かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その2

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
前スレが落ちたようなので立てました。


前スレ
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1091624036
2名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 16:55:47 ID:DHUOMaRa
前スレではFF1とFF4がノベライズ中。
進行状況
FF1 ガーランド撃破まで。
FF4 リディアがファイアを唱える所まで。

まだ書かれていませんが、他シリーズのノベライズも可能です。
3名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 16:57:04 ID:L0Sx79Q3
4名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 17:00:19 ID:DHUOMaRa
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 17:09:43 ID:lYfE3DA7
5ルベーザたん
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 17:29:09 ID:fW5nthA4
http://game9.2ch.net/gameurawaza/
↑この板おもすれーオマイらも来いよ( ^ω^)
バンバンスレ立てようぜー(・∀−)
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 20:02:27 ID:DHUOMaRa
前スレの1に書かれた、この企画のコンセプト。

DQはちゃんとした小説がエニックス出版から出ていますが、FFは2以外まったく刊行されていません。
文才と多少の暇のある方、どうかこのFFDQ板でFFのどの作品でもいいので、ストーリーの最初から
最後まで完全小説化してみてください。
といっても一人でこんなこと最後までやりつづける人はいないでしょう、普通。印税入るわけじゃないし。
ただの趣味だし。根気が続くはずが無い。
なので、リレー小説にするのが妥当かと。
結構おもしろい企画だと思いませんか?

ただ飽くまでも「公式の小説が出版されていない作品を情熱あるこの板の住人がノベライズする」
がコンセプトなので、FFでなくてDQでもいいです。
ただしDQ1〜7は当然対象外になるわけで、可能なのはモンスターズ等でしょう。
やはりプロの作品にはかなわないですから、DQ1〜7は書く必要がないわけです。そういうものです。
8前スレ299:2005/05/08(日) 04:15:03 ID:00py8Qnt
FINAL FANTASY IV #0089 3章 1節 モンク僧(1)

ボブス山は世界でも有数の高い山であった。その険しい山は常に旅人の行く手を阻んでいた。
道と言えるものは、切り立った崖の間に縫っている狭い道だけであった。
それに最近のモンスターの多発も加わり、今ではこの山を通るものも少なく、ファブールのモンク僧が
修行のための山籠もりをする以外には人の姿は殆ど見られなかった。
そんな危険の巣窟とも言えるこの山を歩く四つの人影があった。
人影の内、二人は女性であった。一人は金髪の美しい女性、もう一人は黄碧色の髪が印象的な幼さの残る少女だ。
二人よりも先を行くかのように二人の男が歩いていた。一人は何処か気品の漂う整った顔の男、手には竪琴が握られている。
さらにその前ーー最前を歩く男がいた。顔は兜に包まれ見えない、全身に漆黒の鎧をまとっているその姿は見るものを圧倒させた。
「!」
最前を歩く男が立ち止まり腰に吊している剣に手を添えた。
「どうしたの? セシル?」
後ろを歩く少女が声をかける。
「リディア、静かに」
セシルがリディアの無邪気な声とは反対のやや深刻そうな声を返す。
「何!」
予想外の反応に少し驚くリディア。
「…………」
セシルは目配せし顎で前方を指す。そこにはモンスターがいた。
モンスターといっても普通のモンスターでは無かった。もしそうであったなら退けるまでである。
バロンでも暗黒騎士として無敵を誇ったセシルなら容易い事だろう。
だが今、目の前にいるモンスターは少しばかり特殊な事例であった。
空に浮く赤い球体に小さな手と大きな眼を付けたボムといわれるそのモンスターは決して強くない。
むしろ戦闘能力だけを取ってみれば弱い方である。しかしボムは追いつめられると体を爆発させ周りのものを道連れにする。いわば自爆というやつだ。
9前スレ299:2005/05/08(日) 04:16:55 ID:00py8Qnt
FINAL FANTASY IV #0090 3章 1節 モンク僧(2)

「…………」
リディアはセシルの背から舞えを覗き込んだ。後ろにいるローザとギルバートもそれに続いた。
「ボムか……」
ギルバートが小さな声で呟いた。
「ああ、どうする?」
「下手に手を出して被害を増やす事は無い。放っておこう」
「そうか……」
そう言って剣を戻そうとする。
その途端、ボムが急に動き出した。
「感づかれたか!」
数瞬して、セシルは剣に手を掛けようとする。だがボムはセシル達とは逆方向、つまり進行方向に向かっていった。
しばらくして、辺りに豪快な爆音が響いた。
「一体何が?」
その轟音に思わず伏せたセシルは爆発が大人しくなると立ち上がって駆けだした。
今のは間違い無くボムが自爆した音だ。と言うことは誰かが被害を受けた可能性が高い。
もしそうだとしたら早急に助けなければいけないだろう。見ず知らずな旅人だとしても、見捨てるほどセシルは白状ではない。
予想通り男性が倒れていた。体中から吹き出す煙がボムの爆発に巻き込まれたのを物語っている。
「大丈夫ですか!」
セシルは急いで駆け寄り話しかける。しかし意識を失っているか返事は返ってこなかった。
「ローザ、白魔法を!」
セシルの言葉を聞くと、ローザはすぐに回復魔法の詠唱に入った。
「ケアル!」
呪文の詠唱の完成と共に緑色の暖かい光が男を包む。
だが、たった一回の魔法程度では男の傷は完治せず、ローザは何度も魔法をかけなおすことになった。
10前スレ299:2005/05/08(日) 04:18:00 ID:00py8Qnt
FINAL FANTASY IV #0091 3章 1節 モンク僧(3)

「頼む、ヤン隊長を助けてくれ!」
意識を取り戻した男の第一声は意外にも感謝の声でなく、助けを求める声であった。
「ヤン隊長? 君はファブールの人か?」
男は首を縦に振る。
「ギルバート知っているのか?」
「ダムシアンにいた頃に聞いたことがあるだけだけれど。ファブールのモンク僧兵隊の現隊長さ」
「それでヤン隊長は……」
「頂上でボムの群れに囲まれている。早く行ってあげてください! あのままでは……」
男はセシルの問いを遮り、問いに答える。
「分かりました」
セシル達は山の頂上へ向けて走り出した。
「ねえ、リディア。怖くはない?」
頂上へ向かう途中、ローザはリディアに訪ねた。
男の言ってることが真実であるとするならば、頂上でヤンはボムに囲まれているはずだ。
ボム……ミストを滅ぼしたモンスターである。正確に言うと、ミストを滅ぼしたのはバロン王である。
だがバロン王に命じられたセシルとカインがミストへ持って行った指輪から現れたボムが事実上の加害者である。
そんな相手とリディアは戦えるのだろうか? ローザは心配であった。
「大丈夫だよ……ローザ」
そう言ってリディアは笑顔をつくってみせる。
「そう……分かったわ」
ローザもその表情を見て笑顔になる。
「急ぎましょ」
「うん」
二人は足を早めた。
11名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/08(日) 04:25:27 ID:00py8Qnt
誰も書き込まないので、書かせてもらいました。
書きたい人がいれば、リレー形式ですので気軽に参加してください。

章は前スレで出た案では次のように区切るようになってますが変えても結構です。
節ごとのタイトルは自由に決めてください。(入れなくてもいいです)

一章 ミストの村でカインとはぐれるまで(セシルがバロンを離れる決意をする)
二章 ダムシアンでギルバートが加わるまで(赤い翼の襲撃、テラとの別れ)
三章 カイポローザが加わるまで
四章 ファブール城に着くまで
五章 ファブールのクリスタルが奪われるまで(カインとの一騎打ち)
六章 リバイアさん出現まで(仲間との別れ)←ここはかなりいれるべき区切り

七章 試練の山に行くまで(暗黒騎士と決別せよといわれる)
八章 パラディンとなってミシディアに戻るまで(相当長引きそう)

九章 バロン侵入まで
十章 エンタープライズ発進まで(パロポロ石化、カインがローザを人質に)

十一章 トロイアでギルバートに出会うまで
十二章 磁力の洞窟〜赤い翼との接触まで
十三章 ゾットの塔のメーガス三姉妹まで
十四章 カインが再び仲間になり、バルバリシアを倒すまで(ゾットの塔脱出)
十五章 地底世界に行くまで
12名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/08(日) 11:42:37 ID:tbGroMdy
>>前スレ299
グッジョブ!!!!いいかんじに文章化されててるな
俺も文章力があればなぁ・・
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/09(月) 19:44:41 ID:3CfxTPKl
>>299
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!やっぱりローザとリディアがいいかじだな
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/10(火) 20:18:58 ID:2lMhuMSX
299氏グッジョブ
15名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/11(水) 19:41:41 ID:39hBqj6N
落ちそうなのであげ。
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/12(木) 18:25:42 ID:1SkVZ4g2
復活おめ!
そしてGJーー!
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/12(木) 20:05:36 ID:bC84gNqv
正にさすがの一言。
今後も頑張ってください!
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/14(土) 20:13:49 ID:qUH1rfFf
早くも死にそうだな・・
19名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/15(日) 03:47:51 ID:sJK3yAgJ
あげとく
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/15(日) 14:33:11 ID:xQtJv2WS
ほっしゅほっしゅ
21名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 20:58:19 ID:dCAqI/57
あげます
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/17(火) 20:16:22 ID:hTkpqQCt
ageないとすぐに落ちるからな(´・ω・`)
23名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 13:08:36 ID:+sa/mAAu
age
24名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 13:09:30 ID:dVcs/jDY
dat落ちの基準はスレ番でなくて最終カキコの時間なんだが。
25名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 14:21:17 ID:7kzUV/lp
あげ
26名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 20:19:00 ID:jYDZdnPM
保守
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/20(金) 23:41:11 ID:FmFPtBbF
age
28名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/21(土) 20:10:52 ID:DMnlJiBX
保守カキコしかないな
このスレもうだめぽ
29前スレ299:2005/05/22(日) 12:09:29 ID:JZWzNdpl
FINAL FANTASY IV #0092 3章 1節 モンク僧(4)

山の頂上には男の言った通り、男がボムに囲まれていた。補足すると男達が、ボブス山に巣くうありとあらゆるモンスター達にだ。
「はあ……」
だが、男はこの危機的状況にも限らず落ち着いていた。まるで周りに自分以外の存在を認識していないかのようであった。
それであっても一方的に攻撃されるのでなく、的確に攻撃を受け流し反撃の機会を伺っている。
上半身は裸で、特徴的なフェイスマーク模様が付いているズボン、そして特殊な髪型。
その特異な衣装は彼がモンク僧だと言うことを物語っている。
「ふん!」
男はかけ声と共に飛び宙を舞う。そして目にも止まらぬ速さで近くにいる矮小な獣人、ドモボーイに蹴りかかった。
「グガァ!」
低い呻き声を上げ、その獣人は地に伏した。
「ふう……」
返り血を拭い安堵の息を漏らすヤン。だが、直ぐに元の険しい表情に戻る。
いくらファブールでは敵なしの彼でも、この数のモンスターと孤軍奮闘するのは分が悪かった。
「ヤン隊長。このままでは全滅です! 此処は退きましょう」
生き残った部下の怯えた声が聞こえてくる。
「…………」
ヤンは周りを見渡す。何人もの傷ついた部下がモンスター相手に悪戦苦闘している。
逃げられるか? 一瞬のうちによぎったそんな考えを頭から払う。
こうもあからさまに囲まれていると、とてもじゃないが逃げおおす事は不可能であろう。
自分だけならばなんとか可能であるかもしれない。
しかし、自分は誇り高きファブールのモンク僧の隊長である。負傷した部下を置いてファブールに帰還でもしてみろ。
民に顔がたたないし、王はそんな自分を許さないだろう。それ以上に自分がその事を許さないであろう。
「…………」
しかし、それだからと言ってこの状況をすぐにでも覆せるれはしないだろう。この数ではいずれヤンも押されてしまうだろう。
30前スレ299:2005/05/22(日) 12:11:04 ID:JZWzNdpl
FINAL FANTASY IV #0093 3章 1節 モンク僧(5)

もう駄目か……ヤンは半ば死を覚悟した。
思えば、自分はモンク僧。国を守る為に日夜修行を重ね、国を守る為戦う。そのためにはこの命など喜んで捨てよう。
ヤンはいつも自分にそう言い聞かせていた。だが、実際に死が自分の近くにやって来ると、やはり恐怖を感じた。
ファブールにいる最愛の妻を思い浮かべた。自分が悲報を聞くと彼女はどんな顔をするだろうか?
やはり悲しみ涙するだろうか。それとも……
そこまでで思考を停めた。どのみちヤンには知ることの出来ぬことであった。
モンスターの鋭い攻撃がくる。これで最期だ……ヤンは確信した。こんな自分を守って死んでいった部下達に詫びをしなければな……
薄れゆく意識の中でそんな事を思った。
「大丈夫ですか!」
その若くも強い声がヤンを現実へと引き戻した。
目の前を見るとそこには漆黒の鎧を身に纏った男が立っていた、
「ここは……」
自分は生きているのか? そんな疑問を抱くヤン。
「詳しい話は後です。それより今は此奴らを何とかしないと」
剣を構えるセシル。
「ローザは治療を!」
「分かったわ」
そう言ってローザは周りの部下達の治療を始める。
「ギルバートとリディアは援護してくれ!」
「うん」
「分かった」
それぞれ戦いの準備に入る。
「私も一緒に戦おう」
そんな彼らを見て、ヤンは傷ついた体に鞭を打ち立ち上がった。
「分かりました。でも無理はしないでください」
「承知した!」
ヤンも戦闘の構えをとる。
31名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/22(日) 12:19:03 ID:JZWzNdpl
短い上に殆ど話が進んでませんが。
>>8-10の続きです。

>>12
人があまりいませんし文章力など気にせずに
書き込んでもいいと思いますよ。
32名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/22(日) 12:19:09 ID:yHw2i2R2
>>前スレ299氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
あいかわらずいい仕事してます!!
33名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 00:12:22 ID:tzFq5f39
続き(・∀・)b GJ!!

ところで、こういう文章化するのがうまいのって、
やっぱ普段から小説読んでるからなのかな?
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 09:12:48 ID:MA3Tc2i+
みんな色々書いてみようよ。
漏れが世話になったとこだけどうpしとく。(FF関係ないけど)

ttp://www.feel-stylia.com/rc/creative/create.html

>>33
読むのも大切。
でも書いてみないと始まらない。

35名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 21:53:05 ID:HTLwHN70
age
36前スレ299:2005/05/26(木) 00:29:11 ID:j3aALLTa
>>33
実を言うとこのスレを見るまで小説を書いたことは
一度もありませんでしたし、読むことも余りしていませんでした。
なので、>>34さんもいってますが、どんな出来でもとりあえず書いてみるべきだと
思います。そうすれば自然と上達するのではないでしょうか。

あと、下の方におちてきたのであげときます。

37名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/26(木) 00:58:55 ID:j3aALLTa
先程の書き込みでは上がっていないようなので
もう一度あげておきます。
38名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/27(金) 02:20:29 ID:HlRylSwO
>>36
だな。俺もFF6外伝を一つ書いただけだが、
他の人が書いた小説全く読んでねえんだなこれが。
実生活でもほとんど読まんし。
で、ちょっと書こうかなと思ってもFF4を忘れてしまった。
6今やってるけどネタがねえ・・・
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/28(土) 18:25:54 ID:HGzeEG5M
あげとく
40前スレ299:2005/05/31(火) 01:41:55 ID:XAkQ6QG8
FINAL FANTASY IV #0094 3章 1節 モンク僧(6)

「しかしこれだけの敵をどうやって?」
ヤンが訪ねる。例え助けが来たとはいえ相手は膨大だ。このまま戦っても百パーセント勝てるとは言い切れないだろう。
「僕が突破口をつくります」
セシルは自分の剣の先に左手を添え、精神を集中させる。
「よし……」
剣先をモンスターに向けると、仮初めの意識を持った黒き衝撃が剣から飛び出す。
それは獣のように目の前に立つもの全てに対して容赦なく襲いかかった。
モンスター達は悲鳴上げ、黒き血の雨がセシル達に降りかかる。
弱いモンスターならこれだけで倒すことができるだろう。
「すごい……」
その技を初めて見るヤンは少しばかり驚いている。
「今だ!」
セシルは立ち眩みを押さえながら叫ぶ。
暗黒剣を極めし者だけが使えるこの技はこのような集団のモンスターと戦うケースにおいて
非常に有効に働く事は間違いない。
だが、仮にも新しき意志を生み出す技である。同時に使用者の体にもそれ相応の負担を与えるのである。
「よし」
ヤンは手薄になった敵の懐に飛び込んでいく。そして目にも止まらぬ速さで幾多の敵を蹴りつける。
その蹴りは大変正確なセシルの攻撃で弱っていたモンスター達に止めを指していく。
41前スレ299:2005/05/31(火) 01:42:50 ID:XAkQ6QG8
FINAL FANTASY IV #0095 3章 1節 モンク僧(7)

「ブリザド!」
リディアが黒魔法を唱える。その声と共に辺り一帯に氷の刃が舞い、モンスターの群れを切り裂いていく。
ボムはたまらずに逃げようとする。体中に火を内包した彼らにとって、氷は天敵のような存在だ。
「これで、残るはボムだけか」
セシルはあちこちに徘徊するボム達を見渡した。氷を恐れ、避けるようなその動きは酷く不安定だ。
この調子なら一気に掃討できるか? セシルは剣を強く握り締める。
「ねえ……あそこ」
リディアが指を指す。その手はがちがちと震えていた。
「何だ……!!」
その方向を見た瞬間、セシルは凍り付いた。セシルだけでは無い、ここにいる誰もが少なからずは恐怖していた。
ボムが自爆しようとしていたのだ。しかし、普通これだけでは誰も驚かない。
ボム等この山には幾らでも生息している。ボムの自爆などこの山では日常茶飯事であり、その爆発力も決して高くは無い。
なので、この山を初めて通る者でもこの山を下る頃にはそんな些細な事は気にも留めなくなるであろう。
だが、今目の前にいるボムは普通では無かった。自爆しようとするそのボムは、半端でない位に膨脹していた。
その有様はまるで巨大な雲のようであった。
「!」
あれ程の物が爆発したらこの辺り一帯は木っ端微塵だろう。
「みんな、逃げろ!」
誰かの叫び声が聞こえた。
そして、ついに完全に膨らみ飽和状態になったボムが爆発を始めた。
42名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/31(火) 18:45:33 ID:XAkQ6QG8
相変わらず短いですが前回の続きです。
読み返してみると戦闘描写が曖昧な箇所があったり
ギルバートの描写がなかったりと雑ですが。

>>36
前スレで魔列車の短編書いた人でしょうか?
何か新しいネタがあったらぜひ書き込んでください。
FF4の内容が思い出せなければ>>4にセリフ集があるのでそれをみてはどうでしょう。
あと、FF6ではこのスレ以外にもこんなスレもありますよ。
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1111167126
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/31(火) 18:48:03 ID:XAkQ6QG8
訂正
>>36でなく>>38です。

44名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/31(火) 23:15:16 ID:hX79GhXK
>戦闘描写が曖昧な箇所があったり
んなぁこたない。特に気にならない。
いつもながらGJ!!
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 00:59:59 ID:1yanCPqI
あげます。
46名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 04:40:33 ID:/BIm20Fk
FINAL FANTASY W #0096 3章 1節 モンク僧(8)

―――その前にいち早くセシルが前へ飛び出す。
一般の目にはなんとも無謀に映る行為だが、
仮にもバロン王国の屈強な兵士達をまとめあげたほどの力量。
数々の死線をくぐりぬけたその体は、怯む心を押さえつけ、初めの一歩に至らせる。
そして刹那の硬直の間ですら、彼には思考し、判断する為の貴重な猶予。

―――まだだ――間に合う――慎重に―――

ボムが正に限界を示す表情を表した時には、セシルの足はその懐まで距離を詰めていた。
(落ち着け………刺激を出来るだけ与えないように………)
膨れあがる赤球の下腹部辺りに剣を当て、剣の中間に左手を添えた。
そして一気に足を踏み込み―――
「はああああああ!」
遥か上空へ、力任せに押し上げた!
剣にかかる重圧が軽くなったと感じたその直後、
空が白く輝いた。次いでその衝撃が爆音と共に、地上に風圧として伝わる。
空は赤みを帯び、黒みを帯び、やがて元の青を取り戻した。
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 04:47:31 ID:/BIm20Fk
FINAL FANTASY W #0097 3章 1節 モンク僧(9)

ボムの一部らしき赤と黒の粉塵がパラパラと落ちてくることには誰も気付かなかった。
先の同胞の爆発にあてられたのか、他のボム達も自爆の準備を始めていたからだ。
例によって、どれも膨張の程度が半端じゃない。その数もまだ十数匹は残ったまま。
「出来るだけ遠くに吹き飛ばして下さい!慎重に!」
言いながらセシルは最も近い敵に接近しては、さっきの要領で吹き飛ばしていく。
「あいわかった!」
ヤンはその場にしゃがみ込むと、標的に向け水平に跳び間を縮めた。
その脚力も並大抵のものではなかった。空中で体制を変え、
伸び揃えた両足で相手を捉えた……と思ったら、その手前で膝が曲げられていく。
曲がりきった後、溜められた力を解放する様に、怪物を押し飛ばした。
こんな器用な真似が出来る人間が他にいようか?そう思わせるには十分な離れ技だった。

「ブリザド!」
リディアはリディアで、手頃な魔物を片っ端から凍らせていく。
膨れあがったボムが、その表情を保ったまま地面に転がっていった。
だが三人の猛攻でも、これだけの数を捌くにはいささか時間が足りなさすぎた。
すでに残り数匹はその準備を終えた様で、勝ち誇った笑みを浮かべている。
「――――!!」
ボムに対処できる術を持たなかったローザは、今際の時にもただ祈るばかりであった。
48名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 04:49:32 ID:/BIm20Fk
FINAL FANTASY W #0098 3章 1節 モンク僧(10)

………爆発は、起らない。
ローザはゆっくりと、片方ずつそのまぶたを空けていく。
膨らんだ姿はそのままに、激しく顔をひきつらせているボムの群れ。
視界にばかり向いていた意識を耳に傾けると、美しいハープの音色が心をなでた。
非常にゆっくりとしたテンポから、不意にフォルテの連段へ切り変わる。
不協和音の入り混じったメロディーは、確実にボムに影響をきたしていた。
あれほど肥大していた体は元の大きさよりも更に縮み、
ついにはそのの赤色すら消え、灰色がかったみずぼらしい球体が、地面で佇んでいた。
「ふう」
声のする方角を見ると、ギルバートがその手で汗を拭っていた。

「もうっ、そんなことできるならなんで初めっからしないのよ!」
ギルバートの元へ駆けつけたリディアが、半ば膨れっ面で彼を睨む。
「ごめんごめん。
ぼくのハープはモンスターによって「効く」旋律が違うんだ。
だから最初は一匹で探ってたんだよ。相手を元気づけてしまう旋律もあるし、
ましてや今回はボムだから、下手に刺激すると危ないからね。
それに全体に効果を与えるとなると、集中する時間も必要なんだ。
けどもう少し遅かったら、本当に危なかった。………ごめん」
ギルバートは一通りの弁解の後、急にしんみりして謝った。
リディアはリディアでいたたまれなくなり、「あ…ううん、それなら仕方ないし、ホラ結局はギルバートに助けられたんだし。ね?」
と、何故か慰めることに。
「その通り。あなたがいてくれて良かったわ。ありがとう」
ローザは心から感謝した。
「え、あ、どういたしまして」
と、照れ臭そうにに二人に返事をしたギルバートを尻目に、セシルは一人考えていた。
(おかしい…………)
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 05:04:43 ID:/BIm20Fk
FF6ノベスレから、出張でつ
ここは敷居が高いんで避けてたんだけど、思いついたんでつらつらと

所々雑だし、ハープのとことか、知ってる単語並べただけなんだかそこは勘弁

前スレ>299さん、勝手に動かしちゃったけど繋げられそう?無理なら訂正してみるんで

ギルバートも勝手に設定作っちゃったけど問題ないかな?
50前スレ299:2005/06/01(水) 18:19:37 ID:VTOnSKX8
>>49
乙です。
全然問題ありませんよ、むしろ新スレになって
自分以外に、こうして書いてくれる人がいてとても嬉しいです。

内容に関しても自分が書けなかったギルバートの部分がかなり良い感じ
だと思います。
一つだけ質問させてもらうと最後の行のセシルは何に疑問を抱いたのでしょうか?
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 18:45:56 ID:/BIm20Fk
え?えっと、ボムの異常な膨れ具合についてなんだけど………
この後の展開はバロン軍がファブールに攻めいる予定だから、
敵の戦力を削ぐためにゴルが山に特殊ボム送った、ていう話を
299さんが考えてたと思ったんだけど………深読みだった?
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 19:33:41 ID:RdyETJOG
おお、神よ…!まさか二人いたとは・・・!
53前スレ299:2005/06/01(水) 20:17:05 ID:VTOnSKX8
バロン軍がファブールに侵攻する事は触れるつもり
でしたが、そこにゴルベーザーの暗躍が……
という所までは考えていませんでした。
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/01(水) 20:50:28 ID:/BIm20Fk
>53
暗躍……っていうか、セリフ集でローザが普通に話してたよ
まああの説明口調をそのまま使うわけにもいかないんだけど

ところで、読み返してみるとヤンの攻撃描写が分かりづらいなぁ……
もうちょっと巧く書きたい……

>52
え?神とか呼ばれたの始めてだ
でも全然まだまだ むしろ欠点を指摘してくれい
次はもっと巧くするよう参考にするから
55前スレ299:2005/06/02(木) 00:27:01 ID:U4iLZDCv
FINAL FANTASY W #0099 3章 1節 モンク僧(11)

皆が安堵の表情を見せる中、セシルは一人疑問を抱いていた。
「あのボム達は僕らを狙っていた……」
セシルの経験に基づくとモンスターの中には二つの種類がある。
一つはただ道行く人を闇雲に襲うだけの者、もう一つは群れをなし、特定の相手だけをねらう者
普通、ボムは前者に該当されるはずである。
つまり、あれ程のボムが同じ対象に向かって攻撃してくるとは考えずらい。
それに異常に大きく膨れあがったボム……唯の野生の魔物と考えて良いのだろうか?
もしかすると長年、モンスターと戦い続けたセシルの思いこみなのだろうか。
「さて、君たちもファブールへ?」
そんなセシルの疑問をよそにヤンが訪ねてきた。
「ええ……まあ」
「しかし、何故ファブールへ? この御時世だというのに」
「それが……」
その時、セシルは岩陰に何者かの気配を感じた。
「待ってください、あそこに何かが」
「何?」
二人は岩の方に近づいた。
その途端、岩陰から影が飛び出してきた。影は手に太陽の光を受け
銀色に光るナイフを持ち此方に襲いかかってきた。
「リディア、危ない!」
ギルバートの叫ぶ声。
セシルは剣を抜こうとするが間に合わない。
しまった! そう思った。だが、その影がリディア襲う事は無かった。
56前スレ299:2005/06/02(木) 00:28:31 ID:U4iLZDCv
FINAL FANTASY W #0099 3章 1節 モンク僧(11)

セシルは影の方に目をやる、影の正体は男であった。歳はセシルと同じくらい、もう少し若いだろうか。
男は片方の手から血を流し、もう片方の手でそちらを押さえていた。側には輝きを失ったナイフが転がっていた。
一体誰があの状況で攻撃できたのだ。ヤンもギルバートも驚いた顔をしている。
セシルは辺りを見回す。するとローザと目が合った。
「ローザ、まさか君が……」
「ふふ、そうよ」
そう言って右手の弓を見せ、笑う。
セシルはバロンにいた頃の事を思い出した。ローザは弓の腕に関してはセシル以上の力を持っていた。
現にセシルが幼少の頃、バロンで弓の訓練をした時に飛び入りで参加したローザは一番の成績を残し、回りを驚かせたものだった。
「ちっ! しくじちまった」
男が舌打ちをする。
「その勲章はバロンの!」
セシルは男の腕の勲章に目をやる。
「くっ……」
「一体バロンは何をやろうとしているのだ」
セシルは訪ねる。
「ふん! 俺はお前達を此処で足止めするために遣わされた。だが、もう手遅れだな。
主力のモンク部隊がこの様ではファブールは終わりだな!」
「やはり……あのボムの大群もバロンの……」
「どういう事だ」
ヤンが声を荒げる。
「直にゴルベーザ様率いる赤い翼がファブールへ攻め込むであろう。そうすれば残りの
クリスタルはトロイアのだけだ!」
「一つ聞きたい。父……いや、バロン王は何故クリスタルを?」
「知らん」
そう言った後、男は崖の方へ後ずさった。
「ゴルベーザー様、万歳!」
そう言って地上へと落ちていった。
57前スレ299:2005/06/02(木) 00:31:46 ID:U4iLZDCv
FINAL FANTASY W #0101 3章 1節 モンク僧(13)

「……」
しばらくの間、誰も口を開かなかった。
「ヤン隊長、ご無事で」
男が駆け寄ってきた。
「あなた達も無事でしたか。良かった」
その男はセシル達がここに来る途中助けた男であった。
「ああ、この通りだ。だがここでゆっくりと言うわけにはいかなくなった」
ヤンは部下達の方へ向き直り言った。
「すぐに下山する。元気なものは怪我をしたものを助けてやれ」
「そう言えば聞き忘れていた。君たちは何故ファブールへ」
今度はこっちに向き直り聞いてくる。
「僕は、ダムシアンの王子、ギルバートです」
その問いに真っ先に口を開いたのはギルバートであった。
「何と! ダムシアンの件は此方にも聞こえている。王は……」
ヤンが全部言い終わる前にギルバートは首を横に振った。
「そうか……辛いことを聞いてしまったな。それで君たちは」
「僕と彼女、ローザはバロンにいたんです。この娘はリディアこの娘も……」
「もういい」
ヤンは踵を返す。
「暗い過去の話は止めにしよう。どんな過去を背負っていようと
皆、志す所は同じなはず」
そう言った後はヤンは此方に向き直った。
「そうであろう?」
「はい」
「では行くぞ。夜までには到着したい」
58名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/02(木) 19:12:17 ID:0vhFLDsl
(・∀・)イイ!! GJ!!
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/03(金) 22:04:10 ID:+MeIuuzO
あげ
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/03(金) 22:19:53 ID:seH+biCi
アーロン 「頑張ろうぜ!」
ユウナ  「はい!」
そして絆は深まりついに魔王をたおした

                     終わり
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/03(金) 23:31:42 ID:vbVWYuGt
>>60
氏ね
62名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 01:30:54 ID:uVCsoob3
そう言えば前スレが落ちたため、今まで書かれたやつが見られなくなってますね。
作者のみなさん、よろしければ前スレまでのを再度あげてもらえないでしょうか。
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 09:35:52 ID:3TThgdqi
俺も書きたいんだけど前スレが見れないから書けない・・・
64前スレ297:2005/06/04(土) 14:36:34 ID:kRj+ge4f
一応過去ログならありますんで、ろだでも指定してもらえればうpしますけど。
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 15:30:29 ID:uVCsoob3
66前スレ297:2005/06/04(土) 22:47:04 ID:kRj+ge4f
うpしてきました。
パスはFF4です。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 23:03:45 ID:IvEVNvYm
開けない(´・ω・`)
68名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 00:34:01 ID:STwAzdja
見れたよ、どもです。
69名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 00:47:37 ID:2dyeQX7/
すみません、落とせたんですが、開き方がわかりません・・・。
申し訳ないですが、どなたか教えてください。
70名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 01:10:23 ID:7OMVjtlt
lzhファイルを解凍するソフトをダウソしる。
Lhasaとかがあったかな。詳しくは別板で聞け。
別の理由の場合は知らん
71名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 01:13:33 ID:2dyeQX7/
いや、解凍は出来たんです。
その後何のソフトで開けばいいかが分からないんです・・。
72名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 01:28:59 ID:7OMVjtlt
解凍して出たファイルを適当にクリックしてたら開かないか?
73名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 01:41:25 ID:2dyeQX7/
拡張子がDVDのファイルになってて、クリックするとDVDのソフトが立ち上がります。
でもファイルは開きません。
ちなみに>>72さんは拡張子何になってて、何のソフトで開きました?
74名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 02:01:21 ID:7OMVjtlt
あー…俺、携帯からなんだわ。丁度今パソコン壊れててさ
正直そっからは答えようがない 生半可な知識で悪いな
スレ違いになってるし、悪いが他の板で聞いてくれ
75名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 02:06:02 ID:2dyeQX7/
そうですね。
そうします。
スレ汚しすみませんでした。
76前スレ299:2005/06/05(日) 17:38:58 ID:PxlrCNYA
>>75
見られないようでしたら
過去ログのFF4の部分だけを抜き出して此処にでも
書きましょうか?
77名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/05(日) 20:38:03 ID:RXxwcTit
>75
ファイル名の拡張子をhtmlにしてみた?
7875:2005/06/05(日) 22:10:44 ID:FVeMaS3m
>>76
お願いします。
本当申し訳ありません。
>>77
それが何度やっても無理なんです・・・。
Inter Video Media Fileのままで。

79名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:03:20 ID:n7UEATNe
◆HHOM0Pr/qI:04/08/16 23:57 ID:owYfNIv7
FINAL FANTASY IV  プロローグ(1)

バロン王国が誇る飛空挺団『赤い翼』の帰還を知らせるラッパが鳴り響き、王城は俄に活気付いた。
中庭の発着場では、遥かミシディアの空から戻って来る五機の飛空挺を迎える入れるため、大勢の技師たちが所狭しと駆け回る。
屋内では女官たちや侍従らが、謁見の用意を整える。
騒々しく整えられた舞台の中央を歩み、暗黒騎士セシルは、玉座の前に進み出た。
「『赤い翼』師団長セシル、返命に参上いたしました」
「うむ。して、首尾はどうであった?」
「はっ。これを……」
セシルは、傍らに安置した赤絹の包みを王の前に差し出した。
老いたバロン王の筋の浮いた手が、もぎ取るようにそれを受け取り、幾重にも巻きついた布を、毟るように解いていく。
ほどなくその中心から、六角柱型の結晶体が先端をのぞかせた。
ただそれだけで、澄んだ蒼い輝きが玉座の間を照らす。
王は眩しそうに顔をしかめ、今回の遠征で最大の戦果を、赤絹で再び覆い隠した。
「間違いなく、水のクリスタル……
 大義であった。セシルよ。
 下がるがよい」
跪き、深々と頭を垂れたセシルにそれ以上の言葉をかけず、王自らが玉座を立つ。
赤絹の包みを、両手でしっかりと抱え込んで。
続いてセシルが、騎士としての礼儀を守り退出する。
無事に使命を果たした彼は、長旅を終えたばかりで疲れ果てていた。
──否、彼を疲労させたのは、旅路でも、まして王直々に命を下された栄誉の重さでもなかった。
魔道士の郷ミシディアから奪ってきた、水のクリスタル。
その輝きを包み隠したあの赤は、彼の指揮によって蹂躙された人々の血で、染め上げられているように思えてならなかった。
80名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:04:28 ID:n7UEATNe
名前が無い@ただの名無しのようだ04/08/18 00:21 ID:LgTjd+fw
FINAL FANTASY IV プロローグ(2)

玉座の間から立ち去るセシル。しかし、その寸前で彼は足を止めた。
暫くうつむき、何か躊躇うかのように身じろぎ一つしない。
「何をしておる。疾く下がらんか。」
バロン王の傍らで、直立不動の姿勢を堅持していた近衛兵長ベイガンが威圧するように口を開いた。

ガシャ。鎧が擦れる音が玉座の間に響く。セシルは振り返り、階上のバロン王を見据えていた。
漆黒の兜から覗く瞳には決意の色が見て取れる。

「陛下! 陛下は一体どういうおつもりなのです! 私は…」

「セシル隊長、言葉を慎め!」
ベイガンが声を荒げ、セシルの言葉を遮った。
「クリスタルは我がバロン国の繁栄の為に必要。それはお前も判っているだろう!
彼の魔導士らはクリスタルの秘密を知り過ぎた。放っておけば我がバロンの脅威ともなりかねん。」
「しかし、我々は誇り高き飛空艇団"赤い翼"! 無抵抗な魔導士から略奪するなど……やはり私には解せません!
皆、陛下に不審を抱いております!」

暫くの沈黙が、玉座の間を包む。


「お前をはじめとして、か?」
バロン王が沈黙を破り、セシルを睨めつける。

弾かれた様に姿勢を正すセシル。
「いえ、決してそのような……」
「私が何も知らぬとでも思っているのか? お前ほどの者が私を信頼してくれぬとはな。
 残念だがこれ以上お前に赤い翼を任せてはおけん! 今より飛空艇部隊長の任を解く! 」
81名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:05:22 ID:n7UEATNe
名前が無い@ただの名無しのようだ04/08/18 00:23 ID:LgTjd+fw
FINAL FANTASY IV プロローグ(3)

「陛下!」
踵を返し、奥へ下がる王へセシルは追いすがる。
しかし、近衛兵のトライデントがその行く先を塞ぐ。
その姿を見ようともせず、バロン王は冷徹に言い放った。

「飛空挺部隊長の任に替わり、幻獣討伐の任に着け! それを終えるまで私の面前に立つことは許さん。下がれ!」

「陛下……!」
うなだれるセシル。

「お待ち下さい!」
そこに、青紫がかった甲冑を身に纏った青年が駆け込んできた。
バロン王は振り返り、彼を一瞥する。
「竜騎士団隊長、カインか。ふん、こ奴が気掛かりなら、お前もセシルと共に行くがいい!」
意にも介さず、再び彼らに背を向けるバロン王。

「陛下!」
「最早話すことなど無い。早々に立ち去るがいい。」
そう言い残すと、クリスタルを抱えたバロン王は玉座の奥へと姿を消した。

「陛下……」
セシルとカイン、二人の元騎士団長は、茫然とそこに立ち尽くすだけだった……。
82名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:09:17 ID:n7UEATNe
◆YFo8HFqYEU 04/08/18 18:24 ID:FT9pnQnc
FINAL FANTASY IV プロローグ(4)

「さぁ、もう出てください。」
残った近衛兵達がセシルとカインの前に立つ。
その表情には二人に対する哀れみの感情などはなく、淡々としたものだった。

突然、奥の扉が開く。
出てきたのは近衛兵人のリーダー、ベイガンである。
「セシル、カイン。陛下がお前たちに幻獣討伐の命を下された。
明朝、ミストの村までこの「ボムの指輪」を運ぶんだ。わかったな。」
ベイガンは薄い布で来るんだ指輪をセシルに渡すと、早々と奥の部屋へと戻っていった。

二人は謁見の間を出た。
「ベイガンめ。また陛下に媚を売っているのか。気に入らん。」
カインが悪態をつく。
「すまない。カイン、お前まで・・・。」
肩を落とすセシル。

「いいさ。俺は後悔はしていない。
それに幻獣討伐の任を果たせば、きっと陛下もお許しになる。また、赤い翼に戻ることが出来るさ。」
セシルを見て、カインが首を横に振った。
「気にするな。明日の準備は俺に任せて、今夜はゆっくり休め。」
83名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:10:31 ID:n7UEATNe
◆YFo8HFqYEU 04/08/18 18:29 ID:FT9pnQnc
FINAL FANTASY IV プロローグ(5)

「カイン・・・。」
セシルはもう一度カインに詫びた。
「気にするなと言っただろう。どうした?お前らしくもない。」
「僕は陛下の命令で暗黒剣を極めた・・・。でもそれは、バロンを守るためだ。
罪もない民から略奪をするためではなかったはずなのに。」
「そんなに自分をせめるな。」
見兼ねたかようにカインが言う。
「陛下にもお考えがあってのことなのだろう。」
「カイン。君が羨ましいよ。」
セシルは思わず本音を漏らした。
国のためといえども、負の力に走ってしまった自分は間違っていたと感じたのである。
「俺の父も竜騎士だった。
暗黒剣を極めれば、暗黒騎士と認められ階級もあがるだろうが、俺にはこっちの方が性に合う。
竜騎士でいれば、幼いころに死に別れた父をいつでも感じられる。そんなきがしてな・・・。」
カインは聞かなかった振りをして話す。
その気遣いに気づき、セシルは黙ってしまった。

「フッ」
カインが軽く微笑む。
「らしくない話をしてしまったな。ともかく、考えすぎるな。
お前がそんなんじゃ、こっちも張り合いがない。俺が一人で幻獣を倒してしまうぞ。」
その挑発的な一言に、セシルが思わず声を上げる。
「僕も負けはしない!」
セシルの顔は少し明るさを取り戻していた。
「明日は早い。早く休めよ。」
その表情を見て安心したのか、カインはそう言い残して広間の方へ行ってしまった。
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:12:33 ID:n7UEATNe
◆HHOM0Pr/qI 04/08/20 00:51 ID:fTQnkE+C
FINAL FANTASY IV  プロローグ(6)

”準備は俺に任せて、今夜はゆっくり休め”
カインの厚意に甘え、西の塔に与えられた私室へ向かうセシルを、ひとりの女性が呼び止めた。
「セシル!」
彼が振り向くのを待たず、ローブの裾を軽くはためかせて、声の主はセシルに駆け寄った。繊細な顔立ちと、意志の強い瞳を併せ持つ、白魔道士ローザ。窓から差し込む夕陽を受けて、緩やかに波打つ髪が、彼女の名に相応しい色彩を帯びている。
「良かった、無事だったのね。
 あまり急な任務だったので、心配したわ」
「無事さ、僕らは…
 無抵抗な魔道士相手に、傷など負いはしない……」
「セシル!」
捻じ曲げた口の端から自嘲を溢れさせた暗黒騎士を、咎めるようにローザが叱咤する。
その口調は、あたかも母か姉のような労りに満ちていた。
──孤児であるセシルの記憶には、そのどちらも存在しない。
ただ、あえて任務の内容に触れなかった、ローザの優しさが嬉しかった。
だが今はその気遣いも、かえって彼の傷を浮き彫りにしてしまう。
彼女の励ましに、すぐに報いることは不可能だった。
「後で、あなたの部屋に行くわ……」
「ああ…」
「それじゃ」
軽く首を傾げて見を翻すローザを、セシルはぼんやりと見送った。
迫る夕闇の中で、長い渡り廊下を遠ざかる後姿が、白く浮かび上がる。
たなびくローブの先端が角の向こうに消え、向きを変えようとしたセシルは、彼自身がまとう鎧の一部に目を止めた。
漆黒に赤を映しこんだそれが、返り血のように見えてしまい、セシルは一瞬、立ち竦んだ。
85名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:18:48 ID:n7UEATNe
HHOM0Pr/qI 04/08/21 18:06 ID:3X3H8PJ6
FINAL FANTASY IV  プロローグ(7)

「隊長!」
「セシル隊長!」
ローザと別れ、部屋に戻ろうとしたセシルを再び呼ぶ声は、彼の行く手、西翼の方から押し寄せてきた。
武装した兵士三人分の幅を持った階段から湧き出す、甲冑の群れ。
ついさっきまで部下だった、【赤い翼】の隊員だ。
よほど急いで駆けつけたのだろう、充分に鍛錬を積んだ彼らが、息を乱れさせている。
「…はぁはぁ……隊長……」
「本当なんですか…明日から、ミストに行かれると言うのは……」
「隊長が……団長の任を解かれたというのは!」
「ああ、その通りだ。
 ずいぶんと耳が早いな」
「何呑気なこと言ってるんですかっ!?」
「そうです!
 セシル隊長以外に、我ら【赤い翼】を束ねる者はいません!」
興奮しきった【赤い翼】の隊員たちは、声を潜めることをすっかり忘れているようだ。
──少なくともセシルの知る限り、バロン王は部下の進言も許さないような、狭量な人物ではない。
彼自身、今回の処遇は完全に予想外だったのだから、皆が驚くのも無理はない。
だが今となっては、どんな些細な内容であれ、王の采配に異を唱えるのは危険だと思わざるを得なかった。
このような城の一角で、不用意に話し込むのは賢明ではない。
「ここでは落ち着かないな。場所を変えよう。
 他の者は?」
詰め所です、との答えにうなずきを返し、セシルは彼らを誘った。
カインも許してくれるだろう。
まがりなりにも長の位置にあった彼が、突然に、隊を離れてしまうのだ。
きちんと事情を説明し──しばしの別れを告げる機会は、おそらく今しかないのだから。
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:20:45 ID:n7UEATNe
◆HHOM0Pr/qI 04/08/21 18:14 ID:3X3H8PJ6
FINAL FANTASY IV  プロローグ(8)

「来おったかー、セシル!」
兵に混じり、シド技師長の銅鑼声が、詰め所を訪れたセシルを迎えた。
奥の席で膝を崩し、沈んだ空気を跳ね除けるかのように、ジョッキをあおっている。
飛空挺の生みの親とも言えるシドが、この場所に顔を出すのは珍しいことではない。
『翼』の由縁たる天駆ける船を完成させ、整備を担う部下を育成し、さらなる性能の向上に心血を注ぐ。
彼が果たす役割は、飛空挺団という組織にとってある意味、指揮官よりも重要だ。
少々頑固だが面倒見がよく、実直な人柄もあって、目下からの敬意をよく集めている。
”騎士の代わりは大勢いるが、シド技師長はひとりしかいない”などと、軽口を叩く隊員は後を断たない。
「いろいろと言いたいこともあるが、まずはヒヨッコどもを大人しくさせるんじゃな。
 騒がしくてかなわん」
邪気のない悪態に、誰かが忍び笑いを洩らした。
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:21:19 ID:n7UEATNe
「皆、もう聞いているようだが……
 本日陛下から、飛空挺団隊長の職を辞し、幻獣討伐の任に就くよう申し渡された。
 後任については、近日中に通達があると思う。急な話ですまない」
セシルが口をひらくと、詰め所を満たしていたざわめきが、霧のように引いていった。
重い沈黙の中、シドひとりが、素知らぬ顔で喉を鳴らす。
やがて気落ちした声が、詰め所の床を叩いた。
「……申し訳ありません。
 我々が、不平など洩らしたばかりに……」
「気にするな。間違ったことを言った訳じゃない」
”赤い翼も堕ちたもんですよ!”
”なんと後味の悪い任務なんでしょう……”
クリスタルを奪ってバロンへ戻る道中、疑問の声を耳にするたび、セシルは彼らをたしなめた。
それが隊長としての務めであり、何より彼は、王を信頼していた。……していたがっていた。
だがやはり、内心は同じ思いでいたことを、部下たちは承知している。
誰もが抱いていたやりきれなさと、原因となる命令を下した王への不審。
その代償を、セシルひとりに負わせてしまったように感じているのだ。
これ以上、彼らを不安にさせてはいけない。
「陛下もいずれ、お心の内を明かしてくださるだろう。それまでの辛抱だ」
セシルはあえて楽観的に、自分自身を含めた全員に言い聞かせた。
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:28:56 ID:n7UEATNe
◆HHOM0Pr/qI 04/09/12 02:39:03 ID:jp6hg3rE
FINAL FANTASY IV  プロローグ(9)

兵たちとの話し合いを終えたセシルを捕まえ、苦笑する彼の前にむりやり杯を押しやると、おもむろにシドは口を開いた。
「ところで、魔物が出たと言っとったが……わしの可愛い飛空挺は無事か?」
「魔法具を使ったから、損傷はないよ。そちらは?」
「ああ、二度ほどこっちにもちょっかいをかけて来おった。
 留守番をしとった連中が懲らしめたようだが、おかげで船がボロボロだ。
 お前の部下は荒っぽくていかん。よく言っておけ」
本気で文句をつけるなら、セシルではなく後任の隊長に言うだろう。これは、早く元の地位に戻って来い、というシドなりの励ましなのだ。
だがそれにしても、バロンのほうでも魔物が現れたという、彼の言葉は気にかかった。
周囲のほとんどを壁で囲った街でもっとも恐ろしいのは、空を飛んで直接襲ってくる魔物たちだ。【赤い翼】の結成により、上空への備えは文字どおり、飛躍的に強化された。以前は追い払うことに主眼を置いていたが、深追いして止めを刺すことが可能になったのだ。
……だが、狩っても狩っても、襲撃は一向に減らない。むしろ、徐々に増えつつある。
バロン王も事態を放置してはいない。既に次の準備を始めている。だが。
「陛下は新型の飛空挺を作れとおっしゃるが……
 わしは飛空挺を、人殺しの道具になんぞしたくないんじゃ!
 町の者も不思議がっておる……」
セシルの憂いを読み取ったかのように、シドが深く息をついた。
誇り高い真紅の翼は、多くの民をその下に庇ってきた。空行く船を見上げる眼差しは、信頼と憧憬から、いつか恐怖に変わってしまうのだろうか。今回の遠征が、その先触れとなるのかもしれない。
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:33:55 ID:n7UEATNe
◆HHOM0Pr/qI 04/09/12 02:41:56 ID:jp6hg3rE
FINAL FANTASY IV  プロローグ(10)

「……ええい、ここでクヨクヨしても始まらん!
 わしは家に帰るぞ。最近詰めっぱなしで、娘がうるさくてな!
 セシル、お前も悩んでばっかりいるんじゃないぞ!
 若い者がそれではいかん!ローザも心配しとったぞ!
 ローザを泣かセたら、このわしが許さんからな!」
我慢の限界だと言わんばかりに、唐突にシドが怒鳴りだした。興奮すると彼は早口になる。立ち上がった拍子に椅子を蹴飛ばし、無意味に力強い足取りで、技師長は詰め所から出て行った。
何事かと驚いていた隊員たちが、セシルに視線を移し、苦笑する元隊長に同じ表情を返す。
シド=ポレンディーナ技師長は、実に気持ちのいい人物だ。しかし彼の相手をしていて、ときどき疲れてしまうのは、セシルだけではないようだ。
室内の2/3が仲良く肩をすくめたところで、問題の人物がひょっこりと戻ってきた。
「ともかく気をつけてな!
 幻獣など、お前の暗黒剣で一撃じゃ!」
それだけ言い残して、さっさと首を引っ込める。顔中真っ赤になっていたが、かなり飲んでいたわりに、遠ざかっていく足音は危なげがない。
口をつけぬままの杯を置いて、セシルも席を立った。
「……そろそろ、僕も戻ることにする。
 皆、元気で」
「はい、お疲れ様です」
「早く戻ってきてくださいよ!」
入口で一度向きを変え、全員に敬礼を送るセシル。
それを見送る隊員たちは、彼が階段の上に消えるまで、姿勢を崩すことはなかった。
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:35:52 ID:n7UEATNe
名前が無い@ただの名無しのようだ04/09/20 01:27:18 ID:VikeokYj
FINAL FANTASY IV  プロローグ(10)

隊員たちとの餞別もすみ、なお複雑な思いが交錯しながらもセシルは自室へと向かった。
「セシル隊長」
ふと誰かに呼び止められ振り返ると、そこにはまだ少女のあどけなさが残るメイドが心配そうにセシルの方を見ていた。
「どうしたんだい?」
「いえ、その…ベッドのシーツを、取り替えておきました」
「そうか、ありがとう」
セシルがそう答えると少女はかすかに頬を赤らめ、うつむいて視線をせわしなく動かした後にふうっと息をついた。
「明朝、出発なさるそうですね…どうか…今夜はゆっくりおやすみ下さい」
そういうと逃げるように立ち去っていき、少女を見送ったセシルは、「ありがとう」と呟いた。

自室に入ると、張り詰めていた空気がすっと落ち着いた。
先までの喧噪が嘘のようで、辺りには時計の音より他は何も聞こえなかった。
ただ、時々誰かの叫ぶような声を感じた。
そして、ミシディアで聞いた悲鳴を思い出した。

気がつくと、窓からはいつの間にか星が見えていた。
時計をちらりと見て、セシルはベッドに潜り込んだ。
時計の音は辺りの静けさと反比例して、機械的な音がセシルの中に刻まれていく。
「陛下は…どうされたのだ?以前はナイトとしても名をはせ優しく強い御方だった。孤児の僕やカインを自分の子供のように育ててくれた…」
セシルはぎゅっと目をつぶり、下唇を噛み締めながら、かちんかちんという音といっしょに魔導師たちの叫びを聞いた。
「ミシディアのクリスタル…無抵抗な村人から奪ってまで手に入れなければならぬ程の物なのか……命令とは言え…!」
それは何かを吐き出すかのように見え、時計の音は消えていた。
その代わりに透き通った女性の声を聞いた。自分の名前を呼んでいるようだった。足音が、少しずつ大きくなってくる。
セシルは壁の方へと寝返りをうった。
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:36:40 ID:n7UEATNe
名前が無い@ただの名無しのようだ04/09/20 01:29:13 ID:VikeokYj
FINAL FANTASY IV  プロローグ(10)

「セシル…」
また、名前を呼ばれた。心配するような、心を覗き込むような…
「急にミシディアへ行ったかと思えば幻獣の討伐に行くなんて。それに戻ってきてから、様子が変よ…」
しばらくの沈黙の後に、「なんでもないよ、ローザ」と押し殺した声が聞こえた。
「だったら、こっちを向いて」
「ローザ…」
肌の柔らかい感触を感じた。すべてを包容するような、冷え切った手を暖めるような。
「僕は…僕はミシディアで、罪もない人々からクリスタルを!この暗黒騎士の姿同様、僕の…僕の心も!」
「…あなたはそんな人じゃないわ」
「僕は陛下には逆らえない臆病な暗黒騎士さ」
「赤い翼のセシルはそんな弱音は吐かないはずよ!」
間髪いれずにローザが叫んだ。そして今度はゆっくりと、静かに言った。
「そんなこと、いわないはずよ」
「私の好きなセシルは…」
セシルは手にぎゅっと力が込められるのを感じた。暖かい。
ここで初めて、セシルは振り返ってローザに目を合わせた。
「セシルの顔、久しぶりに見たわ」
「僕も、久しぶりに君の顔を見たよ」
しばらく見つめ合ったまま、二人は動かなかった。
「明朝ミストに行く。もう遅いから、君も休むんだ」
「うん…。ねえセシル、私、あなたにもしものことがあったら」
「だいじょうぶさ。カインも一緒なんだからね。さあ、もう心配入らないから…」
「気をつけてね」
その言葉を後に、セシルは体温が下がるのを知った。足跡が遠のいていき、やがてかちんかちんと、例の規則的な音だけが聞こえてきた。
「ありがとうローザ。だが僕は暗黒騎士。きみとは…」
夜は、長かった。
92名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:40:36 ID:n7UEATNe
名前が無い@ただの名無しのようだ04/09/20 01:30:07 ID:VikeokYj
FINAL FANTASY IV  プロローグ(12)

翌朝、窓から暖かい光がセシルの体を照らした。
城門でカインと落ち合い、軽く会話を交わすと城門が開かれた。
「さて、行こうか。当てにしてるぜ、カイン」
「フッ、任せておけ」
「城下町のほうで軽く買い物を済ませよう。それなりに時間はかかりそうだから、テントなんかも必要だろうしね」
「そうだな。しかしな…それなりの時間、か」
なんとなく、カインには予感があった。
それはセシルが帰ってきたときから?
それとも王に幻獣討伐を命じられたときから?
わからない、しかし、何かを感じていた。

「カイン、どうしたんだい」
「いや…なんでもない。行くか、セシル」
「ああ、行こう!」



かくして飛空艇団赤い翼の部隊長であった暗黒騎士セシルは
その座を剥奪され竜騎士部隊長カインとともに
辺境の村ミストをめざし霧深くたち込める谷へとバロン城を後にした。
人々の夢であった天駆ける船、飛空艇。
しかし飛空艇の機動力は同時に邪悪な欲望を満たす手段になりえた。
飛空艇団赤い翼の存在により世界最強の軍事力を持つバロンはなぜクリスタルを求めたのか…
またあまたの魔物が白日の元に姿を現わし始めたのか… 
クリスタルはただ静かにその光をたたえていた…
あたかも全てを知っているかのように…
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:44:00 ID:n7UEATNe
>>78
とりあえず、プロローグ部分だけでも。
残りも続きを書こうと思っている人の混乱を避けるためにも出来るだけ
早く張りたいと思います。
94前スレ297:2005/06/06(月) 02:52:17 ID:JtGWVp49
すいません、なんだかアップの仕方が不親切だったようで……
貼ってくださったのは299氏でしょうか?
自分の不尾なんで、差し出がましいようですけどあと引き継がせて頂きます。
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:56:29 ID:JtGWVp49
◆HHOM0Pr/qI <>sage<>04/09/25 02:27:57 ID:U9pk8aWi
FINAL FANTASY IV #0014 1章 1節 闇と霧の邂逅(1)

バロンの北西、ミストの村への道程は、山脈に遮られてはいるものの、しばらくはなだらかな平野が続いている。見晴らしの良い草原のただなかで、セシルとカインは、6体からなるゴブリンの群と対峙していた。
「やれやれ、またか。やはり最近、なにかがおかしい」
この卑小な妖魔に出くわすのは、バロンを出てから早くもこれで4度目である。
魔物としてはもっとも弱い部類に入り、セシルたちにとっては、苦もなく一撃で葬ることのできる相手だが、こうも頻繁に出てこられては、さすがに鬱陶しい。
それにこの程度の、物陰にでも潜んでいるべき小物までが、白昼に数多く徘徊しているというのも──あまり良い兆候ではない。
「一ヶ所に固まっているな。僕が片付けよう」
相棒の応答を待たず、セシルは剣を抜き放った。漆黒の刀身をかざし、その先端に意識の焦点を合わせる。
剣に染み付いた闇が、周囲の空間をも侵蝕する手応えを得て、セシルは一気に刃を振り下ろした。巻き起こった黒い風が彼の生命の一部を喰らい、仮初めの意志を得てゴブリンたちに踊りかかる。
悲鳴。飛び吊る体液。そして、断末魔。
斬撃を経て殺気を衝撃波へと変化させ、広範囲の敵を切り刻む──暗黒剣を極めた者のみが放つ奥義である。
「こんな雑魚にいちいち奥の手を使っていては、ミストまで保たんぞ?」
「いい加減、僕もうんざりしてるからね。
 次はお前に任せるさ」
「フッ、いい心がけだ」
カインと冗談を交わしつつ、敵に触れることのなかった剣を鞘へと戻すセシル。だがその額には汗が浮いている。人間が負の力を操ることの代償だ。
こころなしか、普段よりも疲労が重く感じられるのは、己の技に対する迷いのせいか。
96名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 02:57:43 ID:JtGWVp49
<> ◆HHOM0Pr/qI <>sage<>04/09/25 02:34:15 ID:U9pk8aWi<>
FINAL FANTASY IV #0015 1章 1節 闇と霧の邂逅(2)

徐々に立ち込めていた霧が、山裾の川を越えるた途端に濃くなった。緑の乏しい傾斜面の一角に、巨人が切り欠いたかのような絶壁がそびえている。灰白色の壁のほぼ中央、足元の道とが交わる箇所だけがごっそりと抉れ、粘性の低い闇を湛えていた。
ミストの大鍾窟。バロン平野とダムシアン砂漠を隔てる山脈を貫く、唯一の道である。
古くから山向こうへの抜け道として重宝されてきたが、その最奥を極めたという記録はない。人知を超えた造形の妙と、常に湧き出し続ける霧のため、幻獣界や冥府に通じているとも信じられてきた。
しかしセシルもカインも、実際にこの洞窟を利用するのは今回が初めてである。近年、やはり魔物が増えているという内部に足を踏み入れ、まず暗闇に目を慣らした。ただでさえ幻獣の居場所は掴めていないというのに、充分に視界の効かないまま動き回る訳にいかない。
瞬きを繰り返すうちに見えてきた光景は──それこそ、この世のものとも思われなかった。
「……凄い」
「ああ。話には聞いていたが、これほどとは……」
小屋ほどの面積をもつ巨大な円盤が、互いに重なり合いながら見渡す限り敷き詰められている。一枚の厚みは、およそ成人男性の半分ほど。せせらぎの音が幾重にも反響し、ひんやりと湿った空気は白く濁っている。
片や竜騎士、片や元飛空挺団の隊長、いずれも天空を自在に飛び回るのが本懐である戦士たちは、初めて目にする地底の光景に、声もなく見入っていた。
どちらからということもなく、再び足を動かし始めるで、どれほどの間があっただろうか。
霧に濡れた足場を気遣いながら歩を続ける彼らの耳に、『その声』は囁きかけてきた。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:04:12 ID:JtGWVp49
04/10/04 20:57:02 ID:/DgxB9YB1章 1節 闇と霧の邂逅(3)


そのとき、女性の透き通るような声で、「引き返しなさい」と聞いた。
セシルは霧の中に何者かと叫び問うたが、何の返事も得られなかった。
セシルはカインの方を見ると、カインは肩をすくめて歩き出した。

セシルたちの通るミストの洞窟は霧深く閉ざされており、
中に入ったものは寸分先を見るのにも神経がいるほどであった。
その怪しげな空気が邪なものを引き寄せるのか、内部には地上よりも多くの魔物が潜んでいる。
そうはいっても軍事国家バロンが誇る赤い翼、竜騎士団の隊長ともなれば、
どんなに群れてかかってきてもまだまだ役不足な相手であった。
そこでセシルたちは別段どうということもなく現れる魔物を切り伏せ突き進んでいったが、
何しろ先に述べたように霧が深く、少しの油断がどんな危険に繋がるかわからないという状況である。
魔物どもはこのような劣悪な環境に慣れているのか、視界の不利は力の差を少しは縮めていた。
それが決定的なものになるほどではなかったにせよ、
特に巨大な蛾のようなこの洞窟特有の魔物、インセクタスの存在はセシルたちを驚かせた。
もっとも、決して強いということはなく、地上にいるハリネズミのようなソードラットなどのほうがまだいくらか手強いだろうが、
やはり霧という特殊な状況がことさらにインセクタスにとっては有利なものであった。
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:09:17 ID:JtGWVp49
04/10/04 20:58:52 ID:/DgxB9YB

「カイン、こっちであってるのかな?」
「さあな。なにせこう霧が深いとな…」
不安げに口を開いたのはセシルであった。
それに答えるカインの口調もまた少し不安げであった。
なにしろ、同じところをぐるぐると回っているような感覚が二人の間にはあった。
視界すら頼りにならぬ状況である今、セシルたちは己の感覚を信じるより他なく、
ただどこからか感じる大きな気配にむかってひたすら歩くのみなのだ。
そのような不安が二人に影を落としてしばらく、代わり映えのない呆れるほど真っ白な光景に変化がおとずれた。
二人はあたりにびりびりと凄まじい殺気を感じ、思わず足をとめて辺りの様子を窺ったが、
霧はただ深まるばかりで何もわからず、いや、霧の深まりを感じ取り、身を強張らせて剣と槍を構えた。

「すぐに立ち去りなさい」

それは入り口付近で聞いた声と同じであったが、語気は鋭くなっており、なによりも周囲の空気が違っていた。
しかし、その声のあとは再び静寂が二人を包み、張り詰めていた空気も穴があいたように和らいだ。
「幻獣、じゃないか?今の声は…」
カインがいうと、セシルは「そうかもしれない」といい、眉間に皺をよせて再度足を前に踏み出した。

「やはりいくのか?」
「…そのためにきたんだ」
「そうだな…。しかし、嫌な予感がするぜ」
自分たちが感じていた大きな気配に何かしら推測がつき、自分たちの進む方向に確信を持ち始めたが、
それと同時にまた別の憂色が二人の顔に漂い始めたように見えたが、それはさらに深くなった霧の所為によるものだろうか。
心臓の鼓動が高まってきた。きっと出口がすぐそこにあるのだろう。
しかし、この鼓動はなんだというのだ?
そのとき、あの声が聞こえた。
99名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:12:43 ID:JtGWVp49
 04/10/18 20:47:47 ID:sI2zGCOz

「バロンの者ですね…」
「誰だ!姿を見せろ!」
カインが鋭く叫んだ。やはり、この声の主が幻獣なのか?
声の主は穏やかな、それでいて厳かな口調で続ける。
「ここで引き返せば危害は加えません。即刻引き返すのです。」
「そうはいかない!」
次に声を上げたのはセシルだ。ここまで来て、引き返すわけにはいかない。
「このボムの指輪をミストの村まで届けなくてはならないんだ!」
「引き返す気はないのですね…ならば…仕方ありません!」
声の主がそう言うが早いか、それまで洞窟の中にたちこめていた霧が彼等の目の前一点に集まり、龍の形を作り上げて行った。
「やはりお前が幻獣か!覚悟!」
カイン槍を構えてが叫んだ時には、霧の固まりは白銀に輝く美しい龍――ミストドラゴンへと変貌を遂げていた。
100名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:14:27 ID:JtGWVp49
04/10/18 20:55:00 ID:sI2zGCOz<> 「覚悟しろ、幻獣!」

セシルは剣を抜くと一気に間合いを詰め、そのまま跳躍して幻獣に斬りかかった。
そして剣一閃、一撃で幻獣の身体を斬り裂いた、はずだった。
「!?」
おかしい。手応えがない。確かに幻獣に斬撃を浴びせたはずだ。
セシルがあわてて後ろを振り向くと、そこには全くダメージを受けていないドラゴンがいた。
「愚かな。私の身体は霧。故に私を斬る事など…」
幻獣はセシルの方に向き直り、高く舞い上がると、
「出来ないのです!」
牙をむき、暗黒騎士めがけて突進する。龍の牙はセシルの肩を捕らえ、高々と持ち上げていく。
「セシル!」
戦友の名を叫び、カインは高く飛び跳ねた。ドラゴンの真上まで達すると、そこで槍を振り下ろした。
幻獣は口で持ち上げていたセシルを放すと、カインの攻撃を避けた。二人から離れ、一旦距離を置く。
幻獣が充分に離れるのと同時に、セシルが岩の地面に叩きつけられる。
「大丈夫か!?」遅れて落ちてきたカインが、友の肩の傷にポーションで応急処置を施しながら続ける。
「しかし厄介だな…攻撃が全く効かないとは…」
「全くって訳じゃないよ、カイン。」傷を手で押さええながら、セシル。
「どういう事だ?」
「簡単な事さ」首をかしげる竜騎士に、セシルは続けた。
「奴は僕の方に噛み付いたし、頭を攻撃されそうになったら慌てて避けた。つまりあいつは頭が弱点だ!」
101名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:21:15 ID:JtGWVp49
04/10/18 20:56:08 ID:sI2zGCOz

