Ruina 廃都の物語エロパロ 七世

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1名無しさん@ピンキー
フリーゲーム「Ruina 廃都の物語」のエロパロスレです

過去スレ
Ruina 廃都の物語エロパロ
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1240244983/
Ruina 廃都の物語エロパロ 二世
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Ruina 廃都の物語エロパロ 三世
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Ruina 廃都の物語エロパロ 四世
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Ruina 廃都の物語エロパロ 五世
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263472849/
Ruina 廃都の物語エロパロ 六世
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1274786836/

・era板(兼・規制時の避難所)
【二次創作】eraRuina【Ruina】
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12839/1259237750/

・有志によって作成された過去スレ投稿作品まとめ
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/153016.rar
2名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 20:59:16 ID:Hd4elsrF
ぬるぽの物語
3名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 21:19:13 ID:n25jo17K
新スレ乙!
4名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 23:43:23 ID:W3J0g0IF
新スレ乙!
5名無しさん@ピンキー:2011/01/25(火) 07:34:23 ID:kzBaG7EN
>>1おつおつ
七世たんと言えば混沌の女帝か
6 ◆1HLVKIREhA :2011/01/26(水) 02:16:08 ID:UhTk0rxB
規制の外側へ一時的に脱出できた気がするのでトリップテスト
いけそうなら投下する
7 ◆1HLVKIREhA :2011/01/26(水) 02:16:29 ID:UhTk0rxB
「――そして、生命の源とも言える精液を介して魔力の譲渡をね――」
どうしてこんなことに。
家を焼け出されて間借りしているひばり亭の一室で、魔術の講義を受けている。
今や恋人でもある、魔法少女に憧れる幼馴染、ネルから。
……性魔術の講釈を。
古今東西、性を軸とした魔術は枚挙に暇がない。
性交による一時的な魔力の譲渡というのも珍しいものではない。
そんなことは、今更説明されるまでもない知識だ。
「この方法なら、わたしにも大魔術が使える!と思うんだけど、どうかな」
無邪気なネルに、あーとかうーとか曖昧な返事しか出てこない。
いくつかの問題点が瞬時に浮かぶ。
しかし、それを口に出せばネルの笑顔が曇ってしまうであろうことも想像に難くない。
或いは、ここまでノっているネルを言葉だけで止められる自信がない。
そんな葛藤をよそに、
「それじゃ、準備するね」
魔道書とにらめっこしながら、部屋の中に手際よく魔法陣を描いていく。
元々器用なだけあって、陣自体は非常に緻密で、魔術師たる自分から見ても感心するほどだ。
適切な手順を踏めば、求める結果を得ることは容易だろう。
「でーきたっと」
あっという間に、寝台を中心とした陣が完成する。
ならば、次は。
「……じゃ、じゃあ、その。しよ?」
もじもじと照れながら、そんなことを言う。
普段はお姉さんぶるくせに。
ここまでアグレッシブに進めてきたくせに。
いざという時のこの可愛らしい態度は反則だ。
こんな恋人に誘われて、その気にならなければ男ではない。
細いその肩をそっと抱き締めて、頬にキスをする。
「ん、へへ」
一度スイッチが切り替われば、照れているだけのネルではない。
ネルの方から、唇を合わせてくる。
「ちゅ、んんっ、ふっ、んむっ、ん、んん」
貪るように、積極的に舌を絡めてくる。
互いの唾液を混ぜ合い、口内を舐め合い、舌と舌でせめぎ合う。
「ふはあっ……」
満足げに色気のある笑みを浮かべる首筋に口付ける。
「あんっ、くすぐったいよ」
嬉しそうな非難を無視し、服を脱がせながら柔肌に唇を押し付けていく。
首筋から鎖骨、胸元へ。
「跡、ついちゃいそう」
やはり嬉しそうな声を聞きながら、ささやかな谷間に鼻先を埋めつつ下着を取り去る。
「ふぁ」
頭をかき抱くように腕を回してくる。
密着状態を少し放すように、二つの膨らみに手を添えてやる。
「あ、ん」
ほんの撫でるような接触でも、敏感に反応する。反応してくれる。
ネルの女の部分を自分が引き出している。
ネルの甘い声が、本能を刺激する。
「舐めちゃ、や、だってば」
舌と指で、白い双丘を存分に愉しむ。
「……えいっ」
「っ!?」
抱きかかえられた体勢のまま、放り投げるように倒れこまされる。
「立ったままじゃ、やりにくいでしょ?」
攻めているつもりでも、結局主導権を握るのはネルなのだ。
肉体的にも、精神的にも。
「ほら、もっと……ね?」
8 ◆1HLVKIREhA :2011/01/26(水) 02:16:49 ID:UhTk0rxB
だが、それでもいい。
男としての矜持など、惚れた女の前では何の意味も持たない。
誘われるがままに、再び白い肌に口付ける。
胸を通り過ぎ、さらに下へ。
「やぁ、そこ、くすぐったい」
くびれた腰を撫でながら、舌はへその周りをくるりと舐め回す。
どこに触れても、どこを味わっても、至高の感触。
女性の身体というのは、この世で最も完成度の高い神秘の芸術品だ。
そんな中で、最も神秘的な、生命の根源とも言うべき秘奥に触れる。
「ひあっ……っ!」
胸よりもさらに敏感な反応。
ネルのそこは、すでに若干の湿り気を帯びて震えている。
「ふやっ、あ、はんっ、そこっ」
指で、舌で、ほぐすように丹念に刺激する。
奥から湧き出す粘液を舐めとり、さらに奥へ指を入れる。
「ひ、広げちゃやぁ」
指先に感じる潤いが、ネルの準備が整っていることを教える。
こちらの準備は、キスだけでも痛いくらいに硬度を得ている。
「わたしも、手とか口とかしたげようか?」
ネルの魅力的な提案を、断腸の思いで遠慮する。
今そんなことをされれば、保たない。
今日は、無駄に出すわけにはいかないのだ。
「ん……その前に、もっかいキスして?」
請われるがままに唇を重ね、耳元で愛を囁く。
「うん。わたしも、だいすき」
どこか惚けたような笑みに、心の臓が大きく脈打つ。ここらが我慢の限界だ。
ネルと一つになるべく、怒張を割れ目に押し当てる。
「いいよ、いつでも」
言われるまでもない。躊躇なく、一気に奥まで突き入れる。
「っく、んんっ」
多少の抵抗すらも、快感を引き上げる刺激でしかない。
独りよがりに激しく動きたい衝動を抑え、一呼吸。
「っはあ……やっぱり、おっきい」
ネルの様子を見ながらゆっくりと引いていき、また突きこむ。
まずはその単調な動きの繰り返し。
「あっ、もっと好きに、っ、動いてもいい、よ?」
そういうわけにはいかない。
性魔術には、互いの感覚のシンクロが不可欠なのだ、と忘れかけていた建前を持ち出す。
「そっか……ぁん」
ネルの声に余裕と艶の成分が濃くなってきた。
頃合と見て、浅い部分を抉るような動きへ変化する。
「ぅあっ、いいところ、ぐりぐり、ってぇ」
ネルと肉体的に結ばれてからまだ日は浅いが、こちとら真理追究の徒、頭脳派の魔術師だ。
感じるポイントぐらいは把握している。
この角度が自分にとっても快感を得やすいこともわかっている。
身体の相性も、抜群にいいということだろう。
それは、互いに限界が早いということでもあるが。
「や、んっ、ああっ、ふあっ」
水音と、喘ぎ声と。ただ二つの聴覚刺激が、一層の興奮を駆り立てる。
潤んだ目、シーツを掴む指、蠢く膣内。
ぼやけていく思考とは裏腹に、いくつもの事象をはっきりと認識している。
そして微細な変化から、ネルの絶頂が近いことを知る。
「もう……っん、いっちゃ、はっ、い、っしょに、ぃっ」
同じ高みを目指して、一心不乱に腰を振る。
「あ、は、ああ、んっ、っくぅぅううう!」
ネルの膣内が収縮すると同時、目一杯突きこんで精を吐き出す。
「あぅ、奥で……いっぱい、出てる……」
射精が、止まらない。
搾り取られている感覚。それも、精液以外の何かを、だ。
だが、それすらも今は気持ちがいい。
9 ◆1HLVKIREhA :2011/01/26(水) 02:17:09 ID:UhTk0rxB
「……っふう。何かみなぎってきた」
事後の快い脱力感を味わうのもそこそこに、さっさと後始末をして服を着込む。
「よーし、早速試すよ」
気力充溢、意気軒昂。勢いよくひばり亭を飛び出し、広場の人気のない一角へ。
「はああああ……」
ゆっくりと腰を落とし、呼吸を整える。
錬気が頂点に達しようというその瞬間。
「世界の果てより吹き込む風っ!!」
鋭く突き出された拳が風を纏う。
世界の果てより吹き込む、そよ風。
確かに感じられる気流を生み出す拳速は、間違いなく一種の才能である。
間違いなく魔術ではないが。
「……だめでしたー」
ぐんにょりしているネルに、思い当たる原因を説明してやる。
他人の魔力を借りて魔術を行使するのは、魔力の扱いに慣れていないと難しい。
元々魔力が弱いわけではないネルが高等な魔術を使うための手段としては適切ではない。
「なら先に言ってよ、もう」
言っても無駄そうだった、などと正直に口に出すほど迂闊ではない。
口実はどうあれ、ネルと愛し合いたかった。
そんな歯の浮くような台詞を吐く。
「これ以上わたしを惚れさせて、どうする気?」
いい笑顔で、腕に抱きついてくる。
やっぱり、ネルには笑っていて欲しい。
そう思わせる魔力を、確かに持っている。
10 ◆1HLVKIREhA :2011/01/26(水) 02:17:30 ID:UhTk0rxB
ネルお姉さんといちゃいちゃ魔術編
何処かで見たシチュをパクってみる暴挙第三弾
ネル単独ってこれが初めてかも知れぬ
ガンガンばるばる攻める方かと思いきや、意外と乙女ちっくになってしまった
いつも飄々としてるのにいざという時は……っていうのも萌えるよね
ネルの魔術周りは適当に捏造した
どっかに設定あったらごめんなさい教えて下さい

んじゃ、本拠が解除されるまでまた潜る
十四世の流れとか参加したかったぜ畜生
11名無しさん@ピンキー:2011/01/26(水) 03:10:37 ID:twhuyyLB
ん乙ぅ!
ネルお姉さんまじかわいいよご馳走さまでした。


このスレでは大地に満ちるほど色々生み出しまくった女帝が大人気になるのね
生み出しまくり=孕みまくりじゃないか、エロいじゃないか

あと八世と九世にどんなけしからん教育を施していたんだ!
姉弟でいちゃいちゃだと?しかも弟はかなりのヤンデレだと?
素晴らしすぎるぞ古王朝!!
12名無しさん@ピンキー:2011/01/26(水) 07:02:11 ID:XdRMN8wV
GJ! ラブラブごちそうさまでした!
>「わたしも、手とか口とかしたげようか?」
萌え死んだ
ネルはほんとかわいいな!
13名無しさん@ピンキー:2011/01/26(水) 09:25:58 ID:OVxuD2EH
ネルかわいいいいいいい
1415 ◆E9zKH0kZMc :2011/01/28(金) 22:06:08 ID:A8gM+lAI
新スレ>>1乙しにキャシアス編3500くらい、今回の分は
胸糞悪くなる要因はないと思いますが七世でも引き続き
とりあぼんでご協力下さい

六世までの概要
公子「息子うp」親父「うpれks」息子「おk把握」
1515 ◆E9zKH0kZMc :2011/01/28(金) 22:06:41 ID:A8gM+lAI

「案の定叱られてしまった……」

「仕方ねえ。一旦引き上るぞ」
「……諦めちゃうんですか、せっかくお弁当作ってきたのに」
「えっ、ああ……、うん。いや、そうじゃなくてよ、こいつの親父には引き上げると見せかけて、こっそり
どっかに紛れ込むって作戦だ。どうだよ」
「なるほど……」
君がいてくれてよかったとかなんとか、面と向かって面映くなる感謝の言葉が飛び出してくる。
「いいんだよ、うるせえな。よう、ついでにアルソンにでも会って行くか?町じゃ見なかったから、どうせ
そこらにいるんだろ」
「ああ、僕もそう思って探していたのだが、公子の陣中にはおられなかったな」
「忙しくって忘れてました……。アルソン様の差し入れに、お菓子でも焼いてくればよかったですね」

「やべっ」

「そうだね、いい携帯兵器になるから、きっと喜んでくださったろうね」
「はい!」
幸せそうに笑った。立ちくらみがするのは気のせいか。
「…………食い物で思い出したけど、ここしばらくオッサン見てなくねえか?この大事な時に、一体どこ
いっちまったんだろうな」
「……護衛依頼でもあったのだろう、物騒だからな。もしくは、この戦場でどこかの部隊に参加している
のやもしれん」
「傭兵ですもんね、メロダーク様は」
「てことは、お前がなんかやらせてるってんじゃあないんだな、この前のときみたいに」
「ああ、特に僕からは……今回は猶予もなかったので、たいして小細工はしていないよ」
大してというのが怖い。そのまま青年は何かに気づいて、小姓を走らせる。やけに礼儀正しい鎧武者が
歩いているのだ。呼び止められると振り返り、純朴そうな小姓の若者を握手攻めにしてからキャシアスの
名を叫びつつ駆け寄ってきた。
1615 ◆E9zKH0kZMc :2011/01/28(金) 22:07:12 ID:A8gM+lAI
「やっぱり来たんですね!」
「アルソン様、こんなとこにいたんですね」
「はい、さっきついたばかりですよ、でもすぐに出立します。良かった!このまましばらくは皆さんと会え
ないかと思ってました。君にも出征指示が出たんですね」
「いいえ……、手前勝手ながら参上いたしました」
「こいつ親父から来るなって言われたらしいんだけどよう、居残りなんて我慢できねえっていうから、オレ
らで連れてきてやったんだ」
「そりゃ、黙って見てるなんて無理ですよね。カムール卿も喜んだでしょう、所属は決まりましたか。それ
とも、これから会うところですか」
「カムール様とはお会いできたんです……でも」
「もしかして、怒られちゃったんですか?」
「まあ、待機指示を守らなかったのですからね……今は肩書きもないし」
「しょうがねえだろ、お前はまだ騎士じゃねえんだから。ほんとにお前の親父といいこいつといい、立場
のある奴らは大変だな。嫌でも命賭けなきゃならないんだから。オレなんか気楽なもんよ」
「こういう形でしか皆さんに奉仕できないですからね、僕らの務めですよ」
「そんなもんか?で、なんでお前はテオルのとこじゃなく、こんな場所に一人でいるんだよ。伝令か?」
「僕は、テオルの命令で遊撃隊を率いることになったんです。良ければ加わりませんか?」
「はぶられたな」
「ちがいますよう、やだなあもう。町での戦いを評価されたんです、これも君のお陰ですね!」
はっしと腕を掴んでゆさゆさ、揺すぶられながら青年は皆の協力あってこそと言い、自前で集めてきた
ものたちの概要を説明した。
「我々の他に、市民や異邦人から志願した者たちがおります。前回の戦闘に加わったものも半数ほど
おります。一通りの支給品を与えて装備としています。歩兵三十二、射撃手八、騎兵十、小隊長五名、
中隊長一名、以上総勢五十名です」
「あのあたりにいる人たちですね?君たちも加わってくれれば四百人規模になりますよ。指揮系統を統
一する必要がありますから、君たちは僕と行動してもらうことになります、構いませんね?」
「勿論です。全てアルソン殿の指揮下に置いてください。…………どうかしたか」
「いや、ずっとただのアホかと思ってたけど、本当にこいつってまともな指揮官なんだなあと思ってよ」
「指揮官だなんて!僕はそんな大したものじゃないです、言ってみれば皆の弾除けですね。一緒に作
戦を立てましょう、野営地まで来てください」
槍を掲げて颯爽といってしまった。
「……今、だいぶ失礼なことを言っていたような気がするんだが」
「そうか?別に怒ってねえだろ」
曖昧に答えて後を追った。うたれ強いのか鈍いのか、よく分らない……。
1715 ◆E9zKH0kZMc :2011/01/28(金) 22:07:44 ID:A8gM+lAI
志願兵を伴った一行は一時間ほどをかけ、公国軍の独立部隊野営地に入った。両軍合わせて一万余
が、東西に分かれて睨みあう平野の一番北端、間伐が滞り荒れた森の近くである。一名を除いた総員
で炊き出しに加わりはやめの軽食をとった後、細々としたすり合わせを進め、四百名の統合を図った。
ここまでの工程を済ませる頃には、かなり日が高くなっており、食事を終え解いた武装を再び身につけ
ていた時、やっとキャシアスだけ戻ってきた。
「食べ終わったかね?」
「はい!あたしはお片づけを手伝いました」
「よかったね。さっそくだがそのままで聞いてくれ。恐らく敵方もこの付近に潜伏しているはずだ。君たち
には索敵を任せる。協力して動いてくれ」
「やってみます」
「オレにまかせろ」
「戦闘が始まった場合には、基本的にアルソン殿をお守りするという爾来の方針に変わりはない。私人
である私にかかずらって指揮官を欠くような事態は避けねばならぬ。……今回は、私もこうしてきちんと
盾も持ってきているのだからなおのこと、お前は私より自分の身を守ることを優先なさい」
「でも……。それに、その剣は?」
端正な装飾の片手剣を帯びているのだが、なぜか、毒々しい鞘に見覚えがある大剣を担いでいる。
「メロダーク殿に返そうと思ったが、会えなかったのでね……。乱戦で得物が損なわれることは多い。
この剣はきゃしゃで気になるし。……パリスには、持って行くなんて縁起が悪いと随分叱られたのだが」
「たりめーだろ、死人からふんだくって来たイワクツキじゃねえか」
「見た目には……僕も不服がないわけではないが、職人が自らの命に代えて創り出したものだ。その
ように粗略にすべき品ではない」
「けどよう」
帯びる不吉さは隠しようがないのにと、口を尖らせ抗議したが大隊長殿がやってきたので引き下がる。
「お待たせしてすみませんね、食事は済みましたか」
「ああ、うまかったぜ。まともなもん食ったのは久しぶりじゃねえかな」
「よかった!それからフランさん、先ほどは片づけを押しつけてしまってすみませんでした」
「いえ、そんな。あたしは、こんな事くらいしかできないし……」
「とても助かりましたよ、有り難う。そちらは上手くいってますか」
「は、万事滞りなく」
「僕たちの役目は、森の中を突っ切って伏兵がいないか確かめてから、臨機応変に敵を迎撃すること
です。ある程度は自由にやっていいと言われているので、敵の背後に回ったり味方の援護に行ったり
もできます」
「オレら向きだな」
「そうですね。流石はキャシアス君です。君の人選には間違いがありませんね。パリス君たちなら身軽
な分、防御は薄いですけど雑木林みたいなところでは動きやすいですし、僕たちと違って派手な音を立
てずに行軍できますから、これはかなり有利ですよ」
「お前なんかニンジャだもんな」
「……えっ?あっ、いえ……うぅんと」
「なんだよ」
「一般に、隠密は隠密と断言されるのを好まないものだ……。まるで正体が隠れていないと言われて
いるようなものだからな」
「あの、そういうことじゃ……」
「よく言っていたじゃないか(ネルが)。拙者がくの一というのは、拙者とキャシアス氏だけの秘密でござる
ぞ、ニンニン!……と」
「本気なのか冗談なのかわかんねえ」
「フランさんって古式ゆかしい女性なんですね!」
「……し、死ねない……勝手におかしなイメージを持たれたままじゃ……死にきれない……」
「それでよいのだ。お前に庇われたとして、私一人だけが生き伸びても詮のないこと……。自分を大切
にしなさい」
感銘を受けた様子で頬を染める。と、どこからか飛んできた歩哨が西シーウァの進軍開始を告げた。
「僕たちも行きましょう!」
頷くとそれぞれが兜や覆面を身につける。お気に入りの軍馬を引いてこさせた戦士は、小声で何事か
祈りを捧げて参列した。少班に分かれて出陣し散開、森林地帯での伏兵探索を開始した。この森は、
古くから柴や下草を求めて多くの手が入っていたが、ここしばらくの異変で荒れ放題になっている。
雨の度土砂が流出し、倒木が起こりやすく、以前に比べ足場も悪くなっていた。冬特有の乾いた風は
金切り声を上げ、木立は常にざわついている。かつて親しんだ森は、いつの間にこんな廃墟のように
なってしまったのだろう。辺りには、死と滅びの気配が漂っている……。
1815 ◆E9zKH0kZMc :2011/01/28(金) 22:09:06 ID:A8gM+lAI
とりあえずここまで
状況証拠の積み重ねみたいに書くためか
キャシアス編がやたら長くなってきています
ちゃんと完結さすからね!!!(祈り)
19名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 21:58:04 ID:h+d5xgSP
>>18
乙乙!
つーかほんとキャシアス編面白いね
合戦wktk、楽しみにしとります
20名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 10:05:10 ID:/sHfBDeF
>>18
乙です!
順調にカルマの坂を駆け上がるキャシアスがどうなるか……
戦場でどんなルートを辿るか楽しみにしとりゃす
21名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:15:20 ID:Frk/zvhS
エロ無しシーフォン×フィー。しかし恋愛も薄めでやたら長い。
っていうかただのシーフォンのストーカー日記。
そんなんですが良ければどうぞ。



「おはよ、シーフォン」
 不意に話しかけられ、僕はほぼ反射的に振り返る。声で推測はできていたが、そこに立っていたの
はフィーだった。手には僕の目の前にあるものと同じ、サンドイッチを乗せた皿を持っている。思い
っきり嫌な顔を向けてやるが、奴は全く気にしないまま僕の向かい側に座る。気に喰わない。最初こ
そおどおどしていたくせに慣れてきたら完全にスルーするようになりやがった。ああむかつく。つけ
髭の違和感が、そのいらいらを冗長する。
「なんでそこに座ってんだよ」
「え? 別にいいでしょ?」
「僕の席なんですけど」
「シーフォンの席は今シーフォンが座ってるところでしょ。いいじゃない、向かい側くらい」
 毎朝このやり取りだ。僕もあいつもよく飽きないと思う。まあ正確には僕は飽きているのだが、こ
いつが向かい側に座るのを無言で認めたら負けな気がしてどうしてもつっこんでしまう。とりあえず
は一度つっこみ、後は好きなようにさせてやる。こいつが見た目に似合わず頑固なことは知ってるし
、意地を張ってどうにかなるものでもないからだ。僕は魔道書を読みながら、イライラを隠さずにサ
ンドイッチを口に運ぶ。開いた魔道書の上から少しだけフィーの方を見ると、フィーもこっちを見な
がらサンドイッチを食べていた。目が合いそうになって、すぐに視線を本に移す。
「……今日の予定は、決まってんのか?」
 僕はフィーにそう尋ねた。予定というのは探索の予定だ。フィーと、フィーに誘われた僕とキレハ
。誘ってきたフィーをリーダーにする形で(若干不服だがまあフィーは僕らの意見も大分尊重してる
から許している)ずっとこの3人で探索を進めてきた。
 そして、ここまでの一連の出来事が、僕たちの“いつものやり取り”だ。長いとは思うし、出会っ
てから短い時間しか経っていないのに(街に帰ってきたら何故か半年経っていたということはあるが
、僕たちにとっては一週間も経っていなかった)なんでこんなものが形成されてしまったかは僕にも
わからないしこいつにとっても同様だろうが、まあできてしまったのはできてしまったもので。楽し
くもないし、嬉しくもない。それでもそのやり取りを変えようなどとは、お互いに思っていない。
 はずだった。
「んー……今日はパリスとテレージャと一緒に行こうと思って」
「は?」
 この答えは予想外だった。いくらいつものやり取りの範疇外だったとしても、「今日は大廃墟を隅
から隅まで探索するつもり」とかは予測できていても、まさかの戦力外通告(大袈裟だが)。うっか
りぽかんとしてしまった顔を取り繕って、僕は腕を組んで言葉を並べた。
「あ、ああちょうどいいな、お前にずーっと引っぱり回されてたからせっかく手に入れた技能書もざ
っとしか読めてない状態だったからな、今日はゆっくり熟読させてもらうことにするぜ。あーやっと
自分の時間が持てる。取り残してそうな場所行って一人でゆっくり書庫荒らしもいいかもなー。開錠
くらいならお手の物ですし? まーたお前変なとこいって今度は3年くらい帰ってこなくて、帰ってき
たとき僕がお前なんか矢の呪文一つで意識失わせるような魔術師になってたりしてな? ひゃははっ
、そのときのお前の顔が見てみたいよ。つーわけで僕様は準備するから先に行く。お前に付き合って
る時間はねーや。せいぜいそのお間抜けメンバーで遺跡で詰まって、僕の偉大さを実感することだな
。ばーかばーか」
僕はそういい残し、フィーに背中を向け自分の部屋に戻った。
「……、ずっとシーフォンの時間とってたから悪いなって思って、メンバー変えれば喜ぶシーフォン
が見られるかなって思ったけど……、うまくいかないや、キレハ」
「……そう(彼の扱い方心得てきてると思ったけど、全然そうではないのね……)」
僕の背中でそんなやり取りがあったことは、つゆ知らず。
22名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:16:39 ID:Frk/zvhS
 数時間後。
 僕は大廃墟にいた。
 気配と音を消しきって、前方にいるフィーたちを睨む。遺跡は瓦礫が多いから、姿を隠してつけて
いくのは簡単だった。崩れやすいところもフィーと行動を共にしていたからもうわかっているし、あ
いつらの後ろをつけていくとテレージャとパリスが感知してるのがわかるから問題ない。興奮するテ
レージャの声(馬鹿らしい)とそれに適当に合わせるフィーとパリスの声が廃墟の中で木霊する。常
に遺跡の中に響いている怨念に満ちた夜種の声の中で、奴らの間抜けな声は間違えたキルトの一片の
ようだった。ああむかつく。なんだかむかつく、すげーむかつく。後ろから襲ってくるでかい顔の奴
を母なる夜の剣で適当に殴りながらあいつらの行動と会話に神経を尖らせる。
「……フィー君がこれに触れたら、古代都市に行ったんだね?」
「うん」
 やばい、古代都市に行くつもりか。あれには僕が1人で触ったこともあるがフィーが触れた時のよう
な移動はなかった。つまりあれで移動されたら僕が尾ける手段はない。
「で、今日は古代都市に用があるんだろ?」
「そう、パリスの力が必要なの」
 チンピラ死ね。むかつきすぎて禿げそうだ。
 そうこうしている間にフィーがオベリスクに手を伸ばす。どさくさにまぎれて一緒に移動してしま
おうかとも思ったがさすがに間に合わないし、今までこっそりつけてきたのが水の泡になるから動け
ない。どうしようか思案している間もなく、あいつらはすみれ色の光に包まれて、消えた。
 ちくしょう。腹いせに通りすがりの巨大蜘蛛を真っ二つにする。
 フィーが僕の知らないうちに動いているという事実が腹立たしい。僕はあいつの動向を全て把握し
ておかなければならないのに。あいつも術士だったから(あのレベルだったら僕ほどの術士に憧れな
いわけがないからな!)楽に動きを知ることが出来たのは幸運だった。全ては鍵の書を奪い取るため
。あのジジイが死んだ以上、あいつが場所を知っているに違いない。
 ――あのジジイ、といえば。
 そいつの弟子であり、娘も同然であったフィーは、涙も見せず平然としている。僕とのやり取りを
あっさりいつも通りにしてしまうぐらいに。あいつのことだから、しばらく泣き暮らして遺跡の探索
にも行かなくなるんじゃないかと思ったが。ひばり亭に部屋を借り、まるで今までそれが日常であっ
たかのようにそこで暮らしている。
 ……まあ、僕にとってはそんなことどうでもいいけどな!
 僕は人工精霊をいくつか召還して、フィーがまた現れそうな場所へ向かわせた。

 ちょっと前に黒い竜をぶっ倒して(主力は僕の竜牙砕きだった。快感なような悔しいような)見つ
けた大図書館を漁っていたら、人工精霊の念を感じた。――小人の塔のほうだ。僕は加速の呪文を短
く唱え、そっちに全速力で向かう。そしたら、いた。人工精霊を全て戻し、僕はまた尾行モードに移
る。瓦礫に身を隠し、あいつらの前進に合わせて進みながら耳をそばだてる。
「いや、あっけなかったな意外に」
「うん……だけど、シーフォンとキレハと来た時はほんっとに大変だったんだよ……。生きて帰れた
だけで御の字」
「確かにそのメンバーだとあの馬を縛る手段が少ないからね。私たちはパリス君が縛ってくれたから
まともな攻撃は受けなかったけど」
「……あのおぞましい槍技を知ってるのは私たちだけでいいや」
 とりあえず把握した。あいつの鉄串は思い出したくない。
「で、これからはどうする予定なんだい? 小人の塔はもう秘石を手に入れているんだろう?」
「尼僧院のキス魔・テレージャに頼みたいことがあります」
 これからの予定も把握した。
23名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:17:40 ID:Frk/zvhS
 そして把握したとおり、あいつらはあの悪夢のようなプリンセスに挑みに行った。キス魔と呼ばれ
ていた(らしい。なんでフィーは知ってたんだ)テレージャもさすがに引いていたが、フィーに頼ま
れるとそれを受け一瞬でプリンセスを屈服させた。なんてやつだ。
 ダリムに挨拶がてら素材を貰いに行き、さあ帰るかという話になる。何もなさすぎて、というか僕
とキレハと一緒に行動してたときと全く同じテンションでなんだか脱力する。ついてきた意味はなか
ったということか。まあついていかなかったらいかなかったでまさか鍵の書を……とか苛々するだろ
うから、収穫0とは言わないが。あいつらは入ってきたときとは逆の階段を下りて、揺らめく光のとこ
ろへ向かおうとする。すると。
「……あ、どうせだから図書館でも見ていこうかな。いい?」
「ああ、別に構わないぜ」
「私も是非見てみたいね」
 フィーがそう提案し、2人も(パリスは興味なさげだが)それに乗った。3人は階段を下っていき、
もう壊れて動かない機械が佇む図書館へ向かう。僕は予想以上に平穏なあいつらの行動に最早飽きて
あくびをこらえきれずにいた。でもどうせなので最後まで付き合うことにする。まさか僕も漁ったこ
とのあるここに鍵の書があるとも思えないし。古代の祭器やらを発見して興奮するテレージャの声を
聞きながら、僕は音を立てないように思いっきりあくびをした。すると。
「……んー……この技能書は……『死者の書』の中巻だ」
 そんなフィーの声が聞こえてきて、僕は慌てて視線をフィーたちに戻した。フィーが興味深げに持
っているそれは、間違いなく死者の書の中巻。僕が鍵の書同様に探し求めていたものだ。最後の最後
にして収穫あり、飽きて帰らなくて良かった。
 僕は尾行モードを終え、今度は足音を立ててフィーたちに近づいた。天井の高い図書館の中に、心
地良い不気味さを纏いながら僕の足音が響く。ばっと、3人がこっちを振り向く。
「……つけてきて正解だったみたいだな。それ、『死者の書』のちゅ」
「シーフォン!? つけてきてたの?」
「朝あーんなに嬉しそうに暇を喜んでたのにつけてきたのかよ、よくわかんねー奴だなお前も」
「ふむ、私たちがもぐりこんでから大分時間が経っているが、まあ古代都市に行っている時間は除く
にしても相当長い時間尾行していたんだねえ。その尾行能力と集中力は感心に値する」
「うるせー黙れ最後まで喋らせろ!」
 こいつらはこれだから嫌いだ!
「とにかく僕はそれをずっと探していた。代わりに『オグカムイズナ』やるからよこせ!」
「なんて偉そうな奴だ、知ってたけど」
「オグカムイズナは自身の力と魔力、どっちにも依存するからね。もはや杖じゃなく剣を持っている
君にこそ相応しいんじゃないか?」
「オグカムイズナって真空斬りだっけ。うん、確かに今のシーフォンがやったら強そう……」
 人の話をまともに聞きやしない。朝から募っていた僕の苛々が、遂に頂点に達した。
「渡す気はあるのかねェのか! そんなに僕の話を聞かないってことはねェんだよな!? それなら
力ずくで――「えーいっ」ぐはっ」
 裁きの雷落とされた。またしても喋ってる途中だ、僕こんなキャラだったっけか。悪態をついてや
ろうにも全身が痺れて動けない。くっそ、僕も得意な雷魔法にやられるのは屈辱すぎる。だがフィー
からも、パリスやテレージャからも追撃が加えられることはなく、痺れもほんの僅かな時間のみだっ
た。フィーが倒れた僕の頭の上に座り込んだのがわかる。痛みの残る身体を無理やり起こすと、目の
前に死者の書が差し出された。
「あげるよ。知識は求める人に与えられるべきだもの」
 ――ほんとにこいつは、よくわかんねえ。僕は死者の書を受け取りながら、フィーに聞こえるよう
に舌打ちしてやった。だがフィーは柔らかく微笑むだけ。気に食わない。
「……確かに受け取った。いい取引が出来て」
「あ、その技能書はシーフォンが読んでおいてよ。明日はまた一緒に探索しにいこ」
 むしろ今日何回フルで台詞言えましたっけ。
 こいつはよくわかんねえ。故に、僕は魔術以外でこいつにかなわない。

