【お題で創作】月間創作発表スレ2【S−1】

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1 ◆LV2BMtMVK6
月毎にお題を設定し、全ジャンル(文章、絵、料理、音楽、動画他)からの投稿を募るスレです。

投下期間は月の1日から20日まで。
月の残りの日は次のお題決定などに回します。

即レスでの感想歓迎です。
テンプレは>>2-3で。


@まとめウィキ

http://www19.atwiki.jp/s-1gp

@過去ログ

S−1GP  Rd.1(議論・運営用スレ)
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222324533/

【お題で創作】月間創作発表グランプリ作品投稿スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222782546/
2テンプレ:2009/03/30(月) 16:00:59 ID:U7qaitQk
@投稿に関して

【全ジャンル共通】
・名前欄には、
○月「タイトル」(なければ省いても良い)
タイトルの後ろにはトリップ(推奨)
……を入れる。

例)名前欄→○月「創作発表物語」◆sousakuS-1

・投下前、もしくは投下後に使用したお題を示す。

・本文最初にどのスレからの投稿かを示す。ない場合は書かなくてもおk。

例1)雑談スレから投下します。お題は「秋」です。
例2)投下します。お題は「秋」と「誕生」です。
例3)投下終了です。お題は「秋」と「誕生」と「キノコ」です。

4:アップローダーは創作発表板アップローダーを推奨。

URL:http://www6.uploader.jp/home/sousaku/

【文章】
・複数レスになる場合にはタイトルの後に番号を付ける(1/n、2/n等)。
・投下終了後には「終わりです」「完」などをつける。
・TXTファイルもしくはHTMLファイルでの投稿も可。

例)○月「創作発表物語」1/n ◆sousakuS-1

【画像】
・GIFファイル・JPEGファイル・PNGファイル推奨。

【音楽】
・MP3ファイル推奨。

【料理】
・レシピ、写真等。詳細は文章や画像に準ずる。


「批評」厨、荒らしはスルー。
3テンプレ:2009/03/30(月) 16:04:12 ID:6TgC0n6u
@お題の決定に関して

21日〜月末までにスレで話し合って決めます。
お題の数は毎月三つ程度設定されます。
正式にこうという形はとってないので、ノリで決めます。

@その他

スレ内での企画等に関してはいつでも可。
ただし、投下宣言があった場合は一旦停止で。
出来れば21日以降にするのがベターです。

投下する人は「企画を話してるからどうしよう……」なんて迷う必要は一切ありません。
迷わず投下宣言をしてください。
もし期限が過ぎていた場合でも、何か一言レスがあれば投下してもおkです。


S 創作発表板の住民が

1 1つの場所に集ってお題創作するスレ


開始!
4創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 16:05:11 ID:U7qaitQk
>>1代理立て乙です!
&テンプレも乙w
5創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 16:06:46 ID:6TgC0n6u
>>1代理立てd!
&テンプレはお互い様だw
6創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 16:08:18 ID:6TgC0n6u
とりあえず前スレにこのスレのURL貼りとお題決めかな
ってか残り日数がほとんど無いw
7創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 16:37:08 ID:U7qaitQk
前スレで出たお題候補はこちら

「エイプリルフール」
「さくら」
「出会い」
「ウサギ」(卯月)

この他やってみたいお題を新しく足すなり減らすなりするわけだね

問題なければこの四つでもいいのかな?
毎月の初めにスタートだから、早めに決定していきまっしょい
具体的には、明後日から四月だから今夜24時くらいまでには決めてしまいたいですね
8創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 19:41:40 ID:6TgC0n6u
問題無いし、時間もないからその四つでおkかと
なんだかんだで押さえる所は押さえてあるしねw
9創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:29:10 ID:U7qaitQk
ちょっと早いけど、意見がないなら

「エイプリルフール」
「さくら」
「出会い」
「ウサギ」(卯月)

の四つでいいかな?
個人的には「エイプリルフール」は、「嘘」くらいで良いと思わんでもないですが
開催して一日で終わっちゃう時事ネタだしねw
10創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:34:34 ID:6TgC0n6u
あ、「嘘」に変えるの賛成
エイプリルフールの要点は抑えてあるし、他の日でも構わない言葉だし
それに、ある程度限定されてる単語だからそっちの方がお題として良いかも
11創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:45:13 ID:NXU+F/WD
卯月書かずに単純に「ウサギ」でいいんじゃないかな。
イースターもあるし。
12創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:48:27 ID:U7qaitQk
卯月はわざわざ入れなくても四月の話にはなっちゃうよねw
それでいいかもね。ってことでこうかな?

「エイプリルフール」→「嘘」
「ウサギ」(卯月)  →「ウサギ」
13創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:53:50 ID:6TgC0n6u
んじゃそれでいこうか!
4月のお題は、

「嘘」
「さくら」
「出会い」
「ウサギ」

の四つで
日付が変わったあたりで気付いた人がお題の明示と開始宣言ってことで〜
14創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:56:00 ID:t/p9aKmQ
ん? 明日はまだ三十一日だよね?
一日に日付が変わってから、という事でおk?
15創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:57:20 ID:U7qaitQk
おkっす

なんか、いいな今回のお題
ハートフルなお話が期待できそうだ。「嘘」がちょっと怖いがw
16創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:58:07 ID:U7qaitQk
>>14
ああっ!指摘してはいかんことを!?
17創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 22:58:40 ID:6TgC0n6u
四月一日になったら、だね
その時間位まで起きてる奴はいるだろ?w
18創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:00:13 ID:U7qaitQk
あ、勘違いはしていなかったのかw
……ちっ
19創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:00:15 ID:6TgC0n6u
さて、俺の日本語力が足りていなかったor明日はもう四月だと思っていたのどっちなんだろうねぇ
20創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:01:07 ID:U7qaitQk
まんまと釣られたお!悔しいお!
21創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:03:27 ID:sefaWYSt
4月馬鹿にはまだ早いぜ
22創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 00:05:12 ID:exJ2VImK
四月お題、「嘘」「さくら」「出会い」「ウサギ」

お題の使用はどれか1つでも複数でもなんでも可
わからない事あったらとりあえず聞いてみちゃうと良いかも
んでは、

開始
23創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 22:37:55 ID:opeGW+hO
春の日の朝のことだった。上空を見上げると、空はよく澄みわたり目を地上に目を向けると、
桜の木々が香りたかい風にもてあそばれ、枝から華やか花びらを無機質なアスファルトに撒き散らしていた。
そんな中をヒトミは新しい出会いに胸いっぱいの期待をふくらませて自転車をこぎ、高校の入学式に向かっていた
先の事がどうなるかなんて誰にもわからない。そこには期待だけでなく、大きな不安もあってしかるべきであろう。
しかし、この子にはどうもそういったネガティブな思考回路はどこかで分断されているか、初めから持ち合わせないのか、
いずれにせよ、彼女には馬耳東風、いっかな思いつく暇もありゃしない。実にうらやましい性格だ。
ヒトミは生まれが八月なので、この時15歳、まだまだ幼い顔立ちではあるのに、目だけがやけに眩しい。興味しんしん、
周りを見渡している目は実に魅力的だ。たいして偏差値も高い高校ではないのだが、我々がすぐに思いつきそうな後ろ暗さとか、
「どうせバカだから」なんていうありきたりな諦念なんか全くない。頭の中は大いなる好奇心でいっぱいだ。
きっと将来、幸福になるのはこういったタイプの人間なんじゃないだろうか?
いよいよ校門が見えてきた。果たして十五の春、どんな出会いが待っているのか。それは誰にもわからない。
24創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 22:47:41 ID:opeGW+hO
投下終了です。お題は「さくら」「出会い」です。
25創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 22:54:03 ID:exJ2VImK
新スレ初投下乙!
言葉というか単語選びが面白いなぁ
前後が微妙に区切れているのも、桜の花びらみたいで春っぽかったです
GJでした!
26創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 02:44:54 ID:Xw9DoGtf
お、これは新スレのスタートにふさわしい何かが始まりそうな作品
主人公を楽しそうにからかうような地の文からも、これからの期待やワクワク感が伝わってくるなぁ。若ぇやw
一レスの短い文からでも未来への広がりを感じました。GJですぜ!
27創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 07:47:32 ID:bo/NeMwK
乙ですよ
続きを読みたくなる作品ですよ
28創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 18:26:23 ID:lhKOogY5
「なぁ、俺ウサギ拾っちゃったんだけど・・」
さくら舞い散る学校への通り道、我が友人である浩史が唐突にそんな事を言った。
「は?」
犬猫ではなく、ウサギを? どんな状況だそれは。
ダンボール箱に『拾ってください』と書かれて入れられているウサギを想像して、そのシュールさに思わず噴出した。
「何笑ってるんだよ、楓。それでさ、コイツどうしよう」
「どうしようも何も――飼うか、保健所でしょ」
考えるまでもない。飼えるなら飼うのが一番だし、駄目なら保健所行きだ。
「保健所とか・・ひでぇ事言うなぁ。コイツ見ても同じ事が言えるか?」
そう言って差し出されるウサギ。白くてフワフワでちょっとプルプルしてて。もふもふパレードだ。
「うわぁ、わぁ・・」
思わず手をワキワキさせて、そのウサギに手を伸ばす。浩史はスィッとウサギを遠ざけた。
恨みがましく浩史を睨み付けると、
「な、コイツ俺らで飼わねぇ? 籠とか寝床とかは用意するから、お互いの家を行き来させる感じで」
「餌代を折半って事ね? んー。まぁ、良いわよ。この可愛さの前ではお小遣いとかどうでも良くなるわ」

そうして、そのウサギは私達が共同で買う事になった。
この出会いが私の人生を豊かにしてくれるのは、この暴力的な可愛さ的に間違いない。
あぁ、ウサギってこんなにも可愛かったのか――!!






「まぁ、拾ったってのは嘘なんだがな」
そう呟いた浩史の声は誰に聞かれる事もなく、風に溶けた。
浩史が、『楓との仲を進展させるアイテム』としてウサギを購入してきた事を知る者は居ない。
29創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 18:29:28 ID:lhKOogY5
初めて来たスレで、適当に投下してみるテスト。
お題は全部突っ込んでみました。ありきたりな展開ですが。
30創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 18:53:32 ID:u5PSYvs2
腹黒い浩史に吹いたw
31創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 19:08:03 ID:u5PSYvs2
冷たい夜風が頬に当たり、後方へと吹き抜けていく。
僕は息を切らし、自転車をこいでいた。
前輪のライトのモーターがヴーンと唸り、道を照らしている。
それは暗い夜道に良く響いた。
「遅いよ」
公園に着いた僕を待っていたのは、白いワンピースの少女。
長くて綺麗な髪を、腰の辺りまで伸ばしていた。
「違うよ。桜が今年は遅かっただけだよ」
目を見合わせて、そして僕らは空を見上げた。
樹齢500年あるという巨大な木。
ごつごつとした幹の上から、ピンク色の何かが落ちてきた。
桜の花びらだ。
その桜は満開だった。
この公園のライトを合図に僕らは出会う。
一年に一度。
桜が咲きほこる季節に。
「今年はどんな一年だった?」
「相変わらずだよ。和明も美咲も修一も相変わらずだ」
彼女はただ、『そう』と言った。
君が転校してから、僕らはちょっとだけ寂しい日々を送っている。
それは言わずに心の中にだけそっと呟く。
それから僕らは色々な話をした。
僕の学校での生活のこと。
桜の学校での生活のこと。
気付けば、夜は白やんできた。
赤い朝日が昇る前の、一瞬の静寂の朝。
「じゃ、また来年ね」
そう言って、桜は公園のライトの電源を切った。
【桜同盟】
転校のときに彼女はそう言った。
また春になったら、ここで会おう。
僕は去っていく彼女に向かって手を振る。
「またね」
32創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 19:10:24 ID:u5PSYvs2
お題は「さくら」しか使ってないんだぜ!
初めて利用しました。
スレ立て乙!他の作者さんも乙!読者さんも乙!なんだぜ。
投稿は考えていたのとは全然違う設定で投下しました。
後悔してないぜw
それじゃ^^ノシ
334月「桜同盟」 ◆WXL4HPZ/HQ :2009/04/02(木) 19:18:25 ID:u5PSYvs2
あっとごめ^^;
題名は「桜同盟」です
34創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 19:55:09 ID:bo/NeMwK
>>28
腹黒いなぁw

>>31
情景描写が綺麗で素敵
35創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 00:26:38 ID:HIJ2Rco3
>>28
これは誰も不幸にならない可愛い嘘だw
つうかもふもふパレードってなんだww

>>31
キュンとした
春なのにちょっと七夕してるのが素敵だねぇ
36創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 01:58:52 ID:r+LE1hUN
>>28
これは綺麗な嘘の吐ける良い男
将来が楽しみですぜ

>>31
春がまた特別に感じるね
離れていても「またね」って言い合える関係が素敵
37創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 22:44:19 ID:W+BQo/K9
 聞き飽きたチャイムの音が鳴り響いた。このチャイムは予鈴というやつで、五分後には五時限目の始まりを示す本鈴が鳴る。
「時間が経つのは早いわね」と佐藤麻実は呟く。
「全くだね」僕は頷いて、椅子から立ち上がる。
「今日はありがとう」彼女はいつもの笑顔を取り戻していた。
「どういたしまして」僕も笑顔を返す。
 ふと、なんだか出会った頃に戻ったみたいだな、と思った。しかし、一年という時間が生んだ壁はあまりに高くて厚い。僕はもう彼女に恋心を抱くことはないだろうし、たぶん彼女もそうだ。そもそも、僕が彼女の恋愛対象だったことなどなかったのかもしれない。
 僕達は人の波に乗って図書室をでる。喧騒に満ちた廊下の空気は、どこかすがすがしがった。それは図書室に篭っていたからか、彼女との話に夢中になっていたからか。たぶん両方だろう。
「それじゃ、またね」
「うん。またね」
 彼女は別れの言葉を言うと、僕を残してその場を去った。
 まったく、昔から上っ面だけはどこまでもお嬢様だ。きっと、次の授業に出るのだろう。あんな話をしたあとなのに――
 僕は授業に出る気分にはならなかった。そして「授業なんて、つまらない日々の繰り返し」なんて思っていた。きっと、彼女との会話のせいだ。
38創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 22:48:30 ID:W+BQo/K9
 國井先生を殺してやるのよ。
 図書館で彼女はそう言った。その後、「嘘よ」と言って笑ったけれど、彼女がそんな大胆な嘘を言うとは思えない。
 つまり彼女は本気なんだ。本気で國井先生を──

 いつ殺すんだろう。どうやって殺すんだろう。――そもそも、なんで殺すんだろう。
 彼女は殺意以外は何一つ語らなかった。
 ……いまさら問いただす気分にもなれない。自分で調べよう。そうすぐには殺さないだろうから。
 気付けば僕は廊下にぽつんと独り。廊下はさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。 それから五秒と経たずに本鈴が鳴った。
 風邪で休んだことはあっても、サボったことはない。だから、僕はこういう時どこに行けばいいのかわからない。
 帰ってやろうか、とも思ったけれど、途中で誰かに呼び止められるのは嫌だった。
「…………はぁ」
 深いため息をついた後、僕の足は教室へ向かっていた。結局「つまらない日々の繰り返し」の中にしか僕の居場所はないのだ。
 まあ、いいや。どうせ、5時限目の内容など頭に入らない。だったら、彼女と彼女の殺意について考えを巡らしてやろう。


投下終了です。
お題は「嘘」と「出会い」を使いました。
39創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 22:26:37 ID:4kn+AtJB
1:改行が変過ぎる。
2:SSの内容があまりにも希薄。
3:内容の薄さを補うほどの筆力や描写力があるわけでもない。
4:人稲。

二日ものスレストは以上の様な理由による“モニョり”が読者の脳内感想文精製装置を停止させてしまう事に原因があると思しい。
40創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 22:29:03 ID:4kn+AtJB
ん?三日か。
414月「春の歌」 ◆KLShlXYtLo :2009/04/18(土) 23:45:24 ID:uhMQPcWU
♪あんだー・ざ・ちぇりー・つりー、
 うぃ・しんぐ・ざ・そんぐす・おぶ・すぷりんぐ、
 ざ・めろでぃー・らいく・あ・くりあ・ふろー、
 ごーず・おん・あらうんど・ゆー・あんど・みー・あんど・おん、
 うぃ・しんぐ・ざ・そんぐす・おぶ・すぷりんぐ、
 ざ・そんぐす・おぶ……


「へたくそな歌はやめなよ」
 しずかな声がそう言って、ぱたりと『へたくそな歌』はやんだ。
「あー、そーですか、そーですか。久しぶりに会ったと思ったらそれですか」と、代わり
に、むすっとした声。「でも、わたしの歌がへたなのは、わたしのせいじゃありません。
あなたのせいです」
「すごいことを言うんだね。でも、へたなのは認めるんだ?」
「あげ足をとらないっ。……わたし、英語は苦手なんです」
 少女はそう言って、少年の方に向き直る、
 ――桜の花びらが舞う中で、どこか楽しげな少年の顔。
 ついつい、すこしどきりとしてしまうのは、彼の女の子みたいに白くて整った顔立ち
のせい――だけではなくて、それが、その顔が、身体が、ひどくはかなげにみえたか
ら。
「この歌を教えてくれたの、あなたなんですよ」少女はすこしふてくされた声で言った。
「教えた覚えはないけどな」少年は応える。「きみが勝手にまねしただけで」
「あの……ずいぶんひどいことを平気な顔で言いますねー」
「きみだって、平気な顔で歌ってたじゃないか」
「それ、どういう意味です?」
「どういう意味だと思う?」
「…………」
 蒼い瞳に薄い笑みを浮かべる少年と、同じく笑みを浮かべながら、桜色の頬をひく
つかせる少女。ふたりはしばらくにらみあって……やがて少女の方が、ちいさくため
息をついて首を振る。
「……まったく、あいかわらずですね、ユリアン、あなたってひとは」
「きみの方もね、サクラ」
424月「春の歌」 ◆KLShlXYtLo :2009/04/18(土) 23:47:19 ID:uhMQPcWU
 きぃ、と小さな音がして、少年の乗る車いすが進む。彼がわずかに目を伏せ、その
感謝を示したことに、もちろん車いすを押す少女は気付かない。ただ、はじめて会った
ときから変わらない――あるいはもっと軽くなったような、彼の細い身体、その首筋を
見つめるだけ。
「ユリアン、身体の方はもう――」少女が口を開き、
「ウサギだ」彼は唐突に言う。
「……はい?」
「きみにはじめて会ったとき、そう思ったんだよ」
 少女はつと足を止めると、ずいと少年の前に回り込み、そうして、彼を見る――にら
むように、あるいは、にらんで――その黒い瞳で。
「あなたに言われたんじゃなければ、泣いているところですよ」
「それは残念だね。ぜひとも見てみたかった」彼は言って、なんのためらいもなくその
瞳で見返す。「実はウサギというのはね、みんな眼が赤いわけではなくて、あの種の
眼が赤いのは、アルビノという体質のせいで、眼の血管の色が透けて見えるからなん
だ。ふつうのウサギは、黒い眼をしてるんだよ」
 そのおだやかな視線を、少女は受け止めて、やがて目をそらす。「……わたしは、そ
んなんじゃありません」
「知っている。きみの場合、眼の血管が破裂して出血していたのだから、よけいにたち
が悪いだろう。サクラ」少女はその声音に、はっとしたように顔をあげる。「――身体の
方は、もうだいじょうぶ? ……手術はこわくなかったかい?」
 そのおだやかな言葉を、少女は受け止めて――やがて目をそらす。立ち上がり、彼の
背に立って、その細く白い首筋に、そっと手を伸ばす。
「こわかった……」彼女はちいさく言った。「こわかったに決まってるじゃないですか……
ずっと。もうこのまま、目が見えなくなってしまうんじゃないかって……実際、その可能
性もじゅうぶんにあったと聞きました。手術をしても、完全に治るかどうかは半々、もし
経過が悪ければ……って」
 もう片方の手で、自分の眼窩をおおう。かすかな暖かさ。それはそこに、皮膚の下に
流れる血の温度……。
「でも、わたしはがんばりました。怖かったけど……ほんとうに怖かったけれど、手術も
受けて……先生たちのおかげで、もうあんな分厚いめがねもつけなくてよくなったんで
す」
 少女は手をのけて――それを見る。桜の花を。かつて、ふたりが出会ったときからこ
こにあり、今も同じようにここにある、その花を……。
「そして、わたしががんばれたのは、あなたの――」
「サクラ」彼は言った。「ぼく、死ぬかもしれないんだ」
434月「春の歌」 ◆KLShlXYtLo :2009/04/18(土) 23:49:04 ID:uhMQPcWU
 ぎっ、と何かが鳴った。それが、車いすの取っ手をつよく強く握りしめたための音だと、
ふたりのうちどちらかは気付いた。
「実は、ぼくの脚は少しも悪くない。肉体としてはとてもすこやかだ。けれど、頭がそれ
を動かせない……神経系の治療は、今はひじょうに進歩しているけれど、残念ながら、
どんなことも多かれ少なかれそうであるように、確実とは言えない」彼は続ける。「確率
論はあまり意味が無いけれど、おおむね二割の確率らしい」
「……なにが、ですか」少女がしぼりだすような声で言った。
「生き残る確率だよ。正確には、健康な身体で生きられる確率だ。あとの八割は、両足
どころか全身が動かなくなるか、あるいは意識自体が――」
「嘘」少女はみじかく言った。「ユリアンがそんないっぱい話すときは、いっつも――」
「嘘だと思うなら、それでいい」少年は言った。「いずれにせよ、治療は一週間後になる。
その後は――いずれにせよ、もうぼくを押してくれる必要は無いよ、――!」
 唐突に、車いすが押された。それはどんどん速度を増して、風圧で少年の髪がなび
くほどになった。桜の花びらが揺れ、タイヤのきしむ音と、靴が地を蹴る音が響いた。
誰かのおどろいた顔にに出くわす前に、やがて速さはゆっくりになって、やがてまた、
止まった。
 ふたりの間に、春の陽射しと、そよ風の他に、小さな声が響いた。それは、しゃくりあ
げるような泣き声……。
「……ずるい、です」声は言った。「どうしていま、そんなことを……言うんですか。わた
しは……わたしは、あなたをはげましに来たつもりだったのに。あなたのおかげでがん
ばれたって、言うつもりだったのに」
 少女の暖かな手が、少年の首筋に触れる。
「こんなんじゃ、だめなのに……。……だめなんです、ユリアン、そんな……死ぬかも
しれないだなんて……そんなのは……」
 少年は前を向いたまま、片手を、その手に重ねた。暖かな手……それはそこに、皮膚
の、白い、桜の色をした皮膚の下に流れる、熱い血潮の暖かさ。
「わかってます……わたしだって、あなたが……元気になりたいって、歩きたいって、
そう思うって……それくらい……それくらいは……でも……」柔らかな手が、強く握られ
た。「でも、わたしは、あなたに……死んでほしくない!」
 なにか熱いものが、少年の手に落ちた。ざあ、と風が流れ、桜の花びらが、ふたりを
包むように舞った。抑え切れないあえぎが、少年の耳朶を打って、彼はほんの少し
目を伏せる。「サクラ」彼は言った。「顔を見せて」
 よろけるような足取りで、少女は少年の前に立つ……火照った顔に、涙の痕、いや涙
がいま流れて、うるんだ瞳が、赤らんだ眼が少年をにらむように見上げる。彼はそれを
――ちいさな気持ちを込めて見返す。
「サクラ、ぼくは――」
「だめです!」とつぜん、少年の視界を遮った――暖かい何かが。「そんなの、だめな
んです!……わたしは、わたしは――もういちど、ユリアンの歌を聞きたい! わたしが
がんばれたのは、あなたの歌のおかげなんです……あなたのおかげなんです、ユリ
アン!」
 少年は少女の胸の鼓動を感じた。それがひどく速いのは、さっき駆けたせいなのか、
あるいは……少年は自分の胸の鼓動も、おなじくらいに高鳴っていることを感じたが、
もちろんおくびにも出さなかった。
「ごめんね、サクラ」
「ユリアン……!」少女は叫んだ。
「だから、ごめん」少年は笑った。それは少女が久しぶりに見る――あるいは初めてか
もしれない、それはやさしい笑顔だった。「嘘なんだ。治療は八割方うまくいくんだよ。
考えてみなよ、先生たちが成功率二十パーセントなんて治療をすると思う? そもそも
ぼくが――」
「嘘」少女は呆然とした声で、言った。「……嘘、なんですよね……?」
「うん」少年はうなずき、笑う。「エイプリル・フール」
 ややあって――ぱちん、と高い音がして、少年はそのとき、久しぶりに――あるいは
生まれてはじめてかもしれない、誰かにそのほおを思い切り引っぱたかれたのだった。
……それでも彼は微笑んでいたし、少女は泣いていた……。
444月「春の歌」 ◆KLShlXYtLo :2009/04/18(土) 23:50:22 ID:uhMQPcWU



「サクラ」と彼は言った。「ごめん」
「それ、どういう意味です?」少女の、不機嫌きわまりない声。
「どういう意味だと思う?」
 車いすが止まり、少年は首筋に不穏な視線を感じる――「……嘘をついて心配させて
しまって、ごめんなさい」
「もう、許しません」少女は言葉とは裏腹の口調で、言った。「許しませんからね……
これでもし、ほんとに死んじゃったりなんかしたら」
「だいじょうぶだよ」少年は言葉通りの口調で返す。「きみがいるからね」
「……それ、どういう意味です?」
「ぼくはね、きみの泣いてる姿が見たかったんだよ」少年は変わらぬ調子で言う。「きみ
は、いつも笑ってて、怒ってて……でも、泣いてるときはなかったよね。だから、ぼくは
ね、もし万が一のときのために、きみの泣いてるところも見ておきたかったんだ」
 また車いすが止まり、少女がぽつりと言った。少年からはその表情は見えない。「…
…それだけ?」
「それは、どういう意味かな?」
「それだけのために……あんなこと言ったんですか」
「うん」
 少年がうなずくと、ややあって、少女はぼそりと言った。
「……最ッ低、です」――言葉とは、裏腹な口調で。
「英語は苦手なわりに、スペシャルな単語を知ってるね、きみ」
「…………」
 少女は黙って、つかつかと少年の前に回り込むと――しなだれかかるように、その
細い身体を少年のそれにあずけた。ふわりとした香りを、桜のそれに似た香りを少年
はおぼえる。つやのある黒い髪に、花びらが落ちる。
「……かならず」彼女の頭が、かすかに震えた。「かならず、戻ってきてください……
そうしたら、もっとスペシャルなこと、言ってあげます。だから、もしとか、万が一とか……
そんなことは、言わないで。……おねがい」
「ぼくは戻ってくるよ、サクラ」少年は変わらぬ表情で応えた。「実は、ぼくも治った後で
ひとこと言うつもりだった……けど、考えてみれば、今言った方がいいのかもしれない
な。だから、言うよ」少女が不思議そうに顔をあげると、彼は言った――「……もう泣か
せはしないよ、サクラ」
 少年は、少女の表情が、不思議から驚きに変わり、そして桜と同じ色に染まってゆく
のを、楽しげに見守っていた。それはほんとうに、ほんとうに楽しそうな――少年が、ほ
かの誰にも見せたことのない、とびきりの笑顔だった。
 

 春の空に歌声が響く。舞い散る桜、そのただなかで、寄り添うふたりの声が、少年の
透き通るような歌声が、少女のすこしたどたどしい歌声が、唱和する――

 Under the cherry tree                 桜の樹の下で
 We sing the songs of spring,              春の歌を唱おう
 The melody like a clear flow              歌声は清らかな流れのように
 Goes on ,around you and me, and on,        ふたりを包みこむ
 We sing the songs of spring,              春の歌を唱おう
 The songs of breeze, the songs of light,       そよ風の歌 光の歌を
 And we sing the songs for this wonderful world   歌おう このすばらしき世界に
 in unison...                         ふたりで……

 ――春の風に舞う花びらだけが、彼らを見守っていた。
45創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 23:51:25 ID:uhMQPcWU
以上、投下終了です。
テーマは「さくら」を中心に「嘘」「出会い」「ウサギ」を少しずつ。
46創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 03:20:17 ID:MZtpBMMm
なんか好きだ
47創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 12:06:06 ID:V1e6BJNw
ああ、なんかこれも始まりを予感させるお話だわ
いいな…
48創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 20:43:55 ID:MZtpBMMm
投下って今日の0時までだっけ?
それとも明日の0時まで?
49創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 20:45:51 ID:OuQiYPbO
明日の24時まで
50創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 21:05:41 ID:MZtpBMMm
んん〜ありがとん
51創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 10:23:24 ID:M+DBoVqE
間に合いそうに無いw
予想以上に長くなってきたw

とりあえず、シーンカットして文量減らして頑張るかな…
52創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 19:43:46 ID:FQodj2ZM
がんばれ〜
531/4:2009/04/20(月) 22:45:18 ID:8mVPz8tR
今朝は寒かった。
時計を見れば、朝6時きっかり。
漫画雑誌とゲームソフトの山を避けつつ窓に近寄れば、道路の黒を透けさせた灰色の雪が薄く敷き詰められていた。
最低の曇天がまばらに広がり、融けかけたかき氷みたいなベトベトのミゾレが降ったり止んだりの間断を繰り返している。
(めんどくさい……)
思いながら、僕はランドセルに教科書とノートを詰めた。
出し忘れたプリントが、ぐしゃ、と音を立て、ランドセルに教科書類が納まるのを妨害する。
めんどうなので無視。
やらなければならない宿題のプリントなら無くなってしまった方が好都合だし、
親に渡さなければならないプリントなら、後で親が慌てればいい。
もっと真面目な子供に育ててくれていれば親も僕ももう少し苦労せずに済んだだろうに、勿体ない話だ。
いつもなら、7時半までベッドでグズグズしてからゆったりと仕度を整え、
朝の会が終わった頃やんわりと教室に入る。
新学期早々の学級会に風邪を引いて欠席したりしなければ、飼育係なんて絶対に請け負わなかった。
欠席裁判のまま僕に遅刻をさせないよう議会は進み、僕は飼育係を割り当てられた。
イジメや疎外の対象にされないよう目立たないことだけを心掛けてきた僕が自然に議題に登るはずが無い。
先生の誘導で僕の飼育係が決まったのは想像に易いが、文句はいわない。
今後は先生にも目をつけられないように心掛けよう。
白のポロシャツ、長ズボン、紺のベスト、制服を着て、さらにダウンジャケットを着る。
ランドセルを背負い、頭にウールの帽子を載せ、首から口許までマフラーで巻く。
傘をさし、学校まで敷き詰められた融けかけたかき氷を、長靴で鳴らす。
学校までの最短距離で、なおかつ融雪装置の無い道を選ぶ。
雪の少ない日の融雪装置は下から降る雨と変わらない。

やがて裏門が見えてきた。
裏門から入れば飼育小屋のある中庭まで直通で行けるのだけど、
こんな時間はまだ、校門は開いていても中庭へ通じる扉が開かない。
中からつっかえ棒がはめてあるのだ。
裏門から入っても、結局正門に回らないと中庭へは行けないため、僕は裏門を素通りして正門へ向かった。
下駄箱で靴を履き替える。
校内で履くズックを“内履き”と言うのに、中庭へは内履きで出て良いことになっている。
しかし中庭は通路だけがコンクリート敷きで、コンクリートが敷いてあるところだって植え込みから土がこぼれ、
外履きで歩く屋外の道路よりも内履きで歩く中庭のほうが汚くなりやすかった。
内履きの内は、内外の内じゃなくて、校内の内なのかも知れない。
寒さを意識しないよう、余計なことばかり考えていた。
玄関のそばにある用務員さんの部屋の電気が点いている。
用務員さんが先生より早く学校に来ているなんてことは、飼育係を始めるまでは知らなかった。
3階の教室まで荷物を置きに行くのはめんどうなので、ランドセルを背負ったまま中庭へ続く廊下へ向かった。
542/4:2009/04/20(月) 22:46:03 ID:8mVPz8tR
そういう事があるのは知っていた。
だけどそれはドキュメンタリー番組を視聴して得た、いわば非日常の知識で、
実際にそれが身近に、それも、自分自身の日常に割り込んで来るとは思わなかった。
ウサギ小屋の中に、赤い塊が幾つも転がっていた。
一つ、二つ、三つ……計五つの、赤いもの。
ウサギの胎児だった。
いや、生まれているのだから、正確には、ウサギの赤ちゃんだった。
過去形の理由は、その全てが血を流して死んでいるから。
雄のウサギの口回りに、黒っぽい何か──血?が付いている。
『雄の兎は、番いの雌が産んだ子すら囓り殺すことがあります』
ドキュメンタリーが、頭の隅で再生される。
『囓り殺すことがあります』
『囓り殺すことがあります』
『囓り殺すことがあります』
「飼育係のせいだ!」
誰かが責める声。
「あんな遅刻魔に任せるべきじゃなかった!」
誰も居ないし、まだだれにも知られて居ないはずなのに、誰かが僕を責める。
僕が聞くであろう未来の罵声を、僕自身が予想して、自分に吐きかけていた。
「あんな奴死ねばいい!」
助けて……。
「お前が悪い!」
違う、僕のせいじゃない!
誰か、誰か助けて!
頭がぐるぐるした。
足がぐらぐらした。
ウサギ小屋を見た。
赤い、生きていたもの。点々。
視界の隅がキラキラして、視野が狭くなって行って、僕は水溜まりに倒れ込んだ。
どれほどそうしていたんだろう。
目を開けると、用務員さんが居た。
薄緑色の作業着を着た用務員さんは、ビニール傘を僕に差してくれた。
「大丈夫かい」
用務員さんの差し出してくれた手を取って、なんとか立ち上がる。
「こいつを見て、貧血を起こしたようだね」
用務員さんの視線はウサギ小屋を見ている。
僕はなんと言っていいかわからず、とりあえず頷くことしか出来なかった。
「確かにこれは、気持ち悪いね」
用務員さんは白髪混じりの短髪を撫で付けながら僕に傘を渡し、ウサギ小屋に入った。
ウサギの届かない高さに立て付けられた用具棚から、新聞紙を取り出す。
赤いものを丁寧にまとめて新聞紙に包んだ。
553/4:2009/04/20(月) 22:49:04 ID:8mVPz8tR
「君、内緒にできるか」
用務員さんは、新聞紙に包まれた五つを、シャベルで花壇に埋めながらぼそりと言った。
「何を、ですか?」
「そりゃあ決まっているだろう」
ウサギの事だよ、と言いたげに、視線を花壇に向けた。
用務員さんは立ち上がり、屈んで縮こまった腰を伸ばす。
「私は昔、先生をやっていたんだ。定年を迎えてから、用務員になった。だから──」
中腰になって、僕に目線を合わせる。
「──だから分かるんだ。ウサギが死んだ事が知れれば、君は酷くいじめられる」
僕はまた何も言えなくなって、黙って用務員さんの話をきいた。
「ほら、道徳の教科書で読んだことあるだろう。桜を折ってしまったワシントンの……
あれ?ケネディだっけ?」
用務員さんは冗談を言ったようだけど、ピンとこなくて、僕は黙ったまま居た。
用務員さんは恥ずかしさまぎれにか、真面目に続けた。
「正直者は報われる──そんなのは嘘さ。本当のことは、いつだってツラい。
君が正直者を気取れば君の居場所はなくなってしまう。だから、嘘をつこう」
用務員さんはウサギの子らを埋めたあたりに石を置いた。
あの雪と水と土のないまぜになった下に、“生きていたもの”が埋まっていると思うと、
僕は頭の芯がキリキリ痛んだ。
「こいつらはもう死んでる。死人に口なしってわけで、始めから居なかったことにしよう。
君は皆にいじめられないように、ウサギ達を犠牲にして嘘をつくんだ。
心が痛むかも知れないけど、決して言っちゃダメだ」
用務員さんは冷えて赤くなった手を、僕の肩に置いた。
「先生なら、命の尊さを教えたいとか言って、皆にウサギの赤ちゃんが死んだ事を言い触らすかもしれない。
でもそれは命の尊さじゃなくて、“君の弱み”として認識される。
きっと君のクラスメイトは命の尊さじゃなしに、人のいじめ方を学ぶチャンスを得る。
君はウサギを犠牲にしなければ、皆の学びを犠牲にしなければ、その餌食になる」
「う、うぇっ……ぐす」
僕はいつの間にか泣いていた。
「君は自覚しなくちゃならない。嘘の代償と、それが自分のためである事を。
無自覚な多数に受動的な学びの機会を与えるなんて糞くらえだ。
君一人に、自覚ある嘘を学ばせたほうが、幾らか明るい未来に繋がる……ような気がする」
用務員さんは、言うだけ言うと、「さ、鯉に餌やっておいで」と僕の背中を押した。
僕は泣きながら鯉に餌をやった。
年間4・5人は落水する池も、鯉の活性が低い今は、ただただ緑色にくすんでいた。
564/4:2009/04/20(月) 22:50:22 ID:8mVPz8tR
それから20年。
何の因果か、僕は弁護士なんてものを生業にしていた。
「裁判員制度って知ってますか?」
僕が面談室のアクリル板越しに聞くと、容疑者はこっくりと頷いた。
「じゃあ、これから裁判まで、僕の言うとおりにしてください。大丈夫、絶対に悪いようにはなりません」
僕は指折り数えて成すべき事を説明した。
「鏡に向かって、反省した顔を意識して作れる様に訓練する事。
黒髪に染め、清潔感ある短髪に整える事。
出廷には必ずスーツを着てくる事。
出廷するたびに目に見えて痩せる事。
反省文のテンプレートを暗記する事」
僕は身を乗り出して、容疑者の目を睨みながら言った。
「美人は刑が軽くなる傾向があります。逆に不細工は罪が重くなりがちです。
顔立ちが整った子供は再犯の可能性を低く見積もられます。不細工な子供は内心の反省を低く見積もられます。
人は善良であっても、無自覚に、不公平で狭量な判断を下しがちです。
そう、だから──」
大仰なタメをつくって囁いた。
「──嘘をつきましょう」


57携帯 ◆4c4pP9RpKE :2009/04/20(月) 22:52:03 ID:8mVPz8tR
おそまつ
58創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 22:53:02 ID:7Ud+Zujb
ほう。
なんというか、現実感があるねぇ。
リアル、というのとはまた違うかもしれないが。
59創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 22:56:42 ID:iABWM07I
これが世渡りというものか
ある意味でまっすぐ成長したのかもしれないな彼は
604月「うそからでたまこと」 ◆KazZxBP5Rc :2009/04/20(月) 23:33:50 ID:HOXExGOY
すべりこみすべりこみ
お題は4つともです



「ねえねえ知ってる?」
ある日のこと、女友達が話しかけてきた。
「桜の木の下には死体が埋まってるんだって。」
「ああ、よくある嘘だな。」
「え、そうなの!」
「結構有名だぞ。」
「じゃあこれは? 月にはウサギさんがいるの。」
子供かよ。いつまでそんなこと信じてるんだ。
いつもどおりの他愛もない話。それが、俺の覚えている中で一番新しい記憶。

なんだここは。暗い。それに少しじめじめしている。
どこかに閉じ込められているようだ。
何とか体をよじってもがいていると、突然視界がピンクに染まった。
桜……?
そこは桜並木の見知らぬ通りだった。
状況から察するに俺は土の中にいたらしい。
訳の分からぬまま通りを少し歩くと、ウサギがいた。
ウサギといってもそれは俺の知ってるウサギとは大きく違っていた。
まず身長が140cmほどあること。そして二足歩行していること。
俺は不思議の国にでも迷い込んだのだろうか。
「地球の花は良いですね。」
「へ?」
ウサギはどうやら俺に気付いたらしく、いきなり突飛なことを話しかけてきた。
「月ではなかなか観賞用の植物は栽培できなくて……」
「はあ……」
こういうとき、どういう顔をすればいいのか分かりません。
とりあえず一番の疑問を解こう。
「失礼なことをお伺いしますが、どうしてウサギさんが喋っておられるのですか?」
「歴史の教科書で習わなかったんですか? 2009年4月2日の放射線事故で地球の多くの生物に変異が起こったって。」
「ちょ、ちょっと待って。俺の一番新しい記憶は2009年4月1日だぞ!」
俺の必死さと対照的に、ウサギはくすくす笑っている。
「おかしな人ですね。今は2539年ですよ。」
にせんごひゃく……?
「もしかして、その事故の影響で今まで仮死状態だったんでしょうか。」
俺に聞かれても知らねえよ。
どうやらアリスじゃなくて浦島太郎だったようだ。
認めるしかないだろう。目の前にこんな生物がいるんだから。

少しの沈黙のあと、ウサギはまた口を開いた。
「私、あなたのこと知ってる気がします……」
その表情はまるで……。
「こんな時代にこんなこと言うと笑われそうですけど、前世? っていうんでしょうか。」
気付くと俺はウサギを思いっきり抱きしめていた。
「え? ちょっと……」
「ずっと言えなかった。友達に戻れなくなるのが怖くて。でもお前は、俺のこと覚えててくれた。」
2009年4月1日、あいつが俺にした話。こんな偶然がある訳ない。
「俺、お前のことが好きだ。」
だからこれは運命。そんなもの今まで信じてなかったけど、それ以外に表現のしようがない。
ウサギは、恥ずかしそうに少し顔をうつむけながら俺に身を寄せた。



おわり
61創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 23:36:46 ID:iABWM07I
女友達=ウサギ?
624月「桜の涙」 1/3 ◆FtC/MWKcXA :2009/04/21(火) 00:28:33 ID:oheYMBcQ
SIDE:誠二
***

僕、佐倉誠二がこの街に来たのは14年前、まだ4歳の時だった。
あの頃とすっかり変わってしまった街を見下ろしながら、僕はいろいろなことを思い出す。
友達がなかなかできなかった子供時代。
イタズラして怒られて、泣きながら歩いた帰り道。
進路のことで親ともめて、家をとびだしたこと。

それらの話を嫌な顔一つせずに聞いてくれた、吉乃さんとの出会い。


──彼女はいつもあの丘にいた。
僕がそこへ行くと、黙って微笑んで迎えてくれた。
優しくて温かいあの場所が、僕は大好きだった。

小さかった頃、どんな言葉にも返事を返してくれていた彼女は、自分が成長するにつれ
途切れ途切れにしか声を出さなくなった。
あなたにはどう見えるかわからないけれど、もうおばあちゃんなのよ、私。
そう言った吉乃さんの声がふとよみがえる。
それでも。
それでも僕は構わなかった。
吉乃さんが僕の話を聞いてくれていることがわかっていたから。

僕は吉乃さんが大好きだった。
彼女と別れなければならないのがとても辛かった。
明日が来なければいいなどとさえ、今の僕には思えた。
明日になれば、僕はこの町を出て行くのだから。
634月「桜の涙」 2/3 ◆FtC/MWKcXA :2009/04/21(火) 00:29:41 ID:oheYMBcQ
SIDE:吉乃
***

