+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る(FFUのポシェポケみたいなものです)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・日没時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
現在の舞台は闇の世界(DQ4)
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0097.png ━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
(今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
+議論の時の心得+
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
+読み手の心得+
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・嫌な気分になったら、モーグリ(ぬいぐるみも可)をふかふかしてマターリしてください。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
参加者名簿(名前の後についている数字は投票数)
FF1 4名:ビッケ、スーパーモンク、ガーランド、白魔道士
FF2 6名:フリオニール(2)、マティウス、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:ナイト、赤魔道士、デッシュ、ドーガ、ハイン(2)、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス(2)、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:勇者、ローラ、竜王
DQ2 3名:ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女
DQ3 6名:オルテガ、男勇者、男賢者、女僧侶、男盗賊、カンダタ
DQ4 9名:男勇者、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン(2)、主人公(2)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、王子、王女、ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー(2)、ミレーユ、主人公、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア(2)、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
FF 78名 DQ 61名
計 139名
生存者リスト
FF1 0/4名:(全滅)
FF2 0/6名:(全滅)
FF3 1/8名:エリア
FF4 1/7名:カイン
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:リルム、マッシュ、ロック、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 1/8名:サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 2/4名:アルガス、ラムザ
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 3/9名:ソロ、ピサロ、ロザリー
DQ5 2/15名:ヘンリー、プサン
DQ6 2/11名:クリムト、ターニア
DQ7 1/5名:フィン
DQM 0/5名:(全滅)
DQCH 1/4名:スミス
FF 19/78名 DQ 10/61名
計 29/139名
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」
アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」
浮遊大陸朝〜日没(21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」
浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」
浮遊大陸朝〜終了(7人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」「ウィーグラフ」「マティウス」「アリーナ」 ※「ザンデ」(リタイア)
闇の世界朝〜 (5人)
「サックス」「タバサ」「テリー(DQM)」「ルカ」「パパス」
スレ立て乙
人が死ぬのは、誰からも忘れられたときだ。
無言。
歩みを進める二人の間に会話はない。
息が詰まりそうな重苦しい空気だけがそこにある。
両者共にその空気を打ち払うことも、自分から歩み寄ることもない。
手をつないでニコニコ笑みを浮かべて会話を交わしながらの楽しい散歩にするつもりなど、これっぽっちも無い。
もっとも、それを提案されたところで引き受けることも無いのだが。
理由は単純でシンプル。
気に食わない。
今、隣に居る澄ました顔のいけ好かないヤツが気に食わない。
可能なことならそのいけ好かない顔をボッコボコに殴り飛ばして原形をとどめないぐらいにしてもいい。
それをしないのは、そんなことに体力を使う余裕が無いから。
しょうもないことに体力を使って、いざというときに使える体力が無いなど論外だ。
ここでは、それが命を落とす行為になる。
隣に人間なんて、居ない。
そう思って歩くのが自分のためには一番いい。
だが、耳に入ってくる足音はそれをさせてくれない。
二人分だ。しっかりと二人分の足音が聞こえる。
それは現実で、かつ今起こっている事実。否定することなど、神でも出来ない。
そう、隣に居るいけ好かない奴は、どれだけ強く念じたところで本当に消えてくれる事は無い。
だったとしても、せめて意識下ぐらいは存在を認知せずに居たいのだ。
奴がいると考えただけで、頭の中が真っ黒と真っ白になって。
ほかの事を何も考えられなくなって。
いろんな考えが頭の中に入ってきて。
僕が僕でなくなってきて。
――――しまいそうだから。
出来るだけ早めに本当にどこかへ消え去ってくれることを、ただただ願うばかりだ。
……それにしても、いつまで奴はついて来るんだろう?
「たまたま進む道が一緒なだけ」
分かってはいるのだが、一つだけ懸念材料がある。
もし、このままタバサに出会ったら。
もし、そのままタバサと戦ったら。
今、隣に居る人間は敵になるのではないだろうか?
どの道相手にすべき敵ならいつ戦おうと、消費する体力も同じ。
体力を消費してでも、ここで先手を打って殺しておくべきなのだろうか?
だが、それには確信が足りない。
そう、両者共に得ている情報が少なすぎる。
情報だ、情報を得れば深くまで立ち入ることが出来る。
だが、そうすることすら面倒で、どうでもいい。
口を利いて情報を聞き出したとしても、なんの意味も無ければ自分のストレスが溜まるだけ。
そうだ、どうでもいいことだ。と心の中でそうつぶやく。
立ちはだかろうとするその時に――――してしまえばいいんだから。
それにしても、本当に何時までついてくるんだろう?
スミスは笑う。
魔法の絨毯を使用していたとはいえ、ここまで早くお目当ての人間の姿を見つけることが出来たのだ。
しかも、タバサの死を伝えることで上手いこと操れそうな人間をもう一人連れて。
同時に二人の人間を傀儡にすることができる、あわよくば当面の仲間にしてもらえるかもしれない。
青髪の男に関しては戦っている場面を見たことは無い、がどちらも戦力にはなるはずだ。
問題は目の前の二人を抜け殻にできる情報を、如何にして伝えるか。
この魔物の姿のままで接触を図ったところで、怪しまれるに決まっているし最悪殺されてしまうかもしれない。
ただでさえ「タバサは魔物を操って人を殺している」ということを知っている奴が相手なのだから、魔物の姿で近寄るのは自殺行為に近い。
最高のシチュエーションを作るためには、姿を変える必要がある。
スミスは記憶を辿る。
次の一手にふさわしい仮初の姿を求めて。
数秒ほどで、ふさわしい姿を見つける。
演技が下手な自分でも、なりきるのが簡単だと思える人間。
かつ、目の前の二人が保護してくれそうなか弱い人間。
それに当てはまるとある一人の事が頭に浮かぶ。
そして、スミスは変化の杖を使う。
ボワンと小さく音がして、微かな煙の中から出てきたのは一人の少女。
そう、スミスが先ほどまで共に行動していた少女の姿へと変身したのだ。
ただ怯えながらも事実を話す、たったそれだけの簡単な仕事だ。
怯えきっている少女を躊躇い無く攻撃しようと思う人間なら、話は別だが。
笑いたくなる気持ちを抑え、スミスは再び他人を演じる。
最高のシチュエーションのためにわざと息を荒げ、瞳には涙を浮かべ。
スミスはいかにも命からがら逃れてきた少女を装う。
今のスミスをぱっと見て、誰が殺し合いに乗った参加者だと思うだろうか。
整いきった舞台で役者スミスにとっての二度目の幕が今、上がろうとしている。
胸いっぱいに大きく息を吸い、たまりきったその空気を全て吐き出すようにスミスは叫ぶ。
「助けてください!!」
突然のことだった。
絨毯に乗った少女は悲痛な叫びを発しながら青髪に一方的に抱きついてきたのだ。
願っても無い好機だった。
少女が助けを求めているのは青髪だ。
青髪は少女を振りほどこうとしているが、少女は泣き叫んだままセージを離そうとはしない。
この隙に青髪を置いて走り去れば、苛々も収まるだろうと思い駆け出そうとした。
しかし、少女が発した言葉が自分の体をこの場に縫い付けたのだ。
「タバサちゃんが……タバサちゃんが!!」
タバサ、それは追い求めていた仇敵。
その名前が出てくるということは、彼女はタバサの仲間なのか?
いや、彼女も操られていただけなのかもしれない。
「ま、まあ落ち着いて。タバサがどうしたんだい?」
青髪は泣きじゃくる少女を宥めながら引き剥がす。
その手が若干震えているということは、青髪も少なからず彼女の言葉の続きが気になるようだ。
「タバサちゃんが、タバサちゃんが……殺されたんです」
衝撃。
その口からは信じられない言葉が出てきた。
追い求めていた、仇敵が死んだ。
彼女ははっきりとその口からそう告げた。
「そう、ザックスって言う人に殺されたんです。私、知ってるんです。
あの人は他にもギルガメッシュって人や、アルスって人まで殺してて……。
タバサちゃんは私を逃がすために……私の代わり、に……」
不思議と、何の感慨も沸かなかった。
正体を知る誰かが殺したか、それとも強力な殺人者に殺されたか。
別に誰が殺したかとかは、どうでもいい。
あの殺人鬼が死んだ、それが事実ならそれだけでいいのだ。
そう、それが事実なら。
自分の胸に引っかかっているものも無いはずなのだ。
目の前の少女が何かを演じているような、そんな違和感と既視感が自分の中で渦巻く。
思い当たったのは一つ。
つい先ほどに、同じようなヘタクソの演技をしていた一人の少女。
その可能性を頭に浮かべると、あれよあれよと全ての要素がイコールで結びつくのだ。
目の前の少女から感じる違和感も。
タバサが死んだことに対して喜べないことに対しても。
僕はゆっくりと彼女に近づき、肩を軽く叩く。
「ねえ」
セージにすがっていた彼女はあっさりと自分の方を向く。
その涙で濡れた顔を、僕は力いっぱいの拳で殴り抜いた。
無様に地面へと転がる彼女は、何が起こったのか理解できないといった顔をしていた。
それはそうだろう、今の彼女は「演じている」のだから。
「さっきは40点って言ったけど、君の演技はやっぱり赤点だね。ねえ、タバサ」
そう言い放った後、彼女の驚いた顔が僕の目に入ってくるのと同時に、弾ける様な閃光音が僕の耳を貫いた。
「タバサちゃんが、タバサちゃんが……殺されたんです」
面白くない。
スミスの最初の感想はそれだ。
復讐の対象を失ったフィンが暴れ周り、セージが絶望に身を捩る姿を期待していたのに。
タバサの死を告げてもフィンは何を考えているのか分からない顔をしているし、セージはぼーっとしている。
予想外のリアクションに、スミスの機嫌は著しく悪くなる。
そこで、復讐の対象を失ったフィンに情報を与えてみることにした。
「ザックスは二人の人間を殺した人殺し」という情報は元々流すつもりだった情報だ。
その情報に「タバサを殺したのはザックス」という情報を足して。
あわよくば、フィンがザックスを殺してくれるかもしれないという可能性に賭けてみることにした。
「そう、ザックスって言う人に殺されたんです。私、知ってるんです。
あの人は他にもギルガメッシュって人や、アルスって人まで殺してて……。
タバサちゃんは私を逃がすために……私の代わり、に……」
タバサが正義の味方のような扱いになってしまったが、それは別にいい。
どうせフィンはそんなことを信用しないだろう。
ここでこの二人に「ザックスは人殺し」という情報さえ伝わればいいのだから。
しかし、その情報を与えたにもかかわらず、両者共に動きを見せない。
面白くない。
泣け、叫べ、喚け、狂え。
どうしてそんなに平然としていられるのか?
フィンがずっと殺したかった奴が死んだのに。
せめて死んだことに感謝するとか、そういうリアクションすらないのか?
セージもセージだ。共に行動していた仲間が死んだというのに、リアクションのリの字も無い。
本当に期待ハズレだ。
「ねえ」
突如、フィンが自分に近づいてきて自分の肩を叩く。
振向くと同時に、頬から強烈な衝撃が伝わる。
モロに拳を受け、顔面から地面に滑り込む形になってしまった。
「さっきは40点って言ったけど、君の演技はやっぱり赤点だね。ねえ、タバサ」
フィンはスミス告げる。
彼にとってのタバサのイメージは、スミスそのものだ。
まさか、バレたのだろうか?
そこまで自分の演技というのは、バレ易いものだったというのか。
それともフィンにはそういう偽者を見抜くことに長けているのか?
ひょっとすると、この少女はフィンと面識があったのか?
自分の正体がバレた原因を探っているうちに、一つの閃光音が自分の耳を貫いた。
真っ白な世界に、ぽつりと立つ三枚の鏡。
いつのまにか僕の視界にはそれだけしか写っていなかった。
少女に肩を捕まれたところまでは覚えているのだが、あの少女の能力なのだろうか?
近づいてみると鏡には三人の姿が映っている。
忘れるはずも無い、大切な仲間の姿だ。
近づいて触れようとしたとたん、ピシリという音がした。
音を立てたのはローグの姿が映った鏡だ。
「やめろ」
反射的に声を出す。
鏡の中のローグが笑っている。
「やめろ」
パキパキと小気味のいい音を立てながらヒビがどんどん大きくなる。
鏡の中のローグが誰かと戦っている。
「やめろ!」
鏡の中のローグが何かに貫かれ、血を流しながら倒れこむ。
それと同時に鏡が砕け散り、鏡があった場所にローグの死体が現れた。
どくどくと流れ出る血が、真っ白だった世界を赤に染めていく。
ローグに近づこうとしたその時、またピシリという音がする。
「……嫌だ」
振り返るとフルートが映っていた鏡にヒビが入っている。
鏡の中のフルートは、表の人格で笑ったまま。
「やめてくれ」
突如、鏡の中のフルートが裏の人格へと変わる。
誰かと戦っているような、口論しているようなそんな光景が映る。
「やめてくれよ!!」
鏡の中のフルートが呪文を唱え、真紅の閃光に包まれる。
それと同時に鏡が砕け散り、鏡があった場所にフルートの死体が現れた。
死体を中心にローグとは違う赤が飛び散り、白い世界を赤に染めていく。
三枚あった鏡のうち二枚が立て続けに割れ、仲間の死体へと化けた。
このまま行けば残りの一枚、アルスの鏡も割れ、死体へと化けるのだろうか?
唐突に怖くなった。
そして残った一枚、アルスの鏡の元へと向かう。
割れんばかりの勢いで抱きしめる。
何も起きない。
アルスを映したまま、鏡はそこに佇んだままだった。
「よかっ……た」
柄にもなく、アルスの姿が映った鏡の前で泣き続ける。
大きな声を上げて、ボロボロと大粒の涙を流しながら。
鏡の中のアルスは、そんなセージをずっと見続けていた。
「タバサちゃんが……タバサちゃんが!!」
突然、僕の肩を掴んできた少女の声がする。
耳に入ってくる、というよりは頭に響いてくる感じである。
僅かにエコーの掛かったその声の正体である少女の姿を求め、辺りを見渡す。
そこで、先ほどまで三つしかなかった鏡が数枚増えていたことに気がつく。
最初からあったのか? 自分が気がついていなかっただけなのか?
「タバサちゃんが、タバサちゃんが……殺されたんです」
再び、頭に響く声。
タバサが殺された? そんな、嘘だ。と思ったときだった。
目の前に新たに現れた全ての鏡が同時にひび割れる。
まず最初に金髪の三つ編の女性の鏡が割れ、代わりに四肢と首が離れ離れになった死体が現れる。
次に赤い衣服の青年の鏡が割れ、首が明後日の方向を向いた死体が現れる。
次に尻尾の少年の鏡が割れ、体中を打ち抜かれた死体が現れる。
そして、その奥にある一人の少女の鏡。
他の三枚と同じように一瞬のうちに砕け散り、胸に大きな穴を空けた少女の死体が現れる。
そう、四人ともこの世界で知り合った仲間達。
自分の手の届かないところで死んでいった仲間たち。
勝手に皆どこかに行って、勝手に死んでいって。
自分を、この嫌な世界に置いて行って。
「……君だけだよ、アルス」
残った鏡一枚に話しかける。
当然返事は無い、相手は鏡なのだから。
それでも、ひたすらに話し続けた。
この殺し合いに巻き込まれてから思ったこと。
出会った人々、仲間のこと。
何が起こって、どうなったのか。
答えは帰ってこないと分かっていても、「アルス」にひたすら語りかけるしかできなかった。
「そう、ザックスって言う人に殺されたんです。私、知ってるんです。
あの人は他にもギルガメッシュって人や、アルスって人まで殺して――――――」
声が響く。
途中で切れる。
今、なんて言った?
「ザックスって言う人に殺されたんです」
違う、そこじゃない。
「私、知ってるんです」
何を知ってるんだ、教えてくれ。
「あの人は他にもギルガメッシュって人や」
や? 他に誰か居るのか?
「アルスって人まで殺して」
音がする。
振向く。
ヒビが入っている。
抱きしめようとする。
崩れる。
現れる。
切り刻まれた。
アルスの死体が。
七つの死体に囲まれるように立っていて。
もう、知り合いなど居ないのだと分かって。
誰もわかってくれないという現実だけが突きつけられて。
誰もいない、誰もいない。
自分の周りには、誰もいない。
ゴポリという音と共に、自分の中で何かが満たされる。
抗わなければいけない気がする、この感覚は受け入れてはいけないものだと脳が告げている。
しかし、動こうとはしなかった。
本能が、それを受け入れている。
そのまま隅の隅まで満たされていくのを、ジッと待っていた。
「はは、ははははは」
起き上がる。
「なんだ、みんないるじゃないか」
三つの死体が起き上がる。
「そうだろう? 魔女やその手下が幾らみんなが死んだって言っても僕は信用したりしない」
セージにしがみつき、笑う。
「ここにいるんだから。これからはずっと一緒だよ」
白い世界が引いていき、現実に戻される。
「そうだね、あいつらは魔女の手下みたいだし、やっつけちゃおうか」
ゆっくりと、右手に魔法の球を作り。
「イオナズン」
放つ。
突然のことだった。
タバサとの中間地点を狙って唱えられたイオナズンだったため、致命傷にはならなかったものの直撃を受けてしまった。
左手を支えに氏ながらゆっくりと起き上がり、そんなことができる唯一の人物の方へと振向く。
「なるほど、君もタバサの仲間だったんだね」
ようやく晴れた煙の先に立っていたのは、あの青髪。
「うるさいなあ、魔女の手下の癖にさ」
まるで汚物をみるような目で青年は僕を見る。
「ところで、もう一人のお仲間はどうしたんだい?」
「はぁ? 仲間? さっきの話聞いてた? あれ、タバサなんだけど。折角仕留められそうだったのに君のイオナズンの所為で逃がしちゃったじゃん」
今までのやり取りをなんだと思っていたのか。
僕がタバサを殴り飛ばしたところを見ていなかったのか?
アレだけ至近距離だったというのに。
目の前の男は疎ましそうにこちらを見るばかりだ。
「ああそう、どうでもいいけど早く死んでくれる? 魔女の手下さん」
「話しても通用しない……か。まあ、さっきから苛々してたし、コレで躊躇いなく殺せるけどね」
陸奥守を構え、次の魔法を撃とうとしている青髪へと斬りかかって行った。
「ふざけんな……ふざけんな!!」
イオナズンの直撃をすんでのところで避け、巻き起こった煙に乗じてその場から離れたスミスはひたすら逃げていた。
最初は漁夫の利を狙い、その場に留まりどちらかが死んだところで姿を変えて近づくつもりだった。
そのため、セージの意図を読もうと僅かに残った読心能力で心を読んだのだが、それが間違いだった。
狂気、ただ狂気だけがそこにあった。
彼の記憶にある、三人分の思考、行動、性格、口調。
それらを全て使い、彼の中で「三人」を作り上げているのだ。
その記憶から作られた人格を自分の心に住まわせ、体を扱わせ、声まで出させようとしている。
そこに居ると思い込んでいるのではなく、自分の中に住まわせているのだ。
純粋な狂気が生み出した、三つの虚像。
その虚像を、自分という器に入れることでその人間が生きているものだという証明にする。
そこまでセージの心は狂いきっていて、自分のそれとは比べ物にならない"闇"の存在があった。
彼をみるだけで視界が"闇"一色になるほど、既に"闇"が彼を包み込んでいるのだ。
いつの間にそれだけの、魔王に匹敵するほどの闇を抱えていたのか。
魔王と戦った勇者というのは、ここまで闇を抱え込める器があるというのか。
逃げる、スミスはただ逃げる。
あの「魔王」から逃げ出すために。
セージは彼らを忘れない。
一生、自分の心に刻み込む。
だから自分の心を、少しだけ彼らに分けた。
今、セージの心には四人いる。
一人分の壊れきった器の残骸の上に、それぞれ違う四つの心がある。
セージが忘れない限り、セージがその心の存在を彼の中に許す限り。
彼等は死ぬことは無いのだ。
真っ黒な世界に、ところどころ赤が飛び散っている。
その世界に転がる七つの死体の中心に位置するように。
新しい鏡が、少しずつ形を作り始めていた。
【スミス@ターニア(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態)
所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
基本行動方針:怖い
第一行動方針:逃げる
最終行動方針:ゲームを成功させる】
【現在位置:南東の祠へ向かう分岐点の少し北→逃走】
【フィン(HP1/2ほど、MPほとんどカラ、風邪+体力消費)
所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:セージを殺す
第二行動方針:風邪を治す】
【セージ(HP4/5、魔力1/3程度、多重人格)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
第一行動方針:魔女の手下(フィン、スミス@ターニア)を殺す。
基本行動方針:魔女討伐
最終行動方針:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:南東の祠へ向かう分岐点の少し北】
茂みを抜け、その姿を目の当たりにした時、パパスは即座に己のあやまちに気がついた。
これは結果論に過ぎなかったが、彼は偵察などしに来るべきではなかったのだ。
すぐに荷物をまとめ、仲間と共に身を潜めるべきだった。
パパスの目の前には、1人の剣士が佇んでいた。
流れる銀髪。あちこちが裂けた漆黒のコート。
2mの長身と、その手に握られた抜き身の刀。
傲然とこちらを見据える眼は千の言葉よりも多くを語りかけ、パパスはそこにあらゆる凶兆を見てとった。
噂には聞いていた。
噂にしか聞いていなかった。
銀髪の殺人者――セフィロス。
その者が発する剣気は想像以上のものがあった。
私はおそらく、ここで死ぬ。
パパスは、自他共に認める超の付く一流の剣士だ。
しかし――いや、だからこそ、彼我の差を瞬時に理解してしまった。
その思考は他の時ならば自らを叱咤せずにいられない弱気なものと言えたが、パパスはこれを殆ど自明なこと、前提条件としてさえ受け止めた。
ただし、と彼は胸中で付け加える。
どのように死ぬかはまた別の話だ。
繰り返すが、パパスは一流の戦士であり、守るべき命を授かった1人の男だ。
息子こそ目の前で失くしてしまったが、彼には息子の遺した忘れ形見がいる。
この世界のどこか、今も孤独に彷徨っているはずの孫娘のタバサ。
そして、すぐそこにいる、たしかな絆を繋いだ仲間達。
彼らのためにパパスは剣を握りしめ、ゆっくりと構えを取った
背水の覚悟を持った、その勇姿。
セフィロスは未だ構えも取らず、棒立ちのままだったが、
パパスの立ち姿に少しく目を細め、口を開いた。
「飛竜を……あるいはドラゴンオーブというアイテムを、知らないか?」
パパスは斬撃の代わりに発せられた質問に虚を突かれたが、即座に答えた。
「知らぬ。お前と交わす言葉など唯の一つもないぞ、セフィロスよ」
「……私の名を知っているか。では、もう一つだけ聞いておこう。こちらは応えても特に支障はあるまい」
そう前置きすると、セフィロスは僅かに口元を歪めてパパスにその名を尋ねた。
セフィロスの微笑、それはむしろ凄絶な印象を強めるものであったが、パパスは固く剣を握りしめ、それに応じた。
「パパス。ただの剣士だ。ゆくぞ、セフィロス!」
斬りかかろうとしたパパスへ、セフィロスが初めてその刃を向ける。
射抜くような殺気。
足を踏み出すたびに神経を削られていくような錯覚を抱きながら、パパスはそれでも前進をやめなかった。
脳裏に浮かぶは背後にいるケフカ達。
おそらく――いや、確実にセフィロスは仲間の存在に感づいているだろう。
多少呪文を使えはするが基本的には非力なピエロと、疲れ切った様子の男の子。
パパスは彼らを呼んで得られる力と、その結果失われるであろう命の数を秤にかけた。
そしてパパスはパパスであるからして、この選択には最初から選択の余地などはなかった。
彼はセフィロスに1人で立ち向かうことを決意し、そして叫んだ。
「ケフカ殿、セフィロスだ! ルカを連れてすぐに逃げろ!」
袈裟がけに振るった剣は空を切り、返しの一閃も弾かれた。
セフィロスの反撃を危ういところでかわしながら、パパスは心中でルカに謝った。
君達を頼れないことを今回ばかりは許してほしい。
私が奴を抑えるからすぐにここを離れろ。
そして生きろ、と。
++++++++++
――逃げろ。
離れた場所にいたルカの耳にも、パパスの言葉はしっかり届いていた。
切迫したその響きが、パパスの置かれた状況の不味さを物語る。
頼もしさと、少しの寂しさを漂わせていたパパス。
出会って一時間と経っていない彼だが、既にパパスはルカにとって仲間だ。
仲間を置いて逃げるなんてできない。
あの威厳溢れるドラゴン――ドルバを失った時のような思いはしたくない。
泣きたくなるほど強い思いだったが、ルカは未だ逡巡していた。
セフィロス。
その名はギードから聞いていた。
多くの……とても多くの人を殺した恐ろしい殺人者だ。
自分が助けに行ってもただ無駄死にするだけじゃないか。
臆病な自分が囁きかけてくる言葉を、ルカは頭を振って撥ね退けた。
そしてケフカとアンジェロを見つめて、決死の思いでこう言った。
「行こう、パパスさんを助けに! 倒せはしなくたって、力を合わせればきっと皆で逃げられるよ!」
「え〜!!ボクちん怖〜〜い!!」という言葉を予想しないでもなかったが、
ケフカは思いのほか神妙な顔で頷き、アンジェロは勇気づけるように一吠えあげた
とんとん拍子で仲間の支持を受けることができたのに勇気づけられ、ルカは先陣を切って足を踏み出した。
そしてそんなルカに寄り添うようにして、アンジェロも歩きはじめる。
ただ、一人と一匹の後ろ、ケフカだけはその場から動かず、笑みを浮かべて片手をかざした。
++++++++++
振り下ろされる刀をいなし、かわし、受け止める。
一瞬一瞬が死線の連続だった。
一秒は一時間に等しく、一分は永遠にも似て引き延ばされる。
本来ならば必殺の一撃にもなるはずの豪剣で距離を稼ぐと、パパスは乱れた息を整えた。
初見で感じた通り、目の前の男は強い。
そしてなにより、異質だ。
存在の在り方そのものからして何かが違う――。
表情を険しくするパパスに、再びセフィロスが言葉を投げかけた。
「大した腕だが……、私には及ばない。
質問に答えるのは今からでも遅くはないぞ? そうすれば今回は見逃してやってもいい」
それは一見甘い誘惑にも思えたが、パパスはつれなくその誘いを否定した。
セフィロスが求める情報を本当に知らないというのも理由と言えば理由だが、
それ以上に根本的なわけがパパスにはあった。
セフィロスの情報をパパスに伝えたのはサイファーという青年だったが、
彼が教えてくれたのはもちろんその名前だけではなかったのだ。
「お前は命の恩人をも殺したと伝え聞いた。それもうら若き少女をな。
そのような者の言うことなど信じられると思うか」
パパスの返答は、殆ど予想通りのものだったに違いない。
セフィロスはまた少し笑みを濃くすると、嘲るように言葉を紡いだ。
「ならば、お前の仲間に聞くとしよう。どうやら、私に会いたがっているようだからな」
――どういう意味だ?
パパスが問うより先に、けたたましい笑い声がそれを遮った。
同時に横手の何もなかったはずの空間、ちょうどパパスとセフィロスの中間に当たる位置から、突然ケフカが姿を現した。
バニシュ――パパスの知らない魔法だったが、それを使って姿を隠していたのだ。
「これは残念だ! ぼくちんがせっかく驚かせてやろうと思ったのに!!」
キーッと唸って悔しがるケフカを、パパスは大きな驚きをもって見つめていた。
まさかケフカが、こんな能力を持っていたとは……。
いやそれ以上に、こんなに強い勇気と、仲間への忠誠を持っていたとは……!
パパスは思いがけぬ感動に心を打たれながら、それでも聞くべきことをケフカに正しく聞いた。
「ケフカ殿、心遣いはとてもありがたいが、ルカはどうしたのだ? 連れて逃げるように言ったはずだが――」
「あのガキンチョならぜ〜んぜんッ心配ないですよ!
無茶しようするから、ぼくちんの魔法で眠らせました!!
んでっ! 誰にも手が出せない場所に連れて行きましたよ!!!」
成功を親に見せびらかす子供の無邪気さを見せてケフカは笑ったが、
パパスは緊迫した状況に似合わぬ様子と、その言葉に怪訝な表情を浮かべた。
「さきほどルカは眠れないと――」
言いかけたパパスの言葉を、上から被せるようにしてケフカが遮った。
「ところがどっこい!! ボクちんはとっても賢い方法を思いついたのです!
え〜、ちょっと待ってください……どれどれ……ブリザラ!」
そう言ってケフカが手から顕現させたのは、一粒の小さな氷だった。
「一体それがどうしたのだ」と言いかけて、パパスはその氷塊がひどく鋭く、尖っていることに気がついた。
そして氷塊はその鋭さを保ったまま、みるみるうちに大きくなっていくことに――。
「……ケフカ殿、まさか!?」
氷塊に比例するように強大になっていく魔力と悪意を察知し、この時になってようやくパパスはこの道化の危険性を理解した。
パパスは初日に会ったレオという戦士の行動、その正しさを思い知った。
時たま胸の中でくすぶった小さな不安、その正しさを思い知った。
パパスの目の曇りが多くの人を――そしてルカを死なせてしまったのかもしれない。
――許せ、ルカよ!!
嬌声と共に飛来してくる氷の槍を剣で粉砕したパパスだったが、彼の抵抗もここまで。
次の瞬間にはパパスは胸から刀を生やし、滝の如く血潮をしたらせていた。
「眠ったら起こせないのがこの方法の難点だな……」
セフィロスがそう囁いたのは刀を抜いた前か後か。
パパスには何も分からない。
ただ彼は崩れ落ちる間際、誰にも聞き取れない声で息子と孫娘の名を呼びかけ、
そして地面に着いた瞬間には事切れていた。
パパスには知るよしもなかったが、彼が守ろうとしていた孫娘のタバサも既にこの時には逝っていた。
こうしてパパスとその一家――グランパニア一族はこのゲームで死に絶えた。
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:ケフカに対処
第二行動方針:飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【ケフカ(MP1/4程度)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 爆発の指輪(呪) アリーナ2の首輪
第一行動方針:???
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスキャッスル南の草原】
【ルカ 死亡】
【パパス 死亡】
【残り 29人】
両者は最初の15分ほどは座椅子にすわって落ち着いて待っていた。
20分過ぎたころからは、一方は足を組み腕を組み、一方はときおり貧乏ゆすりを始めていた。
25分経ったくらいから、特に目的もなく席を立ち部屋をうろついたり、時間をしきりに気にしたりする様子が目立ち始めた。
ロックとラムザ、リルムと大きな関わりを持つ二人がプサンの帰りを今か今かと待ちわびている。
「もうすぐ30分経つぞ。あのオッサン本当に大丈夫なのか?」
誰にというわけでもなく、ロックはつぶやく。その声色には不安を隠す気配もない。
「30分と期限を切っているんです。それまでは待ちましょう」
ラムザはロックをたしなめるが、
壁時計と部屋の出入り口を交互に眺めるその姿に落ち着きはない。
一方で、クリムトは部屋の隅にて、静かにたたずみ、ときおりギードと何らかの会話をおこなっている。
ギードはそれまでも、それからも首輪の研究をおこなうだけだ。
二者と二者、あまりに対照的な様子である。
「何に対して不安を抱いているのかね?」
落ち着きのない二人に対してクリムトは質問をおこなう。
「何ってそれは…」
ロックとラムザはひととき考え込む。
あまりに不安要因が多すぎて、具体的な答えを出すまでに戸惑ったのだ。
「リルムが無事なのかとか、アーヴァインがいたらどうするんだとか、
セフィロスが襲ってきたらひとたまりもないんじゃないかとか、とにかく色々だよ」
ひねり出した答えもどこか抽象的。
「ふむ。要するに、プサン殿の力では、自らの身も、リルムの身も守りきれない、
そう考えているのではないかね?」
率直である種辛辣な物言いだが、二人の不安の原因を言い当てていた。
それは、二人はプサンを信用し切れていないということだ。
「まあ率直に言うとそういうことだな。
あのオッサン、戦ったことがない、つーか間近で見たこともあるかどうか怪しいぜ。
妙に自信がありげだったから結局折れる形にはなったがよ、こうも戻りが遅いとなあ…」
最終的には折れる形になったものの、
プサンの単独行動に反対したロックは当然、セフィロスに出会って無事ですむとは思っていない。
そしてラムザもプサンの力を信用してリルムの捜索を任せたのではない。
彼の単独行動案を真っ先に支持したのは、ただセフィロスに出くわすのが恐ろしかったからだ。
ウィーグラフが自らの命を賭け、セフィロスを凍った湖の中に引き込んだはずなのに
まるで何事もなかったかのように現れた光景、
それは一種のトラウマのようなメモリをラムザの心に刻んでしまっていた。
しかし、自身の抱いた恐怖を素直に認めたくはないというのも事実。
クリムトにはその部分を見透かされているような気がした。
ラムザの思いを知ってか知らずか、クリムトがアドバイスを始める。
「逆に考えるのだ。戦いの経験がないからこそ適任と考えよ」
「戦えないから適任? どういうことだそりゃ?」
二人が今一度顔を見合わせる。
ラムザは首をかしげ、ロックは腕をくみ、目を細める。
わけがわからん、とでも言いたげだ。
「話を聞く限り、セフィロスとやらは正面から戦えばここにいる誰よりも強いのだろう?
ならば、そなたがプサン殿の代わりに行っていたとして、セフィロスとやらに出会えばどうする?」
ロックは運よくセフィロスと関わったことがない。
だが、ギードやラムザの話を聞く限りでは、
一対一でまともに戦って勝てるような相手ではないということくらい感じ取れる。
もし一人のときに出くわせば、それこそ逃げるという選択以外思いつかない。
「そのときの状況次第だが、俺なら逃げるだろうな。
話聞いてる限りじゃ、とても一人で戦えるような相手じゃねーよ。
でも、あのオッサンは逃げようにも逃げられないんじゃないか?」
「うむ、だからこそ正面から打ち破るしかないのだ。
ただし、白兵戦や遠戦ではなく、舌戦によって、だ」
「ちょっと待ってください、あの男相手に話が通じるとは思えません。
話に持ち込もうとしても、その前に襲われればどうしようもないのでは?」
ラムザは話術師の経験がある。いったん話し合いに引き込めば、どんな相手だろうと説得する自信はあるが、
それは相手が話し合いのテーブルについてくれてこそだ。
そして、セフィロスという男の辞書には交渉という言葉自体が載っていないのではないかとすら思えた。
あれだけの強さがあれば、すべてにおいて力ずくで我を通すことができるのではないかと思ってしまうのだ。
「確かにわしもあの男との交渉など考えもせんかったが…」
静観していたギードがぽつりとつぶやく。
「それは一度あの男と出会っているからかもしれん。
ラムザや、少なくとも、先ほどおぬしは襲われておらん。
理由は分からんが、今は問答無用ということはないのじゃろう。
そして、プサン殿はあの男とまるで面識がないからこそ、
そのような先入観なしに、あらゆる手を駆使して場を切り抜けられる。
そういうことなんじゃろう?」
「うむ」
そう、クリムトの言葉はあくまで気休め。
会った、会わないによる差異があるならば、
やはり普通は会ったことがあるほうが有利に振舞えるものだ。
規格外のセフィロスだからこそ、このような話がまかり通るが、別に会わないほうが有利という保証などどこにもない。
プサンにはそれなりの勝算があったと推測しているが、
実際に無事なのかということまで感知することはできない。
ただ、いたずらに不安がるよりは精神衛生的にはよいというだけ。
本当は二人の気の流れを感じ取ることができれば確実なのだが、
闇の世界は邪悪な力が強すぎてうまく感じ取ることができないのだ。
自然の流れの中に気配を隠す術を持つセフィロス相手では、
たとえ他のフィールドであっても存在を感じ取ることは難しいのだろうが、そこは彼の知るところではない。
壁時計を見上げる。まだ数字の中心と長針は重なっていない。
「まだ時間はあるしの。定刻までは落ち着いて待つことにしよう。
ひょっこり戻ってくるかもしれんしの」
「誰がひょっこり戻ってくるんですか」
話の流れをまるで理解していないのんきな声。
「誰がって、さっきからずっと話してるだろ……??」
少しあきれ気味にロックが質問者の声のしたほうへと振り向く。
話題の本人は、とっくに戻ってきていた。
「プサン殿、戻ってきていたのなら声をかけてくださらんか」
「いえいえ、何かお取り込み中だったみたいで。
あ、ギードさんが話し始めていたころには帰ってきてましたよ。
クリムトさんは気付いていたみたいですけど」
時刻は30分後ぴったり。その飄々とした雰囲気は相変わらず崩れない。
「ったく、人の悪いオッサンたちだぜ…」
「まあ、心配なのは分かりますが、もっと心に余裕を持ったほうがよいですねえ」
ロックとラムザはどっと疲れたかのように大きなため息をつく。
「このオッサンが死ぬところが想像できなくなった」
「心配すること自体、杞憂だったように思います」
結局、プサンの報告では、リルムはピサロ、アーヴァインと共にこの城を後にしていたとのこと。
アーヴァインと一緒というところに関し、ラムザは大いに不安がったが、
プサンとロックからはピサロがいるから大丈夫だと説得された。
そして、セフィロスには遭ったが、うまく別の場所へと誘導はできたとのことだった。
「『バリアの先の隠し部屋』に、確かに人がいた形跡が残っていました。
私が出向いたときにはもぬけの殻でしたから、セフィロスと出会う前にここを発ったのでしょうねえ。
激しく争ったような様子はありませんでしたしね」
「そのセフィロスは一体どうしたんだ?」
「途中で会いましたよ。
とても友好的とは言えませんでしたが、忙しいらしいので当分は襲ってこないでしょう。
なんせこの私が五体満足なのですからね」
「オッサン一体何やったんだ? 本当に説得したのか?」
「探し物をしていたようですので、心当たりがあると言ったら見逃してくれましたよ。
半分は出任せですが、まあ背に腹は変えられないとでもいうのでしょうか?
まあ、しばらくは戻ってきませんでしょうね」
ラムザがあきれたようにため息を付く。
本当にセフィロス相手に、しかも出任せを並べて説得するなんて、規格外もいいところだ。
話術師の経験を積んだ自分でさえそんなことができるかどうか。
ここは亀の甲より年の功とでも言っておくべきなのだろうか?
いや、亀の功だって相当なものだけれど。
「それより、面白いものを見つけましたよ」
そう言って、プサンは文字が書かれた数枚のしわくちゃの紙と、きれいな紙を取り出し、きれいなほうにこう書き記した。
『この手紙以外は、口に出さないように』と。
「きたねー字だな。誰の書いたメモだ?」
「アーヴァインさんとピサロさんですよ。
最悪自殺もありうると思っていましたが、どうやら予想以上に元気そうですよ」
二人の名前をだしたとたんに奇妙な沈黙が走る。
ロックとラムザという、よくしゃべる二人が何の返答も返さなくなったのだから当然だ。
ラムザからはつーっと冷や汗が流れている。その間五秒。
「アーヴァイン!?
こうしちゃいられない、すぐに追いかけないとッ!」
「…話が見えないのですが、どうかなさったので?」
「アーヴァインのやつがおかしくなってるんだとよ。
無抵抗の人間の目をつぶしただとか、ユウナがエドガーを殺したとふれまわってるとか、
ピサロを人質にしているとか、まあどこまでが本当かは分からないがな」
「人から聞いた話ではありますが、少なくともまったくのウソではないと確信しています。
気を許していいような相手じゃない」
「わしにも心当たりはあるんじゃが、彼には色々と不安定なところがあったからのう、
どの情報を信じていいのか分からんのじゃよ」
プサンはアゴに手をあて、ふーむ、と一呼吸したあとできれいな紙のほうをラムザに渡す。
ラムザはテーブルに手紙を載せ、食い入るように見つめる。ロックも横から覗き込む。
アーヴァインの置き手紙の内容は、パーティから離れたことへの謝罪文と、ピサロ、リルムの行方。
「なんだか、ずいぶん参ってるみたいだなあ」
手紙を見たロックの最初の感想だ。
確かに一見、ただ思い詰めているだけにも見えるが、どこか違和感がある。
アーヴァインはアルガスに人を連れてくるように言っていたはずだが、その到着を待つことなく出発している点。
ギードらがこの城にいることはリルムを通して聞いていたとしても、探し人にまるで触れていないのはどういうことなのだろう?
そしてもう一点。手紙を読む限りでは、自身の行動を制御できていないように見えるが、
ギードやロックから又聞きした話では、理性の種という薬剤の効果でアーヴァインは明確な理性を保っているはずだ。
プサンに改めて確認したが、間違いないという。
もっとも、具体性がまるでないこの手紙ではどこからどこまでが本当なのかは分からない。
次に渡されたのはメモ。部屋の隅のほうに放り投げられていたらしい。
筆談をしていたが、何かの理由があって片付ける前に部屋を出ることになったのだろうというのがプサンの予測だ。
それがセフィロスによるものか、リルムの訪問によるものか、まったく別の要因なのか、
それとも他の人間が残したメモが残っていただけなのかは分からないが。
文章は、二つに分類できる。
汚い文字で書かれている、くだけた印象を持つ文章と、機械的に整った、かたい印象を受ける文章。
前者は質問や確認が多く、後者は回答や考察が多い。
筆跡から見るに、置き手紙の執筆者と質問をしている人物は同一だ。
内容自体は脱出に関する話。アルガスはピサロが人質だといっていたが、その点は誤りに見える。
書かれていることにこれといって不審な点は見当たらない。むしろ有益なくらいだ。
だが、アーヴァインがこれを書き、なおかつあの置き手紙を残していったということを考えると不審な点がボロボロと出てくる。
これだけ脱出について熱心に考察をしていながら、突然こんな思い詰めたような手紙を残すだろうか、とか、
それに、ウソではない、100%ウソだよねと尋ねたくなる話とはなんのことか、などという点だ。
「あいつ、俺に会いたくないから適当な手紙書いてごまかしたんじゃないだろーな…」
ロックがあきれた声で感想を漏らす。ギードも苦笑いを浮かべる。
「まあ、考えられんこともないがの」
「冗談のつもりだったんだが、勘弁してくれ…。俺もあんまし会いたかねーけどよ」
理由はとにかく、アーヴァインが二つの顔を持っているのは確かだ。
ロックに会いたくないから、などの理由ならいいが、何か企んでいたならリルムが危険にさらされる。
それとも、何も企んでいなくて、本当に精神が不安定なのだろうか。そちらのほうが危険だ。
突然、気まぐれに人の目を抉るようなことがあればそれこそ対処できない。
プサンとてすべての事象を知っているわけではないだろうし、理性の種とやらが効いていないことも十分に考えられる。
なにせ、世界が違うらしいのだから。
「ま、私はどちらでも構いません。追いたいのならば止めはしませんし、
行けと強制することもありません。
セフィロスは当分戻ってこないでしょうから、それ以外はなんとか撃退できるでしょう」
どの情報が信用できるか分からない以上、やはり自分の目で確かめたかった。
すみません、と言い残し、ラムザは部屋を後にする。
もし同じような志を持った人間がいるならば城に来るように伝える、その役割をプラスして。
「では、また始めるにしましょうか。
クリムトさんかギードさん、向こうでもう一つ気になるものを見つけたのでちょっと来てほしいんですが。
どうにも私は魔法文字には疎くて、ね」
「む、では私が行こう」
クリムトがプサンに連れられ、部屋を出る。
去り際にロックに声がかけられる。
「ロックよ。そなたは行かなくても大丈夫なのか?
リルムという者が仲間だったと聞いておるが」
「ピサロが一緒にいるんだろ? なら大丈夫だ。
二回もあいつに、もっと人を信用しろと説教くらった。次にあったら三階目だよ。
さっきもあんたに説教食らったしな。いい加減、落ち着くことにするよ」
ピサロは信用できる。ラムザとて、多少冷静さは欠いていたかもしれないが、信用に値する人物だと思う。
リルムは心配だが、そこにロックまで加わる必要もない。
体力には自身がある、もしなんらかの研究成果が出て、人を集めることがあれば、自分が必要になるはずだ。
「ふむ、ではまたよろしく頼むぞ」
「任せとけって。アンタらはまわりに気にせず好きにやってくれ。
面倒ごとは全部引き受けるからよ」
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
第一行動方針:首輪の研究
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP2/5ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:首輪の研究
第二行動方針:アーヴァインが心配/ルカと合流】
【クリムト(失明、HP2/5、MP2/5) 所持品:なし
第一行動方針:ピサロの魔力メモを研究
第二行動方針:首輪の研究
基本行動方針:誰も殺さない
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ギード達の研究の御衛
第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデを警戒
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル2Fの一室】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:リルムを追う
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル城外】
そういやまとめサイトってどうなってんのかな
見た感じ、しばらく更新されてないみたいだけど
一年以上更新されてないよ
まとめサイトの人のブログもあったけどどっか行った
復活するのを楽しみに待ってた、
>>1乙!!
そういえば4thのうわさって本当?
新参者なんだが、4thやるんだったら最初からリアルタイムで見ていきたい
ロワでこの板検索すると出る
やるんだったらというかもうやってる
既に70話くらい行ってる
FF勢生き残り過ぎて偏ってるな
最近たまたまDQキャラが多く死んだからな
だが、それ以上に偏ってるのが男女比w
FF勢は祠で固まってるのも大きいな。
旧ウル組がターニア捜索で分散したと思ったらまた増えて大集団を形成。
保守るぜ
>>80 乙。
編集のしやすさも考えるとブログでもいいと思います。見づらいということもなし。
4thやってるみたいだけど3rdも頑張ろう。せっかくここまで進んだんだ。
82 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/02/01(火) 04:26:01 ID:/ZbzDX+bO
浮上
このロワ始まったときって、キャラバンハート発売してすぐだったりとかしたの?
キャラバンハートの知名度低いのに、このロワでは何人も出てるし
先月開始だよ
なのに2〜3年経ったかのような過疎具合
先月開始でもうPart16も行ったのか
そりゃ凄いな
何か誤解を招いている感。
このロワが始まったのは丁度「キャラバンハート発売後〜DQ8発売前」の時期。
だから比較的発売後すぐではあったキャラバンハート勢が活躍しつつも、DQ8キャラはいないというカラクリ。
CHキャラが多く出てるのは俺が書きたくて三人挙げただけだ
実際に登場話を書けたのは一人だけだったが、
どのキャラも割といい感じに動いてくれて満足してる
うん、まあ多分あそこと勘違いしてるんだろうなとは思ったけど
ちょっと意地悪言ってみただけ
最近キャラバンハートにハマってんだけど、結構いいキャラ多いよな
このロワに出てるスミスマチュアドルバとか
あとパンナとかウェバーとかカカロンとかも好きだ
出遅れたせいであそこには出せなかったのが残念
>>87 その3人ってのが誰なのか気になるな
お久しぶりです。
新スレも立ち、新作も投下され、FFDQ3rdは再び勢いに乗ってきたと言っても過言ではないでしょう。
まさに「復活」という言葉が似合うこの期に乗じて、やらかしてやろうと思います。
というわけで今夜、節分ラジオするよー^^
時間になったらURL貼ります。
追記
一応、本日20時〜21時の間には始めようと思っています。
色々と完了したら改めて貼らせて頂きます。
何となく来るような気はしてたけど、本当に急に来たなw
始まる前に気付いてよかった
でもこれじゃ見逃す人も多いんじゃ?
絵板GJ!
ラジオの流れで投下来ると思ってたぜw表情が怖いな
844 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/05(水) 18:51:13 ID:92MBpHRn
しかしもう7スレか。
そういや1stでは7スレ目で完走したわけだが、3rdはやっと中盤に入った所か。
完走するには1stの倍は行きそうな予感。
845 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/05(水) 20:06:12 ID:NSTSH/AH
時間もスレ数も話数も倍行きそうだな。
846 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/05(水) 20:15:02 ID:I66JT2gJ
時間か……1stは開始からどれくらいの期間で完結したのん?
847 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/05(水) 20:26:02 ID:2RipmcjC
確か2002/09ごろに始まって、2004/05辺りで終わったから
ちょうど一年半ってところじゃない?
あと一ヶ月で3rd開始から一周年だからなぁ
書き手さんにもよるけど、
このペースだとあと一年ぐらいかかるんじゃないかな
848 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/05(水) 20:28:23 ID:2RipmcjC
よく考えたら全然ちょうどじゃなかったorz
849 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/06(木) 01:19:57 ID:djAbKtLD
もっとかかるだろ。このペースならあと2年と見た
850 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2005/10/06(木) 07:09:48 ID:9+2bWaD0
完走すればの話だがね
44 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ[sage] 投稿日:2008/11/07(金) 19:30:58 ID:YWUIDmCc0
心理学研究によると、同じメンバーで物事をやり続けてると、4年目あたりからだんだん効率とか質が下がって、
6年目くらいになるともうダメになってしまうらしいね。
まあ書いてる人がずっと同じってわけじゃないから完全には当てはまらないとは思うけど、
あと二年以内でどれくらい進められるかは重要だと思う。
2年どころかもう5年…
この調子だとあとさらに4,5年くらいかかりそうだ
今7年目か
10周年は普通にやってきそうだな
2005年の俺ワロタ
うん、闇の世界のどこかにあるのは確定してるよ
ありがとう。忘れてる細かい伏線たくさんありそうだ
ところで、ラジオで話題になったけど放送行く?
というか、放送書きたい人いる?
そんな話題になってたんだ。まだ正午くらいだと思ってた。
経過時間の見積りきちんとやってないけど、放送は早い気がするー
激しい時間の不都合が生じるグループがなくて
放送前の話を熱く執筆中の人がいないなら放送に入ってもおk
みんな各所の時間がどのくらいって感覚はあるのかな?
俺全然気にしてなかったわ。まだ昼間って感じしかなく。
今から話見直して時間見積りしてくか
闇の世界で太陽ないからちと分かりづらいんだよね
城+城周辺組と祠+サイファー・ソロ組でまだ結構時間に差がある気がしてた
リルム達が結構動いてたからかな
同じく見直してくるか
アルガスがちょうど時計で時間確認してくれてるよ
『ある男と女の夢』冒頭で11時10分
『裏切り合う人たち』だと転身後半日くらい、転身したのが日付が変わるよりちょっと前だから、11時くらいかな
特定のパートがどうこうでなく、全体的に日没にはまだ早い印象があります
太陽がないせいもあるんかな?
一番時間が進んでるパートがまだ昼過ぎだからな
進んでないパートは正午にもなってない
放送しちゃえば話が動くからやりたいってのはワカルンダケドネー
放送が6時間ごとならよかったんだが。
「あれ? 今何か見えませんでしたか?」
「そうか? 俺は気が付かなかったが」
何か背の低い……。子供? いや、違う。
あの一瞬見えた影は、さらに小さかった。まるで獣のような。
「草か小動物を見間違えたんじゃねえのか?
こんな世界でも、生き物がいてもおかしくはねえだろ」
「あ、そうだ、それですよ。ルカ君が連れていたペットです。確か……アンジェロ」
「アンジェロ? だがよ、ルカは呪いかなんかのせいで動けないんじゃねえのか?」
「動けないからこそ、アンジェロに様子を探ってもらっているとか?」
「なるほどな。どっちの方向に向かったんだ?」
「南のほうです。行ってみましょう」
何時か経ったころ、
わたしの視界の隅に、
見覚えのある影が映る。
ルカと共に行動していた、
アンジェロという名の犬だ。
ルカの姿はどこにも見えない。
どうなったのか聞くまでもない。
つまり、『そういうこと』なのだ。
もう感情をぶつけようとは思わない。
殺人者、知り合い、仇、何が来ようが、
わたしにとってはもうどうでもいいのだ。
もし彼女らがもっと早く来ていたとすれば、
この手で絞め殺そうとしていたかもしれない。
貴方たちがサックスを殺したとか理由をつけて、
激情にまかせて襲い掛かっていたのかもしれない。
けれども覚悟を決めてポーションを飲み干したとき、
すべての感情や想いをそこに捨て置いてきてしまった。
今生きているのは、まだ生きていたいという理由でなく、
自分からわざわざ死のうと思わないから、それだけの理由。
アンジェロは私に何かを伝えようとしている。
けれども、私に動物の言葉は理解できないし、
仮に言葉が分かったとしても、どうでもいい。
ただ一つ、わたしが彼女に望むことといえば。
「私と一緒に死んでくれませんか?
一人で逝くのは少し怖いので…」
アンジェロがびくりと震える。
「ご主人が死出の旅に出たのなら、
その後を追えばいいだけですよ。
一人で逝くのは心細いとしても、
二人一緒ならきっと大丈夫です」
少しだけ後ずさりしているが、
吠えたり唸ったりなどはせず、
哀れな目で私を見つめるだけ。
「イヤなら、ここから立ち去って」
アンジェロは寂しそうに鳴き、
とぼとぼと私達の元から去る。
足音が徐々に遠くなっていく。
数分後、私達はまた二人きり。
私はなぜ生きているのですか?
私は何をすればいいのですか?
私に何をしろというのですか?
魔女と戦え、と?
仲間を救え、と?
復讐に狂え、と?
もう何もする気もないのに、
頭の中に私の声が鳴り響く。
私のなかにある光と闇とが、
バランスを崩しているのだ。
もし私にまだ意志があれば、
闇に突き動かされただろう。
けれども私はもはや抜け殻。
魂が入っているだけの人形。
闇に飲まれるのは怖いけど、
私が闇に飲まれたところで、
何が変わるともおもえない。
きっとこのまま何事もなく、
無意味な最期を迎えるのだ。
長い長い、二度目の走馬灯。
何も残されていないのなら、
せめて命が尽きる瞬間まで、
彼と一緒でありますように。
豆粒のように見えた架け橋の塔が徐々に大きくなっていく、
そのあたりで進行方向からアンジェロがやってくるのを発見する。
やはり一緒にいるはずのルカの姿は見当たらない。
どこかではぐれたか、それとも雲を出す魔力が尽きて動けないのか?
ソロたちの姿を見たアンジェロが、駆け寄ってくる。
動きが若干重いのは、疲れているのだろうか?
「ん? お前もしかして怪我してるのか?」
アンジェロの背中が不自然に赤い。わずかに血に濡れている。
だが、アンジェロ自身が怪我をしているというわけでもなさそうだ。
よく見ると、体毛の一部が凍り付いて固くなっている。
「これは……何かあったんでしょうね?」
アンジェロに付着した血や氷。
ソロたちをどこかへ連れて行こうとするわけではない、アンジェロの態度。
もしルカが怪我をしていたり、動けないのだとしたら、会った途端に積極的に主張しそうなものだ。
二人とも口には出さないが、ルカが今どうなっているのか、万が一のことが頭にちらついている。
「進行方向からは少々外れますが、調べてみますか?
どちらに行くかというのが問題ですけれど…」
ソロが見たのは北から南へ進むアンジェロの姿。
そして、今は南から北へと進んできたアンジェロに出会った。
どこへ行けばいいのかが分からない。アンジェロに聞こうにも、彼女の言葉は分からない。
ソロたちは西へ行き、ロザリーたちと会うという目的もあるのだ。
アーヴァインに続いて、二度もすれ違うのはさすがに避けたい。
「アンジェロ、お前何を見てきたんだ?」
アンジェロは何かを言っているのだろう。
南で起こったことを聞くと哀しそうな反応を見せ、
北で起こったことを聞くと、北へ行こうとすると、必死で何かを訴えようとするが、
やはりサイファーたちには分からない。
「ちっ、どうしたもんかな…?」
【エリア(体力全快、顔に軽い打撲、下半身に軽い怪我)
所持品:スパス スタングレネード ねこの手ラケット
ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 拡声器 水鏡の盾
第一行動方針:もう少し、サックスとともに居る
第二行動方針:次の放送を聴くまでは命をつなぐ
基本行動方針:無気力。積極的に生きようとは思わないが、無意味/孤独な死は怖い】
【現在位置:希望の祠北部平原】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:はぐれた仲間、協力者、アーヴァイン達を探す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:これからどうすればいいのか分からない】
【現在位置:希望の祠北部平原、エリアのいるところより少し北】
投下乙です
エリア視点の独白が痛々しくていい雰囲気ですね
アンジェロは、ケフカに不意討ちくらったのに逃げ延びていたんだな
ケフカも相手が人語を喋れない犬だから深追いしなかったんだろうか
乙。
アンジェロは今後色んな方向に動かせそう
なんか文章に変な感じがあったんだが、よく見たら改行部分が機械的だった。
エリアのところだけ平べったくなってる…。携帯だけかな?
平べったく……?
エリアの所は意図してそう改行されてると思う
新作乙
アンジェロと会話できるのってもうラムザしか残ってないかな
>>118 エリアの虚無感を演出してるんだと思った
ほ
保守
今全部読み直してるんだけど、結構なボリュームだね
なにしろ7年もやってるから…。
読み返すと昔はノーマークだったキャラが魅力的だったりする。
テリー・ファリス・ラムザチームの噛み合わせの悪さが面白かったな。
ラムザって意外といろんなキャラと関わってるんだけど、不思議と大集団に属することはないから
小規模に細々とやってる感じもなんだか好きだ。
あと雑談スレの過去ログも面白い
浮遊大陸中盤のあたりは議論スレになってて見てられないけど
闇の世界入った直後に投下ラッシュがあったとかすっかり忘れてた事実も
>不思議と大集団に属することはないから
小規模に細々とやってる感じ
ザックスもそんな感じだよな・・・ラムザより活躍度低いけd
事故であんまり喋れなかったからな
ザックスって1stでも大集団には入ってないよね
このまま進むと遅かれ早かれ中央には行くからなんらかの絡みがありそうだが
というかあの中央の草原に人集まってきてるよな?