「なるほど…だがどうする?奴の動きは素早くて、そうそう簡単に仕留められなそうだが…」
「それなら僕に考えがある。聞いてくれ。」
そういってセシルがカインの耳元で何かを伝え終わった直後、幻獣が動き出した。
「何を考えておいでですか?頭を潰そうとしているなら」
途端、ドラゴンの身体が霧へと戻りはじめた。洞窟の中に再び充満して行く。
「煙幕をはって隠すまでです。」
頭だけとなった幻獣はそう言うと、深い霧の中に紛れていった。
「よしカイン、やってみよう!」
何も見えない中、セシルが怒鳴る。
「わかった!また後でな!」
カインも怒鳴り返すと、再び高々とジャンプした。
竜騎士の極意は、槍を振るう腕もさることばがらなによりその「脚力」にある。
瞬時に遥か上方へと跳び、そのまま落下の勢いを使って一気に槍を自分もろとも叩きつけるのだ。
洞窟の壁を跳んで登り、ある程度の高さで止まって下を見たとき、カインは息を呑んだ。
セシルと幻獣がいると思われる部分に、霧が集中していたのだ。
標的の視界を潰すために作り上げられた霧のドームに、カインは槍を向け、待った。あとはセシルを信じる他ない。
――簡単な囮戦法で叩くんだ。僕が奴をひきつけるから、カインはどこか高いところにジャンプして待っていてくれ――
「頼むぞ、セシル…」カインは洞窟の壁につかまって槍を下に向け、ひたすら待った。
102名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:23:16 ID:JtGWVp49
04/10/18 20:57:08 ID:sI2zGCOz

一方、セシルは剣を構え、その場に立ち尽くしていた。
自分を包む白銀の霧など見えてはいない。代わりに彼を取り囲んでいるのは、音一つない闇の世界。
心を無にし、敵の気配一点に精神を集中しているのだ。
いま、霧の幻獣ミストドラゴンはセシルの周りを素早く飛び回り、彼を翻弄しようとしている。
その状態が暫く続いた後、幻獣は攻撃を仕掛けてきた。背後から牙をむいて飛びかかってきたのだ。
大きく開けられた口が噛み合わされた時、そこに暗黒騎士の姿はなく、代わりに真横から剣の切っ先が襲いかかってきた。
目を突かれる寸でのところでくるりと回転して攻撃を避け、再びドラゴンの頭は辺りを飛び回り始める。
「さすがですね…この霧のなかで私の動きを捉えているとは。」
「甘く見ないで欲しいな、幻獣。その程度の動きなら、容易に掴める。」
「よろしい。では、これはどうです!?」
不意に、幻獣の動きがセシルの真正面で止まった。口の中に霧を集め、凝縮し、こちらに向かって吐き出そうとしている。
「今度はこちらからも行かせてもらう!」
セシルは叫び終えると、再び剣を構え、意識を一点に集中した。
剣の刃に、魔力にも似た黒いオーラが集まっていく。弱小な魔物を一瞬にして全滅させた、あの技を再び放とうとしているのだ。
もっとも、今回は普通の魔物を倒した時とは比べ物にならない威力を秘めているが。

白銀の霧を凝縮して撃ち出されたブレスと、セシルの生命の一部を食らった漆黒の斬撃が放たれるのは、同時の事だった。
103名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 03:25:01 ID:JtGWVp49
04/10/18 21:15:11 ID:sI2zGCOz

幻獣は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ただ、自分が深手を負ったことだけは確かだ。
セシルの放った暗黒の刃は、幻獣の放ったブレスを弾き飛ばし、さらに幻獣の片目を切り裂いたのだ。
「く…よくも!」
毒づき、再びブレスを放とうとする。だが、先ほど受けたダメージは思った以上に大きく、ほぼ全く動けない。
「気付いて…いないようだな…お前は、今、煙幕の…外だ…」
その場にうずくまりながら、セシル。攻撃の反動で、こちらも満身創痍だ。
そして幻獣は、自分の今置かれている状況にようやく気付いた。
煙幕の外から出てしまい、待ち構えていた竜騎士に丸見えだ。
何より、その竜騎士は、槍の切っ先をこちらに向け頭上から凄まじい勢いで襲いかかってきている。

次の瞬間、カインの槍は、ドラゴンの残った片目を深深と貫いた。
ミストドラゴンは、悲鳴とも金切り声ともつかない断末魔の絶叫を上げ、果てた。

「はは…終われば…ハァ…楽だったな…」座り込み、肩で息をしながらセシルが言う。
「何が楽だ。ぼろぼろじゃねえか」カインが笑いながらセシルを助け起こしてやる。
「さあ、日の暮れないうちに指輪をミストの村まで届けよう。村へ指輪を届けたら一晩休んで、後はバロンへ帰還するだけだ。」
「帰還するだけ…か…」
「ああ、あと2,3日もすれば飛空艇隊隊長に返り咲けるさ。」
カインはそういって、ハハッと笑って見せる。
だが、この時二人とも何か言葉では言い表せない、嫌な予感のような物を感じていた。
心なしかその予感は、洞窟の出口に近づくごとに大きくなって行くような気がした。
104前スレ299:2005/06/06(月) 20:03:31 ID:CBs787jx
前スレ297さん
乙です。そしてお久しぶりです。
79から92までのを貼ったのは私です。
105名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/06(月) 21:51:10 ID:we/bFmUQ
>>104
106名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:02:31 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI 04/10/29 00:27:09 ID:WnTECZXo

FINAL FANTASY IV #0023 1章 1節 闇と霧の邂逅(10)

濡れ輝く床に伸びた幻獣の骸が、細かな霧の粒となって掻き消える。出口から差し込む光に、白く浮き上がった靄をかき分け、セシルたちは洞窟を抜けた。
ミスト側の出口は、東西に伸びた谷の端に位置している。左右に迫った峰を見渡し、冷え冷えとした空気を深く吸い込んだ。いくら壮観であろうとも、長く地底に留まるのは、やはり2人の気性に合わない。
「どうやら無事に着けそうだな。
 厭な予感がしていたんだけど」
天を刺す古木の合間、蛇行しながら伸びる道の彼方に、かがり火らしき光が見えている。霧深い谷底の村では、一日中こうして火をともしているのかも知れなかった。
直に目的地を確認し、一息ついたセシルをからかい半分にカインが諌める。
「その油断が危ないのさ。落とすぞ」
「そのときは、ドラゴンに壊されたって事にでもしようか」
唇の端を歪め、左腕に巻きつけた袋を軽く持ち上げるセシル。幻獣の攻撃で背嚢の紐が千切れてしまったため、こうして手で持っていくことにしたのだ。中に入れていたポーションの瓶も、岩場に叩きつけられた際の衝撃で、半分以上が割れてしまった。
片手が塞がってしまうのはできれば避けたい所だったが、下手に修繕しようとしてかえって不安定になるよりも、こちらのほうが良いと判断したのだ。
「フッ。それじゃもう一匹出てくる前に、さっさと行くとしようか」
ミストの村はすぐそこだ。幻獣を退けてからは、魔物が現れる気配もない。任務の成功は疑いないように見えた。
それでいてふたりとも、何故か、得体の知れない不安を抱えている。既に幻獣は倒したというのに、現れる前よりもむしろ危機感が募っていた。過度の緊張に陥らないよう、互いに冗談を言い合いながらも、気を緩めることはない。
だがいくら彼らが己の精神をコントロールしようとも、漠然とした予感は、人知れず明瞭な悪夢へと変貌を開始していた。
形なき霧が凝縮し、鉄をも噛み砕く竜の顎と成ったように。
107名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:04:30 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI 04/10/29 00:29:02 ID:WnTECZXo

FINAL FANTASY IV #0024 1章 1節 闇と霧の邂逅(11)

いち早くその予兆に目を止めたのはカインだった。場違いな色が視界の右端を過ぎ去り、それが袋から漏れた赤い光を反射した、セシルの篭手だと気がついた。
「おい、荷物が光ってるぞ?」
不定期に瞬く赤い光は、徐々に大きくなっていくようだった。驚いたセシルがその源を取り出す。
「指輪が光る……!?」
赤々と、いまや燃えるように光を放つボムの指輪。表面を覆う薄い布地がほどけぬように施された、見慣れぬ紋の封蝋に、セシルの指先が触れた。
幻獣との戦いの中、その封は衝撃に歪み、割れた瓶の破片によって損なわれていた。辛うじて原形を保っていた所に、鋼鉄の武具が、爪の先ほどもない小さな傷を付け加えたとき──紋章の形は決定的に崩れ、その効力を失った。
「つっ!」
指先に鋭い痛みが走る。セシルは咄嗟に手の中のものを放り投げた。
赤い星がさかしまに流れる。宙に投げ上げられた塊は、本物の炎によって倍以上の大きさに膨れ上がっていた。
瞬く間に消し炭と化したその中心から、一抱えもある巨大な火の玉が次々に生み出されていく。
小さな装飾品は、その名と同じ魔物を虚ろな環の中に封じ込めていたのだ。
ボム。虚空に漂う紅蓮の中に、残虐な笑みをたたえた人間の顔を浮かび上がらせた、生命ある炎。
握り拳大の核を包んだ火ももちろん厄介だが、本当に恐ろしいのは、手傷を負うか同族以外の炎に触れた途端に弾け飛び、自らの消滅と引き換えに周囲を焼き尽くすその性質だ。
20体以上はいるボムたちが、当然自分達に襲い掛かってくるものとセシルたちは考え、あわてて武器を構えた。
しかし魔物はふたりを無視し、前方に見えるかがり火に向け、獲物を追う猟犬のように群れ集い空を滑る。
少なくとも今すぐに、圧倒的な数の敵を相手にする羽目には陥らずに済んだが、2人にとってそれは必ずしも幸運ではなかった。
なぜなら、ボムの群れが目指す先には──
「まずい!」
「……村が!!」
遠ざかる魔物の列を追い、全力で駆け出す2人の騎士。
しかし炎と競うには、人の体は重すぎた。
108名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:07:57 ID:gxvnyl8c
FINAL FANTASY IV #0025 1章 1節 闇と霧の邂逅(12)
押し寄せる魔物に気付いた村人たちの悲鳴が届く。
ボムの体が爆散する音が立て続けに空を裂くたび、大気は焼け焦げ、苦しげな唸り声を上げた。
ミスト村の入口でふたりを迎えたのは、村境をなす石柱の列を足場に踊り狂う炎の群れだった。沈みゆく太陽が、誤って堕ちてきたかのような光景だ。
張り巡らされた柵が燃え落ち、代わりに真紅の壁が、村への進入を永遠に阻んでいる。
「……これは!」
せめてもの抵抗のようなカインの叫びは、鉛のように鈍い。
「このために、僕らはここまで……?」
「この村を……焼き払うため……」
声の震えをセシルは自覚した。冷汗が背を濡らす。火傷した指先の痛みも、心中の激情に比べればどうということはなかった。いっそ潰れてしまえとばかりに、強く拳を握る。
そのときだ。村全体を巻き込んで渦巻いた炎の中に、人影のようなものが見えた。
一瞬の迷いもなく、セシルは村中に飛び込んだ。吹き付ける熱風に思わず顔を庇ったところを、強引にカインに引き戻される。
腕を掴まれたまま、ひたすら炎の中を凝視するセシルの前で、その人影はゆっくりと、見せつけるようにゆっくりと、崩れた。
「…………陛下……」
カインが腕を放した。
力なく膝をついたセシルの瞳が、視界を埋めた赤に重なり、ある幻影を映し出す。
決然と炎に消える騎士の背中。その高潔を誰もが称えた、昔日のバロン王の姿を。
かつて実際にこのような光景を目にしたことがある、というわけではない。
しかしバロン王は、セシルが鑑としてきた彼の養父は──もしこの場に居合わせたなら、こうした行動を取るはずだった。
罪もない他国の町から、力ずくで何かを奪うような命令を下したりはしない。
どんな理由があろうとも、村ひとつを丸ごと焼き滅ぼすような真似をするはずがない。
「……何故だ……」
そういう人だった。そういう人なのだ。それなのに。
この惨劇は、何故起きた?
「なぜだぁッ! バロン王ーッ!!」
両の拳を大地に叩きつけて問う。過ぎ去った幻影が、何を答えるはずもなく。
業火に呑み込まれたのは、あるいはセシルが寄せていた、信頼そのものでもあったかもしれない。
迸る慟哭もまた、炎に巻かれ、何処へともなく消え失せた。
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:13:29 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI 04/10/29 00:33:01 ID:WnTECZXo

FINAL FANTASY IV #0026 1章 1節 闇と霧の邂逅(13)

白霧に抱かれてあるべき村を、異臭と黒煙が覆ってる。
ミストの村を蹂躙し尽くした炎は、日没を境に衰えを見せ始めた。
「あれは……?」
煤を巻き上げる風が、細い嗚咽をも運んでくる。
声の主を求め、セシルたちは二手に分かれた。
炎に沿って村はずれを回り込み、まもなくセシルは、風の加減か辛うじて焼け残っている草地と、しゃがみこんだ1人の少女を見出した。
10歳ぐらいだろうか、仰向けに倒れた女性の体にすがって泣いている。
少女に怪我はないようだが、両手で顔の上部を隠したその女性は、指先から胸元にかけて、赤茶の乾いた血がべったりとこびりついていた。
「大丈夫か!?」
突然の声に驚き、少女が顔を上げる。赤く腫れた瞼が、大きな瞳の半分以上を隠していた。白玉を連ねた紐で束ねた、若草色の髪がひとふさ揺れる。
「おかあさん……おかあさんが……」
甲冑の下で、罪悪感がセシルの胸を抉った。火事が直接の原因ではなさそうだが、そんなことはこの際関係ない。
鼻の詰まった声で訴えかけるこの少女に、せめてもの償いを彼はしなければならない。
「ここは危ない。もう少し、村から離れないと」
か細い腕を取ったが、少女は首を振って動こうとしなかった。もう片方の手で、事切れた母親の服を掴んでいる。
セシルは少女の手を離すと、代わりに母親の骸を抱え上げ、斜面になった草地を昇った。無言のまま少女が後に従う。
十分な距離を取って、柔らかな草の上にセシルは遺体を横たえた。
肩を震わせる少女に予備のマントを手渡すと、亡骸の側に跪き、胸の上で指を組ませる。
続いて瞼を閉じさせようとして、彼女が顔面に負った傷の奇妙さに気付いた。
両目が、片方は薄刃に裂かれたような、もう片方は針で突き刺したような、互いに全く異なる方法で傷つけられているのだ。
どちらも異様に小さな傷だ。このような傷を与える魔物の話は、聞いたことがない。
あきらめて、荷物の中から手頃な布を探して顔の上に被せ、瞑目する。
セシルが唱える弔いの言葉に、途中から少女の声が合わさった。
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:14:02 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI  04/11/13 23:12:30 ID:f7bJvalq

FINAL FANTASY IV #0027 1章 1節 闇と霧の邂逅(14)

短い祈りが済んで顔を上げると、村を一周してきたカインの姿が目に入った。炎上する村を背にして、影絵のように全身が黒く塗り潰されている。
ひとりだった。
「カイン!」
セシルの呼びかけに、傍らの少女が身を震わせる。
「大丈夫、僕の友達だ」
怯えた様子を見て取り、セシルは少女に声をかけた。
首を竦め、合わせたマントを内側から握りしめた子供の、不安げな瞳に気付いているのか、カインは足早に坂を上って来る。
「セシル、この子は……?」
「村の外れにいた。どうも、母親が何かに襲われたらしい」
「!
 そいつはまだ、近くに?」
穏かならざる情報に、槍を掴むカインの手に力が篭る。頭部のほとんどは竜の上顎を象った兜に隠れているものの、険しい顔をしていることは想像に難くない。
「いや──気配はない。それに、この子はなんともないんだ」
未知の魔物が、近くにいるかもしれない。その考えに、セシルの表情も自然と厳しくなる。その腕を、小さな手が軽く叩いた。
「……ドラゴンが……」
多少落ち着きを取り戻したのか、あるいは剣呑な空気が危機感を高め、なすべきことに思い至らせたのか。セシルの注意を引いた少女は、初めて、かすれた声をあげた。
「お母さんのドラゴンが、死んじゃったから……
 お母さんも……」
深緑色の瞳に大粒の涙が盛り上がり、少女は喉を詰まらせた。頬の丸みに沿って、煤で汚れた顔に縞模様が浮かびあがる。嗚咽の声がまとわりついて、セシルの手足を縛った。
「おか……おか……っ……」
家族を失くしたばかりの子供に、最初からの筋道立った説明を求めるほうが酷だろう。カインも、無理に先を促そうとはしない。
なにより、今絞り出された言葉だけでも、恐ろしい疑惑をふたりに抱かせるには充分だった。
大股で死体に近づき、顔に被せた布をカインがめくりあげる。死者の顔が、再び露わになった。大きさこそ違え、ふたりが幻獣に与えたものと、全く同じ形の傷が。
111名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:14:28 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI 04/11/13 23:14:15 ID:f7bJvalq

FINAL FANTASY IV #0028 1章 1節 闇と霧の邂逅(15)

「……そういうことか」
「馬鹿な!
 あのドラゴンの正体が、この女性だったって?」
そんなことがあるはずない。人間が、竜に変わるなど。
それだけが、セシルに残された逃げ道だった。しかしただひとつの命綱を、沈痛な友の声が断ち切る。
「聞いたことがある。
 魔物を呼び出す力を持った者。確か……
 召喚士!」
「まさか……
 僕たちが、あのドラゴンを倒したから……」
乾ききった唇から、未練がましい言葉が滑り落ちた。
見苦しい真似をしている。この期に及んで、なお目を背けようとするセシルを、頭のどこかで誰かが笑う。
足元に横たわる女性の顔に視線を落とした。まだ若かった。セシルと十も違うかどうか。苦悶に歪んだ表情は、無念を訴えているようだ。
村を守りきれなかった、バロンの魔手を阻めなかった、それが彼女の心残りなのだろうか?
「じゃあ……おにいちゃんたちが、お母さんのドラゴンを!」
「まさか……君の母さんを……殺してしまうことになるとは」
釈明とも謝罪ともつかない、白々しい回答に、少女がその場に膝をついた。放心したように、大きく見開いた深緑の瞳でセシルを見上げる。物々しい闇色の甲冑をまとい、漆黒の仮面で顔を隠した暗黒騎士を。
「指輪のことといい、陛下はご存知だったのだろうな。
 そのつもりで俺たちを来させたんだ。
 この村の召喚士を、全滅させるため……」
「なんて事だ……」
そんな暴挙に、彼らは手を貸してしまった。あろうことか、その『手柄』で元の地位に返り咲こうなどと、愚かな期待を膨らませて。
容赦のないカインの指摘を受けて、今更のように、後悔がセシルの胸を蝕んだ。たまらず、目の前の少女から視線を外す。
だが彼の親友は、どんな残酷な事実であろうと、逃げ出す男ではなかった。
112名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:19:25 ID:gxvnyl8c
FINAL FANTASY IV #0029 1章 1節 闇と霧の邂逅(16)

「可哀想だが、この子も殺らねばならんようだな」
「カイン!」
少女に向けられた鋭い穂先と、それを握る友人の顔を、信じられない思いでセシルは見た。
「殺らねば俺たちが殺られる!
 気付いてるだろう、一歩間違えば、俺たちも炎に巻かれていた!!
「…………!」
「それでも構わないと、王はお考えだった。ここで任務にしくじれば、粛清は目に見えている」
息を呑んだセシルに、憐れむような眼差しを投げかけるカイン。
彼はセシルより、たった一つ年上であるに過ぎない。だが、その一年が大きな意味を持つ少年時代を、ふたりは共に過ごした。
自然と形作られる、兄弟に似た役割の差。その結果が今、現れている。
たぶん、彼の言うことが正しいのだろう。
「だからって……子供だぞ!」
「陛下に逆らえるか?」
「こんな殺戮を繰り返してまで、陛下に従うつもりはないっ!」
ミシディアで浴びた血の臭いも薄れぬうちに、こんな光景を見せ付けられれば、もうたくさんだ。
たとえその選択が、カインとの決別をも意味しようと、退くつもりはない。
「フッ、そう言うと思ったぜ。
 ひとりでバロンを抜けるなんて、させやしないさ」
無我夢中の叫びに、カインの腕から力が抜けた。兜の下からのぞく口元が、人の悪い笑みを浮かべる。
「……カイン?」
「いくら陛下に恩があるとはいえ、竜騎士の名に恥じる真似を、出来る訳なかろう」
親友のくせに、そんなことも分からないのか──子供っぽい拗ねた口調に、セシルは赤面する思いだった。こんな幼い少女を本気で彼が手にかけるなど、一瞬でも信じてしまうとは。
「だが、バロンは世界一の軍事国家。俺たちふたりが粋がった所でどうにもなるまい。
 他国に知らせ、援護を求めんことにはな」
あさっての方を向いたまま、強引に話を続けるカイン。彼が照れていることが、今のセシルは手に取るようにわかる。
「ローザも救い出さんと!」
「ありがとう。カイン」
率直な感謝に、ますますカインは照れた。首が真横を向いている。さんざん掌で踊らされたセシルの、ささやかなお返しだ。
「別に、お前の為じゃない」
ただの照れ隠しにしては、その声はやや硬かった。
113名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:20:08 ID:gxvnyl8c
267 04/12/19 18:20:38 ID:1zvDFjoI 

FINAL�FANTASY�IV #0030 1章 1節 闇と霧の邂逅(17)

そんな二人を余所目に炎はますます勢いを強くしていた。
ほんの少し前まで人が暮らしていた建物は見るも無残な炎のかたまりと化して
中から逃げ場を失った熱気が勢いよく窓や扉を吹き飛ばす。
――ガシャン!
粉々になった窓ガラスと内側から噴出す炎の渦が、身を竦ませて怯える少女にも襲い掛かろうとする。
吹き荒れる火の粉を軽く手で振るい払って、低い声でカインはセシルに問う。
「それよりここは危ない。早く村を出ないと…あの子はどうする?」
セシルはカインの方へ向き直らず、軽く頷いて意思を伝えた。
「ぼくらが連れて行くしかあるまい!
さあ…ここは危険だ。とにかく…ぼくらと一緒に!!」
セシルは視線を少女の方へ戻した。少女はまだ呆然と膝をついたままで赤い炎を背に
やり場がないように手を宙に浮かせて悲痛な表情でセシルとカインを見ていた。
株との隙間から見える世界から少女を外したくても、朱色に染まる視界の全ては現実を見せ付けてしまう。
この子の身を守ることが僅かでも罪滅ぼしになるのなら。
渦巻く炎がセシルの脳裏に鮮血をフラッシュバックさせる。
クリスタルの略奪を――

114名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:20:31 ID:gxvnyl8c
267 04/12/19 18:43:33 ID:dEweXuoc

FINAL�FANTASY�IV #0031 1章 1節 闇と霧の邂逅(18)

パシッ!!
「!?」
セシルが右の手のひらに微かな衝撃を覚え我に変えると、少女は先程と形相を変えて
顔を伏せて、右手を振りかぶっていた。ハッと今の状況を思い出す。
セシルが彼女の手を取ったとき、彼女は汚いものに触れたかのように手を振り払ったのだ。
「このままだと君も死んでしまう!」
嗚咽をまじえて少女はさらに強く二人を睨みつけ、じりと後ずさりをしている。
「…いや!」
――君も、死んでしまう。君も、殺してしまう。
小さな困惑がセシルの思考を一瞬遅らせ、その後間髪をいれずにカインがセシルの肩を押さえ前に出て腕を伸ばした。
「やむを得ん、無理やりにでも連れて行くしか!」
「ちかよらないでぇええーっ!!」

ド…ン
少女の布を引き裂くような甲高い悲鳴に空気が震えた。
「待ってくれ!ぼくは…」
「来ないで!来ないでよぉっ!!」
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 19:28:20 ID:gxvnyl8c
267 04/12/19 18:45:08 ID:dEweXuoc

FINAL�FANTASY�IV #0032 1章 1節 闇と霧の邂逅(19)�

少女の悲鳴は耳に入らず。
セシルの視界はまるでスローモーションであった。
手を伸ばし、拒まれ、瞬きで目に映る景色が切り替れば
年端もいかぬ女の子が口を大きく開いて何かを訴えている。
助けなければいけない。
彼女の命を救わなければ。
そんな焦燥感に駆られ、セシルはカインの手を振り払い少女の手首を掴んだ。
今、彼女を助けられるのは自分たちしかいない。そう強く信じた。
――だけど今、彼女を危険にさらしたのは…
「お母さんを返してぇえええっ!!!!」
―――!!

一瞬だった。何が起こったのかなどと考える余裕も与えられず、
セシルは自分の足が、いや体が突き飛ばされたように背後に倒れこまされるのがわかった。
背中を地面に打ち付けた衝撃で視界は少女の上方に移る。
そしてセシルは召喚士の脅威を目の当たりにした。
少女の後ろに、赤銅の肌の軽く城の一角にも匹敵するかのような巨人が立ち構えている。
「みんな……みんな」
セシルは、辛うじて轟音の中で少女の呟きを聞いた。
それから巨人がその巨大な足を持ち上げるのを見た。
116前スレ297:2005/06/07(火) 19:30:21 ID:gxvnyl8c
267 04/12/19 18:46:36 ID:dEweXuoc

FINAL�FANTASY�IV #0033 1章 1節 闇と霧の邂逅(20)��

「だいっ嫌いっ!!!」
「…ッ!!!!」
「――セシルッ!」
巨人の振り下ろした足に大地が引き裂かれる音に、三者の叫びは呑み込まれた。
セシルは無我夢中に少女に覆い被さっていた。
地面が激しく傾くのを感じる。兜や鎧の上に止め処なく火の粉や砕けた石が落ちてくる。
少女は泣き喚きながら必死にセシルから逃れようと鎧を拳で殴りつける。
最早少女を連れてこの場を離れるだけの猶予も残されていない。
セシルは、例え自分の身が岩に潰されたとしてもこの少女を犠牲にするわけにはいかないと思っていた。

「……!…!……」
大地の発する轟音にかき消されたのは誰の叫び声だったのだろう。
守ってくれるものを失った少女か、信じてくれた友か。
この手で命を奪った者か、それとも自分自身か。

セシルはまるで自身が奈落に落とされるように感じた。
それはセシル自身の体が衝撃によって弾かれ感じたものだったのか?
彼の後悔が感じさせた幻惑だったのか、誰も知る由はなかった。


─────────────────────
間あけちゃってすいません、PCがイキナリ死んだもんで…(つД`)
117名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:23:28 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI  04/12/30 03:55:49 ID:i8LQbhJ1

FINAL FANTASY IV #0034 1章 2節 砂塵(1)

「出やがった!」
足元がぐらついた、と思った瞬間、鋭い二つの切先が砂の下から現れる。高々と吹き上がった砂煙が、陽光を受けて金色に染まった。
不意打ちを食らった交易商たちは、経験を積んだ者から順に、荷車を捨ててその場を離れようとする。
輝く靄の中に浮かび上がる、大蛇とよく似た長い影。巨大な甲虫ハンドレッグが、獲物の気配を察し巣から這い出てきたのだ。
遥か頭上に鎌首をもたげた捕食者が、足をもつれさせながら逃げ惑う、若い商人に踊りかかる。
湾曲した顎が、若者の背を捉える寸前。セシルは虫の真下にもぐりこみ、その腹に深々と刃を差し込んだ。
大きくのけぞるハンドレッグ。予想を越える力に、危うく剣を持っていかれそうになる。
力任せに引き抜くと、体節の継ぎ目を狙って再び剣を突き入れた。同時に、刀身に込めた暗黒の力を解き放つ。
勝負はついた。
でたらめに宙をかく無数の足を避け、セシルはハンドレッグの側を離れた。ほどなくして倒れた虫が、盛大な砂埃を巻き起こす。
「……すげえ、やったぜ!」
ビッグスの声を契機に、一目散に逃げた商人たちが、おそるおそる背後を振り返った。
なおも激しく身をよじり、虚しく地面に尾を打ち付ける大百足の姿を見て、皆の間に歓声が広がる。
犠牲者が出なかったことを喜ぶのはもちろんだが、戻った商人たちが、痙攣を続けるハンドレッグに取り付いたため、セシルは呆気に取られた。
思わず、横のビッグスを振り返る。20年以上キャラバンを率いてきたという男は、満面の笑みを浮かべ、セシルの労をねぎらった。
彼曰く、これも砂漠の恵みの一部──市に持ち込めば、いい値がつくのだそうだ。
「気ぃつけろ! まだ動いてるぞ!
 こらそこ! しっかりラクダ見てろ!」
ベテランの商人たちから、活気に満ちた指示が飛ぶ。
甲皮や腱は天幕に、毒は薬の材料に。巨体は見る間に解体され、荷車に収まってしまった。
118名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:28:12 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI  04/12/30 03:58:48 ID:i8LQbhJ1

FINAL FANTASY IV #0035 1章 2節 砂塵(2)

オアシスの町カイポまで、残す所わずか。幌をかけた荷車の中で、セシルは休息を取っていた。
傍らで、ミストの生き残りの少女が、目を閉じて横たわっている。
あの日、少女が巨人を呼び出した後、何が起きたか彼の記憶ははっきりしない。
気がつくと夜が明けていて、彼は気絶した少女を抱え、土砂に半ば埋まっていた。
どうにか這い出し、周囲の様子を調べて、バロンへの帰路が閉ざされたことを知った。地滑りが起きて、洞窟の入口が塞がれてしまったのだ。
姿の見えないカインも気がかりだったが、少女の身を考えると、一刻の猶予もない。
砂漠を渡るか、無理にでも山を越え、バロンに引き返すか。迷った末に、セシルは前者を選んだ。
余裕を持たせたとはいえ、水も食料も、バロンに戻るまでの用意しかない。山中で調達できるかもしれないが、肝心の道がなくてはどうしようもない。
それよりは、砂漠に向かったほうが、まだ可能性があると考えたのだ。
交易で栄える町と、その住人を潤すオアシスが、あちこちに点在している。自力でたどり着くのは無理でも、キャラバンを見つければ、助けを求めることが出来る。
カインへのメッセージを残すと、少女を背負って、セシルはミストの地を後にした。
星を読み、記憶を頼りに最寄の町を目指して歩くこと2日。結局道を外れかけていたセシルは、通りがかったビッグスの隊に拾われた。
キャラバンを襲った魔物を退治したことで、少しは借りを返せたようだ。
「君にもいつか……
 いや、ムリだね」
巨人の召喚が、大きな負担となったのだろう。少女はあれ以来、一度も眼を開いていない。
町についたらまず、彼女を託す場所を探そうとセシルは心に決めていた。
出来るものなら、この手で罪を償いたい。だが少女のほうは、セシルに側にいられたくないだろう。
それに、バロンとの戦いに巻き込むわけには行かない。
いつか全てが終わったら、そして少女がそれを許してくれたら、改めて彼が面倒を見るつもりだった。
ずいぶんと先の話になる。今のうちに一度謝っておきたいが、相手が眠ったままではそれもかなわない。
結局、キャラバンがカイポの門をくぐるまで、少女が目を覚ますことはなかった。
119名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:28:37 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI  05/01/09 18:47:00 ID:0QHsdhdv

FINAL FANTASY IV #0036 1章 2節 砂塵(3)

ビッグス率いるキャラバンは、オアシスの南岸に宿を定めた。セシルが世話になるのはここまでだ。旅人相手の宿を紹介してもらい、眠りつづける少女を連れて、隊を離れた。
日干し煉瓦を積み上げた壁がどこまでも続き、入り組んだ路地に影を落として、傾いてなお烈しい陽光から人々を守っている。平面と直角だけで構成された砂漠の建物は、それ自体がひとつの巨大な煉瓦のようだ。
「いらっしゃいませ……
 ああ、お嬢ちゃんの顔色が悪い。早くこちらへ」
「すまない」
少女の様子をひとめ見るなり、宿の主人はカウンターを飛び越え、突き当たりの部屋までセシルたちを案内した。促されるまま少女を横たえ、水などを持ってくるよう主人に頼む。
「高熱病……じゃあないみたいだが、どうしたんだい?」
「疲れているだけだ」
「妹かい? ずいぶんとキツそうじゃないか」
「悪いが、しばらく休ませてくれないか」
流行り病を警戒してか、あれこれと詮索したがる主人に多めの宿代を渡し、隣のベッドにセシルは腰を下ろした。ランプに火を入れ、武具の手入れをする。しばらくして、水差しとグラス、それに蜂蜜の入った壺が届いた。
「ありがとう。そこに置いてくれ」
二つのグラスに水を注いで、主人はあっさり部屋から出て行った。荷物から小振りの瓶を出し、中身を手の平にあける。無数の突起を持った真珠色の粒をよっつ、指先ですりつぶし、グラスに溶かした。砂漠特有の熱病を防ぐ薬は、合流した際にビッグスから分けてもらった。
──正確には、怒声とともに押し付けられた、というべきか。バロンの人間であるセシルは、高熱病の恐ろしさを今ひとつ実感していなかったが、進んで体調を崩すこともないので、素直に従っている。
自分のグラスを空にすると、新たに3粒の薬を瓶から出し、粉状にして蜜と混ぜた。水でのばし、少女の唇に塗りつける。小さな舌が、それを舐めとる。
少しずつ薬を与えるうちに、固く閉じていた少女の瞼が、震え始めていることにセシルは気がついた。
手を止め、息を詰めた彼の前で──数日ぶりに、少女は目を開いた。
120名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:30:05 ID:gxvnyl8c
◆HHOM0Pr/qI 05/01/09 18:48:36 ID:0QHsdhdv

FINAL FANTASY IV #0037 1章 2節 砂塵(4)

目覚めた少女は、瞬きを繰り返しながら、ベッドの上で体を起こした。状況が把握できないのだろう、不思議そうにあたりを見回している。
いかにも夢から覚めたばかりといった様子だったが、目の前のセシルに気付いた途端、表情が硬くなった。体を縮こめ、少しでも距離を取ろうとする。
「気がついたね。気分は?
 そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
「…………」
返答の代わりに、少女は手元のシーツを握りしめた。これぐらいは覚悟のうちだ。セシルは構わず話し掛けた。
「この薬を飲んでおくといい。熱病にかからなくなるそうだ。それと……」
明日君の世話をしてくれる所を探す、もう顔は見せないから、一晩だけ我慢して欲しい。そう続けるつもりだった。
「……君のお母さんは、僕が殺したも同然……許してくれるわけはない……」
少女の、怒りと怯えと諦めが混じりあった眼差しに、用意していた言葉が全て、こぼれ落ちて行く。
罪の深さを、その自覚を、いま少女に示してどうなるというのだろう。
ミストでカインと交わした誓いを、セシルは忘れていなかった。バロンに起こっている異変の正体を突き止め、かつての故郷を取り戻す決意を捨てられない。
彼女に償うためだけに、生きる覚悟もないくせに。
「ただ、できるだけのことをさせてくれないか……」
少女は何も言わなかった。まるでセシルの言葉が聞こえないか、聞いても理解できないかのように、じっと彼の顔を見つめ続ける。セシルは息を殺して、裁きを待った。
荒々しい物音が、沈黙を破る直前。確かに少女は、何かを言おうとしていた。
121名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:31:51 ID:gxvnyl8c
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/01/22 19:21:55 ID:QQ0a03p8
「みつけたぞセシル!」
荒々しく開けられたドアの音が部屋中に漂う長い沈黙を打ち消した。
「!」
少女は突然の物音にびくんと体を震わせた。
「誰だ!!」
セシルはその声を聞くと反射的に武器をとりドアの方へ目を向けた。
そこには赤い鎧をまとった男が3人そして緑の鎧をまとった男が1人たっていた。
「こんな所にいたとわな!」
そう叫びながら緑の鎧の男が部屋に入り込んできた。
その男達の鎧にセシルは見覚えがあった。
「バロン兵……何故ここが!」
セシルは思わず疑問を口に出してしまった。
だがセシルのその疑問はすぐに解消された、さっきは男達に隠れて見えなかったが、
男達の後ろに宿の主人が申し訳なさそうにセシルをみていた。
「あなた……始めから僕のことを知っていたのか!」
「その通りだ、だがこいつらにおまえの場所を教えないつもりだったんだが……本当にすまない!」
主人は本当ににすまなそうにこちらを見ていた、よく見ると体中に抵抗したのか殴られた形跡があった。
彼としても彼等を此処に案内したには本意ではなかったのだろう。
「まってくれ!バロン王は……」
後に続く言葉がみつからない、ミストの事を洗いざらい話せば許してもらえるとは決して思っていない。
だがその時のセシルには他に言葉を発することができなかった。
「その王のご命令だ! ミストの生き残りのその子どもを引き渡せとな!」
「なんだって!?」
セシルは愕然とした。自分はたしかにバロン王に反旗を翻した、だが何故あの少女を引き渡さねばならないのだろう。
「何も知らんようだな、なら教えてやる。ミストの者は我々への協力を拒んだ。
そのため王はおまえとカインに指輪を渡しミストへむかわしたのさ、ミストの者を滅ぼすために。おまえは王にうまく利用されたのさ」
「!」
その男から語られた言葉に少女は今まで以上に震え上がった。
セシルは激しい怒りを覚えた。バロンの卑劣なやり口にもだが何よりも体よく利用されたあげくミストを滅ぼした自分にである。
「そういうことだ、さあその娘を渡せ!」
「ことわる!」
122名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:32:12 ID:gxvnyl8c
299 05/01/25 03:38:09 ID:bUnOGCWr

FINAL FANTASY IV #0039 1章 2節 砂塵(6)

セシルは怒りにまかせてバロン兵にそう言い放った。
「ならば力ずくでも連れて行くぞ!」
そう言って男達は剣を抜いた。
セシルも剣を構える。
「かかれ!」
緑の鎧の男がそう言うと後の3人が一斉に襲いかかってきた。
だがセシルは向こうの剣を受け止め反撃しようとする。
「この匂い!」
セシルはその男と剣を交えた瞬間異様な匂いを感じた。
「こいつ、人間ではないのか!」
相手に反撃しつうセシルはそう言った。間違いない今のはモンスターの匂いだ。
何故バロン兵がモンスターに?セシルは疑問を抱いた、だがその疑問もすぐに頭から消えていった。
眼の前の敵を相手にしているためそんな事を深く考えている余地はなかった。
1対3の状況は決して自分に有利ではないのだ。
その上この男達……いやモンスター達は後ろの男の指令により絶妙なコンビネーションで攻めてくる。
このままではいずれ押されて負けてしまう。
この状況を打破するには指令を下している後ろの男を倒すしかない。
セシルは思った……だがなかなかその反撃のチャンスがやってこないのだ。
123名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:34:54 ID:gxvnyl8c
299 05/01/25 03:40:58 ID:bUnOGCWr

FINAL FANTASY IV #0040 1章 2節 砂塵(7)

「かかれ!」
もう何度めになるのか分からない後ろのの男の指令が聞こえてくる。
「!」
モンスター達の攻撃を剣で防ぎつつセシルはあることの気付いた。
……そうモンスター達は攻撃し終わってから次の指令が下されるまでは動きが鈍くなる。
つまりその間になんとか後ろの男を攻撃できないものだろうか?だが失敗したら次は無いだろう。
「どうする?」
セシルは悩んだ、だがこのスキを突くことが最良の方法だろう。
そう決心すると、セシルは敵の攻撃を受け止めながら反撃のタイミングを伺った。
モンスター達の攻撃の手が止まる。
「今だ!!」
セシルはそのタイミングを逃さず後ろの男に斬りかかった。
「な!」
男は何か言おうとした、だがそれが言葉になるよりも先にセシルの剣が男の鎧を貫いていた。
男は鎧から血しぶきを上げて倒れ二度と起きあがらなかった。
モンスター達はそれでもなお抵抗してきた。
だがリーダーを失ったモンスター達は烏合の衆となりセシルの敵ではなかった。
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:35:11 ID:gxvnyl8c
299 05/01/25 03:54:22 ID:bUnOGCWr

FINAL FANTASY IV #0041 1章 2節 砂塵(8)

バロンからの刺客を退けた後部屋にはセシルと少女の2人だけが部屋に残された。
宿の主人は処分すると言って部屋から男の死体を持って出て行った。先程の出来事の一部始終を見ていた彼は他に何も言わなかった。
しばらくの沈黙の後、口を開いたのは少女の方だった。
「ごめんなさいあたしのせいで……」
少女は今にも泣きそうな声で呟いた。
「あやまるのは僕のほうだ。それもあやまって済むような事じゃない……」
利用されていたとはいえ確かにミストを滅ぼしたのは自分だ、それは変えようのない事実でありどんな事をしても償えるものではない。
それはセシル自体も重々承知していることである。
「でも守ってくれた……」
少女は再び呟いた、その眼からは涙があふれていた。
「……」
そうだ……自分はバロンからこの少女を守った。
そしてそれはもう此処が少女のとって安全な場所でない事を意味している。
彼女を守る事、それが今セシルが少女にできる最低限の事だろう。
「きみを守らせてくれないか……」
セシルは少女に呟いた。
少女が自分を憎んでいるのは知っている、しかしこのまま少女を誰かに預ける事など今のセシルにはできそうになかった。
「あたし……リディア……」
リディア……それが少女の名前であること、そしてそれが彼女の答えだと言うことを理解するのに少しばかり時間がかかった
「ありがとう……リディア……」
セシルはそうリディアに呟くと黙って泣き続ける彼女を抱きしめた。 

125名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 20:36:47 ID:gxvnyl8c
用事あるのでとりあえずここまでで……
貼り付けてみると結構な量ですよね
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 22:00:03 ID:Iw+ntH/o
あげます
127名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/08(水) 16:44:16 ID:LdrxXd+o
せっかく貼ってくれてなんだが、あまりこればっかでスレを消費するのも・・
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/08(水) 22:33:48 ID:7DezzCk3
こんな過疎りまくりのスレに消費も糞もあったもんじゃねー。
129前スレ297:2005/06/09(木) 01:04:07 ID:Q0ryWU7b
いろいろあるでしょうけど、はんぱにやめてもなんですから続けさせて頂きます。
あと50レス強ぐらいだと思われます。

───────────────────────────────────

299 05/01/31 20:57:18 ID:2f05els7 

FINAL FANTASY IV #0049 1章 3節 光を求めて(8)

セシルはカイポから北東の暗い地下水脈にいた。
「なんで此処にきたの?」
リディアが訪ねる、昨日眠れなかったのだろうか眠たそうな眼をしてる。
「人を探すんだよ」
「誰を?」
リディアは疑問に思った事を口にした。こんな所を人が通るとは到底思えない。
「賢者テラだよ」
「賢者?」
リディアにとってそれは初めて聞く名前だった。
「そう……賢者テラ」
セシルは今朝の事を思い出す。
130名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:04:44 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/31 20:59:06 ID:2f05els7 

FINAL FANTASY IV #0050 1章 3節 光を求めて(9)

早朝、セシルはカイポの町外れにある家の戸を叩いていた。
「すいません、誰かいませんか」
セシルはドアに向かっていう。だが返事は返ってこない。
「どうかしたんですか?」
セシルは後ろから声に気付き振り返る。そこには初老の女性が立っていた。
「あっ、はいこの家にテラさんという賢者が住んでいるって聞きまして」
砂漠の光を捜すと言っても何か手がかりが必要だ、そんな時セシルは宿の主人からこの町に賢者テラがんでいるという噂を聞いたのだ。
賢者と呼ばれるテラなら砂漠の光についても何か分かるのではないかと思ったのだが……
「でも誰も居なくて、留守なんだろうか?」
「…………」
その女性は何故か険しい表情をしていた。
「どうかしたんですか?」
「あっいえ何でもありません。テラさんは少し前にダムシアンまで行かれましたよ」
「じゃあもうこの家には居ないんですか?」
「ええ……」
女性はセシルの問いに何故か暗い表情をした。
「そうですか、それでは」
セシルはその表情に疑問を持ったが敢えて追求せずにその場を立ち去った。
131思いっきり順番間違えましたorz:2005/06/09(木) 01:06:28 ID:Q0ryWU7b
297 05/01/25 21:02:53 ID:zhyW8WTb

FINAL FANTASY IV #0041 1章 3節 光を求めて(1)

「ほらほら、セシル早く!」
「ま、まってくれよリディア……」
「まてないー、遅いよっ!」

 エメラルドグリーンの美しい髪をたなびかせながら、無邪気に駆け回るリディアが先を急かす。
その爛漫な姿はまるで、砂上に輝くオアシスの妖精のようであったが、後ろに控えている暗黒騎士は、
それはみじめな有り様だった。自慢の鎧は吹き付ける砂によってその鮮やかな漆黒を汚され、全身を包む
その黒色がたっぷりと日光を吸収して、中の男ーーセシルは蒸し風呂のような責め苦を味わっていた。
おまけに、彼の背中には巨大な買い物袋が累々と積み上げられていた。
「セシルが言い出したんだからねー」
「わかってるよ……でも、ちょっと休ませて」
耐えきれなくなったセシルはドカドカと荷物を下ろすと、日陰に腰を下ろした。
暑いのには変わりないが、日なたとは偉い違いである。全く、信じられない暑さだ。
兜を外し大きく息をつくと、リディアも横にチョコンと座り、汗をふいてくれた。
132名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:09:14 ID:Q0ryWU7b
297 05/01/25 21:04:17 ID:zhyW8WTb

FINAL FANTASY IV #0043 1章 3節 光を求めて(2)

 昨夜のこと。
リディアを抱き締めながら、セシルはなんとか彼女を元気づける手段を考えていた。
しかし、どんな慰めの言葉があると言うのだ。考えれば考えるほど、彼女の境遇はあまりにも不憫だった。
「大丈夫?」
「………うん」
「もう寝た方がいい。僕が見張っているから安心して」
「………うん」
彼女はまだなにか言いたげだった。だが、彼はそれを聞くのがなぜだか怖かった。
そっと体を離すと、リディアに向って微笑んだ。
「さっきもいったけど、君のために、僕にできる限りの事をさせてほしい」
「………うん」
リディアの背中を撫でていると、ふと、ミストでの騒動や砂漠を歩いてきたせいだろうか、
彼女の服のあちこちが擦り切れているのに気付いた。
「とりあえず、まずは君に服をプレゼントする」
「………うん」
「おやすみ」
オヤスミ、と聞き取れないような小さな声で呟き、リディアは布団をかぶった。
さいごの「うん」にかすかに明るさを感じとれて、セシルはほんの少しだけ救われたような気がした。

 ところが翌朝、
「おにいちゃん、おそいよー!」
食堂に行くと、驚いたことにリディアがとっくに食事を済ませて騒いでいた。
それも、”かすかに”どころかとびきりの明るい笑顔をふりまいている。
旅館の主人も、昨日の今日での彼女の回復ぶりに目を丸くしていた。
「早く済ませて、買い物してくれるんでしょ!」
セシルが昨夜誓ったことをおぼろげに後悔しだしたのはこの時である。
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:09:27 ID:Q0ryWU7b
297 05/01/25 21:06:11 ID:zhyW8WTb 

FINAL FANTASY IV #0044 1章 3節 光を求めて(3)

 以後、朝からずっと町中を引きずり回されているわけだ。砂漠の焼きつけるような陽射しに
長時間晒されっぱなしで、セシルの意識は朦朧としていた。しかし鎧を脱ぐわけにはいかなかった。
当分追っ手はないと思うが、それでも念のためと言うことがある。用心にこしたことはない。
横を見るとリディアは踊子の服を着ている。サイズがまるで合ってないのだが、気にしていないらしい。
「わたしにもお水ちょうだい」
生温くなった水を流し込み、セシルはリディアに水筒を渡した。にっこりと笑うと、
彼女はそれをさもおいしそうに飲み干した。
 リディアは不自然なくらい明るかった。実際、不自然だった。もちろんその半分ぐらいは、
彼女の素なのだろうが。自分のために無理をして明るく振舞う、その幼さに不釣り合いな優しさに、
セシルはつくづく感謝していた。
「ね、そろそろいこうよ。荷物わたしも持つから」
「いやいや、心配しないで。僕が持つから」
火傷しそうなほど熱を帯びている兜をかぶりなおし、セシルは勢いよく立ち上がると、
よりかかっていた民家の石壁の窓辺に手をついた。
「荷物もてる?一回宿屋に戻ろうか?
ねえ、さっきあっちで聞いたんだけど、向こうで男のひと用の服も売ってるんだって。
セシルも買いなよ、私が選んであげるよ。それと……」
返事が返ってこないのでリディアが訝しげに振り返ると、セシルは民家の窓をじっと見ていた。
言葉を失ったまま微動だにしないセシルの視線の先には、ベッドに臥せている美しい女性の姿があった。
「……ーザ」
「えっ?」
リディアがセシルに触れようとした瞬間、突然彼は走り出した。
呆気にとられながら、民家の中に駆け込んでいくセシルと置き去りにされた荷物を見比べる。
それから慌てて裾を踏んづけながら、セシルの後を追いかけた。
134名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:09:58 ID:Q0ryWU7b
297 05/01/25 21:09:47 ID:zhyW8WTb

FINAL FANTASY IV #0045 1章 3節 光を求めて(4)

「ローザ!ローザ、僕だよローザ。ローザ……」
セシルは先程の女性に寄り添い、何度も何度も名前を呼びかけている。
家の主の老人は突然の来訪者に戸惑い、どうしたものかと困りこんでいた。
「セシル……?」
リディアは恐る恐る呼びかけたが、彼女の声は全く届いていないようだった。
セシルは一心に女性に話しかけている。
「どうやら、彼女は彼の想い人らしいのう」
「…オモイビト?」
「おや、お嬢ちゃんにはちょいとわからんかのう」老人は髭をかきながら、穏やかに笑った。
オモイビト、という言葉の意味がリディアには分からなかったが、
とても大切そうに女性の顔に手を添えるセシルに、なぜだか無性に腹が立っていた。

135名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:14:39 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/30 19:04:59 ID:WKPJ2km2

FINAL FANTASY IV #0046 1章 3節 光を求めて(5)

「ローザはいったいどうなってしまったんですか!」
セシルは慌てた様子で老人に問いただす。
「そ、それがじゃな……」
セシルのいきなりの問い詰めに老人は困った顔をした。
「セシル、そんなに慌てて問いつめると答えれるものも答えられないわよ」
リディアはつい二人の間に割って入ってしまった。
昨日はあれほどまでに必死に自分を守ってくれたセシルがこんなにも取り乱してしまうのはリディアにとって面白い事ではなかった。
「わかっているよリディア……けど!」
そう言ってセシルは近くの椅子に腰掛けた、その様子はひどく焦っているようだ。
「じつはな……」
老人は再び口を開いた。
「彼女は数日前にこの街の近くでたおれておってのう、その時には既に砂漠の高熱病にやられておってな可哀想だがこのままでは……」
「!」
セシルはその老人の言葉を聞くと驚愕した、そしてはやる気持ちを抑え彼に尋ねた。
「なんとかならないんですか!」
「あいては高熱病じゃ、なんとかならないかといろいろ手をつくしたのじゃが一向によくならん
砂漠にあると言われる光さえあればな……」
老人はため息をついた、その顔には諦めが感じ取られた。
136名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:15:20 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/30 19:06:20 ID:WKPJ2km2

FINAL FANTASY IV #0047 1章 3節 光を求めて(6)

「光……それは何なんですか?」
セシルは訪ねる。
「高熱病を治すと言われてるものじゃ砂漠の光とも言われておる、だがそれがどんな物かも分からんし本当に存在するのかも定かではない」
「砂漠の光……それがあればローザは」
「まさか探しにいくというのか、無理じゃやめておけ!」
「だが、このまま何もしないよりは!」
そう言ってセシルは立ち上がりローザの手を握り小さな声で囁いた。
「待っていてくれローザ、すぐに助けてあげるからね」
セシルは老人に一礼した後急いで部屋を出て行った。
「ちょっと待ってよセシル!」
部屋に残されそうになったリディアは慌てて部屋を出ようとする。
「ありがとう、おじいさん」
振り返って老人に礼を言う、その時一瞬だけローザの方に眼をやる。
「…………」
とても綺麗な人──そして一途な人──それがリディアの第一印象であった。

137名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:15:37 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/30 20:59:51 ID:WKPJ2km2

「明日にはもう出発するの?」
その夜リディアはなかなか寝付けずベットの中から思わずセシルに声をかけた、出発の準備をしてるようだ。
「ああ、早くしなければローザは……」
そう言って再び出発の準備に戻る。
「ねえ……ローザって人はセシルとどういう関係なの?」
しばらく間をおいてリディアは昼から気になっていた事を思い切って訪ねてみた。
オモイビト……老人はそう言っていたが?
「ローザは僕の大切な人、それだけだよ」
セシルはそう言った、だがリディアはその答えがどうも腑に落ちなかった。
「本当にそれだけ?」
リディアはもう一度訪ねる。
「そう……僕はローザを……けど……」
その声はしだいに小さくなっていった。
「…………」
リディアはもうなにも言わなかった、だがセシルにとって自分以上に大切な存在があることだけは理解できた。
「分かった……じゃあもう寝るね」
リディアはそのままベットにもぐり眠ろうとした、だがやはりなかなか寝付けなかった。
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:19:12 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/31 21:01:37 ID:2f05els7 

FINAL FANTASY IV #0051 1章 3節 光を求めて(10)

「それでそのテラって人を捜しに来たわけ?」
「そうだよ、カイポからダムシアンへ行くには此処を通るしかないからね」
セシルはリディアの問いに答える。
「それよりも昨日は眠れなかったの?」
「別に……」
リディアはそう答えたが本当はろくに眠れていなかった、ローザの事を考えていたのだ。
あのセシルがあんなにも大切に思っているなんてどんな人だろう、そんな事ばかりをずっと考えていた。
きみを守らせてくれないか……バロンの兵を退けた時セシルはそう言った。
今でもセシルはあの約束を覚えているのだろうか?ひょっとするともう忘れてしまったのではないか、そんな不安が頭をよぎった。
だが今はセシルと一緒にいれるだけで良かった、それにリディアもローザを放っておくのは納得できなかった。
「リディア、後ろ!」
そんな事を考えているとセシルが自分を呼ぶ声が聞こえた。
何事がと思って振り返るとそこには巨大な蛙がいた、ギガントード……主に水辺に生息するモンスターだ。
不意打ち、そう思った時にはすでにその蛙の化け物はリディアに襲いかかって来た。
「!」
リディアは頭の中が真っ白になった、そして眼を閉じた。
だがその蛙の化け物がリディアに襲いかかることは無かった、リディアに襲いかかる寸前に氷付けになっていた。
「氷の魔法ブリザド、一体だれが!」
眼を開きその光景を見たリディアはその疑問を口にした。
自分が唱えた覚えはないでは誰が?
リディアは辺りを見回した。
139名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:19:40 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/31 21:06:33 ID:2f05els7

FINAL FANTASY IV #0052 1章 3節 光を求めて(11)

「大丈夫かお嬢ちゃん」
リディアの疑問はその声に打ち砕かれた。リディアの前に老人が現れた。
「うん……ありがとう」
リディアは礼を言いその老人を見た、眼鏡をかけた頑固そうだがどこか優しそうな雰囲気を持った老人であった。
「助かりました」
剣を収めたセシルがそう言ってこちらにやって来る。
「不意打ちには気をつけろ常に警戒するようにな」
「分かりました、あなたは何故こんな所に?」
セシルは訪ねる、このような所を老人一人で歩いているのはセシルたちと同じく何か特別な事情があるように思えたからだ。
「私は元々カイポに住んでいたのだが娘のアンナが吟遊詩人に騙されダムシアンにいってしまったのじゃ
私はそれを追ってな……」
老人はそう呟く、どこか悲しい眼をしていた。
「……ではあなたが賢者テラ?」
何故そう訪ねたのか分からない、だがセシルにはこの老人こそがテラではないかと思ったのだ。
「いかにも私がテラじゃが……」
賢者テラと呼ばれた老人は不思議そうにセシルを見る。
「やはりそうでしたか、僕はあなたに用があって此処まで来ました」
「一体どうしたんじゃ?」
「カイポで僕の大切な人が高熱病にかかっているんです、何とか助けたくてその為には……」
「砂漠の光がいると」
セシルの言葉を遮りテラが言う。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:19:51 ID:Q0ryWU7b
299 05/01/31 21:09:14 ID:2f05els7

FINAL FANTASY IV #0053 1章 3節 光を求めて(12)

「知っているんですか!」
セシルは驚いて聞き返す。
「ああ、あらゆる病を治療する幻の宝石と言われておるが詳しい場所は私にも分からん」
「そうですか……」
セシルは落胆する。
「そうがっかりするな詳しい場所は分からなくとも砂漠の光の伝説はダムシアンから生まれたと言われとる
ダムシアンに行けば何か情報が得られるかもしれん」
「本当でしょうか?」
「おそらくはな、なので少し手を借してくれないか」
「何をですか?」
「この先の地下の湖にいる巨大な魔物がいる、とてつもない力を持った奴じゃ。
私の魔法だけでは太刀打ちできん、みればお主暗黒騎士の様じゃなお主の暗黒剣とならば」
テラはそう言って協力を申し出てくる、どうも上手く利用されているような気はしたが今は
ダムシアンに行くのが一番最良の方法にも思えた。
「分かりました、協力しましょう」
このまま迷っていても仕方ないと思いセシルは協力を申し出た。
「ならば決まりじゃ、一刻も早くダムシアンヘ」
テラはそう言って一足先に歩いていく。
「元気のいいおじいさんね」
いつの間にかセシルの隣にいたリディアがそう呟く。
「ああ……」
だがセシルにはその背中がどこか寂しげに思えた。
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:25:41 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/07 02:09:29 ID:G4v52qe1 

FINAL FANTASY IV #0053 1章 3節 光を求めて(13)

地下水脈をしばらく進んだ所に開けた場所があった。
「よしここで休んでいこう」
テラはそこで急きょそんな提案をした。
「急ぐんじゃなかったんですか?それに魔物にでも襲われたら」
セシルは率直な意見を言う、どうもさっきから
このテラという人に上手く使われているような気がした。
「まあ待て、焦りは禁物じゃここで休んでおいた方が身の為じゃそうは思わんか?
それにこの部屋には結界が張っておりモンスターはまず近づけんよ」
「…………」
セシルは何も言い返せなかった。
「決まりじゃな、ではテントでも張るかのう」
そう言ってテラは用意していたテントを張り始めた」
「ほんとに元気なおじいさんね」
セシルの側に来たリディアがくすくすと笑う。
確かにセシルはそう思わざるを得なかった、
何処か悲しそうな雰囲気に見えたのは自分の気のせいだったのだろうか?
頭の中をいろいろな思考が駆けめぐる。
「おいっセシル手伝わんかい」
「あっはい!」
テラの呼ぶ声によりセシルは現実に引き戻され慌てて駆けていく。
「がんばってね」
後ろからはリディアの苦笑紛れの激励が聞こえてきた。
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:25:54 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/07 02:12:08 ID:G4v52qe1

FINAL FANTASY IV #0055 1章 3節 光を求めて(14)

その夜セシルは眠ろうとした時テラに呼び止められた。
「一体何です?」
セシルは聞き返す。
「少し話をせんか」
「話ですか……」
セシルは疲れていたので早いとこ眠ってしまいたかった。
「ああ少しだけでいいんじゃ」
「……分かりました少しだけなら」
セシルはしぶしぶ了承する。
「そうか、ありがとな」
そう言ってテラは焚き火の近くに座りセシルもその近くに座った。
「それで何を話すんですか?」
セシルは訪ねる、元々人と積極的に話すのは得意ではなかった。
「お主はバロンから来たのか?」
「やはり知っていましたか」
143名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:26:16 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/07 02:13:42 ID:G4v52qe1

FINAL FANTASY IV #0056 1章 3節 光を求めて(15)

「それであのお嬢ちゃんは?」
テラがテントの方に眼をやる、リディアの事を言っているのだろう。
「それは……」
ミストの事を話すべきだろうか?だがなかなか言い出せなかった。
「さん……お母さん……」
セシルがそんな事を悩んでいるとテントから声が聞こえてきた。
「リディア……」
やはり明るく振る舞っていてもミストの事がまだ……
「ミストの召喚士です、そしてこの娘の母は僕が…………」
セシルはそれだけ言い後は何も言わなかった。
「そうかやはりミストは……悪いことを聞いてしまったようじゃな」
そうセシルに言った後テラは厳しそうな顔でリディアを見て呟く。
「しかし召喚士とはなそれにかなりの資質を秘めておる」
そして今度は顔を緩めてこう続ける。
「しかし可愛い寝顔じゃ……幼い頃のアンナのようじゃ」
そう呟くテラにはセシルは出会った時に感じた寂しそうな顔をしていた。
「そのアンナという人は確か……」
その表情を見てセシルは思わずテラに訪ねる。
「そう私の唯一人の娘じゃ、吟遊詩人に騙されたというのは嘘でな本当は自ら出て行ってしまったんじゃ」
「何故アンナさんはそんな事を?」
「アンナとその吟遊詩人は愛し合っていた、だが私が二人の仲を許さなかったばかりに……」
テラもセシルも何も言わなかった。
144名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:29:51 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/07 02:14:57 ID:G4v52qe1 

FINAL FANTASY IV #0057 1章 3節 光を求めて(16)

「さて、そろそろ私も眠るとするか」
しばらくの沈黙の後テラがそう言って眠ろうとする。
「何故僕にあんな話をしたんですか?」
セシルはテントに入ろうとするテラに訪ねる。
「お前にはいやな話をさせたからな、それのお返しじゃ」
「そうですか……」
セシルはこの老人の事が少しだけ分かったような気がした。
「それと洞窟の魔物とは一体?」
「巨大な八つの足を持つ恐ろしい奴じゃアンナとお主の大切な人のためにも
まず奴を倒さねばそれにダムシアンには……」
テラの表情に陰りが見える。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
そう言ってテラはテントに入っていく。
そしてセシルも焚き火の火を消してテントに入って行った。
145名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:30:08 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/22 01:29:36 ID:OOkQvTE/

FINAL FANTASY IV #0058 1章 3節 光を求めて(17)

地下水脈の最深部──ダムシアンに続く闇と静粛に支配されたこの場所に響くのは中央に流れる滝の音だけであった。
「奴はいつもここで獲物を取ろうと待ちかまえている」
テラはそう言って滝の下にできている湖を指す。
「お前は奴を引きつけろ、私が魔法で援護する」
「分かりました」
セシルは剣を抜き近くの足場に飛び移った。
「あとこの娘にも手伝ってもらおうか」
そう言って後ろにいるリディアの方を見る。
「黒魔法は使えるか?」
「…………」
無言のまま首を横にふる。
「そうか……分かった」
その声はどこか腑に落ちない物であった。
セシルはその声に疑問を感じつつも周りの様子に意識を集中する。
辺り一帯は静かであった、本当に此処に魔物がいるのだろうか?
「セシル後ろに!」
そんな事を考えているとリディアの叫びが聞こえ後ろを振り返る、だが振り向く前に何かが襲いかかり水の中に勢いよく吹き飛ばされた。
「くっ」
何とか体勢を立て直し近くの岩場へ上がり周りを見渡す、そこにはいくつもの巨大な触手がセシルを取り囲んでいた
さらに前方にはそれを操ると思われる怪物の顔がこちらを見ていた。
「そいつが八つの足を持つ魔物オクトマンモスじゃ」
テラはそれだけ言うと魔法の詠唱に入る。セシルも剣を構え奴の攻撃に備える
146名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:30:18 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/22 01:31:03 ID:OOkQvTE/

FINAL FANTASY IV #0059 1章 3節 光を求めて(18)

オクトマンモスは自慢の足であらゆる方向から攻撃をしかけてきた。その攻撃はセシルといえども苦戦する相手であった。
「サンダー」
テラの雷魔法がオクトマンモスの足に電流を走らす。そのスキを突いてセシルは足の一つを切り落とす。
「ありがとう、テラ」
「礼には及ばん。さすがは暗黒剣の使い手じゃな」
それだけ行って再び魔法の詠唱に戻る。
オクトマンモスは残った足で執拗にセシルに襲いかかってくる。
七つになったとはいえやはりその攻撃は激しくなかなか反撃をするスキがない。
だがやはり本能赴くままに行動するだけの魔物。その攻撃は単調な攻撃であり見切るのは難しいことではなかった。
魔物は足を失うごとにだんだんと攻撃の勢いをなくしていった。そしてついにテラの援護もあり最後の足を切り落とす。
「これで奴も終わりだな」
安堵の息をもらし剣を納めようとする。
「まだだ!」
その時テラの叫び声が聞こえると同時に全ての足を失った魔物がこちらに体ごと突撃してきた。
「!」
慌てて剣を戻し押し返そうとするが一足遅かった。体勢を崩され防御するだけで精一杯であった。
押し寄せる波と魔物の攻撃にだんだんと体力を奪われていき防戦一方になる。
「このままでは!」
そう思ってからどれほどの時間がたったのか分からない。だがその時、今まで以上に強い雷がオクトマンモスを襲った。
魔物は動きを止め酷く痙攣する。
「今じゃセシル!」
後ろからテラの叫び声が聞こえる。
一瞬何が起こったのか分からなかった、しかし今が攻撃のチャンスだと思った。
「分かりました」
セシルは怪物の頭へ剣を振るう、魔物は雄叫びを上げ水中に消えていった。
147名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:33:44 ID:Q0ryWU7b
299 05/02/22 01:32:51 ID:OOkQvTE/

FINAL FANTASY IV #0060 1章 3節 光を求めて(19)

「ありがとうテラ、今の魔法は一体?」
テラの元へ駆け寄りそう訪ねる。
「なあーに少しばかりの賭けじゃよ」
「賭け?」
「そう忘れていた魔法を使えるかどうか試してみたんじゃ」
「忘れていたとは?」
セシルは訪ねる。昨日からこの老人には質問してばかりだ。
「年のせいか物忘れが激しくてな、昔は使えたはずの魔法が思うように使えなくなってしまったんじゃ」
テラは笑いながらそう言った。
「そうですか」
そんな事ができるとは全く持ってすごい人だ。セシルは少しばかり感心する。
「私もまさかここまで上手くいくとは思わなかったわ」
そう言って大きな声で笑う。
「よし出発じゃ、もう少しでダムシアンだぞ!」
そう言ってテラは立ち上がって湖の向こうに見える出口へ駆けていく。
「本当に元気ね」
リディアが笑いながら言う。
「ああ」
セシルは半ば呆れながらそう言った。
「早く追いかけよう。あのままじゃ置いて行かれそうだよ」
「うん」
そういって二人はテラの後を追いかけていった。

148名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:34:37 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/12 13:05:25 ID:CU1KM6TE
FINAL FANTASY IV #0061 2章 2節 光を求めて(20)
「…さ、流石に熱いな…」
日の光も届かない闇の洞穴をやっとのことで抜けたかと思うと、
今度は砂漠を照らす灼けるような昼の日差しが彼らを襲った。
おまけに丸一、ニ日も松明だけを頼りにしていたせいで、目が痛いほどに眩しい。
「年寄りには答えるわい。早くダムシアンへ急がねばな」
ローブで体を隠して日差しを避けながら、テラ。
「しかしここからは」
セシルが老人をふりかえる。
「ダムシアンまでかなりの距離があります。徒歩では少なくとも一日はかかるでしょう」
「ふむ…」
確かに、手元の地図によると、この地下水脈とダムシアンの都は随分離れている。
カイポへと辿りついた時のように運良くキャラバンなどに遭遇出来ればそれにこした事は無いが、そんな偶然に何度も遭遇できるとは思えない。
「砂漠のど真ん中での野宿は覚悟したほうが良いかも「多分それはしなくていいと思うよ」
セシルは思わぬ方向からの声に、少し面食らった。
何かと思っていきなり口を挟んできたリディアの方を見やると、彼女はどこから連れて来たのか、一羽のチョコボに跨ってこちらを見下ろしていた。

「…チョコボ…?」
「うん。チョコボだよ」
呆気に取られるセシルに、さも当然そうにリディアが答える。
「あ、いや、その、だからね、そういうことじゃなくて、何処にいたの?そのチョコボ?」
「幻界」
え、ゲンカイ?聞きなれない単語に、またも呆気に取られた。
その様子が可笑しかったのか、いたずらっぽくクスクスと笑いながら、リディアは続ける。
「幻界っていうのは幻獣のすんでる所。
 知らないの?チョコボって、元々は幻獣なんだよ?」
「…それで、今召喚したと?」
セシルよりはある程度おちついていたテラが、そう尋ねる。
「そ。ここから歩くと疲れると思って」
にっこりと笑う少女を前に、騎士と賢者は顔を見合わせた。
…やっぱり、この子はすごい。
149名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:35:03 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/12 13:07:55 ID:CU1KM6TE
FINAL FANTASY IV #0062 2章 2節 光を求めて(21)

それから3人は、一羽のチョコボに乗ってダムシアンを目指した。
いくらなんでも一度には一羽しか召喚できないので、仕方なく3人で乗ることにしたのだ。
流石に重過ぎるのか、チョコボは時々危なっかしくよろめき、いかにも辛そうだったが、
しかしそれでも随分速い。出発して2時間といったところだが、もうダムシアンまでの距離の半分は走破していた。
「日暮れ前に到着できそうだね。それにしても速い!」
「でしょ〜?ね、ところで、ダムシアンってどんな所?」
「ああ、とっても平和な所さ、リディア。
 住んでいる人々もみんな温厚で優しくてね。特に王子のギルバ…」
セシルとリディアがそんな話をしていたその時、彼らの乗るチョコボよりも遥かに速い何かが頭上をよぎった。

セシルは思わず、上空を見上げた。
この音。かつて嫌と言うほど耳に飛び込んできた、この音。
それは紛れもなく、飛空艇のエンジン音だった。

飛空艇は彼らに構うことなく、一直線にどこかへと向かって行く。
彼らと同じ方向へ。つまり、ダムシアンへ。
そう、四つの内の一つのクリスタルがある、ダムシアン城へ。
「…まずい!」
セシルが叫ぶ。
ダムシアンのクリスタルを狙っているとするなら、ミシディアやミストと同じ惨劇がくりかえされることになる。
それはなんとしても避けたい。
「奴らはダムシアンのクリスタルが狙いだ!
 リディア!急いでくれ!このままだと大変な事になる!」
セシルの鋭い叫びにリディアは驚き、チョコボもまた、それまでよりも速く砂の大地を駆け始めた。

その約一時間後…
ダムシアンの城は眼前に写る頃には、そこは既に大部分が原型を失っていた。
城としての面影はなく、所々が火の海と化している。
目を凝らすと、去っていく飛空艇の点のような姿が見えた。
150名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:41:34 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/12 13:11:13 ID:CU1KM6TE

FINAL FANTASY IV #0063 2章 2節 光を求めて(22)

「間に合わなかったか!」
セシルがチョコボから下りると同時に叫ぶ。
「ひどい…」
リディアも、目の前の無残な城の姿にそれだけ呟く。

しかし、自分の知る「紅い翼」は、ここまで残虐だったか?
ふと、セシルの頭の中でそんな考えが首をもたげる。
あのミシディアの急襲でも、ここまではしなかった。
勿論それは自分の命令もあっただろうが、隊員達も皆途中で出会う魔導師達は出来るだけ無視してクリスタルのある宮殿へと向かった。
もっとも、徹底的な抵抗を見せる者達は仕方なく殺すか、捕虜にするかで対処したが。
それに比べて、この惨状はなんだ?
無抵抗だったと思われる人々も徹底的に殺され、辺りに散る死体は目を逸らしたくなるようなものばかりだ。
セシルはそれらに、何か厭な予感を感じた。
確かに、バロン王は近頃人が変わったようだ。
しかしそれでも、シドや自分を初め彼に異を唱える者が大勢いた。
「紅い翼」の隊員たちもそうだ。
幾ら王に命令されたとは言え、彼らがここまでやるとは考えられない。少なくとも自分はそうだ。
そんな彼等がここまでの事をすると言う事は、やはりバロンでは何かが起こっている…
そこまで考えが至った時、後ろから「アンナ!」という素っ頓狂な声が聞こえた。
151名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:42:15 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/12 13:12:31 ID:CU1KM6TE

FINAL FANTASY IV #0064 2章 2節 光を求めて(23)

「アンナは!アンナは何処におる!」
そう叫ぶテラの顔は、普段のものとはまるで違った。その様子に、セシルとリディアは顔を見合わせる。
恐らく、この攻撃の激しさでは生きてはいない…
セシルは勿論、子供のリディアにもそれは分かっていたが、取り乱した老人相手にそんなことを言える筈も無い。
そうしている内にテラは「アンナを助けねば!」と叫び、城の中に走って行く。
「ま、待ってください!」とセシルが慌てて彼の肩を掴むが、彼は「うるさい!」と怒鳴って老人とは思えぬ力でその腕を振りほどき、
これまた老人とは思えぬ力で瓦礫の山と化した城を走り抜けて行く。

「アンナ!わしじゃ!テラじゃ!いたら返事をせい!」
そんなことを叫びながら、テラは血の匂いが漂う城内をくまなく探して行く。
「待ってくださいテラ!貴方の娘さんは恐らく、もう…」
セシルもリディアを背負って後に続く。
そうして城の上層までたどり着いた時、
彼らは内心少し覚悟していた、しかし一番見たくなかった光景を目の当たりにした。

一人の女性が胸から血を流して倒れていた。

152名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:42:27 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/15 03:07:50 ID:l5y+3sA/

FINAL FANTASY IV #0065 2章 2節 光を求めて(24)

 ダムシアン王位継承第1王子、ギルバート・クリス・フォン・ミューアは、争いごとを好まない青年であった。
 悲哀に満ちた美しい容姿を持ち、その容姿のように優しい性格を持っていた。
 身分や金銭といった俗世を嫌い、剣の代わりに竪琴を愛し、呪文の代わりに詩を口ずさむ、そのような青年だった。
  
 いま、彼の周りには、焼け焦げた破片となった城壁がそこら中にあって、もの言わぬ死体となったヒトの姿がそこら中にある。
 その空間の中ただひとり、ただひとりだけ、ギルバートは立って、居た。
 自身を愛し、守ってくれた家族。自身を慕い、守ってくれた国民。血溜まりの中のすべてを前にして、その表情に感情の色はなかった。
 ただ立ちつくすだけ。
 なぜこんなことになったのか。こんなことになって、自分はこれからどうすればいいのか。そもそもどのような思考をすればいいのか。
 絶望することも億劫なくらいに、体がだるくて重たくて。だからただ、立っているだけ。ギルバートはぼんやりと、静寂の中に立っていた。

 ――――アンナっ!

