幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。
■■ 注意事項 ■■
*職人編*
エロパロ板のスレですが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。
*読み手編*
つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
新スレ一発目、行かせていただきます。
色々諦めてトリップつけてみた。
ほとり歳時記三期目は、予告どおりストーリーとしてはあまり起伏のない挿話集の予定です。
00-00といった番号が頭に振られていますが、これはこれまでに書いてきたお話の中の、どの辺りの時間のことかを表しています。
例えば01-02.1なら一期目二話が終わった後、といった塩梅です。分かりにくくて申し訳ない。
あと、同時進行でもう一つ別のも用意してみました。
こちらは甲子園や、某ラブコメの名作のファンの方はあまり良い顔をされないかもしれません。
そういう内容ですので、ご留意下さい。
新作『stadium/upbeat』も一気にいきます。
では、まずはほとり歳時記三期目から。よろしくお願いします。
ほとり歳時記 三期目
03-01 デッサン
何が楽しいのか、ほとりはニコニコとしている。
「ひとのまくらはよいまくら〜」
「何の歌だよ、それ」
人の腕を枕にして、ほとりははしゃいでいる。普段とは違う環境が、よほど楽しいのだろう。
「んー、お泊り。わくわくさんだ」
「今日は何を作るんだい?」
「あははは、下手くそー」
着ぐるみの声はほとりには不評だった。
灯りを落とした部屋で、小さな声ではしゃぐのは、まるで修学旅行か何かのようだ。
もっとも、俺とほとり以外誰もいないのだけれど。
見知らぬ天井、すぐそこを流れる川のせせらぎに耳を傾けていると、ほとりが呆然と呟いた。
「おかしいね」
ほとりは人の腕を枕にしたまま、俺の顔を見上げている。
夜空をまとめて詰め込んだような瞳が、窓から差し込む月明かりを映して揺らめいている。その中に間抜けな顔をした自分が居る。
「何が」
尋ねると、ほとりは悪戯っぽく微笑んでから
「わかんないけど」
と人の腕に顔を埋めてみせた。
腕の中ではしゃぐほとりの頭を撫でながら、俺は明日の予定をいい加減に立てることにした。
大学受験が終わった数日後、俺とほとりは旅行に出た。
卒業旅行というヤツだ。といっても温泉宿に二泊三日というささやかなものだが。
年末、商店街でしていた福引で当てたものだった。
因みに俺はクジ運は悪い。自慢じゃないが、自販機の当たりでさえ引いたことがない。アイスのクジも、一回あったか、なかったか。その程度だ。
ほとりもそう良い方ではない。たしか何かの雑誌の懸賞を当てたことがあるくらいだった。
俺達のクジ運はどこに言ったかといえば、多分それはかがりさんだ。
かがりさんのクジ運は凄い。もはや神のご加護でもあるんじゃないという位だ。ウチの氏神様って、クジ運をどうこう出来るんだろうか?
さておき、そのかがりさんが当てた温泉旅行だったが、俺達に譲ってくれたのだった。
兄貴と行くようにと言ったのだが、かがりさんは
「んー、あたしは大丈夫。今度ちゃんと連れて行ってくれるから。ね」
と微笑む。後ろで兄貴は
「人が多いところは嫌だぞ」
と、呆然と言ってのけた。や、つか、兄貴は旅行ぐらいしたらいいと思う、放っておくと何もしないぐうたらなんだから。
とにかく、かがりさんの厚意に甘える形で、俺とほとりは卒業旅行に行くことになったのだった。
温泉街をほとりを伴ない歩き、その辺りのお店を適当に冷やかし、地元とは違った趣の風景を眺めるだけの穏やかな旅行だ。
およそ年頃の男女がする旅行とは思えないような趣味の内容だが、俺は満足だ。
自慢じゃないが、俺の州崎ほとりは幸せ上手だ。
ささやかなことでも本当に楽しそうに、嬉しそうに受け入れてみせている。
ひなびた温泉街のお土産屋で、お店番のご老人相手に随分話しこんでいる。ああいう聞き上手な所は、俺は嫌いじゃなかった。
「ゴメンね、話し込んで」
たっぷり二十分はこの辺りの話をしてきたほとりは、申し訳なさそうに俺を見上げる。
「んにゃ、お前は得意だよな、ああいうの」
「そうかな」
「ああ」
申し訳なさそうなほとりの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めていた。
そういえば、ご老人は帰り際に
「よほど良い家庭に恵まれたようだねぇ」
と嬉しそうにされていた。
ほとりの育ちは、今日日珍しいくらいに良いと思う。
他所の子の俺が思うくらい、良い家族だと思う。
ひなびた温泉街をウロウロしていると、ふとつぶれた映画館らしい建物を見つけた。
「映画って言えばね、お父さんの話したことあったっけ?」
「ん? 親父さんが、どうかしたか?」
ほとりはクスクスと楽しそうに笑った。
「お父さんって、映画館で映画観るの苦手なの」
「へえ、まあ分かるよ」
「修も得意じゃないよね」
「ああ」
映画に限らないが、どうもあの手合いのものは長い間見ていられない。途中、自分ならこうする、といったことを考えてしまい、画面に集中できないのだ。
「お父さんは修とちょっと違うよ、単純に寝ちゃうんだから」
「あー、なるほど」
なんとなくその場面が目に浮かんだ。
「いつだったか、お父さんと映画館に行ったんだ」
高校に入ってすぐのことだそうだ。それもかがりさんが何かで当てた、映画の先行上映会だったらしい。
小母さんに「たまには行って来たら?」とせっつかれ、照れ屋でせっかちな親父さんはビールで勢いをつけてからほとりを連れて映画館へ。
行ったはいいものの、役者の舞台挨拶の辺りで親父さんはうっつらうっつらし始め、暗くなったとたん眠ってしまったそうだ。
それから何度も起こすのだが、目を開けるのはその時だけ。
結局内容は何も分かっていなかったらしい。
前評判の良い恋愛物というのもまた、親父さんとはミスマッチだが。
帰ってきた親父さんは、小母さんに「あの女優さん、どうでした?」と尋ねられて「そんなヤツ出ていたか?」と返したそうだ。
親父さんの口調を真似るほとりが、妙に上手くて俺は声をあげて笑った。
食事を終えて、風呂も堪能し、窓際でぼんやりと外を眺めていると、ふと親父が母さんに爪を切ってもらっていた時のことを思い出した。
夜に爪を切ると親の死に目にあえなくなる、などと言うが、親父などはそういうことに妙に律儀だった。
実家を嫌がってはいても、古い家での教育が骨身にしみているのかもしれない。
風呂上りにパチパチやっていると、親父が苦い顔で
「お前は親の死に目にあいたくないのか」
とビールを呷っていた。ふと自分の死ぬ時でも想像したのか、親父は複雑そうな顔になって
「とにかく、そのくらいにしろ」
と爪切りを取り上げた。
かと思えば、自分は風呂上りに母さんに足の爪を切ってもらっていた。
「俺はもう居ないからいいんだ」
と、親父はふん、と言い訳のようなことを口にする。
ぱちり、ぱちりという音はひどく重く、俺は変な気分で、いつまでも見るものではない気がした。
「ね、何が見える?」
湯上りの、石鹸の匂いをさせてほとりが寄ってきて、俺は思わず抱きしめていた。
「ッ、どうしたの、急に甘えんぼ?」
「……そうだな」
湯上りのほとりは、一際良い抱き心地だった。
歯磨いたか?
顔洗ったか?
もう1パート!
いったれ千恵ちゃん!
五分後にまた。
stadium/upbeat
01. Bravado
あたしの家の隣には、二人の兄弟が住んでいる。武司さん家の兄弟だ。
兄の敦也と弟の和也。アッちゃん、カッちゃんとあたしは呼んでいる。
和也なんて名前を弟の方に付けたのは、おじさんが古い野球漫画のファンだかららしい。
志半ばで倒れた弟にぜひ甲子園に行ってもらいたかったらしく、和也と名付けたとのことだ。
一つ年上のお兄さんの方も本当なら漫画から付けたかったそうだけれど、言い出せなくて妥協した結果敦也になったらしい。
だから少しだけ漫画とは違う名前の兄弟が出来上がった訳だ。
隣に住むあたし達深瀬一家の父もやはり同じ漫画のファンらしく、女の子が生まれて大喜び。意気揚々と漫画と同じく南と名付けた。
ただ、何事も上手くいかないもの。お隣の武司さん家が双子じゃない兄弟で違う名前になったように、ウチも少し誤差が出た。
カッちゃんと同じ学年に南ちゃんと、もう一人妹が生まれたのだ。
それがあたし―――深瀬千恵。もう少しで北ちゃんと名付けられそうになった双子の妹だ。
どちらかと言えば口下手でのんびり屋さんのアッちゃんに比べると、器用なカッちゃんは漫画の様に育った。
親の教育の為かどうかはあたしには分からないが、ウチは少なくともそう誘導していた節がある。
漫画の影響をありありと受けてしまった我が姉、南は見事な優等生キャラを確立している。
今でも忘れられないのだが、幼い頃、名前の由来を聞いたあたし達姉妹は逆の反応を見せた。
姉の南は喜んで漫画通りお隣の兄弟に「南を甲子園につれてって」と言ったのだ。
アッちゃんは答えかねて曖昧に笑い、カッちゃんは得意そうな顔で「うん」と言っていた。
あたしはと言えば、そんなバカバカしい理由で名前を付けられたのかと思うとウンザリした。冗談じゃない。もっとも、あの漫画に双子の妹なんてのは居ない。
そう考えると、あたしが自分の……というかあの三人の名前の由来を聞いて疎外感を覚えるのは当たり前だった。
千恵という名前を付けてくれたのは、もう死んだお婆ちゃんらしい。お母さんの名前、一恵から一字貰って千恵。
漫画から付けられるより、ずっと嬉しくて誇らしい名前だった。
けれど、それが負け惜しみも少し混じっていることも分かっている。
誇らしくて嬉しい名前。けれど一人だけ違う所以の名前。
それがあたしには寂しかった。高校に入ってようやく、そんなことを受け入れられたのだけれど。
だから反抗期らしい紆余曲折のトラブルを乗り越えてまた何となく仲良くなったあたし達四人だったけれど、あたしは少しだけ疎外感も覚えていたのだ。
あたし一人、違う所以の名前を持ち、それゆえに物語の傍観者でしかないのだ。
あるいはこれは、あたしの虚勢の物語でもあるのかもしれない。
◇
私達の通う公立高校は、県下有数の野球強豪校だ。これまでにも幾度となく甲子園に出場し、プロ選手も何人も輩出している。
この夏の甲子園も、この調子ならば出場できそうな雰囲気だった。
初戦で県外から有力選手を集めてきた私立と当たり、さすがにダメかと観念していたのだが一年生エースの見事なピッチングでこれに快勝。
そこからはもう波に乗り、向かう所敵なし。
新設校相手とはいえ一年生エースがノーヒットノーランをすれば、昨年の雪辱を狙う並み居る強豪に競り勝ち、次はいよいよ決勝。
相手は我が県が誇るもう一つの野球強豪高校、強力打線が売りの工業高校だ。
新聞やテレビは大々的に報じる。
強力打線対一年生エース。あの漫画と同じ名前を持つ天才ピッチャーの行方に、大人達は一喜一憂しているのだった。
◇
春。
あたしとお姉ちゃん、そして幼なじみの男の子は高校に進学した。
県内屈指の野球の強豪校。姉、南にとってはそこに入学するのは念願だったようだ。
早々に推薦入学を手にしたカッちゃんは、あたし達姉妹が同じ進路なのをことの他喜んでいた。
野球の名門校。お姉ちゃんとカッちゃんにとってはそれはそれは大切なファクターだった訳だ。
同じ高校に一足先に入学していたアッちゃんは、あたしが同じ進路だと聞くと
「そうかー、頑張れよ」
とのんびり笑うのだった。
のんびり屋さんで、ぼんやりしていて、運動なんてからっきし。漫画と違う点があるとすれば、アッちゃんは野球なんかこれっぽっちも出来ないということだ。
下手をすればあたしの方が上手いんじゃないだろうか。
そんなみんなのお兄さん、アッちゃんだったけれど、中学から始めた吹奏楽は楽しいようだった。
とはいえ、そこはのんびりしているアッちゃんのこと。お世辞にも上手いとは言えず、要領悪く四苦八苦しながら練習してるのだった。
だからアッちゃんにとって我が校は野球の名門校ではなく、吹奏楽の名門校なのだった。
そう、我が校は県内屈指の野球強豪校にして、吹奏楽を初めとする文科系も優秀な成績を修めている。
過去幾度となく文部科学大臣賞を受賞している美術部などはマスコミにもちょくちょく出ている。
アッちゃんにとっては吹奏楽の名門校。
カッちゃんとお姉ちゃんにとっては野球の名門校。
けれどあたしにとってこの高校は、ごくありふれた公立高校でしかなかった。
志望動機を問われれば、あたしは単に幼なじみの二人やお姉ちゃんに置いてけぼりにされたくなかっただけだった。
◇
中学で既に県下のみならず県外私立校のスカウトからも垂涎の的だったカッちゃん。
非の打ち所のない美少女で、成績も運動も優秀。愛想も良くて名前からカッちゃんとセットで扱われていたお姉ちゃん。
あたしはといえば双子だけれどあまり似ていないこともあり、目立たないごく普通の女子生徒だった。
もっとも、自分からなるべく目立たないようにしてきたのもあるのだけれど。
そんな関係は高校になっても変わらない。
あたしはごくごく普通の女子生徒として、たまにお姉ちゃんの妹ということで驚かれたりするくらいの生活を送っていた。
「南の応援、聞こえてた?」
お姉ちゃんは自分のことを名前で呼ぶ。
これも例の漫画の影響だ。
「勿論」
答えるカッちゃんは得意そうだ。カッちゃんの口調も影響を受けている。正直に言わせて貰うと、二人の会話はどうにも芝居がかっていて変だ。
そう思っているのは、どうやらあたしくらいのものらしいけれど。
明日は決勝戦ということで、カッちゃんは軽めのトレーニングだけで帰ってきている。
カッちゃんの為に夕飯を用意したお姉ちゃんは、楽しそうに柔軟の手伝いをしている。
あたしはといえば特にすることもなく、自分の食事を終えてもう部屋に帰ろうかと思っていた所だ。
ふと外に目を向けると、丁度アッちゃんが帰って来ていた。
今アッちゃんの家では近所の不良中年が集り、未来のヒーローへの祝杯を延々と挙げ続けているはずだ。
もちろんそんな所にアッちゃんの食事なんかあるはずもない。
あたしは夕飯の残りをいい加減にタッパーに詰めてから、アッちゃんの家へ駆け込んだ。
案の定、要領の悪いアッちゃんは台所で小さくなってお茶菓子の余りをもそもそ齧っていた。
あたしを(というよりも手の中のタッパーを)見るなりアッちゃんのお母さんは察したようで、にっこり笑って招き入れてくれた。
挨拶もそこそこに、おばさんはつまみであるらしい大量の食べ物を宴会場と化している仏間へと運び始める。
あたしはその背中と、居心地悪そうなアッちゃんを見比べてから
「……晩御飯」
とタッパーを置いた。
アッちゃんは少し驚いてからタッパーを覗き込み
「うん、旨そうだ。ありがとう、千恵ちゃん」
と微笑んだ。
「ご飯は?」
「多分あるんじゃないかな?」
アッちゃんは炊飯器を開いて、しばらく考えてから
「少し前まではあったみたいだ」
と何が楽しいのか笑みを浮かべてみせる。
その呑気な顔に、あたしはむかっ腹が立った。
要領が悪くて、いつも貧乏くじばかり引いて、それでも微笑んでさえみせる。
そんなアッちゃんや、それを当たり前と思っているらしい周りの大人や、そして何よりもそんな時イライラするしかないあたしに。
あたしは何も言わずに急いで自分の家からご飯も取ってくる。
アッちゃんは硬めのご飯が好きだけれど、カッちゃんはそうじゃない。だからいつもウチのご飯を喜んで食べてくれる。
そう思えば、今回ばかりはそう貧乏くじじゃないのかもしれない。
いかにも美味しそうに夕食を平らげたアッちゃんは、静かに微笑んで
「ありがとう、千恵ちゃん」
ともう一度言った。
どうやらおばさんも宴会に巻き込まれたらしい、先ほどから帰ってこない。
「あたしが作ったんじゃないから」
「でも俺を気にして持ってきてくれたんだろ? あのままじゃせいぜいつまみの余りくらいしかなかっただろうから、助かったよ。だからありがとう」
本当に、貧乏くじもいい所だ。
「和也、そっちに居るのか?」
アッちゃんにお茶を淹れてあげると、それを啜りながら尋ねられる。
「そうよ、今お姉ちゃんが相手してる。明日に備えてストレッチの真似事してる」
「そうかー」
アッちゃんは他人事のようにお茶を一啜りする。
「さっきも『南の応援聞こえた?』とかやってた」
「そうか、南ちゃんのそれ、まだ直ってないのか」
「それ?」
一つ年上のアッちゃんは困ったように微笑む。
「一人称。高校生の一人称が名前っていうのも結構痛いからなあ、何とかしてやんないと」
驚く。周りの大人達はジンクスだか願掛けだかで、お姉ちゃんの悪癖を嗜めようともしないのに。
「アッちゃんは、アレどうにかした方がいいと思うんだ?」
アッちゃんは不思議そうに首を傾げてから
「当たり前だろう? 小さい子ならとにかく、あと四、五年もすれば成人するのに。社会に出てから恥かくだろうし」
とごく真っ当な、けれどあたし以外では始めての意見を口にした。
「…………アッちゃんも、そう思っていたんだ」
「そりゃあね、今もうすでにギリギリだと思うし」
「ギリギリだよ、本当だよ」
仏間では、今も未来のエースを讃える祝杯が続いている。
明日の、約束された勝利をお祝いする声が続いている。
アッちゃんとあたしは、そんなお祝いムードの中に取り残されていたのだった。
◇
入学式を終えてすぐ、カッちゃんは野球部へ入部した。お姉ちゃんももちろんマネージャーに。
とりあえずお姉ちゃんは新体操なんてする気はなく、三年間ずっとマネージャーのつもりらしい。
あたしはといえば、どこにも入部しなかった。
長い黒髪が目を引く美人の先輩から郷文研に、地味な格好だけれど可愛い先輩からは文芸部に誘われたけれどお断りさせてもらった。
そのどちらかに入部したら、またおかしなことになりそうだったからだ。その様子を見ていた男の先輩二人が
「一本釣り失敗」
とか言っていたけれど、そこはスルーで。
アッちゃんの居る吹奏楽部に行こうかな、とも少しだけ思ったけれど、あたしは自分で言うのもアレだけれど致命的に音感もリズム感もない。
アッちゃんに言わせれば
「奇跡のリズミカルさだ」
らしいけれど。
マーチをワルツに出来るのは世界であたしだけらしい。
何事もオンリーワンよりナンバーワンの方が良いと思うので、あたしは音楽に関しては聴衆になる以外は辞退することにしている。
天才投手武司和也と、その兄にしてごく普通の吹奏楽部員武司敦也。
校長を初め諸先生方は、アッちゃんを捕まえては
「今日まで練習してきた成果を披露する時が来たな」
と声を掛ける。
アッちゃんは困ったように微笑むだけだ、が。
あたしは思う。面白くない。
アッちゃんはカッちゃんの為に歌っている訳ではない。ただアッちゃんは、舞台が好きなだけなのだ。
自分の好きなもの、大切なものの為に頑張っているのだ、アッちゃんは。カッちゃんが両親や周りの大人達や、お姉ちゃんの期待に応えているように。
差異はその程度だけれど、周りの大人達はそうは思わない。天才投手を応援する為にアッちゃんが吹奏楽をやっていると思っているのだ。
先日、気の早いローカル紙の記者がアッちゃんとカッちゃん、お姉ちゃんの取材に来た。
記者は散々二人の過去を根掘り葉掘りほじくり返して、天才投手の弟とそれを必死に応援する兄の虚像を作っていた。
そして最後に記者はアッちゃんに向かって
「これで甲子園で演奏できますね」
なんてことを言った。
アッちゃんは困ったようにしばらく首を傾げてから
「縁があれば」
とぼんやりとした答えを口にした。多分それが、アッちゃんのギリギリ妥協できるラインだったのだと思う。
けれどそんなアッちゃんを、記者は不服そうに見てから帰っていった。
多分、あそこで甲子園で演奏できて光栄だ、とか嬉しい、とか、その機会をくれた弟に感謝、とか言って欲しかったのだろう。
だがその辺りはアッちゃんだって分かっている。分かった上で惚けてみせたのだ。
アッちゃんと、アッちゃんの仲間がする演奏は、カッちゃんや野球部の為にあるのではないのだ。
その分の愛想はお姉ちゃんが振りまいたから、十分だろう。
あたしはといえば、居心地が悪くてずっと奥に引っ込んでいた。
本当はあたしも取材対象だったそうだけれど(それは多分オマケとかお情けとかでだろうけれど)あの日が重くて気分が優れないと言い張り逃げた。
多分記者があたしに期待した答えは、お姉ちゃん共々頑張って応援します、程度だ。穿った見方をすれば『南ちゃん』の当て馬か。
吹奏楽部は夏休みに入ってすぐの週末に定期演奏会を開くのが通例で、あたしはアッちゃんに誘われて観に行くことになった。
カッちゃんやお姉ちゃん、おじさんおばさんにウチの両親にも来て欲しいとチケットを渡していた。
運の悪いことに、と言うべきか否か。その日は丁度野球部の県予選の試合でもあった。それも第四試合。
終わってから駆けつければ、ギリギリ演奏会に間に合うかどうかの時間だった。
けれどそれまでの試合が長引いたこともあり、その日の第四試合が始まったのは予定時間を随分過ぎていた。
相手校は堅い守備と甲子園出場経験もある三年生投手が自慢で、大人達の予想通り投手戦になった。
一日で一番暑い中を二人の投手は好投を見せ、一点も入らないまま試合は延長戦に。長い長い試合になった。そうだ。
実の所あたしは最後まで見ていない。
七回の辺りでアッちゃんの演奏会に間に合わなくなりそうだったので、とっとと帰ることにしたのだ。
他のみんなは「私達の分までアッちゃんをお願い」とメールで寄越して来ただけだった。
仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。けれどどこか釈然としないものを感じながら、あたしは花屋に寄って自分のお小遣いで買える精一杯大きな花を買った。
今の自分の気持ちをいっぱいにこめた花を受付に渡してから客席へ。
高校の吹奏楽部の演奏会とはいえ、県内屈指の実力を誇る団体だけあり客席は満杯だった。
あたしは後ろの方にどうにか腰を落ち着けると、一応周りを確認してみた。ウチの両親やおじさんおばさん、そしてお姉ちゃんは居ない。当たり前だけれど。
試合がいつまで続くのか分からないけれど、早く終わればいいと思った。
あたし以外に、アッちゃんの身内はいないまま開幕。
八月最初の週末は吹奏楽コンクールの県大会。その課題曲と自由曲、その二つを初めに披露する第一部の始まりだ。
今年選んだ課題曲はコンサートマーチで、軽快なリズムと優美なメロディーが特徴(であるらしい)
自由曲はローマの英雄を題材にした交響詩。
吹奏楽では人気の作曲家による作品で、技術面は当然としていかにそのドラマ性を音楽に出来るかの表現力も問われる一曲(であるらしい)
もちろんアッちゃんが後から教えてくれたことだが。
その時のあたしにはそんな小難しいことは全然分からなかった。
けれど一つだけ分かったことがあった。
アッちゃん達は、こんな凄いことが出来るんだと。
顧問の先生が指揮台に上がり、部員達を見渡す。そしてすっとその右手が上がると、それに応えるように僅かな音を立てて楽器が構えられる。
その瞬間、始まりの一音が出るまでのその僅かな時。
あたしは鳥肌を立てた。こんな緊張感は他に味わったことはない。何かが始まるという予感にあたしは息を飲んだ。
この瞬間、世界中全ての音は存在さえ許されないのではないかとさえ思えた。
そしてあたしは自然とアッちゃんを見つけていた。
トロンボーン、と言うらしい楽器を構えたアッちゃんは、見たこともない表情をしていた。
あたしがそんなアッちゃんを知ることが出来たのは自分一人だけだという優越感と、本当にあれはアッちゃんなのかという不安感が複雑に絡まった気持ちを持て余していると。
音が弾けた。
それは耳で聴くのではなく、肌で受けると言った方が正しいような音の氾濫だった。
それまでの緊張感を切り払い、物語が始まるような音楽が響く。その瞬間、確かに世界が切り替わったのだ、音による虚構に。
音楽の知識もセンスも何もないあたしだったけれど、のんびり屋さんなアッちゃんが入れ込む理由は分かった。
どう言葉にすればのかさえ分からないけれど、訳もなく泣きたくなった。
何かあるとすぐに泣いてみせる女の子もいるが、あたしはアレが嫌いだった。
ただの傍観者が結果だけを見て、全てを分かち合おうというかのような態度がとても嫌いだったからだ。
泣いていいのは、当事者かそれをずっと支えてきた人だけだ。
泣くということは、特別でとても大切なことだから。と得意そうに教えてくれたのは誰だったか?
定かではないが、その特別で大切なことを押さえきれない衝動にかられた。溢れてしまいそうな沢山の感情を持て余してしまっていた。
嬉しくて誇らしくて羨ましくて寂しくて悲しくて腹立たしくて……泣きたくなった。
けれどあたしに泣く資格はないから、それをぐっと我慢して耳を、体を舞台に集中させる。
軽快に続くマーチ、そしてその流れもそのままに始まる音楽による叙事詩。
始まる前、世界中の音が存在を許されないと思った。その理由が分かった。
全ての音は、今間違いなくこの舞台の為に集っているのだ。
世界中の音は、今この舞台で歌われる為にある。そう言い切ってさえ良い気持ちになる。
後でそうアッちゃんに言うと、困ったような顔で「言い過ぎだよ」と苦笑していたけれど、この時のあたしにはそれが真実だった。
自分の理解の及ばないものに打ち据えられ、揺さぶられ、呆然としている間に終わってしまった。よく分からないまま、ただただ凄いとしか言えない様な時間だった。
最後の一音が溶けていくと同時に、あたしは力の限り手を叩いていた。
割れんばかりの拍手に会場が包まれているのを、あたしは自分のことの様に嬉しいと思った。
舞台は終わらない。第二部はステージドリル。演奏のみならず、演技でも舞台を行う華やかな時間。
続いて第三部はあたしでも知ってる曲が並ぶポップスステージ。流行り歌に定番の一曲、様々な歌が巡っていく。
歌い、踊り、演奏だけに終わらない舞台は、時間が矢の様に過ぎていく。
けれどそれも永遠に続くものではない。
最後の演目まで演奏し終え、アンコールに応え、そしてとうとう幕が下ろされる。
……舞台がはねて、そしてあたしは気が付いた。
現実に戻ってきている。舞台に立つことを、アッちゃんは「まるで夢を見ているみたい」と言っていたことを思い出した。
確かにその通りだった。まるで夢を見ているみたいな時間だった。
多分、世の中にはもっと凄い演奏家や歌手が居て、もっと素晴らしい舞台があるのかも知れない。
そうなのだとしても、何も知らないあたしにとって今日の舞台は……「まるで夢を見ているみたい」だった。
興奮冷めやらぬまま家に帰ると、両親は居なかった。
お姉ちゃんは制服のまま食卓でスコアと思しいノートを眺めてニヤニヤしている。
「おかえりー」
お姉ちゃんはニコニコと上機嫌だった。
「……試合、いつ終わったの?」
その上機嫌なお姉ちゃんに、あたしは一番気になっていたことを尋ねた。食器棚から適当に選んだグラスを手にする。
「延長十一回、千恵ちゃんが帰ってから四十分くらいかな」
「そっか。勝ったんでしょ」
どうせ、とは言わない。
「そうだよ! カッちゃん凄かったんだよ! 延長十回裏にカッちゃんのタイムリー! で、その後の十一回もきっちりカッちゃんが守ってそれが決勝点になったの」
「そっか」
あたしは冷蔵庫から冷えた麦茶を出して注ぐと、一気に飲み干した。
「お父さんとお母さんは?」
「祝勝会。帰ってきてからもう優勝したみたいな騒ぎで、カッちゃんの家で盛り上がってたよ。おじさんもおばさんもすっごく喜んでたんだから」
「……そっか」
あれから四十分なら、半分くらいはアッちゃんの演奏会を見られたはずなんだけど……祝勝会をしていたのか、おじさん達。
グラスを流しに置いてから、あたしはため息をついた。
「どうしたの? 甲子園だよ、甲子園! カッちゃんなら絶対甲子園行けるんだから!」
お姉ちゃんは顔いっぱいの笑顔であたしを見つめている。何一つの疑問も迷いもない、綺麗な笑顔だった。地元の雑誌に載るほどの美少女の、自信にあふれた笑顔だった。
「かもね」
あたしはお姉ちゃんのそれと同じになるように祈るような気持ちで笑みを模ってみせた。
「そうだよ、千恵ちゃんも次は最後まで応援してね、凄いんだから。どうせなら甲子園に行くところ見たいでしょ? 千恵ちゃんも」
「分かった、お姉ちゃん」
居た堪れなくなり部屋に戻ろうとするあたしの背中に
「ああそうだ、忘れてた。アッちゃんはどうだった?」
とお姉ちゃんは付け足した。
「…………あたし音痴だから、音楽の善し悪しなんて良く分からないよ」
振り返るとどんな言葉が口から出てくるか分からない。あたしは精一杯の妥協を口にして、その日はもう部屋から出なかった。
ひどく惨めで、悔しくて、寂しい気持ちだった。
たった二時間の演奏会、その為に懸けるのは半年。アッちゃんは誇らしそうにそう言った。
まだ雪がちらつく季節から、たった二時間の演奏会の為に選曲をし、下積みの練習をし、開催の為の準備を続けるのだ。
だからあの演奏会は、その時間の集大成。
野球部の県予選と優劣を競うなんてことは意味のないことだ。
音楽は取り返しのつかない芸術だ、と吹奏楽部の顧問の先生は舞台がはねる前に語った。
「リハーサルが終わった段階でこの舞台は99パーセント成功している。残り1パーセント、最後の一回っきりの本番でどれだけのものが出せるか。それが勝負だから」
そう言う顧問の先生の後ろで、部員達は誇らしそうに胸を張っている。
「音楽は取り返しのつかない芸術だから、この一回に頑張っていこうと、生徒達には伝えました」
思わずアッちゃんを探す。いつもの曖昧な苦笑ではない。自信に満ちた、堂々とした笑顔だった。
「そしてその残り1パーセントも、皆さんの暖かい拍手で満ちたように思えます。ありがとうございました」
あたしの拍手が、最後の1パーセントになったのか。
あたしは吹奏楽部から逆に素晴らしいものをプレゼントされた気持ちになった。
その気持ちと、他の何かと優劣をつけようなんて微塵も思わない。
思わないけれど、寂しかった。
隣の家からは、楽しそうな声がカッちゃんの勝利を讃えている。どうやらお姉ちゃんも混じったみたいだった。
アッちゃんが今日は後片付けや何やらで学校に泊り込むことになっているのが、唯一の救いだった。
翌日両親やおじさん達から演奏会の感想を尋ねられたが、あたしは「よく分からなかった」としか答えなかった。
勿体ないと思ったからだ。アレは、実際に聴いた人だけのものだ。
両親は苦笑して「音楽の分からない奴だ」と言い、おじさん達も困っていた。
ただ、その後母が
「まあ演奏会は来年もあるけど、県予選の試合は一回っきり。次どうなるか分からないし」
と言った時に、黙ってその場を立ち去ったのは我ながら中々の忍耐力だったように思う。
その日の夜、帰ってきたアッちゃんはわざわざあたしの所に
「見に来てくれてたんだね、ありがとう」
と言いに来てくれた。
とても満足そうな笑みだった。
「あの、でもあたししか行けなくて」
「うん、まあみんな疲れてたんだろうしね」
「……アッちゃんは、怒ってないの?」
「千恵ちゃんが見てくれたなら十分だよ。あ、そうだ。あんな大きな花大変だっただろ? あれも嬉しかったよ、本当にありがとう」
答えあぐねてどうすれば良いのか分からなくなったあたしに、アッちゃんはいつもの優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。
「本当にありがとう、千恵ちゃん」
「アッちゃん……凄かったよ、演奏会。感動した。上手く言えないけど、本当に凄かった」
「うん……そう言ってもらえたなら、俺も他のみんなも満足だよ」
定期演奏会を終えた吹奏楽部は、八月第一週の日曜に行われるコンクールが次の目標になる。
演奏するのは、定期演奏会でも披露していたあの曲だ。
このコンクールで県の代表に選ばれれば、次は支部大会。そしてその支部大会で代表権を獲得すれば全国大会へ参加出来るそうだ。
普門館。
吹奏楽をする人間なら、一度は立ってみたいと思う舞台なのだと、アッちゃんは言う。
日本最大の吹奏楽のコンクール。日本でいちばんの吹奏楽部を決める大会。
だからそこは『吹奏楽の甲子園』と呼ばれているのだそうだ。
何とも皮肉なことに、アッちゃんも『甲子園』へ行こうとしているのだ。
定期演奏会の翌日から休みもなく練習だったらしく、アッちゃんは花のお礼を言うとそのまま帰ってしまった。
明日も早くから練習だから、もう後はお風呂に入ってご飯食べて寝るだけらしい。
そうしてアッちゃんもカッちゃんもそれぞれ練習や試合に打ち込み、数日が過ぎた。
順調に勝ち進んだカッちゃん達野球部の、決勝戦の日。
アッちゃん達吹奏楽部も、応援に参加するようになっていた。
◇
七月二十八日。決勝戦前夜、いつも通りの練習を終えたアッちゃんは、宴会場と化した自宅の隅で小さくなっていた。
酔っ払い達が食べ荒らした後でロクに夕飯にもありつけず、余り物のお茶菓子で空腹を誤魔化しながら。
あたしの用意した余り物を食べると、それでようやくひと心地ついたようだった。
「明日、応援に行くんだ」
「まあね、さすがに決勝戦で留守にするのは体裁が悪いし」
「そっちの練習に影響は?」
あたしの問いにアッちゃんはしばらく考えて、困ったように笑った。
「まあ、演奏する曲はどれもそんなに難易度高くないし、問題ないよ。一応練習してきてる」
「そっちの曲じゃなくて、吹奏楽部が演奏したい方の」
アッちゃんはまた困ったような顔で笑う。
あたしだって困らせたい訳はない。けれど、どうしても止まらなかった。
「……今までの貯金で、どうにかなるさ」
「嘘だ」
「本当に。一日二日でどうにかなるほど、安い音楽やってないよ」
「でも、影響はゼロじゃないんでしょ?」
「…………」
アッちゃんは空になった湯飲みを口に運び、気が付いて恥ずかしそうにした。
何も言わないアッちゃんに、あたしはお茶のお代わりを注ぐ。
「球場で、応援で要求されるのは音程じゃなくて音量」
「……千恵ちゃん?」
あたしの言葉に、アッちゃんは呆然とする。
「コンクール前に音質が変わりかねない程の音量を要求される演奏をしなくちゃいけないのは、正直痛い」
「誰に?」
「先生に、直接」
「すごい行動力だね」
アッちゃんは呆れたような、困ったような顔で笑う。
「でも、大丈夫。この程度なら問題ないよ」
二煎目のお茶を舐めるように飲みながら、アッちゃんは
「言っただろ? そんな安いもんじゃないって、俺達の音楽は」
「けど、野球部にそこまで振り回されて」
「そんな悪者にするもんじゃないよ。千恵ちゃん、何かあった?」
ゴミ箱の中、六枚の使わないまま捨てられたチケットが思わず目に浮かぶ。ぐしゃぐしゃで、何かの油で汚れたチケット。
「別に」
「…………悪いことばかりでもないよ、大きな音を一度出しておくのもさ。手加減抜きで出せるのって、そうないから」
アッちゃんは「本当だよ」と付け足す。
だからあたしは肩の力を抜いた。アッちゃんがそう言うならきっと本当なのだろうし、それに部外者のあたしがアレコレ困らせることを言うのも筋違いだ。
「まあ、甲子園なんてトコに行くかもしれないんだ、そりゃみんな騒ぐさ」
アッちゃんはまだ祝杯を挙げている仏間を見やる。あたしもそれに習う。
「そういえば例の漫画だと、弟は行けないんだっけ、甲子園」
「漫画と俺達を一緒にされちゃ困るよ」
さすがに今のは失言だ。あたしが恐る恐る見ると、アッちゃんは肩をすくめている。
「俺は代わりに野球なんて出来ないしな」
「まあ、アッちゃん運動はからっきしだもんね」
「あはははは。まあね」
ようやく楽しそうに笑うアッちゃんに、あたしは少し胸を撫で下ろした。
「勝つかな」
「さあね」
アッちゃんは他人事のように呆然と付け足す。
「漫画じゃないんだから」
翌日、カッちゃんは当然の様にマウンドに立った。
アッちゃんやお姉ちゃんの応援を受けて、カッちゃんは誇らしげに大きく振りかぶった。
今回ここまで。
長々と失礼しました。
GJ!!!!
三期目に新作キタ!
>>20 三期も新作も続きお待ちしております
GJ
GJGJ!
ほとり一期二期も面白かったので三期と新作も期待
投下乙
新作は色々フラグを邪推して無駄にドキドキするな
>>20 投下乙です。GJ
ほとりコンビは相変わらずいちゃつきっぷりで安心w
個人的には村越さんの活躍にも期待してます。
さて、ここらで新規投下させていただきます。
純愛よりも幼馴染系まったりエロスを目指しましたが、うまく書けたかどうか。
27 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:16:53.70 ID:yz3SpMfL
ノックも無しに17歳の娘の部屋を開けて着替えを目撃したとなれば、これは間違いなく
闖入者が悪い。反対に、外からよく見える室内で小学生にイチモツを晒していたオジさんは、
迷惑行為で立件されたそうである。
では、この場合──ドアを開け放して着換え女の部屋にやってきた男を、彼女は咎める
ことが出来るのか。
少なくとも、そんなことを考える暇が、皆瀬那津子にはあった。制服を着直すにも扉を
閉めるにも足りなかっただろうが、アクションを取らずにボーっとしていたのは彼女の
意思だ。
「うぃーす、なっちゃん。クーラー借りに……っって、暑っ! 何この部屋!」
スカートを膝まで下げたセーラー服姿を正面から見つめて、西野亮一は開口一番そう
のたまった。
「ご覧の通り、今帰ったとこなんだよ」
「制服ってことは、そっか。なっちゃんは今日始業式?」
「そ。私立のおぼっちゃまは休みが長くて羨ましいわー」
「おぼっちゃまなら、節電を盾にクーラー禁止令出されたりされたりしねえって。お袋の
やつ、居間だけは付けっぱOKなんて自己中にも程がある……」
ぶつくさ言いつつ、持ち込んだ大荷物(勉強道具やら本やら果てはノートPCまで)を
床のテーブルに拡げ終わると、亮一は窓に手を掛けた。
「ちょっと、勝手に開けないでよ」
「この部屋、外より全然暑いぞ。クーラーより先に、一度熱気を出した方がいい」
「そうじゃなくて、着換え中なんだけど」
ショーツ姿で上着のリボンタイを抜きながら、那津子は言う。
「……そういうことは、ちゃんとドアを閉めて着替える人が言わないと」
眉を落として半眼になりつつも、亮一は後ろ手でカーテンを引いた。
28 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:19:24.82 ID:yz3SpMfL
西野家と皆瀬家は歩いて1分の距離にある。間に道路を挟むが、町内会は同じだ。
那津子には彼と初対面の時のはっきりとした記憶は無い。しかし、幼い亮一が良く回覧板
を持ってきた事を覚えている。母親から「一人でお使いできて偉いねぇ」と褒められるに
彼に、酷く嫉妬していたのだ。回覧板を回す方向が逆だったら、私が亮ちゃんのママに
褒められたのに、とかなんとか。
そんな微笑ましいエピソードもあるので、互いに行き来出来る窓が無くても、まあ幼馴染
と言って差支えない関係だろう。互いの部屋は顔パスで上がり放題、無断外泊も西野家
と皆瀬家の相互に限っては問題が無い(というか、勝手に連絡が行くのでその必要が
無い)。
とはいえ、今現在の那津子がうら若き少女であることもまた事実。そんな彼女が、
同い年の男を前に半裸を晒したまま会話しているのには、それなりの理由があった。
「いくらドアが空いてたからって、着換え中に踏み込んで一言も無いのはどうかと思う」
冷房の真下を陣取り、頬杖ついて自分の脱衣を眺める少年に、那津子は言った。
「ごめんごめん。お詫びに制服脱ぐのを手伝うよ」
「もう脱いでる」
「では着る方をお助けしましょう」
「暑いからいい」
「それは、纏わりつかれるのが暑いという意味? それとも、季節柄服を着る気が無いと
のご意向でしょうか」
「女子高生を何だと思ってるんだ変態」
「……一人だったらパンツ一丁のくせに何言ってんだ」
図星を突かれて痛いというほどでもないが、とはいえ正論には軽口も叩きにくい。その
まま無視して制服をハンガーを掛け、ついでキャミソールを捲り上げたところで、ブラの
ホックが勝手に外れた。
「おいコラ何をする」
「だから、無駄に真実を言って怒らせちゃったお詫び」
「別に怒って無い上にお詫びになっとらん」
「じゃあ勝者にご褒美を」
「確かにその方が筋は通るが亮ちゃんと弁論大会してた覚えもなくええい揉みしだくな
暑苦しいっ!」
29 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:22:00.03 ID:yz3SpMfL
後ろに放った那津子の肘鉄を難なく捕まえた亮一は、そのまま万歳させて肩紐を抜く。
その無駄な手際の良さに溜息をついて、10秒ほど好きにさせてから、那津子は言った。
「背中が汗で気持ち悪い。なのにお腹だけ寒い。サイアク」
「おっと、そりゃ悪かった」
亮一は後ろから双乳を揉んでいた手をぱっと離し、自分が冷房の風上側に回った。
今度は正面から抱き付いてくる。そのまま、ベッドに押し倒そうとした彼を、那津子は
肘で軽く突く。
「学校帰りで喉乾いてんの」
「もう1分だけ揉んだら麦茶とってくる」
「30秒」
「了承」
押されるままにベッドに座った娘の胸元へ、亮一は膝立ちになって顔をうずめた。時間
を値切ってしまった手前、那津子も何となく義務感を感じて、両肩を前に寄せてやる。
そうしてたわわに実ったCカップを、亮一は優に45秒は楽しんだ。最後に、ジュッっと強く
下乳を吸って、ようやく人心地と顔を上げる。
そんな彼と、数秒、無言のまま目を合わせていた那津子は、ポツリと言った。
「アクエリがいい。水で割ったのがいつものとこにあるから」
「りょーかい、なっちゃん。俺のポンジュースは?」
「知らない。でもお母さんこないだ買ってたと思う」
「じゃあ、また上の天袋かなー。ちょっくらついでに冷やしてくるわ」
「ん」
最後に、またちょっと手で触ってから、亮一はすっくと立ち上がった。あとは、特に
名残惜しげな様子も見せずに、ぱたぱた台所へ降りて行く。
彼の物音が聞こえなくなってから、那津子はふぅ、と息を吐いて箪笥へ向かった。下着
の棚を開けて、今履いているショーツと同じものを探す。残念ながら、見つからなかった。
今さら見栄を張る相手でもない、と自分に言って、今度はキャミを漁り始める。
水色のストライプが好みと聞かされた。だが、ババ臭い肌色の奴の方が、生地も薄いし
ちょっと大きめなのでし'や'す'い'らしい。ちょっと迷って、後者を被ると、彼女はのそのそと
クーラーの下に戻った。
30 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:25:10.75 ID:yz3SpMfL
付き合っているのか、と聞かれて、今さら否定するつもりはない。用もなく互いの部屋
に入り浸り、二回に一回以上の頻度で体を合わせていれば、言い訳の仕様も無いだろう。
実際、さしあたり他に狙っている男がいない事もあり、那津子は周囲に彼氏がいること
を公言している。もっとも、今の高校に亮一を知るものはいないのだけれど
だから、問題があるとすれば、
「いつから付き合ってるの?」
と聞かれても、答えようがないこところだろう。
正式な告白から始まった関係では無い。互いに好きと言い有った記憶もあんまりない。
(恋人プレイで好き好き言い合った覚えはあるが、あれはなにか違うと那津子は思う)
初体験の時の記憶はさすがにある。しかし、それを起点とするのもしっくりこない。
以前と以後で、何かが決定的に変わったとは思えないからだ。性への興味、大人への
反抗、思春期的衝動が閾値を越えた点が偶々表面化しただけで合って、亮一と那津子の
関係から生まれたものとも思えない。
では、つまるところセフレなのかと要約されると──それは、違う、と言いたい気持ちが、
少なくとも那津子側にはある。
「ただいま〜っと。お、大分冷えてるな」
5分程して、亮一は両手にお盆を抱えて戻ってきた。釣果はラベルの剥がれた2Lペッ
ト、麦茶のパック、缶入りの水羊羹。
最後のはお中元で伯母の家から送られた奴だ。那津子一人で勝手に空けると、母親から
小言を貰ってしまう。なので、この点はグッジョブ、と彼女は状況を評価した。
「アクエリってこれだよな」
「うん。コップは?」
「無い。ラッパでいいじゃん」
「重いから嫌。とってきて」
「えぇー。ご無体な」
そう言いながら、亮一は上半身をゴロンとベッドに投げ出した。しかし、ちょうど那津
子の足裏に耳が来たので、彼女が親指でツンツンと抗議していると、やがてムずがる様に
身を起こす。
31 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:27:17.59 ID:yz3SpMfL
だが、部屋のドアをバタンと締めて踵を返した亮一は、そのままペットボトルのスポー
ツ飲料を煽った。
なにするの、と問い詰める間もなかった。彼は今度こそ那津子をベッドに押し倒すと、
強引に唇を合わせてくる。彼女が観念して口を開くと、甘くてやや冷たい液体が、亮一の
舌を伝って注がれた。
こういうのは、本当はあまり好きじゃない。美味しく感じるのは今喉がカラカラなおかげで、
普段なら気持ち悪さが勝ってしまう。食べ物系は絶対NGだし、アレを飲むのは相手が
小躍りするほど喜んでくれるから出来ること。素の状態では、とてもじゃないが無理だ。
だが、そんなことは亮一だってよく分かっているはずだった。だから那津子には、
彼が焦っている理由の方が気になった。
「いつの間にそんな盛ったん?」
「いやあ、久々の制服姿だったもんで」
「四六時中見られる今から、そんな親父趣味でどうすんの」
「いや、俺言う程なっちゃんの制服姿見れてないんだってっ。登下校は一緒じゃないし、
家ん中は何時も私服だろ? セーラーなっちゃんは何気にレアなんだよレア!」
恥ずかしい台詞を恥ずかしそうに言う亮一は、どこか作っている感がある。胸元へ這い
上がってきた手をインターセプトして、那津子は自分にのしかかる少年を見つめた。
結果、10秒で亮一の方が根負けした。
「着換えの窓は締め切るくせに、俺が入ってくるドアは開けっぱだから……ちょっと
ムラっと来たんだよ」
確かに、こっちの方が恥ずかしかった。そう思った瞬間、再び唇が奪われる。
束の間の雰囲気に押される形で、二人はしばし濃い目の接吻を続けた。最後は、
亮一が体重をかけていたとに気付いて体を起こす。その際、唇の間で透明な水橋で
したたり落ちた。
「すまん、苦しかった?」
「ん。全然」 那津子は嘘を吐いた。
しかし、続けたいという気持ちも強かったから、返事としては間違っていない。
それをどこまで汲んだか分からないが、小さく「さんきゅ」と言って亮一は再び横に
なった。今度は彼女の横に横臥して腕枕する格好だ。頭に回した右手で膨らみを
愛でつつ、反対の手でじっくりと全身をまさぐっていく。
32 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:31:32.46 ID:yz3SpMfL
「…は…ぅん」
臍の周りで存分に円を描いた後、とうとう左手がショーツの中に潜り込んだ。何度も
交わって、目の前で拡げられたことも、舌を入れられたこともある。けれど、この瞬間は
いつも引き攣るような緊張がある。
だが、そんな那津子の心境とは裏腹に、彼女の秘部は潤沢なぬるみを以って出迎えた。
部屋の明かりを消して貰っていないので、その惨状は下着の上からでも明らかだろう。
割れ目に沿って二、三度前後させるだけで、亮一の指はたっぷりと愛液に包まれる。
「ひ……んんっ…ぁ…」
前庭に溢れた蜜を、亮一の人差し指が秘所全体に塗り広げていく。下から円を描くよう
にせり上がってきて、今にも上端の敏感な実を擦られる──そう那津子覚悟した瞬間、
小指がするりと中に入ってきた。
「…っきゃんっ!」
裏をかかれて、那津子は思わず嬌声を漏らした。事の最中、彼女はあまり声を上げない
性質だ。しかし、亮一はそれが不満らしく、あの手この手を打ってくる。
だから、今回も憎たらしいドヤ顔が待ってるんだろうなぁと薄目を開けると、意外な
ことに彼は不機嫌そうな顔をしていた。
不機嫌というか、正確には余裕の無い顔。
「え……?」
反射的に那津子は空いている手で亮一の股間を探った。勃起しているのは予想通り
だが、思ったよりずっとカチカチだ。彼女が触っても無いのに、根元のところまでこんなに
なるのは珍しい。下着の前開きを潜って直に触ると、案の定、傘の部分は先走りで
濡れていた。
「……亮ちゃん、」
「あー…。ムラっと来たっていったろ」
ぶっきらぼうに言うと、亮一は誤魔化しのつもりか再び唇を塞いで来た。同時に、
中に入れる指をもう一本増やして、少し乱暴に出し入れする。
その攻めはちょっとまだ早かったけれど、那津子は悪い気はしなかった。がっつかれる
のは嫌いじゃない。17の男子だけあって、普段も亮一からしたがる方が多かった。
けれど、こんなにあからさまに、自分に余裕があって、相手が一杯々々なのは久しぶりだ。
33 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:33:36.84 ID:yz3SpMfL
「……ぅん、もういいよ、亮ちゃん」
「え? いや、お前まだ…」
「んーん、だいじょぶ。第一、こんなんじゃもう限界でしょ」
下着から取り出したものをゆっくりしごきながら、那津子は言った。
「まあ、せっかく大丈夫な日なんだし、一回で終わりなんて言わないよ。だから、妙な
遠慮はいらないって」
「…っ。わりィ、なっちゃん」
感謝してるのに、つい「悪い」と出てしまう癖。良く無い口癖だから、亮一も直そうと
しているけれど、昔から本音を漏らす時は一緒に零れ出てしまう。
それを知っているから、「謝らないで、『有難う』って言ってよ」なんて野暮を、那津子
は言わない。でも、他の女ならどう反応するかな。なんてことを思うと、心の奥が
くすぐったい。
そんなバカな事を考えているうちに、彼女の足からするりとショーツが引き抜かれた。
たっぷりと蜜を吸った下着を余裕なくベッド下に捨て、彼は両手で大きく少女の股を
割り開く。
そのまま、一気に挿入を試みた亮一だったが、興奮が過ぎるのかうまくいかない。
モノが強く反り過ぎていて、角度が合っていないのだ。
「……すまん、ちょっと脚持ってて」
「ん」
亮一の嘆願に、那津子は応じた。自分で膝を抱えて、股間を拡げた体勢を維持する。
普段なら相当に抵抗のある格好だが、相方が正気で無い今はいくぶん気楽だ。
はね上がった一物を手で押さえ、再び亮一が覆いかぶさってきた。一度、わざと上の方
に押し当てて、襞の裏側の滑りを塗りこめる。それから、ぐっと腰を落とすと、先端を
泥濘へと沈めていく。傘の部分が入口の狭いところを潜り抜けたのを確認し──
34 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:35:41.64 ID:yz3SpMfL
「ふっ…ぁ…はぁぅっ!」
二回、浅瀬で弾みを付けてから、一気に奥まで押し込んで来た。準備の時間は十分で
なかったけれど、受け入れられない程では無い。膣内の潤みは十分だったし、多少
こなれない肉襞も、今のガチガチな彼のモノにはちょうどいいかも知れない。
続けていい、との意志表示のつもりで、那津子は両脚を彼の体に巻き付けた。
力は入れず、抽送の邪魔にならないよう、足首を腰の後ろでそっと組む。
そんな長年の阿吽の呼吸は、幼馴染に正しく伝わった。感謝のお礼の様なキスの後、
亮一は上体を起こして頭の横に手を突くと、怒涛の勢いで腰を振るう。
「はあっ……ひゃっ……や…ぁ…んあぁ!」
15cm差の男に手加減無く突き上げられて、さすがの那津子も明確な喘ぎ声を上げ始めた。
快感以上に、体の中を内側から押し潰すような圧迫感が、彼女の肺と喉を震わせる。
けれど、その激しさが那津子は嫌いでは無かった。薄目を開ければ、ガクガクと揺れる
視界の端に、切羽詰まった幼馴染の顔が見える。
今この瞬間、主導権は間違いなく彼の方にある。那津子の体は内も外も、息をつく
タイミングまで亮一の動きに支配されている。でも、そうさせているのが他ならぬ自分
だと言うことを感じるこのとき、目の前の少年がたまらなくいとおしい。
だから、はっきり言って、セックスは好きだ。
その理由のために、不純と言われるなら、否定は出来ない。
「あっ、ああっ……ひゃっ……んああっ!」
それにしても、今日の亮一の高ぶりは凄いな。と、霞のかかってきた頭で那津子は思った。
固さと"反り"が尋常じゃない。出す直前だって、普段はこんなにならない気がする。
おかげで、お腹側の壁をグリグリと削られる感じがすごい。
クリトリスを触られたような快感は無いけれど、しびれに似た熱が確実にお腹の奥に
溜まっていく。時々、入口の襞が意志とは関係なく痙攣し始めた。初回はただ受け入れる
だけのつもりだったけれど、一緒にいって上げられるかもしれない。
35 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:37:44.73 ID:yz3SpMfL
そのことを伝えたい、と那津子は思う。一回目は自分本位で終わることを引け目に感じ
ている彼に、ちゃんと気持ちよくさせられてるんだって教えてあげたい。性感だけでなく、
征服感も味わってほしい。普段生ばっか言ってる口の悪い女も、今は亮ちゃんに
の'さ'れ'て'るんだって。
でも、普通の彼女だったら、そういうのは恥ずかしいから隠そうとするのかな。
「ひゃう……あっ、やっ…っく…きゃんっ!」
しかし、いずれにせよ、もう那津子に出来るのは彼の迸りを受け止めることだけだ。
亮一の手が腰を押さえ、抽送のペースがさらに上がる。膨らんだ傘が娘の体奥を容赦なく
突き上げ、まともな呼吸もままならい。このまま続けられたら窒息するんじゃないかと思う
けれど、それは相方の方も同じかもしれない。
パタパタと生温かい粒が、那津子の顔に降っている。亮一の汗だ。それに気付いて、
最後にもう一度瞼を開けると、彼も那津子を凝視していた。激しく揺れて、涙に曇った
視界でも分かる、うつろで取り付かれた男の瞳。
それを見て、多分、笑ったような表情を作ったんだと、那津子は思う。
次の瞬間、亮一はがばっと体を落としてきた。両腕を後ろに回して、彼女を全力で引き
よせる。そうして、身動き一つ取れない娘の一番深いところへ、己の分身を突きたてた。
「ふぁっ…やっ……はうううぅぅん!」
全身を圧搾れて、悲鳴ような嬌声を上げながら、那津子は亮一の射精を受け止めた。
36 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:39:47.72 ID:yz3SpMfL
亮一が体を起こしたのは、1分程経ってからだった。最後の一滴まで注ぎ込もうと、
未練がましく腰を押し付けていた彼は、そこで再び自分の重さの事を思い出したらしい。
「わり、苦しかった?」
「だから、いいってのに」
小さく吹き出しながら、那津子は答える。さっき同様重かったのは確かだけれど、
それに見合うだけの満足があった。だから、いい。
それに、体の方も、ちゃんといけたみたいだった。はっきりとした波があったわけでは
無いけれど、終わったあとの倦怠感も、事後特有の敏感になった感触もある。クリトリス
を使わない時はいつもそんなもんだから、これが中イきの感触なんだと、那津子は考えて
いる。
「それより、さっきまでの暴走モードは収まった?」
「へへぇ、御蔭さまで……と言いたいところではあるんだが」
中に収めたままのモノを、亮一はピクンと跳ねさせた。先程よりは幾分小さくなって
いるものの、まだ内にしっかりとした芯がある。
「…っん。…まあ、好きなだけって言質渡したのは、私だしね」
「御厚情、痛み入ります」
「だが先ず小休止を要求する」
「合点承知」
快諾して、亮一は彼女の体を抱きしめたまま体を起こす。正常位から、対面座位に移行
した格好だ。膝を立ててうまい具合にクッションを仕込み、ちょうどいい背もたれを作って
くれる。
但し、お腹の一物を抜く気は無いらしい。那津子もこの体位は嫌いではないが、相方の
"入れっぱなし"好きには時々辟易することもある。
「とりあえず、水分補給したいんだけど」
「おう、任せとけ」
安請け合いしつつも、顔しかめるまで体をねじり、やっとのことでペットボトルを取っ
た少年に、彼女はジト目で言ってやった。
「一度外せばいいだけなのに」
「ばっか、それじゃ意味ねーんだよ!抜かず二連発ってのは、生でヤレる日じゃないと実
現できない究極の男のロマ…」
「うるさい」
「すみません」
腰を上げてやろうかと思ったけれど、亮一が恭しくアクエリのペットを捧げ持ったのを見て、
那津子は許してやることにした。そもそも、ちゃんと立てたかは怪しいものがあるけれど。
37 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:42:10.66 ID:yz3SpMfL
「んっく……っぷは。でも、やっぱ飲みにくいから後でコップ持ってきて」
「うい。終わったらちゃんと持ってくる」
それじゃ何時になることやら、と溜め息をつき、彼女は即席の背もたれに身を預けた。
深く呼吸すると、下腹の中身も動くのか、亮一のものが中で擦れるのを感じる。
「水はもういいの?」
「ん」
「羊羹食べる?」
「いや、今はさすがに……」
「アクエリが合わなきゃ麦茶もあるよ?」
「……なぜ執拗に飲食させようとする?」
「頂いた温情に報いたいと思う俺の仁義の心がだな、」
「いや、単純にもっとアブノーマル染みた企みを感じる」
再びにらめっこ勝負になるかと思いきや、今度は亮一があっさりと折れた。
「なっちゃんが飲んだり食べたりするとね、その内臓の動きがあそこに伝わって面白いと
いうか気持ちいいというか」
「………………変っ態」
「お褒めに預かり光栄です」
直前に似たようなことを考えていたせいで、罵倒がワンテンポ遅れてしまった。
そのことに気付かれたかどうかは分からないけれど、彼の余裕な返しが見透かされて
いたようで恥ずかしい。
軽口のネタも尽きて、那津子は溜息とともに顔を落とす。すると、自然に繋がったままの
そこが視界に入ってきた。
股間に一物が深々と突き刺さっている光景は、いつ見ても異様だ。あの太さのものを
体重かけて揮われるわけだから、そりゃあ大変なわけだと納得する。股座は激しい抽送で
掻き出された蜜がびしょびしょに溢れていたが、亮一の精液は栓が効いているのか、
まだ垂れてきていない。
ふと、男の子の入れっ放し願望の理由が分かったような気がした。相手へ確実に自分の
遺伝子を流し込みたいという、牡の本能なのだろうか。
でも、するていと、中出しした後に、逆流するのを見たがるアレは何なのだろう。一種の
マゾヒズムか何かか?
38 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:44:12.76 ID:yz3SpMfL
なんて、那津子が酷い物思いにふけっている間に、亮一の手が彼女の両胸に伸びていた。
膨らみを正面から鷲掴んで、全体をゆったりと揉みこんだり、時々乳首を口に含んだり。
「ん……もうはじめるの?」
「どーかなー。とりあえず、あるもの触らないのは勿体ないので」
徒に快感を煽るようなことはしなかった。一回目の後戯だか二回目の前戯だが分からない
ような、曖昧なペッティング。
「あー。こうしてると、夏も終わりを感じるなー」
「おっぱいに季節感なんてなかろうに」
「いやいや、そんなことないぞ? 夏場の汗かいた谷間の匂いは……だー、すまん、
悪かったって!」
今度は本気で立とうとしたのだが、やはり途中で腰砕けしてしまった。半分程抜けかけ
た強張りが音を立てて中へ戻り、反動で亮一のが浸みだしてくる。
「でも実際、学校始まったら、こうしてまったり長時間繋がったり出来ないよ? ましてや
安全日を狙ってなんて」
「まあ、それは……っん……そうかもね」
「学校帰りとか塾帰りとか、一・二時間の都合を合せて腰振って身支度して……慌ただしい
にも程があるぜー」
「すさまじく身も蓋もない言い方だが、……一理はあるか」
「だからだね。こうして…あむ……。時間を気にせずなっちゃんのおっぱいを堪能できる
のも僅かかと思うと、夏の終わりの寂しさをひしひしと感じるわけですよ」
「綺麗に纏めようとしているのは評価するけど、あまりうまくはないなぁ」
「うむ、だんだんと余裕も無くなってきて……いいか?」
「ん」
後ろに持たれていた那津子の体を、亮一が再び抱き戻す。角度が合って、彼のものが
グッと奥まで沈みこんでくる。途中から、中をグイグイと押し広げていたから、彼女もそろ
そろかなとは思っていた。個人的には、もう二・三分休んでいたいところだったけれど。
ただ、今度は一度目のような激しい行為にはならないだろう。さっきのような益体も
無いお喋りを挟みつつ、時間をかけてゆっくりと交わる。途中、自分本位で終わったと
思い込んでいる亮一が、一度はいかせに来るだろう。その後、二人でお茶飲んで、羊羹
食べて、途中でまた彼が那津子の身体で遊び始めて、三回目。終わったころには夕飯だ。
39 :
残暑ロスタイム:2011/09/18(日) 20:46:15.61 ID:yz3SpMfL
大したお出かけもせず、さしたる雰囲気も無しに、部屋に籠って体を繋げるばかりの日々。
自分たちの夏は、傍目から見ればそんなものかもしれない。
けれど、終わってみればちょっと名残惜しい。ひと夏の思い出なんて呼べるものは無い
けれど、どこを振り返っても彼とのまったりとした時間がある。
それを思い返した時、何となく頬が緩むのが、那津子にとっての西野亮一というものだ
った。ドラマのような大恋愛にはとんと縁が無いけれど、こういう幼馴染がいる自分は、
まあ、幸運な部類に入るのだろうと、彼女は思う。
「……なっちゃんてさ、時々してる最中に、そうふにゃって笑うよね」
正常位に戻って、浅い抽送を始めていた亮一が、出し抜けに言った。
「あに。薄気味悪いって?」
「何でそうなる……。つか、いつもそんな風に笑ってくれると、安心するんだけどなー」
「安心?」
「うむ。なんつーか、わたし幸せですって感じだからさ」
「……亮ちゃんってさ、時々してる最中に、ヤな感じでナルシストよね」
「っうえ!? なになに? どゆ意味?」
那津子は無言で両手を伸ばし、亮一の頭を抱き寄せると、小うるさい唇を封じて
黙らせる。
ひとまず、今は余計なことを考えずに、この夏最後のロスタイムを満喫しよう。
以上です。
距離が近すぎて何気なくエッチまでしちゃった末の熟年夫婦みたいな
幼馴染が好きです。
それでいて、年相応な部分も残っているアンバランスさがあると尚よろしい
ちょっと特殊性癖かな……
>>40 GJです。なんかまったりしてていいですね。
おお。実にまったり……よきかなよきかな。
GJですわ。
43 :
忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/09/18(日) 21:51:48.20 ID:BqWzwnro
>>40 なんかこの怠惰な感じが新鮮
グッドジョブですわ
いいなあ、こういうの
G J !
>>40 絶妙のアンバランスさだ。
怠惰でただれていて、それでいて年相応でどこか初々しい。
こんな情事を書ける力が心底羨ましい。
気軽に部屋に遊びに来る幼馴染にネットで手に入れた睡眠薬を飲ませて悪戯。
後始末はきっちりやって相手は何をされたか気付かないのでその後も普通に遊びに来る。
そしてその度に睡眠薬を飲ませて悪戯。
しかし実は睡眠薬の量が足りてなくて体は麻痺してるけど意識ははっきりしていて、何をされてるのか全て知ってたというオチ。
こんな話を読みたいです。
それは昏睡レイプといふ立派な強姦でやんす
>>47 意識があってなにされてるか知ってるってことは嫌ならもう二度と来ないだろう
それにも関わらず何度も来るってことは、一応同意の上ということになるのでは?
>>40 素晴らしい!こういう味ってなかなか出せないんだよね
でも今の高校生は「ご無体な」とか言わないと思うw
前スレ埋めネタがどれも秀逸だった。GJ
ここである種の小説がこのスレに適してるかどうか聞くのって
誘い受けでご法度になりますか?
シチュが合ってるかどうかってこと?
そのくらいなら別にいいんじゃないかな。
ちなみに、どんなの?
魔法とか剣とかのファンタジー物です
このスレに投下するつもりでずっと書いてたんですけど今更ながらスレの趣向にあってるか不安になりまして…
>>53 このスレは幼馴染み萌えスレ。
どんな舞台でも、そこに幼馴染みが居るのなら問題ないと思う。
>>53 不安なら.txtで上げて注意書きして置いとくとかでもいいとおもうよ
前スレラストGJ
最後の一行がエロく見えてしまった
なんだね、キミはパンダこと高橋由伸に恨みでもあるのかね
最近は……まあ、ねぇ?