今でもソロたちやセフィロスたちがいるが、サラマンにザックス組にラムザにターニアにピサロ、
場合によってはカインが来てる可能性もあるんだよな
ケフカが地味に囲まれてるぞ
喪主
チラシの人のブログに素晴らしいflashがうpされていたことに超今さら気が付いたよ
2008年4月って…
雑談で話題に上がってなかったということは気付いた人がほとんどいなかったってことか。
ここじゃないどこかで話題になってた気がする
まとめの人戻ってこないかなあ〜
ホシュ
捕手
132 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/17(木) 02:51:15.40 ID:8jFVQmWG0
干す
133 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/03/25(金) 11:33:50.39 ID:4nxzCvcy0
保守
ホシュ
136 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/05(火) 06:46:55.29 ID:bKI25MlkO
浮上
このスレ終わった
なに、このスレのスロースロークイッククイックはいつものことだ。
まぁそのスロー部分で前回はスレが落ちたんだけどな。
あれはクイック状態でも落ちる
一時間前に書き込んだスレが落ちたんだから
ちなみにスレ保持数が700くらいにならないと圧縮されないから、今なら数カ月は落ちないよ
人 いたのかw
完結まで待ってます。年に1度くらいしか書き込まないですがね
何年掛かってでも完結まで持っていけるといいな
DDFFやってたら、何気にムービーのカインの戦い方が奇襲が多くて
このスレのカインを思い出して読み返した。
144 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/04/19(火) 22:56:38.27 ID:/kGJM2qEO
あ
145 :
名無し:2011/04/24(日) 13:37:53.01 ID:qJ9RTFyb0
BR法作った奴を死刑にして欲しい。
あれほど腹の立つ映画は初めてだ。
新作書こうにも人物多くて把握し切れてないし
長すぎて新参も入りにくい状態
しかし完結する時を我々は待っているのです
書き手の沸き上がってた人気キャラの多くが浮遊大陸後半で退場したのも痛かったなぁと今更ながら思う
リュカPLアルスアリ2マティウスウィーグラフとか
退場のタイミングはばっちりだったから結果論だけど
でも魔界に入った時は続々と新作来たけどなー。気長に待ってます
全員の顔付名簿作ってるけど凄い人数だな
ウィーグラフが想像していたので申し訳ないけど吹いたwww
違う、想像していたのと違ってと言いたかったんだ
DQキャラは全部知ってたけど、FFは6しか知らなかったからイメージと違う奴多かった
デッシュはもっとヒョロヒョロの学者タイプの奴だと思ってたし、
ジタンはもっとゴツイのだと思ってた
フライヤが人外だったのも驚いたな
あとザックスとサックスとか、ギードとドーガ、ギルガメッシュギルダーギルバートとかはよくごっちゃになってた
アルガス・ウィーグラフおっさんだと思ってたは過去スレでもたくさんの人が言っていたなw
俺も絵板のウィーグラフの絵を見るまでおっさんだと思ってたw
デッシュはDS版でそこそこ戦闘力があることがわかったけど
3rd開始時は一般人という設定だったせいでヒョロヒョロな印象になる
154 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/05/17(火) 20:54:49.83 ID:MoRpzWt5O
許さない
ほしゅ
156 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/02(木) 14:21:13.72 ID:NRaWvFnLO
小清水は
157 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/07(火) 01:03:31.10 ID:mgSVO0w60
もう許した
誰かここまでのシナリオを全て通しで一本のストーリーとして簡潔にあらすじ書き
で説明してくれないかな
そうすれば興味もまた持たれるだろう。
159 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/11(土) 17:22:50.96 ID:BrnPye/zO
やだ
結構長いからまとめるのは大変だな
とりあえず主人公っぽいのは誰だろう?
自分はアルティミシア的にスコールが主人公で読んでいたけど
主人公ねぇ。贔屓キャラが主人公になるよね
俺はアーヴァインかな
なぜかソロで読んでるわ
やはりスコールかなと。いつも間に合って無いが
じゃあ俺はヘンリー
アーヴァインだな
FF8やった当時も好きだったが、3rdの活躍ぶりを見て余計に好感度上がったな
ソロとスコールのW主人公で、サイファーが狂言回し的なもんだと思って読んでる。
167 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/06/20(月) 11:05:51.68 ID:D817ZVgNO
許さない
マーダーランキング
1st
1位 スコール 12
2位 セフィロス 11
3位 フリオニール 6
4位 ソロ・ハーゴン 4
2nd
資料なし
3rd
1位 ピエール 9
2位 セフィロス 8
3位 アーヴァイン 6
4位 フリオニール 5
5位 ユウナ・デール・ティファ・アリーナ2・ギルダー・クジャ・ガーランド 4
まとめサイトのリンク切れ多いな
とりあえずアリアハン編
スコールまとめ
ミシアを見て名前を呟く
マッシュ、マリベル、ラグナ、エーコとピクニック
マリベルにナイフを貰う
イクサスにアービンの話を聞きマッシュと共に走り出す
(ここからマッシュと行動)
アービンにナイフを向ける。アイラは助かるがティナは手遅れ
ゲームに乗る理由をアービンに聞く。アービンは答えた後逃走
瀕死のマリベルと再会。最期を看取る
ティファの不意打ちに気づくが右脇腹に一発、そして左胸の心臓の下あたりにもう一発
意識不明の重体になるがティナの魔石で復活
アイラが説得したティファと口論になるが反省
ティファに人を殺さない宣言。例外はミシアだけ
最初の場所に戻ってきたらイクサスに罵倒される
エーコとラグナの死亡を知る。2人の弔いをする
寝たふりをしてマッシュを遠ざける。
1人になりたいと思いつつリノアがいたら…と考える
放送を聞いたティファが発狂
VSティファ(ティファに撃たれたアイラ死亡)
無傷でマッシュと共に逃げることが出来た。アイラの支給品は袋ごとゲット
旅の扉の前でオルテガ&パパスに会う。情報を交換しマッシュと共に第二世界へ
アービンまとめ
あいうえお順で最初に呼ばれる
クルル殺害後ティナと交渉
ティナと行動
正気に戻ったティナを不意打ちで殺害。ティナ魔石化
スコール達から逃走後、セルフィに再会するため何でもすると決意
ティファの自殺を止める。スコール達を始末するようになだめる
バーバラにラリホーマをくらい持ち物を奪われる
ソロに拾われる
見張りのピサロを適当に言いくるめ外へ
ギルバートを始末
屋根の上でカインと交渉
マーダーバレを確認
G.F.ディアボロスのエンカウントなしを利用
火矢を使って宿屋にいる人間を狙撃
デールに気づかずカインにヘンリー達の行動を報告
カイン&アービンVSピサロ&レナ
キレたピサロに相手に震え上がる。カインは逃走
気を失っている間にソロに救われる
ビビ・ターニア・レナ・ピサロ・ヘンリー・エリア・ソロ・アービンの大御所に
ソロ達に自分の今までの行動とFF8の事を話す(ミシア・セルフィのことは話してない)
発狂後ディアボロスが暴走。その後この世界の出来事・セルフィに関して記憶喪失に
放送でラグナの名前を聞いて発狂。ヘンリーに平手打ちをくらう
ソロと共にギルバートの墓参り
VSイクサス&バーバラ
ティーダに助けられ第二世界へ
アリアハンまとめ2
ソロまとめ
ヘンリーの頭の傷を治して逃げる
ヘンリーと行動
雷鳴の剣をヘンリーに渡す
VSテリー(DQ6)
ロックの天空の盾に気づく。ロック&フリオも行動を共にする
レーベ村宿屋にてヘンリーに回復魔法をかけ続ける
意識の戻ったヘンリーと天空の勇者談義
VSビアンカ
寝ているアービンを拾う
ターニア・ピサロ・ビビが宿を訪れる
ピサロにアービンがゲームに乗ってることを教えてもらう
燃えている宿から逃げる。ソロとビビを連れて西へ
ピサロとは別行動
ビビと共にカインの奇襲を受ける。カインはすぐに逃走
盾を投げてヘンリーを助ける
ビビにヘンリーを任せてピサロ組の元へ
ピサロを止めアービンを助ける。もう誰も死ぬところを見たくない
ビビ・ターニア・レナ・ピサロ・ヘンリー・エリア・ソロ・アービンの大御所に
アービンの話を聞く
記憶喪失になったアービンの別人っぷりに驚く
放送を聞いて発狂したアービンをみんなで説得
アービンと共にギルバートの墓参り
VSイクサス&バーバラ
アービンを庇いイクサスを説得
イクサスはバーバラと共に逃走
(+ファリス、テリー、ラムザ、ロック)
ソロ・ヘンリー・ピサロ・ロック・ビビ・ターニアの6人で第二世界へ
ヘンリーまとめ
茂みに落ちて走馬灯を見る
ソロと行動
G.Fの影響で記憶混乱
雷鳴の剣をソロに貰う
テリーに剣を向ける
VSテリー(DQ6)
重傷。テリーに雷鳴の剣を奪われる
ロック&フリオも行動を共にする
レーベ村宿屋にてソロにレックスの事を話す
VSビアンカ
発狂フリオニールに突き飛ばされる
ソロが寝ているアービンを拾ってくる
ピサロにアービンがゲームに乗ってることを教えてもらう
燃えてる宿から逃げる。デールに気づくが気のせいと思う
ソロ・ビビと共に西へ
カインの奇襲。デールと再会。デールに手を引かれソロ達と別行動に
変貌したデールに撃たれる
ギリギリのところをソロに助けられる
弟(デール)を殺すと決意。しかしかなり動揺
ビビ・ターニア・レナ・ピサロ・ヘンリー・エリア・ソロ・アービンの大御所に
アービンの話を聞く
デールの夢を見る。アービンの事を許し、デールを説得する方法を考え始める
記憶喪失になったアービンに現在の状況とアービンがやった事をそのまま説明
放送を聞いて発狂したアービンに平手打ち&説教
ソロ・ヘンリー・ピサロ・ロック・ビビ・ターニアの6人で第二世界へ
これ結構大変だな。浮遊大陸も需要あるならやるよ
おおわかりやすいな
乙です
乙です。
ただ、欲を言えばアリアハンと浮遊大陸はしたらばにほとんど全部まとまってるから、
闇の世界以降を優先してほしい
174 :
169:2011/06/26(日) 14:01:42.02 ID:nh/NI5igi
>>172 次の休みは来週金曜なんでちょいと待って
フィンが主人公だと思ってる僕は異端ですか?
フィンはアリアハンも浮遊大陸もいまいちなイメージがあるからなー
ほしゅ
178 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/09(土) 00:12:10.94 ID:MRZTZdGIO
ほし
ほ
保護
181 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/07/26(火) 02:59:20.21 ID:Hr7LkoUJO
観察
保守
保守!
保守
185 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/03(土) 04:12:13.23 ID:PUxZJu9j0
ほしゅ
保守
187 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/16(金) 11:54:35.75 ID:y9fAJSPr0
ほす
188 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/09/23(金) 20:40:56.17 ID:n7+uaFeZI
それはイヴァリースにはない種であったので何の花かはわからない。
189 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/08(土) 02:45:34.23 ID:zdnMVv7q0
へぇー
保守
191 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/10/26(水) 22:37:57.40 ID:KhrNt16KO
はいヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイ(*。_。))o,,ポイポヽ(*゚∀゚)ノ”ポイポイポ(*゚ρ゚)>-ピー♪
ヽ(*σ∀σ)ノ”ポイポイ(*,_,))o,,ポイポヽ(*σ∀σ)ノ”ポイポイポ(*σρσ)v-ピー♪
ヽ▼・∀・▼ノ”ポイポイ▼._.▼o,,ポイポヽ▼・∀・▼ノ”ポイポイポ▼・ρ・▼v-ピー♪
192 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/01(火) 18:55:33.16 ID:ZAizsOAhO
浮上
保守
194 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/21(月) 14:12:40.69 ID:p2hW6DuS0
過疎
195 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/11/21(月) 15:06:09.89 ID:LJhphGKEO
下平隆しね
196 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/06(火) 16:10:03.69 ID:wygzLFuo0
?
197 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2011/12/16(金) 05:18:48.05 ID:dWyarECL0
ほ
しゅ
199 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/01(日) 05:56:32.56 ID:sFXmgico0
てん
DQロワは完結したそうだな
保守
202 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/01/13(金) 10:04:26.59 ID:mee3dI+xO
203 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/02/01(水) 15:04:51.39 ID:NvjDNp7J0
浮上
保守
最終投稿からもう一年以上か
DQ10がオンラインだからってオンラインに手を出してみたらハマっちゃって書く時間なくなったw
207 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/03/31(土) 17:05:59.28 ID:0BS3jHvA0
ほしゅ
208 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/06(金) 15:56:33.13 ID:Bl+i69DW0
ほす
これからお披露目しますのは、なんともつまらぬ戦いの一部始終。
骨身を削り、血潮を流せども、心躍る事は無い――
最初から結末の見えている、滑稽な血戦の記録で御座います。
さあ、我らが偉大なる魔女と、冷たき掌に集う観客となった貴方に。
今宵を迎えず散り行き塵逝くはかなき命の結末を、今一度ご覧に入れましょう。
溶岩の海に浮かぶ、日の光届かぬ魔族の大地。
鎮魂歌を奏でるようにざわめく草木に囲まれて、相対するは少年と青年。
茫洋とした雰囲気の奥に怜悧な殺気を秘めた少年の名はフィン。
水の精霊の加護を受け、世界を魔王の手から解き放ち、ついには神の試練すら乗り越えた身でありながら
力に溺れることなく、漁師としての生を選んだ、まことの意味で強き心の持ち主で御座います。
そして今一人、静かな眼差しの奥に狂気を秘めた青年の名はセージ。
天賦の才で悟りの域に達し、賢者となったにも関わらず
仲間の死と少女の死に打ちひしがれる余り正気を手放した、
弱き魂の持ち主で御座います。
最も、かようなことは貴方も存じておられましょう。
よもやお忘れになってはいまいかと要らぬ思考を働かせた、
道化の戯言と聞き流して下さいませ。
「覚悟しろ、魔女の手下が!」
静寂を破りしは賢者の声……否、『勇者の声』と正しましょう。
彼の口を借りて発せられた言葉は、正義を貫き悪を憎む、勇猛果敢なる善の化身が告げたもの。
狂気が象る虚像の勇者は、己が存在の忌まわしさに気付くことなく、
『邪悪を断じるべく』腕を振るったのでございます。
「べギラマ!」
放たれた炎の帯は、草もろとも少年を飲み込む咢となります。
されど少年は狼狽えることなく、手にした刃でまず一閃。
草を薙いで焔を止め、返す刀で炎自体を切り払い、賢者へと迫ります。
その道程を阻むは『賢者の呪文』。
ご覧下さりませ、無詠唱で放たれた極大の氷柱が雨霰と降り注ぐその様を!
魂さえも凍てつく冷気が煌めく刃となって少年に迫る、その様を!
規制対策
もういっかい
帯は剣で切り払うことも適いましょうが、雨を止めるなど誰にできましょう?!
そう、少年の命運はここに尽き果て――!
「これで僕を殺せると思ったなら、笑っちゃうよ」
嗚呼、一体どうした事でしょう?
散り崩れる氷の弾幕を前に勝ち誇った青年の耳に届いたのは、紛れもない少年の声!
晴れ溶ける水煙を前に、僅かな切り傷のみを見せつけて駆け出すは、少年の足!
規制対策
またさるさんくらいました、保管庫にも上げてますので気づかれた方は転載ご協力お願いします
やあれ、賢明な貴方はおわかりでしょうか!
海賊を極めし者が身に着ける防御の極意、『大防御』が彼の命を留めたのだと!
間合いを詰めた少年は相手の胸で脈打つ心の臓を止めんと、刃を振りかぶり。
しかして『勇者』は素早く無骨なバットを構え、銀の輝きを受け止めます。
はてさて、貴方は逃さずお聞きになられましたでしょうか?
ギィンと鳴り響いた刃の悲鳴を、ギリギリと斬り削られるバットの苦鳴を!
視線と死線が交わる刹那、先に飛び退きましたのは少年でした。
「タバサの仲間にどうこう言われる筋合いはないよ」
かつて春風のごとくと評されたその声には、最早情など欠片も宿っておりません。
瞬きの間に正眼に構え直し、じりじりと間合いを測るその姿には、隙など微塵もありません。
しかして、対する賢者はどうしたことか?!
自ら武器を放り投げ、覚悟を一人決めたかのように、棒立ちになったのであります!
ほうら、先に述べたでしょう?
これは『心躍ることなどない、最初から結末の見えていた戦いだ』と。
いかに『勇者』を再現しようと、所詮はひ弱で頭ばかり達者な賢者!
いかに『闇』が力を与えようと、人の身に過ぎぬ彼には使いこなせるはずもない!
僅かな交錯で力量を見極めた慧眼は賞賛に値するけれども、それだけの話!
――そうお考えになられたのであれば、貴方はこの道化より愚かですねぇ。
……おっと、貴方は『勇者』にも『闇』にも気づかれてはおりませんでしたか?
「うるせぇんだよ、テメェはッ!!!」
賢者の口から放たれたとは思えない、裂帛の気合を込めた奇妙な裏声は、
ほんの刹那、少年の意識を逸らし。
『彼女本人』と同じく、臆病な脳髄のリミッターを外した一撃は、
少年の鳩尾に寸分違わず食い込み。
永遠には至らずとも、少年の思考を停止させたのです。
最も――数十秒後に、『永遠』は訪れたのですがね。
かくして。
『あなたは しにました』
【セージ(HP4/5、魔力1/3程度、多重人格)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:魔女の手下(スミス@ターニア)を殺す。
基本行動方針:魔女討伐
最終行動方針:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:南東の祠へ向かう分岐点の少し北】
【フィン 死亡】
【残り 28人】
決着はついていた。
胸を貫かれ絶命した男の体から刃を引き抜いた、その時に。
「これでも自分の手を汚すのはキライなんですよ。
ぼくちんのおててはお人形さんと遊ぶためにあるんですからねぇ」
にやにやと白い手を振りかざす道化。
その姿に耐え難き屈辱を覚えながら、セフィロスは剣を取り落す。
堕ちた英雄と恐れられる彼に有るまじき様相を、道化――ケフカは満足げに見下ろしていた。
「おお、こわいこわい。
そんなに睨みつけられたら、気弱なぼくちんはうっかり死んじゃいそうですよ!」
くるくると踊る隙だらけの道化を前に、敗者たる英雄は得物を拾うことすらできない。
ただ、己が迂闊さと昏き殺意を噛みしめるのみ。
「ケヒャヒャヒャ、無様だねェ!
でもしょうがないね、まだ使い道のある『人形』を壊したお前が悪いんだから!
まあ、お蔭で生意気なガキを始末できたからその点には感謝してもいいかな?!
……なーんてうそだよーん!! ホヒャヒャヒャヒャ!!!」
ケフカはひとしきり笑い転げ、唐突に「つまらん」と吐き捨てる。
戯言のつもりなのか、狂気の産物なのか。
セフィロスには測る気も起こらなかった。
「さて、セフィロス君だったね?
心やっさし〜〜いぼくちんは、お前を今すぐ壊すような真似はしないよ」
胸を張る道化の胸に輝くは、おぼろげな光を放つ装飾品。
それが何なのか、セフィロスは知っている。
本から得た知識のみではあるが――
『【ソウルオブサマサ】
・装備しただけで「れんぞくま」が使えるようになる便利な装飾品だ!
ただし使える魔法はあらかじめ習得したものに限るから注意しよう。
また、コマンドアビリティを一つ強制的に変更するため単発の魔法行使が難しくなるぞ!
特に魔石とは相性が最悪で、幻獣を召喚できなくなるから気を付けよう!』
――二日目。
大部分を瞑想に費やしたとはいえ、攻略本を読む時間は多少あった。
『黒マテリアのように役立つアイテムがあれば、確認しておくのも悪くはない』
そう考えたセフィロスは、道具関連のデータを重点的に読み込んでいた。
その中で、特に目を引いたアクセサリ……それがソウルオブサマサ。
戦術幅を広げられるため、機会があれば手に入れようとは思っていた。
そして今、件のアイテムが彼の眼前にある。
だが。
「おーっと、そんな怖いカオしちゃって、私を殺す気かな〜?
そんな間抜けな姿でも戦えるなんて、ぼくちんビックリですよォー!」
「……ッカァーーーーーー!!!」
貴様ァ!! と叫んだはずの声は、どこか愛嬌のある鳴き声にしかならない。
端正な顔立ちは無残に歪み、唇は嘴へと変じてしまった。
たなびく銀糸のごとき長髪は、今は中途半端に短い。
つむじの辺りが円形のハゲ……ではなく、皿になっている。
200p近くあった身長は、もう子供と同じぐらいに縮こまり。
肌はてらてらと輝く鱗に覆われ、キュウリに似た臭いを漂わせている。
面影といえば魔晄色の瞳と、皿の淵から伸びた前髪だけ。
それにしたって可愛らしい円らな眼と、ぴょんと伸びた触角っぽいアホ毛と表現すべき代物。
『 そこにいるのは英雄? ――いいえ、カッパです 』
誰に問うても、それ以外の答えは返ってこないだろう。
パパスに向けられたブリザラに続き紡がれた魔法・カッパーが、
セフィロスの肉体を、この無様で無駄に愛くるしい河童に変えてしまったのだから。
水かきのついた手は際限なく粘液を分泌し、故に剣を握る事などできない。
衣服は魔法の効力で鱗へと変じてしまい、全身すっぱだかに等しい。
背中にできた甲羅の重みや、体の変化に由来する強烈な違和感が
集中力を妨げ、魔法の発動を阻害する。
この状態で戦えるかと聞かれれば、普通は……
「ムーリムリムリィーーー!!
魔法も技も使えない、武器も防具も使えない!
そんなナリのお前がぼくちんに勝てると思ってんなら、
その幻想をぶっころころしておきましょう!」
勝ち誇ったケフカはリズミカルに跳ねながら、何やら魔法を唱え出した。
完全に、自分の優位と勝利を信じ切っている様子だ。
(ならばその傲慢さ、正してやろう…!)
セフィロスは村正を捨て置き、ケフカの懐へと跳ぶ。
目を見開く道化は、その速度を捕えることができただろうか。
否。
強烈な蹴りが腹に食い込むその時でさえ、構えることも防御することも能わない。
「グェッ!!?」
細身の体を真上へ舞わせたセフィロスは、続けざま、腕を振り上げた。
カッパの姿でありながら優雅とも言える動作で、的確に急所へ打撃を入れる。
「カーーーーーーー!!」
(体が変化した程度で戦えぬと思うな!)
セフィロスの本領は、『強靭な身体能力を生かした』、斬撃と高位魔法の波状攻撃だ。
そしてカッパーという魔法には、身体能力そのものを下げる効果は無い。
武器を封じられた程度であれば、魔道士一人を倒す程度の芸当は十分可能だった。
叩きのめされているケフカが、その一言を漏らすまでは。
「も、もとの、すがたにっ、もどれ、なく、てェっ! いーんですかぁッ!?」
耳朶に届いた言葉が、セフィロスの動きを止める。
虚空へ縫い止められていたケフカは、どさりと地面に投げ出された。
ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返す、紅を引いた唇から、わずかな血が伝う。
それでも嘲笑を浮かべたのは、彼なりの矜持というものか。
「全く酷い事をするねぇ!!
ぼくちんはお前を戻さないなんて一言もいってないだろ!
早とちりしやがって、一生カッパのまんまでるんぱっぱしたかったのか?!」
歯噛みをしたのは二人とも。
傷つけられたプライドと肉体を抱え、一人は捲し立て、一人は押し黙る。
「頭の悪いカッパには何度でも言ってやりますよ!
その魔法、カッパーは時間経過じゃ解けないんだぁい!
ぼくちんがカッパーをもう一度唱えない限り、お前はずーっとカッパのまんまだ!」
「……!!」
「いいですかァ? お前はわたしの深遠な計画を台無しにしたんですよ?
おまけに、ぼくちんがルカをヤったって知っちゃって……
あることないこと喋くりやがるかもしれないのに、
そうそう簡単に元の姿に戻せるわけ、ナーイじゃないですか!」
パパスの死体を指し示しながら、ケフカは再び踊り出す。
「いいかいセフィロス君!
きみは私のために5人…いいや、どぉーんと10人ぐらいぶっ殺してくるのだ!
そうしたら心優しいぼくちんが、元の姿に戻してあげちゃおーゥ!」
『無理だ。』
セフィロス以外の人間なら即答しただろう。
武器を持てない、防具も着こめない状態で、10人も殺すなど物理的に無理だと。
「カー」(ふざけるな)
そしてセフィロスも即答する。
10人殺してきた所で、ケフカがカッパ状態を直す事など有り得ないだろう、と。
しかし、ケフカはニヤリと笑い――魔法を紡いだ。
「ケアル! バニシュ!」
治癒の光が道化の体を包み込み、その輝きと共に薄れていく。
大気に溶け込むように、派手な容姿が消えていく。
「カー!!」(逃がすか!)
殴りかかった拳は虚空を捕えるだけ。
気配を捕えようにも、べっとりとまとわりつく湿り気に乱された意識では不可能な話。
踏み拉かれる草がないかと背を伸ばしてはみたが、低くなった身長が災いした。
普段よりずっと狭まった視界のせいで、完全に道化を見失ってしまう――
「――……ッ、カァーーーーーーーッ!!」
史上最強のカッパとなってしまったセフィロス。
彼の呪詛は、どこまでも甲高い鳴き声になって、消えた。
【セフィロス (カッパ)
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:カッパを治す
第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【ケフカ(HP2/3、MPほぼ0、バニシュ状態)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 爆発の指輪(呪) アリーナ2の首輪
第一行動方針:???
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:デスキャッスル南の草原】
おおお!
皆さん乙&GJです!
まさかカッパー効いたのかよw
それでいてなお参加者最強クラスなのがおそろしいなw
これは、この世界とはべつの世界のおはなしです。
太陽のひかりもささないまっくらな世界で、ひとりの娘が息をきらせてはしっていました。
娘はある男におそわれ、必死でにげてきたのです。
その男は娘の兄をころし、おさない少女を毒牙にかけるような、たいそうおそろしい男でした。
すくなくとも、娘はそのようにおもっていました。
事実、その男が本気で娘をころそうとすれば、
娘はまばたき一回する間もなくこの世界からきえさってしまっていたでしょう。
娘には男にたちむかう勇気はなく、
さいわいなことに、男のほうもただちに娘をおいかけるようなことはしませんでした。
しかし不幸なことに、娘はそのようなことはしりませんでした。
娘はおとぎ話の姫や勇者ではありません。
魔王があらわれたときに、みずから立ちあがってそれにいどむようなことはしません。
英雄や勇者さまを元気付け、世界の平和を部屋のなかでつつましくいのるような、ほんとうにただの村娘なのです。
だから、今回も勇者さまにたのんで、たすけてもらうことしかできないのです。
娘には娘の役割があり、男をたおすのは娘の役割ではない、ただそれだけのことなのです。
けれども、娘は先にいるはずの勇者さまにはちかづくことができませんでした。
いままでにきいたこともない、おそろしいなきごえが、すすむ先からきこえたからです。
声だけきくとかわいらしいものかもしれません。
しかし、その声にはおそろしいまでの呪いがこめられているようにしかおもえませんでした。
娘にはそこになにがいるのかはわかりません。
ただただ、この先にいってはいけない、いったらきっところされてしまうとおもってしまいました。
けれども、あのおそろしい男がすぐうしろまでやってきているかもしれません。
おさない少女をおそったあのときから、つぎは自分がおそわれるばんだとかんじてしまってならないのです。
本当においかけてきているのかはわかりません。
けれども、娘はそうだとおもいこんでいました。
これから自分におこる運命を予感して、くずれおちそうになったとき、どこからともなく人の声がきこえてきました。
お嬢ちゃん、そんなにあわててどうしたの、と。
娘がおどろいてまわりをみわたすと、いままでだれもいなかった場所からひとりのまほうつかいがあらわれました。
ただのまほうつかいにはみえません。
もしかしたら、とても悪いまほうつかいかもしれません。
けれども、ほかにすがるものもない娘ははなしました。
おそろしい男がおいかけてきているのでたすけてほしい、と。
まほうつかいはおやおやまあまあと、こまったかおをしていいました。
わたしはその男をよくしっているよ。
その男をたおそうとしている。
けれども、今はどうすることもできない、と。
娘は必死でうったえました。
その男が兄をころしたこと、自分もその男にころされるかもしれないということを。
そこで、まほうつかいは娘に忠告しました。
おまえでは、どんなにがんばってもそのおそろしい男からにげきることはできない。
なぜなら、この世界はあまりに小さく、おまえはあまりにかよわいから。
にげているだけでは、いつかおいつかれてころされてしまうだけだ。
その運命からのがれるためには、男をたおすしかない、と。
娘はいいました。
兄のことをしりながら、兄をころしたその男をゆるすことはできない。
けれども、わたしにはその男をたおすことなんてことはできない。
まほうつかいは娘をわらいとばしました。
娘以外のほかの誰にもきこえないようなちいさな声で、けれども心のそこからわらいとばしました。
そして、こういいました。
もし本当に覚悟があるのなら、おまえでもその男をたおすことはできる。
わたしの手でころすのは今は遠慮させてもらうが、おまえの復讐のてつだいをするくらいならかまわない、と。
まほうつかいはゆっくりと、しかしちからづよく問いかけました。
復讐をのぞみますか、と。
娘はほんのわずかに考えこむふりをしました。
娘は何も答えませんでしたが、まほうつかいは満足したようにうなずきました。
まほうつかいは指輪をひとつとりだしました。
とてもうつくしく、あやしささえかんじる、おおきな宝石がついた指輪でした。
魔法をつかえない娘でも、魔法がかかったものだとかんじとることができる、そんな指輪でした。
まほうつかいはいいました。
これはおまえのねがいをかなえてくれる魔法の指輪。
男のまえでこの指輪をつけ、かみさまに祈れば、きっとおまえのねがいはかなうでしょう、と。
娘はおそるおそる、指輪をてにとりました。
娘には、ちからがない。だからこそ、自分自身でかたきをとるという道をえらぶことはできませんでした。
しかしそれができるのであれば、
人のちからを借りてもみずからの手で兄のかたきをとりたいというおもいがわきあがってきました。
ゆびにはめたとき、一体どんなことになるのだろうとかんがえ、
しげしげと指輪をみつめました。
そのとき、まほうつかいはおそろしい声でいいました。
そのときがくるまではけっしてみにつけてはいけない。
もし約束をやぶれば、そのたましいは悪魔にきりきざまれ、地獄のくるしみをあじわうことになるだろう、と。
そうです。まほうの道具にはかならず禁忌がつきものなのです。
どんなおとぎばなしや物語でも、それをやぶった人物の結末はひどいものです。
こんなにあやしくうつくしい指輪が、普通のものであるはずはありません。
娘はあわてて指輪をかばんにしまいました。
まほうつかいはあかるい声でいいました。
そんなにこわいかおをするな。
いったとおりのことができれば、復讐はかならずかなう、と。
だから、それまでは普段のかおをしてなさい。
泣き顔でもかまいませんよ、と。
そして、やさしげな声ではなしかけました。
さあ、おまえの意志がゆるがないうちに行きなさい。
もたもたしていたら、何もできなくなってしまいますよ、と。
【ケフカ(HP2/3、MPほぼ0)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
第一行動方針:ターニアやセフィロスを(見つかればタバサも)利用する、あわよくばピサロと戦わせる
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ターニア(血と銃口への恐怖)
所持品:スタングレネード×3 ちょこザイナ&ちょこソナー 爆発の指輪(呪)
第一行動方針:???
基本行動方針:???】
【現在位置:デスキャッスル南東の茂み】
理想と現実が重なることは珍しく、いつもは重なることなく互いに相反する方向へと進む。
理想? いや違う。
当たり前、普段どおりのこと、日常のなんてことはない一部。
少し前まであったものが、今は欠片もなくなってしまっている。
何故か? 何故なのか?
愛しい人が居て、こんなにも愛しているのに。
どうして伝わらない? どうして応えてくれない? どうして他人に愛を注ぐ?
どうして? なぜ? 分からない、分からない。
理解できない、理解しようとすることすら苦しい。
こんなにも、こんなにも苦しいのに。
目の前の愛する人はなにも答えてはくれない。
それどころか、自分を突き放すことばかりしている。
どうして? なぜ? 分からない、分からない。
分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。
これは、現実なのかな?
「うん、くあぁ。寝て……?!」
ようやく起き上がったティーダは、自分が「起き上がった」ということを認識し慌てふためく。
傍に居るのはユウナただ一人、テリーもロザリーも赤髪も傍には居ない。
覚えているのは意識を失う少し前にテリーを突き飛ばしたということ。
その突き飛ばしたテリーを始め、誰もこの場に残っていない。
ただ一人、ユウナを除いて。
「おはよう、ようやく起き――――」
「みんなはどうした!!」
起き上がるや否やユウナに詰め寄り、肩を掴んで問い詰める。
「テリー君は! ロザリーさんは! あの得体の知れない赤髪はどうしたッス!?」
「…………痛いよ」
小さく呟くユウナの姿を見て、ティーダはようやく落ち着きを手に入れる。
ティーダが肩から手を離したのを確認し、ユウナはゆっくりと喋り始める。
「あのね、あの赤髪は敵だったの。粉で眠らされた後、助けに来てくれた男の人が居たの。
おかげで皆無事に助かったんだよ? 感謝感激だよね。
その後、男の人は探し人を探すためにここから動きたいって私たちに提案してくれたの。
それでね、ロザリーさんはピサロさんに早く会いたい言ってたし、テリー君も――――が心配だからって言ってその男の人についていっちゃったんだ。
テリー君もロザリーさんも、キミの事を休ませてあげたいって言ってたしね。
私は寝ている君が心配だったから、起きるまで残ってたの」
完璧だった。
起き上がるまで何回も練習しておいた甲斐もあり、噛まずに全て言うことが出来た。
「みんなの了承は得たし、もう少し休んでから……」
「こうしちゃ居られないッス! 早く二人の後を追うッス!」
これで、大人しく休息を取ってくれれば何も言うことなんて無かった。
しかしティーダは素早く立ち上がり、今にも駆け出そうとしている。
「何モタモタしてるんだよ! 行くッスよ!」
どうしてかな?
どうしてキミはそうやって私の話を聞いてくれないのかな?
私がどんな気持ちで過ごしているのか、キミは知ってるのかな?
どうして? どうして分かってくれないの?
他の人がそんなに大事なの?
キミがそうしようとしているのは何故なの?
他の人を守ることの方が、私のことより大事なの?
キミがそうすることで私がどれだけ傷ついているのか、考えたことあるかな?
ねえ、本当にキミはキミなの?
私をコレだけ傷つけて、突き放して、遠ざけて。
それでも平気で居られるキミは――――
誰?
「ユウナ? どうしたッスか? お腹でも痛いっスか?」
彼は蹲ったまま動かないユウナに手を差し伸べる。
顔を覗き込むと、ユウナは涙を流していた。
慌ててその涙を拭うため、ユウナの頬に触れようとした。
「……騙したな」
その時だ、一言の呟きと共にユウナが銃を突きつけたのは。
額にピンポイントで当てられている銃に対し、素早く避けて顔を背けて即死の免れるのが精一杯だった。
左目の近くに銀球が埋まりこむ。流れ出る血を押さえながらユウナのほうを見る。
「騙したなあァァァアアアア!! よくも、よくも騙してくれたなァァァアアアアア!!」
「ユ、ユウナ?! 何してるッスか?!」
ユウナは泣き叫びながら、相手の額へと狙いを定める。
ティーダは急いで飛び退くが、ユウナの狙いが瞬時に額から足へと変わる。
着地の一瞬の隙に、左足を打ち抜かれてしまう。
「黙れ! その声で私に喋るな! その顔で私を見るな! 私の、私の愛しい人の姿を使って、私に近寄るな!!」
「やめるッス! 落ち着くッス! くそ……あの赤髪、ユウナに何しやがったッ!」
バランスが上手く取れずよろめく相手に対し、次の銃弾がユウナから放たれる。
その一発一発が的確に相手の太もも、足の付け根を撃ち貫いていく。
激痛の所為で足に力が上手く入らず、バランスを崩してしまう。
「殺してやる、――――め……」
ユウナは静かに雷鳴の剣を手に取り、魔物へと近づく。
数々の気持ち、願い、彼のためにどんなことでもしてきた。
しかし、彼は応えてくれない。それどころか自分を突き放すようなことばかりする。
何故か? 彼女はずっと考えていた。
自分の気持ちが届いていない、自分の愛情が足りていない、尽くす心が足りていないのだと。
彼の反応がおかしいのは自分の所為だとそう、言い聞かせていた。
ところがどうだ? 何時までたっても彼は他人のことを気にかけてばかり。
自分がどんな気持ちで、どういう風に彼に接していたのかも知らず。
ただ、愛して欲しかっただけなのに。
ただ、再会を祝い、共に喜びたかっただけなのに。
どうして彼は応えてくれないのか?
簡単な答えだった。
自分がずっと接していたのは、姿、声、性格。
全てを模倣する魔物だったのだ。
この殺し合いに魔物が巻き込まれていることは知っている。
ならば、目の前に居るのが魔物であることも不思議ではない。
騙されていたのだ、ずっと、ずっと。
都合よく操るためにその姿、声を使っていたのだ。
きっと心の奥ではほくそえんでいたに違いない。
「ユウ、ナ。ヤメる、ッス」
「黙れ!!」
もう二度とその声を出せぬように、手にした剣を素早く振りぬいて喉笛を正確に切り裂く。
今、奴が浮かべている懇願の表情は本物だ。
操っていたと思っていた人間が突然牙を向き、自分に襲い掛かっているのだ。
焦りの表情を浮かべるのは当然だろう、だがそんなことではこの怒りは収まらない。
「返せ! 私の時間を!」
抵抗しようとする腕を斬り飛ばす、もう一瞬たりとも触れさせはしない。
尽くしてきた全ての物事にかけた時間。
全て、全て彼が生き残るのためだった。
「返せ! 私の喜びを!」
素手で目を抉り出す、もう一瞬たりとも私を視界に写させはしない。
長い間彷徨い続け、この場でようやく再会できた。
全て、全て彼に会いたいという気持ちから生まれた喜びだった。
「返せ! 私の思いを!」
雷鳴の剣の雷で顔を焼き払う、もう一瞬たりともその顔を使うことの無いように。
振向いて欲しい、もっと私のことを愛して欲しい。
全て、全て彼ともっと深く愛し合うためだった。
「よくも、よくも弄んだな!」
全て、全て魔物に対して行っていたのだ。
なぜ見抜けなかったのか? 恥ずかしくて情けない。
叶うことなら、この場に呼ばれてからの全ての時間をやり直したい。
後悔、自責、無念。全てを抱きながら、ユウナは魔物を潰していく。
「早く"キミ"に会いたいなあ」
ユウナは一人呟く。
身につけていた衣服、透き通るような白い肌。
全てが赤黒い血で染め上げられている。
「だから、生き残らなきゃ」
何かを一瞥し、ユウナはゆっくりと腰を起こす。
左手には使い慣れた銃を、右手には雷を呼び起こす剣を。
「私はキミに会えればそれでいい、他の人がどうなったって構わないよ」
視点が定まっているのかどうかすら分からない双眸。
ただ一つ言えるのは、全てを殺す覚悟があるということだけ。
躊躇いも、手加減も、容赦も、何もかも必要ない。
ゴボリ、ゴボゴボ。
真っ黒なモノが、よりいっそう彼女を包みながら侵して行く。
全身が黒に染まっていくというのに彼女は全く抗わない。
寧ろ、受け入れているのだ。
愛する人に出会うため、この殺し合いを生き抜く力を手に入れるため。
彼女を侵している黒を、真正面から受け入れているのだ。
体が、血管が、肉が、脳が、細胞が。
目には見えずとも、黒に染まっていく。
――"キミ"のために。
「もう少しだけ、待っててね。今、行くからね」
【ユウナ(ガンナー、MP2/5)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
第一行動方針:なんとしてでも生き残る
第二行動方針:邪魔なギードとアーヴァインを葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:デスキャッスル北西の茂み】
【ティーダ 死亡】
【残り 27人】
んとね。
最初は、マッシュとヘンリーの手当てでもしようかなーって思ったんだ。
アルガスも心配だけど、アブない奴はスコールがとっ捕まえたって言うし、バッツが面倒みるっていうからさ。
怪我の度合いで考えたら、オジサン二人組だって十二分にひどかったから、それじゃーそっちを助けに行くねって。
だけど、ヘンリーに会いに行ったらさ。
「心配してくれるのは嬉しいが、俺はもう割と平気だしなあ。
それに……ひそひそ(あまり大きな声じゃ言えないが、マッシュの怪我はこれ以上治療のしようがないだろ?)
だから……(個人的にはあのお子様を預かってくれると嬉しい。すごく嬉しい)
なにせ……(アルガスの所へ殴りこんだのだって、元はアーヴァインのことでマッシュと喧嘩したからだし)
ひそひそ(いくら知り合い同士っても、今は一緒にさせない方がいいだろう)」
って、言われたんだ。
だから、部屋の隅っこでほっぺた膨らませてた子、捕まえてさぁ。
二人にこれ以上心労をかけたくないから、どっか他の部屋でハナシを聞いてあげようと思ったワケ。
なんであんなアブない奴を信用してアルガスを襲おうとしたのか、そこんところの理由を知りたいってのもあったし、
誤解があるなら解きたかったからね。
そんで、リルムの手を引っ張って移動してる途中に、スコールと鉢合わせて――
「探してた。協力してほしいことがある」って言うから、二人して着いていったんだよねぇ。
***********
ヘンテコな格好のねーちゃんに連れられて、モヤシやトサカ頭が言う所の『はんちょー』についていく。
はんちょーは階段のある広間までやってくると、あたしたちを登り階段の真向かいにある小部屋に押し込んだ。
最初に目についたのはぶちまけられた荷物。それから隅っこで寝転がっているモヤシの姿。
すーすーと静かに寝息を立てているように見えたけど、なんでか胸騒ぎが止まらない。
はんちょーがねーちゃんに紙切れを手渡す、その横をすりぬけて、あたしはモヤシ――アーヴァインに近づいた。
「起きろー。リルムさまのお帰りだぞー」
ぺちぺちと頬を叩いてみたけど、何の反応も示さない。
「疲れているんだろう。少し寝かせてやれ」
はんちょーが言った。どことなく白々しい感じがする。
「何かしたの?」
「お仕置きとか、正座でお説教とか?」
あたしとねーちゃんの問いかけに、はんちょーは少しだけ気まずそうに答えた。
「手打ちにするつもりで、腹に一発、蹴りを入れただけだ。
……怪我をしてるとわかっていたら、多少は手加減したんだが。
ストックを使って回復したから、命に別状はないはずだ、多分」
「「………」」
ぼそっと呟いた言葉に、あたしは慌ててモヤシの手を掴んだ。
握り締めた親指の下で、とくん、とくんと脈打つ血の流れ――よかった、一応生きてる。
「俺の前に、ズンドー女にやられたとか言っていたが、心当たりがあるか?」
はんちょーの質問に、あたしはぶんぶんとうなずいてみせた。
心当たりもなにも、あんなに凶暴で凶悪なヤツのことを忘れるはずが無い。
あたしは二人に、アリーナの事と、テリーの事、ついでにゼル達の事や誘拐犯の事を話す。
それから、心も体もボッロボロのくせに強がってばかりいたモヤシヤローの事も。
「信じられなーい」
「……頭が痛い」
ヘンテコねーちゃんはマッシュと同じことを言い、はんちょーは額を抑える。
さっきも思ったけど、全部本当のことなのに信じてもらえないっていうのは気分が悪い。
「とにかく……リルムがこいつを信用してる理由はわかった。
バトルで右耳をこういう風に損傷するなど、まず有り得ないし、そこらの下りは信じよう」
「そうじゃない下りも信じろよー」
「…… 記憶喪失とやらについては、さすがにこいつの頭を除かない限り、実証できないからな。
それに……いや、まあ、いい。
それよりリュック、頼みたいことについてなんだが」
はんちょーは勝手に会話を打ち切り、ヘンテコねーちゃんに向き直る。
「これを調べたい。手伝ってほしい」
そう言って、はんちょーはとんとんと自分の首輪を叩いた。
「確か、マッシュのザックにサンプルを一個入れておいたんだ。
ちょっと取りに行ってくる」
部屋を出ていこうとする黒づくめの姿を、あたしは「待って」と呼び止める。
「それならリルムとモヤシも持ってるよ。
ついでに、エドガーが書いたっぽいメモとか、こーりゃくぼんもあるよ」
あっけにとられる二人の前に、あたしは自分のザックを引き寄せて、中身をぶちまけた。
「えっとねー、これとこれと……あ、これがメモね。
そんでこれ、こーりゃくぼん。解説してるっぽいページがあったよ、よく読んでないけど」
********************************
どういうことだ、これは。
丸一日費やす事を覚悟していたのに、俺達が何をするまでもなく、必要なデータの半分以上が出揃ってしまった。
まずメモ。どうやらマッシュの兄とやらが実際に分解をした結果らしい。
内蔵されている盗聴器だの、機構だの、恐らくは爆弾部分だの、簡易配線図だのが書き込まれている。
それから胡散くさい攻略本とやら。こちらは文章のみだが、首輪の仕込まれた機能について説明があった。
【バッチリ解析! 首輪の5つの秘密】
『盗聴機能――参加者の発言を盗聴して録音するぞ!』
『遠隔爆破機能――主催者の意思で参加者の首輪を遠隔爆破させることができるぞ!』
『禁止行為報知機能――禁止された行動を取ろうとするとブザーが鳴るぞ!』
『禁止エリア報知機能――禁止されたエリアに入ろうとするとブザーが鳴るぞ!』
『生命感知機能――参加者の生死を調べるぞ! これで放送の時にみんなの死亡を伝えられるんだ!』
攻略本の説明文とメモの内容は、大枠で一致する。
故に、本の情報は真実と断定していいだろう。
しかし、メカニズムについてはまだ不透明な部分が多い。
アルガスが起きるまでの間、バッツが調べてくれたのだが、
この首輪にはそれなりの魔力が込められているそうだ。
素直に考えるならば、その魔力で首輪の各機能をコントロールしているのだろうが……
どうにも違和感がぬぐえない。
この祠に来るまでの道すがら、ソロとヘンリーが話してくれた事がある。
それは全ての魔力を打ち消す天空の剣という武器と、天空の剣に力を与えたマスタードラゴンという神の存在。
無論、二人はドラゴンオーブが支給されているかどうか知っていたわけでもなかったので、
オーブの存在を知らなければ、二人のご都合主義的な思考を鼻で笑っていただろう。
だが、俺は実物を見ている。
最初の日、森の中、今から思えばのどかすぎたピクニックを開催した張本人――ラグナの支給品として。
俺が二人にオーブの事を話さなかったのは、サイファーとの会話同様に盗聴を恐れていたのもあったが……
それ以上に、『話が出来過ぎている』という印象しか浮かばなかったのだ。
それともう一つ。
魔力で打ち消すということで思い出したのだが、フィンという男の存在。
『あの』マリベルが、半ば惚気るように話していたので、そこそこ印象に残っていたのだが……
彼女はこう言っていた。
『フィンのギガジャティスがあれば、魔女の魔法なんて簡単に打ち消せるわよ。
あれは凍てつく波動なんかよりずーーーっと凄い呪文なんだから』と。
毒舌家の彼女にすらそう表現させる呪文を使える人物。
何故そんな奴を参加させる? ギガジャティスとやらでも解除させない自信があるのか?
違和感の原因を求め、俺は本を読み進める。
支給品と参加者、そこにきっと、何か手がかりがあるはずだと考えて。
*****************
熱心に本を読んでるスコールの横で、あたしは首輪を弄っていた。
ずーっとアレフの残してくれたドレスを着ていたから、シーフのドレスがなんだか肌寒く感じる。
だけど仕方がない。シーフドレスじゃないと、指先の動きが……なんていうか、ニブイっていうか……
チョチョイっとネジを外して分解ってのが……なんていうか、こう、上手くいかないっていうか……
とにかく! こういう作業はシーフの方が向いてるの! わかった?
で、そんな感じで、一人で調べてるんだけど。
ネジがちっちゃすぎて、完全に分解するにはやっぱり工具がないと無理だぁ〜!
スコールの荷物を勝手に漁ったり、リルムに聞いてみたりしたけど、二人ともそんなもの持ってるわけがなかった。
残ってるのは、すやすや寝息を立ててるアーヴァインの荷物。
でも、アルガスの怯えっぷりを思い出すと、なんか血みどろの武器とか、そーゆー変なモノが入ってそうで怖い。
勇気を振り絞る為に深呼吸してから、リルムに声をかけて、アイツの荷物を調べる許可を貰った。
「大したモンは入ってないと思うよ?
あ、でも、手帳は見ないであげたほーがいいんじゃないかな」
それは「押すなよ!」ってヤツと同じ意味だよね!
あたしは手帳とやらを引っ張り出して、ぱらららーとめくってみた。
でも、内容は、なんていうか……日記だ。
最後にぐっちゃぐちゃに塗りつぶされてるページと、一行しかないページがあったけど、
でも、まあ、日記としかいいようのない文章だ。
最初の方は悩んで悩んで後悔してるような内容、後の方は少し気楽になってきてるような内容。
人を殺しただとか物騒な事も書いてあるけれど、それほどイカれてるって感じではない。
なんだか、プライベートな部分に立ち入っちゃった気がして、そっとザックの中に戻した。
他に何かないかと中身を探ると、出てきたのはレトロな『矢』。
二種類あるけど、どっちも矢尻が鋭利になっていて、刺さったら痛そうだ。
だけど――これは、ちょっと削ることができれば、ドライバーの代用に使えるかもしれない!
そう思ったあたしは、自分の荷物からメタリックに輝く剣を取り出して、
ちょこちょこっと細工を始めたのだった。
***************************
はんちょーは本を読んでて、ヘンテコねーちゃんは首輪を弄ったり矢を削り出したりしてて。
あたしはモヤシヤローの手を握りながら、回復魔法を唱える。
もう魔力は残り少ないけれど、はんちょーも少しは回復したって言ってたし、
きっとそのうち目を覚ますだろう。
マッシュたちの態度を見ると、自分が間違ってるような気も、少しはする。
実際、タバサって子を撃ち殺した時のこいつは、ちっとも躊躇ってなかった。
誘拐される前、ズンドー女に襲われた時の光景が、頭から離れない。
宙に舞った身体、骨が割れる音、叩きつけられた頭。
もしかしたら、あの時に、衝撃で殺人鬼だった頃の記憶が戻ってしまっていたのかもしれない。
……でも。
少なくともあたしと話してる時は、やっぱりあたしの知ってるモヤシヤローで。
こうして触れる手は、森の中を歩いてる時に繋いだりした手と同じで。
疑う気持ちと、信じたい気持ちじゃ、後の方がずっと重い。
闇の力。黒いもやもや。
こいつが必殺技ごっこをしてる時に見せられたソレは、
目にしただけで背筋を凍えさせるような、ヘドロの底に引き込まれるような、得体の知れない恐ろしさを持っていた。
だから死んだ人の恨みつらみと魔女の魔力が混ざった物という説明に、ものすごーく納得したのだ。
魔王を名乗るトンガリ耳兄ちゃんは、平気だったようだけれど……
あんなものに取り憑かれて、ずーっと視界に入れてるなら、おかしくなっても仕方ないと思う。
だから、こいつの様子がヘンなのはもやもやのせいだと信じたいし、信じてる。
「……絶対、帰ろうね」
意識なんてないのはわかってたけど、きゅっと手を握る。
ほんのり冷たい手が、握り返すように動いた気がした。
************************
「あ、スコール。ひそひ草、鳴ってるよ」
リュックの声に俺は顔を上げる。
彼女が手にした草から聞こえるのはサイファーの声。
『アンジェロのヤツを見つけたんだが、どうも動きがおかしい。
北から南に向かったと思えば、今度は南から北へやってきた。
北へ行こうとすれば吠えてくるし、南に行こうとすればしょげ返りやがる』
それは北と南で何かが起こったという事なのだろうが、俺の意識を引いたのは、会話の内容ではなかった。
ひそひ草。
会話の内容を伝達する『草』。
『草』『草』『草』――そうだ。
何故、草なのだ?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
会話の内容を伝達する、持ち運びできるサイズの道具など、俺の世界には幾らでもある。
世界的な電波障害のせいで、無線機器は主流から外れてしまったが、
出力の強化で近距離での運用を可能とした、トランシーバー・無線通信等は、今でも軍で運用されている。
会場内で参加者同士を通話させるなら、そちらを渡せばいい。
何も別の世界から、珍しい草などを持ってくる必要はないはずだ。
それに理由があるとしたら、それは――
(――電波だ)
違和感が氷解していく。
そうだ。
一日目も二日目も殆ど拠点に立ち寄れないまま過ごしてしまったが、
攻略本に書かれている情報を見る限り、どちらの世界も文明レベルは中世相当のもの。
この世界はソロの知っている地下世界だと言っていたので、やはり、機械機器など存在しないだろう。
それどころか、アリアハンも浮遊大陸もこの闇の世界も、『アルミホイル』すら存在していない可能性が高い。
そうだ。
魔力を打ち消すアイテムや、そういった魔法を使える参加者はいるが、
電波を遮断するアイテムや、そういった技能を持つ参加者は見受けられない。
唯一、『世界結界全集』という本に電波を遮断する方法が載っている可能性はあるが、
魔法陣が描かれた表紙を見る限り、やはり魔法関連の本であると考えるべきではないのか。
リュックが何か言っているが、そんなことを気にする余裕はなかった。
『バッツが感じた魔力というのはダミーで、この首輪は完全に電波と機械で制御されている』
仮説に過ぎないが、そう考えると辻褄が合う部分がいくつもある。
魔力を打ち消す力を持つ存在が許されているのは、そんなことをしても首輪の機能には何の問題もないから。
近代の無線通信機器の代わりにひそひ草が支給されたのは、
混線による電波障害や改造による意図的なジャミングを防ぐため。
中世に近い文明を持つ場所が舞台に選ばれ続けているのは、『アルミホイル』などの電波遮断素材を入手させないため。
もちろん、魔力そのものに意味があるケースも考えられる。
例えば参加者が首輪を解析しようとして魔力を放った場合、それを感知して爆発する『爆弾』だとか、
爆発力を強化・指向化させて、あらゆる防御を貫通して参加者の息の根を確実に止めさせる『補助爆薬』だとか、
あるいは外部からの衝撃を軽減して誤爆を防ぐとか、そういう役割は担っているかもしれない。
だが、せいぜい罠や補助的な存在であり、別個に機械的な管理・爆発機能も備わっていると考えるべきだ。
でないと、いくらなんでも講じる手立てが多すぎる。
魔法の効果を打ち消す魔法――ギガジャティスやデスペルなどは、普通のバトルでも使われる可能性があるだろう。
戦いの度に首輪を無効化されていては、話にならないはずだ。
あるいは魔力を打ち消す魔法すら無効化する強力なバリアが首輪に張られているのかもしれないが、
しかしそれなら『首輪から魔力を感じ取る』事も出来なくなっていなければおかしい。
第一、アルティミシアが『電波制御式の首輪を魔力制御式に改造する』メリットは何だ?
そもそも魔力制御にしたらアルティミシア本人しかコントロールできなくなるのではないか?
139人分の制御を常に一人で行う? そんな面倒な事をする意味は?
誤作動を防ぐため? だったらフィン達の存在がおかしい、十分誤作動の原因になりうる。
解析されないため? しかし機械に疎くて魔法に詳しい人間もそれなりにいる。
いや、マリベルといいエーコといいバッツといいソロといい、
加えて彼らの仲間の事まで考えると、むしろ魔法に強い人間の方が圧倒的に多いのではないか?
尚も騒いでいるリュックに、俺は「あんたの判断に任せる」とだけ答え、
アーヴァインの横に座り込んでいるリルムに筆談で尋ねる。
「お前、ケアルは使えるか?」
『盗聴対策で聞くんだが、お前、デスペルは使えるか?』
「ん? 使えるよ、それぐらい。
もう魔力が無くなりそうだから、そんなにいっぱいは使えないけど」
「じゃあ、少しドローさせてもらってもいいか?」
「どろー…? よくわかんないけど、いいよ」
許可を受け、俺はGFを行使した。
これで首輪の一つにデスペルをかけ、バッツに魔力の有無を確認してもらい、
上手く魔力が消えているようなら、道具を使って引っ張ってみよう。
魔力が本当に消えるかどうか、爆発するかしないか、爆発するとしたらタイムラグはどれくらいか。
それらを調べることで、俺の考えが正しいかどうか判断できるはずだ。
かすかに見えてきた脱出の糸口。
それを掴むべく、俺は、行動を開始した。
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ 命のリング(E)
第一行動方針:リルムが暴れないように見張る
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在位置:南東の祠(奥)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァインの治療
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、重症から回復、睡眠)
所持品:竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:???
第二行動方針:アルガスの口を塞ぐ、場合によってはヘンリーに仕返しする
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(シーフ)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣 ひそひ草 首輪×2
ドライバーに改造した聖なる矢×5
第一行動方針:首輪を調べる/ひそひ草でサイファー達に指示を出す…ってなんであたしが?!
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠(入り口付近の小部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ)
所持品:ライオンハート エアナイフ、ビームライフル、
首輪×1(デスペル使用済み) 、攻略本(落丁有り)、研究メモ、
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:首輪の研究
第二行動方針:サックスを警戒/首輪の研究
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(入り口付近の小部屋)→奥へ移動】
なんだこの投下ラッシュw
本当に投下される時に一気に投下されるなぁここw
何にせよ乙です。ヤンデレ怖いだったり脱出に一歩進んだりと色々あるなぁ。
書き手諸氏乙!
待ってたよ、待ってたよ
1年間正座して待ってた甲斐があったよ
>>251 ヘンリーの状態表のうち、第一行動方針を
×第一行動方針:リルムが暴れないように見張る
↓
〇第一行動方針:休憩
に修正してください。
「にげる」
魔法の絨毯を操る少女の心にはそれしかなかった。
1ミリでも遠く、あの魔王より遠いところへ逃れたかった。
あの「闇」に飲み込まれる前に、どこか遠くへと逃げたかった。
一心不乱に絨毯を操り、どこか落ち着ける場所へと突き進む。
突き進んだ先に、見覚えのある人影が現れる。
お構いなしに近づき、彼の体にしがみ付き少女は叫ぶ。
「助けてよ! カイン!!」
もし、彼が落ち着いていたのならば。
今にも裏切られそうな嘗ての相棒に弱みを見せるなどしなかっただろう。
それ以前にカインを避けて通ることすら出来たはずだ。
手札が手に入るまで、カインとの再会を避ける。
そう思っていたはずなのに。
彼の心に植えつけられた恐怖心、得体の知れない威圧感が正常な判断すらも奪ったのだ。
後に、この判断が悪手となる。
「どうしたスミス、何をそんなに怯えている?」
今後の方針を検討するため、その場に留まっていたカイン。
彼の元に魔法の絨毯の上で、頭を抱えながら怯えているスミスが戻ってきた。
確か、意気揚々と「利用できる奴等を利用しに行く」と駆け出して行った筈。
それがこんなにも早く戻ってくるということは、きっと何かあったに違いない。
自分の元を離れる前と、今で明らかに様子が違うことからもそれは容易に伺える。
「魔王だ、魔王が居たんだ……僕は魔王を起こしちゃったかもしれない……」
少女の姿のまま、スミスは怯えつづけている。
体は小刻みに震え続け、目を見開き歯を鳴らしながら頭を抱えている。
話が出来る状況ではない、と判断したカインの行動は早かった。
これだけ怯えているのならば相手も心を読む余裕などない、動きや考えが読まれる事もないだろう。
それに、今後の移動の面を向上させる魔法の絨毯を筆頭とした道具を強奪できる。
早い段階で彼を殺しておきたいと思っていたが、今がその好機であると踏んだ。
「まさか、自分から来てくれるとはな」
そのカインの呟きに、え? という声と共にスミスが反応したとき。
スミスの額に、長々と一本の槍が生えていた。
助けを求める相手を間違えた、その事に気づいたときにスミスの命は消えた。
もう少しだけでいい、落ち着いて周りを見ることが出来たのなら、生き長らえることが出来たのかもしれないが。
それは、たらればの話である。
カインはスミスの頭に槍を深々と突き刺し引き抜いた。
ゆっくりと倒れこむスミスの体を蹴り飛ばし、魔法の絨毯を筆頭とした道具を回収しようとしたそのときである。
一人分の黒い影がカインの視界に映る。
最悪のタイミングは最悪のタイミング同士で重なり合うものである。
助けを請いに来たか弱い少女に向かって、助けるどころか槍を突き刺した。
挙句、その死体を蹴って道具を漁り始めたのだ。
第三者から見れば、カインの行動は殺人者そのものだ。
殺し合いに抗うものが見れば、カインを止めようと向かってくるだろう。
ここで、スミスの今の姿が誰だったかを考えてみて欲しい。
スミスが変化していたのはターニアという娘の姿だった。
変化の杖の変身は死後すぐに切れる事も無く、しばらくは持続する。
つまり、今転がっている死体はパッと見はターニアにしか見えないのだ。
さて問題です、ここで一部始終を見てしまったのは一体誰だったでしょうか?
