FFDQバトルロワイアル3rd PART12

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
━━━━━説明━━━━━
こちらはDQ・FF世界でバトルロワイアルが開催されたら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。

参加資格は全員、
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

作品に対する物言い、感想は感想スレで行ってください。
sage進行でお願いします。
詳しい説明は>>2-10…ぐらい。

感想スレ
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1175437106/
過去スレ
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1099057287/ PART1
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101461772/ PART2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1105260916/ PART3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1113148481/ PART4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1119462370/ PART5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1123321744/ PART6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1128065596/ PART7
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1130874480/ PART8
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142829053/ PART9
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1143513429/ PART10
http://game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157809234/ PART11
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 20:59:29 ID:Bri/MHP50
+基本ルール+
・参加者全員に、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。
・参加者全員には、<ザック><地図・方位磁針><食料・水><着火器具・携帯ランタン><参加者名簿>が支給される。
 また、ランダムで選ばれた<武器>が1つから3つ、渡される。
 <ザック>は特殊なモノで、人間以外ならどんな大きなものでも入れることが出来る。(FFUのポシェポケみたいなもの)
・生存者が一名になった時点で、主催者が待っている場所への旅の扉が現れる。この旅の扉には時間制限はない。
・日没&日の出の一日二回に、それまでの死亡者が発表される。

+首輪関連+
・参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
 この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
 または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
・24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
・放送時に発表される『禁止技』を使ってしまうと、爆発する。
・日の出放送時に現れる『旅の扉』を二時間以内に通らなかった場合も、爆発する。
・無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
・なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
・たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止魔法が使えるようにもならない。

+魔法・技に関して+
・MPを消費する=疲れる。
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる敵と判断された人物。
・回復魔法は効力が半減します。召喚魔法は魔石やマテリアがないと使用不可。
・初期で禁止されている魔法・特技は「ラナルータ」
・それ以外の魔法威力や効果時間、キャラの習得魔法などは書き手の判断と意図に任せます。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:01:00 ID:Bri/MHP50
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
 X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
 ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
 その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。

+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ

+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイヤルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。

現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://www.thefinalfantasy.com/games/ff3/images/firstmap.jpg
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:01:41 ID:Bri/MHP50
書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。
 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであれば保管庫にうpしてください。
・自信がなかったら先に保管庫にうpしてください。
 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない保管庫の作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 できれば自分で弁解なり無効宣言して欲しいです。
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:02:56 ID:Bri/MHP50
書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・極力ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:04:40 ID:Bri/MHP50
書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
 (今までの話を平均すると、回復魔法使用+半日費やして6〜8割といったところです)
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。


+修正に関して+
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
 「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
 「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
 以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:07:07 ID:Bri/MHP50
+一部作品の設定+
DQ3→神竜撃破後(オルテガ復活&エッチな本回収済み)
DQ4→PS版6章クリア後(ピサロが仲間になり、裏ボスを倒した後)
DQ5→ビアンカと結婚ルート
FF3→FC版準拠、デッシュもエリアも一般人、イングズの変わりにギルダーがいます
FF7→本編クリア直後(AC無関係)
FF10-2→通常エンド後(ティーダ未復活、花畑で幻も見ていないルート)


━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活は認めません。
※新参加者の追加は一切認めません。
※書き込みされる方はCTRL+F(Macならコマンド+F)などで検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。
※参加者の死亡があればレス末に、【死亡確認】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。

したらば http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
ロワらじ http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/
お絵かき掲示板 http://dog.oekakist.com/FDBR/
8名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:08:13 ID:Bri/MHP50
■参加者リスト
FF1 4名:ビッケ、ジオ(スーパーモンク)、ガーランド、アルカート(白魔道士)
FF2 6名:フリオニール、マティウス(皇帝)、レオンハルト、マリア、リチャード、ミンウ
FF3 8名:サックス(ナイト)、ギルダー(赤魔道士)、デッシュ、ドーガ、ハイン、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 7名:ゴルベーザ、カイン、ギルバート、リディア、セシル、ローザ、エッジ
FF5 7名:ギルガメッシュ、バッツ、レナ、クルル、リヴァイアサンに瞬殺された奴、ギード、ファリス
FF6 12名:ジークフリート、ゴゴ、レオ、リルム、マッシュ、ティナ、エドガー、セリス、ロック、ケフカ、シャドウ、トンベリ
FF7 10名:クラウド、宝条、ケット・シー、ザックス、エアリス、ティファ、セフィロス、バレット、ユフィ、シド
FF8 6名:ゼル、スコール、アーヴァイン、サイファー、リノア、ラグナ
FF9 8名:クジャ、ジタン、ビビ、ベアトリクス、フライヤ、ガーネット、サラマンダー、エーコ
FF10 3名:ティーダ、キノック老師、アーロン
FF10-2 3名:ユウナ、パイン、リュック
FFT 4名:アルガス、ウィーグラフ、ラムザ、アグリアス

DQ1 3名:アレフ(勇者)、ローラ、竜王
DQ2 3名:ロラン(ローレシア王子)、パウロ(サマルトリア王子)、ムース(ムーンブルク王女)
DQ3 6名:オルテガ、アルス(男勇者)、セージ(男賢者)、フルート(女僧侶)、ローグ(男盗賊)、カンダタ
DQ4 9名:ソロ(男勇者)、ブライ、ピサロ、アリーナ、シンシア、ミネア、ライアン、トルネコ、ロザリー
DQ5 15名:ヘンリー、ピピン、リュカ(主人公)、パパス、サンチョ、ブオーン、デール、レックス(王子)、タバサ(王女)、
        ビアンカ、はぐりん、ピエール、マリア、ゲマ、プサン
DQ6 11名:テリー、ミレーユ、イザ(主人公)、サリィ、クリムト、デュラン、ハッサン、バーバラ、ターニア、アモス、ランド
DQ7 5名:主人公フィン、マリベル、アイラ、キーファ、メルビン
DQM 5名:わたぼう、ルカ、イル、テリー、わるぼう
DQCH 4名:イクサス、スミス、マチュア、ドルバ
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:09:29 ID:Bri/MHP50
生存者リスト

FF1 0/4名:(全滅)
FF2 1/6名:マティウス
FF3 4/8名:サックス、エリア、ウネ、ザンデ
FF4 1/7名:カイン
FF5 3/7名:バッツ、ギルガメッシュ、ギード
FF6 4/12名:ロック、マッシュ、リルム、ケフカ
FF7 2/10名:ザックス、セフィロス
FF8 3/6名:スコール、アーヴァイン、サイファー
FF9 3/8名:ジタン、ビビ、サラマンダー
FF10 1/3名:ティーダ
FF10-2 2/3名:ユウナ、リュック
FFT 3/4名:ラムザ、アルガス、ウィーグラフ

DQ1 0/3名:(全滅)
DQ2 0/3名:(全滅)
DQ3 2/6名:アルス、セージ
DQ4 5/9名:ソロ、アリーナ、ライアン、ロザリー、ピサロ
DQ5 5/15名:タバサ、パパス、ヘンリー、プサン、ブオーン
DQ6 2/11名:クリムト、ターニア
DQ7 1/5名:フィン
DQM 2/5名:テリー、ルカ
DQCH 1/4名:スミス

FF 27/78名 DQ 18/61名
計 45/139名
10名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:11:28 ID:Bri/MHP50
■現在までの死亡者状況
ゲーム開始前(1人)
「マリア(FF2)」

アリアハン朝〜日没(31人)
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」
「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」
「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」
「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」「マリベル」

アリアハン夜〜夜明け(20人)
「アレフ」「ゴルベーザ」「デュラン」「メルビン」「ミレーユ」
「ラグナ」「エーコ」「マリア(DQ5)」「ギルバート」「パイン」
「ハイン」「セリス」「クラウド」「レックス」「キーファ」
「パウロ」「アルカート」「ケット・シー」「リディア」「ミネア」

アリアハン朝〜終了(6人)
「アイラ」「デッシュ」「ランド」「サリィ」「わるぼう」「ベアトリクス」

浮遊大陸朝〜 (21人)
「フライヤ」「レオ」「ティファ」「ドルバ」「ビアンカ」「ギルダー」
「はぐりん」「クジャ」「イクサス」「リノア」「アグリアス」
「ロラン」「バーバラ」「シンシア」「ローグ」「シド」「ファリス」
「エッジ」「フルート」「ドーガ」「デール」

浮遊大陸夜〜夜明け(15+1人)
「テリー(DQ6)」「トンベリ」「ゼル」「レオンハルト」「ゴゴ」
「アリーナ2」「わたぼう」「レナ」「エドガー」「イザ」「オルテガ」
「フリオニール」「ユフィ」「リュカ」「ピエール」「ハッサン」
11変なところにリンク入れてしまった:2007/05/15(火) 21:13:03 ID:Bri/MHP50
■その他
FFDQバトルロワイアル3rd 編集サイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3log/
FFDQバトルロワイアル3rd 旧まとめサイト
http://www.geocities.jp/ffdqbr3rd/index.html
1stまとめサイト
http://exa.to/ffdqbr/
1st&2ndまとめサイト
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/
番外編まとめサイト
http://ffdqbr.fc2web.com/
保管庫
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/2736/1057165790/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/game/22429/
あなたは しにました(FFDQロワ3rd死者の雑談ネタスレ)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/22429/1134189443/
ロワらじ
http://jbbs.livedoor.jp/game/22796/
お絵かき掲示板
http://dog.oekakist.com/FDBR/

現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0069.jpg
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/2736/1057165790/152-153(参考にどうぞ)
12名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:16:13 ID:Bri/MHP50
1stまとめサイトはリンク切れしてた。こっちかな。

1stまとめサイト
http://www.parabox.or.jp/~takashin/ffdqbr-top.htm
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/15(火) 21:21:48 ID:4fApcM/N0
>>1
ま乙ぃうす
14償い方2 1/8:2007/05/16(水) 19:51:12 ID:vIv4khgu0

背を向けて、ジタンが壁際に引き下がっていく。
プサンは寝息を立てているフィンの様子を少し眺めて、改めて部屋の真ん中のほうへと向き直った。
視界のそれぞれの端にジタンの背中とセージの顔が映る。
少しの間、室内に沈黙が漂う。
プサンは監視対象に意識を向け、その気配が城の北で停止したままであることを確認した。
「やっぱり強引にでも攻めた方がいい」
ぴくりと尻尾を揺らし、振り向いたジタンが叫んだ。
「だから作戦を考えるほうが先だって、ジタン。僕の話聞いてる?」
うんざりした表情で、セージが言い返す。
二人の作戦会議は、強襲を主張するジタンと反対するセージの平行線。
上手い方法を見つけられないまま停滞していた。
「正面からじゃダメなんだ。僕らが姿を見せたら事態は悪化するだけ。
 君は焦っているんじゃないのかな?」
表面には出さないものの、プサンは心中で同意する。
城の北を選んだリュカは動くことは望んでいない、まだ考える時間はある。
何より彼らを直接知るプサンは、あのピエールがリュカへの忠誠を自ら覆してみせるなどということに疑いをもっていた。
リュカがいればピエールは押さえつけていられるのではないか。
それは魔物使いと仲間との間に存在する関係への信頼と言い換えてよかった。
おかげで排除を前提とする二人と異なり、プサンはピエールの説得を第一の手段として考えていた。
必要なのは条件であり、首輪のこと、脱出を目指す仲間との連帯のこと、ドラゴンオーブのことだ。
可能性が大きくなるほど希望のもつ求心力は強くなるのだから。
「動き出す前に叩かなけりゃ意味はない、そうだろ?
 向こうに行動のチャンスを与えず、こっちが一方的に動く。作戦だって……考えた」
強い口調でジタンがそう言い、プサンの思考は中断する。
依然、監視対象に変化はない。


15償い方2 2/8:2007/05/16(水) 19:53:36 ID:vIv4khgu0

しっかりとこちらを見つめ返す強い視線がジタンを刺した。
「へえ、どんな作戦?」
その主が、軽さを含んだいつもの口調で問い返す。
一応は聞くという感じが滲み出たその響きにも、ジタンは淡々と話を進めた。
「…セージ、お前は魔法……じゃなくて呪文、が得意だって言ったよな? 賢者だっけ」
「そうだね、頼ってくれてもいいよ。肉弾戦は当てにしないで欲しいけど」
「いろいろできるんだよな?」
「回復・攻撃・補助、大抵の事はできるよ。それが君の作戦に関係あるの?」
「ああ、あるぜ。いいか、作戦はこうだ。
 まず不意打ち、セージの呪文で全員の動きを止める。
 その瞬間、俺が突撃してピエールを仕留める。ま、単純といや単純だな」
即座に却下とでも言われるかとも思ったが、セージは腕を組み、目を閉じ、しばし思案する。
「全員?」
「全員さ。そうでなきゃ乱戦覚悟。最悪だな」
「待ってくれよ、リュカも? タバサも? それを僕にやれって?」
「ああ、そう言ってる。できるんだな?」
乾いたいい音を残して、ハリセンが鋭く壁に炸裂。その音が冗談じゃない、と代弁した気がした。
当然の反応だと思いながら、ジタンは次の言葉を待つ。
「本気で言ってる? どう思われるかも予想しなかった? 僕が賛成するって思った?」
「できるんだな。時間が、無いんだ」
セージは多少変わり者だが、冷静な判断力も発想力もあると短い間に確かに感じた。
その言い返してくる態度に作ったのではない感情の高まりが微かにある。
ジタンは、セージが突き当たっている思考の枷の正体が自分の予測どおりだと確信した。
一度視線を外し、会話に加わらず成り行きを興味深げに眺めているプサンをちらりと見る。
変化なし、を意味するようにはたはたと手がふられたのを二人で確認する。
「時間がない、それは正しい。でも、だからって無謀が許されるわけじゃない」
「ほかに名案は浮かんだかい?」
流暢なセージの口振りがそれは、までで中断する。
そこで代案が出てくるくらいならこんな提案はしない。黙るのも、当然だ。
16償い方2 3/8:2007/05/16(水) 19:56:55 ID:vIv4khgu0
単刀直入に切り込む。
「なぁセージ。そんなにあの二人に悪く思われるのがイヤなのか?」
流石に表情は変わらなかった。けれど、この場合無言は肯定ととってもいいだろう。
「無謀って言ったな。けど時間も手段も限られたこの状況で賭けじゃない方法なんてあるか。
 お前は失敗を怖がり過ぎてる。んで、その理由は二人とやりあう結果になりたくないからだ。
 それを避けようって考えるとこちらからのアプローチはほとんど手詰まり、いいアイデアなんて浮かばない。
 図星だろ」
やっぱりセージの表情は変わらず、無言のままだ。図星なのだろう。
賭けに出るしかないことを理解させるつもりで、追い討つ。
「断言してやる。向こうが止まってる間にピエールとリュカを引き剥がすのは無理だ」
冷静を装っていたセージの表情が不快感に歪んだ。
実際、返ってきた声には反発する感情が十分に乗っていた。
「どうして君にそう言い切れる?」
「できるさ。俺には今のリュカの気持ち、大体分かるからな」
朝に見た、クジャの優しげな笑顔がふと脳裏に浮かんだ。
目の前では不快さを顔に貼り付けたまま、再びセージが口を噤んでいた。
「クジャって名前、聞き覚えあるかい? 俺の兄弟なんだ」
それからジタンは、静かにクジャの話を始めた。


17償い方2 4/8:2007/05/16(水) 20:01:30 ID:vIv4khgu0

確かに図星だと思った。
ジタンの作戦にはまったく好感を持てないが、自分の思考が嵌っていたことは言い当てられた。
何をどう考えても、今のリュカがピエールを一人にするはずがない。
その強固な予測を何とか崩そうと挑んで、セージの思考は停止していたのだ。
今はただ、リュカの気持ちなんてものを分かると言い切ったジタンへの反発を抱えたまま黙って話を聞いていた。
深夜の静けさが急に深くなった気がする部屋で、ジタンは淡々と語る。
クジャという男についてアリアハンで彼が尽くした破壊の数々のこと、そして今朝方のこと。
「瀕死のあいつを見たとき、俺はどうしようもなく助けてやりたくなった。
 理由なんて、ない。……言葉じゃ、上手く表せないんだ。
 いつの間にか、泣いてたよ。泣きながら、リュカに見逃してくれるよう頼んでた。
 そんでさ、リュカは殺したいくらいに憎いだろうあいつを見逃すばかりか回復までしてくれた。
 次は容赦しないって言われたけどな」
兄弟の情というヤツだろうか。頭では理解できるが、共感はできない。
セージは何人かの顔を思い浮かべたが、自分がジタンの側に立つ場面が想像できなかった。
自分だったら動かずリュカの判断に任せるか、身内こそ自分の手でかたを付けるかのどちらかを選ぶだろう。
「今のリュカさんがそのときの君と同じだって言うのかい?」
言ったあとで、違う、と心で付け加えた。
リュカは騙されて爆弾を抱え込まされている。そういう思いが強い。
ジタンは曖昧に笑い、問いかけに答えずに続けた。
「あの時、俺はクジャのしたことが分かってたのに、そうした。
 おかしいんだ。キーファが倒れたとき、確かに俺はあいつを殺そうと決意したのに。
 なのにさあ、弱った姿を見たら変わっちまった。
 希望を捨てられない、できる限り同じ道をいっしょに歩きたい、そういう関係ってのは、あるんだ。
 ……俺とクジャがそうだったように、リュカとピエールもそうなんだと思う」
18償い方2 5/8:2007/05/16(水) 20:04:34 ID:vIv4khgu0
違う、リュカは優しさにつけこまれている、騙されているんだ。
そこから弁護に回ろうとしたが、二者間の並々ならぬ関係に迂回してたどり着いただけだ。
疑われたのはピエールではなく自分達のほうだったという事実がある。
盲目的、そして感情的とも言える反応を示したのには確かにそれだけの背景がないと説明できない。
「片思い、はおかしいかな? そんな感じなんだ。
 裏切りの決定的な瞬間まで、きっとそいつは変わらない。変えられない。
 理屈や物事の正邪で説得してなんとかできることでもない。だから」
「だから――」
ギルダーの顔を、思い出した。あの時は、上手くいったのだ。
大切な人を守るために一緒にゲームに抗おう。
心の底ではそんな風にピエールを説得できる可能性を捨てきれていない自分に気が付いた。
だってそれが、傷つけずに済む方法じゃないか。
なのに、ジタン、どうして君はそんな夢の無い現実を突きつける?
いや、本当は――わかってる。
「手遅れになる前に覚悟を決めて、できることをやるしかないってことだ、セージ。
 手が届かなくなる前に、永遠にチャンスが失われてしまう前に。
 一気に急襲して、ピエールを倒し、一気に逃げる。
 それが一番単純に、リュカとタバサを助ける方法だ。
 誰かを助けるのに理由はいらない。……言い訳も、いらない。
 嫌われるのは決定だろうが、それで当面二人は安全になる。そうだろ?」
「そう、かも……しれない」
守れなかった人のことを思い出させられた。離れてから再会まで、たいした時間は無かった。
二度目の夜も更け、すでに80を越えるチャンスを逃してまだ楽観的なのは、鈍い。
守りたいなら自分で必死に守らなければ、誰の命も保証されない。当たり前だ。
結局、リュカの心に傷が付くことは決まってしまったのかもしれない。
それがピエールがタバサを殺すことによるか、僕らがピエールを殺すことによるかの二択。
だったら後者だ。
「ジタンさん、セージさん」
突然、プサンの緊迫した声が部屋に響いた。
体温がすっと引いていくのがわかった。思い当たる理由は一つしかない。
先に仕掛けられた。しかし動き出すのが早すぎるじゃないか。
手が届かない位置で事態が進行していることがセージにとってたまらなくもどかしかった。
19償い方2 6/8:2007/05/16(水) 20:08:16 ID:vIv4khgu0




償い、あるいは報い。
セージとジタンの会話がピエールを殺す方向に傾いていくのをプサンはそんな風に考えながら静聴していた。
止める気は無かった。守りたい、復讐したい、放っておけない。どれも人の心の在り様だから。
きれいごとや理屈だけでは物事は動いていかないことは良く知っている。
プサンが待っていたとしたら説得に使える材料の増加で、最も期待できるのはエドガーの帰還だった。
それが間に合わないなら、プサンは動く気はない。ピエールには見切りをつける。そこまでのことだ。
達観した見方、けれどそれはこちらの動きについてで、魔石の向こう側の異変は予想外。
「気配が一つ離れて動き出しました。方向は南東、森へ。
 リュカさん――いや、石の気配自体は城の北から動いていませんが」
部屋に動揺の色が広がる。全員が、何が起こったかを頭で思い描こうとした。
プサンはとりあえず、可能な限り情報を引き出そうと監視に集中する。
張り詰めた緊張を破ったのは、いつの間にか扉のところまで移動して叫んだジタンだった。
「セージ、それにプサンも! 急ごう!」
「ちょっと待って、ジタン! 他に分かることは無いんですか!?」
「…残った二人も動き出しました。離れていった気配を追いかける方向です」
再び部屋が色めき立つ。
ジタンは苛立ちを隠さずにもう一度さっきと同じセリフを繰り返した。
黙ったまま、プサンは無防備に眠っているフィンをじっと見る。
どのみち二人が行ってしまえば、残るのは戦力に計算できない自分一人だった。
置いていくことに心残りはないが、もし彼が目覚めた時に取り残されたと思うようでは良くない。
ともかく動き時、動かねばならないと、腹をくくる。
「ここは覚悟を決めましょう。セージさん、城の入り口まで先行してください。ジタンさんは、ちょっと……」
立ち上がりながら、それぞれに指示を出す。
彼も腹を決めたのだろう、頷いたセージはその目に炎を宿して扉から飛び出していく。
ジタンには彼のナイフで、木のテーブルに『戻る』とメッセージを刻むように頼んだ。
この身体でどれくらい走れるか。二人の動きについていけないことは間違いなく足枷になる。
それでも、行くしかないだろう。魔石の気配を追えなければアウトなのだから。
20償い方2 7/8:2007/05/16(水) 20:09:20 ID:vIv4khgu0
「私も先に行きます。追いついてきてください」
かりかりと聞こえる刻まれる音を背にし、プサンも駆け出した。
すぐに、後方から走ってきたジタンに無言で追い抜かれた。




ひび割れの走った石畳を見下ろし、ゼルの死体を隠した方向を一瞥し、それから後ろを振り返る。
建物の奥へと続く通路は暗く、そこにはまだ人の姿はない。
どうしても、プサンは遅れてしまう。
けれどもプサンがいなければ森へと動き出した気配を追うことはできないのだ。
焦りを摩り替えるように、ジタンは追いかけた先でやらねばならない一撃のイメージを思い描こうとした。
「ねえ、ジタン。君がしてくれたクジャの話のことなんだけど」
不意に、横から囁くようにセージが声を掛けてきた。
名前を聞いて、バカな事を言って逃げたクジャを追いかけたことを思い出す。
あの時も、必死で追った。
「終わりは、裏切り、だったの?」
「……ああ。最後まで、勝手なヤツだった」
そういえばクジャの話、最後まで終わってなかったな。だけど話の結末はあまり思い出したくない。
必死で探して、追いかけて。
あの時は、間に合わなかった。そういえば、リノアにも追いつけなかった。
口に出してしまったら、今度もそうなってしまう気がする。
だからジタンは口を閉じ、それ以上喋らなかった。
「……ごめん。聞かない方が良かった」
そう言ってセージは目を逸らした。どんな表情をしているかはわからない。
ようやく追いついたプサンに眼で合図し、次は城の外側の門まで行くつもりでジタンは地を蹴った。
セージもすぐに駆け出し、後ろについてくる。
21償い方2 8/8:2007/05/16(水) 20:10:01 ID:vIv4khgu0
ふと、今の受け答えでセージにどう思われたかと考えた。すぐ気にならなくなった。
たとえ間接的にでもクジャを救えなかったのは自分の力が及ばなかったせいだ。
今は一秒でも早くリュカにたどり着くこと。そして、ピエールを止めること。
それだけを考えていたい。
振り向いた視界、プサンは随分後ろに遅れているように見えた。

【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/2程度)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
 第一行動方針:リュカ達(魔石の気配)を追いかける
 第二行動方針:タバサとリュカから受けた誤解を解く
 基本行動方針:ゲーム脱出】
【ジタン(左肩軽傷)
 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
 第一行動方針:リュカ達(魔石の気配)を追いかける/ピエールを倒す
 第二行動方針:フィンの風邪を治す
 第三行動方針:協力者を集め、セフィロスを倒す
 基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す
 最終行動方針:ゲーム脱出】
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣
 第一行動方針:リュカ達(魔石の気配)を追いかける/リュカ達の様子を探る
 第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
(*旅の扉を潜るまでは、魔石ミドガルズオルムの魔力を辿って状況を探ることができます)
【現在位置:サスーン城・城門付近】

【フィン(風邪、睡眠中)
 所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:風邪を治す/ジタンを待つ
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:サスーン城3F・暖炉がある部屋】
*テーブルに『戻る』と刻まれたメッセージあり。
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/19(土) 05:08:11 ID:PXADXsU00
保守
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/23(水) 12:31:04 ID:A91jlK+xO
保守
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/26(土) 16:21:50 ID:z9FxJsezO
保守しますよ
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/05/30(水) 13:10:44 ID:o5U9Ev1g0
保守
26心を覗いたものは手痛い反撃を受ける 1/5:2007/06/02(土) 04:38:50 ID:/+RnhA/00
カインはいない。ライアンもいない。ウネもいない。
ほんの少し前まで、カナーンでは剣音が響いていた。誰かが戦っていたのは明らか。
だが、勝者どころか、死体すら残されていない。どこへ行ったのか?


目薬草が切れた視覚はもどかしいほど不便だ。
アリアハンではかなり離れた場所だって見ることができたというのに、
今はちょっと向こうがどうなっているのかすら認識できない。
皆は遠くで戦っているのか。
耳を済ませても風の音が聞こえるだけ。目を凝らしても深い闇が広がるだけ。
光が何か関係しているとは考えるのだが、その方向には最初に飛ばされてきた険しい山があり、行くのはさすがに面倒。
結局、何がどうなっているのかはさっぱり理解できない。
彼はただ一人、無防備な状態だ。

思えば、アリアハンでは地獄耳の巻物と目薬草があることで、危うきには近寄らずに済んだ。
この舞台ではライアンらの護衛や、カインとの同盟のおかげで、後ろに引っ込んでいても大丈夫だった。
出会った他の人間はみな多少なりとも怪我、もしくは疲労しているのに自分は肉体的にはまったくの無傷、大した疲れもない。
すでに半分以上が死に絶えているというのに。これは奇跡的なことだといっていいだろう。
だが、今護衛はいない。五感も元に戻った。魔法屋にいたはずのイザたちは、いつの間にかいなくなっていた。
ライアンやアリーナには真正面から戦えば勝てないだろうし、カインはライアンを格下と言い切った。
残っているゲームの参加者にはさらに強い連中もいる。
そして、悪いことに動かせるような駒は一つもない。
27心を覗いたものは手痛い反撃を受ける 2/5:2007/06/02(土) 04:44:49 ID:/+RnhA/00
とにかく、無駄に時間の過ごすのは避けるべきと考え、アイテムの使い方や立ち回りを再考。
机の上に支給品を広げる。
適当に店に入り、商品を手にとって調べる。イヴァリースと文明レベルはほぼ同じ。いや、むしろ多少遅れているかもしれない。
ちゃんとした材料さえあれば、ポーションを変質させ、衝撃を受けることで回復の効果を巡らせられるように加工できるのだが、
ないものねだりをしても仕方がない。

キンパツニキヲツケロというメモがあることを耳にしている。キンパツとやらはおそらくはカインのことだ。
厄介なものではあるが、知らぬ存ぜぬで通すことも出来るし、いざとなればサイファーあたりに押し付ければいい。
逆に、上手く利用すれば役には立つかもしれない。

現在いる場所はカナーン。盆地内へは谷を除いて出入り口はない。この谷で待ち伏せている連中がいるのは容易に想像できる。
通らないほうが賢明だろう。この地方にも一箇所は旅の扉は出現するはずだ。
また、この地方は唯一海に出られる。
持ち物にはももんじゃの尻尾とカヌー、そして時計がある。海の上でギリギリまで粘るという選択肢もあるが、
潮に流されて陸から離れて時間切れでは話にならない。実行するにしても、最後の手段だ。
ペンはペン。少しだけインクは残ったが、ペン以上でも以下でもない。
インパスの指輪をしても未だに使い方がよく分からない灰は保留。

草薙の剣はそのまま使えるとして、問題なのが皆殺しの剣だ。
ライアンに聞いた簡単な説明によると、これは呪われた武器であり、
相手が誰だろうが、たとえ身内だろうが殺したくなってしまう危険な代物なのだという。
が、一般人でも、それこそ子供でもその衝動を抑えることは可能らしい。
ただ、衝動を抑えようとすると他に気を向ける事が出来なくなるので、その間無防備になってしまうというわけだ。
一方で、本人と同調してしまえば狂戦士と化してしまうとのこと。使いどころに困る代物だ。

一つ気付いた事がある。この皆殺しの剣を初めとする呪われた装備品は、手に取ると外せなくなってしまうという。
だが、朝方これを拾ったときはなんともなかった。
「呪われているわけじゃないのか?」
インパスの指輪を付けた手で触れ、調べてみる。
突如、アルガスの脳裏に映像がなだれ込む。
28心を覗いたものは手痛い反撃を受ける 3/5:2007/06/02(土) 04:50:43 ID:/+RnhA/00
正面に見える美しき町並みと広大な平野。殺し合いの舞台であると忘れさせてくれるくらいの、のびのびとした風景。
向こうには、太陽の光を受けてきらきらと輝く湖、荘厳さを感じさせる古き塔。
さらに向こうに広がる、岬を覆い尽くす森林地帯の鮮やかな緑色との相乗効果もあいまって、絶妙な美しさを醸し出す。

舞台に立つ人間は四人。剣士風の男と太めの男、それに弓使い風の女一人。そして倒れている男。
いや、もう一人、剣を握っている騎士風の男がいる。
礼でもしようというのだろうか、それとも治療をしようというのだろうか、女は騎士風の男に近づいてくる。
騎士風の男が三人を襲っていた者を倒したのだろう。
だが、彼は女に近付くと、まるで呼吸でもするかのように、自然に剣を抜き、彼女を貫く。
女は何が起こったのかも分からず、崩れ落ちる。そのまま騎士風の男は太った男に肉薄し、一刀の元に切り伏せる。
剣士風の男はザックから何か出そうとしたが、慌ててザックを落としてしまい、狼狽している間に袈裟斬りにされ、倒れ伏す。
あっという間に四人分の死体が作られた。瞬く間に作られた。


「ッッッッ!!!!!!」
剣がテーブルから転がり落ち、机の上のアイテムが散乱、おもちゃ箱をひっくり返したような派手な音を立てる。

「くそッ、なんだ今のはッ!?」
指輪をはめた手で剣に触れたところ、殺人の場面を見せられてしまった。
知らない場所での出来事ではない。一日目の朝、灯台から目撃した場面だ。
だが、遠くから眺めるのと、間近に見るのとでは全然違う。
腰掛け、支給品の水を一人分飲み干す。冷や汗が止まらない。
29心を覗いたものは手痛い反撃を受ける 4/5:2007/06/02(土) 04:55:59 ID:/+RnhA/00

魔法の武具は普通の人間でも効果を引き出せるように作られている。
しかし、武具の中には魔法ではなく、怨念が込もっているものもあるわけだ。
侍のように怨念を利用できるものもいるのだが、大抵は装備者に害をなす。
インパスの指輪。アイテムを分析するだけでなく、魔力や念を覗き見る能力も得られる。
いや、念や魔力を覗き見る事が出来るから、アイテムを分析できるといったほうが正しいのかもしれないが。


皆殺しの剣の念は蓄積される。
深い森の中。日の光は届かない。そもそも太陽など存在しない。空の色は混沌。強い邪気と負の感情が立ち込める場所。
感じられるのは欲に塗れた人々の声と執念、それに伴う争い、金属音と悲鳴。そして、人体を切断する感触。
『くくくく……。それで いい。そうやって永遠に ころし合うが よい……』
地の底から湧いて来たような、魔女にも匹敵する恐ろしい声。魔王の喜びの声。
とある魔王によって作られた世界の、人々の負の感情に彩られた町で作られたこの剣は、
同じ時を何十度も何百度も彷徨い続け、数え切れないほど人間を斬り、魔王の念や人々の負の感情を受けてきた。
怨念の力、負の力は凄まじいものだ。
しかしそれでも、無差別な殺人を好まないなら、この剣はただの切れ味の鋭い剣以上にはなりえないのである。

アルガスには殺人への忌避、殺人への恐怖がある。この感情が存在する限り、剣に操られることはない。
しかし、もしこの剣と同調する人物の手に渡ってしまえば、その者はこの剣を手足のように扱い、そしてこの剣の手足となって、
その身が滅びるまで殺戮を繰り返すことになるのだろう。
一日目にこの剣を手にした、騎士風の男のように。
30心を覗いたものは手痛い反撃を受ける 5/5:2007/06/02(土) 05:06:37 ID:/+RnhA/00
それははたして、どれほどの時がたったころだっただろうか?
彼はようやく落ち着く。
だが、アルガスの表情が誰の目にも明らかに、変わっていったのだ。
その目に宿る光は、殺意でも凶器でも正義でもない。



「飲みすぎた、こんな時に…ッ! トイレは……」
がちゃん。がらがら。
立ち上がろうとして、椅子から落ちた。
腰が抜けてしまっている。

「くそッッ!!!」
イラつきが頂点に達し、容器を壁に向かって叩き付ける。
こぽかん、というなんとも小気味よい音が部屋の中に響いた。
「不愉快だ!!」

【アルガス(不愉快)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)皆殺しの剣 高級腕時計
     妖精の羽ペン
 第一行動方針:様子を見る
 最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在地:カナーンの街】
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/05(火) 16:13:36 ID:b1LKPN9f0
保守だよ
32名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/08(金) 07:50:12 ID:RTynfrNn0
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/09(土) 14:31:47 ID:EMjiXPCw0
保守
34痛みが教えてくれること 1/9:2007/06/10(日) 20:31:44 ID:B0bWXMnY0
「やあ」
声をかけてきたのは、笑顔だったか無表情だったか。
答えは梢の傘の下に広がる闇の中で、それは永遠に分からないだろう。
「会えてよかった」
なんでこんな場所でサックスに出くわすのだろうか。
戸惑いと疑問に対する論理的な思考をすっ飛ばして、直感的にルカは銃を構えた。
そうしないと、サックスが近づいてくるから。
近づいてきて、きっと――
だから闇に紛れて立っているサックスが動いたような気がしたとき、ルカは跳べっ、と身体に命令を下した。
判断を下したのは自分は直接戦わないとはいえ長く戦闘に関わってきた者のカンだ。
茂みへと身体を躍らせたルカは、さっきまで立っていた所をすごい速さで突き抜けていく槍、そしてサックスを見た。

頭の中でちょっと前の爆発と、サックスが結びつく。
「ハッさん……!」
押し込めていた嫌な予感が、抑えられないほどに膨れ上がっていく。
何故、一緒にいなかったのか。
改めての後悔、けれどそれよりもルカの内には自分が戻らなければ、という強い決意が生じていた。
ハッサンを助けるため、そして謝るために。
それは最悪の予想から目をそらす逃避であり、ルカ自身を行動させるための自責の強迫でもある。
しかし、少年はもう一つ、考えなければならないことに直面している。
さし当たってはっきり殺す気で突いてきた男、サックスをなんとかしなければならない。
気配なんて読めなくても、サックスが間違いなく体勢を立て直してまた攻撃してくるのは子供でもわかる。
だから、駆け出す――ふりをしていきなり反転し、狙いも付けずにウインチェスターの引き金を引いた。
響く発砲音。再反転するときに耳にした不自然な葉擦れの音では多分サックスの回避行動のものだろう。
結果は関係ない。追ってくれば反撃の痛い牙があるぞと、わからせればそれでいい。
あとはもう構うものかと後ろを振り返ることなく、ルカは木々の間を走り抜けていった。


35痛みが教えてくれること 2/9:2007/06/10(日) 20:32:41 ID:B0bWXMnY0
カッと、黒い炎が燃え上がるのを感じた。
火種となったのは鋭い発砲音。
遮蔽物を求めて木の陰へと身体をすべりこませながら、理不尽だと、サックスは怒った。
一突き、復讐して心を晴らす。心に受けた傷を、返す。
それだけだったのに、なぜ自分のほうがこうして身を隠さねばならない?
ともかく、ひとまず炎が揺らめく心を落ち着かせ、あの少年が使っていた武器のことを思い出す。
遠く離れた距離から相手を射抜く、機械。
射程は驚異的だが単発、さらに弓同様キッチリ命中させられるように使いこなすのは難しそうだ。
障害物の多い森、狙いを隠す闇。分析すれば恐れるような条件にはない。
少年ルカはそれを承知で森での遊撃戦にサックスを引き込む気か?
それはない、とサックスは即断する。
姿を消したルカがどこに向かうか察しはついた。
再び、衝動がサックスを駆け巡る。
突き動かされるように闇の中、少年の目的地へ向かって走り出す。
森の中、進んできた路を戻るだけだ。
ルカより先にたどり着くことさえできるような気で、サックスは少年を追った。




ハッサンを置きざりにして歩いた距離だけルカは懸命に走った。
バカだ、おれは。
その間中、ずっとそう繰り返す。
あたりの木の感じに見覚えがある気がする。ちょっと前、逆方向に通った気がする。
突然、懸命に動かしてきた足をピタリと止めた。
崩れそうになる膝を懸命に支えながら、呆然と立ち尽くす。
――本当に、おれは、バカだ。
自らの愚かさを愕然と呪いながら、ルカはその焼け焦げた塊をじっと見つめていた。
36痛みが教えてくれること 3/9:2007/06/10(日) 20:36:21 ID:B0bWXMnY0
「あまり走らせないで欲しいな」
サックスの声。それが背後ではない別の方向であることを察し、ルカははっと顔を上げる。
姿は完全に闇の向こうに隠れているが、確かにそこに憎むべき相手が潜んでいることがわかる。
大きな暗闇そのものを睨みつけ、ウインチェスターを構えた。
「爆発したんだ。……だから」
誰のこと、何のことを言っているのか、ルカにはすぐに理解できた。
目を滑らすとさほど離れていない距離、動かないハッサンの巨体がそこにうつぶせで横たわっている。
傷だらけで瀕死でも不思議と死ぬ感じじゃあなかったハッサンが、今は見る影も無い。
「嘘だっ!」
叫び声とともに再び激情込みの鋭い視線をぶつけ直す。
声から一歩遅れて、子供にはやや手に余る大きさのウインチェスターから再び音が響く。
今度は、闇の向こうからは何の反応も無い。
「ハッさんは動けなかったんだ! 動かなきゃ爆発なんかしない!」
「そうだったんですか」
ひどく冷静で、無感情な声だと感じられた。
構えたままの銃口の延長線上に槍を構えたサックスの像が見える気がする。
夜の森のひやりとした空気がゆっくりと張り詰めていく。
「なら、無理にでも動いたんですよ」
「違う! お前だ! お前がその槍でやったんだろ!」
あたりが急に沈黙する。刹那、すべてが緊張に張り詰めていく。
じっとりと汗ばみ始めた両手で銃に力をかける。息が少しずつ荒くなる。
命を賭けた立ち合い。
膨らんでいく重圧に蝕まれまいと耐えながら、闇の中のサックスを見極めようとする。
その時だった。
――サックスは左肩にダメージ。軽度の毒――
不思議な感覚が、闇の一角にサックスの像を結ぶ。同時に情報が流れ込む。
ルカにとっては何故かわかってしまった、としか言いようがない。
それは、見極めようとした気持ちが引き出したマテリアの能力。けれどルカには知る由もない。
不思議としか言えない感覚、あるいはハッサンが助けてくれているのかとさえ思えた。
ともかく、この情報がルカの敗北の未来を救うこととなる。
見破ったサックスの姿は銃口の延長線より外れた――ルカにとって予想外の――位置にある。
槍先はしっかりとルカの居場所を指してその命に狙いを付けているようだ。
37痛みが教えてくれること 4/9:2007/06/10(日) 20:38:57 ID:B0bWXMnY0
自分とサックスの差というものを実感し、ルカは攻撃より回避を即断していた。
間髪おかず、またもサックスの半歩先を制して右へ身体を投げ出す。
その傍らを、闇から現れた恐ろしく速い突進が突き抜けていった。

体勢を立て直しながら、闇から薄明かりのある場所へ現れたサックスを見る。
見た目にはわからないものの、
あんなに速い突きを繰り出せる人とは別人のようにぎこちなく(それでも、遅くはないが)
片腕で槍を旋回させるサックスの動きが、不思議な情報の正しさを証明するようだった。
「戦いの緊張感に負けていない。そして二度までも僕の攻撃をかわしてみせた。
 君もただの子供じゃない、ってわけか」

長台詞を聞きながら、ルカは反撃のタイミングだと、思った。
攻める側ならここは相手を休ませず攻撃し続けて押すポイントで、
あんな科白を吐きながらルカに思考と行動の時間を与えているサックスは、
それだけまだ自分を子供だと甘く見てくれているのだろう。
構え、狙い、引き金を引く。身体に与えようとした命令は放り捨てられていく槍を見て中断した。
肩を怪我しているといってもあれだけ強烈な攻撃ができる武器なのに?
理由を見つけられなくて、この意外な行動に驚いたルカは一連の戦いで初めて後手を踏んだ。
気付けばサックスは再び闇に身を沈めていた。
息を呑みながら闇に警戒を向けるルカの脳裏に、イメージが閃く。
――サックスは左斜め前方。毒により緩やかに体力減少中――
先ぶくれの変わった棒を持ったサックスの姿を察知して、ルカはそちらへ顔を向けた。
その顔面を、岩や肌の硬さとは異なる不思議な硬さの衝撃がかすめていった。
押されてのけぞり、視界がぶれる。
何をされたのか分からない。
分からないまま、同じ衝撃が今度はしっかりとルカを捉えた。
重心が崩され、両足は体重と衝撃の合成力を支えられない。
口の中に血の味が広がるのを感じながら、銃だけは決して離すもんかと指に力を込めた。
38痛みが教えてくれること 5/9:2007/06/10(日) 20:40:18 ID:B0bWXMnY0
音を立てて地面を滑り、摩擦の痛みが肌を刺す。
必死に立ち上がりながら、ルカは危険を感じながらサックスを探した。
このままじゃ危ない。あいつはどこだ?
――サックスは左。冷気属性は吸収――
答えるように不思議なイメージが湧く。
今度は、迷いない動きのつもりで把握した位置へ向け銃を持ち上げ、一気に引き金を引く。
いや、引こうとしたその動きは中断を余儀なくされた。
形としてはウインチェスターの銃身で衝撃を受けた格好になり、
腕、肩と伝わるブレが容赦なくルカのバランスを崩していく。
そこへさらにあの妙な硬さの衝撃――いや、風?が殴りつけた。
さらに崩れ落ちるのを許さず、立て続けに同じ攻撃がルカの身体を叩いていく。
痛みと混乱の中、それでもルカはサックスの位置を問う。
――サックスは正面。炎属性は半減――
見開いたルカの両目が、確かに闇の向こうから手にした棒を振るうサックスを見つけた。
その身体を、真正面から風の塊がえぐる。
そんな攻撃、アリか? なんだよ、それは?
ちょっと待てよ。待てって。
「待てって……いってる、だろ!」
じっとサックスを睨みつけたまま腹の底から声を出して、無理矢理に怒鳴った。
何故だか、不意に攻撃が止まった。


39痛みが教えてくれること 6/9:2007/06/10(日) 20:42:49 ID:B0bWXMnY0
風の乱打を浴びている少年の眼光と視線が合い、その少年ルカが叫んだ、それだけのはずだった。
その一瞬、右腕ひとつで猫の手ラケットを振るっていたサックスの身体が、
喝を浴びたように、視線で射すくめられたように固まる。
サックスの攻勢がそれで中断し、森の中には一時静寂が戻る。
予想外の事態にわずかに狼狽しつつサックスは固まったまま数度呼吸を繰り返す。
始まり同様、唐突にその拘束は解けた。
「本当に……君は何だ」
運動能力、反射神経、戦士としての身体の完成度には大きな差がある。
それなのに、大きく隙があるとも思えない槍での一撃を二度、ルカはかわして見せた。
ならばと威力こそ劣るものの取り回しと連打の速さに勝る猫の手ラケットでの攻撃に切り替える。
実力差の通りルカはこれを避ける事はできなかったが、
しかし今度は何らかの力でサックス自身を止めて見せた。
「無駄な抵抗を。…………槍だったら一度で済んだのに」
冷たい心に、ふつふつと黒い炎が浸食する。
目の前の少年は、正当に自分に復讐を遂げられるべきなのだ。
なのに無駄な抵抗をするから、こんなにも気分が悪いじゃないか。
サックスはラケットに両手を沿え、大きく振りかぶる。
「どうして僕が、こんなに嫌な思いをしなくちゃならない?
 どうしてみんな、僕の望まないほうへ変わっていく?」
それから感情をぶち当てるようにルカへ向けて一息に振り切った。
片手で使っていたときより大きな風塊が放たれ、ルカの身体を吹き飛ばした。
40痛みが教えてくれること 7/9:2007/06/10(日) 20:43:57 ID:B0bWXMnY0
勢いで二度バウンドして、ルカの身体は焼け焦げたハッサンであった塊にぶつかり止まる。
倒れている二人の姿をひとつの視界に認め、サックスの気分は晴れていく。
燃え上がった炎は影に戻り、元通りのさっぱりした気分を取り戻しつつあった。
あと、一刺し。
ハッサンの腕に乗り上げるようにうつぶせているルカが立ち上がれないことを確認し、
放られていたビーナスゴスペルを拾い上げる。
「会えてよかった」
右腕に槍を抱え、にじりよりながらサックスはかすかな笑顔を見せた。
どこかでその瞬間を待ち望んでいた自分が、姿を見せている。
心に導かれるように、槍の刃を少年へと運んでいく。
ルカを見下ろすように立ったとき、サックスには得もいえぬ優越感が到来していた。
――実力に差があるゆえの、油断。
バネ仕掛けのように顔を向けたルカの強い視線がサックスを射る。
その傷だらけの顔は、笑っていた。
差し上げるように伸ばされたルカの手、その指に鈍い輝きがある。
後悔するより早く、今度は不思議な力に囚われることなくサックスは身を翻した。
その背後から、爆風がサックスを突き飛ばした。



手も足も、自分の身体じゃないみたいにひどく自由が利かない状態。
その時、人の肉が焦げた嫌な臭いと指先に触れた希望、いや覚悟の感覚が、ルカの意識をつなぎとめていた。
サックスが、倒れて動けなくなった自分にとどめを刺しに来るだろうと予想はできた。
慎重に、残る全力を込めて指輪を引き抜き、自分の指に移し変える。
その間、今になって動けないハッサンの気分が身をもってはっきり理解できた。
とにかく悔しくて、無念――そして、あとからあとから死ぬことへの恐怖が湧いてくる。
このまま怖いとか絶望とかに飲み込まれてしまえばイルの気分も体験できるのかもしれない。
だが、諦めない。
この男、サックスなんかには負けたくない。その気持ちがルカを焚きつける。
嫌な思い? 思い通りにならない?
おれだって――誰だってみんな、同じだよ。一人で不幸ぶるな!
41痛みが教えてくれること 8/9:2007/06/10(日) 20:48:11 ID:B0bWXMnY0
ちゃんと答えてくれる不思議なイメージが、サックスの位置を教えてくれる。
距離が離れるとダメだから、チャンスは1回きり。
タイミングを計って振り返った視線の先、能面みたいな表情が歪むのが見えた。
しかし、ルカにはサックスの表情など気にする余裕なんか無い。
ただ、感づいたのか身を翻していく、それはわかった。
構うもんか、狙う必要なんかないんだ。このまま、指輪をした手を、叩きつける!

…………
……数分後。
ルカは、全身激痛の中にあった。
ぬるいダメージではない。今度は本当に、動く気にもなれないくらいに痛い。
どうやら、サックスを倒すことはできなかった。
不思議なイメージが教えてくれることには無傷で逃れることもできなかったようだが。
そして今、愉快な戦闘結果が告げられる。
――サックスは『逃げだした』。近くには存在しません――
ルカは笑ってやろうと思ったが、それさえも痛くてままならない。
けれど一人で不幸ぶって他人を傷つける奴に負けなかったことは嬉しくもあり、誇らしくもあった。
ただ、悲しいこともある。
呪いの爆発は、ハッサンの身体も吹き飛ばしてしまったのだ。
……ハッサン。
体験してみて、ハッサンがどれだけ恐ろしい呪いに耐えていたのか知ることができた。
同時に瀕死でも死ぬ感じがしなかったわけもわかった。
こんな爆発を何度も体験して、それでもまだ誰かのために駆けつけようとしたハッサンは本当に馬鹿だと思う。
「ごめん、よ……ハッさん」
言えなかった言葉を、虚空に向けて何とか搾り出した。
しかし、その相手はもう身体すらこの世に残っていないのだ。
自然に涙が溢れ、頬を伝って地面へ流れ落ちていく。
ルカは、今はそれを拭うこともできない。
けれど―――
生き延びてやる。そして、ハッサンの仇を取る。
木々の間から星を見上げるその眼には確かに、強靭な意思が受け継がれていた。
42痛みが教えてくれること 9/9:2007/06/10(日) 20:49:57 ID:B0bWXMnY0


サックスは、苛立っていた。
動くには支障は無いものの、身体にはいくつもの傷が増えている。
相討ち狙いの行動に気付かなかった自分も腹立たしいが、
何よりも一度見下した相手に思わぬ反撃を受けたことが気分を晴れなくしていた。
ずっと、そうだ。
リルムのときも。
レオンハルトのときも。
あの2人に見捨てられたときも。
…フルートのときも。
すべては常に望まない方向に進み、自分は常に失い続けてきた。
この身体の痛み、そして心の痛みが精神の奥で暗い炎を灯し続けている。
そして、進み行く時間に望まれぬ故に過去を取り戻せ、と教えてくれている。
復讐を果たしたというのに晴れない心を引きずり、
暗い炎に魂を浸食されながら、サックスは故郷へとゆっくり、ゆっくりと歩いていた。

【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 ねこの手ラケット チョコボの怒り 拡声器
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在地:ウル南部の森→ウルへ】

【ルカ (瀕死)
 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ
 満月草 山彦草 雑草 スタミナの種 説明書(草類はあるとしてもあと三種類)
 E:爆発の指輪(呪)
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 第二行動方針:仲間を探す/呪いを解く
 最終行動方針:仲間と合流】
【現在地:ウル南部の森】
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/14(木) 09:50:13 ID:8k4ALy2g0
香ばしいスレだな・・・
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/17(日) 19:51:08 ID:GcW0967t0
ほしゅ
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/21(木) 17:46:46 ID:L40fmxYLO
保守
46ケフカ=パラッツォの実験 1/8:2007/06/24(日) 17:46:03 ID:MLHUyoRy0
被験者・ライアンの場合

どこを走っていたのかさえ分からなかった。
何を疑っているのか? 何に臆病なのか?
「拙者は臆病者ではござらぬ!」
迷い歩く精神と肉体を立ち直らせるべく繰り返し繰り返し呟く。
そして、私は信じられぬ相手を見たのだ。
月の光があるとはいえ夜、だというのにはっきりと細部が認識できる。
魔族の甲鱗、爪、牙、鋭い眼光。醜く変貌した五体を持つその者の名は、デスピサロ。
戦慄する。
引き連れているのは魔族の従者であろうか。
何ということか、彼とこのような形で再会することになろうとは!
だが、私とて勇者殿の仲間。この場面、この出会い、怯み、逃げるときではない。
「おおおおおっ!!」
鼓舞する如く、気合の咆哮をあげる。剣を振りかざし、倒すべき敵へと突進する!

いつかと同じように、手にした刃を舞わせて私とデスピサロは打ち合う。
小癪なことに従者に手出しをさせぬのは、1人とたかをくくっているからか。
負けられぬ。
邪悪を打ち倒し、必ずや世界に平穏を取り戻さねばならん!
「拙者は勝たねばならぬのだ!」
腕を、足を切り飛ばし、その腹を貫く。頭を叩き潰し、その目を穿つ。
デスピサロとの死闘を断片的に思い出しつつ丹田に力を集め、両足で大地に踏ん張る。
切り返し、自分に向かって来る剣を受けようとした腕の感触が、不意に消えた。
眼前の、デスピサロの顔が歪んでいく。笑っているのだろうか。
いや、変わってゆく?
47ケフカ=パラッツォの実験 2/8:2007/06/24(日) 17:48:23 ID:MLHUyoRy0
痺れたような頭が徐々に正気を取り戻し、痛みが強くなる。その場に立ち竦む。
だが、その大地が、消えた。
「なんとっ!?」
沈む、沈んでいく。
地の底へ引き込まれるように私の体が闇へ沈んでいく。
理解不能の出来事への混乱と恐怖が私を蝕み、闇はただ見る間に私を飲み込み続ける。
「ピサロ殿っ、拙者は……無念!」
たちまちのうちに、私の全身が穴へと呑まれていた。続いて私の五感も、闇に塗りつぶされた。



実験協力者・ピサロの場合

すべてが唐突であったとしか、言い様がない。
大地が描くゆるやかな起伏の一つを越えた先に、その男・ライアンはいた。
まずは、どう応対するかを考えた。
考えを難しくしているのは自分の背後にいる、長身の魔王と二人連れでいる道化・ケフカの存在だ。
ライアンは剛毅かつ朴訥な戦士であり、常識的に魔女に煽動されようもない男である。
しかし単純ゆえにケフカのような策士・道化に簡単に騙されてしまいそうなタイプでもあろう。
またロザリーのことを知ればさらに関係をややこしくしかねない。
どうすべきか。
48ケフカ=パラッツォの実験 3/8:2007/06/24(日) 17:52:05 ID:MLHUyoRy0
結局考えはまとまるより先に私は天の村雲を抜き放つほか無かった。
絶叫と共に、猛り狂ったライアンが猛襲してきたからだ。
「知り合いだ。手を出すな、貴様ら!」
事態をややこしくしないように、まずは後ろの連中の介入を制する。
しかしライアンの太刀筋は実に速く、鋭く、強く確実に私の命を絶つことを目的に襲い来た。
幾つか斬撃を捌き――切り結ぶ拮抗の中、ようやくのことで私はライアンの異常の原因に気がついた。
目の奥にある妖しい輝き。
俗に言う「混乱状態」。ライアンは今、歪んだ世界を見、歪んだ頭で考えている。
わかれば対応策はある。痛覚で覚醒を促す…要は一撃、適度にダメージを与えてやればいい。
その程度ならば、後ろの連中の手を借りずともできる。
というより他の三人にそういった手心を加えるという気遣いは期待できない。
自分でやるほかないだろう。
考えつつ、気合の絶叫とともに盲目的に切り込んでくるライアンをあしらう。
刃同士をぶつけ合い、隙を窺う。チャンスまで、手加減できそうもない。
突然ライアンの動きが鈍ったのは、その数度の打ち合いの最中。混乱の影響か。
すでに、手加減なく放たれた天の村雲を止めることは叶わなかった。
刃が露出した肉に食い込み、手に固く握った剣ごとライアンの腕が身体を離れ飛んでいく。
それでも幸いといえるだろうか、痛みによって自分へ向いた攻撃の手が止まった。
やや間合いを離し、私も構えを解く。

その時だった。
突然ライアンが膝から崩れていくように見えた。
すぐに、そうではなくライアン自身が地面へ、
いや地面に開いた夜の闇より暗い黒の大穴へ引き込まれているのだと気付いた。
為す術なく異変を見守るほか無い。
すべてはごく短い時間の出来事。
私がすべてを悟ったのは、あっけなく時が過ぎ去った後のこと。
無念の一言を残したライアンも、地面に開いた闇の穴も、すでに完全にどこかへ消えていた。


49ケフカ=パラッツォの実験 4/8:2007/06/24(日) 17:53:14 ID:MLHUyoRy0
傍聴者・ロザリーの場合

ここはポケットの中――風も吹かない布の牢獄です。
ほこりっぽい狭い空間で、柔らかい壁にもたれながら小さなわたしは物思いにふけります。
一時の混乱からようやく落ち着きはしましたが、気がかりは晴れません。
距離はとっても近いのに、心は逆に離れてしまった気がします。
どうして、ピサロさまがイザさんを殺さなければいけなかったのでしょう。
そばにいたい気持ちに嘘偽りはありません。
でも、わたしがいることで逆にピサロさまが殺気立っているのも真実でしょう。
どうすればいいのか。答えなんて簡単には出ません。

身体に感じることのできた振動が止まりました。
その原因を思い当てるよりも先に耳に飛び込んでくるものがありました。
『おおおおおっ!!』
ポケットの中まで聞こえてきたのは勇ましく、そして恐ろしい雄叫び。
背中がぞくり、と寒くなります。
さらに、ピサロさまが他の方々を制する声が続きました。
ぶつかる音、動く音。
ピサロさまが戦っているのです。また、誰かを傷つけてしまうのでしょうか?
50ケフカ=パラッツォの実験 5/8:2007/06/24(日) 17:54:57 ID:MLHUyoRy0
急に予想していなかった近い場所からの声がありました。
『…あれは不要でしょう?』
どういう意味か、わかりませんでした。とにかく冷たい囁くような声です。
ケフカさんがそう言ったのだと気付くまで、時間がかかったほどです。
それきり近い距離からの声はありませんでした。
いや、なにかあったのかもしれません。けれど、それどころではなくなったのです。
『拙者は勝たねばならぬのだ!』
かなり興奮が混じっていますが、雄叫びと同じ声。
悲しいことにわたしにも声の主が判別できたのです――ライアンさんのものでした。
それでは、外ではピサロさまとライアンさんが戦っているのでしょうか?
なぜそんなコトになってしまっているのでしょう?

やがて、剣がぶつかる音が止み、それからあたりはまったく静かになりました。
ライアンさんの――おそらく末期の――声が耳の奥に貼り付いて離れてくれませんでした。



実験施行者・ケフカの場合

いやいや、オマエは不思議だとは思いませんか?
何がだと? 凡人はボクちんの素晴らしい話を黙って聞け。
で……そうだ、首輪の性能の話ですよ。
こいつはボクちんの首にもついていることを除けばホントに面白いアイデアですねえ。
どうやら機械と魔法の技術融合の産物のようですが、
実際どれくらいの性能なのか調べてみたいなんて思いませんか?
そこらに気絶したロックや筋肉ダルマなんかが落ちてると丁度いいんだがなあ!
まあ、賢いボクちんはチャンスなんて滅多に見つからないのはわかっていますがね。
51ケフカ=パラッツォの実験 6/8:2007/06/24(日) 17:56:22 ID:MLHUyoRy0
ところが、やっぱりボクちんは選ばれた人間だ。
こんな危なそうな連中に斬りかかってくるとち狂った男が現れるんだから。
ピサロのヤツが何か言っているようですが、何だ、あの体たらくは?
優しいボクちんは考えるのです、手伝ってあげましょうねぇ……っと。

「…あれは不要でしょう?」
ザンデのヤツに聞いてみました。言い訳……おっと、理由ってのは大事なものだからな。
無言というのがシャクだがまあ黙認するというのだろう。
まったく、笑みを押し殺すのがタイヘンだったよ!
いや、楽しい!
なんせ堂々と実験ができる機会なんてそんなにあるものじゃないからな。
さあ、何がいいかな?
衝撃を与えてフッ飛ばしてみようか?
解呪実験でも試してみようか?
いや、そうです。ピサロの知り合いらしいから今回は探知機能を探ってみよう。
五体無事のまま次元の狭間送りでも『死んだ』ことになるのかな?
魔女の発表が楽しみになりますねえ。
ヒャヒャッ、じゃあ、「デジョン」だ!

52ケフカ=パラッツォの実験 7/8:2007/06/24(日) 17:57:48 ID:MLHUyoRy0
実験・アフター

デジョン。空間転移の魔法。移動先を定めず無作為に放てばその相手を次元の狭間に落とす。
結果として、ライアンは剣を握る右腕を残しこの場から消え去った。
当然、ピサロは余計な手出しをしたケフカに詰め寄った。
「敵に回る知り合いなら手早く片付けて欲しかったですねえ。
 ボクちんは時間をとられるのは良くないと思って手を貸したんですが。ねえザンデ?」
もちろん、ケフカは自ら張った予防線どおりザンデの賛同を確認する。
話をふられ視線が集まる中、長身の魔王は二人を無言のまま見下ろした。
そうなった時点で、ピサロは引き下がらざるを得ない。
人質同然のロザリーのことを考えずにはいられなかったし、
ザンデは理由はどうあれ自分(の目的)に手向かってくる相手を許すようなタイプではないのも理解できる。
それは立場・状況が変わればピサロ自身にも備わっている、百歩譲っても備わっていた冷酷さだ。
その上残った結果は「狂った男が急襲し、敗北した」それだけで。
この一団では中立に近いマティウスでさえこの事実認識は大きく外れまい。
弁護すべき相手がもう消えてしまった以上、事を荒立てる利は皆無だった。

「カナーンへ、急ぐぞ」
何事もなかったかのように、ザンデが再出発を指示する。
もやついた気持ちを抱えたままのピサロに、マティウスが声を掛けてきた。
同時に、『右腕』が差し出される。
「遺品だ。……詮索はしない。お前が好きにすればいい」
ライアンが遺したもの。一振りの剣と、指にはまっていたリングが1つ。
受け取った腕からはまだ、ぬくもりのある血液が雫となって地面に吸い込まれていく。
ピサロは遺品を収め、自らの呪文によって腕を氷漬けにする。
それからできあがった氷塊ごと、地面に突き立てた。
永久に、とは望むべくも無いが、立派な氷の墓標ができあがる。
「礼を言う」
見届けて駆け出すマティウスの背中にそう一声かけ、ピサロは三人を追った。
53ケフカ=パラッツォの実験 8/8:2007/06/24(日) 17:58:38 ID:MLHUyoRy0
【ピサロ(MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 黒のローブ 命のリング エクスカリパー
 第一行動方針:ロザリーの扱いに目を配る
 第二行動方針:カナーンでアリーナを探す。ザンデ・ケフカを強く警戒しつつ同行】
【マティウス(MP 1/3程度)
 所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) ソードブレイカー 鋼の剣 ビームウィップ
 第一行動方針:カナーンに向かい、ゴゴの仇(アリーナ2)を討つ
 基本行動方針:アルティミシアを止める
 最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
 備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ザンデ(HP 4/5程度)
 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について)
 第一行動方針:マティウスの協力を取り付ける
 第二行動方針:ケフカとピサロの衝突を抑える
 第二行動方針:カナーンへ向かいアリーナを探す。可能ならば首輪を奪う。
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【ケフカ(MP2/5程度)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール 魔法の法衣  アリーナ2の首輪
 第一行動方針:「こいつらをできるだけ上手く利用する方法」を考える
 第二行動方針:「こいつらをできるだけ楽に殺す方法」を考える
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ロザリー(小人、悲しい) 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ
 第一行動方針:?
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:カナーン北の平原】

【ライアン 行方不明(死亡?)】
【残り 44人】
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/06/28(木) 17:37:33 ID:EhEVWOmJO
あげ
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/03(火) 21:18:26 ID:yLR9ojg50
ほす
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/06(金) 08:20:21 ID:nc4YZBLwO
保守
57暁より、或る風に寄せて 1/5:2007/07/09(月) 05:17:13 ID:FY6baWvJ0
風の音が聞こえる。体を吹き抜けていく風は冷たく、頬を撫でる草はくすぐったい。体がぶるっと顫えてしまう。
「ん?」
辺りの喧騒に目を開く。まず目に飛び込んできたのは、星輝く空と、その空をさぁっと流れていく雲、そして赤く輝く月。
記憶の糸を手繰り寄せる。サラマンダーと名乗る赤髪の男と交戦し、井戸に突き落とされ、無我夢中で魔法を放って。
「誰かが助けてくれたのか……」
一瞬夢だったのかとも思ったが、肌に冷たい濡てた衣服が、あれは現実だということを物語る。
すぐ傍には一匹の利発そうな犬がちょこんと座っている。
起き上がると、村が燃えていることに気付く。なんで村が燃えているのか。
直後に耳に入ってきたのが、雷でも落ちたかのような轟音、そして魔物の咆哮。
炎に照らされ、巨大な姿が見える。あれはブオーンという魔物に間違いない。

自分が行ってどうにかなるのか、という考えも一瞬浮かぶ。
何故か傷は完全に塞がっているが、水の中にて失った体力は戻っていない。
が、だからといってここで指をくわえて突っ立っているのは我慢できない。
村に向かおうとしたとき、突如犬が吠え出し、ピアスが鳴り始めた。
何事かと思って後ろを向くと、騎士風の男が見える。
男も、こちらに気付いたのか、向かってくる。
58暁より、或る風に寄せて 2/5:2007/07/09(月) 05:18:13 ID:FY6baWvJ0
「こんばんは」
騎士は両手を頭の上に上げ、語りかける。
「敵対する気はありません。僕はサックス。あなたは?」
サックスは淡々と語りかけ、ヘンリーはそれにひどく違和感を覚えた。
後ろからは風に乗ってぼうぼうとものが燃える音が聞こえてくる。
犬はサックスを見て低い唸り声をあげている。

「ヘンリーだ」
質問には答える。腹の底で何を考えているのか分からない。
ただ、サックスという名をどこかで聞いた覚えもある。
犬は相変わらず唸り続けている。
サックスはどこ吹く風といったように犬を無視し、抑揚の無い口調で質問を続ける。

「ヘンリーさん、ですね。僕は森を抜けたところであの炎を見てやってきたのですが、
 一体何が起こっているんですか? それと、あなたはこんなところで何をしているんですか?」
「巨大な魔物が村を襲っているらしいが、何が起こっているのか詳しくは分からん。
 俺のほうはなんでここにいるのかも分からん。襲われて、井戸に落とされて、気付いたらここにいた」
「なんですか、それ」
「なんですかといわれてもな。誰かが俺を助けてくれたんだろうが、当人はいないし、
 気付いたときにいたのはこの犬一匹さ」
「はあ…」

サックスがあらためて村のほうを眺める。サックスの表情が僅かに翳り、ため息をつく。
「俺は今から村のほうに向かう。あそこにまだ仲間がいるかもしれないしな」
そう言って、動き出そうとして、ふと足を止める。

「そういえばサックスとどこかで聞いたと思ったんだ、エリアの仲間だったな」
「……エリアに会ったんですか?」
「ああ、昨日の夜から一緒に行動している。お前のことも少し聞かせてもらったよ」
「ということは、今は村に?」
「ちょっと前までな。無事に逃げてくれていることを祈ってるよ」
59暁より、或る風に寄せて 3/5:2007/07/09(月) 05:19:49 ID:FY6baWvJ0
ハッサンとルカを殺し、故郷の村のほうへ進んできた。森を抜け、初めに見たのは故郷が燃え上がる光景。
この世界は架空のものだと言い聞かせても、もう自分には帰る場所すらなくなってしまったのだと思わずにはいられない。
それでも進んでいくと、男と犬を見つけた。村から逃げてきたのか、村に火をつけた張本人なのか。
最初は殺そうかとも思ったが、相手は見た感じでは万全、一方で自分は体力をかなり失っている上に体の毒がまだ取れていない。
そこで相手の様子を伺った。
ヘンリーというこの男は村の中にいたらしいが、どうも答えが曖昧だ。
警戒しているのだろう。少なくとも、彼が連れている犬はあからさまに敵意をむき出しにしている。
が、少し話していると、この男はエリアと共に行動していたということが分かった。
このままだとエリアに会うことになるだろう。さて、そうなったときどうする?