 一緒にいるのは億劫だから、僕は結局2冊の本を抱えて先に1人で帰った。ひばり亭に帰ったらとり
あえず読書だ、キレハに寝不足でも翌日探索に行けるような料理でも作ってもらうか。
 遺跡から出たら、外は夜の闇に包まれつつあった。東の空に昇る月が純粋に美しい。今夜はいい夜
になりそうだ。
24名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:22:51 ID:Frk/zvhS
以上実話でした。時間軸が果てしなく微妙ですが触れないことに。
なんという紙装甲PTって感じだけど4週かけてシーフォンをドーピングした俺に死角はなかった
お目汚し失礼いたしました。
25名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 19:59:00 ID:RdGvbPVH
GJという言葉じゃ足りないくらいGJ。
理想のシーフォンとフィーすぎて読んでてとても楽しかった。
26名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 20:04:00 ID:KyxoHNPH
>>21
GJ!
かわいいシーフィーに他キャラも賑やかで面白かった
>「……そう(彼の扱い方心得てきてると思ったけど、全然そうではないのね……)」
ワロタw
27名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 06:33:40 ID:E+/vvhuf
>24

ストーカー日記てw

読んでるこっちは誰が主役でも面白いんだけど
職人さん的には書きやすいキャラとかいるのかね
28名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 07:42:06 ID:bXn3nLpR
>>21
GJ!
本人以外には割とお見通しなのがしーぽんらしいw
29名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 20:57:14 ID:ExB8nEa4
ちょうど賢者女ルートやろうと思ってたから、個人的にタイムリーだった
どんなストーリーか楽しみだわー

フィー「シーフォン怪我してるじゃない、治療しなきゃ!」
シーフォン「うるせえ、これぐらい自分で治せるって!やめろ!」
フィー「だめだよ、じっとしてて…あれ?顔赤いよ?熱もあるの?」
おでこピトッ
までのベタ展開は余裕で妄想済み
30名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 21:02:14 ID:E+/vvhuf
>>29
ばっかおめえ、その程度の展開でベタなんて…
イベントこなして本を入手したら最初は「やーん、遅刻ち(ry

おっとこれ以上はいけない極度のネタバレになる
31名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 21:19:25 ID:vCf9Gzq7
>>29
1ミリたりとも間違ってない上に
大本は更にその上を行くアレなので期待してプレイするといいよ。
32名無しさん@ピンキー:2011/02/06(日) 20:02:56 ID:rcsq58xx
賢者編って確かにそういう話だな
マジで未プレイで書いたなら地味にすごい
33名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 09:39:10 ID:dSO+1UwY
親友と過ちを犯して道を踏み外した華奢な貴族の少年が
自分を一途に慕う年上美少女との出会いによって更生するまでの
ハートフル純愛ストーリーだからな
(内臓)ポロリもあるよ
34名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 10:50:25 ID:CsBeiXbM
>>33
なにそのテレージャ先生が「厚生する必要なんて無いさ」とか濁った目で言ってきそうな説明
35名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 11:00:11 ID:VKGHoL0v
本スレやここ覗いてから、僕んなかのフィー像がみんなとかけ離れたものだということに気づいた。

うちのフィーは酒場でぽん太朗とファーストコンタクトして以来ずっと肉体言語で喧嘩ばっかりしてるイメージだ。
ツンデレVSツンデレのボコり愛。

死者の書は譲らないでいつも何度でもぽんの字をボコボコにするけど、
最終的に三冊セットでくれてやるような絶妙なデレを見せてくれるような…そんな子だと思ってた。

だからここで見る純真で優しいフィーをみる度なんか自分のフィーに対する印象が爛れてることが申し訳なくなってくるwww
36名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 11:29:54 ID:dSO+1UwY
選択肢や獲得称号によって各自でイメージバラバラなのは当然なんだし
他人の二次見て申し訳なくなる必要はないんじゃないの

自分の解釈はマイナーだマイナーだ人と違うって
過度に主張されるのも見ていて不快なもんだよ
37名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 11:53:14 ID:5Rs7lFQg
例えばすぐ前の>>33だって「年上」と断言しているがタメ年や年下だと思ってる人もいるわけだしな
シーフォンも本スレでもよくあるが夜剣振り回しててたくましいイメージある人もいれば
フィーに対してもスキルに腕力つけてネルと一緒に扉壊してる人だっている

それは一つの選択肢な訳でどっちが正しい間違ってるってもんでもない
38名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 11:58:56 ID:FXNqaaXp
「古代から伝えられる秘術を学び、人々のために役立ちたいと思っている」
これしか公式設定ないからな
あとキレると怖いってことくらいか
39名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 13:23:13 ID:CsBeiXbM
「俺のフィーが他所の子とちょっと違う」
も定期的にループする話題のひとつだよなw

皆心の中にそれぞれの嫁を持っている。それでいいじゃないか。
40名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 13:28:31 ID:dSO+1UwY
>>37
だからそうやって解釈は人それぞれっていう当然の前提を盾にして
自分の気に入らない解釈にいちいちあてつけするなって
言いたかったんだが、伝わらなかったか?

上はネタ文章で類型的押しかけ女房っぽさをかもしだすために「フィーが年上」って書いた
こういう細かいネタの一個一個まで「他の人のシーフィーと違う」って絡まれるのが鬱陶しいんだよ
シーフィーネタで盛り上がったら「どうもこのスレでは俺のシーフィーは普通と違うようだな」って
この流れ一体何度目だよ
41名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 13:33:42 ID:CsBeiXbM
>>40
言いたいことはわかるが、とりあえず落ち着け。
賢者編は他と比べてシーフォンの立ち位置がより裏主人公っぽいのもあるのか
ヒロイン格の女主人公の解釈分かれもそれ以外と比べてスルーされづらいって事情があるのかもな。

まあ極論すれば作品投下する奴が偉いよこういうのは。
42名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 13:39:15 ID:xaUKZ9MB
つまり皆もっと作品を投下するといいということだな

ていうかフィーの話題になると出てくる奴らいつもどこにいんの?
いつもの過疎っぷりが嘘のようだ
43名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 14:14:00 ID:wdoAT+J4
まったくだ…
44名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 16:13:49 ID:5Rs7lFQg
>>40
すまんID見てなかった
>>36には全面的に同意する
4515 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/09(水) 01:02:39 ID:GmUVRF6S
開戦しましたキャシアス編2500弱。選択肢、アレなので
※胸糞※です。閲覧に注意がいるかもしれませんので
ヤバそうな場合は、読まずにとりあぼんでお願いします

あと完結したよ!いつまでも寝かせておくのが怖いから
全部出します。4万弱+ヴァンなど。パスはいつもどおり
六世で指摘頂いたので、一括解凍できるようにしました
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/203127.zip

本体↓に上書きすると、ニョロ→フナット位のレベルうp
tp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/153122.zip
4615 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/09(水) 01:03:11 ID:GmUVRF6S
立ち枯れした大木を背にして報告を待つ。蔦ばかりが生い茂り、獣の気配も感じられない。夜種が入り込み、そこここに
魔の気配がきざしていた。不意に音も立てず飛び降りてきたのは黒尽くめの忍びである。小柄な彼女の耳打ちした所に
よれば、神殿軍と見られる兵士たちが奇襲を企て、行軍している様子なのだそうだ。内心姑息さに呆れながら風下に回り、
言われた方角に目を凝らせば時折雲間から顔を出す日差しにちらちらと動くものが照らされていた。と、幹の向こうからもう
一人の指が覗く。あちらに五名、こちらに七名などと陣容が知らされた。振り返り、無言のまま指示を交わす。慎重に陣形
を整えながら、徐々に包囲を狭めて行き、開始の合図を待って再び薄暗い木陰に身を潜めた。心の中で思い呟くのは父の
言葉だ。この戦いは……。なぜ、神殿はテオルが憑代だと考えているのだろう?それが事実とすれば、この身に起こって
いる出来事はなんだと言うのだろう。いらだちを抱えたまま手槍を投げつけた。胸を貫通された兵士が一語も漏らさず草
むらに沈む、同時に数名が狙撃され、数名が喉を掻き切られて即死した。パリスは抱きかかえた死体をそっと草むらに寝
かせて隠し、更にもう一人を樹上高くつり上げて固定した。敵兵たちはまだ気づかずにいる……。


――ぱらぱらと何かが顔にこぼれた。胸騒ぎがして立ち止まった僧兵は、いつの間にか大幅に仲間の数が減っている事
を知る。息を呑み、先を行く者に声をかけようとした時だった。目の前で、同胞の首が横様に吹き飛んで血しぶきが上がる。
「敵襲!!敵しゅ」
一瞬あがった悲鳴はそれきり途切れて声の主も姿を消し、ここでようやく奇襲に気づいた僧兵が一斉に逃げ出したが、
行く手はすでに騎兵が回りこんでいた、明らかな誘導と判っていながら、森の外へと向かうほか退路が残されていない。
そこに大変美しい金色縅の甲冑が立ちはだかった、抜刀するや馬が鋭いいななきを上げる。
「一人たりとも生きて帰すな!!逃れる先は忘却の水底のみと思え!」
一吼えしたキャシアスが放った呪文が一人を射殺し、追いぬきざま一人を切り捨て拍車をかける。執拗に逃げ惑う者たち
を狩りたて、終にほんの数名まで追い詰めたとき、行く手をさえぎるように敵の騎兵が現れた。先駆けしていた竜頭兜は
黙って手綱を引っ張り、幾分ためらってから得物を鞘に収めて対峙した。見慣れた外衣の戦士は兜の庇を上げ、こちらに
顔を向ける。よく見知った、あの男である。
「……ここで出会いたくはなかった」
「メロダークさん!?どうして……」
追いつき悲鳴を上げた指揮官の真横に、パリスが飛び出してきた。
「……あんた、こんなとこで何してんだよ」
「見ての通り、私は神殿軍の者だ。密偵として遺跡を調べ、敵に情報を流していた」
「なっ……何だよそれ……お前が敵の犬だったってことか!?」
「……あなたが、密偵……町を襲った敵たちの……仲間?」
動揺して木陰からふらふらと歩み寄ってくる。
「いつも助けてくれて……頼もしく思っていたのに」
「許せないと思うのなら、剣にかけて私を裁くがいい」
その背後では、退転する僧兵たちの姿が徐々に見えなくなっていく。
4715 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/09(水) 01:03:47 ID:GmUVRF6S
「……キャシアス君」
脅えた目をして青年を省みる。白い大トカゲを模した被り物は一度もぶれることなく、メロダークの方だけを向いていた。
「なあ、おい。キャシアス……」
「キャシアス君。一体、僕はどうしたら」
「……ホルムが侵攻された朝、城門は内側から開放されていたと聞く……。私が現場に入ったのも随分と後の事であった
し、検め方の調べを行う前に爆破してしまったから、最早わからぬことだが」
抑揚のない声でそういいながら、剣の柄をもてあそんでいる。
「……ローゼンクランツとギルデスターンを殺したのは、貴様か?ウラミディールとエストラゴンを殺したのは、貴様か……」
「そうだ。私がお前と特に親しいのを知っていて、招き入れたのがその四人だ」
「キャシアス、さま……」
「…………本件に 該当するのは、外患誘致の罪。該当の罪状は 極刑を、もってのみ……あ が な わ れ る」
聖剣を抜き放ち、そのまま静かに切っ先をむける。これに応じて間者も太刀を抜いた。
「お前の怒りと、我が大儀。どちらに理があるか、剣と神とが決めるだろう」
「黙れ!!騙り者が!!!」
突如絶叫して剣を打ち捨てたキャシアスは、盾をほうりだすや魔剣を閃かせて襲い掛かる。傭兵は馬ごと当たられ体勢を
崩すと復讐者に飛びかかられ茨の中へと落馬した。体を庇おうにも腕ごと太刀を跳ね飛ばされて動けない、馬乗りになっ
た狂戦士にめった打ちされ兜と共に頬と顎まで叩き割られて気絶した、激痛にふたたび意識を取り戻したとき、襟首一つ
で体を吊り上げられ食い入るように覗き込まれていた。顔に押し付けられた兜の向こう側から、紅蓮に燃える地獄の焔が
並んで二つ、ちらちらと顔を覗かせている……。何故、こんなことになったのだろう?予言の成就を止めるため、神託に従
って動いていた筈の自分たちが、なぜ、こんな。
「二度と……二度と私の前で、神の 名など 口にするな」
肘が砕けたせいで掴まれない、右手がないからすがれない、もがくやおびただしく吐血し再起不能な損壊をおったことを
悟る。意識を失ったあともしつこくなぶり続けたのに違いない。掴んでいた襟を振るって後ろへ突き倒された。異様な体勢
で伏したまま、身動きできなくなった裏切り者に近づくと、復讐者は這い蹲るように顔を寄せて耳元に囁きかける。呪詛
か諫言か、僅かに応答も聞こえたように思える。そのまま暫し荒い息をついていたが、やがて静かになって、そのまま事
切れた……。死ぬ様を長らく見下ろしていた狂戦士は、ようやく顔を上げて振り返った。遠巻きに眺める仲間や部下たち
の間を、チョコレートをかじりながら進み、全身に浴びた返り血を厭う様子もなく愛馬にまたがる。足元には、首をへし折ら
れた間者の馬が舌を突き出したまま倒れていた。
「キャシアス君……。大丈夫、ですか?」
「………………時がありません、次のご指示を」
「あっ、はい。……誰か、情勢報告!」
4815 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/09(水) 01:05:09 ID:GmUVRF6S
あげてごめんなさい最後なのにまつがいたorz
49名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 08:43:42 ID:la/Ttu85
>>48
GJ
キャシアスどんどん…
初期のご飯エピの頃はキレハエンドだと思ってたんだよなこれ
50名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 09:11:46 ID:eApRFHGN
GJ、だが重てえ・・・
ソウテスネで和んでた頃が懐かしい
51名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 13:43:11 ID:la/Ttu85
zip読了、最後まで面白かった
キャラ全員光ってた、お わ りのパリスにぐっときた
胸糞編の名に恥じず終わり方だった…

つーかよくもまあこれだけの大作をラストまで書き上げたもんだ
お疲れ様、心底GJ!面白かったよ!
52規制の外から>>45完結乙です ◆1HLVKIREhA :2011/02/09(水) 21:01:28 ID:wOEF4FIH
暗く、深いところから声がする。
「――ン」
闇からの呼び声。それは、生者を求める死者の声。
「――ァン」
強い想い、執念の声。
「――ヴァン」
「っるさいなあ。ただいまヴァン君は就寝中です。
御用のタイタスはピーという発信音が鳴るまで永久にお待ち下さい。
おやすみ」
投げやりで手慣れた寝言を吐き捨て、ヴァンが布団をかぶる。
初めは戦慄すら覚えた夢の中での始祖帝との邂逅にも、倦怠期が訪れていた。が

「どんなふざけた寝言だ、ヴァン」
返ってきたのは、始祖帝とは違う声。始祖帝とは違う口調。
どこか、懐かしさすら感じる。
「んう……誰だ……?」
始祖帝ではなく、よく知った声でもない。
半覚醒状態で寝返りを打つ。
「誰とはご挨拶ね。とんだ薄情息子だ」
「……え。あ、そん、ええーっ!?」
寝ぼけまなこに映るのは、黒髪の女性。
年の頃は二十代半ばと言ったところだろうか。
しなやかな身体に成熟した大人の女の色気を纏っている。
「かあ、さん……?」
跳ね起き、呆然とするヴァン。
若くして命を落とした育ての親、レナ。
おぼろげな記憶の中にある母の姿、母の声と重なる部分がある。
「ふうん。なかなかいい男に育ったじゃない」
言葉を無くしたままの若干情けない姿を眺め回す。
子を慈しむ母の視線、と表現するには冷静な成分が強い目。
「チュナとパリスは元気?」
「……チュナは、元気とは言えない」
絶賛昏睡中である。
衰弱している様子もないが、間違っても元気だなどとは表現できない。
「……そう。あなたもあの子も色々背負ってて大変だとは思うけど……
頑張りなさい。頑張って、生きなさい。
あなた達を不幸にしたくて、母になったわけじゃない」
母の言葉。
ヴァンの記憶にあるものよりも多少は母らしく。しかしまだ荒削りで。
それでも、レナは紛れもなく母である。
「おいで。久しぶりにゆっくりしよう」
寝台の縁に腰掛け、手招きをする。
そこに手を伸ばしかけ、下ろす。
とりあえず隣に腰を下ろし、ちらちらと顔を窺う。
「……何をしてるんだ」
挙動不審である。
十年以上の時を経て、甘えろと言われてもどうすればいいのかわからないのだ。
53 ◆1HLVKIREhA :2011/02/09(水) 21:01:50 ID:wOEF4FIH
「ほら。こう、だ」
ヴァンの腕を引き、胸に身体を預けさせる。
その動作も、手慣れているとは言い難い。
兎にも角にも、永久の別れを経験した親子がここに再会を果たした。
怒涛の運命の渦中にあるヴァンにとってはとても貴重な、安らげる時間。
体重のかけ方がわからなくても。
頭を撫でる手がぎこちなくても。
目を閉じ、体温を感じるだけで心が落ち着いていく。
深いところに刻まれた、母親の温もり。
「こういうことも、あまりしてあげられなかったわね」
刻まれていないかも知れない。
「甘えられる相手は、いる?」
問われ、いくつかの顔が浮かぶ。
幼馴染。領主の館のメイド。西から来た神官。異邦の旅人。
甘えようと思えば、甘やかしてくれるだろう。
だが、今この瞬間この場所以上の安寧が得られるとは思えない。
それほどまでに、母に抱かれるというのは強烈な印象を残してしまった。
「……意外と甘えたがりだったのね」
返事もせず、胸から離れたがらない大きな息子。
レナでなくとも、持て余すのは仕方がないだろう。
しかし、それでも。
頭を撫でてやるぐらいしかできないが、息子を甘やかしている。
その自覚が、名状し難い温かな心情を喚起する。
「ヴァン」
「……んあ」
常になく反応が鈍い。
ただでさえ心労が重なり、熟睡できない夜も多い。
安らかな腕の中で既に意識を半分手放している。
「眠いならそのまま寝てもいいわ」
「また、会える?」
ヴァンの無意識からするりと漏れる本音。
甘えたがり、という評は事実なのだろう。
幼い頃から自立していたからこそ、寄る辺を求める。
「……死者に魂を惹かれるな。
迷い出た当人が言う台詞じゃないが、ヴァン。今を、生きなさい」
「でも。それでも、オレは。また母さんに会いたい。
夢の中でもいい。また、会いに来るよ」
ふわふわとした目でそれだけ言い切り、夢の中へと落ちていく。
「……未練なんて、断ち切れるわけないじゃないか。ばか」

――翌朝。
ヴァンは遺跡を発見して以来最良とも言える目覚めを迎えた。
いい夢を見た、という以上の内容は覚えていない。
ただ、人肌の温もりと頬に柔らかい感触だけが残っていた。
54 ◆1HLVKIREhA :2011/02/09(水) 21:02:36 ID:wOEF4FIH
シスコンに続きマザコンに目覚めるヴァン・ザ・ナイスガイ編
口調も一人称もわからないとか、原作にヒントがなさ過ぎる
しかし裏を返せば全て俺好みだという脳内補完も可能だということ……ッ
ということで俺ジャスティスなレナでした
オハラの昔話から、真面目・不器用・苦労を背負い込む、と皆大好き某儚い女騎士様を想像
利に聡いオハラ、義に篤いレナ、っつー感じで
だが夢オチ、多分夢オチ、夢オチなんじゃないかな
鍵の賢者フィーの大魔術という名の御都合主義で復活百合親子丼ハッピーエンドでも妄想するか
55名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 23:45:20 ID:eApRFHGN
愛変わらずのいちゃいちゃGJ
サブキャラだろうと故人だろうとラブラブ時空に引きずりこむあなたが大好きだ
乗り遅れたとか書いてたから次は十四世かと思ったら、まさかのレナとは
5629:2011/02/10(木) 09:13:36 ID:vyUo12zC
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
>>29だった
な… 何を言ってるのか(ry

ていうか、本家からして既にラブコメですやん…もちろん選択にもよるけど
57名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 09:59:38 ID:dQ/qSzys
フィーで荒れかけたのに投下直後で乙つけるでもなくそれってどうなんだよ
58名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 13:02:03 ID:XenqLTvw
まあまあ貴公ら、己のエウルスでも触って落ち着くといい
59名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 13:33:28 ID:dQ/qSzys
二突きでしとめられちゃうんですね、わかります
60名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 13:36:10 ID:dQ/qSzys
しかも必中だった。だから隠し子なんかできたんだろ全部わかってるんだぞ
61名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 13:38:35 ID:l0krNUYI
すごく…八連剣陣です…

>>52
GJ! ほのぼのした
62規制の外側にいる内に連続投下 ◆1HLVKIREhA :2011/02/10(木) 22:21:12 ID:GKDjwDRf
大河流域を心地よい風が吹き抜ける。
未だ肌寒さは残るものの、気の早い花は既にその顔を覗かせている。
そんな春も近い河原の草むらに、穏やかな寝息を立てる姿が一つ。
ウェンドリン・グリムワルド。
亡き父の後を継ぎホルムを治める若き女領主である。
領地を襲った異変を自ら解決したこともあって、領民からの人望は厚い。
だが、元は戦士志望であったウェンドリンがじっと領主の椅子に座っていられるわけもない。
度々仕事を放ってはこうして息抜きに励んでいる。いや、息抜きだから励んではいない。いやいや。
ともかく、そうした行動を周囲もまた止められない。
下手に縛り付けでもすると、溜まった鬱憤がどこへ向かうかわかったものではないからだ。

「……にゅ」
領主としての凛々しい雰囲気。戦士としての勇猛な雰囲気。
そのどちらも想像がつかないような、緩い空気。
端整な無表情に、ほのかに微笑すら浮かんでいる。
そんな寝姿を見かけ、近付いてくる人影が一つ。
「……んもう」
長い髪を靡かせて颯爽と歩く麗人、キレハ。
放浪の旅の途中で立ち寄っただけだったはずが、ウェンドリンの強い慰留に負け、すっかり腰を落ち着けてしまっている。
その呆れた間投詞には、羨望の色が滲んでいる。
周囲からの期待をのらりくらりとかわし続け。
縛られる立場のないキレハよりも、ずっと自由気ままに生きている。
「ウェンドリン。またこんなところで昼寝なんかして」
「……んぃ」
近寄るキレハに声をかけられ、重い瞼が上がっていく。
色素の薄いウェンドリンの瞳に、艶やかな黒髪が映る。
「まあ、ウェンドリンに用があったからちょうどよか」
――ぐい。
「ったわ!?」
軽く腕を引かれ、バランスを崩してウェンドリンの胸に飛び込む。
その華奢な細腕には、女性一人を軽々と持ち上げられる程度の腕力が宿っている。
多少鍛えているとは言え、キレハでは対抗できようはずもない。たとえ不意打ちでなくとも。
「もう少し寝かせて。目が覚めた途端キレハの顔を見られて、気分がいいの」
甘い言葉を吐きながら、キレハの髪を撫でる。
無自覚で、と言うか寝惚けて半分無意識でやっているのだから手に負えない。
天然の女殺しである。
「っ……はあ。好きにしてよ」
若干頬を朱に染めたキレハが、諦めたように呟く。
「うん、好きにする」
もぞもぞと位置を微調整し、寝心地と抱き心地を追求する。
熟睡する気満々である。
「風邪引いても知らないわよ、もう」
どこか楽しげな苦笑に気付いているのかいないのか、
「身体は強い方だから大丈夫。それに、キレハの身体あったかい」
などと淡々と返し、抱き締める腕に力を込める。
春は、すぐそこまで来ている。

「――くしっ」
「かわいい」
キレハの小さなくしゃみに、素直な感想が漏れる。
「風邪引いたら、看病してあげる」
「……引いたら、ね」
63 ◆1HLVKIREhA :2011/02/10(木) 22:21:32 ID:GKDjwDRf
ほのぼの百合百合な一幕編
よそで見かけたネタをパクる暴挙第四弾
勢いだけで書いたせいで内容がどうしようもなく薄い
父親がアレにも拘らず飄々としてるのが俺のウェンドリン像
立場が立場だけに、自由でありたいと願っているとか何とか
相手が同性でも気にしないフリーダム
そしてそんなフリーダムに惹かれるキレハ、と
64名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 13:16:54 ID:NyuQ6VPC
いつも通りニヤニヤするわ、GJ
ああもう、可愛いなこいつら
65名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 18:05:03 ID:sWEYcXwN
ラブラブGJ!
キレハはいいのう
66 ◆1HLVKIREhA :2011/02/12(土) 00:45:19 ID:N7ayiBE/
「あなたも、普通の人間だったのね」
どこか嬉しそうに、キレハが微笑む。
その感情を推し量るだけの余裕は、今の自分にはない。
「大きな山を越えて、気が緩んだのかしら?」
確かに、大仕事を終えて緊張の糸が切れたということはあろう。
しかし、ホルムを覆った異変を解決した立役者としては、何とも情けない姿である。
住居を焼け出されて宿に仮住まいの上、風邪で寝込んでいる。
古帝国の遺跡で八面六臂の活躍を見せた鍵の賢者も形無しである。
「まあ、今のあなたには誰も文句は言わないわ。
たまにはゆっくり休みなさいな、英雄さん?」
言われずとも、休む以外にできない体調である。
熱でぼやけた思考に、キレハの声だけが響く。
「ちょっと出てくるけど、何か食べたいものはある?」
何でもいい、と即答する。
元より食欲は皆無。
キレハならばそんな状態でも食べられるものが出てくるという信頼。
そして、考えるのが面倒くさい。
「わかりました。お任せされましょう」
微苦笑を残し、部屋を出て行く。
あとは、一人。
眠れないほどの倦怠感の中で、感じるのは孤独。
養父がいて、幼馴染がいて、仲間が増えた。
一人になって改めて感じる、誰かが傍にいることの安らぎ。
誰か。真っ先に思い浮かぶ顔は……キレハ。
初めは、放浪の旅人と地元民という関係だった。
偶然出逢い、成り行きで行動を共にし、いつの頃からか惹かれていた。
キレハに、傍にいて欲しい。
弱っているからか、そんな想いが浮かんで消える。
――キィ。
睡眠と覚醒の半ばで取り留めのない思考を弄んでいるところへ、ドアの軋む音。
極力足音を抑えてキレハが入ってくる。
「あら、起きてたの」
寝ているかも知れない。起こさないように。という細やかな気遣いが嬉しい。
「食欲は……ないわよね。食べやすいのにしたつもりだけれど、どうする?」
食べる。キレハの心遣いを無下にしたくはない。
上体を起こそうとすると、さりげなく手を貸してくれる。
「少し熱いから気を付けて」
キレハの手には、深めの皿。白い液体にパンが浮かんでいる。
「はい……あーん」
少し照れくさそうに、木の匙で掬って差し出してくる。
口に含むと、牛乳の味がする。どこか甘い気もするが、熱で鈍った舌ではあまり
感じられない。
ただ、優しい味だと味覚が判断する。
「どう?食べられそう?」
ひたひたになって噛む必要が殆どないパンの欠片を嚥下しつつ、頷く。
これならば、流し込むような感覚でいけそうだ。
「そう。じゃあ、二口目」
あーん、と。少しは慣れたのか、自然な動きで差し出される。
食べる。
差し出す。
食べる。
散らかり気味の思考に、ふと餌付けという言葉が滑り込む。
胃袋が既にキレハに調教されている以上、否定できる要素もない。
67 ◆1HLVKIREhA :2011/02/12(土) 00:45:39 ID:N7ayiBE/
「うん。これだけ食べられれば大丈夫そうね。
あとはゆっくり寝ていなさい」
再びキレハに介助されつつ横になる。
先程よりは、楽になった気がする。
「私はまた出て……何て顔してるのよ」
どういう顔をしているのだろう。
キレハに、傍にいて欲しい。
そんな甘えが表情に出てしまったのか。
「わかったわよ。不安だものね」
額に、キレハの手が乗る。
他人と触れ合うことで安らげる。キレハと出逢うまでは知らなかった。
こうしていれば、寝付けそうだ。
「おやすみなさい。良い夢を」
キレハがいるこの現実より良い夢などあるのだろうか。
そんなことを考えながら、睡眠の淵へ落ちていく。
次は、健康な身体でキレハと触れ合うことを決意しながら。




