた。
「この翼は我が親友、ヒワイドリの……」
ヤイカガシは、そこで言葉をつぐんだ。ちらっと駅前の様子を見る。
女の子たちの視線が一身に集まっているのを感じながら、ヤイカガシは、ふと悲しい思いにふける憂いを帯びた目を空に向けた。
「ヒワイドリの……胸の谷間を覗くことだけに長けた軟弱な翼とは……格がちがう!」
(何かが友情に勝ったーっ!?)
日本狗の喉からぐるると唸り声が漏れ、正面に被っている天狗の面がニヤリと口の端をつり上げてカタカタと震えた。どうやら意志を持っているらしい。
「ファイなるヤイカガシ、それがお前の『真の姿』だというのか!?」
(間違えんな狗ーっ!)
「どうせ今つけた名前だ、どんな呼び方でもするがよい……」
(俺の名前が消えるのを推奨するなーっ!)
ヤイカガシは左右の手に柊の枝を持ち、静かに炎をきらめかせた。
「狗よ、覚悟するがよい! 私の翼からは……なんびとも逃れられん!」
長さ間違った、以上2レスどめ
>>176 いやいやいやwww
>>192-198 ぶんがくが あらわれた!
スライムは しびれて うごけない!
>>213 サクッと読んでみようかと思ってくる人もいると思うから長さ別とか。
例えば1〜3レス、10レス以内、それ以上、単発or連作、なんかのタグ選択制とかがあったら便利かなと思った。
体が、かってにっ… ビクンビクン
な代物ですのでご注意ください
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島流し村八分覚悟で投下。
鬼の子だ、鬼子が来たぞ。
少女の進む道は、きっとこの立ち並ぶ宿場のように閉ざされてしまっているのだろう。
少女の進んだ道は、きっとこの街路のように、人気のない寂しい孤独の道であっただろう。
誰とも知れぬ町人の警報は瞬く間に市場を巡り、声高々に値引きをする町商人も和気藹々と買い物を楽しむ人も、楽しそうに鞠突きをする童も居なくなってしまった。
天道は南の空高くに存するにも拘らず、まるで新月の支配する闇夜の如く、町は変貌した。
少女は鬼であった。二本の歪なる角が憑依する頭付きを一目するならば、誰も彼もが少女を蔑みの名で呼び表されるその理由も至極当然のことであろう。
然し、少女は閉ざされた戸を叩く。誰か、誰かいませんか。その戸の奥に温もりが在ることは確実であった。だが返事は無い。
少女はそれ以上の行為に及ぶことはせず、隣の戸に移る。誰か、誰かいませんか。待たずして返事は来る。
ああ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
悲鳴の混じる小さな洪水に、少女は無言で立ち去った。
どうして、と少女は思う。どうして私を嫌うのでしょう、私もあなたも変わらないというのに、ただこの角があるだけで。
涙は親に捨てられたあの日に流しきってしまった。涙川に流してしまったのだろうか、親の姿も己が名も忘却の河の彼方を漂っている。
枯渇した川の底には、ただ、淋しい、という感情だけが取り残されていた。
無言の町の中を、脂ぎった黒い鼠が走っている。その口には、露店に置かれていた橙を咥えており、やがて道の真ん中でその夕焼けの皮を剥ぎ取り喰った。
私もあなたのように出来たらいいのに。少女は鼠の元へと歩みを進めるも、鼠は一目散に去って行ってしまった。卑しくも、食いかけの橙と共に。
いつしか表の街道を逸れ、空気の淀んだ裏に出る。鼠の数と、それを喰らう猫の数は増してゆくものの、つゆとして人は居ない。
お腹が減った、と口にして後悔をする。ただでさえ空腹であるのに、まして自覚するとなると各段にその辛苦は増えゆくのである。
お嬢さん、異形の者かな。不意に黒髪の背から声がし、少女の息は固まった。
振り返れば、布切れをまとった腰屈みの翁の瞳が在った。少女はふと、罅割れた大地に一滴の雫が垂れるのを見た。
御守を頼みたいのじゃ、そなたにしか出来ぬ者がゆえ、ひたと探しておった。少女は頷いた。確かに少女は雫を見たのである。
腰屈みはその身に相応しからぬ、厳かなる邸宅に身を据えていた。垣根の外壁に古風な門。更には広大な庭と来て、池を渡りて漸く宮殿に辿り着くのである。
内は何畳もの広間に、名の知れた屏風や陶器が所々に飾られている。少女は呆然と光景を見つめると同時に一種の不安を抱くようになった。
然しながら既に貶され続けてきたこの身に、これ以上何の苦痛が在ろうものかと腹を括るのであった。
広間は中庭に続いていた。外庭とは一変し、静かなる時を刻んだ、侘びと寂と趣を感じさせる庭園である。
一角で鞠をつく童の娘が居た。恋い焦がる 幸せの裾 分け合わし――と童歌の声に乗じて結わく髪が揺らす。
あの娘がそうじゃ。一言に身の毛を震わせる。蘇るは幼気の昔。仮に鞠つく娘が少女の姿を見、恐怖し、涙を流すのであらば、それは少女の失われし記憶である。
あの悲しみを、再び取り戻すことになるのだ。親に捨てられし己が姿を。
すみません、私帰ります。会釈をし引き返す少女を止めたのは、角の生えた少女よりも遥かに幼き、かの娘であった。
「ねねさまは、こにといっしょだね!」
足を留め、娘と対峙したとき、確かに少女は幼き記憶を取り戻した。
「あなた、角が……」
成長しきらぬ小さな角が、少女と同様に生える額の角が、見誤らず幼き童に憑依しているのである。
「ああ、なんて……」
幼き頃を思い出す。
「なんて、不幸なのでしょう」
自ずと溢れ出る雫は、確かに少女の心を解いて行くのであった。
こに、と自称する小日本と言う娘もまた、少女と同じ奇遇の者であった。親に捨てられた所がこの邸宅の門構えで在ったことが二人の宿世を別った唯一の点であろう。
独り身の翁は異形で在るにも拘らず、この娘を慈しみ育て、景徳鎮の壺に入る水までもが溢れんばかりの愛情を注ぎ、今に至るのであった。
「外の世界を見せてやれぬのが、誠に残念なことだがの」
言わずもがな。そうでなければ、これほどの笑顔を見せることはなかろう。
「ねねさまはなんてお名前なの?」
小日本の君は、澄んだ水晶の如きまなこを輝かす。眩しすぎるあまり、直視し難いものであった。
「私、名前なんてありません。ずっと、鬼の子、鬼子、などと呼ばれ続けてきましたから」
元来在ったのかも知れぬ。然し小川が元に戻ったからと言って、流された草花まで返ってくることは無い。もはやそれは忘れたのではなく、存在そのものが無いのである。
「おかしいよ。ねねさま鬼じゃないもん。鬼はもっともっと怖いもん」
少女はぎこちなく微笑んだ。形ある言葉で返すことも、大笑いして事実を隠すことも、今の少女には無理な話なのだ。
「儂の灯も幾許か。姓であらば儂の物を使うが良い。この娘にも与えた、日本、という姓じゃ」
少女にとって、それは初めて人から与えられた物であった。石や木片を投げ与えられたことは幾度かあったものの、温もりを抱く物を受け貰うことなど無いのであった。
「こにといっしょだね!」
世の冷たき風を知らぬ幼き子に射抜かれると、何と無しに心苦しき思いが募り積もる。
少女はこの娘に、荒ぶ心に花を咲かさせた。ならばと、この娘には幸せを見させてやりたいものだと思った。何処までもその瞳の潤わしき様を果てさせぬと、心に誓う。
「……鬼子。私の名前は、日本鬼子です」
少女は名乗った。敢えて、蔑称をその名に組み入れたのだ。
「どうしてそのような名前を」
その心を尋ねる腰屈みの翁も、そして小日本の君もまた、少女の志を解さぬ有様であった。
「守ってあげたいのです。この子を、なんとかして守り抜きたいのです。……だって、こんな子が穢されていく様を、どうして直視することが出来ましょう。
そのためなら、私はこの身を捧げます。二人として、誰かを私と同じ境遇には居させたくないのです」
鬼子の決意は岩鋼の山より固かった。それは、彼女の紅葉色の瞳を見れば瞭然のことである。
もしも、少女に鬼として生まれた意義を問われるのであれば、それはここにあるのであろう。
「それなら、こにはねねさまを守ってあげる!」
小日本が、満面の笑みを咲かせ、その場でくるりと一回転する。
「ねねさまを、たくさんたくさん笑顔にさせてあげるね!」
その健気な姿に、角の生えた少女は思わず感情を高ぶらせ、再び心に滲む雫を落とすのであった。
後の世に、二つの異形の物が里に下り、一つは民々の心の闇を祓い取り、また一つは荒れ果てた心に一輪の花を咲かせた――と、もとの本にはあるのだそうだ。
以上。
誠に勝手ながら、
先輩方々のSS、AA、詩歌及び、
『HAKUMEI』『紅の鬼』『紅葉着の日本鬼子』を参考にさせて頂きました。
数多問題の絶えぬ鬼子制作の行方であり、私も何か意見を述べたいのですが、
口下手が故、このような形を取らせて頂きました。
微力ながら、今後の日本鬼子、及び小日本の発展と、
世界中に散り行く紅葉と咲き乱る桜の香りが広がるを祈りつつ。
>>226 乙です。鬼子とこにが互いに支えあうというのはなんかイイ。
さて、自分も作品を投下したいので10レス程、お借りします。
l'vヘ ガサガサ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ○ r'^ナrジ-z
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_
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,ノこ_- __,ーヽ U U
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<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ \ひっかかっちゃって|
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | ヽl| // }| 、、/^∧、
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| :{. || | |/ / l、゚ -゚ メ彡
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ヽ ヽ.|/ // し{=∞=}∪(⌒) )
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ヽ ヽ.|/ // し{=∞=}∪(⌒ ) 降 い (_
_,r)_ j (_,( ハ、、、、イ_) ) り だ (
,ノこ_- __,ーヽ U U ) ろ ろ (
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| :! || | | ,/ ,' ミVVwリミ オ
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l !|| | | / ミ^V ̄ミr" ̄`:、
ヽ ヽ.|/ // し{=∞=}∪(⌒) )
_,r)_ j (_,( ハ、、、、イ_) ソ
,ノこ_- __,ーヽ (( U U
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ○ r'^ナrジ-z
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′
'っヾ、r'__ |レ'⌒*(ノ (V) リ>*⌒j/し-,_
`フ ヾ勹_| <_(⊃レ,l *゚д゚ノリ/Σ(_rヘ-‐'
<_ゝし||フぅ(ひ⊂斤丁\___ !'
~zヾ|て 、l レ((∪ \__/
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l !|| | | / ミ^V ̄ミr" ̄`:、
ヽ ヽ.|/ // し{=∞=}∪(⌒) )
_,r)_ j (_,( ハ、、、、イ_) ソ
,ノこ_- __,ーヽ U U
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 ̄ ̄ ̄\ 十フ  ̄ ̄ ̄了  ̄ ̄ ̄了 | | | |
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ぐ;:;リl、>_<;*リ/;:;:;::;;| |/
、、∧、∧\:;;ハy// |;::*/ (´´
ミVVwリミ レヒ三}じ/ ≡≡≡(´⌒(´≡≡
⊂l、+_ + メ⊂)イ*:;;:ノミつ ≡≡≡(´⌒;;≡ ズザーーーーー!!
⊂ミヾ/  ̄ (´⌒(´⌒;;
_
| ど |
| ’ |
イ | ど |
イ ) | う |
カ γハ゜ハ ヽ | し |
ラ ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ | て |. r──────────┐
ド (´⌒;) リ|゚д゚*ノリ < ? !」 |ゲホッ…間に合ったか… .|
ケ 、、∧、∧、ハy/ ヽ (´´) .└.y─────────┘
(´⌒;) ミVVwリミ {三三l/っ
⊂l、゚ -゚ メ⊂)イ*;:ノミつ (´⌒
⊂ミヾ/ (´⌒(´⌒;;)
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z r────ヘ
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′ |言 ま |
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_ |っ だ っ |
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' |た か た |
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ |だ ら く、 |
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ ( . | ろ |
| | ヽl| // }| γ ハ゜ハヽ 、、∧、∧、 |う |
| :! || | | ,/ ,' シ ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ミVVwリミ └.y───┘
| :{. || | |/ / ュ レ,l * -_-ノリ l、゚ -゚ メ彡
l !|| | | / ン γ∩○∩ ミ^V ̄ミr" ̄`:、
ヽ ヽ.|/ // : /:;:;/三く、 \ (フっベソ (⌒) )
_,r)_ j (_,( ・ じ'<_、__*_ゝ\l ハ、、、、イ_) ソ
,ノこ_- __,ーヽ ∪ ∪ U U
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z r───────ヘ
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′ | こ か わ 自|
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_ | ガれ ら き 分 |
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' |嫌 キだ こ ま の|
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ ☆ |な はか う え 力 |
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ ( / |ん ら な な 量 |
| | ヽl| // }| γ ハ゜ハヽ 、、∧、∧、|だ る。い を |
| :! || | | ,/ ,' カ ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ミVVwリミ└.y───────┘
| :{. || | |/ / チ レ,l * ゚ -゚ノリ C-、 。- メ彡 フゥ
l !|| | | / ン γ∩○∩ ミ^V ̄ミr" ̄`:、
ヽ ヽ.|/ // /:;:;/三く、 \ ⊂ン{=∞=}つ(⌒) )
_,r)_ j (_,( じ'<_、__*_ゝ\l ハ、、、、イ_) ソ
,ノこ_- __,ーヽ ∪ ∪ U U
ヽ、_,人_,人_人_人_人人_//
l'vヘ ‐=、´ 子 何 な こ (
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z ) 供 だ よ い に `,=‐
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′ ‐=、´ の っ ! も 子 (
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_ )く て 狗 ん 供 `,=‐
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' ‐=、´ せ く !! じ (
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ ) に ん ゃ `,=‐
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ ( /'⌒!!^Y^Y^Y^Y^Y^Y
| | ヽl| // }| γ ハ゜ハヽ 、、∧、∧、
| :! || | | ,/ ,' ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ミVVwリミ ビ
| :{. || | |/ / レ,l * `д´ノリ l、゚ -゚ メ彡 ク
l !|| | | / γ∩○∩ ⊂从V ̄ミつ ッ
ヽ ヽ.|/ // /:;:;/三く、 \ {=∞=} イ ̄`从
_,r)_ j (_,( じ'<_、__*_ゝ\l ハ、、、、イ 从 ソ
,ノこ_- __,ーヽ ∪ ∪ U U
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' ヽ、_,人_,ノ、_,从,人.ィj、ノv1/
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ ) バ カ ーーーー!(
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ ( /'⌒Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^/⌒ ○
| | ヽl| // }| γ ハ゜ハヽ 、、∧、∧ /
| :! || | | ,/ ,' ヘ*(ノ (V) リ> \人_人_wリミ イ
| :{. || | |/ / リ * `дノリ ) l、+ _+ メ彡 テッ
l !|| | | / /⌒γ // ̄ 」つ'"´ ̄`゙`^Y^Y^ ̄ミr" ̄`:、
ヽ ヽ.|/ // ヽ C{三/:;:;/ {=∞=} (⌒) )
_,r)_ j (_,( (_ノ<__じ'_ゝ ハ、、、、イ_) ソ
,ノこ_- __,ーヽ (シ⌒(.j U U
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐'
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ あ
) っ っ
γハ゜ハ ヽ っ 、、∧、∧、 お 待
⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ミVVwリミ い、 て
/ ̄)っ*ノリ l、゚д゚ メ彡 よ
(:;:;:ノハy/ ヽ、 ⊂ミ^V ̄ミr" ̄`:、 ! !
じ;:;:;ノ三}/っ {=∞=}∪(⌒) ) テ テ
~T_、__*_ゝ ハ、、、、イ_) ソ ン ン テテテ…
(_ソ |_) U U Y⌒Y⌒○
) コケッ
γハ゜ハ ヽ 、、∧、∧、 あ
⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ミVVwリミ っ
/ リl ゚д゚ *|\ l、゚- ゚; メ彡
\ヘソy//|;:;:;:ヽ、 ⊂ミ^V ̄ミr" ̄`:、
{三三\_」 {=∞=}∪(⌒) )
\;:;:;:;:*ソ ハ、、、、イ_) ソ
ガッ (シ (.j U U ______○ コロコロ…
^
、、∧、∧、 け、 :
ウ、 ミVVwリミ 怪 :
ウ ビタ〜〜ン!! l、゚д゚ メ彡 我 :
ウ ) ;ミ^V ̄ミr" ̄`:、 と :
γハ゜ハ ヽ /⌒) (´⌒ (_{=∞=}_) (⌒) )な か お
⌒*(ノ (V) リ>*ヘヽn(⌒) (´⌒(´⌒;; ハ、、、、イ_) ソ い し ’
⊂ リl ゚- ゚*⊂√了川フつ U U か て お
? い
┌┴┐┌─┐ ̄Tフ _ / / / 、、∧、∧、
_ノ _ノ ノ ア --_/ 。。 ミVVwリミ
C= i、。−メ彡
\\ ) / ;ミ^V ̄ミr" ̄`:、
γハ゜ハ ヽ i⌒) / (_{=∞=} (⌒) )
⌒*(ノ (V) リ>*ヘくn(⌒) / ; ハ、、、、イ_) ソ
⊂厂リl ;д;*⊂√了川フつ U U
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・・・・・そ・し・て
m ∩
おっぱい!おっぱい!>Σ°)彡
( ⊂彡
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| _________ .| ヽヽ __
| \\\\\\\\\\ .| 一十一i ___
| |\{ニニiニニiニニiニニi|} | | | /
<・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | | / ヽヽ |
| ;:*.] |il| |i| |il| | | お ノ
| :: l.:] |il| /,A^^A i / | 鬼 | ノ
''''',,'' ' '' |,,,'',''' ' |i三|i三 l卯ミ!|リノ)))リ  ̄ , | 居 子 い、
, ,,,|,,,,, , lヾ|l .゚ -゚ノリ | る ’
'''''',,,,,'',, |,, ''',,,,,.,'' ノ ハ^∨/ヽ、 | か
─────.|────────ノ::[三ノ :.'、──── | ?
 ̄ ̄ ̄〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄ (n_日く; __ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
_ .(____)O_O_ (: ::.".、(~っ \
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|\{ニニiニニiニニiニニi|}
l;l^~| |il| |i| |il| |
;:*.] |il| |i| |il| |
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|i三|i三ill|i三ill|i三ill三ill} /,A^^A、 ど
卯ミ!|リノ)))リ ‘ し ) Zz
lヾ|l .゚д゚ノリ 二 ど 今、 っ γ゜ハ ヽ zz.
ノ ハ^∨/ヽ、 人 う や (/) リ>*ヘ z…
/.::::< 三];;;::ヽ と し 所 っ 泣、、∧、∧、!、。- *ノリ
くΨ:::_;フ*く;:: ノ も た や 寝 だ と き ミVVwリミy/ ̄ ゝ
~T": ::..!T ?! の っ か 眠 疲 l、゚ -゚ メ⊂\::;:;\
|____ハ て せ っ れ ミ^V ̄ミ⊂)ニ:;:;ノ
ニニニニニニニニニニニニニニニ} く て た て {=∞=} (⊃⌒) )
|il| / ̄ ̄ゝ れ ハ、、、、イ_) ソ
|il| |;:;:;:;::;;:| U U
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ん ムニャムニャ A^^A 、
ん γハ^ハ ヽ ZZzzz… !|リノ(((リ卯
: .__ (ノ (V) リ| |、^ -^ .リlヾ|
狗 ( (⌒リl -。- *ノリ\ Lハ∨/^ヽリ
く \ ヽノ(,,⊃⌒O〜 ヽ ノ::[三ノ :.'、
ん \ //;;;::*:::*::::⌒) (n_ノ;:;:;く; __ノ
の ( (:::;;:*::;;::*.:::*::( (: ::.".、(~っ
バ \\::;;;*::::*:::*::::\
カ \`〜ー--─〜' )
ぁ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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一 | _________ .|
'''',,'' ' '' 体 そ .| \\\\\\\\\\ .|
何 れ | |\{ニニiニニiニニiニニi|} |
が で <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | |
あ ’ | ;:*.] |il| |i| |il| | |
/,A^^A、 っ | : . l.:] |il| |i| |il| あ |
'''',,'' ' '' 卯ミ!|リノ)))リ た ''''',,'' ' .' |,,,'', ''' ' |i三|i三ill|、、∧、∧、 実 あ .|
lヾ|l .゚ -゚ノリ の , ,,,,|,.,,, , ミVVwリミ は ’ .|
Lハ^∨/ヽ、 ?'''''',,,,,'',,',, |,., '',,,.,'' l、゚ -゚ メ彡 : |
──── /.::::< 三];;;::ヽ──────|. ────────ミ^V ̄ミr " ̄`:、 ─|
 ̄ ̄ ̄ ̄くΨ:::_;フ*く;:: ノ  ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄∪∞∪} ( (⌒) ) ̄ ̄\
~つ": ::..;::) _ (____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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ノヽ、 ノヽ、 <<<説明中>>>
) y ( ) ( ♪
)ヽ|/( ) ( 〜♪
) ( ( ヘ/////へ丶、
⌒\ ソ << ( ⌒ ≪
|\ / ( _ ノ
> へ_ * <´
|/ ( ノ⌒て^ミ
彡ノ ※しばらくヤイカガシのダンスでお待ち下さい。
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大 | _________ .|
'''',,'' ' '' お 変 そ .| \\\\\\\\\\ .|
疲 だ う | |\{ニニiニニiニニiニニi|} |
れ っ ’ <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | |
様 た | ;:*.] |il| |i| |il| 悪 い |
/,A^^A、 わ .| : l.:] |il| |i| |il| か 俺 や |
'''',,'' ' '' 卯ミ!|リノ)))リ ね ''''',,'' ' ' |,,,'', ''' ' |i三|i三ill|、、∧、∧、 っ も ’.|
lヾ|l .゚ -゚ノリ ° , ,,.|,.,,, , ミVVwリミ た .|
Lハ^∨/ヽ、 '''''',,,,,'',,',, .|,., '',,,.,'' l、゚ -゚ メ彡 ° |
──── /.::::< 三];;;::ヽ──────|. ────────ミ^V ̄ミr " ̄`:、 ─|
 ̄ ̄ ̄ ̄くΨ:::_;フ*く;:: ノ  ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄∪∞∪} ( (⌒) ) ̄ ̄\
~つ": ::..;::) _ (____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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_______________ .|___________________/
い 気 ま | _________ 鬼 あ
'''',,'' ' '' い に た | \\\\\\\\\\ 子 の.
