幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。
■■ 注意事項 ■■
*職人編*
エロパロ板のスレですが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
縦乙
今スレも職人の方々に感謝しながら良き作品に期待
6 :
名無しさん@ピンキー:2014/02/08(土) 23:40:45.74 ID:1ANC2nYe
hoshu
最近保管庫って全然更新されてないのな
俺もやり方とか知らんから出来ないけど
即死回避支援
9 :
Peachの人:2014/02/17(月) 02:13:37.47 ID:UJUMWCdc
新スレ投下一番乗り。
「Like a sister」久々に投下させていただきます。
九月の終わり、少しだけ肌寒くなってきた頃。
俺はかつて通っていた高校の正門の前にいた。
「懐かしきかな我が母校、ってとこか……」
少し気取った風に言ってみるが、実のところ俺はまだ卒業して半年くらいしか経っていない。そうそう感慨深い気分にはならないものだ。
待ちあわせ場所の正門にまだ待ち人はいないようだった。周囲では一般来場の人たちが派手に飾り付けられたゲートをワクワクとした表情で通過していく。
今日は一年に一度、外部の人間も招待して騒ぐ学生の最大のイベント、学園祭の日だった。
話は二か月前に遡る。あの「デート」の日からだと一か月後という事になるか。
カレンダーが七月になり、季節は完全に夏に入っていた。
大学の定期試験を終えて夏休みになった俺は、ある日美久からいきなり声をかけられた。
「兄さん、今日って予定空いてる?」
ちなみに今日の美久の衣装は浴衣だった。それだけなら特に問題はないが、何故かイメクラかといいたくなる超ミニの浴衣だ。
こいつはこんな風に外出しない日でも普通に痴女衣装を着ている。せめて浴衣だからとノーパンじゃない事を祈るばかりだ。
「ああ、特になんもないぞ」
友人と予定がある訳でもないし、バイトのシフトが入っている訳でもない。まあ長期休暇の大学生にはままある話だ。
「じゃあ、お願いがあるんだけど」
「期末の勉強見てくれってか……?」
半ば呆れた声で美久の言いかけた言葉を先回りする。時期的に高校は一学期末試験の直前だ。『お願い』の中身を予想するのはたやすい。
美久に試験の事で泣きつかれるのは初めてではない。妹は決して頭が悪い訳ではないのだが、根本的に勉強が大嫌いなので大体成績はいつも中の中から下程度だ。
「まあ別にいいけどさ……」
「ありがと〜兄さん。愛してるわ」
「はいはい」
軽くて全く実感の籠らない愛の言葉を適当にあしらいながら、教材を持って美久の部屋に移動する。
「……?」
部屋に入った俺は軽く違和感を持った。美久の部屋にしては普段より妙に片付いているのだ。
「なあ美久、なんか部屋きれいじゃ……」
バタン、ガチャ――。
「待て、何故鍵をかける!?」
背後で突然ドアが施錠された音が聞こえた。驚いて振り向くと、美久は悪戯っぽい笑みを浮かべて立っている。
「兄さん、あっちあっち」
「?」
美久が指差す方を見るとそこには部屋の陰に小柄な少女が隠れるように佇んでいた。
「ど、どうも……」
やや緊張した面持ちでぺこりと頭を下げてくる少女は、間違いなくこの前俺がフッた娘である。
「葵ちゃん……」
「今日は一緒に試験勉強する予定だったのよ。別にいいわよね、に・い・さ・ん?ただ勉強するだけなんだし」
しれっと言う美久だったが、それなら鍵をかける必要ないだろう。明らかに俺を逃がさない、という意思が見えていた。
またハメられた……。葵も美久も諦めていないというのは本当のようだ。
俺はため息を一つついて、観念したように首を振った。
「わかったよ……試験勉強『だけ』だしな。……そういう訳だから、よろしく」
「あ、は、はい……よろしくお願いします」
葵は恐縮したように再び頭を下げてくる。その声はいつもよりさらに弱々しく、遠慮がちに響いた。
無理もない。ついこの前、フッたフラレたのやり取りをした間柄なのだ。俺の方も声をかける時にどうしても何とも言えない気まずさが湧いてくる。
「それじゃ〜さっさとやっちゃいましょ」
俺と葵の間の微妙な緊張感を無視するように、美久が呑気な声を上げた。
いつまでも不毛な気の遣い合いをしていてもしょうがない。俺は気を取り直し、教材を机に並べ始める。
「んじゃ、始めるか。えっと、美久はどうせ数学だろ?葵ちゃんは……」
「あ……私も数学と、あと古文も……」
「あ〜古文なら私もお願い。それから現国と世界史と英語と……」
「それ全部じゃねーか!」
手伝わせるどころか丸投げする気満々の美久にツッコミを入れると、葵が小さくクスリと笑う。それで少しだけ空気がほぐれ、気まずさが和らいだようだった。
(ひょっとしてわざと……?)