……自分はエリアに命を救われた。それは事実。でも、だからこそ自分は生き延びないといけない。
……この命を繋ぐために、死んでいった仲間のためにも、自分は最後まで生き残らないといけないのだ。
そう言い聞かせる。


さて、この男自身は信用に足るか? 否。
ゼル、リルム、ルカ、ハッサン、アルス、フリオニール、カイン、それにギルダー。自分は数々の裏切りを見てきた。
彼らが何を考えていようとも、彼らのとった行動は自分にとっては裏切りでしかなかったのだ。
初めて会う人間などとても信用できるものではない。いや、ここにいる人間はもう誰も信用など出来ない。
口ではいくらでも上手いことは言える。今なら、イクサスの気持ちも少しは理解できるような気もする。

では、この男は利用するにはどうか? 
今話した様子では、この男には何人もの仲間がいるようだ。
怪我をしている様子が見られないというのは、それだけ強いか、回復魔法が得意な仲間がいるということ。
毒に先ほど受けた傷、これ以上無理をするわけにはいかない。
なら、一時的に彼らの仲間として身を潜めるのがよい。
幸いにも、この男は自分のことを知っていて、なおかつさほどの警戒はしてはいない。
ゼルやリルムとはまだ会っていないのだろう。それは幸運だった。
60暁より、或る風に寄せて 4/5:2007/07/09(月) 05:22:27 ID:FY6baWvJ0
「僕も行きます。エリアがずっと一緒にいたというなら、あなたは信用できる人間でしょうから。
 ただ、僕らは負傷者や逃げ遅れた者の救助が先決でしょう。
 僕の故郷ですから、地理は正確に把握しています。何より、いくら手負いとはいえ、
 あんな怪物にバカ正直に挑んだところでどうにかなるとも思えない」
「ああ、そうだな」
ヘンリーは大規模な攻撃呪文も使えない。あの怪物を銃で撃っても、針で刺すようなものだろう。
戦いのことはリュカに聞いたことがある。残念だが、自分にあれと戦えるだけの能力はない。
「では、東から回りましょう。森がありますから、そこから村のほうへ入りましょう。
 まだあまり火は広がっていないようですし、井戸のところだけは開けているので、もしかしたら誰か避難しているかもしれません」

犬が必死に吠える。まるでそちらに行ってはいけないとでも言うかのように。
「悪いな、確かに危険だが、行かずにはいられないんだよ。
 この糞ゲームで一緒に生きてきた仲間だからな。
 それに、向こうも俺のことを心配してるだろ。顔ぐらい見せてやらねえとな」

犬はその言葉をどう理解したのか、唸っていたが、突然サックスに向かって体当たりを仕掛けた。
だが、それに反応したサックスは水鏡の盾で見事に受け止める。
しかし、渾身の体当たりだったのだろう、弾かれて尻餅をついてしまった。
「あいたた……」
「おい、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ちゃんと受け止めましたから」
「お前、一体どうしたんだ?」
未だに唸る、いや、すでに戦闘態勢に入っているようにも見える犬に尋ねる。
といっても言葉は通じないのだが。

犬の代わりにサックスが答える。
「やっぱりあの怪物を本能的に怖がっているんじゃないですか?
 それか、飼い主からヘンリーさんを動かさないよう命令されているとか。
 僕がヘンリーさんをあの怪物の連れて行こうとしているように見えたんでしょう」
犬が身を翻し、南の森のほうへ駆けていく。
「そう…か、そうだな」
違和感をしまい込み、自分を納得させると、ヘンリーは風のように遠ざかっていく犬を見送る。
61暁より、或る風に寄せて 5/5:2007/07/09(月) 05:23:47 ID:FY6baWvJ0
アンジェロはサックスから僅かな血の臭いを嗅ぎ取っていた。
それも嗅いだことのある臭い。きっとハッサンのものだ。
サックスが危険な男なのは明白。なのにそれを伝える手段がない。
意思疎通が可能だというのは、どれだけ便利なことか。
もしかすると倒せないかと強引にサックスを攻撃したが、防がれてしまっただけ。
どんなに吠えても、攻撃しても、無駄なのだろう。
それに、ハッサンたちに何が起こったか。嫌な予感がする。いや、もう彼らは…。
とめどなく湧き出る不安を抑え、アンジェロはルカたちのもとへと風のように駆けていく。



【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 ねこの手ラケット チョコボの怒り 拡声器
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 第二行動方針:ヘンリーたちの仲間にもぐりこみ、利用する
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【ヘンリー
 所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【現在地:ウル南方の草原地帯→ウルへ】

【アンジェロ
 所持品:風のローブ
 第一行動方針:ルカ、ハッサンの元へ行く】
【現在位置:ウル南方の草原地帯→ウル南の森へ】
62名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/12(木) 19:03:08 ID:LZVeSOEl0
ごめんね、保守だけ
63冒険のお話 1/7:2007/07/15(日) 06:52:43 ID:9HjMD1xx0
「みんな、準備はいい? ここのぬしはどんなやつだろ?」
初めて見た旅の扉。そこに広がる、広くて深い異世界。今までとは比べ物にならない深さ。
深さはぬしの強さを表す。今度のぬしは相当強いに違いない。
ごくりと唾を飲み込む。それはヘルードも、グレンザも、ゴルゴも同じ。
最下層へ続く穴は、何よりも黒く、底がないように見えた。
仲間と手をつなぎ、勇気を出して穴へと飛び込む。

飛び込んだ先は深い闇。真っ暗。何も見えない。
「暗いな。みんな、俺から離れるなよ」
すぐそこにいるはずの仲間に手を伸ばす。その手は空を掴んだ。

「あれ? お〜い、みんな、どこ行ったんだよ? こんなときに冗談はやめてよ」
返事はない。耳を澄ませると、聞こえるのは複数の息遣いだけ。
直ぐ隣には誰かが倒れていて、その隣にも誰かが倒れていて。それが延々と続いていた。

警戒しながら辺りを見渡すと、やはり暗闇だけがあったが…いくつかの気配を感じる。
恐らくは…他にも数人が起きていて、自分と同じように警戒しているのだ。
いつの間にか、明かりが付いた。
ただその明かりはとても小さく、蝋燭の様に儚く、そしてどこか冷たいものだったが。そして。
「ようこそ、選ばれた選手達よ…!」
64冒険のお話 2/7:2007/07/15(日) 06:53:28 ID:9HjMD1xx0
その存在は、絶対的な力と悪を持っていた。それこそ自分の存在など、一瞬で消されてしまうような。
壇上に何かが積み上げられているのに気付く。
それは、ヘルードの、グレンザの、ゴルゴの、そしてタイジュで放牧していたはずの魔物たちの変わり果てた姿。

信じられない光景に足取りはおぼつかなくなり、よろけて、倒れる。
正面から目をそらすと、その先にわたぼうや、わるぼうの背中が見えた。
(いや、大丈夫だ。わたぼうなら……)
「ねえ、わたぼう…」
こんな状況でもわたぼうなら、わたぼうならきっとなんとかしてくれる。
そう思って、わたぼうの肩に手を置く。途端に、彼の頭が吹き飛んだ。


「わたぼうッッ!!」


「テリー! どうしたッスか!?」
とても慌てたような声が聞こえた。
辺りはまだまだ暗い。暗いけれど、命の気配も感じられる。
すぐそばに温かみを感じる光。周りにはギード、ティーダ、アーヴァイン、ロック。
ギードは叫び声で起きてしまったようだが、他の三人はもとから起きていたような感じもする。
そういえば、ティーダとアーヴァインの顔が腫れている気がする。
とにかく、魔女なんていなかったし仲間の死体もなかった。
65冒険のお話 3/7:2007/07/15(日) 06:55:06 ID:9HjMD1xx0
「ううん、大丈夫。とっても怖い夢を見て…」
その夢を思い出してしまうのか、言葉に詰まる。
普段なら脅かすなよ、の一言で終わるところだろうが、状況が状況。
みな、いつどんな悪夢を見てもおかしくない、荒んだ心。
誰も彼を責めることは出来ない。

「まさか、また誰かが助けを呼んでいるとか、そういうヤツ?」
「ううん、ロザリーお姉ちゃんのお祈りじゃなくて、ただの夢だと思う」
「そう…」
それならいいんだけどと言いかけるが、テリーの体が震えているのに気付き、グッと飲み込む。

「まだ夜は長いけど、眠れるかい?」
「怖くて眠れそうに無いんだ。もうちょっとだけ起きててもいい?」
「では、わしも起きておくとしようか。見張りも代わろう。そろそろ真夜中も過ぎたころじゃろ」
「ギードはもう大丈夫なんスか?」
「年をとると長くは眠れなくなっての。怪我のほうは大分よくなったわい。
 お主らも、若くて元気なのは結構じゃが、眠れるときに眠っておかんと後々大変じゃぞ」
「全くだよな、真夜中までギャーギャー騒いでたら近所迷惑だっての」
(ロックだって人のこと言えないじゃん)
「アーヴァインくん、何か言ったかな?」
手をグッと握る音が聞こえてくる。
「じゃあお休みー!」
「ふわぁ〜……やっぱりお言葉に甘えさせてもらうことにするッス」
アーヴァインに気を遣ってはいたものの、ティーダ自身はまともな睡眠をまったく取っていない。
一応眠ったふりだったはずのアーヴァインも、本当に寝息を立てている。
66冒険のお話 4/7:2007/07/15(日) 06:56:04 ID:9HjMD1xx0
「まったく、眠れないんじゃなかったのかよ…。ちょっとはこっちも気遣えっての」
「なに、つらくなったらまた代わってもらうわい。ワシの体のことなら心配はいらんよ。
 お主もゆっくり休むといい。明日も頼りにしておるからの」
「あー、俺としても眠りたかったんだが、あいつらのおかげで目が覚めちまった」
熟睡している二人を横目に、水分を補給する。
二人の若者が寝静まって、あたりにまた静寂が訪れる。

「テリー、おぬしはこのまま朝まで起きておくのか?」
「眠れなくてさ。寝たら夢の中にまた魔女が出てきそうで……」
「じゃあ、なんか話すか? 見張りってのも結構暇なもんだしな」
「どんな話?」
「そうだな……」


テリーとロックが話し出す。
「ええっ、一人で100人以上を足止め?」
「ああ、俺にかかれば帝国兵の100人や200人、ちょろいもんだ。逃げるのには苦労したけどな」

二人とも、冒険好きなだけあって、話すことには困らない。
「これが魔石ってやつ? なんだかあったかいね」
「バハムートの魔石だな。幻獣の中でも最強クラスだ。他にもミドガルズオルムの魔石があるらしい」
「ふーん、………出て来い、バハムート!」
「おいおいおい!! ……一瞬肝が冷えたぞ。召喚なんてむやみやたらにするもんじゃない。もうこれは終わりだ」
「え〜〜」
67冒険のお話 5/7:2007/07/15(日) 06:58:14 ID:9HjMD1xx0
相変わらずあたりは静か。聞こえるのは虫の声と風の音だけ。
「異世界ねえ」
「うん、穴に落ちたら次の異世界に進めるんだよ」
「世界に大穴が開いてるのか?」
「うん、何故か入るたびに形が変わるんだ」

誰にも邪魔されず、二人の話が続く。
「モンスターの言葉が分かるのか?」
「うん、俺はマスターだからね」
「ドゥドゥフェドゥみたいなわけわからんやつの言葉もか?」
「どどへどぅ? なにそれ?」
「知らないか? 有名なモンスターなんだが。じゃあエドガーに教えてもらうといいぜ。あいつの城でいっぱい飼ってるからな」

ギードは、まるで保護者であるかのように二人の話に静かに耳を傾ける。
「異世界となると、見たこともない財宝が山ほどあるんだろうな」
「でも、一番下にいるぬしを倒さないと異世界からは戻れないんだよ」
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/15(日) 07:04:31 ID:hgvfIj/20
69冒険のお話 6/7:2007/07/15(日) 07:27:17 ID:9HjMD1xx0
話を聞いていて、ギードはふと考える。それは、テリーの冒険していた異世界のこと。
(この世界、テリー君の言う異世界とやらによく似ておらんか?
 世界にあいた穴……別次元、いや、無への入り口のようなものか?
 それによって繋がれた何重もの異世界…。
 ならば、最下層には世界を統べるぬしの存在?
 そうなると、魔女の居場所はもしや?)

まあ、結論を出すには時期尚早といったところ。
まだまだ情報量は絶対的に不足している。
だが、世界の謎、首輪の謎を解くカギは案外参加者の体験の中にあるのではないか。そう思える。

「イル ルカんしゅしゅ?」
「イルルカンカシュだよ。言いにくいがそういう種族名なんだ」
「変な名前のモンスターが多いなあ。俺ならもっとナイスな名前をつけてやるのに」
「例えばどんな名前だ?」
「ん〜〜、C・Jr?」
「……」
70冒険のお話 7/7:2007/07/15(日) 07:28:56 ID:9HjMD1xx0
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
 所持品:フラタニティ 青銅の盾 理性の種 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
 第一行動方針:待機
 第二行動方針:サスーンに戻り、プサンと合流
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、身体能力低下、一部記憶喪失、軽症、右腕骨折、右耳失聴)
 所持品:竜騎士の靴 ふきとばしの杖[0] 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3)
 第一行動方針:睡眠中
 第二行動方針:ティーダが消えない方法を探す/ゲームの破壊】
【ロック (軽傷、左足負傷、MP2/3)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証
 第一行動方針:テリーと話す
 第二行動方針:ピサロ達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/3、残MP1/3ほど)
 所持品:首輪
 第一行動方針:見張り
 第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(軽傷、右肩負傷(8割回復)
 所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
 第一行動方針:ロックと話す
 第二行動方針:ルカ、わたぼうを探す】
【現在位置:サスーン南東・山の中、森との境付近】
71名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/18(水) 00:15:26 ID:E67izjZl0
ほ・守
72空回りの深夜:2007/07/20(金) 05:32:55 ID:U41FS4sc0
「ふう………」
完全に炎に包まれた宿屋を前にしてため息をつく。
それが安堵のためなのか、それとも出鼻を挫かれたためなのかは分からない。
宿屋まであと少しというところで、エリアが赤髪の男と金髪の女に背負われて助け出されたところを目撃したのだ。
エリアの顔は名簿で確認した。背負われていたのは彼女に間違いない。
彼女らは井戸のほうへと向かっていた。ならば、エリアのほうはもう心配ないだろう。
サックスやカインから聞いた、赤髪の男がいたのが気になったが、
まさか自分で助け出しておいてからわざわざ殺すようなバカもいまい。
それよりもちょっとの間とはいえ、緑髪の男の傍から離れてしまった。
アンジェロがちゃんと見張っていてくれていると思うが、少々心配だ。戻ろう。
途中、ふと怪物のほうを見ると、顔に真っ白のレーザーが直撃していた。
マッシュの仕業だろう。その後、大きな地響きがした。

「ふう…」
平原の真ん中で小さなため息をつく。
寝かせておいた緑髪の男の姿はなく、アンジェロの姿もない。
死体も血の跡も争いの痕跡もないから、誰かに殺されたということはないのだろうが、一体どこへ向かったのか。
南へ逃げたということはまずない。ウルにいる連中の仲間なら村へ向かうか留まるかするだろうし、
逆にやつが殺人者ならばやはり今の村へ向かって逃げ遅れた連中を殺害するだろう。
怪物は地響きを立てて倒れたが、仕留めたのかは分からない。一方で、村のどこかにはあの緑髪の男、いなくなったアンジェロ。
今ここに留まっておく意味はない。では、どこへ行く?

【スコール
 所持品:G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 吹雪の剣、ガイアの剣、エアナイフ、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、ひそひ草
 ヘンリーの武器(キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ)
 アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)
 第一行動方針:臨機応変に動く
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウル南方の草原地帯】
73名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/22(日) 13:27:19 ID:nLiEyVJe0
74名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/25(水) 18:45:49 ID:M68gtECh0
ほしゅのみ
75山中での戦い 1/8:2007/07/26(木) 02:24:56 ID:cbFaModU0
カインとウネ。双方動かない。相手が動くのを待っているのだ。
「………仕掛けてこないのか?」
「先攻を譲ってあげてるんじゃないか。年寄りの厚意は素直に受けるもんだよ」

本来、魔術師相手ならば魔法を唱えさせる間を作らず連続攻撃で畳み掛けるのが定石。だが、それを阻むのがこの地形。
階段状に切り立った崖に、ところどころ突き出したような足場。移動に気を取られ、相手の魔法の餌食になってしまう可能性がある。
相手は見たこともない風の魔法を使ってきた。
すでにウネは魔力を高めている。無策に飛び込んで、いきなり魔法に巻き込まれるなどは避けたい。
ちらと下界を見る。カナーンに見える炎の勢いは衰えない。
(この分なら、向こうが先に動くだろう。お手並み拝見といこうか)

どういう理由でゲームに乗ったのかは分からないが、カインは仲間のうちに入り込み、頃合を見計らって裏切る危険な人物。
説得は通じない、いや、説得を理由に仲間に入り込み、裏切りを実行する可能性がある。だから説得など考えず、ここで倒すべき。
普通の戦士なら、遠くから魔法を連発して倒してしまえばいい。
だが、相手は竜騎士。前後左右に加え、上下の動きもある。どう動くかを見定めるのは容易ではない。
それに相手の装備。出来のよいミスリル武具は対魔防御があるという。
エアロ程度では話にならないが、かといって最上級の魔法では詠唱中に近付かれてあとは接近戦だ。
派手すぎるので、距離によっては相手を見失ってしまう可能性が高い。
「面倒な相手に当たったもんだ。どうしたもんか」
ちらと下界を見る。カナーンに見える炎の勢いは衰えない。
(まあ町のほうも後始末が大変だろうし、なら先に動かせてもらおうかね)
速攻で勝負を付けられるように、そのための魔法を紡ぐ。
76山中での戦い 2/8:2007/07/26(木) 02:28:00 ID:cbFaModU0
「まずはそちらのお手並み拝見といこう」
「先手必勝とはよく聞く言葉だけどねえ、なら先に行かせてもらうよ」

ウネがなにやら呟いた後、こちらに指を向けてくると、自分の周りに青く薄い光が集まり、透明な直方体が為される。
行動封じの魔法か。もしくはライブラ。どちらにしろ、くらえばロクなことがない。
ミスリルの盾と篭手で保護、そのままガラスのような直方体を打ち破って外へ出る。
魔法を使った直後だ、大した攻撃は来ないと思っていたが、それは間違い。ブリザド系統とはまた違う、吹雪の魔法での追撃。
「詠唱が速いな…。何か特殊なアクセサリでも着けているのか?」
盾で吹雪を防ぎ、近くの足場へ華麗に着地。もう一度地を蹴り直し、今度は一気に本体を狙うが、先ほどまでいたはずの老人の姿がない。
ここは不規則に岩の飛び出た崖の中腹。ほぼ空中と言い替えてよい。
前後左右に加え、上下からも攻撃を受ける可能性がある。敵は…どこだ?

相手は動かない、今上位魔法を使ってもおそらくかわされるだけ。ならばまずは自分を強化すればいい。
そして相手の戦闘力が分かれば対策も打ちやすい。
カインに指を向け、ライブラの魔法を使うが、これはかわされてしまった。
カインがジャンプし、こちらへ向かってくるが、想定済み。
吹雪……魔法を覚える前から使えた、種族特有の技で迎撃する。
激しい吹雪が辺りを白く染める。こちらからは姿が確認できないが、それは向こうも同じ。
ならば今のうちに有利な場所を陣取っておくのがよいだろう。
テレポで頭上の足場へと移動。相手は自分が先ほどまでいた場所で、キョロキョロしている。
(さっさと終わらせることにしようか)
77山中での戦い 3/8:2007/07/26(木) 02:29:38 ID:cbFaModU0
「くそ、上か!」
「ようやく気付いたかい。ちょっと実力を買いかぶりすぎたのかねえ」

相手の行動は思った以上に速い。が、なんとか対応は出来る。
目にすら見えるほど圧縮された濃い空気が向かってくる。エアロガとかいう魔法だろう。
バックステップで避けるも、その空気の塊が自分のいた足場を砕いた。
衝撃で炸裂する石片が、凄まじい勢いで飛び散り、体に傷を作っていく。
たまらずにその場から跳び出し、ちょうど真上にいたウネを攻撃するが、ウネはまたも跡形もなくなってしまう。
「テレポの魔法か!」
相手は自分より斜め上空の足場に出現、常に自分より高いところに陣取ろうとしているようだ。
魔力が高まり、荒れ狂う白波が振動と共に押し寄せてくる。
「くそ、同じ魔法を何度も……」
足場は先ほどより丈夫。今度はミスリルシールドで受けるが、なにやら手ごたえが違う。
押されるような感覚ではなく、鋭い突きを盾で受けるような感覚。
頬を何かが高速で掠め、血がたらりと流れた。
「風の力で何か飛ばしているのか? チッ、厄介な真似を……」
弾かれて落ちた投擲物を見る。上手く表現できないが、金属の塊という印象を受けた。

エアロガの魔法。詠唱速度、消費魔力、威力共にこれが一番使いやすい。
本来は鳥よけに開発されたエアロを強化したもので、空中にいる敵にも強い。
予想通りの攻撃をしてくるカインを、テレポの魔法で避ける。
デジョンならばどこにでも出られるのだが、テレポは縦方向、移動できるのは45度〜135度の位置が限界。相手は斜め前下方。
「これでも使ってみようかね」
袋から鉛玉を取り出す。カナーンでカインが回収しなかった道具だ。圧縮した空気を掌に作り出し、そこに乗せて解放。
上手く操作は出来ない上に、さすがにミスリルを貫通することはないが、殺傷力は十分あることは確認した。
78山中での戦い 4/8:2007/07/26(木) 02:31:11 ID:cbFaModU0
「いい加減積極的に攻めてきたらどうなんだい? 臆病が過ぎるんじゃないか?」
「臆病ではなく、慎重だと言ってもらいたいな」

実際、特殊な攻撃ばかりで今は守勢に回らざるを得ない。
飛ばされてくる金属塊は普通に投げられたものよりはずっと速く、攻撃範囲もその量も桁違い。
盾で受け続けるのは厳しい。弾かれたり、割れたりしかねない。
攻撃の合間を見つけ、ジャンプで脱出、別の足場に着地。だが着地の瞬間、転倒してしまう。
まずいと思う間もなく、ウネが上から金属塊を放つ。
「!!!」
塊が左肩を抉った。さらに風の追撃。痛みをこらえ、咄嗟に転がり、下の段に落下。
空中で態勢を整え、着地しようとするが、そこにはテレポで移動していたウネの姿。
明らかに人のものではない、長く鋭い爪で串刺しにしようとしてきた。
槍の穂先を下に向ける。爪VS槍では、リーチの関係上槍のほうが先に当たる。
ウネは攻撃を引っ込め、回避行動。無事、着地できたが、その瞬間に殴りつけられた。
盾で受けるも、不思議な衝撃。数十メートル吹っ飛ばされてしまう。
だが、プロテスの魔法のおかげで衝撃は大幅に緩和され、なんとか持ちこたえられた。
(ただの魔術師なら、接近戦ではこちらが有利だと思っていたが……正体はモンスターか。直接攻撃も危険だな…)

カインは発射間隔の隙を縫い、ジャンプして場所移動。だが、そこは先ほどの吹雪で凍ってしまった足場。
いくら竜騎士でも、凍った足場に着地すればバランスが取れなくなる。今ぞとばかりに弾撃を叩き込む。
しかし、プロテクトリングに守られているためだろう、思ったほどの効果はないようだ。
カインは下へと転がっていく。ならば、落下場所で待ち構えていればいい。
テレポで下方に移動、落ちてきたカインを串刺しにしようとするが、相手は逆に槍で突き刺そうとしてきた。
これでは相手を串刺しにするより、こちらの腕のほうが先に破壊される。仕方なく回避。
相手が態勢を立て直す前にエアロを混ぜて殴りつけ、遠くまで飛ばしてしまう。
(なかなか決めさせてくれないねえ。さてさて、困ったもんだ)
カインは実力を見せていないというより、回避に全力を注いでいるよう。さっさと終わらせてくれそうにはない。
79山中での戦い 5/8:2007/07/26(木) 02:35:52 ID:cbFaModU0
「さすがに逃げに関しては一流だね?」
「フッ、まともに正面から戦うのはバカのやることなのだ。
 それに、ここで無理に決着をつける必要はないからな」

距離はある。今のうちに戦力を分析。
敵は主に白魔法と風系魔法の使い手らしい。直接攻撃力もかなりのものと見た。
だが、本当に厄介なのは速さ。行動そのものが段違いに速い。
後で動くのにこちらの行動に間に合い、高速で詠唱し、こちらの攻撃も当たらない。
(いくらなんでも速過ぎる、反則だろう。……いや、相手は白魔道士。もしや?)
ウネを凝視する。周りの景色と比べて、そこだけ違和感がある。
(フッ、そういうことか)

相手の守備の堅さは予想以上。思った以上に時間を食う。再び膠着状態。呼吸を整える。
何故ダメージがあまり与えられないか?
ミスリル装備が魔法攻撃の威力を大幅に削ぎ、プロテクトリングが物理攻撃の威力を大幅に削ぐ。
一度は追い詰めたと思ったものの、まだまだ相手には余裕があった。
一向に攻撃に回ってこないのは、実力を隠しているか、何か企んでいるか。
(ここで無理に決着をつける必要はない、ねえ……)
下界に目をやる。カナーンの焔は今なおこうこうと燃え盛っていた。
80山中での戦い 6/8:2007/07/26(木) 02:42:42 ID:cbFaModU0
「で、どうだい、あたしを正面以外から倒す方法とやらは見つかったかい?」
「さあな。色々考えてはみたが、無傷で勝つのは難しいだろうな。だが、要は負けなければいいのだ」
「おやおや、逃げるのかい?」
「逃がしたくないと思うなら、付いてくるのだな」

ジャンプしながら移動、それをウネが追ってくる。後ろ目にその様子を確認。
逃げるとはもちろん口実。ウネの状態を確認するのが目的。
あるまじき速さ、それなのにジャンプ幅や歩幅が移動速度に釣り合っていない。
まるでそこだけ切り取って早回しにしているかのような不自然さ。
(やはり、ヘイストか)
ヘイストの魔法。時の流れから己を切り離すことで倍速の動きを可能とする。
対象者本人からしてみれば周りの動きが倍速になるわけではなく、半分になるだけ。
時を操る魔法がどれくらい続くかということに関しては熟知している。
ジャンプのタイミングを見誤って一人だけ回復が間に合わないということは何度もあったからだ。
ジャンプの着地と同時に仕込んでいた機械を作動。
そして脚力を生かし強引に反転、ウネに向かって攻撃を仕掛ける。

「まったく、何を考えているのかねえ…。まさかこのまま本当に逃げるつもりじゃないだろうね?」
カインは突然逃亡、罠が仕掛けているのかと思ったが、仕掛けられるような間はなかった。
本当に逃亡し、作戦を練って不意打ってくるつもりなのかもしれない。それならば逃がすのはなお得策ではない。
一応プロテスをかけ、意図を掴みかねながらも追っていたところで、カインが不意に反転、攻撃を仕掛けてくる。
その速さはヘイストの効力を持ってしても捉えきれるかどうかといったほど。
先ほどまで防御一方だった相手のあまりに突飛で大胆な行動、そしてその行動速度に身体が付いていかず、初めて後手を踏む。
突き出してきた武器をかろうじてかろうじて回避。その柄を掴んで動きを封じる。
「!?」
エアロを詠唱しようとしたところで、武器を掴んでいた手から紫の血が垂れた。
槍での攻撃が来たのだと思っていたが、掴んだのは槍の柄ではなく、剣の刃。それも聖剣の一つである光の剣。
痛みに思わず手を離す。
81山中での戦い 7/8:2007/07/26(木) 02:44:25 ID:cbFaModU0
「少し反応が遅いようだな、老人」
「……ああ、あんたの本職がペテン師だってことを忘れてたよ」
「フッ、その減らず口もいつまで叩けるかな?」

加速装置。スイッチを入れることで、何倍ものスピードで走ることが出来るようになる。当然、その突進力も数倍。
だが、地上での戦いの際、この装置を使って攻撃を仕掛けたのにもかかわらず、ウネに槍の柄を掴まれ、動きを封じられた。
ならばそれを逆手に取ればよい。剣は専門ではないが、並の戦士程度には使える。
ひそかに持ち替えておき、ウネに突進、突き出すだけ。
地上での戦いと同じ動き。同じようにウネが武器を掴む。痛みで怯む。
ウネに掴まれた時点で剣に用はない。槍に持ち替え、そのまま中距離戦に持ち込む。
ここからはもう、こちらのペース。

カインの攻撃は途切れることがない。壊れかけた癒しの杖で受けるが、ヘイストの魔法が切れてしまっている。
攻撃の体感速度が先ほどよりもずっと速い。もう一度ヘイストを使おうにも、これはレベル6のかなり高度な魔法。
とても戦いながら使えるようなものではない。大体、そのレベルの魔法が使えるのならそれより先にテレポで脱出している。
対策を考えようにも、相手は攻撃の手を休めてくれない、肩を怪我している気配も感じさせない。
いつのまにか追い詰められている。もはや後ろは崖っぷち。槍が空を切った一瞬の隙に相手の懐に飛び入る。相手が盾を構える。
ここで詠唱。次の相手の攻撃が来る前になんとか無力化。
カインの口元が歪んだ。カチリという音。体の真正面から来る衝撃。響く金属音。吹っ飛ばされる感覚。地面がない。
だが、詠唱は完成した。吹き飛ばされながらもカインの姿を正面に捉え、呪文を放つ。
「トード!!」
82山中での戦い 8/8:2007/07/26(木) 02:48:53 ID:cbFaModU0
慎重に下界の様子を伺う。普通の人間ならこの高さから落ちれば助からないだろう。普通の人間ならば。
自分が普通の状態ならば、仮に生きていたとしてもすぐにとどめを刺しに向かえる。普通の状態ならば。
肌は両生類のぬるぬるしたそれへと変わっている。
白魔法の使い手がまさかトードを使うとは思いもせず、まともに受けてしまった。
カエルにされたことなど、旅の途中で何度もあった。今更狼狽することもない。
が、問題なのが下界にいくつかの人影が見えること。月明かりだけで遠目にも分かる銀髪に、屈強な男、そしてケフカ。
銀髪はおそらくレーベの村で出会った、危険な男:ピサロ。
また、今の状態でアルガスに見つかればどうなるだろう?
アルガスの言っていた四人は瀕死または死亡、となると用済みとばかりに始末されるかもしれない。
(仕方がない、一旦離れるか。追ってくることもあるまい。今日のところは休むとしよう)

「……………」
カインに盾で突き飛ばされ、ジェノラ山から下まで落下してしまった。
生きながらえているのは、さほど高い位置にいなかったのもあるのかもしれないが、
やはり自身の魔物としての生命力と、プロテスが切れていなかったおかげだろう。
だが、悪いことに、強大な気を持つ人物……カナーンで確認していた複数の人物がすぐ近くにまで来ているようだ。
体をほとんど動かせないため、誰なのか確認できない。
カナーンは心配だが、動けないのでは話にならない。
残り魔力は少ないが、回復にまわすしかない。

【ウネ(HP 1/10程度、MP残り僅か) 所持品:癒しの杖 マシンガン用予備弾倉×3
 第一行動方針:自分の回復
 基本行動方針:ザンデを探し、ゲームを脱出する
【カイン(HP1/4程度、左肩負傷、疲労、カエル)
 所持品:ランスオブカイン、光の剣、ミスリルの篭手 プロテクトリング 加速装置 レオの顔写真の紙切れ ミスリルシールド
     ドラゴンオーブ
 第一行動方針:警戒しつつ、休む
 最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:ジェノラ山の北部中腹】

カエルは旅の扉を越えた時点で確実に治ります。時間経過でも治るかも。
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/27(金) 15:33:14 ID:lgEifPEH0
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/28(土) 13:01:12 ID:RV85BcbE0
hoしゅ
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/30(月) 10:19:35 ID:f8+Q54/k0
保守
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/07/31(火) 02:52:34 ID:aI5fljF80
リメイク祭りに備えて保守
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/01(水) 13:26:24 ID:M253MvJ40
hoshu
88残像[AFTERIMAGE] 1/7:2007/08/01(水) 19:34:21 ID:X2lqzmkF0

力の乗った拳が、銀色の髪をした少年のこめかみにゆっくり押し当てられていく。
全身から集められた力の流れが、その拳から少年へと流れ込んでいく。
少年のバランスが崩れる。
不安定になった重心の代わりに拳が少年の身体を操り、ゆっくりと弧に巻き込んでいく。
途中から鋭く落ちる90度――拳と頭が描く弧が行き着く先は石の地面。
そして、インパクト。
熟れた果実が落下したみたいに、少年の果実からナカミが飛びしぶく。

拳の持ち主がわたしの方へと振り向いた。
ああ、『彼女』があいつの顔をしていたら、よかったのに。
残酷で乱暴で身勝手なもう一人のわたしが無邪気に笑っていたらこんな暗い気持ちにはならないのに。
でもそこにあるのは当然の結果だ、正当防衛だと言い訳がましい不敵に険しい真剣顔。
今のわたしにピッタリの、表情をしていた。




そこで場面は途切れ、一面の薄暗い石の壁が視界を覆う。
場面転換を感覚が追いかけ、痛みとだるさと倦怠感がごちゃ混ぜで身体の状態を報告する。
つぎに気持ちが、最悪な寝覚めを迎えたことを教えてくれた。

89残像[AFTERIMAGE] 2/7:2007/08/01(水) 19:35:28 ID:X2lqzmkF0

「よって、三人が迎撃に出、私が看病に残された。
 戦闘の結果として屋敷に火が放たれ、我らは地下室に避難して今に至っている」
「そう……なの。上はいま大変なのに――」
右拳を握ろうとして、筋肉の動きが痛みを生み無理を告げる。
左肩は、腕を振り回すことを許してくれるだろうか?
足や腹の傷は、わたしが戦うことを認めてくれるだろうか?
満身創痍、といってかまわない。
「傷を塞ぐことはできても失った血肉は戻らぬ。無理はするな」
両目はバンテージの下で傷跡しかないのに、察したクリムトが声を掛けてくれた。
見えないだろうケド小さく頷いてみせる。
自分の身体だ、自分でよくわかる。こんな身体じゃ、どうしようもない。
実際、気を失っていた間は(今もだけど)足手まといだったんだろうし。
ふぅ、っと息を吐き出す。それさえも傷に響いた。
「あの……」
「テリーは、死んだ。……彼を抑えられなかった私に責任がある」
心を読み取ったかのように、クリムトがそう言った。いや、吐き捨てた。
それは超越しちゃってると思ってたクリムトが初めて見せた感情混じりの言葉で。
そんな態度を見せられたらもうその話題には触れられない。
わたしはまた、薄暗い天井をじっと見つめた。


90残像[AFTERIMAGE] 3/7:2007/08/01(水) 19:36:11 ID:X2lqzmkF0

外はどうなっているのだろうか。みんな無事だろうか。
今すぐにでも加勢に行きたいけれど、身体が許してくれるはずもない。
どうしてこんな傷を負ったか。
テリーとの戦いの記憶が断片的にイメージとして甦ってくる。
――もし、戦っていたのがわたしじゃなくてあいつだったら?
答えを出さないほうがいいとは頭でわかっていても、どうしても比較してしまう。
――あいつだったら、最初から全力で殺しにいったはず。
  だから、いくらか軽い傷は負ったとしてもこんな怪我しないで勝っただろう。
  それだけじゃなくて、白いコートの彼もクリムトも、きっと殺した。
――それなのに、わたしは憎悪を向けてくる相手に対して迷って、迷って、この有り様。
  襲われた人、仲間を奪われた人……一体何人のテリーみたいな人が『アリーナ』を探しているのだろう。
  本当に、わたしは撒き散らされた憎悪を越えてあいつに勝てるのだろうか?

まるで、自分と分身の間に超えがたい力の差が、
とりわけ戦いへの真剣さのところで大きな差があるみたいに思えてくる。
必死に打ち消そうとするけれど、気勢も理屈も弱々しい。
こんなわたしが、本当にあいつを止められるのだろうか?
……できない、としたら。
わたしの、価値は?

『ないよ、そんなの。だいたい本物のアリーナはわたしなんだし』  

イメージに現れたあいつがそう言って、笑った。
勝利する自分の姿は、イメージできなかった。

91残像[AFTERIMAGE] 4/7:2007/08/01(水) 19:37:18 ID:X2lqzmkF0

増していく不安と絶望の合間で、わたしは強がっていた。
グダグダ悩むなんてわたしらしくないっ!
……なんて勢いだけの反論じゃ、マッチの灯りほども暗い気持ちを明るくできない。
全力で駆け出してあいつを探しに行けたらマシだったかもしれないけど、
……今は行動だって満足にいかない。
でも、負けを認めてしまったら、ここにいる目的さえ見失ってしまう。
ソロやライアンが頑張っているのに、わたしの行動は結果的に殺したほうが多い。
その責任を取らない、あいつを倒さないわたしなんて、存在してちゃいけないんだ。

追いつめて、思いつめて、押しつぶされる。
この時のわたしの心は本当に最低最悪の負のスパイラル真っ只中だった。
多分、一人でいたらきっとホントに心が折れちゃってたと思う。
けれど、わたしにはまだすがることのできる相手がいた。
何を見ているのかわからない、よその世界の賢者さん。
こんなに思い詰めて質問するのは人生で初めてだと、思う。
どう言ったら自分が望む答えにたどりつくかもわかんないけど、
思い切って尋ねる。

「ねえ、クリムトは――本当に、この世界がどうにかできるって……
 思う?」


92残像[AFTERIMAGE] 5/7:2007/08/01(水) 19:39:56 ID:X2lqzmkF0


「天の時、地の利、人の和」
わたしの質問に少しの間考え込んでいたようなクリムトは、やがて簡潔にそう答えた。
賢者みたいな人の言うことなんてそんなものかもしれないけれど、
わたしには質問にかみ合ってない答えに聞こえるんだけど。……わたしがダメなのかな、それは。
怪訝そうなわたしをおいて、クリムトが言葉を付け加える。
「されど……。天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」
ますます難しくてわからない。ブライあたりだったらわかるんだろうなあ。
クエスチョンマークを浮かべて悩むわたしにクリムトは微笑して、噛み砕いて言い直す。
「人が最も強き力を発揮できるのは、人の和――つまり団結をなし遂げたとき。
 希望は我らがひとつの気持ちにまとまってようやく掴める程度にはかない」
「みんなが仲間になれば、ってこと?」
「そうだ。人の和があってこそ天の時、地の利を活かす事ができる。
 私はその為に皆を導くつもりであった。
 ……だが、我が未熟ゆえにテリーを導けず、衝突を許してしまった」
はっきりとした言葉の端に無念が滲む。
こういう人が軽いことを言うなんて思ってないけれど、クリムトは本気でそう考えているのだとは肌で知れる。
けれど、だったら。
「でも、どうしても仲良くなれない人がいたらどうするの?
 昨日だって今日だって死んじゃった人はたくさん出た。それはみんなが戦うからで……
 つまりあの……わたしの分身みたいなヤツはどうすればいいの?」
「…………」
黙ってしまった、ってのはどういうことなんだろう。
でも何となくは、わたしにもその沈黙の裏でクリムトがぶつかっているだろう迷いを推測できた。
それはきっと、テリーと対決したときのわたしの迷いと同じものなんだ。
「それでも。――それでも私は人を傷つけようなどとは欲さぬし、己が道を曲げようとは思わぬ」
やがて沈黙を破ってクリムトはそれだけを呟いた。

93残像[AFTERIMAGE] 6/7:2007/08/01(水) 19:42:24 ID:X2lqzmkF0


相変わらずわたしの気持ちは暗いままだけれど。
一人で考えて一人で潰れてたさっきよりはましになったと思う。
クリムトが教えてくれた言葉――人の和――みんなみんなと仲間になること。
あいつを生み出したのは自分の責任だからって追いつめすぎていたのかも。
わたしたちの世界でのあの冒険だって、ソロや、ライアン、ブライにトルネコ。ミネアにマーニャ、クリフト。
みんながいたからできたわけで、わたしの力だけじゃない。

ぼーっと暗い天井を見上げながら、
あいつと戦うわたしのイメージのとなりに、ソロとライアンを描き加えてみた。
――なんだ、簡単なコトなんじゃない。
  どうしてわたし、忘れていたんだろう。
  強さの半分は仲間がくれる力だったんじゃないの。
二人の姿を消して、今度はそばにいるクリムトをイメージに参加させてみる。
人を傷つけたくないって言ってるクリムトを勝手に戦わせるのは悪いかなとも思うけど。
それでも立ち向かえる気になっていた。

劣等感、なんだろう。わたしが感じていたのは。
でも、もうそんな捻れた気持ちはない。
例え戦う力でわたしにあいつが劣っていたとしたって。
となりに、背後に、心の中に仲間とつながっていられること。人の和の力。
そのあいつには無い力で、きっと差は埋められるはずなんだ。


カンテラが淡く照らす天井がなんだかさっきより明るく見えた。
身体はあちこち痛くて大変だけれど。
多分数時間ぶりに、わたしは少しだけ微笑んだ。

94残像[AFTERIMAGE] 7/7:2007/08/01(水) 19:43:04 ID:X2lqzmkF0

【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部負傷) 
 所持品:無し
 第一行動方針:身体を休める
 基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明、HP2/3、MP消費) 所持品:なし
 第一行動方針:アリーナの回復
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・シドの屋敷の隠し部屋の奥】

95名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/04(土) 08:33:18 ID:qoCq7aFf0
ho
96マーダー・ライセンス 1/6:2007/08/05(日) 19:56:44 ID:mtwoXZDk0

何を期待していたのだろうか。
かつてともに戦った小さな黒魔道士に相対して、サラマンダーは自分を哂った。
勝利への飢え……
いや、敗北への恐れが心に染み付いたのはどの時点からだろう。
命懸けで戦って、戦い続けた先に自分の結末がある。
なんて思いつつも、全力を出し切れない――こんなのは自分のすべてではない――
そんなふうに言い訳をし続け完全敗北、つまり死の前に逃げ出してきたのは誰だ。


戸惑ったように自分を見上げる視線を感じる。
「ごめんね、ヘンな質問して」
気まずくなりすぎた空気を取り繕うように小さな腕を振り回し、謝る。
ごめんと繰り返し、少しでも仲間を疑った自分を責める。
どうしようもなく、その流れを断ち切りたくなった。
かつての仲間として、すべてを秘してビビと足並みを共にするか。
ここまで何人も襲撃し、戦ってきた真実をぶちまけてやるか。
究極的な二択の瞬間はここだったと、後で思い返すことはできるかもしれない。
しかしそのときのサラマンダーは、ビビにまで嘘をつくことを選び取れなかった。
言葉を発せずに2メートルの間合いを歩いて詰めていく。
縮まっていく距離、近づく戸惑った表情。
見せ付けるように、判断の余裕を与えるように、拳を握り身体にためを作っていく。
サラマンダーが出会った相手にそうしてきたのだと、理解できるように。
慌てるように目を丸くしたビビを見て、それでいい、と心中呟く。
ついに解き放たれた豪腕は、しかし避けようともしないビビを捕らえ、吹き飛ばした。


97マーダー・ライセンス 2/6:2007/08/05(日) 19:57:21 ID:mtwoXZDk0
素人ではない、何をされるかくらいは予測はできたはずだ。
なのに、ビビは僅かな身じろぎもせず拳に甘んじた。
それほどまでに自分が信頼されていることが、居心地悪く内なる怒りを煽った。
「サラマンダー………どうして?」
離れた位置に転がっていたビビが小さな声で言葉を吐きながら立ち上がる。
そこから、全力で反撃してくれたら。
相容れぬ敵として、向こうから決別してくれたらば。
けれど心の弱さがいだく希望は叶わない。
「ボクがヘンな質問したから……怒ったの? ……ごめんなさい」
冷静さが失われていくのがわかる。同時に心が引き裂かれていくのがわかる。
欲しかったのは決別。仲間との、ではない。自分とのだ。
駆け出していた。
ビビへとその力を剥き出しにして、拳を叩きつける。今度は容赦しない。
怯えた、しかし迷いのない両目と眼が合った。
二つの光が残像として残り、再びビビが避けることなく殴り飛ばされる。

助け合ってもこなかった。
自分で蒔いた種の責任さえ負っていない。
ビビがそんな自分さえ仲間だと思っていま身をさらしているのなら――
どうやって断ち切ればいい?
乱れた心が混乱し、くすぶる怒りがサラマンダーを駆り立てる。
「気が……済んだら。また、……いっしょに…」
ぞっとするほど明晰に、ビビの声が耳に届いていた。
サラマンダーの困惑した部分は動くのを止め、ただ激情だけが機械的に腕を振るわせる。
三度、拳がビビの身体を打ち抜いたとき。
「ストーーーーーッッップッ!!!」
聞き覚えある声が割り込んできた。


98マーダー・ライセンス 3/6:2007/08/05(日) 19:59:01 ID:mtwoXZDk0
現れた声の持ち主――リュックが駆け参じ、背負ってきたエリアを少女に預ける。
それから軽装のまま短刀と盾を手に自分とビビの間に来るまで。
サラマンダーは一言も発せず、身動きもせずただ見ていた。
「あんたっ、やーーっぱり悪いヤツだったのねっ!?
 こんな小さい子を殴るなんて……許せない!」
宣戦布告を投げつけ、タイミングを計って自分への攻撃が開始される。
少し前は互角の攻防ができたはずの相手に、今は押されているのが実感できた。
ナイフの切っ先が肌をかすめ、小さな傷を増やしていく。
それでもその差の正体と遂に正面から睨みあえてサラマンダーは満足していた。
リュックと、サラマンダーの差。
迷いの、有無。
心の、強弱。
彼女にその力を行使させるものこそが仲間というものなのだ。
それと戦うならば。
それを相手とするならば、負けて悔いの無い戦いができるに違いない。
錆び付いた心が、腕が、少しずつ磨がれて戻っていく気がした。
混乱し離散していた精神が少しずつ、この戦場へと戻ってくる気がした。
ぐあん、と鈍い音を立て反撃の一撃がリュックの盾を鳴らす。
ビビも参加してくれたらいい。ビビの仲間も参加してくれたらいい。
そうやって編みあげられる力こそ、自分を断罪するに相応しい。
敗北への恐れが溶けていく。戦いに、引き込まれていく。
この場所なら、迷うことなく力を振るうことができる。
闘志、殺意、情熱を身に帯びながら没頭していく。
解毒剤のビンを囮に投げ、相手を攻撃することに純粋な迷い無き一撃を振るう。
けれど、その手が掴んだものは――


99マーダー・ライセンス 4/6:2007/08/05(日) 20:00:07 ID:mtwoXZDk0
仲間を信じる、その決意ごと、サラマンダーのパンチがビビを吹き飛ばした。
ダメージと衝撃で飛びかけた意識が、しっかりと掴むものを探して戻ってこようとする。
どうしてこんなことするの、という答えを出したくない疑問と、
仲間を、サラマンダーを信じよう、という思い込むような信頼。
無意識下の二択において、ビビの小さな心は信じる道を選び取る。
見つめあえば――話し合えば――わかりあえるはず。
だって、ボクとサラマンダーは仲間なのだから―――
信頼はすぐに盲信へと変わっていた。
疑ってしまえば、もう二度と取り返しがつかなくなりそうで怖くて。
その純真さが余計にサラマンダーを困惑させ、心を荒立たせていることに気付かない。
三度パンチを身に受けて気絶するまで、ビビはひたすらに仲間を信じていた。
そして、信頼は変わることの無いまま、続く戦いの気配に呼び覚まされる。
ビビはただ、仲間を守るために二人の戦いの中へ飛び込んだ。



攻撃の線上に割り込んできた小さな影は、その瞬間呟いていた。
「サラマンダー、ダメ、だよ」
小さな声が骨に響いて全身に広がっていく。
引き換えに渡した攻撃のパワーはきっちり黒魔道士に伝わり、彼を弾き飛ばす。
背後にいたリュックが手にしていたナイフに引っかかるようにぶつかり。
異様な軌道を描いて、顔からビビは地面へと突っ込んでいった。
その軌道を目に捉えつつ、何が起こったのか、とわかっているはずのことを自身に問い直す。
腕に残った感触がその一撃の実在をありありと証明している。
そこから、サラマンダーははっきりと殺しの本質というものを想起していた。
殺害の一瞬に存在するのはただ実行するという意識だけであるということ。
それだけが殺人者であることを証明する心中のライセンス。
相手の命を打ち抜く瞬間に理由を求めるような者は殺人者としてあり続けることなどできはしない。
闘志、殺意、情熱に満ちたその一撃こそ、
サラマンダーが見失い、取り戻すことができなかった理想の一撃であった。
100マーダー・ライセンス 5/6:2007/08/05(日) 20:01:55 ID:mtwoXZDk0


対峙していた二人は凍りついたように止まっている。
いや、その空間・時間そのものが凍りつき、誰も動けなかったのかもしれない。
一分か、二分か。いやもっとか?
「や……もう、ほんっっっとうに許しやしなぁああ???……」
永遠とも思えた沈黙と膠着を破ったのはリュックだった。
けれど、その怒りの言葉に反応するように。
邪魔をするなといわんばかりに、うるさい音を消すためサラマンダーはカプセルボールを投げつけていた。
地面で破裂したカプセルから広がる粉を思い切り吸い込んだリュックがその場に倒れ伏す。
崩れ落ちて眠りに落ちた彼女の様子をしっかりと確認し、
それからサラマンダーはもう動かない――決定的に何かが欠けてしまった――ビビの方へ力なく歩き出した。
けれど。
「それ以上、動かないでください」
凛とした声が予想もしなかった方向から聞こえる。
滑る様に視線を巡らせたサラマンダーに対して
怯えきったターニアをかばうように、エリアが杖をかざして仁王立ちしていた。


101マーダー・ライセンス 6/6:2007/08/05(日) 20:03:25 ID:mtwoXZDk0
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP1/5)
 所持品:紫の小ビン(飛竜草の液体)、カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)
 第一行動方針:動揺+呆然
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?)】

【リュック(パラディン)(眠り)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 バリアントナイフ チキンナイフ マジカルスカート 薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:サラマンダーを倒す
 第二行動方針:エリアの安全を確保し、ソロ・バッツに合流する
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】

【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:なし
 第一行動方針:戦闘に恐怖
 基本行動方針:イザを探す】
【エリア(体力消耗)
 所持品:微笑みの杖 スパス ひそひ草
 第一行動方針:どうにかして三人を守る
 基本行動方針:三人を守る】
【現在位置:ウルの村・東南の井戸周辺】
※エリアはまだビビの死亡を認識しておりません。

【ビビ 死亡】
【残り 43名】
102パラメータ修正:2007/08/05(日) 20:07:08 ID:mtwoXZDk0
>>101のパラメータを以下のように修正します。すみません。

【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP1/5)
 所持品:紫の小ビン(飛竜草の液体)、カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)
 第一行動方針:動揺+呆然
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?)】

【リュック(パラディン)(眠り)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 バリアントナイフ チキンナイフ マジカルスカート 薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:サラマンダーを倒す
 第二行動方針:エリア・ビビ・ターニアの安全を確保し、ソロ・バッツに合流する
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】

【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:なし
 第一行動方針:戦闘に恐怖
 基本行動方針:イザを探す】
【エリア(体力消耗)
 所持品:微笑みの杖 スパス ひそひ草
 第一行動方針:どうにかして三人を守る
 基本行動方針:三人を守る】
【現在位置:ウルの村・東南の井戸周辺】
※エリアはまだビビの死亡を認識しておりません。

【ビビ 死亡】
【残り 43名】
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/08(水) 01:12:39 ID:h43wX8gD0
捕手
104名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/09(木) 13:57:06 ID:RuOOMWuB0
ho
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/11(土) 00:38:58 ID:KOYWHxZA0
しゅ
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/13(月) 03:13:11 ID:VVDaTE800
補修
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/16(木) 22:26:17 ID:eE81xg0X0
保守
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/18(土) 22:20:33 ID:G4TszQxf0
ここで、補
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/21(火) 17:02:43 ID:+x8lClrk0
110雷鳴が止むとき 1/10:2007/08/23(木) 19:16:15 ID:g3GOV7Ge0
【マッシュVSブオーン・前】

「こいつは、骨だな」
ダメージから判断するなら、虫の息。
けれど何か。そう、執念とも言うべき精神力がこの獣の命を繋ぎとめている。
ほとんど身じろぎさえしなくなった肉の塊に連撃を叩き込み、離れる。
ただひたすらにマッシュが繰り返す攻撃も、まるで効を奏しているように見えない。
「……先に俺の拳の方が音を上げそうだ」
いかづち降り止まぬ空を一瞬だけ見上げ、地面を蹴る。
わずかに逃げ遅れ、マッシュの身体を大電流が駆け抜けていく。
「っ!!」
苦痛は歯を食いしばって飲み込み、声に出さない。
バッツはソロを背負って助けを求める誰かのもとへたどり着けただろうか。
救いの手を、届けられただろうか。
俺達は同じ戦場で共通した敵、そう、理不尽な不幸、そしてとんでもない悪意と戦っている。
託した思いと信頼に、マッシュは送り出したバッツ達との連帯を感じとっていた。
いや、スコールとだって、この世界のどこかで同じ思いを抱えて抗っている誰かとだって。
そして狙いも何もなく、際限なく一帯を襲いあたりを火の海にしているこの雷を止めること。
それが今この時に自分に課せられている役目だと、気を引き締めなおす。
「ここはひとつ、やってやるか」
強靭な精神力を断ち切るには強大な攻撃力で生命とひとまとめに折り砕くほかない。
それが出来るのは何か?
そう、『夢幻闘舞』、自身最大の奥義に他ならない。

111雷鳴が止むとき 2/10:2007/08/23(木) 19:17:27 ID:g3GOV7Ge0

避けよう無く荒れ狂う音と光の中でマッシュは集中した静寂の中にいた。
森に、村に、草原に止むことなく降り続く稲妻の雨の下、精神を統一する。
すなわち奥義『夢幻闘舞』を繰り出す事を心に決め、全身全霊を傾けていく。
全身に気を漲らせていく。
すべての筋力を、体内のエネルギーを凝縮――そして、解き放つ!
「いっっくぞおおおぉぉらあっっ!」
次の瞬間にマッシュを狙い打った稲妻は代わりにその残像を打ち、地面を穿った。
影すら見えない速度が雷の雨を突き破りモンスターへと打撃の雨を見舞う。
二発、四発、八発……最大の速度で巨体の周囲を舞いながら最大の力を込めて拳を叩き込んでいく。
傷付いた肌をさらに破壊していく。
三十二発、六十四発……足元で、帯電し始めた地面がパチリと静電気で弾けた。
厚い肉がひしゃげる感触。
百二十八発……高速での躍動連打に、マッシュの身体もまた悲鳴をあげ始める。
硬い骨がきしみ折れる感触。
二百五十六発……越えたことのない限界へ近づき全身が停止を要求しだす。
それでも、稲妻は止まることはない。
ばかりかモンスター自身を狙い打つように密度と正確さを増した雷が諸共にマッシュを貫いていく。
「上等! 根性勝負、受けて断つ! 割れた大地に挟まれようとも……!」
肉体の抗議を無視し、速度を落とすことなく連打を放ち続ける。
五百十二発……もはや一人と一体を押し包む天から地への電気の流れの中でそれでも闘舞は終わらない。
「オレの力でこじ開ける! ッッけえぇぇーーッ!!」
千二十四発。全身の筋肉が千切れるような消耗。限界近い激闘の結末は……


112雷鳴が止むとき 3/10:2007/08/23(木) 19:20:22 ID:g3GOV7Ge0
【マッシュVSブオーン・幕間】

燃え盛る建物の間を走りぬけ、村の外れへ。
次第に空気を引き裂く音の塊との距離が近づいていく。
散発的に村や森に雷は落ち続けているが、その方向は明らかに光と音の密度が違った。
立ち上がる巨大な影は見えないが、倒すべき敵を求めかけるサイファーの足がぴたりと止まる。
「急いでんのによ。誰だ?」
白い光に照らされて浮かぶ、こちらへ駆けてくる人影。しかもまた誰かを背負った奴だ。
疲れているのか、傷でも負っているのかどうにも精彩を欠く走りだが、確実にある速度を保って近づいてくる。
向こうもこちらを確認したのだろう、必死さを帯びた声でこちらに呼びかける。
「そこの誰か、頼む! この向こうでマッシュって男が戦ってる!
 手を貸してやってくれ!」
「言われなくたってそうするつもりだぜ。そうか、お前らがソロとバッツだな?」
直感を口に出す。
なんで、とでもいいたげな戸惑った反応はそれが間違いでないと教えてくれる。
「心配するな、ターニアとビビは俺が助けといたぜ。エリアも大丈夫、
 合流地点は村の逆の外れにある井戸んトコだ、確かに伝えたぜ。
 じゃあ、俺は化物退治に急ぐんでなっ!」
一方的にしゃべり立てたあと、相手の返事も待たずにサイファーは再び走り出した。
ヒーローの活躍の舞台はもう、間近だ。

113雷鳴が止むとき 4/10:2007/08/23(木) 19:22:08 ID:g3GOV7Ge0

汚れてボロボロとはいえ雷光に映える白いコートの男を見送りつつ、
バッツは伝えられた情報をもう一度頭の中で反芻する。
エリア、ビビ、ターニアの三人は助けられた。
推測だが、今の彼と協力して三人を助け、さらに彼をこちらに送ってくれたのはきっとリュックだ。
レナとわたぼうがおそらくあの化物と戦って……倒れた以上、
この大襲撃前にウルにいた仲間の所在で確認されていないのはヘンリーだけになる。
彼への心配とひとつ問題がどうにかなった安堵がないまぜになって、バッツは暗い空を仰いだ。
続けて心の天秤が、ヘンリーを探しに行くべきか、
……それともマッシュと今の彼の援護に行くべきか、を選ぶように問いかける。
今の村からどこにいるかもわからないヘンリーを探すのは無理だ。
多分、ヘンリーは村ではなく少し外れた別の場所にいるんじゃないか。
きっとリュック達がヘンリーを助けてくれるはず。
まるで仲間を見捨てるかのような、『助けに行かない理由』が次々頭に浮かびバッツは激しく首を振りながら俯く。
自分は、やっぱりレナの仇を取りたいのだ。
マッシュに送り出されて一度は振り切った想いがその先の目的を失ったことで甦り、バッツは思い悩む。
その時。
後方、つまりバッツ達が来た方向で、白コートの彼が向かった方で、マッシュとあいつが戦っている方向。
その方角からひときわ強い、そして断続的な光が押し寄せてくる。
振り返ったバッツが見たものは、まるで滝の流れのように寄り集まり束となる雷、そしてできあがる光の柱。
猛烈に嫌な予感に背を押され、ソロの重さも感じずにバッツは惹きつけられるようにその光へと走り出す。
その手に握り締めていた石から、かすかな緑色の光が洩れだしていた。

114雷鳴が止むとき 5/10:2007/08/23(木) 19:27:23 ID:g3GOV7Ge0
【マッシュVSブオーン・後】

血腥さ、そして小さな脈動に気付き、マッシュは目を開ける。
「……おお」
夜空にそびえあがる巨大な影を消耗のためか動かない手足を投げ出したまま見上げる。
吹き飛ばされて途切れた記憶があの瞬間をフラッシュバックする。

あの瞬間。
まるで稲妻が寄り集まったような、異常な光の柱、
その光の中を貫いて、まるで大地が盛り上がるように巨大な影が起き上がった。
下から立ち上がる闇に吹き飛ばされるように下から霧散していく電気の白光。
まだ動けるのか――!
ダメージ量、奥義への自負、なのにまだ動く、というのはマッシュにとって余りに予想外。
それは挫けぬ心の魔力があってこそ為せる業、しかし誰が、こんなことを予想できただろうか。
超高速移動を伴う千を越える連打の末、限界を超えて消耗しきっていたマッシュに、
その攻撃でさえない一動作をもはや避けることはできなかった。
極限まで追い込まれた獣の力――いや、不条理な死に抵抗する生命の不屈の意地。
もはや予想する、見誤る、というレベルではない。

115雷鳴が止むとき 6/10:2007/08/23(木) 19:29:27 ID:g3GOV7Ge0
「はは、畜生、根性勝負はオレの負けか……」
あれだけの攻撃を受けてなお立ち上がる相手を、マッシュは素直に賞賛した。
やがて虚脱したままのマッシュを追うように、同じく全身全霊をかけて立ち上がったブオーンの巨体が倒れてくる。
不幸にも、意図せずその腕の片方がマッシュの上へと落下してきていた。
殺意も敵意もない、ただの大質量が落下する事象。
けれど一時的なものとはいえ全身の力を使い果たしたマッシュは動けない。
視界を覆い落ちてくるそれに、自分の最期を覚悟する。
「まったく、なんて根性のあるヤツだ、こいつは……話せたらいい友人になれたかもな」
すまねぇな、兄貴。ドジ――いや、それは『夢幻闘舞』さえ耐えたこいつに失礼か。とにかく、俺はここまで――
無念を告げ、目を閉ざし、そのタイミングを待つ。
けれど予想した瞬間を過ぎても死はマッシュに訪れない。
「マッシュ……だな?」
男の声がする。
「まだ意識があるか? だったら転がってでもそこを動け!」
目の前には、落ちてきた腕を剣で受け止めて支える白っぽい男がいた。
どこかで見たことがあるような――誰だったか?
あまり動かせない身体の代わりに脳を働かせようとしたマッシュ、しかし。
「くそ、重いんだぜっ! 畜生がっ!!」
こういう状態の人間にやることじゃないが、吐き捨てた言葉と同時に男に身体を蹴り飛ばされる。
追いかけるように白い男も飛び出し、轟音を立ててようやく腕が地面にたどり着いた。


116名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/23(木) 19:30:58 ID:rWE5nAH20
 
117雷鳴が止むとき 7/10:2007/08/23(木) 19:35:56 ID:g3GOV7Ge0
弱々しくも、拳を握ってみる。最低レベルを脱して少しずつ、力が戻ってくるのを確かめる。
「終わっちまったのか? ……また一歩遅れか?」
違う。遠くから聞こえる雷鳴はまだ止んじゃいない。マッシュと同じく奴もまだ、死んじゃいない。
閃光と音が同時に来る。近い。
「救出と撤収。……スッキリしねえな、暴れたりねえ、がとにかく」
白コート、白コート……そうだ、サイファー、だ。スコールの知り合いだった。
「おい、生きてるな? 動けるか?」
「ああ、心配ないぜ。サイファー」
「?? ……! お前……そうか、昼に! スコールの奴はどこだ? 何やってやがる、あいつは」
虚脱した身体に無理を言いながらマッシュはゆっくりと立ち上がる。
その目は、動かない、しかしまだ落雷を呼び続ける山のような巨体を見据えて。
拾った命なら、今度こそ必ず自分に課せられた役目を果たす、その一念を胸に立ち上がる。
118雷鳴が止むとき 8/10:2007/08/23(木) 19:37:32 ID:g3GOV7Ge0
「おい、人の質問を――っと!?」
「サイファー、預かっててくれ」
身に付けていた支給品の入った袋二つを投げ渡す。
「何しやがる!」
「エドガー=ロニ=フィガロという男にそいつを届けて欲しい。
 兄貴なら、このムカつく世界から脱出するための作戦をきっと考え出してくれるさ。
 頼んだ」
何を言っている、という感じに悪態をつくサイファーの声を聞かず、マッシュは一点を見ていた。
それは、さっきまでの闘いでは見えなかった急所。
少なくともブオーンの腕力と同等の力を要するが、くじけぬ不屈の精神力を持つこのモンスターを殺す方法。
そして、一対一、正々堂々の勝負から見れば――反則。
「サイファー」
「ああ?」
「誰かを助けるために戦ってきた。魔女と戦うつもり。そうだろ?」
「決まってんじゃねぇか。それがヒーローってもんだ!」
「はは、勇ましいやつだ。スコールなら南にいる。合流するといい。
 安心したぜ? 兄貴の代わりはいなくても俺の代わりは結構いるもんだ。
 ……俺の分も、しっかりやってくれ!」
「おい、何を……」
聴覚を断つ。呼吸を整える。狙いを付ける。
地を蹴って跳躍。一点へ、巨獣さえ拘束している死の首輪の一点へ、放たれた矢のように向かっていく。
「爆裂拳!」
不屈の精神、くじけぬ覚悟が、引き番えられた力を込めて機械の一点を打ち抜いた。
衝撃が、形容しがたい、規模の割に響かない軽い音を喚起する。

119雷鳴が止むとき 9/10:2007/08/23(木) 19:38:41 ID:g3GOV7Ge0
【マッシュVSブオーン・終】

白い光の柱が消え、化け物が立ち上がり、倒れた。
やがて闇の中でも比較的目立つサイファーの姿をしっかり認められるくらいの距離までバッツがたどり着いたとき。
獣のような俊敏な何かが、暗闇の中を走った。
手に握っていた石が眩いばかりの緑の光を放ったのはそれと同時。
ある方向へと放たれたその光の中に、妖精のような何かが姿を現す。
幻獣、召喚?
知識から当てはまる現象名を探す、けれどバッツには考える暇はなかった。
闇に映える空間を制御する魔力の閃き――そう、無の空間が発現するときに伴うのと同じ閃きがハッキリと見える。
その中に巻き込まれていくマッシュと、魔力の閃きに挑みかかる桃色の幻獣。
ほとんど間をおかず定められた空間の中で爆発が起こり、見た目にそぐわないひどく人を小馬鹿にしたような軽い音を耳にした。
「マーーッッッシュ!!」
絶叫するバッツは、爆裂の中へ消えるマッシュを救い出すつもりなのか、
異界の力にその存在を光の粒子に分解されながら飛び込んでいく幻獣を見た。
爆発が消え、山のような身体の一部が欠け落ちてようやく、首輪を爆発させたのだと気付く。
静寂が戻った夜闇に浮かぶように、桃色の小さな灯がその一角を照らし、消えた。
「マッシュ!」
金縛りが解けたように、慌ててその場所へと向かう。
同じく今の出来事を目撃していたサイファーが先にたどりつき、マッシュの様子を見ていた。
「……あの、マッシュは……」
「生きてるぜ、意識は戻ってないし右腕もない、がな。
 だが何だ? こいつの行動も、ピンクに光るG.Fもよ!? 何だってんだ!」
バッツは、はっと気付いたように手の石を見た。
緑色の光はかけらもなく、細かな欠片がその手から零れ落ちる。
召喚用の石だったのであろうそれは、まだ形をとどめているとはいえ渡されたときより明らかに砕けていた。
「くそっ、エドガーだと? 俺の代わりだと!?
 勝手なことをぬかして命を捨てんじゃねえ!」
熱闘は過ぎ去り、空気が急速に夜の冷気へと置き換わっていくような気がした。
120雷鳴が止むとき 10/10:2007/08/23(木) 19:39:30 ID:g3GOV7Ge0
温度を失っていく傷付いた山のような肉塊とその向こう、静寂を取り戻した夜空を見上げながら
出来事に圧倒されたままバッツは呆然と皆の無事とレナの冥福を祈り。
「……ヘンリー」
増えていく重傷者、悪化していく状況への不安、確認できないヘンリーの安否。
みんなを救うためにはどう行動すべきか、迷っていた。