の し 式シ .| |\{ニニiニニiニニiニ の 子
よ な 鬼キ <・)こ>≡ ll^~| |il| |i| |il| 式 守 命 を
? く の | ;:*.] |il| |i| |il| 神 れ 令 警
/,A^^A、 て 誓 | : l.:] |il| |i| |il| 失 な を 護
'''',,'' ' '' 卯ミ!|リノ)))リ も い'''',,'' ' .' |,,,'', ''' ' |i三|i三ill|、、∧、∧、 格 か, す.
lヾ|l .゚ -゚ノリ ? , ,,,,|,.,,, , ミVVwリミ だ っ .る
Lハ^∨/ヽ、 '''''',,,,,'',,',,, .|, '',,,.,'' l、゚ -゚ メ彡 た。 と
──── /.::::< 三];;;::ヽ──────| ────────ミ^V ̄ミr " ̄`:、 い
 ̄ ̄ ̄ ̄くΨ:::_;フ*く;:: ノ  ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄∪∞∪} ( (⌒) ) う
~つ": ::..;::) _ (____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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________________ .|___________________/
け 欲 仲 私 ハァ、 | __ 恩 恩 俺 そ
'''',,'' ' '' ど な し 良 は .| \\ 俺 シ 人 を 命 達 う
な ん い く た | |\ し を キ に 返、を の は
あ だ だ し だ <・)こ>≡ ;l^~| な 恩 タ 仕 す 助 一 い
: け .て ’ | :*.] い 知 リ え ま け 族 か
/,A^^A、 や あ | : l.:] で ら だ る で ら は な
'''',,'' ' '' 卯ミ!|リノ)))リ っ の'''',,'' ' .' |,,,'', ''' ' く ず 、、∧、∧、 れ, .い
lヾ|l .-。-ノ=3 て 子 , ,,,, |,.,,, , れ に ミVVwリミ た . °
Lハ^∨/ヽ、 ' と,,,,'',,',, |,., '',,,.,'' l、゚д゚ メ彡 ら
──── /.::::< 三];;;::ヽ────── |. ───────⊂ミ^V ̄ミ⊃ ̄`:、 ─|
 ̄ ̄ ̄ ̄くΨ:::_;フ*く;:: ノ  ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄ {=∞=} ( (⌒) ) ̄ ̄\
~つ": ::..;::) _ (____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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_______________ .|___________________/
お さ | _________ .|
'''',,'' ' '' 腹 ゴ て .| \\\\\\\\\\ .|
空 ハ ’ | |\{ニニiニニiニニiiニニ悪 い |
い ン そ <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| 受 い ' |
/,A^^A、 た に れ | ;:*.] |il| |i| け が い |
卯ミ!|リノ)))リ で し じ | : . l.:] |il| |i| .な 施 や |
'''',,'' ' '' lヾ|l .゚ヮ゚ノリ し ま''',,ゃ ' .' |,,,'', ''' ' |i三|i 、、∧、∧、 い し ° |
ノ ハ^∨/ヽ、ょ し , ,,, ,|,.,,, , ミVVwリミ はヘ . . |
/.::::< 三];;;::ヽ? ょ'''''',,,,,'',,', |,., '',,,.,'' Σ l、゚ -゚ メ彡 ハ ミ |
──── くΨ:::_;フ*く;:: ノ──────|. ──────⊂ミ^V ̄ミr " ̄ ソ)) ─|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~T": ::..!T  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ {=∞∪} (⌒へ)))  ̄\
|____ハ _ (____)O_O_ ( Z )_) ワッサワッサ \
<⌒⌒⌒⌒⌒> /:::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;:::O:::l:::;;:::::\ <⌒⌒⌒⌒⌒> パタパタ \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_______________ .|___________________/
す 私 お ど そ ダ | _________ .|
'''',,'' ' ''る を 礼 う れ | | \\\\\\\\\\ .|
気 恩 言 せ に メ | |\{ニニiニニiニニiニニi|} |
? 知 っ 助 あ ’ <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | .|
/,A^^A、 ら て け の | ;:*.] |il| |i| |il| ぐ |
卯ミ!|リノ)))リ ず な て 子 | :: l.:] |il| |i| |il| ’ |
lヾ|l .^ -゚ノリ に い く ''',,’ '''' ' '' |,,,'', ''' ' |i三|i三il 、、∧、∧、 ぐ |
| ハ∨/^ヽ、 ん れ , ,,, |,,,,, , ミVVwリミ うヘ |
L.ノ::[三ノ :.'、 で た '''''',,,,,'',, |,, ''',,,,,.,'' (///メ彡 :ハ ミ |
i)、_;|*く; Ψノ─ し ─────── .|────────ミ^V ̄ミr " ̄ ソ))─|
|!: ::.".T~ ̄ ̄ょ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄∪∞∪} (⌒へ)))  ̄\
ハ、___| ? _ .(____)O_O_ ( Z )_) ソ パタパタ \
<⌒⌒⌒⌒⌒> /:::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;::::::O::l:;;:::::\ <⌒⌒⌒⌒⌒> \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_______________ .|___________________/
| _________ . |
'''',,'' ' '' | \\\\\\\\\\ . |
<じゃ、すぐできるから待っててね〜 | |\{ニニiニニiニニiニニi|} |
これは命令よ♪ <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | |
パタン… | ;:*.] |il| |i| |il| | 命 |
| :: l.:] |il| |i| |il| | 令 |
'''',,'' ' '' ''''',,'' ' '' |,,,'', ''' ' |i三|i三il 、、∧、∧、 : . |
, ,,,|,,,,, , ミVVwリミ : .|
'''''',,,,,'',, |,, ''',,,,,.,'' Σ (///メ彡 : |
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_ .(____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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'''',,'' ' '' | \\\\\\\\\\ . |
| |\{ニニiニニiニニiニニi|} |
<・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | |
| ;:*.] |il| |i| |il| | |
| :: l.:] |il| |i| ∬ : |
'''',,'' ' '' ''''',,'' ' '' |,,,'', ''' ' |i三|i三il 、、∧、∧、 : . |
, ,,,|,,,,, , ミVVwリミ 不 |
'''''',,,,,'',, |,, ''',,,,,.,'' (///メ彡 覚 |
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∪∞∪} ( (⌒) ) ̄ ̄\
_ .(____)O_O_ ( Z )_) ソ \
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- 終 -
というわけで、ひもと・こう君の日常を描いてみました。
(うへぇ。途中で投稿しすぎ!って叱られたため、つなぎ直しをしちゃいました)
自分で思っているのはもうちょっとヤンチャ君のはずでしたが、背伸びしているせいか
若干、ストイックな感じになってしまいました。
【俺設定】:式鬼の誓い(しきのちかい)
命を助けられたなら、同じように命を助けるまではその恩人に尽くせ。それまで帰ることは
まかりならん。
という、ワリと厳しい掟。別名、「押しかけ弟子の掟」w 実際にはシチュにもよるでしょうが、
なにぶん、相手を助けるには相手より強くならなければいけないわけで…
彼が鬼子より強くなるのは相当先のことになりそうですw
(これだからガキは嫌い。は力の及ばない自分への自己嫌悪も混じっているっぽいです)
鬼子の「あの子と仲良くしてやってね。お願い」というのを「あの娘を警護すればいいんだな」と
解釈していつもこにに振り回されているようです。
鬼子も妹分と弟分が増えて大変そうですが、その分、楽しそうでもあります。
…そういえば、こにぽんの事、こに、って略すと音が小鬼、に近い感じがするのは自分だけ?
こにぽんのお礼編まで作るとムチャクチャ長くなりそうだったのでとりあえず、ここで終劇。
なんかまたいいネタが浮かんだら続きを作ってみようと思います。それでは。
/,A^^A、
卯ミ!|リノ)))リ
lヾ|l .^ -゚ノリ
| ハ∨/^ヽ、
L.ノ::[三ノ :.'、
i)、_;|*く; Ψノ
|!: ::.".T~
ハ、___|
>>238 >>226の人です。感想ありがとうございます。
こういう、心を和ませるお話……ほぅっとしますね。
もっともっとたくさんの方に見てもらいたいと思える作品です。
>>238 AAの物語って、単にSSを書く何十倍も時間がかかるはずだよ
本当に凄いなぁ・・・
こういう、日常の温かさを私は描けませんから尊敬します!
242 :
238:2010/12/03(金) 18:42:49 ID:l9zsqaAh
おぉ……まさかこんな感想がいただけるとは。みなさん、ありがとうございます。作ったかいがありました。
>>241 あ、でも自分が作るのはコピペしてチョコチョコ部分的に変更するやり方だから、そこまで
手間じゃないっス。おかげでWikiのAAはそんなに種類がないという…w
これがアクションものの話だと、1コマごとに該当AAを探したり作ったりしなきゃ
いけないでしょうからそのくらい大変でしょうが。
最近やっと、ぷち人物AAを自前で作れるようになったばかりで。
以前は既存のAAをちょっと弄ることしかできないヘタレAA使いでした。
本格的に着手しだしたのはヤイカガシ支援をはじめた頃ですよ?
好きこそ萌えの上手なれ
およそ11スレ使ってSSを投下致します
ご了承下さい
見渡す限りの青空の下、子供たちの楽しげな笑い声と歓声が聞こえる。
メジロが梅の花をつつく姿も愛らしい、山里の初春。
まだ肌寒く、合掌造りの日陰には残雪も見られる如月の三日。
全国で鬼が蹴散らされる日、節分。それは鬼子の居るこの村でも例外ではない。
「鬼わぁぁぁぁぁ、外ぉぉぉ!!」
そんなかけ声と共に手元の麻袋から鷲づかみにされた炒り豆が、思いきり振りかぶられ
散弾となって鬼子に降りかかる。樫でできた稽古用の薙刀で防ぐが、あまり意味がない。
「鬼を、怒らせましたねっ!」
ぶんぶん木の薙刀を振るって追いかける鬼子。炒り豆は地味に痛い。
地味どころではなく、正直かなり痛い。気を抜いていると目尻から涙が零れそうになるが、
そこは自分も声を大きく張り上げて堪える。
「うりゃぁっ!」
「あたっ!」
逃げる少年の頭を薙刀で叩く。大振りだが、あてる直前にぎゅっと両手で握りを絞り、
威力を極限にまで抑えた一撃。彼女の予期したとおり、ぽこん、という音がした。
こちらも痛いのを我慢しているのだ。
それにやられっぱなしと言うのも、鬼子の性に合わない。きっちりお返しはしなくては。
「うわぁ〜〜ん」
叩かれた男の子は、泣きながらお母さんの所に走って行く。ちょっと強くやりすぎたか。
「ほら、男の子なんでしょう! 鬼に叩かれたくらいで泣かない!」
そう叱るお母さんが、我が子を抱きしめながら優しい笑顔を鬼子へ向ける。本当にご苦労さま、そういう笑顔だ。
「さ、次にこの薙刀で討たれたい奴は、だ」
誰ですか? と威勢をあげようと振り向いた瞬間、無数の豆が鬼子の顔面を思いきり叩く。
「お、あ……つぅ、ぅぅ…………」
真っ正面から平手打ちされたらこんな感じなのだろう。今の瞬間を狙うのは、ちょっとひどい。
やぁやぁ遠からんものには音に聞けとか、我こそは平のなにがしとか、そういう口上の最中は
攻撃しないのが約束ではないか。
鬼子は思わず薙刀を落とし、顔を両手で覆ってしゃがみ込む。ぎゅっと目もとを手のひらで押さえ、涙を押し出す。
「あ、鬼子さん、ご、ごめん」
流石に今の凶悪な奇襲はまずかったかと、気遣う子供達が駆け寄ってくる。
頭に血が上るのと、角が疼くのを鬼子ははっきりと感じた。ざわめく着物のもみじ模様。
(待った待った待ったぁっ……!)
「あーーーー!!」
昇りかけた血を大声と共に体の外へ。ぐわっと立ち上がり、その余勢をかって拾い上げた薙刀の石突きで地面を叩く。
小さな衝撃波が生まれる。揺れる大地に、一瞬の恐怖心を露わにした子供達だが、
山育ちの腕白少年少女の好奇心はそんなものでは揺らがない。
「もうぜぇったい許しません!」
「鬼が復活した、まだまだ豆が足りないぞー!」
「与吉、大丈夫だ! 今年は三日三晩"豆まき"をやっても十分な豆がある!」
「ちょっとは手加減しなさーい!」
空を切って大きな音をたてる薙刀。半ばやけくそ気味だが、鬼子は笑っていた。笑って子供をたちをおいかけ、
おいついてはそっと打ち据える。半泣き入りながら武器を振り回す鬼子と、逃げる一行の「微笑ましい」光景に
大人達も顔がほころぶ。
「食らえっ、撒き豆の術ッ!」
「むっ!」
草履ばきに、長い裾の着物を着ている事を考えれば、破格の速さで走って追いかけていた鬼子。
豆の投擲体勢に応じて、顔はまずいと袖で防ごうとした所だった。
「えっ……あっ!?」
彼女の大きく前に踏み出された右足は、そのまま地面を踏みしめることなく大きく前にとられる。
そのまま姿勢を崩して大きく倒れ込んでしまった。
「いたたたた……」
膝をすりむいたかもしれない。怪我をすると小日本に怒られてしまう。
「……?」
こんな絶好の機会に、豆の雨がこない。打った背中をさすりつつ、周りを見まわすと
「容赦」とは違った空気が流れていた。なんともばつの悪いような、微妙な雰囲気。
視線が鬼子の、特定の場所に注がれている。
彼女もその先を辿ると、それは股のあたりで。転んで、前がはだけた着物の裾から、白い自分のふとももが
のぞいていた訳で。
ちゃぽん、と脇の用水路から水の跳ねる音がする。
「乳はなくても、一丁前に艶やかで」
「!」
さっと裾を直す鬼子。その手に小石が素早く握られる。
もう一度おちょくろうと飛び跳ねた声の主、ヤイカガシ。その額に過たず小石は命中する。
鈍い音共に鯉モドキの妖怪は用水路を流されていった。
「鯉じゃなくて、い、イワシ……ぶくぶく……」
そんな散り際の台詞を無視して、立ち上がる鬼子。裾を整え、ほこりを払うと薙刀を大きく振るう。
前髪の間からのぞく瞳は、ほのかに赤みを帯びていた。
「中成、きたね」
「きたなぁ、うん」
恥ずかしさのあまり目尻に涙をためた鬼子。鬼の目にも涙とはこのことである。
しかし、子供達はあくまで冷静だった。
「お前、神社の方な。千代は三本松、与吉は親子地蔵! 寛助は駅家だ、散れッ!」
ガキ大将が手振りを交えて手早く指示を飛ばす。
「あっ! こらぁっ!」
それを合図に、これまでまとまっていた子らが一斉にばらばらの方角目がけて走り出した。
範囲は村一帯。捕まえても交代しない。豆による妨害あり。
世にも過酷な鬼ごっこの始まりだった――
「はあー……、年を追う毎に過酷になっているんじゃないかしら」
お寺の境内。古びたが、よく手入れされている村のお寺に、くたくたになった鬼子の姿があった。
縁側に座って出されたほうじ茶をすすって骨休めだ。
「あーっ、またあざを作ってる。ねねさまはもっと、き、綺麗なお肌を大切にして下さい!」
「はいはい、いつも気を遣ってくれてありがと」
そう言ってわしゃわしゃと小日本の頭を撫でる。子供扱いに彼女は
精一杯不満を表現しようとするが、なんだかんだで鬼子に撫でられるのが大好きなのだ。
袖から季節違いの花びらがこぼれる。結局は太陽の下、鬼子に寄り添って同じ景色を眺めていた。
空はまさに小春日和。風はあいかわらず冷たいが、日差しは温かい。
「でも、今日が雨か雪だったらよかったです」
「小日本……」
そんな日本晴れに似合わず、小日本の表情は暗い。
「行事だって言うけど、でも、行事でもねね様がいじめられるのは、嫌です……」
ため息一つつくと、ぎゅっと小日本を抱き寄せる鬼子。
「今日がお天気じゃなかったら、夜の演舞も中止になっちゃうじゃない。それでもいいの?」
「むー、お昼だけ雨が降ればいいんです」
「そんな、都合のいいこと」
小日本の髪を撫でると、小さいながらも二つの角がそこにある事がよくわかる。
小さなこひのもと。その姿に、鬼子はかつての自分を重ねずにはいられない。
こんな角、なんであるのだろうかと、無理矢理引き抜こうとしたことがあった。
今から考えると何を馬鹿なことをしていたのだろうと思うが、あの時は真剣だったのだ。
人とは違うこと。そこに思い至り、悩むことは避けては通れない道なのか。
「随分と元気の良い"鬼打ち"だったことよ」
思い出にひたる鬼子はそんな声に引き戻される。境内の掃除をしていたお爺さんが深々と頭を下げていた。
継ぎ裃に大小を差した壮年の侍だ。お殿様の命で領地の巡察をしているという。
「こんにちは。もうこの村は大体ご覧になったのですか?」
「ああ、大変元気で結構なことである。しかし、君のような娘が鬼とはなぁ。私が知っているのは
鉄尖棒を持って、虎柄の腰巻きをした赤鬼だったり、青鬼だったりしたものだが」
しげしげと鬼子を観察する侍。本当に角さえなければ町娘と、いや、その自然な所作からなら
より身分の高い女性に見えるのにと、しきりに不思議がっていた。
「私に合うのが薙刀だった、ただそれだけのこと。お侍さんだって剣の立つ人もいれば、槍の得意な人、
弓の上手な人といるでしょう?」
「うむ……」
その侍は招かれて、今夜に催される演舞の打太刀を勤める事になっていた。
舞いとはいえ、お互いに真剣を使う。万が一がないよう、侍が打太刀を引き受けてからは
稽古を重ねていた。彼とて武人。鬼子がただ者ではない事はすぐに分かった。
稽古をつける前にあった「何を女が」という気持ちは今は完全に無い。だが、それでも。
小日本と静かな境内で休む彼女の姿と、"鬼"という存在が繋がらない。
「お侍さんは、まだねねさまの面を付けた姿を見ていないんでしょ? そしたら納得しますよっ。
"女相手に演舞でも負けてやるものかー"って荒々しい浪人さんもいたけど、その人は途中で
投げ出して逃げ出しちゃったんだから」
「そういうものか?」
「そういうものですっ」
えっへんと鬼子の代わりにいばる小日本。
小日本が昨年の"舞い"の話をするも、侍はなお半信半疑の様子だ。
練習の時の鬼子は白装束だった。確かに太刀筋は鋭く、果たし合いともなれば全く侮れる相手ではない。
だが、彼女から殺気は全く無く、型も決まった舞いで何がそこまで恐ろしいものなのだろうか。
最後の一太刀が多少緊張するくらいだろうが、彼女の腕前なら心配することもない。
「もし、私が万一自分を抑えられなくなった時、鬼退治をする桃太郎は、あなたですからね。
よろしく頼みますよ」
ふっと笑う鬼子。これは演舞にのぞむ相手に毎年かけている、ちょっとした脅し文句だった。
今年もやっぱり言うんだ、と小日本は笑っている。
「お供の犬や雉がおらぬではないか」
「犬はどこにいったのかしら? ろくでもないニワトリと鯉なら居るんですけどね」
はて? と首をかしげる侍に鬼子と小日本は、共通のやっかいな友人を思い出して笑っていた。
「まぁ良い。演舞は私も楽しみにしている。では、庄屋と会う約束をしているのでな。これにて失礼」
きびすを返して去って行くお侍。小日本は大きく手を振って見送った。
「さて、舞いの準備を私達も手伝いましょうか。今はぽかぽかでも冬は冬。日が落ちるのは早いわ」
「はーい!」
お寺の境内に奉納の舞台がある。夜でも明るいように松明を準備したり、
年寄りのために椅子を用意したり。全てが終わった後にふるまわれるお酒も運び込まなくてはならない。
鬼はどこにも居て、どこにも居ない。そういうものだけれど。
鬼子にとってこの、とても温かい村は少し特別な場所となっていた。
山間の夜は早い。太陽が山陰に触れたと思っていたら、夕焼けは満天の星空に代わる。
村の人々は三々五々とお寺を目指す。普段は人気もまばらな境内は、綿入れを着込み
白い息を吐いて寒そうにする老若男女でいっぱいとなっていた。諸国を巡る曲芸師の一座が
来たとしても、ここまでは集まるまい。
「わぁ、今年も集まっていますね」
舞台袖、と言っても観客から直接見えぬように板塀で区切られただけの場所で、鬼子は
静かに目を閉じていた。手には荒く柄糸の巻かれた薙刀。装飾を一切廃し、人を断ち切る事のみに特化した刃。
栗梅色から東雲色への移り変わりも美しい衣に、大きな散らされた楓。
傍らでがんばって下さいね、とぐっと両こぶしを握りしめて応援する小日本を一目見た後、
般若面を付けた。その秋である。
舞台に静かに進み出て、始まる日本鬼子の舞。薙刀が大きく円を描くように振るわれ、
月光に照らされるときは紫に、松明の炎を浴びるときは赤くその軌跡を引く。
動と静。薙刀が空を切る度に、鬼子の豊かな黒髪が広がる。
振り下ろされた後の、微動だにしない残心。
誰もがまばたきすら惜しんで彼女の剣舞に見入っていた。
華奢な彼女の体つきに、般若の面は恐ろしいほど違和感がない。
次第に客席にも一葉、二葉と風に乗った楓が流れてくる。春への歩みを続ける如月の初めに、
秋が鬼子から溢れていた。
その幻想的な光景に他の観客と同じく引き込まれる侍。今宵はたすき掛けに、はちまきという出で立ちであった。
静かな夜に、静かな舞い。それなのに心にさざ波がたったまま、おさまらない。
あれは単なる面ではなく、間違いなく彼女の持つ表情の一つ。そう分かる。
子供達を前に豆まきを受けたのも鬼子なら、今、目の前で舞うのも鬼子だ。
あの形相は何へ向けられたものなのか。彼女は今、何を思うのか。
そう思っていると、出番を見送ってしまいそうになった。侍はおもむろに席を立ち、鞘より打刀を引き抜く。
今ここに「鬼退治」の一幕が再現される。
侍は鬼子の流れるような動きにあわせて刀を時に引き、時に息を合わせて突き出し、捌く。
その緊張感は彼にとって、それまで感じたこともない類のものだ。
剣術師範方を勤めていたこともある身にとって、難しいことはなにもない。なのに冷や汗が出る。
時間を掛けたとはいえ、たかが数日間の稽古だった。それなのに数年来、同じ道場で練習を積んだ門下と
取り組みをしているのと同じようだ。
二つの刃があたかも意志を持っているかのような心持ち。
考えるよりも先に剣が動いているのだ。鬼子の動きに合わせて自分が操られているようであった。
鬼子の剣舞はほれぼれするように美しく、彼女だけで完成していた。
その場に自分の入り込む余地などないのではないかと、侍は思った。
領民の前で恥はかけぬと、稽古を思い出して必死に食らいついてゆく。
そして、あっという間に演舞は終わりにさしかかる。手はずどおり、大きく鬼子が薙刀を振りかぶり、侍が
刀で受けて、つばぜり合いに持ち込む。観客からあがるどよめき。
目の前に般若の面がある。その目は侍の内心を深く見通すようであった。
鬼子から出された僅かな合図にあわせ、大きく刀を弾かせる。彼女が侍の刀をはじき飛ばしたように観客には見えた。
大きく体勢を崩しながら思わず"待て"と言うように右手を差し出す。これで最後の構図が完成する。
それまで一進一退の攻防が崩れ、鬼が王手をかけた瞬間を現していた。
ここまで大きな失敗はなかったと侍は振り返りつつ鬼子を見据える。彼女は上段に構えた薙刀を、
躊躇無く振り下ろした。
風切り音を響かせて、刃が目の前を通り過ぎる。直後、侍は首に違和感を覚えた。
死ぬ? まさか。
薙刀の刃先から、紅い雫がぽた、ぽた、と、したたり落ちていた。
あたりに幾つもの楓の葉が舞い散る。清秋の落葉さながらの景色。
そして、葉がすべて地面に落ちて消える頃には、舞い上がった彼女の髪も元に戻っていた。
侍の首はいっこうに落ちない。ごく僅かに切っ先に触れた右手のひらから、微量の血がこぼれているだけだった。
極度に緊張した今では彼は痛みすらも感じていない。
そのまま固まってしまいそうだったが、僅かに残った理性で体を引かせて鬼との距離をとる。
彼女は十分に間合いがとられたのを確認してから、背を向け舞台裏に消えた。
侍はどっと体中から力が抜けるのを感じた。その場に座り込みそうになるのを堪えて席へ戻る。
腰を下ろすとやっと緊張の糸が緩んでくる。
観客が集まってきた。
「ご立派でございました。私が見た中では、間違いなく一番の出来映えでございました」
「流石はお侍さん、本当に肝が据わって、たいしたもんだぁ……」
そんな労いの言葉を次から次へとかけられた。渡された杯に清酒が注がれる。
それをぐっと一息で飲み干すと歓声が揚がった。
周りでも節分を締めくくるお酒が振る舞われていた。それなりに高級な清酒なのだろう。
不味くはなかった。だが味が分かるような状態に彼はなかった。
既に右手のひらの出血は止まっている。
「ねね様との演舞はどうでした?」
小日本だった。彼女の手にも日本刀が握られていた。私もお侍さんみたいに刀を上手に扱えたらなぁと
演舞を思い出してはため息をついていた。少しの間考えてから、侍が答える。
「盗賊どもの隠れ家に踏み込んだ時より、余程恐ろしかった。鬼子殿がその気になれば
腕の立つ剣豪が束になった所で手も足も出ないだろう。君はいつも彼女と一緒にいるが、怖くはないのか」
怖くはないのかという問いかけに小日本は不思議そうな顔をしていた。
「ねね様は怖くないです、だって、ほら!」
彼女の指さす先に、小さくなっている鬼子がいた。松明の近くといってもかなり顔が赤い。
「あんまり飲ませないでくだ、ひっく……ください。そんなに、飲める方じゃないん……」
巨大な真紅の杯になみなみと酒をそそがれ、困惑する鬼子。少し口を付ける度、それに倍する量が注がれる。
「鬼が呑めない!? 魚が泳げないと言っているようなものですぞ!」
「ささ、今年も鬼退治を見事退けたのですから、ぐぐっと、ほら!」
「あぁ〜、だから……。ねぇ、小日本、あなたも何とか言ってやって下さい! 私はお酒は……」
「がんばって下さい! 応援しています、ねね様!」
小日本、時にさらっと残酷なことを言ってのける。ちょっと、と伸ばした鬼子の手に次の杯が握らされた。
楓の着物は鬼子にとってとても大切なものだ。衣にこぼれそうになると飲まざるをえない。
今、彼女の顔は赤いが、じき青くなるだろうと、侍は予想する。
そういう意味では、角以外に彼女にも鬼らしいところがあるようだ。
黙り込んで、僅かに震えながら両手で持った杯を口に付ける姿はとても可愛らしい。いや、哀れともいえるか。
「いやはや、鬼は鬼でも、いろんな鬼がいるものだ」
多分悪酔いの辛さもも知らぬだろう小日本が、鬼子が酒を飲み干すたびに恋の素を散らして盛り上げていた。
ヤイカガシやヒワイドリの姿もあり、これもさかんにはやし立てていた。
侍はその光景を眺めていたが、これ以上見ていては鬼子の名誉にかかわるだろうと思い、村長に挨拶して宴を辞す。
夜は更けてゆく。
松明は次第に火勢を衰えさえ、侍も、百姓も、神も、そして鬼も等しく宵闇が包み込んでゆく――
おわり
面白かったです
GJ
いいなあ。クソガ…あ、いや。子供たちがヤイカガシと一緒にスカートならぬ裾めくりとかしてそうなふいんきだw
自分の居場所を見つけている鬼子ですねー
と鬼子ちゃんで、まともな創作って、このスレだけって現状・・
本スレ、色々とSSのこと批判したけれど、現状がどうなのよw
前回
>>223-225 花開く いのち息吹けど 鶯の なく声聞かで など失す父や
ふわふらる 夢の中見た 桜着を はじめてくれた やさしい笑顔
腰屈みの翁が儚くなり、幾日が経ったのであろうか。悲しみが流るには短すぎ、桜が散るには長すぎる時の間をこの屋敷の中で隔て生きていた。
小日本が独り中庭で鞠をつく。鞠が地につく度、娘の髪に結わえられた鈴の音が耳に入る。鬼子はその様子を眺め、いつしか山菫の香の籠る空を仰いでいた。
今日も桜の姫は美しい鬼を鞠つきに誘っていたのだが、彼女は断った。
しばし不満を浮かべた気色を見せるも、やがて諦め、独りで鞠遊びを始める。しばらく遊んだのちに、疲れて寝てしまうことであろう。
「乳上にあのような約束をしましたのに、一体何をしているのでしょうか」
幼き鬼を守らんとする由を誓ったはずであったのだが、結局少女は何一つとして尽くすことはしてやれず、逆に鞠をつく娘に気を遣わせているだけなのであった。
せめて食事だけでもと台所に向かい、漸く事態に気付いたのである。亡き身が残した食が底をつきはじめているのだ。
二つの異形者を思う翁が、せめて少しでも憂き目に遭わせぬよう世を去る間際に漬けられた大根や筍、花梨の他、稗と山芋も数度かの食卓分を残すのみである。
恐れを抱くも、その解消する術はない。なぜなら、かの角の生えた少女は小日本の君を守る宿命が与えているからだ。
鬼子は遊び疲れた娘が昼寝を始める間合いを見計らい、心に雪を降らせ、荒びはじめた門を開いた。
鬼の子はとある希望を抱いていた。時の力は偉大であると、ひた思い描いていた。人々が鬼の存在を忘れているものであろうと信じたのである。
それは恐らく、長く幸せな日々が続いていた表れなのであろう。
豆は醤油と為るが如く、記憶は日々を以って思い出と為る。温もりの日々は良き麹となり、苦痛なる雑味を抜き取るが如く。
鬼はその真実を受け入れざるを得ず、そして浅はかなる己が心と酔いしれる己が行いを恨み、憎み、悔むのである。
鬼が来たぞ。鬼の子だ。
世の末を髣髴させる絶叫の嵐の中心に、賤しめの少女は位置していた。この世に生を授かるのちより、鬼子と日常は馬防柵によって遮られていたのだ。
鬼だ、逃げろ、喰い殺される。
その喧噪の中、か細き少女の声がどうして誰か耳に届こうか。どなたか、食べ物を分けては下さいませんか。その静かな声を、誰が鬼の声でないと理解出来ようか。
逃げ遅れの童に声を掛けると、気が動転したのだろう、鬼に向かって小石を振り投げた。それは弧を描き気味悪き角に当たる。
刹那一体は凍りついた。童の行為は身を生贄に捧ぐと同等の行為であるからだ。しかし、庇護ある鬼はただ温かく問うだけなのだ。童部君、食べ物を分けてくれないかしら?