 老人の声が静寂を破る。
 ――――アンナ?
 空間に響いたその名前を耳にして、ギルバートの瞳が揺らぎ、仄かに意志が宿る。
 アンナ。その名が指すのはひとりの女性。この平間の中央で胸から血を流して倒れているひとりの女性。そうだ、アンナ。彼女は、僕を庇って―――― 
 ギルバートはアンナの元へ、のろのろと歩みを進めた。


 テラの視界に映ったのは、すでに致命傷を負ってしまっている愛しい娘。そしてこの状況でただひとりだけ、生きている男の姿。
「貴様、あのときの吟遊詩人!」
 それを認識した瞬間、テラの憤怒が爆発した。
 どうしてもこの手で救いたかった娘はすでに倒れ伏していて、娘を奪った憎い男だけが、今ものうのうと二の足で立っている!
153名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:49:12 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/15 03:09:15 ID:l5y+3sA/

FINAL FANTASY IV #0066 2章 2節 光を求めて(25)

 気がつけば、テラは両手に握った杖でギルバートに殴りかかっていた。
 殴る。
 殴る。
 殴る。
 アンナを奪ったことへの怒りをわめき散らしながら、テラは殴った。堰を切った流れは止まらない。
 男の弁解など聞けない。弁解しようとする男の態度も気に入らない。この五体満足なままでいる男に、アンナの痛みを――――

 ――――やめてっ!!

 背後から、声がした。聞き間違えるはずのない、愛娘の声。
 
 テラもギルバートもアンナを振り返り、セシルとリディアもアンナへと駆け寄った。
 アンナの瞳に、自分を覗き込むセシルとリディアの姿が映った。その表情は悲痛。
 他人から見て、自分がどれだけ血を流しているか知らないけれど、目の前で自分のせいでそんな顔をされるのは堪えるものだ。だからせめてふたりを安堵させようとアンナは微笑む。
 その微笑みをみて、リディアは顔を哀しみにゆがめながらアンナの手を握る。アンナを、少しの時間でもこの世につなぎ止めるように。
 その微笑みが、自分たちのためのものだと気づいたから。
 少女の小さな手、アンナはその感触に安らいだ。ふたりを安心させるはずが逆に安心させられてしまった。
 アンナは少女の心へ負担をかけてしまう罪悪感を胸にしまい、「ありがとう」と涙をこらえる少女に甘えることにした。
 まだ声を出すことができるのだと、大きく息をついた。このまま死ぬわけにはいかなかった。父に、伝えなければならないことがあるのだ。
 駆け寄って、生きていてくれたかと安堵する父へと言葉を告げる。
 ギルバートはこの国、ダムシアンの王子であり、吟遊詩人として身分を隠しながら旅をしていたこと。
 カイポを訪れた彼と出会い、恋におちた。そして、心からギルバートを愛していることを。
「……ごめんね、お父さん、勝手に飛び出したりして。でも、カイポに戻ろうとしてたの。……お父さんのことが大好きだからこそ、ギルバートのことを許してほしかったから。でもそのとき……」
 苦しげに言葉を紡ぐアンナを、ギルバートが引き継いで言う。
「ゴルベーザと名のる者が率いる、バロンの赤い翼が……」
154名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:50:00 ID:Q0ryWU7b
05/03/15 03:10:45 ID:l5y+3sA/
FINAL FANTASY IV #0067 2章 2節 光を求めて(26)
 テラたちと同じようにアンナを見つめていたセシルが顔を上げる。ゴルベーザ。それが、いまの隊長の名前か。
「ゴルベーザとはいったい何者なんだ?」
「わかりません……黒い甲冑に身を包んでいて……、人とは思えぬ強さで……」
「赤い翼はやはりクリスタルを!?」
「……はい。やつらはクリスタルを奪おうと火を放ち……、父も母もやられ……アンナも……、僕をかばって弓に……」
「そんなにまで、こ奴のことを……」
 ギルバートを庇った。その言葉に、テラの胸が痛む。アンナはギルバートのために自身の生命と投げ出したというのだから。

 そしてアンナは、自身の終わりを自覚する。テラとギルバートに、自分の死という不幸をもたらしてしまうことだけが最後の心残りだった。
「ごめんね、お父さん、私を許して。ギルバートを許してあげて……」
「アンナッ!!」
 死にゆくアンナを呼び止めるテラの叫びは届かない。
「ギルバート、あい……してる」
 そうして、最愛の恋人へと言葉を告げて、アンナは目蓋を閉じた。
 死にゆくアンナに最後に残るのは、リディアの小さな手の感触。
 その感触も薄れきってしまう前に、哀しい気持ちにさせてごめんなさいとその手を握りかえして。
 それが伝わったかどうかはわからないままアンナはこときれた。
 
「アンナ!! アンナ!! ……おのれ!! そのゴルベーザというのは一体何者なんだ!!」
 激昂するテラに、「最近バロンにやってきて、赤い翼を率いクリスタルを集めているとしかわからない」とギルバートは首を振る。
 アンナの死に涙するギルバートに、テラは「情けない!」と吐き捨てた。
「泣いてもアンナは生き返らん!! バロンの、ゴルベーザ……!!」
 テラはギルバートたちに背を向け、ここから立ち去ろうとする。
「テラ!? どこへ!?」
「アンナの仇をとりにいく!!」
 引き留めるセシルへ、激情のままテラは怒鳴り返した。
「ひとりでは……!!」
「助けなどいらぬ!! 娘の仇だ、私ひとりでやる!!」
「テラ!!」
 そうして。セシルの声に振り返ることなく、テラは去っていった。
155名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:50:22 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/15 03:23:06 ID:l5y+3sA/

FINAL FANTASY IV #0068 2章 2節 光を求めて(27)

 城門へ向かって廊下を歩くテラの胸には、後悔だけ。
 アンナとギルバートのことを認めなかったこと、激情のままギルバートを殴打したこと、自分を案じるセシルへと怒鳴り返してしまったこと。
 賢者の名にとてもふさわしくない、感情のまま行った愚行。それは後悔となって胸の中に沈殿する。
 しかし、いまさら引き返すことなどできるはずもない。
 いまはただ、最愛の娘を失ったこの哀しみも後悔もすべて復讐の怨念へ変えて、ゴルベーザへと向けることしか考えられなかった。


 テラが去った後には、未だ哀しみの色濃い気まずい静寂。
 その中、眠るアンナを前にして、涙をこぼし続けるギルバート。からっぽだった彼の心が色づいていく。
 ―――それは哀しみの色。
 ―――それは悲しみの色。
 ―――それは、絶望の色。
 家族が、国家が、そして恋人が永久に失われてしまった。
 もう、二度と取り戻すことが叶わないのだ。それを、理解してしまった。
 アンナの遺体に跪いて、身を縮めて、泣き崩れる。
 そしてギルバートは、慟哭に至らぬ嗚咽をもらし続ける。


 リディアは、目に涙をためて、うつむいて、それでも泣くことをこらえていた。
 迫りあがる哀しみを噛み潰すように、下唇を噛み締めている。
 迫りあがる悲しみを握り潰すように、両手を握り締めている。
 静寂の中、聞こえるのはギルバートの嗚咽だけ。
 聞こえ続ける彼の嗚咽の中で、リディアは体を震わせていた。
 そんな彼女へセシルが声をかけようとした瞬間、ギルバートへ向かってリディアの感情が爆発した。
「弱虫!! 弱虫っ!! お兄ちゃんは男でしょう!? 大人でしょう!? なのに……!」
 感情のたかぶりのせいで声が詰まる。涙がこぼれる。言いたいことの半分も言えやしない。
156名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:54:11 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/15 03:25:59 ID:l5y+3sA/ 

FINAL FANTASY IV #0069 2章 2節 光を求めて(28)

 リディアの手の中には、確かなぬくもりがあった。
 哀しくて哀しくて仕方なかった自分のために、アンナが最後の最後に残してくれた、微かな、されど確かな感触。
 あの優しいひとは、ギルバートを愛して、ギルバートのために死んだのだから。
 ギルバートは、ちゃんとあのひとために、あのひとの愛に応えなきゃならないはずだとリディアは思う。
「そうさ……君の言うとおり、僕は弱虫さ! だからずっとこうしてアンナのそばにいるんだ!」
 しかし幼い少女にすらこう言われたことがさらにギルバートを自棄にしてしまったのか、もう何もかもどうでもいいんだと彼は訴える。
「な……、あたしだって……!!」
 怒りに言葉を詰まらせながら、それでも反論しようとするリディア。しかしそれよりも先に、ふたりのやりとりを聞いていたセシルがギルバートの頬を殴りつけていた。
 リディアが目を丸くしてセシルをみる。セシルはギルバートの胸ぐらをつかんで自分の正面に彼の体を向けさせた。
「悲しい思いをしているのは君ひとりだけじゃないんだぞ! 何よりそんなことをしていて、アンナが喜ぶと思っているのか!!」
 ギルバートはうなだれる。この暗黒騎士の言うことは正論だ。全くの正論だ。だからと言って、これから自分はなにを為せばいいというのだろう?
 そんな彼に、セシルは続けた。
「助けてほしい人がいるんだ」
「助ける? 僕が?」
「光熱病に倒れている仲間を助けるために、君の力を貸してほしい」
「光熱病……、砂漠の光だね」
「そうだ、ローザを助けるために、……僕の大事な人を救うために、どうしても君の力が必要なんだ……頼む!」
 大事な人を、救う。そんなセシルの明確な願いを前に、ギルバートの瞳にしっかりとした意志の光が灯る。
 自分には、もう何もないとギルバートは思う。だけど、そんな考えは間違っていると知った。
 アンナは自身の生命と引き替えに、僕という大事な人を救ってくれたのだ。アンナだけではない。父母も、兵士たちも、みんな自分を守るために死んでいった。
 そしてギルバートはここに生きて、居る。
157名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:54:21 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/15 03:28:38 ID:l5y+3sA/

FINAL FANTASY IV #0070 2章 2節 光を求めて(29)

 みんなが救ってくれたこの身に、まだ生命が残っている。まだ意志が残っている。
 ならば、立ち上がらなければ。
「愛する人を、失ってはいけない」
 セシルを真っ直ぐに見つめてギルバートは言った。
「僕はギルバート。ギルバート・クリス・フォン・ミューア。君は?」
「僕はセシル。そして彼女は……」
「あたしはリディア。よろしくね、ギルバート」
「よろしく、セシル、リディア。……リディア、さっきはすまなかったね」
「え、ううん……いいの。かなしい気持ちは、あたしたちにもわかるから……」
 先ほどまで罵倒に近いことを言った相手とはいえ、大の大人に人に面と向かってこうして謝られることにリディアは戸惑った。
 しどろもどろに答えるリディアにギルバートは、優しいんだねと微笑む。
「ありがとうリディア。……セシル。砂漠の光は東の洞窟に住むアントリオンの、産卵の時に出す分泌物からできるんだ。でも洞窟に行くまでに浅瀬があって、それを越えなきゃならない。」
「浅瀬か……」
「うん、でも大丈夫。ホバー船がこのダムシアンにある。カイポまで帰るときにも浅瀬を渡っていけるはずだ。……それじゃあ、急ごう。僕はホバー船を用意してくるから、ふたりは先に外で待っていてくれ」
「わかった」
 そうして、セシルとリディアは外へ。
 ギルバートがひとり、ここに残される。ギルバートは空間を見渡した後、一拍の間、目を閉じ、開き、そして。
「さよなら……、アンナ」
 背を向ける。
 死に満ちた瓦礫を踏みしめて。ギルバートは歩き出した。
158名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:54:49 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/20 23:16:55 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0071 2章 2節 光を求めて(30)
ダムシアンに来た時は東にあった太陽が、いまでは真上に上りつつある。
セシルとリディア、それにホバー船を操縦するギルバートは小さくなって行く城を背後に、
一路アントリオンが棲むとされる辺りを目指していた。
「なかなか乗り心地いいね。これ」
後ろへ流れていく風景を眺めながら、リディア。
「ああ。低空しか飛べないし武装も何もないけど、この子の機動力は飛空艇並みだよ」
速度を少し上げながら、ギルバートが答える。
「襲撃された時も、生き残った人達はこのホバー船に乗って領内の集落に逃げたんだ。無事だといいのだけれど…」
「大丈夫、きっと無事さ」
顔を曇らす彼を、セシルが軽く励ます。

そんな話を暫く続けていると、砂の地面が一旦途切れ、少し先に浅い海が広がった。
3人を乗せたホバー船はその海を強引に突っ切り、数キロ先の対岸を目指して一直線に走って行く。
「たったいまファブールの領内に入った」
対岸へ渡り終えた時、ギルバートが言った。
「アントリオンの巣はこの先のホブス山のふもとにある。そろそろ着くよ」
彼がそう続けた時、地平線の向こうに尖った何かが見えた。
それは近づくにつれ高く大きくなっていき、やがて気高い岩山である事が分かる。
「ホブス山だ」
セシルが、遠くにそびえる巨峰を見やりながら言う。
「おっきい…」
リディアはその巨大さに圧倒されている様子だ。
実際、ホブス山は彼女が生まれ育った山々よりも遥かに高い。
世界でも1,2を争う偉大さだが、セシルはこれに匹敵する山を見た事がある。
ただ、あそこは何やら尋常ではない雰囲気を感じ、近づきがたい感じだ。
ホブス山がいよいよその全景を現した時、
その膝元に明らかに周りの景色と馴染んでいない「穴」のようなものが認められた。
「着いたよ、2人とも」
ギルバートがその「穴」を指差しながら言う。
「あれがアントリオンの産卵地だ」
159名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:58:58 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/20 23:18:27 ID:dnAVp8Kc 

FINAL FANTASY IV #0072 2章 2節 光を求めて(31)

停止したホバー船から降り、アリ地獄をそのまま大きくしたような巣の中央へと歩いていく。
中央へたどり着いた時、ギルバートはその場に座り込み、砂の大地の中に手を突っ込んだ。
「えーっと、確かこの辺りに…あった!」
そう叫ぶと、地中をまさぐっていた右手を引きぬく。
その手には、美しい輝きを放つ紅い宝石が握られていた。
「これが”砂漠の光”?」
ギルバートから宝石を受け取りながら、セシル。
「そうだよセシル。さあ、日の暮れない内にカイポへ…」
その時、ギルバートの背後に巨大な鋏が、地面を突き破りつつ真下から現れた。
「アントリオン!」
突然の出現にセシルは鋭く叫びながら交代し、リディアは「キャー!」と叫んで巣の上のほうまで駆け戻る始末だ。
ギルバートだけは落ち着き払った様子で、その場に立ったまま鋏の形をした腕を見据えている。
「大丈夫。凶悪な外見の割にアントリオンはおとなしいんだ。
 人間には危害を加えない。さあ、行」
そこまで言った時、鋏が突然大きく開いたかと思うと、
――ギルバートめがけて伸びてきた。

「うわあ!」
「危ない!」
セシルが咄嗟に短剣を投げる。
それはギルバートを襲おうとした鋏の関節の辺りに突き刺さって一瞬怯ませる。
その隙を見て命からがらギルバートが逃げてくる。同時に、腕だけを露わにしていたアントリオンがその姿を現す。
――蟹に良く似た、先端が鋏の形をした太い腕を2本持ち、それよりもだいぶ細い足が4本生えている。
全体としてはザリガニか尻尾の無い蠍、そうでもなければトンボの幼虫のような姿だが、全身を硬そうな甲殻で包んでいる。
砂漠の巨獣アントリオンが、今まさに3人を襲おうとしていた。
160名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:59:36 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/20 23:20:23 ID:dnAVp8Kc

FINAL FANTASY IV #0073 2章 2節 光を求めて(32)

「ええい!」
セシルは剣を抜き、あの独特の構えに入る。数瞬後に、その刃を闇色の光が包み、そして放たれた。
一発。顔を狙ったが、硬い皮膚に弾かれてダメージは与えられない。
二発。頭は効かないと見て腕を狙うも、やはり効果は無い。
三発。今度は少し離れた所からリディアが魔法で援護してくれ、
そちらに気を取られている隙に左腕を付け根から斬り落とした。
その痛みに怒声を上げ、体を苦しげによじるアントリオン。
だが、魔物の痛みはすぐに怒りに変わり、残った右腕を一閃して鎧を着たセシルを軽々と弾き飛ばす。
「セシル!」
宙を舞うセシルをギルバートが受け止めるような格好になり、二人はもんどりうって砂の大地に倒れる。
「だ、大丈夫?」リディアが駆け寄り、ケアルで応急処置を施す。
「ああ、なんとか…」頭を押さえ、セシル。
そこへアントリオンがザクザクと不気味に足音を響かせながら詰め寄ってくる。
その動作が以外に速く、すぐに攻撃の射程に入ってしまう。

鋏が3人の首めがけて繰り出されるその瞬間、3人の姿はそこから消えた。
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 01:59:58 ID:Q0ryWU7b
FINAL FANTASY IV #0074 2章 2節 光を求めて(33)

突然姿を暗ました敵に訝り、アントリオンが滅茶苦茶に腕を振りまわす。
が、砂以外の何にも触れない。獲物を完全に見失ってしまっている。
実は、3人はアントリオンのすぐ近く、足下の辺りに隠れていた。
攻撃を受けようというその瞬間に、ギルバートがセシルとリディアを脇に懐に飛びこんだのだ。
これが意外な盲点でまさに灯台下暗し、それまで前方にばかり注意を払っていた巨獣は彼らを見つけられずにいる。
「驚いたな…咄嗟にここまで上手い隠れ場所を見つけるなんて」
「僕、逃げたり隠れたりするのは昔から得意でね」
声を殺していうセシルに、ギルバートは自嘲気味に笑う。
「それより、ここ熱い…」
リディアが、体の砂を払いながら呟く。
確かに、彼らは砂漠の日ざしによって焼石のように熱された砂に、半ば埋もれるようにしている。
仮にこのままアントリオンをやり過ごせても、
それまでには3人とも残らず干物か天然バーベキューか、さもなければ踏み潰されてミンチ肉が関の山だ。
「どうする?ここにいたらいずれ見つかってしまうし、
 そもそも見つかるまでもなくこの熱さにやられてしまうかも…」
「それなら大丈夫だ。僕に任せて」
ギルバートはそう言うと背負っていた竪琴を取り出した。

「楽器なんかで何するの?」
「暫くの間注意を引きつけるのさ、リディア」
訝しげに竪琴を見つめるリディアにそう答えながら、吟遊詩人は狭い中で器用に演奏できる体勢になる。
「それともう一つ教えておくと、これはただの楽器じゃない。
 …モンスター用に作られた、一風変わった武器でもあるのさ」
そう言って彼は竪琴を奏で始め、辺りに美しい調べの音が響いた。
162名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:05:36 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/20 23:25:52 ID:dnAVp8Kc 

FINAL FANTASY IV #0075 2章 2節 光を求めて(34)

その途端、アントリオンが殴られでもしたかのように悶え始める。
魔物はそのまま逃れるようにその場から逃れる。その拍子に彼らを見つけたが、
わき目もふらずに竪琴の音色から少しでも遠くへと移動して行く。
巣の反対側まで来てようやく落ちついたのか、立ち止まって憎々しげにこちらを睨むが、決して近づいてこない。

「一体何をしたんだ?」
訝しげに、まだ竪琴を奏で続けるギルバートを見やる。
「この竪琴は特殊でね。人間には普通に聞こえても、
 モンスターが聞くと驚くぐらいに嫌がるんだ。あんな風にね」
答えながら、近づこうか近づくまいか迷うような素振りをする魔物を見やる。
「それよりセシル、倒すなら今だ!」
「わかってる!」

怒鳴り返し、剣を手に一気にセシルが走り寄る。
動きが鈍い鋏の迎撃をかわして顔まで到り、一気に鎧のような甲殻に守られていない眼に剣を突き刺す。
太い鳴き声でアントリオンが咆哮する。それに混じって、リディアの「どいて!」という叫び声が聞こえる。
セシルが剣から手を放してその場に伏せると、背後からサンダ―の雷が飛んできた。
雷は狙いたがわずセシルの突き刺した剣にあたり、そこから巨獣の全身を剣もろとも貫いた。
ゴオウ、という唸り声とともに、アントリオンが数歩後ろに仰け反る。
しかしそれも束の間、体勢を整えて目の前のセシルだけでも殺そうと隻眼片腕で襲いかかる。
が、当のセシルはその場で棒立ちし、ただ迫る魔物を見据えていた。
「チェックメイト」

そう暗黒騎士がいうが早いか、
眼に刺さったままの剣から放たれた暗黒の刃によって砂漠の巨獣アントリオンは中から切り刻まれた。
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:05:56 ID:Q0ryWU7b
名前が無い@ただの名無しのようだ 05/03/20 23:28:25 ID:dnAVp8Kc 

FINAL FANTASY IV #0076 2章 2節 光を求めて(35)

「おかしい」
竪琴を背負いなおし、アントリオンの死骸を見下ろしながら、ギルバート。
「おれほど大人しい生き物の筈のアントリオンがなぜ…」
「最近、魔物の数が以上に増えている」
訝る彼に、セシルが言う。
「これまで大人しかった者達まで襲いかかってくる…」
そこで一旦、かぶりをふる。
「やはり、何かが起ころうとしている前触れ…」
そう続けると、3人を厭な予感めいた物が襲った。
何かとてつもなく不吉で、不穏な何か…
バロン王の豹変、戦争の拡大、魔物の増加に生き物の狂暴化…
一体、何が起きている?
いくら考えてもわかりそうにない。
「ね」
沈黙を破ったのはリディアだった。
「早くローザさんの所へ!」
「ああ、行こう!」
懐から”砂漠の光”を取りだし、セシルはホバー船に走った。

カイポに戻った時には、日は既に西に沈みかけていた。
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:06:19 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  05/03/21 02:03:03 ID:jU3rswCH 

FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(1)

ギルバートの言に従い外へ向かう途中、セシルたちは無残に踏みにじられた城の様子を再び見ることとなった。
壁や天井を彩る飾りタイルは砕け落ち、中庭の優美な噴水は悪臭を放つ溜池と化し──そして一面に広がる、人の肉の焼ける臭い。
その蛮行に旧知の者が加わっていた点を差し引いても、充分に胸の悪くなる光景だった。
まして幼い子供を連れて長居をすべき場所ではない。足早に通り抜けようとするセシルの腕を、当のリディアが後ろに引いた。
「ねえあそこ、さっき動いたみたい」
少女が指し示す先に意識を凝らすと、崩れた柱と壁の陰に、何者かの気配がある。瓦礫を除けると、下働きらしい少年が肩を押さえ息を殺していた。体を挟まれ身動きが出来ないようだ。そのおかげで、逆に難を逃れたのだろう。
ひどく怯えた様子の少年にうなずき、セシルは残る瓦礫に手をかけた。
「まってて、今なおしてあげる!」
全身に痣を作った少年を見て、リディアも習ったばかりの回復魔法を唱え始めた。魔道士の素質を見出したテラが、彼女に教えを授けたのだ。
ブリザドやサンダーといった初歩の攻撃魔法まで、短い道中の間にリディアは身につけてしまった。少女の才能もさることながら、師である賢者の力量には感嘆するほかない。
「……ケアル!」
瓦礫をほぼ取り去ると同時に正しい呪文が完成し、リディアの手に淡い光が生まれた。緑色を帯びた粒子となって少年の体に吸い込まれ、傷を癒す。
「だいじょうぶ? もう痛くない?」
「……あ…………」
「えーっと、魔法、ちゃんとかかったよね?」
「あ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自由になった少年は、突然悲鳴をあげ、身を乗り出してきたリディアを突き飛ばした。とっさに支え事無きを得たが、その間に少年は城の奥へ走り去ってしまう。
そして。
「…………………。
 コラ〜〜〜っ! なにすんのよっ!!」
しばし呆然とした後、親切を仇で返されたリディアが少年を追って駆け出す。引っかかるものを感じながらも、セシルもまた子供たちに続いて、再び城の奥へと向かった。
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:10:35 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  05/03/21 02:05:50 ID:jU3rswCH

FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(2)

ひどく壊されたとはいえ、はじめてこの城を訪れたセシルたちと、もともとの構造をよく知る少年では条件に差がありすぎる。あっという間に見失い、諦めて外に出ようとして、ギルバートとかち合った。
「君たち、どうしてこんなところ?」
「お兄ちゃん!! そっちに男の子来なかった!?」
まだおかんむりのリディアは、外で待てと言われたことなどすっかり忘れているようだ。面食らった様子のギルバートに気付かず、勢いよくまくし立てる。
「ひどいんだよ!
 助けてあげたのに、お礼もいわないで逃げてったの!
 あたし、もうちょっとで転んじゃうところ──」
「待ってくれ!
 城の者が……生き残りがいたのか!?」
「え? うん、あの、そうじゃなくて」
「下の、中庭の南側の廊下にいた。瓦礫に隠れていて見つからなかったらしい」
強い調子でさえぎられ、逆に驚く少女に代わって、セシルが事の次第を説明する。ギルバートの顔に喜色が浮かび、そしてセシルは、自分が感じていた引っかかりの正体を知った。
彼はこの国の王子だ。ダムシアンの人間でもないセシルに手を貸し、見ず知らずの女性を救うよりも先に、やらなければならないことがある。
「ギルバート、やはり君は……」
──だから。リディアが気付いたあの少年の気配を、彼は感じなかった。
生存者を探そうともせず、さっさと城から出ようとした。
惨禍に心を痛めるふりをして、結局はローザと、彼女を助けたい自分のことしか頭になかった。
臆病で我が身がかわいい暗黒騎士。一度や二度命令に逆らったぐらいで、都合よく変われやしない。
「君は……」
異様な空気を察した二人がセシルの顔を注視する。後に続く言葉を、なんとかして外に押し出そうとした。
ギルバートは、ここに残らなければならない。
だけどローザが。
「殿下。
 これは一体、如何なる仕儀にあらせます」
結局は口を噤んだセシルを、まるで叱責するかのように、厳めしい声が彼の背を打った。
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:10:57 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  05/03/21 02:09:15 ID:jU3rswCH

FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(3)

「ムスターファ! お前も無事だったか」
六十は越しているだろうか。ギルバートに名を呼ばれた老人は、一国の重鎮であろうと推測するに充分な風格を漂わせていた。
「……殿下」
その場で膝をつく老ムスターファ。組んだ指を眉の高さに持ち上げて、恭順の意を表す。動作のひとつひとつに、異様な気迫がみなぎっていた。
「この老いぼれめは、殿下の器量を見誤っておりました。さぞやいままで御不快にあらせられたと存知ます。
 されど──それほどの覇気がおありなら、なにゆえ隠しておられました!
 殿下が御座を省みぬからこそ、兄君がたも!」
(……おじいさん、何で怒ってるの?)
言い回しは理解できずとも異様な空気は察したか、小声で尋ねるリディアに、セシルは黙って首を横に振るしかなかった。
愛する女性の死を前に取り乱しでもしなければ、彼の出自は容易に知れる。今はバロンに弓引く身だと、察してくれなど無体な話。
「ムスターファ……
 まさかお前……僕が?」
「さもなくば、なにゆえ御身は怪我もなく、そうして立っておられるのです!?
 なにゆえ暗黒騎士など、お側に召されているのです!!
 なにゆえ──」
「違う! 彼は……」
「違います、僕は……」
顔を上げ、怒りとも憎しみともつかぬ眼光を向ける老人の誤解を解こうと、遅まきながらセシルとギルバートが声をあげる。
だが最後まで言い終わる前に、抜き放たれた刃を認め、それが逆手に握られていることを見て取り……
「よせ、ムスターファ!」
老人の意図を悟り、反射的にセシルはリディアの顔を手の平で覆った。
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 02:11:48 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  05/03/21 02:11:48 ID:jU3rswCH
FINAL FANTASY IV SubStory 1 継承者の出立(4)
「ちょっと、離してよ!」
「……だめだ。君は、見ちゃいけない」
間に合っていてくれと願いながら、激しくもがく少女を押さえつけることだけにセシルは神経を集中させた。
ギルバートが何か言っている。ムスターファは、まだかろうじて息が残っているようだった。しかし、血臭に気付いたリディアの手から力が抜け、セシルが彼女を解放したときは、既に事切れていた。
「………なんで?」
まだ温かい死体の側に、とぼとぼとリディアが歩み寄る。
「おじいさん……なんで?」
「じい。ひどいね。
 最期まで信じてくれなかった」
少女の疑問を放置して、年若い王子は皺だらけの頬を撫ぜている。
形だけでなく、詩人の作法が心身に染み付いているのだろう。放心しきった呟きさえ、節らしいものがついていた。
「それとも、そう思いたかったのかい?
 城にも戻らず歌ってばかりいるよりは、バロンと通じていたほうが、まだましだと言うのかな……」
今は何を言っても無駄だろう。所在なくさまよわせた視線が、物陰に潜んだ誰かのそれとぶつかった。
誰何の声を上げる前に、勢いよく飛び出したのはリディアが救ったあの少年だ。憤激の中に、わずかに後悔の色があった。もしかすると、彼が故人にセシルのことを知らせたのかもしれない。
「裏切り者!」
ありったけの敵意を投げつけ、即座に身を翻す。幾分迷った後、とにかく行き先を知っておこうと動きかけたセシルの肩に、ギルバートが手を置いた。
「いいよ、砂漠の光を取りに行こう」
「しかし……」
「おいでリディア、ここまで来たんだ、ホバー船が動く所を見せてあげる」
「ギルバート!」
「僕らは今、ここにいるべきじゃない」
「……すまない」
飄然と歩くギルバートの背に、セシルは彼の返事を探した。
会いたかった。ローザに。カインに。シドに。テラに。
挫けている場合じゃないと、叱り飛ばして欲しかった。
「なにさ、助けてあげたのに!!」
リディアが悔しそうに、少年の消えた回廊の奥に向かって叫ぶ。
ちょうどいい高さにある柔らかな髪を撫で、のろのろと、セシルは足を動かした。
──人の気配が絶えた城は、途方もなく広かった。
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 18:46:07 ID:qWfLWlJT
あげます
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:13:40 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 21:55:47 ID:elG0Kpcb

FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(1)

カイポに戻ったセシル達は、直ぐにローザを介抱してくれている老夫婦の家へと向かった。
「まさか本当に持ち帰ってくるとは……」
「でもよかった! もうだめかと思ったよ」
老夫婦は少しばかり驚いていたが、明るい表情でセシル達を迎えてくれた。
「ローザはまだ生きて居るんですね」
そんな二人の反応にセシルもほっと胸を撫で下ろした。
もし間に合わなかったら。カイポを出発してからずっと心の何処かで思っていたのだが、その考えはどうやら杞憂に終わったようだ。
「ああ、だが急いでくれ。様態は以前より悪くなっている」
二人の案内でローザの部屋に通される。
「ローザ……」
ローザは以前と同じく、ベットに伏したままであった。
しかし前より顔色は悪くなっており、病状が悪くなっているのは一目瞭然であった。
「すごい熱……」
ローザの額に手をあててリディアが言う。
「昨日から急に熱があがりだしてな、手の施しようもなくなっていた所だったんじゃよ」
「セシル、早くローザさんに砂漠の光を」
ギルバートが言う。
「ああ」
セシルは懐から砂漠の光を取り出す。
「ギルバート、これはどうやって使うんだ?」
手の中で輝くその宝石をもう片方の手で指しながら訪ねる。
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:13:51 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 21:56:53 ID:elG0Kpcb

FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(2)

「そのままローザに向かってかざして」
「それだけでいいのか?」
その答えに、セシルは思わず訪ねる。
セシルは今まで宝石で病気が治るという事例に遭遇したことがなかった。そのため、かざすだけでよいというのは少しばかり驚いた。
もっと複雑な手順がかかるとおもっていたのだが。
「ああ、それだけだ。だけど、あえて言うなら一つだけ注意することがあるね」
「何?」
「その人が治ってほしいと願うこと」
「え?」
その一言だけではギルバートが何を言っているのか分からなかった。
ギルバートは少し間をおいて続ける。
「大切な人を失いたく無い。そう願えばきっと大丈夫さ……」
「分かった……」
アンナの事を思い出していたのか、ギルバートは悲しそうな顔をしていた。
「ローザ……すぐに直ぐに治してあげるから」
セシルはローザの耳元で優しく言い放ち、懐から砂漠の光を取り出した。
ギルバートに言われたとおりに、砂漠の光をローザの枕元でかざす。
その途端、宝石が輝き始め、ローザに向かって光りを照射した。
光がローザを優しく包み込む。
お願いだ……ローザを……
砂漠の光をかざしながら、セシルはそう願い続けた。
誰もが黙ってその様子を見ていた。
どれぐらいの時間がたったのだろう。突如、砂漠の光が砕け散った。
それによりさらに輝きは増し、部屋を光りが支配する。
その光にセシル達は目を覆った。
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:14:05 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 21:58:32 ID:elG0Kpcb

FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(3)

光が止み、辺り今までの光景が戻ってくる。
先程までセシルの手で輝いていた宝石は、砕け散り輝きを失った状態で、辺りに散乱していた。
「ううん……」
ローザの目覚める声が聞こえた。
「此処は……」
ローザは寝起きのような、ぼんやりとした目で周りをきょろきょろと見回し、近くのセシルと目が合った。
「セシル……何故あなたが……そうか! 私、あなたを追って」
そこでようやく自分がどどのような経緯で、此処にいるかを思い出したようだ。
「私……あなたにこんな顔……」
寝起きを見られたのが恥ずかしかったのか、ローザは顔を真っ赤にしたまま黙り込んでしまった。
「全く……無茶だよ君は」
そんなローザを見て、今までの張りつめていた緊張の糸が一気に途切れる。
「私、ミストであなたが死んだと聞いて、でも信じられなくて」
「もう良いよ、ローザ」
あたふたと話し始めるローザを制止する。
何故セシルを追ってきたのか。その事はローザの口から聞かなくても分かっていた。
ただ、そんなにも自分を想っていてくれるローザを少しかわいいと思った。
「ねえ、ところでカインは。カインとは一緒でないの?」
しばらくして、ローザが訪ねてくる。
「ああ……ミストではぐれてね。そのまま……」
ミストはリディアの呼び出した召喚獣によって地割れに飲み込まれた。そして自分が目覚めた時にはカインはすでに居なかった。
あまり考えたくはないがカインはひょっとしてもう……
「そう……」
「大丈夫、きっと生きているよ」
肩を落とすローザを見て思わずそう言ってしまう。だが今はそう思うしかなかった。
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:17:34 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 22:00:54 ID:elG0Kpcb

FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(4)

「ローザ、今度は僕の方から質問があるんだ」
「分かったわ」
突然険しい口調に変わったセシルを見て、少し戸惑ったがローザは了解した。
「その前に紹介するよ、ギルバート、リディアこっちへ来てくれ」
後ろを向き、先程からセシル達の会話を側で聞いていた二人を呼ぶ。
「君たちにも関係のある話なんだ」
「ああ」
「うん」
二人はセシルの呼びかけに答え、こちらにやってくる
「彼はギルバート、ダムシアンの王子だ。君の病気を治ったのも彼のおかげだ」
「どうもありがとう」
ローザが深く一礼をする。
「いえ……僕は別に」
ギルバートは少し照れながら答えた。
「この娘はリディア。ミストの召喚士の生き残りだ」
セシルは続けた。
「ミストがどうなったかは君も見ただろう?」
「ええ……」
「ここからが君に聞きたい事だ、ローザ」
セシルは少し間を開けて、話始めた。
173名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:21:06 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 22:03:17 ID:elG0Kpcb

FINAL FANTASY IV #0077 2章 3節 新たなる旅立ち(5)

「ゴルベーザーとは誰なんだ?」
ダムシアンで聞いた時からずっと気になっていたその名を訪ねる。
「どうしてその名を?」
ローザは少しばかり驚いた様子だ。
「ダムシアンを赤い翼が襲った時ギルバートから。その時の赤い翼は酷く残虐なやり方でダムシアンを攻撃した。
僕のいた頃はあんな事などするわけがない。その時、赤い翼を指揮していた男、それがゴルベーザだ。奴は一体」
「あなたがバロンを出てから直ぐのことよ」
しばらくして、ローザは話し始めた。
「王はゴルベーザーと言う男を、赤い翼の新たな指揮官にしたの。それからの事よ、王が以前にも増しておかしくなったのは。
自分のやり方に反対するものは皆、牢に入れ、民へも厳しくなっていった。ダムシアンを攻める時だってシドが反対したので牢に……」
「シドが!」
セシルは思わず声を荒げた。
「ええ」
ローザが続ける。
「そんな時にあなたとカインが死んだって噂が流れて、そのままいても立ってもいられずに」
「そうか……」
事態はセシルの予想以上に大きくなっていた。
174名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:21:30 ID:Q0ryWU7b
299 2005/04/04(月) 22:04:25 ID:elG0Kpcb 
FINAL FANTASY IV #0078 2章 3節 新たなる旅立ち(6)

「ローザ、バロンは……いや赤い翼は次は何処のクリスタルを?」
「え?」
予想外の問いにローザは思わず声を上げる。
「もうバロンには帰れない。ならば赤い翼が次にねらおうとしてるクリスタルを守らなければ」
「ダムシアンのクリスタルを手に入れたとなるとおそらく次はファブールだろう」
ギルバートが横から口を挟む。
「こうしてはおけない、ファブールへ。ゴホゴホッ!」
突然ローザが立ち上がろうとして咳き込む。
「ローザ、無理をするな。ファブールは僕らが行く」
「でもファブールへ行くボブス山を通らなければならないな」
ギルバートが言う。
「なにか問題があるのか?」
セシルが訪ねる。
「ボブス山の入り口は、厚い氷で覆われている。それを何とかしなければ」
「そうか」
「その氷を黒魔法で退かせばどう? リディア、あなたファイアは使える?」
ローザはリディアの方に向き直り訪ねる。
「! ……ううん、つかえない……」
そのまま黙り込んだ。
「召喚士のあなたが魔法の初歩ともいえるファイアを使えないはずは……うッ……ゴホッ!」
「ローザ! やはり君は待ってなきゃだめだ!」
またもや咳き込むローザを見て、強い口調でセシルは言う。
「私なら大丈夫。それに私は白魔導士。足手まといにはならないはずよ……」
「…………」
「セシル……ローザは君と一緒に居たいんだよ」
「……分かったローザ……一緒に行こう」
セシルはしばらく考え込んでそう言った。
「もう夜だ……とにかく、今夜はゆっくりお休み」
「セシル……分かったわ」
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:21:45 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI 2005/04/08(金) 01:10:22 ID:u+xWIEr2

FINAL FANTASY IV #0078 2章 3節 新たなる旅立ち(7)

ギルバートとふたり、カイポの北側に向かってリディアは歩いていた。
セシルとローザは、まだ老夫婦の家にいる。ダムシアンの壊滅に始まって、赤い翼の現状、消息を絶った竜騎士、バロンに残された人々の安否──リディアの知らないことばかり険しい顔で話し込む二人の側に居辛くて、用事があると部屋を出たギルバートについてきた。
セシルの大切な人が無事だった。そのことは、もちろん嬉しい。それにしても。
「……きれいな人だね。ローザって」
初めて見たときからわかっていたことだが、病が癒え、面と向かって話してみると、その印象は更に強い。
わかったことは他にもある。セシルがローザを大切にするのと同じぐらい、彼女もセシルが好きなのだ。それに大人で、きっとリディアより魔法もたくさん使えるんだろう。
だからどうだというわけではないのだが、自分の胸にしまっていると、据わりが悪くてしかたなかった。
「そうだね。それに、行動力もある。
 ……ちょっと似てるな」
考えていたことを吐き出して、賛同もしてもらったのに、まだ気分がすっきりしない。いろいろ理由を考えるうち、そもそも彼が何のために、どこへ向かっているのか知らないことをリディアは思い出した。
「ねえ、こっちってオアシスがあるんだよね?」
「そうだよ。たくさんのキャラバンがテントを張っている。
 知り合いが結構いてね、できたら話を聞こうと思って」
カンテラを手に日の落ちきった町を歩くギルバートの足取りは、ずいぶんと迷いがない。リディアに合わせ遅らせていることもあるが、元々このあたりを歩き慣れているのだろう。
おいしそうな料理の匂いと話し声を夜風が運ぶ。だんだんと道が広がり、ささやかな灯火に代わって湖面に踊る月の光が二人の行く手を照らし出す。
岸辺に並んだ大きなテント、何十人もの人が囲んだ大きな大きなかがり火に、リディアは思わず立ちすくんだ。
176名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:26:03 ID:Q0ryWU7b
オアシスの南に広がる平地。そこでは複数のキャラバンがテントを張って、焚き火を囲み酒を飲み、日没から就寝までのひとときを過ごす。
スパイスの効いた炙り肉。蒸留酒に水煙草。小銭を賭けてのカードゲーム。
無秩序な騒ぎの中で、ふいに場違いな音を耳にし、商人たちの間に緊張が走った。
宵闇の向こうに、小さな光が見えている。おぼろげに浮かぶ影は、大人と子供の二人連れに見えた。
「誰だ?」
部下たちの中に欠けた者がないことを確かめて、ビッグスは声を放った。
「怪しいものじゃない」
返答に混じって、再び同じ音がする。今度はやや長く──リュートが奏でる音階と、聞き覚えのある声に、ビッグスは警戒を解いた。
「……おまえか、ギルバート。おどかすな」
40年以上も商売を続けていれば、酒場や広場で技を披露し対価を得る芸人たちとも、それなりの縁が出来てくる。ギルバートもその1人で、他の町へ移るついでに連れて行ったこともあった。
「それは悪かったね。でも、町中でそこまで用心してるとは思わなかった」
「まあ、普通ならな」
このところ物騒な話が多い。地下水路に巣食った怪物、山崩れに飲まれたミストの村、ここカイポでも、どこぞの宿が人間に化けた魔物に襲われたらしい。
「知ってるか?
 何でも、ダムシアンまで襲われたって話だ。
 城から逃げてきたって連中も近くにいるが、それっきり音沙汰が無いってんで──」
「なんだって!
 その人たちはどこに!?」
勢いに呑まれたビッグスが、避難者が集まっているテントを指すと、若い詩人はすぐさま身を翻した。
「あ、おいてかないでよ!」
カンテラを下げた女の子が後を追うが、運悪く横切った商人とぶつかり、見失ってしまったようだ。
「もう〜〜〜っ、ギルバートのバカ!」
「仕方ねえ、連れてってやろうか?」
ビッグスの申し出に、少女は力いっぱいうなずいた。どうも見覚えがあると思ったら、以前拾った暗黒騎士が連れていた子だ。あのときはずっと眠っていたので、ビッグスのことは覚えていないだろうが、今はすっかり元気らしい。
「じゃ、ついてきな」
親切心だけでない。顔と名前と歌い手としての力量以外、ほとんど知らないギルバートの変貌に、彼は好奇心をそそられていた。
177名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:26:59 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI 2005/04/11(月) 01:01:23 ID:yMKi0aLs
その後、いくどか道を尋ねながら、ギルバートは目指すテントの前に立った。
7,8人も入ればいっぱいだろう。賑わいを避けるように離れた所に張ってある。入口にかけられた幕は膝上ちかくに巻き上げられ、隙間から光がこぼれていた。
注意を引こうとして、ギルバートは逡巡する。
あの襲撃を逃れた者たちがいると聞き、駆けつけはしたものの──どうすれば力付けてあげられるれるのだろう?
「どちら様かね」
「ああ──その……」
垂れ幕越しに声がする。迷っている間に先をこされ、思わず漏らした声を聞きつけたか、布地を突き破らんばかりの勢いで初老の女性が顔を出した。
「ギルバート様! よくぞご無事で!」
「マトーヤ。その……苦労をかけた」
「ああ、やっぱり!」
「今のお声は!」
目を潤ませた女官長マトーヤを押し退けるようにして、次々と中から人が現れ、ギルバートを取り囲む。
飛空挺が姿を現した時点で、念のためにと王はホバー船による脱出を命じた。間に合ったのがわずか6人、うち5人が女性で、ただ1人の例外は、母親に手を引かれた5歳ぐらいの男の子だった。
「ダムシアンに戻れるんでしょうか?」
「夫は、わたしの夫はどうなりました!?」
「一体、何故こんなことに……」
「ええい、静まりや!」
それぞれ不安を訴える女たちが、マトーヤの一喝で口を閉ざす。全員の視線が一点に集まった。
「城は……落ちた。父も、母も亡くなった。
 何人か生き残った者もいるけど、長く住める状態じゃない」
血の匂いは魔物を呼び寄せる。破壊された城壁でそれを防げるか。隊商の行き来が絶えれば、焼け残った食料はまたたく間に尽きるだろう。水は。薬は。埋葬が遅れれば、夥しい数の骸から疫病が発生する。
他の集落に身を寄せても、受け入れる側に充分な蓄えがなければ遠からず問題が起きる。
砂漠の光を手に入れカイポに向かう段階になって、ようやくギルバートが残された人々の苦労と向き合う時間を持った。
セシルのせいとは思わない。どうせ彼らが来なければ、アンナの側を離れることなく、自棄に任せて首でも括っていただろう。まだギルバートにも誰かを救うことができる、それを教えてくれて感謝している。
これ以上、甘えるわけにはいかなかった。
178名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:27:25 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI 2005/04/11(月) 01:16:49 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0081 2章 3節 新たなる旅立ち(10)
──ダムシアンに着いた後も、アンナはギルバートを説得した。父テラと話し合い、結婚を許してもらおうと。
”無理だよアンナ、ぼくなんかが……”
”そんなこと言わないで。もっと自分を信じるのよ!”
既に一度、にべもなく断られている。いくら愛していようとそれだけで娘はやれん、そう言われてギルバートは反論できなかった。身分を持ち出しても怒りを買うだけだろう。
”きっと今度こそ、君と引き離されてしまう。そうしたら、ぼくは……ぼくはどうしたらいいんだ!”
”ギルバート、勇気を出して!”
そして。度重なる懇願に、遂に折れたギルバートが城を出ようとした矢先。
アンナは彼を庇って死んだ。
もっと早く決心していれば、少なくともアンナは命を落とさずにすんだ。
”大丈夫。あなたは、私が選んだ人なんだから……”
彼女は何度も、そう言ってくれたのに。

「明日ファブールに向かう。
 バロンで起きてることを止めなければ、いつまた今度のようなことが起きるかもしれない」
泣き崩れるダムシアンの民に向けて、ギルバートは言葉を続けた。
「バロンにも今のやり方に反対している者がいる。
 彼らと同行し、ファブール王との橋渡しをする。ぼくにしかできない役目だ。だから……」
「我らを捨て置いて、この国を出られる、と?」
「違う!」
ずっと逃げていた。何かを決めること。なにかを背負うこと。何かを伝えること。
「今すぐに、皆の力になれないことはすまなく思う。
 でも、信じてほしい。
 ぼくにできる精一杯の事をする。そして……必ず戻ってくる」
ギルバートは訴えた。厳しい目をしたマトーヤに。頼りなさそうに彼を見あげる女たちに。
「ぼくのことを、信じてほしい」
ひとり仇を追うテラに。愛してくれたアンナに。
そして自分自身に。
「うん! ぼく、しんじるよ!」
声を上げたのは、一同の中でもっとも若い──否、幼い子供だった。それを号令として、5人の女たちが一斉に膝をつく。おごそかに、マトーヤが宣言した。
「クリスタルの祝福を。……吉報をお待ちいたします」
179名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:30:07 ID:Q0ryWU7b
「ギルバート……王子……?」
「うん、そうだよ。知らなかった?」
一部始終を見ていたリディアは、隣で硬直したビッグスの呟きを質問と受け取った。ずいぶん仲が良さそうで、セシルのことまで知っていたのに、何で驚くのかいまいち腑に落ちないが。
オバサンたちが出てきたところで追いついて、どうも邪魔してはいけなさそうだったので、ギルバートの用が済むまで大人しく待っていた。ぶじ仲直りしたようなので、遠慮せず声をかける。
「ギルバート! おいてくなんてひどいよ!」
「リディア?
 ……ごめん、忘れてた!」
「なにそれ〜〜!!」
口では悪いと言いながら、ギルバートの目は笑いっぱなしで、反省した様子がない。オバサンたちまで、なぜかくすくす笑っている。目のはしに、ちょっと涙を浮かべながら。
「あやまるから許しておくれ。
 ……ビッグス、頼みがある」
「あ、いやその、俺は……」
「今夜だけ、僕のことは黙っていてくれないかな。
 聞いてたかもしれないけど、しばらく砂漠を離れなくちゃいけない。
 思い切り歌っておきたいんだ」
くしゃくしゃとリディアの頭を撫でながら、ギルバートの足は早くも、商人たちが集まった焚き火の方に向いている。ずいぶんと嬉しそうなので、特別にもう許してあげようとリディアは思った。
キャラバンの所に戻る。たむろっている商人たちにギルバートが話し掛け、座が大きく盛り上がった。詩人のために場所を空け、ありあわせの木材で即席の舞台をつくる。
人が動いて風がおき、煽られた火が大きく揺れる。
ミストの村でもこうやって、いつも火を燃やしていた。どんなに深い霧が出ても、すぐに村が見つかるように。
大事な目印。大切な火。
もっと大きく、どんどん燃やす。もっと。もっと。もっと。もっと。
そうしたら、炎がはじけて──
「リディア? リディア!」
とつぜん体が揺さぶられる。地面が揺れてる。山が怒る。
「リディア、しっかり!」
「……え?
 なんでもないよ?」
「なら、いいけど……具合でも悪いんなら、ちゃんと言わないと」
肩を揺すっていたのはギルバートだった。ちょっとぼんやりしてただけなのに、ずいぶん心配しているみたいだ。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:31:30 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  2005/04/11(月) 01:23:59 ID:yMKi0aLs
FINAL FANTASY IV #0083 2章 3節 新たなる旅立ち(12)

「へいきへいき。ほら、呼んでるよ。
 はやくギルバートの歌聞かせてよ」
気がつくと、やけに大勢の人がギルバートの方を見ていた。他の隊の人まで集まってきたらしい。手近な青年にリディアを見ているように頼んで、ギルバートは輪の中央へと進んだ。
主役の登場を受けて歓声が湧き上がり、弦の調子を整えて前奏を始めると、潮のように引いていく。
そして歌い始めると、他の全ての音が消えた。
高く、低く。流れるように、踊るように。人が出しているとは思えないような豊かな声が、いつも大人しいギルバートの喉から生まれ、複雑な旋律を危なげもなく歌いこなす。
爪弾かれた竪琴は、ときには朝の雫のように艶やかな光を宿し、ときには真冬の星のようにキラキラと輝いて、出せない音などないかのように様々な音色を紡ぎ出す。
人と楽器が織りなす鮮やかな夢をリディアは見た。
戦乱に巻き込まれた4人の若者が抱く希望。
からくり仕掛けの巨人を操り、夜の雪原をさすらう少女。
囚われた青いナイトを待って姫が眠る硝子の宮殿。
星空のむこうから時を越えて届いた祈り。
そして──
幻想に心を奪われていたリディアが、なぜかふと視線をそらしたとき、人込みの中にその姿を見つけた。
And no one knows it- where she came from, whereshe's going
(アンナ!?)
ダムシアンで息絶えたはずのアンナが、歌うギルバートを見つめている。
血の跡などどこにもなく、穏やかに、幸せそうに。
She's like a rainbow.
When she cames up, all are lit up
And when she whispers, you will hear this-
"Don't chase after rainbow
ギルバートは気付いてないようだった。
リディアの視線を感じたのか、こちらを向いて悪戯っぽい笑いを浮かべ、人差し指を口に当てる。
Everyone is sad abd blue when she is far away,
Don't you know it's time to pray she'll be coming soon?
(なんで……)

And once you meet her--
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:31:43 ID:Q0ryWU7b
◆HHOM0Pr/qI  2005/04/11(月) 01:25:49 ID:yMKi0aLs

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(13)

優しく体を揺さぶられ、リディアは目を覚ました。
「リディア……リディア、帰るよ」
「え? あたし、寝ちゃってた?」
誰かが運んでくれたのだろう、箱に被せた毛布の上にリディアは横たわっていた。
瞼をこすってあたりを見ると、アンナどころか他の人も、ほとんど姿を消している。
「だいぶ遅くなったからね。負ぶっていこうか?」
暗い気持ちでリディアは首を横に振った。ものすごい失敗だ。せっかくアンナを見つけたのに、どこに行ったかわからない。いつのまに寝入ってしまったのだろう。
「まだ眠そうだよ、大丈夫?」
この様子だと、ギルバートは絶対気付いてなさそうだ。ここに来てたことだけでも教えあげないと。
「あのね、あたし……」
言いかけたリディアの脳裏に、アンナが見せた最後の笑顔がよみがえる。
唇の前で指を立てた彼女は、淋しそうではなかった。
(ナイショ……なんだ)
理由はわからない。でももしアンナにそのつもりがあったなら、会っていかないはずがない。
「あのさ。また歌ってね。
 あたし、もっとギルバートの歌、聞きたい」
「そうだね。今度は君が起きてる時間に」
子供あつかいされてしまった。頬をふくらせるリディアを見て、ギルバートは楽しそうに笑う。
見上げると、円い月は見たこともないほど高い位置にあった。
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:34:02 ID:Q0ryWU7b
299 2005/05/05(木) 00:45:22 ID:1apG2yhM 

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(14)

この夜、セシル達はローザを看病してくれた老夫婦の所へ泊まる事へした。
宿をとっても良かったのだが、ローザの様態を気にした事もあり夫婦の厚意に甘えさせてもらうことにした。
「セシル」
リディアは扉を開きセシルの名を呼ぶ。
「リディア」
セシルは指を口に当てながら小さく言った。
「何? あっ……」
セシルが何を言おうとしたのか直ぐには分からなかった。だが部屋を見渡し理解する。
ローザが寝ているから静かにしろと言うことか。
「さっきまでは起きてたんだけどね」
眠っているローザを見るセシルの顔は、今までリディアが見たことも無いような笑顔をしていた。
「ねえ、ローザの看病は私がするよ。セシルはゆっくり休んで」
「いいよ、僕が見ておくから。リディアこそ休んだらどうだい」
「だめ。夕方から付きっきりじゃない。少し休まないと明日に響くわよ」
実際に夕食の時以外、セシルはずっとローザの近くにいて看病していた。
「でも……」。
「いいから、ほら!」
何か言おうとするセシルを遮って、半ば強引に部屋から追い出す。
「ふう……」
少しの後、リディアはため息を漏らした。
「ちょっと強引だったかな?」
ちょっとばかり悪びれる。自分でも何故あんな事を言ったのか分からなかった。
ただ、あんな笑顔のセシルをここにいたせたくなかった。
183名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:38:55 ID:Q0ryWU7b
299 2005/05/05(木) 00:47:00 ID:1apG2yhM

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(15)

辺り一面が闇であった。そこにリディアは立っていた。
突如、その闇にぽつんと一つの穴ができ光が差し込んだ。光はだんだんんと広がっていき、やがて一つの形をかたどる。
リディアはその風景に見覚えがあった。そう……忘れもしない故郷の村ミストである。
その村では少女が一人元気に走り回っていた。後ろにはそんな少女を見守る女性、おそらく母親であると思われる人がいた。
「お……母さん……」
女性は紛れもなくリディアの母親であった。
リディアはすぐにそこへ駆けだした。だが、走っても走っても一向にたどり着けなかった。
むしろ遠ざかってるようにも見える。そしてその風景は本当に遠ざかってき、再び辺りを闇が包み込む。
「母さん……何処にいるの?」
闇の中に残されたリディアは母の名前を叫び続ける。何度も何度も超えが枯れそうになるくらいに。
どれほどの時間が経ったのだろう、リディアの前にひかりが広がり始めたのは。
その光は先程と同じく一つの景色をかたどる。しかしその光景はリディアの望んだものでは無かった。
むしろ今まで生きてきた中でも二度と見たくないと思っていたものであった。
今のリディアの前に見えるのはあの日の出来事であった。母が死に故郷を失ったあの日のことである。
場無の爆発によりミストは火の海と貸した。視界が赤く染まり、飛び散る火の粉の中、すでに事切れた母親の側で泣きじゃくる少女。
大地が割れ巨人が現れる、その巨人はすべてを飲み込んだ。リディアの大切な物も嫌いな物も。
召喚獣タイタン。大地を司るその召還獣をこの世界に呼んだのはリディア自身であった。
リディアはその光景をただ黙って見ていることしかできなかった。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:39:13 ID:Q0ryWU7b
299 2005/05/05(木) 00:51:30 ID:1apG2yhM

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(16)

「お……母さん……!」
リディアは耐えきれずに叫んでしまった。そのため自分の周りの変化に気付くのに少しばかり時間がかかった。
「ゆ、夢?」
辺りの見慣れた風景を見て、リディアは悟る。
「私、あのまま寝てしまったんだ」
見れば体中に汗をかいていた。
あれは夢だった……その事実がリディアに安堵の感情をもたらした。
だが心はどことなく悲しかった。
「リディア?」
「わっ! 起きてたの?」
急に声をローザに声をかけられ慌ててふためく。
「あんな大きな声を出されたら誰だって起きるわよ。一体どうしたの?」
「お……母さんの……」
「え?」
「お母さんの夢を見てたの……」
そう言って大粒の涙をこぼした。
ローザは予想外のリディアの反応に少し驚いた。そしてリディア自身も何故泣いているのか分からなかった。
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:39:25 ID:Q0ryWU7b
299 2005/05/05(木) 00:52:45 ID:1apG2yhM

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(17)

「リディア……」
ミストがどうなったのかはここに来るまでにローザも見ていたし、リディアの事もセシルから聞いていた。
「…………」
ローザはそっとリディアの頭を撫でた。
「ねえ、リディア。こんな事を言える立場ではない事は分かっている。でも言わせて、
あなたは逃げているわ」
「逃げている?」
涙声のリディアが聞き返す。
「そう、自分が悲しいから目の前の事を全て見ないようにしてる。そうやって自分だけ楽をしようとしてる」
「…………」
静粛の中、ローザはさらに続けた。
「リディアがそうしてる間にもっと多くの人が悲しむ事になるわ。だから……勇気をだして」
「でも……」
「大丈夫よ……もしリディアが苦しくなって逃げ出したくなっても私が支えてあげるから。あなたは一人ではないわ」
そう言った後、少し笑ってこう続けた。
「もちろんセシルやギルバートも」
「うん……ありがとう。ローザお姉ちゃん」
リディアも笑顔を作り答えた。
「後、一つお願いしてもいい?」
「何?」
突然のリディアの問いに思わず聞き返す。
「今日は一緒に寝てくれる……」
「……いいわ」
その懇願するような表情にローザの頬が緩む。
ローザは自分のベットに一人分の空きを作る。
「ありがとう……」
リディアはベットに潜り込んだ。そこに母と同じ匂いを感じた。
186名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 20:44:36 ID:Q0ryWU7b
299 2005/05/05(木) 00:54:17 ID:1apG2yhM

FINAL FANTASY IV #0084 2章 3節 新たなる旅立ち(18)