ファンだからこそ「オフの度に体型変わってるんじゃねえ」とか
「てめえ心臓に悪いからダイビングしないでくれ」とか言いたいことはそれこそ山のように(ry
>>40 なんかこう…すごいムラムラした。
主人公の変態ぶりのせいだな。
汗まみれのおっぱいはロマン。
ひよこ系幼馴染
60 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/26(月) 01:16:34.81 ID:wYB5FW20
幼なじみが教室でいきなり自分を抱けという
だが断ると彼は言う
前スレの「カッター」はかおるさとーさんでしたか〜ありがとうございます
だが糖尿で全摘&透析通い
じいちゃんが透析患者だったけどよく20年も続けたもんだと思うわ
まさかの誤爆スマンカッタ
保守
67 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 22:40:10.20 ID:LFZDC7bM
昔見たんだが
女主役
惚れた先輩にストーカー気味
サッカーボール盗む
幼馴染が後始末
物盗むの見つかって振られる
幼馴染に慰められそのまま
ってのが思い出せない
では長らくお待たせしました。
stadium/upbeat
02. Moorside March
投下します。
注意点
本作品はフィクションであり、実在の人物団体など一切関係ありません。
また劇中に言及される某作品への悪意などもありません。個人的には好きな作品です。本当ですよ? 全巻そろえてます。
02. Moorside March
決勝戦前は、誰もが浮かれて騒いでいた。アッちゃんやあたしを置き去りにして。
アッちゃんの夕食が終わると、どうやら帰ってきたカッちゃんが仏間に現れたらしい。一際大きな歓声が上がり、酔っ払いは口々に未来のヒーローを讃えている。
あたしは漬物を齧っては三煎目のお茶を舐めるようにゆっくり飲む。
どうやらカッちゃんにもお酒を呑ませようとしているらしい声がする。それ聞いて、アッちゃんが立ち上がった。
「アッちゃん」
思わず呼び止めると、アッちゃんは肩を竦めた。
「しょうがないな」
苦笑を浮かべて、アッちゃんは仏間へ向かった。
あたしは何となく立ち上がり損ねてしまう。アッちゃんは巧く酔っ払いからカッちゃんを引き離したようだ。足音が寝室のある二階に向かう。
アッちゃんも居なくなった訳だし、あたしはタッパーとどんぶり鉢を手に家に帰ることにした。
食器を洗ってから居間へ向かうと、お姉ちゃんは居なかった。
はてこんな時間にどこに行ったんだろうと思っていると、庭先に居た。
何やってんだかと声を掛けようとすると、お姉ちゃんの声が聞こえた。
「もし……明日カッちゃんが勝って甲子園にいけたら……」
誰に話し掛けているのか、覗き込んでみるとアッちゃんが困ったように笑っていた。
「いけたら?」
「そうしたら……次はアッちゃんが、もうひとつの南の夢をかなえてくれる番ね――」
「もうひとつの夢?」
アッちゃんは怪訝そうに尋ねるけれど、お姉ちゃんは答えない。さて、何となく出て行き辛い雰囲気だし、さっさと退散してしまおうか。
そう思うけれど、なんとなく足が動かない。
アッちゃんがどう答えるのか、どう感じているのか……気になった。
「普門館にいきたいの?」
アッちゃんの目指す場所。けれどお姉ちゃんは
「不問間? 何それ」
知らないようだった。それも当然だろうけれど。
アッちゃんは困ったようにかぶりを振った。お姉ちゃんはそんなアッちゃんに重ねる。
「もっとふつうの夢よ」
「ふーん」
アッちゃんは眠たそうに目を瞬いてから
「じゃあ明日もあるから、おやすみ」
と、たいした感慨もなくさっさと出て行った。お姉ちゃんはその背中を呆然と見送ってから
「もうちょっと尋ねてくれてもバチは当たらないと思うんだけどな……南の夢」
と随分なことを言っていた。
翌朝。
何となく起きる気になれなくてごろごろしていると、庭先が賑わしくなった。
何をやっているのやらと覗いてみると、アッちゃんカッちゃんと、お姉ちゃんがキャッチボールの真似事をしているらしかった。
特に混じる気にもなれなかったので、ぼんやり眺めることにした。
アッちゃんはカッちゃんの投げる球を取り損ねて苦笑している。もっとも、取れないアッちゃんを責めるのはお門違いだ。
仮にも高校野球の予選大会決勝戦に出る投手が、変化球を使うのだから。
二階の窓から、上から眺めて分かるほど大きく逸れていく球を取れるというのなら、アッちゃんは野球を試しているだろう。
「キャッチボールもまともにできない男なんかといっしょになると、女は幸せになれない」
カッちゃんはそんな事をお姉ちゃんに耳打ちする。
「世のお父さん達がみんなキャッチボール出来るとは限らないだろうに」
アッちゃんは転がっていった球を取り、もう止めだと言わんばかりにその辺りにグローブごと置いてしまう。
「もう止めちゃうの?」
「野球部のエースの相手なんか出来ないよ、俺には」
「そんなことないよ、兄貴」
カッちゃんはどこかおどけた様な顔で
「ではこれより、プレイボール!」
右手を軽く掲げて、そう宣言した。
「それ、死亡フラグ」
と呟くあたしの声は、地上には届かない。
「何がさ?」
アッちゃんはきょとんとしている。
「兄貴とおれの先の長い勝負―――」
二人のあまり似ていない兄弟と、双子の妹を持つ少女。
そんな三人が、何かをしている。
あたしはどうしたものかとため息をつく。
「あ、審判は公平にね。ひとまず特別な感情はおいといて」
カッちゃんが重ねる。芝居がかった口調と仕草が、あたしにはひどく滑稽に見える。
「先攻はぼくだね」
芝居がかった口調と仕草。そのセリフを、ひょっとしなくても憶えるほど読みこんだのだろう、例の漫画を。
「……」
呆然とアッちゃんはそのお芝居に組み込まれていく。アッちゃんが巻き込まれていく。
「まず南を甲子園につれていくことで、先取点をねらいますので……よろしく!」
対するアッちゃんは、胸を張るカッちゃんを一度眺めてから
「……和也」
芝居くさい雰囲気を斬り払うように。珍しく強い口調で、アッちゃんはカッちゃんの名前を呼んだ。
「いつからだったか、俺はずっと和也に。南ちゃんにも、言わないとと思っていた」
アッちゃんは『台本』にないセリフを口にする。
「千恵ちゃん、今日はまだ起きてないんだね」
「え? うん、まだ寝てる」
「……そっか」
きょとんとしている二人を置き去りにして、アッちゃんは続ける。
「和也、お前は何で甲子園に行きたいんだ?」
「え? そ、それは南を―――」
「それも良いだろうさ。そういう目的だって言うのなら、俺も止めはしない。でもな……お前は武司和也だ。ドラマチックに仕立て上げるのが好きな大人に振り回されるな」
「兄貴?」
アッちゃんはふと上を見る。あたしは慌てて首を引っ込めた。
アッちゃんの、不思議に静かな笑みが目の端に残る。
「結局さ、誰かの為に何かをするなんて、無理なんだよ」
「アッちゃん……」
「滅私なんて聞こえは良いけどさ、そんなの聖人君子が公の為にすることだろ? だから俺は、お前が自分の為に戦ってきて欲しいと思ってる」
あたしは、朝の日差しの中で一人口の端を持ち上げる。
いつかあたしが言おうと思っていたことを、今舞台の上に上がっているアッちゃんが突きつけている。
「これから起きることの結果なんか俺には分からない。ただ……それは全部お前のものだ。上手くいってもいかなくても、誰も責めはしないよ。自分以外は誰も、な」
アッちゃんの言葉が続く。もう芝居じみた雰囲気は、微塵も残っていない。
「この夏が終わった後にお前が納得していることが、俺の望みだよ」
恐る恐る顔を出し、アッちゃんの顔を盗み見る。
いつもの穏やかな顔で、けれどアッちゃんは続ける。
「和也、野球好きか?」
「え?」
「一番大事なのは、少なくとも俺はそこだと思ってる」
そう言い残すと、アッちゃんは手をふらふらと振ってそのまま二人を置き去りにする。
「試合は一時からだろ。次は球場で」
そのまま家の中へ消えていくアッちゃんを見送ると、あたしは起き上がった。
言いたかったことは、あらかたアッちゃんが口にしてくれた。
あたしは何となく清々しい気持ちで顔を洗い、台所へ。
浮かれて球場へ行く準備をしているらしい両親を尻目に、お弁当の余り物で朝食を済ませる。
さて。
行くつもりはまるでなかったのだけれど、なんとなく球場へ足を運ぶ気になった。
せっかくだ。部外者のあたしは部外者らしく、客席から眺めさせてもらおう。それがあたしの仕事のような気がした。
カッちゃんは大事をとっておじさんが学校まで送るらしく、両親とお姉ちゃんは見送りに出て行った。
あたしはのんびりと表へ出て、タイミングよく出て行った車のおしりを眺めた。
無事に球場に辿り着くことを、密かに祈りながら。
七月二十九日。
全国高等学校野球選手権地方大会決勝戦。
その試合が行われる県営球場、時間は午後十二時三十分。
一塁側アルプスでは『カッちゃん』の応援に駆けつけたお隣に住む幼なじみの『南ちゃん』の取材が行われている。
あたしはと言えば、アルプスの一番高い所から、その『南ちゃん』を眺めている。
既に両チーム球場に到着している。
もちろんカッちゃんもだ。特に何も起きることなく、当たり前の様に。
アッちゃん達吹奏楽部も応援の準備をしている。
アルプスの一番前で、同窓会会長だと言うどこかの中年が、血気盛んに何かを叫んでいる。
応援席の諸君は十人目のナインである。決死の覚悟で応援せよ。と喚いているのが聞こえてきた。野球で甲子園で決勝戦となると毎回沸いてくる手合いの人間だ。
それにしても、十人目のナインって変な言葉だ。それに、この応援席のどの人間が『十人目』なのか。疑問と突っ込みどころは尽きない。
まあ、順当に行けば十人目は『南ちゃん』だろうけれど。
野球部マネージャーは他に二人、三年と二年に一人ずついるが、ベンチには三年の人が入っているらしい。
あたしはテンション上がりっぱなしの生徒の中をかき分けて、吹奏楽部の近くの席を確保した。
アッちゃんたちが、練習の時間や音質を犠牲にしてまでする応援を聴いておこうと思ったからだ。
ふと、アッちゃんの顔を見つける。
必勝の鉢巻を楽器に巻きつけ、自分はタオルを巻いたアッちゃんはあたしの視線に気付いてくれて、静かに微笑み返してくれた。
それだけであたしは少し嬉しくなる。
野球部には悪いけれど、あたしはもう満足だ。
そうして午後一時。
大きなサイレンの音の後……
「ではこれより、プレイボール」
あたしはこっそり、そう口にした。
吹奏楽部が、自分を犠牲にした音で歌い始めた。
結果を言えば、優勝した。
カッちゃんは見事試合を投げきり、春の甲子園でベスト4だった強力打線を抑えてみせた。
大人たちは興奮しきり、未来のヒーローを讃えて隣近所が総出で祝勝会を開いている。
これで、カッちゃんは南ちゃんを甲子園に連れて行けるわけで、文句なしのハッピーエンド、めでたしめでたしだった。
お姉ちゃんは学校で取材と片づけを終えてから帰ってきた。
すぐに隣の祝勝会に連れて行かれたけれど。
あたしは冷蔵庫の余り物を適当に煮付けて、ご飯を炊く。少し固めのご飯を。
夕食の準備を終えると、丁度アッちゃんが帰ってきた。
どうせアッちゃんの夕食なんてないのだ。
あたしは少し待ってから、アッちゃんの家へ。
台所で昨日と同じく小さくなって余り物をもそもそ齧っているアッちゃんを見つける。
やはり、アッちゃんの夕食はない。
「ああ、おかえり千恵ちゃん」
アッちゃんは相変わらずの貧乏くじで、あたしは肩をすくめて
「ご飯、ウチにおいでよ」
と誘った。
「……あー、じゃあ」
「ん。たいしたものはないけど」
「ううん。ありがとう、千恵ちゃん」
アッちゃんはぼんやりと笑っていて、あたしはその色々貧乏くじばっかりな所がその実嫌いじゃなかったのだ。
◇
そして一週間ほどが過ぎ、甲子園の対戦カードを決める抽選が行われた。
今年の夏の甲子園は八月六日から行われる。
あたし達の高校は大会二日目の第二試合。
息子の晴れ姿を大手を振って見に行けると、おじさんとおばさんが大喜びする素晴らしい日程で、抽選の中継を見て万歳をしていた。
日曜日の試合がよほど嬉しいらしい。
そう、八月第一週の日曜が、カッちゃんの試合の日になったのだ。
それを見ていたあたしは、さすがに血の気の引いた顔になっていたと思う。
―――八月第一週の日曜日。
それは、吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール県大会が開催される日でもあった。
「どうするの?」
帰ってきたアッちゃんを捕まえるとウチの庭先へ引っ張り込んだ。有無を言わさずそのままあたしは食いかかるように尋ねる。
「ん……」
アッちゃんは困ったように笑って、けれどキッパリと答えた。
「決まってるよ。俺達は吹奏楽部だ」
あたしはほっとした。野球部には悪いと思ったけれど、良かった。
「うん。あたし、聴きに行く」
「きっと、あまり楽しくないよ。それより甲子園に行った方が……」
「何が楽しいかなんてあたしの勝手。あたしは甲子園より、市立文化センターに行きたい……普門館に行きたい」
「え?」
「アッちゃん……あたしを普門館につれてって」
「千恵ちゃん……」
「ね、元気、出た?」
見つめる。
少しだけあたしよりも高くなった背を。
いつも曖昧に苦笑いを繰り返していた優しい顔を。
今は苦しそうに嬉しそうな瞳を。
「ああ……ありがとう」
「ううん。ありがとうは、あたしだ」
あんなに沢山のものを貰ったのだ。あの二時間の価値は、あたしの中にある。
「でも、アッちゃん……本当に大丈夫? 甲子園行かなくて」
「ん……正直今日は練習よりそっちの話し合いの時間が長かったよ」
「話し合う余地なんてあるの?」
「部員と先生は満場一致でコンクール。でも校長先生とか教頭先生がね、やっぱりね」
「……何て?」
「甲子園で演奏出来るのが名誉だろう。とか、我が校の応援席に吹奏楽がないのは考えられない。とかね」
「何それ、吹奏楽部は応援団じゃないのに」
「まあね、でもテレビで中継されるし、そういう見えやすい部分の栄誉? とか、そういうの優先するのは学校や大人なら当たり前なんだろうけど」
縁側のガラス戸を引き開けて、あたしはそこに座る。隣を手で叩いてアッちゃんを誘った。
アッちゃんはふわりと微笑んでから、ゆっくりとあたしの隣に腰掛けてくれた。
あたしよりも少しだけ高い上背。それがいつからそうなったのかは、実は分からない。
気が付くと、アッちゃんはあたしよりも背が高くなった。
カッちゃんよりも成長ものんびりしていたアッちゃんだったけれど、それでもちゃんと男の子なのだ。
そんなことに思い至ると、真面目な話をしている途中だというのに少しだけどきりとした。
「後は連絡を受けて駆け込んできた同窓会会長だっておじさんの説得が大変だったな」
「あー」
それは分かる。いかにも野球バカって感じだった。
「お前らも応援の為に今日まで練習してきたんだろう! とか言い出した時は、どうしたもんだかと思った」
「どう説得したの?」
「してないよ」
「え?」
「話し合いの途中で向こうが怒って帰っていった。大変だった」
「うわ……」
もうメチャクチャだ。
「で、校長先生とか教頭先生をどうにかなだめすかして帰ってきた。一回戦はコンクール出ないメンバーとOBの有志でどうにかするって」
「出ないメンバーって、どれくらい居るの?」
「んー、パート毎に一人か二人、合計十四人かな? OBの有志は今から探す」
「……困ったね」
「んー、まあ日曜だからOBの先輩も多分それなりに来てくれるだろ」
アッちゃんは苦笑してからそう答える。それだけで、今日はどれだけ大変だったか分かるような気がした。
野球部を優先して吹奏楽部は蔑ろにする大人達相手に、なだめたり謝ったり逆ギレされたり。同じ高校生の部活動なのに、どうしてそんなに差がつくのか。
あたしはこっそりとため息をついた。
もし居るなら、神様でも何でも良いんですけど、助けてあげてくれませんかね。
せめてアッちゃんが、何の後ろめたさも感じずに舞台に上がるくらいのこと、させてあげて下さい。
家に帰るアッちゃんの後ろにを何となくついて歩く。
これから応援には出ないことを両親に説明するらしい。
あたしは何も出来ないしただの傍観者だけれど、それでもせめてアッちゃんの味方になりたかった。
もっとも、そんな必要はなかった。
アッちゃんの両親は笑って
「行って来なさい」
と言ってくれたのだから。
本当に良かったね……アッちゃん。
もうそろそろ寝ようかと思っていると、携帯に着信。一昔前のあまり流行らなかったバンドの歌が、お姉ちゃんからだと告げる。
大体用件は分かってしまうので、あたしはしばらく躊躇ってから渋々と着信に応じた。
「……はい」
「あの、千恵ちゃん。今大丈夫?」
野球部に付き添って神戸で逗留しているお姉ちゃんの、久しぶりの声だった。
「大丈夫」
「ありがと」
お姉ちゃんはどこか緊張した声音をしていて、しばらく言いよどんだ。
それで、あたしはお姉ちゃんの用件が想像通りだと確信する。
「お姉ちゃん? 何の用?」
いい加減面倒になったあたしは、お姉ちゃんを促す。
「ん……あの、千恵ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」
ベッドに腰掛けて、長期戦に備える。
気分は迎撃。大切な何かを守るそれに、白状すれば気分が少し高揚する。
「吹奏楽部……アッちゃんが甲子園に来てくれないって、本当?」
「みたいだね」
「……どうして、なんだろ」
「そりゃ、アッちゃんにはアッちゃんのやりたいことがあるんだから……当たり前じゃないの?」
「南ね、甲子園が夢だったんだ。小さいときからの――」
「知ってる」
「初めてTVでみた甲子園――そして……背番号1!」
その時のことは、あたしも憶えている。
当時すでに例の漫画については聞かされていし、実際に読んでもいた。だから正確には、TVで甲子園を見てからではないのだが……
そんなことをイチイチ指摘するほどあたしも空気が読めない訳でも、暇な訳でもない。
「カッコよかったなァ…」
「そっか」
どうせいつもの夢見がちな目をしてどこか宙を見ているのだろう。
お姉ちゃん自慢の黒髪を揺らせて。
お姉ちゃんの肩口までで揃えられた黒髪は、ゆるやかに波打っている。特にお風呂上りのお姉ちゃんの髪の毛は、女のあたしが羨む程に綺麗だった。
双子なのにまるで似ていないあたしの髪の毛は、お姉ちゃんみたいに柔らかくない。硬い髪質で、手入れが結構大変だ。
それでも長く伸ばしているのは、せめてもの意地だ。お姉ちゃんよりも可愛くない妹の、女の子らしいところをみせたいという。
「それがサ、もし自分の高校で………そしてその背番号1が南の――」
相槌を打って欲しいらしい呼吸に、あたしは気付いてないふりをする。お姉ちゃんのお芝居につきあうつもりは全くなかった。
「幼なじみだなんて最高じゃない……」
「ふーん」
極論、あたしにとっては他人事だ。カッちゃんが甲子園に出ようが、オロナミンC球場に出ようが、東京ドーム地下闘技場に出ようがあまり関係ない。
今日まで傍観者を決め込んでいたあたしに、カッちゃんが叩き出した結果に乗っかって喜びを分かち合う資格はないのだから。
「それをTVじゃなくて甲子園のスタンドでみるの……それが南の夢」
「それで?」
「……ねえ、千恵ちゃんからもお願いして欲しいんだ、アッちゃんに―――」
「お断り」
ハナっからお姉ちゃんの話は勘付いていた。アッちゃんに、吹奏楽部に自分達のコンクールよりも甲子園を優先させて欲しいと頼むつもりなのだと。
「でも、甲子園だよ! 日本中が注目して、みんなが喜んでくれてるんだよ!」
「そんなの知ったことじゃないわよ。誰が注目していようと、誰が喜んでいようと、大事なのはそこじゃないんだから」
「同窓会の会長のおじさんなんか、わざわざ電話までかけてきたんだよ」
「どこの誰がどう思っていようと、吹奏楽部は吹奏楽部の為にあるに決まってるじゃない」
「南は―――ただ、甲子園を、みんなで応援したいってだけなのに」
「あたしは、アッちゃんが市立文化センターに出てくれる方が嬉しい」
価値観の、絶対的にして絶望的なまでの相違だった。
「……吹奏楽部の応援がないアルプスなんて、見たことないよ」
「コンクールに出ないメンバーと、OBの方が来てくれるって」
「でもそれって、吹奏楽部の本気じゃないってことじゃない」
「そりゃ、吹奏楽部が本気で歌うのはアルプススタンドの訳がないわよ。だいたいお姉ちゃん、アッちゃんの本気、聴いたことないでしょ?」
「……だから、それをアルプススタンドで聴かせて欲しいの」
ため息を一つ。
TVに映るとか、知名度が高いとか、そんな下らない理由でただの高校生の部活動を持ち上げたり蔑ろにしたりして。
どこの大人も、本当にどうかしている。
内心の苛立ちを隠して、あたしは静かに……けれど力を込めて言い切る。
「アッちゃん達の本当の本物の歌は、いつだって舞台の上にしかないんだから」
そしてそのまま何か言っているお姉ちゃんを無視して、あたしは通話を切った。
多分きっと、お姉ちゃんには分からないだろうと思う。
あの日のチケットを、食べかすや生ゴミと一緒に捨ててしまうような人には。
◇
その日も夏に相応しく、腹立たしいほどの快晴だった。
全長3,500Kmを覆う高気圧に一人戦いを挑むほどあたしもアホじゃない。ただ鬱陶しい日差しに辟易としながら、向かうだけだ。アッちゃんが立つ舞台に。
吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール県大会。
先の定期演奏会とは違い、今回はあくまでもコンクール。自然と聴衆はよほど興味のある人に限られていて、あたしは一人浮いてないかどうか少し不安になる。
訳もなく謝りたくなる。
あたしは吹奏楽が好きなのではなく、単純にアッちゃんを視にきたというのが正しいのだから。
音楽なんてものを正しく理解なんて出来ないくせに、と自己嫌悪しながら遠慮して一番後ろの席へ着いた。
あまり聴衆がいないこともあってか、客席が控え室も兼ねているらしい。出場する人たちが他の団体の演奏を聴いていて、あたしは思わずアッちゃんの姿を探してしまう。
後姿だけで、それでも見分けられた。
あたし達の高校の吹奏楽部は総員八十人を超えていて、その内男子部員は七人。
男子部員達はひとかたまりになっていて、あたしは一番後ろの席からその中からアッちゃんを見分ける。
まあ、後姿を遠目に見て。
そして見分けるくらい……出来なくて何が恋か。
まあつまり、幼なじみから片想いの相手へと変わっていたのだ。いつからかは知らないけれど。そんなものにあまり意味はないのだろうけれど。
丁度どこかの団体の演奏が始まる。
課題曲はアッちゃん達と同じ選択で、あたしも一度は聴いた曲。だけれど、演奏する人が違うだけでこうも変わるものかと思った。
あれほど優美で軽快だった旋律が、まるでない。
贔屓目なく、アッちゃん達の演奏ほどの力はなかった。
あたしは少しだけ肩の力を抜く。どうもコンクールというだけで緊張しすぎていたようだ。
力を抜いて、それぞれの違いくらいは聞き比べてみよう。
あたしは目を閉じて、深呼吸をした。
そして一番最後の演奏。
あたし達の母校の吹奏楽部の出番。
ここまでの演奏で、あたしが聴いた中では進学率で有名な高校が頭一つ飛び出ていた。
正直先日演奏会で聴いたアッちゃん達のそれと遜色ない素晴らしい出来で、あたしは審査員席にそっと目をやる。
どう評価したのだろうか。
ただの聴衆に過ぎないのに、そんな心配をしているうちに準備が整う。
あの始まる前の独特の緊張感に、あたしは舞台に目を向ける。
指揮台には顧問の先生。
あの時と同じように部員達を見渡して、そして一つ確かめるように頷かれた。
そして―――音が、生まれる。
あれから二週間強。
素人のあたしにも分かる。
あたしが無為に過ごした二週間は、アッちゃん達にとっては素晴らしい成長の時間だった。
優美な旋律は更に艶やかに。
軽快な旋律はより鮮やかに。
そしてアッちゃん達の音は、より強くなっていた。
世界中の音を従えて、アッちゃん達は舞台にかけていた。
身内贔屓は、もちろんある。
ないなんてことは言わない。
けれど……それを加味しても、素晴らしい演奏だった。
あたしは一番後ろの席で、小さく震えた。
世界中に向かって自慢したくなった。
どうだ―――これが、あたしの幼なじみの歌だ。と。
だから、アッちゃん達が金賞を受賞して、県代表として次の支部大会へと駒を進めたのはごく当然のことだった。
はしゃいでいるアッちゃん達がバスに乗り込むのを遠くで眺めてから、あたしは自分も帰路についた。
声をかけようかなとも思ったけれど、仲間内で喜びを分かち合っている姿を見ると、部外者のあたしがしたり顔で出て行くのは憚られた。
せめてアッちゃんが帰ってきたら美味しいものを用意しよう。
アッちゃんはジャガイモがごろごろはいったコロッケが好物で、あたしは帰りにスーパーに寄って材料を買い集めた。
家には誰も居なかった。もちろん武司家にも。
みんな甲子園に行ったからだ。
甲子園の結果はあまり気にならなかった。
春の甲子園でベスト4の工業高校を倒しているのだ、初出場で特筆する選手も居ない相手に負けはしない。らしい。
まあお父さんが新聞の受け売りを得意そうに言っていたことだから、真偽の程は定かではないが……まあ多分大丈夫だろう。分からないけれど。
明日の天気が晴れか雨かくらいの感覚だったのだ、あたしには。
夕食の用意を済ませると、丁度アッちゃんが帰ってきた。
誰も居ないからウチで食べようと昨日から言っておいたのだ。
「おかえりなさい、あと……おめでとう、アッちゃん」
アッちゃんは曖昧に笑う。
「うん。聴いてくれてたんだね、ありがとう千恵ちゃん」
その少し照れくさそうな笑みが、あたしは好きで。誰も居ない私の家で出迎えるというシチュエーションに、心が弾んだ。
「お礼なんて良いよ。それより次もあるんだね」
「ん、おかげさまで県代表。来週末かな? 次の支部大会は」
「そっか、どこで?」
「県外、少し遠い」
「んー、頑張れば聴きにいけるかな?」
「あはは、大変だよ?」
「ううん、聴きに行く。アッちゃんの演奏」
「ん、ありがとう」
そう言ったアッちゃんの顔が、少し沈んだ。
「……アッちゃん?」
「ん。あのさ、千恵ちゃん……負けたんだってね、和也」
「へ?」
キョトンとしてしまった。
「アレ? 出て行くときは楽勝みたいに言ってたよ、お父さん」
「ん、下馬評じゃそうだったみたいだけどね。和也の出来が無茶苦茶だったみたいだ」
さっき帰り際に聞いたよ。と付け足す。後になって噂で小耳に挟んだのだけれど、帰ってきたアッちゃん達吹奏楽部はチクチクと嫌味を言われたそうだ。
お出迎えは留守番で甲子園に行けなかった先生。『この夏』から甲子園ファンになったその先生に、はしゃぐ部員達は冷や水を浴びせられたそうだ。
試合見てないのか。応援が足りなかったから勝てる試合も落としたんだ。可哀そうに、あんなに頑張ってたのに。兄貴のくせに女々しい、弟の晴れ舞台の応援も出来ないのか。
エトセトラ、エトセトラ。
荒野を行くような、夏の始まりだった。
今回ここまで。
因みに、ほとりさん達はまだ温泉街でのんびり湯治中ですよ。
次はほとりさんの湯治と引越しくらい出来たらなあ、と思っています。
今回のモトネタ
グスターヴ・ホルスト作曲『Moorside March』
ttp://www.youtube.com/watch?v=oBdw9X37hmM ホルストといえば惑星が有名で、日本でも最近誰だったか忘れましたが木星のメロディーで歌ってましたっけ。
しかしマーチばっかだな、セレクト。
おつ!
続きwktk
続きお待ちしております
面白いが、出て来る野球の人間が屑杉ワロタwww
個人的にはこの手の話にはハブられてた主人公とヒロインの「圧倒的な勝利」みたいなものを期待するけど、
どんな終わり方にするのか楽しみだな。
さすがですね〜GJすぎです
僕は高校時代野球部でしたが吹奏楽部って誰の依頼で応援しに来てるんだろうな〜と不思議でした。
保守
86 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/21(金) 16:11:31.93 ID:/yTiLO/o
幼馴染みものって女の方が成績家事優秀圧倒的に多いな
しっかり者の幼馴染の欲しかった男が多いからじゃね?
88 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/22(土) 18:38:10.85 ID:aHzyCGtF
幼馴染だけでない
男が書く女は大抵そう
女が書く男は逆が多いな
家事は知らないが成績優秀で優しい幼馴染みならリアルにいたよ・・・
ただし男だったというオチか?
投下します
92 :
思春期:2011/10/23(日) 02:37:20.69 ID:DJfEMiyl
1.
いつもは退屈な古典の授業だが、この日だけは違った。教材が教材だったからだ。
それは、伊勢物語の『筒井筒』と言う作品だった。幼馴染みの男女が紆余曲折を経て結ばれる話。
俺は思わず後ろの席をちらりと見る。すると、そいつと目が合った。園児時代からの腐れ縁である、香奈という女子と。
「何だよ」
香奈は小さく、しかしドスのきいた低い声で言った。相変わらず女とは思えんヤツだ。
「別に」
俺はそっけなくそう言い返し、ノートを取る手を動かし始めた。
幼馴染みの女と恋愛関係? ないない、ありえない。
俺の竹馬の友は、自分が女だって意識してないんだ。未だにガキの気分のままなんだ。
幼馴染みとの恋愛。所詮そんなものは幻想に過ぎないと、俺は千年以上前の作品にケチをつけるのだった。
「なあ、光一」
香奈が俺を呼ぶ。もしかして今日も……もう一週間連続だぞ。
「今日も部活終わったらお前んち行くからな。飯作っといてくれよ」
「いや、ちょっ……おい!」
俺の言い分なんて聞く必要もないとでもいうように、香奈は愛用のテニスラケットを持って教室を出た。
「聞いてたぞ。なあ、光一、お前ここんとこ香奈とよろしくやっているみたいじゃねえか」
俺のもう一人の幼馴染である順平がくだらないことを言ってきた。
「バカ、そんなんじゃねえよ。あいつの両親が超忙しくて家にほとんどいないこと、お前も知っているだろ」
「知ってるけど。でも、年頃の男女が毎晩一緒にいるなんて、勘繰るじゃん?」
「俺が? あのオトコ女と? おいおい、寝言は寝て言え」
「まったく。そう言って、本当は毎晩理性との戦いだろ?」
俺は図星をつかれた。こいつの言うとおりだ。これが最近の悩みの種だった。
いくら香奈がオトコ女とはいえ、体は女子だ。思春期真っ盛りの男子が反応しないわけない。
それに――
「ガキの頃からのダチである俺が言うのもなんだが、あいつ、高校入ってからますます可愛くなったしな」
順平の言葉に、俺は小さく頷いた。それは、まあ、否定しない……。
「まあ、ボクにも可愛い彼女がいるんですけどねー」
順平が手を振った先には、小柄で愛くるしい女子がいた。これから二人で放課後デートだろう。
女の子は気恥ずかしそうに手を振り返した。何ていじらしい、これこそ男の理想の彼女だ。
「キミも青春を頑張りたまえよ、光一クン」
「黙れ、とっとと消えろ。お前の顔なんて見飽きてんだからよ」
ホント、幼馴染み3人が同じクラスってどんな確立だよ……。
93 :
思春期:2011/10/23(日) 02:38:07.06 ID:DJfEMiyl
香奈は玄関のチャイムを鳴らさずに入ってきた。
「ただいまー。今日の飯はー?」
「ここはお前の家じゃない」
そう言って玄関まで行く。すると、例によって香奈は私服だった。しかも夏ということで、とびっきり薄着の……。
「いつも言ってるけどよ、何でわざわざ着替えてくんだ?」
そのおかげで俺は目のやり場に困っている。しかも、今日の服はいつにもまして大胆だ。
「だ、だってよ。制服じゃ暑いだろ。お前んちいつも冷房28℃だし」
だからといってその格好はないだろ。
胸元が見えそうなくらい危ういタンクトップに、肉付きのよい脚が丸見えのホットパンツ。
こいつは女としての自覚が足りなさ過ぎる。
もう少し恥じらいがある女の子のほうが俺は好みだ。とはいえ、男の正直な本能は女体を意識してしまう。
「いいから、早く飯だメシ」
香奈は背後に立ち、触れんばかりの距離で俺を押し出し始めた。
「ふぅー、ごっそさん」
香奈はあっという間に俺の作った炒飯を何杯も平らげた。やっぱ生まれてくる性別を間違えてるよ、こいつ。
「なあ、今日親父さんいないん?」
「ちょっと遅くなるってよ」
「……なるほど」
何がなるほとかはよく分からんが、俺は親父が早く帰ってくることを祈った。
親がいれば理性は外れないだろう。こいつ相手にそんなことを考える自分が情けないが、やはり本能は強力だ。
「……なあ、悪いけど、風呂貸してくれない?」
俺はもうすぐで口に含んだウーロン茶を吹きだすところだった。
「家で入れよ!」
「いやー、節水したいじゃん。留守中、親に家を任されている身としては。頼むよー」
香奈はいきなり俺の肩に手を置き、抱き寄せてきた。オトコ女に似つかわしくない豊かな谷間が目に入った。
「お、俺の家の光熱費はいいってのか?」
正直光熱費よりも俺の理性が心配だった。
「親父さん、超一流企業の社員だろ? 平気平気。でも、そんなに心配なら……一緒に入るか?」
俺は鼓動が急上昇し、全身に緊張が走った。
「はあ!? 嫌だよ。何でオトコ同士で入んなきゃいけないんだよ、気持ち悪い」
動揺を隠そうと、心にもないことを言ってしまう。
「……バっ、バーカ、冗談に決まってるだろ。覗いたぶん殴るからな。私の体は安くねーんだ」
香奈は持ってきていた袋を手に取ると、足早に風呂場へと去っていった。
体……カラダって、お前……。
シャワーの音が聞こえる。あいつは今、裸で……。裸のあいつが、俺の家に……。
俺は理性が保てるか心配になってきた。早く帰ってきてくれ、親父!
94 :
思春期:2011/10/23(日) 02:38:48.47 ID:DJfEMiyl
2.
温度調節が十分にされているシャワーを浴びながら、私はイライラしていた。
せっかく人が大胆な格好で行ったのによ。あいつ、何の反応も示さねえ。もしかして、イ○ポなんじゃ……。
いや、違うよな。
(――何で男同士で入んなきゃいけないんだよ、気持ち悪い)
あいつの言葉がまだ頭の中で響いている。
やっぱ光一は、私のことを女とは思ってねーんだな。けど、それも当然か。
ガキの頃から、順平を交えて3人で男遊びばっかやってたしな。口調も男みたいだし。
クラスメイトとオシャレ話するよりも、スポーツして汗流しているほうがよっぽど楽しい。
一部の女子がやっているような、男とあらば即媚びるような演技なんか死んでもしたくない。
男の望む「女らしさ」なんて真っ平御免だ。
……こんな女じゃ男になんて好かれるわけねぇよな。
いっそのこと、本当に男だったらどんなに良かったか。
こんな、馬鹿みたいに苦しい思いなんてしなくてすんだのに。
私は思わず自分の胸を触った。この乳房が忌々しい。
こんなものが膨らんでこなければ、私は自分を「女」だなんて意識しなかった。
光一のことを、「男」として意識しなかった。
いつまでも気軽にバカをやれてたのに。
思春期ってヤツが憎らしい。
けど、しょうがねえよな……好きになっちまったもんはさ。
何でかは自分でもよく分かんないけど、中学に入って、あいつが女子と仲良く話しているところを見たとき、猛烈に嫌な気分になった。
こんなことは初めてだった。友達を取られると思った嫉妬か? でも、順平が女子と話していても特に何とも思わない。
その気持ちが何日も治まらなかった。光一の顔を見ると、あのへらへらした面をぶん殴りたい衝動に駆られた。
自分は一体どうしちまったかのか? 友達の由香里に聞いてみたところ、
「それって恋じゃん。あんたにもそんな季節が来たかぁ」
とのことだった。
私は恋をしたらしい。飽きるくらい一緒に同じ時間を過ごした、幼馴染みに。いつの間にか……。
バスタオルで体を拭いたあと、私は歯ブラシと歯磨き粉を手に持った。
ホント、家にいるみたいだ。それくらいこの家には何度も来た。
両親が仕事でいないとき、いつも泊めてくれた。
布団に入って、光一と二人で学校や遊びのことを何度も語り明かした。幼稚園、小学校のときの記憶が昨日のように蘇る。
あいつに恋してもう4年――。
未だに告白できていない。でも、したくない。
失敗して、この関係が終わるのが嫌だったから。
でも何とかしたい。もう少し光一との関係を進めたい。
そう思って、高校に入ってから順平と由香里に相談した。そしたら二人とも口をそろえて、
「相手のほうから告白させりゃいいじゃん」
と言った。つまり、光一が私を好きになるよう仕向ければいいと言うのだ。
自分でも卑怯なやり方だと思うが、私はそうすることに決めた。一番、確実な方法だと思うから。
「さっぱり、さっぱり。働いた後の風呂は最高だな」
「おっさんかよ、お前」
「おいおい、だーれがおっさんだって」
私はあえて光一に接近し、ヘッドロックした。
こうやってスキンシップしていれば、女のことしか考えていない思春期男子なら、私を意識してくれるかもしれないから。
光一、お前はよく私のことを男扱いするけど、これならどうだ?
性格は確かに「女」とは程遠いけど、体はちゃーんと女なんだぜ。
95 :
思春期:2011/10/23(日) 02:39:33.59 ID:DJfEMiyl
3.
俺は窮地に立たされていた。
ジャージ姿の香奈にヘッドロックをかけられたとき、女子特有のいい匂いが鼻いっぱいに広がった。
そして何より、こいつの胸がいまにも触れんばかりの距離にある。
正直な話、股間が……反応し始めている。
今にも香奈の胸を触ってしまいそうだ。だが、もちろん友達にそんなことできるはずもない。
それに、香奈はテニス部で鍛えまくっているし、対する俺はただの帰宅部。あとが怖すぎる。
「やめろバカ。さっさと離せ」
「何だよ、もう降参か? 情けねえな」
そうじゃねえ。お前、自分の胸を男に見られてるんだぞ。どうしてそれを気にしないんだ。
思春期になった俺たちは、いつまでも昔のまんまじゃいられないんだ。どうしてそれが分からないんだよ。
「やめろ!」
俺は思わず香奈を突き飛ばしてしまった。すると、香奈が尻餅をついた。
「な、何だ……結構やるようになったじゃねえか」
「あ、悪い。いや、お前も悪いぞ、いきなり人にヘッドロックなんてするから」
「ああ、悪かったよ。ごめん」
香奈は深刻な顔つきになった。こいつが俺に対してこんなに神妙に謝るなんて珍しい。
「あっ、そろそろ帰るわ。何か今日の部活一段ときつかったから、眠いんだ」
「そうか。明日も来るのか?」
「いや、まだわかんね。まあ、嫌だってんなら友達の家行くからよ」
別に嫌ではないが。俺がそう言おうとする前に、香奈は玄関に向かって歩き出した。
「んじゃ、また明日」
「ああ、ってジャージのままで帰るのか?」
「別に普通じゃね? つーか、歩いて何分もかからん距離だろ」
そう言って、香奈は軽く手を挙げ出て行った。
香奈が帰ってからも、あいつのことが頭から離れなかった。
男を挑発するかのような薄着。風呂上りの甘い匂い。……可愛らしい顔立ち。
すべてが俺には刺激的だった。あいつのことなんか、気の合う友達としか見てこなかったはずなのに。
昔からの友人をいやらしい目で見てしまった自分が恥ずかしい。
けど、仕方ないじゃないか。いくら香奈が男勝りだからって、本当の男じゃないんだから。
俺たち男子がこっそりと見ているAVの主役と、同じ性別なんだから。
思春期ってのは厄介な奴だ。俺たちは無理矢理「男」と「女」に引き裂きやがった。
もう昔のように、くだらないことで体をつつき合ったり、一緒にお泊りしたりできないんだ。
子どもの頃の思い出が、妙に懐かしく、かけがえないものに思えた。
「ただいま」
すると、玄関から親父が現れた。
「ああ、おかえり。飯できてるぞ」
「おお、そうか。じゃ、早速いただくとするか」
一緒に居間でテレビを見ていると、遅い夕食にありついた親父が突然、
「そういえば、帰りに香奈ちゃんに会ったぞ。またここに来てたのか?」
「ああ」
「まあ、仲が良いのは結構だが、あんまり遅い時間まで一緒にいるなよ。相手は女の子なんだ」
「分かってるよ」
くそっ、親父までそんなこと言うのかよ。
男の性欲ってのはホント厄介なもんだな。信用なんか欠片もない。
香奈も、それに気付くべきなんだ。
96 :
思春期:2011/10/23(日) 02:40:34.25 ID:DJfEMiyl
4.
やっぱり、私みたいなヤツじゃ光一は振り向かないのか?
尻餅ついた所より、心のほうが何百倍も痛かった。
男子に向けて卑劣なアピールをしてみたけど、結果は散々だった。
兄弟みてえに育ってきたからな。「兄」に手を出すはずなんかないか……。
女として見ちゃくれないんだ、あいつ。
でも――。
突き飛ばされたときの記憶が蘇る。
あいつ、随分力が強くなったな。小さいの頃は、喧嘩したら絶対私が勝っていたのに。
光一はいつの間にか「男」になって、私は「女」になった。
不公平だよ、こんなの。
「よっ、どうだった?」
私の家の前に、順平が立っていた。
「お前、何してんの?」
「何って……お前を待ってたに決まってんだろ。あいつと上手くいったかどうか確かめにな」
「変わんねえよ。いつまで経っても私はあいつの兄ちゃんだ」
「お前が兄なんだ。まあ、香奈はガキ暴君だったからな」
「……もう諦めるしかねえのかな」
私はがらにもなく弱気になっていた。
「あっ、そうそう。今日来たのは、お前に吉報があるからだ」
吉報? 何だろう。
「今日な、光一にちょっと鎌をかけてみたんだよ。そしたらよ、お前のこと、可愛いだとよ」
私は仰天した。あいつが、私を、可愛い……。それって、女として意識しているってことか?
あいつの言うオトコ女である私を、全然「女らしく」ない私を、あるがままの私を、異性として見てくれているってことか?
「んじゃ、それだけ。だから、もうちょい頑張ってみたらどうだ? あのインポ野郎をオトしてやれよ」
「それだけのためにわざわざ待ってたのかよ。お前も暇なヤツだな」
照れ隠しに口ではそう言うが、心ではこいつに感謝していた。
「いやー、実はなかなか興奮が止まなくてさ。つい散歩がてらに寄っただけ。それが真実」
そんなことだろうと思った。
でも、何をそんなに浮き足立っているんだろう。それを訊いてみた。
「俺、今日彼女とAまでいったんだ」
A? それって、つまり……キ、キス!? 順平は私たちより先に大人の階段を登り始めていた。
「だから、お前らも頑張れよ。何なら勢い余って最後までいったらどうだ?」
順平は大げさに笑った。明らかにからかっていた。
「うっせー、バカ。セクハラだ、セクハラ」
「へー、お前からそんな言葉が聞けるとはね。これは参った」
そう言って、順平は斜め向かいにあるアパートへと帰っていった。
何だよ。お前ら二人は揃いも揃って。
自分の部屋に着くと、私はすぐさまベッドの上に体を広げた。
一度は落ち込んでいた気持ちも、あのバカのおかげでなくなりつつあった。
明日はどんな策略を使ってやろうか? あいつが私に好意を抱いてくれるまで、徹底的にやってやるぜ。
枕を抱き寄せる。そして、その枕を光一だと想像してみた。
こんな状況になったら、あいつはどんな言葉をかけてくれるのだろう。どんなふうに……してくれるのだろう。
そんな妄想を浮かべながら、私は目を閉じた――。
以上です
もう少し頑張ってみます
いいですねー
>>86 つよきすの蟹沢きぬとか結構珍しいタイプの幼馴染みになるのかな?
新作GJ!
続き期待してます
GJ
充分可愛い女の子してるヒロインだ。
続き期待してます
香奈ちゃん可愛い!
幼馴染は関西に住む生まれる前からの婚約者
18歳となる来年の挙式にむけて今年状況して主人公のクラスに転校してきた
関西って言ってもいろいろあるよな
とりあえず京都弁っ子か大阪弁っ子か
河内弁とか神戸弁とか近江弁とか
近畿地方の方言と一口にいっても、
いろいろあるから面倒だよなあ
昔は方言バリバリだったのに、今じゃ標準語でしか話さないとか最高じゃね?
「そういえば、方言言わなくなったよな〜お前」
「ん?」
「方言だよ、ほ う げ ん 」
「何を今更…、 10年以上ここで暮らしてんだから当たり前でしょうが」
「でもお前、昔はバリバリ関西弁だったじゃん?」
「まぁねぇ、小学校上がるまでは向こうに住んでたし」
「こっちに来てからは、それが原因でちょっと馴染めなかったし」
「あ〜、あったなぁそんなこと、でも、割とすぐに馴染めてたじゃん?」
「まぁ、どっかの誰かさんが親切丁寧に教えてくれたからねぇ?」
「おかげで学校に馴染めたし、友達も沢山できた」
「へ〜そうなん?」
「その誰かさんはあたしが方言でからかわれてたら、助けてくれたりしてね〜」
「へ〜そうなん」
「さらにその誰かさんは、色々と悩んでたあたしを励ましてくれてね?」
「へ〜」
「うれしかったなぁ… 『あいつらに何かされたら何時でも言え!俺が守ってやる!』って言ってくれて」
「誰かさんもからかわれたのに、そんなの関係ないって言ってくれて、うれしかったなぁ」
「御陰で、標準語しか喋れなくなっちゃったよ〜?」
「ほんまかいな…」
「ほんまやでぇ〜?うちがいまここにおるのもそのどっかの誰かさんのおかげやし」
「あとごめん、その似非関西弁やめてな? 聞いてると虫酸が走るんやわ」
「おまえ、イントネーション完璧じゃねぇか…」
「え?なに?聞こえない?」
「嘘付け!」
みたいな感じで誰か書いてくれ!
千理ちゃんとアッちゃんの話いいなぁ
幸せになってくれぇ…
気弱妹系幼馴染みに酒を飲ませてみた
↓
正座させられて「なんで手を出してくれないのか」と
延々説教されました。そんなんだから手を出せないんです。
最近だんだんわかってきた事。
『おにいさん』じゃないときのユウさんは結構ズルい人だったりする。
「……ねえ、ユウさん」
「なんだいなぎちゃん」
「わたし、ごちそうしてくれるっていうから来たんだけど」
「するよ? ちゃんと。もう炊飯器のスイッチ入れるだけにちゃんとしてある」
平然とそんな事を言いながら、手元はくるくる動いて、小さなナイフで次から次へと器用に栗の皮を剥いて行く。
お邪魔します。と玄関を入ってすぐに台所に連れて行かれ、目の前に築かれた栗の山と、手渡された栗剥き器。
『皮剥き手伝ってねー』と当たり前のように言われ、栗剥き器の使い方を教えられ。
それから30分。二人揃って黙々と栗の皮を剥いている。
こっちは道具を使っているのに、ユウさんのほうがずっと早くて綺麗に皮を剥いて行くのがくやしくて熱中しちゃったけど、
なんで私こんな事してるんだったっけ?
あーあ、指先がなんだか茶色くなってる。これ、洗って取れるのかなあ?
『栗ご飯炊いて秋刀魚焼くから夕飯食べに来なよ。あと芋天もあるよー』なんていう、
文字通りの甘い言葉に乗ったのが失敗だったのかも。
でも、うちのアパートじゃ秋刀魚なんて焼けないし。ユウさんのごはんはユウさんちで食べるのが一番美味しいし。
そんな事を考えながら、悪戦苦闘しながら手を動かす。
そうしていると、くくっとユウさんの笑い声がして、そっちを睨む。
「いや、ごめんごめん。見事に栗と芋で釣れたなあと思ってさあ」
芋栗南京なんて言うけど、女の子は本当好きだよね。
元々タレ目がちの目じりを更に下げて、へらっと笑われる。
「まあ、そんな怒らんでよ。今剥いてるこいつも蜜煮にして正月に使うからさ、食べに来なよ。なぎちゃん好きだろ? 栗きん
とん」
なぎちゃん来るなら今年は多めに作っとくよー。と言う笑顔に、こちらの好物を完全に把握されてる事がなんだか無性に悔しく
なる。
「……かぼちゃ」
「ん?」
「かぼちゃ。かぼちゃのお料理も作ってくれたら怒らない。小豆といっしょに炊いたやつがいいです」
「いとこ煮か。あれ別にそんなめんどくさくないぜ?」
「固いもん。切るの大変だもん。皮剥くのも綺麗にできないもん。……ユウさんのがいいの」
「……はいよ。了解しました」
返事は殊勝なのに、声に笑いが含まれてて結局負けた気になる。
むすっとしたまま皮剥きを続ける。……私、可愛くないなあ。
「なぎちゃん、顔上げな」
いつもよりちょっと低い声で言うユウさんの方を見ると、テーブルに手をついて身を乗り出して来る所だった。
ちゅ。と唇に柔らかい感触が一瞬だけ触れてすぐに離れる。
「な、ちょ、ユウさん、なに」
「んー、まあお駄賃先払い?」
「な、なにそれずるい……」
「そだよー、オレ結構ずるいから。色々覚悟はしとってよ?」
目じりの下がる、優しそうな笑顔だけどいつもの笑顔となんか違う。
いつもの『おにいさん』じゃない男の人の表情に、一気に顔が熱くなった。
ずるい、ずるい。私はこんなにびっくりしてるのに。
『おにいさん』を止めてって言ったのはそりゃ私のほうだけど、
こんなに驚かしといてユウさんだけ平然としてるのは絶対ずるい。
熱くなった頬を押さえて、何事も無かったみたいに栗の皮剥きを続けるユウさんを睨む。
ふと、手元の栗の実を見ると、今まで綺麗に剥かれていた実に渋皮がたくさん残ってたり、
実の形がずいぶん崩れているのが見えた。
……なんだ、ユウさんもそんなに平気なわけじゃないんだ。
じっと見ていると困ったような怒ったような顔で「なに?」と返される。
「なんでもない。……負けないから」
食卓の上に落としていた栗剥き器を掴む。
……ユウさんより綺麗に剥いてやるんだから。
心の中で勝手に勝負を宣言する。
……この勝負に勝てたら、今度は私の方からしてやるんだもの。
そう決めると、今までで一番真剣に皮剥きに取りかかった。
甘い物の話の筈があんまり甘くならなかった。
あと以前書いたキャラが行方不明になりましたごめん。
もうひとつだけ。
胃袋掴まれてる女の子はかわいいと思います。
餌付けしたい。
わかるよ!作ったご飯美味しそうに食べてるのみると幸せだよね!
幼馴染みいないけどGJ
可愛かった。GJ
クリ剥きか
ああ、クリ剥きだな
なんだ、クリ剥きだったのか
三本ほといきます。
や、つか、大変お久しぶりです。
03-02 Lovin' you
アレは確か二年の冬休み明けだったと思うケド、当時同じクラスだった子が言っていたのをふと思い出した。
男はすることをし終えると、その後は急に冷たくなると。
なるほど、そういえばいつだったか観たサスペンス物のドラマでその手のシーンが出た時、事後と思しい男の人は退屈そうに煙草を咥えていた。
ベタベタとくっつく女の人には見向きもせずに、いかにも気だるそうにしていたが、世の中の大抵の男の人はそうなのだろうか?
暖かな腕に頭を預けて胸に顔を埋めると、きまって修は頭を撫でてくれる。
あたしはその手がとても好きで、そうされるだけで満足してしまうのだった。
「ひとのまくらはよいまくら〜」
何となく腕枕が嬉しくなって、そんな歌を口ずさむと
「何の歌だよ、それ」
修は苦笑しながらまた頭を撫でてくれた。
二人だけで出かけた卒業旅行。
ひなびた旅館で一つの布団に二人で寝ているのだから、要するにすることをした後な訳だケド、修はあたしを甘やかしてくれる。
後戯という単語を仕入れたのは、二年の冬休み明けの、彼女の愚痴に付き合っている時だった。
そんなことを修と話したことはないケド、何も言わなくてもそうやって撫でてくれる手のひらが、その実あたしにはとても嬉しかった。
見知らぬ天井を見上げて、けれど肌に馴染んだぬくもりにあたしは安心していた。
実の所、あたしはその手のことをするよりも、その後にこうして気だるい中でぼんやりと横になって修に甘やかしてもらう事の方が好きなのだから。
修はいわゆる『カラスの行水』で、ロクに湯船につからずたいていいつもシャワーだけで済ましてしまうことが多い。
あたしはと言えばその逆で、お風呂にいつまでも入っていることが多い。
だから少しだけ温泉旅行なんてものには不安もあった。もっとも、それは杞憂だった訳だけれど。
あたしがゆっくり温泉を楽しんでから出て行くと、まだ修は入浴中だった。
一緒に温泉に向かい、外で待ち合わせと言っていたのだから多分あたしが待たせることになるんだろうなあと思ってたケド、珍しいこともあるものだ。
待たせるのも悪い気がして、だから少しだけ早めにあがったんだケド……そういえば「ゆっくりしていけ」なんてことを言っていた。
今頃湯船で手持ち無沙汰に下手くそな鼻歌でも歌っているであろう修を思い浮かべて、悪いんだケド、ちょっとおかしくなった。
浴場の入り口で涼むご老人方に混じり、ぼんやりと座って行き交う人を眺める。
卒業旅行に温泉を選ぶようなのはあたし達くらいかと思っていたケド、どうもそんなことはないらしく同世代と思しい子が何組か通り過ぎていく。
大抵は同性……女の子グループだ。
楽しそうに、そして一人ぽつんど座っているあたしを一瞥くれてから通り過ぎていく。
「若いっていいですねえ」
と、隣に座っていたお婆さんに話しかけられた。
「え? ええ、そうですね……って、あたしが言うのも変ですケド」
お婆さんは楽しそうに、そして上品そうに手を口に当ててほほほと笑った。
「そうね、あなたも可愛らしい娘さんだもの」
「可愛い……か、どうかはまあ」
そこで自信をもって「そうです」と言えれば、もっと楽なのかも知れないケド。
「誰かと一緒に?」
「はい……あの、その……」
何となく言いよどんでいると、それでお婆さんは察してくれたらしい。また楽しそうに笑って、手にされていた袋の中からお茶の缶を取り出して
「どうぞ」
と渡してくれた。
「いえ、そんな」
と遠慮するが、こういう時のご老人はそう簡単に引いてはくれないし、拒否もするべきではないと思っている。
あたしは一応形ばかりの遠慮をしてから、素直に頂いた。
買ったばかりなのだろう、よく冷えた緑茶で喉を潤すと、人心地ついた。
「今日はここに泊まりかしら?」
「はい、卒業旅行で」
「あら、良いわねえ。私はね、近くに住んでるのよ。お風呂だけ入りに来てるのよ」
「いいですね、近くにこんな温泉があるの」
「ええ、他に何もないところだけど、この湯だけが自慢なのよ」
やはり上品に笑っては嬉しそうにされるお婆さんのお話を聞くこと十分ほど。
「それにしても珍しく爺さん遅いねえ」
「……そう言えば」
修もだ。
ふと顔を脱衣所の方へ向けると修が出てくるところだった。
「修」
「爺さん」
声が重なる。
修と、その隣で競うように脱衣所から出てきたお爺さんが一瞬だけキョトンとした顔になる。
思わず隣のお婆さんと顔を向け合い、微笑みあった。
「サウナで同時に入った」
部屋に戻ると、ぐでんとだらしなく浴衣の襟で扇ぎながら修。
「で、一緒のタイミングで入ったから、先に出たら負けみたいな気になってな」
「……何やってんのよ、あんたは」
「安心しろほとり、勝ったから」
「いや、勝ったとかじゃなく」
「で、水風呂に浸かる時間で二回戦。着替える速さで三回戦。水飲む速さと量で四回戦。その後五回戦が」
「……あたし達と合流出来る速さ?」
「そう」
何をやっているんだか。
「ああもう、結局決着つかなかったな」
まさかそっちも一緒に待ってるとは思わなかったよ、と修は苦笑いした。
「バカね」
曖昧に笑う修は体ばかり大人になって、まだ子供っぽかった。
そう言えば子供の頃はいつもあたしに振り回されていた修だったけれど、変に負けず嫌いな所もあった。
鬼になると、あたしに追いつけずにいつもベソをかきながら走っていたのをふと思い出す。
悔しそうに目の端いっぱいに涙を溜めたあの頃から十数年、今その泣き虫の負けず嫌いは、曖昧に笑いながらあたしの頭を撫でている。
翌日、修は変に張り切って温泉に。
昨日よりものんびりしてから上がると、それでも修はまだだった。
ふと見れば昨日のおばあさんがニコニコしている。
昨日と同じく世間話に花を咲かせていると、また競い合うように修とお爺さんが現れた。
何か変な友情でも芽生えたのか、腕をがつんとぶつけて笑っている。
あたしは呆れ半分にため息をついた。
男はいくつになっても、子供みたいなものなのかもしれない。
歯磨いたか?
顔洗ったか?
もう1パート!
いったれほとりちゃんッ!
03-03 花冠
ドアを開けて外へ出ると、まずポケットの中を確認する癖をつけたのは、ほとりの言いつけでだった。
鍵は持ったか、財布は、ハンカチはティッシュは。
おかげさまで粗忽者のいい加減な男の癖に『お財布忘れて〜』みたいな恥をかいたことは一度もない。
昨日不意にほとりから電話が掛かってきた。
いや、電話に不意にも何もないのだけれど。
とにかくほとり以外からかかってこない俺の携帯電話が、早く出ろと歌うのに急かされる。
うたた寝している間にどこかの間に落としたのだろう、くぐもった声で古臭いけれど味のあるアメリカ人歌手の名曲が鳴り続ける。
布団の間に入り込んでいた携帯を探り当てて、予想通り画面に表示されているほとりの名前に少しだけ唇を緩め、通話と表示された画面に触れた。
「こんばんわー」
と、何が楽しいのやら、呑気な挨拶が耳を撫でた。
「ん、こんばんわ」
律儀に返事をするのも、そういえばほとりに何度も注意されてだったような気がする。
「あのさ修、急で悪いんだケド」
ほとりの声はふわふわと浮き立つように跳ねている。何かとんでもなく楽しい悪戯を思いついた時の、ほとりの声だった。
日に日に綺麗になっていく幼なじみは、けれど根っこで子供の頃のような部分をなくしてはいないのだった。
「明日ね、お昼前から時間あるよね?」
「ああ」
あるに決まっている。
卒業旅行と称した湯治から帰り、実の所俺はやることが何もないのだった。
昨日暇つぶしにその辺りをウロウロしていて、実に一月以上ぶりに文芸部の二人と偶然鉢合わせて少し話をしたくらいのものだ。
文芸部の二人は地元残留であるらしい。隣の市にある大学に進学して今後も実家通いを続けるそうだ。
そういえば文芸部の奴は今自動車免許を取ろうとしているらしい。まるで上手くいかなくて四苦八苦しているようだが。
「あのね、お花見しよう」
ほとりの声でふと物思いから引き戻される。
「花見? ああ、もう咲くのか」
「そ、少し早いけど、あたし達ももうしばらくしたら離れるでしょ?」
「そうだなあ」
何の因果か、上京するのだ。二人揃って。
「名残でも惜しむか」
「うん」
あまり愛想が良いとは言えない俺のぼんやりした声に、ほとりは一際嬉しそうに返事をするのだった。
ほとりにはお気に入りの桜並木がある。
何のことはない、昔俺達が通っていた中学校近くの土手沿いの道だ。
土手にトンネルでも作るように桜の木が立ち並んでいて、まだ小さい頃からほとりのお花見といえばあの道のことを言うのだった。
確かあれは小学校に上がったばかりの春のことだ。
例年よりもことさらせっかちに咲いた桜を追いかけるほとりに付き合い走らされたことがあった。
当時からほとりは俺よりもずっと足が速く、それこそ飛び跳ねるように桜並木の道を駆けていったのを思い出す。
咲くのが早ければ散るのも早い年だったように思う。
ほとりが花見をちゃんとできなかったと拗ねて半ベソだったので印象に残っていたのだ。
町の灯りの中、遠く故郷を取り囲むように流れる川へ視線を投げる。ここからでは忘れた頃にふいに現れる車のテールランプくらいしか見えないのだった。
お昼前と聞いていたからのんびり二度寝をし、あくびを噛み締めながら遅い朝食を摂ろうと居間へ向かうと
「遅い!」
ほとりが唇を尖らせてそこに居た。
「早いよ、昼前って言ってたろうに」
言ってはみるものの、そんなのほとりに通じるはずもない。
寝た子と拗ねたほとりには逆らわぬが吉。
ほとりに追い立てられて朝食の前に風呂へと向かった。
ほとりと再び花見をするようになったのは、中学を卒業してからのことだ。
その年の桜は卒業式に間に合わず、結局中学に通っている間はほとりとあの桜並木の中を歩くことは出来なかったのが少しだけ残念ではあった。
白状すれば、通学途中ほとりの揺れる黒髪を後ろから眺めて、その隣を歩く自分を想像したりもしたのだった。
もっとも、これは死ぬまで言うまいと心に誓っているのだが。
中学生時代のほとりは学年でも人気のある生徒だった。
成績も運動神経も優秀な上、愛想も気風も良いし、何と言っても可愛かった。更にそれを鼻にかけたところもない。
まあ、それは単純にかがりさんへのコンプレックスがあったせいなのだろうけれど。
さておき。そんなほとりは友達に囲まれて楽しい中学生活を送っていた。
まあ俺はと言えば、友達はそこそこで本に囲まれた楽しい中学生活を送っていたのだけれど。
だから、俺にとってあの桜並木は、ほとりを遠くで眺めていた時代の象徴でもあったのだ。
もっとも、高校に入ってから何度かここを訪れている。
ほとりは毎年最低一度はここの桜を見ないと落ち着かないようだった。
確かに見事な枝ぶりの桜が立ち並んでいるが、ござをひいて花見で一杯やるスペースがないせいか近所のご老人方が散歩に来られているくらいのものだ。
そういった静かな雰囲気の桜並木は、なるほどそうそうあるものではないだろう。近くに花見の宴会に相応しい大きな公園もあることも、この静かな並木道が保たれている理由かもしれない。
けれど、そのほとりお気に入りの桜並木を歩くことが出来るのも今年からしばらくお預けだろう。
来年また時間が取れるのなら、来たいとは思うが。
風呂から上がった俺を急き立て用意をさせ、ほとりは先へ先へと走っていく。遊んで欲しくて仕方のない子犬でもあるまいに。
「落ち着け、あと気をつけないとパンツ見えるぞー」
「見るなあほー」
慌てて振り向いたほとりは、長い淡桃色のフレアスカートを押さえて怒った顔をしてみせる。
そこで立ち止まったほとりに駆け足で近寄れば、当たり前の様に腕に抱きついてきた。
どこのバカップルだと思わなくもないが、まあもう半ば諦めも入っている。俺達は多分間違いなく、頭にバカの付くカップルなのだろう。
いや、一応自重とかしているつもりなのだけれど。
怖いくらいに静かな桜並木を歩く。
あの頃ほとりの隣を歩きたいと思ったりした桜並木の中を。
今はそのほとりを腕に感じながら。
「桜、綺麗だね」
「ん」
キミの方が綺麗だよ、なんてことを言ってみようかと思ったが、あまりにアホっぽいので止めておく。
代わりに出てきたのは、どこかで読み齧った文章だった。
「桜が怖いくらいに綺麗なのは」
「うん?」
怪訝そうにこちらを見つめるほとりに微笑み返して続ける。
「桜の樹の下には屍体が埋まっているからなんだ」
「え? 何それ」
「そういう小説があるんだ」
「ミステリ?」
「んにゃ、梶井基次郎って人の短編小説。あんまり綺麗なものを前にしてさ……どうしようもなくなった時、俺達がどうすればいいのかを書いた小説だよ」
「…………それで、どうすれば?」
ほとりは立ち止まり、続きを促す。俺は何年か前に流し読みしただけの文章を思い出して何度か咀嚼する。
「屍体を埋めればいいんだ。直視に耐えない程美しいものを前にして、自分の劣等感に苛まれたなら。美しいものが、美しくある理由そのものに悪いイメージを重ねて」
「……でもそれって、何だか卑怯な気がする」
「や、まあそうだろうけど。でもな、ほとり……自分ではどうにもならないくらい気持ちに振り回されそうになった時に、そうすることでようやく立ち位置を保てるのは、卑怯かもしれないけれど救いでもあるんだよ」
「分かるから、そんなの嫌だなって思うよ」
「ん……でもさ、ほとり」
「なあに?」
あまり気持ちのいい話じゃなかったと少し反省する。ほとりは一際力を込めて抱きついてきていて、そう強く思う。
暖かなほとりの鼓動を感じる。
嫌なイメージを拭うかのように、ほとりは抱きついてくる。
その白い指先に手を重ねる。
可哀そうなくらいに華奢な肩と首筋。
整った目鼻立ちに、品を失わないようごく淡く引かれたルージュの朱。
自慢の黒髪は、艶やかに濡羽色。
それら全ての、ほとりを形作るもの。
俺の愛しい、それら全てに頬が緩む。
「でもさ……綺麗なものが怖いっていうのは、弱いからかもだけど……それでも憧れもするしな。それだけの差があるものだから、憧れなんてするんだからな」
腕にもたれかかるほとりの頭に、桜の花びらが一つ。小さな小さな、冠の様に。
「そう、ね」
潤むほとりの眼差しは、桜の花を浮かべていて……怖いくらいに綺麗だった。
歯磨いたか?
顔洗ったか?
もう1パート!