私はずっと、この町に住んでいた。
たくさんの人と出会って、たくさんの人が旅立っていくのを見送ってきた。
だから、あの子──誠二に会った時も、いつものように見送るのを待つだけだと、そう思っていた。

初めて声をかけた日、彼は随分驚いていた。
本当は、声をかけるつもりは無かったのだ。
ただ、目の前で、あまりに大仰にすっ転ぶのを見たから、思わず声が出てしまったのだ。
涙をいっぱいに溜めたまま、小さな男の子は走って行った。
長い人生の、ほんの小さな出会いだとその時は思っていた。

それからというもの、彼はちょくちょく私のもとに来ては、いろんな話を聞かせてくれるようになった。
まるで自分の子供のように、──いや、孫のように愛しく思えた。
「私はあなたよりうんと年上で、もうおばあちゃんなのよ」
いつかそう話した時、彼は随分驚いた顔をして、何も言わずに帰って行った。
そしてその次の日、彼は私に一枚の絵を見せてくれた。
僕には吉乃さんはこう見えます、と。
それは本当に美しい絵だった。

あの絵をきっかけに、彼は自分の将来を決めた。
反対する両親をなんとか説得して、遠く離れた街に勉強に行くことになったのだと、
少し寂しそうな顔で彼は教えてくれた。

彼は明日の昼の列車で旅立つのだ。
644月「桜の涙」 3/3 ◆FtC/MWKcXA :2009/04/21(火) 00:30:22 ID:oheYMBcQ
「吉乃さん、今までいろいろありがとう」
真新しいスーツに身を包んだ誠二は、吉乃に声をかけた。
「夏はまだバタバタしてると思うし、冬もまだ忙くて帰れないかもしれないけど……
でも、来年の春には絶対に戻ってくるから。だからこの場所で待ってて、吉乃さん」
頑張ってね。
そう一言言いたいのに、吉乃の声は誠二には届かない。

「あのさ、吉乃さん」
他に誰も居ないのに、まるで誰かに聞かれたくないかのように声を潜めて誠二は続けた。
「こんなこと言ったら笑われるかもしんないけど……」
一つ大きく息を吐いて、吉乃に背を向け。
「僕の初恋って多分吉乃さんなんだよね」
ヘヘっ、と照れ笑いしながら誠二は吉乃の足元に腰を下ろす。
「今でも、大事な人には変わりないよ、吉乃さん。だから絶対に、僕が戻るまで待ってて」
「ありがとう、誠二。待っているから、頑張ってきなさい」
「吉乃さんの声、はっきり聞いたの久々かも。うん、頑張る。ありがとう、吉乃さん」

スーツに付いた砂を払いながら、誠二が立ち上がる。
「そろそろ行かなきゃ。じゃ、行って来るね、吉乃さん」
いってらっしゃい。
届かない言葉が桜の花びらと共に舞った。


この場所で誠二を見送るのはこれが最後だろう。
小さくなっていく誠二の背中を見送りながら、吉乃は思った。
この丘の再開発がもうすぐ始まる。
私の居場所は無くなるのだと、彼女は悟っていた。
それでも、誠二に余計な心配をかけたくなかった。

本当はもっと伝えたいことがたくさんあった。
誠二に出会って、老いていくだけの道に光が差した。
救われていたのは彼女のほうだったのかもしれない。
──けれどもう、伝えることは永遠に叶わないのだ。
このまま朽ちていくだけならば、せめて────


列車のベルが響く。
動き出した列車の窓から誠二は、今朝まで満開だった丘の上の桜が
一斉に列車に向かって舞い散るのを見た。
65創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 00:31:43 ID:oheYMBcQ
以上、投下終了。
滑り込めなかった……

お題は「嘘」「さくら」「出会い」です。
66創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 00:32:59 ID:ID3uO/Ay
吉乃さんは桜なのか・・・
67創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 17:40:17 ID:di/HH4Y+
>>60
諸星的退廃SFですな

>>64
開発で失われる樹って悲しいよねぇ。
思い入れのある桜が駐車場つくるために斬られたことがあって、少し思い出した。
豪快な枝振りで反対側の歩道まで届いてて、桜のトンネルみたいだった。
ノスタルジーをかきたてる作品でした。
68創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 21:05:23 ID:rI7t3zs/
>>60
前世関連が唐突すぎてちょっとわかんねw
何か途中すっ飛ばしてるような感じがした。

もっと書き込めばいい感じになりそうだね。

>>62
ああ、多分そうだろうな、って最初に思ったが、
それでも何かほんわかして、そんでちょっと悲しかった。
多分、すごい美人さんが描かれてたんだろうなぁ、絵には
69創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 03:40:23 ID:VJKIw9PH
今月は、女の子の気を引くために兎買った話が良かったな


感想ついでに来月のお題
「五月病」
70創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 08:53:20 ID:g2wy27hF
そろそろ梅雨はいるから「雨」
71創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 09:03:01 ID:32azYCeG
>>62
ちょっと涙ぐみました。木にも寿命はあるんですよね……

もふもふパレードが忘れられませんw
72創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 13:45:37 ID:l7gQWfPs
>>69-70
やっぱり「黄金」か「金」、「休日」か「休み」は欲しいかな
73創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 16:16:49 ID:mhjNgZgF
「連休」
「子供の日」
「茶摘」
74創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 22:25:20 ID:r/9FyKeC
五月だから「トトロ」

冗談です><
75創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 23:55:13 ID:R7fM5QEE
「豚インフルエンザ」
764月「さくら」 ◆5479woNURU :2009/04/30(木) 14:03:25 ID:UUnjVbcE
過去作品でお茶濁し失礼します

ttp://doku2ch.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/bbs/img/1077.jpg
独身男性板30歳以上のオサンが語るスレ304のスレタイ絵として描いた一コマ漫画です
77創る名無しに見る名無し:2009/04/30(木) 17:01:44 ID:FBfDvbzB
かわいいいいいいいい
和んだwwwwwww
いま出先でちょっとあって殺伐としてた気分が一気にやわらいだwww
78創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 01:15:24 ID:g1fWxf1J
お題決定前に月をまたいでしまった件
79創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 02:17:10 ID:Q5ELtnY9
お題はあがった11個全部で良いじゃん
80創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 21:58:34 ID:MkByHLlm
河と皮かwww
かわいすぎるw
81創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 01:19:27 ID:7f5OA3lX
やべえww月替わりとかお題決めとかすっかり忘れてたwww
お題11個ね把握
82創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 01:27:42 ID:jdwpj6FN
@「五月病」
A「雨」
B「黄金」
C「金」
D「休日」
E「休み」
F「連休」
G「子供の日」
H「茶摘」
I「トトロ」
J「豚インフルエンザ」

多いなw
835月「茶摘」:2009/05/02(土) 02:36:08 ID:mdomTkYe
5/2は八十八夜! でもって一番乗り!

http://www6.uploader.jp/user/sousaku/images/sousaku_uljp01388.mp3

JAZZっぽくならない・・・
84創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:38:18 ID:TJxGq/Tv
なんだこの軽快なちゃつみはwwwww
85創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 03:35:54 ID:iFIPANNl
ノリノリすぎるwwこんな夜中にリズム取っちゃったじゃないかw
86創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 17:02:38 ID:jdwpj6FN
すげー良かったw
87創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 23:23:58 ID:fx3C3c5c
ノリノリwww
885月「こどもの日」 ◆5479woNURU :2009/05/17(日) 12:10:36 ID:f7uqwcr1
半月もの間レスが無くてさびしいので過去作品でお茶に濁し
ttp://doku2ch.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/bbs/img/1083.jpg
895月「雨」 ◆5479woNURU :2009/05/17(日) 12:12:41 ID:f7uqwcr1
90創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 00:12:59 ID:kK7V0c0g
非常に和んだw
91創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 17:16:42 ID:f5hoWXOf
今月のうpは2人だけか
さびしいな
92創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 03:04:05 ID:hN1quJuW
やっぱお題が多い月はダメっぽいな

次月お題候補
「かたつむり」
93創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 22:18:44 ID:9YKZCTyW
「結婚」
94創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 23:19:38 ID:N3vKgGes
投下しようかと構想までは出来てたんだが、投下出来なんだな

「父の日」
95創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 22:41:37 ID:RWheMJap
「時間」
時の記念日的な意味で
96創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 21:56:46 ID:XYxccq7E
今回も出たお題全部にする?
97創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 02:07:43 ID:4UGB54co
「かたつむり」
「結婚」
「父の日」
「時間」
「梅雨」

の五つですね
98お題「時間」 ◆Qb0Tozsreo :2009/06/05(金) 13:00:36 ID:9bhppmki
 頬に落ちてきた雫。
 いつの間にか眠り込んでいたらしい。空を見上げれば曇天。どこまでも陰気な低い雲に、気が滅入ってまた眠りに逃げ込みそうになった。
 しかし、いつまでもここでぼんやりしている訳には行かない。
 僕は立ち上がった。
 改札口に向かって歩きながら、数時間前に彼女から突きつけられた別れの言葉について考えていた。

「黄色い線までお下がりください」

 薄眼をあけると、何十両もある貨物列車が向こうのホームを地鳴りながら通り過ぎていた。
 眠りすぎでこわばった体をほぐすように身じろぐ。
 深呼吸。
 このさびしい無人駅のホームに、僕はいったい何時間うずくまっていたことになるのか。
 曇っていた空もいつしか霧雨模様になって、人通りのない駅前広場が濡れている。発車時刻が近いというのに乗客は誰もいない。

「3番線から列車が発車します」

 僕はからっぽの体をゆすって、ひとつ大きな息を吐いた。
99創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 20:57:01 ID:C7iKbxO5
何だか深いね。
走り去る列車と男の下から去っていった彼女が重なり合う…、と感じたのは考えすぎだろうか。
100創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 10:25:15 ID:RJaVp3xI
>>98
さりげなく「梅雨」のお題も入ってるな。
101創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 15:41:48 ID:pp+YCgnZ
ストーリー自体はシンプルだけど描写の運びがやたら上手い
単調な曇り空と誰もいない駅のホーム、アナウンスと列車の轟音。静と動の対比が映像・音響的に物語の画を作り出してる感じ
短い文章の中に広がりを感じました。次はもっと長いのが読みたいよう!
102「私の耳は貝の殻」 ◆16Rf2BBdUE :2009/06/19(金) 19:10:49 ID:SYpy0lTg
「梅雨」「結婚」「かたつむり」「父の日」「時間」をもとに作成しました。
妹モノのノベルゲーです。
エンディングは3種類です。
雰囲気ゲーな感じです。

創発アップローダーにアップしています。
パスはつけていません。

http://u6.getuploader.com/sousaku/download/60/%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%AE%E8%80%B3%E3%81%AF%E8%B2%9D%E3%81%AE%E6%AE%BB.zip
10376 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/19(金) 22:02:44 ID:/HFhtkG1
こんちは。
創作文芸板、のほうで昔っからやってて今もやってるはずの
競作祭っていうのがあって、それのまとめサイトできました(2003年からやってる)。
よかったら見てみて読んでみて感動するなり鼻で笑うなり道場破りにくるなりスルーするなり
おれもここのまとめサイト読むから、あんたらも読んでみてくれ。

創文板 競作祭まとめサイト
http://soubun.s370.xrea.com/
10476 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/19(金) 22:06:34 ID:/HFhtkG1
今読んでる。
感想はないんだな。
10576 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/19(金) 22:08:03 ID:/HFhtkG1
あ、スレ春の忘れた。

【歴史を】○●競作祭まとめサイト●○【つなぐ】
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1245415127/
106創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:11:09 ID:oYG6y2Ob
文芸板からお客とはめずらしい
感想は個々のスレについてるだけで、まとめにはないかな
10776 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/19(金) 22:13:49 ID:/HFhtkG1
とりあえず文章系@2009.4というページを読んでみた。

文章の好き嫌いはおれ個人のものだが、
安易な擬音や幼稚な会話や、説明入っちゃってるのはあんま惹かれん。
そのページにある作品にはあまり惹かれなかった。
10876 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/19(金) 22:16:05 ID:/HFhtkG1
つーか元々過疎気味なのに、文芸と発表で板わかれたんだな。
なんでだろ。
109創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:18:01 ID:oYG6y2Ob
せっかくのお客さんだからここへおいでませ

【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ15
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1242143254/
110創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:29:59 ID:25hWvQq4
>702
いま終わった
意外とボリュームあるね

内容はクトゥルフっぽい?
確かに雰囲気ゲーだな
よくわからんが怖かった
111創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:30:45 ID:25hWvQq4
間違えた
>102
112『雨音を聞きながら』1/4 ◆TC02kfS2Q2 :2009/06/20(土) 17:43:42 ID:PRm7CsMc
「父の日」「梅雨」で。


『雨音を聞きながら』

「ど、どちらさまでしょうか?」
「…えっとお…。あのー、タケルくんとお付き合いしています、猪野川…茉莉と申します」
数ヶ月振りに対面した妹に、他人行儀の挨拶をしてしまったおれのウソは何時まで隠し切れるのだろうか。
脊髄反射で咄嗟に出てきた言葉とは言え、おれにそんな責任を背負うことは重過ぎる。
そういう面倒くさいことは全部、外で降りしきる雨のせいだ、と思いたい。雨のにおいが鼻腔をくすぐる。
おれの長くなった髪は悲しくも水無月特有の湿気を帯びる。雲に隠れる太陽が許さなければ全部ウソだ。

「兄の彼女さんですね。妹の文です。よろしくお願いします」
おれと顔の似た女の子はぴょこりとお辞儀をすると、柑橘の香りを髪の毛から漂い居間を包み込む。
初めて見る妹の素直な姿の違和感に戸惑いながら、おれは比喩的にも実際にも張り詰めた胸に手を当てる。
見慣れていたはずの居間で妹に向かって、大人しくなったねずみのような声をおれは出していた。
「あの、タケルくん…わたしの濡れたワンピースをクリーニングに出すっていって、戻ってくるまで待たせていただいていますっ」
「そうなんですか。あの、冷えてるんじゃないですか?お…お茶でも用意しますね!」
妹の返事にむずがゆさを感じるのはおれだけだろう。とにかく、『おれ』が目の前に居るのに、丁寧すぎるのだ。
普段だったら「お茶ぐらい自分で入れやがれよ。バーカ」と冷たい目で吐き捨てるくせに、
きょうは猫を被ったかのようなに妹は女の子であった。居間に一人取り残されたおれの髪からも妹と同じく、柑橘の香りがした。

―――久方ぶりに実家に帰ったというのに、おれを迎え入れてくれる家族はいなかった。
降り続く雨の中、足元を水溜りで濡らして帰ってきたのに、傘を閉じてチャイムを押しても家は返事をしない。
骨を折って帰省してきた理由は一つ。先週届いた、妹からのメールのこと。
「あんたさ、男なんだから父の日のプレゼント、何がいいか考えてくれるでしょ?お・に・い・さ・ま。
思いついたら私に即刻返信しなさいよ。でなければ、今度帰ったときに容赦なくびんたするよ」
と、物騒なことを可愛らしい色文字で妹はおれにメールを送ってきた。
妹の頼みということもあり、突然の帰省を決行したのだが、肝心の父の日のプレゼントは考えていない。
家までの帰り道、傘に雨粒があたる音を聞きながら、父へのプレゼントを考えているうちに、我が家へとたどり着いてしまったのだ。

夕飯の時間に差し掛かる前だというのに玄関は口を硬く閉ざしたまま。
妹も生憎まだ帰宅していないらしい。一人暮らしを始めてから、小憎たらしい妹の顔を見なくなり、
のびのびとしていたのだが、今現在のおれに関してはそんな顔でさえ居てくれればいいのに…と、心なしか寂しさを感じた。
「しょうがねえなあ。確か、濡れ縁の下の虫かごに…」
おれの記憶が正しければ、合鍵の隠し場所は実家を離れる前から変わっていない。あった。おれの記憶も捨てたもんじゃない。
高校生活を終えるまで育った実家にようやく入ることが出来たおれは、旅の疲れがどっと溢れ出て、
着ていた服を脱ぎ散らかしながら「文に見つかったらうるさいんだろうな」と妹の悪口を言いながら、久方ぶりの我が家でくつろぐ。
Tシャツにパンツ一丁という、男子から見れば珠玉の時間、女子から見れば醜態の極みをさらすことが出来るのは
この部屋に誰も居ないからだ。ベルトの締め付けから開放されることは些細なことだが素晴らしい。
「そう言えば、もうすぐだよな…。父さんには何が…」
と、考えごとをしながら居間のソファに転がるとうつらうつらと睡魔が襲い、泥のように眠りこけてしまった。そこまでは覚えている、のだが…。
113『雨音を聞きながら』2/4 ◆TC02kfS2Q2 :2009/06/20(土) 17:44:28 ID:PRm7CsMc
―――時計が午後五時を告げる鐘の音でおれは目を覚ますと、不注意にもソファから転がり落ちた。
じゅうたんに落下する瞬間、本能的におれは顔をかばった。傷付けちゃだめだ!と、無意識にとった行動だろうか。
このときはまだ自分自身の変化に気付いてはいなかった。そんなことより『パンツ姿』の方が問題だったからだ。
「ここで文が帰ってきたら、おれは殺されてしまうぞ」
と、即座に脳内で今後の分析をしたと同時に、妹が玄関を開ける音がした。
「ただいまあ」と、相変わらず、気だけは強そうな声が聞こえてくる。
『Tしゃつにぱんついっちょう』という、あられのない姿を文が見たときの反応は大体予想がつく。

「あんたは恥と言う言葉を知らないの?耳に心と書いて『恥』。わたしの胸の小ささを笑う前に、自分の情けなさを笑いなさい」
「ちょっと、そこに正座しなさいよ。あーあ、あんたとわたし、生まれてくる順番間違えちゃったのかな。
『ぼくは文お姉ちゃんに叱られて、しあわせです』ってセリフ、言わせてみたいなあ。ねえ、お兄さま?」
今まで妹から投げつけられた、研がれた剣で首筋を突き刺される痛みと等しい言葉を思い返すと、何としてもこの危機的状況を脱しなければならない。
力なく投げ出されたおれのズボンに脚を通すが、尻の辺りで止まってしまった。太ったのか?
いや、最近は痩せてきているほうなのでそれはない。ただ、尻が大きくなった…としか思えない。
非情なことに妹の足音はぱたぱたと、おれの方へ向かってくる。おれの耳の中で脈打つ血管の音が聞こえる。
ズボンを履くのをあきらめ、高校まで使っていた体育のジャージをタンスから探し出し、寸のところで最悪の状況を切り抜けた瞬間のこと。

「あのー、どちらさまでしょうか…」
聞き覚えのある声がおれの背中をそっと叩いた。
しかも、いつも浴びせてくるような氷のような言葉でなく、体にやさしい白湯のような言葉遣い。

「ど、どちらさまでしょうか?」
振り向くと挙動不審な仕草をする妹と、ガラス窓に反射するおれの姿が目に飛び込んだ。
まだ雨の降り続ける空と重なるうっすらとした影はおれのものとは明らかに違う。いや、今の時点では確かにおれのものなのだ。
長くなった髪の毛、すらりと滑らかな脚。そして、恥じらい。
クソ生意気な妹と、見慣れぬ若い女性の姿。居間にはおれと妹と二人っきり、なのにこの間違え探しは難問だ。
いや、見方を変えればすぐ分かるではないか。ヒントは『男の姿はもうここにはない』ということ。

Tシャツと胸がすれる。微かに痛みを感じる。妹の視線がおれの胸に向けられているのに気付いた。
胸の小さい妹は言うことまでもなく、おれの胸に敵意のような憧れのようなものを抱いている。
柔らかな感触を持つおれの胸を気にしながら、状況打破のセリフを作らなければ。
とにかく、妹が納得するセリフだ。対面にたたずむ妹の瞳に、桃色の頬をしたおれの顔が映る。
「…えっとお…。あの。タケルくんとお付き合いしています、猪野川…茉莉と申します」
妹の視線に突き刺されながら、この場で作り上げた『猪野川茉莉』という人物のおかげで、おれは『女』に成りきった。

男物のパンツとシャツをソファの隙間に隠し、脱ぎ散らされたおれのズボンをたたむと、妹がお盆にお茶を乗せて戻ってきた。
「茉莉さんはゆっくりしていていいのに」
「いや!タ、タケルくんがしたことだから、わたしが」
自分で自分の尻拭いをするんだから世話はない。お茶をテーブルに置くと妹は申し訳なさそうにおれのズボンを奪った。
妹の入れたお茶を口にすると、しばらくの間沈黙が続いた。向かい側でソファに腰掛ける妹は恥じらいを見せる。
「雨に降られちゃって…。せっかく、タケルくんの地元に遊びに来たってのにね」
お気楽すぎる格好の説明をするのには格好の空模様だった。雨脚は先程よりもより激しく地球を打ち鳴らす。
114『雨音を聞きながら』3/4 ◆TC02kfS2Q2 :2009/06/20(土) 17:45:11 ID:PRm7CsMc
「お付き合いして、どのくらいですか」
「半年ぐらいかな…」
「そうんなんですね」
想像もつかない妹のよそよそしさに、おれは感動すら覚えた。
ちなみに『猪野川茉莉』という人物はこの世には居ない。ただ、電脳の世界だけに存在する、いわゆる『ギャルゲ』のキャラの名前だ。
妹はそんな下世話なことは知らないだろう、その証拠におれの透き通るようなウソを未だ信じきっている。
二人で作る変な間に耐えられなかったのか、時計が30分の鐘を鳴らした。
「普段の兄はどんな感じですか」
「え?」
「ごめんなさい!変なこと、聞きましたか?」
おれに目を合わせまいとしながら、肩をすぼめる妹はおれにおれ自身のことを尋ねる。
そんなことはおまえがいちばん知っていることだろう。何も答えられなかったおれはお茶を飲んで場をごまかす。

「文ちゃんから見て、どう思う?」
場をつなごうと口走った言葉が、自分にとって自殺行為だと気付いたのは妹が言葉を返す頃だった。
もう取り返しのつかないことをくよくよと悔やむ。しかし、妹はおれが思った以上に大人だ。
「やさしいですよ」
「やさしいんだ」
「ちょっと、不器用かもしれないけど…。わたしにはやさしく接してくれます」
それは妹にやさしくしなければ、妹から想像以上の仕打ちが控えているからだ。
意外にも好意的な答えに安心をしたおれは大きな胸をなでおろす。

「指、きれいですね」
身内からそんなことを言われたくはない。しかし、細い自分の指を改めて見ると、自分のものでないように思えてきた。
誰のものでもないおれの指を妹は身を乗り出して掴み、まじまじと見つめていた。
「あ…恥ずかしいよ」
「茉莉さんって、格好いいなあ。ウチの兄にはもったいないです」
再びお茶を口にしだした妹の目の前にいるヤツは誰だと思っているんだ、なんて言えない。
仮に言ったとしても、顎を人差し指で突き上げられて「あんたさ、兄貴のクセに偉そうだね?自重しろよ」
とは言われないのは分かりきっている。

「あの!茉莉さん、わたしの服をお貸ししましょうか!」
「ええ?」
「だって、そのままじゃ…兄から…」
ぐいっとお茶を飲む振りをしている妹だが、明らかにお茶は入っていない。
「兄から、笑われちゃう…ですよ!」
とっくに空になった茶碗をトンとテーブルに置くと、妹は自分の部屋に服を取りに行くといって居間を出た。

確かに、今の体つきでは妹のサイズとぴったりかもしれない。
何が悲しくて妹の服を着なければならないのか。タケルの体のまま妹の服を着ることになればきっと、
「なによ、妹の服着て楽しい?妹の匂いをかぎながら、そよ風を感じたいわけ?わたしの服って、そんなにいい香りがするのかな…。
ふーん、あんたに言われたかないね。そうだ、今度からあんたは『変態』って名乗るがいいよ」
と、紺色のソックスのつま先で脛を蹴りながら低い声で罵られること間違いない。
自分の髪を触りながら落ち着くおれは心臓の鼓動を早める。
115『雨音を聞きながら』4/4 ◆TC02kfS2Q2 :2009/06/20(土) 17:47:04 ID:PRm7CsMc
「お待たせ!茉莉さん!これ、どうですか」
女の子用のパーカーにミニスカート。妹はパタパタとそれらを抱えて戻ってきた。
断る理由も無いのでそれらを手にすると、女の子の甘い香りが服から漂っていた。
「兄の服ですよね?今着ているの。早く着替えちゃってください!」
「でも…」
「いいから!いいから!」
おれは妹に勧められるまま背を向けて、妹の私服に着替えた。
女の子のように繊細な肌触りのするパーカーが頬を擦り、むずがゆい感覚が二の腕を走る。
パーカーで隠れきれた何も履いていないお尻を気にしながら、梅雨の空気を素足で感じるミニスカートを履く。
ひんやりと足元から入る空気。やさしい生地のさわり心地。そして、妹から変わり果てた『おれ』を見つめられているという、特異な状況。
『猪野川茉莉』を通しきるのか、それとも文の兄であることを打ち明けるのか。今まで考えたことのない選択肢。
しかし、答えは自分の姿を再び見ることであっさり導き出すことができた。

びっくりだ。まことにびっくりだ。
外身も着ているものも女の子のもの、なのに中身は野郎という間違え。
それを蹴飛ばすかのように、妹は「とっても似合います!」と男の姿のおれにけっして見せない笑顔を振りまく。
しかし、その笑顔も一瞬。

「そうだ…。父の日のプレゼント…どうしようなか。こんなときにお兄ちゃんが居てくれたらなぁ」
暦は梅雨の季節を知らせると共に、小さく『父の日』の存在を主張している。
「男の人って、何をプレゼントしたらいいのかなあって…考えてるんですけど、なかなかいいアイデアが出なくって」
そうだ。妹から「父の日のプレゼント、考えてるんでしょうね?愚兄さま」のメールを受け取ったのだった。
そして、おれは何も考えていない。『猪野川茉莉』の姿でなければ、妹から滅多打ちにされているところだった。
すらすらと恐ろしいフレーズを思いつく妹は梅雨の空を見ながら少女の顔でため息をつく。

「う、うん。それじゃ、タケルくんが帰ってくるまでさあ、わたしと一緒に考えよっか?」
「いいんですか?そんな、茉莉さん。悪いですよ」
「いいのいいの。今度わたしからタケルをビンタしてあげるから。それに…下着までクリーニング゙出さなくてもねえ」
帰ってくるはずのないタケルを待ちながら、肩を小さくする妹と一緒に、おれは父の日のプレゼントを考えた。


おしまい。
116「蝸牛嫁」:2009/06/21(日) 03:28:21 ID:8NKMDSiW
近ごろはぬめりが酷い。
「梅雨は嫌ですね」
そう言って嫁が窓を拭うと、結露の何倍も厄介なぬめりが床じゅうに広がる。
あまり裸足で歩かないように嫁をさんざん注意しているのだが、彼女が聞き入れる気遣いはない。
「梅雨は嫌ですね」
嫁はとろとろとレイノルズ定数を思わせる流体然とした動きで窓を拭う。
床が隙間無くてらてらと光る。
その様子を見て、不意に嫁の床上手なのに合点が行った。
なんと言っても蝸牛だ、むつみ合う度に発見がある。
見合いで貰った嫁が蝸牛だと気が付いたのは、やはり初めて床を共にした時だった。
彼女は両手両足で絡み付くのが好きで、しかもその力加減が絶妙であった。
抱き付くでも無く、突き放すでも無く、ただ絶妙に受け入れ、受け止める。
「私、冷たいでしょう。酷い冷え性なの」
絡み付いたまま彼女が囁いたのは、やはり耳に絡み付くような声色だった。
事が終わってから彼女が布団の中で丸まって蠢くので、蝸牛みたいだな、と言った。
「そうです。鋭いですね。まるで、マイマイカムリの顎みたい。私、蝸牛なんです」
彼女は蠢いて擦り寄り、将来の夫の乳頭を、歯舌で、じり、と舐めた。

さっきまで窓を拭いて居た嫁が、新聞を食べていた。
千切って食べ、食べては千切る。
植物のセルロースを分解吸収できるのは、割と羨ましく感じる点である。
嫁はのろのろ立上がり、部屋に引っ込んでしまう。
そうして、少し時間が経って部屋から出て来た嫁は、仕事の出来る女みたいに、
レディースパンツスーツに身を包んで居る。
蝸牛のくせに、腰は高く、尻は締まっており、少しO脚の長い足が良く映えた。
「こんな雨の日は、買い物に行きませんか」
そうだね、そうしよう、などと生返事をしながら、車の鍵を掴む。
行き先は決まって居る。
駅前のショップモール。
だが、嫁の目的は、その駐車場。
「あすこのコンクリートは、カルシウムが多いんですよ」
蝸牛は、カルシウムを補給せねば、良い殻が紡げない。
サプリメントでも良いのだろうが、嫁は駐車場を好む。
嫁は車から居り、車体の影に這いつくばって、歯舌を床に滑らせる。
パンツスーツの形の良い尻が突き出され、ただ見とれる。
ごりごり、がりがり、と嫁の口許で、コンクリートを舐めとる音が鳴る。
見ているだけだが、背徳感に、若干の恍惚を覚える。
嫁は口の端に付いた砂粒をなぞりながら、上目遣いで微笑んだ。

11776 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/21(日) 12:44:51 ID:SRj8128U
>>116
めちゃくちゃいい。
表現がいい。
118携帯 ◆4c4pP9RpKE :2009/06/21(日) 23:32:48 ID:8NKMDSiW
>>117
ありがとです。
そちらのスレ覗いて見たけど、参加方法がよく分かりませんでしたorz


次月お題決めましょ皆さん
119創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 23:33:27 ID:NTcYRiZF
今月も終わっちゃったね。
12076 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/21(日) 23:37:09 ID:SRj8128U
>>118
次の祭りがあったらここにも宣伝する。
12176 ◆FiLMG7dyEs :2009/06/21(日) 23:38:11 ID:SRj8128U
ちゃんとした長い作品を読んでみたいとわたくし、思いました。
122創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 23:38:40 ID:V7V9VBNs
>>121
IDすげえ
123創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 00:22:35 ID:X3tzADFa
お題案
124創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 00:23:31 ID:oi+zpx9l
投下し忘れた・・・
かつ規制中・・・ついとらんなあ

「海」
「夏休み」

来月はワクワクするお題ばかりだぜ!
125創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 02:48:58 ID:/gTV39D8
「海」「夏休み」の二つでいいと思うよ。
お題増やしすぎてもアレだし。

で、
今月分の総評としては、いかがでしょうか?
そういうのもラスト十日間でいろいろ話したいんスよね。
個人的には『駅』の話の雰囲気が好き。駅って出会いも別れもあるからねえ。
126創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 18:46:32 ID:Y832zzcc
夏休みって7月20日くらいから8月いっぱいじゃねーの?
七月のお題にしちゃうと夏休みに夏休みの話を書けなくね?
127創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 21:09:10 ID:oi+zpx9l
8月も「夏休み」でいいんじゃない?

「七夕」も追加して下さいな。
128創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 09:14:58 ID:q8fSQhPq
「海」
「夏休み」
「七夕」

「蛍」もお願い
1296月「雨」:2009/06/26(金) 22:56:43 ID:Hfomkygi
規制解除ですべりこみ!
http://u6.getuploader.com/sousaku/download/67/amefuri.MP3

アレンジしすぎたかな・・・
130創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 02:16:03 ID:d/sMPUeZ
新月あげ
131創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 22:44:09 ID:nk3eGwiz
無粋だとは思うが、上がってない気がするんだ…
んでお題は「海」「夏休み」「七夕」「蛍」かな?

自分も去年に投下したっきりなんで久々に何か創ってみるさ
132創る名無しに見る名無し:2009/07/03(金) 03:12:49 ID:gRUmbhYc
メ欄にageで上がるよ
133創る名無しに見る名無し:2009/07/06(月) 22:33:33 ID:iEOm9064
申し訳ないけど転載するの面倒なんで、このスレの>>600がいい感じ。
他に行き場所の無い作品を投稿するスレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1223547316/
134創る名無しに見る名無し:2009/07/08(水) 02:28:11 ID:8pg7EusX
うんうん、これは綺麗な物語だったねえ
135創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 02:31:09 ID:e2ndDhmf
電話がかかって来た。

『CQ、CQ……織り姫様、僕です。そちらから天の河は見えますか?』
「さぁね。雨降ってるし、都会は明るいからね」
『それは残念。こちらもよく見えません。申し訳ないのですが、たとえ曇り空だとしても、
織り姫様と同じ空を見たいのです。どうか、姫様も空を見上げてくれませんか』
「いいよ。どうせ雨だし」
『そこをなんとか』
「仕方ないなぁ」

窓を開けて外を見る。
最高に最低の曇天が湿気た空気ごと視界に粘りついてきた。

『おや。織り姫、僕には星が見えました。曇り空でも星は見えるんですね』
「見えるわけないじゃん」
『いいえ、輝く綺羅星が見えます。姫様も星を探して見てください』
「見えないってば」
『探して探して。上とは限りませんよ』
「上じゃない?」

私は視線を落として路地を見た。
傘をさして、携帯を使ってる奴がいた。
目が合って、あっちは笑顔。
こっちは苦笑。

「やり方がクサいぞ」

最後にそう言って通話を切り、私は傘を持って家をでた。
136創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 02:34:51 ID:1ZD/+mFJ
こいつは素晴らしい
さすがだぜ
137創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 01:44:10 ID:KLeeF8un
すごくらぶらぶですね。
端から見ててちょっと恥ずかしくなるくらいです。

参考にして自分も何か書いてみようかな。
138創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 13:52:48 ID:h89O7MP9
なんだこのニヤニヤ感wこういうカップルには勝てる気がしないww
※ただしイケメンに限る
139創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 04:30:48 ID:yIjYJheB
子供が文句を言ったが、盆に行う当たり前の行事以外を計画立てて行うほどの余裕は無かった。
学生の頃の10分の1ほど取れた貴重な夏休みを、汗塗れになりながら墓参りに使った。
父に連れられて祖父の墓参りをした時には踏み固められただけの土の道だったところが、
コンクリート敷きの歩きやすい舗装道路に変わっていた。
風にたゆたう彼岸花の赤い絨毯も見当たらない。
墓石を濯ぐ水を汲む井戸も、メッキの錆びた蛇口に変わっている。
小高い丘に広がる墓地から見えたはずの棚田も、蛙が群棲していた農業用溜め池も、
皆で樹上に秘密基地を作った大杉も、全て無くなってしまった。
変わっていないのは、顔も知らない先祖達と、祖父と、父と、
妻の白炭化したカルシウムの納まった、ちっぽけな石碑だけ。
去年、妻が死んだ時にも訪れた墓地なのに、冷静に観察すると、
全部取り替えられてしまったかのように思えた。
まるで知らない土地みたいだ。
持って来たキリコを吊り、萎れかけた花を活ける。
墓参りを終えようとしたとき、子供が墓地の奥の樹々が生い茂る部分に、消えかけた獣道を見つけた。
父に連れられて来たとき、自分も見つけた覚えがある。
せがまれて分け行ってみれば、なだらかな傾斜がずっと続き、
緑の絨毯の向こうに真っ青な海が見渡せる絶景の崖にいきついた。
「父ちゃん」
ふいに子供が振り向く。
腰を落として目線を合わせ、どうした、なんだ、と声を掛ける。
「海、行きたい」
そうか、海、行くか、と返事をしながら、突然思い出した。
自分もあの時、親父にせがんだんだ。
海に行きたいって。
なんだ。
変わっていないんだな。
俺が親父に、息子が俺に、代わっただけなんだ。
帰りに子供と海の家で食った烏賊焼きは、人生でも何番目かに数えられるくらい旨かった。

140創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 00:48:31 ID:wiravtVl
時間は流れても人のありかたは変わらないんだね
141創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 22:51:11 ID:zgjRsOFD
読んでて俺も夏の思い出が蘇った
142創る名無しに見る名無し:2009/07/18(土) 12:41:20 ID:soKQoL3R
コピペ(てか誘導)と俺しか投下が無い……
みんななんか書こうよ
143 ◆LV2BMtMVK6 :2009/07/19(日) 02:30:13 ID:3OpfdNIA
「蛍」
http://loda.jp/mitemite/?id=243

A4コピー紙に墨汁、Gペンなど
144 ◆LV2BMtMVK6 :2009/07/19(日) 05:00:09 ID:3OpfdNIA
「海」
http://loda.jp/mitemite/?id=254

A4コピー紙に墨汁、丸ペン(ベタ除く
145 ◆LV2BMtMVK6 :2009/07/19(日) 17:07:24 ID:3OpfdNIA
「夏休み」
http://loda.jp/mitemite/?id=255.jpg

A4コピー紙に証券インク、丸ペン、Gペンのみ
146創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 11:51:26 ID:oc/gYCqO
お、いいね。しかも連続投下とはなんという男気w
墨とか白黒絵って何故か涼しげに感じるよ。「海」の構図がダイナミックで好きだわ
147創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 19:52:00 ID:F/aLBem4
スレを立ててまで言う意見ですか?