「貴様ァァアアアアアアア!!」
怒号と共に剣を構え、ピサロはカインへと飛びかかる。
最悪の結末を迎えてしまった、助けを求めてカインへと縋りに行ったターニアは殺されてしまった。
あと少し発見が早ければ保護できたかもしれない、というのに。
自分の目の前でターニアは殺されてしまった。
下手人の正体は憎むべき竜騎士カイン、積もりに積もった恨みと共に斬り捨てに向かう。
面倒なことになった、とカインは心の中で呟く。
今殺したのはターニアではなく、魔物がターニアの姿を借りているだけだという説得も試みようと考えた。
しかし、よりによって相手はピサロである。そんな説得が通用する相手とは思えない。
この機にピサロの息の根も止めるしかない、手札は多少心もとないが今やるしかないのだ。
先手を仕掛けたのはピサロだった。
ありとあらゆる物質を分子分解する魔力を秘めた剣が魔人の如き力を持ってカインへと肉薄する。
カインはその攻撃を鞭を絡ませることで勢いを殺し、そのまま盾で受け流す。
攻撃を止められたピサロはカインに攻撃の隙を与えないため、続けて魔を放つ。
魔は無数の氷刃となりカインへと次々に襲いかかる。
捌ききれないと判断したカインはやむを得ず空へと逃げる。
空に居る間はお互いに干渉することが出来ない。
相手に呪文を詠唱する隙を与えるわけには行かないため、カインは一本の杖を投擲する。
だがエッジのような本職でもないカインが投げる杖は、速度はあれども狙いが定まっていない。
ピサロが軽くステップをするだけで、地面に空しく突き刺さってしまう。
それと同時にピサロの強化呪文、バイキルトが完成する。
だがどういうことか、全身に力が沸きあがる感覚が全く無いのだ。
カインが投げた波動の杖は、先端から魔力を打ち消す波動を生み出している。
天空の剣の凍てつく波動とはまた違った性質ではあるものの、魔力を打ち消す効果なのは変わりない。
投げられた杖をギリギリで避けた事が仇となり、折角の好機を不意にしてしまった。
その時、ピサロに生まれた隙はカインにとって十分なものだった。
すかさず上空から槍を構えてピサロの脳天を目掛けて飛びかかるカイン。
命こそ奪うことが出来なかったものの、右肩に深々と槍を突き刺すことには成功した。
ピサロが苦悶の表情を浮かべたのを確認し、槍を素早く引き抜き飛び退こうとする。
だが、ピサロも黙っていたわけではない。
瞬時に左手へと剣を持ち替え、カインの胴を一閃する。
お互い痛み分けという結果になってしまった。
リーチを生かし、次の一手を先に撃とうとカインが槍を突き出してくる。
それに合わせてピサロは真空の刃を生み出し、同時に偽りの聖剣を投擲する。
本物の聖剣だと認識したカインは、その刃と真空の刃から逃れるために少しだけ飛び跳ねる。
その所為で槍の狙いがずれ、ピサロに傷をつけることは叶わなくなってしまった。
槍で突く事しかできないカインに対し、魔法と強力な力を振るって戦局を動かすピサロ。
カインが不利な状況を背負いながらも、洗練された戦闘技術でカバーし、両者共に譲らない一進一退の攻防が続いていた。
しかし現状が続けば、体力切れを先に起こすのはカインだ。
何か、有用な手を打たねばならないと思った矢先のことだった。
「使いたくなかったが……止むを得ん」
ピサロが剣を腰に差し、カインから距離を取って何かを構え始めた。
近距離戦を仕掛けたいピサロが距離を取る、そのことに違和感を抱いたと同時だった。
一発の銃弾が彼の傍を通り抜ける。
この場に来てから見かけることが多かった銃という武器。
目で追うのは難しく、それで居て剣のような破壊力を持っている。
まだ対処法が明確に分かっていない武器に対し、カインは距離を取ることしか出来なかった。
上空に逃げれば、強力な魔法が待っている。
地上でこの銃弾をやり過ごしながら、一瞬の好機にかけるしかなかった。
次々に襲い掛かる銃弾を避けながら、カインはひたすらピサロの隙を探していた。
素人の射撃といえど、銃の威力は折り紙つきだ。
飛んで来る銃弾は彼の肉体を少しずつ掠めていく。
やがで銃弾を撃ちつくし、ピサロが手元でもぞもぞと銃を動かす。
素早く弾倉を引き抜き、次の弾倉へと詰め替える。
ここだ! この隙に攻め入るしかないとカインは判断する。
恐らく、もう一度銃弾を撃ちつくし装填するタイミングが来るはずだ。
その瞬間に詰め寄り、心臓を一突きする。
一瞬のタイミングを生み出すために、カインは再び銃弾を避け始める。
ピサロが慣れてきたのか、正確に肉体を突き刺すようになってきた。
一発一発の痛みを耐え、ようやくピサロは銃弾を撃ちつくした。
弾倉を引き抜き、予備の弾倉を詰め替えようとしたその瞬間に、カインは大きく踏み込み一気に駆け寄った。
そして真っ直ぐと槍を伸ばし、ピサロの心臓を貫こうとしたその時。
「――地獄の雷よ、彼の者に裁きを!」
ピサロの声と共に大地が割れ、漆黒の雷が彼の体を焼き尽くす。
全てはこの雷を呼び出すためのブラフだった。
銃弾を使って詠唱時間を稼ぎ、確実に当てるためにわざと隙を見せて近寄らせた。
誘っていたのはピサロのほうだったのだ。
力なく崩れ落ちる竜騎士、今にも立ち上がらんとゆっくりと起き上がってくる。
ピサロはその姿を見ながら、容赦なく頭を踏みつける。
「死ね!」
動けない竜騎士に止めを刺さんと、腰に差した剣を大きく振り上げた時だった。
ピサロの目に映りえるはずの無いものが映った。
青い髪、走り回ってすこし汚れた衣服。
先ほど額を槍で貫かれて死んだはずのターニアが、そこに立っていた。
「ター……ニア?!」
死んだ人間は蘇らない、それこそ奇跡でもなければ蘇るはずもない。
こんな場でそんな奇跡が起こると思いもしなかったピサロは、その場に立ち尽くしてしまう。
ターニアがピサロへと走ってくる、一目散に自分へと向かってくる。
瀕死のカインへ止めを刺すことすら忘れ、ピサロは動かない。
そしてターニアがピサロに触れる直前に、彼女が指に嵌めていた指輪が妖しく光った。
巻き起こったのは大爆発。
まるで映画のような炎を巻き上げながら風が吹き荒れる。
傍に倒れていたカインは身を守ることすら出来ず、爆風に身を焼かれ、吹き飛ばされて近くの木に大きく身を打ち付ける。
居るはずのないターニアの姿に呆然としていたピサロは、防御体勢を取る事すら叶わなかった。
故に全身を焼かれ、爆風に吹き飛ばされ、立つのも厳しいほどの怪我を負った。
一体何故爆発が起こったのか? その原因をひたすら探っていた。
さて、この爆発の原因を作った町娘はどうなったか?
爆発の中心から炎に焼かれ、風に煽られ、吹き飛ばされた。
その後、全身がズタボロになりながらもゆっくりと彼女は立ち上がった。
彼女が動けたのはこの指輪があれば、兄の仇をとることが出来るという気持ちがあったからだ。
彼の胸元にもぐりこめば、魔法の力で彼を殺すことが出来る。
これは魔法の指輪なのだから、今の自分には力があると思っていた。
兄の敵のために意識を手放さず、最後の力を振り絞りもう一度ピサロの元へと向かう。
一歩ずつ、一歩ずつ、立ったまま動けないピサロへと近づいていく。
全身は焼け焦げ、歩く度に激痛が走る。
それでも、彼女はひたすら歩き続けた。
兄の敵を取れるのは今しかないのだから。
ようやくピサロの目前に辿り着き、その腕を振るおうとしたとき。
二度目の爆発が彼らを包んだ。
戦いに傷ついた者や何の力も持たない街娘が、一度の爆発は耐えれても二度目の爆発に耐えられる訳が無かった。
戦闘の末に爆発に巻き込まれ、瀕死のケガで気絶していた竜騎士も。
町娘を守ろうとし、怒りに震えながら竜騎士と戦っていた魔族の男も。
そして、仇をとりたかったただの町娘も。
て呪われし爆発は平等に彼らの命を奪い去り、額を貫かれ一足先に脱落していた魔物の後を追うこととなった。
娘に呪われた指輪を持たせた道化師の笑い声が、響き渡るような気がした。
【ターニア 死亡】
【スミス 死亡】
【カイン 死亡】
【ピサロ 死亡】
【残り 23人】
※南東の祠への分かれ道南の岩山に以下のアイテムが放置されています。
カインの遺体:ランスオブカイン ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真 ドラゴンオーブ ミスリルシールド
変化の杖 魔法の絨毯 スコールのカードデッキ(コンプリート済み)
ターニアの遺体:スタングレネード×3 ちょこザイナ&ちょこソナー 爆発の指輪(呪、外せます)
ピサロの遺体:スプラッシャー コルトガバメント(予備弾倉×1)、祈りの指輪 黒マテリア
どこか:エクスカリパー ドラゴンテイル 波動の杖
「……ああ、見えてきた」
魔界特有の濁った瘴気、その向こうに、おぼろげながら城の輪郭が浮かび上がってくる。
けれども、僕達の本当の目的地はあそこではない。
合流しなければならない人たち――ロザリーさん、ティーダ君、ユウナさん、テリー君――は、
デスキャッスルから西に向かった、という話なのだから。
じゃあ何故わざわざこちらに足を進めているのか、と言えば……
僕は、横にいるサイファーをちらりと見やる。
目つき――は置いておこう。自分も人のことを言える立場でないし。
眉間の皺――五分ほど前に三本に増量した。
発言数――さっきからゼロのままだ。こちらが話題を振っても答えてくれない。
一言でいえば、不機嫌ここに極まれり、という奴だ。
ヘンリーさんが居たとしても、この空気を和らげることは出来なかっただろう。
むしろここまで最悪な雰囲気をかもし出されると、同行者が居なくて良かったとさえ思えてくる。
僕以外の人がいたら、多分口論から殴り合いの喧嘩に発展していただろうから。
「クーン……」
行っちゃダメ、と言いたいのか、警戒しているだけなのか。
不安げに後をついてくるアンジェロの姿が、僕の胸中にさざ波を立てる。
南へ行ったり北へ行ったり、怪我をした身でうろうろしていた彼女。
きっと北と南の二か所で何かがあったのだろうと思い、ひそひ草で仲間に相談したのだけれど、
スコールには「あんたに任せる」と丸投げされてしまい、
リュックは「ユウナんも心配だけど、お城にもユウナんの仲間がいるっていうし……」と言ってきた。
サイファーが「じゃあ、西に急ぐか? それとも北を確認するか?」と聞いたけれど、
彼女ではどうにも決められなかったらしく、うんうん考え込むばかり。
結局、優柔不断さに苛立ったサイファーが「北に行って様子を見てから西に行く」と決断し、
二人(と、一匹)でデスキャッスル方面に向かうことになった。
「ワンッ」
アンジェロが今までと違う鳴き声を立てる。
サイファーと僕が足を止め、振り向くと、彼女は既に別の方向へ歩き出していた。
そちらの方で事件があったのだろうか?
疑問に思いながら彼女の後を追おうとした時、奇妙な声が周囲に響いた。
「カァーーーーーーーッ!!」
背筋に言い知れない悪寒が走る。
それはサイファーもアンジェロも同じだったようで、動きを止めて身構えた。
鴉によく似た甲高い鳴き声――あるいはそれ単品なら可愛らしいかもしれないけれど、
こんな場所だからなのか、本当に『そう』なのか、声の奥底に殺意と憎悪が込められているように聞こえたのだ。
そして、得体の知れない鳴き声の正体がわかったのは、ほどなくしてからだった。
がさがさと茂みを掻き分けて走ってくる、小さな影。
子供ぐらいの大きさの、全身緑色の生き物は、僕らを一瞬だけ見上げ、すぐにどこかへ行ってしまう。
だが、何かに思い至ったようにふと足を止めて、「カー」と鳴いた。
「……なんだ、コイツは?」
「さあ……?」
しきりに鳴いている魔物らしき生き物、その首に輝く金属の輪が参加者であることを示しているものの、
こんな特徴的な顔立ちだったら、参加者リストで否応にも目につくはずだ。
首をかしげる僕の横で、サイファーが自分のザックからリストを取り出し、ぺらぺらとめくり始めた。
そして、当の本人(?)と言えば、激しく吠えるアンジェロに、
ほんのわずか戸惑った様子を見せながら、「カーカー」と鳴いていた。
***********
「パパスさんが叫んでたセフィロスって、貴方のことよね?
なによその格好。ふざけてるの?」
「……お前の主人を始末した道化の仕業だ」
「ふーん、自業自得ね。
貴方があの人と戦ったり、あまつさえ殺したりするから悪いのよ。
私がちゃんと見てなかったから、気づかれないと思った?
お生憎様。いくら体をキュウリ臭くしたって、血の臭いぐらいかぎ分けられるわ」
「……飛竜の行方を知っていればそちらの追跡を優先した。
それに、あの男の方とて私を見逃す気はなかったろう。
降りかかる火の粉を払っただけだ」
「それはお互い様よ。あの人とルカにとって、火の粉は貴方のほうだった」
「ルカ?」
「貴方が言うところの私のご主人よ。
本当は違うけれどね。それでも、あの子を助けたかったわ」
「ふん。私に恨み言を吐く気概があるなら、
それこそ子供を守って逃げれば良かっただろうに」
「……ええ、全く。そこは貴方の言うとおりね。
でも、彼がいなかったら、貴方はルカを見逃したかしら?」
「私とて探し求めるモノがある。
邪魔立てをせず、オーブを持っていないことを確認できたら、無力な子供一人ぐらい捨て置いただろう。
構うだけ時間の無駄だからな」
「……そう」
***********
「カーカー、カーカー」
「ワンワン! ワンワン!」
アンジェロが吠えることを止めない。
どちらかといえば可愛らしい見た目だけれども、何か彼女の恨みを買っているのだろうか?
あるいは、さっきの雄叫び(?)といい、見かけに反して性質のよくない生き物なのかもしれないが……
しかし、敵対の意思があるなら襲い掛かってくるだろうし、何とも判断がつかない。
「こんなナマモノ、やっぱりリストに載ってねえな。
石化魔法<ブレイク>みたいなノリで、別の生き物に変える魔法でもあんのか?」
「カー」
『そうだ』と言ったのだろう、変な生き物が大きくうなずいた。
それから、予想外に素早い動きでサイファーが持っていたリストを奪い取り、別のページを開いて彼に返す。
「……ケフカ? こいつにやられたのか?」
「ワンワンワン!」「カーカーカー!!」
変な生き物だけでなく、アンジェロも同じように騒ぎながら、足元でジャンプを始める。
サイファーの手元を覗いてみると、道化師のような男の写真が載っていた。
「ったく、どっちもうっせぇな……これだから犬は嫌いなんだよ。
とにかく、こいつは危険人物って考えた方がいいってことか」
「そうですね。アンジェロまで吠えてますし」
「だがよ、この辺りにはいねぇみたいだ。
ケルベロスも何の反応もねぇし、とっくに逃げちまったんだろう」
「カーーーー」
『見てないのか、役にたたないな』と言わんばかりに、変な生き物は肩をすくめた。
そして、また、アンジェロに向かって鳴き始めた。
***********
「どうにか伝わったみたいね」
「あれで理解できない間抜けがいるか。
それにしても、言葉が通じないというのはもどかしいものだな」
「それ以前に、私が知らないケフカの行き先を、彼らが知ってるとは思わないけどね」
「犬。貴様の鼻は飾りか?」
「あの人を殺した貴方の為に働く理由なんて、今のところはないわ。
それに、その姿のまま戦いを挑んだところで、また逃げられるだけだと思うけれど」
「……口の減らない犬だ」
「で、どうしてそんな姿にされたの? あいつに殺されなかった理由は何?」
「それを貴様に喋った所で何の意味がある?」
「一人で考え込むだけで、元の姿に戻ってケフカを倒す算段がつくのかしら?
私はあなたの言う通り犬だけれど、相談に乗るぐらいはできるわ」
「犬に、か?」
「そうよ。私の言葉なんて普通の人間にはわからないもの。
秘密が漏れる心配もないでしょう」
「その利口な頭なら、言葉以外で語る方法も知っていそうだが」
「買いかぶり過ぎね。
私は、きっと貴方の十分の一も生きてない、普通の犬よ。
違う所があるとすれば、私の主人が、私と一緒に本を読むのが好きだった素敵な女性ってことだけ。
週刊誌から叙事詩まで、色々な本を読んでくれたから、色々な事を学べたの」
「……叙事詩?」
「あら、興味があるの?」
「……いいや」
**********
ずっと昔、シンシアから聞いたことがある。
ある種の人間が魔物や動物と会話できるのは、
彼らが声に『意味』ではなく『感情』そのものを乗せていることを知っているから、らしい。
だから、その『感情』を受け取ったり、言葉に込めることができれば、誰でも犬や猫やスライムと話せるそうだ。
さらに達人ともなれば、声すら要らなくなり、目を見ただけで意思疎通ができるとも――
「ワンワン」「カーカー」
最初よりかは落ち着いた調子で鳴いているアンジェロと、淡々と醒めた声音で鳴いている生き物。
二匹の様子を見る限り、どうやら会話が成り立っているようだ。
まあ、片方は正体不明の参加者といえ、片方は普通の犬だから、きっと現状を不安がっているのだろう。
「おい、ソロ!」
サイファーの声が草むらの向こうから響いた。僕は慌てて二匹から目を離し、彼の方へ走る。
不自然に荒れた草の中、サイファーの足元で、壮年の男性が死んでいた。
それから、少し離れて、アンジェロと共にいたルカ君の死体も。
「オッサンは刺殺、ルカの奴は氷の魔法……どっちもケフカって奴の仕業だと思うか?」
僕は男性の死体を見やり、ヘンリーさんから聞いた話を思い出す。
一国の国王という身分を捨て、幼子を連れて世界を旅した、凄腕の剣士――
僕はそのことをサイファーに話しながら、二つの死体を調べた。
「断言はできませんが……死体の位置と、倒れている向きを考えるに、
誰かとの交戦中に、二人とも不意打ちを受けた……そんな感じがします。
もしかしたら、この場には二人の敵がいたのではないでしょうか?」
「やっぱそう考えるしかねぇよな。となると、疑わしいのは、まずアレだ」
サイファーが、鳴き声の方を指さした。
「アレがケフカと手を組んで、オッサンとルカを殺した張本人。だからここらにいた」
「……可能性としては、0ではないと思います。
ですが…… あの生き物の手、見ましたか?
なんていうか、すごくぬめぬめしてて、剣なんて持てそうにありません。
一流の剣士相手に、あの手で打ち合えるとは、到底思えない」
「なら、ルカを殺ったのがアレで、オッサンと戦ったのがケフカ」
「それなら、アンジェロがもっと反応するでしょう。
それこそ噛みついているはずです」
「じゃあパパスを殺ったのがアレで、事後にケフカに裏切られて、姿を変えられた」
「だったら、あの生き物も殺されているか、ケフカと同行していると思います。
姿を変えるだけに留めて、放置する理由がわかりません。
むしろ、ルカ君に見つけられて保護された所を襲われ、逃げたとか…そういう風に考える方が、自然な気がします」
サイファーは僕の言葉を黙って聞いていたが、目を閉じ、顎に左手を当てた。
とんとん、と剣で肩を叩くのが、考え事をしている時の癖らしい。
彼が口を開いたのは、一分後だろうか。
「……テメェの言うとおりかもな。
だが、この件に関してクロだろうとシロだろうと、生きのこってる参加者の誰かなワケだ。
元に戻してみたら凶悪な殺人者だった、って可能性も捨て切れねぇ」
そう言ってから、サイファーはポケットからはみ出たひそひ草を指さす。
「ライブラを持ってきてりゃ使ってやったんだが、生憎そんな準備はねえ。
だから、連中の元に戻るまで、あのナマモノを回復する手段が見つかったとしても絶対に使うな」
もっともな意見だ。反対する理由もない。
「わかりました。
ところで、あの生き物も一緒に連れて行きますか?
もしくは、ユウナさんの仲間が無事なら、デスキャッスルに預けるという手も」
「いや、城の中に寄る時間も惜しいし、必要ねえだろ。
火の手があがってたり、誰かが逃げてきてたなら話は別だが、そういう様子もなさそうだ。
先に、ロザリーやリュックの仲間を回収してやった方がいい」
サイファーはそう呟いて、踵を返す。
「アレが素直についてくれば良し。
そうでなければ――念のため、始末した方がいいかもしれねぇな」
ぽつりとこぼした言葉は、どんな事態を警戒したものだったのか。
僕にはわからなかった。
**************
「ねえ、もう一度聞くけど、どうしてそんな姿にされたわけ?」
「……脅迫だ。元の姿に戻りたければ、10人殺して来いとな」
「まあ、呆れるわ!
まさか、元に戻してもらえるだなんて信じてはいないでしょうね?」
「当たり前だ。誰が信じるか」
「そうよね、よかったわ。
貴方、そんな姿でも、戦おうと思えば戦えるでしょうし」
「懐柔のつもりか?」
「懐柔するなら、もっと賞賛しておだててるわ。
正当な評価を下しただけで懐柔できる相手はいないってことぐらい、私だって知ってるわよ」
「……貴様、本当に犬か?」
「あら失礼ね、犬だって考えるのよ?
人間よりもずっと短い時間しかないから、その分、懸命にね」
「………」
「……ねえ、貴方。私と一緒に来ない?」
「どういう意味だ? 犬。
貴様と同行した所で、私が何を得られるというのだ」
「私はケフカを許さない。貴方もケフカを許さない。
この点は一致してるわよね。
だったら、貴方が私達に協力してくれるなら、私も貴方に協力してもいいわ。
その姿なら、誰も貴方の正体になんて気づけないだろうし」
「気づかれてたまるか」
「でしょうね、格好悪いものね。
で、私が提供できるのは、貴方がさっき考えたように、この鼻よ。
透明になった相手でも、ある程度なら臭いで追跡する自信があるわ。
それともう一つ。味方よ」
「味方? そんなもの……」
「貴方、一生その姿で居る気はないんでしょう?
でも、自力で元の姿には戻れない。ケフカを頼る事も有り得ない。
だったら誰か、人の力を借りるしかないわよね?」
「……」
「ソロもサイファーも貴方を変えた魔法のことは知らないみたいだけど、
彼らにはたくさんの仲間がいるわ。
その中には、貴方を元に戻す方法を知ってる人がいるかもしれない」
「確証のない話だな。
そもそも知っていた者がいたとして、やはり簡単に戻すとは思わんが」
「そうね。でも、いるかいないか確かめておく事は重要だと思うけど?
首尾よくいたら、遠慮なくケフカに止めを刺せるでしょう?
中途半端に生かそうと思ってたら、返り討ちにあうなんて、割と良くある話よ」
「………」
「私が貴方に望む対価は、『私と同行すること』と『私の仲間には手を出さないこと』。
知らない相手や、敵に関しては、貴方がそいつらを殺そうが私の知った事じゃないし、
ケフカが死んで私に利用価値がなくなったら、反故にすればいいわ。
無論、その場合、私も私の仲間も最大限に抵抗するけれど」
「………」
「貴方から手を出さなければ、彼らもそうそう殺そうだなんて言いださないでしょう。
――いいえ、サイファーはともかく、もう一人は貴方と違って良い人だから、
きっとあなたを案じて『一緒に来ないか』って聞いてくるわよ。
それを、そんな姿だってのに断ったりしたら、逆に怪しまれるだけじゃなくて?」
「……」
「私、別に『襲われた時に一緒に戦ってくれ』だなんて言っていないし、言うつもりもないわよ。
それに、私の鼻を当てにするなら、私と同行するのはどのみち必然よね?
この条件で、貴方にメリットこそあれ、それを上回るデメリットがあるかしら?」
「………」
***********
埋葬の代わりに、二つの死体を整えた後、逸る不安を抑えながら僕達は二匹の元に戻った。
彼らの言葉は僕らにはわからないけれど、二匹とも、こちらの言葉は通じているようだ。
「やっぱりケフカって男の姿は見当たらないけれど、
他にも殺し合いに乗ってる参加者が近くにいるかもしれない。
僕とサイファーは、西にいる仲間を探しに行く途中なのだけれど、
君達が良ければ、僕らと一緒に来ないかい?」
しゃがんで話しかけると、アンジェロは「ワン」と一声鳴いて、僕の周りを走った。
多分、『わかった、一緒に行く』ということだろう。
謎の生き物の方は、黙って僕を見ていたけれど、アンジェロに吠えられて、仕方なくといった様子で頷いた。
ウマがあったのだろうか。いつの間にか、この二匹、仲良くなったみたいだ。
「犬に続いて、よくわからねぇナマモノか。
ついでに鳥を捕まえて、お供と一緒に魔女退治に行ってきますってか?」
サイファーが面白くもなさそうに呟く。
お供扱いの発言が気に喰わないのか、サイファーの態度そのものが気に障ったのか、
生き物は不満のこもった声音で「カー」と鳴いた。
***********
「一度は切り伏せられた若造が、好き勝手に言ってくれる」
「あら、あなたサイファーと戦ったことがあるの?
……まあ、あいつって喧嘩売るの好きだものね」
「………良く喋るな。犬が」
「犬、犬って……ああ、そういえば、名乗ってなかったわね。
私にはちゃんと、アンジェロって名前があるの。
今度から名前で呼んでちょうだい」
「……アンジール?」
「ア・ン・ジェ・ロ! サント=アンジェロ=ディ=ローマ!!」
「……犬には過ぎた名だな」
「失礼ね! レディに向かって!」
「………」
**************
城から一つの影が飛び出したのは、四つの影が歩き出した数分後の事。
魔王と狙撃手が遺したメモを読んだ後、賢者たちと別れ、平原に降り立つ騎士――
彼の心に刻まれた英雄への恐怖は、未だ拭えぬまま。
もしも彼が『その生き物』を見ていたら、雰囲気のみで正体を見破ったかもしれない。
あるいは、能力を用いることで、確信を持って二人の勇者と共に打ち倒せたかもしれない。
かくて、騎士達は取り逃がす。因縁深き片翼の天使を葬り去る、最大の好機を。
彼らが思っているよりも、ずっと賢い『天使』のせいで。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す (ロザリー優先)
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:ターニアやアーヴァイン達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
基本行動方針:ソロ達についていく/ケフカを倒す】
【セフィロス (カッパ)
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:カッパを治す
第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスキャッスル南の平原→西へ移動】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:リルムを追う
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:デスキャッスル城外→南の平原】
投下続くね、いいことだけど
でもこうなると、新しいまとめサイト用意した方がいいんじゃないか?
今のまとめサイトは長らく更新止まってるようだし
なんじゃこりゃw乙乙乙
セフィロスが面白いことになったね
アンジェロとセフィロスに和む日が来るとは
ピサロの目に映りえるはずの無いものが映った。
青い髪、走り回ってすこし汚れた衣服。
先ほど額を槍で貫かれて死んだはずのターニアが、そこに立っていた。
「ター……ニア?!」
死んだ人間は蘇らない、それこそ奇跡でもなければ蘇るはずもない。
こんな場でそんな奇跡が起こると思いもしなかったピサロは、その場に立ち尽くしてしまう。
ターニアがピサロへと走ってくる、一目散に自分へと向かってくる。
瀕死のカインへ止めを刺すことすら忘れて動かないピサロ。
そしてターニアがピサロに触れる直前に彼女は指輪を嵌め、ピサロの片腕をしっかりと掴んだ。
巻き起こったのは大爆発。
まるで映画のような炎を巻き上げながら風が吹き荒れる。
傍に倒れていたカインは身を守ることすら出来ず、爆風に身を焼かれ、吹き飛ばされて近くの木に大きく身を打ち付ける。
居るはずのないターニアの姿に呆然としていたピサロは、防御体勢を取る事すら叶わなかった。
故に全身を焼かれ、爆風に吹き飛ばされ、立つのも厳しいほどの怪我を負った。
一体何故爆発が起こったのか? その原因をひたすら探っていた。
さて、この爆発の原因を作った町娘はどうなったか?
爆発の中心から炎に焼かれ、突風に煽られた。
しかし驚くべきことに彼女はその場から微動だにせず、両の足を地に付けていたのだ。
爆発に耐えることが出来たのは、指輪があれば兄の仇をとることが出来るという気持ちがあったから。
彼の胸元にようやく潜り込んだ、魔法の力で彼を殺すことが出来る。
仇をとるまではどれだけ妨害されようと、決して意識を失うことなど出来なかった。
全身は焼け焦げ、体を動かすたびに度に激痛が走る。
だが彼女にとってはそれは痛みではない、もっと辛い痛みが心の中にあったのだから。
今、彼女の目の前に居るのは瀕死のピサロの姿。
爆発に襲われていたときでも、絶対に離さず握り締めていたピサロの片腕。
己の体と、ピサロの体が吹き飛ばされそうになりながらもその腕を決して離すことは無かった。
「ヒト」の限界の力、それにより彼女はピサロをこの場に留めることに成功していた。
ようやく、仇が取れる。
兄を殺した憎き相手の仇が取れる。
明確な殺意と悲喜こもごもの感情を胸に、彼女は殴りつけるための一歩を踏み出した。
二度目の爆発が彼らを包んだ。
戦いに傷ついた者や何の力も持たない街娘が、一度の爆発は耐えれても二度目の爆発に耐えられる訳が無かった。
戦闘の末に爆発に巻き込まれ、瀕死のケガで気絶していた竜騎士も。
町娘を守ろうとし、怒りに震えながら竜騎士と戦っていた魔族の男も。
そして、仇をとりたかったただの町娘も。
呪われし爆発は平等に彼らの命を奪い去り、額を貫かれ一足先に脱落していた魔物の後を追うこととなった。
娘に呪われた指輪を持たせた道化師の笑い声が、響き渡るような気がした。
その人の姿を見たとき、私は少しだけ安心した。
ようやくその時が来た、貴方の傍に行けるって。
私もわかってはいたの、理解したくないだけで。
だから放送を聞くまで、生きようかと迷ったわ。
だけどやっぱり一人で、待ち続けるのも辛くて。
終わりを望んでいたの。凍りついた心の奥底で。
彼女は返り血を浴びて、私に一歩一歩近づいて。
闇の気配を纏いながら、銃口を私の頭に向けた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「白いローブを着た、茶髪の男を見なかった?」
「茶髪…… アーヴァインという男の事なら、心当たりはありますが」
スコールが探していた、私にすれば仲間の仇の、
男の名を口にした途端、彼女は引き金を引いた。
放たれた小さな銀弾は、私の耳をわずかに掠め、
美しい顔を醜く歪めて、彼女は憎々しげに言う。
「アイツは魔物を使って、私の大事な時間を奪ったの。
二人して私の事を笑っていたの。
許せない。ギードさんなんかより、アイツを真っ先に殺さなきゃ気がすまない」
「そうですか」
「どうせあの魔物に時間を稼がせて、私から逃げ切るつもりだったんだろうけど、
そうはいくもんですか」
「そうですか」
「ねえ、正直に教えてくれたら、貴方の事は後回しにするわ。
アイツをどこで見たの? アイツはどこへ行ったの?」
あんな男を庇う義理は、私にだって無いけれど、
さっき見かけた一匹の、哀れな犬を思い出した。
彼女が浮かべる表情に、溢れて滲む殺意の色は、
あの男一人だけでなく、全ての命に向かうはず。
生きたいと願う犬の命、それを奪う権利なんて、
たぶん私にも彼女にも、与えられるはずがない。
そんな事を考えた私は、彼女に一つ嘘をついた。
「彼なら南へ向かいました。
ええ、あちらに見える塔の上です。
あそこで誰かを狙撃して殺すつもりなのでしょう」
「本当?!」
「私の仲間はあの男に殺されました。
それに、私はここで、彼と運命を共にしたいのです。
貴方を騙したところで、何の得もありません」
何の得もないけれども、何の損もありはしない。
返り血を拭いもせずに、私の頭に銃口を向けて、
殺意と狂気を溢れさせ、くすくすと笑う殺人者。
ああやっぱり殺す気ね。後回しにすると言って。
別に怨みはしないけど。私も嘘をついたのだし。
「ありがとう。最後に何か、言いたいことはある?」
「特に考えてなかったんですけど、そうですね。
貴方が殺し合いに乗り、私を殺す理由ぐらいは、聞いておきたいかもしれません」
本当は興味もなかった。けれども脳裏を過ぎる。
あの犬を連れた少年が、去り際に残した言葉が。
『でも、リュックさんとターニアさんは、あなたを信じてるって』
私の眼前に居る彼女は、リュックが探してた人。
恋人を追いかけ続けた、強くて優しい元召喚士。
聞いた後に私は殺され、伝えることはできない。
けれど彼女の代わりに、言えることがあるなら、
代わりに言っておこう。それが彼女への恩返し。
「どこから話したらいいかなぁ」
彼女は語る、彼との再会を。
彼女は語る、男への憎悪を。
彼女は語る、裏切られた期待を。
彼女は語る、掴んだ『真実』を。
全てを聞き終えて、私は思った。
「ああ、下らない」
彼女が眉をひそめた、声に出てしまったらしい。
でも私の言葉は、もう止まらない。
「自分の事よりも、傷ついた他人を優先する。
それって立派な事だと思います。
本職の騎士ですら、自分を守る為に他人を傷つけることを選ぶような状況なのに。
普通の人にはできません。本当に、すごく、すごく立派だと思います。
ましてや元殺人者と知って尚、分け隔てなく友として扱うなんて、騎士よりも騎士の鑑みたい。
私が愛した人がそんな人ならば、私だったら誇りに思います。
私を見てくれなかったとしても、全然気になりません。
だって、そういう人だから好きになったのだと、胸を張って言えるじゃないですか。
そんな眩しいほどに素晴らしい人を、なんで、魔物扱いできるんですか?」
歪んだ顔が見える。怒りが見える。絶望が見える。闇が見える。
でも、私の口は止まらない。
「本当に魔物だったら、真っ先に貴方に殺人をさせてますよね?
でも、あの男にすら殺人を犯させてないんですよね?
それでなんで魔物になるんですか? いえ、答えなんて聞くまでもないことですけど」
「黙って」
「嫌です。最後まで言わせてもらいます。
貴方は、自分だけを見てほしかったんですよね、こんな世界で。
眼を離したら仲間が死ぬような場所で、恋だの愛だのにうつつを抜かす、
現実を見ないで彼氏ごっこにつきあってくれる彼氏がほしかったんですよね。
だから、貴方の願望に従わなかったから、彼を偽物扱いしたんですよね。
弱い人を守ろうとしただけの、頼もしくて、素晴らしい、本物の彼氏さんを。
ねえ。
――貴方が抱いてる感情って、本当に愛なんですか?」
「だァァぁぁぁぁまれぇええええええええエエエエエエエエエ!!!」
絶叫と共に放たれた弾丸がやけに遅く見える。
死が訪れるまでのほんの数秒は、数分に引き伸ばされて、
私の最後の思考を形にしてくれる。
サックスを信じきれなかった、そう思っていた。
サックスを殺してしまった、そう思っていた。
いいえ、それはどちらも真実であるけれども、
でも、一つだけはっきりと言える。
彼女のお蔭で、自信を持って言える。
私は今でも、罪悪感と後悔を生み出す、その感情を抱いていると。
私の胸にあるそれは、闇に曲げられてなどいない、真実の感情だと。
――私は、確かに、サックスを愛してる。
とても満ち足りた気分で、目を閉じる。
彼女の怒り狂い方を鑑みるに、きっと私の体なんて、
原型をとどめないぐらい引き裂かれてしまいそうな気がするけれど。
でもね。貴方の傍で、貴方への愛をちゃんと抱いたまま、笑って死ねる。
こんなに幸せなことって、ないと思うの。
ねえ、サックス。――貴方の顔は綺麗だったけど。
本当は苦痛や後悔の最中で死んだのでしょう?
私も同じように苦しんで死ぬべきなのにね。
おまけに勝手に引き合いに出したりして、
「酷い女ね、私って」
言葉とは裏腹に
笑顔が零れて
砕かれた
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
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ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
ムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツクムカツク
本当にムカツク。
わかってるんだ、全部。この世界は偽りだらけ。
でも『 』だけは誰より殺したい。
キミに会いたいという気持ちと同じぐらい、その願いは本物なの。
あんなに長い時間、あの魔物のせいで無駄にしちゃった。
でもね、全部、わかってるんだ。
『 』は私から逃げるために、あの魔物を使って時間を稼いだ。
つまり、『 』は西にも城にももういない。
私に会わないように、あの城から南か東へ逃げたんだよね。
だから、一生懸命走ったよ。南へ向かって走ったよ。
茂みを通って、レーダーを見ながら、城よりも南につくまで誰にも会わないように走ったよ。
逃げ切られるわけにはいかないから。絶対に逃がすわけにはいかないから。
彼女に声をかけたのは、見晴らしのいい場所で、座ったまま動かなかったからで。
もしかしたら見かけたかもって思っただけで、大して期待なんてしてなかったけど、
『 』のこと知ってて、本当に良かったよ。ムカツイたけど。
私はかすかに見える塔へ向かい、足を進めた。
拾えるものだけは拾ったけど、ムカツキはまだ収まらない。
だけど、肉塊になったこいつらには、もう興味なんてなかった。
逃がさないよ『 』、もう全部わかってるんだから
【ユウナ(ガンナー、MP2/5)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
スパス スタングレネード ねこの手ラケット
ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 拡声器 水鏡の盾
第一行動方針:アーヴァインを殺す/なんとしてでも生き残る
第二行動方針:邪魔なギードを葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:希望の祠北部平原→架け橋の塔方面へ移動】
【エリア 死亡】
【残り 22人】
284 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/19(木) 23:09:38.14 ID:z0uSHe1j0
男女比が18:4とかww
歩き続けて歩み続けて、辿りついたのは何刻後だったろうか。
広々とした祠を満たすのは、張りつめた静寂。
人の姿が無い事を確かめ、男が呟く。
「こういうこともあるさ」
ため息交じりの言葉に、エルフの少女は俯き、悲しげに眼を伏せた。
「ピサロ様は……もう片方の祠に向かわれてしまったのでしょうか?
だとしたら、早く行かないと……」
恋人を探し求め、再び歩き出そうとする哀れな娘に、男はもう一度息を吐く。
「なあ、ロザリー。
思ったんだが、あんたの恋人は、本当に城を発ったのか?」
少女が足を止める。無論、男には、確証も何もない。
けれど、この世界の地図を眺め、彼女の話を聞く限りは、そういう事なのだろうと思えてしまった。
「ど真ん中にそびえるでっかい城なんて、否応でも目に着いちまう。
あんたの彼氏だけじゃなく、ネグラや道具を求める奴らも、
そいつらを狙う悪い連中も、なんだかんだで集まってくるはずだ。
――だから、あんたや仲間や友達を、危険な場所から遠ざけようと思ったのかもしれない」
「……」
何か言いたげな表情で、けれども静かに尖った耳を傾ける少女に、男は言葉を続ける。
「どっちにしても、今、戻ったり移動するのは危険だ。
ひとまず、ここにいよう」
少女に戦う力があれば、あるいは、一人で飛び出すことを選んだかもしれない。
けれども彼女は、自らの無力さを熟知していたし、しなければならなかった。
道中で奪われた幼子の命、その死を忘れるなどできるはずがなかった。
「大丈夫だ。あんたのツレもじきに起きて、ここに来るだろうさ。
それまでは、俺が責任持って守ってやるよ。
これでもソルジャー1stだしな! 俺とクラ……いや、俺がいれば、怖いモノなし!!」
ぱん、と腕を叩きながら、男は言った。
僅かに涙を浮かべた少女の目に映る、百戦錬磨の戦士は、晴れやかな微笑を浮かべている。
けれどもその表情は、少女を安心させるためだけに取り繕ったものだと、男の眼が告げていた。
笑っていない瞳から、垣間見えるのは焦りと怒り。
むべなるかな、彼ほどの戦士ならば、殺人者の存在を許しておけるはずがないだろう。
少年の仇を討つ為に、後を追う事も、彼一人ならばできたはずなのだ。
それを理解しているからこそ、少女は呪う。
愛する魔族にとっても、傍らの男にとっても、足枷にしかならない己が身を。
「申し訳ありません……ザックスさん……」
緋色の瞳から零れた滴が、床で弾けて真紅の結晶へと代わる。
それがルビーの輝きを放っている事に、男は気づかなかった。
ただ、少女の流す血色の涙をまっすぐ見つめたまま、拳を強く握る。
未来を生きるべきだった少年の命を無残に奪い、
戦う術さえ持たぬ少女を苦しませる者達への怒りが、肌に爪を喰い込ませ血の雫を滴らせる。
男の心に燻る、『死せる者の無念を晴らしたい』という感情。
少女の涙に宿る、『愛する者に今一度会いたい』という切望。
その二つはやがて焦燥感へと変じ、二人の心を蝕んでゆく事だろう。
けれども、それさえ放送までの、束の間の話――
二人の思いは、二度と、晴れることはない。
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷)
所持品:バスターソード 風魔手裏剣(11) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
第一行動方針:ロザリーを託せる人が来るまで待つ
第二行動方針:タバサを始末
基本行動方針:同志を集める
最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:ピサロかティーダ達を待つ
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:南西の祠】
おおお!ここ復活してたのか!
まとめサイトも動いてないし、もう続きは読めないものと諦めてたよ。
書き手さん、裏方さん、ありがとう!!
そしてお疲れさん、パパス。
激しく乙!
俺ももう続きは読めないと思ってた(´・ω・`)
完結までがんばれ、超がんばれ!!
最初にソレに気づいたのは、アンジェロだった。
血の臭いを嗅ぎつけたのか、硝煙を嗅ぎ付けたのか、
横道にそれて草むらを掻き分け、野ざらしにされていた死体の元へ、彼ら二人を導いた。
凄惨極まりない遺体の状況に、勇者は眉を顰めたけれども、
かつて魔女の騎士だった青年は、動じることもなくひそひ草を取り出した。
「スコール、リュック、聞こえるか?
俺だ、サイファーだ。
今しがた、金髪の男の死体を見つけたんだが」
連絡に答えたのは、甲高い女の声。
『金髪ぅ?! それってま、まさか……』
『ねえ、緑のバンダナとか巻いてないよね!?』
息を飲み止まる最初の声を押しのけて、幼い声がわめきたてる。
『ねえ、どうなの?! 日焼けオトコじゃないよね?!』
血肉に塗れ、脳漿をぶちまけられた布が緑色だったかどうかなど
ソロにもサイファーにも判別がつかない。
しかし、赤い液体に沈む体は、自分達よりかは幾ばくか浅黒かったように見えたし、
傍らには、持ち主の血にも穢れずに蒼く輝く剣と、彼が背負っていただろうザックが遺されていた。
そのことを伝えると、声の主――リルムは押し黙り、すすり泣きが幽かに響いた。
『ティーダ……そんな……』
ぽつりとつぶやいた声はリュックのもの。
彼女はそれでも気力を振り絞ることができたのか、サイファーに問いかける。
『ねえ、ユウナん達は?』
リュックの問いの答えは、サイファー達には知りえなかった。
せめて彼女の持ち物が残っていればアンジェロに追わせることもできたかもしれないが、
生憎と、それらしいものはなかった。
ならばせめてと、手がかりを求め周囲を捜索してみたが、
見つかったものと言えば、草に埋もれた子供の遺体が一つきり。
「テリー……」
少年を知るサイファーが、血をにじませるほど強く拳を握ったのも、当然だ。
血だまりに沈んだ男に比べればずっと綺麗な様相ではあったけれど、
その悔しさも露わな死に顔は、惨劇よりも尚痛ましかった。
テリーの死を報告しているサイファーを待つすがら、
ソロはティーダの遺品を回収しようとザックを拾い上げる。
その破れた隙間から、小さなネックレスが一つ落ちた。
銀の輝きに気づいたカッパは、何の気もなしに拾い上げる。
それを見たアンジェロが一声吠えると、
カッパは仕方がないと言わんばかりに肩を竦め、犬の首にかけてやった。
やがてサイファーはひそひ草を仕舞い、草を切ってティーダの遺体に被せていたソロに声をかける。
ここにいないユウナとロザリーは、目的地に向かったのだろうと信じて、一行は再び西へ歩き出した。
だが、ほどなくしてアンジェロが向きを変え、ワンと一声吠える。
サイファーとソロが振り向くと、アンジェロとカッパは既に別の――南西へと歩き出していた。
犬の鼻は確かだ。
恐らく目的地を変更したのだろうと、二人の青年は得心し、小さな同行者達の後を追った。
――そうして、二時間が過ぎた。
そろそろ祠が見える頃か、というところで、ひそひ草が囁いた。
それに気づいたサイファーは、草を取り出し……眉間に皺を刻む。
その声は、聞きたくもなければ、聞こえるはずのないものだったから。
『おハロー、ソロ! 元気してるー?』
「アーヴァイン……!?」
スコールに捕えられたはずの、元殺人者たる知人。
どういう経緯でひそひ草を使っているのかはわからないが、
彼は友人の死を知らないとしか思えない、底抜けに明るい調子で捲し立てる。
『ああサイファーは喋んなくていいよー。僕、あんたのことキライだし〜。
あっ、この草は、どーしても確認したい事があったからスコールに借りたんだよー』
聞いてもいないことまで喋るのは、彼の癖なのだろうか?
そんな感想を抱くソロの横で、サイファーがうんざりしたように肩をすくめた。
「うっせぇんだよガルバディア野郎。用件だけ話せ」
しかし、サイファーの呟きは、アーヴァインには届かなかったようだ。
『警戒しなくたって、ちょっとぐらい話してもいいじゃんか。
それともナニ? 僕の声聞いたら死んじゃうっての?』
「そういうわけではないけれど……本当に大丈夫なのかい?
それに君は、捕まえられる時に手荒な事をされたって聞いたけど、体は平気なのかい?」
『え……心配してくれるなんて、ソロってホントやさしーねー!
いやあ僕は大丈夫だよ、体も軽くて、もう何も怖くない!』
ふざけた様子で戯言を繰り広げるその声に、なぜかソロはうすら寒いものを覚えた。
それがただの予感ではないことは、次の瞬間に判明した。
『ねえ、それより、聞いときたいんだけどさ。
――ティーダの死因って、なぁに?』
相変らず軽い調子なのに、凍てつく何かを秘めた声音が、二人の背筋を冷たく撫ぜる。
興味なさそうに突っ立っていたカッパが面を上げ、
犬が怯えたように唸ったのは、彼らも二人と同じものを感じ取ったからだろう。
『正直に言うけれど、僕の頭の中に、一つの仮説が浮かんでるんだよ。
それが当たってるかどうか、確かめておきたいんだ。
言いたくないなら、僕の方から言うけれど…… 銀製の銃弾による射殺じゃあ、ないよね?』
何故彼がそこまで確信を持ちえたのか、二人には知る術もない。
ただ、死体を検分したサイファーは、何も言うことができなかった。
アーヴァインの推測が完全に当たっていた為に。
『……っ、やっぱりねー』
沈黙を肯定と受け取った、青年のため息は、虚空に消え。
喉を詰まらせながら、抑揚のない乾いた声で、片割れの草に呟きかけていく。
『っく……きっと、そういうことだろうって、思った……
ティーダは、自分で、一度消え……いや、死んだことがあるって言ってたから。
今の自分は、魔女に呼び出された存在だから、多分きっと、全部終わったら消えてしまうって。
だから、ユウナは、とうとう――ッ』
静寂の向こうから伝わる振動は、ほどなく――
『……ッ…っ、っ、……っくっくっくっくっく……
あーーーっはっはっは!!!!
あーーーーッははははははッははははははははは!!!!
ひゃははははははははッはははははははははははははッッ!!!』
ひそひ草から伝わるソレは、哄笑へ変わり、大気を震わせる。
『ヤっちゃったんだね、ユウナァ!! ティーダのことさァァア!!!
あっはっははははははははははははははっはっはははははははははは!!!!
良かったねぇ! 愛し合う二人はずーーっと一緒が一番だもんねぇーーーー!!
いいなぁいいなぁ、僕もセフィーのこと、この手で壊せたらいいのになぁ!!!!』
ゲラゲラと笑い転げるその声音に、カッパがぴくりと眉根を上げる。
だが、その素振りに気付ける者はいない。青年達も、犬さえも、呆然と立ち尽くすのみ。
それほどに、響く声は、純然たる狂気を孕んでいた。
『ねーえ! 彼女、今、どこにいんの?
すっごい会いたいんだけど、教えてくんない?』
二人が、発言の真意を理解するよりも早く――
『――このっ!!』
リュックの勇ましい声と共に、ガン、と金属音が響く。
それでようやく、彼らは事態が最悪の方向へ転がり続けていることを悟る。
『スコールとアルガスを返せッ!! この殺人鬼!!!』
『はんちょー? あるがすぅ? 二人なら僕と一緒にいるじゃんッ!!
返すとか、そんなことする必要ないよねーえ? ね?』
交錯する怒号と嘲笑。音声だけが垣間見させる緊迫感。
ソロとサイファーの焦りを余所に、リュックとアーヴァインの対峙は続く。
『幻覚でも見てんの、アンタ?! 頭おかしいんじゃないの!?』
『そりゃそうさ! 僕はとっくに狂ってるよ!
自称魔王様に、お前はもう魔物になってるって言われるぐらいにはね!
だからこそ見えるんだよ、この【闇】が!! 絶望が生んだ真っ暗な【闇】が!!』
その言葉の意味するところを僅かでも読み取れたのは、カッパの姿をした男一人きり。
『この闇だッ! この闇の中だッツ!! ここにいる、みんなみんなここにいるッ!!!』
身体なんてただの器さ!! 壊して壊して僕の中に入れてやればみんな仲間さぁああああ!!!
あーーっははははははッ、ひゃっははははははははははははッ!!!!』
『…っのヤロー!!』
『おっとっと、危ないな〜』
哄笑を剣戟が切り裂き、風切る刃を特徴的な銃声が遮る。
それが光線銃の音だと気付いたのは、サイファーとカッパのみ。
『きゃあっ!』
『そんなに慌てなくたって、遅いか速いかの違いだけだよ〜?
良い子は邪魔しないで、大人し〜くしてよーね〜?』
女の悲鳴。男の嘲弄。
『どうせみんな、死んだら【闇】に溶けて、アルティミシアに奪われちゃうのさ。
そうなる前に、僕の手でぶっ壊して、僕の仲間にする方が幸せだろ? だから』
『うっさい!! 誰があんたなんかに――!』
『分からず屋だな〜。……少し黙ってろよ』
男の声音が変わったその瞬間、空気を焦がす光の音が轟き、
『きゃああああああああああ!!』
甲高い絶叫が、手の中から響く、手の届かない死闘のあっけない終わりを告げた。
『あーあ、うっさいのはどっちかなぁ』
ねえ、ソロ? と、軽い調子に戻ったアーヴァインの声が尋ね。
元より返事を待つ気などなかったのだろう、すぐに、彼は言葉を継ぐ。
『僕は、一人ぼっちが嫌いだ。
スコールは僕を突き放した。ティーダは僕を置いてった。
だから、僕は、僕だけの仲間を増やすことにしたんだ。
外側のイレモノをぶっ壊して、中身の闇を引きずり出して、ずっと一緒にいるんだ』
だから手始めにスコールを壊したんだ――と、アーヴァインは笑った。
世間話をするかのように、どこまでも、明るく軽い声音で。
『そうして皆を仲間にして、僕が生きて帰れば、晴れて全員生還エンディング到達ってワケさ。
すっげぇハッピーマジおめでてぇっしょ?』
「テェメェェェエエエエエエエエエッッ!!!!!!」
サイファーの怒号が辺り一面に響き渡った。
ひそひ草の片割れの元で起きただろう惨劇をようやく飲み込んだ彼は、その張本人へと激情を叩きつける。
「そこ動くんじゃねえぞガルバディアのキチガイ野郎ッ!!!
そのふざけた口二度と利けないよう俺がぶち殺してやるッ!!!!」
『ぶち殺すだって? 僕を?
――いいねえいいねえ!! そーゆーの、ゾクゾクするよ!!!』
けれども、帰ってきた声は、恫喝に屈するどころかはしゃぐ子供そのもの。
『きっひひひひ! そうさ、壊して壊されて堕とされて堕として殺し合おうじゃんか!!!
そんであんたもこっちに引きずり込んでやるよ!! ドロッドロに濁った闇の中になァ!!
マジ気ィ持ちいーぜえ!!? 魂が全部真っ暗闇の中に溶けてく感覚ってさァ!!!』
「クスリでもキメてんのか?! ああ!?
わけのわかんねえことばかり喚いてんじゃねえ!」
『わからなくても、後で嫌でも教えてやーるよーだ。
だけど今は、ユウナが先だ。ユウナが先だ、ユウナが先だッ!!!
他の誰にも渡すもんか!! 彼女とアイツだけは僕の【仲間】じゃないと気がすまない!!!
もう離れたり離したりするもんか!!! ずーっと一緒にいるんだァアアアアアア!!!』
絶叫がこだまする。
その狂態に、かつての彼を重ねることができる者などいるだろうか?
『サイファー! あんたはァ! 愛しのロザリーちゃんと一緒にィ! そこで指くわえてなあ!!
じゃないとうっかりあんたとすれ違ってロザリーちゃんの方先にぶち壊しちゃうかもしれねーぜェ!?』
げらげらと神経を逆撫でする笑い声の向こうで、かすかにリュックの声が響いた。
『サ、サイファ……にげ』
その言葉を遮ったのは、誰の仕業か、問うまでもない。
『リュック、あんたもさあ、ユウナが先だって言っただろ?
あんたにはユウナを誘き出す餌になってもらわないといけないんだからさ〜。
慌てないで、大人しく僕についてきてもらうからね〜』
好き勝手なことを呟いた挙句、アーヴァインは嫌になるほど明るく言い放つ。
『じゃあね〜、サイファー、ソロー!
今度会った時には、ちゃーんと【仲間】にしたげるよ〜!』
「寝言ほざいてんじゃねえぞ屑が!!
テメェみたいな奴にこの先一人でも殺させるか!!
テメェより先に俺がテメェを殺す!!」
『くっひひひひ! やれるもんならやってみな〜って!!
………ひゃははっ、あははははははははははっ!!
あっはははははははははははは!!』
哄笑が聞こえなくなるよりも早く、サイファーがひそひ草を地面に叩きつけた。
携帯電話やトランシーバーならば完全に壊れていただろう。
ソロは慌てて草を拾い上げ、遠くで何かぼそぼそと話し声が聞こえている事を確認し、胸をなで下ろす。
――が、それはほんの刹那の事。
焦燥と後悔と、絶望に似た不安が、二人の心に【闇】のようにわだかまっていた。
ニア【音声再生を開始します】
「なあ……ヤツは信用できるのか?
……アイツだ、アイツ。スコール=レオンハートだ。
正直に言うが、俺は、ヤツが怖い。
あの化物を簡単に捕えたり、あの…… いや、なんでもない。
とにかく、俺やお前より数歳年上って程度で、あんな強いヤツが敵に回ったらって思うと……
………はッ? アレで17歳? お前が20歳? 嘘だろ、どっちも。
……20歳にもなってス・リ・バとか言って遊んでるのか。おめでたいなッ。
いや、まあ、そんなことはどうでもいい。
とにかくだッ、俺は、ヤツが怖いんだ。
――ああ、無論、あの化物とヤツとどっちか選べって言われたら、
そりゃスコールの方を選ぶけどな。選ばざるを得ないからな。
だけど、なんなんだ、あの異常な強さは……?
バッツ、お前は怖くないのか? 奴が敵に回ったらとか、そういうことは考えないのか?
……俺は、考えるッ。
最悪を考えて行動しなけりゃ、戦場では生き残れないッツ!!
俺はそれを嫌ってほど思い知ったッ! 家畜生まれの軟弱者どもに踏み躙られることでッツ!!
俺は、二度も、死にたくない……!!
殺されたくないッ!! 生きてイヴァリースに帰りたいッ!!
………………
……悪い。起きてる間は、嫌な考えしか浮かばなくて……
………クソッ。どこまで堕ちればいいんだ、俺はッ……
………………
止めろッ……お前みたいなアマちゃんに慰められる謂れはないッ!
俺は、生きて帰りたいだけなんだ。
歩く死体予備軍は死ななきゃいけないなんて、誰が決めた?
強い奴だけが生き残れるなんて、誰が決めた?
俺は……生きて帰りたいだけなんだ。
……死にたくないッ…… 死にたくないッ………!!」
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ニア【音声再生を開始します】
「眠ってると思っていたんだろ?
聞こえてたよ。最初から最後まで。
…………………
――なあ、スコール。後悔はしたくないけれど、それでも考えちゃうんだ。
もしもティーダ達と一緒に居たら、ティーダは死なずに済んだんじゃないかって。
いや、まあ、多分、僕が先に死ぬ形になるだけだったとは思うけど。
あんたに負けるようじゃあ、使い物になりっこないからね。
でも、それでも、ティーダには生きていてほしかった。
だって、友達だって言ってくれたんだ。
ゼルでもないのに、リノアでもないのに、アイツは僕が何をしたか知ってるのに――なんで、アイツが。
なんで、アイツが。……嫌だ。嫌だよ。幾らなんでも、こんなのは、嫌だ。
…………………
…………なんだろうな。なんか、今、すごく空っぽになった気分で……
そのせいか、【闇】が……流れ込んできて、うっとおしい……………
……………暗いんだ。世界が、暗く感じる………
…………………
……なんだよ、スコール。【闇】は、【闇】じゃんか。
……ああ……フツーの人には見えないんだっけか……ほら、コレだよ………
……ああもう、面倒くさいなあ……
ピサロの説明、リルムも聞いてたよね。解説お願い………今は、話したい気分じゃない……
……あの、クソガキの分まで………【闇】が渦巻いて……
……どろっ、て……流れ込んで…………
…………………
………………
……【闇】…… 【闇】……… …………
………何を……………スコール…………………
…………………
………ユウナ?………違う、彼女は……僕は、疑ってなんか………
……………………スコール…………僕は………
…………………………
…………………僕は…………
…………………………………『仲間』で、いたい………」
ニア【再生を終了します】
ニア【音声再生を開始します】
「……アーヴァイン。
あんたが何を見て、何を考えているかは知らないが、俺は……
……………
……………
………俺は、あんたがこれ以上誰かを殺すというなら、あんたを殺す。
俺はもう、あんたを仲間だとは認めない。
……………
……………
………リュック、リルム。ちょっと話が長引きそうだ。
悪いが、ヘンリーとバッツに、小動物の捜索及び捕獲と始末を頼んでくれないか?
