+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン><参加者名簿>が支給される。
また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
<ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。(FFUのポシェポケみたいなもの)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。
+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・放送時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出放送時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。
+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。
+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ
+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。
現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://www.thefinalfantasy.com/games/ff3/images/firstmap.jpg 次の舞台は闇の世界(DQ4)
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0097.png
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
(今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
+一部作品の設定+
DQ3→神竜撃破後(オルテガ復活&エッチな本回収済み)
DQ4→PS版6章クリア後(ピサロが仲間になり、裏ボスを倒した後)
DQ5→ビアンカと結婚ルート
FF3→FC版準拠、デッシュもエリアも一般人、イングズの変わりにギルダーがいます
FF7→本編クリア直後(AC無関係)
FF10-2→通常エンド後(ティーダ未復活、花畑で幻も見ていないルート)
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/ ロワらじ
http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/ お絵かき掲示板
http://dog.oekakist.com/FDBR/
■参加者リスト
FF1 4名:ビッケ、ジオ(スーパーモンク)、ガーランド、アルカート(白魔道士)
FF2 6名:フリオニール、マティウス(皇帝)、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:サックス(ナイト)、ギルダー(赤魔道士)、デッシュ、ドーガ、ハイン、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス
DQ1 3名:アレフ(勇者)、ローラ、竜王
DQ2 3名:ロラン(ローレシア王子)、パウロ(サマルトリア王子)、ムース(ムーンブルク王女)
DQ3 6名:オルテガ、アルス(男勇者)、セージ(男賢者)、フルート(女僧侶)、ローグ(男盗賊)、カンダタ
DQ4 9名:ソロ(男勇者)、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン、リュカ(主人公)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、レックス(王子)、タバサ(王女)、
ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー、ミレーユ、イザ(主人公)、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公フィン、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
生存者リスト
FF1 0/4名:(全滅)
FF2 1/6名:マティウス
FF3 2/8名:サックス、エリア
FF4 1/7名:カイン
FF5 2/7名:バッツ、ギード
FF6 4/12名:ロック、マッシュ、リルム、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 1/8名:サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 3/4名:ラムザ、アルガス、ウィーグラフ
DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 1/6名:セージ
DQ4 4/9名:ソロ、アリーナ、ロザリー、ピサロ
DQ5 4/15名:タバサ、パパス、ヘンリー、プサン
DQ6 2/11名:クリムト、ターニア
DQ7 1/5名:フィン
DQM 2/5名:テリー、ルカ
DQCH 1/4名:スミス
FF 22/78名 DQ 15/61名
計 37/139名
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」
アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」
アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」
浮遊大陸朝〜 (21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」
「アグリアス」「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」「エッジ」「フルート」「ドーガ」
「デール」
浮遊大陸夜〜夜明け(19+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」
「オルテガ」「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」「ビビ」「ブオーン」「ジタン」「ライアン」
浮遊大陸朝〜(4人 ※うち脱落者1人)
「アルス」「ギルガメッシュ」「ウネ」 ※「ザンデ」(リタイア)
視線の先には、小さな土の山が一つ。
もうニ十分以上経ったが、別れた仲間が帰ってくる気配はない。
いくらなんでも遅すぎるのではないか?
「一抹」どころではない不安が脳裏をよぎる。
やはり、多少の反感を買ってでも、あそこで引き止めておくべきだったのか?
「……後悔したところで今更ですか」
辺りに気を配る。相変わらず、辺りを包むのは鳥や虫達の声。戻ってくる気配はない。
そういえば、セージはジタンから魔力の篭った球を受け取っていた。
「あまり褒められたことではありませんが…」
ジタンがリュカと交換した、緑色の球体。魔石とは異質の魔力があるのを確かに感じ取った。
魔石と比べると儚いものであるが、距離や時間はそう遠くないことを考えると、十分。
精神を集中し、球体が残した僅かな魔力を辿る。城に入り、本城を無視し、東塔へと痕跡は続く。
ときたま途切れてしまうのは、仕方のないことだろう。
ひたすらに階段を上り、最上階まで到達したところで、その痕跡は途切れた。
やはり、一人で次の世界へと行ってしまったのか。
扉を開けると、一面に広がる赤い海。闇の世界を連想させるような、暗く、どんよりとした空気。
アリーナによって為された虐殺。話には聞いていたものの、思わず目を逸らしてしまう。
例外は、部屋の中心にある、場違いなほどに青々と輝く旅の扉だけ。
そして、やはり魔力は旅の扉の場所で途切れていた。
ため息をつく。何かできたかと言われれば疑問だが、頼られなかったのはやはり情けなくなる。
このまま飛び込んでしまおうかとも思ったが、まだ仲間がいる、自分まで先に行くわけにはいかない。
ふと違和感を感じる。目をこすり、もう一度だけ見直してみる。いや、暗くない。見慣れた、光の世界だ。
何を以って闇の世界を思い描いたのか。気のせいならばいいのだが、いいようのない恐怖感に襲われてしまう。
惨劇の部屋に背を向け、足早に階段を下りていった。
ほぼ同じ時刻。五人と一体がようやくサスーンの城門へ到着した。
「さて、このサスーンのどこかに旅の扉があるわけだな」
放送では具体的な場所は言ってくれない。分かるのはサスーンのどこかにあるということだけ。
本城、東塔、西塔、城壁の上、さらに地下室に隠し通路。誰かが待ち伏せしている可能性もある。
「魔女も時間切れを望んでるわけじゃねえだろうし、見つかりやすいところにあるとは思うけどな。
それより、こいつはまだ起きないのかよ?」
ロックの指差す先には、ギードに背負われたままぐったりしているアーヴァインの姿。
呼吸に乱れはなく、ただただ静かに眠っているだけだ。
「仕方ないよ、悪いもやもやにずっと憑かれてたんだから」
「この状態では放っておくわけにもいかんしの。
薬を飲ませたとはいえ、症状が抑えられたとも限らん。
起きるまでは様子を見よう」
「そういや、ここでプサンのおっさんと待ち合わせてるんスよ。セージもいるはずだし、合流しようぜ」
ジタンは死んでしまったとはいえ、プサン、セージ、フィンは生きている。
特に病人のフィンがわざわざ別の旅の扉を目指すとは思えない。三人はいるとすればここだ。
彼らを見つければ、旅の扉の位置は分かるだろうし、見つけていなくても人手は増える。
「アーヴァインだってガキじゃあるまいし。
全員で付き添ってなくても大丈夫だろ。二手に別れて、プサンってやつを見つけて合流しようぜ」
「あ、そうですね。私は行きます。ティーダも行こう?」
「俺もッスか? まあ、別にいいッスけど」
ユウナがレーダーを持ち、ティーダが先導。部屋を知らないロックは二人に付いて行く。
あの黒い靄に触れてから、色々な感情が流れ込んできて、頭の中がめちゃくちゃのぐちゃぐちゃになった。
生まれてから今までの記憶がズバババって流れていった。前にもこんなことがあった。
不思議と頭は痛くない。あのときは受け入れるのが辛かったけど、今はそんなことはない。
ギードの背中で小舟を漕いでいるのに気付いた。眠っていたのだろう。
ギードの授業中に夢を見て、今目が覚めたのかと思ったし、それだったらよかったけれど、
リュカの死体を見つけたことも、ティーダやロックに銃を向けたことも、みんな現実なんだろう。
感覚も意識もはっきりしてたし、今でもはっきりと思い出せる。
でも、そういうことがあったのに、なんだかものすごく落ち着いてる。
ちょっと色々と考えたくなって、もう少しだけ眠らせてもらった。
ものすごく懐かしい夢。
孤児院での日々。再会の日の光景。狙撃の時のこと。仲間達のこと。
辛い風景。悲しい記憶。――楽しかった、思い出。
現れた魔女。転がる首。人を殺したこと。自分を殺しに来た仲間。
折れた心。潰えた未来。――消えてしまった、思い出。
はっと目を覚ましたら5人の友達はいなくなって、テリーやギードやプサンがいた。
「おや、目が覚めたのじゃな? どうじゃ、調子は?」
「う〜ん、なんだか頭が冴えて爽やかってカンジ。今ならお酒いくら飲んでも酔っ払わない自信があるぜ〜」
……ぐんと背伸びをした途端に甲羅から転げ落ちてしまったが。
テリーとプサンが仰天して、アーヴァインに駆け寄って体を起こす。
「どうやらあの薬草が効いたみたいだね」
「先ほど城に着いての、プサン殿らと合流しようとしておったのじゃ。
ロックやティーダはプサン殿を探しに行ったんじゃ。時間も人手も足りんかったのでな」
「そして、入れ違いになってしまったというわけですね」
「なに、しばらくすれば戻ってくるじゃろう。今のうちに食事をとるなりして、体力を回復させておくんじゃな」
ギードが預かっていたザックを渡す。一時取り上げられていた銃のほかに、少々の食料が足されていた。
一番体がボロボロになっているアーヴァインに対して、他の仲間(主にティーダ)が少しだけ寄付したものだ。
食事を取っていない。テリーもザックから食料を取り出して食べ始めた。
「そういえば誰かを迎えにいく、とか言ってたけど、旅の扉の位置とかも知ってるの?」
テリーがふと思ったことをプサンに聞く。何ともなしに聞いたことだが、プサンは少々間を置く。
「ええ、旅の扉はあの東塔の最上階、ですがあまり子供にはオススメ出来ませんね」
「なんで? 幽霊でも出てくるとか?」
「う〜む、あまり事細かに言いたくはないのですが、殺人が行われた現場だと説明しておきましょう」
虐殺の現場を子供に見せたくはないというのはある。それに加えてもう一つ、あの部屋で感じた違和感。
だが、状況的な証拠もない、憶測だけの説は無駄な不安を招くだけだ。
単純に次のステージの気が流れ込んだだけかもしれないのだ。
ひとまず、あの部屋で感じた違和感は保留することにした。
支援
「あ〜、とにかく、あまり近くまでは行かないほうがいいってことだね?」
いつの間にかアーヴァインが簡単な食事を終えて立ち上がっている。
「…いや、別になんかするわけじゃなくて、ちょっとトイレに行くだけだよ。
リハビリも兼ねてるけど。むしろこっちメインかな。
プサンが元気ってことは、この城に危ない人はいないってことだよね」
「お恥ずかしいことですが、確かに私はよいカモだったでしょうね」
「でも、アービン兄ちゃん一人でトイレまで行けるの?」
「もう子供じゃないんだし、トイレくらい普通に行けるって。だから付いて来なくていいよ。
見られたくないし。あ、あと僕を忘れて勝手に次の場所に進んだりもするなよな?
そんなことしたら、モルボルを踊り食いしてもらうからな〜?」
アーヴァインは支給品袋を背負って、ギードらの見守る中、よろよろと建物の影へ向かっていく。
今のところ、精神的に参っているような様子はまったくない。
途中でジタンの墓にて立ち止まり、一瞥、誰かの名前を呟いて、よろよろと進んでいく。
歩きのほうは多少慣れてきたのだろう。一人でも大丈夫そうだ。
ギードはいつのまにかプサンと難しい話を始めていた。
主に筆談だが、昨日の夜に魔王たちやエドガーたちから聞いた情報を交換している。
テリーは正直何もすることがない。変な人間が来ないように城門の外をぼーっと見ていた。
アーヴァインは寄り道もせずまっすぐ東塔に向かい、階段を上っていた。
途中で見つけた弓と矢を回収し、ゆっくりながらも着実に進んでいった。
最上階に着くと、プサンが言ったとおり、旅の扉が青々と輝いていた。
会場にはスコールもゼルもリノアも、ラグナもいた。
だが、アーヴァインは会いたい女の子がいるという一心でゲームに乗ることを決めた。
脱出するという選択肢も、消極的に身を守るという選択肢もあったのに、積極的に殺して回る道を選んだ。
恐怖に心を飲まれたわけでも、狂ってしまったわけでもない。ひたすらに冷静だった。
全力を出し切って、アルティミシアを倒した。でも、彼女は何事もなかったかのように生きてる。
それどころか、こんなゲームに知らないうちに参加させられている。
それで確信した。勝てない、と。自分はただ踊らされていただけなのだと。
だから、彼の出した答えは【ゲームに乗って、最後の一人になること】
脱出は可能かもしれない。首輪の解除も魔女の元へたどり着くことも可能かもしれない。
だが、倒せなければ意味はない。参加者全員を本人が気付かないうちに会場に運んできた相手に、勝ち目があるのか。
それでも初めは、本心ではゲームには乗りたくはないと思っていた。
あのとき、スコールがアーヴァインを止めていたなら、考えを改めていたのかもしれない。
…ただ、スコールはちょっとだけ厳しかった。もう後戻りできないことが分かってしまった。
この道を選んだ時点で見放されるのは分かりきったこと、だが実際にはアーヴァインの心はそれに耐えられそうになかった。
ギリギリで踏ん張っていられたのは、もう一度生きてセルフィに会いたいという思いのほうが強かったから。
あのとき、アイラとスコールが来る順番が逆だったなら、死んでいたのはアーヴァインのほうだっただろう。
カインは生き残る覚悟が出来ていたから、冷静さを保てた。
アーヴァインは中途半端な覚悟しか持たなかったから、最後に心が折れた。
レーベで力も心も仲間も選択肢も希望もすべてが潰えて、
弱りきった理性が死という逃亡の道を望んだ。それでも、死にきれない自分がいた。
ソロはアーヴァインを殺さなかったが、あのままでは彼はどのみち発狂して、
そこにいた人たちを巻き込み、最後にピサロあたりに殺されて終わっていただろう。
ディアボロスが意図したのかどうかは分からないけれど、記憶の一部だけを切り取った。
全てをすっぱり忘れて、もう一度だけ生きるチャンスを与えてくれた。
だが、記憶がそうズバズバと入れ替わるはずはない。
ヘンリーも最初こそ記憶を完全に失っていたが、緩やかに記憶は戻っていった。
どんなに話を聞いても一日目の記憶が戻せなかった理由。
思い出したら、また耐え切れなくなる。これから起こることの重圧に耐え切れなくなる。
だから、記憶のほんの一部分しか戻らなかった。記憶の一部が復活したのではなくて、そこしか戻せなかった。
意識の深層にある防衛本能が、記憶の復活を妨げた。
黒い靄から守るためにティーダが飲ませた理性の種のために、本能的に封じられていた記憶が蘇った。
膨張した理性の領域は本能の防衛線を決壊させ、そこに塞き止められていた記憶をあふれかえらせた。
でも、種の魔力で膨張した理性はそれらすべてを受け止めてくれる。それを超えて受け入れるキャパシティがある。
今度は狂ってしまって逃げ出すという選択肢は選べない。選ぼうとしても、精神は折れて千切れてはくれない。
だから、決断しなくてはならない。
生き抜くのか、それとも希望などないまま残り数日をこのまま過ごすのか。
すなわち、ティーダを切り捨てるのか、セルフィを切り捨てるのか。どちらかを決断しないといけない。
自分の中でティーダの占める比重が大きくなっているのが分かる。
みんなで脱出なんてできないと思ったから、元の世界の友達とさえも戦う道を選んだ。
新しい友達が自分にとってやさしいからというだけでゲームに乗るのをやめるなら、
自分のやってきたことも自分の想いも、ただの「ごっこ」遊びでしかなかったということ。
所詮、僕の中でセルフィはそれだけでしかなかったということ。
そんなこと、認めたくない、認められない、認めない。
だから、流される前に自分で決断をしたい。
記憶を失ったままでいたかった。そうすれば、悔いのないまま、脱出を夢見て死ねただろう。
だが、こうも思う。記憶が戻ろうと戻るまいと、全員を殺してでも生き残ろうって気持ちは残っているのではないのか。
本当にあの黒い靄に操られたのか。あの靄は感情に同調しているように思えた。
あれがティーダじゃなくてセルフィだったら、銃を向けられたか?
ティーダは大切な友達だ。ならば例えば、ティーダにもう一度会いたいからゲームに乗れる?
誰よりもセルフィが大事で、ティーダよりも大事で、でもティーダも大事で、セルフィよりも大事で。
ユウナのことが好きだとティーダに言った。でも、好きなのは本当にユウナだったのか?
どんなときでも自分を見放さず、支え、照らしてくれた太陽。ティーダのことだった?
いや、それも不正解。確かにそこにいたのはティーダとユウナだけれど、その後ろにセルフィを見ていた。
裏切り者とそしられても構わない。人殺しと蔑まれてもいい。
ただ、彼女ともう一度、生きて会いたい。自分でそう誓った。
もう二度と人を殺さない。ティーダとそう約束した。
何が大切? 何が優先されるべき?
今、何にも侵されていない状態で彼に銃口を向けることが出来るか。
いや、それはできない。だから、ティナとは『交換』をしたのだ。
では、刺客を差し向けることは? 間接的に殺すことは?
できるのなら、きっと誰だって殺せるのだろう。
彼女に会うために友達だって殺せるし、他人だっていくらでも騙せる。
でも、友達のために大泣きして、他人のために体を張ることが出来る。
記憶を失う前も、失った後も、どちらも自分。どうすればいいのか迷っている。
だから、一度この班を離れる。しがらみを取り去った後で、もう一度選択をしよう。
「やっぱり、もういないみたいッスね。机に『戻る』って刻まれてるけど」
「その文字は俺たちに向けたものなのか? どちらにしろ、このまま待つくらいなら旅の扉を探していたほうがいいだろ」
「そですね。この辺りは私達以外に反応はないですし、安全です」
「ま、扉探しはこのロック様に任しとけ。
この部屋の柱時計で、30分後にギードたちと別れたところに集合しよう」
「お、2000ギル発見!」
階下からロックの声が聞こえる。
物語に出てきそうな古城、魔女の作った世界とはいえ、トレジャーハンターの血が騒ぐのだろう。
実際、宝箱を開けてはブリザドやら盾を回収している。ブリザドはユウナが受け取ったが。
「……………」
ロックは隠し部屋を探索している。ティーダは隠し通路から出て、本城を探索し始めた。
焦る必要はない。今は旅の扉を見つけるほうが重要なのは間違いない。
だが、考えようによってはよい機会なのかもしれない。城外にいるメンバーは、ギード以外はお荷物に等しいのだから。
だが、どうやればティーダに気付かれずに殺すことが出来るのだろう?