【マッシュ(瀕死、右腕欠損、意識不明) 所持品:なし】
 第一行動方針:−
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧 スタングレネード×6
 第一行動方針:協力者を探す/ロザリー・イザと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ソロ(HP3/10 魔力0 気絶 体力消耗)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング
 第一行動方針:?
 第二行動方針:ヘンリーを助ける。
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【バッツ(HP1/6 左足負傷)
 所持品:ライオンハート 銀のフォーク@FF9 アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:『みんな』助ける
 基本行動方針:生き残る、誰も死なせない】
【現在位置:ウルの村西の草原】

【ブオーン 死亡】
【残り 42名】
※神羅甲型防具改はマッシュが装備していたものとして破壊、消滅
121名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/23(木) 23:29:05 ID:ZFLYNLT20
乙! ティナやべえ…
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/26(日) 04:35:08 ID:Y8L9K8zI0
保守
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/30(木) 18:28:47 ID:wiHt1tU30
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/08/30(木) 21:22:27 ID:sn1lfaJ6O
ほす
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/01(土) 21:11:53 ID:4wGYXE9oO
ほす
126足りなかった時間を追い求めて 1/7:2007/09/01(土) 23:25:14 ID:E8DwIFot0

あふれ出る激情は復讐の剣を再び振るえる喜びや、憎しみ一色の燃えるような感情ではない。
もし、最初の日の早いうちにラムザと見えることがあればウィーグラフはただ紅蓮の復讐心を振るっただろう。
けれど、二日目も時が尽きじきに三日目の朝を迎えようという時点での決戦に向かうウィーグラフの心中にあるのは
戦いの苦味を知った後でなお勝利と敵兵の血に飢え続けたあの頃と同じ、乾いた激情だった。
けして戦場に姿を現さない『上』の高みを見上げながら、命のやり取りの中にすべてが矮小化させられる日々の情念。
しかし認めない、ウィーグラフはそんな自分を認めない。
選び取った道を完遂するために、ラムザを殺すために、俯いてきた時間を肯定するために。



襲来を待つように見せていたラムザが、聖剣技の間合いを絶妙に見切った距離から一転して突撃してくる。
三度も戦ったのだ、それくらいはやってくるか――見事な見切りに先を取られ、口元をかすかに苦々しく歪めた。
すぐにウィーグラフは足を止め、突撃を受け止めてから仕留める方針へと一瞬で切り替える。
金属の弾けあう音、夜闇に火花が散る。
ブレイブブレイドを押し返し、いざ反撃の狙いを定めんとしたウィーグラフはだが自分の目を疑った。
通常であれば剣の間合いにいるはずのラムザは予想外の至近距離まで近づいてきていたからだ。
そして一瞬どこを狙うべきかを思案したウィーグラフの目の前で、その足が空中を踏む。
「何ッ!?」
咄嗟に直接斬るべきと判断して騎士剣をけさがけに振り下ろすが――
何もない空間を階段を二段飛ばしで上がるように進んだラムザはその軌跡の上を、わずかにかわす。
「宙を踏む、だとッ!?」
今やウィーグラフの肩の真上、身長より高い位置をラムザが歩んでいた。
振り返り見上げた目線が、文字通り見下ろすラムザの視線と交錯した次の瞬間、ラムザの身体が沈む。
高台から飛び降りるように頭上から背後へまわるラムザに焦燥しつつ、裏拳の要領で反転しながら剣で薙ぎ払った。
再びぶつかり合う剣と剣、しかしウィーグラフにとってはギリギリで弾いたに過ぎない。
127足りなかった時間を追い求めて 2/7:2007/09/01(土) 23:26:48 ID:E8DwIFot0
動揺したまま不利な体勢を立て直すのと、攻撃位置を確保するための次のラムザの移動を把握することを両立することは困難で、
ともかく避けることを優先したウィーグラフが至近距離を離脱するより早く、腕を剣で強打される。
鈍く広がる痺れを恨みながらも地面を転がり立ち上がった目の前、
見事に聖剣技の間合いよりわずかに遠い位置に、不動の構えでラムザが立ちはだかって……いない!
「貴様……ラムザッ! どこへ消えた!?」
予想外の連続に動揺したウィーグラフがラムザの意図を読み取るまでにはわずかな時を要した。
そして、それは致命的な間隙。
(上か!!)
闇空から急降下してくる剣の一撃を、防ぐのはもう間に合にそうになかった。
回避に身をよじるのが精一杯、そんなウィーグラフの肩へ予想外のラムザの斧のような蹴り足が降ってくる。
「ぐぅぅッッ!」
(剣でなく脚だと、これは鎖骨を……ッ)
さらに、痛みに空気を吐き出した肺に再び酸素を取り込むより早く。
あまりにアクロバティック、あまりの高難度のため力自体はたいして乗っていない一撃ではあったが、
蹴りを受けた同じ箇所へ刀身自体の重さを利した峰打ちの要領でさらに打撃が加えられる。
ウィーグラフは、肩から腕、胸へと連なる骨がみしりと軋む音を聞いた。
(馬鹿な、これほどまで一方的に? ……認めるか、終われるかッ!)
なんとか手放さず握った剣を杖代わりに、どうにか倒れずに踏みとどまる。
気力を振り絞り、懐に持っておいたエリクサーを口にする。
秘薬の力により応急で骨を継ぎ痛みを押さえつけ、燃えるような目で今度は正面より迫るラムザを睨みつけた。
ここは何とか凌いでみせる――強い意志で、消えきらない疼痛に構わず無理矢理に剣を振るう。
「大気満たす力震え、我が腕をして 閃光とならん! 無双稲妻突き!」
ラムザを狙うのではなく、前面に楯代わりに放つ苦し紛れの攻撃。
それでも、流れるように続いたラムザの攻撃をなんとか止めることはできた。
巻き上げられた土ぼこりがおさまり、しっかり安全距離を保つラムザと対峙する。

128足りなかった時間を追い求めて 3/7:2007/09/01(土) 23:31:35 ID:E8DwIFot0
「潔く負けを受け入れろ、ウィーグラフッ!」
「笑わせるなッ! 見よ、貴様の剣はまだ私にかすり傷程度しか届いていないッ! まだ私は終わらんぞッ!」
「聖石の力に頼り、過去ばかりを引きずり、変われないお前には……僕は倒せない」
「相も変わらずよく喋るッ! そんな言葉で私の執念が消せるはずもないッ!」
叫びながら、ウィーグラフは打ち込まれた腕が異常な疲労感に蝕ばまれていくのに気がついた。
打ち込まれた技の名はパワーブレイク、戦闘力を削ぐ活人の戦技。
たとえエリクサーの力を持ってしても、こうした潜在的ダメージの類までは回復できない。
じわり、と自分が追い込まれている予感に襲われるものの強気を張ってそれを吹き飛ばす。
「決着をつけるぞ、ラムザ=ベオルブッ!」
「まだ、わからないかッ!」
間合いを詰めるべくウィーグラフが動くのと同時に、ラムザもまた動き出した。
射程距離ぎりぎり、無双の一撃を放つべく狙いを定めようとして、ウィーグラフは再び敗れ去る。
剣を振り下ろすより先んじて、標的が消失した。
(ショート・ジャンプだと――ッ)
ついさっき、上空からウィーグラフを襲った攻撃の正体。
何故これが読めなかったかと問うあいだに、誰もいなくなったエリアへと無双稲妻突きが空砲の雷鳴を響かせる。
それでも、動揺して見失った前回と異なり今回は攻撃のネタがわかっているだけ対応可能だ。
狙いを付けづらくするために身を縮め、上方に対し楯を構えて防御に専念する。
だが、攻撃は来ない。代わりにごく近い位置へとラムザが降下、着地する。
「囮――だとッ、小癪なッ!」
音と気配から、ラムザがいる方向を察知、攻撃指定の範囲のみを頭に描き。
振り向きざまに聖剣技を放とうとして、ウィーグラフはラムザが『宙を踏んだ』その意図を知る。
再びウィーグラフの頭上へ向けて空中を登っていくラムザ、自分と重なるようなその位置は――
129足りなかった時間を追い求めて 4/7:2007/09/01(土) 23:32:42 ID:E8DwIFot0
(そんな封じ方の発想が、あるか――ッ!)
それは汚れなき精神が生み出す技の加護か契約か、聖剣技は使い手自身に危害を加えられるようにはできていない。
いうなれば超至近距離、ウィーグラフを巻き込みかねないその位置には、聖剣技は届かない。
「おのれッ、ラムザァ――ッ!」
「ウィーグラフッ! アグリアスほどの信念も篭らない、雷神の極みにも向かわないッ!
 そんな中途半端な剣は、僕にはけして届かないッ!」
ほぼ真上、空中の見えない足場から落下の勢いを加えてラムザの剣が落ちてくる。
激突、次の瞬間にはブロードソードは手を離れて宙を舞い、肩には傷が刻み込まれていた。




片膝を突いたウィーグラフを凝視しながら、ラムザは一切の優位を誇らない。
空中歩行を用いた常識外れの接近戦と、相手の射程ギリギリから先を取るショートジャンプを組み合わせ
聖剣技を封じきってここまでウィーグラフを追いつめた。
それはすべてかつて苦しんだ経験と、復讐に逸りウィーグラフが冷静さを欠いていたおかげ。
だが、好機があったにもかかわらずラムザの剣はまだウィーグラフに生き延びることを許している。

ウィーグラフとの決戦へ向かう道すがら、ラムザはただ二つのことを考えていた。
一つは実戦、もう一つは、精神面での戦いについて。
実戦においては見事に答えを出してみせたラムザであったが、精神面においても一つの答えを出していた。
命は奪わず無力化し、とにかく話し合う。それからのことはその後決める。
思えばすべての因縁の始まりは自分がウィーグラフの妹、ミルウーダの話を聞いてやれなかったこと。
とにかく足りなかったのは会話、その一念がある。
因縁は捩れているがラムザにとってウィーグラフは理解――いや、部分的には共感さえできる相手なのだから。
二度と叶わぬはずであった生きた彼との会話ができるという奇縁、奇跡がここにはあるのだから。
だから、説得する。それがラムザにとって真の勝利。
130足りなかった時間を追い求めて 5/7:2007/09/01(土) 23:33:44 ID:E8DwIFot0
暗黒の湖に立つ水音、激昂のあまりに発せられる不明瞭な絶叫、そして魔法の光。
剣を失ってもウィーグラフがまだ何か仕掛けてくるのは予期していたが、
自分とウィーグラフ双方を包む魔法は予測の外。
かけ手は人質のあの子……リルムだろうが、しかし相手はあくまでウィーグラフ。
感覚に比べて身体の反応が鈍くなる感触からそれがスロウだと判別、
同時にウィーグラフの手から光の帯が伸びていくのを見極める。
鞭のようにしなるその光はしかしやはり使い慣れぬのか、わずかに外れて地面をたたいた。
素人の鞭は戻りが遅くなる――だから、ラムザは一気に間合いを詰めることを選択する。
鞭先が引き戻され次の攻撃に移れるようになるより早く、飛び込んでいく。
狙うは強打、次の一撃で気絶か行動不能に追い込むつもり。
しかし、結果として勝負を急いだことは裏目に出る。
とはいえ、そもそもの原因は相手に切り札を出させるだけの余裕を与えてしまったこと。
これを失策といわずしてなんというか。そしてミス一つから勝負の流れは変わっていく。

ウィーグラフは鞭を捨て、楯さえ捨てて、半身を自ら攻撃にぶつけるように突っ込んできた。
隠すように、守るように引いたその右手に握られているのは。
(銃だってッ!?)
何もかも、運動法則から逃れられずに事は進んでいく。
もはや止まることもできずラムザの剣は差し出された左肩口を激しく叩いた。
ウィーグラフの銃は押し付けるようにラムザの身体へ伸び、打撃を身に受けるのにわずかに遅れて引き金を引かれた。
衝撃でぶれた銃口はしかし諦めず弾を発射し、その一弾は剣を持たない方のラムザの腕を直撃する。
視界の中で崩れ落ちていくウィーグラフがゆっくりと歪んでいく。
(気絶したか、あるいは……死んだか)
ラムザに判断する時間はない。
打ち込まれた神経弾の効果が痛覚や判断力もろとも意識を奪っていき、ラムザは眠りへと落ち込んでいった。

131足りなかった時間を追い求めて 6/7:2007/09/01(土) 23:35:13 ID:E8DwIFot0



「…………」
西に傾いた月の光を照り返す湖畔にちょこんと座り、一人遠くの水面を眺める少女。
少女、リルムは――怒っていた。
あの時、止めるつもりでスロウガをかけたのに、彼らは完全にリルムを無視してぶつかりあって、挙句の果てに相打ち。
ナイーブな乙女の願いを踏みにじられたことにとにかく怒っていた。
まあ、とりあえずお仕置きはしておいたし、あれからだいぶ時間が経っているからかなり収まっているのだけれども。
「……はあ。あたしこんなとこでなにしてんだろ?」
確かに相打ちではあった、が二人は死んだわけではなかった。
魔法でとりあえずの治療はしておいたけれど、二人を連れては動けないし置いてくわけにもいかない。
そもそも、リルムには森を突っ切ってキャンプまで帰れる自信がちょっとない。
とりあえずいまできそうなことは待つことだけ。
「……ボウシの兄ちゃんも元団長も、早く起きないかな……」
身体の向きは変えず、首から上だけを回して背後を振り返る。
そこには、二匹のカッパが少し離れて転がりすやすやと眠り続けていた。

132足りなかった時間を追い求めて 7/7:2007/09/01(土) 23:35:43 ID:E8DwIFot0
【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×4 
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 プレデターエッジ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 
 ブラスターガン 毒針弾 首輪 英雄の盾、ブロンズナイフ
 第一行動方針:どっちかが起きるのを待つ 】

【ウィーグラフ(HP1/4、カッパ、気絶)
 所持品:なし
 第一行動方針:ラムザを討つ
 基本行動方針:生き延びる、手段は選ばない/ラムザとその仲間を探し殺す(ラムザが最優先)】

【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動、カッパ、睡眠)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー ブレイブブレイド テリーの帽子
 第一行動方針:ウィーグラフからリルムを取り戻し、決着をつける
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】

【現在位置:湖南岸部の東端】
※ブロードソードは湖の中、神経弾は撃ち尽くしました。
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/05(水) 00:41:04 ID:bdJxuLkA0
保守
134名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/07(金) 00:20:10 ID:IurBjqHeO
ほす
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/10(月) 00:24:54 ID:QCqPX/eGO
へす
136名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/13(木) 19:09:57 ID:z4V+moPv0
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/17(月) 00:32:01 ID:4lfz5BE2O
二週間以上経過したな、もう終わりにしないか?
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/17(月) 01:33:03 ID:xhojhvw40
早漏を発見しまスター☆
139名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/17(月) 02:11:36 ID:Z351Kqv/0
たったの二週間程度で何を言ってるんだよw
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/17(月) 02:20:48 ID:Lcuh1dl50
前に2ヶ月くらい新作来なかったことあるだろwwwwww
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/21(金) 18:23:22 ID:1V0mNSPD0
142Umkehrung der Allianzen ?? 1/11:2007/09/23(日) 19:49:15 ID:xotcdUcX0
燃えている。故郷が燃えている。
魔物に襲われてやっとのことでたどり着いた村の門が、多くの客で賑わっていた宿が、仲間たちと探検した森が。
嫌な思い出も、いい思い出もふんだんに詰まった僕の故郷が、燃えてしまっている…。
これが実物とは別の、作られた空間だという人もいた。でも、どうしてそう断言できようか?
大体、これほどの広大な空間を作ることができるなら、住人だけを全部消してしまうこともできるに決まっているだろう。
あの魔女は魔王すら容易く拘束してしまうほどの魔力の持ち主なのだ。
「おい、どうしたんだ? なんか顔色悪くないか?」
「ああ、すみません、少し考え事をしていたので…」
「案内してもらってて言うのもなんだが、あまりそっちに気を取られすぎるなよ? 何が出てくるか分からないんだからな」
「そうですね、すみません」

……考えるのはやめよう。本当に、何が出てくるか分からないんだから。
「井戸はこっちの方向です、足元に気をつけてください」
「ああ、あそこだな。誰かいるみたいだぞ? あれは…」
その『誰か』とやらを見つけた途端、ヘンリーは舌打ちをして駆け出していった。
あまり誰かに会いたくはないのだが、もう行ってしまったのだから仕方がない。
ヘンリーの駆けていった方向を見る。彼の言う、『誰か』。その一人と目が合った。
143Umkehrung der Allianzen ?? 2/11:2007/09/23(日) 19:49:54 ID:xotcdUcX0
どう見ても身体能力は一般人以下、戦いに参加するどころか、武器もまともに持ったことがないだろう。
煙を吸い込み、体の内側からも相当冒されているはずだ。ときおり、ケホケホと咳をしている。
そのような人間が、今自分と真正面から立ち合っている。
この事実は少なからずサラマンダーを動揺させた。
何という心の強さ。勝てる相手としか戦おうとはしていなかった自分とは大違い。

「何故だ?」
なんという愚問。問うてはみたものの、自分の中でも答えは出ている。
それに加えて何故自分が動揺しているのか、という答えも出ている。
リュックが民衆を守る戦士の強さだとすれば、彼女は巷に言うところの、母の強さのようなものか、それを持っているのだから。
対面した相手が未知の相手であれば、自分にないものを持った相手であれば、多少の動揺は自然なこと。
そして、先ほどの問いには彼女はこう答えた。
「人を守るのに、理由なんて必要ですか?」
彼女は実に自然な動作で草花を取り出し、匂いをかぐようにすうっと息を吸う。
「スコールさん! 今すぐ村の南東の井戸へ!」
その一連の行動が何を意味するか、直感的に理解した。地を蹴り、エリアに肉薄する。

「素人だと思っていたが、思ったよりもいい反応だな」
サラマンダーの拳は、エリアの持っていた微笑みの杖によって受け止められた。
エリアから見て、サラマンダーの笑みに嫌味は感じない、むしろ彼の感嘆を感じるものだ。
サラマンダーにしても、戦いの素人に拳を受け止められたことへの不快感はない。むしろ、高揚してくる。
何かの魔法がかかったのだろうか? それもあるかもしれない。だが、気持ちが高鳴っているのは確かなのだ。

「それとも、実戦経験があったのか?」
「反応はいいと、昔からよく言われるんです」
「成程な…」
ただ、いくら反応がいいといっても素人は素人。拳を受けて、杖が軋む音には気付かない。
それに、エリアは下半身があまり動かない。先ほどまで建材に挟まれていたのだ、そう簡単に回復するわけがない。
144Umkehrung der Allianzen ?? 3/11:2007/09/23(日) 19:50:32 ID:xotcdUcX0
背水の陣、火事場の馬鹿力、彼女にとって、今の状況はそう表せるか?
不意を撃とうと思えばいくらでも撃てた、だが、それで終わらせてしまうのは面白くない気がしたのだ。
それまでに感じていた動揺も収まり、今はただ高揚感がある。
先ほどから、青髪の少女が眠っているリュックを起こそうと必死だが、
あのカプセルボールの粉末を吸い込んだら当分起きないだろう。ビビが起きることもない。
エリアはスコールとやらの援軍を期待して耐えているのだろうが、その前に終わらせる自信はある。

奇跡か、それとも実力か。杖で拳による連撃を受け止める。そのたびに木材が軋む音が聞こえる。
重力を練り上げ、拳に乗せる。グラビデ拳とも呼ばれる技だ。
これをも杖で受け止めるが、この拳による衝撃は並のものではない。
さらに一歩踏み込み、もう片方の拳に全体重を乗せ、エリアへと撃ち込む。
拳を受けようとしたその杖はぽっきりと折れ、勢い止まらず、エリアに直撃する。
精神面で互角に立てば、やはり力の差は出てくるものだ。エリアは紙くずのように吹き飛び、地に倒れ伏した。
青髪の少女がエリアに駆け寄る。どこからか、薬草を持ってきて飲ませている。
エリアが再び立ち上がって向かってくるも、もう一撃で終わる。はずなのだが、拳が空を切る。
確かに当てたはずなのに、手ごたえは無かった。
よく見ると、周りに怪しげな霧が立ち込め、エリアが何人もいることに気付いた。
「これ以上、彼女たちに手を出すな」
「貴様らは……」
145Umkehrung der Allianzen ?? 4/11:2007/09/23(日) 19:51:05 ID:xotcdUcX0
「ヘンリーさん、それにサックス! 無事だったんですね!」
「まったく、一人でこいつと戦おうなんて無茶ですよ。まあ、ここからは僕たちに任せてください」
「エリアは、ターニアちゃんを連れて下がってろ」

緑色の髪をした男と、騎士風の男。ヘンリーと、サックスだったか。
どちらも以前に戦って、下した相手だ。
それだけなら問題はないのだが、そいつらも何人もいる。
いや、エリアも、リュックも、青髪の少女も、ビビの数まで増えている。
「これは……どういうことだ?」
小石を拾ってヘンリーの一人に投げつける。ヘンリーはかわそうともせず、それどころか石が体をすぅっとすり抜けていった。
「幻覚を見せる魔法か?」
ヘンリーのうちの一人が落ちていたナイフを拾い、突き出してくる。
単調な攻撃だったのでよけるのは容易かったが、悪いことに、幻覚含め全員がほうぼうへと動くために集中できない。
さすがにこの状態で、数人相手に戦うのは無理だ。さらに悪いことに、もう一人誰か来るはず。
接近戦で一度に複数を相手するには、相手の二乗分の実力は必要だと言われる。
「引き際か…」

敵を見つけることだけに集中すれば、音や気配、空気の流れで大体の敵の位置をつかむことはできる。
それに、動かないものの位置そのものが変わることはないはず。
だから、リュックやビビが倒れていたはずの方向に向かうことで、包囲網自体はたやすく抜けられた。
ただし、間違いなく誰かが追ってくるだろう。現に後ろから、ザッザッザと足音が聞こえる。
少々様子がおかしいようだが。
146Umkehrung der Allianzen ?? 5/11:2007/09/23(日) 19:52:41 ID:xotcdUcX0
井戸のある空間から離れた場所。サラマンダーは追ってきた男、サックスと対峙。徐に口を開く。
「故意に俺を逃がそうとしたな? どういうつもりだ?」
「やっぱり分かりました?」
サラマンダーが逃げている間、サックスは例のラケットで攻撃はしていた。
だが、すべての攻撃の狙いが急所や足からは外れていた。
まるで、逃げてくださいと言わんばかりに。
「毒のせいかと思ったがな。それだけにしては不自然がすぎる」
サックスは短く笑う。昼間とはまるで別人であるかのような態度。
だが、口調こそ穏やかだが、飛びかかりたいのをギリギリで抑えているという印象も受ける。

「提案があるんです。明日の朝、おそらくこの周辺に旅の扉が出るでしょう。
 僕がこの村の負傷者と共に旅の扉に入る予定なんですが、そこで襲撃して欲しいんです」
「俺と組むということか?」
「組むというほどのものでもありません。別に協力するわけではありませんから。
 ただ、予め示し合わせておけば対応しやすいというだけのことです」
待ち伏せに関しては、サラマンダーにはあまりいい思い出がないが、確かに旅の扉の前ならば必ず人は通る。
さらにサックスが誘導するようだから、襲撃は確実に実行可能だろう。
だが、この申し出には気になることがある。
147Umkehrung der Allianzen ?? 6/11:2007/09/23(日) 19:54:55 ID:xotcdUcX0
「解せんな。お前が今一番殺したい相手は俺ではないのか?」
サックスはサラマンダーがロランを殺したと思い込んでおり、フルートを殺したのも実質的にサラマンダーだ。
本当は手を組むのではなく、旅の扉の前で待機しているところを狙って、集団で襲おうという魂胆があるのではないか?
何より、これほどまでにあからさまに敵意を出しているではないか。

サラマンダーの懸念を読み取ったのだろうか、サックスが話し出す。
「僕は、このゲームで優勝すると決めました。
 確かに、今すぐにでもあなたをブチ殺したい気分です。この先、戦うことになるかもしれません。
 でも、まだ潰し合うには早いでしょう?」
「ゲームに乗ったことは分かっている。俺はその動機を聞いている」
サラマンダーにこういう提案をする時点で、罠かサックスがゲームに乗っているかの二択。
ゲームに乗ったなら、その心境にどんな変化が起こったのか? 衝動的なものなら、また心変わりするということもあり得るが…。
「いや、どんな動機であろうと俺には関係のないことか」
自身の動機も大したものではない。どう動いて、どう思うかによってスタンスなどいくらでも変わるのだ。
148名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/23(日) 19:55:12 ID:wo8gUIoO0
転載支援
149Umkehrung der Allianzen ?? 7/11:2007/09/23(日) 19:55:32 ID:xotcdUcX0
「まあ、受け入れられるかどうかは問題ではないんです。僕の希望を伝えたまでですから。
 それに、僕たちが旅の扉を潜るまでに一度は襲撃をしてくるつもりでしょう?」
「違いない」
「ところで、あのビンに入っている毒ってまだ余っていませんか? 余っているなら、譲ってほしいんです。
 もちろん、ただでとは言いませんから」
サックスはザックから、チョコボの像のようなものを取り出した。
「なんだ?」
サラマンダーはその謎の物体をまじまじと見つめる。
ただの像ではない。あちこちから湯気が吹き出している。

「チョコボの怒りというアイテムです。使えばフレアと同じ威力の爆発を起こす代物です。
 目立つので、僕には上手く使えそうにありませんから、交換してあげます」
サラマンダーは無言で、紫色の小瓶を取り出す。もっとも、これが毒か解毒剤かは彼には分からないが、問題ではない。
チョコボのいかりとやらも、効果があるのかどうかは疑わしいのだから。あれば儲けものというところだ。

「じゃあ僕はこれで。みんなには、思った以上に逃げ足が速かったと言っておきますから。実際速かったようですし」
互いにアイテムを投げ渡すと、悪辣な言葉を吐き、プイと後ろを向いてサックスは去っていった。
一分一秒でもこの場にいたくないということなのだろう。


サックスが去った後、サラマンダーは先の提案の真の意味を考える。
挑戦か、罠か。いや、自分を利用して何かを為そうというのか?
必ずしも、サックスの言ったとおりに事を進める必要はない。
彼が考えるのは、どうやれば効率よく人数が減らせるか、それだけ。
150Umkehrung der Allianzen ?? 8/11:2007/09/23(日) 19:56:16 ID:xotcdUcX0
サラマンダーを仕留めたほうがいいと言って、ヘンリーたちから離れたものの、元々深追いはしないという方針だった。
予想以上に相手の逃げ足が速く、火もせまってきたので追うのを断念したといえば、怪しまれることはないだろう。
サラマンダーは当然、僕も襲撃のターゲットに入れているはず。
こちらとしてもそのことは前提となっている。
もちろん、迎撃に際してサラマンダーを殺すことをも考えている。
やつはこの手で殺してやりたい。村にいる人間を数人殺した後に僕に殺されてくれるのが一番の理想だ。
本当は、すぐにでも槍でブチ抜きたかったが、それをしなかったのは勝てるかどうか不安だったから。

…いや、本当の理由は別にある。
井戸周辺にいた人を殺害することはきっと出来ただろう。
だが、そこにエリアの姿があった。覚悟はしていたが、それでも彼女の姿を見て、動揺してしまった。
ここで生き残れるのは一人だけ。誰かが死ななくてはいけない。
だから、僕と会う前に誰かがエリアを殺してくれればいいと思っていた。
そうすれば、僕が殺す必要はなくなる。でも、再会した。
頭で考えるのと、実際に会ってみるのとでは大違い。
彼女に、僕がゲームに乗ったことは知られたくないと思った。
だから、サラマンダーを犯人に仕立て上げ、ここにいる間は罪をかぶってもらおうと思った。
言っておけば、きっとこの大陸を移動するまでの間に襲撃してくるだろう。
その裏で行動すればいい。サラマンダーにすべての犯人になってもらえばいい。
それでも、エリアにはいつかバレてしまうかもしれない。
もしそうなったら…?
…考えるのはよそう。もっと別の事を考えて、気を紛らわそう。
151Umkehrung der Allianzen ?? 9/11:2007/09/23(日) 19:56:54 ID:xotcdUcX0
そういえば、さっきよりも一層村が燃えている。
妹を見捨てて逃げ出した僕が命からがらたどり着いた村の門が、家族の眠る墓が、
エリアやサラに見せてあげると約束した秘密の花畑が、トパパやギルダーと共に過ごした家が。
楽しくて、悲しくて、つらくて、忘れたくない思い出が詰まった僕の故郷が、燃えてしまっている。
この世界はただの虚構かもしれない。僕もそう思いたい。
でも、どこからどう見ても、ここは僕の住んでいた場所、浮遊大陸のウルの村なのだ。
ここが本当に『本物』だったら、僕の帰るところはもう無くなってしまったということに……。

……余計な事を考えるのはやめよう。優勝すればきっと、きっとみんな元に戻せる。
この村も、デッシュも、ギルダーも、フルートも、何事もなかったかのようにいつも通りの生活に戻れるんだ。
でも、エリアは元の世界ではすでに死んだ身。僕は彼女をどうすればいいのだろう?
サラマンダーに殺してもらうのか。自分で殺すのか。それとも他人に殺されてしまうのか。優勝させるのか。
僕はどうすればいいのだろう?
152Umkehrung der Allianzen ?? 10/11:2007/09/23(日) 20:02:44 ID:wo8gUIoO0
【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ
 第一行動方針:戦闘不能者の治療
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【リュック(パラディン)(眠り)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 チキンナイフ マジカルスカート 毒消し草一式
 第一行動方針:眠る
 第二行動方針:ソロ・バッツに合流する
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:なし
 第一行動方針:戦闘不能者の治療
 基本行動方針:イザを探す】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス ひそひ草
 第一行動方針:休息
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【現在位置:ウルの村・東南の井戸周辺】

【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP1/5)
 所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)  チョコボの怒り
 第一行動方針:休息しながら、これからの行動を考える
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも)】
【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  紫の小ビン(飛竜草の液体)
 ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:ヘンリーたちと合流し、利用する(エリアも?)
 第三行動方針:ウルの村にいるメンバーを殺す
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在位置:ウルの村・東南部の森】
153Umkehrung der Allianzen ?? 11/11:2007/09/23(日) 20:03:37 ID:wo8gUIoO0
(あいつは……サックス?)
エリアに呼び出され、井戸へと向かっていたスコール。
どうもあちこちを走りまわされているような気もするが仕方がない。
さて、井戸へ行く途中で怪しいものを見つけた。
一人はサックス。カズスの村で見かけた多少暗い感じのある青年だ。
もう一人は燃えるような赤い髪をした男。確かゲームに乗っていると教えられた男であるように思う。
エリアを救出した男でもあったから、その情報が間違いだったのだろう。
その二人が向き合っているのだが、どうも様子がおかしい。
武器は構えているし、殺気立ってはいるが、戦う様子でもなし、何か相談をしているように見受けられる。
しばらくした後に何かを渡す様子も見られた。それだけだが、どうにも気になる。
もっとも、ここで時間を潰すわけにもいかないが。
早くエリアらのいる場所まで行かないといけない。

【スコール
 所持品:G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 吹雪の剣、ガイアの剣、エアナイフ、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、ひそひ草
 ヘンリーの武器(キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ)
 アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)
 第一行動方針:エリアの元へ
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウル南方の草原地帯から井戸の場所へ】
154名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/26(水) 04:23:14 ID:EVcEX0Za0
ほっしゅ
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/09/29(土) 19:54:05 ID:wI7K6NMt0
闇の中から明日への保守
156A point in the dark 1/9:2007/09/30(日) 17:12:54 ID:k2OVHg1j0
彼女は、背を向けてひたすらに走っていた。
表向きの理由をあげるなら、それは仲間の魔物を殺した男から逃げるため。
だから、進むルートどころか足元さえ闇に覆われた森の中を振り返りもせず、
小さな身体で樹や土に何度もぶつかって小さな傷を作りながら、ひたすら進める方どこまでも背を向けて走っていた。
けれど足を止められないのは後ろから男が追ってきている気がするから、だけではない。
彼女が本当に恐れているのは、殺人鬼なんかではなく答え――真実――だ。
 ピエールはどうして戦いを止めてくれなかったのか?
 どうしてお父さんはああならなければいけなかったのか?
 自分は一体何から逃げ続けているのか?
止まったら、考えてしまったら答えに追いつかれてしまいそうで、少女はただひたすら背を向けて走っていた。

どれくらい時間が経ったかなどもうタバサにはわからない。
少女の体力はペースも何も考えず動き続けたことで消耗し、森の中では歩くほどの速度もでていない。
それでも止まることは出来ず、恐れと焦りに背中を押され無理やりに手足を動かし続ける。
暗闇の中でもがき続ける。
『タバサ!』
正常な感覚を持ち、正常な精神状態にあればタバサも後方からかけられた声に気が付いたはずだ。
それから振り向いて誰、何? くらいのリアクションは返すはず。
けれど暗闇をただひたすら背を向けて突き進む状態が正常とは言いがたく、
まして後ろから来るものなんて今の彼女にとっては恐怖の対象以外の何物でもなかった。
殻に閉じこもるみたいにギュッと身を縮め、つまずいた身体をつき手でギリギリ支えて声に背を向け前へ進んでいく。
『おい、待てって!』
もう一度、今度はいくらか必死さを帯びた声が追いかけてくる。
少女は恐怖が見せる恐るべきやり口に肩を叩かれないように、背を向けたままひたすらに逃げた。
思考は体力と共に削ぎ落とされて、追いつかれないために逃げなくてはいけない、というごくシンプルなレベルに落ち込んでいる。
息を切らせ、苦しみに喘ぎながらそれでも何も見ず、聞かずに走り続ける。
終わりは突然。
突然その肩を誰かの手で強引につかまれ、タバサの逃走は終わりを迎えた。



157A point in the dark 2/9:2007/09/30(日) 17:18:16 ID:k2OVHg1j0
急に体勢を崩されてタバサは柔らかく、しっとりと湿った苔の香りのする地面に肩から突っ込む。
錯乱した、悲鳴以外にとりようのない小さな甲高い音が彼女の口から洩れた。
それでもなお背を向けて逃げようとした彼女の腕に誰かの実体のある手が伸び、逃がすまいと引っ張る。
「オレだ、ジタンだ。敵じゃない、頼むから信じてくれ」
暗闇がそう言った。同時に別の手も伸びてきて無理やり声に向かって正対――つまり後ろを向かされる。
暗がりの中、ごく近くに誰かの吐息がありそのずっと後ろに小さな火が揺れていた。

それから、ジタンと名乗るごく近い吐息が何か優しく喋りかけていたこと自体はタバサも覚えている。
けれど、話す内容もそうだし、そもそもジタンがどこで出会った誰であるかなんてことさえ彼女は思い返していなかった。
彼女は今、限界ギリギリの崖っぷちで背後を振り向かさせられていた。
体力と精神の両面から責められて一つの行動を求め続けるレベルまで細っていたタバサの頭脳が、
強引とはいえ身体の動きを制御する役目を止めさせられて、形而上の仕事に押し戻される。
 ピエール、お父さん、ピエールを殺したおじさん。
続けざまに振り切ってきた映像に追いつかれ、タバサはただ怯えたように鬼火のように灯った赤を見つめていた。
上下左右に揺れながらゆっくりゆっくりと近づいてくる火は、
タバサの中でとっくの昔に溶け合って一つの形を成した答えをさあ耳に脳に身体に刻み込んでやるぞと、
完全に優位に立った悪役がやるようにゆっくりゆっくり煽り立てながらタバサに迫ってくる。
ほんの少し、そうほんの少し。
混乱と恐怖と錯乱にとりつかれたタバサの耳でも聞き分けられる声が来るのが遅かったら。
暗闇に向けて彼女は何か、取り返しの付かないことを唱えていたかもしれなかった。
けれど、そうはなっていない。まだ取り返しは付く――多分。
「タバサちゃん!」
磨り減った頭ではすれ違うようにしか関わっていないジタンは思い出せなかった。
だが、少なく見ても一と四分の三日程。この非日常の世界で行動を共にした彼の名はまだ呼び起こすことが出来た。
 セージおにいさん。
158A point in the dark 3/9:2007/09/30(日) 17:19:57 ID:k2OVHg1j0
どこか闇の中にそれほど大きくない人一人分の質量が着地する気配。
姿が見えないため、自然とタバサの脳裏に浮かんでいた三人の顔にセージが加わった。
だが、やはり取り返しは付かないのかもしれない。
結論から言えば状況も、時間も、場所も、方法も、人選も、この闇の中の一地点はすべて何かを間違っていた。




暗闇から返事が無いことにセージはほんの少しだけ落胆し、
それから目の前で家族と仲間が相討ちするという出来事が少女に与えたダメージを慮り痛み入る。
「タバサちゃん、僕だ。セージお兄さんだよ」
確認させるような二度目の声にも返事は無く、雰囲気が重くなっていく。
本当にタバサがそこにいるのかさえ疑ってしまう。
とにかく、時間が必要になるだろうとセージは考える。
彼女を癒せるのはたくさんの時間とそばにいる誰かの優しさだけだ。
今はまず、待つことから始めるしかない。

共通支給品のランタンの明かりが最後の障害を越えて三つの息がある森の中の空間へ到達する。
同時に、暖かな赤っぽい光が真っ暗だったタバサの網膜に像を結んだ。
逆光だけど、セージ、そしてジタン。光源の傍にいるのは、プサン。
ゆっくりとランタンを手にしたプサンが二人に近づき、大体同じあたりに並ぶ。
それでもまだ、マッチを擦って現れる幻みたいにそれが虚像なんじゃないかとタバサは疑った、いや信じたかった。
幻だったら、死んだりはしないから。
 お母さんは、一緒にいたのにどうにもできなかった。
 お父さんは、一緒にいたからわたしをかばった。
 ピエールは、わたし達と会ったからああなった。
自分にとって重すぎる三つの死を、タバサはすべて自分を軸にして認識するほかなかった。
悲痛すぎる出来事を客観的に見ることが出来るほどに彼女はまだ大きくはなかったから。
159A point in the dark 4/9:2007/09/30(日) 17:22:07 ID:k2OVHg1j0
けして十分でない光量の灯に照らされた三つの顔。
だが、現実はもっとも非情な方法で彼らが現実であることをタバサに対して証明する。
鋼鉄の盾を鋼鉄の剣で思いっきり叩いたような音が連続して闇を切り裂き。
槍を思いっきり樹にでも突き込んだようないくつもの音が鈍く、しかしはっきりとその音に応え。
灯火が掻き消えた夜の闇の中で嗅覚が、何が起こったのかを断片的に証言した。

答えはやはり、繋がっていたのだ――これまでも、これからも。
ごく狭くしかし重要で大切な、少女の世界でこの二日の間に起きたことが恐怖と溶け合って出来た答えはつまり、
自分に関わったせいでみんな傷付き、倒れ、死んでいく――
死の足音を鋭敏に感知したタバサは恐慌ともいえる状態に一押しで立ち戻ってしまった。
原因をどうにかしないといけない。つまり、自分がここにいてはいけないんだ、と。
このまま一緒にいたら、必ずみんな死んでしまう。そう信じてタバサは反射的に呪文を紡いでいた。
次の銃撃から彼女をかばうつもりでセージが闇の中、タバサの名を呼んでいる。
その彼に向けて、タバサは別れの呪文を完成させる。
『マヌーサ』と。
もともと視覚が役に立たない闇の中ながら、生まれた幻がセージの目にかすかな視覚情報を与える。
その誤った手がかりに踊らされる彼に背を向けて、彼女は再びひたすらに走り出した。


160A point in the dark 5/9:2007/09/30(日) 17:26:41 ID:k2OVHg1j0
耳元の発射音を押しのけて入り混じった複数の命中音が闇の奥から聞こえた。
きっといくつかは樹じゃない何かに当たってる。でも本当にそんなの聞き分けられるんだろうか?
なんてことを考えながら、凶弾を放った人物――ユウナは手馴れたガンプレイを終えたばかりの銃を
指先でくるりと一回転させてしまいこみ、感覚的に南の方、つまり彼のいるキャンプの方向へと身を翻した。

視覚情報が制限される真っ暗の森の中において、あたり前だが対人レーダーほど対人警戒に役に立つ道具はない。
朝までの時間を潰すかのように、あるいはキャンプに戻るための心の整理……どちらでもいいけれども
とにかくウロウロしていたユウナが最初に見つけたのは、動きの遅い光点一つだった。
こんな時間にこんな暗い森を一人で動き回る奴がまともな人に思えるはずもなく、彼女もまずは警戒から入った。
接触する気など毛頭なく、レーダーの利を生かして回避することがこの時点での彼女の方針。
けれどもその一つの点を追うように三つの光点が現れたとき、ユウナは別のことを想像し始めた。
ゆっくりと逃げる一人、それを追いかける三人。
単純にこの世界のルールに照らし合わせると、それは機嫌を損ねた誰かをみんなで迎えに行くなんて軽い構図ではなく
恐らくは反撃にでもあった殺人者を反撃した三人がこの世の敵を一人狩るべく、追撃しているとしか思えない。
 だったら――
続きを考えかけ、ユウナはそこで思考を停止させた。
だったらどうだというのだろう。その三人がどんな三人かユウナにはまだ分からないのだから。
理由は無い。そう、その三人はきっとエドガーとは違うはず。殺す理由なんか、ない。
けれど、森のずっと向こう、
位置捕捉可能の円内、すなわち自分の射程圏を通り抜けて行く彼らの明かりである火が闇の彼方に揺れたとき。
 だったら、撃ったって構わない、よね?
標的のランタンの灯以外は真の闇。ガンナーである今の自分。エドガーを殺めた銃。狙撃の状況は揃った。
さらに、素晴らしい理由も後押しする。
 撃ったのはわたしじゃない。エドガーを撃った誰か、なんだから。そう……わたしじゃなくて。
もう、行動を妨げるものは何も無かった。
161A point in the dark 6/9:2007/09/30(日) 17:27:53 ID:k2OVHg1j0
暗闇の一角に身を晒し、木々の間に揺れる火とレーダーの光点を眺めながらチャンスを待つ。
ランタンの火のそば、必ずいる誰かに対して引金を引くために集中を高めていく。
そして三が一に追いつき、揺れる火が一点に止まったとき。
彼女はクイックトリガーにより一つのミッションを滞り無く完了した。



「セージさん! 回復呪文を――急いで! これでは……」
持たない。そう言いかけて、プサンはいったい「何まで」持たないのかを考えた。
彼の膝にのしかかるように倒れているのはジタンで、その身体からはもう何かの意志が失われている。
あの瞬間、プサンが見ることができたのはランタンが吹き飛ばされたことと、
暗転した世界でジタンに、そう立ち位置からいって間違いなくジタンに、体当たりをくらったこと。
あとは、攻撃された方向とは逆であるはずの方から何かが飛んでジタンの身体に食い込んだことを感じただけだ。
彼に銃撃についての知識があれば、跳弾がジタンを襲ったことを察することが出来ただろう。

次第に左肩の痛みを思い出したのは興奮がわずかでも収まったからだろうか。
冷静に、つとめて冷静に頭を働かせる。
攻撃のうち、一発はランタンを吹き飛ばし火を消した。一発はプサンの肩を貫いている。
そして、不幸にも攻撃にわずかでも反応できたジタンは反応できなかったプサンを守って複数発の攻撃を浴びた。
下から支えるようにしているプサンにまで彼から流れ出ている生暖かい液体が流れついている。
「とにかくセージさん、お願いします!」
必死にタバサの名を呼び彼女を捜し求めるセージに対して悲痛ささえかもし出して叫ぶ。
魔石にかけた魔法を追えるプサンには、彼女がとっくにここを離れてさらに森の奥へ逃げていったことがわかっている。
「あなただけなんです! 落ち着いて……考えてください!」
同時に自分にも言い聞かせ、どこかに何か打開策を探す。
ランタンの火は消えた。闇の中、襲撃者は自分たちの全滅を狙ってくるだろうか?
いや、採っている戦略から接近戦を仕掛けてくるほどの自信家とも思えない。つまり第二波はない。そういう気がする。
おそらくは反撃のリスクを恐れるはずだ。こちらの能力も人数も未知なのだから。
162A point in the dark 7/9:2007/09/30(日) 17:29:49 ID:k2OVHg1j0
分析は何とか進むが、わかってくるのは自分たちの置かれた状況の危うさと今わかっても虚しいことばかり。
 いやなことが重なりすぎる。
娘の前で恐らく相打ちになったリュカとピエール。闇からの予想外の襲撃とその結果。
この二日間でこれほどまで、戦闘では満足にバックアップもできないおのれの無力さを呪ったことは無かった。
肝心なときには間に合わず、間に合っていても守れない。現実を突きつけられる。
プサンには死に掛かっているジタンも、追跡する術だけがあるタバサもどうにもできない。

ようやくわずかに冷静さを取り戻したか、あるいは諦めたか。セージが呪文による回復を開始する。
冷えた空気と血の香りの取り合わせに憂鬱さを喚起されながら、それでも治療を行おうとする。
無言だった。



闇の中、自分たちが来た方向から誰かが追いついてきたときも、雰囲気自体は変わっていなかった。
もっとも雰囲気は感覚の領域だし、真っ暗闇でどれくらいそれが把握できるかは不明ではあるけれど。
ともかく、絶望的が一人と、それに引きずられているのが二人。闇の中にいた。
「何が……あったのだ? …………まさか、小さな女の子に、などということは……」
その誰かが言う。
「いいえ、そうではありません……パパス王」
「! あなたは私を知っているのか!? 私は確かに……だが今はただのパパスだ。
 ……とにかくこの血の香り、どうなっている? あなたは無事なのか」
「私は問題ありません。しかし……」
悔恨をかみ締めながらプサンが切々と状況を説明する。
163A point in the dark 8/9:2007/09/30(日) 17:31:12 ID:k2OVHg1j0
パパスも探している少女、タバサに追いついたこと。
けれど想像力の不足による失策から闇の奥より襲撃を受け、ジタンが傷付いて倒れていること。
その間、セージは顔も上げず出来る限りの回復の呪文をかけた時短の様子を黙々と看ていた。
「……追いますか――いえ、私たちに構わず彼女を追ってください。
 あの子は、あなたの孫娘なのですから」
「しかし!」
「いいのです。
 セージさん、動かすことはできそうですか? 私たちは城まで戻りましょう」
見えはしない。けれど、セージが顔を上げたのが闇を通して伝わる。
彼が何を言いたいのかをはっきりわかっていながら、プサンはタバサを追うようにもう一度強くパパスを促した。
暗闇の中、パパスはそれでも逡巡する気配を見せていたがとうとう再び森の中へと消えていく。
すまぬ、と複雑な思いを一言に込めて残して。


重傷者を抱え傷が増えた中で森は困難な障害であったがもうランタンを使う気にはなれなかった。
「見捨てるんですか」
暗がりをのろのろと戻る道中、セージは責めるでもなく恨むでも無く、ただぽつりと尋ねる。
プサンは答えない。
セージだって本当はわかっている。わかっていて、割り切れない分がわだかまっているのだ。
確かに何かをしているというのに、帰路にはまるで空疎な時間が流れていた。


そして。
夜が終わるのを待つことも無く。城にさえ帰り着くことなく。
体表の傷は癒えても複数の銃弾により掻きまわされた内臓の傷は如何ともできずに。
盗賊ジタン=トライバルの命の火は、消えた。
164A point in the dark 9/9:2007/09/30(日) 17:31:47 ID:k2OVHg1j0
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/4程度)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
     英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
 第一行動方針:サスーン城へ戻る
 第二行動方針:タバサともう一度合流したい
 基本行動方針:ゲーム脱出】
【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
 第一行動方針:サスーン城へ戻る
 第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
(*旅の扉を潜るまでは、魔石ミドガルズオルムの魔力を辿って状況を探ることができます)
【現在位置:サスーン城東の森】


【パパス(軽傷)
 所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
 リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
 第一行動方針:タバサを追いかけ、守ってやる
 第二行動方針:ラムザを探し(場合によっては諦める)、カズスでオルテガらと合流する
 第三行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:森林地帯中央部→移動】

165A point in the dark 9/9+1:2007/09/30(日) 17:32:28 ID:k2OVHg1j0
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
 所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
     悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
 基本行動方針:???】
【現在位置:森林地帯中央部→移動(行き先は不明)】


【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、
 対人レーダー、天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
 第一行動方針:キャンプへ戻る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰す】
【現在位置:森林地帯中央部→キャンプへ】

【ジタン 死亡】
【残り 41名】
166修正:2007/10/01(月) 19:14:03 ID:H/gd7zmV0
8/9、三行目を以下のように修正いたします。
その間、セージは顔も上げず出来る限りの回復の呪文をかけた時短の様子を黙々と看ていた。



その間、セージは顔も上げず出来る限りの回復の呪文をかけたジタンの様子を黙々と看ていた。



初歩的なミスを……雑談スレ>>359様、ご指摘ありがとうございました。
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/05(金) 22:46:19 ID:cby4vUQp0
ほしゅ
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/09(火) 23:00:03 ID:RK831SCX0
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/12(金) 07:10:01 ID:0Dp4oOyo0
護る
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/16(火) 22:50:56 ID:PEFvEac60
保守
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/20(土) 21:34:55 ID:GPNlMoNg0
ほしゅ
172舞台外の世界 1/2:2007/10/23(火) 05:50:07 ID:CKUgOIoB0
真っ黒な、だが闇とも光とも形容しがたい空間。そのところどころにきらめく星々。
まるで水晶のように神秘的で、青く透き通った地面。
太陽も月もないのに周りは明るく、寒さも感じられない。
「ここは一体…。拙者は死んだのでござるか……?」

とりあえず立ち上がろうとして、激痛に顔が歪む。右肘から先はなく、代わりに血が滴り落ちている。
衣服の一部を噛み切り、急いで止血処置を行うが、血を流しすぎたらしい。意識は薄れ、視界も狭まっている。
死んではいないようだが、死ぬのも近いようだ。
だが、今一体何がどうなっているのか。確かめずにはいられなかった。

上を見上げれば幾多もの星が、周りを見ても、下を見ても同じように星々がきらめく。
あちこちに浮かんでいる星は、よく見れば自分が乗っている足場と同じ、水晶のかたまり。
だがやはり、これらは星と呼ぶべきなのだろう。
まるで夢のような空間、いや、それ以前にあの殺し合いもまた悪夢のようなものだったが、まだここに比べれば現実味があった。
この場所は一体なんだと言うのだろう? この世の始まりと終わりを同時に具現化したような空間。
世界の創成期、もしくは終末後に飛んできてしまったのではないかと思えた。
だが、これは夢や幻などではない。現実だ。
腕の痛みもそうだし、何よりいつまで経っても慣れないあの感触。首には尚もあの金属の輪っかが嵌っているのである。

「案外、死後の世界なのかもしれぬな…」
死んだわけではないのだろうが、ここでまだ生きているという事実こそが間違っているように思えてしまう。
生き物の気配が何一つしない。一人ぼっちだ。
星の縁から、周りの星を見渡す。やはり、何の姿も見えない。
自分はもう一生ここで過ごすのだろうか?
といっても、傷の手当も食料も当てがない以上、このままではすぐに死んでしまうだろうけれど。
最初こそ、興味深かったものの、考えれば考えるだけ、今の状況は絶望的なのではないかと思ってしまう。
星の縁から下を見つめる。まるで底なしだ。
飛び降りても底に付くまでに何百年、何千年とかかってしまいそうな気がした。
173舞台外の世界 2/2:2007/10/23(火) 05:53:36 ID:CKUgOIoB0
下のほうに、ぼんやりとではあるが、明らかにこの空間とは不釣合いな城が浮かんでいるのが見える。
このような場所に誰か住んでいるのか?
階段や旅の扉はもちろんない。ここから飛び降りても、着地した瞬間に潰れてしまうだけだろう。
魔法が使えれば、まだなんとかなったかもしれないとまで考えて、疑問に思う。
何故こんなところに城があるのか。いや、こんな場所に城を構えられるのはそれこそ魔女なのではないのか?
……あの城こそ魔女の本拠地ではないか?
そもそも、何故首輪が爆発しないのか? まだ、殺し合いの会場内にいるのではないか?
そう考えた瞬間、この空間が、とても禍々しいものに思えた。

空気が振動する。それに呼応し、大地が鳴動する。
「放送…?」
五体満足ならば耐えられるこの地鳴りも、今の状態ではやりすごすのがやっと。
地面に叩きつけられ、倒れ伏す。大地震は容赦なく体力を奪っていく。
だが妙なことに、魔女の姿が現れる気配がない。魔女の声も一向に聞こえない。この揺れが収まる気配も全く無い。
怪我をした腕を庇うようにして凌いでいると、目の前を小動物が通り過ぎていった。
この空間に、先ほどまで生物は存在しなかったはずなのに。

周りの地面をよく見ると、透き通っていたはずの地面が濁ってきている。
仰向けになり、空を見上げる。黒が割れ、暗い空が現れてきている。
「何が起こるのでござる…?」
遠くを見れば、粉塵が集まり、渦巻き、くっついている。生き物のようにうねり、隆起沈降して地形を形造る。
星々の空間はいつのまにか、いくらか見慣れた世界へと変わっていた。立ち上がる。歩く。だが、一歩、二歩、三歩。
それだけ歩いたところで躓き、倒れてしまう。血を失いすぎたのだ。体が徐々に冷えていくのが分かる。
なんとかして、起きたことを誰かに伝えたいと思っているのに、体はもう言う事を聞かない。
朦朧とする意識の中、程なくして一人の老婆が現れる。
今度は夢なのだと確信する。見た事、起こった事を余さずその老婆に伝えることが出来た。
すべてを伝え、世界はまた黒に塗りつぶされた。
先ほどと大きく違っていることは、今度は寒いということであろうか。

【ライアン 死亡】
【残り 41名】
174魔王と助手 1/9:2007/10/23(火) 19:35:00 ID:Ai8SVgWw0
ザンデは決断した。
どうやらアリーナの捜索から手を引かざるを得ない、と。


カナーンの町。
夢で見たなどという曖昧な情報を手がかりにここまでやってきたのは、
マティウスの協力を得るため彼の目的に同行する必要を認めたためであり、
またザンデ自身メモに記されていた魔力が無いというアリーナの首輪に興味を抱いたからだ。
しかし。
目的地カナーンはこの世界のほかの場所と同じように無活力に静まり返っていて、
それでいて起こった火災の赤い光が暗闇を彩っていた。
話に聞くに、アリーナとやらは相当なトラブルメーカー、
本当に彼女がここにいたのならば何がことが起きていても何もおかしくは無い。
故にこそ、一行はカナーンの町へ躍り入ると時間を惜しんで彼女の捜索を開始した。
結果だけを言うと、
少なくはない時間が費やされたというのにアリーナはまだ発見されていない。
すでに町を離れている可能性もある、という対象側の理由もあるだろうし
一行の中に潜む亀裂のために一塊で行動せざるを得なかったというこちら側の理由もある。
だから、ザンデは決断した。


175魔王と助手 2/9:2007/10/23(火) 19:36:07 ID:Ai8SVgWw0

今、彼らは街の中央部――ピエールとザックスが交戦し、ファリスが命を落としたあたり――にいる。
ザンデは『ある予測』に従ってこの場所で一行を停止させていた。
この場所は大きな四角形をしているカナーンのほぼ中心に位置し、
町のどこに移動する必要が生じようと短時間での行動を可能にするだろう。
旅の扉。
ザンデが実験の目標としている、魔女が配置する魔法のゲート。
その旅の扉が、もうすぐ訪れる朝の放送と共に配置される。
前回の傾向からいって、ここカナーンにも一つはそれが配置されるはずである。
ザンデの目的は青い光の転送円、旅の扉への術式介入であり、
最終的に想定している結果を導くためまずはいくつか試さなければならないことがある。
移動中にもいくらかの脳内での予測を重ねてはいるがやはり不足している。
触れることができる時間も限られているのだ、
だからこそ、事前に術の展開や場の構成、実験行程について可能な限り練りこむ必要性を認識していた。
捜索の方がいつ終了するか見込みは立たない(発見さえできない可能性も相当にある)以上、
ザンデはもはやそれに付き合うことはできなかった。


考えねばならない問題が一つある。
ピサロとケフカの間の亀裂のことだ。
何が彼ら二人を反目させている原因かは明確に分析できないが(ライブラでも)、
性格面など個人の資質の問題とすれば容易に解決できるものではないだろう。
直情径行の傾向があるピサロと、狡猾しかしどこか非論理非合理的で読めないケフカ。
抑止力――ザンデとマティウスの存在があるからこそ今は衝突していないが、
それが無くなれば不測の事態がいくらでもありえることは誰でもわかる。

176魔王と助手 3/9:2007/10/23(火) 19:37:33 ID:Ai8SVgWw0

そういえば、捜索途中においてカナーンで誰とも会わなかったわけではない。
捜索中断の直前にまだ若い男に遭遇し、これを捕らえている。
「アリーナという女を知らないか?」という問いに不自然な反応を見せていた。
ただ怯えているとも、何かを隠しているともとれる様子ではあったが、
最終的に何らかの情報源になる前にピサロによって気絶させられ担がれている。
ピサロのこの行動の原因はザンデも察知している。――ケフカが何かの素振りを見せたから、だ。
反目の一表出。あるいはピサロの取り繕い、ともいえるか。
ともかく、この程度のことはザンデの決断にはなんら影響を与えない。



「時間をとらせた、まだ待っていることに感謝しよう。
 マティウス、残念だが私には別の準備がある。
 荷物以外、さっきの男を持っていっても構わないが、しばらくは別行動だ。
 頼みを聞いてくれるなら奴の首輪を取ってきて欲しいが、無理強いはせん。
 ケフカ、貴様は私と一緒にここに残れ。
 どうも貴様は勝手が多い、ここは従ってもらうぞ。
 ……そしてピサロ、貴様は――マティウスに同行したければ行ってもいい」
数分ほどの熟考の後、ザンデはこのように指示を出していた。
腕組みをして立っていたマティウスはピサロから受け取った男を担いで無言のまま歩き出し、
別に積極的にやる気もなかっただろうにケフカは軽い調子で不平を言葉に乗せ、
選択をゆだねられたピサロは不動のままザンデを睨みつけていた。
すべては、ザンデの予想の範疇――いや、予定通り。
177魔王と助手 4/9:2007/10/23(火) 19:38:35 ID:Ai8SVgWw0
さて、ゲストの二人にはおとなしく時を待ってもらうとして私は――、
と、必要な思考に移る前にザンデはもう一つやっておくべきことに気付く。
いかに術者がザンデとはいえ、永続的に魔法を持続させることなど出来ない。
タイムリミットは必ず、来る。
ポケットの中の、彼女。
余計なタイミングで場を乱されるよりは早いうちに処理しておいた方が良いだろう。
『ミニマム』。小さな彼女をつまみ出しながら低音で小さく詠唱する。
ネコミミとシッポをつけたエルフの少女が元の大きさを取り戻し、
ピサロがわずかに色めき立つのが目端で見て取れた。
おろおろとあたりを見回す彼女、ロザリーを脇に措いてザンデはピサロに話しかける。
「心配か? ファファ、私の誠意のとして一つ保険をかけておくぞ。
 だから、黙って大人しくしておけ」
言いながら、ニヤニヤと興味深げにしている道化も眼で圧する。
それから、『リフレク』……薄い光のヴェールがロザリーを覆いそれからまもなく消える。
これで、魔法を用いて彼女をどうこうすることは困難になる。
「さてエルフの少女よ、思えばその荷物を改めていない。
 私は魔力を秘めたものを求めていてな、そういうものがあるなら渡してもらいたい」
「え、あ……」
どうしていいか分からないとばかりにうろたえる少女であったが、
少なくとも現在争うような状況にないことを察し、
さらに不動で見守ってくれているピサロに励まされるようにして自分を取り戻す。
「はい。わたしが持っているのは……」

178魔王と助手 5/9:2007/10/23(火) 19:39:48 ID:Ai8SVgWw0
悪くはない。
ザンデは、少女の荷物から出てきた宝石類に目を細めていた。
期待はしていなかったがこれらは十全に触媒として使えるだろう。
「お役に立てるでしょうか?
 この……本の結界を作るときには十分に役に立ちましたけれど……」
「魔術書……そういうものも支給されているのか」
続けて差し出される『世界結界全集』と題された本を数ページめくる。
それからザンデは鋭い光を含んだ目でロザリーをじっと見た。
何故そんな目で見られるのか分からず不安がる少女に、ザンデは問う。
「……作った、と? お前が結界を?」
「あ、はい。ええと……治癒の結界を二回くらい……ですけれど。それが、何か……?」
「ほう」
確認するようにエルフの少女と手元の本を交互に見る。
悪くはない。ザンデは少女に対し、そう評価を下した。

テキストと、触媒たりうる道具が偶然あったからといって結界は容易く作れるものか。
いや、そうではない。
とするならば、それはこの少女に「才能がある」ことを示している。
人であろうと、我らのような存在であろうと、エルフであろうと魔法の才能はあり得るのだ、
別に目の前のエルフの少女に魔法の才能があったとてなんら驚くことではない。
彼女の言うことが嘘で無いとして(嘘を言う合理的な理由も考えにくい)
結果から分析される答えは一つ。
「才能がある」のだ。
179魔王と助手 6/9:2007/10/23(火) 19:40:57 ID:Ai8SVgWw0
「結界術師――エンチャントレスといったところか? 面白い分類だ」
「?」
ザンデの言いたい事を察することが出来ずなお不安げにしているロザリーを見下ろし、
もう一度しげしげと眺める。
駆け出しどころかまだ駆け出してもいないレベルではあるが、
実際の実験に入るまで均衡の問題でゲスト二人を動かせない以上
これくらいでも助手としては有用。
そのように、ザンデは人質としてしか価値の無かった少女に新しい価値を見出していた。
「ふむ……ではロザリーよ。
 細かい事情を知る必要はないが、単純に言えば手が足りん。
 拒絶の選択肢は無いが、そうだなピサロのために――とでも思えばいい。
 助手として少し働いてもらおう」
一方的に決定されて言われたことを飲み込めていないロザリーを飛び越えて、
続けて相変わらず鋭い視線でやり取りを監視しているピサロへと目を向ける。
言いたい事もあるだろうが動揺することもなく、不動で睨み続けるままのピサロ。
そのピサロとザンデを数回交互に見て、小さな声が尋ねる。
「助手、ですか?」
「そうだ。拒絶の選択肢は無い」
自信、いや自分のなさの現われか、ロザリーはうつむいてザンデから視線を背け
勝手に了承していいものかといわんばかりにちらちらとピサロを気にする。
180魔王と助手 7/9:2007/10/23(火) 19:42:23 ID:Ai8SVgWw0
「自信が無いか?
 自分にはできない、と? だが心配するな。
 私が認めたのだ、だから問題はない。
 それとも、言われた事を理解することが出来ぬほど愚鈍だとでも?」
「い、いえ……」
ザンデはこの返答に顎に手を添えて満足げに頷き、
その後ゆっくりと顔を上げて大きな声で告げる。
「ピサロよ、そういうことだ。
 付け加えれば、私は有用な存在には優しい。
 だから……黙って見ていろ」
「ボクちんには仕事は無いんですかあ?
 退屈しすぎるとボクちんは死んじゃうんデスヨ」
「ならば待つことが仕事だと思え、ケフカ。
 始まれば忙しくなるのだ、今のうちにゆっくりしておくがいい」



「さて……」
ピサロとケフカへの注意を完全に外さずに、ザンデは手元の本へと再び目を落とす。
助手として、徴用されたばかりのロザリーはその傍でまず何をするのかをドキドキしながら待っていた。
しかしザンデは何も言わずページをめくっていく。
「あのぅ」
「読み終わるまで黙って待っていろ。それが最初の仕事だ」
「……はい」

181魔王と助手 8/9:2007/10/23(火) 19:44:01 ID:Ai8SVgWw0
【ピサロ(MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 黒のローブ
 第一行動方針:ロザリーの扱いに目を配る
 第二行動方針:ザンデ・ケフカを強く警戒】
【ケフカ(MP2/5程度)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール 魔法の法衣  アリーナ2の首輪
 第一行動方針:「こいつらをできるだけ上手く利用する方法」を考える
 第二行動方針:「こいつらをできるだけ楽に殺す方法」を考える
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ザンデ(HP 4/5程度)
 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、世界結界全集、
 アルガスの荷物(ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)、皆殺しの剣、妖精の羽ペン)
 第一行動方針:実験準備
 第二行動方針:ケフカとピサロの衝突を抑える
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【ロザリー(リフレク) 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ
 第一行動方針:助手としてザンデを手伝う
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:カナーンの町、サリーナ宅裏】

182魔王と助手 9/9:2007/10/23(火) 19:44:50 ID:Ai8SVgWw0
【マティウス(MP 1/3程度)
 所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) ソードブレイカー 鋼の剣 ビームウィップ
 第一行動方針:アリーナ(2)を見つけ出し、ゴゴの仇を討つ
 基本行動方針:アルティミシアを止める
 最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
 備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【アルガス(気絶中)(マティウスに担がれています)
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計
 第一行動方針:様子を見る
 最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在地:カナーンの町】
183取り残された一人の人間は 1/2:2007/10/24(水) 01:03:52 ID:5tqqZlDW0
気付いた時には東の空がうっすらと明るくなり始めていた。
寝ているだけで風邪が治れば苦労はしない。体中がだるいし、痛いし、寒い。
というより、昨日よりひどくなってきている気がする。

咳やくしゃみが出て、我ながら騒がしいが、聞こえる音はこれだけだ。
城の中はやけに静か。確か何人もいたはずなのに。
ジタンとおじさんと女の人と金髪の男の人と、……覚えていない。
寝ている間に誰かが口論していたような気がするが、やっぱり覚えていない。
まあ、ここにたどり着いたときには頭がくらくらしてぼんやりしてたから仕方がない。今もそうだが。
机には、『戻る』と刻まれた文字。戻るというならきっと戻ってくるのだろう。朝までお休みなさい。

……ちょっと待って。そもそも、みんなはどこに行ったのか?
…眠る前に話していたのは、リュカのことだっけ。
確か、誰かが死んでて、魔物がリュカのいる塔に行っているとか言っていたような。
だったらみんな塔に向かったのだろう。近いからすぐに戻ってこれるだろう。