ネズミや虫でも、毒がなければ貴重な栄養源になるからな。
……なんだ、その顔は。食料は重要なんだ、現地調達できるものは現地で済ませろ。
ああ、ついでにこれも渡しておいてほしい。
今後の『食料分配』について、二人の意見を聞いておきたい。
………で、話の続きだが、アーヴァイン。
お前が、ユウナって女を疑っていることは知っている。
…………知っているんだ。取り繕わなくていい。
だが、これ以上お前に人を殺させるわけにはいかない。
……どうしても殺したければ、………俺を、殺して行け。
…………………
…………………わかってくれたか。
…………………
…………………
……ああ、リュック。ヘンリー達の首尾はどうだ? 『二人』の調子は?
……大丈夫か。ならいい。
…………ん? ヘンリーとバッツから……?
………ふむ。まあ、俺と同じ考えだな。『二人』には少々酷かもしれないが。
………………
………………
……じゃあ、予定通り俺は休ませてもらおう。リュック、見張りは頼んだ。
…………………………
…………………………………」
『ズドォン!!!』
(ブツッ)
ニア【再生を終了します】
ニア【音声再生を開始します】
「なんだ、リュックか……ってリルム!?
まさかまた預れって言うんじゃないだろーな!?
俺はもうゴメンだぞ、コリンズの方がマシだ!!
……ん? スコールから、伝言?
………
はぁ、虫とネズミ退治ねえ……虫はともかく、ネズミは雑食だから臭くてマズイのになぁ。
……あるよ、食った事ぐらい。奴隷生活の頃にちょこっとな。
………で、この子と一緒にやれって? バッツも?
……………
マジかよ。
……いや、リルムの事な。うん。……だから似顔絵描くな! 止めろ!
そういう所が俺の手に負えないって言ってるんだ!!
ほらマッシュが起きちまうだろ!? 止めてくれってば!!
…………………
……リュック。真面目な話なんだがな。
俺は、奴のこと、信用はしてない。
狂っていたとはいえ、子供を躊躇いなく撃つヤツを、信用できるわけがない。
無論、あの時はアレで正解だったのだろうし、そのこと自体を責める気はないけどな。
ただ………なんていうか、アレだ。危険っていうか……
……いや、スコールの奴なら、それぐらい考えてるか。
………………
……ところで、この、『食料分配』のことだけどな。
俺は一番後回しでいいから、マッシュかリルムかアルガス……
……そうだな、精神的に参ってるアルガスを優先した方がいいと思うぞ。
これに賛同するかどうかで、アーヴァインがどれぐらい信用できるか測れるしな。
………………
………ホンット、しゃーねぇな。
リルム、大人しくしてるんだぞ?」
ニア【再生を終了します】
ニア【音声再生を開始します】
「アルガス……もう少し寝てた方がいいんじゃないか?
見張りはきちんとしとくからさ。
…………………
………………ふう。寝てくれたか。
………もっとぐっすり眠れるように、子守唄でも弾こうかな?
でも、俺まで寝ちゃいそうだな……
…………………
…………………
お? リュック? なんかあったのか?
……え? スコールが、頼みごとだって?
………
虫とネズミって……ゴブリンでも、もうちょっといいもん食うんじゃないか?
まあ、食料問題は大事になってくるとは思うけどさ。
………ん? 俺に? 荷物?
……………
………えっ。
……思い切った事考えるなあ。
あ、いや、この『食料を集めて分配する』って話さ。
ネズミで我慢できる奴はネズミ食って、体力のない奴に優先的に配るって、
………そりゃ、俺はネズミでも食えるしいいよ。
だけど、こいつと、リルムって子と、マッシュはどうにかならないかなぁ。
…………うーん。………あ、そうだ。
………………………………
……よっと。とりあえず、スコールにこれ、渡してくれよ。
ネズミ取り以外に、俺にも手伝える事があるなら、やっときたいしな。
じゃ、この部屋は綺麗に掃除しとくぜ!
…………………………………
…………………………………
ふう。こんなもんでいいかな。
………おーい、リュックー。終わったぞー。
…………………………………
………………………………うわっ!!
…………………………………」
ニア【再生を終了します】
ニア【音声再生を開始します】
「……バッツ?
……なんだ、この、【靄】……
おい、バッツ、何処に行きやがった? おい………
……ッツツツツツ!!?
な、な、なんでッ!? なんでお前がここにいるッ!!?
バ、バッツ…!? バッツ!! おい、バッツッゥウウウ!!!
起きろッ! 頼む、起きてくれーーーッ!!!
…………ッ!
リュ、リュック!? な、なん、……ヒッ!!
やめろ、近寄るなッ!!!
スコールは!? アイツはどうしたんだ!?
……ッ!? ………ッ!!!!!?
なあッ!! 頼む!! リュック、バッツ!!!
眼を開けろッ!!!!!!起きてくれッッ!!!
……い、嫌だッ……止めてくれ、俺が悪かったッ!!!
あ……お、お前を裏切るとか、そんな気はなかったんだァッ……
本当だッッ!! ただ、ロザリーがッ、カメどもがッ、俺の言うことをッツ……
……ヒッ!! カ、カインなんて知らないッ!!!!
こ、殺されるのが嫌だったんだ!! アイツは人殺しだからッ!!
ピ、ピサロだって、イザの奴、殺しやがったじゃないかッ!!
そんな奴、死んだって当然だろッ!!?
俺は、死にたくなかっただけなんだァッ!!!!
ち、近寄るなッ化物ッ!!! 頼む! 近寄るなァッ!!
……頼む、助けて、助けて、たすけてたすけてたすけてッ!!!
嫌だッ、嫌だッ、やめ、や、ヒッ………!!!
――――――――――――!!
………………………」
『ズドォン!!!』
(ブツッ)
ニア【再生を終了します】
ニア【音声再生を開始します】
「……本当に、どいつもこいつも、邪魔だよねー。
あんたもそう思うだろ? なあ、アルガスく〜ん。
……ん? なんでって、約束を守ってもらうために決まってるだろ?
ティーダ、死んじゃったらしいからさぁ……
……………逃がすかよ。
ああ、その二人は、起きないよ。ちょっと魔法で眠らせてあるから。
……スコール? 殺しちゃった。うっさいから。
でもまあ、ここにいるよ。『大事な仲間』だもん。
……………
……だから起きないって言ってるだろ、バぁーカ。
うるっさいよねえ、本当に。マジ壊したくなってきた。
………あーあ、わかってるよ、はんちょー。
『確実に』『壊して』『殺して』『仲間に』、だろ?
ちゃーんとやるよ。『仲間』は大事だもんね。
なあ、アルガス? あんただって、生きたいから、僕を裏切ったんだろ?
……………
アルガス……嘘はいけないよー? カインと手を組んどいて、そりゃねーっしょ?
ピサロの件もあるし、有罪なのはわかりきってるんだ。
……………
……ああ、あんたの言い分はわかったよ。
OK、OK、よーくわかった。
……ティーダよりアンタの方が百万倍死ぬべきだったってなぁアアアアア!!!!!
なんで生きてんだよアンタみたいな奴がさァ!!!
なんで死ななきゃいけないんだよティーダみたいな奴がさァアアアアアッ!!!???
教えろよッ!!! 僕に教えろォォオオオオオ!!!
なんでだよなんでだよなんでなんだよォオオオオッツ!!!!
もういい、その口開いてんじゃねぇ!!!
死ねッ!! さっさと死ねッッ!!! 僕の前でしゃべるんじゃねーーーーよッ!!!
クソッ、くそっ、くそっ!!!………ティーダ、ティーダ、ティーダァアアアアア!!!
なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでェェェェェッ!!!!
どうしてなんだよォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
ニア【再生を終了します】
鉄塊のごとき巨大兵と、両翼を広げる黒竜に向かい、丸みを帯びた機械達が告げる。
「御指定のデータを、ご希望通りに、全て単独で再生致しましたが……
不審な点がおありデスか?
少なくとも我々は、問題ないと思うデスが」
「……ワカラン。オ前ハドウダ、ティアマトヨ」
「…………」
機械の問いに、兵は首を振り、竜は静かに目を閉じるのみ。
会場内の地図を映し出したモニターの上で、南東の祠から動き出す二つの光には、
それぞれ「Irvine」「Rikku」と示されている。
「無礼を承知で申し上げれば、考えすぎではないデショウか。
過去の魔女も、ただの人間の不意打ちで死んでいるのデスよ?
伝説のSeeDといえど、仲間に裏切られれば死んで当然なのデスよ」
「ウム……ヤハリ、我々ガ特別視シスギテイルダケカモシレンナ。
ティアマト。気ニナルノハ当然ダガ、気ニシスギテ他ヲ疎カニスルノハ……」
「……………わかっている」
竜は同僚と機械に背を向けると、おもむろに羽を広げ飛び去った。
主に、宿敵の死を報告するために。
よくもまあ、あんなにそれらしい出まかせを言えるものだ。
階段の影に隠れながら、俺は心の中で一人ごちる。
アーヴァインがわざとらしく草を投げ捨て、リュックを連れて祠を出ていくのを確認してから、俺は階下へ降りた。
途中でヘンリー達の様子を見る。
マッシュはまだ起きていないようだが、ヘンリーなら、上手く説明してくれるだろう。
リルムも、わがままで頑固な所はあるが、子供にしては頭の回転が速い。
戦力的に多少の難はあるが……最悪の場合、バッツがここに加わる事も出来るのだし、まあ問題はないだろう。
俺は回廊を歩き、もう一つの階段を下りて、最奥の部屋に行く。
中にいるバッツに、ハンドサインで、外に出るように頼んだ。
そして、俺は扉を閉め――床に倒れ伏せているアルガスの頬を、軽く叩いた。
「起きろ、アルガス」
「……う……ううッ」
帽子でもあれば被ったのだが、生憎、そんなものは誰も持っていない。
俺に出来ることと言えば、錯乱状態を予測して身構えることだけ。
やがてゆっくりと片目を開けたアルガスは、俺の姿に目を見開き――
「うッ、うわあ――もごっ!?」
絶叫を上げようとしたので、すぐさま口を押えた。
「済まない、アルガス。あまり大きな声は出さないでくれ。
俺の言っている事、わかるか?」
相手が涙を浮かべながらうなずいたのを確認し、俺は一旦手を離す。
恐怖に彩られた表情は、もうすっかり、化物を見た時のそれだ。
仕方ないと思いながら、俺は、自分の首を叩いてみせた。
「アルガス。無理だとは思うが、落ち着け。
――わかるか?」
ぜぇぜぇと息を吐くアルガスは、しばらく俺の仕草を呆然と見ていた。
奴が眉をひそめたのは、一分後。
隻眼を数度瞬かせ、恐る恐る、自分自身の首に手を伸ばし、素肌に触れる。
そして――
「……どういう、ことだ?
スコール=レオンハートッ!!?」
唾を飲み込み震える声と、混乱の極みにありながらも光を取り戻した眼が、俺に投げかけられた。
「最初から、順番通りに話していく。
言いたいことはあるだろうが、ひとまず最後まで話を聞いてほしい」
「あ……ああ……」
呼吸は荒いが、予想より早く落ち着いてきている様子だ。
やはり、命の保証が形になって表れているということが大きいのだろう。
俺はそんな事を思いながら、ゆっくりと話し始めた。
「俺はもともと、コレをリュックやバッツと一緒に調べるつもりだった。
だが、俺より先にコレを解析した奴がいた。
そいつの名前はエドガー。上にいるマッシュの兄だ。
そしてお前を追ってきたリルムが、エドガーが遺したメモと、支給品のデータブックを持っていた」
運命など信じた覚えはないけれども、あるのかもしれないと思える程、偶然に満ちた引き合わせ。
「バッツの調査で、首輪には魔力が込められていることまでは判明していた。
だが、メモやデータブックを合わせて考えると、魔力で動作している可能性は低かった。
俺は試しに首輪にデスペルをかけ、魔力が消えるかどうか調べてみた。
結論から言えば、それだけで、魔力は消えていた」
「なんだって……!? そんな程度のことでッ!?」
驚愕の声を上げるアルガスを、俺は片手で制する。
「『魔力が消えただけ』だ。実際、首輪には、魔力を一切介在しない処刑機構がついていた。
一見ただの配線に見えるが、切断能力があるチタンワイヤー……金属の糸が内臓されていて、
処刑指令が出されると、爆殺に見えるように爆音と閃光を発しながら、
絞殺の要領で首を斬り落とす――そういう仕組みになっていたんだ」
そもそも、サイファー曰くガルバディアが囚人管理目的で作った首輪に、本物の爆薬など搭載されるはずがない。
様々な監視機能を詰めこんでおきながら、一回発動したら二度と使えなくなる――
一定の時期に、特定の相手に限って使うならともかく、
今後数十年に渡りどれだけ増えるかもわからない囚人に、使い捨て前提で開発するなど、完全にコストの無駄だ。
――だが、それでも、魔女が魔力を込めた理由は……
「アルティミシアは、トラップのつもりで、魔力を込めたんだろう。
この世界に呼ばれた者は、科学には疎いが魔法に精通しているという奴がやたら多い。
魔力がデスペルで解除できることに気付いた所で、首輪を外そうとすると――」
言いながら、アイツから筆談で聞き出した情報を思い出す。
『アリーナが誤って生み出しリルム達を襲った偽アリーナ、その灰から持ち去られた首輪。
ピサロの話だと、その複製の首輪には、魔力が宿っていなかったらしい』
その内容を真とするならば、何故、アルティミシアはそんなものを放置したのか?
答えはとても単純で、悪意に満ちたものだったのだ。
「――なんの対策もしなけりゃ、やっぱり首が飛ぶってわけか!!」
「そうだ。それも、傍から見れば爆死したようにしか見えない形でな」
『魔法でどうにもならないと思えば、絶望して殺し合いに乗る奴も出るだろう。
――あるいは、俺やサイファー、エドガーに解析されることを恐れたのかもしれない。
機械を止めたとしても、魔力を消さなければ、今度は魔力で爆発する仕組みだった」
エドガーが遺した解析図では、爆弾本体と考えられる箇所が見つからなかった。
だが、バッツから聞いた、マッシュと怪物の死闘の結末。
マッシュは首輪を打ち抜くことで、暴れ狂う怪物を仕留めたと言っていた。
二つの情報から導き出される結論は、衝撃で機械部分が停止したから、込められた魔力が爆発したという事。
「科学知識だけでも、魔法知識だけでも、この首輪は外せないように出来ていた。
そして、両方の知識があったとしても……本当なら、最後の一手には辿りつけないようになっていた」
「……なんだって?」
アルガスが怪訝な顔をする。
当然のリアクションだ。実際に、俺達の首輪は外れているのだから。
しかしそれでも、この結末に辿りつけたのは、正真正銘偶然の産物としか言えない。
「アルガス。あんた、電波とか無線を知ってるか?」
「デンパ?」
「……機械を制御する、魔力とは別の、電気に由来する目に見えない力だと思えばいい。
この首輪は、それで『盗聴』した音声を送ったり、『処刑指令』を受け取ったりしている」
「飛空艇とかと同じ、古代の遺産ってヤツか?」
「……あんたの世界の歴史がどうなってるかは知らないが、納得するならそれでいい」
「で、なんで、そんなことがわかる?」
「マントを切ってロープを作り、デスペルを使った首輪を引っ張ってみた。
最初に、瞬間的に強く引いた時は作動しなかったが、弱く引っ張り続けて10秒経過した時に作動した。
首輪だけで独立動作しているなら、最初の時点で作動するはずだ。
それがないのは、『異常信号を送って』『処刑指令を受け取る』というプロセスの存在を示している」
「………良くわからないが、魔力を消した後で10秒以内に首輪を外すか、
その、デンパって奴を届かないようにすれば、作動しないってことか?」
「そうだ。それだけわかれば上出来だ」
思ったより呑み込みが早い。
怯えている場面しか見たことがなかったが、本来は、頭の回転が速い男なのかもしれない。
「電波を遮断する方法は幾つかある。
電波を反射する性質を持つ金属で覆う、電波が届かないほど地下深くに潜る、
それから、別の強力な電波をぶつけて、上書きしてしまう――」
「待てよ。そんな特殊な金属なんて、そうそう手に入るのか?
それと、地下深くに潜るったって、一日で移動しなきゃならないのにどこまで掘れるってんだ?」
「ああ、どちらも無理だな。
会場にはその金属がある場所が選ばれない、同じ世界には24時間しか留まれない。
だから、『最後の一手には辿りつけないようになっていた』と言ったんだ」
「……じゃあ、何を、どうやったんだ。10秒以内に外したとでもいうのか?」
「まさか。リュックですら五分もかかったのに、出来るわけないだろう」
俺の言葉に、アルガスはふてくされたように頬杖をつく。
「勿体ぶってないでさっさと教えろッ」
口ぶりからして、だいぶ余裕が戻ってきたようだ。
落ち着いてきた所に冷や水をかけるのもどうかと思ったのだが、この様子なら、心配ないかもしれない。
「俺達が取った手は、電波障害――別の電波で上書きする方法だ。
最も、正確には電波じゃなくて、強力な思念と魔女の魔力の混合物だが」
「……思念と、魔女の魔力?」
「ああ。実際、俺達の時代では世界的規模で起きていた。
封印された魔女の恨み言のせいで、十数年に渡り世界中の通信機器が使えなくなったって事件がな。
――そして、この会場内には、死者の怨念と魔女の意思と魔力が混ざった、【闇】が存在する。
見える奴には、ふわふわ漂う黒いもやとして見えているようだが」
「【闇】……? 黒いもや……?」
アルガスの表情が急速に陰っていく。心当たりに気付いたらしい。
「それに憑かれた者は通常、自覚が無いまま正気を失って無差別殺人鬼になる。
だが、幸運なのか不運なのかはわからないが、自分の状態に自覚を持った上で、
最低限度の自制が辛うじてできて、ついでに【闇】を少しだけ操れるようになったヤツがいた」
「……まさか」
「その、まさか、だ」
名前を出さないのは、目を抑えて震えているアルガスへの配慮。
他人の心的外傷を抉る趣味など、俺にはない。
「ティーダの死を聞いたアイツが、【闇】について喋ったお蔭で、この手段を思いついた。
筆談で必要な情報を聞きだして、まず、簡単な実験に付き合わせた。
首輪に大量の【闇】を集中させた状態で、力を加えて爆発するかどうか――
その結果については言うまでもないだろう」
俺は今一度、自分の首を撫でた。
金属の感触と重みは、もうない。
「首輪には生死を判定する機能も内蔵されている。
いきなり首輪を外してしまえば、アルティミシア側も違和感を抱くだろう。
だが、アイツは、言うなれば実績豊富な殺人者だ。
誰を殺したとしてもおかしくない。俺やあんたを殺したとしても、おかしくない」
そこで一旦言葉を切り、俺はアルガスを見やる。
ガタガタと小刻みに震えてはいるが、暴れ出すような様子はない。
話を続けても、まだ、どうにかついてこれるだろう。
「機械の分解が得意なリュックがいて、【闇】で電波を妨害できるアイツがいる。
いつ別の殺人者がやってくるかわからない現状で、この機を逃す手立てはなかった」
思い返す。
参加者リストやら手帳やらを駆使して筆談を重ねた事を。
生体ジャンクションによる監視を危惧して、『食料採取』という名目を立てて小動物を狩り殺した事を。
失敗した時に巻き込まれないように、リルムをヘンリーに預けた事を。
出来た対策は全てその場しのぎのものだったが、――こうして生きているのだから、一先ず成功したのだろう。
「しかしそれでも、全員を一度に解除することはできない。
部外者に侵入されて、俺達の名前を呼ばれたら、アルティミシア側にバレてしまう。
加えて、アイツから、『異常に疲れるから頑張っても2人が限度』と申出があった。
そこで、俺はヘンリーとバッツに意見を募った。そして」
「……俺が、推薦されたのか?
あの化物にマジで殺されても惜しくないから」
「そこまで下らない理由じゃない。
二人とも、あんたと、マッシュと、リルムを優先した方がいいという意見で、
その中で『アイツと一番仲が悪く』『戦闘能力が残ってる奴』があんただったってだけだ」
「…………」
アルガスがものすごく複雑な表情を浮かべる。
俺達が言わんとしたことを理解したのだろう。
この首輪解除方法は大部分がアイツ……アーヴァインの意思と能力に依存している。
首輪を解除するフリをして、わざと【闇】の操作を誤り爆殺、という芸当がいくらでもできる以上、
アイツがどこまで信用できるか確かめる必要があった。
その点で、アルガスは理想的なほどアイツに憎まれていた。
アイツの場合、俺を殺せるなら誰でも殺せるだろう。
逆に――アルガスほど憎んでいる奴を生かせるなら、誰でも生かせると信じていいだろう。
そしてもう一つ。
いざという事態に備え、個々の戦闘能力を比較した場合、右腕を失って瀕死のマッシュは論外。
怪我を負っている上に魔力が切れればただの子供のリルムよりも、
片目を失い精神不安定とはいえ、五体満足な剣士のアルガスは、相対的に一番高くなってしまう。
「……何で、先に教えなかったんだッ?」
アルガスが恨みがましい目つきで俺を見上げる。
俺は視線を逸らし、呟くように答えた。
「外すまでは、盗聴機能が生きているからな。
下手に話して演技してもらうより、何も話さない方が、それらしくなると思った」
「ふざ……ッ!」
胸倉を掴まれ、振り上げられた拳に、俺は一発ぐらいは喰らっておいてやろうと、身を固くする。
けれども、アルガスはじっと俺を睨みつけ、ゆっくりと手を下ろした。
「……チッ、止めておこう。
あの化物よりも、魔女よりも、
お前を敵に回す方がよっぽど恐ろしいってことがよーくわかったからなッ!」
彼はそう吐き捨てると、大きく息を吐いた。
「で。この後、どうするつもりなんだ?」
「残念ながら、この部屋でひとまず休憩だ。
派手に動いてアルティミシア側の介入を招いたら、元も子もないだろう?」
俺はアルガスの問いに答えながら、手を開き、握り、指の動きを確かめる。
アルガスの首輪を解除した時、部屋にいたのは、アーヴァイン、リュック――それに俺とバッツ。
俺はリュックの動作を見て、分解手順を学ぶ為に。
そしてバッツは、『ラーニング』という技で、アーヴァインの能力を『覚える』為に、この場にいた。
バッツがいなければ、あるいはバッツがラーニングに失敗していたら、
話はもっとややこしくなっていただろう。
対外的には俺とアルガスを殺した事にしなければいけないアーヴァインを、
どうにか理由をつけて匿い、保護しなければならなかったのだから。
だが、幸いな事に、バッツが技術習得に成功した。
『無闇に使うと僕みたいにおかしくなるかもしれないよ』、と釘を刺されてはいるし、
ちょっと試してみただけで、僅かに回復してきた魔力がまた枯渇してしまったと肩を落としていたが――
ともあれ、毒に蝕まれた俺の手と、バッツの魔力。
これらがどうにか回復するまで、解除を進める事は難しい。
「……ヤツは、あの化物様は、どうしたんだ?」
やっぱり化物扱いのままなのか、と呆れながら、俺は答える。
「アイツなら、リュックと一緒に外に出てもらった。
ピサロや、中央の城にいるとかいうユウナの仲間達と接触できれば、脱出に関する情報が掴めるかもしれない。
それに――ユウナ本人をどうにかしたいっていう、二人の要望もあったからな」
サイファー達から聞いた、テリーとティーダ、二つの遺体の扱いの差は。
少なくとも、二人は違う人物に殺されたことを示している。
そして、リュック曰く三年も居なくなった恋人を追っていた女が、
子供に墓を作っておきながら、当の恋人は埋葬せず放置するものだろうか?
墓を作った直後に襲撃を受けたとしても、仇を討とうとか、そういう発想に至らずに逃げるものだろうか?
アーヴァインはユウナの凶行を強く否定したが、その態度が逆に俺に確信を抱かせた。
「アルガス。あんた、本当は、特定の人物だけにユウナの件を話せと言われたんだろう?
例えば、ユウナの仲間のリュックとかな。
それ以外の人間には話すな、と言われていた。違うか?」
「………」
無言は肯定。俺は息を吐き、自分の推測が当たっていたことに頭を抱える。
「手を打たせておいて良かった」
アーヴァインには悪い事をしたが、と、俺は心の中で呟いた。
―――――――――-------
案外、泣けないもんだなぁって思った。
欲しかったものは最初から手の届かない所へ持ち去られていて、
守りたいものをどんどん取りこぼして、気づいた時には手遅れで。
だけど、その道を選ばなければ、希望すら見えていなかっただろうから、現実は皮肉だ。
優しくない。本当に、優しくない。
スコールの依頼通り、ユウナがティーダを殺したかもしれないと示唆しつつ、サイファーを挑発した。
狂ってる殺人鬼って印象を付ける為に多少アレンジを加えたけど、内容自体はスコールの発案そのままだ。
『ユウナはお前と同じ銃使いなんだろう? 警戒させないと不意打ちで殺されるかもしれない。
それに、サイファーの性格からして、単に戻ってくるように誘導しても絶対に聞かないだろう。
逆に、ロザリーの傍に留まるように言ってくれ』
まったくぼくらのはんちょうはほんとうにきがきくなあ、としか言えない。
ひとしきりそれらしく笑いまくった後、ひそひ草をその場に放り投げた。
草は後でヘンリーが拾い、タイミングを見て話しかけて、サイファー達の行動を制御する手筈になっている。
それもこれも、主催者側の意識と注意をサイファーと僕に引き付けて、
『偽装工作』に気付かれないようにするため。
本当にスコールだけは敵に回したくないなと、今までとは別の意味で思ったのは内緒だ。
やることなすこと徹底的。冷静、正確、そして何よりも、迷わない。
無くした物は僕よりも多いはずなのに、歪まない心が、羨ましいとさえ思う。
僕の心は、歪みすぎて、色々なものが零れ落ちてしまった。
残っているのは、ティーダ達がくれた理性と、みんなが遺していった【闇】だけ。
――でも、それが、魔女を倒す楔になるというのなら、きっと、それが、僕の成すべき事なのだろう。
そう思わないと、立ち上がることさえ、できなくなってしまいそうだ。
「アーヴァイン」
リュックが僕の名を呼んだ。
ぐるぐる渦巻く緑の瞳に宿るのは、不信と疑惑と同情が入り混じった複雑な色。
「……ねえ、本当に」
呟きかけて口を閉ざしたのは、盗聴を警戒したからだろう。
僕にしたって、せっかく頑張って演技したのに、台無しにされても困る。
「嘘なんて言わないよ〜。僕は、『ティーダを殺したユウナをぶっ壊したい』のさ。
それからきちんと『殺して』彼女を苦しみから解放してあげるんだ。
他の殺人者どもにも、ニブチンのティーダにも、彼女はくれてやるもんか!」
僕はわざとらしく笑い、リュックの手を引いて体を引き寄せた。
「ひゃっ?!」
「協力してくれるよね? 人質さーん?」
彼女の首を叩いて、パチンとウィンクする。
リュックは一瞬、戸惑ったように僕を見上げたけれど、ややあって小さくうなずいた。
スコールがくれた光線銃と、パンデモニウムが、僕に力を与えてくれる。
魔力だの、【闇】だのからは決して得られない、『信頼』って力を僕にくれる。
行こう。
僕はまだ、歩ける。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(アーヴァイン、セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
第一行動方針:ロザリーと合流/ターニア達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【アンジェロ 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
基本行動方針:ソロ達についていく/ケフカを倒す】
【セフィロス (カッパ)
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:カッパを治す
第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:南西の祠近辺】
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ 命のリング(E) ひそひ草
第一行動方針:祠の警備
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:祠の警備
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
第一行動方針:MPが回復するまで休憩
第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【マッシュ(睡眠、1/20、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ、首輪解除)
所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:手が動くようになるまで休憩
第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
基本行動方針:ゲームを止める】
【アルガス(左目失明、首輪解除)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:休憩/夢世界で情報収集
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠(最深部の部屋)】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/3、MP0)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
ふきとばしの杖[0] 、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:デスキャッスルに行き、首輪の情報を渡す
第二行動方針:ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(シーフ)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣 首輪×2 ドライバーに改造した聖なる矢×3
第一行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠・外→デスキャッスルへ移動】
※次の放送でスコールとアルガスの名前が呼ばれます
首輪解除条件
*デスペルや凍てつく波動などで魔力を消してから10秒以内に外すか、
アーヴァインとバッツの青魔法【闇の操作】、もしくは同等の技能で電波を妨害しながら分解すると成功。
但し、分解にはドライバーの他に、首輪の図面か、経験者(リュック、スコール)からの情報提供が必要です。
また、【闇の操作】は最大MPの1/4を消費します
激しく乙!
解除キター
最初アーヴァインがマジで発狂したのかと思って焦ったわw
フェイクでよかった
そしてついに首輪解除か…
いよいよ終盤らしくなってきたな
すっかり騙されて読んでた
いよいよ首輪解除か
アルガス超応援してる
絵板も乙w
まさか闇化を利用して首輪外すとは
その発想はなかった
321 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/04/24(火) 18:46:46.16 ID:XcR0o9Tg0
お、まとめサイトの人戻ってきたのか。乙乙
とある学者が言いました。
『解離性同一障害、俗に言う多重人格は、
複数の人格をもつということではなく、一つの人格すら持てないということなのだ』、と。
さて、こちらに草むらを歩く若い男が居ます。
彼の名はセージ。賢者の道を究めた、魔法使い上がりの若者です。
その頭脳たるや、明晰、切れ者、冷静沈着と謳われ――ておりました。
この世界で、精神を病むまでは。
「はふぅ…… おかしいですねえ。
お城に向かってるはずなのに、まだ到着しないです〜」
えー、すみません。
『草むらを歩く若い男』と言いましたが、あれは間違いでした。
「あらあらうふふ」と、困っているのかいないのかさっぱりわからない笑顔を浮かべ、
草むらを内またでスキップする若い男だと訂正させて頂きましょう。
……さて、みなさん、彼の姿を見て思うことはないでしょうか。
ええ、仰りたいことはよーくわかりますので、僭越ながら代弁させて頂きます。
『内またスキップで、城に向かうどころか見当違いの方向に進んでいるのに気付かない、
今の彼のどこが賢者で頭脳明晰なんですか?』
――その理由を説明する為に、先の言葉を引用したのです。
賢者セージ、彼が闇に身を浸してまで望んだのは、かつての仲間と共に歩む人生でした。
しかし、たった一人の頭脳で、己を含めて四人の人格を完璧に構築するなど、出来るはずがありません。
セージの心は闇に引き裂かれ、四つに別たれてしまったのです。
その結果、本来の人格である『セージ』に残されたのは、『仲間』に対する強烈な依存心だけでした。
リーダーに相応しい主導権と正義感は、勇者たる『アルス』へ。
生来持っていた優しさとおおらかさは、僧侶たる『表のフルート』へ。
隠していた攻撃性と己が無力さへの怒りは、武闘家たる『裏のフルート』へ。
『セージ』は『アルス』に盲目的に従います。
『アルス』は、『セージ』の為に、在りし日の勇者一行を完璧に再現しようとします。
それ故、『フルート』は『フルートらしく』、旅路を先導します。
『セージ』なら地図の向きの違いに気付くでしょう。
でも、『フルート』は気づきません。気づいたら『フルート』ではないからです。
深刻な顔で周囲を警戒する事もありません。そんなことは『フルート』はしないからです。
これが4人のパーティなら、フルートがちょっとうっかりしても、
ローグやアルスやセージがどうにか出来たでしょう。
でも、彼は『一人』です。
『フルート』が見ているものは、他の人格も見れるけれども、それだけです。
『フルート』が見ていないものは、誰も見れないし、気づけないのです。
そして、それは、戦場では致命的な隙となります――
が、幸運にも、『相手』には不意打ちを良しとしない理由がありました。
るんるんと謳っていた『フルート』の前に、その男は真正面から現れ、話しかけました。
「スコール・レオンハートという男を見ていないか? 」
彼の名はサラマンダー。長き迷いの果てに、再び戦いの道を選んだ男。
その静かなる威圧感に危険を感じた『アルス』は、素早く『フルート』と交代します。
「黒尽くめの服を着た、額に傷のある、茶髪の男だ」
「悪いが見てないな。それよりも、青髪の少女を見なかったか?」
「さあな」
サラマンダーは首を横に振ります。
そもそも、見ているはずがありません。少女本人も、少女に化けた魔物も、真逆の方角で死んでいるのですから。
これが『フルート』ではなく最初から『アルス』が出ていれば、
どっかんどっかんと起きた大爆発に気付き、少女と爆発を結び付けて行動していたでしょう。
けれども、『フルート』は爆発音を気に止めませんでした。
だからとりあえず中央にあるデスキャッスルに向かうつもりで、
こんな誰も通らない、闇の世界の北の外れを、うろうろしていたのです。
最も、サラマンダーは『スコールを探して戦う』という目的があったため、
意図的に―――冷静沈着なスコールなら人目につく場所は通らないだろうと――誰も使わないような道を捜し歩いていたのですが。
『アルス』はサラマンダーの答えに小さく息を吐くと、
眼光鋭く睨みつけ、釘バットの先を向けました。
「その傷はどこで負った? 人を襲ったのか?」
本物のアルスならば、こんな短絡的な思考は絶対にしないでしょう。
けれども、セージが描いた『アルス』は、悪を絶対に見逃さず、許さない、断罪者なのです。
そして不幸な事に、あるいは幸運な事に、相対する男は『アルスにとっては悪』でした。
「だとしたら、どうする?」
戦いを望む心が紡いだ言葉は、『勇者』の逆鱗に触れました。
最早言葉を交わす暇など一秒足りとて与えまいと、『アルス』は駆け寄り釘バットを振り上げます。
しかし、サラマンダーは、戦いを重ねた格闘家でした。
『魔法使い上がりの賢者』が記憶から再現した偽りの太刀筋は、
彼が一昨日戦った『女騎士』と比べてしまえば、鈍いと表現するしかないものでした。
ただ右足を下げる、その挙動のみで唸る一撃をかわし、カウンターを腹部に叩き込み――
堪らず吹き飛ぶ青年に、地を蹴り迫り、更なる追撃を加えます。
二撃目がクリーンヒットした時点で、セージに宿る『最後の人格』が悟りました。
【このまま戦っても勝てない】と。
そう判断した『彼』の動きは素早いモノでした。
『アルス』の判断を待たず、押しのけるようにして主導権を奪うと、
腰に差したナイフを抜き取り、サラマンダーに向かって投げつけます。
短刀を払うことで生まれる一瞬の隙をつき、『彼』はサラマンダーから飛びのきました。
そして――踵を返し、全力で疾走しました。
『ローグ』。
本物の彼は、盗賊という職業につきながら、勇者一行で最も常識を弁えた男でした。
フルートの暴走を止め、アルスの小説朗読を止め、セージの傲慢さをたしなめる男でした。
それは単に彼が『一匹狼』な性格で、協調性というものを重要視していないが為に出来た行動だったのですが、
セージにとっては『苦労人』な常識人にしか見えておりませんでした。
そんな彼をモデルにした人格に与えられた心は、『自己否定』と『正気』。
どうしようもなく狂ってしまった自分自身を『止めて』『救う』為に、彼は存在していました。
それ故に、彼はアルスの指示を聞く必要がなく、逃走という選択肢を取ることが出来たのです。
一方、サラマンダーも、若者を追うことはしませんでした。
気を練ることで傷の回復を早めてはいるものの、万全の体調とは言えません。
それに何より、彼には『獲物』が他に居ました。
仮に若者が最後まで戦う事を選んだならば、どれほどの傷を負おうとも、片方が死ぬまで戦い抜いたでしょう。
けれども、相手は退却を選びました。
それで終わりでした。
――『彼』がそれを望んだならば。
草を踏み拉き歩くサラマンダーが気づけたのは、積み重ねた経験の賜物。
空気が揺らぐ感触を覚え、振り向いた彼の視界に移った物は、虚空より飛来する巨大な火球。
風を焦がし草を炭に変え迫りくる煉獄の炎は、
未だ左足の癒えぬサラマンダーには避け切れるスピードではありません。
しかし、彼は慌てず、地面に落ちていた小石を拾い素早く投げつけました。
礫が火球とぶつかった瞬間、炎は大きく膨れ上がり、爆発します。
熱風に煽られながらもその勢いを利用して飛び退いたサラマンダーは、
素早く体勢を立て直し、口の端を吊り上げました。
「卑怯な真似をするものだな」
「俺だって命は惜しいんでね。敵は倒しとくもんだ」
挑発に答えた声は、やはり、何もない空間から響いていました。
とある学者が言いました。
『俗に言う多重人格は、複数の人格をもつということではなく、
一つの人格すら持てないということなのだ』、と。
狂った心から分かたれた『正気』が、常人のソレと同じ道理がないのです。
『正気』である『ローグ』は『独善的な正義』には拘りません。
その代わり、『セージが自分に救われる事なく殺される』事を良しとしません。
『セージが殺される可能性が少しでもあるなら、殺られる前に全力で殺る』。
本物のローグならば決して至らない思考こそ、『彼』の行動原理でした。
『セージ』にレムオルを使わせ、見よう見まねの忍び足で舞い戻り、
『セージ』が唱えたメラゾーマで不意打ちする。
並みの魔物や冒険者ならば、その一撃で焼き尽くされていたでしょう。
しかし、サラマンダーは、長らく迷いの中に生きたとはいえ、実力を備えていました。
「姿を消せても、草を踏む音に気付かないようじゃな」
呟いた言葉は、かつて彼自身にかけられたものと気づいたかどうか。
ザザザ、と動く草の動きを読み、サラマンダーは樫の杖を投げつけます。
「くそっ!!」
杖を得物で撃ち落とした、その拍子に魔力の集中が解けたのか、セージの姿が現れました。
(『ローグ』! 早く僕と代われ! 攻撃が来るぞ!)
(うっせぇ! お前じゃ当てることすらできねぇだろ!?)
(はわ〜…危ないですよぉ)
セージの脳内で『三人』が会話する、その一方で、
サラマンダーは、対峙する相手の言動に違和感を抱きつつも、それを気に留めるような愚は犯しません。
(強力な魔法を使わせる前に殺る!)
複雑と単純、賢者と格闘家、仲間を求める余り狂気に陥った男と、正気のまま孤高に生きる男――
あまりに異なる二人の戦いは、一瞬で終わりました。
「バシルーラ!」
セージの指先から放たれ、文字通りの光速で飛来した青の輝きが、攻撃態勢に入っていたサラマンダーの体を包みました。
そして勢いを失わないまま、彼を何処かへと運び去って行きました。
「はー、危なかったです〜……」
呟いたのは、『フルート』。
残った魔力では太刀打ちできず、しかし、『男二人』を説得しきれないと考えた『彼女』は、
先に『セージ』に頼んでバシルーラを唱えてもらったのです。
「喧嘩はメッ、ですよ。みんな死んじゃったら、元も子もないんですからね〜?」
((……すまない))
彼女の言葉に、『アルス』と『ローグ』は素直に頭を下げました。
といっても、全てはセージの脳内の話ですけれども。
「魔力も少なくなっちゃったし、もう、ここでお昼ごはんにしましょう!
きちんと休んでおかないと、魔女だって倒せませんからね〜!」
(……えっ? ここで?)
あっけにとられる『アルス』を無視し、
『フルート』は焼け焦げた草の上に、ちょこんと女の子のように座り込みました。
パンと手を叩き、いそいそとザックから携帯食料を取り出し、あーんと口を開け、もぐもぐもぐもぐ。
(あのさ、『フルート』……近くに他の敵がいたら、狙われるとか、そういう考えは……)
(そ、そうだ! 休憩すること自体に異論はねーけど、せめてもう少し安全な所に移動してからだな……!)
『アルス』と『ローグ』の意見も、『フルート』には届きません。
だって、それが、『フルート』ですから。
【セージ(HP4/5、MP微量、多重人格)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:MPが回復するまで休憩/魔女の手下(スミス@ターニア)を殺す。
基本行動方針:魔女討伐
最終行動方針:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:闇の世界最北部】
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP1/5、リジェネ)
所持品:チョコボの怒り 突撃ラッパ シャナクの巻物 鋼鉄の剣 包丁(FF4)
第一行動方針:????
第二行動方針:スコールを探し、再戦し、倒す】
【現在位置:闇の世界最北部→どこかへ強制移動】
投下乙
セージの多重人格の説明が分かりやすくていいね
しかしセージがこんなキャラになるとは全く予想もしなかったなあ
最初は頼れるお兄さん的キャラだったのに…w
GJ!
続きが楽しみ
生前ほとんどと言っていい程活躍しなかったローグが死後になって活躍してるw
いや本人じゃないけどさw
城を出て、アルガスと出会った場所に向かう途中、彼方から響く爆音を聞いた。
聴覚を頼りに、ジャンプを駆使して駆け抜けたのは、数十分程度だったろうか。
爆心地と思わしき場所で最初に見た物は巨大な黒竜の死骸、
次に、肉片というには少々原型を留めすぎた男の死体だった。
「カイン――」
数時間前に言葉を交わしたはずの男が、あっけなく死んでいる。
一体誰が、と周囲を見回すうちに、さらに二つの死体が目に入った。
青髪の、まだ年若い少女。名前は知らない。
銀髪の、耳の尖った男。……知っている。ピサロだ。
不安に駆られて、さらに辺りを捜索したが、それ以上は何も見つからなかった。
砕かれた地面の上に、三人と一匹の持ち物が散乱しているだけだ。
一体何故、こんな惨劇が起きた?
真っ先に頭に浮かんだのはアーヴァインの存在だった。
だが、どういう手段を用いれば、三人も一度に殺せる?
爆弾を投げ込んだ? 否。火薬の匂いがしない。
魔法を使った? 否。こんなことができたなら、アリーナに遅れなど取るまい。
それに、ギードやプサンやロックが忠告の一つぐらいくれただろう。
少女はともかく、カインもピサロも明らかな実力者だった。
現に、竜の死骸だけは脳天を槍で突かれた跡がある。竜を倒したのはカインに他なるまい。
他の三人は明らかに爆死。
ピサロならばこんな芸当も出来るかもしれないと思ったが、彼が自爆するとも思えない。
……止めよう。
考えた所で、回答を掴める気がしない。
僕は三つの死体を弔う為、まばらに生えた草や薙ぎ払われた木々の枝を集め始めた。
本当はきちんと埋葬してやりたかったけれども、ごつごつとした岩肌は、とても掘り返せる気がしない。
せめてもの慰めに人の形を整え、上から枝を被せていく。
だが、足りない。一番小柄な少女に集めても、まだ遺体が見えてしまう。
こんなことをするよりもリルムを追いかけた方がいいのではないかとも思ったけれど、
やはり、彼らを――特に、少女を、捨て置く気にはなれなかった。
一時間ぐらい費やしただろうか。
結局、三人分の『墓』を作り終え、槍と、剣と、杖を、それぞれ守り刀の代わりに地面に置いた。
対価に、焦げてボロボロになった三つのザックから、使えそうな道具を貰う。
「まるで武器庫だな……使い切れる気がしないよ」
遺体から先に回収しておいた盾、少し離れていた場所に落ちていた杖や鞭に加え、
銃、笛、爆弾、オーブと黒のマテリア、それにボロボロではあるが宙に浮く不思議な絨毯。
肉片が付着した小手や指輪はそのままにしておいたけれど、それでも、多すぎるぐらいだろう。
色々と、うんざりした気分になりながら、僕は山を降りた。
二十分ぐらい沼地と茂みを歩いた所で、喉の渇きに気づいた。
人目がつかなさそうな場所を探し、ちょうど良さそうな岩陰を見つけ、そこに腰を落ち着ける。
ふう、と息を吐き、水を飲み、食事をとっていないことを思い出して携帯食料を齧った。
初めて食べた時は不味いと思ったが、今は、あまり味を感じない。
紙を食べているみたいだ、と、口の中のソレを水で流しこむ。
満腹とは言い難いが、これでしばらくは歩けるだろう。
そう考えて立ち上がろうとしたが、心に反して、体は動いてくれなかった。
「………」
足が、重い。
たかだか一日二日の間に、色々な事が有りすぎた。
アグリアス、ファリス、テリー、ユフィ、ウィーグラフ、
カイン、ピサロ、セフィロス、アルガス、リルム、アーヴァイン。
出会った者、死んでいった者、恐怖を刻みつけた者、追うべき者。
アンジェロがいたらもう少し気が楽だったろうな、と思い、犬に頼ろうとしている自分の弱さに苦笑する。
――疲れた。
こんなんじゃいけないと思う前に、意識が微睡の中に落ちていく。
迫りくる闇に抗うことは、僕にはもう、できなかった。
「だから僕は言ってやったのさ。『あんた、それ絶対カマ掛けられてるぞ』って。
そしたらアイツはどーゆー顔をしたと思う?
もうね、ポカーンって大口開けてさー。ホント、ニブチンってあーゆー奴の事を言うんだろうねー」
沼地と草地の際を歩きながら、ソイツはひたすら明るい声で喋り続けていた。
その肩にはソイツ自身のザックと、あたしのザックがかかっている。
『人質』と『殺人者』って設定をそれらしく見せる為の演出だ。
「全くアイツと来たら、ファンにサインをねだられるほどのスポーツ選手とは思えないね。
『見て見てロックもどき!』とか言って、バンダナの巻き方変えて遊んだりとかさ〜。
アレで本当にスタープレイヤーなのかい?
それに、ずっと水中に潜ってプレイだなんて、どうやればできるワケ?」
あたしの手を引っ張る形で、前を歩いているから、どんな表情をしているかはわからない。
「僕の世界にあるスポーツといえば、バスケットにアイスホッケー、
ベースボールにフットボール、あとボードスケート……この辺りが主流だったんだけど、
逆にそーゆーのは……ええっと、ザナルガルド? にも、スピキュール? にもないんだろ?」
「ザナルカンドと、ス・ピ・ラ!」
あたしの言葉に、ソイツは「そうそう、それそれ」と軽い調子で頷く。
「もったいないなあ、って思っちゃったよ。
あんなに面白いスポーツをぜーんぜん知らないんなんてさ〜。
ゼルも言ってたけど、もし、僕らの世界に来れたら、絶対に教えてやってるよ?
特にバスケットね。アイスホッケーもいいけど、アイツの格好じゃ寒いだろーからね」
ちょっとだけ盗み見た日記の事を思い返す。
ティーダと、こいつと、ゼルって人は、そんなに仲が良かったんだろうか?
――いや、良かったんだよね。
だから、ブリッツの事とか、ユウナとの事とか、ティーダ自身の事まで、いろいろ喋ってたんだよね……
「逆に、スピラに行けたら、例のブリッツボールってヤツを観戦したいけどねー。
平面じゃなくて立体空間で縦横無尽に泳ぎ回る球技なんて、ホントに想像できないんだ。
あ、実際にプレイするかって聞かれたら断るけどね。息できないから。
まあ、アイツとそのチームが泳ぎ回ってる所を見て……」
そこまで言って、ふいに、言葉を切った。
もうティーダの活躍を見る機会なんて永遠に来ないってことに、思い至ったようだ。
同情の声は掛けられない。
こいつは殺人鬼で、あたしは人質、そういうことになっている。
ううん、その設定が無くても、こいつがしたことを考えれば同情なんてしちゃいけない。
仲間を裏切って四人も五人も殺し続けた、正真正銘の人殺しだもの。
でも――
「……本当に、アイツは、にぶくてオバカで元気だけが取り柄で、ゼルみたいな奴だよなあ。
いや、あの手のかかり方はスコールの方が近いかな?
スコールも昔は超ニブチンだったから、いろいろ御膳立てしてあげたしなあ……
座席取るのに、ムードを盛り上げるべく、古本でも貴重なトナリのカノジョを置いてやったりとかさ〜」
居なくなっちゃったティーダの事を、
『アイツ』としか呼ばないくせにずっと現在形で話し続けている、その気持ちを考えると。
アルガスに対してぶつけた絶叫を思い返すと。
……やっぱり、友達だったっていう事だけは、本当なのだろうと思えた。
「アーヴァイン、あんたって、何を考えてんの?」
ふっと口から声が零れた。
マズイかも、って意識が一瞬頭をよぎったけど、この程度なら多分大丈夫だろうと、言葉を続けてしまう。
「ティーダが大事で、友達が大事で、だったら、なんで、殺す事を選んじゃうの?」
アーヴァインは困ったようにあたしを見つめた。
そして、左手の人差し指を左右に振りながら、話し出す。
『今話していることは真っ赤な嘘です』っていう、祠を発つ前に話し合って決めたハンドサインだ。
「大事だから自分の手で殺すのさ。誰かに奪われるのは嫌だ。
そりゃまあ、帰りたいって気持ちもあるけど。帰れるなら帰りたいし、その手段を選ぶ気もないけど。
だけど、帰れないなら、持っていけるものは持っていきたいだろ?」
指を止めたタイミングは、『帰りたい』って所から。
「魔女の言葉に乗ろうが乗るまいが、帰れる可能性が0%に等しいってわかってたなら、
僕は、アイツと彼女をこの手で殺して、最後まで一緒に居ることをもっと早くに選んでたよ」
指を振って、止めて、また振って、止めて。
その仕草さえ本当かどうかはわからないけれど――
「そうさ、最後まで……一緒に」
声に込められた、確かな悲しみの色に、あたしはスコールが書いた文章を思い出した。
『これが上手くいけば、少なくとも殺しあう必要はなくなる。
自分から望んで殺し合う奴なんていない、俺はそう信じる。
だから、あんた達二人を信じて、俺の命を賭ける』
アーヴァインのあくどさなんて、スコールが一番良く知っていたはずだ。
でも、スコールは、本当に自分の命を賭けた。
そして、アーヴァインも裏切らなかった。
スコールだけじゃなくてアルガスの首輪を外すのにも協力した上、自ら殺人者を演じるなんて危険な事まで引き受けた。
ただ単純に生きて帰りたいだけなら、損こそあれど、何の得もないってのに。
苦労だらけの道を歩く決心を固めたのは、ただの諦め?
それとも――ユウナやティーダや、友達の為?
あたしは、自分の格好を見る。
今の格好は、パラディンのドレスに、魔法を防ぐっていうスカートを合わせた物。
鳥の紋章がついた盾も、小手もちゃんとつけた、動きやすさと防御力を兼ね備えた装備って奴だ。
対して、アーヴァインといえば、ボロボロのローブに変な靴だけ。
服装通り怪我も酷いけれど、出立前に、回復魔法は要らないと断られた。
『殺人者の僕を、人質のあんたが回復するなんておかしい。
同じ理由で、いざって時になっても、僕はあんたを庇えない。
僕の代わりはバッツがいる、だから、最悪の事態になったら僕を切り捨てられるようにしとけ。
もちろん、僕も、どうしようもなくなるまであんたを最大限に利用する。お互い様ってことさ』
筆談だったから、どんな感情をこめてそんなことを書いたのかなんて、わからない。
だけど、覚悟の重さってヤツは、十分すぎる程伝わってきた。
そして同時に――今、こうして内容を思い出すと、コイツの考え方は、やっぱりどこか間違ってると感じた。
「アーヴァイン! あたし、もう疲れた! これ以上あるけなーい!」
あたしはわざと大きな声でわめく。
彼はきょとんとした顔でこちらを見た。
「疲れたって言ってんの! 少しぐらい、休ませて!」
「リュック、僕にそんな余裕はな…… うわっ!」
アーヴァインがうろたえ半分に言い返してきたけど、あたしは左手を引っ張ってどすんと座り込んだ。
はずみで、アーヴァインも体勢を崩し尻餅をついてしまう。
「なんだよ、一体! あんた、自分の立場ってのわかってないのか?!」
ぶーぶーと頬を膨らませてはいるけど、立ち上がろうとはしない。
「あんただって疲れてるんでしょ? ならいいじゃん」
呼吸こそ取り繕ってはいるけれど、疲労のあまり充血した目と顔色の悪さはごまかせない。
無論、休憩だけが理由ってワケでもないけど――
あたしは彼と左手を繋いだまま、右手でザックを開け、筆談用の道具を取り出した。
『あのね、こういう案があるんだけど、どうかな?』
―――――。
『そんなことが、本当に?』
アーヴァインが疑問の眼を向ける。
『それがホントなら、確かにやりやすい場面も出るけど いいの?』
あたしは小さくうなずいて、ソレを渡した。
――声がする。
女の声だ。明るく騒がしい声と、妙に甲高い声。
「ねえ、大丈夫?」「ダイジョブ?」
ゆさゆさと肩を揺さぶられる感覚、けれども、茫洋とした意識は目を開けることを選ばない。
(この人も【闇】にまとわりつかれてるよ。
どっかで死体でも見たのかなあ?)
ぼそぼそと男の声が聞こえたのは、気のせいだったのだろうか?
「そんなこと、わかるの?」
(自分で寄せ集めてるか、そうじゃないかぐらいは、わかるよ。
リルムの話を聞く限り、僕と同類とは思わないからね)
――リルム。
その名が、僕の心に刺激を与えた。
(僕は、何をしているんだ?
城を発ったのは、彼女を助ける為だったはずだ!)
疲労のあまり萎れていた気力を奮い立たせ、目を開ける。
そこに居たのは、『二人の少女』だった。聞いたと思った男の声、その主らしき姿はない。
片方は白を基調とした上着を来ていて、どことなく聖騎士を思わせる。
もう一人は、……目のやり場に困るほど軽装の、とにかく露出度の高い出で立ちだ。
でも、僕の眼を引いたのは、そんな事ではなかった。
二人とも、全く同じ顔をしていたのだ。
「あ、起きた」
「起きたね」
発する声は別物だけれど、顔は完璧に瓜二つ。
困惑する僕に向かい、二人はにっこりと笑った。
「こんにちは! あんた、ラムザさんだよね!
僕、リックっていうんだ! よろしくー!」
「あたし、リュックっていうんだ! 宜しくね、ラムザ!」
何で自分の名前を知っているのか、とか、そういう疑問は浮かんだ傍から吹っ飛んだ。
参加者リストは初日に全部確認している。双子なんていなかったはずだ。
けれども目の前にいる二人は、服装と声を除けば完全に瓜二つ。ぐるぐる渦巻く瞳までそっくりじゃないか。
「……えっと、その、君達は、双子なのかい?
っていうか、リックなんて子、いたっけ……?」
「んーん、違うし、いないよ」
白服の子が答え、軽装の子が言葉を継ぐ。
「僕、分裂の壺ってヤツで、増えたんだー!」
「………は?」
想像の遥か斜め右上を行く回答に、僕はぽかんと口を開けることしかできない。
けれども、彼女達は僕の心情を知ってか知らずか、きゃいきゃいと騒ぐ。
「えっとね、あたしの支給品がね、中に入った物を二つに増やす壺だったんだ。
で、あたし、その中に入ってみたわけ。そしたら……なんとっ!」
「一人が二人に増えました〜! わーい!」
「わーい!」
二人とも、左手の人指し指を回してリズムを刻みながら、踊るようにポーズをとった。
(どういうことなんだ、これは?)
テリーとファリス、ケフカ、リルム、プサン、今まで出会った人物のうち数人の姿が再度脳裏を過ぎり、
「この世界には変人しかいないのか」と僕に呟かせる。
「頭抱えちゃったよ、リュック」
「そーだねぇ、アー……まあ、仕方ないよね、リック」
二人は顔を見合わせて、それから、軽装の子が先に僕に向き直った。
「ねーねー、それよりラムザさん。
ユウナって女の子、見なかった?」
「えっと、あたしの従姉妹なんだけど、えっと、ちょっと、様子がおかしいってアルガスって奴に聞いたの!」
「……いや、見ていないな。
それより、僕の名前を知ってるのは……いや、アルガスに聞いたってことは、彼と会ったのかい?」
僕の質問に、軽装の子の表情が一瞬だけ曇る。
けれども、彼女はすぐに悪戯っぽい笑顔を取り繕い、答えた。
「うん、会ったよ! リルムって子も一緒に居るよ〜」
「本当か!?」
アルガスとリルムが一緒に居る。
その事実が、最悪の事態を予想させたが、
「こっから南に行った、祠の中にいるよ!
つよーい大人がいっぱいいるから、二人とも安全だって!」
軽装の子の言葉に、僕はほっと胸をなで下ろした。
だが、安心するにはまだ早い事を思い出し、僕はもう一つ質問を投げかける。
「……そうだ。アーヴァインって男を見なかったか?
リルムと一緒に居るって聞いたんだけど」
白服の子が、軽装の子を見た。
軽装の子は左手で帽子を被り直すような仕草をしてから、また人差し指をくるくると回す。
「見たよ〜」
「え、アっ……リック?!」
何故か白服の子がうろたえる。
その理由は、すぐに、軽装の子が口にした。
「喋らないでって言われたけど、僕、アイツのこと死ぬほど嫌いだし〜。
アイツなら、リルムと一緒に、ヘンリーって人に捕まってるよー」
「ちょ、そんなこと……」
「大丈夫だよ。
この人、怪我人を回復したり、色々信用できる人だって、リルムが言ってたもん」
その台詞に違和感を覚えた僕は、思わずこぼしてしまう。
「リルムが……? おかしいな」
「えっ?」
怪訝な顔をする二人の少女に、僕はしまったと思いながらも言葉を続けた。
「僕が怪我人の手当てを始めるよりも前に、彼女はある男に誘拐されてたはずなんだ」
「そ、そうなの? でも、おっかしーな、僕はリルムからそう聞いたよ?」
「そうそう、そうだよ。きっとアーヴァインから話を聞いたんじゃない?」
白服の子が言った。今度は、軽装の子が、何故か慌てたように相方を見る。
「あんな人殺しヤローが親切に話すわけないだろ?
ピサロだよ、ピサロ、きっと!」
二人のやりとりに、釈然としない感覚を抱いたけれど、それを口にしてもまずい。
「……そうか、それもそうだね。
すまない、少々疑心暗鬼になっていたのかもしれない」
僕は内心とは裏腹に、納得するそぶりを取り繕った。
二人の少女はほっとしたように息を吐く。
「困るなあ、そういうの。
悪い噂を流されたっていうなら警戒するのもわかるけど、
僕はただ、あんたが信用できる人だって聞いたってだけなのに〜!」
「ごめんごめん」
頭を下げる僕に、むくれた表情のまま、軽装の少女は指を突きつける。
「謝るだけですむなら、警察はいらないよ〜!