【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ15
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1242143254/

このへんとかで話題を振るとかしたらいいと思います
作品の発表ではなく議論を目的としたスレは板違いです
148創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 19:52:43 ID:F/aLBem4
誤爆しました。
149創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 23:55:35 ID:5Txbe6WI
>>135
ニヤニヤさせるのが目的ですね、分かります
この短い文で楽しく纏められているのが良い。物書きさんはやっぱ凄いわ

>>139
最近、海にも行ってないし烏賊焼きも食べてない私には余計にグッと来た
子供の頃の海の思いでは、幾つか鮮明に覚えてるんだよね、何故だろうか

>>145
「夏休み」良いわぁ〜…「蛍」は最初、お題とどう関係あるのか分からなかったw
150創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 00:03:58 ID:WmZkmnuH
ちと遅れたスマナイ、最近過疎と聞いて賑やかし程度に

お題「七夕」 曲名「猫が七夕祭りで騒いだっていいじゃない」
http://u6.getuploader.com/sousaku/download/79/%E4%B8%83%E5%A4%95%E7%8C%AB.mp3
151創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 19:42:40 ID:SIUfe3XD
来月のお題案いくつか置いときますね

「戦争」

「墓」

「祭」
152創る名無しに見る名無し:2009/07/27(月) 03:35:30 ID:+JhZUIlP
「天王山」
「夏期講習」
153創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 01:16:10 ID:nU7BQw5J
新月あげ
154LA ◆aKxjt3s4LA :2009/07/31(金) 23:42:08 ID:D1yxr3Aj
みなさん、こんばんはー。
創作文芸板からの出張です。
155LA ◆aKxjt3s4LA :2009/07/31(金) 23:44:56 ID:D1yxr3Aj
以前ちょこっと話した、創作文芸板・伝統の競作祭が来月開催されるので宣伝にきました。
テンプレ貼りますので、どしどしご参加ください。

○●○創作文芸板競作祭・夏祭り2009○●○

「おい、そこの君、小説で喧嘩しないか?」
夏に関する作品を書く競作祭です。
テーマ……夏
会 場……「アリの穴」 http://ana.vis.ne.jp/ali/index.html
枚 数……3枚〜32枚(アリの穴表示換算)
日 程……投稿期間  8/16 (日) 0時 〜8/19(水) 23:59:59 まで
       感想期間  1作目投稿 〜8/23(日)21:59:59 まで
・作者さんは感想期間中、自作の感想欄に他者の作品の中からベストスリーを選んで投票してください。
 読者賞とは別に作者賞を選出します。
・記名投稿・枚数超過は参考作とします。
・一人一作限定
・得点はアリの穴に表示される得点を採用します。

◎備 考
・内容説明欄に「創作文芸板夏祭り2009」と入れて下さい。
・作者さんは他作品へできるだけ感想をお願いします。みんなで祭を盛り上げましょう。
・優勝しても何ももらえません。

わからないことがあれば祭スレにて質問ください。
該当スレ ○●○創作文芸板競作祭・夏祭り2009○●○
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1248880480/
156LA ◆aKxjt3s4LA :2009/07/31(金) 23:47:40 ID:D1yxr3Aj
なお、競作祭ってなんだよ、という人は、まとめサイトを見てもらえば大体わかると思います。
8月の中旬から投稿スタートとなりますので、通常参加はもちろん、
読み専としての参加もお待ちしております。スレ汚し失礼しました。では。
157創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 23:57:54 ID:5kUjOts1
>>154-156
告知乙

案も無い感じだから、とりあえず来月のお題は

「戦争」
「墓」
「祭」
「天王山」
「夏期講習」

の五つでおk?
なんかもっと8月っぽいのがあった方が良いって意見があったら、
そん時にスレで話し合って21日以降も投下ありしてやっちゃえば良いし
夏だから暇になった人多くなるだろうからw
158創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 23:59:36 ID:YRdkmqA5
じゃあとりあえずその五つで
159創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 01:09:40 ID:7NCVmHXb
それじゃあ八月のお題

「戦争」
「墓」
「祭」
「天王山」
「夏期講習」


急ぎ足で決めちゃったから、21日以降も話が進めば投下有りで
その時のお題はまた適宜話し合って決めましょう
まあ、とりあえず

創作開始!
1608月・お題・祭、戦争 ◆NN1orQGDus :2009/08/07(金) 20:27:47 ID:ksZfSq4Q
綿飴を 食べては思う 夏の空

負け戦 後の祭りと 腹を切る


久しぶりのSー1だな……
161創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 01:06:55 ID:mykoM2MY
○●○創作文芸板競作祭・夏祭り2009○●○

「おい、そこの君、小説で喧嘩しないか?」
夏に関する作品を書く競作祭です。
テーマ……夏
会 場……「アリの穴」 http://ana.vis.ne.jp/ali/index.html
枚 数……3枚〜32枚(アリの穴表示換算)
日 程……投稿期間  8/16 (日) 0時 〜8/19(水) 23:59:59 まで
       感想期間  1作目投稿 〜8/23(日)21:59:59 まで
・作者さんは感想期間中、自作の感想欄に他者の作品の中からベストスリーを選んで投票してください。
 読者賞とは別に作者賞を選出します。(1位:3点、2位:2点、3位:1点)
・記名投稿・枚数超過は参考作とします。
・一人一作限定
・得点はアリの穴に表示される得点を採用します。

◎備 考
・内容説明欄に「創作文芸板夏祭り2009」と入れて下さい。
・作者さんは他作品へできるだけ感想をお願いします。みんなで祭を盛り上げましょう。
・優勝しても何ももらえません。
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/bun/1249563003/

祭りの歴史
http://soubun.s370.xrea.com/

公募の合間に没ネタで参加しませんか?
数十人規模の祭りが開催されます。
優勝して勝利の美酒に酔ってみないか。
162 ◆LV2BMtMVK6 :2009/08/10(月) 21:00:20 ID:igd5JfFq
「墓」
http://loda.jp/mitemite/?id=314.jpg

草葉の影から。使ったテーマは「墓」「戦争」
163創る名無しに見る名無し:2009/08/11(火) 21:42:51 ID:eSLToCHm
おー、なんだから空が広狭く感じる絵だなー

ってか、画像サイズが大きいから携帯からだと見られなかったりするかもだ
164創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 00:58:38 ID:4kfVBp1v
画像大きいw何かドラマを感じるねえ
165創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 08:37:32 ID:jqLtKk2g
そろそろ来月の(ry
166創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 15:10:48 ID:xaO7VaXz
ならばお題候補

「9」
167創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 17:08:27 ID:EvT+BGcM
長月だけに「長い」
168創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:32:50 ID:1khASPXc
「一周年」
169創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 19:17:31 ID:2okoUxfK
九蓮宝燈
170創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 16:47:05 ID:1PQHadSo
お題まとめ

「9」
「長」
「一周年」
「九蓮宝燈」

でおk? 最後は麻雀の役だっけか
171『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』1/ 5:2009/09/08(火) 18:55:33 ID:P7eEF5of
「9」「長」「一周年」「九蓮宝燈」すべて使っています。
ただダラダラと長いだけの話しですがお暇ならどうぞ。


 『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』


「――つ、ツモ。 ――ちゅ、九蓮宝燈」
「えー!」
 麻雀を知っている人ならピンと来るだろう。これがどれくらい凄いことなのか。
 モノクロ映像が粋な映画『麻雀放浪記』この映画の登場人物が九蓮宝燈を上がった直後に死んでしまう。それの影響か、『九蓮宝燈をあがると死ぬ』というのが麻雀好きの間では定説になった。
 そんな迷信を生み出す程にその映画や原作が素晴らしいということだろうが、実際のところ麻雀で滅多に出ない珍しい役を上がったから死ぬ。なんてことは当然ない――はずだ。

 土曜日の午後4時。繁華街の雀荘で俺は高校の同級生と麻雀を打っていた。
ほとんど差の無い接戦だった。しかしここで誰もが驚く、ツモった俺が一番驚いた、幻の役萬
『九蓮宝燈』をこともあろうに俺があがってしまったのだ。

「スゲー。初めて見た」
第一声に続き、俺も俺も。と、残りのメンバー2人が言った。当然ながら俺自身も初めて見る。ここでお約束のセリフが出る。出来れば言ってほしくはない。
「井上。おまえ、近いうち死ぬんじゃねーか、九蓮あがった者の運命で」
「ば、馬鹿!そんなことあるか!」
「あー、やっぱりびびってるな井上」 
「……。」
俺を除く3人があははと笑い出した。高校卒業以降も10年近く付き合っている奴らだ。
俺が迷信を気にしたり、げんを担ぐことは3人ともよく知っている。
そう、彼らの言う通り、俺は少しびびっているのだ。

 九蓮宝燈が効いてか、結局その日の麻雀は俺の1人勝ちだった。
その後、適当な居酒屋で酒を飲む。仕事の愚痴や雑談で盛り上がるいつものパターンだ。
麻雀に勝った人が居酒屋のお金を出すというのがメンバー4人のルールになっている。
結局勝った分のお金をほとんど吐き出すのだが、それに文句を言う奴は誰もいない。
 利用した居酒屋が開店1周年記念ということで会計の際にスピードくじを引かせていた。
なにも考えずくじを引いた。スピードくじを店員に渡す。沈黙の後、店員が言う。
「おめでとうございます! 特賞です。本日の飲食代無料にさせていただきます!」
「うおー!」
俺含め4人同時に叫んだ。俺が密かに気にしている九蓮宝燈の呪いは、どうやらプラスに作用したらしい。
「やべー、運使い過ぎ。井上マジ死ぬんじゃね?」
いい感じに酔っ払って全員が上機嫌だった。
「あははは、マジでそうかも」
笑いながら俺は応えた。酔っ払って無敵モード。九蓮宝燈のことはすっかり忘れ、自分の幸運に酔っていた。調子に乗ってさらに言う。
「カラオケ行っても得するかもなー」
「今日の井上なら2度あることは3度ある!」
みんなで笑いながらカラオケボックスへ向かった。そうそう上手く事は運ばない、カラオケ
ボックスでは得をするようなことは何も無かった。が、いつもどおり楽しく騒ぎ続けた。

 月曜日、朝。何事もなく駅まで歩いて出勤する。
『九蓮宝燈をあがると死ぬ』迷信どころが都市伝説さえならない単なる映画のエピソードだ。もう2日前のことだし気にしなくてもいいのだが、やはり気になる情けない性格の俺。
少しでも縁起が悪くなることは避けるよう、靴やスニーカーを履くときは紐が切れかかってないかよく確認し、突然霊柩車に遭遇してもいいように常に親指を隠して歩いた。
カラスが鳴いていればその道を通らないで迂回し、黒猫と目があったなら、なつかれないよう
斜め上を向いて、気のない振りして素通りした。当然夜の爪切りは禁止だ。
備え有れば憂いなし。をモットーとする俺にはこのくらいは造作もないことだった。
172171:2009/09/08(火) 19:03:21 ID:P7eEF5of
すいません。読み難いので再編集してうpしなおします。 
173『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』 1/5:2009/09/08(火) 19:34:52 ID:P7eEF5of
「9」「長」「一周年」「九蓮宝燈」すべて使っています。
ただダラダラと長いだけの話しですがお暇ならどうぞ。

『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』

「――つ、ツモ。 ――ちゅ、九蓮宝燈」
「えー!」
 麻雀を知っている人ならピンと来るだろう。これがどれくらい凄いことなのか。
 モノクロ映像が粋な映画『麻雀放浪記』この映画の登場人物が九蓮宝燈を上がった直後に
死んでしまう。それの影響か、『九蓮宝燈をあがると死ぬ』というのが麻雀好きの間では定
説になった。
 そんな迷信を生み出す程にその映画や原作が素晴らしいということだろうが、実際のとこ
ろ麻雀で滅多に出ない珍しい役を上がったから死ぬ。なんてことは当然ない――はずだ。

 土曜日の午後4時。繁華街の雀荘で俺は高校の同級生と麻雀を打っていた。
ほとんど差の無い接戦だった。しかしここで誰もが驚く、ツモった俺が一番驚いた、幻の役萬
『九蓮宝燈』をこともあろうに俺があがってしまったのだ。

「スゲー。初めて見た」
第一声に続き俺も俺も。と、残りのメンバー2人が言った。当然ながら俺自身も初めて見る。
ここでお約束のセリフが出る。出来れば言ってほしくはない。
「井上。おまえ、近いうち死ぬんじゃねーか、九蓮あがった者の運命で」
「ば、馬鹿!そんなことあるか!」
「あー、やっぱりびびってるな井上」 
「……。」
俺を除く3人があははと笑い出した。高校卒業以降も10年近く付き合っている奴らだ。
俺が迷信を気にしたり、げんを担ぐことは3人ともよく知っている。
そう、彼らの言う通り、俺は少しびびっているのだ。

 九蓮宝燈が効いてか、結局その日の麻雀は俺の1人勝ちだった。
その後、適当な居酒屋で酒を飲む。仕事の愚痴や雑談で盛り上がるいつものパターンだ。
麻雀に勝った人が居酒屋のお金を出すというのがメンバー4人のルールになっている。
結局勝った分のお金をほとんど吐き出すのだが、それに文句を言う奴は誰もいない。
 利用した居酒屋が開店1周年記念ということで会計の際にスピードくじを引かせていた。
なにも考えずくじを引いた。スピードくじを店員に渡す。沈黙の後、店員が言う。
「おめでとうございます! 特賞です。本日の飲食代無料にさせていただきます!」
「うおー!」
俺含め4人同時に叫んだ。俺が密かに気にしている九蓮宝燈の呪いは、どうやらプラスに作
用したらしい。
「やべー、運使い過ぎ。井上マジ死ぬんじゃね?」
いい感じに酔っ払って全員が上機嫌だった。
「あははは、マジでそうかも」
笑いながら俺は応えた。酔っ払って無敵モード。九蓮宝燈のことはすっかり忘れ、自分の
幸運に酔っていた。調子に乗ってさらに言う。
「カラオケ行っても得するかもなー」
「今日の井上なら2度あることは3度ある!」
みんなで笑いながらカラオケボックスへ向かった。そうそう上手く事は運ばない、カラオケ
ボックスでは得をするようなことは何も無かった。が、いつもどおり楽しく騒ぎ続けた。

 月曜日、朝。何事もなく駅まで歩いて出勤する。
『九蓮宝燈をあがると死ぬ』迷信どころが都市伝説さえならない単なる映画のエピソードだ。
もう2日前のことだし気にしなくてもいいのだが、やはり気になる情けない性格の俺。
少しでも縁起が悪くなることは避けるよう、靴やスニーカーを履くときは紐が切れかかって
ないかよく確認し、突然霊柩車に遭遇してもいいように常に親指を隠して歩いた。
カラスが鳴いていればその道を通らないで迂回し、黒猫と目があったなら、なつかれないよう
斜め上を向いて、気のない振りして素通りした。当然夜の爪切りは禁止だ。
備え有れば憂いなし。をモットーとする俺にはこのくらいは造作もないことだった。
174『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』 2/5:2009/09/08(火) 19:36:34 ID:P7eEF5of
 九蓮宝燈をあがってから一ヶ月が過ぎようとしていた。
日々の仕事に追われていた。九蓮宝燈をあがったことも記憶の片隅に追いやられていた。
結局、九蓮宝燈に呪われるような事はなにも無かった。体力に自信は無いが健康には自信が
あるし、横断歩道も、青信号が出ていても右見て左見てもう一度右をみてから渡る性格だ。
普通に暮らしてる分には、生死を脅かされるようなことは無いはずだった。


「あ!」 
出張の為、普段より1時間ほど早く家を出て駅に向かっていた。ラッシュアワー前なので
いつもに比べ交通量も人の数もだいぶ少ない。大通りの横断歩道を普段通り、青信号で左右
を確認し渡っている途中だった。
車の音に気が付いて右を向いた時には遅かった。すでに黒い乗用車が目の前にあった。
(やっぱ九蓮宝燈の呪いで死ぬのか。単に運が悪いだけかも。あれベンツじゃね……?)
景色がぐるぐると廻っているのに、俺には何故か妙な余裕があった。
九蓮宝燈をあがって一ヶ月。朝6時20分。車にはねられた俺は否応なしにぶっ飛んだ。


――5メーターぐらい宙を舞って中央分離帯の花壇に落ちた。はねた時にあたったのか車の
フロントガラスはひびで真っ白になっていた。――
「現場に居合わせた全員が、間違いなく死んだ。って思ったらしいですよ」 
 意識の戻った俺に看護師が話し掛けてきた。そしてどこかに連絡した。
事故発生から3日もの長い間、俺は意識を失っていたらしい。気が付いたら俺はベッドに
くくり付けられていた。両手両足はギブスで固められ、器具を使って吊るされていた。
 一瞬自分が置かれた状況を理解できなかった。起き上がろうと体に力をいれたときだった。
息も出来なくなるような激しい痛みが全神経に行き渡った。
「まったくもって奇跡的です。全身の打撲はかなりひどいですが、右手足の骨にひびが数箇
所あるくらいで他には異常はありません」
意識の戻った俺に、看護師に呼び出された担当医は、にこやかに微笑みながらそう言う。
(体こんな痛いのに異常なし?)
激痛を見舞われる恐怖で俺は返事ができなかった。そんな俺を見て看護師と担当医は優しく
微笑んでいた。
「痛みは一週間ほど安静にしていればひけると思います。経過にもよりますが、ひと月程で
退院できると思いますよ」
そう言って、担当医は部屋を出て行った。続けざまに看護師が言う。
「井上さんて運がいい人なんですね。大通りではねられて、あの狭い中央分離帯の花壇に
着地するなんて奇跡的ですよ。柔らかい土の上に落ちたからよかったものの、コンクリート
に投げ出されたら間違いなくアウトでしたね。生きてるだけで丸儲けですよ。今は痛いと
思いますけど安静にしてればすぐ良くなりますから気長に頑張りましょう」
( 九死に一生を得たのか…… 運がいいのか悪いのか……。  
九蓮宝燈をあがって、居酒屋でくじ当たって、誰もが死んだと思った交通事故遭って、奇跡
的に助かるしかも軽傷。なら運がいいんだろう。九蓮宝燈が幸運を呼び込んだのか……?)
生きてるだけで丸儲け。って誰の言葉だ?と気にしながらも俺はぼんやりと考えていた。

 意識が戻ってから10日が過ぎた。
まだ痛みはあるが、担当医が言うように体も動かせないような激しい痛みは5日ほどで消えた。
体を固めていた器具やギブスも徐々に外されて左半身はだいぶ自由が利くようになった。
 意識が戻って、会話も問題なく出来る状態になったころ家族や職場の上司が見舞いにきた。
家族には、いきなり事故に遭って心配かけてスマン。と思っていたが、
「脳波に問題は無く、命を脅かすようなケガも無い。外因性ショックで意識を失っているが
じきに意識は回復するので焦らず待っていてほしい」
と担当医から状況説明があったらしい。それを聞いて安心したらしく両親、妹ともに俺に関
してはほとんど放置状態だった。俺的には少しは心配しろ!と抗議したいところだが、まぁ
結果オーライで良しとすることにした。
175『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』 3/5:2009/09/08(火) 19:38:35 ID:P7eEF5of
職場の上司がきたときには少し緊張した。
今後、俺が仕事に復帰できるかどうか関することだろう。心配性の俺は、当然やる気はあるし
退院したらすぐにでも復帰したいが、体も心配なので3ヵ月後復帰を目標に頑張りますので
どうにかクビだけは勘弁してください。このご時世、再就職は苦難の一途をたどっています。
なにとぞなにとぞ〜。と懇願した。
「クビにはならないから大丈夫。休職扱いである程度の給料も出るし。出張というか通勤途
中の事故で労災扱いなるはずだから、細かいこと気にしないでしっかり治してくれ。あと
電話できる状態になったら定期的に連絡が欲しい」
と上司は言う。ちょっとびびってた俺には上司に後光が射して見えたのはいうまでも無い。
 
 職場の上司の次に現れたのは、加害者の代理人を名乗る人物だった。
きっちりとしたスーツを身にまとい、菓子折りを持ってやってきた男は単刀直入に話を進めた。
「私は、加害者の代理人を努める弁護士の内田と申します。このたびは井上様に多大なるご
迷惑をおかけし誠に申し訳なく思っております。深く反省しお詫び申し上げます。本来なら
ば加害者本人が伺うべきですが諸事情により代理として私、内田が参りましたことをご了承
ください。
不躾ではございますがこちら加害者からの見舞金になります。どうぞお受け取りください。
今後この事故に関する対応は加害者の代理として私、内田が承りますので何なりと申し付け
ください」
てっきり自動車保険会社の人かなと思っていたが。何故か弁護士だった。
「賠償問題や慰謝料に関しては、井上様の怪我が完治してから改めてご相談したいと考えて
おります。もし入院費や手術費などご入用の際はある程度ご協力できますので遠慮なくご
相談ください。それでは失礼いたします」
男は名刺を置いて風のように去っていった。超事務的な男だった。

 男が消え去ったことを確認し俺は恐る恐る見舞金の封筒を手にした。
俺の体中のアドレナリンが暴発した。封筒に物凄い手ごたえを感じたからだ。指は左右とも
に動かせる。俺は早速封筒を開けた。
「うおー! 痛てててて」   
あまりにも興奮しすぎたせいか治りきってない打撲傷が疼いた。見るからに厚みのある札束
に俺は震えた。封筒の中には50枚の一万円札が入ってた。
「すげー。交通事故ってこんなもらえるのか……」
交通事故に遭うのも初めて。病院に入院するのもはじめて。の俺に、その50万円という
見舞金が妥当かどうかは分からなかった。
「ご入用の際はある程度協力するって言ってたけどもっとお金くれるってことかな……」
一瞬、よからぬ事を考えたが、すぐに止めた。
入院費用がどのくらいになるのか分からないが、この見舞金で足りないようなら、あらためて
そのとき内田代理人に相談すればいいだけの話だ。俺をはねた車、でかい黒塗りのベンツ……
優しい人が乗っていたとは限らないのだから、やぶ蛇になるようなことを慎重派の俺はしない。

 結局、俺は約2ヶ月間入院した。
出来るだけきっちり体を回復させて今後への不安を打ち消す為だ。病室も空いていたので
病院側も了承してくれた。おかげで退院する直前には杖なしでも普通に歩けるようになって
いた。
入院費用は代理人から貰った50万と俺の貯金でまかなった。結局俺から内田代理人に連絡
することは無かった。
 退院直後から俺は忙しかった。なにしろ初めての交通事故、入院なので保険請求の手はずが
よく分からなかったのだ。保険会社に行っては書類、資料、申請方法を確認をしていた。

 事故から3ヶ月後、俺は職場に復帰した。
外回りの機械修理が俺の仕事だが、上司が気を利かせてくれたのか2週間ほど内勤になった。
どこから聞きつけたのか会う人会う人に、死にかけたんだって?と質問された。ほぼ正直に、
ベンツにはねられ5メーターほど宙を舞って花壇に落ちた。道路だったら死んでたらしい。と
笑いながら話していたらいつのまにか、ベンツにはねられたけど月面宙返りで見事着地成功
した男。と訳のわからない奴になっていた。
 上司の言うとおり休職期間中も金額は減少しているが給料は振り込まれ、事故に関しても
労災が降りることになった。威張れるほどの給料ではないが、いい会社に入ってよかった。
と感謝した。たぶんこういうときでないと感謝しないとは思うが。
176『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』4/5:2009/09/08(火) 19:40:10 ID:P7eEF5of
 事故から5ヶ月が経った。半年振りにいつもの麻雀メンバーと酒を飲んだ。
酒の肴はもちろん俺の交通事故の話だ。
「でも九蓮宝燈のパワー凄いよな。信心深い井上でさえ死にそうになるんだから」
メンバー3人の中で唯一見舞いに来てくれた江藤が言う。
「うるせーな、九蓮宝燈は関係ねーよ。事故はたまたまだよ。たまたま」
事故についてはもうギャグとして消化できるほど気にしていなかった。体のほうも、むしろ
事故で入院する前より調子いいぐらいで、その後どこかが痛むなどのこともまったくなかった。
「でも、九蓮あがった1ヶ月後だから因縁あるんじゃねーの?」
生ビールをぐいぐい煽りながら小田島が言った。こいつが今回みんなを収集してくれた。
「無い無い。気にしすぎ気にしすぎ」
はっきり言って気にしていたがそれはもうどうでもいいことだった。
「いや、一番気にしてたの井上だろ」
加賀屋が言う。そして4人揃ってあははと笑う。
「いや、まぁ確かに気にしてたけどさ。結果的にあの九蓮宝燈で運気が上がったはず」
小田島に負けじと俺もジョッキを傾ける。店員におかわりを頼みながら続ける。
「九蓮あがった後、居酒屋でくじ引いて飲み代ただになったし」
あーそうだった。この店?いや違う。3人が話すのを無視して続けた。
「普通なら死んでもおかしくないような交通事故遭って、軽傷で済んだし」
「井上、あの惨状は軽傷じゃなかったぞ」
俺のギブス姿を見た江藤は言う。でも喉もと過ぎればなんとやら、確かに意識を戻した直後
の数日間は肉体的にかなりきつかったが、後遺症も無く元気になったんだから軽傷で充分だ。
「まぁ、ほれ、比較的短期間に社会生活に復帰できたんだから充分軽傷でしょ。で、一番
運気があがったなって思ったのが保険金でさ」
俺がそう言った瞬間3人の目が輝いた。
「自分で加入してる生命保険に、親も俺に保険かけてたのもあって、交通事故で俺の車の
保険からも降りたし、会社の労災も降りたし見舞金も貰って……」
「……貰って?」
3人が俺に注目する。
「……なんだかんだで300万近くになりました」
「うお!それって俺の手取りの年収と同じじゃん!」
加賀屋が驚いたように言う。俺もそんなもん。他の2人もそれに続く。俺も続きたかったが
手取りだったら俺はいいとこ270万だ。
「かー!交通事故の入院成金か……。羨ましいが、いまいち羨ましくないな」
微妙な表情で江藤が言った。反論するわけではないが俺は声を大にして言った。
「まぁ、日頃俺おこないいいからな。保険の神様が優遇してくれたんだろ」
「うるせー、この保険金サギが!」
小田島が言う。悪意の無いのは分かっている。
「やかましー!見舞いにも来ないくせしてなに言いやがる」
けんか腰で俺も言い返す。そしてみんなで笑いあった。

177『九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)』5/5:2009/09/08(火) 19:42:30 ID:P7eEF5of
事故から半年が経った。
事故ネタも周りからは振られなくなり、開口一番その話をする人はいなくなった。
特に体に異常をきたすことなく、日々を淡々と過ごしていった。
 ある日、見知らぬ番号から携帯電話に着信があった。相手は代理人の内田だった。

『どうも、ごぶさたしております。その節は大変ご迷惑をおかけ申し訳ありませんでした』
俺が完治してから連絡をくれると言うことだったが、しょっぱなに貰った見舞金50万の
インパクトが強く、忘れていたわけではないがあまり気にしていなかった。
『井上様、お怪我のほうも完治され、お仕事に復帰なされているということでこちらも安心
いたしました。差しでがましいのですが今回の交通事故に関しての賠償金並びに慰謝料を振
り込みさせていただきたく連絡差し上げました。よろしければ振込先の銀行名、口座番号を
教えていただければと存じまして』
俺の銀行口座を内田に伝える。……しめしめ、また50万貰えるのかな。と即座に考える。
すっかり金の亡者になってしまった俺。
『ありがとうございます。来週になりますが慰謝料および賠償金として500万円を井上様の
ぶーっ!!! 電話口で思わず吹き出した俺を無視して事務的に内田は話しつづけた。
井上様の指定口座に振込みさせていただきますので。よろしくおねがいします。それではもし
ご不明なことやご不満なことがありましたら、ご遠慮なく内田までご連絡ください』

 またもや超事務的な電話対応で内田は電話を切った。
どうやら黒塗りのでかいベンツに乗っていたのは優しい人らしい。俺は今後とも、内田に
不満を連絡する気はない。内田からの着信履歴はためらうことなく消し去った。


『九蓮宝燈をあがると死ぬ』迷信どころが都市伝説さえならない単なる映画のエピソードだ。
恐ろしいほどに出現率の低い役だ。俺は一度あがったから、もうあがることはないだろう。
でも、もし万が一、また九蓮宝燈あがってしまったら……。
今回の件で手にした保険金や慰謝料をすべて貯金した。保険も保証内容を充実させた。
けして、びびっているわけでは無い。備え有れば憂いなし。ただ単に俺は慎重な性格なだけだ。


おわり
178創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 19:56:31 ID:RCFS0TM1
投下北!

ビビりすぎワロタw
179創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 12:50:43 ID:ZXblqOdt
チキンだww運がいいのか悪いのかw
180創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 00:36:21 ID:jT+qfcBb
今月の投下は一つだけか
S−1も寂しくなったな
181創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:28:27 ID:mtMCDhuP
来月のお題決めないと
182創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 01:11:59 ID:oMEUT43P
1週間前に索子9面待ち九蓮宝燈を上がった俺に死角はなかった

ということで「天国」とかどうかな
183創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 03:45:01 ID:dCGLTFUW
縲悟・郁誠縲?
184創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 12:24:49 ID:xvfZwds9
>183
読めねー、意味わかんねー。
文字化け?それとも俺が馬鹿なだけ?
185創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 20:59:37 ID:ZKugIwa4
186創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 21:27:34 ID:s9F2/S04
道を歩いてこの甘い香りがすると
ああ、10月だなあという気分になる。
というわけで

金木犀
187創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 00:28:23 ID:2B4af6uh
たしか今年は中秋の明月がぎりぎり十月だから「月」
188創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 21:29:07 ID:YOKDXIgE
いつのまにか十月のイベントとしてすっかり定着した感がある
「ハロウィン」
189 ◆m6pIMJoa64o0 :2009/10/03(土) 09:56:20 ID:UjFzLk+z
 昔々あるところにアリさんとキリギリスさんがいました。
 アリさんはいつも一生懸命働いて、年金も払っていましたがキリギリスさんは、いつも趣味の音楽を奏でてばかり。
 金木犀の香りが漂うある日、アリさんはキリギリスさんに問い掛けました。
「ねえ、キリギリスさん、そんなに遊んでばかりいて冬は大丈夫なの?」
 キリギリスさんは答えます。
「先のことばかり考えても仕方がないよ、僕は音楽にかけているんだ、僕には音楽しかない、いや僕には音楽があるんだ。
 ……アリさん、実は来週音楽のコンテストがあるんです。それに合格すれば僕は音楽でやっていける、それが僕の夢なんです」
 夏の澄み切った青空をキリギリスさんはうれしそうに眺めていました。

 そしてキリギリスさんのコンテストの日がやってきました。
(心配いらない、あんなに頑張ったんだ、絶対大丈夫!)
 しかし結果は一次審査で不合格でした。
 原因は明確です。皮肉なことに練習のし過ぎで楽器がいい音を奏でなくなっていたのです。
(うちには買い換える余裕もない、せめて僕に盗人になる度胸があったなら……)
 呆然として数ヶ月を過ごしているうちに、寒い寒い冬がやってきてしまいました。
 夢断たれたキリギリスさんは気力もなく、蓄えも食料もありません。とうとう家賃滞納で、家も追い出されてしまいました。
 コンテストに向けた深夜まで続く猛特訓のおかげで、近所の住民との仲は完全に冷え切り、もはやアリさんに頼るしかありませんでした。
190 ◆Qb0Tozsreo :2009/10/03(土) 09:57:59 ID:UjFzLk+z

 ドンドンドン、「アリさん、アリさん」ドアの向こうからアリさんが応えます。「やあ、キリギリスさん、どうしましたか?」
「実は……」
 キリギリスさんは事の次第をアリさんに告げ、せめて今日の食事と宿を頼みました。
「わかりました、少し待っていてください」
 ホッとしたキリギリスさんはドアの前でしゃがんで待っていました。しかし、いくら待てどもアリさんは来ません。夜の吹雪が容赦なくキリギリスさんの体力を奪っていきます。
 たまらずキリギリスさんは、せめて中に入れてくれと言いましたが「いや、せっかく来てくれたのでパーティーの用意をしているんです」「もう少し待ってください。今メインディッシュの用意をしていますから」などと言って、なかなか入れてくれません。
 やがてキリギリスさんは体が動かなくなり、意識が薄れてくるのを感じてきました。そのときです。ガチャリとドアが開き、アリさんが出てきました。アリさんは足元に倒れているキリギリスさんに、優しい笑顔で言いました。

「キリギリスさん、食事の準備ができましたよ」
191 ◆Qb0Tozsreo :2009/10/03(土) 10:00:12 ID:UjFzLk+z
投下終了です。

お題「金木犀」「月」を使いました。
192創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 12:42:43 ID:aXAOFgZ8
えー、死んじゃったって事?
アリのやろう、残酷だな。
193創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 18:12:40 ID:m1VbMaHa
こういう童話もアリだな
なんちゃって
194創る名無しに見る名無し:2009/10/04(日) 00:40:20 ID:Xpe3LfDA
ブラックだ、アリだけに(あんまりうまくないな
貧乏はせつねえですのう
195創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 00:06:48 ID:GkTSpJWb
キリギリスがきっちり努力してるだけに、余計にくるものがあるなぁ・・・。
196創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 01:27:36 ID:siaDT8ey
今月のお題は
金木犀

ハロウィン
197創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 22:05:12 ID:C/V2GxIk
>>182の「天国」はー?
198 ◆EV7z74/XkU :2009/10/08(木) 11:42:46 ID:AD+mRxEm
「えっ? あんた、なんで生きてんの? たしかにあんたを殺したはずなのに……」
「そうね、私は死んだよ。たしかに死んだわ」
「ん? じゃあ何であたしの目の前にいるのよ!?」
「死んだから、あんたの目の前にいるのよ」
「何言ってんの? 幽霊? あんた幽霊なの?!」
「ふふふ、何言ってるのよ。ここは死後の世界なの」
「はぁ? 死んだのはあんたでしょ。あたしに殺されたのよ!」
「うん、殺されたよ。でも、もうあんたも死んでるのよ」
「!?」
「私を殺して逃げる途中に、あんたは大型トラックに轢かれて吹っ飛ばされたの! 即死ね! 私は霊のまま見てたのよ」
「あたしが死んでる!? ハァ? ワケわかんない!? 納得できるわけないでしょ!」
「そうそう、私はあんたより死後の世界では五分先輩だから、敬語使ってちょうだいね」
「ハァ? 死んでるくせに何言ってんのよ、馬鹿みたい! 仮に、あたしも死んでるとしても……どうせすぐ生まれ代われるに決まってるわよ!」
「あら、残念なお知らせがあるわ。私は殺されたから天国行きだけど、あんたは地獄行きみたいだから!」
「!?」
「天国行きは、いずれ生まれ代われるんだけど、地獄行きはそのまま消滅するだけだからね! んじゃ、バイバイ〜」
「えっ、何言ってんの? 地獄って……え? ええ?」




「待たせたな。迎えに来たぜ、ねえちゃん。残念だが、おまえは立派な地獄行きだ」
「ま、待ってよ! あたし、死んでないって! まだ生きてるんだって!! あっ待って、止めて!」
「あはは、悪霊はみんなそう言うんだよ。黙ってついてこい!」
「いやぁぁぁぁぁ――」
199 ◆EV7z74/XkU :2009/10/08(木) 11:44:52 ID:AD+mRxEm
>>197
ということで、お題「天国」を使いました。
200創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 01:00:41 ID:EmX2Ezkc
投下乙です
でも俺はよくわからんかったよ
201創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 01:38:13 ID:UjtoAW2Y
うーん解釈しにくいな
途中の空行はなんだ?殺した方のねーちゃんを差すなら要らんよ
台詞系やケータイ小説では空行表現は転換が期待されるから殺されたほうのねーちゃんに切り替わったように読まれる
殺した方のねーちゃんを差すならオチてなくね
202創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 01:40:42 ID:UjtoAW2Y
あ、オチてないってのは昇華も意外性もないって意味な
話が終わったのは分かるが終わっただけで、読者はそれで?って思ってポカ〜ンとするしかない
203 ◆5479woNURU :2009/10/10(土) 12:38:36 ID:EbjBqdgN
過去作品でお茶濁しスマソ

ttp://dokuo30.kuronowish.com/cgi-bin/oekaki/img/467.jpg
タイトル:上を向こうよ
204創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 21:47:22 ID:I/SBE93K
>203
乙。ねこ、可愛いよ、ねこ。



さて、本題。下記内容でちょっとお伺いたててみる。

ちょっと遊んでみる。
天国、月、ハロウィン、金木犀、一応すべて使っています。

【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239028681/429-430
お題【夜明け】【船】【侍】 429-430の続編になりますので、前もってそちらを見て
頂かないと話が見えないと思います。
上記投稿を見て興味を持たれたなら情報、設定は超テキトーで、長いだけの文ですが
暇つぶしにどうぞ。
ジャンルはラブコメ(いろんな意味で読むのがつらくなるかもw)だす。

 ということで、創作中のものが中編になってしまっている(まだ未完成)
今現在約500行×約45文字でテキストファイル容量約24KB。最終的には700行で抑えるつもり。
ついでに、続編と言う形なので、S1のお題よりも三題噺のお題のほうが重要視されている。

 いずれにしても投下はするが、S1もしくは、他に行き場の無い作品スレにするか
10〜15スレ使用して連投するか、うpろーだー使用するかで迷っている。

 個人的には、過疎っているのでここに連投でいくつもりだが、こうしたほうがなどの
意見があったら教えてくれればそれに従う。2,3日中に投下する。
幼稚な文章と自負しているがw晒す気はまんまんなので意見ください。

205創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 03:16:26 ID:qUVp+vSf
直に投下でおけ
206創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 04:19:10 ID:U9NOluZw
長くなるなら支援するよ
00分さるキャンセルも駆使すれば、問題なく直投下出来ると思う
一応
【支援要請】さるさんと闘うスレ【代理投下】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239039323/
207204:2009/10/14(水) 20:30:50 ID:BDhnE7iV
>205-206
それではここに直に投下することにする。
10スレ超えると思うが、ネット接続しなおせばID変わるので
支援はいらないと思う
金曜か土曜日に時間かけてゆっくり連投します
レスさんくす
208創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 21:12:17 ID:RTsvXSAT
ほほう、10スレ超えとな!?
209創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 21:26:15 ID:g2f4tazH
コラコラw
210204:2009/10/14(水) 21:44:48 ID:BDhnE7iV
>208-209
やべっ、またまた素で間違えたw
211「俺inファンタジーフェスタ」2/14:2009/10/18(日) 00:57:13 ID:1QNDhp6K
 俺は生まれて初めて5日間(土日を含め7連休)の長期有給休暇を願い出た。
そしてダッシュでパスポートの申請もした。
「 行きます。絶対行きます。死んでも行きます。どうかどうか御一緒させていただきたい 」
「 おお、それは嬉しい限りです。ぜひ一緒に愉しみましょう! 」
電話の向こうでにやけているジャンの顔が想像できたが、俺のエロエロ魂は既に紅蓮の炎の
ごとく燃えさかっていた。

 ジャンとの交流が始まったのは、とある大学の学園祭に俺が遊びに行ったことからだった。
初日、外人さん主宰のコスプレ喫茶で知り合い、翌日はこれまた外人さん主宰の飲茶喫茶なる
ところでジャンと大いに盛り上がった。
 俺がお土産として持参した、スーパーで売っている普通の粒納豆を
「 納豆は大好きです! 」
と付属のたれとからしを入れてかき混ぜ、ジャンは普通に割り箸で食べ始めた。
――こいつ本当にフランス人か?
怪しんだ俺に対し
「 トーストに納豆をトッピングしてもおいしいですよ 」
と平然と言い切った。そして何故か食パンが出てきたので、試してみたら普通にうまかった。
――やるなこいつ……。悔しいが日本好きを認めざるをえない。
 別に悔しがる必要もないのだが、前日いきなり日本から中国に鞍替えされ、俺の中にジャンに対
する些細なわだかまりがあった。だが「 納豆大好き 」という単純な理由でも、日本が好きと
確認できたので、俺は気兼ねなくジャンと納豆をつまみにビールや紹興酒を飲み、そして意気投合した。
 さらに俺がデジカメで撮った画像データーをプリント、CDに焼いて持参したのが、女の子にえらく
喜んでもらえたらしく、コスプレ女子チームともあっというまに仲良くなれた。
その後、学園祭の打ち上げにまで参加していよいよ交友が深まった。
地元を離れ、会社の同僚といろいろ遊んではいるが近くに同僚以外の友達がいない俺には、数少
ない友達の1人だ。そして可愛い外人のお姉ちゃん達と一緒に、居酒屋やカラオケに行くのは
なんか自分がグローバル化したみたいで妙な優越感に浸れていた。
ジャン30歳、俺25歳、スージー、ジュンは23歳。何故かジャンは丁寧語で俺はタメ口だ。


 2泊5日という訳のわからない人生初の海外旅行が始まった。
英語は中学の単語レベルしか分からないが、ジャンは日本語英語フランス語がぺらぺらだし、
スージーやジュンも、ほどほどに日本語が通じるので言葉の壁にぶち当たる心配は無い。
 事前に初日は観光地をドライブと分かっていたので、俺はマイアミサウンドマシーン「コンガ」
ビーチボーイズ「ココモ」リンキンパーク「ナム/アンコール」ロッドシュチュワート「セイリング」
ジョンデンバー「カントリーロード」をCDに焼きドライブミュージックとして持参した。

 なにもかもがカルチャーショックだった。
飛行機を乗り継ぐにつれ減る日本人。映画やテレビドラマでしか見たことの無い風景。
自動車の右側通行。確実に日本とは景色の質が違う。
 了解は得ているが運転手のスージーには申し訳ないと思いつつ、まだ午前中なのに俺とジャン、
ジュンはすでに瓶ビールを手にしている。
 窓全開で瓶ビール片手に、俺のCDを大音量で流す。澄み切った青空、当たり前だが窓の外を
流れ去っていく外国の景色。
「 くぉおおお! 」
 大音量でリンキンパークのナム/アンコールのイントロが流れた瞬間、俺は鳥肌がたった。
そして2本目のビールを手に俺は、密かにカラオケ練習中の「カントリーロード」をうろ覚えの
テキトーカタカナ英語で歌った。その瞬間、車内は大合唱になった。

 外国映画の不良少年のように痛快にして爽快。大げさだがこの体験だけで10万払った価値が
有るような気がした。
 前席にはジャンとスージー、後部座席には俺とジュン。それぞれ適当なサングラスをかけて
日本ではありえない幅のハイウェイを駆け抜けていく。
――青春だ!
 特に暗い青春時代を過ごした訳でもないし、普通に彼女がいたときもある。
でもやはり何かが違う。アメリカの青春が今まさにここにある(ジャンはフランス人だが)
――アメリカ万歳!フロリダ最高!キーウェスト愛してますマジで!
 初の海外旅行のせいか瓶ビールで酔っ払ったせいか、初日前半の観光スケジュールを消化した
だけなのに俺は完全に舞い上がっていた。
212創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 00:58:42 ID:1QNDhp6K
やべっ、いきなり間違えた。
投下しなおす。
213「俺inファンタジーフェスタ」1/14:2009/10/18(日) 01:00:06 ID:1QNDhp6K
ちょっと遊んでみる。
天国、月、ハロウィン、金木犀、一応すべて使っています。

【三題使って】 三題噺その2 【なんでも創作】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239028681/429-430
お題【夜明け】【船】【侍】 429-430の続編になりますので、前もってそちらを見て
頂かないと話が見えないと思います。
上記投稿を見て興味を持たれたなら情報、設定は超テキトーで、後付けご都合主義満載
の山場もオチも無い長いだけの文ですが暇つぶしにどうぞ。
ジャンルはラブコメ(いろんな意味で読むのがつらくなるかもw)です。



 「俺inファンタジーフェスタ」


 いま俺は、アメリカ合衆国フロリダ州キーウェストのお祭りウィーク
『ファンタジーフェスタ2009』なる場所にいる。

 今回の目的も当然、外人さんのコスプレを見る、写真を撮るためだ。
コスプレが好き。というより、露出度の高い服を着た姉ちゃんが好きな俺。
「 人前でそんな服着て、恥ずかしくないのか(にやにや)」と萌えるのがいいのだ。
25歳独身。このくらいの性癖は別に珍しくも何ともないはずだ。

 しかし、しかーし!今回はスケールが違う。はっきり言ってコスプレどころの話ではない。
今回初参加なので詳しくは分からないが、前もってリサーチした限りではほぼ全裸に近い
女(男もいるが)の外人さんがウヨウヨいるらしい。

 いままで一度も海外旅行をしたことがない俺が、何故そんなお祭りにいるかと言うと
つい先月親しくなったばかりの外人さんグループのリーダー、ジャンに誘われたからだ。

「 安藤殿、来月の末、アメリカでファンタジーフェスタというお祭りがあるのですが
 とある事情で格安のチケットが取れそうなので良かったら一緒に行きませんか?
 スージー(ミニスカメイド)のご両親が住んでいて、交通費は掛かりますが宿泊は
 スージーの家で、朝晩の食事も提供して下さるということで、それほどお金は必要ないと
 思います。安藤殿もとても楽しめると思いますのでぜひ一緒に行きましょう 」

 ジャンに力説された俺は、まずは旅費の額を聞いてみた。
往復約10万円……。海外旅行の経験の無い俺はそれが安いのか高いのか謎だった。
次に一緒に行くメンバー。ジャン、スージー、ジュン(不知火舞、サンフランシスコ出身)

「 うむー 」
 スージー、ジュンは可愛い。この2人と同行できるなら……
しかし、俺にとって10万はかなりの大金だった。
たぶん無理。とジャンに伝えて後日正式にお断りをするつもりでいた。

――安藤殿もとても楽しめると思いますので――
ジャンの言葉が気になりその晩、なんとなくファンタジーフェスタについて検索してみた。

「 な、何じゃこりゃー!!! 」
 驚愕する俺。
元々はハロウィンから派生したお祭りらしいが、ハロウィンが子供の仮装行列とするなら、
ファンタジーフェスタは大人の、しかもかなり露出度の高いイカれた仮装行列だった。
「 うおー…… 」
 パソコンに表示される数々の画像を前に俺は興奮した。
男女問わず、なんだかよく分からないとにかく派手な仮装をした人々が満面の笑みを浮かべている。
サンバもどき、トップレスにニップレスはまだ普通で、何より俺を興奮させたのがどう見ても全裸
にボディペインティングという女の人が街じゅうを闊歩している画像だった…………
214「俺inファンタジーフェスタ」2/14:2009/10/18(日) 01:01:06 ID:1QNDhp6K
 俺は生まれて初めて5日間(土日を含め7連休)の長期有給休暇を願い出た。
そしてダッシュでパスポートの申請もした。
「 行きます。絶対行きます。死んでも行きます。どうかどうか御一緒させていただきたい 」
「 おお、それは嬉しい限りです。ぜひ一緒に愉しみましょう! 」
電話の向こうでにやけているジャンの顔が想像できたが、俺のエロエロ魂は既に紅蓮の炎の
ごとく燃えさかっていた。

 ジャンとの交流が始まったのは、とある大学の学園祭に俺が遊びに行ったことからだった。
初日、外人さん主宰のコスプレ喫茶で知り合い、翌日はこれまた外人さん主宰の飲茶喫茶なる
ところでジャンと大いに盛り上がった。
 俺がお土産として持参した、スーパーで売っている普通の粒納豆を
「 納豆は大好きです! 」
と付属のたれとからしを入れてかき混ぜ、ジャンは普通に割り箸で食べ始めた。
――こいつ本当にフランス人か?
怪しんだ俺に対し
「 トーストに納豆をトッピングしてもおいしいですよ 」
と平然と言い切った。そして何故か食パンが出てきたので、試してみたら普通にうまかった。
――やるなこいつ……。悔しいが日本好きを認めざるをえない。
 別に悔しがる必要もないのだが、前日いきなり日本から中国に鞍替えされ、俺の中にジャンに対
する些細なわだかまりがあった。だが「 納豆大好き 」という単純な理由でも、日本が好きと
確認できたので、俺は気兼ねなくジャンと納豆をつまみにビールや紹興酒を飲み、そして意気投合した。
 さらに俺がデジカメで撮った画像データーをプリント、CDに焼いて持参したのが、女の子にえらく
喜んでもらえたらしく、コスプレ女子チームともあっというまに仲良くなれた。
その後、学園祭の打ち上げにまで参加していよいよ交友が深まった。
地元を離れ、会社の同僚といろいろ遊んではいるが近くに同僚以外の友達がいない俺には、数少
ない友達の1人だ。そして可愛い外人のお姉ちゃん達と一緒に、居酒屋やカラオケに行くのは
なんか自分がグローバル化したみたいで妙な優越感に浸れていた。
ジャン30歳、俺25歳、スージー、ジュンは23歳。何故かジャンは丁寧語で俺はタメ口だ。