キレハに付きっ切りでお世話されたい賢者編
例によって例の如く、百合派にも安心の無個性仕様
キレハ×フィーでラブラブイチャイチャでもよかったんですが
俺が感情移入して看病されたいんだ!というキモい願望によりいつも通りに
やっぱり献身的なキャラにはこういうシチュが似合うよね

しかし唯一の家族と家を失うとか賢者ルートの不遇っぷりはひどい
グッドエンド後の妄想の自由度が高いとも言えるけど
68名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 01:12:11 ID:nTk5z7dU
三連打にニヤニヤが止まりませんGJ
確かに四ルート中一番悲惨な展開かもなぁと思いつつ自由度の高さには同意
留まって義父の跡を継ぐも良し旅立って夢を追うも良しくっついてイチャラブするも良しだし

どうでもいいが正直神殿の孤児以外の三ルートの主人公は敵に回したくない
権力とかNINJAにフルボッコにされかねないしキレさせたら魔法で消し炭にされかねないし
盗賊にいたっちゃ気が付いたらワイヤーで宙ぶらりんになりかねないし


69名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 09:06:18 ID:TQHn6VJ8
連続投下に全俺が歓喜した
キレハの嫁っぷりはたまらんなあ
賢者以外は後腐れなく旅立つのが難しいよな
チュナがフランがアダさんが、と未練が残りそうだし
70名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 12:19:38 ID:WRHCCoyR
>>68
神官で怖いのはごっつい殺人兵器製造犬
7115 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/12(土) 17:32:04 ID:Cvat4MU8
いいなあ風邪ひきたい。せめて粥だけでも。乙です
城館を壊滅させたばかの続きで1800文字、ま属性
宮殿イベント三回目の挑戦です。ご協力願います。
7215 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/12(土) 17:32:38 ID:Cvat4MU8
「ふーん、おまえ頭いいんだなー。すげー。さすがシーフォンだわ」
「……なっ、くっ……、タリメーだろ僕様を誰だと思ってるんだよ」
少年はからかう様子もなく、本当にすごいと何度も繰り返した。壁を掘っている傭兵に水
を向ける。
「なーなー、メロダーク。ていしょくにつくってどんない味か、知ってた?」
「……何の話だ」
「おれずっとさー、ていしょくにつくって、食いもの屋ではたらくってい味だと思ってたわー。
ちがうんだってよ。今こいつに教わったんだぜ、シーフォンてまじで頭いいよなー」
どうでもよさそうに鶴嘴を担いで戻っていった。
「どっちにしたってお前の兄貴は定職についてねーのにかわりないだろ」
「そうやってあんちゃん馬鹿にするけど、あんちゃんはすげーんだぞ、ちんこむけてるし」
「まじかよ!」
「まじ!おれ見たもん!こんどメロダークの見てやろうぜ、きっとでけえぞ」
「し、身長に比例して大きいだけだろ、どうせ大した事ねーな」
「ひれいってなに」
「例えば朝飯くってから時間が経ってるほど、より腹が減るっていうのはわかるだろ?」
「うん。昼飯くってないとはら減るけど、そのまま夕飯食えなかった日のほうがやばいって
ことだろ?時々あるわー」
「……ほんとかよ。あ、いや。とにかくこの場合だと、時間に比例してはらが減るって使う
ことができるんだよ、わかったらなんかに例えてみろよ」
「わかった、うーんと。仕事がやべーのにひれいして、もらえるお金が多くなるってこと?」
「正解。なんだよ、お前ばかかと思ってたけど飲み込みがいいな」
「そりゃあお前、先生がいいもの。な!」
たびたび呼び止められた傭兵は、迷惑そうに振り返った。妖術師の少年は不満気だ。
「まだおわらねーのかよ。いつまでやってるんだよ」
「反対側に隠し部屋がある……。煉瓦を向こう側に崩してしまうと、掘り起こすのが面倒
だからな。もう少し待っていろ」
「へー、本当にあったのか。遺跡荒らしの勘てやつも伊達じゃないんだな」
「な?すごいだろ。そのくらい穴があいてりゃ、中に入れるよ。ちょっと待ってな」
ひょいと飛び込み、小さな尻だけだしてごそごそしていたかと思うと、同じ穴から顔を出
してランタンを受け取って引っ込んだ。
「罠とか平気なのかよ」
「さあな……」
7315 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/12(土) 17:33:17 ID:Cvat4MU8
歓声が聞こえたので、そう深刻な問題は起こっていなさそうな様子だ。しばらく動き回っ
ているような物音がしていたが、再びぬっと顔を出してずた袋を差し出してよこした。
「なんかよくわかんねーけど、金になりそうなものがあったよ。おれの代わりに調べてよ」
「僕がやるのか?面倒くせえ」
「この虫の卵みたいなのはなに?」
「生命の秘薬だな。貰っといてやるよ」
「いいよー。このマグソみたいなのはなに?」
「治癒の石だな。貰っといてやるよ。ん?そ、それは……」
「高そうな箱だからもってきたぜ。見る?」
「『死者の書』上巻の原本!?僕はそれをずっと探してたんだ」
「じゃあやるよ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「……おい、はやまるな。いい様に騙されていないか。見つけたのはお前だろう」
「そうかな。別にいいんじゃね。おれは字がよめないし、シーフォンのこと好きだものな」
「ばばばばか、かわかわ代わりにこの『狩猟術』をやるから、こここれは、これは取引
だから。いいか、取引だから。わかったか」
「うん!ありがとうな!やっぱお前いいやつだよ、ぜったいたいせつにするからな!!」
「よ、よーし。いい心がけだな。やったやったーっ」
抱きかかえてくるくる回っている。
「なあなあ、なんて書いてあるの?」
傭兵は受け取ってページをめくっている。
「……狩りについての参考書のようだな。表紙には『しゅりょうじゅつ』と書いてある」
「ふうーん。お!今の絵のついてるとこ読んで、今のとこ!!なんて書いてあるの」
「どこだ」
行ったり来たりしながら灯かりをかざして、傭兵に音読してもらっている。動物の習性
や、体格による毒の必要量、地域によって手に入れやすい毒矢の原料などの知識が
記録されているらしいが、古めかしい言葉遣いのためか、少年は全く読めないらしい。
「あとで振り仮名ふっといてやるか」
「ほんと?やった!」
「お前に毒矢が必要とも思えんが」
「だってこれがあれば、食い物で困らなくなるだろ。さいこうにともだち思いだよ、おれの
シーフォンは!」
「く、くっだらねー!ばばばバカじゃねーの!?」
「ともだちってよか親友だよなおれら。な!」

撃沈した。
7415 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/12(土) 17:35:35 ID:Cvat4MU8
またまちがいたorzごめんなさい
ハンドル保存にチェックいれてたsage
75名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 18:52:48 ID:DiEVZ37f
乙!
なかなか斬新なヴァンw
76名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 22:59:32 ID:TQHn6VJ8
乙っすー
そういえば書庫漁るには古代知識いるけど、読むのにはいらないんだよね
77名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 23:07:16 ID:FD/ldsN8
投下大量でSUGEEE!
職人さん乙です!

>>73
子供相手でそうなるのかシーフォンw
78名無しさん@ピンキー:2011/02/13(日) 10:50:30 ID:+lEyqOsG
ようやく規制解除だ!

>>73
殺伐度なら作中屈指の組み合わせなのになんだこの和み空間。
3人とも可愛いなオイ。(野郎にこの形容でいいかは良く分からんが)

>◆1HLVKIREhA
3連剣陣乙。
どれもたまらん可愛らしさだった。
レナ母さん素敵。キレハさんやばい。ウェンドリン大物過ぎ。
79 ◆vNfDYjV83Y :2011/02/13(日) 18:02:12 ID:DAdjOPVz
この3人って探索スキルの相性はばっちりなのか……すごいな
和んだww
あとキレハ可愛いよキレハ

>>21が再び投下しに来ました。どうせなので酉つけてみました。
またシーフォン×フィーです。この空気の中すみません。
微エロにも満たない微エロ。流血+痛い表現も微妙にあります。微妙すぎて健全な全年齢。
そしていつの間にかデキてる。



 そういえば、死者の書の上巻がない。
 シーフォンがそれに気付いたのは、フィーと共に歴代アルケア帝国皇帝の墓荒らしをしていたとき
だった。
 自分はもう知ってるからと拝火の書の上巻を渡されたり、自分は水属性の魔法をしってるからと妖
精の女王を渡されたり、何も言わずにファイヤーの書渡されたり笑顔で竜牙砕き渡されたりと、なん
だかんだ様々な本を読んでいたから、いきなり中巻から読み始めた死者の書の前巻を読まなければと
いう感覚をすっかり忘れてしまっていた。そして現在墓荒らしをして念願の死者の書下巻を手に入れ
、フィーに見張りを(無理やり)させ、今読み終わりそうだというところでようやく前巻の存在を思
い出した。
「……よーしフィー」
「あ、読み終わった?」
 シーフォンが書物から顔を上げると、フィーはほっとした表情を浮かべた。瘴気に満ちたこの空間
の中で、シーフォンが書物に熱中した状態で1人見張りを続けるのは、様々な場を潜り抜けてきたフィ
ーもさすがに恐怖を覚えざるをえなかったのだ。だがその安堵の表情をシーフォンは迷いもなく突き
崩す。
「ああ。死者の書前巻探しに行くぞ。宮殿だ!」
「……え?」
 シーフォンは母なる夜の剣を抜いて肩に担ぐと、墓所の宝物庫をすたすたと出ていった。固まりか
けたフィーはその遠ざかる後ろ姿を懸命に追う。
「ちょ、シーフォン、どうして宮殿なの? せっかく始祖帝に近づいてきてるのに」
「始祖帝の知識も大事だが、それよりも読み残した前巻のが僕にとって大切なんだよ。竜の塔、森、
雪山は隅々まで探した、火山には中巻があった。探し残してるのはあの時一緒にいたチンピラが怖が
って最短ルートでぶっちぎった宮殿ぐらいだろ」
「んー……確かに、今だったら宮殿のゾンビたちに苦戦はしないよね。まあちょっとくらいならいい
か」
「最初に宮殿に着いたときから炎ぶっ放しまくってたお前が言うか」
 フィーが顔に似合わず強かなのは、初対面から数日後であったその時点で既に知っていた。

 階段を上がって大廃墟に戻り、瓦礫を乗り越えて宮殿に向かう。そして前回調べなかったような小
さな部屋まで隅々見ていった。古文書が詰まった本棚が詰まった部屋(捜索に人工精霊も動員、しか
しなかった)、干からびた2つのミイラが1つの机を挟んで向かい合って座っている部屋(仲良しだっ
たのだろうか)、真っ赤な小さな足跡が大量についている部屋(部屋の隅にはあの拙い文字があった
)。危険に関して鋭いわけではないフィーとシーフォンですら冷や汗でびっしょりになった不可解な
部屋以外は隅々まで探したが、それらしきものは見つからなかった。襲ってくる死者たちをなぎ払い
燃やしつくしながら、宮殿中の扉という扉を開いて探していたら、1つの扉を開いた時灯りを持ってい
たフィーがあることに気付く。
「……ん?」
「なんだよ。ここにはなんもないだろ」
「うん、そうだけど……なんだかこの部屋、不自然に狭くない?」
 そういわれてシーフォンが部屋を見渡すと、確かに左側の壁が不自然な気がする。外へ出て、扉の
位置と左側の壁を見てみると、たしかに壁があるはずの場所と実際にある場所がかなり違う。壁が異
常に厚いのか、そうではないのか。フィーとシーフォンは顔を見合わせる。
「こういうときは……」
「てってれー。つーるーはーしー」
 背嚢からフィーがツルハシを取り出し、そのまま迷うことなく壁に突き刺した。すると壁はすぐに
粉々になり、その後ろにあった隠し部屋が姿を現す。狭い部屋の中にある机。その机の上に在るのは
、いくつかの薬とお金と、そして
「あったあああああああ!!」
 シーフォンが歓喜の雄たけびを上げた。わざわざ戻ってまで探し求めたもの、死者の書の上巻だ。
80 ◆vNfDYjV83Y :2011/02/13(日) 18:03:54 ID:DAdjOPVz
「くれるよな? 読んでいいよな? な? な?」
「……ふふ、いいよ」
 瞳をキラキラと輝かせ、一気に年齢が下がったようでさえあるシーフォンを見てフィーは思わず笑
った。いつもなら馬鹿にしてんのかとシーフォンがくいつくところだろうが、探し求めた知識の前に
そんなことはしてられない。シーフォンはどっかとその場に座り込むとページをめくり始めた。フィ
ーはしょうがないか、と小さく溜息をつくと、他に何かないかと部屋を物色し始めた。だがその机だ
けで、他には何もない殺風景な部屋だ。これ以上の成果は見込めそうにない。フィーは入り口付近に
戻り、亡者が襲ってこないか見張ることにした。墓所と同じような展開だ。
 ずっと立っているのも疲れるのでシーフォンと同じように座り込む。何も言わずに読書に没頭し始
めたシーフォンに不平を言う代わりに寄りかかってやろうかとも考えたが、後が怖いため止めておく
。どこか遠くの方から、死者の悲哀に満ちたおぞましい声が響いてきた。よくこんな空間で集中でき
るものだ。先ほどからシーフォンはぴくりとも動かず、ただ眼球だけを滑らせるように動かして死者
の書を読んでいる。そのスピードは常人の数倍だ。現に残りページはもう少なくなっている。このス
ピードはフィーよりも確実に上だろう。
 そんなことをボーっと考えているうちに、はっとあることを思いだした。墓所に来る前に突然の怪
物の奇襲を受けて、シーフォンが怪我をしたことを。とっさのことだったから反撃よりも逃げること
しか頭になく、2人で珍しく手を取り合って大廃墟を全力疾走したのだ。そのまま墓所に辿り着き、逃
げられたことに安堵してあろうことかその事実を忘れてしまっていた。そしてそれを思い出した瞬間
シーフォンがぱたりと本を閉じる。それを見計らって、フィーはシーフォンの腕をそっと掴んだ。
「ねえシーフォン、さっき怪我したよね」
「は?」
「墓所に来る前! 見せて、治癒術かける」
「大したことねーよ」
「だめ、小さな傷でも馬鹿にしたら危ないんだよ」
「……それなら」
 にやり、とシーフォンの口角が上がる。何をたくらんでいるのかフィーが思案する間もなく、シー
フォンはフィーの首筋に噛みついた。
「や……っ!?」
 歯を軽く立てられ、甘い痛みが走る。しつこく舌で首筋を辿られ、ぞくぞくと背筋が粟立った。夜
の寝室での行為が始まる前にされるキスと、全く同じ感覚。これがこんな、夜種がはびこってるよう
なところで。抵抗しようにも、いつの間にか両手首がシーフォンの片手に拘束されている。熱い息が
混ざってしまう声でいくら反抗しても何の意味も持たない。それでも弱点を執拗に舐められ、吸われ
、力が入るわけもなく。ちゅ、ちゅ、と耳元で水音にも似た音がなる。鋭くも切ない痛みと共に、首
筋に真っ赤な花が咲くのを感じた。
「や、まって、しーふぉ……んっ!?」
 不意に、今まで軽く立てられているだけだった歯が鋭く食い込んだ。柔らかな快楽よりも突き刺す
ような痛みが頭の中を支配する。痛みを訴えてもシーフォンの歯は皮膚を破ろうと突き進んでいく。
フィーの瞳からは涙が零れ、声も悲鳴へと変わってゆく。やがて歯形に皮が破られ、シーフォンの口
の中へ血が流れてゆくのがわかった。するとシーフォンは歯を立てるのを止め、今度はいたわるよう
に、かつ貪欲に全てを舐めとるように舌を首筋に這わせ始めた。だがずきずきという痛みのほうが優
り、先ほどのような優しい快楽を感じ取ることが今のフィーには出来ない。両手を拘束されたまま、
満足したように口を離したシーフォンの胸の中に倒れこんだ。そのフィーの身体をシーフォンは片腕
で抱きとめる。
81 ◆vNfDYjV83Y :2011/02/13(日) 18:04:18 ID:DAdjOPVz
「協力ありがとよ、フィー」
「……ん……?」
「さっきの死者の書に書いてあった吸血鬼の呪文。実験台になってもらったって訳だ、おかげでさっ
きの怪我なんか完治」
「ばか、勝手に……せめて一言……っ」
 フィーはシーフォンの肩から顔を上げて睨んだ。涙で潤んだ瞳、紅潮した頬、傷跡の残る首筋。そ
んなフィーを見て、またシーフォンはにやりと笑う。
「今のお前、エロすぎ」
「なっ……シーフォンのせいでしょっ!?」
「何お前、僕に血吸われて感じたのかよ。どんだけマゾなんだ」
「ちっがうもおおおん、っ?」
 憤慨するフィーの拳をかいくぐり、シーフォンは先ほど自分がつけた傷跡に触れる。するとかすか
な光が走り、痛々しい歯形の傷跡が消え去った。もっともフィーには見えないが、じくじくと疼き続
ける痛みが消えたことでそれを知った。シーフォンは何事もなかったように死者の書2冊と母なる夜の
剣を担いで部屋を出て行く。
「よーし、2人とも怪我なくなったところでまた墓所行こうぜ」
 なんだか敵わない。フィーはシーフォンの見えないところで口を尖らせて、その後ろ姿に向けて走
り出した。
 首筋に咲いた花を一つだけ、シーフォンが器用に残したことは知らないまま。
82 ◆vNfDYjV83Y :2011/02/13(日) 18:06:09 ID:DAdjOPVz
以上です。なんだか非常にタイムリーだったけど汚れててごめんなさい
でも吸血鬼の呪文ってこういうことだよね? ということで。嫌だ敵に使いたくない。
日常生活ではシーフォンが、性的な意味ではフィーが振り回されてるイメージ。
あ、顔とか出てきたけど俺的フィーは顔4です
83名無しさん@ピンキー:2011/02/13(日) 19:19:51 ID:3gCZVcLU
>>82
gj!
吸血はエロくてけしからんなまったく
84名無しさん@ピンキー:2011/02/13(日) 23:29:51 ID:EMIh0wuB
吸血鬼の呪文! そういうのもあったか!
シーフィーではしーぽんが体力的に並以下だから攻め手に欠ける気がしていたがそんなことはなかった
味方に使うと恐ろしくエロいなこれは GJ
85名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 19:43:58 ID:Idm20e+P
>嫌だ敵に使いたくない。
頻繁に使ってるけど想像したら確かにあれだな…
シーフォンとタイタスさんでがぶがぶ咬み合っててテラシュール
86名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 20:25:52 ID:X/egSi4/
>>85
タイタスを七世とか八世とか十四世にしてみると途端にエロくなるような気がしないでもない
二世とか十世変化前は勘弁な!

そういや吸血行為って大分遡ると性交の暗喩らしいねー エロくてたまらん
・・・ほかのスキルも結構想像して見ると面白いの多いよな
「傷口に触れた」とか捕縛術で「動けなくなった」とか
87名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 20:30:53 ID:bg2iQ3FS
バンパイアは心臓のある左胸から血を吸うって説もあるしな
もっと具体的に左の乳首と書かれた文献もあるらしい
8815 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/14(月) 20:36:15 ID:rf5nWWjY
ゾンビ系に使ってた。本当にすまない事をした、反省はしない

ヴァレンタインと思っていた筈が、印象に残った本スレのネタを
絡めていたらヴァ(レンタイ)ンネタになった3800程度。ま属性
8915 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/14(月) 20:36:46 ID:rf5nWWjY
ほのかな灯火が水面に揺れている。わずかに照らし出される範囲より向こうは、暗闇が広がっていた。
さらさらと静かな音を立てやってくる流れは、地底湖を形成している……。

(釣りは、いい……。浮世を忘れられる……)

「どしたよじいさん、とうとうぼけちまったか?」
「なんでえ藪から棒に。人が折角いい気持ちで釣り糸を垂れてるってのに」
「だってお前、これだけさんざんな目にあってだぜ?急にあさってながめながらぽかーんとしだしてみろ。
だれだってこりゃボケちまったかとおもうって。な!」
フランもこくこくと頷いている。
「揃って何てこと言ってやがる。年寄りだと思って馬鹿にするなよ」
「バカにするってことはねえよ、考えてみろよ。おれよかバカなヤツなんざ、そうそうかんたんにゃお目に
かかれないだろ。な!」
一瞬頷きかけたメイドはねじ切れるほど首を振った。恐る恐る顔を盗み見るが初動のミスには気づかれ
なかったようだ。地面にあぐらをかいた少年は、ラバンからばれてしまった釣り針を受け取って、羽虫を
とりつけている。
「さっきからエサばっかとられてるだけで魚なんざかかりゃしねえな」
「撒き餌だ撒き餌」
「はらいっぱいになってかえってったんじゃね」
「イカばかり釣れるしな……。自信なくなってきたわ」
「おれにまかせろって!」
言ってみたくて仕方なかったという口振り、思わず微笑む。少年はメイドに預けていた鞄から、次々と中
身を取り出しながら探っていく、仕舞いにほとんど上半身が中へと入り込んでしまったし、メイドのほうは
どんどん手渡される持ち切れない程の荷物で目を白黒させている。
「あったあった、これこれ。……ちょっとまってろよ」
ぐいぐいと引きずり出してきたのはとぐろを巻いた荒縄だ。というには少し、縒りがかかって小慣れてい
るが、フォークや小刀を盛大に巻き込みながら溢れ出してきている。つま先だって背伸びするが、鞄ごと
持ち上がるだけの様子だ。
「おいおい、一人で出せるのか。お前さん一体どんな畳み方しとったんだ?」
「あっ……だめです、ちゃんと縁を持って取り出さないと、わっ」
金具が縄に絡まって鞄ごと裏返しになったが、ヴァンは全く気にしていない。
「へっへー、見てよこれ。いいだろ、とく注品だからな。この前、ネルにつくってもらったんだ。ただにして
もらったんだぞ!!ネルっていいやつだよな!!」
「こいつで投網でもするってか。なんだか色気がねえなあ」
「だってハラへったんだもんよ。お前らになにか食わしてやりたいし、一々魚におそわれてちゃこっちが
そのうち食われちゃうよ。な?それにフランなんか、いいとこにつとめてるネエちゃんだから、こんなひも
じい目なんかなれちゃいねえだろうし」
「……すいません」
「なんであやまんの?」
「そりゃあ、お前さん……」
焼け爛れた姿を晒すクラーケンにぶちまけられた料理、に使うような、どこでも手に入る道具と材料で
作られたのだけは間違いない劇物に目を向けた。風下には、とても回れそうにない。
9015 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/14(月) 20:37:22 ID:rf5nWWjY
「わけわかんねーよ。でもよう、い外とこれむずかしいんだよな。まい朝りょうしのオッチャンにあみの打
ちかたけい古してもらってんだけど、まるく広がらないんだよな。いいか?見てろよ」
ぐちゃぐちゃになった網を大雑把に丸め直してぱっと打つ。確かに、均一には広がっていない様子だ。
「魚以外のものには使えそうですね。徘徊老人の捕獲とか……」
「ぶきかよ。お前こええな!それよかバクダンぶちこんで魚を気ぜつさせるって作せんはどうだ。いっき
にまとめてとれるんじゃね」
「洞窟全体が崩れたらどうするんだ。でかい音をたてて、何か叩き起こさんとも限らんぞ」
「そうかー。じゃあこのあみはっといてさ、川上からどくをながして死んだところをいけどりするって作せん
ならどうだ!」
「死んどったら、生け捕りとはいわんのじゃないか?それに俺たちまで食えん」
「ああー……そっかー。あのイカくえねーもんなー……」
振り出しに戻った。それでも諦めない小僧はぱっと湖に飛び込んた。仰天してランタンを翳すまでもなく
水面から飛び出してくる。
「つめてえ!!」
「大丈夫ですか!?だめですよいきなり飛び込んだりしては!」
「ちょうつめてえよ!!ぜったいお前らはいるなよな!ここやべえぞ!」
「そもそも、お前さんは泳げたのか?」
「なに?ぜんぜんおよげねえよ!!!うおおさっびいいい!!!やっべー!!!」
「……大馬鹿か大物か。どっちかだな」
「駄目ですよ、もっと勘を働かせなくては。立派な遺跡荒らしになれないですよ」
「そっかー。そうだなー……。お前の言うとおりだわ……。はぁ〜。おれも早くあんちゃんみてえなりっぱ
などろぼうになりてえよ」
「パリス様って泥棒だったんですか」
「無頼漢といってやれ無頼漢と」
「ブライアンって誰だよ。おれしらねえよそんなやつ」
「俺も知らんが関係ないと思うぞ。平たく言って無職の男ってな意味だな」
「てい食やにつとめりゃいいんだろ。まーたそれかよ……。あーあ、おれがもっとかせげりゃな。なんで
おれはどんくさいんだろうな?あんちゃんはあんなかっこ良いのによ。ああー……もう、おれどうしよう。
もっと足早くなりてえよ」
「脈絡がわからん」
「……とくに、求職する訳じゃないんですね」
「なあフラン。ひまだったらでいいからよう、おれの先生になってくれよう」
「あたしがですか?」
「この中でお前がいちばん足はええじゃん。な!」
「そうだな。ちょっとは自信があったが、フランちゃんにはとても敵わんわ」
「くのいちだもんな!」
「エリートだからな!」

「「おいろけの!!」」

杖の角っちょで殴られた。
9115 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/14(月) 20:38:07 ID:rf5nWWjY
――湿った服でため息をつく男達がいる。さきほど一泳ぎ所では済まされないほど泳いだばかりだが、
階段を下りた先は溶岩の煮えたぎる灼熱地獄だった。
「泉のようせーなんかいくらかかったって、ちっとも食えねえよな」
「そんな言い方したらいかん、あっちだって釣られたくて釣られちゃおらん」
「へっ、なんだよ。きがえ見たやつはいいよな。どうせおれはおよげねえよーだ、ちぇっ!」
「楽しそうですね。なんのお話ですか」

「嫌な予感がしやがる」
「ちょーやべえ」

「遅くなってすいません……。あまり燃やせそうなものがみつからなくて」
こんなものしか、と差し出してきたのは少しこするだけでメラメラ燃えるアレ。
「うおっ すっげえ……、ヒクイドリす手でもってるヤツなんてはじめてみた」
「おいおいおい子供がいるって事は、近くに親鳥もいるってことだぞ。大丈夫だろうな」
「大丈夫です、もう退治してきましたから」
「まじかよ!たのもしいヤツだなーお前ってよう」
少年にべしんと叩かれ、はにかんでにこにこしている。
「おお、血抜きしてあるのか。ここはひとつ、ちょいと料理と洒落込むか」
「やったー!!!とり肉さい高だー!!つりなんかはじめっからいらんかったんだあー!」
「ぐぬぬ……」
「いいですね、それじゃ何を作りましょうか」
「ちょーやべえ。お前きちんと手はあらったのかよ」
「あ、いっけない!急いでてうっかりしてました……。洗ってきますね」
「さっき毒の仕込刀もっとったろ」
「そうでした!これで料理したら、みんな死んでしまいますね」
「気にすんなよ、おれらのこと心ぱいして、いそいでたんだもんな。な!」
「お、おう。そうだな。それじゃ俺はパンを作るから、お前たちは鶏肉でなにか作ってみるんだ。分からん
ことはおおごとになる前に聞くんだぞ」
「まあ、なんとかなるんじゃねえの。なにからはじめるんだい」
「そうですね……。それじゃお肉を切り分けましょうか」
「ちょーやべえ。そっち肉切るほうかよ」
「……野菜の方でした」
「食中毒になっちまうぞ。肉類を扱う道具と野菜は、常にきちんと分けて料理するんだ。使ったあとも別
にして、最後にまとめて熱湯を使って洗うといい」
「はい!わかりましたラバン様」
「ちょーやべえ。それシオじゃなくねえか」
「そりゃ砂糖だな……」
「ちょーやべえ。それなんてかいてあんの」
「あっと、計量の単位ひとつ間違ってたみたいです。危ないところでした……」
「ちょーやべえ。なんかばちばちいってるぞ」
「熱しすぎだな。このままじゃ、あっという間に焦げて生焼けになっちまうわ、少し冷ませ」
「ちょーやべえ。こいつよく見たらひび割れてるみてえだな」
「……ほんとです、いつの間に!」
「このまま盛り付けたら割れるところだったな」
「ちょーやべえ。なんかこれいつものパセリとちがくねえ?」
「ん?どれ、俺に見せてみろ。どこでとってきたんだ?」
「さっきの洞窟です」
「パセリってどうくつで生えてくんのか」
「こいつはニガヨモギだな。おちおち料理もしてられんわ」
「すいません……」
「なんだよ、あやまることはねえだろ。もうほとんどできちゃってるじゃんか。な!すげえうまそうだよ?」
「ほんとですか!」
「うん。な!うまそうだよな」
「ほほう、食っても害はなさそうだな。それにこいつは旨そうだ。今日のフランちゃんは冴えてるじゃないか」
「そんな、ヴァンさまのおかげですよ。あたしおっちょこちょいだから、側で一緒に料理を見ててくれたので、
失敗しなくて済んだんです!」
「そうかよ。ま、こんなもんよってか?うへへへへへあんちゃんかっこいい〜〜」
とうとう言ってやった。そんな顔つきだった。どうやら頭の中はパリスで一杯らしい……。
9215 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/14(月) 20:39:37 ID:rf5nWWjY
以上。たまに成功する原因を考えましたがチョコでてこなかった
93名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 22:11:06 ID:vtuj+yEz
乙乙
このヴァンの脳内では無敵っぽいな、駄目人間w
94名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 22:42:16 ID:Idm20e+P
GJ
パリス好きすぎてちょーやべえなw
95:2011/02/14(月) 22:55:43 ID:RFtPlwGp

最近の皆様の作品が素晴らしすぎて頬が緩みっぱなしですありがとうございます。
ウェンキレ可愛いしシーフィー可愛いしヴァン可愛いしでどうすれば良いのか。
関係ありませんがいつも15さんのパリスがダメカッコ良すぎて惚れてます。

そんなわけでもありませんが前スレのパリアイ両片思い話の続き的なものをば。
エロフラグは兄貴が華麗に折ってくれました。よって今回もエロ無しです寸止めですすみません。