(アービン兄ちゃん、トイレ長いなあ。紙がないのかな?)
テリーはそんなことを考えながら、外の風景を見る。
変わらない風景。長いとはいえ、暇すぎるだけで大して時間は経っていないのかもしれない。
ギードとプサンは相変わらず情報交換に熱中している。
ロックたちが帰ってくる様子もない。
ぽかぽかと陽気な太陽。吹き抜ける暖かい風。サスーンは平和だ。
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、右腕骨折、右耳失聴、冷静状態)
所持品:竜騎士の靴 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3) 弓 木の矢40本 聖なる矢20本 ふきとばしの杖[0]
第一行動方針:行動方針の再考
第二行動方針:????
備考:理性の種を服用したことで、記憶が戻っています】
【現在位置:新フィールドへ】
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
第一行動方針:ティーダらを待つ
第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:ティーダらを待つ
第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:ティーダらを待つ
第二行動方針:ルカを探す】
【現在位置:サスーン城城壁内】
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:旅の扉を見つける
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート
第一行動方針:旅の扉を見つける
第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:旅の扉を見つける
第二行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【現在位置:サスーン本城】
保守
保守
26 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/23(水) 21:19:42 ID:XLl4u9OhO
保守
過疎ってんな
*Henry
ヘンリーが駆けつけた時、辺りは既に静まり返っていた。
周りの家屋はあの爆音の名残りか、未練たらしく煙りを吐いている。
風が戦場の残り香を、ヘンリーに届ける。
探し人は一人佇み、どこか拍子抜けしたようにこちらを見ていた。
「お前…ッ!サラマンダーは…ッ!?」
ヘンリーが息を切らしてようやくそう聞くとスコールは、
「あっちの世界だ」と事も無げにある方向を指し示して言ってのけた。
微かに見える青白い光、旅の扉だ。
その意味する所を察してどっと力が抜けるのを感じながらヘンリーは力なく呟く。
「怪我は…ないみたいだな」
涼しい顔で水を渡してくるのを受け取って、怒る気力も無いままヘンリーは座り込もうとした……が、
その時、衝撃が身体を突き抜けた。
*Sacks
サラマンダーが既にいないのは予想外だったけれど、襲撃をすることに躊躇はなかった。
個人的にはサラマンダーには生きていて欲しい――この手で殺したいからだ――が、
計画としてはサラマンダーがここにいたかどうかなど、二人を殺しさえすれば問題にならない。
ヘンリーはサックスの敵ではないし、
スコールは戦闘が終わったばかりで疲労やダメージが残っているはず。
あんなに強引に出てきた以上、多少無理をしてでもここで殺して武器を奪っておきたかった。
特にヘンリーが持っていた飛び道具――銃――を奪えば安全距離から楽に殺せる。
銃を使えば……エリアの目の前で手を血に染める姿を見られずに済む。
ソロ達を相手に立ち回る可能性もある以上、どうにか手に入れたかった。
アラームピアスの効果範囲は夜に借用した時の経験で分かっていた。
目測でぎりぎりの距離まで忍び寄り、思いっきりラケットを振りかぶる。
風の魂が押し出される手応えがして……命中。
ヘンリーが背後の家屋に叩き付けられ、ぐったりと倒れこむ。
さすがに死んではいないだろうが、気絶はしたようだ。
どちらを狙うか少し迷ったが、確実にダウンしそうな相手を選んで正解だったと頷く。
次は……お待ちかねのスコールの番だ。
サックスを見捨てた、ゼルの仲間。
自分が既に失った「仲間」を、未だに持っている者。
生きていると邪魔になる。そしてなにより……不愉快だ。
喉の奥から、何かドロドロしたものが湧き上がってくるのを感じた。
サックスはラケットをビーナスゴスペルに素早く持ち替え、構えた。
この手で、確かな感触を持って壊してやりたかった。
正義に携わった思い出も、孤独も、躊躇いも、何もかも。
*Squall
突風が吹き抜け、身体が揺らいだ。
背後から、ヘンリーが壁に叩きつけられる音が聞こえる。
声をかけてみたが返事は返ってこない。
悠長に振り返っている余裕はないし、もし振り返ってみてもそうすることに意味はなかったろう。
スコールは巻き上がった砂塵により、目をやられていた。
前方から鋭く、重苦しい殺気。
それが及ぼす結果を想像する暇もなく、スコールは身体を横に投げ出す。
数瞬前までスコールの身体があった空間を、凄まじいスピードで何者かが蹂躙する気配が伝わる。
使い回されたシチュエーションだな……と、頭の中で誰かが皮肉った。
他の役者もついさっき、お前と同じような仕方で攻撃をかわしていたぞ、と。
スコールは唇を噛み締め起き上がると、ライオンハートを正眼に構えた。
襲撃者はおそらく――サックス。
風は最初にエーコ(奇妙に懐かしい)が持っていたラケットによるものだろう。
アラームピアスの範囲外から攻撃し、一気に仕掛けてきたのだ。
正直、スコールは気を緩めていた。
サックスの監視はサイファーに任せてあり、援軍要請は一人だけと指定してあった。
だからヘンリーが来た時点で、サックスは引き止められたのだと判断してしまったのだ。
……いや、実際、少なくともサイファーはサックスを引き止めたはずだ。
サックスを試すならヘンリーを先に寄越す理由はないし、
そうじゃないならアイツがサックスを黙って見送るはずがない。
しかし現に、サックスはここにいる。
――サイファー達は無事だろうか?
「厄日だな……。ここ数日ほど」
初撃で狙われたのがヘンリーだったせいか、あるいは距離があったからか、
『さきがけ』が発動しなかった。
そして臨戦態勢になった時には既に……目がやられていた。
完璧に当初の目論見から外れてしまっているようだ。
本日何度目かの溜め息を吐き捨て、スコールは剣を握る手に力を込める。
サックスの声が、「同感ですよ」と苦々しく言うのが聞こえる。
そしてこの小さな村で、再び戦いが始まった。
*Sacks VS Squall
先に仕掛けたのはスコールだった。
スコールの強みの1つはその攻撃の精密さ。
暗闇状態でも気配によって相手の位置を探る術をスコールは身に付けている。
風のGF、パンデモニウムによって底上げされたスピードをもってしてサックスに強襲。
ライオンハートとビーナスゴスペル、二つの武器がぶつかり――爆音。
左肩を負傷しているサックスには辛い一撃となる……はずだったが、
ガンブレードを使いこなすのはそう容易いことではない。
視覚が使えないせいでトリガーを引くタイミングが少しずれ、衝撃は軽減された。
そのまま返す刀で斬りつけるがかわされる。
「驚かないんですか?僕が裏切ったことに」
絡み合う風のようにスコールと縦横に動き回り、打ち合いながらサックスは訊ねた。
その身体はマテリアの加護によって、通常では出し得ない素早さを誇示している。
ここまで来たらもう自分がゲームに乗ったことを隠す必要は無い。
というか、隠す意味が無い。
スコールの目が利いてないことにサックスは気付いていたが、
だからといって襲撃者の正体にスコールが気付いていないとは思わなかった。
それにどうせ……スコールはここで死ぬのだ。
自分の槍に貫かれて、死ぬのだ。
既成事実のようにそう捉えることによって、サックスは自分を追い込もうとする。
「別に…。うんざりすることが増えただけだ」
一方スコールは、彼我の戦力を分析する。
戦況は……スコールがやや不利。
スピードはスコールの方が若干上回っているが、リーチは向こうが上。
加えてサックスは、その高い防御力に任せて多少の傷など物ともせずに打ってくる。
ここまで素早い攻防になるとトリガーを引く瞬間は更に見極めがたく、
ライオンハートの性能も活かしきれなかった。
そしてなにより……目。
もう数十分も経ったような感覚があるが、実際にはごく僅かだろう。
どんな具合に砂塵が入ったのか、目から異物感と痛みがまだ消えない。
格下ならともかく、これほどの強者を相手に目を使えないのはさすがにきつかった。
ここまでなんとか攻撃を捌いてこれたのは
サックスの攻撃がやけに殺気走っていて気配を感じやすかったから。
そしてサックスが槍――ビーナスゴスペル――を扱い慣れていないからに過ぎない。
――このままでは負ける。
そう認識すると、後の判断は迅速。
スコールはサックスの鋭い突きを踊るようなサイドステップでかわし、
ライオンハート……ではなく、脚での強襲をサックスの腹にぶちこんだ。
突然の下からの一撃にさしものサックスもたたらを踏むが、すぐに反撃を始めようとする。
しかし、
「マヌーサ!」
スコールの方が一歩早かった。
異世界の魔法でサックスを惑わし、その隙にヘンリーが倒れた方に走り寄る。
サックスがめくらめっぽうに攻撃しているのか、後ろで何かが割れる音が聞こえる。
スコールはそれを尻目に、無礼にも足でヘンリーを確認するとさっと担ぎ上げ、
戦場から離脱しようとした
……が、その試みは失敗に終わった。
再び風が吹いたのを感じると同時に、腕に、脚に、背中に確かな痛みが広がった。
そして生じた時と同じように静かに、魔力の霧が晴れていく。
「やっぱりそこにいたんですか」
背後から地を這うような、低い声が聞こえる。
振り返り、痛みを堪えて微かに目を開けると、サックスがどこか苦々しそうな顔で立っていた。
その手には槍ではなく、再びラケットが握られている。
何故自分の位置を捉えることができたのか。
スコールが言葉にしてその問いを発する前にサックスは答える。
「ヘンリーさんですよ。
仮にも反主催を掲げる人間が、仲間を置いたまま逃げるとは思わなかった。
……少なくとも昔の僕なら、そんなことはしないと思った。
だからあなたではなく、ヘンリーさんが倒れていた場所を狙ったんです。
そこに落ちていたガラス瓶の破片をラケットで飛ばしてね」
それで思い出した。
走ってきたヘンリーに自分が水を渡したことを。
ヘンリーが風で吹き飛ばされる瞬間、それを取り落としていたことを。
そしてヘンリーを担ぎ上げる直前、背後から聞こえてきたあの音を。
妙に体が重かった。
それは体を引き裂いたガラス片に付着していた水、
正確にはそれに混入された劇薬の効果なのだが、スコールには知る由も無い。
とにかく、サックスと再び打ち合うのは酷く億劫に感じられた。
例え打ち合っても今度は更に不利な展開になることは明らか。
……だけどスコールは諦めるという選択を選ばない。
何故ならば―――
「……あんた、本当は迷っているんじゃないか?
あんたが会った時、ヘンリーは丸腰だったはずだ。
殺すのは簡単だったろうに、あんたはそうしなかった。
あるいはサラマンダーがエリア達を襲っていたあの時。
リュックは眠りに落ちていて、あそこにいるのは非戦闘員ばかりだった。
なのにあんたはそこでもまた、殺しをしなかった」
サックスの顔が歪むのが分かった。
少しは痛いところを突けたのだろうか?
サックスが再び槍を構えるのをスコールは殊更に冷めた目で見つめる。
自分の体に疲労だけでなく、熱が帯びてくるのが感じられた。
しかし、スコールは言葉を止めない。
何故ならば―――
「どうせ短時間で裏切るつもりだったんだ。
本気で優勝を目指すなら、あそこで4人減らした方が遥かに効率的だった。
あんたには勝機を確実に掴む冷静さも、圧倒的な力もない。
その程度で本当に優勝できると思っているのか?
だったら愚かとしか言いようがないな」
なんだか今日は、やけに皮肉の利いてる日だと思った。
今更ながらに涙が異物を粗方流し終えたことに気付いて少し笑う。
そしてサックスが無表情に近づいてくる姿を特に何をするでもなく、ただ見つめた。
サックスが槍を旋回し、スコールの胸に狙いをつける。
スコールはそれに抗う覚悟も、死ぬ覚悟もしない。
何故ならば――
何故ならば、サックスのすぐ背後にリュックが迫っていたからだ。
*Rikku
「エリアになんて言お〜!?」
リュックは倒れているサックスを見て大袈裟に嘆いた。
剣の腹の部分で殴ったため死んではいない…が、気絶はしている。
不可解な行動を取ったサックスを追ってリュックが着いた時には
既にサラマンダーはいないし、ヘンリーが倒れているし、
スコールとサックスが戦っているしで、状況は混乱の極みにあった。
さっぱりわけが分からないリュックだったが、
スコールがヘンリーを抱えて逃げようとした場面を目にし、
そしてサックスの発する暗い殺気を感じ取り、咄嗟にスコールを助けた。
スコールが言うにはサックスはゲームに乗っていたようだけど……
「……ア〜!エリアに何て言お〜!?」
友人の悲しむ顔を思い浮かべ、リュックは頭を抱えていた。
【スコール (HP4/5、全身に浅い切り傷、軽度の毒状態、疲労)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
サックスの装備品(水鏡の盾 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
ねこの手ラケット 拡声器 ひそひ草)
第一行動方針:状況の整理
第二行動方針:ソロ達との合流
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:状況の正確な把握
第二行動方針:ソロ達との合流
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ヘンリー(気絶中、後頭部にコブ)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:???
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【サックス (気絶中、HP3/5、微度の毒状態、左肩負傷。後頭部にコブ)
所持品:スノーマフラー
第一行動方針:???
第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
アルティミシア城、玉座の間。
ゲームの主催者たる彼女は虚空にスクリーンを浮かべ、一人この悪夢を眺めていた。
スクリーン上の世界、そこではちょうどスコール・レオンハートが
サラマンダー・コーラルを巧妙な戦術で新フィールドへ追い払っていた。
それは即ち、彼が今もってこのゲームに踊らされていないことを示す場面。
「伝説のSeeD……守るべき魔女を失い、堕ちるかと思ったがな……」
魔女アルティミシアは苦々しげに顔を歪め、血のように紅いワインを口に含んだ。
そしてスクリーン越しに宿敵の蒼い瞳を暫く見つめると、
鬱陶しそうに腕を振るって魔力で形成されたスクリーンを閉じた。
アルティミシアは漆黒と静寂に満たされた空間に取り残される。
参加者は残り38人。
およそ4分の1近くまで減っていた。
アルティミシアはこれまでに起きた悲劇――あるいは彼女にとっては喜劇――を思い返し、
目を閉じる。
―――あと少し、あと少しなのだ……。
どのくらいそうしていただろうか。
ふと気配を感じ目を開けると、ガルガンチュアが部屋に入ってくるのが見えた。
アルティミシアの前だけあって騒々しい音こそ立てないが、慌てている様子が一見して分かる。
「何事か。申してみよ」
アルティミシアの冷静な、冷酷な声にガルガンチュアは平伏し、早口で報告する。
「ハッ、ゴ報告シマス!
ツイ先程カナーンニオイテ、ケフカガザンデ達カラ離反。
ザンデ、ロザリーノ首輪カラ信号ガ一時途絶エマシタ。
ロザリーノ信号ハ新フィールド二オイテ再ビ確認デキマシタガ、
ザンデノ方ハ未ダ確認デキテオリマセン。
盗聴ニヨルトデジョンヲクライ、次元ノ狭間ヘ送ラレタヨウデス」
顔を伏せていても、目の前で魔力が膨らむのが分かった。
ガルガンチュアはその強大な力に身を震わせるが、やがて魔力の膨張は止んだ。
再び虚空にスクリーンが1つ浮かび上がり、銀髪の魔王が一人立ち尽くしているのを映した。
その傍には旅の扉。そして小さな爆発の跡。
他には誰もいなかった。死体すらなかった。
「……ザンデはこの城の領域には入っておらぬ。
次の放送時までに見つからないようであれば死亡扱いにしておけ。
デジョンの扱いは……今まで通りだ。
あの道化がゲームに乗っているのであれば脱出に使われはしまい」
ガルガンチュアは逡巡した様子で主を見ていたが、顎で促されて退出した。
アルティミシアはその背中に
一応ピサロとケフカには注意しておくよう投げかけると、再び目を閉じる。
無限に近い次元の狭間。
その中からたった一つの空間を割り当て、更にその中からたった一人の者を見つけ出すのは難しい。
先にデジョンを食らったライアンはアルティミシアが管理していた領域内での移動に留まったが、
どういうわけかザンデはアルティミシアの用意した舞台から完全に離れてしまっていた。
多少魔力を割けば見つけることもできようが、そうするとゲームの進行に不備が生じることもありえる。
強い力を持つ参加者が一人減ったことは歯痒いが、アルティミシアはその捕捉を早々に放棄した。
逆に考えてみれば、ザンデがこのゲームに干渉することもおよそ不可能になったということ。
脱出に関して一番有力な模索者が消えたのはかえって好都合かもしれない。
ただ、ザンデほどの魔力を持つ者に何故ケフカ如きのデジョンが効いたのかは気になるが……。
アルティミシアは目を開けた。
軽く腕を振るうと、次々と虚空にスクリーンが浮かび上がる。
あるいは眠り、あるいは戦い、あるいは仲間と語らう者達の姿が金色の瞳に映る。
―――様々に絡み合う物語。
アルティミシアは玉座でそれを眺める。
薄闇の中、独りそれを眺める。
その胸中を知る者は誰一人いない。
彼女が何を求め、何を待っているのか。
それを知る者はただ一人としていない。
―――残り、37人。
ゲームは今なお続いていた。
42 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/02(金) 20:12:27 ID:lN8EgfXm0
ほす
43 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/03(土) 11:02:19 ID:OdIEFRW+O
あげ
44 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/03(土) 11:04:12 ID:fOqlIBRF0
保守
保守
「こっちはダメだった。そっちは?」
20分も経たず二人と別れた部屋へと帰還したロックは、柱時計を見上げている先客の背中に気安く声を掛ける。
振り返ったティーダの顔は、心なしか青く見えた。
「……部屋が……赤くて……」
「赤い部屋? なあ、ちょっと会わない間にずいぶん元気なくしたな。どうかしたか?」
「もう、ホラーとかスプラッタとかそんなレベルじゃないんスよ……」
伏し目がちに、深刻そうに低く呟くティーダに、ロックも異常を悟る。
まさか誰かの死体でも見つけてしまったのか?