 2泊5日という訳のわからない人生初の海外旅行が始まった。
英語は中学の単語レベルしか分からないが、ジャンは日本語英語フランス語がぺらぺらだし、
スージーやジュンも、ほどほどに日本語が通じるので言葉の壁にぶち当たる心配は無い。
 事前に初日は観光地をドライブと分かっていたので、俺はマイアミサウンドマシーン「コンガ」
ビーチボーイズ「ココモ」リンキンパーク「ナム/アンコール」ロッドシュチュワート「セイリング」
ジョンデンバー「カントリーロード」をCDに焼きドライブミュージックとして持参した。

 なにもかもがカルチャーショックだった。
飛行機を乗り継ぐにつれ減る日本人。映画やテレビドラマでしか見たことの無い風景。
自動車の右側通行。確実に日本とは景色の質が違う。
 了解は得ているが運転手のスージーには申し訳ないと思いつつ、まだ午前中なのに俺とジャン、
ジュンはすでに瓶ビールを手にしている。
 窓全開で瓶ビール片手に、俺のCDを大音量で流す。澄み切った青空、当たり前だが窓の外を
流れ去っていく外国の景色。
「 くぉおおお! 」
 大音量でリンキンパークのナム/アンコールのイントロが流れた瞬間、俺は鳥肌がたった。
そして2本目のビールを手に俺は、密かにカラオケ練習中の「カントリーロード」をうろ覚えの
テキトーカタカナ英語で歌った。その瞬間、車内は大合唱になった。

 外国映画の不良少年のように痛快にして爽快。大げさだがこの体験だけで10万払った価値が
有るような気がした。
 前席にはジャンとスージー、後部座席には俺とジュン。それぞれ適当なサングラスをかけて
日本ではありえない幅のハイウェイを駆け抜けていく。
――青春だ!
 特に暗い青春時代を過ごした訳でもないし、普通に彼女がいたときもある。
でもやはり何かが違う。アメリカの青春が今まさにここにある(ジャンはフランス人だが)
――アメリカ万歳!フロリダ最高!キーウェスト愛してますマジで!
 初の海外旅行のせいか瓶ビールで酔っ払ったせいか、初日前半の観光スケジュールを消化した
だけなのに俺は完全に舞い上がっていた。
215「俺inファンタジーフェスタ」3/14:2009/10/18(日) 01:02:07 ID:1QNDhp6K
 スージーの家に無事帰宅し、俺たちはファンタジーフェスタに参加する準備を始めた。


 アメリカに旅立つ1週間前、ジャンは謎理論を展開した。
「 安藤殿。お祭りは参加してこそ楽しいのです。お神輿を見ている人よりも、担いでいる人の
 ほうが楽しいのです。盆踊りも見ている人よりも、踊っている人のほうが楽しいのです。
 コスプレも見ている人よりもコスプレしている人のほうが楽しいのです。
 よって我々もファンタジーフェスタでは侍、浴衣のコスプレをします 」
「 …………。」
「 スージーとわたしは、ゆかたをきます。アンドウ、4人で日本人になろう! 」
 ジュンが続けて言った。
「 いや、俺すでに日本人なんだが…… 」
「 Oh! そーでした 」

――あの浴衣を着るのか!
 苦笑いしながらも俺はコスプレ喫茶の浴衣コスプレを思い出していた。
数年前に突如現れた裾丈の短い浴衣。背の高い外人さんが着ると膝上何センチと言うよりも
股下何センチと表現したい、前かがみになるとパンツが見えそうになるデンジャラスな代物だ。
その浴衣を着たスージーやジュンと一緒に歩けるなら……
「 コスプレします。侍になります。ジャン、宜しくお願いします! 」
俺のエロエロ魂は瞬間湯沸し機をしのぐ速さで沸点に達していた。
それが俺の侍コスプレをする理由だった。


 ジャンは濃い紫の、俺は濃紺の着物を着る。
ジャンから借りたものだが、古着屋で買ったボロボロの安物と本人が認める通り、お世辞にも見栄え
がするものではなかった。しかし、かえってそのほうが気兼ねなく着れるのでコスプレ初心者の
俺にはありがたかった。
 足袋にわらじ、白の長いはちまきを身に付け、そしてオモチャの刀を腰に挿す。
いとも簡単に浪人風情の着流し侍コスプレが完成した。
 オモチャの刀ではなく、ジャンの所有する模造刀を持ち込む案もあったが、飛行機の荷物に関する
セキュリティの関係や盗難紛失の恐れもあるので今回は見送られた。
刀はよく子供がチャンバラごっこで使うカラフルな色のビニール製のものだが、意外なほど
刀身が長く、鞘もついているものだった。それをジャンが色を塗ったり布を巻いたりして
遠目には日本刀に見えるよう加工して持ち込んだ。

 そして十数分後、浴衣に着替えたスージーとジュンが現れた。
スージーは、赤地にひまわり柄が入ったもので帯は黄色、ジュンは白地にオレンジの金魚柄が
入ったもので帯は赤の浴衣だった。
そして2人とも黒髪のカツラをかぶり、かんざしらしき髪飾りが幾つか刺さっていた。

「 うおー! かわいい。すごくかわいい! 」
思わず俺は叫んだ。
「 うれしい。ほめられた 」「 きんぎょとひまわり、かわいいよね 」
スージーとジュンは浴衣の袖を広げながらニコニコしている。
――うおー!こんな可愛い浴衣娘とデート出来るなんて……
 感動のあまり目頭が熱くなった。
俺の予想よりも浴衣の裾は長かったがもはや関係なかった。
そして、黒髪のカツラのせいかスージーとジュンの印象はがらりと変わった。
――これだから女って奴は!
 情けなくも、女の人の髪型ががらっと変わっただけで同一人物かどうか識別できなくなる俺に
とっては、一粒で2度美味しいアーモンドグリコ並みのお得感があった。
216「俺inファンタジーフェスタ」4/14:2009/10/18(日) 01:03:15 ID:1QNDhp6K
 キーウェスト、デュバルストリート。
ファンタジーフェスタのメイン開催場となる通りを俺達4人は練り歩いていた。
スージーの自宅から30分ほど歩いたのだが、お祭り会場が近づくに連れて怪しげで妖しげな格好を
した人が増えていく。

 じーさんばーさんのペアがカラフルな巨大アフロかつらをつけて歩いていれば、裸の上半身に
星条旗のボディペインティグした綺麗なお姉ちゃんも意気揚揚と胸をはって歩いている。
ファンタジーフェスタに命を懸けているかのごとく、気合の入った仮装、ボディペインティング
をした人たちが街じゅうを歩く。
紅白歌合戦の美川憲一小林幸子にも劣らない、大掛かりな仮装をした軍団もいれば、なにかテーマが
あるのかパンツ一丁の体にさまざまな模様が描かれた集団もいる。

――楽しい、楽しすぎる!
 日本の縁日のように、酒や軽食の出店がある。
そこの売り子の人たちも大半は仮装している。色っぽいバニーガールやウェイトレス姿と思いきや、
実はボディペインティングだったという嬉しい誤算も多々あり俺のエロエロ魂をくすぐる。
 観光として訪れた人もいるだろうが大半の人が被り物をつけたり、ワンポイントで顔にペイントして
いたりする。当然ほとんどの人が屈託の無い笑顔で楽しそうに通りを歩いている。

 まだ明るく夕方というには早い時間、俺達はビールを呑みながらちんたらとデュバル通りを見物した。
舞い上がっている俺は見るものすべてが珍しく、くだらない事にもいちいち感動した。
 カラフルなスージーとジュンに比べ、俺とジャンは地味だった。それでも浴衣に着流しスタイルと
いう着物姿が目に付くのか、時折サムライ、ゲイシャと声をかけられ記念撮影を求められた。
そのたびに俺はおろかスージーやジュン、そしてジャンまでもがテキトーなポーズをとったり、依頼者
と腕を組んだり肩を抱いたりとサービスした。
――馬鹿だ、馬鹿すぎる。ファンタジーフェスタ万歳!!!
酔いのせいもあり俺は超ウルトラスーパースペシャルハイテンションになっていた。



 そんな時、事件が起きた…………

「 ぺらぺらぺらぺら、ゲイシャ、ぺらぺらぺらぺら 」
「 ぺらぺら、サムライ、ゲイシャ、ぺらぺら。HAHAHA! 」

――ん?

 ほんの束の間だった。ジャン、スージー、ジュン、俺で一緒に行動しているつもりだったのに
何故かスージーが俺たち3人とちょっと離れた場所で、出来損ないのスーパーマンとバットマンの
コスプレ野郎2人組に絡まれていた。

 ジャンとジュンの表情が凍りついた。
意味は分からないが表情と言葉じりで、野郎2人が明らかにスージーを侮辱しているのが伝わってきた。

「 スージー、ぺらぺら 」
「 ジャン、 ぺらぺらぺらぺら! 」
 ジャンがコスプレ野郎と距離を詰め、スージーに話し掛ける。
バットマンに腕を握られてスージーは露骨に嫌な顔をしているが、野郎2人は悪びれる様子も無く
逆にビール片手にいやらしい笑みを浮かべている。

――酒が入っているとはいえ、仮にもアメリカ国民的ヒーローのコスプレをしているのにスージー
 にちょっかい出すとはけしからん!お前らにコスプレする資格は無い!

 実際のところ、俺も酒が入っていてかなり気が大きくなっている。
されど酔った勢いに任せて、嫌がっている女の子に変なことを無理強いしたおぼえは断じて無い。
 スーパーマンは178センチの俺と同じぐらいの背丈だが、バットマンは2メーター近い長身で
しかもアメフト選手のようなマッチョ体型だ。もし喧嘩になっても俺では歯が立たないだろう。
取っ組み合いの喧嘩をしたのは25年生きてきて3回、握り拳で人の顔面を殴ったことは一度も無い。
それでも酔って無敵モードに突入した俺は、湧き上がる衝動を抑えることが出来なかった。
217「俺inファンタジーフェスタ」5/14:2009/10/18(日) 01:04:46 ID:1QNDhp6K
「 お前ら!スージーから手を離せっ! 」
ジャンの隣に立った。ジュンも俺の後ろについて来ている。
「 アンドー…… 」
「 安藤殿…… 」
思わず俺は日本語で怒鳴った。
スージーはか細い声を出し、ジャンは驚いていた。

――!っ

 いよいよもって俺の怒りは爆発した。
コスプレ野郎2人は揃いも揃って肩をすくめて、お手上げポーズをとりやがった。
「 ジャパニーズ? アイドンノー 」
「 サムライ! ぺらぺらぺらぺら。HAHAHA! 」
――ぐおー! 
 スーパーマンの言葉は理解できたが、バットマンの言ったことは分からなかった。
しかし馬鹿にされているのは火を見るよりも明らかだった。

 いつのまにか俺たちの周囲には事の顛末を見届けようと見物人が集まっている。
サムライ!イチローサイコー!テンプラ!Zカー!ドラゴンボール!ソニーワンダホー!
カミカゼファイト!トヨタ!ヒノマルフジヤマ!イヤッホー!ゲイシャ!スキヤキ!
 烏合の衆は、俺が日本人だと知ってか知らずか、分かりやすいステレオタイプな言葉を並べて
俺たちをはやしたてる。
 デュバル通りはお祭りモードでかなりの人が酒を飲んでいる。ヨッパライのひやかしが
あっても不思議ではない。……が、あまりにも情けなさ過ぎる。

――この場では俺は外人だ。開拓者として世界中に移住した日本の先人達よ、あなた方を尊敬する。
 ……しかし俺は我慢できない!

 ハッタリにさえならないことは分かっていた。
それでも俺はオモチャの刀に手を掛けずにはいられなかった。

「 ぺらぺらぺらぺら! スージー! ぺらぺらぺらぺらっ! 」
「 ジャン! 」
 普段、物静かなジャンが声を荒げた。喧騒が静まり、ジャンを呼ぶスージーの声が響いた。

 ジャンの声を受けてスーパーマンがにやりと笑い、バットマンが大声で叫んだ。
「 スージー!ジャン! ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらっ! 」
 その瞬間だった。
ジャンが無言でその場にへたりこみ、見物人から歓声、口笛が飛び交った。
「 オーマイガー 」
そう呟いて、ジュンも膝から崩れ落ちた。

――貴様らっ! ジャンはおろか、ジュンにまでオーマイガー。と嘆かせるとはっ! 
 俺の中で何かが弾けた。
――許せん。断じて許せん!
 俺はオモチャの刀を抜いて怒号をあげた。

「 貴様らっ! いい加減にしろっ! 」

 しーん…………。

 俺の本気の怒りが伝わったか、あたり一面静まり返った。
「 安藤殿っ!待ってください! 」「 アンドーッ!!! 」
 遠くでジャンとスージーの悲痛な叫びが聞こえた気がした。
しかし怒りの業火で燃えたぎっている俺の頭は、もはや聞く耳を持たなかった。


218「俺inファンタジーフェスタ」6/14:2009/10/18(日) 01:06:14 ID:1QNDhp6K
――心配するな。死して屍、倒れるときは前のめり。俺が決着をつける!
円をえがくように刀をぐるりと廻す。ジャンから教わった眠狂四郎、円月殺法もどきだ。
刀を廻したその一瞬で俺の覚悟は決まった。
――誰が見てもオモチャの刀。武器にならないのは百も承知。
 ならばスーパーマンにタックルをブチかまし、バットマンが怯んだ隙にスージーをとり戻す!
 格闘技スキルの無い俺にはそれしか出来ないそれしかない。先手必勝!玉砕上等!

「 おらぁあっ!!! 」
気合の雄叫びをあげ、俺は上段に刀をかまえた。



 ばふっ!

――!?

 踏み出そうとした瞬間だった。
バットマンに捕らわれていたはずのスージーが俺の胸に飛び込んできた…………


「 ソーリー、アイムソーリー。これはいたずら。ジャンにいたずらしました。しんぱいないです。
 アンドー、ごめんなさい。プリーズ……。パードンミープリーズ 」
「 は? 」
 スージーは俺に抱きついたまま、ソーリー、ごめんなさい。と言い続けていた。
サムライグレート!オー、イエー!コングラチレーション!ユークレイジーHAHAHA!
拍手と歓声が沸き起こり、耳障りな口笛が響き渡っていた。

「 何それ……? 」
俺はまだ覚めやらぬ怒りのせいか、話が全然見えていなかった。
スージーはまだ俺に抱きついたまま謝り続けている。そしてすぐ隣でジャンが語り始めた。
「 安藤殿、申し訳ありません。どうやらこれはスージーとその友人が仕組んだ芝居のようです 」
「 へ? 」
意味が分からなかった。
「 ……実は、私とスージーは来年結婚するのですが 」
「 えーっ!? 」
初耳だった。付き合っているようなそぶりはあったが、結婚するとは夢にも思っていなかった。
「 それで夜、スージーの家で私をスージーと縁のある方々に紹介する予定だったのですが、どうやら
 その前に友人知人の手によって手荒い祝福を受けたようです。私がスージーにふさわしいか試した
 みたいです。参りました。正直に言えば私は大変あせっていました 」
「 ちょ、何それ。さっきバットマンに何か言われてジャンとジュン腰抜かしたんじゃ…… 」
「 かたじけない……。バットマンの彼の言葉は、私を試すため芝居を仕組んだことの説明と、
 私とスージーが結婚することに対しての祝福の言葉でした。
 情けない話ですが仕組まれた芝居だと理解した瞬間、放心状態になって腰が抜けてしまい
 ました。多分ジュンも同じだと思います 」
俺は思わずジュンを見た。ジュンはジャンの言ったことを理解してか、こくこくと頷いていた。
そしてスージーは俺から離れ、ジュンに抱きついて謝り始めた。
219「俺inファンタジーフェスタ」7/14:2009/10/18(日) 01:07:35 ID:1QNDhp6K
――もしかして俺、やらかしてしまったのか…………?
 ほんの数分前の俺の言動が、早送りで延々と脳裏に映し出される。
居合わせた人すべてが芝居だと悟った後も、俺1人馬鹿みたいに興奮して大見得を切った。
 そして純粋にコスプレ野郎2人にむかついたのだが、心の片隅でスージーやジュンに
強い俺様を見てもらおう!という不純な動機が僅かだがあった。

「 ファンタジーフェスタでコスプレしたあと、いえでパーティーします。
 アンドーもしょうかいするので、英語のあいさつおぼえてください 」
 渡米前のスージーの言葉を思い出す。
スージーの地元だから友達呼んでパーティーするんだろう。と気楽に考えていたが
どうやら婚約者としてジャンを紹介するお披露目パーティーになるようだ…………。

――あさはか、直情型、喧嘩っ早い、女の前でカッコつけてる、たちの悪いヨッパライ、単なる馬鹿、
 勘違い野郎、異国で舞い上がってしまった痛い奴、ジャン!そういう大事なことは早く言えボケ!
 壮絶な羞恥に見舞われて俺は激しく身悶えた。
今この場で褌一丁になって走り回っても恥ずかしくないくらい恥ずかしくなった。
ジャンやジュンと同様、すべての状況を理解した俺はその場にへたり込んだ。

「 ……ジャン。……俺ってピエロ? 」
「 ……いえ。……実際のところ、安藤殿があのような行動をとったのは驚きましたが何と言い
 ますか、侍の真髄を垣間見たような気がしました…………。 」
 俺のビミョーな質問に、これまたビミョーな立場のジャンは曖昧な返事をした。
すぐ横では、スージーがジュンに延々と謝り続けていた。ジュンは相当ご立腹らしい。
謝っているスージーに時折激しく英語で怒鳴っていた。

――ぐおー!俺が事を大きくしなければ、ここまでこじれる必要は無かったかもしれない。しかし……
 恥ずかしさ、怒り、自分を正当化したい気持ちが無限に連鎖し、俺を悶々とさせた。
こっぴどくスージーを怒鳴りつければ俺の気も晴れるとは思うが、それも自分の取った
行動を考えると逆ギレのような気がしてできなかった。

 微妙な空気のまま、俺達4人は喧騒も静まりお気楽なBGMが流れるデュバル通りを後にして
ジャンお披露目パーティーが開かれるスージー宅に戻った。

――スージー綺麗だな……。
 ジャンとスージーがコスプレ衣装から、こざっぱりした衣服に着替えて登場した時点で
正式にパーティーが始まった。
 それなりに広い芝生の庭に簡易式の白のベンチとテーブルが仕付けられ、アルコール類や
ソフトドリンク、簡単な軽食オードブルが用意されている。
 仮装のままの人、普段着の人が入り乱れ2〜30人が集まっている。
俺とジュンは侍、浴衣のコスプレ姿のままパーティーに参加した。何の罪も無いのに事件に巻き
込まれた可愛そうな被害者。という線を狙うジュンの作戦らしい。共同戦線をはるわけでもないが
着替えるのもめんどくさかったので俺もそれに乗ることにした。

「 ヘイ、ユー! 」 
ジュンと話をしているとき、いきなり背後から話し掛けられた。
――げっ! お前ら……
 そこにはコスプレから着替えたスーパーマンとバットマンがいた。
スーパーマンは顔で、バットマンは体つきですぐにその2人だと判断できた。
「 ぺらぺらぺらぺら! 」スーパーマンが言う。
「 おまえはイカれてる。 ……たぶんいい意味だとおもいます 」ジュンが通訳した
「 ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらっ! 」バットマンが言う。
「 おまえはガッツがあるな。おれはスージーのクラスメートだ。スージーはおれのマドンナ
 だったのに結婚するなんてガッテム! ……どうやら彼のかたおもいのようです 」
――ぶはっ!
 ジュンの余計な一言に俺は思わず吹き出した。
220「俺inファンタジーフェスタ」8/14:2009/10/18(日) 01:09:58 ID:1QNDhp6K
「 あいむそーりー。まいねーむいずあんどー、ふろむじゃぱん。あいむのっとさむらい……
 えー、ふぇいくさむらい? ばとる、ふぁいと、のーさんきゅー 」
 俺のテキトー英語が通じたのか、二人は笑い転げていた。
その後ジュンが英語で喋り、俺とジュンと握手を交わし彼らは離れていった。
「 やれやれ 」
彼らが去ったのを確認し、俺は肩をすくめてお手上げポーズをとった。
「 やれやれ。おきらくなものです 」
ジュンも俺に続いてお手上げポーズをとった。そして2人で笑いあった。



「 …………? 」
 夜明け直前の曖昧な明るさの中、おぼえのない部屋の中で目が覚めた。
――あぁ、スージーの家にいるんだった。
 ベッドの上にはスージーとジュンが、床にしかれた薄いマットレスとタオルケットを寝床にして
ジャンが、そして侍コスプレのまま眠っていた俺がいる。3人とも穏やかな寝顔で眠っている。
寝起き間際の回転の悪い頭で、ぼんやりと昨日の夜のことを思い出す。

―― やべー、またやらかしたかも…………。
 7時頃からパーティーが始まり、スージーが集まった人々にジャンを紹介しながら宴はすすんでいった。
  
 パーティー開始当初は飲み食いしながらジュンと話をしていたが、その後、俺やジュンの周りにも
スージーの友人知人が集まり始め、あまり思い出したくない俺の武勇伝を肴に盛り上がった。
ビールを飲んでるだけなら酔っ払いはするが記憶を無くすようなことはない自信はあった。
勧められるまま、そして自らビールを飲みまくったが、きっちり記憶は残っている。
 しかし夜9時を過ぎパーティー参加者が帰りはじめ、俺達4人とスージーの両親だけになったころ
から怪しくなっていた。
 生粋のキーウェスト住民なのだろう、ファンタジーフェスタで俺のように馬鹿になる人間を
見慣れてるせいかスージーの両親は俺に対してとても好意的で優しかった。
スージーやジャンを通訳に、俺は面白おかしく日本での生活や友人としてジャンのことやスージー、
ジュンのことを両親に語った。
 そして宴の終わりを告げるのか、スージーとジャンの結婚を祝い乾杯することになり、
きりりと冷えたシャンパンを振舞われ皆で飲んだ。それが昨晩の最後の記憶だった。

 3人を起こさないようになるべく静かにトイレに向かう。
「 この香りは…… 」
懐かしいというか、トイレによくある香りがしていた。いかにもアメリカンなパッケージの芳香剤
が置かれているので何となく裏ラベルを見てみる。
「 マジすか? 」
ローマ字表記で、キャッチーなCMコピーで一世風靡した日本のメーカ名が記入されていた。
――キンモクセイフレグランス……。
 俺は苦笑した。しかもそれだけではなかった。トイレの便器も日本でよく見るメーカー名が
記入されている。
「 すごいな日本製品 」
 海を渡ってやってきたのか、現地生産なのかは知らないがハイテク製品や自動車はおろか、一般
家庭用品までもアメリカに日本企業が食い込んでいるのを目の当たりにして少し驚いた。

 手と顔を洗いうがいをしたあと、コップ2杯の水道水を飲み干す。
だいぶ明るくなってきたので、寝室に戻らず庭に出てアメリカの朝日を満喫した。
パーティー用で据え付けられたベンチに腰をかけ、一箇所にまとめられた飲み物からオレンジジュース
と思われるペットボトルを手にする。
「 やっぱり雰囲気があるよな…… 」
 建物の色合い、芝生の色、名の無き草花さえも、日本から遠く離れた場所にいる事を実感させる。
ジュースを口にしながら何をするでもなく、ぼーっと周囲を眺めた続けていた。
221「俺inファンタジーフェスタ」9/14:2009/10/18(日) 01:10:49 ID:1QNDhp6K
――何だかんだあったけど昨日は楽しかったな、記憶飛んだのはまずいけど……
 ドライブ、ファンタジーフェスタ、そしてスージーとジャンのためのパーティー。
黒のスラックスに白の開襟シャツを着たジャン、シンプルな白のワンピースを着たスージー。
そのまま何かのテレビCMになりそうな美男美女のカップルだった……。

――スージーとジャン結婚するのか……。何で早く言ってくれないんだよ……。
 心の中にぽっかりとあいた穴を塞ごうと昨晩のパーティーではビールをしこたま飲み続け、言葉の
通じない人達と無理矢理はしゃぎまわった。それでも俺のおセンチな心をごまかすことは出来なかった。


 コスプレ喫茶で初めてスージーに会ったときを思い出す。
絵本の世界から抜け出してきたかのように、メイド服と白のカチューシャが似合っていた。
程々の背丈に、神々しい金色の髪と畏怖さえ感じさせる青い瞳。
一瞬で魅入られた俺はスージーが通りかかるのを待って飲み物を注文した。
 そしてスージーがジャンを連れて俺の前に現れた。
侍コスプレをした怪しげな風貌のジャンと日本酒を飲み交わし語り合ったのも、スージー
から笑顔で酒升を手渡されてから始まった。

 すべての起点がスージーだった――――
 
異国で生まれた美しい髪と清楚な瞳の色に憧れを抱いただけかもしれない。
好奇心旺盛な少女のように、恋に恋しただけかもしれない……。
それでも、いまになってやっと認めることができる。
スージーを好きになっていたことを――――


 テーブルの上に誰かが忘れた煙草とライターがあった。
普段煙草は吸わないが高校時代遊びで吸った事を思い出し、無断で1本拝借し火を着けた。
( スージーはおれのマドンナだったのに結婚するなんてガッテム! )
ジュンの通訳したバットマンの言葉を思い出し俺は静かに笑う。
「 ジャン。 …………やっぱ俺ピエロだろ。ドンキホーテも真っ青だ 」
何も始まってないし何も終わってもいない。ただ俺1人、勝手に盛り上がっていただけだ。
大きくはき出した煙を目で追った。何事も無かったように煙は空へ吸い込まれていく。
久しぶりに吸った煙草なのに何も得ることができず、持ち主には悪いがすぐに火を消した。
初海外旅行のテンションは何処へやら、俺は溜め息を漏らすことしか出来なくなっていた。



「 アンドー、おはよー 」
「 ! 」
いつのまにかスージーがベンチの横に立っていた。
「 ……おはようスージー 」
様子を伺ったあとスージーは俺のすぐ隣に座った。
光が増した朝。今日も快晴のようだがスージーを隣にしても俺の心は曇り空だった。

――スージー可愛いよスージー……
 作り笑顔がうまく出来ているか不安だった。
「 アンドー、きのうはごめんなさい。はんせいしてます。ジュンにもいっぱい
 おこられました。すみませんでした 」
言葉通り、スージーの表情には反省の色がありありと浮かんでいた。
「 …………。」
 俺は一瞬黙り込んだ。なんとか英語で返事をしたいと頭の中で英単語を検索していたのだ。
昨日のことを気にしてしょげ返っているスージーに不器用でもこの国の言葉で、俺は気にしていない。
と伝えて安心してもらいたかった。


222「俺inファンタジーフェスタ」10/14:2009/10/18(日) 01:12:24 ID:1QNDhp6K
「 あー、どんとうぉーりぃ。えー、のーぷろぶれむ。ていきっといーじー、いっつおーらい 」
「 …………アンドー。 …………サンクス 」

――ぐおー!
 スージーが俺に身体を預け、俺の左肩に頭をもたげた。
一瞬でこの場が恋愛映画さながらのせつないシーンになってしまった。
――うおーっ、キスしたいっ!!!
 この期に及んで俺のエロエロ魂は太陽のコロナよりも激しく爆発してしまった。

 簡単なことだった。左手で優しくスージーの肩を抱き、右手でそっと髪を愛でればいい。
ただそれだけのことだった。

 スージーと触れあっている左肩に俺の五感すべてが集中している。
 そっとスージーの肩に手をかける。

 そして、俺に身体を預けているスージーをゆっくりと離した。
青い瞳が真っ直ぐに俺を見つめている。もう逃げることは出来なかった。

 邪念を振り払うべく俺は懸命に脳内に埋もれている英語を検索した。
日本語で話したほうが間違いなくスージーに伝わるのはわかっている。
それでも、いさぎよく散っていく男の意地を通したかった。

「 こんぐらちれーしょん。スージー、ジャン、まりっじ。
  あいうぃる…… あいういっしゅ、スージーあんどジャン、はぴねす、ふぉーえばー 」
 結婚おめでとう。スージーとジャンが末永く幸せであるように――
そう言いたかったのに口に出たのは単語の羅列だけだった。
言いたいことを言葉に出来ないもどかしさを生まれて初めて痛感した。
英語なんて使うこと無い。と適当に授業を受けていた過去の俺を今更ながら激しく呪った。

「 ありがとう、アンドー。 ……ソーリー、アイムソーリー 」

 青い瞳が潤んだ。
よほど罪の意識に苛まれていたのか、そう言ったあとスージーは俺の胸に顔をうずめた。
 昨日スージーに抱きしめられ謝られたが、錯乱していてまったく余裕はなかった。
しかしいまは違う。逆に、いろんな意味で俺は錯乱状態に陥った。

――静まれっ、俺のエロエロ魂よ! ……だめだ。全然いさぎよくねーっ!!!

 両手を背中に廻し、スージーを抱き寄せた。
上半身だけの無理な姿勢を直すべく身体を動かしスージーを包み込む。

――スージー!!!

 スージーの髪の匂いや、おっぱいの感触が瞬く間に俺を天国へといざなう。
美しい金色の髪を撫で白い頬にふれ、そして何度も何度も強く抱きしめた。



 スージーを離したくなかった。
でもそれは叶わぬ夢だと心の中でわかっていた。
それでも俺は、狂おしいほどに身を焦がし刹那に消えゆくはかなき夢を求めた。



そしてこの抱擁がとけたとき、俺の恋は終わりを告げる――――

223「俺inファンタジーフェスタ」11/14:2009/10/18(日) 01:17:58 ID:iexM+zw0
「 こらーっ! 」
「 !? 」
 ぎくりとして声の方向を見るとにやけ顔のジュンがいた。
そして隣には困った笑顔のジャンがいる。

「 …………。」
 ジュンの発した一喝で俺の恋は終わった。
俺のエロエロ魂は天国から無理矢理引き剥がされた怒りのあまり、凶暴な狼に変貌した。

 スージーをベンチに置き去りにして俺は無言でジャンの前に立ち、電光石火の早業で
ジャンの頭上に空手チョップを見舞った。
「 こらっ、ジャンっ! お前が一番悪い! 何故にスージーと結婚することを俺に教えん!
 スージーを救うべく決死の覚悟で敵に向かったのに、その役目は俺じゃないときたもんだ。
 ピエロどころの話じゃねー!ドンキホーテもビックりだ!
 だいたいお祭り騒ぎとはいえ自分の婚約者から目を離すとは何たる不手際。
 ジャン、お前も仏蘭西の騎士ならしっかりと姫様を守りやがれっ!!! 」
「 いや、それは―― 」
「 がぁー!!! 」
 途中から理不尽なことを言ってるのに気づき、とりあえず威嚇してごまかした。
頭を掻きながら苦笑しているジャンの横で、ジュンがにたにた笑っている。
「 おい、こら!ジュンっ! お前もお前だ! 俺の幸せなひとときをぶち壊しやがって!
 まったく少しは気をきかせろ! ちょっとぐらい抱き合ってもいいだろうが! 」
「 アンドウ。スージーはきけんな女です。ちゅういがひつようです 」
「 ならば、代わりに俺を慰めろ 」
「 えんりょします! 」
「 がぁー!!! 」
 どさくさにまぎれてジュンを抱きしめる。
それがジュンの優しさなのか、へんたいだー!と言ってるものの嫌がるそぶりは見せなかった。
悪乗りすぎたのか最終的にはジュンに肘うちを喰らってしまう。しかしジュンを抱きしめたことで
俺のエロエロ魂は沈静化し、ジャンを怒鳴り散らしたことで昨日からくすぶっていた想いは吹っ切れた。

 頃合を見計らっていたのかスージーがベンチから立ち上がる。
そして俺達3人に向き合う形で英語で話し始める。意味は分からなかったが、昨日のいたずらの
ことを謝っていることが表情からうかがえた。
 もう俺は気にしていなかったし、ジャンやジュンも神妙な顔つきからすぐに笑顔になった。
ジュンのいたずら直後の怒りは凄まじかったが、もう気がはれたのだろう、英語で喋りながら
肘でスージーやジャンをつついて笑っている。
 英語の意味は理解出来ないが事の流れはわかっているので、疎外感を感じることもなかったし
会話の意味を聞こうとも思わなかった。

――これでいいんだな。
俺の恋は終わった。されど心の中の曇った空は見事に晴れ上がっていた。


 フロリダ観光の二日目がスタートした。
昨日と同じくスージーを運転手として1日かけてあちこちに出かける。車の中で俺はジャンやジュン
に英語の挨拶を教えてくれるよう頼んだ。ありきたりの言葉でもいいのでスージーの両親に明日、
キーウェストを離れるさい英語で挨拶をしたかったのだ。
とたんにジュンは鬼教官となり、俺は発音の悪さに何度もダメだしを喰らった。
「 ぐおー! ジュン厳しいな。スージー、へるぷみー 」
「 アンドー。 …………グッドラック 」
スージーの微妙な間の返事にジャンは噴き出し、ジュンはなにか英語で反論する。
スージーの言葉を安藤(同情するわ)幸運を。と理解し、俺はジュンの隣でお手上げポーズをとった。
「 がぁー!!! 」
逆鱗に触れたらしい。俺の頭上にジュンの空手チョップが炸裂した。
スージーとジャンが笑い、そして俺とジュンも笑った。
4人を乗せたフォードトーラスはハイウェイを走りつづけた。
224「俺inファンタジーフェスタ」12/14:2009/10/18(日) 01:20:25 ID:iexM+zw0
 夕方近くにスージーの自宅に到着し、侍、浴衣姿でデュバル通りに出かける。
ファンタジーフェスタ開催中はコアなコンテストやイベントが大小、催されるのだが、そういう会場に
足を運ばなくとも通りをてくてく歩いているだけで充分に楽しかった。
スージーとジュンは浴衣は着ているがカツラはやめて、ジャンと俺も着物は着ているがオモチャの刀と
はちまきは身に付けずに街に出る。

――うなじがまぶしいぜ……
 黒髪のカツラをしていなくても髪をアップにしただけでやはりスージーとジュンの印象は変わる。 
「 安藤殿、あまりいやらしい目で私の嫁になるスージーを見ないで下さい 」
「 な、何を申す! お、俺が見てたのはジュンのうなじだ 」
意地悪な笑みを浮かべたジャンに俺はしどろもどろになる。
「 いやらしいめでわたしをみないでください。このへんたいめ! 」
「 がぁー!!! 」
「 がぁー!!! 」
俺とジュンで威嚇しあい、それを見てジャンとスージーが笑う。

 懲りずに俺はビールを飲みつづけ、面白い仮装を見ては歓び、ナイスバディでエロエロなお姉ちゃん
を凝視してはジュンやスージーに怒られた。
――平和が一番。
 昨日のような事件が起こることも無く、通り全体は祭り特有のハイテンションだが、いたってのんびり
と穏やかに時が流れていく。
 行き交う人たちと笑顔で挨拶をかわし、そして別れていく。
あまりの艶やかさに想像もつかないが、祭りの期間が終わればデュバル通りも静寂が訪れるのだろう。
日本のプロ野球球団が一時こぞって冬季キャンプを張るような場所だ。気候はいたって温暖で11月
になろうとしているのに日中はTシャツ一枚でも問題は無い。
――まさに『真夏の夜の夢』だな、ファンタジーというよりクレイジーだが……
ほんのちょっとだけ哀愁を感じながらもキーウェスト2日目の夜が終わった。


 スージーの両親に噛むこともなく無事英語で挨拶をして俺達はキーウェストを後にした。
飛行機を乗り継ぎ約20時間かけて日本へ帰る。時差、旅行の疲れからか飛行機の中で俺はほとんど
眠っていた。
飛行機の待ち時間では、やはり空港内の売店やレストランが物珍しく見え、外国の料理だビールだ!
と感激しながら飲み食いを続けた。結果日本に到着した頃には、二日酔いやら寝不足なんだか寝すぎ
なんだかよく分からないへろへろな状態になっていた。
「 近いうちに反省会を開きましょう。それでは皆さんお疲れ様でした 」
ジャンの言葉でお開きになり、くだらないお土産の山と楽しかった切なかった思い出とともに俺は
アパートに戻った。
225「俺inファンタジーフェスタ」13/14:2009/10/18(日) 01:21:41 ID:iexM+zw0
旅行が終わったあとの最初の休日、どうしてもジャンに聞きたいことがあり、スージー、ジュンが
いないことを確認した後、ビールと納豆を手に俺はジャンのマンションへ向かった。
ジャンお披露目パーティー後、俺は記憶を無くした。その際、スージー好きだー!とか言ったり、いき
なり暴れたりとかしてないかどうかを電話ではなくジャン本人から直接聞きたかったからだ。

「 ファンタジーフェスタの初日の夜だけど…… 実は、パーティー終わって乾杯したあたりから記憶が
 無いんだが、俺なんかやらかした? 」
ビール片手に、やぶへびにならないよう気をつけながらジャンに聞く。
「 えっ、本当ですか? いたってまともでしたが 」
「 いや、そう言ってもられえるのは嬉しいのだが、正直に言えば自力で寝室に辿り着けたかどうかも
 定かではないのだが…… 」
「 それではあの挨拶も覚えてないと…… 」
「 挨拶? 何それ……? 」
とたんにジャンはクスクスと笑い始めた。
「 乾杯が終わって10分後くらい、10時頃ですが、さすがに安藤殿も疲れたのでしょう。
 そろそろ眠いと言ったので、私とスージーで寝室に案内しようとしたのですが、その時、突然
 スージーのご両親の前に行きまして英語で話し始めました 」
「 ……マジですか。何て? 」
「 ファンタジーフェスタファンタスティック!ワンダホー!アイラブキーウェスト!
 サンキュー、スージー、パパ、ママ、サンキューベリーマッチ!アイアムベリーハッピー!
 強烈でしたので一語一句覚えています 」 
「 うわー……。意味通じたのかな? 」
「 純粋でストレートな言葉だったのでご両親感激していました。お父さんとがっちり握手して
 お母さんとは抱き合っていました。そのあとサンキューグッナイおやすみなさい。と言って
 スージーに連れられて寝室に向かいました 」
「 …………。」
やっぱりやらかしてしまったかと思いつつジャンの、いたってまとも。という言葉に安堵する。

「 ……問題はそのあとなのですが 」
「 !? 」
ジャンの言葉に俺はびびる。  
「 安藤殿が10時頃眠りについて、我々も11時頃ベッドについたのですが、その際、眠っている
 安藤殿を尻目にジュンがあの芝居のことを怒り始めまして10分ほどスージーに説教をしました。
 そしてジュンの気持ちも落ち着いた頃…… 」
「 落ち着いた頃? 」
ドキドキしながら続きを待つ。
「 安藤殿が寝言で『おのれバットマン!スージーを離せ!スージー、スージーっ!』と絶叫して
 いきなり飛び起きました。たまらずスージーが安藤殿を抱きしめて『アンドー。だいじょうぶ』と
 言ったら『よかった。無事でよかった』と、また眠りにつきまして……。
 安藤殿の様子を見てジュンの怒りがぶり返したらしく、そこからまたジュンが延々と説教を
 始めまして最終的に、きちんとアンドウに謝らないなら絶交する。と言い切りました…… 」
「 ぐおー、ジュン熱いな…… 」
「 まぁ、そこが彼女のいいところでもあるのですが…… 」

――まったく憶えてないが、寝言とはいえやらかしてしまったか……
 翌日早朝のしょげ返ったスージーの表情が鮮明に蘇る。
ジュンの説教が相当こたえたのが今更ながらはっきりと分かる(どんな説教かは分からないが)

「 ところでジャン。何故にスージはあんな芝居を打ったのか…… 」
どうでもいいことでもないが、もうどうでもいい単純な疑問をジャンにぶつける。
「 お恥ずかしい話ですがスージーから見ると、私はどうも頼りがいが無いらしいのです。
 それでスージーが友人知人とインターネットのパスワード制掲示板でいろいろ意見をぶつけ
 あっていたら、いざという時どんな反応を示すか試してみようという話になったらしく、前々から
 ファンタジーフェスタの時にスージーの実家に伺うことになっていたので綿密に計画を練って
 それを実行したようです。
 安藤殿には非情にご迷惑をかけ申し訳ありません。スージーの肩を持つわけではありませんが
 あの場にいた見物人は、ほとんどがスージーの友人知人もしくは、彼らによって来年結婚する2人に
 サプライズなイタズラするので優しく見守って欲しいと知らされた人達だったようです。なので
 暴力的な事件には発展しないよう最大限の注意は払った。と友人知人は言っていました 」
 
226「俺inファンタジーフェスタ」14/14:2009/10/18(日) 01:22:57 ID:iexM+zw0
――そういう問題じゃない気がするが……
「 うむー、さすがアメリカ人。陽気というかお気楽というか…… 」
「 アメリカの人すべてがそうだとは思いませんが…… 」
「 うむ、すまぬ。確かにそうだ。まぁ俺の行動も誉められたものじゃないし喧嘩両成敗てとこか 」
「 まぁ、過ぎたことですし、水に流してもらえれば幸いです 」
ジャンの言葉を最後にこの話題は打ち切りになった。
気が付けば俺の持参したビールは飲み干され、ジャンがストックしている白ワインのコルクを抜いた。
 
「 ところで安藤殿。スージーは私の嫁になる人。軽く抱き合うくらいは大目に見ますが、余りにも
 熱い抱擁やキスは控えていただきたい 」
「 な、何を突然言い出す! あの日の抱擁はスージーが俺に誠意を見せたもの。それに応えた
 だけで、キスなんかしていない! 」
かなり動揺した。あの日キスはしていないがキスしたいと激しく思っていた。
「 それを聞いて安心しました 」
俺の心を見透かしたようにジャンは笑う。
そして、旅行の思い出話を肴に2本目のワインを開けた。


 外人さんグループと旅行の反省会をかねた飲み会が開かれる。
コスプレ女子チーム5人に俺とジャンの7人組で安いだけが取柄の居酒屋で宴会は始まった。
スージー、ジュンを除く3人とも既に4、5回会っているのだが、明らかに俺を見る眼が違っていた。
 意外というか、嬉しい誤解というか旅行に参加する前の俺のイメージは「誠実」「真面目」「爽やか」
だったらしい。それがスージーやジュンが吹聴したのだろう「変態」「ケンカっぱやい」「女にすぐ
手を出す」に変わっていた。
 もともとコスプレの写真を撮ってはにやにやするし、飲めるなら昼間から酒を飲むダメ人間だ。
「誠実」に関しては努力しているが爽やかでも真面目でもなんでもない。かえってそう思ってもらえる
方が気が楽だった。
 結局、俺はずっといじられ続けられ、今夜の主役となった。
以前は気にもしていなかったが、日本語での会話でも自分の応えられる範囲で英語で話すようにした。
ほとんどがカタカナ英語、しかも単語の応酬だが、相手が日本語を理解しているせいか、それなりに
なんとかなった。幸いにも隣には優秀で厳しい先生がいるのでなんとかなるだろうと思っている。
――先日までは日本の文化を勉強しようとか思ってたくせに……現金な奴だ。
自分の影響されやすい性格に苦笑いをする。
「 アンドウ、おもいだしわらいいやらしいです 」
ジュンが言う。
「 がぁー!!! 」
両手を上げて威嚇する。
「 がぁー!!! 」
ジュンもそれに応えておどけた。


『 ハプニングの無い旅行はつまらない 』
 何かの本で読んだ気がした。
ハプニングが無いことに越したことはないが、逆にハプニングが起こればそれが印象を残すのだろう。
今回、作られたハプニングだがそれを実感した。キーウェストで過ごした3日間は生涯忘れることは
無いだろう(いろいろな意味でだが)


 キーウェスト・ファンタジーフェスタ2009
10月末から11月にかけて開かれるイカレたお祭りウィーク。
オフィシャルサイトや関連サイトの画像に、着流し姿と浴衣姿の男女4人組がいたならそれが俺達だ。



おわり
227避難所より代行れす。:2009/10/24(土) 21:19:44 ID:c5/GPVPL
ものすごい読みごたえがあって面白かった!