ボブス山の入り口は予想通り、厚い氷に覆われていた。
セシル達はその前に対峙していた。
「リディア、準備はいい?」
「うん。怖いけどやってみる……」
ローザの問いに答え魔法の詠唱に入る。
その声は小さく、近くにいるローザにも聞き取れない程であった。
「やはりミストの事がまだ……ボムの指輪の炎でミストは……」
「大丈夫よセシル。今のあの娘ならきっと出来るわ」
そう言って二人は呪文を詠唱するリディアの背中を見守った。その手には次第に力が入った。
「ファイア!」
呪文の詠唱の終了を示すその言葉と共に、巨大な火の玉が氷に向かって飛び出す。
火の玉は接触と同時に大きな音を立て爆発した。途端に辺りに煙が立ちこめた。
煙が消えた後、そこには悠然とそびえていた氷は跡形もなく消滅していた。
「す、すごい!」
予想以上の威力にギルバートが思わず声を荒げる。
「エヘ」
ギルバートの一言に自嘲ぎみに微笑む。
「ありがとう……リディア」
ローザがリディアに微笑む。それは今のリディアのとって何よりも嬉しかった。
「これで良いよね……お母さん」
すこしの間、空を見上げた後、リディアは一足先に歩き出した。
187297:2005/06/09(木) 20:50:18 ID:Q0ryWU7b

以上です。
途中タイトルや作者名が抜けていたりするのは、
文字数制限にひっかかったので僕が消したためです。
188名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/09(木) 21:00:37 ID:22DesDnI
あらためてまとめるとすごい量だな…
これで文庫作れるんじゃないかってくらい

GJ!!
189前スレ299:2005/06/09(木) 22:04:14 ID:qWfLWlJT
お疲れ様です。
元々自分が提案した事を
引き継ぎここまでやってくれた事を
感謝しております。
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 21:22:19 ID:N/3X+g4N
まじで乙だな、すげー量だ
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 23:00:58 ID:oJeFIWDo
レベル高いな・・・俺なんかが割り込んだら一気にレベル下がりそうだ
192名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 09:34:58 ID:tzJw0P0s
気にせずやりんさい。
193名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 17:01:00 ID:RtjrFnkv
一つとっても重要かつ必要な事を教えて下さい。


ファブール王って名前ある?
194名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 20:36:54 ID:BkfFfJ7K
作中ではなかったとおも
195名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 21:38:16 ID:RtjrFnkv
あー、やっぱり…
エンディングでも「もとのおう」だしなぁ…
196名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 23:51:45 ID:RtjrFnkv
FINAL FANTASY W #0102 3章 2節 剛の王国 (1)

ヤンと出会ってから、かれこれ一週間は経っただろうか。
日頃から増えている魔物を退け、手負いの者たちを背負い、
ホブス山を踏破したことによる疲労に耐えながらの道のりはこの上なく長く感じられた。
セシル達とヤンの率いる手負いのモンク僧たちは、やっとのことでファブールの都へと辿りついた。

「開門!急げ!」
ファブールの城の前に立つや否やそう怒鳴り声が聞こえ、目の前の城門が重そうな音を立てて開き始める。
開いた門を進み城壁の内側へと進むと、彼らは警戒の眼差しを持って迎えられた。
セシルが辺りを見まわすと、周りには武具一式を身につけたモンク僧が、ざっと数百人ほど集まっていた。
どうやら都はすでに戦の報を聞きつけ、防備を固めていたようだ。
「お戻りになられたか、ヤン殿!」
城の方から何人かの護衛を率い、これまた武装済みのモンク僧が走り寄ってくる。
「ウェッジ殿!また会えて嬉しい限りですぞ!」
ヤンもそう叫び返すと、走り寄ってきたモンク僧、ウェッジに軽く笑いかける。
「お帰りへの歓迎が少々物々しくなってしまいましたな」
ウェッジはいいながら辺りのモンク僧達を見まわすと、続けた。
「なにしろ近々バロンが攻めて来るとの噂で持ちきりでしてな…
 …どうやら、それは真実のようで」
いいながら、ウェッジはヤンの後ろに続く、彼の部下達に鋭い視線を向けた。
大小様々な傷をその身に受け、疲労と苦痛に顔を歪めている彼らを見れば、どんなことが起こったのか想像に難くない。
「彼らがヤン達を襲ったのならば、この都をも襲う事は最早時間の問題ですな…
 お前達!負傷者を休ませよ!」
彼の号令で、背後に控えていたモンク達が負傷した者達を背負い、運んで行く。
ローザとリディアも回復を手伝うと言い、彼らについて行った。
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 23:55:51 ID:RtjrFnkv
FINAL FANTASY W #0103 3章 2節 剛の王国 (2)

彼らが去って行くのを見守り、ウェッジは「…して」と、今度はセシルに先ほどと同じ鋭い眼差しを向けた。
「貴殿のその姿、バロン国の暗黒騎士とお見受けいたしますが?」
「ええ、いかにも」
セシルはその視線を正面から受け止め、答えた。
「しかし今はわけあってバロンを離れ、敵対しております」
「そうですとも。彼にはホブスの山にて全滅した我らの命を救っていただいた」
ウェッジはヤンの証言を得ても疑わしげにセシルを見つめていたが、やがて
「念のため武器をお預かり致しましょう。
 それよりもヤン殿、王がお待ちです。細かい経緯を話していただきたいので、あなたがたもご一緒に」
と彼らを城の中へと導いた。

「バロンについての報を聞きつけたのはいつの事ですかな?」
「三日前の朝にございます」
城内を大股に歩きながら、ヤンとウェッジが話し合っている。
「ふむ…して防備の方は如何に?」
「城門以外の入り口は全て塞ぎ、都中から戦いを心得た者達をかき集めている次第に。
 しかしその殆どが修行不足、果たしてどれほど持ちこたえるものか…」
「バロンは飛空艇を有するから強大なのであって、歩兵の力は並かそれ以下です」
顔を曇らすウェッジの横から、セシルがそう口を挟む。
「それよりも女や子供達は?戦えないものはどこへ?」
辺りをきょろきょろと見まわしながら、ギルバートもそう言い出した。
そう言えば兵士以外の人間の姿が見当たらない。
「すでに全員が城の地下へと避難しております、詩人殿」
「よかった。それでは少なくともダムシアンの二の舞は避けられるのですね」
「ダムシアン…バロンに急襲されてクリスタルを奪われ、臣民も皆殺しにされたとか」
「ええ。ご存知の通りで」
陰鬱そうにギルバートが頷く。
どうやらウェッジは、今まさにそのダムシアンの王子と話している事に気がついていないようだった。
198名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/12(日) 23:58:44 ID:RtjrFnkv
FINAL FANTASY W #0104 3章 2節 剛の王国 (3)

「再びそなたの顔を見ることができて嬉しいぞ、ヤンよ」
王の待つ謁見の間に入り、玉座の前に一様に跪いた3人を前にして、ファブール王はそう切り出した。
王は見たところ既に齢にして60は超えているが、衣から僅かに覗く鍛えられた肉体が、
彼もまた歴戦のモンク僧である事を物語っている。
「私も再びこの都に帰る事が出来、嬉しき限りにございます」
ヤンが、頭を下げたまま答える。
すると王はため息をつき、物憂げにこう言った。
「しかし状況はあまり芳しくないな…
 バロンが近々攻めてくるという時に重なり、国の主力たるそなたの部隊もほぼ壊滅とは」
「申し訳…」
「よいよい。バロンの動きを読むのが遅すぎた余のせいでもある」
謝罪しようとするヤンに王は告げ、代わりにセシルに目を向けた。
「それよりもはっきりとしておきたい事柄はそちのことじゃ…
 そちのその出で立ち、バロン国の暗黒騎士と見うけるが、名はなんと申す?」
「セシル…セシル・ハーヴィと申します。察しの通り、私はもともとバロンに使えていた身です」
兜の裏で苦い表情を作り、セシルが答える。
「セシル…聞いた事のある名じゃ。余の記憶が正しければかの”赤い翼”の長では?」
蓄えられた髭を撫でながら目を細めるファブール王に、暗黒騎士が小さく頷く。
「しかしミシディアの戦いから凱旋した直後に国から離れ、召喚士の村ミストを焼き滅ぼしたとか…」
「いえ、それは誤解です!」
王の言葉に、慌てて顔を上げ、ギルバートが突然叫んだ。
瞬間、王や王の重鎮達の視線が一斉に彼に向けられる。
と、そこで王はやっと気がついたようだった。
「…もしや、もしやそなたはギルバート王子ではないか?」
目を丸くするファブール王に、彼は「お久しぶりです。陛下」と微笑した。
「これは驚いた!ダムシアンが皆殺しに遭ったと知った時、そなたも共に殺されたとばかり思っておったぞ」
「ええ。父や母、さらには恋人をも失って絶望に暮れていた所を、彼に助けられました」
頷きながら、ダムシアンの王子はこう明言した。
「ミストの件は彼を国から引き離すための策略だったとの事。
 陛下、セシルは断じて我らの敵ではありません」
199名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 00:03:05 ID:iKJyw0dc
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (4)

「ふむ…そなたが言うならば誠であろう。疑ってすまなかったな、セシル殿」
申し訳なさそうに王は言うと、暫くして「…して」と切り出した。
「見ての通りファブールは今や窮地に立たされておる。
 ギルバート殿。それにセシル殿。厚かましいとは思うが、我らに力添えしてはいただけぬか?」
セシルとギルバートは顔を見合わせた。勿論、答えは決まっている。
「無論です。陛下」
「彼は素晴らしい力をお持ちです」
ヤンも賛同するように言う。
「私と共に最前で戦っていただきましょう」
「すまぬな。では早速ではあるが少し来ていただきたい。城の防備について2,3助言が欲しいのでな」
そう言って王は玉座から立ちあがると蒼い衣を翻し、謁見の間の出口へと歩き出した。

それからの数日間、セシルは王とともに都をくまなく見て回り、バロン軍の攻め方やそれに対する防衛の仕方などについてことあるごとに助言した。
もともとバロンの人間である彼には、王に提供できる情報は山ほどあった。
ヤンはモンク僧達を訪れては励まして回り、ローザも白魔法の技術を買われ、後方支援という形で戦いに参加する事になった。
「バロンの軍は、一体どれぐらいの数で攻めてくるのかな?」
竪琴を弾き、弦の張り具合を確かめながら、ギルバートが言う。
「ミシディアとダムシアンの時は飛空艇と降下兵だけだったが、今回は違うだろうね」
剣の手入れをしながら、セシル。
「この城の守りが堅固だから?」
「そうだ。このファブールの都は城と街が一体化していて、とても守りが堅い。
 今のバロンは何故かはわからないが、クリスタルを血眼になって集めている。しかも大急ぎでね。
 それなら、今回の一撃でファブールを落とそうとする筈だ。
 王にもそれは言っておいた」
「ここが落ちようものなら、残るはトロイアの土のクリスタルだけに…」
「ああ。そうならないためにも、まずこのファブールを守りぬいて、早くバロンを、バロン王を倒す」

二人がそんな話をしていると、急に外が騒がしくなった。交される声や足音の大きさからして、ただごとではない。
どうやら、とうとうバロンの軍勢が現れたらしい。
200名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 00:04:57 ID:iKJyw0dc
字数制限で重要な部分削除しまくり、妥協ありまくりんぐ…
あと500字くらい書ける様にして欲しい…orz
201名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 00:15:25 ID:dSdQn6xJ
>196-199
超乙!まさに質実剛健って感じだファブール。
そしてウェッジキター
202名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 00:16:18 ID:bCzVZmfw
キャー来たわー!
よくそんなオリジナル設定作れるよな。尊敬
ウェッジモンクかよwww
203名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 00:47:05 ID:3AQUvKby
この後の連戦って、実際のゲームでも緊張感があって
面白いよね、誰も魔法使えないし、回復タイムないし
さぁ次は遂にカイン登場?
204名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 01:35:36 ID:G8KBpGh0
しかし、あれだな。
やっぱFF4って面白いな−。
205名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 02:23:53 ID:t41oTJlj
あげます
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:27:57 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (5)

セシルが城から出、城壁に上って辺りを見渡すと、
既に城塞の正面の平野は、バロンの軍勢によって埋め尽くされていた。
どう少なく見積もっても一万はいるだろうか。
そしてその大軍を凝視した時、セシルは息を呑んだ。

何故って、彼らの軍勢の三分の二以上はモンスターで占められていたからだ。
それに、鎧を着た兵士達も良く見れば人間ではない。
眼には光が宿っていない代わりに赤く血走り、鎧の隙間から覗く肌はどす黒い。
その軍勢の姿は、昨今のバロンの変貌ぶりを体現しているかのようだ。
人としての誇りや心は失われ、ただ浅ましい欲望のみが残されている。
見るもおぞましい軍勢は、城塞へと歩を進め、攻撃の布陣を整え終えた。

「怯むな!魔物相手に尻込みしてはならない!」
城壁に配置されたモンクの隊列の後ろを歩きながら、セシルが声を限りに叫ぶ。
彼らもまた、異形の軍勢に戦う前から圧倒されていた。
「ファブールのモンク僧の意地を見せろ!醜い獣を地獄へ追い返せ!」
セシルがまた叫ぶと、守備についていたモンク僧たちも喚起の声を上げる。
正直、セシルにはこのバロンの変貌が少しありがたくもあった。
かつての戦友と剣を交えるのには気が引けるのだが、こうまで変わられると躊躇う意味すらないからだ。
剣を抜き、油断無く敵を睨みつけていると、
「投石開始!」という、そう遠くない所からヤンの怒声が聞こえてきた。
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:28:50 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (6)

その号令と共に合図の角笛の轟音が辺りに響き、
城壁のモンク僧達は据え置かれていた石を一斉に投げ始める。
ファブールの持つ遠隔攻撃の手段は、弓よりも投石が主流だ。
モンクの鍛えぬかれた腕から、しかも高所から打ち下ろすように投げるので、その威力は弓を上回る。
雨のように繰り出される投石攻撃を受けた敵兵は悲鳴を上げて倒れこみ、頭に命中して即死する者もいた。

もちろん、反撃を受けたバロン軍も黙ってはいない。
上空から降る石の雨を潜り、隣で味方の頭が潰れるのも構わず城壁に走り寄る。
そして海で猛威をふるう半魚人、サハギンはひれの付いた手足を城壁に張りつけ、
山に棲むゴブリンの亜種、ドモボーイは城壁にかけられた梯子を昇って攻め入る。
「来るぞ!」
セシルが叫び、一番近くにあった梯子に駆け寄ると、
その梯子を最初に上り詰めたドモボーイの顔面に剣を突き刺し、さらに梯子を倒す。
それにより梯子を上る途中だった者達は地面に叩きつけられ、死んだ。
「敵を通すな!城壁を上ってくる前に仕留めろ!」
また怒声を上げ、今度は丁度城壁まで登ってきたサハギンの首をはねた。
だが、いかんせん数に差がある。
ファブールの守備隊は徐々に押され、城壁の戦闘は乱戦と化した。

その城壁の中央に位置する城門は、今にも破られそうだった。
十数人がかりで操作される巨大な破城槌が、絶えず門に叩きつけられていたからだ。
「門が破られるぞ!」
そう叫び、ヤンが門の背後に兵を集結させる。
次の瞬間、破城槌が第一の城門を叩き壊し、人の姿をしたバロン兵が大量になだれこんでくる。
「押し返せ!敵を通すな!」
怒声を上げながら先陣をきって敵に走りより、彼の後にモンク僧が大挙して続く。
破られた城門を少し過ぎた辺りで双方はぶつかり、剣と鍵爪がぶつかり合う金属音が響いた。
208名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:30:15 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (7)

一方、ギルバートは彼らのように敵と戦う事はせず、負傷した者の応急処置に奔走していた。
「しっかり!」
倒れているモンク僧に走り寄ると、「いま楽にしてあげる」といって懐から瓶を取り出し、
中に入った青色の液体を傷口に塗りつける。
これは彼が戦いに備えて調合した即効性、効果ともに優れた痛み止めで、
長旅をするならと今は亡き彼の父が伝授してくれた秘薬でもある。
が、彼の薬をもってしても、このモンク僧はなお苦痛に顔を歪め、呻き声をあげている。
傷はかなり深いようだ。
「手におえない…君達!この人を医務室へ!」
彼が伴っていた数人のモンク僧が手負いを城の医務室へと運んで行くのを少し見守ると、
ギルバートはまた戦場を走り出した。

「誰かそこの人を治療して!急いで!」
その医務室では、ローザが白魔法を駆使して奮闘していた。
ファブールの白魔導師達はバロン出身の彼女ほどの魔力をもっておらず、
次々と運ばれてくる負傷者達に対応しきれないでいる。
リディアがここにいなくて良かった…
女や子供達が避難している地下に設けられた医務室内を走りまわりながら、ローザはふと呟く。
実は彼女も、ローザのように戦いたいと言って聞かなかったのだが、
いくらなんでも子供に戦争を体験させられないとセシルや王、それになにより自分が許さなかった。
この血みどろの医務室を見渡すと、その判断は正しかったように思える。
その時、新たな負傷者の治療に取りかかろうとすると、室内が、いや城内がなにか大きな衝撃に揺れた。
209名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:31:54 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (8)

「退け!城にはいれ!」
城壁から跳ぶ様に下りながら、セシルが退却を命令する。
頭上からは聞きなれたプロペラ音と、無数の砲弾が降ってくる。
赤い翼がとうとう現れたのだ。
編隊を組んで上空を旋回する飛空艇の一段は、
船腹に装備された六門の対地カノン砲を乱射し、敵味方の区別無く地上にいる者達を容赦無く薙ぎ払う。
頑強な石材で作られたファブールの城は爆撃に耐え抜いたが、その外で戦う兵たちはそうはいかない。
背を向けて一目散に退いて行くものもいたし、一歩一歩後ずさりしながら戦いつづける者もいた。
飛空艇が現れたらすぐに城内まで退くする手筈だったが、乱戦状態だったために退却が遅れたのだ。
途中三度ほど、後方に向かって暗黒の刃を放ったが、焼石に水だった。
間に合わない…!
閉まり始めている城の門へと走っていたセシルは、背後から追いすがってくる敵の気配を感じながら、そう呟いた。
が、その呟きの直後、予期しなかった音が辺りに響いた。
それは飛空艇の出す爆音でも、敵兵の挙げる雄叫びでもなく、開戦のときに聞いた、あの合図用の角笛の音だった。
セシルが驚いて音の本を探すと、それは今自分が目指している門に立っていた。
ギルバートだ。ギルバートが、何処からか拾った角笛を思いきり吹いていたのだった。

「速く!セシル、速く中へ!」
門の辺りに立ち、脇を通り過ぎるモンク達を見送りながら、ギルバートが叫ぶ。
彼の背中の竪琴は、その音色を戦場の怒号にかき消されてほとんど威力を発揮しなかった。
その代わりにと、落ちていた角笛を拾っていたのだ。
そしてその角笛を使ってみたわけだが、思ったより効果はあった。
迫り来る敵がその轟音に怯み、僅かにではあるが動きを止めたのだ。
そしてその隙にセシルや見方のモンク僧が門に逃げ延び、最後にセシルが城内に入ると同時に、門が閉じられた。
210名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:33:12 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (9)

しかし胸をなでおろす暇は無かった。
門が完全に閉じられ、閂がかけられる前に、あの破城槌が扉を再びこじ開けたからだ。
大量に城内へと入りこむバロン軍。
その時、奥からウェッジやその他数百のモンクを率いたファブール王が現れた。
衣は脱ぎ捨て、その姿は全てのモンク僧の上に立つ王そのものだった。
「怯むな!城内にいれてはならぬ!」
王は叫ぶと、城の中へ中へと大挙する敵に突進する。
そのすぐ後に、セシルやギルバート、さらに彼に仕える全てのファブールの人間が続いた。
セシルが剣を鮮やかに振りまわし、敵の首や腕を切り落とす横で、
ヤンは腕も通れとばかりに両手の鍵爪を目の前の敵に突き刺し、首を掻き斬った。
ギルバートは、乱戦の中竪琴で迫るモンスターを殴りつける。
先ほども言ったように、混戦の中で竪琴の音色は使い物にならないが、
こう使えば意外と硬い上に、なかなかの重量なので、ある程度は戦えた。

…が、彼らの奮闘にもかかわらず、ファブールは徐々に城の奥へと押され、劣勢に陥って行く。
数で攻められている上に、魔物で構成された軍勢ならではの死を恐れない無茶な攻撃によって、
次第にモンク達は追い詰められ、一人また一人と命を落としていった。
「ここはもう保ちませんぞ陛下!一旦奥へ!」
「くそっ!」
押し寄せる敵を食いとめながら怒鳴るウェッジに、王は顔をしかめる。
そうしている間にも敵の勢いはますます強まるばかりだ。
「…ええい!奥へ引き上げよ!退却!」
苦々しげにそういうと、王は鍵爪で剣を弾きながら、もと来た道を戻り始めた。
211名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:34:46 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (10)

城壁と二つの城門を捨て三つ目の城門の裏に退却し終わるころには、
モンク僧の数は戦いが始まった頃の半分に減っていた。
そしてやっとの思いで逃げこみ、閉ざした城門が、早くも破城槌によって大きく揺らいでいる。
この門が破られるのも、最早時間の問題だ。
「巻きこんですまぬ!勝ちの目の無い戦いに!」
「いえ、これは私の戦いでもあります!
 それにまだ敗けとは決まっていません!」
弱気になり始めた王にセシルが怒鳴り返すと同時に、門が大きく揺らぎ、破られた。
再び両軍が激突する。
しかし、疲労困憊、満身創痍のモンク達と、疲れ知らずの魔物とでは、押し合いの勝敗はもはや明らかだった。

「地下道に敵が!」
誰かがそう叫ぶのを聞きつけたファブール王後ろを振り返り、
――血走った目で地下への入り口を、国民が避難している地下への入り口を凝視した。
戦いをすり抜けたバロン軍が10匹ほど、その狭い地下道へと侵入して行ったのだ。
…なんとしたこと!
王は独り呟くと正面の軍勢に背を向け、その地下道へと走った。
状況が状況だけに、地下には守備兵が一人もいないのだ。
「ウェッジ!余について参れ!ヤン!お前はここを放棄し、玉座の間にて敵を食い止めよ!」
素早く出された指示を受け、ウェッジが三十ほどのモンクを連れて王に続く。
「しかしそれでは陛下が!」
その場で戦いつづけるヤンが叫ぶが、王たちはすでに地下へと入り、その声は届かなかった。
「退がろうヤン!ここはもうだめだ!」
「くそう!」
ギルバートに肩を掴まれ、ヤンは不承不承ではあったがここからも退却した。
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:35:58 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (11)

こうして、ファブール軍は玉座の間まで退いた。
王の間の門は扉も閂も鉄で出来ており、ほかの門よりはるかに頑丈だった。
実際、破城槌で叩かれても大きい衝撃音が響くだけで、門はびくともしない。
「ここなら暫くは持ちこたえられる。ここでなんとしても防がねば」
鍵爪を腕に装着しなおしながら、ヤンが焦ったように言う。
「ここを失ったらクリスタルルーム以外にもう逃げ場は無い」
剣を油断無く構えながら、セシルも言う。
と、門を押さえていた一人のモンクの動きが、明らかにおかしいことに彼は気付いた。
始めは他のモンクと共に震える門を押さえつけていたのだが、その手は徐々に上に伸び、閂に触れて…
「何をする!」
ヤンが叫んだ時には、門にかけられた鉄の閂は外され、地面に落とされていた。

「人間じゃ…ない!」
ギルバートも叫ぶ。同時に、閂を外したモンクは白目をむき、褐色の肌が緑色に変色し、
背中から不気味な翼を生やして、人の2倍はあろうかという巨大なモンスター、ガ―ゴイルへとその姿を変えた。
ガーゴイルは雄叫びを上げ、近くにいたモンク僧をたちまちのうちに薙ぎ払う。
「くそ!」
セシルが毒づき、魔物へと走り寄ると、その胸に剣を突き刺した。
振り落とされそうになりながらも、剣に宿した暗黒の斬撃を放ち、息の根を止めたが、
門のほうはもう完全に開いていた。
213名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:37:14 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (12)

再びなだれ込んでくるバロン軍。
ガーゴイルの突然の奇襲に浮き足立っていたモンク達に、彼らは容赦無く襲いかかる。
もはや戦況は絶望的だった。
ファブールのモンク僧は方々でバロンの魔物に打ち負かされている。
「やむをえん!クリスタルルームまで下がろう!」
圧倒的に不利な状況を察したヤンが、空になっている玉座の後ろにある扉を指差す。
「急げ!中へ!」
ギルバートもモンク僧を促すと、部屋の奥へと走り出す。
と、その時、背中に一本の流れ矢が突き刺さった。
呻き、そのまま前のめりに倒れるギルバート。
「ギルバート!」
セシルが振りかえり、彼のもとへ一目散に駆ける。
そしてギルバートにのしかかり、頭を握りつぶそうと手を伸ばすサハギンの右腕を切り落とし、首をはねた。
傷を押さえるギルバートを担ぎ、クリスタルルームへと急ぐ。背中には矢が刺さったままだ。

一方、ファブール王は地下への通路で、避難民を守って戦いつづけていた。
狭い通路での白兵戦だから数はあまり関係無いが、
耐えることなく襲ってくる魔物を相手にしつづけるのは流石に無理がある。
すでに率いていたモンクは全滅し、ともに戦っている味方といえばウェッジしかいない。
そしてそのウェッジも、群衆の間から突き出された槍に肩を突かれた。
「ぐっ!」
「ウェッジ!」
さらに倒れ伏すウェッジに気を取られ、王もわき腹の辺りを剣で突き刺された。
よろめく王に、なおも襲いかかるバロン軍。
これまでか…彼が覚悟を決めたその時、敵の動きが止まった。
214名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:39:43 ID:iR6KFplQ
FINAL FANTASY W #0105 3章 2節 剛の王国 (13)

「……?」
ファブール王は、何が起こったかわからなかった。
それもそのはず、今まで盛んに攻めつづけたバロン軍が、
自分の命を絶とうとするその瞬間に突然動きを止めたのだから。
王は困惑していたが、敵はもっと困惑していたように見えた。
そして挙句の果てに、彼らはあろうことか、勝利を目前にして来た道を引こ返して行った。
倒れた王を忌々しげに睨みながら。

しばらくして、誰かが通路の奥から走ってきた。
「陛下!お怪我を!」
ローザだ。ローザが自分の傷を白魔法で治療している。
「余は大丈夫じゃ。それほど深い傷ではない。しかしこれは一体…?」
「…わかりません」
ローザも一部始終を目にしていたらしく、困惑の眼差しでバロン軍の去った方を眺めている。
「ここまできて引き上げるとは、一体何を…?」
苦しげに起き上がりながら、ウェッジも言う。
その時、ローザは何か予感めいた物を感じていた。
二人を手助けしながら医務室まで連れて行った後、彼女はどうしても、自分がここにいてはいけない気がした。
「…私、少し様子を見てきます。その間、負傷者を頼みますね」
一番近くにいた白魔導師にそういうと、ローザは一目散に医務室を出、地下からの出口へと走り出す。
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえたが、大量の負傷者の治療に忙殺され、追いかけてまで彼女を止めようとはしなかった。

一方、セシル達生き残った戦闘要員は、クリスタルを背に最後の防戦体勢を整えていた。
が、おかしい。扉の外がしんと静まり返ったまま、なんの動きも無いのだ。
と、次の瞬間、クリスタルルームの扉が強烈な衝撃を受け、大きく歪んだ。
破城槌の比ではない力だ。
そして数度目の打撃で扉が破壊された時、セシルは大きな驚きと、そして喜びを感じた。
何故なら、封鎖された扉を破壊して姿を現したのは、
他でもない彼の無二の戦友、竜騎士カインだったからである。
215名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:42:40 ID:iR6KFplQ
と、ファブールの連戦を一気に書いてみました。
長いです。展開も結構強引です。

>>201-204
どうもです。
やっぱりビッグスが出てるからには、ウェッジも絶対出さなきゃということでだしました。
しかしファブールの国風で「ウェッジ」って名前変かな、と今更思ってみたりw
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 00:56:36 ID:6dKPA8w9
全面戦争、そしてカイン再登場記念ageだ!
217前スレ299:2005/06/14(火) 01:02:14 ID:mumPBmr1
乙です。
攻城戦の様子がかなりかっこいいです。
後、二日続けてこれだけの量を書けるとは
純粋にすごいと思いますよ。
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 01:31:27 ID:tqvVN9YY
昨日友達からFF4借りてちょっとは書いてみるかなと思ったりしてる。
とりあえずファブール編が終わるまで様子見しておこうかな。
219名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 18:33:32 ID:bmexNllB
ここはFF4だけですか?
220前スレ299:2005/06/14(火) 22:35:05 ID:xaJT8UGl
>>2
>>7

でも書かれているようにどのシリーズを書いても自由です。
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/15(水) 23:21:41 ID:kwnYmTJV
あげ。
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/15(水) 23:32:34 ID:AVu/fiv+
3と5はジョブの所為で書きにくいし
6は仲間多すぎだし、スレ立ってるし
7と8は話が分かり難いし
9は誰も覚えてな(ry
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/15(水) 23:49:05 ID:JElFOKBv
別に4だけが詳説しやすいかってワケじゃなく、最初に選ばれたってだけだと思うけどねえ。

というか、これまでの作品をまとめたらメモ帳5つも使った。なんだかんだで量あるなぁ。
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 01:47:18 ID:Kivr7IC1
一応SFCのFF4あたりから有名になってきたからね。
売り上げだけならFF3もそこそこだけど、
4はかろうじてFFファンの多い範疇に入ってるからな。
それにPS以降は表現がよく出来るようになってきたから
SFCの中じゃ4が一番脚色しやすいと思う。
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 08:19:35 ID:W2LuB/VK
とりあえず一番小説にしやすそうなのは4だと思う
まあ俺は書けんけど
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 18:49:49 ID:wabPaiIq
ところでカインって、やっぱりリディアが最初暴走した後にゴルちゃんに洗脳されたんですかね?
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 19:07:59 ID:11/981Um
洗脳そのものはそうだろうね
でもミストの村の「べつにおまえのためじゃない」とか
ずっっっと後にゴル兄が言う「自分に悪しき心があったからゼ蒸すに云々」からわかるように
前々からセシルの敵になるフシはあったと思う
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 22:44:33 ID:rDP5zR7+
てか恋敵だろ。
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/19(日) 00:27:17 ID:29UwOtI9
保守せねば。
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/19(日) 23:30:55 ID:gXfowxfY
あげ
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 23:26:13 ID:so8Cy9SR
再度あげ
232前スレ299:2005/06/22(水) 19:13:30 ID:mLCrq7yd
FINAL FANTASY W #0106 3章 2節 剛の王国 (14)

「カイン、何故此処に……」
見間違う訳がない。目の前に立つ男は間違いなくセシルの友であった。
カインの行方をずっと気にしていたセシルにとって、今こうして彼の無事が分かった事に安心を覚えた。
しかしそれと共に一つ疑問が浮かび上がる。
今セシル達がいるのは戦場であった。相対する者はすべて剣を交え殺し合う……そんな場所である。
奇しくも、その場所で二人は対峙する形でお互いを見つめ合っていた。
「…………」
「カイン!」
沈黙を守り続けるカインに思わず駆け出そうとするセシル。
「よせ! セシル殿」
ヤンが引き留めるように肩を掴む。
「何故です! 向こうにカインが!」
「分かっているはずだ。何故彼が此処にいるのか」
今度はギルバートが諭すように言う。
「そう、おそらく君の友人は……」
「嘘だろ! カイン!」
そうであるあけがない。セシルは認める事ができなかった。
炎の舞うミストで交わした約束した。一緒にバロンを出ようと。
あの誓いは偽りであったのか?
「そう言う事だ。セシル……」
硬く閉ざされたカインの口がようやく開く。同時に手にした槍の矛先をセシルの方に向ける。
「そんな……カイン」
目の前が暗くなり倒れ込みそうな衝動を抑える。
「さあ、クリスタルを渡せ。此方としても無駄な血を流す事はしたくない」
「誰が!」
ゆっくりと歩を進めるカインの前にヤンが立ちはだかる。
「安心しろ。此方の兵は引き上げさした。この国の者に危害は加えん。
それにどのみちもう勝ち目はない。それはお前が一番分かっているだろう」
「う……」
233前スレ299:2005/06/22(水) 19:14:36 ID:mLCrq7yd
FINAL FANTASY W #0107 3章 2節 剛の王国 (15)

王が負傷の知らせはヤンの耳にも届いていた。その為、兵の士気は圧倒的に落ちていることなど想像するに容易かった。
ヤンも引き際が分からぬ程、愚かではなかった。
「さあ、早く!」
「待て!」
後ろずさるヤン達を尻目にセシルは前へと踊り出す。
「カイン、どうしてもやるというのなら僕と戦え。君が勝てばクリスタルを好きにしていい」
「一騎打ちというところか? いいだろう。受けて立つ」
「セシル殿!」
先程よりも強くセシルの肩を掴むヤン。
「すまないヤン。でもこうさせてくれないか。僕は……」
「うむ……承知した」
数瞬の後、ヤンは手を離した。
兜に隠れて表情は伺えなかったが、その時のセシルの顔はヤンを納得させるのに十分であった。

しばらくの後、クリスタルルームの中心に二人の男が睨み合う形で向き合っていた。
「カイン、一つだけ聞いて良いか?」
「一つだけならな」
無愛想な返し、それはいつものカインと変わらぬものであった。
「あの時の約束は嘘だったのか?」
ミストが滅びた日……セシルとカインが別々の道を歩き始めた日。
「…………」
「答えろ、カイン」
「ふっ、敢えていうなら覚悟がなかったんだな」
「覚悟?」
「お前は国に背き、今こうして抗おうとしている。俺にはそれだけの覚悟が無かったというだけさ」
言い終わらぬうちに槍を構える。準備万端という所か。
「だから今、俺たちは戦おうとしている。自らが守る者の為に。違うか?」
「……分かったよ、カイン……それなら僕も手加減はしない」
「そうでなければな。セシル、お前の覚悟見せてもらうぞ」
暗黒騎士セシル、竜騎士カイン……バロン最強の二人の戦いが今まさに始まろうとしていた。
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/22(水) 19:17:19 ID:mLCrq7yd
前に書かれてから一週間以上スレが止まっていたので
書かせてもらいました。
>>215さん
先を越してしまったらすいません。

235名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/22(水) 19:37:00 ID:svXOWjk+
あんた最高だよ!

ていうかカインとバトルあるってこと今の今まで忘れてたorz
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/22(水) 20:05:39 ID:STTi5VPw
おれもw ローザがゴルベーザに攫われるってことしか覚えてなかったw

299氏グッジョブ!!!
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/24(金) 19:01:08 ID:H0oac4tr
あげ
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 12:07:39 ID:xqDuoHcC
カインの「ふっ」ってのがカインらしくてGJ!
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 15:45:39 ID:/8lUp0xA
>206-214の通し番号が#0105のままになってるま。
正しくは>233で#0116になると思われ。
240297:2005/06/28(火) 09:05:30 ID:ANivwWmW
FINAL FANTASY ?「 #0117 3章 2節 剛の王国 (16)

 もう引き返すことのできない状況にあることを悟り、セシルはゆっくりと
回廊の中心に歩みだした。カインも自分と対象的な弧を描くように歩き出す。
特殊な水晶でできた床面が、鏡面のようにいくつもの彼らの虚像を描く。
ヤンとギルバートが身を引き、闘いの前の不気味な静寂があたりを支配した。
 背水の陣。自分が破れれば、すでに陥落しかけているこの城の運命は決まる。
そして、目の前に対峙する男は、まちがいなく今まで戦った敵の誰よりも強い。
かつてないほどに追いつめられた局面でありながら、不思議なほど、セシルの
胸中は穏やかだった。

 セシルは、ふと幼い頃を思いだしていた・・・。


 セシルには両親がいなかった。森の中で布にくるまれて泣いているところを、
狩りに出ていた王が見つけたのだった。妻に先立たれ、自身も孤独にあった王は、
ひとりぼっちの赤ん坊に自らの姿を重ね、彼を我が子として育てることにした。              
 暖かい愛情の中でセシルは育ち、物心ついた頃から父に憧れて剣を学び始めた。
王はあまり彼を城下に出したがらなかったので、剣だけが彼の唯一の友人となり、
日に日に彼の技は上達していった。
 やがて少年の年頃になり、彼は学校に入った。

 初めて出会う同年齢の学友達にセシルは期待を膨らませたが、名家の出身が
ほとんどであった王立学校で、家柄という後ろ盾をもたないセシルは蔑まれた。
それでも、セシルは差別を王に訴えるようなことは決してしなかった。それが彼の
うまれもった誠実さでもあり、なにより、やがてそんなことが全く気にならなく
なるような、二人の素晴らしい友人に出会えたからだった。

 ローザと、カイン。
241297:2005/06/28(火) 09:07:00 ID:ANivwWmW
FINAL FANTASY ?「 #0118 3章 2節 剛の王国 (17)

 ローザは名高い竜騎士と白魔道士を両親に持ち、カインに至っては前竜騎士団
団長の実子であった。そんな学内でも一目置かれた立場の二人が、なぜ自分などに
話しかけてきたのか、セシルは今でも不思議に思っている。それでも、それは彼に
とってたまらなく嬉しい出来事だった。
 彼らは三人だけの特別に親密な輪を形成し、いつも行動をともにした。セシルと
カインは幼い少年らしく、すぐにお互いの技に興味を持ち、何度も手を合わせた。
未知の武器であった槍との出会い。加えて、格の違いすぎる王との稽古と違い、
実力の均衡したカインとの仕合は楽しかった。二人は日夜お互いを切磋琢磨しあい、
めざましい勢いで進歩を遂げていった。
 また、敗者の方は、治療と称したローザの怪しい白魔法の練習台にされるという
過酷なルールが、いっそう二人を必死にさせた。

 様々な時間を共有し、多くの体験を得ることで、彼らはますます信頼の密度を
深めていった。最初の友人はやがて最高の友人となり、その繋がりは時を経ても
色褪せることはなく、彼らの絆は、永遠に途切れることのなかった・・・。

 そう、信じていたのに────




「まだ躊躇っているようだな」
242297:2005/06/28(火) 09:08:43 ID:ANivwWmW
FINAL FANTASY ?「 #0119 3章 2節 剛の王国 (18)

 カインの冷たい声がセシルを現実に引き戻した。

「別にお前たちを殺しにきたわけじゃないんだ」
 カインは肩をすくめ、クリスタルの前に立つヤンを見やった。
「こんな古臭い城にも興味はないしな」
「貴様っ・・!」
 ヤンが今にも飛びかかりそうな形相で睨みつける。
 カインはいっこうに意に介していない様子だ。
「素直にクリスタルを差し出した方が身のためだぞ」
 
 ・・そうだ、これが現実なのだ。
 いつしか父は父でなくなった。かけがえのない祖国は凶行に手を染め、
曇ることのない誇りは地に堕ちた。そして、最も信頼していた親友は袂を分かち、
いまや自分に刃を向けている。

 ────受け入れろ

 セシルは過去を振り払うように、決然と剣を抜いた。
「負けはしない」
「・・ふっ」
 その不敵なあざけりが会話に幕を下ろした。カインは槍の柄で強く地を突き、
天空を駆ける竜のごとく、高々と跳躍した。セシルは力強く剣を握りしめた。

 ────負けはしない 負けられない
 ────僕に残された、最後のひとを守るために


 決戦の鐘が鳴った。
243297:2005/06/28(火) 09:21:47 ID:ANivwWmW
どうも、久々で短めです。
前回のお話から時間にして一分も経ってません、うはー。
244名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 09:36:30 ID:hxeze6k6
それでもGJです!
幼少期の回想はいつか欲しかったけど、まさに抜群のタイミング。
さて、続きはどうなるのやら…待ってます!
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 19:31:04 ID:yWnt60F4
グッジョ!
だがひとつだけ違和感が。学校…
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 19:37:27 ID:eE9i3exb
俺は違和感なかったよ学校。
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 22:59:01 ID:7WoSicEm
アレンジ(・∀・)イイ!!
248297:2005/06/28(火) 23:58:38 ID:ANivwWmW
訂正>>241
途切れること「は」

>>245
ちょっと平民の子は入れない程度の、勉強を教える学校に王の口添えで・・って
なんかまずかったかな。感想ども。
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/29(水) 11:46:15 ID:HpFbEgWd
いや、学校は問題ないと思う。設定資料編で、セシルは『学校卒業後、学友カインと
共にバロン兵学校に入学した』って節があるから。
そこに平民の子が入れない、だから孤児のセシルがちょっと皆から蔑まれる…
っていうアレンジも、よござんすよ。グッジョブ。
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/29(水) 18:56:07 ID:+9cbWxyH
グッジョブですよ!
251299:2005/06/29(水) 21:44:50 ID:WpKz6ssv
>>245

乙です。
前に書かれたリディアの時といいキャラの作り込みが
上手ですね。
話の方も幼い頃の三人の話を二人の一騎打ちの前に
持ってきたのが良い感じに展開に深みがでてると思います。
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/29(水) 21:46:16 ID:WpKz6ssv
訂正
>>245でなく>>243でした。
すいません。



253297:2005/06/30(木) 00:18:38 ID:tZUuLlm3
FINAL FANTASY ?「 #0120 3章 2節 剛の王国 (19)

 はるか頭上に飛び上がったカインを見上げ、セシルは剣を構えた。
 カインとの一騎打ち。それはセシルにとって、さりとて新しい響きをもたない。
毎日のように剣を交え、誰よりも長く腕を競い合ってきた仲だ。いまさら、である。
 だが、いま彼らの手にあるのは刃を殺した得物ではない。
 親友と命を奪い合う。その冷酷なまぎれもない事実が、徐々に深刻な実感として
セシルに重くのしかかり、彼の兜の内側にひとすじ、隠しきれない汗を伝わせた。
 カインと自分の力量はほとんど互角、しかし疲弊がある分、自分の方が不利と
セシルは踏んだ。お互いの手の内は嫌というほど知り尽くしている。
小手先の競り合いは無用だ。
 最後に勝ったのはどちらだったろうか。セシルは剣先に力を込めた。


「よけろ! セシル殿ッ!!」
 突然ヤンの怒号が走った。
 声に驚き、反射的にセシルは盾を掲げたがその時にはもう遅かった。
 カインは空中で身を翻し、跳躍の勢いを保ったままバネのように天井を蹴ると、
まるで隼のように槍を突き出したまま、一瞬でセシルの胸めがけて急降下してきた。
なんとか盾で槍の軌道をそらすのが精一杯だった。肩の肉を鎧ごとえぐりとられ、
痛みに耐える間もなくそのままカインに蹴りとばされる。
 体勢を整えながら、セシルは先刻までの自分の未熟さを心底呪った。

254297:2005/06/30(木) 00:21:34 ID:tZUuLlm3
FINAL FANTASY ?「 #0121 3章 2節 剛の王国 (20)

 ────今までのカインじゃない!

 甘かった。カインの間合いを見切っていると高をくくっていた。ヤンの助言が
なければ・・。貫かれるはずだった胸をおさえると、カインが高笑いをあげた。
「鈍ったな、セシル」
 踏みつけていたセシルの盾を遠くに放り投げると、再びカインは槍を構えた。
 一気に勝負を決める腹らしい。
「させるか!」
 跳躍しようと腰を落とす瞬間を見計らい、すかさず溜めていた暗黒剣を放った。
 だが、無駄だった。カインはしごく冷静に、振りかざした槍を凄まじい勢いで
振り回し、たやすく暗黒波をかき消してしまった。
「お前のそれは、もう飽きたぜ」
 セシルは歯噛みする。カインとて自分の技を知り尽くしていることは、
わかっていたはずなのに。
 セシルの焦りを見透かし、カインは再び跳躍した。冷静を取り戻す余裕など
与えてくれるつもりはないらしい。セシルは視線を上げ、再び剣を構えようとした。
 左手が、先刻のカインの攻撃の反動で痺れていた。この腕では守りきれない。
カインが身体を反転させた。どうすればいい、どうすれば・・。
255297:2005/06/30(木) 00:22:39 ID:tZUuLlm3
FINAL FANTASY ?「 #0122 3章 2節 剛の王国 (21)

 一か八か、セシルは賭けに出た。
「!?」
 カインが天井に足をついた瞬間、セシルは持っていたシャドーブレードを
カインめがけて投げつけた。既に降下の姿勢に入っていたカインは、思わず
剣を槍で弾く。カインの槍の軌道が大きく逸れた。
 今だ。
 セシルは両腕を掲げた。これなら・・カイン、君にも防げない。
 本来、暗黒の力は剣を通してしか放てない。ただ、技を極めたものだけが、
自身の腕から直接それを行使することができる。術者から直に放たれるその威力は
通常のものとは比較にならないが、その反動も並々ではない。少なくとも半日ほどは、
鉛のような重みと引き裂かれるような激痛で、まったく腕が使えなくなる。
 しかし。どのみち自分には、今のカインの猛攻には幾度も耐えられないだろう。
それならば、この一撃にすべてを・・。セシルは目を見開いた。
「すまない、カイン!」

 輝く光の空間を、刹那、暗黒の色が支配した。


「馬鹿な・・」
 戦局を見守っていたヤンは、思わず声を上げた。ギルバートも、信じられない
という表情で、声を失っていた。
 セシルの暗黒波は寸分違わず、襲いかかるカインを捉えていた。勝負がついた。
そう確信し、命中の瞬間、二人は後ろに吹き飛ばされるカインの姿を予想した。
 ・・だが。
 彼らの目に映っていたのは、倒れ込んだセシル、そしてその胸に槍を突きつけ、
満足げに立ち尽くす竜騎士の姿だった。
256297:2005/06/30(木) 00:30:07 ID:tZUuLlm3
FINAL FANTASY ?「 #0123 3章 2節 剛の王国 (22)

「な・・ぜ、だ」
 あり得ない。この至近距離で放ったら、カインの身体が二つに裂けてもおかしく
なかったはずだ。なのに、それどころか。セシルはその瞬間を確かに見た。
自らが放った黒い光がカインに触れたその瞬間、

 突き抜けた。
 
 愕然として見上げるセシルの腹をカインがしたたかに踏みつけた。
「だから言ったろう」
 カインが顔を近づける。
 歪んだ笑みがそこにあった。
「暗黒剣は、もう飽きたと」
 
 ズブリ、と音を立ててカインの槍が刺さった。


「・・っ、くっ・・ぅ!」
 鋭い痛みがセシルの全身を走った。抑えきれないうめき声が漏れる。
 耐えられない、まるで肉が焼かれるようだ。しかし抗おうにも、さきほどの
暗黒波の反動で両腕はぴくりとも動かない。
 強すぎる。それに、この歪んだ笑み・・まるで別人だ。
 いったい何があったんだ。悶え苦しむセシルを足蹴にしながら、カインが
再び笑い声を上げた。
257297:2005/06/30(木) 00:34:46 ID:tZUuLlm3
FINAL FANTASY ?「 #0124 3章 2節 剛の王国 (23)

「なあ、セシル」
 親しげな声で語りかけてくる。かつて親友として語り合ったときそのままの。
 ただ、その表情だけが壊れていた。
「初めてあった日も」
 ズ・・、と麻縄を絞める様な音をたてて、槍がますます押し入ってくる。
「最後に戦った日も」
 肉が切り裂かれていく。喉の奥から血が溢れてくるのを感じた。
「・・・そして今も」
 ぴた、とカインが槍を押しこむ手を止めた。
「俺とお前の差は変わらない、分かるかセシル?」
 胸ぐらを掴まれ引き寄せられる。朦朧とした意識の中、セシルは彼を睨みつけた。

 ふいにカインの顔から笑みが消えた。
 そして、誰にも聞こえないような小さな声で、カインは囁いた。

「お前は彼女にふさわしくない」
 こぷ、と口から血が溢れてきた。まずい鉄の味がする。セシルは困惑していた。

 彼女? 彼女って・・?

「いま楽にしてやろう」立ち上がり、吐き捨てるように冷たく言い放つ。
「そうはさせん!」
 駆けつけようとするヤンを嘲るように見ながら、またあの狂った表情で、
カインは最後の一押しをしようと、槍の柄に手をかけた。


 だが、その手はそれ以上動かなかった。
 カインは、乱暴な音とともに扉を打ち破ってきた人物を、唖然として見つめていた。
258297:2005/06/30(木) 00:40:34 ID:tZUuLlm3
とりあえず一騎打ち終了です。
扉を破ってきたのはゴルベーザ兄さん・・じゃありません。

>>299氏 
恐縮です。
過去ログうpの時にはどうもでした(; ´ Д`)
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/30(木) 02:12:26 ID:nl2+xm8W
乙!
カイン強!
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/30(木) 13:36:07 ID:SHP8aIZd
でも暗黒剣なしに波動撃っちゃったセシルもなかなか強!
てか二人して強いよ…ドキドキする。作者さんグッジョ。
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/30(木) 14:52:52 ID:SYSFbkOn
あんなにあっさりしてたカインvsセシルが
ここまでアレンジできるとは・・・ すげー
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/30(木) 20:21:40 ID:RquDVlF4
ごめん、セシルの両手を掲げるポーズで元気玉を思い出した俺がいる
とにかくGJ!!
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/30(木) 23:59:03 ID:EUvjJ4U3
あげ
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 18:27:49 ID:cDnDo9E9
戦闘後のやりとりが個人的にかなり好きです!
カインがかっこいい・・
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 23:02:18 ID:TzWp2ANc
>297氏
乙でした。カイン圧勝になるかと思ったら、盛り上がりましたね。
ヤンがきちんと行動してるのも良かったです。

ただ、299氏の書いた部分(特に>233)からつなげて読むと、セシルに対するカインの評価が突然下がった気が。
もちろん、互いに複雑な感情を抱えていて当然なんですけど、落差が大きすぎるような。
266297:2005/07/02(土) 00:27:58 ID:9JU797By
感想どもー。
>>262
イメージ的にはファイナルフラッシュだったんだけどw
>>265
ご指摘ども。
やっぱり作者が違うから、内情のズレみたいのが生じてしまうみたいですが・・、
僕のイメージとしては、別にカインはセシルを低評価してるわけじゃないんです。
その証拠に、>>242あたりで挑発しているのも、セシルがいつまでも戦いを
避けるほど弱い人間じゃないという確信に基づいているわけです。
ゴルベーザに力をもらった彼には、セシルとの格の違いを確実な形で明らかにする
という目的があって、そのためにはセシルに全力で戦ってもらわないといけません
から、自分が憎まれればそれも好都合、という腹なわけです。
で、戦ってるうちにだんだん自分の圧倒的な力が分かってきたので、彼はどんどん
加速していってしまいます。

あと僕は、カインはミスト討伐の時から術中にはまっていて、セシルの見張り役を
任せられていたにすぎない、という解釈をしているので、あの辺の約束も適当だし
それに実はバロンなんかどうでもいいと思っている、ということになります。
>>299さんすいません)
カインが一番大事なのは結局彼女、というわけです。長文スマソ。
人がいなそうだったらまた書かせてもらいます。
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/02(土) 12:03:47 ID:MstigFV5
>>266
冷めた。言い訳がましすぎ。
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/02(土) 16:59:30 ID:t3p/KB6t
>>267
おまいは何も書いてないんだからケチつけんなよ。
書いてくれているだけでありがたいんだから
269265:2005/07/02(土) 19:21:50 ID:lTVyDxe/
>266
回答ども。
リレー小説特有の問題ってやつですか。実のところ、個別に比較したら297さんのやりとりのほうがしっくり来るんですけどね。
俺のイメージだとカインはセシルのことを無意識に一段低く見ている(その他大勢と比べればはるかに買っているけど)なので。

この手の問題はまた出てきそうだな……
控え室スレあたりを活用できるといいんですが。
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 02:32:43 ID:Z66L4Ykr
>>268
俺も>>266みたいのはどうかと思うが。
297の文章は嫌いじゃないけど、作中で表現できなかった部分は作者のせいだろうに
後からちまちま補足するのとかみっともねえ。さっさと次の話を書け、と思う。

>>269
あんまり職人の数も多くないし、別スレ用意するほどじゃないと思うぞ。
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 10:52:51 ID:7NOroJ2+
偉そうに…
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 18:03:54 ID:mThUHKFJ
ヒッキーは素直に自分の非を認めないもの。スルーするのが良いかと。
273 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/03(日) 22:25:49 ID:9jHW/hkD
FINAL FANTASY IV #0125 3章 3節 Two of us(1)

ギルバートは逃げ出した。
息を切らし、薄暗い地下道をひた走る。手当てしたばかりの傷が開き、再び血が流れ出すのがわかった。
ファブルール王らはここで追っ手を防いだのだろう、無造作に転がる双方の死体が激闘を物語る。流れ出した体液はまだ乾ききらず、急ぐ足元を滑らせた。
周囲に動くものの姿はない。
死臭に満たされた空気は、ギルバートに故郷を思い出させた。

竜騎士カイン──ミストの惨劇を境に消息を絶った、セシルとローザの幼馴染み。
彼らが友人の名を口にするとき、必ず深い信頼と、その身を案じる響きがあった。
しかしカインは敵として現れ、行く手を阻むセシルを一方的に翻弄した。奥の手である暗黒の力さえ通じなかった。
そして、勝敗が決してからの行動は完全に常軌を逸している。セシルたちから聞いた人物像とあまりにかけ離れていた。
人とも思えぬほどの強さ。かつての友を嬉々としていたぶる残酷さ。今のカインの邪悪さは、ダムシアンを滅ぼしたあの男に酷似している。単なる心変わりでは済まない異常さをギルバートは嗅ぎ取っていた。
もし何らかの手段で操られているのだとしたら──ローザの白魔術でなら、正気に返すことができるかもしれない。ファブール王負傷の報とともに、彼女の居場所も伝えられている。
(何の根拠もない思い付きじゃないか……)
(以前の彼を知りもしないのに)
(余計なことをして、ローザまで危険にさらすだけかもしれない)
(こうしている間に、セシルは殺されてるんじゃないか?)
(自分で立ち向かおうともしないで……)
(結局、ただ逃げ出しただけじゃないのか?)
暗い考えがあとからあとから浮かんできて、ギルバートの足を止めようとした。
けれどそのたびに、背中を押してくれる声もまた、胸の奥に刻まれている。
”……自分を信じるのよ!”
悲しみは少し薄れても、彼女の残した言葉は消えない。己に負けて、立ち止まってしまわなければ。
274 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/03(日) 22:32:23 ID:9jHW/hkD
FINAL FANTASY IV #0126 3章 3節 Two of us(2)

「そこにいるのは誰!」
「ローザ!?」
ギルバートには皮肉なことに、ローザもまた胸騒ぎにかられてセシルの元へと急いでいた。狭苦しい地下道は見通しが悪く、まず声を掛け合って互いの正体を確かめる。
「ギルバート? どうして……」
「急いでクリスタルルームに!
 セシルが危ない。カインが敵に回ったんだ」
虚を突かれたローザは一瞬黙り込み、すぐにギルバートを怒鳴りつけた。
「……バカ言わないで!!」
「本当だ!!」
負けじとギルバートも叫び返す。
「止めてほしくて君を呼びに来たんだ。とにかく、来ればわかる!!」
必要なことは伝え終え、ギルバートは踵を返した。戸惑いを残しながら、ローザが後に続く。そのとき、ふたりを引き止める声が響いた。
「待って、あたしも!」
「リディア!?」
二人は驚き、音のした方向に視線を走らせた。少女の姿は見当たらないが、声が届くほど近くにいることは間違いない。地下の一室に避難させたはずだが、我慢しきれず飛び出してきたのか。
「……ギルバート、お願い」
「わかった!」
ローザを送り出し、ギルバートは少女の名を呼びながら声のした方角へ向かう。幸い合流に時間はかからなかった。おとなしく戻るよう諭すつもりでいたギルバートだが、積み上がった魔物の死体を乗り越えてきたリディアの姿に、説得は難いと悟る。
血と泥で服を汚し、目尻には涙の跡。しかし瞳は決意に輝いている。
いくら戦闘が終わっていても、こんなところをひとりきりで、さぞ恐ろしかったろうに。
「……しょうがない子だ」
溜息混じりに呟いて、ギルバートが差し出した手をリディアは無言で握り返した。
275 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/03(日) 22:57:50 ID:9jHW/hkD
久々に参加させていただきました。
このところリディアが蚊帳の外なので、ちょっと強引ですがギルバートがお出迎え。

>270
せっかく立っているんだから使うのも手かと。<控え室
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 23:17:42 ID:enLxgeSb
>>274
すげー!ゲームでは見えなかった視点を文章化するとは・・・
グッジョブ!!ちゃんと公平にキャラを引き出しているのが(・∀・)イイ!!
277名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 23:43:17 ID:Z66L4Ykr
>>274
GJ!! 
控え室って立ってるんだ?
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/04(月) 10:35:04 ID:IKSP8RwF
アレンジ( ゚Д゚)ウマー
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 19:21:21 ID:cKdA+CCG
あげ。
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 22:06:40 ID:Vu2VOsTV
もうそろそろファブール編終了?
281 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/05(火) 22:10:33 ID:XDLkcim0
控え室スレ張っときますね(使う予定ないけど)
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1116590936/l50

>276-278
レスどうもです。なんと言ってもこの三人はこの後が……なので、今のうちに〜
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 23:12:18 ID:PzBtZN4T
乙。
でもこのスレ、別にここの職人の控え室って訳じゃないんだからまずいんじゃないかなぁ。
ところで、ちょっと気になったけどタイトルってどうやって決めてるんだろ。
作者それぞれの判断で章を進ませてるんだろうか。なんとなく、Two of us って
タイトルは、カインとの一騎打ち前の回想シーンあたりから始まっていた方が
しっくり来るような気がしたんだけど。
出過ぎた質問かもしれないのですまんが。
283 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/05(火) 23:42:06 ID:XDLkcim0
>282
まあ、まだ使うと決まった訳でもないっすからね。

>タイトル
大まかな区切りは前スレで作っていただきましたけど、実際の切れ目は書き手さんが決めてます。タイトルも今のところ書き手の一存で。
結構悩んでるんで、案があったら出してくれるとうれしっす。
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/06(水) 00:57:12 ID:msmaH2UT
あまり深く気にしないで進めていった方が良いと思う。
随分先の話になりそうだけど、全部書き終わってから住人達で細かい章区切りを
考案し合うのも楽しそうだし。
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/06(水) 16:08:55 ID:KWE9v8EN
3 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/07/03(日) 15:17:13 ID:3GETcyUl
3ゲット


4 :名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/07/03(日) 15:17:14 ID:6boHIV3e
><()
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/08(金) 01:38:10 ID:oNiTc1xw
保守
287名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/09(土) 00:52:28 ID:/0vPafp+
ほっしゅ
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/10(日) 03:30:35 ID:uW0rxl4z
なんか時間に無理が生じてきてるような気配・・
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/11(月) 22:27:51 ID:EB4bAMWx
保守
290297:2005/07/13(水) 19:02:55 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0127 3章 3節 Two of us(3)

 地下道を走りながら、ローザは先ほどのギルバートの言葉を反芻していた。
「カインが敵に────!」
 背後を振り返ると、少し遅れてギルバートがリディアの手を引いて走っている。
 ローザは視線を低くしている彼を睨みつけ、彼が顔を上げるとまた前を見据えた。
(────何も知らないくせに!)
 彼女にとって、セシルとカインとの三人の輪は聖域だ。誰にも傷つけられないし、
もちろん内側から破れることなどあるはずもない。そしてそこに土足で入り込んできた
ギルバートは、憎むべき対象だった。
(何かの間違いに決まってるわ)
 仮にギルバートの言っていることが事実なら、それはきっと魔物がカインの姿を
纏っているだけに違いない。たとえ操られようとも、本物のカインがセシルを傷つける
ことなどあるはずがない。自分もセシルも、必ずそうであると断言できる。
 けれど、何かが起こっていることは確かだった。聖域に、大きな危機が迫りつつある
ということを、彼女は直感で感じとっていた。先ほどのギルバートの話に納得しかね
ながらも、彼に従った理由もそこにある。
 自分の目で確かめればいい。地下道を抜けて、閑散とした王の間に躍り出ると、
そのまま彼女はクリスタルルームに走りより、そして息をのんだ。
291297:2005/07/13(水) 19:06:26 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0128 3章 3節 Two of us(4)

 クリスタルルームの巨大な扉は、無惨に破壊されていた。震えながらも、彼女はおそる
おそる扉に手をかけた。
 その瞬間、ローザはひどい悪寒に包まれた。

(────この扉を開けてはいけない!!)

 彼女の直感が泣き叫び、悲鳴を上げていた。いますぐその場から逃げ出してしまいたかった。彼女は、無意識のうちにそっと手を引こうとしていた。

         (ローザ!)