お詫びになんでもいいか、要らないアイテム分けてよ!」
「えっ?」
呆気にとられる暇すら与えないように、少女はどんどん捲し立てる。
「こんな所で眠りこけてるあんたを見つけて、リルムとアルガスの情報分けてあげたんだよ?
お礼ぐらいくれるのが筋ってもんじゃないの〜?
それとも、眠ってる間に荷物全部持ってかれる方が良かった?」
こういう事になるなら、話術士のジョブをつけておくんだった……
後悔したけど、後の祀り。
僕は彼女の剣幕に押し切られ、拾った荷物を見せてしまう。
無論、四つの死体の事も説明した上で、だ。
「……ふーん。ピサロとカインが、ね。
それに、青髪の子はターニアちゃんだと思うけど……三人とも死んじゃったのか、ふーん」
軽装の子が呟く。その声色と顔は、悲しんでいるというよりも呆れているようだ。
白服の子はぎゅっと手を握ったまま俯いている。こちらはちゃんと、悲しみと怒りに満ちた表情を浮かべていた。
対象的な様子に、僕はやはり言葉にできない感覚を抱く。
不安にも似ているけれど、違う。恐怖でもない。あえて表現するなら――『不吉さ』。
けれども、僕はそれを胸の奥にしまい込み、代わりに聞いた。
「カインのことも知っているのかい?」
「知らない奴がいるのかって言いたいよ。
あいつ、色々な奴に接触して回って、機会を見て裏切ったりしてる奴だし」
軽装の子がニヤニヤ笑いながら言った。
そこにあるのは、明確な悪意と敵意。
でも、僕の表情に気付いたのか、彼女はすぐに笑うのを止めた。
「ま、カワイソーってぐらいは思ってあげよっか。
ああ、ターニアちゃんは素直に可哀想だと思うけどね」
ひらひらと手を振り、彼女は、僕の荷物に目を移す。
「んー、そうだなぁ。
杖ってヤツは意外と役立つから、ほしいなー。
それから、銃も便利だからほしいなー。
あと、このオーブ、ドラゴンオーブって奴だよね?」
「ん? あ、ああ、そうかもしれないな」
軽装の子が手に取ったオーブには、竜の紋章が浮かんでいた。
「そんなの、何に使うの?」
白服の子が、相方の手元を覗きこむ。
「プサンってオジサンが必死になって探してたんだ。
皆の話じゃ、確か、お城に残ってるんだろ? 持って行ってあげようと思って」
「プサンが……?」
支援
その話に、僕はまたまた引っ掛かりを覚える。
今までに抱いたソレと、今回の感覚は、別物だ。
だが、それがはっきりとした像を結ぶ前に、軽装の子が顔を近づけてきた。
「ねーねー。これ全部、貰っていい?」
手元にあるのは、杖、銃、オーブ、それに爆弾一個と笛。
「……よくばりすぎじゃない?」
僕の心情を白服の子が代弁してくれたが、彼女は『答えは聞いてない』と言わんばかりに、左手でザックに詰め込み始めた。
まあ、爆弾以外は使いこなせないか、使う必要性を感じない道具ばかりだ。
一方的な交換交渉ではあったけれども、有益な情報を得られたことも事実。
異論を唱える気は起きない。
「別にいいさ。それじゃあ、行かせてもらうよ」
「ん、バイバーイ!」
軽装の子が大きく左手を振り、白服の子もそれに倣うように右手を振った。
その様子でに、僕は軽装の子が『最初から全く右手を使っていない』事に気付いたけれど、あえて聞くことはしなかった。
いい加減、リルムを追わなければいけないと、焦りがあったから。
ラムザの姿が消えた後で、あたしは胸をなで下ろした。
「あー、喉が死ぬかと思った。
それにしても、意外と信じちゃうもんなんだね〜、こんな大ウソ。
やっぱりアリーナって前例があるからかなぁ?」
『アーヴァイン』がいつもの声音で、呆れたように呟く。
でも、その格好は、血塗れの白魔道士姿じゃない。
あたしと完全に同じ顔の、シーフ姿だ。
「それにしても便利だね、このドレスフィアってヤツは」
あたしがアーヴァインに渡したのは、シーフのドレスフィア。
かつてルブランが、ユウナのドレスフィアを奪ってユウナになりすました事を思い出し、この手を思いついたのだ。
ドレスフィアは、リザルトプレートと組み合わせることで職業の力を引き出すことができる、特殊なスフィア。
でも、それ自体でも、内包する幻光虫の力で映像を映し出す事はできる。
映像だけだけど。
アーヴァイン曰く、『光学迷彩の原理で、周囲の風景を投射しつつ人の姿を映し出してるのかなぁ?』らしいけど。
ドレスや着ぐるみを具現化しているわけでもなければ、体が変化してるわけでもないので、触ったらバレちゃうけど。
声が変わるわけでもないから、裏声で頑張ってもらうしかないんだけど。
「便利だけど……声が違っちゃうんじゃ、サイファーやユウナ相手には使えないなー。
それに、リュックの姿にしかなれないんじゃ、殺人者狙いで襲ってくる奴の不意打ち避けにしかならないなあ。
ティーダやスコールの姿になれるなら、超便利なんだけど」
「元々があたしのスフィアなのに、無理だよ、そんなの。
こっちのアレフのドレスフィアなら、アレフの姿になれるかもだけど……
あんたにだけは、ゼーッタイに! 使わせないっ!!
てゆーか、文句言うなら返しなさいっ!!」
「こっちだってお断りだよ、死人に化けてどうするのさ。
あーあ、せめてちゃんとおっぱいに触れれば、もう少し価値があるのにな〜」
「なにやってんのよ、この変態!」
胸に手を当てるアーヴァインの頭を反射的に叩いてから、あたしは(しまった)と手を引っ込めた。
「リュック……自分の立場をわかってないなら、やっぱり先にぶっ殺すよ?」
笑顔を消したアーヴァインが、ラムザから貰った銃を向ける。
でも、大げさに構えるフリをしてこっそり銃弾を抜き取っていることを、あたしは見逃さない。
「べーだ、口裏合わせろって言ったのはアンタでしょっ!
そ・れ・に! あたし抜きで、ユウナがあんたの前にノコノコ出てくると思ってんの?
思ってるなら殺してみればいいじゃない! 異界であんたのことバカにしまくってやるから!」
開き直りと、精一杯の強がりに見えるよう、あたりは一気にまくしたてる。
アーヴァインは銃を構えたまま、人差し指を立ててぴょこぴょこ振ってみせた。
「ふん、調子乗りやがって!
言ってろ言ってろ、ユウナさえおびき寄せたら、二人一緒に重ね撃ちにしてやるからな!」
アーヴァインはそう言って構えを解くと、乱暴にあたしの手を掴み、北へと歩き出した。
あたしは思う。
あたしはあたしで、こいつはこいつ。
『ユウナの仲間のリュック』はあたしだけで、『ティーダの友達のアーヴァイン』はこいつだけ。
例え同じことが出来る人がいたって、誰も、代わりになんてなれない。
だから、みんなの事もユウナの事も、こいつの事も、絶対に守ってみせる。
これ以上、誰一人だって死なせない。
あたしは――あたしだって、伝説のガードなんだから!
【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/3、MP0)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
ふきとばしの杖[0] 、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
リュックのザック(メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
第一行動方針:デスキャッスルに行き、首輪の情報を渡す
第二行動方針:ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(パラディン)
所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
第一行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠北の茂み→デスキャッスルへ】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
第一行動方針:リルムを追う
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:南東の祠北の茂み→南東の祠へ】
信じられないほどの投下ラッシュw
荷下ろししたのにまだまだ武器庫状態のラムザ乙
貴重なまとも要員として頑張れー
投下乙
多分ここ最近の投下は同じ人かな
他の書き手も触発されて完結まで一気にいけばいいなあ
全部同じってことはないんじゃね
少なくとも2,3人くらいはいると思うけど
全部同じ人だったら保管庫にだけ投下した作品とこっちに普通に投下する作品とが混在してることになるよなw
それやってなければとりあえず3人はいるよ
ほ
『太陽の見えない場所で、時計がなければ、時間を知る術などない』
そう考えるのは魔力を持たない一般人だけだ。
魔道士と名がつくものならば、魔力の回復度合いと経験から、ある程度の時刻を推測することができる。
少女に指輪を与えたのが12時を回った頃だとすれば、塔へ到着したのは13時頃。
私は安全に休息を取りたいと望みながらも、どうせならどこかで起きるだろう花火を眺められないかと、
天と地を繋ぐように伸びる塔に登った。
そして近づく者も少なかろう頂上付近に腰を据えた――
「……ワケですけどねぇ?」
嗚呼、どうしてこうなったのでしょうか?
ぼくちん、なーーんも悪い事してないですよ?
なのに、ねえ?
「逃げないでよ!」
なーんで、バキュンバキューンとか、パンパンドンドンとか、耳障りにも程がある音楽を聞きながら
鬼ごっこしなけりゃならないんですかぁ!?
そりゃ、ぼくちんが鬼なら喜んでやるさ! やるけどね!!
逃げ惑う方だなんて、全力で遠慮シマース!!
だいたい、なんでこの塔、やったらシンプルな作りになっちゃってるんですかァ?
隠れるような壁がありゃあ、あんな銃の攻撃なんて余裕のよっちゃんだったのニィ〜!!
割れた床があったから、飛び降りて逃げたけどさァ……
相手も当然飛び降りてくるわけで。
塔の外に逃げても遮蔽物が無くなるだけだから、階段に逃げるしかないわけで。
二人でぐーるぐーるぐーるぐーる追いかけっこー。
アヒャヒャヒャヒャ! ……ツマラン!
こーゆー遊びは脳筋でゴキブリみたいにしぶといロックとかに任せとけばいいんだい!
私のキャラじゃあーりません!
それにしても、あー、コワイコワイ。
見て下さいよ、あの銃を乱射する女の顔。
真っ赤なファンデーションを塗りたくって、ぼくちんのこと、親の仇を見るような目で睨んじゃってさ!
いっくらぼくちんが本気を出したら超つおいといったって、銃で撃たれたら死んじゃいますよ。
そもそも本気を出そうにも、魔力もちょっぴりしか回復してないし、
切り札になりそーな三闘神の力もぐーぐー眠ったままなんですケドね。
……はい。割とピンチです、ぼくちん。
「わかってるんだからね。変装したって無駄だからね。
もう許さないからね。もう騙されないからね!!」
「だから、身に覚えがありませんえーん!
絶対に人違いしてますってばァ!!
どーゆーあんだーすたん!? あーゆーはさかなァ!?」
言い返してるけど、この女、さっきから聞いちゃいねェ。
「嘘ばっかり……! もう騙されないって言ってるよね!?」
怒鳴っても怒鳴っても、怒鳴り返して銃を乱射するばっかり。
それしか脳がないのかしらん? だから能もないのかしらん?
狂人って奴はこれだから困っちゃいマスよねェ!
だいたい、さっきっから何発撃ってるんですか?
弾切れとかないんですか、その銃?
質量保存の法則に真っ向から逆らってますよねェ。
これだから物理法則を捻じ曲げるファンタジーなロマン武器は……!
あ、ぼくちんも魔法を打ち出す弾数無制限銃持ってたっけ。
てへ、ごめんちゃーい。
まー使ってないけどね。三属性の魔法がノーコストっていうのは魅力的だけどォ…
どの魔法が出るかわからないんじゃあ、今一つ使いづらいですしおすし。
そもそも、こんなにいい感じにやる気なヤツを、切り捨てるなんて勿体ナイナイナーイのだ!
カパロス……もといセフィロス君がいるとはいえ、
あの反抗心むき出しな様子じゃあ、過剰な期待はできません。
すばしっこいだけのロックとか、小生意気なリルムとか、筋肉ダルマのマッシュとか、
いけすかないピサロとか、善人気取りの亀とか、リルムよりうるちゃいラムザとか、
最終的に死んでほしい奴は、いーーーーーーーっぱいいるんです。
そーゆー奴らをね、ぶっ殺してくれるイイ子はね。
大事にとっておかないとダメなんですよ。
おかわり? おかわり?
それにしても、なんでぼくちんがコイツを騙したなんて、
根も葉もない名誉毀損な勘違いをされなきゃいけないんでしょーかねー?
そりゃまあ、色々なヤツを利用させてもらいましたけどね。
それにこの女の顔、どっかの怪我人どもの巣で見た覚えがない、とも言いませんけどね。
コイツにはなんの手出しもしてないでしょ!?
コイツにはなんの手出しもしてないでショー!!
大事な事だから二回言ってやりますよ!
「一体誰を狙ってるんですかァ?!
場合によっては協力してやってもいーから、ぼくちんに攻撃するのは止めるのだー!」
「わかってるよ、そうやって誤魔化すのが君のやり口だもんね。
出てきなよ。早く、出てきなよ」
うん、大事な事なんですね。わかります。
……ってだからァ! どぼちてそおなるのォ!?
「人を疑うのはイイ事だけど、ぼくちんを疑うのは悪い事ですよーォ!!
もう一回聞いてやる! 誰を狙ってるんだ?
いけすかないピサロか? 態度のでかいマティウスか?
それとも、お前の彼氏が心配しまくってた、人殺しの裏切り者とかいうガ……」
ズガガガガガガガガガン、と凄まじい連射が私を襲う。
どうやらこの女、アーなんとかとかいう空気なガキに相当な憎悪を抱いているようだ。
もしやピサロの忠告通り、本当に裏切られて彼氏を殺されたのかもしれない。
ならば実にユカイな話だ。
友情だの愛だの下らないという事実を体現した二人、
やはりぼくちんがここで手を下すより、利用する方がズーッと面白い。
しかし………
「あのガキとぼくちんじゃあ、顔も体格も声も全ッ然似てないでしょーが!!
老眼ですか? 耳も遠くなってるんですかァ? この年増女め!
そんなんだから行き遅れて、あの魔女みたいなケバ女になった挙句
新しい彼氏もできずに一人さびしく干物になってくんですよォ!!」
「わかった、死ね!」
えー、悪い子のミナサマー。(ズガガガガガガ)
人間って極めると一秒間に16連射どころか20連射ぐらいできるみたいでーす。(ズガガガガガガガガガガ)
すごいですねー。名人もビックリですねー。(ダダダダダダダダダダ)
ぼくちん、階段の影に隠れながら身を持って体験してマース。(ズガガガガガガガガガ)
銃弾の雨ですよ、雨。アメちゃんですよー。(ダダダダダダダダダダ)
アメアメフレフレかーさんが、蛇の目でお迎え、ナーンテ……(ダダダダダダダダダダダダ)
「いい加減にしろー!!! アスピル!
もいっちょアスピルー!」
ほんのわずかな魔力の光が、女の魔力と呼応し、大きな流れとなってぼくちんの手元に戻ってくる。
回復魔法は制限されているけれども、どうやら吸収魔法は対象外らしい。
予想よりも多くの魔力を得た事に、私は笑みを浮かべつつ、
戸惑う女の隙を見極めてひらりと手すりを飛び越えた。
女が連射を止めてこちらへ駆け寄る。
これ以上魔法を使われる前に決着をつけようというハラだろう。
だが私は慌てず、階段を駆け上がる。
女が回り込んでこちらの姿を捕えようとする、その前に、二つの魔法が紡ぎあがった。
「そーれ、バニシュ! スリプル!」
透明になった女の体に、月の形をした眠りの光が降り注ぐ。
やがて、どさりと音がして、女が倒れた。
本来、バニシュは物理攻撃を回避しやすくするための補助魔法だが、
魔法への抵抗力が弱まるという副作用が存在する。
それを利用した技だ。
最も、相手を透明にする以上、苦しむ姿を眺められなくなるので、攻撃魔法と併用する気はないが。
「……さて、と」
ぼくちんは寝息を立てる女に近寄り、所持品を確認する。
二丁の銃とラケットと槍と盾。この辺りはどーでもいい。
二振りの剣と鎧。中々の魔力を感じるケド、重たいからいーらない。
おこさまには見せられない本。ヤダぁ、狂人で痴女とか極まったヘンタイがいまーす。
お鍋。……血ィついてますよ? 食ったの? なんか食ったの?
帽子と爆弾と竪琴と拡声器。……この辺りは邪魔にならないし、貰っていきましょうかね。
そしてレーダー。これは素晴らしい、大当たりアイテムじゃないですか!
ぼくちんのためにあるような道具を持ってたなんてイケナイ子だねェ〜。
まあ、私は優しいですから、責めたりはしませんよ。
もう一働きぐらいはしてもらいますケドねェ。
「う……うう……」
女が目覚めるタイミングを見計らい、私は魔力を集中させる。
「ほいほいっと。ついでに、スロウっと。
……さーて、起きたみたいだね、ユウナ」
私の声に、女はかっと両目を開いた。
二色の瞳に映るのは、白いローブを着た茶髪の若者と、純然たる殺意の炎。
天才のぼくちんは、かつてレオを葬る時に使用したオリジナルの幻影魔法で、
この女が追っているだろう男の姿を映し出しているのだ!
女は憎悪の命じるまま、こちらへ飛びかかろうとするが、
時流の歪みがもたらす緩慢な動きでは、ぼくちんを捕えることなどできない。
そもそも、武器は全部私が持っている。
「ここで殺してもいいんだけど、君はティーダの大事な人だ。
だから、一つ、チャンスをあげるよ」
ぼくちんは左手で銃を構えながら女をねめつけ、右手で指を鳴らした。
そして間髪入れずに魔力を操作し、『別の男』の姿を映す。
「鬼ごっこをしようじゃないか。
僕はこの姿で逃げるから、追ってくるがいい。
捕まえて殺すことができたら君の勝ち。
僕を殺す前に君が他人に殺されたなら、君の負けだ!」
歯噛みする女に、ぼくちんはいつものように笑った。
そして、要らない道具をぶちまけると同時にテレポとバニシュを唱える。
彼女が武器を拾い上げる頃には、ぼくちんは塔の外にいて、しかも透明になっているという寸法だ。
レーダーがこちらにある以上、捕まることはありえナーイ、ってワケさ。
そしてコレで、あの女の脳には、『アイツ』の姿が焼きついた事だろう。
うるさいくせに頭だけは良く回る男、『ラムザ=ベオルブ』の姿が――!
ロック、リルム、マッシュ。
奴らを直接憎むように仕向ければ、私の仕業だとすぐに感づかれるだろう。
でも、ラムザは別だ。
所詮ヤツとはこのゲームで知り合っただけの間柄、特別敵対していたわけでもない。
つまり、ぼくちんが黒幕だと感づかれる可能性はほとんどナイのだ!
それにキャンプで出会った時、カメの話じゃあ、リルムを助ける為にどっか行ったそうじゃないか。
ヤツを殺すように仕向ければ、あのクソガキも一緒に死んでくれる可能性が高ーい!
塔の扉が乱暴に開き、女が走っていく。
その後ろ姿が草原に消えるまで見送ってから、ぼくちんは高らかに笑ったのだった。
【ケフカ(HP2/3、MP1/5)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
第一行動方針:ターニア、セフィロス、ユウナを利用して邪魔な連中を始末する
第二行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:架け橋の塔・外】
【ユウナ(ガンナー、MP0)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
スパス スタングレネード ねこの手ラケット
ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
第一行動方針:ラムザの姿をしたアーヴァインを殺す
第二行動方針:邪魔なギードを葬る /なんとしてでも生き残る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:架け橋の塔→移動】
展開そのものはシリアスなのに口調でめっさワロタw
超絶ニヒリストのくせに人生楽しそうなケフカも
ここへ来て特大死亡フラグが立ったラムザもとりあえず頑張れ
草むらを掻き分け進む魔王。
黒い靄を両の手に集め、戯れる青年。
青年と言葉を交わしながら、魔王の後を追う少女。
宙に浮く絨毯。
変化の杖を携えた、黒服の青年。
怯えた表情を隠そうともせず、縋りつく青髪の少女。
五者の邂逅を妨げる、数時間前の姿を重ねる事すらできぬ程、狂気に憑りつかれた王女。
銃声。
爆音と閃光。
氷刃が舞い、鮮血が飛ぶ。
最後の闖入者は、緑髪の王子。
復讐を望む青年の凶弾から、友の娘を庇う為、その身を投げ出し――
――。
集中が乱れ、瞑想が途切れる。
知り合いとはいえ人間の死に動揺するなど、私も弱くなったものだ。
「どうなんだ?」
ロックが尋ねてきた。
当初はギードと共に二階の部屋に留まっていたが、
首輪の研究が行き詰った事と、幾ら人の気配を感じずとも戦力の分散は危険だろうという事で、
二人ともこちらの隠し部屋にやってきている。
ロックの方はリルムの帰還を期待してもいるようだが。
「リルムさん自身は問題なさそうです。
二人とも、それなりに丁重に扱っていました。
問題は……やはり、アーヴァインさんですね」
見た範囲だけでは、精神不安定であることを自覚しているようにも見えるし、
それらは全て演技に過ぎず、苛烈な悪意を隠しているだけにも見える。
アルガスかアーヴァイン自身が、黒マテリアやそれと同等のアイテムを持っていれば
この部屋で起きた事を調べて判別をつけることもできただろうが――
「タバサさん……と言っても、ロックさんはあまり知りませんか。
ゼル君を殺した魔物を従えていたリュカさんの娘なのですが、
その子を撃ち殺す場面が見えました」
「なんだって?!」
「どうも彼は、ピエールさんとリュカさんが死に、なお生き残ったタバサさんこそ
ピエールさんを操った黒幕だと考えていたようです。
元の世界からの友人で、ティーダさんと共に立ち直る契機を与えてくれた
ゼルさんの仇を取りたいと思う事、それ自体は不自然ではありません。しかし……」
「だからって、タバサってのは子供なんだろ?!
リルムより年下の子だって、あんた言ってたじゃないか!」
「タバサさんはタバサさんで、そのリルムさんを巻き込んで反撃してましたからね。
お互いに正当防衛といえば正当防衛かもしれません。
しかし、そんな子供にさえ、一線を容易く踏み越える精神状態にあるのも事実です。
理性の種の効果が薄かったのか、有りすぎて殺人者の記憶まで戻ってしまったのか……」
どちらにしても、少々危険だ。
いや、だからこそ我々から離れる道を選んだのかもしれないが。
「……ティーダ達が戻ってきたら、三人でモルボル喰わせてやんなきゃな。
確か、セッツァーのダチの墓場近くに群生地があるって……」
ロックが妙なことを呟いているが黙殺し、私はクリムトとギードを見る。
ピサロが遺していった魔法文字は、視力を失ったクリムトでも読み取れたが、
置かれている各種資料となるとそうはいかない。
筆談も、クリムトが書く分には問題ないのだが、こちらの言葉を伝えることは難しかった。
幸い、ピサロ同様魔力で文字が書けるギードがいたため、
彼を通して、盗聴の危険等は説明できたが。
「やはり機械に関する資料は少ないのう……」
ぼやきながら、ギードが本を選り分けている。
この隠されたエリアは『進化の秘法』の研究棟だったらしいが、
錬金術以外にも多少、時空間に関する魔術書や異世界の文献が残っていた。
ピサロが遺した魔法陣は、ちらと見た限り、欠損している箇所がある。
が、城の資料とクリムトの知識があれば、再度完成に至るかもしれない。
問題は、首輪。
魔力を消す方法については、我々にも天空の剣やディスペルといった心当たりがあるが、
機械部分に関する知識が圧倒的に不足している。
歴史において、勇者ソロと魔王デスピサロが戦った時代は、
キラーマシンの類が存在しない為に、機械文明から最も遠ざかった時期と思われがちだ。
しかし実際には、キラーマジンガの汎用型であるキラーマシン2を解析して
後のキラーマシンの原型を作る動きが始まっていた。
故にギードの手元には、数冊の本が置かれている。
機械知識に関わる書物――だが、それが首輪解除に役立つかどうかは未知数。
過剰でなくとも、期待は出来そうにない。
「ふむ……だいたいわかった」
唐突にクリムトが呟いた。
「紙とペンを」という彼の要請に、ロックが慌てて机から取り出し、受け渡す。
さらさらと手早くしたためる様子は、彼が盲目であることを微塵も感じさせない。
待つこと数分。
私とロック、そして手をとめたギードは、差し出された紙を覗き込んだ。
『この大地に造られる旅の扉は、下へ伸びる振り子のような構造をしている。
そして壁の魔法陣は二種類の魔法陣が組み合わさって出来ている。
一つは、旅の扉に過剰な魔力を注ぐことで、振り子の紐の部分を際限なく伸ばす為のもの。
もう一つは、伸ばした紐に魔女の魔力を辿らせる為のもの。
故に、それぞれの魔法陣を起動させる者二名と、二つの魔法陣を同調させる者一名の協力が必要だ。
しかし、この魔法陣は一部が不足しているようだ。
また、起動させる為の呪文も不完全にしか記されていない。
それらを再構築し、あと一人、信頼できる術者の協力が得られれば、脱出が可能となるだろう』
「……じいさんとギードで二人ってことか。
じゃあ、ピサロが戻ってくれば、イケるかもしれないってことか?!」
ロックの言葉に、クリムトが頷く。
ただし、その指先は『再構築』という単語を指示していた。
ロックもそれに気づき、困ったように腕を組む。
「ギード、これって難しいのか?」
「うむ……手がかりが十分にあるとはいえども、
基本的には一から作り直さなければならんということじゃ。
恐らく数時間は必要じゃし、実際に試すには、もっと時間が必要じゃ」
遠回しな言い方だったが、幸いロックにも通じたようだ。
「どうやっても朝までかかるってわけか」
彼はやれやれと肩をすくめ、壁に光る文字を見つめた。
「そういうことじゃ。
……しかし、先にこちらの研究を完成させるのも、悪くないかもしれん」
ギードがぼそりと言った。
この情報を残したピサロは、少なくとも昼の時点でまだ生きている。
それは脱出にここまで近づいても尚、魔女側が干渉することはないという証明。
そして、その傲慢ともいえる油断は、首輪という抑止力があるからに他ならない。
首輪を外してから、脱出路を探ろうとすれば、魔女側も本格的に攻勢に出るはずだ。
ならば、先に脱出路を確保してしまった方がいいかもしれない。
ギードがクリムトの傍へ行くのを見やりながら、ロックがため息をつく。
「はーあ、早く戻って来いってんだよ、ピサロ達もティーダ達もよ……」
祈りにも似た言葉は、虚空に溶けて、消えた。
【プサン(左肩銃創) 所持品:錬金釜、隼の剣、メモ数枚
第一行動方針:脱出方法と首輪の研究
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP2/5ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:脱出方法と首輪の研究
第二行動方針:アーヴァインが心配/ルカと合流】
【クリムト(失明、HP2/5、MP2/5) 所持品:なし
第一行動方針:脱出方法を研究
第二行動方針:首輪の研究
基本行動方針:誰も殺さない
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
デスキャッスルの見取り図
第一行動方針:ギード達の研究の護衛
第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデを警戒
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:デスキャッスル内部・隠し通路内部の一室】
361 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/11(金) 17:23:18.19 ID:6dMpFzNyI
あと一人はザンデだな
「ようこそ、スコール。歓迎してやるぜ」
眼前には、椅子に腰かけたアルガスの姿。
しかし奇妙な事に、左目の包帯がなくなり、黒い(どう見ても女性用の)上着も着ていない。
いや、それよりも、ここはどこだ?
重厚な木製の家具をふんだんに配置した、決して狭くない部屋は、映画に出てくる中世貴族のソレを連想させる。
「驚いたか? ここが俺の世界だ。
夢とは思えないだろ?」
「夢?」
「そうさ。ウネって婆さんから受け継いだ『鍵』の力でな。
こうやって夢の空間を作ったり、他人の夢を覗き見たり、
現実のものを夢の世界に持ち込んだりできるんだ」
アルガスが机を叩く。
途端に、真っ白なカップとソーサーが二客現れ、宙に浮かんだポットが一人でに茶を注いだ。
まるで魔法を見ているようだ。
この男、こんな真似ができたのか……だからずっと眠っていたのか?
『試したいことがあるから手を握っていてくれないか』などと妙な事を言ってきたのも、この為だったのか?
困惑する俺を余所に、夢の主はカップを手に、高らかに告げる。
「さて、スコール=レオンハート!
お前は首輪を外すって快挙を成し遂げた!
実績を残したって時点でアマちゃんどもとは一線を画す、真の実力者って奴だッ!」
彼なりの賞賛なのだろうが、嬉しいとは思わないし、思えない。
首輪の研究を行ったのはエドガーで、実際に解除したのはリュックとアーヴァイン、
情報を運んできたのはリルムで、全てを揃えたこの状況を作ったのは、目の前にいるアルガス自身だ。
俺でなくても――例えば俺の代わりにサイファーが残っていたとしても、この結果には辿りつけただろう。
「故に俺は、お前を精神的貴族と認めようッ!
お前は、俺と同等に、生き残る価値がある!
それを成し遂げるだけの実力があるッ!」
……馬鹿馬鹿しい。
『生き残る』事に『価値』なんてものは関係ない。
俺もアルガスも、ただ、運が良かっただけだ。
たまたま死ななかった、たまたま生き延びた、それだけの話。
それに、逆説的に、死んだ人間に価値が無いと思っているからこそこんなセリフが吐けるのだろうが、
俺達が首輪を外せた背景には、【闇】……即ち、犠牲者の絶望や無念がある。
言うなれば、俺達の自由は、他人に手を汚させて、たくさんの人間を死なせた果てに得た自由だ。
それを口にしようとする前に、アルガスが言葉を続けた。
「さて、スコール。俺達はもはや、魔女の手で踊る駒じゃない。
殺し合いなど誰が進めるか。誰が魔女の思い通りになど動くものかッ!
生き残る価値があるということは、生きてなさねばならぬことがあるという事ッ!
その為に万全を尽くし、責務を果たし、結果を残してこそ、真の貴族、真の貴種というものだッ!
違うかッ?!」
……。
予想外にまともな発言だった。
無論、俺の関心を得るための演技である可能性も否めない。
しかし、サイファーの話や、祠での様子を聞く限り、
この男は誰に対しても歯に衣着せぬ言動を取っていたようだ。
そんなヤツが、今さら態度を取り繕うものだろうか。
そこまで考えた俺の頭に、二つの単語が引っかかる。
『貴族』『貴種』
――俺の時代では既に失われた身分階級と概念に、ようやく、『文化の差』というものを理解する。
生まれによる区別、貴族と平民、血筋の貴賤。
身分階級が当たり前に存在した貴族制社会の思考が、アルガスにとっては『真っ当な道徳規範』なのだ。
価値観そのものが違う相手に、『命の価値に差などない』と言っても通じるわけがない。
サイファーが毛嫌いした理由を悟ると同時に、俺は小さくため息をついた。
選民思想というのは好きではないが、こういう奴だと割り切って接するしかない。
「……いや、違わない。
生きるために、生きて未来を作るために力を尽くす事は、俺達の義務だ」
俺は、わざとそう答えた。
大層なことを言ってはいるが、アルガスの能力と性格から考えて、
自分で魔女を倒そうなどとは微塵も思っていないだろう。
こいつの望みは、あくまで『自分が生きる事』。
だから悪意と殺意を持って接してきたアーヴァインに対し、過剰に怯えたのだ。
だからユウナの情報を、喋れば殺されると理解しているにも関わらず、全員に話すという手段を取ったのだ。
無論、それ自体は悪い事ではない。
けれども、あれほど恐れている相手の脅迫に対して逆の手を打てたという事実は、
この男は状況次第で掌を返す手合いであるということを証明している。
読み違えてはいけない。
こういう奴は、自分の利益になる事ならば協力するだろう。
利益にならない事でも、気分次第で手伝ってはくれるかもしれない。
だが、一方的に不利益を被らせれば、離反という手を選んでくるだろう。
アルガスはどちらかといえば知略で立ち回るタイプのようだし、
今の状況で裏切る馬鹿もいないとは思うが――、一応、釘を刺しておく必要がある。
「今、魔女の眼を逃れているのは、恐らく俺とお前だけだ。
放送で俺達の名前が呼ばれ、かつ、俺達の前に魔女や魔女の僕が現れなければ、
事は上手く進んでいると断言できる。
次のアクションを起こすのは、最低でも、その確認が取れてからだ」
「いいだろう。急いて事を仕損じても意味がないからな」
アルガスは不敵に笑うと、注がれた茶を一口飲んだ。
それからまた、ぱちりと指を鳴らす。
「だが、ただ待つだけというのも時間の無駄だ。
今のうちに、もう一人紹介しておこう」
彼の言葉が終わるやいなや、窓が開き、紅いオウムが現れる。
くるくると宙を二度旋回し、優雅に舞い降りたその先に、いつのまにか一人の老婆が立っていた。
曲がった腰に大きな鷲鼻、携えた巨大な杖は、まるでお伽噺に出てくる魔女のようだ。
「なんだいアルガス。
入ってくるなといったり、入ってきたりと言ったり、忙しい子だね。
……おや?」
老婆は夢の主に文句をいいつつも、俺の姿に気づき、目を丸くする。
「おやおや、見慣れない若いのがいると思ったら……!
あんた達、魔女の枷を外せたのかね! 凄いじゃないか!!」
「……アルガス。この人は?」
俺の質問に、老婆自身が豪快に笑いながら答える。
「あたしゃウネっていうんだ。夢の世界の管理人さ。
現実に生きるあたしは、あの鍵を作る為に戦って死んだけれどね」
「……??」
「婆さんの戯言なんざ深く考えるな、スコール。
とりあえず、夢の中でだけ会える味方って事だけ覚えりゃいい」
アルガスが呆れたように言った。
その手が無造作に振られると、テーブルに新しいカップとクッキーの籠が現れる。
老婆は「どっこいしょ」と椅子に座るやいなや、クッキーに手を伸ばした。
正直、理解が追い付かないが、夢の世界限定で味方がいるということか。
……まあ、アルガスと二人きりで喋るよりは、精神衛生的にいいかもしれない。
「俺の時計が狂ってなければ、時刻は16時を少し過ぎた所だ。
もちろん休息は必要だろうが、情報の整理や交換を先に済ませておかないか?
お前が断片的な要素を組み合わせて首輪を外してみせたように、
俺達が握ってる情報次第では、脱出の糸口が見えてくるかもしれない」
「……わかった」
俺は頷き、肩にかけていたザックから攻略本を取り出す。
――そういえば、荷物も現実のままだ。
ということは、俺の身体は現実の世界から消えているのか?
祠にいるメンバーには『放送まではあまり近づかないように』と言ってあるが、
手紙ぐらい残しておいた方がいいかもしれない。
俺は参加者リストのページを破り、一筆したためる。
それから紙飛行機の形に折り、アルガスに渡した。
「すまないが、こいつを現実の世界に戻しておいてくれないか?」
「ん? あ、ああ、他の連中への書置きか。
ずいぶんと妙な形に折るもんだな」
「目を引かないと意味がないからな」
特にバッツは子供っぽいからこういう玩具に興味を示しそうだしな、という言葉を飲み込む。
「まあ、確かにガキっぽい奴が好きそうだな。バッツとか」
人の心を読んだかのようにアルガスは呟き、それから、書置きの紙を宙に放り投げた。
一瞬、奴が持っている鍵が輝き、紙が光に包まれて消える。
「すごいな」
俺の言葉に、アルガスが満足げに笑い、ウネが「おやまあ」とこぼした。
「本当だよ。あたしの鍵をここまで使いこなすなんて、あんた、意外と適性があったんだねえ。
人は見かけによらないって、改めて学んだよ」
「一言多いぞッ、婆さん!」
アルガスはきっと睨みつけ、仕返しのつもりなのだろうか、クッキーの籠を手元に引き寄せた。
……こいつも結構ガキっぽい所があるじゃないか。
「せっかく褒めてやったのに、心の狭い子だねぇ」
ウネはぶつくさ文句を言っていたが、ふと、俺へと振り向いた。
「そういえば、ええと、スコールだったね。
いったいどういう手段で魔女の枷を外したんだい?」
俺は端的に、首輪の構造と、アーヴァインが得た能力について説明する。
【闇】だなんだと信じてもらえるか不安だったが、そこは簡単に理解してもらえた。
むしろ、アルガス同様に電波の概念が通じない。
確認を取ってみた所、ウネもまた科学より魔法が発達した世界の住人だった。
「なるほどねえ、魔法で出来ることを機械で代用してる世界なんだね。
あたしの世界にも、古代人が作った飛空艇や、時の歯車っていう永久機関はあったけど」
……古代人? 永久機関?
アルガスの世界といい、彼女の世界といい、何で過去の方が文明が発達してるんだ?
俺の疑問を余所に、ウネはアルガスを見やる。
「それにしても、化物化物って怖がってるから心配してたら……
殺されるどころか助けてもらってるじゃないか。
あの子とスコールとティーダって子にきちんと感謝しておおきよ」
「わかってる、わかってるよッ!
ティーダってアマちゃんと、スコール様様だってことはなッ!
だがあの化物に感謝するなんざゴメンだッ! 片目と首輪でつり合いが取れるかッ!」
アルガスが左目を抑えた。
そういえば、ここにいるアルガスは包帯がないだけでなく、きちんと両目がある。
不思議に思っていると、俺の表情に気付いたのか、アルガスがふんと鼻を鳴らした。
「ああ、ここにいる俺は、夢の俺らしいからな。
夢の中でも隻眼だなんて御免だと思っていたら、治ってたんだよ」
「『夢の俺』? じゃあ、俺も『夢』なのか?」
だったら手紙を書いた意味はなかったじゃないか、と思ったが、アルガスは首を横に振る。
「いいや、お前は生身だ、スコール。
眠る前、『試したいことがある』って断っただろ?
道具を持ち込めるのはわかっていたが、人を持ち込んだことはなかったからな」
「じゃあ、あんたはなんで『夢』なんだ?」
「さあな、『俺が見てる夢』に『現実の俺自身』が入るのは無理なんだろうよ。
試してみたけど、上手くいかなかった」
アルガスがウネの方を見る。
ウネはくっくっと笑いながら、「そりゃあそうさ」と言った。
「自分のしっぽをかじる蛇はいるかもしれないが、頭まで飲み込める奴がいるもんかね。
夢と現実を完全に分離できれば話は別だろうけど、そんなのは神の領域さ。
あたしにだって出来ないよ」
わかるようでわからないような理論だが、二人がこう言っている以上は不可能なのだろう。
しかし、それだと――
「……例えば、だ。
俺がここにいる状態で、現実のアルガスが殺されたらどうなるんだ?
この世界に閉じ込められるのか?」
「おい、縁起でもないことをッ……!!」
抗議の声を上げるアルガスを無視し、ウネが答える。
「多分、夢の主が目覚めた時と同じじゃないかい?
夢からはじき出されて、現実に戻るだけさね」
「つまり、俺の場合、アルガスの傍に戻るということか?」
「実際に試した事はないから、断言はできないけどね」
そう言って、ウネは茶を啜った。
肩に止まっていたオウムがふわりと飛び立ったかと思うと、籠の中身を一枚、器用に掴んで舞い戻る。
ウネは涼しい顔をしてクッキーを受け取ると、一口で食べてしまった。
「変な味だとかなんとか言っておいて……食い意地のはった婆さんだなッ」
呆れ顔で呟くアルガスに、ウネが不意に顔を上げる。
反論の一つでもするのかと思いきや、彼女は全く違う話題を上げた。
「そういえば、アルガス。
あの夢の事はどうするんだい?」
「ん? ……あ、ああ。アレか。
そうだな……スコール、お前には教えてもいいだろうな。
お前なら、良策をひねり出してくれそうな気がする」
「アレ?」
首を傾げる俺に、ウネが答える。
「ちょっと長くなるけど、説明するよ。
あたし達はね、アルガスの発案で、魔女の夢を覗いたのさ」
「――なんだって?!」
俺は反射的に立ち上がる。
その拍子に、椅子がバランスを崩し床に倒れたが、俺は気に留めることすらできなかった。
アルティミシアが眠って夢を見るのか、ということに驚いたのではない。
アルティミシアの夢、それはすなわち『魔女の目的』ではないかと考えたのだ。
そして二人の表情から、俺は自分の推測が間違っていないことを悟る。
「ああ、まったく、あんなものがあるなんてノアも教えちゃくれなかったよ。
恐ろしいったらありゃしない……」
ぶつぶつと呟き始めるウネに、アルガスが片手を差し出す。
開いた掌――静止のジェスチャーだ。
「いや、待て、婆さん。
長ったらしい話は必要なさそうだ」
そう言って、彼はもう片方の手に持っていた……いつの間にか持っていた機械を、俺達に向かって放り投げた。
がしゃん、と音を立てて机の上に転がる機械は、しかし壊れた様子もなく、何かの映像を映している。
「これは……ハンディムービーカメラ?」
アルガスの衣装(上着を除く)や言動とは、あまりにも不釣り合いな道具。
一体なぜこんなものがここにあるのか、と問う前に、事情が説明される。
「でじかめ、っていうそうだな。
本物は盗賊紛いの輩に奪われてしまっんだが、『夢』で再現できた」
……なんでも有りじゃないか。
ああ、夢だからか。夢じゃあしょうがないな。
しかしどこでデジカメなんて知ったんだ?
ああ、支給品か。
まあ、人形やモップや攻略本なんてものがあるぐらいだし、デジカメもあるか。
ところで俺には人形やらデジカメやらで人を殺す方法が思いつかないんだが、あの魔女は何を考えているんだ?
「デジタルカメラか……そんなものまで支給されてたのか」
内心の困惑を押し隠し、俺は冷静な態度を繕う。
それに気付いたのか気づいていないのか、アルガスはやれやれと肩をすくめた。
「ああ。全く、有用な情報を記録しておこうと思ったのにな。
ま、本物は止まった場面しか映せなかったが、こっちは動いてる風景も綺麗に再現できる。
『夢』だから何でもアリってことなんだろうな」
(だからそれはデジタルカメラじゃなくて、ハンディムービーカメラというんだ)
そう思ったが、口に出して訂正する気も涌いてこない。
俺は機械を手に取り、画面を見た。
ガルバディア製のデジタルカメラに良く似ているが、注視するとボタンの文字が微妙に違っている。
録画ボタンも見当たらないし、これでどうやって映像を保存するんだと思ったが、
メニュー画面には既に録画ファイルが収まっていた。
「……データが幾つか入ってるな。
『銀髪の殺人鬼』、『緑髪の化物』、『城の化物』、『魔女の夢』……
これは全部見てもいいのか?」
「ん? あ、ああ……
そりゃ、全部、機を見て話しておこうと思った情報だな」
アルガスの言葉を継ぐように、ウネが話しかける。
「夢の世界は願望の反映。
そのカラクリも、夢の主たるアルガスの願望ってことさ。
見てほしくない事は見れないようになってるはずだよ。
カナーンで起きたこととか、ね」
「カナーン?」
「余計な事をいうなよッ!」
アルガスはウネを睨みながら、大声で怒鳴りつけた。
……やっぱりこいつ、完全に信用していい性質の人間でもないな。
主にアーヴァインの本心を試す為だったとはいえ、少し早まったかと思いながら、俺はデータを順に再生し始めた。
一つ目。銀髪の男二人組の行動が映された。
……なるほど、隙がない。この二人、どちらも相当強いだろう。
参加者リストと攻略本で確認を取ったが、セフィロスとクジャ、というようだ。
セフィロスと言えば、サイファーが倒したがっていた男だった。
『あの』サイファーが、『倒すために仲間を集める』という判断を下しただけのことはある。
上手く味方に引き込めれば、対アルティミシア戦の主戦力となってくれそうだが……
サラマンダーのように勝利に執着するタイプの人間、ということも考えられる。
最悪の事態を考えて、対策を立てた方が良さそうだ。
二つ目。ヘンリーに良く似た男が、女を殺している場面が映された。
恐らくはこれがヘンリーの弟、デールなのだろう。
拷問の映像や写真はガーデンで見たこともあったが、ここまで気分が悪くなるモノは無かった。
アルガスがヘンリーを見て錯乱した理由が良くわかる。
しかし、攻略本に書かれている情報は、この光景とは真逆の人物像のみ。
また、冒頭に収まっていた被害者となる女性との会話や、
腹違いとはいえ身内であるヘンリーの性格や態度からしても、本来は心優しい人物だったろうと推測できる。
だが……この男、デールは、ヘンリーの言っていた通りマシンガンを携え、虐殺を行っている……
やはり彼こそがリノアを殺した張本人なのだろうか?
俺の心にさざ波が立つのがわかる。この男は既に死んでいるというのに。
三つ目。アーヴァインが映った。
主観視点で少しわかりにくいが、アルガスが言っていた通りに目玉を抉り、脅しつけている。
頼み事の真相は、俺の推測通り。
それにしても、こいつはこんな屈託のない笑顔で他人を傷つけられるような男だったか?
俺はデールと似た印象を覚え、同時に、アルガスも二人を共に化物と評していた事を思い出す。
この異常なまでの威圧感と、正気にしか見えない狂気は、やはり、黒い靄――【闇】が、元凶なのだろうか。
だとすれば、朝の時点でユウナに靄を見たというならば、彼女は相当危険な状態ではないのか。
祠を発つリュックとアーヴァインの姿が脳裏を過ぎる。
二人の無事を祈りながら、俺は、四つ目の動画を再生した。
―――。
頭が痛い。
それが、最後の映像を見た、最初の感想。
謎の男、別の殺し合い、幼少期のアルティミシア。
どう見ても年を取ったセルフィとしか思えない女と、不思議な既視感を覚える青髪の男。
そして、紛れもない【闇】を纏った黒いクリスタル。
「……わけがわからないな」
二言目の感想を漏らしながら、俺は夢のムービーカメラをアルガスへ返した。
「とりあえず、俺が今の段階で言える事は、二つある。
一つは、あの魔女を倒さないといけないということ。
もう一つは、クリスタルを壊さないとまずいだろうということだ」
「ああ、同意見だよスコール。
そんなことは俺だって思ったぜ」
中身を飲み干したカップを叩き付けながら、アルガスは吠える。
「だが、どうやってだ?
そこを考えなきゃ意味がないッ!
せっかく三人に増えたんだ! せっかく魔女の眼を逃れたんだッ!
何度でも言うぞッ! そこを考えなきゃ意味がないッ!!」
じゃああんたには案があるのか、と言いたくなったが、ぐっとこらえる。
口論をしてもしょうがない。
幸い、俺には【闇】に関する情報と、攻略本がある。
「そうだな。そこは全員で一緒に考えよう。
あんなクリスタルは俺の知識の範囲にはないが、
【闇】の性質や、この本の情報を合わせれば、見えてくるものがあるかもしれない。
あるいはあんた達の世界に似たような道具や伝説があれば、そこから糸口が掴めるかもしれない」
俺はそこまで答えてから、「しかし」と話を切った。
「だが、アルガス、ウネ。
俺達には、先にやっておかなくてはいけないことがある」
「……フン、もったいぶらなくてもわかってるさ。
脱出路のことだろう?」
アルガスが不満げに顔を歪める。
「重要だが、それは急ぎじゃない。
アー……アイツの話じゃ、ソロの仲間のピサロって男が調べていたらしい。
相当な魔力の持ち主が数人、必要だということだ。
だが、それはピサロ本人が戻ってくるなり、
城に留まった連中とリュック達が接触するなりできれば、どうにかなる公算が高い」
そもそも一度は成功したらしいからな、と心の中で付け加えて、俺は言葉を継ぐ。
「だから、誰かしら祠に来るまで、後回しにしてもいいだろう」
「じゃあなんだよッ。仲間の選別か?」
「それもリュック達に任せた。
城にいなくても、信用に足る人物なら、追い込むなり騙すなりしてこちらに来させるよう頼んである」
「あんな、カモメがどうこう言ってる能天気な女が、カインみたいな奴に騙されないですむのか?」
「……思い出したくないのはわかるが、リュックと同行してるのは誰か、考えろ」
ため息交じりの俺の言葉に、嘲笑を浮かべていたアルガスの顔がこわばる。
手から滑ったカップが、カチン、と音を立ててソーサーの上に収まった。
「【闇】が見えて、かつ、カインだのケフカだのの情報を握ってる。
リュックがどれほど天然だとしても、今のアイツの眼を誤魔化せる奴はそう多くないだろう」
……そして何より、今のアイツは、冷酷だ。
冷静とは言い難いが、この状況で何が一番重要かは、きちんと理解している。
だから筆談でサラマンダーの情報を渡したとき、アイツはいつものように笑いながら、こう書いたのだ。
『わかったよ。それは僕の仕事だから、スコールは気にしなくていいよ』と。
アルガスは『仲間の選別』といった。
その通りだ。
脱出計画を完遂するために最も重要なポイントは、『信用できる参加者だけを残す』こと。
過去を問う気はない。ただ、魔女を倒すという意思がなくてはいけない。
仲間を信じ、協力してくれる者でなくてはいけない。
魔女に従う者、殺し合いそのものが目的の者、裏切る過程を楽しむ者……そういう連中は、邪魔だ。
仲間に加えようなどと甘い事を考えた所で、背中から切られるだけだ。
そして、この手の輩を放置すれば、いざ脱出という大詰めの段階で邪魔をされかねない。
そうなってしまってはマズい。致命的だ。
だから<俺はサラマンダーの情報を渡した>。
だから<アイツは気にしなくていいと答えた>。
……最低にも程がある。
だが、俺自身が迂闊に動けなくなる以上、アイツ以外の誰にも頼めなかった。
あれほど凶行を止めたいと追い続けていた相手に。
記憶を失って改心して、仲間を失って歪んで、友達を失って悲しんでる奴に、
更にその手を汚してくれと、頼むしかなかった。
『仲間』であることを望んだ相手に、そこまで強いたのだ。
俺がすべきことは、『信用できる参加者全員を生還させること』。
その為に、最初に着手しなければいけない事は、一つ。
「今の状況で真っ先に考えなければいけない事――
それは、やはり、『首輪の解除』だ。
祠にいるメンバーのうち、誰から、どうやって外していくかだ」
俺の手にはまだ、痺れが残っている。
こいつがもう少し信用できる奴ならば、首輪の分解手段を教えて、代行させてもよかった。
だが、アルガスではダメだ。
頭は悪くないし、状況の適応も早いが、他人の命を背負う覚悟なんて持っていない。
失敗したら相手の首が飛ぶというプレッシャーに勝てる、強い精神力があるとは思えない。
こいつに手伝わせるならば、別の事だ。
「首輪の解除に際しては『死』を演出する必要がある。
しかし残りのメンバーで、『自然死』が不自然でない程度の重傷を負っているのはマッシュだけだ。
他のメンバーに適用できる『死』の理由と、状況を考えておかなければならない」
リルムがエリクサーを持っているにも関わらず、マッシュに使えない理由がそれだ。
あれほどの重症なら死んでもおかしくないと、主催者側に誤認させることができるからだ。
近くに殺人者となりうる人間がいない以上、そういう状況でなければ首輪は外せない。
「そして、最大のネックが、俺達には『別行動中の仲間がいる』ということだ。
ヘンリーが上手く誘導して、全員をこの祠まで連れ戻せればいい。
だが、状況次第では、留まるという判断を下されることも十分考えられる。
その場合、仲間が次々と死ぬ状況を作ってしまうと、次々回の放送時に分裂を引き起こす可能性がある」
「ああ、なるほどねえ。
放送だけを聞いてりゃ、身内にいる裏切り者に殺されてるようにしか見えないってわけかい」
ウネの言葉に、俺は「その通りだ」と頷く。
「無関係な奴の侵入を防ぐためには、どうしたって仲間の誰かを残す必要がある。
勘違いで『生き残っている仲間』を殺してしまう、
これが一番痛い、起こしてはならない状況だ。
だからと言って、下手に生存を教えてしまうと、今度はアルティミシア側にバレる危険が出てくる」
一番簡単で理想的な手段は、何らかの暗号で生存を伝達すること。
しかし、ガーデンで使っているような暗号はアルティミシアだって知っているだろう。
だからこそ考えなければいけない。
サイファーとソロ、あるいはロザリーに疑念を抱かせず、
かつ、無事に仲間が『死んでいく』状況を造らねばならない。
そんな面倒な計画を、堂々と声に出して相談し、組み立てられるのは、俺達だけなのだ。
「『仲間達の首輪を無事に解除させる』、それが、俺達の責務だ。
失敗は許されない。生きて未来を作るために、成し遂げなければならない――」
全ては生きる為に。
魔女を倒し、未来を生きる為に。
仲間達に未来を示す為に――俺は、俺の責務を果たす。
【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:休憩しつつ、夢世界にて首輪解除の作戦会議
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠(最深部の部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ、首輪解除)
所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:夢世界にて首輪解除の作戦会議
第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界】
※アルガスが起きるか死んだ場合、スコールは南東の祠:最深部の部屋に戻ります
投下乙
とりあえず首輪の解除法は確立出来たものの、まだまだ問題は山積みだな
久々に来たら何この投下ラッシュw
書き手さん方GJ
首輪の構造とかよく思い付いたなー
闇の世界南西の祠。
ここはかつて、リレミトとモシャスの呪法を掛け合わせたからくり人形と、
進化の秘法により力を得た魔族・ギガデーモンにより守護されていた場所である。
しかし、今やこの場に残されているのは、魔力を失い動きを止めた人形のみ。
エルフの少女とソルジャー1stの青年が、簡単に最深部に辿りつけたのも当然の事だった。
「うーん……」
困惑の声が静寂を破る。
続くであろう言葉を予測したロザリーの眼に、落胆の色が滲む。
「こっちのメモはさっぱりわからねーわ。
機械の方も、使い方は分かったけど、『仕組み』ってなると難しいな。
分解しようにも工具がないし、組み立て直す自身もないし…」
ザックスは後頭部に手を当て、髪を梳くように肌を掻いた。
彼の手元にあるのは、ウィークメーカーとザンデのメモ。
魔法の領域まで踏み込んだ科学と、魔王の領域に達した者達が生み出した魔術の産物である。
いかに優秀なソルジャーといえども、解析できるような代物ではなかった。
「あの二人が戻ってきたら、一回、城に戻る事も考えた方がいいかもな。
機械も、こっちのメモも、俺には無理だ」
「そう……ですか……」
肩を落とす少女に、青年はあえて晴れやかな笑みを作る。
「でもな、ロザリーには悪いけど、少し安心できたぜ。
そんなことを実行した上、まだ諦めてない奴がいるってのは」
表情こそ作り物なれど、その言葉はザックスの本心だった。
かつての同行者であり今は亡きエドガーとデッシュ、彼ら以外にも脱出を試みた者がいる。
魔女に屈することなく努力を重ね、結果を出したものがいる。
友と認めた仲間達の死に触れ続けたザックスにとって、
魔王が遺したメモと機械は、煌々と未来を照らす希望の灯に他ならなかった。
そして、彼らの意思を守り続けたロザリーも――
「疲れただろ? 少し、寝ときなよ。
見張りは俺に任せてさ。
安心しろ。そのメモがわかる奴も、恋人も、一緒に探してやるさ」
ザックスは既に決めていた。この先も、ロザリーを守り続けることを。
無論、タバサへの憎しみが薄れたわけではない。
けれども彼は、敵討ちよりも優先すべきことがあると理解していた。
これ以上、希望を絶やしてはならないと感じていた。
「……すみません」
ロザリーは俯いたまま、消え入りそうな声で呟く。
転がる涙が、ひときわ紅く輝いた、その時――
「ロォザリィイイイイイーーーーーーー!!!!」
魔物の雄叫びすら霞むほどの大音声が、空気をびりびりと震わせた。
怯える少女と、身構え立ち上がる青年に、雪崩に似た足音が近づいてくる。
やがて、声の主は、弾丸のように姿を現した。
「ロザリーーーーー!!! 無事かッ!!!??
居るなら返事をしろッ!!!」
見る影もなく破れ、血と泥で汚れた、元は純白のコートが翻る。
破邪の剣を構えた金髪の青年は、ロザリーにとって、探し人の次に案じていた人物だった。
「サ、サイファーさん!?」
「サイファー?
……えっと、カナーンで、一緒にいたっていう?」
喜びの表情を浮かべるロザリーに、ザックスは相手の事を思い出し、剣を下げる。
「……お前、確かザックスだったな」
「ああ、あの時はまともな自己紹介もできなくて悪かったな」
にかっと笑う青年に、サイファーはようやく落ち着きを取り戻したようだった。
抜き身の剣を肩に担ぎ、荒れた息を整える。
けれどもザックスは表情とは裏腹に、警戒を崩さない。
別の足音が近づいてくる事に気付いていたからだ。
「ところで、上から走ってくる奴は、あんたのトモダチかい?」
「ん? ああ。
ソロと、犬と、よくわからねぇナマモノがいる」
「ソロさんも?!」
「……ナマモノ?」
顔を明るくするロザリーと、首を傾げるザックスを余所に、件の同行者が声を上げる。
「ロザリーさん!!」
「ワンワン」「……カー」
天空の勇者たる緑髪の青年、尻尾のない犬、そして、緑色のカッパ。
奇妙な一行に、ザックスとロザリーは、揃って目を丸くした。
「カーカー」「ワンワン」
二つの鳴き声を余所に、三人の青年と一人の少女は言葉を交わす。
「ロザリー、怪我はねぇか?」
「は、はい。ザックス様のお蔭で、私は……
でも……テリー君が……」
「わかってる。俺も見つけた。
……お前だけでも、無事で、良かった」
「えっと、ザックスさんでしたね。有難うございます」
「いや、俺は大したことはしてないぜ。
結局、襲ってきた男も逃しちまったしな……」
少年の死に様を思い出したのか、青年は表情を曇らせる。
無力さを嘆き俯いた、その視線の先には、彼の心情を気に留めず語らいあう二匹の姿。
「……そういや、あれ、あんたらのペットか?」
ザックスの言葉に、カッパは顔を上げ、呆れたように「カー」と鳴く。
『誰がペットだ』と文句を言っているようだ。
サイファーは剣で肩を叩きながら、不機嫌そうな表情で答えた。
「犬の方は、俺の知り合いの飼い犬だ。
ナマモノの方は知らん。変な魔法をかけられた参加者らしいがな」
「参加者、ねえ……この目つき、どっかで見た気がするなあ」
ザックスはしゃがみこみ、カッパの眼を覗き込む。
けれどもカッパは、即座に顔を背け、そのまま壁際へと逃げてしまった。
「気のせいか……な、うん」
ザックスは頬を掻き、微妙な既視感を胸の奥底にしまい込む。
その横で、ロザリーが意を決したように、サイファーを見上げた。
「あ、あの……ティーダ様とユウナ様は?