……そんなバカな。
そんなに近いのならどうして今になっても誰も戻っていないのか?
自分が眠ってからどれだけの時間が経っている? 塔のほうで何かあったのではないのか?
リュカやタバサは魔物を操って人を殺している。それで、この城に配下の魔物が来た。
『戻る』と刻まれたテーブル。あれだけの人数がいて、誰一人として戻っていない現状。
でも、もしかしたらということもある。塔のほうで何がどうなったのかを確認しないと。

この城は複雑すぎる。途中、何かで胸を貫かれたような女性の死体を見つけた。嫌な予感を抑えきれない。
ますます気分が悪くなってきた。
184取り残された一人の人間は 2/2:2007/10/24(水) 01:05:25 ID:5tqqZlDW0

塔の最上階、そこにあったのは血で彩られた寝室。
気分が悪いうえに、こんな惨状を見せ付けられて、思いきり吐いてしまった。
吐いたからといって気分が晴れるということもなく。今の状態で再び立ち入りたくはない。
何時間経ったのか知らないが、あの部屋の血は完全に乾いておらず、まだベトついていた。
動くものは何も無く、ただ二つの死体があっただけ。女の人と、金髪の男の人。
自分が会ったのはどんな人だったっけ? ここで死んでいる人ではなかったよね?
多分別人だろうけれど、覚えていないから、そうとは言い切れないのがまた不安だ。

ところで、こんなところにずっとリュカたちはいたのだろうか? 
いや、まさか。子供連れでこんな空間に留まるなんて考えられない。
なら、この部屋の惨状は一体なんなのか?
きっとリュカたちがこれを作り上げたのだ。塔に誘い込んで殺せばそれで完了。
でも、二人しか死んでないし、みんな上手く逃げているのかもしれない。
城に誰もいないのは、きっと外へ逃げたから。逃げ場のない城内より城外のほうがいいに決まっている。
自分を見捨てた? いや、隠し扉の中でまだ眠っている人間がいるなんて思わないだろう。
ジタンたちは囮になって、リュカたちを誘い出してくれたんだ。
もうすぐ夜明けの放送だ、そこで名が呼ばれないことを祈る。

【フィン(風邪、病状少々悪化)
 所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:ジタン/放送を待つ
 第二行動方針:風邪を治す
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:サスーン城東塔、サラの寝室】
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/28(日) 19:56:27 ID:vyoxLhmd0
保守
186名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/10/30(火) 18:04:34 ID:FhSg7Olm0
ここで保守
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/02(金) 14:01:41 ID:473DPRQW0
保守
188名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/04(日) 11:28:00 ID:nlkcZu7l0
なかなか書けないから保守
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/05(月) 04:51:34 ID:XY9tJbXNO
延びてると思いきや嵐かよ
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/09(金) 02:03:13 ID:vh+OL2450
保守
191惨害の痕で寄り添って 1/9+α:2007/11/11(日) 13:12:59 ID:pHMqXV5n0
《1》

「ピアスが鳴ったんだが、赤い奴は逃げたしって少し油断してたのかもしれない。
 俺は振り返れたと思うんだがな、暗いもんで顔が見えなかったんだ。
 だから、本当に振り返れたのかどうかはわからないな。
 どっちにしたって、あっというまに腕を捻り上げられて地面に押し付けられたよ。
 あれは兵士とか傭兵とか、とにかく軍人のやり方だ。
 初めて本物を体験したんだけど、なんていうか、痛いってモンじゃないね。辛い、だな。
 こんな痛いなら肩なんて外れてしまえー、あーすいません降伏しますギブギブ、って感じ。
 それで『いぃぃぃぃっ!?』みたいな声あげちまってなあ……恥ずかしいのなんの。
 確かに、あの状況じゃ俺がエリアを襲った敵だと勘違いされても仕方ないんだが、
 一言くらい謝って欲しいもんだぜ。なあ?」

192惨害の痕で寄り添って 2/9+α:2007/11/11(日) 13:14:14 ID:pHMqXV5n0
そう言ってヘンリーは隣を歩く男、サックスの反応を窺う。
サックスに肩を借りて歩いているエリアが苦笑を浮かべるが、
当のサックスは何の感情の動きも表さず、先行している話題の中心……
眠ったままのリュックを背負い、全方位を警戒しながら一行を引率するスコールを見つめていた。
ヘンリーもまたその視線を追いかける。その胸には微かに嫉妬と怒りの気持ちが浮かびあがってくる。
非力な人間が危険に晒され、力のある人間が特に怪我もなくいる。
もちろんこの二日間、スコールにどんなことがあったのかなんてわかりゃしない、
彼が何を思い何を行ってきたかなんて知ることは出来ない。
けれど元気そうなスコールの様子と、ヘンリーの腕の中の小さな遺骸を見比べるたび、
こんな子まで犠牲になってるってーのにお前は何をやってきたんだ?
という文句も湧いてくるというものだ。
……勿論、それが自分や頑張っているほかのみんなにだって当てはまることは理屈で理解できている、
けれども。

193惨害の痕で寄り添って 3/9+α:2007/11/11(日) 13:15:49 ID:pHMqXV5n0
《2》

「でも、ヘンリーさんを助けてくれたのもスコールさんみたいですよ。
 ……結局、間に合わなかった、けど。
 ウルが大変な事だってことも見れば分かったはずなのに、
 スコールさん、ここまで来てくれましたし。
 私、スコールさんもきっと今のヘンリーさんと同じ事を感じているんだと思います。
 どこで何が起こっているか〜、なんて誰にもわからないですよ。
 だからきっとみんなを守ろうとあちらこちら走り回って、それでも何も出来なくて……
 出来なかったことを悔やんで、だんだん自信がなくなって……
 …………
 えへへ、わかったようなことを言っちゃいました。
 実を言うとレナさんが、同じようなことで悩んでいたんです。
 ギルバートさんを守れなかった、わたしには何にも出来なかった、って。
 私なんかより全然強いのに。誰かを、私を、守ってくれていたのに。
 …………
 ほら、ヘンリーさんとサックスだって助けに来てくれたじゃないですか。
 そういう気持ち、スコールさんだって同じなんですよ。
 いえきっと、みんな同じ、もういなくなった人だって同じなんです。
 ……あ、そういえば……」

194惨害の痕で寄り添って 4/9+α:2007/11/11(日) 13:17:20 ID:pHMqXV5n0

何かを言いかけたエリアは、けれど目の前に現れたそれに言葉を止める。
ヘンリーも、サックスも、ターニアも、スコールも、それぞれに立ち止まっていた。
燃えている村を迂回するように時計回りに進んできた一行、
その目の前に、そんな場所にはありえない丘――いや、小山が聳え立っていた。

「占い、当たらなかったな」

言葉もなく、全員がその奇妙な光景に足を止めて立ちすくむ中、
サックスにようやく聴こえるくらいの小声で、エリアはそう呟いた。


《3》

「何やってやがった? ああ? 何てザマだよ?
 …………
 仲間一人突っ込ませて任務達成だなんざ立派なことだな、え、班長さん!?
 なんだ?
 そのキレイなツラはよ……どういうこと…どういうことだ、ああ? 答えろッ!?
 こんな時に先頭切って戦わねぇでお前それであいつの騎士かよ!
 気にいらねぇ……お前がやるべきことだろうが。
 そんなんで何が出来た? 何が出来たよ、ここまで!
 言ってみろ!
 …………
 今のお前を見てると、あまりのカッコ悪さに同情が止まらねえ……
 自分でもよ〜く解ってるハズだぜ?
 あの魔女にこんなやられっぱなしでよくんな冷静な顔してられるもんだ!
 解ってんだろうが、ああ? スコールッ!!」
195惨害の痕で寄り添って 5/9+α:2007/11/11(日) 13:18:48 ID:pHMqXV5n0

憔悴したような4人(といっても2人は動ける状態じゃない)と合流したのは、
死してなお山のように残っている巨大なモンスターの遺体のそばで。
そこには何故か、昼間南と北へ別れたはずのサイファーがいて、
依然眠ったままのリュックを下ろすとすぐに――思い切り拳で殴られた。

最初の一発、クリーンヒット……は敢えて一切何もせずに受けた。
リノアには会うことも叶わず、マッシュはそこで動けない2人の方に入っている。
その百分の一にも足りないだろうが、これはその償いだと思った。
後は、叫び散らしながら挑みかかってくるサイファーの攻撃を
時に受け、時に避け、時に殴られながら、スコールは一言もしゃべらずに応戦していた。
スコールの拳がサイファーに打ち込まれることもあったがそのことについてはサイファーは一切言及せず、
ただどうしてリノアを守れなかったのか、仲間さえ守れなかったのかというニュアンスが
繰り返されて喧嘩が続けられていた。

(そういえば、お喋りなヤツだった)

サイファーが、本当に責めているのは――責めたいのは誰なのか。
スコールが気付いたのは、何発目かの拳が腹に突き刺さった後だった。
 
196惨害の痕で寄り添って 6/9+α:2007/11/11(日) 13:20:20 ID:pHMqXV5n0
《4》

「ビビと、レナと、わたぼうか……
 ソロもあんなだし、結局マッシュが命張ってようやくあのデカブツを止められたわけだけど。
 ……けど、失ったものは余りに大きいな……
 …………
 なあ、レナの話、少ししてもいいかい?
 レナはさ、タイクーンってとこのお姫様なんだけど
 なんていうか、うん。普段は本当におしとやかで、お姫様って感じなんだけど
 やらなきゃってことに突き当たると考えるより先に身体の方が動いちゃうんだよな。
 いろいろあって海賊やってたレナの姉さんがいるんだけど、行動力はさすがに姉妹ってとこだよ。
 ……だから、さ。
 最初にあの怪物にぶつかったレナは思っちまったんだろうな。
 私が、やらなくちゃ、ってな。
 こんな化物だったんだから逃げてくれれば良かったんだけど、
 そんなこと、できる、性格じゃない、もんな……
 ああ、いや、こんな世界じゃなきゃ案外仲良くなっちまったかもしれないな。
 飛竜なんかに妙に懐かれてたし、……わたぼうとも相性良かったみたいだしな……」

相変わらず、スコールとサイファーがガチで大喧嘩をやっているのを見守りながら、
バッツは淡々とそんな話を2人を除く全員に聞かせていた。
全員といっても、ろくに休息なんか取れなかったせいだろうがリュックは昏々と眠り続けているし、
とにかくパーティの一番前で身を張り続けてきたソロなんかは、むしろ積極的に休ませてやりたい。
右腕のないマッシュにいたっては生きているのがおかしく思えるくらい。
ビビはもう目を閉じたままだし、
最後に連れてきたレナとわたぼうは元の形からはずいぶん変わってしまっていた。
三人…いや、あの怪物も入れて四人分。
あとで簡単でいいからお墓でも作ってあげよう、なんてバッツはぼんやりと考えた。
197惨害の痕で寄り添って 7/9+α:2007/11/11(日) 13:22:38 ID:pHMqXV5n0
《5》

「あーくそ。魔女の奴……許さねえ。
 なんにもいい手は思いつかないけど、絶対に何とかしてやる。
 ……デールとも約束したしな」
「わたしは、お兄ちゃんと会いたいです。きっとどこかで頑張ってるから」
「俺は三人の仲間は行っちまったけど……ギルガメッシュとギードがまだいるし、
 それにもうみんな、ヘンリーもソロもエリアもターニアもロックもピサロも、
 サイファーやスコールや勿論サックスだってもう仲間だ。……ザンデも……そうかな。
 だから、『みんな』で生き残りたい。難しくたって」
「私は……サックスには会えましたから。
 勝手かもしれないですが、私にとってはそれでも十分なんです。
 でも、あとは――あとは頑張ってる人がみんな幸せになるといいなって思います。
 もう不幸せは要らないですよね。………サックスは?」
「僕は………」

風が吹いていく。
故郷だった場所、変わり果てた場所。惨害の跡で寄り添いあうサックス達をなでて、
浮遊大陸ウルの谷に特有の思い出と変わらない風が吹き抜けていく。
サックスは、洞窟の奥に彼女の死と一緒に捨ててきた気持ちを思い出しかけて、
それが表面に浮き出てこないように。
軽く、明るくなりたがる心を押さえるために、冷えきった重い決意を込めて口を開く。

「僕は、もう一度みんなに逢いたいよ」

今はまだ、その言葉の裏にあるものを悟る者はここには誰もいない。

198惨害の痕で寄り添って 8/9+α:2007/11/11(日) 13:24:22 ID:pHMqXV5n0

【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ
 第一行動方針:みんなを守りながら、朝を待つ
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:なし
 第一行動方針:リュック、ソロ、マッシュの看病をしながら朝を待つ
 基本行動方針:イザを探す】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス ひそひ草
 第一行動方針:リュック、ソロ、マッシュの看病をしながら朝を待つ
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP1/6 左足負傷)
 所持品:ライオンハート 銀のフォーク@FF9 アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:『みんな』助ける
 基本行動方針:生き残る、誰も死なせない】
【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  紫の小ビン(飛竜草の液体)
 ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
199惨害の痕で寄り添って 9/9+α:2007/11/11(日) 13:25:45 ID:pHMqXV5n0

【スコール
 所持品:G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 吹雪の剣、ガイアの剣、エアナイフ、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、ひそひ草
 ヘンリーの武器(キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ)
 アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)
 第一行動方針:気が済むまでサイファーとケンカ
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、エドガーを探す/緑髪(ヘンリーとソロ)を警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧 スタングレネード×6
 第一行動方針:気が済むまでスコールとケンカ
 第二行動方針:協力者を探す/ロザリー・イザと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
200惨害の痕で寄り添って 10/9+α:2007/11/11(日) 13:26:56 ID:pHMqXV5n0

【リュック(パラディン)(眠り)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 チキンナイフ マジカルスカート 毒消し草一式
 第一行動方針:眠る
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ソロ(HP3/10 魔力0 気絶 体力消耗)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング
 第一行動方針:回復
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(瀕死、右腕欠損、意識不明) 所持品:なし】
 第一行動方針:−
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
201名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/11(日) 13:28:31 ID:vpHdEz900
 
202紛れ込んだ不純物 1/6:2007/11/11(日) 23:01:19 ID:vpHdEz900
みんなの話が終わったのが多分一時間ほど前だから、あの二人はもう一時間近く喧嘩しているのか。
森が燃える音と風の音、そしてサイファーとスコールの殴り合ってる音を聞きながら、僕らは怪我人の治療をしている。
マッシュは魔石の召喚獣のおかげで、命は取り留めているものの、いつ誰が襲ってくるかも分からない。
バッツなど、魔法があまり得意ではないのに白魔道士にジョブチェンジして治療を行っている。
魔法を装備しなくても使えるのが、少し羨ましい。
生き返りの泉、回復の泉が使えれば一瞬だが、伏せておいた。そんな便利な泉を魔女が残すはずがない。
まあ、元々の世界でもリヴァイアサンを倒したことで効力は失われてしまっていたのだが。

道具の数も限りがある。この村にはポイゾナしか売っていなかったし、道具屋の回復薬は昼間にほとんど使ったらしい。
頼れるとすれば井戸に備蓄されているであろうポーションとあの不思議な緑色の石くらい。
リュックの持ち物にあった(元はバッツの持ち物だが)薬草はエリアに、毒消し草は僕が了承を貰って飲んだ。
あまり気分はよくならない。本職の解毒魔法を以ってしても消えない毒だ、当然か。

一応朝にはこの村のメンバーの仲間が帰ってくるらしいが、こちらも信用は出来ない。
この戦場を縦断して無事に帰ってこれる保証などないし、その仲間たちというのはザンデに付いて行ったのだ。
ドーガやウネがどう見るかは分からないし、バッツは仲間だといったが、
僕にとってはザンデは世界を破滅に導こうとした元凶というイメージ以外にない。
ただ、エリアもザンデを完全に味方だとは割り切れていないようだけど、抵抗は僕ほどはないようだ。
僕にザンデに対して抵抗があるのは、もしかすると元の世界での因縁とかそういうものではなくて、
今のこの世界における立場的なものなのかもしれないと思った。
203紛れ込んだ不純物 2/6:2007/11/11(日) 23:02:31 ID:vpHdEz900
「道具屋を見てきます。もしかすると回復アイテムが残っているかもしれませんし」
「一人で大丈夫か? いつあいつが襲ってくるか分からないぞ?」
ヘンリーが僕に声をかける。確かに普通に考えれば一人じゃ危険なのは間違いない。
「確かに一人じゃ危険なのは承知していますが、人員を裂く余裕もないでしょう。
 僕は大丈夫です。いざとなれば逃げ切りますよ」
「そういやヘンリー、確かピアス持ってたよな? サックスに貸してやったらどうだ?」
「ああ、確かにこれがあれば安心か」
ヘンリーはピアスを外すと、こちらに向かって放り投げたが、直後に凄まじい雄叫びが聞こえ、受け取り損ねてしまった。
全員が未だに喧嘩をやめない二人に目を向ける。ちょうどスコールが一メートルほど殴り飛ばされているところだった。

「そろそろあの二人を止めないか?」
「そうですね。もう一時間以上続けているんじゃないですか?」
バッツとエリアが提案。ヘンリーは目を白黒させる。とりあえず巻き込まれないよう僕はそそくさと道具屋に向かった。
「俺が止めるのか?」
「一番ピンピンしてるからな」
「それはそうだが…」
後ろからそんな声が聞こえた。
二人の喧嘩は止まらない。今度はサイファーが一メートル半ほど殴り飛ばされていた。ヘンリーが大きくため息をつく。
「分かった、頑張ってみるわ」
もう少し歩いてから振り返ってみると、ヘンリーがサイファーに怒鳴られていた。

道具屋はとてもアイテムが残っているような状態ではなかった。
建物が崩れ落ち、燃え尽きて何かが残っているはずもないだろう。
次に行ったのは井戸。井戸は、村の第二の貯蔵庫にもなっている。
もしものときのためにポーションなどを貯蓄しているのだ。
一個だけ飲んでみる。飲み慣れたポーションの味がする。
飲み切らず、紫の小瓶に入ったあの毒をポーションの中に入れておいた。
3/4ほど移すと、あとは井戸の中に撒いておいた。まだ時間はある。水くらい誰かが使うだろう。
僕の水の残量を見ると、片方の入れ物には水がほとんどない。
どうせなら、と残りを全て飲んで、井戸の水を汲んで所持しておいた。
当初は村の北の小屋にも行こうとは思ったが、炎がその辺りを燃やし尽くさんとしていたので、あきらめた。
204紛れ込んだ不純物 3/6:2007/11/11(日) 23:03:27 ID:vpHdEz900
帰ってくると、倒れている人間が二人増えていた。
他の四人は少し離れた場所で、穴を掘ったり、死者の身なりを整えたり、どうやら墓を作ろうとしているようだ。
僕はヘンリーにピアスを投げ返した。ヘンリーは片手でキャッチする。
「どうだ? 何か見つかったか?」
「ポーションが残っていました。ところで、ヘンリーさん? どうしてフォークを持ってるんですか?」
「バッツから借りたんだ。素手よかマシだろ? ナイフを使うよりもずっと掘りやすいしな」
「はあ…。しかし、よくこんなに深く掘れましたね」
「あのモンスターの足跡を利用した。ブオーンだっけか。
 さすがにあいつを埋める穴までは掘れないけどな」
そう言って、小山に視線を向ける。相変わらず、それは何もなかったかのようにそこに聳え立っている。
視線をずり下ろすと、体力を使い果たして倒れている二人。
「あいつら……サイファーとスコールだっけか? 結局倒れるまで殴り合ったぜ。
 止めには入ったけど、…ありゃお手上げだ」
おどけて両手を挙げるヘンリー。バッツも苦笑しながらスコールたちのほうを見ている。
ヘンリーが止めに入っても喧嘩はやめず、というかもはや喧嘩というより根性勝負、我慢勝負の域だったらしい。
本気で殺し合いにならないように両者の支給品だけは取り上げたようだが、
その後すぐに互いにクロスカウンターが決まって両者ノックアウトで終わったとのこと。わけが分からない。

エリアとターニアは死者の身なりを整えている。
エリアがレナとわたぼうを、ターニアはビビを。すすり泣きが聞こえてくる。
「ターニアは自分から言いだしたんだ。埋葬をさせてほしいって。
 本当はあそこにいるのも辛くて苦しいはずなんだけどな」
バッツが誰に向かってともしれずに呟く。
なにやらいたたまれない空気になってきたので、少し場を離れることにした。
205紛れ込んだ不純物 4/6:2007/11/11(日) 23:04:28 ID:vpHdEz900
リュックは相変わらず熟睡、ソロも寝息を立てている。
マッシュは昏睡といったところか。
十分な施設もないこの場ではすぐに死んでしまいそうな傷なのだが、不思議とそのような感じはしない。
むしろ回復しているようにも見える。
「マッシュもソロも命に別状はないぜ。大した生命力だよ、ホントに」
穴を掘っているヘンリーからそんな声が聞こえた。
とりあえず、今ポーションを使う必要もないだろう。
すぐ横には誰かのザックが転がっていた。
眠っている三人か、そこで喧嘩をしている二人のものだろう。
ヘンリーもバッツも穴掘りで忙しいのか、こちらを見てはいない。エリアもターニアも、たまに下を向いてはすすり泣いている。
倒れている他の五人は気付くはずもない。
ザックの水のうちの一つと自身の水を交換し、他のアイテムが沢山はいったザックに例のポーションを紛れ込ませる。
言うなればデスポーションといったようなものか。あの毒の強力さは自身が体感済みだ。
一気に胃まで流し込めば、それで生命活動は停止してしまうだろう。

墓作りを手伝ってもいいのだが、その前にスコールらの元へと行ってみる。
遠目からでも二人の喧嘩の凄まじさは分かったが、改めて見てみるとまたひどいものだ。
夜も更けて気温は低いはずなのに、その周囲だけ暖かく感じる。
二人とも顔が切れたり腫れたりして、端整な顔立ちが台無しになっている。
正直、今気絶している三人のほうが外面的にはよっぽど綺麗な顔をしている。
草原のはずなのに、その周囲だけ地面が茶色い。
肩で息をするというレベルじゃない。頭の先からつま先まで使って息をしているようだ。
服の擦り切れ具合がひどい。サイファーのコートはもはや白なのか茶色なのか赤茶色なのか分からない。
よくもまあ時も場所もわきまえずにこうなるまで殴り合えるものだ。
けれど、僕だってギルダーと会えていたらこういうふうにしていたのかもしれない。
そう思うと、少しの微笑ましさと羨ましさと、嫉妬心が湧き上がった。
206紛れ込んだ不純物 5/6:2007/11/11(日) 23:05:28 ID:vpHdEz900
【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
 第一行動方針:怪我人の看病、死者の弔いをしつつ、みんなを守りながら、朝を待つ
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:なし
 第一行動方針:怪我人の看病、死者の弔いをしながら朝を待つ
 基本行動方針:イザを探す】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス ひそひ草
 第一行動方針:怪我人の看病、死者の弔いをしながら朝を待つ
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP1/5 左足負傷、魔力少量)
 所持品:ライオンハート アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:怪我人の看病、死者の弔いをしながら朝を待つ
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サックス (HP半分程度の負傷、微度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】

【スコール
 所持品:なし
 第一行動方針:体力回復して気持ちを落ち着ける
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、エドガーを探す/緑髪(ヘンリーとソロ)を警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:なし
 第一行動方針:体力回復して気持ちを落ち着ける
 第二行動方針:協力者を探す/ロザリー・イザと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
207紛れ込んだ不純物 6/6:2007/11/11(日) 23:06:15 ID:vpHdEz900
【リュック(パラディン)(眠り)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 チキンナイフ マジカルスカート
 第一行動方針:眠る
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ソロ(HP2/5 魔力微量 気絶 体力消耗)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング
 第一行動方針:睡眠
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損、昏睡) 所持品:なし】
 第一行動方針:−
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】

*スコールの支給品
【G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 吹雪の剣、ガイアの剣、エアナイフ、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、ひそひ草、猛毒入りの水
 ヘンリーの武器(キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ)
 アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)】
*サイファーの支給品
【破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧 スタングレネード×6】
以上は現在ソロたちと同じところに置かれています。

*スコールの支給品には、猛毒入りの水のほかに普通の水も混ざっています。
*井戸に毒が撒かれています。
*バッツはまた元のジョブに戻っています。
208紛れ込んだ不純物 5/6の修正:2007/11/11(日) 23:58:07 ID:vpHdEz900
【サックス (HP半分程度の負傷、微度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】



【サックス (HP半分程度の負傷、微度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット 拡声器 ポーション×2
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
209軽い気持ちと激情の空回り 1/10:2007/11/12(月) 01:00:28 ID:Ty4nDdSO0
本当はね、眠る気なんてなかったんだよ。
どっかのオジサンがうるさいから目だけつぶっとけーって。
だけどさ。ふっと気づいちゃったんだ。
頭の中で鳴ってる、さざ波みたいなノイズに。

最初は、死んだ人の声だって信じてた。
何せティーダに止められるちょっと前には、本当にはっきり聞こえてたから。
死にたくないとか殺してやるとか、ちょっと物騒なトーンが混ざってね。
でも、『なんかただのノイズみたいだな〜』って思ったところで、別の考えが浮かんだのさ。
頭の中がザワザワして、なんか力が沸いてくるような感じもする謎の現象。
これって、エルオーネの"妖精さん"と似てないか? って。
まあ、確信があったわけじゃなくて、ただの思いつきなんだけど。
僕、"妖精さん"の方――ジャンクションする側にしかなったことないし。

でもさ。可能性としては否定できないじゃん?
スコールやラグナがいなくなったことに気づいたエルオーネが、
二人を探すために僕の意識に他の知り合いを送りこんだ、ってさ。
彼女にとっては何よりも安全で確実で手っ取り早い方法だもんね。

で、そこでさらに発想を逆転してみたわけ。
僕らが"妖精さん"になってた時、ラグナご一行は僕らのGFをそのまま使えてた。
それなら僕だって、僕の頭の中にいる妖精さんのGFを引き出せるはずだろ?
何もエデンを使いたいとは言わないさ。
無限に怪我を完全回復できて攻撃も強力なリヴァイアサンとか、
カード化と精製で卑怯技連発できるケツァとか、
ショップ呼び出しでアイテムを大量調達できてレベルダウンで相手を雑魚にするトンベリとかで十分。
そいつらがいれば、アルティミシアはともかく、殺し合いに乗った奴なんて余裕でボコボコにできるもんね。

それにさ〜。エルオーネと僕の共通の知り合いは、そんな多くない。
ぱっと思いつくのはキスティスとかママ先生ぐらい。
でも……それだけじゃなかった気がしてさ。
210軽い気持ちと激情の空回り 2/10:2007/11/12(月) 01:01:16 ID:Ty4nDdSO0
もう一人誰かいたんじゃないか。自分はとっても大切なことを忘れてるんじゃないか。
そんな感じがして。
僕の中にいるモノが、その『誰か』なんじゃないかって。
心に空いた穴を埋める何かなんじゃないかって、思ったんだ。

それで僕がどうしたか〜なんて、説明するほどのことじゃないよ。
GFを召喚する時みたいに、意識を集中して、同調させようとした、そんだけのこと。
それだけで、いきなり苦痛も後悔も罪悪感も綺麗さっぱり消えて、全てが満たされてく感じがした。
でも、大切な人と手を繋いで眠るときのような心地よさはなくて。
エロい意味で限界突破したら味わえるんじゃないかっていう、自分が壊れてくような快感があって。
もしかしてヤバイ? とか、思う暇もなかったね。
気づいた時にはどろっとした闇に包み込まれて、飲み込まれて……
記憶も意識も全部溶けて、深淵に沈んでった。
211軽い気持ちと激情の空回り 3/10:2007/11/12(月) 01:02:43 ID:Ty4nDdSO0
何時間森を彷徨ったか、覚えていない。
エドガーさんを見捨てた言い訳が中々思いつかなくて、
戻ってもキミは私のことを気にかけてくれるかどうか怖くて、地図も見ないでうろうろしてた。
でも、だんだん寂しくなってきて、それにあんまり遅くなって怪しまれても困るって思い直したんだよ。
それで、レーダーの光点と月明かりを頼りに、キミのいる山の中に戻ったんだ。

でもね。いざ、キャンプの近くまで来たら、足がすくんじゃった。
キミは優しいから、エドガーを殺した相手を探しに行こうとするんじゃないかとか。
もしかしたら私がやったことに気づくんじゃないかとか。
こういう時って、悪いことしか頭に浮かばないんだね。

だから、ロックさん達の姿を見つけた時、逃げちゃおうかと思った。
本当はキミの傍にいない方が、私にとってもキミにとっても都合が良かったんだ。
だけどやっぱり、傍にいたいって気持ちは抑えられなくて。

「無事だったのか!? エドガーはどうしたんだ!?」

私に気づいたロックさんの、当然の質問。
なんて答えればよかったんだろうね。
本当の答えは、今になっても見つかってないんだ。

「わからないの……遠くで銃声がして、エドガーさんが私を突き飛ばして……
 倒れて動かなくなって……それで、怖くなって……」

ロックさんは何も言わなかった。
ただ、青ざめた顔で呆然と私を見つめて、それから目を伏せた。
言葉が聞こえたのは、一分ぐらい経ってからだった。
212軽い気持ちと激情の空回り 4/10:2007/11/12(月) 01:03:39 ID:Ty4nDdSO0
「……あんたが無事で良かった。
 ティーダの野郎叩き起こして、早く顔、見せてやれよ。
 心配してたんだ。あいつ、あんたのことさ」

言われなくても、元からそうするつもりだった。
ロックさんと一緒にキャンプに戻って、真っ先にキミに駆け寄る。
肩をつかんで揺さぶって。
「うーん」と瞼をこすり始めたキミに、抱きついた。

「ユ……ウナ?」
「ティーダ、会いたかったよ、ティーダ!」

演技とか、そんなつもりじゃない。
そんな気はなかったのに、涙が勝手に出てきた。
ぽかんと口を開けたキミの顔が目の前にある。
それが無性に嬉しくて、ぽろぽろぽろぽろ、涙がこぼれた。
ねえ、知ってる?
キミが私の頭に手をおいてくれたとき、私、少し期待したんだよ。
今なら、誰よりも、私のこと、優先してくれるんじゃないかって。
なのにキミは、こう言ったんだ。

「ユウナ……? なんで泣いて……
 そうだ、エドガーは? あのオッサンはどうしたんだよ?」
213軽い気持ちと激情の空回り 5/10:2007/11/12(月) 01:04:59 ID:Ty4nDdSO0
ねえ。わかるかな。
私がどれぐらいがっかりしたか。

「……遠くから銃で襲われた、らしい。
 エドガーが庇って、それでどうにか逃げ切れたんだと……
 ……あいつらしいよな」
「な!? な……なんでなんだよ!
 そんなんじゃ、レーダー持ってったりユウナがついてった意味、ないだろ!?」

ねえ、わかるかな。
私がどれぐらいがっかりしたか。

「なんだよ! なんで助けようとか思わなかったんだよ!
 できたはずだろ!? ユウナなら! 白魔法でさ! そのために着いてったんじゃないのかよ!
 まさか、本当にロックやアーヴィンが言ったみたいにただのあてつけだけかよ!?
 違うだろ!? なのに足引っ張って、自分ひとりだけ逃げて、そんな……
 それじゃあなんの意味もないだろ!」

ねえ、わかるかな。
私がどれぐらいがっかりしたか!

「いい加減にしろ! ユウナに八つ当たりしたって仕方ないだろうがよ!」
「だけど……だけど! リルムも助けられない、エドガーも助けられないじゃ……!」
「じゃあユウナが死んでりゃ良かったとでも言うつもりか!?」
「そんなこと言ってない!
 だけどこんなことになるってわかってたら、ユウナもエドガーも行かせなかった!」
「ンなこた誰だって同じだバカ野郎!」

キミは結局、私に優しい言葉、かけてくれなかったね。
ロックさんと言い争ってばっかりで。
慰めてくれたのは、ギードさんとテリー君だった。
214軽い気持ちと激情の空回り 6/10:2007/11/12(月) 01:06:37 ID:Ty4nDdSO0
「気にするでない。お主に非がないことは彼もわかっとるよ。
 ただ、怒りのやり場を見失って、最も心を許せる相手にぶつけてしまっとるだけじゃ」
「そうだ、襲ってきた奴が一番悪いんだ!
 ユウナ姉ちゃんのせいじゃないよ!」
「今は、彼の相手はロック殿にでも任せるがよい。
 しばらくすれば頭も冷えるじゃろう。
 こういうのは時間が何よりの薬じゃて」
「………」
「大丈夫だよ、姉ちゃん、オレもギードも姉ちゃんの味方だから。
 オレがティーダ兄ちゃんの代わりに色々聞いてやるから、落ち込まないでよ」
「そうじゃ。ワシも伊達に五百年も生きとらんでな。
 俗世を離れて久しいといえ、仲直りや恋愛のアドバイスぐらいできるわい」
「いや、それは無理だろ。人とガメゴンじゃ違うし」
「だからお主もルカも、ワシはガメゴンではないと何度言ったら……」

ねえ、知ってる?
ギードさんね、首輪のこと調べてみるとか言ってたから、殺そうって思ってたんだよ。
それなのに、慰めてくれて。
……笑っちゃうよね。

「さあさ、とにかくお主もゆっくり休むのじゃ。
 リルムとラムザも戻ってくるかもしれんし、ワシも長距離の移動はまだちときつい。
 どのみち、夜明けまではここで過ごすことになるじゃろうて」
「そういや姉ちゃん、怪我とかしてない? 大丈夫?
 痛いところあるならギードに治させるよ」
「……大丈夫だよ。私は大丈夫」
「そっか……良かった!」

笑っちゃうよね。
守りたいと思ったキミには罵られて、殺そうと思ってた人たちに気遣われて。
もう、乾いた笑いしかでてこないよ。
215軽い気持ちと激情の空回り 7/10:2007/11/12(月) 01:08:24 ID:Ty4nDdSO0
ねえ。どうしてキミは私のこと見てくれなくなっちゃったのかな?
キミを変えたのは誰なんだろうね?
やっぱり、キミの横で寝てた、人殺しの彼なのかな?

ねえ。知ってた?
私ね、彼のこと、嫌いなんだ。
キミは私のこと見てくれないけど、彼のことは気にしてるでしょ?
私なんかよりよっぽど人を殺してるって、自分で言ってる人なのに。
ねえ。キミは私がエドガーさんを殺したって言ったら、私のこと嫌うよね?
でも、もし彼がエドガーさんを殺したって言ったら、キミは許すと思うんだ。
私が彼を殺したら、きっとキミは私のこと、嫌うよね。
でも、もし彼が私を殺したとしても、キミは……許すことを選ぶと思うんだ。

「……ふわー……」

視界の片隅で彼が身じろぎした。
いつのまにそこまで回復してたのか。
器用に身体をひねって、二人と私達のほうに顔を向ける。
しばらくぼんやりしていたけれど、やがて目をこすって、ロックさんに向かい呆れたように呟いた。
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/12(月) 01:09:17 ID:x/fzCPH00
 
217軽い気持ちと激情の空回り 8/10:2007/11/12(月) 01:09:27 ID:Ty4nDdSO0
「なんだよー……人のことどうこう言っときながら、あんたが一番うるさいじゃん〜……」
「お前は黙ってろ!」
「そんなひどい〜……あれ、ユウナ?
 ……本物? 帰ってきたの?」

良かった、って彼はそう言って、嬉しそうに笑った。
私は嬉しくなんてなかった。
もっとドロドロした、暗い感情が、私を飲み込んでいく。
それでも、私は笑ってみせたよ。
キミに嫌われたり、疑われたりするのは絶対にイヤだったから。

ねえ、わかる?
私がどれぐらい辛かったか、わかる?
私はキミの傍にいたいだけなのに。
ねえ、わかる?
全部――全部、キミのために我慢してるんだよ。
キミのためにこんな思いをしてるんだよ、ティーダ!
お願いだから……お願いだからわかってよ!
218軽い気持ちと激情の空回り 9/10:2007/11/12(月) 01:11:43 ID:Ty4nDdSO0
本当に、いきなりだった。
ふわっと放り出される感じがして、ぼやけてた意識が輪郭を取り戻して、痛みが気持ちよさを弾き飛ばす。
それもさっきティーダに止められた時と同じで、やっぱり倍返しだったから。
痛くて痛くて寝てられなくて、仕方なしに目を開けたんだ。

最初に、何が見えたと思う?
ティーダでもロックでも、テリーでもギードでもない。
ぼんやりと光る霧みたいな、もやみたいな、"闇"さ。
これがウワサの幻光虫って奴かなあとか思ったけど、すぐに違うってわかった。
ティーダの傍に舞ってるわけじゃなかったし、おかしなことに、僕以外の誰もそれに気づいてなかったから。

"闇"は、なんか僕の身体から染み出すみたいにまとわりついててさ。
なんでか、テリーにも少し絡み付いてたけど……ゆっくりと、どこかへ流れていくんだ。
ちょうど水が高いところから低いところに流れるみたいに。
寄生虫が弱った宿主を見捨てて、新しい宿主に移動するみたいに。
僕やテリーから離れて、漂って吸い込まれてく、その先に――いつのまにか戻ってきてたユウナがいた。

すっごく嫌な感じがしたんだよ。
純白のシルクのドレスが下水に落ちて、ヘドロになっていくみたいな。
だけど、どうすることもできなかった。
僕ができたのは、不審そうに睨んでるユウナの視線に気づいて、あわてて知らん振りしたことだけ。
なんかティーダとロックが口げんかしてたから、それを利用して、すっとぼけてみせて。

「なんだよー……人のことどうこう言っときながら、あんたが一番うるさいじゃん〜……」
「お前は黙ってろ!」
「そんなひどい〜……あれ、ユウナ? 本物? 帰ってきたの?」

うそ臭いなあ、って、自分でも思った。そもそも今気づいたフリする必要ないし。
良かった、とか付け足しても、なんか、白々しくなるばかりでさ。
それでもユウナは、笑ってくれて……嬉しかったけど、同じぐらい不安になった。
この微笑が、まとわりついた"闇"に塗りつぶされていく、そんな感じがしたから。
219軽い気持ちと激情の空回り 10/10:2007/11/12(月) 01:13:24 ID:Ty4nDdSO0
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
 所持品:フラタニティ 青銅の盾 理性の種 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
 第一行動方針:待機(ロックとの言い争いを続ける可能性有り)
 第二行動方針:サスーンに戻り、プサンと合流
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、身体能力低下、一部記憶喪失、軽症、右腕骨折、右耳失聴)
 所持品:竜騎士の靴 ふきとばしの杖[0] 手帳 首輪 コルトガバメント(予備弾倉×3)
 第一行動方針:休憩
 第二行動方針:ティーダが消えない方法を探す/ゲームの破壊】
【ロック (軽傷、左足負傷、MP2/3)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証
 第一行動方針:待機(ティーダとの言い争いを続ける可能性有り)
 第二行動方針:ピサロ達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP1/3、残MP1/3ほど)
 所持品:首輪
 第一行動方針:見張り /ユウナを励ます
 第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(軽傷、右肩負傷(8割回復)
 所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
 第一行動方針:ユウナを励ます
 第二行動方針:ルカ、わたぼうを探す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、
 対人レーダー、天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
 第一行動方針:休憩
 第二行動方針:邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰す】
【現在位置:サスーン南東・山の中、森との境付近】
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/16(金) 01:20:25 ID:PnLMp7+M0
ホシュシマスデス
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/18(日) 01:38:04 ID:dhewGWif0
ホシュガメッシュ
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 00:07:38 ID:KBmczzIV0
ホシュシマッシュ
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/20(火) 00:59:11 ID:ubH3G/mfO
245254318993
224初心思い出して 1/5:2007/11/20(火) 01:42:35 ID:8AeJW81q0
カズスは思ったより静かだった。相変わらず風の音はしていたがな。
まあそれが分かるくらいには静かだったってことだ。
はじめは待ち伏せされてるんじゃねえか、と思ったわけよ。
待ち伏せ自体は卑怯でもなんでもねえけどな。俺もよく使ってたし。
やつもどうせどっかに隠れて後ろから奇襲してくるんだろ、
その手は食わないぜ、ってな感じで慎重にカズスを進んでいたわけだ。

カズスの荒れようのひでえこと。焼かれたムーアの大森林だってここまで荒れちゃいなかったぜ。
大穴の開いた地面。崩れた家屋。黒コゲの木々。小洒落た表現をすりゃあ、草一本生えなさそうな不毛の土地ってか。
身を隠すところはほぼ無かったが、壁の影、泉の中、あとは鉱山の入り口か。
やつらが隠れそうな場所はこれくらいしかなかった。
やつらは翼なんかないし、レビテトの上位魔法なんて聞いたことがねえ。
スミスが空から見渡してみたらしいが、やっぱり誰も居なかったようだしな。

ちなみにスミスはカズスに着く前に、ちょっとの間なら飛べるくらいに回復しておいた。
今朝使ったときは集中できないせいかと思っていたが、本当に回復量は減ってやがった。
それでも魔力を惜しまずに治療してやったわけよ。そしたら、へ〜ぇ?って反応がきたけどな。
そんなに俺が魔法を使うのはおかしいかと聞いたら、脳筋だと思ってたとかほざきやがった。
あいつ曰く、肉弾戦のプロって意味があって、戦士にとっての褒め言葉らしいが、本当かぁ?
とにかく、人を外見だけで判断するのは未熟だって諭してやったら、アンタ人じゃないだろって返されて、
いつの間にかうやむやにされちまった。魔族こそ見た目で判断したらダメだと思うんだがなあ。
225初心思い出して 2/5:2007/11/20(火) 01:45:40 ID:8AeJW81q0
初めにスミスが持ってきた情報だと、
カズスにはフリオニールの他にレオンハルト、覆面男と大剣の剣士が居たってことだった。
さすがにそれだけの人数が壁の後ろに隠れてて空から見つからないわけがねえし、水の中も長時間は無理だ。
土の中ということもあるが、普通の人間数人が痕跡無しに地面に潜れるか?
思えば向こうがこっちに気付いてる可能性自体が低いわけだ。
つまり、やつらはどっかで夜を過ごしてる、ならもう鉱山の中しかないだろうって思って、
というかスミスにそう言われて、抜き足差し足忍び足ってな具合に敵地に潜入したわけだ。

ちなみにスミスは鉱山の外で見回りをすると言って、入っては来なかった。
だが、結果は残念すぎるものだった。内部で二人死んでいて、
フリオニールたちがいるのかと思ったが、奥はもぬけの殻。
いや、ここに来てすらいなかったのかもしれないが、それは俺には分からねえ。
鉱山って割にはあまりに短かったんで、変だと思ったら壁に隠しスイッチ。だが、その先にも誰もいない。
結局何も見つからず、鉱山から出たところで俺は突如スミスに絨毯に乗せられた。
着いた先は村はずれの一角。そこにあったのはたくさんの死体だったな。
五人死んでた。軽装の女、赤髪の女、半裸の男。そして、フリオニールとレオンハルト。
226初心思い出して 3/5:2007/11/20(火) 01:47:30 ID:8AeJW81q0
見た瞬間に、全身の力がスッと抜けていった。
あの感情は、がっくり、というようなぬるいものじゃなかったな。
気がついたときには両膝を地に付けて、大きなため息をついてた。
俺今何しているんだっけという疑問が頭ん中をめぐってた。
神様のいたずらとは思えなかったな。神様に俺の生き様を否定された感じだった。
他のやつらは人を助けたり、ここから逃げる方法を考えたり、
そうでなけりゃどうやって勝ち残るかを考えたり、とにかく前に向かって行動してきてる。
そんな中で俺はこの半日、仲間の仇を取ることだけを考えて、意図的に他のやつらを避けてきたんだ。
だが、仇を討ったあとにどうするのかは全く考えてなかった。
半日かけてフリオニールを探し回って、やっとのことで尻尾を掴んだと思ったらこのザマだ。
俺と戦う前に向こうが勝手にくたばっちまってるなんて思いもしなかった。
どうして間に合わなかったか? どこで見当を違えたか? あまりに楽観的すぎたのではないか?
後悔はいくらでもできたが、だからといって何か行動しようという気にはなれなかった。
もう死んじまった相手に攻撃しても、その時点でただただ虚しいだけと分かってた。
色々と自分の中にあった熱も冷めちまってたんだな。完全に方向を見失って、しばらく途方に暮れていたんだ。
227初心思い出して 4/5:2007/11/20(火) 01:49:26 ID:8AeJW81q0
あのあと、俺が何十分うずくまってたのかは分からねえ。
スミスがしばらく何か言ってたが、生返事しかしてなかったと思う。
そんなわけでスミスが業を煮やしたのか、俺に問いかけてきたんだ。
初めここに降り立ったとき、俺が何をしようとしたのか思い返せってな。
俺がこの会場に降り立ってすぐに考えたのは、主催者をぶっ飛ばしてやろうってことだった。
だが、どうやってあの主催者のヤロウのところへ行くかが思いつかなくて、
適当に歩いてたら殺し合ってるやつらがいた。殺し合いを止めようと思ったのか、それとも助けようと思ったのかは忘れた。
とにかく二人の戦いに乱入して、これをきっかけにわるぼうに会い、サリィに会った。

最初に何をしようと思ったか。
俺はなるべく犠牲を減らそうと、殺人者を止めようと動いてたってことだ。
そしてスミスはこうも言った、サリィもわるぼうも、俺の行動が正しいと感じたからこそ一緒に付いてきたんだと。
なら、何も悩む必要はない、最初にやったとおりのことを目指せばいいと。
神様は生き様を否定したんじゃなくて、復讐に走る俺を元の正しい道へ連れ戻してくれたんだと。

フリオニールとレオンハルトの裏切りで、仲間を失ったことが尾を引いているんだろう。
初対面の相手を信じることはまだ出来そうにない。
だが、積極的に人を殺してるやつらを討つことならできる。
少し元気が出た気がした。俺の手で仇を取れなかった後悔はまだある。
だが、今前を向いて歩くことは出来ると思った。
228初心思い出して 5/5:2007/11/20(火) 01:54:11 ID:8AeJW81q0
フリオニールとレオンハルトの他に死んでた三人の名前はユフィ、バーバラ、オルテガらしい。
オルテガっておっさんはどこかで見たことがあるような気はするが、思い出せねえ。
こいつらはここで、おそらくフリオニールらに殺されてたのをスミスが弔ったらしい。
遺品らしい剣、斧、杖はいただいた。正直、武器が頼りなかったのでありがたい。
ユフィの遺品は使える自信がなかったので放置した。

フリオニールとレオンハルトには仲間がいた。レオンハルトはともかく、フリオニールの表情。
この恨みはらさでおくべきかなんて顔をしてやがった。
スミスに意見を求めたら、仲間に裏切られでもしたんじゃないかとのことだ。
だから覆面野郎がラグナロクを持ってたんだ。動機もラグナロクが欲しかったから、かもな。
フリオニールと組んでる時点でクソ野郎だが、その覆面野郎と大剣も相当なクソ野郎なようだ。
それから、スミスが翼を斬られたっていう銀髪の剣士。ひとまずこいつらの討伐を目的とすることにした。
さて、覆面と大剣だが、どうも俺たちがカズスに着いたときにはもう北へ向かってたようだ。
俺が鉱山で迷って、ここでぼうっとしていたから、数時間の差をつけられてしまった。
追っていくのもアリだが、まもなく放送の時間だ。
旅の扉に間に合わなくてボンでは話にならない。ひとまずは放送を聞くとしよう。
……バッツ、レナ、カイン、お前らの名前が呼ばれないことを祈る。

【ギルガメッシュ(HP3/5程度、少々人間不信)
 所持品:厚底サンダル 種子島銃 銅の剣 デジタルカメラ デジタルカメラ用予備電池×3 ロングソード ミスリルアクス
 変化の杖 りゅうのうろこ 波動の杖
 第一行動方針:放送を待つ
 第二行動方針:アルスらを倒し、ラグナロクを取り戻す
 基本行動方針:殺人者の討伐】
【スミス(HP1/3 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態、闇のドラゴン)
 所持品:魔法の絨毯 ブオーンのザック
 第一行動方針:ギルガメッシュを利用する
 第ニ行動方針:カインと合流する
 行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:カズスの村】
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/23(金) 21:37:56 ID:gBiaVSSH0
保守
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/25(日) 00:28:57 ID:4PEYw1HO0
ほしゅくえすと4
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/11/28(水) 19:03:43 ID:DXqUlfXb0
このまま保守
232第四回定時放送 1/4:2007/12/02(日) 18:19:40 ID:cbyLjTxA0
時計塔の一室、玉座の間。
血のように赤いワインを片手に、魂の慟哭をBGMに、
アルティミシアは日の出の時を今か今かと待ち望んでいた。
というのも、夜明け前というのは意外と退屈な時間なのだ。
日が変わる辺りまでは皆積極的に活動するものの、それ以降、参加者の動きが鈍くなってくる。
4時を過ぎたあたりで戦いはほとんど終了し、ほぼ全ての参加者が休息に入り、ゲームは半分中断する。
そこに新しい風を吹き込むのが日の出前の定時放送とフィールド移動。
寝ぼけ眼の参加者を脳髄まで揺さぶり、完全に覚醒させるのだ。
放送のたびに起こる地震も、そういう意味で参加者達の役に立っていると言えなくもない。

もっとも、彼女の部下たる管理者たちはこの時間が最も忙しい。
次フィールドの構築、旅の扉の位置設定、死亡者と生存者の確認、名簿の更新。
アルティミシアの魔力を以って実行していることなのだが、本人はただ魔力を供給するだけ。
余計なことで彼女の手を煩わせず、かつ楽しませようとという部下の配慮でもある。

「放送ノ準備ガ完了致シマシタ。マタ、デジョンニヨッテ次元ノ狭間ヘト移動シタ参加者デスガ、死亡ヲ確認致シマシタ」
アルティミシアは報告を受けると、持っていたワイングラスをテーブルに置き、静かにうなずく。
ウルフラマイターやティアマトはゲーム全体の管理を交代で行い、
不測自体の報告、対処はほぼガルガンチュアに任されている。
もちろん、本当に必要性があるならばアルティミシア本人が手を下すのだが。
退出するように促され、ガルガンチュアがその巨体にもかかわらず、速やかに音も立てず退室する。

それを見届けてすぐ、アルティミシアが立ち上がる。
正面のスクリーンが浮遊大陸全体を写し出し、
その風景がプラネタリウムのように玉座の間全体に広がる。
口元を僅かに吊り上げ、おもむろに口を開く。
233第四回定時放送 2/4:2007/12/02(日) 18:21:03 ID:cbyLjTxA0

「二度目の夜明けだ。貴様等もこの地での『生き方』を身に付けてきたころだろう。
 貴様等の糧となり、この地で屍となった者共の名を読み上げよう。

 『テリー』『トンベリ』『ゼル』『レオンハルト』『ゴゴ』
 『わたぼう』『レナ』『エドガー』『イザ』『オルテガ』
 『フリオニール』『ユフィ』『リュカ』『ピエール』『ハッサン』
 『ビビ』『ブオーン』『ジタン』『ライアン』

 以上、十九名だ。

 ここに来てなおこのペースを保つとは、期待以上だぞ。
 だが、徒党を組んだだけで安心している浅はかな連中も未だにいるようだな。
 名を挙げた者共の中にも、注意を怠ったばかりに仲間…いや、
 仲間だと思い込んでいた者に殺された者が多数含まれているのだぞ。
 まあ、今更忠告もする必要もあるまい。

 さて、今再び変革の時が来た。
 何をすべきか分かっているな? 二時間以内に旅の扉を潜り、次の世界へ向かうのだ。
 旅の扉の設置場所を読み上げる。くれぐれも忘れることなどがないようにな。

 『ウル』『カズス』『サスーン』『カナーン』『ネルブの谷』『湖南の森』

 以上六ヶ所だ。生き延びたいのならば、速やかに移動することだ。
 貴様等が新たな舞台でどのようなショーを披露してくれるのか、楽しみにしているぞ」


234第四回定時放送 3/4:2007/12/02(日) 18:22:10 ID:cbyLjTxA0
スクリーンは徐々に元の形へと戻り、玉座の間も元の姿へと戻っていく。
アルティミシアも再び席に着き、新たに注ぎ直されたワインを手に取り、再びスクリーンに向き合う。

そこへ、退室していたはずのガルガンチュアが再び現れる。
ガルガンチュアは不安の色を隠せないまま、アルティミシアに尋ねる。
「アルティミシア様、何故、デジョンヲ禁止魔法トシテ追加シナカッタノデ?」

なんだそのことか、とでも言いたげにアルティミシアが答える。
「今回のことはあくまでイレギュラーな事態。このようなことは何度も起こりえぬ。
 魔法に長けた者ならば、次元の狭間の存在は知っておろう。
 デジョンを禁止魔法として告知してしまえば、あるいは余計なことに勘付かれてしまうかもしれぬ。
 こちらからわざわざ情報を与えてやる必要はあるまい」

アルティミシアの忠実な部下といえども、一で十を理解するほどの濃密な関係が出来上がっているわけではない。
開催目的も邪推はできるが、正確には知らされてはいないのだ。
イレギュラーに対処とはいうが、実際はどれがイレギュラーなのかも把握できてはいない。
ガルガンチュアは不安の色を隠さない、隠しきれない。

「心配することはない。参加者がデジョンによって移動したという痕跡さえ消せば、何事もなくゲームは進行する。
 お前は余計なことは考えずに自分の役割を遂行するだけでよいのだ」
「カシコマリマシタ…」
235第四回定時放送 4/4:2007/12/02(日) 18:23:16 ID:cbyLjTxA0
デジョンで構築途中のフィールドに飛ばされることなど、さらにそれが二度ともなれば天文学的な確率。
最初のフィールド移動の際に、死者がフィールドを移動するという事態は起きた。
だが、だからといってそれを見た者が何かに勘付くということもなかった。
むしろ、ここでデジョンという魔法を皆に知らせるとまずい。
二つが結びつくことで、デジョンを使えばフィールドからの脱出は可能なのだと考え、
この場所がどこなのかを理解し、それらを基点に脱出方法を思いつく者もいるかもしれない。
様々な手段を行使して生き延びるのがこのゲームの醍醐味であり、見所である。
テレポの一部機能や、リレミトなどの、次元の狭間そのものから脱出してしまう魔法には制限をかけてあるが、
逆に言えばそれ以外の移動魔法の制限はかなり緩く設定してある。
だが、彼女とて、異世界の全てを知り尽くしているわけではない。
参加者はいずれも幾多の世界から集められた実力者、それが交われば、新たな魔法を生み出される可能性もあるのだ。
この場合、何も知らせないことが対策なのである。
場合によっては、カナーンにいるあの四人は次のフィールドでの初期位置調整をする必要が出るかもしれないが。


如何にして参加者達を欺き、情報を統制するか。どこまで許容し、どこまで禁止するか。
このゲームの管理のコツ。これが崩れれば、ゲームの秩序は崩れ、主催者は試合場に引きずり出される。
参加者の多くは彼女が観覧席からぬくぬくとゲームを観戦していると思っているのだろう。
だが、それは間違い。主催者たる彼女自身、紛れもなくゲームの参加者の一人なのである。

【浮遊大陸の各地に旅の扉が出現しました】

236三日目の始まり 1/7:2007/12/04(火) 19:02:34 ID:HEnzJVER0

…………。
…………東の空が白みはじめている。
過ぎ去った夜、経過した時間はセフィロスに一つの狙いと回復を与えて明け果てた。
ゆっくりと、長いこと瞑想を続けていた座から立ち上がる。
新しい朝、再生と再始動の朝を迎えて全身の細胞も歓喜にさざめいているようだ。
求めるものは力、探すものは黒マテリアと何らかの枷。
自らの絶対を信じ、セフィロスがついに再び動き出す。
それは新たな惨劇の始まり。



237三日目の始まり 2/7:2007/12/04(火) 19:04:02 ID:HEnzJVER0

「約束は守るよーに!」
ベレー様の帽子と眼帯の少女、リルムに絵筆をつきつけられ、
無駄につぶらな瞳をした一匹のカッパがぶんぶんと首を縦に振る。
「それじゃあ……3……2……1……カッパー!」
変化の光が緑色の身体を包み込み、やがて淡く消えていく。
かわりに、元の姿を取り戻したウィーグラフが立っていた。

「おはよ、誘拐犯ッ!」
「ウィーグラフッ!」
リルムの傍らには青い帽子の青年、ラムザが立ち、
手にした剣でカッパーの呪縛から解き放たれたウィーグラフを威嚇していた。
ウィーグラフに先んじて目覚めていたラムザは、当然先にリルムとは為す機会を得ていた。
この場所から南西に森を隔てた山中でキャンプしているメンバーの名前を出して説明することで
二人の間に基本的な信頼関係は成立している。
反応を待つ二人に対してウィーグラフは険のある表情で睨むことで答えていたが
突然、その表情が激した感情と悔しさに歪んだ。
「私はッ、私はまたも敗れたというのかッ、ラムザ=ベオルブッ!!」
力いっぱいに作った握り拳をわなわなと震わせていた。
激しい心のうちを示すように顔が、紅潮している。
238三日目の始まり 3/7:2007/12/04(火) 19:05:05 ID:HEnzJVER0
「〜〜〜ッッ、ばかりか、情けまでかけて私を蔑む気かッ、
 あの時と同じように一息に殺せッ!
 これでは、あまりにッ、……あまりに……」
「負けじゃないよ、引き分けだったよ」
「何だとッ!?」
「おーごえ出さなくても聞こえてる! 似顔絵……じゃなくてまたカッパにするぞ!
 相討ちだった、って言ってるの!
 二人仲良く気絶してて、あたしがその気だったら両方ジ・エンドだったね」
「……ってことだそうだ、ウィーグラフ。
 お前の行動……僕を殺しに来るんじゃないかってのは予想はしてた。
 外れるのが一番だったけど……」
「それで? 手を組もうとでも言うつもりか、ラムザ?
 笑止、片腹いたい………」
「カッパー」
「!!!―――ッ???」
険悪気な雰囲気を変化の光が照らし、場には二人とカッパが残される。
ウィーグラフだったカッパはかーかーと間が抜けた鳴き声で抗議を続けるが、
もちろんリルムにもラムザにも何を言ってるのかわからない。
「帽子兄ちゃん、カッパになって翻訳してくれる?」
「いや、それは……」
なお反抗的なカッパに二人がため息をついたその時。
時を告げるべく、地面が揺れ始めた。


239三日目の始まり 4/7:2007/12/04(火) 19:06:27 ID:HEnzJVER0

テリー。ユフィ。
探していた名前、選び取らなかった名前。
それぞれが、命を落としていた。
「……無様、だな」
感情を表に出さないまま、ラムザは小さく呟く。
守る、などと立派な決意をしたところで死者の数では明らかに達成などできていない。
目の前のカッパ…もといウィーグラフの憎悪や屈曲もわからないではないといったところだ。
それでも、
それでもわずか数分前と比べて明らかにその輝きを曇らせた少女を目の当たりにして、
残された最善へ向かう勇気が挫かれようはずも無い。
「……今のところは、ね」
負け惜しみでいい。
小さな呟きにもう一つ別の呟きを付け加えたところでラムザは
ふと、つぶらな中に真剣味を帯びた少女を見るもう一つの視線に気がついた。
その主とも、最終的な和解は出来なくとも現実に対する同盟という形なら手を組めるはずだ。
もう少し落ち着いたら、今度はそういう方向から話してみよう。
どれだけ無様でも、どれだけ劣勢でもラムザは自分の戦いは終わっていないことを確認する。
出来ないなんて、考えない。

240三日目の始まり 5/7:2007/12/04(火) 19:08:15 ID:HEnzJVER0

およそ12時間ぶりの放送の後、
内心で決意し直すラムザ、明らかに憔悴して見えるリルムの二人を向こうにおいて
最初に音もなく現れた脅威に気がついたのはカッパ…ウィーグラフだった。
劈くようなカッパの声で警告が響き渡る。
けれどそれは遅すぎた。
先に視認を許して、先に捕捉を許して、先に行動を許して、
何か策を講じるには、相手が悪すぎた。

チャンスはあった。
彼に騙された者、彼を直接に知っている者、そんな人といっしょに行動した時期がある。
だけれども時間がなくて、余裕がなくて、ラムザは不運にも彼の情報を得ていなかった。
だから、向かって来る相手に対して幾つか浮かんだ選択肢からラムザが選び取ったのは
ショートジャンプでの奇襲。
互いに手が読めない初対戦において、『攻撃は最大の防御』に基く最良の選択肢になるはず――普通なら。
けれど。
「! バカなッ!」
巡航速度から攻撃速度へと一気にギアを上げた銀髪の男は、まさに疾風の如く。
速過ぎる。
ジャンプした足元を銀色の疾風が駆け抜けていった後で
驚愕と後悔をないまぜにしてラムザは男がすでに通り過ぎた場所へと着地する。
狙いはリルムとウィーグラフ、けれどラムザにはもう間に合わない。

241三日目の始まり 6/7:2007/12/04(火) 19:09:28 ID:HEnzJVER0
ラムザが不運だとするならウィーグラフ、否、リルムには幸運があったと言える。
ウィーグラフがセフィロスと交戦して生き残っている数少ない人物であること、
そして、カッパであるために真っ向から交戦する選択肢が存在しなかったこと。
ウィーグラフは前の夕方に戦った銀髪の男を発見、精一杯の警告をしたあとで
ただ回避の一手だけを考えた。
リルムを殺されてしまっては、元に戻る方法がなくなる――
心中でそういう風に言い訳しながら、銀色の疾風が届くよりも早く憔悴の少女へ飛びつく。
そのまま勢いを利してすんでのところで湖へ、水中へと逃れ落ちた。


剣が空を引き裂き、水柱が上がる。
片目の少女と緑の変な生物、一人と一匹を殺せる間合いであったはずだが剣は届かなかった。
いい判断ではある。しかし――
「フリーズ」
冷徹に魔法を唱え、セフィロスは湖面に極低音を呼び出す。
空気中の水蒸気が昇華して局所的に霧へと変貌していき、
小波の湖面はその形を残したままセフィロスのいる岸から始め白く、次に青く変じて凍り付いていく。
「氷葬だな」
村正を朝日に煌かせてくるりとラムザの方へ向き直る。
湖上にけぶる朝霧を背景にしたセフィロス、銀と白の調和、傷付いた衣服と傷の無い肉体のアンバランスは
寒気がするほどに恐ろしく、美しい姿だった。
その瞳に久方ぶりの獲物、ラムザを映しセフィロスは自らの絶対的な強さを信じて哂っていた。

242三日目の始まり 7/7:2007/12/04(火) 19:10:01 ID:HEnzJVER0
【セフィロス(HP 1/2程度)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:ラムザとの戦闘
 基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:セフィロスとの戦闘 / リルム・ウィーグラフの救出
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖南岸部の東端】

【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×3
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 プレデターエッジ レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 
 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
 第一行動方針:?】
【ウィーグラフ(HP1/4、カッパ)
 所持品:なし
 第一行動方針:?
 基本行動方針:生き延びる、手段は選ばない/ラムザとその仲間を探し殺す(ラムザが最優先)】
【現在位置:湖南部の水中】

※湖面の一部分が凍結。湖全体が凍ったわけではありません。
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/04(火) 19:26:27 ID:EXnDq2kp0
乙でありまする。
244新たな日を歩む 1/3:2007/12/07(金) 14:12:13 ID:Ez+LY4zq0
もうこの放送も四度目になるのか。何度聞いても慣れる気がしない。
昨日の朝、ピエールによって引き離された仲間たちとは、誰とも再会することが出来なかった。
呼ばれたのはエドガーだけではない。イザの名前まで呼ばれていた。
カナーンで何があったのだろうか。サイファーやロザリーの名が呼ばれなかったのがせめてもの救い。
ピエール……もし再度遭遇したなら、必ず仕留めようと考えていたが果たせず。
だが、関わった人間、例えそれが敵であっても、次々と名前が呼ばれていくのはあまり気分のいいものではなかった。

アルスに目をやると、彼は拳を握り締め、歯を食いしばっていた。
魔女への怒り、魔女に踊らされて殺し合いに乗る者への怒りもあるのだろうが、
やはり仲間、そして肉親の名が呼ばれたことが大きいのだろう。
死の際に立ち会ったとはいっても、改めて死を認識してしまうと胸にこみ上げるものはあるものだ。

それでも、立ち止まってはいられない。魔女に一矢報いる。最初に決意したことであり、仲間とかわした約束。
それが果たされるまで、立ち止まることは出来ない。それに、まだ同志が誰もいなくなったわけではない。
お互いにこの腐ったゲームを潰そうと考えている人間がすぐ近くにいる、それだけで十分な活力になる。
仲間、そしてこのゲームに巻き込まれたすべての参加者に黙祷。
今から目指すのは、新たに現れた旅の扉。

自分達の位置はちょうどウルとカズスの途中の森に差し掛かろうというところ。
エドガーを探してウルに向かっていたが、彼は放送で呼ばれてしまった。
途中の森も、ウルの村も、未知の場所。たどり着くまでに時間がかかり、旅の扉を探すのにも手間取る。
今からカズスに引き返すか、このままウルへ行くか。

空は澄み切っていて、これ以上ないほど青い。
果たして、これもあの邪悪な魔女が作った偽りの世界なのだろうか。
毎度のことだが、本当にここが殺し合いの会場なのかと疑ってしまう。

「どうしたんだ、ザックス? 置いていくぞ?」
すでにアルスは歩き出していた。簡単に反応を返して、自らも歩き出す。目的地は…。
245新たな日を歩む 2/3:2007/12/07(金) 14:13:03 ID:Ez+LY4zq0
もうこの放送も四回目だろうか。もはや聞きなれてしまった。
あのテーブルに刻まれた文字を見たときから、嫌な予感はした。嫌な予感はしていた。
この予感が当たらなければいいと思っていた。でも、どうして当たってしまうんだろう。これで自分はまた一人ぼっち。
ドーガさんの直接の仇だったブオーンも、リュカもピエールも死んでしまったけれど、タバサはまだ生きてる。

一つ考えたことがある。
プサンは、いや、あそこにいた人たちは、リュカとタバサの二人は潔白だと言い切っていた。
いや、ジタンだってそうだったのかもしれない。多少疑ってはいたけれど、二人を信用していた。
だったら、僕がここであの人たちを待っている意味なんてないのではないか?
ジタンは死んでしまって、今どこにいるのかも分からない。
他の人間はみんなタバサは潔白だと思っている。
そして、僕はタバサが黒幕だと考えている。
僕がいたら不和が生じるだけ。一人で行動するほうがいい。

そういえば、元の世界で旅をしてたときも必ずそばに誰かいたっけ。
あのときは、何が起こってもなんとかなったんだ。支えて、支えてもらって。
力を全て奪われたときも、世界が闇に落とされたときも、あの魔王に挑むときだって、
みんなで力を合わせてなんとかやってこられた。でも、今は誰もいない。一人ぼっち。