こつり、それは何処からの投げ石であった。怒りを抱かぬ鬼と民々は認識し、やがて日頃の恨みを晴らすが如く、四方から八方から石や家具の篠突く雨が降り注ぐ。
然し少女は耐えた。仮に力を振るわば、再び糧を乞いることが出来ぬからか。否。力を振るわば、小日本の君に世の冷え切った風を直に浴びることになるからだ。
少女は耐えた。何時にや冷めぬ、言葉と塊の雨を被りて。
何事だ、騒々しい。
大通りから、蹄の音と共に響く声に、雨は俄に止んだ。
だが疵付いた鬼の子には、その声が光であるという淡き期待は元より存することはなかった。
薙刀を手にする下部を具し、馬に乗ずる者を見るなり、民衆は跪き、顔を地に付けた。鬼の子だけが呆然と騎馬を見つめるばかりである。
御殿様、その異形が鬼であるが故、何れかを喰らう前に懲らしめようと思った次第でございます。平伏した男が申し上げると、殿なる男はあやかしを睨み見つめた。
ほう、成程確かに鬼であるな。長髪の根より出ずるそれを凝視する。御殿様、鬼は私めらの家々を回り、糧を奪おうとしております。
違います、私はただ、とここで鬼の言葉は殿の言葉に掻き消される。ほう、その着物、よもや日本公の姫君の形見では在りますまいか。
背筋が凍る思いが巡り、小日本の顔が思われる。然し殿は形見と言い、詰まる所翁の早くにして世より消え入る実の娘の着物であろう。
己が喰らうか、我が恩師なる日本の大殿を。いえ、違います、私はあの方にとても御親切にされました、どうして恩を仇で返さなくてはならないのですか。
懸命なる弁解は却って人々を怪しませることになり、馬上の男は命じて屋敷を調べさせた。鬼の子は捉え抑えられ、引き剥がさんと為せば為す程束縛は強くなっていった。
邸宅の中には小日本の君が居るのだ。どうか隠れていて欲しいと願うも、寝惚け眼の娘を引き掴んだ男が門より出でる様を見て、全ての力が抜き取られていくのであった。
これ、も鬼の子だ。下賤なる男が桜の娘の腕を引き、釣り上げた魚の如く見せしめる。
やめて下さい、こにちゃんは、こにちゃんだけは、どうか放してやって下さい。
何を言うか、もはや動けぬ卑しき鬼の子め、己に何の権利がある、厄害は皆切り捨てるべきである。
こにちゃんだけでいいのです、どうか放してやって下さい、身を尽くしても、あの子だけはどうか。鬼の子は何としてでも小日本に手を出さぬよう乞いに乞いた。
身を尽くすか。殿の声が心なしか間延びしている。さすれば、我が召使いとして奉ずるか、千歳に渡りこの吾が身に仕えるか。
鬼の子は思い案ずる。小日本の他、然し己が身に何が在ろうか。決意は既に固まっていた。さしてこの子が救われるのであらば。
ねねさま、どうしてこにはこんな所で寝てたの。小日本の君が漸く事態に気付いた。
鬼子は娘の眠る間にこの場を去れればと思っていたものの、永遠の別れと桜の君の柔らかな髪を撫でた。小さな鈴が哀しい音を奏でる。
こにちゃん、ごめんね、私あの方の所に行かなければいけないの。やさしい口調で諭すと小日本は、ならこにも行く、と満開の笑みを咲かせた。
こにちゃんは来ちゃ駄目だよ。やさしく、慈しむようにその絹の髪を撫でる手が震え、その白い手に透明の珠が零れ落ちる。
ねねさま、どうして泣いてるの。その疑問に、男が嘲笑を交え言い放つ。この鬼は愛するそなたを救う為に御殿様に身を捧げるのだ。
ねねさまは、こにに身を捧げるって言ってくれたよ。その問いに、だから御殿様に身を捧げたのだ、と返す。
早くせよ。殿が部下に命じ、鬼子と小日本を引き離そうとするも、さようなら、と鬼子は自ら小日本から離れた。
ヤだ、ねねさまと一緒にいたいの。その声を、鬼子は敢えて聞こえないことにした。馬に乗せられた鬼子を追い掛ける小日本が殿の部下に取り押さえられるのを冷酷に見つめていた。
「だめぇ! みんな仲良くするの!」
小日本のその無力で悲痛な訴えに、二つの鬼は共に嗚咽を漏らした。
一つはただ純情なる心を持たせ続けてやりたかっただけであった。
一つはただ自らの幸せを与えてやりたかっただけなのであった。
それだけであった。ただそれだけを求め欲しているだけであるのに、どうして別つ理由などあろうものか。
ただ、謂れが在るが故、無力であるが故。
ただ、それだけである。
続くかもしれないし続かないかもしれないです。一応続くとしたら次の一連の投下で最終となりますが。
SSでしか表現できない私の、精一杯の主張です。
『こにぽん+かいてん=えがお』という素晴らしい曲の影響を多大に受けました。
勝手に使ってしまい、申し訳ございません。特に最後のこにぽんの台詞を。とても感動的でしたので。
263 :
老犬の見た夢:2010/12/04(土) 06:27:05 ID:doweKDqM
子供というのは残酷だ。
「ねえ、わんこはどうしてお姉ちゃんと結ばれなかったの?」
こんなことを突然訊いてくる。
しかしそれで心を揺らされるほど、彼の心はもう若くはなかった。
膝の上に座ったまま、不満げな顔でこちらを見上げている小日本に、首輪を嵌めたその老人は言葉を返す。深い皺の刻まれた相好に、穏やかな笑みを浮かべて。
「私があの方に求愛したところで、あっさり振られていたはずですよ」
出会った時から今に至るまで、寸分たりとも成長していないその幼い少女は、まだ納得しない。
「そんなことないと思うけどなぁ」
「いえ。私とあの方とでは、釣り合いが取れません」
老人――日本狗は否定した。半ば少女を納得させるため。半ば自らを納得させるため。
しかし少女はなお食い下がる。
「でもお姉ちゃんだって、わんこのこと好きだって言ってたもん」
それを聞いた老人は微苦笑を浮かべた。
「小日本様。それはお姉様のご冗談でしょう。少なくとも異性としての『好き』ではないはずです。……そもそも、そんな言葉を聞いたのはいつですか?」
「んーとねえ……」
しばらく虚空を見つめて記憶の襞をまさぐっていた少女は、曖昧な調子で言った。
「たしか、四回くらい前の冬だったかなあ……」
丁度四年前か。
余りにも遠すぎる過去の話だった。
その後別の話題に移ったが、次第に口数の少なくなっていった小日本は、しばらくして寝息を立て始めた。
日本狗は、限りない生命力と未来を内包した少女の温かな身体を抱え上げる。すっかり髪の白くなった老犬は居間を後にして、少女を寝室へ運んだ。
二組の布団が敷かれた和室。小日本をその一つに寝かせ、彼は主たちの寝間を後にした。
彼女の姉はいない。先ほど出掛けてしまったのだ。今宵もどこかで、鬼と戦っているのだろう。そしてこれからも。
縁側に出た老人は、締め切られていた雨戸を開けた。そこには慣れ親しんだ景色がある。
月光に照らし出される寂しく枯れた山が、まるで自分のように感じられた。
いつまでも変わらず若々しい彼女たちと、醜く老い果てた自分を目の前の光景に当て嵌めていた。
幼い頃は早く彼女に追いつきたいと、そればかりを願っていた。狂おしい程に。
果たしてその願いは叶った。彼はこの家の主たちとは明らかに違う速度で成長し――そして老いていった。
種族として与えられた生命の長さに差がありすぎた。一夏で息絶える蝉の成虫が、人間に恋をするようなものだ。
寿命という問題は、彼の想いを粉砕するのに充分な障害だった。
むしろ彼女への想いが強かったからこそ、伝えるわけにはいかなくなったと表現した方が正確だった。
仮に互いの想いが通じ合ったところで、いずれ彼女の枷になるのは明白だった。
自らの衰えを感じ取ってからの彼は、徹底して主従関係の一線を引き続けた。当時は小日本にはひどく詰られた。そしてそれ以上に鬼子と衝突を繰り返した。
雨戸を閉めた彼は、居間に戻る。
それほど遅い時間ではない。もう少し鬼子の帰りを待とうか、という思いが瞬時頭をよぎったが、結局彼は自室で眠ることに決めた。
明日だけは、何としても早く起きなければならなかった。睡眠時間が日増しに増えている彼にとって、早朝に起きるというのは非常に難しい課題だったのだ。
それに――
顔を見れば、未練が生まれる。
264 :
老犬の見た夢:2010/12/04(土) 06:30:17 ID:doweKDqM
明くる早朝。着なれた灰色の和服に袖を通した日本狗は静かに玄関の戸を開け、外に出た。
薄暗い空には雲一つなく、立ち上った冬の陽は、薄絹のような柔らかさと暖かさで彼の身体を抱き包んでくれるだろう。
これ以上ない好天になるはずだ。しかし彼には、ひどく残酷な現実に思えた。早く行けと、空に急き立てられているような気がした。
足音を忍ばせながら、彼は生涯の大半を過ごした家を離れる。荷物など何一つなかった。欲している物は全てあの家に置いてきた。
持ち出すことができたのは、想い出だけだ。
朝靄の漂う山林を、無心で歩き続ける。当てなどなかった。とにかく、この山から離れたどこかへ――
衰えた聴覚が、自分以外の足音を察知した。
行く手の先だ。このまま進み続ければ顔を合わせる。獣道から更に外れた彼は、木の陰に身を潜めた。
一定の間隔。明らかに歩き慣れた者の足運びだった。
恐怖はあった。しかし微かに期待している自分に気付いた彼は、それ以上の失望を味わっていた。何もかも断ち切って出てきたつもりなのに、と。
規則正しい足音が止んだ。それほど近くはない。しかし遠くもない。
「――最初に断っておくけど、これは徹夜で鬼退治をしてきた者の独り言だからね」
涼やかなその声を聞いただけで、心拍数が上がっていくのが判った。
「あなたが決めたことなら、私は止めない。元々口出しする権利なんて持ってないもの」
彼女の姿を見ることを自制するので、彼は必死だった。見たら終わりだ。
「でもせめて、理由くらいは聞かせてほしい」
ひどく迷った末、彼は口を開いた。
「……誇りや尊厳、それに敬愛という価値観を多少なりとも持っているなら、飼い主に死に目を見せたいとは思いません。猫と同じです」
「あなたは狗でしょ」
呆れたような声だった。
「今なら猫の気持ちが判ります」
しかし彼自身は、ひどく真摯に胸中を吐露したつもりだった。これ以上の醜態は晒せない。自分の余命が幾許もないことは、自分が一番知っている。
「小日本は知ってるの?」
「いえ。何も」
「一生恨まれるわよ」
「気にしていません。私に残された生など長くはない。その点に限っては、自分の欠点に感謝しています」
「私も恨む……と言うのは違うわね」
鬼子は訂正した。
「今だって恨んでる。気を使ってくれてるのかもしれないけど、はっきり言って有難迷惑もいいところ」
「私の我がままです。そしてその我がままもこれが最後なので、どうか見逃して下さい」
溜め息だけが返ってきた。
「あなたがたにとっては短い時間に感じられたかもしれませんが、私があの家で過ごした時間は一生に匹敵します。
その一生に近い間、あなた達と共に過ごせたことは、私の生涯で一番の幸福でした」
「……こんなに腹が立ったの、生まれて初めての経験かもしれない」
殺気だった声が出たのも一瞬でしかなかった。
「だからこの場で、あなたに呪いをかける」
そして女は、淡々と告げた。
「私はあなたのことを愛していたわ。いえ。今でも愛してる」
「……偽りの言葉では、呪いになりませんよ」
「いいえ。この呪いは必ず効力を発揮する。なぜなら私の言葉は真実だから。見た目も寿命も関係ない。
変質するという特性、あなたの言うところの欠点も含めて、あなたという個体そのものに私は惹かれたんだから」
僅かに早口になって鬼子は続ける。
「小日本だって同じはずよ。あなたがどんな姿形の時だって、あの子があなたへの接し方を変えたことはないもの。
一人で悩んで勝手に出て行って、残された者の気持ちも汲んでくれないの?」
「私の気持ちも汲んで下さい。最期の日に、小日本様に目の前で泣かれるのは、死ぬことよりも恐ろしく辛い」
「……待ってるからね。いつまでも」
最後の言葉は、更なる呪いだった。
そして足音だけが遠ざかってゆく。
それが聞こえなくなる頃には、手足はすっかり感覚を失っていた。もう自由には動かせないかもしれない。次に眠れば、二度と目覚めない可能性もある。
空を見上げた。相変わらずの晴天だ。
――雲が見たい。
痺れた手で鬼子に貰った首輪を外してその場に置くと、覚束ない足取りで一歩踏み出す。
この空を、ほんの一部でも覆ってくれる何かが見たい。そうすれば、少しは救われるような気がした。
今の自分には、このくらいちっぽけな夢が丁度良い。
夜も明けきらぬ冬の朝、一匹の老犬が旅立った。
おわり
>>260 うん。おもしろかった、けど・・・
>「乳上にあのような約束をしましたのに、一体何をしているのでしょうか」
コニ「ヒワイドリみーつけたー」
>>260-262 (ノД;)うおお〜鬱展開だが続編に期待します〜
>>263 プ ロ 降 臨
もしくは文体がプロのレベル。
プロに撒く豆もないのでとりあえず乙!
267 :
266:2010/12/04(土) 18:56:02 ID:vNVG1RO/
>>263-264 すみません、感想もなにも書いてなかった……。鬼子たんのツンデレに激しく萌え散りました、なんと悲しい恋か……。
しかしなんという結末。ぜったい小日本ルートだと思ってたのに。
花開く いのち息吹けど 鶯の なく声聞かで など失す父や
ふわふらる 夢の中見る 桜着を はじめてくれた やさしい笑顔
腰屈みの翁が儚くなり、幾日が経ったのであろうか。悲しみが流るには短すぎ、桜が散るには長すぎる時の間をこの屋敷の中で隔て生きていた。
小日本が独り中庭で鞠をつく。鞠が地につく度、娘の髪に結わえられた鈴の音が耳に入る。鬼子はその様子を眺め、いつしか山菫の香の籠る空を仰いでいた。
今日も桜の姫は美しき鬼を鞠つきに誘っていたのだが、彼女は断った。
しばし不満を浮かべた気色を見せるも、やがて諦め、独りで鞠遊びを始める。しばらく遊んだのちに、疲れて寝てしまうことであろう。
「父上にあのような約束をしましたのに、一体何をしているのでしょうか」
幼き鬼を守らんとする由を誓ったはずであったのだが、結局少女は何一つとして尽くすことはしてやれず、逆に鞠をつく娘に気を遣わせているだけなのであった。
せめて食事だけでもと台所に向かい、漸く事態に気付いたのである。亡き身が残した食が底をつきはじめているのだ。
二つの異形者を思う翁が、せめて少しでも憂き目に遭わせぬよう世を去る間際に漬けられた大根や筍、花梨の他、稗と山芋も数度かの食卓分を残すのみである。
恐れを抱くも、その解消する術は無い。何故なら、かの角の生えた少女は小日本の君を守る宿命が与えているからである。
鬼子は遊び疲れた娘が昼寝を始める間合いを見計らい、心に雪を降らせ、荒びはじめた門を開いた。
鬼の子はとある希望を抱いていた。時の力は偉大であると、ひた思い描いていた。人々が鬼の存在を忘れているものであろうと信じたのである。
それは恐らく、長く幸せな日々が続いていた表れなのであろう。
豆は醤油と為るが如く、記憶は日々を以って思い出と為る。温もりの日々は良き麹となり、苦痛なる雑味を抜き取るが如く。
鬼はその真実を受け入れざるを得ず、そして浅はかなる己が心と酔いしれる己が行いを恨み、憎み、悔むのである。
鬼が来たぞ。鬼の子だ。
世の末を髣髴させる絶叫の嵐の中心に、賤しめの少女は位置していた。この世に生を授かるのちより、鬼子と日常は馬防柵によって遮られていたのだ。
鬼だ、逃げろ、喰い殺される。
その喧噪の中、か細き少女の声がどうして誰か耳に届こうか。どなたか、食べ物を分けては下さいませんか。その静かな声を、誰が鬼の声でないと理解出来ようか。
逃げ遅れの童に声を掛けると、気が動転したのだろう、鬼に向かって小石を振り投げた。それは弧を描いたのち、気味悪き角に当たる。
刹那一体は凍りついた。童の行為は身を生贄に捧ぐと同等の行為であるからだ。しかし、庇護ある鬼はただ温かく問うだけなのだ。童部君、食べ物を分けてくれないかしら?