いったれほとりちゃんッ!
支援
03-04 あなたに会いにいこう
公務員の父親を持つ我が家は、裕福とまでは言わないものの、それでも恵まれた家庭であると思う。
とはいえ、湯水のように金があるはずもなく、俺は自然と進学するなら公立と思っていた。
と、なると実家からの通学は難しい。我が愛しの故郷は地味な地方都市らしく公立大は存在しない。
電車などでの通学も出来なくはないが……やはり一度くらいは親元を離れたくなるものだ。
元々は自分の学力に見合った場所を選んでいたのだが、成績良い女の子に誘惑されて、ちょっと無茶をすることになったのだった。
……まあ、ほとりなのだが。
まるで分からない理系の勉強を中心に据えたこの一年は、とりあえず地獄だった。ただその甲斐もあってか無事二人揃って合格出来たのだけれど。
おかしいなあ、将来のことなんて真面目なことに色恋沙汰を持ち出すとか考えてなかったことだし、情につられて進学先を決めるなんてこと嫌だったのだが……
どうしてこうなったのか。どこで俺はこうなったのか。
いや、嬉しいし、満足しているのだが……いいのかなあ。こんな進学先の決め方で。いや、将来どういう職につきたいかなんてハッキリ決めてない俺が一番悪いのだが。
まあ、下手をすると善治爺さんみたいな世捨て人になっていたかもしれないと考えれば、しっかり者が一緒に居てくれるっていうのは幸せなことだ。
母さんに言わせれば、良い男を育てられるのが良い女の条件らしく「ほとりちゃんの為にも良い男にならなきゃねえ」なんて脅しをニコニコとされてしまった。
いやもう、外堀が完璧に埋まっているくさい。
まあ、それとこれとは別の話で正直ほとりを他の奴に取られなくて本当に良かった。これからはこれからで、振られないようにしないといけないのだろうが。
ともかく、俺達は無事大学に進学し……上京するということになったのだが。
問題が一つあった。
住む所が未だだった。早くしないといけないのだろうけれど、合格してからの方が良いだろうということで今日まで延ばし延ばしになっていた。
もちろん、少しは現地の不動産の業者の方とは話をしているが。
そして俺とほとりは、二人揃って家族会議の場に出頭していた。神流と州崎、両家の父母が二組とも揃った重要な会議で、自分達の要望が通るかどうかの、正念場だった。
「…………二人一緒に、か」
親父はしばらく考えた後
「いいなあ」
とにやにやし始めた。
「いやいやいや、そこは反対しよう。反対してくれよ、親父!」
最後の一人もあっけなく賛成に回り、俺は頭を抱えた。
「って言うか、普通逆だろ! 親なら親らしく、世間体とか気にしようよ!」
「しかしな、ぶっちゃけお前らがルームシェアしてくれた方が家賃が安くなるんだよなあ」
親父は身も蓋もないことを言い、
「というか、修君……ウチのほとりとの同棲の何が嫌なんだ?」
ほとりの親父さんは機嫌の悪い顔を作って脅しにかかる。
「あの、おじさん……普通怒る所じゃないですか? 大事な嫁入り前の娘さんが、男と同棲とか」
「いや、どうせ嫁がせないといけない訳だし、だったら修君の所がまだ納得出来なくはないし、物騒な世の中だから娘を一人暮らしさせるのも怖いし」
ふむ、とほとりの親父さんは考えてから
「良いこと尽くめじゃないか」
「いやいやいや、娘さんの貞操とか、考えよう!」
「でもやることやってんだろ、お前ら」
「…………」
それを言われると、何も反論できないのだが。
実際嫁入り前の|娘さん《ほとり》を傷物にして、あまつさえ随分やりたい放題してきたのだが。
「お父さん、言いたいことも分からなくはないケド……大学生だよ、まだ」
困った顔でどうしたものかと思案していたほとりはゆっくりと口を開き、俺に目でもっと何か言えと促す。
「大学でも口さがないのは居るだろうし、あまり目立ったことはしたくないよ」
「そうそう、あたし一人暮らしって言っても、修が送り迎えやお使いもしてくれるし」
「そうそう……え?」
「え?」
俺の知らない間にそんなことが決まっていた……のか? ほとりは可愛く小首を傾げて
「ね、修」
と笑いかけてきた。まあ、もとよりそのつもりだったけれど。この辺じゃ治安は良いといっても都心じゃどうだか分からない。ほとりが望むなら送り迎えやらくらいならしてもいい。どうせ行き先も同じなわけだし。
「で、ほとり……レパートリーも増えたし、修君にいっぱい食べさせたいよね」
ほとりのお母さんは、どうやらほとりのものらしいレシピ集を取り出してみせる。
「ん……まあ、料理は楽しいよ」
「いっぱい作ってあげて、送り迎えもしてもらって、で、盛り上がればやることもしっかりやって……もう同棲してるようなもんじゃない」
「いやいやいや、最後変なの混じってましたよ」
親にその手のアレコレを言われるのは、死ぬほど恥ずかしい。隣を見やれば、ほとりも憮然とした顔をしていた。
「意地っぱりねぇ、普通恋人同士ならいつだって一緒で居たいものでしょうに」
母さんは呆れたようにため息をつく。
「今だから言うとね、母さん達がどれだけあんたらくっつけるのに頑張ってきたか」
「…………」
隠していたつもりだったのか。
そんな雰囲気、とうの昔に感じていた。だから反抗期にはお互いに仲が悪くなったのだが。まあ、これは理由の一つだし、一番大きなのは俺がひどいこと言ったせいなのだが。
さておき。
ニヤニヤとする親達を必死に説き伏せるのにそれから一時間。
ようやく同棲を諦めさせて……というか、初めからそんなつもりはなかったらしい。
ちゃんと住む所は別に用意してくれるらしく、俺達はほっと胸を撫で下ろして……まあ、本音を言えば少しだけがっかりした。
白状すると、同棲という言葉の響きにどきりとはした。
子供の甘っちょろい恋愛ままごとでもあるまいに。
もちろんほとりと別れるなんて考えてもいない。でもそんなの世の中の恋人達皆がそうだ。それでも人と人に別れ話はつきものだ。
絶対に自分達がそうならないなんて傲慢を口にはしたくない。
もっともそれとこれとは別の話、単純な気持ちからの言葉を俺は口にしたいと思う。
俺達はずっと一緒だ、ほとり。と。
ほとりの親父さん相手に娘をかけた将棋でぼこぼこに負けた。
それじゃほとりはまだやれんな、と笑いながら風呂に行ってしまった親父さんを見送って、俺はその場にごろりと長くなる。
受験も終わって、家族会議もつつがなくお開きになり、久しぶりにと打ったのだが見る所なしだった。
「もう……あたしをかけるなら意地でも勝ってよ」
「そうは言うがな、強すぎるんだよ親父さん」
ほとりの手が俺の頭を少し持ち上げる。
素直に頭を上げれば、隙間にほとりの膝が入った。
目を開けると、すぐそこにほとりの顔があった。
「もし本当に将棋で勝てるまで嫁にやらんー、とか言い出したらどうする?」
「あー、それ言いそうだなあ」
「本当、どうするの?」
いたずらっぽく微笑む頬に、そっと手を添えた。
「その時は駆け落ちだ。というか婚姻届は成人なら親の同意なんて要らないだろ? 籍を入れたら勝ちみたいなもんだろ。それから籍を盾に説得しよう」
「うわ、悪党」
「そ、ほとりは悪党にさらわれる役な。よかったな、お姫様扱いだぞ」
そういうの好きだろ? と目で問えば
「あんたが助けにこないなら、さらわれる意味ないわよ」
と俺の鼻を摘んだ。
「ひふぉのふぁおであふぉぶな(人の顔で遊ぶな)」
「あら、いい男」
「ひってろ(言ってろ)」
「そう? 鼻が高くなって一段と格好良くなったよ。そのままにする?」
「しない」
ようやく俺の鼻を離したほとりは頬を赤らめて、少しだけ困ったような微笑で顔を寄せて
「でもさ、本音を言うとね」
小さく囁いた。
耳朶を撫でる甘い声に、ぞくりとした。
「……白状したらね、同棲ってちょっとしてみたかった」
「……まあ、同居してみないと見えないものもあるって言うし……結婚する前になら、一度はしておいた方が良いかもな」
「そういう意味もあるケド……単純に、好きな人とずっと居たいって」
「それなら、俺もだ。でも……」
もう一度頬を撫でる。
「どこに居ても、どこに行っても。一緒だ」
「ん……ありがとう」
少し顔を持ち上げて、すぐそこのほとりの唇へ。小鳥がついばむように微かに、軽く触れるだけのキスを交わして……
気配を感じて飛び起きた。
ばたばたと居間から離れる足音に、俺とほとりは顔をあわせて盛大にため息をついた。
何をやっているんだ、あの親は。
同棲させようと必死になったかと思えば、今度は「ほとりの引越し先? 同棲もしないヘタレには教えない」と言い出した。
ほとりの親父さんもお母さんも、うちの両親も、だ。
一体何を考えているのやら。そして俺の引越し先の住所も教えてくれない。親父は「行けば分かるさ」を繰り返すばかり。
子供を何と思っているのか、いざ引越しの日になっても何一つ教えてくれない。
「一応、先に聞いてた条件にそうような物件よ」
と母さんは言うが、そんなの見なければ分からない。
ほとりも自分の住所を教えてもらっていないらしい。なんだかひどく嫌な予感がしてくるが、間違いなく別にしているらしい。
なら、ここまで隠す理由が分からない。
首を傾げながら荷物をまとめて、引越しの日を迎えた。
ほとりと同じ日に引越し業者を呼んだせいで、うちの前はトラック二台に占拠されていた。もっとも一人暮らしの引越しだ、トラックといっても小さいものだが。
ほとりと手を繋いで最後に我が家を見上げる。
乗り越えようとしてこっぴどく叱られたフェンス。落書きをして「消えるまで家には入れない」と言われて泣きべそかきながら掃除した塀。ほとりのおままごとに散々付き合った庭。
ころんで額を切った軒先。ほとりに許してもらいたくて立ち尽くした廊下。そして……ほとりの初めてを貰った俺の部屋。
道から見上げるだけで、沢山のつまらない想い出があった。
沢山の、俺達だけの大切な想い出があった。
色々なものを目に焼き付ける。
これからを始める為に。
いつか帰るところを忘れない為に。
心のよりどころに、する為に。
「じゃあ……とりあえず向こうについて住所が分かったら、連絡する」
「ん、あたしも」
ちらりと周りを確認して、そっとキスをした。
今度こそ、誰も邪魔は入らなかった。
両家の母に連れられて、俺とほとりは東京へ。
モノレールだか電車だかを乗り継いで、最終的に辿り着いたのは私鉄有楽町線平和台駅前歩いて十五分の小さなアパートだった。
というか、この時点でさすがに気が付いた。
ほとり一家がまだついて来ている。大家さんから頂いた鍵でドアを開く直前まで。
「つまり……隣か」
「みたいね」
母二人は一日がかりで掃除やら何やらをこなし、事前にとっていたらしいビジネスホテルへ。
次の日は家具や家電を買い足しに。俺は女三人の荷物持ちとしてフラフラになった。
ただ、次から次へと出て行く福沢諭吉を目にしていると実感がわいた。子供と言うのは親の金食って生きているんだなあ。と。
さすがに恐縮し、全ての用意が整い母さんが帰る時になって、俺はその場に正座して頭を下げた。
「どうもお世話になりました」
「まあ、これだけあったらどうにかなるでしょ。後はほとりちゃんに任せるわ」
「あはははは」
もう笑うしか出来ない。
「仕送りは家賃と学費、食費が限界。お小遣い欲しいならバイトでもしなさい」
「はい。誠にありがとうございます」
「さすがに小さくなったか。お兄ちゃんもそうだったけど」
「だろうね」
さて、と母さんは立ち上がると
「母さんはほとりちゃんのお母さんと東京見物してから帰るけど、ついてくる?」
「いや、そういうのは落ち着いたら考えるよ。今日はゆっくりする」
「そう? まあ今日コンサート予約してたから、無事終わって安心して行けるわ」
ニコニコして年甲斐もなく若い男性アイドルグループのコンサートに行く母さんを見送ると、六畳一間の部屋を見渡す。
見慣れた自分の荷物と買い足した家具がいかにもちぐはぐで、少し笑える。
五階建ての三階が俺の城だ。少しわくわくする。すぐ隣はほとりの部屋だ。
そう考えるとある意味実家よりもほとりの部屋の距離は近付いたということか。なるほど、出発前のあの親父達のニヤニヤ笑いはこういう意味だったのか。これじゃある意味同棲みたいなものじゃないか。まったく。
ほとりの部屋は端にあり、実は少し羨ましい。俺の部屋のほとりとは逆の部屋には何かの会社らしき名前がぶら下がっていて、ワンルームで会社経営が出来るのかと少し感心した。因みに留守らしく、誰も居なかったが。
このアパートは五部屋ずつ五階建てらしく、残り二つの部屋にほとりと二人で挨拶に向かうと、一部屋は空いていてもう一部屋には若い女性が住んでいた。
何かを察したらしい女性に冷やかされたが、ほとりは上機嫌で女性と話しこみ始めた。
十五分はたっぷり立ち話をしたほとりは、振り返るとごめんねと小さく笑った。
隣への挨拶も無事終えた俺はほとりと部屋の前で別れて、ベランダへ出た。
ベランダからの眺めは意外にも普通だ。もっと高層ビルが乱立したような街を予想していたのだが、故郷とさほど変わらない風景だ。空き地で子供が何かのごっこ遊びに興じているし、小さな薬局やら雑貨屋やらが、小さな一戸建ての家に混じっている。
大通りに出ればコンビニなどが見え隠れし、ある程度背の高い建物もあるが、どれもさして珍しくない。
俺は拍子抜けしたような、ほっとしたような複雑な気持ちでベランダにもたれかかり、のんびりと空を行く雲を眺めた。
当たり前のことだが、空はどこも同じだった。
「修、居る?」
仕切り塀を隔てた向こうから、ほとりの声が聞こえる。
「うん?」
「そういえば、渡したいものがあったの、忘れてた」
「ああ、そうだ。俺もだ」
ポケットに仕舞いこんでいた鍵。
塀越しに鍵を差し出すと、ほとりの小さな手のひらに乗せる。
「あいかぎかあ……なんだか、照れくさいね」
「ああ、何だか改まってこういうの渡すのは、ちょっとな」
「ね、修。あたしも渡したいものがあるんだけど」
「そうだな……」
合鍵。ほとりの部屋の鍵。ほとり以外では、俺だけが持つ鍵。
ほとりの部屋に上がって良いという、証拠。
手を差し出すが、ほとりはその手をそっと押しのけた。
「顔出して」
「顔? 分かった」
仕切り塀からほとりの部屋を覗き込むように身を乗り出すと、すぐそこにほとりが居る。すかさず唇を重ねてから、口移しで何かを渡された。
生々しい温度の残るそれは、ほとりの部屋の合鍵だった。
今回ここまで。
次は多分もうちょっとだけ早くに、甲子園嫌いの女の子と舞台のことで頭がいっぱいの男の子のお話。
GJ!
口移しで合い鍵渡すというアイデアがすごい
>>138 あまり清潔とはいえないし、落としたらどうするつもりだったんだろうなあ
テレビに影響されて催眠術に嵌った幼馴染の相手をして、掛かってないのに掛かった振りをして命令を聞いてあげてたら、
どんどん命令がエッチな方向にエスカレートしてしまって、今さら掛かって無いとは言い出せなくなってしまった気弱な少年の話を読みたい。
>>115 年下の女の子は負けず嫌いが鉄板ですね。
おいもさんおいしいです。
>>137 ぬふー。
愛がほとばしるな。
大学編もあるのなら楽しみにしてます。
んで、書籍化はまだ?
書籍化目指すなら投稿サイト(ノクターンノベルズなど)や自サイトにも載せる+
アルファポリス登録で1500pt以上狙う
のコンボがおすすめ
正直、ここで連載するより投稿サイト利用したほうが閲覧者数ダンチだし
いままで書き溜めたぶん投稿してみたら?
実のところあまりそこまで考えてないです。
正直これまでに書いたアレコレが概ねよい評価を頂戴したのは、たぶんこのスレの共通言語である『幼馴染み』という部分による恩恵が大きいんだろうと。
あと正直わざわざここまで来ている人の為に書いてるという意識も強いので、今の所他の投稿サイトや登録は考えてないです。
とはいえ、そこまで言っていただけるのは間違いなく嬉しいです。
ほとり「ありがとー」
修 「どこのアイドルだよ」
幼馴染み? それなら俺の隣で寝てるよ。
>>144 そう。それはもちろん自由だけど
先にここに投稿したことだけ明記しとけば
ノクターンノベルズは二重投稿OKだから、
気が変わったらいつでも多くの人の目に触れるところで発表したらいいよ。
幼馴染みはノクターンでも人気タグだし。
エロパロ板発でノクターンに載せてる先人もいるし。
作者がいいって言ってるのにしつこいな。ノクターンとやらの回し者か。
幼なじみと相思相愛の主人公に、空気読まずに見合い写真持ってくる親戚のおばちゃんのようだ
>>148 相思相愛じゃないなら加速フラグなんだけどなw
他サイトと二重投稿おkだから例えがちと違わね
仲を引き裂くんじゃなくて合法二股勧めてるんだろ
つまりあれか、兄妹同然に育った幼馴染の姉妹との三角関係か
片方が一歳歳上で姉的存在
もう片方が一歳歳下で妹的存在ですね
まさかここまで妄想出来るとは。
すごいな、ここの住人。
そりゃ小説なんて妄想を文章にする作業ですし
155 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/20(日) 03:56:36.97 ID:GvnQkZ4f
朝起こしてくれる幼馴染み
朝起こしてあげる幼馴染み
下はあまり見ないな
>>155 起こしてあげる方は、つよきすしか知らないなぁ。
Kanonの名雪もそうだな
幼馴染「今の時代に幼馴染とか、古臭いと思うわけよ」
幼馴染「朝おこしに来たり、学校で夫婦かとからかわれたり、あまつさえ窓伝いに部屋にきたり?」
幼馴染「ほとほとあり得ないわね!」
男「じゃあもう朝も起こさないし、朝飯も作らないし、夜中に『しゅ、宿題がー!!』って俺の部屋に飛び込んでも無視するからな」
幼馴染「ごめん。マジ反省した」
的なダメ子幼馴染が結構ツボ
こころナビも
>>158 「ほとほと」の使い方ってそれでよかったっけ?
幼馴染み「ほたえな!」
俺限定で幼なじみがド淫乱でほとほと困り果てています
ほとが濡れ濡れでほとほと呆れています。
>>148を見て思い付いたネタで一本投下します。
エロ無しとなります。
お見合いをテーマに書き始めましたが、
最終的には何だか良くわからない世紀のバカップルの話になってます。
「あれ。この写真、何?」
「え? あ、やべっ!」
「へぇ、やばいんだ。…で、この写真、何?」
引き出しから取り出した大きな写真をビッ、と指差しながら、ニッ、と笑う顔が妙に怖い。
これは俺へのからかいが八割、残りは本気で問い詰めようとしている時の顔だ。
「それは、だから…見合い写真、だよ」
「ほぉほぉ。で、何でこんなん持ってんの?」
「隣の部屋のおばちゃんに渡されたんだ」
「ふーん」
彼女は疑ぐったような表情でじっ、と俺の顔を覗き込んで来る。
その大きな茶色の瞳に無愛想な俺の姿が映り込む。
「ウソは、ついてなさそうね」
「何を疑ってんだよ」
「いや、アンタがストーキングしてる女性の写真かと思って」
「…何を疑ってんだよ」
大体、そんなヒマがどこにあるというのか。
幼稚園からずっと一緒にいるコイツとは、今や職場も一緒、帰るアパートも一緒だ。
他の女性を追い回す時間も追い回す気もあろうはずが無い。
その事を説明すると、何故か不機嫌な顔になり、ウェーブのかかった髪を指で弄りながら考え込み出した。
「それなのよね」
「何が」
「私達って、アホみたいに四六時中一緒にいるじゃない?」
「まぁ、アホみたいかはとにかく、そうだな」
「それなら普通はアンタのこと彼女持ちって思うんじゃないの? 何で見合いの話なんか出てくんの?」
「それは、だな…」
言ったら怒るだろうとは思いつつも、上手くごまかす術もないので、正直に話すことにした。
「あのおばちゃん、お前のこと、俺の妹だと思ってるみたいだぞ」
「…は?」
「や、だから…。その、俺達、兄妹だと思われてるみたいです」
沈黙三秒。
「はぁぁぁ!? 何で!? どういうこと!?」
やはり怒った。地団駄踏んで怒った。
「冗談じゃないわよ、兄妹って何よ!」
「ま、まぁまぁ」
「アンタと顔が似てるなんて思われたら恥ずかしくて自殺するわ!」
「えー、怒るポイントそこかよ」
しかも自殺するレベル。そんな酷い顔か俺は。傷付くぞ。
そうして俺が軽くヘコんでる間に向こうは喚くのを止めたが、まだむすっとしたまま腕を組んでぶつくさ言っている。
「ホントに何で兄妹とか思うわけ? アパートで同棲してる男女を兄妹と判断するなんておかしいわよ」
「…まあな」
「ん? その顔、アンタ何か知ってるでしょ?」
「…まあな」
「言え」
満面の笑顔だ。本気の笑顔だ。マジ怖い。
ただ…本当に言っていいのだろうか。コイツが避けてるあの話題に、モロに触れることになる。
とは言え、今更お茶を濁すのも難しい。俺は小さくため息を吐いて、できるだけ淡々と話すことにした。
「あのおばちゃんもだな、最初は俺らのこと恋人同士だと思ってたみたいなんだ」
「うん」
「でも、そう思ってから幾数年。そんな仲の良いお二人は、いまだに未婚であると」
「…うん」
「30間近のいい歳した、仕事もある、特別問題なさそうな二人なのに、結婚しない理由はどこにあるのか?」
「……うん」
「もしかしたらあの二人は恋人同士では無く、事情があって一緒に暮らす兄妹なのでは? いやそうに違いない」
「…………」
「それがあのおばちゃんの思考回路だ。ってか本人がそう言ってた」
話を言い終えると、案の定、重苦しく気まずい空気が部屋の中に充満していた。
『結婚』。この話題になるとコイツはこうやって口を閉ざしてしまう。
実は、俺はとっくにプロポーズしているのだが、コイツからの返事は保留となっている。
俺もコイツも家庭やら何やらに問題があるわけではないし、
さっきコイツが言ってたみたいにほぼ毎日一緒にいるので、他の男の影がちらつくこともない。
それなのに、誰かが俺達の結婚について触れたりすると、途端に曖昧な物言いになり、俺の顔色を伺い出す。
何故そんな顔をするのかはさっぱりわからない。俺の方は返事さえもらえればいいんだから何も問題ないはずだ。
ただ、返事を急かすのもアレなので、結婚の話題は俺から振らないし、事情も聞かないようにしていた。
「ま、まぁ、あのおばちゃんも仲人が好きなんだよな。世話好きっつーかさ」
それとなく話題を逸らそうとするが、いかにもわざとらしくなってしまう。
向こうも話題に乗って来ること無く、じっと床を見ながら押し黙っている。
居たたまれなくなった俺は、この話をさっさと打ち切ってしまうことにした。
「…悪かった。もう止めるよ」
「え?」
「別に困らせるつもりはないんだ。あー、別に俺も焦ってないしな」
「…そう、なんだ」
「あぁ…」
何故なのか、フォローしたつもりだが、逆にもっと落ち込んでいるかのように見える。どうも失敗だった。
プロポーズしてから一度も結婚のことは言わないようにしていたが、やはりこの話題はまだ出すべきではなかった。
もう一度謝ろう。そう思ったところで、先に向こうが口を開き、信じられないような事を言った。
「別に、いいから。遠慮しなくて」
「え? 何がだ?」
「したらいいじゃん、お見合い」
「…は?」
一瞬、コイツが何を言ってるのかわからなかった。
したらいい? 何を? お見合い? …俺が?
「何、言ってんだよ」
「お見合いしたら、って言ったの。写真の人、すごく綺麗だったし」
「…本気か?」
「本気? 本気かって? 私は本気よ。当たり前じゃない。本気じゃないのはアンタでしょ?」
「わけわからん。お前おかしいぞ。どうしたんだよ」
「どうもこうもないわよ! バカッ!」
そう言って彼女は、そのまま抱えた膝に顔を埋め、嗚咽を漏らし始めてしまった。
いや、何だこれは。何なんだこれは。何でコイツは泣いてるんだ。俺は何を間違えてるんだ。
20年以上傍にいるのに、何で今コイツの気持ちが全然わかんないんだ。
そんなに俺と結婚したくないのか? だから怒ってんのか? こんなに一緒にいるのに?
「ごめん…」
「…何に謝ってんのよ」
「わかんないんだ…ごめん」
「わかんないなら謝んないで」
「…じゃあ。じゃあどうしろってんだよ!」
思わず怒鳴ってしまった。最悪だ。
だけど、一度溢れた濁流はそう簡単には止まらない。
「俺だって、わかればわかってやるよ! でもお前、何も言わないし! 何も言ってくれないし! くそっ!」
「ちょっと、何よそれ。こっちが言いたいわよ! 何でわかんないとか言うの? 何でごまかすの?」
「だから、何がだよ!」
「…もういい!」
何も言わなくてもわかりあえる素敵な幼馴染。そんなの幻想だ。実際は、何もわかっちゃいない。
打ちのめされる。積み上げてきた俺達のこれまでが、何の意味も無いと嘲笑われているかのようだ。
俺は壁に拳を打ち付けて、自分の不甲斐なさを憎んだ。
一秒一秒が恐ろしく長い、無言の時間が過ぎる。こういう時、決まって先に話すのはやはり彼女の方だ。
「私達、一回離れてみた方がいいのかもね」
「……」
「近すぎると見えなくなることもあるっていうし、ね」
「……」
「そんでさ、アンタも本当にやってみたらいいじゃん、お見合い」
「…やらねーよ」
「私なんかよりずっと素敵な人に出会えるかもしれないし」
「やらねーって」
何でそんな事言うんだ。お前は俺の恋人だろ?
結婚したくないならそれでもいいんだ。そう言ってくれ。
俺はただ…
「俺はただ…」
「ほら、もともと私は…」
「お前にプロポーズの返事もらいたいだけだ」
「アンタの彼女ってわけじゃないし」
最後のお互いの台詞は殆ど同時に発された。そして、お互い同時に顔を見合わせ、
「はい?」 と言った。
「ちょっと待て」
「ちょっと待って」
「お前今なんつった?」
「アンタこそ今なんて言った?」
「彼女じゃない?」
「プロポーズ?」
「はあ?」これも同時だった。
何だ何だ何だ。疑問符だらけだ。意味がわからない。話が見えて来ない。パラレルワールドかここは?
「おおお落ち着け、まずは落ち着け」
「そそそそうね。タバコでも吸って落ち着きましょう」
「吸ったことないけどな」
「同じくね」
もう大混乱だ。それでもどうにか深呼吸を繰り返して無理矢理落ち着いた俺達は、互いに向き合って座り直した。
「まず聞くぞ」
「どうぞ」
「お前、俺の彼女だよな?」
「違うよ」
「…ええ〜?」
「私も聞くけど」
「どうぞ」
「プロポーズ、してないよね?」
「したぞ」
「…ええ〜?」
二人で頭を抱える。落ち着いてみてもやっぱり噛み合わない。早くも詰んだ。
「ねぇ? 私、アンタに付き合ってって言われたことあった?」
「いや、あるって」
「私、何て答えた?」
「いいよって」
「……で、プロポーズもしてる?」
「だからそうだって」
「私、何て答えた?」
「保留って」
「……うーん?」
眉間のシワをさすりながら、彼女は一生懸命思い出そうとしている。
つか、思い出そうとしてるて、マジか。覚えてない? 全く?
流石に酔ってたとかそんな事は無かったはずだが。
俺も首を傾げていると、彼女の方が何か思い当たったのか、「まさか」と呟くと俺の方を見る。
「ねぇ、聞くけど…それっていつ頃の話?」
「え、幼稚園の時だけど」
俺は即答する。
忘れもしない。幼稚園年長組の時だ。二人で砂場でトンネルを作りながら、俺は一世一代の告白をした。
『ねえ、ぼくとつきあってよ』
『んー。いいよ』
『ほんと?』
『うん』
『やったー。じゃあ、ぼくとけっこんしてよ』
『んー。ほりゅう』
『ほりゅう、ってなに?』
『いつかおへんじするのでまっててってこと』
『わかった。まってる』
その時から今まで俺はずっと待っていた。20数年間、変わらない気持ちで。
そんな当時の回想からふと我に返って彼女を見ると、頭を垂れて肩を震わせていた。
「おい、大丈夫か?」
「…か」
「ん? 何だ? よく聞こえな」
「アホかああああああああああああああああああ!!」
もの凄い絶叫だった。俺が勢いで後ろに転がるぐらいの大音声が響き渡った。
「お、おま、近所迷惑だろ」
「そんなもん知らないわよこのキチ○イ!」
「わぁ、キチ○イ出ちゃったよ」
「ねぇ、本気? てか正気!? 幼稚園よ幼稚園。そんな時の記憶あるわけないでしょ!」
「いや、俺はあるんだけど…」
「あっても! 普通は! そんな頃の話はたいした効力はないの!」
「ええっ!」
「驚くな! こっちの方が驚いてるっての!」
驚いた…というか、ショックだ。向こうが忘れていたこととか俺のプロポーズが無効とか、何それ何それ。
「え、それじゃ何? 覚えてないってことは、もしかしてお前、ずっと俺からのプロポーズを待ってたってこと?」
「…」
「結婚の話が出る度に微妙な顔してたのは、俺がいつになったら切り出してくれるのかって、そういうことか!?」
「…」
うわ、顔赤くしてるしコイツ。マジかよ。謎解いちゃったよ。
謎を解いても何一つ清々しさはない。残ったのは、俺達が恐ろしくマヌケだという真実だけだった。
「いやいや、待ちすぎだろ。何でそんなとこだけ奥ゆかしいんだよ。ちょっとは聞けよ」
「アンタに言われたくない。20年以上も返事を保留する人がいるわけないでしょ。疑問に思え」
「お前だって20年以上告白もプロポーズもされないとかおかしいと感じろよ」
「違うもん。プロポーズを待ち始めたのはお互いが結婚できる歳になってからだから、10年ちょいだもん」
もん、とか言うな。三十路前が。
うわあ。なんつーか、これって悲劇? コメディー? すれ違いコント的な。いや全然笑えねー。
「でも待てよ。それじゃあお前は今まで俺の何だったんだよ」
「友達以上恋人未満の幼馴染よ」
「そんな肩書きマンガにしかないわ!」
「そういうあんたこそ20年以上私の何だと思って接してたのよ」
「婚約保留者だよ!」
「そんな肩書マンガにもないわよ!」
「つーかアレか。お前は俺の彼女じゃないのに、俺と何百回もエッチしたのか? 時にはそっちから誘ったりしたのか?」
「アンタもプロポーズは一回しかしてないくせに、性交渉は週四回もしてきてたわけ? 何よそれ」
「愛してっからだよ!」
「知ってるわよ!」
着地点の無い言い争いが続く。もはや互いをけなしてるのかすらよくわからない。
よくわかることは、俺らがアホで、どれだけ悔いても時間は戻らないということだ。
だったら過ぎた事をとやかく言っても仕方が無い。
だから…
「なぁ、明日」
「明日、会社休むわよ」
「え?」
「ダメ?」
「いや、俺もちょうどそう言おうと思ってた」
「そ。じゃ、決定。明日婚姻届出しに行くわよ」
「特急だな!」
改めてコイツの両親に挨拶ぐらいと考えていたが、もうその辺は全省略だ。
「あったりまえでしょ。今まで止まって分全力で取り戻すわよ」
「ア、アイアイサー」
「それとアンタ、婚姻届出したらもう一回ちゃんとプロポーズして」
「え、おかしくね? 順番おかしくね? それ、今じゃダメ?」
「ダメ。今のテンションで言われたら私断るから」
「断るんだ…」
俺としてはこのテンションの方が言いやすいのに。
一晩置いて冷静になったら今日の出来事とか死ぬほど恥ずかしい思い出になるだろ絶対。
「今言わせてくれよー」
「やだ。言ったら別れるから」
「いや、お前の中では俺らまだ付き合ってないんじゃなかったのか」
「じゃあ、付き合って」
「軽っ! しかも結局お前から言うのかよ」
「いいから。付き合ってくれんの?」
「あー。まぁ、いいけど」
「では、今から恋人同士ということで。…えへへへ」
めっちゃ照れてるし。何コイツ、超可愛いんですけど。
しかし良く考えれば、コイツは正式に俺と付き合ってないと思いながら、ずっと俺の傍にいたわけだ。
きっと俺の知らないとこで色々悩んでたに違いない。
「その、ごめんな、色々」
「謝らないでよ。私もアンタもとんでもない馬鹿だっただけじゃない」
「まぁ…な。んじゃさ、代わりと言っちゃなんだけど…無茶苦茶幸せにするよ。約束する」
「…うん」
目を細めて、彼女が微笑む。この顔が見れれば、それで十分なのかもしれない。今も、昔も、そしてこれからも。
俺の気持ちは、最初にプロポーズしたあの日から、ずっと変わらないんだから。
「…ところで、今夜はいかが致しますか、俺の彼女さん」
「そうね。恋人同士として最初で最後の、とびっきりのやつをお願いするわ」
「了解!」
それはそれは綺麗な敬礼をして、俺は風呂に入るべく、替えの下着とタオルを取りに行こうとした。
その俺の背後から、「待って」という声と共に彼女がぎゅっと抱き着いてきて、幸せそうに俺達の未来を語る。
「楽しだね、フランス旅行と庭付きの一戸建てと五人の子ども達」
「壮大なドリームプランだなオイ!」
さて、明日時間があればおばちゃんにお見合いの写真を返して、丁重にお断りを入れなければ。
それから、是非お礼を言わせてもらおう。
あなたは最高の仲人です、と。
〜完〜
以上です。
長文失礼いたしました。
すばらしい。
にやにやが止まらないぞどうしてくれるありがとうございます。
可愛すぎるGJ
>>148書き込んだものですが良作投下乙です
しかしこの流れはさすが信頼のスレ住人達だなw
うっはぁぁぁww
超ニヤニヤした。
てか三十路手前まで引っ張るなww
イイ! GJ!!
ああすっげー面白かった
179 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/24(木) 20:21:32.50 ID:A4AGzMdE
GJ!!
なんだ経験はしっかりやってたのかよ
幼稚園で噴きだして、その顔のままずっとにやにやしてたわw
いやあ、これは楽しい。GJ
181 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 15:15:10.16 ID:0w9QEV+t
幼馴染みってさー
素敵やん
もう幼馴染みなんてやだー! 恋人がいい恋人がいい恋人がいー!!
183 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 21:15:02.82 ID:0w9QEV+t
>>182 お前、幼馴染みがいるのか
すごい贅沢な悩みと思うんだけど
ほとり待機中
>>182 とゴネる幼馴染♀は萌える
その姿を見られて気まずくなるのも乙なものです
>>182の返しで
「じゃあ付き合うか?」
って言って、で、その返しで
「う…うん。」
か、
「は、はぁ!? な、何言ってんのよ」
って返すかでスレ住人の間で血みどろの殴り合いが起きそうだぬ
186 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/27(日) 15:57:42.25 ID:LGrGreNi
>>185 「は、はぁ!? な、何言ってんのよ、あんたなんて下僕よ下僕」
幼馴染はいいものだ
>>185 「よく言ったわ○○。じゃあこの婚姻届にサインと捺印を」
>>189 「なんでそんなもの用意してるんだよ!」
「ずっとそう言ってくれるの…待ってたから…」
>>190 「俺も…用意してたのに」
「え? あ…もう、どっちでもいいから早くしなさいよ!」
>>182 こう言った後に、相手の方をちらちら見て反応うかがってるとか好き
>>189は婚姻届ではなく外泊証明書ではないかと邪推した自分はおっさん
外泊証明書だと偽って酔った幼なじみに婚姻届を差し出してサインさせるのかw
まさかエロパロ板でエリア88ネタを見ることになろうとは夢にも思わなかったw
むしろナウなヤングにバカウケ間違い無しのネタじゃないの?(棒
>>194 そんなの自治体にその旨申請すれば無効にしてもらえます><
まあ
「めんどくさいから申請しないでおくわ、どうせ一緒にいるんだし籍入れても変わらんだろ」
でイチャイチャする未来が待っているに違いないけどな
男「俺と…け、結婚しよう!」
幼なじみ「え!?」
男「え!?」
幼なじみ「もう結婚してるじゃんあたしたち」
男「あ、そうか」
幼なじみ「もう、ずっと一緒だったからって忘れないでよね」
男・幼なじみ「キャッキャッ」
他「(♯^ω^)」
イラッ
イライラっ
キュンッ
ぬるぽ
ガッ
幼馴染み萌え〜
別に血が繋がってるわけでもないのにお兄ちゃんとか呼ばれるお兄ちゃん的存在萌え〜
保守
206 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/08(木) 02:56:43.06 ID:OPgh1AfQ
あーたし裸ん坊
クリスマス前の人稲を狙って投下
>>27で怠惰系幼馴染を投下したものです。前作では予想外に多くの感想いただき、恐悦至極
今回はもう少しだけマシな二人です。テーマは温泉。
208 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:06:18.71 ID:wsSt03Vp
着の身着のまま、財布一つで新幹線に乗ったのは初めてだった。観光シーズンは外して
いたが、ビジネス客も鞄の一つは持っている。自意識過剰と自覚しつつも、私服で手ぶら
の川浦芙美は周りの視線が気になって仕方が無かった。
推理ドラマのラストで高飛びを試みる悪役のような気分だ。搭乗手続きで「お預けの
お荷物は?」と聞かれて舌打ちしているような、居心地の悪さ。
そんな気持ちをとなりの相方に伝えてやると、諸悪の根源は「分かる、わかる」と愉快
そうに笑った。
「……正味な話、アキは私が行くって、確信が有ったわけ?」
「うんにゃ。客観的に考えて3%くらいかなーと。でも、電話しちゃえば五分五分で来る
んじゃね?っていう予感もあった」
数学的に矛盾した回答をさらりと寄こして、アキこと本間昭博はせっせとサンドイッチ
の封を開け始める。そんな彼から目を離すと、芙美は後ろに流れ始めた車窓に向かって
溜息を吐いた。
正確には、ガラスにうっすらと映るお気楽幼馴染に。そして、隣で呆れた様な顔をして
いる自分にも。
「一泊二日で温泉に行こうと思う」
「また朝っぱらから藪から棒に。いつどこへ誰と行くのよ?」
「お前と、城崎。15分後に」
「……はぁ?」
自宅でそんな電話を受けたのが、今から四十五分前。確かに、芙美には明日明後日と
予定は無かった。大学二年の、夏休み最後の3日間。ゆっくり身体を休めようと、前々から
空けておいたのだ。
しかし芙美は、何事も事前にしっかり計画立ててから行動する派である。思い付きで
700km先へ旅行だなんて、彼女にとっては狂気の沙汰に近かった。当然ながら、
「寝言は寝て言え、私もこれから二度寝する」と言って電話を切ろうとしたのだが。
今日に限って、件の行き当りばったり男は食い下がった。
曰く、宿の予約も電車のチケットも既に取れている。元々、彼の先輩が彼女と二人で
計画していた小旅行だったのだが、昨晩遅くに急な予定が入ってポシャったのだという。
しかし、今からではキャンセル料も全額取られるしと、連絡を貰ったのが五分前。駄目元
だからタダで譲るとの申し出に二つ返事で応じ、今はチケットを受け取りに行く途中で
電話しているのだと言った。
「どうせお前の事だから、ラスト三日は充電期間とかいってボーっとしてるつもりだった
んだろ」
「そりゃまあ……ってだからぁ」
「じゃあ、その半分くらい、俺と一緒にぼーっとしてりゃあいいじゃん。温泉だし」
「なっ……。っ……。」
「東京駅9時50分発だから、改札集合しかなさそうだな。お前はあと……10分で出ないと
不味いかも。時間ないし手ぶらで来いよ、俺も財布だけだし。どうする?」
「…………行く」
「うおっ、マジでか!? ちょっとビックリした!」
そうして今、加速を始めた七〇〇系のぞみに揺られながらも、芙美は何故自分が首を
縦に振ったのかを考えていた。
勢いに押された。寝起きで頭が回らなかった。最低でも五万円以上のお金が無駄になる
のは心が痛む。断れなかった理由はいくらでも思いついた。でも、誘いに「乗った」理由が
これといって無い。
少なくとも、「恋人と二人っきりになれるから」という理由では、無いはずだった。
209 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:08:20.24 ID:wsSt03Vp
本間昭博と川浦芙美の付き合いは今年で十四年を迎えた。といっても、最初の六年は一
クラスしか小学校の同じ学年だったと言うだけで、これといって深い仲だったわけではない。
変化が合ったのは中学に上がってからだった。学区の都合で、知り合いがお互いしか
いなかった彼らの距離は、思春期の衝動も手伝って急速に縮まった。というか、いささか
縮まり過ぎた。
中学二年のちょうど今頃。夏休み開けの放課後の芙美の部屋で、彼女は昭博に押し
倒された。
抵抗しなかったのは、もちろん彼との行為に嫌悪感が無かったからだ。しかし、初体験の
恐怖や痛みを押し切れたのは、好意だけが理由では無かった。純粋な興味、両親への
対抗心、そして何より、夏休み明けの同級生達への見栄。
最初の扉を破ったカタルシスが収まった後、それに代わるほど強い動機を、芙美は持て
なかった。結局、しばらくして起こった同級生の妊娠騒ぎを機に、体を合せることは無く
なった。
事前に、付き合う云々の話をしていなかったのは、幸いだった。別々の高校に進学して
からは、逆に元の気楽な関係に戻れていた。
大学に入ってからは、昭博は一丁前にもゼミの先輩に懸想したりして、つい最近までゴ
タゴタしていたようである。芙美は入学直後に何件か引きがあったものの、一年の夏後に
はすっかり音沙汰無くなった。これが世に言う「大学デビュー失敗」なのだろうと、芙美
は考えている。
但し、彼女の処女を奪ったのが昭博であり、彼の童程を卒業させたのも芙美である
という事実は、互いの間に厳然と有る。
*
昭博の先輩の言伝によると、東京駅から宿まで正味六時間とのことだった。いくら幼馴
染とは言え、これだけの時間を二人きりで潰したことは久しく無い。携帯すら持ってない
(これは純粋に芙美が忘れた)のにどうするんだと思った彼女だったが、実際には全くの
杞憂だった。
「あれ、今渡ってるのが糸魚川じゃね?」
「え、じゃあこれが例のフォッサマグマ?」
「そうそう、フォッサマグナ、フォッサマグナ。大地溝帯ですよお嬢さん」
「おおー。私は今まさに東日本から西日本に入らんとするわけね」
「しかしどこが断層って……わかんねーな」
「川岸のところとかそれっぽく無かった?」
「いや、あれはただの河岸段丘だろ」
「河岸段丘! あー、その単語も5年ぶりくらいに聞いたわ」
「地理好きだったんだけどなー。因みに、フォッサマグナって断層じゃなくて、もっと広い
範囲を指すからな?」
「そうなの? あ、また富士山」
新横浜を出てしばらくすると、二人は窓の外にかぶりつきになった。こうして、じっくりと
車窓を楽しんだのは、それこそ小学校以来かもしれない。中高の修学旅行にしろ、
大学でのサークル旅行にしろ、行き帰りの旅程は仲間内でのおしゃべりに忙しく、
車窓を楽しむ余裕など無かったのだ。
一人旅か、それと同じ位気負わない相手との旅でしか出来ない贅沢を、芙美は初めて
味わった。
「いやー、こうしてみると東海道はきれいだねぇ。北斎はいい着眼点してるよ」
「電車で携帯ばっか覗いてんのはのはバカだね。俺これから大学行く時も窓の外眺めるわ」
「いや、あんた地下鉄じゃん」
会話は景色のお茶受けのようなものだ。二人とも、およそものを考えて喋っていない。
けれど、漬物が不味ければご飯が進まないのもまた道理。
好き勝手掛け流しする言葉が不快にならない相手というのも、また貴重だった。
210 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:10:23.65 ID:wsSt03Vp
新大阪到着が十二時十一分。十分弱で駅弁を買い込み、再び構内を走って山陰本線に
飛び乗った。そこから揺られること、一六九分。
「…え。こっからのが長いわけ?」
「そうなー。新幹線は偉大だなー」
在来線に移ると、それまでのハイテンションはひと段落した。昼ごはんを食べて腹が
膨れたというのもあるが、初めて乗る車両にいよいよ旅情が出て来たというのもある。
弁当ガラを片付けると、二人は言葉少なに、窓の外を眺め続けた。
「街中よりは田舎の景色のが面白いって思ってたけど、さすがにそればっかだと飽きる
わねー」
「まあ、場所が分かれば面白いんだろうけどな。良く分かんないと、ひたすら同じ景色に
見えるしな」
「……ごめん、ちょっと寝ちゃうかも。大丈夫かな」
「まあ、終点だから乗り過ごすってこともねーべ。俺まだ平気だし、無理すんな」
「……ん」
最後の1時間は、お互い代わる代わるウツラウツラしていた。途中、芙美が目を覚ます
たびに、相方は舟を漕いでいたが、後でそのことを言うと昭博の方も同じだと言う。
「お前の寝顔もじっくりみたの、久しぶりだなー」
「そう、改めて言われると恥ずかしく……ごめん、特にならないわ」
「残念! と言いたいが、俺も気にはならんしなー」
「もう二十歳だもんね。お互い老けて枯れてしまったのかしらー」
「……おいやめろ。今、斜め向かいのOLの目がマジで怖かった。殺される」
そんなこんなで午後二時五四分。つい数時間前まで、自宅のベッドで二度寝を決め込ん
でいた芙美は、はるばる七百キロ西の温泉街に着いていた。
「……まさか本当に着くとは」
「いやいや、そりゃ着くともさ」
「だってここ、兵庫県だよ。京都よりも西で、しかも日本海側なんだよ。私、今朝まで実家で
二度寝してたのに」
「これから一宿二飯のお世話になる兵庫に喧嘩を売るのはやめろ」
「家電が60Hzで動いてるとか……どこの外国なの」
「だからって関西全土に喧嘩売り直すなお前のような奴がいるから東京人が嫌われるとい
うかわざとやってるだろこのアマ」
「アキが三段重ねで突っ込み切るなんて……もう温泉の効果が出てるのかしら」
軽口を叩きながらも、芙美はそれなりに興奮していた。城崎の風景と言えば、国語の
教科書に出て来た志賀直哉の随想の挿絵で見ただけだ。旅行先は、事前に徹底的に
下調べする派の芙美だったが、今回ばかりはその時間も無かった。
右も左も分からない土地を、ガイドブックも携帯も無く、自分の足で探索する。積極的
にぶらり旅する性質ではない彼女だが、やってみると意外な高揚感があった。
「ほら、取り敢えず宿に行こうぜ。チェックインしなきゃ」
「ちょい待ち。案内パンフ貰ってくる」
「おーい、携帯ないんだから、はぐれんなよ」
211 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:12:27.20 ID:wsSt03Vp
温泉街は小さな川を挟んだ両岸に沿って伸びていた。中心街にも泊まれるところは多い
らしいが、昔ながらの湯屋を構えた宿は如何せん高い。昭博の先輩が取ったという宿は、
温泉街のどん詰まりを曲がった先に有った。
「それでも、掛け流しの内風呂付きだからな。結構頑張ってると思うんだけど」
「人から貰ったもんに何言っちゃってんの。てか、全然凄いじゃない。風情もあるし、私
ちょっと感動したよ」
芙美が素直に褒めると、彼は今日初めて、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべた。けれど、
すぐに踵を返して一人フロントへ向かうと、「ネット予約した本間ですが」とチェックインを
始めた。
あれ、と思いつつも、玄関脇の土産物に気を取られていると、女将らしき女性に声を
掛けられた。
「お二人でご旅行ですか?」
「ええ……はい」
「そうですか。今日はどちらから?」
「東京です」
「まあ、それは。この暑い中、遠くからわざわざ、有難うございます。一日で直接来られる
のは大変だったでしょう……」
恋人さんですか、とか、羨ましいですね、といった、如何にもな定型句は言われなかった。
物慣れた感じだから、芙美の返事から微妙なニュアンスを感じ取ったのかも知れない。
或いは、今時の接客業はそう言う立ち入った事に触れなのが基本なのだろうか。
当り障りの無い挨拶を交わして、ついでにお薦めの湯屋などを聞いていると、間もなく
昭博が鍵を持って戻ってきた。女将は彼の姿を認めると、「ごゆっくり、御寛ぎ下さいませ」
と一礼して、奥へと下がる。
「何話してたんだ?」
「うん? 単にお薦めスポットととかだけど。そっちはどうかしたの?」
「いや、大したことでは無いんだが」少し周りを伺うようにしてから、彼は言った。「こういう
宿でお荷物は、って聞かれて、無いと言うのは結構きついな」
「自業自得以外の何物でもないわね」
案内された部屋は、ごくごく普通の八畳間だった。三階の窓からの眺望も、残念ながら
絶景とは言い難い。しかし、温泉街の端から浴衣を来た湯治客の往来が見えて、
全く雰囲気が無いでも無かった。
代わりに、貸切の内風呂はしっかりとした造りだった。岩作りの浴槽は、小さな庭に
突き出すように置かれて、半露天になっている。深さもしっかりと有り、手前と奥の縁には
底上げ用のスノコが付いているくらいだ。足を伸ばして優に大人四人は入れるだろう。
洗い場はお飾り程度だが、風呂場だらけの立地を考えれば元より不要だ。寧ろ、岩肌か
ら突き出したステンレスのカランとシャワーが、少し不釣り合いだった。
「ほうほう。悪く無いわね」
「眺望も、部屋よりは風呂の方がマシみたいだな」
「あ、こっからだと川の様子も結構見えるんだ。ちょっとちょっと、これ中々に穴場なんじゃない?」
「はっはっは、もっと褒めろー」
「だからあん……いや、そう、なのか。」
「んー? なんぞー?」
廊下に戻り掛けていた昭博が、声を掛けてくる。
「んーん、何でも。それより、早く外湯巡り行こう! 暗くなったらもったいないよ」
212 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:14:58.08 ID:wsSt03Vp
城崎の殆どの旅館と同じく、二人の宿も浴衣の貸出を行っていた。といっても、湯治場
のそれだから、女性が夏祭りに着ていくような華美なものでは無い。脱ぎ着と通気性重視、
洗濯重視の質素なものだ。しかし、生地の紋様や上掛の柄が宿ごとに微妙に異なっていて、
どこの宿泊客か、湯屋の人間には一目で分かるようになっていた。これを目印に、送迎
サービスなども行われているらしい。
「宿と店で提携してるところもあって、浴衣着てるだけで顔パスの設備とかあるらしいよ。
でも、うちらの宿はチケット制だね」
姿見の前で浴衣の帯を通しながら、芙美はすらすらと説明していった。隣でこちらに
背を向けながら、同じく帯と格闘している昭博は、彼女の流暢な解説へ露骨に肩を
落として見せる。
「……お前、携帯も無いのにいつの間にそんな情報仕入れたんだよ」
「ん? 女将さんとパンフから」
「全く、この下調べマニアめ……今回ばかりは、俺のが詳しいって思ってたんだけどな」
「はっはっは、ちょっと先手を取ったくらいで勝った気にならないことね。それに、
飛び込み旅行だったのはアキも同じじゃない?」
「あー…。実は俺、一度城崎来てるんだよ」
「え、そうなの?」洋服を畳む手を止め、芙美は訊いた。
「ああ。高校の時に、修学旅行でな」
「そう言えば山陰回るって言ってたっけ。でも、温泉宿なんて泊まってたの?」
「いや、自由行動で寄った」
「……渋い高校生ねぇ」
「ほっとけ。担任からも『正気か?』って言われたよ」
「そんな人が、帯の一つも結べないの? だらしないなー」
言って、芙美は相変わらず帯紐と格闘している彼の手を引いた。鏡の前に立たせ、
腰に後ろから両腕を廻す。
「あーこれ、高さからして合ってない。やり直すから万歳して」
「あ…おう」
直しにかかった時間はわずか一分足らず。しかしここまで近づいたのは六年ぶり
なのだと、彼女は昭博の反応で気がついた。意識すれば、確かにあのころとは違う。
背丈も、がたいも、匂いまでも。
「ほい、完成」
「すまん……助かった」
「しっかし、そんなんで外湯どうすんのよ。『ボクおびがむすべないのでお姉さんといっしょに
着替えます』って女湯に来る?」
「実に魅力的な申し出だが、普通に捕まるよなー。ま、綺麗にやってもらって悪いけど、
外湯は我流で適当に誤魔化し…」
「やーよ。隣で歩く私が恥ずかしい。湯屋のロビーで着せ替え人形にされたくなければ、
この「着こなしガイド」で貝の口くらい出来るようになっときなさい」
「承知致しました、大奥様」
「うむ。存分に励めよ」
芙美は三つ折りにしたパンフを、扇子に見立ててペシリと叩く。
恭しく頭を垂れつつ、和装だけに結構様になってるな、と昭博は思った。
* * *
外湯の並ぶ本通りに入った頃には、既に四時半を回っていた。部屋でゆっくりしたつも
りはなかったけれど、着付けやらなんやらで結構時間を食ったらしい。
「この一枚つづりで、九か所も入れるんだって。そんなに回れるかなあ」
「いや、さすがに無理だろ。折角の温泉でカラスの行水もなんだし、的絞って行こうぜ」
「了解。まず一の湯、御所の湯は押さえるとして、あと頑張っても二つよね。何か穴場的
なのがいいなあ……」
知らぬ間に増えたパンフ三種を見比べながら、少し遅れて歩く芙美を、昭博は待った。
下駄歩きで危なげに揺れる頭を、斜め前から見下ろす感じが、未だ慣れない。
213 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:16:59.69 ID:wsSt03Vp
普段の彼女は、割にせかせか歩く方だ。女同士四・五人で歩いていると、お互い先に
行かないようにして際限なく歩行速度が落ちていくのが、イライラするなどと言っていた。
出先でも、事前に収集した情報を武器に、皆を引っ張って行くのが常だった。
当然、昭博と一緒の時もそうだ。その場その場で放縦に言い散らす彼の言葉をひたすら
却下し、でもごく稀に受け入れつつ、目的地まで引っ張っていくのが芙美の役割になって
いた。
そんな彼女が、己の影を踏んで半歩後ろを付いてくる光景は、狙った事とは言え新鮮
だった。
「パンフもいいけど前も見ろよ。自転車来てるぞー」
「おっとっと。ありがと」
無理に手を引くとバランスを崩す恐れがあるので、昭博はそっと娘の肩に手を置いた。
すると芙美は少しよろめきながらも、彼の二の腕に掴まって体勢を戻す。
礼を言う一時、前髪越しに上目遣いの視線が、昭博のそれと絡まった。しかし、彼女は
すぐに未練なく、助言さえ無かったかの様に、温泉案内に目を戻した。
「つか、すぐそこに本物があるんだから行った方が早いって。いいと思ったとこ入れば
いいじゃん」
「お風呂ん中まで見るわけにいかないでしょ。お薦めポイント斜め読みするだけだから」
「だから、お薦めなら、俺が前来た時に入った鴻の湯の露天が……」
「アキが入ったのは男湯でしょ。それとも、高校生らしく女湯の露天の様子まで確かめた?」
「ぐっ……」
「それに、どうせならまだ入っていないとこ行こうよ。外湯コンプ出来たわけじゃないんでしょ?」
「うぃ」
「うし。取り敢えず、最初の湯屋に着くまでに読み切るから。外周警戒は任せた」
そう言って、彼女は再び昭博の腕に掴まると、自分はパンフレットに没頭する。
下駄歩きに危険が無いか下方を見張り、往来に危険がないか前方を見張り、湯屋の看板
がないか上方を見張る作業は、思ったより大変だということを、昭博は知った。だから、
ついでに斜め後方も見張りたという欲求は、左の二の腕の重みで我慢することにした。
温泉宿の部屋食代は、いかに格下の宿であっても大学生の懐に優しいとは言えない。
今回の宿も素泊まりで取ってあったので、夕食は外で探さなければならなかった。しかし、
夜まで外湯めぐりすることを考えると、そっちの方が融通が効いて都合が良い。
湯屋のマッサージチェアで芙美の上がりを待ちつつ、昭博は彼女から回収した温泉街
マップを眺めた。手頃な値段で、しかし東京から出張って来た甲斐がある程度の場所で、
且つ芙美と二人で気後れしなさそうな場所。多少は酒も入るだろうから、帰りの下駄歩きを
考えると宿に近い方がいい。しかし、酔いざましに夜の温泉街も楽しみたいから、少しは
歩く距離があってもいい──
「あー……、やめた」
小さくひとり言ちて、昭博はパンフを膝の上に放った。全くもって自分はこういった
計画立てに向いていない。特に、細目を詰める作業となると、全くやる気が出てこない。
時刻表とガイドブックだけで既に旅に行った気になるまでシミュレートする芙美の
行いなど狂気の沙汰だと思っている。
そして向こうも、起床15分後に日本縦断の旅行へと誘う自分を、大概気の狂った奴だと
考えているに違いない。
確かに、今朝の作'戦'は、いささか酷かったと自分でも思う。
とはいえ、いざ旅行に向かってからの彼女のはしゃぎ様は、予想外に──予想を超えて、
大きいものだった。それはきっと、昔馴染みゆえの気楽さだけではなく、所謂S極N極的な
相性の良さが合ってのことなのではないか。
希望的観測か、はたまた単なる願望か。しかし、話として筋は通っている。後は、
その筋書きを"実"を付ける計画さえあればいい──
214 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:20:42.12 ID:wsSt03Vp
「こら、大事なパンフ様を捨てるとは何事か」
突然、顔の上に布に包まれた固い物が降ってきた。芙美が宿で借りた巾着だ。中身は
元々財布だけだったはずだが、湯屋をめぐる度に余計な物が増えている気がする。
「また何か拾ってきたのか」
「化粧水。試供品の小瓶があったから貰って来た」巾着を引き上げながら、彼女は言った。
「アキの無茶ぶりに、思わずこっちも吹っ切れて、本当に手ぶらで来ちゃったけどさ。
さすがにやり過ぎたわ。化粧ポーチの一つくらいは持ってくるべきだった」
「化粧なんぞ普段から真面目にしとらんくせに。大体、それを言うなら携帯だろ。俺も
そこまで置いてくるとは思わなかった」
「携帯はわざとじゃないってば。それに、最近はお肌のお手入れぐらいしてるわよ。
今日明日の日焼けでシミが増えたらあんたのせいだからね」
「温泉効能を信じろ。ゆっくり顔まで浸けとけばシミ抜きくらい出来るさ」
「ブラウスの洗濯みたいにいけば世話ないわ」
「しかし心の洗濯なら出来る」
「うまく無い。ほら、行くよ」
膝から落ちた案内地図を持たされて、昭博は安楽椅子から立ち上がった。帯の周りに
手をやって皺を伸ばすと、芙美がわざとらしく顎に手をやって検分する。
「ふむん。今度は中々きまってるじゃない」
「三度目だからな。さすがに慣れた」
彼女の横に立つに相応しい装いとして合格点を貰い、二人は最後の湯屋を後にした。
辺りはすっかり夜の帳が落ちており、街灯の灯りは予想以上に頼り無い。
「あんまりよく見えないね」
「まあ、よくよく考えたら、夜景が綺麗とか特に書いて無かったしな」
「でも、星は東京よりは見えるかなー。薄曇りだけど」
「そう言えば新月って言ってたな、今日」
言いながら、昭博は空ばかり見ている彼女に代って、じっと地面に目を凝らした。目が
慣れるまで、自分がもう半歩前を行った方がいいかも知れない。
「で、私から強奪したパンフで夕飯の場所は決まったの?」
「おう、大体絞っといた。こいつの裏面に書いてある店から、好きなとこ選んでくれ」
「つまり手付かずってことね。まあ、そんなこったろうと思ってたわ」
溜息一つ吐くと、芙美は自分のガイドを取りだして、三つの印を指でなぞる。
「私はこの三店に絞ったんだけど、価格帯も毛色も一緒でどうにも決め手がなくて…」
「あ、俺この『山椒魚』って店がいい。カマ焼きの絵がうまそう」
「あんたね……」
一瞬、半眼になってこちらを見上げてきた彼女だったが、次の瞬間、なぜか眦がカタン
と落ちて、彼女はふっと相好を崩した。
「ま、アキのそういうとこには、いつも助かってるんだけどね。正味な話」
川向こうの店だから一旦だから渡るよ、と言って急に方向を変えた彼女を、昭博は
慌てて追いかけた。
城崎到着後の数時間で地元発行の観光誌をほぼ全て制覇した芙美の眼に、狂いは
無かった。普段入り浸っている居酒屋の三割増しの値段で、日本海の幸を豊富に使った
料理を満足行くまで食べることが出来た。帯のせいで、お互い満腹までいけなかったのは
御愛嬌。
「ベルトだったら緩めて追加行けたのにな」
「むむむ。和服の帯って、ダイエットの切り札かもしれん」
食事後、一休憩して通りに出ると、人通りは大分まばらになっていた。部屋食付きの
宿が多い温泉街は夜が早い。夕涼みにそぞろ歩きと洒落込みたかったが、いささか
侘びが強過ぎた。
「夜店でもひっかけて夜食調達しようと思ったけど、これじゃコンビニまで戻らないと駄
目かな」
「え、本当にまだ食べるつもりだったん?」
ビックリしたように振り返る足取りが、先程よりも覚束ない。昭博は下駄履きにも大分
慣れて来たと思っていたが、ここにきて疲れが出たのだろうか。
215 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:22:59.56 ID:wsSt03Vp
「いや、湯当たり、と言うほどでもないんだけどね。血行が良過ぎて、アルコールが回っ
ちゃっただけ」
心配そうに寄ってきた彼に、「酔うような量は飲んでないし、すぐ抜けるよ」と芙美は
笑った。実際、昭博が見る限り、芙美が飲み過ぎた様子は無かった。しかし、ふらふらと
千鳥気味に下駄を突っかける彼女を見ると、そのままにしておくわけにも行かない。
「ほら、さっきみたいにここ掴まっとけ」
「ありがと。今日は随分紳士だねー」
「よし、これでやっと首輪をつけられた」
「えー。今日は私、全然仕切って無いじゃない」
旅先の開放感と、アルコールが相まって、普段よりもいちいち反応が柔らかい。二の腕
に寄せられた半身以上に、心の力が抜けているのが分かって、昭博の心も軽くなった。
「仕切らないって……外湯から史跡巡りから夕飯の場所まで、全部お前の決定じゃんか」
「あんなのは全部、助言、諫言、アドバイスだよー。決めたのはアキ。そもそもここに
連れて来てくれたのがアキ」
「まあ、最後のは認めるが、それもチケット貰っての話だしなぁ……」
だから、少し気が緩んでいたのかもしれない。次の彼女の言葉に、昭博は完全に虚を
突かれてしまった。
「その先輩から貰ったって話、嘘でしょ」
はっと息を飲んだ昭博を、芙美は先程までの酔いが嘘のような、醒めた眼で見つめていた。
その後、表情をすっと薄めて瞼を伏せると、ごめん、と云った。
「やっぱり、少し飲み過ぎたかな。言うタイミング間違えた」
「……どんなタイミングなら良かったんだよ」
「うーん。事後の気だるいモーニングコーヒーの場面とか? エンドマークの五行くらい
前で、悪戯っぽく言うのが王道じゃない」
「コッテコテだな」
「確かにね。でも、人間やっぱり自分から縁遠くなってしまった王道に憧れるものなのよ」
仮にも十五年来の付き合いである。互いの間でなら、どんな状況でだって、軽口を続ける
くらいは訳無いことだ。
けれど、彼女は自分の過ちと認めておきながら、二の腕に掛ける重さを増した。
「さすがに、少し疲れたよ。もう、戻ろう?」
「……分かった」
帰りは、それまでに比べると、お互い口数は少なくなった。けれど、不思議と気まずい
感じはしなかった。芙美は元より常にしゃべくり回っている性質では無い。今日は旅先と
言うこともあって、ここまで、ずっとハイテンション気味だったけれど、それで今さら沈黙が
怖くなる間柄では無かった。
無論、この旅一番の秘密がばれて、開き直ってしまったということもあるけれど。
宿に戻ると、既にロビー脇の売店の明かりは落ちていた。玄関から客間に繋がる廊下
にはちゃんと灯りが付いていたけれど、随分寂しい感じがするのは事実だった。静まり