 ぴく、とローザは顔を上げた。セシルの声が聞こえたような気がした。
 そうだ、もしもこの中にセシルがいるなら・・。もしも、本当にギルバートの言う
ように深く傷ついているのだとしたら。ローザの手に、ゆっくりと力が戻ってきた。
 ごくりと固唾をのみ、ローザは残骸となった扉を思い切り押し破った。


 だが、彼女の心は悟っていた。
 それが、とっくの昔に失われてしまっていた聖域の扉だったのだと。

292297:2005/07/13(水) 19:10:16 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0129 3章 3節 Two of us(5)

 扉を開けたローザの目に飛び込んできた光景は、彼女の意識を破壊するにあまりある
ものだった。部屋の中心に立ち、同じように放心したように自分を見つめるのは、
まぎれもなく親友のカインの姿。
 そして、 その、 手の、  槍が 、セシルの、・・

「やめてえぇーーーーーっっ!!」

 もっとも大切なひとが奪われようとしていた。
 もっとも信頼していた友人の手によって。
 その光景の意味を理解してしまう前に、彼女の理性はそれを否定した。
「ローザ!?
 なぜ、君がっ・・!?」
 泣き叫ぶローザの姿にカインは気を取られ、無意識に槍を握る手を緩めていた。
その機を逃すヤンではなかった。
 痛烈な爪の一撃がカインのみぞおちをえぐり、続けざまの攻撃で間髪入れずに壁際に
蹴飛ばされる。
「ぐっ!」
「ローザ殿!」
 すかさずヤンがセシルを守るように立ちはだかり、傷ついたセシルを目で示した。
ローザは恋人のもとに駆け寄り、深々と鉄の刃が刺さった胸に気遣わしげに手を添える。
胸を抑えながら踞り、カインは自分を見下すモンク僧を凄まじい視線で睨みつけた。
「き、さま・・!」
「カイン! お願い!」
 再びローザが悲痛な声で懇願する。その声に、カインもまた悲痛な表情で押し
とどまった。激しく歯を食いしばりながら、カインは怒りに身震いしていた。
293297:2005/07/13(水) 19:23:07 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0130 3章 3節 Two of us(6)

 リディアも遅れてやってきた。背中に負傷をしているギルバートを気遣っていたが、
彼は弱々しげに微笑みそれを制した。すこしためらったいながらも、彼女もセシルの
回復にむかった。二人分の魔法の力がセシルの傷ついた胸を癒し、徐々に彼の顔に生気が
戻りはじめた。
「・・ロー・・ザ?」
 ようやく自分を見つめる彼女の姿を認めたらしい。それを得て安堵したローザは、
うち震えるカインに向き直った。
「カイン・・どうしてあなたがこんなことを」
 カインは黙っていた。再びローザは、どうして、と問いかけた。
 しかしそれへの答えは、カインの漏らした意外な言葉によって返された。
「・・なぜここに。君は、謹慎処分になっていたはずだ・・」
 ローザは驚愕の表情で息をのんだ。はっとカインは口をつぐんだが、もう遅かった。
すでに彼を見つめるローザの瞳には、よりいっそう色濃い疑心が浮かび上がっていた。

「どうして・・・どうしてあなたがそれを・・?」
294297:2005/07/13(水) 19:24:03 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0131 3章 3節 Two of us(7)
 ・
 ・

 セシル達がミスト討伐に旅立った直後のことだった。その日のうちから、バロンでは
突然、妙な噂が広まりだしていた。

 「赤い翼のセシル=ハーヴィは謀反を企てている」

 根も葉もないものだった。
 不祥事により赤い翼の指揮権を剥奪され、そもそも王に対して反心を抱いていた
セシルは密かに同志を募り、いまや王権の乗っ取りを目論んでいる、などと噂は尾ひれを
つけて広がる一方で、しかも翌日には、噂を裏付ける証人まで現れた。あわれな姿で
バロンにやってきたその男は、自分はミストの村の生き残りだと名乗り、バロンの
親善大使としてミストへやってきたセシルが、彼らにバロンへの反乱同盟の結託を
持ちかけ、拒否した彼らを無慈悲にも村ごと焼き滅ぼしたと、涙ながらに訴えたという。
 しかもあろうことか、王はあっさりとそれを信じたのだ。
 多くの者が、声を上げてセシルの潔白を唱えた。と同時に、王の部下への不信を
咎めた。セシルをよく知る友人達をはじめ、セシルの除隊とともに赤い翼を抜けたもの、
飛空艇の技師達、他の騎士団の兵士、そして城下の人々。身分を問わず良識のある人々が
彼のために立ち上がっていった。だが、王はそれを聞き入れるどころか、彼らを反乱分子
と見なして、片っ端から捕らえ、尋問、投獄し、時には処刑すらした。
 そのようにして国民は次第に王の狂気の影を感じ取り、やがて異を唱える声は消えて
いった。
 疑惑の目はすぐにローザにも向けられた。セシルと深い仲にあったと噂され、事実
そうでもあった彼女は執拗にひどく詰問された。しかし、いくら問いつめられても、
当のローザはまるっきり上の空であった。ミストの異変後まもなく届いたもう一つの
知らせが、彼女を悲しみの底に突き落としていたからだ。

 セシルはミストの大地震で死んでいた、と。
 
295297:2005/07/13(水) 19:25:23 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0132 3章 3節 Two of us(8)

 もしその時の彼女に普段の冷静さの半分でもあったなら、周囲を取り巻く状況の
不自然さに疑いをもつこともできただろう。落ち着いて考えてみれば、どの噂にしたって
根拠もなにもなく、ずさんなことばかりである。そもそも、なぜこれほど急にそんな
噂が流れ、大衆に浸透していくのか。あの証人、それに王のあまりの短絡ぶりにしても、
平静の彼女なら、そこに何かしら周到なものを感じ取ることができただろう。悪意に
まみれた陰謀の影を。
 けれど、絶えず聞かされる耳を塞ぎたくなるよう中傷に、離ればなれの恋人に想い焦が
れるローザの心は弱りきっていた。そうして、ふとしたときにほんの少しだけでも
セシルを疑ってしまっている自分に気づき、ひどい自己嫌悪に苛まれる。慌てて彼の
無実を自分に言い聞かせる、それを嘲るようにまた周囲から聞こえてくる歪曲した事実。
それらから目を背け、ひとりむせび泣いた。何度も,何度も。徐々に彼女の心は疑心に
蝕まれ、擦り減り、憔悴していった。
 そして、彼女はそれを受け入れてしまったのだ。
「赤い翼のセシルに見限られるようなら、この国も終わりよ!!」 
 尋問をする兵士に向かってローザは吐き捨てるように叫んだ。そして、言葉と一緒に
彼女は生への未練をも捨てさった。
 当然ローザは死刑を覚悟していたのだが、魔導士としての能力と人望を買われていた
ためか、無期限の謹慎処分という形で罰を与えられた。とはいえ、謹慎とは建前で塔への
幽閉というのがその実体であった。だがそんなことはもう、どうでもよかった。むしろ
今の彼女には、生半可な生を与えられたことが苦痛ですらあった。監禁されたローザは
一日中、部屋の隅に踞り、ひとつだけの窓からぼんやりと空を見つめるばかりだった。
そうして、夢うつつにセシルやカインとのあたたかい思い出に浸り、目覚めとともにまた
現実に引き戻されては、ひどく泣いた。日に一度だけあてがわれる粗末な食事すら口に
せず、彼女はみるみるうちにやせ細っていった。彼女が二度と目覚めない夢の中に落ちる
のは時間の問題であり、また彼女自身もそれを待ち望んでいた。
 だが、そんなある日のこと。
296297:2005/07/13(水) 19:55:23 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0133 3章 3節 Two of us(9)

「そこにいるのは・・、ローザか!?」
「・・・シド?」
 新たに向かいの独房に押し込まれてきた囚人、それは飛空艇整備隊の長であり、
彼女やセシルの友人でもあるシド=ポレンディーナであった。
「あなたまで・・」
「王がダムシアンを攻めるなどと戯言をほざいておるから、寝ぼけるなと言ったとたん
このざまじゃ。何を考えとるのじゃ陛下は・・」
「ダムシアン・・また、人が死ぬのね」
「しかし・・なんてざまじゃ、ローザ」
「・・・」
「あのクソッタレの王め! 監禁されておるとは聞いていたが、まさかこんな所に!!」
 やつれきったローザの姿に憤慨するシドを見て、彼女は骨張った頬を緩ませ、力なく
笑った。
「もう・・・いいのよ」
「・・なんじゃと?」
「どうでもいいのよ・・」
「ローザ・・! どうしたんじゃ、しっかりせんか! お前らしくもない!」
 シドの言葉に、うふふ、とローザは虚ろな笑みを浮かべた。
「私らしくない・・? それって、セシルといた頃の私のこと?」
「ローザ・・」
「それは無理よ・・だって、あの人は死んでしまったんですもの」
「ローザッ! 馬鹿なことを言うな! あんな噂を信じとるのか!?」
「そうよ、あなただって聞いたでしょ? 討伐隊が、彼の遺体を見つけて・・」
「いい加減にせんか! そんなもの何の証拠がある、馬鹿馬鹿しいッ!」
「違うわ、死んだのよ・・セシルは死んだのよっ!! もう二度と会えないのよ!」
297297:2005/07/13(水) 19:56:27 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0134 3章 3節 Two of us(10)

 ローザは耳を塞ぎながら、狂おしく声を上げた。
「もう二度と、私の名前を呼んではくれない、笑いかけてもくれない、抱きしめても・・
全部、もうぜんぶ終わってしまったのよ! どうなったって構わないのよっ!!」
 ローザはうつむき、ポロポロと涙を流した。まだ自分には、これだけの水が残って
いたのか。そんな風に思うほど、とめどない悲しみが溢れていた。
 構わない、と彼女は言った。そう、どっちでも構わなかったのだ。
 決して噂を信じたわけではない。だが彼女にとって、たとえセシルがバロンに弓を
ひこうとも、本当は構わなかったのだ。彼がそうするというのなら、それがどんな道でも
歩んでいける。彼が何をなそうとも、自分はそれを信じて支えさえすれば良い。
 彼女に必要なのは、セシルのそばにいる、たったそれだけのことだったのだ。
 
 そして、それが全てだった。だからこそ、彼女にはもはや生きる意味などなかった。


 急にギ、ギ・・とけたたましい音が牢獄に響きだした。
 顔を上げると、なんとシドが万力を込めて独房の格子をひん曲げようとしていた。
やがて、錆び付いていた鉄棒は折れてしまい、ずかずかと牢から這い出てきたシドは
そのままローザの独房の格子につかみかかった。
「シド・・・やめて・・」
「・・・」
「お願いだから、シド・・」
 ローザの懇願など端から無視して、シドは憤怒の形相で格子をへし折り、ローザに歩み
よってきた。彼女が口を開こうとした瞬間、
298297:2005/07/13(水) 19:57:12 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0135 3章 3節 Two of us(11)

「この馬鹿者がッ!!」
 バシッ、と乾いた音を立てて頬を払った。衰弱した彼女の身体が、そのまま倒れ込む。
ローザは目を丸くしていた。痛みよりもむしろ、驚きの方が大きかった。幼い頃から
父親のように接してくれたシドだが、叩かれたのはこれが初めてであった。まだ呆として
いるローザの肩をつかみ、シドは分厚いゴーグルを外して語りかけた。その目は、彼が
見せたこともないような悲哀に染まっていた。
「ローザよ・・いつからそんな弱い女になったんじゃ」
「・・・」
「お前さんは強い女のはずじゃ。そして、セシルのことも一番よく知っとるだろう?
そのお前さんが、どうしてあやつがそんな真似をするなど言うんじゃ。どうして、
あやつが死ぬなどと・・軽々しく口にするんじゃ。なぜ、あやつが生きてると信じない?
 なぁ、ローザよ。あやつがそんな簡単に・・お前を置いて逝ってしまうような人間か? 
セシルはそんな男ではないだろう? そう言ってくれ・・」
 豪壮な髭にかくれたシドの口は、小刻みに震えていた。
 苦しんでいるのはローザだけではなかった。この剛胆の塊のような男ですら、少しずつ
植え込まれるセシルへの疑心にひそかに苦しんでいたのだ。そんなシドにしてみれば、
セシルの誹謗をローザの口からだけは聞かされたくなかった。それはあまりに重い意味を
持ち、彼には堪え難いことだったのだ。
 彼女にも、肩を握る手の震えから、シドの心がひしと伝わっていた。けれど、
「シド・・ごめんなさい。・・・でも、もうだめなの。私はもう・・」
 もう、這い上がれない。あまりに深いところまで落ちていってしまったから。
 このまま、穴の底でゆっくりと息絶えていくだけなのだ。


「セシルに会いたくはないのか?」
299297:2005/07/13(水) 20:20:59 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0136 3章 3節 Two of us(12)

 どくん、と胸の奥が震えた。

「・・いいかローザ。お前さんのそんな有様を見て一番悲しむのは、わしでもなければ
お前さん自身でもないんじゃぞ」
「・・・」
「赤い翼の・・わしらのセシルが惚れた女は、こんなくだらない人間か?」
「・・セシル・・・・」
「立ち上がるんじゃ。お前さんを失って、セシルがどんな顔をすると思う。
 あやつを慰める役目なんぞ、わしはまっぴらごめんじゃぞ!!」
 ぐい、とシドがローザの身体を引き上げる。幽閉され、いっそう細身のかかった肢体は
急な反動にふらついたが、その瞳にはいまや毅然とした輝きが宿っていた。
 シドは満足げにニヤリと笑った。
「信じるんじゃローザ。ここにいてはいかん。信じてセシルを追え!」
「えぇ・・そうね、シド。私たちのセシルを信じるわ!」
「素直に" 私の "と言わんかい」
「もうっ!!」
 ローザは顔を赤くして、大口を開けて笑うシドの背中を叩いた。
 まったくこの人は、こんな時まで・・。

 なんて・・心強いのだろう。

「ありがとう・・シド」
「そういう顔はセシルにとっとけい」
 照れ隠しのように目を背けるシド。ローザは窓から月を望んだ。
 うずくまっていた頃よりも、その月はずっと身近に見えていた。
300297:2005/07/13(水) 20:22:11 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0137 3章 3節 Two of us(13)

「行きましょう、シド」
 守衛をなぎ倒し、夜の闇にまぎれて二人は脱走した。ところが城壁から堀へ出る通路の
入り口まで来たところで、不意にシドは足を止めてしまった。
「・・シド?」
「行くんじゃローザ」
「いったい何を・・? あなたも一緒に・・」
「わしはここに残らねばならん」
「何を言い出すの!」
 あおの言葉に耳を疑いながら、ローザは必死で声を殺して説得しようとした。
 時間がなかった。衛兵がいつかぎつけて、ここにやってくるかもしれない。
「シド! ここにいたら、いつかあなたも殺されてしまうかもしれないのよ!?」
「案ずるな、王にわしは殺せん。わしは飛空艇に必要な人間じゃからな」
「でも、それなら、なおのことここを離れるべきじゃないの!」
「そうはいかん」
 シドは決然と言った。
「わしがいなくなれば、これ以上の飛空艇の開発は不可能じゃ。それぐらいはあの
ボンクラにもわかっとるだろう。そうすればどうなる? もはや進軍を待つ必要は
どこにもなくなる。すぐに世界中の国が戦火の危険に晒されるだろう」
「・・でも」
「既にバロンの軍事力はずば抜けている。現状でも、平和に慣れきった諸国を制圧するに
たやすいだろう。それは、わしの造ってしまった飛空艇のせいじゃ。だからこそ、わしが
歯止めになるのだ。整備の工程を操ることも、兵器に手を加えることも、多少の細工は
できるじゃろう。それでわずかでもバロンの動きを鈍らせることができれば・・、
それはわしがやらねばならんのだ。わしにしかできないことじゃからな」
「それが終わったら!? そうしたら、あなたはどうなるのよ!」
 ガハハ、と笑いかけて、シドは声を潜めた。
「そう簡単に死にゃせん。いざとなったらあの老いぼれ王を盾に逃亡してみせるわい」
301297:2005/07/13(水) 20:23:17 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0137 3章 3節 Two of us(13)

「シド・・」
「それに、わしがいなくなれば助手どもの命も危ない。
 ・・なにより、娘を残しては、行けん」
 目を細めるシドに、ローザは恨めしそうな声を出した。
「・・もう一人の娘の力には、なってくれないの?」
 うなだれる彼女の頭に、ごつごつした油臭い父の手が置かれる。
「ローザ、この国は腐りきっとる。古くなった船と同じじゃ。そこら中にガタがきて、
いまにも沈んでしまいそうな有様じゃ。しかも、薄汚いウジ虫どもまでたかっとる。
正しい歯車が残らないといかんのだ。わしは見守らねばならん。それがわしのつとめ
なんじゃよ。わかるな?」

 静かな沈黙が流れた。ローザは顔を上げると、小さく微笑んだ。
「・・わかったわ、シド」
 二人は見つめ合い、親子の抱擁を交わした。あたたかい、人間の温もりが感じられた。
 やがて彼らの耳に、二人を引き裂く無慈悲な追っ手の声が届きだしていた。
「きっと帰ってくるわ、セシルと一緒に」
「カインのやつもな」
 そっと身を離し、ほんの刹那の躊躇の後、ローザは堀に飛び降りた。それ以上、シドの
顔を見ていられなかった。シドは懐から木槌をとりだし、高らかに笑い声を上げた。
「おう、ヒヨッコども! 脱走者ならここじゃーー!! 
 遊んでやるから片っ端からかかってこいや!!」

 堀を抜けて、ようやくバロン城の外に出る。
 背後からは暴れ回る楽しげなシドの声と、衛兵達の怒号が聞こえていた。
 ローザは、すっと涙を流した。それでも決して振り返らず、彼女は走り続けた。
 別れではない、必ずまた戻ってくるのだから。
 そう言い聞かせて、彼女は流れる涙を拭おうともせず、祖国をあとにした。
302297:2005/07/13(水) 20:25:46 ID:m6IFKMea
FINAL FANTASY IV #0138 3章 3節 Two of us(14)

 そうしてローザは国を離れた。残してきたシドにほんの少し後ろ髪を引かれながら。
 海路を利用してカイポの南端の海岸に降り立ち、つれてきたチョコボを駆けさせて、
砂漠をひたすら北へと急いだ。セシルが生きているならば、必ずあの街に立ち寄るはず。
会えはしなくとも、何か得られるものがあるはずだと自分を力づけながら。
 だが、幽閉生活の間に衰弱しきっていた彼女の肢体に、砂漠の熱は容赦なく襲い
かかった。黄金色の熱砂によって何重にも乱反射され、増幅された日光が放浪者の
身体をなぶるのだ。しかも悪いことに、急ごうとするあまり彼女はチョコボに無理強いをしてそのために手持ちの水のほとんどを与えていた。
 やがて、彼女は限界を迎えた。最後の意識で、ゆらめく街の姿を認め、そしてローザは
気を失った。
 そのまま彼女は、以後十数日に及び生死の狭間をさまようことになる────。

 ・
 ・

 ────しかし、

 ローザはカインを疑惑のまなざしで見つめる。
 そんな事情を、行方不明でしかもセシルと共にバロンを離れる決意をしていたはずの
カインが知り得るはずはなかった。
 あるとすれば、────そう

 彼も、そちら側の人間でもなければ・・。
303297:2005/07/13(水) 20:32:49 ID:m6IFKMea
また余計な話を突っ込んでしまった・・。
とりあえず終わりです。
304名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/13(水) 22:27:52 ID:rQwTcpz5
脱帽。
シドがおれの中で美化170%くらいになってるぜage
305名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/13(水) 22:43:02 ID:qAqjk0MQ
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
しかも長い!!!乙!!!
それぞれのキャラの心情が現れてていいな
306299:2005/07/13(水) 23:15:25 ID:nkdyEe9z
お疲れ様です。
三人の過去に続き、ゲーム中では語られなかった
空白部分がどんどん補完されてますね。
シーン単体でもシドが木槌を取り出した所はぐっときました。

307名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/13(水) 23:35:08 ID:nkdyEe9z
それと、蒸し返すかもしれませんが、自分の書いた部分と
297さんの部分とでズレがあり、そのせいで少し
問題があったようですね。すいません。
308297:2005/07/13(水) 23:54:44 ID:m6IFKMea
感想ども。細かい部分でミスりまくってるな・・。

>>299
いえお互い様です。むしろこっちの手落ちですから。
リレー小説にはつきものなことなんでしょう。
309名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/14(木) 00:45:11 ID:DvFa/aOS
シドかっけええええええええーーーー
しかし297氏は回想大好きだなw だがそれがいいっ!
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/14(木) 22:16:10 ID:i7HjhDVS
前スレの過去ログってどこかで観られる?
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/15(金) 05:43:10 ID:QGehKnw9
>>310
レスを全部読んだ上で聞いているのだとしたら297があまりにも不憫
312 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/16(土) 14:02:09 ID:TC4p7oj8
>290-302
GJです! ついでに今スレでも297getおめ
シドの描写は言うまでもないですが、先の展開に繋がる要素がしっかり織り込まれているのが見事です。
それと、ローザの立場からカインへの信頼を描いてくれたのが嬉しいとこです。

>288
う、やはり突っ込まれてしまった…
書いてたときは>256-257の間にそこそこ時間があると思ってたんですが、既に槍は刺さっているんでそんな余裕なさそうだという罠。
ギルバートは(逃げ)足だけは速いということで勘弁してください…orz
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/18(月) 11:38:52 ID:U5IHyss0
保守
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/20(水) 21:07:14 ID:bXRmz9Gl
保守。
ところでさ、未だによくわからんのだが
試練の山での「正義よりも正しいことよりも、大事なことがある」ってセリフ。


・・それって何?
無粋な疑問で悪いが。
315名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/21(木) 04:44:40 ID:kE+FOrg9
それは当時も結構話題になったなあ。

個人的には「健康」という解釈が気に入っているんだがw
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/21(木) 18:37:33 ID:FgtwY4hi
あげ
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/21(木) 18:55:25 ID:1jKyyg7D
んー、詳細はわかんないけどEDでリディアが
「大事なのは心、そうでしょセシル!」
とか言ってたけど。
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/22(金) 07:06:19 ID:dK/E/qj1
>314
FF4には思い入れがありますので、長々と語りますが、ご容赦を。
まあ、結論から言ってしまうと、「思いやり」というか「やさしさ」でしょう。

>お前の来るのを待っていた・・・・
>今・・・・私にとって悲しいことが起きている。 これからお前に、私の力を授けよう・・・・この力をお前に与えることで、私は更なる悲しみに包まれる。
>・・・・しかし、そうする以外に術は残されていない。

セシルの父の台詞ですが、「更なる悲しみ」とはセシルが力を得る事で、ゴルベーザとの対決(兄弟間での争い)が避けられない状態になることを示すと思われます。

>もし お前が本当のパラディンなら、剣を収め堪えるのだ!
>??? 正義よりも正しいことよりも、大事なことがある。 いつか分るときが来る。 行け! セシル!

「剣を収める」ということの意味は、盲目的に「正義を成す」事ではなく、「相手を許容する優しさ」こそが大事だという事です。
この場合、暗黒騎士であった自分に相対しているわけですから、「自分の過去をありのままに受け入れる覚悟」がセシルに求められているわけです。

つまり、「正義」や「正しい事」を成す以上に相手を「許す」ことが重要であり、そしてそれを成す「やさしさを持つ事」にこそ、父の教えの本質があるのです。
このエピソードは、ラストでセシルがゴルベーザ(だけでなく、話途中ではカインも含まれますが)を許し、「兄さん」と呼ぶエピソードへの伏線です。
セシルの父は、セシルが力を得ても、兄弟同士で無残な殺し合いをしないよう望んでいたということでしょう。

ちなみに某所にてセシルの兜や、カインの兜の意味について書きましたが、カインもセシル同様、前に進むためには「自分の過去をありのまま許容」することが必要なのです。
エンディングにおけるカインの姿は、カインの未来・現在を示唆していると言えるでしょう。
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/22(金) 20:20:44 ID:asZKwgeB
>>318
まさか…あんたは…
320297:2005/07/22(金) 20:54:58 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0139 3章 3節 Two of us(15)

「カイン、まさかあなたが・・」
 ローザはまたカインに尋ねた。だがその声には、もはや先ほどまでかすかに残っていた
信頼の影はなく、既に決定した事実を問責するに近いものだった。その音色に耐えきれ
なかったのか、カインは立ち上がり声を上げた。
「違う! ローザッ、違うんだ!!」
 だが、その声は動揺しきっていたローザを刺激し、彼女は思わず身を引いた。
 それはごく小さな動作だった。しかし、カインの目にはそうは映らなかった。彼女が
自分から離れたという事実、そしてほんの少しだけ後ずさったその距離は、もはや彼には
永久に埋めることの出来ない空白のように感じられた。
 カインはすがるように彼女に向かって手を差し出す。しかしローザはさらに後ずさり、
不安げにセシルの胸に手を添えた。そして彼の中で、何かが崩れた。

「・・俺は・・・・」
 カインは膝をついた。だらり、と首が垂れて兜が落ちた。
 生気を失った表情があらわになり、もう一度、人形のように顔を上げてローザを見た。 
彼に応える視線には、かつての温もりなどもうどこにもなかった。
「や・・めろ、・・やめてくれ・・・・俺を・・見ないでくれ・・・・」
 ふいに苦悶の表情を浮かべると、カインは頭を抱えて震えだした。
 先ほどまでとはまったく異質の狂気が彼を覆っていた。かっと目を見開き、まるで
熱病にでもかかったように、噛み締めた歯からはカチカチと音がなった。額には血の筋が
浮かんでおり、嗚咽のような唸り声をあげたまま、引き裂くように髪をかきむしっている。
彼は何か巨大なものに追われ、それから必死で逃げようとでもするようにもがいていた。
 動揺と猜疑、それに恐怖の混じった視線を向けていたローザは、まさに狂人たる有様の
カインの様子に戦慄した。
 だが同時に、その弱々しさはかえって彼女の母性を震わせ、かつて友であった彼の
面影を思わせた。

321297:2005/07/22(金) 20:56:35 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0140 3章 3節 Two of us(16)

 やがて決意したようにローザはそっと立ち上がると、ゆっくりとカインに歩み寄って
いった。慌てて止めに入るヤンを制して、踞る友の側に膝をつく。そして、彼女は震える
カインの背にそっと手をかけようとした。
 そのとき、コツリ、と床を踏みしめる音が響いた。

 固く、乾ききったその音は気味が悪いほどよく響きわたり、その場の全員が言葉を
発することも出来ぬまま、ただその主が訪れるのを待っていた。
 開かれた扉を、一点に見つめたまま。
 やがて、どす黒い影と、凍り付くような空気を纏ってその男は現れた。

「何を血迷っているのだ・・カイン」

 カインの震えが止まった。彼の言葉を待たずして、皆はその男の正体を悟っていた。 


「ゴルベーザ・・様・・」


「ゴルベーザ・・!」
 長身のヤンよりもさらに二回り以上もあるその男は、巨大な黒塗りの甲冑を身に着けて
いた。扉の近くにいたギルバートが、まるで子供のようにすら見える。後ずさりながら、
なんとかギルバートが声を絞り出すと、男はまるで彼がそこにいたことに初めて気づいた
かのように、白々しく声をかけた。
「これはこれは、お久しぶりですなギルバート王子。それにそちらは、モンク隊曹長の
ヤン殿と御見受けしますが・・、お会いできて光栄の至りですな」
 そうして、ゴルベーザはひどく慇懃に礼をした。あまりに冷静なその立ち振る舞いに、
ギルバートもヤンも、ただその場に立ち尽くし、気をのまれてしまう。
 しかし頭を上げた男の言葉は、冷酷そのものだった。
「てっきり既に始末してあったものと思っておりましたが・・。
 このようなところでお会いするとは、いやはやお互い部下には恵まれぬようですな」
322297:2005/07/22(金) 20:57:09 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0141 3章 3節 Two of us(17)


 ぞわ、とおぞましい寒気が彼らの背筋に走った。
 やはり・・、やはりこの男が黒幕なのだ。
 ダムシアンの虐殺、ホブス山での奇襲、そしてこの襲撃。全ての糸を引いていた者。
それがこうして目の前にいる。彼らのうちに、燃えるような感情が息づきだしていた。
「そして・・」
 だが、当の男はあくまで平然としていた。今のいままで話しかけていたギルバートを
ものともせずに素通りすると、今度は横たわるセシルの前に歩み寄った。
「お前がセシルか・・、私の前任者というわけだな」
「・・貴様が・・ゴルベーザ・・・・!」
 怒りに燃える瞳で、激痛に耐えながら起き上がろうとするセシルを、ゴルベーザはまた
しごくつまらなそうに見下していた。やがて、セシルに向かって手をかざすと、
「お互い積もる話もあるといいたいところだが、・・なにぶん多忙な身でな。
 会えたばかりで残念だが、これが私の挨拶だ」
 淡々とした口調。その言葉が終わるか終わらないうちに、ゴルベーザの掌に、電流の
ようなおびただしい魔力が集まりだした。
「やめてっ!」
「させるか!」
 ローザの叫びと同時に、ヤンが飛びかかっていた。ギルバートも背に傷を負いながら
果敢に立ち向かっていった。ゴルベーザはそれに焦る様子も無く、すっと手を頭上に
かざした。すると、手から広がった魔力が彼の周囲を満たし、まるでバリアーのような
それが、次の瞬間、飛びかかってきた二人を容赦なく焼き焦がした。

323297:2005/07/22(金) 21:03:30 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0142 3章 3節 Two of us(18)

「・・虫ケラに用はない」
 なす術も無く吹き飛んだ二人に吐き捨てる。その口調には、先程の礼節などかけらも
残っていない。ゴルベーザは踞っているカインに向き直ると、パチンと指を鳴らした。
とたんにカインが人形のように起き上がる。
「カインよ、遊びはここまでだ。クリスタルを手に入れろ」
「・・はッ!」
 先ほどまでの狂態が嘘のように、落ち着いた様子で歩きだすカイン。ローザはその
変貌に慄然としながらも、しかし彼が向かう先にあるものを認めて、彼の前に立ち
はだかった。

(────クリスタルは渡さない!)

「やめて! カイン・・!」
「・・!」
 カインの顔がほんの少し苦痛に歪み、押しとどまった。
 それを得て、ローザは彼の手を強く握りしめる。
「お願いカイン! 正気に戻って!」
 さらにカインの身体が後ずさった。
 ローザは次第に自信を取り戻していった。
(やっぱり────やっぱりこの人はカインなんだわ!

 カインなら、彼ならきっと・・・!)


324297:2005/07/22(金) 21:04:02 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0143 3章 3節 Two of us(19)

 いま、ローザの頭には、かつて自分を取り巻いていた日常がありありと浮かんでいる。
 平和だった。安らかだった。ささやかな幸せ、だけどそれだけで十分だった。
 そしてある日、粉々に砕かれてしまった。
 何もかもが突然だった。いったい自分たちがなにをしたというのか。理不尽にも
彼女の当然は奪い去られ、あとには悲しみだけがのこされた。 

 けれど、まだ、一番大切な部分は壊されてはいない。誰にも壊せないのだ。

(カインなら、きっと私の力になってくれるはず────!)

 ローザは必死だ。なぜなら、カインが自分を裏切れば、彼女がずっと守り続けてきた
ものがすべて嘘になってしまう。既に多くを失ってしまった彼女には、それが耐えられない。
 だからローザはカインにすがる。自分に残された最後の真実を証明するために。彼女は
気づいていないが、それはもはやカインへの信頼という形を持っていなかった。
そうでなければ、彼女自身が壊れてしまいそうだけにすぎない。
 しかし、すぐにそんな淡い希望を否定する言葉が彼女につき付けられる。

 とても意外な方向から。 



「下がるんだ・・ローザ!」


325297:2005/07/22(金) 21:06:17 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0144 3章 3節 Two of us(20)

「セシル・・?」
 懸命に身体を起こしながら、自分に呼びかけるセシルをローザは愕然と見つめた。
(どうしてあなたが・・そんなことをいうの?
 この人はカインなのよ。なぜカインを信じてあげられないの?
 どうしてあなたまでもが、わかってくれないの!) 
 熱を帯びた瞳から、彼女の想いが流れ込んでくる。
 だが、残念ながら彼女の願いとは裏腹に、状況を少しでも理解していたのはセシルの
方だった。事実、ローザの眼前にいるカインの拳はギリギリとうち震え、今にも彼女に
襲いかかろうとしていたのだから。
 ローザは冷静さを失っている。今のカインがどれほど危険か、わからないほどに。
「下がるんだ・・ローザッ!」
 セシルは再び、強く叫んだ。そして渾身の力を振り絞って、自分を貫いていた槍を自ら
引き抜くと、それを支えにして立ち上がった。カインに放った暗黒波の反動で、腕が
引き裂かれるように痛んだ。さらに、癒しの力で塞がりかけていた傷口が再び口を開け、
おびただしい量の鮮血が溢れ出し、彼の足下に溜まりをつくっていた。側に控えていた
リディアは、その出血を目の当たりにしてなお気丈にも意識を保ったが、小さな顔は既に
色を失っており、自分にふりかかるセシルの血をぬぐうこともできず、がたがたとすくみ
上がっていた。
「ローザ・・下がってくれ」
 血にまみれたセシルの剣幕に押され、ローザは身を引こうとした。ところがその直後、
ローザの瞳は驚愕に染まった。その瞳が見つめる先には・・、
「・・その傷で立ち上がるとは、よほどこの女が大事なようだな?」

「やめっ・・」
 感づいたセシルが叫びかけたときは、もう遅かった。ゴルベーザの手から放たれた
黒い球体のような魔力がローザを包みこみ、ローザは戦慄の表情のまま、力なく倒れた。

326297:2005/07/22(金) 21:08:08 ID:c9U/fijX
FINAL FANTASY IV #0145 3章 3節 Two of us(21)

「き・・さま、ローザに何をっ・・!!」
「案ずるな、眠らせただけだ。少しばかりお前に興味がわいたのでな、
 是非また会いたい。この女はその約束の証と思え。
 ・・行くぞ、カイン」
 分厚い甲冑の内側で冷酷な笑みを浮かべると、ゴルベーザはローザを抱きかかえ、
悠然と去ってゆく。
「・・待・・て」
 セシルはその後を追おうと、フラつきながらも杖にしていた槍を構えたが、
「おい」
 背後に、いつの間にかクリスタルを手に取ったカインがいた。彼は槍を掴むや否や、
セシルの胸に思うさま拳を叩き付けた。
「ぐあっ!」
「返してもらうぜ」
 セシルがリディアの側に倒れ込む。震えながら成りゆきを見ていたリディアは我に返り
セシルの頭を支えると、キッとカインを睨みつけた。カインは無表情のままリディアに
一瞥をくれると、再びセシルのもとから去っていった。

「・・命拾いしたな、セシル」
 
 やがて足音が遠ざかると、再びあたりを沈黙が支配する。
 セシルの苦しそうな呼吸の音だけが、それを乱していた。

327297:2005/07/22(金) 21:11:26 ID:c9U/fijX

「・・みんな大丈夫?」
 リディアが気遣わしげな声を出す。比較的軽傷だったヤンとギルバートは、彼女の
魔法でだいぶ回復したようだが、セシルだけはいまだ横になったまま、リディアに
治療され続けている。それでも意識だけは保っているが、
「ローザ・・」
 やはりまだ先刻までの出来事が、心に焼き付いているようだ。肉体的にもさながら、
精神的にみても、セシルは彼らのなかでもっとも傷ついていた。
「セシル・・」
「ローザがさらわれてしまうなんて・・」
「クリスタルも・・」
 彼の悲しみに同調し、皆の中にやりきれない思いが立ちこめる。憎い仇を目の前に
しながら全くなす術も無かった彼らは、深い無力感にうちひしがれていた。
「ねえ・・、しっかりしてよ!」
 その重い空気に耐えきれなくなったのか、リディアが声を上げた。
「ローザはきっと無事よ! それに、クリスタルだって取り返せば良いじゃない!」
「リディア・・」
「落ち込んだって、どうにもならないでしょ!」
 彼らは顔を見合わせた。彼女の言う通りだった。
 七つの無邪気な子供の言うことだが、そこには力強い意思があった。
「・・そうだね!」
「うむ・・我ながら情けないことを口にした。
 セシル殿! 今度は我々が力になる番。身体を癒し、救出方法を考えましょう!」
「あぁ・・」
 微笑んだセシルの顔が、不意にかくんと垂れた。
「セシル?」
「ありがとう・・ヤン・・・感謝す・・る・・・よ・・」
「セシル殿ッ!!」

 懸命に呼びかけてくる声の中、セシルは目を閉じた。
 限度を超えた彼の精神に、重い暗幕が垂れた。
328297:2005/07/22(金) 21:15:24 ID:c9U/fijX
>>318
貴様ッ、このゲームやりこんでいるなッ!

329名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/22(金) 23:37:02 ID:4RstMoLD
乙です。スゲエ。ホントスゲエ
神レベルってこういうことか

ゴルベーザキタ――――
カインガクブル

セシルハァハァ

もうね、テラヤバス
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 00:55:48 ID:pSOWiEmV
本作で見得てなかった部分が補完されてていい!
ほんとグッジョブです!
331297:2005/07/23(土) 22:54:48 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0147 3章 3節 Two of us(23)



『おい!』
『・・え?』
『お前、セシルっていうんだろ?』
『あ・・・・う・・うん』
『こんにちはっセシル。ねえ、私ローザっていうの、こっちはカインよ』
『・・こ、こんにちは』
『なんだよ、おとなしいやつだなぁ』





「・・ここは?」

 目を開けると、どこかの部屋の天井が映った。前に見たことがある壁の色だった。
 ここは確か・・そうだ。
「宿屋・・か?」
 周りにはいくつかベッドが見え、自分にも清潔そうな毛布がかけられていた。ベッドの
側には見慣れた自分の鎧が置いてあった。
 あたりを見渡しているうちに、ふと自分の足下に寄り添うようにして寝ている、
リディアの姿を認めた。
(看病・・してくれていたのかな)
 そっとリディアの頭を腕を撫でると、ちいさく寝息を立てた。疲れているのだろう、
そっとしておこう。
 次第に意識がはっきりしはじめる。セシルはまた天井に視線を戻した。

(・・あれから、どうなったんだろうか)
332297:2005/07/23(土) 22:56:09 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0148 3章 3節 Two of us(24)

 目覚めたばかりだからだろうか。どうにも断片的にしか思い出せない。

 狂ったように笑うカイン、ヤンの怒鳴り声、胸を焼き焦がす槍の痛み、不気味な足音、
甲冑に包まれた男、倒れ込んだローザ。
(・・そうだ、ローザが!!)
 急に頭の中が鮮明になった。
 思い出した。クリスタルが奪われ、さらにローザまでもさらわれてしまったのだ。
 こんなところで寝ている場合じゃ・・!
「つっ!」
 慌てておき上がろうとしたセシルの胸に激痛が走った。思わずうめき声がこぼれる。
それをききつけて、リディアが目を開けた。
「・・セシル?」
 彼女はぽかんとして彼を見つめている。セシルは胸を抑えながら笑いかけた。
「やぁ、リディア・・君が看病してくれ・・」


 セシルが言い終わらないうちに、リディアは彼の胸に抱きついていた。

 よほど心配したのだろうか、彼女は泣いていた。彼女の重みがかかり、胸がキリキリと
痛んだが、それが同時に、高ぶりかけていた彼の感情を和ませてくれた。
 胸の中で泣きじゃくる少女の頭を撫でながら、セシルは何度も何度も、大丈夫だよ、
ありがとう、と繰り返し語りかけた。

 しばらくの間、そうして二人支え合ったまま、穏やかな時間が流れていった。


333297:2005/07/23(土) 22:56:59 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0149 3章 3節 Two of us(25)




「あ、あたしみんなを呼んでくるね」

 ようやく泣き止んだリディアは、照れているのか、顔を赤くしながらそういうと
足早に部屋を出て行ってしまった。その後ろ姿を見送ってから、セシルはまた身体を
横たえた。


(本当に・・、ありがとう。リディア)

 そしてまた、セシルはそっと目を閉じた。









(・・懐かしい夢だったな)
  


334297:2005/07/23(土) 22:58:44 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0150 3章 3節 Two of us(26)

「セシル!」
「やあ、意識が戻られたか!」
 まもなくリディアに連れられて、嬉しそうな顔の二人があらわれた。他にも何人か、
話を聞きつけた者達がかわるがわるやってきては部屋を覗き込み、セシルの無事を
確認するとほっとした様子で顔を引っ込めた。
「一時はどうなることかと思いましたぞ」
「これもリディアのおかげだね」
 ギルバートの賞賛にリディアがまた顔を赤く染めて、照れくさそうに笑った。
「なにしろ昨日からずっと看病し通しだったんだから、感謝しておきなよセシル」
「ありがとうリディア・・そうか、あれからもう丸一日・・」
「まあなんにせよ、無事で良かった」
 そういって愉快そうに笑うと、ヤンはふと厳格な表情をつくった。
「・・これでようやく話も出来るというもの」
 顔を寄せながら、ギルバートもうなずく。
「ローザを助けなければ・・!」
「もとより、クリスタルも取り戻さねばならん」
 二人の真剣な視線がセシルに注がれる。セシルも身体を起こし、二人に向き直った。
「わかっている。だけど、悔しいがいまの僕たちにはバロンと対抗するすべが無い。
どうしても飛空艇を手に入れなくてはならないと思う。だが、飛空艇はバロンでしか
造ることが出来ない」
「ということは、バロンに侵入するわけか?」
「しかし、どうやって・・?」
「・・バロンは赤い翼に主力を置いている。その分、比較的に陸海軍が手薄だ。
 侵入するならば、海からしかないだろう」
「だったら船がいるわ!」
 リディアも負けじと話に加わる。ヤンがすこし考えこんでから口を開いた。

335297:2005/07/23(土) 23:00:38 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0151 3章 3節 Two of us(27)

「・・ならば明朝にでも王にお頼みして船を出していただこう。
 幸い、赤い翼の砲撃を逃れた船が何隻かあったはずだ」
「しかし・・、復興のただ中に船を借りるなど」
「なに、そなたたちにはまこと世話になった。王もこれくらいの援助は惜しまれぬはず。
 むしろ、これくらいはさせてもらわねば、面子が立たぬと言うものよ」
 ヤンの珍しい軽口に、みなが笑った。
 それからすこし間を置いて、またヤンが口を開く。
「あの竜騎士は・・?」
「・・彼は、カインは・・バロン竜騎士団の団長で、僕の親友・・・・だった。
 共にバロンを抜けようと誓ったのに・・」
「そうであったか・・」
「・・・・どうして、なんだろう・・。信じていたのに。他の、誰よりも・・」
 悲痛な表情になるセシルに、ヤンは言葉に詰まってしまう。
「でも」
 ポツリ、とこぼれた声に皆が顔を向けた。
 声の主は、リディアだった。
「・・え?」
「え・・あ、あのそうじゃなくて・・・セシル、もう休んだ方がいいわよ!」
「そんな、平気だよリディア」
「だめよ! 怪我人のくせに何いってんの!」
「いや・・ほんとに、もう」
「セシル」
 ぽん、とセシルの肩を叩きながら、ギルバートが揶揄するように指を立てて言った。
「医者の言うことは素直に聞くものだよ」
 
 結局その言葉で、話し合いは終わってしまった。

336297:2005/07/23(土) 23:03:03 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0152 3章 3節 Two of us(28)

「ほら、おとなしく横になって!」
「わかった、わかったよ」
 乱暴に布団をかぶせるリディアに、セシルは苦笑しながら横になった。
「君も休んだ方がいいよ、リディア」
「いいの、もうすこしで傷も全部治るんだから」
 リディアはエーテルを口に含みながら張り切っている。素直に言うことを聞きそうに
無い。セシルはため息をつきながらも、嬉しそうな顔で目を閉じかけた。だが、ついと
横を向いたときにとんでもないものが目に入ってきた。
「・・!? リディア! いったい何本それを飲んだ!?」
「・・・」
 リディアは黙ってセシルの胸に手を当てている。セシルは、ベッドの脇にある棚の上に
散乱している、エーテルの空き瓶の山と彼女を見比べた。
 エーテルには魔力の源となる精神力を回復させる効果がある。昔から魔道を志す者達に
重宝されてきた良薬なのだが、薬という代物は大なれ小なれ必ず何かしら副作用を伴う。
エーテルにしても例外ではなく、限度を超えて服用し続ければ、それは著しく体力を
損ねる毒となり得る。まして彼女のような幼い子供がこの分量を・・。
「リディア! すぐに休むんだッ!」
「いいのよッ!」
 強く頭を振るリディア。セシルは身体を起こし、なだめるように語りかけた。
「・・いいかい、リディア。君のおかげで僕は命を取りとめた。そのことは本当に感謝
しているよ、・・ありがとう。
 だけど、これ以上はもういいんだ。今度は君の身体の方が壊れてしまう。だから・・、
お願いだからおとなしく休んでほしい」
 彼女はうなだれ、しょぼくれた様子でセシルの言葉を聞いていた。けれど、やがて
でてきた返事はやはり、否定のそれだった。
「いやよ・・・・」
「リディアッ・・!」
「だって! だって、あたし何も出来なかった! ローザも守れなかったもの!
 あたし・・、あたしだけ何もしてない!!」
337297:2005/07/23(土) 23:06:29 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0153 3章 3節 Two of us(29)

 セシルはその思いよらぬ口調の強さにのけぞった。

 セシルは覚えていないだろうが、リディアは彼のある言葉を忠実に守ろうとしていた
だったバロンの襲撃の前に、セシルが短く言い残したひとこと。

「リディア、ローザを頼むよ!」
 
 もちろんセシルは、本気で彼女に恋人を守ってもらおうなどと思ってそう言ったわけ
ではない。ただ単に、彼女の安全を優先するため、ローザの近くにいろ、と。彼女が従い
やすいように言葉を選んだつもりにすぎない。
 だが、幼く純朴なリディアはそうは受け取らなかった。その言葉は彼女に強い責任感を
植え付け、そして目の前にいながらローザを奪われてしまった今、彼女を大きな無力感と
悔恨の鎖で締め付けていた。
 その罪を償うため、今の彼女にできるのは、セシルの傷を癒すことだけだった。
 本来ならばそこにいるはずの、ローザの代わりに。

 セシルも彼女の瞳から、意地を張っているだけではない真摯な決意の色を感じ取り、
しかたなく息をついた。
「・・わかったよ、リディア。君に任せるよ。
 だけど約束してくれ。もうエーテルは飲まない、と」
「わかったわ」
「・・リディア」
「・・・」
「ありがとう」

 優しくリディアの肩を叩くと、再びセシルは傷ついた身体を横たえた。ややあって、
静かな寝息が聞こえてはじめた。
338297:2005/07/23(土) 23:12:39 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0154 3章 3節 Two of us(30)

 ふいにリディアは涙を流した。
 ありがとう、セシルのその言葉が、リディアの心に穏やかな波紋をもたらしていた。
 彼女は嬉しかったのだ。

(ごめんなさい・・)
 あのとき、自分は黙って見過ごしていた。偉そうなことを言って、強引にギルバートに
ついてきたくせに、何も出来なかった。怖かったのだ、あたしは臆病者なんだ。
 そのくせ、今こうして彼女の場所に・・、そう、セシルの側にいて、彼を独占していることが嬉しかったのだ。たまらなく。それどころか、そこはもともと自分の場所だった
のだから、とすら考えている。臆病なだけではない、あたしは卑怯者だ。
(ごめんなさい・・)
 リディアは溢れ出る涙を拭いながら、声を抑えてセシルの胸に手をかざし続けた。
 懸命に手先だけに意識を集中しようとしたが、涙はいつまでたっても止まらなかった。
  


(今・・何時かな)
 いつしか涙は薄れ、泣きはらした目の赤みも消えたころ、ふとリディアはうとうと
しかけた頭を振り払い、ぼんやりと思った。
 暗闇の中、見えるわけもない時計の姿を探してみる。そういえばこの部屋には時計
なんてなかった、そう気づくまでにも随分と時間がかかった。
 セシルが寝入ったのが夕暮れ時、それからゆうに6時間ほどが過ぎている。いい加減で
眠気もピークに達し、先ほどから睡魔が彼女の頭をコツコツと小突いていた。
(・・顔でも洗ってこようかな)
 フラフラとおぼつかない足取りで、リディアは椅子から立ち上がった。

339297:2005/07/23(土) 23:15:09 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0155 3章 3節 Two of us(31)

「カイン・・」

 突然聞こえたその名に、思わず彼女はビクリと震えた。
 どうやらセシルの寝言のようだった。

(・・・カイン・・さん)
 リディアはあの忌まわしい竜騎士の姿を思い浮かべた。 
 記憶の中の竜騎士の姿は、兜を深くかぶっており、口元しか見えない。そして・・、
「あの人・・笑ってた」
 ふいに先ほど皆の前で口にしかけた言葉がこぼれていた。それこそが、彼女がカインに
対して並々ならぬ恐怖を抱いている理由。だからこそ、セシルやローザがどうして彼を
あんなにも信頼できるのか、理解できなかった。そしてあの時も、どうしてもセシル達に
ついていく気になれなかった。なぜなら────、

 あの人は、笑っていたのだ。
 目の前で私の村が燃えさかる様子を見て、笑っていた。

 
 その顔を思い出すと、記憶に深く刻まれた村人達の悲鳴や炎の熱さが、彼女の肌を
ひどく震わせた。暗闇の中、リディアは胸に両手をあわせると、カタカタと身震えた。
 だが、やがて小さな身体に積み上げられ続けた疲労が泥のようにのしかかり、彼女を
深い眠りに誘いこんでいった・・。


340297:2005/07/23(土) 23:17:05 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0155 3章 3節 Two of us(32)

「そうか・・バロンに行かれるか」

 床に伏せたままの王は、神妙な顔つきで目を細めた。
 昨日のヤンの言葉通り早速ファブール王への会見を求めたセシル達であったが、
思いのほか王の傷の具合は良くなかったらしく、それでも会見の場を設けたいという
王の計らいで、寝室に通してもらえた。無理を通してくれる王の配慮に恐縮しつつ、
船が必要であるという旨をいま、話し終わったところであった。一方、頭を下げながら
緊張した様子で言葉を選ぶセシルをよそに、リディアは前日の寝不足がたたったのか、
御前もはばからず先ほどから何度も大あくびをしている。
「・・あいわかった、すぐさま船を用意させよう」
「あ、ありがとうございます・・!」
「いや、此度はまことに世話になった。そなた達にはまったく感謝の言葉も無い。
 ローザ殿も奪われてしまい、この上に手ぶらで返しては面目もなにもない」
 どこかで聞いたような台詞に横目でヤンを見やると、はたして彼も苦笑していた。
「それから・・」
 王が目をやると、女中が奥から細長い箱をもってきた。かなり埃をかぶっている箱が
セシルの前に置かれる。
「・・これは?」
「心ばかりのお礼と思っていただきたい。セシル殿、お受け取りくだされ」
 促されるままに箱を開けるセシル。やがて一同は息をのんだ。
 箱の中に入っていたのは、長身で、漆黒の刀身を持つ大剣だった。一目でただの剣では
ないとわかるそれは、禍々しい邪気を放っている。
 セシルにはそれが何か、一目で分かった。
「・・暗黒剣」
「その通り。名をデスブリンガーという。
 文字通り死をもたらす剣、並の人間には到底扱えぬ代物だ」
341297:2005/07/23(土) 23:19:22 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0156 3章 3節 Two of us(33)

 セシルはまじまじと剣を眺めながら、胸の内で動揺を隠せなかった。
 暗黒騎士のつかう剣は、技者がその力を用いる度に徐々にその刃自身にも闇を蓄え、
やがて黒みを帯びだしたそれは、まさしく暗黒剣と呼ばれる魔剣になる。
 だがこれほどまでに深々とその身を黒に染めている剣など、未だ嘗て見たことが無い。
「いったいこれは・・」
「かつて、この国を訪れた暗黒騎士がもっていたものだ。
 ・・恐ろしいほどの強さを秘めた男だった。何処から現れたのか、その素性も目的も
知れなかったが、ただ彼の騎士が去った後にこの剣が残されておった。
 どうせ我々には縁のないもの、セシル殿の旅に役立てていただきたい」
 セシルはそっと柄を握った。たちまち剣から暗黒の霧が腕に流れ込み、全身が粟立つ
ような錯覚を覚える。
(こんな剣を使いこなす騎士・・・いったい誰が?)

「・・だが、セシル殿」
 思考にとらわれていた視線を戻すと、王はセシルをまっすぐに見すえていた。
「そなたのつかう暗黒剣は・・確かに強力な力だ。そして、その力で我々のために戦って
くだすったことは、大いに感謝しておる」
「・・・」
「だが、いつかその力を捨てねばならぬ日が訪れるはずだ。
 所詮それは闇の力。真の悪には通用せん。そなたのような人間ならば、必ずそれを
捨てるべきときが訪れるだろう。そのことを、思い留めておいていただきたい」
「・・・・心得ました」
 王の言葉は重々しく彼の胸にのしかかった。それは、彼自身も感じていたことだった。
 自分の力が、カインにまったく通用しなかったとき、そして彼の放つ暗黒の力よりも、
もっとどす黒い闇をまとった、あの男をみたときから。いや、心をかすめだしていたのは
それよりももっと先からだったかもしれない。
(しかし、どうすれば?)
 その答えがどうしてもわからない。おそらく、このファブール王すらも、自分にそれを
与えてはくれないだろう。だから今は、この忌まわしい力に頼らなくてはならない。
いつか光を得るために。セシルは死の香りを放つ大剣を、複雑な想いで鞘に納めた。
342297:2005/07/23(土) 23:21:48 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0157 3章 3節 Two of us(34)

「陛下」
 それまでじっと控えていたヤンが、俄に口を開いた。
「なんだ、ヤンよ?」
「まことに勝手な申し出とは存じておりますが、この私もセシル殿に同行させて
いただきたい所存であります」
 セシルは目を見開きヤンを見た。だが、口を挟もうとしたセシルにヤンが向けた
視線は、鮮明に彼の意思を物語っていた。
(何も言わないでほしい)

「・・つまり、国を出たいと言うことか?」
 王が厳しい表情で尋ねる。一国の統治者たる威容に満ちた口調だ。
「・・ハッ」
「今この期に、復興の中心となるモンク隊の要であるおぬしが、この国を離れるという
ことが、どういう意味かわかっておるのだろうな?」
「・・ハッ」
「・・二度とこの国に戻らぬ覚悟か?」
 一瞬、冷たい沈黙が流れる。ヤンはごくり、と唾を飲んだ。
 だが、彼はすぐに、迷いの無い口調で言葉を続けた。
「陛下・・、私は祖国であるこのファブールを心から愛しております。私のような未熟な
人間をここまで取り入れてくだすった陛下のご配慮も、決して忘れてはおりません。
 しかしながら、今は一国の存亡にのみ固執しているべきではないように思うのです。
あのゴルベーザという男がなにを企んでいるのかは図りかねますが、しかしそれによって
この世界にもたらされる危険は、おそらく我が国やダムシアンが受けたものよりも比べ物
にならぬことでしょう。
 ・・私はこの国に、陛下に忠誠を心より誓いました。それは今も、この後も決して
変わりませぬ! しかしながら・・!」

343297:2005/07/23(土) 23:24:37 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0158 3章 3節 Two of us(35)


 突然、王は高らかに笑い出した。

 ヤンをはじめ、呆気にとられている面々に、やがて王は向き直って笑いかけた。
「はっは、いやすまぬ、すまぬな。許せよヤン。
 ぬしのような貴重な人材がいなくなるというのは、薄情な話ではないかと思ってな。
少しばかりおぬしをからかってみたくなっただけよ」
「・・は?」
「ヤンよ、ぬしの気負いはしかと見届けた。セシル殿の荷物とならぬようにな」
「・・! かたじけのうございます」
「よい、よい。もとよりおぬしの気質は把握しておる。
 そう言いだすことだろうと思って、既に細君には旅立ちの旨、伝えておいたぞ」
「まっ、まことですか!?」
「ぬしはとんだ甲斐性なしだと腹を立てておったぞ。早く会いにいってやるがよい。
 そうだ、ウェッジにもな。ぬしがいなくなれば、彼奴もひどく寂しがるであろう」
「ハッ! ・・陛下、まことに、まことに・・!」
 ひれ伏すヤンの声は、言葉にならなかった。目の前の老王の度量、その部下を知り
尽くした寛大さ。それを受けて、感動に打ち震えるヤンの後ろ姿を見て、セシルは深い
感銘を覚えていた。ヤンと同じく、国に仕える身分であった彼には、その光景の美しさが
我が身のようによくわかった。

 そして、それが失ってしまったいまの祖国が、いっそう哀しかった。

344297:2005/07/23(土) 23:27:10 ID:lvCWuYaU
FINAL FANTASY IV #0159 3章 3節 Two of us(36)

「・・本当によかったのかい、ヤン?」
 会見を終えて、セシルはヤンに尋ねた。また自分に無関係だった人間を巻き込んで
しまったことを気にかけているのだ。不安そうな彼に、ヤンは顔をしかめて答えた。
「ご迷惑だったかな?」
「まさか! そんな、大歓迎だよ・・ただ・・!」
 慌てて首を振るセシルに顔を緩ませ、ヤンが力強く彼の手を握りしめた。
「セシル殿。無用な気遣いなどいらぬ、これは私の決めたこと。私はそなたの内に秘め
られた何かにかけてみたいのだ。不肖だがこの命、そなたに預けさせてくれぬか・・!」
「・・ヤン、・・・・ありがとう」
「よろしく頼むよ、ヤン!」
「これからもよろしくね!」
 ギルバートとリディアも横から手を加えた。彼らはお互いの結束を確かめ合うように、
重ね合わせた手とそれぞれの顔を見渡しながら笑った。

「船の準備に半日ほどかかろう。出発は明朝だ。
 今日はゆっくりと、この国での最後の日を過ごしてくれ」
 そういうと、ヤンは急にそわそわとした様子で手を引く。
「えー、それでは、なんだ・・その、うむ。私はちょっと、ヤボ用があるので・・
 それではまた、明朝に・・うむ」
 言うが早いが脱兎のごとく、ヤンは回廊を走り去っていってしまった。

「どんな奥さんなのかしら」
 そういいながらクスクスと笑うリディアに、残りの二人も苦笑してあわれな恐妻家の
背中を見送った。

345297:2005/07/23(土) 23:29:53 ID:lvCWuYaU
せっかくのタイトルが生かせなくてダラダラと・・。
ご め ん 。
346299:2005/07/24(日) 02:50:40 ID:u5ulEtKW
乙です。
いよいよファブール編も終盤ですね。
リディアから見たカイン像を描写しているのは
おもしろいと思いました。
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/24(日) 02:53:49 ID:u5ulEtKW
そう言えばデスブリンガーを
置いていった暗黒騎士って誰なんだろう。
やっぱりクルーヤーなのかな。
348名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/24(日) 10:24:36 ID:wjGIWNMZ
>リディアも負けじと話に加わる。
ここがいい。なんか分かるよその気持ち。
周りからおいてけぼりだと辛いもんな
349名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/24(日) 19:26:35 ID:pYc5h3BY
超乙っす。
つうか297氏が誰だか分かったw
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 00:37:38 ID:wc68i5f0
リディアの追加エピソード正直感動した
351 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/25(月) 01:33:34 ID:tfN88oqN
FINAL FANTASY IV #0160 3章 3節 Two of us(37)

ファブール最後の晩。リディアに追い立てられ、早々とセシルは床に就いた。傷は塞がったというのに、怪我人扱いは当分変わりそうにない。
少女が寝入ったころに部屋を抜け出し、人気のない訓練場で黙々と剣を振るう。この先、戦いはいっそう厳しいものになる。今のうちに、新しい武器での感覚を体に叩き込んでおいたほうがいい。
──それ以上に、様々な思いが交錯し、とても眠れそうになかった。
昨晩までは体が休息を命じてくれたが、全快した今はそうも行かない。しかも明日は、いよいよバロンに向けて出発するのだ。これではいけないとわかっていても、考えずにはいられなかった。
カインのこと。ローザのこと。ゴルベーザ。飛空挺。クリスタル。闇。圧倒的な力の差。不安。恐怖。仲間。信頼。変化。
変わってしまったバロン。変わってしまった赤い翼。変わってしまったカイン。
薄暗い空間に浮かぶ雑念に向けて、デスブリンガーの刃を叩きつける。巻き起こった風は壁の松明を揺らめかせ、定まらぬ火影がセシルの心をかき乱す。また刃を振り下ろす。死の太剣の表面で、赤い光が妖しく踊る。
いつしか、渦巻く思いは一点に収束していった。
(カインが……カインも……いつのまに!)
ローザが姿を現した途端のあの動揺。気付かない訳にはいかない。”彼女”というのは彼女のことだ。
わかってしまえば不思議でもなんでもない。カインが想いを寄せるのに、あれ以上相応しい女性はいない。ただセシルが鈍かっただけだ。
(ローザ。君は……知ってたのか?)
だから、最後まで止めようとしたのか? あの状況でも信じられたのか?
自分を愛した男のことを。
(知らなかったのは、僕だけなのか……?)
見えない。二人の間にあるものが。
昔は違った。セシルがカインを、セシルがローザを、まったく同じように大切に思っていた頃は。
変わってしまったセシル。変わってしまったローザ。とっくに崩れていた、三人という絆。
残ったのは、三組のふたり。

やがて何者かが訓練場に現れた。独特のシルエットから察しはついたが、今は誰とも話す気になれず、ひたすらにセシルは剣を振りつづけた。
352297:2005/07/25(月) 10:45:02 ID:fRVdqG19
テンポいいなあ、それに"彼女"の部分も生かしてもらえるとは。
なんかわずか1レスで軌道修正していただけた感じです、TwoOfUs感服。
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 11:12:06 ID:ABCPGdaO
ほんとすげーな
354名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/26(火) 02:23:17 ID:shX40zFC
>>351
いいですよーいいですよ!
てかいま思い立って、このスレを見ながらFF4やってるんだが
ヤ バ い 面 白 い

というわけで続きを切実に希望。
ゲーム進めるためにw
355 ◆HHOM0Pr/qI :2005/07/27(水) 00:09:46 ID:zlR5a/Ka
FINAL FANTASY IV #0161 3章 3節 Two of us(38)

気がつくと、セシルはすっかり汗ばんでいた。予想以上に彼とデスブリンガーの相性は良く、握った柄の感触に、初めて手に取った時のよそよそしさはない。
禍々しさは、けして薄れてはいないのに──
背筋にうそ寒いものを覚え、セシルはもう一度素振りをやり直した。基本の型を一通りなぞり、今度こそ鞘に収める。
彼が一息つくのを待って、背後で見守っていたヤンが声をかけた。
「お見事。
 しかし、もう休まれたほうが良い」
「……そうですね」
セシルはうなずいた。だが、本当はまだ眠れそうもない。鎮まらぬ胸のうちを見透かしたように、ヤンが問う。
「陛下の言葉を気になさっておいでか?」
「え?」
「見当違いならば申し訳ない。
 先程の太刀筋、些か鋭さを欠いているように見えたのでな」
打ち明けるべきか、セシルが答えを出す前に、重い溜息をヤンは吐き出した。
「どのような性質のものであれ、力を得たからにはそれに応じた対価があろう。
 私は剣術に疎い。セシル殿が、なにゆえ暗黒騎士の道を選んだかも存じ上げぬ。しかしその技量、己を闇に差し出すだけで、手に入るものでないことはわかる。
 どれほどの努力を払ってこられたか……武の道を志す者として、それだけは理解しているつもりだ」
いつになく多弁なモンク僧の言葉に、セシルは以前彼らについて聞いた話を思い出した。
己を鍛え高めることを善しとするファブールでは、日々の研鑚を何よりも尊ぶのだと。闇に根ざした力でさえも、修練の上に成り立つならば、賞賛はされずとも敬意の対象にはなるのだと──
空恐ろしいほどの闇を抱く剣が今日まで伝わったのも、そうした風土が関係しているのかもしれない。
”所詮は闇の力”、”真の悪には通用しない”、それらが動かしがたい事実であろうと、結果的にセシルが歩んできた道を否定してしまうことを、心苦しく思ったのだろう。
「その、差し出がましいというのは承知しているが……」
「ありがとう。ヤン。
 陛下にも……いずれ、直接お礼を申し上げるよ」
セシルには、そこまで徹底した信念はない。あるいは、それさえも見越した上で、ファブール王は彼に助言をくれたのだろう。
いつか活かせる時が来るまで、忘れずにいることをセシルは誓った。
356297:2005/07/27(水) 04:40:27 ID:cOjIKDZM
FINAL FANTASY IV #0162 3章 3節 Two of us(39)

「さて、そろそろ部屋に戻ろうか。抜け出したことが妻に気づかれると面倒でな」
 セシルへの気遣いからか、それとも本音なのか。苦笑するヤンにセシルは顔を
ほころばせた。そういえば、自分もリディアに内緒で抜け出してきたのだった。
「そうだね、そろそろ・・」
 いいかけて、セシルは顔を上げた。にわかに空を覆っていた雲が晴れ、のぼり
きった月が顔をだし、訓練場の彼らに柔らかい光彩を注いでいた。ヤンも目を細め
ながら、その美しい照明を仰いだ。すると、透き通った光に再び影がさした。
また雲がかかってしまったのだろうか。
「!」
 次の瞬間、ヤンは腰に下げていた炎の爪に手をかけていた。雲ではない。
月光を遮ったのは、バサバサと翼をはばたかせながら降下してくる深緑色の巨体。
手負いのまま訓練場に姿を潜めていたガーゴイルであった。明かりが差したので
見つかってしまったものと勘違いし、追いつめられて飛び出してきたのだ。そこで
先刻からの体力の消耗に加え、武器を収めた方を有利とにらんだのか、魔物は
真っすぐにセシルの喉笛めがけて襲いかかってきた。
 だが、その鍛錬でむしろ熱を帯びて、セシルの五体は針のように研澄まされていた。
一瞬の内に鞘から滑り出た魔剣は、ヤンが身構えた時には既にその力を放っていた。
魔物は悲鳴を立てる間もなく絶命した。
 ドシャリ、と鈍い音とたてて落下してきたそれに、ヤンは驚嘆の意を隠せなかった。
波動の直撃を受けた魔物の肉体は、上顎から腰に至るまで、真っ二つに掻っ捌かれて
いる。裂けた断面は奇妙に滑らかだ。恐ろしいまでの高熱で焼き切られたのだろう。

 ────凄まじい威力だ。

「すごいものだな・・」
 彼にも珍しく、ヤンはしごく単純な賛辞を口にした。うすっぺらく、意味の足らない
表現なのだが、他に言いようもなかった。

357297:2005/07/27(水) 04:43:06 ID:cOjIKDZM
FINAL FANTASY IV #0163 3章 3節 Two of us(40)

 ところが当のセシルを見やると、何故かぼんやりとした様子で、ビクビクと痙攣する
魔物の死骸を見つめていた。まるで、彼自身も驚いているようにすら見える。
「・・・」
「・・セシル殿?」
「・・・・・った・・」
「なに?」
「・・・・・・違った」
 訝しげな表情のヤンを見据えて、セシルは言った。
「・・カインだと・・思ったんだ」
 愕然と見開いた目で自分を見つめるセシルを、ヤンは黙って見つめ返していた。
やがてゆっくりと大きな息を押し出すと、彼の肩に手を添えた。
「・・気が昂っているのだ、セシル殿。そなたはあまりに多くを抱え込みすぎている。
 その重みに精神が戸惑っているのだ。・・もう、休まれよ」
 セシルはしばらく虚ろな目でヤンを見ていた。が、やがて視線を落とすと、
「・・わかったよヤン。でもすまないが、もうしばらくひとりにしてもらえるかな」
「うむ・・・では」
 それ以上の言葉は無為とみて、ヤンは訓練場を去っていった。その背中を見送り
ながら、セシルは先ほどの思いを振り返った。
(彼に打ち明けるべきだったろうか)
 彼はすぐに頭を振って、その考えを否定する。
 そんなことをして何になる。彼に自分の汚い部分を共有させて楽になろうとでもいう
のか。それに、そもそも彼にわかるはずもない。よしんば形だけ理解できたとして、
彼は必ず、深い親愛をたたえた口調でこういうだろう。
「疲れているのだよ、セシル殿」
 それでは何にもならないのだ。セシルは先ほど自分が屠った死骸に目を戻した。
光を背に受けてこいつが飛びかかってきたときは、確かにその姿がカインに見えた。
 だが、問題は魔物と親友を見間違ったことではない。彼と知った上で、自分が何の
躊躇もなく手を下そうとしたということだ。
358297:2005/07/27(水) 04:44:00 ID:cOjIKDZM
FINAL FANTASY IV #0164 3章 3節 Two of us(41)

「真の悪に、暗黒剣は通用せん」

 王の言葉が頭をよぎる。
 あのとき、自分の剣が通用しないカインは真の悪になってしまったのだろうか、
そう思って悲しくなったものだった。だが、そう感じている僕はなんだ?
(おいおい、自分のことは棚に上げるのかよ。暗黒騎士サマ?)
 カインの笑い声が聞こえた。そうだ、親友と言いながら彼をためらいなく殺そうと
している僕だって、悪以外の何者でもないじゃないか・・。
 無意識のうちに、セシルは握りしめたデスブリンガーの刃を顔に近づけていた。
剣はセシルを嘲笑うかのように、妖しく黒光りしている。力をこめると、剣先に邪気が
充満しだす。
(僕は、お前と同じなのか・・?)