どうしても一人ぼっちになってしまうのならば、いっそ最初から一人のままなら、悲しまずにいられるだろう。
だけど、本当に耐えられるだろうか。いつまでも一人きりだなんて、耐えられるだろうか。
ただ、いずれにしろあの人たち、ジタンの遺体を負ぶって帰ってきたあの人たちとは一緒にはいられそうにない。

旅の扉は案外簡単に見つかった。
あの血で彩られた部屋の真ん中に青々とした空間があった。
未だに血は赤さを失わず、だが青の光と混ざって、部屋全体がどす黒くなっているように感じられる。
早く飛び込んでしまおうと思い、気付いた。
…もしかして、この部屋だけじゃなくて、世界全体がどす黒くなっていないか?
少し寒気がしてきた。これは多分、病気のせい。
だけれど、こんなところに長くはいられない。長くはいたくない。
けれど、この青い渦はまるで僕を地獄へいざなっているようで、結局なかなか飛び込む気にはなれなかった。
246新たな日を歩む 3/3:2007/12/07(金) 14:13:45 ID:Ez+LY4zq0
【アルス(MP1/3ほど、左腕軽症)
 所持品:ドラゴンテイル ラグナロク 官能小説一冊 三脚付大型マシンガン(残弾4/10) E:覆面&マント
 基本行動方針:自分の思った道を行き、未来を正す
 第二行動方針:倒すべき悪(アーヴァイン、スコール、マッシュ、カイン、サックス、スミス)を…?
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ザックス(HP1/2程度、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、左肩に矢傷)
 所持品:バスタードソード 風魔手裏剣(17) ドリル 波動の杖 フランベルジェ
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【現在位置:ウルとカズスの中間の森の南入り口付近】


【フィン(風邪、病状少々悪化)
 所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:タバサが黒幕なら仇を討ちたい
 第二行動方針:風邪を治す
 基本行動方針:人にあまり会いたくない】
【現在位置:新フィールドへ】
247獅子の雑考 1/4:2007/12/08(土) 23:57:43 ID:JiyFybTp0
懐かしい重みを感じながら、俺は一人歩いていた。
腰に下げたライオンハート、愛剣の柄を時々さすりながら旅の扉を探す。
今までとは違って装備は少なく、体は身軽だった。
ライオンハートの他にはナイフを懐に忍ばしているだけだ。

十分毎にあの妙な草に向かって定期連絡。
マーダーが現れたら状況により撃退、及び離脱。
その際にも緊急の連絡を行う。
旅の扉を見つけ次第その場を確保し、周辺を押さえ、仲間を迎える。

それが今俺の為すべき任務であり、自分自身の気持ちを治める方法だった。
片腕を失い、昏睡しているマッシュ。
先の放送で呼ばれた仲間、ゼル。
そしてラグナやリノア……。
目の前で、あるいは会うこともなく何処かで死んでいった者達。
何も果たせずにいる自分が不甲斐なかった。
……しかし、もちろん単なる感情のみから行動を起こしているわけではない。
サイファーと殴り合いでいくらか鬱屈感の遠のいた俺の頭には
SeeDとして、ガーデン司令官としての冷静な思考も一方で戻ってきていた。
このウルの対主催グループは大規模ではあるが、負傷者もまた多い。
負傷者や非戦闘員を引き連れて歩き回るのは危険が多く、
またなにより負傷者の負担が大きい。
特にマッシュなどは生きている方が不思議なほどの重傷で絶対安静だった。
守備を固める者もちゃんといなくてはならない。
戦力の分散を最小限に抑えるための単独行動。
単独行動に耐えられるだけの戦闘力を有する者。
現状で最適なのは俺かサイファーだった。
248獅子の雑考 2/4:2007/12/08(土) 23:59:12 ID:JiyFybTp0
そして今、俺は一人で歩いている。
軽装は万一、自分がマーダーにやられた時に武器を奪われないため。
特に銃を奪われるわけにはいかなかった。
瀕死の者もいる中、距離を取られて狙い撃ちされたら防ぐのは難しい。
今判明している少なくとも一人のマーダー、サラマンダーという赤髪の男はおそらく接近戦タイプ。
正確な狙撃ができるかは疑わしいが、わざわざ戦術に幅を与えてやる必要はない。
それにGFをジャンクションした今ならば、
大抵の相手はライオンハートだけで乗り切れるという自信が俺にはあった。
……騙まし討ちにでもあわない限り。
脳裏にはどこか暗さを纏ったサックスの顔と、
サックスが赤髪の男と何事かをやりとりしている光景が浮かんでいた。
サイファーとの喧嘩の後、身体を休めながら皆で情報交換した時に
俺はあいつの話に違和感を覚えた。
あの時は赤髪の男がマーダーではないと思っていたから見逃したが、
今となってはあの光景は重大な意味を持つ気がする。
もちろん現段階ではサックスがマーダーであると言い切ることはできないが、
少なくともあれはサックスの言うように「見失って逃げられた」ようには思えない。
……しかし、俺もまだ十分な信頼を得ているとは言いがたい。
「仲間」の糾弾は慎重に行うべき。
そう考えて、サックスの不審さはサイファーだけに耳打ちをしておいた。
249獅子の雑考 3/4:2007/12/09(日) 00:00:17 ID:JiyFybTp0
焼け焦げた建物の陰に注意しながら、俺は更に旅の扉を探す。
思考はアーヴァインと、リノアを殺した犯人のことに移ろっていた。
緑髪の男、ヘンリーとソロに対する疑いは既に殆ど解き、
ヘンリーからはアーヴァインの情報も得ていた。
そして、あくまでも推測ではあるが、リノアを殺した人間のことも。
「緑髪と銃の殺人者」
言えた特徴はこれだけだったが、ヘンリーは何かに思いあたった様子で、
それは自分の弟かもしれないと言った。
瞬間、頭に血が上った。
が、何故かその時、アーヴァインの姿が脳裏を横切り、消えた。
(サイファーは怒声を上げてヘンリーに詰め寄ろうとし、バッツ達になだめられた)
ヘンリーに怒りを向けるのは筋違いだと分かっていたし、
仲間の殺人を止められなかった俺は、筋違いと分かってそうすることを自分に許せなかった。
……それに、あくまで推測だ。
ヘンリーの弟がリノアを殺したという確証はない。
俺は新たに緑髪の男を見つけるごとに、また心を波立たせるのだろう。
250獅子の雑考 4/4:2007/12/09(日) 00:12:58 ID:xqPj4YQA0
そしてアーヴァイン。
あいつはあれからさらに人を殺したものの、追い詰められて気絶をし、
目が覚めた時には殺人者としての自覚を失っていたという。
話を聞いただけでは、記憶喪失というのは演技だと判断するのが適当。
しかし魔女を暗殺しようとした時を手始めに、俺はアーヴァインの隠れた繊細さを見知っていた。
物凄いプレッシャーの中で自分を壊してしまってもおかしくない……。
そんな風にも思えるのだ。
もしもヘンリーが言うように、アーヴァインが元の自分を取り戻し、
犯した罪を悔いていたとしたら、俺は一体どうしたらいいのだろう?
あいつのしたことは許されることではない。
だけど、だからこそ仲間である俺がまず許してやるべきなのかもしれない。
あのソロという男がそうしたというように。
……だけどやっぱり、会ったらとりあえず一発殴ってやる。

さあ、ウルの東部は探し終わった。
こちらには旅の扉はないようだ。
次は南部を探すとしよう。

【スコール
 所持品:ライオンハート エアナイフ ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:マーダーを警戒しつつ旅の扉を探索(サックスにも警戒心)
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウル東部→ウル南部へ】

*スコールの支給品には、猛毒入りの水のほかに普通の水も混ざっています。
*スコールのその他の支給品はソロ達のもとにあります。
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/11(火) 17:34:01 ID:dcdCb7Lp0
保守
252騎士達の計略 1/10:2007/12/12(水) 01:27:41 ID:g/G1tc/x0
放送が流れ、そして知った。
仲間として一日を過ごし、そして自分達を見捨て裏切った男の死を。
「……ゼルも、死んだのか」
ふう、と息を吐く。
悲しいという気持ちはあまりなく、むしろざまあみろという笑いを抑えるので精一杯。
じゃあ今のため息は何なんだと言えば、人の死を喜べるようになった自分への驚きと呆れだ。

周囲を見る。
四度目の放送となれば覚悟やら耐性やらがついてしまうのだろうか、泣き出す者は予想より少なく、黙り込む者の方が多かった。
そんな、数少ない泣いている人間――ターニアの傍らに、サイファーの姿があった。
舌を打ちながら、小声で何か囁いている。
もしかしたら慰めているのかもしれないが、遠目で見る限りでは少女を脅しているチンピラそのもの。
見た目と態度で損をするタイプ、という奴だ。

「サイファー! あんた、さっきから何やってんの!?
 ターニアのことそんな泣かしてー!」
「はあ!? うるせえよ、部外者は黙ってろ!」
「何よ部外者って!」

……この調子なら、ポーションの効果が発揮される日も遠くないだろう。
どうせなら、そのまま殴り合いになって憎み合って自滅してくれればいい、とさえ思う。
だが、世の中そんなに上手くいかないこともわかっている。
ヘンリーとエリアが仲裁に入り、ターニアが目をこすりながら話の内容を漏らしたことで、口げんかは終わり。
何でも、放送で呼ばれた彼女の兄とサイファーが一時期行動を共にして、そのときのことを話していたらしい。
リュック達はもちろん、スコールまでもが似合わない行動に驚いたようだったが、ともかく彼女が頭を下げたことで一応丸く収まった。
一応、というのはサイファーの機嫌以外、という意味でもあるし、僕にとってはつまらない結果だったから、でもある。
みんなに背を向けて、パンを齧り始めたサイファーを見やり、僕はもう一度ため息をついた。
253騎士達の計略 2/10 :2007/12/12(水) 01:28:34 ID:g/G1tc/x0
さあ、いつまでもこんな茶番に付き合っていたってしょうがない。
さっさと次の世界への旅の扉を見つけ、サラマンダーや毒を上手く利用してできるだけ多くの人間を葬り去る。
それが僕のすべきことだ。
……だから、ターニアに話しかけているエリアの姿は、できるだけ見ないようにしよう。
もう戻れない道を歩んでいるというのに、彼女が生きているという、それだけで決心が鈍ってしまう。
余計なものが視界に映らないように目を閉じて、最初は会話のシミュレートからだ。
他の連中よりも早く旅の扉の位置を把握したいし、できれば罠なり何なりを仕込んでおきたいが、
この状況で単独行動を申し出たとして、はいそうですか行ってらっしゃいで済ませてくれるとは思えない。
上手く言葉を選び、それらしい理由をつけなければ、疑念を抱かれてしまうだろう。
そこまで行かなくても、引き止められたり、誰かしらが一緒についてこようとするかもしれない。
話しかける相手は集団のまとめ役であるヘンリーでいいとして、彼を納得させ、自分の意見を支持してくれるように仕向ける必要がある。
しかし、謀略というのか行動の計算というのか、こういうのはどうにも苦手だ。
ギルダーや他の二人ならこんな言い訳の一つや二つ簡単に考え付くんだろうな、と愚痴がこぼれそうになる。
それでもどうにか文面が浮かんできたところで、誰かがヘンリーに話しかけるのが見えた。

「旅の扉を探しに行ってくる。悪いが、あんた達はマッシュを見ていてくれ」
僕が考えていたようなのと同じ文面を、その男――スコールは言った。
たくさん持っているザックの一つを投げ渡し、返答も聞かずに歩き出す。
「お、おい! 一人で大丈夫なのか?」
「問題ない。こいつとGFがあれば大抵の敵は対処できる。
 サイファーやサックスみたいに身体のどこかを怪我しているわけでもないしな」
引きとめようとするヘンリーに、スコールは一振りの剣を見せた。
奇妙な柄を持つ青い剣。バッツの持っていた剣だ。
一体いつの間に交換していたのか、バッツの手元には見事な装飾の施された、しかし戦場には不釣合いなハープがある。
254騎士達の計略 3/10 :2007/12/12(水) 01:29:31 ID:g/G1tc/x0
「それに、あんたもわかっているはずだ。
 待ち伏せを避けるために早急に旅の扉を探さないといけないことも、
 怪我人を守るために無駄な人手は割けないってことも」
スコールの言葉に、ヘンリーは俯く。
沈黙は、肯定を意味しているのだろう。
「あんたの荷物のうち、俺のもの以外は返しておく。
 敵に奪われることを防ぐために、他の荷物はサイファーに預ける。
 無事であれば十分置きに、問題が起きたなら即座に、この変な草で連絡を入れる。
 何か問題はあるか?」
ある。十分すぎるぐらいにある。
だが、僕の口からそれを言うことはできない。
苛立ち、というより殺意が沸き立っている僕の心中を知らないヘンリーは、首を縦に振った。
「わかった。……気をつけろよ」

それからスコールはサイファーに何事かを話し、いくつかのザックを手渡していた。
話の内容は聞こえなかったが、そんなことはどうでもいい。
スコール=レオンハート。
ゼルが言っていた通りむかつくぐらい冷静で的確、だから、自覚もないまま僕の邪魔をする。
それで腕も立つとなれば、目障りなんてものじゃない。
こういうことになるならどれがスコールのザックなのか確認してからポーションを混ぜてやればよかったと、遠ざかっていく黒い影を見て、少しだけ後悔した。
でも、仕方が無い。過ぎたことは過ぎたことだ。
考えよう。これからのことを。邪魔者を消す手段を。
全てを終わらせて、もう一度みんなに会うために。
255騎士達の計略 5/10 :2007/12/12(水) 01:31:18 ID:g/G1tc/x0
慰めなんて俺の柄じゃねえ。
だが、イザの野郎が妹を心配する姿は、イヤってほど見てきた。
知らないうちにくたばった――誰に殺されたにしろ、肝心な時に助太刀をしてやれなかったって負い目もあった。
だから、せめてもの手向けのつもりで、泣き崩れるターニアにあいつのことを話した。
……なのに誰がいじめてるってんだ? ああ?
これだから慰めなんて柄じゃねえんだよ!

リュックがペコペコ頭を下げたって、苛立ちはどうにも収まらない。
メシでも食えば少しは気が紛れるかと思い、自分のザックを引き寄せた。
他の連中に背を向けて、パンを取り出し、齧る。
ついでに水も出そうかとザックをひっくり返したとき、不意に、それが転がりおちた。

中身の入ったポーションの瓶。
俺はこんなモン持っていなかったし、イザやロザリーの荷物にもポーションは無かった。
他に紛れ込むとしたらスコールとマッシュの荷物しかないが……
これだけ怪我人がいて、ポーションを持っているなら、とっくに使っているはずだ。
荷物が多すぎて忘れてるって可能性も、この状況じゃ考え難い。
有象無象の武器ではない。回復手段が限られている状況下での治療薬だ。
あのチキン――だからお前も知らねえうちにくたばってんじゃねえよ、それだからチキン野郎止まりなんだよ――ならともかく、
スコールの野郎なら自分や仲間の荷物は把握しているだろう。
ならばどうして、こんなものがここにある?

胸に生じたわだかまり、しかし疑問を解く手がかりは無い。
他の連中の目は、スコールとヘンリーに注がれていて、このポーションに気づいた奴はいない。
仕方なく、俺はクソ怪しい瓶を自分の袋の中に戻した。
スコールの野郎が俺の肩を叩いたのは、それから数分後だった。
256騎士達の計略 5/10 ↑4/10:2007/12/12(水) 01:32:14 ID:g/G1tc/x0
「村を探ってくる。その間、荷物を預かってくれ」
第一声はそれで、俺が何かを言う前に、野郎は矢継ぎ早にまくし立てる
「スタングレネードはエリアとターニアへ渡していい。配分はあんたに任せる。
 変な兜はソロ、重い剣はリュックに渡してくれ。デザイン的に、揃いの武具のようだからな。
 ちょこ笛は、どうせこの世界じゃただの呼子笛だ。誰に渡してもいい。
 だが、他の武器はマッシュの物だからな。誰かが欲しがっても、勝手に渡すなよ。
 特に、"村にいた赤い髪の男"には、絶対にな」
――いつもの俺だったら、『テメエ何様だ!?』と掴み掛かっていただろう。
だが、急に声を潜めた、最後のセンテンスが気にかかった。
普通に考えれば赤髪はビビを殺したサラマンダーのことだが、武器を渡すわけも、ここに来てほしがるはずもない。
こいつ特有の笑えねえ冗談だとしても、何もひそひそ話す必要はない。
となれば、こいつが意図している相手は、サラマンダーではなく――ここにいる、もう一人の赤髪であるサックス。
わざわざ回りくどい言い方をしなければならない理由となると、ひとつしか思いつかない。
「まさか、この魔女の"騎士"が"裏切る"とでも思ってんのかよ?」
いけ好かない奴だが、頭は回るのがスコールって野郎だ。
俺の言いたいことぐらい汲み取れるだろう。
「ああ。キンパツニキヲツケロってメモもあったしな。
 そういえばカインも金髪だったな……本当に金髪には気をつけた方がいいらしい」
……やっぱマジでいけ好かねえな。コイツは。
小さく舌を打つと、スコールは囁くような小声で、言葉を続けた。
「あんたも、"村で同じ髪色の男と話す"なよ? "疑いたくなる"からな」

それで、わかった。
スコールの態度も、回りくどい言い方をする理由も、怪しいポーションの出所もだ。
257騎士達の計略 6/10 :2007/12/12(水) 01:33:10 ID:g/G1tc/x0
「疑ってるなら、正体暴けばいいだろうが」
俺の言葉に、スコールは肩をすくめてみせる。
「迂闊に敵を増やすのはごめんだな。証拠もないし、それに、あんたの仲間の恨みを買いたくない」
仲間……エリアのことか。
確かに、エリアがサックスに対して強い信頼を抱いているのは傍目から見るだけでも明らかだ。
逆に俺らが村の連中に信用されているかといえば、微妙なライン。
常識で考えて、自分らを襲った男の知人と聞いて警戒する奴はいても、好感を抱く奴はいない。
まあ、ヘンリーは事情ありって奴だし、ソロってのは常識を超えたお人よしのようだがな。
ともかく、こいつの言うとおり、今すぐサックスを追い詰めるのは困難な話だ。
それはそれで色々むかつくものがあったので、俺は負け惜しみのように吐き捨てた。
「フン……テメエもベラベラ喋るようになったもんだ」
「あんたほど変わっちゃいないさ。
 それより、ここのことは頼んだぞ」
スコールは涼しい顔でそう言うと、大量のザックを俺の足元に放り投げ、村の方へ歩いていった。

さて。
まず考えなきゃあいけないのは、あのクソ怪しいポーションをどうするか、だ。
飲んで確かめる気はないが、十中八九、中身は経口摂取で効果を発揮する系統の毒物だろう。
捨てるというのが間違いなく一番安全で確実だが、見た目が"ポーション"というのがネック。
怪我人がいる傍で回復薬を捨てるって行為は要らねえ疑いを招くだろうし、そうなりゃ相手の思う壺にハマりかねない。
何も知らないフリをして、サックスに飲むように勧めるって手もあるが……
狡猾な奴なら、中身を呷るフリをして、毒を盛られた被害者を装うぐらいやってみせる。
そこまで筋金入りの策士でなくとも、余程のバカじゃない限り自分用の解毒剤はキープしているはずだ。
だからといって長々と持っていれば、当然、間違って飲む奴が出てくる確率が上がる。
その時に毒殺者として仕立て上げられるのは、"最初の持ち主"の俺か、でなければスコールかマッシュになるってわけだ。
すかした奴も気に入らねえが、ナイトを名乗りながらこんな姑息な手を使うホネのない奴はもっと気にくわねえ。
258騎士達の計略 7/10 :2007/12/12(水) 01:34:16 ID:g/G1tc/x0
俺は苛立ちながら、サックスに視線を移した。
俯いて、何か考え事をしている。心なしか険しい表情をしているようだ。
これだけの人数を裏切って始末する算段となれば、旅の扉で移動する時に事を起こし、そのまま新しい舞台へ逃げ切るのが一番。
だが、そのための第一手をスコールに邪魔された。
だから他の案か、でなければスコールを始末する方法でも考えている……そんなところか。
別にスコールの野郎はどうでもいいが、こんなふざけた手を使った奴はぶちのめす。
ちょっとでもシッポを見せてみろ、即座に掴んでケリつけてやる。
そんなことを考えていると、不意に、場違いな音が流れた。

――ポロン……ポロン、ポロン……ポロロロロン

竪琴を爪弾く音。誰かと思ったら、バッツの野郎だった。
最初は確かめるように、やがて流麗な手つきで耳慣れない曲を演奏し始める。

「うわ〜。すごいねバッツ、楽器の演奏なんてできるんだ。
 ていうか、どうしたの、その竪琴?」
能天気なリュックの問いかけに、バッツは苦笑しながら答えた。
「これ、元々俺やレナが使ってた奴なんだけど、なぜかスコールが持っててさ。
 あいつのだっていう剣と交換したんだ」
それにしたって、何も弾く必要はないだろうがよ。
敵が来たらどうするか、とか考えてないのか?
そんな俺の疑問に答えるかのごとく、バッツは言葉を続ける。
259騎士達の計略 8/10 :2007/12/12(水) 01:36:01 ID:g/G1tc/x0
「ソロもマッシュもまだ起きないからさ。
 早く目覚めるように、癒しの力を持つ歌を弾いてみようかって」
「へぇー。能力を上げる歌なら知ってるけど、そんな歌もあるんだ」
「指がつるから、それほど長くは弾いていられないんだけどな」

……確かに、曲を聴いていると、右足の痛みが薄れる気がする。
だが、それでも目立つことは確かだし、歓迎せざる客がきたらどうすんだか。
釈然としない気持ちはあったが、サックスの表情を見て、言うのは止めた。
考えてみりゃあ、必ず敵がやってくるとは限らないし、サックスが今まで何をやっていたかなんて誰も知らない。
俺らの前に、他の集団に襲い掛かったり、何人か取り逃したりしている可能性もあるわけだ。
誰か来たらどうするんだと言わんばかりの迷惑そうな表情がそれを物語っている。
そもそも、俺の頭ン中のケルベロス、それにヘンリーのピアスがある限り、不意打ちは防げるわけだ。
武器も大量にあるし、現時点でリュック、バッツ、ヘンリーの三人は戦闘に加われる。
サックスの動向にさえ気を配っていれば、"万が一"が起こっても対処できるだろう。
後は意識のない二人がいつ起きるかと、赤髪野郎の出方次第だな。

俺らの思惑を知ってか知らずか、やがてソロが小さく身じろぎした。
最初に気づいたのはリュックで、バッツの肩をぱんぱんと叩いた後、ソロの身体を揺さぶりに行く。
その騒ぎ方が、どっかの誰かに似ている気がして、俺は舌打ちした。
こんな感傷なんざ柄じゃない、と思いながら。
260騎士達の計略 9/10 :2007/12/12(水) 01:36:51 ID:g/G1tc/x0
【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
 キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
 第一行動方針:スコールを待つ
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
 第一行動方針:泣く】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス ひそひ草 スタングレネード×2
 第一行動方針:ターニアを慰める
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:うたう)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:体力の歌でみんなを回復
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サックス (HP2/3、微度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:体調と体力の回復
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
261騎士達の計略 10/10 :2007/12/12(水) 01:38:13 ID:g/G1tc/x0
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
 スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
 第一行動方針:ポーションの始末を考えつつサックスを監視
 第二行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
 第一行動方針:怪我人を看病しつつスコールを待つ
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【ソロ(HP3/5 魔力微量)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
 第一行動方針:状況把握
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損、昏睡) 所持品:なし】
 第一行動方針:−
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
262冬来たりなば、嵐遠からじ 1/10:2007/12/15(土) 16:32:43 ID:xDWjDAzr0
目を覚ますと、黒スーツ姿の変な角付きの男に拘束されて荷物もなかった。
アリーナを探している、知っていることを全て話せ。
剣を突きつけられながらそう言われて、アルガスは簡単に情報を渡した。
そもそも義理なんてない。
その結果として焼け跡となった屋敷跡で
マティウスは瓦礫を引っ掻き回し、アルガスは固まったように立ちすくんでいる。
焼け落ちている屋敷を見たあとで向けられた氷のような視線が忘れられない。
このマティウスという奴、アリーナに恨みを抱いているのは間違いないが
ただ死んでいればいいと考えているわけでもないようだ。
成り行き次第では、とばっちりがアルガスに向くことも十分予見できるものの
はっきり言って逃げられる気がしない。
心中で悪態をつき反面顔色を青くしながら固まっていたところに――放送がやってきた。

『――楽しみにしているぞ』
放送が終わり、浮かび上がった魔女の姿が霧消していく。
正直アルガスはホッとしていた。
死者の新しいリストの中にアリーナはいなかった。
焼け死んではいない、というわけだ。
待てよ、だとすると屋敷を離れたのか。するとここにはいない?
…………
自分の責任と、マティウスに吊るし上げられることを想像して寒くなったその時。
地面が噴き上げるように爆発した。
唖然とするアルガスが見たのはゆっくりと姿を現したクリムトであり、
すでに情報を渡しているその姿を見て動き出すマティウスの姿だった。
逃げるには、このタイミングしかない。
閃くような思考に衝動的に突き動かされてアルガスは走り出していた。
――こんなところにいられるか! せいぜい勝手に潰しあいやがれ!


263冬来たりなば、嵐遠からじ 2/10:2007/12/15(土) 16:33:49 ID:xDWjDAzr0



この二日間のうちに何度か経験したことのある地震が地下を襲う。
一晩ずっと身体を休めていたアリーナとクリムトは、
それで再び朝が――放送の刻が――やってきたのを知った。
けれど、地下室には揺れの後にいかなる声も続かない。
不気味な沈黙。
もしかして、例の放送は地下室までは届かない?
音の無い時間が長くなるに連れだんだんと強く確信できるようになる。
「む……私が行こう」
瞑想といった様子で床に座っていたクリムトが音もなく立ち上がり、部屋から出て行く。
きっと同じことに気がついたのだろう。
そういえば、ウネやライアンやおまけでアルガスはどうなったのだろうか。
朝になったのに、この部屋に帰ってきてくれた人はいない。
アリーナの心に不安が影を差す。
多くの時間をかけ、継続してかけ続けてくれた回復呪文により外傷は何とか塞がれている。
クリムトには休んでいるようにと言われているが、
アリーナは痛みに顔を歪ませながら外へ向かうために身を起こす。
肩、腕、脚、何より腹に痺れるような痛みが重く響くが、気合で乗り切れる範囲だ。
感謝しながら、久しぶりに自分の足で動いてクリムトの後を追う。
どうしても自分の耳で確かめて、不安を打ち消したかった。

すでにドアの外にはクリムトの姿は無い。
――と。
何かが爆発するような音と地下にありえない風が、狭い地下の通路を通り抜ける。
アリーナはあるはずの痛みも忘れてそれらがやってきた方向へと駆け出した。

264冬来たりなば、嵐遠からじ 3/10:2007/12/15(土) 16:34:54 ID:xDWjDAzr0
薄暗い足元に気をつけながら、外を目指し走る。
「………………とは、違うと?」
威圧感のある、アリーナの知らない男の声が入り口から聞こえてくる。
必然的に、その声の主がクリムトに攻撃を仕掛けたのでは? という推測が生じた。
「…………隠された一面…………しかし、………自らの……恐れ、
 向かい合う………決めている。故に、貴方の敵は、彼女ではない」
地上に近づくに連れて言葉がはっきり聞こえるようになっていく。
はっきりとは理解できないが、何か感覚のようなものがアリーナにその内容を悟らせた。
自らの仄暗い部分に由来するこだまが戻ってきたことを。
「……賢者クリムトよ。大勢は把握した」
少なくとも、激昂しているとかそういう感じはしないことにホッとする。
階段を、一つ飛ばしに駆け上がる。
「しかし、それでも判断は変わらん。行く手を阻むならば仕方がない!」
最後の数段を跳ね上り、外へと飛び出す。
焦げ臭い空気の匂い、空気を切る音、肉が焼けるような音。
のたうつ輝く蛇、あるいはリボンのようなものが見え、アリーナの目の前でクリムトの身体が撥ね飛ばされた。

倒れたクリムトの姿を見たアリーナ、倒すべき相手の姿を確認したマティウスは
なし崩し的にそのまま交戦状態に突入していた。
威力とリーチ、そして扱う技量が合わさった攻撃は苛烈を極める。
光り輝く帯の姿をした鞭が今戦っている相手、
パラメキア皇帝マティウスと名乗った男の武器。
盲目のクリムトが(例え何らかの感覚が視力代わりに働いているとしても)為すすべも無かったのも当然で、
アリーナにとっても踏み込むことも出来ず何とかクリーンヒットを避けるのが精一杯だった。
おそらくは経験――自分の分身と戦った経験が、こういう戦法をマティウスに選ばせたのだろう。
近づけずにいたところに魔法が飛んでくる。ブライン、そしてアリーナは視界を奪われる。
265冬来たりなば、嵐遠からじ 4/10:2007/12/15(土) 16:36:01 ID:xDWjDAzr0
「人を殺したとき悪いのは凶器なのか? いや、そんな法は無い。
 咎あるべきはそれを使った者だ。無論凶器の方も早晩砕くつもりだが――
 己の死の理由は理解できたか?」
威圧する勝ち誇った声が闇の中、前方より響く。
納得が2、反発が8。それが死刑判決を聞いたアリーナの気持ち。
すでに苦悩し、後悔した時間を通過したからこそ命懸けで分身を止めることを決意しているのだ。
何より、目が見えないクリムトをかまわずに攻撃したことが気に入らない。
無用な人殺しが悪いなんてわかりきってる。
それがわかってるくせに、どこの皇帝だか知らないけど自分は法の側だからなんて偉ぶっている姿は
結局のところ力を振るうために理由をつけているだけとしか思えない。
あたしもそうなんだろうけど。
だけど、これでもかと言うほどにグロテスクな分身の姿を見て――突きつけられて――

勇者と呼ばれる彼の顔を思い浮かべる。
その姿に「ねえ、こんなときどうしたらいいんだろう?」と問いかけながら、
アリーナは大きく右にステップした。
直後、さっきまでたっていた場所をマティウスの鞭が打ち据える。
達人レベルの技量で扱われる鞭の先端は音速を超える、という。
アリーナはそれを言うならば経験と勘――
蓄積した実戦の経験、鞭という自分も扱いなれた武器への応対、何より天性の才能――
でかわしてみせた。
二度、三度。距離が離れているため薙ぎ払うような攻撃はこない。
スウィート・スポットは点のようなものだ、だからそこさえかわせば何とかなる。
頭の中に描くのは鞭を扱うアリーナ自身と、その標的となるアリーナ。
四度、五度。倒すべきアリーナに鞭を振るいながら、描いたとおりに現実の鞭を避ける。
マティウスは、当てられない。驚嘆すべき反応、けれども。
音を上げたのは回復しきらない傷で、傷付いた肉体がついていけなくなった。
がくりと足の力が抜ける。
266冬来たりなば、嵐遠からじ 5/10:2007/12/15(土) 16:39:25 ID:xDWjDAzr0
身体を運びきれず、ついに傷付いている左肩を熱を帯びた鞭に打ち据えられる……ものの、
それでも暗闇の中でアリーナは今度の攻撃からも命を守って見せた。
光を帯びた鞭が静かに発する小さな震動音が、離れる。
「……目にせねば信じられぬ領域ではあるな。
 それがゴゴを葬った力、か」
ゴゴって誰?
まず素直に疑問が湧き、それからもう一人のアリーナに殺されたのだろうと気付く。
それがきっと、少なくともマティウスが戦う理由の一つなのだろう。
次の攻撃を予測しようと集中を切らさないまま、一つ納得するアリーナ。
鞭の間合いはマティウスの呪文詠唱を聞こえさせない。
「………フレアー!」
突然に異常な音が耳に飛び込んでくる。
攻撃範囲が点の鞭はかわせても、広範囲の魔法などかわしようがない。
あきらめがアリーナの心を支配する、よりも早く。
「イオナズン!」
後ろから、別の呪文が唱えられた。
アリーナとマティウスの間で魔法と呪文が衝突し、爆散する。
闇の中に現れた突然の衝撃の波によろめくアリーナを後ろから支える手。
穏やかな波動がそこからアリーナを包み、視界を塞いでいた呪いから解き放つ。
クリムトだった。
光を取り戻したアリーナの視界で、マティウスに向かい賢者が一歩進み出る。

267冬来たりなば、嵐遠からじ 6/10:2007/12/15(土) 16:40:42 ID:xDWjDAzr0
「皇帝よ! 我が論駁を聞くがいい!
 死のみが罰ではあるまい。悔恨し、生を続けることこそが彼女の罰となろう!
 この無秩序なる世界で復讐を法と為せば、それは報復の連鎖となるだけだ!」
「賢者よ、これがパラメキアの法だ!
 友の仇も討てずして、私の皇帝としての……いや、私自身のプライドが許すものか!」
「……それでも、言葉を用いよう。さすれば、」

言いかけたクリムトの顔の前で鞭が空間を打ち据え音を炸裂させる。
もはや交渉の余地などありそうもなかった。
ゆっくりと、マティウスの空いた手が空を指す。
「鞭と、魔法と生き延びた。では、これはどうだ?」
 




――夢を、見ていた。
いや、夢と現実の区別がつかないくらいに消耗していたのだろう。
どちらのウネもただとりとめもなくとぼとぼと歩みを進めていた。
異なっていたのは、「どちらか」で途中で誰かに会って話を聞いたこと。
はっきりした最後の記憶が山から突き落とされた直後でその時は動けないと考えたが、
今、ウネがカナーンの町の外れに独り立っていることから鑑みるに、
話を聞いたのは夢の中で、現実の世界では夢遊病のように歩いて来たように思えた。
深手を負っているのは変わらないが命は繋ぎとめていられる。
カナーンでは厳然と運命を語るように頭上から、新たな死者を読み上げる声が降っている。

268冬来たりなば、嵐遠からじ 7/10:2007/12/15(土) 16:41:56 ID:xDWjDAzr0
放送だ。
夜中に別れた仲間の一人がその名前の列に含まれたことを知り、
同時に夢の中でウネに言葉を残した主は同じ名のその男、ライアンであることを思い出す。
やはり受けた傷が元で命を落としたのだろうか?
嘆息。
それから、放送の余韻が残る中を歩きながらライアンが伝えようとしていたことを思い出そうとした。
星と闇とクリスタルの空間。
魔女の城と思しきものをそこで見たこと。
できあがっていく世界。
完全ではなくところどころ記憶が途切れているとはいえ、一考してもどういうことなのか見当がつかない。
魔女の城へ近づいたことを語ったのだとすれば、それはライアンとどう結びつく?
そのうえ既に当人の死亡が宣告されてしまった。
カナーンに残ったライアンの身に何があったのか、想像もつかない。
嘆息する。
とにかく、戦闘の場所へ、アリーナ達のいる屋敷へ戻ろう。

269冬来たりなば、嵐遠からじ 8/10:2007/12/15(土) 16:43:05 ID:xDWjDAzr0
誰にも会えず、誰の死体にも出逢わなかった。
ここまで戻ってこれたことの代償とはいえサイトロ一つ使えないことがもどかしい。
町を離れていた数時間の間に火事でもあったのか、あたりに焼けている建物が増える。
そういえば、強大な力を持つ連中がカナーンに向かってきていたことが思い出される。
あれは、何時間前のことなのか?
はるか頭上に生じた魔力の動きに気がついたのはその瞬間だった。
それは強力な破壊の魔法、メテオに良く似ていて。
ある危機感に導かれるように、ウネは自分の身体の具合も忘れて屋敷の方向へと全力で走った。
すぐに、焼け落ちた屋敷跡が見えた。
対峙する二人と一人が見えた。
その片方へ向けて流れ落ちていこうという隕石の存在も、感じ取っていた。
……覚悟を、決める。
年齢の分でも、二度目の生という意味でも、身を捨てることに躊躇など無い。
人としての姿から外れつつある身体にヘイストを併用し、
ウネは小範囲、カナーンの一角のみをピンポイントに狙い撃つ火の玉と化した隕石と
二人の仲間の間へと一息に飛び込む。
熱と衝撃がウネに与える非情なるダメージは
ジェノラ山で傷を負ってからここまで少しずつ回復してきた分を無駄にするに余りある。
これでは、もう長く持たない。
分かっていた、なにせ自分で盾になることを選んだのだから。
当然もう、彼らと共に脱出の方策を探ることは続けられない。
だが、せっかく身を捨てるいい機会なのだ。さあ、別の覚悟を……しよう!

270冬来たりなば、嵐遠からじ 9/10:2007/12/15(土) 16:44:17 ID:xDWjDAzr0
どちらの側も、新たに現れたモンスターに様子見のために動きを止めている。
「……ウネ?」
そこに何を見たのか、アリーナが疑い混じりにウネの名を呼んだ。
「アリーナ、クリムト。久しぶりだね。ありゃ誰だい?」
変貌した姿形と異なり、変わらない声で二人に応じる。
魔物としての形でさえ傷を負い、ボロボロではあるが――
トルネド、OK。エアロガ、OK。何発弾が残ってるかはわからないけれど、
まだ気力が生命を繋いでいてくれる。そして短い間なら全力で戦えるだろう。
求めるものは戦い、全力の戦いのエネルギー。
材料は壊れた杖なのがちょいと心配だが、一世一代の秘術――鍵は作れるだろう。
「パラメキア皇帝マティウス、友の仇をとりに来た。
 魔物よ、お前も行く手を阻むか?」
対峙。
ウネの集中が高まるのに従って一帯の温度は急速に下がり始めていた。
アリーナを、クリムトを、マティウスを包み、焼け跡に雪が舞い始める。
真剣な表情の三人をウネはからからと笑い飛ばす。
「勘違いするんじゃないよ。わたしはただね、もう小細工にゃ飽きたもんでねぇ……
 戦ってカタつけることにしたのさ!
 要件はなんだか知らないがいいじゃないかマティウス、相手してもらおうか。
 その次はアリーナとクリムト、あんた達だよ!
 さあ……時間も惜しい、始めようか!!」
何かを言いかけた、アリーナの前を白い嵐の壁が遮る。
突然にカナーンに舞い降りた冬の領域で、
命を燃やす戦いが始まろうとしていた。

271冬来たりなば、嵐遠からじ 10/10:2007/12/15(土) 16:45:15 ID:xDWjDAzr0
【マティウス(MP 1/4程度)
 所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) ソードブレイカー 鋼の剣 ビームウィップ
 第一行動方針:アリーナ、及び行く手を阻む二人を討つ
 第二行動方針:アリーナ(2)を見つけ出し、ゴゴの仇を討つ
 基本行動方針:アルティミシアを止める
 最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
 備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】

【ウネ(HP 1/10程度、MP残り僅か) 所持品:癒しの杖(破損) マシンガン用予備弾倉×3
 第一行動方針:戦闘
 基本行動方針:死戦して杖から鍵を完成させる

【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部負傷) 
 所持品:無し
 第一行動方針:戸惑いながらも、ウネを助ける
 基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明、HP3/5、MP消費) 所持品:なし
 第一行動方針:戦闘の停止、平和的終了
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・シドの屋敷跡】

【アルガス
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計
 第一行動方針:様子を見る
 最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在地:カナーンの町】
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/19(水) 23:35:07 ID:rtiWXcWD0
sage
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/21(金) 02:01:42 ID:CaURfCgJ0
ほしゅ
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/23(日) 13:34:44 ID:aVHYImZM0
死亡者がいなくなって23時間59分が経った……


バッツ「このままでは全員の首輪が爆発してしまう。
     こうなったら仕方がない……」


バッツ「 青 魔 法、 死 の ル ー レ ッ ト────!!!」








ティアマト「アルティミシア様、そろそろ次の放送の時間ですが、アルティミシア様……?」

ティアマト「死んでる……」



FFDQバトルロワイアル3rd・完
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/23(日) 16:57:06 ID:380bfxwEO
えええええww
276Touchstone 1/5:2007/12/25(火) 23:38:18 ID:sfL1YdqE0
サラマンダーは息を潜めて、その男が来るのを待っていた。
暗殺者としての能力を尽くして気配を、殺気を抑えつけ、襲撃の瞬間を待ち侘びる。
目の前の路地を曲がったすぐ先に、その微かな気配はあった。
五感を研ぎ澄ましてやっと聞こえるほどの足音から、そこはかとなく同業者の匂いが嗅ぎ取れる。
戦闘にあまり影響が出ない程度に傷は回復してあるが,
もはやサラマンダーには武器と言えるものが殆どなく、自身では罠らしい罠も張っていない。
しかし、男が向かうその先には、あの恐るべき魔女が作ったそれがある。
このゲームの参加者全てが否応なく探さざるをえない旅の扉。
時間内に通り抜けねば、生と死を分かつことになるそれを見つけた瞬間の安堵。
その安堵の一瞬こそが、サラマンダーが我が身を凶器と変える合図となる。

サラマンダーにとってありがたいことに、相手は一人だった。
他の人間に気付かれる前に隠密裏に抹殺するのがベスト。
慎重且つ大胆な行動が求められるが、それをこなす十分な能力が自分にはあるはずだ。

(刃物など必要ない。声も出せぬうちに殺してやる)

男の気配はすぐ近くまで迫っていた。
サラマンダーは身を隠した物陰から、そっと男の影を視認する。
似ても似つかないその影にかつての仲間――もう二度と戦うことの叶わない男――の姿を投影し、闘志を掻き立てる。

(さあ、扉を見つけ、その背を晒せ)

そう胸の内で囁いたと同時に、男――スコール・レオンハート――は姿を現した。
そして事態は一気に進む。
277Touchstone 2/5:2007/12/25(火) 23:42:00 ID:sfL1YdqE0
サラマンダーが全身の筋肉を爆発させ躍り出た瞬間、たしかにスコールは背を見せていた。
そしてそれはたしかに、一流の暗殺者から逃れるには致命的な隙だった。
しかし、勝利を確信しかけたサラマンダーの目は驚愕で見開かれることになる。
―――そもそもなぜ索敵の任務も請け負ったスコールがアラームピアスを、
あるいは『けいかい』のアビリティを持つGF.ケルベロスを借り受けてこなかったのか?
サラマンダーには問うことすらできないその問題への答えが、予想外の事態を引き起こした要因である。
―――GF.パンデモニウム、アビリティ『さきがけ』
初動だけに限定されるその特殊能力は、背後からの奇襲にも適用される。
つまり、3mの距離まで肉薄し、延髄に一撃を食らわせようとしたサラマンダーが見たもの。
それは一瞬前まであった背中などではなく、冷酷とも言えるほど落ち着いた蒼い瞳と、斜めに走った刀傷。
(……ッ!!)
驚愕に目を見開くと同時に、サラマンダーは本能的に身を横にひねらせた。
一瞬後、風の音と共にサラマンダーの首元を浅く切り裂いてナイフが飛んでいく。
勢いのまま横に転がった体を、サラマンダーはクエスチョンマークで満たした頭のままで立ち上げ、相手から距離を置く。
―――とにかく、相手は異常な反射神経の持ち主。
それだけを頭に叩き付けて気持ちを落ち着けようとするが、相手は悠長に待ってはくれない
278Touchstone 3/5:2007/12/25(火) 23:47:00 ID:sfL1YdqE0
今度は自分自身を第二のナイフに変えたかのように突進してきたスコールが
腰から抜き出した奇妙な剣を……地面に突き刺した。
―――爆音。
空気の微かな震えと共に砂埃が舞い、サラマンダーは反射的に目を閉じる。
(目くらまし!? 敵は……背後か!)
射抜くような殺気と共に突き出された刃を間一髪避ける。
不意打ちという絶対的優位から叩き落とされた反動がサラマンダーを後手に回していた。
再び距離をとると今度は何か青い光が自分から……いや、違う。
物を取り出しやすいように半分空けられていたザックの中、
チョコボの像から光が抜け出てスコールの手へと伸びていく。

―――フレアと同じ威力の爆発を起こす代物です―――

困惑した頭に、サックスの言葉が危険信号となって甦った。
そして、相手の紡ぐ言葉が懸念を確かな事実に変えていく。
「……フレア」
スコールの左手から紅蓮の光が発した。
一見して威力はクジャなどに劣るが、魔法自体が高位のもの。
今更ながら、自分と待ち伏せは相性が悪いと心中で吐き捨てつつも、
サラマンダーは大きく横っ飛びをしてフレアの直撃を避ける。
一瞬、この爆発に紛れて逃げようかとも思うが、未知なる相手への闘争心が打ち克った。
仲間と決別してまで、ビビを殺してまで手に入れたかったもの。
それは命を、存在を焔の如く燃えたぎらせた先にある勝利なのだ。
(距離をとったら勝ち目はない。どうにかして懐に飛び込んでやる!)
サラマンダーは舞い上がる煙の中を疾走した。
279Touchstone 4/5:2007/12/25(火) 23:53:54 ID:sfL1YdqE0
一方、スコールは爆発の間隙をついて、今度はひそひ草を取り出していた。
自分のやろうとしていることを再確認して溜め息をこらえる。
場合によってはこれは自分の危険度を格段に上げるかもしれなかった。
相手は負傷者。自分は健康。
相手は素手で、自分は最強のガンブレード。
おまけにガーデンで格闘家相手の訓練も積んでいる。
このまま戦闘を続ければ、自分が負ける要素は少ない。
―――だが……。

「不意打ちを食らった。赤髪の男だ。応援を1人頼む」

まくし立てるように、そして若干呻くように言う。
曖昧な表現はわざとだ。
相手の返事も待たずに草を懐にしまうと、スコールは再びライオンハートを構える。
フレアによって巻き上がった黒煙、そこから飛び出してくる敵を待ち受けながら、
スコールは一体誰が「応援」に来るかを考えていた。


【スコール
 所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:サラマンダーとの戦闘
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保 
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
280Touchstone 5/5:2007/12/25(火) 23:55:30 ID:sfL1YdqE0
【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元軽傷、MP2/5)
 所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)  チョコボの怒り
 第一行動方針:スコールとの戦闘
第二行動方針:旅の扉付近で他参加者を待ち伏せる
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る】

【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】

*スコールの支給品には、猛毒入りの水のほかに普通の水も混ざっています。
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/26(水) 03:34:31 ID:gajKAhbcO
遅くなったが、

>>274は無効です
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/29(土) 22:20:42 ID:tCLzokG30
保守
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/12/30(日) 00:06:33 ID:kYOCXeGWO
>>281
あ…はい…
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/02(水) 16:05:48 ID:Q+j+nPTE0
新年初の保守
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/05(土) 18:53:44 ID:aXURgPpo0
286欺かれて、裏切られて、騙されて 1/20:2008/01/06(日) 19:29:50 ID:0vMLZVLY0
「一人呼ばれたようだけれど、大丈夫?」
「気持ちは落ち着いたさ。いつまでも泣いてたんじゃ、死んじまったやつらに笑われちまう。
 そりゃ、悲しくないっつったらウソになるけどな」
元の世界では、自分はバッツらを助けるために身を犠牲にした。
ガラフも、エクスデスの攻撃からバッツらをかばって死んだ。
だが、そのことでバッツらがエクスデスの討伐を諦めたか。そんなことはありえない。
ますます、決意を固めたはずだ。
悲しいのは誰だって同じ、でもそこから前に進めないとしたら、それは己の弱さのためだ。
いちいち感情にとらわれて、そのたびに誰かに喝を入れられるようじゃ、カッコ悪すぎる。

「へえ、ギルガメッシュ、泣いてたんだ…」
「そんなことはねえよ! 何だ、ほら、言葉のあやってやつだ」
「ん〜、まあ大丈夫そうだね。ところで、あれ見て」
スミスの指差す先、ミスリル鉱山の真ん前には先ほどまではなかった、例の青い渦。
「僕としては、カインが戻ってくるかもしれないからここで待ちたいんだけれど。
 それに、あいつらもこっちに戻ってくるかもしれないしね」

あいつらとは、当然アルスとザックスのことだろう。ここを離れておそらく2〜3時間。
戻ってくるか来ないかは微妙なところだ。だが、人に会うのは悪くはない。
脱出派なら一緒に行動し、殺し合いに乗ってるなら倒すだけだ。
「だな。しばらく待ってみるとするか」

数分後、準備をすると言ったギルガメッシュが見つけてきたのは大きなタル。
タルというものは意外と頑丈で、特に良質なものなら例え高度数千メートルの山を転がり落ちてもびくともしない。
彼が酒場から見つけてきたものも、ところどころ小さな穴は開いているものの、ほぼ原形をとどめている。
「で、何に使うの?」
「これを旅の扉の前に置いてだな…」
「怪しすぎるでしょ」

287欺かれて、裏切られて、騙されて 2/20:2008/01/06(日) 19:30:39 ID:0vMLZVLY0

「意外と余裕があるな。急ぐ必要はなかったかもしれない」
ウルとカズスの中間辺りで放送を聞いたアルスたち。彼らが向かった先はカズス。
残り二時間で道のりの半分、森を抜けウルの村を探索するのは危険。
カズスは残っている建物も少なく見通しが良く、さらに地理を知っているため旅の扉を見つけやすいと考えたのだ。
一度歩いたためだろう、戻りはスムーズ、早歩きではあったが余裕で間に合いそうだ。
草原を横切り、峡谷を駆け抜け、廃墟と化した村、その外れの森まで来たところでザックスは手で制す。
旅の扉前が待ち伏せに最適であり、一日のうち最も危険な場所だというのをザックスは嫌というほど理解している。
自分達がここを離れて数時間、だが別のルートから誰かが来ていないとは限らない。
異常を見逃さないよう、急ぎながらもここからは慎重にカズスに進入する。
かつては泉のあった家屋。今では廃墟となった、その向こう、隠そうとしながらも隠しきれていない気配。

「そこにいるのは誰だ?」
僅かに空気の震えが感じられる。しかし返事は無い。
「こちらから危害を加える気はない。戦う意思がないなら、出てきてくれ」
持っている武器を前方に捨てる。
廃墟の向こうからの視線は確かに感じられる、だがやはり返事は無い。
髪をいじっているような音、体がこすれるような音、僅かに聞こえるズリ、ズリと靴が地面を擦る音。
耳を澄ませば色々聞こえてくるが、出てくる気配はない。そこに感じるは、困惑と警戒。

「どうする?」
ザックスに意見を求める。
ザックスは喋れない。代わりに予め二人の間で決めておいた簡単な合図、そして振りで疎通を図ることにしている。
彼はアルスを指す。主に衣装。特に覆面。拒絶。
288欺かれて、裏切られて、騙されて 3/20:2008/01/06(日) 19:31:29 ID:0vMLZVLY0
アルスにとっては大切な父親の形見。ザックスもそれは十分に理解している。
ザックスの場合は、オルテガの声を知っていたし、オルテガと一緒にいたユフィとアルスの様子を見ても、信用に足ると思った。
だが、現在の状況は声を出さない男と覆面マント。いることがバレても一向に出てこないあちら様。
向こうにしてみれば、こいつらどうすればいいんだろうという感想を持つだろう。

それでもアルスは首をかしげる。
「ザックス、君の言っていることがよく分からない。
 僕が何か不審なカッコウをしているとでも言うのか?」
いやいやフシンだろ、そう突っ込みたいが声は出せない二名。
アルスの、いや、約半分の参加者の世界ではこれは標準衣装なのだから仕方がない。
「だが、考えてみれば僕の顔が分からなければ向こうも不安になるのかもしれないな」

アルスは覆面だけを脱いだ。やっぱり怪しいだろと思ったがもう仕方が無い。
向こうに危害を加える気はなさそうだから、出てこなければ無視して向かうだけだ。
だが、アルスが顔を見せるとすぐに杖を片手に持った金髪の少女が安心した様子で顔を見せた。
ふと、感性がずれているのは自分なのかと思ったが、もう気にしても仕方が無い。

アルスができるだけやさしく、少女に声をかける。
「僕はアルス。こっちはザックスだ。彼は言葉を話せないが、怖い人じゃないから安心してくれ」
そりゃないだろ、とザックスはアルスを肘で小突く。少女が手を口に当ててくすくすと笑う。
「  …私はタバサです。よろしくね、かっこいいお兄さんたち」
「よろしく。ところで、タバサちゃんはここで一人で何をしてたんだ? 他に仲間は?」
「仲間は……セージお兄さんと一緒だったけれど…」
「セージ? セージと一緒だったのか? いつ、どこで?」
数秒の沈黙。微妙に角度を落としてうつむく。タバサの顔に影がかかる。
隣が、お前女の子とほとんど話したことがないだろ、と言っている気がした。NGワードだった。
「あ、いや、別に無理に言わせるつもりはなくて…」
「ご、ごめんなさい。でもお兄さん達は気にしないで。放送でも呼ばれなかったし! きっと大丈夫よね!」
289欺かれて、裏切られて、騙されて 4/20:2008/01/06(日) 19:32:20 ID:0vMLZVLY0
なんとなく気まずい雰囲気。それを感じたのか、少女はここにいた理由を話し始める。
「え〜と、お兄さんたちは旅の扉を探してるんだよね? ここにいたワケは、見てもらったほうが早いと思うの」
少女が旅の扉への案内を始める。
西部から南回り。この辺りは爆心地から離れていたこともあり、比較的損傷が少ない、
といっても、壁や地下室が残っていたり瓦礫が散乱していたりという状況であって、
普通に見れば大災害を被っているのは変わりはないのだが。
武器防具屋の廃墟の影から旅の扉を覗く。旅の扉は鉱山の前、爆心地のほぼ近くだ。
が、扉の真ん前に、あからさまに怪しいタル。荒涼とした風景に、ポツンと佇むタル。
さすがにここまで怪しいと、すがすがしい気分になってくる。

「君のイタズラじゃないよな? いや、あんな大きなタルを運ぶのは無理か。
 ……あれは、新手の冗談か? どうする?」
こうまで怪しいと、逆に中に誰か潜んでいる可能性も否定しきれなくなるものだ。
最悪、二人以上で襲ってくる可能性もある。
他に敵がいるとすれば、フリオニールやピエールのような砂の下からの奇襲、または遠距離魔法攻撃。
呪文で先制攻撃を仕掛けるにしても、今の位置からだとちょっと遠い。
先頭はアルス、最後尾に少女。射程距離圏内に入るまで、異変がないか、目を凝らして一歩一歩進む。
先ほどから僅かに感じていた、どこからともなく湧き出てまとわりついてくる、黒く、重い気配。
出所は特定できないが、誰かいるのは間違いない。
290欺かれて、裏切られて、騙されて 5/20:2008/01/06(日) 19:33:09 ID:0vMLZVLY0
武器防具屋を過ぎ、宿屋まで来たところで左前方に違和感。ガリガリと小さな小石を踏むような音。凝視。
瓦礫の下から覗く、茶色い筒。さらに、何かが燃え伝っていく音。筒の狙いは少女。
背伸びをしていて、銃口には全く目が行っていない。
ザックスの思考はこの間一瞬、経験で慣らされた体は自然に少女をかばう。
位置、距離、音。少女を銃弾の軌道からずらし、かつ自分が避ける時間は十分にある。
少女を突き飛ばす。数瞬後れて発砲音。太腿に、撃ち抜かれた衝撃。

(????)

まず、銃弾をかわせなかったことへの疑問。少し遅れて太腿に来るじんじんとした痛み。
本来なら、少女と一緒に前方に倒れているはずなのに、自分は少女のいた位置に留められた。
思い返せば、少女を突き飛ばす際、何故か同じ力で押し返されたような感触。
だが、その異変の正体がつかめない。
「お兄さん、大丈夫!?」
「ザックス、タバサを連れて今すぐそこから離れろ!」
とにかく、ここにいるのは危険。武器防具屋の表まで撤退。


291欺かれて、裏切られて、騙されて 6/20:2008/01/06(日) 19:33:59 ID:0vMLZVLY0

「おらあっ!! ギルガメッシュチェーンジ!」
ギルガメッシュが気合十分に飛び出す。
飛び出すと同時にチェンジは完了、銅の剣とロングソードを、そしてミスリルアクスを持って、大振りにアルスに斬りかかる。
ロングソードはレオンハルトの使っていたもの。アルスの心がふつふつと煮えくり返る。
アルスはラグナロクを逆手に斬撃を受け止める。
武器はアルスのほうが上だが、力と手数はギルガメッシュのほうが圧倒的に上。さすがに押されてしまう。
ザックスが負傷している以上、ここを突破されてしまうわけにはいかない。
「心配しなくとも向こうにゃ手は出さねえよ」
ギルガメッシュの口元が歓喜に歪んだ。
「おう、やっと会えたな。昨日の朝から、ずっと探し回ってたぜ」
「何を言ってる? 人違いじゃないのか?」
アルスに面識は無い。それどころか、今までの行動を振り返っても、こんなに付け回されるような理由は浮かばない。
「何がなんだか分からねえって顔してやがるな。なら、手に持ってるその剣に聞いてみるんだな」
そう言われても、ない理由はどこを探してみてもない。
「誤解じゃないのか!? 確かにこの剣は僕が持っているが…」
「フリオニールを殺して手に入れたもので、サリィを殺して手にしたもんじゃない、そう言いたいんだよな?
 どっちにしろ、同じことだ! お前らみてえなクソヤロウが使っていいもんじゃねえんだよ!」
まるで筋の通らない理屈。しかも、関係のない少女まで巻き添えにしている。
どうやら、交渉の余地のある相手ではなさそうだ。
「お前の言い分は分かった。こっちとしても自分の勝手な都合に皆を巻き込むようなやつは野放しにできないな」
「そう、それだよ。お前らはいつもそうやって善いやつを気取って、尤もらしい理屈をこねて、油断したら後ろからグサリだ。
 もう俺は騙されねえ! ここでお前の息の根を止めて、ラグナロクも取り返させてもらうぜ!」
292欺かれて、裏切られて、騙されて 7/20:2008/01/06(日) 19:34:53 ID:0vMLZVLY0



合点のいかないことはあったが、襲撃された以上同じ場所で考え込むわけにも行かない。
昨日も意識と行動がかみ合わないことはあった。ピエールに放たれた例の魔法弾の効果が残っているのだろうか。これはあり得る。
だが、もう一つの可能性……この少女自体があの襲撃者とグルだったりしたら…?
止血もそこそこに、様子を見る。今のところ敵は一人。他に誰かが潜んでいるような気配もない。
ザックスはこの襲撃者を見たことがある。カナーンで、オルテガらに拾われ、イザたちに看病されていた男。
だが、あれほどうなされ、懺悔していた男がこうまで変貌するだろうか? 誤解をしているような面もある。
それに、襲撃者こそ一人しかいないが、どうも誰かに監視されている感触が拭えない。
「お兄さん、どうしたの?」
体の隅々までじっとりと舐めまわされるような、嫌な気分。それがすぐ近くから常に感じられる。
そう、この少女と出会った時から!
「ふ〜ん、もう気付いちゃったの? どうだった? なかなか上手い演技だったでしょ」
少女の瞳の奥が不気味な滅紫色に変色。フラッシュのように光が照射される。
尤も、カメラのような白い光ではなく、滅紫色の光なのだが。
反射的にバスターソードを抜き、あたりを薙ぎ払う。
「もう、いきなり斬りかかるなんて、女の子に対して失礼じゃない?」
相手はぴょいと攻撃をかわし、先ほどまでと変わらない、だが今では邪まなものにしか感じられない笑顔を向ける。
こんな邪気に満ちた女の子がいるか、子供はもっと無邪気なもんだ。
そんなふうに悪態を付きたい気がした。
金髪に気を付けろ。カナーンでイザたちから聞いた、そのフレーズが頭をよぎった。


293欺かれて、裏切られて、騙されて 8/20:2008/01/06(日) 19:35:42 ID:0vMLZVLY0


「うりゃっ!」
ギルガメッシュは、雄たけびを上げ、力任せながらも急所は外さない。
だが、勝負が付かない。徐々にギルガメッシュに焦りの色が見えてくる。
ギルガメッシュが攻撃を繰り出す。アルスが攻撃を受け止める。繰り出す。受け止める。繰り出す。受け止める。
繰り返し。アルスは確実に三本の武器をさばいていく。守り一辺倒、だが押されている気配は無い。無駄な動きもない。
このままでは、タイムリミットまで打ち合うことになりかねない。
「このままじゃ埒が明かねえな…」
「だったら、一旦出直して来たらどうだ?」
「へっ、そうはいくか! こっちにはまだまだ奥の手は残ってるんだぜ!」
武器と武器がぶつかり合い、互いに弾き合った反動を利用して、ギルガメッシュが大きく飛びのく。
反撃に転じようとしたアルスに、武器を持っていない手を向ける。

「何をする気だ?」
ギルガメッシュの手に集まる光を見て、警戒するアルス。確実にかわせるよう、集中を向ける。
が、それがよくなかった。膨れ上がった光は爆発し、太陽ほどの強さの光がアルスの網膜を傷つける。
青魔法フラッシュ、アルスの知識にはない目くらましの魔法だ。
思わず態勢を崩してしまう。マズい!

「ここだ!」
三つの武器を縦、横、斜めの三方向から一点に集中!ギルガメッシュの渾身の一撃!