えっと、金髪の剣士様と、変わった服を着た女性なのですけれども、お会いしませんでしたか?」
希望と期待を込めた声に、サイファーの胸がチクリと痛む。
ロマンの欠片も無い現実に幾ばくかの憎しみを覚えながら、彼は、静かに告げた。
「………ロザリー。落ち着いて聞け。
ティーダってヤツは死んだ」
「「……えっ?」」
予想だにしなかった言葉に、ロザリーもザックスも息を詰まらせる。
サイファーは苦々しく、しかし淡々と言葉を続ける。
「……誰に殺されたかはわからねぇ。
死体だけ見つけたんで、荷物だけ持ってきてやった」
そう言って、彼はザックから青い剣を取り出す。
見覚えのあるその武器に、ロザリーは両手で顔を覆った。
「な、なあ、ユウナって子は無事なのか!?
あの子、寝てるアイツが起きるまで、近くにいるって……!!」
焦りを多分に含んだザックスの問いかけに、サイファーは押し黙る。
何をどう伝えればいいのか測りかねている同行者に気付いたソロは、代わりに告げた。
「……わかりません。
僕達が見たのは、ティーダの亡骸と、埋葬されたテリー君だけです。
ただ………」
「ただ?」
「……いえ、なんでもありません」
ソロは、そう言って会話を打ち切った。
彼もサイファー同様、真偽もわからない事柄を話すべきかどうか、決断できなかったのだ。
けれども、状況は流転する。今、この瞬間にも――
『――サイファー! ソロ!
そこにいるのか!? おーい!!』
ソロが持ち続けていたひそひ草から、男の声が響き渡る。
一昨日からずっと聞いていた、やたらとよく通る、温かい声が。
「ヘンリーさん!?
無事だったんですか!?」
呆気にとられるザックスとロザリーを余所に、ソロは草に呼びかける。
折らぬように、けれども祈りを込めて握りしめた手の間から、安堵の息が漏れ聞こえた。
『ソロ! 良かった、お前は無事だったか……!
サイファー、お前もそこにいるか?! 二人とも大丈夫か?!』
けれども、不安に駆られた声は、次第に絶望と混乱の色を帯びてくる。
『襲われたりしてないか!? なあ、大丈夫か?!
こっちは……! くそっ、大変なことに……!
すまない、俺がもっとしっかりしていれば……!』
震える言葉に苛立ちを覚えたのか、サイファーがソロの手からひそひ草をひったくる。
「そんなことはわかってんだよッ!!
テメェ、何やってたんだ!? 何であのクソ野郎を止めなかった!!」
怒りに満ちた咆哮に、ロザリーが目をつぶり、男二人も耳を抑える、
しかしその大声が、却ってヘンリーの混乱を吹き飛ばしたようだった。
『……ちょっと待て、サイファー
クソ野郎って誰だ? このひそひ草、誰かが使ったのか?』
「ガルバディアのキチガイ野郎に決まってんだろ!!」
サイファーの言葉は不親切極まりないものであったが、幸いにしてヘンリーは国名を聞いた事があった。
『ガルバディア……ってことは』
その単語が指し示す人物を思い出しているヘンリーの後ろから、甲高い声が響く。
『キチガイ野郎って誰だよ! うひょひょヤローか?!』
『リルム、お前は黙っててくれ!
それじゃなくても、おじさんだって一杯一杯なんだよ!』
『えーと、リュックの故郷だっけ?』
『バッツも口を挟むな! あとお前、あとでリュックに殴られとけ!』
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声達に、ソロは妙な安心を覚えた。
ヘンリーもリルムもバッツも生きている。
ならば、先の言葉は妄言に過ぎなかったのではないか?
そんな甘い思考、あるいは願望が、勇者の心に生まれていた。
けれども、もう一人の青年は違った。
「どいつもこいつも……!
アーヴァインの奴に決まってるだろうがよッ!!」
知人ではあれど、サイファーはアーヴァインと仲が良かったわけではない。
同じ孤児院にいただけの間柄で、今はスコールの仲間で、リノアに良く蹴られている軟派な男。
それがサイファーが抱いている印象で、故に、同情の視点など持つはずもない。
しかし彼の心境など知る由もないソロは、声を荒げるサイファーの肩に手を置いた。
「サイファー……少し落ち着こう。
……ヘンリーさん。そっちで何があったんですか?
みんなは無事なんですか?」
『……俺と、バッツと、リルムと、マッシュは、無事だ。
俺もだが、全員、気が付いたら寝てた。
魔法で回復してもらうつもりで、指輪を外してたのが、裏目に出ちまったみたいだ』
ヘンリーの声が沈んでいく。
後ろで騒いでいる二つの声が、急に、静かになった。
『それで、いないのが、リュックとアーヴァイン。
死んでるのが……スコールとアルガス。
スコールは背中から刺されてて、アルガスは銃で撃たれてる』
冷静であることを務めようとしたのだろう。
ヘンリーは抑揚のない声で、淡々と告げた。
サイファーは反射的に拳を振り上げ、けれども殴る対象を見つけることもできないまま、
怒りを言葉に変えて、ひそひ草にぶつける。
「どんだけ油断してりゃそんな醜態晒せるんだ!?
有りえねぇ、あの野郎がそんな簡単にくたばるなんざ有りえねぇ!!」
騒ぎ立てる彼に対し、ヘンリーはただ謝るばかり。
『すまん……詳しい状況まではわからないんだ。
アイツの監視をしてたのはリュックと……いや、そんなことを言っても仕方がないか。
全ては俺のミスだ。……すまん』
『違う、俺のせいだ!』
ヘンリーの後ろからバッツが叫ぶ。
『二人だけで大丈夫なんて思わないで、俺も監視してりゃよかったんだ!
謝ってどうにかなるもんじゃないけど……本当に、ごめん!』
「本当にどうにもなんねぇよ! クソッ!!」
「サイファー!!」
慌てるソロに、サイファーはひそひ草を手渡した。
それから苛立ちをぶつけるように、床を蹴りつけた。
ひそひ草が、バッツらしからぬ暗く沈んだ声を伝える。
『……後で、幾らでも殴ってくれ。お前の気が済むまで、ボッコボコにしてくれていい』
『俺もバッツと同感だ。覚悟しておくよ
でも、確認しとかなきゃいけないことが先にある。
アーヴァインがこのひそひ草を使って、何をしたのかだ』
ヘンリーの言葉に、ソロが息を飲む。
一度は改心したはずの青年の、狂気に満ちた哄笑を思い出したのだ。
『サイファーの口ぶりからして、自分でスコールを殺したって自白したようだが……
それに、リュックがいなくなってるけど、彼女があいつと共犯だとも思えないし……
……わからない事が多すぎて、事態が呑み込めないんだ。
だから、情報を整理するためにも、何があったのか教えてくれ。頼む』
ソロはサイファーと、やはり状況を把握しきれていないだろうロザリー達に目を向ける。
サイファーが頷いたのを確認してから、彼はひそひ草に向かって告げた。
「僕から話します。といっても、理解が追い付いてない部分もありますが…
念の為、二人も聞いておいてください」
南東の祠。
かつて、主君たるピサロとロザリーへの忠義に生きた魔竜・アンドレアルが守りし場所には、
魔女への反旗を志す者達六名が座していた。
彼らのリーダーであるスコールは、アルガスともども首輪の解除に成功したが、
魔女の眼をくらます対価として、『自らの死』を偽装せねばならなかった。
行動を制限されたスコールに代わり、ひそひ草を手にしたヘンリーは、ため息をつく。
リュカと別れてから数年、国政に生きた彼といえども、此度の駆け引きを成功させる自信はなかった。
何せ騙す相手は、波乱の二日間を共に生き抜いた友人同然の仲間なのだ。
けれども、やり遂げなければいけない。
失敗すれば、無用な血を流すだけでなく、希望の灯の一つを消してしまう。
スコールが突き止めた、首輪を外す際に必要な技術は、『分解技能』と『電場妨害』の二つ。
その持ち主は、それぞれリュックとスコール、アーヴァインとバッツのみ。
二人いるのだから、片方が死んでも問題はないと考える者もいるかもしれない。
だが、ヘンリーはそうは思わない。
この世界では人は簡単に死ぬ。
実力及ばずに死ぬ事もあれば、予想外の事態に巻き込まれて死ぬ事もある。
一人が死んでも大丈夫などという甘い考えは、いずれ必ず、もう一人の死をも招く。
それに……
アーヴァインは裏切り者だった。他人の眼を抉り脅しつける男だった。
あまつさえ、ヘンリーの親友であるリュカの娘を無用に謗り、撃ち殺した張本人でもある。
故に、ヘンリーは彼を信用するに値しない人間だと考えた。
一時期正気と記憶を失った為に同情を寄せたけれども、
かの青年の本質は、やはり冷酷無情な殺人者なのだと思っていた。
けれども、彼はリュックと共に、首輪の解除を成し遂げた。
スコールの生存を隠し通す為に、知人の恨みを買う事を承知で狂気の殺人者を演じてみせた。
それらの事実は、彼が、他人の為に戦うことも出来る人間だということを示している。
そんな人間を切り捨てることが正しいのか?
――否。
救える相手を見捨てて殺す等という選択肢は、有り得ない。
それが、彼が至った結論だった。
ヘンリーは手元に視線を移す。
そこにあるのは、首輪解除の中心となった三人が筆談に使った紙と、スコールが纏めた計画の概要。
字の汚さ等で読み辛い箇所はあったが、理解に苦しむようなことはなかった。
スコール達が立てた計画はこうだ。
まず、【アーヴァインが挑発し、ユウナの危険性をさりげなく知らせつつ南西の祠へ急がせる】。
これで主催者の意識をアーヴァインとサイファーに引き付けると同時に、ロザリーを確保させる。
ティーダの死亡状況的に、ユウナとロザリーが同行している可能性はさほど高くないだろうが、
それでも後から合流したり、道中で待ち伏せをしているケースも考えられる。
だからユウナの件を伝えた。
彼女が殺し合いに乗っている事が頭の片隅にでも入っていれば、
GFケルベロスで不意打ちを防げる以上、サイファーが遅れをとる事は、ほぼ有り得ない。
次に、【アーヴァインとリュックをデスキャッスルに向かわせて】、
【出来れば道中ピサロとターニアを回収しつつ、城に残っている四人に首輪解除方法を伝える】。
二人の同行を認めたのは、ユウナの件もあるが、首輪解除を実演できるという点が強い。
どんなに疑り深くとも、実際に首輪を外されれば、こちらの言い分を信用するはずだ。
もしもピサロ達と合流できず、かつ脱出ルートの研究が進んでいなければ、それ以上のアクションは起こさない。
せいぜい南東の祠の事と、ピサロの書置きに気付いてなかったのならその存在を教えるだけだ。
逆に、脱出ルートが確立できていたなら、全員で芝居を打つ。
つまり、【発狂した殺人者の襲撃を受けたので拠点を放棄し、南東の祠まで逃げてこさせる】のだ。
これでアーヴァインの危険性(笑)を印象付けると共に、生存者が一点に合流する自体の不自然さを打ち消す。
この演技が上手くいけば、脱出に成功する確率はぐっと上昇するだろう。
だが、ここで問題が浮上する。
ここ、南東の祠と、サイファー達がいる南西の祠と、デスキャッスルの位置関係だ。
闇の世界の地形はシンメトリー、それぞれの祠からデスキャッスルまでの距離は完全に等しい。
そしてアーヴァインは片耳を損傷した影響で平衡感覚に障害が出ているため、さほど素早くは移動できない。
対するサイファーは、ケルベロスの能力を使えば倍速疾走が可能である。
スコール曰く、『サイファーの好戦的な性格からして、南西の祠に留まる事はまず有り得ない』とのこと。
最も付き合いの長い彼が断言するぐらいなのだから、そこは確定事項として扱うべきだ。
そしてあちらには、城内に残っている人物を把握しているロザリーがいる。
幾ら激情家のサイファーでも、かつての仲間が二人も殺人鬼になっているグループがあると知っているなら、
警告に行こうと考える可能性が高い。
そうすると、【同時刻に祠を出発し、城を目指せば、サイファーの方が先に到着してしまう】。
一応、アーヴァインには城内構造を把握しているというアドバンテージがあるが、それでも覆せるとは限らない。
もしもサイファーが先に城内の四人と接触すれば、彼らは全員アーヴァインを敵として認識するだろう。
あるいは、説明の途中でサイファー達が乱入し、なし崩しに戦闘になる事も考えられる。
そうなった場合に窮地に陥るのは、殺し合いに乗る気などハナからないアーヴァインとリュックだ。
そこで、ヘンリーとバッツとリルムに役目が回ってくる。
【ひそひ草を使って、『状況説明』という名目で時間を稼ぎつつ、サイファーの独走を阻止する】のだ。
ケルベロスのオートヘイストは、あくまで所有者にのみ効果を発揮する。
つまり、同行者が一人でもいれば、相手の歩調に足を合わせるしかない。
また、会話を上手く長引かせることが出来れば、その分だけ出発時刻を遅らせることができる。
そうすれば、先にアーヴァイン達が城に到着する確率はぐっと上昇する。
そのために置いて行かれたのがひそひ草。そのために残されたのが、ヘンリーの持つメモ。
(無茶な注文だよなあ、ホントに)
花弁の向こうから聞こえてくる状況説明を聞き流しながら、ヘンリーは心の中で呟く。
(――でも、ここが正念場なんだ。
俺達も頑張ってるんだから、恨んでくれるなよ?)
しえーん
ソロが説明を終えた時、カッパと犬以外に口を開いた者はいなかった。
それも致し方ないだろうと、天空の勇者は思う。
孤独を嫌うが故に仲間を殺す、などという不可解な言動を解せるのは狂人だけだ。
一分近い静寂の後、ひそひ草の向こうから『…あー…』とため息が漏れた。
『アルガスが怯えてた理由がわかったぜ。
思いっきり、デールと同じネジの外れ方してるじゃねーか』
ヘンリーの言葉に、ザックスが軽く反応する。
けれども、ソロは気づかず、自らが殺めた唯一の人物の姿を思い返した。
「……そう言えば……」
敬愛していたはずの兄夫婦を殺すことに執着し、壊すという語句を多用していた狂気の王。
指摘されてみると、確かにアーヴァインと彼の言動には、似通った点がある。
一方で、当のデールを良く知らないサイファーとロザリーは、不可解な表情を浮かべるばかり。
『やっぱり、リルムの言ってる事が正しいのか…?』
ヘンリーが呟いた、その後ろで、少女が騒ぐ。
『だからそーいってるでしょ、バカ!
モヤシヤローは悪いチカラに操られておかしくなってるのっ!』
『だから、さっきも言っただろ!?
いま、おじさんは大事な事を話してるから、静かにしてくれって!』
全員の脳裏に、ぷーっと頬を膨らませているであろう少女の姿と頭を抱えている男の姿が浮かぶ。
ソロは、今までとは違った意味で、遠く離れた場所にいるヘンリーを憐れんだ。
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説明を聞き終えたヘンリーは、アーヴァインの無駄な演技力の高さに感心しながら、ため息を漏らした。
「アルガスが怯えてた理由がわかったぜ……」
弟の最期を思い出しながら、ヘンリーは言葉を続ける。
動くことすらできぬはずの大怪我を負い、ソロに心臓を貫かれてなお、別れを告げるだけの時間を得たデール。
彼もまた、【闇】の犠牲者であり、人の在り様から外れてしまっていたのだろうか?
複雑な想いを抱えながら、ヘンリーはリルムを見やる。
「やっぱり、リルムの言ってる事が正しいのか…?」
ぱちりとウィンクすると、少女も同じようにウィンクし、甲高い声で騒ぎ始めた。
「だからそーいってるでしょ、バカ! 〜〜〜!」
わざと話を脱線させるのは、時間を稼ぐための小芝居だ。
だが、少し声が大きすぎたかもしれない。
「お……リ、リルム?」
部屋の隅で眠っていたはずのマッシュが、目をこすっている。
(ヤベッ……バッツ!)
ヘンリーは慌てて手を振り、マッシュに事情を説明するよう、バッツに指示を出す。
下手にマッシュに騒がれるわけにはいかない。
背筋に冷や汗が伝うのを感じながら、ヘンリーは言葉を継いだ。
「……いま、おじさんは大事な事を話してるから、静かにしてくれって!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声に呆れていたソロだったが、ふと、少女の言葉を思い返す。
「ところで……【悪いチカラ】とか【操られてる】って、どういうことです?」
『俺が説明する。リルムは、頼むから黙っててくれよ!』
ヘンリーはそう言って一旦言葉を切り、数秒後、躊躇いがちに口を開いた。
『……お前ら、【進化の秘法】って邪法について、聞いたことがあるか?』
予想もしなかった単語に、ソロとロザリーは顔を見合わせる。
「ピサロが研究していたので、多少は……でも、それが、どういう……」
「詳しくは知りませんが……ロザリーヒルの動物達に言葉を与えて下さった技術ですよね?」
「俺の世界じゃあ、映画の中の設定でも聞いたことねえな」
「俺もだ。でも、邪法って言うなら、真っ当な技術じゃないってことか?」
各々の言葉を受けて、ヘンリーがかいつまんで説明する。
『俺も古文書でしか知らないが、【闇の力】を生物に投与して、歪んだ進化を引き起こすって代物だ。
そして――リルムからの又聞きなんだが、
ピサロ曰く、この殺し合いは、件の【闇の力】を作り出してるらしい。
……と言っても、魔女の意思と魔力が混ざった不完全な代物だって話だけどよ』
「えっ……?!」
『普通に考えりゃあ、魔女の目的が【闇の力】って事なんだろうが……
どういうわけかアーヴァインの奴は、この世界にある【闇の力】を見たり、
他人に見せたりすることができるようになってた……らしい。
実際にソレを見たって言ってるのは、リルムとバッツなんだが』
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ソロの問いかけに、リルムがにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。
彼女も大した役者になれるな、と思いながら、ヘンリーは「頼むから黙っててくれよ!」と叫んだ。
ちらとマッシュの様子を見やり、説明が進んでいる事を確認してから、ひそひ草へ向きなおる。
バッツに求めるのが簡潔な説明なら、ヘンリーに求められているのは時間稼ぎだ。
いかに回りくどく、いかに手順を重ねて話を進めていくか。
数秒間の思考の末に、ヘンリーは【進化の秘法】について、逆に尋ねてみることにした。
【進化の秘法】と【闇の力】の繋がりは、アーヴァインが書き残したメモに記されていた事柄。
ただ、筆談メモの存在を主催者に悟られるわけにはいかないので、
リルムから聞いた情報以外にも、ある程度の事は元々知っていたことにするしかない。
(もちろん、ラインハットに【進化の秘法】に関する古文書などないし、
ヘンリーがそんなものを調べた事は一度もない)
そして使いもしない情報を引き出す一方で、ヘンリーは更に一つ隠し事をした。
首輪解除の要である、闇を操作する能力についてだ。
スコールと同じ世界の出身であるサイファーは、当然、電波障害について知っている。
『闇の操作が首輪解除の役に立つかもしれない』と思い至り、口外されたら?
――予想される、最悪の結果を防ぐ為に、話すわけにはいかなかった。
「バッツさんも……ですか?」
予想外の人物に、ソロは驚きを隠せなかった。
リルムはともかく、バッツがアーヴァインの味方をすることは有り得ない。
ならば真実なのかと、首を傾げるソロの耳に、二つの声が響く。
『俺もよくわからないんだが、なんか、眠らされる直前に……』
『ああ、眠らされる直前、ぼんやり光る黒い靄が見えたんだ。
なんて言えばいいのかわからないけど……すごく、嫌な感じがした』
ヘンリーの言葉をバッツ本人が引き継いだ。
陽気な彼らしからぬ平坦な口調は、恐怖を押し隠している為だろうか。
『……もうちっと具体的に言えよ』
『無理だよ。嫌な感じは、嫌な感じだ。
幽霊船の中に突っ込んだ時の悪寒を、数倍にした感じさ』
ソロもサイファーも幽霊船に足を踏み入れた事は無いが、言いたいことは理解できた。
「ひっ」と怯えるロザリーには気づかなかったのか、ヘンリーが呆れたように言う。
『……だ、そうだ。
で、こっから先はリルムの証言だけなんで、眉唾物もいい所なんだが……
アイツ、そんな能力が使えるようになった頃から自分がおかしくなってる自覚があって、
リルムと一緒に居る間正気で居られたのは、ティーダって奴がくれた薬の効果だったらしい』
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バッツが機転を利かせて、説明を中断して話に来たのはいい。
けれども、あからさまな棒読み口調に、ヘンリーは頭を抱えた。
「もうちっと具体的に言えよ」 (もうちっと上手く喋れ!)
「無理だよ」 (演技なんてできるかよ!)
アイコンタクトとジェスチャーで言い合う二人に、リルムが絵筆を動かす。
魔力の色彩は、珍しいことに絵を描きはしなかった。
『バッツのへたっぴ』
空間に書き記された無情な評価に、茶髪の青年はがっくりと項垂れる。
ヘンリーは呆れつつも、これ以上話を引き延ばすことは困難だと判断し、話を進めることにした。
アーヴァインを殺させない為に効果的な手段は何か?
そう考えた時に浮上した案が、『同情させる事』と『殺す理由を減らす事』。
スコールとアルガスの殺害が彼本人の意思に寄るものではない、という路線に持ち込めば、
復讐と断罪を望む感情を、魔女への怒りにスライドできる。
そうすればアーヴァインが捕まったとしても、止めを刺すには及ばなくなる――かもしれない。
また、正気に戻る可能性がゼロではないと思わせる事ができれば、
救うことも考える――かもしれない。
幾つかの『かもしれない』を積み重ねれば、殺害に至る可能性はそれだけ減っていく。
だから、ヘンリーは話を続ける。
『どういう薬かはわからないが、効果がなかったなら、ピサロやリルムに危害が及んでるはずだ。
だからある程度の効果はあったんだろう。
以前からおかしくなってたって話が本当なら、だけどな』
ヘンリーの言葉に、ロザリーは悲しげに眼を伏せた。
僅かな間とはいえ同行した青年と少年の姿を思い出したのだ。
「……そういえば、ティーダさんやテリー君も仰っておりました。
本当は優しい方なのに、悪しき力に憑りつかれ、自分を見失ってしまった事があったのだと。
だから、思い詰めて、仲間の元から去ってしまったのだろうと……
お二人とも……大事な友達だから、早く見つけてあげたいと……そう言っていたのに……」
ほんの数時間前に見た、愛称で呼びながら彼の身を案じる二人の姿、そこには確かな友情を感じ取れた。
何故、命ばかりでなく、彼らの想いまで踏み躙られねばならないのだろう?
悲しみが、ロザリーにルビーの涙を流させる。
ぽろぽろと泣き崩れる彼女の姿に、さしものサイファーも気勢を削がれたようだった。
「悪しき力、だぁ?」
溢れていた怒気が消え、呆れだけが残った言葉に、ヘンリーが答える。
『……サイファー。俺にはそれに、心当たりがある。
いや、お前もソロも、さっき見たはずだ。
誰も居ないのに、そこに父親や仲間がいると言い張ってた、タバサちゃんの姿を』
「タバサ!?」
予想もしない名前に、ザックスが叫ぶ。
『……んっと、あんたはザックスだったか? あの子と知り合いだったのか?』
「ああ! どこだ!? あの子供はどこにいたんだ!?」
友達を奪われた事に対する、彼らしからぬ憎悪と執念は、次の瞬間、呆気なく砕かれた。
『……死んだよ。
その時にはまだ正気に近かったアーヴァインのヤツが、仲間の仇だと言って、殺した』
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ロザリーがティーダ達から話を聞いていたのは行幸だった。
そして、ヘンリーにとっては少々意外でもあった。
ティーダ達が抱いていた友情が、それほど強いものだとは思っていなかったのだ。
しかし、もっと予想外だったのは、ザックスがタバサを知っていた事だ。
それも『彼女は』とか『タバサは』ではなく、『あの子供は』と聞いてきた。
彼とタバサが親しい間柄だったのなら、前者の表現を使っただろう。
嫌な予感が止まらない。
ヘンリーはこめかみを抑えながら、事実だけを伝えた。
予測が当たっていたとしても、タバサがこの世にいない以上、どうしようもないのだから。
「死んだ、……か」
ザックスは憂いと、幾ばくかの安堵を込めて、小さく息を吐いた。
そこに込められた感情をどう解釈したのか、ヘンリーの声が、今は亡きタバサを庇う。
『どこまで本当かはわからない。
俺としては、あいつの思い込みだと思いたいが……』
「いや、本当だろうな。
あの子供は普通の子供じゃない、俺のトモダチや他の奴を騙して、殺したんだ。
ロザリー……君達と出会わなかったら、俺はタバサを探してこの手で仇を討つつもりだった」
心に秘めていた決意と殺意を吐き出すように、ザックスは話す。
カッパがつまらなそうに表情を歪めたが、それに気づいたのはアンジェロだけだった。
「ワン、ワン」
心配そうに吠える犬に、ザックスは苦笑する。
「大丈夫さ。別に、殺し合いに乗るつもりがあったわけじゃない。
ただ、友達の無念を晴らしたかった、それだけの話さ」
そう言って、ザックスは寂しげに視線を落とした。
しばしの沈黙の後、ひそひ草から響く沈んだ声が、静寂を破る。
『……先に断っておくが、俺はあんたを疑う気はない。
だけど、俺が知ってるタバサちゃんは、行方不明の両親を探して世界を旅した、優しい子だった』
「……えっ?」
それは、ザックスが予想しなかった言葉だった。
彼が見たタバサは、『優しい子』どころか、『悪魔』という表現しか似合わない殺人者だったのだから。
けれども、ヘンリーは話し続ける。
『親友の娘だから、欲目も入ってるかもしれないけどな。
……でも、あの子が俺んちの悪ガキと結婚すりゃあいいのに、って思う程度には、良い子だったんだ』
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バッツが紙切れを持って出て行った。
マッシュにスコールの生存を信じさせる為に、本人に一筆書いてこさせようというのだろう。
ヘンリーから見て、彼らの様子に問題はない。
会話の引き延ばしも上手くいっている。
問題があるとすれば、ただ一つ。ヘンリー自身の心情だけだ。
タバサが殺し合いに乗っていたなど、アーヴァイン一人の戯言であってほしかった。
だが、ザックスという新たな語り部が現れた。
少女の護衛を買って出るような男が、殺し合いに乗っているはずもない。
ここに来てタバサ殺人者説の信憑性はぐんと上がり、
それでも、ヘンリーは少女の変心を認めることができなかった。
タバサの事や彼女との繋がりを話したのは、時間稼ぎでもなんでもなく、ただ己の心の整理を付ける為。
そんな彼を見かねたのか、リルムはヘンリーの傍に寄り、肩をそっと叩いた。
ヘンリーの視界を占めた碧眼と金糸の髪は、在りし日の少女と重なって見えた。
『……いや、あの子のことは置いておこう』
その言葉にどれだけの想いが込められていたのか、ソロには知る由もない。
ただ、魔女への怒りを心の奥底に燃やすだけだ。
そして、勇者の胸中を知らぬヘンリーは、静かに告げる。
『重要なのは、ティーダ達とアーヴァインの奴が、互いに友情とか仲間意識を感じてたって点。
それに加えて――アーヴァインの奴が、お前らの報告を聞いてたってことだ』
ロザリーとソロが目を見開き、ザックスが眉をひそめた。
最後に、サイファーが拳を固く握りしめる。
「つまり、それが原因だって言いたいのか?
大事な大事なオトモダチが死んだショックで、テメェから正気を手放したって言いたいのか?」
サイファーの言葉に、『恐らくは』、とヘンリーが答える。
それから、リルムの声が響いた。
『ゼッタイ、ぜったいそうだよ!
あのモヤシヤロー、【闇】が寄ってくるとか、ずーっとうわごとみたいに言ってたもん!』
騒ぐように自分の言い分を主張する彼女に、ヘンリーが呆れたように呟いた。
『だから大人の話に口を挟むなって……
まあいい、こっから先は俺の推測だが――タバサちゃんが見ていた【リュカとピエール】、
アーヴァインが言ってた【闇】、ついでにティーダとテリーが言ってたとかいう【悪しき力】。
俺は、この三つは全てイコールで結べると思ってる』
静かな口調の後ろで、甲高い声が補足する。
『あの【黒いもやもや】、ケバケバオバさんの魔力と悪い心が混ざってるんだよ!
だから人をおかしくするんだって、トンガリ耳のにーちゃんが言ってたもん!』
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ようやく本題部分に入った。
ヘンリーはひそひ草に聞きとられないよう、そっとため息をつく。
サイファーの語気から苛立ちが薄れている以上、時間稼ぎには気づかれていないようだ。
それだけ彼らも冷静さを欠いているのだ、とヘンリーは思う。
特にサイファー。彼にとってスコールという存在は、
アーヴァインにとってのティーダや、ヘンリーにとってのリュカに等しい重さを持っているのだろう。
罪悪感がちくちくと心を刺激する。
これでスコールが生きていて、全員で彼とソロを騙していたとバラした時、
今度はどれほどの大喧嘩が起きるのだろうか。
脳裏を過ぎったのはウルでの惨劇、クロスカウンターによる両者ノックアウトの光景。
そしてそれ以上に、一つの危惧がヘンリーの胸中に浮かぶ。
リルムの援護を聞きながら、ヘンリーは空想を振り払うべく、首を横に振った。
「トンガリ耳……ピサロが?」
ソロは、ピサロにある程度の信頼を寄せている。
仇敵ではあるけれども、彼の義理堅さと実力と知識量は確かなものだし、頼りになると思っている。
そして、それ以上に、彼はヘンリーという人物を信用している。
無鉄砲で重傷を負ってばかりいるけれども、彼の根幹にある正義の心は、信じるに値すると感じている。
そんな二人の言葉を疑う気持ちは、ソロにはなかった。
『まあ、ピサロとリルムを信じるなら、【闇】には魔女の意思が混ざってるわけだ。
父親と仲間を目前で失ったり、心の支えにしてた友達の死を知ったりして出来た心の傷に、
【闇】が入り込んで、魔女の意思に支配されていく……そういう現象が起きてるのかもしれない』
サイファーが舌を打った。
魔女に洗脳された事がある彼だからこそ、その支配力がどれほどのものか、理解しているのだ。
『タバサちゃんを殺した事で、あの子に憑りついてた【闇】がアイツに移り、
友達の……ティーダの死というショックで心が弱った結果、【闇】に乗っ取られた。
だからスコールとアルガスだけ殺すなんて妙な行動を取って、姿を消した』
ヘンリーは言う。
『本来のアイツは、カインと組んで自分の死を偽装するなんて作戦を考え付く、計算高い奴だ。
そういう奴が、俺達を皆殺しにしないなんて有り得ない。
だから断言できる――アイツは正気じゃない。もう、自分の意思を持ってないってな』
---------------------------------------------------------------------------
マッシュが、リルムと部屋の出口を交互に見比べている。
落ち着きのない様子は不安の表れだろう。
(まあ、当然だよなあ……)
マッシュの胸中を察したヘンリーは、口には出さず、呟く。
実の所、アーヴァインが正気でスコールだけを殺すという状況は、有り得なくもないのだ。
すなわち、主催者側がスコールの死を条件に取引を仕掛けてきた――そんなケース。
マッシュや、南西にいる四人が、そこに思い至るかどうかはわからない。
無論、ヘンリー達もリュックも、アーヴァインさえも潔白なので、そんな疑念を抱かれては困るのだが。
(それにしても、よく口を挟まないなあ……有難いけどさ)
ヘンリーの視線と表情に気付いたのか、マッシュがリルムの方を睨んだ。
リルムは悪戯っぽく笑うと、ポケットから青く輝く宝珠を取り出す。
静寂の玉――他人の声を封じる魔力を秘めた品だ。
(ちょ……やりすぎだろ?!)
男二人は顔を見合わせ、ため息をつきながら肩を落とした。
この少女には、敵いそうにないと。
「だから何だってんだ? あのクソ野郎が悪くないとでも寝言ほざくのか?!」
サイファーが踵を床に、剣を肩に打ちつける。
もどかしさや苛立ちを感じている時の癖だ。
しかし、彼の様子など知るよしもないヘンリーは、静かに答える。
『違う……俺が危惧してんのはお前らの方だ』
「あ?」
『正直に言うぞ。
俺はアーヴァインの奴に愛想が尽きてるし、あいつがどこで死のうが興味はない。
だが、お前らは別だ。お前らが欠ける事だけはなんとしても止めたい』
ヘンリーらしからぬ台詞だと、ソロは思った。
けれども、状況を踏まえれば仕方のない事だ。
改心したと思った相手に親友の娘と仲間を殺されてなお、許せなどとは言えやしない。
ヘンリー達の元に早く戻った方がいいのではないか?
心配を抱き始めたソロの横で、サイファーが叫ぶ。
「つまりこういうことか?!
俺達が、この俺が、あのクソ野郎に殺されるかもしれないからやめとけってのか?!
ハッ、とんだ過小評価をくらったもんだな!!」
『そうじゃない!
仮にお前らがアーヴァインを殺したとして、アイツに憑りついてる【闇】はどこへ行く?!
お前ら二人とも、憑かれもしなけりゃ、乗っ取られもしないって、断言できるのか!?』
感情を露わにしたヘンリーの反論に、二人は――否、四人ともが、口を噤んだ。
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ヘンリーが抱いた、最後にして最大の危惧。
それが、アーヴァイン以外の仲間が【闇】に操られる可能性だ。
メモに記されている、ピサロから聞いたという条件は、
【殺人をする】【心が弱い】【死にかける】、の三つ。
しかし、ヘンリーがデールと最初に再会した時、彼は既に発狂していたにも関わらず怪我をしていなかった。
故に、ヘンリーは前二つのみが必須条件だと推測する。
そしてソロはヘンリーを庇ったが為に、最初の条件を満たしてしまった。
サイファーもまた、仲間を助ける為に、殺し合いに乗った女性を一人殺害したと言っていた。
理性の種は支給品。おいそれと手に入る代物ではない。
万が一、ソロやサイファーが発症してしまっても、助ける方法はわからない。
だからこそ、時間稼ぎの演技をかなぐり捨てて、彼は叫んでいた。
「いいか?! お前らが敵に回る可能性なんざ、考えたくもないさ!
だが――デールもタバサちゃんも、同じように敵にならないと思ってたんだよ!
だからこそ! お前らには、今までのままで、味方のままで居てほしいんだ!!」
ソロの脳裏に、二つの光景が過ぎる。
血塗れの体を無理やり動かしてナイフを振りかざす青年と、虚空に話しかけ氷刃を放つ少女――
家族や知己が豹変した現実に、ヘンリーが抱えた苦悩はどれほどだったのか。
『こんな事、助けられてばっかりの俺が言っていい言葉じゃないと思う。
特にソロ。お前には、俺が背負うべき罪を背負わせてしまってる。
だけどな……俺は、お前らの事を、仲間だと信じたいんだ。
同じ世界で生きぬいた友人だと、この先もずっと、思っていたいんだ』
しん、と静寂が空間を支配する。
張りつめた空気が満ちる中、ザックスは目をつむった。
この大地に降り立った直後に抱いた、タバサへのドス黒い殺意は、【闇】の囁きではなかったか?
仮にザックス自身の手でタバサを討っていたならば、正気のままで居れただろうか?
自問に対する自答は、『断言できない』。
『だから、頼む……短気を起こすのはやめてくれ。
お前らまでおかしくなってしまったら、俺は――』
ヘンリーの言葉と、最早起こりえないIFの光景は、ザックスの思考に張り付いて剥がれなかった。
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言いたいことを言い終えたヘンリーは、空いている手で目頭を抑えた。
一方的に救われているくせに、友情を口にする自分が情けない。
実力も伴わないのに、仲間面する自分に腹が立つ。
何より、真実を話すこともできないまま、友人と思っている相手を騙す自分に、嫌気が差す。
それでも沈んでいく心を引きとめたのは、傍らにいる少女と、傷ついた格闘家の姿。
それから、別れを告げた弟と、腕の中で息絶えた少女の存在。
生きている者を生かす為、死んだ者の無念を晴らす為、必要なことをしなければならない。
言葉を続けようとしたヘンリーの視界に、バッツの姿が映る。
釈然としない表情を浮かべた青年の手には、鳥かコウモリを思わせる形に折りたたまれた紙。
三人の視線に気づいたバッツは、紙を広げて、そこに書かれた文章を見せた。
<隠し部屋らしき場所を見つけたので、探りに行ってくる。
アルガスに話は通してあるので、何かあったら彼を起こしてくれ。
なお、監視を避ける為、探しには来ないでほしい。
その代わり、放送が終わり次第、顔を出す。
もしマッシュが起きたら、『悪いがあと二時間ほど我慢してくれ』と伝えてほしい。
では、健闘を祈る。 スコール=レオンハート>
『こっから先、俺が話すわ。
いいだろ? 二人とも』
ヘンリーを慮ったのか、バッツの声が響く。
『とにかく、だ。この世界にはよくわかんない力が渦巻いてて、
誰かを殺せば殺すほど増えて、人を殺人鬼に変えていくらしい。
そんな状況で、だれそれが危険だから殺せなんて、言えるわけねーよ。
その点はわかってほしい。……つーか、わかってくれないと困るぜ』
相変らず抑揚のない口調だったが、その声音と言葉には、心配の色が見て取れた。
「……ですが……」
言いかけて、口を閉ざしたソロの胸中を察したのか、彼は言葉を継ぐ。
『放っておいたら殺される奴がいるかもしれないってんだろ?
でもな、放っておかない事を選んだって、死人が出ないとは限らない。
自分は死なないって思ってるなら、そんなの……ただの傲慢だ』
口調に感情が滲んだのは、レナやローグを失った経験から出た言葉だからだろう。
少なくともソロはそう感じた。
『残される方だって辛いって事、わからないわけないだろ?
……だから、殺すことより、生きることを考えようぜ。
スコール達の分まで、魔女をぶっ飛ばす方法をさ』
この状況で尚、バッツは希望を語る。
ソロもザックスも、それに異論を唱える気はなかった。
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ひとしきり語り終えたバッツは、リルムの方を振り向いた。
自信たっぷりな表情は(どうだった?)と如実に聞いている。
対する少女はというと、先ほどと同じく絵筆を動かした。
『ギリギリごーかく 60てん』
その評価を見た大人二人は苦笑を浮かべ、バッツは不満げに睨みつける。
『きびしいぞ!』
リルムに対抗して、指先で虚空をなぞってから、バッツは最後の言葉を口にしようとした。
【だから、戻って来てくれ】、と。
けれども、バッツの言葉は、ソロ達には届かなかった。
何故なら――
『――バッツ。テメェは一つ勘違いをしてるぜ』
ひそひ草が、サイファーの言葉を伝えてきたからだ。
「バッツ。テメェは一つ勘違いをしてるぜ」
サイファーは剣を肩から下ろし、ソロの手元からひそひ草をひったくる。
ソロが静止する前に、ザックスが何かを言う前に、彼は吠えた。
「傲慢ってのはよ!!
生きてる相手を、殺してやらねぇことを言うんだよッ!!」
三人と二匹がその意図を理解する前に、サイファーはひそひ草を青年に押し付け、走り出していた。
『お、おい!? サイファー!?』
『な、何をする気だ!? サイファー! 待てッ!!』
バッツの狼狽と、一足先に事態を推測したヘンリーの静止が空間に響きわたる。
けれども、伝わらない。伝わるはずがない。
瞬きする間にサイファーは、疾風のごとき速度で、部屋を後にしてしまったからだ。
そして、ソロ達が我に返るよりも早く、アンジェロがサイファーを追うように駆け出す。
ワンテンポ遅れて走り出したカッパが、アンジェロの横に並んだ。
二匹はそのまま、祠を出て行ってしまう。
「……サイファー!」
我に返ったソロは、ロザリーとザックスを見やる。
二人は顔を見合わせ、すぐに、頷いた。
「追いかけましょう……!
危険だとしても、サイファーさんを一人にするなんて、出来ません!」
「大丈夫だ、彼女の事は俺が守る!
見失わないうちに、行こうぜ!」
勇気を振り絞ったエルフの少女と、毅然とした青年の言葉に背を押され、ソロもまた走り出した。
未だ声を響かせるひそひ草を、ザックの奥に押し込んで。
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困惑する三人を余所に、ヘンリーは頭を抱える。
苦難の人生を歩んだ彼は、誰よりも早く、サイファーの至った結論に思い至ったのだ。
スコールとアーヴァインは、一つ、重大なことを見逃していた。
それは、サイファーという青年の優しさだ。
ロザリーを守り、イザを友と認め、ターニアを気にかけて救うような男が、
ただの戦闘狂であるはずもない。
だが、二人はなまじ知己であるが故に、サイファーの悪い部分だけを見てしまった。
そしてヘンリーもバッツも、スコール達の思考に頼り、サイファーの性格を見抜こうとしなかった。
それ故の失策。それ故の失態。
もうサイファーに声は届かない。
彼らにできることは、ただ、四人と二匹と、二人の無事を祈ることだけ――
サイファーは考える。
ヘンリー達の言うとおり、アーヴァインが魔女の意思に操られている可能性は高い。
スコールを殺したのだって、アルティミシアの意図が介在しているならば当然の事だ。
だからこそ。だからこそ、アーヴァインを生かすということは有り得ない、と。
スコール達がアルティミシアを倒した後、サイファーは抜け殻のように日々を過ごした。
自分の意思で走っていたと思った道が、幻想だと気付いた時の焦燥。
進むことも引き返すことも出来ず、どこにも行けないと知った時の絶望。
その二つの感情と、ガルバディア軍との交戦で傷ついたバラムガーデンの姿が、彼を苛んだ。
けれども、幸運な事に、サイファーには手を差し伸べてくれる相手がいた。
友人である雷神と風神、何かにつけて便宜を図ってくれたシドとイデア、そしてスコールとリノア。
態度に出した事はないし、これから先も口外する気はなかったが、
彼らの存在が一つでも欠けていたら立ち直れなかっただろうと、サイファーは自覚していた。
では、アーヴァインはどうだ?
友人であるゼルもリノアも、ティーダもテリーも死んでしまった。
セルフィとキスティスは生きているが、この世界にはいない。
ユウナは狂ってしまい、ただ一人残っていたスコールはアーヴァイン自身の手で殺してしまった。
そんな状況で、万が一正気に戻れたとしても、彼に救いがあるというのか。
絶望の中、廃人のように生き続ける事が幸せだというのか。
――サイファーは頭を振る。
生きた方が幸せだなどと、そう決めつけるのは、幸せな生を歩んだ者の『傲慢』だ。
引き返せない道を歩んでしまったなら、死こそが救いになることもある。
魔女に操られたことがあるサイファーだからこそ、その想いが――絶望が理解できるのだ。
(同じ場所で育ったよしみだ。
終わらせてやるよ、ガルバディア野郎……テメェの絶望ってヤツをな)
青年は奔る。
魔女が生み出す幻想に囚われた、哀れな幼馴染を救うために。
その物語こそ、魔女を倒すために描かれた幻想だと気付かぬまま。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:アーヴァインを殺す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【アンジェロ 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
基本行動方針:サイファーを追いかける/ケフカを倒す】
【セフィロス (カッパ)
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:アンジェロに同行する/カッパを治す
第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:南西の祠→移動】
【ソロ(HP3/5 魔力1/4)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ひそひ草
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) ティーダの私服
第一行動方針:サイファーの後を追う/ターニア達を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【ザックス(HP1/2程度、左肩に矢傷、右足負傷)
所持品:バスターソード 風魔手裏剣(11) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
第一行動方針:サイファーの後を追う
基本行動方針:同志を集める
最終行動方針:ゲームを潰す】
【ロザリー
所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
第一行動方針:サイファーの後を追う/ピサロに再会する
第二行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。
【現在位置:南西の祠→移動】
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
グレートソード、デスペナルティ、ナイフ 命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
第一行動方針:祠の警備
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:祠の警備
第二行動方針:仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、ジョブ:青魔道士(【闇の操作】習得)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ ティナの魔石(崩壊寸前)
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
第一行動方針:MPが回復するまで休憩
第二行動方針:機会を見て首輪解除を進める
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【マッシュ(沈黙、1/20、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:状況を把握する
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:南東の祠(奥の部屋)】
すげえ緊迫した展開になってきた
まさかの傲慢リレーに吹いたw
乙!
絵板のケフカの人気っぷりにふいたww
あまりおいしくないパンでも、空腹を満たすには十分だった。
何度目になるかわからない感想を抱く僕を余所に、
『フルート』は『アルス』に言われて、ちょうどいい物陰を探し始める。
けれども彼女より先に、目ざとい『ローグ』が、聳え立つ崖の一角に一人がどうにか座れる程度の洞穴を見つけた。
『アルス』もそこでいいと言ったので、魔力が回復するまで、ゆっくり休むことにした。
やたらと蒸し暑い気候だけれど、お蔭で、毛布が無くても風邪を引かずに済みそうだ。
これで妙な虫や、コウモリみたいな小動物がいなければ、もっと過ごしやすいのだけれども。
さらに言えば、魔女の手下がいなければ、安心して熟睡できるのだけれど。
"そんなのは贅沢ってもんだぜ、魔物がいないだけマシさ"
『ローグ』の言葉に、僕は頷いて、帽子を被り直した。
――帽子?
僕はいつからこんなものを被っていたのだろう?
かつて商人の仲間が鑑定の時にそうしていたように、鍔を掴んでまじまじと見やる。
赤い、血のように赤い羽帽子。
内側に一本の金髪が残っている。
……金髪、……金髪。
なんだろう。
大事なことを、忘れている気がする。
"考えるな、セージ。疲れているんだ、早く寝よう"
『アルス』が言った。
それが『アルス』の意見なら、そうするしかない。
彼が間違ってる事なんて有り得ない。
それだけは、僕は疑わない。疑えない。
さあ、早く寝よう。
『アルス』の言う通り何も考えずに、僕は帽子を頭に載せて、目を閉じた。
微睡の中で、夢を見た。
壁も床も天井さえも真紅に染められた、どことも知れない城の一室を。
片隅にあるのは暗闇に続く扉。その奥に待つのは、金髪の少女。
中央にあるのは光り輝く青い渦。その傍らに立つのは、やはり金髪の、赤い羽帽子を被った青年と女神のように美しい女性。
三人が、僕に向かって手を伸ばす。
少女は笑いながら、青年は冷静に、女性は悲しげな声で、口々に訴えた。
"お兄さん。一緒に、お父さんとお兄ちゃんを探しに行こう!"
"セージ、そっちは危険だ。今ならまだ戻れる、こっちへ来い"
"タバサもセージさんも行っちゃダメ! 早く、こっちへ戻ってきて!"
三人が誰なのかすら思い出せぬまま、僕は傍らの鏡を見た。
映った『アルス』は、"少女を守るべきだ"と、闇を指さした。
映った『ローグ』は、"真実を見ろ"と、光を指さした。
映った『フルート』は、"あたしの知ったことじゃねぇ、テメェが決めな"と、ただ僕を見返すだけだった。
僕は、『アルス』の言う事には間違いなどないだろうと、少女の傍に歩みよろうとした。
その時――赤帽子の青年が、言ったんだ。
"モシャス"
彼には使えなかったはずの、僕しか使えないはずの呪文を、唱えて。
彼は『僕』の姿になって、こう言った。
"闇に堕ちるのは俺だけでいい。お前は光の道を往け"
『僕』は、僕を突き飛ばして、タバサの元へ走って行った。
残された僕に、女性が手を差し伸べる。
金色の三つ編みが揺れる。優しさに満ちた微笑が投げかけられる。
でも、ダメだ。
だってその手を取るべきなのは、僕じゃなくて、ギル――
"止めろ!! 眼を覚ませ、セージ!!"
『アルス』の絶叫で、目が覚めた。
辺りを見渡すけれど、三人の姿はどこにもない。
僕は、一人だ。
"違う! 僕達がいるだろう!"
……『アルス』に怒鳴られた。
そうだ、『アルス』がいる。『ローグ』がいる。『フルート』がいる。僕達は四人だ。
――でも、この帽子は、夢に出てきた人達は、何だったのだろう?
何か、大事なことを、忘れてしまっている気が……する。
見晴らしのいい草原を走り始めて、五分。
私だって足に自信があるわけじゃないけれど、『 』がそんなに早く動けたかなって、ふと思って。
幾らなんだって人影すら見えないのはおかしいと思って、立ち止まって地図を眺めてみたの。
ああ、本当にムカツいたなぁ。
あの塔のそばに、別の建物があったんじゃない。
なんで気づかなかったのかなあ?
自分の馬鹿さ加減に嫌気が差したけど、逃げられるのも困るから、急いで戻ったよ。
そこは小さな祠だった。
壁と、水で囲まれた、祭壇があるだけの祠だった。
もしかしたら水中に潜ったのかな、って思って覗き込んでみたけど、透明な水で満たされた堀に隠れる所なんてなくて。
誰もいないって事は、すぐにわかった。
きっともう逃げちゃったんだね。
本当に逃げ足だけは早いよね、『 』って。死ねばいいのに。
もう一回追いかけようと思ったけど、走りすぎて喉が渇いてた。
だから、祠の水を手ですくって飲んだの。
とっても透明で綺麗な水だったから、大丈夫だよねって。
おいしかったよ。瓶詰めの水より、ずっとおいしかった。
一杯飲んで、一息ついて。
せっかくだから空き瓶に汲んでおこうと思って、水面を覗き込んだんだ。
それで、気づいたの。
揺れる水鏡に映った、私の姿に。
顔にまでべっとりと飛んだ、魔物の返り血に。
生臭いし、気持ちが悪いし、これじゃあ『 』以外の皆にも警戒されちゃう。
でも、どうしたらいいかなんて、考える必要はなかった。
全部の空き瓶に水を汲み直してから、じゃぶんと飛び込んで、汚れを洗い流して、それでおしまい。
水はピンク色になっちゃったけど、しょうがない。
ただ、濡れた髪は、ちょっと重たい。
私は髪の毛が乾くまで、少し休んでいくことにした。
どうせ『 』は、一人じゃまともに歩けないんだもの。
きっとどこかの建物に隠れて、やり過ごそうとするに違いない。
例えば、お城とか。
ここと一緒で、盲点だよね。出て行ったのに戻ってくるはずないって、普通は思うものね。
そうじゃなければ、やっぱり東にある建物かな?
二つあるけど……近くに隠れると予想すると踏んで、遠い方に歩いて行ったりするのかな?
どっちにしても、逃がさないけどね。
そんな風に色々と考えたりしながら休んでて……
結局、二時間くらい過ごしちゃったのかな?
疲れも取れたし、そろそろ行こうと思って、立ち上がったんだ。
その時――ふと、誰かが呼び止めた気がしたの。
驚いて、辺りを見回したけど、やっぱり誰もいなくて。
足元に視線を落として……気づいたんだ。
薄紅の水面に映る、『キミ』の姿に。
"止めるッス、ユウナ!"
彼は、そう言ったんだ。
金色の髪、青い瞳、日に焼けた肌、私の思い出にある『キミ』と何一つ変わらない姿で。
"俺が悪かったんだ! ユウナの事、気にかけなかった俺が!!
だからもう止めろって!! 皆やアービンまで、巻き込むなよ!!"
……ねえ。本当に馬鹿だよね。
『 』の名前を出さなければ、騙せてたかもしれないのに。
私は笑って、手にした剣で、幻影を貫いた。
「もう、惑わされないよ」
私を騙そうとした魔物は、顔を歪めて、消えてった。
それで、今度こそ、祠を出ようと思ったんだ。
でもね。顔を上げた時、気付いたの。
祭壇の上に佇む、翼を生やした女の子に。
"――ここ、希望の祠って言うんだって。
大事な人を守りたかった魂の為に、神様が作った祠なんだって"
彼女は私に背を向けたまま、歌うように囁く。
"私は彼に、言葉も希望も伝えられなかったから。
せめて彼の言葉と希望が、貴方に届きますように"
――それは、白昼夢、だったのかな?
瞬きして目をこすってみたら、女の子の姿なんて、どこにもなくて。
水面を覗き込んでも、映るのは自分の姿だけで。
気味が悪くなったから、すぐに祠を後にした。
……でも、そういえば、あの子。
ゼル君と『 』の知り合いだっていう女の子と、同じ色のワンピース、着てたっけ。
じゃあ、やっぱり、『 』の仲間の魔物なんだね。
やだなあ、失敗しちゃった。
捕まえておけば、『 』の居場所、教えてもらってから殺すこともできたのに。
次からは気を付けようっと。
大丈夫。
もう騙されない。
あの子にも、『 』にも、金髪の偽物にも。
だから、待っててね。
私の大好きな『キミ』。
降り立たされた先は、積み上がった瓦礫の塔だった。
不要な怪我を負っていない事を確認し、俺は腰を下ろす。
鈍っていた感覚は、だいぶ鋭さを取り戻してきた。
現に青髪の男との戦闘は、終始こちらに有利に進んだ。
この現状は、男が逃亡という選択肢を選んだ結果だ。
自分が逃げる代わりに、敵である俺を遠くへ飛ばした、それだけの話。
地図を見る。
どうやら、ここが当初の目的地とした北東の塔だったらしい。
残念なことに人の気配は感じない。この惨状で留まる人間もいないということか。
それでも結果的に移動時間を稼げたことは幸運だ。
気力を傷の治療に費やしているので、痛みで動きを妨げられるような事はない。
かといって、万全な体調には程遠いことも事実だ。
せっかくだ。少し休息を取ることにしよう。
――
静寂の中、閉じた瞼の裏を過ぎるのは、二つの姿。
ちょこまか動く金髪の男、ジタン。奇妙な剣を携えた黒服の若者、スコール。
前者と戦うことは既に叶わない。
だが、後者とならば、雪辱を果たす機会はある。
もはや惨敗は喫すまい。
何分ほど休んだだろうか。
全力で動ける程度には痛みも治まり、気力も少しは戻ってきた。
深呼吸をして、目を開ける。
自信が生んだ覚悟の言葉を胸に刻み、俺はまた、歩き出す。
標的の、光の中では目立ちすぎる、影のように黒い姿を探しながら。
――
無用に音を立てぬよう、静かに草叢を掻き分けて進む。
塔を発って、一刻が過ぎた頃だった。
遠くで、わずかに話し声が聞こえたのは。
男と女。
女の方には覚えがある。ビビと一緒に居た女だ。
けれども、躊躇いは浮かばない。
気配を消して距離を詰める。
茂る草の向こうで、金の輝きが風に揺れる。
同じ背丈、同じ髪型、違う服。男と思える姿はどこにもない。
いささか奇妙な光景だが、気に留めるつもりはない。
相手が双子だろうが、スコールが使ったような幻影の術だろうが、やることは同じだ。
スコールの居場所を聞き、答えればよし。
答えないか、戦う気があるなら――仕留めるのみだ。
正気と狂気の狭間で、闇と光を見やる者。
死者が遺した希望を拒み、身勝手な愛と憎悪に身を浸す者。
闇も光も関係なく、ただ純粋に、戦意と殺意を研ぎ澄ます者。
彼らが見た金の輝きは、凶行を止める鎖となるのか、それとも――
【セージ(HP4/5、MP1/5、多重人格)
所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
第一行動方針:MPが回復するまで休憩/魔女の手下(スミス@ターニア)を殺す
基本行動方針:魔女討伐
最終行動方針:みんなと一緒に魔女を討伐する】
【現在位置:闇の世界最北部】
【ユウナ(ガンナー、MP1/6)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、官能小説2冊、
天空の鎧、血のついたお鍋、ライトブリンガー 雷鳴の剣
スパス スタングレネード ねこの手ラケット
ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 水鏡の盾
第一行動方針:ラムザの姿をしたアーヴァインを殺す
第二行動方針:邪魔なギードを葬る /なんとしてでも生き残る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、優勝してティーダの元へ帰る】
【現在位置:希望の祠→移動】
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷(ほぼ回復)、右上半身火傷(回復)、MP1/6)
所持品:チョコボの怒り 突撃ラッパ シャナクの巻物 鋼鉄の剣 包丁(FF4)
第一行動方針:二人組と接触する
第二行動方針:スコールを探し、再戦し、倒す】
【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/3、MP微量)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
ふきとばしの杖[0] 、G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
リュックのザック(メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
第一行動方針:デスキャッスルに行き、首輪の情報を渡す
第二行動方針:ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(パラディン)
所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
第一行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道付近】
おお、それぞれの仕方でキンパツが気をつけられてる...GJ&乙です
ケフカのメモってどうなったかと思ったら、まだソロとかサイファーが持ってるのな
人数が絞られてきてむしろ「金髪は気をつけろ」な状況になってるけど
えらい時にサラマンダーに見つかってもうたおちゃらけ組もどうなることやら
411 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/05/24(木) 07:59:55.03 ID:VdHc75GhI
セージが戻ってきたら心強いな。デスキャッスル組も強力な魔法使い探してるし
改心フラグとも死亡フラグとも取れるwww
道具にも引力ってのがあるのかもしれない。
ちょこソナーとちょこザイナを首にぶら下げながら、僕はふと、そんなことを思った。
人質役のくせに何故か横に並んで歩いているリュックが、揺れる一組の笛を見つめる。
「ねえ、それ、使い道があるの?
ただの呼子笛にしかならないだろうって、スコールが言ってたけど」
「んー? あ、ああ、懐かしいから貰っただけだよ〜」
まさか自分で殺した最初のパートナーの支給品だったなんて、口が裂けても言えやしない。
でも、呼子笛、か。
そんな風に言ってるってことは、実際に使おうとは思わなかったんだろうな。
「一応、ソナーを吹いてからザイナを鳴らせば、この世界でもチョコボを呼び出せるみたいだよ。
『先にザイナを吹いちゃうと、チョコボが笛を盗む上に逃げるから気をつけろ!』って書いてあったけどね」
「書いてあったって、何に?
てゆーか、なんであんた、そんなこと知ってるの?」
渦巻く緑の眼が、僕をじーっと睨みつける。
……うん、そりゃ、良く考えなくても怪しいよなぁ。
貰ったばっかりの道具の事を詳しく知ってるんだもんな。
でもまさか、自分で殺すことになったパートナーから説明書を見せてもらった上に、
敵に奪われた時にチョコボを呼ばれたら困るって理由で、二人で破って捨てたなんて……言えないじゃん?
「ふっふーん、僕はこう見えて物知りなんだよ〜」
「そんなこと言って、殺した相手から脅して聞いたとかじゃないでしょーね」
わーぉ、ご明察。
バツが悪すぎて思わず頭を掻く僕に、リュックは呆れたように肩をすくめた。
「んで? そこまで使い方知ってるのに、チョコボを呼ばない理由ってなーに?
歩くより、よーーーっぽど早く目的地に行けるじゃない」
もっともな質問だ。
けどね、リュック。君は笛の使い方よりも、頭の使い方を知った方がいいんじゃないかなぁ。
「そりゃー、チョコボくさいからに決まってるだろ〜?」
「はぁ!? こんな状況で、どんだけワガママ言ってんの?!」
ワガママって。そういう意味じゃないんだけどなあ。
「あのさ……僕の敵はモンスターじゃなくて、人間なんだよ?
チョコボくささが染みついたら、奇襲しなきゃいけない時に、臭いで相手にバレる危険があるじゃないか。
それにいくら人が走るより早いからって、高所からの狙撃とか魔法とかまで、かわしきれると思ってんの?