こつり、それは何処からの投げ石であった。怒りを抱かぬ鬼と民々は認識し、やがて日頃の恨みを晴らすが如く、四方から八方から石や家具の篠突く雨が降り注ぐ。
然し少女は耐えた。仮に力を振るわば、再び糧を乞いることが出来ぬからか。否。力を振るわば、小日本の君に世の冷え切った風を直に浴びることになるからだ。
少女は耐えた。何時にや冷めぬ、言葉と塊の雨を被りて。
何事だ、騒々しい。
大通りから、蹄の音と共に響く声に、雨は俄に止んだ。
だが疵付いた鬼の子には、その声が光であるという淡き期待は元より存することは無いのであった。
薙刀を手にする下部を具し、馬に乗ずる者を見るなり、民衆は跪き、顔を地に付けた。鬼の子だけが呆然と騎馬を見つめるばかりである。
御殿様、その異形が鬼であるが故、何れかを喰らう前に懲らしめようと思った次第でございます。平伏した男が申し上げると、殿なる男はあやかしを睨み見つめた。
ほう、成程確かに鬼であるな。長髪の根より出ずるそれを凝視する。御殿様、鬼は私めらの家々を回り、糧を奪おうとしております。
違います、私はただ。とここで鬼の言葉は殿の言葉に掻き消される。ほう、その着物、よもや日本公の姫君の形見では在りますまいか。
背の筋が硬直し、小日本の顔が思われる。然し殿は形見と言い、詰まる所翁の早くにして世より消え入る実の娘の着物についてを物語っているのであろう。
己が喰らうか、我が恩師なる日本の大殿を。いえ、違います、私はあの方にとても御親切にされました、どうして恩を仇で返さなくてはならないのですか。
懸命なる弁解は却って人々を怪しませることになり、馬上の男は命じて屋敷を調べさせた。鬼の子は捉え抑えられ、引き剥がさんと為せば為す程束縛は強くなっていった。
邸宅の中には小日本の君が居るのだ。どうか隠れていて欲しいと願うも、寝惚け眼の娘を引き掴んだ男が門より出でる様を見て、全ての力が抜き取られてゆくのであった。
これも鬼の子だ。下賤なる男が桜の娘の腕を引き、釣り上げた魚の如く見せしめる。
やめて下さい、こにちゃんは、こにちゃんだけは、どうか放してやって下さい。
何を言うか、もはや動けぬ卑しき鬼の子め、己に何の権利がある、厄害は皆切り捨てるべきであろうものに。
こにちゃんだけでいいのです、どうか放してやって下さい、身を尽くしても、あの子だけはどうか。鬼の子は何としてでも小日本に手を出さぬよう乞いに乞いた。
身を尽くすか。殿の声が心なしか間延びしている。さすれば、我が召使いとして奉ずるか、千歳に渡りこの吾が身に仕えるか。
鬼の子は思い案ずる。小日本の他、然し己が身に何が在ろうか。だが決意は既に固まっていた。さしてこの子が救われるのであらば。
ねねさま、どうしてこにはこんな所で寝てるの。小日本の君が漸く事態に気付いた。
鬼子は娘の眠る間にこの場を去れればと思っていたものの、永遠の別れと桜の君の柔らかな髪を撫でた。小さな鈴が哀しい音を奏でる。
こにちゃん、ごめんね、私あの方の所に行かなければいけないの。やさしい口調で諭すと小日本は、ならこにも行く、と満開の笑みを咲かせた。
こにちゃんは来ちゃ駄目だよ。やさしく、慈しむようにその絹の髪を撫でる手が震え、その白い手に透明の珠が零れ落ちる。
ねねさま、どうして泣いてるの。その疑問に、男が嘲笑を交え言い放つ。この鬼は愛するそなたを救う為に御殿様に身を捧げるのだ。
ねねさまは、こにに身を捧げるって言ってくれたよ。その問いに、だから御殿様に身を捧げたのだ、と返す。
早くせよ。殿が部下に命じ、鬼子と小日本を引き離そうとするも、さようなら、と鬼子は自ら小日本から離れた。
やだ、ねねさまと一緒にいたいの。その声を、鬼子は敢えて聞こえないことにした。馬に乗せられた鬼子を追い掛ける小日本が殿の部下に取り押さえられるのを冷酷に見つめていた。
なお暴れる幼き子に舌打ちをし、下部は小君を突き飛ばした。然し少女は立ち上がり、妨げにも負けず鬼子との距離を縮めようとする。
「だめぇ! みんな仲良くするの!」
小日本のその無力で悲痛な訴えに、二つの鬼は共に嗚咽を漏らした。
一つはただ純情なる心を持たせ続けてやりたかっただけであった。
一つはただ自らの幸せを与えてやりたかっただけなのであった。
それだけであった。ただそれだけを求め欲しているだけであるのに、どうして別つ理由などあろうものか。
ただ、謂れが在るが故、無力であるが故。
ただ、それだけである。
「鬼だ!」
その雄叫びは二体の鬼に対して指された蔑称ではなかった。西へ続く大通りから農夫が足を引きずり、何度も鬼の名を叫ぶ。
近付くにつれ、その姿に思わず悲鳴が上がる。農夫の衣には大量の血潮と泥で穢され、その左足首はもはや脹脛から下げている飾りのようであったのだ。
「みんな食われちまったんだ!」
途端鬼子を目とする野分きは崩れ、民は散り散りになる。
「己が親身か」
殿は馬を止め、気魄により瞳に血を充たし、若き鬼に啖呵を切り責めた。
「いえ、父も母も人身の者です。決して鬼などではございません」
首を大きく横に振るも、如何わしい視線を耐えることはしない。然しながら、何故にかの少女は親が鬼ならぬ者であると断言出来たのであろうか。記憶はとうに失せているのに。
人々は我先にと走り惑い、弱き者は捨てられ、父も母も同胞も全て見捨て、誰彼も出し抜く者もまた躓けば踏み潰される定めとなる。
「どうして、皆さんは逃げるのですか?」
「鬼の身が何を言うか。鬼の現れたる地は、並べての茅は煙と為り、人は骨すら残らず失せるのだ。我が豪勢もここで尽き果てるのだろう」
殿までもが無常に打ちひしがれるのであれば、余程の事態でなければ無かろう。
小日本の泣き声は未だ止まず。鬼子は、あの子だけでも守らねば、否、あの子はそれを望まず、皆の平安をこそ祈っているのだと思った。
例え、守るべき皆がその身に害を齎す者であっても。いや、小日本には分かっているのかもしれない。何れかが先に心を開かねば、新たな出会いは始まらぬことを。
日本鬼子は、この身に決意を為した。
「御殿様、私が怨をお祓い致しましょう」
「何を言うか、鬼の身よ。手合いを得て我々を――」
然しそれ以上の事は言えなかった。燃えたぎる異形の暁紅なる眼差しに囚われ、やおら頷いた。
「行くが良い」
脂汗を垂れ流す殿は、辛うじてその言葉を述べるまでであった。
騎馬より舞い降りし少女は部下の薙刀を取り、日の沈む標となるその道を見つめる。清らなりて冒し難き姿を曝け出し、由由しき灯火と成り、雷光の如く飛び立った。
その後の鬼子の記憶は存しない。詰まる所、何処に新たなる鬼が居るのか、如何にして鬼と交わるのか、甚だ覚えに無いのである。
その代わりと言うべきか、己が無意識の雷鳴に蘇るか、遠き海津見の潮染みた木板小屋を眺めていた。
神怒り鳴る黒き空の下、濁流の波を内被り、尚歩む二人分の足跡も、やがて消え失せる。屋根壁の剥がれた家に入り、その場で母子は力尽きた。
父は先に旅立ち幾日が経つ。足止めの差も縮み、残されし術も僅かである。その為か、母は撫でし子を慈しみ抱く。その温もりを、震えを、微かに感じ取った。
ごめんね、ごめんね。と掠れた声で囁くも、波雨風の轟きに掻き消される。どうして泣いてるの。幼き子は尋ねるも、母は抱く力を強めるのみである。
一時経ち、浜に似合わぬ蹄の音が混ざり聞こゆ。
荒波に 易く消えらる 海女の小屋 物はあらねど 咲かなむ撫子
古板の 波に呑まるる さまなれど 母海なりて まもりたるのみ
あなたの返歌はまた会えるその日までと言い、使えぬ竈の中に子を隠し、嵐が止むまで、きっと出るなと念押しし、母は篠突く雨の外へと出た。
鬼の子は何処や。低き男の声がするも、母は動じず答える。ええ教えられませんわ。
さならば詮索するのみ。男は命じて下部を小屋に入らせるも、母は淡々と言う。貴方がたは鬼を狩って祟りが起きないとでも思っていらっしゃるのですか。
子は、その言葉に心に罅が入った。母は常に愛娘を異形では無いと庇護し続けて来た。その存在が瞬く間に変貌するは、砂に染み込む雨の如く、子の心を毒す。
私が全ての責任を追います。この身を貴方様へ捧げましょう。それは何時の日にか耳にした言葉であった。
今、鬼の子は全てを悟った。母の歌の心も、幼き鬼子の胸を潰す僻事の故も、母の強い慈しみの情も、また自身が小日本に対して同じ過ちを為さんとしていることも。
輪廻は生死の流転であると思っていた。然し禍は常に現世を流れ回っているのだ。そして流れを止めるべきは、今でしか無いのではなかろうか。
あわよくば幸ある流れへと。例えるならば春夏秋冬循環の如く。
歩むべき道は一つ。例え嵐の道であろうと、高潮の道であろうと、力強く前へ行く決心を固めた。
呼ぶ名が聞こえ、そのまま鬼子は両の眼を開く。
「ねねさま!」
一声は、桜の衣を纏う小さな珠の子であった。
そこは腰折れの翁の屋敷の幾倍は在ろうと思われる大邸宅であった。自称して豪勢と抜かすも強ち間違いでは無かろう。
「我々が赴いたときには既に鬼の姿は無く、そなたが倒れておった。邪気も失せれば、まず悪しき鬼は祓われたと考えて良かろう」
「ねねさま、とても哀しそうな顔してたんだよ……」
恐らく消えし記憶を辿っていたからであろう。然しながら今はその俯く小君の様子の方が一層哀しみに満ちている。
「ごめんね、こにちゃん」
ううん、と首を振り、大丈夫と満面の笑みを浮かべるを見て、鬼子も微笑むことが出来た。幼子と出会う以前よりかはずっと自然な微笑みであった。
「ところで二方よ、今後は如何に致すか」
胡坐を掻く殿は身を乗り出す。
「恐れながら御殿様、私は貴方に身を捧げた身です。貴方の御心に随わねばなりません」
「これこれ何を申すか」
と殿は笑い、続ける。
「異形とは言え我が国を救った恩人に、どうしてその身を籠の内に閉ざす義理が在ろうか。……とは言え、屋敷に住むので在らば、身果てるまで何せずとも暮らす保障をしよう」
殿なりのお詫びなのであろう。然しながら、最早鬼子に必要の無い物なのであった。
「旅に出ようかと思います。この世の鬼に怯える人を、人に怯える鬼を、その恐れから、その不安から芽生える卑しき心を散らしていきます。心に棲まう鬼を祓う旅です」
そして、何処にか住まう別れし母を見つけるために。
「……こにちゃんも、一緒に行く?」
そして、この小さな可愛い娘と共に。
「うん!」
その二人の光景に、殿は感慨深い面持ちで二人を見遣り、そして紙を引き寄せるとその場で歌を書き付けた。
萌える葉は いづれか散りて 地に伏せど 土に還りて 便りぞ待たむ
萌える芽に 咲ける桜も 所狭く 人の心を いざ開かなん
「旅出の安全と成功を祈ろう。さあ、持って行きなさい」
と、殿は二人にそれぞれの歌を渡すのであった。
――こうして二人は世の平安を為すため、途方なる旅を続けたのだが、それはまた別の話なのであろう。もはや私の口から語るものでは無いからである。
274 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/05(日) 04:46:21 ID:SKYLfSK2
刀が、主席の腹を貫通していた。
刀を抜かれた後、主席はもの言わずに倒れ、2、3回けいれんで身体を震わせ、絶命した。
血塗られた刀を静かに鞘に納める。
「あ、あなたは……日本鬼子様!!」
村人は思わず叫んだ。
「……」
日本鬼子は一瞥することもなく、風のごとく姿を消した。
その日。
中国共産党と中華人民共和国は滅亡した。
まもなく、国連の手により、中華連邦共和国臨時政府が成立した。
臨時政府は人民解放軍、及び武装警察を解散させ、武器を全て没収した。
さらに、旧共産党、軍、武警の幹部らが逮捕され、裁判が始まった。
かつての東京裁判そのものの、『北京裁判』である。
判決は一つ、死刑しかない。形だけの裁判だ。
被告全員には銃殺刑場が待っている。
日本政府はかつての仕返しとばかりに、北京裁判を支持し、「全員死刑にすべし」とのコメントを出した。
それだけではなく、後ろ盾を失った北朝鮮、そして韓国にネチネチといじめのような態度を取り始めた。
在日特権を全て取り上げ、経済封鎖を行い、不法占拠されていた竹島を自衛隊で強制的に住民を排除して奪還した。
国民からは「あれだけ媚びていたくせに、卑怯者め!」と非難の声が上がったが、「命令されて従っていただけだ、
中国と南北朝鮮に謝罪と賠償を要求する」と、
かつての中国そのものの態度を取った。
国民はさらに怒り、数百万人が嫌がらせの電話、メールを送りつけた。
代議士が、次々と闇討ちされて重傷を負った。
あわてて政府は「言い過ぎた、撤回する、我々は卑怯だった」と謝罪した。
その一方で、民間人による中国人、朝鮮人狩りが行われた。
終戦直後の仕返しだ。
パチンコ店が壊された。サラ金が襲われた。
『正義の制裁』のもとに中国人、朝鮮人に暴行が加えられた。
あまりに数が多過ぎて、警察もどうしようもなかった。
ガス抜きに、サラ金、パチンコ店のオーナーを脱税で次々と逮捕したが、焼け石に水だった。
これから中国は、日本はどこへ向かって行くのだろう。
それは、誰にもわからない……。
その後の日本鬼子を見た者は誰もいない。
良く似た女を見たという証言はあるが、定かではない。
忘れた頃、次に現れるのはどこだろうか。
ロシア? 朝鮮? アメリカ? それとも……日本?
劇終
×終戦直後の仕返しだ。
○終戦直後の仕返しの、そのまた仕返しだ。
まとめwiki編集を始めます
とりあえず、挨拶まで
>>278乙です。もうすぐガンダムのやつが完成しますがあまりの素晴らしさに早くwikiに載せたくて堪らなくなってもちょっと辛抱してください、私個人として納得いくまで編集したい所存でございますので(キリッ
明日は1個か2個ここのをまとめwikiに載せれるように頑張る
まとめwiki更新しました
>>280 本当にご苦労様です。裏方極まる仕事を……。
SSを書いたり、絵を書いたりするよりも私は鬼子に貢献しているんじゃないかと思います。
感謝しております。
つづき
ヒワイなるヤイカガシの和服は天上の着物のように金色に染まり、風にたなびく帯の上をきらきらした光の粒が流れていった。
怪しげな火のついた二本の柊を両手に掲げると、あたかも背中の翼がもう一対増えたかのようであった。
「受けてみよ、我がヒワイなる柊剣技『二の舞ヤイカガシすぺしゃる』!」
(ぐぬぬ〜っ! あとでミーティングだこのヤロウ!)
申し訳程度にヒワイドリの名前を組み込んだ技名を叫ぶと、ヒワイなるヤイカガシは四枚の翼から虹色の尾を引いて急降下した。その速度はもはや目に追えない。
日本狗は猛り狂う虎のように毛を膨らませ、ハリセンと巨剣を持って迎え討った。
「小癪な……私の本気を見て生きていられると思うな!」
凄まじい空中戦が繰り広げられ、半径百メートルの範囲でほぼランダムに火花が降り注いだ。
鬼子さんは目をぱちくりしてただ空を見上げるばかりだ。
展開が早すぎて目に見えないが、どうやら日本狗は不利な状況に立たされているらしい。
まもなく日本狗が仲間を呼ぶ声が聞こえた。
「小日本!」
天狗の面を被った犬がいっしゅん空に現れ、白いものを放り投げてまた消えた。
小日本に向かって投擲されたそれは、狐の耳に当たってふよんと跳ね返ると、まるで意志を持っているかのように半泣きだった彼女の顔を覆った。
「ふやっ!」
お面を探していた小日本は、電気が流れたように背筋がぴんと張った。
しかしそれも束の間、間もなく姿がかき消えたかと思う程の速さで、常識では考えられない高さにまで跳んでいた。
だが、宙にあったのはもはや先ほどの幼女の姿ではない。大人が入れそうな大きさの四角い箱だった。
「『葛籠抜け』……!」
その歌舞伎なネーミングの黒い箱が落ちてくるのを見ながら、鬼子さんは戦慄を覚えていた。
心の中にすむ鬼を見破る彼女の目が、その葛籠の中身の異様さに気づいていた。なにかとてつもなく嫌な物が入っている。
思わず後ずさりするが、日本狗の術のせいで元の場所に押し止められてしまう。
ばこんと葛籠の蓋を蹴り上げたなまめかしい脚が、縁をクリップみたいに挟んだ。
中に収まっていたのはキツネの白面を被った妖艶な女性がひとり。
「あらぁ、くぅちゃん、いいのかしらぁ? 私を呼び覚ましたりしちゃって」
三角形の耳と同色の金色の髪が葛籠の縁からこぼれ、白い肌が乱れた着物の裾から覗いている。まるで湯船に浸かったような体勢で空を見上げていた。
「なんだぁ、くぅちゃん、苦戦しちゃってるぅ。くぷぷ」
鬼子さんには相変わらず目に映らない上空の戦いを見ながら、そんな言葉を漏らした。
「あなたは……誰?」
小日本ではない、そう断定する事は出来なかった。なぜなら小日本が一気に成長したようにも見えた。小日本が七五三なら今の彼女は成人式だ。
白面をつけたその着物の女性は、鬼子の方を見やった。
軽くωの形を成した口元が不意に横にずれ、キツネの面の向こうから青い目が半分だけのぞいた。
「初めまして、日本鬼子さん。私が本当の小日本ですぅ」
285 :
J:2010/12/06(月) 23:13:14 ID:a9tc9/Hu
>>282 乙です! 特例があると新規の人が迷うと思うので、今回からはそうします。
近未来ぐるめレポート ――ネットで話題のお菓子<鬼子まんじゅう>――
日々激化する、お菓子のレシピ・データ(以下、レシピ)の開発競争。ご存知の通
りコンピュータ・ネットワーク(以下、ネット)から有料・無料を問わず入手できる
レシピを、ここ数年で爆発的に普及した家庭用調理器にセット、あとは材料さえあ
れば誰でも手軽に美味しいお菓子が楽しめるというものである。
本物の味をボタン一つで再現できる家庭電化製品は、発売されてから僅か数年と
いう短い期間にも関わらず、設置していない家庭を探す方が難しい状況だ。早くも
次の商戦をにらんで、メーカー各社は新製品の準備に忙しい。
鬼が島からネットを通じて発信されたレシピが、注目を浴びている。しかも、誰
もが無料で手に入れられるだけに、密かなブームとなっているようだ。
子供達を夢中にさせるレシピ。このぐるめレポート、第16777216回では、これを
取り上げたいと思う。どうか、最後までお付き合い願いたい。
まずは、この<鬼子まんじゅう>の誕生から始めたいと思う。
名前の由来は、鬼が島に住む子供を指す鬼子、という言葉が大きな関わりを持っ
ている。これはネット内での悪口に近い意味合いを持っているが、どうやらこの言
葉は、当の島の子供達にはピンとこないようだ。一時期盛んにニュース等で目にす
るようになり、一人の少年がネットで呼びかけた。
「よく分かんないけど、鬼子って名前で美味しいお菓子レシピ、作ろうぜ!」
流行りの家電に使用できるレシピを、素人の、しかも子供だけでどうにかしよう。
この声には、ある意味悪ふざけの要素もあったのだろうが、それを面白がったの
か、あっという間に参加者が1000人を越え、様々なアイデアと共にレシピが集まっ
てきた。それをネットという仮想空間で、議論をしている間に奇跡的なものが生ま
れた。
それこそが、<鬼子まんじゅう>なのだ。
本来、家庭用調理器のレシピは、企業が長年培ってきたノウハウなくしては、誰
もが納得する味を引き出すのは難しいとされている。ネットで販売されているもの
は、無料で入手できるものと比べて、格段の差があることが一般常識であった。
しかし、この<鬼子まんじゅう>はその常識を覆してしまった。少年の呼びかけ
で集まった素人の集団が、企業のレシピに偶然にも追いついてしまったのだ。
とは言え、企業は何ら慌ててはいないようだ。本音がどうかを伺い知ることはで
きないが、自分達の蓄積しているものにも自信があるのは勿論のこと、品質を維持
する難しさを熟知しているからだ。
実際に慌てたのは子を持つ親達である。少し古い言葉ではあるが、子供達に教え
ていたことが、美味しいお菓子の名前にされてしまった。しかし、動揺したと言っ
ても何か出来る訳ではない。自分の子供達が<鬼子まんじゅう>を頬張った笑顔を、
複雑な心境で見守るしかなかった。
そこで、この事態に懸念を持った人物が、ネットでの規制に乗り出した。
全国PTA総代を兼任する、阿久根議員である。検索エンジン沸騰に「お願い」を
して、<鬼子まんじゅう>を子供達から遠ざけたのだ。だが、それに負ける子供達
ではない、様々な手段が可能なネットの世界で、相変わらず入手しているようだ。
この<鬼子まんじゅう>、編集部でもレシピを入手、試食してみた。
一口で納得、「美味しいは正義」とはよく言ったものだと感心してしまった。
しかし、無料でレシピを入手できる弊害なのだろうか、類似品や模造品、所謂ま
がいものが出回る気配を見せている。くれぐれもご注意願いたい。
TEXT:名無しのSS書き
287 :
時の番人:2010/12/08(水) 17:22:33 ID:NoxVdC3y
初めてSS書きました。ど素人なので色々な所で文章がおかしな
所があるかもしれませんが、投下させてもらいます。
今回の投下は、第一章のみ。(一話)鬼子が登場するまでの世界観を書いてます。
部類は・・・現在の出来事なんですが、その世界を二分しています。
以下内容で多分解ってもらえるかと・・・。
*話しの流れ上、登場人物を勝手に増やしています。あしからズン!
物語の第一章をこれから二回に分けて投下します。
288 :
時の番人:2010/12/08(水) 17:24:07 ID:NoxVdC3y
〜第一章〜【日本鬼子(ひのもとおにこ)】 @
*言葉・漢字は本来の意味を曲げている所があります。
誰も知らない・・求めても何も出てこない・・遠すぎる過去を知る事が出来ない遙か昔、
闇夜に悪しき輩(やから、人・者の意)が産まれる。何処が主なのか、何が目的なのか
彼らの始まりはいつなのか・・・。
悪しき輩は心の光を喪った者に取り付き、その骸(むくろ、体の意)を侵食していく。
侵食された者はその姿を異なる形に変え、その全てが破壊されていく。破壊された者は
悪しき巣食う輩と成り果て、大地をさまよう。そして光を持つ者達を襲い、侵食し食いつぶしていく。
世は一つ・・・。大白狐(おおびゃっこ)は此の世を侵食していく悪しき輩を封じ込める為、
力のある民達を集めた。そして光の大儀の為、大白狐の命により彼等はこの世を
明(めい、光の世)と闇(あん、闇世やみよ)の二つに別けた。
力のない者達を光の世に集め、力のある者達は闇世に集めた。
光の世には人間の民(力のない民)が住まう。そして闇世には力のある民達が住まう。
その闇世に悪しき輩を封じ込め、殲滅する為に力のある民達が闇世を蠢く。
いつ、光の世に悪しき輩が侵食するか解らない為、光の世に神社、寺、祠などを建て、
そこに力のある狐(キツネ)の民などを住まわせた。
闇世は・・・力のある民達と悪しき輩が終りのない戦いを繰り返していた。
終りのない戦い・・・そう、力のある民達が心の光を喪った時・・・
悪しき輩に侵食されるからだ。
繰り返し・・繰り返し・・・。もうどれほどの月日が費やされたのだろう・・・。
時は経ち、光の世のとある神社から闇世の大白狐の元へ使者がまいる。
力は非常に弱いが、光の世に悪しき輩と思われる生き物が降りたと。
その原因を探るべく、鬼の民にその命を託した。鬼の民の長老は、その命を
今はまだ非力な日本鬼子(ひのもとおにこ)に託す。大白狐の使者が鬼子の元へ赴き力を与えた。
その力とは、光の世に出入り出来る力、神代呪文の一つ。
鬼子の命は、原因を探る事。光の世に悪しき輩が現れたら、その場で退治するか、
神代呪文を使って闇世に戻し、その輩を散らす。
そして今、2010年11月1日。日本鬼子は光の世に舞い降りた。
289 :
時の番人:2010/12/08(水) 17:26:02 ID:NoxVdC3y
*三回の投下になってしまうみたいです。
茜さす山里に一際大きな古びた神社がたたずむ。その屋根に鬼子は舞い降りた。
その出で立ちは、黒色の袴と鎧姿で右手に薙刀。長い黒髪。頭には般若面を付けていた。
そう、この姿は闇世での戦(いくさ)の姿。
鬼子は夕日に手をかざし、澄んだ笑顔でつぶやいた。
「わっああぁぁ〜。すっごく綺麗な夕日。これが光の世の風景なのね。」
鬼子は深く、深く身体に染み込ませるように深呼吸した。
「スー・・ハァー。」「うふっ!美味しい。」そう言って小さく笑顔を作った。
「だああぁぁ〜れじゃぃ!ワシの神社の屋根におる者は?」
と、突然耳を掻き切る大きなダミ声が飛んできた。
光の世に舞い降りて初めて耳に入った音が大きなダミ声。
ビックリした鬼子は足を滑らせ、神社の屋根を・・・。
【ドスン】鬼子はお尻から地面に落ちた。
ダミ声の主が鬼子に言った。
「お前さん、鬼の民じゃろ。尻から落ちるってよっぽど・・・。」
鬼子は痛そうな、そしてビックリした表情で顔を上げるとそこには、
「きび爺(狐火きつねびの爺さん)・・・きび爺〜。」と鬼子は
飛び掛かり抱きついた。鬼子はすぐさまきび爺の両肩を掴み、
激しく揺らしながら言葉を捲くし立てた。
「な、なんでココにきび爺が居るの?何で何で??」
「どうしてここに居るの??あっ、そういえば私が10歳の頃から姿が見えなく
なってたわ!どうして?どうして勝手に居なくなったのよ!?何でよ?