起こっていることはハチャメチャながら丁寧に話が作られていて
綺麗にまとなっているし、続きが気になって読みやすい
本当に旅行記を読んでる気分になる話でした、乙!
228創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 21:51:31 ID:yuq+9eBD
>227
あり!
ただ、いろんな意味でやらかした感があるのでちょっと自重するw

お題かもん!!!
229創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 22:31:11 ID:dA6zc5ei
お題かもん!
230創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 22:39:19 ID:+qz97/8C
交通事故
231創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 22:53:44 ID:xkigqEE1
去年はどんなのだっけ?
232創る名無しに見る名無し:2009/10/30(金) 23:10:04 ID:dA6zc5ei
去年の今頃は創発に居なかったのよくで分かりません。
233創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 12:02:54 ID:eEhvK1OM
お題-マフラー
234創る名無しに見る名無し:2009/10/31(土) 18:23:00 ID:WK8iS9Ci
11月っていうとなんか黄色のイメージがあるんだが
銀杏の葉の色からきているのかそれともコレの色なのか

といわけで11月の誕生石、「トパーズ」
235名無しさん:2009/11/02(月) 01:38:29 ID:e4csuRls
11月のお題
「交通事故」
「マフラー」
「トパーズ」
236創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 15:15:46 ID:wX2hOJRM
柿板からきました。後に参加しますノシ
23711月「ジェイソンさん」 ◆o9OK.7WteQ :2009/11/13(金) 18:05:18 ID:8Df0jArH
台詞系総合スレから
使用するお題は「交通事故」か「マフラー」のどちらかで、両方かもしれません
即興なので、ちょいとスレお借りします
書きながら考えるので長さも決まってません
238創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:08:22 ID:8Df0jArH
ジェイソン「ひえっきしっ!」

ジェイソン「……あ〜、ちくしょ〜」

ジェイソン「ったく、最近あったかかったりさむかったりよぉ……」

ジェイソン「どっちかにしろっつーの、どっちかに!」

ジェイソン「! はっ……はぁっ……!」

ジェイソン「……チッ! ひっこんだ」

ジェイソン「なーんかスカっとする事ねーかな」
239創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:11:18 ID:8Df0jArH
ジェイソン「まあいい、明日の予定は……っと」

ジェイソン「……」

ジェイソン「ん?」

ジェイソン「……」

ジェイソン「! やべえ! 今日って“あの”日じゃねえか!!」

ジェイソン「コタツに入ってまったりしてる場合じゃな――」

ガツンッ!

ジェイソン「っ!?……あ、足の……こ、小指……くおお……!」
240創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:13:51 ID:8Df0jArH
ジェイソン「っ……くぅ……お……!」

ジェイソン「……!」

ジェイソン「……ぷはぁっ! あぶねぇ、死ぬかと思ったぜ」

ジェイソン「つか、今は……――六時ちょいか」

ジェイソン「うっし! この時間からならアベックぶっ殺しまくれんな!」

ヒュウウゥッ!

ジェイソン「……北風強すぎんだろ、おい」
241創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:17:35 ID:8Df0jArH
ジェイソン「……とりあえず着替えるかな」

ゴソゴソッ

ジェイソン「確か、この奥の方にツナギが……」

ゴソゴソッ

ジェイソン「へへっ、やっぱアレ着なきゃ締まらねえからな!」

ゴソゴソッ

ジェイソン「……ん? ねえぞ……?」

ゴソゴソッ

ジェイソン「! そうだ! 確か、前のは返り血が凄くて捨てたんだった!」
242創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:20:37 ID:8Df0jArH
ジェイソン「……やべえ……マジでやべえ」

ジェイソン「どーすんだよ……アレがねえとやべえって……!?」

ジェイソン「普段着で何とかするか……?」

ジェイソン「……」

ジェイソン「……駄目だ」

ジェイソン「上下小豆色のジャージの殺人鬼なんてダサすぎんだろ……」

ジェイソン「……いっそ、裸でいってみっか?」

ジェイソン「……無理だろ! 警察に捕まるし、凍死するっつーの!」
243創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:23:28 ID:8Df0jArH
ジェイソン「くそっ! 何かねぇのかよ!」

ゴソゴソッ!

ジェイソン「――ん? これは……」

ヒョイッ

ジェイソン「……あぁ、このマフラーがあったな」

ジェイソン「確か、カーチャンが去年の秋頃に送ってくれたんだっけか」

ジェイソン「へへっ! 結局、一回も使ってねーんだけどよ」

ジェイソン「……カーチャン、今頃どうしてんのかな」
244創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:25:54 ID:8Df0jArH
ジェイソン「……カーチャン、まだこの時期は鍋ばっか食ってんのかな」

ジェイソン「……鍋なんて、最近食ってねぇなぁ」

ジェイソン「……」

ジェイソン「そういや、最後に電話したのいつだっけか……」

ジェイソン「……」

モソモソッ…

ジェイソン「……あったけえ」
245創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:33:14 ID:8Df0jArH
ジェイソン「……おっとと、ひたってる場合じゃなかったぜ」

カポッ…ゴソゴソッ―カチッ!

ジェイソン「おっ、一発でバンドが止まるなんて珍しいな」

ジェイソン「……小豆ジャージでも、やる事自体は変わんねぇしな!」

ジェイソン「――それに……おかげで寒くねえよ、カーチャン」

ジェイソン「……」

ジェイソン「さぁて! 今日は張り切ってアベックぶっ殺すとしますかね!」

ジェイソン「カーチャンに、立派にやってるって報告するために、な!」

ガチャッ!…バタンッ!


……ドタドタドタドタッ! ガチャッ!


ジェイソン「斧忘れてどーすんだよ! 斧を!」


おわり
246創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:34:43 ID:8Df0jArH
投下終了です
お題は「マフラー」だけでした
247創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 19:04:48 ID:m1UqqoMp
投下乙
248創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 19:35:28 ID:KeYczGfQ
ジェイソンさんだw!!
249創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 00:06:47 ID:gn0HYjug
J( 'ー`)し カゼヒカナイヨウキヲツケルンダヨ…
250創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 23:19:47 ID:SbuN/PKb
>>249
本名がタケシになっちゃうw
25111月「マフラー」 ◆2Sn1z.q.3YAY :2009/11/18(水) 10:45:31 ID:R8Xsm2CZ
ごめん締め切りすぎてしまったか。
賑やかしということでみるだけみてやってくださいm(_ _)m
http://imepita.jp/20091118/384680
252創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 13:08:33 ID:R8Xsm2CZ
あっ20日までだから大ジョブだった。
253創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 18:03:14 ID:sVUErIge
>>251
なにこれかわいいww
なんだかやけにもっちりしたマフラーだなw
25411月「と見せかけて」 ◆2Sn1z.q.3YAY :2009/11/18(水) 18:48:19 ID:R8Xsm2CZ
255創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 19:03:44 ID:sVUErIge
なん……だと……?
256創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 20:05:08 ID:IgCC+UV3
まさかの展開w
257創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 10:28:38 ID:lacB/bjE
想像を絶するバッドエンドwww
258創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 18:45:18 ID:6cIqtIIT

締め切りきましたね。
パンダかきました。
ジェイソンの話面白かったです。
異種集まっての発表ははじめてだったしレスももらえたので楽しかったです。

どうもありがとうございました。
259創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 02:09:28 ID:yvjvYvzP
>>254
死ぬわwwwww
260創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 12:26:07 ID:pTrBmgn0
次のお題ドゾー
261創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 21:14:31 ID:iRXU9dOq
47
262創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 17:54:39 ID:J9+1uMpN
思ったんだが、投下の期限は20日までっていう縛りはもうなくしていいんじゃないか?
今の勢いだったら、月末まで投下ありにして、並行して次の月のお題決めても支障はないんじゃね?
というよりはそっちの方がレスが途切れなくて良さそう
263創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 18:45:54 ID:u+Coamny
きたばっかなんで流れはわからないけど、投稿の区切りを作らず1ヶ月使い切るっていうのはいいと思うよ、
264創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 21:56:12 ID:p7WHyeI2
賛成! S−1に落とそうかなと考えて書いてると20日が来て
もういいやーってなっちゃうんだよねー。そっちの方が投稿も増えるし、
スレもにぎわうと思う。
265創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 12:39:10 ID:cSmpr3e5
次のお題:クリスマス
266創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 16:18:22 ID:NqnAumZb
それならサンタクロースとプレゼントも
267創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:19:01 ID:cPht2b0z
11月もあと一時間足らずで終わりますが、11月のお題で投下させてもらいます。
ホンッとぎりぎりですみません。こんなに長くなるとは自分でも思わなんだ……。
使用お題はマフラー・トパーズ・交通事故の三題。
268「11月の忘れもの」1/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:23:38 ID:cPht2b0z
11月も半ばになると急に冬が近づくような気がする。
空は高く澄んで、通りには薄荷のようなひんやりとした空気が漂う。
街路樹は赤や黄色に色づいて、はらはらと地面に舞い落ちて
舗道の敷石にモザイク模様を施していく。
吐く息は白く凍って、人々の襟元にはマフラーが巻かれる。
夕暮れに広告塔が浮かび上がり、街灯にひとつ、またひとつと燈が点る。
振り子時計が4回鐘を打った。
僕はカップを磨いていたリンネルをおいて、外看板に灯りを入れに行く。
年代物のこの看板は他の店とは違って電気式ではなく、昔ながらのランプ式だった。
「4時に火をともせば、閉店の頃にはひとりでに芯が燃え尽きて消灯だ。
便利じゃないか」とはこの看板をどこからか仕入れてきた伯父の弁。
電気式ならつくのも消えるのも自動だよ、と僕が言っても取り合ってくれず、
結局僕もこうして伯父の慣習に従っている。
長年の立ち仕事で、足を痛めた伯父がやっていた喫茶店を僕が継いで、はやいもので5年になった。
はじめたばかりの頃はぎこちなかった経営も次第に軌道にのってきて、
客商売もしたことがない二十歳そこそこだった若造も
ようやくカウンターの奥に立つ、マスター姿が板についてきたと自分では、思っている。
店はちょうど駅を真向かいにして、大通り沿いにあるので、
場所柄、列車の時間待ちや人を待つ客が多く利用する。
常連客よりも二度とこの店には来ないだろうという行きずりの客の方が多い。
そのせいか、この店には実に多くの物が忘れられて、置き去りにされていく。
ハンカチ、傘、ライター、時計、眼鏡に万年筆、家の鍵。
高価な物からどうでもいい安物まで。
中には故意に置いていかれたとおぼしき物もあって、引き取りにくる者は稀だった。

扉を開けるとその途端、冷たい風が強く吹き込んでドアベルがりりん、と震えた。
眼の端でその音に驚いたように何かが動いた。
あの子、また来ている。
僕は素知らぬ振りをして看板の小さな窓を開け、マッチでランプの芯に灯をともす。
オレンジ色の炎が揺らめき、ガラス製の火屋を被せるとその輝きはますます増幅して
寒い夕暮れに、人々を誘う誘蛾灯になる。
視線を感じて眼を向けると、客席の窓の脇に立っているあの少年がこちらを見ていた。
一瞬眼があう。けれどもすぐに少年は顔をふせ、再び自分の足下に眼を落とした。
僕は溜息をついた。11月に入った頃から毎日、この時間になるとどこからかやってきて、
何をするでもなくこの店の前に立っているのだ。
一度、邪魔になるからと追い払ったが、少年はいっこうに立ちんぼを止めそうにない。
しかし、僕にまた追い払われるのを恐れているのは確かで、僕の姿を見るとびくびくする。
それが、僕には少し気ぶっせいだった。
歳の頃は10歳くらいだろうか。この寒いのにコートも着ずに、
セーターにジーンズ、それにマフラーという薄着だった。
俯いた顔は透き通るように白く、首に巻いた藍色のマフラーが素晴らしく映えていた。
風が細い笛を吹いて通り過ぎ、足下に散った落ち葉がいっせいにかさかさと生き物のように動いた。
少年は洟をすすりあげ、身を縮こまらせる。
さっき交錯した視線の中の何かを待っているような色を思い出し、僕はまた溜息をつく。
しかたがない。この場合は商魂よりも良心だ。
僕はドアを開いた。
「入りなよ。寒いだろ」
僕の言葉に少年が弾かれたように顔をあげた。眼をまんまるに見開いている。
わずかに開いた口からやっと聞き取れるような「でも……」という言葉が聞こえた。
「そんな所にそんな格好で立ってられちゃ、俺が気になるんだ。お客さんも何事かと変に思うしさ。
どく気がないんなら、まだ中にいられた方がマシってこと」
もうちょっと優しい物言いをしてやればいいのに、どうしてもぶっきらぼうになってしまう。
少年は俯いて黙り込んでいる。どうにも気まずい。
沈黙に耐えきれなくなりはじめた頃、風に攫われてしまいそうな小さな声が聞こえた。
「すみません」少年はぺこりと頭を下げると僕の脇を通って、扉をくぐった。
269「11月の忘れもの」2/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:25:09 ID:cPht2b0z
背後で扉が閉まると、外の喧噪が途切れてしん、と静かさが際立つ。
三時のお茶には遅すぎ、勤め人が帰りがけに立ち寄るには早すぎるこの時間は
客が絶える、ぽっかりと開いたエアーポケットのような時間帯だった。
「どっか適当に座って」
突っ立っている少年に声をかけて、カウンターに入る。
少年はマフラーをはずすと、カウンターの一人がけの椅子に座った。
僕は手早く豆を挽き、漏斗にフィルターをつけ、挽いた豆を入れる。
フラスコに入れられた水がアルコールランプに暖められ、
やがて沸騰した湯が漏斗に湧き上がる。蒸気とコーヒーの香りが店内に満ちる。
外看板に負けず劣らず年代物のコーヒーサイフォンは伯父ご自慢の一品だ。
理科学用品のようなたたずまいと、
透明な湯が上に昇ってコーヒーが抽出されていく様は見ていて飽きない。
案の定、少年も魅了されたように目を見瞠っている。
できたコーヒーをカップに注ぎ、少年の前に置く。ピッチャーには多めのミルク。角砂糖はふたつ。
「ほら、飲みな。暖まる」
コーヒーを前に、少年は戸惑ったように僕を見上げた。
「お金、持ってないんです」
「いいよ。子どもから金とろうなんて思ってない。ただし、それ一杯だけだ」
少年はおずおずとカップを手に取ると、暖かさを確かめるようにカップを手でくるんだ。
ほうっと息が漏れる。「あったかい……」
ミルクと砂糖を入れて、スプーンでくるりとかきまぜて、口に含んだ。
こくりと音をたてて細いのどが動いた。
別に見ていなくてもいいのに、なんとなく少年の様子を見てしまう。
「どう?」
その問いには答えず、少年はふたくち、みくちと続けて飲んだ。
なんだかはじめて淹れたコーヒーを飲んでもらったときのような心境だ。
少年はカップから顔をあげた。
「おいしい!」
強張っていた顔がぱっと輝くように無邪気に笑った。
「そうか。そいつは良かった」
おいしいと言われたことが予想外にうれしく、最初邪険にしてしまったことへの
負い目がとけて、ほっとしたのが自分でも分かった。
「コーヒー飲むの、初めてか」
「ううん、前に一度飲んだことある。でもその時は苦いだけで、
 あんまり、おいしいとは思わなかった。でも、お兄さんのコーヒーはおいしいね」
この道に入ってから、いろいろと自分でも試行錯誤しているものの、
まだまだ叔父のコーヒーには追いつけていないのを自覚していたので、
少年の手放しの褒め言葉は耳にこそばゆかった。
「そんな風に言われると、なんだか照れるなあ。坊やはお世辞が上手だな」
僕のひねくれた返事に少年は生真面目な表情をして、僕を見返して言った。
「お世辞じゃないよ。ほんとにおいしいよ」
青ざめていた顔はコーヒーで暖まり、ほのかに紅潮している。
短く切りそろえられた前髪の下の真っすぐな眉が利発そうだった。
僕をまっすぐに見つめる真っ黒な眼は澄んでいて、
その中に真珠のような光が宿っていた。
270創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:25:41 ID:IssAkPzP
支援
271創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:26:28 ID:IssAkPzP
支援
272創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:26:51 ID:vBL1TN11
    
273「11月の忘れもの」3/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:26:55 ID:cPht2b0z
少年は緊張がとけたのか、それから俄に饒舌になった。
しかし、店の前で一体何をしていたのか、という問いになると、少年は言い淀んで下を向いた。
「言いたくないんだったら、言わなくてもいいけどさ」
僕が慌てて言い添えると、少年は首を振って答えた。
「おかあさんを待ってたんだ」
「お母さんを……」
まずい。これは訳ありだ。聞いちゃいけないことかもしれない。
慌てる僕をよそに、少年はポケットを探ると包装紙でくるまれた小さな箱を取り出した。
「これ、渡そうと思って。11月はおかあさんの生まれた月なんだ」
毎日にぎりしめていたのだろう、包装紙は少しよれてしわが寄っていた。
「そうか、プレゼントか。中身は何?」
「あのねえ、黄色い石の髪かざり。知ってる? 黄色い石は11月の石なんだって」
そう言えばそんな話を聞いたことがある。
「ああ……トパーズか」
「トパーズ?」
「そう、たしか11月の誕生石だ」
「ふうん、トパーズって言うのかあ……」
トパーズ、トパーズと覚えるように少年は繰り返している。
男の子は女親に似るって言うから、きっと美人だろう。
「お母さん、何日が誕生日なの?」
少年の眼が揺れた。
「あ……えっとねえ……」
僕はようやく失敗に気付いた。
「わかんない……」少年は肩を落として答えた。
「ごめん、」
僕が思わず謝ると、少年は歳に似合わない大人びた笑みを返した。
「ううん、いいんだ。気にしないで」
少年は箱を横におくと再びカップを取った。
「お母さん、きっと喜ぶよ」
「うん。そうだといいな」
そして、コーヒーを飲みほすと、にこっと笑った。
「お兄さん」
「ん?」
「ありがとう」
このタイミングは反則だぜ。
「どういたしまして」
僕は内心溜息をつくと、二杯目のおかわりをカップに注いだ。

それから、毎日4時になると少年が現れ、僕が店に招き入れる、ということが習慣になった。
当初は猫じゃあるまいし、居着かれると困る、と思っていたが、
少年は案外わきまえていて、客の入り出す5時過ぎになると、どこぞへと帰っていく。
おまけに毎回コーヒーをタダ飲みするのが悪いと思っているのか、
なにか手伝うことはないかとせがんでくる。
食器類を扱わせるにはちょっと危なっかしいのでテーブルや窓を拭いてもらっているが、
一生懸命に仕事をこなす少年の姿は健気で、僕の心を和ませた。
はっきりいってヒマな時間帯、少年の他愛ないおしゃべりを聞くのは心地よく、
なによりコーヒーをおいしそうに飲んでくれるのが僕にはうれしかった。
274創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:27:17 ID:IssAkPzP
 
275創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:27:31 ID:E56Wb9ju
    
276創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:27:58 ID:IssAkPzP
 
277創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:28:03 ID:vBL1TN11
    
278創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:28:40 ID:IssAkPzP
 
279創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:29:02 ID:E56Wb9ju
     
280「11月の忘れもの」5/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:29:14 ID:cPht2b0z
「コウ、ちょっと来てくれ」
「うん」
僕に呼ばれた少年が机を拭いていた布巾を手にこちらへやって来る。
その前に僕は大きな段ボール箱を置く。中には雑多な物が入っている。
「なに? これ」
「忘れ物。この店は、忘れ物が多いんだ。しばらくは預かっているんだが、
 ほとんど持ち主が現れることはない。だから、処分しようと思ってね」
「処分ってどうするの?」
「古道具屋に売れそうな物は売って、そうでないものは捨てる。
名前がある物は売れないから、名前があるかどうか見ていってくれ」
「うん。わかった」
コウはしゃがみこむと箱のなかのライターを手に取って眺めた。
「なんで忘れてっちゃうのかな?」
「さあ、なんでかなあ。そんなに大事じゃないからかもな。中にはわざと置いてったようなものもあるし。
どっちにしろ必要でないから忘れていくし、取りにもこない。こっちにしたらいい迷惑だけどな」
「そう……」
ジッと音がしてコウの手の中でオレンジ色のちいさな炎がゆらりと揺れた。
僕はライターを取り上げた。
「こら、火で遊ぶな」
「ごめんなさい」
そういうとコウは僕を見上げてあの大人びた微笑を浮かべた。
その瞳が何かを言いたげに瞬いていた。
「大丈夫だ」
僕はぐりぐりとわざと乱暴にコウの頭を撫でた。
「おまえは、いい子だ」
「うん」
頷いた拍子にしずくが一滴零れて、床に淡い染みを作った。
11月はあと一週間で終わろうとしていた。
281創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:29:25 ID:vBL1TN11
  
282創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:30:51 ID:IssAkPzP
  
283創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:31:11 ID:E56Wb9ju
    
284創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:31:30 ID:vBL1TN11
     
285創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:31:40 ID:IssAkPzP
 
286創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:32:14 ID:vBL1TN11
   
287創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:32:21 ID:IssAkPzP
 
288「11月の忘れもの」5/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:32:39 ID:cPht2b0z
その日、暮れかけた弱い陽射しを受けながら、コウがやってくるのを待っていた僕は
うっかり眠りそうになり、突然勢いよく開いた扉に驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
「やあやあ、元気かね、マスター!」
やってきた男はそう大声でそう言うと呵々大笑し、手に持った銀色の杖をついて
店内に進んできた。中折れ帽に灰色の口ひげ。この店の元マスター、僕の伯父だ。
床に転がった僕を見て、伯父は眉をひそめた。
「何してるんだ? 床になんか転がって」
「……いや、別に。何も。久しぶりだね、伯父さん」
僕は立ち上がると手を差し出した。それを伯父の大きな手がしっかりと痛いぐらいに握り返す。
「おう。久しぶりに外出したんでな。様子を見に来た。どうだ、店の方は」
この店の主だった伯父は長年に渡る立ち仕事で脚を壊し、この店を僕にゆずった後は
隠居をしている。もっとも脚をのぞけば元気すぎるくらいで、体を壊していなければ
今でもマスターをしていただろう。店のことが気になるらしく、時々こうして様子を見に来る。
「まあまあうまくやってるよ。もう5年だからね。客入りも悪くないよ」
「そうか? その割にはヒマそうじゃないか。お前、さっき居眠りしていただろう」
痛い所を突かれて僕はちょっと詰まった。
「寝てないよ。この時間は客がこないの、知ってるだろう」
「うん? そうだったか?」
とぼける伯父をひと睨みし、僕はコーヒーを淹れる。その手順を伯父が背後からなぞっているのが分かる。
「はい。どうぞ」
出されたコーヒーをひとくち飲み、伯父はうん、と頷いた。
「だいぶ上手くなったじゃないか。これなら店を任すに堪えられる」
褒めているのかよくわからない言葉に、はあ、どうも。と苦笑して返事をする。
「正直、お前にこの店をやると決めた時、これは一年と持たないんじゃないかと思ったが
意外と精進したじゃないか。店内も掃除が行き届いているしな」
「ああ、それは、最近手伝ってくれる子がいるんだ」
「なんだ、人を雇っているのか? 贅沢だな」
「いや、違うよ。ただの、手伝い。なんかさ、ここ最近外でお母さんを待ってるって
子どもがいてさ。あんまり寒い日だったから、ついコーヒー飲ましてやったら、
手伝わせてくれっていうもんだから」
僕はちょっと後ろめたくなり、弁解するように伯父に早口に事情を述べ立てた。
子ども、と呟いた伯父の顔がみるみる雲っていく。
「あ、でもべつに、働かしているってわけじゃ……」
「いや、手伝ってもらっているのは別にいいんだ。ただ……」
伯父はそこで言葉を区切ると、茶褐色のコーヒーに映る自分の顔を覗き込んだ。
「ただ?」
僕は伯父の言葉を待った。
「このあたりは車通りも多いし、暗くなると危ないこともある。十分、気をつけてやれよ」
そう言うと伯父は静かにカップを口に運んだ。
出てきたのはありきたりな説教で僕は少し拍子抜けした。
「わかってるよ」
僕は肩をすくめて、答えた。
伯父は何かを透かし見るようにカップの表面の波紋を見つめていた。
289創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:32:45 ID:E56Wb9ju
    
290創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:33:03 ID:IssAkPzP
 
291創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:33:54 ID:E56Wb9ju
    
292「11月の忘れもの」6/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:34:27 ID:cPht2b0z
時計が5時を知らせた。
「もうこんな時間か。そろそろ帰るとするかな」
伯父は杖を手に取り、腰を上げた。
「ああ、もう外は真っ暗だな。この時期は本当に日が暮れるのが早い」
「気をつけて。また来てよ」
僕は戸口まで見送った。扉に手を掛けた伯父がふと振り返って尋ねた。
「さっき言ってた子は、毎日来るのか?」
「うん。いつもは4時くらいには来るんだけど、そういえば今日はまだ来ないね。どうしたのかな……」
「ふーん、そうか。その子、女の子か?」
「男の子だよ。なに勘ぐってるんだよ、伯父さん」
「いや、お前が子どもに声を掛けるなんて珍しいと思ってな。
お前の好みは知ってるから、ちょいと顔を見てみたいと思っただけさ」
「変なことを言わないでくれ。馬鹿なこと考えて、車に轢かれないようにね」
「失礼な。まだそこまで耄碌してはない」
僕は伯父の大きな背中を押し出した。
「じゃあ、またね。伯父さん」
「ああ。次までにもっと腕を磨いておくんだぞ」
振り返りつつ、最後まで小言を言う伯父に苦笑しながら手を振った。
辺りはすっかり藍色に染まり、車のテールランプが赤い軌跡を描いて走り抜けていった。
その光景を見ながら、僕は先ほどの伯父の言葉を思い返した。
『暗くなると危ないこともある……』
何故伯父はそんな当たりまえのことを殊更に忠告めかして言ったのだろう?
いつも陽気な伯父にそぐわない物言いと様子に漠然とした不安がかき立てられる。
伯父さんも年をとったってことかもしれないな。
僕はそう結論づけて、名前のつけられない気持ちをくしゃくしゃとまるめて
頭の中のくず入れに放り込んだ。
293創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:35:05 ID:E56Wb9ju
     
294「11月の忘れもの」7/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:36:34 ID:cPht2b0z
その時、ドアベルがりん、と鳴り、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
僕は反射的にやってきた客に声をかけた。
「あ」
扉の前に佇んでいる客は、コウだった。いつものように藍色のマフラーをしている。
「なんだ、今日は遅かったな」
「うん、ちょっとね。ごめんね」
コウはちょっと自分の足下を見て、申し訳なさそうに言った。
「別に、いいんだけどさ」
なんだかコウのことを待ち受けてたみたいで、急に恥ずかしくなった僕は慌てて違う話題を探した。
「そういえば、さっきまで俺の伯父さんが来てたんだ。コウのことを話したら、
会ってみたいって言ってたんだぜ。
もう少し早ければ、会えたんだけどな。昔、この店をやっていたんだ」
「うん、知ってる」
え、と一瞬訝しげな顔をした僕にコウはちょっと咳き込んでから言った。
「さっきそこで会ったんだ。帽子をかぶってて、銀の杖を持っている人でしょ」
「なーんだ。会ったのか。伯父さんも目敏いな」
帰り際に変な詮索をしていたくらいだ。妙なことをコウに言ってなければいいけれど。
コウは思案する僕を見てちょっと笑った後、遠慮がちに切り出した。
「ね、座っても、いい?」
もちろん、と言いかけた僕はちらりと振り子時計を見た。もう5時を過ぎている。
そろそろ客足が戻る頃合いだ。
コウはそんな僕の内情を察したように、ポケットに手を入れた。
「あのね、今日はぼく、お金持ってきたんだ」
小さな手に硬貨が数枚載っていた。
「これで、足りる?」首を傾げて不安そうに僕の顔を見上げてくる。
「足りてるよ」僕はコウの頭に軽くぽんと手を置いた。
「そういうことなら今日はお客様だ。お好きな席へどうぞ」
「ありがとう」
コウはうれしそうに店内に進んだ。いつものカウンター席ではなく、窓際のボックス席に座った。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
畏まって聞くと、コウも澄まして答える。
「コーヒーをください。ミルクはたっぷりで」
「砂糖はふたつでよろしいですか?」
「はい。それでけっこうです」
「かしこまりました」
気取ったやりとりに二人で笑って、僕はカウンターに入った。
コウは頬杖をついて窓の外の流れる車の灯りを見ている。
点滅する信号の光がその横顔を赤や青に染める。
295創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:38:01 ID:E56Wb9ju
    
296「11月の忘れもの」8/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:39:54 ID:cPht2b0z
「お待たせいたしました、お客様」
コーヒーをテーブルに置くと、コウは夢から覚めたように僕を見て、いつもの無邪気な笑みを浮かべた。
「ありがとう。いただきまーす」
カップを手に取ると、コウはしばらく褐色の液面を見ていたが、
だしぬけにミルクも砂糖も入れずにそのまま一口飲んでしまった。
「あっ」
僕は思わず声を上げた。
「こら、砂糖もミルクも入れずに飲む奴があるか。子どものくせして」
コウは僕を見上げて、えへへと笑った。
「やっぱり、苦いね」
「おいしくないだろ、そのまんまじゃあ。ブラックコーヒーなんて子どもには毒だ」
「うーん、そうだね。あんまり、おいしくはないね」
僕はわざとらしく嘆息する。
「ほら見ろ。無理に粋がってそんなことをするからだ。
お子様にはあまーくてミルクたっぷりのコーヒーが合ってるんだよ」
「そう? でもねえ、ぼくは……」コウは言葉を切ると、眼を閉じた。
「ミルクと砂糖を入れたコーヒーは甘くてやさしい味がしておいしいけど、
何も入れないそのままのコーヒーの方が、ぼくは好きだなあ。
苦くておいしくはないけれど、正直であったかい……」
コウは眼をあけて僕を見た。澄んだ泉のような真っ黒の瞳に僕の姿が映っている。
「だれかさんみたいだね」
「……誰かって、誰だよ」
「だれだろう?」
とぼけるコウの頭をトレイで軽く叩いた。
コウは頭をおさえて、なにすんだよう、とおどけたので、僕たちは笑った。
ふと、テーブルの上に置いてある、あの包みに眼が留まった。
「きょうで最後だね」
「えっ?」
突然のつぶやきに僕はちょっとびっくりして顔をあげた。
「11月。明日からは12月だね」
「そうだな……」
僕は何か言おうとして言葉を探した。
「その、あれだ。店のことを手伝ってくれるなら、11月じゃなくなったって
お母さんを待ってていいんだぞ」
つっかえつっかえ言うと、コウは眼をしばたかせてから、にっこりと笑った。
「ありがとう」
「きっと、来てくれる」
「うん」
「大事な自分の子どもを忘れたりするはずがない」
「うん。僕待ってる」
「おかあさんが僕のこと思い出してくれるまで」
「いつまでも」
ずっと待ってるから……
297「11月の忘れもの」9/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:41:53 ID:cPht2b0z
りりんっとドアベルが鳴って我に返った。どやどやと勤め帰りの連中がなだれ込んでくる。
時刻は5時半を過ぎている。
「……じゃあ、ゆっくりしていけよ」
なんとなく後ろ髪を引かれるような気持ちでコウに声をかけた。
コウは頷いて、手をふると、横を向いて車と人が行き交う窓の外の大通りを眺めはじめた。
その後、さっきまでの静かな時間が嘘のように客がひっきりなしに訪れ、
僕は店内を忙しく動き回りながら、対応に追われた。
りりんっ。いらっしゃいませ。
君、注文いいかね? コーヒーとベーグルサンド一つ。
ありがとうございます。
お会計、おねがい。
はい、只今。
灰皿ください。
紅茶はあるかしら。オレンジペコがいいんだけれど。
申し訳ございません。
スプーン落としちゃった、代えてもらえませんか。
お水、おかわり。
りん、りん。ありがとうございました。
コーヒーと羊羹。
あのサイフォンいいね、譲ってくれんかね。
ありがとうございます、生憎ですが。
りりんっ。いらっしゃいませ。
席空いてる?
少々お待ち下さい。
すみませーん!こぼしちゃったー。
お客様、大丈夫ですか?
お水ください。
ココアとー、えーとー、ナッツケーキ。
お決まりなりましたら、お呼びください。
コーヒーもう一杯。
お待たせいたしました。

「おかあさん!」

りりりりりんっ
ドアベルが激しく鳴った。
遠くで、車のクラクション。
悲鳴のようなブレーキ音が聞こえたような気がした。
僕ははっとしてコウの座っていた席を見た。
空のカップと硬貨を残して、少年の姿は消えていた。
「コウ!?」
慌てて扉の把手を?んで、外へ飛び出そうとした。
その時、
ちりん、
その扉が僕の手を逃れるように、すっと引かれた。
扉の外に白い顔の女が立っていた。
298「11月の忘れもの」10/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:44:48 ID:cPht2b0z
「あ……」
女は目の前の僕に驚いたように眼をまるく見開いた。
「ごめんなさい」
「いえ、すみません。……いらっしゃいませ」
僕が扉を支えると、女は少し微笑み、僕の脇を通って扉をくぐった。
僕は扉から顔を出して通りを見渡した。
通りは帰宅する人々で込み合っていて、いつものすこし疲れたような、浮ついたような
ざわめきに満ちていた。車は列をなして行儀よく走り、どこにも事故の気配はない。
雑踏を行く人々は皆一様に色とりどりのマフラーを首元に巻いていたが、
藍色のマフラーがすばらしく似合う少年は見当たらなかった。
「すみません」
僕は店内の声に、コウを探すのを諦めて扉を閉めた。
先ほどの女がコウのいた席の前に立っていた。
「ここ、座ってもいいかしら? それともどなたかいらっしゃるかしら」
「いえ、どうぞ。今、片付けますから」
僕はカップと硬貨をまとめ、布巾でテーブルを軽く拭いた。
女は軽く頷いて、席に腰をおろすと僕を見上げた。
「コーヒーを」
「かしこまりました」
カウンターに戻ろうとしたとき、あら、と声が上がった。
「ねえ、ちょっと、」
僕が振り向くと女が何かを手にしている。
「忘れ物みたいよ。席に置いてあったの」
女の手のひらに、コウが持っていたあの包みが載っていた。
あいつ、肝心な物を忘れて。
僕は包みを受け取って女に礼を言い、コーヒーの準備に取りかかった。
コウの奴、慌てて飛び出したりして。客に気をとられていたので良くは分からないが、
お母さんを見つけたのかもしれない。だったら今ごろ折角用意したプレゼントがなくて
べそを掻いているかもしれない。戻ってくるだろうか。
そんな風にやきもきしながらコーヒーを淹れて、女の席へと運ぶ。
「お待たせいたしました」
女は窓の外を眺めていた眼を転じて、僕に視線を移す。
「ありがとう」
僕より少し年上だろうか、女は柔らかく笑んでコーヒーを受け取った。
その顔の中に、見知ったような面影を見つけて僕は息を呑んだ。
女はそんな僕のことには気付かず、再び窓の外へと顔を向けた。
信号が赤や青に点滅する。その光に照らされた、白い横顔。
299「11月の忘れもの」11/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:47:56 ID:cPht2b0z
「あの」
僕は思い切って女に声をかけた。夢を見ていたような眼差しが
現実に引き戻されてきて、僕を見上げる。
「失礼ですが、コウ君のお母さんじゃありませんか?」
女は虚を突かれたように、え、と薄く口を開いて、少し顔を傾けた。
その顔は他人にしてはあまりにも似すぎている。
「……どなたかと間違えているんじゃないかしら」
しらを切るような人には見えなかったが、もしかすると、そういった種類の人なのかもしれない。
僕の瞼の裏に毎日小包を大事そうに持って健気に母親を待っていたコウの姿が浮かんだ。
「10歳くらいの男の子です。藍色のマフラーがよく似合っていて、
お母さんを待っていると言ってました」
藍色のマフラー、と女がかすかに呟き、顔を強張らせた。
僕はその反応に、畳み掛けるように言い募った。
「そうです。母親にあげるんだと言って、この包みを持って、ずっと、待っていたんです。
__あなたによく似ているんです。ご存知、ありませんか?」
僕の手の中の包みに眼をやり、女はしばらく何かを考えるように中空を見つめていたが、
やがて眼をとじて息を一つつくと、眼を開いて僕を見た。
「確かに、わたしは藍色のマフラーがよく似合う子を知ってるわ。
だけどね、そんなことがあるはずがないの。だってその子__
わたしの弟は十数年も前に亡くなっているんですもの。そんなわけ、あるはずがないわ」
僕は一瞬、眼の回るような感覚に捕らわれた。店内の雑音が一気に遠くなる。おとうと?
「いえ__違います。弟ではなくて、息子さんです」
僕は混乱する頭を叱咤して、訂正した。
「わたし、子どもはいないわ。それに、この街には弟が死んでからずっと来たことはなかった。
今日は十数年ぶりに来たの。だから、あなたの言う、その子のことは知らないわ。御免なさいね」
済まなそうな表情を浮かべる彼女の前で、僕は言葉を失ったまま呆然と立ち尽くしていた。
「……座ったらいかが?」
彼女は目線で僕に促した。僕は機械的に脚をうごかして、彼女の向かいの席に腰を落とした。
「そんなに、わたしに似ていたの?」
彼女の慰めるような言葉に我に返った。
「すみません。間違いだったようです。考えてみれば、他人の空似なんてよくあることですよね。
それに、十数年ぶりに来たのだったら、コウは生まれてないはずですから、
あなたと関係はない。__すみませんでした」
僕は自分の早とちりが恥ずかしくなって、席を立とうとした。
「でも、よく似た話ってあるものね」
え、と視線をもどすと彼女はどこか寂しそうに笑った。
「わたしの弟もこの店で母親を待っていたのよ」
300創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:48:52 ID:E56Wb9ju
  
301創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:50:18 ID:E56Wb9ju
   
302「11月の忘れもの」12/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:51:07 ID:cPht2b0z
彼女はミナ、と名乗った。
ミナはコーヒーカップを手で包むと、ぽつりと語りはじめた。
「わたしたちの母は……」
__わたしたちの母はね、明るくて、派手で、綺麗でわがままで忘れっぽい人だった。
一緒に暮らしていたときは、しょっちゅう住むところが変わったわ。
母のお相手がすぐに変わるから。見かねた祖父と祖母がこの街に呼んでくれたけど、
母は一ヶ月と保たずに新しい愛人の元に奔ったの。わたしたちを置いてね。
わたしはもう訳のわかる歳だったけど、弟はまだ小さくて、
急に母がいなくなったものだから、よくお母さんに会いたいって泣いて、
おばあちゃんを困らせてた。
母は時々気まぐれのようにこの街に来ると、デパート中を上へ下へ大騒ぎして
わたしたちにいろんな物を買ってくれたわ。藍色のマフラーもその中の一つ。
でもそれで一通り満足すると、あんたたち、愛してるわ、愛してるわよって言って
また嵐みたいにどっかへ行ってしまうの。
わたしはそんな母のことをどうしても好きにはなれなかったけれど、
弟はいつも母が来ると、とっても喜んで、母がいなくなった後でも、
お母さんは今度いつ来るのって煩いくらいに一日に何べんも聞いたわ。
でも、いつの頃からか、母が来なくなったの。
あの人のことだから、忘れちゃってたのかもしれない。
弟もあまり母のことを口にはしなくなった。
でもね、弟はずっと会いたかったのね。わたしたちに気付かれないよう、
学校が終わると、駅に面したこの店の前で母を待つようになった。
お小遣いを貯めて買った、精一杯のプレゼントを持って。
母に分かるよう、買ってもらった藍色のマフラーをして。
あの子、10歳だった。
303創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:55:36 ID:E56Wb9ju
   
304「11月の忘れもの」13/13 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:57:53 ID:cPht2b0z
ミナはそこまで一気に話すと、冷めちゃうわね、と言ってコーヒーを一口飲んだ。
「おいしい。昔と変わらないみたい」
「……弟さんは、どうして……」
ミナは眼をあげると手をひらりと振って答えた。
「事故よ、事故。交通事故。弟は普段、言うことをよく聞くいい子だったけど、
その時はどうしてか、いつも言い含められてた言いつけを破って大通りを横切ろうとしたの。
それで、車に跳ねられたの」
ミナは静かにスプーンでコーヒーをくるりとかきまぜた。
「ねえ、そういえば、あなたはここのマスターなのかしら?」
「ええ、そうですが」
「じゃあ、前のマスターをご存知じゃないかしら? 大柄で、陽気な方」
「僕の伯父です。5年前に脚を悪くして、僕がこの店を継ぎました」
「まあ、そう……お元気かしら」
「脚はすこし不自由ですが、元気そのものですよ」
僕が答えると、ミナは安堵したように「そう、よかった」と言った。
「それじゃあ、伯父さまにお会いした時に、カイの姉がよろしく言っていたと伝えてくれるかしら」
「カイ、」
「ええ。弟の名前。店の前で待っているうちに、あなたの伯父さまと仲良くなって、
いろいろ良くして頂いたみたい。弟のお葬式にも来て下さったわ。
……あの時もっと自分が気をつけて見ていればってずいぶん悔やんでいらした」
”このあたりは車通りも多いし……”伯父の言葉が耳の中にこだまする。
「その、プレゼントの中身は何でしたか」
「たしか、髪飾りだって聞いたけど。でも、わたしは結局最後まで実物を見なかったの。
弟が持っていたはずなんだけど、どこかへ行ってしまったのよ」
「黄色い石の?」
ミナは首をふった。
「いいえ。残念、そこは外れたわね。
赤い石よ。母は一月生まれだったから、ガーネットのつもりだったらしいわ。
もっとも母は色のついた石よりダイヤモンドが好きって言うような人だったけれど……。
__そんな人だったのに、どうしてあの子はあんなに母のことが好きだったのかしら」
どうしてかしら、ね、と呟いてカップを置いたミナの左手に、指輪が光っているのに気付いた。
黄色い石の指輪が。
「それ、トパーズですか?」僕の視線をたどったミナが答えた。
「ああ、これ? そうよ。トパーズ。わたしの誕生石。わたしね、もうすぐ結婚して外国へ行くの。
今日、この街に来たのはこの国を離れる前に、弟と過ごした場所を見ておきたかったからなの」
「そうでしたか。それは、おめでとうございます」
ミナはどこか恥ずかしそうに、でもうれしさを滲ませて言った。
「ありがとう。でも、ちょっとお金がなくてね。ダイヤモンドの婚約指輪じゃなくて、
トパーズになっちゃったの。でも、わたしはトパーズの方がずっと好きだわ」
ミナの言葉を聞きながら、僕は手の中の包みの重さを確かめた。
「さて、そろそろ行くわ。お会計お願いできる?」
「あ、はい」
連れ立ってレジスターに向かう。会計を済ませるとミナは手を差し出した。
「おいしいコーヒーをありがとう。会えて良かったわ。__弟は生きてたらあなたぐらいの歳なの。
この街に来ようかどうしようかって迷っていたんだけれど、やっぱり、来て良かった」
僕はその白い手を握り返した。
「こちらこそ、お話しできてよかったです。また、来て下さい」
ミナはにっこり微笑むと手をふった。
「ええ、また、いつか。__さよなら」
「さよなら」
りりんっとドアベルが鳴って、扉が閉まった。
店の客が僕を呼んでいる。
僕は手の中の包みをそっとレジスターに収めた。
さようなら。
またいつの日か、藍色のマフラーをした君がこの店に来る時まで。
僕はずっと待っていよう。
その日まで、さようなら。
今日までは11月。明日からは12月__。
窓の外の大通りに冬の到来を告げる、透きとおった風が吹いていった。
305創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 23:58:26 ID:E56Wb9ju
投下乙!
306 ◆CELuXwgC6K65 :2009/11/30(月) 23:59:57 ID:cPht2b0z
おわり

なんとか間に合ってよかったー。支援ありがとう。
ついでに来月のお題。師走なので「走る師」
307創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 13:21:01 ID:W7a+w5gD
今月のお題

「クリスマス」
「サンタクロース」
「プレゼント」
「師走(走る師)」

308創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 22:55:04 ID:8EuAqNlk
>>261にもお題らしき物があるけど……
309創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 20:18:43 ID:g/MP5FrV
お題に見える?
なんかのゴバクだと思うんだけど。お題ともかかれてないし、お題だとしても意味フだよ。
310創る名無しに見る名無し:2009/12/03(木) 20:24:18 ID:1/jMEvoo
>>261は俺だけど、忠臣蔵ネタのお題のつもりで書いたよ
311創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 01:17:37 ID:QDm16Gss
お題の提示といっしょにそのお題にした訳とか由来も書いてくれるといいかもね
312創る名無しに見る名無し:2009/12/04(金) 02:55:16 ID:ASt7BbBr
>>310
なにそれ知らない。
313創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:59:25 ID:8sBqQPPE
募集中!
314創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 00:35:38 ID:d9Jkad8g
>>262-264で話でてるけど、投下は一ヶ月間オールオッケーなんだよね?
12月とか、なんだかアベックがイチャつく日とか大晦日とかある
だから投下タイミングが美味しくなって嬉しいんだけど、結局どうなったん?
315創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 22:48:40 ID:XldGgTvu
期日を過ぎて申し訳ないが明日(21日)
他スレ用に作っていたものだがこちらに投下させていたきたいのだがどうでしょ?
(投下しようとしたスレの様子を見たいので)

クリスマス用(内容はほのぼの夫婦モノ)なのでお題に関しては問題ないが
期日や他スレに投下したほうがいいなどの意見、指示があったらそれに従う。
ご意見お願いしますです。
316「ワシについてこれるかな?」:2009/12/20(日) 23:26:32 ID:N41jdWhi
http://imepita.jp/20091220/840310

>>315
ご一緒しませんか♪

>投下期間は月末までて良いような。
317創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 23:39:37 ID:GAuOX3BW
うわ……気がつけばもう20日過ぎたんか……早えぇなー。
上記にもあるように期日に関しては特に気にしなくていいんじゃない?
反対意見も特にないみたいだし。
318創る名無しに見る名無し:2009/12/20(日) 23:47:47 ID:OMgcRtlo
>>316
ついていきたくねぇサンタだなwwww

とりあえず延ばしちゃおうぜ
っていうか、今月はネタになる日が多すぎるものw
319315:2009/12/21(月) 00:44:06 ID:x39aQVEb
レスあり。
じゃあ明日投下する。age投下で人柱になるので後に続いてくれw

>316
ごめん、なんかパソ調子悪くて画像全部表示されないぜ。
320創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 15:47:43 ID:OrDQmrr6
>>316
こいつについていったら絶対にろくなことがない気がするwww
321代理:2009/12/21(月) 21:22:13 ID:OrDQmrr6
>315だが

投下しようとしたら規制中に俺愕然w
本体6レスと長いので自分で投下したいのだが
23日午前中までに解除されないようなら代行職人さんにお願いする。

昨日の今日で申し訳ない。ぢおん軍で暴れたやつは誰だw
322 ◆Qb0Tozsreo :2009/12/22(火) 12:53:43 ID:QnjRYa1s
 パパもママもおかしいよ。

 おばあちゃんにおこずかいをもらったときも、孝太郎おじさんにゲームを買ってもらったときも、ちゃんとお礼を言いなさいって言ってたくせに、サンタさんには言わなくていいなんてさ。

 今年は絶対にサンタさんにお礼を言うんだ。直接、どうもありがとうって言うことに決めたんだ。

 パパは次の日会社だから、そんなに遅くまで起きていられないみたいだけれど、最初は夜更かしは駄目って言ってたママも、一緒にサンタさんを待っててくれるって。

 サンタさんはどこから僕の家に入ってくるんだろう?