「あ、旅の扉は……ちゃんと見つけたッス。でもそこで多分二人、死んでて……」
「……二人か」
当然のように、もう数少なくなった仲間や知り合いの顔が浮かんだ。
ちょうど一日前、旅の扉を通る時も戦闘があった。必然的に人が集まる旅の扉は待ち伏せにはうってつけだ。
ティーダが特に戦闘した様子もなく先に危険を報告することもないことからするとつまりは『事後の現場』、か?
「ちょっと待て。もしかして待ち合わせるはずだったうちの二人?」
少しだけ躊躇するようなそぶりのあと、ティーダが思いきり左右に首を振る。
まるで目に焼きついてしまった光景ごと頭から追い出してしまいたいとでもいう風に。
けれどそういうわけにはいかない。
「知らない人と……知らない女の人ッス」
「じゃあ多分、ってのは?」
「……………………手とか、足とか……頭とか。ばら撒かれてて……」
「…………」
搾り出すような言葉、それっきりまた俯いて沈黙するティーダの態度から大体の推測がついた。
現場を見ていないロックでも想像した酸鼻な有様には気分が悪くなりそうだった。
そこまでやる理由に納得できるものを見つけられなくて、ぐらぐらと漠然とした嫌な予想映像が渦を巻く。
コツコツとただ柱時計が時を刻む音だけがしばらく二人の耳に聞こえていた。
「下、行くぜ。とりあえず報告しよう」
俯いたティーダの肩を軽く叩く。
どこか浮き足立ってしまった雰囲気の中で、二人はギード達の場所へと向かい階段を降りていく。
ロックは、隠し部屋からその奥へ。
しばらく同行していたティーダは塔の方を探してみると言い残して行ってしまった。
状況は理解できるものの離れていく背中には悲しげな視線を投げかけてしまう。
動くか動かないか、湧きかけた迷いに焦ることはないと心を落ち着け、
何気なく手にしたままのレーダーを覗き込んだユウナは動いている光点が3つあることに気付いた。
一つはまずは西の塔を探ろうと離れていくティーダ、
後方、城の中に当たる位置にいるのはロックだろう。
それでは、こっち――東の塔の方を進むこの点は、誰?
追いかけるようにユウナが東の塔の入り口までたどりついたあたりで、しかし追いかけていた光の点は消えてしまう。
レーダーを信じるなら首輪で自殺したか、転移する呪文を使ったか、でなければ――旅の扉に飛び込んだか。
ティーダとロックの位置はさっき確認している。
城外にいるはずの4人の顔ぶれを1人ずつ思い返してみれば、こんなことをしそうなのは不思議と明白に判断できた。
無関係の誰かが通過していった可能性もあるだろうが、そんな風には思えなかった。
いなくなってくれたんなら――ティーダから離れてくれたならお礼の一つでもあげようか。
けれどユウナの心に湧き上がったのは、我慢できないくらいに嫌な想像。
今度は一体どれくらい、聞きたくもない言葉を聞かされるんだろう?
時間を先取りしてしまった不愉快さの予感に、ユウナは固く目を閉じて心の嵐が収まるのを待った。
落ち着いて大きく息を吸い込む。とにかく、今は今の時間をどう使うかだ。
思いついてしまったことをもう一度検討しなおしてみる。
外にいるのは3人で、思い付きを実行に移すなら全滅させる以外にはないだろう。
ただ、撃てば――撃ってしまえば、その音は必ず彼に届く。
仮に目的が達せられても、理由の根底が崩れ去ってしまうのなら駄目だ。
仕立て上げた『森の中にいた銃を使う殺人者』を使うことも考えたけれど、
ティーダ独りならともかくロックあたりは撃ち込んだ方向を目敏く見破るだろうから、簡単にはいかない。
正面入り口すぐのホールまで降りてきたユウナは柱に背中を預けて薄暗い天井を見上げていた。
手で水を掬うように困難な可能性を何度も何度も考えて考え直して時間を無駄にし、
もうどうすればいいのか曖昧になってきたところで衝動的に柱を離れて歩き出した――瞬間、だった。
キャノンボールのように飛び込んできた自分より上背のない影と思い切り衝突する。
突き飛ばされるような形になり、とっさに手をつくことはできたものの尻餅を突くように転倒してしまう。
「って〜〜……あ、ユウナ姉ちゃんっ!? 大丈夫?」
「う、うん……」
テリー少年を認め、何が起こったかを確認して頷いたユウナの顔がわずかに歪む。
違和感程度ではあるが、足首にかすかに痛みがある。反射的に手が伸びた。
「足痛いの? ごめんなさいっ、でも、でもさ、大変なんだよっ!
アービン兄ちゃんが帰ってこないんだ!」
テリーはさも重大事件のように言うが、ユウナにとっては確信していたことの証明に過ぎない。
それより重大なのは、こんなことであっさりと痛めてしまったかもしれない足首だ。
行動に支障をきたすほどなら、確実にこれからの選択肢が狭められてしまう。
体重のかけ方を気にしながら、柱を支えに使ってゆっくりと立ち上がる。
「……多分ね、先に行っちゃった」
「先!? 何でだよ!? なんで、オレ達を置いてくんだよ! あああ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だと……思う」
「……ごめんなさい、でもアービン兄ちゃんが……ねえ、なんで行っちゃったなんてわかるんだよ!
ほら、ちょっと驚かそうと思ってそこらへんに隠れてるだけかもしれないじゃないか!」
あれだけ不安定さを見せ付けた「あいつ」にどうしてそんなポジティブな発想を寄せられるのだろうか?
でもきっと、ティーダも重ね合わせたみたいにこんな風に取り乱すんだろう。
表情には出さず、うんざりした気持ちでユウナは手にしていたレーダーを示した。
「私もね、お城の中探索してたからずっと見てたわけじゃないの。
だけど、光る点が消えたのは見たから……」
「だからってアービン兄ちゃんとは限らないじゃないかっ!」
「ギードさんとプサンさんは下にいるんだよね? お城の外から誰も来なかったよね?
私とテリー君はここにいて、じゃあティーダとロックさんのどちらかが先に行っちゃうと思う?」
「アービン兄ちゃんだって先になんか行かないよッ! あんな怪我してるのにさっ!」
これはきっと聞きたくもない言葉、の予行演習だ。
どうして「あいつ」がこんなにも信頼と心配をもらえるのか、わからない。
殺人を犯し、酷い怪我をして、いかにも不安定な様子を見せれば同じように心配してもらえるのだろうか。
必死さのあまりすこし涙ぐんでいるようにも見えるテリーをじっと凝視する。
軽い涙目だけれど、まるでそんなことを口にするユウナが悪いとでも言う風に睨み返される。
心底うんざりしながら――もちろん表情には出さない、予行演習――ユウナは柱にもたれるように座り込んだ。
「あのね、一応30分で一区切りつけて下に集合するって決めてるの。
でもみんな時計がないから、上の時計のある部屋で待ってたら二人ともきっと戻ってくるって思う。それで、確かめて。
多分大丈夫だと思うけど時計の長い針が9のところにきたら帰ってきてね」
少年を見上げながら上の部屋の位置を丁寧に教えて促す。
頷いたテリーは決然とした表情をして階段を上がって行った。
「どうしてアーヴィンが独りで行っちゃうんスか? なんで!?」
ユウナが待つ必要はほとんど無かった。
テリーが今し方上って行った階段を通してティーダの大声が、聞こえる。
ほどなく憔悴したような二人と冷静に見える一人が連れ立って階段を下りてきた。
そこにいるユウナを気にすることなく三人はアービン、アーヴィンと喧しく意見しあっている。
一応、柱のあたりまで来ると自然に立ち止まったけれどこちらを構わずに話しているのは変わらない。
「なあ、レーダーで見てたって本当のこと? 見間違いで、どこかで迷ってるとか……」
ようやく話を振られたかと思えば予行演習どおりのうんざりするような言葉の連なりだ。
抵抗する気も起きず――予行演習で経験済み――ユウナはふるふると力なく首を振り、
座ったままの姿勢で手にしていたレーダーを差し出した。
見たくも聞きたくもないことなら、せめて自分の見えないところでやって欲しい。
そんな願いを込めながら。
「……俺、探してくるッス!」
悲しみと不愉快さとアーヴァインへの憎しみが入り混じった気持ち悪い感情でユウナはその背中を再び見送った。
それから10分ほどを無駄にした頃だったか。
その間に城外にいるギードとプサンも連絡を受けてこちらに移動してきていて、
もちろん見つかる訳のない捜索を打ち切ってティーダが戻ったところで全員がユウナのいるホールに集合する。
「罪の意識、じゃろうかの」
「理性の種の影響でしょうね。精神が安定したことで深く自分を見つめなおしてしまった、できてしまった」
「心配するな、とは……流石に言えんが……」
「難しい問題なんですよ、彼が抱えているのは。理解ってやってください」
事情を大体把握したギードとプサンの二人が三人(特に落ち込んだ二人)に必死に解説を施している。
状況は明白だし、レーダーで確認したはずなのに。
ロックとテリーが離れた後もそれでも最後まで何にもならない無駄な抵抗を続け、
未練たらしく「あいつ」の名前を口にするティーダからユウナは目を逸らしていた。
柱時計は残された時間がもう15分くらいであることを示しているはずだ。
一行には待つという選択肢は採り得ずあとは旅の扉へ向かう他なかった。
「ねえ、ティーダ兄ちゃん」「待てよ、ティーダ」
見つけた旅の扉へ一行を案内すべく先頭へ行きかけたティーダをロックとテリーが同時に引き止める。
不思議そうなその手をつかみ、柱のそばでぼんやりと立っているユウナのところまで引っ張っていく。
「あのな、ユウナがさっきちょっと足を痛めたんだってよ」
「オレがぶつかったせいなんだ……だからさ、ティーダ兄ちゃん」
「肩を貸してあげて」「肩、貸してやれ」
最後はまたハモりながらほとんど命令のように突きつけた。
単純に驚いたような表情を浮かべ、ティーダはまるでユウナがそこにいるのに初めて気がついたかのように。
心配げな目を――ユウナ「だけ」を心配する目を――向けた。
「足、大丈夫?」
「え、う、うん。大丈夫。一人で歩けるよ」
「何ならお姫様抱っこでもいいぞ?」
近づいた二人の後ろからロックが冷やかし、ビックリした二人を尻目に先を歩き出していく。
「東塔のてっぺんだったっけな。早く来いよ!」
ギードとプサンが苦笑し、テリーにもころころと笑われる。
本当のところたいしたことはなかったようで足首の痛みは消えていたけれど、
ユウナは差し伸べられた手をとり彼の肩に縋って、二人並んで歩くことを選んだ。
沈黙が似合うタイプではないのに、ユウナに肩を貸したまま階段を上るティーダが黙っているのは
きっと頭の中でここにいない「友達」の事を考えているからだ。
正直心が渇いて、ささくれ立って、ひりひりするけれど。
それでも、バランスを崩したり突っかけてしまったりすると気遣いを向けてくれることがユウナにとっては嬉しい。
素直に、嬉しい。
足が万全でないふりをしつつ階段を上がりながら、ちらちらと彼の横顔を覗き見る。
後ろ斜めから肩越しに見るその顔が――今はこちらだけを向いていなくとも――守りたい全てなのだ。
階段を上りきり、目的の部屋の扉まで近づいたところだった、
突然にティーダが何か思い出したかのように叫ぶ。
「あー! 忘れてたッス! その部屋は……っ!」
「……知ってますよ。確かに女性や子供には辛いものがありますねえ」
先行して扉までたどり着いているプサンが受けて答える。
ギード、テリー、それにユウナの三人は何のことかわからずきょとんと二人に交互に目をやっていた。
「な、ユウナ。俺を信じて、ちょっとの間だけ目、つぶっててくれるか?」
自分だけに向けられた真剣な眼差しに射られる。
ずっと忘れていたような満ち足りた気分が心の奥に生まれてくるのを感じて、即答、ユウナはうなずいた。
そのまま目を閉じて、すべてをティーダに預けた。
「じゃあギードの上に乗っといてくれよ。見るなよ」
「わかってるよ」
「本当はちゃんと葬ってあげたいのですが……まさか持っていく訳にもいきませんし」
「せめて祈るしかできんのう」
触れている彼の肉体に神経を集中する。
扉の開くかすれて軋む音。
鼻をつく、血の嫌な臭い。
誰かの呻くような声。叫び声。叱る声。
「じゃあ、みんなで一緒に行くぞ!」
掛け声。
合わせた様に背中と足に手が回され、ユウナの身体が抱き上げられる。
躍動する彼の運動が、飛び込む瞬間を教えてくれる。
ぎゅっと閉じた目の奥にまで差し込む青白い光。
消えていく血の臭い。
重力が弱くなったような、沈んで浮いて落ちていく感覚。
離れないように、離れてしまわないようにユウナもしっかりと手を絡ませた。
しっかり、と。
――私がずっと見ていたいのは、あの肩越しの未来。
だから、だけど、変わっていく私を、赦して……ね――
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
第一行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
所持品:首輪
第一行動方針:ルカとの合流/首輪の研究
第二行動方針:アーヴァインが心配】
【テリー(DQM)(右肩負傷(9割回復)
所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
第一行動方針:ルカを探す
第二行動方針:アーヴァインが心配】
【ロック (左足負傷、MP2/3)
所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証、かわのたて
魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート、2000ギル
第一行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)を警戒
第二行動方針:アーヴァインが心配
基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
第一行動方針:アーヴァインを探す
基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、 対人レーダー
天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー、ブリザド
第一行動方針:あわよくば邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【現在位置:新フィールドへ】
56 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/12(月) 12:04:34 ID:D4WbrxZfO
落ちないように保守
どれだけの時間が経ったのだろう。
相変わらず、旅の扉は規則正しい渦のパターンを描いている。
延々と続く渦の回転。二度と乱れることはないであろうそれを見ていると、
ロザリーが光の反乱へと引き込まれてから、何十時間も経ってしまったように錯覚してしまう。
外は騒がしいが、それも川向こうの火事といった印象。
ロザリーはまだ生きているのか、生きているとして、その元へとたどり着くことは可能なのか。そんなことばかり考えていた。
まだ死んでいないならば、次のフィールドに無事に転送されたならばと考えて、やはり否定してしまう。
もう一度あの儀式を行って、あの未知の呪文を用いて旅の扉に飛び込んでも、たどり着けるのか、
それどころかその後に待っているのが生か死かすら分からない。
己を見失えば、身の破滅を引き起こすだけだということは嫌というほど理解している。
元の世界には、私の帰りを待つ大勢の家臣たちがいる。ここで死ぬわけにはいかない。
だが、どうにもきっかけがなく、ただ徒に時間を過ごすだけ。
現実に引き戻されたのは、さきほどからずっと後ろに感じていた何者かの気配がようやく濃くなってからのことだ。
「何者だ?」
低く重い声。だが、ドスが効いているとかいうのとは違う。気力も生気もない生声。
後ろにいたのは金髪の青年。隙だらけだった私を殺すのは容易かっただろう。
ゲームに乗っていないか、それとも余程の素人か。
「速やかに通るがよい。言っておくが、妙な真似をすれば容赦はせんぞ?」
警戒しているようだが、それは私が刀を抜き身のまま持っているせいでもあろう。
わざわざしまってやるのも馬鹿らしい、それ以前にそうする気力もなかった。
そういえばどこかで見覚えがあると思っていたが、夜明け前に出くわし、ひとまず気絶させておいた男。
警戒心はそのあたりから来ているとも言えるのだろうが……。
「なんだ? 何か言いたいことがあるのなら、はっきりと言えばよかろう」
「あ…ああ……こんなところで何をしてるのか気になっただけさ」
私が何をしていると聞かれても、別段何かしているわけでもない。
考え事をしているともただ何も考えずに立ち呆けているだけとも言える。
「…他の二人はどうしたんだ? その辺にいないのか?」
この狭い部屋にあと二人が潜んでいると本気で思っているのだろうか。
そう考えて、体を小さくする術が存在していることも思い出した。
「やつらはもうこの世界に留まってはおらぬ。
ケフカという男に出し抜かれ、別世界へ追放された。貴様も用心するのだな」
「用心ねえ…。あんたらを見て、逆に用心しない人間なんかいないと思うけどな」
確かに用心という言葉は不適合だったかもしれない。用心なら私も十分にしていたのだから。
一流の詐欺師は用心していようがいまいが関係ないのだろう。
青年はばら撒かれた支給品、といっても私が奪ったものなのだが、それを回収していた。
そういえば、この青年にもう一つ見覚えがあると思えば、あの妙な黒服。
「貴様、マティウスと行動していたな? やつはどうした?」
そういえば、マティウス。目の前の男と同じようなスーツを着た男。
確か、ケフカと似た系統の術を使っていた覚えがある。
「……。あの黒服なら、向こうでアリーナと一騒動起こしてたぜ?」
「…そうか、アリーナ、か」
ここに来た目的の一つに、アリーナを探すため、というものもあった。
ゲームに乗っていたなら本来は殺すことも仕方がないのだろうが……。
アリーナやソロなら、私にどういった道を示すのだろう?