美久の方をチラリと見るが、妹の表情からはその真意を量れない。
口に出せばきっと「何の事?」という風にとぼけるだろうが、それでも今この場の空気を和ませてくれた事に俺はこっそり心の中でだけ感謝した。
「んで、ここはIを代入して……」
「あ、なるほど……わかりました」
「ねー兄さん、こっちは〜?」
「ああ、これはこの公式を使って……」
とりあえず勉強会はつつがなく進んでいた。始まってから二時間程度しか経ってないが、数学の試験範囲はもうそろそろ網羅できそうだ。
もちろん本当に重要な部分をさくっと教えているだけだし、もとより二人の理解力が優れている事が何よりの理由だが、この分なら今日一日で主要な科目を全部教えられるかもしれない。
二人が問題を解き始めたので手持ち無沙汰になった俺は、ふと葵の方に目を向けた。
(そういえばあの日以来こんな間近で葵ちゃんの顔見る事無かったな……)
そんな事を思いながらぼんやりと葵を眺める。
くりんとした大きな目や小さめな鼻梁、唇は綺麗な薄紅色で成熟しきっていないのが見てとれる。
(今更だけど……ホントに可愛くなったよな……)
改めてそう感じる。保護対象に抱くような「微笑ましい可愛さ」ではなく年下の美少女が持つ「整った可愛さ」とでも言うべきものを葵は確かに持っている。
こんな事を考えるのという事は、やはり俺は多少なりとも葵を意識しているという事なのだろうか。
「あ、あの……いっくん?」
「え?あ……な、何?」
名前を呼ばれ、我に返った。葵が顔を赤くしてこちらをチラチラ見ている。いつの間にか思考に耽っていたらしい。
「あの……その、少し……視線が、恥ずかしいというか……」
「兄さん、ガン見し過ぎ」
言いづらそうな葵にかわり美久がズバリと指摘してくる。失礼にも正面から女性の顔をマジマジと眺めていたようだ。
気恥ずかしくなった俺は立ち上がると「お茶でも入れてくる」といって部屋を退散した。
(調子狂うな……)
どうやら認めなくてはならない。あの日以降、やはり俺は葵を女性として意識し始めているようだった。
ふと時計に目をやると、もう七時を回っていた。いくら夏場で日が長いとはいえ、葵をあまり遅くまで居させるのもまずいだろう。
「今日はこれぐらいにしとこうか」
俺の言葉に二人は気が抜けたように息を吐いた。
「あー……」
「つ、疲れたね……」
終わった途端に疲れが出たのか、崩れ落ちるように脱力している。
「はは、お疲れさん。ま、結局試験範囲全部はできなかったけど、後はテストまで自分たちの勉強で何とかなるだろ」
「いや〜こんだけやりゃ十分でしょ」
美久がだらけきった様子でそんな事を言うので俺と葵は慌ててたしなめる。
「み、美久ちゃん……いくらなんでもそれは……」
「そうだぞ、美久。毎回人に教わっておいてそりゃないだろ」
「む……、ふぅん……」
それを聞いた美久は一瞬不満そうに口を尖らせたが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「……じゃあさ兄さん、勝負してみる?」
「勝負だぁ?」
挑発的な視線を向けてくる美久に対し、俺は怪訝な顔を返す。いきなり何言い出すんだこいつ?
「今度の試験、私の成績が上がったら勝ち。ダメなら兄さんの勝ち。どう?簡単でしょ?もちろん負けた方は何でもひとつ言う事を聞くって罰ゲーム付きで」
「…………」
美久の持ちかけてきた『勝負』に俺は少しだけ考えて答えた。
正直に言うとこの手の賭けみたいなものが俺は結構嫌いじゃない。今はそうでもないが、高一くらいの頃は友達と昼飯代とかくだらない事で変な勝負をしていたものだ。
だが――。
「……条件がある」
「聞こうじゃない」
尊大な態度で美久が続きを促してくる。
あれ?なんか俺がお願いして条件つけさせて貰っているみたいになってないか?いつの間にか上の立場にいるように話している美久に戦慄を覚える。
「……お前確か前回の中間で200人中100位くらいだったよな?そっから30位上げてみろ。そしたらお前の勝ちでいい。達成できなくても前回より下がらない限りは俺の勝ちじゃなくドローだ」
「……っ!随分ハードな条件つけてきたわね……」
「でないと俺のリスクが高すぎるからな」
条件の厳しさにひるむ美久に俺は譲る気はないという態度を見せる。
負けた時のペナルティがこの変態女の言う事を聞く事なんて確実にろくでもない事になるに決まっている。
例えば――美久の自慢の痴女衣装を俺に着せるとか、あるいはそういう衣装を買いに行かされるとか、そういう斜め上の方向の事をやらされると思う。
「ま、いいわ。その条件でやりましょ」
意外な程あっさりと美久は条件を飲んだ。あわよくば撤回してくれる事を期待していたのだが、何故か妙にやる気だ。
「じゃあ葵、頑張りましょうね。必ず兄さんの鼻をあかしてやるのよ」
「え!? わ、私!?」
「おい待て!葵ちゃんもやるのか!?」
美久がしれっとした口調で当たり前のように葵を激励する。
いきなり話を振られた葵といきなり参加者を増やされた俺が、揃って困惑気味にツッコミを入れた。
「当然。葵も今日一日兄さんに勉強教えてもらったでしょ、条件は同じじゃない。仲間外れは良くないわ」
いや、そんな条件があった事も今聞いたんだが……。
一方で急に当事者にされた葵もまた戸惑った様子で、遠慮がちに口を開いた。
「美久ちゃん……わ、私は……その、いいよ……」
「いいから乗っておきなさいって。この男を好き放題に出来るチャンスよ」
「す、好き放題って……!」
何を想像したのか、真っ赤になって黙り込む葵を見て俺は推測する。
どうやらこの『勝負』は美久の仕込みという訳ではなく、葵にとっても想定外の事らしい。
元々難しい条件を付けている上に今の葵の様子からするとあまり乗り気でもなさそうだ。ならばこのまま事態がこじれて変に美久がゴネだしても嫌だし参加を認めてしまうのも手だ。