 セシルは壁にもたれて、腰を下ろした。
 身体を抱え込むようにして顔を伏せ、目を閉じた。郷愁が強くその身を包んでいた。
 明日はバロンに向かう。けれど、彼の知る故郷はもうどこにもないのだ。セシルの
心の底、夢の中にしか。  

 夢の続きが見たかった。
 だが、やがておとずれた浅い眠りがもたらしてくれたのは、ただ暗闇だけだった。






 ────光がほしい。

 やがて、深い暗黒の中で、セシルは決然と立ち上がった。
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 12:47:52 ID:NnEj7v3C
ゲームでは描かれない内面の描写が最高ですよ。
ぜひエンディングまでがんばってください。
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 22:12:27 ID:qXvAwQhE
保守。そしてあげ
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/27(水) 23:52:18 ID:Z7if2VTn
いいねいいね
セシルの精神面がみごとに文章化されてる
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/28(木) 04:04:35 ID:s4ZDaqD+
Two of usってどういう意味?
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/28(木) 10:50:38 ID:3r+itUc5
直訳すると「僕らのうちの二人」って意味。
ビートルズのアルバム「レットイットビー」の一曲目でもある。

>>347
ゴルベーザっていう線も面白いかも。
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/28(木) 18:30:39 ID:ZHdWoNYw
残ったのは三組の二人 っていうのが個人的にかなりツボ。
でもこのペースだとEDまでいくのかな。
とりあえず次の何もなかった船の上での出来事が楽しみです。
365名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/29(金) 00:44:55 ID:wMf+/Che
クルーヤって父親だったっけ?
366297:2005/07/29(金) 04:35:22 ID:OHHwIFSC
FINAL FANTASY IV #0165 4章 1節 航海(1)



「船に乗るのは久しぶりだな・・」

 船が陸を離れてから半刻ほどたっただろうか。双瞼を閉じ、波の奏でる心地よい音色と、
広大な海原のゆったりとしたうねりで、まるで大きなゆりかごの中で揺さぶられるような
感触に浸っていたセシルは思い出したように声を出した。ヤンは船員達の作業を手伝うと言い、
リディアは海を見に出て行ったきり戻ってこない。あてがわれた船室にいるのは、セシルと
ギルバートの二人だけだった。
「・・君は空の船乗りだったからね」
 こちらも目を閉じていたギルバートは、セシルの言葉に小さく笑って答えた。
 セシルも笑みを返した。彼の言葉でまた、ファブールを旅立ったときの事が思い返される。
(そう、僕は赤い翼の人間。略奪者たちのかたわれだったのに・・)
 船室の窓から海を眺める。
 ファブールの姿はもう、遠く見えなくなっていた。
367297:2005/07/29(金) 04:38:49 ID:OHHwIFSC
FINAL FANTASY IV #0166 4章 1節 航海(2)

 夜が明けて、約束通り船の準備が整ったという知らせを受けて、彼らはバロンへ向かうべく
ファブール城をあとにした。やはりヤンは感慨深いものがあるらしく、城門を出たところで、
城にむかって深く一礼をしていた。セシル達も別れを前にして、かりそめの宿とはいえ世話に
なった城の姿をその目に焼き付けようと改めて見直していた。 
 その姿は、彼らが訪れたころとは見るも無惨にかけ離れた有様だった。そびえる双子の塔の
ひとりは崩れ落ち、何者をも寄せ付けなかった鉄壁の城塞は瓦礫と化し、長きにわたる歴史の
中でつちかわれてきた威容は影もなく消え失せていた。
 それらはみな、かつての同胞たちが行ったことなのだ。旅を続けるなかで、セシルが幾度も
抱いてきたその慚愧の念が、また彼の心を締め付けていた。
 だが────、
「おぉ! セシル殿、ご無事だったのですな!」
「いってしまわれるのですね、どうかお気をつけて!」
「本当に、ありがとうございました。皆様方には、感謝の言葉もありません・・!」
 波止場についたセシル達は面食らった。彼らを出迎えたのは、旅立ちを見送ろうとすでに
山とおしかけていた民の姿だった。船に向かうセシル達を囲むように道を開けながら、彼らは
口々に感謝の意を叫ぶ。リディアは、辺境の村に育って、これほどの声援に囲まれること
など生まれて初めてなのだろう、セシルの後ろに影のようにひっついたまま下を向き
どおしであったが、まんざらでもなさそうである。ギルバートも嬉しそうに手を振っていた。
 同胞のヤンが旅立つというだけではない、彼らは実にセシル達のために集まってくれたのだ。
「ヤン殿、いよいよですな」
「ウェッジ殿! それにおまえも・・!」
 最後に、船への架け橋の前でウェッジとヤンの細君が待っていた。

368297:2005/07/29(金) 04:40:33 ID:OHHwIFSC
FINAL FANTASY IV #0167 4章 1節 航海(3)

「あんた! 気いつけて戦ってくるんだよ!」
「うむ、留守を頼むぞ! ・・それから」
 ヤンが声を重くしてウェッジに囁く。
「・・ウェッジ殿、ご存知とは思うが、陛下のご容態は実はあまりよくない。
 くれぐれも陛下のことを・・、妻のことも、お願い申しますぞ」
「うむ、心得えておりますぞ。留守は任されよ、ヤン殿もくれぐれも用心をな。
 しかし、奥方については・・あまり必要を感じぬのだが・・」
「なにこそこそ喋ってんだい! あんた、さっさと船仕事でも手伝って来な!」
 会話をぶった切られて、ずいずいと追い立てられていくヤンの姿に笑いがあがる。
 間を置いて、ウェッジはセシルに向きなおった。
「セシル殿、陛下からのご伝言をお伝えしたい。なにぶんあのようなご状態であるから、
見送りに顔をお見せできず残念だが、くれぐれも旅のご武運をおいのりしている、との
お言葉であった」
「わざわざのご伝言、痛み入ります。陛下にもどうかよろしくお伝えください」
 頭を下げ、そのままセシルは言葉を続けた。
「・・許されぬこととは分かっておりますが、祖国にかわって此の度の振る舞いを心より
お詫び申し上げます」
「それだ」
「・・は?」
「陛下はそのことを深く気にしておられた」
 ウェッジは笑顔を消し、普段のそれよりもいっそう神妙な表情で語りだした。
「セシル殿、あなたは祖国にとらわれ過ぎている」
「・・・」
「あなたの国を愛する心はよくわかる。だが、あなたは祖国に抗おうとしているのだろう。
ならば真に祖国と決別しなくてはならぬのではないか? そして、今がその時なのでは?」
「・・しかし、私は暗黒騎士です。国を離れたとはいえ、私の過去が変わるわけでは
ありません。この鎧を脱ぎすててしまうにも、あまりに大きな罪を犯してしまいました。
今やバロンの恐怖の象徴であるこの姿から・・、私は逃れることはできないのです」
 波止場に立ち並ぶ、大衆の姿を見やる。
「・・いつか彼らも、この姿を思い出した時に憎しみを抱かずにはいられないでしょう」
369297:2005/07/29(金) 04:43:40 ID:OHHwIFSC
FINAL FANTASY IV #0168 4章 1節 航海(4)

「セシル殿! あなたは我々を侮蔑されるのか!」
 突然ウェッジが声を荒げた。
「我らファブールの民が、そのような度量の狭い者の集まりとでもお思いか!?」
「・・・」
「その鎧の内側にある本質も見抜けぬような目くらとお思いなのか!?」
 熱が入ってしまったことを恥じるようにウェッジは息をついた。だが、その目にはまだ
彼の情熱がらんと光っていた。
「・・セシル殿、確かに我ら民衆は国に属するもの、国を守り、国を尊び、そして
国を愛するものです。だが、だからといって我々は国そのものではない。そこに固執する
あまり、祖国への愛情をはき違えてしまっておいでではないか?」
(・・・ウェッジ)
 目が覚めるような思いで、セシルは目の前のモンク僧の言葉をかみしめていた。
 その通りだ。王を憎み、祖国に絶望して剣を向けたのに。その実、自分の心は結局のところ
国に属していた。もちろんそれに気づいてはいた。だが、どれだけ変わっても祖国は祖国だ。
それが愛国というものだと、そう信じていたからこそであった。
 しかし、間違いだった。国を愛しているからこそ、国を捨てねばならない時があるのだ。
何のことは無い、自分には勇気がなかったのだ。国を捨て、帰ることが許される場所を失う
ことが怖かったのだ。そして、そんな彼の心を後押しするように、力強い言葉が響く。
「心配召されるな、セシル殿。
 ファブールの民はあなたに感謝こそすれ、決して憎みなどしますまい」
 ウェッジは笑みを浮かべて振り返った。背後に沸き立つ大衆の姿が、なによりの証明では
ないか、そんな自信に満ちた笑顔だった。セシルがうなずきかけた所を、後ろから猛烈な
勢いで背中をぶっ叩かれた。
「そうだよ、セシルさん! あたしらはそんな尻の穴の小さい人間じゃないんだからね、
馬鹿にしてもらっちゃあ困るよ! それにあんた、やらなきゃいけないことがあるんだろ!?
くだらないこと考えてないで、しっかり頑張りなね!!」
「あ、ありがとうございます」
 豪快な奥方の振る舞いで、周囲に広く笑いが起こった。
 吹き飛ばされそうな笑い声の中、セシルはずっと自分の心を覆っていた霧が、ついに晴れて
ゆくのを感じ取っていた。
370297:2005/07/29(金) 04:44:36 ID:OHHwIFSC
FINAL FANTASY IV #0169 4章 1節 航海(5)

「おう、アンタがセシルか。活躍はきーてるぜ!
 なーに、昼寝でもしてゆっくり構えててくれ。バロンなんざすぐついちまわあ!」
「ありがとう」
 気性の荒そうな船長に挨拶を済ませると、橋が外され、とうとう船は出港した。
それでも人々は名残惜しそおうに波止場に残り、旅立つ彼らに向かって声を送り続けていた。
やがてその声も届かなくなった頃、陸を望むセシルを不意にリディアがつついた。

「セシル」
「うん?」
「あの、ミストのことだって・・もう気にしなくたっていいのよ?」

 少しだけ心配そうな顔で見上げるリディア。
 セシルは黙ったまましばらく彼女を見つめていたが、やがて顔を包み込む兜を脱いで
柔らかい微笑を見せると、そっと無言で彼女の肩に手を添えた。

 最後にもう一度、セシルたちは陸を離れてゆく船の上から城を見た。目を凝らすと、城壁の
あちらこちらに、修繕に駆け回る人々の姿が見えた。
 遠ざかるファブール城は、瓦礫の山。けれど、その姿は毅然として彼らの目に映った。
 そして彼らは、ファブールの土に別れを告げた。


 セシルは小さく身震いした。思い返すだけで、身が引き締められるようだった。
 そしてすぐに息をつく。静まるんだ、気を鎮めなくては、そう自身に呼びかける。自分は今、
大きな目的のためにバロンに向かっているのだ。いまは使命感に奮い立つ時ではない。いずれ、
いやでも戦いに身を置くのだから。今だけは心を落ち着けて、それに備えなければならない。
だが、土台無理そうな話であった。半刻ほど前からずっと穏やかな波に身を任せていたのに、
やはり迷いを解き放たれた心は熱を帯びて武者震いしていた。多くの人々に力づけられてきた。
自分が傷つけてしまった、小さなリディアにまで。セシルは彼らに報いたかったのだ。剣を
取って鍛錬を行おうとしなかったのが、彼には精一杯の自制であった。
 気を取り直して、セシルはギルバートに向き直った。
371297:2005/07/29(金) 04:58:29 ID:OHHwIFSC
>>366投稿ミスったー。ごめんなさい。

>>364
まああまり先のことは気にせず進行していった方がいいんじゃ。
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/29(金) 23:34:49 ID:wjZHz9WP
乙。

ところでこのスレも前スレと合わせると
だいぶ量が増えたから そろそろ今までのを
全部まとめたサイトみたいなのが欲しいなあ。
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/30(土) 00:13:36 ID:zYJE4wzg
ウェッジカッコヨサス

>>372
スクエニが嗅ぎつけたらどうしようとか思ってしまうおれは心配症
その場合ちょくちょく出てきた短編とかも載せるの?
374297:2005/07/30(土) 02:16:38 ID:L7+IGeLT
FINAL FANTASY IV #0171 4章 1節 航海(6)

「・・というわけさ。それで何度か、開発段階の飛空艇に乗せてもらったことがあるんだが、
これがその度に墜落してね。何度も海に放り出されて死にかけたよ」
「よく何度も乗る気になったね・・」
「そのうち逆に、墜落する方を期待するようになっていたんだ」

 これからの考えなどを話し合っていた二人だが、やがて会話は他愛も無いものに移り、そして
いつしかセシルは記憶をさかのぼるように、自分の過去を楽しそうに語っていた。
 セシルはあまり他人に自分を語らない。久しく蓋を開けられることのなかった思い出の箱から
とめどなく言葉が溢れ出し、彼を珍しく饒舌にしていた。
「君は案外と無茶をするんだね」
「はは、どうかな。僕にはローザを連れて駆け落ちする勇気はないよ」
「あぁ・・」
 ギルバートは淋しそうに目を伏せた。すぐに失言をしたことに気づき、セシルは詫びた。
「・・すまないギルバート、アンナさんのことを悪くいったつもりじゃ・・」
「い、いや! 違うよセシル、別にそんなことを気にしてるわけじゃないんだ」
 慌てて首を振りながら苦笑するギルバートに安堵しつつも、セシルはふと違和感を覚えた。
 話に夢中で気づかなかったが、彼にしては珍しく口数が少ない。普段なら、こういった親しげな
会話を交わすときには、彼らしい洒落た冗談などを交えて言葉を返してくれるものだが。
 それにか細い気弱そうな顔が、今日はいっそう弱々しく見える。
「どうかしたのか? ギルバート」
「はは・・、その、情けないんだけど、どうやら少し船酔いしたみたいだ」
「そういえば君は砂漠の人間だったからな。もしかして船は初めてなんじゃないか?」
「あぁ、その・・少しブリッジで風にでもあたってくるよ」
「大丈夫か? 誰かに薬でも・・」
「い、いいんだ。気にしないでくれ」
 そういうと、力なく笑いながら彼は甲板の方へ出て行ってしまった。
375297:2005/07/30(土) 02:19:27 ID:L7+IGeLT
FINAL FANTASY IV #0172 4章 1節 航海(7)

 ひとりきりになった船室の中で、セシルは眉をひそめる。
(どうしたんだろう?)
 今朝から感じていたことだが、ギルバートがどこか自分を避けているように見えるのだ。
 別に機嫌が悪いといった様子ではなく、自分にしても特に心当たりなど見当たらないのに。

 セシルが首を傾げていると、俄に頬をふくらせて不機嫌な様子のリディアが帰ってきた。
「どうしたんだ、リディア」
「どうもこうもないわよ、ギルバートったら! そこで今ギルバートとすれ違ったの。だから
この間約束してたポーションの作り方を教えてくれっていったら、急に逃げていっちゃうんだもん」
(・・リディアも?)
 内心で疑問を深めながら、セシルは軽く笑った。
「そうなんだ。嘘つきだな、ギルバートは」
「うん、勝手なの! 
 ・・でもギルバート、なんだか変。昨日だって、セシル達と別れた途端、急に疲れたって
言って部屋に帰っちゃったのよ。それも、一緒に来ないでくれなんて言うの。どうしたのかな」
 不安そうになるリディアをなだめていると、扉を開けてヤンが戻ってきた。
「やあ・・おや、ギルバート殿は?」
「そこで会わなかったか? ブリッジにいくと言っていたんだが」
「いや、私もブリッジから戻ってきたのだが・・」
 ヤンは眉をひそめたが、すぐに顔を緩めて椅子にもたれこんだ。だいぶ疲れているらしい。
額に浮かんでいる汗が疲労を物語っている。
「ところで」
 息を整えてから、ヤンは椅子にもたれたままセシルを見た。
「バロンに着いてからのことなのだが・・」

376297:2005/07/30(土) 02:44:41 ID:L7+IGeLT
FINAL FANTASY IV #0173 4章 1節 航海(8)
 セシルはうなずいた。
 先に口にしたように、海上の監視は手薄なため上陸自体は容易くとも、城はそうはいかない。
なんの手だても無く城内に侵入できるほどバロンの警備が甘くないことはよく知っている。
 なんらかの "アテ" が必要である。セシルはそれを話しだした。
「ギルバートにはもう話したんだが・・、飛空艇技師のシドを頼ろうと思う。彼なら飛空艇に
精通しているし、今の王のやり方にも反感を持っているはずだ。きっと力になってくれると思う」
「なるほど、それは心強い。・・だが、その御仁が無事であれば良いのだが」
「心配ないさ。飛空艇の原理を理解しているのは事実上、彼だけだ。今のバロンには必要な人間
ということだよ。それに・・そんなにヤワな男でもない」
 セシルはシドの高らかな笑い声を思い出して、懐かしさに顔をほころばせた。だが、言葉とは
裏腹に、やはり彼の安否を気遣う思いは拭いきれなかった。
 いまなお彼が独房に押し込まれていることなど、セシルは知らない。

 そのとき、ふいに波の音がやんだ。
 ゆったりとした揺れが止まり、船は全く静止してしまったようだった。
「・・・?」
「・・着いた、のか?」
「いや、そんなはずは・・」
 訝しげにセシルが立ち上がった直後、

 ────ザバアアアァッッッ!!!!

「キャアッ!」
 けたたましい波の音とともに大きな震動が船を襲い、船室の壁に叩き付けられた。
 すぐさま甲板から騒がしい声が聞こえ始める。
「いったい何が!?」
「ヤン、外だ! リディア、君は残れ!」
「いやよ!」
 やはり言うことを聞いてはくれない。だが今は状況を確かめることが先決だった。構わず
部屋を走りでると、セシル達は甲板へと急いだ。そして、彼らは息をのんだ。
 広がる大海の上に、我が目を疑いたくなるような光景が待ち構えていた。
377297:2005/07/30(土) 02:49:16 ID:L7+IGeLT
>>300-301で章数ミスをしていたのに気づいたので調整しました。ミス続きで申し訳ない。

>>372
もしまとめサイトができたら細かい修正とかさせてくれるとありがたいっす・・。
>>373
せっかくだから載せた方がいいんじゃ?
378名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/30(土) 15:42:31 ID:fwQwicxC
この、章とか節とかのまとめは無いのかな?
379299:2005/07/30(土) 20:32:38 ID:QSG7Zraw
乙です。次はいよいよリバイアサン出現
ですね。
ところで章と節をまとめてみたら

プロローグ >>79-92

1章 1節 
   闇と霧の邂逅 >>95-116
   2節
   砂塵 >>117-124
3節
光を求めて >>129-147

2章 1節
?
2節
光を求めて >>148-167
3節
新たなる旅立ち >>169-186
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/30(土) 20:33:11 ID:QSG7Zraw
3章 1節
モンク僧 >>8-57
2節
剛の王国 >>196-257
3節
Two of us >>273-358

4章 1節
航海 >>366-376

こんな感じに。
>>147までは1章3節だった光を求めてが>>148以降
2章2節になってました。その為、2章1節が空白になってます。
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 02:13:01 ID:uVmxgOA/
ギルバートが微妙によそよそしいのは、えーと
「さむいの?ふるえてるよ」 「いや、なんでもないんだ…」
っていう会話と整合を取ろうとしているんですかね

オレは本編のあの会話の意味がよーわからんのだが
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 02:50:04 ID:39PSIKJt
299さん乙です。
「光を求めて」を2章1節にするか、そのままにするか、
バランス的には前者の方が良さそうな気がしますね。

>>380
多分、この時から病気の前兆に気づいていたんじゃないか?
それで旅を続けるために、セシル達に悟られまいと……
297氏がはどういう意図で書いているのかな。
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 02:53:39 ID:3gb/Tlfq
おー、もう4章までいったのか!職人さんたち激しくGJ!!!
みんな、ほんと文章化うまいです
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 10:38:49 ID:Zp4QV5zF
章とかあったのか。
適当に書いてるんだと思ってた。
385名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/01(月) 21:28:20 ID:u1Tx+mRS
保守
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/02(火) 10:47:46 ID:e7554geu
FF]

水中ラブシーン

ティーダ「ゴボバッゴボゴボブクブク」
ユウナ 「ゴボーボバゴゴブクブク」
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/02(火) 17:28:18 ID:BhH5YptR
作者さん乙です。読み応えあって面白いです。
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/02(火) 23:13:40 ID:IaR/yM7I
つうかそろそろ一年経つのか・・
このペースだとあと4年ぐらいかかるんじゃねえか?
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/03(水) 21:18:44 ID:wTy9cjpb
大体コンスタンスに投稿してる人が
◆HHOM0Pr/qIさん、297さん、299さんだけだからなあ。
どうしても数が足りないよな……とは思うものの俺の文章力じゃな。
とりあえず期待age
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/03(水) 23:48:55 ID:gU9falDa
>>389
成せば成る。がんばれ。

私もここ見たら書きたくなってきたんだけど、Wやったことないので
他のでもいい?
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/04(木) 00:07:39 ID:HYGfOqvY
大歓迎です。
活気が湧けばいうことない。
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/04(木) 01:00:46 ID:bGJg7amL
じゃあ書いてみて戦闘シーンがショボすぎなければ投下しますw
393名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/05(金) 21:56:02 ID:/dE+IdzB
保守
394297:2005/08/06(土) 03:15:00 ID:QpI/qgDY
なんだか過疎気味だね。
一節の終わりまで貼りますね。
395297:2005/08/06(土) 03:15:38 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0174 4章 1節 航海(9)

 もはや海は、穏やかな青などではなかった。
 ざわざわと荒立つ白波が、大きな渦を描いている。激しい水流は水に浮かぶ船を嬲るように
引き回し、さながらアリ地獄のように、徐々に徐々にとその口中へ彼らを引きずり込もうと
していた。
「船長! どうなってるんだッ!!」
 壁に張り付き、振り回されるような重圧に耐えながらヤンは舵を握る船長に怒鳴った。
 だがこの非常時において、なぜか船長は渦の中心を見据えたまま微動だにしなかった。
「・・・・まさか」
 ポツリとこぼれたその言葉に、彼らも無意識に彼の視線の先を追った。

 その瞬間、渦の中心が裂けた。

「本当に・・いたのか?」
 ぽっかりとあいた中心。そして海の底から響いてくるような、巨大な雄叫びが大気を震わせた。
 耳をつんざくその音に肌を粟立たせながら、乗員たちは見た。
 巨大な影が、その頭を突き出そうとしているのを。

 目を見開く船員たちの叫びが、船長の言葉の続きを担った。



「リヴァイアサンだーーーーッッ!!」



396297:2005/08/06(土) 03:17:42 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0175 4章 1節 航海(10)

 渦の中心で踊るその生物は、およそ彼らの理性が保てる許容を超えていた。
 細長の外見は海蛇によく似ており、龍のような頭を持っていたが、やはり海に巣食う生物
らしく、浅い紫に染まった身には優雅なヒレが添えられている。
 だが、大きい。途方もなく大きすぎるのだ。
 海中で見えない部分も含めて、その全長はゆうに彼らの船の十隻分以上に値するだろう。
「何だあいつは!?」
 まさに腹の底からそのまま出てきたような言葉を、セシルは船長にぶつけた。
「船乗りのおとぎ話だよッ!! 大海原の神様ってやつだ!
 まさか本当にいやがるたぁな、ぶったまげたぜ!」 
「大丈夫なのか!」
「そう見えるか!? おとなしくつかまってろい!!
 オラッ、てめーらちったあ落ち着かんかい!!」
 やはり期待に足るような答えなど返ってはこない。胴間声を響かせる熟練の船長の険しい
横顔が、状況の切迫さを十分に物語っている。一方、人手不足もあって、まともな経験も無く
かき集められた船員たちは見るも哀れに取り乱していた。いち早く状況を察知していたヤン
だけが、帆を支えようとかけ回っている。
「ケッ! 曹長殿ひとりで事足りてやがる、情けねえ!」
 悪態をつきながらも、船長の神経はその手が握る舵だけに注がれている。渦に引き回される
勢いを利用しながら波に抗う舵さばきは、後ろで見守る彼ら素人の目に見ても見事な技である。
少しずつ、船は海神の領域を遠ざかり、徐々にその影響も弱まっていった。
(やり過ごせるか・・?)
 彼らが思わず安堵しかけたときだった。船の様子を伺っていた海神は突然水中に頭を沈め、
その雄大な尾を天空高くひらめかせた。
「伏せろッ!!」
 その意するところを察知したセシルは声を上げ、リディアの頭を抑えながら身を伏せた。
 直後、船と海王との長い距離が、その巨体によって一瞬でなくなった。台風のような突風が
彼らの頭上を舞い、虫のように這いつくばったまま、甲板から身を剥がされそうな風に必死で
耐える。やがて顔を上げた彼らは唖然とした。

397297:2005/08/06(土) 03:20:24 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0176 4章 1節 航海(11)

 帆が無くなっていた。跡形も無く。

 海王がその身を一振りしただけで、あれほど頑丈であった帆が、まるで小枝を折るように
吹っ飛ばされてしまったのだ。あまりにも圧倒的な力。
 破壊された音すら聞こえなかった。・・ただ、風の音だけが。
「畜生め! どうしろってんだ!!」
「ヤン! 無事か!?」
 腹立たしげに舵を叩く船長。一方セシルは、帆を抑えていたヤンの安否を求めた。
「ヤン!! どこだーーーッ!」
「ここだ、セシル殿!」
 帆柱の陰からヤンの声が届く。
398297:2005/08/06(土) 03:22:01 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0177 4章 1節 航海(12)

「無事か!」
「私は大丈夫だ! それよりも・・!」
 駆け寄ると、ギルバートが胸を抑えたまま苦しげに踞っていた。
「ここにいたのかギルバート! 君の方は、」  
「ゲホゴホゴホッ、ガハッゴハッゴホッ……!」
「!?」
 咳き込む口を抑えるギルバートの手から、赤い色がにじみ出ていた。
「ギルバート! 怪我をしたのか!?」
「ぼ、僕のことは気にするな! もう一度、来……ゴホ、ゲホゲホッ!」
 苦しみながら彼が指し示す方を見ると、海神は再び尾を振り回し始めていた。
「セシル殿! 彼は私が!」
 ヤンがギルバートの背に手を添えながら、リヴァイアサンを目で示す。セシルは頷き、
剣を抜いて船の先端に走り出た。
「船長! 僕の身体を支えていてくれ!」
「お、おう!」
 彼の声の強さに気圧され、船長は少しだけ躊躇した後に舵を離すと、その野太い腕で
彼の腰を守る。もはや舵など握っていても意味がなかった。
 すぐさまセシルは全精力を黒い刃に注ぐ。刀身から闇が溢れ出した。
 後のことを考えている場合ではない。この剣ならば、必ず耐えてくれるはず。
 ひたすら機を待ち続けるセシル。やがて、リヴァイサンが大きく身をよじった。

「うおおぉぉぉぉ!!」

 次の瞬間、鋭い鞭のように襲いかかるその尾撃にむかって、セシルは剣をかざした。


399297:2005/08/06(土) 03:23:20 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0178 4章 1節 航海(13)

「ギャアアアアァアア!!」

 再び空気を切り裂くような叫び声があがる。セシルの剣は、海神の一撃を寸分違わず
捉えていた。暗黒波の反動で二人とも後ろに吹き飛ばされ、続けて彼がえぐり落とした
リヴァイアサンの尾の一部が甲板に落ちてきた。
「すっ、すげえじゃねえかあンた!」
「ま、まだだ……あれで退くような相手じゃないっ」
 セシルは悶え転げるリヴァイアサンを伺いながら、手を握りしめた。震えが残っているが、
拳にはじゅうぶんに力がこもった。まだいける。
「船長!」
「おぉとも!」
 阿吽の呼吸で立ち上がり、彼らはともに再び先端に走り出した。先ほどは落胆しかけていた
船長の目にも、力強い光が灯りだしていた。
「・・次の一撃が勝負だ!」
「頼むぜセシルさんよ!」
 腰を支える力強い手を感じながら、セシルは今一度剣を構えた。

 ところが、
「・・な、なんでえ?」
「渦が・・、止まった?」
 突然、今の今まで船を振り回していた大渦が消滅してしまった。海域の中心に佇む海神は、
頭をもたげたまま動かない。たちまち竦み上がっていた船員たちは狂喜して騒ぎ始めた。
「終わったのか・・?」
 用心深く様子をうかがいながら、セシルも気を和らげかけた。だが、それを叱咤するかの
ように、すぐに腰を支える力に一段と重みがかけられた。
400297:2005/08/06(土) 03:26:20 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0178 4章 1節 航海(14)
「船長・・?」
「・・まだだ。油断するな、まだ終わっちゃいねえ。・・俺にはわかるんだ。海が警告してる。
 畜生・・、ふざけやがって、なんて野郎だ。海の神様ってえやつは、とんでもねえ化けもんだ」
 豪壮な船長からは予想もつかぬ、その弱々しい溜息のような呟きにセシルは訝しげに耳を
傾けていたが、やがてその意味するところを知ってしまった。
 異変は、はるか遠くの海で、既に起こっていたのだ。
「・・まさか・・あれは」
「気づいたか、気づいたところでもうどうしようもねえがな。
 おめーら! 浮かれてる場合じゃねえぞ、縄もってこい! 身体を船に縛り付けるんだ!!」
 彼の声に海を見渡した船員たちも、ようやく現実に気づき始めた。
 その異変は猛烈な勢いで迫り、もはや彼らに一刻の猶予も与えてはくれそうになかった。
 
 ────巨大な津波が、押し寄せようとしていた。 

「う、うわーーっ!!」
「助けてくれーー!」
 はじめの一人がわめきだすと、船内はたちまち火のついたような騒ぎになった。冷静に動き
まわる者など一割にも満たない。逃げ場の無い船の上を、叫び、駆け回り、挙げ句に錯乱して
海に飛び込もうとする輩まで現れる始末だ。
「くそっ!」
「おい、セシル! 離れんな!!」
 どこから取り出したのか、既に太い荒縄を舵に結び始めている船長が、彼らをいさめんと
走り出そうとするセシルを引き留めた。
「しかし彼らが!」
「馬鹿野郎ッ、他人の心配なんぞしてる場合か!! あいつらも海の男なんだ、放っとけ!!
 いいか、俺たちが陛下から賜った仕事はな、おめーらを無事に送り届けることなんだぞ!!
 おめーらをだ! わあったか!! わかったら、こっちに来て身体をくくりつけろ!」
「クッ・・」
 悔しいが、船長の言葉に誤りは無かった。多くをなそうとするあまりに、大きな目的を
見失ってはならない。どのみち、目の前の混乱は彼ひとりがかけずり回ったところで治められる
ようなものでもなかった。
401297:2005/08/06(土) 03:27:01 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0179 4章 1節 航海(15)

 津波はもはや目と鼻の先まで迫っている。その高さは、ほんの数分前までそこにあった帆など、
ゆうに超えている。セシルは帆柱の根元に視線をやった。ヤンがギルバートと自分の身体を
柱にくくりつけている。リディアは・・、

「・・リディア? リディア、どこだ!?」

 あわてて振り返ると、先ほどまですぐ後ろにいた少女の姿はそこになかった。愕然として船を
見回すセシル、彼女は瞬時に見つかった。リディアは無防備な甲板のど真ん中に膝をついていた。
駆け回る船員たちの波に押されて、転ばされていたのだ。
「リディア、逃げろーーッ!!」
「ば、馬鹿野郎!!」
 気づけばセシルは縄を解き、船長の静止も耳に入らず飛び出していた。 
 リディアが走りよるセシルに気づいて振り返ったそのとき、彼女の瞳は青に染まった。
「キャアァーーーー」
「リディア!!」
 甲高い叫び声は、すぐに消えた。
 神を傷つけた咎が海の怒りを呼び、ついにその鉄槌が彼らに振り落とされた。




402297:2005/08/06(土) 03:28:15 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0180 4章 1節 航海(16)


「・・ブホッ、ゲホ!」
「セシルッ、無事か!!」
 水圧によって痛烈に船室の壁に叩き付けられ、軽い失神に陥っていたセシルは目を開けた。
 呼びかけてきた船長をはじめ、どこかしこにずぶ濡れの船員たちの姿がある。しかし、
その数は先ほどの半数近くにまで減っていた。
(────リディアは!?)
 頭に木霊する少女の叫び声。顔を上げると、セシルはすぐさま船のへりに身を乗り出して、
海面に目を走らせた。海に浮かぶ人々の中に、懸命に彼女の姿を求める。
「あそこだ!」
 いつのまにか横で彼女を捜していたヤンが、海面の一端を指差し声を上げた。緑の髪を水に
ゆらめかせながら、リディアが漂っていた。どうやら気を失っているらしい彼女は、やがて
彼らの見る中で暗い海の中に消えていった。
「リディア!!」
 すぐさまヤンが水面に飛び込む。セシルも続こうとへりに足をかけるが、その途端、打ちつけた
背中に激痛が走り、倒れ込んだ。
「うっ!」
「だ・・だめだ、セシル。その身体で、鎧を着たままじゃ、き・・君の方がもたない」
 ギルバートが苦しげにセシルを引き止める。不甲斐なく、打ち震えながらセシルが海をにらみ
つけていると、リヴァイアサンが大きく雄叫びを上げた。そのの喚び声とともに再び白い大渦が
巻き起こり、海神は水中深くに潜っていった。

403297:2005/08/06(土) 03:31:01 ID:QpI/qgDY
FINAL FANTASY IV #0181 4章 1節 航海(17)

「・・とことん、逃がさないつもりなのか・・!」
 もはや彼らになす術は無かった。神の絶対的な仕打ちは、それに抵抗することが罪ですら
あるかのような思いを、船員たちの弱った心に植え付けていた。残った船員たちはただ終わりが
齎(もたら)される時を呆然と待ち、船長は船の舳先に座り、感慨深げに海を眺めていた。
荒波に覆われた水面には、先ほど飛び込んでいったヤンの姿も、水に沈んだままもはや見えない。
セシルは憮然として、地に視線を落とした。やり場のない絶望が彼を満たし、それに抵抗する
ように彼は拳を床に叩き付けた。
(ここで終わりなのだろうか、・・・こんなところで・・)

 セシルは膝をつき、目を閉じて胸の傷跡に手を添えた。


(・・・ごめんよ・・ローザ)


 抗う気力を無くした船は、ただ引き寄せられるのみであった。
 やがて、無数の悲鳴とともに、大渦はその口中深くに獲物を飲み込んだ。
 しばし余韻を味わうかのように満足げな波音が響き続け、それもやがてあっけなく消えた。
 後には何も残らなかった。大波も、船の木片も、ひとりの人の姿も。

 ただ、穏やかな青だけがその場に息づいていた。

404299:2005/08/06(土) 18:23:03 ID:roUaJhgX
FINAL FANTASY IV #0181 4章 2節 試練(1)

「うん……」
海から規則正しく聞こえる波音がセシルの意識を取り戻させる。
頬に触れる波飛沫と潮風に乗った暖かい風が頬に触れる。
その感触がセシルの意識をよりはっきりとした物にさせる。
その日、一番の高さに来た太陽が彼を容赦なく照りつけていた。
「ぐっ」
立ち上がろうとすると全身が痛む。
砂浜は傷ついた彼の体を癒すには少しばかり物足りなかったようだ。
「ここは?」
遙かに広がる水平線を見上げ、おもむろに口からそんな言葉を漏らす。
心地の良い風がセシルを撫でる。空は雲一つない快晴であった。
「!」
そして記憶の中から直前までの事を思い出すのには多少の時間を要した。
そう、自分は……
思わず両手をまじまじと見つめる。助かったのだという考えと同時に、あの時の状況が克明に蘇る。
バロンを目指す為に船は出向してまもない時にリバイアサンに襲われた。
まがまがしい海神と言うに相応しいそいつによって起こされた大波はその場にいる人間全てを
船ごと流し込んでしまった。その場にいた者の命……想い……何もかも見境なく。
405299:2005/08/06(土) 18:24:23 ID:roUaJhgX
FINAL FANTASY IV #0181 4章 2節 試練(2)

「みんなは……無事なのか」
そこまで思い出して、仲間達の安否を確認しなければならないと言う
考えがよぎる。
「リディア!」
セシルは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
それがいかに無駄な期待だと分かっていても。
「ギルバート!」
叫び続けた。海岸中を歩き回り、何度も何度も。
「ヤン!」
叫ぶたびにそれは山彦となってセシルに木霊する。
今のセシルにとってそれはどんな事よりも残酷な仕打ちであった。
「リディア! ギルバート! ヤン!」
自分でももう何度目になるか分からない叫びを繰り返す。
「はあ……はあ……」
走り疲れ、叫び疲れ、息を荒げる。
「一人か……」
こうして自分が生きているのでさえ奇跡の様なものだ。他の者が生きているなど到底ありえない。
それは一番信じたくない考えだが一番真実味があった。
「…………」
砂浜にがっくりと膝と両手を付けセシルはうなだれる。
406299:2005/08/06(土) 18:25:51 ID:roUaJhgX
FINAL FANTASY IV #0183 4章 2節 試練(3)

何と言うことだ。ローザを助けるどころか、皆をみすみすとこんな目に遭わせてしまった。
「みんな、すまない……」
だが、どんなに謝っても償いきれる事ではない……それでもセシル
は今は亡き仲間達に懺悔し続けた.
「くっ、ううぅぅ……」
蒼の瞳から涙がこぼれ落ちる。それはセシルがバロンを出てから初めて流した涙であった。
拳を振りかざし砂浜に何度も打ち付ける。
何故、自分はみすみす生き残ってしまったのだ、
やり場のない怒り、残されたものの虚脱感がセシルを支配していた。
「こんな僕につきあってしまったばかりに……みんなは……」
セシルはそのまま打ち震え、泣き続けた。打ち付けた拳には激痛が走る。
それでもセシルは砂浜に拳を叩きつける。そうするしかなかった。
何故だ……?
どうしてこんな事になったのだ。そんな疑問に答えてくれる者は誰もいない。
「みんなを……」
うなだれるセシルの口から小さな声が漏れる。
「返せ……」
その声は先程の声少しだけ大きかった。そして……
「みんなを! 返せぇぇ!……」
セシルは叫んだ。今までで一番大きな声で。やがてそは山彦となりセシルに
返ってくるする。
日は傾き、今日と言う日は終わりを告げようとしていた。
407名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 18:27:59 ID:roUaJhgX
訂正
>>405
#0181でなく#0182です。

408名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 18:43:03 ID:roUaJhgX
久しぶりの投稿。297さん、割り込んでしまったらすいません。

>>394
乙です。
ファブール編とうとう終了ですね。
企画が始まって一年ようやく此処まで来たかと
感慨深いですね。
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 20:49:15 ID:sWamsV6D
297さん、299さん乙。
もうそろそろでパラディンですね。
試練の山の正義よりも正しい事よりもっていうのは、
このスレ来るまで良く分かんなかったので
>>318さんの解釈が活かされるといいな。
なんか上手い感想がかけないけど、がんばってください。
楽しみにしてます。
410297:2005/08/07(日) 01:08:04 ID:fZGj3Scz
FINAL FANTASY IV #0184 4章 2節 試練(4)

 夜の闇が訪れ、覆いかぶさるような静けさの浜辺に、さざ波の歌声だけが響いていた。
 涙はやがて流れ尽くしても、悲しみは消えない。枯木のように砂に腰を下ろしたまま、
セシルは虚無にその心を沈めていた。
 ふいに水音が響いた。魚が星空の美しさに歓喜して飛び跳ねたのだ。セシルは海に目をやると、
黒々とした海面にゆらゆらと揺れるそれの姿に気づいた。
 月が満ちていた。
「ローザ・・」
 意図せず声が漏れる。水分を失った彼の喉はうまく音を発することが出来ない。その声は、
彼の頭の中だけに静かに反響した。そうして、思い出がそっといらえを返してくれる。

『綺麗ね』



 それはセシルにとって初めての日のこと。
 その日の夕刻、セシルは広間でローザに呼び止められた。
「セシル、今夜なにか予定はある?」
「いや、今日はもう教練もないから大丈夫さ。
 そうだ、カインが美味しい料亭を見つけたらしいよ。三人で行ってみようか?」
「あ。うーん、そうじゃなくて・・二人だけで何処かに行ってみない?」
「え?」
「じゃあ、後で詰め所の裏で待ってるわね」
 半ば強引に言い残して、ローザは去ってしまう。セシルは彼女に手を差し伸ばしたまま、
声を出すことも出来ずしばらくそのままで呆然としていた。
 やっと我に返ったのは、後ろからやってきたカインが肩を叩いて声をかけたときだった。
途端にセシルは取り乱し、案の定食事に誘ってくるカインを振り切ると、慌てて自室に
走り去っていった。この後、ローザも捕まらず、カインは結局一人で酒をあおることになる。

411297:2005/08/07(日) 01:08:51 ID:fZGj3Scz
FINAL FANTASY IV #0185 4章 2節 試練(5)

 ローザを想う気持ちは、ずっと前からあった。そしてそれが友情とは異なるもので
あることも分かっていた。淡く幼い感情に始まり、成長を経て熱を帯びるまで、ささやかな
願望は常にひとつの根をおろしたまま、セシルの心に生き続けていた。
 それでも、彼にはそれを表に出す勇気はなかった。それをすると、今の大事な三人の関係が
曲がってしまうような気がしたから。そしてなにより、鏡に映る己の姿がそれを押し留めた。
相応しくない。自分では、彼女と釣り合わないから、と。
 しかしそんなことは全部おしのけて、ローザに誘われるということは単純に嬉しかった。
舞い上がるやら、動揺するやらで部屋を所在無さげにうろついている間にすっかり時間が
近づいてしまい、セシルは慌てて詰め所に向かった。
 やってきたローザは、白い薄手のドレスをまとっていた。その姿に感嘆しながら、ふと
自分が間抜けにも鎧のままやってきたことに気づき、とって返そうとしたが、
「いいのよ、その格好好きよ」
 そういわれては是非も無い。暗黒騎士の鎧姿を嫌っている自分を気遣ったのか、それとも
単にそれが本音なのか。そんなことを考えていると、ローザが腕を絡ます。
「で、どこにいこうかしら?」
 そこで初めて、セシルは自分が何も考えないでのこのことやってきた不手際に気づいた。
急いで考えを巡らせるも、生まれてからほとんどの時間を城内で過ごした彼に、街での
そういった場所など思い当たるはずも無い。頭をかいていると、彼女はクスクスと笑った。
「そんなことだろうと思った」
 見ればローザは小脇にバスケットを抱えていた。ふんわりとやわらかい匂いが漂う。
「今日、魔導士のみんなと作ったのよ」
 ふたを開けて、ローザが一つだけ取り出したそれはパンだった。半分にわったそれを、
セシルの口に押し当てる。
「お味は?」
「・・固い」
 途端にパンをセシルからひったくるローザに、慌てて謝る。それは今まで食べたどんなもの
よりもおいしかった。カインが自慢した料亭など、このパン一切れの足下にも及ばないだろう。
 ふと、セシルは一つだけ思い当たり、ローザを左の塔の自室に連れて行った。

412297:2005/08/07(日) 01:17:01 ID:fZGj3Scz
FINAL FANTASY IV #0186 4章 2節 試練(6)

「どうかした?」
「え・・あの、その・・・」
「ほら、こっち」
 部屋の入り口で、なにやら緊張した様子で立ち止まるローザを窓まで招くと、セシルは
ひょいと窓枠に足をかけた。
「ちょっと、セシル!?」
「大丈夫、大丈夫」
 外壁にたらしていた梯子をつかむと、するするとセシルは塔の上に登っていった。
「ほら、君もおいでよローザ」
「え・・えぇ」
「下を見ないようにね」
 高所の強い風の中を、恐る恐ると梯子を上ってくるローザに手を差し伸べて引き上げてやる。
ちょっぴり危ないことをこなしたことで、二人の心は少しばかり沸き立っていた。
「怖かった!」
「最初はそうだよ」
「いつもここにいるの?」
「いや、ちち・・陛下に、子供の頃叱られるとここに逃げてきたんだ。懐かしいな。
 ここに呼んだのは君が初めてだよ」
「そう・・。あぁ、すごいわ・・!」
 頂上から見下ろす風景に、ローザは息をのんだ。夜の黒に塗られた巨大なバロンの城塞、
そしてその向こうに見える不知火のような街の灯。それらを美しい星空が見守っていた。
 絵画のようなその風景をながめながら、二人はパンを頬張りつつ、他愛も無い話を交わした。

413297:2005/08/07(日) 01:18:01 ID:fZGj3Scz
FINAL FANTASY IV #0187 4章 2節 試練(7)

「・・ローザ」
「なぁに?」
 パンが底を尽きて、なんとなくセシルは尋ねてみた。
 別に何か、特別な答えを期待したわけでもなかった。会話がとまって、ふとその言葉が
口をついて出てきたのだ。
「どうして今日に限って、僕を誘ったんだい?」
 ローザは視線をセシルから離すと、また黙ってパンを口に含みだした。
 まずいことを聞いたかな。セシルが謝ろうとした時、
「・・うぅん、別になんでもないの。ただ、カインとは二人だけでいたことはあったけど、
あなたとは無かったから・・それだけ。・・嫌だったかしら?」
「そんなことないさ!」
 なんだ、そんなことだったのか。
 セシルは妙に安心して、笑いながらかぶりを振った。ローザもそれに笑顔で答える。
でもその笑顔にはどこか淋しそうな色があって、そして夜空に目を移していたセシルは
それに気づかなかった。

「ローザ、月が出てるよ。今夜は満月みたいだ」
「・・綺麗ね」

 セシルは気恥ずかしさからか、半ば無理矢理ローザから目をそらし続けるように月を見上げた。
だから、彼女が見ていたのが月などではなく、幸せそうな彼の横顔であったことにも、もちろん
気づきはしなかった。

414297:2005/08/07(日) 01:20:55 ID:fZGj3Scz
FINAL FANTASY IV #0188 4章 2節 試練(8)

 瞼を開けると、日が射して黄金色に輝く砂が目に入った。
 セシルは顔を上げた。頬には涙の伝った跡が残っていたが、その瞳から弱さは消えていた。


 ────僕はまだ生きている。そして、ローザも。


 なすべきことがあった。こんなところで踞っていることなど許されない。
 いや、誰よりも彼自身が許せはしない。
 セシルは立ち上がり、辺りを見回した。落ち着きを取り戻した頭で、昨日最初に唱えた疑問を
もう一度吟味した。
「ここはどこだ?」
 残念ながら目に見える範囲ではめぼしいものは見当たらない。西方には半島がのびており、
反対には陸が続いていた。幸いにか進む方向は一つしか無いようだ。
「・・待っていてくれ、ローザ」
 最後に、惜しむように海を一瞥すると、彼は決意して歩を踏み出した。踏みしめる重い砂の
感触が、孤独の重量を感じさせたが、セシルは立ち止まらず、迷いのない歩調で進み続けた。

 やがて、セシルの目に街の外塀らしきものが映った。それを得て彼は歩調を強めたが、
しばらくして今度は不意に驚いたように足を止めた。
 だが、すぐに彼は再び歩み始める。
 徐々に明らかになってくるその姿に、ひそかに胸の鼓動を早めながら。

 

415297:2005/08/07(日) 01:23:47 ID:fZGj3Scz
>>408
おかえりなさい。
両手をまじまじと見つめるあたり、情景が浮かんでたまんねー。
大変、次につなぎやすかったです。

>>409
どもー
416名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 18:52:55 ID:Q7IRTW2m
保守age
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/10(水) 16:55:15 ID:D162i8o9
ここ読んでたらまたFF4やりたくなってきた!
たまんねー!
418297:2005/08/10(水) 22:43:22 ID:9ZERsN+Y
FINAL FANTASY IV #0189 4章 2節 試練(9)

 大きな外壁越しにも見える神殿のなだらかな円蓋が日光を反射し、セシルの瞼を強く打つ。
正門からまっすぐと続く道は、人々を迷うことなくこの神殿まで導く。その神殿を中心に、
特徴的な造形の家屋が円を描くように整然と建ち並び、魔物を寄せ付けぬよう魔法印が施された
純白の外壁がそれらをぐるりと囲っている。

 厳粛で、かつ美しい魔法国家ミシディアの姿である。

 開けた正門から街並が見渡せる。遠めにも、静かなにぎわいに満ちた空気が見て取れた。
かつてセシルが訪れた時には感じられなかった空気が。
 いや、むしろこれがこの国の本当の姿なのだろう。だが、あの時の僕たちには、そんなことが
わかるはずもなかったのだ。目を細めながら、セシルは巨大な外壁を眺めた。高潔な英知の結晶
である聖なる結界、魔物すら寄せ付けぬそれも、人の心の闇を弾くことはできなかった。
「・・!!!」
 正門の側にいた黒魔導士がセシルの姿に気づき、声を失った様子で走っていった。当然の反応
である。先に国を蹂躙した張本人を、笑って迎える者などあろうはずもない。
 けれど、今のセシルの心は、悲しみよりももっと大きな感情で満たされていた。

 自分がここに来たのはただの偶然だ。気まぐれな海の流れが自分をここまで運んだにすぎない。
 だが、この国こそが僕が訪れなければならない地だったのだ。
 僕の中で、闇が広がった始まりの場所。

 セシルは大きく息を吸い込むと、再びミシディアの土に足を踏み入れた。
 
419297:2005/08/10(水) 22:44:10 ID:9ZERsN+Y
FINAL FANTASY IV #0190 4章 2節 試練(10)

 街は静まり返っていた。
 先ほどの魔導士の知らせを聞いて、誰も彼も戸を閉ざしているのだろう。
 セシルは神殿に足を向けた。神殿にいるであろうこの国の長老に会おうと思った。可能性が
あるとすれば、その人しかいない。光への道を示してくれるかもしれない人は。
 通りの真ん中を歩く彼の背に、民家から静かな視線が注がれる。無言だが、刺すような圧迫。
かつての赤い翼の非道な仕打ちへの憎悪。それが今、彼一人の背中にのしかかっているのだ。
それはやがて、実体となって彼に襲いかかった。

 ────グシャッ!

 突然、後頭部に石が投げつけられた。
 続けて、生暖かい感触が彼の頭に伝わる。セシルは兜に手をやった。手に付着した黄色い
ドロドロからは、喉からこみ上げるような異臭が漂っていた。
 石ではない、卵だった。
 ・・腐ってる。

 次の瞬間、それが合図になったように周囲から矢のように投射物が降り注いだ。分厚い鎧に
雨だれのような音が木霊する。堪らず頭を抑えようとするセシルの耳に、ローザの声が聞こえた。

『弱音を吐かないで』

 セシルは顔を上げ、その顔を守っていた兜を外した。
 予想しなかった行為と、兜の下に隠されていた意外にも柔和な面持ちに、群衆の攻撃はいっとき
止まった。しかしすぐに再び投射物が彼を襲う。無防備なセシルの顔はみるみる血にまみれ、腫れ
上がっていったが、それを意ともせず彼は黙々と歩を進める。一歩一歩足を踏み出すごとに、
投げつけられるものと共にその重みを増す、罪の意識が彼を襲った。それでもセシルの心は
ひたすら真っすぐに向かっていた。中心にそびえる神殿に、そして、さらに先の彼女のもとへ。

420297:2005/08/10(水) 22:44:41 ID:9ZERsN+Y
FINAL FANTASY IV #0191 4章 2節 試練(11)
 
 だが、その歩みも止められる。
 ふいに頭が熱くなり、突き落とされるようなめまいがセシルを襲った。グラグラと世界が揺れ、
徐々に周囲の景色が大きくなっていく。おまけに身体の自由が利かない。
 ようやくその意味に気づいた時には、彼の身体はどす黒い蛙の姿へと変わっていた。
「思い知ったか!!」
 いつのまにか背後にいた黒魔導士が、セシルを乱暴につかみ上げる。憎しみの炎で瞳をギラつか
せた魔導士は、思うさま彼を地に叩き付けた。
「どうだ! 何か言うことがあるか!?」
 そういったところで、出てくるのは蛙特有の低い鳴き声だけである。その惨めな様子を楽し
そうに嘲笑い、また魔導士はセシルを嬲りつづけた。
 気づけば周囲には人だかりが出来ている。取り囲むように事の成り行きを傍観している彼らの
なかには、嘲笑う者、喝采する者もいれば、ただ無表情に眺める者、不愉快そうな表情で目を
背ける者もいた。ただ、誰一人としてその暴行を止めようとする者はいなかった。
 復讐に燃える魔導士の熱情はますます暴れ回る。魔導士は、泥まじりの水たまりを見つけ、
そこにセシルを押し付けた。
「ほぅら、お前にはそこがお似合いだよ」
 蛙の身体と言っても、魔法によるまやかしの代物である。すぐに息がつまり、セシルは身を
よじって抵抗したが、いかんせん無駄な試みであった。
 遠くで群衆の笑い声を聞きながら、セシルの意識は遠ざかっていった。



「やめよ!!」

421名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/11(木) 23:50:51 ID:lfhQqsHU
297さん乙。
人減ったかな?
本編だとミシディアの魔道士って味方殺されてるのにセシル殺さないんだよね。
普通は殺したがるような気がする。
422297:2005/08/12(金) 01:52:11 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0192 4章 2節 試練(12)

 ピタリ、と押さえつける手が止まった。
 セシルは途切れそうな意識を総動員して水からはい出す。息を切らしながら、やがて周囲の
異変に気づき彼は顔を上げた。
 黒魔導士と、先ほどまでは姿の見えなかった厳格な面持ちの老人が対峙していた。
「掟を忘れたのか」
「・・・」
「掟を忘れたのか、ジェシーよ」
「・・いいえ、長老様」
「それならば、すぐにその者を元の姿に戻してさしあげよ」
 しばしうなだれていた魔導士は、やがて消え入りそうな声で詠唱を始めた。セシルの頭に
再び焼け付くような熱が訪れ、次の瞬間、めまいとともに彼は暗黒騎士の姿へと戻っていた。
 ジェシー、と呼ばれたその魔導士は、意外にも女性だった。なにしろ女の黒魔導士というのは
滅多にいないものである。そもそも黒魔法というのは、一般に男性の方が多くの素質を秘めている
もので、同じように白魔導士もまた然りであるからだ。
 だがそれ以上に、先ほどまでの憎しみに歪んでいた彼女の形相は、セシルにはとても女性には
見えなかった。
「お前たち、いったいなにをしておるのだ」
 長老は静かに民衆へと語りかけた。老人の弱々しいしわがれ声は、不思議なほどよく響いた。
まるで聞くもの自身の深い意識の底から聞こえてくるように。その声に抗える者など、その場に
一人として存在しなかった。
「これがお前たちの望みか?」
「・・・」
「胸に手をあてよ。そして己の心に問うがよい」
「・・・」
「さぁ、仕事に戻るのだ」
 聴衆は力を失った様子で、ちらほらとその場を去っていった。長老はうなだれる黒魔導士に
再び向き直った。
「ジェシーよ、その者を祈りの館までお連れしてくれ」
「そ、そんな! 長老、私は・・!」
「よいな、ジェシー?」
423297:2005/08/12(金) 01:52:59 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0193 4章 2節 試練(13)
 
「・・・・・はい」
 拒否など許されない。その声の圧力にジェシーがうなずくのを確認すると、長老はうずくまる
暗黒騎士をチラリと一瞥してから、静かに神殿へと戻っていった。
「・・・」
 ジェシーは無表情でセシルに手を差し伸べる。
「いや・・大丈夫だ。・・すまない」
 手を借りたいのが本心であったが、セシルはそれを断った。自分などのためにこの女性の手を
わずらわせたくはなかった。
 彼女はそれをどう思ったのか、フンと鼻を鳴らすと先に進みだした。一度だけ後ろを振り向き、
セシルがついてきている事を確認すると、あとはもう振り返りもせずに歩き続けた。
 セシルもおぼつかない足取りで、その後に続いた。



 魔法大国ミシディア。
 その偉大な歴史は、国の中心に位置する巨大な神殿に始まる。
 かつて、その才が災いしてか人々の恐れを買い、国を追われた賢人たちがあった。
 この地を訪れた彼らは、その知をもって神殿を築き、さらなる学の発展に没頭し続けた。 
 やがて、同じように住処を失った人々が次々とたどり着き、彼らは賢人たちに教えを乞い、
神殿の周りに住居を築いた。集落は徐々に繁栄してゆき、やがては村から街へ、ついには国家へと
その姿を変えていったのだ。
 ミシディアは人を拒まない。故郷を追われた放浪者の血を持つ彼らは、それがいかなる者で
あろうとも、必ず来訪者を受け入れるようとする。だからこそ、来客の目に、必ず始めに神殿が
映るように街は造られている。心のよりどころを失った者たちに安息を与えんがために。

 そして、今また神殿は一人の放浪者を迎える。
 セシルは歴史の中に足を踏み入れようとしていた。

424297:2005/08/12(金) 01:54:18 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0194 4章 2節 試練(14)

「お連れしました、長老」
「ご苦労であった」
 神殿──今は祈りの館と呼ばれるその建物に通されると、広間で先ほどの長老が彼らを迎えた。
「では私はこれで・・」
「ジェシーよ、お前もここにいなさい」
「・・・」
 彼女はまた、不満そうにうなだれた。なぜこれほど彼女を引き止めようとするのだろう。
セシルは口には出さず、疑問を唱えた。
「・・さて」
 長老が向き直り、セシルの目を見据える。
 先ほどジェシーが感じた圧力の一端が分かるような気がした。老人の瞳は、見つめられる者の
心の弱さを容赦なくあぶり出す。言いたい事があるなら言うがいい。彼の目はそう語っていた。
「・・セシル=ハーヴィと申します。私は、バロンの赤い翼を率いていま・・した。
 あの時は・・・・・王の命令に背く勇気が」
「何を言っても死んだ者は帰ってはこん」
 長老の冷たい言葉がセシルの胸をえぐる。いい気味だ、とでも言いたげにジェシーが隣で
睨んでいた。
 しかし、その冷酷にも聞こえる言葉が、かえって彼の心を強く打った。この人は自分を責めて
いるわけではない。ただそれがまぎれもない真実なのだ。個人の感情など、問題ではない。
この場に必要なことは、何者にも染まらない真実だけだ。
「・・それで?」
 長老の目が再びセシルを捉える。彼は顔を上げ、それまでの旅を淡々と語った。
 ミストを焼き払った事、ゴルベーザの事、ダムシアンが襲われた事、ファブールでクリスタル
だけでなく、ローザをも奪われてしまった事。
「・・そして、船は沈められてしまい、仲間とも離ればなれになってしまいました。
 私は、運良く生き延び、偶然この地にたどり着いたのです」

425297:2005/08/12(金) 01:55:51 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0195 4章 2節 試練(15) 

「偶然ではない」
「え?」
「それはそなたに与えられた試練だろう」
「試練・・」
「そなたは大きな罪を犯し続けた。誰のせいでもない、それはそなた自身が生んだ咎だ。
 暗黒剣という強大な力がそなた自身に及ぼす闇の力に、そなたは抗う事が出来なかったのだ。
そしてそなたの弱さによって多くの者が傷つけられた。彼らを失った者たちは、今なお苦しんで
いる。このジェシーもその一人だ」
 ジェシーの憎しみに満ちた目がセシルを睨む。だが、長老はふいに小さく笑った。 
「だが、不思議かな。そなたの心はそれでもなお、その光を失っておらぬようだ」
「・・・」
「・・あるいはそなたの持つ光が、自ら宿主たるそなたをここまで運んだのかもしれぬ。
そして今、そなたは己の意志でこの国に足を踏み入れた。もう試練は始まっているのだ。
そなたはその試練に打ち勝たなければならぬ」
「どうすれば・・」
「・・パラディン、という名をご存知か?」
 ハッとするセシル。突然ジェシーが取り乱して口を挟んだ。
「長老! そんな話をこの男にする必要はありませんっ!!」
「口を挟むでない、ジェシー」
「でも!!」
「・・・聖騎士、パラディンですか?」
 ジェシーが驚きに目を見開いた。長老は重々しくうなずく。
「その通り。闇を振り払う、心に無限の光をたたえた聖騎士、それがパラディンじゃ。
 かつて世界を襲った危機の折り、一人の男が、魔物の巣食う危険な山の山頂にあるという
神の剣を求めて旅立った。苦難の末に剣を手にした彼は、剣とその心の光とで世に安息を齎した。
・・ミシディアに伝わる聖騎士の伝説じゃ」
「私にパラディンに・・なれ、と?」
「口を慎みなさい! 暗黒騎士!!」
「ジェシー!!」
426297:2005/08/12(金) 01:57:21 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0196 4章 2節 試練(16)

 涙を目にためて、ジェシーは震えていた。自分たちを冒涜した者が、のうのうと目の前に
立っている屈辱に耐えきれなくなったのだろう。彼女はセシルを突き飛ばし、走り去っていった。
「・・あれも、まだ若い娘でな」
「・・・」
「・・もちろん、パラディンへの道は容易ではない」
 悲しそうに彼女の去った後を見つめていた長老は、また話を戻した。
「東に山がある。もとより名など無かったのだが、伝説にちなんで今では『試練の山』と
呼ばれておる。その頂きには、登ってきた者の運命を示してくれる何かがあるらしい。
もしも、そなたの持つ光が真のものならば・・あるいは」 
「しかし、早く仲間を助け出さねば・・!」
 焦りを抑えきれず言葉が漏れる。長老の言葉には確かな響きがあったが、山を登ってくる
などという話は今の彼にはひどく悠長なことに思えた。
「・・どうやら、そなたの大事な人のようじゃな。はやる気持ちはよく分かる。だが、そなたが
まず救わねばならぬ人間は、他におる」
「そんな・・誰が!」
「そなた自身じゃ」
「・・!」
「そなたは自身の背負っている罪の重みをよく理解しておるようだ。おそらく、ここまでの旅に
おいてそなたはずっとその思いを側に置き続けたのだろう。それは決して悪い事ではない。
 だが、もう終わりにする時だ。心に闇があっては、聖なる光を受け入れる事は出来まい。
そなたの仲間を救うために、今こそ背負い続けた重荷を手放すのだ。この地は、それを許して
くれるだろう。その時こそ、そなたの持つ邪悪な剣は、聖なる光に輝くはずじゃ」

(・・それが、許されるのか)

「少なくとも、わしは許すだろう。セシル殿」
 セシルは顔を上げた。
 心を見透かしたような言葉。はじめて彼の名を呼んだ長老の表情は、慈愛に満ちたものだった。

427297:2005/08/12(金) 01:58:49 ID:dSrWH+wT
FINAL FANTASY IV #0197 4章 2節 試練(17)

「・・わかりました・・・」
 
 ────運命。あまりに実感の湧かない言葉。
 だが、今このとき自分がここに、それもたった一人で訪れたことが偶然とは思えなかった。
 この人は試練と言う。何だっていい、もしも僕が、既にその道を歩み始めているのだとしたら。
 ・・どのみち、今の僕にはこの人にすがるしかない。信じてみよう、この人の言葉を。

 他のなによりも、僕自身を救うために。 



「では・・、すぐにでも東に向かおうと思います」
「あいや、待たれよ」
 踵を返すセシルを長老が引き止めた。
「多くの者が試練の山を志していったが、誰ひとりとて戻ってはこなかった。そうして志半ばで
倒れていった彼らの骸は山の魔物にとりつかれ、今では山は不死者たちの巣窟じゃ。そなたの
暗黒剣だけでは分が悪かろう。ひとつ、魔導士の供をつれてゆくがよい」
「供・・」
 一瞬、ジェシーの顔が頭に浮かび、彼はそれを断ろうとしたが、
「パロム、ポロム!!」
 長老が手を打ち鳴らす。すぐに奥から小さな少女がやってきた。
「お呼びでしょうか」
「む・・パロムはどうした?」
「・・パロムったら、また!」
 途端に少女は腹立たしげにかぶりを振る。
 と、次の瞬間、セシルの背後で爆発のような音とともに煙幕が上がった。
428297:2005/08/12(金) 02:01:04 ID:dSrWH+wT
>>421
だよね、いくらなんでもみんな人間出来過ぎ。
なので入り口でトードかけてくるアイツにちょっと暴走してもらいました。
多分男だったんだろうけど・・まぁいいや。


ところで試練の山の山頂で、空気を読まずに暗黒騎士を倒しちゃった馬鹿は俺だけかな?
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/12(金) 02:29:44 ID:5xK7O6RT
>>428
ノシ
兄から方法聞かなかったら、俺はこのゲームを投げていた

それはそうと、相変わらず凄まじいね
どうやったらそんなオリジナルが浮かんでくるのさ

とりあえずツンデレを見越してジェシー(;´Д`)ハァハァ


このスレカキコは少ないけど、潜伏者はかなりいると思う
作品が良すぎていい感想が浮かばないだけかと

だからレスポンスの悪さにめげずに、作者さんガンガレ
430名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/12(金) 10:16:55 ID:iwa/4W06
>>429
自分もそんな一人です(潜伏者

感想が浮かばないというか、小説が凄すぎて自分なんかが感想なんか書いていいのか
って感じですが。
431名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 23:49:23 ID:REtjWsJ1
乙っす。マジ最高。
ついにジェシーまででてきちゃいましたね、スクウェア名脇役ってジェシーでおしまいだっけ?
俺も上の二人よろしく潜伏者です。
なんか小説の合間合間に感想を挟むのがはばかられるんで普段は書き込まないけど、
ちゃんと見てるんで、職人さん頑張ってください!


って暗黒騎士倒せるの!?
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/15(月) 00:16:23 ID:WiKbdm/k
保守
433名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 00:57:35 ID:yeUiZXQN
 ああ、世界が終わる。
 自分の爪の先から走った小さな稲妻を見て、ティナは予感した。
 
 そうして、この物語は始まる。
 かけがえのないものを探しに、かけがえのないものを引き換えに。
434名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 02:23:28 ID:f/7K0mJN
FINAL FANTASY IV #0198 4章 2節 試練(18)

「おめーがあの時のバロンの奴か。じーさんの命令だから仕方なく手を貸してやるんだからありがたく思えよ!
「この二人が?」
「さよう。双子の魔導士パロムとポロムじゃ。修業中の身じゃが助けになるじゃろう。まだ幼いがその資質はわしが保障する」
「このミシディアの天才児パロム様がお供してやるんだからありがたく思うんだな!」
「パロム! お主等の修業も兼ねておるんじゃ!」
「セシルさんとおっしゃいましたね。宜しくお願いしますわ。ほら、パロムも!」
「よろしくな、あんちゃん!」

 こうしてパロムとポロムが仲間になり、セシル一行は試練の山へ向かった。
 山に着くと入り口で火が燃えている。

「パロム、出番よ!」
「言われなくたって分かってるよ! ブリザドおッ!」
 火が消える。
「ざっとこんなもんさ!」
 ポカ
「パロム!おごり高ぶってはいけないと長老がおっしゃってるでしょ!ではまいりましょ、セシルさん!」

435名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 02:24:29 ID:f/7K0mJN
FINAL FANTASY IV #0199 4章 2節 試練(19)

 一方その頃……
 バブイルの塔で縛られているローザと見張りのカインとゴルベーザ。
「いでよ、スカルミリョーネ!」
 赤頭巾が現れる。
「土のスカリミリョーネ、こちらに…」
「あのセシルとか言う者あなどれん。今のうち手を打っておいた方が良さそうだ。幸い奴は暗黒騎士。お前の率いるアンデッド達にはその剣も鈍ろうというもの。だが奴は試練の山を登っている」
「では、パラディンに…?」
「そうなる前に始末するのがお前の役目」
「…御心配無用。ゴルベーザ様はゆっくりここでご覧下さい…」
「では、行くが良い!」
「は……」
 スカリミリョーネが消える。


「面白くなってきたな。カイン」
「は……しかし、セシルの力あなどっては……」
「かつての友を敬う気持ちも分かるが……だからこそスカルミリョーネを差し向けたのだ。奴も四天王の一人。楽しませてくれるはず。なあローザよ!」
「奴とはこのカインが!」
「この間のような失態を見せておいて何を言う!お前はローザの見張りをしておれば良い!」
「は……!」
「セシル、気をつけて…!」
436名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 02:25:26 ID:f/7K0mJN
誰もいないようなので書かせてもらいました!
みなさん続きお願いします!
437名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 02:29:30 ID:yovJiBKD
個人的には却下
ゲームに出てきたセリフのみが並べられているだけで、小説として成り立っていない
あなたの言葉で書かれていない
438名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 03:02:02 ID:yeUiZXQN
 眼を開けると、枯れたような皮膚をした男が私をうかがっていた。
 天井はほの暗い。それで夜だと分かる。
「ここ…」
 男の深い皺を更に濃く映す、ささやかな灯り。
「…ほう…、あやつりの輪が取れたばかりで、もう…」
 感心する男の声に、不意に不安を感じ、体を起こす。目も覚めるような紅い服が視界に入る。肩口には緑色の髪。
「…私…、」
 思考に触手というものがあれば、今の自分の思考は考えうる四方八方へと、その指を伸ばしていただろう。
 何も分からない。
 分からない、何も知らない。
 必死に記憶をたどるが、手がかりがない。
 頭が痛い。
 どうして。
「思い出せないだろう」
 動悸が早くなり、手で胸元を押さえる私に男が幽かに笑みを漏らす。
「それが操りの輪の力だ。つけている時は、思考できず、記憶できず、言われるままになる。人形になるということだ…」
「何も、思い出せないのも…」
「それも輪の力だ。時間が経てば思い出すだろう。何人か、そういう人間は見たことがあるよ」
 思い出すのだろうか。
「私はジュンと言う。」
 ジュンは穏やかに言った。
439名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 03:03:19 ID:yeUiZXQN
 ふっと空気が緩み、その瞬間唐突に、単語が浮かんだ。小さく、刺すような頭痛がした。
「ティナ…」
「うん?」
「私、名前はティナ…」
 ジュンが、優しく笑った。
「強い精神だ。……しまった、もう来たか」
「え?」
 ジュンは自らの肩越しにドアを振り返る。
「招いていない方の客だ」
 思ったより早い、とジュンがつぶやく。
「すまん、少し黙っといてくれ」
 ティナが問うより早く、ジュンが俊敏な動きでドアへ向かい、錠の確認をする。傍の机をドアの前に倒した瞬間、ドアが大きな音で鳴った。
「開けろ!」
「帝国の手先がいるだろう!」
 荒々しい声がドア越しに聞こえ、ティナはベッドから立ち上がる。
「帝国…?」
440名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 03:05:31 ID:yeUiZXQN
 ジュンはティナの手を引き、ドアと反対側の続きの間へ連れて行く。扉を叩く音は途絶える事がない。
「この裏から、炭鉱に出られる。ティナ、あとで説明をするから、今は早く逃げなさい」
「逃げる?」
「あいつらには話は通じない。早く!」
「でもあなたは」
「急ぎなさい!」
 ティナは、ジュンの勢いに押されて勝手口を出た。風が強く、後ろで結った髪が目の前をはためいた。

 皮膚からしみ込む冷気に眼が覚めていく。
 頭痛が遠退いていく。

 私は。

(何を、忘れてしまっているの?)
 