青年は支給品の中身を確認し終え、旅の扉に飛び込むだけらしい。
だが、今はそうさせるわけにはいかない。用事ができた。
「待て」
低く重い声。今度は射抜くような鋭さを込める。旅の扉に飛び込もうとしていた青年の足が止まった。
「アリーナについて、少し話をしてもらおう。それから、やつらのところに案内しろ」
「……へぇ、殺しにいくのか?」
「それは話を聞いてから決めることだ。くれぐれも謀ろうなどと考えるな」
カナーンまであと少し、だが異質な雰囲気を感じる。
水面から上空を見上げると、瓦礫やら鉛弾やら草木やらが大量に降り注いできた。
ここで大怪我をしてしまえば旅の扉にたどり着くのは難しい。
とにかく先に進むのは流れに任せ、最小限の動きで降り注いでくる物体をかわす。
空気抵抗の大きいものは降り注ぎきり、ほっとしたのもつかの間、またしても滝に差し掛かる。
が、さすがに二度目ともなればただ落ちるだけということはない。
カエルとはいえ、知能や技術まで失われるわけではない。
竜騎士の経験を生かせば、どこにどのように着陸すれば体への衝撃を抑えられるか、ということなど手に取るように分かるのだ。
滝の流れをあまり浴びていない岩目掛けてジャンプ。掌の粘液を用いて、飛び出した岩にくっつきながら降る。
もう片方の腕を上へ、下へ探らせ、微細な岩の出っ張りを掴み、体勢を安定させる。
この滝はそれほど高くはない。カエルになっているから多少の高さもあるが、元に戻ればなんということはないほどの高さ。
ふうと一息つき、なにやら感じた嫌な予感にしたがって上を向いてみると、木の枝やゴミが降り注いできた。
指に、腕に、頭に直撃し、結局指は離れて、体は滝つぼに落ちていく。
思わず声を出してしまいそうだったが、出す前に滝つぼに叩きつけられる。
実際は数メートルも落っこちていない。いつの間にか元に戻っていたのだ。
白魔法におけるトードは戒めの魔法。カエルにすることによって対象に罰を与えるもの。
術者の制御次第で長時間カエルにしておくこともできるが、その制御が解かれると魔法も解けてしまう。
ウネの死亡、それもすべての魔力を使い果たしたうえでの死亡であったため、その制御が解けてしまったのだ。
ここはもう舗装された水路。なんとかカナーンまでたどり着くことは出来た。
だが、そのカナーンでは戦いの痕跡があちこちに見られる。
石畳や家屋はまるで竜巻に抉られたかのように無残に砕け散り、あちこちに瓦礫や青い何かが飛び散っている。
先ほど色々なものが降り注いできたのは、この戦闘が原因。その激しさを物語る。
少し先を見ると三つの人影。アリーナとアルガスに似た服を着た男が気絶している。
老人が回復魔法を当て、アリーナを治療しているようだ。
アルガスから聞いた、盲目の賢者――流しの回復屋であろう。
今動いているのはその老人だけ。しかも相当に負傷しているようだ。武器のようなものも持っていない。
治療を行っているということは、他の事に対する注意は薄い。今動かない手はないだろう。
老人はあまりに無防備。気配を殺し、背後から静かに、静かに、静かに、静かに老人へと近付く。
老人はこちらに背を向けて回復魔法を唱えており、気付いた素振りすら見せない。
「ときにそなたは何を思い、この狂気に臨むのだ?」
そう、あとはこのままこの無防備な老人の脳天を叩き割るだけだ。
(ん? 今の言葉は自分に向けられたのか?)
無防備なのは間違いないが、今のは明らかにこちらに気付いて発した言葉だ。
「貴様、いつから俺に気付いていた?」
こちらに気付いた素振りはなかった。いや、そもそも盲目の男がどうやって気付けるというのか?
戦闘訓練などまるで受けていなさそうな男が。
「ほんの数刻前。そなたの気配が感じ取られた」
(いや、それよりもすべては俺の油断と慢心か。初めから侮っていれば、こうなるのも当然か)
盲目だからこそそれ以外の感覚が鋭いのかもしれない。それでも、この男がただものでないのは間違いない。
「……何故攻撃しなかった? 気付いていたなら、俺の不意を付けたはず」
「私に人を殺める気はない。そなたは、何故人を殺める?」
「今更な質問だな。俺は生き残ると決めた、だからゲームに乗っている」
主催者打倒を目指して動いていたであろう仲間達は皆早々に死んだ。
間違っているとは思っていないし、むしろ、やつらが死んだ今となっては正しいと確信すらできる。
「迷いすら見受けられぬか。本来ならば、そなたも止めるべきなのであろうが…。
今は怪我人も多い。退いてはもらえぬだろうか?」
「怪我人なら尚のこと好都合だ。いずれにせよ、ここでお前達が俺に殺されれば話は終わりなのだ」
無駄な時間を過ごしたが、結果は変わらない。槍を振り上げる。
「いや、ここでの殺しは遠慮願おう」
そして振り上げたそれはどこからともなく現れた甲冑の騎士に阻まれた。
「…なるほど、召喚獣の類か。厄介なことをしてくれる」
現れたのは、オーディンを思わせる甲冑姿の召喚獣。
業物と思しき二本の剣、それらを用いて素早い攻撃を繰り出してくる。
どれも一撃一撃は軽くさばけるようなもの。
だが、それを凄まじいスピードと機動力で補い、こちらに反撃の暇を与えない。
召喚獣の後ろでは、老人が怪我人二人を半分引きずりながら、離れようとしている。
召喚獣はこちらが向こうの領域に入りさえしなければ、向こうも動かない。まさに時間稼ぎの駒。
だが、正面、横、上、どこから突破しようとしても邪魔をされる。
どうしても真正面からの突破はさせてくれないらしい。
だが、相手は召喚獣。なんとかしてあの老人を殺せば消えるはずだ。
そして、契約を忠実に実行するだけの召喚獣には力と技術はあっても頭はない。
一瞬だけなら突破する方法などいくらでもある。
ザックから取り出したのは、光の剣とミスリルシールド、そして加速装置。
光の剣は刀身の長い騎士剣。何の素材で出来ているのか、相当に硬い。うまく力を集中させれば、ミスリルすら貫ける。
そして、ミスリルは軽い金属。自分の腕力を以ってすれば、この盾一個分など負担にならない。
光の剣の先端にミスリルシールドを刺す。
盾は何も攻撃を防ぐためだけではない。視界を塞ぐという使い方もある。
だがリーチは足りない。そこを光の剣で補った、それだけ。
一瞬。召喚獣をすり抜け、老人にとどめをさすだけでいい。
敵に向かって走る。敵の眼前に光の剣を突きつける。
溢れる光が敵の目を眩ませる。ミスリルシールドが敵の視界を一瞬だけ塞ぐ。
敵は身を捻ってかわす。そのまま光の剣を敵に投げつけ、その間に敵を飛び越す。
敵の背に一撃加える。手ごたえは浅いが問題ではない。即座に加速装置をセット。
あとは追いつかれる前に直線上にいる老人を貫くだけ。と、ここで老人が振り向き、何かを唱える。
老人の動きに合わせてすぐ横の水路から大量の水が飛び出し、足を絡め取る。
小さな津波。おそらくは転倒を狙ったのだろうが、この程度では問題にならない。
と、何か水に隠れた左足に違和感を感じる。見れば、どこから現れたのか、折れたレイピアが加速装置に突き刺さっていた。
確かライアンの使っていたもの。水路に落ちていたそれが、偶然にも突き刺さってしまったのか。
早急に抜き捨てるが、水に浸され、レイピアに貫かれた加速装置は本来の機能を失っていた。
そして悪いことに、もう例の召喚獣に追いつかれてしまう。こちらの予想よりもずっと速い。
プライドを傷つけたか、甲冑から覗く目は紫に怪しく光る。さきほどまでとはうってかわって殺気を伴っている。
だが、隙も増えている。一撃目は槍で受け、体当たりは横に大きく跳んでかわす。
三撃目は来ない。そのまま通り過ぎて主のほうへと向かう。
召喚獣は攻撃もしているが、奇行も目立つ。おそらくこの槍の効果で混乱しているのだろう。
老人は何やら魔法を唱え、背負っていた二人を投げ出した。
キアリクとやらが何の魔法なのかは分からないが、女のほうを光が包み込む。
老人は盲目の割りに、上手く剣撃をかわしているが、気絶していた二人からは離れていってしまう。
一方、投げ出された衝撃で気絶していた両方ともが目覚めそうだ。
槍を構え、目を開きかけている女……アリーナに向かう。
「……? ……!!」
水のひんやりした感触と、頭を揺さぶられる感覚。
それで起きてみるやいなや、目の前に槍を持った男。
事態も理解できない間に第一撃が来るが、反射神経でギリギリ槍をかわす。
思ったよりも体が回復していない。眠いのに無理矢理に起こされたような感覚。
この状況を鑑みるに、実際にそうなのかもしれない。
クリムトはと思ってそちらに目をやれば、光の渦に巻き込まれる甲冑の騎士。
あの光はおそらくニフラム。あちらは片付いたのだろうが、こちらはまだ命の危険に晒されている。
クリムトがさらに魔法をかけてくれる。今度の淡いピンクの光はスクルトだろうか。
私半回転した勢いに乗って体を起こし、地面を強く蹴って相手との距離を大きくとる。
「もう、次から次へと…」
槍を突き出してきた男、カインを睨む。カインは口の端を歪め、嘲るような笑みを浮かべている。
相手はこちらを見ていない。目線を追って後ろを見れば、高速で向かってくる刃……いや、マティウス。
死を思い描いたところで、私を突き飛ばし、横合いから割り込んできたのは、クリムト。
鋼の剣はクリムトの体を貫くが、守備力増減の呪文で守られているのだろうか、死には至らない。
クリムトは私たち二人を助けてくれたはず。なのにそれでも敵意をむき出しにするマティウス。
理解できないと同時に、憎しみが弥が上にも込み上げる。
マティウスは鋼の剣を持ち直し、改めて斬りかかってくる。
だが、交戦の準備をしようにも、後ろの槍男も気になる。
そこへマティウスと私との間に新たな乱入者。
見たことない形状の剣で、鋼の剣を見事に斬り飛ばす。
黒いローブで身を包んだその男は、ピサロ。さらにアルガスの姿も確認できる。
「ピサロか! 何故邪魔をする!?」
「マティウス! そなたの仇はそのアリーナではない! 話を聞け!」
ピサロは瞬時に私とマティウスとの間に割り込み、アルガスはカインのほうへと向かっていく。
私はその間にクリムトの傍に駆け寄る。
ピサロはロザリーから一応アリーナ分裂説を聞いてはいたが、
ザンデによればクローン造りには高い技術が必要とのことで、半信半疑であった。
だが、アルガスもアリーナが支給品の効果で二人に分裂したという話をする。
そして、アリーナと昨日の間ほぼ一緒に行動していたと証言。
アルガスはオリジナルもクローンもグルだと主張していたが、
ピサロとしては、アリーナの人となりを知っている。よって、ひとまず無実と判断。
だが、マティウスは話を聞く気すらないようだ。
マティウスはソードブレイカーを取り出し、アリーナとの軸中にいるピサロへと斬りかかっていく。
「直接手を下していない? そんなことはとうに知っている。
だが、元を正せばこの女がすべての元凶、私に言わせれば、両者とも同罪。
我が友の仇と同義! アリーナの側につくというのなら、貴様とて容赦はせぬ!」
「目を覚ませマティウス! 貴様はあまりに復讐に囚われすぎている」
「知ったふうな口を聞く。この期に及んで討伐を引き伸ばせと? 無理な相談だ!」
ソードブレーカーと天の村雲。基本性能は大分差があるが、
マティウスはギザギザにうまく天の村雲を引っ掛け、弾き飛ばしてしまう。
ピサロは即座にライアンの遺品である立派な騎士剣を取り出し、持ち替える。
「盲目たる復讐は負の連鎖に囚われるということ、己が身の破滅を呼ぶだけだ! すべてを失うぞ!」
「今更失うことの何を恐れようか? 元の世界にもこの世界にも、もはや失うものはない。
そうだ、今ならば奪われた者の気持ち、よく分かる。
貴様にどのような言い分があろうと、知ったことではない。あの女は必ずこの手で葬り去る!」
アリーナはクリムトを安全な場所まで連れて行こうとしており、
アルガスはといえば、ちゃっかりと近くに転がってきた天の群雲を回収し、カインを説得している振りをして話し込む。
マティウスとピサロの戦闘、クリムトの安否に気を取られ、アリーナはそれには気付かない。
そしてカインはピサロとマティウスとの鍔迫り合いを眺めている。
カインがピサロのほうに向かっていき、口を開いた。
「ほう、その剣はライアンが持っていたものだな? 殺して奪ったか」
唐突な一言に、ピサロが激しく動揺する。
生まれた大きな隙を見逃すマティウスではない。
ソードブレーカーのギザギザの刃が黒のローブを引き裂き、ピサロのわき腹を深々と切り裂く。
カウンター気味に放った真空波は狙いがぶれたのか、マティウスにほとんど当たらない。
雰囲気の変化をアリーナも察知する。
「その指輪も、俺が数時間前にここでライアンに会ったときは、まだライアンが嵌めていた。
ライアンは今朝方放送で呼ばれたな。二人は仲間だったと聞いていたが、やつを殺して奪ったのか。
いやはや、アリーナといい、ピサロ殿といい、なんとも都合のいい仲間だな?」
ピサロは確かにライアンを殺し、イザも殺した。
普段なら冷静に当時の状況を述べることが出来たかもしれない。
だが、ピサロ自身にまだ心の整理が付いていない。
ロザリーと再会したこと。ライアンと交戦したこと。ロザリーを失ったこと。
それぞれの出来事がピサロから着実に冷静さを奪っていった。
今もマティウスとの交戦中、整理を付ける暇がない。あやふやに否定しようとするので精一杯。
煮え切らない態度に、徐々にアリーナの顔に疑いの色が濃くなっていく。
そして、冷静な第三者がいればカインとアルガスに何らかの関係があることにも気付きそうなものだが、
アリーナもピサロもマティウスも、今はそういう心境ではない。
「言い訳なんてやめようぜ。こいつが……」
アルガスの持つ指輪と刀、インパスの指輪と天の群雲が共鳴するかのごとく輝いている。
そして天の群雲から湧き出すように、もやもやした青い霧のような物質が現れ、
「教えてくれてるんだよッ!!」
アルガスの叫びと共に、それらは形となってピサロに襲い掛かり、交戦していたマティウスも巻き込まれる。
霧は二人に絡みつき、体力と共に体の自由も奪っていく。
森羅雲海。
マンダリア平原で襲われたとき、アルガスはエルムドア侯爵が刀の魂を引き出して戦うのを見たことがある。
侍のジョブを経験したことがないアルガスには本来使えないもの。
天の群雲も侯爵の刀に入っていた。効果範囲も強さも、追加効果も見たことがある。
アークナイトの戦い方も、刀の効果も知っている、足りなかったのはまさに技術と経験。そこをインパスの指輪が補った。
天の群雲から発せられた念によってマティウスは地面に倒れ伏す。
ピサロも地面に膝を付き、アリーナのほうを見るが、見返すアリーナの目は疑念に満ちている。
「俺の友達だったイザの野郎だって殺してくれたらしいじゃないか?