チョコボに乗ってるあんたをヘッドショットするぐらい、僕でもできるっつ〜の」
一気にまくしたてると、リュックは「……むぅ」と唸った。
やっぱりこういう感覚は、人間相手に戦うって経験がないとわからないのかもしれない。
「これは、本当にヤバイ時の、最後の逃走手段。
それに動物だって自分の意識ってのがあるからね。
どんなに便利でも、いざってとき命令を聞いてくれるかわからない生き物には、頼らない方がいい」
僕はそう言って、笛を――ドレスフィアのせいで見えないけれど――ローブの内側に隠した。
「でもさぁ……あのさぁ……」
リュックが人の顔をチラチラ見やりながら、言いよどむ。
多分、『口には出せないけど、早く城に行かないとマズくない?』って聞きたいんだろう。
ヘンリーがサイファーを惹きつけてるうちに到着しないと、後が上手くいかないって言いたいんだ。
彼女の気持ちもわかるけど、そもそもそれは―― ん?
――思考が文章を形作る前に、視界の端で、草が不自然に揺れた。
【闇】は見えない。気配も感じない。
けれども、明らかに近づいてくる揺れは、紛れもなく人為的なものだ。
「リュック!」
僕は裏声を作りながら、左肩にかけていたザックを滑り落とし、さりげなく彼女の手に渡す。
次の瞬間、草が大きく動き、焔色の影が飛び出してきた。
「サラマンダー!?」
リュックが叫ぶ。
その名前と燃えるようなドレッドヘアーは、スコールが教えた殺人者のモノと同じ。
要するに、僕が始末しなきゃいけない標的の一人だ。
だけど、仲間を殺したと聞いているのに、この男には【闇】が見えない。
それは即ち、こいつが折れも曲がりもしない信念と覚悟を抱いているという証左。
加えて、こんなに接近するまで、気配を感じさせない実力――
うん。
GFがあるとはいえ、こいつ相手に腕と耳というハンデは大きい気がするなー……あははー……
「……お前と同じ村にいた、スコールという男はどこにいる?」
サラマンダーはリュックを一瞥すると、静かに言った。
どうやら僕の事はどうでもいい相手として認識してるようだ。
だから、彼女より先に答えてやった。
「死んだよ」
「嘘だな」
速攻で否定された。いや、まあ、そうなんだけど。
「姿を偽っている相手の言葉など誰が信じるか」
サラマンダーは続けて言う。まったくもってごもっともな話だ。
でも、偽りを真実として押し通すのが僕の任務の一つ。
僕は覚悟を決め、ドレスフィアをリュックに押し付けた。
シーフの姿を映しだしていた幻光虫がスフィア本体に吸い込まれ、血で汚れた白いローブが姿を現す。
「……ほう」
前髪の影に隠れてはいたけど、サラマンダーの表情がわずかに動いた。
「その顔、覚えがある。
カズスでイクサスに探されていたな」
「へえ。あの生意気なガキんちょと会ったのかい?」
少しだけ、竜騎士のオジサンとラケットを振り被る子供の姿を思い出しながら、僕はフードをかぶり直す。
「あいつのことだ。どうせ、僕を殺してくれとでも頼まれたんだろ」
「ああ」
……冗談のつもりで言ったんだけどな。
正解なんだ。正解してるんだ。うわぁ、嬉しくな〜い。
「四人殺しの狙撃手――それほどの手合いなら、楽しめると思ってな」
サラマンダーの戦意とリュックの視線が突き刺さる。
本音を言えば、煙に巻いて逃げたいところだけど、さすがに任務を放り出すわけにはいかない。
僕は精一杯の笑顔を作って、こう言った。
「<八人殺し>だよ。人のスコアを減らすのは感心できないな〜」
本当は、クルル、リチャード、ティナ、マリベル、ギルバート、タバサの六人だ。
ただ、スコールとアルガスの分を水増ししとかないと、おかしなことになる。
だから八人。
ミスター・ナインス
「あと二人でちょうど十人だ。<九番目>」
ザ・サードマン
「大した自信だな。<三人目>」
サラマンダーが口の端を吊り上げ、構えた。
僕もまた、左手に握ったビームライフルのトリガーに手をかける。
一触即発、ぴんと張りつめる空気。
そんな僕らの間に、何をとち狂ったのか、彼女は両手を広げて飛び込んできた。
「いい加減にしなさいよ、あんたたちー!
人を見たら殺す殺すって、そんなことする必要ないでしょ!?」
……あー、うん。
そーいやこいつについて、スコールと筆談してた時、リュックってばリルムを預けに行ってたっけ。
でも筆談メモは後で見せたはずなんだけど……もしかして、僕らの意図、察してなかった?
困惑する僕の前で、サラマンダーは喉を鳴らすように笑った。
「必要、か――。
では、お前と一緒に居たビビ以外に、この男を探していた銀髪のガキを殺したといったら?」
心の奥で、カチリ、とスイッチが入る音がした。
揺れる焚火に照らされた、ぐしゃぐしゃの泣き顔が蘇る。
ギードの前を歩く、少しだけ元気を取り戻した後姿が蘇る。
【闇】に飲み込まれそうになったとき、引きとめてくれた声が蘇る。
「……なーるほど。それで、僕が<三人目>ってワケか」
絶句するリュックを押しのけ、僕はあえて奴の間合いにまで近づく。
「先にあんたの敗因を言っとくよ。
僕を止められる、世界最高のモンスターマスターを殺した挙句、ガキ呼ばわりしたことだ」
「いい殺気だ。だが、吠えるだけなら誰でもできる」
「ちょ、ちょっと……!」
空気を読まないリュックが尚、何か言おうとしたけれど、その言葉は途中で止まった。
一歩足を踏み出したサラマンダーの腕が、無造作に彼女の体を弾き飛ばしたからだ。
数メートルほど吹っ飛んで、リュックはすぐに立ち上がったけど、彼女が僕らに近寄ることはなかった。
僕が投げたティーダの形見の杖は、彼女に当たると同時にその力を開放し、もっと遠くへ吹っ飛ばす。
「下らない理由で僕の邪魔をするなよ人質役ゥ!!
僕を止めたきゃ、【城の連中でも呼んで】くるんだねーーぇッ!!」
彼女に聞こえるように大声で叫んでから、杖を投げるために手放したビームライフルを拾い直した。
全く隙だらけもいい所だ。
だけど意外な事に、サラマンダーは殴りかかってこなかった。
甘さや慢心なんてものではないだろう。
スコールが書き記していた。『奴はバトル野郎だ』と。
この男が待ったのは、リュックがちゃーんと遠ざかるのを確認するため。
戦いに邪魔を入れられたくないから、ただそれだけの話。
「さて、初めようか」
「どうぞどうぞ」
呆気ないほど簡単に戦いの火蓋は切って落とされる。
サラマンダーが動くよりも一瞬早く、僕はジャンプで上空へ逃げた。
『さきがけ』ではない。20%と40%、合計60%の速度強化の賜物だ。
中空でライフルを構え、照準を定める。
文字通り光の速度で放たれたエネルギーの矢を、しかしサラマンダーは踊るようにかわし、
その勢いを利用して、落ちてくる僕に向けて蹴りを放つ。
けれどもこっちだって、着地点を攻撃されるなんてのは予想済みだ。
「イオ!」
ヘンリーからドローしておいた爆発魔法を唱える。
爆風がサラマンダーを攻撃すると同時に僕の体を浮かせ、強烈な一撃から回避させる。
元々、僕は体力には自信がない。
スコールやゼルに勝てるのは、動体視力や反射神経、瞬発的な速さだけだ。
ましてこちらは手負いも手負い、普通ならベッドの上に縛り付けられる程度の怪我人ときている。
筋骨隆々とした格闘家の一撃なんて、まともにもらえばすぐに死が寄ってくる。
即座に体勢を立て直すサラマンダーから距離を取るべく、僕は後ろに跳び――
その動きに追随するように、奴が大地を蹴った。
走ってくる。ヤバイ。速い。追いつかれる。
「『すいとれ』ッ!」
半ば苦し紛れにかざした手から、風弾が放たれた。
サラマンダーは止まらない。風を右手で弾き飛ばし、そのまま僕に迫る。
ダメージがなかったわけじゃないだろう。でも、奴は奔り続けた。
そして防御を固める暇もなく、追いつかれる。
振り抜かれた左拳は空気を打ち抜きながら胴体に食い込み、衝撃が視界を揺らす。
しかし脳が苦痛に焼かれるよりも早く、生命力を吸い取った風が僕の体を包み込んだ。
癒しの力と暴力は相殺し合い、僅かな痛みを残して消える。
クリアな意識は冷静に、吹っ飛ばされていた体に素早く受け身を取るよう命じた。
そしてサラマンダーが二撃目を放つより早く、僕は体勢を立て直し、銃口を上げる。
5メートル弱。必中の距離。必殺の弾。
「ふんッ!」
けれども、僕が狙いをつけた時、奴もまた後ろに跳び退りながら何かを投げようとしていた。
チョコボの像。
その造形を脳が認識したと同時に、背筋にとてつもない悪寒が走る。
反射的にトリガーを引く。
サラマンダーが像を投げた。
僕はジャンプしようと身をよじる。
地面を蹴った次の瞬間、ビームに打ち抜かれたソレが大爆発を起こす――
「うわぁあああああっ!?」
フレア、という単語が頭に過ぎったのは、熱風に背中を焼かれながら吹っ飛ばされたあと。
ギリギリだった。
コンマ一秒でも跳ぶのが遅れていたら、確実に爆発に巻き込まれて死んでいた。
あるいは、僕がライフルを撃つ前に奴が『ソレ』を投げていたら、やっぱり死んでいただろう。
けれど生きている。僕はまだ生きている。
そして、奴も。
「……近距離で使うものではなかったか」
円形に焼き尽くされた草原のふちに、サラマンダーは立っていた。
自分で投げた道具といえ、正確な威力までは予想できなかったのかもしれない。
焦げた髪を払う仕草と口調には、僅かな自嘲と苦々しさが浮かんでいる。
灼熱の痛みに意識を持って行かれそうになりながら、それを隠すために、僕は言う。
「次があったら、調べてから使うんだね。
今時自爆なんて流行らないよ」
「そうしよう」
相変らず無表情で、奴は答えた。
とんだやり手だ。
なんで、これで子供二人しか殺せてないんだ? わけがわからないよ。
勝ち目の見えなさと絶望感に泣きたい気分になりながら、それでも僕はライフルを下ろさない。
何故なら、僕にはまだ、切り札って奴が残ってるからだ!
「お返しだ――6second!」
乱射や早打ちとは一線を画す、僕だけの特殊技、『ショット』。
極限まで高まった集中力が生み出す、『時の流れから切り離された数秒間』に撃った弾は。
現実の時流に重なった時、全て同時に発射され、敵を撃ちぬく。
頭を右腕を左肩を右足を左足を胴体を、六か所を同時に射抜く光の弾丸。
一発だって避けられるはずがない。
一発でも避けられるわけがない。
「なッ!?」
なのに――奴は、避けた。
頭を両腕でガードしてこちらに向かって飛び込むなんて、めちゃくちゃなかわし方で。
当たる面積を最小限にして防御なんて、コミックみたいな方法で、四弾も避けた。
否、胴体を狙ったはずの弾は髪を掠めただけだ。
当たったのは一発。左足を狙った弾が左腕を射抜いた、それだけ。
「そんなっ、」
驚愕の声を上げる暇もなく、奴が着地する。
――六メートル。 間合いを詰めてくる。
――五メートル。 マズい。
――四メートル。 引かなきゃ。
――三メートル。 【最後の切り札】を。
――二メートル。 「くそっ!」
――一メートル。 間に合え!
そして、奴との距離がゼロになるその瞬間、僕の意識は暗闇に包まれた。
溢れだす大量の記憶が、がーーっと流れていく。
人生四度目ともなれば、存外慣れるもんだ。
最初は寒風吹くレーベの夜空の下で。
二度目と三度目はティーダに助けられたっけ。
繰り返すけど、慣れちゃうもんだ。
理性が心の奥底に押しとどめていた【闇】、
その核を成すのはディアボロスが暴走した時に彼のエネルギーと同化してしまった僕の魂の一部。
集め、引き寄せ、推し潰す『重力』という属性を得たソレは
結果的に僕に宿っていた【闇】を記憶もろとも圧縮し、しばらくの間、僕の正気を保たせていた。
けれども、重力は引き寄せる。
リノアの遺体に残されていた【闇】を。
血の海に沈むトンヌラの無念が生んだ【闇】を。
凶行を繰り返した偽アリーナが捕えていた【闇】を。
相討ちになったが為に残り続けた、ピエールとリュカの【闇】を。
全ての【闇】を、僕は自覚のないまま集め、引き寄せ、自分の中に圧縮してしまっていた。
そして限界を超えて集まった【闇】は、とうとう重力から逃れ、僕の心を支配した。
理性の種がなかったらどうなっていたのか――考えるまでもない。
走馬灯のように、僕はスコールとのバトルを思い出す。
あの時は、現実を突きつけられる前だった。
殺し合いに乗れるかどうか試すための戦いだった。
だから、使えなかった。頼るわけにはいかなかった。
でも、今は、ワケが違う。
【闇】の塊が、ごぽりと音を立てて脈動する。
理性のタガを外され、圧縮を解かれ、爆発的に広がるソレは、さながら濁流のよう。
押し寄せる波に似た無数の触手が、僕の魂に群がり、繋がり、包み込む。
感情の奔流が思考を塗りつぶし、苦痛を消し去り、【闇】の色に染め上げる。
僕が僕である為に必要な、最低限度の理性だけを残して、それ以外の全てが溶けていく。
――これが、本当の切り札。
ジャンクション
「<接続>!」
重い一撃が僕の鳩尾を捕える。
でも、もう無駄だ。
【闇】と繋がり一つになった意識は、痛みなんて認識しない。
吹っ飛ばされる前に、折れた右手が動く。
ぶっとい腕を掴み、握り締め、ただ命じる。
「『すいとれ』」
手の中に生まれた風は、
「もっと」
弾けると同時に、
「干からびるまでッ、」
生命力を奪い取り、
「『すいとれ』ェーーーッ!!」
僕が命じ続ける限り流れ込み続ける。
『すいとる』というアビリティは決して使い勝手のいいものじゃない。
威力はドレインの半分、つまりファイア以下で、普通に殴った方がマシに思える時もある。
それでも、この能力には絶対的な利点が三つある。
魔法に近い攻撃だから暗闇状態でも外れない。魔法に近い攻撃だけど沈黙状態でも封じられない。
そして何より――発動に何の代償もいらない。
サラマンダーの顔に初めて焦りが滲む。
空いている左腕で僕に連撃を叩きこむ。
顎を殴り、脳を揺らし、意識を刈り取ろうとする。口の中が切れて血が溢れる。
だけど僕とパンデモニウムは止まらない。ひたすら奴の生命力を吸い取り続ける。
生きたまま奪い、喰らい、僕自身へと変えていく。
無論トータルで見れば回復量よりダメージの方が上で、きっと僕の体は悲鳴を上げてるだろう。
理性は理解している。
理解する気がないのは、【闇】と同化した感情の方。
自分の血と、流れ込む生命の味が美味しくて。
脳を揺らす衝撃と、手の中で弾ける風の感触が心地よくて。
必死に殴りかかる奴の表情と、腕にしがみついてる自分の姿がすごく面白くて。
楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて仕方がない。
「あっはははははははははははは」
テンションがどんどん上がっていく。
技の威力まで上がっていくような気がするぐらいに。
「ははははははははっ、ゲボッ、あはははははははは!」
笑いと血がこぼれてこぼれて止まらない。
本当に愉快で、ずーっとこうしていたいぐらいだ。
「あっははは……ごふっ、あははははははははははっ!!
ひゃはははははははははははははははははははははは!!!」
けれども向こうはそうじゃないみたいで、殴るのを止め、薙ぎ払うように左腕を勢いよく振り回した。
さすがに折れてる腕には、遠心力に抗って掴み続ける程の力なんて無くて、呆気なく僕は吹っ飛ばされる。
数メートル先の、爆発から逃れた草叢に頭から突っ込んだ。
それでもタノシイって感情は、これっぽっちも止まらない。
「あははははははははははっ」
笑ったまま立ち上がる僕に、一体何を勘違いしたのか、サラマンダーはつまらなそうに吐き捨てた。
「死を前にして狂ったか?」
枯れた声、こけた頬、げっそりとした表情。とても常識的な反応だ。
でも、そんなのは、真っ当に生きる事しか知らないクズ共が吐いてりゃいいコメントだ。
「あんたは楽しくないのかい、サラマンダー」
僕は問いかける。
「相手の死を得るために自分の生を賭け、全力を尽くす。
それこそが殺し合い、これこそがバトルって奴じゃないか!」
口の周りについた血を舐めとり、左手のライフルを担ぎながら。
立ち尽くす焔色の髪の男に、右手の人差し指をつきつけた。
「ただひたすら互いを壊す、サイコーのエンターテイメント!
こんなに素敵なショータイムを、命がけのバトルを楽しめないあんたは、何野郎なんだい?!」
僕の言葉に、男の焦げた前髪が揺れる。
垣間見えた目は驚愕に見開かれていて――すぐに、細まった。
得物を見つけた猫のように、もしくはどこぞのガーデンのガキ大将のように、ニヤリと笑う。
ほら。
やっぱり、スコールの言ってた通りじゃないか。
「覚悟は取り戻したつもりだったが、目的を忘れたままだったとはな」
自嘲と共にサラマンダーは呟き、ザックから一本の包丁を取り出した。
生気の衰えていた瞳が、ぎらりと輝く。
「感謝しよう。俺が真に求めた物が何か、思い出させてくれた事を」
僕は武器を持ち替えない。スコールの信頼そのものであるこの銃を使わないなんて、有り得ない。
「こっちこそ感謝するよ。他の誰かに殺される前に、僕に壊されてくれる事をね」
そして、僕らは笑う。
楽しい楽しい時間に。終わりに待つ勝利の快感に。命を破壊する快楽に。
次の一撃で決着がつくだろうって事がわかっていたから。
どちらが言うでもなく、僕とサラマンダーは自然に後ずさり、距離を開けた。
きっかり10メートルの間合い。それが最後の舞台。
息を吸い、吐く。
新たな仲間を求める【闇】が希うまま、命じるまま、集中力を研ぎ澄ます。
「では死ね、」「じゃあ壊れろ、」「「バトル野郎!」」
そして僕が先にトリガーを引き、サラマンダーが真横に飛びながら包丁を投げた。
光の一つを切り裂いて、血濡れた金属が飛来する。
さながら、空を駆ける一筋の流れ星のように。
でも、残った5つの光条が、サラマンダーの飛ぶ先へ放たれていた。
風を払い、荒れ狂う稲光のように。
ああ。
こんな最高の時間の終わりが――こんなつまらない結末になるなんて、ね。
「テレポ!」
耳障りな声が僕の後ろで響いて、全てが消える。
サラマンダーも奴が投げた包丁も僕が撃ったビームも焦げた草原も、白い光に包まれて。
気付いた時には、うっとおしく伸びた草の中、金髪の女にしがみつかれていた。
一体何が起きたかを考えるより前に、【闇】が溢れかえる。
壊せたのに。あと少しで奴を殺せたのに。なんで邪魔をするんだ。
ちくしょう。殺したい。壊したい。
撃って切って嬲って蹂躙して引き裂いてぐちゃぐちゃに潰してありとあらゆる手段でこの女をぶち壊したい。
身を任せてしまいたくなるほどどす黒い感情が、僕の心を満たしていく。
でも、振り向いた僕を見上げた彼女の表情に、理性が叫んだ。
「――リュック!?」
ユウナの従姉妹。ティーダの友達。魔女の枷を外せる仲間。
「う……ぐうっ!!」
殺意に飲み込まれる前に、【闇】へのジャンクションを切る。
荒れ狂う大海のようなソレを圧縮して、心の奥に押し込んで、理性に蓋をさせる。
そんな僕の労苦なんか知ったこっちゃないといった感じで、彼女はお気楽すぎる文句を言ってくれた。
「あんたね!! なーんであんたまで、あたしのこと吹っ飛ばすのよ!
あいつが相手なら一緒に戦ってあげてもよかったのに!」
……はい? って聞きかえさなかった僕を誰か褒めてほしい。
「おかげで頭打っちゃったじゃない! もー!
眼が覚めて急いで戻ってきたら、武器構えて睨み合ってるし!」
「……あのさあ。僕がいったこと、聞いてた?」
「だからぁ! あんたがふっとばしたせいで、向こうの木に頭ごっつんしちゃったんだってば!
聞きたくっても聞ーけーなーいー!!」
アホみたいに(あ、アホそのものか)騒ぐリュックに、僕は頭を抱え――
「リュッ――ぐ、あぁァああああああああああァアアああああッ!!!??」
彼女の名を呼ぼうとした瞬間、脳を焼き尽くすほどの激痛に襲われた。
「あ、あ、アーヴァイン!?」
リュックの声がやけに遠くで聞こえる。
背中が痛い腕が痛い頭が痛い右耳が痛い肉が痛い骨が痛い血が痛い。
全身が余すところなく悲鳴を上げる。
でも、声が出せたのは最初だけで、すぐに息が出来なくなった。
似たような事は、昨日の夜、ティーダに止められた時にもあった。
【闇】が忘れさせていた痛みが倍になって襲ってくる、アレだ。
だけど今負ったダメージと、【闇】に頼った代償は、あの時とは比べものにならなかった。
世界が回る。視界が歪む。これで立っていられるわけがない。
倒れたという感覚すら痛みに上書きされ、体が意識に反してびくびくと震える。
「ケ、ケアルラ!」
リュックが魔法を唱える。癒しの光がわずかに僕を照らす。
それでも温かいと感じることはできない。
喉が動かない。肺が動かない。そのくせ心臓だけは別の生き物みたいに暴れる。
頭の中は真っ白で、激痛と音だけを拾って、それも長くは続かない。
持って行かれる。引きずり込まれる。
【闇】に――
「――はぁッ!!」
そんな僕を引きとめるように、低い男の声がした。
その主が誰なのか悟るのに、時間はいらなかった。
リュックが叫んだからだ。
「サ、サラマンダー!?」
狼狽する彼女を余所に、僕の心臓に何かが流れ込んでくる。
【闇】とは全く別の、力強いエネルギー。
ソレは血流に乗って全身を駆け巡り、染み渡り、死を遠ざけながら細胞を活性化させる。
「……ッ、ぷはぁっ、はぁ、はぁ……!!」
息が出来る。
僕は狂ったように酸素を取り込み、そして、涙で霞む目を、声がした方へ向けた。
苦しい。痛みはまだ、全然消えてない。
でも、どうにか頭を動かせる程度には、和らいでいて。
おぼろげながら、あらぬ方向を見つめるリュックと、少し離れた場所に立つ焔色の髪の男が見えた。
「……なに、を」
「俺から勝利を奪った男に、そう簡単に死なれても詰まらん。
それだけの話だ」
呟いて、男は掌を見つめた。そこに何を見たのか、僕にはわからない。
わかるのは、奴の焼けた脇腹と左足から、鮮血が流れ出しているということだけ。
「俺の一投はお前に当たらず、お前の射撃は俺を射抜いた。
勝者はお前だ、<九人殺し>」
賞賛なのか恨み言なのか、良くわからない宣言を告げて、男は踵を返す。
「ちょ、ちょっと! あんた、そのケガじゃ……!!」
どこまでもわかってないリュックが声を上げたけれど、サラマンダーは足を止めない。
「絶技で練り上げたオーラを送ったといえ、放っておけばいずれ死ぬぞ。
そいつを見殺しにする覚悟があるなら追ってこい。この命尽きるまで戦ってやろう」
好き勝手に言い残して、孤高の生と死を選んだバトル野郎は、草叢の向こうへ消えた。
「アーヴァイン……立てる?」
ぐるぐるした緑の眼が、僕の顔を覗き込む。
「……構うなよ、馬鹿」
言ってから、それが昨日にも口にした台詞だって事を思い出した。
人の話を聞かないお節介さは、スピラだかザナルカンドだかの風土病なんだろうか?
「わかってるのか、自分の、立場って奴……」
「言われなくてもわかってるよーだ」
ぺろっと舌を出す彼女の指先を見たけど、振ってなかった。
本気だってことは、時に嘘より性質が悪いなあと思う。
「でもね、ユウナと『ティーダの友達』を正気に戻して、元の世界に連れて帰るまでがあたしの目的っ!
だからあんたを見捨てるなんて選択肢は、最初っからないのっ!」
バカだ。筋金入りのバカだ。
アレだ、ユウナの従姉妹じゃなくてティーダの従姉妹の間違いなんじゃないのか?
「……サイファーとかに誤解されたら、重ね切りにされるぞ」
「あんたを縛り上げて、もう戦う気がなーい! って言えばわかってくれるでしょ」
「はーあ……甘く見られたもんだ。無抵抗で縛られてやるとか思うのか?」
「じゃ、実力行使で!」
彼女は『キラッ』という擬音が似合いそうな笑顔を振りまいて、僕の肩を支えながら立ち上がる。
けれど、ずきん、と背中が疼いて、思わず顔をしかめてしまう。
「……やっぱり、動けない?」
「いや、……銃声とか、聞きつけた奴がいたら、困るし……移動、しとこう」
飛びそうになる意識を必死に押さえつけ、僕は一歩、足を踏み出す。
僕が死ぬこと自体はある程度覚悟をしているけれど、次の放送前に死ぬのは流石に不味い。
僕が死んだと知れば、サイファー達だって城に寄ろうとしないで、真っ直ぐ祠に戻ってきちゃうからだ。
スコールと僕が立てた作戦は『二つ』ある。
一つはヘンリー達も知ってる、『僕とリュックが城の皆と合流して接触する』なんていう綱渡りの作戦。
でもそれは皆の反感を避けるための嘘っぱち。ただのダミーだ。
立案者たる僕達だけが知っている、もう一つの作戦こそが本命。
『リュックかサイファー達のどちらかを城の皆と合流させて、南東の祠に戻ってこさせて、
その間に【闇】に耐性を持つ僕が殺人者を狩って回り、ユウナを保護するなり殺すなりする』――
だけどリュックが僕の傍を離れないなら、サイファー達に城に行ってもらなわないと困る。
だから、今はまだ、死ぬわけにはいかない。
「……そうだ…あっちの、山の中……行こう……」
僕はラムザが墓を作ったという場所を指さした。
彼が、幾つかの道具を拾わずに墓標代わりに残した、と言っていた事を思い出したからだ。
希望的観測だけれど、もしかしたら回復に使える道具があるかもしれない。
それに、ラムザの話を聞く限り、爆発があったのは相当前だ。
彼以外に爆発を見た人間がいたとしても、死体や墓の傍になんて長居はしないだろう。
平原にいるよりは、他人に見つからないで済むはずだ。
僕の考えを、リュックがどこまで察したかはわからない。
でも、彼女はぱちりとウィンクして言った。
「オッケー! ゆっくり歩くけど、辛くなったらすぐに教えてよー?」
――焼き払われた草原の真ん中に、サラマンダーは五体を投げ出した。
生気を奪われ萎びた右腕をゆっくりと上げ、今一度、掌に視線を注ぐ。
もしも少女の横やりが入らなかったら、最後に投じた包丁は命中していたか?
その問いの答えは、彼の見つめる先にあった。
汗に混じった赤い色彩。
サラマンダーが最後に選んだ武器はテリーから奪ったもので、その柄には何者かの血が染みついていた。
そして汗に溶けたソレは一投の際に柄を滑らせ、狙いを誤らせていたのだ。
まるで少年や血の持ち主の意思が、かつての仲間を守ろうとしたかのように。
スコールなら、これも『下らないロマンだ』と切り捨てただろうか?
そんな事を考えながら、サラマンダーは石造りの空を見上げる。
自害をする気は無い。己を殺すのはあのバトル野郎であるべきだと思っているからだ。
ただ、命が尽きるその時までは、この清々しい気分に浸っていたいと――
どこまでも孤高に生きることを望んだ焔色の髪の男は、一人、静かに笑った。
【サラマンダー(瀕死、MP微量)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 鋼鉄の剣
第一行動方針:特になし】
※包丁(FF4)が近くに落ちています
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道付近】
【アーヴァイン(変装中@白魔導士、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/10+リジェネ、MP微量)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
第一行動方針:移動後、回復するまで休憩
第二行動方針:脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(パラディン)
所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3)
第一行動方針:アーヴァインを治療する
第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道付近→分かれ道南の岩山へ移動】
>>427は13/13の間違いです。
支援ありがとうございました。
鬱屈とした暗闇を断ち切るように白いコートが翻る。
燃え広がる炎のような勢いで駆けるその様は疾風というよりも火風のよう。
その業火の正体はサイファー・アルマシーという男。
激情という名の業火を胸にたぎらせながら、古い友を殺すために駆けている。
それを追う影は二つ。
いずれも人のものではない。
一つは知性と気品をたたえたメス犬だ。
もとより高い身体能力を持つサイファーがG.F.ケルベロスのオートヘイストを併用したうえでの全力疾走。
その速度は、野生のスプリンターである彼女の俊足をもってしても追いすがるのがやっとだった。
そして、もう一つの影。
その外見には似つかわしくない強靭な脚力を持って彼女に並走する緑の影。
小動物の様な短い手足に、鳥類の様な黄色い嘴。そして何より目を引くのは頭部の頂点に皿を置いた奇妙な出で立ち。
ありていに言えばカッパである。
人の後を追う犬と並走するカッパ。
ブレーメンもかくやというその光景は奇妙としか言いようが無い。
『…………どうしてあなたまでついてきているの?』
並走するカッパ――セフィロスに彼女――アンジェロは問いかける。
確かに現在、セフィロスとは休戦状態ではあるのだが、積極的に追いかけてくるというのは、意外といえば意外だった。
『なんだ、あの場にとどまっていて欲しかったのか?
なに、そこまで【闇】に侵された男というのに興味があるのでな、直接この目で実例が見れるのならば見てみたいと思っただけだ』
その発言にアンジェロは気づく。
先ほどの会話に立ち会うことにより、セフィロスが【闇】の情報を得てしまったということに。
それを悪用できるとは思わない、と言うより、【闇】の悪用方法などアンジェロには想像すらつかないが。
今は休戦中であるとしても――その外見が今はカッパだったとしても――彼の危険性は変わらない。
彼に不要な情報を与えてしまったのではないか。
そんなアンジェロの懸念を読み取ったセフィロスは、ふんと冷たく失笑した。
もっとも、外からはカエルがおかしな鳴き方をしたようにしか見えなかっただろうが。
『あの程度の情報なら既に独自に行き着いている。得た情報はかねがね私の考えていた認識と相違ないさ。
だが、確かに【闇】に侵された症例の話はなかなに有用な情報だった。
お陰で【闇】の正体にもある程度、あたりが付いた』
『…………【闇】の正体?』
『そうだ、【闇】【黒い靄】【悪しき力】幾つかの名称があるようだが。
その正体をお前たちにも、わかり易い言葉で言い表してやろうか?』
その言葉にアンジェロは言葉を呑む。彼女の場合正確には言葉というより鳴き声だけれども。
『―――――魂だよ』
確信を持った声で断言するセフィロス。
カッパであるため、その表情は読み取れない。
いや、人間体であったとしても、きっと眉ひとつ動かしてないのだろうが。
『……魂、のようなエネルギーということ?』
僅かに戸惑いながらも、駆ける足を止めずアンジェロは問い返す。
『違う。魂のようなものでもなく、魂から生まれたエネルギーでもない。
【闇】というのは、紛れもなく死した参加者の魂”そのもの”だ』
比喩でもなく、派生物でもなく。
【闇】とは死した参加者の純然たる魂であると、セフィロスはそう言ったのだ。
それはつまり、彼女の主人であるリノアの魂もこの場に漂っているということなのだろか?
頭の片隅で、何ともなくそう思った。
『そう考えれば、何故【闇】が参加者に取り付くのか、なんて理由は至極単純だろう?
――――要するに肉体がほしいのさ、奴らは。いや、欲しいというより恋しいといったほうが正確か』
そう言ってセフィロスは苦笑する。
だから、付け入る隙があれば、付け入ろうとする。
戻れるのならば、戻ろうとする。
命を欲する――――妄執であり、本能。
だが肉体を欲して他者に憑りつくというのならば。
『ちょっと待って、あなたの言い方じゃ、それじゃまるで――――』
まるで――――【闇】に意思があるようではないか。
『そうではない。魂に明確な意思などないさ。
もっとも、獣である貴様に魂の概念など理解できんか?』
『幽霊とは違うの?』
『違うな。
三位一体という概念があってな。生命とは例外なく肉体、精神、魂という三つの要素で構築されているという考えだ。
これは人間のみならず貴様のような獣や人あらざる者にも共通する。
肉体は『肉体』、精神は『意識』、魂は『無意識』を司る。
霊体はそのうちの肉体だけを失っただけの存在。つまり精神を持ちあわしているからこそ、意思と理性を持っている。
そして、精神を持ち合わせていない【闇】には意思がない。
あれにあるのは無意識という名の本能だけだ』
殺意や怨念で、黒く染まった魂だけの存在。
『それが…………【闇】の正体?
けど、なんでそんな、』
結論に至ったのか。
少なくとも先ほど同じように話を聞いていたアンジェロには、どこで確証を得たのか見当もつかない。
『別に先の話だけで断定したわけではないさ。
もとよりこれまで得た情報からの推論はあった』
自らが直接見た症例。
これまでに情報として得た症例。
そして、先ほど聞いたいくつかの症例。
これらの情報を統合した結果、セフィロスは結論に至った。
『思えば、疑問だったのが、儀式よって発生した殺意や怨念という曖昧な概念を、どうこの場に留めているかという点だ。
いいか、本来蟲毒というのは、殺したモノの『肉体』に殺されたモノの怨念を定着させる事を繰り返すことで完成する儀式なのだよ。
だがこの場においてはそうではない。それ以前に、肉体に取り付くはずの”そういうもの”が空気中に溢れ出る時点でありえない話だ』
【闇】に取り憑かれることに、人を殺したかどうかなど関係がない。
それがセフィロスの結論。
人を殺すことが条件であるのなら、この場で誰よりも人を殺したセフィロスが侵されてないはずがない。
侵されずとも、何らかの変化はあるべきである。
だが、今現在を持って彼はなお誰よりも正常である。
正常に狂っている。
正気でありながら、自らの意思で殺している。
『ならば、肉体ではない別の触媒があるはずだと思い至った』
『……それが魂?』
アンジェロの回答にセフィロスは然りと頷く。
だが【闇】が魂というのならば、新たな疑問も湧いてくる。
『けど、ここにいたのは、あなたのような人間ばかりではないはずよ。
【闇】というのが参加者たちの魂であるというのなら、そう簡単に人を狂わす毒にしかならないのは説明できないわ』
このアンジェロの疑問にも一理ある。
確かに、この場に呼ばれたのはセフィロスのような邪悪な存在ばかりではない。
世界を救いし正義の心を持った勇者や、穢れなき純粋な心を持った子供たちだっている。
いや、むしろ総量としては聖者のほうが多いはずだ。
この場に漂うのが死者の魂であるというのならば、これほど闇のみに染め上げられた、邪悪な瘴気に満ちた空間は成り立たないのではないか?
『なぜそんなことが言い切れる?
魂の属性など証明できたものはいないだろうに。
証明できないものが、どうあるかなど何故決めつけられる?』
『人間の本質が悪だとでも?』
『そうは言わない。善だとも思わないがな。
思うに、魂というのはな単体では非常に脆く脆弱であり、とかく染まりやすいものなのだろう。
故に、むき出しの魂はたやすく中てられたのだろう。それ故に触媒としては肉体以上に最適だったということだ』
魂は常に肉体と精神に守られている。
だからこそ、それ弱れば【闇】に付け込まれる。
精神が弱れば付け込まれる。
肉体が弱れば付け込まれる。
単純に弱ければそれだけで付け込まれる。
何故あれほどの重症を追ったマッシュが【闇】に侵されなかったのか。
魂は染まりやすいモノであるのならば、周囲を良好な関係の仲間に囲まれていた彼は闇に染まった魂に晒されづらかったなのかもしれない。
『決めては、先ほどの話に出た症例の中の、幻覚を見ていたという子供の話だ。
仔細はわからんが、賭けてもいい。幻影に生者の幻影はなく、全て既に死んだものばかりだろうよ』
その先の言葉をアンジェロは察した。察してしまった。
それはつまり、彼女らが見ている幻影は幻影などではなく。
『そうだ、その子供が見ていたのは幻覚などではなく、本物だ。
死者の――――魂の残骸だ』
『ありえないわ! タバサという少女が見ていたのは父親の幻影でしょう!?
父親が実の娘を狂わすだなんて…………!!』
思わずアンジェロは叫ぶような声を上げた。
泣くような、鳴き声だった。
『だから言っただろ。魂は意思など持たない。
それは本物であり本物でない。ただの残骸だ。
その残骸に方向性を与えるのはそれを操る当人の役目だ』
自身の魂に纏わりつく魂の残骸を使って、自分の都合のいい幻影を見た。
それだけの話だ。
それは本物であり本物でないであり、偽物ではない偽物である。
『おそらくだが、幻影を視る段階ではまだ肉体の中に魂が入り込んだだけ、複数の魂を有している状態なのだろう。
肉体に変質を及ぼすのはその次、完全に魂が融合し一体化した状態に至った場合か』
魂というのは存在の本質であり根源である。
本質たる魂の変質は肉体や精神にも強い影響を与える。
魂とは存在としての強度だ。
一人分よりも複数分の魂を持てば強くなるのは当然の事。
他者を受け入れるのだ、自己が薄れるのは当然の事。
他者の魂を喰らうのだ、使えなかった魔法が使えるようになることもあるだろう。
まして、取り込むのはあらゆる負の感情を吸収した【黒い魂】だ。
無意識下で攻撃性を増したり、ネガティブな思考になるのも必然だ。
思えば、セフィロスが最初に出会った症例――ティファ――の肉体への変質。
あれは肉体と精神に対して融合した魂の総量が多すぎたのだ。
それ故に理性もなく、肉体の限界すら無視した軌道を可能としたのだろう。
ようはバランスの問題だ。
理性の種でアーヴァインが正気を取り戻したのは、肥大した『無意識(ほんのう)』に見合うだけの『意識(りせい)』を得たから。
あれほど深く【闇】に侵されながら肉体の変質が行われないのは、奇跡的に精神と魂で釣り合いが取れたためだろう。
『無意識』が総量を増し『意識』と『肉体』を凌駕する。
それにより生まれる、本能に従う理性のない化け物。
魂の侵食。
魂の融合。
魂の改革。
魂の進化。
進化の秘法。
それが【闇化】。
『そうだな、あるいは奴らに本能のようなものがあるのならば。
その魂は近しい人間に集まりやすいのかもしれんな』
近しいものの死によって精神を叩きのめされた隙を付かれ【闇】に堕ちる。
それも要素の一つではあるのだろう。
だが、それだけではなかったとしたら?
もしそれ以前に、既に魂に纏わりつかれていたとしたら?
もしその周囲に、彼らを想っていた人間の魂が纏わりつかれていたとしたら?
何故あれほど精神を衰弱させたアルガスが【闇】に侵されなかったのか。
【闇】が参加者の魂であり、本能的に近しいものに縋るとするならば。
唯一の知人であるラムザが死亡していない彼に興味を持つ魂が単純に少なかったからなのではないか?
それ以前に、ラムザとも親しくもないが。
生前の絆が恋しいから、本能まま縁者に近づき。
肉体が恋しいからその場にある肉体に纏わりつく。
そこに分別などなく、観念などなく、意思などない。
恋人を想う祈りが。
仲間を想う願いが。
家族を想う切望が。
すべて絶望へと裏返る。
『そんな…………そんな残酷な話が…………』
『あるのだろうさ、まあそれ自体はどうでもいい話なのだが……』
正直、その辺の話にはあまり興味がない。
セフィロスが思うに【闇】が魂であるなどという程度の結論は――なまじ道徳観や認めたくないという価値観が邪魔をし、その可能性に絞りきれないだけで――推論レベルならば思い至っている者もいるだろう。
セフィロスが気にかけるのは別の点。
この場で起きている現象についてだ。
果たして、どこまでが魔女の意図するところなのか。
それがセフィロスの現状抱く唯一の疑念であり、違和感である。
はっきり言って【闇化】において、システムが干渉している部分は実は少ない。
干渉してるは、正常な魂の循環を阻害してこの場に留める術式くらいのものだ。
後の現象は言うなれば、留まった魂が勝手に殺気に中てられて、勝手に黒く染まって、勝手に参加者に取り付いているといったほうが正しい。
蠱毒を模している以上、魂が黒く染まり【闇】が生まれるところまでは想定内なのだろうが。
では、それ以降は?
【闇化】とは、本当に魔女の想定した現象なのか?
そもそも、蓄積した【闇】はある程度の間隔で回収されるはずである。
1日に1度、舞台変更というシステムを設けたのがその証拠だ。
だというのにこの会場の有様はなんだ。
これほど濃密な【闇】が形成されている現状は異常だ。
感染者は後半に行くにつれ増え、まるで【闇】がまるまま会場に残留しているようではないか。
それはつまり【闇】が回収されていない。
このシステムを考え、組み上げた術者は神域の天才であるとセフィロスは認める。
それ故に、このようなチグハグさはどうしても目に付く。
それはまるで、最初から用意されていた完璧なシステムに誰か別の人間が手を加えたような。
術式を組んだ人間と使用者が異なるような。
本来の目的とこの状況は異なるような。
そんな違和感。
もし、この違和感が本物ならば。
【闇】は魔女を出し抜く要素になりうるのではないか?
何かシステムを破綻させる要素になるのではないか?
あるいは既に利用しているものもいるのかも知れない。
もちろん【闇】が残留し続けるメリットがないわけではない。
この場に残れば残るほど当然その濃度は増し【闇】としての質を高めることが出来るだろう。
だが、本来の設計者はある程度の段階で【闇】を回収し、そうはしなかった。
何故か?
何かリスクがあるのか?
そのリスクとは?
その先に何が、闇の先に何がある?
『……何を考えているの?』
突然押し黙ったセフィロスに不気味な気配を感じ、思わずアンジェロは問いかけた。
そこでセフィロスは思考を打ち切り、何事もなかったかのようにアンジェロに向き直る。
『他愛のないことだ。それよりもいいのか? ずいぶんと引き離されているようだが?』
言われてアンジェロは慌てて前を向く。
気づけばいつの間にか足を止めていたようだ、サイファーは遥か先を行っていた。
アンジェロは慌てて駆けだそうとしたが、その前に、セフィロスに向き直ると最後の問いを投げかけた。
『今の話、なぜ私に話したの?』
『別に単なる気まぐれだ。貴様に話したところで他に話が漏れる杞憂もないしな。それに、』
この状態なら盗聴の懸念もないしな。とアンジェロにも聞こえないくらいの小さな声で付け足した。
そう、このやりとりも周囲から見れば、犬とカッパが吠え合う、戯れにしか見えないのだから。
先を走るサイファーはデスキャッスルの入り口に差し掛かる所だった。
その回答に納得こそ行っていないようだが、サイファーを置いて止まっているわけにも行かずアンジェロは駆け出した。
完全に【闇】侵された男。
有用に利用できるなら利用したいものだ。
そう考えながら、わずかに遅れて魔王城へ向かって、こころない天使は駈け出した。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧) 】
第一行動方針:アーヴァインを殺す
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:デスキャッスル入口】
【アンジェロ 所持品:風のローブ、リノアのネックレス
基本行動方針:サイファーを追いかける/ケフカを倒す】
【セフィロス (カッパ)
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:アンジェロに同行する/カッパを治す
第二行動方針:ケフカを殺す/飛竜の情報を集める
第三行動方針:ドラゴンオーブを探し、進化の秘法を使って力を手に入れる
第四行動方針:黒マテリアを探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:デスキャッスル南の草原】
新作乙!
生々しい話をしてるのに、ビジュアルを想像するとほのぼのなんだよなぁw
闇化の考察、おもしろいね。
じっくり読んだので、いくつか文章の不備と思われる箇所が目に付いた。
以下、少し指摘していいかな。
>431 の真ん中らへん
> 故に、むき出しの魂はたやすく中てられたのだろう。
この文が意味不。あてられた?何に?
「故に」で続くにしてはその手前と同じことしか言ってないようにも取れるし。
その少し後、
> だからこそ、それ弱れば【闇】に付け込まれる。
ここは凡ミスかと思われ。
>432 の手前の方
> それは本物であり本物でないであり、偽物ではない偽物である。
ここもよくわからない。
>434 の手前の方
> だが、本来の設計者はある程度の段階で【闇】を回収し、そうはしなかった。
ここは少し説明不足かな?
>>435 ご指摘、ありがとうございます。
その他にも齟齬や説明不足など、おかしな点があったらご指摘ください。
以下、修正。
>>431 >『そうは言わない。善だとも思わないがな。
> 思うに、魂というのはな単体では非常に脆く脆弱であり、とかく染まりやすいものなのだろう。
> 故に、むき出しの魂はたやすく中てられたのだろう。それ故に触媒としては肉体以上に最適だったということだ』
> 魂は常に肉体と精神に守られている。
> だからこそ、それ弱れば【闇】に付け込まれる。
『そうは言わない。善だとも思わないがな。
思うに、魂というのは単体では非常に脆く脆弱であり、とかく染まりやすいものなのだろう。
故に、この場に漂うむき出しの魂は、参加者の放つ悪意や殺意にたやすく中てられ黒く染まったのだ。
だからこそ触媒として魂は肉体以上に最適だったということだ』
魂は脆弱で中てられやすい。
それ故、魂というのものは肉体と精神という鎧に常に守られているのだ。
だからこそ、その鎧が弱れば【闇】に付け込まれる。
>>432 > それは本物であり本物でないであり、偽物ではない偽物である。
その幻影は本物でありながら本物ではなく、偽物でありながら偽物でもない。
>>434 > だが、本来の設計者はある程度の段階で【闇】を回収し、そうはしなかった。
> 何故か?
だが、本来の設計者は舞台変更という一定間隔での回収システムを設けている。
それは何故か?
>>436 乙乙。
修正ですごいわかりやすくなったよ。ありがとう。
考察面白いな……アーヴァインにどんどんフラグが
今後どうなっていくのか本当に気になる
応援しています!
乙です
どんどん踏み込んでるねー
しかし読み返してて改めて思ったが8陣営の能力チート臭えw
結構進んだ気もするけど、放送までどれくらいなんだろうな
441 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/05(火) 07:19:46.53 ID:veTVynbD0
日中から日没(放送)まで
アリアハン(まとめサイト第1章):109話
浮遊大陸(まとめサイト第4章):115話
どっちも大体110話位…で
闇の世界では「わくわく動物ランド」までで79話進んでるから
放送までもう少しかかるような気がする…
まあ大分人数も減ってきてるから、一概には言えんけどな
まあ今動いているところが一段落したらしたらってとこかな
それでももうしばらく必要そうだけど
放送といえば、マッシュは前の放送の時寝てから
まだエドガーが死んだこと知らないのか...
マッシュに限って闇化することはないだろうけど
告知イベントが辛いのう
445 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/13(水) 17:06:37.10 ID:jRajh6Sf0
保守
446 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/06/19(火) 07:07:02.73 ID:VFg1E2CO0
保守
保守です
保守ついでに雑談とかどう?
そんじゃあ最近読み返してて気づいたことでも。
1.ザックスは、イクサス→シド→アルス経由で、スコールとマッシュ(ついでにアービンも)は悪者って聞いてる可能性がある
そうなるとややこしい事になる…かも
2.セフィロスvsラムザ&ウィーグラフ&リルムの時、ウィーグラフが最初カッパ状態だったから、
その辺の事を覚えていれば、リルムがカッパー使えると気づくかも
ところで、ロックとマッシュはカッパー使えるんだろうか?
3.プサンがタバサの持ってる魔石ミドガルズオルムを追跡してたんで、そーいや今は誰が持ってるのかなと調べてみたら……誰も持ってなかった
タバサの荷物、誰も回収してなかったんかい
参加者名簿見てると、本当にカオス過ぎる人選だったんだなと改めて感じた
リヴァ(だとかトンベリとかブオーンとかクリムトとか
よくこれでここまでこれたもんだ
ブオーンは途中までただの山状態だったなw
最初はどうすんだこれと思ったが
マティウス&ゴゴに敷かれてじっと耐えてるのとか
まさかの絨毯移動とか、意外にも和ませてもらった
あと、どの戦闘も面白いけどブオーン戦の臨場感はハンパなかった
ソロのギガソードとか爆裂拳とともに登場するマッシュとか
ティナが助けに飛び出す所とか要所要所で胸熱でした
好きな話について
「遺される言葉」好きでした。なんかマリベルらしさが最後まで出でて…
凄い悲しくなりました
「すぐそこにある狂気」コレはタイトルがですが…
ティファの初登場話。その後のティファを思うとその狂気に呑まれた感じです
話ずれますがFFDQロワ板の「キャラの行動をまとめてみる」の中の
ハイン 241話 アルカートに踏まれる。
に凄い噴きましたww
保守
もう新作25日間来てないね
ここ最近は投下ラッシュだったけど、それまで1年2ヶ月くらい投下無かったんだぜ
まとめサイトも動きがない…
個人で更新してるサイトだから色々と都合もあるんだろう
あまり急かすな
未収録の分もログは残ってるんだから問題はない
458 :
456:2012/07/01(日) 08:08:16.99 ID:xYDi22dS0
そうか
悪かった
保守
保守
ほしゅ
七夕
一日一回保守
そんなしょっちゅう保守する必要ないよ
【コラム:精神と魂】
どの世界にも共通して存在する物語の一つが、幽霊の目撃談だ。
数多の血が流れた戦場に、あるいは墓所に、もしくは寂しい牢獄の中に、彼らはいる。
天使や死神に導かれる事も無いまま、未練を残して現世に縛り付けられた霊魂は、
時の経過に伴って自我と輪郭を失っていき、最終的には人魂のような姿で現世をあてどなく彷徨い続ける。
しかし、ごく稀ではあるが、死して尚高潔な『精神』を失わず、自らの意思で現世に留まる霊魂も存在する。
彼らは生前の記憶と『精神』を保ったまま、己の遺志を継ぐ冒険者を待ち続け、助言や武具を与える。
また、逆に強い悪意や憎悪を持って死んだ霊魂も、生前の姿や記憶・感情を備えている事が多い。
だが、そのような負の感情に縛られた霊魂は、高確率で周囲の邪気や瘴気を取り込み、魔物化を引き起こす。
魔物化した霊魂はそのまま実体化してゴーストやエビルスピリッツとなったり、死体に憑りついてゾンビやリビングデッドに変化する。
生者に憑りついた場合はさらに危険だ。
死神の騎士、エリミネーター、ネクロマンサー、ピスコディーモンなど、高い知能と状況判断力を持った魔物が出来上がることだろう。
さて、先に述べたが、現世に留まる霊魂には人格や記憶・自我を備えた個体が存在する。
これは事実である。
けれども、先に述べた一部の例外を除き、彼らは生前の精神を備えてはいない。
精神とは、能動的行動を起こす為の機構である。
『知覚し、認識し、判断する』というプロセスを処理する、不可視の概念存在である。
人魂となった無害な霊魂の多くは他者を認識できない。事の善悪も判断できない。
ただそこに留まり、彷徨い、自らの記憶や思念を垂れ流すだけだ。
また、魔物化した霊魂の場合、一見すると生者同様の認識能力や判断力を備えているように見える。
だが彼らは、自らを魔物化させた邪気の主たる、魔王や邪神の精神に同調させられているだけに過ぎない。
だからこそ彼らは、生前の仲間であろうとも平気で襲い掛かり、殺すことが出来るのだ。
ここで読者諸氏は不安に思ったかもしれない。
死者の霊が魔物化することはないのか、と。
安心して頂きたい。
この会場では、死者の魂は迅速に回収される。
何十人殺そうと、貴方が手掛けた相手の霊魂が夢に出てくるとか、魔物と化して襲い掛かるなどということはない。――
(……目薬が欲しいな)
他人の夢の中で攻略本を読んでいたスコールは、目頭を押さえながらぼやいた。
さほど長くないコラムといえ、五つ目ともなると流石に眼球が疲労を訴える。
けれども、成果を出してもいないのに休むわけにはいかない。
「何かわかったか?」
「いいや」
夢の主、アルガスの問いかけに、スコールは素っ気なく答えた。
問いかけた方も元より期待はしていなかったようで、激昂することも嘲笑することもなく視線を元に戻す。
彼は先ほどから、隣に座る老婆・ウネと、夢の世界の利用法について相談を続けていた。
しかし、ウネが席を立ったり、アルガスが胸を張って成果を発表しない時点で、進展がないということは明らかだ。
(そうそう上手くはいかないな)
スコールはため息をつきながら、一度本を閉じ、机の上に置いたままの走り書きに目をやった。
記してあるのは、放送後の予定だ。
『ピサロ ルカ ロック ギード クリムト ラムザ
・バッツの魔力が回復するまでに上記の人物が一名以上祠に来たら、バッツの首輪を解除する
・そうでなければマッシュの首輪を解除する』
南東の祠にいる人々は、殆どが何らかの形で怪我を負っている。
首輪解除の能力を持つバッツは最優先で守り抜くべき対象だが、
現在『生きている』面子の中で、最も戦闘能力を残している味方でもある。
彼を『殺す』ならば、代替えの戦力が必要だ。
では誰が適格か、攻略本の情報を見ながらアルガスやウネと相談した結果、メモに記された六人の名前が挙がった。
ピサロ。この領域を治める王であり、ずば抜けた実力の持ち主だ。体よく彼が戻って来たならば、祠の守りは心配ないだろう。
ルカ。彼本人の実力はともかく、高い戦闘センスを持つアンジェロと意思疎通できるのは大きい。スコールの記憶でも、下手な大人より余程しっかりしていた。
ロック。スコールもアルガスもウネも直接会ってはいないが、ヘンリーやリルムの情報を聞く限り、信頼に足る人物だと判断できる。
ギード。バッツの世界では賢者と呼ばれていた亀。城で首輪解除の研究を進めている以上、祠に来る可能性は低いが、来てくれれば頼りにはできそうだ。
クリムト。ウネとアルガスが出会った、やはり賢者と呼ばれていたという老人。怪我人を治療して歩く、無用な争いを好まない清廉な人物だという。
そしてラムザ。アルガスの知人で、彼曰く『平和主義者のアマちゃん』だが、騎士の家系に育ち剣術と戦術を学んだ実力者という話だ。
彼らのうち誰か一人でも、五体満足な状態で祠に来てくれれば、バッツを戦線から離脱させることができる。
そうすれば、より安全に首輪解除を進められるというものだ。
逆に、誰も来なかったり、来たのがターニアのような一般人であるなら、バッツを戦闘メンバーから外すなど危険すぎる。
当初の予定通り、戦力として除外していて、かつ『死』が不自然でないマッシュを保護すべきだ。
それが、三人で出した結論だった。
(……アーヴァインやヘンリー達が上手くやってくれればいいが、過度な期待は禁物だ。
特にサイファーを思い通りに動かすなんて、それこそアルティミシア以外には至難の業だしな)
スコールは心の中で呟きながら、攻略本の冒頭を開き直した。
首輪解除の予定が決まった以上、次にやらねばならないことは、情報の整理である。
脱出経路もそうだし、この殺し合いを作り出している【クリスタル】に関する情報も絶望的に足りない。
スコールが攻略本の記事やコラムを読み漁っているのは、それらの手がかりを掴む為だった。
多くの本と同様、攻略本も、扉絵のページを捲ると目次が現れる。
『初心者編』、『世界編』、『知識編』.、『完全攻略編』などと銘打たれた章題の他、
二回りほど小さな文字で、コラムの題と対応するページ数が載っている。
【秩序と混沌の闘争】。
コスモスとカオスという二柱の神が、他の世界から勇士や強者を呼び集め、終わりなき闘争を繰り返しているという話。
【天使と運命の扉】。
世界のどこかに運命の扉というものがあり、人の世を見守る天使だけが、それを通って平行世界を行き来できるという話。
【翼の民の伝説】。
神の支配から逃れる為に秘術で翼を得た人間達が、空中の大陸に幽閉され、少ない物資を廻って殺し合うことになったという話。
【大魔王と勇者】。
強い身体を求めた古の魔王が、あらゆる世界から様々な人を集め、殺し合わせたという話。
そして、たった今読み終わったばかりの【精神と魂】。
この【精神と魂】は、先の四つとは明らかに毛色の異なる内容だ。
しかし、『魂を回収する』という文面からは、クリスタルとの関連性を感じ取れる。
そして続くのは【魔物と人間の考察】、【進化と適応】、【マ素とミストの関連性】、etc……
(……魔物と人間、か。
そういえば今のコラムも、魔物化した霊魂がどうのこうのと書いてあったな。
もしかしたら四つ区切りで話のテーマを変えているのかもしれない)
スコールは顎に手を当てる。
区切りごとに共通のテーマが存在するならば、最初の4つは『舞台装置に関する記事』だろう。
どの記事にもクリスタルという単語こそ出てこなかったが、異世界からの招集だとか、平行世界間の移動だとか、現状に通じるキーワードが多かった。
クリスタルの製作者がコラムの内容に触発されたのか、
クリスタルに影響を受けた者がコラムの事件を起こしたのかはわからないが、なにがしか関係があることは間違いない。
最も、それはコラムの内容が全て真実であると仮定した上での話ではあるが……
しかしスコールは、攻略本に『意図的に隠された情報』や『真実だが現状とは一致しない情報』はあっても、
『参加者を騙すために用意された偽情報』が載っているとは考えていなかった。
確証のない思い込みなどではない。
アルティミシアという魔女の性格を考慮した上での判断だ。
スコールは回想する。
ガルバディアで行われた、イデアの体を乗っ取ったアルティミシアの演説を。
あの時、アルティミシアは悪しき大国から民草を守る優しい魔女のフリなどしなかった。
魔女を恐れる人間達への怒りをぶつけ、幻想の中で舞い続けるとさえ言い放っていた。
言葉による扇動ではなく、自らの力による洗脳を選ぶ――
言ってしまえば圧倒的な力技でねじ伏せるような女が、
偽情報を乗せた攻略本を支給するという、回りくどい手段を考え付くだろうか?
彼が出した答えは、『否』だった。
故に、スコールは新たな手がかりを求め、攻略本のページを手繰る。
次のコラムテーマは『殺し合いを開いた目的』ではないかと予測しながら、【魔物と人間の考察】の記事に辿りつき――
ふと、その手を止めた。
彼の脳裏に、一つの疑問が過ぎったのだ。
(待てよ?
――本当に魂とやらは回収されているのか?)
アルガスに見せられたアルティミシアの夢を思い出しながら、スコールは自問する。
あの時、件のクリスタルに溜まっていたのは【黒い靄】であるように見えた。
そして首輪解除の際に見た、実体化した【闇】も、同じ【黒い靄】だ。
さらに、【闇】は死体の近くにある事が多く、身体を侵されると死者の声が聞こえたり、魔物化の要因となるという――
(……いや、さすがに考え過ぎか?)