教えてよ!早く教えてよ!!!」鬼子は嬉しさと驚きの為、目に涙を溜めていたが、
きび爺の方は激しく揺さぶられ、脳震盪ぎみに【ホケ〜】っとした顔で言葉を
発する事が出来なかった。
290 :
時の番人:2010/12/08(水) 17:26:45 ID:NoxVdC3y
神社の客間。そこに鬼子は座っていた。きび爺は額に濡れたタオルを当て、布団に入り
横になっていた。
鬼子の前にはきび爺の妻、きび婆がすわっていた。
鬼子が申し訳なさそうな表情で言う。
「きび婆、ごめんなさい。つい・・・。」
きび婆が微笑みながら「ワシも爺さんも、狐様からの命により、ここの見張り番をしとるんじゃ。」
「ここの先代の狐火さまが亡くなられて、直ぐに命が降りたからなぁ。
突然で、寂しくなるから皆には口止めしといたんじゃ。」きび婆はお茶を入れながらそう言った。
鬼子は寂しそうな顔をしいた。
「そう。でもよかった。私ったらきび爺もきび婆も悪しき輩に襲われたんじゃないかって
思ってて・・・。本当に良かった。生きててくれて。」
お茶を鬼子に差し出しながらきび婆は言った。
「優しい子じゃのう。本当に心の澄んだ子じゃ。」
「ありがと、きび婆。でもね・・・」鬼子は立ち上がりながら拳を作った。
「私、この光の世に悪しき輩を退治しに来たの。大白狐様の命だもの。
これからは心を強く、本当の鬼にならなきゃ!」
「ふぉっふぉっふぉっ。鬼子がここへ来る事は狐様から聞いておったわぃ」笑い声が聞こえてきた。
ダミ声の笑い声だ。「鬼子、ワシからするともうお前さんは鬼そのものじゃ。」
右手で首を触りながらきび爺は言った。
鬼子がつぶやく。「ご・・ごめん」
きび爺が起き上がり、ちゃぶ台についた。「婆さんや、あれを」ときび爺はきび婆に言った。
きび婆が後ろから少し大きめの和紙包みを出してきた。それを鬼子にそっと渡した。
「ほれ、開けてみぃ」ときび婆が言った。
「え?何これ?」と言いながら鬼子は包みを開けた。
するとその中には、紅のとても綺麗な紅葉(もみじ)柄の着物が入っていた。
鬼子は立ち上がり、その綺麗な着物を広げて眺めた。
「うっわぁ〜とても綺麗な着物!どうしたのこれ?私に?」鬼子は目をキラキラさせながら言った。
きび婆は鬼子の姿を見ながら、
「その姿じゃ光の世では目立ちすぎる。それを着るとえぇ。まぁ着物姿でも目立つがな。
その着物は狐様の抜け毛を編んで作ったものじゃ。とても軽くて強く出来とるわ。」
きび婆は指を差しながら、「その網状のものはサラシの上、腕、足に付けるとえぇ。それは
鬼神様の角の繊維で編んどる。悪しき輩の爪でもそれを裂く事ができんからな。」
鬼子の目が涙で輝いてた。「うぅ・・ありがと。きび婆」
鬼子はその着物に着替えて、きび爺・きび婆にこれからの姿を披露していた。
光の世の夕日が、静かに大地に沈んでいく。その光が鬼子達を包んでいた。
〜第二章〜【奇妙な仲間?】近日投下。いつになることやら。
えと、ちょい、作ったので投下させてもらいます
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' 小 あ い 年
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ ( 日 そ つ と も
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ γ ハ゜ハヽ 本 ん も い 暮
| | ヽl| // }| ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ は で の う れ
| :! || | | ,/ ,' レ,l *゚ヮ゚ノリ 〜♪ : い 所 あ よ
| :{. || | |/ / ⊂| ̄ハy/ ヽ、 : た で る う
l !|| | | / .L.ノ三三l/つ 日 か
ヽ ヽ.|/ // <_、__*_ゝ ○ ’
_,r)_ j (_,( ∪ ∪ l i
l'vヘ
ハ ┌( ;/ ト, ,、 rヘ r'^ナrジ-z 奇
__}ヽ,__ (ヽ/ス_r^フしz,り い)n/イr〜^′ ウ 妙
'っヾ、r'__ |レ'ノ_C'入彳勺ソメろ_j/し-,_ サ な
`フ ヾ勹_| <_r' !|刀_」r''>||/⌒(_rヘ-‐' ギ
<_ゝし||フぅ(ひzメ__ゝ'l !'そ ( i / と
~zヾ|て 、l レ^ //'| |'~ γ ハ゜ハヽ  ̄ 出
| | ヽl| // }| ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ 合
| :! || | | ,/ ,' レ,l *゚ -゚ノリ う .∧ っ っ
| :{. || | |/ / γ∩○∩ ;へ | | っ 来 い
l !|| | | / /:;:;/三く、 \ (_人ヽ_ / ノ 。。∞o 年 か
ヽ ヽ.|/ // じ'<_、__*_ゝ\l γ ^ミミ liil 8 に ん
_,r)_ j (_,( ∪ ∪ 彡リリリリミ γ ̄ヽ 遅 い
i、-・∞ i. | O | れ か
厂 ヾ// ̄勹っ.ゝ_ノ て ん
 ̄ {ニニ∝} し ’
, ⌒ヽ . :. .:.:. , ⌒ヽ . :. .:.:. , ⌒ヽ . :. .:.:. k i lЛ ま
( ヽ⌒ヽ ( ヽ⌒ヽ ( ヽ⌒ヽ ∠ノ / /」 う
.∧ っ っ
: つ 興 ;へ | | っ
( : け 味 (_人ヽ_ / ノ
γ ハ゜ヽ : た 本 γ ^ミミ
ヘ*( rノリノ (V) : 小 位 彡リリリリミ
ノレ,l *゚ -ノリ 日 で i、-・∞ i.
/;::;| ソy∩ 本 後 厂 ヾ// ̄勹
/:;:;/つ く、\ は を  ̄ {ニニ∝}
じ'<_、__*_ゝ\l , ⌒ヽ . :. .:.:. , ⌒ヽ . :. .:.:. k i lЛ
⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y´` (_シ (_ソ ( ヽ⌒ヽ ( ヽ⌒ヽ ∠ノ / /」
)
間 あ γハ゜ハ ヽ
に っ ⌒*(ノ(V) リ>*⌒
合 .∧ リl ゚д゚* ノリ
え ;へ | | /ハy/ ヽ、
っ (_人ヽ_ / ノ ヽ.ノ三三l/っ ))
!! γ ^ミミ レ、___*_ノっ
彡リリリリミ ⌒Y⌒Y´` ∪ 从_//キキッ
──────へ i、-・∞ i.√ ̄゜=-────────────────
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γハ゜ハ ヽ ま
⌒*(ノ(V) リ>*⌒ っ
/ リl ゚д゚ *|\ て
\ヘソy//|;:;:;:ヽ、、 !
<{三三\_」
⊂○)イ*:;;:ノ \
ヽ、_,人
──────へ √ ̄゜=-────────────────
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ヽ_,/::::.. | ゚ || ) | |i /ヽ /⌒ヽ
;;;/ :::;;;/ |∩ γハ゜ハ ヽ∩ | 「T | _l,_ 穴
/ ̄l,::;;;/ ゚ /(ノ (V) リ>/\ |・ | ̄ヽ、/| l_ に
.::::| :::ヽ く リl ゚д゚;*ノリ/;:;:;| |i ソ⌒√ /ヽ 落
゙\:ヘ_/ l \:;;ハy// |;:;:;::::*」 |,.-r '"l\,,j^\_ ち
/ l:::\+|*。 | ヒ三ミ}じ|√ /ヽ /⌒ヽ/ /! :
ヽ_,/::::.. | | ⊂=○)イ*:;;:ノ | 「T | _l,_,,/ :
;;;/ :::;;;/ ゚l o ゚l | ̄ヽ、/| l_
/ ̄l,::;;;/ ゚l ゚l ゚・ ゚ |||i ||,.-r '"l\,,j^\
|
| ヒ
| ュ
| |
| | そ 落
| | の ち
ン 先 た
) は
γハ゜ハ ヽ :
⌒*(ノ(V) リ>*⌒ :
リl ゚- ゚* ノリ ボスンッ
l .\ ! .゙'l /ハy/ ヽ . / !
l, ゙ゝ、 .| ヽ ヽ.ノ三三l/っ,/゛ .,! /!
i,.l `l゙ .ヽ ⊂○)イ*:;;:ノ.r'" !/ |
!`ヽ i′ .゙'ィ"゛-''''''....、 ゙゙ll,゙. ,..‐" .!
.ヽ .ヽ、 l .\ .-=@ヽ \ . / .!
..l. .゙'-,| `'、. ´ヽ .,/ .| ._,,,,,,,,,____,
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ヽ `'''-ミ、. ..l ゙ / / ../
.\ `ゝ l, ゙l、 / ,/
爻 _,,-‐t‐''⌒ハ、 _,,, -‐''三]
k;;:、 (,, メ μ ,,´`, -―一''''""~ _,, -‐/::::\ /
、,\;;:: 人人キ,, / --一'''"~ ̄ ,/:::::['i']::::\へ、 /
ニヾ \BB Y,/ /ii[]:::[_,!_]::[];、\ Yy,,.
-‐''` `.、:,:/ /ii;[ i ]~~[_!_]~[l];:ヽ \_
_,,、_,,,,/ ,/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ > ̄ヽ
ハハ从 /-―====r-===三'' 、-―――――――‐< 木ホYyy
(⌒)イト爻------( tイ-‐'´::::::::,\__,,,....、___,,,_____`」¥ Y
T,::爻Ooト[iiii]<,,. 、 キ[] i::::::::::::::::[]::::::::::::::[]=======|爻爻三三
ー- ''ー^ 二,, ー---┴, -‐へ-O-ー-〜〜-―へ`~~ ) ]、
━ 〓 ━〓 γハ゜ハ ヽ---―
場 微 な あ 見 ⌒*(ノ (V) リ>*⌒
所 不 妙 い る た (( リl ゚- ゚ = -゚ノリ ))
だ 思 に よ よ こ /ハy/ ヽ、
っ 議 う う と ιヽ.ノ三三l/っ
た な な な が <_、__*_ゝ
° ∪ ∪
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| _________ .| そ
'''',,'' ' '' ヤ お 笠 | \\\\\\\\\\ .| の
ス 茶 売 | |\{ニニiニニiニニiニニi|} | 世
ノヽ、 _ ) 会 り <・)こ>≡ l;l^~| |il| |i| |il| | | 界
) y ( / | ( で の .| ;:*.] |il| |i| |il| | | で
)ヽ|/( /ニニニニl | :: l.:] |il| |i| |i ) | | 繰
'''',,'' ) ( ( / 川へ丶、 ''''','' ' '' . |,,,'', ''' ' |i三|i三ill|i三ill|iγハ゜ハ ヽ | り
⌒\ ソ/ /< ( ⌒ ≪ ,|,,,,, , ⌒*(ノ(V) リ>*⌒ .| 返
|\ /  ̄ ( _ ノ'''''',,,'',, .|,, ''',,,,,.,'' リl ゚- ゚* ノリ | さ
─ > へ_ * <´────── .|───────── /ハy/ ヽ ───| れ
 ̄|/ ( ノ⌒て^ミ ̄ ̄∫  ̄ 〔 ̄ ̄ ̄〕ζO  ̄ ̄∬ ̄ ̄ヽ.ノ三三l/っ ̄ ̄ ̄\る
彡ノ 旦 _ (____)O_O_ 旦 ⊂○)イ*:;;:ノ.r \
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┃ ( ゚д゚ ) ┃ ( ゚д゚ ) ┃ ( ゚д゚ ) /´|\ \ 会
┃ ┌────.┐ ┃ ┌────.┐ ┃ ┌────.┐ | | .\ \ い
┃⊂│ ,.--.、 .│⊃ ┃⊂│ ,.--.、 .│⊃ ┃⊂│ ,.--.、 .│|'†_/| | | |\.\ だ
┃ │ { い }.| ┃ │ { ろ } | ┃ │ { は }.| |§_| | i\ | /⌒l よ か
┃ │ ` - .' .| ┃ │ ` - ' | .┃ │ ` - .' .| 〈从(;;;从リl \| | | く ボ
┃ │ | ┃ │ | .┃ │ | ξ゚д゚ノク)i l | | 分 ケ
┃ |_____! .┃ |_____! ┃ |___ /~ハξV/(§ハ l i | | か だ
┃ ∪ ∪ ┃ ∪ ∪ ┃ ∪ ;' /く ソニニニニ、\ l | | ら か
( | |_ ̄ | | \/ i | | な 冒
γ ハ゜ハヽ \人_人,_从人_人_人,_从,人/ | \ .| | ヽi l | | い 険
⌒*(ノ (V) リ>*⌒ ) 首を切っておしまい! ( | \ |〓/ヽ二二二二二 .| や だ
レ,l :゚ -゚ノリ /⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒ヘ | l\ \ lヽ,'´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄. | り か
γ∩y/∩ \| \ \l | | と
/:;:;/三く、\ .\ ...| | り
じ'<_、__*_ゝ\| |. ...| | °
∪ ∪ .\.|______.|
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| ..:::::| ( | :::::::| 界 こ
| ...:::| γ ハ゜ハヽ .| . .::::::| に に
| ..:::::| ⌒*(ノ (V) リ>*⌒ | .:.:::::| 戻 は
| ..:::::::| レ,l *゚ヮ^ノリ | .::: :::| れ
. | .:::::.:::::| ⊂| ̄ハy/ ヽ、 | .:: .::::| る
.| ..::::::::| .L.ノ三三l/つ | .::::::::| の
| ..:::::::::| <_、__*_ゝ | .::::.::::::| か
__ | ..::::::::::| ∪ ∪ | ..:::::::::::|_ ?!
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(;;;;;/ /| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\ \;;;;;;;;)
.(::/| ,| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|,\ \
wwjyw从wjwjjrjwwjyw从wjwjjrjwwjyw从wjwjjrjwwjyw从wjwjjrjwwjyw
\人_人,_从人_人_人,_从人_人,_从人_人,_人,_从,人/
) 不可思議な世界のこに、近日公開予定!!(
/⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒ヘ
) ノ
ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒ヽ、、_ノ⌒ヽ、、_ノ⌒ヽ、、_ノ⌒ヽ、_ノ⌒~
O
o
ムニャムニャ A^^A 、
γハ^ハ ヽ ZZzzz… !|リノ(((リ卯
.__ (ノ (V) リ| |、^ -^ .リlヾ|
( (⌒リl -。- *ノリ\ Lハ∨/^ヽリ
\ ヽノ(,,⊃⌒O〜 ヽ ノ::[三ノ :.'、
\ //;;;::*:::*::::⌒) (n_ノ;:;:;く; __ノ
( (:::;;:*::;;::*.:::*::( (: ::.".、(~っ
\\::;;;*::::*:::*::::\
\`〜ー--─〜' )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・・・・という、夢を観ているようです
ー終ー
というわけで、新しい話です。
…てか、次の話を作っている最中、このネタがぐわしっ!と心を掴んで離さなかったので、
つい、こっちを先に仕上げてしまった…むぅ、息抜きのつもりだったのに本末転倒だよ!
えー…一発ネタなので、続きとかはありません。あしからず。
298 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/08(水) 22:06:20 ID:7CF8f5p1
とりあえず導入を投下します。
続きは文量が中途半端ですが…
299 :
さまよい鬼子:2010/12/08(水) 22:07:24 ID:7CF8f5p1
そこは誰もが『帰りたい』
そして誰もが『帰れない』
世に流るる人達の誰もが通る『思いの場所』
ここから流れに身を委ねれば、きっとここが『帰る場所』になる。
…日本鬼子はそう信じて、『そこ』に飛び込んだ。
「なのに、どうしてこうなった…!」
日本鬼子は頭を抱えていた。
艶やかな黒髪を机の上に散らして、丸出しの角を隠そうともせず、ここに来た事を悔いていた。
鬼子を囲む人だかり、しかし彼女だけを置いてけぼりにして楽しげに笑っていた。
その邪気の無い笑顔がどれほど鬼子を傷つけているかも知らずに。
孤立無援の鬼子。
彼女が出来る事は天にお目こぼしを願うことしかない。
しかし残酷な運命は彼女を決して見逃さなかった。それはまるで天の声のように、人と鬼に審判を下した。
「シジ…それでは発表します。県立桜ヶ丘高校第48回生徒会選挙当選者 生徒会長 一年四組 日本鬼子 ひのもと、おにこ 得票数348票 次に副会長…」
どっと周囲が沸きあがる。教室全体が、いや、学び舎全体が震えるような歓声。
拍手と祝福の言葉が鬼子の上に絶え間なく降りそそぐ。
そしてその重さで潰れるかのように、
鬼子は机の上で崩れ落ちたのだった…。
301 :
さまよい鬼子:2010/12/10(金) 23:25:58 ID:TceD2MkI
─ここを去ろうか。
冬の乾いた風に弄られた枯葉が足元を過ぎ去っていく。宿命という流れは、相応しくない者を容赦なく押し流す。
鬼子は無力だった。
若葉萌える新緑色のブレザーも、チェック柄のスカートも、手こずらせてくれたネクタイですら、鬼子を凡庸な景色の一部へと溶け込ませるには到らなかったのだ。
「あっ!鬼子会長だ!」
「鬼子会長おはようございま〜す!」
「ヒュゥ…今日も鬼子会長マジ般若だぜ…」
校門をくぐった鬼子を出迎えたのは、敬意の雨。
しかしながら相応しくない賞賛はつぶてよりも「痛い」。
寒さに言い訳に身を縮め、やり過ごそうと足を速めたその時。
「ぐっ!?」
鬼子の背中に走る悪寒。それは背骨の髄を駆け上がり、頭蓋に響き、頭の角を疼かせる。
明らかな敵意は鬼子が振り向くより早く、『咆えた』
「とまれぇっ!日本鬼子おおぉぉぉっ!!」
鬼子は禍々しいオーラを放つソレに見覚えがあった。
見た目は生真面目な女子高生。それに似つかをわしくない怒気で三つ編みお下げを揺らめかせ、ズカズカ歩み寄る。
「塚居先輩。おはようございます」
「おはようじゃなぁぁい!!アンタのせいでアタシはアタシはぁぁっ!!」
今にも掴みかからんという勢いで鬼子に迫るのは元・生徒会副会長の二年生である。
塚居直子(つかいなおこ)生徒会長選挙で鬼子に圧倒的大差で敗れた『かつての会長鉄板大本命』
今は肩書きの無い一生徒だ。
「ねぇ、ちょっとあの人誰だっけ?」
「あぁ、あの人ね…アレ?名前出てこない…」
「バッカあれは会ちょ…じゃねーな。誰だっけ?」
周囲の人間の反応を忌々しげに睨みを飛ばしながら塚居直子は鬼子に迫る。
「アンタのせいでアタシの存在が空気と化してんのっ!!」
「そ、そんな事いわれても…」
─困っているのは自分も同じである…と言う事が出来たらどんなに楽か。
「アンタにわかる?一年の頃から『ッぽい』ってだけでアダ名が『会長』!高校デビューの夢を捨て去って生徒会に、奉仕活動にっ!青春の貴重な時間を注いできたのっ!!
それでも生徒会長として活躍してましたっていったら進学のとき有利かなぁ〜なんて思ってたから?元はとれると思ってたんだけど?アンタのせいでご覧のありさまだよっ!!」
んばっ!と手を広げ天を仰ぐ塚居直子。
その一瞬の隙を突いて鬼子は走り出した。
「もう限界っ!!」
後ろで塚居直子がなにやら喚いているのが聞こえたがそれどころではなかった。
角が疼く
枯葉が舞う
何が心に棲みつく鬼を祓うか。
塚居直子にとっての鬼は自分ではないのか?
302 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:27:05 ID:2A3LYgz7
これから日本鬼子 第二章「奇妙な仲間?」を投下します。
話しの流れ上、登場人物が増えてますが二次創作なので
あしからずん。
303 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:28:55 ID:2A3LYgz7
「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第二章〜【奇妙な仲間?】
初霜降りる肌寒い秋の朝。色鮮やかに染まった紅葉(もみじ)が風にゆれチラチラと風の中を泳いでいる。
鬼子は初めて光の世で目を覚ました。白絹仕立ての寝間着(ねまき、寝室で着る着物)姿の出で立ち。
遠い所で神社の鐘が鳴り、鬼子の耳に心地よく聞こえてきた。
上半身を起こし、「ふっわあぁぁ〜」と手を伸ばしながら大きなあくび。
誰も見ていない、静まり返った部屋。闇世ではあまり無い静けさだ。
もう一度身体を精一杯伸ばし大きなあくびをした。
「おまえ、乳無いな」
突然、そんな言葉が何処からか飛んで来た。
「え?」鬼子は、もちろん言葉は理解出来るが、その内容が理解出来ない。いや、内容は解るんだが
言葉が理解出来ない・・・。頭の中でそれがさまよっていた。
「え?」また鬼子が無意識に言葉を漏らす。鬼子の右側、ふすまの手前に何か居る。
「おまえ、乳無い」
鬼子は声のする方に恐る恐る目線をやると、鶏のような鳥が鬼子の方を見て、
羽で鬼子の小さな胸を指差しながら喋っていた。
・・・じっとお互い見つめあう・・・。この空間だけ、とても静かに空気が張り詰めていた。
http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=352 挿絵
「キャアアアアァァァァァァァ〜」鬼子の大きな叫びが部屋を揺るがす。
【バッ】っと足元のふすまが開いた。きび婆が血相を変えて鬼子の部屋に駆け込んできた。
「なんじゃ?何事じゃぁ?」きび婆はそばまで飛んで行こうと鬼子の方に目をやった時、
飛び込んできた光景は、鬼子が薙刀で何かを突き刺していた。
「きび婆ああぁぁ・・こいつが、こいつが・・・。」
鬼子は薙刀の先に突き刺さった鶏のような鳥をそのままきび婆の前に見せた。
きび婆の顔色が徐々に元に戻っていく。そして、おもむろに突き刺さった物の足を鷲掴みにし、
薙刀から引き離し、自分の目の前に持ってきた。
「ヒワイドリ・・・お前さん、鬼子が部屋から出てきたら、色々案内する様に命じたろうが。」
鬼子の頭の中は初霜が降りたかのような状態。半分固まり、半分溶けて・・・。
言葉が何も出てこないみたいだ。
きび婆はそのヒワイドリの足を持ったまま鬼子に向かって突き出した。
「こやつの名はヒワイドリ。鳥の民の中ではとても弱い存在の鶏の民。今日一日鬼子の
世話役をさせようと思ったんじゃがのう・・・。最初からこれでは。」
きび婆はヒワイドリを揺らしながらそう言った。雑な扱いである。
ヒワイドリの日頃の行いがきび婆をそうさせているのだが。
鬼子の頭の中の霜が晴れる。やっと現状を理解したようで、
「あ・・そうだったの。ヒワイドリさんごめんなさいね。」
と膝上に手を載せ小さく頭を下げながら言った。
「おめぇさん。暴力的だな」ヒワイドリは自分の非を全く考えずそう口走った。
きび婆が突然狐火に姿を変えて、大声で怒鳴り散らした。ヒワイドリの言葉がきび婆の怒りを買ったのだ。
「こら〜!そんな事を言うから、おまえさんはいつまで経っても世話役になれんのじゃ。
仲間の鶏の民の皆は、各地で一生懸命守り役(神社、寺、祠を任されてる民)に仕えとるっちゅうのに
ほんっっっとにおまえさんは・・・・・食ってやろうか!」
ヒワイドリは狐火と化したきび婆の手に揺さぶられながら、そして泣きながら
「ご・・ごめんなさ〜〜〜いぃ」と言った。
304 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:30:14 ID:2A3LYgz7
鬼子は昨日貰った紅色の着物を着て、廊下を歩いている。その前にはヒワイドリがお尻に大きな
バンソウコウを貼り、トボトボと歩いていた。
「ここ」とヒワイドリは無愛想な口調で洗面台の方を指差した。
鬼子はヒワイドリを刺してしまった事には申し訳ないと思っているが、
心の表れなのか、自然と眉間にシワを作らせていた。それもそのはずで、ヒワイドリの態度が悪いからだ。
「ここで何するの?」と鬼子は聞いた。
「歯を磨く」とヒワイドリは一言・・・。
「えぇ?薬草と木の、歯を磨く道具は部屋に置いてきたけど・・・」
「おめぇさん何にも知らねぇんだな。ほら、これ。」と洗面台の上に飛び乗り言った。
この紅色の歯ブラシと歯磨き粉を使うんだ。この歯ブラシ、鬼子のだから覚えとけよ。」とヒワイドリは偉そうに言う。
「えぇ〜?なにこれ。こんな道具で歯を磨くの?」
「だから闇世育ちの民は嫌なんだよ。おめぇ・・・口くせえよ。」
【プッス】・・・。ヒワイドリは鬼子の薙刀の先にくっついていた。
鬼子は歯ブラシに歯磨き粉を付け、歯を磨き始めた。
「おぇ・・うぇ・・。」えづいている。
「何これ〜〜〜。すごく辛〜い。」鬼子は始めての歯磨き粉に悪戦苦闘している。
「早くしろよ〜。色々やる事があるんだから。」とお尻から薙刀を抜き、無愛想な口調でヒワイドリは言った。
「うるさい。今頑張って・・・うぇ・・おぇ・・。光の世の民はこんなものを口にいれるの・・
おぇ・・うぇ・・。」
ヒワイドリは勝ち誇った様に腕組をしながら「朝食が終わったらもう一度歯を磨くんだぞ!」と。
目が点になっている鬼子の顔が洗面台の鏡に映っている。
鬼子の光の世での初めての戦いである・・・。相手は歯磨き粉・・・。
きび爺、きび婆との朝食も終り、今日一日はのんびりする様にとのきび爺の言葉もあり、
鬼子は寝室の近くにある縁側に座って、綺麗に色づいてる木々を見ながら足をブラブラさせていた。
「鬼子」横に座っているヒワイドリがそう言った。呼び捨てである。綺麗な風景が台無しだ。
「ん゛?」鬼子は無愛想に返事をした。
「乳の話しでもしようじゃないか。」唐突なヒワイドリの言葉。
【ガツッ】鬼子の薙刀が・・・ではなく今回はほうきの枝が何処からか飛んで来て
ヒワイドリの額を直撃した。
「ま〜たイタズラしてるんでしょ。」と言いながら誰かがヒワイドリをほうきの枝で【ツンツン】している。
白い小袖(白衣)に赤い緋袴(ひのはかま/ひばかま)姿。ショートカットで見た目二十歳くらいの女性が立っていた。
http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=353 挿絵
「私はこの神社に仕える巫女(みこ)の舞子。鬼子ちゃん、宜しくね。私を含めて五人ここに
住み込みで仕えてるわ。女は私一人だけど。昨晩は皆遅く帰って来たから鬼子ちゃんには会えなかったね。」
舞子は鬼子の角をジッと見ていた。「へぇ〜。鬼って本当に居たんだ。」
鬼子はたじろぎながら「わ、私の名前を知っているんですか!?」と少し驚いた様子。
しかし、角を見られてるのが解り、そっと手で隠した。
「は、初めまして舞子さん。わ、私ひのもとおにこって言います。私の事、こ、怖くないんですか?