今朝方も俺を見るなり殴りかかって来たんだ。お前本当はゲームに乗ってるんじゃないのか?」
「貴様……言わせておけば…!」
アルガスの横合いからの茶化し。あからさまに悪意を感じるそれだが、アリーナは真に受ける。
ピサロはアルガスを黙らせようと立ち上がり、掌に魔力を溜めるが、そのことが一層その言説に裏づけを与える。
結局はその魔力を放出する前に、カインが攻撃をしてきたので、ピサロはその相手をせざるを得なくなる。
アリーナは侮蔑の眼差しをピサロに向けた後、クリムトを連れてその場を後にしようとする。
そのアリーナ目掛けてマティウスの魔法、サンダーが向かっていく。
「忘れるな…。貴様の相手はこの私だ」
天の村雲がいくら強力な刀であろうと、マティウスがいかに怪我を負っていようと、使い手はアルガス。この程度で気絶することはない。
直撃こそしなかったものの、アリーナはサンダーの余波を受けてしまい、地面へと吹き飛ばされてしまう。
アリーナのほうはすでに原型留めぬウネの体の上に倒れ伏し、クリムトも少し離れた場所へと吹き飛ばされる。
さらに発せられるサンダー。アリーナは横に転がり辛うじてかわすも、強烈な電撃はその下にあったウネの体をさらに砕く。
「……。」
殺されてしまったライアン。自分を守るためにその犠牲となったウネ。そして、今まさに危険に晒されているクリムト。
自分の罪は十分に意識している。なのに、犠牲になるのは自分のまわりの人間ばかり。
自分は戦いたくなくても、相手はそんなことも関係なく周りごと戦いに巻き込み、命を奪っていく。
「いいわよ…。あなたがそんなにあたしを殺したいって言うのなら、相手になってあげるわよ」
アルガスは後ろに引き、状況を分析する。
アリーナはマティウスとカインを敵と認識。ピサロもそのカテゴリに入っているかもしれない。
マティウスはアリーナとクリムト、ピサロを敵と見ているのだろう。
ピサロはカインと自分を敵と考えているのだろうが、他は微妙なところか。
そして自分はマティウスやピサロにはあまりいい印象は持たれていないに違いないのだ。
適当なところで切り上げるべき。
ちょっと場をかき回したのは、ピサロに今朝方気絶させられた分の借りがあったから、
それと「盾」となるべきだったイザを殺してくれた借りがあったから。
カインもピサロに借りがあるそうだ。
以前よりも弱体化している今のうちにその借りを返しておきたいとのこと。別に待つ必要はない。
さて、クリムトという男。アリーナの気遣いか、彼にまで戦いの余波が飛んでいくことはなさそうだ。
このまま放置していてもいいが、目を覚まされて何かしでかされるのも気に食わない。
アリーナと目を合わせる。こいつを引き受けるというコンタクト。それで十分。
さらに、アリーナにマティウスから奪ったビームウィップを投げ渡す。
一度試しうちしてみたが、使い方が分かってすら上手く使いこなせなかった。
アリーナが生き残る可能性は低いが、早々に戦闘が終わるとこちらがとばっちりを食う可能性があるのだ。
多少は時間を稼いでもらわないといけない。
アルガスは早々に場を離れ、旅の扉に向かう。
クリムトは目を覚まさない。こいつと一緒に次の場へ向かう気はない。
まるでゴミのようにポイと旅の扉へ投げ捨てる。腕時計の指す時間はもう三十分を切っている。彼も扉へ飛び込んだ。
さて、アルガスはビームウィップのほかに、もう一つ置き土産を残していった。
自分で使う気になれず、どうせ持て余すと思っていたもの。
この異様に殺気立った空間なら、必ずそれと同調する人間が現れるだろう。
殺意はそれを呼び寄せ、また負の力を引き寄せ、互いに引き合う。
戦場の一角で、皆殺しの剣が禍々しい気を噴出していた。
【アルガス 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ウネの鍵
ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)天の村雲(刃こぼれ)
最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【クリムト(失明、気絶、HP1/5、MP1/4、守備力25%UP) 所持品:なし
基本行動方針:誰も殺さない。
最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【新フィールドへ】
【ピサロ(MP1/3程度、わき腹負傷、スロウ) 所持品:エクスカリパー スプラッシャー 黒のローブ 命のリング
第一行動方針:カインを倒し、戦闘を終了させる
第二行動方針:可能ならロザリーを救出する
第二行動方針:ケフカへの復讐】
【カイン(HP1/5程度、左肩負傷、疲労)
所持品:ランスオブカイン、ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真の紙切れ ドラゴンオーブ
第一行動方針:ピサロを倒す
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【マティウス(MP1/5程度、スロウ、疲労大)
所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服、結構ボロボロに) ソードブレイカー
第一行動方針:アリーナを討つ
第二行動方針:アリーナ(2)を見つけ出し、ゴゴの仇を討つ
基本行動方針:アルティミシアを止める
最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる】
【アリーナ (左肩・右腕・右足に軽い怪我、腹部・背部に軽い負傷、守備力25%UP)
所持品:ビームウィップ
第一行動方針:マティウス、ピサロ、カインを倒す
基本行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在位置:カナーンの町・宿屋裏あたり】
*光の剣、穴の開いたミスリルシールド、折れたレイピア、壊れた加速装置、皆殺しの剣、折れた鋼の剣が放置
保守
保守
あげ
さげ
保守
74 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/05/29(木) 17:19:52 ID:ye9UxO5QO
保守
続き待ってます
76 :
コマンド? |>全板トーナメント:2008/06/05(木) 23:21:54 ID:9OLGZM0z0
ほす
四人が戻ってきたのは少し前のこと。
スコールが先頭にサックスをかつぎ、リュックがそれに続いてヘンリーを背負ってついてくる。
余程熾烈な戦闘があったのか、スコールの息は荒い。
応援を要請したスコールが無事で、最後に赴いたリュックが無事で、途中から赴いたヘンリーとサックスが気を失っている。
提示されれば何が起こったかうっすら分かる。
リュックの明らかに私を意識した、「え〜と」と「う〜ん」を多用した回りくどい説明を聞けばよりよく分かる。
もう分かっているのに、「それでも」と呟いてしまう自分に少しあきれた。
自分で確かめるよう言われて渡されたサックスの持ち物の中には、
サイファー見せたのと同じポーションが二つ。一つじゃなくて、二つという辺りがもう決定的。
半ば乱暴にひそひ草をサイファーに投げつける。
ターニアは私を見て震えている。当然だ。でも一番驚いているのは他でもない私自身。
もうしどろもどろになっているリュックに代わって、スコールが仏頂面のまま機械的に説明し始める。
何事にも動じない姿勢はさすが。とはいえ、私も感情が静まり返り、
今はただ、内容を一語、一句に至るまで漏らさずに聞き取るだけ。
ウルの村はほぼ焼けてしまっていて、布切れ一枚探すのすら難しいし、時間も惜しい。
よって、サイファーがサックスの着けていた丈夫なマフラーと、
これまた非常に丈夫で伸縮性のある布(本来はレオタードらしい)でサックスを縛る。
曰く、気に食わないがスコールのやつが生かしているんだから先走ってどうこうするわけにはいかないらしい。
スコールは疲れたのか、面倒ごとに関わるのが嫌なのか、話を終えると離れた場所で座り込んでしまった。
サイファーはスコールに対して、リュックは私に対してどうにもばつの悪そうな顔をしているのは見て取れた。
別にリュックもスコールもサイファーも恨みはしない。人の規範に照らせば、何も悪くないのだから。
サックスがスコールのところへ向かったときから、予感はしていたのだ。
サックスはゲームに乗っている。例外はスコールがゲームに乗っていたときだけ。
心の奥底では、スコールがサックスを嵌めようとしていた、そのシチュエーションを願っていたが、
サイファーを傷付けて無理矢理行ってしまった以上、もう諦めはついていた。
今はただ、サックスの取った行動が、サックスの裏切りが許しがたいだけだ。
両手は後ろ手に、両足はしっかりと縛り、身動きは取らせない。
万一解けて、怪我人を人質に取られたりしないよう、少し離れた場所に寝かせておく。
そうこうしているうちに、サックスが目を覚ます。
私を見て大きなため息、そして自分の置かれた状況を理解してもう一度大きなため息。
生きているのか、と一言。
それでもう一度目を閉じてしまうサックスと、苛立って怒鳴るサイファー、
そして、何故ゲームに乗ったのかを問うリュックが、一日ほど前の誰かと重なる。
スコールやサイファー、ただでさえ不器用な二人はサックスを受け入れられるとは思えない。
ソロはいい人だし、どんな人でも手を差し出して受け入れるけど、そこまで。導いてはくれない。
ドサッという、何か大きなものが倒れる音。全員の目が音のほうに向く。
「なんだスコール? もうバテてんじゃねぇぞ?」
「体が重い。もしかすると、サラマンダーと戦ったときに何かされたのかもしれない」
「おいおい、『しれない』って何だよ? 弛みすぎじゃねえのか?」
スコールが思い描くのは、一度胴体に受けたパンチ。
立ち上がろうとしても、半分ほど起こしたところで前のめりに倒れるだけ。
「毒を受けたんじゃないか? だよな、ソロ?」
「毒だと? そんなものを受けた覚えは無いが…」
「症状が似ています。念のため治療したほうがいいかもしれません」
戦闘と疲労のため、だけではなく、直前に戦った相手がサラマンダー。
不安定な呼吸は、かつてビビが受けた毒を思わせるもの。
バッツとソロ、そしてサイファーが様子を見に行く。
「スコールさんの様子を見てきてあげたらどうでしょう?
実は、サックスと少し個人的な話をしたいので」
それを受け、リュックとターニアもスコールのほうへと向かう。
といっても、個人的な話をしたいといわれると立ち退かざるを得ないので、
エリアにスコールの元へ向かわされたというほうが適切だろうか。
猛毒である飛竜草の粉末、微量とはいえ直接体内に入り、それに気付かず放置し、体中に廻ればしばらく痺れは消えない。
エリアとサックスを除いた、全員の関心が一時的にスコールへと移っている。
治療を行うのはバッツ。ポイゾナ程度ならなんとかなる程度には魔力は回復している。
だが、アーヴァイン然り、ビビ然り、サックス然り。
イクサスの独自の工夫が加えられた毒薬は、本職の者が治療しても一日二日で治せるものではない。
「そういや、あのポーションと一緒の毒なんだよねえ?
ねえエリア、サックスの持ち物に特効薬みたいなものって入ってなかった? ……ん?? ……………うそ?」
全員がスコールの容態を気にする中、リュックがエリアとサックスのほうに目を向ける。
…………。理解して目を疑った。縛られていたはずのサックスが解き放たれていた。
「ちょ…っと! 何やってんのエリア!?」
一瞬のスパン。パン、パン、パン、パンと立て続けに四発の銃声。
リュックの声、銃声。他の人間も事態に気付く。
リュックが射線上にいたターニアを押しのけて突き飛ばす。
「くそッ、あの女どういうつもりだ!?」
サイファーが瞬時に二人を追う。
バッツとソロはスコールの治療のため、そして自身が病み上がりであるためタイミングが遅れた。
バッツは離れるわけにも行かず、ソロがサイファーの後を追う。
サックスらの元いた位置にはもうもうと立ち昇る砂と灰の煙。
猫の手ラケットで地面の砂埃を巻き上げたもの。とっくの昔に逃げ出してしまっていた。
「あれ、今のってひょっとして弾入ってなかった…??」
ターニアが頷く。そういえば、着弾した気配が無い。
夜の食事の時間、銃を手に入れたヘンリーの様子が滑稽で、そのついでに銃について少し話した覚えがある。
扱いとか、手入れ・管理方法とか。ターニアは撃つことにひどく怯えていた。
とにかく、リュックも追いかけようとするが、ターニアに腕を掴まれて引き止められてしまう。
一日目の夜に銃口を向けられたときの恐怖が未だ消えない。
一日以上一緒に過ごして、助け合ってきた人に向けられた。
たとえ、空砲だと、ただのハッタリだと分かっていても。
誰かにしばらくそばにいてほしくて、ターニアはリュックを引きとめた。
エアリスを殺した『音』。また誰かがいなくなるような気がして、引き止めることで、錯乱を抑えていた。
結局リュックは踏み出せなかった。
サイファーが勢い余って殺したりしないかという一抹の不安を抱えて、
さすがにソロがいるなら大丈夫だろうと言い聞かせ、サイファーの帰りを待つ。
むしろエリアの心変わりのほうが気になる。
(いつからこんなことを考えてやがった…!?)
感情的に盲目になっているのならともかく、故意に行っているのなら面倒。
スコールも含め、村にいるメンバーが殺人をなるべく避けようとする手前もある。
それを見越した上での行動なのかもしれないが。
エリアは下半身が自由に動かないが、それはサイファーも同じ。
だが、GFケルベロスのオートヘイストによってその差は縮まる。
そこでエリアが再度、地面に向かって風塊を放ち、ぶわっと砂埃を巻き上げる。
(あのラケットは厄介だな。普通の鬼ごっこは不利だな)
焼けて土壌がむき出しになった地面、いとも簡単に辺りは砂煙に包まれる。
突入したところで、銃声。牽制であろうが、動きにくくなるのも事実。
(こりゃ、旅の扉までに追いつけそうにねぇな。なら、向こうの動きを封じるか…)
サイファーからは向こうは見えないが、逆にサイファーの行動も見られないのだ。
ビビからドローしたブリザラの魔法。砂煙の先、音とぼんやり見える影を頼りに解き放つ。
それはサックスら目掛けて地面を這い、足を凍らせ絡めとり、動きを封じようと襲い掛かる。
サックスに到達した瞬間に砂煙の向こう側へと躍り出る。
「!!!!!」
そこで目にしたのは、跡形も無く消えたブリザラ、そしてころんと転がってきていたスタングレネード。
爆発が起こり、サイファーの全身を大音量と光の壁が通り抜ける。
ヘイストの魔法は自分と周りの空間を切り離すもの。
自身の空間だけを二倍の速さで、言い換えれば回りの空間を二分の一の速さにする。
ゆえに、普段の二倍の長さ分、轟音と閃光を体感することになる。
これにはさすがのサイファーもたまらず地面に転がり悶える。
数十秒のロスタイム、暗闇と耳鳴りが治り、はるか先の砂埃が晴れたとき、二人の姿はもう見えない。
ただ、ソロが険しい顔をして立っているだけだった。
むしゃくしゃして、例のポーションを誰もいない、遠くのほうへと投げ捨てた。
「僕は、ゲームに乗った。魔女に尻尾を振ったんだ。
なのに、どうして助けたんですか?」
「あら、助けてほしくなかったですか?
ならば、戻りますか? それとも、時間までこの大陸に残りますか?」
「そういう意味じゃないんだけれど…」
「私の友達の親友の口癖だそうです。人を助けるのに理由がいるかいだとか」
「……僕を助けたせいで他に何人も死ぬかもしれない」
「ご心配なく。積極的に、邪魔させていただきますから」
「そんなことしたら、その場で殺すから」
「じゃあ、殺されないように頑張らないといけませんね」
「……せめて、僕を見捨ててくれたら幾分楽だったのに」
「それなら尚のこと、私はあなたを見捨ててあげない。乞うても泣いても叫んでも狂っても壊れても」
「…勝手にしてください」
「言われなくとも」
サックスは私を裏切った。
それはゲームに乗ったとか人を殺したとかではなく、私も偽っていたということ。
私にバレないように、こそこそと動いてた。そこは許せなかった。
やれ裏切られただの、やれ勝手に死なれただの、やれ囮にされて殺されかけただの、サックスの事情は知らない。
私は正式な恋人でも家族でもない、だからこれは理不尽な怒り。でも関係ない。
信用いないなら、サックスの心の中に、追い出せなくなるくらいまで入り込んでやる。
話をしている最中に出てきた、サックスの命を助けたという、『あの人』。
嫉妬と、羨望。私も少し人の闇に染まっていってるのかもしれない。
彼を許せない気持ち、でも救いたい気持ち、それとは別に独占したい気持ち、色々混じり合った奇妙な感情。
他の誰がサックスを除け者にしようとも、私は必要としてる。
サックスはクリスタルの戦士。私はクリスタルの巫女。私にとってかけがえのない仲間。
なんで私が生き返ったのかなって、考えたことがあった。
きっとやらなきゃならないことがあるから、生き返ったんじゃないかって思った。
一度目の生は、クリスタルの戦士を導くため。二度目の生は、サックスを導くため。
これが私に課せられた使命、私が生き返った意味。そう思いたい。
アーヴァインに感じた、人が魔物化していく過程。瞳に映る闇色。
昨日に旅の扉に飛び込む直前に見えた、闇がかった空。
ここは光の力に比べて、闇の力が強すぎる。人は正常な世界よりも容易く闇に染まってしまう。
光と闇のパワーバランスが崩れたとき、人はしごく簡単に壊れてしまう。
アーヴァインに憑いてたGFとやらは、アーヴァインに集った闇の力を引き受けていた。
でも、それがないサックスはきっといつかバランスを崩してしまう。
あのパーティの中にいたら、束縛され、監視され、偏見と哀れみの目に晒されてきっと壊れてしまう。
言わば監獄。外と内には越えられない壁がある。だから、同じフィールドに立つ。
無理に引き止めれば反発される。だから、肝心なところで向きを変えるだけ。
元の世界では既に死んだ身。一人生き延びても、私には帰るところはきっとない。
いまさら死人が蘇ったところで、モンスターと間違えられるか、煙たがられるだけ。
だから、死ぬまでずっと一緒。私に助けられた義務は果たしてもらおう。
一人きりの死は寒くて、怖くて、寂しいもの。でも、二人なら平気。
きっと、向こうでは悪い噂が流れているだろう。でも、それは想定のうちだ。
瓶を開け、中の液体を飲み干す。本物のポーション。少しだけ足が軽くなる。まだ、頑張れる。
私達の世界とはさようなら。二度と戻ってこられないかもしれないこの世界に別れを告げ、二人一緒に扉に飛び込んだ。
【エリア(体力消耗、下半身の怪我は回復気味)
所持品:スパス スタングレネード 水鏡の盾 ねこの手ラケット ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
天使のレオタード 拡声器 ポーション
第一行動方針:サックスと離れない
第二行動方針:内から少しずつサックスを矯正する
基本行動方針:サックスより先に死なない/サックスに殺させない/サックスを捕らえさえない】
【サックス (HP7/10、微度の毒状態、左肩負傷。後頭部にコブ)
所持品:スノーマフラー
第一行動方針:成り行きに任せる、エリアのことは先延ばし
最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在位置:新フィールドへ】
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:仲間の元へ戻る
第二行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
※猛毒入りポーションは投げ捨てました。
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:仲間の元へ戻る
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【現在位置:ブオーンが丘と旅の扉の直線上】
【スコール (HP7/10、全身に浅い切り傷、軽度の毒状態、疲労)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:体に回った毒の治療
第二行動方針:旅の扉に向かう
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:状況の正確な把握
第二行動方針:旅の扉に向かう
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ヘンリー(気絶中、後頭部にコブ)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:???