その日最後の客をありがとうございましたーと笑顔(みんなからはよく胡散臭いと言われる。なぜだ)
で見送って店の片付けと明日用の商品の分別をおわし、一つ伸びをした。
これで今日の仕事は終わりってなもんだ。
俺は風呂を沸かし夕飯を作る。
胸くそ悪い宮殿で夜種王の奴から貰ったあの料理本を買ったアイリの「ちょっとパリス兄読んでみて」の一言であの日以来何故か料理担当になってしまった俺だが、
料理本の効果はなかなかのもので料理がよくわからなかった俺でもあの傭兵のおっさんやフランさんよりかはましにものを作れるようにはなった。
いや、まぁあの二人を引き合いにだすのは自分でも如何なものかとは思うが…。
とにもかくにも安く仕入れた野菜と芋を使って簡単なスープと炒めものを作り、昨日買った余りのパンをひろげた。
少しばかり水分の抜けたそのパンをスープに浸して口に放り込む。
…と、その時だった。
コンコン、とドアを叩く音が響いた。
俺は急いで口の中のパンを飲み下すと、ドアノブに手をかける。
客が来るにしては珍しい時間だ。
一体どこのどいつだろうかと頭の端で考えながら引っ掛けたドアノブを回すと、俺は目の前に現れたそいつに目を丸めた。

「こんばんは、パリス兄。 ……ちょっとお邪魔してもいいかな?」

驚きで固まった俺を見て、目の前にいる俺の妹はにっこりと笑った。


*


妹がこちらの家に来る、ということ自体はさして珍しいことではなかった。
朝は、アイリのやつが毎日問答無用で俺を起こしにノックも無しに入ってくる。
俺がこちらに越してからアイリとチュナが夕飯を食べに訪ねることは多々あったし、逆に俺が二人の家に飯を食いに行くこともよくあった。
店の雑務が長引かない限りは、互いに大抵そのまま泊まってしまうのが常だった。
96:2011/02/14(月) 22:59:42 ID:RFtPlwGp
しかし、それはいつも3人一緒ということが前提であって、チュナが早めに寝てしまうような時はお互いそれぞれの家で飯や風呂を済ませ最低でもどちらかがチュナに付き添って寝るように決めていた。
それだから、驚いたのだ。
このような生活が始まって大分たったと思うが、夜にアイリが一人でこの家を訪ねたことは一度だってなかった。

今夜、この部屋にチュナはいない。

今夕ご飯?と訊ねながらアイリは食器のない方、俺の向かいに座る。
つられるようにして俺ももといた席に座ると、静かに食べかけのパンに手をつけた。
「……チュナは、どうした?」
「今日は神殿に泊まるんだって。エンダに誘われて、アダさんがみててくれるっていうから見送ってきた。チュナはエンダの世話をするのは疲れるんだってぼやいてたけど」
楽しそうで、何より。
そう言って笑うアイリの顔は、ひどく優しい。
チュナがいる時でも、こうやって二人で話している時間があまりに心地良くて、まるで夫婦であるようだと錯覚してしまうことがたまにある。
勿論錯覚はただの錯覚であって、そんなことは起こり得ないことを俺はわかりきっているわけだからすぐに虚しさが押し寄せてくるのだが。

俺達は兄妹であって、それ以上でも以下でもない。
例え俺がどう足掻いても、その壁は越えられる筈がないんだ。

「……ねぇ、パリス兄」
そんなことを考えながら目の前の皿を空にすると、聞こえたのは呼びかけだった。
「何だ?」
簡単に返事をして、皿を流しへと運んでいく。
「人はさ、欲求に従順な生き物だよね」
「はあ、何だよ藪から棒に」
いきなりの言葉に首を捻りながら皿を流しに置いていく。

「じゃあ私も欲求に忠実に生きても良いってことだよね」

瞬間、何が起こったんだか俺は理解することが出来なかった。
皿が崩れて鳴ったガチャンという音だけが耳に残る。

気が付いたら俺はベッドに体をうずめていて、見上げると自分の体に馬乗りになっている妹がいた。
状況が全く掴めずポカンと口を開くだけの俺を、硝子玉のように澄んだ緋色の双眸が捉えて離さない。

「……付き合ってよ、お兄ちゃん」

そう呟いて艶やかに微笑む妹は今まで見た何よりも美しくて、どうしようもなく釘付けになった。
視線を外さないままアイリが自らの服に手をかけたところで、俺はやっと今自分が置かれている状況を飲み込んでとっさにその手を掴みにかかる。
「ばっ――っ、何してんだてめぇは!!」
97:2011/02/14(月) 23:03:14 ID:RFtPlwGp
「何って……、此処まできて気付かないのはただのバカだよ?」
アイリは呆れたように目を据わらせると俺が掴んだ手で逆に俺を抑えつけ、残った反対の手で器用に己の服を脱がせていく。
はらり、と纏っていた最後の一枚がベッドの下に落ちると、引き締まった、透けるような白い肌を俺の目の前に晒した。
「――っ!! 気付いてないわけじゃねーよ!お前自分が何しようとしてんのかわかってやがるのか!?」
それこそ、と整った唇が言葉を紡ぐ。
「わかっていなかったらこんなことするわけないじゃない」
そう言いながら細い指を俺のベルトに絡ませ、何秒もしない内に解いてしまう。
このままじゃいけない、俺は本能的に抑えつけられていた手をもう一度掴み直し力任せに起き上がると同時に体を反転させそのままアイリの腕を毛布に抑えつけた。
一瞬にして逆転した世界で、俺は押し倒した妹を見下ろす。
状況は全く逆に転がったというのに、紅く光る瞳は特に驚いた様子も見せずまるでこうなるのを予想していたかのように抵抗する素振りすら見せなかった。
黙って俺を見上げる緋は自然と上目遣いになって俺を捕らえる。

このまま、襲ってしまおうか。

歪んだ考えが頭をよぎる。
だって、考えてもみろ。
今は夜、二人きりの部屋、目の前には想い人、おまけに嫌がられてもいないときた。
どこまで理想的なシュチュエーションなんだ、とこちらが問いたい程の好機ではないか。
俺はゆっくりとアイリの顔に手を伸ばし荒れた手のひらで白く透き通った肌に触れる。
しかし小さくびくり、と震えた肩と細めた目を見て、はっとした。
ダメだ。
此処で、こんなとこで間違わせてはいけない。
折れてしまってはいけない。
相手が、ただ慰み者として自分を選んだだけであるのは目に見えて当然のことだろう。
今、勢いでしてしまったとして、
後悔するのはこいつなんだ。
俺は何より、こいつに幸せになってほしいんだ。
幸せにしなくちゃいけないんだ。

兄貴、として。

俺は抑えつけていた手を離し、そのままベッドからゆるりと降りた。
今度は、アイリの方が戸惑って目を泳がせる。
「………服」
「え…?」
「服、着ろ」
俺は解かれたベルトを直しながら、出来るだけ温度の低い声にして言う。
これで、いいんだ。と今までの流れでさんざん乱されていた心の内の動揺を悟られぬようにドアの方を向きながらアイリが動きだすのを待つ。
98:2011/02/14(月) 23:05:34 ID:RFtPlwGp
しかしどれほど待てども後ろから人の動く気配はしない。
ちらと様子を窺うと、やはり先程と同じ場所に座り込んでうなだれていた。
さすがにずっとあのままでは風邪をひくだろう。
俺は静かに戻って床に落ちていた服を拾い「ほら」と差し出す。
しかし差し出した先の妹を見て俺はぎょっとしてしまった。

アイリは、その綺麗な緋色の瞳から溢れんばかりの涙を零していた。

…泣いて、いる?アイリが?
墓所で白子族とあった時ですら決して涙を零さなかった、あのアイリが…?
唐突に目の前に突きつけられた光景は、何より信じがたいものであって。
俺の言葉と手を止めさせるには十分すぎるほどだった。
「……っそ、…だよね。ふっ、…わかって、た、のに………っく」
とめどなく流れでる涙を拭ってやろうとして、俺にはそんな資格は無いと気付く。
伸ばそうとした右手は、空しく空を切った。
「ごめ……っなさ、…でも、わたし……は」

「 」

…最後に呟いた言葉は、聞き取ることが出来なかった。
アイリは、それからすう、と一つ息を吸うと今まで流れていた涙を両手で拭って、無言で俺の手から落ちていたらしい自分の服をとると何事もなかったかのように自らに纏わせた。
いつものようにストンと俺のベッドから降りると、ドアの前でふっ、と俺に振り向いた。
浮かべていたのは、笑顔、だった。
「…今日はいきなりごめんね、パリス兄」
少し困ったように笑う、いつもの笑顔。
違う。いつもの、作り笑顔。
そしてまたくるりとドアの方に視線を戻しドアノブに手を掛けて
「もう……、迷惑はかけないから」

「じゃあね」

違う、と言う暇も無くドアはパタンと音を立てた。
アイリがどんな顔をしていたかすら、わからなかった。
ただ一つ確信できたのは、俺が泣かせてしまったことだけで。
「……ちくしょう」
これで、いいんだ。こうするのが一番…。
そろそろ、兄離れをさせるべきなのだ。そう、多少無理やりにでも。
もし俺が今日アイリを受け入れたとして、あいつに本気で好きな奴が出来たときに後悔するのはあいつなんだから。
なによりそうでもしなければ、俺が、アイリから離れられやしないのだから。
思わせぶりな一挙一動に何度勘違いをおこしたことか知れない。

何かあってからでは、遅いのだ。
99:2011/02/14(月) 23:06:50 ID:RFtPlwGp
そう何度も何度も言い聞かせる度に、アイリの泣き顔が浮かんでは消えた。
当然のごとく、その日の夜はなかなか寝付くことが出来なかった。


*


いつもと何ら変わらぬ朝がきた。
俺はむくりと体を起こす。
アイリは、来ない。当たり前だ。
起き上がる前に乗っかる体の重さも、無駄にテンションの高い声も、何もない。
あるのは俺の膝にかけられた毛布だけ。
毛布をよかして起き上がり部屋を見渡すと何もかもがひどく味気ない気がした。
俺が動かなければ音一つたたない、しんと静まり返った部屋。
朝とは、こんなに静かなものだったかと考えてはたと思い当たった。

俺は、はじめて独りでこの部屋の朝を迎えたのだと、今更になって気が付いた。
100:2011/02/14(月) 23:09:55 ID:RFtPlwGp
以上です。
一応続く、つもり。たぶん。

ちなみに最初のパリス料理担当云々はただの実話。
間違えて読ませちゃったんだけどどうせ連れ歩くしいいかという感じでそのまま。

お目汚し失礼しました。
101名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:37:18 ID:ga3l3jWq
>>100
乙!かわいい二人だ
続き期待

続くなら他の人みたいにトリップキーつけるとよろしいよ
読み手の抽出もNG設定も楽になるし
何かあった時に気休め程度だけど本人証明的な何かにもなるし
トリップキーでググるとやり方でてくる
102名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 10:56:33 ID:Ab7sZ3ba
フィー×シーフォンとかアイリ×パリスはニヤニヤ妄想になるけど
ウェンドリン×アルソンはなんかギャグチックになる、主にアルソンのせいで
103名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 13:26:47 ID:+jOh11b5
二人でイチャイチャしててもどこからか
<○>:::<○>カムール父さんが●ているんだよ

もし戦争中にバルスムスに斬られてもウェンドリンのためだから全然平気だし
「ウェンドリンさんのことは心配しないで下さい、僕が幸せにしますから!」とかアルソンが言おうものなら
「ちょおおおおおしにのるなよこぞおおおおおおおおうおおおおおおおおおおお!!!!」
ていってきっとがんばる。ものすごく頑張る。怪我とか治るくらい頑張っちゃう。もう本気で頑張っちゃう
ホルムの伝説に書き加えられちゃうレベルで頑張る。もうかわりに一人でタイタスとか倒しちゃうクラスで頑張る
死んでもお空の上からいつでも●ているよきっと多分全然平気じゃないよ致命傷だもんそりゃ死ぬわ

つまり何が言いたいかっていうとお父さん頑張れ超頑張れってことです
104名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 14:18:56 ID:Ab7sZ3ba
そういえば途中退場なものの親バカなお父ちゃんもいたな
変な奴らに囲まれてウェンドリンもさぞ大変だったろうw
105名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 19:21:45 ID:z0Ro1vaj
アルソンさんは正直シリアス展開を思いつけない
大体コメディになる
106名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 21:45:21 ID:xCBHehs/
確か初代にシリアスなウェンドリン(十七世ver)×アルソンものがあったな
107名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 21:46:05 ID:xCBHehs/
初代>初代スレ
108名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 21:52:08 ID:cXI8QHXL
17世化したテオルの下につくアルソンって展開も悪くないな
次第に感覚が麻痺していくとか
109名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 12:23:07 ID:rnIwHGF0
表のスレが、子作りとかこっち向きの話題になってるな
キレハを崩す云々の話も惹かれるものはあるが
自分の血を忌避して百合に走るとかだと俺得
110名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 15:35:47 ID:oSJ8JotT
ウェンドリン×ネルのガチムチ百合なんてのもできるのか
ruinaには本当に無限の可能性があるな…
111名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 15:38:44 ID:jLsrnqQP
だいぶ前のスレでウェンドリン総受けふたなりハーレムもあったな
112名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 16:33:06 ID:3xs3xUVo
>>110
ネルの怪力に惚れたウェンドリンが
ネルを兄貴と慕い、世紀末な世界を救世するガチムチストーリーと書くと
とたんに百合っぽさが消えて汗臭くなる不思議
113名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 16:43:57 ID:0sE5WXPi
>>112
パーシャくわえて漢と漢が夕日の中、拳で語り合う熱い劇画へ
アルソンが差し入れにパイ置いてそっと立ち去り、柱の影とかで涙をぬぐったりするんだよ
あとカムールが一片の悔いなし!!!とかいって死ぬ
114名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 18:44:55 ID:kNb0rr2n
子作りを怖がる女主人公に無理やり種付けネタもいいものです

ウェンドリンは子供を残さなきゃいけない立場だろうし、
そのへんでアルソンさんとシリアス展開できないかな
あとはタイタスの器となることを拒否した主人公が
「それなら次の器を作りましょう」と白子族の町で同胞の連中に監禁されて無理やりとか
115名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 01:28:05 ID:Fh2nLDd/
まともな子供が生まれるまで孕ませ産ませ孕ませ産ませ孕ませ産ませの繰り返しだと

やったねタイちゃん!家族が増えるよ!
116名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 10:26:55 ID:wpsuExOk
主人公の性別で展開がかなり変わるな
男主人公が精液を絞り取られる的な方向性なら大好きだ
117名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 10:33:55 ID:ce6mVwHa
>>116
けど相手は白子族だぜ?
…あ、でもユリアも分類上は白子族だろうしユリア相手ならアリだな
118名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 11:48:32 ID:mdMuMknf
あの年寄り言葉で喘ぐユリアを想像すると…ゴクリ
119名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 12:38:10 ID:NxoTpYiz
くそっユリアで想像しようとするたび余計な顔グラが邪魔して爺どもの悪夢の宴と化す
120名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 18:01:15 ID:iqmVlj7c
ユリアのエロって今までにあったっけ
121名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 18:03:04 ID:NxoTpYiz
フィーが生き返らせるSSがあった気がするけど
エロかったかまでは覚えてない
122名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 00:07:14 ID:eVtJWGuT
ユリアさんは退屈に飽き飽きしてるから
エロさにかけてはそれはもうものすごいよ
123名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 09:33:19 ID:2GeJxy0n
ユリアさんと初対面の時に
「立ち去る」「いいえ」「断る」などでひたすらいじわるしてると1日つぶせるな…
124名無しさん@ピンキー:2011/02/20(日) 01:10:25.69 ID:LZEPon3U
ユリア×夜叉王のssが読みたいですっ!!
できればラブラブ新婚物で!!

お願いしますっ!!!
125名無しさん@ピンキー:2011/02/20(日) 02:14:02.18 ID:A8Fl63vZ
お前絶対夜叉王だろ・・・汚いなさすが夜叉王きたない
126名無しさん@ピンキー:2011/02/20(日) 14:07:57.21 ID:crCHbII4
ユリア様は太腿が素晴らしい
資料集でもっとキャラ絵を公開してくれんかなあ
127名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 12:51:27.47 ID:p59lJIEJ
ふとももと言えば、アイビアとウリュウも忘れてもらっちゃ困るな
128名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 21:50:58.11 ID:Y7YqnYmP
常々思っていたのだがチュナは12才以上なのにあのスカート丈はまずいというか気まずい
発育のいい小学生の女の子が男湯に入ってきちゃったみたいな生々しいエロさがある
つまりふとももふともも
129名無しさん@ピンキー:2011/02/23(水) 10:42:51.27 ID:09Q852R/
「私がチュナみたいになったら、パリスにいちゃんは同じように心配してくれるのかな…」
という感じで悶々とするアイリと、気付かずチュナの心配ばかりするパリス
みたいなシチュエーションが浮かんだので、次の周はこの設定で脳内補完しながら盗賊女だな
130@15 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:55:16 ID:O8hq46oJ
投下しようとしてびっくりしました。移転乙の二部立てっぽい6500ヴァンです
>>72-73の続編でむだにま属性、どなた様もとりあぼんでご協力を願います

ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/208563.zip
あとヴァンフォルダ追加です。>>45にある二つのファイルを統合した状態で
「短編」フォルダを削除したうえで本投下分を上書きすると、ファイルが重複
せずヴァン編が増設できます。もう、よそに書いたレスもまとめておきました
13115 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:55:48 ID:O8hq46oJ
――広い広い宮殿を、気ままに歩く人影がある。
「そりゃ、お前。人さまにはいえねえようなしごとだってやったぜ。おれはみなしごだからな」
「お前みたいな馬鹿に何か任せられるのかよ」
「うーん、それはそうなんだよな。おれガキだから、いっしょにいるとナメられちゃうだろ?だからしゃっ金
とりとか用心ぼうとかできねえ。字もかけねえし、はなすとバカみてえだからって、大したことない仕ごと
しか、やらせてもらえねえんだよな」
「そりゃそうだろ。僕だってお前なんかじゃとても何か任せる気にはならないね」
「だよなあ。うひゃひゃひゃ!いまはよ、チュナが目をさまさねえから、家でエロ本の色ぬりやってんだ。
付ろくのし用ずみ下ぎのヤツは、けっこうもうかったなー。バレたらすっげえ大へんだったけどよ。あとは
金もちんちの犬のさん歩とエサやりだな」

「「はっ!?」」

「たまにかい主がおれにもうまいもんくれるんだ。犬ッコロはかわいいし、楽しいよ」
「いやちょっとまて、付録の着用済み下着ってあれ、お前がはいてたのか?!」
「なわけねえだろ。てかしん品ならふつうにつかえるのに、なにがかなしくて、わざわざきたねえヤツを
ほしがるんだろうな?買うやつなんかホントにいるのかねえ」
「僕が知るかよ」
「よくわかんねえけど保けん所に通ほうされちゃってよ、不えい生なんだってさ。知ったこっちゃねえよな。
だって下ぎだろ?食いものでもねえのになにが不えい生だっつう、な?こっちはしょう売でやってんだぞ。
ランタン油でつくったシミのどこが不えい生なんだってピンガーのヤツもがんばったけど、そしたらはいた
ヤツがいねえパンツなら、サギになるんじゃねえかとか言いやがんのさ。けっきょくおじゃんになったぜ」
「碌なモンじゃねえな」
「仕方ねえだろ。ピンガーなんざたかが知れてるからな。おれだって元からフラフラしてたわけじゃねえ。
ちょいとむかしはエントツそうじしてたんだぜ。すごいだろ。な!」
「ちょいと昔ってお前いくつだよ。どう見てもガキだろ」
「いつ生まれたかなんかしらねえよ。ただ河っぱたにおっこちてたんだから」
「……河で拾われたのか」
大抵聞き流しているだけなのに、珍しく食いついてきた。ヴァンは振り返り、見上げながら答える。
「そうだよ。あんちゃんが見つけたっていってたな。こんな頭からっぽのクソガキになると分かってりゃあ、
まずひろわねえだろ」
「拾わないね。断言してもいい」
「だよなあ、おれだってひろわねえわ」
「……いずれにせよ、お前は仕事を辞めたのだな。辛かったのか」
「おれ高いとこ好きだからよ、けっこう向いてるんじゃねえかなとおもってたんだけどよう。おや方がしばり
首になっちまったんだよな。い来、それっきりさ」
物凄く気軽な調子だったので納得しかけたが、ふとおかしなことを言っているのに気付く。
「……絞首刑になったのか?」
「なんでまた」
「ああ、ガキつかって盗みさせてたのがバレたんだよ。だんろからへやン中へのりこみゃ一発だからな。
でもとんまなヤツがいてさあ。そいつがうまくできねえっていうと、しぬほどボコボコにしやがんの。けど、
そいつってすっげえのろまだったから、ムリしてやってもすぐにばれちゃうんだよな。そうするとおや方は
ガキがかっ手にやったことだって、やっぱしぬほどボコボコにするんだぜ。で、ある時そいつはほんとに
しんじまってよ。ブルったほかのガキがそろってとんずらこいたんだ。なんども連れもどされそうになって
とうとうカムールのとこでぜんぶゲロしちまったのよ。ありゃわらったなあ。だーれもしんじてくれねえの」
13215 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:56:20 ID:O8hq46oJ
「そりゃ孤児の言うことじゃな」
「お前も仲間と共に逃げたのか?」
「おれがか?べつになかまじゃねえよ、あんなやつら。だいたいおれがにげたら、チュナがぶっころされ
ちまうじゃねえか。それにぬすみはおれが一ばんうまくやってたからな、おや方のお気に入りだったん
だぜ。呑んでねえ時は、いっぺんもぶたれなかったもの」
「じゃあなんで吊るされたんだよ」
「おれがカムールんちのかみさんにつげ口してやったんだ。ただそれだけのこった!どうでもいいんだよ、
あんなのんだくれ。一人か二人しんだって、今さらだれもこまりゃしねえ!」
「いやちょっと待て、何でそんなことが出来たんだよ」
「なんでかしらねえけどあそこんちのカカアは、おれを気に入ってたんだよ。なんどか、じょうかんのえん
とつそうじに行ったとき、ねこんでるのに知らずに入りこんで、はち合わせたのが運のツキってヤツだね。
よくおれにアメくれたよ。うめえんだけど、金にならねえからぶたれるんだよな」
ケラケラ笑いながら殴られる仕草をしておどけ、懐かしむように天井を眺めながら続けた。
「ほんとうは、おれくらいの子どもがいたんだってよ。生まれてすぐにしんだんだってさ。もし生きてりゃ、
今ごろはソイツ、きっとりっぱなき士になってたろうになあ……。わかんねえもんだよなあ」
夢を見るような表情で見上げていたが、振り返って連れに笑いかけた。
「あそびにおいでって言われてさ、時々みまいにいったんだぜ。おもしろがっちゃってよ、いつだったか
おれに親がいないなら、おしろにきて子どもになれって言われたけど、おれは家にいもうとがいるから
いかねえよって言ったら、チョコをくれたわ。おかげでじょうかんのクソ共にコソドロあつかいされてあと
で大へんだったけどな。きぞくの情けなんてろくなもんじゃねえよ」
喋りつつ目ざとく何か見つけて駆け出し、金目のものか確かめている。
「タレこみなんかして平気だったのかよ。バレたらお前だってただじゃすまないだろ」
「しなきゃあいつら全いんぶっころされてたろ。これ売れるかな」
「テオルが探してるとか言ってた皿じゃないか?てか仲間じゃないならどうでもいいだろ」
「いくらクソみてえなやつらだからって、まだガキなんだぜ?さいしょにしんだやつだって、とろいだけで
わるいヤツじゃなかった。人げん、向き不向きってもんがあんだろ。おれみたいなのに頭使うしごとさせ
るとしたら、やらせるほうがわるいわけじゃんか。あんちゃんにはお前ばかだから体うごかしてくってけ
って言われてるんだ。わかるだろ、な!」
といいつつ棚に足をかけて天井近くまで上がってしまった。身のこなしは軽く、まるで小猿のようだ。
「ケッ、嫌なこと思い出しちまった。僕が言われたのと反対だなロッキー」
「なんでだよ」
「僕は体が強くないから。父上は頭を使った仕事をするように仰ったんだ」
「ふぅ〜ん。でもお前の頭はそこらのへっぽことはちがって、ずい分大したもんじゃねえか。使うとすりゃ
お前、そうとう大したことがやれるんじゃねえか?な!」
「ああああたりまえだろっ、僕様は偉大な大魔術師なんだからな!」
「知ってるさ。お前は大したもんだよ。な!」
傭兵は渋い顔で知らん振りしている。
「てかよう、こんなことだれかにしゃべったの、はじめてだな、おれ。ダチ公のこと、ずっとわすれてたわ」
「そんな話吹聴して回ってたら、お前みたいなのじゃ直ぐ始末されるだろうからな」
吹聴ってなんだと叫びながらたんすから飛び降りてきた。両手で大きな絵皿を頭上に抱えている。
「喋って回るって意味だよ」
「ああ、そりゃそうだ!河にしずめられちゃうわ。…でも、おれだって、てめんちにかえりたかったんだよ。
それに、あいつはおれにはダチだったんだ」
ごそごそと鞄をあさって風呂敷を広げ、皿を大事に包むと無理くり詰め込みなおす。
「そうだ。こんどかみさんのはか参りしてこよっと」
ぐしゃぐしゃの寝癖がついたこの小さな頭には、なにか想像以上に様々なものが詰まっている。上から
見下ろしながら傭兵は、そんなことをぼんやり思った。
133後半15 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:56:59 ID:O8hq46oJ
「おい、本当に入るのか?大丈夫なんだろうな、お前らなんかで」

「だってよ、そいつぶっとばさなきゃ、チュナはなおせないんだぞ?ビビってにげだすわけにゃいかねえ。
あんちゃんだってまい日がんばってんだ。ここでおれがぶるってちゃダメなんだよ。な!」
「ほほー、気負うねえ。せいぜい僕の足を引っ張るなよ」
話が決まったところで傭兵が扉を押し開ける。
「今からこの僕が、誰が真の魔王に相応しいか見せつけてやる!」
「うひゃー、シーフォンかっけー」
「下らん」
彼らが踏み込んだのは宮殿のど真ん中に位置する大広間だ。びっくりするほどの数が林立する柱は、
どれも気味の悪い怪物が彫りこまれ、壮麗な天蓋を支えている。無数の釣り灯かりが煌々とゆらめき、
彫刻を目も眩まんばかりに照らし出していた。顔が写るほど磨き上げられた床タイルには、もやもやと
怪しげな班が浮び、雪に喜ぶ子犬のような少年が右へ左へ駆け回って滑り込んでいる。ちょいと目を
離した隙に柱によじ登ってしまったので、呼び戻すのを諦め二人で奥へ向かった。
「あいつが、この宮殿の主か……」
玉座にかけたまま死んでしまったのだろうか、殆ど怪物のような手足を持つ椅子の上で冠を頂く死体が
今にも崩れそうになりながら首をもたげ、こちらを見下ろしている。腹に響くような不気味な声が聞こえる。
「なーなー、シーフォンシーフォン。ちょっといいか?」
「なんだよ、邪魔するな。僕は今忙しいんだよ」
「だってよう、あいつなにいってんのか、さっぱりわかんねえんだよう」
「あ?ああ……」
緊張を全身にみなぎらせていた妖術師と傭兵とは、顔を見合わせてため息をついた。
「だからァ〜、いいか?アイツは、俺様はタイタスなんだから、お前ら全員土下座しろっていってるんだよ」
「ええー……まじかよ、やだよ、なんでだよ」
『下郎、余の帝位を奪いに来たか!』
「ていいってなに」
『………………えっ?』
「王である事だ。わかるな」
「あの死にぞこない、自分の代わりに僕が魔王に成り代わろうって魂胆なのかって聞いてんだよ。まあ
当たりなんだけどな、ぎゃはははっ」
「へぇ〜。じゃああんた王様なのか。しんでるのにすげえなあ」
『汝の前にいるのは、大河流域世界全土を統べる皇帝である。余はアルケア帝国の主権者なり――』
「それは先程もう聞いたが……」
「そうだっけ?でもなんか、とにかくえらいヤツなんだな?いちおうおがんでおくわ、おれ」
ぱんぱんと拍手を打ってお辞儀している。
「チュナが、はやく、よくなりますように」
「なんか間違ってないかお前」
「なんでだよ、いいからさいせん投げようぜ」
『殊勝なり。余は汝を言祝ぐ』
「喜んでんじゃねえよハゲ!お前みたいな死にぞこないにやる小銭はないからな!!わかったか!!
とっとと失せろやこのクソがァ!!!」
小銭の代わりに先制攻撃を浴びせている。
「おいおい、なんでだよう。えらいヤツじゃねえのかよう。おれにも小銭おくれよう」
「……いや、死ねといわれているぞ」
「まじかよ!?じゃあやめとくわ!!」
がしゃんと叩きつけたのは油の詰まったガラス瓶らしい、玉座が足を滑らせおたおたしている。仲間も。
134後半15 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:57:32 ID:O8hq46oJ
「このイスうごくんだな、わひゃひゃひゃ!!足がいっぱいあるくせに、こいつちょーコケてんの」
「アホかお前、笑ってる場合じゃないだろ」
「まあ見てなって」
わっかを作った投げ縄をほうるや、見事玉座の背もたれに引っ掛ける。すばやく手繰り寄せるとたちまち
輪が狭まって、生ける玉座はきつく戒められてしまった。
「この前牛かいのニイちゃんにおそわったんだ!すごいだろ。こいつを〜、こうやってひっぱるとお?」
逆にずるっと引き寄せられたばかりか、16世が席からおりてしまった。