人間の民は力を持つ民の事を知らないんじゃ・・・?」
舞子が【クスッ】と笑う。
「基本そうね。でも私達みたいに神社やお寺に仕える者は皆理解して知ってるつもりよ。
この奇妙な奴も含めてね。」舞子は、ほうきでヒワイドリの頭を【ポン】と叩いた。
「狐火様の言う闇世の存在も知ってるわ。でも、怖いから行きたくないけど!」と右目でウィンク。
「そ、そうなんですかぁ。私、人間の民の皆様は知らないとばかり。」
鬼子は歌子に合わせる様に、【クスッ】と笑顔にしてみた。
「解らない事があったら何でも聞いてね。私以外に後四人ここに仕えてる人達がいるから
その人達に聞いてもいいし。」
「難しい事は、ヒワイドリに聞かない方がいいわよ。そっけない間違った答えが返ってくるから。」
舞子はたっくさん体験済みなのだろう。
「ふん。いい年して未だに乳が無い舞子に言われたくねぇ〜よっ。」とヒワイドリは早口で言う。
舞子はとっさに胸を押さえる。鬼子も何故か自分の胸を押さえていた。
「さらば!」っとヒワイドリは勢い良く飛び立って・・・だが、飛ぶスピードが非常に遅い。
それに高く飛べないのだ、ちょうど目線辺りをパタパタと・・・。
【バキッ】舞子のほうきで、力いっぱい叩き落とされた。
305 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:31:52 ID:2A3LYgz7
縁側から少し離れた所、2,3分くらい歩くだろうか。そこに神社の本堂がある。
鬼子はその本堂に向かって歩いていた。もちろんヒワイドリも一緒だ。
先ほど会った、縁側周りの落ち葉を掃除している舞子から、お寺に仕える後の四人が
本堂と鐘楼(しょうろう、鐘突堂・釣鐘堂とも言う。梵鐘ぼんしょう、
釣鐘を設置しておく専用の建造物)で掃除をしているから挨拶しに行ったらいいと言われたからだ。
本堂に近づくと男性が2人、本堂の中で掃除をしている姿が見えた。
「おはようございま〜す。」鬼子は元気良く本堂の手前から挨拶した。
こちらに気付き彼等は仕事中だが近くまで来てくれた。「おはようさん!」
一人は体格のいい五十歳代くらいのおじさん。もう一人はモヤシ風のひょろ長い三十歳くらいの人。
「初めまして、私、ひのもとおにこっていいます。」
すると、大柄な男が笑顔で応えてくれた。「狐火様から聞いてるよ〜君が鬼子ちゃんか。可愛いね。
鬼には見えないなぁ。あっ俺は織田ってんだ。でこいつはモヤシ・・じゃ無くて秀吉」
モヤシと言われた秀吉は少しムスッとした表情で、「鬼に見えないって、角、ありますよ。」と織田に言った。
「それくらい解っとる。舞子には会ったかい?」
織田は秀吉にヘッドロック(別名頭蓋骨固め)をしながらそう言った。
「はい。舞子さんから聞いてここへ・・・。」鬼子は苦笑いしている。
「鬼子ちゃん。ヒワイドリには気をつけな!舞子もそいつには手を焼いてるからな。」
と、言いながら織田はまだヘッドロックしている。
「はい、もう十分理解出来ましたから。」キッパリとした口調で鬼子は返答した。
ヒワイドリは腕組しながら明後日の方を向いている。
306 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:33:21 ID:2A3LYgz7
鬼子は丸太で出来た長く続く階段を登りながら辺りの景色を堪能していた。
「織田さんに秀吉さんか。面白い人達ね。」と独り言。
ヒワイドリはその言葉を聞いて、「あいつらいつも一緒にいるんだぜ。キモイよなぁ。
それに、あの織田はすぐ暴力を振るうから嫌いだな。」
鬼子はヒワイドリの方を向き細目で言った。
「アンタがイタズラばかりするからじゃないの!?」とうとうアンタ呼ばわりだ。
「お前、乳無いよなぁ。乳の話しでもしようじゃないか!?」
【プッス】ヒワイドリのお尻に例の如く薙刀が刺さる。
「・・・どっから薙刀出してるんだよ・・・」ヒワイドリは薙刀の先に刺さり、ブラブラ揺れていた。
階段を登りきり、紅葉(こうよう)している木々の合間から鐘楼が見えてきた。
その手前で2人のお爺さん、70代くらいの人達が掃除をしているのが見えた。
一人は白髪で、もう一人はツルツル頭。
鬼子は元気良く声をかけた。
「おはよう御座います。私ひのもとおにこです。よろしくお願いします。」
掃除している2人から返答が無い。背を向けたままだ。もう一度大きな声で挨拶した。
「おはよう御座います。私ひのもとおにこです。」
・・・返答が無い。聞こえていないのだろうか。鬼子は近くまで駆け寄りもう一度大きな声で挨拶した。
「あのぅ、わたしひのもとおにこで・・」そっと顔を覗くと2人は立ちながら寝ていた。
【ヒュ〜〜〜】虚しい風の音が一面を包む。
ヒワイドリが2人に声をかける。「そろそろ病院行きだな、お前ら」
今まで寝ていた?白髪のお爺さんが突然振り向いた。「お前とは何じゃぃ。お前とは。寝たフリをしとったんじゃ」
俊敏な動きでヒワイドリを睨む。
「今のは全部聞こえとるわい。目上の者に対して使う言葉じゃ無いって何度も言っとろうが!!」と急に元気に。
そして、ほうきで叩かれるヒワイドリ・・・。
「ヒワ!(ヒワイドリの事)未熟者〜。ヒワ!厄介者〜。ヒワ!役立たず〜。」と言いながら
その白髪のお爺さんは鬼子の方を向いて一言、
「野次ばかり言ってるワシの名は弥次じゃ。フオッフォッフォッフォ。」と何故か自慢げな爺さん。
「・・・や、弥次さん。初めまして。」鬼子は苦笑している。
そして、もう一人ツルツル頭のお爺さんが話しかけて来た。
「おぉ〜来たか来たか、ワシの名は喜多じゃ。フオッフォッフォッフォ。」・・・と自分を親指で指差しながら言った。
「・・・き、喜多さん。宜しくお願いします・・・。」鬼子は肩を落としながら挨拶した。
また、秋の冷たい風が鬼子を包む。
少し間が空く・・・。最初に口笛を切ったのはヒワイドリだった。
「掃除するにはちょうど陽は良い時だな、ひわいいとき、ヒワイドリ・・・と。」
【ブッ!】ヒワイドリは自分で笑ってる・・・。
「ちょっとお前さん強引すぎやしないか?」と弥次さんがヒワイドリに言う。
「いやいや、ワシは有じゃと思うがな。」と喜多さんは弥次さんにレスした・・・言った。
「だはははは〜〜。」野次、喜多、ヒワイ。三人は肩を並べながら笑っていた・・・。
本当はこの三人、気が合うのだろう。
鬼子はその三人をよそに、一人で階段を降りていった。
「日本鬼子ひのもとおにこ」〜第三章〜【街の目】に続く。
307 :
時の番人:2010/12/13(月) 19:43:36 ID:2A3LYgz7
訂正。
>>304下から十行目の歌子を舞子に訂正・・・。
-‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 /i.___
/:::::::::::::::::::::::::::::::::|:i i::/ ヽ
//,:::::Δ::::::::Δ::::::::::::ヽヽ●)ii|
〃::::::::|^|:::::::::|^|::::::::::::||:| トww/
レ!小l● ● 从::::|、|ヽェェi
ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃|:::|ノ:ヽ___l おにーん
/⌒ヽ__|ヘ ゝ._) j/⌒i::!
\ /:::::|::::l>,、 __, オ=/ /:│
. /:::::/|::::|:::::::::|/::::/::::ヘ、__∧:|
おにこー!あたまーあたまー
公安庁舎の、とある会議室内。
「――というわけで、これが今回討伐する鬼だ」
オールバックの髪に顎鬚を蓄え、その上何故か単眼鏡まで掛けている強面の中年男が、席に掛けている者たちに声を発した。
彼、チチメンチョウの手元が動くと、その背後にあるプロジェクターに一人の女の写真が映し出された。
私立K大の学生証に貼ってある物だ。恐らく大学で入手してきたのだろう。
やや目尻の垂れた、おっとりした雰囲気の女だった。いかにも男受けのしそうな美人、とでも言えばいいのか。
その写真の横には、平凡な名前や住所等が記されていた。
「見ての通り女子大生だ。自身が通っているK大付近に現れたこの女は、刃物で歩道の学生を次々刺殺。
出血量の少なさと手際の良さも相まって、彼女が元凶だとその場で気付いた者は皆無だった。
次々人が倒れて、何が起きているのか判らなかった、というのが目撃者の証言だ」
結果、死傷者数は五十を超えたらしい。
頭から二本の角を生やした、日本鬼子の目の前にある机に乗っている事件概要書にも、そう書かれている。
「五十人とはまた、わらわら人間がいたもんだな」
机に頬杖を突き女の写真に退屈そうな視線を投げかけている、
いかにもひねくれた雰囲気を漂わせている茶髪の少年、日本狗が呟いた。
頭の上に犬の耳が生えた彼を含め、この会議室内に人間は一人もいない。
「事件の発生時間は午後四時半。マンモス大学の下校ラッシュ時間だった。歩道はお世辞にもマナーが良いとは言えない学生で
ほぼ埋め尽くされていて、近隣住人からは日常的に苦情が出ていたらしい」
「自業自得か」
「そこまでは言わんが」
それはそうと、とチチメンチョウは普段から険しい顔つきを一層厳しくする。
「日本狗君。シャツを開け過ぎだ。ネクタイもきちんと着けてきてくれ。仮にも公務の最中だぞ」
「うるせえな。こんな窮屈な代物着て山から下りてきてやってるだけでも有難いと思えよ」
「女の足取りは」
鬼子と同じ黒のロングコートを羽織っているポニーテールの男、ヤイカガシが割り込んだ。
「非常線は張れなかったが、幸い少し聞き込みをしただけであっさり掴めたよ。まあ理由は容疑者の格好に起因してるんだが――
とにかくその人物は大学から十五分ほど離れた集合マンション、浅沢ハウスに入って――」
「おい。浅沢ハウスっつうと、確か大栗旬とか松木潤とかが住んでるっていう高級住宅じゃねえか」
今度は銀髪に赤のメッシュを入れた軽薄そうな男、ヒワイドリが話の腰を折った。
「大学生に縁のある場所じゃねえだろ」
「既に大方の身辺は洗ってあるから、その辺りに関しても説明できる。父親は航空会社のパイロット、母親はCA。
まあ典型的な上流階級のお嬢様だ。実家は横浜の高級住宅街に――」
「家から通えよ……」
「そうやっかむな。親離れか子離れでもしたかったんじゃないか。まだ両親と連絡を取ってはいないが、
いずれにせよ資金面での障害はないに等しかったんだろう」
そんな人生なら楽しいだろうに、と鬼子は冷めた気分で思った。
雀の涙のような賃金でこんな組織にこき使われている自分たちとは、天と地ほどの差がある。
「話を戻すぞ。浅沢ハウスのI棟十三階にある自宅に戻って以来、その女は一歩も外に出ていないはずだ。
監視カメラの映像も遡って確認したから、まず間違いない。既に通常の捜査は打ち切られて、今は礼状を持ったモモサワガエルが
現場マンションでモニターをチェックしてる。窓から飛び降りでもしてなければ、まだいるはずだ」
これには鬼子も口を挟みたくなった。
「また不適当な人選ね。あのカエル、この寒さじゃまた昏睡かもしれないわよ」
「うちが慢性的な人手不足に喘いでいるのは君も知ってるだろう。
誰でもいいからとにかく仕事を回さんと立ち行かん。ちなみに――」
プロジェクターの画面が切り替わる。今度は静止画ではなかった。
「外部には一切公表してないが、246号の歩道沿いに設置された防犯カメラが、女の姿を捕捉していた。
万一容疑者が自宅を抜け出していた場合、君らも足を使って探すことになる。見ておいてくれ」
「これはまた……」
そんな感想が鬼子の口を突いていた。平凡な若者の群れの中に混じったその女が歩いた後には、屍だけが残されていく。見事な手並みだ。
カメラでは全く捉えられない速度で攻撃しているらしい。これでは周りの人間も急病人が出た程度にしか考えないだろう。
しかし何より目を引くのは、女の奇抜な服装だった。周りを歩く人間も、一度は彼女の姿に視線を向けていた。
手甲付きのレイピア。間抜けな猫のイラストが描かれた小型盾。頭には小さなシルクハット。
コルセット付きの動きやすそうなドレス。細い針のような刀子が何本も収まったポーチ。
まるでゲームか漫画のキャラクターだ。日本にコスプレ文化が根付いていなければ、すぐに警察沙汰になっていそうな風体だった。
「実はこの女が犯人だという物的証拠はない。検死結果と女の持っている突起物の形状、それに被害者たちの絶命した
タイミングから立てられた単なる推論だ。――しかしいずれにしても、まともな頭の持ち主には見えないだろう?」
皮肉っぽい笑みを浮かべた課長のチチメンチョウは、構成員たちに出動命令を下した。
鬼子たちが東京から遠く離れた山奥を出たのは午前だったが、ミーティングを終えて車で現場に向かう頃には、
時計は夜の八時を回ろうとしていた。
日はとっくに沈んでいるが、ネオンや街灯で、街は昼間のような明るさだった。こっちの夜は騒がしい上に眩しくて好きになれないと、
来る度に鬼子は思う。
「しかし皮肉なもんだ」
三列席の黒塗りのワゴン車が首都高下の246号に入った辺りで、運転席のヒワイドリが口を開いた。
「人間が自分らの為に作ったはずの都会が、今じゃ人間を鬼に変える装置になってるなんてな」
鬼子と同じく頭部から角の生えた、黒いワンピース姿の幼女――小日本が、怯えた様子で鬼子のコートの裾を握ってきた。
姉妹が座っているのは二列目の座席だ。
ちなみにこの幼女、先程の会議中ずっと眠っていた。
「お姉ちゃん、今ヒワイドリがまともっぽいこと喋ってた気がするよ……」
「怖がらなくても大丈夫よ。どうせ三秒後には、自分が何を言ったのかも忘れるような奴なんだから」
「おい、そこの姉妹。丸聞こえだぞ。大体お前らはいつも俺のことコケにしてるけどな――」
――それはともかく。
いつからだろう。都市部に鬼としか思えないような人間が出現し始めたのは。
景気やら経済やらの停滞が問題視されてからのような気もするが、その辺りの事情を鬼子が真剣に考えたことはない。
そんなのは心理学者や生物学者、社会学者らが解明すべき謎であり、生まれた時から鬼である自分にとっては
さして関係のない話題だと思っているからだ。
とにかく、人体の限界を超越しているとしか思えない能力を有した、化け物じみた犯罪者、あるいはその予備軍がひっそりと、
しかし確実に増えてきたのは厳然たる事実だった。
まさか国がそれらの取り締まりを、鬼である自分たちに任せるとは思わなかったが。
「あ、喋ってるうちに車線変更忘れちまったじゃねえか」
誰も聞いてないのにドライバーは熱弁を振るっていたらしい。左折車線に移り損ねたワゴン車は、直進を続ける。
K大学駅に通じる地下歩道の入り口あたりから、歩道は進入禁止のテープで封鎖されていた。
隙間なく並んだビルの一階部分は、大体ラーメン屋やコンビニなどの客商売がテナントとして入っているようだったが、
あれでは店を開けることもできないだろう。
車は一つ先の交差点を左折し、問題のK大学前に通じる道路に入る。
「想像してたよりも広いんだな、K大って。せっかくだし見ていかないか? 勤勉な美人女子大生が、まだ図書室あたりに残って――」
「ねえよ」
最後尾の座席で仏頂面をしていた日本狗が一蹴した。
「どいつもこいつも、あそこに見える体育館一階のコピー機の前で、必死になってノートの写し合いしてるよ。
いかにも馬鹿っぽい感じの声が聞こえる。少なくとも勤勉な学生はいそうにないな」
つまらなそうに彼が車窓から見ている体育館の屋根までは、少なく見積もっても直線で二百メートル以上ありそうだ。
聞きたくない物まで耳に入ってくるというのも不幸な話だ。
「でも多少頭の緩そうな女子大生も、それはそれで悪くないと――」
「早く仕事を片付けたいんだが」
日本狗の隣に座っているヤイカガシも、棘のある口調で言った。瞑目したまま、微動だにしない。
元々鬼祓いが存在理由である彼は、鬼である自分たちと行動を共にすることを快く思っていない。
「この根暗コンビが……観光もさせねえ気かよ」
左手に見えていた大学の敷地が終わると、今度はオリンピック記念公園が見えてくる。
「ここ、車入れていいのか? 突っ切った方が目的地まで早そうだけど」
カーナビを見ながら誰にともなくヒワイドリが尋ねたが、その問いに答えられる人間がいるはずもない。
「まあいいか。いざとなったら警察手帳見せれば」
権力を傘に着た男の一存で、鬼子たちを乗せた車はオリンピック記念公園内に進入した。
敷地面積は相当ありそうだった。広々とした車道の左右には、葉の代わりにイルミネーションを纏った木々が整然と並んでいる。
ドラマの撮影にでも使えそうなロケーションだ。
「綺麗……」
窓に張り付いた小日本が、うっとりした様子で言った。可愛い妹が喜んでいる姿を見て、鬼子は一瞬ドライバーの独断を褒めてやりたくなる。
「今日は使ってないけど、表参道あたりの道路の方が派手だぞ。今度泊まりでどうだ、鬼子」
「一人で行きなさいよ。こっちの空気は肌に合わない」
「少しは悩む素振り見せろよ、釣れねえな……」
ランニングコースに沿った車道をしばらく進むと、木々に遮られていた視界が開けた。中央広場に出たらしい。
一面がアスファルトに覆われており、薄いコンクリートの板を積み重ねたような電波塔と、巨大なスタジアムが左手に見えた。
公園を東西に分断している駒沢通りを横断したところで、日本狗が呟く。
「気配がある。まだあの建物に鬼がいるはずだ」
既に視界の前方には、ビル群に混じって建つ、十四階建ての瀟洒な高層マンションの姿が確認できた。
恐らくあれが、有名芸能人御用達の浅沢ハウスだろう。
「いつも通りだけど、ポジションを確認しておくわ。問題の鬼の部屋には私が乗りこむ。ヤイカガシは一階のエントランスで待機。
万一私が突破されたらあんたが――」
「言われなくとも仕留める」
「ならいいわ。小日本は日本狗の護衛。日本狗は標的の位置を逐一こっちに流して。あと、ヒワイドリは……」
一瞬悩んだ後、鬼子はきっぱりと言い切った。
「適当にやってなさい。以上」
「なあ。常々思ってたんだが、俺だけ命令がいい加減な気が……」
「ムラのある奴は信用しない主義なの」
ヒワイドリ以外の者がトランシーバーとイヤホンを付けた頃、車は正面玄関をくぐった。
さすがに整然としている。煉瓦造りの敷地内には、人工的に造られた小川まで流れていた。
田舎者にはいまいちピンとこないが、都会暮らしの人間はこういった物を有り難がるのだろう。
恐らく禁止されているのだろうが、運転手の一存で車はエントランス前に直接横付けされた。
「それじゃあ始めましょうか。各員の健闘を祈るわ」
トランクから薙刀を取り出した女と、柊の髪飾りで長髪を束ねた手ぶらの男が、それぞれ浅沢ハウスI棟の中へと入って行った。
ロングコートに身を包んだ一組の男女は、無言でエントランスに入る。
乳白色の大理石張りだった。温かみのある暖色系の照明は丁度良い明るさで、清掃も行き届いているように見える。
鬼子は自動ドアの横の壁面に取り付けられたインターフォンで、管理人室を呼び出した。
「……はい……」
数度のコール音の後、潰れた声が応じた。明らかに寝起きのトーンだ。あのカエル、やはり寝ていたらしいなと、鬼子は声に出さずに毒づく。
「モモサワ。私よ」
「ああ……入ってくれ……」
硝子張りの自動ドアが、音もなく開いた。天井から巨大なシャンデリアが吊るされているロビーへと、鬼子とヤイカガシは歩を進める。
「こっちだ」
そのロビーの片隅に、建物の雰囲気に全く相応しくない武骨な鉄製の扉があった。
そこから頭に髷を結った黒スーツの男が、のっそりと顔を覗かせている。
モモサワガエルだ。夏場は鬱陶しいくらいのやかましさなのに、冬場はまるで半死人だ。
鬼子は一人で、モニターと機器類のコントロールパネルで大半を占められた管理人室に入った。
「何か釈明することがあるんじゃないの、モモサワ」
「誘惑に負けた」
腫れた目を擦りながらモニター前の椅子に掛けたモモサワガエルは、悪びれた様子も見せずに続けた。
「狗の見立てはどうだったんだ。まだここに鬼がいるなら、俺が寝てたところで何の問題もないはずだが」
相変わらずふてぶてしい奴だ。
「残念ながら残ってるみたいね。とにかく、事が終わるまで施設内のセキュリティシステムは切っておいて」
「了解した。上下左右の部屋にいる住人は退去させてないから、あまり騒ぎを大きくするんじゃないぞ」
「そんなこと事前に聞いてるわよ。居眠りしてた分際で偉そうに」
管理人室を出てロビーに戻ると、シャンデリアの真下でヤイカガシが突っ立っていた。
「ここで待つ」
この男が必要以上のコミュニケーションを極端に嫌っていることは充分承知しているので、鬼子は無言でケージに乗り込んだ。
ほとんど震動もなく、エレベーターは十三階に到着する。一階部分と同じく大理石張りになっている廊下をすたすたと歩き、
問題の鬼が潜んでいると思われる部屋の前で立ち止まった。
そこで重大なことに気付いた彼女は、コートの襟に留めてあるトランシーバーの小型マイクで呼びかける。
「モモサワ……マスターキー忘れた。鍵を持ってるのはあんたでしょ?」
『確かに持っているが、多分こちらで直接開けられるぞ』
間もなく扉から、鍵の外れる音がした。
技術が進んでいるのは認めるが、その気になれば管理室の人間が自由に施錠を
解除できるというのは相当危ういのではないだろうかと、鬼子はいらぬ心配をする。
『間抜け』
イヤホン越しに聞こえたのは日本狗の声だ。鍵を忘れたことに対しての発言だろう。
「うるさい。標的は?」
『まだお前の目の前にある部屋の中だ。多分突き当たりのリビングにいる』
「了解。入るわよ」
肌身離さず持っていた薙刀に掛かっていた布を取り外した鬼子は扉を開け、靴も脱がずに玄関を素通りした。
照明は全て落ちていたが、夜目は利くので問題はない。フローリングの廊下がまっすぐ伸びており、左右に一つずつドアがあった。
一応覗いてみたが、両方とも中は寝室だった。マンションとしてのグレードなど知らないが、
とりあえずこの時点で、一人で住むには広すぎるということだけは判った。
そこを過ぎると、また左右に扉がある。右がトイレ、左が洗面所とバスルームだった。どちらも生活感に欠けるほど清潔だった。
そして突き当たりの扉を開けるとリビングが広がっている。すぐ右手には整然と食器類や調理器具の収納されているシステムキッチンがあった。
左手奥に、もう一部屋ありそうだったが、そちらは気にする必要もなさそうだった。
カーテンも引かれていない、南西を向いたバルコニーの向こうには、夜の大都市が広がっている。小日本やヒワイドリが見たら喜びそうな景色だ。
そしてその手前、壁際の薄型テレビに向かって置かれた革張りのソファには、若い女が腰かけている。
「……同類がこの部屋に近づいているのが判ったから、正装して待ってました」
細身の刺突剣に猫の盾を装備した、亜麻色の柔らかそうな髪をした女は顔だけをこちらに向け、失望の色濃く滲んだ呟きを洩らした。
「でもまさか、刃物を持った女の人が入ってくるなんて。てっきりその扉を開けてくれるのは、運命の王子様だと思ってたのに」
全くの無表情で鬼子は口を開いた。