ガギィィィン! くるくるくる さくっ さくっ
294欺かれて、裏切られて、騙されて 9/20:2008/01/06(日) 19:36:32 ID:0vMLZVLY0
「ありゃ…? お、俺の武器が!」
ロングソード。アルテマソード、ラグナロクと最強クラスの武器を相手に悲鳴を上げながらも打ち合い続けた猛者。
銅の剣。世界のオブジェの一つでありながら、数々の戦いを演じてきた名脇役。
ギルガメッシュの腕力、そして度重なるラグナロクとの剣戟に耐え切ることはできず、粉々に砕け散った。
飛び散った剣の破片がギルガメッシュの腹部に突き刺さる。

「ま、待て、俺が悪かった!」
「マホトーン」
「くそ、こんなに強いとは……」 プロテス。効果が無かった。
「これじゃ、てもあしもでないぜ……」 シェル。効果が無かった。
「って、きたないぞ!」 ヘイスト。効果が無かった。
「手数が減った分を、呪文でカバーする気だったんだろう? 丸分かりだ」
「ならオレ様の真の剣技を見せてやる!」
ギルガメッシュはミスリルアクスを全手持ちして、アルスに襲い掛かる。
アルスは未だフラッシュの効果が抜けず、三種の武器の攻撃による衝撃で腕が痺れている。
ミスリルアクスの横合いからの一撃は、ラグナロクを岩壁へと吹き飛ばしていた。



295欺かれて、裏切られて、騙されて 10/20:2008/01/06(日) 19:37:21 ID:0vMLZVLY0


ぞくぞくする。思わず身震いしてしまう。今ならどんな病気にも一秒で感染できてしまいそうだ。
さっきの瞳に宿った不気味な光を見てしばらくして、なにやら背筋が寒くなった。
張り詰めていた全身の筋肉と神経が、一気に萎んでしまう感じ。
「ほら、お兄さんみたいな人間って心の力が強いでしょ?
 どんなに怪我しても、ナントカのため〜ナントカのため〜で耐えちゃう。
 そこで、その抵抗力ってヤツを消させていただきました。あ、でもすぐ元に戻るから安心して」
何かの魔法だろうか、紫の霧が発生して、まわりの風景が歪む。
すぐに幻影だと分かり、目で見るのは諦め、あの邪気だけを追う。敵は動いていない。
すぐに、今度は甘美な香りが鼻を満たし包み込んだ。
これも幻、そう思いたいが、幼いころ、いや、まだ物心付く前にきっと体験した懐かしい匂い。
望郷の念が湧き上がる。まぶたの裏に母の幻影が見える。故郷の幻影が見える。
そう、これは幻影。この香りは獲物を堕とすトラップ。
根源はきっとその向こう。人を惑わすこの甘い空間を通り抜けて、一撃くらわせられれば。
なのに、ダメだ、眠い、耐えられない。体も心も言うことを聞かない。どうした、オレの体………。
「もう、抵抗力が落ちてるって言ったじゃない。体が別物になってるってコトを理解しないと。さて…と」
ごそごそという音が聞こえる。ザックを探っているようだ。
だが、何をする気なのかは考える暇もなく、意識は夢の世界へと落ちていった。


296欺かれて、裏切られて、騙されて 11/20:2008/01/06(日) 19:38:22 ID:0vMLZVLY0

「イオラ!」
下は小石混じりの砂地。アルスが地面の砂を巻き上げる。
フラッシュの効果が残り、まだ上手く目を開けられない。腕は痺れが取れない。
ドラゴンテイルで、腕八本分の攻撃なんて受け止められるわけもない。
接近戦は今しばらく避けるべきなのだ。
もうもうと立ち上る砂煙が、ギルガメッシュにアルスの位置を視認させない。

「くそ〜、目くらましとは! だけどな…」
ギルガメッシュが剣の持ち方を変える。足に力を込めて、大きくジャンプ。
「上空には砂はとどかないぜ!」
もうもうと巻き上がる砂、その中に見える黒い影。
「場所が丸分かりだ! 態勢を立て直すつもりだろうが、そうはさせねえ!」
影目掛けて斧を突き出す。

ぞくりと背筋が寒くなる。砂煙の合間から向けられる鋭い眼光。
もう攻撃の態勢に入っている。今更変えられない。
だが、そもそも態勢を変える必要すらないのだ。

297欺かれて、裏切られて、騙されて 12/20:2008/01/06(日) 19:39:12 ID:0vMLZVLY0

接近戦では不利だが、それならば一帯全てを呪文でなぎ倒せばいいだけだ。
手加減が出来るような相手でもない。雷の威力を軽減するようなものもない。
アルスは左手の指を立て、天へと向ける。空気は酷く乾いている。
影が映る。上空に見えるギルガメッシュの姿。あの攻撃は、カインとの戦いを通して知っている。
だが、今更詠唱を止める必要はない。敵が落ちてくる前に、詠唱は完了するのだから。
アルスを取り巻く魔力は青い粒子へと変質し、その指先を伝って天空へと流れていく。

「アルスお兄さん」
自分の後ろに小さな影。何故来た、そう思っても詠唱は途中、もう止められない。
せめて自分の前に出ないよう、右手で制す。
空高くにて粒子は高速で渦を巻き、空気中の水分を砕き、擦り、静電気へと変化する。

「ザックスお兄さんから…」
横目で確認、片手に剣を持っている。波状で、燃えている刀身はザックスの持っていたフランベルジェという剣。
武器が飛ばされたのを見て、届けに来てくれたのだ。
蓄積された静電気はやがて雷で出来た雲となる。あとはアルスによって言葉が紡がれるのを待つだけ。

疑問が湧いて出た。フランベルジェは、燃えるような刀身を持つ剣、だったが実際に燃えている剣だったか?
それに、どうしてその剣先をこっちに向けている?
「渡してくれって…!」
気付いた時には、ずぶりと肉が貫かれる感触が、そして胴体にごうごうと燃えるフランベルジェが突き刺さっていた。
波状の刀身は深々と突き刺さり、簡単に抜くことはできない。
炎は父の残したマントと共に、アルスの体を内部外部両部から炭と灰へと変えていく。
死はすぐそこまで迫っているらしい。体験してみると、あまりにあっけないものだ。
だが、まだ意識はハッキリしている。口は動く。声は出る。心は生きている。雷雲は消えていない。
せめてもう一足掻き。対象は、自分を含めて辺り一帯。
「ギガ…デ……」
最後の文句を唱えようと、天を見上げたアルスが最後に見たのは、焼け焦げて宙に舞う自分のマントの一部と、
己に向かって振り下ろされるミスリルアクス……父の形見である戦斧の鈍い輝きだった。
298欺かれて、裏切られて、騙されて 13/20:2008/01/06(日) 19:40:08 ID:0vMLZVLY0

「随分上手くいったな…。はっきり言って、後味はよくねぇがよ」
作戦は簡単、少女の姿で油断させ、例の二人が来た場合は分断して一人ずつ始末するというだけ。
銃はギルガメッシュが狙ったのではなく、予め銃弾の通る延長線上に敵を誘い込んだだけだ。
背伸びを合図に銃を発射、当たろうと当たるまいとかまわない。どっちにしろ分断の理由はできるのだ。
「ところで、お前いつまでその姿でいるんだ? 二人とも死んだんだし、必要ねえだろ? そういう趣…」
「自力で戻れないの。あ、これ知ってる。遠くにあるものを攻撃する武器」
少女=変化の杖で化けたスミスがアルスのザック…フランベルジェを突き刺すと同時に奪い取ったザックを物色する。
まず目に付いたのが、黒く大きな金属製の機械。大型マシンガンだ。
「え〜と、これは設置すればいいのかな?」
「そいつは銃みたいなものなのか?」
武器マニアのギルガメッシュとしては、この類の武器は物珍しいのか、横合いからペタペタ触ったりバンバン叩いてみたりする。
「あ、あんまり乱暴に扱わないでよ。壊れちゃうかもしれないし。
 多分銃と同じものだと思うけど、じゃあ、あのタルで実験してみようか」
マシンガンを向けた先は、例の旅の扉前に置いてあるタル。
要は囮とあっち方向に逃げられないようにするための保険といったものだ。
当然中に人も魔物も入ってなんかいない。
デールが使っていたのを思い出しながら、見たとおりに引き金を引く。
辺りを切り裂く絶叫は鉄の悪魔と呼ばれるに相応しい。
ただの銃とは比べ物にならない量と数の弾丸が樽の木板をみるみるうちに粉砕していく。


299欺かれて、裏切られて、騙されて 14/20:2008/01/06(日) 19:41:00 ID:0vMLZVLY0

甘い息とマヌーサによって作られる幻影の空間。
元々甘い息の効果は短い。密室ならともかく、成分が風に流される屋外ではすぐに効果が切れてしまう。
それに、すぐ近くでマシンガンの掃射音がする。マヌーサも解け、脳が覚醒する。
まず彼が見たのは、パチパチと燃える人型の炭。マシンガンを撃つ少女とそれを隣で見ているギルガメッシュ。
「とんでもねえ代物だな…」
「だね。間違って人に向かって発射しちゃったら大変なことになるね」
マシンガンの威力に驚く二人。確かに、あれをまともにくらえば自分だってひとたまりもない。
それだけなら、不意を撃って一人、特に少女の姿をしているほうだけでも仕留めようと思ったかもしれない。
だが、直後に見た光景はそれを思いとどまらせるに十分だった。

少女が屈託の無い笑顔を浮かべる。
マシンガンの威力に唖然としているギルガメッシュのほうに振り向く。マシンガンの銃口ごと。
「こんなふうに、さ」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

マシンガンは唸りをあげ、唖然とする……
仲間に銃口を向けられたことに唖然とするギルガメッシュの腹部をぶち抜いた。
300欺かれて、裏切られて、騙されて 15/20:2008/01/06(日) 19:42:07 ID:0vMLZVLY0
「あははははははははは! 凄い、凄いね!
 はは、うん、無理に喋らなくていいよ。何が言いたいのかは大体分かるから。
 フライヤにも同じことを言ったんだけど、最初からこういうつもりだったんだよ。
 ご苦労様でした。今まで思い通りに動いてくれて、ありがとう。感謝してる。
 感謝してるけど、いちいち誰かを悪役に仕立て上げるのも手間がかかるんだ。だからそろそろさよならしよう?」
「あ、そうそう、いいこと教えてあげる。さっき戦った二人とも、別にフリオニールの仲間なんかじゃないんだよ」
ギルガメッシュの目に様々な色が浮かぶ。驚嘆、憤怒、後悔。
現実の否定と、現実からの逃避を求める気持ちが少しだけ現れる。
「いいじゃない。君はよくやったよ。フリオニール君は死んだし、剣も取り戻しました。めでたしめでたし。
 一人殺して、ゲームにもしっかり貢献しました。でも、これ以上アンタに何か出来ることなんてあるのかな?
 ゲームを止める? 単純で戦うしか能の無いキミが? 寝言は死んでから言いなよ」
スミスはギルガメッシュが落としていたラグナロクを拾う。誰の手に渡ろうと、輝きは変わらない。
だが、ギルガメッシュにはこの剣が寂しい光を放っているように見えて仕方がなかった。
「この武器がお気に入りみたいだから、これでとどめを刺してあげる。
 アンタのために作られた武器が、アンタの命を完全に断つわけさ。きっと、サリィさんも本望だと思うよ?」
スミスが両手でラグナロクを持ち、ギルガメッシュに刃を向ける。
301欺かれて、裏切られて、騙されて 16/20:2008/01/06(日) 19:43:12 ID:0vMLZVLY0
まるで衰えを見せない、ラグナロクの輝き。
ギルガメッシュが生涯で手にした武器の中で、もっとも強く、もっともシンプルで、もっとも美しい。
命を分けてくれたとか、そんなご大層なものじゃないが、まだもうちょっとだけ動けそうな気がする。
スミスを許せないという怒り、それとも一矢報いようとするプライド、これ以上この剣を汚させないという想い。
サリィやわるぼうの復讐、限界までやってやるという自暴自棄に近い感情。
とにかく、もう下半身に命令は伝わらないが、上半身に残った全血、神経、筋肉を酷使。スミスに飛びつく。
ギルガメッシュはもはや生きているだけの死体。そう思っていたスミスは、最後の抵抗をかわせない。
ギルガメッシュに組み付かれ、押し倒される。ギルガメッシュには、ラグナロクが刺さったまま。命がとくとくと零れ落ちる。

「ちょ、ちょっと、離せ、何すんのさ死に損ない!」
それでもなお残った命。それら全てが輝き、それは無数の赤い粒子となる。
粒子はギルガメッシュを中心に広がり、辺りを包み込む。
「大人しく死んどけって、今更になって何足掻いてんのさ!」
押し返して、起き上がり、足で蹴り付け、腕を振り払おうとしてももう動かない。
「〜〜〜〜〜!!!!」
ギルガメッシュは黒髪の剣士、ザックスと目が合った。
彼の目がどんな色を湛えていたのか、ザックスにも分からないだろう。
次の瞬間には、ギルガメッシュの体は真紅に包まれて、回りの世界を紅一色に染めたのだから。



302欺かれて、裏切られて、騙されて 17/20:2008/01/06(日) 19:44:04 ID:0vMLZVLY0


どれくらいの時間が経ったのか。数秒かもしれないし、数分かもしれない。
ギルガメッシュの体は消失してしまい、自爆に巻き込まれたあのマシンガンも、原形は保たれているが使えないだろう。
アルスの遺体は未だにパチパチと燃え続けている。少女の姿はどこにも見えない。
少女を探す暇はないかもしれない。あとどれくらいでタイムリミットが来るのか分からないのだから。
足元に飛ばされてきたのは、ギルガメッシュが持っていたザック、そしてラグナロク。
至近距離での爆発を受けたのにも関わらず、ラグナロクにはどこにも損傷が見当たらず、その輝きも衰えることがない。
アルスの形見というわけではないが、何故かこの剣を持っていてくれと言っているような気がした。

時間は今どれくらいなのか分からない。もしかしたら、まだ余裕はあるのかもしれない。
ただ、それでももうこの村にこれ以上留まる気にはなれなかった。
この村、いや、この世界は悲しいことが多すぎた。半ば、一度だけ振り返る。
パチパチと炎が燃える音と、風の音が聞こえるのは相変わらずだった。
旅の扉へ飛び込もうと踏み出す。
「ザックスさん」
聞こえる猫なで声。戦いの元凶。
旅の扉の向こう、鉱山の入り口に壁を背にして少女が立っていた。
303欺かれて、裏切られて、騙されて 18/20:2008/01/06(日) 19:44:55 ID:0vMLZVLY0
「伝えたいことがあって、待ってた」
爆発を至近距離でくらったにもかかわらず、顔も服も綺麗なままだ。
なんなんだこいつは? そもそも生物ですらないのか?
「仲間さん、もうほとんど生き残ってないんだよね?」
お前が殺したんだろう、そう言ってやりたい。
今すぐこの場で八つ裂きにしてやりたい。でも、剣の攻撃は届かない。

「私がやったことは、全部が貴方がやったこと。次の世界でそう広めてあげる。
 きっと正義のヒーローたちが我先に貴方を殺そうとするだろうね」
風魔手裏剣を投げても、やはり本職ではないと使いこなせないのか、当たらない。
かまいたちは、相手に届く前にかわされてしまう。
相手に近付こうにも、旅の扉を軸に自分と相手が回るだけだ。

「さて、狙われたザックスお兄さんは、みんなを説得することができるのでしょうか?
 それともできないまま終わるのでしょうか?」
少女と目が合いそうになる。目をそらす。まともに見てしまえば、あの不気味な光を受けてしまう。

「これが貴方を生かした理由。全員死んでしまったら、後に続かないからね。
 何故教えるのか、それは自分で考えてね」
少女はごそごそとザックをいじる。
突然投げられた、小さく厚みのある本。バスターソードの腹で受け止める。
アルスの持っていた官能小説。受け止めるものも無く、地面にことんと落ちた。

「それは餞別にあげるね…」
言葉。餞別というより、ただの囮と目くらましに使ったに過ぎないのだろう。
少女の姿はどこにもなかった。次の世界へ向かったのだ。
地に落ちた本は開かれ、風に吹かれてぱたぱたと捲れていく。
やはり、この世界はあまりに辛いことが多すぎた。辛いことの後には楽しいことが待っていると聞くが、
扉を抜けた先に待つのは苦難と悲哀だけなのだろう。それでも、ここで立ち止まることはできないのだ。
304欺かれて、裏切られて、騙されて 19/20:2008/01/06(日) 19:45:43 ID:0vMLZVLY0


やっぱり旅の扉の前は罠を張りやすい。
ザックスに生きていてもらったのは、一人生き残りがいないと誤情報が広がらないからにすぎない。
そもそも、タバサに化けた理由は、自分が最も始末したい人間だからなのだ。
アルスとギルガメッシュはうまく殺せたが、実のところは二人の生死もどちらでもよかった。
ここまでやれば、ザックスは確実にタバサを危険な快楽殺人者だと思い込むだろう。
だが、タバサと実際に会っている一部の人間は、彼の話の矛盾にきっと気付く。誤解と疑心暗鬼の誕生だ。
うまくいかなくとも、こっちの足は付かない。
ちなみに、ザックスを殺人者に仕立てるのはやってもいいが、やらなくてもいい、その程度のこと。

変化の杖を使ったのは三度。アルスらに会う前、ザックスを無力化したとき、そして爆発で吹き飛ばされた後。
とにかく自分にとっては利用価値が大きい。
でも万能ではない。会ったことがあれば十分化けられるが、数分ごとに使っていないとすぐに効果が切れてしまう。
使うたびに数秒だけ元の姿に戻るから、集団に紛れ込むのは正直難しいかもしれない。
それに、怪我まではコピーできず、常に見た目健康な状態に変化してしまうので、それでバレる可能性もある。
あと、口調を変えるのにはまだ慣れていないと痛感した。

ギルガメッシュが瀕死だったため、自爆自体は大した威力は無かったが、あの至近距離で爆発を受けたのはさすがに痛かった。
魔法の絨毯を広げたから、落下の衝撃は和らげられたけれど。
多分、変化を解くとボロボロの状態なんだろう。今でも表面こそ綺麗だが、あちこちが痛いのだから。
次の世界は当分絨毯頼みにしようかな。
305欺かれて、裏切られて、騙されて 20/20:2008/01/06(日) 19:46:34 ID:0vMLZVLY0
【ザックス(HP3/8程度、左肩に矢傷、右足負傷、一時的に耐性減)
 所持品:バスターソード 風魔手裏剣(16) ドリル ラグナロク 官能小説一冊 厚底サンダル 種子島銃 デジタルカメラ
 デジタルカメラ用予備電池×3 ミスリルアクス りゅうのうろこ
 基本行動方針:同志を集める
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【現在位置:新フィールドへ】

【スミス(HP1/5 左翼軽傷、全身打撲、洗脳状態、闇のドラゴン)
 所持品:変化の杖 魔法の絨毯 波動の杖 ドラゴンテイル 
 基本行動方針:ゲームの流れをかき乱す
 第一行動方針:カインと合流する
 最終行動方針:(カインと組み)ゲームを成功させる】
【現在位置:新フィールドへ】

【アルス 死亡】
【ギルガメッシュ 死亡】
【残り39名】
306現実の対義 1/8:2008/01/06(日) 19:55:29 ID:0vMLZVLY0

氷の上。煌く刀での一閃を、ラムザはしっかりと盾で受け止める。
部分的とはいえ湖すら凍らせるほどの相手に対して、ただ防戦一方。
敵の強さ以上に、ラムザはこの氷の下に消えた二人の生命を思って焦燥していた。
水中で――いや氷の中で人はどれくらい生きていられる?
迷うより先にラムザの身体は行動を起こしていた。その場から、はるか高く飛び上がる。
最高高度のジャンプ。一点を狙うその攻撃はセフィロスに読まれないはずもない。
結局、氷に深々とブレイブブレイドを突きたてただけ、その上崩れた体勢で次のセフィロスの攻撃を捌かなければならない。
剣を抜くことも盾を向けることも叶わず、ラムザはただ鎧の性能だけを信じてわずかに身体を捻った。
受ける角度を変えたことで胴を捕らえた刀は最高の鎧に跳ね返され、滑るように軌道をそらされる。
「………ッ……!! ほう、いい鎧を着ているな」
セフィロスがようやく繰り出したラムザの反撃が届く距離から離れていく。
慌ててこちらも身体を隠すように盾を構えて対戦の姿勢へと戻る。
しかし、真の狙い。あれだけ強烈に剣を突き立ててやった氷のほうは多少の亀裂が入ったもののまだびくともしない。
さらに何度か繰り返せばやがて割ることができるだろうが、そこまであとどれくらいかかるだろうか。
相手にも意図を読みとられるだろう。
「では、その首を落とそう」
朝の入射角の低い光が美しく、刀と銀髪から照り返る。
防御に徹すれば、かなり時間を稼げるとは思う。しかし、それから何か意味が得られるだろうか?
307現実の対義 2/8:2008/01/06(日) 19:56:18 ID:0vMLZVLY0
今までとはパターンを違えたセフィロスの攻撃がラムザを襲う。
常に本命の頭部への一刀必殺の攻撃に繋げることを念頭におきつつ、
反撃を誘うような剣が精密に偽装された荒っぽさをまとって圧倒してくる。
中途半端な反撃は死を招く。
防御か、氷を割るためにもう一度ジャンプを敢行するか。
前者は氷の下の二人を殺し、後者は自分を殺しかねない。自分と他人、二択。
思考する間をおかずに激しく斬りつけてくる攻撃の合間を衝いて
ラムザは氷を蹴って上空高く飛び上がっていた。

ターゲットは敵である銀髪・セフィロスではなく氷上の一点、つまり最初のジャンプで穿った場所。
計略も偽装もなくラムザは打ち割らんとする強固な意志をもって同じ場所を流星のように衝いた。
鋭い音を立てて亀裂が広がっていくものの、それでも巨大な塊の一部が抉れたという程度に過ぎない。
圧倒的な、不足。そして、誰も待ってはくれない。
放射線状に広がるクレバスの中心にいるラムザはさっきよりさらに回避行動を起こすに時間が必要で
反撃で斬る事を狙っていたセフィロスの攻撃はさっきよりさらに速い。
氷の上を風のように向かって来る氷と同じ色の剣士にラムザは抵抗する気を失うことは無いものの、
正直に言って死の可能性を――覚悟した。

308現実の対義 3/8:2008/01/06(日) 19:57:07 ID:0vMLZVLY0
盾を動かそうとする腕が重い。
すべてがスローモーションの世界。しかし、そこに通常の速度を持った何かが割り込んでくる。
セフィロスの進路と直交する形で突然に細かい氷が巻き上がり、衝撃が駆け抜けていく。
ラムザはそれを、知っている。
鍛え上げられた肉体と精神が産み出す地を走る衝撃を放つ技術――
「大気満たす力震え、我が腕をして 閃光とならん!!」
横合いからの奇襲を受け、銀色の疾風が対応すべく動きを緩める。
同じ方向に顔を向けたラムザの目に映るは白い騎士。
名乗りを上げるような言葉に従い幾筋かの雷がセフィロスに狙いを定めて降り注ぐ。
「無双稲妻突きッ!!!」





309現実の対義 4/8:2008/01/06(日) 19:58:09 ID:0vMLZVLY0

なぜか心地よい水の感触が肌を撫でていく。
短い手でしっかりとリルムを抱きかかえながら、ウィーグラフは水面下より深いところへと逃れていく。
水中に光が差し込んで来る方向から急速に水が凍りついていく音が追ってくる。
さらに必死に泳ごうと身体に力を込めたところでウィーグラフは今の姿が水中に適しているものだと気が付いた。
もっと強く、足で水をかく。カッパで無ければできない水中での機動力の発揮。
異常な速度で成長を続ける氷は巨大な浮氷塊を形作ったが、
努力のかいあってウィーグラフとリルムは凍結に捕まることなく逃れ去ることができた。

どうして、一人で逃げなかった?

結果的にセフィロスの攻撃を避けきったウィーグラフは、思い出すように自問する。
いや、あの時はこのカッパという状態が水中に適しているなどとも――
ああいや違う、もし術者であるリルムを殺されては元に戻る手段を――

頭上の光の調子が変化する。
水面を広く覆っていた氷の下を抜けたのだ。
抵抗するような力を入れず、ただウィーグラフに身を預けているリルムをちらりと見る。
そこにあるのは、信頼……だろうか。
信頼、信頼? ……自分には縁のない……無い? 何故? いや、そんなことは……

310現実の対義 5/8:2008/01/06(日) 19:59:02 ID:0vMLZVLY0
岸から急激に水中に落ち込んでいる土の壁、そして上に続く空を見上げる。
両足で絶妙に水をけり、ロケットのようにウィーグラフは水中を上昇していく。
その間も、考えは止まらない。
咄嗟の判断でリルムを助けたこと、そんな小さなことから
突然にウィーグラフは自分自身を客観的に相対化して見ることができるようになった。
内に生じた戸惑いもそれでいくらか氷解していく。
リルムを助けたのはウィーグラフ=フォルズであり、
ラムザに対する復讐鬼ウィーグラフでは、無い。
自分の姿と重なるように凶悪な復讐の仮面を被ったもう一人のウィーグラフがいる、
そんな構図が、見えてきた。

自分が本当にやりたかったことは、
いつだってそこにたどり着くまでの道のりで別のことに摩り替わっていた。
ある時は軍功でそのすべてを実現できると必死に戦い、
またある時はラムザを追うためだけに神殿騎士として活動した。
いつだって、いや誰だってそうだ。
役目だとか立場だとか仮面をかぶって満足に成し遂げられなかったやりたいことは何だった。
いつも真ん中にいたのは誰だった?
どうなのだ、ウィーグラフ=フォルズッ!! 思い出したかッ!?
自分がどういう人間なのかをッ! 何をやりたかったのかをッ!


311名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/06(日) 19:59:20 ID:+rBSAsDd0
 
312現実の対義 6/8:2008/01/06(日) 19:59:48 ID:0vMLZVLY0
水から上がるとすぐに魔法の光に包み込まれ、ウィーグラフは元の姿を取り戻した。
失った側の目を押さえ、濡れた寒さに細かく身を震わせながらもリルムは残った目でしっかりと見つめてくる。
ウィーグラフは今し方助けた相手なのにすでに興味を失ったと言わんばかりにそちらを見ず
自分達が水に飛び込んだ方向――ラムザと銀髪を残してきた方向を見極めようとした。
ラムザはどうなったのだろうか。
「……助けてくれたから元に戻したけど、またすぐにカッパにするぞ」
背後からの脅しを受け流す。
戦闘の舞台はどうやら氷の上に移っているようだ。
「どっちなの? どーするつもぇッッ……!!」
振り返り様の一撃。
少女の鳩尾にウィーグラフの拳が容赦なくめり込む。
殺す気はない、障害にならない程度にわずかな時間無力化できればよい。
それは、今のウィーグラフ=フォルズが描く理想の中には無いことだ。
打撃の痛みより呼吸を妨げられる苦痛に身体をくの字に折るリルムのザックから手早く自分の剣と薬ビン一つを取り出し、
ウィーグラフは氷の戦場へ向けて猛然と走り出す。
その背を押す心地よい動機の追い風を感じながら。
今になってよく見える。
民間人でも、騎士でも、復讐鬼でもいつだって自分は徹頭徹尾、理想家であった――と。
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/06(日) 20:00:24 ID:+rBSAsDd0
 
314現実の対義 7/8:2008/01/06(日) 20:00:38 ID:0vMLZVLY0
空高く、ラムザが飛び上がっていく。
跳躍力を逃げる方向に使えば、ラムザ一人逃げ切ることは容易なはずだ。
ウィーグラフは走りながら、自然と笑っていた。
可笑しくて仕方ない。ラムザよ、貴様はまったく可笑しくなるくらいに信頼に足る敵だ。
今、ウィーグラフが描く理想のために為さねばならないのは異分子の排除――以前討ち逃した銀髪の男を倒すこと。
ラムザとの正真正銘の決着はその後、一騎打ちでカタをつける。
素晴らしいではないか、この疑いなき理想のヴィジョンはッ!

標的を捉えることなくラムザの一撃はただ虚しく氷を穿ち、
機を逃すまいとセフィロスが刀を舞わせて落下地点へ挑みかかる。
ウィーグラフは大きく息を吐きながら、以前と同様に力を込めた腕で大地を叩く。
腕を伝わる大地の怒りを疾風のごとく――地裂斬。
衝撃が、突進していくセフィロスの進路と交差するのを確認しながら氷上へと飛び出した。
朝の光に輝くプレデターエッジを高く掲げ、聖剣技の題目を述べ、
「――無双稲妻突きッ!!!」
裂帛の気合と共に稲妻を、剣を振り下ろす。



刀の向こうのいつかの鋭い眼光と再び合い見え、ウィーグラフはしっかりと敵を認識した。
理想のオーダー。セフィロスを斬れ、ラムザはその後。
思い描いた理想の通り――何も、惑うようなことは無い。
ウィーグラフはいつだって理想の実現を内面での動機にして戦ってきたのだから。

「ウィーグラフッ!!」
「黙れラムザッ! 馴れ合いに来たのではないのだッ!
 死に損なったかッ、銀髪の男よッ!! 貴様の敵はこの私ッ、さあ引導を渡してやろうッ!!」
315現実の対義 8/8:2008/01/06(日) 20:01:50 ID:0vMLZVLY0

【セフィロス(HP 1/2程度)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:ウィーグラフ、ラムザとの戦闘
 基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【ウィーグラフ(HP1/4)
 所持品:プレデターエッジ、エリクサー
 第一行動方針:セフィロスの撃破
 基本行動方針:ラムザと決着をつける】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:セフィロスとの戦闘
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖南岸部の氷上】

【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
 第一行動方針:セフィロスと戦闘し勝利あるいは無事に逃げ延びる(ウィーグラフは敵?味方?)】
【現在位置:湖南部の岸】
316パラメータ修正:2008/01/06(日) 20:08:20 ID:0vMLZVLY0
パラメータ微修正。セフィロスの体力を少し減らしておきます。9/20よりはこっちの方がいいかな…

【セフィロス(HP 1/2弱程度)
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:ウィーグラフ、ラムザとの戦闘
 基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【ウィーグラフ(HP1/4)
 所持品:プレデターエッジ、エリクサー
 第一行動方針:セフィロスの撃破
 基本行動方針:ラムザと決着をつける】
【ラムザ(ナイト、アビリティ:ジャンプ・飛行移動)(HP3/4、MP3/5)
 所持品:アダマンアーマー、ブレイブブレイド テリーの帽子 英雄の盾 エリクサー×1
 第一行動方針:セフィロスとの戦闘
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【現在位置:湖南岸部の氷上】

【リルム(HP1/2、右目失明、魔力消費)
 所持品:絵筆、祈りの指輪、不思議なタンバリン、エリクサー×2
 スコールのカードデッキ(コンプリート済み) 黒マテリア 攻略本 首輪 研究メモ
 レーザーウエポン グリンガムの鞭、暗闇の弓矢 ブラスターガン 毒針弾 首輪 ブロンズナイフ
 第一行動方針:セフィロスと戦闘し勝利あるいは無事に逃げ延びる(ウィーグラフは敵?味方?)】
【現在位置:湖南部の岸】
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/13(日) 16:16:07 ID:VO8dk/DYO
保守っとく
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/18(金) 11:25:34 ID:6Yp8Cgyf0
保守
319守れない約束の意味、守りたい物の価値 1/26+1:2008/01/19(土) 00:30:28 ID:M2yvXiyJ0
四度目の放送ともなれば、だいたいの覚悟はできている。
知人、仲間、友人、その名が呼ばれようとて、今更驚くことではない。
誰がいつ死んでもおかしくない。そんな狂った事実こそ、この世界での常識だ。
大人だろうと子供だろうと、受け入れざるを得ない、現実だ。

「わたぼう……」
テリーの脳裏を、青くふわふわした姿が過ぎる。
やたら軽くて明るくて、すっとぼけてるようで、本当は強くて何でも知っている、タイジュの精霊。
そのわたぼうが死んだなど、とても信じられる話ではない。
数日前のテリーならば、冗談だろうと笑い飛ばせたはずだ。
死んでない自分の名前まで呼ばれているんだし、何かの間違いだろうとはねつけたはずだ。
けれど笑うことができないのは、いくら信じられないと思っていても、心が理解しているから。
わたぼうが死んだ。それが事実である、ということを。

「テリー……」
ティーダが俯きながら名前を呼ぶ。慰めの言葉を思いつかない、といった様子で。
ギードは何も言わず、ごわごわした手をテリーの肩に置く。
「無理しなくても、いいんだぞ」
「今は、我慢しなくてもいいんだよ?」
ロックは頭をぽんぽんと撫でながら、アーヴァインはテリーの目線に合わせるようにしゃがみながら、同じような言葉をかけた。
そして複雑な表情でお互いを見やると、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
ユウナだけは、誰とも視線を合わせないまま、黙りこんでいた。
が、それも多分、ゼルやエドガーの死を悼んでいるのだろうと、テリーは思った。

アーヴァインは友達のゼルを失った。
ロックは仲間のエドガーとゴゴを亡くした。
ギードだって、イザと、レナという知人に死なれている。
他にもテリーが知らないだけで、親しい相手を亡くしているのかもしれない。
それでもみんな、自分は泣こうとしない。
何故泣かないのかと問えば、帰ってくる答えは、多分こんなところだろう。
『小さい子供に心配はかけられない』
確かに、テリーは子供だ。
魔物と心を通わせることはできても、戦う術は知らない、無力な子供だ。
でも、その立場に甘んじる気は、もうなかった。
テリーは子供である以上に、タイジュの国のモンスターマスターなのだから。
溢れそうになる涙を堪えるべく、目をこする。
そして、顔を上げ、視線をまっすぐ前に向けたまま、きっぱりと言い切った。
「俺は……大丈夫。大丈夫だよ。
 それより、ティーダ兄ちゃん達の知り合いが、サスーン城で待ってるんだろ?
 リルムのことは心配だけど、早く行かないと、時間が無いよ」

モンスターマスターの才能は、何も魔物と絆を結ぶことだけではない。
優しさがないマスターには、魔物は心を開かない。
けれど、いくら優しくても、戦闘の指示が下手で余計な苦痛を負わせてしまうマスターは、魔物とて認めてくれない。
パーティを率い、状況を把握し、適切な指示を出す。時に道具でサポートし、言葉で励まし、
仲間達が百パーセントの発揮できるよう、気を配ることができるかどうか。
それもまた、重要な資質なのだ。
状況に流される内に忘れていたそれを思い出させてくれたのは、
目に見える力が強さではないというギードの言葉と、ロックと話した冒険の―仲間達の記憶だった。

「ギードはロック兄ちゃん乗せてあげてよ。足怪我してるから。
 大人一人なら、そんなに辛くないだろ?」
「う、うむ……それは構わんが」
「ちょ、ちょっと、テリー君。
 別に、君までサスーンに行く必要はないんだよ?」
少々たじろぎながら応えるギードの言葉を遮ったのは、ユウナだ。
このパーティの中で、ただ一人目的を異にする彼女にとって、今の話の流れは決して好ましいものではない。
ギードを始末する算段が思いつかない今、首輪解析の手がかりを与えるわけにはいかないのだ。
もしもサスーンまで同行されれば、魔力の流れを読める上、妙に幅広い知識を持っているプサンと合流することになる。
そうなれば、首輪の解析が一気に進む可能性が高い。
それに、逆にここでギードとロックがいなくなれば、回復魔法が使えるのは自分ひとり。
アーヴァインを始末する際には有利になれる。
そんな打算を、『仲間を心配する女性』という仮面で覆い隠し、ユウナは言葉を続けた。
「ロックさんもだけど、リルムやほかの人が心配なら、そっちに行ったほうがいいと思う。
 危険なのは確かだけど、そんなの、どこへ行っても変わらないと思うし。
 プサンさんと合流したいのは、あくまで私たちの都合だもの。
 無理して付き合う必要はないよ」
だが、ユウナの思惑を知らないテリーは、にべもなく首を振った。
「リルムのことは心配だけど、オレは姉ちゃんたちについてく。
 サイファー兄ちゃん達よりも強い殺人鬼が、まだ生きてるんだ。
 バラバラで行動してたら、いざって時、どうにかできなくなるよ。
 それにオレたちに何かあったら、リルムだってすごく心配すると思う」
「そうだな……リルムもラムザも、放送で呼ばれなかったんだ。
 あいつらはあいつらで、どうにか上手いこと切り抜けたんだろう。
 余計な心配をかけないためにも、今は自分の身を守ることに専念するか」
ロックがそう言ったのは、エドガーの件があり、森の中に殺人者がいると信じているから。
それがわかっていても、エドガーを殺した張本人であるユウナにとっては、もどかしいことこの上ない。
(別に心配かけたっていいじゃない。……なんか、むかつく)
心の中でぶつぶつ文句をいいながら、それでも笑顔を貼り付けて、テリーの頭を撫でた。
「そっか。じゃあ、みんなでサスーンに行こう!」


「ごめんね、ギード。重くない?」
朝日差し込む森の中、甲羅の上でアーヴァインが呟いた。
「大丈夫じゃよ」と微笑むギードの横で、ティーダに支えられたロックが面白くなさそうに口を尖らせる。
「俺だってテリーだってがんばって歩いてるっていうのに、お前ときたら」
「仕方ないじゃ〜〜ん! 歩けないんだから〜!」
そう反論するアーヴァインの顔は、ところどころ土で汚れ、鼻の辺りが赤くなっている。
「耳の中に木の枝つっこまれて、こう、グサっぎちゅっぐりぐちゃがりっぎちゃっ、ってやられたんだよ?
 フツーの人間だってそうじゃなくたって、誰だって三半規管逝くに決まってるよ!
 それこそあんたに代わってほしいぐらいだよ!」
平衡感覚を司る器官を損傷し、何もない場所で転ぶこと三回、ついでに木の根に足を取られて転ぶこと一回。
見かねたティーダが肩を貸すも、彼を巻き込んですっころぶに至り、ついにロックと場所を交換することになったのだ。
(ちなみにロックが承諾した最大の原因は、あからさまに不機嫌な表情でアーヴァインを睨んでいたユウナである)
「なんかさあ、バット頭に当ててグルグル回る罰ゲームあるじゃん?
 あれの回転方向を縦とか横とかナナメとかグルグル回してるのがずーっと続いてるカンジ」
「座ってても?」
「立ってても座ってても変わらないっていうかさ。
 僕、本当に座れてる? なんかナナメったり横になったりしてるような気がする」
「……重症ッスね」
「うん。たぶん、今が一番ヒドイと思う。
 片耳が大丈夫なら、ある程度は慣れてくるって聞いたことあるから。
 ……ううっ、酔いそう」
「ひ、人の背中の上で吐いたりせんでくれんかのう!?」
「朝ごはん食べてないから吐くものないよ。
 まー、いざとなったら誰かのザック借りてエチケット袋にするけど」
「「自分のでやれよ!」」

下らないやり取りを続け、あるいは聞きながら、一向はサスーンへと歩を進める。
今はロックが手にしているレーダーに何かが映ることもなく、至って平穏な道程。
だが、それが仮初のものであることは、ティーダとユウナ以外の誰もが承知していた。
と言っても、ユウナの本心に気づいている者がいるわけではない。
ロック、アーヴァイン、ギード、テリー、彼らの抱える不安の種は、『ティーダがユウナに謝っていない』ということ。
ロックや、事情を聞いたアーヴァインにいくら説得されても、ティーダはユウナに頭を下げなかったし、それ以前に彼女の行為に納得さえしなかった。
ティーダにとってユウナは、自分を省みずに他人を救う道を選ぶ人間であり、物静かな中に芯の強さを秘めた女性、というイメージが強いのだ。
さらにユウナからすれば三年の歳月が過ぎているといえ、彼にとっては数日の別離。
自分が要らないほど強くなり、活発になった。ティーダはそれを良い意味で変わっていたと思っていた。
だが、今のユウナには以前の彼女には無かった弱さがあった。
それが、首輪の解除を実現しようとしていた人物であるエドガーを死に至らしめた――言い換えれば、脱出を試みる者全員の希望を潰してしまった。
そんな思いがあるからこそ、ティーダは、中々ユウナを許せないでいた。
そこに、日の出と魔女の放送である。
流転する事態の前には、痴話喧嘩がうやむやになるのも仕方ない、というより当然。
リルムは帰ってこないが生きている、けれどテリー達の仲間は数人死んでいる。
プサンとも合流しなければいけないし、そんなあわただしい状況で、一々謝ってなど居られない。
もちろん、そこまでの算段などティーダにはなく、単純に忘れているだけだ。
だが計算づくだろうと天然だろうと、『謝っていない』事実は変わらない。
放っておけばユウナの心の傷は悪化する一方。
さりとて下手に蒸し返しても、ティーダが納得しない限り不毛な議論が続くだけだということは、賢者でなくたってわかる。
それこそ子供だってわかる。よほど空気の読めない者でない限りは。

「はぁ……どうすりゃいいんだか」
「何がッスか?」
心配事の張本人のすっとぼけた返事に、ロックは『お前のせいだ』という言葉をぐっと堪え、苦々しく吐き捨てた。
「なんでもねえよ」
つっけんどんな態度に、ティーダはクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。
「なんだよ、もう。言いたいことあんならハッキリ言えばいいのに」
その一言が、ロックの表情をさらに引きつらせる。
二人の態度に、嫌な雰囲気を感じ取ったアーヴァインは、話題を逸らすべく大きな声で話しかけた。

「ねーねー、ところでさー!
 ギードやロックの世界にもGFとか召喚魔法ってあるの〜?」
「……は? 何だよ、いきなり」
「ずいぶん唐突じゃのう」
首を傾げる一人と一匹に、アーヴァインは前もって用意していた偽りの動機を並べ立てる。
「僕が使ってたディアボロスってGFさ、カズスの爆発に巻き込まれて消えちゃったんだよね。
 もー、長い付き合いだったし、相性も良かったし、使えるやつだったしで、すっごい悲しくてさ。
 復活させる方法、誰か知らないかなーって」
「GF……幻獣のようなものかのう」
首をひねるギード。しかし、幻獣という言葉を聞きなれていないアーヴァインは、逆に困惑してしまう。
「そ、その幻獣ってのがどんなんだかわかんないけど……
 僕の世界じゃ、自立した意思を持つエネルギー体って定義されてるんだ。
 特定の力場内部や、アイテムや生命体に宿ってエネルギー供給を受けることで、実体化できるようになるんだけど」
「なるほど、己の肉体を持たぬタイプの幻獣じゃな。
 その幻獣の本体――魂が残っておれば、一定量の魔力を補充すれば復活できるはずじゃが」
「生命力が尽きて出てこれないんじゃなくて、ホントに消えちゃったんだよ」
「それでは無理じゃのう」
あっさりと言われたところで、友人の将来がかかっているのに、はいそうですかと納得できるはずがない。
アーヴァインは折れていない方の腕でギードの甲羅をぽこぽこ叩きながら、どうにか役立つ情報を聞き出そうと必死に縋りつく。
「そんな簡単に切り捨てないでよ〜!
 ディアボロスだよ? あんこくにエンカウントなしに時空魔法とステータス魔法精製に闇よりの使者!
 通常の三倍のダメージ! ガルバディアのレーダーにもきっと映らない絶対隠密移動!
 ヘイストスロウストップペインメルトン! 絶対に殺さず、でも絶対に瀕死に追い込む超強いグラビデ!
 復活できたら役立つこと間違いなしの最強の助っ人なんだよ〜〜!!」
「うーん、確かにお前より役立ちそうだな」
ロックがぽつりともらした一言に、アーヴァインは横目で睨みつけた。
「ついでにアイテムぶんどる技も持ってるから、誰かさんも要らなくなるよ」
「なんだと」
「止めろよ、二人とも!」
一気に漂い始めた険悪な雰囲気に、ティーダが慌てて仲裁に入る。
「あんたなあ、なんで喧嘩吹っかけるようなこと言うんスか!
 アーヴィンもいちいち反応してんなって!」
「……気に食わないもんは気に食わないんだよ」
そう言って、そっぽを向くロック。
彼にしてみれば、アーヴァインにはティナを殺されたという恨みがある。
しかし同時に、リルムやテリーを庇おうとしていた場面も目にしている。
殺したいほど憎んではいないが、仲間として迎えることができるほど許せもしないし、夜中に騒がれた怒りも残っている。
さりとて、あからさまに手ひどい怪我を負っている相手を本気で殴りつける気にもなれない。
そんな複雑な感情と理性が入り乱れた結果が、手加減した暴力や憎まれ口や皮肉なのだ。
一方のアーヴァインは、『仲間を殺した相手だからキライなんだな』とは思っている。
半日前の彼であれば、元は自分が悪いのだから黙っていようと自制心を働かせただろう。
だが、そんな考えは今の彼には無くなっていた。
故に何か言われれば口答えもするし、毒舌には毒舌で応戦する。
敵意に敵意を返す、しかしそれはあまりに当然の反応でもあるがために、誰もそのことに気づかない。
ティーダもロックも、アーヴァイン自身でさえも。

「僕だってうるさいオジサンなんかに好かれたくないよ〜〜だ。
 てゆーか、あんたなんかより、ディアボロスだよ。
 消えたの元に戻せないなら、新しく作る方法でもいいからさ」
あっかんべーとロックに向かって舌を出した後、アーヴァインはギードに向き直る。
消えた召喚獣を蘇らせる方法がわからなくとも、生まれる過程を知れば、消滅したはずのティーダが実体化している理由と、もう一度消えそうになった場合の対策が立てられるかもしれない。
そう考えての発言だ。
「もっと無茶だろ」
ロックの茶々を無視して、ギードは目を閉じ語り始める。
「うむ……強力な力と強き心を持つ者が幻獣に転生することは、稀にあるが……
 特定の幻獣を作るとなると、飛竜からフェニックスに転生する方法しかしらんのう」
「フェニックス!?」
「うむ。飛竜が自らの意思で、とある砂漠に立つ塔の頂上から身を投げることで、死してのち幻獣フェニックスとして蘇るのじゃ」
「なんで〜〜?」
不思議そうに指をくわえるアーヴァインと、興味深い……というより半ば執念めいた目つきで凝視するロックを前に、ギードは講釈を始めた。
326なんて長いんだもうダメだ 8/26+1 :2008/01/19(土) 00:40:53 ID:M2yvXiyJ0
「さて、具体的な仕組みまではワシにもわからんわい。
 まあ、砂漠という炎属性を強化する力場に、思念の増幅を行う魔術的処置を施し
 幻獣が生まれやすい環境を整えた上で、
 死して尚蘇る不死鳥のイメージを建築材の一つ一つに至るまで封じ込めることで、
 フェニックスを生み出す素地を作り上げたのじゃろう。
 じゃが、それだけでは何故人やチョコボでは無理で飛竜のみが転生できるのかという説明がつかん。
 人間やチョコボでも幻獣になった例はあるからのう、魂の素質や意志力の問題ではない。
 考えられるのは肉体的な素質じゃ。飛竜の舌は万病に効く薬になるのじゃが、それはつまり、飛竜には先天的に癒しの力を持っているいうこと。
 ということは、死した飛竜の肉体そのものを魔力に変換するための装置か魔法陣を塔に仕掛ければ、
 癒しの属性を持った膨大な力を得ることができるわけじゃ。
 そうやって幻獣になるだけの力を持ちえた、他者の為に自ら命を捨てる道を選んだ強き魂が、
 炎の力と、塔全体に記憶されている不死鳥の形を得ることで、はじめてフェニックスという幻獣に……
 ……と、これこれ。こんなところで寝ると風邪を引いてしまうぞい」

ギードは足を止め、自分の背中ごとうとうとと船をこぎ始めていたアーヴァインを揺さぶった。
「ふわぁぁぁ……久々に教室で授業受けてる気分になったよ」
大きなあくびをするアーヴァインを見やりながら、テリーがむすっとした表情で言う。
「ギードには悪いけど、何言ってるのかわからないよ。
 もっと簡単に説明してくれよな」
ぷーと頬を膨らませる少年に、ギードはかっかっかと笑った。
「子供には難しい話じゃったか」
「大人でも難しいって」
ティーダのつっこみに、ロックまでもが頷いて同調する。
何も言わないのは、最初から話を聞く気がないといった様子で歩き続けているユウナだけだ。
ギードはごほんと咳払いし、若者達にわかりやすいように説明しなおした。
「とにかく、幻獣を作るには
 強い意志を秘めた魂と、膨大な魔力と特定の属性を持つ力場、
 そしてそれらを束ね、幻獣としての形と存在を定める、確固としたイメージが必要だということじゃ」
それでもアーヴァインは理解しかねている様子で、しばし腕を組み目をつぶる。
「う〜ん。グラビガがたくさんドローできる場所で、すんごい魔法のアイテムを持った状態で、
 ディアボロスと相性MAXな僕が、ああなりたいって強く思いながら死んで、
 他のみんながディアボロスになれますようにって祈ってくれたら、もしかしたらなれるかも、ってこと?」
「……まあ、理論的には、そうじゃが」
呆れ顔で答えるギード。
その表情は、『何を無茶なことを言っているんだ』という彼の心境を雄弁に物語っている。

「ん〜………」
アーヴァインは再び考え事を始める。
もう少し突っ込んだことを聞くべきか、止めておくか、悩んでいるのだ。
もちろん、多少深いことを尋ねたところで、ギードやテリーやロックが彼の本当の狙いに気づくことはないだろう。
隣を歩いているティーダが実は召喚獣など、それこそ夢にも思っていないはずだからだ。
だが、ユウナは違う。
ティーダの素性を知っているユウナに聞きとがめられ、それでティーダの悩みに勘付かれれば元も子もない。
尋ねるべきかどうか。
アーヴァインは薄く目を開け、そっとユウナを見た。
彼女は相変わらず黒い靄に包まれ、俯いたまま、ぶつぶつと何事かを呟きながら歩いている。
表情は真剣で、心ここにあらず、今考え事してるから黙ってて、といった様子。
大事なことを考えているようにも、強いショックから立ち直れていないようでもある。
この様子では、アーヴァイン達の話など耳に入っていないことは間違いない。
(けど、このまま放っておいて良い状態でないことも間違いない、よね……)
立ち込める漆黒の靄は、彼女の心象風景でもある、そんな風にさえ思える。
嫌な感覚に冷や汗を流しながら、アーヴァインはギードに問いかけた。
ユウナの心を支えるためにも、まずはティーダの不安を解消してやることが先だと、自分に言い聞かせながら。
「ねーギード。一度幻獣になったら、元の飛竜とか、人間とかに戻れたりできるの?」
あまりにダイレクトな質問に、ティーダが目を丸くする。
若者二人の心境など知らないロックは、質問攻めを続けるアーヴァインに肩をすくめた。
「なんでそんなことばっか聞くんだ? 勉強にでも目覚めたか?」
「ちっちっち。甘いな〜、ロック。
 例えばさ、えーと、死んだ人を幻獣に転生させて、かつ人間に戻すことができるなら、
 みんなは無理でも誰か一人や二人、助けられるかもしれないだろ〜?」
などと並べ立てた言葉は口からでまかせで、
(あれ? これって意外とイケてるアイデアじゃね?)と思ったのは発言した後。
様々な期待に胸を膨らませたアーヴァインだったが、現実はそれほど甘くなかった。
「残念じゃが、そんな話は聞いたこともないわい」
「……だってよ」
ロックが冷たい視線を注ぐ。
投げやりな口調と少しばかり力の抜けている肩が、彼自身僅かな期待を抱き、そして落胆したことを示していた。
(まあ、そう上手くいくはずないか)
アーヴァインは一人ごち、得た情報を頭の中で整理しなおす。
329長すぎてエラーが出た 11/26+1 :2008/01/19(土) 00:47:34 ID:M2yvXiyJ0
(魔力と魂、それと形のイメージで、召喚獣は成り立ってる。
 アイツを形作ってたものがイコール祈り子ってののの夢だったから、
 祈り子が消えた時点で『召喚獣ティーダくん』として存在することができなくなった。
 だから召喚士でもティーダを召喚することはできなくて、ユウナも会えずじまいだった。
 けど、今はアルティミシアがなにかしてるから、ティーダは実体化してる。
 うーん……なんか、色々腑におちないなあ。
 時間を越えて人を集められるなら、消える直前のティーダを引っ張ってきたほうが効率的だし。
 けど自分が消滅したってこと覚えてる以上、一度、『ティーダ』は消えたのは確か……
 ……待てよ? そもそも、ティーダの魂って、どうなってんだろ。
 記憶があって、人格があるんだから、本物……だよなあ。
 一から作るならティーダの姿の殺人ロボットにした方が、殺し合い進むし。
 やっぱり、そこは最初からティーダの魂は消えてない、って考えるのが自然かな。
 僕だっておとーさんおかーさんから生まれたけど、生んだ人が死んだからって消えるもんじゃないし。
 それならアルティミシアは『ティーダ』のイメージと魔力を与えれば、アイツを召喚して実体化させることができる……
 って、それも十分面倒臭いような気がするなあ。ずっと召喚してなきゃダメじゃん。
 だいたい、召喚獣のままだったら、ギードの言うとおり本体部分=魂さえ残ってれば幾らでも復活できるんじゃないの?
 殺し合いなのに、そんなザルっぽいこと、するかなあ。
 それに、もう一つ。『ティーダ』って人物のイメージは、どっから来たんだろう?
 アイツ、祈り子は死者の魂を像に封じ込めたものっていってたよな。
 祈り子になった人が以前に出会った人物に、『ティーダ』の元になった奴がいたのかな。
 『オリジナルティーダ』、みたいのが……………オリジナル?
 待て…………待て、待て待て待て!
 もし、『オリジナルのティーダ』のクローンを作って、召喚獣としての形と性質を失ったあいつの魂を入れたら、どうなる?
 見た目ティーダ、中身もティーダの、召喚獣ティーダの記憶と人格を持つ人間のティーダになるんじゃないか?)
(細胞さえ手に入れることができるなら、魔法で一からそっくりな身体を作るより、楽チンだし。
 培養装置に放り込んで、急速成長させれば、命はあっても心のない空っぽの人形のできあがり。
 そこにイキのいい魂を入れるだけであら不思議、なんて簡単、ティーダくんの完成です。
 アルティミシアのお手軽三分クッキング、なんつってー……って、いや結構マジでこの説当たってるんじゃ?
 ああ、でも確かめる方法がわっかんないなぁ……。
 死んでも消えなかったら人間なんだろうけど、そんな確かめ方イヤだよ〜〜!)

「兄ちゃん、どうしたんだろ」
「知恵熱でも出たんだろ」
うんうん頭を抱えるアーヴァインを心配するテリー。
それをにべもなく切り捨ててから、ロックはふっと十数分前の言葉を思い出した。

「そういやあ、サイファーって奴より強い殺人鬼ってのは、誰のことなんだ?」
まさかアーヴァインやケフカ達じゃないだろうな、と思いながら問いかける。
だが、ロックにしてみればちょっとした確認であっても、記憶に刻まれた惨劇の恐怖は、そう簡単には拭い去れはしない。
びくっと身を硬くするテリーに代わり、ギードは重々しく口を開いた。
「セフィロスという、銀髪の剣士じゃ」
多くの皺を刻んだ顔からは、忌まわしいという感情がありありと見て取れる。
その裏に隠されたいくばくかの後悔に気づいたのは、事情を知るテリーだけだ。
「恐ろしい実力と冷静な思考を兼ね備えた、冷酷非情の男じゃよ。
 クジャという者と組み、アリアハンにいた者達を襲い、
 セリス、パウロ、クラウド、リディア、多くの命を一晩で奪った……」
「一晩で四人って……マヂッスか」
絶句するティーダ。
だが、それ以上に驚きを隠せない人物がいた。

「セリス、だって……?」
捜し求め、叶わなかった、最愛の人。
その名を、予想もしないところで聞いたロックは、放心したように呟く。
その一方で、恐怖を振りほどいたテリーが、とつとつと語り始める。
「サイファー兄ちゃん達、みんなであいつを倒しに行こうって言ってたんだ。
 でも、もっと戦力を増やしたいって、そんなことも話してた。
 だからみんなばらばらになって、仲間を探しに行ってたんだと思う。
 だけど……」
「少人数になったところを他の敵か、そいつに襲われた、ってことか」
だからテリーは別行動を拒否したんだな、とティーダは納得する。
そして悔しげにぎゅっと唇をかみ締めている少年を励ますべく、仲間に向き直った。
「大丈夫ッスよ! そんな悪い奴は、俺らでバーンとやっつけてやるッス!
 なあ、アーヴィン!」
だが、期待とは裏腹に、帰ってきたのは冷たい返事だった。
「そいつはど〜だろ。
 全員が全員ターニアちゃんレベルの一般人ってことはないだろうし、
 サイファーより上で恐ろしい実力って言うぐらいじゃあ、本気でヤバイ相手ってことでしょ。
 最前線で頑張ってくれる足止め兼アタッカーが、ロックさん以外にもう二人ぐらいいないとなあ」
「え、なんで俺ハブられるんスか」
自分こそ最前線で頑張るガードなのに、と、不満半分呆れ半分の表情を浮かべるティーダ。
しかし、アーヴァインにとって『仲間の命>超えられない壁>他人の命』なのである。
「だって、そんな強いやつに接近戦挑むなんて危ないじゃん。
 攻撃は連続剣っぽいの使える人に任せて、遠くでサポート役に徹した方がいいって。
 ヘイストとかスロウとかのサポートって重要だよ?」
「連続剣っぽいのって俺のことかよ。
 ヘイストやスロウなら俺だって使えるけどな」
ロックが、こちらも不満そうにアーヴァインを睨みつける。
突き刺さるような視線に、ニヤリと皮肉めいた笑みを浮かべ、アーヴァインは答えた。
「彼女の仇は自分の手で討つもんだろ? 常識的に考えてさ」
「……じゃあそうするか。
 ちなみに俺が守ると誓った女はセリス以外に二人いるんだが」
「うっわ、3股って酷いね」
ひどーいひどーい、とからかうアーヴァインの眼前に、鋭い剣先が突きつけられる。
ぴたりと口をつぐみ、冷や汗を流す同行者に、ロックは口の端を吊り上げて言った。
「そのうち一人はこの殺し合いでどっかのヘタレ野郎に殺されたんだよな。
 彼女の仇は自分の手で討つべきだよな、なあ?」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「すいません調子乗ってました。謝るから止めて、首刺さないで」
アーヴァインは真っ青になりながら、ぺこぺことものすごい勢いで頭を下げた。
そんな二人の様子を見ていたテリーは、ぽつりと呟いた。
「なんでロック兄ちゃん、アービン兄ちゃんに剣向けるの?」
「え?」
きょとんとしているテリーに、アーヴァインはやはり、ぽかんと口を開ける。
「アービン兄ちゃん、ロック兄ちゃんの仇みたいじゃんか」
そのセリフに、何かを悟ったアーヴァインは、ロックに視線を移した。
「……言ってないの?」
自分が人を殺していたことを、という続きの言葉をどうしても口にできない。
それでも意味を理解したロックは、『ふん』と鼻を鳴らし、吐き捨てる。
「お前な、一応死に掛けてたんだぞ?
 いくらお前がどうしようもないバカ野郎ったって、身動きできない奴の非難なんかできるかよ」
そっぽを向いたまま戻ってきた返事に、アーヴァインは思わず目を潤ませた。
「ロック……
 カルシウムと乳酸菌が足りてない精神年齢リルム以下のオジサンだって思っててゴメンなさい!」
彼にしてみれば感謝と謝罪のつもりでいった台詞だったが、ロックはそうは取らなかったらしい。
ロックに限らず、普通の感性を持つ人間なら感謝にも謝罪にも聞こえないだろうが。
「やっぱもう一回昏睡しとくか、な」
「ひゃ〜! ごめんなさーーーい!」
ぐっと拳を握り締め、アーヴァインの胸元を掴むロック。
お仕置きのパンチをさえぎったのは、テリーの不安げな一言だった。
「……聞いちゃいけないこと、聞いた?」
心なしか怯えたような視線に、少しばかり毒気を抜かれたロックは、アーヴァインから手を離す。
そして『お前が説明しろ』と言わんばかりに顎をしゃくった。
アーヴァインはふう、とため息を吐いてから、意を決した様子で口を開いた。
「昔の僕は、悪いヤツだったんだよ。
 多分、ピエールやアリーナのこと、責められないぐらいにね」
テリーが眉間を寄せる。
『なんで?』と問いかけようとして、言葉を出せない、そんな様子だ。
アーヴァインは、紫色の瞳に目を合わせることができないまま、言葉を続ける。
「自分でも思い出せないんだ。
 単純に死にたくなかったからかもしれないし、もっと別の理由があったのかもしれない。
 でもね。今の僕は、誰かを殺したいとか思ってないし、皆にも生きていてほしいと思ってる」
そこまで言って、ちらりとテリーに目をやった。
手をぎゅっと握ったまま、足を止め、俯いている。
それも一瞬のことで、アーヴァインの視線に気づくと、すぐに歩き出した。
その仕草に、強い後悔と自責の念を呼び起こされたアーヴァインは、己を嘲りながら言った。
「自分勝手、だよね。昨日だってギードのこと、見捨てちゃったし。
 結局、誰も助けられなかったしね」
「そのことなら気に病むでない。
 お主の決断がなければ、ワシもテリーも命を落としていたかもしれんからのう」
口を挟んだギードの言葉は、本心からのものだ。
事実、殺人者三人に囲まれた状況で、子供を守りながらのハンデ戦では、生き残る目はなかっただろう。
アーヴァインがテリーとトンヌラを連れて脱出し、ピエールを引き離して二対一の形に持ち込んでくれたからこそ、全滅という最悪の結果を逃れることができたのだ。
だが、一方で、トンヌラを助けることができなかったのも事実。
黙りこくってしまったテリーに、アーヴァインは自棄になったように笑い出した。
「アハハハハ……! やっぱ、僕の事なんか信じられないか。
 そりゃそーだよね、何人も殺しといて改心しましたーとか、
 そのくせ今は銃も撃てない役立たずですー、とか、有り得ないってレベルじゃないもんね〜」
「そんなことない!」
狂気さえにじみ出ている哄笑を遮って、テリーは叫ぶ。
「兄ちゃんは、オレとトンヌラを助けてくれたじゃないか!
 なんで自分でそんなこと言うんだよ!?
 今は人殺す気なんてないんだろ? だったら、胸張って人殺しじゃないって言えばいいだろ!」
ぎりっと歯を食いしばりながら、反射的に足を止めていたギードの背中によじ登り、アーヴァインの身体をぽかぽかと叩く。
本気で怒っているその表情と行動に、アーヴァインは一瞬だけ、仲間達の面影を見た気がした。
「……ありがとう」
テリーの頭にぽんと手を置き、アーヴァインは呟く。
それから、わざとらしくふざけてみせた。
「やっぱ、疲れてるとダメだね〜。考えること考えること、悪い方向に行っちゃうよ。
 幻聴も聞こえるし、幻覚も見えるしさ〜」
「幻覚に幻聴って、それはヤバすぎなんじゃあ……
 病院行ったほうが良くねッスか?」
「「どこにあるんだよ」」
ティーダのマヌケなコメントに、ロックとアーヴァインの声が重なる。
二人はしばし前のように顔を見合わせ、舌打ちしながらそっぽを向いた。
アーヴァインはむすっと頬を膨らませ、しかし傍のテリーに気づき、慌てて言い放つ。
「まあ、とにかくさ、今の僕は人を殺す気なんてないから!
 もし誰か傷つけたり裏切ったり殺したりしたら、エデンなしでモルボル食べてやる!!」
等と叫んだのは自分の決意を示すためだったのだが、少々行き過ぎたらしい。
ロック、ティーダはおろか、ずっと我関せずを貫いていたユウナでさえ、目を丸くしている。
「モ、モルボル〜!?」「あんなの食べたら死ぬぞ!?」
「止めたほうがいいよ!! 気持ち悪いよ!」
真っ青な顔で口々に言う三人。
その剣幕にたじろぎながらも、アーヴァインは胸を叩いて答えた。
「大丈夫! 成長しきった奴ならお腹壊さないでいけるから!
 苦あま酸っぱカラくて、冗談抜きで精神修行になるレベルのまずさだけど!」
「食ったことあんのかよ! あんなもんガウでも食わないぞ!?」
「あんたんとこの班長ってどんだけ鬼なんスか!?」
「鬼っていうか、何でもかんでもコンプリートしたがる完璧主義者なんだよね。
 カードは全種類集めるし、食べられるモンスターは全部食べて効果を確認したがるし」
その話に、妙な不安を覚えたテリーは、アーヴァインを見上げて問いかけた。
「……トンヌラの仲間、食べたりしてないよね?」
アーヴァインはしばし口をつぐみ、明後日の方向へ目を逸らす。
「サボテンダーはウエスタカクタスみたいな味でおいしかったなー」
(食ったことあるな……)(食べたな)(食べてたんだ……)
ジト目で視線を注ぐ三人。彼らに気づいたアーヴァインは、必死で弁解の言葉をまくし立てる。
「ほら、班長の指示に逆らうとアイテムや魔法分けてもらえないから、仕方なく、ね。
 ……だから仕方なかったんだってば、黙って後ずさりしないで、そんな目で見ないでユウナ〜!」
他愛のないやりとりを続けながら、一行はサスーンへと歩み続ける。
時計を持たぬ彼らには知る由もないが、放送が流れてからすでに三十分の時が流れていた。
道のりも半分を過ぎ、あと十数分歩けば、城の影が木々の向こうに見えてくるだろう。
そんな時だった。
アーヴァインの目に、森の奥から湧き出る漆黒の霧が映ったのは。

「ねーねー、あっちの方、すごいもやっとしてるんだけど」
ギードの首をとんとんと叩き、右手の方を指差す。
つられて皆、そちらを見るが、
「「「「「…もやっと?」」」」」
テリー、ロック、ユウナ、ティーダ、ギードの声が唱和した。
五人の視界にあるのは、至って普通の森。霧も靄もありはしない。
しかし、アーヴァインには確かに見えているのだ。
「なんかこう、霧と雲の中間みたいな、真っ黒い霧が、もこもこしてるっていうかさ。
 ……何かあるのかもしんないから、ちょっと様子見てくるよ」
そう言って、ギードの背から飛び降りる。
黒い霧の正体を探りたいという気持ちが、あれほど強かった眩暈を薄れさせた。
だが、精神が痛みを忘れるのと、傷ついた体が治ることは、イコールではない。
「あ、アーヴィン! だいじょう……」
慌てたティーダが、大丈夫なのか、と言い終わる前に、べちこーんと派手な音を立ててすっころぶ。
もちろん、折れた片腕で受身などとれるはずもない。
「………」
顔から地面にダイビングしたアーヴァインに、ティーダはおそるおそる近づき、しゃがみこんだ。
「なあ、大丈夫か?」
「まま先生、僕はもうダメかもしれません」
鼻も頬も土まみれにして突っ伏したまま、情けない声で呟く。
そんなアーヴァインを起こしてやりながら、ティーダは仲間達に向かい、親指を振った。
「ちょっと、代わりに見てくるッス。
 ホントに何かあるかもしんないし」
そう言って駆け出そうとするティーダを、ギードが制止する。
「単独行動は危険じゃ。行くならば全員で行ってみよう」
彼の言葉に、ロックはため息をつきながら首を横に振る。
「おいおい、本気かよ。コイツの幻覚だったら無駄足踏むだけだろ」
その一言にカチンと来たのか、アーヴァインは左手を振り回しながら力説する。
「いーや、ぜったい何かあるね〜!
 あのモヤっぷりはただごとじゃないって!」
「だから、どこにそんなモヤがあるんだよ。
 本当に何かあったら、それこそ逆立ちしてモルボル食ってやってもいいぜ?」
「言ったなー! 触手部分塩コショウでしんなり炒めたの山盛り食べさせてやる!」
「いやもうモルボルはいいって。つーか二人ともケンカ止めろって」
いい加減に呆れているティーダの制止も無視し、アーヴァインはギードを促した。
「ギード、行こう行こう! きっと向こうに何かある、何かが僕を呼んでいる!」
「兄ちゃん、オレの仲間に勝手に命令すんなよー!」
「……二人とも、少しぐらいは年寄りを労わらんか」
アーヴァインとテリーの言い草に愚痴をこぼしながら、それでもギードはのっそりと歩き出す。
普通、魔力を視認することはできないが、潜在的に魔法の才能を持つ者なら存在を感じることができる。
相性や波長が合えば、もっとはっきりした形で『見る』ことも可能だ。
魔物であるトンヌラに至っては、魔力どころか感情の流れさえ見えていた。
だから、彼に見えているものの正体まではわからずとも、そこに何かあるということは疑っていない。
――『黒い靄』という表現は、少々気にかかりはしたが。

ギードの後を追いながら、ティーダはぽつりと呟く。
「テンション高いなー」
「まるっきり躁うつ病って奴だな。
 じゃなけりゃ、頭打ちすぎてどっかおかしくなってるんじゃ?」
「俺の頭ともども殴ってた人が言うことじゃないッス」
ロックの、からかい半分の一言に突っ込んではみたものの、ティーダ自身、微妙な違和感をぬぐえない。
精神不安定なのは今に始まったことでないし、他人優先であまり自分を省みないのも、
そのくせ一言多いのも、ゼルがいつものことだと言っていたこと。
だいたい、仲間の死に直面すれば人格だって変わるし、それ以前にたかが一日で性格全部を把握できるわけがない。
それでも、――ユウナにも言えることだが、元気に、活発になっているように見えて、何かがおかしくなっている、そんな印象があった。
距離にすれば、百メートルほど歩いただろうか。
ロックの手のひらに納まっているレーダーのモニター、その端に、二つの光点が輝き始めた。
「反応はあるけど……動いてない?」
横合いから覗き込んでいたユウナが、訝しげに呟く。
その声音には、不吉な予感と、いくばくかの恐れが篭っていた。
彼女の言わんことを察したロックは、わずかに歯を食いしばる。
「休憩中か、じゃなきゃあ……」
続く言葉はティーダにも理解できた。
足掻いてはいても、傷心から立ち直れてはいないであろう幼子を見やり、そっと肩を叩く。
「テリー。やっぱりここで待ってるッスよ」
だが、テリーは首を横に振った。
「いいよ。オレの知ってる人だったら、……ちゃんと、お墓作ってやりたいから。
 レックスや、トンヌラのときみたいに」
「……そっか」
気丈にも、しかしうっすらと涙を浮かべているテリーに、ティーダはそれ以上何も言うことができなかった。
口をつぐみ、魔女への怒りを静かに燃やしながら、前を行く仲間の後を追った。


木々の合間に、それらはあった。
ただサスーンに向かうだけでは気づきもしなかっただろう、わずかな戦いの爪痕。
無念さと悲哀を刻み付けた男の死体と、原型を留めぬ魔物の死体に、ロックはため息をついた。
「相打ちでもしたのか、誰かに殺されたんだか……
 やってられないな」
二人の素性を詳しく知らぬ彼やユウナにとっては、出てくる感想はその程度だ。
だが、テリーとギード、アーヴァイン、ティーダの四人は違った。
「リュカに、ピエールか……」
ギードが力なく呟く。
片や打倒セフィロスの志を共にしていた青年、片やテリーの仲間をことごとく葬り、友人の遺体さえも傷つけた魔物。
それが、ギードから見た二人の立場で、だからこそ複雑な気持ちが胸中に渦巻く。
息子を墓から暴き出し傷つけた相手と知らぬまま、結果的に仇を取り、
そして同時に子供を突き刺したのと同じ剣で、殺められたのだとしたら、なんという運命の皮肉だろうか。
感傷に浸りながら、ギードはアーヴァインを背からおろすと、
テリーやユウナと共に、二人――といっても、魔物であるピエールの身体は既に原型を留めていなかったので、実質一人――の身なりを整えた。
それから、ロックとティーダに頼んで落ち葉やら柔らかい土やらをかき集めてもらい、覆う程度にかけてやる。
ギードとしても、テリーが言ったようにきちんと埋葬してやりたい気持ちはあったのだが、迫る時間がそれを許さなかった。
五人で力を合わせ、十分ほどでどうにかこうにか体裁を取り繕い終わる。
最後に黙祷してから、ギードは膝を抱えて座っていたアーヴァインに声をかけた。
「さて、そろそろ行こうかの」
「……ああ、うん」
ぼんやりとした様子で、アーヴァインは頷く。
その空ろな眼差しと、周囲に漂う死臭にも似た嫌な雰囲気が、ギードの心に引っかかった。
どこかで見た記憶がある。それが何なのか思い出す前に、アーヴァインがぽつりと呟いた。