「ちょーやべえ」

王が一喝するや駆け出した玉座に引きずられてずっこけ、そのままぐいぐい広間を引き回される。歓声
がこだまし、合間合間に硝子の割れる音と耳障りな蹄の音が響く。ランタンの燃料を撒いているらしい。
「ヒーッハー!!!なーあシーフォン!!これすっげえすべるよ!すっげえすべるわこれ!くらえー!!」
投げつけた油瓶がいくつも散らばって玉座はべちょべちょ、折角の床もひどい有様だ。
「うわー、こいつバカだ」
「イヤッハー!!ちょおーはえええええ!!」
「何ちょっと楽しそうにしてんだよ!」
「とまらねえんだよおおお!!」
「……手を放せ、ヴァン!!」
「あそっか、おれってバカだなー」
ぴたっと立ち止まったが、なぜか椅子も立ち止まって見合っている。ヴァンが思い出したように走り出す
と飛び上がってがたがたと逃げ出した。
「何やってんだこいつら」
「まてよー、かえせよー、おれの投げなわかえせってー」
大広間の扉にぶつかって両者とも飛び出していき、どこかに走り去っていった。あっけに取られていた
三人はふと我に返る。
「……もういい。アイツの事は忘れろ」
「かえせってぇ」
「何も聞こえないな!」
向き直った妖術師の少年は、玉座の上から表を走り回る子供を目で追う16世を見上げた。
「おいテメエ、よそ見してんじゃねえぞ。よぉく覚えておけ。新・魔王になるのは、この僕様だ!!」
「いや、無理だろう」
「ちゃちゃいれてんじゃねえぞタコ助!手始めにお前をぶっ潰す!その次がお前だ!わかったか!!」
『たとえ一千年、一万年が経とうとも、この帝位は余一人のもの!神々にも父祖にも渡しはせぬわ!』
「そうか頑張れ。後は任せた」
「帰ってんじゃねえ!!!」
縄が絡まったとかで、入り口近くの柱をはさんで椅子と戦っている子どもの方へ歩き出している。
「畜生、どいつもこいつも馬鹿にしくさりやがってこの野郎!」
キンキン声で詠唱し始めたのと同時に、少年の周囲の空気がぱりぱりと静電気を帯びていく。16世は、
久しぶりに自らの足で踏みしめた床の感触を確かめながら剣を構えている……。
135後半15 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:58:05 ID:O8hq46oJ
「まてまてまてまて〜!」
シーフォンの横を掠めて滑りぬけていったは白髪の少年、足を掬われ王まですっころんで玉座のあった
壇上から転げ落ち、よろめいたところを傭兵から一撃貰った。チンピラはそのまま壁に衝突して反対側
まで弾き飛ばされた自らの失態に爆笑している。駆け寄ろうとした赤毛の子どももぬめって転げ、腹を
立てたらしい。杖をふるって爆炎を放った。
「燃えくされクソがァ!!」
「あっちいー!!」
見る間に燃え広がり玉座から大広間にかけてちょっとした火の海、慌てて服を脱ぎ捨て興奮した様子
の傭兵がマントで叩き消している。
「我々を巻き込むな!」
「わざとだ死ね」
「なんだわざとか。わざとじゃあしょうがねえな」
ランタン油を撒き散らしながら飛び掛り、タイタスのわきの下に潜り込む。斬るに斬れず振りほどこうと
身をよじるが、たっぷりした衣の袖から懐へ入られてしまってどうにもならず、ついには剣を捨て衣ごと
子どもを剥ぎ取ろうと必死になってもがき苦しむ。絶好の機会、だが魔術をかけようにもヴァンまで巻き
添えにしてしまいそうだ。
「どう攻撃すりゃいいんだよっ死ね!!」
腹いせに焦げた石ころを投げつけ王冠が傾くや裸の傭兵が斬りかかり、袂と一緒に小僧を取り返した。
破れかぶれの16世が骨ばった指をさした直後、なぜか爆発した。骸骨になっていても驚愕の表情は
伝わるものなのだ。上半身と下半身が別々に黒煙を上げながら床に倒れてもぞもぞと動いている。既
に死んでいるだけに、中々死なないものらしい。
「おれのポチぶくろがねえぞ!おいどっかいった!!」
「落ち着け。腰に下げていた小袋のことか」
「ヤツの腹を吹き飛ばしたヤツじゃないか?フラスコ幾つも詰めてたろお前。うけけけ、ホーラ。もっとよく
火が通るようにたっぷりかけてやれ」
「まじかよー……もったいねえ」
ウンコ拾いが面倒だったのにと肩を落とす少年からランタンを奪って中身をぶちまける。
「ぎゃははは!見ろよ、こいつ。無茶苦茶燃えてやがるぜ!」
『…………愚か者め……汝も余と同じ……』
「あんだよ、よみかきできるくせにバカなもんかよ」
『……この悪夢の外側に出ても……より大きな夢があるだけ……。誰も逃れられぬ……』
「おいィ?」
皇帝の姿が崩れ、塵となって、消えてゆく……。息を呑む一行の背後からどかーんと乾いた音が響い
てきた。
「何だ!?」
ちょっと飛び上がった傭兵も無言で振り返っている。
「どっかで、門でもひらいたみてえだな」
遺跡荒らしの少年は、薄紫にくすんだ衣の残骸の中から、まだ光を帯びている剣を拾い上げた。

「いいんじゃね、あくむ上とう!!もっととおくまでいってみようぜ!」
13615 ◆E9zKH0kZMc :2011/02/24(木) 20:59:08 ID:O8hq46oJ
お粗末様。昔煙突掃除の童話を二つくらい読んだ思い出に
137名無しさん@ピンキー:2011/02/25(金) 14:48:33 ID:YsQNlkXG
>>136

メロダーク、服脱いだせいで興奮したんじゃあるまいなw
138 ◆/K08NdWDjo :2011/02/27(日) 19:54:51.19 ID:x57uD3X+
 寝床の中に、冷たく柔らかい塊が潜り込んできた。
 鼻先につんと染みる冬のにおい。
 明け方の風と露をたっぷりはらんだ髪のにおいだ。
 のみならず、冷え切った腕が首筋に絡みついてくるのだから、堪ったものではない。
 毛布の主である若い賢者は、一つ唸って半眼を開いた。
「……キレハ」
「なに」
「冷たいんだけど」
「暖めてよ」
「暖炉」
「こっちの方がいいわ。薪も勿体ないし」
「そう」
「いや?」
「別に。……何か変わったことあった?」
「昼辺り、雪かも」
「鉢植え――」
「大丈夫、もう下げといたわ」
「ありがと」
「どういたしまして」
 薄青い日の気配。日が昇るにはまだ早い。
 風にざわめく枯れ枝の音が遠く近くに波打った。
 森に面したその庵に、かつて老賢者の住まいであった面影は乏しい。焼け落ちて建て直
された今は、彼の弟子であった若い賢者が妻と共に暮らしている。
 小屋には立派な馬が一頭、屋根の巣箱に大きな鷹が一羽住み着いており、軒先には大抵、
毛並みの良い狼が座り込んでいるのである。
 生まれも性質もまるで異にする三匹の同居人であったが、外見に似合わぬ彼らの機知と
大人しさは周囲の評判となるところであり、今は新任の森番として町に居着いた主を陰に
日向に助けて働いていた。
 主を慕って止まない彼らであるから、主の望むことも鋭敏に察知してのける。
 差し当たっては、つがいと一緒にいる彼女の邪魔をせぬこと。
  特に夜更けと朝の見回りの後は、咳きのひとつもせず息を潜めている。そうしてこと
が首尾良く進むよう計らっておいた方が後々上機嫌になった主に――勿論普段でも彼らに
はよくしてくれているが――ことさら優しく構ってもらえることを心得ているのだった。
 一風変わった家族らのそんな生ぬるい気遣いを知ってか知らずか、若い賢者は妻の髪を
ゆったりと撫で、温もりを通すように丁寧に梳いた。ほう、と胸元に甘い吐息がかかる。
どうやら外套と一緒に上着も脱いでしまっているらしい。抱いた腕には、肌着越しに柔肌
が触れた。
139名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 19:55:16.04 ID:x57uD3X+
 冷えて強張った耳を撫でながら乾いた唇を舐めると、薄闇にそれと分かるほど、褐色の
頬がふにゃりと蕩けて綻んだ。
 以前は何かと意地を張る娘だったのだけれども、褥を共にして一月もすると、見る影も
なくなってしまった。暇さえあればひっついてくるし、甘えたがる。そのくせ、年上ぶっ
て何かと世話を焼こうとする。
 元々無理に人を遠ざけているところがあったから、触れ合いに飢えていたのだろう。
 人肌恋しい冬の朝となれば、尚のこと。
「ん……アベリオン……アベル……」
 おとがいを上げて口づけをねだり、吐息の混じる合間に、娘は何度も名を囁く。
 丹念に髪を撫でている青年の、その右手をそっと掌に包む。愛おしげに頬を擦る。
 歪に引き攣れ、強張った右手の皮膚。
 指先から二の腕にかけてを覆う無数の傷跡。
「アベル、あったかい」
「ん……少し、寝直したら」
「そうする。半刻したら、起こして」
「ああ。……朝飯、何にしようか」
「何がいい?」
「やるよ。たまには」
「だめ。作るから起こして」
「分かった、分かった」
「お休み」
「お休み、キレハ」
「……居てね」
「分かってる。大丈夫だから」
 キレハはまだ一言二言何事か言ったようだったけれども、眠りの沼へ泡と消えたようで、
要領を得なかった。
140名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 19:55:47.41 ID:x57uD3X+
……そんな妄想
141名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 21:26:28.78 ID:sDZOZNTR
ふぉぉぉぉぉ
142名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 01:06:21.30 ID:vSAnzNDJ
>>138
ラブい! ごちそうさまでした!
キレハの嫁スペックマジ半端ないな
143名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 10:34:21.86 ID:ik8kbOi/
ぐおお、なんて素敵なキレハ
三匹の家族もいい味出してるなあ
俺も朝起きないで布団の中でキレハといちゃいちゃしたい
14415 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:53:04.57 ID:pghNPlwY
いらん電波受信でヴァン6600、ま属性とぶちこわし注意
制御不能でした。ご不快の際にはとりあぼん願います。
14515 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:53:36.34 ID:pghNPlwY
「わかったから落ち着けって。何言ってるかさっぱりわかんねえ」
「わかってないならわかったとか言うな!!!!馬鹿にしてるのか貴様!!!!」
「じゃあしらねえよ、とっととくにへ帰るんだな」
「お前保護者だろ!!!?」
「……声がでけえよ。朝から元気なヤツだな、おい」
「お前本当にニンジャなのか?何かイメージとは違うな。てか僕様にはお前がどうなろうとどうでもいい、
せいぜい闇の中で生きてろよ」
「黙れ!その闇から出てこざるをえなくなったのは誰のせいだと思ってるんだ!」
「まあまあ、二人ともそんなけんか腰にならないでさあ。せっかく来てくれたんだし、歓迎してあげなよ。
パリスもあたし達も、さっき探索から戻ったばかりだから、町の事はちょっと分からないんだよ」
「そ、そうか……」
「でも入れ違いにならなくて良かったじゃん、結構長く出かけてる時があるしさ、いいとこに来たよ」
「てかオレんちどっから聞きつけてきたんだ?」
「フン、我らの諜報能力を侮るな」
「諜報ねー、ケッ。忍びにしてはあんま隠れてないんだよな、コイツ。でかいから目立つし」
「どう見てもオレより年上だよな」
「フランちゃんは結構小柄なのにねー」
「ほっとけ!部外者は口を挟むな!もう忍者かどうか関係ない、これはおれの死活問題なんだ、頼む!
このままじゃおれはしんでしまう、どうかこの通りだ!!!」
大男が物凄く勢い込んで拝んでいる、怖い。
「そんなこと言ってもよ……。あいつがどこでどうしてるかなんて一々知っちゃねえよ」
「大体本の一冊や二冊、なんでそうムキになるんだよ、そんな大切だったら渡さなきゃ良かったろ?」
「やむにやまれぬ、事情というものが……うわっ」
「すごい、忍者ってほんとにどろんて消えちゃうんだー……」
「いやベッドの下にいるだろ」
「見るな!!!」
パリスが覗くなと激怒されていると、階段から軽やかな足音が聞こえてくる。がちゃがちゃと鍵をいじる
音に混じって、待つように懇願する連れの声がわずかにしたようだ。
「ただいまー!お!あんちゃーん!!おかえりー!!」
「おう、帰ったぜ。なんだよ、随分ゴキゲンだな。どこいってきた?」
「いよー!ネルにシーフォンじゃん!お前らあそびにきてたのかよー、うひゃひゃひゃ!今日はでむかえ
がいっぱいいてうれしいな!」
「別に僕は出迎えてないだろ、五月蝿いヤツだな。ただいまつっといてお帰りってどういうことだよ」
「だってあんちゃんかえってきてんじゃーん、な!」
「そっか、もしかしてお互い会うの久しぶりになるんだね」
「おれもあんちゃんもはたらいてるからな!!えらいか!!なあなあ!おれえらい?!」
「静かにしろ、それよりお前。なんかやらかしてねえか?」
「しらねーよ、それよかみてみて!!すげーんだよ!これみて!!な!!な!!」
無視してよたよたと戸口に現れた神官に手を貸して招き入れてやる。普段の泰然自若とした感じがなく、
かなり消耗している様子だ。
「大丈夫かよ、お前なんかしたか?」
「いっぱいタンケンしてきたぜ、な!おれテレージャだいすきだわ、ちょ〜楽しかったもん!!!」
「ははは……そうかい、それはよかった……よかった、よ」
「テレージャさん、だいじょーぶ?服も靴も泥だらけになってるよ」
「こいつ信じられない位アホだからな」
妖術師の冷たい視線の先ではヴァンが跪いて、妹に話しかけていた。反対側の床下で真っ青になって
いる者がいるなどとは、とても言えない。
「アホには違いねえ、口閉めずに水筒仕舞いこんで爆発させたりするからな」
「それは確かめないパリスがいけないんじゃん。ねー?」
「はは、は……来て早々悪いんだけれど。ちょっと休憩させてもらっていいかな」
「はやくあがってこいよー!!!アルソンさーん!!!」
「うるせえぞ!静かにしてろ。ガキの世話は堪えるだろ、まあかけなよ」
「お邪魔します!!あれ?みなさんおそろいですね、おはようございます!!」
「朝からやかましいんだよ、もう二度と床板踏み抜くなよお前ら」
「なあ!なあ!なあ!あんちゃんこれ見てくれよ、なあああああ!!!」
「走りまわんな!下のおっさん起こすだろ!!」
14615 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:54:07.46 ID:pghNPlwY
すばやく鞭でからめとって引っ張り寄せた。そうでもしなければとても捕まえられそうにはない。
「これでも足には自信があったんだが、ヴァン君にはまったく敵わないね。振り回されっぱなしだったよ」
「そりゃーそうだ。おいかけっこで勝てたのはフランちゃんとラバンだけだよ。キレハさんも早いんだけど、
真面目だからなー。話しかけられるたんび一生懸命話聞いたりしてるから、参っちゃうみたい」
「なんだよー、どうしてだよー、お前ら教えろよー、なんでキレハはにげてくようになったんだよー」
「そういえば、ここのところずっとキレハさんに避けられいてるような気がしてましたけど、もしかして、君
と一緒にいたからだったんですか?」
「え〜〜〜なんでだよおおお」
「お前がしつこくおっかけ回すからだろ。獣呼びしてえとかいって」
「おれもわんことあそびてえんだよー、なんでダメなんだよー」
犬そっくりの鼻声を上げて床に崩れ落ちる。嘆いているらしい。
「聞き流せ。相手にするな。ほうっておけ。精神をやられず切り抜けるための三原則だ。覚えとけ眼鏡」
「お前らはそれでいいだろうけどな、オレはこいつがやらかした尻拭いしなきゃなんねえ。ほれヴァン、
こっち来い。なにをどこからふんだくってきた。あんちゃんに聞かせてみな」
抱き起こして顔を覗き込む。ぐしぐしとべそをかいていた。
「おれはよう、ニンジャになりたいって頼みに行ったんだよう、そしたらよう、ギュスタールはよう、おれが
バカだからなれねえって言うんだよう。だからよう、勉強するからならせてくれって言ったんだよう、でも
よう、おれはレンデュームのヤツじゃないからダメだって言うんだよう、だからよう、だれかにもらいっ子
してくれって言ったんだよう、そしたらよう、ダメなものはダメつって、急にどろんと消えちゃったんだよう」
「うわーコイツしつけえ」
「でもよう、おれはニンジャになりてえだろ?だからよう、まい日たずねてっておねがいしたんだ、そした
らさ、ジャスミンと戦って、かったら本をやるつったんだぜ!いいだろ」
喋っているうちに泣き止んでしまった。パリスがいて嬉しいのか既ににこにこしている。
「へえ〜、だからヴァンはここの所ずっとレンデュームに行ってたんだ」
「そうだよ、でな。まい日そいつにけい古してもらったんだぜ」
「猿に?」
「猿じゃねえよ、ジャスミンだよ」
「修羅丸じゃなかったっけ?」
「フランさんはジャスミンと呼んでいましたね」
「ということは、本名は修羅丸ジャスミン・ふ美子とかいうのかな」
「すげー……かっこう良いなあ」
「いやいやいや」
「てかそもそもメスなのか?」
「しらねえよ」
「ソイツめっちゃつえーんだよな。おれ全ぜんかてねえの。しょうがないからキレハにたのんでさあ、獣の
あつかい方教えてもらおうと思ってよ」
「二次災害が起こってる……」
「でもなんかあんま教えてくんないんだよなー。なんでだろうなー。このとこ、おれの顔見るだけでどっか
にげてっちゃうんだよなー、おかしいよなー」
大きなため息をついて兄の寝台に腰かけた。二人ほど、緊張した顔になっている。
「で、テレージャにたすけてもらったんだ。な!」
「そうかよ、なんかあんたにも迷惑かけたみたいだな」
「気にしないでくれたまえ、少し文献を当たってみただけだよ」
「すげえんだよ、テレージャさん。な!」
アルソンが笑顔で同意している。
「かり人が使う剣とか、とらまえ方の本とか、みつけてきてくれたんだ」
「へえ〜。猿退治のやり方とか調べれば分かるものなの?」
「まあ、狩りのコツみたいなものなら、ある程度は資料で探せるんだよ。とはいえ、実際上どうなるかは
本人次第だがね。……こんなに治療したのは初めてじゃないかな。それで彼は何をやってるんだい?」
寝台の上で飛び跳ねて手を振っている。今にもギュスタールが潰されそうだ。
「気でも違っちゃってんじゃね?」
「おいやめろ!!この前底が抜けたばっかだろ!」
「あいつら表まで来てんだよ!どうしちゃったんだ?ちょっとむかえにいってくるわ!」
「ちょっと待ちたまえ!!うわああどこから出て行く気なんだ君は!!」
「平気だよ、いつもやってんだから」
窓から表に出て行ってしまったので覗き込むと、通りにもびっくりしている仲間たちが見える。屋根によじ
登ったヴァンは手を振って、港で釣りをしている老人の名前を叫んでから雨どいを伝っておりていった。
14715 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:54:38.66 ID:pghNPlwY
「階段いらないね」
「すごいなあ。まるで忍者みたいですねー」
「忍者って言うよりサルだろ、いくら忍者でも進化はさせられないよな。ほら、お前は今の内に出てけよ」

「やべっ……動くな、そのまま隠れてろっ」

開けっ放しの扉から音が反響して漏れてきている。
「朝早いのにお邪魔してすいません、あたしの弟と名乗る男が酒場でパリス様のお宅を伺ったと聞いて」
「まじかよ、おれ今さっきかえってきたんだ。これから来るとこなのかな?それとももうかえっちまったか」
冷や汗を浮かべた無頼漢が振り返らずに囁く。
「やべえぞお前ら、直ぐ逃げろ……」
「えっ?えっ?」
複数の足音が廊下を登り始めているようだ。
「折角だし、みんなで食べられるようにとおもって、沢山朝ごはんを作ってきたんです。ね、メロダーク様」
「ちょーやべえ、お前これじゃ食えねえよ」
「何だと?味見もせずに何故分かる。エンダは何の問題もなく食べているぞ」
「ういうい」
「そりゃお前、こいつはただの人げんじゃねえものよ。石ころだろうがヤケコゲだろうが食えるよな?」
「エンダは竜だからな。つよいんだぞ」
「な!エンダはつよいもんな!」
「残さないエンダ様はとてもお利口さんです」
「でもチョコのほうが好きだよな?」
「うまいからな」
「それではまるで、私の料理が旨くないかのように聞こえるが……」
「まじーだろ、ほんとのとこ。な!」
「食べると、毒の息が吐けるようになるぞ」
「ほんとかよ!すげえ、やっぱりおれも食おうかな」
「いや、死ぬだろ!?」
「おうあんちゃん、お客さんだよ。入んな」
招きいれた後ろからエンダと荷物を担いだ傭兵と、盆のようなものを抱えたメイドが現れた。
「まあ、皆さんもいらっしゃったんですね。沢山作ってきて置いてよかったです!」
「遠慮せずたーんと食べろ。さあ」
「うわっ、また一杯持ってきたなー……こりゃー大変だ」
天井のせいで屈んだまま、メロダークは岡持ちをいくつも下ろす。なんだか凄いにおいだ。
「気のせいか、箱ががたごと言っていないかい?」
「なんだか、へんな臭いがする気がするよ……?」
「おいィ?大丈夫かよ、こんな大人数入り込んで。お前んち床が抜けたりしねえだろうな」
「ハッ、言われてみれば……これは密集しちゃいけませんね、離れて立ちましょう!」
「あんたが一番やばそうだよ。とにかく椅子はねえけどそこらにかけろ、で何の用で着たんだ」
「さっきギュスタールがこっちへ来てると聞いたので、久しぶりに会おうかと思って」
「私はこの者に誘われたからだ……」
竜人はなにかもぐもぐと食っている。
「そうかよ。残念だったな、さっき入れ違いにでてったぜ。なあ?お前ら」
「う、うん。なんか急いでるみたいだったね」
「まじかよー、もっと早くかえってくりゃよかったな。きのう本をもらってきたんだ」
「へえ、お前字が読めるようになったのか?何の本だよ、僕にも見せろ」
「よめねえよ。すげー苦ろうしたから、さい初にあんちゃんに見せてからにしようとおもってさ。どうせおれ
一人じゃよめねえしな。これなんてかいてあんの?」
「そうかよ。じゃあお前、あの猿に勝ったのか」
受け取っては見たものの、ギュスタールの殺気を感じて冷や汗を浮かべている。
「うん!十回くらいかな。ジャスミンももうやめてくれーっていって、これくれたんだ」
「そうなるまでに随分戦闘不能になったんだよ。彼のほうがね」
「……そりゃ大変だったな。お前ちょっとやりすぎだろ、しかし古そうな本だな」
「おお?!私に見せてご覧!」
古いという言葉が琴線に響いたらしい、慌てたが後の祭りだった。
「いいからいいから!是非見せてくれたまえ、もしかするとかなり古いものなんじゃないかな、これは。
ええと、表紙にはレンデューム秘伝書とあるね、奥付は……ああ、門外不出の秘伝書にて、おや?」
「なんだよ」
14815 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:55:27.27 ID:pghNPlwY
「ちょっと待ちたまえ。中になにか……これは古い手紙かな。おねいちゃんよr」

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

突然寝台を跳ね上げ飛び出してきた忍者が目にも留まらぬ速さで奪い取って窓から飛び降りていった。
神官は眼鏡を落としたままぽかんとしている。と表から悲鳴があがって口論が始まったようだ。
「ギュスタール?!」
「なんだなんだ」
「あれ?キレハさん?」
「よーう!なにしてんだおれんちでー!」
窓から首を突き出すと、狩人が弓を乱射していて、狼狽した忍者が危なく身をかわしている。
「パイを届けようと思ったのに、突然へんな男が飛び降りてきたせいでひっくり返してしまったわ!!」
「あなたこんな所で一体何をしているの、ギュスタール!」
「うわあ!!ごめんなさい!!」
悲鳴を上げた瞬間何本か矢を喰らった上、手裏剣を幾つももらって硝子片の散らばる路面へと叩き落
された。能面のような表情のフランが直ぐ側に仁王立ちしている。
「キレハ様に謝りなさい!!」
「ごめんよ姉ちゃん怒らないで!!」
「謝らなきゃいけないのはあたしじゃないでしょう!!!」
「ひいぃ!!ゴメンナサイ」
「もしかして、この人、ご兄弟か何かなの……?」
「……恥ずかしながら……。この子はあたしの弟のギュスタールです。郷の若長をしています」
「……どうも。弟です。ちなみに14歳です」
「こっちへ来なさい。これは一体どういうことなの?ご婦人に怪我をさせるだなんて……」
口を挟む余地もなく道へ正座させられ、物凄い勢いで怒られている。
「どしたんだよ、だいじょうぶか?なんでたずねてきたんだよ。おれのことキライなんだろ?」
「べ、べ、別に、嫌いとか嫌いじゃないとかそんな事思ったりしてなんかないわ!なれ、慣れてなかった
から吃驚しただけで……ちょっと、私も大人げなかったと思ったから……でもこれでよかったのよ。第一
好物作っていくなんて、まるで物でつってるみたい」
「そうかよ、でもこれまだ食えるんじゃねえかな」
「いやメッタメタになってるだろ、これ」
「食えるよな?」
「ういうい」
14915 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:56:00.18 ID:pghNPlwY
「……ねえ、ヴァン。ちゃんと謝らせて頂戴。悲鳴を上げたり逃げたりして悪かったわ……。ご免なさい」
「そんなになるまで追い回してたのか」
「気にしちゃいねえよ、な!」
「いや、気にしろよ!?多分お前だけ悪いぞこれ」
「大体お前泣いてたろ、さっき」
「あくびだよ、な!」
「泣いていましたね」
「泣いてたな」
「気のせいだってー」
「いや、泣いていたね」
「泣いてたよね」
「泣いとったのか」
「泣いていたのね……」

「ちくしょう」

「なんだよ、あんたまで現れたのかよ」
いつの間にかびくをぶら下げた隻腕の釣り人が加わっていた。
「屋根の上でわーわー騒いでるもんだからな。こっちまで声が響いてきとったぜ。食べるか?エンダ」
素性のいい魚を渡すと目を輝かせてかぶりついた。
「いつか追い出されるよな、確実に」
「ようフラン。お前もそんなに怒るなよ。お前らも久しぶりに会ったんだろ?折角だしちょっと寄ってけよ。
手当てくらいしてやるからさ」
「でも……」
「私の事ならかすり傷よ、これ位気にしないで。私もいきなり射殺しようとしたんだし」
「ほんとに、おれのせいで申し訳ありませんでした……」
「まだ言う事があるでしょう」
「お宅の窓硝子を壊してしまい、大変申し訳なく」
「いいってことよ、な!あれは元からガタついてんだよ。それよかメロダークは?」
「そういえば。僕が最後に降りてきましたから、まだお部屋に残っているんでしょうか?」
「おーいメロさーん、どこいったー、しんだかー」
わいわいと部屋へ歩き出すと外れそうな窓を引っこ抜きながら、屋根裏から顔を出してきた者がいる。

「上がって来い、お前たち……。終わったぞ(盛り付けが)」

「嫌な予感がしやがる……」

当然だ。
15015 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/01(火) 19:57:02.89 ID:pghNPlwY
お粗末。メンバー迷ったから全部出した
151名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 07:43:47.68 ID:+PmOuuLb

相変わらずカオス方向に振り切ってるなあ
152名無しさん@ピンキー:2011/03/03(木) 13:18:41.73 ID:IkzvEU9z
14歳は割とギャグもシリアスもこなせる万能キャラかも知れんなあ
おつおつ
153 ◆1HLVKIREhA :2011/03/03(木) 22:54:44.75 ID:qLK4QzR1
移転の余波で規制解除と聞いて書き込みテスト
いけそうならそのまま投下する
154 ◆1HLVKIREhA :2011/03/03(木) 22:55:11.62 ID:qLK4QzR1
「チュナ」
「なあに、アイリ姉さん」
洗濯物を畳む手を休め、視線を上げて答える。
改まった声を出してはいるが、深刻な話ではない。
十年以上の付き合いだ、姉の声音ぐらいは読める。
「チュナに、プレゼント」
「なに?突然」
差し出された包みに、戸惑うチュナ。
十年以上の付き合いでも、姉の無表情が読めない。
「今日は大切な人にチョコを贈る日。ってキレハが言ってた」
「へえ、異国の風習なのかな」
「多分。だから、大切なチュナに」
アイリの真紅の眼差しがチュナを射抜く。
大切。
そのたった一言に、多様な想いが込められている。
「うん、ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
包装からして、どう見ても高級そうなチョコレート。
神殿で時折子供達に配られるような、一山いくらの代物ではない。
食い気より色気、栄養が取れれば味は気にしないアイリが買ったものとは思えない。
食に対して無関心、或いは優先順位が低い姉をよく知っているだけに、面食らってしまう。
これが服や装飾品であれば、どれだけ高価であっても納得できるのだが。
「じゃあ、えと、いただきます」
外装の割に小さな中身が並んでいるのを、一つ摘む。
口に含んだ瞬間、特有の甘みが舌の上で溶けていく。
溶けてはいくものの、その味は口腔内に広がっていく。
甘すぎず、しかし甘味であることは主張している絶妙なバランス。
「……おいしい」
直前までの思考が遙か遠い彼方へ消え去り、ただ感嘆の声だけが漏れる。
「姉さんも一個、どう?」
「私は、別に」
「大切なアイリ姉さんへプレゼント、ってことで」
「なら、貰う」
チュナに全部食べさせたいという気持ちを、妹大好きな気持ちが軽く上回った。
大切、などと言われて断れる姉ではない。
一つ摘んで口に入れると、いつもの無表情が何処か緩む。
「……おいしい」
「こんなおいしいチョコ初めて食べたよ。
ありがとう、姉さん。高かったでしょ?」
チュナの質問に、首を横に振る。
「プレゼントの本質は、値段じゃないから。
チュナの笑顔の対価に、高いものなんてない」
「でも……」
155 ◆1HLVKIREhA :2011/03/03(木) 22:55:36.24 ID:qLK4QzR1
「チュナ」
言い募ろうとするチュナを抱き締める。
「あぅ、洗濯物しわになっちゃうよ」
「後でいいよ」
食事より服。服よりも妹。それがアイリの優先順位である。
「チュナは、私のたった一人の妹だから。
誰が何て言っても、徹底的に甘やかす。大事にする。幸せになって欲しい。
それが私の、姉としての愛」
「姉さん……」
宙をさまよっていたチュナの両手がアイリの背中にしっかりと回される。
「自分だけ幸せになれるような妹じゃないよ。
姉さんも、傍にいて欲しい。一緒に幸せになって欲しい。
それが、妹としてのワガママ」
「ん。そう、だね。ワガママな妹を持つと大変だ」
過去に類を見ないほどに、アイリの唇の端が緩んでいく。
惜しむらくは、その笑顔を誰も目にしていないことか。
「ワガママ放題で幸せにしちゃうんだから。覚悟しててよ」
「いいよ。好きなだけ甘やかしてあげる。好きなだけ幸せになろう」
それは、この世で何よりも甘い、姉妹愛のお話。