それに葵なら万が一でもそうそう無理なお願いはしてこないだろうか。
「大体葵は前回60位くらいだから順位を30上げるなんて相当大変なのよ?」
この一言が決まりだった。
葵は美久より成績が良さそうだったが、100位から30上げるのと60位から30上げるのでは話が違いすぎる。
達成できないのでは参加してようがなんだろうが構わない。
「わかった。それなら葵ちゃんも参加でいいよ」
「え……」
「決まりね。頑張りましょ、葵」
「う、うん……」
得意気に葵を励ます美久と不安げに頷く葵。
俺としてはまず条件を達成できないだろうという思いから葵の事はほとんど気にせず、万が一にも美久が達成してしまった時にどうなるのかばかりが気にしていた。
そして二週間後――。
「65位よ」
「あの……28位、です……」
「………………馬鹿な」
がっくりと項垂れる俺の姿がそこにあった。まさか二人とも条件達成するとは……。
「じゃあ兄さん、約束通り……」
「ぐっ……!」
思わずくぐもったうめき声が漏れた。背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
「――って言っても実は私まだ罰ゲームの内容決めてないのよね、折角だから何やらせるか色々迷っちゃって。だから葵、決まってたらお先にどうぞ」
「え?えっと、じゃあ……」
意外な美久の言葉に一瞬拍子抜けするも、すぐにまた緊張感が走った。
葵は葵で何を要求してくるのか読めない。よもやこの罰ゲームにかこつけて「付き合ってください」などと言ってはこないと思うが……。
などと身構える俺に対し、葵は躊躇いながら答えた。
「九月の……私たちの、学園祭……来てください。それで……その、い、一緒に回ってください……」
そんな訳で俺は半年前に卒業した高校を訪れる事になった。
折角の権利をこんな事に使ってしまっていいのだろうか、と他人事ながら考えたが、もしストレートに学園祭に来て欲しいと言われたら、果たして今の俺は素直に来ただろうか、とも思った。ひょっとしたら何か理由をつけて断っていたかも知れない。
到着した事を葵にメールで知らせると「すぐに行きます」と返信が来た。
ちなみに今日は美久は一緒に回らない事になっている。一応理由を問うたが「野暮言わないでよ兄さん」とだけ返されて終わりだった。
つまるところ今日は二人きりである。学園祭デートという訳だ。
(……なんか、緊張してきたな)
なぜだか落ち着かない気分になり、俺はそわそわと身を捩り始める。葵と二人で会うというだけでこんなに身構えるのは初めてだ。
「お待たせしました……」
「おぉ!?」
いきなり後ろから声をかけられ、思わずびくりと飛び上がる。
見れば制服姿の葵がかしこまったように立っていた。走って迎えに来てくれたのか、わずかに息を切らしている。
「や、やあ、葵ちゃん……」
「ど、どうも……」
とりあえず内心の動揺を隠してぎこちなく挨拶すると、葵もおずおずと返してきた。
「いっくん、あの……今日は、来てくれてありがとう……」
「うん、こちらこそ……お招きありがとう」
相変わらず控えめな笑顔で出迎えてくれる葵。対して俺もまた少しぎこちない感じで返事をする。
未だフッたフラレたからの気まずさを引きずっている、という訳ではない。どちらかというとこれは緊張だ。前回のデートがあんな風に終わった事をどうしても意識してしまう。
なんとなく気まずい空気のまま、互いに次の言葉が続かず黙り込んでしまった。
しかしデカい男とちっこい女子が校門の前で向かい合ったまま固まっているという状況はどうにも周りの目を引く。チラチラと見られているのに気付いた俺たちはとりあえず移動しなくてはと思い立った。
「んじゃ、まあ……行こっか」
「はい」
二人で緊張をうやむやにするように笑いながら、どちらからともなく校舎に向けて歩き出した。
母校という見慣れた場所の筈だったが、学園祭という特殊なイベントのためか半年も経つと忘れてしまうものなのか、俺は新鮮なものを見る気持ちで校舎内を歩いていた。
まあ恐らく半分以上は隣にいる葵を意識しすぎないように無意識に外に目を向けているのだろうが。
出し物としては定番のお化け屋敷や人のあまり寄り付かない退屈な展示、教室を丸ごと使ったカフェのほかに、たこ焼きやクレープ等の屋台の模擬店もあった。
「何か、食べよっか?」
「……そうですね」
空気を変えるきっかけにと俺が切り出すと、葵も少しホッとした様子で頷いてくる。
とりあえず葵をその場に残し、一番手前にあった焼きそばの屋台まで小走りで近づく。二人分の注文をしてから品物を受け取り、戻ってきて葵に片方を手渡した。
「はいコレ」
「ありがとうございます。…………あれ?いっくん、これ……」
微笑みながら礼を言う葵だが、すぐに怪訝な顔を作る。
手にした焼きそばのパックを俺のものと見比べながら、不思議そうに尋ねてきた
「いっくんの方にだけ、紅ショウガが……」
「え?だって……」
茶色い麺が詰まったパックの中で葵のものだけ紅い彩りが無い。その指摘に俺は当然のように、というか殆ど意識せず答えていた。
「苦手だったろ?紅ショウガ」
「あ…………」
葵が小さく声を上げる。その顔は微かに驚愕の成分を含ませていた。
だがそれも一瞬の事で、すぐに葵はその表情を曇らせる。
「いっくんは……なんて言うか、よく気が付くのに変なところ気が利かないというか……」
「へ?」
ぼそりと呟かれる葵の言葉。その表情は曇り顔を混ぜたような苦笑いを浮かべている。
俺は何か変な事を言ったかと首を傾げ、少しの間考え込む。
よく気が付くのに気が利かない、という葵の言葉を頭の中で反芻し、「あっ」と小さく声を上げた。ようやく遅まきながら気付いたのだ。
(紅ショウガ……!)