 うちには人が通れるような煙突なんてないし、玄関もベランダの窓も夜は鍵がかかってるはずだし。

 もしかして、『どこでもドア』でいきなり来るのかもしれない。

 パパはタイムマシンみたいに突然入り口が現れるんじゃないかって言ってる。

 だから、うまく僕の部屋に来られればいいけれど、台所だったり、トイレだったり、お風呂場に来ることもあるかもしれないって。

 ちゃんと、こんばんはの挨拶もしたいから、ずっと部屋で待ってるわけにもいかないし、忙しい夜になりそうだ。

323 ◆Qb0Tozsreo :2009/12/22(火) 12:55:53 ID:QnjRYa1s
「まだ来ないみたいね」

 ママはWiiFitでヨガをしている。

「眠くない?」

「まだ大丈夫!」

「眠くなったら寝ていいんだぞ。サンタさんにはパパがお礼言っておくから」

 パパはコーヒーを飲みながら、難しそうな本を読んでいる。

 僕は台所、そしてトイレとお風呂場を覗いてから部屋に戻った。

 これで三回目だ。まだ来る気配はないみたい。

 今までいちばん夜更かししたのは、去年の大晦日だった。

 それでも除夜の鐘は聞けなかったから、もう少しで新記録更新だ。

 でもそろそろ限界かもしれない。一瞬うとうとしかけたとき突然ママの声が聞こえた。

「翔太! サンタさんよ!!」

 急いでリビングに向かうと、今度はお風呂場の方でパパの声がする。

「翔太! こっちだ!!」

 お風呂場に走って行くと、逆にパパがこっちに向かってきた。

「寝室に入ったぞ!」

 僕はパパとママの寝室のドアを、おもいっきり開けた。

 ピーヒュルルル……

 お庭に面した窓は開いていて、カーテンが風で揺れていた。

「行っちゃったみたいね……」

 ママは残念そうだ。

「また来年のクリスマスに言えばいいよ。じゃ、寝ようか」

 パパに言われて、とぼとぼと下を向いて部屋に戻る。

「あっ!!」

 勉強机の上には、さっきまでなかった綺麗なリボンが付いた大きな箱が置いてあった。
324 ◆Qb0Tozsreo :2009/12/22(火) 12:59:17 ID:QnjRYa1s
以上投下終了です。
お題
「クリスマス」
「サンタクロース」
「プレゼント」
を使わせていただきました。
325創る名無しに見る名無し:2009/12/22(火) 20:22:53 ID:z5Ca7kxL
>322-324
律儀な親子乙
真相が発覚した際、修羅場になりそうで怖いw
326「 プレゼント 」:2009/12/22(火) 20:26:15 ID:z5Ca7kxL

クリスマスもの投下age


クリスマス・サンタクロース・プレゼントを使用

タイトル「 プレゼント 」



【気軽に】職人がSSを書いてみる【短編】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219996415/377-378
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219996415/450-451

上記2編の連作。
上記を読んでなくても話は通じると思う。
ほのぼの夫婦モノで甘めwなので、口にあうようならどうぞ。

327「 プレゼント 」1/6:2009/12/22(火) 20:27:44 ID:z5Ca7kxL
 
 毎年この時期になると俺は頭を悩ます。
俺33歳、嫁29歳、結婚して1年半ちょい。来年の春過ぎには子供が産まれる予定。
「 人それぞれではありますが、何が欲しいかを確認してするプレゼントはプレゼント
 とは言えないと私は思っております。それには何の感動もサプライズもありません。
 年に一度のびっくりプレゼントですから、アナタが贈りたいものをアナタ自身で選ん
 でください 」
それが嫁のプレゼントに対する考え方だった。
付き合っていた期間も含め、嫁と共に5回目のクリスマスを迎えようとしている。


 嫁の提案は結構ハードルが高い。
クリスマスのプレゼント交換は、互いに相手のことを理解しているかを問われる試金石
だったりする。
 ただ、頭を悩ませながらも嫁の提案に乗せられていることに不満はない。
それが恋人時代から今日まで、趣味や好み、価値観を確かめ合う絶好の場であったからだ。

 嫁はアクセサリーが苦手だ。
嫁本人は違うが親戚に金属アレルギーの女の人がいて、子供の頃にその症状を見てちょっと
怖くなったらしい。現に嫁が持っているアクセサリーは冠婚葬祭用の一連の真珠物ぐらいで、
耳たぶに穴も開いていなければ光り輝く指輪にも関心が無い。
 4年前。嫁と過ごす初めてのクリスマスイブ。
それとは知らずにネームタグ付きの銀のネックレスを贈ってみた。
当然ながら嫁がそれを身につけることはなく、悲しきかなその銀のネックレスは俺達夫婦の
黒歴史として闇に葬られた。

 嫁は派手な服装も好まない。
所有する服のほとんどが無地物かシンプルなチェック柄水玉物で、大きな柄やプリントの入った
物は皆無に等しい。派手なバックプリントなどは論外だ。
 それとは知らずにクリスマス誕生日に関係なく、何となく派手派手なスカーフを贈ってみた。
当然ながら嫁がそれを身につけることはなく、悲しきかなその派手派手なスカーフも俺達夫婦の
黒歴史としてタンスの奥で安らかな眠りについている。

――子供が産まれれば、もうプレゼントどころじゃなくなるかもしれない。
  今年が最後のつもりで気合を入れてウケを狙うか……。
 気合を入れて考えついたもの。それは一か八かの出たとこ勝負なものだった。
若者が集まるファッションビルに決死の覚悟で突撃し、俺は求める品を探し続けた。
12月も下旬。街はクリスマス忘年会シーズンで人で溢れていた。


 クリスマスイブということを除けば平凡な木曜日の夜。
職場のロッカーに待機させていたプレゼントの大きな紙袋が、俺を少しだけ緊張させる。
 嫁と約束した時間に帰宅する。なんの事もない、いつもの通りの帰宅時間だ。
マカロニグラタン、ローストビーフ、鶏の唐揚げ、牡蠣フライ、フランスパンで
作るガーリックトースト、彩りの鮮やかな野菜サラダ。狭いテーブルの上に賑々しく
料理が並び始める。
 食卓にケーキは無い。別に甘いものが嫌いなわけではないが嫁に任せきりだ。
イブにケーキがなくても何とも思わないし、25日突如巨大なホールケーキが現れ
てもたいして驚かない。あれば食べるが無くても構わない、そのぐらいのスタンスだ。

 料理が出揃ったのを確認し、テーブルに置かれたポップなキャンドルスタンドの
ろうそくに火を点ける。
 妊娠中はお酒を飲まないと嫁が宣言しているので、シャンパンやワインは買わずに家に
あるビール(第3のビール)を1人で飲むことに前々から決めている。
いつもは本数制限されているが今日は楽しい飲み放題。第3のビールではあるが遠慮なく
がっつり飲めるのは嬉しいかぎりである。
料理を運び終え、エプロンを外した嫁が第3のビールを持ってくる。
328「 プレゼント 」2/6:2009/12/22(火) 20:29:24 ID:z5Ca7kxL

「 申し訳ない。今年のプレゼントであります 」
「 へ? 」
俺は目を疑った。
「 ごめん。プレゼントになってないけど、どーんと1箱と1パック、アナタの好きな
 ように飲んじゃってください。ボーナス下がらなかったからお疲れ様ということで。
 でも毎日飲むのはダメです 」
神々しくそして力強く燦然と輝く目にもまばゆいメタリックシルバーボディの缶ビール。
その名はアサヒスーパードライ500ml缶!!!

「 うおっ、スーパードライか。家で飲むの久々だな。ありがとう嫁! 」  
子供が産まれることもあり、節約を心がけ渋々第3のビールを飲んでいる俺にとってスーパー
ドライはこのうえない贅沢品だ。
 嫁の作る好物のグラタン、唐揚げを肴にするならビールはいくらでもいける。大喜びで
俺は缶ビールをとった。

「 ちょっと待った!!! 」
俺が缶ビールを開けるのを制し、嫁が立ち上がる。
「 ? 」
台所からもどる嫁の手にはドライアイスばりに白煙したたるジョッキがあった。
「 じゃーん。これでどうぞ 」
「 おおっ、凍ったジョッキか。やるな嫁! 」
 口の中をよだれだらけにしている俺の隣で嫁が缶ビールを開ける。
プシュッ!と、爽快な音が部屋に響く。
ビールが注ぎ終わるのを、俺はおあずけを喰らった従順な犬のようにじっと待つ。
絶妙な割合で泡が盛り立つ。キンキンに冷えたビールと出来たての料理。小さな贅沢と
気配りが大きな歓びに変わる瞬間。これぞクリスマスマジック!

「 嫁よ、俺のプレゼントは食べ終わってから渡す。ウケ狙いのモノだがちょっとだけ
 期待して待ってろ。乾杯! 」
嫁のお茶の入ったグラスに軽くジョッキをあてて、ぐいぐいビールを飲む。
大ぶりの唐揚げにかぶりつく。焼けたにんにくの香りと塩味を含んだ肉汁が口の中に溢れる。
油ともどもビールで一気に流しこむ。刺激が喉を駆け巡る!
「 かーっ、うまっ! 今日の唐揚げも絶品だな。ビールも最高! 」
嫁の笑顔が弾ける。調子に乗ってビールをがぶがぶ飲む。嫁の手造りの料理と笑顔が
あれば500ml缶のスーパードライを2〜3本飲み干すのは容易いことだった。


 食事が終わり嫁が後片付けを始める。
俺の前には残った料理がビールのつまみ用に皿にまとめて置かれている。
 4本目のビールを飲みながらプレゼントの紙袋をちらりと見る。
そしてそのプレゼントを正当化するためのセリフを頭の中で何度も復唱する。
飲みすぎなのは分かっているが、喜んでもらえるかどうか分からない際どい品で勝負
するにはどうしても酒の勢いが必要だった。

 嫁が台所から戻り座る。
無言の嫁だがプレゼントへの期待からか瞳はキラキラと輝き、ネズミに飛びかかる直前の
猫のようにじりじりしている。
 ふいに過去に嫁に贈ったクリスマスプレゼントが蘇る。
銀のネックレス→玉砕。懐メロ歌謡曲フォークソング全集物中古CD5枚→大絶賛。
花束とプロポーズの言葉→紆余曲折あったが無事現在に至る。
任天堂Wii(実は俺が欲しかった)→暇つぶしに大活躍。……そして今日。
――バカだよな俺って……。来年は子供と一緒か……。
しみじみと思いながらも、ひとりでに顔がにやけてくる。

 焦らすようにゆっくりと立ち上がり、部屋の隅に置かれた手提げの紙袋をとる。
――どもるなよ俺!
心の中で言い聞かせ、嫁の前でわざとらしく咳払いをする。
329「 プレゼント 」3/6:2009/12/22(火) 20:31:14 ID:z5Ca7kxL

「 嫁、今年のクリスマスプレゼントだ。
 恋人がサンタクロースか。ユーミンも上手いこと歌ったもんだ。
  嫁よ。おまえは俺にとってかけがえのないプレゼントを運んでくれるサンタだ。
 来年の春には、俺とおまえにとって人生初の大きなプレゼントを授かることになる。
  そこでだ。サンタのおまえにふさわしいものをプレゼントすることにした。
 けして、おまえの愛用している黒のロングコートや紺のピーコート、モスグリーン
 のオッサンくさいコートが嫌いと言ってるわけじゃない。
  でも、サンタクロースと言ったら、やはり赤だろう。
 おまえの趣味じゃないかもしれないが、出かけるときはこれを着て行ってほしい。
 ……開けてくれ 」

 酒の力を借りても自分で言ってて恥ずかしくなる。しかし賽は投げられた。
――嫁よ。年に一度のびっくりプレゼントだ。驚きやがれ!
 渾身の想いを込めて俺はプレゼントを渡した。


「 うわっ!真っ赤! 」
紙袋の中に潜む原色に嫁は声をあげ驚く。
「 くぉー 」
嫁は紙袋から取り出した赤いコートを両手で大きく広げ、喜んでるのか嘆いている
のか分からない微妙な声を出した。

「 ……着てみていい? 」
喜びの言葉が出てこないことに俺は内心ドキドキする。
「 あぁ、着てみてくれ 」
 ショート丈の赤いダッフルコートと白のマフラー。
サンタコスプレとまではいかないが、イメージはあるはずだ。
一か八かの勝負と覚悟は決めているが、過去の苦い経験で俺の心の中は不安で渦巻いている。
コートのボタンとファスナーを外し、嫁はいそいそと袖を通す。

「 ……似合う? 」
「 !? 」

――これがコスプレ効果か……?
 俺は言葉を失った。 

「 ……嫁。……可愛いぞ。……いや本当に 」
まず見ることのない色の服を着ているせいか、嫁のすべてが新鮮に映る。
赤い服の魔法なのか、嫁の頬っぺたは紅く染まっている。
「 俺が言うのもなんだが、想像以上に似合ってるな。しかも若くなった 」
照れているのか、もじもじと恥らう嫁がいじらしい。
「 可愛いぞ嫁! 高校生に見えなくもないぞ、無理すればだが 」
「 ……鏡見てくる 」
紅い頬っぺたの嫁はそう言い残し、鏡台のある寝室に消えていった。


「 くぉー 」
部屋伝いに嫁の声が聞こえてくる。
がささ、からん、とタンスの引出しやクローゼットの扉を開ける音もする。
「 うひょー 」
服の組み合わせでも試しているのだろう、ひっきりなしにがさごそ音がする。
「 おおっ! 」
お気に入りの組み合わせでも決まったのだろう、嫁の声がひときわ高い。
コーディネートはこーでねーと。つまらないシャレを思い出し俺は独り微笑む。

――微妙だが、ウケているのは間違いないようだ。
嫁の声色から判定をくだし胸を撫で下ろす。そして残ったビールを飲み干し、
手持ち無沙汰を誤魔化すように俺は煙草に火を点けた。
330「 プレゼント 」4/6:2009/12/22(火) 20:32:56 ID:z5Ca7kxL

「 突然ですが一緒にお出かけましましょう! 」
「 は? 」
煙草を吸い終わった頃、寝室にいる嫁から声を掛けられる。
「 お出かけってこれから? 」
壁掛け時計の針は21時30分。飲みに行くなら適度な時間だが、お出かけに適した
時間ではない。
「 そう。お出かけって言うより散歩だけどね。道行く人にこのコートを見せびらかす 」
 そう言いながら嫁が姿を現した。
黒の毛糸の帽子に白いマフラー、赤いダッフルコートに色の濃いジーンズ、そして白の手袋。
――可愛いぞ嫁!
酔いも手伝ってか、俺は完全に嫁バカになっていた。
よく見ると手袋ではなく白の軍手なのが球にキズだが、それでもその可愛さに陰りはない。
「 そうだな。行くか! 」
コートを見せびらかす。という言葉に夢見心地で飛び乗り、俺はさくっと着替えを済ませた。


アパートを出て大通りを目指す。
吐く息は白く手袋のない手はかじかむ。だが適度な酔いと赤いコートを着てはしゃぐ嫁の姿に
寒さを忘れ、俺は街灯の下、嫁と肩を並べ歩き続けた。

 嫁に促されるまま道すがらのコンビニに立ち寄る。
何の迷いもなく、嫁は早くも値引きが始まったクリスマスケーキの前に立った。
――しまった。散歩の真の目的はこれだったか……。
ケーキの値段を凝視する嫁の隣で俺は苦笑する。

「 肉まん食べない? 」
雑誌を立ち読みしていた俺に、ケーキや店内を見終えた嫁が聞いてくる。
「 あ、俺はいい 」
10分ほど歩いたとはいえ、たらふく食べた嫁の手料理はまだ胃の中でこなれていない。
 肉まんと暖かいお茶のペットボトルを買い店を出る。
店先の邪魔にならない場所に二人で立ち、俺は煙草に火を点け、嫁は肉まんを食べ始める。

 妊娠6ヶ月の嫁だが、お腹はあまり出ていない。
薄着の時はぽっこりしてきたなと分かるが、厚手の服を着ればそれほど目立たない。
 赤いダッフルコートと白のマフラー。
そのいでたちは、妊婦はおろか人妻とは思えないほどに嫁を愛くるしく見せる。
そして嬉しそうにはふはふと肉まんを食べる姿が、嫁をいっそう幼く映した。
――惚れ直したぞ嫁! 俺のプレゼントは間違いではなかった!
少女のあどけなさを残す嫁に俺は目を細める。そして自分の選択眼に自惚れ酔いしれる。

「 ごめん、残り飲んで 」
飲みきれなかったのか飽きたのか、半分ほど残ったお茶のペットボトルを嫁からもらう。
一口だけ飲んでカイロ代わりに手を温めようとするが、いまいち熱は伝わってこない。
嫁は満足したのか食べ終わった肉まんの包みをいとおしげにゴミ箱に捨てた。
「 じゃあ、次のコンビニ行ってみよう! 」
「 …………。」
赤いコート姿の可愛さにうっかり惚れ直したが、中身はいつもの嫁のままだった。

 結局もう1軒系列の違うコンビニに立ち寄り、ケーキの値引き具合や在庫を確認した。
――去年白いの食べたから、今年はチョコケーキとかティラミスみたいなやつがいいぞ嫁!
隣を歩く嫁に念力を送ってみる。当然というかやっぱりというか素知らぬ顔で嫁は歩いている。
コンビニか洋菓子店か、はたまた今年は無しよで終わるのか? 嫁が俺の念力を受信したかは
明日の仕事が終われば結果が出る。
クリスマスの奇跡なるか?とわざと大げさに考えて、終末のお楽しみをひとつ増やしておいた。
331「 プレゼント 」5/6:2009/12/22(火) 20:34:42 ID:z5Ca7kxL

 夜も10時を廻れば人通りはまばらだ。ましてや今日はクリスマスイブ。好んで
夜の散歩に出る人は少ないだろう。大通りから小路に入ればそれこそ人影は無い。
住み慣れた暖かい部屋に帰るべく、二人それぞれポケットに手を突っ込んで夜の道を行く。


「 雪降ればいいのにね。ロマンチックだし 」
歩きながら夜空を見上げ嫁が言う。
「 いや、それはダメだ 」
「 どうして? 」
俺の返事に嫁が聞き返す。歩きながら俺も答える。
「 おまえの身体に差し支える。寒くなるってことだし雪で滑って転んで怪我されたら大事だ。
 今シーズン雪が降ることを俺は全力で阻止する 」
プレゼントを渡した時の余韻は残っていたが、そう思ったのは事実だ。
「 あはははは。いくらアナタでも天気には逆らえないでしょ。でも大丈夫。このコートと
マフラーがあれば私は無敵だ。雪だって寒さだってどんと来い!であります 」
得意げな子供のように胸をはり、そして言葉通り嫁は胸元をどんと叩いた。
「 痛てててて 」
加減を誤ったのか、嫁は苦笑いを浮かべ胸元をさする。
「 おいおい、それじゃ無敵じゃなくてひ弱にしか見えないぞ嫁 」
「 いやいや、申し訳ない。慣れないことはするもんじゃないな 」
嫁が笑い、俺も笑う。夜の散歩もあと10分も歩けば終わりだ。


「 ねぇ…… 」

 街灯の下、嫁が突然立ち止まった。
問いかけに俺は足を止め振り返る。
嫁は白いマフラーを緩ませ、そして赤いコートの襟元に右手を入れ取り出す。

 きらりと光が反射した。

「 赤ちゃん産まれたら、これに赤ちゃんの名前入れてもいい? 」

 嫁の手のひらで、ネックレスに付いた四角いネームタグが輝く。

「 !! 」

 俺は思わず目をごしごしと擦った……

 それは4年前、俺が初めて嫁に贈ったプレゼントだった――


 ミリタリードッグタグ(ステンレス製)付きシルバーネックレス。男女兼用3980円。
タグの部分を外せばシンプルな銀のネックレスになり、タグはタグで使える。
 すっきりしたデザインで値段も手頃であり、嫁へ贈る初めてのプレゼントとして購入した。
タグに入れる文字を決めてもらい、後でデートついでに店に寄る算段だった。

「 ごめん、アクセサリー苦手で…… それに勿体無いからこのままでいい 」
 嫁の希望でそのタグに文字が刻まれることはなく、俺の目の前で嫁がそのネックレス
を身につけることもなかった。
寂しくないと言えば嘘になり、怒ってないと言えば嘘になる。しかし付き合い始めて間もないこと
もあり趣味の問題だと自分を誤魔化した。そして月日を経て俺と嫁は結婚する――

 ドキドキしながら銀のネックレスを贈ったことも、それを身につけてもらえずそれなりに
落ち込んだことも忘れてはいない。
しかし、そのネックレスの存在自体は、俺の記憶の中から綺麗サッパリ消え去っていた……
332「 プレゼント 」6/6:2009/12/22(火) 20:36:29 ID:z5Ca7kxL

――嫁……。おまえのびっくりプレゼントは凄いな。

 4年前の小さな切ない願いが、時を越え、いま叶えられた。

 信じるものは報われる。感謝感激雨あられ。喜びひとしお幾星霜。
もはや例えがあっているのか分からない感動の言葉が俺の頭の中を縦横無尽に駆け巡る。
嫁と向き合い、そして嫁の両肩に手を添える。タグを手に笑みを浮かべる嫁に俺は女神を見た。

「 ……嫁 」
肩に添えた両手をゆっくりと上げ、嫁の頬っぺたを優しく包み込む。
「 嫁よ。感動した。素晴らしいアイデアだ。ぜひそうしよう。……だがな 」
 ぷにっ。
俺は嫁の頬っぺたを両手で強く押さえつけた。

「 まったく4年も焦らしやがってこの馬鹿嫁がーっ!!! 」
何故か可愛さ余って憎さ100倍が炸裂する。笑いながら俺は怒った。
「 怒っちゃダメでしゅ! 」
「 やかましいっ! 」
頬っぺたを押さえられ、じたばたともがいてる嫁に構わず、俺は頬っぺたを
いじり倒し、たこちゅう顔にしたりきつね顔にしてもてあそぶ。

――ありがとう嫁! おまえは最高だ!
嫁の両手を取り、ぶんぶん振り回す。嫁の胸元でタグが軽やかに踊っている。
「 冴えてるな嫁! いいアイデアだ。名前決めないとな。まだ男か女か分からないのか? 」
「 聞けば分かるかもしれないけど、それは産まれてからのお楽しみ! 」
笑顔の嫁も負けじと腕を振り返す。
「 おっ、そうだな、それがいいな。来年春までドキドキだ 」
「 そっ、ドキドキであります! 」
 ほろ苦い思い出のプレゼントが、新しい息吹を奏でた。
身につけなくていい。飾らなくていい。そこにあるだけで構わない。
やがて産まれる子供と共に、それは生涯、大切な宝物になるだろうと俺は信じている。
寒空の下、無邪気な子犬のように嫁とじゃれあう。そして繋いだ手を大きく振りながら歩き始めた。


「 やっぱ降らないかな雪 」
嫁が夜空を見上げた。
「 ちょっとだけなら俺が許す 」
俺も夜空を見上げる。
「 あはは。じゃあ、ちょびっとだけお願いします 」
「 あぁ。ちょびっとだけな 」

 見上げた先の夜空には、満天にきらめく星も、優しく舞う綿雪もない。
それでも俺は、この年に一度のロマンチックな夜に感謝した。
 そして子供が無事に産まれるよう願い、さらに図々しくちょびっとだけ
雪を降らせてくださいと面倒なことも願う。



ついでに最後にもうひとつ……



――すべての人へ Merry Christmas


おわり
333創る名無しに見る名無し:2009/12/22(火) 23:49:15 ID:imKs0kne
>>322-324
>>327-332
乙乙! どっちも微笑ましい家族だなぁ。
書き手の視線の温かさを感じました。
334創る名無しに見る名無し:2009/12/23(水) 07:39:42 ID:YwKPLDRX
乙です。>2作品
やっぱクリスマスだから温かみあるね
335創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 06:44:59 ID:X71FdoaI
336創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 13:54:16 ID:PBQ5hiFE
>>335
爆発させてやってください
33712月「ある静かな朝に」1/2:2009/12/24(木) 18:35:49 ID:PBQ5hiFE
寝床の脇にある物干し竿に、よれよれになった自分の靴下を洗濯ばさみでつるした。ぶら下がる
それを数秒間じっと見つめた後、いつもより強く感じる寒さから逃れるようにして、僕は布団に潜
り込んだ。
僕ももういい歳だから、気分が浮き立っていたわけではない。だが、その夜はなぜだか、なかな
か寝付けなかった。

僕のところにも、昔はサンタクロースがやっきてきていた。僕は彼から、超合金のロボットや、
プラスチックの怪獣を貰った。
もちろん、僕は彼のことが大好きだった。

僕が小学校に上がった年のことだ。クリスマスイブの夜、たまたま尿意をもよおして起きた僕は、
枕元にプレゼントを置きに来た父とばったり出くわした。
次の年から、サンタは来なくなった。

それから何度目かの冬から、僕はある活動を始めた。毎年クリスマスシーズンが巡ってくると、
友人達の中から有志を募る。そして、楽しそうに語らうカップル達に恨めしげな視線を投げかけな
がら、近所に「クリスマス中止のお知らせ」を貼ってまわるのだ。
もちろん、それでクリスマスがなくなることは一度もなかった。

33812月「ある静かな朝に」2/2:2009/12/24(木) 18:36:39 ID:PBQ5hiFE
十二月二十五日の朝、いつもより早く目が覚めた。
寒い。
この日がクリスマスであることを素直に認めたのは何年ぶりのことだろう。
 今年、例の「クリスマス廃止運動」への不参加を決めたのは、何か特別な理由があったからでは
ない。
ましてや、友人達が疑っていたように、僕に恋人ができたからでもなかった。
ただ、昔サンタからの贈り物を受け取ったときの気持ちを、ふっと思い出したのだ。そうしたら、
クリスマスをクリスマスとして過ごさないのは、何だかもったいない気がした。
だから僕は、その特別な日をひとりで祝って、何年ぶりになるかわからないサンタクロースへの
お願いをした。
クリスマスを一緒に過ごせる恋人をください、と。

僕は、温かい布団を引っ剥がして起き上がると、ゆうべ用意しておいた靴下に触れてみた。
それは、空っぽのままだった。
プレゼントを入れるには、少し靴下が小さすぎたかな。そんなことを思いながら、僕はひとり乾
いた笑みを浮かべた。
339創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 18:37:58 ID:PBQ5hiFE
以上投下終了
使用したお題は「クリスマス」 「サンタクロース」 「プレゼント」
340創る名無しに見る名無し:2009/12/24(木) 22:03:31 ID:HH1fqoVt
>>337-339
乙!
南君の恋人なら靴下に余裕で入るのにな。って古いかw
34112月 クリスマスの贈り物 1/5:2009/12/25(金) 05:41:59 ID:m9DhC4dV
どこかで赤ん坊の産声が聞こえたような気がした。
眼を覚ますとそこには『仕事』が待っていた。
まだ半分夢のなかにいるようにぼんやりとした状態で、用意されていた制服に袖を通す。
するすると腕や脚を通っていく、すこし冷んやりした布の感触でようやくしゃんとして来た。
辺りを見回すと俺と同じように制服を着込んだ連中がこれまた同じように
今しがた目がさめたといわんばかりの顔で辺りを見回していた。
しかし、不安そうな顔をしている者は一人もなく、
のんきそうに上を見上げたり、鼻の頭を掻いたりしている。

ややあって一人の人がどこからか現れ、アナウンスをはじめた。
遠すぎて顔もよくわからないほどだったが、不思議によく透る声が
耳元で喋っているかのように聞こえてきた。
「諸君、よく集まってくれた。今年もまたこの日がやって来た。
今日は特別な日である。故に諸君らにこの『仕事』を行ってもらう。
例年どおり、集荷は完璧に済ませてある。あとは配達するだけだ。
夜が明けるまでに配達を終わらせること。以上だ」
簡潔すぎるほど短いアナウンスが終わると、その人はどこかへ引っ込んでしまい、
後に残った聴衆がわらわらと動きはじめた。
押されるままに人波に乗って進んでいると、人の流れはトラックが整列しているガレージに入っていった。
トラックの上には看板がぶら下がっていて、そこに書かれた記号と、
制服の右腕に施された小さな縫い取りを、周りの奴らが見くらべているところから察するに、
つまりは縫い取りの記号と同じ記号が記された看板の下にあるトラックに乗ればいいらしい。
右腕を見ると、俺の縫い取りには「J-か-259-11」とあった。
迷いつつやっと同じ記号の看板を見つけると、トラックの助手席には
すでに先客が座っていた。見上げている俺に気付いた男がするすると窓を開けて首を突き出した。
「よう、ひさしぶり。よろしく頼むな」
その男はにっと笑ってそう言ったが、俺には相手の顔に見覚えがない。
しかし、男からはどこかこの『仕事』に慣れた印象を受けたので
きっと誰かと間違えているんだろうと思い、
ああ、とかうん、とか曖昧に返事をしてトラックに乗り込んだ。

キーを回してエンジンに点火すると、車体が唸りをあげて振動が体に伝わってきた。
心臓の鼓動が何倍にも大きくなったようで心地よい。
しばらくアイドリングして、出発口へと向かう。
出発口は込み合っていたが、混乱はなく、次々にトンネルへと
トラックが吸い込まれていく。どのトラックにも二人づつ制服の人間が乗っていた。
助手席の男は最初挨拶したっきり何も口を開かなかったので、俺も黙って車を運転した。
トラックは長いトンネルを列をなして走っていく。
トンネルの中はオレンジ色の光とその光と光のあいだにできる影とで縞模様に色分けされて、
相当長い時間そのしましまの中を走っていた俺は、だんだん眼が回ってきてしまい、
相方がそろそろだ、とやっと言葉を発した時には何のことかと一瞬きょとんとしてしまった。
何が、と問おうとした時にはトラックはすでにトンネルを抜け、紺青の闇に包まれていた。
ごうっと風を切って走る音。流れ込む大気の冷たく尖った匂い。
あっという間に過ぎていく白い光の水銀灯。ごとごとと揺れる振動。
つぎつぎに流れる道路の白いリボン。そして、前方に広がる街の灯り。
それらが五感のすべてを一気に占領し、奪っていった。
34212月 クリスマスの贈り物 2/5:2009/12/25(金) 05:43:40 ID:m9DhC4dV
「やっほっ!」
隣の男が急に叫んだ。俺はびっくりして飛び上がった。
「やめろよ」さしかかったカーブに慌ててハンドルを切る。
「びっくりするだろ」
「これが叫ばずにいられるかって!」
相方は押し黙っていたさっきとは打って変わって陽気になり、
意味もなく拳を突き出したり、脚をばたばた動かしている。
「ああ、こうでなくっちゃあ。なあ」
とよく訳の分からないことをしきりに呟いて、にかにかと笑った。
そのうち思い出したようにトラックの物入れから封筒を取り出し、俺に渡した。
「そうだ、これ、お前の分」
白い封筒はほとんど重みがなかったが、紙が入っているようだった。
「何、これ」
「何って……」
相方はうれしそうに溜息をつくと封筒を開いて中身をとりだしてみせた。
「三時のオヤツ代だよ。これが楽しみなんだよな」
中には紙幣が入っていた。
「三時になったらコンビニ寄ろうぜ」
男は大事そうに懐に封筒をしまった。

最初の家に着いたのはちょうど午前一時だった。
適当なところにトラックを置いて、コンテナから荷物をとりだす。
男は胸ポケットから鍵を取り出すと、玄関の鍵穴に差し込んでひねった。
扉は造作もなく開き、灯り落とされた暗い廊下からほのかに暖かい空気が漂ってきた。
靴を脱いで家にあがり、その家の子どもが眠っている部屋を見つけて、枕もとに荷物を置く。
それから玄関に戻って、靴をはき、家の外に出て扉にふたたび鍵をかける。これで一丁上がり。
「簡単だろ?」
相方は鍵を得意そうにかざして眉をぴくつかせた。
「鍵はお前も持ってる。俺はこっちやるから、お前はあっちからな。
一ブロック終わったら、次へ移動だ。眠っている奴には触るなよ。眼を覚ましちまうからな」
じゃ、と手を挙げて相方は次の家に入っていった。
簡単とはいえかなりの数の家があったし、時間制限もある。
俺も早速『仕事』にとりかかるべく、鍵を扉に差し込んだ。

つぎつぎと相方と俺は『仕事』を仕上げ、早くも三時近くになった。
「もうすぐ三時だな。このアパート仕上げたら、休憩しようや」
二階建てのアパートで1Kタイプはやりやすくて良かった。
なにしろ一部屋しかないのだから子どもがどこに寝ているかすぐに分かる。
相方は一階を受け持ち、俺は二階に向かった。
錆び付いた階段が昇るたびにぎしぎしと音を立てて、寝ている住民を起こさないか少し心配した。
扉を開く。どこだ。ベビーベッド。あそこか。いた。置く。
メリークリスマス、坊主。いや、嬢ちゃんか? まあいい。
次。いない。おかしいな、気配はあるのに。押し入れかよ。
押し入れをベッドにしてんのか。やるねえ。置いて、と……。
なんだこりゃ、手紙か。「サンタさんへ どうぞのんでね」
牛乳かあ。一応もらっとくか。ありがとよ。さて次は……。
34312月 クリスマスの贈り物 3/5:2009/12/25(金) 05:45:19 ID:m9DhC4dV
最後は一番端の家だった。これが終われば休憩だ。
俺は鍵穴に鍵を差し込んだ。キイィ……とわずかに軋んで扉が開いた。
暖かい湿った空気の中に何の匂いかは分からないが、いい匂いがした。
台所と部屋を隔てるすりガラスの戸の向こうに六畳間が見えた。
靴を脱ぎ、音を立てないよう静かに部屋に入る。
布団の敷かれた六畳間は豆電球の弱い光でぼんやりと明るかった。
その灯りの中で母親とおぼしき女と生まれたばかりの赤ん坊が寄り添って眠っていた。
女と子どもの他に人は居らず、また、一緒に生活している気配もなかった。
部屋は荷物も少なく、粗末だったが、こざっぱりと片付いている。
女はまだ若く、隣で眠る赤ん坊の持つ幼さがほんの少し残っていた。
わずかに開いた口から静かな寝息が聞こえた。
その眠る女の顔をどこかで見たことがあるような気がして俺は枕元にかがみこんだ。
どこでだったか……。
思い出せないまま眺め入っているうちに、寝乱れて白い首筋に
まとわりついている髪に触れてみたくなり、手をのばしかけたが慌てて引っ込めた。
眠っている人間には触ってはいけないのだ。
そろそろ三時だった。俺は持ってきた荷物を枕元にそっと置いた。
「メリークリスマス」
密かにそう囁くと女の瞼がぴくりと震えて、ほんの少し微笑んだようだった。
明日の朝、眼を覚ました女は俺が来たことを覚えているだろうか。