だだ甘お姉ちゃんとワガママ妹のバレンタイン編
バレンタインって何月だっけ?と首を傾げざるを得ないレベル
でも来年まで寝かせると確実に忘れるから行ける時に投下しておく
全て規制が悪いんだ
156名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 02:25:03.95 ID:V+aaq+Pe
GJ!甘い!かわいい!
イチャイチャ姉妹愛いいね
アイリクーデレだなw

盗賊ルートは本編が相当暗いから
エンド後の幸せ話読んでると幸せになる
157名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 10:15:13.06 ID:JjjlXnwv
14歳って最初のイベントでギャグ要員だと思ってたのに
それ以降はシリアスにフェードアウトしていくから、次の週に
再会して姉ちゃん!て言い出したときあれ?っていう感覚に襲われる
>>154
ほ、ホワイトデーがあるじゃないか!!作中誰もバレンタインなんて言ってないよ!!!
158 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:44:28.25 ID:NYpCzSXb
「ありゃ、ぽっきりいっちゃってるねー」
「……すまん」
謝罪。
真っ二つに折れた愛剣と、それを鍛えてくれた幼馴染の双方に。

始祖帝の野望を打ち砕いた後、自分には目的がなくなったのだが、
地下遺跡探索へ誘われる機会はまだ多い。
タイタスを破った腕を見込まれて、なのか。
遺跡に対する知識や経験を欲して、なのか。
理由はどうあれ、異変の原因の一端という自覚もあり、断ることもない。
そんな探索の最中。
始祖帝の野望は消えても、えげつない罠の数々は停止した訳ではなく。
同行者の一人が作動させた仕掛けから仲間を庇う為に咄嗟に受けた結果が。

「うーん……」
愛剣の無残な姿と、幼馴染の曇った顔だ。
「鍛え直せるか?」
「そりゃあ、わたしが打ったんだし。
一度摩り下ろして鍛え直した経験もあるから、できるはできるんだけどさ。
もっといい剣いっぱい持ってるでしょ?」
「……まあ」
時渡りや歴代皇帝の副葬品を筆頭に、謂れ因縁のある名剣魔剣の数々。
一連の異変で得たそれらは、骨董的価値だけでなく、どれも業物と言える逸品ばかりだ。
日常的に振るうのが躊躇われるほどに。
「ネルの剣の方が扱いやすいから」
自分に合わせて作られているという意味でも。
手荒に扱っても咎められないという意味でも。
「そこまで言われちゃ断れないね。ネルお姉さんにまっかせて」
いい笑顔といい返事で請け負ってくれる。
彼女には、助けられっぱなしだ。
鍛冶だけじゃない。薬の調合等の細々とした作業だけじゃない。
この笑顔と雰囲気が、周囲を明るくしてくれるのだ。
「じー……」
「?」
ふと何かを感じて振り返る。
「どったの?」
「何でもない」
怪訝そうなネルに、首を横に振る。
ホルムで有名人になってしまったのは確かだ。
知り合いも増えたし、誰かに見られていることもあるだろう。
どうということはない。
「じゃあ、ちょっぱやで直しとくからまた明日にでも来てよ。
何なら新しいのでも打ってあげるから、ミスリルとか手に入ったら持ってきて」
「ありがとう。覚えておく」
二言三言交わし、ネルと別れる。
鍛冶屋見習いとして活き活きと働く幼馴染に、心の中で声援を送る。
159 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:44:55.38 ID:NYpCzSXb
「やあ、ちょうどよかった」
「ん、テレージャさん」
狭い町だ、あてどなくぶらりと歩いていると誰かに出会う。
「頼まれていた本だけれどね。
半分は当たりで半分は外れと言ったところだよ」
「いつもありがとうございます」
テレージャには、遺跡で手に入れた書物の解読を頻繁に依頼している。
気心が知れた相手でもあるし、その知識と能力は信頼できる。
「なあに。こちらの調査にも同行してもらっているし、
何より私の趣味も兼ねているからね。古代語で言うギブアンドテイクだ」
それは古代語じゃない。
「外れの方は、よくある魔道書だ。
シーフォン君でもいれば喜んだかも知れないが、考古学的価値はあまりない。
タイタスの生み出した秘儀という訳でもないからね」
「そうですか」
ぱらぱらと渡された本をめくってみるが、何もわからない。
古代語の知識も魔術の素養もないので当然だ。
「換金すれば小遣い程度にはなるかな。
君には必要のない話だろうけれど」
「まあ、何と言うか。外れですね」
「本題はこちらだ。
これはどうやら十四世の時代の議事録のようなものでね。
既に興味の無さそうな顔をしている君の為に簡潔にまとめると、
十四世が宦官を従わせられなかったという定説を補強すると同時に、
決して無能な皇帝ではなかったことを示す重要な証拠ともなり得る。
信仰に篤く、法によって民を統治しようとした賢明な皇帝と、
それを快く思わない宦官という対立構造が明確になるわけだ。
つまり、儚く薄幸な印象で描かれることの多い十四世のイメージとは多少異なり、
自らの意思を持ちつつも議論の仕方を知らないがゆえにそれを通す術がなかった、
ある意味では世間知らずとも言える理想主義的な女帝の姿が――」
ああ、やっぱり長くなった。
テレージャの得意分野の話が簡潔にまとまった例がない。
こうして話している時はとても無邪気な顔をするので、あえて止めもしないが。
「じー……」
「?」
再び何かを感じて振り返る。が、やはり誰もいない。
「――というわけなんだ」
「あ、ああ、専門的なことはわからないけど、結構な発見だと」
「そういうまとめ方もできるね。これは私が引き取っても?」
「もちろん。価値のわかる人が持ってるのが一番です」
元からそういう約束で頼んでいる。
書庫で持ち腐れるような末路では、遺跡で朽ちるのを待つのと大差ない。
活用できる人間の手にあるのが、先人の知恵のあるべき姿だ。
「それでは、これで失礼するよ。またよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
意気揚々と去っていくテレージャを見送る。
遺跡の調査という点に関しては以前と変わらないのだが、
好きなようにやれている分、今の方がずっと楽しそうだ。
160 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:45:22.08 ID:NYpCzSXb
「フラン。買い物かい?」
「はい。厨房にお手伝いに行ったら頼まれまして」
何という賢明な判断だろう。
一度は故郷に帰ったメイド忍者だが、結局またホルムに戻ってきた。
その理由は、深くは聞いていない。
本人が言葉を濁した個人的な事情を重ねて問うほど無遠慮ではないつもりだ。
ある一点を除いては大変有能なフランが屋敷にいてくれると助かるのも事実である。
「折れてしまった剣はどうなさったんですか?」
「ネルが直してくれると。新しい剣を買う必要はなさそうだ」
「そうですか。剣だけで済んでよかったです。
もしもお身体に何かあったらあたし……」
「ああ、心配かけてすまなかった」
想像だけで泣きそうな顔をするフランの頭を撫でてやる。
無茶をしているつもりはないが、改めて無茶はすまいと強く心に誓う。
「じー……」
「?」
三度、何かを感じて振り返る。
やはりそこには誰もいない。
「あ、す、すすすすみませんっ」
撫でられるがままだったフランが、頬を染めて一歩離れる。
「ああああたし、まだ買い物があるのでこれで失礼しますっ」
ぺこりと頭を下げ、疾風のように音もなく駆けていく。
……照れていたのだろうか。
可愛らしく微笑ましい、我が家のメイド。
その献身にはいくら感謝してもし足りない。
161 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:45:44.39 ID:NYpCzSXb
「おー。ひまだー。あそべ」
「いや、暇じゃなくて。チュナを手伝うとか」
「ううん。もういいの。邪魔しなければもうそれで」
神殿に立ち寄ると、いつも通りに駆け回るエンダが飛びついてくる。
いつも通り掃除を手伝っているチュナは諦めた顔をしている。
「よ、っと」
腰にまとわりつくエンダを片腕で抱え上げ、肩に乗せる。
これでも、腕力には多少自信がある。
「おおー、たかいたかい」
「わあ……」
「チュナも乗る?」
見上げるチュナの顔は、どこか羨ましそうに見える。
「え、あ、私はいいよ」
「嫌なら無理にとは言わないけど、遠慮はするなよ?」
「……じゃ、じゃあお願いしちゃおうかな」
おずおずといった風情で一つ頷く。
生まれたばかりとも言えるエンダはもちろん、
兄妹二人で生きてきたチュナも、まだ甘えたい年頃でいいはずだ。
妹を溺愛しているくせに素直に出さないパリスの代わりに、思う存分甘やかしてあげよう。
――ずるっ
「わわっ」
「お、っと」
小柄な身体に不釣合いな箒の頭を踏んづけてつんのめるチュナを慌てて支える。
間一髪、だ。
「おあー」
頭上でバランスを崩しているエンダは後回しでいい。
肩の高さから落ちたくらいで怪我するはずもない。
「大丈夫か?」
「う、うん。あり、がと」
「気を付けてな。怪我なんかしたらまたパリスが大騒ぎだ」
「あはは、そう、だね」
腕の中で、チュナが乾いた笑いを漏らす。
「じー……」
「……」
またもや何かを感じるが、もう振り返らない。
「っと、立てるか?」
「うん、大丈夫」
「すまん、ちょっと用事ができたから遊ぶのはまた今度な」
エンダを下ろしてやり、二人に謝る。
「ううん、謝らなくていいよ。忙しいんだよね」
「……チュナはいい子だなあ」
思わず頭を撫でる。
「エンダも、エンダもなでろー」
「はいはい」
せがむエンダの頭も撫でてやる。
「……えへへ」
「おー」
二人の笑顔を見ていると、ホルムの未来は明るい。そう感じられる。
162 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:46:01.00 ID:NYpCzSXb
「……この辺でいいか」
二人と別れ、人気のない河辺へ。
今日一日感じていたものの正体は、多分視線。
好奇や敵意ではなく、しかし純然たる好意でもない。
その複雑な感情の主に、心当たりはある。
「キレハ。いるんだろ?」
「……」
呼びかけに応えて姿を現す黒髪の旅人。
どうにも沈んだ顔をしている。
この時点で、推測は大体当たっているのだろう。
「ずっと見てたよな?」
「……ええ。やっぱり嫌よね、こんな嫉妬深い女」
嫉妬だったのか。
「女らしくないし、いつまでも素直になれないし、
可愛くないし、面白い話もできないし。
あなたの周りにはもっと魅力的な女性がいっぱい……」
「ああ、待て待て。少し黙れ」
自虐的な方向へ突っ走ろうとするキレハに、流石に少しイラッとする。
「自分のことならともかく、恋人のことを悪く言われるのは許さない。
キレハは知らないのかもしれないけど、うちの恋人はすごく可愛いんだ。
美人で、料理上手で、細かいことにもよく気が付いて、世話好きで、
色々なことを知ってて、色々なことができて、でも決してそれを鼻にかけない。
傍から見てどう映ってるかわからないけど、
他の女性を異性として見ようなんて思えないほど、自分にはもったいないくらいの恋人なんだ」
「そんなこと……」
「それに」
なおも自虐的なことを口にしようとするキレハを遮る。
「ちょっと喋ってるぐらいで焼き餅やいちゃうほど愛されてるんだ。
まったく、ホルム一の幸せ者だよ」
言っていて多少恥ずかしいものの、嘘偽りない本心だ。
「私、その……ごめんなさい。
あなたのことになると、自分が抑えきれない。
幸せなのももちろんあるけど、同時にすごく嫌な気持ちも湧いてきて……
あなたを独り占めしたい。
優しいところは好きだけど、他の人に優しくしているのを見ると穏やかでいられない。
そんな、私の我侭であなたに迷惑をかけたくないの」
「……ふ」
ああ。この恋人は。本当に。
「ふふ、ははは」
「え、な、何?」
「キレハは本当に可愛いなあ、もう。そんなに深く考えなくてもいいんだ。
我侭でいい。独り占めしてくれ。迷惑をかけて構わない。
キレハから求められれば、何だって嬉しい。
キレハのことが好きだから」
「い、いいの?私、自分で思ってたより、あなたが思ってるよりずっと」
「ずっと嫉妬深い?ずっと独占欲が強い?ずっと甘えたがり?
それでいいんだ、キレハ。自分を抑えたり、遠慮したりなんて必要ない。
素のキレハを、見せて欲しい。素のキレハを、愛したい」
「……っ!」
どん、と。強く。強く抱きついてくる。
「そんなこと言っちゃって、知らないわよ?
私、本当にあなたのことが大好きなんだから」
全力で。強く。強く抱き締める。
「望むところだと言わせてもらおう。
キレハのことが大好きだからな」
「……ふふっ。じゃあまずは、キス、して?」
「ああ」
笑みを漏らす頬に手を添え、軽く唇を重ねる。
ファーストキスのように初々しい、触れるようなキス。
二人の心が本当の意味で繋がって初めての、口付け。
163 ◆1HLVKIREhA :2011/03/05(土) 14:46:13.61 ID:NYpCzSXb
キレハやきもき焼き餅編
彼氏がモテるとちょっと不安になっちゃうらしい
平行世界ではハーレムの主ですからね
へたれキャシアスと違って、こっちは純愛一直線ですが
あと、十四世たんの話はいつもの捏造なので気にしない方向で
164名無しさん@ピンキー:2011/03/05(土) 16:08:11.37 ID:FHrHs3RM
GJ!!!男仲間皆無で笑った
●ているのは宮殿から出てきた何かかと思ってずっと脅えて読んでたw
165名無しさん@ピンキー:2011/03/05(土) 18:38:29.04 ID:xK4czBzo
>>163
GJ
ごく自然に視線の主はフランだと思ってしまったw
ストレートな嫉妬キレハも新鮮でいいな
あとチュナかわいい
16615 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:44:20.35 ID:7CWfre/B
鍵開け習得順考察でヴァン5000文字程、※ま属性
ご不快の際はどなた様もとりあぼんでご協力下さい
16715 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:44:57.86 ID:7CWfre/B
「ヴァンはばかじゃないよー。そう思ってるだけさ!」
力一杯肩をたたかれて迷惑そうな顔をする。
「いてえよ、おれはばかで間ちがいないって。おれが言ってるんだから間ちがいねえだろ?な!」
「みんなに言われるからそんな風に思うだけだよ。ほんとに馬鹿だったら、何か始めてすぐ出来るように
なったりしないって」
今齧っているのは、ヴァンが自分で作った保存食だ。宮殿の収監者から料理の入門書を貰ってきて、
仲間に読んでもらいながら覚えたらしい。
「それもそうだな。まさかこの僕様が、お前に何か習うとは思ってもみなかった」
本にかかっている錠前の外し方を教えて以来、様々な鍵の開け方を聞かれるようになった。あちらこち
らにいっては、ああでもないこうでもないと日夜特訓をしているのだ。本日もその一環であって、決して
迷子にはなっていないのである、と稀代の天才妖術師様は最前から力説しておられる。
「そりゃお前、き用だし頭もいいから、こういうのにむいてるなー、とおもっただけだよ。むいてねえやつ
には、いくら教えたっておしえらんねえもん」
「へー、こいつが器用で頭もいいってか?素手でぶっ壊してるだけだよな、お前」
「失礼だなー。ちゃんと道具で開けてるよ?ほら」
掛け金を盾で殴りつけ、砕けた部品をむりくりこじ開けてみせる。……口に出来ないが、これはおかしい。
「わあい」
「十年い上お前とつき合いがあるけどよ、叩きわってるか、むしりとってるか、引きちぎったかい外で開
けるのって、おれ見たおぼえがないわ」
「え?ちょっと待って、いや待たなくていい」
「そうかい。なんだよ」
「おい、こいつ本当は年いくつなんだ。知ってるんだろ?」
「さあ?」
こじりとった錠前を受け取って、くず鉄の入った袋にしまいこんでいる。
「さあってなんだよ、幼馴染なんだろお前ら」
「おれだってしらねえのにコイツがしるかよ。な!わかるワケねえだろ、おれはすて子なんだから」
「あーそうか、そりゃそうだな。僕としたことが愚問だった。おい、何が入ってたんだ?」
「待ってね。ええと、骨とー、うわー……なんかこれべとべとしてる」
「それじゃあんかけつくろうぜ!」
「僕は食わないからッ!!」
「なんでだよ〜。うまいのに、なあ?」
「一人で食べろよバカ!!」
「ほらほら、喧嘩しないの。ヴァンのお母さんが死んじゃったのは、……十年位前だったっけ?」
「うん。ええ〜と……、十二年前だよ。あんちゃんがいってた」
「じゃあ、その頃お前はいくつくらいだったんだ?覚えてないのか」
「そういえば、何歳くらいだったんだろうね?まだ知り合ってなかったからなー、確か。違ったっけ」
暇そうに縄を振り回す少年は首を傾げた。
「さあな。覚えちゃいねえよ。もうテメエで歩けるようにはなってたんじゃねえかな。た分歯も生えてたと
おもうぜ!」
「じゃあ少なくとも一歳か二歳にはなってたってとこか。おいおい……てことは、え?お前って、僕より年
上ってこともありえるのか!!!?」
「おかしいか?まあ、大たいギュスタールと同じくらいだろ。これくってもいい?」
「えー、火を通した方がいいよ。いつのかわかんないし。あとで何か作ってあげるから、こっち食べてて」
「食うのかよ。てかアイツが基準じゃもっとおかしいけど!!!」
「そうかよ。うひゃひゃひゃ!これうまいな!」
機嫌よく笑っていると小突かれた。
「礼くらい言えよ、バカ」
16815 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:45:28.77 ID:7CWfre/B
「いいんだよ、材料みつけたのはヴァンだもん。ギュスタール君はきっと、年いってからは若いね、昔と
全然変わらないねって言われると思う」
「チッ、僕よりずっと年下だと思ってた。コイツ、女といっしょに風呂なんか入ってたんだぞ?絶対他の奴
もガキだと思ってるよな」
「なんでだよ〜。おれってそんなガキに見えんの?」
「うーん……そういえば、キレハさんとかテレージャさんに毛布入れてもらったりしてたでしょ。みんなに
は、年の事は黙ってたほうがいいかも」
「なに!?うまいことやりやがって!!!」
「どこがだよー。雪でしにかけたのに。なあなあ、おれガキっぽい?」
突っついてきたハァルの杖を掴んでいなす。
「話し方がバカみてえなんだよお前。それにいつもガキみたいに走り回ってるだろ。おまけにその笑い方。
ワヒャヒャヒャじゃねーんだよ!!クソッ、
生着替え一人だけ覗き見しやがって!!!」
「なんだのぞきって。おれはのぞいてねえぞ。へんな言いがかりするなよな。いっしょにハダカになって
ただけじゃねえか、な!」
むっとした様子で振り下ろされた杖を払いのけた。
「もっとやばいではないか」
「ちぇっ、よってたかってなんだよ。おれはガキじゃねえ!」
「ヴァンは背が低いからね。みんなつい子どもみたいに思っちゃうんだよ」
「そればっかりはしょうがねえな……」
「しょうがなくねえぞコラ!!」
追いかけられて走り出し、杖を交わしながら逃げていく。
「おーい、どんどん先に進まないでよー」
「待て!!お前はいい思いしてんだからいいだろ!!!僕様とそんなに変わりないのに、なんで僕だけ
外で待ってなくちゃならないんだ!!!」
「どこがいい思いなんだよ。女のハダカのひとつやふたつ、どっこもめずらしくもねえ」
「テメー、どういうことだ!!」
さきっぽが額を見舞って殴ったほうの子どもが悲鳴を上げた。
「よけろよバカ!!」
「……うるせえよ。さんざあかんぼのクソのし末してたからな。ちんこがねえだけだよあんなもん。今さら
どうこうおもわねえ。よーう早くこいよ!」
「あー……、一緒にはいっていたのはフランだったな。そのせいだな、うん。確実にそのせいだ」
「待ってよー、足がはやいなーもう」
「いっくら食ってもデカくなんねえのは、なんでだろうな?いっくらかんがえてもわかんねえからおれは、
でかいヤツにどうして背がでかくなったのかきいてみたんだ。メロダークはそんなのしらんていってた。
ギュスタールにはどなられたぜ。テオルは笑ってたな。よーネル!おせーよー。ちょっとくらいおいてけ
よなー、なんでこんなにもてるんだよー」
「勿体無いじゃん。せっかくひろったのに」
「重くないのかよ」
「ぜーんぜん!まだまだ行けるよー」
「そっか。じゃあしょうがねえな!でさあ、もしかすると食いもののせいじゃねえかなと思ったけど、あん
ちゃん別にちびじゃねえだろ?チュナもさ。フランはでかくねえし、テオルはべつにまじいもん食っちゃい
ねえしな。なんでなんだろうな」
「お前だけ腹に虫でもいるんじゃねえの」
「……それって、どういう基準なの?」
「メロダークもギュスタールも、まずいもんへい気で食ってるだろ?だからさ。むかし、おれがあんまり小
せえからって、あんちゃんに坊さんとこまでつれてかれたことがあるよ。食いもんに不自由してるせいで、
ハツイクがおくれてんだってさ。もっと食わせろとかいいやがんの。ばかにしてるよな。食えるくらいあっ
たら食わないワケねえだろ。食えるもんがありゃ、みんなチュナに食わしてやるさ。そんなこと聞かされ
るために金はらったんだぜ?ったく、やってらんねえ」
16915 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:46:00.82 ID:7CWfre/B
「ヴァン……お前、それで頭もやられちゃってバカだったんだな……」
「ああ、だからか!!お前頭いいなー、やっぱただもんじゃねえわシーフォンは」
「ええ〜また振り出しに戻っちゃうじゃん。ヴァンは頭悪くないよ」
言われた少年は扉に体当たりしてすっころんでいる。
「あれ、あかねえ!!!」
「また鍵ィ?これ結構頑丈そうだね。仕掛けとかはありそう?」
「こんだけぶち当たってもびくともしねえな。お前あけてみな」
「平気だよこれくらい、まーかせて!」
「いいよ、これかなりあついぜ。ケガしたらこまるじゃねえか。な!」
「僕がやるのかよ。面倒くせえ」
「これちょうどさっき話してた鍵だよ。れん習してみ」
「そうか……よし。よーし……」
「カタバンは?」
「えーと……帝国式の、十三番!」
「あたり!さすがシーフォンだわー。これそっくりなやつがいっぱいあんだよ。八番をかい良しただい二世
代のカギで、だいたい三十年まえくらいにはつ売されたんだ。戦のとき、大切なもんをぬすまれないよう
にってんで、買うやつがおおかったんだよ。さっきからこのころのカギが多いからた分、この穴ぐらはその
時作ったんだろうな」
「へえ〜、成程な。確かに出てくる古文書もその辺りの比較的新しいものが多い」
「新しいんだ」
「古文書ってのは何千年前のを相手にするからな。三十年やそこらじゃ紙切れ同然だっての。てかそこ
まで詳しく判るなら一々体当たりする前に見分けろよ」
「うひゃふっ……うぐぐ」
「いやもう、普通に笑っていいから」
「そうだな!でねえとちょう子でねえわ!うひゃひゃ!!このカギのとく長は、とにかくぶっこわれにくい
ことだよ。サビにくいんだ。だからあんましかん単にはこわせねえ分、中もサビてねえから開けるのは
むしろやりやすい。テメーんちにつけるようなやつだからワナもないよ。つかうとすりゃどれがいいかな」
「僕様が判らないとでも思うのかよ。簡単だね」
細い針金のような道具を適当に選んで鍵穴に差し込んだ。側で陰にならないようにランタンを持っていて
やる。眉間にしわを寄せた少年が、息を殺して開錠を試みている……。
「開かないね。文句あるか?」
「どう具はあってるぜ。な!」
「うん。大丈夫そうだね」
「ほんとかよ、上手く行かないぞ」
「そうかい。こんな風につっこんでみ。そしたらもうちょっと入れると、どっかにくぼみがあるからよ。カチっ
とあたるぜ」
「待ってろ。…………あ?今のヤツか?」
「クイっとかかるだろ?そしたら、次はこっちのヤツをさしこんでみ」
「うん……待ってろ」
「ゆっくりでいいからな。そしたら、外れねえように、こうやってもって、全体を右へまわしてみ」
「…………回す」
「そそ、ゆっくりね。うまいよー、頑張れしーぽん!」
「まわす……まわ…………ホワッ!?」
壁の中からガチャリと衝撃が伝わった。
「うひゃひゃひゃ!やったな!」
「……あ、開いたのか?」
17015 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:46:35.20 ID:7CWfre/B
「開いてるよしーぽん、スゴイよ!!やったじゃん!」
「ほれほれ、あけてみあけてみ!」
「い、いいのか?大丈夫なんだろうな」
「へーきへーき!」
「そ、そうだな。僕が開けたんだしな」
「そうだよー。はじめてじゃねえか。やったな!すげーよお前!!」
「当たり前だろ、これくらい僕様にかかれば」
かなり頑丈そうな扉だ。取っ手をつかんで回してみる。体重をかけるのだが、びくともしないようだ。ヴァ
ンが一緒になって壁に脚をかけて引っ張る。見ていたネルが扉を押すとあっさり動いてずっこけた。むな
しい……。
「引き戸って事もあるんだよコンチキショウ」
「まあ、めったにゃねえけどな」
「どう、何かありそう?」
「なんにもねえな」
「ただの通路かよ。ちぇっ」
「うひゃひゃひゃ!いいじゃんかよ、おれがはじめて開けたのはテメーんちのカギだったんだぞ?そうい
やよ、これおぼえてる?」
ネルの背負う背嚢を、後ろからがさごそあさって本を取り出してきた。
「うわっ、まだ持ってたのかよ」
「あー、ふり仮名ふってもらったやつ?しーぽんは優しいなあ。ヴァンのために夜なべして書いてあげた
んだよね」
「ち、ちがう!ついでにやっただけだ、勘違いすんなよ!!誰がコイツなんかの為に」
「よかったじゃん、ヴァン喜んだもんね。今もすごく大切にしてるよ。ねー?」
「うん!絵がついててちょ〜おもしれえ。はじめてさい後までよめた本なんだ。今もときどきよんでるよ。
ありがとな!」
「な、なんだよ急に。なにが魂胆だお前」
「こんなに肉くってることって、今までなかったんじゃねえかな。じ分で食いものとってこれるって、まじで
さい高だよ!エンダよろこぶしな」
「生肉大好きだもんねー」
「いいよなあ、エンダ。なんでも食えてさあ……。フランのメシとかエンダいないと、すてるしかねえから
もったいねえよな」
「勿体無いで無理して食って三日ゲロはいたヤツがいうと重みが違うね」
「だってすてるのかって泣くんだもんよ……おとこならくうだろ?な!」
「ヴァン……えらいよっ」
ひしっと抱きしめられた。もがいている。
「おい、そいつ死ぬぞ」
「あははは!そんな訳ないよねー?」

「ちょ〜やべえ、河の向こうからきれいな人が手まねきした」
17115 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/06(日) 18:47:40.31 ID:7CWfre/B
おわり。お互い同じくらいと思ってた同僚と
10歳近くはなれてたと知った今日この頃。
相手が若々しいのか私がふけているのか
17215 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:50:47.88 ID:/AEQMMZt
誰もいないから今のうち。カムール暗殺までと思ったら8レスよりいきそうなので、ばいさるさん
しないよう前夜までを1万弱。ま属性はま属性。ご不快の際は自動保守としてあぼん願います









ただものじゃない弟分。可愛い、自慢の弟分。

準備がいるとか言い出して鞄をぶちまけ何か始めた様子を見守る。まだまだちびだが、俊敏性や柔軟性は天性のものが
あるようだ、自分が同じ年の頃、果たしてここまで動けたろうか。あのギュスタールにも十分だから帰れと言わせた腕前だ。
その上奴と違って全く人に警戒感を与えない。しかも躊躇なく殺せる度胸がある。というより、殺しや争いに対して恐れや
嫌悪を感じる部分が麻痺しているか、足りてないのじゃないかと思える節がある。正に、盗賊か暗殺者になるためだけに
生まれてきたような人間だった。これで体が出来てきたらどうなることだろう。堅気の道、とは言わないまでも、せめてき
ちがいじみた殺人鬼にしないためには、いい指導者が必要だと思う。その役を自分だけで賄えるだろうか……。
「はええとこ寝ちまいな。いつ押しかけてくるかわかんねえんだぞ」
「あいよー」
「あのでぶ、こっちの都合はお構いなしだからな……」
ため息をつく。なんとか二人を食わせてやろうと右往左往していた時、数日の拘束時間で大金をよこすピンガーの仕事は
魅力的だった。けれど、一番側にいなくてはならない今に限って、出ずっぱりになっている。遺跡の騒動以来、方々で起こ
る探索者同士のいさかいや、傭兵の所属先をめぐる揉め事が増え、ピンガーのがめついやり口に反発して徒党を組むよう
なカス相手に大立ち回りを演じる羽目になったのは一度や二度ではなかった。がらくたを売りさばいたり、ヴァンの始めた
装備作りもあいまって、半年も滞納していた家賃を一括で払える程羽振りはよくなっていた。暮らしは目に見えてよくなっ
ている。……けど、と思う。今はガキだから懐いているものの、既に手に余るところまできていないとは言えなかった。

こいつ、ただの馬鹿じゃない。

そう感じるものは小さな頃からあった。一度気になると思ったことがあれば、メシも食わずわき目も振らず、眠ることさえ忘
れ徹底的に試してみる。何かが気になれば、どこへまででも出かけていって、納得するまで聞いて回る。もし何かしてみ
たくなれば、どんな相手でもひたすら付きまとって教わってくる。そういう子どもだった。
17315 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:52:25.10 ID:/AEQMMZt
「ニンジャになって金をとる!!」
そう叫んだ翌日、忍者の元まで出かけていって、弟子入りの懇願を始めた。散々追い回されてノイローゼになった若長が、
苦し紛れで大猿に押し付けた末に、何かの本をふんだくられて泣きついてきた時は、本当に馬鹿じゃないかと思ったもの
だ、別の意味で。
「木のえだが金になる!!」
そう叫んだ翌日、巨人の元まで出かけていって、火達磨になりながらオオトカゲを数日係で退治した挙句、鍛冶の技術を
そっくり仕込まれて戻ってきた時は、とてつもない馬鹿じゃないかと思ったものだ、別の意味で。
「あん号をとくと金が出る!!」
そう叫んだ翌日、神官の元まで出かけていって、古代語の勉強を始めた。そもそも日常の言葉さえちゃんと使えてない癖
に、むちゃくちゃな苦心を重ねて覚えてしまった時には、こりゃもう間違いなく本物の馬鹿だと思った。別の意味で。