返った館内で音を立てるのが忍びなく、二人は自然と、ぬき足差し足になりながら、
客室へと戻る。
そうして、丁度昭博が襖の引き手に手を掛けた瞬間、芙美が彼の耳元に口を寄せ、
小声で呟いた。
「賭けをしない?」
「……どんなだ?」
「布団が寄せてあるか、離してあるか」
悪戯っぽい口調ではあるけれど、聊か声量が少な過ぎて、感情がどこまで乗っている
のか分からない。けれど、その平板さは、彼が娘の顔の方を振り向くのを、何となく
躊躇わせた。
216 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:25:20.05 ID:wsSt03Vp
「まあ、若い男女が荷物も無しに二人旅だからな。普通に寄せてあるんじゃないか」
一番、常識的で、妥当だと思う答えを、昭博は選んだ。
「そう。じゃあ、私は逆に張るわ」
先程と同じ、全くの平調で、芙美は続ける。
「くっつけたか離したか分かんないくらいの微妙な感じで、離れてる」
「おい、それはずるくないか?」
「でも、ちゃんと離れてるのよ。多分、指4音本分くらい。アキが納得いかなかったら、
私の負けでいいわ」
「そりゃまた随分と太っ腹だな」
部屋の明かりを付けてみると、果たして布団は離されていた。それも、ちょうど芙美の
小さな掌が収まる位の隙間だった。
「どう、文句ある?」
「確かに、こりゃ認めるけど……どうやった?」
「別に、これと言ったタネはないわよ。昼間にちょっとおかみさんと話しただけ」
昭博がチェックインしている間に、売店で話していたあの時らしい。なるほど、と思う
反面、それだけで、布団の敷き方まで先読みするのは、反則な気がしなくもない。
「ともあれ、私の勝ちねー」
言いながら、芙美は飾り帯のまま、どさっと布団に崩れ落ちた。
「参ったか」
「ははあ、御見それ致しました」
「宜しい。では賭け金を払ってもいましょうか」
そう言って、彼女はやおら、自分の頭の横を指す。
「ここ座って」
「いいけど、ってうわっ」
「はいそのままー。後はしばらく、団扇で扇いでなさい」
「……何かと思ったら、膝枕ですか」
「小さい頃、他の家の子がして貰ってるのが、地味に羨ましかったのよね〜。でも大人に
なってみたら、世間的には「女が男にするもの」なんてふざけたことになってるしさ」
「おばさんにやって貰えばよかったじゃないか」
「あんたは私の反抗期の早さを知ってるでしょうが」
そう言いながら、芙美は帯に差していた団扇を抜いて、彼に手渡した。昭博が、大人しく
彼女の顔に風を送り始めると、満足そうに瞳を閉じる。
仮にも十五年来の付き合いである。これが、相手を逃がさないための仕込みであると
いうことが、昭博には分かった。
それにしても、と、彼は苦笑する。何事にも下調べ、下準備するのが彼女の信条とはいえ、
こんなこと罠を張られなくても、いまさら自分に逃げる気は無い。
「思ったより、驚かなかったね」
穏やかな表情のまま、芙美は言った。昭博は一瞬「膝枕のことか?」と呆けてやろうか
とも思ったけれど、ここにきて混ぜっ返すこともないだろうと思い止まる。
「まあ、旅行中ずっと隠す気は無かったんだけどな。しかし、どこで気付いた?」
「チェックインする時。『予約した本間ですが』て言ったでしょう。そこは先輩の姓
じゃないとおかしいじゃない」
「その一言でか。凄いな」
「まあ、他にも色々あったけどね。貰いものの宿の質に、やたら言い訳じみた言い方
したりさ。修学旅行が云々とかも」
「高校で来たのは本当だぞ」
「分かってる。だけど、アキの修学旅行と先輩のデート先が700km先で一致ってどんな
確率よ。万が一偶然なら、行きの新幹線で真っ先に話題に出そうじゃない」
あんな風に、ぼそぼそと打ち明けられたら、疑うなってほうが無理よ、と彼女は笑った。
「やっぱり、嘘は吐けないもんだなあ」
「普段思い付きだけで行動してる人が、慣れない仕込みなんかするからよ」
そして、芙美はぱちりと目を開けると、「あーもう、アキとだとすぐあっちこっち話が
飛んで駄目だわ」とかぶりを振った。
それから、再び頭を膝に戻すと、彼女は元通り目を閉じて、言う。
「どうして、この旅行に誘ってくれたの?」
217 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:27:26.27 ID:wsSt03Vp
数瞬、昭博が言葉を選んでいると、彼女は少し口元を緩めて言った。
「別に、どんな答えでも怒らないわよ?」
「遥子さんと行くはずのチケットが無駄になったから」
「嘘」瞼を開けて、芙美はまっすぐに彼のことを見上げた。
「私を試そうとしたことには怒る」
「悪かった」
すぐさま、昭博は非を認める。
「別に、今さら答えに戸惑ってるわけじゃない。純粋に、どう説明したらいいか言葉を
選んでるだけなんだ」
そう言って、一旦団扇の手を止めると、彼は視線を床の間に移して続ける。
「ただ、そういう意味でも、一言謝っといた方がいいかもな。旅行代そのものは、夏前に
遥子さんと行こうと思って、貯めてきたやつだ」
「そう。………って、それこそ、アキが私に謝る義理は無いと思うけど」
彼女の台詞の、句点に空いた一間の大きさに賭けて、昭博はたたみかけに入った。
「いや、俺が謝りたかったんだ。出来れば、違う金で来たかった」
「城崎に来たのは、お前と二人で、しばし呆けたかったからだよ」
「呆けるって」
「電話でも言ったろ? 俺と一緒にぼーっとしてくれって」
「あ。」
深読みしやすい、紛らわしい言い方をしておいたおかげで、彼女は覚えてくれていた
ようだった。実際、それがどこまで紛らわしいかは、この先の解釈に依るところだが。
「大学入って初めて、お前の部屋で話した時のこと、覚えてるか?」
きょとんとした表情が崩れないうちに、昭博は先を続ける。
「中学の頃、どうして続かなかったんだろうって話になって。まあ、切っ掛けが俺の性欲の
暴走なんだから、続ける方が無理だろって話だったけどさ。そこで、お前言ったじゃん。
『思春期の少年少女を二人っきりにさせとけば、くっつくのはしょうがない』ってさ」
口がようやく回転し始めたので、昭博は団扇を持ち直した。大きくゆっくり扇いで、
膝の上の芙美と、それから自分にも、風を送る。
「まあ、理屈だとは思ったよ。よく聞く話でもあるしな。でも、その一言で括られる事に
、違和感はあった。二人っきりでいる時の方が、互いのアラとか不満とかが、よく見えて
くるだろう? 遠くから見ているうちは憧れたけれど、いざ身近になったら幻滅するって
のも、同じくらいよくある話じゃないか。
だから、もう一度確かめてやろうと思ってな」
帰りの切符が入った財布を見つめて、昭博は言った。「お前と、二人っきりで、互いの
相手でもするしかない状況を仕'込'ん'だ'。普通に誘ったんじゃ、芙美は一から十まで
計画だてて、お互いの顔を見る暇もないくらい、充実な旅行計画を立てちゃうからな。
思い付きが信条の俺も、今回ばかりは図ったよ」
視線を落とすと、先程よりも、さらに呆けた顔で、芙美は昭博の事を見上げていた。
「一応、本丸は無事だったみたいだな」と笑って、彼は続ける。
「この際だから、正直に言う。きっかけは、遥子さんだよ。『私と二人っきりが楽しいと
、本当に思ってる?』って正面から言われた。まあ、この上ない振られ文句だったわけだが、
別に強がりでもなんでもなく、そん時に「なるほど」と思っちまった。交際の延長に、
その、まあ、結婚云々を想定するのは個人差の大きいところだとは思うがしかし、
仮の話としても、付き合いが深まれば二人の時間が増えるのは事実だろ。そういう時、
何かしらイベントがある無しに関わらず、傍にいたらいいなと思う人間を考えたら……
お前だった」
およそ、柄にも無い事を言い連ねているという自覚はあった。おかげで、後半は団扇の
勢いがかなり増した。そのせいで、膝の上の芙美の髪が結構乱れていたのだが、彼女は
何も言わないので昭博は気付かなかった。幾筋かの髪が目元から鼻先へかかっても、
先の表情のままで、芙美は彼の事を見上げていた。
「だから、確かめに来た。もう六年、いや、きっかけは七年前か。あの時の俺らが、若気の
至りだったのか、寂しさゆえの気の迷いだったのか、もう一度確認しようと、お前を誘った。
正直言って、出発するまでは自信が無かったよ。他ならぬお前の言葉だからな。でも、
行きの電車の中ですぐに確信が持てた」
まん丸に見開いて一直線に見上げてくる瞳を、正面から見返して、昭博は言った。
「惚れた腫ったの話じゃなくてさ。二人っきりなら、お前とがいい。」
218 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:30:25.37 ID:wsSt03Vp
正面から見つめ合っていたのは、ものの数秒だったよう、昭博は思う。返事を貰うまで、
例えにらめっこになっても視線を外さない覚悟ではいたが、あいにくとそんな必要は
無かった。
「二人っきりなら、お前とがいい。か」
「うん」
「私と二人っきりがいい、じゃなくて、二人っきりなら、私とがいい」
「ん?…あ、ああ」
「アキと二人っきりになりたいじゃなくて、二人っきりなら、アキとがいい」
「……いや、そういう言葉尻じゃなくてだな。せっかく恥ずかしい長台詞吐いたんだから、
正面から受け止めてくれると助かる」
一抹の不安を覚えて、昭博は思わず遮る。しかしその直後、芙美はお腹を抱えて、
盛大に噴き出した。身体をくの字に折るようにして、時折しゃくり上げながらの大笑い。
それこそ小学校以来の大げさな仕草に、昭博は思わず呆気にとられる。
そんな彼の膝で、ひとしきり笑い転げた芙美は、眦を指で拭って言った。
「あはは、はは、はふ……馬鹿みたいに笑ってごめん」
「まあ、馬鹿馬鹿しい物言いだったことは認める」
「違う違う、そうじゃないの。やっと納得して、そしたら涙が出るほど可笑しくって」
「涙が出るほど嬉しくって、が良かったなぁ。俺としては」
「ううん。嬉しいのもあるよ、本当に。それに、笑ってるのはアキじゃなくて、自分になの」
それから、再び頭の重みを昭博の膝に戻して、彼女は続けた。
「さっきの告白、雰囲気だしてすっごい前振りだったからさ。どんな事言われるかと
ビクビクしてたんだけど。 『二人っきりなら、お前とがいい』っていわれて、思わず
ポカンとしちゃたのよ。
……そんなこと、私だっていっつも思ってたよって」
思わず、にやりとする昭博の下で、芙美はやや恥ずかしそうに目を伏せた。
「馬鹿みたいだけど、言われて初めて気付いたわ。それって付き合うには十分な理由
なんだって。いやはや、まさか自分がこんなザマなろうとは」
天然鈍感キャラって、嫌いなんだけどなぁと、芙美はぼやきながら身体起こす。
「結局、私はこの年になるまで、恋に恋する女の子をやってたって事なんだと、思う。
男女のお付き合いするにはさ、もっと『離れたくない!』とか、『二人っきりじゃなきゃ
やだ!』みたいな、激しい感情が無いと駄目なんだって、決めつけてた。誓って、
私本人にそのつもりは無かったんだけどね」
「ま、俺も他人に言われて気付いたんだから、大きな顔は出来ん」
「そうよねー。余所様に迷惑かけなかった分だけ、私のがマシかな」
昭博が聞く所によると、意外とそうでもないらしい。大学進学当初、色々と人目を引く
彼女は、本人の知らぬところでひとふた騒ぎの原因になったとのことだった。しかし、
今さら言うことでもないか、と彼は口をつぐんだ。
何れにせよ、昔のことを突かれれば昭博の方が旗色が悪い。
「ま、今後は一つ、互いに世間様の迷惑にならないよう、一緒にやっていこうじゃないか」
「ちょっと。そんな婚期逃した残り物同士のプロポーズみたいなのやめて」
「う゛っ……つか、待てよ。俺はちゃんと最初に言ったぞ」
「肝心な言葉が無かったような気がします。ほら、どうせうちらは、始まっても今まで
みたくグダグダ行くんだから、最初くらいははっきりしておかないと」
「まあ、その件に関しては前科持ちだしな、俺ら」
仕方ない、と布団の上に脚を正して座り直し、昭博は告げた。
「川浦芙美さん、六年経っても、やっぱりあなたが好きでした。
俺と付き合っていただけますか?」
「この六年、自分の気持ちにすら気付かなかった不束者で良ければ、喜んで。
本間昭博さん、どうぞ宜しくお願いします。」
布団の隙間に三つ指をついて、互いに頭を下げ合って。
きっかり5秒は経ってから、二人はほとんど同時に噴き出したのだった。
219 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:32:31.57 ID:wsSt03Vp
*
一頻り笑い合った後、昭博はゴロンと布団に横になった。晴れて積年の目的を達し、
緊張の糸が切れた瞬間、今日一日の疲労がどっと溢れだしてきた。
「ふぁー、なんというか、疲れた」
「あはは、付き合い始めて一番最初の言葉がそれかい」
突っ込みを入れつつ、芙美もぐにゃりと上半身を崩して、身体を彼の隣りに横たえた。
「まあでも、気持ちは分かるわ。世の男女どもは、よくまあこんな疲れる事何度も何度も
出来るわよねー」
「俺はこれっきりで十分だな」
「そうね、私もこれが人生ラストになることを祈るわ。マジで」
お互い、勢いで大それた事を言っているという自覚はあった。けれど、それで言質を
取られてもまあいいか、と思ってしまえること、そして相手も同じように考えていると
分かる事が、くすぐったくも心地よい。
「でも、別に嫌味とかじゃなくてさ。大学入って、先輩の女性に恋愛を仕掛けていった
アキは偉いと思うよ」
「そうなのか?」
「うん。だって、私はアキの御蔭で、あんまり苦しい思いせずに済んだけど。アキは大変
だったでしょ?」
「まあ…な」
「行き当たりばったり人生のアキが、こんな手の込んだ仕掛けを打ってくるんだもん。
よっぽどの事が合ったに違ないよ」
「お前は人を褒めてるのか、貶してるのか」
「感謝してるんだよ。私の代わりに傷ついてくれたアキに」
そう言って、芙美は寝転んだまま、すっと手を伸ばしてきた。いつものように、頭を
ポンポン撫でるのかと思いきや──今日は、下顎から頬に添えられる。
「でも、私だけ楽して物知らずってのも、なんだなぁ。ちゃんとお試しでも付き合っとく
べきだったか」
「……俺がやけどした分、お前は火遊びをしないでくれると助かる」
「……へへ。わかった、ありがと」
顔を撫でる芙美の腕を伝って、彼女の背中へと手を回す。そっと力を入れると、芙美は
抵抗せず身を寄せて来た。
昭博が娘の身体をすっぽりと腕の中に収めると、彼女がくたりと全身の力を抜いたのが
分かった。少し体重をかけて押しつけられた膨らみが、暫ししてひくひくと震えだす。
「何だよ?」
「いや、ごめん。なんか急に懐かしくなってきて」
芙美は少し身じろぎをして両手を抜くと、自分も相手の背に手を回してゆっくりと身体
を押し付けた。今日一日、ようやく見慣れてきた旋毛が顎の下に収まって、石鹸の香りが
彼の鼻腔をくすぐっていく。
「六年ぶりだし、アキの体付きなんて全然変わってるし、緊張はそれなりにしてるんだけ
ど……妙な安堵感もあるのよねぇ」
「安堵感?」
「うん。ほら、私ちょうどあの頃は絶賛反抗期中で、家族どころか世界には頼れる人間は
自分だけみたいな感じだったじゃない? そんな時、アキの人肌にすっごい安心できたのよ。
あれ思い出すなー」
「あー、なる」
「正直に白状すれば、当時は人肌恋しさに抱かれてたってのもあるかもね」
「……そんな少女を、性欲最優先でひたすらやりまくってたクソガキで本当にすみません
でした」
「え、いや、今さら何言ってんの」
つむじに顎を載せながら謝罪を言うと、彼女は腕の中でコロコロと笑った。
220 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:34:45.59 ID:wsSt03Vp
「寧ろ、アキが無条件に抱きたがってくれて、すごく有り難かったんだよ。私からって
言い出しにくかったし、求められて『しょうがないから応じてやる』って体裁が取れるのは
、楽だった。本能でも何でも、同情じゃなくて、本心から望まれてるのが分かるのは、
凄く安心出来たし。……てか、あの場合動機不純なのは私の方じゃない?」
「そう言う場合でも、悪いのは男の子の方なのです」
「さよですか。いつの間にか物分かりの良い子になっちゃって」
「男子六年会わざれば刮目して見よってね」
「この六年、三日と空けずに会ってたけどね」
「ってなわけで、そろそろ性欲を優先させても宜しいかね?」
「ぶっ…っあっはは、そうきたか。うん、うん、なるほど、アキの六年分の成果は出てる」
今日一番の、楽しそうな笑顔を向けて、芙美は言った。
「じゃあ、とりあえず、『あ〜れ〜』から始めればいい?」
ゆっくり0.1秒迷ってから、昭博は10数年来の幼馴染の思い付きを却下した。
腕の中でまだ肩を震わせている娘を抱きあげ、昭博は頭の位置を調整した。顎に手を
やり、唇を軽く上向かせてようやく、芙美も笑いを収めてくれる。彼女の瞼がそっと
下ろされるのを確認してから、彼も目を閉じて顔を落とした。
一呼吸分、ゆっくりと唇を合せてから、一旦戻す。ちょっと目を開けて、お互いの表情
を確認してから、もう一度。
「……んぅ」
今度は、少し深めに吸う。角度を付けると、娘の扉は簡単に開いた。二三度、舌先を
入口で遊ばせてから、早速内側へと沈めていく。
その性急さに、ちょっと驚いた風を見せつつも、芙美は抵抗しなかった。歯茎をなぞる
昭博に合せて薄く口を開け、自らも外に出て歓待する。
歯と歯の間で互いの味を確かめ合い、さらに奥を攻めようとしたところで、芙美は
ほがるように息を詰めた。昭博が顔を上げると、彼女も遅れて瞼を開ける。
「ちょっと急すぎたか?」
「ううん。久しぶりで、吃驚しただけ。でも面白いね、してるうちにどんどん思い出すよ」
「そうか。ま、お互いゆっくり勘取り戻そうぜ」
「うん………んぁ」
再び唇を合せ、先程よりもゆっくりと舌を絡めていく。芙美の言うとおり、一呼吸ごとに
互いの間合いが分かるようになる。擦り合わせる味蕾の感触と、交換する唾液が味が、
六年の時間を一気に巻き戻していくようだった。
次第に大胆になる芙美の舌使いに、彼自身ものめり込んでいく。昭博は両手を彼女の
背に戻すと、先程よりしっかりと彼女を抱き直した。
十四の頃に比べれて随分と女らしくなったはずの娘の身体が、ずっと華奢に感じられる。
それは昭博自身の、この六年での成長の証でもある。
だから、六年前なら逆らえなかった衝動──芙美の柔らかさを力一杯堪能したいという
暴力的な欲求──に抗いつつ、彼は掌を背中で滑らせ始めた。すると、つと、昭博の口の
中で彼女の舌が引き攣った。そういや肩甲骨が弱点だった、などとと思い出しながら、
昭博は逃げる舌を追いかける。
勢いづいて、彼女に肌を探っていた彼だったが、すぐに問題にぶつかった。思った以上
に、帯が邪魔なのだ。愛撫を続けたまま、手探りで解けないかとやってはみたものの、
うまく行かない。そもそも、結び方を良く分かっていないのが、致命的だった。
何度か無理に引っ張っているうちに、芙美にも状況が伝わってしまった。キスをしたまま、
くすりと吐息を漏らすと、彼女は一旦胸を押して身体を離す。
「だから、『あ〜れ〜』しとけば楽だったに」
「記念すべき初夜、じゃあないが、とにかく一日目からそんなアホな事出来るか」
「アキの誘い文句も、大概酷かったと思うけどなー。帯、前に回すから、ちょっと身体
浮かすね」
「おう」
221 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:36:56.68 ID:wsSt03Vp
上半身を起こして帯を解くと、芙美は手早く畳んで布団の外へと押しやった。その間に、
心許なくなった腰回りの裾が、ふわりと乱れた。それを見下ろした彼女は、ちょっと
迷ってから片手で整え、再び彼の隣りに横になる。
「じっ……。じゃあ、続きどうぞ?」
「いよいよ本番で、緊張してきた?」
「……ばか」
ほんのりと染まった頬を隠すように、芙美が頭を下ろしてくる。視界を奪うためと
分かっていても、彼女の側からの接吻は嬉しい。唇をしっかりと合せてながら、
昭博は邪魔ものの無くなった娘の背中を堪能する。
「ふ……んちゅ…くぅん……はん」
相手の息が落ちいたのを見計らって、彼はゆっくりと手を前に回していった。縛めの
無くなった裾に手をかける。芙美は抵抗しない。けれど、合わせて身体を開く事もしない。
昭博はそのまま浴衣の内側に入り、肌着の上からそっと膨らみを掴まえた。記憶の中の
ものよりもずっと豊かなになったそれを、数度下着の上から揉んだ後、彼は言った。
「なあ、芙美」
「んー?」
「腕、もう少し楽にしてくれないと、脱がせられないんだが」
「えっ? あ、ご、ごめん!」
慌てて万歳する芙美を笑って抱きしめてから、昭博はキャミソールに手をかける。
「はー、ごめん。さっきは安堵とか言っといて、何今さらガチガチになってんだろね」
ここにきて、妙な繕いをするのは諦めたのか、大人しく赤い顔を晒して彼女は言った。
「まあ、ブランク長かったからな。無理もないさ」
「その間に、アキは片手でブラのホックを外してしまうようなプレイボーイに成長したと
いうのに」
「……意外と余裕じゃないか。それだけ軽口叩けりゃ問題ない」
「いや、きっと逆よ。いつでもグダグダ無駄口叩きながらが、私たちのスタイルなのに、
アキが妙に無口で雰囲気出したりするから、平常心が保てなく…むぐっ」
「ん……。キスする口と話す口は一緒だからな。それに、こんな時に平常心保ってどうす
んだよ」
「んあ……っく。『○○のくせに生意気だ』ってフレーズ、ようやく使いどころが分かったわ。
あー悔しい」
「でも感じちゃう?」
「な゛っ……、あ、アキッ! 今のは本当にありえないわよ!」
「うむ、我ながら今日一番の酷さだと思った」
そうして、結局は芙美の言うとおり減らず口を叩き合いながら、昭博は身体に触ってい
った。実際、今は浴衣の前を大きく開いて、彼女の胸を直に揉んでいるというのに、娘の
様子は先程よりよほど穏やかだった。
なんだかなぁという思いが頭の隅を掠めはする。しかし、それを無理に正そうとは思わ
ない。身の丈に合わない恋愛の顛末を反省するのに、六年は十分過ぎるほど長かった。
「ふ…はっ……ん。もうちょっと、強くしても大丈夫」
「うん? これ以上は、かなり痛がってたように思うんだが」
「そりゃあ、あの頃は成長期だったし」
「そういや、中の方にあったシコリみたいなの、無くなってるな」
「…っ……。とにかく、変な遠慮しないでいいってば。妙に我慢してる顔を見せられる
方が嫌」
「ん、そか」
昭博は身体を起こすと、芙美の身体を横抱きに抱えた。重力に従って、たわわに実った
膨らみを、下からしっかりと掬い上げる。この六年で随所が大人らしくなった彼女だが、
やはり一番変化が合ったのはここだろう。そっと力を込めれば、掌に収まりきらなかった
膨らみが、指の間から零れ出す。
何度か繰り返すうちに、昭博の顔からも余裕が無くなっていった。自然と呼吸が早くなり、
それに気付いて誤魔化すように口づけをする。だが、一度顔を女体に寄せると、
そこから離れるのが苦痛になる。三度の湯浴みでしっとりと火照った柔肌を、頬、首、
鎖骨と降りていく。
222 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:38:58.40 ID:wsSt03Vp
双丘の麓に辿りつき、いっときの間逡巡すると、芙美の両手が頭の上に降りてきた。
暫しして、彼はそれが承諾の合図だったと思い出す。彼女の身体を起して、自分の膝の
上に座らせると、顔を谷間へと埋めていく。
やがて、唇が桜色の頂きに達すると、もう自制は効かなかった。左手で背中を支え、
右手で下乳を持ちあげると、逃げ場の無くなった膨らみにギュッと唇を押し付ける。
唾液の乗った舌で慎ましやかな蕾をしきりにねぶり、湧くはずの無い泉を音を立てて
吸い上げる。
夢中になって自分の乳房を啜る男の髪を、くしゃくしゃに弄んでいた芙美だったが、
やおらくすくすと笑いだした。
「んあ?……な、なんだよ」
「だって、アキったら妙な手練手管を尽くすと思いきや、おっぱいの吸い方だけ昔と同じ
なんだもん」
「………悪かったな」
「ううん、全然。おかげでちょっと緊張とけた。もっと、好きなだけいいよ」
笑顔でそう言われては、男として興奮せずにはいられない。昭博は憮然とした表情を
作りながらも、素直に反対の乳房へと顔を落とす。
そうして、豊かに育った双乳を口いっぱいに含みながら、男の手は次の獲物を探し
始めた。背中を抱きとめていた手が、ゆっくりと円を描きながら、下へと降りる。尾てい骨の
上側から、ショーツの縁を通って、腰骨をさすると、彼の頭を抱く手がピクリと震えた。
しかし、それ以上には行くのは、この体勢では難しい。
頂きに一度、軽く歯を当ててから、昭博は一旦顔を上げた。芙美の身体を再び布団に
横たえて、浴衣を完全にはだけさせる。
仰向けになった彼女に覆い被さり、二・三度口づけを落としてから、彼はショーツに手を
かけた。だが、芙美は腰を浮かす代わりに、少し不満そうな顔で相手の裾に手をかける。
「私だけ、ってのはどうなの?」
「おっと、すまん」
慌てて自分の帯を解き、浴衣の前を寛がせる。それでも芙美が納得しないようだったの
で、下着まで纏めて一気に脱いだ。興奮ですっかり反りかえったモノを、正面からマジマジと
見つめられたが、こうなっては隠しても仕方が無い。
「あー、お嬢さん。何か感想でも?」
「やっぱり、そういう場所もちゃんと成長するんだねえ」
「お前さんもいっしょだよ」
「そっか。でも私の方は、あれから殆ど背も伸びてないし、広がる余地は無いと思うんだけど。
いや、元々産道なんだから、成熟すると伸縮が良くなるのか?」
「……あのな」
天然かボけたのか微妙に判断がつかず、昭博が突っ込みかねていると、芙美の手が
するすると股間へ伸びて来た。興奮した一物を手で包み、何度か探るようにしごいてから、
身体を起して頭を股座へ下げようとする。
「お、おい。何を」
「え? だって、まずは口で下準備しないと」
「………うん、すまん。本当にすまん。今ここにタイムマシンさえあれば、AVの知識を
そのまま実践するクソガキをぶん殴ってきて連れて来て土下座させるんだが、手元不如意
のため代わりに俺が謝ります。好きなだけ蹴って下さい」
「あはは、なにそれー。別に特別、特殊性癖ってわけでもないでしょ。頭下げて『蹴って
下さい』の方がよっぽど変態ぽいよ」
昭博は本心から謝意を述べた。しかし、彼女の偏った知識に、聊か歪んだ興奮を覚えて
しまったのも事実だ。
芙美に他の男と付き合った経験が無いのは、以前から知っていた。だがこうして、自分
以外に男を知らない証左をまざまざと見せつけられると、心の奥底の身勝手な独占欲が
甘く掻き立てられてしまう。
223 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:41:17.29 ID:wsSt03Vp
「いいから、まずは大人しく横になれって。それから、裸で存分に抱きつかせろ」
「え、うん……きゃっ」
相手をやや強引に布団に転がして、昭博もすぐに追いかける。横臥の姿勢でしっかりと
抱きしめ、足先から唇まで、合せられる肌はぴったりと重ねた。邪魔な薄布の無い、
しっとりと暖かい感覚が、一層昭博を昂ぶらせる。己の胸板で芙美の豊かな乳房が
柔らかく潰れ、相手苦しめると分かっていても、一度だけ腕に力を込める誘惑に逆らえない。
「ふゅ、っぐ…ん」
「ごめん。もうしない」
「んっ……ふふ、守れない約束はしないの」
彼の後頭部に手回し、髪の毛をくしゃくしゃにかき回しながら、芙美は言った。
「こんくらい、何度でも平気だって」
「おまえなぁ……いや、100%俺が悪いんだけども、セックスってのは何から何まで我慢して
男を受け入れるもんでもないぞ」
「えー。私の初めての人は、そんなこと教えてくれなかったなー」
今度は、明らかにわざとと分かる意地悪な笑顔を見せてから、芙美は言った。
「アキの大人の気遣いは嬉しいけど。正直に言えば、昔みたいに好き放題引っかき回され
るのも嫌いじゃないよ、私」
「え?」
「ほら、小さいころから私が丁寧に組み立てて、アキがそれをぐちゃぐちゃにするのが
役回りじゃない?」
そこで、憮然とする男の表情を楽しんでから、彼女は諭すように言う。
「確かに気持ちよく無いこともあったけど、気分はよかった。だから、我慢じゃないし、
して欲しいってのは本心。大体、私が嫌々泣き寝入りするような性格じゃないのは、
知ってるでしょ」
「まあ、な」
「泣き寝入りする先はアキぐらいしかないんだから、苦情が届かないってことは
あり得ないわよ」
「この場合、それは喜んでいいのか不安になるべきか微妙だが、取り敢えず限界なんで
キスする」
「えへへ、はい…ん」
しっかり唇を繋いだまま、先程よりほんの少しだけ弱い力で、一度ぎゅっと抱きすくめる。
肺から押し出された吐息を飲み込んで、一先ず気を落ち着けた彼は、娘の身体を布団に
戻して最後の砦に取り掛かった。
背中を支えていた両手を脇へと回し、ショーツの両脇に指をかける。ゆっくり引き下ろ
そうとすると、彼女は一瞬、何か言いたげな表情で昭博を見たが、直ぐに諦めたように
横を向く。
それに気付かなかった振りをして、彼は両指に力を込めた。芙美も、今度は逆らわず、
そっと腰を上げてくれる。下手に焦らさずさっと抜いたが、クロッチとの間に架かる二本の
水橋は誤魔化しようが無かった。
「…な、なーに。言いたいことがあれば何でもどーぞ」
「別に? なんも」
少し重くなった薄布を枕の向こうに放り、そのまま荒々しく覆い被さって口を吸う。
半分は善意の誤魔化しとはいえ、もう半分は本物の興奮だ。唇を割り開いて舌を入れ、
溢れる唾液をそのまま流し込みながら、相手の中で芙美の舌を追い回す。存分に
掻き混ぜられたそれを彼女が観念して飲み下す瞬間、すっと股座に手を伸ばす。
「ふうっ……!」
唇から漏れた嬌声を飲み込んでやりながら、昭博は指先を湿らした。確かに、昔は
ここまで濡れる性質では無かった。しかし、それは単純に心も身体も未成熟だった
だけの話なのだ。芙美との間にある僅かながらの経験の差のおかげで、彼には
そのことが理解出来た。だから、フォローするのも彼の役目だ。
「んく……はぅあっ……んんっ!」
抑えた吐息をBGMに、土手をゆっくりと割り開いていく。溜まった蜜の中に指先を沈め、
その腹で前庭をゆっくりとさする。 外側の抑えを外すと、指の背に襞が覆いかぶさった。
体つき同様、そこも幾分変わったと思う。けれど、記憶に有る部分もある。愛撫への
反応は、特に懐かしい感じがする。それが分かる事へ、たまらない興奮と愛しさを覚える。
224 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:43:42.17 ID:wsSt03Vp
掬いあげた蜜を上端の敏感な実に塗りこめると、嬌声の音色が一オクターブ上がった。
少し苦しそうに震える唇を前に、一旦キスを中断する。そうして、胡乱に開かれたつぶら
な瞳を見つめながら、滾々と蜜を零す泉へ薬指を沈めていく。
けれど、その反応は芳しく無かった。
「い゛っっ、あっ……や、びっくり、しただけ」
何も聞く前から言い訳する辺り、語るに落ちると言う他ないが、やはり六年のブランクは
長かったようだ。第二関節まで沈めた指がギチギチに締め付けられる。本当に成長して
るんだろうか。伸縮が良くなったとは思えんが、などと、さっきの馬鹿話を思い出す。
芙美の表情を見つめながら、何度か指を出し入れしてみて、昭博はもう一手間必要だと
判断した。秘部を弄り始めてから、いい加減興奮も限界にきていたが、ここで無理させて
は己の六年は何だったのだと言うことになる。
いや、別に六年での成長はこんなことだけではないのだが。
少し深いところまで沈めてみて、やはり痛みの勝る反応を確かめると、昭博は一旦指を
抜いて身体を起した。疑問符を浮かべて彼を見上げる芙美に一度口づけを落としてから、
身体を下げて両脚を大きく割り開く。
「え、なにを……きゃんっ!」
三度も風呂に浸かっただけあって、彼女のそこは鼻を寄せても殆ど匂いはしなかった。
元々、体臭が薄い性質なのだ。しかし、しとどに溢れだす蜜の味は記憶の通りで、彼は
やはり可笑しく思う。
舌先を固くして外襞をめくり、溢れたものを啜りながら前庭をさする。唇で秘部全体を
圧迫しながら、敏感な核へ味蕾をそっと押し当てる。すると、先程よりもずっといい反応
が返ってきた。力んだ太股を押えつけ、ひくひくと震える入り口へ尖らせた舌を沈めると、
奥から少し味の変わった愛液が溢れだす。
「ちょっ、や、やめっ、ひゃうっ…アキッッ!まってってばぁっ」
調子に乗った昭博が音を立てて啜りあげていると、芙美が身体を起して飛びついてきた。
髪の毛に思いっきり縋りつかれて、ちょっと痛い。
「身体、一旦起こして! 私もするから」
「だから、別に無理するもんじゃないって…」
「違うの!……うー、私だけされてる方が、恥ずかしいのよ!」
珍しく真っ赤な顔で捲し立てられて、昭博も頷かざるを得なかった。このまま続けて、
さらに悲鳴を上げさせてみたいという欲望も無いではないが、度を超して拗ねられては
元も子もない。明日も一日、楽しい二人旅を楽しみたい。
彼が体を脇にどけると、芙美はその尻を抓るようにして、股間を自分の顔の上に
引っ張ってきた。舐め合うにしても、男が下でないと苦しいだろうと昭博は思ったが、
どうやら腰砕けで上になれないらしい。
「ん。そのまま、腰、落として」
「まあ、俺も気をつけるけど。入り過ぎて苦しかったら言えよ」
そう言って、慎重に膝を曲げていく。しかし、興奮でモノが反り過ぎているせいか、
はたまた昔と身長差が変わっているせいか、上手く娘の口に入らない。先走りに
濡れた傘が何度か彼女の鼻や頬を擦ってから、少し気まずげに彼は言った。
「あのー、芙美さん? もしよろしければ、ちょっと手で誘導して貰えると、御顔を汚す
ことも無いのですが」
「え、ああ、そっか。ごめん、こういうプレイなのかと思った」
「おいちょっと待て今も昔もそんな変態趣味は無いぞ」
「昔、顔射を…」
「返す言葉もございません」
即答する相方に、やはり小さく吹き出してから、芙美は彼のものに手を添えた。二三度、
ゆっくり扱くようにしてから、反りをたわめて自分の唇へ寄せていく。
先端に軽くキスした後、そっと舌押し当てる。六年ぶりのその味を、しばらく静止して
受け止めてから、少しずつ動きを大きくしていく。傘を濡らしていた先走り液が、自分の
唾液と入れ替わるまで舐めてから、彼女は思い切りよく剛直を咥えこんだ。
「んっちゅ……ぷは。頭上げる方が疲れるから。一旦、喉突くとこまで下ろして」
「…分かった」
225 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:45:43.90 ID:wsSt03Vp
ここに及んで、余計な遠慮は無粋だろう。そう腹をくくって、昭博はゆっくりと腰を
下ろしていく。芙美も唇を強くすぼめ、舌をしっかりと絡ませて、己の口を犯す男を
歓待した。
「はくぅ…んぶ…ぢゅく……ん、ん゛ぐっ!」
娘の鼻筋が、彼の茂みの中に埋まる直前、先端がきゅっと肉輪に包まれた。同時に、
くぐもった呻きが、挿し込んだ剛直越しに伝わってくる。昭博は慌てて腰を上げが、
芙美は一度大きく咽ただけで、直ぐに奉仕を再開した。
「じゅる…っぷは、ふが……あむ、んく…」
唇を締め、頬をすぼめて、柔らかい粘膜で包みこむ。舌の付け根から傘に巻き付け、
唾液を載せて裏筋だけでなく全体をねぶる。動きが単調にならないように、時折角度を
変えて亀頭で口蓋をこそぐようにし、強めの刺激でアクセントを加える。
芙美の愛撫は、舌遣い一つ一つに至るまですべて、昭博のツボを押えていた。当然と
言えば当然だ。彼女にこれを教えたのは、遠慮を知らない14の彼自身なのだから。
そして芙美は、それ以外のやり方を覚える機会など無かった。
「んぶ…れるん…んっく…うぐっぅ!」
「わり、つい」
つと、不随意に跳ねた剛直が、娘の喉奥を襲った。先よりも一回り大きなって、目測を
誤ったのだろう。そのまま、もう一度喉輪を味わいたいという本能を必死に押えつけて、
昭博は自分の愛撫を再開する。
「ひ、今ひまは、わたしの番じゃ…はくっ!」
「この格好なんだから、俺にも味わわせろよ」
69で覆い被さり、太股を抱え開いた秘部へしっかりと吸いつく。小休止を挟んだせいか、
反応は先程よりも穏やかだ。しかし、身体自体はより解れている感じがした。一方的な
受身から、自分も攻められる体勢になって、幾分リラックスしたのかも知れない。昭博も
舌を伸ばして奥の泉を探ると、入口の緊張はずっと楽になっていた。だが、このまま
一度イかせてやろうと上端の実に吸いついたとこで、彼はふと考えを改める。
手や口だけで強引にいかされるのは嫌だと、昔よく怒られた。一度思いっきり達した
後は、身体がだるくてあんまりやる気がおきないとも。女の身体は男と違って何度でも
いける、などとしたり顔で言って、「そんなことは女になってから言ってみろ」と
詰られたものだ。
それに、この体勢のまま妙な勝負に発展などしたら、多分彼の方が負ける。芙美の的確
過ぎる舌遣いに、いい加減耐えるのも限界だった。
もう一度だけ、彼女の口の深いところを味わってから、じゅぽんと音を立てて強張りを
引き抜く。突然口枷が外され、呆けたような表情をしている娘に、昭博は言った。
「もう、我慢出来ない。いれるぞ」
「え…う、うん。わたしも」
顔を赤くして、芙美はコクコクと首を振る。いざと言う時、直球に弱いのも昔からだ。
つい今しがた、陰茎を喉奥まで咥えこんでいたとは思えないほど初な反応を楽しんでから、
昭博は手早く避妊具を準備する。
と、そんな幼馴染の機微を読みとった娘は、思わぬところから反撃してきた。
「手ぶらだったのに。何時の間にゴム買ったの?」
「……いや、来る前からズボンに忍ばせてた」
「今日、朝から一日中? 袋の状態のゴムを、ポッケに入れて歩いてたの?」
「そだよ……って、笑うなっ。悪いが俺は初めからその気だったんだよ」
「いや、うんそうだね。この場合、持ってる方が優しさだと思う、ありがと……ぷくくっ」
「全く、お前はなんでそう台無しに……」苦笑しながら、昭博は訊いた。「こう言う時は、
普通女の方が、雰囲気とか欲しがるもんじゃないのか?」
潤んだ瞳のまま、楽しそうに笑って芙美は答えた。
「そんなの、いらない。いつものアキとが、一番いい」
226 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:47:50.70 ID:wsSt03Vp
なるほど、ピッチャー返しは変化の付けようがないから、例外なく直球となるわけだな。
などと、恍けたところで、己の表情を隠せる訳も無く、昭博は上ずった声で彼女の上に
圧し掛かった。
「好きだ、芙美」
「わたしも、ア……ふぁあんんっ!」
弾みをつけて、入るところまで一気に押し込んだ。足が滑ったわけでも、我慢が効かな
かったわけでもない。昭博が今一番したいことはそれであり、芙美のしたいことは、
その昭博の欲求を叶えることだと、彼自身分かっていたからだ。
気持ちよくなんて、いつでもなれる。しかし、この激情をぶつけ合える瞬間は、
今しかない。
「…っ……く、んぁあっ!」
ひさしぶりに入ったそこは、初めてかと紛う程にきつかった。結構体重をかけて押し入った
ものの、まだ三分の二ほどの場所で引っ掛かっている。十二分の準備をしたつもりで
はあったが、それでも六年のブランクは相当だったということだろう。
けれど、昭博は焦っても臆してもいなかった。一度は、彼自身が拓いた場所だ。それを、
一緒に思い出すだけのこと。むしろ、再開発する楽しみが増えたとも言える。
娘の腰を上げて、余分な挿入の角度減らす。浅いところでは小刻みに動かして、抽送に
馴らす。それから、ゆっくりとした動きで、深堀りを試す。解れてきたら、一度キスで呼吸を
合わせてから、ぐっと力強くねじ込んでいく。
「はうぅ……ふぁ、ひっ…ふう、ひゃううっ!」
三度目のトライで、昭博はずるりと奥まで入り込んだ。今や二人の股座はぴったりと
重なり、挿し込んだ傘の先には、コリコリとした覚えのない感覚がある。もしかしたら、
ここは今日になって初めて届いた部分かも知れない。成長期の遅かった彼は、実は
中学二年の冬まで芙美に身長で負けていた。
体を止めて最奥の感覚をじっと味わっていると、芙美がすっと首に手を回してくる。
「ん…ちゅる。重いか?」
「馬鹿言わないで。もっと身体寄せてよ。あむ…」
男の胸板で上体を潰されながら、芙美は少しの間、執拗に接吻をせがんだ。唇を開いて、
自分は舌を出さずに、ひたすら相手のもの吸おうとする。上と下と、両方で攻めている
気分になりながら、昭博は彼女の口内で流し込んだものを掻き回す。
「んちゅ…んっ、んく、っぷは。 っくふふ、全部、入っちゃったねぇ」
ややあって、キス願望を一段落させた芙美が、今度はくすくすと笑いながら言う。
「おう。正直根元までいけるかは不安だったぞ」
「ほんとだよ。アキの、昔より三周りくらい大きく見えたし。多分、錯覚なんだろうけど
、前より深いところまで入ってきた感じがする」
「あー、お前もか。俺も、開いてないところをへずるっと潜った感触だった」
「ふふ。じゃあ、まだ初めてのところがあったってことにしとこうか?」
「……ちっくしょ」
「やーい、照れた―…ひゃっ!? はっ、ん、やんっ」
減らず口よりも、その幸せそうな笑顔に我慢が効かず、昭博は抽送を開始した。成長した
己の型を娘の身体へ覚え直させるかのように、まずは深いところをじっくりと探る。
やはり、最奥の少し手前、ちょうど亀頭の長さ分くらい戻ったところに、締め付けの強い
場所がある。先程、新しく破ったと勘違いした場所だ。一番奥から引き戻す瞬間、ここに
雁がひっかかり最高に気持ちいい。
しかしながら、芙美の方はまだその場所で快感を得られないようだった。位置が
深すぎるし、慣れていないのもあるだろう。身体を起こして腰を引き、まずは浅瀬を
攻める事にする。
227 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:50:19.97 ID:wsSt03Vp
「え、あ………んっ、はぁっ、やぅ!」
胸板を戻す瞬間、少し寂しそうにした芙美の瞳に、チクリと心が痛む。しかし、自分の
下で喘ぐ娘の姿が見られるようになったことで、興奮は一層膨らんだ。下半身の浴衣は
すっかりはだけているものの、両腕の袖はまだ辛うじて引っ掛かっている。群青色の
布地に、解けた肩越しの黒髪が流れ、その上でうっすらと火照る肌の白さを際立たせていた。
彼が腰を振るうごとに、少し流れた膨らみの上で、二つの桜色の蕾がピクリと跳ねる。
その柔らかさに吸い寄せられるように頭を落とす。頂きを啜りながら、少し強引に腰を
ゆすると、肉襞が時折引き攣るような動きを見せた。
「乳首、感じるようになった?」
「そんな、知らなっ…あうっ!…」
嘘をついているようにも見えないから、無自覚な反応なのかも知れない。ただ、
マイナスでないのは明らかだから、昭博はこれ幸いと豊かな双乳を吸いつくす。
「ふあ……また歯、当たって」
「もう歯型なんかつけないから心配すんな」
「や……ほんとは、痕つけたいっ…くせに」
「……いや、いやいや。明日も外湯入るし、お前だって女湯で困るだろ」
「どこでも、好きに……すればっ…」
「……下乳の、隠れるとこな」
左胸を持ち上げ、下の麓に強く吸いつきながら、これはいかんなぁと昭博は思う。
芙美のやつ、「許すだけで、アキの望みを何でも叶えてあげられること」にすっかり
夢中なってやがる。自分も彼女に似たような願望を抱くから分かるが、ここはどちらかが
自制しないと際限が無くなる。
頬と、舌と、唇とで存分に乳房を堪能してから、昭博は再び上体を起こした。身体を
密着させての小刻みな攻めで、芙美の身体も大分上気してきている。とは言え、それは
繋がった自分も同じこと。いい加減、一度終わりにしないと、暴発しかねない。
「脚、あげて」
「はぅ、へ?……やあんっ」
脱力した腰を掴んで、娘の身体を横向きにする。そうして、上側に来た左脚を掴み、
彼の胸に抱くようにして、側位の格好で繋がり直した。先程と当たる場所が変わって
新たな刺激になる上、この体勢は局部が露わになって弄りやすい。結合部から溢れた
蜜を敏感な実に塗りこめると、娘の嬌声が一オクターブ上がった。
「そんなしたら…はっ…ぁ…もたないっ」
「俺ももたん。一緒にいこうぜ」
「やぁっ…アキ、ぜったい一回じゃおわらなっ……んあっ! 私は、最後だけでいいからぁっ」
「やだね」
体奥を突き上げ、半ば脅迫のように、昭博は強請る。
「俺が一緒にいきたいの。今日は満足するまで、お前につき合ってもらうから。いいな?」
「…っ……分かった、がんばる」
我が儘を押し切られて、困ったような、それでいて嬉しそうな彼女にキスを落とし、
昭博は抽送を再開した。急所を刺激するたびに、彼を包み込む肉襞がビクンと跳ねる。
もう奥を強めに掻き回しても違和感は無い。ぐちょぐちょと遠慮のない水音を上げ、長い
ストロークで攻めているうちに、昭博の腰のつけ根もじんわりと熱を持ってくる。
「あっ…く、はっ…や…ふうっ」
芙美の呼吸が浅くなり、中の震えも不規則になる。体位を変えたのは正解だった。先程
までは彼の方が先走っていたが、これで一緒にいけそうだ。しかし、終わらせるにはやや
姿勢が窮屈だった。昭博は一旦を腰を外して、彼女の身体を仰向けに戻す。
繋がり直す刹那、組み敷いた娘と視線が絡まる。瞬目の間に、互いの状態はよくよく
伝わる。芙美は一つ深呼吸してから、瞳とこぶしをギュッと閉じた。
その両方に口づけして、昭博は最後に向けた抽送を始めた。浅瀬から最奥まで一気に
突き込む。反動で上へ逃げる肩を抱え込む。目の前で激しく弾む膨らみに顔を押し付け、
鼻先をその頂きへ沈ませる。
228 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:52:23.60 ID:wsSt03Vp
上体を落とすと、芙美も両手を背中へと回してきた。彼の肩をぎゅっと掴み、けれど
爪を立てたりはしない。「無意識にひっかいたりなんて、逆に難しいと思うけどなぁ」
そんな話も、むかし、した。
「やぁっ…いっっ……あんっ……はぁうっ!」
昭博が突き込むたびに、嬌声が途切れる。目尻に透明な玉が一瞬光り、直ぐに筋に
なって流れていく。苦しいのか、気持ちいいのか、恐らく芙美本人も分かってはいない。
けれど、喜んでいる事だけは、昭博にも分かった。咥えこんだ中が不規則な痙攣を始めて、
根元まで突き込んだ彼のものに縋りつく。それを振り切るように、入口近くまで腰を引き、
再び最奥まで蹂躙する。
「あっ、あんっっ…ふあっ……わ、わたしっ、もう」
「ああ、分かってるっ」
入口付近と、最奥から少し戻ったところが、同時にぎゅっと締めつける。奥側に雁のエラ
をひっかけるようにして、深めに前後するのが、たまらなく気持ちいい。絶対に持たないと
分かっていたから、敢えて避けていたその場所を、最後とばかりに存分に味わう。
モノ全体にジーンとしびれるような快感が走り、けれど彼を包む肉襞の蠢きだけは
はっきりと伝わった。
「芙美っ」
「だめっっ、あきっ……やっ、ふああぁぁん!」
最後にびくんと、大きく跳ねる幼馴染の身体を押えつけ、昭博は自分の存分に欲望を
吐き出した。絶頂に震える秘肉の中で、五度、六度と噴き上げ続ける。結局、普段の
倍近い長い射精を終えて、昭博はこんなのも六年じゃないかと苦笑した。
*
午後11時30分。なぜか押し入れに用意してあった予備の浴衣に袖を通し、昭博と
芙美は内風呂へ入ろうと再びロビーへ降りて来た。先程よりも一段と暗くなっており、常夜灯
の他には殆ど灯りがない。昭博は本当に深夜でも入れるのか心配になったものの、脱衣所
まで来ると掛け流しの湯の音が聞こえてきてホッとする。
「人がいない時は電気も消すんだな。オフシーズンだから早仕舞かとビビったぜ」
「時間は女将さんに確認したんだから大丈夫だってば」
「しかしこんなに暗いと、途中で諦めて帰る人とかいるんじゃないか?」
「そんな気分屋はアキくらいよ」
入口に掛けられた予約表は、翌朝まで白紙だった。そこへ1時間分の名前を書き入れ、
「貸切」の札と一緒に外へ掛ける。脱衣所の扉を締めて鍵をかけ終え、思わずふっと息を
吐くと、芙美の溜息と被ってしまった。お互い、苦笑いでやれやれと首を振る。
「それに、明かりで遠くから人がいるかいないか分かった方が便利じゃない? 鉢合わせ
したら気まずいし」
「ま、俺らはな。でも湯治客って普通、爺さん婆さんばかりだろ」
「じい様ばあ様方は、ひと気を避けてこんな時間に入らないわよ」
「ごもっとも」
ひとあたり、それらしいスイッチを押して回って、昭博は明かりをつけた。脱衣所は
それなりの明るさになったものの、風呂の方はかなり薄暗い。半露天で、風景を
楽しませる造りだから、当然といえば当然だ。この場合、風呂の中の景色を
期待している彼の方が異端ではある
「まあ、目が慣れればいけなくはないか」
「なーに? お化け嫌いがまだ克服できないの?」
「おっしゃるとおり。怖くてたまんないから、風呂ん中ではずっとおっぱい触ってていい?」
「……そっちの方か。ま、いいけどさ」
はぁ、と再び吐息をついて、芙美は髪を纏め始めた。しかしその言い方が、普段の
ドライなものに戻っているようで、どこか柔らかい。相手が背を向けているのをいいことに、
昭博は口元の笑みを隠しもせず、彼女の脱衣をじっと見つめる。
「やっぱり、下着無しの浴衣の脱ぎ着って、いいもんだなぁ」
「…それはちょっとフェチすぎませんか本間さん。つか、アキもさっさと脱いでってば」
「はいはいすみません。これも二回目ですね」
229 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:54:57.56 ID:wsSt03Vp
洗い場に降りると、昭博は少し迷ってから石鹸を取った。本日四度目の入浴だ。掛け湯
で済ませても良かったのが、後ろめたい理由が無いでもない。要所だけ泡立ててさっと
流し、いそいそ湯船へと身を沈める。しかし、芙美の方は何故かシャンプーのボトルと
にらめっこしていた。
「何してんだ?」
「いや、成分表示の確認を」
「お前な。使いもしないのに何やってんだ」
「いやいや、使うかもしれないよ? これから不慮の事故で髪汚すかもしれないし」
彼が言葉に詰まったのを確認して、意地悪そうに口角を吊り上げてから、彼女もさっと
湯を浴びた。
「ま、どっちにしても後でいっか。隣、入っていい?」
「タオル取ったらな」
身体に当てていた手ぬぐいが外され、白い裸身が淡い裸電球の灯りに浮かび上がる。
つい先ほどまで、散々明るい蛍光灯の下で見ていたわけだが、湯けむり越しに臨む女体は、
また別の色気が有るように思う。
そんな昭博の男心を知ってか知らずか、一呼吸、彼の視線が往復するのを待ってから、
芙美は湯の中に身体を沈めた。それから、少し恥ずかしそうに目を伏せて、彼の肩へと
頭を寄せる。
「まったく。彼氏が好き者だと苦労するわ」
「彼女が理解者で有り難いばかりだ。ほら、こっちこい」
「うん」
岩作りの風呂は、三分の一程が庭──というかベランダ──に突きだしたような形に
なっている。景色は迫力に些か欠けるものの、目隠しに工夫を凝らして城崎の街並みが
伺えるようになっており、露天の雰囲気作りには成功していると言えた。
「お湯も、外側だとすこしぬるいね」
「外見て長湯しやすいようにかな。だとしたら、随分ときめ細かい配慮だよなー」
天井が空いた部分は、丁度肩から上が出るくらいの深さだった。昭博はそこに身を沈め
ると、自分の膝の上に芙美を座らせて抱え込む。
「ああ゛〜……、最高にいい湯だわ」
浮力で余計に軽くなった娘をぎゅっと抱きしめながら、昭博は天を仰いで言った。夕食
時よりも雲が晴れたのか、少ないながらもうっすらと星が見える。
「なんだか、全ミッション完了って感じ?」
「そ。お前を誘えた時点でミニマムサクセス。告白成功でフルサクセス。こうして一緒の
風呂に浸かれて、エクストラミッション達成ってわけだ」
「わたしゃ小惑星か何かか?」
「おれにとっちゃ惑い星そのものだったから間違いじゃない」
「なんだかな〜。褒められてるのかそうでないのか分かんないや」
軽口を叩きつつも、芙美も力を抜いて背中を預ける。身体を許す、という表現がぴったり
だった。それは、昭博の両手が彼女の前面を撫で始めても変わらない。彼女の無言の
許しを得て、昭博は湯に浮かぶ膨らみをそっと下から包みこんで堪能した。こうしてみると
、布団の上で揉んだ時とは、また違ったボリューム感がある。温かい湯に緩んで、少し
柔らかくなった頂きをそっと押しこむと、芙美はくすぐったそうに身じろぎした。
「予約表、1時間じゃ短かったかな。どうせ誰もいないんだし」
「いくらぬるくたって、そんなに連続で浸かってたらさすがに湯だるよ」
「しかしだなー。こんなにのんびり、芙美を裸で抱っこ出来る機会は、次はいつになるやら」
「うおーい。高校の思い出の城崎はどこ行った」
「じゃあ訂正。修学旅行の思い出の城崎で、芙美を裸で抱っこ出来る機会はいつになるやら」
「あのねぇ。……まあ、後者については、これからいくらでも機会有るでしょ」
「お、今のは言質とったぞ」
「はいはい。そんなの取らなくたってするくせに」
手遊びにちゃぷちゃぷとお湯を掬いつつ、芙美続けた。
支援
231 :
旅行計画:2011/12/08(木) 23:57:43.21 ID:wsSt03Vp
「でも、ふと思ったんだけど」
「ん?」
「例え今回、アキがヘタレて告白しなかったとしても、やっぱり流れで一緒にお風呂浸かって、
部屋に戻ったら最後までしちゃったんじゃないかと思うのよね」
「そんな外道では無い、と言いたいが、過去が後ろ暗すぎるので何とも言えん」
「いや、アキが押し倒すとかそう言う話じゃなくて。どうやったって、旅館に九時前には
帰ってくるでしょ。そのあと携帯も何も無く、テレビも地方局とNHKで、後は貸し切りの
風呂だけってなったらさ。多分、どっちかがノリで一緒に入ろうとか言い出して、引っ込み
つかずに入るんじゃないかな」
「……かもな」
「でも、例えそうなっても、私とアキなら、大した問題にはならないんだよね。翌朝は
ちょっと気まずくても、帰りの電車では元通り。以後は、エッチまでは許容範囲の
幼馴染ってことになって、それはそれで、他人には真似できない関係で、
私は満足するんだと思う。けど」
「けど?」
「今は、そうならなくて、よかったと思う」
「………」
「ちゃんと、好きって言ってもらえて、嬉しかった」
芙美が湯を掬っていた両手を、ぽちゃんと落とす。その波紋が収まる頃になって、
昭博は訊いた。
「なあ、芙美」
「なあに」
「悪いんだが、また思いっきり抱きしめていいか?」
「いいよ」小さく笑って、身体の向きを変えながら、彼女は答えた。「でも、後ろからは
やだ。前向きで抱っこがいい」
対面座位の形になるやいなや、昭博は齧り付くように唇を奪った。歯と歯がぶつかるの
もいとわないような、がむしゃらな接吻。十四のときだって、こんな無様な真似はしなかった。
けれど、芙美は嬉々としてそれに応じた。
宣言とは違って、彼は息がつけないほど腕に力を入れたりはしなかった。それをしたのは、
芙美の方だった。
「んんっ……ぢゅ……ぷはっ、はあ、はあ」
「はあ……ふう。まったく、なんてことしてくれるんだ。お前は。……ん」
「っ、えー。私、何にもしてないじゃない」
「してんだよ。こんなとこで、収まり付かなくしてどうすんだよ」
「これは胸触ってたころから、随分大きくしてたとおもうけど。でもまあ、いずれにせよ
私のせいだから? 責任は取ります……んっ」
そう言って、芙美は口づけを続けながらも、自分の身体を柔らかい部分を押しつけ
始める。ついで、その手が彼の剛直にゆっくりとしごき始めたところで、昭博はふと
正気に戻った。
「いや、待て、さすがに湯を汚すのは気が咎めるというかゴムが無いというか」
「んー? 私、こんなこともあろうかと思って、アキのポッケから一個抜いて来たよ?」
「え、は? いつのまに、てか、何処にだよ!?」
「えーと、今は取り敢えず、シャンプーボトルの裏に」
「………ソンナトコロマデ仕込みスンナ」
「でも、岩造りだから滑ったら怪我しそうで怖いね。温泉って雑菌多いから、粘膜に良く
ないって聞くし。口でしていい?」
「あのな……つか、お前俺の反応分かってて言ってるだろ」
「あはは、ごめん。でも、言った以上は有言実行するよ。どっちにする?」
「部屋まで我慢する」
「浴衣におっきなテント立てて、廊下を闊歩するわけね。隣を歩く彼女としては肩見狭いわー」
腕の中で、膝の上で、肌を晒したままニコニコと誘う二十歳の娘。その様は有り体に
言って、辛抱堪らなかった。
232 :
旅行計画:2011/12/09(金) 00:01:16.22 ID:HgLcTQG+
固くなった幹の部分がわざと当たるように抱き直す。何度か擦り付けるようにして、
娘に微かな嬌声を上げさせてから、昭博は耳元で囁いた。
「中出し出来ない分、一度飲ませたい。その後、すぐ部屋に戻って抱き直す。いいな?」
「あはは、ようやく正直になったか。んっ……もちろん、何でも付き合うよ」
そう言って、昭博の身体を浅瀬へ押し上げると、芙美は自分の胸を彼の股座へと
押し付け始める。
「お、おい」
「ねえ、正直に答えてみ? お風呂入った時から、これやりたいって思ってたでしょ。
昔は、挟めなかったもんね」
全くもって、敵わない。心の中で呟き、それから声にも出して、昭博は両手を上に上げた。
* * *
翌朝、十時五十分。チェックアウトギリギリの時間になって、芙美たちはようやく
ロビーへと降りて来た。
昨晩の計画では、九時過ぎには出発して残りの外湯を回るつもりだったのだ。しかし今朝、
仲居のノックを昭博の布団の中で聞いた彼女は、飛び起きようとして彼の腹の上に前転した。
「まさか、翌日まで腰砕けになるとは……本当に寄る年波には勝てないわぁ〜」
「悪かった……つーか、年齢ネタは見境なく敵を作るからやめろ」
「そう? まあでも、私はもう盾になってくれる立派な彼氏さんがいるしなー」
「恐らく、一番の敵は未来のお前だと思うぞ」
「うぐ……確かに、後々思い出して虚しくなりそうだからやめる」
仲居さんに布団を上げてもらう間、窓際に椅子に座って必死に冴えない眺望を堪能した後、
芙美は昭博の手を借りてもう一度内風呂に浸かった。もちろん、今度は二人とも至って
真面目に入浴した。湯の中で腰や太股をよくよく解し、簡単なストレッチまでして、
ようやく言うことを聞くようになった。
しかしながら、お腹の奥には依然として違和感がある。それが、初めての時の事を彷彿
とさせて、どこかくすぐったい。
ともあれ、宿を追い出される前には、こうして普通に歩けるようにはなっていた。
実は途中で、このことをタテに一日中彼の腕に縋り付いてやろうと、企んだりもした。
しかし、思い付き五秒後に柄じゃないかと頭を振り、七秒後にはそんな発想をした自分の
豹変ぶりに赤面した。隣の昭博は、さぞかし愉快な百面相を拝めたことだろう。
「じゃあ、チェックアウトしてくるな」
「うん。私は土産物見てるから」
特産の麦わら細工などを物色する途中、芙美はふと視線を上げて、昨日の女将の姿を
探した。レジに立っている女性は知らない人だった。ホッとする半面、どこか物足りない
ものも感じた自分に、彼女は顔を伏せて苦笑する。
自分の分に加えて、昭博の家の分も買い込み、芙美はさっさと会計を済ませた。ここで、
宿代の負担を申し出るほど野暮ではないが、今彼の財政は相当に逼迫しているはずだ。
細かいものでも、これ以上の出費をさせるのは忍びない。
温泉協会のロゴの入ったビニール袋を二つ下げて待っていると、間もなく昭博もこちら
にやってきた。「荷物持ち、ご苦労さん」と両方の袋を押し付け、少し強引に玄関の方へ
押していく。最初、何か言おうとした彼も、芙美の顔を見た後は大人しく従った。
こういうところ、むやみやたらに通じてしまうのは、便利でもあり窮屈でもある。
下駄箱で靴を出してもらう間、仲居さんに予想通り、「お荷物に、忘れ物はございま
せんか」と声をかけられた。今度は昭博も心構えが出来ていたらしく、「ええ、これだけです」
と芙美の方を指さしたりしていた。彼女の年齢ネタへの意趣返しのつもりらしいが、
そういうのをやるのに自分で照れが入ってるようでは駄目だと、芙美は思う。
「靴、平気か? ちょっと踵有るみたいだけど」
「下駄よりはましよ。普段履きで慣れてるから大丈夫」
「うし、じゃあ行くか」
右手を引いて貰って、立ち上がる。それから、その手で玄関の扉を開けようとして──
233 :
旅行計画:2011/12/09(金) 00:03:20.77 ID:HgLcTQG+
「いってらっしゃいませ。またのお越しを、お待ちしております」
つと、後ろから女将の声がした。いつからそこにいたのか、ちょうど出発時だから他の
客の相手をしていたのかもしれない。振り返ると、深々と下げられた頭だけが見えた。
プロならば、芙美たちが通りにでて視界から消えるまで、頭を上げる事は無いだろう。
だから、というわけでもないのだが。
「うん。行こう、アキ」
離しかけた右手を繋ぎ直し、しっかり互いの五指を交差させて、芙美は昭博が扉を
開けるのを待った。
「さてと、本日のスケジュールは?」
「昨日の計画は朝一でポシャったしなぁ。よし、プランB。出たとこ勝負で」
「結局それか。まあ、電車の時間は私が見てるから、取り敢えず好きになさい」
「任せろ。そうだな、芙美の足に不安があるから、足湯にしよう」
「またゴロだけで選んだなー。膝から下あっためても意味無いと思うけど……でも、
足湯ね。確かに盲点だった。行ってみようっ」
陽は既に高く、辺りはすっかり晩夏の熱気に包まれている。重ねた掌から噴き出す汗を
感じつつ、芙美は昭博の半歩後ろで、そぞろに足を進めていった。
234 :
27:2011/12/09(金) 00:11:51.05 ID:HgLcTQG+
以上です。
あまりの季節感の無さに我ながらびっくり。書き始めた当初は暑かったんです。
前作で書けなかった「他愛ない話をしながらダラダラH」をやろうとしたら、
ただグダグダと長くなってしまった…
しかし、せっかく18禁を書くのだったら、エロの中にストーリを絡めてこそと思うのです。
あと湯に浮かぶおっぱいは正義。
>>234 乙!
良くこういうのが書けますね。
参りました。
今回だけではなく、またあなたの作品がみたいですね!
>>234 乙!
にやにやしながら更新押してました。
やっぱり幼馴染みっていいね。
なんか新着あるとおもったら
超乙てした
>>234 GJ!
最高に素晴らしい!
夫婦みたいでほのぼのしちゃう。
だらだらHの何が悪い!むしろGJ大好物だこんちくしょう!
うぉつ
GJ!!
また読めて嬉しいよ
最高。
こういうの書けるようになりたいわ。
素晴らしい!
幼馴染の男に他の彼女ができて苦しむ感じのSSないですか?