焼きそばの屋台で注文した時、葵の方だけ紅ショウガを抜いてもらっていた。
葵は小さな頃、紅ショウガが嫌いだったからだ。頭のどこかでそれを覚えていた俺は無意識にそんな注文をしていた。
それだけなら何気ない、親しい仲のちょっとした気遣いだ。
だけどこの前のデートの時、いや、正確には葵が告白してきた時、葵は俺のそういう気遣いするところが好きだと言ってくれた。
それなのに俺は彼女の想いを踏みにじっている。
自分をフッた相手に、その好きになった部分を改めて見せつけられる。まるで生殺しの拷問だ。
葵の表情が悲痛なものではなく、苦笑いなのはその複雑な想いの為か。
「ご、ごめ……」
反射的に謝ろうとしてその言葉を飲み込んだ。謝る、というのは何か違う。
俺の方に悪意はなく純粋に善意でやった事だし、ならば葵が嫌な思いをしたかというと、一概にそういう訳でもない。むしろ嬉しいからこそ複雑なのだろう。
だから俺はどう返せばいいかわからず、そのまま黙り込んでしまった。
「…………」
「い、いただきますね……」
重い沈黙を払拭するように無理に笑いながら葵が焼きそばを食べ始める。仕方なく俺も後に続いて焼きそばのパックを開けた。
麺をもそもそ頬張りながら、内心俺は頭を抱えていた。
(どうにも上手くいかないな……)
なんとなくさっきまで意識していた、三か月前の葵の告白してきた時を思い出させる気まずさだ。
しかもそれをなんとか取り除こうとしていた矢先に俺の行動が裏目に出てしまった。
(勉強会の時はこんなじゃなかったんだけどなあ……)
デートの日以来葵と会う事は殆どなかったが、少なくとも二か月前の試験勉強の時はこんなにも会話が気まずくなる事はなかった。
(いや……そうか、あの時は美久がいたから……)
今にして思えば、美久が緊張感をほぐすように立ち回って会話をフォローしてくれていたのだろう。
そう思うと普段はウザい妹だが、身勝手にも今だけここにいて欲しいと思った。
それでもその後、双方が気を遣い合うような会話を経て、何とか重苦しい雰囲気は切り抜ける事ができた。
俺が来場して二時間程経った頃には普通に会話できるようになり、色々な出し物を楽しむ余裕も出てきて、すっかり学園祭デートの様相を呈していた。
そうして次は何を見ようか、と考えながら歩いていた俺は、肝心な事を聞いてない事に気付いて横を歩く葵に尋ねてみる。
「そういや葵ちゃんのとこは何やるんだっけ」
「劇です。クラス全員参加の演劇を」
俺の質問に葵が答え、続けて演目を口にする。
俺でも知っている、某ネズミの王国の会社が映画にした事もある、砂漠の国の魔法のランプの物語だった。
葵の様子が心なしか得意気な事から、なんとなく葵がその劇を俺に見てもらいたいのだと推測する。
ふと軽い悪戯心から俺は自分でも思ってもいない事を口にしてみた。
「ひょっとして、葵ちゃんが王女役……とか?」
「え!? と、とんでもないです!わ、私なんか……!そ、それに、王女様役は美久ちゃんですし……」
予想通りというか、葵は慌てて首を振って否定する。
葵だって顔は可愛いのだから、そこまで必死に否定しなくてもいいと思うが……。
まあ、主役やるタイプではないよな。単に気弱なだけの娘じゃないというのは最近思い知ったが、それでも基本的に好んで前に出るタイプという訳でもない。
「あ、でも……劇には出るんです。王女様の侍女役ですけど……」
「へえ……」
また少し驚かされる。裏方の方が性に合っていると思ったが、役者の方に回るとは意外だった。
と、そこまで考えて、俺は葵の真意に気付いた。
「んじゃ、じっくり見させてもらうよ。葵ちゃんの演技」
「あ……は、はい……頑張ります……!」
葵が少し恥ずかしげに、それでも嬉しそうに微笑んだ。
つまるところ、これは葵なりのアプローチなのだろう。勇気を出して舞台に立った自分を見て欲しい、といったところか。
可愛らしいアピールだと思った。が、その反面それに気付いて楽しみにするような素振りを見せるのは、またしても彼女に気を遣っている事にならないだろうか、という考えが頭を掠める。
(いや、考え過ぎか……)
葵が劇に出るという事自体は意外だし、楽しみなのだから、それを素直に楽しめばいい。
そもそもそんな事を気にしていたらまともに話すことすら難しくなってしまう。
「何時からやるの?」
「一時から講堂で」
時刻を確認すると十二時十分前。後一時間ほどだ。
とするとそろそろ葵も準備なり始めなくてはいけない時間ではないだろうか。
そう考えていたその時――。
「桐嶋さん!」
突然呼びかけられて葵が動きを止める。見れば廊下の向こう側に声を発したと思しき葵の知り合いらしい女生徒がいた。俺たちがそちらに顔を向けると慌てた様子で駆け寄ってくる。
「どうかしたの?」
葵が尋ねると、走ってきた女生徒は荒く息つきながら答えた。
「さっき丸山君が自分のクラスのクレープ屋の方に出たんだけど」
「う、うん……」
「それで、鉄板に思い切り手ついてやけどしちゃったみたいなの……」
「ええっ!? だ、大丈夫なの……!?」
「うん、救急車で運ばれていったけど、特にひどい怪我って訳でもないみたい」
「そう。よかった……」
ほっと胸をなでおろす葵。ここらへん、彼女らしい優しさだと思う。
「でも……あの、劇の方が……」
「あっ!そっか……どうしよ……」
女生徒の言葉に葵はハッと顔を曇らせる。
聞けば葵達のクラスでやる劇のエンディングを吹奏楽部が演奏してくれる予定で、その丸山君とやらはそこの所属だったそうだ。
「…………」
葵とその女生徒は無言で困ったように顔を突き合わせている。
もちろん音楽は音楽であって実際には演技そのものとは関係ないかも知れない。だが、その音楽も込みで今まで練習してきた以上、欠ければ劇全体の出来に満足がいかなくなるのも確かだ。
直前に葵の意気込みを知っただけに、今の葵の落胆も痛いようにわかる。
「その、丸山君の代わりになる人っていないのかな」
「うーん……吹奏楽部も人いないから。今度は他のパートが足らなくなるんじゃ……」
「そっか……丸山君のパートって何だっけ」
「えーと、確か……『サックス』」
(……!)