「ヴァンはどう?やる気ある?」

シーツを被ったまま駆け回っている少年に呼びかける。振り返った染み付きシーツは側転しながら返答した。
「やるとしたらいくらくれんの」
「うえー!?なんでそこで金銭要求しちゃうかなー。社会正義のためならお金とかナシでしょ普通。ねえ?」
「うひゃひゃひゃ!おれらみたいなゴクドーもんが、そんなモンでくどけるワケねえだろ。ばかにしてんのか?今までさんざ
ゆすりタカリさせといて何わけわかんねえこといってんのかねえ。せいぜいテメエでよろしくぶったぎってきな、ホネくらいは
ひろってやるよ」
放り投げた布がふわりとチュナの上に広がった。網ではないが、丸く打てるようにはなったらしい。
「またまたー。ヴァンも口が悪いなあ。強請りタカリだなんて。あれはちょっとみんなでお話ししにいってるだけじゃない。ね
え?それとも何?ヴァンは、自分の大事な親を殺されちゃったのに、なんとも思わないって事?」
「なんだよ、こんどは泣きおとしか?そこらのアホぶっ殺すのとはワケがちがうんだぞ?にげるにも金がいる。こいつだって
いる。ただ守ってくれるてだけで信用できるかよ。あんたの持ってきた仕ごとなんか大ていロクなもんじゃねえ。だいたい、
おれらにケツもちこまなきゃなんなくなったのは、こういうとこでケチってくるようなヤツだからなんじゃねえの?りょう主一
人やろうって時に本ショクの殺し屋もやとえねえなんて、そのサルも大したヤツじゃねよ、こりゃ」
「サルってなんだサルって。いいからじっとしてろ。いくら走ったってすぐには乾かねえよ」
「いいたい放題だねえ。てゆうかさあ、もしかしてお前ら、ほんとにないと思った?報酬。あるんだなあ、それが。キャハハ!」
「はいはい。で、いくらなんだよ」
「まずはクリム金貨で5000枚。成功したらさらに5000枚。〆て一万枚だよ、一万枚。ラウル陛下が怪異を解決した者に
くれるって、ずっと触れて回ってるあの金額をたった一人殺しちゃうだけで貰えちゃうって、そう言ってるの。どう?とっても
太っ腹だと思わない?さっきからボクが言ってるさる高貴なお方に言わせれば、ホルムを救うって目的は同じなんだから、
これが相応しい額なんだってさ。お金持ちは洒落がわかってるよねえ、キャハハ!まるでボクみたい!」
「……けど、金貨貰ってもな。換金しないと普通に使えねえっすよ」
一人馬とびしている弟をいさめながら口を挟む。
「そこは勿論、ちゃんと小銭に崩して渡してやるよ。当たり前じゃん。お前らなんかが両替商に持ち込んだら、あっという間
に捕まっちゃうよ」
「へっ、口だけじゃなんとでもいえるよな。ほれ、お前がここに来たことはだまっててやるから、ケツまくってとっととかえんな」
「ふぅん……そういう態度なんだ。残念だなあ。勿体無いよこれ、絶対得する話なのに」
「なにこれ」
17415 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:53:27.72 ID:/AEQMMZt
「これは前金の前金。イザって時高飛びする為の船だって用意してあるんだからね!ヴァンは殺し屋雇えばいいなぁんて、
すっごく簡単に思ってるみたいだけどさ、実際そんなにイージーな問題じゃないの。わかる?」
「イージーてなに」
「ラクちんてこと!だって、見たことない風体のやつが急に町に現れたら、すぐ手配書で照合されちゃうでしょ?こういう仕
事には、それなりに実績積んだ暗殺者にたのみたいじゃない。でも相手は領主。名のある殺し屋が来たってだけで、ヘタ
すりゃたちまち警戒されてオジャンだよ。その点、お前らならカムール様とも顔見知りなんだしさ、近づくのだってずっと簡
単でしょ。なんせ見た目にはただの子どもなんだから」
「それは、そうっすけど……」
「ところが、実力はただの子どもじゃあないんだな。そこがこの計画の肝だよ。お前らの腕なら、現役の戦士だって騎士だ
ってお手の物でしょ」
「ふぅん、そうかよ。でもさあ、べつにだれかやとわなくってもすぐ殺せるだろ。フランのメシくわせるだけでいいのに。な?」
「いや、バレるから。絶対!!!!」
「いくら悪いやつだからって、その殺し方は、あんまりなんじゃない……?まあいいや。もうちょっと考えててよ。次に来る
時までに覚悟決めてね」
「あいよー」
手を振って見送った。馬車で立ち去ったのを確認した途端腰が抜けた。いつピンガーをキレさせるか、毎回気が気ではない
から、会う時は出来るだけヴァンは連れず、ピンガーにも家に来ないよう頼んだ上で出入りしているのだが、わざわざ訪ね
てくることに只事じゃないものを感じた。
「……ヴァン……どうする?」
「どっちでもいいよー。どうせ金なんかくれねえだろうし、もらったとこでおれにはつかい道もねえ。あってもなくても同じこと
よ、わひゃひゃひゃ!」
「……明日、ひばり亭のオハラの所に行って、話をしてみよう」
「やだよ、なんでだよ」
「あいつは、オレたちのお袋のダチだったから、いい知恵貸してくれるかもしれない」
「そうかい。いいよー。それじゃおれはシーツほしてくるわ」
「だから乾かねえってば!!」
そのまま階段を駆け下りて行ってしまった。走り回っている物音がしているが、ギュスタールを寝込ませて以来どことなく
足音が小さくなった気が……しないでもない。忍び足がどうのこうのとか、分身がどうたらとか、フランと一緒にずっと何か
やっていた。ちょっと見ただけでは落ち着きのないばかそうなガキだけれど、手先が器用なのか、鍵破りや罠の解き方を
仕込んでみれば、吃驚するほど飲み込みがよかったし、型番を覚えるのに必要となった途端、文字や計算の類もすぐに
理解できるようになった。いつそんな事になったかは知らないが、シーフォンにもあれこれ教えて鍵破りの独り立ちをさせ
てしまった。自信家で人の話をまるで聞かないような、一番教えにくい奴によくやったと思う。もし……。もし、こいつがまだ
親が揃っていたころの自分のように、読み書きを教えてもらえるような、ふつうの生活をしていたら……。寝台に飛び乗って
はしゃぐ姿を見つめる。
「オレとお前、二人揃えば。だろ?」
「うん!!いっしょにチュナのこと、なおしにいこうな」
「おうよ、オレにまかせろ」
今、自分たちは瀬戸際にあると感じる。いつまでも、このままではいられない。けれど、どうしたらいいのだろう。いくら大人
の振りをしたところで、結局自分もくちばしの黄色いひよっこなのには変わりない。白い毛が渦を巻くつむじをじっと観察しな
がら思いをめぐらせた。やがて、夜が明ける。
17515 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:54:28.93 ID:/AEQMMZt
ピンガーがやけにせかしてくる。その事はずっと引っかかっていた。ふんふんと話半分、いつもどおりヴァンはどれ位理解
できているのか信用ならない即答を何度もしつつ、楽しげに飛び跳ねながら追いかけてくる。港に開かれた事務所の裏
に通された時には、くんくん鼻をひくつかせていた。……なんだか、こいつ大丈夫だろうか。
「さて突然だが、この部屋の中にはお前たちに会わせたい人がいる」
「え?誰っすか?」
「依頼主さ。失礼します、テオル殿下」
「着たか。その二人が我らの勇者たちという訳か?確かに探索者なら刺客に丁度良いな」
「あー、やっぱりあんたか。なんかいいにおいがするもんよ。な!」
「……なっ……!?」
「ほら、ちゃんとご挨拶しなよ。すいませんねえ、殿下。こいつバカで」
頭をぐいぐい押される。
「いや、構わん。これからの時代に必要なのは、礼儀作法ではなく信念と実力だ」
目立たぬよう供も連れず鎧もまとわず、ただ上等そうな長い外套をまとっているだけだが、テオルなのはすぐにわかった。
手を払いのけながら駆け出した少年はしかめっ面で怒鳴りつける。
「ようピンガー、お前こんな大じな計かくにコソドロあてがうって正気なのかよ。あんた、なんかコイツにだまされてねえか?」
「なに?」
「なにガキの分際で勝手に口挟んじゃってるの?いつボクが口利いていいっていったんだよ、え?」
「フフフ、良いではないか。怖じぬ態度など実に頼もしい。貴公は、己を案じているのだな?なぜそう思ったか聞かせてみよ」
「ならおしえてやるよ。いいか?おれらはな、いせき荒らしなんだよ。カムールぬすみ出して来いってなら、いつでも五人
だろうが十人だろうがもって来てやるぜ。あんたがどっかしのびこみてえってんなら、やっこさんの使ってる金この中にだ
ってつれてってやらあ。けどな、ぶっ殺せってんなら話はべつ。わかる?もちはもち屋っていうだろ。あんた、もしかい段か
らころげ落ちたりしておれ死ぬかのなって時、いしゃなら目いしゃでも耳びかでもかまわねえって口なのか」
「あれあれ〜?もしかして、今さら怖気づいちゃったってこと?キャハハ!ヴァンはかわいいなあ」
少年はくるくる回っていたが、笑われるなりぴたりと立ち止まってピンガーを見上げた。
「おい、おれは殺しにびびってんじゃねえぞ。こっちはまい日まい日バケモンばらして生計たててんだ。今さら一人や二人
新しくヤっちまったとこでこわかねえ。その算だんはお前だって入ってんだから安心しとけや。いいかよ、このお人は上こ客
さまなんだぞ?お前が足元みるようなガラクタだって、まい回色つけて買いとって下さってんだ。それもかちが分かってね
えからじゃねえ、お前がわかんねえかちを知っていなさるからだよ。分かるか?気前がいいんだよ、ちっと位のことじゃダメ
とはいわねえ。な!」
床に胡坐をかいたかと思うと腕組みをして胸をそらした。
「だから心ぱいしてんだ、おれはよう。文句いわねえのをいいことに、そこらのゴロツキてき当にあてがわれて、ぼったくら
れてんじゃねえかってな。お前わかってやってんのか?こういう表に出せねえ仕ごとは、失ぱいしたりバレたらことなんだぞ。
もしかしてお前、公子のこと、なめてんじゃねえだろうな」
眉間にしわを寄せてすごんでみせる。が、子どもなのでどこか滑稽だ。ひょっとすると判った上でやっているかもしれないが。
「ほう、成程な。貴公の言う事も、筋は通っている。どうなのだ?ピンガー」
「ほんとはハメようとしてんだろ。わかってんだぞ」
「めめめっ滅相もないことで!!」
全身揺すって否定している。期待のホープであるとか訳の判らないことをまくしたてて誤魔化す様子を面白そうに見上げ
ながら、ひよっ子はぱっと飛び上がって壁に寄りかかった。
17615 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:55:30.26 ID:/AEQMMZt
「もしあんたが、本当にカムールをしまつしてえなら、ニンジャにでもたのみな。レンデュームならすぐご近所じゃねえか。
な!ギュスタールなんかもってこいだと思うぜ。ヤツは殺し屋だから、ためらわねえ。おれとちがって金じゃまずのってこな
いだろうけど、やつは生まれてもしねえ頃のことを根にもっていやがるからな。カムールのかわりに新しくホルムのりょう主
にしてやるとかいっときゃ、とびつくのは間ちがいねえ。ためしてみな」
走っていってカーテンに巻きつくと、顔だけこちらに向けて笑いかけた。
「おい、またレールが落ちてくるぞ。いいからこっちきてろ」
「あいよー」
助走をつけて椅子に飛び乗った所を、兄に力一杯叩き落され叱られても案の定全くへこたれないが、明らかに動揺した者
は別にいた。
「な、な、ななに急に屁理屈こねちゃって、ゼンゼン似合ってないよバカの癖に」
「頭なんざつかっちゃいねえ、こっちはお前、こづかいでもくれりゃ吹聴したりしねえよ、おれだってバラされたかねえしな」
へんな脂汗をうかべ顔をこわばらせるピンガーの前で小難しい言葉を使えて、少年はいたく満足な様子。兄の手を逃れて
走り出した。
「こ、こいつボクを強請るっていうのかよ!?」
「いいんだぜ別に。おれはりょう主ともダチだからな。すぐいって、全部ゲロっちまってもかまわねんだよ」
「ダチって、お前の養い親を殺したあのカムールをダチだとか言っちゃう系?」
書棚によじ登っていたヴァンは、テオルがかける机に飛び乗ってしまった。すとんと腰かけ足をぶらぶら。
「人げんなんてものは、おそかれ早かれ死ぬんだよ。ガキのころ、何人おれのダチ公がしんだとおもってんだ?そんなもん
いちいち根にもってたら、とても生きちゃいけねえ。なによりやっこさんは、お前よりかずっとマシな人げんだよ。な!」
「……マジでそんなこといってんのかよ」
「おれはギリがたいからな。くい物くれるヤツのことは、大ていわすれねえ」
「じゃあお前はそのダチを殺せちゃうっていっちゃうんだ!こーんなゴキゲンなヤツとは思いもしなかった!キャハハ!」
「うひゃひゃ!お前おれのことばかにしてっから、よく知っちゃいなかったんだろ。そんなもんだよな。おれだってそうしたと
おもうぜ。ただの犬っころだもんよ。な!」
へらへらと笑って普段ピンガーがかけている椅子にふんぞり返った公子に向き直る。
「なあテオル。どうしてもおれに頼みてえってんなら殺しにいってやるよ。あんたがこいつに幾らはらう気でいるかしらねえ
けどさ、もしおれらをやとってくれるなら、タダで始末してやってもいい。一生だれかにチクったりもしないぜ。な!」
机のふちを尻でずっていって馴れ馴れしく笑いかけている。
「就職活動してんじゃねえ!!お前何言い出してるんだよ!?もうオレ生きた心地しねえから!!!」
「ハッハッハッハ、己もまさかこんな申し込みを受けるとは露も思わなかった」
17715 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:56:31.63 ID:/AEQMMZt
「いいじゃんか、失ぱいしたってどっかのゴミがかっ手にさわいでぶっ殺されただけのこと、お前らとはな〜んのかかわり
もねえ。しらばっくれてりゃ、バレっこないよ。な!どこにあんたが損になることがあるよ?なんだかんだいってギュスター
ルはカムールの子がいだからな。万一、ヤツが忠ぎぶったらおじゃんだぞ。よく考えてみなよ。おれがどういう人げんか。
おれは、歯の生えかわるより前からあそこに出入りしてんだ。ヤツのかみさんが生きてたころからだよ。たて物の中のこと
はよく知ってる。そもそも入り口とおって行ったって、こんなガキじゃだれもけい戒しねえ。けどな、おれらはこう見えても16
世をぶっつぶしたんだ。レンデュームのニンジャどもが、よってたかって向かっていっても勝てなかった、あのヴァラメアの
ま女をたおしたのも、おれらなんだぞ?それなのにこんなケチでちんけなデブのとこで、一生せこせこしてなきゃなんねえ
道理はねえよな」
なつっこい笑顔でほほ笑みかけた。

「やべっ」

「残飯漁りの犬野郎が、飼い主様になんて口の利き方してんだこのクズ」
当然ながら怒り心頭、目つきの変わったピンガーが手を振り上げた瞬間、後ろから首が絞まって目を白黒させているが体
の回りには誰もいない。
「ピンガーさん!?」
「りっぱな犬に育てたけりゃ、それなりのエサくわしてくれよ。な!おれははらがへってんだよ、わかるか?お前をくいころ
したら、ちっとははらのたしになるかなあ。うひゃひゃ!それともこんなデブじゃ、むねやけしちゃうかな」
きらりと反射した何かが天井からピンガーの襟まで一直線に結ばれる。少年が机から飛び降りるのと同時に吊り上げら
れ、つま先が床を離れてしまった。見る見るうちに顔が真っ赤になっていく。
「いつの間に仕掛けてんだお前は!?」
「ほう、実力行使というわけか。随分と思い切りの良い男なのだな、フフフ……益々気に入った」
「なあ公子。こんなしょうもないアホとつるんでると、いつか足元すくわれるんじゃねえか。はやいとこ切ったほうがいいぜ」
息も出ず、声も出ず、もがくピンガーをちらりと見てから、にやにやとテオルに笑いかけている。
「どうだよ。あんた、おれをかいならす気はあるか?」
「チュナはどうするつもりだよ!」
「おれが気にしてんのはそこんとこさ。なあ、今さらなんかゴソゴソけんきゅうしたって、そう大したちがいなんか、ねえん
じゃねえ?おれらどれだけ色んなヤツにチュナのことみせたよ?おれらだけじゃないぜ。ホルム中のとうちゃんやかあち
ゃんがかけずりまわってても、だれも治しかたなんか見つけらんねえでいるんだよ?それでどうして地面より上にいるヤツ
らをあつめるだけでどうこうなるとおもうのさ。た分ほんとにチュナを治すには、もっと下に行かなきゃなんねえ。穴ぼこの外
でいくらカムールぶっころしてみても、どうせい味なんかねえんだよ」
「……では貴公は、己の始めようとしている研究は無駄だというのか?」
178ここでおわり@15 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/09(水) 20:57:33.24 ID:/AEQMMZt
「しらばっくれんな、あんただってほんとは知ってんだろ。出所はみんなひとつなんだよ。ケンキュウなんざ、わざわざして
みる必ようすらねえ。おれらがほんとにバラさなきゃなんねえのは、カムールでもピンガーでもねえ。あの、くそったれタイ
タスのほうなんだ」
振り返った顔は至極真面目だった。背後で喉が絞まったピンガーが、大きく揺られながら、顔を紫色に変えていく。
「毎ばん毎ばんおしかけてくるあのクッセえくたばりぞこないをしまつして、チュナを元へもどしてやるんだ。そのためには
まだ足らねえ。こんなもんじゃかちもねえ。おれは、もっともっと強くならなきゃなんねえ。けど、こんなへぼいアホの下っぱ
でいるかぎりもっと上にはいけねえ!だからテメエはさっさとおれをやとえ!!!!」
「なるほど、勇者の言葉だな。真の勇気がなければ、そうは言えぬ。まさに、この大業にふさわしい」
「……は、はあ、どもッス」
「お前たちを己の直属の部下にしてやろう。……まずは、この男を離してやれ。まだ使い道が残っているのだからな」
「そうかい。いいよ」
ぱっと手を放すや床に放り出され伸びてしまった。ヴァンは乱暴に蹴飛ばして生きているか確認している。
「お前、本当に死んじまったらどうする気だよ」
「べつにどってことないだろ。なんかこまるんなら、あったけえ内に坊主よびゃすむ話だしな」
「尤もな事だな……さて。ホルム伯カムールは、早朝に城館内の礼拝所へ行く習慣がある」
ちらりと見た限りでは、あまり公子の話を聞いているようには見えない。少年は、いつの間にか部屋中に張り巡らしていた
ワイヤーを、丁寧に巻き取って懐へしまっているのだ。無闇にふらつき回っている訳ではなかったらしい。パリスは大切な
弟分が、自分の知らない内にとんでもない職業に転職していた事を知る。
「今のじきなら五時ごろだろ、しってるよ。おれもときどきいっしょにいのるからな。今夜はちょうどいい、月はでねえし嵐だ。
でもあそこは音がぬけるんだよな。ヤるならねどこのほうがいいよ、いつも一人だしねまきだし、剣もはなれたとこにおくか
らな。先にうばっておそえばていこうできねえ。夜のうちにね首かいて、そのままねかしときゃ朝までばれねえしよ。それと
もそれじゃまずいのかい」
「その通りだ。指示の通りにやれ。判ったか?」
「あいよー」
「では行ってこれから礼拝所内に忍び込み、朝まで待機して、やって来た伯爵を仕留めよ」
「わ、わかりました」
「うひゃひゃ!なんだよ、今からいくのかよ。ねちまったらやべえだろうな」
「失敗は許されん。一太刀で楽にしてやれ」
「いいよ、まあ見てな。わるいようにはしねえ」
にやっと笑って目配せした。明らかに乗り気ではない兄の隣で、弟分はピンガーの机にあった菓子を勝手につまみ食い。
「オレたちは、表から出て一旦別の方向に向かいます。とくに問題が起きなきゃ、適当に時間を潰してから、城館に忍び
込んで襲うつもりっす」
「おれらはコイツとじむ所に入ったのを見られてるからな。あんたは足がつかねえようにあとから出ろよ。コイツとつながっ
てんのがばれりゃ、おれらとかかわりがあるのも、すぐわかっちまうことだからな」
「相判った。貴公らの働き、期待している」
「そうかい、うひゃひゃ!よく言うぜ。じゃあな」
手を振り部屋を飛び出していった。見送った公子は、いまだに横たわっている商人に一瞥をくれる。
「いつまで寝ている」
「ぐふっ…………あ〜、もう。本当に死ぬかと思った」
「あ奴等、お前から聞かされていた程、始末におえぬ愚か者という訳ではなさそうであったな。フフフフ、面白い」
「陛下、まさかあんなチンピラ本当に」
笑みを浮かべたまま、暖炉に向かった。窓の外では、河面が風にざわめいている。

「……奴一人では手に負えぬかも知れぬ。別に始末する手立ても講じておけ」
179名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 00:27:28.62 ID:ALcf+XUI
投下乙
置いてかれ気味のパリス兄ちゃんの明日はどっちだ
180名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 17:04:29.00 ID:ddhPNhSh
乙です!

ある意味キャシアスより予測出来ない怖さがある反面、
理不尽感がないのは何故なんだろう

そして何故パリスは毎回不憫wwww
18115 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:10:34.39 ID:UjBW+Isr
イマノウチしたらきちんと●ているよがあって吹いたww有難う
暗殺イベント全部、連投規制除けで前半これから、後半は
夕食の後投下します。それで今のとこある弾全て出し切り。
18215 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:11:35.80 ID:UjBW+Isr
「殿下、下手人が城館に入りました」
「うむ。思ったより早かったな。どんな様子か報告せよ」
「はっ、……それが、その。堂々と挨拶しながら侵入し」
「それでは侵入ではなくて訪問だな」
「……ああ、ああそうか。訪問し、顔なじみなのか給仕長に賄い飯を貰ってたらふく食いちらした挙句、パン焼き窯の前で居眠り
を始めました。今は一人で眠っています」
「一人?どちらの事だ、顔に傷のある男か?」
「いえ、目の赤い子どもです」
「やはりな。ハッハッハ、本当に堂々と入ってきたか。全く、面白い奴よ」
「城の殆どの者と顔馴染みのようです。連中の口振りからすると、今夜のような荒らしには大抵泊まりに来ているらしいから……
一応、あいつなりのアリバイ作りのつもり、なのかもしれん、が……判りません」
「貴公も面識はあるか。そう聞こえるが」
「は、多少は」
「どう思う」
「……関り合いになったのは失敗だった。恐ろしくしつこい上、舐めてかかると大変な目に遭わされる。大きくなる前に始末するか、
完全に抱き込むかのどちらかしかない。おれなら、なんとしても今のうちに始末する」
「成程な。フフフ……動向から目を離すな。もう一人、既に城館内に侵入している筈だ」
「はっ」
ふっと姿が見えなくなった。さすがニンジャ。

この館の中には姉がいる。この事は実際、想像以上に重圧になっていた。手の内を知られている身内からすら、気取られずに
動かねばならない。だが、一族の命運を背負って任務に挑める事が我が身を奮い立たせている。忍び込み、祭壇の陰で時を過
ごす無頼漢を観察した。明らかに人を殺めることに慣れていないとわかる。しくじった時は代わりに止めを刺し、下手人としてこい
つも始末する。成功した場合――それはまずないと思うけれど――は偶然下手人を発見して交戦したという形で始末する。ばか
ばかしい。夜明けなど待っていないで全部まとめて始末すれば良いのに。引っかかっていたのは、なぜか別行動をとっているもう
一人の存在だった。どういう魂胆で動いてくるか全く読めない。こういう時にはまるで予測がつかず、実に不気味である。

「おいオッサン!!で子にしてくれ!!」

藪から棒の申し込みがあったのは、いつ頃の話だったろう?気にしてないといえない所をグザリと刺した挙句、まるで申し込みを
する態度の言葉遣いではなかった。大体誰だこの子どもは。そんな始まりだった。フランの口添えもあって、どうも自分に憧れて、
忍者になりたがっているらしいと判ったのは、付きまとわれ始めて五日程が経った頃の事だった。『つきまとう』。この言葉だけで、
どれ位の重みが伝わるのか……。開けた蓋の中、閉じた扉の裏、見上げた棚の上、入った納屋の影、覗いた井戸の底。どこか
らでも現れて同じ調子で同じ言葉を繰り返す。壊れたからくり人形のように、繰り返し、繰り返し。

「で子にしてくれ!!オッサン!!!」

「駄目だ!オッサンて呼ぶんじゃない!!!」
「じゃーオッチャン!!!」
「やめろ!!!」
「おとぅーさぁーん!!!!」
「やめろー!!!」
「おやっさん!!!」
木から木へ飛び移りながら怒鳴りあっている。郷の者たちがにやにやしながら見上げていた。
「うるさい!!あっちいけ!!」
「おいオヤジ、で子いっちょう!!」
「出前とるな!!」
18315 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:12:39.81 ID:UjBW+Isr
「まてよう、どこいくんだよう」
「ついてくるな!!帰れ!!!」
「いやだよう、で子にしてくれよう。かねならある!!!」
「しつこいぞ貴様!!大体貴様は忍者という物がどういうものなのか判って言ってるのか!!」
「わかってるよー、おまえみたいなスゴイやつのことだろ」
どさっと落ちてきた忍者は素早く起き上がったがむせている。
「すごっ……い?ゲフッ、ゲフン。に、忍者たるもの、如何なる時も油断してはならんッ、それがなんだ!へらへらしやがって!!」
「だって、お前かっこういいんだもんよう、おれもお前とかフランとかみたいになりてえよう」
「カッコ、ぐふっ……いや、その。おれは…、忍者は……孤高の存在だから。馴れ合ったりは、しない……」
「ここうってなに」
「気高く、一匹狼のように生きることだッ」
「おおかみか〜。いいなあ、すげえなあ……。おれもおおかみになりてえよ、いつまでもただの犬っころじゃいやだ」
「……なんで犬なんだ。どっちかと言えば猿っぽくないか、お前」
姉が気に入っているのも分かる。なにしろこいつはジャスミン、じゃない修羅丸の赤ん坊だった頃にそっくりだ。
「おれは犬だよう、サルじゃねえぞ。おれはおれをもっと高く売りてえ。いっぱいかせいで、いもうとを治してえ。元気になったら、
いいとこの学校に行かしてやるのさ。あの子はかしこいからな、おれみてえなばかとちがってよ」
「だったら堅気の仕事でもやっていろ。忍びとは、闇に生き、闇に死ぬ……。大物をしとめたところで触れて回ったり、有名になっ
たりはできないぞ。それに、一度この世界に足を踏み入れれば、もう二度と表の世界に戻る事はできん。お前に家族や大切な者
がいれば、面倒ごとに巻き込んで皆が不幸になるだけだ……」
「もうまきこんじゃってるよ。いもうとは眠ったままおきてこねえ。もうなんか月もたつけど、どうしようもねえ」
「……眠り病か。郷の者にもいる。でも、それは忍びになっても解決しないだろ。いい加減にしろ」
「そうでもねえよ。おれはばかだから、頭つかっても生きてけねえ。テメエの体で食ってかなくちゃなんねえんだ。でもちびだからな。
うでっぷしでどうのこうのなんてのはとく意じゃねえ。剣はおもてえし、たかくて買ってこれねえ。ま法だったら力いらねえし、いくら
つかってもタダだからすげえ好きだけど、おれはからっきしなんだよ。そこ行くと手ぶらでかせげるニンジャが一ばんおれにはむい
てんだ。技をおぼえさえすりゃ、あとは一銭もかからねえもの。な!」
「ぐぬぬ……。だが、言っておくぞ。忍びになる道というものはあくまでも厳しいものなんだ。生半可な覚悟ではなれん。何より、
脆弱な人間には決してなることは出来ない。危険な鍛錬で死ぬ事だってあるんだぞ」
「ぜいじゃくってなに」
「よわいことだ!この、町育ちのもやしっ子がっ!!」
「なんだよ。それならダチといってま女たおして来たろ?おれそんなに弱くはねえよ」
「むしろ強いだろっ!?良いじゃないか、魔女だって倒せるほど既に強いんだからわざわざ裸忍者なんかならなくっても!!!」
「なんだよう、かっこいいじゃねえかニンジャ。な!な!な!で子にしてくれよう、おれもお前みたいになりてえ」
「駄目だ!!自分で散々言ってるだろ、馬鹿な人間には決して務まらんからな!!」
いきなり走り出したギュスタールを追って懇願する。
「じゃあべんきょうするからさあ。おれ古代文字だってよめるようになったんだぜ?まだちょっとだけどな。それにカギあけたり、ワ
ナこわしたりならいくらでもできるよ?けどそれじゃあ、どっか入りこんだり、なんかをぬすんだり、どっかからにげ出したりしかでき
ねえよ。おれはもっとなんかやりたいんだ。だったら、しのびなんかもってこいだろ?ニンジャでいるのに金かからねえし。な!」
「なんだと!?」
「だって、ニンジャてニンジャっぽいとダメなんだろ?てことはふだん通りでいりゃいいってことじゃねえか。き士なるヤツなんか知
ってるか?新しくヨロイがいるとか、おともがいるとか、馬かってきて乗りまわさなきゃなんねえとか、みなそんなだぞ?ニンジャ
はすごくイイ。びんぼう人むけだよ」
18415 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:13:41.86 ID:UjBW+Isr
「おれたちを貧乏扱いするんじゃない!!もう駄目だといったら駄目だ!忍びの技術は一家相伝のもの、お前はレンデュームの
民ではない!!」
「いっかそうでんてなに」
「身内だけに教えるという意味だ!!お前は町の子どもだろ、それなのにこんな裏家業やりたがるなんて正気か?普段は朝から
晩まで農作業して過ごすんだぞ?判ってるのか。ものすごくきっついんだぞ?想像を絶するんだからな?わかってるのか?きちん
と親御さんにも聞いてみろ。給料なんかでないんだぞ?」
「親なんかいねえよ、おれはすて子だもん。だからまい日びんぼうしてんだよ」
「…………知らなかった。…すまん」
「なんであやまるんだよ。なあそれでさ、ようするに、ニンジャになるためにはお前んちの子どもになればいいんだろ?だれかてき
当におれのこともらってくそうなオヤとかいねえ?」
「なに!!!?」
「なんだよ。あっ、にげた!うひゃひゃひゃ!ちょーかっけー」
「おれの側に近寄るなーッ!帰れ帰れ!お前に話すことなんか全然ない!これっぽっちもない!うぎゃああ!もういやだああ!!」
「まてよー、なんでにげるんだよー、で子にしてくれよー、で子にしてくれってえぇ」
「うわっ、屋根の上まで追って来るな!!」
飛び降りるやなにか撒き散らして走り去った。
「すげー、本物のマキビシだー。かっけー!!わひゃひゃひゃ!ふむとちょーいてえ。すっげー……。よし!ちょっともらってこう」
草むらにしゃがみこんでせっせと拾い始めた。そうだ、今のうちに逃げ出そう……。