「ざまあみろ」
その左手にはいつの間にか拳銃が握られていて、誰かがそのことに気づく前に、土が跳ねた。
銃声が轟いたことを皆が認識した時には、弾丸がリュカだったものの胸を貫いていた。
「……何を」
何をしているんだ、とロックが睨みつける。
心底からの怒りを多分に含んだ鋭い視線に、アーヴァインは悪びれることなく答えた。
「僕なりの弔砲さ。仲間を殺してくれた奴へのね」
「仲間……?」
「そう。こいつはリノアを裏切って、そんでこいつを操って、ゼルを殺したんだ」
もちろんロックも、ゼルのことは、ティーダ達から聞き及んでいる。
ティーダ達を助けるべくピエールと戦い、死んだ、仲間がいる。
そのピエールの主君がリュカであり、他の仲間をも殺めたというなら、リュカを憎む気持ちはわからなくもない。
だからといって遺体を傷つけ、死者を冒涜していい理由にはならないはずだ。
「ふざけんな! 自分のこと棚に上げて、他人のこと責めてんじゃねえ!」
ロックはアーヴァインの胸倉を掴み、大声で怒鳴りつけた。
「だいたいテリーの気持ちはどうなるんだ?!
 お前にとっちゃ仇の親分でしかなくても、アイツにとってリュカは友達の親父なんだぞ!?
 自分の気分を晴らすためなら、他人の心が傷ついても構わないってか?!!
 ああ、何とか言えよ、アーヴァイン!」
その言葉に、アーヴァインは一瞬、困ったような表情を浮かべた。
「そんなんじゃ、ない……」
俯くと同時に、力のない呟きがこぼれる。
多少の反論を予想していたロックは、彼の態度に動揺し、思わず手を離した。
アーヴァインは身体をふらつかせ、数歩、後ずさる。
そして。
「だけど……憎いモノは憎いし、ぶっ壊したいんだ!」
静かな声を追うように、今一度、銃声が木霊した。

銃弾は、逸れなかった。
立ち尽くすロック、その体の中心を貫く軌道に沿って飛んでいった。
だが、当たりはしなかった。
トリガーが引かれる寸前、ティーダがロックを地面に押し倒したせいで。
放たれた凶弾は、空を切り裂き、遠くの木に突き刺さって止まった。
「あーあ。外れちゃった」
アーヴァインは無表情のまま、つまらなそうに言い放つ。
「うるさい人なんかぶっ壊れちゃえばよかったのに。
 そうすれば静かになるしさ」
唖然とする一行の前で、くるくると銃を回す。
回転が止まったとき、銃口は今一度ロックの胸に狙いを定めていた。
「まあ、壊れるまでやればいいよね?
 ……みんな、そう言ってるし」
ロックが口を開くより早く、ティーダが二人の間に割って入る。
「銃、置くんだ」
「ヤだ。コレなかったら、壊せないじゃん」
その、壊すという表現に、ロックは違和感と既視感を覚えた。
殺すでなく壊すと言う、それは昨日ヘンリーから伝え聞いた、緑髪の殺人鬼の口癖ではなかったか?
ロックの疑念を他所に、二人の視線は交錯を続ける。
「ティーダこそ邪魔しないでよ。
 乱暴するし口やかましいし、ロックなんていなくたっていいじゃん」
「あんたこそ、どうしてそんなすぐ忘れるんだよ!
 誰も殺さない、殺させない。約束したばっかだろ、アーヴィン!」
その言葉に、アーヴァインは小さく眉を寄せた。
瞳は前を向いたまま、けれど、そこに宿る光が大きく揺らぐ。
「……ティーダ?」
罪悪感と殺意の間で葛藤するかのような、青ざめきった表情を浮かべ、手をがたがたと震わせる。
だが、それでも、銃口は下がらない。
数秒の沈黙の後、アーヴァインは小さく息を吐いた。
肩の力を抜き、左手をゆっくりと下ろす。
ティーダは安堵の息を吐き、アーヴァインに一歩近づいた。
けれど、そのとき、感情の篭らない冷たい声が耳を打った。
「やっぱ、無理だよ」
そういったアーヴァインは、ティーダの記憶にはない、冷たく歪んだ笑いを浮かべていた。
動かないはずの指先が動き、三度引き金にかかる。
取り付かれたような青い瞳の奥に、ティーダは赤い輝きを見た気がした。
混乱する思考に硬直する体。――避けられる余地はない。
否応なしに覚悟を決めたその時、一つのものが見え、一つの言葉が聞こえた。
それはアーヴァインに向かい銃を構えたユウナと、テリーの声。
「止めるんだ、『アービン!』」
その言葉に反応するかのように、びくん、とアーヴァインの体が跳ねる。
同時に、ユウナの銃が硝煙と銃声を吐き出した。
本来胸を打ち抜く予定だった弾丸は、しかしテリーの叫びに驚いたことで大幅にぶれ、幸か不幸か拳銃のみを吹き飛ばした。
アーヴァインはぱちくりと目をしばたたかせ、その場にへたり込む。
「あれ……? 何、してんだろ、僕……」
疲れたように一言呟いてから、彼はがっくりと地面に倒れ伏した。
「アーヴィン! おい、アーヴィン!」
ティーダは慌ててアーヴァインに駆け寄る。
その視界を、突然、白い光が包んだ。
「!?」
何が起きたのかわからず、ティーダは反射的に身を硬くした。
光はすぐに薄れ、しかし周囲の風景が一変する。
木々は連なれど、墓はなく。眼前の、アーヴァイン以外の仲間の姿は……
「一体、なんなんだ?」
真後ろから、ロックの悪態が響いた。
振り向けば、そこにはちゃっかり拳銃やら荷物やらを持っているロックに、テリー、ギード、そしてユウナの姿。
「すまんが、テレポを使わせてもらったぞ」
そう言ったのはギードだった。
「正直、間に合わんかと思ったがの。まあ、怪我も無く済んで良かったわい」
「良くねえよ」
のんきなことを呟くギードに、ロックは力なく言い返す。
怒りを通り越して呆れた、という様子だ。
「何なんだよ、一体。頭おかしいっていうより、狂ってるだろ、こいつ」
気を失ったのか、ぐったりと倒れこんでいるアーヴァインを指差しながら、ロックは吐き捨てた。
ギードはその疑問に答えようとしたが、彼よりも先に、テリーが口を開く。
「多分、あの時のトンヌラみたいに、悪い力に飲み込まれかけてたんだと思う。
 兄ちゃんの目、自分を見失ったモンスターと同じ色してたから」
「悪い力? なんだそりゃ。
 魔導注入されて精神壊した奴ってなら知ってるけどさ。
 いくらこんな状況だって、何もしてないのにイカれたりするもんかよ」
「こんな状況だから、じゃよ」
胡散臭げな眼差しでアーヴァインを見やるロックに、ギードが言った。
「憎悪や怨念が集う場所は、元より負の力を生み出し、呼び寄せる。
 ましてこの世界は魔女の手のひら、その悪しき意思と力が空気のごとく渦巻いておる。
 そんな中で人を殺め、死と怨念に触れることは、魔女の意思を浴び続けると同じことじゃ。
 心の隙間に入り込まれ、知らず知らずのうちに思考を支配される者がおっても、おかしくはない」

そのセリフに、ティーダは、ゼル達の言葉を思い出した。
魔女は強力な魅了能力を持ち、彼らの知人であるサイファーや、アーヴァインが住んでいる国の首都を丸ごと洗脳したことがあると。
自由意志を奪い、凶行に走らせ、心を蝕み、最終的には全てを失わせる。
許せるものではない、絶対に。ティーダは歯を食いしばりながら、そう思った。
「……アーヴィンを助ける方法はないんスか?」
ティーダの呟きに、ギードは俯く。
「アーヴァイン殿の言う黒い靄――悪しき力に触れなければ、多少は抑えられるはずじゃ。
 故に、テレポであの場を離れたのじゃが……
 根本的な解決方法となると、元凶を無くす以外にないのう」
それは魔女を倒すという意味に他ならず、脱出方法さえ判明していない現状では不可能に近い。
悔しさのあまり拳を硬く握り締めるティーダに、テリーが近づいた。
「大丈夫だよ、ティーダ兄ちゃん。
 アービン兄ちゃん、名前呼ばれたとき、正気に戻ってただろ?」
ティーダの脳裏に、名を呼んだ直後の、青ざめたアーヴァインの顔が浮かんだ。
テリーの言う通り、あの時だけは自分を取り戻していたようにも思える。
それに、倒れる直前、テリー自身も名前を呼び、アーヴァインは我に返っていた。
「名前には、命名神マリナンとかいう神様の加護があるんだよ。
 だからオレみたいなモンスターマスターは、仲間に名前をつけるんだ。
 名前があれば、正気を失いそうになった時に、神様の力で呼び戻せるから。
 完全に悪い力に飲み込まれたら無理だけどさ」
「……ホントかよ」
そんな神様なんているのか、とか、明らかに世界が違うのに同じ神様がいるのか、とか、色々疑惑も浮かぶ。
しかし、名前を呼ぶことで少しだけでも正気に戻れる以上、アーヴァインが完全には自分をなくしていないことだけは確か。
そこに縋るしか、今は、方法がないのだろうか。
アーヴァインの手を握りじっと黙り込む、その肩を、白い手が優しく叩いた。
ティーダが顔を上げると、傍らにユウナが立っていた。

「ティーダ。キミ、確か、変な種持ってたよね?
 昨日のお昼過ぎに、プサンさんに見せてた」
「あ、ああ……」
彼女に促されるまま、ティーダは袋から、奇妙な形の種を取り出す。
ユウナは微笑を浮かべ、その種を指し示した。
「確か、プサンさん言ってたよね。
 この種、理性の種っていって、強力な精神安定剤になるって。
 アーヴァイン君に飲ませてあげれば、魔女の洗脳を解く事ができるんじゃないかな?」
「あ……!」
ティーダの顔がぱぁっと輝く。
「そうだ、そうだよ! アーヴィン助けられるじゃんか!
 あんがとな、ユウナ!」
嬉しそうな恋人の顔に、ユウナの心の奥底が痛みを訴える。
こんな風に親切ぶっているのは、ティーダとの溝を埋めたいのと、アーヴァインを始末するときに自分に疑いが向かないようにするため。
その思惑通りにティーダは喜び、感謝の言葉を捧げてくれている。
なのに、ユウナの心は満たされない。
「……なあ、昨日の夜は、ごめんな。
 俺、ちょっと、動転してたんだ。
 エドガー死んだら、ユウナもアーヴィンも、無事に帰れなくなるんじゃないかって思ってさ」
ロックやギード達がどれほど説得しても言ってくれなかった言葉を、あっさりと口にしてくれる。
でも、それは、友達を助けたからだ、とユウナは思った。
「俺さ。自分が死んでも、二人は、元の世界に戻ってほしいんだ。
 あんなヒドイ事言った後で、信じてくれないかもしれないッスけど」
剣の束で砕いた種をアーヴァインに飲み込ませながら、ティーダは話し続ける。
「だけど、本当に、二人とも大事だからさ……
 俺に愛想尽かしても、キライになっても構わない。
 ただ、自分の命、粗末にするような真似だけは……止めてくれ。頼むから」
「………」
ユウナは思う。
これが『キミだけは』だったら、どんなに嬉しかっただろう。
自分ひとりだけ特別だと言ってくれたなら、二人一緒に生き延びる道を探す気にだってなれたかもしれない。
けれど、ティーダにとって、自分は出会ってたった一日の友人と同価値でしかないのだ。
それがどうしても我慢できなかった。
だから、ユウナは、目を瞑ってこう答えた。
「私も、キミのこと、本当に大事だよ。
 だから、簡単に死ぬなんていわないで。生きてスピラに帰ってよ。
 私、頑張るから」
ティーダを生かすために手を汚し、ティーダを生かすために死ぬ。
そうすれば、きっと、ティーダの心には自分のことだけが刻まれるはずだ。
ユウナの言う『頑張る』はそういう意味で、しかし彼女の本心を知らないティーダは、あくまでも額面どおりに受け取った。
「わかったッスよ。三人で……」


「『みんな』で帰ろう!」
ティーダの言葉を、テリーが遮る。
驚いて振り向いたティーダの横合いから、ロックの手が伸びた。
「俺らも入れないなんて薄情な連中だよな、ったく」
愚痴をこぼしながら、ロックはアーヴァインの首根っこを引っつかむ。
「ほれ、よいしょっと」
その身体を、ギードが器用にも首で掬い上げ、甲羅の上に載せた。
「さあさ、サスーンへ急がんとな」
「そうそう」
「そうそう」
ギードが促し、ロックがティーダの腕を掴み、テリーが真似してユウナの手を引く。
若き恋人たちはきょとんとした表情を浮かべ、ロックとテリーはくすりと笑いあった。

かくして、一行はサスーン城へと向かう。
その胸中に様々な思惑と、決意とを抱いて。
【ティーダ(変装中@シーフもどき)
 所持品:フラタニティ 青銅の盾 首輪 ケフカのメモ 着替え用の服(数着) 自分の服 リノアのネックレス
 第一行動方針:サスーンに戻り、プサンと合流
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け/アルティミシアを倒す】
【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、一部記憶喪失、右腕骨折、右耳失聴、気絶)
 所持品:竜騎士の靴 ふきとばしの杖[0] 手帳 首輪
 第一行動方針:????
 第二行動方針:ティーダが消えない方法を探す/ゲームの破壊
 備考:理性の種を服用済み】
【ロック (軽傷、左足負傷、MP2/3)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証 対人レーダー
コルトガバメント(予備弾倉×3) 魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート
 第一行動方針:サスーンへ向かう
 第二行動方針:ピサロ達、リルム達と合流する/ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【ギード(HP2/5、残MP1/3ほど)
 所持品:首輪
 第一行動方針:サスーンへ移動
 第二行動方針:ルカとの合流/首輪の研究】
【テリー(DQM)(軽傷、右肩負傷(8割回復)
 所持品:突撃ラッパ シャナクの巻物 樫の杖 りゅうのうろこ×3 鋼鉄の剣 雷鳴の剣 スナイパーアイ 包丁(FF4)
 第一行動方針:サスーンへ移動
 第二行動方針:ルカを探す】
【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)
 所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、
 天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー
 第一行動方針:サスーンへ移動し、プサンと合流する
 第二行動方針:邪魔なギードとアーヴァインをティーダに悟られないように葬る
 基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰し、ティーダを優勝させる】
【現在位置:サスーン城東の森・城近辺】
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/24(木) 09:47:51 ID:5vJ8yDfm0
hosu
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/01/27(日) 19:59:02 ID:7AqvO51G0
保守
そもそも、確かに色々とストレスのたまる一日ではあったが、前日はちゃんと睡眠をとっていた。
それに、仮にも俺は世界最強の国家たるバロン王国における最強の軍隊、竜騎士団の隊長だ。
この程度の怪我やストレスで動けなくなるほど柔な鍛え方はしていないし、
ゼロムスを倒した後もこれ以上の寒さかつ空気の薄い試練の山において、鍛錬を怠らずに過ごしてきた。
では、これは一体どういうことなのだ???

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 ┌‐┐ |ロロロ!==,___loooo|─| ̄|ロロロロ|───┐
 ̄| 日| ̄|ロロロ|〔〕| 田 |┬┬|回|00|ロロロロ|:[]:[]:[]:[]:|'' ̄
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'"´`''"´"''""''''""''"''''"""''"'''""'''''"''"""'''''"''""''''''''""''"''''"""''"''""'''''''"""''""
さて、この殺し合いの場において、最もおろかな死に方は、なんだ?
戦死? 失血死? 衰弱死? 溺死? 病死? 餓死? いや、違う。
旅の扉へたどり着けずに爆死することだ。そして俺は今、その危機に直面しているのだ。

…やはりこんな姿になってしまったせいなのか。あまりに寒くて、意識が薄れかける。
放送の際に地震が起きなければ、きっと夢見心地のまま、誰にも意識されない下等生物として死ぬことになっただろう。
俺の目標は最後まで人間として生き抜くことだ。生き残っても人間に戻れないのでは意味はないし、
ましてゴミのような薄汚い小動物のまま一生を終えるなど、これ以上ない屈辱。


いや、こういう時こそ冷静さが必要だ。まず、俺の体はどうなっている?
     __
   ./兩 三^''ー-、,,_
  ∠イU_」 /      ゙゙'''ー---‐‐-、
    ヽ└               ヽ、
     `ヾミ、、             `、ヽ
       ,,、,,)=ミ、             `y'
      _ ^  ヾ) ';      _,.-;;;::=-‐'、
    =-、ゝ-‐''"  ,,ト--‐,..-'",.-''"   _ )
     "~^``ー-‐'゛ ...__λ.._  __,..-''"/
               ,.==ミ,=-'二.--‐''"
             " ̄
まず、俺はカエルになっている。
体中がぬめり、口は裂け、首はつまり、目が飛び出し、腰骨が横に広がり、肋骨はない。
ぼってりと腹がふくらみ、重くて長いこと立ってなどいられない。当然、加速装置など使えない。
両手の指は消え、だが足の指は増え、指の間には皮膚の膜が生じている。
耳たぶがなく、音の感覚がおかしい。現に、どこかから水の流れ落ちる音が聞こえるが、
音がダイレクトに耳に入ってくるのか、普段よりも大きな音に聞こえる。

これほど寒くて風の強いところにいたら、皮膚が乾燥して死んでしまうかもしれない。
カエルになってしまったために、脚力、移動力は落ちている。
当然武具の装備も無理。せいぜいプロテクトリングをはめられるくらいだ。加速装置もこの体には合わない。
だが、十分に休んで体力はある程度回復している。

さて、どうすればいい? 他に参加者がいればまだ手の打ち様もあったかもしれんが、あいにく俺は独りだ。
何かいい案はないか? そういえば……。
貿易が盛んな街、カナーン。
ウルやカズスの商人はもちろん、海が近いため、多くの街や村の商人がここを訪れる。
貿易商シドの実家があるのもこの街だ。
ジェノラ山の麓に位置し、そこからあふれ出る水が川となり、街を横切っているのも特徴の1つ。
\______________________________________/
   V
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/歴史/|
〈三||=〈/
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   ○
  ο
  o
∠⌒彡
 Υζi.i<\
  "^"^ ̄^
*ジェノラ山の麓に位置し、そこからあふれ出る水が川となり、街を横切っているのも特徴の1つ。
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やはり知識は得ておくものだ。城の図書保管庫で得た知識が、まさかこんなところで役に立とうとは。
陸上移動に関しては、カエルの足なら壁に張り付くことが出来るとはいえ、足を滑らせれば終わりだ。
そもそも普通に飛び跳ねながら移動して間に合うとも思えない。
そう、こうなれば川に飛び込み流れに身を任せて、カナーンまで一気に下るしかないのだ。
幸い、泳ぐのに適した体になっている。時間的猶予もない。四の五の言っていられる状況ではない。
           ゚ ゚ 。         。       ゚ ゚ 。
              c ,,, ,  。   ゚   ,,,,_   。
            c/´c" ミ゙ヾ'〜'〜 γ´'"  ミヾっ
           c///,:'⌒ヾヾ vヾ'  ////,:'⌒ヾっヾっ
          c"c,, c" ゚ 。 )、 〜''^' ,i//   `ヘっっ
                   |i|!) ソ !li,'i,(
                 ノ|i ノi|!゙.;il| ,,ill       ,ノ      ゙"゙"゙"゙"
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         `~゙`゙` ̄`''―--'´`-、,,-―'´ ゙̄~^´

【カイン(HP1/5程度、左肩負傷、少々疲労、カエル)
 所持品:ランスオブカイン、光の剣、ミスリルの篭手 プロテクトリング 加速装置 レオの顔写真の紙切れ ミスリルシールド
     ドラゴンオーブ
 第一行動方針:旅の扉へたどり着く
 最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:ジェノラ山〜カナーン間】

*カナーンの町にも滝があります。プロテクトリングで落下の衝撃はやわらぎます。
354グランバニアの黄昏 1/6:2008/01/31(木) 19:04:41 ID:YQ39kyn50
放送にはまだ多少なり時間がある頃――
パルメニ盆地の中央に横たわる森の中はまだ夜明け前の闇の中だ。
暗闇にわずかな濃淡を作り出しながら小さな陰が暗黒の中を駆けていた。
荒い息遣い、悲壮の表情、疲労の滲む肉体。
新しいすり傷をあちこちに作りながら、タバサは闇の中を行く当てもなくさまよっていた。
地面から突き出た小さな根のコブに足を取られ、転ぶ。
まともに受身さえ取れず、したたかに身体の前面が強打された。

誰かの死に触れるのはもうたくさん――もう見たくも聞きたくも無い――
もう何も、何も――

タバサは根と苔と土でできた地面に横たわったまま起き上がろうともしない。
前を向こうと、下を見ようと結局目の前にあるのは闇だ。
土や苔の匂いを感じることもできず、転んで打ちつけたせいで流れ出始めた血の味と感触だけが
気味悪く喉や肌を伝っていた。
そこにはもう希望はなく、どころか今のタバサには絶望の現実を考える気力さえない。
残っているのは無気力に沈み込む心と体の滓だけ。

……………、……………、………………、…………、
もう、何もしなくても…………? ………………

考えることを放棄した頭、二日間の大きな疲労が一気に表出した身体、
暗い森の闇の底の底に這いつくばったすべてが活動を止めていく。
やがて闇の中で現実と非現実は曖昧になっていき、
踏み外すようにタバサは眠りへと……堕ちていく。

***
355グランバニアの黄昏 2/6:2008/01/31(木) 19:17:51 ID:YQ39kyn50
湖の南に位置する森の中。
湖畔での戦闘に影響を受けない程度の距離を置いて、出現している旅の扉。
そのそばでパパスは夜の森の中、いずこかに行方をくらました孫娘を思い後悔の念に襲われていた。
あの時からそれこそ夜を徹して森の中を探し歩いた。
だが深い森、まして夜の闇。ただ怯えるように逃げて行った子供一人を見つけ出すのは容易ではない。
次第に増していく焦りと責任感を心の奥にじっと押し込め、
たった一人で黙々と暗黒の茂みを切り払い、飛び出た根から根へと渡りながら森を往き――
やがて朝が訪れた。

リュカよ、オルテガよ、許せ。彼らの魂に安息のあらんことを。
……そして、後のことは私がすべて預かろう!

偶然森の樹が何かになぎ倒され遠くの山の形などを見渡すことができるようになっている場所に行き当たり、
パパスは幸運にも大体の位置を知ることができた。
でなければ、旅の扉の位置を告げられてこれだけの短時間でここにたどり着くことはできなかっただろう。
誰もが、次のフィールドへ生きて進むためにこの二時間は旅の扉を目指すはず。
パパスの足を旅の扉へ向けさせたのは常識的な思考から来る一つの賭けであり、
もう再会は叶わない戦友オルテガや愛息リュカらの名前を聞いた後で命を捨てるような行動に
潜在的に拒否感を抱いたからにほかならない。

だが本当にこれで良かったのだろうか?
こうしている時間を探索に当てていればもしかして見つけられたのではないか?

浮かび上がる最悪の可能性――自棄のあまりタバサは命を捨ててしまうのでは――を必死に打ち消す。
厄介なことに自分を傷つけなくとも、わずか二時間の無為でそれは完了してしまう。
こちらを選んでいれば、こうすべきではなかったか、後悔は尽きない。
いまや自分の命にかかる遺志と、身内の少女の命。天秤になど、かけられない。
情けないほどの無為を痛感しながら、ただ辛抱強くパパスは待っていた。

***
356グランバニアの黄昏 3/6:2008/01/31(木) 19:20:16 ID:YQ39kyn50
"………! ……サ! 起きなさい、朝だよ……"

どこから聞こえてくるのか分からないどこか懐かしい囁きにタバサはうっすらと瞼を押し開けた。
影の黒に混じり弱々しいながらも光があたりの様子を浮かび上がらせてくれている。
世界は夜を通り抜け、森にも朝が訪れていた。

"ホラ、早く目を覚まして……行かないと……"

うつぶせで地面に触れている耳を通し、土がさざめくように鳴った。
何となく顔だけを上げてみた樹の暗い影の部分が――人の形をして、立っているように見えた。
朝? ええと、そうだ、さっきの声、よく知ってる暖かな……
「お父さん?」
両腕に力を込めて苔むした地面を押し、タバサはうつぶせのまま上体だけを起き上がらせる。
もう一度しっかり影に目を凝らせば、闇の濃淡が、そこに二つの塊を作り出している。
少なくともタバサはそれを見ていた。
「お父さん! ピエール!」

"…………、………。……、……………"

誰にも聞こえない言葉――当然だ、リュカもピエールもそこにいるはずが無い。けれどもタバサは聞いている。
『おはよう、タバサ。さあ、出発しよう』

乾いた鼻血の暗い赤を顔に付けたまま、慌ててタバサは立ち上がり導かれるように歩き出した。
「待って、お父さん。すぐ追いつくから」
わたしは、何をしていたんだっけ? 冒険の途中だったかな?
"……………………………、………………"
「そうだったね。お母さんとレックスを探さないと」
ああ、そうだ。だからわたしとお父さんとピエールしかいないんだ。
"……………………。…………………"
「うん! だいじょうぶ、いつかみたいにきっと見つけられる!」

***
357グランバニアの黄昏 4/6:2008/01/31(木) 19:24:26 ID:YQ39kyn50
心地良い朝のそよ風が木の葉を揺らして葉ずれを奏でていく。
風が吹きつけた方向、金髪を揺らし立っている少女を見て、パパスは天に幸運を感謝した。
どうあれ絶望や怯えに耐え抜いてタバサはここまで歩いて来れたのだ!

「タバサ!」

両手を広げて大声で呼びかけ、パパスははっと少女の気持ちを思いやる。
これでは怖がらせてしまうのではないか?
昔から子供をあやすのはそれほど得意ではなかった。ちゃんと笑顔が作れるだろうか。
パパスは精悍さや、こんな世界で身に帯びてしまう刺々しさを精一杯の笑顔で打ち消そうと努力する。
だが――何かがおかしい。
タバサは逃げ出すでも怯えるでも泣き出すでもなく、ただ表情を変えずに立ち尽くしたままだ。

「タバサ?」
「寄らないでっ!」

思わず一歩を踏み出したパパスに対してタバサは杖を天にかざし、空いた手を突き出して構える。
それはまるで、いつでも呪文を唱えられると威嚇するようだ。
リュカの子供がむやみに誰かを傷つけるようなことをするはずが無い――
親バカにも似た、しかし『普通なら』的確な推測をしながらパパスは次の手を失って困惑する。
これほどまでに警戒心をむき出しにされてどうやって自分を受け入れさせるか、などまったく手立てが見えない。
リュカはこんなにも手のかかる子ではなかったが……
心の奥で愚痴りながらも、その瞬間までパパスは身内の見えない絆がいつかどうにかしてくれると信じていた。
その瞬間――タバサが何事かを呟いているのに気付くまでは。

「だいじょうぶよ、お父さん。わたしががんばるから、休んでてね」
「……タバサ?」
「おじさんは光の教団の人、ですね? 邪魔しないでください」
「何を――」
358グランバニアの黄昏 5/6:2008/01/31(木) 19:25:35 ID:YQ39kyn50
タバサの唇が小さく言葉を紡ぎ、突き出された手に魔力が集中する。
慌てて身を丸め防御姿勢をとったところに、爆裂呪文・イオラが襲い掛かった。
腕や脚に熱い痛みが走り、爆発の衝撃がパパスを背後の茂みまで後退させる。

「お父さんとピエールが戦えないから、わたしががんばらないといけないんです。
 だからもう、邪魔しないで」
「タバサ、何を――リュカと、ピエールだと?」

氷のような目でパパスをしっかり見、広げた掌を向けたまま。
タバサはしっかりとした足取りで旅の扉の青い渦のふちまで進んでいく。
だが、そこにいるのは小さな少女たった一人だけだ。
ずっと西の森の中で一緒に死んでいるリュカとピエールがそこにいるはずも無い。
何を言っているのだろうか。……幻でも見ているとでも言うのか。
青い渦のふちに立ち止まり呆然と立ち尽くすパパスに脅しを効かせるようにしばらく睨んでいたタバサが
ふと背後――その方向には誰もいない――へ振り返り、一転して彼女らしい明るい笑顔を浮かべた。

「次の世界でお母さんとお兄ちゃんが見つかるといいね!」

もう一度、敵を睨むあの目でパパスを一瞥してタバサが青い渦へと飛び込んでいく。
転送の術式が起動され一際強くなる青い光の中で、パパスは確かにそれを見た。
そんなものが今まで見えなかったのは一体どうしてなのか――しかし、今はそれが見えている。
タバサの身体にまといつくように染みのような、もやのような黒い、黒い何かが。
光の渦はすぐにタバサも黒いもやも一緒に飲み込んでいき、
あとには悪夢を見たような顔をしたパパスだけが一人残されていた。
359グランバニアの黄昏 6/6:2008/01/31(木) 19:26:17 ID:YQ39kyn50
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
 所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
     悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
 基本行動方針:ビアンカとレックスを探す
 ※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てました。】
【現在位置:新フィールドへ】

【パパス(軽度ダメージ)
 所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
 リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
 第一行動方針:見たものに呆然と
 第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:湖南の森、旅の扉】
360絶望の中の温もり、しかし…… 2/8:2008/02/01(金) 18:11:35 ID:ZISD2ebI0
        ◇        ◇        ◇


――ジタンが死んでも、時間は変わらず進み続けていた。

放送も滞りなく終了し、魔女の姿はもとっくに消え失せていた。
気付けば森を抜け、目の前にはサスーン城への入り口がある。
隣には同じく暗い表情のままのセージが、ジタンの遺体を背負っている。
その遺体の損傷はごく僅かで綺麗なまま。セージの呪文のおかげだ。
「ジタン、あのさ……重いんだけど」
しかし彼はセージの言葉に返答する事は無い。
当然だ。死んでいるのだ。名前も既に呼ばれているのだ。
そして話しかけた本人もそれを知っている。認めている。
それでもしばし別れを惜しむように話しかけていたが、
「まぁいいや……じゃあね……」
やがてそれを終えるように背中から彼を下ろし、地面に横たえさせた。
そのまま彼の隣に手を翳し、セージは詠唱を始める。

紡いだ呪文は、爆破の法だ。
セージは「イオ」という名のその呪文で地面を穿ったのだ。
出来た穴は人一人がすっぽりと収まるサイズで――墓には丁度良かった。
「プサンさん……これで……」
搾り出す様な声にプサンが賛同し、ジタンの体を穴へとゆっくりと入れる。
それを終えると、今度は辺りに散った土の塊を被せていった。
プサンは無言だ。セージも無言だ。

辺りに響くのは土の音だけ。
361絶望の中の温もり、しかし…… 1/8:2008/02/01(金) 18:53:24 ID:X4UGNW3s0
まただ。また僕の周りの人間が沢山死んだ。
ゴゴに、エドガーに……オルテガさんまで……。
ああ、リュカさんの死もピエールの死も告げられたっけ。
今僕が背負ってるジタンの名前も……あはは、当たり前か。
そして相変わらず僕だけがのうのうと生きています、ってねぇ。

あはは、参ったなぁこれ。
あははは……ふふっ、ははは……。


なんなんだよ。



なんなんだよ、もう。




知らない。



ばか。
362絶望の中の温もり、しかし…… 2/8:2008/02/01(金) 18:54:13 ID:X4UGNW3s0
        ◇        ◇        ◇


――ジタンが死んでも、時間は変わらず進み続けていた。

放送も滞りなく終了し、魔女の姿はもとっくに消え失せていた。
気付けば森を抜け、目の前にはサスーン城への入り口がある。
隣には同じく暗い表情のままのセージが、ジタンの遺体を背負っている。
その遺体の損傷はごく僅かで綺麗なまま。セージの呪文のおかげだ。
「ジタン、あのさ……重いんだけど」
しかし彼はセージの言葉に返答する事は無い。
当然だ。死んでいるのだ。名前も既に呼ばれているのだ。
そして話しかけた本人もそれを知っている。認めている。
それでもしばし別れを惜しむように話しかけていたが、
「まぁいいや……じゃあね……」
やがてそれを終えるように背中から彼を下ろし、地面に横たえさせた。
そのまま彼の隣に手を翳し、セージは詠唱を始める。

紡いだ呪文は、爆破の法だ。
セージは「イオ」という名のその呪文で地面を穿ったのだ。
出来た穴は人一人がすっぽりと収まるサイズで――墓には丁度良かった。
「プサンさん……これで……」
搾り出す様な声にプサンが賛同し、ジタンの体を穴へとゆっくりと入れる。
それを終えると、今度は辺りに散った土の塊を被せていった。
プサンは無言だ。セージも無言だ。

辺りに響くのは土の音だけ。
363絶望の中の温もり、しかし…… 3/8:2008/02/01(金) 18:55:26 ID:X4UGNW3s0
「プサンさん……ちょっとだけ、一人に、なりたいんだけど……良い、ですか?」

作業を続けるプサンに、セージは尋ねた。
その問いには様々な感情が込められているように思え、プサンは少し悩む。
饒舌だったはずの賢者は、一時相棒となった盗賊が死んでからはずっとこの様子だ。
仕方が無いだろうが、同一人物にも見えないようなこの状態ではあまりにも心許ない。

果たしてこのまま一人にして良いものだろうか。
神として、そして今は一人の人間として、自分がついていたほうが良いのではないか。
だがここまで考え、自分がついていたところで出来る事は少ないと結論付けた。
相手は疲弊している。少女と別れ、仲間が死に、心は磨り減り、護るべき青年も、止めるべき相手も失っている。
今の自分がそれを癒す事は出来ない。言葉をかけて行動を起こしても、悪戯に彼の心の傷を抉るだけだと判断したのだ。
「構いませんよ。ジタン君の埋葬は私が続けます。では後で……待っていますよ」
故にプサンはセージの言葉を、願いを肯定した。笑顔を作り、させたいようにした。
「ありがとう、ございます……」
するとセージは暗いままの表情で礼を言い、城へと視線を流す。

プサン自身も、そんな彼の姿を無意識に眺めて続けていた。
彼の表情は相変わらず暗い。目も虚ろで、言葉にも覇気が無い。
恐らく、放送で見知った人物の名が上がった所為だろう。
いや、それだけではない。恐らくこの様子では、彼の世界での仲間も既に――
「なに見てるんですか……」
突然、相手がこちらを向いて文句を飛ばしてきた。視線が突き刺さっていたらしい。
思いの他じろじろと見すぎたか、とプサンは彼から視線を逸らす。
だがそれでも彼のことを心配に思ってしまい、再び両目はセージを捕らえ始めた。

視線の先には、こちらに背を向けてサスーン城へと向かうセージがいる。
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/01(金) 18:55:32 ID:fZ9+Ab5/0
 
365絶望の中の温もり、しかし…… 4/8:2008/02/01(金) 18:56:23 ID:X4UGNW3s0
そこで、気付いた。

セージの体に、黒い靄のようなものが近付いていた。
それはあっという間に彼の体に同化するように吸い付き、這うようにうねる。
「セージ……さん……?」
彼の能力なのか、それとも自分の見間違いか、それともこの空間独自の現象なのか。
プサンが様々な憶測を立てる間も、その靄はセージの身を陵辱するかのようにうねる。
だがそれもつかの間、靄は彼の長い髪に混ざり込むかの如く姿を消してしまった。
最早跡形も無い。全てが謎。だが幻覚や夢の類にすら思えるような光景だった。

消えたのか、消したのか。
見えなくなったのか、見せなくなったのか。

黒い靄の正体は、見当がつかなかった。あんなものは見た事が無い。聞いたことも無い。
ただ、嫌な雰囲気ではある。あれは野放しにしてはいけないような、そんな気がする。
嫌な予感がしてしまう。彼を止めるべきかもしれない。

けれど彼の痛々しすぎる様子を見てしまうと、止めるものも止められなかった。
あの黒い靄のようなものが気になるが、ここで呼び止めるのも気が引ける。
今の話が出来るまで、今は彼を一人にして落ち着かせておこう。
彼の「ちょっとだけ」という言葉を信じ、少しずつ前に進んでいこう。
その間に黒いものの事を突き止めてゆっくりと解決していこう。

ふらふらと城へ入っていくセージの姿を、プサンはただただ眺め続けていた。
彼が戻り、そして次の世界へと共に歩める事を信じて。
366絶望の中の温もり、しかし…… 5/8:2008/02/01(金) 18:57:26 ID:X4UGNW3s0
        ◇        ◇        ◇


変わらず、ふらふらとした足でセージは城を歩く。
だが当ても無く彷徨う訳ではない。彼はあの部屋へと向かっていた。
そう、今や真赤に染まったあの部屋。ビアンカとギルダー「だったもの」があった部屋だ。
ふと、別の部屋でフィンが眠っていたのを思い出したが――今の彼にはそんな事は最早どうでもよかった。
虚ろな表情で、寄り道をせずにまっすぐあの部屋へと向かっていくだけ。彼の足取りは、重い。

――そして、辿り付いた部屋は相変わらずの様相を呈していた。
いや、一つだけ違う。そこには彼の見知った青い光が存在していた。
旅の扉だ。一日目の終わりのように、ここに飛び込めというのだろう。
バラバラになっているビアンカとギルダーの遺体。血。疑念渦巻いた過去。
その全てがそのまま残っている所為で、旅の扉の光が酷く浮いて見えた。
そんな部屋の中で、セージは静かに力無く座り込んだ。

そして虚ろな瞳で呆けた様に虚空を見つめる。
彼の頭の中では、今この瞬間までの出来事が浮かんでいた。
だがその思い出は、浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返すばかり。
今までの出来事が黒く塗りつぶされていくようだった。

思い出の中で今までに深い関わりを持っていた仲間とは、今は死別してしまった。
ずっと行動を共にし、互いに信頼していたタバサとも袂を分かつ形になってしまった。
更にはタバサの家族も全員死んでしまい、自分のするべき事は皆無だ。
何より、ローグとフルートももういない。彼らと馬鹿騒ぎすることも、もう出来ない。
最早自分が誰かの為に動く理由すら失い、自分は動けずにいる。

辛く、淋しい。このまま狂ってしまった方が楽かもしれない、とまで考えてしまう。
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/01(金) 19:33:03 ID:X4UGNW3s0

368絶望の中の温もり、しかし…… 6/8:2008/02/01(金) 19:37:42 ID:X4UGNW3s0

だが、まだだ。まだ、あと一人。
あと一人、自分と深い関わりを持つ人間はいる。
そう、アルスだ。天に選ばれた勇者のアルスがまだ生きている。
放送で彼の名は呼ばれてはいなかった。まだ生きている。

最早、セージの力の源はこれだけだった。
アルスが存在する事で、セージは自身が負へと向かうのをぎりぎりで防いでいるのだ。
そう、まだ彼がいる。自分を置いていく事など無いはずの人間が一人だけいる。
彼に会えば、このどうにかなりそうな衝動も抑えられるかもしれなかった。

――人に依存して堕ちる堕ちぬを決めるこの考えは狂っているのだろうか。
369絶望の中の温もり、しかし…… 6/8:2008/02/01(金) 19:38:35 ID:X4UGNW3s0

ふと、自分自身に問いかける。
だが今はそんな事はどうでも良い。ただ今は自分を受け入れてくれるであろう彼と再会したい。
希望を感じたい。まだ自分は絶望の中で抗えるという自信を取り戻したい。
そう考えていると自然と立ち上がり、気付けばセージは青い光へと足を進めていた。

今となってはプサンとの約束すらどうでもよくなっていた。
ちょっとだけなどという言葉を護るつもりなどもう微塵も無い。
「人の為に動くのも……疲れちゃったなぁ……」
それにタバサとアルスの為ならともかく、今は他人の為に動く気にはなれない。
大体、こんな自分がいたところで何になるのか。

――いや、腐っている暇は無い。一刻も早くアルスと再会したい。
万が一の事があってはいけない。早く再会しなければ。

気付けば、青い光は目前にまで迫っていた。
370絶望の中の温もり、しかし…… 7/8:2008/02/01(金) 19:39:44 ID:X4UGNW3s0
        ◇        ◇        ◇


僕はもう狂っているのかな……。
いや、きっとそうじゃない。まだ戦える、大丈夫さ。

アルスがいる限り、まだ戦う理由がある。
タバサとだって、時間が経てばまた解り合えるかもしれないし……。
いや、何よりもまずはアルスだ。全部その後。全部その後なんだ。
その後タバサを捜したり、ゲームから脱出したり……うん、それがいい。
アルスと一緒にタバサを見つけて、それから皆で……。

だから、お願いだから僕の前に姿を現してよ……アルス。
ローグもフルートもいない……皆いなくなっちゃったんだから。
もし君までいなくなってしまったら……僕は……もう……。


……行こう。
ばいばい、ビアンカさん。ばいばい、ギルダー。


……さようなら、この最悪だった世界。
371絶望の中の温もり、しかし…… 8/8:2008/02/01(金) 19:40:17 ID:X4UGNW3s0
【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/4程度 精神不安定)
 所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン
     英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)
 第一行動方針:アルスと再会する
 第二行動方針:今はアルス以外とはなるべく行動したくない
 第三行動方針:タバサやその他の事項についてはアルスに会ってから
 ※アルスの存在によって精神を安定させています】
【現在位置:新フィールドへ】


【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)
 第一行動方針:ジタンを弔いながらセージを待つ
 第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
(*旅の扉を潜るまでは、魔石ミドガルズオルムの魔力を辿って状況を探ることができます)
【現在位置:サスーン城前】

※二人とも放送は聞いています。死者の名前や数も把握しています。
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/04(月) 23:08:52 ID:LKurAOEFO
ホッシュ
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/08(金) 23:04:18 ID:+hIw1uRl0
保守
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/11(月) 17:47:46 ID:ennbHnYy0
ほしゅ
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/14(木) 21:27:02 ID:cejxbg/w0
ほしゅ
376名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/18(月) 14:04:16 ID:uQ6tbQmm0
保守
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/20(水) 14:15:10 ID:rbyzdQDe0
ほしゅー
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/23(土) 12:03:34 ID:pMFkWo8HO
保守るよ
379名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/25(月) 21:25:57 ID:um3RoAFx0
ほしゅん
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/02/27(水) 00:25:52 ID:fD0rToAT0
ほっしゅるんるん♪
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/01(土) 11:07:43 ID:xz2C0Uw00
ほしゅ
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 00:27:29 ID:0BY22l9tO
あげ
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/02(日) 09:52:19 ID:MTEwfoTDO
保守
384Janus 〜扉の前 1/10:2008/03/03(月) 18:53:54 ID:AV7JrA1v0
消えていく魔女の姿をじっと見上げながら、どこかこのイベントに馴れつつあることを自覚する。
近寄ることを制限されている――これが同盟と言うなら、何と奇妙な同盟か――ロザリーを探すと、
今にも泣き出しそうな表情でうつむいていた。
私はイザという名の男を自分の手で殺したことを思い出し、たとえザンデに制限されていなくとも
今の自分にはロザリーに掛ける言葉が見当たらない事実を奥歯で噛み潰した。
長身のザンデが身をかがめるようにして、何事かをロザリーに囁いている。
なお泣き出しそうでありながらどこか強い決意を秘めているように変化したロザリーの様子を見ていると
自分がその役目を担えないことにどうしようもない苛立ちに襲われた。
ああまったく一体、私は何をしているのか。
ザンデに与えられた距離は、はからずも私自身について見つめなおす契機となっている。
自分のうちで、ロザリーが占める比重が大きくなりすぎている気がする。
特に自分の手が届く範囲になってからはすべての行動の中心にしつつあるような。
ケフカにいたってはそのあたりを敏感に嗅ぎ付けて嘲っているに違いない。

「行くぞ、ピサロよ。何をしている?」

ザンデに呼びかけられて思いにふけっていた私は現実に戻される。
向けた視線で期せずロザリーと目が合ったが――逸らされた。
しばらくは、仕方のないことだと思うほか無いだろう。


385Janus 〜扉の前 2/10:2008/03/03(月) 18:55:06 ID:AV7JrA1v0
「カナーン」と場所を告げられたのみで、最初に覗き込んだ家屋の中に旅の扉を見つけることができたのは
ことにザンデにとって幸運なことだろう。
さっそく私とケフカは壁沿いに待機しておくよう命じられ、
まずはザンデとロザリーがあらかじめ準備しておいたザンデの血を混ぜた水で旅の扉の周りに儀式用の紋様を描く。
待っていた時間は無駄ではなかったのだろう、ロザリーもそれほど手間取ることなく助手をやれているように見える。
弱い朝の光さえ薄っすらとしか差さない屋内においても、
こまごまと働くロザリーはあまり見たことが無いような輝きを放っている気がした。
私は一体ロザリーの何を見てきたのだろう?
不意に感じたロザリーが自分の手を離れていくような予感に、私は二重のショックを受ける。
確かに保護すべき理由はあった――あったが、ロザリーは決して自分の人形などではない。
そのことを、いつの間にか忘れていたのではないか。
この死が吹荒れる世界で再会できた幸運のあまり、まるで財宝か何かのように守ろうとした気持ちは無かったか?
だが、まだそれはいい。
自分自身が許せないのは、私の手から離れたこのロザリーの輝きをねたましく、苦々しく、憎々しく思う気持ち。
それが私の内部にもあるという事実。
ロザリーとの関係には持ち込みたくなかった醜さが私の心に芽生え始めている!

どこを見ればいいのか分からなくなり、うろたえるように目線を泳がせてしまった。
少し離れた壁沿いに同じように立たされているケフカに気付き、今のを見られていないことに安堵する。
珍しく無駄口も叩かずにいるケフカは、これまた珍しい真剣さを漂わせて二人の働きを眺めているようだった。

「ふむ……計画通りできているな。
 ピサロ、ケフカ! それではそれぞれそこに描いてある円の中に入れ! 実験を――開始するぞ」

いくらか上機嫌さを含んだザンデの声が指示を飛ばす。
私もケフカも何も無言で頷いてそれに従う。
気持ちを紛らわすために今はとにかく何かをやっていたいというのはこの時の私の本心であった。
386Janus 〜扉の前 3/10:2008/03/03(月) 18:56:29 ID:AV7JrA1v0
***

当てが外れたとはこういうことを言うのだろう。
ただザンデだけが瞑想するように集中したり、ロザリーを呼んで何かを囁いたりしているだけで、
円の中に入り魔力の放出に集中するよう言われた私とケフカは、何もすることが無いのだ。
もっとも、実験と言うものは確かに大抵こうした地味な活動によるものではあるのだが。
ロザリーはというとどうやら実験から得られるデータを書き留める役を負っているようで、
羽ペンがつかないらしく先ほど床に紋様を書くために用いたザンデの血と水で作った液体をインク代わりに使っていた。
やはり、自分にもできることがある、という喜びの光を放って見える。
とにかく時間がとても長く感じられる――それは、単調な作業のせいだけでなく、
ついついロザリーの細かい仕草にまで気にしてしまうためだろう。
部分的に偏った私の観察眼でも、ザンデの実験はとくに問題なく進められているように見えた。
成果に繋がるかはまた別の話だが、実際こうしてザンデが動く様を見ていると
さほど信用していないとはいえどその目の付け所はそれほど外していないように思える。
反抗のために必要な二つの鍵、脱出の道と首輪への対抗策の一つとして、
確かに一度魔女の前からこの旅の扉を用いて転送されたのだから、逆もまた不可ではないかもしれない。
尤もこちらからの干渉操作を考え――しかも実行を試みるなど、常人のできることではあるまい。
私は自問する。
この戒めから逃れるために、魔女の手から逃れるまでの間と言う前提がつくとはいえ
かつて、勇者ソロ一行と共通の敵に対してともに戦った時のように微かな信頼をザンデに寄せ始めているのだろうか。
少なくとも、この数時間でロザリーの信頼を獲得していることは間違いない。
主従いや師弟といった感じのものではあるが、私とでは絶対に生じないような信頼関係である。
……相変わらず、時間が過ぎるのが遅い。
一生懸命に何かを書き留めているロザリーをじっと眺めながら
私はロザリーとの間に感じるわだかまりから目を逸らすようにこの先の事を漫然と考えようとしたが、
ただ抽象的で過程の無い己の無策さを実感させられるのみであった。
387Janus 〜扉の前 4/10:2008/03/03(月) 18:58:34 ID:AV7JrA1v0
時間の感覚に確証が持てないために始まりからどれくらい経ったかはわからない。
一時間前後とは思うが、信頼しない方がいいと思う。
青い光をじっと見続けたザンデが不意に、私とピサロに目配せする。

「簡潔に……結果だけを。成功した」

そのまま、本当に簡潔にそう言った。
できる時はあっけなくできるものだ、と私は光の向こうに魔女を思い描きながら青い渦に目を落とす。
ザンデの言うことが真実ならば、今反撃の扉が開かれたということになる。
騒がしい人間どもがここに居合わせたなら歓喜の叫びが上げられたかもしれない。
だが私も、ケフカも、ロザリーもただ、ただ目の前の青い渦を凝視するのみであった。

「なるほどねぇ……期待していませんでしたができるとは思わなかったよ」

全員の目が唐突に耳障りな妙に甲高い声で喋った男の方に向けられた。
旅の扉を内縁とする正三角形の頂点の一つに立つ道化――ケフカ。
一時間強ばかり聞かなかったのにこの男の声がひどく久しぶりに感じる。
ふざけているような、不敵な笑みも久しぶりに見た気がする。
だが、それが私におかしな胸騒ぎを生じさせた。

「ここは笑いどころですよねえ……」

耳に残る例の高笑いが始まる。何が可笑しいのか。
空気が読めないとはまさにこういうことを言うのだろう。
残る一つの頂点にいるザンデは奴の様子に何を思っているのだろうか?
夜の間のケフカの馬鹿騒がしさを思えばこの一時間の静寂は本当に異常だとしか。
一体何を考えていた?
胸騒ぎが急速に大きくなる。ケフカの口が笑いを止め、言葉を発する。

「じゃあ、茶番は終わりにしましょうか」
388Janus 〜扉の前 5/10:2008/03/03(月) 19:00:33 ID:AV7JrA1v0
ザンデが両手を振り上げるのと、ケフカが手を差し出すのが同時に見えた。
間をおかず双方から魔法が唱えられる。

「フレア」「デジョン! ……&リフレク!」

視界の左右双方から魔法的な力が発生する。
次の瞬間に私が見た最初の変化は、二人の間を隔てる青い渦の揺らぎ――そしてそれは歪み、瞬く。
はっきりとした濃い青の渦が澱んだように緑がかり、そして黒ずんだ。
その青と緑と黒の混合色の渦が形作る円からある方向へと溢れていく。

「デジョンだと!? いや、違うこれは……そうかケフカよ、貴様狙って……ぬぐぅっ」

奔流となった混合色の触手状の帯がその先にいた長身の男、ザンデに絡みつく。
溢れ出た渦はその足元まで達し、ザンデを光の中へと引き込んでいた。
言いかけたザンデに対して魔法――高威力の爆発の発生――が追い討ちをかける。
炸裂した魔法ともどもザンデの身体は澱んだ光に呑まれ沈んでいった。

「ヒャヒャヒャ、愉快愉快、やーっぱりフレアか! 周りは巻き込む気はないんだねえ。偽善者の魔王は」
「ケフカっ、貴様は」

私はようやく呆然と見ていた状態から自分を取り戻しケフカに対して刃を向けるが、
……すぐに聞きたくない悲鳴が逆の方向から私の耳を襲った。
そうだ、ロザリーは、ロザリーは無事なのか!?
389Janus 〜扉の前 6/10:2008/03/03(月) 19:06:04 ID:AV7JrA1v0
ザンデが両手を振り上げるのと、ケフカが手を差し出すのが同時に見えた。
私が見たのは、一つの絶望だった。
先ほどザンデを飲み込んだものと同じものが今度はロザリーへと襲いかかっていた。
逆巻く波を作る混合色の澱んだ光の触手は既にロザリーを捕まえ、
光の水際が今や足元に押し寄せていく!

私は、無我夢中で手を伸ばした。
だが、もう――
もう、光はロザリーの足へ、腰へ、肩へ――澱んだ光へと飲み込まれていく。
届かない腕の先で、絶望の中で、それでもロザリーは私に笑いかけていた。
数時間、いや数日振りか、随分と久方ぶりにまともに目を合わせることができた気がする。
無垢で、純真で、綺麗なその目を恐怖の怯えの色より強く輝かせて私を見据え――
せいいっぱいの笑顔を作って、唇を動かして。

今度こそは、優しいあなたのままでいてください。

言葉は聞こえない、手も届かない、
けれどその瞬間だけは確かに心が繋がったのが分かった。
しかし!
しかしなんと無惨なことか。
ロザリーの全身は光に呑まれて消え、
そこで溢れ出し膨れ上がった光の勢いも限界に達したようで、
潮が引くようにもとの渦の形へと戻っていく。
メッセージを残して消えたロザリーを返すことなく。
390Janus 〜扉の前 7/10:2008/03/03(月) 19:07:26 ID:AV7JrA1v0
「あー、ザンデのあの顔! 思い出し笑いで半日は過ごせるなあ!
 ボクちんだって魔封壁の研究とかやってるからこんな程度の実験理解できるんだよ!
 アーッヒャッヒャッヒャ、成功成功大成功! ボクちんだーーい天才!
 ……といいたいところだけど、ロマンチックに恋人二人が手を繋ぐまでは持って欲しかったなあ。
 ねえピサロ、恋人なんでしょう、追いかけたらどうです?
 ……おや」

テンションの上がったあの騒がしい調子でまくしたてるケフカを睨みつける。
この男は、こいつだけは私が討たねば納まらない。
怒りを込めて指す切っ先の向こうで、ケフカは何かのボールを取り出しながら
わざとらしく両手を振り回しておどけて見せていた。

「あわわわわわわ、こわいこわーーい。
 怖いピサロさん、それより二人がどうなったか知りたくないですか?
 聞きたい? 聞きたいでしょう?
 もしかしたらただ普通に旅の扉をくぐったのと一緒かもしれないよねえ」

心が揺れる。
だとしてもロザリーと離れるのは心配であるが、
しかし今回私が見た旅の扉は――いや、旅の扉であるかさえわからないほど異常な光だった。
そして、何らかの意図を働かせたケフカの仕業であることは間違いない。
そうこうする間にケフカがまだ色が濁った旅の扉の、私の側と反対の位置に逃げていく。

391Janus 〜扉の前 8/10:2008/03/03(月) 19:09:49 ID:AV7JrA1v0
「何をしたーー! とか聞かないんですか? 優しいボクちんが答えてあげるのにね。
 いいかな、えー…………
 ………………………………
 …………発表します! 残念ですが二人は次元の狭間送りでーす!
 ライアンと一緒の運命大決定だ! アーヒャッヒャッヒャ、残念〜〜!!
 おやおや、お怒りですか? だ・け・ど、むざむざやられるボクちんではあーりません!
 日輪の力を借りた今必殺の……『ザムディン』を見せてあげましょう!」

ライアン、まさに今朝名前を呼ばれた男の記憶を呼び覚まされ、私はさらに動揺した。
それでも私は叫び声を上げて突っ込みたい衝動を抑えて冷静にケフカとの戦いに集中しようとする。
挑発もまた、奴の小ざかしい作戦の一つなのかもしれない。
青い光の向こうに不敵な笑い――ザムディンとは何か? ザム・デイン? 電撃の魔法か。
ともかくザンデの魔法を無効化、いやあの爆裂は弾き返したのだ。
おそらく距離をとっての魔法での戦いでは遅れをとりかねない。
ケフカ、やはり隠していたその本性は魔術魔力のスペシャリストなのか。
そう、エビルプリーストを思わせる……

いくつかの記憶が閃光の様に私の脳裏に去来し、衝動として私の心を突き上げた。
殺意を込めた絶叫と共に私は床を蹴り、青い渦を迂回して一気に間合いを詰める。
しかしそれをケフカは見逃さない。謎のボールが手から放られ私に向かい飛んでくる。
ケフカが大声で叫ぶ。
ザムディン――私は正体不明の魔法に身を小さく防御を固め、飛来するボールを切り捨てた。
だが。
だが、何も……何かが起こったのか?
392Janus 〜扉の前 9/10:2008/03/03(月) 19:11:28 ID:AV7JrA1v0
「そんな魔法があるわけないじゃない!
 いい頃合だからボクちんはサヨナラするよ! アーヒャッヒャッヒャ…………」

固い革で作られたボールが空気を噴出しながら天の村雲に絡みつく。
私がありもしない魔法に警戒している間にケフカはこの場から逃げ出していた。
私が追うことのできない方法で。

傍らの青い渦、旅の扉はいつの間にか元通りの濃い青に戻り、規則正しい渦のパターンを描いている。
ケフカはそこへ飛び込んで逃げたのだ。
妙に話をしていたのは恐らくその時間稼ぎだったのだろう。
私もよく知っているその旅の扉の姿からは、荒れ狂った澱んだ光の氾濫はまったく想像できなかった。
しかし現に、そこに二人が呑みこまれ――ケフカの言を信じるなら次元の狭間へ――消えた。
――いや、違う……いや。しかし、しかし信じることなど……
できればケフカの言葉など信じず、二人とも通常通り次の舞台へ運ばれただけだと、信じたかった。
しかし暗い記憶が今の事件に漆黒の影を落として絡みつく。
夜明け前、同じように異次元へと、暗い闇へと飲み込まれた男、ライアンの事を。
そしてライアンの名は――


またも、私はロザリーを失ったのか?
打ち消そうとしてもあとからあとから湧き出る失意に心を占領されながら
私は規則正しく渦を描く青い光をじっと見つめ無力をかみ締めていた。
そう、私はまたも失ったのだ――またも私の目の前で、私に最後の眼差しを残して!
393Janus 〜扉の前 10/10:2008/03/03(月) 19:12:29 ID:AV7JrA1v0
【ピサロ(MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 黒のローブ
 第一行動方針:失意に沈む
 第二行動方針:ケフカへの復讐】
【現在位置:カナーンの町、サリーナ宅内・旅の扉前】

【ケフカ(MP3/10程度)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 魔法の法衣  アリーナ2の首輪
 第一行動方針:「できるだけ楽に殺す方法」を考えつつ全員を殺す
 第二行動方針:ピサロを警戒、仮想敵に
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:新フィールドへ】

【ザンデ 行方不明(死亡?)】
【ロザリー 行方不明(死亡?)】
【残り……名 】

※アルガスの荷物(ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)、皆殺しの剣)一式が室内に放置されています。

394Janus 〜扉の向こう 1/7:2008/03/03(月) 19:18:02 ID:AV7JrA1v0
普通私ほど大きい魔力を持つ存在となればもはやデジョンなど受け付けない。
しかし、今回はあのケフカめにしてやられたと認めるほかはない。
旅の扉――もとからの世界の綻び口を利用してデジョンをそこに重ね掛け、
より大きく強靭な空間の穴を作り私を巻き込んだというところか。

しかし二度までも、旅の扉の傍で不覚を取るとは。
或いは魔道を極める途上でいつからか通用せぬようになったデジョンを予測から外したことといい、
私自ら行った儀式により旅の扉への干渉がケフカにも可能であることを忘れていたことといい、
すべて油断と反省するほかないか。
もっとも、この結果自体がさらに我が実験の正しさを補強してくれるのでもあるが。

さて、ここは一体どこだろうか。
私さえ巻き込むほどであっても基本はデジョン、つまりは浮遊大陸と異なる次元だろう。
異次元の知識自体は私にもある。
封印された禁断の地エウレカの周辺でもこのような歪みを実際に観測している。
肝要なのはここが「支配内」か「支配外」かである。
奇しくも――いや、今考えればあれも計画された実験のひとつ出会ったに違いない――デジョンを受け消えた
ライアンの例では放送の時に死者としてその名が呼ばれたが……
私のいるこの水晶と星空の奇妙な空間が生存不能と言う訳ではない。
もちろん、人の生存を許さないような場所にライアンが飛び出たケースもあり得るだろう。
いくつかの想像こそ描けるもののこう情報不足では結論は出ない。
当面は回答保留としておくが(気に入らんが)、用心に越したことはないだろう。

では……ともかくあそこで呆然と星を見上げているエルフの少女を回収するとしよう。
395Janus 〜扉の向こう 2/7:2008/03/03(月) 19:18:36 ID:AV7JrA1v0
***

頭の上はとても、とってもきれいな星の海です。
わたしは――満天の星空をぼおっと見上げていました。
前に、死んじゃった時もこんなだったでしょうか? ちょっと覚えていません。
でも、今度はちゃんとピサロさまに笑顔で言葉を伝えることができました。
自信はないですけれど、ちょっとはやり遂げた、って気分です。
それにしてもキラキラ、きれいなお星様の光です。

「やはり生存を拒否するような過酷な空間ではないと検証されたようだ。
 ……光に呑まれたか」

聞き覚えのある声が背後から聞こえ、急に肩をがしりと捕まれました。
びくりと振り返ると、そこにはザンデさん。
そういえばザンデさんも私と一緒であの怖い色の光に飲み込まれたんでした。
もう一度、あの光に飲み込まれたのかと訊かれたので今度はわたしはしっかり頷いて見せて、
覚えている限りのあの時の事を話しました。
あんまり、何が起こっていたかはわからないので見たまましか話せませんけど。

「ふむ、なるほど。それは旅の扉の方の設定であろう。
 ……良いな。やはり方向性は間違ってはいなかった」

ザンデさんは満足げな顔をした後、次は難しい顔でまた何か考え中です。
わたしは話しただけですが、何かの役に立てたのでしょうか。
……死んだ後でもそういうことを考えるのってなんだかおかしいですね。
396Janus 〜扉の向こう 3/7:2008/03/03(月) 19:19:37 ID:AV7JrA1v0
「さて、本題にうつる。簡潔に問うぞ、
 他の者の……ピサロの。力になりたいか?」

力のある強い視線でザンデさんがわたしを見下ろしながら問いかけました。
こんなわたしに何ができるかはわかりません。
今更そんな風に言われる理由も意図も分かりません。
でも、そう訊かれたらわたしの答えはいつだって一つです。
はい、と。

さも嬉しげにザンデさんが大声で笑いました。
それから、すぐに身の回りのものをチェックするように言われました。
ザックや最後に持っていたメモやペンがちゃんとあるのが不思議でしたが、
わたしはザンデさんを信頼して従うことにします。
だってザンデさんはわたしの知らないことをたくさん知っていますし、
いろいろありましたけどなんだか頑張っているのは知っていますから。

それからザンデさんは世界結界全集から余白の多いページを適当に破りとって、
すごい勢いでメモや何かの図式を書き込み始めました。
ただ、メモはいいとして図式の方はザンデさんが自分で傷つけた指からの血で
直接書かれているのでとてもおどろおどろしくて怖いです。
なんてことを脇で考えていると何かのメモが渡されました。
示す部分をよく読むように、と言われてわたしはとても驚くことになりました。
盗聴――つまり、わたしたちのお話が誰かに聞かれていたなんて?
397Janus 〜扉の向こう 4/7:2008/03/03(月) 19:21:15 ID:AV7JrA1v0
***

10分後。わたしはミニマムの魔法でまた小さくなって、ザンデさんの肩の上にいました。
ザンデさんは自分の血で書き上げた図をしっかりと足元に広げて
わたしをその図の真ん中に優しく置きました。
盗聴の件のため余計な事を言わないようにと釘が刺されています。
どきどきします。

「……一つだけ、少し余計な話をしてやろう。
 私はかつて与えられた評価を拒絶し、それを乗り越えようとした。
 結果は……いろいろと誤算もあったが。
 まあ詳しいことは生き延びてザンデの名を知るものにでも聞け。
 今回もつまるところは同じなのだ」

わたしは今や巨人どころか山のようなザンデさんを見上げて相槌をうちます。
多分見えないと思いますが。
言葉にせずザンデさんが教えてくれたのですが、
これから小さな魔法陣で儀式を行ってわたしをもとの、
というか今も存在している正しい旅の扉の流れに送り返してくれるそうです。
ザンデさんも一緒に来れるといいのですが、ザンデさんくらいのレベルが通れるものを作るには
かなり大きなエネルギーが必要なので、できないそうです。
398名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/03(月) 20:44:52 ID:Nx9LVEbR0
399Janus 〜扉の向こう 5/7:2008/03/03(月) 21:17:39 ID:qZbwBJqL0
小さくなる前にザンデさんからいくつか受け取った荷物をぎゅっと握り締めます。
出来る限りの防御の魔法もかけてくれたそうです。
わたしにはザンデさんが託してくれたものをすべて正しくは理解できませんが、
それでもみんなやピサロさまを、助けるための力になれるということはわかりました。


紙の上の血の魔法陣に魔力が通い始め、中心に暗い暗黒の輪が現れました。
とても怖いですが、でもきっと大丈夫です。ザンデさんを信じます。

「ファファファ、さあ行け! 正しさを証明するのだ。任せたぞ、ロザリー!」

ザンデさんの応援を頭上から受け、わたしは胸を張って闇の中へ飛び込みました。
わたしはザンデさんみたいに賢くありませんし、
ピサロさまみたいに強くもありません。
でも、小さくてもわたしにだって何かはできるのです。
預けられたのは理解できる者を探すようにと命じられた3つのメモと不思議な機械、
そしてなによりザンデさんの希望です。
怖いです、不安です、心配です、責任が重いです。
でも……泣きません。
みんなのために、ピサロさまのために、わたしに預けられたことをきっとやって見せます!
400Janus 〜扉の向こう 6/7:2008/03/03(月) 21:18:11 ID:qZbwBJqL0
【ロザリー(ミニマム、プロテス、ヘイスト、リフレク) 
 所持品:守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ ウィークメーカー
 ルビスの剣 妖精の羽ペン 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について) 、ザンデのメモ、世界結界全集
 第一行動方針:脱出のための仲間を探す[ザンデのメモを理解できる人、ウィークメーカー(機械)を理解できる人]
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:新フィールドへ】

※ザンデのメモには旅の扉の制御+干渉のための儀式及び操作が大体記してあります。


***
401Janus 〜扉の向こう 7/7:2008/03/03(月) 21:19:11 ID:qZbwBJqL0
ロザリーを魔法陣により安定増幅させた階層戻りの特別製デジョンの中に見送り――
私は少し余計な話のことを思い出していた。
師、ノアがよりによって私に与えようとしたのは人の命というだけのもの。
しかし、もしもこの一連のことが無ければ
私は世界を崩壊寸前まで追いつめるのと同レベルの結果を何かにおいて残せただろうか。

ノアよ、あなたは私の所業をどう評価してみせる。
悪と指弾するか、それとも笑うのか?

水晶と星空の虚ろな世界からはなんの答えも帰っては来ない。
私はこだまの帰らぬこの場所で呵々と笑い、つまらないことを考える自分を笑う。

さあ、センチメンタルに浸るのはここまでだ。
あたりに、頭上に、彼方には非常に興味深い分析対象が広がっている。
我が観察眼をもってすべて読み解いてくれるわ!