 振り切れない不吉な月あかりの下を駆け出した。
 背後に、不穏な気配を感じながら。
441名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 03:51:51 ID:yeUiZXQN
 背後から、硬い靴音が聞こえた。
「いたぞ!」
 男の、どこか嬉しげな声。その声を合図に、幾つもの足音はどんどん近付いてくる。
 見つかった。
 身を隠すようにひっそり歩いていたティナは、慌てて走り出す。
 怖くて振り向けない。
 足音は自分を目指して真っ直ぐに走っている事は分かった。
 自分は、帝国の人間なのだろうか。帝国の人間だと何故いけないのか。ジュンという老人は、なぜ私を逃がそうとしたのか?
 何故、自分は逃げているのか?
 何故彼らは追ってくる?
 走る理由も分からず、ティナは走った。
「待て!」
 男たちの荒い息遣いまでもが聞こえる距離になっている。
 当たり前だ、体力が違う。逃げ果せるわけがない。
 髪が目の前にちらつき、こんなときなのに、邪魔だなと思った。
 息が上がる。
 頭の中が白くなっていく。
「そっちはどうせ崖だ!あきらめろ!」
 思い出せない、どうしてこんなことになっているんだろう?
 足が縺れる。靴の踵が割れたかもしれない。
 バランスが崩れる。
「待て、動くな!」
 もう駄目だ。
 もう走れない。
 考えられない。
 どうしてこんなことになったの。
 眠りたい。
「よし、捕まえたぞ!」
 伸ばされた手から、それでも逃れようと身をねじると、踏み出した先に地面はなく。
 全身に、「落ちる」感覚が襲った。
 そこで、ティナの意識は途切れた。
442名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 04:05:12 ID:yeUiZXQN
 夢を見た。

 色あざやかな宝玉、高い飾り天井。物物しい武具の並ぶ、絢爛豪華な装飾が施された一室。
「魔導の力を持つ娘か…」
 道化のような姿の男が真紅の口許を裂くように笑ませている。
「操りの輪で、私の思うが侭…、ひいては、世界すら手中だ」
 含み笑いは嵩じて、やがて高笑いが辺りに響き渡る。
 瞳孔は虚空の星を映し、鋭角的な白い顎は仰け反る。

 風景が変わる。
「すべて焼き尽くしてやる」
 そこは赤い光で滲んでいる。
 滲んでいるのは、熱のせいだ。
 陽炎に、世界は滲んでいるように見えるのだ。
 この腕から生まれる炎。炎。炎。
「すべて焼き尽くしてやる!あっはっは…」
 世界は赤い。

 風景が変わる。
「我がガストラ帝国は魔導の力を復活させた」
 重鎮といった風情の軍人が会する場で、最も豪奢な衣装で身を包んだ壮年の男が私の肩を抱き、「fire」と囁く。命の通り念じると、小さな炎が私の指先より放たれ、赤い絨毯を焦がす。
「見よ、選ばれし者のみに許される神聖な力を!」
 高らかに声を上げる。
「今こそ、我がガストラ帝国が世界を支配するとき!」
 男の声に、一斉に腕が振り翳される。
「万歳!」
「ガストラ皇帝万歳!」
「帝国万歳!」

 夢を見た。
 それはこんな夢だった。
443名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 04:59:59 ID:yeUiZXQN
「遅い」
 ジュンは笑った。
「ドロボウがそんなんじゃ、盗れる宝も盗れなくなるな」
 薄い鳶色の髪をした男は、ジュンの言葉に眉を上げる。
「ど・ろ・ぼ・う?」
 ジュンは男のその返し方に満足する。もう25にもなるのに、一向に大人にならない。これが、この男の持ち味だ。それがたとえ表面上のポーズでも。
「相変わらず分かってないなぁ、ジュン。俺はトレジャーハンターだぜ?」
「どう違う?」
「ぜんぜん違う、ロマンがあるだろ」
 なるほど、楽しげなその双眸には、ドロボウと言う言葉からは程遠い、涼しい光が確かにある。
 しかし全身から漂うその身軽な匂いは、やはり堅気のものでもない。
 上背はあるがどこかひょろっとした印象のあるこの男は、ロックと言う。
 ジュンの所属している地下組織、反帝国派「リターナー」の協力者だ。
「で、俺を呼んだって事は、なんかいい情報でも?」
 本題に切り込むロックの顔は、途端に仕事の顔になる。さっきまでの顔とどう違うかというと、つまりはロマンの有無だ。
「例の少女に会った」
 簡単に答えると、ロックの眼は一気に輝きを増した。
「あの魔導の少女か!?」
444名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 09:07:00 ID:f/7K0mJN
>>437
具体的に例を示してみてくれませんか?
文句を言う前に自分で書いてみましょうよ。
445名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 10:35:14 ID:yovJiBKD
>>444
>具体的に例を示してみてくれませんか?
具体例?今までのレスを見れば十分では?

>文句を言う前に自分で書いて見ましょうよ。
中途半端かつ軽率に作品を投下してレベルを低下させるくらいなら書かないほうがいいと思っています。
というか、こんな質問を返されるとは正直思いませんでした。
あなたは「自分」で書いていません。
セリフ集をなぞるだけならそれこそ小学生にもできるというのは分かりますよね?
446名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 12:42:44 ID:yrrgaOgk
>>434さん
なんか文章かけない人にこんな事書かれるのは嫌な感じがするとは思うんだけど、
読んでて面白みがなかった。
>誰もいないようなので 
ってあったけどそれは他の書いてる人たちが考えながら書いてるから時間がかかってしまうのだと思います。
焦って書いてしまう気持ちも分かりますが、まぁ、気長に待ちましょうよ。

>> 433さん
これは6ですね。
出来れば名前に分かりやすいものを入れてもらえると4と区別出来て読みやすいです。
ティナの意識が無いオープニングが省かれてたので、
ティナ視点で書いていくのかと思っていたのですが、ロック出てきましたね。
447名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 13:22:02 ID:yeUiZXQN
>>446 親切な助言ありがとうございます。
不親切な書き方をしてすみません。
以下に以前のナンバリング。446さんに感謝。
 433 :ff6 - 00
 438 :ff6 - 01 narche
 439 :ff6 - 02 narche
 440 :ff6 - 03 narche
 441 :ff6 - 04 narche
 442 :ff6 - 05 dreams
 443 :ff6 - 06 narche
ティナの意識がないオープニングは、
省いたと言うか、書き忘れです…
448名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 20:37:30 ID:f/7K0mJN
>>445
技巧不足かもしれないのは認めますが、小説の文体というのはある程度人それぞれの好みというものがあると思います。
あなたの評価だけで書く人間の基準を決めてしまうのは少し強引のような気がしますし、
何よりこのスレの運行の妨げになるんではないでしょうか。
いっておきますが僕は真面目に書いたつもりです。釣りではありません。
449名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 21:46:42 ID:1mp8o/T8
まあここは言い方が悪口のようになってしまったということでしょ。
とりあえず書いた人に対してはお疲れさまと言って、その後に感想として、「セリフをなぞっているだけのような印象を受けた。もっとキャラの色々な心情を自分なりにアレンジできればいいと思う。自分もうまい文章は書けないけどね。」
ということを言えばいいと思います。
とりあえずここで言い合うのはもうやめましょう。
450名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 21:50:10 ID:1mp8o/T8
上げちゃった。ごめん。
それと俺としてもやはり文章がまだまだ上手いとは言えないと思う。
451名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 21:56:36 ID:eTfCRYmS
>>434>>435
これだけじゃ文体なんて何もわからない。何故ってほとんどセリフしかないから。
地の文をある程度綴ってもらわないと
452名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 22:14:54 ID:vG21Y6oA
>>435
ローザが捕らえられている所は
バブイルの塔じゃなくてゾットの塔ですよ。
>>4にあるセリフ集を参考したとしても、もう少し
調べてから書いてほしかった。

453名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 23:14:13 ID:qCJsl1sQ
なんか
454名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 23:14:52 ID:qCJsl1sQ
超シラケる…
455名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 23:36:35 ID:yovJiBKD
>>448
一つだけ。
ここはリレー小説です。
いかに小さなフラグといっても、
297氏が作った伏線を無視したあなたを真面目と認めることは出来ません。
このスレのコンセプトを見直してみては?
失礼な態度をとったことはお詫びします。
456名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 23:56:27 ID:1CKZhQFP
そういえば、まとめサイトの話はどうなったんだろうか?
457名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/17(水) 23:56:54 ID:T/SwK1kV
まぁ297さんはフラグ立てまくってるけどなw

もういいから流そうぜ。釣りじゃん。全部セリフ集のページのコピペじゃん。
ゾットとバブイル間違えてるあたり、確定だし。
章数(18)からまた続きでいいだろ?
458名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 01:44:05 ID:nAROmTWS
ff6 - 07 narche

「ここでお前と引き合わせたかったが、ガードが嗅ぎ付けてな。裏から逃がしたが…、恐らくガードも探しているだろう」
 この炭鉱都市ナルシェの高い自治力の一助を担うガードは、外敵から街を守るという使命に基づき動く。
 が、近年、その自衛は度を増し、反帝国派でありながら、リターナーに加わらず、別個の反帝国派として動いている。
 同じ帝国派でも、協力体制ではなく、友好関係も築いていない。
「あいつら、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって奴らだからな…」
「そういう事だ。魔導の少女に関しても、操りの輪のせいだと言っても、「帝国軍の手先だ」と言って聞かなかった」
 ロックは右手を腰に、左手を顎にやって、思案顔になる。
「ロック、彼女をフィガロへ連れて行って欲しい。フットワークの軽さを見込んで、お前に頼みたいんだ」
 ロックはじっと床の辺りを見ている。
「いつ出てったって?」
「1時間前」
 1時間、と呟いて、ロックは視線を天井へ泳がせる。
「特徴は翠の髪、赤い服。ティナと言う名前だ」
「…女の子なら、そんなに遠くには行ってないだろう。そうなると、土地勘のあるここのガードに見つかり易いだろうけど…」
 靴の爪先を鳴らし、リズムよく音を立てる。
 ジュンは黙ってロックを見詰める。お前なら、探し物はお手の物だろう?
「逆にガードが相手なら、捕まっていたとしても、場所を想定しやすい。…よし」
 さあ、あのトレジャーハンターの顔になる。
「任せろ。その子をフィガロへ連れて行く。」
 不敵なまでの笑顔。これを見ると、まるでもう宝は手に入ったかのような気分になる。いつも。
「お前は見つけ出すって信用してるよ」
 ジュンの言葉に、ロックがさも面白げに笑った。
「いまさら、誰に言ってるんだ?」
 ごくあっさり言って、ロマンチストは音も立てずに出ていった。
459名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 03:43:04 ID:nAROmTWS
ff6 - 08 narche

 背中が痛い。
 何か尖ったものが右腕に当たっている気がする。
 そう思い、何度か腕を動かすが、そのたびに尖った石のようなものに当たる。
 どうやっても体のどこかに痛みが付きまとい、仕方なくティナは眼を開けようとした。
「ん?気がついたのか」
 すぐ傍からの声に驚いて、一気に眼が覚める。
 暗い。
 体を起こすと、ティナは岩の上に横たわっている自分に気付いた。痛いはずだ。
 まだ夜らしく、傍にはランプが置かれている。
「大丈夫か?」
 覗き込んでくる男は、ジュンと名乗った老人ではなく、若い男だった。先ほど追いかけてきた男達とは違うようだ。身につけているものが違う。殺気も悪意も感じない。逃げ切れたのだろうか。
(私…、助かったの…?)
 男は、息をついたティナを見て笑顔になる。
「モーグリ達に感謝だな。あいつらが助けてくれたようなもんだよ。あんた、ティナだよな?」
「…ええ、でも、…名前以外の、ほかの事を、よく、思い出せないの…前の事も、自分のことも…」
 正直、名前すら自信がなく、途切れ途切れに伝えると、男が怪訝な顔をした。
「…記憶がないのか?」
 潜めた声で訊かれ、静かに頷く。
「でも、時間が経てば思い出すって…」
 男はティナの顔を眼を凝らすようにして見詰めた。

460名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 04:59:29 ID:nAROmTWS
ff6 - 09 narche

「あの…」
「…大丈夫だ」
 男は息を吐いた。何かを決めたように、ティナを見据える。
「俺が守る。記憶がなくても、必ず守る。見捨てたりしない」
 ティナを安心させようとしているというよりは、寧ろ自分に言い聞かせるような口振りだった。
 それでも、ティナはそこに真実を感じて、頷く。
 ティナの反応に、男は満足そうに笑った。
「俺はロック。トレジャーハンターだ」
「…トレジャーハンター?」
「そう。」
 トレジャーハンターって言うんだ、とロックは繰り返す。
 彼は、ティナよりもずっと年上なのだろうが、全く威圧感を感じない。役人や軍人特有のにおいがしないからだろうか。
 落ち着いて周りをよく見ると、洞窟の中らしい。夜だと思ったが、外からの明かりは見えない。
 今は一体何時なんだろう。何度も目覚めたせいで、時間の感覚が曖昧だ。
「ここは?」
「坑道。ティナは多分、ここに繋がる穴に落ちたんだ」
 よく怪我をせずに済んだ、と頭上を見上げた。そこには無音の闇しかない。どれほどの高さだったのだろう。
「ティナ、連れて行きたいとこがある」
 ロックは正面からティナを見ている。意志の強そうな眼だと思った。
「どこへ?」
「フィガロ」
 ロックは、まるで内緒のおまじないを口にする子供のような笑みを、色の薄い唇に乗せた。
 
461名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 10:40:02 ID:BJeXPAPh
462名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 10:49:00 ID:BJeXPAPh
コピペミスった。ごめん。

今Y書いてる人はあれだ。ちょっと前に戦闘シーンに自信が無いって言ってた人だな。
がんばって。

そして、W書いてる人たちも昨日の事は気にしないで書いてほしいな。
463名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 14:56:08 ID:lAIlW7LI
?、書いてる人GJです。うまいですね、無駄の無い文章でかなり読みやすいです。
戦闘シーンカットしたみたいだけどw

細かいことを言うようですけど、投稿は時間を置かないである程度の分を一気に貼ってもらえると
こちらも書き込みを挟みやすいですし、なにより他の人が続きを書きやすいと思います。
応援してますので是非頑張ってください。
464名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 18:56:15 ID:9UzbOuzY
dat落ちスレ補完所で前スレをhtml化
してもらったのでここに貼っておきます。

http://2ch.pop.tc/log/05/08/18/1230/1091624036.html
465名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 18:58:31 ID:9UzbOuzY
FF6の方もリレー形式でいいんでしょうか?
時間があれば書いてみたいんですが。
466名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 20:00:37 ID:R61ctQz3
>>464
ありがとう
467433:2005/08/18(木) 20:08:26 ID:nAROmTWS
>>462さん
はい、がんばります。

(※一応、392さん(の事だと思う)の名誉のために…!
 今、一連のY書いてる433は392さんとは別です…)

468433:2005/08/18(木) 21:04:49 ID:nAROmTWS
>>463さん、戦闘シーンカットした、って事は433の事を
言ってくれてるのかな…
ご忠告ありがとうございます。ご説明、よく分かりました。
投稿時間、気をつけていきたいと思います。
469433:2005/08/18(木) 23:07:18 ID:nAROmTWS
ff6 - 10 narche/figaro

 蒼い空、オレンジの砂漠。
 真上からの光はビームのように強い。
 この国の太陽は、植物も水も枯らすのに、何か生命の起源をも思わせる。
 この砂漠を歩くとき、なぜかいつも、命は光から生まれるんだと思う。そして、自分はいつも光を求めている。
「ティナ、あと少しだから」
 ロックはティナの腕を引く。慣れない暑さと疲労で、足元がふらついている。既に半日も歩いているのだ。今日に限ってチョコボを見かけないな、とロックは忌々しく思った。
 記憶を失った魔導の少女は、何度も転びそうになりながら、それでも負ぶろうとするロックを固辞した。それは拒絶の色ではなかった。そういう習性なのだろう。野生の動物は、なかなか馴れない。
 魔導を持つ人間なんてものは、要は、天然記念物のようなものだとロックは受け止めている。群れに慣れないのではなく、群れを知らないのだ。そして、自分の仲間を探し続けている。
 ティナが唐突に、「大丈夫かしら」と言う。
 ガラス玉のような不可思議な色合いの眼は、すべてを知っているようにも思えるのに、何をするにも小さな首を傾げ、ひとつずつ、覚えるような丁寧さでロックの言葉に耳を澄ます。
「うん?」
「私を追いかけてきた人達、ジュンに何もしてないかな」
 ティナの嗄れた声に気付き、水筒を渡す。ティナはありがとうと、遠慮がちに水を口に含む。
「ああ見えても、リターナーの一員だから」
「…心配してるかな」
「フィガロに着けば、連絡を入れるさ」
 まるで頓着しないロックの様子に、ティナは困ったように口を噤む。
「薄情って思った?」
 ティナは首を振る。
「…いつか会えるかしら」
「会えるよ。」
「お礼を言わなくちゃ」
 白い皮膚は熱を帯びてバラ色になっている。もしかすると、陽に灼けたのかもしれない。
 フィガロまであと少しだ。
 ロックは額の汗を拭いながら、懐中のコンパスを確認する。
「ロックも、ありがとう」
 優しい声に、ロックは顔を上げる。
 ティなの人形のような顔がわずかに微笑んだように見えたが、蒸せるような熱砂から逃れるように、すぐに手の甲で口許を隠してしまった。

470433:2005/08/18(木) 23:10:30 ID:nAROmTWS
ff6 - 11 figaro 「the turning point !!!」

 一歩一歩が砂の中に深くめり込む感覚に、いよいよティナが膝をついた時、冗談みたいなタイミングでチョコボが現れた。

 乗りますか?
 
 yes / no

>>471 どちらを選びますか?
471名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 23:13:43 ID:ujhWwOti
>>470
yes
472名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 23:34:48 ID:lAIlW7LI
乙です、まさに冗談みたいなタイミング。
俺もyesで。

>>468
いや、モーグリ達と一緒にガードを追い払う部分の事です。
433さんは392と同じ人だと思ってたんで。
というか433さんとしては、リレー形式よりもこういうちょくちょく出てくる分岐に
住人が答えてその続きを433さんが書いていく………という形で進めたいのかな?
それならそれでその方向を尊重したいんで、>>465の質問にも答えてあげてほしいです。
473433:2005/08/18(木) 23:52:03 ID:nAROmTWS
うわぁ、すみません、まさかすぐに471さんが現れるとは思わず
ゴハン食べていました…
投稿時間に気をつけるといった舌の根も乾かないうちに、申し訳ないです。
>>471さん、>>472さんご協力ありがとうございました。
あと、>>462さんへ返事をしたものだと思い込んでいました、
>>472さん、ご指摘ありがとうございます。
>>465さん、ぜひ書いてください。お待ち申し上げています。
返事が遅くなって失礼しました。
何故分岐点だったかというと、二つのバージョンができていたからです。
こんな理由だっただけなので、これから分岐点が出てくるかは全く未定です。
と言うかないような気が。
ああーなんだかもう話に関係ないことばっかりで申し訳ありません!
474433:2005/08/18(木) 23:54:07 ID:nAROmTWS
ff6 - 11 figaro 「yes version」

「!」
 突然のチョコボの登場に、ティナは膝立ちのまま絶句している。見たことがないらしい。
 満月色の毛並みをした大きめのチョコボは、ポピュラーな革の鞍をつけているが、誰も騎乗していない。
 どうやら、今から城へ戻るところのようだ。という事は、ラッキーな事に無料だな。ロックはにやりと笑う。
「ティナ、乗ろうか」
「えっ」
「これ、乗り物なんだよ。ほら」
 ロックが手を伸ばすと、すぐにチョコボは首を地面に寄せる。黒い目はティナをじっと見ている。
 ティナは恐る恐るチョコボの首を撫でた。
「良かった、人のいいチョコボが立ち止まってくれて。これですぐにフィガロだ」
 まだ緊張の解けないティナの体をチョコボに乗せ、チョコボを嚇さないように慎重に、ロックも騎乗した。ティナの体を後ろから抱きこみながら、チョコボの背を叩く。
 それを合図に、チョコボは強靭な脚力を満喫するかのごとく、足場の悪さをものともせずに駆け出した。
「わっ…」
 ティナがチョコボの首にしがみつく。
「割と安定してるな、このチョコボ」
「嘘、怖いよ!」
「そうかなぁ」
 初チョコボはティナにとっては大変な刺激だったらしく、少しリズムが狂うたびに「わっ」「きゃあっ」と悲鳴を上げたが、少しすると「しがみつき過ぎたら余計揺れるのね」と学習し、ようやく景色を眺める余裕が生まれてきた。とはいえ、一面、黄金の砂漠でしかなかったが。
「ロック、あれ…!」
「うん、あれだ。」

 砂漠の国、フィガロ。

 その中枢を担うフィガロ城が見えてきた。
475名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 00:22:20 ID:C37JwFUX
6が進んでるね。
ビームという表現には違和感を感じてしまったけど、
ティナの描写いいね。今まで操られてたんだなってのがわかる。
6って結構長いよな。
433さんがんばってね。
465さんも。
476433:2005/08/19(金) 01:01:02 ID:+mFV7lhw
ff6 - 12 figaro

 黄金の砂の上に、まるで異空間から切り取ってきたかのような黒い城が見えてくる。
 砂漠と言う厳しい条件の中、聳え立つ城は堅牢、そして巨大。
 宮殿と言うには余りに質実剛健な印象を放つその城は、技術の粋を集めた、国家中枢の凝縮だ。
 その城の特殊な機能をティナに教えようか迷ったが、城の主から説明させた方がいいだろうと思い、「フィガロは帝国と同盟を結んでるけど、ティナを悪いようにはしないよ」とだけ言った。まるで悪人の台詞だな、なんて思いながら。
 
 フィガロ城に近付くにつれ、チョコボの足取りも軽くなる。
 チョコボはそもそも帰巣本能が強い種でもあり、フィガロの飼育も巧みだ。そのお蔭で、さっきのように、砂漠で人間を見ると、様子を窺ってくれる。
 城の間近になると、チョコボはゆったりとした歩みで城門へ向かう。城の唯一の城門。客人はそこからしか入れないのだ。
 ロックは先にチョコボから下り、すっかりチョコボに気を許したティナを下ろす。何かチョコボにやれる餌でもあればよかったのだが、手持ちはなかった。チョコボの喉を撫でて、労ってやる。
「ありがとう」
 チョコボはティナの言葉にクエ、と鳴き、そのまま城門から離れていった。厩舎で休むのだろう。
 ティナが名残惜しげに数歩追いかけ、見送る。
「行こう」
 促すと、ティナは慌ててロックに駆け寄る。疲労も少しは回復したらしい。
 チョコボに乗って風に当たったせいで、汗も乾いた。
 城門前の5、6段の階段を上ると、その先に構えていた門兵がロックを見止め、「待て!」と鋭い声を上げる。
 周囲にいた兵も瞬時に臨戦態勢に入った。
 が、声をあげた当の門兵はロックの顔を見て「ん?」と眉を上げる。
「…なんだ、お前か。」
 気が抜けた顔をしたので、周囲の空気も緩む。顔見知りの兵だ。名前まで走らないが、向こうは知っているらしい。
「どうも」
 やっぱり人生って奴は人脈がものを言うね、などとのんきに思いながら、笑顔を作る。
「入ってよし」
 きしむような音を立てて城門が開いた。
 兵はティナを検分するような厳しい目で見たが、そのまま黙って通した。
 
 やっと、たっぷりの湯船にありつける。
 
477433:2005/08/19(金) 01:04:30 ID:+mFV7lhw
>>475さん、どうもありがとうございます。ビームは駄目か…精進します。
(こういうのっていちいち返答しないほうがいいのか?
 感想言ってくれると、どうしても反応してしまう…スレを消費してごめんなさい。)
はっ。修正したはずの文字が消えていない。
最後、「たっぷりの水」だ。たっぷりの湯船ってアンタ…。湯船は要らんだろう。
478433:2005/08/19(金) 01:33:23 ID:+mFV7lhw
ff6 - 13 figaro

 門を潜り抜けると、ロックはまるで自分の城のようにフィガロ城を歩いた。ティナには珍しく感じる装飾ばかりで、視線があちこちに奪われながらロックについていく。
「ティナ、ここだ。」
 廊下に向かって開け放たれた、厚い扉。端を金の刺繍で飾られた赤い絨毯が、扉から部屋の奥へ一直線に伸びている。向こう側に、玉座と呼ばれるのであろう絢爛豪華な椅子が見えた。そこに、一人の男が座っている。
 ロックがティナの肩を軽く叩く。促されるままに部屋に入ると、玉座に座った男が立ち上がった。
 右を歩くロックを仰ぎ見ると、いたずらめいた笑みを浮かべ、そのまま歩けという風にもう一度肩を叩かれる。赤い絨毯は、足音も立てずにティナを歩かせた。
「ロック、この子が例の?」
 近付くと、男はまだ若かった。ロックより少し上くらいだろうか。見事な金髪を首の後ろで結っている。聡明な印象の鼻梁と、髪をまとめたせいで露になった白い耳朶が印象的だ。
「あなたは?」
 ティナの素っ気無くも取れる問いかけに、男は動じずに笑った。
「失礼、女性に対する態度ではなかった」
 男は芝居めいたお辞儀をする。髪が肩から流れ落ちた。
 悠然と優雅に上げられた顔には、微笑が湛えられている。
「私はエドガー。この国を任されている」
「…王様?」
 ティナの呟きに、エドガーがティナの顔を見ながらゆっくりと頷く。
「そうも言うね」
 驚いた。
 こんなに若い王がいるのか。
 あの国の皇帝はもっと…
(もっと?)
「俺が王様と知り合だなんてびっくりしただろ?」
 ロックが愉しげにエドガーの肩を寄せる。
 もっと、なんだったろう。なにが引っかかったのか。
 思い出そうにも靄がかかって、もうつかめない。
「さてと…、ちょっと外させてもらうよ。またな」
 最後の言葉は、この若い王に向けて発されたものだ。友人の気安さなのか、エドガーは軽く手を上げ、そのままティナに視線を向ける。
「帝国の兵士、だったかな?」
 ティナは体を硬直させた。
 
(兵士?)
479433:2005/08/19(金) 03:03:51 ID:+mFV7lhw
ff6 - 13 figaro

 緊張を走らせたティナを、注視するような目で見ていたエドガーはふっと表情を和ませる。
「心配はいらない。フィガロはガストラ帝国とは同盟を結んでいる。しばらくここでゆっくりしていくと良い」
 ガストラ帝国。
 耳に残るその言葉を反芻する。
 不吉。
 ティナはわけも分からず、そう直感する。
「ティナ?」
 何も思い出せないと言いながら、ティナはひとつだけ、覚えている事があった。
 魔導の力。
 記憶喪失だと言ったからなのか、ロックは敢えて、魔導の事について、ティナに訊きはしなかった。
 だが、ティナの頭の中には、魔導という言葉が太陽を隠す雲のように漂っている。薄暗く、陰湿で、それはいかずちさえも喚びだせそうな禍々しさ。
「まだ、緊張している?」
 気分を害してしまったかな。言いながら、エドガーが、推し量るようにティナの顔を覗き込んだ。その仕草の一つ一つが穏やかで、ティナは首を横に振ってみせる。
 まだ、首を振れば消せるほどの、綿雲だ。そう言い聞かせる。
「悪かった。女性を脅かすつもりはなかったんだが」
 若い王はまるで王女に対するみたいに、丁寧な物腰で話す。
 エドガーの、およそ「王様」とは思えない柔和な雰囲気に、ティナは、全身の緊張を解いて、それをエドガーにも分かるように、静かに深呼吸をしてみせた。
「落ち着いたね?」
「ええ…。」
 エドガーを見上げる。
「エドガーって呼んでもいいの?」
「もちろん」
 嬉しげにエドガーが言った。
「エドガー。どうして、私によくしてくれるの?」
480433:2005/08/19(金) 03:10:16 ID:+mFV7lhw
ff6 - 14 figaro

 私の力を、知っているのに?
 ティナは、明確に言葉にはしなかったが、エドガーが意を汲んだように微笑んだ。
 そう、ジュンもロックも、追ってきた男たちも、目の前のエドガーも。みんな、ティナの魔導の力を知って、何らかのかかわりを持ってきている。
 それは、リターナーだとか、帝国だとか、一国の主だとか。本当に、さまざまな人間が関与している。この、魔導の力を求めて。
 魔導の力は、いったいあなたたちに、何を与えるの?
 どうして私を追うの?
 ロックにも訊かなかった事を、どうしてかティナはエドガーにぶつけた。
「どうして?」
 やれやれ、という風に、エドガーが1度、深く目を閉じる。
「まず」
 まず?
「君の美しさが心を捕らえたからさ。第二に君の好きなタイプが気に掛かる・・・魔導の力のことはその次かな。」
「…?」
 エドガーがティナの反応を待っているのを感じ、瞬きをする。
 何を言ったの?
「え?」
「いや。」
 エドガーが顎に手をやる。
「鈍ったかな。」
 低く短い呟きが聞こえたが、よく分からなかった。
「なんていったの?鈍い?」
 エドガーがティナの直截さに、思わず吹き出す。
「え?なに?」
「口説いたんだよ、さっきのは」
 口説く?
 ティナが黙ったままなので、エドガーはたまらずに声を上げて笑った。 
「ああ、私にこんな無粋な事を言わせるなんて、流石だね」
 ゆっくりしておいで、と言い残して、笑みを口の端に残したまま、エドガーは重たげにマントを翻し、部屋を抜けていった。
481433:2005/08/19(金) 03:13:07 ID:+mFV7lhw
ああ…眠いときに書き込むものではない。
ナンバリングを誤りました。誰も気にしていないにしろ、
間抜けな事だ…。お目汚しで申し訳ない。
482名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 12:30:53 ID:9ilYCbpE
ものすごい勢いで6が進んでますね。
ケフカを書くの難しいと思いますが期待してます。

 ☆ チン

        ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ヽ ___\(\・∀・)<  4の続きまだー?
             \_/⊂ ⊂_)_ \_______
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
        |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
        |           .|/
483297:2005/08/19(金) 23:26:13 ID:mxB6eU/o
FINAL FANTASY IV #0198 4章 2節 試練(18)

 とっさに身を引くセシル。
 しかしそんな彼をよそに、どういうわけか横の二人は、うんざりとした様子で顔をしかめる
ばかりだ。不安げに煙と二人を見比べていると、やがて、
「とうっ!」
 間抜けなかけ声。
 颯爽と煙から飛び出して来たのは・・・・・男の子だ。
 おかっぱ頭のその少年は、礼儀正しい少女とは対照的に、進んで無遠慮を誇示せんとする
ばかりにポケットに手を突っ込んだまま、じろじろとセシルを眺めまわした。
「・・おめーがあの時のバロンのやつか」
「君は・・?」
「オイラはミシディアが誇る天才魔導士、パロム様だ! よく覚えとけよっ!」

 そういうとまたかけ声とともに飛び上がり、なにやら妙なポーズを取り出す。
 呆気にとられ、セシルは恐る恐る長老に尋ねた。
「あの・・まさかこの子たちが?」
「さよう、双子の魔導士パロムとポロムじゃ。まだ幼いがその素養はわしが保証しよう」
「・・・」
(冗談じゃない・・)
 声を失う彼の背中をパロムが小突く。
「おい、じーさんの言いつけだから仕方なく手を貸してやるんだからな。ありがたく思えよ!!」
「パロム、無駄口を叩くでない! おぬしらの修行もかねておるのだ!」
 唖然としたまま、セシルはもう一度双子を見つめ直してみた。
 ポロムと呼ばれた少女の方は、その言動もさながら確かに年不相応にませた顔つきをしては
いるのだが、・・やはり女の子だ。それもリディアよりさらにひと回り小さい。魔物にあったら
たちまち泣き出してしまいそうだ。
 パロムの方はというと、ませたというよりもヒネた顔で、どうやらこの年頃の男の子を象徴する
ような悪戯ものらしい。勇ましいのか、無鉄砲なのか、どちらにしてもとても援護になどなりそう
にない。
484297:2005/08/19(金) 23:27:02 ID:mxB6eU/o
FINAL FANTASY IV #0199 4章 2節 試練(19)

「ご好意はありがたいのですが、この試練は私に課せられたものです。己の可能性を試してみたい
のです。それに・・なによりこの二人を守る自信が、今の私にはありません」
 その言葉はあながち嘘ではなかったが、セシルの本音ではない。率直に言って、お断りだった。
彼らへの負い目はあるものの、子守りなどしている余裕など自分には無い。
 彼のそんな意図を知ってか知らずか、長老も引こうとはしなかった。
「そなたが気にかける事はない。幼いうちに外で修練を積むのは我ら魔導士のしきたりなのだ。
 遅いか早いかの違いだけ、二人にとっても良い機会なのじゃ」
「しかし、やはり子供を・・」
 なおも了解しかねるセシルに、ふっと心地よいぬくもりがおとずれた。
 同時に身体に残っていた痛みが和らいで、顔の腫れがひいてゆくのを感じられる。
 振り向くと、ポロムが手を合わせて魔法の詠唱を唱えていた。
「・・いかがでしょう? なにぶん修行中の身ですのでまだまだ未熟ではありますが、お身体の
お傷を癒してさしあげることぐらいはできると思いますわ」
 そういって少女は品のいい笑みを浮かべた。見下ろす暗黒騎士は無言ではあったが、その視線が
先ほどまで自分をただの子供と見なしていたものとは違うことを、彼女は見逃さなかった。

 ・・と、
「オイラも見せてやるぜ!」
 ポロムにいいところを持っていかれたと思ったのか、パロムが俄然騒ぎだす。
「だめよ、パロッ・・!」
「ファイアーッ!!」
 慌ててポロムが止めに入ったのは、パロムの手から既に火球が放たれたあとだった。
 ふざけた言動とは裏腹に、こちらも完璧な魔法だった。
 ただし、完璧に場違いだ。でたらめに飛び出した炎は、足下の繊細な模様の絨毯に狙いを定め、
たちまち床に火が燃え広がった。すぐさま長老が魔力の水を呼び起こして鎮火する。

「パロムッッッ!!!」 
 逃げ足が早くなくては悪戯は成り立たない。
 長老の激が飛んだときには、もちろんパロムはその場から影も無く消え失せていた。
485297:2005/08/19(金) 23:27:41 ID:mxB6eU/o
FINAL FANTASY IV #0200 4章 2節 試練(20)

「まったく・・!」
「申し訳ありません、長老様」
 かぶりを振る長老と、それに頭を下げるポロム。先ほどの長老の素早い対応にしても、
二人の仕草からどことなく慣れた印象がするのは、きっといつも同じようなやりとりを
繰り返しているのだろう。
「見ての通りの腕白でな」
「・・・」
「セシル殿、これだけは言っておこう」
 自分に向けられている疑心を見透かしているのか、長老は声を低くして語りかけた。
「わしは決して、くだらん酔狂なぞでこの子らを選んだわけではない。
 もちろんもっと年かさの、より有能な魔導士はいくらでもおる。だが今のそなたに必要なのは
彼らではない。そなたが求めているものは、ただ力のみを携えただけでは得られぬのじゃ」

 それでも彼はまだ納得しかねていた。しかし、長老の声には依然として抗いがたい
響きが含まれていて、それが彼に口実を与えない。
(・・もういい)
 セシルは息をついた。不安は消えないが、今は何より時間が惜しい。
 軽く頭を下げ、出口へと向かった。その背中を小さな少女が追った。

 部屋の出口で、少女はふいに立ち止まる。
 振り返ったその瞳は、先刻までの健気なものではない。鋭く、痛みを伴うような意志を秘めた
少女の眼差しが老人に向けられた。彼もまた堅固な眼差しでそれに応え、暗黙のままに彼らは
言葉を交わした。
 少女は小さく頷き、また暗黒騎士の後を追っていった。
 


486297:2005/08/19(金) 23:30:13 ID:mxB6eU/o
FINAL FANTASY IV #0201 4章 2節 試練(21)

「ポロム・・でいいのかな?」

 館の外で待っていたセシルは、遅れて出て来た少女に慎重に声をかける。
「はい、弟の方はパロムと申します。よろしくお願いしますわ、セシルさん」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
 少女の屈託のない笑顔に内心で驚きながら、セシルも緊張を解いて穏やかに笑った。
 まだ小さな子供だから、おそらく警戒を解いてもらうには随分と骨を折るだろうと思っていた
のだが、どうやら彼が考えていたよりも、彼女はずっと成熟した心の持ち主らしい。
「さっそくだけど準備もあるから、道具屋でもあれば案内してもらえるかな?」
「お任せください、こちらです」
「あ、ところで」
「なんでしょう?」
「パロムの方はどこにいったのかな。飛び出していったっきりだけど」
「セシルさんの真後ろにいますわ」
 驚いて振り向くと、パロムがこそこそとセシルの背後ににじり寄っていた。
 後ろから驚かそうとでも思っていたのだろうか、企みが知れてパロムは悪態をつきだした。
「なんだよー! 黙ってろよな!」
「あんたいい加減にしなさいよ、遊びにいくんじゃないんですからね」
「はー、つまんねえなぁ。よい子ちゃんは」
「パロム!」
「まぁまぁ・・」
 牙を向き合う二人をなだめながら、セシルは息をついた。
 やはりどうあっても断るべきだったろうか・・。
 これからずっとこんな調子だと思うと、頭が痛くなる。

 日はまだ昇りきってもいなかったが、セシルの気分はとっぷりと沈みかけていた。

「ま、ひとつよろしくなあんちゃん!」
 ぽんぽんと鎧を叩くパロムの小さな手も、いやに重たく感じた。
487297:2005/08/19(金) 23:33:48 ID:mxB6eU/o
いつのまにか6が始まってますね、>>433さん乙です。
こうなるとやっぱりまとめサイト欲しいね。
あと潜伏者の方ありがとう。


>>431
倒せるよ。
正義よりも正しいことよりも大事なのはハイポーションです。
HPは5000ぐらいなので地道にやれば・・まぁ倒しても意味ないですけど。
488名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 23:41:26 ID:JDxMX+Ne
こいつら5歳なんだよな…
セシルがロリコン呼ばわりされるのも無理はない

297氏乙!
あの淡白なイベントがここまでおちゃらけた雰囲気になるとは(つっても約一名のみだが)
セシルの反応も意外で新鮮だった
489名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 23:53:46 ID:cbUjA1wa
結局、>>434-435は却下の方向でいくの?
本人は一応真面目にやったといってるし
おふざけじゃなくて努力不足なだけの様な気したので
そのままにしてもいいと思いましたけど。
490名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 00:15:52 ID:c5xiUPXJ
>>489
本人乙
コピペに努力もクソもないから
491名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 00:20:03 ID:1mc0QMHm
>>297さん乙
実際本編ではハァ?何でここで子供出てくんだよって感じだったけど、
これ見ると、なんか理由がありそうな雰囲気を醸し出してそうでいいですね。
ところで、暗黒騎士倒しちゃったら、その後どうなるんだろ?
ずっとセシルが暗黒騎士のまま物語が進むのかな?
>>489
ふざけて書いたんじゃないのは分かるけど却下でいいんじゃなかな。
肯定するような意見はあの時出てこなかったし。
何より他の作者さんの書いたストーリーを読みたいな。
492名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 00:24:01 ID:oeV5hdLh
>>297さん乙。
パロム、ポロムに対する心情の変化がいい感じですね。
俺も>>434-435は却下でこのまま続けていいと思う。
早く続きが読みたいし。
493名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 01:08:57 ID:1mc0QMHm
下げ忘れた。ごめん。
まとめサイトをWIKIで作ろうかと思ったんだけど、
他につくろうと思ってた人いるかな?
494名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 01:32:18 ID:oeV5hdLh
>>493
ちょっと作ってみようと思ってたけど、どうしましょう?
495名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 01:37:38 ID:izqybghh
>>493-494
おまいら結婚しろ。

496名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 01:40:04 ID:1mc0QMHm
あ、じゃあ、494さんにお任せします。
お願いします。
497名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 01:43:15 ID:oeV5hdLh
>>496
分かりました。
ではガンガって作ります(`・ω・´)シャキーン
498494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/20(土) 03:34:35 ID:oeV5hdLh
どうも。
作者のみなさん乙です。
まとめサイトを作ることになった494 ◆yB8ZhdBc2M です。
サイトを作るに当たっての質問なんですが、
4の方が
>>147までは1章3節だった光を求めてが>>148以降
2章2節になってました。その為、2章1節が空白になってます。
この部分はいがが致しますか?
個人的には1章3節を二章1節にした方がいいと思うんですが。
ご意見をお聞かせください。

499名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 03:43:03 ID:c5xiUPXJ
それが一番てっとり早いんだけど、それだと一節がすごく短くなっちゃうからな
前に「タイトルは後から皆でゆっくり決めよう」って意見もあるし
とりあえず暫定という形でいいんじゃないかな
あとこんな夜遅くから乙です
ガンガレ!
500名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 10:05:55 ID:bLg6iW0h
500get

>>498の流れで同意。保管人さんがんばってー。
ところでずっと気になっていたことなんだが、まとめサイトを作るんなら文章表現を
ある程度統一した方が良いんじゃないだろうか?
沈黙が、「・・・」なのか「………」なのかとか、カギ括弧内の文末が、
「例えば」と「例えば。」みたいに句点で終わるのかどうかとか。
書き手の人のこだわりとかもあるだろうから無闇には決められないと思うんで
作者の人たちの意見も聞きたいところだけど。
501494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/20(土) 15:42:09 ID:Ic4pT73m
了解しました。
では暫定的に>>498の流れで。
作者さん達の意見があればまた随時変更します。
>>500
文体は自分も統一した方がいいと思います。
とりあえず作者さん達の意見待ちで。
502名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 18:17:36 ID:yRQcjd/x
>>494
順調に行ってますか?
ところで6や前スレの短編とかはどうするつもりですか?
一緒にまとめてほしいんだけど。
503494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/20(土) 18:32:52 ID:Ca+kTuDP
>>502
はい、なんとか。
6や前スレの短編(1)もまとめます。
あと一応緊急避難所もあった方がいいですよね?
504名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 21:04:56 ID:vSZUnbaY
>>494

大変だと思うけどがんばって。
避難所もあったほうがいいんじゃない。
505494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/20(土) 21:17:00 ID:DV+7QdkJ
>>504
ども。
あと短編は魔列車編もありましたね。
506名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 22:16:45 ID:2giEV6nX
あの魔列車の話好きなんですよね。
収録してほしいです。
507名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 23:06:15 ID:c5xiUPXJ
>>505
ナカーマ
あれはグッときた
508名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/20(土) 23:07:02 ID:c5xiUPXJ
>>506だた
509494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 01:48:49 ID:iJLofzJe
途中経過報告
前スレにあったFF1と魔列車の短編のまとめは終わりました。
明日はいよいよ4に取り掛かりたいと思います。
それと緊急避難所はしたらばの物を借りることにします。
それではノシ
510名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 02:32:57 ID:nwMNjxE8
>>494 乙です。つかサクサク仕事進めててすばらしい!
4をまとめて読めるんかー
つか、ちょっと見ないうちに6はじまってるよー!やった!がんばってくださいー!
511名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 03:05:54 ID:JDe5Acys
読み返してたら俺も書きたくなって来たけど、そこまでの作者さんがどういう意図で書いているのかが
イマイチつかめないから、書きにくいんだよな……。なんか伏線をフイにしてしまいそうで。

494氏、乙です。
200レスを上回る文章の編集はキツいでしょうが、死なない程度に無理して頑張ってください(´∀`)
文章統一についてですけど、沈黙は「………」、カギ括弧の文末は句点をつけない方が
多数派みたいですね。これも暫定的なものですし、とりあえず多数派に乗っ取ってしまっては?
サイトのURLが貼られるのを心待ちにしております。
512299:2005/08/21(日) 04:29:45 ID:Hd2MO4gP
FINAL FANTASY IV #0202 4章 2節 試練(22)

その夜、セシルはなかなか寝付けずにいた。
明日の試練の事、ローザやカインの事
突如、任される事となった双子の魔導師達の事も
気がかであったが、何よりこの街の人たちのことが頭から離れなかった。
いくら長老がセシルを認めたとはいえ、街の者はやはり納得できない様子であり、
セシルへ向けられる態度は冷たかった。
夕方、ポロムに案内され道具屋へ行った時の事が脳裏によみがえる。

「あっ…暗黒騎士……」
扉を開き薄暗い店内へ入ると、店主を含めた皆の冷たい視線が
一斉にセシルを襲った。
「早く用事を済ませましょう……」
ポロムは小さな声で言った後、そそくさと店主の方へと歩いてく。。
既に店内には先程までの喧噪は消え失せていた。辺りからは
しきりにひそひそと話し合う声が聞こえる。
「どうした……」
道具屋の店主が抑揚の無い声で呟く。
「彼……セシルさんは明日試練の山へ参られます。
その為の準備をと……」
「あんたがパラディンに! 笑わせてくれるぜっ!
だったら俺でもなれそうだな!」
店内の奥で商品を品定めしていた黒魔導師が野次を飛ばす。
それが引き金となり周囲の客から嘲笑の声が次々と上がる。
「…………」
セシルはただ、黙ってその嘲笑を聞いていた。
そう……例え命令であったとしても自分はこの町に手を下した。
それは変えようの無い事実である限り、今のセシルは彼らに対し返す言葉を
持ち合わせていなかった。
513299:2005/08/21(日) 04:30:37 ID:Hd2MO4gP
FINAL FANTASY IV #0203 4章 2節 試練(23)

「ほらよ……」
店主はカウンターにポーション等のアイテム一式を入れた
革袋を置いた。
「ありがとう……」
袋を取り中身を確認する。その時、今まで寡黙であった店主が静かに口を開いた。
「暗黒騎士さんよ……俺はあんたの侵攻で大事な人を殺された。
だが、あんたを恨もうとは思わん。いや、恨んだって仕方がないと思っている。
しかし、この町にはあんたに深い恨みを抱く奴が多くいる。あいつらみたいにな」
そう言って顎で店内を指す。
「たとえどんなに罪を償おうが、一度行ってしまった罪は消せない。そうだろ?」
それはセシル自身が一番分かっていた。それでも自分は……贖いたい。
それがどんな辛く険しい道でも……
「さ……もういきましょ……」
ポロムが静かに言う。早くこの場所を出たいようだ。
「分かった」
踵を返し、今だに笑いの蔓延する道具屋を出た。
514299:2005/08/21(日) 04:33:32 ID:Hd2MO4gP
FINAL FANTASY IV #0204 4章 2節 試練(24)

いつの間にかセシルの足は町外れにある墓地に向かっていた。
急遽作られたような粗末な十字架が惨劇を傷跡を物語っていた。
「誰……」
夜闇に紛れてその声は聞こえた。
大きくなる足音、同時に闇にうごめく影が接近してくる。
煌々とする月明かりに照らされた影は少女であった。栗色の長髪を夜風が優しく
撫でる。
セシルを見た途端、少女は少し驚いた。
「あ、あなた……」
「ジェシーか?」
とんがり帽子に黒の法衣と言う黒魔導師特有のいでたちではなかった為、
彼女が誰か理解するのにやや時間がかかった。
月夜にたたずむ彼女は昼間の姿からは想像がつかぬほど儚く、美しく見えた。
「何しに来たんです?」
「いや、特に用はなかったんだけど」
何故ここに来たのか……それは自分にも分からなかった。
「用がないのにここに来たんですか……」
少しばかり声が震える。
515299:2005/08/21(日) 04:35:00 ID:Hd2MO4gP
FINAL FANTASY IV #0205 4章 2節 試練(25)

「あなたは……あなたは、ここに埋葬された人を見て何も思わないんですか!」
「そんな事はないさ!」
高圧的な彼女の言葉に思わずセシル自身も言葉を荒げる。
「じゃあ、彼らに対する謝罪として一輪の花を添えるくらいしてみたらどうですか!」
「それは……」
「それみなさい! やっぱりあなたは心まで闇に染まった暗黒騎士よ!」
口ごもるセシルに対しての彼女の言葉に容赦は無かった。
「じゃあ……一つ約束しよう」
「へ?」
予期せぬセシルの一言に彼女は少し間の抜けた声を上げる。
「約束するよ」
セシルは続ける。
「僕は必ずパラディンの試練をやり遂げる。それが僕にできる彼らに対する精一杯の
罪の償いだ。僕はそう思っている」
「…………」
しばらく黙っていたジェシーだが口を開きこういった。
「分かりました。あなたにそこまでの覚悟があるのなら。だけど……」
頷いた後、ジェシーは喋るのを止め懐に手を入れる。
「もしパラディンにもなれずみすみす帰ってきてみなさい。
その時は……」
懐から銀色に光る刃物を取り出し、それをセシルの喉元にあてがう。
「私があなたを殺しますっ!」
彼女は静かにだが、力強く言い放った。
「分かったよ。だからもうそんなものは納めてくれ」
微かに震える彼女の両手にそっと手を添える。
「はい……」
うつむき全身を震えさせた彼女は刃物を納めるとそのまま走り去ってしまった。
セシルはその方向をいつまでも見続けていた。
「僕は……」
516名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 05:02:18 ID:JDe5Acys
299さんキタ!
乙です。墓地に足が向いてしまう心情というのは、なんだか分かりますね。切ない。
ただ、なんかジェシーの態度が急に軟化したようなw
517名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 09:57:23 ID:tBQKZnAc
>>299
久しぶりの投稿乙。これからが見せ場ですね。
>>511
リレー形式だし少しのずれはいいんじゃない。書いてみてはどうですか?
>>494
楽しみにしてます。がんばって。
518494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 16:48:54 ID:U+WwG29q
ども、494です。
>>299さん乙です。
村人の心情描写が上手いですね。
今後が楽しみです。
さて、4を纏めるに辺りみなさんに質問です。
今現在4は#0205 4章 2節 試練(25)というように記述され、
各節はそれぞれ()内の数字で分かれていますが、
纏める時はそれらを全部一緒にして同じページに表示するようにした方がいいですか?
それとも、数字ごとにそのまま分けたページに表示した方がいいでしょうか?
ご意見お聞かせください。
519名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 17:34:17 ID:WNT4jPFr
>>518
作業乙です。
全部別ページにするとファイル数がすごい事にならない?
後の管理が大変そうなんだけど。
CGIが使える所なら「html 小人さん」でググるとちょっと幸せになれるかもしれない。
520494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 17:56:31 ID:U+WwG29q
>>519
レスありがとうございます。
おっ、何やらそのリンクウェアかなり便利ですね!
早速使ってみます。
521494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 19:18:51 ID:U+WwG29q
検討の結果、節は()内の数字で区切らず、纏めて一つのページで表示することにしました。
借りようとしている所がCGIが使えないスペースなのでファイル管理が・・・orz
勝手に決めてしまい、すみません。
また何か意見がありましたら宜しくお願いします。
522297:2005/08/21(日) 21:41:48 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0206 4章 2節 試練(26)

 静まり返った街路を、一人の少女が走り抜ける。いや、少女という呼称は相応しくないかも
しれない。長い髪が走り流れる横顔は、美しくも、どこか硝子のように儚く、それでいて人を惹き
つけてやまない、すっかり成熟を遂げた女性のそれであった。だが今、彼女の横顔は溢れ出る涙で
濡れていた。
 涙の理由は彼女にも分からなかった。交錯する思いが胸の内でぶつかり合い、弾け、尖った
欠片となって不安定な心に突き刺さった。
 いっとき、彼女は振り向き、もうとうに見えなくなった墓地の方向を見やる。それなのに、未だ
悲しそうな視線の名残がまとわりついているようで、それが彼女をまた夜道に追い立てる。

 ────お前とて、変わらねばならぬのだ────

 遠く、どこかで犬が切なげに吠える声が轟いていた。



 セシルが館を出てまもなくのこと。

「………長老」
「……ジェシーか」
 ふっと現れた気配に、長老は振り返らずに言葉を返す。
「先ほどは………申し訳ありませんでした……」
「よい。わしも無理強いをしすぎたのだ。そなたには……まだ少し早かったようじゃな」
 謝罪とも、失望ともつかぬ彼の嘆息に、ジェシーは唇を噛む。
 そして、とうとう抱き続けていた疑問をぶつけた。
「……長老は、なぜあの暗黒騎士を信用されるのです」
 どうして私をわざわざ引き止めたのか。
 私がどれだけあの男を憎んでいるか知っていながら。
 誰よりも悲しみに耽っていたこの人だからこそ、ジェシーにはそれが歯がゆかった。
 
523297:2005/08/21(日) 21:42:26 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0207 4章 2節 試練(27)

 だが、老人の言葉は意外だった。
「別に信用なぞしておらん」
「えっ? …でも……!」
「パラディンのことかね?」
 コクリとジェシーはうなずく。長老は、横目で彼女を一瞥し、天蓋を見上げた。
「……ジェシーよ。わしはな、常に正しい人間であろうとした。そのために、己に可能なこと、
望むことではなく、そのとき必要なことを模索して来たつもりじゃ。そうして人より少しばかり
多くを生き、少しばかり多くを知り、また多くを失った。その結果、いつのまにかわしには長老と
言う肩書きが与えられておった」
「……だがそれだけじゃ。この年になって、鏡に映る姿なぞを見るとな、よく分かる。
わしはただの老いぼれに過ぎん。そうじゃとも、どれだけ足掻いたところで、わしも人間じゃ。
いくら抑えようとも、時には脆く感情的になることもある」
「………」
「わしが本当に心の底からあの暗黒騎士を許しておると思うかね? 綺麗さっぱり、ひとかけらの
憎しみも抱いておらんと思うかね? わしの目の前で、クリスタルを奪っていったあの男を?
 ……ジェシーよ、人には所詮そのようなことは出来ぬ」
「じゃあ…」
「クリスタルを守ろうと死していった者たちは、誰もが幼い頃にわしが魔法の手ほどきを施した
者ばかりじゃ。一人の思い出とて,忘れられぬ。……誰が忘れられようか!?」
 突然、長老は声を荒げた。
「心の光じゃと? そんなもの!! 見えるはずがないわ!!
 つばを吐きかけてやりたかった、思うさま罵ってやりたかったわッ!
 その場で首をかっ切ってやりたかったともッッ!!」
 拳を机に叩き付ける老人の背は震えていた。ジェシーは、言葉も無く立ち尽くすばかりだった。
 国を束ねるものとして、厳しく、そして温厚であり続けた、長老という名の老人。今その外殻は
内側から破れ、その老体に秘められた膨大な怒りがむき出しになっていた。
 いったい誰がこの人のこんな有様を想像できたろうか。
「…わしはこのミシディアの民を愛しておる。誰ひとりとて、失いたくはなかった…………」
「長老……」
524297:2005/08/21(日) 21:43:37 ID:plW8TePd
 なおも振り返らぬ長老の背に、彼女はそっと頭を垂れた。
 何と自分は浅はかだったのだろう。もはや疑う余地など無い。この人の悲しみは、間違いなく
誰よりも深く、そしてなお、この人はその苦しみから逃げようともしなかったのだ。
 自分ごときに、彼を問いつめる資格など到底ありはしなかった。

「…だがな、それではいかんのだ」
 顔を上げる。いつのまにか老人の目は、うなだれていた彼女を見据えていた。
 その声にはもう先ほどの激昂の影も無い。
「ジェシー。今のミシディアはお前の目にどう映っておる?」
 長老は壁の一角に掛けられた絵画に目を向けた。
 描かれているのは円形の街並、美しいミシディアの全貌だ。
「どう……とは?」
「わしには今のミシディアが、ミシディアには見えん」
「?」
「バロン、バロン、バロン……。街に出れば、誰もがバロンの名を口にしておる。
 わしは妙な錯覚すら覚えてしまうよ。ここはミシディアではなく、バロンなのか? とな」
「そんな……そんなことは…!」
 思わず強く首を振っていた。だが彼の溜息を打ち消す言葉が見つからない。
「誰も彼もいつまでもバロンへの憎しみを捨てようとはせぬ。彼らはすすんでそうしておるのだ。
誰かに自分を押し付けて生きるのは楽だからじゃ。逃げておるのじゃよ。
 それが何より自分の心を擦り減らしているとも知らずに……」
「それは……」
「変われると思わぬか?」
「え?」
「もしもあの男を許すことが出来たら……、あの男が、光をまとって戻って来たならば、
あの男がわしらと同じ、苦しみに悶えていた人間なのだと理解してやれたならば……、
我らミシディアの民の胸にも、まことの強さが戻ってくるとは思えぬか?」
「………」
「それこそがあの男を東に送ったわしの真実じゃ。
 わしはミシディアを愛しておる。だが、今の情けない民は許せんのだ!
 ……そのツケは、この事態を招いた張本人であるあの男にとらせてやる。必ずな」
525297:2005/08/21(日) 21:49:34 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0209 4章 2節 試練(29)

「ですが……パロムとポロムにもしものことがあったら!」
 どこかに飲み込まれてゆくような不安を覚え、ジェシーの口調は乱れ始めていた。
「ヤツに襲われる、と言いたいのか?」
「その可能性は十分にあります!」
「…ジェシーよ、お前は確かに大した黒魔法の使い手じゃ。
 だが、強大なバロンの長たる軍、赤い翼を率いていた男が、そう容易くあの程度の術に
囚われると思うか?」
「……?」
 言葉の意味をはかりかねるジェシーに、長老は手をかざす。
「もしもわしが今、お前に変化の魔法を唱えたとて、お前はその術にかかるか?」
 彼女は、はっと目を見開いた。長老は満足げに頷く。
「変化の魔法は、確かに研究材料としては優秀じゃが、実用性から言えばどれも失敗作じゃろう。
ある程度の力を備えた者にすれば、警戒さえ怠らなければ、その術をはねのけることなど容易い」
「……」
「そしてあの男は、ここにきてからただの一度としてその剣に手をかけようとはしなかった。
およそ警戒心というものを抱いてなかったのじゃろう。でもなければ、あのような場で彼奴が
そなたの手にかかることなどなかったはずじゃ。……さぞや、重い覚悟を秘めていたのじゃろう。
あのときお前の手で命を失ったとしても、それを受け入れるだけの意志はあったようじゃからな」
 ジェシーは手の平に視線を落とした。しなやかな色白の指に、まだ蛙のぬめるような感触が
残っているような気がした。無抵抗に、自分にされるがままになっていた仇の感触。
「それだけは、あのセシルという騎士の唯一確かな光じゃ。奴は自らが犯した罪の重さをよく
わかっておる。ことによると、わしらよりもな。その上で、奴は正面からその重圧と向き合って
生きて来たのだ。わしがあの男に賭けてみようと思ったのも、そこにある。
 ……その点では、そなたのいうように、わしは彼奴を信じておるのかもしれん」

526297:2005/08/21(日) 21:50:31 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0210 4章 2節 試練(30)

 結局ジェシーの言葉を肯定する結果になり、長老は自嘲するように口の端をゆがめた。それが、
どうしてか、ジェシーにはひどく残酷な仕打ちのように映った。
 長老の話し方にはずっと、何かを伝えたがっているような、どこか婉曲な響きがこめられていた
のだが、些か冷静さを欠いていたジェシーには、それがあたかも強者が弱者を弄んでいるように
見えていた。


「……それなら、なぜあの子たちを選んだのです」
 彼女本来の、直情的な闘志を瞳に乗せて、彼女は長老を睨んだ。
「不満かね? 確かにあの二人は幼いが、それを補って余りある才を持っておる。
 わしや、おぬしよりもじゃ。いつまでも街の中におさまっているような器ではない」
「そんなことではありません!」
 白々しい言葉にジェシーは苛立つ。
「あの子たちは……あの子たちのご両親は……ッ」
 あどけない双子の顔がちらつき、言葉に詰まってしまう。
 切なげに視線を彷徨わせるジェシーに目を細めながら、長老は静かに言葉を続けた。
「であるからこそ、『修行をかねている』と申したのだ」
「………どういう意味です?」
「……既に言ったように、あの子らの秘めたる素質は計り知れぬものだ。誇張などではない、
あの二人は間違いなく、わしが今まで見て来た誰よりも有能な魔導士じゃ。彼らが民の先に立ち、
やがてこのミシディアを導くようになるのは、そう遠い未来ではないだろう。
 じゃが、表面上はどうあれ、あの二人の心は未だに両親を失った悲しみで曇っておる。魔道とは
心の道、惑いのないものにしかその道を進むことはできぬ。幼いまま、悲しみを背負ったままに
歩み続ければ、いずれは道を踏み外してしまうじゃろう。そのためにも、過去はあの子ら自身が
決別せねばならぬのだよ」
「無茶です! あの二人はまだ五つの子供なんですよ!?
 そんな重荷を、あの子たちだけに背負わせるおつもりですか!!」
527297:2005/08/21(日) 21:54:38 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0211 4章 2節 試練(31)

 思わず詰め寄るジェシーに、長老はついに怒鳴りつけた。

「まだ分からぬか! お前をあの場に置き、わしがあの男に試練と告げた意味が!!
 あの子らだけではない! これはわしを含め、この国の全ての民に課せられた試練なのじゃ!!
 ジェシーよ! お前とて、変わらねばならぬのだ!」

 先ほどの憤慨の比では無い。
 その猛然たる勢いは、少女の熱情を縮み上がらせるに十分すぎるものであった。
「………」
「わしは間違っていると思うか、ジェシー?」
「………………いいえ、……でも」
 長老は、暇を許さず問いかける。
 彼女にそれに耐える力は残されていなかった。だが、どれほど長老の言葉を理解したところで、
やはり彼女の心はそれを受け入れることは出来なかった。 

「わたしは……あなたのように強くはなれません」

 それだけ、精一杯に絞り出した声を残して、彼女は長老に背を向けた。


「……強いのではない。それが、わしの務めなのだ。……………娘よ」

 父と呼ばれなくなったのはいつの頃からだろうか。記憶に美しく残る、幼い娘の姿が懐かしい。
 だが、当然の結果である。長老はよく自覚していた。娘ひとりの心を解き放つことも出来ない
自分に、父と呼ばれる資格はないということを。
 無力な老人は、しかし彼の愛する人々のために、その弱きを隠し続ける。偽りが、やがては
真の強さへと変わってくれることを望んで。それが淡い望みだと知った上で。
 長老は双瞼を抑え、ひとり暗闇の中で、失ってしまった人々に思いを馳せた。
528297:2005/08/21(日) 21:55:48 ID:plW8TePd
FINAL FANTASY IV #0212 4章 2節 試練(32)

 雲が晴れて、街を月が照らし出した。
 ジェシーはやわらかい月光から隠れるように、軒影にもたれこむ。 

「……なれるわけがない、あなたなんかに…なれるわけが……」

 その懇願を聞き入れる相手はいない。闇に濡れた壁だけが、空しく少女に返事を返した。
 やがて、法衣の袖で涙を拭うと、彼女は再び歩き出した。
 漆黒のローブを身に纏った少女は、やがて夜の黒と一つになって、その姿を消した。


 遠く遥かな東でその影を象る山だけが、全てを知ってなお、ひっそりと佇んでいた。


529297:2005/08/21(日) 21:58:09 ID:plW8TePd
>494氏。
一応、多数派に乗っ取って統一しておきました。
章数等に関しても保管のしやすいように頑張ってください。
でも各文の作者の表示とかはどうするのかな。乙です。
530494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 22:15:12 ID:EpGMkNYz
297氏、乙です。
表記の方ありがとうございます。
そうだ、各文の作者の表示もしないと・・・。
うーん、やっぱり二転三転して申し訳ないですが、節は()内のナンバリングで区切り、それぞれナンバーのページの下部に
Copyright 2005 〜スレ〜氏 All rights reservedと表示するようにします。
531名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 22:21:13 ID:qqOF9ESB
>>297
GJ!!
長老の人間らしさが描かれていてイイ!!
532名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 22:24:19 ID:qqOF9ESB
>>494
でも、前スレでは名無しも何人か書いてなかった?
533494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/21(日) 22:39:34 ID:EpGMkNYz
上の続き
表示方法
・まずFF4編のトップページに各章へのリンクと、章の大体の説明を書き、リンクを張る。
・そしてクリックで章毎のページに移り、ここには節毎のタイトルを書き、リンクを張る。
・節毎のリンクをクリックすると、自動的にその節の文章が始まる(ただし、1ページに表示されるのは(1)のみ。)
・そしてnextをクリックすると次のナンバーの文章が始まり、PREVをクリックすると前のナンバーの文章が始まる。
・ページの下部には>>530の表記をする。
恐らくこれで確定かと。
ナンバー毎に分けるかどうか拘ったのは、自分が余りスクロールが多いのが嫌だからなんです。
まあ適度な量が読みやすくて目にも優しいですし。
>>532
名無しさんの分は名無しと表記することにします。
534名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/22(月) 10:08:32 ID:8VuJqSKR
494氏
大変そうだけど、期待して待ってます。
体に気をつけて適度にがんばってください。
535名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/22(月) 20:06:29 ID:fJ2G+X6a
ただいま494が必死こいてサイトをまとめております。
そのまましばらく、おにぎりのままお待ちください。


.   +   /■\  /■\  /■\  +
      ( ´∀`∩(´∀`∩)( ´∀`)
 +  (( (つ   ノ(つ  丿(つ  つ ))  +
       ヽ  ( ノ ( ヽノ  ) ) )
       (_)し' し(_) (_)_)

    n o w  o n i g i r i n g . . .
536名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/23(火) 23:36:23 ID:qpe+OPto
保守age
537名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 00:20:25 ID:3yX3gpHZ
別にあげなくても落ちないからあげなくてもいいような気がする。
538名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 00:25:03 ID:4GNn1fIB
保管庫待ちきれないんだろう。
つか急に淋しくなったなぁ。
539名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 04:35:04 ID:TDrd6jK0
今までが急ににぎやかだっただけかも。
ちょっとまま絵までは一週間カキコ無いときもあったような気がする。
540名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 11:14:58 ID:0kOVSREi
まま絵ってなんだよ。

とりあえず、保管庫期待下げ
541494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/24(水) 11:23:12 ID:X+ky92D1
ども。494です。
しばらく書き込めていなくてすみません。
実はサイトのデザインで少し悩んでいたんですが、昨日ようやく方向性が見えてきて只今鋭意製作中です。
現在FF1、魔列車の短編が全てと4がプロローグまで、6が全て保管終わってます。
4が第一章まで終了したらサイトうpしようと思うので、宜しくお願いします。
542名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 21:18:40 ID:8DtCL8iN
偉い!頑張ってー!
543名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/25(木) 05:08:35 ID:aPNkEr7e
>>491
亀レスだが、暗黒騎士を倒しても倒さなくても全く同じイベントで進行するから意味ない。


新作マダー?
あと、◆HHOM0Pr/qI氏はいなくなっちゃったのかな・・?
544名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 01:56:43 ID:KBX9lyqi
保守
545297:2005/08/26(金) 14:39:09 ID:FtXrjIMV
ff6 - 16 figaro


 彼が去っていくと、それだけで、部屋を満たしていた優雅な空気はあっという間に
薄らいでしまう。取り残されぽつんと佇んだまま、ようやくティナはエドガーの
言葉をおぼろげに噛み締めた。
 ……そうね。
 普通の女の人なら…その言葉に、きっと何かしらの感情を示すのね。
 でも。
 彼女は小さく目を伏せる。
 私は普通ではない、私は。
 私は、いったい何なんだろう。

「よろしければ、城内をご案内いたしましょうか?」
「え?」
 突然、思考に入り込んでくる控えめな声。いつの間にか、玉座の脇に控えていた衛兵の
片方が側に寄り、すこし頭を屈めてティナの様子をうかがっていた。
「エドガー様はしばらくは戻られません。それまで城内は自由に見せてよいと
言いつかっておりますので、さしつかえなければ」
「…いえ、結構です」
 愛想の無い返事に気を悪くする様子も無く、男はまた元の位置に控える。対照する
位置に立っている衛兵が、からかうように軽い哀れみを含めた笑みを相方に向けた。
 部屋を出ようとして、ふいにティナは立ち止まる。
「……あの…」
「なんでしょうか?」
 つっかえた言葉を押し出すように、唾を飲む。
「…やっぱり……、案内していただけますか」
 二人の衛兵は少し驚いたように顔を見合わせ、けれどすぐに「喜んで」と応じた。
546297:2005/08/26(金) 14:39:40 ID:FtXrjIMV
ff6 - 17 figaro


「砂の上で生きるというのはなかなか難しいものでして…」
「いいえもちろん、利点も多くはありますが」
「先王の代まではいろいろと…」
 城内を巡りながら、案内を申し出た男は丁寧に話をしてくれる。内容には無駄がなく、
どこかその口調も堅苦しく感じられるのは、おそらくもともと寡黙な男なのだろう。
客を預かる兵士として、礼節としてあえて多弁に努めてるのだ。
 だが、ティナの注意は彼の話の内容ではなく、あちらこちらに見える甲冑を纏った
男たちの姿に注がれていた。
 エドガーは、私を兵士と言った。そしてこの人たちも兵士だ。
 だけどどうしてか、違和感を覚えてしまう。
 「兵士」と言う言葉が私に与えるのは、冷たく、恐怖を伴うような印象。
 それがこの人たちとはうまく結びつかない。
 その違和感がして、先ほど王間を出ようとした彼女の足を引き止めたのだった。 
「どうかされましたか?」
「いえ……あの、エドガーという方は…どういう人なのでしょうか?」 
「…エドガー様ですか」
 ぽつりとこぼれた彼女の言葉に、兵士は初めて大きく顔を緩ませた。
「あの方は、素晴らしい人です」
 途端に男は弾けるように語りだした。その表情には、もうさっきまでの生真面目な色は
どこにもなく、身内を自慢するような明朗に満ちている。誇らしげな横顔を見るうちに、
ふいに違和感の正体を掴むことができた。

 そう、この人は…、尊敬するエドガーを、この国を「守る」ためにここにいるんだわ。
 でも私の知っている兵士は、誰かから何かを「奪う」人たちだった。


 私は?
 私はどっちだったの?
547名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 19:20:07 ID:J5K9Knq4
297のバカ!浮気者!