会話の中の何気なく出てきた単語に、俺は聞き逃す事なく反応していた。
葵たちがやるのは世界的に有名な映画にもなった話で、音楽を嗜む身としてはそれに使われている楽曲もある程度知っているものばかりだ。
思わず葵の顔を見る。困り果てたように眉根を寄せるその表情に俺は微かな見覚えがあった。昔、三人で遊んでいた頃、葵がよく浮かべていたものだ。
美久に無茶振りされた時、遊んでいて暗くなってしまった時、遠出して迷子になってしまった時――。葵が俺に泣きついて、俺が葵を助けてやる時によくこんな顔をしていた。
思い立った瞬間、何かを考える暇もなく、口から勝手に言葉を発していた。
「あのさ、良かったらその代役、俺にやらせてもらえないか」
「え?」
「……いっくん?」
葵と女生徒が揃って目を丸くして、こちらを見返してきた。葵は訳がわからない、女生徒は誰この人?といった目で。
俺は葵にではなく女生徒に向けてその先を続けた。
「俺、去年卒業したOBなんだけど、サックスできるんだ。多分君らの劇でやる曲も吹ける。吹奏楽部にいた訳じゃないけど今の吹奏楽部にも知ってる奴いるし、頼めばOKしてくれると思うんだ」
「い、いっくん……!?」
「ホ、ホントですか!? わかりました、すぐクラスのみんなと吹奏楽部に確認取ってきますから!」
女生徒は俺の言葉にすぐ食いつくと、戸惑う葵を余所に、興奮した様子で走り去って行ってしまった。
残された葵が、戸惑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「いっくん、どうして……?」
「ゴメン、余計な事かも知れない。でも、俺も葵ちゃんの劇が成功するところ見たいんだ。それに……葵ちゃんの困ってる顔見たら、放っておけなかった」
「……!」
顔を赤らめ、絶句する葵。
続いて縮こまるように俯いてしまう。小柄な身体がますます小さく見えた。
あるいはこれもまたいたずらに気を持たせるような事をしているだけなのかも知れない。それでも俺は困っている葵を見ていられなかった。
「……俺らも行こうか。さっきの娘が了解とれたなら、開始までに少し打ち合わせとかしないといけないし」
「あ……えと、はい……」
美久が聞いたら「今一番葵を困らせてるのは兄さんでしょう」とか言われそうだなあ。そんな事を考えながら、葵を伴って先ほど女生徒が走って行った方へ歩きだした。
数分後、俺は葵達のクラスで面通しをしていた。
「あの……という訳で……美久ちゃんのお兄さんの時田郁人さん、です……」
葵がおずおずといった調子で紹介してくれる。
彼女のクラスメイトたちは「オォ……!」といった感じにざわめいて、好奇の視線を向けてきた。
既に了承は取れているようで、何故ここにいるのかといった疑問は向けられていない。
簡潔に「どうも」と挨拶すると、みんな堰を切ったように口々に話しかけてきた。
「マジ!? 美久ちゃんにお兄さんいたの!?」
「あのっ!時田先輩ですよね?去年卒業された……!」
「今日はありがとうございます……!」
「うわっ、背ぇ高い!何cmあります?」
「す、すいません……!お義兄さんって呼んでいいっすか!?」
「ねーねー、今彼女とかいます?」
「あのっ、兄貴って呼んでいいスか……!」
……正直高校生のエネルギーを甘く見ていた。
押し寄せる波のような彼らの質問責めに内心俺は気圧される。半年前まで俺もそうだったというのに、このバイタリティーの違いはなんだろうか。
というか、今看過できない台詞がいくつかあった気がしたが……。
「えーと……んじゃ、そういう訳でよろしく」
熱狂のような騒ぎをそう言ってなんとか治めると、各々準備があるのか方々に散っていく。
教室内ではそこかしこで台本の読み直しや衣装の用意がなされていた。
「兄さん、何やってるのよ……」
呆れたようにため息をつきながら、すでに劇中衣装に着替えている美久が近づいてくる。
(そういやこいつが王女役とか言ってたな……)
チューブトップに近い形のブラとゆったりしたズボンのような衣装で、いかにもアラビアのお姫様といった雰囲気を出している。
ボリュームのある肢体にへそだし露出過多の衣装が合わさり、何とも扇情的な姿となっていた。今更だが高校の学園祭でこんな歩く公序良俗違反を主役に添えて大丈夫なのだろうか?