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【ターニア(血と銃口への恐怖、完治していない 僅かに人間不信)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:心を落ち着かせる】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力微量、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:スコールの治療
第二行動方針:サイファー達を待つ
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
otsu
87 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/06/10(火) 00:00:49 ID:xsZC4INxO
新作乙です。
保守まりむ
ブオーンが丘から旅の扉までは普通ならかかっても五分。
扉の位置を知っているサックスなら、さらに所要時間は縮む。
追ってはみたものの予想通り、もはや影も形も見えなかった。
『キンパツニキヲツケロ』
例の文面がテロップのように浮かんでくる。
エリアは今まで一切怪しい素振りを見せていないと聞いたのに、逆にそれが疑いを増幅させる。
誰が流したのかもわからない得体の知れないメモ。
最初は参考程度だったのに、関連情報が出てこない分、逆に余計な想像力がはたらいてしまう。
「きりがねぇ。大体俺だって金髪だろうが!」
とにかく、今ここで考えてもどうしようもない。
この会場にいる限り、徐々に疑念に蝕まれる。
先にやるべきことを済ませなければならない。
五分の距離も、動けない人間を連れての集団移動となれば時間はかかる。
「戻るぞ。もう時間もあまり残ってねえだろ」
「マッシュさんやスコールさんの体調も気がかりだ。
次の舞台は、安全な場所を探すのが先決ですね」
塗りつぶされた黒。吸い込まれそうな穴。冷たくて硬い金属の感触。
無言の圧力。肌を走る、熱くて鋭い痛み。吹き出す血。
「ターニアちゃん、大丈夫??」
リュックさんが手のひらを眼前に突きつけ、上下に動かす。
はっと夢から引き戻されたような気分。視点が定まっていなかった。
ソロさんやバッツさんが心配そうにこっちを見ている。
今はちょうど、全員で扉のほうへ向かっているとき。
「だいじょーぶ、エリアのことだもの、きっと何か考えがあるに決まってるって」
「そうですね…。私も信じています」
そう、信じたい。でも、リュックさんだってきっと信じ切れてはいない。
夜の間、エリアさんから聞いた。サックスさんは私の大切な人なんだって。
いつか迎えに来てくれる、彼のためなら命は惜しくないって。
好きだから、嫌われたくないから、だから人を殺す、あの女の人の幻影がちらつく。
その幻影は、エリアさんの中へ吸い込まれていって。エリアさんが自分に銃口を突きつける。
「……ニアちゃん、ターニアちゃん??」
また、自分の世界に入り込んでしまっていた。
リュックさんが心配そうな顔を知って覗き込んでいる。
「本当に大丈夫? もうちょっとだけ休もっか?」
「…あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてるだけ…。だから、行きましょう」
「ん〜、それならいいけど…あまり無茶しないでよ」
そう、きっと大丈夫。あの人は裏切ったりしない。
何度も相談に乗ってもらった。みんなが見張りで入れ替わる中、ずっと一緒にいた。戦えないながらも、助け合った。
…疑うなんて、きっと私は疲れてる。次の舞台に着いたら、少し休もう………。
雲に乗った少年とペットのコンビ。ここはウルの村、ブオーンの死体のそば。
いきなり真正面から村に踏み入るのはさすがに危険だと考え、少しだけ迂回してやってきたのだ。
そこで見たのは不自然に削れた土の跡、踏み荒らされた草、つまりは人のいた痕跡。
それも一人二人じゃない、かなりの大所帯。
「どうなの? 村の様子は?」
『色んな匂いが混ざり合って正確には分からないわ。
この村、あちこちで木や土が焼け焦げた匂いがしているんですもの…。
ただ、何人か人間もいたみたいだけれど』
「サックスはどうしてるだろう?」
『おそらくロクなことを考えていないでしょうね。
淡々と殺人の算段を立てているはずよ』
ぐっとウインチェスターを握り締める。指輪のせいで撃つことは出来ないけれど、少しだけ安心できた。
アンジェロが五感を活用し、辺りの様子を探る。
『……待って、この匂いは…』
「どうしたの、誰か見つけた!?」
『サイファーとスコール。顔見知りよ。他にも何人かの人間がいるみたい。
…まず私が行ってみて、安全だったら合図をするわ』
アンジェロが東へ先行。その後、ルカもゆっくりとアンジェロの後を追っていった。
「あれ、何か変なものが転がってる」
アンジェロを追って行く途中に見つけた、液体の入った瓶。
地面に転がった後が付いているのを見ると、最近ここに落ちたようだ。
「アモールの水みたいだなあ。誰かが落としたのかな?」
ルカがゆっくりと瓶を拾い上げる。彼には落ちているものを拾うことに抵抗が無い。
事実、異世界ではそうやってアイテムを集めたし、モンスターマスターはみんなやっている、異世界の冒険の基本行為。
中には拾ったアイテムを売ることで生計を立てている人間もいるほど。
だから特に警戒もせずに拾ってしまった。猛毒入りのポーションを。
片腕を失って尚、最も体格がよく、体重のあるマッシュは、現在最も体力のあるサイファーが引き受けることになった。
まだ自力で動けないスコールをソロが、気絶しているだけでしばらくすれば目覚めるであろうヘンリーをバッツが引き受ける。
サックスとエリアが待ち構えている可能性も消えているわけではない。
今スタングレネードでも投げ込まれれば、大混乱は確実。充分に警戒して歩を進める。
結局、旅の扉までなんなくたどり着いた。
そこへ自分たちを引き止めるように鳴き声が一つ。
みなが反応して後ろを振り返る中、サイファーとスコールはそれぞれ少し違った反応。
建物の影から姿をあらわしたのは、一匹の犬。
犬は一同に走り寄り、皆を見回した後、もう一声鳴いた。
それを合図に、建物の影からなにやら白い雲、それに乗った少年が現れる。
少年の名はルカ。サックスに仲間を奪われ、殺されかけ、それでも彼を止めるために追ってきた人物。
おそらくは数十分前までのサックスにとっての招かれざる客。
サックス本人がいるときにこなかったのは幸か不幸か。
スコールたちの元へアンジェロを派遣したのも彼だが、
本人は色々あって、動くたびに爆発する指輪を身に付けてしまったという。
指輪のほうは信じがたくとも、アンジェロの様子からして信用できると考える。
次のフィールドでは真っ先に休める場所を探すつもり。
詳しい話は道すがら聞くことにし、九人と一匹は新たな戦場へと旅立つ。
十の影が消えた後、役割を真っ当した旅の扉が静かに渦巻いていた。
【サイファー(右足軽傷)
所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 ケフカのメモ ひそひ草
マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
第一行動方針:休める場所を探す
第二行動方針:はぐれた仲間、協力者を探す/ロザリーと合流
基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【マッシュ(気絶、重症、右腕欠損) 所持品:なし】
第一行動方針:―
第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
第三行動方針:ゲームを止める】
【ソロ(HP3/5 魔力少量)
所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
第一行動方針:休める場所を探す
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【スコール (HP2/3、全身に浅い切り傷、軽度の毒状態、疲労)
所持品:ライオンハート ひそひ草 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
第一行動方針:治療、休息
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
基本行動方針:ゲームを止める】
【リュック(パラディン)
所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
第一行動方針:休める場所を探す
第二行動方針:はぐれた仲間を探す
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力微量、アビリティ:白魔法)
所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
第一行動方針:怪我人が休める場所を探す
第二行動方針:スコールらの治療
基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【ヘンリー(気絶、後頭部にコブ)
所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
第一行動方針:???
基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【ターニア(血と銃口への恐怖、完治していない 僅かに人間不信)
所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
第一行動方針:心を落ち着かせる】
【ルカ (HP1/20以下、全身に打撲傷)
所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ 猛毒入りポーション
満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと三種類) E:爆発の指輪(呪)
第一行動方針:メンバーと情報交換
第二行動方針:サックスの後を追う
最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ 所持品:風のローブ
第一行動方針:ルカについていく
基本行動方針:ルカの身を守り、戦う】
【現在位置:新フィールドへ】
95 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/06/24(火) 20:12:22 ID:x+4uu3QpO
> 第二行動方針:はぐれた仲間を探す
何ではぐめたを探すのか小一時間悩んだから眼科行ってくる
>>107 今やるならマナケミア1がお勧めかな?
もうすぐ新要素追加したポータブル版出るし
98 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/06/26(木) 00:51:10 ID:MrqcaCO8O
そうだな
99 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/06/26(木) 05:03:55 ID:Te+1/vJlO
スカリバー並の混沌を身につけてから誤爆を装え
>>702 あ り え な い 。それは。
バストダンジョンでリリカのおっぱい値を800近くまで調教強化してやらないと、そのフラグは立たない。
仮にフィリオナをメンバーから外してリリカを集中調教しても、アナルバイブが使えないその段階では
スカリバーはまだ手に入れられないはず。 妄 想 で つ か ?
とりあえずアンダー草原で淫獣マリリスを大量に調教して淫度をどんどん稼いどけ。
展開が不安ならバックアップ取っておくのを忘れんなよ。説教くさくなってスマソ・・・。ついな・・・。
101 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/07/02(水) 22:02:52 ID:L048fV+iO
そうか
102 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/07/05(土) 23:57:34 ID:fX7kXeS9O
釜山の使えなさっぷりは異常
103 :
名前がない@ただの名無しのようだ:2008/07/08(火) 14:22:43 ID:y4WIgoF/O
アゲ
105 :
証左 1/8:2008/07/15(火) 01:05:03 ID:ggur28vc0
右手、数歩分間合いを置いて自らの攻撃を受け止めた鎧の男。
左手、右の男と比して倍ほど離れた位置に、謎の剣技を操る男。
氷のバトルステージに二人の敵を相手して、セフィロスが考えることは一つしかない。
いかに彼等を切って捨てるか。
自らの技量に絶対の自信を持つゆえに、それ以上複雑なことは考えなくて良い。
作戦、小細工、そういったものに時を費やさず躊躇なく左へ向けて駆け出す。
――剣と盾、だな。
そのセフィロスの進路を阻むようにかなり強引に、しかし最低限の一動作の猶予を余して飛び込んでくる鎧の男――
ラムザ=ベオルブに対して仕方なく刀を振るいながら、
身に浴びるであろうダメージを予測して先んじて心と体勢を整えた。
「ウィーグラフッ、怯むなッ! 攻めろッ!」
「どの口が言うかッ! 加減などせんぞッ、ラムザッ!」
飛び込みながら構えられている盾によってセフィロスの太刀筋は弾き返される。
タイミングを合わせるように、頭上より生じた幾筋かの雷が体力を奪っていく。
捨て身ではあるが、理に適ったコンビネーション。
褒めるつもりはさらさら無いが、適切な評価は与えなければならない。
「よしッ……任せるぞッ、ウィーグラフッ!」
「貴様はッ! ……二度と吐かすな、覚えておけッ!」
かみ合わない呼びかけを交し合う二人を今度は縦列、前後に並ばせてそれと向かい合う。
剣と盾、と見立てたこの二人のコンビネーションの厄介さは短時間で認めることができた。
ある程度体力を取り戻した今ならば1対1でセフィロスを打ち破れる相手はまずいないだろう。
だから、自らの弱さを認めて手を組んだこの男達のやり方は正しい。
嘲笑う点があるとするならば――それでもセフィロスを過小評価していることだろう。
英雄とまで呼ばれたその勇名は剣の技術のみによるものではない。
――技に目が眩みもう忘れたか。足元の氷を生み出したのは誰だ?
空いている手をかざしながらマテリアから力を引き出す。
狙いは剣役、ウィーグラフ。その力、氷結の上位魔法…フリーズ。
再びあたりを冷たく閉ざさんと解き放たれようとした魔法は、だがしかし思わぬ妨害が入る。
「……っ、これは……っ!」
別の魔法、しかもフリーズと同系統である冷気系の魔法がセフィロスのフリーズとほぼ同タイミングで発動する。
結果的に、大気中の水分に対する支配権を2つの魔法で引っ張り合うことになった。
どちらもお互いに相手へと干渉しあって力を無駄に費やし、わずかにフリーズが上回る…が
発揮した効果はあたりの温度をわずかに下げただけで、実質打ち消しあったといって間違いない。
瞬時に何が起こったかを見切ったセフィロスは湖の岸に立つ隻眼の少女に視線を流す。
――三人、か。
聞こえない程度に舌打ちしながら、隙を見つけたとばかりに飛び込んでくるラムザを迎撃する。
無論、攻撃ではなく牽制の切り込みであるためにラムザを切り捨てることは叶わない。
切り結んだタイミングを見越したように盾役さえ巻き込む勢いで、
しかし実際には巻き込むことなく剣役からセフィロスを狙い撃つ技が放たれる。
地面から実体無く突き上げてくる衝撃。昨日の夕にも身に浴びた技。
機を見計らい離れていくラムザを忌々しげに見送りつつ崩れたバランスが元に戻るのを待つ。
「……なるほど。厄介だな」
仕掛けられたコンビネーションに対する正直な感想を口にする。
堅い装甲をまとった者が盾役として相手をマークし、後方から受けようの無い技と魔法で削る。
直接戦闘では勝利を得にくい攻防一流の剣士を相手にするに申し分ない策といえよう。
盾役を突破しないかぎり後方への剣は届くまい。
そして、技量が足りない分は後方からの攻撃がまた牽制にもなってセフィロスを押さえ込んでいる。
息を荒げることなく佇むラムザとウィーグラフを眼光鋭く睨みながらだがなおセフィロスは不敵な笑みを浮かべた。
それから右手一本で操る刀で誰もいない虚空を二度三度と斬る。
無意味とも、意味あり気とも見るものによってどちらにも取れる行動ではあるだろうが
まるで空間が切れたような錯覚をおぼえる見事な太刀筋であったことは疑いようが無い。
明らかな警戒の色を濃くした対手二人に何らかの補助魔法がかかるのを見届けながら、
セフィロスは一旦全身を静止させて切り込む構えを取り――正面から盾へと挑む。
***
気をつけろ、と。
幾多の戦場で仲間にしてきたように、背後にいるウィーグラフに声をかけられなかったのは。
仲間と同じように信頼するには至らない本心が影を落としていたからかもしれない。
敵の敵は味方の言葉通り、あの剣聖と比してさえ互角あるいは…という銀髪の剣士の出現によって
一時的な共闘は為されている。
危うい橋とはいえ、戦場慣れしたウィーグラフは流石というような連係をしてくれるし、
岸からの距離を置いて魔法を操る(それは、才能の現れであろう)リルムの意外な援護もあって
均衡を維持しながら相手を削り――結果として今のところわずかでも相手を上回っているといえるだろう。
ラムザがセフィロスの立場で考えたここからの打開策は3つ。
1つはなんとしても盾役のラムザを突破してウィーグラフを斬ることだ。
重要なのは速度だろうが、速いほど届けば妨害の効果は容易に大きくなる。
攻撃の方向を限定できるこの状況においてラムザにはついて行くだけの自信はあった。
もう1つは逆に盾役のラムザを撃破すること。
すでに何合かぶつかった感触では一対一の場合いずれラムザが斬られて終わるだろう。
しかし、すでに何度か連係を成功させている感触では周りの助けを足せば何とか抵抗してはいられる。
先に斬られるか、削りきれるかの勝負になる。
最後に1つ、魔法で戦うにしろリルムを狙うにしろこの氷のステージから離脱すると言う選択肢もある。
ただ、そうなればラムザはジャンプを活かして先にこちらが離脱することを狙えばいい。
向かい合えば連係で戦い、離れればこちらも逃げる。単純なことだ。
恐るべき戦闘力を持ち、かつ自分以外の全滅を狙うセフィロス相手に勝負になっている、
と言う手ごたえはある。
ただラムザにとってどう思案しても最後まで解けきれずに残るものがウィーグラフの心中だった。
後ろにいるのがアグリアスであったなら、何を考えることも無く自らの役をまっとう出来るはずだ。
実際は背後にいるのはウィーグラフであり、ここまで関係のこじれた相手を無心で信用するほどには
ラムザは純粋ではなかった。
部隊の生命を預かり変転する戦場を生き残ってきた経験は糧でもあり、汚れでもある。
しかし、目の前で切り込みの構えへと転じたセフィロスを認めてしまえば迷いもそれまで。
考えても仕方ない不安要素は呑み込んで行動するしかない。
どうやらセフィロスは予想していた選択肢の2つ目――ラムザの撃破を選んだようだった。
執拗に襲い来る白刃をある時は手にした剣で、ある時は防具の防御力を活かして紙一重で凌いでいく。
退いた分、確実に詰めてくるセフィロスとの間が開くタイミングはほとんど無く
主力攻撃とラムザへの側面支援を兼ねるウィーグラフの聖剣技もその頻度を減らすことになった。
リルムに至っては乱戦と言える状況へ割り込む精密コントロールなど望むべくも無く、
性質上誤射の可能性の低い補助魔法中心にならざるを得なかった。
自ら盾役を己に課しておきながら甘えなど許されぬと、ラムザは勇を振るう。
何度か経験したことで無意識の領域でラムザが順応したか、
あるいはセフィロスの側に周囲から飛んでくる攻撃への意識があるせいか。
胴を両断しそうな薙ぎ払いの筋を外しながら盾で受け止め
相手の動きに神経を尖らせ、妖刀村正にブレイブブレイドをかみ合わせていく。
かいくぐって有効な反撃はできないにしろ、その一連の動きはさっきよりも冷静に見ることができた。
「鬼神の居りて乱るる心、されば人――」
背後から、気合を乗せた口上――集中の句が耳に入る。
単なる反応という点で先に動いたのはセフィロスで、その意味を先に汲み取ったのはラムザだった。
攻撃を予期したセフィロスに対して逆に今まで以上の気を乗せた剣で反撃に出る。
押さえつけるように切り結んだ剣の向こうで、僅かに歯が軋む音がした。
「――小さな者なり! 乱命割殺打!」
狙い済ました聖剣技がいくらかラムザをも吹き飛ばしながら銀髪の対手を撃ち抜く。
冷静な目で流石に聖剣技を受けながら前進してくることは無いことを確認しながら、大きく一つ、深呼吸。
単純に感謝だけを考え声で牽制してくれたウィーグラフを目の端で一瞥する。
事ここに至れば、たとえセフィロスを倒した後でウィーグラフに挑まれるとしても
協力関係を保ちながらこの戦いを続けるほか無い。
感謝すべきことをわかっていながらそんな風に考えてしまう純真でない自分をラムザが自嘲するより早く。
くっく、と場違いな笑い声があたりを切り裂いた。
――戦闘狂。
誰かがこんなルールに則り他人を殺して回るにしてもいくつか理由が考えられるが、
目の前で呟くように笑うセフィロスの姿はまったくもって戦いと勝利に狂っているという姿を即座にイメージさせた。
背筋を這った冷たいものを振り払うように全身を緊張させる。
次の攻撃は、これまで以上に速く執拗で強力なものになるだろうと予期する。
ようやく乱戦のさなかに生じたこの空隙を突いてリルムのサンダガ、ウィーグラフの無双稲妻突きが左右から展開される。
それより半歩早く、降り注ぎかけた雷にわずかに身を晒しただけでセフィロスはこちらへ飛び掛ってきていた。
剣聖レベルと見定めた相手のその剣の鈍さには何の疑問も抱かず、
ラムザはただ自らの務めを実行すべくその攻撃を防ぐ。
英雄の盾で受止めた剣の向こうから身体能力にものを言わせた圧力がかかり、ラムザを後方へ弾き飛ばす。
牽制とも取れる行動ではあったが、いくらか余裕を生じたラムザは押されはしてもほとんどバランスを崩すことはない。
その事実によってようやく相手の攻撃が緩くなっていることに気がついた。
――これは……斬る、ではなく押すことを目的とした?