「ご期待に添えなくて申し訳ないわ。でも下に降りれば、見栄えだけはいい連中があなたのことを待ってるわよ」
「そうですか」
すっと、女が立ち上がる。
「それを聞いて、少しやる気が出ました」
女の言葉が終わるのを待たずに、鬼子は二メートル近い薙刀で突きを繰り出していた。
しかし女は、左手の猫の盾で難なくその攻撃を弾いている。
「質問いいかしら」
即座に薙刀を手元に引きながら、鬼子は言った。
「どうぞ。答えられる範囲でなら回答しますよ」
同時に懐に飛び込んできた女のレイピアを紙一重で避わし、廊下まで飛び退きながら鬼子は尋ねる。
「最近、あなたみたいな犯罪者が増えてるのよ。人間が鬼になる理由をお聞かせ願いたいんだけど。あなたの個人的な見解でいいわ」
「……鬼……ですか」
リビングで立ち止まった女は、小型盾を嵌めた左手の人差し指をこめかみに当てて悩み始めた。
細い通路に誘い込もうという狙いが悟られたかどうかは、鬼子には判断しかねた。
「まず私は、自分が鬼になったという自覚がありません。でも少し前までは将来に漠然とした不安を感じたり、
肌に合わない大学生活に閉塞感を覚えたり、毎日大声を上げながら人の通学路を塞ぐ非常識な学友たちに、怒りを覚えたりはしてましたね」
あっけらかんとした様子で、女は続ける。
「でもそんなの、誰にでもあることですよね。自分が特別だなんて全く思ってません。
だから誰にでも、鬼になる資質はあるんじゃないかしら。……ところで、どうしてそんな質問を?」
「都市が人間を鬼に変えてるんじゃないか、なんて同僚が言ってたもんだから、ちょっとその辺の因果関係に興味が湧いたのよ」
話半分ではあるが、この女の言っていることが正しければ、人間は誰もが鬼になる可能性を持っているということになる。嫌な世になったものだ。
女が廊下に足を踏み出したのに合わせて、再度突きを放つ。最前と同じように盾で軌道をずらされたが、
今度は薙刀を手放し、鬼子は自ら間合いを詰めた。この狭い空間では薙刀がまともに使えない。互いの武器が用を為さなくなる密着状態での
戦闘に持ち込んだ方がまだマシだというのが彼女の判断だった。素手の取っ組み合いになら自信もある。
が、既に女はレイピアを手放していた。それを見た鬼子は思わず舌打ちを洩らす。
急所さえ外せればあの武器は大した脅威ではなかったのに、当てが外れた。
待ち構えていた女の右腕にコートの襟首を掴まれ、鬼子の身体はバルコニーへと通じる硝子戸に軽々と投げつけられた。
硝子の割れる耳障りな音と共に、首都の夜空の真っ只中に放り出される。遥か下に見える地上には、自分たちの乗ってきたワゴン車が止まっていた。
「気を付けて。手強いわよ」
トランシーバーで仲間たちに言葉を送ったのと同時に、落下が始まった。
ほぼ真上で硝子の割れる音がしたのは、彼――日本狗でなくとも気付いただろう。
現に前の座席で待機している小日本とヒワイドリも、腰を浮かしかけている。
「窓から放り出されたのは鬼子だ」
日本狗が二人に教えるのと同時に、イヤホンから至極冷静な鬼子の声が入ってきた。
『気を付けて。手強いわよ』
ドアを蹴破らんばかりの勢いで飛び出したのはヒワイドリだ。
表に出るのと同時に彼の背中が膨れ上がったかと思うと、仕立ての良いスーツを突き破って純白の双翼が出現した。
深く膝を折った彼は跳躍に合わせて翼を羽ばたかせ、真上に飛翔していく。
落下してくる鬼子をヒワイドリが両手で受け止める音も、その後の二人のやりとりも、車中の日本狗の聴覚は難なく聞き取っていた。
「ちょっと、変なとこ触ったら殴るわよ」
「何だ、ぴんぴんしてんじゃねえか。てっきり怪我してると思って助けに来てやったのに」
そこでヒワイドリは溜息をつく。
「しかしこの服、もう着れないぞ。経費で落とせなかったらどうすんだよ」
「……その時は私が責任持って繕うわよ」
「嬉しいこと言ってくれんね。でも裁縫なんてできんのか?」
「今回が初挑戦になるわね」
「おい……」
そんな二人のやり取りの最中に、十三階から鬼が飛び降りてくる気配を日本狗は察知した。すかさずマイクのスイッチを入れながら伝達する。
「十三階から標的が降ってくるぞ。空中で夫婦漫才披露してる鳥と鬼、さっさとそこをどかないとぶつかるぞ」
そこで一度マイクを切ったのは失敗だった。日本狗の警告の続きは、鬼子の声にかき消される。
『聞き捨てならないわね。誰が夫婦よ。大体私は助けなんて――』
「しょうもないことで回線占領すんなよ……」
その時、真剣な表情を浮かべた小日本が、愛用している長大な日本刀を胸に抱いて車外に出ていった。
狭い空間での戦闘を大の苦手としているとはいえ、相手はあの鬼子を出し抜いているのだ。子供の小日本が勝てるとも思えない。
「おい、死ぬぞ」
「でもわんこを守るのが私の仕事だもん」
その幼女に、上空から落下してきた鬼の影が激突した。小日本の華奢な足を起点にして、コンクリートの地面の八方に亀裂が走る。
そして彼女が鞘に収まったまま頭上で構えていた日本刀に、一瞬だけ火花が散った。
「……ほええ……」
衝撃で目を回した少女は、そのままゆっくりと地面に崩れ落ちていく。
十三階から降ってきた鬼は、少女を見下ろして柔らかな微笑を浮かべた。
「健気な子。でもちょっと無鉄砲ですね」
倒れた小日本の頭に、その鬼は鋭く細い西洋剣の切っ先を向けた。
しかし嗤う彼女のすぐ後ろには、深緑色の光を湛えた刃を右手に携えたヤイカガシが佇んでいた。
日本狗ですら感知しきれない敏捷性と隠密性を兼ね備えているその男は、淡々とした口調で告げた。
「お前もな」
そして長髪を背中に流したコートの男は、欠片の躊躇もなく背後から鬼の眼球を貫く。
「くっ――」
ヤイカガシが剣を引き抜くのと同時に、顔を歪めた女が左手の盾を素早くヤイカガシに向けた。
その挙動の意味を最初、日本狗には理解できなかった。恐らくヤイカガシもだろう。
だから反応が遅れたのだと、少年は後になって気付いた。
次の瞬間、猫のイラストの口の部分から、鋭い爪を持った巨大な獣の腕が出現している。
野太いその腕の一撃で薙ぎ払われたヤイカガシは凄まじい速度で吹き飛ばされ、
エントランスの硝子を突き破って建物内に姿を消している。
「成程、彼がエースですか……さすがにこの子まで使うことになるとは思ってませんでしたよ……」
潰された左目に手をやりながら、女は盾の中に消えていく獣の腕を愛おしげに見つめた。
直後、女から十メートル近く離れた場所に鬼子が落下してきた。
一拍遅れて降ってきた薙刀が、彼女のすぐそばのコンクリートに突き立つ。
途中で鬼子を離したヒワイドリが、十三階の一室まで飛んで回収してきたのだろう。
引き抜いた薙刀を棒切れのように軽々と振り回しながら、日本鬼子は言う。
「さて……私好みの戦場に移ったところで、第二ラウンドと行きましょうか」
「数に任せた暴力なんて、ただの苛めじゃないですか……付き合いきれません」
不平そうに呟いた女は、跳ねるような軽やかさでオリンピック記念公園へと逃げ込んで行く。
「追うのか?」
車内から一部始終を見ていた日本狗は鬼子に問う。
「……やめましょう。こっちの被害が大きすぎる。命を賭けるほどの無茶をするのも馬鹿らしいわ」
「お前は軽くあしらわれたおかげで、怪我一つしてないけどな」
「本当に憎たらしい奴ね」
倒れた小日本を抱き起こしながら、鬼子は嘆息した。
「この子ったら、無理しちゃって……こんな可愛げのない小僧のどこがいいのかしら」
上空から緩やかに降下してきたヒワイドリが、強引に話に入ってくる。
「おい鬼子。最近お前、男嫌いに拍車がかかってないか?」
「周りにまともなのが一人もいないんだからしょうがないでしょ。そういえばモモサワの役立たずは何してるの」
これには日本狗が答えた。
「お前が例の部屋に入ったすぐ後にはもう寝てた。呼吸の深さからして、しばらく起きそうにない。
ちなみにマンション住民の何人かが、十三階とエントランスの硝子が割れた音を聞いて不審に思い始めてる」
「ったく、本当にろくな男がいないんだから……まあいいわ。事後処理は人使いの荒いボスに押し付ければいいんだし、さっさと帰りましょう」
「へいへい」
背中の破れたスーツを着たヒワイドリが運転席に乗り込む。倒れた小日本を車に乗せている鬼子の代わりに、日本狗が連絡を入れた。
「ヤイカガシ、無事か?」
『ああ。動く分には支障ない』
「なら管理人室で寝てるモモサワを回収してきてくれ。撤収らしい」
『了解した』
例の女が人間離れした速度でこのマンションを離れていくのが判る。実家のある横浜方面を目指している様子もない。
もう人間としての生活と縁を切り、鬼として生きていくつもりなのかもしれない。
さすがに頭に風穴を開けられていたのだから、自然に消滅する可能性もあるが……
いずれまた、相対することになるかもしれない。ヤイカガシの髪飾りで眼を潰されたことを考えると――
「次に会う時は眼帯でも着けてるのかな、あのコスプレ女」
その予想が見事的中することを、彼が知る由もない。
完
乙。黒服な鬼子達ですか。妖怪版メン・イン・ブラックといったころですか
その世界じゃどんな都市伝説になっていることやらw
>>308 (
γ ハ゜ハヽ
⌒*(ノ (V) リ>*⌒
レ,l *゚ヮ゚ノリ<ネネ様の中に
-‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 /i.___⊂| ̄ハy/ ヽ、 中の人などいません!
/:::::::::::::::::::::::::::::::::|:i i::/ ヽ
//,:::::Δ::::::::Δ::::::::::::ヽヽ●)ii|
〃::::::::|^|:::::::::|^|::::::::::::||:| トww/
レ!小l○ ○ 从::::|、|ヽェェi
ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃|:::|ノ:ヽ___l
/⌒ヽ__|ヘ ゝ._) j/⌒i::!
\ /:::::|::::l>,、 __, オ=/ /:│
. /:::::/|::::|:::::::::|/::::/::::ヘ、__∧:|
/
从ノ
一ニ三 -‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 /i.___( ピシャッ
/:::::::::::::::::::::::::::::::::|:i i::/ ヽ
//,:::::Δ::::::::Δ::::::::::::ヽヽ●)ii|
〃::::::::|ノ|::::::::|、|::::::::::::||:| トww/
レ!小l● ● 从::::|、|ヽェェi
ヽ|l⊃ 、_,、_, ⊂⊃|:::|ノ:ヽ___l
|:::/⌒l,、 __, イァト |/::|
. |:/::::ヽ|:::::|/:::::/::::::::::ヽ::| おにーん
|:|::::::::::l::::/:::/::::::::::::,::::|:::|
>>310-318 こんどの心の鬼企画によりダークな意味で通じるものを感じておもしろかったっす
みんなキャラが立っててすごく読みやすいし。ていうか続編を強く希望w
>>319 >>320 感想ありがとうございます。
キャラ立てを意識しすぎた結果ヤイカガシが完全にぶっ壊れてしまいましたが
スルーしてくれれば有り難いです。
ついでにもう一個
322 :
青鬼と狗:2010/12/15(水) 01:54:20 ID:niTA5sRA
年の瀬ともなると、山は深い雪に覆われる。
白一色となった世界を、ある姉妹が楽しげに歩いていた。
紅葉柄の着物姿の姉は、妹の手を引きながら優しげな笑みを浮かべており、
『鬼安』と書かれたスーパーの袋を提げた桜色の着物の妹は、今日の夕食の予想を口にしている。
平和な光景だ。
その姉妹が角を持った鬼でさえなければ、誰もがそう思っただろう。
見るともなしに主たちの帰宅する様子を見守っていた少年、日本狗は、その姉妹の後ろで小さな雪だるまを作っている子供の姿に気付く。
青い和服の裾はどす黒い血痕で汚れており、白い頬にも所々血が付着していた。
そして頭には、姉妹と同じように角が生えている。
黄と黒の縞模様の首巻きを外して血で汚れた雪だるまに巻きつけると、しゃがみ込んでいたその子供は、
家の中に入って行く姉妹に複雑な感情の籠った視線を投げかける。
縁側にいた日本狗は窓を開けて外に踏み出し、子供に歩み寄った。
「……君の家、今日は鳥鍋みたいだね。袋の中から肉の匂いがした」
先に言葉を発したのは、男とも女ともつかない子供のほうだった。声を聞いてもまだどちらか断定できない。
日本狗は問う。
「とりあえず人間じゃなさそうだが、何してるんだ、お前」
「何してる……か」
しばらく頭上の曇天を見つめていた子供は、やがて日本狗を見て言った。
「判らないな。今さっき目を覚ましたばかりだから」
でも、とその子供は続けた。姉妹の消えた玄関に澄んだ双眸を向けながら。
「鳥はいくら食べてもいいのに、人間を食べてはいけない理由ってのは一体何なのかな」
とても模範解答があるとは思えない質問だった。
返答を考えている内に、既に相手は発言を訂正している。
「今のは言葉が足りなかったな。正確に言うなら、あの女の人がどうしてそんな決め事の中で生きているのかが、気になってる」
あの女というのは――
「……鬼子のことか」
「へえ。鬼子って名前なんだ。あの女の人」
子供が一瞬、ひどく冷淡な笑みを浮かべたような気がした。
「あの人は矛盾してるよ。恐怖を抱いている対象を何故か庇護しようとしてる。人間に対して好感を持っている根拠は未だに掴めていない癖に、
自分が嫌悪されるという確信だけは揺らぎそうもない。いつまでもそんな不安定な感情を持て余しているから――」
歌うような滑らかさで語っていた子供は、こう結ぶ。
「こんな副産物が生まれてしまった」
そこまで聞いて、日本狗はようやく子供の正体を知った。
「お前は、鬼子の心の」
「鬼だよ」
日本狗の言葉を先に継いだ子供の姿が、ふっと消える。雪のように儚く、自己主張に乏しい消失だった。
最前から血の匂いを発し続けている小さな雪だるまの中身を、日本狗はそっと割ってみる。
中から出てきたのは、鶏によく似た無害な妖怪、チチメンチョウの死骸だった。
323 :
青鬼と狗:2010/12/15(水) 01:56:17 ID:niTA5sRA
「やあ。また会ったね」
数日後の早朝。散歩から帰ってきた日本狗を縁側で出迎えたのは、例の『鬼子の心の中の鬼』だった。
以前遭遇した時と違い、赤錆の付いた武骨な鉈を肩に担いでいる。
「今のところ、僕の姿が見えるのは君だけみたいだね。鬼子さんも妹さんも、僕のことに全然気付かない。意外と勘が鋭いんだね、君は」
「……これでも番犬なんでな」
ごく自然に縁側に掛けていた鬼は、足を組み直しながら訊いてくる。
「いいのかい? 番犬が侵入者を見逃して」
「主人が認識できないのに俺一人で騒いだって、話は進展しない」
「飼い主の意向なんて伺わないで、独力で追い出せばいい。こう見えて荒事は割と好きなんだ、僕」
それを聞いた日本狗は、不承不承ながらも認めた。
「俺がお前に挑んだところで、勝てるとは思えない」
「成程。相手と自分の戦力差を見極める能力にも長けているみたいだね」
「そうじゃなきゃ生き残れないだろ。人間以外の動物は」
「尤もな見解だね。君との会話は有意義だ。色々学ばされる」
そうしてまた、鬼は消えた。
――どうしたものか。
頼みの綱の鬼子があの鬼に気付くことは、未来永劫ないだろう。多分本人は、自らの心の澱など認識しないだろうから。
他人は知っているが自分だけは知らない、もしくは自分も他人も知らない。そんな盲目や未知の窓を、誰しも持っている。
唯一の救いは、まだ奴自身が鬼子の思考や理念に強く縛られていることか。
あの鬼と渡り合うには、余りに心もとない好材料と言わざるを得なかった。
324 :
青鬼と狗:2010/12/15(水) 02:01:27 ID:niTA5sRA
狗が鳥肌を立てるというのも妙な話だ。
「あ、わんこー!」
しかし庭先の小日本が、例の鬼と一緒に雪だるまを作っているのを見た時に、日本狗の身体に鳥肌が立ったのは確かだった。
前回の遭遇から更に数日後の出来事だ。
「見てよ、友達ができたの!」
駆け寄ってきた少女は、襟巻と青い着物を纏った、見慣れた鬼を紹介してきた。
「名前はないみたいなんだけど、とりあえず私は青鬼君って呼んでるの」
小日本の頬はやけに赤くなっていた。もしかしたら、あの鬼に好意を抱いているのかもしれない。顔が良いのは認めるが、男か女かも知れないのに。
「初めまして。僕のことは、青鬼と呼んで下さい」
実に優等生じみた態度で、雪だるまの前で屈んでいた心の鬼は会釈をした。
「ほら、わんこも挨拶!」
主である小日本に命令されては、拒否するわけにもいかない。
「日本狗だ。一応この家の番犬をやってる」
「日本狗……ですか」
はしゃぐ小日本の後ろで、鬼は唇だけを動かしてこう続けた。
やっと名前を聞けたよ、と。
「……おい、小日本。ちょっと家の中に戻ってろ」
「え? 何で?」
「昔からの知り合いかもしれない。ちょっと二人で話がしてみたいんだ」
「うーん、まあそう言うんなら、待っててあげるよ」
話が終わったら呼んでよ、と言い残して屋内に入って行く小日本を見送って、日本狗は鬼に近づいた。
「何のつもりだ」
「どうも僕の存在も日増しにはっきりしてきたみたいだね。あの女の子――小日本ちゃんの目には、僕が見えるようになったらしい」
そして鬼は、笑顔で言った。
「ちょっと嬉しくなってね。つい遊び相手を買って出てしまった」
「食い殺す気か。あいつを」
「それはまだ決めかねてるな。はっきり言ってあの子は好きだ。話してすぐにそう思った。もしかしたら、一目惚れかもね」
それは妹を溺愛している鬼子の思考の影響を強く受けてるからだろう、と言い切るのは憚られた。機嫌を損ねればこちらの首が飛ぶ。
「……で、わざわざ小日本ちゃんを退場させてまで僕と話したいことってのは何なのかな」
日本狗は深い嘆息を洩らした。
「お前がまだ、単なる鬼ではなく鬼子の一部だと信じた上で、言わせてもらう」
小首を傾げて、鬼は続きを待っていた。
白い息を散らしながら、日本狗は言う。
「俺の飼い主に手を出すな。次にあいつにちょっかい出したら、お前を消す」
それを聞いた鬼は――
ただ目を丸くしていた。
そして数秒後、小さく噴き出す。
「君……本気で言ってるのかい? 自分じゃ歯が立たないような相手に宣告する言葉とは思えないな。自殺願望でも持ってたの?」
「自分でもそう思う。でも――」
それでも、と日本狗は胸中で自らを奮い立たせた。
「あいつらを守るのが、俺の仕事なんだよ」
「随分と仕事熱心なんだね」
「……訂正する。仕事だから守ってるんじゃない。俺は今の生活と、あの姉妹が割と好きだから、お前と闘う」
作りかけの雪だるまを見つめていた鬼は、再び笑った。
「何でだろうな。喧嘩を売られているのに、とても清々しい気分だ。やっぱり君と喋っていると、新しい発見が尽きない」
例によって鬼は姿を消していたが、声だけが日本狗の耳に届いてきた。
「君に免じて、しばらく彼女の心の中に戻るとするよ。また会えることを祈ってる」
「こっちは二度と会いたくないんだけどな」
「ひどい言い草だな。いい友達になれると思ってたのに」
その言葉を最後に、鬼の気配が消えた。
安全を悟るのと同時に、日本狗の口からは知らず溜息が出ていた。
「……死ぬかと思った……」
そして日本狗は消えた鬼と、それを現出させた日本鬼子のことを思う。
彼らは不安定なのだ。どうしようもなく。
いや、彼らに限った話ではないのか。いずれ自分からも、心の鬼が現出するかもしれない。
生きている限り、誰もがそういった不安と隣合わせになるのだろう。
しんどい話だ。
しかしこの、一見平凡そうでいてその実ひどく不安定な日常を継続させたいというのが、彼の切なる願いだった。
完
乙。気のせいかな?鬼子系のSSってのんきな日常の裏に底冷えする冷たい面が潜んでいるような
…そんな描写がチラホラと垣間見えていいスパイスになってる作品が多い希ガス
そのさじ加減がうまいなあと毎回感心する。
そろそろ500KBになるから、新スレ立てたほうがいいような。
みんないい作品書くなあ……。
なかなか評価されていないというか、他スレとの疎外感があるような所が哀しいですけど。
でもそれこそがここのいいところ、美しいところなんでしょうけど。
OGRE IN THE HUMANと青鬼と狗、読ませてもらいましたー。
どちらもすばらしい作品で読み入ってしまいましたw
>>322-324の作品について
作中出てくる青鬼(正確には日本青という名前だそうです)ですが
pixiv内の某絵師様のキャラクターを拝借+独自解釈して使用したものです。
絵師様とSS作者の私は全くの別人ですので、その点何卒ご了承ください。
329 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:22:11 ID:Vnrijbhp
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第三章〜【街の目】 俺設定を
今から投下します。
330 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:23:10 ID:Vnrijbhp
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第三章〜【街の目】
初雪降りる下町に、雲の合間から暖かく日の光が降り注いでいる。その光が優しく小雪に微笑みかけ
キラキラと輝きながら儚く消えていった。
時は昼過ぎ、鬼子の住む神社に参拝客達がお参りに来ている。その姿を薄っすらと白んだ
神社の屋根が見守っていた。
神社に住み込みで働いている人達は、いそいそと境内を走り回っていた。
鬼子は・・・相変わらず縁側でお茶を飲みながら足をブラブラさせている。
この神社に来て幾日経っただろうか。
闇世の激しさと、光の世の静かな日常。あまりの違いに、鬼子は空想の世界に
迷い込んでる様な気がしていた。
「なぁ、鬼子。」ヒワイドリが隣に座っている。これもいつもの日常となっていた・・・。
「・・・・・。」鬼子は返事をせず、身体をヒワイドリとは反対側に向けた。
「元気を出せよ。誰にだって間違いはあるさ。」ヒワイドリは何故か焦るように鬼子に優しく言った。
鬼子の目がキリッと赤くなる。「間違い!?間違いって何よ。あんたが割れって言ったんだよ。あんな大事な物を。」
ヒワイドリは小さく首を振り、両手を上に向た。「過去の事は水に流してさ!輩。悪しき輩でも探しに行くか!?」
【プス】薙刀がヒワイドリの右のお尻に刺さる。「痛!な、なにすんだよ〜。お、俺は割れるか?って聞いただけだろ!」
鬼子は立ち上がり、目は赤く、着物からもみじが舞い、薙刀を構えていた。戦闘時の表情だ。
「・・・お、俺が悪かった・・・。」ヒワイドリは鬼子の心の本性に圧倒され、たじろいでいた。
まだ参拝客が来ない今朝方の話し。鬼子も住み込みで働いている人達のお手伝いにと、