トラックに戻ると相方はすでに受け持ちを終わらせて、俺を待ち構えていた。
「よ、終わったか。さあ、コンビニ行こうぜ、コンビニ」
男は今度は自分で運転席に座り、コンビニ求めてトラックを走らせた。
深夜だというのにコンビニには煌煌と灯りが点り、暗さに慣れた眼にはひどく眩しかった。
「ああ、何買おうかなあ」
あれも食いたい、これもいい、と上機嫌で相方は自動ドアをくぐって
スナック菓子の並んだ棚に突進した。
俺は自動ドアが開いた途端、いらっしゃいませー、と呼びかけられたことに少々気後れしつつも、
店内をゆるゆると物色して歩いた。と、レジ前に置かれた雑貨の棚に眼が留まった。
そこはいわゆる季節モノが置かれる棚らしく、今この時期は
小さいクリスマスツリーや光る雪だるまの置物が置いてあった。
そのなかに、金色の金属でできた小さな長方形の物が一個だけ
ぽつんとラックに立てかけられていた。
その形状からすると、煙草を吸う時に使う、ライターのようだった。
そのライターにはなぜか真ん中に窓が開いていて、中に雪の結晶が閉じ込められていた。
なぜ窓が開いていて雪の結晶が入っているのか分からなかったが、
手に取ってためつすがめつしているうちに、天辺の突起を押して火をつける仕組みに気付いた。
強く突起を押してみると、ぱちっと音がしてオレンジ色の炎が点き、
同時に窓の中の雪の結晶が七色に輝いた。
「わ!」
思わず声が出てしまったが、これはちょっとした感動だった。
結晶は一センチにも満たない大きさなのに、細かい枝に別れているところまで
ちゃんと作ってあって、それが光るととても綺麗なのだった。
すっかり感心して、何度もぱちぱち火をつけていると、
背後を女の二人連れがくすくす笑いながら通り過ぎ、やっと我に返った。
そりゃあ、大の男がでかい図体屈めて、光るライターに夢中になってりゃ、笑いたくもなるだろう。
俺は値札に眼をやった。630円。もらった金で十分足りる。
煙草は吸わないが、これほど気に入ったのだ。買おう。
34412月 クリスマスの贈り物 4/5:2009/12/25(金) 05:47:16 ID:m9DhC4dV
ライターとその他に食べ物を買って、俺が先にトラックに戻っていると、
相方が袋をガサガサいわせて戻ってきた。
「なに買った?」さっそく袋からおにぎりを取り出して
かじりつきながら聞いてきたので、俺はライターを取り出してみせてやった。
「なんだ、それ? ライターか?」
「そう」俺は火をつけて結晶を光らせた。
「なかなか綺麗だろ?」
相方はへえー、ふーんと言いながら雪の結晶を覗き込んでいる。
「お前、こういうのが好きなんだ」
「うーん、まあね」
相方はライターを俺に返してにっと笑って言った。「いいじゃん」
「どうも。あんたは何を買ったんだ?」
「俺は食べ物専門。これ、うまいな。お前も食べてみろよ」
袋からチョコレートバーをつかみ出して、俺に差し出すのでありがたく貰うことにした。
チョコレートバーを齧りながら、さっきから気になっていたことを聞いてみる。
「なあ」
「あん? 何?」
「あんた、最初久しぶりって言ってたけど、前に会ったことあったっけ」
「いや、ない。たぶんな」
相方のあまりにもあっさりした答えに俺は苦笑した。
「ないって……。じゃあ適当言っただけかよ」
「そう」
至極当然といった風情の相方にそんな適当な、と返すと存外まじめな声が呟いた。
「しかたないだろ。前に会っていたかもしれないが、覚えてないんだ」
「……」
「お前もそうだろ? 何か思い出せることあるか?」
そう言われて、何かを思い出そうとしたが何も思い出せない。
風の音、エンジンの振動、ライター、光る雪の結晶。
藍色の暗闇、暖かい匂い、長い髪、眠る女の顔。
思い出せるのはさっき経験したことばかり。
そのひとつひとつに何かを引き起こす引き金があるような気がするのに確かにはつかめない。
そして、一つだけ思い出したことがあった。
「そうか」
「思い出したか?」
「そう、だったな」
「そうだ。それが俺たちがこの日にこの『仕事』を任される理由だ」
俺は黙って手の中のライターを見つめた。
「そろそろ行こうや。時間も残り少ない」相方はごみを袋に突っ込んで言った。
俺は頷いて赤い制帽を被り直した。
34512月 クリスマスの贈り物 5/5:2009/12/25(金) 05:50:23 ID:m9DhC4dV
それからひたすら仕事に徹し、気がつけば受け持ちの家はほとんど終わっていた。
空も少しずつ白んできて、鳥も鳴き始めている。
「やれ、そろそろ終わりか。あっという間だったなあ」
相方が腰をそらせてあくびまじりに言った。
「さて、一番鶏が鳴く前に帰らにゃあ。あんたも、ごくろうさんだったな。
楽しかったか、こっちは」
「……ああ」
「それは良かった。……どうした?」
ライターを握りしめて突っ立っている俺を相方が振り向いた。
「帰りたくない」
無駄なことと分かってはいるが、それでも言いたかった。
「帰りたくないよ」
相方はそんな俺を見て溜息まじりに笑った。
「ああ、帰りたくないな。でも、しかたがないんだ。
体を持たない俺たちがこっちに来られるのはこの日だけなんだ。
この『仕事』__子どもにクリスマスプレゼントを配るこの『仕事』こそが、
俺たちに与えられたクリスマスプレゼントなんだ」
俺はライターのすべすべした表面を撫でた。真ん中の窓の下にはこう書かれていた。
”I wish you a Merry Christmas."
「そうだったな」
「そうだ。さあ、もう行こう。一番鶏が鳴いちまう」
俺はライターを地面に置いて、深呼吸して空を見上げた。
あの女はもう眼を覚ましただろうか。
そして我が子に捧げられた枕元のプレゼントを見て、なんと思うだろうか。
けれども二千年前の昔から、最初に我が子に贈り物をもらった女が
思ったように、その答えは決まっている。
「ああ、神様。ありがとう」
346創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 05:52:48 ID:m9DhC4dV
投下終了
使用お題はクリスマス・プレゼント・サンタクロース(サンタさん)
思いつくままに書いてみたのでなんかおかしいかも。
347御都合主義は聖夜に微笑む 0/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:12:25 ID:9WsxY+cg
テンションだけで書き散らしたおぞましいなにかの投下行きます。
使用したお題は「クリスマス」と 「サンタクロース」
348御都合主義は聖夜に微笑む 0/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:13:15 ID:9WsxY+cg

 俺は今、巨大なもみの木が植えられた通称ツリー広場の植え込みにこそこそと身を隠し
ている。腹立たしいほど綺羅びやかなに飾り付けられたツリーの周りでは、カップル達が
公害のごとくラブ×2☆ムードを周囲に垂れ流しており、地球温暖化の原因は何よりもコ
イツらであるという確信を得ずにはいられなかった。この後はべんきょう部屋にてエンジ
ョイしナイトの後に朝チュンを迎えるに違いない。リア充は爆発しろ。然る後に死ね。

 一時の感情に流され、御都合主義に踊らされた輩共め。お前達は本当にお互いを好きな
のか、愛してるのか問い詰めたい、小一時間と言わずにじっくり問い詰めたい。
 まるでカップルの見本市であり、見本商品は俺の傍を通りかかる度に妖怪にでも出会っ
たような顔をして通り過ぎて行く。ハッキリと明暗を分けたこの構図に、普段ならば冷静
かつ温厚、聖人の如き心の広さを持つこの俺も、カップルと寒さとアベックに冷たい怒り
を感じていた。酔いの冷め始めた身はもちろんのことながら、心もフィンランド人が日光
浴をしそうなほどに寒い。頭髪は寒くなりたくない。

 読者諸賢は何故俺がこそこそと立ち回らなければならぬのか。男ならば堂々と胸を張り、
正面から極めて紳士的な態度でカップルに生卵を投げつけるべきだと思う方も多いだろう。
しかし俺は大いなる目的のためにかような屈辱を甘んじて受け入れ、それでいてなお毅然
としているのだ。俺にはやらなければならぬことがある、止めてくれるな友よ。
 その大いなる目的、あるいは今そこにある危機は現在甘い睦言を囁き合うでもなく、ス
トロベリーにグラニュー糖をぶっかけたような甘いキスを交わすでもなく、ひっそりと身
を寄せ合いながらツリーを見上げている。
 吐き気がするほどロマンチックであり、その光景を視線で殺せるほどに睨みつつ俺はい
かにして二人の仲を引き裂こうかと思案していた。これから馬には近づけないが、彼を女
などという悪魔に最も近い生物から引き離せることを思えば安い取引である。俺もハッ
ピー、彼もハッピー。女は少々悲しむだろうが、悪魔に近いのだから血も涙も無いに違い
ない。

 俺は思慮深い男として勇名を馳せている。算段に算段を重ね、策を魔法使い風のババァ
の如くねるねるねるねする。俺の権謀術策が間違っていたことは一度もないと断言できる。
その策が出来上がるころには全てが手遅れになっている事が多いからであるが。石橋を叩
いて壊すとはまさに俺に相応しい言葉である。
 あまりに二人の動きが無く、よもや凍っているのではあるまいかなどと考え始めたとき、
奇っ怪な影が俺の右斜め前の植え込みにうごうご蠢いているのに気がついた。
349御都合主義は聖夜に微笑む 2/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:14:32 ID:9WsxY+cg

 二人の後ろ姿を視線で殺せるほど睨みつけ、うごうご蠢いているのはどうやら地団駄か
何かを踏んでいるらしい。長いコートの下で足だけが動いているので妖怪か何かかと思った。
 なんという奇々怪々。なんという負のオーラ。あれはまさしく聖夜に現れる怪人、二人
の小指と小指に結ばれた赤い糸を斬っては捨て斬っては捨てるマサカリ振るいに違いない。
 人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死ぬ。馬はどこか。ヤツの弱点は馬である。し
かしここはチョコレートやらマシュマロやらのような甘ったるい雰囲気漂うツリー広場。
馬の姿なぞどこにも見当たらないのは当然の結果だった。
 ならば、ヤツを止められるのは誰か。一時の感情に流された軽薄なカップルしかいない
この場で、おっとこらしく怪人を退治せしめる硬派な者は俺しかいない。完膚なきまでに
叩きのめせば、ミニスカートのサンタの一人や二人降臨するやもしれん。二人の仲を引き
裂くのは俺だ。邪魔されては適わん。

 すわ飛び出そうとするが、敵は怪人。我々の常識が通用しない相手である。うかつな行
動は避けよ、ここはすでに戦場だ、と俺の頭の中の歴戦の兵士が告げたために観察を続け
ることにした。
 どう退治したものか脳内議会で侃々諤々の大論争を行いながら、じっとり五分ほど観察
を続ける。あの後ろ姿はどこかで見たことがあるような気もするが、生憎交友関係が広い
とは言えない俺に怪人の知り合いはいなかった。
 脳内軍部が「先制攻撃だ! 背後からバックドロップキックをお見舞いすべし!」それ
に対する脳内穏健派が反論しようとした時、怪人がさっとこちらに振り向いた。

 ただならぬ危険を敏感に感じとった俺はすぐさま頭を下げて植え込みに隠れた。
 俺はマサカリをどう捌き、奪い取った後にどう反撃するかを綿密にシュミレートしてい
ただけであり、決して予想外の事態にどう対処すれば良いかわからず、頭が真っ白になっ
たわけではない。
 それゆえ、懐とでも言うべき植え込みの隣に滑り込まれたのは完全に俺の誘いに乗った
形であり、全て計算ずくのことである。

「……こんなところ、こんな日に何してるのっ!?」
 それはこっちの科白だな、怪人! という言葉は正常に発声されず、俺の喉から出たの
は奇っ怪な唸り声であった。
「な、なんでアンタがこんなところで隠れてるのよッ!?」
「それはこっちの科白だッー!」
 今度は正常に発声された。
 怪人マサカリ振るいの正体は、あろうことか俺の幼馴染、あるいは腐れ縁、宿敵と書い
て友と呼ばぬ関係、二葉日向その人であった。
350御都合主義は聖夜に微笑む 3/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:15:32 ID:9WsxY+cg

 真に勝手ながら時間軸を一時間ほど巻き戻す勝手さを許して欲しい。そもそも、俺が何
故単身聖夜の街へと出奔し、不要で不毛な戦いに参戦するに至ったか、それを語るべきで
ある。
 つい一時間ほど前、俺は男汁で煮染められたヤギの部屋で二人、陰々滅々と酒を呑み交
わしていた。青春真っ盛りのはずの17歳の男子二人が、不景気な顔をして不景気な会話
をしつつ発泡酒を呷っているのだから日本経済も不景気になるはずである。

「ナカヤのヤツときたら、まったくけしからん。我ら三人、この四畳半で恋だとか運命だ
とかその他軽薄で唾棄すべきものにまったく関わらず、孤高で誇り高く気高く生きようと
いう契りを交わしたというのに!」
 俺が熱いパッションとアルコール臭さを込めてそう言い放ち、ぐいりと発泡酒を呷るが、
ヤギは一向に乗ってこない。
「ナカヤ君は何だかんだ可愛らしい顔立ちをしていますしね。きっとモテるんですよ。僕
たちとつるまなければ、今頃はリア充だったに違いない」
「まるで俺達が貧乏神のような言い草ではないか。自分を無意味に貶めるのは無意味に悲
しくなるから精神衛生上やめておいた方が良いぞ」
「あなたと一緒にしないでもらえますかねぇ。少なくとも僕は巻き込まれてるだけのよう
な気もしてるんですが」
 くいりと眼鏡を押し上げたヤギがぬけぬけとそんな言葉を言い、にたにたと笑うので俺
は一層腹が立ってきた。

「火に油を注ぐことと、人を無意味に煽ることと、人が右往左往しているサマを眺めるの
が至上の喜びにしているお前がよくもそんなことを言える。一度寺か軍隊でひん曲がった
性根を叩き直すべきだ」
「それこそ人聞きの悪い。それではまるで妖怪だ」
「限りなく妖怪に近い人間だろうが、お前は」
「でもそういうアナタだって、二葉さんという幼馴染がいるじゃないですか。幼馴染です
よ幼馴染、それなんて、ですよ」
「……何を言ってるんだ。あれは女じゃないぞ。あれこそ妖怪に近い」
「あれ扱いと妖怪扱いを二葉さんに聞かれたら、一体どうなることやら楽しみですねぇ。
幼稚園から綿々と続くアナタの恥ずかしい過去が白日の元に晒されるに違いない」
「精神的に攻めてくるとは、まったくこれだから女は。男らしく正面から挑んてこんかい」
「まぁ今も恥ずかしい人生を送ってるんですから、大した痛手ではありませんでしたね」
「よし分かった表に出ろ」
「寒いので嫌です」
「軟弱者め」

 もう一度缶を大きく傾け黄金色の液体を一滴まで飲み干すと、俺は大きく息をついた。
「そもそも、モテるモテないの問題ではない。つまりは精神の問題である。恋愛なぞ一時
の気の迷いに過ぎず、あんなものは御都合主義だ。ちょいと可愛い娘に告白されたからと
言って、ほいほいと付き合うようでは鍛錬が足りぬ。本当によく考えたのか。よくよく考
えた上での決断なのか」
 飲めぬ酒をぐいぐいやった所為で、俺の頭の中は小さなおっさん三人がぐるぐると駆け
まわっているかのようだった。舌もどんどんと回り、そろそろ自分が何を言っているのか
分からぬようになってきていた。
「アナタは考えたうえで間違える。あるいは考えすぎて後の祭り。考えない方が良いんじ
ゃないですか?」
「そんなもの、動物と変わらぬではないか。俺は理性が耳から溢れ出るほどに理知的な人間だ」
 どうだか、と鼻で笑ったヤギの眼鏡を狙ってサキイカを投げつけて当面の怒りを理性的
に避けた俺は、ビニル袋をがさごそやって新たな発泡酒を手にとった。
「そろそろやめといた方が良いんじゃないですか? 目が据わってきて、なんだか阿修羅
のような顔になってきてますよ。それを眺めても僕としてはまるで面白くない」
「それはお前の目がアルコールにやられている所為だ。あるいはアルコールが足りていない所為だ」
351御都合主義は聖夜に微笑む 4/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:16:40 ID:9WsxY+cg
 畜生ナカヤのヤツめ、と怨念を込めてプルタブをプシュリとやる。俺とヤギ、そして今
や裏切り者となったナカヤの関係は、一年生の時に遡る。俺とて一年生のころは甘酸っぱ
かったりほろ苦かったりする青春に一人武者震いし、来るべき不純異性交友に備えたものだ。
 しかしながらそれはまったくの杞憂に終わったことは何故であろうか。そろそろ三年生
になろうというのに未だ分からぬ。それどころか二つのクラスにも未だ打ち解けていない
のだから、さしもの俺も少々の驚きを隠せえない。そしてほぼ同様の体を成していたヤギ
とナカヤとつるむようになり、幸運か不運か、二年生でも同じクラスになってしまい今に至る。
 ある時、その学園生活つまはぶき者三人組でダイヤモンドよりも固く、つや消しブラッ
クの如き後ろ向きな契りを交わしたことがある。その一つに「いかなる場合でも軽薄な感
情で異性と付き合わぬこと」、というまったくもって硬派な条文がある。

「ナカヤはそれを破ったのだ! 裏切り者め、不届き千万。天は必ずや鉄槌を下すであろ
う。天が下さなければ俺が下す。俺がやらねば誰がやる」
「ふむふむ」
 俺が鼻息荒く息巻いていると、ヤギは一人猥雑に笑っていて大層気持ちが悪い。こうい
う人を不快にさせる笑い方ができるのは日本広しといえどなかなかおらぬに違いない。そ
して大抵、この笑い方をしているコイツは碌なことを考えていないので要注意である。
「どうした。お前の顔面が気色悪くて俺は吐いてしまいそうだぞ。酒を飲みすぎたか」
「……もしですね、僕に彼女が出来ていたら、どうします?」
 何を言ってるんだお前は。どうせコイツのことだ、顔面の半分が瞳のアニメキャラかあ
るいは空気が主成分の嫁、良くてラブプラスのことを嫌がらせに彼女などとうそぶいたの
であろう。馬鹿馬鹿しく、さらに不快であるとはどこも良いところがない。俺は傲然と鼻
で笑い、当然のことを言ってやる。

「万が一億が一、お前に立体かつ生身のがーるふれんどが出来ていたとして、お前は今こ
んなところで酒なぞ飲まずにツリー広場できゃっきゃうふふしているところであろう」
「それがですね、僕の彼女――蒼井さんという方なんですが――その人も何やら彼女の親
友とやらに付き合わされていてですね。きっと僕と同じようにどうしようもない阿呆の悲
しくなるほど阿呆な言動をうんうんと優しく聞いているに違いないですよ」
 自信に充ち溢れた俺の的確な指摘は、まるで1+1は2ですよと説明するかの如き当然
の声音で返された。
 まさか、の思いがアルコールでブーストされて脳内を高速で駆け巡る。そういえばコイ
ツは最近付き合いが悪くなった。俺が仏心を出してゲーセンやら何やらに誘ってやっても、
コイツはちょっと所要が、などとぬかして断るのだ。その理由を問い詰めてみても絶対に
喋らず、いつの間にか煙に巻かれて俺は一人格闘ゲームで16連勝する羽目になるのだ。
「そのまさかです」
 地の文を勝手に読むな……じゃなくて。
「なんということでしょう」
「そんな明日世界が終わります、って聞かされたような顔しないで下さいよ」
 いっそ終われ。むしろ滅びろ。

「さて、これからどうしましょうか。僕がとっても有難いアドバイスをサンタさんの代わ
りにプレゼントフォーユーしましょうか?」
「そんなモノも情けもいらんッ! くそったれー!」
「あ、ちょっとどこ行くんですか。外に出たらアナタ本当に幸せオーラに当てられて死ん
じゃいますよー」
 ファッキンヤギの声を背中で聞きつつ、三下のような我ながら情けない捨て台詞を吐い
た俺は、コートも持たずに外へと、戦場へと、脱兎の如く飛び出していた。今の俺にタイ
トルを付けるならば明日無き疾走がピッタリであろう。
352御都合主義は聖夜に微笑む 5/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:18:00 ID:9WsxY+cg

 イルミネーションに彩られた街、サンタの格好をしたケーキの売り子、幸せそうなカッ
プル……そういった聖夜を感じさせる全てから目を逸らさず、むしろ睨みつけてやった俺
の勇気に読者諸賢らは敬意を表すべきだ。表してくれないとさすがの俺もちょっと泣きそ
うになる。
 哀れに思われたのかケーキも売りつけられることなく、キャッチに相手をされることも
なく、俺はそういった全てを元から相手にしない颯爽とした歩調でもってツリー広場まで
辿りついた。無論周囲を睥睨することとナカヤとその彼女を探すことも怠らなかった。魚
の腐ったような目と評される俺の瞳も、この時ばかりは鷹のように鋭い眼光だったに違いない。
 そして俺は大方の予想通り、ツリー広場でナカヤペアを発見し、監視を開始したのだ。
植え込みに隠れ、頭だけ出して様子を伺うことに俺はスパイか何かにでもなったかのよう
だった。こちらスネーク、目標に変化は見られない。残念ながら周囲の人間はそうとは思
ってくれず、今にも通報されそうな勢いだったが。
 その程度では俺の強固な精神は揺るぎはしなかった。

 しかし今の状況にはさしもの俺の精神も少々波立つ。
「で、アンタ何してんのよ」
「だからお前こそ何してるんだよ」
 俺は紳士である。誰が何と言おうと紳士であり、一時たりとも紳士の心を忘れたことは
無い。ゆえにこの状況もレディファースト。もっとも、二葉は淑女というには程遠い精神
的暴力女だが。
「アンタもしかしてあのカップルの仲を引き裂こうとコソコソ後をつけるなんてことを……」
「不純異性交遊をしないか見張っていただけだ。俺が嫉妬の炎に駆られてアイツら引き裂
いてやろうとしてるだとか、ヤギにも彼女が出来て衝動的に飛び出してしまって今大層困
ってるだとか、そういうことはまったく無いぞ」
「ヤギって、八木沢浩助のこと?」
「なぜお前がそれを知ってるんだ」
「蒼井の彼氏とアンタが友達だったとは……あーあ、こりゃ世も末だわ」
「出たな蒼井ちゃん。ということはヤギが言ってた阿呆ってお前のことか」
「馬鹿ヨウ・小学生時代特選集フォルダが火を吹くときが来たようね」
「すいませんっした」
 守りたいプライドが、それでもあるんだ……! たとえそれがもう幾ばくかも残ってな
いにせよ(主に二葉の所為である)、それでもなおバラされたくない過去がある。今頭を
下げることは戦術的敗北でも、戦略的に見れば完全なる勝利である。

「それで、お前は何してるんだよ。もうこれで三回目だぞ」
 仏の顔も三度まで。残念ながらコイツは仏とは対極の位置に居る生物なのであと十回ほ
どは繰り返さなければいけないかもしれない。
「ふ、不純異性交遊をしないか見張ろうかと……べ、別にトモに彼氏が出来るわ蒼井にも
彼氏ができるわでもういっそ引き裂いてやろうかしらと考えたわけじゃないんだからねっ!」
 うわぁインスタントツンデレ。お湯を注いで三分でデレます。しかし言ってることが客
観的に見て最悪だ。コイツは馬に蹴られて死ぬに違いない。
353御都合主義は聖夜に微笑む 6/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:19:00 ID:9WsxY+cg
「さて、じゃあこれを着て貰うわよ」
「なにその黒くてモコモコしたの。おっかねーよ」
 取り出したるは黒に染め上げられたサンタ服である。
「つべこべ言わない」
 そんなものどっから出したのか、何ゆえ二着あるのか、何ゆえそんなノリノリなのか、
こういう時誰かと会ったらテンション下がるだろフツー、などなど、聞きたい事は山ほど
あったが、俺は二葉の目が蛙を睨む蛇のそれになっていたのでをとりあえず服の上から着
ることにする。サンタ帽は勿論つけ髭まで黒いので驚きの黒さである。心に残った一片の
白ささえも覆い隠してしまいそうにブラック。つや消しのな。

「あ、あとこれ」
 長いコートを脱ぎ捨て黒のサンタに変身した二葉が、次に取り出したるはホッケーマス
クである。専門用語で言うとジェイソンマスク。これはさすがに白かったが、今のファッ
ションに合わせれば闇の中に白いマスクだけが浮かび上がり大層不気味、というか心臓が
弱い人が見れば多分その場で死ぬ。なんという迷惑な格好。コーディネートのセンスが狂
ってやがる。
「以上の理由によりそんな異常な格好はしたくないでござる」
 何言ってんだこいつという目で見られたので大人しくつける。くそったれ。

「で、これからどうするんだ?」
「決まってるでしょ。あの二人の仲を引き裂くという目的のためなら、アンタと手を組む
のもしょうがないわ。目的のためなら手段を選ばないのが私のジャスティス!」
「いや、なんつーかもう俺お腹一杯やわ……」
「ここで退いたら男が廃るわよ。というか廃らせるわ、私が」
 行くも残念引くも残念。前門の残念、後門の残念。残念ながら残念です。

 そうこう言っている内に、ナカヤとトモちゃんとやらの影が一つになっていた。まった
くもって完璧な構図、完璧なシチュエーション、BGMの一つでもかけてやりたいぐらい
だった。
「あ、しやがった……キス……」
「何ッ!」
 対するこちらは黒のサンタ服にジェイソンマスクが二人。どこかに光が射せば影が生ま
れるというのは本当なのだと俺は実感した。

「今何時?」
「もうすぐ21時だな」
「性の6時間まで時間が無いわね……キスまでしてフラグは完全に立ってるわ。あ、動き
出したわ。まずは後を尾けるわよ」
 性の6時間などという卑猥な言葉を女の子が口にしたことに俺はショックを隠しきれな
かったと言うほか無い。やはりコイツは女の子じゃない。もっとおぞましいなにかだ。
 黒のサンタ服はイルミネーション煌く街の中では何の迷彩効果も発揮せず、雪山に現れ
た二羽のカラスのように人目を引いた。銃弾のように周りの人間から視線が飛んでくる、
もしくは俺達を大きく迂回するルートをとって通り過ぎていく、あるいはその両方という
冷たい洗礼を浴びているが、二葉はまるで気にしちゃいない。俺とてさすがに通報されな
いか心配になってきたぞ。
354御都合主義は聖夜に微笑む 7/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:20:02 ID:9WsxY+cg
「それにしても……なんというか、ラブラブね……」
 それにはまったく心の底から同意せずにはいられなかった。二人はラブラブである。こ
の関係を果たしてぶったうえで壊す、つまりブチ壊して良いのだろうか、と俺が思ってし
まうほどにラブラブである。きっと二葉もそう思ってるに違いない。
「ククッ……反吐が出るわね……」
 魔王かお前は。コイツに良心を期待した俺が馬鹿だった。
「よろしい、ならば破局(クリーク)だ!」
 やっぱ魔王だった。ジェイソンマスクの所為で声もくぐもり魔王成分は二割増し(当社
比)である。

「ん? 何アイツら」
 見れば、二人は俗に言う二人のチンピラに絡まれているようだった。暇だなぁお前ら、
聖夜に何をやっとるんだ若いのが。
「二人を引き裂くのは私達よ! そうはさせないわ! こうしちゃいられない、すぐに行
動開始よ!」
「まぁ落ち着け。ここは慎重に策を――」
 俺の言葉なんて聞きもせず、二葉は俺の手をとって駆け出した。相手が二葉じゃなかっ
たら、あるいはこんな状況じゃなければ、せめてこのような格好をしてなかったら、と俺
は思ってしまう。二葉の手の暖かさを俺が感じなかったかと問われれば、それもまた嘘に
なる。

「――ちょっと待ったぁッ!」
 二葉が大音声でそう叫び、カップルvsチンピラという人生格差社会in聖夜の間に割
って入る。俺も僅かに遅れて馳せ参じる。出来ればもうそろそろ帰りとうございます。
 チンピラは勿論、ナカヤとトモちゃんも驚きを露にし、俺とてこれからどうするかなど
何も考えずに飛び込んでしまった。この場でどうやら落ち着いているのは二葉だけのよう
だった。二葉の落ち着いている、というのは何時も通り脳味噌が壊死しかかっている、と
いう意味なのが真に残念である。

「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて死ぬという!」
 左手を腰に、右手をチンピラABに向けてビシリとポーズする二葉。え、一体なにが始
まるんです?

「だがしかしッ!」
 渾身の力を込めて拳を唸らせる二葉。当然の反応ながら、チンピラABが目に見えて気
圧されていく。黒のサンタ服のジェイソンマスクの二人組がコフーコフー言いながら出て
きた、それだけで俺ならば良くて小の方を失禁する自信がある。

「ここに馬は居ない! ならばっ、誰が成敗するというのか!」
 チンピラABが「サーセンしたーっ!」の言葉を残して遁走していく。

「――そう、私達だ! 観念し……ってあれ……?」
 彼らの脳がシンナーで溶けかかってなくて本当に良かった。俺もできれば一緒に連れて
いって欲しい。それにしてもコイツの脳味噌は何を吸えばこんなに溶かせるのだろうか。
じっくりコトコト煮込んだのだろうか。

「なんだ、こっから私のチェーンソー拳が光って唸る予定だったのに。まったく、最近の
チンピラは根性ないわねぇ。ま、命拾いしたんだから感謝して欲しいぐらいだわ」
 さて、今そこにある危機は去った。次は俺達が国家権力に追われる側になる。どう見て
も不審者です本当にありがとうございました。
355御都合主義は聖夜に微笑む 8/8 ◆30AKLWBIYY :2009/12/25(金) 06:21:15 ID:9WsxY+cg
「――あ、ありがとうございますっ!」
 二人が声を揃えて感謝の言葉を口にする。おいおいなんだ、もしかしてこの二人もじっ
くりコトコト煮込まれたのか? どう考えても通報だろ常識的に考えて。
 さすがの二葉も狼狽しているようだ。白い顔をこちらに向けてコフーコフーうるさい。

「……べ、別にアンタ達を助けようなんてこれっぽっちも思ってないんだから! 私達は
カップルの次にああいう人種が嫌いなだけで――!」
「も、もしかして、二葉ちゃん!?」
 本当のことを言うな本当のことを。そっとしといてやれよ、頼むから。少なくとも俺は
そっとしておいてくれ。
「違うわトモちゃん! 私は名もなきブラックサンタ! 赤い糸をちぎっては投げちぎっ
ては投げ……」
「お前は次に「トモちゃん言うてるやないか」と言う――!」
「トモちゃん言うてるやないか――ハッ!」
 ビシリと言ったナカヤがニヤリと笑う。クソッ、嵌められた!

「その声はヨウ君だね。お顔を拝見、っと」
「それじゃーコッチも。えいやっと♪」
 するりと剥がされゆく仮面に、俺終わったなという感想を抱かずにはいられなかった。
社会的な意味で。冬休み明けの学校とかどうしよう。どんな顔して行けば良いんだよ。あ
えてこのマスクもう被ってくか?
「やぁこんばんは。メリークリスマス、二人とも」
「メリクリー。二人仲良くそんな格好して何やってるのー?」
 あうあう、と言いたげな顔でこっちを見る二葉。こっち見んな、俺だってもうどうした
らいいか分からん。なるようになれ、勝手にしやがれ。

「あ、もしかしてー二人も付き合ってるのー?」
 何ら邪気の無いトモちゃんの言葉に、二葉が耳まで真っ赤に染まる。「な、何アンタ顔
赤くしてるのよっ!」小突かれた。そりゃコッチの科白だが、確かに顔が熱いような気が
しないでもない。それはきっと恥ずかしさの所為だ。主に今の格好と行動に。
「なんだよそれーまったく熱いなー」
 今度囃し立てるはナカヤである。もういっそ殺してくれ。クリスマスツリーに吊るしてくれ。

「いや、でもヨウ君も何だかんだ二葉ちゃんと上手くやってるようで安心したよ」
「あ、私もー。二葉ちゃん大事にしてあげてね、ヨウ君!」
「それじゃあ、お熱い二人を邪魔しちゃ悪いし、僕達はこの辺でおさらばしようか」
「そうだねナカヤ君♪ それじゃあ良い聖夜をー! 助けてくれてありがとねー!」
 言いたいことを言いたいだけ言うと、二人はきゃっきゃうふふしながら嵐のように去っ
ていった。取り残された俺達二人はまったくもってどうしたらいいか分からず、ぼうと突
っ立っていた。

「――へくちっ」
 二葉は今更寒さを感じたようだった。俺が黒のサンタ服を二葉の肩にかけたのも、提案
したのも俺が紳士だからであり、また硬派な男だからである。それ以上でもそれ以下でもない。
「あー、とりあえず、こうしてるのも阿呆らしいし、どっか喫茶店でも入ろうか」
「う、うん……」
 俯きがちに言ったのはきっと俺の真剣な顔を見ても何も面白くなかったからだろうし、
頬が赤いのもきっと寒さの所為なのだろう。だがなぜ、何時も通りの声音じゃないのか、
それだけが少し気になったが俺は考えないことにした。
 どちらからともなく俺達は手を繋いだ。なんという御都合主義か。この世はそういう唾
棄すべきものに溢れているが、少なくとも今日ぐらいは無視してやってもいい、と俺の温
かな左手が微笑んでいた。

<了>
356創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 06:24:13 ID:K4GSsCPx
ふたりとも投下乙!
今月はにぎやかなクリスマススレだな
357 ◆DAJaLeRcPc :2009/12/25(金) 07:02:52 ID:OfH2C8Cu
FLASH板から参加しようと機会を伺っていたロム専ですが、
ずるずるとスルーが続いてしまったため来年からは決意を新たに参戦しようと決意し、
今回他の板のスレ用に作ったものですが挨拶がてら披露させていただきます
↓フラシュが置いてある自サイトです
http://www1.atpages.jp/gonbe1/091224.html
358創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 17:31:38 ID:Sy1JrkcM
いい盛上がり!月刊誌なみに集まったね。
359創る名無しに見る名無し:2009/12/28(月) 10:08:14 ID:9WYzaqnP
1月のお題「寅」
360創る名無しに見る名無し:2009/12/30(水) 00:21:00 ID:Te1CzJq9
「凧」も入れて
361創る名無しに見る名無し:2009/12/31(木) 09:11:05 ID:WNabNfim
今年の1月の御題を参考までに調べてみたら…
「白」「門」「牛」「日の出」「こたつ」「正月」「海」「はがき」

…時節以外の御題も出したくなった
ということで「王」もしくは「王様」
362創る名無しに見る名無し:2010/01/01(金) 02:09:40 ID:cLuMZrjG
あけおめ!
今月のお題は「寅」「凧」「王」または「王様」
今年も創作頑張ろうぜ
363代行です:2010/01/01(金) 09:21:49 ID:utFhp5a8
「初日の出」

俺「虎よ。見や、あれが日本の夜明けだ!」キリッ!
虎「がおー!」キリッ!

 ヒュー ピュー
 
俺「すまぬ、曇りで見えねー。しかも猛吹雪……」
虎「……。」ガクガクブルブル



「凧」

俺「虎よ。長方形に足二本。あれが日本の標準的な凧だ」
虎「がおー!」ワクワクドキドキ

 ワーイワーイ… キャッキャウフフ… オトウサンスゴーイ! イトキレター。センノカゼニナッテトンデイクー…

虎「……がお?」
俺「所詮、野生とはいえネコ科か。確かにあれは蛸じゃない」
虎「……。」グゥーギュルギュル


「王」

俺「虎よ。百獣の王と言えばライオンだがおまえは何の王だ?」
虎「がおう!」キリッ!

俺「……そのまんまじゃねーか、虎王って」
  ブチッ
虎「がおーっ!!!!!」コオウモイロイロアリマシテ(ニヤリ)
俺「痛ででででで!ギブギブ!」グエ……


「年賀状」

俺「虎よ。年賀状と言えば?」
虎「がしょー!」ヴベッ!!!
  ゲホッゲホッ!ゴヘッゴヘッ!ゲフンゲフン!シチテンバットウナナコロビヤオキ!

俺「……虎よ。……正直すまんかった」


「初夢」

俺 「……みけ。一富士二鷹三なすびらしいが、今年は虎だったな」ウツラウツラ
みけ「にゃー」ウダウダ
   チュンチュン… チュンチュン…  
俺 「……とりあえず寝正月でいいや」モフモフ
みけ「にゃー」ゴロゴロ


あけおめおちゃらけ投下ですまん
364創る名無しに見る名無し:2010/01/01(金) 12:18:29 ID:CzAZgS+f
かわいいな
365創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 22:39:40 ID:BIy/dwra
震える虎かわええw
366創る名無しに見る名無し:2010/01/22(金) 16:22:13 ID:pHz8Yiwg
新城と千早でイメージしてしまったので脳内がやばい。キュンキュン来る
367創る名無しに見る名無し:2010/01/22(金) 23:47:31 ID:IYLcvbGx
虎かわいいよ虎
368創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 01:58:00 ID:2hnFC8sB
久しぶりに見たら2月のお題が決まって無い件について

と書きつつ提案できない俺ダメポ
369創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 20:16:27 ID:a8aTqDj+
こんなスレもあったね。
370創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 20:27:12 ID:2sYscau/
お題スレに食われた感は否めない
371創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 20:33:02 ID:qJIeitvS
お題スレもほとんど人いねえよw

2月のお題案「豆」「鬼」「チョコレート」
372「豆」「鬼」「チョコレート」 :2010/02/27(土) 11:34:24 ID:wrytyB+/
「 春を待つ人 」

 北国。県庁所在地まで車で2時間。全国展開しているコンビにまで車で20分。
バスは3時間2本の割合で最終は20時。合併で「市」と名前がついただけの山奥の町。
 そんな田舎育ちのアタシが人生初の試練に立ち向かおうとしている。
というのは大袈裟で同じ年に生まれた全国の人達と同様、高校受験を控えただけの
しがない中学3年生だ。

 田舎なので自宅から通える高校の数には限りがある。
大いなる志を持った人を除き、ほとんどの人は上中下と記されたエスカレーターに踏み込む
かのように自分の成績に似合った地元の県立高校を受験する。かくいうアタシもエスカレーター
に乗った一人なのだ。

 節分が過ぎバレンタインデーも過ぎ、公立高校の試験日ももうすぐ。
しかし無邪気な人たちはことあるごとに豆まきだチョコレートだと浮かれていた。
 田舎のせいか、受験シーズン真っ只中なのにクラスに殺伐とした雰囲気は無い。
それぞれが自分の学力に似合った高校を受験する為、勝てる見込みもないのに心に巣食う
鬼と戦うような悲壮感をただよわせる人は皆無だ。
 アタシも地元では一番頭がいいと言われる高校を受験するのだが、先生に大丈夫と
お墨付きをもらっているのであまり不安は感じない。
だいたいからして競争率が1.2倍の高校だ。落ちる人のほうが圧倒的に少ないのだ。
極端に言えば隣の人より点数がよければ合格なのである。
 
 それでもアタシは抜かりなく勉強する。それが受験生の勤めだ。
というのは建て前で、合格祝いそして誕生日プレゼントとして買ってもらえる新しいパソコンと
兄から譲り受けたレスポールもどきのギターの音をパソコンに取り込むための機材の為に
アタシは頑張っている。
 はたから見れば鼻先ににんじんをぶら下げて一生懸命走る馬だ。
しかし向上心のかけらも持ち合わせていないアタシはそのくらいの餌がないと意欲が
沸かないのだ。

 3月生まれのおひつじ座。クラスで一番最後にアタシは誕生日を迎える。
人より早くオトナになりたいのにクラスの一番最後にやっとみんなと同じ歳になるというのが
嫌だった。肩を並べたと思ったら4月生まれの人に先をいかれるのが悔しかった。 
そして残酷なことに高校受験、中学の卒業式を終えてもアタシひとり14歳のままだ。

 今の時期、純白の真綿が空を漂うかのように雪が降るときがある。
薄曇の中、アルピナのアゲハ蝶が舞うかのようにふわりふわりと、その場の時間の流れが
止まったのかのようにゆっくりゆっくりと宙を彷徨い落ちてくる。
その雪が降る頃にはもう春はすぐ近くまで来ている。
 近くの桜が咲き始めるの4月下旬。ドラマやアニメのように満開の桜に出迎えられて
新しい学び舎に通いはじめることはこの地方ではありえない。
 だからアタシは卒業式の日に雪が降るようにとせつに願う。
冬を惜しむかのように、しかしそれで冬の終わりを告げるなごり雪。
その幻想的な世界のなかで卒業式を迎えられたらアタシは万感の想いの中で静かに涙するだろう。

 高校受験、中学の卒業式を終えてもアタシは14歳の冬のままだ。
でも苦難のときもあと少し。胸を焦がして待ち望んだ誕生日はもうすぐそこ。
そして昼と夜とが平等な日を超えたとき、アタシは正真正銘の15の春を迎える。

 雪に閉ざされた山間の町。
3月になっても残雪が消えることはない。それどころか朝晩道路はひっそりと獲物を待つ
仕掛け罠のように凍りついている。
 4月になっても桜は咲かない。桜前線の便りを聞いてはずっと罪の無い桜の木を
恨めしげに眺め、無いものねだりで南の国に憧れる。
 それでも着実に春は足音は近づいて来ている。
雪解けの始まった地面からふきのとうやつくしが顔を出すのもあと僅かだ。


おわり
373創る名無しに見る名無し:2010/02/27(土) 14:35:05 ID:EG+vg5Cs
>>372
乙!もう今月は投下ないかと思ったw
受験の時はめっちゃ焦ってたなぁ〜
受かると分かっていても不安だった
そういう懐かしい事を思い出させてくれる小説でしたw
374創る名無しに見る名無し:2010/02/27(土) 23:15:24 ID:DswFh4fQ
乙です!
受験かー、懐かしいな……
ほのぼのしい話で面白かったです!
375創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 04:05:25 ID:D4C8gps2
三月です。
>>1を見てきたら先月の二十日から次の月のお題を決める議論をするとか……
ええ、わかってます。過疎なんです。
では人が来てくれる事を祈ってお題をいくつかあげておきます。

三月、お題(仮)

ひな祭り
ホワイトデー
卒業式
376創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 04:58:20 ID:/cGWAwDp
「来てくれたんだ」

「まぁ、先輩今日で卒業だし」

「そうだね、卒業だ。忘れてた」

「卒業式でてたじゃん」

「ふふふ」

「なんだよ」

「わたし、今から大事なこと言うつもり。きみ、オロオロするだろーなー、って思って」

「しねぇよ、オロオロなんて」

「本当かな」

「なんだよ、なんかうぜぇな」

「ごめん。ふふふ」

「早く言えよ。なんだよ」

「実は私……男なの」

「今ここで言うべき冗談じゃない」

「本当なんだってば。ほら、半陰陽、って言うのかな。リョーセーグユーってやつ」

「いや、でも、もしそうなら、そんな女らしい体つきにはならないはず」

「事実は小説より奇なり、ってね。触ってみて、付いてるのがわかるよ」

「…………わかった」

「……」

「……」

「…………」

「…………付いてないじゃねーか」

「付いてるはずないじゃないか。キミは馬鹿か。えっち。責任取って付き合え」

「もう少しまともな告白は出来なかったのか」

「出来ません。ノリでやっつけないと融けて無くなりそう。ほら、はやく。イエスかノーか」

「ノエス」

「……どっちだ!」

おわり
377創る名無しに見る名無し:2010/03/05(金) 08:00:55 ID:ltO0iAdW
ノエスw
378創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 17:20:44 ID:UTok6vV4
>376
学生服セーラー服(コートなし)学校の裏庭あたり。という情景で想像する。
あまりのエロさにちん(ry
379創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 20:10:42 ID:+61nUjJa
エロは自重しろ
つまんねー
380創る名無しに見る名無し:2010/03/06(土) 22:42:40 ID:+61nUjJa
すまん、言い過ぎた
381創る名無しに見る名無し:2010/03/15(月) 06:13:46 ID:zyMPN/iV
『今から卒業式を初めます』
死立バトルロワイヤル高校で、感動の卒業式が始まった。
体育館の壇上には、マイクスタンドにもそもそと語りかける北野先生。
正対するは、戸惑いを纏う幾十人かの、武器を携えた卒業予定者達。
『みんなどうしたの?殺らないんなら俺がやっちゃうよ」
マイクスタンドから離れつつ喋る言葉尻は地声となって体育館の空気を震わせる。
一人の卒業予定者に歩み寄り、突如腹を殴る。
ぐえ、と息を吐き、北野先生に倒れ掛かる卒業予定者。
見る間に足下に拡がる血溜り。
「ひひっ、血の気が多いねアンタ。ブラッド・ピットに似てるっていわれない?」
殴ったのではなかった。
隠し持って居たナイフで、下腹を抉ったのだ。
息も絶え絶え寄り掛かる卒業予定者を突き飛ばし、同時に刺さったナイフを横に薙ぐ。
裂けた腹から腸が溢れ、血が溢れ、糞便と腸液と血の混ざった汚濁が散乱する。
爆発する悲鳴。
「俺を殺したら、君達は自由。俺がお前達を殺したら、俺が自由。ってわけ。簡単だろ?」
悲鳴の渦中に、ほんのわずかばかりいた幾人かの冷静な思考の持ち主達は、
むりやり我が手に押し付けられた凶器の意味を知る。
全員で掛かれば、おっさんの一人や二人、殺せる。
そう思った卒業予定者の一人が、学校から支給された模造刀を北野先生に降り下ろした。
が、北野先生は上段に振り上げられた刀の懐に一足で飛び込み、
刀を握り込む卒業予定者の手首をナイフの柄でしたたかに打った。
鈍い打撃音。
鋭い熱さ。
奪われ、北野先生の腕の延長となった刀。
自らの、首のない身体。
それが、模造刀で戦いを挑んだ卒業予定者が最後に見た光景であった。
ごろんと転がった首をサッカーボールのように足で踏み止め、腰に指してあった拳銃を抜く。
ばん。
はじける様はまるで西瓜だった。
「座頭市って知ってる?勝新太郎の。かっこいいんだよアレが」