「助っ人だよ。困ってるらしいじゃないか」
「ふぅん……」
俺と葵を交互に見比べて、何かを言いたげに含みを持たせた顔を作る。
「まあ、いいけどね……。それより葵、そろそろあんたも着替えた方がいいんじゃない?」
「あ、うん……そうだね。じゃあ……いっくん、あの……演奏、よろしくお願いします」
「ん、頑張ってね」
美久が衣装を着ている事からわかるように、既に本番までの時間も結構迫っているらしい。未だ制服姿の葵は促されて素直に従い、更衣室の方へ向かった。
「あの〜、時田……さん?」
それを眺めていた俺にも背後から声がかかる。振り向いてみると先ほどの女生徒だった。
「こっちもそろそろ……。吹奏楽部が音合わせしておきたいそうなので……」
「ああ、そうだね。わかった、今行くよ」
どうやら俺の方も準備を始めなくてはならないらしい。自分で言い出した事だし、葵の晴れ舞台でもある。精々気合いを入れて演奏しなくては。
女生徒に続いて音楽室へ向かおうとする俺に、突然美久が言葉を投げかけてきた。
「兄さん……その気持ちは、『どっち』のものなのかしら……?」
「…………」
耳には届いていたが、俺は何も返事をしなかった。何も言えなかったというのが正しいのかも知れない。
美久もそれ以上なにも言ってこないまま、黙って教室を出ていく俺を見守っているだけだった。
幸いな事に音合わせ、リハーサルともに拍子抜けするほど上手くいった。
吹奏楽部の知り合いだった後輩は再会を喜び、助っ人の申し出に素直に感謝してくれたし、他の部員たちも部外者の飛び入りにも関わらず誰一人異を唱える者はいなかった。
もちろん演奏の完成度という意味では正式な部員であり、サックスパート担当の丸山君とやらに遠く及ばないだろう。
それでも吹奏楽部の彼らにとっても一人欠けたままの不完全な演奏をするよりは、ある程度経験のある人間を代役に、という判断が妥当だったのだ。
まあそんなこんながあって、俺は吹奏楽部に混じって舞台脇のスペースにスタンバっていた。
もう数分後には幕が上がるという状況で、舞台のある講堂内にはそこそこ観客が集まりつつある。
ちなみに俺は現在着てきた服を着替え、制服姿となっている。流石に私服で生徒の中に混じって演奏していては悪目立ちするという事で、一人の男子生徒から借り受けたのだ。
ただその男子と身長差がかなりあったため、丈が足りずにつんつるてんになってしまってかなり不格好ではあったが。
「始まりますよ」
吹奏楽部の一人に声をかけられ我に返る。
開幕を告げるブザーが鳴り響き、ナレーション役の生徒がタイトルを読み上げた。
拍手の中で幕が上がっていき、最初のシーンに突入した。
貧しい生まれの主人公が市場を駆け、そして城を抜け出した王女を助けるシーンに繋がっていく。
王女役の美久が登場すると、客席のそこかしこから「ほぅ……」という熱いため息のようなものが聞こえてきた。俺としては別に美久に見惚れる訳もないので、別にどうという事もないシーンだったのだが。
そして王女が城へと戻った時、ついに葵の出番となった。
王女の世話をしながらも抜け出した彼女を諌める、という役回りらしく、葵は舞台上をたどたどしく歩きまわりながら台詞を言おうと口を開く。
「ま、またく……お、おーじょ、さま……し、しろをぬけだ……す、なんて……」
――緊張でガチガチだった。
この手の劇はリハでいくら上手く出来ても、客がいる本番ではどうにも勝手が変わってくるものだ。やはりというか、葵が大勢の前で舞台に上がるのはかなり荷が重そうだった。
(マズイな……)
俺は心の中で呟く。台詞を噛みながらでも最後まで言えれば、その後は美久が強引に次の台詞を言ってしまって乗り切れる。だが、あの様子だと言うべき台詞自体を忘れていそうだ。下手したら既に頭の中が真っ白になっているかも知れない。
舞台脇でハラハラしながら見守る俺を余所に、葵はパニックからか言葉に詰まり、忙しなく目を泳がせている。
その目がふと、俺のところで止まった。視線が交錯し、葵の顔にわずかだが理性が戻る。
それを見て、俺は声には出さず、口だけを動かしてメッセージを送った。
(が・ん・ば・れ……!)