誤解ならなお良い
短いのいきます
「太郎ちゃん!太郎ちゃん!」
千夜(ちや)は俺の部屋に勢いよく入ってくると、ぽすりとベッドにダイブして俺の上に寝そべりながら言った
「明日の飛行機爆発した!」
このドヤ顔である
俺は軽く二、三ほど頭を撫でてやり、いくらちっこい千夜でもいい加減重いので降りてもらう
「どうしようね!?太郎ちゃん明日修学旅行いけないね!?」
「ふうん、そうだな」
起きてしまったし、取りあえず明日の荷物の再確認でもするか
下着類はOK、寝巻きはジャージあるしいっか
「太郎ちゃん!もう修学旅行なしだって!!学校お休みだって!!」
「そいつはすげえや」
カメラは・・・現地でインスタント買えばいいかな
「太郎ちゃん、太郎ちゃん!!」
「千ぃー夜」
尚もきゃいきゃい騒ぐ千夜の肩に手を置き、一言
「もう十時だぞ、いつもならもうおねむだろ?おばさんも心配するから寝なさい。あと変な嘘もつかない」
「う、うう〜だってぇ・・・・」
千夜は情けない声を出して俺を見た
まあるい瞳の端っこに、うるうると涙が溜まっていく
「太郎ちゃんが・・・・遠くに・・・行っちゃうんだもん」
「あのなあ、たかだか四日間だぞ?」
「四日長いもん・・・」
「そんなんでお前将来なにになるつもりなんだよ・・・」
「太郎ちゃんのお嫁さんだもん・・・」
「・・・あーもう、お土産、ぬいぐるみさん買ってきてやるから・・・いい子で待ってろ。な?」
あやすように言って、頭を撫でる
千夜はぎゅうっと俺のお腹にしがみついて、放そうとしない
ひとつ年下の千夜は林間学校や修学旅行というイベントがある度にこうやってぐずるのでもう慣れてしまっている
昔から千夜は俺が近くに居ないとすぐ泣く子だった
現在はそれ程酷くないが、今でもやっぱりお子様で、手の掛かる妹のようだ
そこがまた可愛くて、放って置けないわけだが
「・・・しかたねえな」
俺は最終手段を使うことにした
携帯を取り出し、コールする
「あ、おばさん・・・千夜、今日俺んちに泊めるんで。はい・・・すいません、はい・・・ありがとうございます」
電話を切り、千夜を引っぺがして布団に寝かせる
「よし、今日は俺と寝るぞ。おやすみ」
照れくさいのでそれだけ言って電気を消す
むぎゅうと俺にがっしり抱きついて千夜が顔を上げる
目が赤いが、もう泣いていないようだった
「たろうちゃんのにおいがする、えへへ」
鼻声でそう言うと頬を染めて笑う千夜
不覚にもどきりとして、そっぽを向いてしまう
「ん・・・」
少し艶かしい幼馴染の息遣いを感じながら、俺はふと思った
そうか・・・千夜ももう子供じゃないんだよな
なにか、決定的なものが変わったことを感じながら、俺はもう少しだけこの『兄妹』のような関係を続けたいと、そう思っていた
おしまいです、失礼しました
,ィ⊃ , -- 、
,r─-、 ,. ' / ,/ }
{ ヽ / ∠ 、___/ |
ヽ. V-─- 、 , ',_ヽ / ,'
ヽ ヾ、 ',ニ、 ヽ_/ rュ、 ゙、 /
\ l トこ,! {`-'} Y
ヽj 'ー'' ⊆) '⌒` !
l ヘ‐--‐ケ }
ヽ. ゙<‐y′ /
__,.ゝ、_ 〜 ___,ノ ,-、
/  ̄ ¨丶ヾ`ーs一'´__ ¨ ´ ̄`ヽ、
/ ` 〃 '´ ヽ
,′ / l! ;
| j |D|! !
! / |S|!. 、/ |
l ! :2:. └ ' .:c:: ! |
l//" " } !
,ィー─--- 、//l ,′ !
〃 ,〉ー‐ァ'´/ l | イ .'
. /Y/ 〃勺 l | l i
{__,{ヽ/ ,/ │ ! | |
. 弋j/ / l:│ | |
. / }│ ! |
/ / :| ヘ !
てすと
こんにちわこんばんわおはようございます
いつぞやの続きを書いてきたので投下します
エロあり、グロその他特殊性癖は多分大丈夫(なし)だと思われます
ではどうぞ
4限目終了を知らせるチャイムが鳴ると、先生は大袈裟に溜息を吐いた。
「では今日はここまで。次回、頑張って進むから予習と言わずとも教科書には一通り目を通しておくように」
どうも予定通りに進まなかったようだ。私は数学の教科書とノートをひとまとめにして机に押し込み、鞄から
ケータイを取り出し電源を入れる。授業中に万が一振動させようものなら即没収の憂き目に遭ってしまうので、
間違いを起こしたくないのであればこれが一番確実なのだ。
「悠希、ケータイ早過ぎでしょ」
弁当の包みを持ったオカちゃんが、チャイムが鳴ると同時に昼練に駆けだしていった隣の子の席へ収まる。
「やって、ほら、メールとか見なアカンし」
「彼氏ってそんなにメールとかマメに返す人なの?」
私は言葉に詰まった。言われてみれば拓也はそういうことをするキャラではない。
「まあ、毎日毎日よく飽きずにノロけられるもんだな、とは思うけどね」
「別にノロけたりなんかしてへんやん。ホンマのことを言うてるだけで」
両方のほっぺたをつかまれてぐにーっとされる。
「いひゃい、いひゃい」
「それのどこがノロけじゃないのよ」
「ひゃ、ひゃって」
「それにしてもよく伸びるわね――っと」
メールが作成途中だった私の携帯に着信がある。
「ほら、旦那からじゃないの?」
「旦那言いな。……旦那からや」
お前が言うのか、という綺麗な裏手ツッコミをこれまた華麗にかわしつつ、私は携帯の画面に集中する。
<今日は、前から言ってたけど大学の飲み会に誘われてるので帰りが遅くなります。忘れてたら悪いと思ったの
で、念の為>
忘れるものか。3年生から所属するゼミが決まって、その先輩ゼミ生達から飲み会の誘いを受けている、と何度
も聞いていたのだから。
<覚えてるよ。何時頃に帰ってくるの?>
<さあ? ただ遅くなるのは間違いないよ。だから部屋に上がり込んで待つのは無しね>
私のしようとしていることはすっかりお見通しだ。内心歯噛みしながら続きのやりとりをする。
<分かった。でも帰ってきたら教えてね>
<もしかしたら今日は帰ってこないよ? 二次会三次会も向こうでやるし、電車がなくなったら下宿してる知り
合いに泊めてもらうつもりだから>
拓也は家から1時間半もかけて大学に通っている。夜10時に向こうを発車する電車に乗っていないと、この辺
りまで戻ってこれないらしい。確かに、飲み会なら終電には乗れないかもしれない。
<ならそれならそれでいいから連絡して。メールでかまわないから>
<分かった>
一通りのやりとりを終えると思わず溜息が漏れた。オカちゃんがそれを見計らって私の机の上に自分の弁当の
包みを広げる。
「一生懸命だね」
「当たり前やん。彼女やで、ウチ」
「……あのさ、前から聞こうか迷ってたんだけど」
「何ぃな。言うてや」
「進展ってなんかしてるの? やたら焦ってるっていうか、がっついてない?」
痛いところを突かれた。自然と涙が溢れてくる。
「え? えっ、ちょっ……しっかりして!?」
突如泣きだした私に、オカちゃんが動揺して大声を挙げるものだから教室に残っていたみんなの視線が私に集
まる。なんだか自分が情けなくなってきて、後から後から涙が溢れてくる。
「ち、が……っ、ウチ、う、かって……に、な、みだ、うあー……――」
途中で我慢を諦めて、止められないならいっそのこと全部出してしまえ、と衝動を全開にすると自然と声も出
てきた。周囲をますます驚かせたのは言うまでもない。
放課後、未だに少し渋い顔をしているオカちゃんに、ところで相談なんだけど、と身を乗り出す。
「……お昼ご飯を食べられなかったからお腹空いてるとか?」
「それはウチやなくてオカちゃんやろ?」
「嫌みで言ってるんだけど」
「いややなあ、分かってるってそれくらい」
満面の笑みで返すとまたほっぺたをむにーっとされた。
「らから、いひゃいんひゃって」
「アンタが急に号泣するもんだから私が泣かせたみたいな誤解が広まっちゃって、先生に呼び出されてたんだ
けど! ……っと」
「いひゃっ! 誤解は解けたからええやんか」
「よくない。……で、相談ってまた彼氏さんのこと?」
不機嫌に振る舞っていてもこちらの言い分を覚えていてくれるオカちゃんはいい人だと思う。
「うん。……あのな、全然進展がないねん」
「進展って、告白して付き合い始めて3ヶ月くらいだっけ?」
「そんなもんやな。で、付き合うた日ぃに、その……」
私が言い淀むとオカちゃんはすかさず、言わなくてもなんとなく分かるから、と先を促す。
「……その、それ以来な?」
「……あー、それ以来ね、うん」
「めっちゃ不安になるやん、そういうん。好きなわけやないけど、ほら」
「私はそういう経験ないけど、気持ちは分かる」
神妙な顔をしてお互いの顔を見つめ合う。最初にエッチしてからというもの、私と拓也はお互いを変に意識し
てしまった。返って疎遠になってしまった感さえある。私としてはもっと仲良くなりたいというだけだったの
に。
「メールとか電話とか、やりとりしてるんでしょ?」
「家が道路を挟んだ向かいにあるんやで? 前進しとるようやけど、実際は後退しとるやんか」
「言われてみれば確かに」
「あーあ、ゲームやってアホな話して、それでよかったんやけどなー」
溜息と一緒に吐き出すと、オカちゃんは不思議そうに私の顔を覗き込む。
「それなら、なんで付き合いたいって言い始めたの?」
「好きやからに決まってるやん」
「でも物心ついた頃にはもう好きだったんでしょ? 何で今更彼氏彼女になりたいなんて思ったの?」
「えーっと……ほら、好きやったら付き合いたいっていうのが自然っていうか、なんかそういうアレやから」
曖昧な返事をしながら、自分はこの質問への確実な返答が出来ないことに気がつく。私はどうして拓也と付き
合いたいと思ったのだろう? 遊んだり、バカみたいな話をして楽しいだけなら別に彼氏彼女になる必要なんて
ないのだ。彼氏彼女になる前からそんなことはしていたのだから。
「……なんかそういうアレ、ねえ?」
オカちゃんもどうも納得がいかない、という顔をしていた。
* * * * * *
手元の紙コップにあった、何杯目かのチューハイを飲み干すと辺りに人はいなくなった。もうみんな随分飲ん
で眠くなってしまったらしい。
地元出身のゼミ生から提供されたバレーボールコートほどの宴会会場を見渡すと、まだ活動を続けている集落
がいくつかあった。1人で缶チューハイを呷っていても仕方がないので隣の集落へ出かけることにした。時間は
もう夜明け前といった時間だったが、宴会慣れしているらしいゼミの先輩方はまだ部屋のあちらこちらで会話を
楽しんでいた。
「……で、どうしようかな」
「そりゃ、身体を伸ばしてぐっすり眠るのが一番いいよ。――どうしたの?」
「いえ、周りがみんな潰れちゃって」
さっきまで自分が陣取っていた辺りへ視線を向ける。4人ほどが潰れて眠りこけていた。それを言い訳に女性2
人で話をしているところにお邪魔する。
「おお、寂しいならおいでおいで。まずは1杯いこうか」
「いただきます」
手の中の紙コップに温んで泡ばかりのビールが注がれる。それを一気に飲み干すと、ビールを注いでくれたの
とは違う先輩がこちらを値踏みするようにじろじろ見ていた。肩より長い黒髪でかなりの小柄、美人というより
可愛い感じの人だ。
「何か顔についてますか?」
「ううん。……ただこんな時間なのに元気だなって」
「ごめんごめん、この子男嫌いでさー」
俺と長髪の先輩が同時に発言者へ振り向く。茶髪で色々軽そうな人だ。
「ちょっと! ……ごめんなさい」
「別に本当のことじゃんよ。それにもしこの子がアンタに言い寄ってきたら可哀想でしょ?」
俺に悪い、とたしなめた長髪先輩に対してあっけらかんとして茶髪先輩が返す。
「あ、それはねーッス。俺、一応彼女いますんで」
「あっそうなんだ。どんな子?」
「どうして知り合ったの?」
「親戚? 歳の差は?」
女子の恋愛話に対する食いつき具合はヤバい。しかも相当酒と眠気が回って、その上時計の短針まで1/3ほど
回っているのだから、両先輩の目の色が変わるのは当然だった。
根掘り葉掘り訊かれて洗いざらい白状させられる。どうして付き合うようになったのか、の辺りを特に詳しく
聞き返されてうんざりだ。
「――というわけでして」
「つまり年下の従姉妹の、何も知らない純真でいたいけな子をカドワかしてテゴメにしちゃったと」
「手籠めって……そこまでは言ってないッスよ」
「へぇ〜?」
にやにやと茶髪先輩がこちらを注視してくる。ここで視線を逸らしたらゼミに参加してからもそういうネタで
弄られるに違いない。負けじと見返す。
「厳密には犯罪だよ?」
「だからシてないですって」
「でもシたんでしょ?」
敵は茶髪先輩一人だと思っていたら、横合いから長髪先輩まで突っ込んできた。思わずうろたえてしまう。
「うっ、ぐ……まあ、それはその」
「ほらー」
茶髪先輩が腹を抱えて笑っている。それを横目に長髪先輩が手元の紙コップを空にした。すかさず未開封のチ
ューハイを振って見せる。
「私はいいよ。そんなの弱過ぎるから」
どこから取り出したのか、ウイスキーの瓶を手元に傾ける。中身はもう殆ど空だった。まさかとは思うが、1
人でそこまで飲んでしまったのだろうか。俺が若干引いているのが伝わったのか、長髪先輩はそっぽを向いてし
まう。
「あーあ、もう殆ど飲み干してるじゃない。アンタ、肝臓何で出来てるのよ。疲れが抜けないってのもあんまり
ガバガバ飲むからじゃないの?」
「身体は身体、肝臓は肝臓。ちゃんと考えて飲んでます。……これは自分で持ってきたし、飲みを強要してるわ
けじゃないし、誰にも迷惑はかけてないんだからいいじゃない」
「顔色一つ変えずにそんなのをぐいぐい飲んでる姿を見せられる立場になってモノを言いなさいよ。見てるこっ
ちが気持ち悪くなるじゃない。ねぇ?」
「いや、俺はどっちかというと……」
俺のウイスキーへ向けた視線を読みとった茶髪先輩が微妙な顔をする。
「キミ、顔真っ赤だよ?」
「俺はすぐに赤くなってしまうほうなんで。見た目ほど酔ってないッス」
「ならいいけどさ……この子、ワクだからね? 間違ってもこの子の飲みに付き合おうなんて考えちゃダメだか
らね? あんまり飲み過ぎて彼氏にまで見放されてるんだから」
長髪先輩は男嫌いという話だったが、彼氏はしっかりいるらしい。かなり可愛い容姿をしているから周囲の男
が放っておかなかったのだろう。
「失礼なことを言わないで。見放されたりしてない……多分」
「飲み会に2本もウイスキー持ち込んでる娘が見放されないワケないじゃない。控えないと彼氏に嫌われちゃう
よ?」
「あの人の前では控えてるもん」
言われて長髪先輩がこれまたどこからかもう1本取り出した。まさか予備があったとは。
「だからこういうところで思いっきり飲むの。――じゃあ、一緒に飲みましょう?」
* * * * * *
目が覚めると外は夕暮れの気配を見せていた。両手で顔を拭うようにして頭をシャキっとさせる。
そうだ、確か9時過ぎに家に辿り着いて、それでシャワーを浴びようと思いつつも目に入ったベッドに吸い込
まれてしまったのだ。
昨夜は結局、夜が明けるまで飲みに付き合わされた。ほとんど2人で1本空けるなんて無茶にも程があったが、
長髪先輩(結局名前は訊き忘れた)のピッチはいつまで経っても変わらず、結局瓶に1/3を残してこっちがギブ
アップさせられてしまった。半ば意識が薄れてきた頃に長髪先輩が言っていた『チューハイなんてどれだけ飲ん
でもただのチェイサー』という発言だけは忘れたくても忘れられないだろう。
話は飛ぶが、高校時代、部活の遠征帰りに疲労困憊で辿り着いた玄関で倒れたまま眠ってしまったことがあっ
た。目が覚めたのは翌日の昼前だった。そして枕元には一通の置き手紙。
『バッグの中に1日放置した汗まみれの洗濯物は自分で洗うように byお母さん』
以前にそんなことがあったので自室に戻るところまではなんとかしたのだった。今回はその後がどうにもなら
なかったが、とりあえずベッドで眠れたのはよかった。もし硬く冷たい玄関口や廊下で眠ってしまっていたら、
今の時期、風邪を引いていただろう。
しかし、何かを忘れている気がする。軋む身体を持ち上げてタンスの中の着替えを手に取り、風呂場へ向か
う。身体中が気持ち悪かった。恐らく汗が原因の不快感だとは思うが、ただの寝汗のそれとは違ったベトつき
だ。
そうだ、何かを忘れている。裸になってシャワーを使い、頭の天辺からやや熱めに設定したお湯を振りかけ
る。頭皮の汚れを流し終えたのか、どろりとした水が足下へ流れていくのを感じた。そのままお湯を浴び続ける
と全身すっかりさっぱりとした。
なんだったか、と昨日の出来事を一つ一つ巻き戻していく。シャワーを浴びただけでは寒い。シャワーで熱い
湯を浴び続けるか、それともこのままお湯を溜めて風呂に入ろうか。
……風呂に入ってゆっくりしよう。そうすればこの思い出せない何かに文字通り腰を据えて取り組める。きっ
と思い出せるだろう。シャワーをカランに切り替えてバスタブへ湯を張り始める。どうどうと大きな音を立てな
がらバスタブに湯が張られていく。溜めながら湯船に身体を沈める。下半身が徐々に沈むのが心地よく、同時に
もどかしい。背中の縁に首を預けて天井を見上げ目を瞑る。湯を張る音が外からの音を防ぎ、心を静かに落ち着
けてくれる。
それにしても、だ。思い出せないのは一体何のことだったか。昨日は三次会で延々恋バナをさせられて、聞か
されて――男嫌いの長髪先輩は彼氏にどれだけ惚れているのかだとか、茶髪先輩の姉が恋愛結婚に至り、来年年
明けに結婚式を挙げる話だとか――、そして飲まされた。二次会はカラオケでブルーハーツの熱唱。今でも少し
声がいがらっぽい。一次会は大学近くの居酒屋で、講義は夕方のモノに出席して……なんで大した話もしていな
いくせに毎回出席を取るんだ、あの教授は。
昼休みには食堂で唐揚げ丼を食おうか、それともAセットにしようか悩んで、飲み会に出す会費のことも考え
てお得なAセットにしたんだった。で、食堂に行く前に悠希にメールして……
ひらめきを得たのと風呂場に悠希が乱入してきたのは同時だった。
ガラス戸が砕けるのではないかという勢いで扉を開いた悠希はそのままこちらへ歩み寄り、仁王立ちでこちら
を睨みつける。
「…………」
「……た、ただいま?」
ひく、と彼女の左頬が痙攣したかと思うと、地獄の底から絞り出したような声でおかえりと一言発し、そのま
ままた押し黙る。蛇口がお湯を吐き出すどうどうという音だけが響く。
「え、えっと、連絡……そう、連絡は風呂出たらするつもりだったんだよ」
嘘ではない。連絡を忘れていたのを今思い出したのだから、風呂上がりに連絡していたのだろう。
「ウチ、いつ連絡してほしいて言うた?」
「帰ってきたらって言ってました」
「じゃあ今帰ってきたんやな?」
「……えーと、朝帰ってきて今まで寝てました。爆睡でした」
「つまりウチのケータイに、朝に着信がないとおかしいんやな? ……無いで? なんで?」
「速攻寝たかったんでそれどころじゃなかったです。てかぶっちゃけ忘れてました。ごめんなさ痛てッ!」
悠希は足下の洗面器を蹴り飛ばして器用に俺の顔へぶつけてきた。
「……どうせ朝方まで飲んどってベロベロなって帰ってきたんやろ。もうええわ。今ので手打ちにしたる」
言うが早いか、上に着ていた薄手の七分丈のシャツを脱ぎ始めた。
「アンタ帰ってくるん待っててウチも寝不足やねん。お風呂入らせて」
偶然にも2人でちょうどいいくらいにお湯が溜まっていた。
お互い向き合って体育座りになり、広めに作られている湯船に身体を沈める。
一緒に風呂に入ったのはいつ以来だったか。3つ歳が離れていたから、小学生の頃は面倒見てやれと一緒に入
らされていた覚えがある。その頃に比べれば、当たり前だがこの湯船は狭い。
「……こっち見ぃな」
ジロジロ見るのも悪いと思い間近の壁へ視線を落としていると、彼女が不機嫌そうにそう言った。
「ウチら、カレカノやろ? もう、その、シ……て、もうたんやし、今更やんか」
恥ずかしそうに言っているのを横目に見ながら、そういうモノでもないだろう、と返す。
「何をシても恥ずかしいことは恥ずかしいだろ。お前だって恥ずかしいから見せないように足を折り曲げてるん
じゃないの?」
「それはアンタがこうやって入ってるからやんか。アンタのほうにウチの足、伸ばす隙間があれへん」
「なら胡座で入ったほうがいいか?」
「うん」
思わぬ即答にこちらが面食らった。てっきり胡座なんて丸見えになるんだからそのまま閉じてろ、と怒鳴られ
ると思っていたのだ。
「どないしたん? 早よしてや」
自分から言い出したことを今更止めるわけにいかず、足を広げてそこを晒す。
「……勃ってる?」
それを隠すための体育座りだったのだが、バレてしまっては仕方がない。
「……勃ってて悪いか」
「ううん全然」
凍り付いたように静かになる。天井から落ちてきた滴が湯船に落ちて小さく音を立てた。
「なぁ」
「んだよ」
「触ってええ?」
「え?」
「触るで」
言うが早いか彼女は無遠慮にそこへ指を走らせた。爪の鋭さを感じて背筋に悪寒が走り、力が抜けていく。
「う、わ……えっ? ええっ!?」
彼女は自分のしでかしたことを理解していないらしい。男の防御本能なんて分からなくて当たり前か。なにせ
この間、初めてシたときもそんなに触らせなかった記憶がある。触られるとすぐに果てそうだったからというの
もあったが、力任せにこすられるのが容易に想像できたからだ。
「た、たくやぁ……どないしよう……」
たったこれだけのことで彼女は泣きそうになっていた。何も泣かなくてもいいのに。
「ちょっと爪で引っ掻いただろ? それでびっくり、した、だけ……!」
臍の下に力を込めるようにして萎れてきていた分身を再度勃ちあがらせる。彼女はそれを見て、壊れたおもち
ゃが修理されて戻ってきた子供の顔をしていた。俺のはお前のおもちゃか。
「……なんや、拓也がビビりやっただけか。安心したわ」
「ビビりってお前……今の場合、大体の男は俺の味方してくれるっつーの」
「男の人のってそんなんなん?」
「そんなんだと思うぞ」
「ふぅん……ゴメンな、痛くしてもうて」
悠希はざば、と身体をこちらに寄せ、顔を近づけて俺のを弄る。今度はソフトタッチ過ぎてくすぐったいだけ
だったが、この場合は誰に触られているのかが重要だった。全力で興奮している。
「熱ぅ……ホンマに熱いなぁ。こんなん、どうなったらこんなんなるんやろ? 人体の不思議やな」
「俺から言わせれば、女の身体のほうが不思議だって、のっ……!」
快感のせいで背筋に震えが急に来た。息を呑んで耐えたが遅かった。悠希が得意満面といった表情をこちらへ
向ける。
「拓也、ウチの手ぇで気持ちよぉなってるんや?」
「……湯冷めしてるだけだよ」
8割は強がりの発言だった。残りの2割は本当に浴室の室温が下がってきていたのが理由である。お湯の追加投
入を頭の隅で考えながら、俺も彼女の身体を弄ることに決めた。何の前触れもなく触られて、こっちだけ満足さ
せられて終わりました、というのはちょっと格好がつかない。
彼女を抱きしめようと両腕を伸ばすと、意外なことに向こうのほうからこちらへ飛び込んできた。まだまだ飽
きずに触り続けると思っていたのだが。
「わーい抱っこー」
「子供かお前は」
「子供やったらアカンの? なら大人の抱っこしてや」
「……意味分かってて言ってるのか?」
「こんだけしてまだ違う意味があるんやったら教えてほしいわ」
驚きの目で彼女の顔を覗き込むと強い意志を持った瞳に見返された。
「お前、どうしたんだよ急に」
そんなことはあの夏の日以来全くしていない。手を繋いでデートだとか、毎日メールで会話するだとか、そう
いうことは多くしてきたけれど、キス以上のあれこれは全くしていなかった。俺は強引にするような真似は避け
たかったし、彼女からも言い出してこなかったのでそうなっただけの話ではあるが。
「ちょっと怒ってるだけや。拓也、あの日ぃ以来なんもしてけぇへんねんもん」
「して、よかったのか?」
「そら強引なんはイヤやで? でも一緒の部屋でゲームやって遊んだりとかまでせぇへんようになったやんか。
ウチは拓也とそういう風に一緒に居るんが一番好きやねん」
言われてみれば、そういう風に遊んで、馬鹿な話をして、といった時間の使い方をしなくなった気がする。彼
女だからそれなりの待遇で扱わなければならないのだ、と気張っていた。
「そういうんの中で、その……エッチなこととか、求めてくれるんやったらまんざらでもないんやで?」
私自身はどうでもいいけれど、拓也が欲しいと言ってくれるならそれはそれでうれしい、とも言う。こんな状
況でそんなことを言ってどんな目に遭うのか分かっているのか?
……いや、分かっているから言っているのだろう。とっとと腹を括って私を襲いなさい、と言っているのだ。
直接言い出す度胸がないだけで。
「拓也」
「なんだよ」
「ウチな、もう一回アンタと――」
「ヤろっか、って?」
「――そういう味気ない言いかたは嫌いや」
「我侭言うな。それに大人の抱っこしてくれ、なんて言った奴に今を非難する権利はないだろ?」
ここにきてやっと、悠希が苦笑気味ではあるが笑った。
「そういうんヤるんやったら、なんかこう、ええ雰囲気作ってヤるもんやと思っとったんやけどなぁ……」
「そういうのがいいんだったら俺なんか選ぶな。もっと王子様みたいな奴選んでろ」
「イヤや、拓也がええ。拓也のそういうとこも全部合わせて好きになったんやから我慢する」
にへ、とだらしなく笑った悠希の額へ口づけを落とす。開始の合図だった。
悠希は俺の身体を抱きすくめると、まずキスを求めた。しかも舌を伸ばしてだ。俺にもそれを求めるので従
う。
「ひゃ……く、ふぅん……」
舌を絡めると、彼女は更に密着を求めて首へ両腕を引っかける。浮力があるとはいえ首で支えるのも辛いので
こちらも彼女の尻を抱いて持ち上げる。
「あ、んぅ……ひゃく、やぁ……」
彼女は目を瞑ったまま貪るつもりのようだ。馬鹿正直に彼女の顔を見つめていても仕方がないのでこちらもそ
れに倣う。否応なく彼女の刺激だけを感じるようになった。
「ウチ、のん……ひぇんぶ……ひゃくやのん、に、してぇ……」
こいつ、意味が分かっててこんなことを言っているのだろうか。行動や発言がエロマンガのそれだ。
彼女の身体を支える腕を少しずらし、手指を窄まりへ伸ばして撫でる。悠希は一瞬舌の動きを止めた。身体を
硬くして次に何をされるのかと身構えている。
「――ん、ぱぁ……どうした?」
「やって、そこ、お尻……やで?」
「そうだけど?」
言いながら、閉じられた門へ指を突っ込む素振りを見せる。彼女は真っ赤になって、本当にそんなところです
るのか、と素っ頓狂な声を上げた。
「お前には内緒にしてたけど、俺、そういう趣味があったんだよ。こないだ、前は慣らしたからさ、今度は後ろ
の――」
「う、嘘や! だって拓也の部屋のエロ本にはそんなんあんまり……!」
不穏な単語の並びに手の動きが止まる。確かに俺は本当はそっちの趣味はない。これはただの悪戯みたいなも
のだ。そして確かに、部屋にあるエロ本の類もそういう趣味を反映してそっちのジャンルは少ない。
「……悠希?」
「あ、んまり、揃ってへんかった、から! べ、別に男がそんなん持つんはおかしないやん!? ウチは怒った
りせえへんで!?」
「でもお前、中身全部確認したんだよな? でないと、そんなのあんまり持ってなかった、なんて言えないもん
な?」
悠希は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。もう湯あたりしてしまったのだろうか。
「そういうこと、好きじゃないんじゃなかったっけ? それなのに全部読んだんだ?」
今持っているのはせいぜい10冊程度だが、それを端から端までちゃんと読んだらしい。そういうことは好きで
はないと言っていた彼女が、である。
「……読んだらアカンの?」
「さっきそういうことはどうこうって言ってたじゃないか」
「どうでもええって言うただけや。……嫌いや、ない」
「なら好きなんだ」
「ちゃ、違うわ」
「シたことない?」
後ろから更に指を伸ばして襞に指を引っかける。
「ここ、自分で捏ねたりこすったり、シたことないんだ?」
我ながら嫌らしい訊きかたをするものだと思う。ないと答えてもあると答えても、彼女のプライドを散々にか
き回すことになるだろうから。
「そん、なん、アンタに関係ないやんか」
悠希が俯いて吐き捨てる。この辺りが潮時だろうか。
「でも、どうシたら気持ちいいのかくらいは訊いてもいいだろ?」
彼女は一旦こちらを仰ぎ見るようにして視線を合わせると、こくりと頷いた。
風呂場に途切れ途切れの吐息が響く。悠希のくせに艶めかしい声を挙げるなんて。
「そこ、な……ゆび、で、ほじる、みたいにしてぇな」
彼女は恥ずかしいのかそれとも感じてくれているのか、頬をますます上気させて瞳を潤ませていた。そして手
にはしっかり俺の分身を握っている。
「たく、や、は、どうしてほしいん?」
「さっきみたいに、触ってみてくれないか?」
「……ん」
彼女もゆるゆると手を上下させる。亀頭を指で包み込むようにしてくすぐる。力加減のコツをつかんできたら
しく手指の動きは段々活発になっていった。
こちらも負けてはいられない。以前に触ったときのことを思い出しながら彼女のツボを探る。いきなりクリト
リスに手を出すのは痛いから止めてほしい、とだけは言われたので、そこは避けて内部を目指す。
「たく、気持ちええんや? 顔、歪ぁっ、ん、でんでぇ……?」
「おま……え、も、そうだろうが……」
コトは我慢大会の様相を示してきた。お互いがお互いをゆっくりじんわり嬲りにかかっている。但しこのまま
では分が悪いのはこちらのほうだろう。さっき触られていたときの『ダメージ』が抜けきらないうちに再開した
のだから当たり前だ。
「あ、すごいわぁ、それぇ……」
筋に沿って二指を走らせながら、その間を広げていく。入口を掻き分けて押し広げながらゆっくり往復させ
る。風呂のお湯が滑りを良くしてくれているお陰か、すぐにでも指をねじ込めそうだ。
「それ、な? 気持ちええ、ねん。もっとしてぇ……?」
彼女の手が止まってきた。本当に没入し始めているらしい。このまま押し切れば、我慢大会は俺の勝ちだ。開
いた入口に空いた指をあてがって押し込んだ。
「ぅ、あっ……あ、はぁ、あっ……」
人差し指と薬指で広げた穴に中指を前後させながら挿れる。数度出し入れしながら慣らして、人差し指も突っ
込みにかかる。
「2本、も? 太すぎるってぇ……」
「お前が握ってるのよりは細い、はずだけど」
言われて気がついたのか、止まりかけていた手が再び動き出す。それに応えるため、挿入した指を深く反らせ
るようにして奥をつつき、指を折り曲げて臍の裏辺りを刺激しながら入口まで戻る。また反るくらいに指に力を
込めて送り込む。
「え、ぐ、んなぁ……」
「痛いか?」
黙って首を振る。
「ちゃう、ねん。ナカ、ぴりぴりして、いきなり過ぎてぇ……」
これも刺激が強すぎるらしい。だがこちらは言われた通りにしこりには触れずにいたのだ。これ以上言うこと
を聞いてやるのはちょっとサービス過剰だ。
「たぁ……く、ぅうっ!」
若干睨まれはしたが言うことを聞いてくれないことに腹を立てている様子はない。ここが勝負どころか、と風
呂の側面に彼女の背中を預けさせてこちらは両腕とも解放する。今までは胡座の上に乗せていたのもあって、左
腕だけは彼女の腰を支えていたのだった。
彼女の内側を掻き回しながら左手は胸へ伸ばす。先端を指で挟んで潰すように力を入れ、左右に捻りを入れ
る。
「むねもぉ……?」
「触られるの、イヤか?」
「……好き、や。自分でスるときも触るし」
「へぇ、スるんだ」
「……シたらアカンの?」
「いや? 俺もスるし。ただ、そういうの、スる人だと思ってなかったらびっくりしただけ」
これは本心だ。そういうことは苦手なのだと思いこんでいた。何せコイツときたら自暴自棄にならないと想い
人(恥ずかしながら俺のことである)に言い寄ることさえ出来なかったような奴だったのだから。
「ウチ、そこまでウブやと思われとったんや」
「てか、妹だと思ってたし。……今は違うぞ?」
今はもうすっかり彼女だ。でなければこんなことをシたいだなんて思うものか。俺にそっち方面の趣味はな
い。
「妹でもええんやで? 拓也がその気になってくれるんが一番ええ」
「……ならさ、俺のエロ本見たんなら、俺の好みの女の子になってくれたりなんかしちゃったりするのかよ?」
上体を乗り出して彼女に被いかぶさる。彼女の身体に触れさせた指はさっきのままだ。角度が変わって刺激が
走ったのだろう、彼女の喉の奥が小さく鳴った。
「……一番多かったんは幼馴染モノやったやんか」
「……だっけ?」
巨乳で控えめな性格の女の子を押し倒して後ろから色々柔らかい部分を鷲掴みにしつつ襲いかかるようなのを
中心に揃えていたと思っていたが違ったのか。
「そうやった。……嘘と違うで?」
不安そうにこちらを見てきた彼女の視線で察する。
「下らない嘘吐く奴は嫌いだぞ? んな顔しなくても、それはそれ、これはこれ、だ」
何か言いかけた悠希の唇を塞いで、指をまた動かし始める。嘘の言い訳を長々と聞いてやれるほどこちらも余
裕があるわけではない。こうした会話を楽しむのは後回しで、今は本能を満たすことにした。
「ん、ぐっ、ぷふぁっ……」
急に口を塞がれて息の抜け場がなくなったらしく最初のうちは拒否するような素振りを見せていたが、そう
した抵抗も次第になくなっていく。心持ち上から唾液を流し込みつつ舌で蹂躙していく。
「あ、くぅっ……!」
無論、指で責めるのも忘れない。上も下も俺のことしか考えられなくしてやる、とやや強引に責める。触るの
は控えていた肉芽にも親指で触れ、軽く圧す。
悠希は全身に力を入れて耐え、喉の奥で悲鳴を挙げる。握ったままだった俺自身を握り潰すようなことはなか
ったが、指そのものは硬直しているのが伝わってきた。様子がおかしいと一旦離れる。
「……悠希?」
「あ、アホ、さわ、たらアカンで、って言うたのにぃ……」
息が荒い。目尻からついと滴が滑っていった。
「お前、もしかして、もう……」
「アホ、言いな。こんだけで、イったりするわけない、やんか」
「……こんだけでイったんだろ?」
だから触るなと言ったのだろう。少し弄るだけで簡単に振り切ってしまうツボだったらしい。
「それだけ感じてるなら、もう準備が出来てるな? 俺も結構限界なんだ」
「……イってへんもん」
「ならそれでいいけど」
頑なに事実を認めない悠希を抱き直して後ろを向かせる。俺はその後ろ、浴槽の縁に腰掛けて、持ち上げた彼
女を膝の上に座らせる。
「お前のせいで、俺もこんなになってんだ」
勃起が彼女の股下をかすめて顔を見せる。不意に跳ねたそれが彼女の亀裂を叩いた。
「もう、今すぐ入りたい」
「……後ろからとか変態なんやで、拓也?」
悠希はその変態行為を認めてくれるつもりらしい。湯船の底に足をつけて中腰になり僅かに腰を浮かせると、
片手で俺を掴み、片手で秘裂を押し広げ、収まるように腰を降ろしていく。
「ふ、ぁあっ……!」
風呂のお湯とは違う温かい液体で満たされていた。半ばまで埋まったところで我慢が出来なくなった。悠希の
身体を抱きすくめて立ち上がる。持ち上げて、押しつけて、突き入れる。
「あ、たくやぁ……立ったまま、やんか、こんなん」
「嫌か?」
「アンタ、が好き、なんやったら、ええよ」
浴槽の向こう側の壁に手を突いて自分の身体を支えると、彼女はこちらを振り返る。セミロングの髪が首筋か
ら垂れて房になった。
「へんた、い、やけど、な?」
「変態変態、言う、なっ!」
腰を突く。彼女の喉の奥で息が行き場を失って、鈍い音を響かせる。
「その、変態の、エロ本、全部読み漁ってたのは、誰、だよッ!」
「そんな、読み漁ってへん、よぉっ! ひあぁっ!」
ちょっと引いて、押し込む。いや、叩き込むと言ったほうが正しいだろうか。腰を激しく前後させ何度も叩き
つけて身体をぶつける。彼女は崩れ落ちそうになりながら、必死で壁にしがみついていた。
膣内はうねっていた。突っ込んでジッとしているだけで出してしまいそうな刺激だと思う。腰の動きで気を散
らしているのもあるだろう。動けば動くほど、力が湧いて出てくるように感じる。
「た、く……っ!」
動きが激しすぎると言いたいのだろう。もし腕が滑ってしまったら上半身が折れ落ちてしまう。下に落ちる前
に壁で支えるため、後ろから押しつけているのだ。
突き込んだまま、一歩踏み込む。彼女の腕が浴槽から壁のタイルへ移って胸の辺りまでがぺったりとくっつい
た。
「ここ、ひゃっこいぃ……」
タイルの予想外の冷たさに戸惑ったのか、彼女はこちらへ尻を突き出してタイルから離れる。押し返されてま
すます深く刺さる。この感触が気持ちいい。この圧力を長く愉しみたい。尻肉を掴んで身体を寄せる。
「ゆう、き、俺……ダメだわ」
「なん、なん? ……きゃっ、あっ!?」
掴んで引き寄せて腰をただ押しつける。尻たぶが歪んで引き攣れるほど力を入れているのが痛いのか、彼女は
頭を揺すって耐えていた。
「おく、かたいんが、ゴリゴリしてる、やんかぁ……!」
「それが、いいん、だろ」
ゆっくり引き抜いて、また強く突き入れる。ぶちゅ、ばちゅ、と粘液をかき混ぜる卑猥な音が浴室に響いた。
少しずつ、自分を悠希の内側にマーキングする。そんな馬鹿みたいな作業が堪らなく気持ちいい。
「アカン、そんなん、おく、アンタのんに、されてまう……っ!」
「ゆ、うき、そろそろ、俺、げんかい、で」
「な、ナカは、アカンで!? 出すんやったら、あぁっ!」
腰の動きを徐々に早めていく。ばちゅばちゅと粘液と肌のぶつかる音が立ち、溢れた粘液が内腿を伝って湯船
に落ちていく。
「あっ、あっ、た、くっ! きい、てんの!?」
「聞こえてる、よっ!」
「ひぁっ……! ぜったい、アカン、からな!?」
「分かっ……、く、うっ!」
筋の根元からせり上がってきた感触に悲鳴を上げてしまう。先端がピリピリして痛くなってきた。射精を押し
とどめようと腹筋に力を入れると、上体が折れ曲がって悠希に圧しかかる格好になる。
「ゆう……っく」
「アホ、やなぁ……」
いつの間にか肘を壁に押しつけて身体を支えていた彼女は、その片腕を外して俺のほうへ伸ばした。
「そんな、いっしょけんめ、せんでも、いっぱい相手、したるのに」
悠希は振り向いてなんとか見える俺の顔へそんな言葉を投げかける。ぷつ、と何かが切れる音が聞こえた。
「……なら、してもらうぞ」
「……へ?」
「俺が、そういう気分に、なったとき、絶対に、相手して、もらうからな……!」
言うだけ言って彼女の返事は待たずピッチを上げる。片腕の支持だけではずり落ちてしまう、と彼女は再び両
肘で身体を支える。
「嫌がろうが、なんだろうが、お前は、悠希は俺のモノだってっ……!」
「ん、な、あぁっ、アホぉっ……!」
「う、あぁあぁぁっ……!」
ついに限界を迎えて腰を引き抜く。上を向いた銃口から白濁が溢れて飛び散った。悠希の尻、背筋に落ちた体
液は相当な熱を持っていたのだろう、彼女は小さく、熱い、と呟いた。
* * * * * *
「やっぱりお風呂入ってるんやから、身体の汚れは落とさなアカンよな」
風呂の椅子に腰掛けて俺に背中を流させながら、悠希は一人で呟いて一人で納得していた。
「汚したとこはちゃんと洗ってや?」
「んなもんお湯で流せばすぐだろ……っと」
言われた通り背中をボディソープで洗ってやったが俺の態度が不満だったらしい。肩越しに睨まれる。
「アンタ、あんな乱暴にしたくせに文句言う権利あると思てるん?」
「はいはいないですよありませんよ」
手桶に汲んだお湯を頭から振りかける。む、と喉の奥で唸った彼女を尻目に、掌に新たなボディソープを取
る。
「だから、汚れたところは念入りに洗わせていただきますとも」
揉み手をするように泡立てつつ悠希に一歩近づく。途端に彼女は身体を硬くして身構える。
「な、にを……ひゃっ……!」
内腿に石鹸で塗れた両手を置いて捏ねながらそこを洗う。徐々に中心へ腕を動かしていく。
「また、スるん?」
「洗ってるだけだろ? 汚したところ洗えって言ったの誰だよ」
「そこは、汚なないし」
「シてる最中、とろとろ垂れてたけど」
手桶が横殴りに飛んできた。頭に当たるといい音を立てて床を転がっていく。こめかみの辺りに当たったせい
でくらくらする。
「……そういや、な」
「なにぃな」
「昨日の飲み会で彼氏持ちの先輩が言ってたんだけどさ。私は彼氏と一緒に何がしているだけで嬉しい、だから
付き合ってるんだ、って話しててさ」
「それ、ウチもおんなじや。拓也とゲームやってるんが一番オモロい」
「でな、俺、お前と彼氏彼女の関係になってちょっと気張りすぎたなと思うんだよ」
「で、コレかいな」
彼女はうんざりといった表情で、コレ、と言いながら俺の手の甲を摘み上げる。痛みに顔をしかめながら、彼
女を抱きしめる。
「俺、今まではこういうことしたら悠希に嫌われるんじゃないかって思っててさ、だから色々我慢してたんだ。
でもどうやらお前自身まんざらじゃないらしいし、どうせならこの機会に今までの我慢をいっぺんに解消させ
てくれたらいいな……って、痛い痛いその指を離せ」
「何が解消やアホらしい。ウチかて今までアンタに避けられてた、思ってたんやで? こっちがサービスしてほ
しいくらいや。……スんのやったら優しぃしてや?」
最後に小さく付け足した言葉を聞き逃さなかった。アイサー、と元気に返事をすると肌を重ねる作業に全力を
尽くすことに決めた。
と以上です
コンセプトは会話。最中でも会話を多めで。多少ネタがかぶっても気にしない。泣かない。
前スレでは意図しなかったこととはいえあのようなかたちになり大変失礼致しました
今後は気をつけます
保管庫の関係で一つお願いがあるのですが、ここに書きこんでも大丈夫なのでしょうか?
現在01/02と登録されている話を、どうせなら1ページにまとめていただきたいのですが……
保管庫専スレのようなところがあるのでしょうか?
>>269 関西弁ではやてを思い出したのは俺だけだよな、うん。
(読んだら)いかんのか?
黒髪ポニテで弓道少女の幼馴染みに再会って感じの読みたい。
再会系は甘えん坊かツンデレで武道娘って感じのあまりないんだよな
しののののののさん……
しのののさんは剣道部や
しのののさん
最近久しぶりな幼馴染みの勝ち組
実の姉が問題だが
両想いなんだけどお互いに気づいてなくて
毎晩相手を思いながら自分を慰めてるという幼馴染を妄想
どの作もGJ
>>274 甘えん坊やツンデレの対になる「武道娘キャラ」って、分かるようで分からんなー
と思ったので、一つ習作を書いてみた。
三レス掌編、テーマは
>>274を踏襲したつもり。
282 :
27:2011/12/21(水) 23:25:00.54 ID:IY0YzJYz
毛糸の靴下で踏み込んだ道場の床は、予想以上に寒かった。師走のキンとした冷気が、
つま先を通じて膝にくる。以前、裸足や足袋で出入りしていた頃には、冷たいと感じこそすれ、
寒いと思ったことは無かったのだが。
これが、7年という時間長さの現れなのか、と達司は心の中で独り言ちた。一見して、
この弓道場の風景は以前と全く変わらない。射場も、矢道も、的場も、彼の記憶の中に
あるそのままだ。しかし、そこに纏う空気は違った。屋根の無い矢渡りから吹き込む北風に、
門下生の頃に感じた凛とした厳しさは無かった。ただただ、険しかった。
ここは既に、彼の場所では無い。そんな思いを胸に神棚へと一礼し、達司はそっと射場
の後ろへ回った。眼前では、彼の代わりに一人の少女が、射法八節に則って悠然と弓を
引いている。
「見事」
タンッ、と最後の矢が的を射たところで、達司は心からの賛辞を送った。しかし、
射手はそれを梢のさざめきとばかりに関しない。たっぷり一呼吸の残心を決め、立礼して
射点を下がる。それからやおら、ぱっと後ろを振り向いて、娘は言った。
「もう、こっそり忍びこまないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」
後ろに高く一纏めにしてもなお、背の中ほどまで垂れる柳髪を跳ねさせ、娘は楽しげに
息を弾ませる。その様は、道場と違って七年前とは似ても似つかなかったけれど──
この場で初めて、彼の気を緩ませる温かみを持っていた。
*
「いつ戻ったんですか?」
「家に着いたのは十時過ぎ。成田には昨晩だけどな」
「あ、なるほど。前に伯母さんから昨日には戻るよって言われたんですけど、今朝来て
みたらまだって言われて。ちょっとびっくりしてたんです」
慣れた手つきでストーブに火を入れながら、川上梓は言った。午前十一時三〇分。陽も
高く大分寒さが緩んできた頃合いではあったが、それでも息の白さが消えることは無い。
この季節、午前の稽古を終えた生徒は、着替えの前に談話室へ引き上げ、暖をとるのが
常らしい。
達司もそれに倣って、しばし火にあたる事にした。弓道衣の梓に比べれば格段に温い
格好をしていたはずだけれど、節々に刺さった冷えを融かさずには居られなかった。
つい十年前まで、小雪の中を袴のままで自転車に跨っていた自分が信じられない。
翻って正面を窺うと、梓は白筒袖の上からジャンパーを羽織り、中々温まらない火の前で
さぶさぶと両手を擦り合わせていた。その何処か小動物めいた仕草は、ほのかに昔の彼女
を彷彿とさせる。
しかし、それ以外には、彼の袴に纏わりついていた十歳の女の子の面影は無かった。
「お袋には会社の日程表をそのまんま転送しちまったから、誤解したんだな。悪かったよ」
「いえ、まあ。その間、こうして道場貸切にさせてもらったわけですし」
「しかし、土曜の午前だってのに、参加者一名か。こりゃいよいよ危ないなあ」
「この寒さですから、仕方無いですよ。最近は、子供よりも中年のおばさんとか定年の
お爺さんとかのが多いんです」
「なるほど、シニアシフトね。まあ、きちんとしたモデルに沿ってやるならいいけども」
ようやく色づいてきたストーブの炎筒を眺めながら、達司たちはしばし他愛のない世間話
を続けた。
彼らは、厳密には七年ぶりの再会では無い。大学卒業後、就職までの間に達司が
一時帰郷した折、少し対面で話している。だが、それでも丸々三年は空いているし、
こうして袴姿を道場で見たのは、正真正銘七年ぶりだ。他に、何か言うことがあるだろう
という思いはあったが、具体的に何をとなると言葉に詰まった。
七年前なら簡単だった。膝の上に乗せて話を聞き、飽きたら両手を持って空中ブランコ
でもしてやって……最後に、彼の射を見せてやれば、それで良かった。
だが、今さらそんなことは出来ない。鎖骨程のところに旋毛が来る娘だから、ジャイアント
スイングぐらいは何とかなるかもしれない。だが、それで華の女子高生が喜ぶはずも無く、
まして膝の上なんぞに乗せた日には、巻藁の詰め物にされても文句は言えない。
もちろん、彼の弓を見せるというのは──
今さら、何の意味も無い。
「まあ、人が減っちゃってるのは事実でしょうね。かくなる上は、長男さんが頑張って
外資注入してくれないと」
「おーい、用法が全く意味不明だぞ受験生」
「あいた。すみません……でも、やっぱり息子がエリートビジネスマンやってるのって、
師範にとっても凄い心強いみたいですよ」
「エリートなら入社早々五年も中国に飛ばされたりしねぇ」
「いや、入社してすぐに海外駐在って、結構有り得ないとおもうんですけど……」
それでも、世間話なら回せてしまうのが、幼馴染の人徳とも言えた。七年前、いや四年前
と今でも、話題の選び方は全く違う。そもそも、今時の女子高生の話題など、日本のメディア
から離れて三年の達司には見当もつかない。だが、彼女の口元と指先を見ていれば、
続けたい話題とそうでないものは何となく見分けがついた。
恐らくは、普段この談話室行われているのと、ほぼ同じような漫談を続ける事しばし。
足先の痺れが痒みに変わる頃には、達司はもうさほど、今の梓に気後れを覚えなく
なっていた。今回は、正月を挟んで一週間ばかりの帰国となる。今日のところは
これで十分と、彼は談話室の椅子を引いた。
「よし。じゃあ、ちょっくら台所の様子でも見て来るわ。久々に和食にありつきたいしな。
お前も食ってくだろ?」
「あ、はい。って……えと、あのっ!」
引き戸に手をかけたところで、つと、梓が強く呼びとめた。達司は少なからず驚いた。
昔、やんちゃしていた頃も、あまり大声は上げない性質だったからだ。振り向くと、
ストーブの炎とは違う、より鮮やかな朱を頬にさした少女が、こちらを向いて立っている。
見つめ合うこと一拍。射場に立つ前と同じ、深い呼吸で面を上げた梓は、その瞳で
しかと達司を射抜く。
「お帰りなさい、達兄さん」
完璧な所作の、立礼とともに、娘は言った。七年前、いくら言っても直らなかった
へっぴり腰は何処にも無い。けれど、髪をきつく束ねた頭に見える旋毛の色は、
彼が上京の日に列車から見たそれとおんなじで。
「……ああ。ただいま、あーちゃん」
声だけは平調に、他の震えは寒さのせいにして、達司は片手を上げるのが
精一杯だった。己が憚っていた一言をあっさり、いやあっさりではない、その憚りを
二人分飲み下した上で、きちんと迎えの言葉をくれ娘に、達司は感傷を隠すことが
出来なかった。
駆け寄って頭を撫でてやりたい衝動を必死に抑え、もう一度「飯を見てくる」と言い残すと、
彼は足早に母屋の方へ引き上げた。
*
弓を引かない弓道家の嫡男。外部の資金援助で回す道場経営。達司と弓道場との関係は、
昔の彼にも、今の彼にも、滑稽なものだった。外から金を入れているだけ済むなら、近寄り
たくないと思う時期もあった。
しかしながら、やはり一時帰国して良かった、と達司は思う。自分は、ここを守らなければ
ならない。例え彼自身の居場所がなくても、彼が引き込んだ少女の居場所を、潰してしまって
いい道理は無い。
己の弓を「きれい」と言ってくれた幼馴染が、その弓で育つことのできる場所を残すこと。
それが、彼に唯一残された弓の道だった。
それを、今一度、思い知らされた。
台所に入ると、案の定、飯釜だけが湯気を吹いていた。冷蔵庫の中身を確認し、流し台で
簡単に手を洗う。一二月の水道は身を切る様な冷たさだったが、今度は達司も怯まなかった。
なあに、中つ国じゃあ真冬の給湯器の突然死など日常茶飯事だ。そうやって開き直って
しまえば、体の芯を砕くような震えも、もう来なかった。
およそ、正道とは言い難い。いやしくも武道を修めた者の心構えとは到底言えない。
しかし、ドロップアウトした人間ならば、これで上出来なのかもしれない。
矢は、弓を十全に撓めて初めて前に飛ぶ。ならば、せめて彼女の矢が真っ直ぐと的を
射るように、己は精一杯身を撓めてやろうと、達司は思った。
以上です。
気付いたら「黒髪ポニテ」が全然生かせてない……乱文スマソ
武道娘ですが、やってみて書きやすいのは実直後輩系かなあと。
他に幼馴染と合わせるとしたら、どんなんでしょうね。熱血/素直クールとかか。
>>285 乙
個人的には無口、物静か系が良し。幼馴染だけが正確にその心情を理解できる
という幼馴染らしさを演出できる。男を逆に雄弁タイプにするのもいいけど同じように
落ち着いた性格でもよさそうなんだよなあ。
二人で一緒にいるとき無言で何をするでもないのにそれが全く苦にならない二人。で、いつの間にかいちゃいちゃし始めている。
何も話が始まらんけどね。むしろすでに完結している!
そんなあなたに無口ス(ry
帰ってくるまでに、これほど投下されているとは。
GJ
>>234 >>せっかく18禁を書くのだったら、エロの中にストーリを絡めてこそと思うのです。
とても耳が痛いです、先生。
こんな素敵な文章書く人に、こういわれては立つ瀬がねーのですよ。〇刀乙。
ま、それはさておき。
八つ当たりで書いてるstadium/upbeatの三発目。参ります。
夏休み明け。
始業式では夏休み期間で大きな賞を獲得した部活動はその栄誉を讃えて全校生徒の前で『改めて』校長より賞状やトロフィーが授与される。
学校から授与されるのではない。
得たものを学校に納めて、それをわざわざ改めて渡してもらうのだ。
一度手にしたものを、わざわざ校長に渡してから返してもらうという一連の儀式の意味は、よく分からない。
とにかく部活動の盛んな我が校では、この始業式での再授与が長い。
バスケにバレー、卓球に競輪、剣道柔道弓道書道に美術演劇英文。何を競ったのか分からないけれどボランティアまで。そして甲子園出場を果たした野球部。
その度に吹奏楽部はファンファーレを鳴らす。何かのスイッチでも組み込まれたように。
校長の長々とした話の中に甲子園が幾度も出てくる。五回目くらいからもう面倒になって数えるのは止めてしまったが。
素晴らしい成績として甲子園をあげてその栄誉を讃える。
また来春以降の大会への期待を口にして、その日の話は終わった。
―――吹奏楽部の栄誉が讃えられることは、なかった。
吹奏楽コンクール支部大会銀賞。
残念ながら全国大会……普門館こそ届かなかったものの、あたしの聴く限り素晴らしい演奏だった。
そしてマーチングコンクールでも最優秀賞を得て県代表に選出されたが、そんなことを知っている生徒は多分誰も居ない。
後から聞くところによれば、辞退したらしい。あの場での再授与は。
どうも応援不参加がよほど不興を買ったらしく、生徒間での吹奏楽部の評判が悪くなった。
それを『考慮』しての対応であるらしい。
一応、学校側は再授与をすると言っていたらしいけれど。
優勝候補だった母校の一回戦敗退が、よほど不満だったらしい。生徒にしても、卒業生にしても、先生にしても。
だからと言って、これはどうかと思うけれど。
翌週、音楽室のドアに、消火器が撒かれていた。
もしもこれが悪評の『火消し』だというのなら、犯人は中々にシャレの分かる人物かもしれない。
もっとも、そんなことをされた側の気持ちの方は、分かりはしないだろうけれど。
◇
八月七日。
全国高等学校野球選手権大会二日目第二試合。
我が校の第一回戦は、素晴らしい好天に恵まれた。
けれどその試合内容は荒れに荒れた。一回から我が校の一年生エース武司和也は四球二つで無死一二塁のピンチを自ら作り出してしまう。
相手校三番は武司和也の甘い球を見逃さず左翼への見事な適時打、いきなり二点を許してしまう。
続く四番に再び三塁打を浴び、一回で三失点。三回にも二失点、四回に一失点を喫してしまう。
エースの乱れが打線にも響き、五回を終えた時点でようやく一点を返しただけだった。それも相手の四球で出塁した走者が、盗塁とエラーで帰っただけのパッとしないもの。
そしてその一点が我が校甲子園での唯一の得点となった。
エースは四回で交代、中継ぎとしてマウンドに向かった二年生投手も七回に二失点。
結局強豪にして優勝候補の一角に数えられていたはずの我が校の甲子園は、一対八という大差での敗北に終わってしまった。
追記すれば、その相手校も二回戦で敗退。その相手もまた三回で敗退。八月七日以降、甲子園と言う単語はタブーにさえなってしまった。
完膚なきまでに叩きのめされた天才投手は……カッちゃんは、数日の間ぼんやりと過ごしていた。
◇
八月十日。
あたしは未だにぼんやりと過ごしているカッちゃんの様子を見るために武司家のドアを開いた。
朝早くからアッちゃんは練習に出て行っている。
カッちゃんはといえば、パジャマのままぼんやりとテレビを眺めていた。その背中を眺めながら、あたしは食卓の椅子に腰掛ける。
「小さい頃に、こんな風になりたいって思ってたんだよ」
テレビでは再放送の滑舌の悪い特撮ヒーローが、決め台詞を叫んでいる。
何を許さないのか知らないが、ヒーローらしくない真っ黒のスーツだった。
「こんな風って、特撮ヒーロー? そういえばそんなごっこ遊びもしたっけ」
カッちゃんはぼんやりと頷く。
「皆を助ける正義のヒーローに、なりたかった。ぼくも……ヒーローに」
「正義かどうかはともかく、ヒーローにはなったでしょ。まあ、町内レベル止まりだったけど」
「ん……」
振り向くカッちゃんの、いつも自信に満ちていた双眸が迷いに曇っていた。
「結局、アニキの言った通りだったよ」
「……アッちゃん?」
「ん。予選大会の決勝戦前にさ、言われたんだ」
「野球好きか?」
「え?」
「でしょ?」
「……千恵ちゃん、見てたの?」
迷いに曇っていた瞳が、驚きに見開かれる。
「まあね。その内あたしが言ってやろうと思ってた台詞だったし」
「そう……なんだ」
テレビの中で、特撮ヒーローが当たり前の様に勝ち、街の平和は今日も無事に守られる。
カッちゃんはそれを横目にぼんやりと見やって、そうしてから
「野球、好きだと思ってたんだ。ずっと」
と口にした。
あたしは髪の枝毛を探しながら、その独白を聞く。
「毎日毎日練習して、南を甲子園に連れて行くって自分に言い聞かせて、それだけを考えて」
そして、甲子園。
「ゴール、イン。しちゃったんだな、あの日で」
「七月二十九日」
「うん」
「しちゃったか、ゴールイン」
「うん、しちゃったんだよ、あの日で」
「そっかー」
大きく伸びをする。
テレビの中では、高校野球選手権第五日目の第一試合が始まっていた。
「プレイボール」
カッちゃんは薄く笑みさえ浮かべて、それを眺めた。
「甲子園はさ、野球が本気で好きで……それ以外考えられないような、一途な選手しか受け入れないんだよ、きっと」
「……身持ち硬そうだもんねえ」
「あははは、そうだね」
勢いよく立ち上がると、カッちゃんは大きく振りかぶった。
第一球。
「かきーん……とさえ、ならなかったよ」
武司和也投手の甲子園第一球はボール。そして第一打者を四球で出塁させている。
「もの凄かったよ、甲子園は。地鳴りでもしてるのかって思うような大歓声で。日差しまで違って感じたよ」
「そりゃ、あれだけ人が集ってればね」
「怖かった。生まれて初めて、マウンドに立ってバッターが構えて……そういったもの全てが怖いと思ったんだ」
第二球。
見事なフォームで、カッちゃんはパジャマのまま振りかぶる。
身内贔屓も込みになるけれど、テレビの中のどこかのピッチャーよりも様になっている。
横顔は引き締まり、この一瞬のみあの日を取り戻している。
まるで、甲子園の続きをしているみたい。
「まだ、怖い?」
「…………分かんない。あれからボールに触ってないから」
野球部は、あれから自主練習になっている。マネージャーのお姉ちゃんが言うには、半分くらいは集っているそうだ。
「……ぼくって、こんなに怖がりだったんだなって、そう思い知ったよ」
「んー」
さて、これは言ってしまっていいのかどうか。
しばらく考えてから、あたしは面倒になった。まあ、あたしには関係ないしどうでもいいので放っておこうか。
傍観者のあたしにしてみれば、お芝居で野球やっていた……お芝居でなきゃ勝負の世界に居られなかったカッちゃんやお姉ちゃんが怖がりだなんていうのは当然の帰結だったのだけれど。
「千恵ちゃん?」
「あ、ううん、ナンデモナイデスヨ?」
「……そう?」
さて、とはいえあんまりウジウジとされているのを見るのも鬱陶しいし、一つ尻でも叩いておくか。
「あのさカッちゃん、それでいつから練習は再開するの?」
「え?」
「何その意外そうな顔は」
「いや、千恵ちゃんが野球をしろなんて言うの初めてだから」
「あー、そりゃね、まあね」
確かにそうだった。
「本音を言わせて貰えば、カッちゃんが甲子園に行こうがマスターズに出ようが土俵入りしようが知ったことじゃないのよ、あたし」
「ひどいね」
「まあね、あたしひどい女の子だし。でもさ、こうやって毎日毎日ゴロゴロゴロゴロとされてるのを見るのも腹が立ってくるのよ。仲間だった人達は頑張ってんのに、あんた何やってんのよ」
「え?」
「カッちゃんはお姉ちゃんを甲子園に連れて行ったからもう何もしないの? 甲子園に行きたかったのは野球したかったからじゃないの?」
「そりゃ、その通りだけど―――」
「野球好きだからあんな毎日毎日やってたんでしょ? そんなの当たり前じゃない、じゃなきゃ出来ないもん」
「でもそれは、南の為で……ぼくが本当に野球が好きかどうかなんて、分からなくなって」
「あんなに毎日練習してとうとう甲子園にまで行って。これで野球好きじゃないとかどの口で言うつもりよ。カッちゃんは頭にバカが付く位の野球好きよ」
「う……」
「お姉ちゃんが何言ったとかどうでもいいのよ、くっだらない。そんなのカッちゃんには関係ないでしょ。だって行くのはカッちゃんなんだから」
「千恵ちゃん……」
「行って、そして野球するのはカッちゃん。納得してないんでしょ、あの試合」
「……うん」
「なら―――さっさと行って、今度は少々ビビってもねじ伏せられるくらい、強くなって来なさいッ! 納得は行かないけど練習もしないとか、泣き言はボコボコに負けてから言いなさい!」
「あの、ボコボコに負けたんだけど―――」
「あんなの負けたうちにはいるもんか! 負けるっていうのは、本当に手も足も出ないくらいのを言うの! カッちゃんは手も足もそもそも出してないでしょッ!」
「うぅ……千恵ちゃん、優しくないね」
「今のカッちゃんに優しくする理由なんて毛筋ほどもなし! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと服着替えて行きなさい! カッちゃんの行きたい所に!」
ほとんど八つ当たりではあったけれど、言いたいことを言ってスッキリした。
カッちゃんはまだ何かごにょごにょと言っていたけれど、その辺に転がっていた食パンを朝ごはん代わりに口にねじ込んでユニフォームを突きつけると諦めたようだった。
着替えが終わったら適当に余り物を詰め込んだ弁当を持たせて、家から追い出した。
これで、とりあえずあたしの役目は終わりだろう。『南ちゃん』ならもっとスマートにしたんだろうけれど、あたしはその辺に居るただの女子高生。そういうのは専門分野外だ。
次に甲子園に出られるかどうかなんかあたしの知ったことじゃないし、後は野となれ山となれな訳だし。
その日の夕方、お姉ちゃんと一緒にカッちゃんは帰ってきた。
どうやら逃げずにちゃんと部活に出たようだ。
優しく励ますお姉ちゃんの声が外から聞こえてくるが、あたしは明日のバイトに備えてだらだらすることにした。
◇
甲子園から帰ってきたおじさん達は不用意だった。
帰ってきて、アッちゃんを見るなり
「お前の応援があれば、もう少し違ったかもしれないのに」
なんて言ったのだから。
アッちゃんの方の結果なんて聞きもせず。
まあ、アッちゃんだっておじさん達に褒めてもらいたくてやってたんじゃないだろうけど、それにしてももう少し言いようはあったんではないだろうか。
優勝候補と持ち上げられて、浮かれて騒いで、そして上手くいかなかった理由をそんな所に求めて。
アッちゃんはただ曖昧に笑うだけだった。
他に何も出来なかった。隣で悔しくて腹立たしくてイライラするだけのあたしと同じように。
◇
八月十四日。
吹奏楽コンクール支部大会。
あたしは長距離バスに乗ってその会場へと足を運んだ。
我ながらよくもまあと思わなくもないが、アッちゃんが必死に頑張ってきたことを……あたしは、自分の目と耳に焼き付けておきたかったのだ。
意味があるのかどうなのかは、ともかくとして。
お姉ちゃんがどんな理由であれカッちゃんが甲子園に行くまでを支え続けてきたように。
あたしも、アッちゃんにとってのそうでありたいと思ったからかもしれない。
もっとも、あたしがそう思ったのは僅か一ヶ月前からのことなのだけれど。
新参の、にわかの、ミーハーと呼ばれても反論できないような、そもそも音楽なんてまるで理解できないあたしでも……アッちゃんの行方を見守るくらいは出来るはずだったから。
この地方の吹奏楽が一堂に会してのコンクール。
各県で選出されただけあり、どの団体も素晴らしい出来だった。
正直素人のあたしにはどの演奏も素晴らしいような気がしてくる。
だから思い知る。
アッちゃん達でさえ……あたしにとってはとてつもない名演だったアッちゃん達のそれでさえ、この中では凡庸なものに過ぎなかったということを。
もしもこの中を突破するとすれば、それは突出した何かがないとならなかったのだ。
だから……アッちゃん達が。我が母校の吹奏楽部が銀賞に終わった時、不思議と心は静かだった。
手も足も出ないとは、このことかと。
◇
八月十五日。
帰ってきたアッちゃんはため息一つついて微笑んだ。
「あの……」
何となく武司の家で待たせてもらっていたあたしは、けれど何と言って迎えればいいのか分からなくなってしまった。
「ありがとう」
「え?」
だから、先にお礼を言われたあたしは呆然としていた。
「また聴きに来てくれてたろ? ありがとう。おかげで精一杯の演奏が出来たと思う。ゴメンね、普門館はまた来年になるけど」
「……ッ! アッちゃん!」
「うん?」
「それでもあたしには、あたしにはアッちゃんが一等賞だから!」
ひどい嘘だ。
あたしはあの会場で、金賞を受賞して全国大会への代表権を得た団体に納得したのだから。
あの団体の演奏なら、金賞でも、支部代表でも仕方ないと……アッちゃん達以外にそう思ったのだから。
けれど……アッちゃん達の演奏が一等賞だと思ったのも……ただの詭弁だけれど、確かだった。
「……千恵ちゃん、ありがとう」
多分、あたしのそんな強がりのような嘘なんて、アッちゃんにはばれていたと思う。けれど、それでもアッちゃんは微笑んでくれた。
だから、あたしはもう一度口にした。
「あたしには、アッちゃんが一等賞だから―――」
◇
春の甲子園に出場する為には、秋の地方大会に勝ち抜かないとならない。
夏の惨敗で評価を落としたらしい我が校……いや、武司和也だったけれど、あの敗戦が彼を大きく育てたらしい。
それまであったムラッ気や驕りが消えて、それは見事な選手になったそうだ。
まあ、全部新聞の受け売りなのだけれど。
さて、そんな秋の地方大会も順調に勝ち進んで決勝戦。
夏の焼き増しであるかのように強力打線が売りの男子校との対戦だった。
これまた焼き増しであるかのようにローカル紙の記者がお姉ちゃんにインタビューをしている。
例の同窓会長は居並ぶ吹奏楽部を無視して客席に唾を飛ばして何やら喚いている。
何やら針のむしろのような中、それでもアッちゃん達は平然と立ち並ぶ。あたしは野球の試合そのものよりも、その求道者が試練に耐え忍ぶような姿をずっと見ていた。
アッちゃん達の歌は、周りがどのような目で見ていようとも何も変わらない。
全てが美しく輝いているのだと言わんばかりに、歌う喜びを表現してみせていた。
付け足すと、また優勝していた。
アッちゃん達が大きな拍手をし始めたのでどうやら試合が終わったらしいとようやくスコアボードへ視線を投げる。
相手にほとんど何もさせていなかった。
因みにしばらくたってから、ごく当たり前の様に春の甲子園出場が通達されたらしい。
あたしがそれを知ったのは、校舎に誇らしげに掲げられた『甲子園出場おめでとう。野球部』の垂れ幕だった。
そんな秋の中、アッちゃん達の『本業』の方はといえば、吹奏楽連盟主催のマーチングコンクール支部大会が行われていた。
あたしはもちろんそれも見に行った。
演奏をしながらのパレード、と言えば一番想像しやすいと思う。
ただ、彼らのそれはただ歩くだけではない。
それは、確かに『演技』なのだ。
それぞれが創意工夫を凝らして、何かを表現しようとする『演技』なのだ。
さすがに支部大会だけあり、どの校の演奏、演技共に素晴らしい出来で、あたしは少し不安になった。
この中で、アッちゃん達の歌はどのような評価を受けるのか。
そんなあたしの不安をよそに、アッちゃん達の演技が始まる。
目は自然とアッちゃんを探し当てる。
いつもの優しそうな笑みを引き締めて、誇らしそうに客席を見据えている。
あの瞬間がさ、一番好きなんだ。
そう言っていたのを思い出す。
これから起きる全てに、アッちゃんは子供みたいにわくわくしているのだ。
その為に。
その為だけに積み重ねた時間を、今聞いてくれてる皆に伝えられる。
そのことが何よりも嬉しいんだと、子供みたいに笑ったその顔を、あたしは忘れない。
だから、あたしがアッちゃんを見つめている間に。
一瞬。
息の音。
それで、会場の音の全てを制して。
始まった。
それまでの緊張感をすべて切り払い、一音が駆け抜ける。
それまでにステージを飾っていた他校の演技に比べると、派手さはなかった。
特別派手な衣装を凝らしているでなく。
特別何か目立つ道具を用意するでなく。
ただの歌だけで勝負をしている。
だからこそ、その音の全てがあたしには愛しいと思えた。
軽快なリズムに乗せてトランペットが歌う。
トランペットの一番槍の後をクラリネットが追いかけ、更に歌い上げる。
凛々しくも鮮やかなメロディーラインをチューバが押し上げる。どうだ、まだやれるだろうと言わんばかりに。
フルートが間隙を縫って立ち上がる。歌とはこう歌うのだと、そう主張する。
サックスが、ホルンが、オーボエが、ユーフォが、それに反論する。高い音だけが歌ではないと。
そしてトロンボーンが。
静かにそれらを繋いでいく。
つい見た目の派手さに騙されていた。
これは演技であり、そして何よりも……演奏なのだ。
歌でしか言えないから、彼らは歌っているだけの。ただそれだけのことなのだ。
ただの歌。
ただそれだけで、他の誰にも負けないだけの演技をなしえてみせる。
だから全ての演奏が終わった瞬間、あたしは心からの賛辞をのせて両手を何度も叩いたのだった。
そして、翌日。
帰宅したアッちゃんの満面の笑みに、あたしも一番の笑顔を返した。
「おめでとう、アッちゃん」
「うん、普門館じゃないけど……全国大会、見せてあげられるよ、千恵ちゃん」
あの日の演奏が評価された点は、やはり純粋に演奏が優れていたということで。あたしはその評価に心から満足した。
◇
秋といえば芸術の秋。我が校も多くの他校の例に漏れず文化祭が行われる。
何故かヤキソバ対決をしている野球部とサッカー部。
可愛い娘で客を集め、男子が調理に励んでいるバスケ部のお好み焼き。
美味しさスマッシュ! という意味不明のあおり文句を連呼する卓球部のたこ焼き。
書道部が何故か似顔絵を描き、美術部が絵筆で書に挑んでいる。お前らは交代しろ。
各々のクラスがいい加減な喫茶店や謎の画廊、変な骨董品みたいなのの展示会をしている中、吹奏楽部はといえば例年通りステージを開いていた。
もっとも、その公演時間はごく短時間になっていたが。
これも不評のせいであるらしいが……いい加減あたしも気が付いた。一般生徒にはそこまで恨み骨髄にいつまでも不評などないのだ。
より端的に言えば、どうでもいい。それに尽きる。数ヶ月が経ち、春の甲子園も決まった今となっては話題にさえならない。
つまり恨み骨髄にいつまでも不満を持っているのは学校側なのだろう。あるいはあの同窓会長あたりが文句を言っているのかもしれない。
全国区の大会出場ということなら、吹奏楽部もだが知名度の有無ということなのだろう。
あたしは僅か十五分だけの吹奏楽部の演奏を少しだけ悔しい気持ちで聴き、逆に棚からぼた餅ではないけれど十分な時間を得た軽音楽部や有志の演奏をぼんやりと眺めた。
さて、吹奏楽部も屋台を開いている。
あたしはあまり目に止まらないように、混雑している中を狙って顔を出した。
アッちゃんは奥で真剣な顔で鍋をかき混ぜている。
なぜおでんの屋台にしたのかはまるで分からないけれど、とりあえず美味しかった。
◇
初めての全国大会でアッちゃん達は楽しそうに演奏を終えた。
全国レベルの中ではやはり決して高い評価を得ることは出来なかったけれど、全てを出し切ったと微笑むアッちゃんを見ていると何も言うことはなかった。
だから一足早く帰ったあたしは、武司家の台所を拝借してお祝いの料理で迎えることにしたのだった。
◇
そして春。
甲子園だが、カッちゃんは優勝した。
今回は応援席で演奏した吹奏楽部に、同道会長が偉そうに「どうだ、こんな素晴らしい栄誉を与えてくれた野球部に感謝しろ」とか言い出していた。
苦笑する顧問の先生は、静かに撤収を呼びかけた。
それからは連日お隣と、そして『南ちゃん』に取材の人が訪れる。
例の漫画を思わせる二人と、そして兄。
余り物の妹であるあたしは、なるべく目立たないようにしていた。
季節は春。
全てが明るく輝くようなその中を、あたしはひっそりと過ごしたのだった。
>>298 乙です。
今回は無難な流れかな? 淡々として感じたけど、結局どう纏まるのが気になるぜ
>>298 お待ちしておりました
次回楽しみにしてます
メリークリスマス。
雪が降るという天気予報を聞いてむしゃくしゃして書いた。今は反省している。
ほとり歳時記 三期目
02-04.5 AKA
受験生の冬はどう足掻いてももう勉強以外にありえない訳で、街が赤と緑と白に彩られ、目に痛い程の電飾をまとって煌くこの日も例外ではない訳で。
「で、ここにさっき出した数値を入れて……」
目の前ではごく真面目な顔つきで、俺に数学を教えている恋人《ほとり》が居てもそれは変わらない訳で。
「…………修、聞いてる?」
「お、おう。お姫様可哀そうだな」
ヨヨヨ、と涙を拭くふりをしてみせると、ほとりの教科書が縦で頭に落ちてくる。
「あた」
別に痛くはない。ないが、一応言ってみると、ほとりはやれやれと苦笑している。
「もっかい初めっからやる?」
「や、大丈夫。聞いてたから」
聞いてはいる。頭に入っているかはまあ、さておき。
ほとりは先ほどまでと同じように参考書片手に、何らかの数字とアルファベットを語り始める。
花が綻ぶような淡い色合いの唇が滑らかに動いて言葉を紡ぐ。
淡雪の頬は、暖房のせいなのだろう桜色に僅かに上気している。
自慢の黒髪は、今は簡単に後ろで一つに束ねている。
けれど白状するのなら、俺はそんなほとりの油断したような姿を見るのが、結構好きだったりする。
元から化粧っ気の少ない奴だけど(それは多分俺の好みに合わせてくれているからなのだろうけれど)こうして人前に出ない日は本当に質素に済ませるらしい。
眉も軽く調える程度で済ませていて、それでもこれだけ美人なんだから神様というのは不公平だなあ、とか思ったりもする。
「修? ちょっと……疲れてる?」
「ん?」
疲れていると言えばもちろんそうだが、実の所ほとりにこうして勉強を教えてもらうのは楽しい。
や、より正確には静かに考え込んだり、難しい問題が解けて頬を緩ませたり、真面目にやらない俺を睨んだり……そういったほとりの表情を見ているのが楽しいのだ。
「疲れてはないけどさ……そうだほとり、垢抜けるってどういうことか知ってるか?」
「どうしたの? 急に……ん、垢抜けるってアレでしょ? 洗練されているとかそういうニュアンスの」
「そ、どうして『垢抜ける』なんて表現になったか……まあ、語源か由来な」
「垢って言うくらいだからお風呂とか関係あるのかな?」
ほとりはしばらく考えてから、そんな風に答える。まあ、ほとりが考える顔を見たくてそんなことを尋ねただけなのだが。
「二つ説があるんだ。一つ目は『灰汁』野菜なんかのアレな。ちゃんと灰汁抜きしないと煮炊きは旨くならないだろ?」
「ああ。灰汁があかになまったとかそんな理由?」
「そう。後もう一つはそのものずばり『垢』、垢が取れて綺麗さっぱりした様子のこと」
「じゃあお風呂であってるんじゃない」
「そだよ」
ほとりはしたり顔で偉そうにふんと胸を張った。
「江戸娘はみんな磨きをかけた素肌にごく薄い白粉と口紅だけで勝負したんだとさ」
「薄化粧だったってこと?」
「そ、ベタベタ塗りたくるっていうのは野暮の極みな」
そっと手を伸ばす。化粧っ気の薄い頬。指でなぞる水蜜桃の唇にそっと乗せられたルージュは咲き初めの薔薇。
「だからそれが垢抜けるってこと。本物はさ、小賢しくベタベタ何でもかんでも顔に塗りたくらなくても良いってこと」
居心地悪そうなほとりの仕草は、照れ隠しだ。ようやく何を言いたいのかが分かったらしい。
「あのさ、修―――」
「垢抜けた美人と今日一緒で、嬉しいよほとり」
「……バカ」
このところ毎日の様にほとりに付きっ切りで勉強を見てもらっていて、なかなか隙がなくて大変だったけれど。それでもどうにか間に合わせたプレゼントをポケットから取り出した。
本物の美人に相応しいような赤い色をした、ルージュを一つ。
今回ここまで
__________
<○√
‖
くく
しまった! これは糞SSだ!