本堂横の境内の庭を掃除していた時だ。鬼子の横にふらっとヒワイドリが現れてこんな事を言った。
「鬼子って弱そうだな。」いつも唐突に言い出す。
「ん゛ん・・?」鬼子は不機嫌だ。ヒワイドリが話しかける言葉はいつも相手をそうさせる。
「私って結構強いよ。」落ち葉を掃きアゴを少し上げながらそう答えた。
ヒワイドリは鬼子の周りをグルグル回り始める。
「だって、鬼子がここへ来てから何も退治して無いじゃん。悪しき輩を退治しに来たって言ってるけど、
本当は弱いから何も出来ないんじゃないかな〜って思ったり・・。」鬼子の痛い所をズバッと突いた言葉だ。
確かに光の世に来てからは一度も悪しき輩を散らしていない。それどころか、する事が何もないのだ。
「何〜〜〜!?悪しき輩が私の前に出てこないからじゃなぃ。出て来たら一振りで散らしてやるわよ。」
鬼子は少し苛立ちながらそう言い、ほうきをブンブン回していた。
ヒワイドリの目が薄っすらと光る。
「だったら、あの岩真っ二つに出来る?」とヒワイドリが指差した先には、幅一メートルくらいで、
高さは鬼子の背丈くらいある大きな岩があった。
「当然出来るわよ。闇世で沢山修行したからそんなの簡単よ!」鬼子は鼻息荒くしながらそう答えた。
「じゃぁやってみてよ。」ヒワイドリは薄気味悪く笑みを浮かべる。
鬼子はほうきを捨て、その石に歩み寄り腕まくりしながら薙刀を持ち、身構えた。「いい?見ててよ。」
鬼子の目の色が赤く変わり、もみじ柄の着物からもみじが舞う。鬼子の周りだけ空気が乱れていた。
「いくよ!」鬼子は高く飛び上がり、力一杯薙刀を振り降ろした。
【ガシーン】とても大きな硬い音が鳴り響きその岩は真っ二つに割れた。
大きな岩が二つに別れ、左右に倒れていく。【ドス〜ン】鬼子は胸を張り自慢げな顔をしている。
ヒワイドリは口に手を当て、笑いをこらえてる様だ。
「ぁぁぁぁぁああああああ〜〜〜〜〜あああぁぁぁぁ・・・」と何処からかダミ声が飛んできた。
鬼子が振り向くと、きび爺がこちらへ走ってきている。舞子も一緒だ。
「あああ・・・壊れとる・・・壊れとるぅ・・う。」きび爺は頭を抱えながら涙目になっている。
鬼子は訳が解らない状況だ。
「舞子・・この岩、壊れてるように見える・・か・・?」
きび爺は目の前の状況を受け入れがたく涙目で舞子に訴えた。
舞子はポツリと「・・・はぃ。」
「ああぁぁぁ〜ワシの力石がぁ・・。」きび爺は天を仰ぎながらそう叫んだ。
鬼子は目をキョトンとしている。「え・・何?どうしたの?」
331 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:23:51 ID:Vnrijbhp
舞子が鬼子の横に近づきそっと耳打ちした。
「鬼子ちゃん・・その石、力石(ちからいし)って言ってね、神代文字が書かれてる石なの・・。
鬼子ちゃんも知ってるでしょ!?神代文字には不思議な力があって、力を持たない人間の民に
色々力を与えてくれるって言われてる石なの・・・。」
「え・・えぇ!?・・・。」鬼子はもちろん神代文字の事は知っている。闇世の言い伝えでは
大白狐様の祖先が創ったとも言われてるとても大事な文字だ。鬼子の表情が徐々に青く・・・。
きび爺は後ろを向き肩を落としながら言った。「力石の存在は、人間の民も知っとるから、良くお参りに来てくれるんじゃぁ・・。
お賽銭をその石の横に置いてある賽銭箱に入れてくれるんじゃ・・。その石が無かったら・・・。
お金が、お金が飛んでいく〜〜〜・・・。」
「え?」鬼子、舞子、ヒワイの目が点になる。狐様に仕える狐火様が神代文字の心配じゃ無くて、
お金の心配とは・・・。舞子、ヒワイドリは鬼子の方に近づく。
「光の世で暮らして行こうと思ったら、お金がなきゃぁ大変なんじゃぞ・・。
そのため、ワシの神社では、厄除け、無病息災、交通安全、合格祈願、家内安全、安産祈願、縁むすび、
などなど、色んな事を扱っとる。これでも巷で評判なんじゃ・・・。」
舞子とヒワイドリはきび爺の方に近づきうなずいている。鬼子側は・・・一人だ。
ヒワイドリに騙されたが、そんな大事な石を壊してしまったのは確かに自分。
鬼子は小さな声で・・・「ごめんなさい・・。きび爺ごめんなさい。」と目に涙を溜めながら言った。
「まぁ壊れた物は仕方ない。また石屋に注文しとくわぃ。」ときび爺は手を振りながら唐突にそう言った。
舞子と鬼子はまたまた目が点になっている。きび爺の言った事がすぐ理解出来ないようだ。
舞子が口早に言う。「き、狐火様。い、石屋に注文って・・。」
「あぁ舞子は知らなんだか?その石はレプリカで、本物は蔵にしまっとるから大丈夫じゃ。」
鬼子は張り詰めた空気が一気に抜け、腰砕けにその場にペタッとすわり、「よ・・・よかった・・・。」とつぶやいた。
舞子はため息をつきながら鬼子の肩に手をかけた。「よかったわね・・鬼子ちゃん。」
鬼子はふと我に返り、ヒワイドリの方を見た。
ヒワイドリは皆から離れた場所で、【ズズズ〜】っとお茶を飲みくつろいでた。
もちろん、後で鬼子に刺されたが。
そんなこんなで縁側でお茶を飲んでいる鬼子とヒワイドリ。鬼子の機嫌も悪い訳である。
そこへ、きび婆が歩み寄ってきた。「鬼子、今朝は色々大変じゃったな。」
きび婆は【スクッ】とヒワイドリの両足を掴み、ブラブラと揺らしている。
「あっ、きび婆。ごめんなさい。私とんでもない事をしてしまって・・・。」
鬼子は朝から謝ってばかりだ。
「いやいや、舞子から聞いたよ。こ奴がその原因を作った事もな。」
ヒワイドリはきび婆に揺らされながら、目を真っ白にし、死んだ振りをしている。
「街へ降りてみるかぃ?」
きび婆が鬼子に優しくそう言った。きび婆の唐突な言葉だったが、鬼子の心を見抜いていたようだ。
鬼子の暗い表情が見る見る明るくなり、目から大量のキラキラ星が流れ落ちている。
きび婆は鬼子がココへ来てから一度も神社の外には出していない。
鬼子の本来の目的である悪しき輩を散らすと言う事も解っている。
だが、光の世で悪しき輩を探そうとする場合、時には人間の民からの情報も必要になってくる事もある。
鬼子がこの世界の事を何も知らず、勉強、準備せず街中を駆け回ると、化け物、妖怪、お化け扱いされ
色々厄介な事になってくる。そうなると、鬼子は闇世に戻されてしまう可能性があるからだ。
きび婆は、人間の民の前に出るにはそれ相応の覚悟がいる事を先代の狐火様から闇世で沢山聞いていた。
それを踏まえ、きび婆は鬼子に今まで、人間の民の前では人間らしく振舞う様にと教えてきた。
意図しなくても、本当の鬼の前では皆が恐怖してしまうからだ。
しかしここ数日、神社にお参りに来た人間の民が鬼子を見てもまったく怖がらない。
もちろん見た目には人間とどこも変わらない。違う所と言えば角だけだ。
その間に、きび婆は鬼子に人間の民の前に出るとき、注意する事などを色々教えていた。
まだ早い気もしたが、鬼子が街に行きたがってる事は解っていたので、気晴らしになればと
思い、そう鬼子に言ったのだ。
「えぇ〜!?ほ、本当にいいの?きび婆。」鬼子はピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。
きび婆は【クスッ】と笑いながら「いいよ!街へ行っといで。」
「やったあぁぁぁ〜。きび婆ありがと!!」っと鬼子はきび婆に抱きつき喜んだ。
332 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:25:11 ID:Vnrijbhp
近くの下町までは30分くらい歩くだろうか。長く続く神社の階段を降りながら鬼子は浮き浮きしていた。
「いっやぁ〜やっと街を見る事が出来るわ!うれしいなぁ〜。」鬼子は上機嫌である。
「やばいぞ〜・・やばいぞ〜。鬼ってバレルぞ〜。」ヒワイドリが同行者だ・・・。
「どんな町並みなのかしら。どんな人達がいるのかな。何か美味しい食べ物あるかなぁ〜。」
鬼子はヒワイドリの事は目に入って無かった。
「乳の話しでもしようじゃないか。」ヒワイドリが唐突に言う。
「お金もきび婆から少しもらったし、何しようかなぁ〜。」やはり鬼子は浮き足立っていて、ヒワイドリの
言葉が全く耳に入らないみたいだ。
「鬼がいる!」ヒワイドリが突然大きな声で叫んだ。
【ビクッ】っと鬼子が萎縮し、足が思うように動かず階段を踏み外してしまった。【ゴロゴロゴロ・・・】
鬼子は階段を10段くらい転げ落ちた。その姿を見てヒワイドリは指差しながら笑っている。
「いった〜いぃ・・。突然何言い出すのよ。」鬼子は頭と腰をさすりながら言った。
「その角、どうすんだ?」ヒワイドリは鬼子に近づきながら久しぶりに場に合った疑問を提示した。
「それにこの、俺の首近くまで来てる薙刀もどうすんだ?」
「あ!」鬼子はきび婆から言われた事を思い出した。
人間の民を怖がらせ無い様に、鬼と気付かれ無い様にする為には、まず、角と薙刀は隠せと言われていた。
神社にいる時、角はそのままだったが、神社の門の左右に鬼の木造が有る為、
お参りに来る人間の民は神社の飾りか何かと思ってくれていたんだろう。しかし、お参りに来ない街の人達もいるし、
何よりも頭に角があるのはおかしい。
「この角・・・どうしよう。」鬼子は手で角を今さらながら隠し、ヒワイドリに聞いた。
すると、ヒワイドリが何やらアクセサリーの様な物を取り出し、鬼子に渡した。
「それを角に掛けとけば怪しまれないから。」ヒワイドリは似付かない笑顔で鬼子にそう言った。
鬼子が手にした物は、ヒワイドリの顔をモチーフにした物でそれに長いファーが付いたアクセサリーだった。
http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=378 一コマ目挿絵
「・・・・・」鬼子はそれをジッと見つめ言葉が出ない。
「もし、人間の民から角の事を聞かれたら、カチューシャって言っときな。」ヒワイドリは笑いながらそう言った。
鬼子は渋い顔をしている。「カチューシャって何?」
「女性の髪を綺麗に押さえて、まとめる物さ。皆してるぜ!街に出たらまずカチュウシャを買えばバッチリだ!」
ヒワイドリが流暢にそう言った。
妖しい・・・と鬼子は思ったが、今この角を隠す物は無い。しかた無いので渋々その
ヒワイドリアクセサリー・・・を角に付けた。二対で一つ。計四個のヒワイドリの顔が鬼子の角に・・・。
ヒワイドリは、鬼子のその姿を見て無言で笑いこけ、お腹を押さえながら地べたを苦しそうに這いずり回っていた。
「それと、その不細工な顔の般若面も隠しとけよ。」ヒワイドリは勝ち誇ったかのように鬼子にお尻を向けそう言った。
【プスッ】とヒワイドリのお尻に小さな矢が刺さった。
「いてて!」またやったな〜と思い、ヒワイドリが鬼子の方へ振り向くと、鬼子がいつも頭に付けている般若面が・・・
「お前の方が不細工じゃ。ぼけ!」と。な、なんと、般若面が言葉を発している。
ヒワイドリは驚き、たじろぎ、また目が真っ白になっている。
「闇世の世界では般若面は人気商品。街の露店でも他のお面と並んで売ってるからな。
お前とは正反対の人気者なんじゃよ!ガハハハハ〜。」と般若面は笑いながらそう言った。
目を白くしながらヒワイドリはたじろいでいる。
「しかし喋るなんて・・そ、そうか。その般若面は、名の有る術師に祈祷してもらった物か・・。」
ヒワイドリの顔が青ざめていく。いつものヒワイドリとは違う反応だ。
鬼子は闇世の町並みを思い出しながら言った。
「そうよ。般若面は色々種類があって、只のお面、道具を出し入れ出来るお面、出し入れ出来喋るお面とあるからね。」
ヒワイドリはまだ目が真っ白だった。もしかしたら般若面との相性がわるいのか!?
ヒワイドリは小さな声でつぶやいている。
「喋る般若面だったのか・・・。あぁ・・過去を思い出す。あの忌まわしい過去を・・・。」
「ん?何か言った?」鬼子は聞いたがヒワイドリから返事は無かった。
鬼子は薙刀を般若面に吸引させ、そのお面は袂(たもと、袖フリ)にしまい込み、笑顔で階段を降りて行った。
「さぁ、準備OKよ!行くわよヒワイ。」鬼子はヒワイドリアクセサリーの事は忘れ、上機嫌で街の方へと向かっていった。
ヒワイドリは・・・トボトボと鬼子の後を付いて行く。
333 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:27:35 ID:Vnrijbhp
暖かい光が街へと吸い込まれている。街中の人達は何やら元気良く掛け声をかけながら商売しているようだ。
昔、ここは名の有る将軍様が住むお城の城下町として栄えたらしい。その風情を色濃く残した街である。
遠くにはそのお城が見えている。また、近代的な建物なども遠くに霞んで見えていた。
「ヘィ、ラッシャイラッシャイ!取れたての魚だよ〜。」頭に鉢巻を巻いたオジサンが大きな声で商売している。
「饅頭はいらんかぇ〜。」「新鮮な野菜がやっすいよ〜。」色んな声が飛び交っていた。
鬼子の目には、全てが新しく新鮮で愉快な街に映っている。そんな風景を見ながら笑顔で歩いていた。
「あれ!?お嬢ちゃんは鬼狐(おにぎつね)神社に新しく入った巫女さんじゃな!?鶏を連れてお散歩かぃ?」
と声をかけて来たのは、御茶屋の人だった。見てくれは80歳くらいのお婆さんがそこに居た。
「え?あ、そ、そうです。」突然、人間の民から声をかけられたので鬼子は驚きながらそう答えた。
「鬼狐神社さんにはいつもお茶を届けててな。上得意様じゃて。」そのお婆さんは優しそうに微笑んでくれた。
そのお婆さんが鬼子の頭をジッと見ている。鬼子はそのお婆さんの目線にドキドキしていた。
「変わった飾りを付けてるねぇ。」お婆さんは鬼子の頭を指差し、そう言った。
き、来た!その言葉が鬼子に向かって来てしまった。「あ、これは神社で売っているカチュウシャです。」と、
鬼子はとっさにヒワイドリが言ってた言葉を思い出す。
「へぇ〜角付きカチュウシャかぇ。そんなのあったかなぁ。」
そのお婆さんはお茶を神社に納めている為、良くしっているのだ。
鬼子は後ずさりしながら「さ、最近作ったみたいで・・・。ハハ・・ハハハ・・。」と焦りながら何とかごまかした。
鬼子は軽くお辞儀をし、そそくさとその場を早歩きで去っていってしまう。
ヒワイドリが早歩きになっている鬼子の前に出て行くと、鬼子は手で胸を押さえ、
顔は丸く赤くなり息が止まっている様にみえた。
鬼子はピタッとその場に止まると【プッハァ〜・・・】と勢い良く息を噴き出した。
「あぁ〜死ぬかと思った・・・。」鬼子はそっと胸を撫で下ろしながら肩を落とした。
「突然声をかけてくるなんて想像してなかったから・・・。」鬼子はまだ胸がドキドキしている。
「おめぇ・・・やっぱり弱いだろ。」ヒワイドリはそんな鬼子を見ながら言った。
「それとこれは別よ、相手は人間の民なんだから。突然知らない人から声を掛けられると驚くわよ。」
と鬼子はゆっくりと心を落ち着かせながらまた歩き出した。
「肝の小せぇ奴。」ヒワイドリの言葉が鬼子の心に突き刺さる。
鬼子はまた立ち止まってしまった。そして、ヒワイドリの方を見ながら目が徐々に赤くなっていく。
「おぉっと、ココで薙刀でも出すか?」と笑いながらヒワイドリは余裕の顔でお尻をフリフリしている。
それもそのはず。こんな、街中で薙刀を出せる訳が無い。ヒワイドリはそれを知ってて鬼子をからかってるのだ。
鬼子は【スゥー】っと深く深呼吸し、心を落ち着かせようとしている。
「そう言えば、さっきのお婆さん。鬼狐神社って言ってたわよね!?鬼狐神社って何?」
鬼子は何とか話題を変えて自分のリズムをつかみたいみたいだ。
その言葉を聞いたヒワイドリは顔に手をやり、頭を左右に振りながら言った。「・・・おめぇさんが住んでる神社の名前だよ。」
「・・・・・・そ、そう・・・名前が有ったのね。そらそうよね・・・。ハハ・・アハハハハ・・・・・。」
鬼子は心のリズムを完全に失っていた。取り戻す所か自分が言った言葉で全てが真っ白になり、頭から湯気が出ているようだ。
その光景を見ていた周りの人間の民は「誰と話してるのか?」と言うような顔で歩き去っていく。
ヒワイドリは人間の民が見てる前では決して口を開かない。鬼子が一人で話をしている様に見えるみたいだ。
「カチュウシャ。」と着物の袂から声がした。般若面の声だ。般若面は今までもこうやって所々で助言してくれている。
「あっそうそう。早くカチュウシャって物を買わなくちゃ。」鬼子はやっと正気を取り戻し、何とか歩き出す事が出来た。
せっかく面白く鬼子をからかっていたのに丸つぶれだ。「チェッ。」とヒワイドリが嫌そうな顔をし、小さな石を蹴っていた。
334 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:29:04 ID:Vnrijbhp
「どのお店で売ってるか探して!」鬼子は口を手で軽くふさいでそう言った。一応回りの反応を勉強出来たようだ。
ヒワイドリが指差し言った。「あの角を左に曲がると頭に付ける髪飾りがあるはずだよ。」
鬼子は冷たい疑いの眼差しをヒワイドリに向けている。当然だろう。
「お、俺を信じないのか?」ヒワイドリは早口にツバを飛ばしながらそう言ったが、鬼子の目は完全に疑っている。
ヒワイドリの言う通り角を左に曲がると、本当に髪飾り屋があった。鬼子はヒワイドリの方を見て目を見開いている。
ヒワイドリはどうだ!と言わんばかりに腕組しながら流し目で鬼子を見ていた。2人は目で会話が出来るほど仲がいいのか・・・。
ヒワイドリは良く舞子と一緒にお使いに出ていた。一緒と言うか勝手に付いて来てるのだが。
だからこの街の事は結構詳しいのだ。
店の周りはキラキラと輝く綺麗な髪飾りが沢山飾っていて、鬼子もつられて目がキラキラしていた。
「うわぁ〜可愛いのがイッパイある〜。」鬼子は目をキョロキョロと左右にやり、せわしなく店の前を見回っていた。
「あっ」鬼子は我に返り、そお〜っと店の中を覗くと、奥で店番のお婆さんがレジに手をかけ寝ていた。
【ふぅ〜・・・】と鬼子はため息をもらす。「よかった。お婆さんが寝てるから心置きなく髪飾りをさがせるわ!」
鬼子は人間の民にジロジロ見られるのが怖かったからだ。
綺麗な飾り。可愛いカチュウシャ。着物用のクシや髪飾りなども売っている。鬼子は宝石箱の中にいる感覚でいた。
「これ可愛い、これ綺麗〜、これもいいなぁ。」鬼子は今までのウップンを晴らすかのように店の中をグルグル回っていた。
「あぁ〜!」鬼子の目にとまった物は紅色のもみじ柄が入った、ツヤの有るカチュウシャだった。
「これいぃ〜。これに決めた!」鬼子の表情は今までに無く満面の笑顔になっている。
さぁ、ココからが勝負だ。このカチュウシャを買う為には店番のお婆さんに声を掛けなくてはいけない。
鬼子は一呼吸し、心を落ち着かせた。「さぁ、いくぞ!」真剣な眼差しだ。手と足が同時に出ていて何ともギコチない歩き方。
「鬼子。目が赤いのは駄目なんじゃな〜い?。」とヒワイドリが痛い所を突く。鬼子はその場に【ピタッ】と止まった。
「目・・赤くなってるの?」鬼子が気合いを入れると目が赤くなってしまう。ぎこちない格好で身動き出来ない状態だ。
時間が経ち、冷たい汗が頬をつたう。胸を強く打つ音が鬼子の耳一杯に広がっていた。【ドクン、ドクン、ドクン】
鬼子は一歩前へ出た。「と、とてつもない試練だわ。」目はまだ赤くなっている。
「まずは平常心ね・・・平常心。」鬼子は自分に言い聞かせるようにそう言った。
また、一歩前へ。鬼子の足が震えている。お婆さんの所までは5歩くらいか。その距離が鬼子にとって
長く果てしなく続く道に見えているに違いない。もう一歩。「目、目を何とかしなくちゃ・・・。」
ヒワイドリもその姿を見て、さすがにからかう事が出来ずにいた。そして、鬼子の後ろへ付き同じ様に
一歩ずつ、目を見開きながら進んでいる。鬼子の強い気に飲み込まれてるようだ。
鬼子は赤い目を何とか黒くする為に、眉毛や鼻、口をモゴモゴと動かした。ヒワイドリもマネをしている・・・。
「ヒワ!私の目、黒くなってる?」と鬼子は振り向き聞いた。鬼子のその目は先程より赤くなっている。
それより・・・着物からもみじが少し舞い落ちる様になった。
ヒワイドリは【ゴクン】と息を呑み首を振りながら言った。「だ、駄目じゃん。ひどくなってるじゃん。」
ヒワイドリを見ながら鬼子は涙目になっている。「ど、どうしよう。どうしたら良いと思う・・・?」
鬼子はヒワイドリに聞いている。あのヒワイドリに。もう・・・全てがパニックなのだ。
335 :
時の番人:2010/12/17(金) 14:30:27 ID:Vnrijbhp
「お客さん!何買ったかぇ?」
鬼子の耳にその言葉が激しく突き刺さった。お婆さんが起きたのだ。
ユックリとユックリと震えながらお婆さんの方へと振り向く鬼子。その表情は・・・目が赤く、もみじが舞い、
角が鋭くなり、そして号泣していた。もう駄目だ。もう駄目だ。鬼子の頭の中をその言葉が響き渡る。
「も、、、もみじ柄の、、、カチュウシャを一つ・・・」かすれ声で精一杯その言葉を搾り出した。
「じゃぁそれ、税込み500円じゃて。わしゃ〜目が見えんで、お金を手の上に置いてくれるかぃ!」
【ドタッ】鬼子とヒワイドリはその場でひっくり返ってしまった。
鬼子とヒワイドリは顔を傾け目を白くし、口は半開き状態で店の前に立っている。
その2人を優しく包むように、天から柔らかい日の光が差している。鬼子の右手にはカチュウシャが握り締められていた。
トボトボと力無く歩き出す鬼子。「き、今日はもう神社へ帰るわ・・・。」鬼子はそうつぶやきユックリと歩いてる。
神社へ帰る時も、たまに声を掛けられる。
「こんにちは〜巫女さん。」とか「これから宜しくね〜。」とか。ここの街の人達はやはり鬼狐神社の事には詳しい。
声を掛けるなって言うほうが難しいのだ。
「変わった飾りだね。」「その角売ってた?」そんな声もちらほらかけられている。
鬼子はそんな中を頭を下げながらトボトボと歩いていた。しかし、鬼子の記憶は飛んでいる・・・。
光の世の人間の民は、力のある民たちの事を知らない。遙か昔に忘れ去られている。そして、
街の人達に当然角は無い。彼女の目には、角の無い人達が普通で、角の有る自分の存在って何なんだろうと
思い始めていた。鬼子は少し寂しい思いを抱えながら神社へと帰って行った。
神社へ帰ると、鬼子はさっそく織田さんに角付きヒワイドリアクセサリー付きカチュウシャを作ってもらった。
http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=379 二コマ目挿絵
「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第四章〜【初めての友達】に続く。
皆さん乙です。
ホスト制限で新スレ立てられなかった。誰かお願い。
あと数KBほどでスレ容量が一杯になって書き込めなくなります。
スレ立ては一旦待って頂けないでしょうか
避難所スレでSSスレの新スレの話し合いをしてます
参加お願いします
>>335 可愛いと思ったら全然可愛くないwww
時の番人さんも本スレで世界観設定に携わってほしいな