ゆっくりとそれだけ告げると、葵は伝わった、という風に微かに笑いながら無言で頷く。そうして胸に手を当て小さく呼吸を整えてから、台詞を言い直した。
「全く王女様!城を抜け出すなんてとんでもない!陛下がどんなに心配していらした事か!」
俺も殆ど聞いた事のないような(葵にしては)大きな声で、ハキハキと台詞を喋る。それを受け、王女役の美久が一瞬ニヤリと笑い、次の台詞に繋げていく。
そのまま劇は何事もなかったかのように進行していった。
(ふう……)
なんとか持ち直したようだ。俺は小さく安堵のため息を漏らし、改めて芝居を続ける葵を見る事にした。
アラビア風衣装に身を包んだ彼女は美久と比べても身長差が激しく、舞台をちょこまか走り回る姿はどこか小動物を思わせて俺を和ませた。
(それにしても……)
控えめで引っ込み思案な彼女がこうして舞台に立ち、声を張り上げて演技をしている。
先ほど可愛らしいアピールだ、と思ったが、なかなかどうして普段の彼女を知っていれば、その姿は胸にくるものがあった。
きっと俺が学園祭に来るから、彼女はすこしだけ勇気を出してみたのだろう。その健気さは彼女の大きな美点だった。だからこそ俺はこうしてその決意を助けるためにここにいる事を嬉しく思う。
『兄さん……その気持ちは、『どっち』のものなのかしら……?』
ふと、教室での美久の言葉が蘇ってくる。場面が進み、葵が引っ込んでしまった舞台から意識を切り離し、俺はその言葉について考えを巡らせた。
その気持ちとは、困っていた葵を助けたいと思った事、それに多分、今葵を見ていて感じているこの言葉にできない何かの事を言っているのだろう。
……じゃあ『どっち』とは?
昔のように泣いている葵の面倒を見る感覚で手を差し伸べた、という言わば葵の『兄』としての気持ち。
あるいは純粋に好意を持った女性として彼女を支えたい、という『男』としての気持ち。
以前の俺ならまず前者と答えていただろう。葵は妹も同然の存在だった。
だけど三か月前のデートの後、葵を恋愛対象として見る事は出来ないかと美久に聞かれ、俺は答える事が出来なかった。
答えられない、という事はもう俺は葵を妹としてだけ見る事はできない、という事だ。それはこの前の勉強会の時にも思い知った。
実際のところどうなのだろう。俺は葵をどう思っているのか。
(兄として……男として……か。そんなのもの――。)
「わかんねえよ……」
今も舞台で王女役を続ける美久に、あるいは袖で次の出番を待つ葵へ。届くはずのない小さな声で俺はそっと呟いた。
そんな風に色々考えている内に劇は次々に進行していった。
魔法のランプを見つける主人公。
ランプの魔神と主人公との心温まる交流。
王子に成りすまして王女とのラブロマンス。
その裏で暗躍する大臣。
美久はその中で王女役として登場し、そのスタイルと盛り上げ好きな性格で舞台を彩っていた。
特に主人公と深夜の密会のシーンでは蠱惑的なまでの演技で会場を惹きつけ、相手の主人公役の男子が思わず台詞をとちる程だった。
……あの男子、この後美久に告白しそうだな。
当然の事ながら俺は美久の過剰な愛想にも特に反応する事もなく、時折出てくる葵の方を注視しながら自分の出番を待っていた。
そしていよいよクライマックス。悪事を暴かれた大臣と対決し、激闘の末にこれを下す。主人公と王女は結ばれ、ランプの魔神は自由の身となり大団円へ――。
ここからがようやく俺の出番だ。リハーサル通り吹奏楽部と息を合わせ、演奏を開始。管楽器の音色が重なり、世界的に知られた名曲が奏でられていく。
『全く新しい世界を見せてあげるよ、王女様。驚くような場所へ連れていってあげる。どこへでも行けるよ』
確かそんな感じの意味の歌詞だったか。
(新しい世界か……)
葵にとってはこの劇に出た事が新しい世界に踏み出した事、なのかも知れない。ならばそのきっかけとなった俺は彼女を新しい世界に連れ出した、という事になるのだろうか。
(アホか……)
自分が恥ずかしくなるくらい乙女チックな事を考えているのに気づいた。いかんいかん、演奏に集中しなくては。
本来は深夜のデートのシーンで流れる曲だが、今回はエンディングとして使われている。曲をバックに出演した生徒たちが一人ひとり舞台に出てきて観客にお辞儀していく。
美久など投げキッスまでして大いに観客席を沸かせていた。
そんな中、出演者の挨拶も半分程過ぎたところで葵も舞台袖から顔を出した。小さな身体でちょこちょこ歩み出てぺこりと頭を下げる。
他の観客からすれば、やたら派手で色気のある、目立ちまくっていた王女の隣にいた侍女役の娘でしかないので、特に大きな歓声が上がる訳でもなく他と同じような拍手で迎えられるだけだ。
だが葵は客席に頭を下げた後、すぐには移動せずに舞台脇の方へ顔を向けた。
(……?)
どうかしたのかな、と演奏しながら首を傾げる俺の顔を葵の視線が捉える。
目が合うと、葵はニコッと笑いかけてきた。
常に気弱だった頃の彼女からは考えられない、達成感と感動と感謝と色々なものが混ざった、俺も見た事がないような眩しい笑顔だった。
それを見た瞬間――。
ポヒッ!
俺のサックスが素っ頓狂な音を鳴らす。
かなり大きく響いてしまったそれに、他の演奏者も観客も舞台上の出演者も驚いて俺に視線を向ける。
(ヤバッ――!)
自分の失敗に気付き、思わず思考がフリーズする。
「…………」
数瞬だが完全に演奏が止まり、講堂内に静寂が訪れた。
それでもすぐに我に返った指揮者と数人の奏者が演奏を再開し、釣られるように残りの部員たちも強引に曲を立て直していく。
遅れる事数秒後、何とか俺も演奏に復帰したが、頭の中は恥ずかしさでいっぱいだった。
(やらかした……)
羞恥と自責に打ちのめされる。講堂内は暗くて助かったが、明るいところで見たらきっと俺は赤面しているだろう。
音楽の方が持ち直せば、自然と舞台の方も立ち直ってくる。固まっていた出演者たちは気を取り直したように動き始めた。
観客の方もそれに合わせて舞台の方に向き直り、再び拍手を送り始める。
最早完全に何事もなかったかのように進行する中で、俺は羞恥を押し殺して演奏を続けながら、さっきの葵の笑顔を思い出していた。
(見惚れて……た?)