オレが止めているうちに他スレへ逃げろ!
早く! 早く! オレに構わず逃げろ!
クリスマスだってのに、無茶しやがって……
>>304 お待ちしておりました。
こちらも続き楽しみにしております
さて、私も支えるのを手伝わせていただきますよ…
あんただけに、いいカッコさせねぇぜ…!
俺も一人身さ(家族はいるけど)
俺も最愛の幼なじみとクリスマスを二人きりで過ごしたかった・・・
他の男といるかもしれないと思うととても胸が裂けそう・・・
3歳の時点で幼なじみに振られた俺に隙はなかった
……今頃、子供2人くらいのお母さんかな、あの子も
>>304 相変わらずラブラブでGJです。
ちゃんといつも綺麗にしているほとりさんも、それを褒められる修くんも幸せ者ですね。
間を開かずの投下になってしまいすみません…時事ネタということで、御寛恕を。
前スレ551の手をちゅっちゅする桜子姉ちゃんの話のクリスマス番外編です。
『クリスマスはどうしますか?』(12月6日)
午後六時の暗い駅舎に、冬の風がうなっている。
しゅうと息をあげて閉じたドアの向こうを眺めながら、私は乗ってきた学生たちをちらと見遣った。
電車通学が多い東北地方のこの季節。
帰りの電車は雪を避けて、学校帰りの中高生がにぎやかだ。
同じ制服を着て色気なくはしゃいでいたのが昨日のことのよう。
スーツを着るのにもお化粧にも慣れて、社会人三年目の後半だなんて時が経つのはあっという間だな、なんてことを思う。
師走を迎えて、眼の前の高校生たちは参考書片手に、雑談の中身もセンター試験一色だ。
そう、十二月なのだ。
もやもやして息をつく。
あぁ年賀状どうしよう。
甥っ子のお年玉がお財布にきつい。
コートがほつれてきたから新しいのを買いたいけどボーナスが減っちゃった。
……てっちゃんへのプレゼント、用意しなきゃダメかなぁ。
ガタンガタンとレールの継ぎ目を揺れながら、暗い夜空を煙る窓が映していた。
冬の電車は少し暑い。
「桜子」
「………ぁ。え、何?」
脇から心配そうに呼ばれて、はっと我にかえった。
付き合っている年下の大学生が、携帯ラジオのイヤホンを片方外して、私を見ている。
自然に寄せあう距離は近い。
……距離が変わったなぁ、と意識する。
一年前までは確かに姉と弟だったのだけれど。
仕事帰りの私と、茶色い髪の大学生は、周りからどう見えているんだろうなんて時々思う。
「何溜息ついてんだよ。だいじょぶか」
「んーちょっと…、ね、てっちゃんはクリスマス」
「おい、外でその呼び方しない」
「ごめんごめん」
隣で吊革を握る幼馴染を含み笑いでそっと見上げる。
「えっと、でね。徹哉はクリスマスどうしたい?」
「どうって?」
「何かしなきゃダメかなぁ」
「………」
てっちゃんが情けなく呻き、みるみるうちに落ち込んだ。
どうやら色々考えていてくれたらしい。
慌てて半分ホントのフォローを入れる。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
「あ、あのね、そういう意味じゃなくって。えっと」
もちろんお財布痛いなぁとか思っていたのも本当なのだけれど、
それを言ったらきっと立ち直れなくなりそうなのでこれまた秘密にしておく。
いやそのだって、友達や後輩ちゃんに聞いたところの、
「彼氏へのクリスマスプレゼント」の相場って妙におかしいのだ。
桁がひとつ違っていたりしないんだろうか。
もしアレが常識なら、てっちゃんの周りの学生さん達はどうしてるのかなぁ比べられちゃうかなぁ社会人なのに等々、
悩むほどにクリスマス自体が面倒くさくなってきてしまったというか。
変にその「相場」に合わせて、まだ学生のてっちゃんに気後れさせちゃうのも申し訳ないというか。
そう、それに…一応、半分くらいはちゃんとした理由もある。
「えっとね、ほら。お母さん達が今年もケーキ注文しちゃってたりするでしょ? だから、聞いてから用事入れないと」
「あー……やっべ。それ忘れてた」
そう。
私のうちもてっちゃんのうちも母子家庭で。
贅沢できないけどクリスマスくらいはホールケーキを食べたいし、でも天城家は母娘二人で、石川家は母と兄弟の三人暮らし。
両家が仲良しで、それぞれホールケーキを頼むにはちょっと少人数すぎる…となれば、当然、道はひとつ。
――ケーキの共同購入である。
その日ばかりは節約家のお母さんたちが奮発して、割と良いところのクリスマスケーキを予約する。
もちろん夜は洋風料理が出るし、チェーン店のフライドチキンパックとかも用意される。
303号室と403号室を毎年交互に飾り付けて、ツリーを並べて、小さい頃はちょっとした大イベントだった。
そんなわけで、両家合同のささやかなクリスマスパーティーは、
公営住宅に越してきたばかりのころからずうっと続く家庭内行事なのだ。
大きくなって飾り付けなんかはもうやらなくなったけれど、ちょっと豪華な食事会は今でも毎年続いている。
まぁ徹君は彼女が出来たとか言ってここ数年来ないのだけど。
そんなわけで、クリスマスの夜に出掛けるというのは、私とてっちゃんにとっては、それなりに大問題なのである。
母親に文句を言われつつ豪華ディナーとケーキを食いはぐれるか、二人で過ごすのを別の機会にまわすか。
ケーキかデートか、それが問題だ。
***
「っていうかね。あのね。プレゼントなんだけどね」
てっちゃんの部屋で、インスタントコーヒーにスナック菓子を食べつつ協議する。
某量販店のフリースにジャージと、我ながら好きな男の子と一緒いにいる格好ではないのだけれど、
(だっててっちゃんだしなぁ)という気持ちの方が勝ってしまい、結局いつものスタイルだ。
『あんたそんなんだから彼氏できなかったのよ大事にしなさいよ』と
母親にも友達にも言われるのだから、きっと相当ひどいのだろう。
ごめんねてっちゃん、と心の中で謝りつつも、小さい頃からいつもこの格好で一緒にうだうだしていたのに、今さら格好つけても仕方がないとも思うのだ。
でも…その、昔はローテーブルに向かい合って話していたところを、
今では隣に座って肩を触れ合わせているところが、やっぱり違うかもしれない。
ともかく、悩んでいるのも私らしくないので、この際だからぶっちゃける。
「プレゼント。クリスマスの」
「うん?」
「お金があんまりないんだけど、マフラーとか編んだら多分失敗する気がするの」
「………え、あ。……あぁ、そう」
てっちゃんは数秒、私を凝視して、それから困ったように頭をかいた。
あちこち押し入れや本棚を眺めたりして、眼を逸らしながらぼそりと呟く。
「別にいいよ、無理しねぇで」
「失敗したマフラーでも良いの?」
「いやそうじゃ、……っていうか何で失敗するの前提なんだよ」
「えーだって。てっちゃん、私が編み物出来ると思う?」
「思わねぇ」
一瞬の間もなく即断された。
ひどい。
……分かってるけれど、それはそれでちょっと悔しい。
むっとしている私を見てからまた眼を逸らし、しばらく沈黙した後に。
てっちゃんは持っていた珈琲カップを机に置いた。
それを目で追う間に、慣れた骨と指の感触が左手の指の付け根に触れてきた。
左手首を握られて、身体の芯がひくと怯える。
「ぁ、あの……てっちゃん?」
「桜子、命令」
そのまま、手首を握られて左手を持ち上げられて、一度だけ手の甲にキスされる。
――初めてこうされた時から、私の手は、てっちゃんのものだと決まっていて。
私の手はてっちゃんのものなので、言われたらその通りにしなくてはいけないのだ。
時折、こうして手首を握られてキスされて、それからささやかな命令をされる。
主に橋の下でさせられたようなことや、ひたすら手を弄られている間に口を塞ぐなとか、そういうことだ。
年下の幼馴染に、いつも背中をついてきた弟分の筈なのに、何故だかこうされると抵抗が出来ない。
下を向いて、左手から力を抜いて目を瞑り、命令を待つ。
だいじょうぶ。
今日みたいに、おばさんが隣にいるときは、そう滅多な命令はされない、……はずだ。
「桜子」
「……は、い」
薄眼を開けて床に視線を落とす。
あれから夏も秋も、何度もあったことなのに、命令を待つだけで、緊張する。
「両手に命令」
「………っ、はい」
「下手でも、失敗してもいいから。不器用な手だって分かってるけど。どんなでも許すから、マフラー編んで、俺にくれよ」
耳に命令が沁みとおるまでには、たっぷり数秒の、間があった。
は………、う、ええ!?
「え、ええええぇ、え」
顔が熱い。
漏れた声が震える。
て、てっちゃん何言ってんのは、は……恥ずかしい。
そういうの、そういうの恥ずかしいから!
じょ、冗談だったのに手作りのマフラーとかちょっと、冗談だったんだってば、だからそのまさか。
私が作ったらどういうことになるかくらい知ってる筈なのに、ずっと一緒にいたのに、
それでも私の手作りの何かを欲しがるだなんて予想の範囲外もいいところだ。
「っ、う、あ……でも、失敗するかも、ていうか!そのっ、今からじゃクリスマスまで、間に合わないか、も……」
「失敗は良いって言ったろ。間に合わない時は罰ゲーム」
「う、ええぇ、罰ゲームってな、何」
「ん。今から考える。どうすっかな」
時計の音がチクチクと耳を刺す。
おばさんが見ているお笑いテレビがどっと歓声を遠く、扉向こうであげている。
「桜子、この前俺の押入れ勝手に開けてエロ本捨てたろ」
「……あ、あはは、なんのこと?」
「今までは黙認してたのに酷くね?傷付いたぞアレ」
捨てましたすみません。
うん、ちょっとした喧嘩の腹いせに確かにそんなことをしたような。
……やっぱりちょっとやりすぎだったかもしれない。
「ごめん。…う、まさか罰ゲームで買ってこいとか言わないよね」
「まさか」
てっちゃんが、実に意地悪そうに、私の手にもう一度くちづけをしてから、口の端で笑った。
「俺が新しいの買ってくるから全ページ俺の前でめくって読む」
「ええええーーー!? さ、サイテー!てっちゃん最っ低、変態!!!」
「こ、声大きい!!」
焦って口を塞がれる。
確かに大きかったと反省して、少し声を押さえながら抗議する。
「ばかっ。ナシ、それなし。絶対だめ!」
「別に、桜子が頑張ればいいんだろ?どんなに失敗してても完成すればいいじゃん」
「てっちゃんいつからそんな意地悪になったの? ひどい。いいよもう、クリスマスはうちで夕ご飯とケーキ食べるから。デートとか絶対しないから」
「ええ、ちょ、ちょっと待」
「てっちゃんの命令聞くのは手だけでしょー。足がどこに行くかは私の勝手でしょ? 知らないからね」
「っていうか、だから、なんで最初から完成できないって前提なんだよ、諦め早すぎるだろ!」
「だって無理じゃない!」
どんどん喧嘩が不毛になる。
なんだかんだとくだらないやり取りをして拗ねたり怒ったりしながら。
去年の今頃は、てっちゃんの大学受験のやる気がどうのこうので怒っていたことを考えると、ずいぶん平和だなぁと不意におかしくなった。
グダグダになって、頭を冷やして仕切り直しと外階段に出てみると、空が白くて雪がパラついていた。
ともあれ、どんな予定になるとしても。
今年も、303号室の幼馴染の少年の隣でクリスマスを過ごすことだけは、変わらず決定しているのだった。
おわり
ではではメリークリスマス!ノシ
>>315 ほおお…GJ!!
ほのぼのした感じがすごく良かった!
ありがとうです。
そしてなぜか目から汁がでてきたよ
>>315 ごく個人的な話。
私も少し年上の幼馴染みの姉さんに「てっちゃん」と呼ばれていたのでした。
……このシリーズ、すなわち俺得。
個人的な思い入れも込みで、激しくGJ
320 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/29(木) 01:40:15.38 ID:GlWUr2NI
幼馴染みを看病
男が女を?
322 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/29(木) 21:05:26.01 ID:MFTOL9a+
女が男を?
どちらでもいけます
女x女のほうが見てて楽しいかも
体拭いたりとかも同性の方が遠慮や抵抗が無いので異性とはまた違った趣が
そういや幼馴染百合って投下されたことあるのかな。
百合は百合スレあるからねぇ。
でも保管庫に一作連載あった気がする
年内にどうにか間に合った……このタイトルで年明けは出来なかったので、今からです。
stadium/upbeat
最終話。是非お願いします。
stadium/upbeat
04. 歓喜の歌 〜ベートーベン交響曲第九番第四楽章〜
この捻くれ者な性分は小さい頃からで、今思えば下らないことで両親やお姉ちゃんと喧嘩してはむくれて家出をした。
とはいえそこは小さい子供のすること、家出先なんてせいぜい橋の下や公園のベンチ、学校の倉庫が関の山だったが。
友達の家に逃げ込まなかったのは、子供なりの意地だったのだろうと思う。
恐らくは子供なりに甘えていたのだろう。愛されているか試していたのだろう。捻くれ者のやり方で。
もっとも、そんな愛情確認にウチの家族は律儀に応えてくれていたのだから、我ながら、そして今更ながら申し訳なくもあるのだけれど。
なかなか幸せな家庭環境だった私だけれど、それでも小さい頃の家出癖はなかなか抜けなかった。
ただそんな時、いつだって探し当ててくれるのは家族ではなくて隣の家に住むアッちゃんだった。
理由なんて分かっている。わざと家出前に目星をつけていた場所でアッちゃんと遊んだりしていたのだから。
結局、小さい頃から一番甘えた相手は少しだけ年上の、あの男の子だったのだろう。
我ながら……嫌な子供だった。
◇
春の甲子園優勝。
夏の敗戦から一転のドラマチックな成功劇は、マスコミ受けがかなり良かったらしい。
最近の風潮か、カッちゃんも王子様なんて呼ばれている。
何王子だか知らないが、連日の様に隣の家にはマスコミ関係者が詰め寄る。そこには得意そうなお姉ちゃんの顔もあるのだった。
誰もが口々にカッちゃんの活躍を讃えて歓声を上げる。
そんな狂乱も少しだけ落ち着いた春の終わり、あたしが縁側に腰掛けてぼんやり空を眺めているとお姉ちゃんが現れた。
見上げた空には青く輝く一際明るい星明り。あれは確か乙女座のスピカだったか。
鮮やかな橙色に輝くアークトゥルス、そしてデネボラを結ぶ線を春の大三角と呼ぶ。さて、何で読み齧った知識だっけ。
どうでもいいことを考えて、姉のかまって欲しそうな視線を無視する。
あれがスピカ、アークトゥルス、デネボラ……ちょっと語呂が悪いなあ。なんて思っていると、隣のお姉ちゃんがおずおずと口を開いた。
「カッちゃん、凄かったよ」
視線を空から地上に。
隣に見慣れた姉の、珍しく冷めた表情がそこにあった。
妹のあたしが言うのも何だけれど、お姉ちゃんの可愛さはちょっと半端じゃない。
肩の辺りまでで揺れる甘く艶やかな黒髪。
処女雪めいた白磁に透き通った肌。
鮮やかに輝く黒真珠めいた瞳。
小ぶりな鼻や柔らかな頬、凛と整った眉。
いかにも少女らしい瑞々しさで桜色をしている唇。
触れれば解けそうな程危うくも愛らしい首の線や、痛々しいほどに可憐な肩。
まだいたいけでありながらも女を主張する甘やかな胸は品良く曲線を描き、驚くほど細身の可憐な腰へと続く。
すらりと嫌味なく伸びる足も、羨ましいほどの艶やかなバランスをしている。
身内びいきなしに。妹のあたしが言うのも何だけれど。ウチのお姉ちゃんの可愛らしさは本当に半端ない。
そんじょそこらのアイドルくらいになら、勝ってしまいかねないくらいの。
これで成績良いわ、運動神経も良いわ、料理上手いわ、ピアノなんかも弾けたりして、出来ないことの方を探す方が難しいくらい。
「甲子園、凄かったでしょ」
「……そうだね」
あたしはアルプススタンドの後ろの方で、揺れるアッちゃんの後姿をずっと眺めていただけだったのだが。
何となく足が向かなかったあたしは基本的にずっと留守番をしていた。
決勝戦にまで勝ち進み、興奮した親に引きずられる形であたしは甲子園に向かったのだった。
白状すればそれまでロクに応援してこなかったあたしには、あの時一緒になって優勝の喜びを分かち合う資格はないと思っている。
そこまで厚顔無恥なわけがない。
あたしの微妙そうな顔に気付いたのだろう、お姉ちゃんの顔から表情が消える。
いつも朗らかで、いわゆる『愛されキャラ』で通していて、口も達者な姉だった。その姉の整った目鼻立ちから愛想が抜け落ちると、ひどく冷たい顔が残っていた。
「千恵ちゃん……」
「……何?」
多分、可愛さの度合いが落ちるだけで、あたしも同じ表情をしているのだと思った。
姉の不服は感じていた。
そこれそ物心ついた頃から……今日まで。今日までずっと。
何もかもを持って生まれてきた姉だったけれど、それ故の不服。
だからあたしも臨戦態勢を整える。一瞬で整った臨戦態勢は、いつか来るだろうと思っていたからだ。
けれど、冷たい顔のままお姉ちゃんは頭を下げた。
「ありがとう」
「…………何が」
さすがに拍子抜けした。あたしがお姉ちゃんにお礼を言われることなど思い当たらない。
「夏の後でね」
「ああ」
カッちゃんの尻を叩いてグラウンドに追い立てた時のことであるらしかった。
僅かに緊張感を残して、お姉ちゃんは顔を上げる。
「南がどんなに励ましても、カッちゃんは元気にならなかったから」
「……あの時のカッちゃんには、励ますよりも尻を蹴った方が早いと思っただけだよ」
どうということのない、下らない出来事だった。
エースだかトップだか知らないが、いじいじと引きこもっているのを見ているのが腹立たしかったから。
より正確に言うのなら、カッちゃんよりもずっと負けが多いアッちゃんが、どんな結果を受けても……それでもにっこり笑って歌い続けたあの姿が……
「だって、あんなの負けたウチに入らないし。それに、カッちゃんが野球嫌いな訳がないんだから。それだけはあたしにさえ分かるような簡単なことだったよ」
目に、焼きついていたから。あんな結果でもう引きこもる弟の諦めの良さが、癇に障ったのだ。
「…………アレは負けだよ」
「うん、試合はね」
「千恵ちゃんは……分かってないよ」
「だろうね」
すっくと立ち上がるお姉ちゃんの顔は、逆光で見えない。
見えなくて良かったと思う。
迂闊だったと、今ようやく気付いた。
あたしは姉をこてんぱんにやっつけてしまったのだった。
今まであたしに負けたことなんてただの一度もない、無敵のお姉ちゃんを―――
◇
あたしたちの高校二年の夏は、去年の繰り返しであるかのようだった。
野球部は順当に勝ち続け、昨夏の雪辱をと周りは更に興奮する。
周囲は期待をかけ、カッちゃん達はそれに当たり前の様に応えて更に強くなっていく。
そして夏休み。
その最初の週末……何の因果か、また第四試合だった。
相手校は右腕本格派と左腕の変化球投手の二枚看板が売りの守りのチーム。
周囲の予想通り長い長い投手戦となったその試合が終わったのは午後六時。
吹奏楽部の定期演奏会の開演時間と同じで、あたしはまた応援に熱狂している家族を尻目にアッちゃんの方へと向かったのだった。
◇
思わず
「おひさしぶり」
なんて言ってしまった。
開演前の雰囲気へ、あたしは感謝したのだった。言葉には出来ないけれど、色々なことへ。
高校ながら昨年あちこちの大会でなかなかの成績をおさめ、マーチングのみならず全国区の音楽祭に招待される程の団体の定期演奏会だけあり、相変わらずの混みようだった。
そんな客席の騒々しさと対照的に、微動だにしない緞帳の重圧がひどく楽しい。
そう、これから楽しいことが起きる。
その予感に、あたしの心は柄もなく浮き足立っている。
「今年のも会心の出来だよー」
昨日帰ってきたアッちゃんは、待っていたあたしにそっとそう耳打ちしてくれたのだった。
渡されたチケットは今年は一枚。
捨てられることのない、大事な一枚。
アッちゃんが自分たちの演奏を聴いて欲しいと思ったのはあたしだけだった。
少しだけ誇らしくて、でもやっぱりちょっと寂しい。
一応アッちゃんの身内が来てないか観客席を見回して……そして誰も居ないことを確認してから、落胆とも安堵ともつかないため息を一つついた。
満員の観客席に開演を知らせるブザーが鳴り響き、照明が落ちる。
それだけで騒々しかった周りが静まり返る。
緞帳がゆっくりと開いて、僅かに舞台の光が広がっていく。
光と共に溢れてくる音。
まずはご挨拶代わりとばかりに聞こえてくるのは耳に馴染んだ我が校の校歌だ。
期待と羨望のこもった拍手の中を指揮者がゆっくりと歩いていく。
見慣れたただの音楽の先生が、今この時はまるで別人だ。
右手が上がる。
ただそれだけで全てを制して、そして目の前の演者達に……観客に緊張が走る。
今年の一曲目はやはり恒例、コンクール用の演奏だ。
今年の課題曲は和風のメロディが取り入れられているらしい。
技術は当然のことながら、タイトル通りのイメージを聞き手に与えられるかどうかの演技力が問われる一曲であるらしい。
アッちゃんはご飯の時まで体を揺らしてイメージの構築に没頭していた。一緒に屋上でお弁当を食べていて、何を話しても上の空だった。
正直もう少しあたしの相手もして欲しかったのだけれど、真剣な顔で楽譜を見つめる姿が……ん、こういうことを言うのはあたしのキャラクターじゃないのだけれど。
そう……とても格好良かった。
あたしの幼なじみの、ちょっとだけ年上の男の子は……格好良いのだ。
弟よりも小柄な背丈も、照れたような恥ずかっているような曖昧な笑みも、子供の頃から変わらない泣き虫な所も。
そしてちょっとだけ優柔不断な態度も、時折掛けてくれる優しい言葉も……みんな、あたしの大切な宝物だ。
けれどそんな大切な宝物は、全て過去へ押しやられていく。
今あたしの目の前で舞台にかけているアッちゃんは、それまでの想い出のどれよりも格好良くて、それだけでドキドキする。
クラリネットが、フルートが煌びやかに音を刻む中を重厚に進むメインメロディー。そしてトロンボーンが、アッちゃんが歌う。
裏拍を踏んで始まったその音は、やがて激しく、大きくうねり終局へとなだれ込んでいく。
そして静かに終わりの一節が響いてから、溶けていった。
一瞬遅れて生まれる拍手は、観客を飲み込むほどの演奏の証だ。だからこそ割れるような拍手が起きる。
そしてその中を再び指揮者の右手が舞い上がる。
ただそれだけで観客もまた静まり返る。
続いて始まるのは壮大で華やかなメインメロディーが特徴的な曲。幾重にも幾重にも、華麗な衣装のようなメロディーのリフレイン。
軽快に響く木管の音色を纏って、これでもかとばかりに歌われる主題は凄艶な金管の声。
時に重々しく、時に華美に、時に鮮やかに―――。
そのタイトル通りの華々しさや品格なんかをいかに出せるかが勝負だと思っている。そう言ったアッちゃんだったけれど、あたしの心はとっくに奪われている。
どんなに言葉を重ねたって、この歌の華麗さには敵わないように思えた。
◇
全てが昨年よりも上回っていた。
あたしは終始アッちゃん達の舞台に振り回されて、揺さぶられて、終わった時にはすっかりぼんやりとしてしまっていた。
気が付くとどうやら無事に家には辿り着いていたようだ。
去年と同じようにお姉ちゃんがスコアを見ている。
あたしは努めて素っ気無い顔を作ってからお姉ちゃんの前を通り過ぎる。
「ただいま」
「……お帰り、どうだった」
「え?」
「え、って……アッちゃんの演奏会よ」
振り返ると、お姉ちゃんが笑みを張り付かせてこちらを見据えていた。
「……ん、あたし音痴だから、よく分からなかったよ」
「嘘」
「嘘ったって……あー、それよりカッちゃんの方は?」
「負けるわけないわよ、カッちゃんは頭にバカがつく野球好きなんだから」
まあ、そうかもしれないけれど。それにしてもお姉ちゃんの様子がおかしい。
「ねえ、何かあった?」
「何も。何もないよ」
スコアを置いてお姉ちゃんが立ち上がる。
「それよりアッちゃんは」
「今日は帰ってこないんじゃない? 片付けやら何やらで忙しいらしいし」
「ねえ千恵ちゃん……南はね、甲子園に連れて行ってもらって……そうしたらどうすればいいんだろうね」
「知らないわよ、そんなこと」
またつまらないことを。そう思ったけれど、お姉ちゃんは何だか寂しそうに、自虐的に笑って
「だよね、千恵ちゃんには分からないよね」
と言い捨てて部屋に向かう。
あたしは、そんな何かに負けたようなお姉ちゃんの背中がひどく痛々しくて、どうすればいいのか分からず……ただ見送った。
付け足すと、数日後の決勝戦も無事に終了。我が校は二年連続の夏の甲子園出場を決めた。
◇
さすがに二年連続でそんなことはないらしい。
カッちゃんの夏の甲子園第一試合は二日目、木曜日。
アッちゃんのコンクールにはまるで関係のない日程で、あたしは密かに胸を撫で下ろす。
あたし自信はどうでもいいのだけれど、これ以上アッちゃん達が悪者になるのは耐えられない。
甲子園でアッちゃん達は歌う。
それまで練習して積み上げ、磨いてきた音を犠牲にして。
繊細に調えてきたものを、乱雑に扱われるのにもただ黙して。
あたしは居た貯まれず、甲子園に行くことも出来ず、テレビでさえ見ることが出来なかった。
密かに祈る。
どうか、早くアッちゃん達が帰ってきて、自分達の練習に戻れますように、と。
それはつまりカッちゃんに負けろと言っている訳で……あたしはそんな風に祈る自分の性悪さに、吐き気さえ覚えるのだった。
◇
連戦をカッちゃんは乗り越えていく。
全国から集り、勝利を求める相手校を見事に制して……今大会最高の投手とさえ言われている。
そして決勝戦……ついに優勝の掛かった大一番にたどりついた。
八月第三日曜日。
決戦は応援に向かう父兄には絶好の日程で……応援に向かう吹奏楽部には、最悪の日程だった。
◇
八月第三日曜日。
吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール支部大会。
またしても応援を優先しろを言う同窓会や学校を振り切り、アッちゃん達は自分達の舞台へと向かう。
あたしに言わせればそれまで自分達の練習時間や音楽を全部犠牲にしてきたのに、それでもまだ不満があるというのかというところだが。
大人はそうはいかないらしい。
甲子園、決勝戦。
それに比べれば、吹奏楽部の目標など下らないのだろう。
一応コンクールに参加しない部員やOB等で応援団は結成され、ただ音を鳴らすだけなら十分な人数が用意されている。
それでもダメであるらしい。
あの同窓会の偉い人が、また音楽室に乗り込んで騒いだらしい。もちろん校長や教頭なんかも。
「アッちゃん……それでも行くよね?」
「……行く。俺達は応援団じゃない……吹奏楽部なんだから」
「うん!」
帰ってきたアッちゃんは、待っていたあたしにそう言ってくれた。何もできないあたしだったけれど、それでもただ嬉しかった。
◇
カッちゃんはまた優勝した。
テレビや新聞や大人が大騒ぎしていた。
◇
周囲の反対を振り切って、それでも続けた練習は無駄じゃなかった。
支部大会での演奏は、どの団体のそれよりも素晴らしい出来だった。少なくともあたしにはそう聴こえた。
結果発表のあの瞬間、沸き立つアッちゃん達を遠目に見たあたしも泣きたくなるほど嬉しかった。
いっぱい、いっぱい我慢を続けて。
色んなモノを犠牲にして。
色んなモノを奪われて。
それでも歌い続けたアッちゃん達の、ようやく手にした栄光だった。
カッちゃん達のソレが世間で大騒ぎになる中、アッちゃん達は反感を買ったせいかあまり喜んだりは出来なかったようだけれど。
けれど、訳を知る人だけは心から精一杯の祝福を贈ったのだった。
おめでとう、アッちゃん。
◇
「千恵ちゃん……やったよ」
帰ってきたアッちゃんは、満面の笑みであたしの所に来てくれた。
だからあたしも、めいっぱいの笑顔で出迎える。
「うん、聴いてた。凄かった。泣きそうになった」
「あははは、うん……うん」
もうそれだけでアッちゃんはちょっと涙目になっている。
「ほら、嬉しい日なんだから、そんな泣かないでよ。本当に、アッちゃんはいつまで経っても泣き虫なんだから」
「そんなことないよ。俺、千恵ちゃんよりも年上なんだよ」
「それでも、体はあたしよりもずっとおっきくなっても……それでも」
「ん……あのさ、普門館にさ……聴きに来て欲しい。俺、精一杯やるから、聴いて欲しい」
「うん、絶対に行く」
小さな頃から捻くれ者だったあたしを、いつも気にしてくれていた男の子がやっとの思いで手にしたもの。
それをあたしに聴かせてくれる。
あたしにも分けてくれる。
その栄誉に、あたしは感謝と歓喜で胸を高鳴らせるのだった。
◇
十月第三日曜。
また反感を買い、色々あったけれど……無事にこの日を迎えられた。
全日本吹奏楽コンクール高校の部。
このチケットは実はかなり入手困難なのだった。大手プレイガイドで販売されているものの、あたしが手に入れられたのは本当にラッキーなだけでもあった。
アッちゃんは「いっそ吹奏楽部に入ってくっ付いておいでよ」なんて言ってくれたけど、それはしてはいけないことの様に思えた。
あたしはあくまで『一観客』なのだ。その辺りは弁えている。
けれど、そうまで言ってもらえることが誇らしく、嬉しかった。
ドキドキしながらその日を迎えて、家を後にすると
「遅かったね、千恵ちゃん」
駅でお姉ちゃんと鉢合わせた。
「? 遅かったって……何が?」
「もう、今日アッちゃんの演奏会なんでしょ、何か凄いの」
「ッ!! お姉ちゃん!!」
道行く人の誰もが振り返るような美少女ぶりで、目敏い人は「アレ、『南ちゃん』じゃね」なんて言うほどの目立ちぶりで。
そんなお姉ちゃんが嬉々として振っているのは、全日本吹奏楽コンクールのチケットだった。
「嘘」
「嘘じゃないよ、南必死に頑張ったけど取れなくてね。色んな人に頼んでようやく手に入ったんだ。じゃあ行こっか、アッちゃんの本気の歌を聞けるんでしょ?」
「…………嘘」
お姉ちゃんに手を引かれて、あたしは改札を抜けた。
そこから普門館への道のりは、正直まったく憶えていない。
楽器の搬入をしているらしいアッちゃん達を見つけたらしいお姉ちゃんは、何の躊躇いもなくその中へずんずんと進んでいく。
アッちゃんはそんなあたし達をみつけるときょとんとして、そうしてから笑みを浮かべてみせた。
「え……っと、来たんだ」
曖昧な笑みは、戸惑いからだ。
あたしは泣きたくなるのを必死に堪える。
お姉ちゃんは愛想良く激励の言葉なんかを掛けているが、あたしには無理だ。顔を上げることも出来そうにない。
頭の上でお姉ちゃんが
「この子は昔から捻くれ者だから」
なんて言っているのが聞こえる。それも間違いじゃないから、あたしは俯いてただひたすらに耐えた。
全てが、メチャクチャに壊された気分になる。
初めはあたし以外のアッちゃんの家族や知り合いに来てもらいたいと……そう思っていたのに。
どうして今頃こうなったのか。
上機嫌なお姉ちゃんは観客席でも隣で、あたしは何くれとなく話しかけられて辟易とする。
ようやく巡ってきたアッちゃん達の演奏も、どことはなく落ち着いて聴けなかったのだった。
初出場にして銀賞なら、上出来ではないかとあたしは思う。
けれどお姉ちゃんはそうは思わないようだった。
「ダメだったねー」
なんて吹奏楽部の中から目敏くアッちゃんを見つけたお姉ちゃんは声を掛けていて、あたしは死ぬ程恥ずかしい気持ちになった。
◇
それから一週間。
甲子園の決勝戦を蹴ってまで自分達の都合を優先した吹奏楽部は全国大会で銀賞。
そんな評価に皆が冷ややかな目を向ける中……不意にテレビの取材が申し込まれた。
野球部ではなく、吹奏楽部に。
どこかの大きなテレビ局が全国の中高生の吹奏楽部を取材して回っているコーナーであるらしく、甲子園で優勝した高校が普門館に出たのが気を引いたらしい。
あたしでも知ってるようなバラエティの番組のコーナーの取材は、現金な大人達の対応をひっくり返すのには十分だったらしい。
あっという間に吹奏楽部は『我が校の誇り』とやらに祭り上げられ、校長以下教職員は諸手を上げて取材クルーを大歓迎。
地元のローカル雑誌やら新聞やらがそのおこぼれに預かろうと列をなす様は呆れるのを通り越して笑えた。
その吹奏楽部といえば、野球部の天才エースの兄が居る。
こんな美味しい材料をマスコミが見逃すはずもなく、お隣の南ちゃんともども再びあれこれと騒がしくなるのだった。
数日後、アッちゃんまで何やら王子様扱いされ、お姉ちゃんとカッちゃんの三人で撮った写真を載せた雑誌が家に届いていた。
あんた達にも話を聞きたいって言ってるから。
勝手に取材を了承した母にそう言われた夜、あたしは耐えかねて家を飛び出した。
理由なんて言葉にならない。
とにかく腹立たしくて、悔しくて、泣きたくて……あたしは多分十年ぶりくらいに家出をした。
それなりに用意周到に家出をしていた子供の頃に比べると、何も持たずに飛び出す辺り退化していると言えなくもない。
もうすぐ取材が来ると叫ぶ母の声は聞こえていたけれど、そんなことはどうでも良かった。むしろクソくらえだと言いたかった。
悔しくて、でも何も出来なくて。
あたしはむやみやらに走って、走って、走って……気が付くと小さい頃に良く遊んだ公園に辿り着いた。
どこをどう走ったのやら、我ながらのバカさかげんに乾いた笑いさえ出てしまう。
見上げると星がむやみに綺麗で、何もかもがどうでも良い気分になる。
楽しみにしていた普門館も全部台無しにされて。
ずっと苦労してきたアッちゃん達の評価が、あの程度のことでひっくり返って。
そんな色んなことで、胸がもやもやして、どうしようもなくなって……誰も居ないのを確認してから。
「ちょっとだけ……泣く」
どうしてそんな事を言ったのかなんて分からない。けれどそんな宣言を小さくしてから。
あたしは泣いた。
いつもの指定席だったベンチに腰掛けて、町の灯りの届かない夜の闇の深い中で……誰もいないことに感謝して、すすり泣く。
気の済むまで泣こう。
そう思って居ると、ふと目の前に誰かの足が見えた。
使い古されたスニーカー。
草や泥で汚れたズボン。
慌てていたのだろう、いい加減にベルトからはみ出たカッターシャツ。
羽織っただけの学ラン。
汗だくの顔。
生まれつきのねこっ毛で、すぐにくしゃくしゃになる髪。
その表情は見えないけれど、あたしには直ぐに誰だか分かった。
「あ……あ、ア、ちゃ……」
「千恵ちゃん、探したよ」
「ッ! ぅ、あ……え……え゛ッ、ぇぇ」
小さい頃から何も変わらない言葉と、優しい声で……あたしの手を握ってくれたのは……あたしの大好きな、アッちゃんだった。
だから―――
「ああぁぁッああ゛あぁッ、ッ、ッ……あああぁぁ」
「本当に、千恵ちゃんは」
音楽に携わる人らしい、細く長い指で頭を撫でられて、抱きしめられて……あたしの涙が止まらなくなる。
けれど……先に言わなくてはならないことがあった。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……」
「何を謝る事があるんだよ」
「泣いて……勝手に泣いて、ごめんなさい」
「泣くのに、俺の許可なんて要らないだろ?」
「ッ、う、あああぁぁ、あああああッ」
「ほら、涙」
「だって、だって……だって! 泣くのは大事なことだからって、そう言ってた」
「…………ああ、そうだったな」
良く憶えてるね、そんな子供の聞きかじりで言った台詞を。とアッちゃんは呟く。
一頻り泣いて、もう涙が出尽くした頃、アッちゃんはあたしを抱きしめたまま口を開いた。
「小さい頃の千恵ちゃんは意地っ張りなのに泣き虫でさ」
「…………」
「こうして探し当てた後は、いつも気が済むまで泣いてたっけ」
「嘘、泣き虫なのはアッちゃんの……」
「俺は千恵ちゃんが泣いてばかりいるのにつられてな。どうしても可愛がられやすいお姉ちゃんの影でいつもむくれてた千恵ちゃんは一人で泣いてて」
「そうだったかな」
「俺は女の子が泣いてるのに何も出来ないのが悔しくて泣いてたよ。つられてさ」
ずるい。
好きな人にこんな風に抱きしめられて、そんな事を言われて―――
「だから言ったんだ。意地っ張りな女の子が、泣いてる所を他の人に見せたくなくって。でもまさか今までずっと大切にしてくれてるとは思わなかったよ」
ため息が混じる。
見上げたアッちゃんの目には、あたしのあまり可愛くない……生意気な顔が映っている。
「あんな、子供の言ったことをさ」
「でも、あたしには大事なことだったから」
「うん……だから、ありがとう……かな?」
「ううん……あたしこそ、だよ」
きっと目なんか真っ赤で、そうじゃなくても可愛くなんてないあたしだ。こんな風な初めてなんて、ちょっと癪ではあったけれど。
それでも今じゃないと絶対に嫌だった。
だから、そっと目を閉じて、アッちゃんからしてくれるのを待つのだった。
◇
普門館にテレビ取材。
そういったアレコレで随分伸びてしまったけれど、本来アッちゃん達三年生はとっくに部活を引退して受験に専念していないといけない時期だった。
けれど……それでも最後にもう一度だけ舞台に上がるよ。
アッちゃんはそう言って、チケットを渡してくれた。
いつもの舞台よりも小さい場所だけど、このチケットは本当にごく僅かの人にしか渡してないんだ。
そんな風に言ってくれた。
地元の小さなコンサートホールで今週末に開かれるそのステージの名前は、吹奏楽部臨時演奏会。
サブタイトルに『お世話になった方々へ、感謝を込めて』と書かれていた。
そのチケットは本当にごく僅かの保護者や応援し続けてくれていた地元関係者だけに配られていて、ごく私的な演奏会ということだった。
定期演奏会なら校長や教頭辺りも顔を出すのだが、今回は学校関係者で来るのはごく一握りだ。
アッちゃんは家族にも、お姉ちゃんにも渡さなかったようだった。
◇
週末、出かける準備を早めに調えたあたしの前にお姉ちゃんが立ち塞がる。
「なんで……千恵ちゃんだけ呼ばれるのよ」
「…………」
「南だって、アッちゃんのことはずっと気に留めてたんだよ」
吹奏楽部で頑張ってたことも、応援で頑張ってたことも、自分の部活の大会に頑張ってたことも、全部! そう数え上げる声は、ひどく高い。
誰もが目を引く美少女の、見たこともない表情だった。
「だいたい千恵ちゃんはズルイ! ずっとずっと、お父さんやお母さんやおじさん達からまるで『期待』されないで自由にしてきて」
自由、ねえ。と思う。
「南もカッちゃんも親の期待にずっとずっと必死に応えてきたのに! アッちゃんは南のこと分かってくれると思ってたのに! なんて千恵ちゃんなのよ!」
「あたしはね、お姉ちゃん……」
「そりゃ色々あったよ! でも悪く言う人達からアッちゃん達吹奏楽部をかばってあげてきたんだから!」
あげてきた、ねえ。
「千恵ちゃんなんて、南達がどんなにプレッシャーの中で頑張ってきたか知らないくせに!」
一人称が相変わらず名前の姉に、あたしは少し辟易とする。
「去年なんてカッちゃんをあっさり立ち直らせて、南が何も知らないみたいな言い方して!」
まあ、あれはあたしが言い過ぎのきらいもあったけれど。
それはそれとしても、お姉ちゃんはあたしが口を開く間もなく、矢継ぎ早に言い募る。
それまでの……それこそ生まれてからずっと溜め込んできた不満を。
「南の後ろでメソメソしてるだけの癖に、美味しい所全部持ってって……千恵ちゃんの卑怯者!」
ようやく言い終えたお姉ちゃんは、息を荒げていて……あたしはため息をついた。
「あたしはお姉ちゃん達のことなんて分からないよ。でもさ―――」
「なによ!」
「でも……お姉ちゃんにも分からないよ、親に期待されないなんてことがどういうことかなんて」
「…………それは、でも―――」
「お姉ちゃんが今日までどんなつもりだったかなんて知らない。知らないけどさ……アッちゃんの所へ行くのは、あたしだから。これだけは譲らないから」
それだけを言って、あたしは家を後にした。
向かうは地元の小さなコンサートホール。
アッちゃんの、最後の舞台だった。
席に着くと、隣の席は知らないおばさんだった。けれど気さくに話しかけられた。
「あら、あなた武司君の彼女さん、千恵ちゃんでしょ」
「あ、はい……」
彼女、の部分で照れてしまう。
そんなあたしににっこりと笑いかけてから
「熱心に見に来てたものね、今日は最後だからしっかり聴いておかないとね」
とおばさんは言ってくれて。だからあたしも笑って頷いた。
◇
始まりはやはり耳に馴染んだ校歌。
今年の課題曲と自由曲、マーチング用の曲、そして幾つかの定番の名曲の後……その歌が紹介される。
この一曲に、今までのことを全部詰め込みました。
オモチャ箱みたいな……曲です、と。
そしてその演目が、始まる。
最初で最後のその曲が。
稲村譲司が、ヴァン・デル・ローストが、福島弘和が、ショスタコーヴィチが、真島俊夫が、ポール・ラヴェンダーが、ジョン・ヒギンズが……
今日までアッちゃん達が歌ってきた全てが込められた、壮大なメドレーだった。
あたしの知ってるアッちゃん達も、あたしの知らなかったアッちゃん達も。全部込められている。
そして……メドレーも佳境、色々な名曲、オールディーズ、ジャズにポップス。
ジャンルを無視した旋律が縦横無尽に駆け巡り……一つの旋律へと繋がる。そして不意にアッちゃんが立ち上がった。
「Freude, schoner Gotterfunken,Tochter aus Elysium(歓喜よ、神々の麗しき霊感よ、天上の楽園の乙女よ)」
息を飲む。あたしでも知っている、その名曲。
「Wir betreten feuertrunken.Himmlische, dein Heiligtum!(我々は火のように酔いしれて崇高な汝(歓喜)の聖所に入る)」
次々に立ち上がり続く歌声。演奏と、そして初めて聴く……アッちゃん達の『歌声』。
「Deine Zauber binden wieder,(汝が魔力は再び結び合わせる)」
自然と涙が零れ落ちた。感動に……歓喜に。
「Was die Mode streng geteilt;Alle Menschen werden Bruder,(時流が強く切り離したものを。すべての人々は兄弟となる)」
だからこの歌の名前は―――
「Wo dein sanfter Flugel weilt(汝の柔らかな翼が留まる所で)」
ベートーベン交響曲第九番第四楽章、歓喜の歌だった。
◇
それからのことを話せば。
アッちゃんは地元の大学に進学し、卒業後は大きな病院に事務員として雇われた。
音楽の方は高校を卒業して以来趣味程度にとどめていて、あたしは少し不満だ。
時折あの歌を歌ってくれて、それでもまあ、あたしのためにと言われるとやっぱりドキドキして嬉しくもなる辺り、現金なものだ。
カッちゃんはその後も大活躍で大学を経てプロ選手になったけれど二年で肩を壊してリタイア、今は駅前の和食のお店で働いている。
なかなか筋がいいらしく、頑張っているようだ。
お姉ちゃんはと言えば大学卒業後にそこそこ大きな商社に就職、この間取引先の広告代理店勤務の男の人と結婚した。
今では立派な奥様だ。
あたしは……
「で、アッちゃん。あたしだって女の子だから、夢とかある訳ですよ」
「ん……分かってるよ、それは。でもさ、雨の中はどうだろう」
「雨だなんて決まった訳じゃないでしょ! はい決定! 来年六月ねー、あ、じゃあお姉さん、六月の初めの土曜に今から予約しまーす」
「そんなの空いてるわけが……」
「あ、空いてますよ、今なら」
「うあ」
お姉ちゃんに遅れて、奥様になる予定だ。
という訳で『stadium/upbeat』全四幕、これまでです。
今回のモトネタ
ベートーヴェン作曲『交響曲第九番第四楽章より歓喜の歌』
まあ有名な曲ですので、わざわざ紹介する必要もありませんね。
んー、このタイトルに決めていた以上年末に間に合わせるつもりでした。
間に合った……んですよね?
あーあと、本当にわけわからんオハナシで申し訳ない。
追記
後のグダグダはもうあの、グダグダなので以下の後書きにて。
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2451155.txt.html ここまでお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。
もう寝る!
>>340 GJ でした。
日あるところに影があるんですよね。
影の部分にならざるを得ない方々は立派だと思います。
報われて本当によかったです。
次回作期待しております。
>>340 面白かったよ。ラストが気になる話だった。
ただ、まあ、確かに「幼馴染」というもの以外に熱を感じる作品だったけれど。
良くも悪くも。
幼馴染と姫始めとかいいよな
>>340 Gjでした。すごく良かったです。
後書きも見たかったのに、もう消えてる…。
>>347 今回はちゃんとDLできました。ありがとうございます。
用語集は後日ゆっくり読ませていただくとして、後書きは拝読させていただきました。
またの投下、気長にお待ちしております。乙でしあ!
今までssとかほとんど書いたことなかったけどこのスレ見てたら段々書きたい気運が高まってきた。
ただ仕事忙しくて時間ない。年末年始にやっとくべきだったか。
>>349 俺もだ
まずは短いのでもと書きはじめたはいいけどオチに着地出来ず、気がつけば時間ばかり過ぎていくわ
そのうち時事ネタが時事じゃ無くなって気力を失うパターン
話の設計が甘いんだろうな
右に同じく。
毎度毎度、筋がグダグダになって、途中でやる気をなくしてしまう。
不毛だー
ト書きだけでも、短くても、それが萌えるものならば委細は問わないよ。
趣味の差異はあるだろうけど。
あまり萌えとかなくても書いてるのもいるしな
あい、そう言ってくださるならば、もうちょっと頑張ってみます。
いつになるか分からないし、たとえできても、長文の連投は難しいみたいですが…
ちょっと質問。
このスレ的にはあんまり年齢差あるのは範囲外かな?
片方高校生でもう片方が24、5歳くらいの考えてるんだけど。
あんまり歳離れちゃうと幼なじみって感じがしなくなっちゃうと思って
迷ったらとりあえず投下せよ
エロパロ板の鉄則だぜ
そんな世界でもかなりNGな方の恋……嫌いじゃないぜ
年の差スレってのもあるけど、幼馴染的な内容が濃いならむしろこっちの方がいいよ
>>355 とりあえず書き終わってから
>>358がいうようにどちらが適しているか内容を吟味してとうかしたらいんじゃないかな?
待ってるよ〜
360 :
355:2012/01/18(水) 22:27:18.83 ID:cE7lbab8
OK
とりあえず書き上げてから考えてみるわ。
投下してダメだと住民が思うならそれで止めにする。
まあ気長にお待ちください。
都市部から少し離れた、とある街。
その街にある女子校に通う、一人の美少女――冴木かな。
才色兼備で明朗快活、大和撫子と呼んで差し支えない彼女にも深い悩みがあった。
それは、彼女の幼馴染みの少年のことである。
少年は小学校の頃から運動が非常に苦手で、運動会や体育大会を何よりも嫌うような男の子だった。
また、かなのような美少女と幼馴染みというだけで目の敵にされたりもしていたという。
かなは少年が好きだったし、これから先も少年以外にファーストキスも処女もアナルヴァージンも捧げるつもりはない。
のだが・・・・・。
「あー!また食べてないぃ!」
「五月蝿いな、かなは・・・」
扉越しに聞こえる面倒そうな少年の声に、かなは頬を膨らませる。
朝、かなが早起きして少年のためにと作って少年の部屋の前に置いた食事に、全く手が付けられていないのだ。
「うるさいな、って・・・」
「かなみたいに、恵まれたスペックじゃないからな。俺は、一人でいいのさ」
「だ、ダメだよぅ。私、前にも言ったよね?好きで、好きで、たまらないんだって・・・保留されっぱなしなのに・・」
「俺みたいな運動音痴の頭でっかち、かなには似合わないだろ」
帰った帰った、と面倒そうな声がして、次にはゲームの音楽がかなの耳に入ってきた。
誤魔化されてばかりの日々が、ずっとずっと続くのだろうか、と、かなは不安になりながら、自分の作った料理の乗った盆を持って、自宅へと帰ったのだった。
この後、夜にかなが幼馴染みの部屋に窓から急襲、逆レイポゥから初々しいラブコメになるとかありかな?
早く執筆作業に戻るんだ
間に合わなくなっても知らんぞー
365 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/19(木) 11:51:05.04 ID:Qhm8zUb+
今週号のヤンジャンの岡本倫の読み切りがエロくて良かった
あの夏で待ってるの幼なじみはどうせ踏み台だろうな
幼なじみだったな。
俺も結構好みだった。
368 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/19(木) 21:45:29.44 ID:waIcOrJl
今期は馴染党向けの作品無いんだな
370 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/20(金) 19:05:19.22 ID:1ncUziTu
男主人公で先輩な幼馴染みが好き
>>370 朝。生憎の曇り空だが、家を出る少女の顔は明るい。
隣の家に住む少年に朝食を作ってあげないと、と義務感が三割、朝から大好きな幼馴染みと会える幸福感七割と言った感じに別けられる感情を、表情が如実に表しているのだ。
「おはよう、けいくん♪」
「おはよう茜さん。朝からよく来たね・・・まだ眠いよ」
>>370 朝。生憎の曇り空だが、家を出る少女の顔は明るい。
隣の家に住む少年に朝食を作ってあげないと、と義務感が三割、朝から大好きな幼馴染みと会える幸福感七割と言った感じに別けられる感情を、表情が如実に表しているのだ。
「おはよう、けいくん♪」
「おはよう茜さん。朝からよく来たね・・・まだ眠いよ」
ボサボサの髪をわしゃわしゃと掻きながら、眠たげな顔のままに少女を迎える少年を、少女――茜は誰よりも好いている。
無論、けいくんと呼ばれた少年も、茜の事を誰よりも好きだし。
「お姉ちゃんと一緒に、シャワーを浴びるかな?お姉ちゃんは構わないよぅ?」
「でも、そうするとほら・・ムラムラして、デートの前にがっつりヤッちゃうかもだし・・・でも茜さんとシャワー・・」
名残惜しそうに茜を見る瞳に、茜は母性本能を刺激されたらしく。
ニコリと笑うと、少年に抱き着いた。
「じゃあね、お姉ちゃんとけいくんの今日のデートは、けいくんのお部屋か私のお部屋でずっと一緒にいるの。いいでしょう?」
「・・でも、茜さん、欲しいのがあるって言ってたし・・・」
「なら、けいくんとたっぷりエッチして、ゆっくり休んだ後に買いに行こう?ねぇ♪」
酷く甘い誘惑に、少年は堪える術など持ち合わせてはいなかった。
そんじょそこらのグラビアアイドルより、遥かに性的に育った姉のような幼馴染みの肢体を好きに抱ける、唯一の立場にあるのだ。その許可もある。
「けいくん、大好きだよぅ♪」
「俺も、茜さんが大好きですから・・」
一枚、また一枚と服を脱ぐ幼馴染みに、少年の息子は存分にいきり立っていた・・。
こんなん?
<⌒/ヽ-、___
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∧_∧∩
( ゚∀゚)彡 つづき!はやく!
⊂ ⊂彡
(つ ノ
(ノ
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<⌒/ヽ-、___
/<_/____/
∩ミヾ つづき!つづき!