スコールは頭を振った。
リルム達は【闇】について、死者の怨念と魔力やら魔女の思念やらの合成物だと言っていたのだ。
それに魂が回収されていないならば、それこそ幽霊やアンデッドモンスターが自然発生してもおかしくない。
だが、その手の目撃談がない以上、魂そのものの回収は行われていると見るべきだ。
【闇】と魂を結びつけるなど早計すぎる。――彼はそう思考した。
もしもスコールがティファの変貌を見届けていれば。
あるいはヘンリーがデールの最期を詳細に伝えていれば、彼も別の推理と結論に辿りつけたかもしれない。
けれども、それはもはや、現実になりえない可能性の話だ。
「――じゃあ行ってくるよ、アルガス」
「頼んだぜ、婆さんよ」
アルガス達の会話と、カタンと椅子が鳴る音に、スコールは顔を上げた。
先ほどまでそこにいたはずの老婆は消え失せ、代わりに一羽のオウムが開いた窓から青空の元へ飛び去って行く。
「どうしたんだ?」
スコールの問いに、アルガスはニヤリと笑う。
「なに、大したことじゃない。
人手を集めてくるように言ったのさ」
これほど性格の悪さが滲み出ている表情も珍しい。
スコールはそんな感想を抱きつつも、青年の真意を読めないまま、彼の言葉を待った。
「なあ、考えてみろよ、スコール。
夢の世界を知ってるのが婆さんだけだなんて、決めつけるのは早すぎやしないか?
ロザリーみたいな小娘だって夢を利用してるんだ。
婆さん以外にも、夢の世界をほっつき歩く奴がいるかもしれないだろ?」
スコールは目を瞬かせる。
(その発想はなかった――)というのが正直な感想だった。
呆気にとられる仲間を見やり、アルガスはますます勝ち誇った笑みを深くする。
「戦力としては計算できないだろうが、俺達が今一番欲しいのは情報だッ。
生者だろうと死者だろう夢だろうと何だろうと、情報が得られるなら同じことッ!
それに、どうせ現実には出てこれない婆さんだ。せいぜい有効に利用しておかないとなッ!」
哄笑を上げる青年に、スコールは内心辟易しながら、オウムが出て行った窓辺を見やった。
透き通った晴れ空の中、風に吹かれて舞う赤羽に、一瞬だけ一人の少女を思い出し――
(………お前の夢や、魂も、どこかにいるのか?)
心中で呟いた独り言は、誰に聞かれる事も無く、静かに消えていった。
【アルガス(左目失明、首輪解除、睡眠中)
所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
第一行動方針:夢世界にてウネ以外の協力者を探す&今後の作戦会議
最終行動方針:とにかく生き残って元の世界に帰る】
【現在位置:南東の祠(最深部の部屋)】
【スコール (HP2/3、微〜軽度の毒状態、手足に痺れ、首輪解除)
所持品:ライオンハート エアナイフ、攻略本(落丁有り)、研究メモ、 ドライバーに改造した聖なる矢×2
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)
吹雪の剣、ガイアの剣、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 、貴族の服、炎のリング
第一行動方針:今後の作戦会議&クリスタルに関する情報の収集を進める
第二行動方針:首輪解除を進める/脱出方法の調査
基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:アルガスの夢の世界】
※アルガスが起きるか死んだ場合、スコールは南東の祠:最深部の部屋に戻ります
新作乙です!
また半年待つかと思ったw
投下乙!
とりあえずラムザは祠に向かって来てるはずだけど、ユウナもこっち来ちゃう可能性もあるからなぁ…
うまく解除が進む事を祈る。
あと攻略本の内容が濃すぎるwウチにも1冊ほしいww
秩序と混沌の闘争=DFF
天使と運命の扉=DQ9
翼の民の伝説=FF12
大魔王と勇者=DQFFBR1st
かな?
そのコラム是非読んでみたいところだ
3年以上ぶりに思い出して戻ってきたけどしっかり進んでいたとは感服したッ!
首輪解除までたどり着いたんだな…
保守
時すら存在を許されぬ城の深部に、その部屋はあった。
美しくも禍々しい調度品達が暗闇に息を潜め、中空に浮かぶ形無きスクリーン達が色鮮やかな光を放ち続ける。
そして中央に坐する部屋の主は、妖艶な微笑を浮かべ、映し出された光景を静かに見つめるのだ。
その様を誰かが見たなら、戯曲を鑑賞する姫君と映っただろうか?
――否。
誰もが首を横に振るだろう。
漆黒の羽に血色の彩りが加わったドレス、悍ましい死人のような化粧、邪悪に輝く金色の瞳。
そこにいるのは見るからに恐ろしい魔女に他ならない。
何より、彼女が愉しげに眺めているのは、憎悪と殺意に満たされた殺戮の舞台。
金の瞳が映すのは、絶命してなお蹂躙される若者の亡骸と、返り血に染まる女銃士。
疑心という魔に憑りつかれ、闇を受け入れた心は、恋人の姿さえ魔物に映し出す。
若者は確かに彼女を愛していたというのに。
友の身を案じる心と同様に、彼女を守るという覚悟もまた、固いものであったのに。
せめて彼女には幸せになってほしいと、若者も、若者の友も、願っていたのに。
誰よりも銃士を愛した若者は、その思いを伝えることも、理解されることも叶わずに死んでいく。
誰よりも若者が愛した、彼女自身の手によって。
衣服を返り血で赤く染め、両手を脳漿で白く穢し、彼女は絶叫を続ける。
狂気に満たされた悲劇は、邪悪な魔女の心を捉え、その口元を綻ばせる。
誰からも愛されない魔女にとって、愛を否定する物語は喜劇に他ならないのだから。
魔女が小さく指を振る。
スクリーンの向こうで、蝶に似た白子の虫が数匹、亡骸に集うように舞い飛んだ。
その様を見た詩人がいたならば、若者の魂が彼女の身を案じたのだと言うかもしれない。
戦場に身を置く者が見たならば、吸血虫が血臭に誘われて飛んでいるのだと判断したかもしれない。
だが――真実は違う。
黒き結晶が生み出した広大な檻の中、囚われた人々は殺し合いを続けていく。
命を縛る枷、爆弾つきの首輪に仕込まれた盗聴器は、魔女とそのしもべの元に、数多の嘆きと悲鳴を伝える。
けれども、この恐ろしき魔女は、声だけで満足できるほど無欲な存在ではなかった。
血を飛沫かせ命を舞い散らす戯曲を我が目で見るために、魔女は何を考えたか。
その答えに辿りついた者は、139の命のうち、僅かに一人。
『ジャンクションマシーン・エルオーネ』
奇しくもその『唯一人』の姉というべき人物を元にして作られた機械は、長らく魔女の手元に在り。
複雑な精神を持つ人間の意識を接続するために造られた機械に、
より単純な精神パターンを持たせた魔法生命達の意識を接続させることなど容易く。
会場中に放った動物達の視覚情報を、スクリーン状の擬似生命体に映し出す事など、
魔女にとっては赤子の手をひねるよりも容易い事でしかなかった。
何も知らぬ参加者は、鳥の囀りに帰らぬ日々を偲び、花に寄り添う虫に在りし日の世界を思い返し、
走り回る鼠に日常の片鱗を見たことだろう。
しかし、――会場に放たれた動物達は、全てが『魔女の眼』であり、見えざる檻なのだ。
虫たちは女性の後を追い、その凶行全てを魔女に伝えていく。
かつて世界を救うための贄として旅に出た女性が、内なる狂気に突き動かされるまま殺戮劇の主役となる。
その滑稽な姿は、魔女を楽しませるには十分すぎた。
魔女は鋭い目を細め、血色の飛沫と共に舞う踊り子を眺め続ける。
巫女の無残な死を、道化師との邂逅を、罪悪感に由来するであろう幻覚に踊らされる姿を、薄笑みを浮かべて見入る。
そして、若者の死から数刻の時間が過ぎた――
椅子の背に身体を預け、娯楽に興じる魔女の耳に、軋んだ音が響く。
無粋なしもべが何事かを知らせに来たのだ、と悟るには、時間などいらない。
「失礼致シマス、アルティミシア様」
魔女よりも遥かに大きな身体をかがめ、巨人は恭しく跪く。
しかし忠実な僕に、魔女は能面のような表情で、冷たい視線を注ぐのみ。
もしや機嫌を損ねてしまったのではないか、と肝を冷やしながら、巨人は震える声で告げる。
「スコール=レオンハートノ生命反応ガ途絶エマシタ。
仲間ノ裏切リニ合イ、殺害サレタモノト思ワレマス」
それは魔女にしてみても、いささか意外な報告だった。
けれども彼女は冷静に、そして冷酷に問い返す。
「報告はそれだけか」
「ハッ」
「此度は許すが、一参加者の死など伝えずとも良い。
お前達は私の命に従い、ゲームの遂行に勤めよ」
「シ、失礼致シマシタ」
巨人は身を縮こまらせながら一礼し、部屋を後にするべく扉に手をかけた。
その背に、感情のこもらない声が投げかけられる。
「待て。あのSeeDを仕留めたのは誰だ?」
巨人は慌てて向き直り、ある名を告げた。
魔女の瞼が一瞬だけ跳ね上がり――そして、すぐに三日月のように歪む。
「御苦労。下がれ」
巨人が退出するのを確認することもなく、魔女はスクリーンに視線を戻す。
たった2日と半日で、139人いた参加者は20人近くにまで減った。
遊戯は佳境へ差し掛かり、されどこの先、娯楽の種は尽きることなどないだろう。
少なくとも魔女はそう確信し、故に、ひとり優雅に笑う。
真紅の惨劇を鑑賞する、唯一絶対の観客として――
************************************
何時間過ぎようとも一向に暗くならない石造りの空の下、
少女は肩に担いだ、自分と同じ姿の人物を引きずりながら、道ならぬ道を歩いていた。
茂みや毒沼はとうに姿を消し、粗い岩肌が険しい坂を作っている。
閉鎖世界にも関わらず風が吹き付けるのは、岩山の向こうに広がっている溶岩の海のせいだろうか。
鉄錆にも似た、濃密な血の匂いを孕んだ風に辟易しながらも、少女は足を進め続けた。
やがて、渦巻く緑の瞳は、遠くに佇む紫のシルエットを捉える。
横たわる巨躯は、こと切れた竜の亡骸だと、先刻出会った騎士から聞いていた。
そして、その先には、同じ場所にて息絶えていた二人の男と一人の娘の墓標があるとも――
それを思い出し、少女は表情を暗くする。
彼女にとって、男の片割れと娘は、紛れもない仲間であったからだ。
歩む足取りも次第に重くなり、ついには、止まってしまう。
「……ん……? ……リュッ、ク?」
異変を察知したのか、背負われていた方の少女が、十数分ぶりに顔を上げた。
その弾みで、彼女――否、『彼』の手元から輝く珠が転げ落ち、偽りの姿をかたどっていた幻光が舞い上がる。
土と砂と自ら流した血で汚れた、白いローブを着た青年。
目深にかぶったフードの奥にある、生気の失せた青白い表情と、微睡の中にいるような焦点の合わない瞳が、彼の体調を如実に物語っていた。
「どう……した……、……つか、れたの?」
「ん、んん、あたしはダイジョブだけど。
なんていうか、ちょっと、……いや、それより、あんたこそヘーキなの?」
「……馬鹿に、するなよ……まだ、歩ける、さ」
少女は呆れて眉をひそめながらも、『途中から歩いてなかったじゃない』という言葉を飲み込んだ。
感情論と屁理屈をこねくり回して同行しているけれども、本来、少女と青年は『仲間』であってはならないのだ。
少なくとも、彼女らを監視している者の目には、そう映ってはならないのだ。
「ああ、そうさ、……帰るんだ。
……そうだ、皆殺しにして。……そうすれば、きっと……」
青年は喉を鳴らすように笑ってみせると、また瞼を閉じてしまった。
脳天気さを捨てきれない少女の分をカバーしようと、意識を失う間際まで、狂人の演技を続けたのだろう。
「………っ」
少女は、青年が落としたドレスフィアを拾い、彼のザックにしまうと、すう、はあ、と大きく深呼吸した。
顔を上げ、気絶した青年を背負い、一直線に岩道を駆け上がる。
少女よりもずっと長身である青年の体は、ずっしりと重たい。
けれども弱音を吐いては要られない。
『仲間』であってはならなくとも、彼女と青年は『仲間』なのだ。
覚悟はもはや揺らがない。己が心に従って、彼女は走る。
数分ばかりの疾走の果て。
数十分にも感じられる道程を越え、彼女はとうとう、そこに辿りついた。
抉られ、細かな肉片や血しぶきが散乱する大地に。
その淵に佇む、積み上げられた三つの瓦礫――墓の形を成さぬとも、死せる者の為に作られた墓標の前に。
周囲に人の気配がない事を確かめてから、少女は青年を地面に横たわらせる。
「えーい、ケアルラっ!」
何度目かになる癒しの魔法を唱え、青年の呼吸が安定している事を確かめてから、彼女は周囲の探索を始めた。
元々、宝探しは得意な彼女だ。
すぐ、墓を守る武具以外に、この地に残された貴重な道具を見つけ出した。
最も――骨と肉が付着した小手だの、指先ごと落ちている指輪だのを、見逃す者もいないだろうが。
「……ううっ」
小手はともかく、指輪には何がしかの魔力が宿っている物が多い。
少女は、手を合わせ「ごめんなさいっ!」と呟いてから、指輪を引き抜いた。
鋭く尖った爪の形状から元の装備者に当たりをつけ、その人物の冷静さを思い返した少女は、
危険な効果がある品ではないだろうと判断し、己の指にはめてみる。
試しに意識を集中させてみると、指輪から溢れた魔力が少女の体に流れ込んできた。
(もしかして……もしかしなくても、魔力回復の指輪なのかな?
これは結構便利じゃない?)
そう少女が思った矢先に、ぴしり、と音を立てて青い石に小さな亀裂が走った。
(うげっ! こ、壊れちゃった?)
慌てて指輪を調べてみるが、魔力の輝きが残っていることに気付き、少女はほっと胸をなで下ろす。
(良かった、まだダイジョブみたい。
でも、使いすぎると危険っぽいなぁ……)
あまり頼りにすると、いざという時に壊れてしまいそうだが、それでもこの効果は有用だ。
少女は素早く青年の傍らに戻ると、また回復魔法を唱え始めた。
命は、尽きてしまったら取り戻せない。
指輪で魔力を回復できるなら、出し惜しみするべきではないと判断したのだ。
癒しの光が青年の体に降り注ぐ。
紫色の唇がかすかに震え、誰かの名を呼んだ。
少女には、覚えのない名前だった。
************************************
"力が欲しい"
泡沫の中、青年は思う――その願いは、果たして誰のものだろうかと。
"彼女を守りたかった"
"彼女に愛されたかった"
"彼女の傍らに今一度立ちたかった"
暗闇に包まれた夢の世界に、ノイズ交じりの独白がざわめいては消えていく。
後悔に彩られた言葉は、青年自身の渇望であるようにも、志半ばで倒れた死者の慙愧であるようにも思えた。
"もっと力があれば、彼女を守れた"
"もっと力があれば、彼女に己の方が優れていたと証明できた"
"もっと力があれば、彼女の傍にいられた"
流れ込んでくる感情は、誰のものなのだろうか。
青年にはわからない。
一つだけ言える事は、彼自身も同じ想いを抱えているということだけ。
"死にたくない、こんな所で死にたくない――!"
その叫びは青年の意思なのか、死者達の慟哭なのか。
未練を引きずる魂の嘆きは、闇に谺し響き渡る。
"戦いたい""生きたい!""死にたくない!!"
"まだやらなきゃいけない事がある!!!!"
絶叫が反響し、怨嗟が連鎖する。
どろりと揺らめく【闇】が無数の手や幾つかの顔を形作りながら、声の嵐を迸らせる。
"冗談じゃない、こんなところで―!""逃げろ!""殺し合いなんてうんざりよ"
"レナ、エリア""あたしは、あたしは――!""リュカ様……私は――"
"僕と出会わなければ、君は""お母さんとお兄ちゃんを探しにいかなきゃ""お兄ちゃん、会いたいよ"
"魔王だ、魔王が――""まだだ、まだ、まだ俺は――!""ロザリー…!!"
溢れ渦巻く絶望と憎悪の奔流に、青年は顔をしかめ、手を振った。
「ああもう、うっさい」
その言葉にどんな力が働いたというのか、【闇】がざわりと震える。
伸びた手や浮き出た顔は溶けた氷のように形を失い、程なくして、夢の世界は静寂を取り戻した。
「傍にいてくれるのはいいけどさ〜、やかましいのはごめんだよ。
可愛いレディの歓声ならともかく、恨み言なんてサラウンドで聞きたくないね」
青年はため息をつき、膝を抱える。
そして血で汚れた掌を見つめ、「力が欲しい」と呟いた。
(戦えなきゃ意味がないのに、ご覧の有り様だよ……
腕力がほしい、体力がほしい、魔力がほしい。スピードは……足りてるような気もするけど、やっぱりほしい)
殺し合いに乗った者の殺害と、殺人者としての舞台演出。
青年に託された任務は、生半可な実力では到底達成できるものではない。
そして彼は、己にその実力がないことを自覚しきっていた。
恐怖に折れた心。毒に蝕まれた身体。折れた腕。抉れた耳。流した血の量。
弱さの代償は、気力を、体力を、そして戦闘能力を確実に奪っていく。
支援
それでも戦う事ができるのは、紛れもなく、このわだかまる【闇】の恩恵。
ジャンクションという形で同化すれば、それこそ体感的には万全の状態で、全力を出すことも出来る。
――けれども、その全力ですら、殺人者一人仕留めきれなかった。
当たり前だ。体感がどうだろうと、身体は確実に壊れ、死へ近づいていっているのだから。
【闇】に蝕まれ、強化された魂が、精神と命とを繋ぎとめている。
されど、【闇】は無限ではない。
【闇】もろとも魂を消耗させていけば、命を繋いでいる糸も弱り、やがて限界に到達して断ち切れてしまう。
もしも少女が横槍を入れず、相手が戦い続ける事を選んだならば、死という形で敗北していたのは青年だ。
今、生きていられるのは、殺し合った相手がたまたま『殺戮』ではなく『戦い』を重んじる人種だったのと、
お人よしの仲間に恵まれていたからだ。
言うなれば偶然と幸運の産物――と、青年は自嘲気味に口の端を歪める。
死者の憎悪に身を委ね、得体の知れない力に心を半ばまで譲り渡しても、まだ足りない。
鍛えようにも時間はなく、傷を癒すのにすら手段が限られ過ぎている。
それでも戦う力が無ければ、本当に掴みたいものも掴めず、手の中からすりぬけていく。
(もっと、もっと、強くならないと、『彼女』を止められない……誰も助けられない……何も掴めない……!
そんなのは、嫌だ……! 強くなりたい…! もっともっと力がほしい!!)
――そんな、狂ったように渇望する青年の背後で、人影を形作った黒い靄は。
果たして彼の力となるべく現れたのか、それとも、思い詰めなくていいと告げたかったのだろうか?
気配に気づき、振り向いた青年の目に、小柄なシルエットが写る。
「……あ……」
その姿が誰のものなのか、青年には見覚えがあった。
「あんたまで、いるんだ。
サイファーに言った事なんて、デマカセのつもりだったんだけどなぁ……」
青年は悲しげに眼を伏せ、そして、静かに言葉を続けた。
「あんたみたいに、強くなりたいよ、――……」
青年がその名を呟いたのと、人影が手を差し伸べたのは、果たしてどちらが先だったのだろうか――
唐突に差し込んだ眩い光が、夢の終わりを告げた。
目を開けた青年の視界に、金と白亜の輝きが映る。
「あ、起きた?」
相も変わらず明るい声に、今は亡き友人達を思い返しながら、青年は半身を起こした。
「……馬鹿じゃないのか」
先刻よりかは明瞭になった意識と、悲鳴を上げなくなった内臓の為に、どれほどの回復魔法が費やされたか。
かつての旅路で培った経験は当てにならないといえ、おおよその見当はつけられた。
「こんなことをしてないで、僕を殺せば良かったんだ。
殺されるために回復するなんて、正気の沙汰とは思えないね」
「あたしはあんたとは違うのっ。殺して解決なんて、ぜーったい! ゴメンだかんね!」
演技だとは到底思えない――純粋に本心であろう発言に、青年は大げさに肩をすくめる。
「そうやって魔力を浪費してたら、本当に助けたい人が助からなくなるかもしれないのに。
君が特別バカなの? それとも、スピラ生まれはみ〜んなおばかでニブいの?」
その言葉にカチンと来たのか、少女は自らの指をかざし、青い宝石を見せつけた。
「あのね、あんたが寝てる間に、きちんと道具を探したのっ。
んで、魔力を回復する指輪があったから、あんたの治療を優先したのよ!
いくらあたしでも、考えもなしに大判振る舞いするわけないでしょ!?」
頬を膨らませる少女に、青年はしばし目をしばたたかせ。
それから、指輪の存在に気付き、眉をひそめた。
「ああ……ピサロが持ってった奴か。祈りの指輪、だったっけ?」
「知ってたの?」
「リルムの持ち物だったのに、貸しちゃったんだよ。
エリクサーも飲んで、この指輪も持って、それでどうしてこんな場所でくたばれるんだか。
信じられないよ、色々と」
勿体ないってレベルじゃない、とひとしきり愚痴を吐き、青年は大きく息を吐く。
「ま、ピサロとカインがリタイアしたのはグッドニュースだけどさ。
誰が二人を仕留めたのか、全然わからないってのは、楽観視できる状況じゃないんだよなあ」
台詞の途中で止まった指先を見つめ、少女もまた、ため息をついた。
数秒間の沈黙――しかし、青年の咳き込みが静寂を破る。
「だ、大丈夫?」
慌てて回復魔法の詠唱を始める少女に、青年は僅かに目を細め、彼女の手をそっと掴んだ。
「な、なに?」
少女は怪訝な表情を浮かべ、青年を見返す。
青年は問いに答えることもなく、ただ、一言だけ呟いた。
「スリプル」
渦巻く緑の瞳が光を失い、少女の瞼が閉じると共に、その身体が力なく崩れ落ちる。
G.F.パンデモニウムの力を借りて発動させた擬似魔法が、
彼女の意識を強制的に眠りの世界へと引きずり込んだのだ。
青年は、寝息を立てはじめた少女の指から祈りの指輪を抜き取ると、自分のザックに放り込んだ。
(怪我を治してくれるのは嬉しいけど、貴重な道具と魔力は、無駄遣いするもんじゃないよ)
粗末な岩と木の墓標をみやり、青年は思う。
どれほど重傷を負っても生き延びる事があるように、万全な状態であっても呆気なく死ぬ事もあるのだと。
だからこそ、魔力を費やして重傷者を救うよりも、その魔力で他の事をなす方が有意義ではないのかと。
正直に言って、青年は『魔法を唱える為に必要な魔力』=MPという概念を殆ど理解できていない。
彼の世界には、『擬似魔法の効果を左右する素質を意味する魔力』という概念しかないのだから、当然だ。
けれども、一度消費したMPを回復するには相当の時間が必要だということは、実感で認識している。
そして首輪の解除を行う為には、多大なMPを消費するということも。
仮に、途中で主催者側に事が露見すれば、その時点で首輪を外せなかった人物の生存は絶望的になる。
首輪を解除した生存者が発見される可能性を考慮すれば、数時間置きに一人ずつ解除していくよりも、
MPを完全に回復させた後、脱出の目途が立った時点で一気に事を進めてしまうべきだ。
しかし、仮に青年の魔力が完全回復していたとして、一度に外せる首輪は3つか4つが限度だろう。
同じ能力を得た人物はもう一人いるので、単純に計算すれば、6から8。
エリクサーが残っていればもう一回挑戦できるので、最大で9から12ということになる。
では、現在の生存者は何人残っているだろう?
危険人物を全て間引いたとして、生かさねばならない者は何人いるだろう?
青年の脳裏には、傍らの少女と、南東の祠に留まっている4人の仲間と、
城に居ると聞く3人の元同行者、現在進行形で騙している勇者と幼馴染――
そして、息絶えた魔王が案じていたエルフの少女と、彼自身が誰より守りたいと思う元召喚士の姿が浮かぶ。
これだけで12人だ。否、実際はもっといるだろう。
例えば、城の同行者に協力しているという賢者だとか。
青年の身を案じてくれた幼子を保護していた騎士だとか、幼馴染が見つけたという謎の生き物だとか。
――それらを考えれば、MPを回復する道具は、非常に重要だ。
間違っても無駄にするわけにはいかない。
それに、少女に告げた言葉も本心だ。
この先だって戦いは続く。否、続けなければいけない。
青年の立場上、望まぬ戦いも演じねばならないだろうし、傷つけなくていい相手を傷つけてしまう場面も出てくるだろう。
その時に、回復魔法が使える少女の存在は、貴重かつ重要となる。
けれども、彼ら自身を縛る枷がまだ外れていない以上、言葉で少女に説明する事はできない。
迂闊なことを口にすれば、首輪に仕込まれた盗聴器によって、主催者たる魔女の耳に届いてしまう。
筆談と言う手もあるけれども、紙や筆記具だって無制限に拾えるものではない。
そろそろ節約を考えないと、いずれ本当に伝えたい事が書き残せなくなる。
(だいいち、ね〜――)
二人の知人の姿を脳裏に描きながら、青年は表情を曇らせる。
少女にここで自分の考えを説明して、理解を得てしまっては、却って望む結果に遠ざかるのではないかと。
言葉を尽くして、青年の考えを少女に納得してもらう、それ自体は十分可能だろう。
傷を癒すことは間違いなく人の命を救う事に繋がるが、それは首輪を解除する事だって同じだ。
今の事を考えるか、先の事を考えるか、その差でしかない。
けれども、青年の意見に従って少女が自分の思考を曲げる……
それは、傍から見れば『殺人者の意見に同調し、味方する人質』としか映らない。
最悪の場合、『青年と少女が手を組んで仲間を殺した』などと邪推され、少女に危険が及ぶかもしれない。
そして、今一つ。正気を失った『彼女』のこともある。
『彼女』が恋人を殺害した理由など、事故でないのなら、青年自身の事しか思い当たらない。
亡き友は、青年を心配してくれた。しすぎてしまった。
それが彼女の目に不愉快に映り、不満が募った挙句、衝動的に凶行に及んだのであれば?
もしもこの推測が当たっているならば、少女が青年の味方で在り続けることは、即ち――
(それは……それだけは、絶対にダメだ!!)
青年は首を横に振る。
友人の恋人と、その従姉妹。どちらも死なせたくなどない。ましてや、二人が殺し合う状況など起こしたくない。
ならば、これ以上、同調されてはいけないのだ。
1人で事を成せるほどの強さが青年にはなかろうとも、これ以上、少女に頼るわけにはいかないのだ。
それは彼女の身を危険に晒すことに繋がる。
甘えは、本当に大切な人達を救えなくしてしまう。
死臭を孕んだ生温い風と、纏わりつく黒い靄に辟易しながら、青年はありもしない空を仰いだ。
「力が……欲しい」
幾度目になるかもわからぬ無力な己への呪詛を吐き捨てながら、青年は立ち上がる。
足の筋肉が悲鳴を上げ、関節が軋んだ音を立てた。
壊れたままの三半規管が、視界をぐらぐらと歪ませる。
騎士から譲り受けた杖の存在に思い至ったのは、たまらず膝をついた後の事だ。
ザックから杖を取り出し、それに縋りつき身を起こす。
右手の骨が上げる悲鳴を聞き流しながら、青年はおぼつかない足取りで歩み始めた。
まるで生ける屍のように緩慢な動きで、それでも奇跡的に転ぶことなく、並ぶ墓まで辿りつく。
横たえられた武具をあえて無視し、青年は、石塊の上にゆっくりと左手をかざした。
目をつむり、意識を集中させ―――やがて、ため息をこぼす。
「………残ってない、か」
そもそもこの場を目指すと決めた時、青年が考えていた『治療に使えるかもしれないもの』は、道具ではない。
擬似魔法。
G.F.として存在できるほどの密度を持たないエネルギーが、属性や感情と結合し、指向性を持ったものだ。
確かに魔物の死体から直接擬似魔法をドローできたという事例は少ないが、
制御装置やG.F.を使ってストックしていた場合は、霧散せずに残る事がある。
そして、この場に残された破壊の痕跡と、死者の状況から、青年は『死んだ少女がG.F.を装着していたのではないか』と推測していた。
支援
竜は竜騎士に殺された。これは確定事項だ。
問題は、誰が残りの三人を殺したか。
爆発魔法を操れるのは銀髪の魔王一人だが、村娘を保護するために青年と別れた彼が、彼女を巻き込むはずがない。
竜騎士が村娘を人質に取った可能性はあるが、あれほど慎重極まりない男が引き際を見誤って殺されるとも思えない。
だが、現実に竜騎士も死んでいるのだから、逃げる余裕もないほど消耗していたか、逆に有利であるが故に油断する状況だったと考えるのが自然だ。
では竜騎士が油断する状況とはなんだろう?
簡単だ。邪魔な竜を消し、魔王を仕留め、村娘一人だけが残された、そんな場合だ。
けれども武器も持てない娘に、竜騎士に抗う力はないし、ましてやここまでの破壊を引き起こす爆発魔法など扱えるはずもない。
そんな不可能を可能にするとしたら、『じばく』を扱えるG.F.の装着しか有り得ない……というのが、青年の推論だった。
しかし、この場所には、G.F.やドローポイントの気配を全く感じない。
『じばく』に似た効果を持つ道具があっただけなのかもしれない、と青年は考え、再び息を吐いた。
それから、半ば仕方なしに、足元にある武器達を拾い上げていく。
どれも、一見すれば人を傷つける事にしか役立たなそうな――故に、青年と同行している少女はひとまず放置していた――ものだ。
最初に手に取ったのは、死体となった持ち主と同じ名を冠した槍だった。
無論、名が被ったのは偶然で、異教の聖書に刻まれた殺人者の名から取ったのだろう、とは持ち主の言葉だ。
銃や剣と違い、訓練した事もほとんどない武器だったが、その槍は意外と手に馴染んだ。
履き続けている竜騎士の靴の効果なのか、持ち主が遺した【闇】の影響なのか、
相応しき持ち主を失った槍が、新たに現れた『裏切り者の殺人者』を次の主と認めたのか、それはわからない。
ともあれ、青年は一度だけ素振りしてから、その槍をザックにしまい込む。
重傷の身で近接戦に持ち込む気はないけれども、銃弾が尽きた時に距離を取りながら戦う手段にはなるだろう。
何より、強力な武器を放置して他の殺人者に使われるぐらいなら、持って行ってしまった方が安全だ。
同じ理由で、隣の墓に置かれていた剣も回収する。
スプラッシャー。所持していた魔王曰く、生命体を分子まで分解する力を持つ、異世界の魔剣。
しかしその力を引き出すにも、ある種の才能と、魔力や気力に類するモノが必要だろうとの話だった。
剣としての用途ならばともかく、秘めた力の方は、とても使いこなせる気がしない。
けれども、万が一この剣の真価を引き出せる人間がいたならば、これほど危険極まりない武器もない。
どれほど強い戦士であろうとも、粒子に分解されては生きていられないのだから。
最後に手に取ったのは、苔むしたような緑の杖。
魔王が『変化の杖』と呼んでいた道具だと思い至るまで、さしたる時間はかからなかった。
試しに一振りしてみると、コーラの栓を抜いた時のような音と共に、たちまちピンク色の煙が舞い上がる。
しかして咳き込む暇も無く、煙はすぐに消え去った。
青年はきょろきょろと辺りを見回し、それから、自分の身体に視線を落とす。
白いローブが、漆黒に変じている事に気付いた彼は、慌ててザックからしまったばかりの剣を取り出した。
翳した刀身を覗き込む、赤い瞳に映ったのは、銀の髪を翻す魔王の姿。
驚きのあまり、青年は杖を地面に落とし、途端に再び煙が沸き起こる。
彼が我に返った時、鈍く輝く刀身は、白いローブを着た茶髪の男を――青年本来の姿を映し出していた。
何が起きたのか考えるまでもなく、杖の名と、かつての持ち主を思い出し、青年は得心する。
(変化の杖……変化……意識した人の姿になれる道具ってことかな?)
その推論を証明する為、青年は杖を拾い上げると、今度は、友の姿を思い浮かべて振りかざした。
先ほどと同じように、剣に映して確認してみると、果たして想像通りの姿になっていた。
(……便利っちゃ便利なんだろうけど、使い所が難しそうだなあ、コレ)
複雑な表情を浮かべる『友』の顔を見やり、青年は思う。
例えば、元の姿で負っている怪我を程度に応じて再現してくれるならば、
無害な仲間に変化して、他人を騙して治療を頼むといった用途に使うこともできた。
だが、刀身に映っている人物は、不自然すぎるほど綺麗な服装で、傷一つ負っていない。
これでは、大抵の人間は違和感を抱くだろう。
それに、これほど目立つ杖を持ち続けていなければ変化できないというのもマイナスポイントだ。
手に隠せるだけ、少女から借り受けたドレスフィアの方が、使いやすいかもしれない。
(だけど……ね〜)
青年は杖を仕舞い込みながら、眠らせた少女の方を見やり、心の中で肩をすくめる。
世の中には、驚くほど騙されやすい人物がいることも確かなのだ。
(どう考えても、班長とリルムとギード以外、全員引っ掛かりそ〜……)
仲間や知人の顔を思い返しながら、青年は、まだ何か残っているものがないかと、周囲を見回す。
――そして。
見つけてしまった。
それは、見落とすにはあまりにも大きすぎた。
同種の魔物に比べればやや細長い、しかし堂々たる体躯を力なく横たわらせた、竜の死骸。
脳天を貫かれ、半開きになった口からだらりと舌をはみ出させ、濁った瞳で虚空を仰ぐその姿に、青年は思い出してしまった。
記憶を取り戻す前、仲間達との会話の中で聞いた台詞を。
亀の姿をした賢者・ギード。
友と別れる前、青年は彼に、召喚獣や幻獣について幾つかの質問を投げかけた。
その流れで、賢者は、飛竜がフェニックスに転生する事例について触れた。
"何故飛竜だけがフェニックスに転生できるのか、考えられるのは肉体的な素質"
"飛竜の舌は万病に効く"
"つまり、飛竜の体には、先天的に癒しの力が――"
――癒しの力が――
「……あは、ははははは。うっふふふふふ」
それは、他者が見れば、あまりにも突拍子のない発想だったかもしれない。
しかし賢者の推論を補足する事例を、青年は知っていた。
より正確に言うならば、『実践した事があった』のだ。
グレンデル。トライエッジ。ドラゴンイゾルテ。メルトドラゴン。アルケオダイノス。ルブルムドラゴン。
俗にドラゴン種と称される強大な魔物の血肉を、『たべる』ということを。
無論、青年が行った捕食行動はG.F.エデンの助力を借りたものであり、人が行うソレと比較して消化能力と効能の強化という恩恵が加わっている。
しかし、重要なのは、ドラゴン種の肉が『殆どの傷やステータス異常を治療するほど、高い回復効果を秘めている』ということなのだ。
そして、『飛竜という異世界のドラゴン種の舌にも、強力な治療効果がある』ということなのだ。
「思ったんだけどさ……
僕の世界でも通用して、ギードの世界でも通用するなら、この世界でも通用してもいいんじゃないかな?
青年は目を三日月のように細めたまま、鏡代わりに使っていた剣を握り締める。
そしてふらふらとよろめきながらも、横たわる竜の元に辿りつくと、半開きになった口蓋の奥に、躊躇いなく刃を突き刺した。
「まったくもう、皆にお礼を言わないといけないな。
ここで死んでてくれてありがとう、ってさ」
零れた言葉は、演技ですらなく。
剣自体の重みを利用し、薄い舌を叩き斬る。
死後硬直が始まっているのか、食肉のそれよりも少しばかり硬い手ごたえだが、噛みきれないほどではなさそうだった。
断面からどろりとはみ出た、ゼリーのような血を舐めとり、毒性や異常がないことを確認する。
ざらついた表層をこそげ落とそうかとも考えたが、それも面倒だと、一旦剣を置く。
そして火を熾すため、ザックからランタンを取りだそうとし――
ふと、小さな羽虫が数匹、死骸から流れている血に集っていることに気付いた。
(もしも……もしもスコールの考え通り、アルティミシアが僕らを監視してるとしたら……)
青年は思案する。
火を使えば食べやすくなるだろうが、煙や臭いが出てしまうし、万が一通りすがる者がいれば気づかれてしまうだろう。
ならばいっそ、狂人は狂人らしく振舞うべきなのではないか?
映画に出てくる殺人鬼のように、少しでも猟奇的で残虐に見えるように。
宿敵の死にさぞや御満悦であろう魔女へ、見せつけてやるべきなのではないか――
「くくっ、くふふふふっ」
青年はわざと笑ってみせながら、剣を再び竜に突き立てた。
流した血を食事で補おうというなら、どのみち、養分は必要なのだ。
少女がかけてくれた魔法のおかげで、内臓は空腹を覚える程度にまで回復している。
蛇に似た薄い舌一枚では、到底足りない。
「悪いね〜。僕、これでも肉食系男子ってヤツなんだ」
鱗に覆われていない腹部は容易く刀身を喰い込ませ、胸元まで咲かれた切れ目から柔らかさを失いつつある内臓が零れ落ちる。
あばら骨の奥に切っ先を潜らせれば、熟した果実のような肉塊もぶちりと抉り出せた。
青年は、舌の肉もろとも、最早二度と脈打つことのないソレを口に運び――
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ください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらく
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}ヽ y' / ヽr‐、_r 、 `ー-----‐'''" \ヽ ! ! ヽ 丶 '<て´。
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ヽ-ュ‐`ハ`ー-く、_,r' ノ`ー-、 i' l `ヽr-' / ̄フ、__> ゝハノ_) >゚。
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ノ / ∞ { ヽ丿 ノ-ヽ }ノ_ノ } ヽo ゜。∨ r-'ヽ |
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`ー、__ト、ノ| | ト、_r'`ー-< o゚8, o { / |´ lヽ! ∨ l
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フ>' / / ! !
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待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください しばらくお待ちください し
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「ごちそうさまでした、っと」
赤黒く汚れた唇をぺろりと舌で舐めとりながら、青年は立ち上がった。
口中に広がる血の味は、喉を滑り落ちて、胃から全身に広がっていく。
じんわりと染み渡る感覚に薄笑みを浮かべながら、彼は残った内臓を蹴り飛ばし、掻っ捌いた竜の腹に押し込んだ。
傷口を重ね合わせて閉じてしまえば、遠目からは『喰われた』とは気づくまい。
観客を気取り、どこかで嗤っているだろう魔女を除いて。
(あーあ、いくらでも笑えばいいさ、アルティミシア。
あんたが夢を見ていられるのは今だけなんだ。
夢が終わるその時までは、御望み通り踊ってやるよ)
青年は緑の杖を振りかぶった。
自らの血と竜の血で赤黒く染まったローブを、幻影の煙が覆い隠していく。
その瞳の奥で揺らめく憎悪の光に、『観客』は気づいただろうか――
。
「さて、大事な大事なユウナを探すついでに、皆を迎えにいかないとね〜」
わざとらしい裏声で呟きながら、青年は――否、軽装の少女は、同じ顔をした同行者の元へ戻って行った。
************************************
「アーーーッヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
奇しくも、青年が食事を終えたのと同刻。
世界の南端に立つ塔の天辺で、1人の男が高笑いを上げていた。
何がそれほど愉快だというのか、問う者など誰も居ない。
それでも彼はひとしきり笑い続けたあと、唐突に「ツマラン」と吐き捨てた。
「まったく、あいつらは少しは働いてくれてるんでしょーかね?
サボってていいのはぼくちんだけなんですよ」
道化師じみた化粧と衣装に相応しく、男はおどけた言動を取り続ける。
だが、彼を知る者はこう言うだろう。
『それらは全て、破綻した精神と邪悪な心を押し隠す為の仮面にすぎない』と。
あるいは、『深慮智謀を廻らせて紡ぎあげた奸計を、ひた隠すための演技にすぎない』と――
「ま、ぼくちんはこれでも、やるときゃやる男ですからねェ。
あんな厨二病患者や行き遅れ女を信じてナーンモしないなんてのは、脳味噌に筋肉が詰まったバカがすることだ!」
ぴょいんぴょいんと軽快に跳ねながら、男は笑う。
その無防備な様は、殺し合いという状況を理解していないのではないか、と思えてくる程だ。
しかし、彼は何も知らないのではない。
識っているのだ。
この付近に、彼以外の人物がいないということを。
その右手に握られた小さな機械――対人レーダーによって。
だからこそ誰に気兼ねする事もなくじっくりと休息を取ることも、思索を巡らせながら騒ぎ立てることもできるのだ。
(そう、あの行き遅れ女の行き先はわかってる。
こいつがあれば、誰にも会わずに移動する事だってできちゃいマース。
つまり、かねてからの事を調べる大チャーンス! ってなわけです!)
道化が脳裏に描いているのは、この舞台の地図。
建造物の配置はおろか、地形までシンメトリーで構成された大地など、人為的に作り出さない限り存在しえないものだ。
ならば、製作者の意図は?
鍵を握るのは明らかに点在する祠と中央の城だ。
しかし、彼はささやかな事情から――少年を殺めた事も剣士をカッパにした事も女性を騙した事も、彼には『ささやか』だ――直接の調査に移せなかった。
重なる戦闘で魔力を消費していたこともあり、休息を優先せざるを得なかったのだ。
だが、今は違う。
数時間の休憩は、体力も魔力もそれなりに回復させた。
レーダーが手元にあれば、誰にも会わずに移動することも、誰かに会うために移動することも、どちらも可能だ。
この世界に留まれるのは残り半日である以上、手早く行動する必要はあるが……
(なに、私の頭脳と実力ならば、数ヶ所に絞って調査すれば十分間に合う。
おおよその見当はついているしな)
道化は甲高い笑い声を途切れさせることなく、自らの荷物を拾い上げ、階段を下りていく。
小部屋の一つもない、階段と壁だけの塔内は、人を迷わせることもない。
数分後、苦も無く外に出た道化は、鼻歌交じりに背伸びをし――塔の傍らに残されている、朽ち果てた祠を見やった。
(元々は逆五芒星の配置だったんだろうケド、あの荒れ具合じゃ廃棄されて長そうだ。
空や溶岩の海からしても、ここは地底のようですし……
恐らくは、この世界を作る際、幻獣界みたいな異世界と繋がりを持たせるための魔法陣を構成してたんでしょう。
そしてあの祠はリサイクルされずに、放置プレイされたと)
道化は踵を返し、草叢を掻き分けて歩き出す。
打ち捨てられた祠に何かがあるとは思えない。
彼が調べ、利用しようと考えているのは、まだ『生きて』いる祠だ。
(最も、全部廃棄済みかもしれませんけどねェ。
少なくともぼくちんならそうします! しますとも!)
それでも歩を進めるのは、己の思考が万人に通じるモノではないと、狂人なりに自覚しているからであり。
祠が稼働していた場合の利用価値と、空振りになった時の労力を天秤にかけた上で、前者の方が沈んだからである。
(そう――価値だ。
残りの祠が生きているなら、それがどの用途で使われていたにせよ、価値がある)
地図を見れば、中央の城が重要な施設だということは、誰でも予測はつく。
では、残りの祠は何の為に配置されているのか?
道化が、この世界が地底であることと結びつけた上で考え付いた仮説は、三つあった。
一つ。先ほど述べた通り、異世界とこの世界を繋ぐためのもの。
一つ。中央の城を守るため、防護結界を張るためのもの。
一つ。魔力を増幅し、中央の城に送り込むためのもの。
――そして、道化は思う。
どれが正解であろうとも、十二分に利用できると。
世界と世界と繋ぐ扉であるならば、少し手を加えて起動させれば、魔女の元に生存者全員を転送させられるかもしれない。
生存者が魔女を倒すより、首輪の機能によって全滅させられる方が早いだろうが、道化に言わせれば『それはそれでユカイ』だ。
城に結界を張るためのものならば、起動させてしまえば、城内にいる生存者を結界内に閉じ込めることができる。
殺人者が中にいれば殺し合いは加速するだろうし、もし魔女が空気を呼んで城内に旅の扉を作らなければ、全員タイムオーバーで始末することができる。
そして、魔力を増幅するためのものならば……祠の術式を解析し、逆転させて起動することで、膨大な魔力を一か所に集めることができる。
かつて道化が奪い取り、そして眠りについている三闘神の力を目覚めさせることも、不可能ではない――
「アーひゃひゃひゃ!! 夢がひろがりんぐですねェ!!」
死者が遺した闇よりもなお暗い、漆黒の意思を胸に秘め。
観客など求めぬ道化は、闇の世界と呼ばれた大地を歩く。
まるで、自分自身すらも踊らせているかのように。
魔女の目を欺くべく、狂人を演じて回る役者。
破滅を目指し希望を摘むために、謀略を廻らせる道化。
今だに目論見を明かさぬまま、舞台を見つめ嘲う観劇の魔女。
最後に笑うのは、果たして誰なのだろうか――
【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/4+リジェネ(強)、MP微量)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖)
第一行動方針: 脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【リュック(パラディン、睡眠)
所持品:ロトの盾 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン) マジカルスカート
メタルキングの剣、刃の鎧、チキンナイフ、
ロトの剣、首輪×2、ドライバーに改造した聖なる矢×3、祈りの指輪)
第一行動方針:アーヴァインを治療する
第二行動方針:ユウナを止める/皆の首輪を解除する
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在位置:南東の祠北・北東の祠への分かれ道から南の岩山】
【ケフカ(HP2/3、MP3/5)
所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣 アリーナ2の首輪
やまびこの帽子、ラミアの竪琴、対人レーダー、拡声器
第一行動方針:結界の祠を調べ、利用できそうなら利用する
第二行動方針:ターニア、セフィロス、ユウナを利用して邪魔な連中を始末する /「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:架け橋の塔→移動】
食べちゃらめえぇぇww
アーヴィンの所持品から祈りの指輪が抜けてる?
長編乙&GJです
待っててよかった
499 :
修正:2012/09/11(火) 00:22:31.90 ID:vx1K5D430
指摘ありがとうございます、
>>496の状態表を以下の通り修正します
【アーヴァイン(変装中@シーフリュック、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態、HP1/4+リジェネ(強)、MP微量)
所持品:ビームライフル 竜騎士の靴 手帳 弓 木の矢28本 聖なる矢15本
G.F.パンデモニウム(召喚×)、リュックのドレスフィア(シーフ)、波動の杖
スタングレネード、コルトガバメント(予備弾倉×1)、ドラゴンオーブ、ちょこザイナ&ちょこソナー、
ランスオブカイン、スプラッシャー、変化の杖) 祈りの指輪
第一行動方針: 脱出に協力しない人間を始末する/ユウナを止めて、首輪を解除する
最終行動方針:生還してセルフィに会う
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
「ここ、か」
草叢を踏み拉き歩き続ける事、数十分。
ラムザは無事に、南東の祠に辿りついていた。
先刻出会った、奇妙な少女二人組の言葉が真実であるならば、ここにリルムが保護されているらしい。
(――いや、疑っていては始まらない。
信じよう、ここにリルムがいると)
疑心暗鬼は身を滅ぼす。
ラムザは頬を叩き、銀髪鬼の恐怖から未だ立ち直れない己に活を入れた。
か弱い少女を保護し、殺人者すら確保するに留めているというのだ。
祠に居る人々が非好戦的かつ不殺主義者であることは間違いない。
さらに念の為に、数分ほど意識を集中させ、ナイトから話術士へとジョブチェンジする。
これでリルムが機嫌を損ねたままであっても、誤解を解くことができるはずだ。
「……よし!」
意を決し、扉に手をかける。
精緻な竜のレリーフが施されたそれは、見るからに固く、重く、侵入者を徹底的に拒んでいるようだ。
だが、ラムザが取っ手を強く引いた途端、突然扉が勢いよく開いた。
「うぐっ!?」
額をしたたかに打ちつけ、思わず体勢を崩してしまう――
そんなラムザの視界を横切って、走り去ろうとする小さな影が一つ。
「リ、リルム!?」
赤い帽子から零れる金の髪をなびかせた少女は、彼の声に驚いたのか足を止めた。
「ラムザ?! なんでここにいるの!?」
隻眼をしばたたかせ、少女――リルムはラムザの元に駆け寄ってくる。
しかし、すぐに祠から出てきた理由を思い出したのか、彼女は慌てながらキョロキョロと左右を見回した。
否、正確にはラムザと『祠の入り口』を交互に見やったのだ。
それが何故なのかは、数秒後に判明した。
「リルム! 待て!」
若い、というにはやや年のいった緑髪の男が、少女の名前を呼びながら飛び出してきた。
顔色こそ悪くはないが、腹部の破けた服と、そこに滲んだ血の跡が痛々しい。
「お前の気持ちはわかる! よーくわかる!!
だけどな、外は怖い奴らがいーーっぱいいるんだ!!
子供一人で出歩くなんて、死ににいくようなもんなんだぞ!!」
「子供扱いするなー!!
リルム様は骸旅団のダンチョーなんだぞ!!
どんな奴が来たって、あの銀髪ヤローが来たって、ちょちょいのちょいでやっつけてやる!!」
「だああああああっ! そういうところが子供なんだよ!
いいか、ちょちょいのちょいって出来る相手ばっかりだったら、誰も殺されたりしてないんだ!」
漠然とした既視感を覚えながら、ラムザは呆然と二人のやり取りを見つめる。
状況が把握できない。
どうにか理解できることといえば、何か事件があって、リルムが外に行きたがっているということと、男がそれを止めたがっているということだけだ。
「あの……何があったんですか?」
「へたれにーちゃんは黙ってて!!」
「今は取り込み中なんだ、後にしてくれ!!」
「……」
いかに話術士といえど、端から話を聞いてもらえなければ、その能力を生かすことはできない。
だが、それでも状況を知りたいという想いが、彼を動かした。
「二人とも落ち着いて下さい。一体何があったんですか?」
身体を割って入らせながら、言葉を紡ぐ。
「こんな所で口喧嘩していたら、逆に危険ですよ。
リルムも話を聞いてあげるから、一回中に入ろう、ね?」
「お、おう」
「むーっ……」
話術士のスキル『説得』。
戦場では敵の足止めに使われることが多いが、本来はこのように、相手の感情を鎮め対話に持ち込むための技だ。
体よく成功した、その勢いに乗り、ラムザは二人の背中を押して祠の中へ連れて入る。
カチャリ、と扉を閉めたところで、男はようやく我に返ったらしく、ラムザをまじまじと見やった。
「……ていうか、あんた誰だ?」
「ラムザだよ。
カインに騙されて、アイツとユウナの悪口ばっかり言ってるへたれにーちゃん」
リルムが頬を膨らませながら答えた。
異論を唱えたかったが、先に聞かねばならぬ事が有ると思い直し、咳払いのみに留める。
「ええと、貴方がヘンリーさんですか?
リルムがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
「いや……あんたも大変だったな。
この子を連れ歩いてたんだろ?」
「なによなによ、おっさんたちが二人して、リルムのこと邪魔者扱いして!
えーんえーん」
嘘泣きを始める少女を余所に、緑髪の男は苦笑交じりに右手を差し出し――ふと、眉間にしわを寄せる。
「ん? 俺、あんたに名乗ったっけか?」
「いえ、先ほど出会った女の子達に、この子と貴方の事を聞いていたもので……」
ラムザの答えに、一瞬、ヘンリーは得心したように表情を緩めた。
しかし、すぐにまた、眉をひそめてしまう。
「女の子……達?」
「ええ。リュックとリックと名乗ってましたけど……仲間じゃないんですか?」
首を傾げるラムザに、ヘンリーとリルムは揃って顔を見合わせ、もっと深く首を傾げた。
「「リックって誰?」だ?」
「……えっ?」
「えっ?」
予想外の返答に、ラムザとヘンリーは間抜けな声を上げることしかできない。
「なにそれこわい」とリルムが呟く中、二人で首をひねり――
考えても埒が明かないと判断したラムザは、別の質問を投げかけた。
「それより、リルムは何を騒いでいたんですか?
子供1人で出て行こうとするなんて、ただ事じゃない」
(もっとも彼女ならいつもの事だけれど)、と心の中で呟きながら、ラムザは交互に二人へ視線を移す。
「リルムは無鉄砲だけれど、良い子だということはわかってます。
無茶をする時は、仲間を案じる気持ちや正義感に由来していることが殆どでしたから。
……一体、誰に、何があったんですか?」
今までの威勢はどこへやら、リルムは照れたようにもじもじと俯く。
ヘンリーはぽりぽりと頬を掻きながら、困ったように息を吐いた。
「あー……うん。
ちょっと色々あってな、話すと長くなるんだ」
呟いてから、ヘンリーは急に声を潜めた。
「ただ、話す前に、確認しておきたいんだが……
ここのことをあんたに教えたのは、リュックと、あの子と一緒にいた奴で間違いないんだな?」
「え? え、ええ。
リルムから僕の事を聞いていたとかで、ここに大人たちと一緒に、リルムがいると」
軽装と重装備という違いはあるけれど、顔も身長も瓜二つな少女の姿を思い出しながらラムザは答える。
「それでリックって名乗った軽装の子が、話のお代とかで、幾つか道具を持って行って……
ああ、いや、なんでもないです」
「なるほどな。
……リルムの態度からしても、あんたが信用できる奴だってのは間違いなさそうだ。
あんたになら事情を話してもいい、んだが」
盗み聞きを怖れている隠密のように。あるいは、台詞の続きが思いつかない役者のように。
ヘンリーはきょろきょろと辺りを見回しながら、言葉を濁す。
その様子と、珍しく口を挟んでこないリルムに不審さを覚えつつも、ラムザは彼の言葉を待った。
数分の沈黙――その果てに、ふと、ヘンリーが視線を止める。
「……ラムザ。あんた、肩口に虫が止まってるぞ」
「え?」
言われて横を見てみると、蛾とも蜻蛉ともつかない大きな虫が、右肩に止まっている。
慌てて手で払いのけようとすると、一瞬早く、虫は静かに宙へと羽ばたいた。
ヒュン、と風切音が鳴った。
――ラムザがそう認識したのと、飾り気のないナイフが虫の胴体を床に縫い止めたのは、殆ど同時だった。
「ここはな、闇の世界って呼ばれてる、魔王の膝元なんだ。
こんなちっぽけな虫だって半分魔物化して、血を吸ったり肉を喰らったり、酷いのになると毒を持ってたりする。
殺意を持ってる連中ばっかりが敵だと思ってると、足元を掬われるぞ」
「……なんでそんなことを知ってるんですか?」
「ん? ああ、別行動してる仲間が、魔王と戦った勇者だの魔王本人だのなんでね。
危険な情報は、道すがら話して貰ったり、別れる前にメモ書きにまとめてもらったのさ
まあ、ピサロの奴には昨日別れたっきり、ずっと会えてないんだが……」
「ピサロ……彼が?」
ラムザの脳裏に、レーベで見かけた眼光鋭い男の姿と、バラバラに引き裂かれた無残な死体が過ぎる。
だが、ピサロの死を知らぬヘンリーは、無邪気に笑う。
「ああ。人間嫌いって話だし、御大層な肩書だけど、腹を割ってみりゃ意外と話の通じる奴さ。
、あいつが無事に戻ってくれば、ここの守りも任せられるし、俺も安心して別行動できるってもんだけどな……」
「おっさんこそ怪我人のくせに何言ってんの!
きちんと休んでないと似顔絵描くぞ!」
リルムの抗議に、ヘンリーは慌てて両手を振った。
「わ、わかってるから止めろって! 似顔絵だけは勘弁してくれ!」
緊迫感を欠いたやりとりに、ラムザは再び奇妙な感覚を覚えた。
二人組の少女と話していた時、抱いた違和感と同じだ。
(なんだろう…… 何かを隠されているような気がする。
騙されているような、遠ざけられているような、そんな感じがする)
けれども、眼前の二人も、先ほど出会った少女達も、敵意があるようには見えない。
そもそも悪意があるならば、少女達は不要な道具ではなく命を奪っていっただろうし、
ヘンリーが投げたナイフも虫ではなく、ラムザを射抜いているはずだ。
納得のいく答えを出せないラムザの耳に、ヘンリーの声が響く。
「と、とにかくだ。
俺達は怪我人ぞろいだし、虫の被害も馬鹿にならないんだ。
ここにいる間だけでもいいから、見つけたら潰してくれ」
「あ、はい」
ラムザが頷いたことを確かめてから、ヘンリーは踵を返した。
そのままリルムの手を引き、祠の奥へ――階下へと降りていく。
結局、リルムはどうして外に出ようとしていたのか……その答えも聞けないままだ。
「……しょうがないな、もう」
ため息を一つついてから、ラムザは二人の後を追った。
【ヘンリー (重傷から回復、リジェネ状態)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク キラーボウ
グレートソード、デスペナルティ、ナイフ 命のリング(E) ひそひ草 筆談メモ
第一行動方針:祠の警備
第二行動方針:出来れば別行動中の仲間を追いかけて事情を説明したい
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リルム(HP1/3、右目失明、魔力微量)
所持品:絵筆、不思議なタンバリン、エリクサー、 静寂の玉、
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 ブロンズナイフ
第一行動方針:アーヴァイン達とソロ達が心配
第二行動方針:他の仲間と合流
最終行動方針:ゲームの破壊】
【ラムザ(話術士、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
ミスリルシールド、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、スタングレネード×2
エクスカリパー、ドラゴンテイル、魔法の絨毯、黒マテリア
第一行動方針:リルムを守る/祠の人達から話を聞く
第二行動方針:アーヴァイン、ユウナのことが本当なら対処する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:南東の祠入口→奥へ】
投下乙!
いやー、虫潰しに協力させられる話術士……
この微妙なすれ違いが何か余計なものを生まなければいいんだけど……
あ、それと月報データおいておきますね。
FFDQ3 662話(+ 3) 22/139 (- 0) 15.8
乙です
読者側にだけ分かるこのもどかしさ
話術士の特性が吉と出るか凶と出るか
皆さんお久しぶりです、エドです。ラジオやってた人です。
今週末から某所でラジオツアー3rdが始まるようで、我がFFDQ3rdも語られるらしいです。
というわけで、9/21(金)にFFDQ3rdのラジオをしようと思っております。
時間帯としては21:30〜あたりを予定。遅れたりするようであれば連絡します。
ご都合がよろしければ、皆さんも「おー、やっとるやっとる」と冷やかしに来ていただければ。
以前のような無茶な長時間配信は不可能ですが、宜しくお願い致します。
URLは当日貼りに来ます。それでは、エドでした。
509 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2012/09/18(火) 22:32:07.18 ID:MyyJaLhEO
ロワらじ復活ktkr!!待ってたよ!!