そうとしか考えられなかった。葵が笑いかけてきたあの時、一瞬頭が真っ白になったのだ。
(俺が……葵に……?)
信じられない思いで俺はその事実を確認する。途切れさせないように無意識に演奏をしながら、降りていく舞台の幕を茫然と見つめていた。
「今日は……本当に、来てくれてありがとうございました。演奏の助っ人、助かりました……」
閉会時の夕暮れの中、葵がそう言って頭を下げる。素直に感謝をしてくれているのだろうが、俺にとって先ほどの事に触れられるのは少し心苦しかった。
「いや、こっちこそ……肝心なところでトチってごめん。格好悪いとこ見せちゃったよな……」
「そ、そんなことないです!私嬉しかったですし……手伝うって言ってくれたいっくん、格好良かったです……!」
「そっか……ありがとう」
素直で性格のいい彼女のこと、慰める意味合いよりも本気でそう思って言ってくれているのだろう。なんだか少し救われた気がした。
そんな風に二人で笑い合っていると――
「ちょっとそこのいい雰囲気のお二人さん」
「うぉ!?」
「み、美久ちゃん!?」
横から突然美久の茶々が入った。俺と葵は驚いてそこから飛び退く。
「兄さん、浸ってるところ悪いんだけどね、私との約束叶えてもらおうかと思って」
「約束……?」
何のことだろうと首を捻る。美久に何か約束していた事などあっただろうか。
「すっかり忘れてるみたいだけど、私まだ試験の罰ゲームの権利残ってるわよ」
「あ…………」
完全に失念していた。浮かれていたら一気に奈落に突き落とされた心境だ。いい気分だったというのに一体何をやらされるというのか……。
警戒する俺に、美久は獲物を見つけた猫のような表情を向ける。
「じゃあ言うわよ。兄さん――」
そこで少しだけ言葉を切り、美久は葵の方をチラリと盗み見た。その仕草で、俺はなんとなく次に来る台詞が少しだけ予想できた。
「今度もう一度葵とデートしなさい」
言い放つ美久の声に、命令された俺よりも葵の方が目を丸くしていたのが印象的だった。
18 :
Peachの人:2014/02/17(月) 02:43:07.25 ID:UJUMWCdc
という訳でLike a sister3回目でございます。非常に間が空いて申し訳ない。
前回の書き込み見るとなんと7月です。半年以上も何やってたんだ俺は……。
この話はヒロインが年下系なので、男の方は年上で割と落ち着いてるというか余裕ある性格にしたつもりでした。
しかし今回はいっくん大いに取り乱しまくりです。余裕全然ないです。
次回は葵と再デートです。ていうかよく考えると前回も今回もデートでした。デートしすぎです。
今度はあまり遅くならないようにしたいと思います。それでは。
いえ、多少の我慢は出来ます、少々時間を多く取っても良いです。
学園祭ですか、良い場所ですね。嫌でも案内役はゲストに一日中付きっ切りになりますからね。
デートは出来るだけ行っておいたほうが良いのでは?
こんなに気持ちが噛み合わない人の場合は。
甘酸っぱいなあ、青春だなあ。
という訳でGJでした!次も待ってます!
21 :
名無しさん@ピンキー:2014/03/21(金) 06:49:52.79 ID:hHLZcHD9
hoshu
ほ
ほしゅ
ho
25 :
名無しさん@ピンキー:2014/06/24(火) 00:24:38.18 ID:iXJFKtPq
ほ
「バーカバーカ……」いつもの喧嘩がまた始まる。私、七宮木乃葉は、
幼稚園の頃からほとんど一緒にいたはずの、森田理央の事を考えると、
どう仕様も無く胸が苦しくなる。今まではそんな事なかったのに…
些細な事から始まる喧嘩は、もう毎日の事となった。
筆箱を取られたり、色々な事をされても、この想いは変わってはいない。
六年生の修学旅行のナイトハイク。事前にペアを決める。
誘いたいけど…私、なんて言えば良いの?
次の日、放課後に理央の耳元で、そっと囁いた。
「一緒にナイトハイク行こ?」でも、反応が、
「え?なんて言った?」だったから、その日は諦めた。
その後、とても仲の良い友達にその事を話したら、
「木乃葉、もうちょっとハッキリいいなよ。きっと大丈夫、
ウチらが応援してるよ。」
ハッキリってどう言えば良いか分からなかったけど、とりあえず
私は勇気をもらった。明日は、頑張ろう。
次の日、また放課後に理央を呼んだ。
「ナイトハイクのペア、一緒にやろう?」
しばらくの沈黙が降りた後、
「うん 一緒にやろう。」
いってくれたその一言が嬉しくてたまらなかった。
その帰り、
「でも、何でオレを誘ったんだ?」
「幼なじみだし、付き合い長いし、それに……」
「それに?」
「ううん、何でもない。」
『好き』って事は、まだ黙っておこう。
これからの残り少ない時間を大切にするために…
27 :
名無しさん@ピンキー:
久しぶりの投下感謝。