「ブレイク――当てる必要は、どこにもないな」
足を止めたセフィロスが『下』へ向けて手のひらをかざしているのが見える。
タイミングを逃すことなく両側から放たれる援護攻撃を無視するように立ち尽くす。
刹那、いままでよりどころとしていた氷のステージが揺れ動きセフィロスの足元よりラムザの側だけが、
一息に割れ砕けた。
「奪う喜び、か。悪くは、ない」
足に触れる湖水の冷たさを意識させられながら、離れてゆく背中を見送る。
向かう先など、考えるまでもない。
小さくわかれて浮いている氷塊に手を伸ばして水中に沈みきるのを防ぐ。
刃同士がぶつかる音が、二つ、さらに二つ。
ようやく氷の斜面に這い上がるようにして水から逃れたラムザが見たものは、五合目の激突。
衣服以外は防具を一つも身に付けていないウィーグラフには止められない一撃が、
腕を切り飛ばし胴を裂く、瞬間。
「ウィーグラフッ!」
致命傷といって差し支えない傷を負い、声が届くとは思えない。
けれどウィーグラフは頭を回し、確かにラムザを見ていた。
仲間と仇敵の間であくまで心中を悟らせないその目は少しだけそのままでいた後で乱れていく。
そこから先のことは、ラムザはもとより斬ったセフィロスでさえ予想しなかったに違いない。
剣を持つ利き腕を斬らせなかったのはウィーグラフのせめてものプライドと言っていい。
だが、無意味――致命傷を受け死に行くのにどこに傷を負ったなど大した差はない。
無意味なはずだった。
血を噴出し、誰が見ても崩れ落ちるだけのウィーグラフはだが予想を裏切る。
瀕死の身体から爆発するように闘志、いや闘気が弾ける。
誰も予想できない速度で、残った片腕で騎士剣を振りかざしセフィロスへと一文字に斬りつけていく。
刀で貫かれるのも構わず、ぶつかるように剣を突きたてそのまま止まることなく前進する。
「貴様はッ……! 貴様も、かッ!?」
『も』の意味は解からないが、初めてセフィロスの声にかすかでも動揺が混じったのがわかった。
だが互いに剣を相手のみに突きたてた状態でどうにもならないまま、押し押されていく。
やがて当然の帰結――派手な水音を立て水柱をあげ、二人は湖中へと消えた。
「ウィーグラフ……ッ!」
戦場で、生死の狭間で自らの力を引き出すケースは間々ある。
けれど今回目にしたケースはそうではなく、別の結論にたどりつけそうだった。
――バーサク:狂戦士化。
ただ、状態変化というだけでは言い表せない何かを感じ取った気もする。
気持ち次第であの刃はラムザへ向かって来る事もありえたはずだ。
そうではなかったのはつまり、仲間意識、というものの証左――とも取れるのではないか?
ウィーグラフが聞いたら絶対に否定するだろう事を後付で奇麗事として言えてしまうのがひどく悲しかったが
それでも、日々そうしてきたようにラムザは変化した状況について考え行動する。
かき混ぜられた感情を心の奥に押し込め、すべきことを実行する。
ウィーグラフの救出は不可能と見るほかなかった。
というよりはおそらく、落水の時点で9割9分死んでいたとさえ言える。
ならば次に実行すべきことは生存者:リルムを連れて早々にこの世界を離れることだった。
一部が欠けたとはいえ残された氷のステージへと空中を渡り、一跳びでリルムと合流する。
「あいつは」
こちらを向くこともなく一点を凝視しながら、彼女が言った。
何を言われるかは予想がついた。
「――助けに行けよっ、このぉっ―――――ったぁいッ!」
思い切り、よろわれたラムザの脛を蹴り上げて逆にリルムが悶える。
ともかく納得してもらうしかない。時間はそれほど余裕はないはずだ。
「聞いて欲しい。ウィーグラフは致命傷……だった。
一流の白魔道士でもあの傷じゃ五分五分、しかも悪いことにここじゃそれさえ望めない」
「エリクサーは?」
「……今の僕はアイテム士じゃない。それに、肝心のウィーグラフが水中じゃあ」
「だから助けに行けって言ってんだろっ! 仲間だろーがっ!」
「仲間……」
子供の視点からすれば、単純にセフィロスを相手に一丸となって当たった仲間、なのだろう。
逆に言えば、自分とウィーグラフがどれだけ下らないことで争っていたかの証明でもある。
同じ方向を向けるはずなのに。最後の最後にはできてしまったのに。
複雑な気持ちはある。けれど、万に一つに賭けに行くには負っているものが重過ぎる。
仮に身一つだったなら助けに行ったか、というのには懐疑的でもあるのだが……
とはいえ、センチメンタルな時間はそんなに長続きはしない。させて、もらえない。
氷上に這い出した人影を確かに見つけたとき、ラムザは戦慄せざるを得なかった。
銀髪の男――セフィロス。
水に沈む時には確かにウィーグラフの剣をその身に突き立てられていたのに。
にもかかわらず、一人水から脱出したばかりかゆっくりではあるが立ち上がってさえいる。
――ただの人間じゃない。
期せずして、ラムザもまた銀髪の吸血鬼をセフィロスに重ねて見た。
完全に立ち上がった氷上の影は手にした何かを持ち上げ、口元へ持っていく。
それが何かはすぐにわかった。なにせ、同じものを持っている。
リルムがウィーグラフにも渡しておいたのだろう。
瞬時に危険を察したラムザは誘拐でもするようにリルムを抱え上げる。
ろくな抵抗がなかったのは、それだけ彼女にも衝撃が大きかったということだろう。
「しっかりつかまってて。跳ぶからッ!」
旅の扉は確か、『湖南の森』と指定していた。それほど遠くではない、はず。
地を蹴って空中へと飛び上がりながら、ラムザはただ眼下の森を見据えた。
***
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:ラムザ、リルムを追撃
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:湖南岸部の氷上】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:旅の扉を探しこのフィールドから離脱する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:セフィロスから逃げる】
【現在位置:湖南部の岸→湖南の森へ】
【ウィーグラフ 死亡】
【残り36名】
115 :
修正:2008/07/16(水) 00:30:10 ID:aIAJx/xN0
>>114を以下のように修正します
【セフィロス
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠 プレデターエッジ
第一行動方針:ラムザ、リルムを追撃
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在位置:湖南岸部の氷上】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5、精神的・体力的に疲労)
所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
第一行動方針:旅の扉を探しこのフィールドから離脱する
最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
第一行動方針:セフィロスから逃げる】
【現在位置:湖南部の岸→湖南の森へ】
【ウィーグラフ 死亡】
【残り36名】
保守
ゴゴの死を悟った時、心の中でとてもとても大きなものが喪失してしまったような感覚があった。
まるで心にポッカリと穴が開いてしまったような虚脱感。
そして……次に湧いてきたのは、ゴゴを殺した者――アリーナに対する憎しみだった。
憎しみによって穴は塗りつぶされ、いつしか仇討ちが何よりも優先すべきものごととなっていた。
今まさに、追い求めてきた敵、その黒幕がまさに目の前にいる。
取り逃がすことなど出来ようか。ここで取り逃がせば、次はきっと会えない。
ここで決着を付ける。アリーナを殺し、その首をゴゴへの手向けとする。
私が責められるのならばいい。分身のことは私にも大いに責任がある。
だけど、そのために無関係な人間まで巻き込むというのなら、話は別。
ゲームに乗って、殺し合いに積極的に参加しているというのであれば論外。
逃げ回っても執拗に追ってくる、仲間ですら平気で巻き込む。
野放しにしておけば、必ず私の仲間を殺していくだろう。
だから、因縁を断ち切る。今ここで決着を付ける。
目的は生き残ること。生き残るということこそが、セシルを超えた何よりの証となる。
自ら積極的に手を汚す必要はない。誰かが適当に殺しまわってくれればいい。
手を汚すにしても、不意打ちが基本、そして危険を感じれば逃走すればよい。
未だに卑怯だとか格好悪いだとか声高に喚くのは状況を受け入れられない未熟者の言。
指折りの強者が互いにぶつかり合っている、こんなおいしい状況を逃す手はない。
アリーナもマティウスも、このままではいずれ限界を超え、倒れてしまうのであろう。
自ら首を突っ込んだ以上、出来る限りのことは行うつもりだ。
だが、双方の感情からしてこの場での仲裁は考えられない。
姿を見せた時点で敵意はこちらにも向くだろう。
カインとかいう男は論外だ、あれには然るべき、相応しき報いを受けてもらわねばならない。
……そもそも何故、私はこうまでしてやつらの世話を焼いているのだろうか?
とにかく、多少強引な手段を用いても二人を引き剥がす。どうしようもなければそのときは仕方がないが。
天候は晴。舞台は浮遊大陸中部、貿易都市カナーン。時刻は7時過ぎといったところか。
展開する人物は、アリーナ、マティウス、ピサロ、カインの四人。
アリーナとマティウスの戦いは、今のところアリーナが優位。
マティウスは、ウィーグラフ相手のときは相手の行動を先読みでき、
さらに聖剣技の性質をあらかじめ知っていたため、精神面で優位に立てた。
今回はアリーナもマティウスも互いの戦法は概ね理解している。
できるだけ相手を殺したくないという心境で戦っていたアリーナが、
確実に相手を仕留めるという心境に変化した、このため双方の攻撃には迷いがない。
肉体的ダメージと疲労、総合的には同程度。
問題はやはり武器の性能とそれぞれの戦闘傾向だろう。
マティウスの性質はどちらかといえば魔術師に近いのだ。
肉弾戦も一通りこなすことができるとはいえ、一流の使い手を相手にしては分が悪い。
一方でアリーナは肉弾戦のスペシャリスト。
ピサロやソロですら、アリーナと真正面からぶつかって確実に勝てるかどうかは怪しい。
威力に勝り、リーチのある鞭。命中率と素早さのある体術。
普通の鞭ならばソードブレイカーで絡め取ることも可能なのだが、
ビームウィップの鞭身には実体がないため、一時的に凌ぐことしかできないのだ。
さらに詠唱をおこなうために距離をとろうとしても、ビームウィップの射程から逃れられない。
素早さならば、アリーナのほうがはるかに高いのだ。
まるで生き物のように上下左右うねうね動く鞭を相手に、詠唱と回避を同時にこなすことは難しい。
得意武器を持ったアリーナを相手に真正面から戦いを挑むのは愚策の中の愚策。
魔法を使えない魔術師は相当な武器を持っていないと苦戦する。
それぞれが何らかの思いを持って対する中、唯一そういう感情の薄いカイン。
彼だけは、損得感情はあっても、特定の個人に対する思い入れは薄い。
さらに、自分から積極的に動く気などさらさらない。
言い換えれば、最も傍観者に近い立場にいるということだ。
アルガスが場を離れるや否や、早々と離脱して建物の屋根の影に身を隠した。
理由など説明する必要もあるまい。ピサロは強いからだ。
スロウがかかっているとはいえ、攻撃には的確に防御するし、
ヘタに刺激すればレーベの夜戦の二の舞となる。
さらに、スロウがかかっているということは、それが解ければ今より速くなるということなのだから。
向かった先はマティウスとアリーナの戦闘地点、ピサロもこの騒がしい戦場にやってくるだろうと予想。
いったんぶつけて様子を見ようという腹。
「さて、ピサロよ、どう動く?」
現在、ピサロはフリー。なのに、カインの目にその姿は捉えられない。
マティウスとアリーナの元へ向かうとの予想は外れていたと考える。
「ピサロはアルガスのところに向かったか? ならば仕方がないが……それにしても一方的だな」
アリーナとマティウスの戦いは依然優劣変わらぬまま、マティウスが水路の端に追い詰められている。
体のあちこちに、浅い火傷のあと。かわしきれなかった鞭の後。
このままでは、大してアリーナの戦力を削ることも泣く、マティウスの敗北は必至。
「これでは、あまりにつまらんな。どれ、一つ加勢してやるか」
カインが建物の影から飛び出し、アリーナへ急襲する。
「イオナズン!!」
「!!?」
一点、カインの後ろの空間にエネルギーが収束し、高密度の連鎖爆発を引き起こす。
直撃はせず、それでもカインは爆風に吹き飛ばされ、森に突っ込んでしまった。
「狙いを外したか。なかなか上手くはいかんな…」
ピサロはアルガスらの元へ向かったわけではない。
カインの目的が、参加者同士を潰し合わせることだということは十分に理解している。
あの時点でマティウスとアリーナの戦闘はあまりに一方的。
必ずカインが何か横槍を入れて来るというのは簡単に予想が出来た。
出てきたところを広範囲呪文で殲滅しようとしたのだが、カインのスピードについていけず、
かなり離れたところを爆発の中心としてしまった。
スロウによる、鈍速化に慣れていないのが主な原因。
イオナズンを選んだのもミスだったとも言えなくもない。
やたらと目立つイオナズンは、多少離れていてもを警戒させてしまう。
つまり、アリーナもマティウスも、他の位置に移動してしまったということだ。
「今の爆発は……ピサロの仕業だな。援護のつもりか? 余計なことを」
マティウスには、ピサロに何の意図があったのかは分からない。
ただ、劣勢に立たされているように見えたのであれば、援護も考えられなくはないだろう。
確かにマティウスは劣勢だった。ただし、それは一時的なもの。
ピサロと同じく、アルガスからスロウの状態変化を受けていたのだから。
そして、それはイオナズンが放たれる直前あたりにちょうど解けた。
言い換えれば、水路淵ギリギリのところに差し掛かったときだ。
追い詰めたと思った瞬間は誰しもに油断が生じるものだ。
まして、執念深く追ってくる相手は、仕留める瞬間に余韻を感じる。
その一瞬の好きに、何もしていない相手が突如倍のスピードで向かってくれば必ず相手は怯むだろう。
まして獲物は鞭。ふところに飛び入られれば、扱えない。
そうして反撃を始めるつもりだったのだが、ピサロに邪魔されてしまったということだ。
結局、呪文とアリーナを確実に避けるには水路を挟んだ対岸に渡るしかなかった。
爆風による風力を利用して、川岸から対岸まで一気に飛ぶが、近くにアリーナの姿が見えない。
町の北西部、マティウスの正面1ブロックほど先に広がる背の高い茂みに飛び込んでいる、
この可能性が大いにありうる。よって、マティウスは橋を渡り、そちらに移動を始める。
茂みは視界が効き難いが、音を立てずに移動するのが非常に難しい場所でもある。
初めから警戒していれば、不意打ち・奇襲はなんでもない、ただの襲撃。
そして、奇襲というのは失敗すればそのまま大きな隙に繋がる。
戦闘において茂みという地形はハンディにはならない。
五感を鋭敏に研ぎ澄まし、マティウスは茂みの中へと入っていった。
「ったあー…、きっとピサロの仕業ね!? 私を狙ってきたのかしら?
あと一歩で仕留められたっていうのに、余計なことしてくれるわ」
町の北西部の茂みから、アリーナが姿を現す。
イオナズンによって引き起こされた熱線のために、草むらの一部が焼け焦げている。
アリーナはスロウのこと、カインのことに気付いてもいない。
あそこでピサロが何もしなければ、アリーナはレオンハルトと同じく、
串刺し刑のように地面に縫い止められ、一刀のもと切り捨てられていただろう。
だから、感謝することはあっても恨むのは筋違い。だが、そんなことをアリーナが知る由もない。
ピサロがどこにいるのかは全く不明、マティウスもイオナズンを避けた際に見逃してしまっていた。
ちょうどマティウスは橋を渡っているあたりなのだが、アリーナの位置からは見えない。
だが、予測は付けられる。町の南部に向かったか、そうでなければ水路に飛び込んだか、だ。
草むらを迂回し、建物の間を通り抜けて中央の通りに出ようとしたところで、遭遇する。
「あ、ピサロ……」
「アリー…!」
ピサロと遭遇するや否や、アリーナはビームウィップでピサロを打ち据えた。
まず対話を選んだピサロに対し、まず攻撃を選んだアリーナ。差は決定的。
右肩から左のわき腹―マティウスに負傷させられたわき腹にかけての範囲をビームが焼き焦がす。
ピサロが声も上げぬうちに、アリーナは第二撃、第三撃を放つ。
これをかろうじてかわすものの、続けざまにそのままピサロに向かって突っ込んできた。
バランスを崩し、よろけたピサロに対して瞬時に間合いを詰めたアリーナは、胸部の一点目掛けて蹴りを放つ。
ピサロはこれをエクスカリパーの腹で蹴撃を受け止めるが、
威力を殺しきることは出来るはずもなく、通りまで吹き飛ばされてしまう。
「さすがね。悪いけれど、あなたと話すことはないの。
何やったかは、自分が一番分かってるわよね」
「誤解だと言いたいが、その様子では信じる気はなかろう」
「言い訳は後でたっぷりと聞いてあげるわ。
…デスマウンテンと武術大会であやふやになってた決着、ここでつけましょ」
森に飛ばされたカインは運が良いのか悪いのか。きっと運は良いのだろう。
枝のクッション、といっても普通なら傷だらけになるところ。
軽傷ですんだのはミスリルの篭手を用いて身を守ったのもあるが、
やはりプロテクトリングのおかげなのだ。
「くそ、油断した。見通されていたか。こうなると迂闊に行動はできんな…」
怪我こそほとんどなかったものの、視界の効かない場所に飛ばされてしまった。
つまり、全員を見失ってしまったということで、
隠れて動きたいカインとしてはあまり好ましい状態ではない。
「仕方がないな。見つからぬよう、隠れて偵察するとしよう。
こういうのはエッジやスミスのほうが向いているのだろうがな…」
位置が高く、なおかつ森のように障害物が多いところならば、見つかるより先に見つけやすい。
足に力を込める。全身の筋肉を跳躍に備える。
二、三反動を付け、反発が最上に達したところで、地を蹴り抜き、空へ舞い上る。
大樹の天辺近くに、音もほとんどなく着地。
眼下に広がる町並み。どんな動きも音も逃さぬように神経を研ぎ澄ます。
「あの黒いのはピサロ……いや、マティウスだな。さて、アリーナとピサロは……?」
マティウスは北西部の草むらへと向かっている。アリーナも近くにいると推測できる。
(北東部異常なし。北部異常なし。北西部異常なし。いや、なんだこの気配は?)