乙。相変わらず目のつけどころが半端ないね
まさか兵士繋がりで話をここまで展開させるとは
548299:2005/08/26(金) 22:27:58 ID:B9zDbLVg
FINAL FANTASY IV #0212 4章 2節 試練(32)

ゾットの塔──悠然とそびえるその塔は地上から見れば苔と蔦に覆われ
既に昔の面影は何処にもない。
だが、内部には無機質な青銅色の壁と床に敷き詰められた特殊な材質のタイルで構成され
現時点では考えられないような機械技術を内包した
ガードロボットが冷徹な目を光らせ徘徊し続けている。
不用意に近づくものは幾多も備え付けられたレーザー砲に一網打尽にされるだろう。
「ゴルベーザ、バロンには帰らないのか?」
「黙って付いてこい」
カインの問いを無視し、ゴルベーザは塔の中枢部への長い回廊を歩く。
後ろに続く竜騎士もしぶしぶと言った感じで後を追う。
先にあったドアがゴルベーザが立つと、まるで波が割れるように横に開く。
「入るぞ」
言い終わらぬ内に暗い部屋へと足を進める。
「おおっ! ゴルベーザか」
レンズの厚い眼鏡をかけ、ぼろぼろの白衣を着た老人がこちらを向く。
その姿はこの機械だらけの風景に異常なほど違和感なく溶け込んでいる。
「待ちくたびれたぞ。こんなへんぴな場所に一人で居続けるのは寂しかったぞ。お……」
ずれた眼鏡を直しながら、カインの方を見る。
「お前がカインか。ゴルベーザ様から話は聞いておる。わしはゴルベーザ様の
ブレイン。ルゲイエじゃ」
549299:2005/08/26(金) 22:30:23 ID:B9zDbLVg
FINAL FANTASY IV #0214 4章 2節 試練(34)

その姿は何処か間の抜けた感じで、とてもゴルベーザが従えてるようには見えなかった。
「ロー……捕らえた女は?」
バロンへと帰路につく際、カインは彼女と一度も合っていない。
ゴルベーザは彼女を別の飛空挺に乗せたのだ。もっともファブール攻撃に出撃した赤い翼は
バロンに帰らずここに来た。とすればローザもここの何処かにいるだろうと思ったのだが。
「あの女か……そこにおるぞ」
部屋の奥、指さす方向にローザはいた。だがその身は鉄の台座に横たわらせ、両腕と四肢を
鎖で縛られていた。
「ゴルベーザ! この仕打ちは!」
その痛ましい姿を見て思わずカインは声を荒げる。
「安心しろ、殺しはせん」
「だが……」
縛られた不自由な体のローザは虚ろな瞳でカインを見つめていた。
「無理に外そうとするなよ。上を見ろ」
ルゲイエの声につられ天井を見上げる。巨大な刃物が獲物を求めるかのように光り輝いている。
「もし外そうとすると、その嬢ちゃんがどうなるかは分かるだろ?
フフッ、そうじゃよ……フフフフッ」
ボサボサな髪を掻きながら、不気味な笑い声を上げる。
先程までの間の抜けた表情は消え、その顔からは狂気すら見て取れた。
「くっ……」
「ところで、土のスカルミリョーネは何処に?」
ゴルベーザがルゲイエに訪ねようとした時……
「こちらに!」
550299:2005/08/26(金) 22:35:58 ID:B9zDbLVg
FINAL FANTASY IV #0215 4章 2節 試練(35)

声と共に、黒い影が床に現れる。
それはあっという間に人の姿をかたどり、ゴルベーザの元へ近づく。
「何用で?」
粗末なローブの中から覗くのはわずかに光る二つの眼だけだ。
そこからは微かな表情というものは伺い知ることはできない。
「あの暗黒騎士の始末をしてこい。奴はパラディンの試練を成そうとしている。
そうなる前にでも……」
「分かりました」
今度は、人の姿から影へと姿を変え、そのまま壁に吸い込まれ消えていく。
「面白くなってきたな、カイン」
「残念だが、奴ではあいつは倒せんよ。奴を葬るのは俺だ!」
「ふふ……その自信どこから来るのかな。だがスカルミリョーネは
アンデットを率いるもの。暗黒剣は通用せんよ」
「それはどうかな。奴の実力を誰よりも知ってるのはこの俺だ。否、俺は奴の全てを知っている。
俺こそが奴の相手に相応しい」
槍を大きく掲げ、カインは高らかに宣言した。
551名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 22:37:08 ID:ocgPn7kG
リアルタイム乙
やっぱ、カインってなんかカワイソス
ここからが見せ場のパラディンですね。
期待してます。

後494さんも待ってます。
がんばって
552299:2005/08/26(金) 22:37:11 ID:B9zDbLVg
FINAL FANTASY IV #0216 4章 2節 試練(36)

「どちらにしろ奴とて四天王の一人、惨めに負ける事などはせんだろう」
「四天王?」
初めて聞くその名にカインは疑問を口にする。
「私が呼び出した魔物達を統べるものたちだ。先程のスカルミリョーネの他に
水のカイナッツオ、風のバルバリシア、火のルビカンテの三人がいる」
「他の奴らは今何処にいる?」
「私の命に従ってそれぞれの場所で役割を果たしている。機会があったらお前にも詳しく
紹介してやろう」
「ああ……」
相づちを打ちつつもカインの頭には部屋の奥にいるローザの事が気がかりであった。
「そうだ、カイン。ファブールへの侵攻はご苦労だった。お前には少し休息をやろう」
「どういう事だ」
「言ったとおりだ、しばらくの間は自由にしておけ。ここでローザの見張りでもするのだな
それと部屋を用意した休みたい時は使うがいい」
「そうか。じゃあ言葉に甘えるとしよう。では……」
そう言った後、そそくさとこの部屋を出て行った。
553名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 22:41:56 ID:B9zDbLVg
>>551
レスありがとうございます。
ゲームと違って
ルゲイエを出しちゃいましたが違和感があったらすいません。

訂正
>>548
#0212 試練(32)でなく、#0213 試練(33)
554名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 22:51:13 ID:ocgPn7kG
割り込んじゃった。
ごめん。
ルゲイエの人を人と思わないキチガイさが出てていいんじゃないですかね。
エッジの両親はこいつに・・・
FF4の中ではかなり憎いキャラですよね
555297:2005/08/26(金) 23:28:46 ID:FtXrjIMV
カインが敬語使わないっていうのは新鮮だなー。
まだ自分の意志を保っているらしいところがやはりカインらしい。

>>547
スマソ、反省してますorz
ティナの心情が難しい。433氏は凄いですね。
556297:2005/08/27(土) 07:11:31 ID:8CF7uOew
>299氏
すいません、すごい無粋な質問なんですが>>552以降は転章しちゃって構いませんか?
この後もローザとゴルベーザのやり取りとかいろいろ続きそうにも見えるので……、
それならそれで299氏が用意されてる流れを壊したくはないですから、すこし控えようと思いまして。
557299:2005/08/27(土) 15:10:39 ID:TgEvtdyn
かまわずにやってください。
この後の展開についてですが、ゾットの部分は
これ以上書かないと思います。
なのでその部分も好きに書いていいですよ。
558名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 01:17:58 ID:IoZITEjN
まとめサイトはどうなったのかな。
559494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/28(日) 01:23:40 ID:du5PY2e/
>>558
こんばんは。494です。
実は4の保管1章まで完成したんですけど、ページのリンクが間違ってて今必死こいて修正やってます(;´Д⊂)
今日中にはアップできるかと思います。
あと一応緊急避難所のリンク張って起きますね。
http://jbbs.livedoor.jp/game/24832/
560名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 01:48:54 ID:zfLuj6nK
オツカレ!ノシ

どうでもいいけどさ、話を書かない人間が新作を当たり前みたいにねだるの、やめない?気持ちはめちゃめちゃわかるんだけどさ、なんか作者の人がどう思うかなって思う。297氏とか、ここの板の人はスゲー普通に対応してるけど、なんか変だよ。
561494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/28(日) 03:33:59 ID:du5PY2e/
こんばんは。
夜分遅くにすみません。
サイトとりあえず完成しました。
ttp://ff-novelize.main.jp
>>501にも書いたんですが、FF4は1章を2節までとし、
3節の光を求めては暫定的に2章1節にすることしました。
宜しくお願いします。
サイトへの意見、要望等ありましたら緊急避難所の方に遠慮なく書き込んでください。
562FFV書き:2005/08/28(日) 04:51:25 ID:IoZITEjN
空が朝日を迎えていた。遠くに見える山と空の境界の色が曖昧になっている。
これから、朝を迎えるのだろうか、夜を迎えるのだろうか、バッツはそんな
ことを自問しながら目を覚ました。
確か――あくまで記憶している限り――最後にある記憶では辺りは暗かった。
今は朝だ、という確信をバッツはもった。
 そして、上半身だけを起こし辺りを見回す。何もない静かな森だった。
辺りは散らかっており、それが自らの疲れを表しているように感じた。
それらを拾い、片付けようと立ち上がる。辺りはひどく歩きづらかったが
すぐになれるだろうと思った。一つの塊がバッツの視界に入りそれが
黄色い鳥だという事に気がついた。
それは、ボコという名前のたいそう大きな鳥で、この旅においてのバッツの
同行者であった。
バッツはボコに声をかけ、ボコは鳥らしいが、体格の通り大きな
声で返した。そして辺りを片付け終わると、朝の食事を取った。
食事のために起こした焚き火はその役目を終えても、バッツとボコの暖となっていた。
しばらくは、その周りで、何もすることがなく時間を過ごした。
その時、辺り一面に轟音が響きあたる。
何事かと思ったバッツとボコはお互いの顔を見つめながら、しばらくは何もしゃべらなかった。
只事ではあるまいとボコも思ったのだろう。
バッツはまとめておいた荷物を手に取ると、いさむようにボコにまたがった。
そして、何秒かの後、ボコが走り出した。
辺りの景色は流れるように消えていき、またすぐに新しい景色が現れ、それら
もすぐに消えていった。
そんなことが続いているうちに水平線から、遠くからでも分かる巨大なふくらみが見えた。
しかし、それはつい最近までその場所にあったとは思えないほど、違和感の大きなものであり、
バッツはそれを隕石と鑑定し、轟音もそれが起こしたものだと結論づけた。
その後もボコに乗ってそれに近づこうとしたが、途中で道が細くなり、
ボコは置いていくこととした。
ボコには心配しないように言っておき、バッツは細い道を下った。


563FFV書き:2005/08/28(日) 04:52:54 ID:IoZITEjN
FFXがないため書いてみました。
続きを書いてくれる人を募集。
564名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 05:17:31 ID:T+yVPcsO
このスレって最初から順番に書かなきゃならないスレ?
ゲーム中のこの場面を文章にしたい、とかはスレ違い?
565名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 09:58:53 ID:HuBugNkP
>>494
とりあえず乙。
今から見に行きます
566名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 10:03:34 ID:3KW126AD
>>560
その気持ちも解るけど、ノベライズスレである以上ある程度の催促は免れないよ
>>561
乙乙乙!背景カコイイな。魔列車編やっぱ良かった
>>563
乙カレー。これでSFC三部作同時進行だな。職人さん来てくれるか不安だが
>>564
全然いいんじゃないか?

ところで、スレ容量やばくないか?そろそろ次スレの季節だと思うが
567名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 20:41:45 ID:zfLuj6nK
>>494お疲れさん!いいのできたな!サイトデザインもいい感じ。こういうのも向こうサイトの掲示板にかくべき?
568494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/08/28(日) 21:11:20 ID:I9Z2QY2O
みなさんありがとうございます。
HPは初心者だったんで、正直今はホッとしてます。
これからも更新頑張っていくので宜しくお願いします!
>>563
5もまとめに追加しますね。
>>567
はい、勿論大歓迎です!
569名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 23:18:31 ID:zZ/bPggb
>>564
いいと思うか?
それは普通、自分のサイトですることだろう?
自分にとって美味しいトコだけとって、書きたくないところは人任せ。
と言うイメージになるだろう。
その謗りに耐えられるなら書けばいい。
もちろん、ゲーム上で語られないところ、言うなればリレーでも
バトンを渡されないような部分でのノベライズを望むなら、
一向にかまわないが。
時間をかけて順に書いてくれている人間がいるのに、
そういった軽薄な意見を出す神経が分からない。

ところで>>494乙!
570297:2005/08/28(日) 23:40:04 ID:MEJLR1i7

 ミシディア大陸の夏は暑い。
 日の長い時間を陽が空に居座り、地に根を張る者たちをじわじわと執拗に炙る。大地は
まるで焼けた鉄板のように熱を帯び、その上に生きる生物を上下からはさみ焦がしてゆく。
 冬には、これが全て裏返る。海流の流れで混ざり合った季節風は冷たい大気と雨を運び、
彼らから全てを奪いさる。食物も、温もりも、そして生きる気力をも。
 だが、この過酷な大地にあって、故郷を追われた人々は懸命に生きようとした。彼らはみな、
自分の家を切実に求めていた。例えどれだけ土が自分たちを拒もうとしているのだとしても、
他に彼らが根を張ることの許される場所などどこにも無かったのだ。
 決して多くは望まない。望めば、代わりに何かを差し出さなければならないから。
 開拓者たちは、辛抱強く、ゆっくりと根を広げていった。その根が大陸全土に伸び広がった
今でも、彼らの性質は失われることはなく、魔導士たちの静かな勤勉性へと受け継がれている。
 だがその彼らですら、決して相容れることの出来ない場所があった。

 試練の山。
 いつしかその山はそう呼ばれていた。
 周囲に広がる広大な森林は、山麓の辺りでぷっつりとその色を断っている。むき出しの岩肌の
斜面には、ところどころに切り立った崖が目立つ。その姿は、あたかも巨大な獣が牙を剥いて
いるようで、およそ山という形容に似つかわしくない。
 長い間、彼には名がなかった。それどころか、多くの人々はそこに山など存在しないかのように
振る舞おうとした。環境の変動の激しいこの地において、常にその姿を変えることなく聳える山は
ひどく不気味に映ったのだろう。彼らはみな、山を恐れていたのだ。人も、植物も、獣たちも。
あるいは魔物たちですら。
 山は何者も受け入れない。うだるような熱射も、凍り付くような強風も、人の安らぎも。
彼が心を許す相手は、死だけ。それが無口な彼の唯一の友人であり、そして彼自身でもあった。
 奇妙なことに、死期を悟った生き物たちは不思議と山に惹かれた。彼らは何かに導かれるように
足を運び、やがて山と一つになっていった。すなわち、二度と戻っては来なかった。

 ある者はこう言う。

「あの山は骨で出来ているのさ。死んでいった連中の骸でな」
571297:2005/08/28(日) 23:41:13 ID:MEJLR1i7
FINAL FANTASY IV #0218 4章 3節 山間(2)
 
 草原と岩肌の境界線にさしかかり、セシルたちは眼前の山を見上げた。真っ青な空を突き抜ける
ようにその体躯を伸ばして、山が悠然と彼らを見下ろしている。
「たっ……けぇー………」
 パロムの口から自然にこぼれた言葉に、二人も言い知れず同調した。その高さたるや、雲一つ
ない晴天にもかかわらず、はるか頭上に位置する頂が、不思議に靄がかかったように薄らいですら
見えてしまうほどだ。以前に登ったホブス山よりも一回りも二回りも大きい。三人はしばしの間、
自然の生み出した脅威に思い思いの敬服を抱いていた。見上げる首が痛くなってくるまで。
 セシルは身を預けていたチョコボを降りて、離してやる。森に入ってすぐにチョコボの群生地を
見つけられたのは幸いだった。
 木立の中に消えていくチョコボを見送りながら、セシルはそこまでの道程を振り返った。

「山までは、獣の足で一日。大人の足でまた二日。子供の足ではたどり着けぬ」
 そう話に聞くように、遠いだけでなく頻繁に魔物のうろつく道中を、しかも子供連れときては、
長い道程になりそうだなと懸念していたセシルであったが、他ならぬ双子がその思惑をひっくり
返してくれた。
 はじめこそ、経験したことのない実戦に戸惑っていた二人であったが、セシルの陰に隠れながら
戦いに身を置く内に、すぐにその頭角を現してきた。一つ戦闘を終えるごとに、一つ新しい魔法を
習得している。その成長ぶりときたら、傍で見ているセシルも呆れ果てるほどであった。
 パロムなどはすっかり戦いの味をしめたらしく、二日目には先陣を切って暴れ回っていた。
そんな弟を諌めるポロムも、自分の成長に興奮気味の様子だった。彼らは自身が秘めていた
可能性に、沸き立っていたのだ。こういう時、その成長は留まるところを知らない。
 ごく稀にこういう子供がいるものだ。成長がまた成長を促し、それこそ天才としか言いようの
ない、怪物のような素養を持った子供が。
 以前に剣を教えた子供の中にも、こんな子がいたっけな。
 そう思うセシル自身も、幼少の折りに周囲から驚嘆の目で見られていたのだが、そこは謙虚な
彼の知るところではなかった。

572297:2005/08/28(日) 23:42:12 ID:MEJLR1i7
FINAL FANTASY IV #0219 4章 3節 山間(3)

 それにしても。セシルは首を傾げる。
 どうして誰に教えられるわけでもなく、次々と新しい魔法を覚えることが出来るのだろうか?
「いいえ、学書で学べることは、一通り長老様から教えていただきましたので」
「………それって、…全ての魔法を覚えてるということ……なのかな?」
 五歳の子供が?
「まだ使うことは出来ませんけど……」
 俯きながらポロムは恥ずかしそうに笑った。言葉を失うセシルを尻目に、向こうではパロムが
また新たな魔法をゴブリンに放っていた。


 まだ山を見上げている二人を眺めながら、セシルは苦笑した。
 いや、まったく、ここにきてはセシルも彼らへの評価を改めざるを得なかった。子守りなど
ではない。双子はもう立派な仲間だった。初めて出会ったとき、彼らの同行を断ろうとしていた
自分が思い出され、つくづくセシルは頭のあがらない思いだった。
 それから、もう一人の仲間に目を落とした。


 道程を軽くしてくれたのは、双子だけではない。
「セシルさん!」
 ふいに上がったポロムの叫び声、続けて、急に辺りが暗くなる。
 見上げると、頭上をはためく巨大な大鳥が彼らに影を落としていた。
「…こんな所にズーがでるのか!?」
 彼が驚くのも無理はなかった。目の前のズーを始めとして、巨大鳥族は本来はるか高空に
生息するものだ。魔の生物である彼らは、生涯その翼を休めることが無いとすら言われ、
こんな低地で見かけることなど、まずあり得ない。これも世界に起きている異変の影響だろうか。

573297:2005/08/28(日) 23:43:04 ID:MEJLR1i7
FINAL FANTASY IV #0220 4章 3節 山間(4)

 とにもかくにも今のセシルには関わりたくない相手だった。以前は魔法具と赤い翼の砲撃で
難なく追い払うことが出来たが、生身ではそうやすやすとはいかないだろう。
 幸いズーはセシルたちに気づいていないらしく、無難にやり過ごせると思ったのだが、
「あんちゃん、オイラに任せな!」
 上達に次ぐ上達で無鉄砲の塊となっていたパロムは、止める間もなく鬼の角を突いていた。
悪戯に刺激された巨鳥は、怒りに燃えた目で小賢しい獲物を睨みつけた。
「おわわわっ!!」
 慌ててパロムはセシルの後ろに引っ込む。当たり前だ。子供の魔法の一発やそこらでなんとか
なるような相手じゃない。諦めて、双子を遠ざけると、セシルは剣を抜いた。
 ズーも相手を定めたらしく、真っすぐにセシルに狙いを付けて飛び込んでくる。ふいに、
嘴を突き出すその体勢が、カインの凄まじい槍撃を思わせた。だが。
(カインと比べれば!)
 セシルは冷静に巨鳥の動きを捉え、その嘴が触れるか触れぬかという間に身を翻し、躱しざまに
斬撃を浴びせた。
(────浅いか!)
 流石に今まで戦ったことの無い類いの相手だけに、間合いを合わせ損ねてしまう。舌打ちをして
すぐさま立ち上がり、セシルは続く猛追を予想して構えた。だが、彼の予期に反して、大きな
震動とともにその場に重い音が響いた。
 見れば地に崩れ落ちたズーが、ギャアギャアとのたうち回っている。翼を叩き付けながら悶え
苦しんでいたズーは、突然、烏賊墨のようなどす黒い液体を吐き出した。おそらくそれは彼の
血液だったのだろうか。ゴポゴポとまるで沸騰したように泡立つ液体は、噴水のように絶え間なく
溢れだしてくる。
 分けもわからぬまま様子を窺っていると、やがて巨鳥はあたりを真っ黒に染めて、息絶えた。
草原に伏せていたパロムとポロムが勝鬨を上げる。
「すげーなあんちゃん!」
「流石ですわ、セシルさん」
「あ……あぁ」
 歓喜する二人に、セシルはぼんやりと答えた。自ら手を下していながら、どうも腑に落ちない。
あの程度で仕留められるような相手だったのだろうか。首を傾げながらも、剣を鞘に納めようと
して、彼は目を疑った。
574297:2005/08/28(日) 23:45:18 ID:MEJLR1i7
FINAL FANTASY IV #0221 4章 3節 山間(5)
 デスブリンガーが光っていた。刀身から黒い邪気が溢れるほどに。暗黒剣を放つために、
セシルが自分の命を剣に注いだ時と同じだ。だが、彼は暗黒の力を込めてはいない。
 ハッとセシルは動かなくなった巨鳥の残骸に目を向けた。緑黄の草生えを染める黒い血の色が、
黒色の刀身と重なる。
(お前の力なのか……?) 
 死をつかさどる刃は、満足げにその色を滲ませた。

 その後も何度かズーと遭遇したが、結果は同じだった。疑問は確信に変わる。やはり、この剣の
為した仕業なのだ。
 つくづく呪われた力だな、と思った。それは彼が暗黒剣を志してから、常に感じ続けていた
ことだ。暗黒騎士という甲冑に身を包み、人々からの冷たい視線を浴びるにつけ、彼はいつも
自身を蔑み、そして暗黒剣を蔑んだ。剣を見つめるとき、彼の視線は必ず悲哀に満ちており、
剣もその視線を吸ってまたその身を黒く染めていった。
 だが今、剣を見下ろすセシルの顔には、ふっと柔らかい笑みが浮かんでいた。 
(……お前にも随分と世話になったんだな)
 長年の友を労うような、そんな安らかな想いが彼の胸に溢れていた。
 そんな気持ちになったのは初めてだった。そうであった自分が、剣に対してひどく恩知らずな
ようにすら思えた。ファブールの最後の夜、ヤンの口にした言葉が耳に響いた。
 彼の言わんとしていたこと、その言葉の先にある意味が、今ではよく分かった。例えどのような
性質の力であろうと、それをどう示すかはその人間次第だ。この力に傷つけられた時も、そして
救われた時も、剣を振るったのは僕自身だった。
 暗黒剣は闇の力。だがそれは、あくまで使うもの自身の闇に過ぎない。  
 そんな当たり前のことが、どうして今までわからなかったのだろう。
 そして、なぜ今になって気づいたのだろうか。
(…不思議だな)
 彼はもう一度、雄大な山を見上げた。


「さあ、行こうか」
 まだ律儀に見上げている二人を促し、セシルは足を踏みだした。
 彼らの先には、伝説の軌跡が敷かれている。
575297:2005/08/28(日) 23:55:57 ID:MEJLR1i7
「山間」と言いつつ山に入ってなかったり。
どうしても「戦闘不能に陥った!」が書きたかったんで・・。
>>299氏どうもです。

>>560
ごめん、反応あると普通に嬉しかったりします(;´ ∀`)
>>561
神。正直もっとしょぼいページを予想してました。かっこよすぎです。
>>562
乙。タイトルも挟んでくれると続けやすいよ。
>>564
その場合は短編扱いになるんじゃない?
>>569
もちつけ つ[茶]
576名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 00:48:47 ID:8DLGZDDo
>>297
GJ。
暗黒の力をただ忌むべきものとして書くのではなく、
それを使う人の心のありようだと書かれているような気がしてカコイイ。

後564の言ってることも同意できるな。やっぱ『リレー』なわけだし。
魔列車みたいに本編と直接は関係ない短編なら有りだとは思うんだけど。
577名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 06:56:48 ID:qYfLQzQG
読み返してて思ったんですけど、既に書き終わってる部分に話を挿入するのはまずいでしょうか。
具体的にいうと、「試練」(36) 以降を少し書きたかったんですけど。
578名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/29(月) 11:07:44 ID:BIsP0c8L
>>577
いいんじゃない。
余り長くならなければ。
579名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 02:41:44 ID:6CuVs8tx
にしても、一年でまだ試練の山か……。
297氏や299氏の創作は面白いけど、ちょっと展開急がしてほしい気もするなあ。
580名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 02:46:59 ID:IyKognFQ
まま。
じっくりいきましょう。
581またバカがでた:2005/08/30(火) 06:57:49 ID:m7sh1X0U
自分でも書いてみてから言えよそういうことは>>579

279、299がいなけりゃこのスレ終わってんぞ?
582名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 18:51:43 ID:jKEFB0no
保守
583名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 19:56:09 ID:P13d1DOX
このスローペースがいい。
584名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 20:00:15 ID:H3+vLW3y
ちょっと前からいばって仕切ってる奴誰?
それはともかく279氏GJ
585名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 20:58:03 ID:Ssiv+WvJ
>>581>>584
297氏だよ
586名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 21:07:41 ID:m7sh1X0U
冷静な突っ込みにワラタ
587名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 22:06:42 ID:H3+vLW3y
いや、つーか>>569>>581のこと言ってたんだけど279氏?
588297:2005/08/31(水) 01:33:43 ID:yL++dTyV
よく分かんないけど3レス投下しますね
589297:2005/08/31(水) 01:34:56 ID:yL++dTyV
FINAL FANTASY IV #0222 4章 3節 山間(6)

 足場の悪い山道を進んでいると、まもなく前方になにやら赤いものが映った。近づいて見ると、
ゆらめいているように見えたそれは巨大な火柱だった。
「あれは?」
「長老様の魔法ですわ」
 ポロムが手短に説明する。
「力なき者が、無闇と山に入り込まないようにと張られた結界です」
「結界、か」
 頷きながらセシルは魔法の火に目を向けた。ごうごうと唸りをあげて燃えさかる炎は、かなりの
距離をとっていても熱を及ぼしてくる。なるほど、壁のように山路を遮っているそれは、まさしく
結界と呼ぶに相応しい代物だ。
「しかし、これじゃ僕たちも……」
「大丈夫ですわ。────パロム、出番よ!」
「わかってるよ! いちいち威張んな!」
 悪態をつくパロムは既に炎の前に進み出ており、ロッドを翳すと、静かに目を閉じた。セシルも
すぐにその意図を察して、ポロムと共に後ろに退がる。パロムが目を見開き、咆哮をあげた。
「ブリザドぉッ!」
 杖の先端の宝玉から勢いよく飛び出た吹雪が、結界の炎に襲いかかる。たちまち地面に
吸い込まれるように火は消えてしまった。
「見たかあんちゃん、ざっとこんなもんさ!」
「パロム!」
 すかさずポカリ、とポロムのげんこつが入る。
「おごり高ぶってはいけないと長老がおっしゃってるでしょ!」
「いてーな!」
「まったく……。さ、それではまいりましょ。セシルさん」
 ニッコリと見上げるポロム。ところが、呼びかけられた方のセシルは、消えた炎の名残を
見つめたまま、ぼうっと立ち尽くしていた。
590297:2005/08/31(水) 01:35:25 ID:yL++dTyV
FINAL FANTASY IV #0223 4章 3節 山間(7)

「セシルさん? 急がないと、また炎が……」
 長老の魔法は、氷の魔法に反応して消えるものの、すぐにまた元に戻る仕組みになっている。
 だが、それも彼の耳にはまったく入っていない様子だった。
「どうか…されましたか?」
 二人の顔に困惑の色が浮かぶ。
 ようやく炎から目を離した彼は、双子の顔をまじまじと見つめた。
「………いや、なんでもないさ。ありがとうパロム。さぁ、先を急ごう」
 キョトンとする二人を尻目に、セシルはまた歩を踏み出し始めた。


 砂利を蹴立てながら山路を進むこと、はや数刻。森を抜けたときには東に佇んでいた陽も、
すっかり空の頂に落ち着き、彼らの足が荒い岩場に慣れだした頃だった。
「あんちゃ〜ん……もうオイラ歩けねえよ」
 ようやく三合目の台地にたどり着いたところで、途中ずっと不平をこぼし通しであったパロムが
とうとう音を上げた。
「バカッ。まだ、半分ぐらいしか、登って……ないじゃ、ないの…!」
 いつものように弟をいさめようとはするものの、ポロムの息も途切れ途切れだ。
 無理もない。ただでさえ険しい道を、魔物を相手にしながら登っているのだし、第一二人とも
まだ五つに過ぎない子供なのだから。むしろよくここまで保っているというべきだろう。
(……それに)
 大きく息を吸い込む。
 麓から感じていたが、この山の空気はどうも特殊なようだ。どういうわけか、温度というものが
ひどく曖昧なのだ。喉を焦がすような暑さ、それでいて、手足の先が痺れるような冷気。おまけに
空気がひどく重苦しく、そよ風ほどの流れもない。呼吸をするのも一苦労なのだ。ちょうど目に
見えない液体の中を歩いているような、そんな奇妙な感覚だった。

 やはり、試練の道とやらは容易ではないらしい。
591297:2005/08/31(水) 01:36:04 ID:yL++dTyV
FINAL FANTASY IV #0224 4章 3節 山間(8)

「だめだ、もう無理。オイラこっから一歩も動かないぞ」
「パロム! 置いてくわよ!」
 また、相変わらずなやり取りを交わしている。セシルは顔をほころばせかけながら、しかし
努めて真面目な風を装った。
「いや、なんだか僕も疲れたよポロム。あそこの登りきったところで少し休まないか?」
「えっ……そ、そうですか。セシルさんがそうおっしゃるなら……」
「ヒャッホー、流石あんちゃん! 話が分かるぜ」
 言うが早いが、へたりこんでいたパロムは飛ぶように起き上がると、いち早く丘の上に向かって
駆け出してゆく。
「動かないって言ったくせに!」と呆れるポロムも、どこか安堵した様子が見える。
「あまり無理をしない方がいいよ」
 そう言いかけて、セシルは慌てて口をつぐんだ。せっかく彼女の気も緩みかけているのに、
そんなことを言えばまた意固地になって「先を急ぐべきです」などと言いだすかもしれない。
 ポロムには、無理をしているというか、どこか背伸びをし過ぎているような嫌いがあることを、
セシルも短い付き合いのうちに学んでいた。街で二人の装備を整えた時にも、大はしゃぎで商品を
漁るパロムに対して、ポロムの方は「私は未熟者ですから」と、頑として受け付けなかった。
 パロムを見習えとは決して言わないが、二人合わせて一人の子供だったら、とても釣り合いの
とれた子だったろうにな。セシルの口元から苦笑いがこぼれる。ポロムを労うように小さな肩を
叩くと、彼らも丘に向かって歩き出した。
 と、さっき飛び出していったばかりのパロムが、今度はなにやら慌てた様子で引き返してきた。

「あんちゃん、誰かいるぜ!」
592299:2005/08/31(水) 14:35:50 ID:rXb6judn
FINAL FANTASY IV #0225 4章 3節 山間(9)

パロムの言葉通り、丘の上には人影が一つ立っていた。
「テラ……」
丘の上の人影−ー老人は確かにテラであった。
テラはダムシアンが落ちた日、唯一の血のつながった愛娘を失った。そしてゴルベーザへの
復讐を誓い、セシル達と快を分かった。以来消息は掴めぬままであったのだが。
「まさかこんなところで会えるとは」
セシルは率直な意見をこぼす。
「何と! セシルか!」
テラの方もまったくの同意見のようであった。
「あなたがテラ様!」
急にポロムが驚いたような声を上げテラの方にやって来る。
「へえ……爺ちゃんがあのテラか……」
パロムも驚いているが、直ぐに納得したのかテラを見ながらうんうんと頷いている。
「二人とも知ってるのか?」
「おうよ……ミシディアでは凄く有名だぜ。賢者テラ。創生期のミシディアを発展へと
導き、封印された古代魔法を解き、それを元に数多くの新しき魔法を開発した人物。今おいら達が使ってる魔法の幾つかも
このじいちゃんが造ったんだぜ」
今だ驚きを隠せずにいるポロムに代わりパロムが説明する。
まるで自分の自慢をするかの様な語り口だ。
593299:2005/08/31(水) 14:37:27 ID:rXb6judn
FINAL FANTASY IV #0226 4章 3節 山間(10)

「へえ……凄いんだな」
「よしてくれ……セシル。それより、お前は何故この山に来たのだ?」
パロムの力説を遮るかのように訪ねる。
「はっ! はい、セシルさんは今からパラディンの試練をうけに来たのです。
それで私とパロムはそのお供をしております。あっ……申し遅れました私はミシディアの白魔導師
のポロムと言います。こっちは弟のパロムです。と言っても双子なんですけど……」
聞かれてもいないのにポロムが次々と一人で話始めた。
まだ完全に緊張がほぐれていないためか、会話は何処かぎこちない。
それでもテラを目前にして、喋っていないと落ち着かないのかさらに続ける。
「ほらっ、パロムちゃんと礼をしなさい」
「分かってるよ」
パロムはしぶしぶと言った感じでそれに従う。
「さっきポロムが紹介したと思うけど、パロムだ。よろしくな爺ちゃん
ちなみに黒魔導師だぜ」
「ちょっと、テラ様とおっしゃい。失礼よ」
パロムに注意するとテラに向き直る。
「でも本当……お会いできて光栄です」
「君たちはミシディアの子達か?」
「そうです。そもそも私達は長老の命令で……」
「あんちゃんの見張……」
横から手が伸びパロムの口を慌てたようにふさいだ。
594299:2005/08/31(水) 14:40:10 ID:rXb6judn
FINAL FANTASY IV #0226 4章 3節 山間(11)

「も、もがっ…」
「ちょと! その…こ…とは…密…って言っ…しょ…」
口をふさいだまま、パロムに強く耳打ちする。
「い、痛いよ! ぱろむ!」
「いいから、黙ってなさいよ!」
「おっ……おい。もうその辺にしといてやれ」
二人のやりとりに見かねたテラが口を挟む。顔からは疲れがよぎって見える。
無理もない、この二人のペースには最初はセシルも戸惑わされた。
「いやだぁ! テラ様、セシルさん。気になさらないで」
「そうかなあ……」
「そうですわ。ははは……ウフフッ」
不自然に笑う様は疑わない方が無理という感じであった。
「そう……長老の命でセシルさんの案内をしていますの」
「元気のいい子供達だな。ところで……」
話題を変えようとしてか、咳払いをし、間を置いてから話し始める。
「リディアは何処に行った? 一緒じゃないのか。それと……」
言い淀んだ。
「ギルバートですか?」
セシルが代わりにその名を口にする。
「ああ……」
「それは……」
話すべきか……少しの間迷ったが、短い期間であるが一緒に旅をしてきた
テラには話すべきだと思い、口を開く。
595299:2005/08/31(水) 14:41:48 ID:rXb6judn
FINAL FANTASY IV #0228 4章 3節 山間(12)

「バロンへ向かう途中リバイアサンに襲われて……」
重い口を開いて出てきたのはその一言だけであった。
「何と!……死におったのか!」
さすがに驚きを隠せず声を荒げる。体はわなわなと震えていた。
「いや……きっと……きっと生きてますよ」
その言葉がまずあり得ない事だというのは自分でも分かっていた。
しかし、例え絶望的な可能性でもセシルは皆が生きていると信じたかった。
例えどんなに空しい行為だとしても……
「ところでテラ。あなたは何故この山に?」
もうこの話を続けたくはないと思い、少し気がかりであった事を訪ねる。
ゴルベーザを倒すのならバロンに向かったのだとばかり思っていたのだが、
何故、バロンより遙か離れたこの場所にいるのだろう。
ひょっとするとこれもまたミシディアの長老の言うように偶然ではなく
運命が引き合った結果なのだろうか。
「実はな……」
軽く聞いたつもりであったが、テラはセシルが予想した以上に険しい顔になった。
「奴程の者を倒すには手持ちの魔法だけでは無理じゃ。
それでこの山に封印された魔法の封印を解きに来たのだ」
一呼吸置いた後、さらに続ける。
「その名は……メテオ」
596名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/31(水) 19:12:07 ID:vjoFCECg
>>297>>299
GJ
そろそろパラディンですね。
てかこれは本になってもおかしく無いレベルだとまとめサイト見ながら思った。
最近古本屋で買った2の小説版より、ずっと面白いし。
597名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/01(木) 12:14:02 ID:UCYivod5
アク禁解除テス
598名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/01(木) 12:15:55 ID:UCYivod5
299、297氏GJ。
ポロムが大人びようと実は無理をしていたという設定はいいね。
あとメテオ解放も楽しみ。
599494 ◆yB8ZhdBc2M :2005/09/02(金) 00:26:44 ID:AqDcbpJM
ども。
297氏、299氏乙です。
順調ですね。
あと297氏行頭の一字下げありがとうございます。
まとめやすくなって助かります。
保管は第二章まで終わりました。
それと前スレのナンバリングが398以降#0077のままで間違っていたので修正しておきました。
ttp://ff-novelize.main.jp/
600名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/02(金) 22:40:03 ID:0QDZwu80
600保守
601名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 07:36:12 ID:CCJEIUwK
ここは、クリスタルクロニクルは駄目ですか?
602名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 07:40:51 ID:vPJ/buyO
いいっすよ別に。
あと次からはメール欄にsageと入力してから書き込んでね
603299:2005/09/03(土) 11:42:35 ID:WurfUEhO
FINAL FANTASY IV #0229 4章 3節 山間(13)

メテオ……
テラの口から発せられたその名には言い表せれぬ様な重みがあった。
まるで、強大な何かがのしかかってくるような感じだ。
「テラ様……まさかメテオを……」
メテオの名を聞いた途端、ポロムの顔は青ざめていた。おまけに体は微弱ながら恐怖に震えている。
「あれだけはおやめ下さい! 下手をすると命まで失いかねません!
それにテラ様はもうお年を召されております……」
話を続けるポロムの口調は腫れ物にでも触るかの様に慎重だ。
「命!」
その会話にただならぬ雰囲気を感じて思わず疑問を口に出す。
「メテオは封印された古代魔法の中でも最高の威力を有すると言われておる
幾多の魔法の謎が解き明かされた現在でもその詳細は全くの謎に包まれておる」
「ですけどメテオの行使には常人離れした知力と体力をかね揃えた
者でないといけません。万が一半端な者が行使しようとするなら、その肉体
はたちまち崩れ去ることでしょう」
テラの言葉を引き継ぐようにポロムが続ける。
「過去に多くのものがメテオを求めた。だが皆そのあまりの強大さに
あるものは挫折し、あるものは命を落としていった。実際にメテオを行使
できた者は歴史に残っているものでは数える程しかおらん」
「それで今、メテオは?」
「数年前、その力を嫌悪したミシディアのもの達によってこの山に
封印された」
「その封印を行ったのが、ミシディアの長老とここに居るテラ様ですの」
ポロムが捕捉を入れるかのように言う。
「そうか……」
「封印の後、テラ様はミシディアを突如去りましたの」
「だが私は今こうして帰ってきた! メテオの封印を
解き放ち、ゴルベーザを倒すのだ!」
604299:2005/09/03(土) 11:44:29 ID:WurfUEhO
「無茶ですよ、おやめ下さい」
「止めないでくれ! 奴は何としてもこの私の手で葬る。
例え、この身が砕け粉々になろうとも!」
ポロムの抗議を弾くテラの瞳には計り知れないような覚悟と
決意に満ちていた。
その気迫に押され、ポロムこれ以上は何も言うことができなかった。
「私はこのまま頂上に向かう。セシル、お前も向かうのなら一緒に
いかぬか」
「分かった……そうしよう」
テラの誘いに相槌を打ちつつも、にわかには信じられない思いでかつての仲間を見やった。
今のテラには昔からは想像も付かないような厳しい雰囲気が感じられたからだ。
元からそこまで穏和な人物ではなかったのだが、今目の前にいるテラは
以前とは明らかに違う雰囲気であった。
憎しみとはこんなにも人を変えてしまうのであろうか。
「ちぇえ、大人って何でこんなに頑固なんだろうな」
今までずっと黙っていたパロムが皮肉混じりの愚痴をこぼした。
「ちょっと、何で止めなかったのよ」
ポロムはそんな軽口を叩く弟を思わず叱咤する。
「ま、爺ちゃんには爺ちゃんなりの事情って奴があるんだろ」
「ちょ……」
急に口ごもるポロム。何か言おうと思ったが、なかなか言葉にならない。
「正直おいらは子供だからな。大人の人間が抱えてる悩みなんて複雑すぎて理解できないよ」
そう言った後、先へと進むテラを追っていった。そんな弟の後ろ姿をポロムは呆然と見ていた。
彼が見えなくなってもしばらく立ちつくしていた。
605299:2005/09/03(土) 11:45:50 ID:WurfUEhO
FINAL FANTASY IV #0230 4章 3節 山間(15)

丘にはセシルとポロムの二人だけが残されていた。
「時々……」
ポロムはゆっくりと話し始めた。
俯きがちの顔からは表情を伺う事はできない。しかし、彼女がどんな表情なのかは予想するのは容易かった。
「あいつのああいう所が羨ましく思えます」
そのまま顔を上げセシルを見やる。顔は泣き出しそうなのを必死に押し殺している。
「なんて言うんでしょうね? 子供じみている感じなんでしょうか。
私にはとても真似できませんわ……でもあんなになれたら楽にはなれるんだろうな……」
「…………」
「すいません。何か愚痴を言ったみたいですわ。何だかお兄さんができたみたいでつい……」
顔を赤め自嘲気味に話す。少しは落ち着いたようだ。
「私、双子でも一応姉ですからね……なんか色々抱えすぎちゃったのかな」
「困ったときは時は遠慮なく僕に相談してくれ」
ため息まじりに喋るポロムを見て、セシルは助けを出すかの様に切り出す。
「え……セシルさん?」
最初、ポロムは何を言われたのか理解できないようであった。
「……ありがとうございます。私達もいきましょう」
深く一礼を終えると、二人は頂上を目指し歩き始めた。
606名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 11:48:05 ID:WurfUEhO
>>604
タイトル入れ忘れ。

FINAL FANTASY IV #0229 4章 3節 山間(14)
607433:2005/09/03(土) 15:14:38 ID:gVSf5fRy
ff6 - 18 bekta

 終わって欲しい一日が終わる時は、大抵この男と行き会う。巡り合わせが悪いのだろう。
 魔導師ケフカ。
「お前。」
 真っ白の顔に、つやのない赤い唇。きつい染料に彩られた眦。無視するのも困難な奇抜な姿。
 闇が宿る灰色の目は、値踏みするように細められている。
 セリスの倦怠感は一気に増した。戦場から離れて、これほど見たくない顔もない。
「…何か」
 回廊は暗く、声はよく響く。
「このところ、シドが何か企んでいるそうじゃないか」
 浮世離れした驕慢な面持ちは、意思の疎通すら疑わしい。相性が悪いのではない。この男と相性がいい人間など一人もいないだろう。早く部屋に戻りたいと思った。
「さて…」
「ふん」
 ケフカは形よく整えた眉を皮肉げに寄せる。涼しげな香水の匂いが風に乗ってきて、それがやけに気に障った。
「まぁ、今日のところは、快勝に免じて見逃してやろう。遠征ご苦労」
 敢えて表情を変えないよう努め、会釈だけして通り過ぎた。

 この男とは相容れない。
 本能がそう告げるが、殺戮を楽しんでいるかいないかの違いだけで、セリスだってケフカと同じだ。人を殺す。
 実際に手を下さなくても、自分の「将軍」という立場は、事実上、虐殺、強姦、略奪、そういったこの世の醜いものを容認している。たとえセリスがそれらを禁じたとしても、なくなりはしないだろう。戦場にモラルはない。
 幾らケフカを嫌悪しようとも、所詮は同じ穴の狢なのだ。
 セリスは、ケフカのブーツの音が背後に遠ざかっていくのを聞きながら、長いため息をついた。
 滴り落ちそうな疲労が全身を充満する。
 自室に向かおうとする足も重い。
 
(消え去ってしまえ。)

 夜を凝縮させたような静謐の中で、何度も繰り返した呪文を唱えた。
608433:2005/09/03(土) 15:16:41 ID:gVSf5fRy
ff6 - 19 bekta

 常勝セリス。
 そう言われるようになってから久しい。弱冠19歳のセリスが現在将軍職に就いているのは、己の天稟ではなく、揺籃期に注入された魔導によるものだった。
 英才教育の果て(帝国はきっとそれを「賜物」と呼ぶのだろうが)に魔導を自制できるようになり、皇帝はその褒美とばかりに将軍職をセリスに与えた。「登りつめる」と呼ぶには、余りにも安直な登用。抜擢と言うには平易な、まるで子供にお菓子を与えるような簡易さであった。

 真紅のベッドに倒れこむ。天蓋が揺れた。ようやく戻った自室で、セリスは脱力する。
 感情はフラットに。
 何重にもプロテクトして。
 躊躇も逡巡も葛藤も黙殺して。
 眠りに落ちていく瞬間は、いつも、節の目立つようになった己の指を見つめる。うつ伏せになった肩に落ちかかる髪が、重たげな月光を反射する。
 
 お菓子に喜ぶ子供でいられればよかった。
 魔導アーマのような機械であれば、何も思い悩む事はなかった。

 窓の外には、高い位置に、満月に少しだけ足りない月。
 満月を過ぎた月。

(常勝将軍などと持て囃されても、その実、自分のあとには「人工的に魔導を注入した人間」など一人も出ていないではないか)

 そう、現存する魔導注入の被験者は、自分とケフカだけなのだ。
 あの、ケフカと。
 セリスは髪の一束を掴み、握る。

 苛立ちを抑える術はなく、只管に月を睨み、己の指を呪った。
 この苛立ちは、やがて欠けていく月のようにいつか消えてくれるだろうか。

 眼を閉じる。
 
 消え去ってしまえ。

 呪うように、祈った。
609433:2005/09/03(土) 15:19:10 ID:gVSf5fRy
ff6 - 20 memory

「…フカ・パラッツォ、聞こえますか?分かりますか」
「ここがどこか分かりますか?」
 薄いグリーンのマスクをしたドクター達が、自分を覗き込んでいる。
 ケフカはゆっくりと首を動かす。後頭部に当たるベッドを硬く感じた。
「名前は言えますか?」
「ケフカ・パラッツォ…、ここは、ベクタの、研究所…」
 唇が乾いていて、少し口をあけづらかった。
「大丈夫そうですね、19時24分、意識スケール…」
 部屋の全ての注意は自分に集中している。しかし、どの顔も、ケフカの反応に緊張がほぐれた。成功だろう。
 まぶしい。
 天井の電灯は強力で、自分は被験者である事をやたらと意識させる。
 ケフカは、やや離れて立つシドに気付き、ゆっくり首を向ける。
 ガストラ帝国で、最も有能で権威を持つドクターであるシドは、腕を組み、いつになく気難しい表情をしていた。
「博士、成功ですか?」
 ほぼ確信しながら問う。思いのほか、声は掠れて小さかったが、届いただろう。シドは軽く頷いた。
「…生命を損なわなかったと言う意味ではな。魔導がうまく注入できているか…、それについては、これからの君次第だろう」
 ケフカは、思わず口許に笑みを上らせた。
「ケフカ、まだ時間はかかるぞ」
 シドがケフカを窘めるように言うので、ケフカは苦笑してみせる。
「分かっています。まだ魔導について何も実感できていないし、どうやら体は随分と疲弊しているようだ。」
 腕を持ち上げてみるが、それすらも億劫だった。
 周囲の視線を感じ、そちらにも顔を向ける。帝国に招聘された屈指の科学者たちだ。
「あとは医療チームの皆さんの腕の見せ所かな?」
「また、プレッシャーをお掛けになる」
 笑い声が部屋を満たす。
 
 この帝国は、魔導で夢を見る。

 これですべてが手に入ると信じていた。
610433:2005/09/03(土) 15:20:48 ID:gVSf5fRy
>>297さん、ありがとうございます。
いつも、297さんの4のお話を、あざやかな筆致だなぁと
拝読していたので、お褒めに預かって大変恐縮です…。
あと、6も書いてくださってて、私は本当に嬉しかったんですが…
また気が向いたら6にも浮気してくださいね。
547さんと同じく、こうつなぐのかーとその斬新さに脱帽でした。
611名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 17:42:14 ID:BxiwWCNC
CCJEIUwKです、602さん指摘ありがとうございました。
CCは明確なストーリーラインというものも無いし、意図的に設定の一部を変改しようと
考えてるのですが、そういう部分はどうなんでしょう。
全体の骨格を保ちつつ細部はオリジナル的にと、そんな流れを考えています。
例えば出発の村を独自の名前にしたり、ゲームには登場しなかった敵対者を出したいと
考えてるのですが、やっぱりFFだけあってファンも多いので自分のイメージを
崩されるのは嫌だ!という人もいると思うのです。
そういう処はどうなのでしょう?
612名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/03(土) 23:59:28 ID:KfIET4z4
>>299
GJ
ポロムの羨望とセシルの優しさが出てていいですね。
細かい話だけど、
『テラの言葉を引き継ぐようにポロムが続ける。 』
逆かな?

てか、見ながら思ってたんだけど、
テラが死んだ後の長老の台詞って、確か、憎しみに身を任せるとは愚かな。
とかいう結構そっけない言葉だったな
613299:2005/09/04(日) 00:58:03 ID:yAVFHhtL
レス有難うございます。
>>602のご指摘の場所は「メテオはー」の部分(テラの言葉)を「ですけど」
の部分(ポロムの言葉)が続けたと言うつもりで書いたのですが
読み返してみると「ですけど」の部分を「過去に」(テラの言葉)が続けたように
とれますね。「続ける」でなく「続けた」にした方が分かりやすかったですね。
とにかく、誤解を招く表現を書いた事をお詫びします。
今後はもと分かりやすい様にしていきたいです。長文失礼しました。
614名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 00:59:35 ID:yAVFHhtL
ナンバーミス
>>602でな>>603です。度々すいません。
615名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 05:05:24 ID:SGN+Qbm3
なんかわからんが433、イイ!

クロニクル書く予定の人さ、いっかい書いてみたら?
ここの住人はわりと寛大だし、そういうふうに気遣える人なら無茶な設定しないと思うんだがどうか。
あんまり個性をだしすぎて、他の書き手さんが入り込む余地のない展開だったら、
前出た意見とおんなじで、自分のサイトとかでやればってなるかもしれないけどね。ここリレーだし。
あと、個人の意見を言いまくって申し訳ないけど、ゲームの自由度高いと、リレーはかなりおもしろくなるよ、きっと。
どこに向かってくか予想つかないから。
ということで俺は書いてみれば?って思う。
616名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 11:53:09 ID:DJphnsR1
>あんまり個性をだしすぎて、他の書き手さんが入り込む余地のない展開だったら、

433にそれを感じる。
FF6スレではまさにそのせいで、住人の指弾を受けたんだが。
617名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 11:58:31 ID:ZnvQQ9LE
>>616
FF6スレってどこ?
618名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 12:16:49 ID:DJphnsR1
FF6をノベライズしようぜ!〜第三章
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1122556897/l50
619名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 12:23:01 ID:DJphnsR1
618で挙げたスレにおいて、
433はセリスとケフカが恋愛関係にあるかのような作品を投稿。
原作の設定年齢では親子に近いほどの年齢差があるとの指摘を受けても、無視。
エドガーはじめメンバーがケフカ打倒を目指して頑張ってるのに、
セリスだけは恋人ケフカを救うために行動している事にしてしまった。
で、皆から指弾を受けた433はこのスレに逃避してきたという訳。
620名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 12:28:55 ID:ZnvQQ9LE
>>619
なるほど。
でも俺もそのスレROMってたけど、そんな非難されてたか?
寧ろタークスとかの方が(ry
それにそっちで書いていた人とは別人かもしれないし、変な決め付けは良くないと思うぞ?
621名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 12:34:41 ID:DJphnsR1
いや>>610を読む限り、同一人物だろう。
433は確かに文章は上手い。心理描写も巧み。
だが、独善的なまでの思い込み設定のせいで、第三者がリレーのバトンを
引き継げなくなってしまったのは事実。
かならずしも原作に忠実である必要はないが、リレー小説としてのルールは
わきまえて欲しいよ。
622名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 13:33:02 ID:Yw7DxNFm
おまいら休日なのに殺伐とするなよ。
とりあえず保管人さんおよび作者陣乙です。

>>611
ゲームで描かれなかった部分を自分で埋めたりするぶんには構わないと思う。
それならみんなやってるし、もちろん>>615曰く、続けやすいようにすべきだと思うけど。
あと>>610のどこで何を判断してるのかはよく知らんが、それにしても他スレの話はなしにしようよ。
そもそも>>618のスレって、こことはまるっきり別物だろ。こっちゃ「真面目」だ。
623名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 14:30:06 ID:NYEBeAo+
433の文章、上手いとは思わない。
心理描写は巧みだというのには同意だが、それを重視しすぎてるせいで、テンポが悪い。
相対的に行動描写がいい加減というか稚拙なせいで、全体としてバランスが悪い。

が、問題としたいのは、433は別スレを過疎化させる原因を作っておきながら、
それを放置したままこちらのスレへと逃避して、のうのうと投稿を続けている事。
624615:2005/09/04(日) 14:57:01 ID:SGN+Qbm3
え、なんか荒れてる・・?
つーか433ってあの過疎の原因の書き手さん?俺も向こうヲチしてたけど・・
文体違うよな・・!?みんなちゃんと読んでて言ってんのか!?
別人だよな!?別人だって言ってくれ!じゃないとイイって言った俺が間抜けだ・・
625名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:00:04 ID:8hOiPEU1
そろそろ500kbに近付いてきたわけだが、
どうも問題ありみたいだね。
スレの主旨と少し違っちゃうけど次スレからは、
かなり真面目にFF(タイトル)をノベライズしてみる。
ってしてしまえば?
433は6以外書くつもり無いみたいだし。
626名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:05:19 ID:uqgXWAqr
え、普通に433うまいと思ったけど…
ていうか、読み手の自分らがあんまり稚拙とか言うと
それこそ過疎の原因になるんじゃないの>>623
しかも、バトンを引き継ぐも何も、FF4だってほぼ297と299の
独壇場ですが何か。(いや書き手さんは好きですよ?>>297>>299)
>>619>>621>>623
あんまり荒らさないで欲しい。
>>618のスレの住人だったから、もう書き手が来ないとかそういうの
たくさんだよ。
とにかく荒らさないで。
627すっごい出るの嫌だけど:2005/09/04(日) 15:07:30 ID:6vmMWrFN
向こうでセリス編書いてたのはおれです。
433氏の名誉の為に。証拠ないけど。
>>619
指摘は最近のことでは?
>>621
それは俺に対して?それなら返す言葉も無いですorz
>>623
それも俺に対して?なら投下した時にそのコメント欲しかった。

過疎化の原因は、ホントその一因だろうなと思います。
でもそれは本スレで言おうよ。
433氏は関係ないから。


ああ、心臓バクバクいってる………死にたい。
628名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:08:15 ID:uqgXWAqr
あ、ごめん、>>625を無視した感じで書き込んだかも。
そうだね、それでもいいかも。
荒れないなら何でもいいよもう。
629626:2005/09/04(日) 15:14:00 ID:uqgXWAqr
うわ、また被ったorz

なんなんだ、今凄い人いるんじゃないの!?(チャットみたいになってるわ)
そうか、あれは>>627あなたでしたか… 確かに証拠ないけどw
でも、私は書いてくれてて(向こうのセリス編ね)、それなりに読んでて面白かった。
ってこんな事も本スレでやれよなw ゴメン。
630名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:18:14 ID:Yw7DxNFm
>>625
すまん、FF(タイトル)ってどういう意味か教えてくれ
631626:2005/09/04(日) 15:24:36 ID:uqgXWAqr
>>630
625じゃないけど…
スレを分散させようって言うことじゃないの?
「FF4をノベライズしてみる」「FF5を…」とか。違うのかね?
632名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:25:27 ID:Yw7DxNFm
やっぱそういうことなのか?
ぜっっっっっっったい過疎って終わるぞ。
633名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:27:36 ID:NYEBeAo+
俺式解釈での作品投下は、リレー小説には不向き。
創作文芸板あたりでスレ立てて、そこでやればいい。
634名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:40:08 ID:vkTegOPf
というか、公式から逸脱した(悪い意味ではなくアレンジのレベルが)
設定の作品の投稿をこの板でやりたいならリレースレじゃなく、
千夜一夜スレとかで一人でやるなら別にいいんじゃない?
自分解釈の是非はともかく、リレー形式だとそれは難しいと
思うんだけど。
>>633
創作文芸に2次の作品は厳しくないですか?
635名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:45:22 ID:ZnvQQ9LE
タイトル分散には俺も反対。
現に最初は盛り上がってた6のスレ、今は下火じゃない。
だからやっぱり今の形式を維持していった方がいいと思う。
ていうか、住人のみんなもいるんだったらこういう時だけじゃなく普段からもっと作者さんに対して感想言っていこうよ。
それがこのスレの向上に繋がる。
あと逸脱逸脱ってみんな言うが、今の所4も6もそれほどしてないと俺は思うんだが、どうだろ?
636名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 15:49:37 ID:5S5ActJr
やっぱ作品がないともめるのかな・・。
俺も逸脱はしてないと思う。というか、「ゲーム中の描写に反する」ような逸脱はしてない。
だいたいわざわざ文章にする以上、多少は作者の俺式解釈が入るもんでしょ。もとがゲームだもん。
むしろ俺なんかはそれを楽しみにしてる部分もあるし。

俺式解釈を0にした見本が、>>434-435だぜ。
637名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 16:01:46 ID:vkTegOPf
自分も今までに投下された分が逸脱しているとは
思ってないんですが荒れてしまったスレの例を
上げられていたので今後投下する際に注意して
もらった方がいいんじゃないかと思って>>634
書いたわけですが。
他の小説スレ見る限り、タイトル分散はやめた方がいいと思います。
638名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 17:02:28 ID:Yw7DxNFm
仕切るようで恐縮だけど、この辺にしとこうよ。
誰が上手い論はともかく、誰の文章が下手みたいな意見は荒れるしさ。

ところで誰もいなけりゃ次スレ立てようと思うんだけど、引き続き
「かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その3」でいいかな?
639名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 17:25:26 ID:uqgXWAqr
>>638 
うん、それでいいのでは?
確かに、スレは分散しないほうがいいかもね。
ていうか、次スレ立ててくれるのかい?
ありがとうございます。よろしくお願いします。
>>635
そうだね、もっと意見言っていったほうが、活性化していくかもね。
次からはそういう気持ちで読ませてもらおうと思った。

荒れてると思ったけど、実際にはあんまり荒れなかったな…
焦って荒らすな荒らすなってうるさくって(626)ゴメン。
なんか、凄い荒れそうな気がしたんだけど、杞憂だったよ。
640名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 17:51:51 ID:Yw7DxNFm
ごめんホスト規制喰らいました……誰か代わりお願いしますorz

一応作ったテンプレ↓


 
 FFを「かなり真面目に」ノベライズしていくスレです。


□現在の進行状況
・FF4 試練の山でテラと再会まで
・FF5 隕石の落ちた場所に着いてボコを降りるまで
・FF6 ベクタにて、ケフカの過去の場面まで(本筋はティナがフィガロ城を歩き回るところまで)

□過去スレ
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1091624036
http://2ch.pop.tc/log/05/08/18/1230/1091624036.html(dat落ち保管所より)
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1115452328

□参考
セリフ集
http://members.at.infoseek.co.jp/nayuka_aaaa/wp/ff.html
まとめサイト
http://ff-novelize.main.jp/


641名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 19:43:50 ID:ziKOwvll
よし、スレ立てバトンもらった行ってくる
642名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 19:49:36 ID:ziKOwvll
かなり真面目にFFをノベライズしてみる。その3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1125830783/l50

はいできました〜
引き続き楽しみにしています。
643名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 19:55:23 ID:Yw7DxNFm
乙。助かったよ。

初代スレのコンセプトも貼っといた方が良いかも?
644名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 20:09:14 ID:Txyt2dMP
こっちに乙って書いたほうがいいよね?
ってことで新スレ1乙
645名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 20:13:26 ID:XnmfkHIK
埋め立てレス。
休日潰してFF4を文庫っぽく印刷、編集してみたら168ページもいったよ。
完成したらこりゃ確実に上下巻必要だな。
しかしこれやって、通して読んだだけで一日終わっちまったよw
646名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 21:53:10 ID:uqgXWAqr
乙乙乙〜。
647名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 22:26:37 ID:xVfDDroV
>>645
すごい
写真upしてみてよ
648名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/05(月) 16:05:51 ID:RVfnK1Gz
新スレ新作乙ー。
ついに四天王初戦か。ハラハラドキドキ。

前スレちょっと荒れ気味だったけど、けっこう人がいることが分かって嬉しかったり。
あと前スレ>>645は写真公開しろ。
649名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/05(月) 16:06:30 ID:RVfnK1Gz
うは……まちがえたorz
650名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/08(木) 16:40:20 ID:xNI0VwGb
埋め立てついでに雑談議題提起。

おまいらはシルフの洞窟とか幻獣界とかオーディンとかいつ行った?
俺はいっつも封印の洞窟の後にまとめて済ませる。飛空艇改造直後だとレベルキツいんで。

まぁ、かなり先の話だけど、職人の人がその辺書く時に参考になるかなー……とか思ったわけだが。
651名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/08(木) 19:21:02 ID:8t5HZnOW
幻獣界は行ける様になったら後先考えず突っ込んでた小学生の頃
竜を召喚するおっさんから必死に逃げてた思い出がある
宿屋は金高けーしアスラ強えーしで結局リフレク覚え兼金稼ぎに外に戻って敵狩ってたな
652名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/08(木) 20:22:47 ID:uPaRePnA
宿に泊まるよりコテージ買う方が安かったりするあれか
653名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 20:48:32 ID:H1v3tVZ9
バトルスピード1な俺は月行った後にようやくオーディン倒せたよ。
まったく4はスピード1にすると難易度跳ね上がるな。
654名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/11(日) 17:58:07 ID:vjLrACTc
655名前が無い@ただの名無しのようだ
現スレと前スレが並んでてワラタ