「ふん……では、早速分析に入るか」

【ザンデ 行方不明】
【残り38名】

※アルガスの荷物(ももんじゃのしっぽ 聖者の灰 カヌー(縮小中)、皆殺しの剣)一式が室内に放置されています。
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/06(木) 08:53:58 ID:WJ24a3SAO
>>384-401乙です!ザムディンwww
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/06(木) 19:33:30 ID:jcAi1PMzO
あげ
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/07(金) 22:13:37 ID:RnPW4vRX0
age
405名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/10(月) 22:48:31 ID:J3cARI8k0
406名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/12(水) 23:48:20 ID:d4aM0B4z0
こっちも保守するよ
407名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/15(土) 20:53:14 ID:tG1F7AAFO
age
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/19(水) 11:11:04 ID:VXzlBkaH0
保守!
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/21(金) 09:32:35 ID:LRQX0QQuO
保守
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/25(火) 23:05:25 ID:717LLKdy0
保守。
411名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/29(土) 00:58:12 ID:4tSL5fNWO
保守
412ALEA JACTA EST 1/7:2008/03/29(土) 15:09:59 ID:tSZ54M4P0
(これは、賭けだ)
立ち込める砂煙と、その奥から膨れ上がる殺気を前に、スコールは胸中で呟く。
殺人者に襲われたのは事実であるといえ、現状で援軍が必要かと言われれば、答えは否。
あらゆる面でアドバンテージはスコールにある。
だからこそ、この局面で援軍を頼むのは、賭けだった。
有利であるのに不利を演じて、仲間を死地に招いたと知れたら、他の人間はどう思うか。
万が一にも応援にやってきた仲間が敵の手にかかった場合、周囲はどう捉えるか。
そして何より、応援にやってくる人物は、"仲間"であるのか。
単純にサラマンダー一人を戦闘不能に追い込むだけなら、スコール一人で戦い続けた方が、事は容易く運ぶ。
だが、彼は賭けることを選び、そして賽を投げた。
もはや後に引くことはできない。

一瞬の思考を、ざり、と砂を蹴る音が中断する。
("最初のカード"は引き損ねたみたいだな)
投じた短剣がスコールの脳裏を過ぎるのと、地面すれすれの高さで焔色の髪が翻ったのは、同時。
(やはりそう来るか)
黒煙を切り裂きながら、四足獣さながらのスピードで迫り来るサラマンダーを、青い瞳は冷静に見据える。
(斬撃を潜り抜けるか片腕で受け止め、開いた手で鳩尾を狙う……
 まともに食らえばおしまいだな)

瞬きする暇も無く、サラマンダーは眼前に迫っていた。
全ては三秒にも満たない。
スコールが剣を振り下ろす。
サラマンダーの足が地面を捉え、撓んだ筋肉がばねのごとく躍動する。
蒼く輝く刀身が左手で掴み止められたのは、脳裏に描いていた通り。
刃はがしりと固定され、トリガーを引き弾薬を炸裂させたところで、手の皮膚を浅く抉るのみに留まる。
同時に、行き場を無くしたエネルギーが反対側へ――反動となって、スコールの身体を押す。
愛剣から手を離すことに躊躇いは浮かばなかった。
勢いを利用して後ろに跳び退る、同時に、サラマンダーも溜めた力を解放して追いすがる。
胴体と拳、二つの距離は、縮まり、縮まり、縮まり――逃げ切れない。
413ALEA JACTA EST 2/7:2008/03/29(土) 15:10:45 ID:tSZ54M4P0
抉るような、メイスの一撃に似た鈍痛が内臓を押しつぶし、一瞬、視界を白く染める。
だが、飛びそうになる意識の裏で、緑と真紅の輝きが閃いた。
カーバンクル、とスコールが気づく前に、体がひとりでに動き出す。
吹き飛ばされている姿勢から、右足と両腕で地面を突く。
ブレーキをかけるように、そして振り子のように腕と片足を軸にして回転し、
サラマンダーのこめかみに強烈な蹴りを叩きつける。
GFカーバンクルの能力、『カウンター』が発動したのだ。

予想外の一撃に、さしものサラマンダーも受身を取りきれず、ライオンハートを取り落とす。
その隙を見逃さず、スコールは再びドローを発動させた。
先刻同様、像から浮き上がる魔力の光に、サラマンダーは反射的に距離を取る。
「フレア!」
僅かに遅れて完成した爆発は、やはり虚空を抉るのみ。
それでも、スコールの思惑通り、ライオンハートを回収するだけの余裕を生み出した。
三度巻き起こった黒煙と砂埃に紛れ、地面に横たわっていた青い刀身を拾い上げる。
しかし、息をつく暇は無かった。
視界の端で銀光が煌く。
スコールの、傭兵としての経験が、咄嗟に身をひねりザックを前に突き出させた。
ざくり、と布地を切り裂いて短刀が突き立ったのは、その直後だ。

「返してくれるなんて親切だな」
皮肉交じりの言葉に、煙幕の向こうから返事は戻ってこない。
スコールは刺さったオルハリコンを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込む。
「ところであんた、そんなにバトルが好きか」
「……」
砂塵の中、どこか独り言めいた呟きに、サラマンダーは無言で頷く。
「俺の知り合いにもあんたみたいな奴がいる。
 何かにつけて勝つことに拘るバトル野郎だ」
つきあってられない、というように、スコールは剣の腹で肩を叩いた。
414ALEA JACTA EST 3/7:2008/03/29(土) 15:11:25 ID:tSZ54M4P0
「コンディションに戦闘能力……不意打ちが失敗した時点で、圧倒的不利なのはあんたの方。
 だから最初に目くらましを仕掛けた。
 打算で動ける奴なら、砂煙に乗じて退くことを選ぶだろうからな」
「生憎だが、そういう器用な生き方は俺の柄じゃない」
サラマンダーは口の端を歪めた。
誰かを思い浮かべているようにも見えるし、単に自嘲しているだけのようにも取れる、そんな微笑だ。
だが、スコールはせせら笑うように鼻を鳴らした。
「乗った奴と取引はしても、か」
その一言に、サラマンダーの眉がぴくりと跳ね上がる。
すう、と周囲の空気が冷たく、張り詰めていく。
かすかに吹いた風が黄土色の粒子をさらに巻き上げ、二人の周囲を帳のごとく包み込んでいく。
「……何が言いたい」
「殺人狂や戦闘狂は、他人との取引に応じたりしない。
 勝って生き残りたい奴なら、負ける可能性が高い戦いには挑まない。
 サックスが来るかもしれない?――いいや。周囲に人がいないことぐらい、確かめているはずだ。
 相手は選ぶ、だが勝率は気にしない、そういう行動を取る奴の真意は一つ。
 今どき映画でもやらないような、下らない男の下らないロマンチシズム」
目の前の相手から放たれる静かな殺気をものともせず、スコールは人差し指を突きつけた。
「迷惑だ。あんたの都合に俺を付き合わせるな。
 死にたければ一人で勝手に死ね」

薄靄に包まれた大気が震え、僅かに遅れて風切る音が響いた。
激昂したサラマンダーの一撃は、音速を超え、スコールの胸を打ち抜いたのだ。
だが――そこに、手ごたえは、何故か無い。
「マヌーサという魔法を知ってるか?」
スコールの声が、サラマンダーの真横から響く。
「俺は、数時間前に知ったんだが……
 本人が了承してくれたんで、少しドローさせてもらった」
呟いているのは、スコール一人。
しかし、サラマンダーの目には、二人分の像が映っていることだろう。
本物のスコールと、砂塵に紛れて立ち込めている紫色の霧が作り出した、幻のスコールが。
415ALEA JACTA EST 4/7:2008/03/29(土) 15:13:12 ID:tSZ54M4P0
「馬鹿な……ッ」
サラマンダーが立ち尽くすのも当然。
スコールはフレア以外の魔法を唱えていないのだから。
ただでさえスコールの指摘と挑発に乱されていた心は、いつ術中に陥ったのかさえ分析できない。
「……ッツうぉおおおおおおおお!」
焦りと苛立ちに駆られるまま、闇雲に攻撃を仕掛けたところで、当たるはずもない。
それが混迷に拍車をかけ、冷静になることを忘れさせる。

「俺は約束をした」
既にサラマンダーから距離を取っていたスコールは、地面に剣を突きたてながら、ぽつりとこぼした。
「例外は、アルティミシアが相手の時だけだと」
その言葉の意味こそ知らずとも、余裕の現れと解釈したサラマンダーは、声の方角に飛び掛る。
スコールは剣のトリガーを引いた。
重なるように沸き起こる土埃、未だ消えぬ砂煙、魔力の霧。
全てが、サラマンダーの視界を遮る。
だが、研ぎ澄まされた聴覚は、正確に爆音の――スコールの位置を判断していた。
感情は大きく波立ち、けれど、スコールの言葉を止めるという意志はもはや鉄よりも固い。
故に、その一撃に迷いはない。
ひた走る。
引いた腕と拳に渾身の力を込め、そこにいるはずの男の命を刈り取るべく、突き進む――
その足が、不意に、宙を蹴った。

「望みもしないくせに仲間を殺すバカ野郎のために、約束を破る気はない。
 だから――死にたければ勝手に死ね。俺を巻き込むな」

瞬間、サラマンダーの体は空に投げ出され、視界が一気に蒼一色に塗りつぶされる。
スコールの声が急激に遠ざかる。
旅の扉――
挑発も、幻覚も、煙幕も、全てはこの上に誘い込むための罠。
そのことに気づいた時には、新たなる世界への転送が始まっていた。
416ALEA JACTA EST 5/7:2008/03/29(土) 15:13:46 ID:tSZ54M4P0
ふう、とスコールは息を吐く。
風は止み、砂は静かに舞っていた。
旅の扉は青く輝き、そこに人影はない。
パンデモニウムのさきがけとドロー。
カーバンクルのカウンターと、ST攻撃ジャンクション。
アビリティをフルに利用し、かつ運にも頼った結果の、勝利だ。
最も、理想としたプランは、最初の投げナイフでST攻撃を成功させそのまま旅の扉に誘導するというもの。
その点ボディーブローを一発もらってしまったので、
「計画通り……ではないな」
珍しい魔法だからとケチらないでそのまま使えば良かったか、と内心で一人ごちながら、
じくじくと痛む腹を押さえ、少し離れた場所まで歩く。
旅の扉から見える位置にいては、無関係な生存者や殺人者と出くわす可能性が高いからだ。
やがてスコールは、扉から数十メートルほど離れた位置にある、焼け落ちた家の影に腰を落ち着けた。

(ここからが問題か……)
スコールは考える。
先ほどのひそひ草で、誰がこちらに来るか。
まず、サイファーは有り得ない。危険人物を放置してのこのこやってくる監視者はいないからだ。
ヘンリーは集団のリーダー役、その割りに戦い慣れはしていない。
彼が行くなら、十中八九おせっかいなリュックが割り込んでくるだろう。
しかしリュックも、その気になれば回復魔法が使えるという。
となれば怪我人の多いパーティ、貴重な回復役に離れられては困ると考えるのが常識的な反応。
残るはサックスとバッツ。
消耗が激しいのはサックスの方だが、この村が故郷だと言っていたから、地理に関しては詳しいだろう。
それに、バッツは片足を負傷していた。
その点を引き合いに出せば、サックスが応援役に選ばれる可能性は、極めて高い。
では、サックスがこちらに来たとしよう。
サラマンダーを退けたことを知れば、手出しはしないだろうか?
――否。
一対一で、サラマンダーに全ての罪をなすりつけられる状況だ。
こちらのひそひ草を奪い、連絡手段を封じた上で、背後から切りかかってくる。
少なくともスコールがサックスの立場であるなら、そうする。
417ALEA JACTA EST 6/7:2008/03/29(土) 15:14:41 ID:tSZ54M4P0
(……それはいい)
そう、ここにサックスがやってきて、襲い掛かってくること自体は、スコールの予想と計画の範疇だ。
今の状況とタイミング、周囲に隠れて誰かを殺すには絶好の機会。
それは逆に考えれば、本性を隠して集団に溶け込んでいる裏切り者を炙り出す、最大のチャンスということ。
サラマンダーの反応からも、サックスが仲間を捨て殺し合いに乗っていることはほぼ間違いない。
ここで尻尾を掴めなければ、油断しているところを攻撃されるばかりでなく、味方面して偽の情報を流すといった方法で、敵を増やされる可能性すらある。

ともかく、"援軍”が来る前に、サラマンダーを退けることには成功した。
これでサックス以外のメンバーが来ても、生命に関わるような事態は、まず起こらないだろう。
サックスが来て、そちらにかまけている間に復活したサラマンダーの攻撃を食らう、という事も防げる。
しかし、まだ最大の問題が残されている。
それは、サックスの真の狙いをどうやって他のメンバーに伝えるか、だ。

最も簡単なのは、もう一人援軍を呼んで、全ての目撃者に仕立て上げるという手。
だが、サックスやサラマンダー以外の殺人者が近辺に潜んでいるかもしれないということと、
重傷のマッシュ達や戦闘能力のないターニアの安全を考えると、その方法は選べない。
となればひそひ草をうまく使うしかないのだが、直接サックスの疑わしさを伝えても、逆にスコールがサックスを罠にかけていると邪推されたり、仲間割れを誘発しかねない。
サックス自身に、ひそひ草の前で本音を喋らせることが出来ればいいのだが、そんなことができるのは魔女しかいないだろう。
メンバーの待機場所からこの村までの距離、誰が行くのか話す時間、この場所を探す時間を考えると、"仲間"がスコールを見つけるまで、五分はかかるだろう。
言い換えれば、残された時は、もう1〜2分しかない。

(………)

賽は投げられた。
後戻りは、もうできない。
418ALEA JACTA EST 7/7:2008/03/29(土) 15:15:14 ID:tSZ54M4P0
【スコール
 所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:戦闘に備える
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保 
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】

【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元軽傷、MP2/5)
 所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)  チョコボの怒り
 第一行動方針:???
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る?】
【現在位置:新フィールドへ】
419修正:2008/03/29(土) 16:30:32 ID:tSZ54M4P0
2レス目:
スコールは刺さったオルハリコンを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込む。

スコールは刺さったエアナイフを引き抜き、懐に仕舞っていたひそひ草ともども、ザックに放り込


状態表:
【スコール
 所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水 エアナイフ
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:戦闘に備える
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保 
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】

以上、修正します
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/03/31(月) 20:20:29 ID:hOhpMI/Bi
保守!
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/01(火) 17:07:20 ID:z6cOwGL/O
保守
422勝利の原点 1/10:2008/04/01(火) 20:06:34 ID:8eCa0obd0
舞い始めた雪は、たちまちに吹雪の様相を示し白い障壁となって4人を二つに割った。
向こう側にアリーナとクリムト、そしてこちら側にウネとマティウス。
もはや老婆の姿ではなく異形を晒すウネはかろうじて人のものと思えるようなしゃがれ声の哄笑をあげたあと、
骨と皮のみに萎び凶器のように鋭い指で対戦相手に指名した黒いスーツを
文字通りに、指した。
呼応して吹き荒れ始めた局所的な吹雪――ウネの力――がマティウスに襲い掛かる。
白い欠片を乗せた身を切るような冷気が黒いスーツの上を霜、そして氷の結晶でデコレーションしていく。
マティウスの黒い姿はたちまちのうちに白く白く埋もれて消える。
白い障壁で区切られた冬の情景に現れた雪の塚は、しかし内側から破壊されることになる。
のたうつ蛇のような、白熱した帯が雪を水蒸気に帰しながら飛び出す。
あとに残る崩れた雪の塚から何もなかったかのように、鞭を振るうマティウスが悠然と姿を現した。

「貴様のくだらない目的などどうでもいいが……私は非常に機嫌が悪い。何故こう邪魔ばかり入る?
 よかろう、その無謀な挑戦。自らの命で購うがいい!」

両手を広げ、威圧するようにウネの異形を見下して宣告する。自らの目的に立ちはだかる者への死を。
それはマティウスの原点としての、パラメキア皇帝としての恐るべき精神をまとった姿。
右手からダラリと下がっていたビームウィップに反動をつけて振りかざし
光を帯びた鞭を叩きつける!
先刻アリーナに対して振るった時はもはや人として到達可能な上限ギリギリに至った相手の能力により威力を十分に発揮できなかった。
鞭もまたそのうっぷんを晴らすかのように空気を引き裂きながらウネへ迫る。
対して、ウネは――かわさない。
どころか、動かない。回避行動一つ、身じろぎ一つしない。
炎が爆ぜるような弾けた音をたて、音速に達した鞭の先端がウネの肉を焼き、打ち据え、削る。
これにはマティウスも驚きをもって僅かに目を細めた。
再び、狂った老婆のような嗄れ声の哄笑が白い領域に響き渡る。
423勝利の原点 2/10:2008/04/01(火) 20:07:07 ID:8eCa0obd0
「ふぇふぇふぇ……いいねえ、これこそが命のやり取りって奴だねえ。
 こうでなくちゃいけない、こうでなくちゃね……
 さあ、呆けるんじゃない! 行くよ!」

手が止まっているマティウスに対してウネの反撃が始まる。
前と同じように吹き付ける冷たい風。それが今度は、渦を巻く。
前回はただ押し寄せただけだが、今回は一気に巻き起こった翻弄するような暴風へマティウスを飲み込んでいく。
吹雪+エアロガ、冷気と空力とが複合した冷気渦による圧搾!
顔を、いや呼吸を守るために腕を交差させた覇道の皇帝を冷たい嵐が押し込んでいく。
だが――この程度で封殺されるマティウスか? 無論そんなことはない。
十数秒間の冷たい嵐の猛威は、呪文詠唱を数秒の高度集中で代用して放たれたフレアーによりその勢いを削がれる。
魔法一撃で周囲から攻め来る冷気を一掃して自分の領域を取り戻したマティウスはその目に炎を湛え、
ウネの魔力の限りに押し寄せてくる冷気渦へと白熱するビームウィップを振るっていく。
空中でその先端が炸裂音の絶唱を繰り返すたびに迫る冷気渦は断ち割られ掻き乱され消えうせる。
一進一退、いや、数進数退。
冷たい冬の力とのたうつ白熱の帯の終わりなき激突。
終わりなき――ように見えたこの勝負。
この勝負は、ウネの負けだった。
押し寄せ続けていた冷気渦が唐突に数を減らし、その最後の一つがマティウスに断ち割られる。
先に限界に達したのはウネの魔法力、
そしてその当然の帰結としてそれまで冷気渦を打ち消すために振るわれていた鞭が身まで届く。
ウネの冷たい嵐に対してマティウスの打ち据える嵐!
打ち据え、打ち据え、打ち据えて、削る、削る、削る!
棒のような肉片が打ち据えられた勢いでウネの体から弾け飛んだ。
地面に転がったそれはよく見れば腕だ。
今度こそ終焉――マティウスの勝利――まで休みなく続くかと思われた鞭の嵐はしかし思わぬ邪魔に遭う。
ウネが弱ったためか、いくらか勢いを弱めた白い障壁を貫いて
真空の刃が横合いからビームウィップの動きを妨げたのだ。
戦闘の当事者たる二人には馴染みのないその呪文は、バギクロス。
かすかに自分の名前を呼ぶアリーナの叫びがウネの耳に届いた。

424勝利の原点 3/10:2008/04/01(火) 20:07:40 ID:8eCa0obd0
「は…………余計な……真似を。まだ死力には遠いさね…………
 撃ち残しゃ……しないよ……」

あちこちが削れ抉れもうどこが口か、目か、人に若干似た形状の肉塊としか識別できないウネが発した
力ない声はマティウスにさえ届かなかっただろう。
けれど、邪魔が入り中断した攻撃を再開すべく振るった一撃はもう動けないだろうウネの身には届かない。
力を取り戻した、いやむしろいっそう増した吹雪の風によって動きを逸らされたためだ。
ウネとマティウスを取り巻く白い障壁は死にゆくウネの狂気の如く吠え荒ぶ。
囲まれた領域に満ちる異常な魔法力にマティウスが気付いたのと、
正真正銘に全力を傾けた最期となるだろうウネの反撃が開始されたのは、同時だった。
白い漏斗のような渦がマティウスの頭上から真っ直ぐに黒スーツの姿を呑みこんで行く。
それは、極低温の竜巻――吹雪+トルネド!
ホワイトアウトの世界から鞭が振るわれ、風の壁を僅かに突き抜けてもがく手のように揺らぐがすぐに竜巻に消える。

「……流儀にゃ反するが……まだ二人いるんだ。おまけを……つけてあげよう」

動いて初めて手なのだとわかる肉が動き、ウネの身体の下にあったザックから何かを取り出して竜巻へと投げ込む。
それは、本来ならば別に支給されている大型マシンガンのための予備弾倉。
しかし今それは竜巻に投げ込まれ弾倉としてのまとまりをバラバラにされ、
空気の流れに高速度を与えられた渦の中の弾丸として――飲み込まれた犠牲者に襲い掛かる。
再び、下手に竜巻に抵抗した鞭の引き起こす乱流は今度は竜巻の中を流れる弾丸の動きをも掻き乱し、
方向を僅かに変えられた弾丸は互いにぶつかり合ったり気流の境界を滑るなどして
やがて風の壁から内側へと撃ち出されてマティウスを傷つける。
身を凍らせ、拘束し、引き裂く冷気の竜巻に銃弾の雨!
そこは、零下の墓標――あがきもがく鞭すら見えなくなり、風の咆哮以外は何もなくなる。
マティウスの死でもって終焉する冬の嵐の情景。


425勝利の原点 4/10:2008/04/01(火) 20:08:46 ID:8eCa0obd0
***

分断する白い障壁の、ウネ達からすれば向こう側。
何とかこの冷気の壁を突破すべく方策を探っていたアリーナとクリムトは数分の無駄な足掻きの後、
ようやく障壁の僅かに弱くなった部分をバギクロスをもって突き破ることに成功した。

「ウネーーーーッ! だいじょうぶーーーーっ!?」

できた裂け目からアリーナが覗いた向こう側はほとんど白でよくわからなかったが、
とりあえず思いっきり呼びかける。
しかし再び力を増した白い障壁――吹雪の勢いに遮られ、
さらに結果として苦労してようやく破った壁も元通りになってしまった。
迷いなく飛び込むべきだった、と悔やんだアリーナはその思考どおり壁へと突っ込もうと動き出し
クリムトにその腕を引かれてつんのめる。
と、今まで何の音も通さなかった吹雪の壁を越えて吹き荒ぶ轟音が響きだす。

「上だ、天を見よ」
「上?」

のけぞるように壁沿いに目線を上げ、その上を見るとそこには伸びる灰色の腕――竜巻。
どちらが仕掛けたかはわからないが、大技。
勝負を決めるには十分。
アリーナは首を戻すと、慌てたようにクリムトの腕を引っ張る。

「ねえっ、どうしよっ!? 向こう側どうなるの?
 もう一度なんとかできない!?」
「……難しい。私にも風は『視えて』はいるのだ。だが……今の風は先刻より思いが深い。
 同じようにはいかない」

426勝利の原点 5/10:2008/04/01(火) 20:09:19 ID:8eCa0obd0
クリムトは思慮深げにかぶりを振り、微かに顔をしかめる。
賢者といえど一を聞いて十を知る如くなんでもわかる訳ではない。
障壁のこちら側にいたままでは決して二人の戦いを止めることなどは不可能だ。
クリムトがどうしても自らの目的を貫徹したいならば行く以外の選択肢は、無い。
そして例えば、大きく体力を削られることを承知すれば吹雪の壁を抜けることもできるかもしれない。
けれど、クリムトに『視える』吹雪の中の重い思いはその簡単な割り切りを惑わせる。
覚悟に割って入るには、釣りあうだけのものをぶつけなければならない。
だが、自らの思いが――いや存在そのものが、この重さに釣りあうだろうか?

「ねえ聞いてるの、クリムト?
 全力で飛び込めば多分あれくらい突破できるって思うの。サポートお願いできる?」

ばっさりと、あっさりと。
アリーナは軽々とクリムトの迷いを超越してそう言った。
それは、本当のところ相手のことを深く考えない、単純かつ強力に自分を押し通す発想だ。
けれど、けれども。

「ねえ、聞いてないの?
 さっきみたいにバギクロスで、破らなくてもいいから弱めてくれればきっといけるよ」

行けたところで覚悟を決めた相手をどう説得するかなど考えていまい。
考えが足りない、と言えば簡単だ。
けれどクリムト自身に問うたところで、解は出てこない。
ほんの少しも、いくらか考えるのも同じく答えられぬなら考えの足りなさでは五十歩百歩だ。
と、パチン、と乾いた音を立ててクリムトの(目の無い)眼前でアリーナの拳と掌が打ちつけられる。

「諦めるのは死ぬより後にすることよ!
 だからお願い。何もできないでいるなんて、いるなんて……ダメだって」
「死より前に諦念無し……か」

427勝利の原点 6/10:2008/04/01(火) 20:09:54 ID:8eCa0obd0
吹き荒ぶ音の流れが、無情に過ぎていく時の経過を教える。
何もしない、できないか、何かをやってみるか。その二択ならば間違いなく後者だ。
ここにいたり、賢者クリムトは覚悟を決めた――
もっと言えばアリーナの無理無謀な流れに巻き込まれることを許容した。

マジックバリアとフバーハの補助を受け、アリーナは挑む白い壁をぐっと睨みつける。
これからあの壁を貫いて、内側に飛び込んで、それから――とにかく何とかしてみる。
クリムトのバギクロスで吹雪の勢いを弱め、その箇所を槍のような突撃でぶち抜く。それが作戦。
白の輝きと灰色のくすみが絶えず模様を変え続ける白い障壁をじっと見つめる。
壁を、破る。
思いだすはサントハイム、冒険の原点も壁を破ることから始まった。
あの頃、壁の向こうには自由と解放感があった。じゃあこの壁の向こうには?
傷付いた身体の感覚を入念に確かめ、どういう動きで最大限の威力を出すかを確かめる。
集中、集中、集中、そして、合図のバギクロス!
真っ直ぐ突撃すること以外は痛みや迷いをすべて置き去りにしアリーナは加速する。
地面を踏む足に力を込め、身体を沈め、槍先となる右足を蹴り上げてそこから……突っ込む。
フバーハの守りはあっても骨に染む冷たさがまとい来る、はずがそれが来ない。
風上となる側にかばうように躍る影が見えた。
誰かなど確認する余裕はどこにもないが、間違いなくそれはクリムト以外にはありえまい。
呪文によって励起される火炎の光と熱が目の端にかすかに入りこんだあと、
僅かな平和な時を空けてついに吹雪の威力がアリーナを襲い始める。
小さくクリムトにありがとうを捧げてそれも置いていく。
ここからは一人の力で突き抜けるだけだ。
完全に視界がホワイトアウトする数秒を足からミサイルのように飛びぬけ、そしてついに。
障壁の内側へと、突破する――



428勝利の原点 7/10:2008/04/01(火) 20:11:55 ID:8eCa0obd0
マティウスが竜巻に飲み込まれて数分後――
ウネの魔法力が尽きたか、少なくとも幾許下の勝利の予感に集中が緩んだか。
白く吹き荒び渦巻く零下の墓標はその拘束を緩め嵐が解けていく。
だが、現れたのは崩れ落ちたマティウスの姿ではなく。
穴が開き傷付いた黒いスーツをまとい直立不動のまま瞑想するようにしっかりと立っている様。

「……竜巻か。派手は派手、大技は大技、だが私への止めとしては誤った選択であったな。
 死力を尽くした攻撃、認めよう。確かに恐るべきものであった。
 そして要らぬことまで思い出させてくれたものだ。
 甘い……たつまきを操る力ならば私にも……ある!」

カッと闘志に燃える眼が見開かれ、光を失っていたビームウィップが熱を取り戻す。
だが自分に向けられた敵意の姿をウネはもう見てはいない。
ただ敗北の確信と、奥義を完成させるための最後の一手のことだけがそこに残っている。
やがて白熱の帯が空気を切り裂き、止めの一撃がウネを打ち据える。
それを見ることなく肌で感じながらウネは高められた戦いのエネルギーが一点に集束するのを感じていた。

マティウスにすれば、それは予想外以外の何ものでもない。
白い障壁を貫いて現れたアリーナ、その奇襲突撃を側面から受け、胴へとミサイルの如き蹴りが突き刺さる!
流石のマティウスもくの字に身体を折り、たたらを踏んで後退する。
踏みとどまろうと力を込めた足が脱力する。
確かにたつまきを操る力を持ってトルネドに抵抗したとはいえそれは精神と身体双方を削られる時間だったのだ。
外見にはあまり出さずとも浴び続けた冷気は確実にマティウスの体力を奪い取っていた。
膝を、つく。
身体が、重い。
それでも、再び仇敵の姿を眼にしたことが、その一撃を受けたことがマティウスに活を入れる。
腕を挙げ鞭をかざし、波打つように一振り。
ウネに駆け寄ろうとするアリーナの背中目掛けてビームウィップで打ち据えんとする。
まるで重力が増したかのようにマティウスの上に重さがのしかかり、そこで意識が断ち切られる。
それはパラメキア皇帝にとって屈辱、しかしそれすら感じる前に思考を刈り取られ、気絶に追い込まれる。

429勝利の原点 8/10:2008/04/01(火) 20:13:45 ID:8eCa0obd0
真っ白から色を取り戻した目が最初に見たものは、マティウスが振るう光の帯がウネを打ち据える光景だった。
アリーナにはそこで迷いはない。
吹雪を突破した勢いそのままに、一歩だけ地面を中継して飛び蹴りを繰り出す。
文句なしの一撃がマティウスの黒スーツの腹部に突き刺さり、ふらふらとマティウスが下がっていく。
その動きを見届けず、アリーナはウネのほうへと向きを変えた。
もうなんだかよくわからない塊っぽい姿に変貌しているがアリーナは頓着しない。

「ウネっ、大丈夫なの!?」
「……………………」

ぼそぼそと、何かが答えた気がしてアリーナはウネへと駆け寄ろうと進む。
その背を、マティウスの意地の一撃が打ち据える。
完全にほかに気を取られ油断していたところへの痛烈な一発。
無理やりに肺から吐き出される息。重さを増す身体。意識が、霞む。
もとよりダメージを押して動いているのはアリーナも同じ。
むしろより限界に近いのはアリーナの側だ。
重力に引かれ、物理法則に従いついにウネまで後数歩といったところで地面へと倒れ伏す。
伸ばした手は――動かせない、届かない。

「……光…………鍵、を……」

倒れたアリーナへとウネの側からも(もうなんだか分からないが)きっと腕が伸ばされる。
宙へと伸びたそれはほんのわずかだけその位置を保ち、崩壊するように力を失った。
その掌からかつて癒しの杖だった柄を持ち、純粋に実体のない淡い光の身を持つ鍵が、零れ落ちる。


430勝利の原点 9/10:2008/04/01(火) 20:15:42 ID:8eCa0obd0
***

「ふん。何にもないじゃないか! こいつら、本気でバカか?」

あたりの肉片に触れないように淡い光を湛える鍵をつまみ上げながらこの死闘最後の登場人物――アルガスが愚痴をこぼす。
マティウス、ウネ、アリーナ、そしてクリムトと今この4人の中に動いている人物はいない。
だがただ傍観していただけという最も薄い関わりながらもアルガスもまた死闘を眺めていたのだ。
アリーナ対マティウス、ウネの乱入、吹雪の出現、突っ込むアリーナ、
そしてウネが崩れ落ちて白い障壁が消滅してようやく、アルガスは戦闘の終結を知った。
荒れ果てた戦場を、アルガスはいたって冷淡に、そして相変わらず、漁る。
それはアルガスが生き残るための重要な、そして勝ち抜くための紛れなき原点。
倒れたアリーナの脇腹を起きない程度に、しかし痛みが残る程度に靴先でせこく蹴る。

「しけてるな。ホントによ!」

妙に目立つ怪しい光る鍵以外はウネ(らしい怪物)もアリーナも何も持っていない。
毒づきながら、警戒しながら今度は黒いスーツの男に近づく。
流石のアルガスも怖いのか、及び腰。
けれどそこにはマティウスが振るっていたあの光る鞭が取り落とされて転がっている。
戦場漁りの身としては行かない訳にはいかない。
思い切って小走りに駆け寄り、引っ手繰るようにしてそれを手に収めると大急ぎで引き返す。
わずかにクリムトが身体を震わせるのが見えた。動き出しそうだ。
別に自分の行為を悪いなどとは思わないが、あまり目に付きたくないのも事実ではある。

「人様に迷惑かける前にお前ら全員ここで一緒に朽ち果てちまえ!」

願望混じりの罵り言葉を浴びせかけ、アルガスは踵を返してカナーンの町中へと姿を消していく。
とにかく探すのは、旅の扉――こんなところで朽ち果てるのはまっぴらだ。


……そして冬は、終わる。希望の春は、どこだろうか?
431勝利の原点 10/10:2008/04/01(火) 20:16:33 ID:8eCa0obd0
【マティウス(MP 1/5程度、気絶中)
 所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服、結構ボロボロに) ソードブレイカー 鋼の剣 
 第一行動方針:アリーナを討つ
 第二行動方針:アリーナ(2)を見つけ出し、ゴゴの仇を討つ
 基本行動方針:アルティミシアを止める
 最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
 備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】

【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部・背部負傷、気絶中) 
 所持品:無し
 第一行動方針:―
 基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【クリムト(失明、HP2/5、MP消費) 所持品:なし
 第一行動方針:戦闘の停止、平和的終了
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・シドの屋敷跡】

【アルガス
 所持品:インパスの指輪 E.タークスの制服 草薙の剣 高級腕時計 ビームウィップ ウネの鍵
 第一行動方針:旅の扉を発見して次のフィールドへ
 最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】
【現在地:カナーンの町】

【ウネ 死亡】
【残り37名】

※癒しの杖(破損)→ウネの鍵に変化。魔力(例えば封印とか)に対して干渉が可能です。
 マシンガン用予備弾倉×3は使い切りました。
432計算外の出来事 1/7:2008/04/01(火) 23:34:18 ID:rTljajIy0
村の南側の方から爆発音が聞こえた。恐らくフレアらしき魔法。
『不意打ちを食らった。赤髪の男だ。応援を1人頼む』
ひそひ草からはそう聞こえた。昏睡しているマッシュ以外には聞こえただろう。
それに反応してか、バッツもハープを弾くのは辞めた。

サックスにとって、またとないチャンスだった。
…ここで僕が行けば、サラマンダーと協力しスコールを倒すことができる。
あいつは僕のことをまさかマーダーだとは思っていないだろうし、不意打ちをかけられるだろう。
そもそも2対1なんだから負ける訳がない。大丈夫だ。
――しかし、怪我を負っている身体で何て言い出せばいいのか…。
下手に言い出すと、怪しまれるかもしれない。
特にさっきからこっちを監視しているように見ているあの金髪の男――サイファーには要注意だな。
どうもいいアイデアが浮かびそうにもない。
やはり、僕は謀略というのか行動の計算というのか、こういうのはどうにも苦手みたいだ。
今日で2度目になる言葉に、サックスは溜め息が出そうになった。
サックスがどうやって話を切り出すかを考えている間に誰かが声を発した。
433計算外の出来事 2/7:2008/04/01(火) 23:35:00 ID:rTljajIy0
「……誰が行くんですか?」
ようやく泣き止んだターニアの近くにいるエリアが言った。
「あの野郎のことだ。怪我人や戦いに馴れていない奴に来て貰おう何て思ってないだろ。
 そうなると、戦闘に馴れていて、戦いに負傷のある怪我をしていない人……になるな」
(まあ、ほぼ確実にサックスが名乗り出るだろうが。その時は適当なことを言って違う人に行かせるか)
――チャンスだ。これで僕が名乗り出れば……
サックスは、そう思って声を出そうとした瞬間。
「俺が行く」
「…ヘンリーさん?」
先程、眠りから覚めたソロが首を傾ける。予想外の名乗り者に、全員がヘンリーの方を見る。
――どうして、この村にいる人達は僕の邪魔ばかりするんだ。
サックスは心の中でそう呟いた。しかし、このチャンスを逃さないとして、サックスは反論を試みた。
「いえ、僕が行…」
「恐らく赤髪の男は俺に襲い掛かってきた男だ。
 そいつが今スコールと戦っているのは、俺が倒さなかったからだ。
 …それとあいつには、スコールには助けてもらった恩がある」
見事に無視された。今ここで騒動を起こしてやろうかと思ったけど辞めた。
「で…でも、ヘンリーはあんまり戦いに馴れてないじゃん?
 あたしも戦ってみて判ったけど、あの赤髪の男――サラマンダーは結構強いよ?」
「そうだが……ここにいる人でまったく怪我をしていないのは俺とリュックだけだ。
 お前は回復が使えるから、ここに居た方がいいだろ?
 それに、あまり慣れたくないが、この二日間で戦いにも慣れたさ」
(サックスには行かせるわけにはいけない。スコールと会ったらすぐ戦闘だ。
 リュックに行かせたら、回復魔法を使う人が居なくなる……
 そして他の人は、戦闘に負傷のある怪我をしているか……こいつもこう言ってんだ。行かせても大丈夫か)
「判った。てめえが行って来い」
サイファーがそう言うと、周りの人もヘンリーが行くことに承諾した。
「……気をつけて行ってください。危なくなったらすぐにスコールさんのひそひ草で連絡をするか、戻ってきてくださいね」
そのエリアの発言にヘンリーは頷くと、自分のザックを持って村の南側の方に走っていった。
434計算外の出来事 3/7:2008/04/01(火) 23:35:37 ID:rTljajIy0
ヘンリーが行った後、思いついたようにサイファーがエリアに話しかけた。
「…おい、エリア」
「どうしたんですか、サイファーさん」
「お前の持っているひそひ草を俺に渡せ」
「どうしてですか?」
「あの野郎から連絡があって会話をしなくてはいけない場合、顔が知れている俺が持っていたほうがいいと思ってな」
「……そうですね。はい、どうぞ」
エリアはサイファーにひそひ草を渡した。

――完全にチャンスを逃した……やはり、考えすぎたのが原因か。
この状況で、最も怪しまれずにこいつらを殺すにはどうすればいいか…。
いや、殺す時点で怪しまれずも何もないか……いい案は何も思い浮かびそうにない。
とりあえず、あのスコールと会話する恐れのあるひそひ草を奪うか。でもどうやって奪えば……
……もう、深く考えるのはよそう。考えるよりも先に行動だ。
そう思いながら、サックスは立ち上がった。

「……おい、サックス何処へ行く気だ?」
「ヘンリーさんが心配なので、僕も追いかけます」
「スコールの野郎は、『応援を一人頼む』って言ってただろ」
「少ない人数よりは、多い人数の方がいいに決まってるじゃないですか」
「……そもそもあいつは、人に助けを求めるってタイプじゃねえんだよ。
 そのあいつが応援を頼んだってことは、何か考えがあるってことだ。
 好けねえ野郎だが、頭だけは一流だ。だから従…」
「……サイファーさん。すみません」
「?………ぐっ!」
そう言ってサックスはサイファーの腹を殴り、手に持っていたひそひ草を奪い村の南部に走っていってしまった。
「ま、待てサックス……」
「サイファーさん大丈夫ですか?」
エリアとリュックが傍によってきた。
435計算外の出来事 4/7:2008/04/01(火) 23:36:06 ID:rTljajIy0
「あたし……サックスを追う。捕まえてちゃんと訳を聞いてくる!」
「おい!待て!てめえまで行ったら、回復を使うやつが……」
サイファーの言葉も聞かずに、リュックも行ってしまった。
「くそっ!どいつもこいつも俺の言うことを聞かないで……」
「サイファーさん……。サックスとリュックさんなら大丈夫ですよ。
 それに、二人とも戦闘に馴れているって言ったのはサイファーさんじゃないですか」
「リュックはともかく、サックスだから言ってるんだ」
「?それってどういう意味ですか?」
サイファーは、言うべきかどうか悩んだが、話をきりだした。
「あいつは…サックスはこのゲームにのっているかもしれないって言ってんだよ!」
「まさか!サックスに限ってそんなことは…」
「お前はさっきのサックスの行動を見てなかったのか?
 さっきだけじゃねえ。あいつの行動は怪しいものばかりだっただろ!」
「さっきのは…きっと何かの間違いです!きっとサックスにも何か考えがあって……
 それにサックスは元の世界では……」
「世界を救ったいい人でした。…とでも言いたいのか?
 このゲームで知り合いだったら信用ができるなんて保障はどこにもねえんだ!」
「でも……」

村の西部には怒声が響いていた。
そして村の南部からは、さっきと同じ爆発音が聞こえた。
436計算外の出来事 5/7:2008/04/01(火) 23:36:47 ID:rTljajIy0
サックスは、草原が見えなくなったあたりで立ち止まり考え事をしていた。
――計画通り……とまではいかないが、何とか行くことができた。
あれだとサイファー以外にも怪しまれるかもしれないが、どうせ殺してしまうのだ、関係ない。
問題はエリアも殺すかどうかだが。…もちろんいいアイデアは思い浮かびそうにない。
……さっきも思ったが、やはり考えるよりも先に行動だ。
今は、スコールとヘンリーを殺すことだけを考えればいい。その後のことは後々考えよう。
そう思って、サックスは武器と盾を手に取り、走りだした。
サラマンダーは、もうこの世界にいないということも知らずに……



【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人) リフレクトリング バリアントナイフ 銀のフォーク
 キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ
 第一行動方針:スコールのところに向かう
 基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】

【サックス (HP2/3、微度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ひそひ草 ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット 拡声器
 第一行動方針:スコール・ヘンリーを殺す
 第二行動方針:タイミングを待ってウルの村にいるメンバーを殺す(エリアも?)
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】

【リュック(パラディン)
 所持品:メタルキングの剣 ロトの盾 刃の鎧 クリスタルの小手 ドレスフィア(パラディン)
 チキンナイフ マジカルスカート ロトの剣
 第一行動方針:サックスを追い、サイファーを殴った理由を聞く
 基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す
 最終行動方針:アルティミシアを倒す】

【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)→ウルの南側】
437計算外の出来事 6/7:2008/04/01(火) 23:37:32 ID:rTljajIy0
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
 第一行動方針:スコール達を待つ】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス スタングレネード×2
 第一行動方針:サイファーと喧嘩
 第二行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:うたう)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
 スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
 第一行動方針:エリアと喧嘩
 第二行動方針:ポーションの始末を考える
 第三行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
438計算外の出来事 7/7:2008/04/01(火) 23:38:15 ID:rTljajIy0
【ソロ(HP3/5 魔力微量)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
 第一行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損) 所持品:なし】
 第一行動方針:―
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】

 共通行動方針:スコール達が帰ってきたら旅の扉に向かう。
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】


※サックスは、少し立ち止まっていましたが、スピードのマテリアのおかげで他の二人よりも速いので、行った順番にスコールの元に着きます。
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/03(木) 17:01:17 ID:G6Amj+lr0
保守
440名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/06(日) 00:25:35 ID:/rzeyeCu0
保守…かな。
441Too Late 1/4:2008/04/06(日) 06:42:37 ID:VIE8HGtr0
――不意打ちを受けた。赤髪の男だ。応援を一人頼む――

エリアを相手に口喧嘩をしながらもサイファーの頭に巡るのは、スコールのこの言葉だった。
どうしても抜けない棘のようにそれはちくちくと存在を主張し、サイファーを苛立たせる。
そう、一昔前まではスコール当人がそうであったように、だ。
棘はサイファーの眉間の皺を更に深くさせ、エリアを怯ませる。
どうせならばと怪しいポーションの存在まで暴露した辺りで少しずつ口撃は身を潜め、ソロ達から困惑した目が向けられる。
しかしそのことに気付かないほどにサイファーは物思いに沈み始めていた。

……もしかしたらあれは他の誰でもなく、自分に宛てられたメッセージだったのではないか?

ふとそう思ったのは、駆けていくサックスの後ろ姿と、「赤髪の男」というスコールの言葉が脳裏で重なった時だ。
現在生き残っている者の4分の1近くが既にウルにいることを考えると、
スコールと交戦中の赤髪のマーダーがサラマンダー以外である可能性は低い。
そしてスコールは赤髪のマーダーの存在も、その名がサラマンダーであることも元から知っている。
あの性格ならば、名簿で顔も当然確認してるだろう。
この錯綜した状況で正確な情報はなにより大事。
にも関わらず、スコールは何故「赤髪の男」などという曖昧な言葉を使ったのか?
もしやあれは、自分に対する一種の暗号だったのではないか?
442Too Late 2/4:2008/04/06(日) 06:48:38 ID:VIE8HGtr0
思えば、サックスの危険性を示唆する時にもスコールは同じ言葉を使った。
「赤髪の男」は自分とスコールの間では、サラマンダーとサックスの二人を示すキーワードだったのだ。

……とすると、スコールはあの応援要請で何を狙ったのだろう?

素直に受け取るならば、スコールは現在危機にあり、応援を必要としている。
しかしマーダーである恐れの強いサックスに来られても困るので、改めて自分にサックスを抑えるように頼んだというところか。
だが……
そもそもスコールは本当に危機にあるのだろうか?


奇襲の原則は一撃必殺だ。
不意を討ち、一気に流れに乗って波状攻撃を仕掛ける。
そこには草を取り出してくっちゃべってる猶予など本来全く無い。
にも関わらず、スコールはやけに気の利いた応援要請を寄越してきた……。
443Too Late 3/4:2008/04/06(日) 06:49:04 ID:VIE8HGtr0
そこで気になるのがスコールからの連絡の直前に聞こえたあの爆音。
できるだけ静かに、確実に殺したいはずのサラマンダーの立場を思えば、あれはスコールが起こしたた可能性の方が高いだろう。
あの規模の爆発ならばそれに紛れて逃げるのも可能に思えるが、現実にはスコールは応援を求め、抗戦する意思を示した。
そして先程も二度目の爆音が聞こえ、戦闘が終わっていないことが裏打ちされた。
そこから導かれる仮説は2つ。

1つはスコールは脚を負傷し、逃げきることが不可能な状況にあるという考え。

そしてもう1つは……スコールは戦闘をエサにサックスを誘い出し、その真意を試そうとしているという考え。

そこまで考えて、サイファーは思わず舌打ちをして地面を蹴りつけた。
黙りこくっていたサイファーの突然の動きにエリアとターニアが肩を震わせるが、もちろんそんなことは気にしない。
スコールの真意がどうあるにせよ、現状がスコールの想定外に動いていることは間違いなかった。
サックスが出て行き、事情を全く知らない仲間が二人も出て行った。
あまつさえ、重要な連絡手段であるひそひ草まで奪われてしまった
完全に自分の失態だ。
本来ならば一刻も早くサックス達に追いつき、自分自身で名誉挽回するところだが……。
ターニアを見た。今はもういない、イルの妹だ。
次にエリアを見、傷つき眠っているマッシュを見た。

自分までもがここを離れるわけには、いかない。
手薄になったこの場を守り、スコール達の帰りを待つ。

そこにはロマンもヒロイズムも何もなく、ある種の責任だけがあった。
慣れない荷物を背負い、サイファーは重い気分で空を見る。
水色が、どこまでも広がっていた。
444Too Late 4/4:2008/04/06(日) 06:51:28 ID:VIE8HGtr0
【ターニア(血への恐怖を若干克服。完治はしていない)
 所持品:スタングレネード×4 ちょこザイナ&ちょこソナー
 第一行動方針:スコール達を待つ】
【エリア(体力消耗、下半身を動かしづらい)
 所持品:スパス スタングレネード×2
 第一行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:仲間と一緒に行動】
【バッツ(HP3/5 左足負傷、魔力0、アビリティ:うたう)
 所持品:アポロンのハープ アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石(崩壊寸前)
 第一行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:『みんな』で生き残る、誰も死なせない】
【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ、猛毒入りポーション
 マッシュの支給品袋(ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) バーバラの首輪)
 レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧)
 スコールの支給品袋(吹雪の剣、ガイアの剣、ビームライフル、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 貴族の服、オリハルコン(FF3)、炎のリング)】
 第一行動方針:スコール達を待つ
 第二行動方針:ポーションの始末を考える
 第三行動方針:協力者を探す/ロザリーと合流
 基本行動方針:マーダーの撃破(セフィロス、アリーナ、サックス優先)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
445Too Late +α:2008/04/06(日) 06:55:30 ID:VIE8HGtr0
【ソロ(HP3/5 魔力微量)
 所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣
 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング 天空の兜
 第一行動方針:スコール達を待つ
 基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す
※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】
【マッシュ(重症、右腕欠損) 所持品:なし】
 第一行動方針:―
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第三行動方針:ゲームを止める】

 共通行動方針:スコール達が帰ってきたら旅の扉に向かう。
共通了解: サックスの危険性についての多少の留意(エリア以外)
【現在位置:ウルの村西の草原(ブオーンが丘そば)】
446名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/06(日) 14:30:32 ID:VIE8HGtr0
3レス目修正。

ターニアを見た。今はもういない、イルの妹だ。

ターニアを見た。今はもういない、イザの妹だ。

お願いします。
447名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/09(水) 21:55:47 ID:0aiHu/d70
保守
448Guardian Angel 1/12:2008/04/10(木) 02:49:32 ID:yFejSYuQ0
それは、禍々しい死の悪夢だった。
剣が、槍が、銃弾が、魔の光が――次々に襲い掛かってくる。
胸が貫かれ、頭が潰れ、撃ち抜かれた身体を、心臓を砕かれる。
自分の知る顔が紅く血に染まり、断末魔の悲鳴を上げる。

やめろ! やめろ……もうやめてくれ!

何度も叫ぼうとするが、声が出ない。指一本動かない。
ただ……見る事しかできない。
血塗れの腕が全身に纏わり付き、耐え難い恐怖がルカを襲う。
その痛みが、悲しみが、怒りが……身体を、魂を引き裂こうとする。

諦めろ……俺に何ができるというんだ……
動けもしない……戦う術も持たない俺が…たった一人で何ができる……

苦痛に疲れ果て、耳の奥でもう一人の自分が囁く。
息ができない。胸が詰まる。幾度となく気が遠くなる。

諦めれば楽になる……何もできないなら…いっそ……

どす黒い闇の中に、意識が呑み込まれていく。
引きずり込まれる……
そう思った……その時……

――ルカ――

誰かが、自分の名を呼んだ。
449Guardian Angel 2/12:2008/04/10(木) 02:50:59 ID:yFejSYuQ0
――ルカ――――ルカ――――――ルカ――――――

何度も、何度も、呼ぶ声が聞こえる。

誰かが…呼んでる……俺を待ってる…………
俺は……一人じゃない……!

その思いが、ルカの正気を呼び覚ました。
「…い……いやだ……死ぬもんか!」
喉から絞り出すように、掠れた声でルカは叫んだ。
「ぜ…絶対に死ぬもんか……みんなの為にも……俺は死なない!
 どんなに…辛くたって…苦しくたって……俺は生きる…生きるんだ!」
身の震えを堪え、目の前の悪夢と対峙する。
「……消えろ…消えろ! 幻め! 俺は…もう迷わない!
 俺は……俺は…………絶対に諦めない!!」

突然、闇に亀裂が入り、ガラスのように砕け散る。
幾筋もの光の束がルカに差し込み、潮が引くように縛めが消えていく。
闇の欠片は、いつしか純白の羽根となって降り注ぐ。
白い光の中に……背に翼をはためかせ、長い髪を靡かせた人影が浮かぶ。
「…………天使?」
ルカの呼び掛けに、「天使」は悪戯っぽく、それでいて淋しそうに微笑み、
やがて宙に溶けるように消えていった。
450Guardian Angel 3/12:2008/04/10(木) 02:52:07 ID:yFejSYuQ0
全力で駆け続けた足は鉛のように重く、肺は今にも焼けそうに熱かった。
だが、アンジェロは留まる事なく進み続けた。
森へ入ってから程なく、アンジェロの鼻は尋常ではない異臭を捉えていた。
この近くで何か異変――恐らくは戦闘――があった事だけは間違いない。
キナ臭い、焼け焦げたような匂い、それに混じる血の匂いが、段々と濃くなっていく。
それが、自分の知る人物のものである事を……人間の数万倍もの嗅覚が、嫌と言う程伝えてくる。
『ハッサン……!』
この様子では、ハッサンの命はもう絶望的かもしれない、とアンジェロの本能が告げていた。
そして、恐らくはルカも無事ではいまい、とも。
『…ルカ……ルカ! 答えて! ルカ……!』
何度となく、心の中で叫び続けたが、ルカの返事はない。
『……お願い…答えてルカ……! ……ハッサン……!』
それでも、呼び続けずにはいられなかった。
そうしていなければ、絶望感で押し潰されそうだった。
『……ルカ……ハッサン…………』
極度の緊張と疲労に足元がふらつき、今にも崩れ落ちそうになった時……
ふと、風向きが変わった。
風は、異臭の中に混じる、微かなルカの存在を伝えてくる。
『……ルカ!』
アンジェロは力を振り絞り、懸命に匂いの糸を手繰っていった。
451Guardian Angel 4/12:2008/04/10(木) 02:53:11 ID:yFejSYuQ0
やがてアンジェロは、倒れた木々の間に横たわっているルカの姿を見つけた。
『ルカ!』
アンジェロは倒木をくぐり抜け、ルカの傍まで駆け寄った。
顔の近くに耳を寄せると呼吸音がし、胸のあたりが微かに上下している。
生きている。
『よかった……』
顔や手足に細かい傷はあるが、特に大きな外傷はない。
しかし油断はできない。骨折したり頭を打ったりしているかもしれない。
アンジェロは鼻面をルカの体に押し付け、異常はないか探った。
腕から手の甲をまさぐった時、ふと……こつん、と固い違和感を感じた。
それは、ルカの素朴で小さな手には不似合いな、大きな宝石を嵌め込んだ指輪だった。
『…………指輪?』
アンジェロの脳裏に不吉なものが過る。
ルカは指輪なんかしていなかった。指輪……指輪をしていたのは…………
それに思い至った時、アンジェロの総身の毛が逆立ち、咄嗟に後ろへ飛び退いていた。
『何故?! どうして……ルカがこんな物を?!』
紛れもなく、ハッサンを苦しめていた呪いの指輪だった。
その指輪が外れる時、それは、呪いが解けるか、指ごと切り離すか、もしくは……
あちこちの木の幹に、異臭を放つ、どす黒い、べたべたしたものがこびり着いている。
変色した人間の血脂……焼けた肉片……無残な死の痕跡……
『……ハッサン…………!!』
アンジェロは目眩を覚えてうずくまり、震えながら低く呻いた。
452Guardian Angel 5/12:2008/04/10(木) 02:54:26 ID:yFejSYuQ0
『……アン…ジェ…………アンジェ…ロ……?』
不意に「声」が聞こえ、アンジェロはハッとルカの方を見た。
いつの間にか、ルカが目を覚ましていた。
『……ルカ』
『どうして……君は…スコールさんの所に行ったんじゃ……』
ルカは首だけをこちらへ向け、不思議そうな顔をしている。
『……スコールには会ったわ』
『だったら……何で……』
ウルへ向かったスコールには、緑髪の男――ヘンリーを見張れ、と言われていた。
だが、アンジェロはそれを守らず、スコールが戻るのを待てなかった。
それは……
『ウルの近くであの男と……サックスと会ったの』
『サックス……?!』
『ええ……あの男から血の匂いが…ハッサンの匂いがしたわ』
『…………』
ルカは唇を噛み締め、瞳を伏せた。
『やっぱり……そうなのね?! ハッサンを殺したのは……
 あなたをこんな目に合わせたのは……サックスという男なのね?!』
『…………』
暫し、沈黙があった。
だが、やがてルカは、決心したように口を開いた。
『そうだよ……ハッさんを殺したのは…サックスだ……
 けど……そうさせてしまったのは…俺なんだ……俺のせいなんだ……』
453Guardian Angel 6/12:2008/04/10(木) 03:07:20 ID:yFejSYuQ0
ルカは包み隠さず、アンジェロと別れた後の事を話した。
『……全て自分のおかげだって…自分が操ってんだって…思い上がる事……
 モンスターマスターが…一番しちゃいけない事なんだ……なのに……』
ハッサンとの口論、後悔、そして死の爆発。
追ってきたサックスとの死闘、窮地を救った不思議なイメージ、
何故、指輪が自分の指にあるのかも……
ルカが現在もなお生きているのは、この指輪のおかげだった。
そして、跡形もなく吹き飛んだハッサンが、唯一残した形見もこの指輪だけだった。
『……皮肉ね』
その代償に、ルカは常に死と紙一重の場所に居なければならない。
考え方によっては、大怪我を負うよりも酷い状態なのかもしれない。
『サックスは…素知らぬ顔でウルへ行ったわ……あそこがあいつの故郷だって……』
今度は、アンジェロがスコールに会った後の事を語った。
スコールとエリアのひそひ草での対話、そこから知ったウルの惨状、
目覚めたヘンリーと、サックスの会話……
『……サックスは…まだ繰り返すつもりなんだ……』

――確かに俺はこの男を殺そうとした。だが、それはこいつが殺人者だからだ――
――仲間のフリをして、隙を見て怪我をさせたり、子供を一人刺し殺したそうだな――
――仲間を装う殺人者はタチが悪い。ヘタに関係を持つとここぞというときに裏切られる――

そう言って、カインはサックスを殺そうとした。
自分達を騙していたと分かった以上、今更カインの事を信用する事はできないが、
あれは本当の事を言っていたのだ、と確信せざるを得ない。
あの時、自分がカインを止めていなければ、後々の悲劇は食い止められたかもしれない。
だが、目の前で人が殺されるのを、平然と見ていられただろうか……
454Guardian Angel 7/12:2008/04/10(木) 03:09:25 ID:yFejSYuQ0
『ウルへ行かなきゃ……』
『……行ってどうするの? 見つかったら今度こそ終わりなのよ?!』
『でも……カズスへは戻れない…………あいつの槍を見ただろ?』
『ええ、あの奇妙な槍ね』
『あいつは…武器なんか持ってなかった……全部取り上げられてたんだ……
 それに……あの変な槍を持っていたのは…確かもう一人の……』
『フリオニール…………じゃあ、あいつはカイン達も欺いたって事?!』
ルカは微かに頷いた。
サックスという男は、思った以上に策士かもしれない、とアンジェロは内心呆れ返った。
『だから…あいつを止めなきゃ……今度はウルのみんなが危ない……
 ……俺は…あいつが許せない……ハッさんを殺したからってだけじゃない……
 自分が不幸だからって…他人も不幸にしていいはずなんかないんだ……!』
『あなた…まさか、あいつと刺し違えるつもりなの?!』
ルカは、今度は首を横に振った。
『俺は死なない……あいつを殺すつもりはない……動けなくするだけでいいんだ……
 あいつを倒しても…仇を討った事にはならない……倒さなきゃいけないのは……
 ……………………?!』

突如、木々がザワザワと揺れ、ゴゴゴゴゴと地鳴りが響いた。
『夜明けが……!』
見上げた空は、朝焼けに血のように紅く染まっていた。
455Guardian Angel 8/12:2008/04/10(木) 03:11:11 ID:yFejSYuQ0
「くっ……う!」
躍動する地面の上で、ルカの身体が壊れた人形のように跳ねる。
『ルカ!』
『……大丈夫……だから…もっと離れて!』
覚悟はできていた。だが、何が爆発を誘うか分らない。
それにアンジェロを巻き込む訳にはいかなかった。
アンジェロは言われるままに、更に二、三歩飛び下がる。

――二度目の夜明けだ……――

暁の空に、死を告げる魔女の姿が浮かぶ。
『アルティミシア……!』
アンジェロが牙を剥き、憎悪の唸りを上げる。
ルカは目を見張り、拳を精一杯握り締めた。

――『テリー』――

一瞬、高鳴る鼓動が凍りつく。
いや、テリーは二人いる。俺の知ってる方とは限らないじゃないか……
でも……まさか……でも……そうだとしたら………………

――『わたぼう』――『イザ』―――

何で君までいなくなるんだ……おかしいよ……こんなのおかしいよ……
どうして……仲間と一緒じゃなかったの? また会うんじゃなかったの?

―――――『ハッサン』―――――

覚悟はできていた。できていたが……
その痛みに、悲しみに、怒りに……身体の震えが止まらない。
だめだ! 耐えろ! 耐えるんだ! 負けるもんか! お前なんかに……!
ルカは懸命に歯を食い縛り、魔女の顔を睨み付けた。
456Guardian Angel 9/12:2008/04/10(木) 03:13:20 ID:yFejSYuQ0
『ゼル……ですって?! リノアとスコールだけじゃなかったの?!』
知る人の名に、アンジェロも少なからず衝撃を受けていた。
だとすれば、他にも、アーヴァインや…あまり会いたくはないが…サイファーも……
『あの女、一体何を企んでるの……?』
ただの復讐にしては手が込み過ぎている。
それだけなら、ルカ達のような別の世界の人間を巻き込む必要はない筈だ。
恐らく、そうしなければならない理由があるに違いない。
『どうせ、ロクな理由じゃないでしょうね』
それを確かめ、阻止するために、再びアルティミシアに相対せねばならないだろう。
勿論、アンジェロにとっては、リノアの仇を取りたい、という願いが大部分を占めている。
でも、今のままでは駄目。例え辿り着いても、スコール達の足手纏いになる……
……アンジェロは、ルカの方を見た。

ルカは、もう泣いてはいなかった。
魔女が消えた後も、強い眼差しで上空を見据えていた。
それは、ほんの半日前に見た、ただ嘆き悲しむだけの子供ではなかった。
その姿が、アンジェロを突き動かす。
『急ごう…時間がない……』
やがて、ルカは静かに念じ始めた。
徐々に綿のような雲がルカの身体を覆い、少しづつ宙に浮き始める。
『待って! その前に……あなたにお願いがあるの』
アンジェロは、肚を決めた。
いや、スコールの言い付けに背いた時点で、既に定まっていた事なのかもしれない。
『私を、あなたの「仲間」にしてちょうだい!』
457Guardian Angel 10/12:2008/04/10(木) 03:15:32 ID:yFejSYuQ0
『え……?』
突然のアンジェロの言葉に、ルカは戸惑った。
アンジェロがただの犬ではない、不思議な力を持っている事は分かっていた。
魔物には獣系のものも多い。仲間にする事には何ら支障はない。ただ……
モンスターマスターの仲間になるという事――
それは、能力は勿論、場合によっては命すら委ねる事を意味する。
『アンジェロ…それは……俺が君のマスターになるって事だよ?! それを分かって……』
『ええ。分かってて言ってるのよ!』
アンジェロの澄んだ瞳に迷いはなかった。
ルカから聞いた話を総合すると、モンスターマスターとは魔物の力を引き出し、
自由自在に使いこなす能力を持つ者の事だという。
自分は魔物ではないが、それに類する力は持っている。
リノアと全く同じとはいかなくても、ルカといれば今よりずっとマシに戦えるだろう。
少なくとも、サックス如きに引けを取ることはない筈だ。
『私があなたの手足になる! あなたの代わりに戦う! だから、私を導いてよ、ルカ!』
アンジェロは、ルカの能力に賭けた。
『……アンジェロ』
アンジェロは、亡くなった主人を深く愛している。それは痛い程に伝わってくる。
その絆は、飼主とペットという関係を遥かに超えたものだろう。
しかし、それを抑えてまで、身動き一つさえ困難な自分に付いていこうと言う。
『分かったよ…君を仲間にする……俺に力を貸してくれ「アンジェロ」』
その気持ちに応え、彼女の全てに責任を持つ事。
それがルカの使命だった。
458Guardian Angel 11/12:2008/04/10(木) 03:23:19 ID:yFejSYuQ0
『じゃあ…これを……君にあげるべきだと思うんだ』
ルカは慎重にザックを引き上げ、慎重に中を探った。
慎重に何かを掴み出し、そっと雲の端に置いた。
『なに?』
アンジェロは恐る恐る近付き、雲の上を覗いた。
褐色の丸い形の物がちょこんと乗っている。
『スタミナの種だよ…………本物の』
『え? そんな……あなたこそ使うべきじゃ……』
『俺は…少し寝たから大丈夫……君の方が疲れてるだろ? お食べよ』
『でも……』
『マスターの命令は……』
『……はいはい』
アンジェロはしぶしぶ、雲ごとがぶりと種に齧り付いた。
次の瞬間、うっ、と顰めたような奇妙な表情をする。
『美味しくない?』
『……ドッグフードの方が…よっぽどマシだわ』
こんなに不味いものも珍しい。
だが、こんなに嬉しいものも滅多になかった。
重く感じていた身体が少し軽くなる。また、走って行けそうだった。
『行きましょう、ルカ』
『うん……あいつは…もう扉を見つけたかもしれない……俺達も扉を探そう……
 でも油断するな……作戦は…いつでも「いのちだいじに」だ!』
『分かったわ。付いてきて!』
459Guardian Angel 12/12:2008/04/10(木) 03:28:42 ID:yFejSYuQ0
ルカに先導して、アンジェロは走り始めた。なるべく直進できる進路を選ぶ。
その後を、滑るようにルカの雲が追う。
他人を乗せるのではなく、自分が乗るのだからある程度の加減は効く。
だが、少しでも無理をしようと焦ると、身体の節々に痛みが走る。
ルカは思わず、抱えたザックと、懐に入れたウインチェスターを握り締めた。
……ふと、その指に光る指輪が目に入る。絶望と希望が交差する光。

ハッさん、それでも俺は生きるよ。
もし、テリーがいなくなっていたら尚更……生き残らなきゃならない。
俺は、生きて必ずマルタに戻る。今よりも強くなって、絶対に星降りの大会で優勝する。
そして願うんだ。みんなが生き返って、元の世界で暮らせるように。
それまで待っててよ。その時は、ちゃんと謝るから……

『もうすぐ森を出るわ! あとちょっとの辛抱よ!』
アンジェロの纏った薄いローブが、風を孕んで大きく翻る。
まるで、羽ばたく天使の翼のように。


【ルカ (HP1/20以下、全身に打撲傷)
 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ
 満月草 山彦草 雑草 説明書(草類はあるとしてもあと三種類)
 E:爆発の指輪(呪)
 第一行動方針:ウルへ向かい、旅の扉を探す
 第二行動方針:サックスの後を追う
 最終行動方針:生き延びて故郷に帰る】
【アンジェロ
 所持品:風のローブ
 第一行動方針:ルカと共にウルへ向かう
 基本行動方針:ルカの身を守り、戦う】

【現在位置:ウル南の森→ウル南方の草原地帯へ】
※ルカはトンベリ=トンヌラだと認識していません。
460変更するレス
+ジョブチェンジについて+
・ジョブチェンジは精神統一と一定の時間が必要。
 X-2のキャラのみ戦闘中でもジョブチェンジ可能。
 ただし、X-2のスペシャルドレスは、対応するスフィアがない限り使用不可。
 その他の使用可能ジョブの範囲は書き手の判断と意図に任せます。

+GF継承に関するルール+
「1つの絶対的なルールを設定してそれ以外は認めない」ってより
「いくつかある条件のどれかに当てはまって、それなりに説得力があればいいんじゃね」
って感じである程度アバウト。
例:
・遺品を回収するとくっついてくるかもしれないね
・ある程度の時間、遺体の傍にいるといつの間にか移ってることもあるかもね
・GF所持者を殺害すると、ゲットできるかもしれないね
・GF所持者が即死でなくて、近親者とか守りたい人が近くにいれば、その人に移ることもあるかもね
・GFの知識があり、かつ魔力的なカンを持つ人物なら、自発的に発見&回収できるかもしれないね
・FF8キャラは無条件で発見&回収できるよ

+戦場となる舞台について+
・このバトルロワイアルの舞台は日毎に変更される。
・毎日日の出時になると、参加者を新たなる舞台へと移動させるための『旅の扉』が現れる。
・旅の扉は複数現れ、その出現場所はランダムになっている。
・旅の扉が出現してから2時間以内に次の舞台へと移らないと、首輪が爆発して死に至る。

現在の舞台は浮遊大陸(FF3)
ttp://www.thefinalfantasy.com/games/ff3/images/firstmap.jpg
次の舞台は闇の世界(DQ4)
http://ffdqbr.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/up/source5/No_0097.png