<⌒___⊃ヽ-、__
/<_/____/
投下させてもらいます
初めてなので見苦しいですが
読んでくれたらうれしいです
リンコとケンカしたとき、仲直りの場所はいつもきまっていた。
彼も人のことは言えないが、リンコも大概我の強い奴で、お互い何度も衝突を繰り返しては妥協点を見つけるに至ってきた。
もっとも、先に折れるのは大抵彼のほうだったが。
河原の土手に、制服の上からぶかぶかの黒いセーターを着た女が座り込んでいる。
「なに黄昏てんだ」
呼びかけたリンコは経一を振り返る。
「…いいの、こんなトコで油売ってて。文化祭まで近いんでしょ」
リンコは抑揚のない平たんな声を出す。
…俺と話すこともないってか。
彼は頭をボリボリと掻いて思わずため息をついた。
彼女に抱きかかえられたスケッチブックには
川のせせらぎと、雲の流れと、臨場感あふれる鴉の羽ばたきが活き活きと写されている。
「オイ、この木は枯れてないぜ」
むこう岸の大木は、紅葉を身にまとってそびえている。
だが彼女の手元の絵では、寂しそうに葉を枯らしていた。
「…こういう風景なら、紅葉が主役じゃないのか」
彼女は答えずに、ただ黙々と黒鉛を塗りたくっている。
余計な口出しだ。
それでも経一は未練がましく聞かずにはいられなかった。なぜ紅葉を枯らしたのか。
その答えを彼はもう長いこと模索してきた。
今日の放課後、数時間前の事だ、教室で彼女とその他の女子とで大喧嘩があった。
そういう悶着とはゆかりの深いリーコだから、いつもはこんな差し出がましい真似はしないのだが。
今日の彼女はいつもとは様子が違っていた。
「サッカーの試合、近いんだろ。部活行かないでいいのかよ」
彼は言った。
リンコは、沈黙を守ったまま、手元にあった小石を拾うと、川へ向かって勢いよく投げる。
波紋は、ゆっくり広がって、その形を崩していく。
「裏路地の絵、あれ」
不意に、彼女は口を開くと
「いい絵だよ」
ポツリと呟いた。
彼は突然の事に面食らった。
同時に、彼女のいいたいことに気が付いた。
「…ありがとう。よくわかったな」
「わかるよ」
その言葉は、わずかに振れ幅を持っていた。
あの絵は確かに経一の描いたものだったが、迫った文化祭へ出展する際の作者の名義は『佐々木経一』とは違う。
「…経一はそれでいいの」
「なにがだ」
「自分の絵だろ。なんで人に盗られて何もしないんだよ」
「そんなことしても、誰も喜ばないからだよ」
リンコはなぜか経一の絵を手放しに評価した。
昔からだ。
小学生の時から、彼がコンクールへ出品する気がないことも、小学生の時から散々咎められてきた。
良くも悪くも彼女の心は向こう側が見えるほど透明なのだ。
損得なんて関係ない。
許せないことは許せないし、気に入らないことはやらない。
「経一は、…狡いよね。私はいつも経一に助けてもらってるのに、経一は全部自分でしょい込んじゃう」
リンコは遠くを見据えて、その横顔は今まで見たこともないような物悲しさを秘めていた。
「俺がいつお前を助けたよ」
リンコは彼に向き直った。
経一は続けた。
「お前は強いよな。一人でなんでもできるし何にでも立ち向かえる。
だけど、食って掛かるのは自分にかかわることだけにしろ。これは俺の問題だぜ」
リンコは驚いたように眉をしかめて、何か言おうと口を開き、すぐに閉ざされた。
「ほら、ンなことに悩んでねえで、早く部活行けよ。お前が部長なんだろう」
しばしの沈黙の後、彼女はキャンパスを畳むと不意に立ち上がった。
経一は凜子を仰ぎ見た。
彼女の瞳が彼を映している。
程なくして、彼女は背を向けずんずんと歩き去ってしまった。
その時の彼女の瞳。
これまで何度も見たことがあった。
あの納得のいかない表情。
彼女は、彼岸へ歩き出した。
いや、そうではなく、俺が歩き出したのかも知れなかった。
凜子には絵の才能がある。
小学生のころ、凜子が絵を描くようになったきっかけは、健一の絵だった。
健一は、子供にしては見たものを書き写す精度は高かったようで、度々賞などを得て、同級生からは神童などと揶揄されることもあった。
言われるままに自分が神童だとは思わなかったが、健一も褒められて悪い気はしなかった。
中でも、健一の絵をいたく評価していた凜子は、或る日彼に絵の描き方を教わりたいと言い出したのだ。
凜子は、健一とは対照的に描く対象をこれでもかというほど改変した。
そういうことは正しくと写せるようになってからにしろ、という彼の言葉も聞かず、こっちのほうがいいよ、と言っては雪の中にヒマワリが咲いていたり。
上達するにつれてそれはさらに顕著になっていき、そして健一は才能というものを知った。
健一は彼女の絵に感動してしまった。
俺には到底描けないだろうなぁ、とも思った。
この満たされない感情はなんだろう。
嫉妬ではない。恋い焦がれるような思いだ。
以来、彼が絵を描くとき、いつもリンコの絵が脳裏に浮かんで、彼は自分の絵に嫌気がさす。
俺の絵とはなんだ。
俺の絵は空っぽだ。誰の絵でもない。
佐々木経一が書いたには違いないが、作者の欄は空欄だ。
そこに誰の名前が書かれようと、俺の知ったことではない。
我が校の美術部の顧問は、文化祭に際して毎年お気に入りの生徒に自分名義の作品を作らせた。
彼女はその世界には割と名の知れた教師らしく、彼女の機嫌を損ねることはあまり得策ではなく、毎年必ず誰か犠牲になるらしい。そう先輩は口にしていた。
今年はたまたまその標的がリンコだった。
サッカー部とを兼部する彼女だが、一年時に一枚大きな絵を描いている。
誰が言ったわけでもないが、どう考えてもそうだろう。
仮にも彼女は美術教師だ。素人でもリンコの絵が突出していることはわかる。
経一は、押し入れの奥底で何年も眠っていた古びた水彩画を引っ張り出した。
俺が描いた最後の作品。
久しぶりに対面したそいつは、至らないところが目に余って、彼は見ていられなかった。
経一はリンコの絵の代替としては心もとないと思ったが、結果的にはうまくいった。
初め、もともと幽霊部員の面識もない彼が絵を持ってきたことに、その美術教師は非常に胡散臭そうに経一をねめ回した。
しかし、こと絵に関しては意外にも好印象だったらしく、彼は心にもない世辞を浴びせて、なんとか彼女から目的の言葉を引き出したのであった。
河川敷でリンコと別れた後、彼の心配をよそに涼しい顔をしてリンコは学校へ復帰した。
懸念していたクラスメートとの関係も、あの湿った険悪なムードはどこへやらずいぶん湿気のない爽やかな教室が続いていた。
彼女が絡む人間関係の大半は尾を引かないのである。
だが、あくまで大半だ。
あの日以来彼女とは言葉を交わすどころか、目線さえかわしていなかった。
「水橋先輩の様子って、どゆこと?」
机に向かっている由香はこちらを見もせず、ペンを走らせながら言う。
一週間が経過したところで、ついにリンコの沈黙に耐えきれなくなった経一は
…かなり情けない話だが、幸いリンコと同じサッカー部に属していた妹に助けを請うた。
「まあ、大したことじゃないんだよ。いつも通りならいいんだけど」
なるべく平静を装ってぼやかす。あまり内情は知られたくなかった。
妹の部屋は相変わらず殺風景で、壁一面が本棚で埋まっている。
その中に、申し訳程度にサッカーボールが一個棚に飾られていた。
あれは中学時代、リンコ率いる女子サッカー部が関東大会出場を決めた際に賞品として得たものだった。
本来なら部長の彼女がもらうべきところなのだろうが、なぜか妹が持って帰ってきたのである。
そういえば確か、あの日だけは、普段はクールというか、ダウナーな由香も顔をほころばせていた。
「喧嘩でもしたの」
「喧嘩だったら、楽なんだがなぁ」
「…?よくわかんないけど、顧問は最近水橋先輩の攻めが積極的になったって喜んでたよ」
「攻め?」
「強いよ、すごく」
腕を組んで彼は考える。
そうは言われても、リンコが積極的なサッカーをするのを、うまくイメージできなかった。
「…そっか、ありがとう。悪かったな、邪魔して」
「でもさ、私は」
礼を言って扉から半身を乗り出した時、由香が机に向かいながら言うのを聞いた。
「うん?」
「なんだか、浮世離れしてる風な、前のほうが好きだったんだ」
彼女は彼に言うというよりは、思い出すように宙を見上げ、独り呟くような遠い口調だった。
―――俺もだよ
経一は声にすることなく静かに部屋を去った。
彼女のサッカーは、美しい。
ただ現実は、美しいだけでは勝てない。
上位に行くほど、
審判をだますような行為さえ勝利のためならば正当化される。
そういう血走ったプレーが求められる世界だ。
つまり、ようやくリンコは、そういう現実を見るようになったのかもしれない、ということだ。
これまで以上に彼女は強くなるだろう。
そのきかっけは紛れもなく俺が作ったのだ。それがひどく罪深いことに思えた。それがひどく無性に悲しかった。
続く。
投下終了です…
>>379 すいません
なぜか379冒頭で名前が健一に…
正しくは経一です。ごめんなさい
続き期待
wants to
@@
「なあ、お前マジなめてんの?ぶっ殺すよ。」
「え?」
私の言葉に目を見開いたまま、奴は正に言葉を無くすという体で固まった。
「いやいやいやいやいや、ねーよ。ねーよ。この場合立ち尽くすのはあたしだから。」
「え?いや、え?ふ、藤川?」
「だから。え、じゃねーよ。あたしの事なめてんのかって聞いてるんだよ。ねえホントなめてんの?喧嘩売ってる?ねえ。」
「え、・・・な、何?な、何で怒ってる」
「何じゃねーよ!だーかーら!てめーは、あたしの事なめてんの!?」
「い、いや、なめてなんかないけど・・・。」
「じゃあなんなのよこれは!」
「いやなんなのよって聞かれても。俺の家の前なんだから声は小さk」
「うっせーよ!」
怒っている時はいつもは自慢の自然な内巻きウェーブの髪型が肩に掛かって、チクチクと首を触って、殊の外うっとおしく感じられる。
私はぎりぎりと歯噛みをし、奴を睨みつけながら片手をバッグに突っ込んで髪留めのゴムを引っ掴んで後ろでぎゅいと髪を纏めた。
きちんとした自慢のウェーブがこれで台無しである。ああ、イライラする。
黒髪を重たく見せないように少しだけ綺麗に薄く染めた茶髪は、凡百の茶髪なぞと一緒にされちゃ困る逸品なのだ。
手入れは怠らない。いつでもキューティクルたっぷりである。
髪の根元に染めてない部分があったり、変な安物のヘアカラーの所為でバサバサして艶がなかったり、枝毛があったり、そんな事も無い。
ごくごく自然で、黒髪と間違えそうなレベルで少しだけ明るい茶髪。
それを実現するのにどれだけの手間が掛かるか、判っているのだろうか?ん?
「ねえ、あたしが優しく言ってるうちにちゃんと答えた方がいいんじゃないの?」
「いやもうすでに凄くこわいんだけど・・・」
言い終わる前に睨みつけると目の前の奴は萎れたように首を折った。
「ご、ごめん。」
「ごめんじゃわかんなくない?私は。ねえ。」
成績も良い。スポーツもそれなりにこなす。
大学も推薦でもう決まっている。
口ばっかりの奴らがあーだこーだ言ってんのとは違う。
私は自分で自分の道を切り開いてきたし、結果も出してきた。
何事にも努力してきた。こんな外見になるのにも、良い学校に入ったのも、スポーツだって、何一つ簡単に成し遂げてきた訳じゃない。
淑やかな外見の美人で成績優秀でスポーツも出来て性格も良い。
4つとも持ってるそんな高校生になる為に私は努力し、成し遂げて来たのである。
自分で言うのも何だが、私はこれはこれでそこそこ大したものなのである。
言っちゃ何だがそんな私だからそりゃあ私はモテる。困るくらいにモテる。
見た目だけ言ったって美人の母親の血を完璧に受け継いだ、100人の男が100人振り返る清楚系美女である。
サッカー部のキャプテンの人は気障ったらしい前髪をかき上げながら涙目になって私にこういったものだ。
「君に好かれてる運の良い奴はだれなんだ?」
私は申し訳なさそうな、そして少しの苦笑と侮蔑の表情を取り混ぜた完璧な顔を作りながら、こう答えたものだ。
「まだ男の人とお付き合いするとか考えられなくて。ごめんなさい。」
告白された数は数知れず。携帯のメールアドレスなんて下手に教えたらとてつもなく面倒くさいことになる、
場所が場所、時代が時代なら3万人くらいに告白されていてもおかしくない、そういう美少女である。私は。
その私がこんな気分に、いや、その私をこんな気分にさせる権利がいくら幼なじみで同級生とはいえ、この冴えない男にある筈がない。
そうじゃないか。
ああ、ムカムカする。
この私の努力を無碍にするという訳だ。
努力をコケにすると。そういう訳だ。
「なあ。」
「…はい。」
「あたしの事お嫁さんにするんじゃなかったのかよ。」
「いや、え?はあ?」
「どーゆーことだよ。」
ああ、駄目だ。あまりの怒りに私は泣きそうである。
「美穂子ちゃんが可愛いってどーゆーことだよてめーーーーーーー!」
「いや、・・・え、なんで、え?何?違うって」
「いーや、違わねー。あたしは知ってるんだからな。お前、昨日男子の間でやってた
クラスで一番可愛い女の子投票で美穂子ちゃんに1票入れただろ。」
「な、ありゃ男子の間だけの話でなんでお前そんな事知って」
「総投票22名であたしが17票で美穂子ちゃんが2票。クラス内で付き合ってるカップルが3組。おかしいだろ。美穂子ちゃんにあのロリコン下種野郎以外に誰かが投票してる。いったい誰だ?」
「ロリコン下種野郎って・・・お前・・・山本くんに失礼だろ。」
「てめー、美穂子ちゃんに1票入れただろ。それ以外に考えられねーんだよ。そういや最近良く喋ってるし、そういや1年生の時は義理チョコとかいってでっかいチョコ貰ってただろ。」
「いや、え、ええ?…な、なんかよく判んないけどしかし、はは、そんな事をお前も気にす」
呑気な事を抜かす奴の襟首を締め上げると奴はぐええ、と呻いた。
「ちげーーーーよ!あのなぁ。もう引き返せねえんだよ。
そこそこの学校でそこそこの成績を維持しながらそれでいて男好きする程度にバカっぽく見えて
誰にでも愛想が良くて隙がありながら誰からも嫌われない地味だけど可愛い子。
そーゆーのがいいならそーゆーのがいいって、先に言えよ!」
襟首を掴んだ左手を思い切り絞り上げ、歯を食いしばれ。と低音で奴に囁き握りしめた右手を今まさに顎に叩き込もうとした瞬間、
目の前のドアが開くのが見えて私は慌てて両手を開いた。
げほげほと咳き込みながら膝に手を当ててあえいでいる奴を尻目に一瞬で飛び切りの笑顔を作る。
「こんにちはー。おばさん。」
「?あら久しぶり。なおちゃん、元気にしてた?あら、懐かしい。久しぶりに二人でいるの見たわ。」
「やだー。学校一緒だから結構一緒にいる事も多いんですよ私たち。ねえ。ゆうくん。」
「!?・・・・・・そ、・・・そうだね。」
「あらやだ、本当に。全然この子そういう事言わないんだから。せっかく同じ高校に行ったのにって思ってたくらいなのよ。ほら、上がってらっしゃい。そんな所立ってないで。」
「いや、かあさ」
「はーい。おじゃましまーす。」
髪の毛を掴んで引きずると、ひいい。と奴は小さな声で言った。
ああ、可愛い女の子になりたい。と思う。
いや、私も何一つ自分からはせずとも好きな人が私をちやほやしてくれるのであれば可愛い女の子にもなれようとおもうのだけれど。
こいつじゃあ無理だ。
@@
ふおおおおGJ!!!
続きあるの?
ぱんつ頭に被って待ってる!!!
GJ
こういう健気(?)な女の子は好きだw
久々に心躍った
続き待ってる!GJ!
392 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/31(火) 20:00:59.77 ID:GwhUcdsn
アヒルの雛みたいに後ろからついて来る幼馴染み
>>392 ずっと雛だと思っていたら、いつの間にか他の雌鳥に盗られそうに
NTRはよそにスレあるのでそちらへどうぞ
腹黒お嬢様と苦労人執事的な幼馴染
わがままに突っ走にお嬢に振り回されつつ、年が近いからフォローに回る幼馴染
そんな王道的な話が読みたい
落ち込んだときには抱っこを要求するんですね。分かります
執事側が年上だと「仕方ありませんねぇ…」とか言いながら抱いてそうだなぁ。
頭撫でるのとセットで。
子供扱いに頬を膨らませそうだが。
執拗に好意をアピールするお嬢様
好意に気づきながらも、立場上手が出せない幼馴染執事
ぶち切れたお嬢様は最終手段に打って出た
>>399 その最終手段とは、チラリと下着を見せることだったのだ!
すいませんでした。
一大決心でお嬢様の父親に思いの丈をぶつけたら、あっさり許嫁になったでござるの巻
最近の執事は完璧が求められるからなぁ。
いくら完璧でもメイドガイみたいのは嫌だがw
幼馴染みの少年少女が仲が良いまま高校生になった。
周りも当人たちも、告白して恋人になるのは時間の問題だと思っていた。
そんなある日、少年の家に悪友たちが集まって、持ち寄ったAVの鑑賞会が開かれた。
痴漢もの、女教師もの、レイプもの、レズものと見ていく中にSMものもあった。
それを見たとき、少年は初めて自分の中にサディスティックな欲望があることを自覚してしまった。
少女のことを大切にしたいと思う気持ちと同じくらいに、少女を傷付けたい泣かせたいという欲望が溢れてくる。
このまま少女の側にいたら欲望のままに傷付けてしまう。
少年は少女に会わないように距離を置くようにした。
一方、いきなり少年が離れていった少女は当惑する。何度しかけても無視され邪険に追い返される。
しかしそれでも諦めず、少年の部屋にまで押し掛けて訳を問う少女に、少年はとうとう自分の中の醜い欲望を吐露する。
「俺はサディストなんだ。俺じゃお前を傷付けるだけなんだ」
そう言う少年に少女の答えは……?
傷つけなきゃ膜は破れないのよ!!(迫真)
>>403 「私はマゾ女だから大丈夫だ、問題無い」
SMも、結局は相互理解の産物だから、ここまでならOKとかの感覚が分かり合える幼馴染なら大丈夫…だよね?
そうそう
SMのSとはサービスのS、Mとは真心のMなんだそうな
結局お互いが楽しむ心がないと成立せんよね
幼馴染みの少年少女が仲が良いまま高校生になった。
周りも当人たちも、告白して恋人になるのは時間の問題だと思っていた。
そんなある日、少女は友人たちとパジャマパーティを開いた。
友人の1人が「兄貴のをこっそり持ってきた」と見せてくれたAVはSMものだった。
皆が「変態じゃん」「引くわ〜」と笑ってる中、少女はその映像に少年に責められる自分を投影し欲情していた。
それからは、顔を合わせる度に少年に責められる妄想が生まれ、自分は変態なんだ、いやらしい女なんだと自己嫌悪に陥る。
やがて、少年が急に余所余所しくなり露骨に避けられるようになる。
自分の中のいやらしさに気付かれてしまった、嫌われてしまったと思い悩む。
だが会えない寂しさに意を決して少年の部屋を訪ねて問い詰め…
>>403に続く?
+ / ̄ ̄ヽ
/ (●) ..(● +
|0゚ 'ー=‐' i
> く
_/ ,/⌒)、,ヽ_
ヽ、_/~ヽ、__)
410 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/05(日) 23:37:08.61 ID:ZguGqqs3
「Untidy Peach」
「桃姉、入るぞー…………うわ……!」
1K独り暮らし用の安アパートのドアを開けると、俺の目に飛び込んで来たのはゴミの山だった。
ゴミ袋に入れてあるのはまだいい方で、そこら中にカップ麺の空き容器だの脱ぎ捨てられた服だの紙くずだのが散らかっている。
(今回は特にひどいな……)
前回掃除に来た時から2週間しか経ってないが、すでに部屋の中は足の踏み場もない。どうやったらここまで汚せるんだ?
「桃姉、生きてるかー?」
とりあえずじっとしていてもしょうがないのでゴミを掻き分けて中に進むと、奥の方から微かな声が聞こえてきた。
「ハルー……こっちー……」
見れば部屋の真ん中に鎮座したこたつに、つっぷしたままの人影がある。なんとかそちらに近づくと人影は顔を上げて恨めしそうな声を出した。
「遅いよ、ハル……あたしが死んじゃったらどーすんのよぉ……」
「人間一食抜いたくらいじゃ死なねーよ」
「……一食じゃないもん。買い置きも無くなっちゃったしお風呂にも入れてないし、ろくに寝てもいないし大変なんだから……」
「〆切前は原稿に集中したいから来ないでって言ったのは桃姉だろ」
きゅるきゅると情けなく腹の虫を鳴らすこの部屋の主に、俺は一つ大きくため息を吐いた。
「まあいいや。軽く片付けたらなんか作るよ。食ったら本格的に掃除するからな」
「ん、ありがとー。頑張ってね」
「手伝えよ!」
傍観決め込む気満々の桃姉に全力で突っ込みを入れる俺だった。
浅井桃は俺、栗原春生にとって小さい頃から憧れの存在だった。小学校に上がる前から7歳も下の俺とよく遊んでくれたし、喧嘩で同級生に泣かされた時も慰めてくれた。
今になって考えると7つも年下の少年と精神年齢ががっちり噛み合っていたかなりアレな人なのだが、当時の俺は『優しい年上のお姉さん』にときめきまくっていた。
だが年月がたち、成長するに伴って俺はある事に気付いた。
桃姉はいわゆる『残念』な人なのだと……。
この人はまず家事が全く出来ない。料理も掃除も洗濯もダメで、放っておくと今のようなゴミ屋敷を形成してしまう。
しかもかなり面倒くさがりで、全自動の洗濯機を購入したもののほとんど使いこなせていない。
仕方なしに俺が3日に一度、遅くとも1週間に一度は様子を見に来て、家事をこなしている。
事情を知っている友達からつけられたあだ名はもちろん『通い妻』だ。ほっとけコンチキショウ。
人が通れる程度のスペースをなんとか確保し、俺が持ち寄った食材で簡単な食事を作ると桃姉は大喜びでそれを食べ始めた。
「ん、おいしいおいしい」
空腹のせいか、やけに嬉しそうに食べ進める桃姉。それを見ているとなんとなく気恥ずかしくなってきて、俺はそこらに放置してあった文庫本を手遊びに開いた。
そこの著者近影の部分に目が止まる。理知的な容姿でスタイル抜群の美人がスーツ姿で写っていた。
著者の名前は浅井桃。つまり今俺の目の前にいる女性の事だ。
(やっぱ詐欺だよなぁ……)
一心不乱に飯を食う桃姉をしげしげと眺め、写真と現実の差に嘆息した。
桃姉は小説家をしている。デビューして四年になるがそこそこ食えていけるくらい繁盛しているようだ。
元々文才はあったのだろうが、就職したとして時間にルーズなこの人がまともな勤め先で働けたとは思わないので、ある意味天職なのかも知れない。
作品の評価は『女性らしい細やかな心理描写で奇想天外な物語を書く』というなんだかよくわからない物なのだが、若い男女の間ではなかなかに有名な作家らしい。
顔出しの時は思い切り着飾るので、世間ではこれでも美人小説家で通っている。そこら辺も人気の一因なのだろう。
(でも実際はこれだもんなぁ……)
ぼさぼさのひっつめ髪に野暮ったい大きな黒縁眼鏡、服装は高校時代のもっさりしたジャージ。放っておけば際限なく部屋を散らかし、こたつに入って年下の高校生に家事をやってもらう。
素晴らしいダメ人間ぶりだ。ダメ人間コンテストとかあったら上位入賞も夢じゃないと密かに思っている。
「何よう、人の事じろじろ見て」
俺の視線に気付いた桃姉が不満そうに口をとがらせる。俺は慌てて立ち上がり誤魔化すように言った。
「な、何でもねーよ。それより掃除するから早く食っちまえよ」
「あーい」
愛想よく返事する桃姉の笑顔が俺にはとても魅力的に見えた。
元々着飾れば美人、という程度には顔の造形は整った人だし、10年近く片恋慕を抱き続ける身としてはその笑顔にときめかずにはいられなかった。
たとえどれだけ残念だとしても、桃姉は昔から変わらず俺の大切な人なのだ。
桃姉の実に2日ぶりとなる栄養補給が終わると、俺たちは荒れに荒れた部屋のゴミを除去しにかかった。
とはいっても主に働いていたのは俺で、桃姉自身は所在なさそうに立ち尽くしながら、時々俺の出す指示に従うだけだったが。
「じゃあこの書類は捨てていいな。こっちの段ボールの中のは?」
「うん、それもいい」
「オッケ。んじゃこっちはもういいから向こう頼む。ゴミを袋に入れるだけでいいから」
「ん、わかった………………ねーハル、この古い雑誌とかって要ると思う?」
「知らんよ……。捨てるものくらい自分で判断してくれよ」
呆れを混ぜた声で返した俺はふと妙な手応えを感じ、自分の手にしているものを見た。
色は薄いブルー。手に持っている部分は紐状になっていて、その下に三角形の部分が二つ連なっている。レースで編まれているそれは女性が胸部につける下着、いわゆるブラジャーというものだった。
「ぶっ!?」
驚愕に声にならない声を上げ、思考が一秒完全にフリーズする。再起動した俺は慌てて目を反らし、手の中のものを遠ざけるように桃姉に突きつけた。
「も、桃姉……こ、これ……!」
「えっ…………ひゃあ!?」
桃姉が普段は見せない機敏さで俺の手から下着をひったくった。見れば真っ赤になりながら涙目でこちらをにらんでくる。
「うぅ……ハルのえっち……」
「し、仕方ねーだろ。ていうかこうならないように下着くらいは自分で洗ってくれって言っといただろ」
「だ、だって暇なかったんだもん……」
元々自分が散らかしているのが原因だとわかっているからか桃姉はそれ以上追及してこなかった。
俺としてもさっき見たものをすぐに記憶から消そうとする。だが目を反らす直前に見えた「G」の表記が瞼に焼き付いて離れなかった。
(でっけぇ……)
思わずジャージの胸の辺りを押し上げる膨らみにチラチラ目が行ってしまう。
「だ、大体桃姉はだらしなさ過ぎなんだよ。いい大人なんだしもうちょっときちんとしなきゃ」
「…………」
誤魔化すようにいつも通りの文句を言ってみるが予想に反して桃姉は黙りこくってしまう。
「やっぱりそうかなぁ……」「も、桃姉……?」
「この間お母さんにもおんなじ事言われた。そんなんじゃ嫁の貰い手もないよって」
「そ、そうなんだ……」
嫁スキルは軒並み死んでるからなぁ、桃姉。にしても桃姉はまだ24のはず。社会人として働いてはいるが、結婚を急かされる歳でもないと思うが。
「お母さん、早く私に安定して欲しいんだと思う。なんだかんだ言っても小説家なんてヤクザな仕事だし」
桃姉は本人はともかく小説家としてはそれなりの評価を受けているはずだが……。まあ、親の心理からしたらあまりそんな事関係ないのかも知れない。
「えーと、誰かいい人いないの?」
こういう場合の常となるような質問を投げかけてはみたが、俺は内心このデリケートな話題を早く切り上げたかった。何が悲しくて好きな人の結婚の話題なんか聞かないといかんのだ。
「いないよー。私、男の人の知り合い少ないもん」
「えーと……合コンセッティングしてもらうとか……」
「大学の頃の友達は合コンとかしない人ばっかだし……」
「仕事先の人とか」
「担当さんは女の人だし、他はオジサンばっかだし……」
八方塞がりです、とばかりにため息をつく桃姉。俺としては男の影が全くない桃姉に少し安心したのでほっと胸を撫で下ろしていた。
と、思ったら不意討ちが飛んできた。
「いっそハルがお嫁さんに貰ってくれればいいのに」
「…………っ!!な、な、何言ってんだよ!」
自分でも驚くほど狼狽し、それだけ返すのが精一杯だった。心臓がバクバクと鳴っている。顔だけは背けたから赤くなっているのは気付かれていないはずだ。
「だって今もハルが家事してくれるから私生きてけるし。代わりに私が小説でお金稼ぐからさ」
「……んで、一生桃姉の家政婦でいろってか」
「ダメかな?」
「ダメです。そんな事よりさっさと掃除」
そっかぁ、と残念そうに笑う。本人にしてみれば恐らく冗談のつもりなのだろうが、こちらとしては心臓に悪い。
(ったく、人の気も知らないで……)
心の中でだけ悪態をついておく。冗談だとわかっていながらも、いまだ心臓の鼓動は早まったままだ。
結局その日の最後まで俺はその事を意識したまま過ごす羽目になった。
以上
ちょっと前に歳の差カップルについてアリか聞いた者です。
一応続き書きますが上で書いたように住民が無しだと思ったらここで止めます。
続き投下するにしても遅筆なんで時間はかかると思います。
全然アリだぜ
だがここでも良いが年の差カップルスレにいったらより喜ばれるかもしれんな
続きまってるよ
非常にありなのでガンガン続けてください。
男子高校生にとって24歳Gカップ女性って女神そのものですな。
有りなので
今すぐ書いてください
オナシャス!
バレンタインまで一週間ないぞ!
私を食べて
と幼なじみが言っています。
どうしますか?
病院・食べる・対応に困る・立ち去る
「堕ろせよ」 by4月1日
幼馴染みから幼妻へ
通い妻から内縁の妻に
ちゃんと籍入れてやれよw
ある朝の教室。
クラスメイト「お、熱々ご夫婦のご登場だ!」
男「お、おはよう…」
女「…(真っ赤)」
いつもなら声高に反論してくる筈の二人の、あまりにも違う反応に、教室内がざわつく。
クラスメイト「おい、いつも通り否定しろよ?!」
とかなると、やはり関係が進んだというか、深まった感じだよね?
>>425 だって男は○8歳にならないと籍入れられんやん?
バレンタインなので小ネタを一つ
「は、はい、コレ……あげる!」
「なんだコレ?」
「き、今日が何の日かわかってるの!?チ、チョコに決まってるじゃない!」
「そうか」
「い、言っとくけど義理だからね!?変な勘違いしないでよね!?」
「そうか」
「そ、そうよ!」
「このチョコ……」
「な、何よ!」
「リボンの包装が随分独創的だな」
「そ、そうかしら?」
「うん、まるで不器用な人間が手ずから包装したかのようだ」
「へ、へぇ?き、きっとお店の人がラッピング下手だったのね」
「開けていいか?」
「ど、どうぞ……」
「……やたら黒いな。しかも焦げ臭いな」
「や、焼いて香り付けしたチョコなのよ……!」
「パク……うん……ジャリジャリして苦いな」
「び、ビターチョコよ!大人の味なのよ!」
「ごちそうさま」
「え……?全部食べたの?」
「うん、まぁとにかくありがとう」
「べ、別にいいわよ!あ、あんたなんか、どうせ幼なじみのよしみで私があげなきゃ一つも貰えないだろうし!」
「実は俺が今日貰ったチョコはお前ので14個目だ」
「え……?……あ、そう……なんだ……」
「ホワイトデーを楽しみにしててくれ」
「…………」
「ちなみに今のセリフを言ったのはお前が1人目なんだけどな」
「…………………………………えっ?」
以上
イイヨイイヨー
男の方の性格が、
・女の反応を楽しんでいる
・ど天然で素で言っている
のどっちだろう、と思った。少女マンガだと前者、少年マンガだと後者、なのかな。
幼馴染男が転校した先に遊びに行ったら、何か擦り寄ろうとしてる女がいた。
心中穏やかでない幼馴染女は夏休み前に何とか既成事実を作ってしまおうと奔走するが、何故か敵対してる筈の女と鉢合わせするばかり。
何時の間にか強敵(とも)と認める間柄になり、男の天然かつ鈍感ぶりを愚痴り合う。
バレンタインが終わったから、次はホワイトデーか。
いや、その前に期末試験とか高校受験とかか。
女「心配だから、一緒に勉強するわよ?」
男「心配って、…でも、正直とっても助かる。はまり気味だったんだよ」
女「素直でよろしい」
男「へへーっ(土下座」
女「ふっふっふ、褒めなさい褒めなさい」
男「で、勉強会のおやつは何を御所望で?」
女「ダッツのバニラをよろしく」
男「承知いたしました」
女(一緒の学校行きたいからなんだけどね)
憧れてた幼なじみのお姉さんが結婚することになり、涙を隠しながら祝福する少年
だがお姉さんの旦那が結婚後まもなく事故で亡くなってしまい・・・みたいな妄想
未亡人か……背徳感と幼馴染って不思議と相性悪くないよね
と言いつつ背徳感とは無縁のまったりエロ投下
一応、
>>27の続きものですが、一話完結なので未読でも支障ないかと思います。
皆瀬那津子は暑いのも寒いのも嫌いだが、どちらかと言えば夏の方が得意だった。
根っからの冷え性と言うこともあるし、基本的じっとしている性向のせいもある。代謝を
落とせば夏なら暑さもしのげるけれど、冬場は一層いっそう凍えるだけだ。
そんなわけだから、すっかり悴んだ手で西野家の呼び鈴を押した時、彼女の頭は人肌の
布団でいっぱいだった。五秒と待たずに返事が無いことを確認すると、預かった合鍵で
中に入る。一階には人気も火の気も無かったけれど、お目当ての学生靴はちゃんと玄関に
転がっていた。
お邪魔します、と口の中だけで呟き、買い物袋を台所に置く。生ものは無いし、この室温
ならそのまま放置で大丈夫だろう。そう判断すると、彼女はトントンと階段を上がった。
採光の良い木造2階建てだから、上の方が少しだけ温かい。それだけに夏場は地獄と
なるのだが、今は自宅よりもよほど快適に寛げた。
無論、リラックスできるのは気温だけが理由でもないけれど。
「亮ちゃん、いる?」
西日の当る角部屋をノックして、那津子は言った。返事は物音一つなかったが、彼女は
それで中の様子を理解した。扉を開けると予想通り、陽だまりに敷かれた布団がこんもり
と盛り上がっている。
勝手知ったる幼馴染の根城に、那津子はすたすたと入室した。そのまま押し入れの扉を
開くと、ハンガーを取り出し洋服を順に掛けていく。今年一番の雪の日だけに、脱ぐ物は
やたらと多かった。しばらくの間、衣擦れの音と衣装掛の金音が途切れなく続く。しかし、
丸まった布団は一向に起き出す気配が無かった。これが番犬に生まれなくて良かった
なあと、益体も無い物思いをしながら、那津子は遠赤タイツやらカイロ入り腹巻きやらを
脱いでいく。
そうして上はババシャツ、下はショーツ一枚にまでなると、彼女はいそいそと掛け布団を
捲った。折角の暖気が逃げないように、そっと身体を滑り込ませ──
「んぁ? なんかさむ……っふぎゃーーっ!」
ああ、この瞬間に限っては、冬の寒さも悪く無いな。と那津子は思った。炬燵に入った
瞬間。湯船に浸かった瞬間。そしてこの、温まった布団にもぐりこんだ瞬間の幸福感は、
何物にも替え難い。温かい布団の重みに包まれて、凍えた手足を人肌で挟んでいると、
目の前で大の男がぎゃいぎゃい悲鳴を上げていようと全くもって気にならな……
「ぎゃー!ぎゃーー!!ぎゃーーー!!!」
「うるさい」
「すみません……っていやいや、今回は普通になっちゃんが酷いよ!心臓止まるかと
思ったわ!」
氷のような手足を首筋や太股に差し込まれ、西野亮一は割と本気の悲鳴を上げた。
先程の静かな空気は何処へやら、今や野太い慟哭が手狭な六畳間に響き渡っている。
「夏場はあれだけ人ん家に入り浸ってたくせに。やっぱり体ばっかり火照ってる奴は心が
冷たい」
「いや別に、なっちゃんが部屋に来ることに異存はないというか布団に潜り込んでくれる
なんて大歓迎ではありますが、せめてそれやる前に起こしてっ」
「呼び鈴鳴らしたけど起きなかったよ。外滅茶苦茶寒いし」
「いや、外で待たずに普通に部屋で起こせば……って普通に確信犯ですよね。普通に誤用
ですよね。はいすんません」
ひとしきり騒いで気が済んだのか、亮一はぱたりと大人しくなった。それから、「寝返り
打つからお手てどけて」と言うと、三重ねの布団を崩さず、器用に体を反転させる。
そうして那津子と向かい合わせに横臥した彼は、再びその冷え切った手足を自分の脇や
太股の内側にはさみ込んだ。
……実を言えば、先程だって大声を上げはしたものの、決して彼女の身体を押しのけ
ようとはしなかった。
「まったく、こんなに冷え切っちゃってどうしたの?」
「西佐久の先のカーブで、他県ナンバーが吹き溜まりに刺さってた。そこでバス降ろされて、
歩いて帰ったら、今度は家の灯油が空っぽ」
「うあちゃー。なんという泣きっ面に蜂」
かわいそうななっちゃん、などと言いながら亮一は上掛けを掴んで那津子の身体を布団
の中に潜没させた。それから、自分も追いかけて潜り込んでくると、まだ冷え切ったままの
頬っぺたに自分の頬を重ね合わせる。
馬鹿みたいとは思いながらも、那津子は訊いた。
「今さらだけど。そんなにしたら寒く無い?」
「それは、本っ気で今さらだなあ」
くつくつと愉快そうに笑いながら、幼馴染は答えた。
「おっしゃる通り、夏場はお世話になりましたので。無料でご奉仕致しますよ」
ふいに、温かい掌がババシャツの上から胸の膨らみを捉えた。意を得た那津子が肩を
小さく竦めてやると、反対の手が背中へ回ってホックを外す。
「早速、暖房費を取られてる気がするんだけど」
「いやいや、こうやって揉めば揉むほど温まるんだよ。知らなかった?」
「わたしゃホッカイロか何かか?」
「揉めば揉むほどカイロ役の俺が熱くなる」
「なるほど」
思わず頷いた彼女の身体を、亮一は巧みに反転させた。後ろからの方が、胸を触り易い
のだろう。彼の温かい体にすっぽりと包まれる形になり、那津子もこれはこれで不満は無い。
それから、おおよそ10分程度。亮一は乳房だけを手遊びに、姿勢を変えず彼女を後ろ
から温め続けた。いや、温めるという名目でひたすらおっぱいを堪能していただけかも
知れないが、ともあれ御陰様でしびれる様な冷えは収まった。
その代わりに、今度は掛布団よりも重たい眠気が、瞼に纏わりついてきた。もちろん、
最初から眠る気で潜り込んだのではない。十分触って、相方はスイッチ入っただろうし、
ここで中断はあんまりだと彼女も思う。しかしどうにも身体がついてこない。受身でいたら
負けると思い、那津子は身体を返して彼の方へ向き直る。唇を合わせようと身体を
もぞもぞずり上げていると、上からくすくすと笑われた。
「何、お休みのキス?」
「え…なんで?」
「そりゃあ、こんだけおっぱい触ってれば相手の眠気くらい伝わるよ」
いや、その理屈もおかしい。と思ったが、瞼を上からそっと撫でられ反論はあえなく
封じられた。
「まあ、俺も丁寧にやらずに、好き勝手揉んでたし。なごんじゃったものはしょうがない」
「……ごめん。寝てる間、自由に遊んでていいからさ」
引っ掛かっていたブラをババシャツから抜いて、後は亮一が好きに出来る格好になると、
那津子は力を抜いて仰向けになる。上の方でごそごそやっていた亮一が、首の下に枕を
敷きこんでくれると、もうこれ以上の抵抗は出来なかった。
全身を包む温かい人肌だけを感じながら、那津子は「ちょっとだけ」と呟いて瞳を閉じた。
*
感覚的には、五分かそこらしか経っていないように思う。しかし、妙にすっきりとした
頭で、小一時間は眠ったんだろうなと理解しながら、那津子はぱちりと目を開けた。
布団の中に他人の気配は無い。もぞもぞと這い上がって首を出すと、亮一は部屋の
中にも居なかった。
あれ、と身体を起そうとして、彼女は自分の状況に気がいった。ババシャツは臍まで
下りているものの、内側の肌着は胸の上までたくし上がっている。ショーツもしっかり抜か
れていて、布団の中を足で探ったくらいでは見つからない。あんにゃろめ、と思いつつも、
言質を渡したのは自分だったと思い出して、彼女は再び布団の中に潜り込んだ。
勝手知ったる幼馴染の部屋とはいえ、ノーパンでうろつくのは忍びない。何より、
この布団の温もりの加護を捨てて、半裸を晒す勇気は無い。
掛け布団の下で再び視界を閉ざされる。すると自然に、心許ない股座が気になった。
太股の感覚で気付いてはいたけれど、手で確かめると思った以上に濡れている。さすがに
入れられたまま眠っていたとは思えないが、溢れるまで弄られて目を覚まさない自分に、
那津子は軽く自己嫌悪を覚えた。こうなると、気を許す関係がどうこうではなく、単純に
身体の問題ではないか。
そんな風に悶々とすること暫し。階段の方から、ぎしぎしという木板のきしみが聞こえて
来た。妙に丁寧な踏み音だから、トレーか何かを抱えているのだろう。扉を開けてあげ
ようかと、一秒程逡巡した彼女は、やはりそのまま布団に籠ることにする。
「よいしょっと。あれ、起きてたの?」
お尻で扉を開けた亮一は、上から布団を一瞥しただけでそう言った。元より狸寝入りが
通じる相手ではないが、少し憮然として那津子は答える。
「今さっき。紅茶で両手塞がってるのに放置でごめん」
「いや、そりゃいいけども。って、なんで布団に潜ったまま分かるのなっちゃん。エスパー?」
素直に驚く相方には答えず、彼女は再び上方へと身体を伸ばす。視界を取り戻した時、
亮一はちょうどちゃぶ台の上に紅茶とお菓子のお盆を置いているところだった。
「頭は?」
「すっきり」
「飲み物は?」
「いる」
「ロイヤルミルクティーとカフェオレをご用意しておりますが?」
「ミルクの多い方」
「え。……いや、どっちだろ。うーん」
「じゃあお茶の方で」
「了承」
タンブラー2つを乗せたちゃぶ台を、亮一が慎重に寄せてくる。いい加減、身体を起そう
とは思うが、しかし何も無い腰回りが心許ないのも事実である。だが、この状況で履き
直すのもアレだし、第一「ショーツ返して」と言うのも何かアレだし……と思っていると、
幼馴染は押し入れから毛布を取り出した。それをマントのように羽織り、枕側から那津子
を挟むように座り込む。
「なに?」
「人間座椅子。これで、布団とサンドイッチにすれば寒く無いよ」
「……ありがと」
妙な用意の良さに座りの悪さを感じつつも、彼女は大人しく好意を受けた。布団をかぶ
ったまま身を起し、空いた背中を亮一と毛布で埋めてもらう。確かに、これなら暖気も
逃げないし、絶妙な背もたれもあって快適だ。だが、妙な親切には必ず裏があるのが
西野亮一の常である。この体勢、何か来るなと那津子が身構えていると、彼は意外にも
素直にタンブラーを取った。
「ほい。熱いから気を付けて」
「ん……あっちち。ほんとに熱いね」
「なっちゃんすぐ起きるとは思わなかったからさ。鍋でグラングランに沸かして、そのまま
器に突っ込んできた」
「そか。……ごめん。美味しいけど、ちょっと待ってから飲む」
「うんうん。冷めるまで待とう」
そう言ってミルクティーを受け取ると、亮一は未練なくちゃぶ台へと戻す。それから
毛布の中で半纏を脱ぐと、両手をいそいそと娘の前に回してきた。
「ん……。する?」
「そうさね〜。冷めるまで、暇だしね」
上機嫌でババシャツの裾を上げる彼に、那津子は「はぁ」と溜息をついた。結局、
この口実が欲しかったのか。しかし、それならそれで普通にしたいと言ばいいのに。
こんな日にカイロ役をさせておきながら、求めに応じないほど薄情では無い。加えて、
今日は途中で寝落ちした引け目もある。大体、こやつは人の生理周期を勝手に自分の
携帯アプリで管理しようとするヤカラ(さすがに阻止したけれど)である。そんな男の
部屋を、安全日に訪ねて無事に出てこれたことなど一度も無い。だから、今日の彼女が
了解済みなことくらい、この幼馴染もよくよく分かっているはずなのだ。「ムラムラした」
という理由だけで押し倒しに来る相方の珍しい搦め手に、どこか腑に落ちないものを
感じつつ──
那津子は彼の手に従って太股を開く。
「…ぅんっ…は」
微かに開いたスリットを、亮一の中指が下から上に向かってゆっくりと撫でる。既に
幾ばくか滲みていた土手は、外側の圧力に耐え切れずにあっさりと決壊した。とろりと
溢れる蜜が、枕元に敷いたタオルケットの中に沁み込んでいく。
「時間たったけど、まだ結構濡れてるな」
「ねてる間……っん…そんなにしたの?」
「お墨付き貰ったしな。これくらい指入れもした」
「ひゃっ…ぅ……私、それでも起きなん?」
「記憶、あるか?」
「ない。それがショック」
素直に答えると、亮一はくつくつと楽しげに笑う。それに、少しでも嘲りの色があれば、
臍の一つも曲げてみせるところだけれど。悪戯が成功した子供のように笑われては、
こちらも溜息で誤魔化すしかない。
「いやね、最初は起こしちゃ悪いなーと思って、控えめに弄ってたんだけど。あんまりにも
いい寝息を立ててるもんだからさ。ついつい調子に乗ってパンツ脱がしちゃいました」
「……替えの下着は持って来てないし、有難うって言うべきなのか」
「いやあ、こちらこそどういたしまして」
「まあ、寝落ちした私が悪いんだから何も文句は言わないよ。でも、…ぅんっ……いっそ
のこと、そのまま始めちゃってくれれば、私だって起きたのに」
「うむ、寝込みを襲うってシチュにちょっと魅かれたのも事実ではあるんだが」
そこでちょっと唐突に、亮一は言葉を濁して指入れしてきた。だが、彼女が振り返って
じっと見上げると、幾ばくも無く降参する。
「お前の寝顔見てるうちに、起こしたくないわエロいこともしたいわで、わやくちゃになって
……間が持たないからお茶入れに行った」
那津子が返事をする前に、溢れた蜜が敏感な実に塗り込められる。今度は彼女も抵抗せ
ずに、大人しく亮一の腕の中で嬌声を上げた。
「はっ…きゃふっ、んんっ……!」
話す役目を終えた口が、那津子の耳元に降りてくる。上体を後ろから抱えられている
せいか、寝転がってする時以上に逃げ場が無い。耳たぶを甘噛みされながら敏感な秘部を
撫でられると、首を竦めて快感を逃がす事すら出来なくなる。
腰を触る手と反対の掌も、彼女の前面を絶え間なく這い回っていた。おへその下では
円を描いて、大事なところを温めるように。しかし上に登って膨らみを捕えると、動きは
一転して艶めかしくなる。裾野から山腹を広い掌低でしっかりと抱える。柔らかく浮いた
頂きの周りを、親指と人差し指が丸く包む。そこから、ちょうどカメラの絞りの要領で、
きゅっと中心へ摘ままれる。最初は撫ぜるように優しく、けれど段々に深く沈ませて、
皮下の乳腺を刺激していく。
「ん…ふぁっ!…っひう」
身動き出来ないまま、ねっとりとした愛撫を施されて、お腹の奥に急速に熱が溜まって
いく。ついさっきまで、無表情で減らず口を叩いていたと言うのに、今はもう言葉一つ
まともに紡げない。こうも容易く高められてしまうと、自分酷く淫乱なようで、亮一相手
とは言え恥ずかしかった。いや、彼だからこそというべきか。他に試した相手もないので、
詳しいところは分からないけれど。
と、そんな葛藤を見透かしたかのようなタイミングで、幼馴染が言った。
「なっちゃんて、寝起きだと結構エロいよね」
「なっ! やっ、ばかっ…ぁっ……ひゃううっ!」
あんまりな物言いに、羞恥で一気に顔が火照る。しかし、那津子の反駁はクリトリスの
一撫でで封じられた。これまで、微妙に外されていた局部への責めで、溶けかけていた
腰がビクンと跳ねて沸騰する。後ろから羽交い絞めにされながらも、肩や太股が不規則に
震える。ふわふわと浮き上がる体に支えが欲しくて、自分を犯す男の腕に縋りつく。
「おっと、そんなにしなくても逃げないって」
「ちがっ…んぁ……はっ……やあぁあぁ…っ!」
「…あ……わり、ちとやり過ぎた。一回イかすな」
そう思うなら最初からやるな、と思ったのは後の話で、那津子はポンポンとおでこを
撫でる相方の手に、涙のにじむ目元を押し付けた。後ろから押えつける力が強まって、
ほんの少しだけ安心する。自分の意思を無関係に跳ね始めた身体を、相方の力で
繋ぎ止める。
中に二本目の指が入ってきた。体勢的に結構きつい。それでも、もう快感しか感じない。
一本が奥を、もう一本が浅瀬で九の字を作り、お腹側をぎゅっと持ち上げる。「はうっ」と
強く息を吐いたタイミングで、両手の親指が乳首とクリトリスを、同時に撫でた。
「はぁぅっ、やっ…ふあああんっ!」
視界が涙とは別のもので曇る。固定されたはずの身体が頭の中だけでくらくらと揺れる。
なのに、押さえ付ける亮一の腕の力だけが妙にリアルで、那津子はそれに縋りつくように、
全身をぎゅっと力ませた。
*
完全に失神したわけではないけれど、数瞬気が抜けていたのは確かだった。しゃくり
上げていた呼吸が落ち着き、暫しして視界も戻ってくる。手足が少しジンジンしていた。
相方の腕の力に痺れたのか。はたまた単に過呼吸か。そんなことを考えているうちに、
段々と思考の焦点が像を結べるようになってきた。
そのあたりで、那津子はようやく、直前の自分の乱れっぷりに気がついた。
「っ……!」
ここ最近で一番激しく、それも一方的にイかされた。その事を認識すると、亮一相手でも
さすがに本気で恥ずかしい。顔を見られない姿勢なのが幸いと言えば幸いだけれど、
彼女の心情なんて幼馴染には筒抜けだろう。
火照った頭では言葉が出なく、何を言っても負けな気がして、那津子は暫し目の前の
布団とにらめっこする。そんな彼女に、一度だけくすりと笑いかけてから、亮一はその腰を
持ち上げた。
「俺もそろそろ辛抱溜まらん。取り敢えず入れるな?」
「はえっ? ちょと、なっ!……やぅうんっ!」
股を開かせて那津子を自分の腰に乗せると、彼はそのまま背面座位で挿入してきた。
濡れ具合は十分だったし、直前まで指入れしていた甲斐あって、姿勢の割にはスムーズに
入る。とはいえ、それは亮一の側からの感想で、達した直後の彼女の方はたまったものでは
ない。まだ敏感なところへの強過ぎる刺激で、那津子は本気の悲鳴をあげた。
「ひゃ、だめぇっ! ちょと、ちょとだけ、待ってっ……、やんっ!」
「うん、奥まで入ったらやめるから」
「いや、そじゃなくて、今がきついんだってばっ…んぁあっ!」
体が無意識に逃げて前へ倒れる。すると亮一も追ってきて、今度は後背位の格好になった。
足場がしっかりした分、彼も動きやすいのだろう。一突き一突きがグイグイと深くまで入ってくる。
最奥をずんと突かれた拍子に、入れ初めよりずっと固くなっているのが分かって、那津子も
いい加減諦めた。ここにきて、女の方から止めることなんて不可能だ。無駄な抵抗はせず、
さっさと最後までして貰った方が早い。幸い、姿勢が姿勢だけに、激しくされても耐えるだけは
出来そうだった。刺激が強過ぎて、彼女自身は気持ちいいどころの話ではないけれど。
だが、こんなに風にたがが外れるくらいなのだ。彼だって長くは持たないだろう。そう
腹を括って、那津子が掛け布団のカバーを握り締めた時だった。再び身体を持ち上げられ
て、元の背面座位に戻されてしまう。
「へ?……きゃんっ」
亮一のものが彼女の体重で沈みこみ、思わず甲高い嬌声が漏れる。だが、その後は
何もなく、彼を荒い息を吐く那津子の後ろで、ゆっくりとその下腹を撫でている。
「もう出た、わけじゃ、ないよね?」
「えぇ? まさか。って、そんなのなっちゃんも分るでしょ」
「ん。だけど、何で?」
「なんでって、イったばっかで激しくしたら、なっちゃんが辛いじゃん」
「………」
「だから、取り敢えず奥まで入れるだけ入れて、あとはなっちゃんの回復をゆっくり待とうと
思った次第なんだけどなぜかとても手の甲が痛いのです那津子さま」
それに特大の溜息で返して、那津子は右手をつねる指の力を抜いた。すると早速、
「ほらほら、飲みごろ」などと言って、亮一が件のタンブラーを持たせてくる。
「ささ、これでも飲んで落ち着いて。紅茶に罪は無いからね」
後半は私の台詞だろう、と突っ込む気にもなれず、彼女は勧められるままにミルクティー
を啜った。確かに、飲みごろ温度でとても美味しい。無駄に数の多い亮一の趣味の中で、
数少ない実用的な技術の一つだ。特に料理上手ということも無いくせに、牛乳を扱うの
だけは上手かった。不注意にもそれをからかって、一晩中おっぱいを吸われる羽目に
なった事が、高校に入って三度ある。
「落ち着いた?」
「ん」
そんな馬鹿な物思いをしているうちに、那津子はふと、先程の羞恥が吹っ飛んでいる
ことに気がついた。一瞬、誤魔化してくれたのかな、なんて思いが頭をかすめる。しかし
下腹を見やって、彼女はすぐにかぶりを振った。相方の「繋がったまま〜」願望は
筋金入りだ。今だって、乱れた毛布を直すのにかこつけて、身体を揺すって中の反応を
楽しんでいる。紅茶やらなんやらも、これがやりたかったための仕込みだろう。
──まあ、そんなだからこそ、気負わないというのもあるのだけれど。
後ろ抱きにされて繋がったまま、暫し二人は取り留めも無いことを話し続けた。
「今帰りってことは、朝からお出かけだよね。何してたの?」
「食料品の買い出し」
「えぇっ。こんな吹雪の日にわざわざ?」
「そう…っん。ちょっと、イナゲ屋には無い物が要ったから」
「最近あそこの品揃え悪いもんなあ。そのうち撤退かね」
「でも、無きゃ無いで困る、…っ…」
「特に、こんな吹雪の週末はなぁ」
ドア越しに聞けば、およそ情事の睦言には聞こえない。けれど、二人とて重ねた肌を全
く意識していないでもない。むしろ心が寛いでいる分、性感を素直に受け止められる。
「駅前まで出たってことはデパ地下?」
「ううん、違う。南口に出来た方」
「ああ。あの。妙にオシャレってか、けばいモール」
「別にけばくは無いと思う。綺麗だし、結構いいお店あるよ…ん、ふぁっ……ぁ」
「へー。じゃ今度、時間有る時、案内して、よっとっ」
「やっ、あ、はぁっ、はぁ……んぅ…はふ。わかった」
時折、亮介が思い出したように腰を使う。その時ばかりは、呼吸が乱れる。でも、敢えて
最後まではしなかった。興奮が一段落したら、或いは萎えかけた力が戻ってきたら、また
息が整うまで一休み。螺旋階段をくるくる回って、踊り場ごとに休憩を挟んでいる感じだ。
無論、階段というからには、一回りごとに高みへ登っているわけなのだが。
「はぁ、ふいー。わりぃ、俺だけ人心地」
「ん。……まあ、私もそれなりに」
「ところでさ、そんな遠くまで出張して、いったい何を買ってきたの?」
「バレンタインの材料」
「………ぶふっ!!」
突然、後ろからカフェオレを噴かれて、那津子は思わず首をすくめた。大した量では
なさそうだが、肌着がべた付くのは嫌だなあとティッシュを探す。すぐ脇のちゃぶ台の上に
見つけたが、手を伸ばすと捲られた胸まで布団の外に出てしまって寒そうだ。
「ティッシュ取って」
「ごほ、げっほ…ごめん、はい。 って、なっちゃんさあー。普通、そんなことあっさり
言う?」
「何を今さら」
「いや、そうだけど、そうなんだけどな? こう、年頃の繊細な男心としては、渡す直前
まで隠してて欲しいというか何と言うか」
「一応、最初はぼかしたよ。けど亮ちゃんが深く突っ込むから仕方なく」
「うむ、確かにそう言われると明らかに俺に非があるわけだな畜生すんませんでしたっ」
膝に抱えた娘の耳元で囁くには、明らかに大き過ぎる声量で、亮一は饒舌に捲し立てる。
相手の頬が、こちらまで火照るくらいに紅潮しているのは、振りかえらなくても十分に
分かった。
彼の考えることくらい、那津子には十分お見通しだ。今回も、ある程度は分かってて
やった。しかし、ここまで激しい反応は予想外で、仕掛けた側にも獲物の照れが
伝染してくる。
「しかしあれだな、こんなドカ雪の中買い出しに出た健気な娘さんをわざわざ歩いて帰ら
せるとかもう俺これから他県ナンバーの車見たら石投げるわ」
「おいやめろ」
「じゃあこの遣る方無い義憤を晴らすには一体どうすればいいんだ!」
「素直に感謝の意でも表わせば?」
「そうか、よし。………。」
「……それを下半身で示そうとする発想は、さすがにどうかしてると思う」
けれど、そんな斜め下の誤魔化しが、本当に本気の精一杯だと分かるから。那津子は
吐いた台詞ほど、悪い気はしていなかった。中でピクピクと跳ねる亮一のものを、こちらも
力を入れて締め付ける。この流れで応えてくれるとは思わなかったらしく、彼はびっくりした
ように動きを止めた。那津子が思わずくすりとすると、後ろからも照れ笑いの気配がする。
お互い、理由があるような無いような、そんなクスクス笑いを掛け合ってから、亮一は
彼女を抱き直した。先程、まったりと身体を揺すっていた時は、全然違う硬さの物が、
彼女の体奥を押し上げる。今度抽送を始めれば、もう最後まで止まれないだろう。座位の
ままだと出しにくいって言ってたし、またバックの格好になろうかな。そう思っていると、
亮一は意外にも一度身体を外してしまった。
「やっぱ下になって」
「え? ……うん、いいけど」
『入れたら出すまで抜かないのがセックス』などと日々頭の悪い発言をしているやつが
珍しい。でも何だかんだ言って、正常位が一番落ち着くなぁ。中学の頃は、寝バックが
いいだの何だのと、いろんな体位に付き合わされたけど、最後は王道に戻るってことなのか。
そんな酷い物思いに浸る彼女を、真正面から抱きしめて、亮一は言った。
「那津子。今年もわる……あり、がとう」
それから相手に返事をする暇を与えず、彼は強い抽送を開始した。
だから、彼女も「お礼は貰ってからでいいんじゃない?」なんて茶々を入れる事が
出来なかった。
だから、彼女は幼馴染の背中に手を回して、自分もギュッとからだを寄せる。
「ふぁっ、ひゃぐ……んぶっ──ん、ちゅ、んんーっ」
反動で揺れる娘の身体を上から押さえて、亮一が強引に唇を塞ぐ。那津子も引き攣る呼
吸を圧して、差し込まれた舌を必死に吸った。背骨を曲げて身を起こしかけ、体奥を突か
れるたびに失敗する。それでも、首だけは上にもたげて、健気に幼馴染の口を追い掛ける。
「んちゅ、ん、んっく──ぷはぁ、や…はぁんっ」
しまいには亮一の方が、上体を起こして唇を離した。首に回った彼女の手首を外して、
布団の上に縫いとめる。体勢に無理が無くなると、抽送のペースがグンと上がった。
「ひゃ、あ…っくぅう!─ひゃ…あう゛っ!」
相手の反応を楽しむのではなく、自分の終わりを目指した動き。今日は一度お預けを
食らった上に、長時間入れっぱだったこともあって、亮一は相当に焦れているようだった。
浅瀬や中間を擦り上げるような技巧は見せず、一突き一突きが一番奥まで入ってくる。
時間をかけてたっぷり準備してもらったから、那津子は激しくされても辛くは無かった。
一緒にイくのは難しそうだが、それもそれで嫌いではない。理性を残している方が、相
手が自分にのめりこむ瞬間を、よりしっかりと感じられる。一緒に気持ち良くなってしま
うと、相手が一番の瞬間を感じる余裕が無くなってしまうのが、ちょっとばかり不満なの
だ。「一緒に果てるのが一番幸せ」なんてよく聞くけれど、気持ちいいだけがセックスじ
ゃないよなあなんて、最近の彼女は考える。
もっとも、それはいつでも一緒に気持ち良くなる相手がいる上での、贅沢なのかも知れ
ないが。
「ひゃあ……んあ、あんっ、はううっ!」
と、そんな彼女の雑念を責めるようなタイミングで、腰のペースがまだ一段と上がった。
15cm差もある男が、本気で身体をぶつけてくれば、辛くはなくとも十分にきつい。
瞼にはうっすらと涙が滲んで、余裕の無い幼馴染の顔がぼんやりと曇る。それを拭おうと
思っても、両手はしっかりと押さえ付けられてびくともしない。
ここで、キスして、涙をふいてってお願いしたら、亮ちゃんは聞いてくれるんだろうか。
それとも、流されるまま最後までして、終わった後で慌てるのかな。
「ふぅうっ、あ──っ、あくっ…きゃん!」
だがいずれにせよ、那津子の身体にそんな戯言を紡ぐ余裕は残っていなかった。一度
ギュッと目を閉じた彼女は、頭を振って眦の端から涙を落とす。そうして再び開いた瞳の
先には、望み通り、余裕の無い亮一の顔が待っていて。
胸奥から湧いてくる、歓喜とも安堵ともつかぬ温もりに、彼女は知らず口元をほころばせた。
「……っ、なっつっ、いくぞっ」
「ひゃ、うん、やっ──はぅうううんっ」
喉を絞るように呻いて、亮一が身体を落としてくる。終わりを悟って、意識的にか、
はたまた反射的にか、彼を包む襞がギュッと引き攣った瞬間。腰全体を震わすようにして、
亮一の強張りが傘を開いた。
腰の動きがぴたりと止まり、代わりに挿し込まれたものが一定のリズムで脈打っている。
それが遅くなるにつれ、彼の満足がゆっくりと自分に流れ込んできた感じがして、那津子は
ふんわりと相好を崩した。
*
背中に回していた両手が疲れて、那津子はパタリと布団に落とした。すると、少し身じろぎ
して亮一も顔を持ち上げる。そのまま彼女に深めの接吻落とし、一度胸板で乳房を押し潰す
ようにしてから、名残惜しげに上体を上げた。
那津子としては、単に腕が疲れただけで、もう少し乗られていてもよかったのだが。
しかし、普段よりも脱力している時間が長かったのは確かだった。
「ちょっとお疲れ?」
「いや、へばったってんじゃないんだが……まあ、何だ。焦らされた分凄かった」
「その節は本当にごめんなさい」
「いいっていいって。その分いい思い出来たんだし」
そう言って、亮一は存分に注ぎ込んだ娘の腹を、上から満足げに撫で回す。
「あー…。いつもよりいっぱい出した?」
「お、分かるか? 中でたぷたぷになってたりすんの?」
「そんなんじゃないけど……普段より長く出てたのは分かる」
「そんなもんかぁー」
感心したような、残念がるような、微妙な声色で感想を述べ、彼はぎゅっと腰を押し
付けた。まだ大きさを保ちながらも、芯を失いつつあるそれがピクリと跳ねる。多分、
幹の中に残っている分を、最後の一滴まで押し出そうとしているのだろう。
「ん……。続けてする?」
「そうしたいのは山々なんだが……あのデカタオル、下に置いたまんまでさ」
「じゃ、しょうがない。一回抜いて」
「うぐ。し、しかしだななっちゃん。俺的にはそのままでも構わないと言うか上から
タオル敷くんでも同じじゃね?」
「毛布にもつくよ。それに、布団カバー洗って叔母さんから白い目で見られるの嫌」
「……お袋とすげー仲いいじゃん。白眼視されんのは俺だけだって」
ご近所さんとしては仲良くても、息子の女としては色々あるの。と那津子は思ったが、
相方が大人しティッシュを取ったので何も言わなかった。数枚とって手早くお尻の下に
敷き込むと、亮一は彼女の太股をしっかりと押さえて、腰をゆっくりと上げていく。
「……んっ」
まだ結構な大きさを保っていたものが、ぬぷん、といった感じで抜け落ちる。一瞬遅れて、
股間を熱いものが伝っていくのを感じ、那津子はきゅっと目を閉じた。「自分でやるから」
という不毛な押し問答を、最後にしたのはいつだったのか。もちろん、それを忘れたら
と言って、何も感じなくなったわけではない。
だがそんな少女の葛藤は余所に、亮一は白濁を零す秘所を熱心に眺めた。自然に溢れ
出す分が無くなると、襞の内側に指をやって、入口をグニグニと刺激する。それでも出なく
なったら、最後は中に指を入れて、耳かきのように掻き出していく。
「ゃ…ひゃ…ん……ふぁ」
最後まで気をやったわけではないけれど、中途半端に冷めかけた身体は妙に敏感だった。
時々、我慢できず声が漏れる。それが、亮一には面白いらしく、ややしつこい感じで胎の
中身を捏ね回す。
しかし、那津子の方はこれがあんまり好きではない。事後に大股開いて弄られるよりは、
重くていいからそのまま被さっていられる方がずっといい。そのことを、よくよく経験則で
知っている彼は、引き際をしっかりと心得て手を離した。後は手早く後始末して、自分のも
さっさと拭ってしまうと、乱れた布団をてきぱきと整える。
「さ、床の準備が調いましてございます。冷えるから入って入って」
「……はいはい。どうも、ありがとう」
わざと声に出して溜息をつき、那津子は布団の中に身を横たえる。身体を楽にして伸び
をすると、思った以上に気持ちよかった。している時は気付かなかったけれど、変な姿勢
でいかされたり、後背座位やらバックやらで、結構筋肉を使ったようだ。
一通りうんと伸びてから、那津子はぐたりと脱力して柔らかくなった。そんな娘の身体を、
亮一は横臥して抱き寄せる。彼女の太股に当てられたものは、既に力を取り戻していた
けれど、まずは一休憩するようだった。引き寄せる腕の力に逆らわず、頭を彼の顎の下に
収めて、那津子は言う。
「今日は泊まってっていい?」
「おう、こんな日なら大歓迎」
「………」
「あ、いやそんな、別にいつでも歓迎ですよ。危険日でも生理中でも毎日ウェルカあ痛っ」
「ありがと。まあ、今晩は亮ちゃん優先でいいからさ。明日、朝からちょっと手伝って
欲しいんだけど」
「いいですとも。何すんの?」
「チョコ作り」
「!!?」
刹那、亮一が音を立てて固まった。同じ吃驚でも、先程の照れ隠しとは違う、本気の
唖然を体現して、あんぐりと口を開けている。
そんな幼馴染の腕の中で、当の那津子は器用に身を捩り、ずずずとタンブラーの中身を
啜った。
「──いや、あの、那津子さん。それはいくらなんでもあんまりでは……というか、そも
そも俺ん家で作るつもりだったの!?」
「亮ちゃん家の方が台所広いし」
「いやいやいや、そんな理由でオープン過ぎるよ! バレンタインチョコを贈り先の家で
作るとか聞いたことねぇ!」
「ん。でも、同棲してたり夫婦だったら、普通にそうなるんじゃない?」
「なっ…、──。つ、つーか、さっきお袋に見せた無駄な遠慮はどうしたんだよ?」
「おばさん、甘いものには寛容だから大丈夫」
「人ん家のカーチャンあっさり餌付けしてんじゃねぇ………ていうか、俺自分で自分の
チョコ作らされるの……?」
「ずず……分かった。亮ちゃんの分は私が全部やる。でも、余った材料で友達の分も
作るから、そこ手伝って」
「それならばまあ………いやしかし………何だろう、このモーレツな理不尽感」
この凹み具合といい、先の照れ具合といい、いささか大げさだなあと思いながら、
那津子はタンブラーを傾けた。
無論、一介の女子高生として、イベントに盛り上がる気持ちも分からなくは無い。しかし
自分たちは、今さらそれに縋らなければいけない間柄ではないはずだ。週末の午後、
理由も無しに、肌を合せて紅茶を啜れることの方が、チョコより余程貴重だろうに。
とは言え、さっきの「ありがとう」が妙に嬉しかったのも、また事実ではあるわけで。
「いいんだ。いいんだ。製菓業界の陰謀がどうした。俺は来年からバレンタイン撲滅
運動に参加するんだ」
「仮にも手作りチョコ貰える身でそれはどうなの」
「その事実のために俺が明々後日に受ける受難を、女子高のなっちゃんは理解して
いないんだ」
「何もそこまで悄気んでも……。分かった、じゃあ、もう一つあげるから」
「んー?」
半眼で顔を起こした亮一に、那津子は普段の無表情のまま、努めて平然に提案する。
「三日早いけど、'わ'た'し'自'身'は、前渡しということで。」
「…へ?」
「……折角の、大丈夫な日でもあるし。今日は、何でも好きにしていいよ」
次の瞬間、それまでの悄然とした様子が嘘のような勢いで、亮一が上に被さってきた。
普段だって相当に好き勝手してるくせに、現金というかチキンというか。そう、声に出して
言ってやろうと思ったのに、何故かふわふわとした笑いが起こって、彼女は言葉を出す
ことが出来なかった。
知らず、幼馴染が一番欲しがる幸せそうな笑みを浮かべて、那津子は亮一の背中に
両手を回す。快感に頭を奪われる直前、せっかく入れてもらったミルクティーが冷めるのは
もったいないなぁと、彼女はただ、そんなことを考えていた。
以上です。
三日前渡しどころか四日も遅れてんじゃねーか、という批判は甘んじて受けます。
チョコだけに。
イベントに踊らされるより日々の幸せを噛みしめたい。などと嘯きつつも、
何だかんだで気にしてしまう純情な幼馴染を観察したいです。遠くから。
乙
ふぅ……。ふぅ…………ふぅ。
Gjっす
ふぅ・・・・・・
テクノブレイクしちまった・・・
乙
GJでした!