北西部、マティウスが向かった先で膨らむ禍々しい気配。地獄の魔物の気配。
マティウスの手に握られているのは、アルガスの置き土産。皆殺しの剣。
「あの剣が狂気を増幅させているというわけか。
厄介だな。とにかく、見つからないように様子を見るか」
マティウスの向かっている、中央部で足音やら物が壊れる音がする。
「他の二人も集まっていそうだな。場合によっては、撤退もありか。
そういえば、今何時だ? 俺はこの町にさほど早く着いてはいないはずだが…」
ここにいる全員があまりにも時間を気にしない。
さすがに少々不安になってくる。それにカインは旅の扉の位置も知らない。
ひとまずは他にばれぬよう、マティウスとは違うルートを通り、カインも町の中央部へと向かう。
支援
気付いたのはアリーナだった。ピサロの攻撃は、威力が無に等しい。
剣の鋭さ、纏う魔力、重さ、速度。これらの要素が剣の切れ味を左右する。
だが、ピサロの剣は、速度、重さ、鋭さこそ十分であるのにまったく傷が付かないのだ。
確かにピサロは一撃一撃、急所には持ってこない。
だが普段なら、かすり傷くらいついてもいいはずだというのに。
敵に与えるダメージはハリセン以下。豆腐にも劣ると確信が持てた。
(でも罠くさいのよね。何を企んでピサロはこんな剣を使っているのかしら?)
ビームウィップを伸ばし、大きく辺りを薙ぎ払う。
さらに後ろに大きく飛びのき、相手との距離をとる。呪文のレンジだ。
やはりピサロは詠唱を始める。紡いだ呪文は、マヒャド。
無数のツララがアリーナ目掛けて飛んでくる。
叩き落せない、くらえば致命傷にはならないにしても戦闘は続行不可能。
そう判断したアリーナはただちに横の民家に飛び込む。
(呪文は普通に撃ってきたわね。じゃあ、あの剣は何なの?
呪われてる? でもピサロに呪いって効かなかったし。もしかして、アイツの場合天空の剣とか装備したら呪われるのかも)
不可解な行動に戸惑うアリーナ。
ロザリーの安否、ソロへの義理、マティウスとの関係の悪化、ライアンを殺した悔い、
それらによるピサロの精神的損傷を目にしていないアリーナは、答えにはたどり着けない。
民家の中での一瞬の逡巡、つまりその時間だけ外への注意を怠ったということ。
(ヤバいっ!)
それが危険な行為だと感じるより先に、体が反対側の窓を突き破って飛び出していく。
直後、黒く長い刃のようなものが、民家を水平に切り裂いた。
「これって、皆殺しの剣! あの黒服!? それとも…」
もう一人、と言おうとして見つけたのは、そのもう一人のカイン。
「敵はこっち!」
カインとて、覗こうとした民家からアリーナが飛び出てくるのは予想外。
仕留める機も逃げる機も逃してしまう。
くるくると地面を転がり起き上がったアリーナは、
そのまま竹とんぼのように回転しつつ跳び上がり、カインに回し蹴りを放つ。
これをカインは盾、ちょうどサムシンへの囮に使い、そのまま放置していたミスリルシールドを使って受け止める。
幸い、右肩は負傷していない。相当に疲労の溜まっているアリーナの蹴りは、盾さえあれば受け止めることくらいは可能。
だが、素手での攻撃のメリットは、四つの部位を生かしたその素早さにある。
皆伝の証など着けていないとはいえ、右手、左手、左足、右足を駆使した連続攻撃は考える間も与えない。
ときには盾で、時には槍で、ときには身を捻り、ときには距離を取り、
そうこうしているうちにいつしかカインは町の東端まで追い詰められていた。
だが、前述したとおり、素手の短所はリーチ。
そして、竜騎士は平面的な場所よりも立体的な場所でこそ力を発揮する。
町の東端は、カナーンの町に二箇所ある森林地帯の一つ。
「愚かだな、マティウス。復讐のために心をも捨てるか」
「だが貴様とてロザリーとやらが殺されれば私と同じ道を選ぶのではないか?
「ふん、確かに。私が言えた義理ではないか」
「ならばそこを通せ。私とて無闇に他者を殺める気はない。
この剣の殺意の衝動を抑えるのは少々疲れるのでな」
「断る。お前の呪文は少々興味があってな。そして、アリーナには会わせたいやつがいる。
両方とも、無理矢理気絶させてでも連れて行くぞ」
「決裂だな」
マティウスの殺意が急激に高まる。皆殺しの剣と自身の精神を同調させたのだ。
普段、人は無関係な人間や味方を殺さないよう、殺意を抑える。
意思さえあれば子供でも可能。だから、皆殺しなのに味方は殺さない。
だが、殺意を抑えればそれだけ剣から得られる力は小さくなる。抑制に注意を払い、周りへの注意力が落ちる。
マティウスはつまりはその逆。
横に一振り。黒い波動が、町の一角を一気に薙ぎ払う。
単純な軌道。上へ飛びのけば済むことだ。だが、ピサロはこの出来事に驚いていた。
(なんだこれは? これほどの広範囲を攻撃できるものなのか?)
それもそのはず、ピサロの知っていた皆殺しの剣とは明らかに性能が違っているのだ。
この個体はとある狭間の世界、同じような殺し合いが延々と繰り広げられる世界で何度も血を吸って来た魔剣なのだから。
(あの剣をどうにかしなければならないか……)
ピサロが全力で後退。その間に、呪文を紡ぐ。イオナズン、本日二度目。
彼らがいるのは建物の間の狭い路地。逃げ道は少ない。
爆風が、マティウスのいる路地を、周りの建物ごと包み込み、吹き飛ばす。
建物は土台ごと上空へ吹き飛ばされ、あたりを凄まじい高熱が包み込む。
だが、これしきでマティウスに傷を付けられるとは思っていない。
事実、マティウスは爆風に吹き飛ばされたとはいえ、バリアの魔法で身を守っていた。
ピサロはエクスカリパーを引っ込め、スプラッシャーを取り出す。
嘘か真か、物体を分解する魔力が備わっているという剣、これで皆殺しの剣を0にしてしまえばいいのだ。
「バカ正直に突っ込んでくるとはな、返り討ちにしてくれるわ!」
マティウスも皆殺しの剣を持ったまま、ピサロに向かっていく。
ピサロが突如立ち止まった。ここから先へは踏み入らないという意思をもって。
マティウスもその意図に気付く。上空の影、まだ日が高くないために気付かなかったのだ。
何やら大量の影。防具が次々とマティウスに降り注ぐ。
マティウスは自分の体にぶつかりそうな物体を切り裂くが、皆殺しの剣は威力が大きすぎる。
余計なものまで切り刻み、破片が余分に降ってくる始末。
マティウスは皆殺しの剣を取り落とす。そこにさらに大きな影。
一度皆殺しの剣で、土台と切り離されていたためか、上手く吹っ飛んだのだろう。
防具屋の1階部分より上。かなり綺麗な状態で降ってくる。
そして、マティウスがいる位置は、ちょうどその吹き飛ばされた建物が落ちてくる位置。
「ウボァー」
発された声は、大質量の崩壊に伴う大音量にかき消された。
(そもそも最初の襲撃に失敗した時点で、手を引くべきだったのだ……。
といっても旅の扉が見つかっていない以上、状況は変わらんか)
カインは木々の間を駆け回る。この時点で、すでに狩る気は失せていた。
生き残りを最優先する彼にとって、最も重要なのは旅の扉の発見。
アリーナもいい加減カインを見失ったのか、攻撃は来ない。
魔法屋の窓を蹴破って侵入。何もない。武器屋の窓を突き破って侵入。何もない。
「こんなことなら、アルガスに位置を聞いておくのだったな」
武器屋の扉を蹴破り、前方にはもう民家はない。残るは町の西側のみ。
「あの派手な戦場に舞い戻りたくはないが……時間もないな。……ん?」
目に付いたのは、左手の池に見える、アルガスの上着…ではなく、小さな島。
「そういえば、アリアハンでは井戸の中とやらに旅の扉があったらしいな。
ならば、ああいうところも可能性はあるわけか」
また戻ってくるのも面倒ということで、その島へ飛んでみる。
「なんということはない、ただの草地か」
結局旅の扉はなく、元の場所へ戻ろうとしたとき、何か瓶のようなものを蹴り飛ばす。
訝しく思って拾ってみると、どうも見覚えのある形状の薬瓶。
「これは……!! エリクサーか!? しかし、何故!?」
この薬瓶はそれ。何故こんなところに、ということは考えた。
だが、よくよく考えてみればこんな場所にトラップを仕掛けるやつなどいないのだ。
民家の食料などを考えるに、舞台となった世界に配置されていたものはそのまま残るのだろう。
有利に立てると、舞い降りた幸運をほくそ笑むだけ。震える手で、小瓶の蓋を開ける。
対岸から飛んできたビームウィップの鞭身。風をも切り裂く風圧。
驚く。落とす。割れる。流れる。
液体は草の根に吸われ、肥料として消費された。
カインは一気に息を吸い吐きし、体内の酸素を入れ替えると、
アリーナも構わず全力で町の西側まで疾走した。
(確かにある程度のダメージは期待したが、こうまで容易く押しつぶされるなどありえるのか?
上空から不意を付いたとはいえ、かわす場所はあちこちにあった。だが、殺気は消えている)
もうもうと立ち昇る砂埃、大質量は地面の土や砂を粉砕し巻き上げ、視界を遮る。
不思議なことに、これでもかと感じていた殺気を現在まったく感じない。
一歩一歩、慎重に近付く。砂埃の中、黒光りする物体。訝しく思い、近付いてみてみれば皆殺しの剣。
「この瓦礫の下にいるのか? いや、だがこうもあっけないものか……?」
ひとまずは剣を回収しようと手を伸ばす。
伸ばした手が剣に触れようかというとき、その下の瓦礫がことことと動き出す。隙間風が吹き出す。
「!!」
とっさに手を引くが、瓦礫の下から出てきたのはマティウスではなかった。
竜巻。威力を押さえ込まれていたそれはマティウスによって瞬時に制限を外され、ピサロにくらい付く。
くらいついた竜巻はそのままピサロの体に取り付き、はるか後方へと吹き飛ばしていく。
噴水を横切り、民家の壁を突き破り、なおその勢いは止まらない。
黒のローブをずたずたに引き裂き、ピサロの肉体をも引き裂く。
ピサロは竜巻を受けたまま、戦場から追放されてしまった。
マティウスは押しつぶされる前に、人一人を包み込む風の壁を作り出し、押しつぶされないように身を守ったのだ。
かつては城のような竜巻すら作り出したのだ、身を守るための竜巻、作るのに時間はかからない。
ピサロが近付いてきた瞬間に、その竜巻をピサロに向けて放っただけ。
ピサロがマティウスの気配を感じ取れなかったのは、
とてつもなく辛いカレーを食べた後に普通のカレーを食べても、辛さは感じない、それと同じようなこと。
とてつもなく強い殺気を浴びせ、マヒさせた感覚では、普通の気配に気付くのは遅れる、というだけのこと。
皆殺しの剣は、竜巻と一緒にどこかへ吹き飛んだ。魔力もさほどなく、残る武器はソードブレイカーのみ。
ピサロが吹き飛ばされた先に向かうが、他人の気配がない。
よく見れば、民家の壁から青い光が漏れている。
「そうか、旅の扉……。アリーナがこの世界にいるなら、行く必要はあるまい」
待つ。待つ。待つ。まず現れたのがカイン。そして、それを追う様にして、アリーナ。
マティウスの口元が歪んだ。
その瞬間、カインの心中にて、汗が止まらなかっただろう。
(しまった! 一方ばかり警戒していた! ここでこいつと鉢合わせるつもりはなかった…!
前方にマティウス、後方にアリーナ……時間もないというのに…!)
ちょうど挟み撃ち。頼みの加速装置もない。だが、空気が一変したことだけは感じ取った。
視線がカインを透過しているのだ。
(いや、そうでもないぞ。まだツキは俺を見放してはいなかったか)
マティウスが、アリーナが、カインが、同時に地を蹴る。
マティウスとアリーナは攻撃のために。カインは逃亡のために。
カインに与えられた立場は、傍観者。
今ここで手を出せば、袋叩き。大人しくしている分には危害は与えられない。
だが、傍観しているわけにも行かない。もうすぐこの世界は崩れ落ちる。
ちょうどよいことに、崩れ落ちた民家の壁から、青い光が漏れ出しているのだ。
ならば目標は一つ、旅の扉。彼の目的は最初から最後まで、生き残ることなのだ。
旅の扉に入る瞬間、柱時計で時間を確認。
(あの二人は、時間すら忘れて戦いに明け暮れているのか?)
まあ、そんなことはどうでもいい、そう結論付け、カインは直ちに扉の中へ入っていった。
天候は快晴。舞台は浮遊大陸中部、貿易都市カナーン。時刻は8時前。
展開する人物は、二人。アリーナとマティウスの二人。
ビームウィップがマティウスを打ち据えれば、サンダーがアリーナの肉を焦がす。
ソードブレイカーがアリーナの肉を斬りつければ、徒手空拳がマティウスの肉をそぎ取る。
一撃一撃が確実に互いの生命力を奪っていく。
得意武器を持ったアリーナを相手に真正面から戦いを挑むのは愚策の中の愚策。
だが、結局のところ、マティウスはオリジナルのアリーナに対しては、すべて真正面からの戦いを挑んでいる。
正々堂々戦いたい、というわけではない。
ゴゴは物真似師として、真正面からアリーナに戦いを挑んで敗れた。
ならば、同じ条件、正面からオリジナルのアリーナを打ち破るという行為を自身が為すことで、
ようやくゴゴへの手向けと為せるのだという想い。
アリーナはいつもと変わらない。向かってくる敵を正面から、打ち砕く。
もう邪魔は入らない。互いに退く気もない。
勝ったものだけが、旅の扉へ足を進める資格を持つのだ。
それぞれにかかっていた魔力もとっくに切れている。
肉体的にも、疲労、ダメージは同程度。
すでに肉体は限界を迎えているが、不屈の精神力で体を動かし続ける。
精神力の中身は、復讐だけではない。執念。
相手の強さを認めたうえで、なんとしても勝ちたいという意地。
その気持ちがより強いほうに勝利は舞い降りる。
放っておけば、このまま何時間でも戦い続けることだろう。
二人の戦いを打ち切ることができるものがあるとすれば、ただ一つ。
戦場においては明らかに異質な機械音。
二人の動きを一瞬だけ止めた。
それは、ゲームオーバーを知らせる合図。
「ちょっと熱くなりすぎたかな…。二人ともここでリタイアってわけね」
「どうやらそのようだな。…だが、不思議と時間はある。決着をつけるには十分だ」
「望むところよ」
アリーナは鞭を投げ捨てる。決着は自分の最も信頼する、この拳でつける心積もり。
一方のマティウスは、最も親しい友であるゴゴの形見、ソードブレイカーを決着に用いる心積もり。
煩い機械音はさらに大きく、間隔も狭まっていく。
旅の扉が閉じてもすぐに首輪が爆発しないのは、
間に合わなかった哀れな参加者の、遺言を聞いてやろうという魔女の心遣いか。
それとも、参加者に絶望を味わわせ、魂を闇の淵へと導くための下準備の期間か。
いずれにせよ、二人はまるで首輪の音など気にせず、ただ互いを見つめる。
無機質に流れ続ける機械音は、はからずもこの場に流れる緊張感を具体化しているかのよう。
そして、一瞬、二人が動いた一瞬だけ、時が完全に止まった。
二つの影がぶれる。
首輪の音は、二人の心拍音を表すかのように、不規則なリズムを刻む。
身を守る気はない。かわす気すらない。
どちらが先に息の根を止めるか。それだけの勝負。
影は交わり、そこで再び時が止まる。
ありとあらゆる生物の音も、風の音も、首輪の音すらも。
再び時が動き出したとき、二人に動きはなかった。
首輪の音が重なり、ピーーーというアラームへ変化する。
魔女や、その下僕たちは死に逝く二人の勝負を見届けたのだろうか。
あるいは、この地で死していった英霊に、勝負を見届けたものはいたのだろうか。
どちらが勝ったのか、それ以前に勝負はついたのか。
知る者は誰もいないのかもしれない。
世界の果てから迫り来た大崩壊は、やがて一部始終を無に帰してしまうだろう。
【ピサロ(MP残り僅か、全身に深い切り傷、精神的に疲労)
所持品:エクスカリパー スプラッシャー 命のリング
第一行動方針:可能ならロザリーを救出する
第二行動方針:ケフカへの復讐】
【現在位置:新フィールドへ】
【カイン(HP1/5、左肩負傷、肉体疲労、精神的に極度に疲労)
所持品:ランスオブカイン、ミスリルの篭手 プロテクトリング レオの顔写真の紙切れ ドラゴンオーブ
ミスリルシールド
最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:新フィールドへ】
【マティウス 死亡】
【アリーナ 死亡】
【残り34名】