この日、卒業証書は発行されなかった。
一枚たりとも。

終り
382創る名無しに見る名無し:2010/03/16(火) 21:17:18 ID:ctW/2YKz
乙。このスレで殺伐ネタというのも珍しい。
個人的には苦手だが、きれいにまとまってると思う。タイムリーでもあるしw
383創る名無しに見る名無し:2010/03/16(火) 21:22:58 ID:ctW/2YKz
乙。このスレで殺伐ネタというのも珍しい。
個人的には苦手だが、きれいにまとまってると思う。タイムリーでもあるしw
384創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 10:31:32 ID:QvPx5URd
来月のお題を決めネバダ

季節もののお題だと2週めだからあんまり思い付かないんで、
なんか季節関係ないお題もあると嬉しい
385創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 15:06:08 ID:gbb0CgQH
タイホから判決に至るまで留置場、拘置所生活を
描くバラエティー小説

小説家になろう連載中 
 第7話 魔女4 更新しました
タイ○ホ日記で検索してください
 
新作 200文字小説 70文字小説 20文字小説
 同時 連載中




386創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 17:28:50 ID:zGhlsSds
もう二十日なのに、まだお題すら決まってないじゃないか!
ちゃちゃっと決めちゃおうぜ
387創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 17:56:19 ID:5cSG6RL9
もう散ったけど桜とか
忘れ物でもしたのか春なのに雪を降らせてきた冬将軍さんとかどう?
388創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 18:08:44 ID:zGhlsSds
いいんじゃね?
389創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 22:43:44 ID:VIPWCnmA
冬将軍か、作るぞー!と思ったら今日はもう五月だったでござる

昨年の五月のお題
@「五月病」
A「雨」
B「黄金」
C「金」
D「休日」
E「休み」
F「連休」
G「子供の日」
H「茶摘」
I「トトロ」
J「豚インフルエンザ」

カオスだな、今年はどうするね
390創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 22:49:21 ID:hjYyjCss
とりあえずそのIDがあまりにもおいし過ぎてうらやましいVIPにWCとか
普天間基地移設とか?
391創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 22:53:22 ID:Tm1EdTNk
政治的なのはいやだなあ
>>389のIDにちなんで「VIP」「便所」とかどうだろう
392創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 23:09:44 ID:hjYyjCss
>>391
それもそうだ
ならとりあえず
VIP
WC
GW
五月病
メーデー(これも政治か?)
母の日
当たりを俺は上げてみる
393創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 23:19:03 ID:VIPWCnmA
俺ID自重しろw

>>392
俺は良い案捻り出せんなぁ、諦めてその中からさっそく作ってみるとしよう
394コアなアマコアファン/90年代ガノタ風味:2010/05/02(日) 03:51:41 ID:c3LLE7Yd
大学四年。自宅。PCとゲームにかこまれて。
俺はVIPACの同胞と剣豪機VSロケオンアモー機体を戦わせていた。
遠隔地にいる同胞とスカイプで会話しつつ2段QBで無駄に高機動アピール。
刀の錆にしてくれるわ!と意気込んだところでブレオン機体のテレフォン居合い斬りに斬られてくれるわけもなく、
骨粗鬆症の骨もびっくりするぐらいすかすかという表現が似合う外しっぷりで翔ぶ。
「ガンダムはウイング以降衰退しているよな」
ACはガンダム主流のリアルロボット界にひとつのオルタナティブをもたらしたが、
やはりリアルロボット好きとしての下地を作り上げたガンダムを嫌いにはなれぬもので、
自然ACファンにもガノタが多い。ボンボン読者も多い。
『ウイングゼロカスタムってほんまはウイングカスタムになるはずやったんやで』
そして自分の言いたいことだけ言うから会話にならないことも多い。
ウイング以降に月の力が云々で滑った後、ときた光一は一時ガンダム漫画から干されてしまった。
まぁこの話は別の奴に話そう。
ぼんぼんと見当外れの位置にばら蒔かれるロケをよけながら、
会話のボールは受け取る。
「ふーん、なんでゼロが付いたんだ?」
『ウイングカスタムって頭文字考えてみーや』
「WC。便所みてぇだ」
『そや。いくらなんでも皮肉利きすぎとるやろ』
知らなかった。
ウイングゼロカスタムのゼロが、よもや便所を回避するためだったとは。
「なー、ガンダムごっこしようぜ」
『ええで。俺はツインバスターライフルごっこやらせてもろけどな』
一度システム画面に戻って、機体図面をロード。
両肩にコジマ砲を積んで、アンテナとスタビでサテライトシステムを真似た機体に変える。
Xにしたいところだが、ACの基本デザが割とゴチャついているので已むなくXXぽくしあげている。
相手はコジマ銃持ちの中2機体のはずだ。
『悪い。用事出来たから中止や』
ぶつっと言う音がインカムから響き、スカイプが切断されたことがわかる。
俺はPS3を操作、本体の電源を切るを選択。
Wiiを起動しつつ思うことは、MH3プレイヤーにガノタが居るかどうかということだけだった。
就活は依然、庸として進まない。

395創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 09:41:54 ID:VxFEznC6
乙!
就活する気どう見てもゼロじゃねえかwww
あと余人がなんと言おうともゼロカスタムはカッコイイと思うのだ
396創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 14:25:20 ID:Xw1pT9x6
WC回避って言うと、かっこいい技っぽく聞こえる
397WCの神は紙となりえず:2010/05/02(日) 21:51:14 ID:c3LLE7Yd
駅のWCで座り往生。
紙が無いなんて半端なもんじゃねえ。
ていうか紙も無かったんだが、それよりももっとヤバい状況だ。
お前らは体験があるか?
便所でスッキリしたときにふと扉に目をやると、そこに奴が居た、なんて恐ろしい体験の、よぉ。
そこには居たんだよ、不吉な漆黒を死神のローブみたいにはためかせた、特大の“G”が。
グロテスク?グロリアス?グロコス?ノンノン。ゴキブリのGだ。
しかもそれがお前、座ったちょうど顔あたりの高さで、今にも翔びだちそうに、
羽をバタつかせてやがんだ。
俺は恐怖で悲鳴もあげられずに固まったね。
靴を取れば叩けるが、それにはしゃがまねばならない。
それはつまり奴に俯角を譲る形になり、そのうえ背中を向けることになる。
まず間違いなく、奴は俺に飛び掛かるだろう。
想像してみやがれ、“背中に脂ぎった便所Gが這いずる”なんて恐怖を!
そんな事を考えている内に、やっこさん、遂に翔びやがった!


ブーーーーン!!!!!!


「ほぎゃーーー!!!!?」
奇声をあげてしまった俺は尚も動けない!
貯水タンクに背をを押され、俺はもはや絶対絶命!
排水の陣!前門のG!肛門を拭く紙!そう、紙も無いんだった!
ちくしょう!エンガチョだ俺!もうGと友達んこしてGGGとか名乗って生きて行くしかない!!


──ぽちゃん


「……へ?」
ま抜けた声をあげ、俺は事の次第を、股の下で俺の産んだ子と共に泳ぐGの姿で把握した。
股抜きだよ!
スマタとかそういう意味じゃなくてサッカーでGKがやらかしたらボコられるアレだよ!

奇跡。


そうとしか言い様が無かった。
神は居たのだ。
俺は泳ぐGに脱出の隙を与えず、直ぐさまタートルズの元に送った。
Gならばカビのトッピング付きピザでも食べるだろう。

さて。
次は紙を用意してくれ、神様。


398創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 01:53:40 ID:3YzHJZnO
ラジオ聴く時間なの思い出して慌てて書いたら超きったねぇ話になってたでござるの巻
スルーしてよいです
399創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 03:11:23 ID:YuPea4qV
うんこにGなんて大好物のネタをスルーしろとな?
ていうか、なにげにダジャレーじゃねえかw
400創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 20:55:46 ID:TQMiH5rC
来月のお題が決まってないでござる
401創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 21:10:18 ID:Ye660WIb
「箱庭」
402創る名無しに見る名無し:2010/05/31(月) 21:28:36 ID:TW6WlO/6
「結婚」
403箱庭結婚式:2010/06/02(水) 21:53:57 ID:gpME1qJ6
「あのね、この人が新郎さんで、この人が新婦さんなの」
 そう言うと加奈子さんはくまのぬいぐるみをを新郎の位置に、うさぎのぬいぐるみを新婦の位置に置いた。
「それでこの人が牧師さん」
 続いてねこの人形を先に置いたぬいぐるみと対面する形で置く。
「この人が新婦さんのお父さんで――」
 次から次へと加奈子さんは教会の内部を模した箱庭に人形を置いていく。嬉しそうに笑いながら。


 これは『箱庭結婚式』箱庭療法の新しい方向性として発案され、急速にある精神治療の現場に広まっている療法だ。
 その主な対象は『未婚の女性痴呆者』である。
 2010年頃から急激に上昇を始めた日本人の『生涯未婚率』は、2043年現在、実に63%という驚くべき数値を指しており、
日本社会において『未婚の痴呆者』という存在もまた珍しいものでは無くなってしまった。
 この『杉浦加奈子さん(78)』もその『未婚の痴呆者』の一人だ。彼女はこの年齢に至るまで幾度か恋愛を経験する機会があったが、
結婚へと至る相手が一人も存在しなかった、当然子供もいない。だが結婚願望は今でも持ち続けている。
 年収三百万円以上、束縛しない男性。彼女の結婚相手に求めていた条件はそれだけだ。
それでも彼女と結婚する男性は一人も居なかった、理由は分からない。強いて理由をあげるなら日本人男性全体が結婚をしなくなった所為だろう。

 2015年頃から未婚男性は『何故結婚をしていないのですか?』という質問に対し『金が無い』『相手が居ない』といった様な理由以外に、
『結婚する理由が無い』といったような回答をする男性が増え始めた。その事について当時の専門家は『二次元の美少女に傾倒しているからだ』
『日本人男性の性欲が全体的に無くなっている』等と様々な意見を出したが、理由を具体的に指摘できる人間は誰も居なかった。
 その結果として『結婚する理由が無い男性』と『結婚したくても物理的に相手がいない女性』が生まれた。
そして『結婚したくても物理的に相手がいない女性』達は五十歳前後になると何故か通常よりも高い確率で『痴呆』症状が発生したのだ。
その事はある種の社会問題になり、国は様々な対策を取ったが効果が出る物は一つも存在しなかった。
 その状況下で『未婚の女性痴呆者』の精神治療法として確立されたのがこの『箱庭結婚式』だ。

 栃木県在住の精神科医が『未婚の女性痴呆者』に箱庭療法を試みた際に『未婚の女性痴呆者』は結婚式の情景を箱庭内に再現した。
その事に興味を覚えた精神科医は他の『未婚の女性痴呆者』にも箱庭療法を試みたところ、
『未婚の女性痴呆者』達はある一定の割合で結婚式の情景を再現する事ということを発見した。
 そして不思議な事に、結婚式の情景を箱庭内に再現した『未婚の女性痴呆者』達は痴呆の症状が回復しはじめたのだ。
この結果に驚いた精神科医はこの事を『箱庭結婚式による女性認知症患者の治療』として論文にまとめ精神医療学会に報告した。


「汝くまは、このうさぎを妻とし、病める時も健やかなる時も共に歩み、うさぎを想い、うさぎを愛し続ける事を誓いますか?」
「はい、誓います」
 加奈子さんは箱庭の中で結婚式を進める。自分で語りかけ、自分で答え、自分で祝福する。
「それでは誓いのキスを」
 そう言った加奈子さんは本当に嬉しそうに、うさぎとくまのぬいぐるみをキスさせた。
404創る名無しに見る名無し:2010/06/02(水) 23:14:48 ID:KCD/+XyW
結構ストレートに来たな
結婚式の手順を全部一人で進めるって言うのも寂しいもんだ
405創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 00:16:57 ID:fa++CRgh
おお、すごい!
なんというか、そこはかとない哀しさを感じさせる作品
結構、現実味あるなぁ
406創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 12:27:21 ID:KrFJDt6g
また規制かなぁ
お絵描き板からの投稿です。柿板のレベルさげてごめんなさいv

http://imepita.jp/20100611/493750
ごめんトリ間違った。

久しぶりなんでみなさんヨロ。
規制長かったけど見てたよ。
409創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 22:06:55 ID:uS9B9eIO
柿板からとは珍しいな
すげえシュールで、なんか懐かしい感じの絵だ
410創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 20:40:01 ID:vUFaBN/j
状況がさっぱりわからんw
だがなんか味のある絵だ
411創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 14:32:59 ID:F8bnt5na
募集チュウ
412携帯 ◆4c4pP9RpKE :2010/06/26(土) 17:02:48 ID:8wUYJmX5
《結婚式》

 西暦2856年、男性が極端に減ったこの時代に於いて雄は超法規的な人類レベルで守るべ
き種の財産とでも言える別格の扱いがされるようになっていた!
 男子が生まれた家系はNMBF(ナチュラル・メイル・ボーン・ファミリー)として国家に
庇護され男子嫡出の遺伝子として人類の恒久的繁栄に活かされる栄光を受け、ついでに超
好待遇の男子嫡出安楽街と呼ばれる酒池肉林のハーレムに住むことを許されるのであった!
 でもそれは安楽街以外の女子が男日照りに遭うと言う悲劇をももたらしたのだった!


 とある木造二階建て家屋の玄関に一人の女が立っている。腰には2丁のフルオートカス
タマイズされたグロック。要塞と化した男子嫡出家庭の家屋を攻略するには短期決戦を望
む他に道はなく、弾薬は最低限に絞っている。
 女はインターホンをピンポーンと鳴らし、はい田中ですどなたですかという応対に大声
で返答を叩き付けた。

「御義父様、御義母様!私です!花子です!健治さんを、私に下さい!」
『あらまあ』

 間延びした返事をした田中のお母さんは更にこう続けた。

『土に帰りなさい薄汚い泥棒猫め』
「!」

 キュイ、とアクチュエーターの照準音を鳴らして玄関上部の鴨居の影に潜んでいたカメ
ラ付自動防衛機構が9mmパラヴェラムの豪雨を花子に降り注ぐ。
 花子は横様に跳び、備えあれば憂い無しと渾名される銃弾の名にアイロニーを感じる間
もなくグロックのフルオート射撃を防衛機構にばらまいて更に前回り受け身じみた前転で
田中家の愛犬ワードックの犬小屋に隠れる。
 ワードックは柴犬で、突然飛び込んで来た花子に容赦なく吠え、噛み付いた。
「い、いい子だから!噛まないで!」
 花子は思い人の愛犬を傷つける訳にもいかず狼狽する。花子の耳にインカムからの通信
が響いた。
『こちら二号!本命を援護する』
 二号──よし子がホネっこを持って生垣をぶち破って花子の援護にやってきた。
 ワードックはホネっこにむしゃぶりつき、安心した花子の目の前で二号の頭が弾け跳ん
だ。スイカが爆発するようだった。
『狙撃だ!三軒隣りに健治の妹が構えてる!庭から離れろ!』
 3号からの通信に蒼白し、花子は庭から田中家のリビングにつながる大開放にグロック
を乱射し、頭から突っ込む。
 頭から突っ込むつもりなどなかったが、足が無くなったのではないかと思うほどの衝撃
が太股を貫き体勢を保てなかった。狙撃に違いない。
 突っ込んだリビングの中では、田中の母がソファの影に伏せていた。

 花子は下卑た嘲笑を含んだほほ笑みが見えた気がした。
自らの身体の下に、白い紙粘土のようなもの。
(──C4)
 猛烈な爆発。
 花子の思考は炸薬の名を最後に思い浮かべ、たんぱく質の塊に帰った。

 結婚して珠の輿、というのは、いつの時代も難しいのだった。

終わり
413創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 17:03:58 ID:8wUYJmX5
このスレまた盛り上がらないかなぁ
414創る名無しに見る名無し:2010/06/26(土) 21:51:43 ID:1mQD+zv/
こんな世界住んでみてえw
なんか無駄に殺伐としてるけどwww
415創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 08:08:09 ID:4QzeNdds
出だしの設定よかったなぁ。
話は未消化なんじゃない
416創る名無しに見る名無し:2010/06/27(日) 22:03:33 ID:iPCnQ/xL
>>415
御察しのとおり未消化であります。
とりあえずS1に書きたいけど何も閃かなくて無理やり即興で書いたらこんな結果に

SSの道は険しいスなぁ
417創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 02:45:13 ID:nrs6LsBW
来月のお題を決めましょう!
「夏」「海」「怪談」あたりですかね?
418創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 02:59:24 ID:7r69PCO0
七夕とかはどうだろう
419創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 03:51:27 ID:nrs6LsBW
「七夕」も良いすね。
去年も頑張って七夕で書いた気がします。


「夏」「海」「怪談」「七夕」
420創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 12:38:17 ID:yinAwZNI
追加で「夕暮れ」「風鈴」「金魚」とか。
421創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 13:26:16 ID:lCgLjKTZ
ああくそ、もう夏かー
最近時が過ぎるのが早いwww
422創る名無しに見る名無し:2010/06/28(月) 13:29:15 ID:utbuOG0+
このスレ見てると特に時の流れが早く感じるなw
423創る名無しに見る名無し:2010/06/29(火) 07:54:49 ID:Rifw4mn2
なかなかに風流なお題ぞろいだねぇ。楽しみ。
424みんなで幽霊キャラと怪談をつくるふえ:2010/07/05(月) 19:57:40 ID:HUztj+8k
メカメカしい何かを体中につけた少女が、トイレの一番奥の扉に三回ノックしたあとに。
「はーなこさん、あーそびましょ。ふぇふぇ」
「いいぜ」
はなこさんは普通に出て来た。
何故か口調が男勝りだが。
「やった!わたしコックリさんの用意してきたんだあ、ふえふえええ」
「マジかよ。悪霊大決戦になったらごめんな。やるけどな」
コックリさんコックリさんお出でください私たちに予言をお与えください。
そのとき、どろんどろんと煙があがった。
「げっほ!げほっ!煙いザマス!な、何なんザマスか!此所は一体どこザマス?!」
「ふむ?ここは何処じゃ?さっきまで鬼が島でCセットを待っておったはずなのじゃが」
「あれ?おいら、兵十にぶっころされたはずじゃ?」
なんか超狐っぽい獣人と巨乳の狐耳美人と狐があらわれた。
メカメカしい少女は叫んだ。
「やばい、呼び過ぎたっぽい!ふえふえええ!ふえええええ」
「俺、知ってるぜこいつら。大稲荷誠って先生と、信太主って大妖と、元祖狐話のお狐様だ」
はなこさんは何故か詳しく解説してくれた。口調は男勝りだ。
「困るザマス!今授業真っ最中だったザマス!」
「Cセットが冷める前に帰りたいのじゃが」
「おいら、まだ死んでなかったんだな。兵十、おいらをゆるしてくれっかな」
三者三様口々に別のことをしゃべる。
「うーん、全くまとまりがないでしね。ま、大は小を金本と言うしいいです。皆で遊びましょうふえふえ」
メカメカしい少女は携帯電話を取り出した。
「メリーサン(=陽気な太陽神)という人に繋がるケー番をゲットしたんでしゅよ。ちっと掛けて見るし。ふぇ」
ぷるるるぷるるる。がちゃ。
『は〜い、今日もあなたの子猫ちゃん夜伽の達人珠夜ちゃんですニャ』
ぶち。
「あ、キモいから思わず切ってしまったでし。ふえふえ」
「メリーさんなら俺が番号知ってるぜ。連絡とってやるよ」
と口を挟んだのははなこさん。口調は男勝りだ。
ぷるるるぷるるる。がちゃ。
「よう、俺おれ。はなこだよ」
『……妖怪から電話掛けられても呪いようがなくてスゴく私困るの』
「知らねぇよ、紛らわしいってんなら商売用とプライベート用に番号分けろよ」
『便所くせぇ自縛霊にアドバイスされたくないの』
「部品脱落の不良品が家に来るなんてPL法だか消費者契約法だかから脱法しまくった悪霊に言われたかねぇんだよハゲ」
『やろうっての?』
そのとき、メカメカしい少女はトイレの窓を突き破って男が入ってきたのに気がついた。
「な、なんか敵きたでしっ?!ふぇ!」
「いや、俺の敵は君じゃない。俺の敵は……お前だ!」
突如現れた男は手に魔素を集めてはなこさんに放った。
「波ぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちっ、邪魔が入った、またな!」
はなこさんは魔素の光球を受けて半身を吹き飛ばされたが、怯むスキも見せずトイレの暗がりに溶けて消えた。
「ほう、はなこさんを屠るとはの。貴様が伝説の……寺生まれのTか」
キッコさまは何故か関心しきり。
「ちゅーか遊ぶ前に帰りやがったですし。はなこさんのばか、ふえ」
「もう帰りたいザマス」
「兵十め、絶対に祟ってやらぁ」
「なにかあったらまた俺を呼びな」
『……せめて現場までいきたかったの』
混沌の怪談は幕を閉じた。
もう開くことはないだろう。
いやマジごめんなさい。

終わり
425創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 21:08:55 ID:5y/faN6A
なんというカオス
426創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 06:40:52 ID:7ry+G+/j
わけわからんwww


が、しかし中々……
427創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 18:04:07 ID:Y8Zni9Fj
おつおつ
そしてなんかすげえことになってるwww
そしてどうでもいいがTさんネタかぶったあああああ!
428創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 14:21:50 ID:3gKRBkQ4
ワロタ
騒がしいトイレだなぁ
4297月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:21:06 ID:aVNkwHXM
投下します。
お題は

『怪談』
『夕暮れ』
『七夕』
『夏』

です。
4307月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:21:49 ID:aVNkwHXM

 夕暮れ時、逢う魔が時とも呼ばれる時間帯、青々と茂る竹藪の中に大小二つの人影があった。
 小さい方の人影が大きい方の人影に歌を披露している。
小学生くらいだろうか、夕日に照らされて映える赤い吊りスカートに赤いランドセルの女の子が歌うのは今日この日に相応しい歌だ。
「さーさーのーはーさ〜らさら――」
 大きい方の人影、青年を見上げてたなばたさま≠フ歌を舌足らずに歌う女の子の声はうっすらと緊張を孕んでいる。
 ひと通り歌い終わると女の子は青年を上目使いに見上げた。採点を乞うようにおずおずと訊ねる。
「……どお? お兄ちゃん」
 問われた青年は口許を緩めると女の子のおかっぱ頭に掌を乗せた。
「上手だよ花子さん。感動した」
 褒めながら髪を撫でると花子さんは誇らしげにえへへと笑う。
 彼女は満足すると青年にランドセルの中に入った紙の束を差し出してきた。
「はい、赤い紙さんと青い紙さんの紙でみんなでつくったんだよ」
「確かに受け取った」
 青年が紙の束を受け取ると花子さんは「おつかい、ぶじにできた!」と微笑み、あのね、と青年に話し出した。
「これからね、なつになってね、あつくなるでしょ? だからね、わたしたちね、すっごくいそがしくなるんだー」
 怪談の時期だからな、肝試しをする連中もいるだろう。
 そう思いながら青年はクリスマスが待ち遠しくてたまらない子供と同じように期待に興奮を露わにしている花子さんを見て苦笑した。
「あまりおいたをしないように。と皆にも言っておいてくれ」
「はーい」
 さて、どこまで分かっているのだか。
 元気に手を挙げて返事をしている花子さんにそう感想を抱いていると、竹藪にもう一つ人影が侵入して来た。
 それに気付いた花子さんがその影に呼びかける。
4317月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:22:37 ID:aVNkwHXM
「お姉ちゃん!」
「花子ちゃん、そろそろ帰りましょうか」
 顔に友人からもらったという口許を覆い隠す大きなマスクを付け、
頭から帽子を目深にかぶっている彼女は親がいない花子さんの姉を自任している女性だった。
 青年は彼女に手を軽く振りながら空を見上げる。
今日は快晴だ。日も沈みかけ、夜空を飾る天の川が赤から紫に移り変わり始めた空の色を通してぼんやりと見える。
 それを確認したうえで青年は女性に言葉をかけた。
「雨の日以外も外に出られるようになったか」
「ええ、おかげさまで。いつまでもひきこもってはいられないでしょう?」
 そう言って女性は自慢気に花子さんの手をとる。
「じゃあまた」
「ばいばーいおにいちゃーん!」
 花子さんを連れて歩いて行くその姿は仲睦まじげで、本物の姉妹と見紛う程で、
 もう彼女は以前のように子供をひきずって彷徨うこともないだろうな……。
 姿が見えなくなるまでずっと手を振り続ける花子さんに手を振り返し、青年は少女が差しだしていた紙の束を見た。
紙一枚一枚に学校の皆のそれぞれの願い事が書かれている。
 ……まあ、これくらいは役得だろう。
 青年はひと通り短冊の体裁を整えた紙の束に綴られた文面を見て楽しむと、それを大事に懐へとしまい込む。
 さて、と一息つき、唐突に地を蹴った。
 宙に浮いた足の下を風が駆け抜ける。
 風は直進方向にあった竹をニ、三本勢いのままに捻じ切ると青年の方へと方向を変える。
「ふむ」
 その様子に青年は頷き着地すると片手を前に突きだした。その手には光が宿っている。
 小さく肺に空気を入れ、間髪いれずに鋭く喉を震わせた。
「破ぁっ!」
 裂帛の気合と共に手から光弾が疾り、青年に向かっていた意志ある颶風の先端で白光が弾けた。
 同時に獣が地面に落ちる。
 地面で呻いている旧知の顔を確認すると青年は呆れ半分感心半分に声をかけた。
「懲りんなぁ……」
「うるせえ、俺の勝手だろうが」
4327月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:23:19 ID:aVNkwHXM
 地面に落下した青年の旧知、中年男性の顔をした犬がだみ声で青年に悪態をついた。
「たまには身体を動かしたくなんだよ」
 尚も不遜な態度で人語を繰る人面犬に髪をボリボリ掻きながら青年はポケットに手を突っ込んだ。
中から煙草とライターを取り出すと火を付け、中年男の顔を持つ犬へとくわえさせてやる。
 当然のように人面犬は深く煙を吸いこむと、満足そうに煙を吐き出した。前脚で青年の持っている彼用の煙草を指し、
「おい、お前も吸え」
「俺は要らんよ」
 付き合いわりいなと毒づく人面犬に青年は小さく笑う。
「あんたこそ、禁煙したらどうだ?」
「あー? うっせえよ」
 余計なお世話だと言わんばかりに吠える人面犬は更に毒吐きを続けるためか空気と共に煙草を深く吸い込んだ。
「――ってかおまえなあ」
 言葉と共に煙を吐き出し、
「いいのか? 俺達にこんなに深く関わっちまって。今ではお前がほとんど俺達と同義の存在だろうが」
 青年は自分を心配しているともとれる人面犬の言葉におや? と思い、反射的に空を見上げた。
 空は未だ快晴だ。
 ……珍しいこともあるものだ。
 そう思いながら青年は人面犬に答える。
「構わないさ――それに」
「おーいTさーん、町内会の祭り始まっちまうぜー」
 竹藪の外から人が呼ぶ声がする。
 それに青年は大声で少し待つよう応え、人面犬に片目をつぶって笑ってみせた。
「俺は友達が多いんだ。人にも、それ以外にもな」
「ケッ、これだから寺生まれは……」
 笑みの響きを含んだ声で言うと人面犬はそっぽを向いた。「あばよ」と吠える人面犬の後ろ姿に青年は声をかける。
4337月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:24:00 ID:aVNkwHXM
「これから町内の七夕祭りに出てきてあの子が持ってきてくれた短冊を飾るんだが、来るか?」
「誰が行くか、あの小娘も小娘だ。
七夕に短冊飾りてえなら学校にも竹の一本や二本生えてやがるだろうに、なんでお前の所にわざわざ持って来るかねぇ」
「皆と一緒に飾りたいんだろう。学校にいる仲間たちだけではなく、生徒も含めた学校の皆とな。
 普段はそんな事出来ないからせめてこういう機会にでも」
「そういうもんかねえ」
「そういうものさ」
「俺みたいな一匹狼にゃあ胸もない小娘の感傷は分かんねえなぁ」
 煙草を吐き捨てて土をかけている人面犬にしょうがない奴だと言いおいて、青年はもう一つ誘い文句を投げかけた。
「待っているといい。二時間もすれば帰って来る。天の川を肴に酒でも飲もう」
 人面犬が振り向いた。
「お、話がわかるじゃねえか、流石寺生まれだ」
 小さな尻尾を振ってあっさりとおもねった人面犬にたっぷりと呆れた目を向けた後、青年は竹藪を抜け出た。
 竹藪から出てきた青年に友人がわけ知り顔で言う。
「また何か出たのか?」
「ああ、頼まれごとをされたよ」
 そう言って懐を軽く叩く青年に友人は相変わらず寺生まれはすげえなと笑った。
「まあいいや、行こうぜ。町内の超人がいないと祭りもいまいち盛り上がりに欠けるんだ」
「人を見せ物にするな」
 青年の言葉はスルーされ、友人は青年の手を引いて駆け出す。
 その勢いに数歩よろめきながら青年は空を見上げた。
 空は快晴、徐々に盛りへと近付いて行く夏の空を光の帯が煌びやかに流れ、周りに散らばる星々が彩りを添える。
 人も妖も等しく笹の葉に願いの札を下げては空に願いを託すだろう。
 両者の間を行き来する青年はそれを佳いことだと思い、頬を緩めた。
4347月「あわいにて」 ◆mGG62PYCNk :2010/07/07(水) 16:25:38 ID:aVNkwHXM
以上です

こんなTさんがいたっていいじゃない
435創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 00:11:29 ID:RLEw9AY/
そういえば日常のTさんって見た事なかったなw
436『嗚呼、夏休み』:2010/07/10(土) 02:54:50 ID:gB7knEu+
 大学が夏期休暇に入る。
 よくある夏の憧憬はやっぱり憧れであって、俺には関係が無い事なのだと思う。
 夏の思い出といえば海や川や山なんかの自然と戯れたあの日あの時に思いを馳せる人が
多いのだろうが、俺の夏はいつもインドアだった。
 小学生の頃は皆がプールに行ってる時に用もないのに図書室に行って偉人伝を読んだり
漫画を持ち込んで怒られたり暇そうな図書委員とポケモンの交換なんかに勤しんだ。毎年
夏に小学校で停電騒ぎがあったのは、俺含む数人のインドアギャングが屋上へ続く階段の
踊り場のコンセントに裁縫セットから持って来た二本の待ち針を突っ込んでショートして
火花を散らさせる遊びをしていたせいだ。すみません先生。

 中学になってもインドア癖は治るはずもなく続行された。
 その癖が高じて科学部になんて所属したのが運のつきだ。
 科学部は科学するところだとの了解のもと入ってみたはいいが、科学よりもオタク文化
に先鋭化した比い稀なる精鋭達に俺の無垢は辱められ汚され犯され、ついには中学の裏社
会に組み込まれる事となってしまった。
 中学の裏社会と言ってもそれはやはりインドアな裏社会であって、主な活動は学校のP
Cにパスワードを知る生徒のみが遊べるようにエロゲをインスコしたり日本では犯罪にな
るような女体の陰部がありありと写った画像を希望者に配付したり輸入された海外のビデ
オやDVDを交換する仲買をおこなったりした。
 思えば、教師がパソコンに無知でネット環境が一部の者しか使えなかった時代だから成
立った裏社会である。
 裏社会の運営を執り仕切って居た科学部部長とPC部部長とJRC部部長が卒業し、P
Cに精通した新任の先生が赴任して来たのを期に、その裏組織は自然に分解した。
 残ったのは、倉庫係に抜擢されていた俺の部屋に詰まれたダンボール三箱のいかがわし
いエロゲとエロビとDVDの山であった。恥を忍んで兄貴に頼み込み売って来てもらった
ところ総額十三万円だった。裏社会の元構成員10人でカラオケやゲーセンに使った。

 高校は化学専攻の科に入ったので、やっと科学部でやるべきだった様々な薬品を扱う実
験を思う様試行できた。エグイ色のエグイ香りを撒き散らすエグイ煙を発生させる実験や
液クロマトグラフにジュースを通しまくって詰まらせたりガスクロマトグラフに唾液を検
査させて詰まらせたりエタノールにサイダーを混ぜて飲み明かしたり射出成型機の2トン
プレスにコインを挟んで平らにしたり金メッキ装置でチョーカーを金にしたりした。
 夏休みだというのに引率の教師も碌ろくいないまま実験設備を貸し出してくれた学校に
は感謝と不安を訴えたい。

437『嗚呼、夏休み』:2010/07/10(土) 02:56:32 ID:gB7knEu+
 そして今、大学は夏休み。
 就活もそこそこに、一回生二回生三回生に混じって四年なのにソーラーカーの開発に参
加している。
 やはり工房に引き籠もってインドアに夏を過ごしている。工房に寝泊まりして毎日ムサ
い野郎どもの顔を見て「さて今日もやりますか」「いや先輩もう就活してくださいよ」
「あーあーキコエナイー」なんてやりとりをする作業を終え、またエンジンに必要な部品
を旋盤で削り出したりする。

 海も川も山も無かったが、今振り返って見れば妙に楽しかったし、今だってやけに充実
している。
 学生の皆さん、インドアな夏を過ごして見ませんか?
 アウトドア派だった社会人の皆さん、こんな夏もあったんですよ?
 憧憬とは明らかに内容が違ったが、俺の夏はそこそこに輝いていた。

終わり
438携帯 ◆4c4pP9RpKE :2010/07/10(土) 02:58:18 ID:gB7knEu+
なんだかほぼノンフィクションになってしまったw
439創る名無しに見る名無し:2010/07/10(土) 03:12:21 ID:gB7knEu+
あげ忘れた
440名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 19:14:31 ID:buxkrDzk

いいじゃねえですか
ある意味充実した夏休みww
俺は……今年の夏もだらだらしつつたまに古い友人とどっかに行ったりしつつで過ごすのかな
441名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:13:56 ID:GQ5sfRht
ある意味リア充
442なつのあめ:2010/07/18(日) 10:22:05 ID:k/AJjMx4
蒸したての肉まんみたいな暑苦しい夕方、雨に降りこめられた。
本屋の軒下で今買った漫画が詰まった紙袋片手に、
戻ろうか考えてから一度出た店にまた入る気まずさを鑑みて、空を上目に仰ぐ。

ごろごろごろ。
稲光。

天気はご機嫌だ。
雨降りを、おてんと様の機嫌が悪い、なんて喩えるけど、間違いだと思う。
だって、猫と比べてみ?
機嫌が良いとき、ごろごろごろって鳴らすでしょ。
機嫌が良いとき、遊んでやるか、って感じでバタバタすると、抜け毛が舞うでしょ。
天気って、ペットみたいな可愛い奴なんだ。
空に、でっかい入道雲をみたら、でっかい猫が寝てるんだ、
そろそろ起きてきて、遊んで遊んでって寄って来るぞって。
そう考えると、夕立になりそうでも、あえて買い物に出ちゃう。

そしたらホラ。
遊んで遊んで、楽しいな楽しいな、って。
可愛い奴だ。

「ご機嫌だね」

楽しさと雨粒を撒く雲に声を掛けてみる。
暇なときの雨宿りは、なかなか愉快なんだ。

終り
443創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 13:02:36 ID:ZB0xy7dT
なんか詩的な感じ
444創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 23:45:57 ID:beFHV98O
詩的賛成
いいな、ちょっと天気の見方変わるかも
445創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 22:18:56 ID:5HrLEn2H
さて、そろそろ来月のお題を考える時期なわけだ
順当に『夏休み』を挙げとく
446創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 22:19:42 ID:5HrLEn2H
スレもageとく
447創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 22:22:29 ID:mSiCe7ln
スイカとかもいいな
448創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 23:24:13 ID:Zl78JJ8d
「――もしもし」

何回コールしたかわからない。
けれど、彼女が電話に出てくれた事を嬉しく思う。

僕は彼女に謝らなければいけない。
許して貰えるかはわからないけれど。

『……』

彼女が無言なのも無理も無かった。

「ごめん! 本当にごめん!」

だって、約束を破ってしまったのは僕なんだから。

『……どうしてあの日、来なかったの』

感情の篭っていない声で彼女が問いかけてきた。
でも、その理由は絶対に言えないのだ。

「……ごめん」

だから僕は謝った。
謝ることしか出来ないのなら、そうするべきだと思うから。

『――そういえばさ』
「?」

彼女の声の調子が変わった。
それまでの感情の篭っていないものとは違う、陽気な声。
僕は彼女のそんな声が大好きだった。

『今年のW杯、凄く面白かったよねー!』

『私的には、ドイツ×スペイン戦が良かったなぁ!』

――嗚呼、駄目だ。

――完全にバレている。

『ねえ、ブブゼラの音って実際に聞くとどうなの?』


――僕が彼女との約束をすっぽかし、W杯を見に行った事が。


『ねえ、どうなの?』
「……」

迂闊な事を言っては彼女の怒りの火に油を注ぐだけ。
ここは、冷静に対処しなければいけない。

「……――僕達が会えるのは一年に一度。W杯は四年に一度なん」

『死ねッ!!!!』

今年の夏は、彼女の怒りによって暖められた天の川のせいで暑くなりそうだ。

おわり
449創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 23:28:02 ID:mSiCe7ln
彦星さんそれはないっすよw
450創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 00:03:36 ID:RbPFMBSZ
おいおい何やってんすか彦星さんwww
織姫さんの機嫌取りに行くんだ早くwww
451金魚:2010/07/25(日) 02:20:04 ID:84GavgcF
金魚は泳いでいた。
夏の底を泳いでいた。
夏からずっと泳いでいた。
死んでからずっと泳いでいた。

百もの夏をさかのぼった昔、人間が夏祭りと呼ぶ儀式で桶に仲間共々詰め込まれ、
紙の掬いで水から出され、やがて小さな瓶に放された。
でも金魚はすぐに死んで、河原に埋められた。
金魚は馬鹿だから死んだことに気がつかなかった。
百もの夏を泳いで過ごした。
悠久の憂いも知らないまま、川面の下に見える泥鯉に恋したり、
川面のアメンボによだれを垂らしたりして過ごした。
爆弾が落ちて来て焼けた人が川に浮かんだり、儚んで飛び込む愚図がいたり、
硬い岩に変化する灰色の泥を河原に人間が塗ったり、河原の景色は百の夏を通して見ても全然飽きなかった。
ある日、金魚に仲間が出来た。
でもそれは金魚と同じではなかった。
それは人間の雌らしく、ブクブクに膨れた身体は青白くて、金魚にしても不細工な色をしていた。
鰭に似たひらひらがたくさんついているが、それは服というものであって真の身体ではなく、
ごすろりと呼ばれるものだと金魚は説明されて初めて知った。
金魚は新しく出来た仲間と親しく話した。
新しい仲間は、どうやら自分の意思で此処に居着いたわけではないらしい。
河原でマワされたあげく縛られて沈められ、半端な流れの日だったせいでだいぶ苦しんでから死んだという。
ブクブクに膨れた身体は、どざえもん、というらしい。
金魚には人間の生殖のやり方は分からなかったし、
結構あっさり死んだので生にしがみついてもがくことの必死さも全然理解出来なかったが、
そこにある怒りと憎しみだけは本能として理解した。
金魚は百の夏を過ごすうちに馬鹿なりに覚えたひとの言葉でしゃべった。

辛かったね。
悲しかったね。
仕返し、したい?
協力するよ。
僕ができるのは、“底”に語りかけるくらいだけど。

仲間はうなづいた。
金魚はすいすいと空まで泳ぎあがり、仲間をぐいぐいやって縛って流した人間の雄達を探した。
金魚は馬鹿だけど、川の出来ごとは全部見ているのだ。
仲間が沈められていた様子も、川の景色のひとつとして、ちゃんと眺めていたのだ。
金魚は金属に良く似た輝きをした目に、仲間を沈めた雄達を写した。
“底”が、雄達を飲み込んだ。

次の日、河原を何台かの救急車とパトカーが通り過ぎた。
幾か所かで、何人もが不審な水死をしたのだ。
トイレで。
街なかで。
山で。
およそ水死など有り得ないところで、何人もがぐっしょりずぶ濡れの青白いどざえもんになっていた。

金魚が河原に戻ると、もう仲間は消えていた。
河原の水草が増水で流されたくらいには悲しかったが、金魚にはどうしようもないことだった。

金魚は泳いでいた。
夏の底を泳いでいた。
夏からずっと泳いでいた。
死んでからずっと泳いでいた。
これからもずっと、泳いでいるつもりだ。

終わり
452携帯 ◆4c4pP9RpKE :2010/07/25(日) 02:22:14 ID:84GavgcF
動物お題を消化してなかった罠
453創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 16:20:50 ID:WL1nr0UV
淡々とした語り口だな
454創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 19:11:20 ID:RdnmKr4Y
この金魚実は川の霊的な主みたいな存在になってそうだww
本人の自覚なく
455創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 05:53:03 ID:T8KDaLkK
むしろ祟りをもたらす神か妖怪的なものになってる感じだw
淡々とした語り口がなんとも合ってるね
456代行
なんかいい。ある意味純粋な金魚が怖くて哀しく、
また、いじらしい。

始まり方と終わり方もいいね! GJ