牛乳の扱いうまい→一日おっぱい吸い付きの刑の下りで
母乳プレイを想像したのは俺だけではないと信じたい
452 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/19(日) 14:46:00.78 ID:JZjWpAi1
乙ッ
sageてなかった〇刀乙。スマソ
GJです。よろしければ「旅行計画」の続編もお願いいたします。
幼馴染の年上姉妹二人にイタズラされるSS書いたけど
気付いたら幼馴染み成分薄すぎだった
どうしようコレ
誘導先として挙げられるであろうスレは大体巡回済みなのでどこでもバッチコーイ
>>455 薄すぎるかどうかはこちらで確認する
だから投下カモン!
>>459 ではお言葉に甘えて……
※ヘタレ、ビッチ、ヤンデレ成分を大量に含みます
ぼくには二人の幼馴染がいる。
二歳上の夏実姉と一歳上の冬華姉だ。
よく三人で遊んだ小さいころの思い出は、今でもかけがえのない宝物だ。
だが、今は……。
「ちょっと! ナツ姉、何するつもり……ひゃうっ」
敏感な男性器を無造作につかまれ、情けない声が漏れる。
ナツ姉は煽情的に髪をかきあげると、サディスト全開の笑みを向けてくる。
「何って、決まってんじゃん? 今日もこのチンポに、ハッスルしてもらおうって」
「そん、なの……おかしいよ。あ、ぁ……。大体、彼氏はどうしたのさっ」
ぞくぞくと震えているぼくを尻目に、なんでもなさそうにナツ姉は言う。
「しょーがないだろ。彼とのエッチで失敗したくねーんだよ。こんな練習、一斗でしかできないし」
いつ聞いてもムチャクチャな理屈だ。
ぼくは思わず怒りを口走る。
「非常識だよ、ナツ姉は。頭おかしいんじゃないの!?」
だが、それは失敗だった。
特徴的なツリ目が、さらに持ち上がる。
かちーん、とナツ姉のスイッチが入ったのがわかった。
「あ、いや……。今のは言い過ぎ……」
「へえ、一斗のくせに、言ってくれるじゃんか? いつからあたしに意見できるほど、偉くなったのかなぁ?」
「な、ナツ姉、ごめ――」
「フユカ、押さえろ」
ぼくの謝罪も、非情な命令で遮られる。
「はーい、ナッちゃん♪」
背後からの甘い声の主に、羽交い絞めにされる。
表情こそ見えないが、フユ姉がきっと姉とは対照的な垂れ目をほころばせているのだろう。
「や、やめてよ。こんなので、ぼくが観念するわけ――」
「ふぅ――――っ」
「ふぁぁぁぁぁっ!?」
唐突に、耳に息が吹きかけられた。
びくん、と反応した身体から、冗談みたいに力が抜ける。
「ふふ、カズくんったらかわいい。耳責められると、とっても素直になっちゃうのよねえ?」
「や、やめ――」
はむ、とフユ姉が耳たぶを甘噛みしてきた。
「ああ、ぁあ……っ」
まるで食べられているかのような快感に、四肢が弛緩して抵抗の意思が失くなる。
しかしだらりとした全身に反抗するように、ただ一点は屹立していた。
「あらあら、興奮しちゃったのね」
「ったく一斗は、淫乱だよなぁ」
「ひ、ひどいよ……」
泣きたくなるが、泣いたって彼女たちには嗜虐心のエサなのだ。
ナツ姉が、おもむろに上半身の衣服を脱ぎだした。
「な、なにするつもり……?」
「うん? 今日はちょっと、パイズリの練習をな」
よっこらせ、としなだれかかってくる。
ツリ目の童顔の上目遣いと、アンバランスな巨乳のコラボレーション。
「…………っ」
「うは、もうバキバキじゃん? じゃ、始めるね〜」
そう言って、まるでおもちゃで遊びでもするように乱暴にペニスを挟まれた。
柔らかで、温かい。
拷問のような乳圧に、おとがいを反らして女のように悶えた。
「あーっ、あぁ……っっ。だ、だめ。ナツ姉、これ……、だめっ!」
「おほっ、我慢汁でもうぬるぬるだわ。……ほ〜ら、こいつを塗りこんで、滑りを良くしてやるとぉ〜?」
「うぁぁぁっ。だ、だめぇぇぇっ」
もどかしい気持ちよさが、肌の下を這う毛虫のように全身を行き来する。
「舌も使ってあげなよ、ナッちゃん?」
「そうだな。……くくっ、れろぉぉぉぉ……」
「うかあぁぁっ!?」
付け根から先端へと、ねぶるように舌が這う。
研ぎ澄まされた触覚が、がくがくと腰を震わせる。
一度だけでも狂いそうなその責めが、幾度も繰り返されればどうなるか。
「ああああっ! な、ナツ姉ゆるひてっ。おかしくなるぅぅぅっ」
「……うふふ、とろとろになったカズくんの顔、かわいい♪」
「いひんだよほぉ、おかひふなっても。こへはへんひゅうなんだはらぁ」
「喋っちゃだめぇぇぇっ! くわえたまま、しゃべらないでへぇっ!」
目を見開いているのに、目の前が見えない。
ぐるぐるな視界の気持ち悪さと、ぞわぞわと沸き上がる気持ち良さの板挟み。
「あ、あ、あ――――」
「んだよ、もうイきそうなのかよ? 一斗は早漏だから、いまいちあたしが上手いのかわかんないんだよな」
呆れたように、ナツ姉が言う。
そこによりにもよってフユ姉が、いらぬ知恵を授けた。
「じゃあ、出しちゃったら罰ゲームでいいんじゃない?」
嗜虐的な二つの笑みと、絶望するぼくの表情。
「お、それいいな。ならあたしがいいって言う前に出したら、オシオキってことで♪」
それはもう、ほとんど死刑宣告だった。
「ゆ、許して……。許してよ……――あひぃぃっ?」
唐突に、乳首がフユ姉につねりあげられた。
「カズくん、ちくび弱いんだぁ? 女の子みたいだねえ?」
耳元に囁かれるフユ姉の吐息が、抗いがたい快楽に変わる。
本当なら痛いはずなのに、それすらも気持ちよさに昇華するみたいだ。
一方ナツ姉のパイズリのフェラチオは、休まず続いている。
「んっ、ふぅ、ぺろ、んむぅ、れろろぉ、んふっ……」
「あ、あ、あ、あ――――」
壊れた人形みたいに、のどから無意識に声が出る。
ずたずたになった理性に、フユ姉がいたずらっぽく囁いてきた。
「イッちゃっても、いいんじゃないかなぁ……?」
「えっ……? で、でも――」
もうなにかを考えることなんてできない。
だが、頭のどこかでそれに抵抗する。
「イったら、とぉっても気持ちいいよ? 精液ぴゅぴゅって、したくなぁい?」
「でも……。でも……――」
「おちんぽぺろぺろしてるナッちゃんの顔に、精子かけたくないの?」
「……〜〜〜〜〜〜〜〜!」
元より、我慢なぞできるはずはなかった。
ぶるりと全身が震えると、尿道から白濁が次々と溢れる。
「わふっ!?」
ナツ姉が、突然の射精に驚きの声をあげる。
口元と顔全体に、ぼくの子種汁が蹂躙するように飛び散った。
「あ、あ……、あー…………」
気怠い解放感が、ぐったりとした身体を支配する。
最高の悦楽感。
しかしそれも、眼前の幼馴染を見るまでだ。
「……オシオキ、決定だなこりゃ」
れろりと精液を舐めながら、ナツ姉が凶暴な笑みを浮かべた。
昔からぼくは、この笑みを見ると心臓と身が縮み上がる。
「ご、ごめんナツ姉。ぼ、ぼく……」
フユ姉の甘言に騙されたことを、激しく後悔する。
だがフユ姉当人は、やはりぼくの背中に胸を押しつけたまま、嗜虐的に笑うだけだ。
「なあ一斗、ひとつ訊きたいんだが――」
「あ、あ……」
「あたしが今までお前の謝罪を聞いたことがあるか?」
そう言って、ナツ姉の手が射精したての亀頭に伸びる。
「うはぁぁぁっ♪ ら、らめ、そこ、イったばかりで敏感……っ!」
ぐりぐりぐりぐり、と普段の何倍も感じてしまうそこを責められる。
しかし決して竿は刺激しない。
あくまで亀頭を、嬲るように弄られる。
「だめぇぇぇぇっ、らめだからぁぁぁっ。こんな、こんなのっ、頭ヘンになるぅぅぅぅっ!」
「知ってるカズくん? こういうの、地獄車っていうのよ。棒のとここすらなきゃ、男の子はイくこともできないんですってね?」
「心配すんなよ、一斗。今回は、暴発の危険なんてないんだから♪ あたしたちって、なんて優しいんだろうなあ?」
「あァぁぁ――――っ! あぁ――――っ!!」
猛烈な快感があるのに、射精感に直結しない。
炎のようなもどかしさが、ただただ身を焦がしていくだけだ。
脳が焼けつくような錯覚の中、鼓膜が二人の声をとらえる。
「いいよカズくん、好きに声出していいからね? カズくんのかわいいとこ、もっと見せて?」
「心配しなくても、途中でやめたりしないからさ。小便まき散らすまで、存分によがってな」
言葉の意味は、もはや理解できない。
だが自分が弄ばれるだけの存在なのだということは、よくわかっていた。
地獄のような天国。
いや、天国のような地獄だろうか?
ショートする思考の中、そんな愚にもつかないことをぼくは考えていた。
――次の日
「今日はナッちゃん、彼氏のとこにお泊りだって」
いつも騒がしいナツ姉がいないだけで、少しがらんとした部屋にフユ姉の声が響く。
「ひどいよねぇ。昔っからそう。いつもカズくんに好き放題するくせに、彼氏なんて作っちゃって。これじゃカズくんが、遊ばれてるみたい。……あ、私は違うよ? 私はカズくんが好き。だから――」
だが響く声は、一つだけではなかった。
「あ、あ、あ、あ――――」
「カズくんの可愛い声、もっと聞かせてね?」
そう言ってフユ姉が、いきなりバイブの振動数を上げた。
びくん、と機械的に身体が跳ねる。
「あっ、あぁ――……」
「くすっ、カズくんたら、アナル責められて気持ちいいんだ?」
「ち、ひが、ぅ……! フユ姉、もぅ、やめ、へ……はぅぅぅっ?」
少し体勢を変えただけでも、電撃のような痺れが走る。
自然ぼくの身体は強ばって、四つん這いのまま硬直する。
そしてそれは――フユ姉への無抵抗を意味する。
「あはぁ……っ! お、おしり撫でないでぇっ」
「うん、でもね……。カズくんの尻穴、とっても気持ちよさそう。ちょっと触るだけで、バイブもぐもぐって頬張っちゃうんだよ? いやらしいね?」
「そ、それはっ。フユ姉が、何度も何度もいじめて……あっぅぅ?」
くい、と動けないぼくを弄ぶように背後のフユ姉がバイブの角度を変えた。
それだけで身悶えしてしまうが、『とある理由』で逃げることはできない。
そして、囁きはやまない。
「いじめるだなんて人聞きの悪い。開発、って言ってくれなくちゃ」
お淑やかなくちびるから、背徳的な単語が紡がれる。
「最初はすごい抵抗したもんねぇ? 痛い痛いって、赤ちゃんみたいに泣き叫びながら。嫌がるカズくんにむりやり突っこむのも、実はそそられたけど」
「あ、ぅ……」
宝石を愛でるようにフユ姉が思い出を語る。
ぼくにとっての三人の良き思い出とは子供のころ一緒に遊んだことだが、彼女にとっては違うのだろうか。
「一ヶ月くらいしてからかな。あれは面白かったよね。いつもなら痛いだけなのに、快感を覚えちゃって」
「やめ、てよ……っ」
「あの時のカズくんの表情、最高だったよ? 極上の快楽を、禁忌と知りながら体験してしまった。自分が堕ちちゃったように感じたんでしょ? 認められない。認めたくないって」
「やだ、やだぁ……っ」
いや違う、きっと彼女にとっては、今この瞬間も『遊び』の延長線なのだ。
ただ玩具が、人形から人間に変わっただけだ。
「それが今では、すっかりイキぐせついちゃって。あ〜あ〜、昔の自分が知ったら、軽蔑するだろうなぁ?」
「……そんな。ひどい……、ひどいよ……っ!」
ほとんどべそをかきながら、首だけフユ姉に向けて睨みつける。
ぞくり、とフユ姉の目の色が変わる。
「(……そういうところが私たちを昂らせるって、分かってないのかなぁ?)」
「え、なに?」
「ううん、なんでもない。それじゃそろそろ、イカせてあげるね」
「えっ、ちょ、ま――」
ぐりぃ、とバイブが最奥まで押しこまれる。
複雑なリズムを描き、マックスの振動が断続的に前立腺に襲いかかる。
「ほーら、ずん、ずん、ずん、ずんっと♪」
「あ、ひゃ、は、あ、あっ、あっあっあっあっあっ」
一突きごとに、脳みそが溶けていくのがわかる。
頭蓋骨の中で液状化し、やがて全ての思考が意味を失う錯覚。
「イッちゃうぅ、イッひゃうよぅ、フユねぇえ!」
勝手にがくがくと全身が震える。
「ふふ……」
そして、フユ姉が――
「ふぅ〜〜〜〜っ」
耳の裏に息を吹きかけた瞬間、
「ぁはぁああああああああ゛あ゛あ゛っ!?」
何度経験しても慣れないドライオーガズムが、津波のように押し寄せた。
息が詰まる。
心臓が太鼓のように鳴る。
ふわふわとして、同時に押し潰されるような感覚。
そしてそれが射精よりも、ずっと長い間続くのだ。
「ふぁ、ふあぁぁぁぁ…………」
気付いた時には、涙とよだれで顔中べたべただった。
「すごいよカズくん。頭も顔もトロットロだよ? あはぁ、気持ちよさそう……」
恍惚としたフユ姉の声を、朦朧とした意識が捉える。
確かに、気持ちよかった。
だが――
「……うん? どうしたのかな、カズくん」
「ふ、フユ姉、お願い」
顔を真っ赤にして、ぼくは懇願する。
「ぺ……、ペニス触ってっ」
そう、ドライオーガズムとは、射精を伴わない快楽だ。
何度でもイケるということはすなわち、射精するまで満足することはないということなのだ。
「い、イッたのに。イッたばっかなのに……っ。からだ疼いてっ。火照っちゃって……っ!」
「そう、辛いんだね」
フユ姉が、慈愛に満ちた表情をする。
「――でもダメだよ」
「なっ、なんで!?」
愕然とするぼくに、本当に愉しそうにフユ姉が答える。
「だって、勿体ないじゃん。せっかくカズくんと二人っきりなのに、射精しちゃったらそれで終わりじゃない? でもこれなら、何度でもカズくんを気持ちよくできるの。……ずっと。ずぅ――――っと。……それこそ、永遠に、ね?」
ぞくり、と背すじに恐怖が走った。
ナツ姉のものとはまた違う、氷の刃のような危機感。
「好きだよカズくん。世界でいちばん、カズくんが好き」
その視線は紛れもなく愛情なのに、どうしてこうもぼくを怯えさせるのだろうか。
「それに、そんなにおちんこがいいなら自分でいじればいいじゃない」
「そっ、それができないから、頼んだんじゃないか!」
「……あら、なんで? どうして自慰できないのかな?」
「う……、それは……」
思わず、視線を逸らす。
「――自分の口で、言ってみてよ」
ぼくの『手首ががちゃりと鳴った』。
「こんな、手錠つけられてるから……!」
そう、さっきも言ったようにぼくは逃げられない、『それ』が理由だ。
手錠の鎖はベッドの手すりに巻きつけられ、四つん這いから体位を変えることも許されない。
「だってカズくん、こういう縛られていやらしいことされるの、好きなんでしょ?」
「な……っ、ば、バカ言わないでよ。そんなわけないでしょ――」
「ウソばっかり♪」
ぐにぃ、と再びバイブが突きこまれる。
それだけで、口から吐息が漏れてしまう。
「ほらまた気持ちよくなっちゃった。否定してもカズくんは、真正のマゾなんだよ。……違うの? 違うならこんなことされたり、私になじられたりしても興奮したりしないよねぇ?」
「はぁ……っ、はぁ……っ」
ぷるぷると、身体が細かく震える。
首を横に振るだけの気力もない。
必死に耐えているぼくを、満足そうにフユ姉が見下ろす。
「Mのカズくんは、なんにもしなくていいよ。私がぜぇんぶしてあげる。最高に気持ちいい場所に、連れて行ってあげる♪ だからただ、いっぱいアヘ顔見せて喘ぎ声聞かせてね?」
「いやだぁっ、やだよ……っ!」
抵抗しても、がしゃんがしゃんと手錠が鳴るばかりだ。
「……もう、そんなことしても無駄だって。ま、できるのは今だけかな。きっとそのうち、そんな元気もなくなっちゃうから♪」
「あ……、あ……、あ……っ」
そう言って、愛撫という名の拷問が再開される。
幼馴染の笑顔のもと、寿命の縮まる快楽の連鎖へと誘われる。
あくまで愛の名で、ぼくは脆いおもちゃのように壊されるのだ――――
「ただいまー、っと」
十回、いや二十回だろうか?
数えきれないほどの絶頂を一斗が味わった後、ふいに玄関の扉が開いた。
「……あれ、ナッちゃん? 今日は泊まりじゃなかったの」
「そのつもりだったんだがな。ケンカして出てきた。ったくよー、セックスは上手くいったんだけどさー」
ぷりぷりして、夏実が入室してくる。
言葉の端々から、苛立っているのが見て取れる。
そんな彼女が、部屋に入って目にしたのは――
「ぁ、はは……、あ、ひもひ、ぃぃ……」
「うわ……」
すっかりできあがった、幼馴染の弟分だった。
「ぁ、なふねえ、おかえひ……」
「フユカ、お前がやったのかよこれ。あーあー、よだれ垂らしちゃってまあ」
「ちょっと、やりすぎちゃったかな?」
二人が話している間も、一斗は断続して身を震わせている。
見れば、まだ射精はしていなかった。
「おうおう、かわいそうに。怖いおねーちゃんに、いじめられたんだなぁ?」
よしよし、と髪を撫でてやる。
普段ならはねのけられるその子供扱いも、接触全てが性的刺激になるいまの一斗にはご褒美だ。
「あふ……、きもちいい」
こんなトロトロの表情を見せられて、発情しない女はいない。
「――じゃ、今度はあたしの番だな?」
いつもの凶悪な笑みを、夏実が浮かべる。
苛立つイベントがあった分、その苛烈さは火を見るより明らか。
「ナツ、ねえ……?」
だが一斗にはもはや、体力的にも精神的にも、抗う力など残っていないのだ。
ただ迫りくる手を、それが紡ぎ出す快楽という名の暴力を。
緩んだ口と呆けた顔で、待つだけだった。
以上です
お目汚し失礼しました
471 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/24(金) 12:08:29.16 ID:zXYJNtVM
う〜ん、何か違くね?
>>471 幼馴染み要素薄かったからだな。
GJと言いたいけどドMじゃないから読んでて複雑過ぎた……。でも文章上手いしエロかったからGJ
ビッチと噂の幼馴染みを襲ったら、処女だったというか電波を受信したw
俺では文章ならないんで、誰かが書いていただけるとうれしい。
あの花のあなるか
その逆で、ビッチと噂の幼馴染みに襲われたが、なんか処女だったという電波もきた。
男「や、処女のくせにどんだけ度胸あるんだよ」
幼馴染「こうなりたくてハードル低い女になったのに、あんた全然来てくれないからッ」
こんな感じ
処女がどういう工作をすればビッチの噂が流れるんだ
最近読んだのだと友達づてに噂を流してもらってたな
478 :
電波受信:2012/02/28(火) 11:49:26.27 ID:2O1+fYgV
流れを切って1レス投下。スルー推奨
「ちょ…やめ…まじイクって…」
そう言ってもなお、ギュウギュウと彼女は締め付けてくる
「中…出るって言って…やめて…くれ…」
「ふぁぁぁ…すごいよ〜キュッキュッってなるのがわかるの!」
「何を言っ…もう限界…」
おれは体をぐったりさせて彼女に最後を委ねる。
「イクよ〜!」
フライングエルボー
こうして俺は、隣の家と間違えて入ってきた酔った幼なじみに、
謎の馬鹿力でヘッドロックされて窒息寸前にされ、しまいにはダイブを決められた。
さらに言えば吐く手前だった。
というのは途中経過であって、彼女はいまは俺の隣で寝ている。
(今日、何作るかな……)
集中力が切れた頭で俺はぼんやりと料理の献立を考えていた。6限目の授業を受ける頭はほどよく気が散って、考え事をするのに都合がいい。
やがて授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室内の空気が少し緩和された。
俺は自分の席から立ち上がりそそくさと帰り支度を始める。今日は桃姉のところに行く日だ。
「栗原、帰りどっか寄ってこうぜ」
鞄を背負い、いざ教室から出ようとしたところで、クラスメイトの西田と大野が声をかけてきた。またぞろゲーセンで勝てない勝負に挑んでくる気らしい。
「いや、悪いけど今日はパス」
「んだよ、付き合いわりーな」
「ちょっと行くとこあってな……」
「また『通い妻』か?ご苦労なこった」
「るせっ、ほっとけ」
茶化すような西田の言葉を短くあしらうと、西田は急に息を潜めて話してきた。
「で、どうなんだ……?」
「どうって?」
訳がわからず呆けた顔でおうむ返しに聞き返す俺に、西田はニンマリ笑って囁いた。
「もうキスくらいしたのか?胸くらい揉んだのか!?」
「んな事してねぇよ!」
「はぁ!?なんでだよ!?年上のお姉さんだろ!?部屋で2人きりだろ!?そらもうエロい事にしかならねーだろ!」
「俺と桃姉はそういう関係じゃねーし、俺はそんなつもりで行ってるんじゃねぇ!」
この男は男子高校生はエロい事を考えるのが至上命題である、というくらいにすぐに話をエロい方向に持っていきやがる。
「はぁ……いいよなぁ、年上のお姉さん。こう手取り足取り教えて貰ってさ……」
うっとりした顔で続ける西田には悪いが、あの桃姉に手取り足取り教えて貰うなんて事態はそうそうないと思う。
「そういえば前に春生の幼なじみのお姉さん見かけた事あるな」
そこで今まで黙っていた大野が口を挟んできた。
「春生と一緒に歩いてるところだったけど……なんというか、芋っぽいというか垢抜けない感じの人だったな」
「あ、そうなんだ……」
微妙に失礼な批評を下す大野と、なぜかがっかりした感じの西田。
「ただし胸はでかかった」
「栗原爆発しろ!」
「うるさい黙れ」
ほっておけば延々とこのアホな会話が続きそうだ。
なおもギャーギャー騒いでいる西田を尻目に俺はその場を離脱する事にした。
桃姉のところに行く前に俺は少し買い物していく事にした。授業中考えていた献立の材料を買い物かごに入れながら、俺は先ほどの西田とのやりとりを思い出していた。
(嘘をついてしまったなぁ……)
さっきは半分くらい逆上していたから事実とは違う事を口走ってしまった。
俺だって健全な男子高校生。桃姉とはそういう関係じゃない、というのは本当だが、そういう関係になる事を期待してないといえば嘘になる。
(ただなぁ……)
桃姉の気持ちはどうなんだろう?というか桃姉にとって俺ってどういう存在なんだろう?
(普通に考えれば……弟?もっと単純に単なる年下の男友達?……いや、この前の家事やってくれる発言からして……まさか本当に家政婦としてしか見られてないとか……)
……なんだかどんどんネガティブな方に考えが行っている気がする。しかも自分の想像の中ですら男として見られてないとか悲しすぎる……。
しかし実際にあの素直かつボケボケな桃姉が俺の事を少しでも男として見ているなら、冗談でもこの間のようなお嫁さんに貰って発言はしないだろう。
そういう意味でもやはり現状の俺が桃姉とそういう関係になる望みは薄そうだ。
「はあぁぁ……」
思わず大きなため息が出てしまった。買い物中の周りの客が何事かとこちらを振り返り、俺はあわててその場を離れ、レジに向かった。
桃姉の住む安アパートに着くと部屋の中から何か食べ物の匂いがする事に気付いた。
現在午後4時。昼飯にも晩飯にも合わない時間だ。オヤツでも食べているのだろうか?そう思ってドアを開けると若干予想外の光景が待ち構えていた。
「あ〜、ハル〜、いらっしゃ〜い。遅かったね〜。まあ、上がんなよ〜」
桃姉は相変わらずこたつに入ったままで、何かを飲み食いしていた。床には空きビンが転がり、桃姉が赤ら顔でにへらと笑いながら、いつも以上にゆるい感じで俺を招き入れる。
(で、出来あがってらっしゃる……?)
普段あまり酒を飲まない桃姉だが、その分酔った時のお行儀はあまり良くない。俺は刺激しないようにゆっくりと部屋に上がった。
「お、お邪魔します」
前ほどではないが散らかった部屋の中を進み桃姉の座るこたつに近づくと、桃姉が足にすがり付くようにまとわりついてきた。
「ねーハル、おつまみ作ってーおつまみー」
こたつの上を見るとビーフジャーキーの袋が空になっている。確かに酔っぱらいにとっては一大事だろう。
「あー、えと掃除終わってからにしような……」
「えーやだー、作ってよぉ〜」
すげなくあしらって掃除を始めようとすると、俺のズボンを掴み駄々をこねるように騒ぐ。
「わかったわかった、作るから。だからズボンから手を離せ。……ったく、しょうがねーな」
「わーい、ありがとハル」
屈託のない笑顔でケラケラ笑う。普段から言動がゆるいが酒が入ると幼児退行するな、この人。
「じゃあ、ちょっと待ってなよ、あとあんまり飲み過ぎんなよ」
「はーい」
桃姉からのいい返事を受け、俺は台所に立って支度に取りかかった。
掃除も洗濯も済ませてしまい再びこたつに戻ってくると、桃姉は俺が作った料理を肴にまだちびちびと杯を傾けていた。明らかに普段より飲む量が多い。
「桃姉、何かあったの……?」
「…………」
尋ねてもブスッとした表情で桃姉は何も答えない。代わりにこたつから這い出すと近くに置いてあった本の様なものを持って戻ってきた。
「これ……」
「?」
手に取ってみると、形状は本だがページがなく、分厚い表紙の中に若い男性の写真が納まっていた。
「お見合写真……」
「……っ!」
「お母さんが持ってきた。んで延々早く結婚した方がいいだの、あんたみたいのは歳いったら貰い手なくなるだの話してった……」
苦々しく顔を歪ませる桃姉。相当嫌な話だったにちがいない。それでこんな時間から飲んでウサを晴らしてるわけか。
「ま、まあ、良かったじゃん。とりあえず相手がいないって問題は解決するし……」
何と言っていいかわからず、気付けば心にもないことを口走っていた。応援してどうするんだよ俺。
「えー、やだよ。よく知らない人と結婚前提で付き合うなんて……そもそも男の人と付き合った事もないのに……」
高校生の俺は勿論、桃姉くらいの年齢だって結婚に対して真面目に考えられる人はそういないだろう。まして桃姉はこれで結構人見知りなところがある。
「あぁ〜もう、なんでこんな事で悩まないといけないんだろ……」
とうとう頭を抱えてこたつにつっぷしてしまった。が、すぐにその顔がガバッとはね上がる。
「やっぱさぁ、ハルがお嫁さんに貰ってくれるのが一番いいよ!」
「……それはダメだっつったろ」
一瞬言葉に詰まったが、所詮は酔っぱらいの妄言と今日は動揺する事もなく切り返すことができた。
だが面倒くさい問題からの逃避なのか、はたまた酔っているからなのか今日の桃姉はしつこく食いついてくる。
「えー、いいじゃ〜ん。それともなに?お姉ちゃんの事嫌いなの〜?」
そう言いながらのそのそとこたつから這い出ると、俺の方に近寄りじゃれつくようにぴたりと体を寄せてくる。
途端、俺は自分でも頬が熱くなるのがわかるくらいに顔を真っ赤にした。心拍数がはね上がり、身体が露骨にギクシャク動きだす。
「や、やめっ、離れろって……!」
酒の臭いと桃姉自身の甘い体臭が混ざり合い、なんとも言えない香りとなって俺の情欲を刺激してくる。頭がくらくらして何も考えられなくなる中、俺は必死に桃姉から離れようとした。
桃姉は本当にただ酔ってじゃれているだけでそんなつもりは一切ない、親しい者同士のスキンシップに過ぎないんだと自分に言い聞かせようとする。
だが桃姉は追いすがるように近づくと、あろうことか両手を広げて胴体に抱きついてきた。
「冷たいなぁ、ハルは〜。私はハルの事だぁ〜い好きなのに〜」
「あ……うぁ……」
無邪気に身体を揺する度に桃姉の大きな胸がむにむにと押し付けられる。柔らかなその感触に理性がゆっくりと蕩かされていき、俺は言葉にならない呻きを上げた。
「も……桃姉……」
桃姉に抱きつかれ胸を押し付けられている。そんな異常な事態に俺の頭は混乱しきっていた。己の性欲的な衝動に容赦なく晒される中、必死に冷静さを保とうとする。
だが靄がかかった思考は聞かなくてもいい質問を勝手に紡ぎだしていた。
「大好きって……桃姉は、俺の……どこが好きなんだよ……」
頭のどこかでその質問はやめろという声が響く。桃姉の答も、それが聞きたくないものだという事も本能的に分かっているのかも知れなかった。
「ん〜、やっぱりご飯が美味しいし、掃除も洗濯も上手いし、こうやって私の面倒見てくれるとこかな〜」
冗談めかして言う桃姉。その答を聞いた途端、頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。
桃姉は俺を家事をする人としてしか見てない。分かっていてもやはりその答はショックだった。
そして失意の後、沸き上がってきた感情は怒りだった。
のほほんと笑う桃姉に無性に腹が立ち、俺は怒りに駆られて体をつき動かした。
「ひゃうっ!?」
予想外の俺の行動に桃姉が声を上げる。俺は抱きついていた桃姉の身体を引き離し、両肩を押さえ付けるように押し倒していた。
「ハ、ハル……?」
「桃姉は……!」
戸惑いの声を無視し、己の心情を吐露する。一旦口にしてしまえばもう止まらなかった。
「桃姉は……俺が家事をしてくれるから俺の事が好きなのか……!?掃除や洗濯やってるから結婚しろって言うのか……!?美味い飯を作る事が桃姉にとっての俺の価値なのかよ!?」
無茶苦茶言っているのは自分でも分かっていた。ただ俺は不安だったのだ。昼間考えていたように桃姉にとって俺は家政婦でしかないかも知れないことが。こんなに長い付き合いなのに、家事をすることでしか桃姉に必要とされてないかも知れないことが。
「俺は……俺は桃姉の事が……昔から、ずっと桃姉の事を……なのに……なのに……!」
「ハル……」
桃姉の弱々しい声が被虐心をそそる。怒りと劣情に突き動かされ俺は暴挙に出る。
桃姉を、好きな人を俺の手で滅茶苦茶にしてやりたい。そんな想いに支配されていた。
「ひあぁ!?」
「はぁ……はぁ」
荒い息を吐きながらたっぷりとしたボリュームの胸に手を伸ばす。ムニュリ、と指が沈み込むその柔らかさに、俺の興奮が更に高まっていく。
「はっ、くぅ……んくっ……」
ゆっくりと力強く動かす指に、苦しそうに身を捩らせる桃姉。俺は凶暴な興奮に任せて荒々しく乳房を揉んでいた。
だが――
「ハル……おね、がい……やめ……」
弱々しい懇願の声。ハッと見れば、桃姉が泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。先程までの酔いの気配は完全に消えている。目尻には涙が溜まり、瞳は怯え切った色がありありと浮かんでいた。
「……っ!」
冷水を浴びせられたように急速に頭が冷えてくる。弾かれたように桃姉から身を離し、よろよろと後ずさっていた。
取り返しのつかない事をしてしまった絶望感が意識を支配していた。
やがて身体を起こした桃姉が怖れと戸惑いの混ざった目を向けてくる。
「ハル……」
「………………ごめん」
絞り出すようにそれだけ口にすると、俺は逃げるように部屋から飛び出していた。後悔と自己嫌悪に吐き気を覚えながら、止まることも出来ず、俺は動けなくなるまでひたすら走り続けていた。
485 :
Peachの人:2012/02/28(火) 22:23:30.38 ID:IZ67ipFu
という訳で投下させていただきました。
前に書いた奴の続きです。
また続いてしまって申し訳ない。次で終わると思いますので。
揉み逃げ…だと…
おお、続き来てた
酒に酔った幼馴染みと大きなおっぱい…たまらん!
なんか過疎ってるな
ホワイトデーに向けて皆力を貯めているんだろう。そうだろう。
490 :
名無しさん@ピンキー:2012/03/13(火) 04:30:22.59 ID:QGOP6gdL
気弱幼馴染みがバレンタインにもじもじしてたけど結局チョコをくれなかったので、
ホワイトデーに手作りクッキーを送って追い込みをかけてみる鬼畜男子の話をはよ
491 :
思案中:2012/03/14(水) 13:48:01.68 ID:Rc8AQs0B
ココは男同士が幼馴染でも可?
3組のカップル話で男同士は隣家で気がついたら常に一緒でヘタレな悪ガキ連
女同士は先輩や従姉妹で元カノな時も・・・
みたいな話なんだけど板治外かな?
>>491 さすがにちょっと外れ気味じゃないか?
まあ、それをねじ伏せられるくらい面白いなら文句ないけれど。
493 :
思案中:2012/03/14(水) 14:19:14.53 ID:Rc8AQs0B
わかりましたー
辞めときます
>>490 ひっでえwww
なんかその男、バレンタインにチョコ貰ったら貰ったで「チョコレートよりもお前が食べたい」とか言って困らせそうだ
気弱幼馴染みと悪戯好きの男って良いかもな
>気弱幼馴染みと悪戯好きの男って良いかもな
この設定とは違うけど、インスパイヤされたので投下しますw
「チョコレートよりお前を食べたい。」
そうマジレスされて、あたしはポカーンとしてしまった。
眼の前でイカした殺し文句を言ってやった!って得意げな顔してるこのバカ男は、
あたしの幼馴染であり、なんとなく付き合ってるようなそうでもないような、そんな奴。
およそ物心ついた頃から顔つきあわしてて、昔っからあたしにぞっこん、らしい。
別に愛の告白めいたことを言われるのも今回が初めてじゃない。
とはいえ、バレンタインでチョコをくれてやったその場であんなアホな口説き文句を
言われるとは思わなかった。
まあ、こいつも男だし、あたしも何やかやとおあずけ食らわしてるので、そろそろ
もう一歩踏み込んだ関係になりたいんだろうとは思う。その気持ちは分からないでもない。
けど、もう少しロマンチックに事をすすめるとか、その前に色々言う事とかあるだろとか
思うわけで。
つー訳で、そのへん遠まわしに匂わせつつからかってやろうと思ったのだった。
「いくらくれるの?」
「なっ……金取るのかっ! ……い、いくら?」
「払うんだ……」
慌てて財布の中身を確認しだした幼馴染の姿で反応に困るあたし。
つーか、財布の中身で払えるって……あたしゃ風俗嬢か。
まあ、気をとり直して、本来誘導したかった方向に話をすすめる。
「んじゃね……生涯賃金の半分頂戴。」
「えええっ! ちょ、高っ!」
「月賦でいいよ。」
「そ、そうか。」
「ついでにサービスで、炊事洗濯もやったげる。」
「それ魅力。」
「あっちもいつでもやり放題。中出しおっけー。」
「ゴクリ……」
「あ、でも孕ませたら子供の養育費は必要経費で出してもらうから。」
「お、おう。」
「じゃ、これ契約書。ここにサインして、ここにはんこね。」
「おう。さらさらさらっと。そんではんこをポン。」
「……ここまでして、なんか気づかない?」
「ん? 何が?」
……あたし、考えなおしたほうがいいのかな
>>496 男手玉に取られすぎwww
何だかんだで女馴染みの方もベタ惚れな感じがいいね
「いつから幼馴染だと錯覚していた…?」
テスト
503 :
独白系:2012/03/29(木) 01:22:54.64 ID:Qj7q7uu2
再び故郷の土を踏める。
本当に幸運だ。
自分の力なんかより運のおかげと言った方がいいのかもしれない。
帰ってこれた。
数えきれないほどの幸運と、旅先で出会った仲間の助けがなければ無理だっただろう。
そうなれば当然あいつも悲しむ。
いや、例え知らせが届いても信じずに待ち続けたか。
何年も何十年も。
新しい恋人など考えもせずに一人で待ち続けて、そのまま老婆になってしまってもまだ待ち続けたか。
………あいつはそういうやつだ。きっとそうだっただろう。
あいつを一人にするのが嫌で、でも旅立ちは迫って、旅には出なくちゃダメで。
そんな葛藤にギリギリまで悩んで、
『小さい時から旅に出ることを意気込んでた幼馴染はどこに行った!』
って。
本当は一日だって離れたくないのに、ずっと一緒にいたいのに。
普通に暮らして、恋して、結婚して、子どもを作って。
普通に暮らしたかったのに、怒って、怒鳴って、時々殴って。
でも本当はやっぱり行って欲しくなくて。
だから行けとは一言も言わなくて。
ただ小さいころは楽しみにしてたのにと。泣きそうなのを必死に我慢しながら。
言っていた。何度も何度も。
だから別れの言葉は言えそうになくて、別れの時の顔も見れそうになくて。
何も言わずに朝早くに。
『またな』と短く。
手紙を置いて出てきた。
504 :
独白系:2012/03/29(木) 01:25:39.42 ID:Qj7q7uu2
それからもう何年経ったか。
正確には4年だけど。離れている時間を考えたくなくて。
4年経っても何も変わらない。
この道も、あの店も教会も。
俺の家も、隣のあいつの家も。
あの犬まだ生きてたのか。
俺への吠え方も変わらないな。
警戒ではなく歓迎の吠声。
ほら出てきた。あいつが。
連絡するの忘れてたな。怒るかもな。
でもすぐに許してくれるだろうな。
一緒にいれなくて辛かったろうな。
なんて言うだろう。
早かったね。遅いよ。無事でよかった。
こいつは少し変わったかな。
髪伸びたな。体つきも。走り方も。
でも声は変わってないな。
「おかえりなさい」
独白ものに挑戦
あ
間違えて送信してしまった。
>>505 何か語り手の走馬灯というか、死の間際の幻みたいだと思ってしまったw
508 :
名無しさん@ピンキー:2012/04/12(木) 19:22:18.99 ID:K7Ie3xYe
過疎ってるので小ネタをひとつ
「春だなー」
「春だねー」
「桜の季節だなー」
「桜の季節だねー」
「今年も同じクラスだったなー」
「同じクラスだったねー」
「毎年毎年代わり映えしないなー」
「でも私はクラス発表って好きだよ」
「そうなの?なんで?」
「また今年も一年同じクラスで過ごせるってわかった時が嬉しいんだもん」
「そんなもんかー。でも家じゃいつも一緒だし、違うクラスになっても普通に会いに行くと思うぞー」
「うーん、それもそうかな……」
「だろー」
「そうだねー」
「……」
「……」
「……」
「晩ごはん何にしよっか?」
「トンカツ食いたいな」
「いいよー、じゃあ材料買いに行くから一緒に行こっか」
「おー」
新年度っぽいネタにしようとしたらいつの間にか熟年夫婦の会話になってた…
石川遼が幼馴染みと婚約したそうな
親としては結婚させたくなくて、とりあえず納得させるためにそんなことにしたのかな
残り25kb・・・人によってはそろそろ新スレ待機、なのか
御免なさい
まちがえた……
>>513 スレ立て乙、ドンマイw
新年度に新スレも立たったとだし、在庫で埋めにかかりましょう。
高校生もの、エロなし短編で4レス(くらい)
冷静に考えてみると、『ハーレム展開』というのは、言うほど非常識なことではなない
のかも知れない。
立で食う虫も好き好きとは言え、一人の女を惚れさせるような魅力が、別人に全く無効
というのは、あまり無い。カッコいい人は誰からみてもカッコいいのが普通だ。そして、
常にモテまくってる怪しいフェロモン男でもない限り、女が男に惚れる瞬間は、そう言う
カッコいいところを見せた時だと、私は考える。
だから、今まで見向きもされなかった男が、ある一定期間だけやたらモテる、所謂
「モテ期」というものを、最初からフィクションと断じるのもいかがなものか。
「ちょ、ちょっと聞いてくれ美和子。部活の後輩と同級生の委員長と生徒会の先輩から
いっぺんに告白された」
「落ち着いて、さとし君。ラノベの読み過ぎよ」
「正直俺もそれを疑った。だがお前の反応からして白昼夢でもなさそうだ」
ノックも無しに高二女子の部屋へ闖入してきた狼藉者に対して、私は宿題から目を
上げずに対応した。机のガラスコップに映った姿が制服だから、学校帰りそのままだろう。
頬がすっかりに紅潮しているのは師走の寒風に煽られたら、だけでも無いらしい。
「或いは罠、か?」
「最近、人の恨みを勝った覚えは?」
「無い。八方美人が俺の信条だぞ」
「そういう風見鶏君が嫌いな人も多いからねぇ。主に私とか」
「なっ! 美和子お前、まさか俺の学校の女子に工作をっ!」
「してない。つか出来るかそんなこと。あんたの学校行ったの、こないだの文化祭で
2回目よ」
つい2週間前のことだ。自分の学祭は一応真面目に参加しているが、他校に行ったのは
初めてだった。聡史からお客様扱いされるのは、どこか不思議な感じがした。
「そういえば、文化祭で一肌脱いだって言ってたじゃない。それがらみじゃないの?」
「脱いだったって、そりゃ人が足りないからあっちこっちヘルプのお願いはしたけど、
そこまで陰湿に嵌められる覚えはねえ」
「罠から離れなさいよ。惚れられる要素は?」
言われて、初めてその可能性を考えたかのように、八條聡史は黙考する。
「模擬店の裏方でかかりきりだったんだから、女の子に受けるような事はしてねえよ。
よそのクラスへの挨拶って名目で当番を時短したから、委員長はまず無いと思う。
生徒会も、先生に猫被ってゴリ押ししちまったし。後輩の親父さんに仕事頼んじまったのも、
彼女本人にしてみれば面白くは……あ、あれ? 恨まれる要素満載じゃね?」
「ふむん」
「え、ちょ、マジで? マジで罠なのこれ!?」
あたふたと騒ぐ幼馴染を横目に、私は一旦宿題を片した。しばらくは勉強に
ならなさそうだ。
実は、この一件に関して、私もいくらかは事情を知っていた。およそ半月前の文化祭で、
聡史は八面六臂の活躍をしたのである。
舞台はクラス出店の模擬店だった。出し物を決めないと帰れない放課後のHR。男子の
誰かが適当に言った「メイド喫茶!」という案は女子の「キモい」の合唱で回避された。
しかし、他に案が出ることも無く、結局件の委員長は「喫茶店」を採用せざるを得なくなった。
だが、そんなやる気の無いクラスに飲食店の出店はハードルが高過ぎた。言いだしっぺの
男の子は最初だけ無駄に張り切った後、見事な投げっ放しジャーマンで逃亡した。
開催二日前に生徒会が検分した際には、出店不能との判を出された。
そこからリカバリをかけたのが、聡史だったのだ。
前述の通り、八条聡史は、自他共に認める八方美人である。とにかく顔が広い。
先生受けもいい。交友関係は浅く広くが基本であり、信用は自分を相手に合せることで築く。
要するにパシりである。絶対の信頼を得ることは少ないが、皆から便利な人間であるとは
思われている。そうしてあっちこっちに小さな恩を沢山売っている。必要があらば媚び諂う
ことだって辞さない男だ。人によっては、必要が無くてもやっている様に見えることもあり、
私ですらそう感じることもある。そして、実際、そうやって誰からも好かれるのが好きなのだと、
彼自身認めている。
そんな人物だから、確かに嫌っている人間は少ない。無論、そういう手合が駄目な少数
の人間からはゴキブリの如く嫌われていたりもするが、あくまで大勢に影響ない範囲である。
だが、それが男性的な魅力に繋がるかと言うと、普段の高校生活では難しい。
しかし、こんな時に限っては彼の人脈が光った。作業に足りない頭数は三学年問わず
あらゆるところから掻き集め、生徒会は容赦なく担任の虎の威を借りて攻めを落とし、
事態を泥沼化させていた衛生管理責任者まで、部活の後輩の親御さんを拝み倒して
連れてきてしまったのだ。
その結果、出し物は滞りなく行われた。十分な人数が集まったから、誰かが無理をする
ということも無く、ある者は適度に頑張り、ある者は適度にサボり、悲劇が生まれない
代わりに、ヒーローも生まれなかった。
おかげで、終わってみれば、直前に騒いだ割には大したこと無かったな、と言うのが
参加者一般の感想であった。聡史にしても、当日はゆっくりと「お世話になった人の
挨拶回り」を決め込んでいたから、彼を「サボり組」の方に思う人も多かった。
本人からして、そう認めていた。
但し、騒動の渦中にいたものには、聡史の風見鶏の本当のところが見えて来たのだろう。
「まあ、罠にせよ罠じゃないにせよ、今後の身の振り方次第でさとし君の残りの学園生活が
決まるわけね。バラ色か、茨かは知らないけれど」
「いやいやいや、この流れどう見ても茨じゃえか。どうしよう美和えもん!」
「……きみはじつにばかだな。ひとまず座ったら?」
「お…おう」
言われてようやく、部屋の入口を離れた聡史は、花柄のシーツに遠慮もなく腰を下ろす。
私も勉強用のメガネを外すと、椅子を回して彼の方に向き直った。
「じゃあ、順番に行きましょうか。まず、さとし君はその娘達のことをどう思ってるの?」
「正直、人を罠にかけるような子には思えない」
「あーもう、そのネタいいから」
「よくないよ! 一番大事なとこだよ!」
「何慌ててるのよ。罠だったら、大人しくピエロになっておいて、後で被害者ぶれば済む
話でしょう。こんなの、さとし君の常套手段じゃない」
「え……あれ?」
「つまり、どっちにしてもさとし君に必要なのは、三つの告白が本物だったと仮定して、
どうやって三者とも顔の立つ対応をとるか。違う?」
「そ、そうだよな。俺としたことが、何で気付かなかったんだろう」
つまり、無意識にテンパってしまうほどの相手、ということか。
「じゃあ、次の問題ね。本命役にはどの娘を選ぶ?」
「いや、次って。最初の設問にも答えられてないというか、そんな段階で選ぶも
何もだな……」
「断りずらい娘がいるんでしょう」
「いや、まあ、無碍に断りづらいという意味では全員というかそもそも告られたことが
初めてなのにどうしたらいいか分からないといいますか」
これは重症だ。私は眠気覚ましのどくだみ茶で喉をうるおし、努めてゆっくりと
声を出す。
「その三人の中で、今まで気になってた娘は居るの?」
「正直言って、三人とも今まで意識したことは無かったんだ」
ほう。
「まあでも、今回無理を通すにあたって、それなりに話す機会はあったよ。
部活の後輩はさ、学校ではハキハキ明るいんだけど、家では親父さんと絶賛冷戦中だっ
たりするんだよ。まあ、愚痴を聞く限りパパは娘可愛さに暴走中。娘も娘で昔は家族大好
きっ子だったんだけど、なまじ仲良過ぎただけに反抗期を抉らせちゃってさ。ちょっとした
切っ掛けさえ有れば元通りなんだけど、いい人同士逆にそれが出来ない状態でなぁ。
馬鹿というか何と言うか、でもほんとに理不尽なほどいい娘で、腹黒い俺には眩しいというか
なんというか」
……ほほう。
「生徒会の先輩は、これがまたあったま固くってさー。会長の方針は厳し過ぎるとか、
専横が過ぎるとか思ってるくせに、会計の自分が言うことじゃないとか言ってずっと腹に
貯めてんだよ。おまけに、生徒会自体は一丸じゃなきゃいけないとか言って、いざ動くと
なると、その指示を率先して徹底すんの。お前は何時の藩士じゃっつー感じだよ。今回の
生徒会攻略の一番の壁だった。まあ、人間関係が軽薄な俺の対極にいるような奴だな。
よくそんなことやってられるなあと、ついつい気になって目がいっちゃうんだけど」
………………。
「委員長は、表面上は俺とよく似たタイプ。社交性があるというか、顔が広くて、誰とでも
話せる奴だな。でも、その先が問題でさあ。人脈なんて頼ってナンボ、寧ろこっちから
頭を下げてこそ太くなるもんだってのに、なぜかそこで生真面目に責任とか考え始めるん
だよ。お返し出来ないのにお願いなんか出来ないとか愚痴愚痴さあ。そこは逆だってのに。
こっちが先にお願い事してるから、向こうも気軽に頼ってくれるようになるんじゃないか。
何でそこが分かんないのとか思うと、もどかしくてもどかしくて目が離せないんだよ。
同族嫌悪、とは違うんだけども、ついつい手と口を出さずには…
……って、あの、美和子さん?」
「もうさ、三重婚してラノベ主人公らしく刺されればいいよ」
「ちょ、人が恥を忍んで正直に相談してんのにそりゃないよ! つか、最近のラノベの
主人公って刺されるの!?」
何だか、こめかみの部分が痛くなってきた気がしたので、私は一旦机に身体を戻した。
ベッドの上で手足をバタつかせる幼馴染を尻目に、コップのどくだみ茶を一気飲みする。
……苦い。
「で、返事のタイミングについてだけど。私に相談に来たってことは、取り敢えず保留は
出来てるのよね?」
「あ……ああ。まあ、向こうも突然で悪いって言ってくれてさ」
「まあ、そう言えばそうね。全員が全員、功を焦るタイプとも思えないけど」
「功って、あのな……。まあ、何だか、今の時期が重要みたいだぞ。最後に告白してきた
後輩が、『遅れを取るわけには』とか言ってたし。そういう占い的なジンクスでも有るんじゃ
ないか?」
……なるほど、お互い戦況もよく理解済みか。それでも勝負に打って出る辺り、覚悟も
生半可なものではないだろう。
彼女たちには、明確な動機がある。加えて、それぞれが聡史に対する明確な切り口を
持っている。条件は互角、となれば先手を取ろうとするのは道理と言えた。同じイベントで
フラグ立てした彼女たちには、時間という要素が等しく足りていない。
その要素だけ無条件に勝てるのは、幼馴染キャラの特権だ。
「……いかん、ラノベの読み過ぎなのは私かも知れない」
「えと、あのー、美和子さん? 先程から貴女には珍しく、意味不明なお言葉が多いの
ですが……」
ただ、彼女らが聡史の八方美人の理由を、この短期間でどこまで理解したのかについては、
はっきり言って疑問だ。後輩・会計は、父親との和解・会長への反旗といった、個人的事情
におけるインパクトが大き過ぎる。委員長についても、自分が責任の真っただ中にいた分、
助けてくれたことに気がいって、どう助けたかについては気にする余裕が無いのではないか。
そうでなくても、彼の信念を理解するのは常人には難しい。
好きな人に、一人二人に、いい顔をするのは誰にでも出来る。だが、十人、百人、
会う人万人となれば話は違う。
ただ単に、気に入らない奴もいるから大変、という次元では無いのだ。ちょっとした親切
であっても、ただ愛想良くふるまうだけで合っても、その対象が200人、300人となれば、
する方の側は"ちょっとした"こととは言えなくなる。誰に対しても「小さな親切」を送り続ける
人生の労苦は生半可な物では無い。そんな生き方を続けるには、大きな覚悟が必要だ。
聡史にはそれがある。人間、一人では誰も助けられないという覚悟。例えどんなに信頼
できる仲間でも、その日、その時、必要な場所にいなければ、何の役にも立たないという
悔恨に裏打ちされた覚悟だ。
私と聡史の、深い脛の傷の上に根付いたそれを、学祭イベント如きでポっと出の
新キャラに理解されてたまるもんですか──
「美和子、美和子ったら。……おい、大丈夫か、みーちゃ」
「へぁっ? ごめん、さっ……とし君」
いけない、私としたことが完全に気を飛ばしていた。変な声出ちゃった。
「ええと、何を話していたんだっけ?」
「や、だから俺の三者告白についてだな、どう対処すべきかという情けない相談の最中で
……大丈夫?」
「平気よ、悪いわね。ちょっと、根詰めて勉強してたから眠くって」
反射的に机の上のコップを煽ると、どくだみ茶のティーバッグがペトリと顔に降ってきた。
そう言えば、さっき飲み干したんだった。
素知らぬ顔で鼻下にティッシュをあてがいながら、私は深呼吸して気を落ち着ける。
しかしまあ、後輩・先輩・同級生、それぞれ部活に生徒会に委員長か。よくもこれだけ
綺麗に揃ったものだ。具体的な話を聞いて少し現実味が出て来たものの、やはり作り物
めいた感触が拭えない。もちろん、聡史の話を疑っているというのではない。その渦中に
自分が入っていくという実感が持てないのだ。
要するに、自分は少し気圧されているのだろう。押し返すには、ちょっとした開き直りが
必要だ。なるほど、件の後輩ちゃんの言葉は、こんな心境から飛び出したのか。
「まあ、大体事情は分かりました。確かに、いきなりこんな漫画みたいな状況に陥れば
混乱するのも無理無いわ」
「おお……さすが美和子。分かってくれると思ってたよ! ……して方策は?」
「あまり真面目にならないことよ。こんなふざけた状況なんだもの、常識的に考えてるほうが
無理が出るわ。物語の主人公にでもなったつもりで、役に入って楽しめばいいじゃない」
「えー……。いや、うん。美和子の言いたいことは分かるよ? けど、当事者的には、
目の間に現実の人間関係が有るわけで、そう簡単に吹っ切れないというか……」
「ゲームと割り切るには、まだインパクト不足ってわけね」
出来るだけ、何気ない風を装って、私は椅子から立ち上がった。案の定、彼は膝にのせ
たこぶしを見つめ、下向きにウンウン唸ったままだ。
「じゃあ、さらにお約束っぽくしてみましょうか。生徒会に部活っ娘にクラス委員。ここへ
焦った幼馴染も参戦してくるってシナリオはどう思う?」
芝居がかった台詞と芝居がかった動作で、私は彼の隣りに腰を下ろした。そうしなければ、
とてもじゃないが声音を平調に保つことなど出来なかっただろう。
二人の重みでスプリングが沈み、自然と肩が触れ合った。回転の早い彼の頭が、
その台詞を咀嚼する寸前、私はここ一番の笑顔で上目遣いに布告する。
「好きです、さっちゃん。私と付き合って下さいませんか?」
今や混乱の極地にある幼馴染の顔は、思った通りに愉快で、やっぱりちょっとかわい
そうだった。ごめんなさい、さとし君。遅れをとった三面作戦となれば、さすがの私も手段を
選んではいられない。だが乱戦にして地力の勝負となれば、年季の違いを見せてくれる。
そんなわけだから、さっちゃんはせめて、このテンプレ染みたハーレム状態を楽しんで。
なんてことを思いながらは、私は彼の腕にそっと身体の前を押し付けた。
以上です。
幼馴染キャラの敗北理由の多くが、天然さ・純真さ・鈍感さが裏目にでた結果だと思うのです。
というわけで権謀術数系幼馴染でした。
「腹黒パワー、幼馴染が持つと距離の近さに駆け引きの上手さが備わり最強に見える」
リアルタイムで遭遇するとは…
一度でいいから翻弄されてみたかったぜ
素晴らしい
乙
素晴らしい
ラノベ的な設定とてんほの良さを逆手に取ったような作品だ
聡史にしてみればポルナレフ状態だな
ハンサムな聡史はこの状況を打開するアイディアがひらめく
仲間が来て助けてくれる
助からない。現実は非情である
1
新緑の季節が待ち遠しいのか葉桜は白い花弁を今日も散らす。
夜更けの桜を眺める役得もじきに終わってしまうらしい。
細い三つ編みを垂らした支岡くぬぎはアパートメントの小窓から目を逸らした。
ベランダ側の大窓から桜が見えるのなら良かったけれど、残念ながら西側のベランダ前には隣のアパートがどんと立っている。
塗装が剥げた赤い壁と、いつでもカーテンがかかっている窓しか見えない。
カーテン向こうの灯りに一瞬、意識を向けてから天井を見上げる。
昔、この部屋の主とパジャマパーティをしたときに見立てて遊んだ模様は今も変わらずそこにあった。
そこで、ひとつ溜息をつき。
くぬぎは葉擦れのような涼やかな声で、この部屋の主の少女の名を呼んだ。
「ちお。あんた今日は全然身が入ってないじゃない。いったいどうしたの」
ちお、と呼ばれた少女はローテーブルに打つ伏した頭をずりりと起こして、ベッドに座る幼馴染に顔を向けた。
妙に切ない瞳である。
「ちょっと。そんな目しないでよ。新歓の部活紹介、ちゃんと決めようっていったのはちおの方で」
「くぬちゃんは頭いいよね?」
「……せ、成績がいいだけっ。そんなこと言っても何も出ないわよ。それとこれとは、」
やや赤い頬で言い返していたくぬぎを、じいっと見つめて、遠藤千緒はおもむろに立ち上がった。
肩ほどの柔らかな髪がふわりと広がりまた落ち着く。
「くぬちゃんっ!」
ベッドまで突進して三つ編みに顔がつくほどにじり寄る。
「助けて!!」
「え、う!?……な、なに。宿題とか……?」
「干してたぱんつがなくなったの!!」
くぬぎは十数秒ほど絶句した。
「ま……待って待って。干してたっていうのは、どこに」
幼い頃から遊びにきていたくぬぎには、このアパートには室内に物干し場があり、おばさんが洗濯物はかならずそこに干していることくらい知っていた。
それがなくなったとすれば――泥棒、の仕業ということすらありえるわけなのだが。
質問の意味を正確に理解したのか、千緒が湯気が立つほど真っ赤になって首を振る。
「ベランダに干してた……」
「アホかあんたはッ!!!」
「き!」
思わず怒鳴って幼馴染の頭を叩くと謎の悲鳴をあげられた。
「ベランダって、ベランダってあんたちょっと羞恥心がないの?!」
「くぬちゃん怖い……」
「怒りもするよ!」
ベランダに隣接する隣のアパート(メゾンドけやき)と、このアパート(コーポそらまめ)のベランダ間にはほとんど隙間というものがない。
当然乗り移ることも可能だし、メゾンドけやき側がカーテンを開ければベランダの洗濯物など丸見えだ。
北側の外壁にはエアコンの室外機や配線やなんやらが張り出していて外から入る隙間もない。
更に南側は別のビルの裏壁でありこちらも外部からの侵入はできない。
必然的に、犯人がいたらこのアパートか隣のアパートの住人となる。
「風で飛ばされた、ってことはないの。一階の庭に落ちていたりしなかった?」
「……なかった…」
「ああそう分かった。分かった分かった。なくなったのはいつ?」
はぁと三つ編みに指を絡めて肩を落として聞きながら、くぬぎはベッドから脚をおろした。
そのままベランダ側まで歩いて行ってカーテンごと窓の桟を横にを引く。
靴が一足置けるくらいの狭いベランダに踏み出して、向かいの窓をカンカン叩く。
やや強めに延々と。
「三島。三島兄弟ー。ちょっと、ねえ、顔貸しなさい」
深緑のカーテンがややあって開き、同い年頃の少年が二人、顔を出した。
くぬぎは、二人を順繰りに見つめてから、こほんと咳払いをし。
涼しい声で厳かに告げた。
「あんたたちのどっちか。ちおのパ……、ん…洗濯物、盗ったでしょ」
2
「……は?」
三島恭平は隣家からの突然の詰問に、口をぽかんと開けることしかできなかった。
窓の外、向かいのアパートから顔を出してこちらを見据えているのは、よく知った幼馴染みの少女、支岡くぬぎだった。
無遠慮に窓を叩かれ、近所迷惑になるので仕方なく応対すると、いきなり盗人呼ばわりである。わけがわからない。
「何よその目は」
気の強そうなくぬぎの目つきが、さらに剣呑なものになる。ちょっと思っていたことが顔に出てしまっていたらしい。
「お前は何を言ってるんだ」という内心の声を、恭平は気取られないように打ち消す。
「こんばんは。突然どうしたの、くぬぎちゃん?」
隣にいた弟の純也が、小首をかしげて少女に問いかけた。恭平とは双子なのだが、二卵性のためかあまり似ていない。
無愛想な恭平とは違って、純也は人当たりがいい。そのせいか、くぬぎの強気な物言いも純也に対しては
柔らかくなる。それが恭平には少しおもしろくない。
「いや、その……ちおがベランダにパ……洗濯物を干してたらしくて、それがなくなって困ってるの」
「……洗濯物?」
純也はもう一度首をかしげると、隣の兄に目を向けた。恭平は顔をあわせずに答える。
「知らん。そもそもここしばらく、窓を開けた覚えがない」
偉そうに言うことじゃないよ、と純也は苦笑いをする。
「換気のために、起きたときに一度窓を開けたよ。15分くらいかな。でもそれだけ。昼はいなかったから知らない」
「俺もいなかった。帰ってきたのはたしか夕方の5時ごろだったか。そのあとテレビ観て飯食って、
部屋に戻ってきたのはさっきだ」
「ぼくも同じような感じかな。朝はそもそも洗濯物なんて干してなかったと思うけど」
すると、くぬぎの後ろから遠藤千緒が、真っ赤になった顔をおずおずと出して、こちらを覗いてきた。
「こんばんは、ちおちゃん」
「う、うん。こんばんは」
のんきに挨拶などをしている弟を尻目に、恭平は単刀直入にもう一人の幼馴染みに訊ねた。
「洗濯物って、ベランダに干してたのか?」
「……ん」
小さくうなずく。くぬぎが睨んできたが、恭平とてセクハラをするつもりは毛頭ない。
それに、質問する側もこれで結構気まずいのだ。
「身に覚えがないのに、一方的に犯人扱いされちゃたまらないからな。ちょっと訊くだけだ。我慢してくれ」
「……うん」
今度は幾分はっきりとうなずいた。隠れていたくぬぎの背中から出てきて、ベランダの正面に立つ。
背は千緒の方がずっと低い。くぬぎも決して大きいわけではないが、小動物のように小柄な千緒と比べると、
背が高く見える。とても同学年とは思えない。
「いつ干した?」
「えっと、昼の2時くらいに……」
「なくなったことに気づいたのは?」
「夕方には取り込もうと思って、ちょっと外に出てたの。だけど帰ってきて、6時くらいに窓を開けたら
どこにもなかった。物干しごとなくなってたから、最初はお母さんが取り込んだのかと思ったんだけど、
訊いても知らないっていうし、下にも落ちてないし、どこ行っちゃったんだろうってもうわかんなくなっちゃって……」
次第に声量が小さくなっていく千緒の様子に、恭平は何も言えない。女性の衣類は男性よりもずっと
デリケートなものだろう。加えて千緒は思春期真っ只中の女の子だ。同年代の男子に洗濯物をどうこうと
話題にされて恥ずかしくないわけがない。それを言うなら同年代の男子が住む部屋の真正面に洗濯物を
干すことがすでにおかしいが、千緒は昔から恭平と純也に対してだけは気を許しきっている節があり、
警戒心皆無だったりするので、恭平はその行動を特に不可解だとは思わなかった。家族ぐるみでの付き合いがあるので、
半分は家族のような意識なのだろう。
恭平個人としては、そう割り切れるものでもないが、それはともかく。
「物干しって、あの洗濯バサミがたくさんついてるやつか?」
「うん……」
物干しごとなくなったとなると、風で飛ばされたという線はほぼ消える。鳥や動物が持って行ったというのも考えにくい。
ということはやはり人為的な行為によるものと考えていいだろう。平たく言えば誰かが盗んだのだ。
恭平は違う。純也も違うと言っている。ならばどこかのコソ泥の仕業か。
いや、と恭平は思い直す。周りの立地と角度的に、この位置の洗濯物を確認できる場所は恭平たちのいる部屋しかない。
ベランダの足場が邪魔になって、下からは見えないだろう。