少し時を戻そう。そこはピンガーの事務所の付近だ。波止場は人影も疎ら。嵐が近いのか、河が荒れていて雨雲が低く垂れ込め
ている。駆け出してきた一人の後ろから、お辞儀をして扉を閉めて出てきたもう一人が、なにか話しかけている。二手に分かれて
裏通りを進んだ後、城館が臨める森の中で合流した。ごうごうと木々がざわめき、声も通らない。いつ雨粒が落ちてきてもおかしく
ない様子だ。ちいさな木の洞の中で身支度を始める……。
「鎌かけてみて正解だったな……。あの様子じゃギュスタールはとっくの昔っから奴らに抱き込まれてやがるぞ。となりゃオレら
はただの身代わりってとこだろうな。仕留めようがしくじろうが関係ねえ。どの道オレらは消されるんだよ……間違いねえ」
パリスの深刻さに気を止める様子もなく、頭巾を被りなおしている子どもを呼び止め跪き、顔を覗き込んだ。
「ようヴァン、お前はチュナ連れて今すぐにげろ。無理なら、せめてお前だけでも行け。城館へはオレ一人でいく。時間を稼いで
やるから、その隙に国境を越えるんだ。わかったな」
「いやだよ、なんでだよ。おれもつれてけよ」
「馬鹿いうな、オレが死んだら一体誰がチュナの面倒を見るんだ。え?あんな糞野郎に関わりを持っちまったのはオレの失敗だ。
テメエの失敗のくらいテメエで落とし前つけるさ。でもな、いくらお前が弟分だからって、何も一緒になって死ぬ事はねえ」
「なにいってんだ、おれだけ一人でにげだしてなんのい味があるってんだよう。おれはいかねえぞ」
「聞き分けのねえこと言うんじゃねえ!時間がねえんだ!!」
「うるせえ!おれはどこにもいかねえぞ!なんにもねえ、なんも、着るものも食うものも、すむとこもねるとこも、かあちゃんも、ほん
とに全ぶなあんにもどこにもねえ時、助けたってなんの足しにもなんねえおれなんかのために、それなのに、ずっとずっとおれの
そばにいてくれたヤツが、そんなヤツがおれ死んじゃうんで、わるいけどあとはたのむわ、とか言いだしてんのあいよーって出て
けるか!んなワケねえだろ!このばかたれえ!!」
「うるせえ!痛てえだろ!!ついてくんなつってるだろうが!!」
力一杯すねを蹴飛ばされてけんけんしながら逃げ出そうとしたが、しがみつかれて足もつれを起こす。
「いやだ!!おいてくな!!!おれもつれてけえ!つれてけってえ!!おれもいっしょにはたらかせろよお!なあよおおう!!」
18515 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:14:43.47 ID:UjBW+Isr
わっと泣き出したまま背中によじ登ったので、思い切りこけてひっくり返る。しめった枯葉にまみれて抱きとめ鼻声を漏らす。
「この、ばかやろう……オレみたいなゴロツキなんざとっとと見捨てて、一人で逃げちまえば良いんだっ!」
「うるせえ!ばかは生まれつきだ!ちきしょう!大体、なにもただぶっ殺されることはねえだろお。なああ!」
「……けどよ、お前。どうしろってんだ。そんなに言うけど、何か考えでもあるってのか?」
「うひゃひゃひゃ!おれにかんがえって、あんちゃんヤキがまわったんじゃねえの?しっかりしてくれよ、だいじょうぶか?」
「大丈夫じゃねえよ、ちっとも」
「ざまあねえな……。しょうがねえ。いいかよ、ギュスタールはた分、すぐそばでおれらを見はるはずさ。こっちが仕かけるのに
あわして、あいつも仕かけてくるにちがいねえ。だろ?その時カムールもろともし末すりゃ、かならず公子はまようよ。おれらを殺
さないで、かっといたほうがいいんじゃねえかってな。だって、ギュスタールがいなくなりゃ、あたらしく汚ねえ仕ごとをおしつける
ヤツを探してこなきゃならねえだろ?だけど、どの道ヤツは、おれらをやとう気なんかもっちゃねえ。それどこかあのギュスタール
だってウカウカしてらんねえぞ?ドベふみゃすぐすてられるに決まってる。それどころか、用がなくなりゃたちまちぶっ殺されちまう
さ。そんなもんだよ、犬ころなんか。な!」
楽しげに笑い声を上げて兄に寄りかかる。
「いいかい、できるだけじらすんだよ。どうせ公子のことさ、ガマンできなくなって先にうごく。やつらがくるのは日の出のじかんだ。
おれらはそのスキをついて河をくだってマルデリアまでずらかるんだよ。そこまで行っちまえば、もうこっちのもんさ。知ってるだろ?
マルデリア。キレハの来たとこだよ、だからきっといいとこさ、間ちがいねえ。ネスとはつきあいもねえから、公国のざい人がにげこ
むにはオアツラエむきってワケよ。な!」
「へへっ、そうかよ。ばかなりによく考えたじゃねえか」
「そらそうよ。生きてかなきゃなんねえ、チュナがいるんだ。カムールにみ方してテオルをヤってもいいんだしな。実さいにニンジャ
に殺されかけりゃ、いくらあのおっさんだっておれらを信用しねえはずはねえ」
「……お前、マジでいってんのかよ。ネスの親玉どもを相手にしようって、そういってんだぞ?わかって言ってんのか?」
「おれはいつでもマジだよ?こんなクソみてえな国、どうなろうとおれが知ったことか。なくなっちまえばいっそせいせいするだろう
な、うひゃひゃ!いいゴミブンのヤツらをまとめてし末できる良いき会だぜ。な!いこうよ、いっしょに」
「おう、腹は決まったぞ。いっちょやるか!」
立ち上がり森の中へ出たが、突然の水しぶきに顔をしかめる。吹き荒れる風に混じって枯葉が大きな雨粒と一緒に一斉に落ち
てきた。夜が明ける頃には雪になっているかも知れない。身震いして雨具がないのを恨めしく思った。空気が湿り気を帯びていた
のだし、あんな曇り空だったのに。きっとずぶ濡れになるだろう。なんでこんな目に遭うのかとがっくりきて気が付いた――そうか。
いつも、チュナが用意してくれていたんだった。今度こそ、かならず助ける。決意を新たに、うろから出ようと振り向いて飛びのいた。

「やべっ」

「あん?どうしたんだよ」
「なんでせっせと脱いでいるんだお前は!?」
「頭あらってから行くわ、カムールんとこは先いってて」
濡れに強い外套に全てくるんで駆け出して行った。雨がよく当たるように森を出る気らしい。
「いや無理だから、いくらなんでも死ぬからっ!?おい!!!おい待て!!!」
「うひょー!!!つめてー!!!!」
甲高い歓声が木々の向こうへ遠ざかっていく。……追いかける気力もわいてこない。夕立の時にやっていたら、側に雷が落ちて
からはもうやらないって、あれほど何度も約束したのに!
「この、ばかたれが!!…………やってられるかッ ぶえぇっくしょい!!!てやんでえ」
18615 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:16:01.18 ID:UjBW+Isr
ずぶ濡れで二人の様子を窺うものがいる。息を殺した忍者は、ほんの僅かだけいぶかしげな色を示した後、無頼漢の行方を確か
めてから裸の子どもを追跡し始めた。といっても原っぱで飛び跳ねていたので探すまでもないのだ。いつの間にか白い髪はぶく
ぶくと泡が立っている。凄まじい勢いで水を撒き散らしながら足踏みし、雨で頭を洗っていて、寒い冷たいと貧弱な語彙で絶叫し
ている。やはり、かなり猿っぽい。しゃかしゃかと身震いして泡を切ると、再び荷物を掴んで駆け出して行った。本当に足だけは
速い。離され過ぎないよう距離を保って追いかける。向かっているのは城館の方角だ。特に身を隠すでもなく民家の前を通り抜け、
酒場で屯する酔っ払いに声をかけた後、夜で人のいない市場をぐんぐん速度をあげて走り抜けていく。どうするのかと思っていると、
いきなり門番に体当たりしてハイタッチし、互いにひとしきり笑い転げてから、裏木戸の方へ歩いていった。怖すぎる。そっと回り込
んで行方を見ると、半分開け放たれた扉の影でふとった料理番が顔を覗かせていた。
「おー!やっときたな、小僧。今夜は遅かったじゃないか。はっははは、その様子じゃまた風呂の節約か?よくやるよ、全く」
「ホルム一でっけえノキ下に、雨やどりに行くんだからな。当ぜんだろ。でもお前はぜったいやんなよ?ちょ〜つめてえからな!」
「うわっははは!わしがやるもんかい、軒下なんて殊勝なこと言うな。風邪引いちまうよ。入んな、みんなお前を待ってたんだ」
「そうかい。ありがとよ」
「なんか拭くもんをやろう、床が水浸しになっちまうぞ。靴も火のところにあてて干すといい。……雪にならなきゃいいけどな」
空を見上げた後、中に向かって更に何か話しかけながら扉を閉めた。顔見知りだったのか……。調理場を覗いてみると、小間使
いや従者の暇な者たちが少年を囲んであれこれ談笑していた。頭を拭かれながら焦げ気味のパンを齧っている。残り物ばかりど
っさり貰って、城館の中の身分の低い者と一緒に分け合っているようだ。大変可愛がられている。入り口の方からも声を聞きつけ
顔を出す者たちがいて、泊まっていくようにとか、家の雨漏りはどうかとか、どれか毛布を貸そうかとか、そんな話をしていた。終
にはゼペックまで顔を出したので肝をつぶしたが、賑やか過ぎると注意しに来たくせに、一緒になって酒盛りを始めたので、駆け
つけたフランに叱られている。これは長くなりそうだ、一旦場を後にする。もう一人を探しておかねばならない。
187前半終15 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 18:17:14.25 ID:UjBW+Isr
――侵入者がいるとすれば、出入りするだろう綻びというものがある。いくつかを回った中に小さな水溜りを発見した。窓枠の影
にほんの少しだけ、このおれでなくば気づく事もあるまい。様子を窺うと身震いしながら発見されないよう、物陰で濡れた衣を始
末していた。中々手馴れているらしい。こちらのほうはまっすぐに礼拝室へ向かい、そのまま待機し始めた。それ以上動く気配
はないのだが、代わりにその仲間がまったく姿を現さない。
まだ厨房にいるのだろうか?天井裏を経由して引き返すと、なぜか金髪の貴族の男まで加わって、結構本格的な晩餐みたいな
ものを食っていた。なんで姉ちゃんまで一緒に食ってるんだ。ものすごく旨そうで腹が減りそうになる。いかんいかん。何度か礼拝
室と行き来し兄を監視しつつ子どもの動向をうかがう。頻繁にあくびを繰り返し、いかにも眠たそうな顔をしていた。お開きになった
頃、小間使いたちで長椅子を窯の前まで移動させて寝床を作ってやり、すでに眠りこけていた少年を移して寝かしてやった。口々
にそっとお休みを言うと、灯かりをいくつか消してくすくす笑いながらぞろぞろ出て行った。おいおい、やる気あんのかこいつ。
人が完全にいなくなったのを確認する。扉付近は冷たい空気が漏れてくるが、部屋の中央はほんのり暖かい。規則正しい寝息
と、静かに息づくパン焼き窯の火種の音だけが聞こえていた……。そろそろ動き出す頃合だ。かなり決断が早い性質である上、
身分の違いや武力の差を全く気にかけないことから、テオルの命令をそのまま聞き入れ朝まで大人しく待つとは思えないのだ。
公子もその事を案じていた。暗殺するつもりかなにか仕掛ける気があるのか注意しなければならない。もしおかしな様子があれ
ば、すぐ手を打つよう指示を受けている。本当に暗殺に成功されては困るのだ、せめて、騒動にならなければならない。

そろそろ本気出す。

じっと様子を窺っていると、どさっと床に転がり落ち、そのままぐーすかいびきをかき始めた。随分気合が入っているタヌキ寝入り
だ。ぐんにゃりと寝返りを打ち寝息が静かになったが、もぞもぞと動き続けるばかりで、目を覚ます気配が感じられない。ばかか
こいつ。ふと気づくとこんな観察で半時以上使ってしまってがっくり。すぐ枕元までいって鼻をつまんでみた。まるで反応がない。
大嵐の中、きーきーと金切り声を上げて取っ組み合いを始めたときは、誰かに見つかるのではないか心底冷や汗をかかされた。
……まあ、あんな夜遅く森に来る人間はいないが。何を言い争っていたかはわからなかったが、突然バケツをひっくり返したような
大雨が降り始めるや、この寒さの中素っ裸になって走り出し、兄を置き去りにして城館の裏から厨房へ走りこんでいった。意 味 
が 分 か ら な い。ヤクザ者の兄貴はずぶ濡れで大きなくしゃみをかまし、悪態をつきながらどこかへ立ち去った。もしかして
自分をからかっているのではないかとさえ疑えてくるが、眠ったまま鼻をほじっている。
(……だめだこいつ)
これ以上は進展がなさそうだ。テオルに報告してこよう。……それにしても、じつに無用心な家だ。侵入者がこんなにいるなんて。
188再開です@15 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 19:03:44.30 ID:UjBW+Isr
――空が白み始めたころ。

礼拝室の奥では、青い顔にクマを作って、目を真っ赤にした男が身を潜めていた……。そろそろ頃合なのは間違いない。けれど
一体いつ姿を現すのだろう。息を殺し、空腹も忘れて待ち続けていた。ヴァンは上手く潜り込んだろうか?それにギュスタールは
どうなのだろう。気配らしきものにはとくに気づかなかったが、それよりカムールはまだ生きているのだろうか。五つを知らせる鐘
の音に歯を食いしばり、目を凝らした。
(まだか……?本当にヤツは)
そこへいきなり扉が開いて乱入してきたものがいる。肝をつぶして身をすくめた瞬間、けたたましい笑い声が響いた。カムールの
声だった。
「よう、なにもそんな笑うことはねえだろ?ひでえヤツだなあ、あんたは」
「すまぬ、つい……。ぶふふっ、うぉほん、おほん。やれやれ、年だな。どうも近頃、涙脆くなっていけない」
袖で涙をぬぐっている。笑いすぎて息を切らしているようだ。
「なにいってんだよ、あんなでけえ剣ふりまわしてるクセに。しってんだぞ」
「寄る年波には勝てぬものだ。私の年になればいずれ判る事だよ。……時に、お前はいつもどこから花を手に入れてくるのだ?」
「あん?なんのことだい」
「時折、妻の墓に手向けている者がいるのは知っているよ。あれは、お前なのだろう」
「なんでわかるんだよ。ユウレイのかかあにでも聞かされたのか?」
「雪の舞う晩秋に墓へ花を手向けることが出来るのは、私の知るかぎりお前しかおらぬ。そして、お前以外、名も知れぬ小さな
異国の花を持ち込める者も知らぬよ。有難う」
「まあ大したことじゃねえ。いせきの中には、年中きりがまいてる森があるからな。おもしろいとこだよ。うひゃひゃ!でっけえ犬
が服なんかきちゃって、人げんのふりしたりするんだぜ?いつか連れてってやるよ。きっと気に入るから」
「そうか。楽しみにしているぞ。さあ、祈りの時間だ。心静かに祈りを捧げよ」
「そうかい、じかんだってよ。どうしたんだい。もしかしてあんちゃん、まだねてんのか?」
ひょいと覗き込むのに釣られ、カムールも祭壇の裏を覗き込む。そこには固まっている者の姿。
「誰だ?」
いくらいない振りをしたところで、目が合ってしまっては誤魔化しようもない。無頼漢はすごすごと物陰から出てきた。
「お前は確か、探索者の……。何故ここに?」
「悪いが死んでもらう」
「理由は?」
「おれらのかあちゃんぶっころしたからだよ」
「何?何の話だ」
「まあおぼえちゃいねえよな。いっぱいぶっころしてんだし」
「十二年前の事だ」
「十二年前……。お前、まさか、あの女盗賊の子か?私を……恨んでいるのか」
「うへへへ、よくおれらのかあちゃんのことってわかったな。あんたはどう思うんだい」
クスクスと笑みをこぼしながら腰に下げていた太刀を取り上げた。二人で周囲を円を描いて歩くが、一人は飛び跳ねたり走り出し
たり、落ち着きがない。気を取られていると、無頼漢に蹴りを喰らって跪かされた。
「おい、殺す前に聞いてやる。お袋は何をしたんだ?処刑されるような事をしたのか?」
「……そうか。お前はまだ知らなかったか……」
遠い目をしてため息をつき、交互に二人の顔を見比べると、静かに語り始めた。度々口を挟む兄に答えながら、子どもの様子を
目で追う。なにをしているのだろうか、この子は?ふいに死角から問いかけられた。
「ひみつって、どんなこと?」
「そこまでは、一介の諸侯の私では与り知らぬ事だ」
「そうかい。うひゃひゃ!さすがだな。ぜーんぜんたしかめようがねえ。頭いいよあんた」
ヴァンが薄ら笑いを浮かべているのとは対照的に、パリスは激怒した。
「……くそっ!適当なこと吹いてんじゃねえよ!言い訳のつもりか!」
「べつにいいわけしちゃいねえだろ。な!」
「その通りだ。私にそんな気は無い。お前に、事実を教えるべきだと思っただけだ」
18915 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 19:04:46.78 ID:UjBW+Isr
少年はふいに立ち止まる。
「それと、あと二つ、教える事がある」
「何だ?」
「一つ。礼拝堂の音は上の階に聞こえる。二つ。暗殺をする気なら、黙って殺せ。相手の話など聞かぬことだ」
「ちょーやべえ!しゅんびんなでぶがくる!!」
「お館様!ご無事ですか!」

「なっ!?」

ヴァンがさっとかわしたので一人だけ弾き飛ばされ床に転がる。パリスは唖然とした表情で見上げた。
「こ――こんな素早いデブ、初めて見た……」
「こらーッ!!!朝から何をやっとるんだお前たちは!!!お館様の邪魔をするんじゃない!!!!」
片方はその場でくるくる回っているし、もう一人はへたりこんでいるし、にぎやかなのはいつものことだったためか、さほど暗殺し
に来たような印象は受けなかったようだ。カムールが立つのを助けて武器を拾うと手渡しながら、がみがみ子どもたちを叱責する。
どえらい剣幕に首をすくめていると、酷くうんざりした顔で礼拝堂へ入ってきた者がいた。
「よっ、おはよーさん」
「いつまでつづけるつもりなのだ。元々期待はしていなかったが」
「テオル殿下?なぜここに……」
「やれ、ギュスタール」
背後から忍び寄った影が、カムールの背を深々と刺し貫いた!筈の次の瞬間、へんな風に身をよじって飛びのいた。なぜか二人
とも猛烈な血飛沫をあげて床に転がっている。倒れ伏したカムールに語りかけたのは、魔法具を捧げ持つ少年だ。
「よう、どうした。もうしんじまってんのか?なワケはねえよな?いいかよ、おれもお前におしえといてやるからな。ひとつ、おれらは
元からころしにきちゃいねえ。二つ、お前んちのガキはしつけがなってねえ。三つ、お前んとこは上司もろくなもんじゃねえ、ってな。
どうするよ、ソウシキヤよんでくるか?」
「…………くっ、まだ、な……」
「うひゃひゃひゃ!そうかよ、こりゃ手おくれみたいだぜ。かわいそうに、わるいことしたよ」
手を貸されたが思い切り吐血して血まみれ、どう見ても致命傷には変わりないが体を起こし身構える。
「お館様!」
「なんというザマだ。お前まで仕損じるとはな」
ギュスタールが蒼白な顔で無理やり止血し、戻ってくる。まさかヴァンが術を使いこなすとは思っていなかったようだ。殺気をみな
ぎらせて身構える前で、カムールを引きずり寄せて体制を立て直そうと試みる、が……非力でお話にならない。
「ちっとはじ分でもあるけよっ!ばか!!」
「んな事できるか!死にかけてんだぞ!」
「逃げろ、お前たち。私に構う事はない……、早く行け!!ゼペック!」
「ははっ」
19015 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 19:05:50.80 ID:UjBW+Isr
素早く斬撃を繰り出し孫と切り結ぶ。別々に駆け出した子ども達が、傷薬をぶちまけながらちまちまと加勢するので中々押し切
れない。痺れを切らして抜刀した公子が禁術を用いてゼペックたちを弱らせていく。それでなお怯まぬ年寄り相手に斬りつけた。
「必要なことならば、己はいくらでも罪を犯す」
「ぐあっ……!ギュスタール、貴様ら――」
止めを刺しに忍びが襲い掛かった時、何かが剣を阻んで体勢を崩す。よく見ると鉄線にかかったのだ、またこれか!立腹した公
子が魔術を乱発し始めたとき、完全に注意が逸れていた子どもの声が頭上から響いた。

「これな〜んだ」

硝子に逆光になった人影が、何か細長いものを掲げていた。朝日で目が痛いほど強く反射する直ぐ側には別の影もある。すでに
表側に乗り出していて、割れた硝子の向こうから半分だけ顔を覗かせていた。
「貴様ッ、それを、いつの間に!?」
「おれらはいせき荒らしなんだっていっただろ?本ぎょうで仕ごとしただけだよ。じゃあな、オジン共」

「オジンて言うな!!!」

「駄目だ!行かせるな、ギュスタール!!」
「お館様。あれは、一体……?」
「エウルス…………ははは、子どもに奪われたか。はははは……」
伏したまま笑ったカムールたちへ腹いせに止めを刺し、礼拝堂を飛び出そうとした時、鐘楼の鐘が鳴り響く。
「あーあ、今ごろきたっておせえよな」
「どういう事だ」
「じきに判るさ、まあせいぜい頑張りな。あばよ、いけすかねえクソ野郎!」
後追い攻撃しかけたところへ兵士がなだれ込んできた。
「領主様、大変です、襲撃が――ヒッ!?何だこれは!?」
血だるまが床へ二つ、それからガラス片が散乱していて血濡れの剣を持った男が一人。
「……ホルム伯はみまかられた。報告は己にせよ。襲撃だと?」
「は、はい……。西シーウァ軍が国境を越え、こちらに向かってきております!」
「それに河からも、神殿軍の軍船が!」
「なに?奴らめ、思い切ったことを――!」
瞬時に思い巡らせ気合を入れる。
「今は小物に構っている暇はない。騎士団を召集せよ。迎撃に出る!」
19115 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 19:06:53.86 ID:UjBW+Isr
屋根からは侵攻するシーウァの動きがよく判る、神殿はすでに押さえられた後のようだし、これは下手な場所へは逃げられない。
裏へ飛び降りて、植え込みから下水に入って必死に走る。血眼の追跡者が思った以上にしつこく追い回してくるのだ。
「二手に分かれるか……駄目だ!二人で勝てるかもわかんねえ、一人になった途端お前もオレもぶっ殺されちまうよ!!」
「じゃあ、ばくはしようぜ!」

「「やめて!!!」」

「なんでだよう、だめなのかよう」
「オレらまで死ぬだろうが!!!」
「少しは考えろ貴様!!それでもニンジャか!!」
「むちゃいうなよ」
追いついた忍びは既にただの十四歳に戻ってしまっているらしい、狭いところでくんずほぐれつ格闘になったが、金玉を蹴り上げ
られて悶絶する。あまり苦しみようがひどいので、貰いゲロする横で手当てしてやり覆面をほどいてやった。
「ったく、いい加減にしろ!あんなヤツに尻尾振って何の得があるってんだ」
「どうせつくなら一番上の奴に乗り換えるほうがいい、それだけのことだ。……それより貴様ら、西シーウァの突入を知っていたな?
どういうことだ!!」
「うひゃひゃ!うるせえよ。金目のもんがねえかとおもって坊主の宿にしのびこんだら、れん中がうち合わせしてやがったのぬすみ
ぎきしただけだよ。な、これいくらで売れるかな」
「売れねえだろ、こんなヤバイもん」
「じゃあ、てき当にサヤとかつくりなおしてつかうか」
地上からは交戦の気配が伝わってくる。確かに、騒ぎすぎては不味そうだ。それでいて二人の落ち着きようはなんなのだろう。
「お前らまさか、敵国と取引したんじゃないだろうな……?祖国を裏切るつもりなのかッ!」
「しらねえよ。な、シーウァってどんなとこだい。お前ら前の戦でついてたんだろ。な!」
「なんだと」
言われて見ればそうだった。羽交い絞めにされたまま頭の横から軽口を叩かれる。
「裏切りとか、そもそもカムール裏切ったやつに言われたかねえよな。大体よそ者のクセに偉そうなこと抜かすんじゃねえぞ」
「テオル死んだりしてな。うひゃひゃひゃ!そのほうがいいだろ、お前ヘマしたからな」
「三十年来尽くしてきた部下であの扱いだ。お前みたいなやつじゃ、容赦しちゃくれねえよ」
返答に屈し口を固く結ぶ。横から少年が笑いかけた。
「かえしてやるよ。もってけや」
「こいつで上手い事誤魔化すんだな。オレらは行く。お前も行け…………わかったな?」
エウルスを突きつけられ、剣先と二人の顔を見比べる。蹄鉄の音が直ぐ近くを駆け抜けていくのがわかる。脂汗でぐっしょりだ。
「おれと取引する気か」
「いやかよ」
響く雄たけびは、どう考えても西シーウァ訛りが優勢だ。このままでは本当にテオルがどうにかなってしまう。決断せねばならぬ。
「……この次、お前らと会うときは、貴様らが死ぬときだ!覚えておけ!!」
「そうかい、じゃあな」
ざぶざぶと汚水の中を進んでいく。途切れ途切れに話し声が響いた。
「そういやフランはどうしてんのかな」
「あいつだったら、死ぬって事はねえだろ」
「そりゃそうか。ちょ〜つよいもんな」
「アルソンの事は心配しねえのかよ」
「ああそっか、いたんだっけ?」

まだ胸が高鳴っている。驚かされたのだった。連中もしかして……テオルさえ、殺す気でいたのか?汚水に血が混じり始めていた。
19215 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/10(木) 19:08:32.99 ID:UjBW+Isr
終了。独占状態でごめんなさい
193名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 21:38:30.41 ID:2z7xbuck
ま属性なのに怖い!不思議!
194名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 23:39:17.25 ID:N+tVoSg9
ヴァン…恐ろしい子!

ところでま属性ってなんなんだ
195名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 23:46:56.61 ID:buIb/bZ6
ちくわとかマグロとかカエルとか尻から出る魔法とか
196名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 23:52:49.78 ID:N+tVoSg9
ああ、なるほど!そういうことだったのか!
これはまぬけとは言えねーよwwwww
197名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 17:16:38.83 ID:+Rju+5rZ
ここの住人たちは無事だろうか
198名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 19:04:36.80 ID:BhENDWVf
なあに、ここの住人なら危険感知持ってるだろう
きっと大丈夫さ
199名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 19:11:59.42 ID:YbT1kayJ
やべってPC強制終了させたからファイルが逝った
ガラス割れる前に逃げたから被害はそれだけだ
200名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 21:40:23.87 ID:BhENDWVf
>>199
怪我はないか?

とりあえずセーブファイルとか飛んだのは、またやり直せるチャンスを手に入れたと重いなされ
201名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 22:20:39.27 ID:YbT1kayJ
復元できるもんはどうでもいい、皆無事でいてほしいスレちすまない
202名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 22:27:05.01 ID:BhENDWVf
>>201
地震時のみはスレ違いおっけーっすよ
目的は回線の拡散、だって
203名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 22:29:12.54 ID:WzWT86Wd
職人さん方も無事だといいですのう
204名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 22:51:06.27 ID:YbT1kayJ
>>202
そうなんか。知らなかった有難う
ぶっとんだのSSなんよ、家やばい
しばらくは書けないかもしれん
205 ◆1HLVKIREhA :2011/03/11(金) 23:59:35.64 ID:3qadWZIS
投下でもないのにトリ付けると自己主張強い感じでアレだが、とりあえず生存報告
まぁ、2chみたいな繋がりでもROM含めて誰も失われないことを祈ってるよ
それだけ寂しくなるからね
206名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 00:04:28.21 ID:y3MY1Wwy
>>205
無事で何より
207名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 00:06:05.76 ID:RtYnWxVX
>>205
しかしまあ2年くらいコテ見とるからなあw
無事でなにより
208名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 09:16:37.12 ID:LF7uSFQn
>>207
過去ログ漁ってみたら、確かに最初は1スレ目の2009年5月だった
もう2年になるのか・・・
209名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 15:23:34.40 ID:AjBPCLDM
もうそんなに経つのか……
思えばきっかけは本スレでeraRuinaなんていうイカれた代物(超褒め言葉)が投下されたせいだっけなあ
210名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 19:55:31.38 ID:m4fUX+FB
そんなものもあるのか。
フランに奴隷の首輪をつけさせて無聊を慰めていたが、フランと過激なSMプレイできるのか!
211名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 21:16:20.15 ID:LF7uSFQn
>>1にリンクあるから見てくるがいいさ
212 ◆1HLVKIREhA :2011/03/14(月) 19:42:58.46 ID:f+/Or/uK
「アイリ姉さん」
「なあに、チュナ」
黙々と本を読むのを止め、視線を上げて答える。
「あのね、これ、プレゼント」
「……何で、急に」
アイリの無表情に疑問符が浮かぶ。
姉妹二人暮しにおいてチュナは基本的に母親のような立場であり、
稼いではくるものの使い方も派手な父親的立場のアイリと違い、
無駄遣いに対してはたいそう厳しかったそうな。
そんな妹が差し出してきた包みはそこそこ大きく、それほど安いものには見えない。
「んと、先月、大切な人にチョコを贈る日ってあったでしょ?
今日はそのお返しをする日なんだって。キレハさんに教えてもらった」
「なら、ありがたくいただく」
チュナの笑顔以上のお返しはない、と思いつつそんなことは顔に出さない。
チュナから貰うのもチュナにあげるのも大好きなのだ。
妹が大好きな姉なので。
「開けても?」
「う、うん。あんまり期待しないでね」
たとえ中身が暗黒料理であろうとも、喜ぶ準備はできている。
そもそもチュナからプレゼントの時点で、心の中では狂喜乱舞している。
妹が超好きな姉なので。
そんな単純で複雑な想いを赤い瞳に宿しつつ、手際よく包みを開ける。
「……ぉ?」
出てきたのは、布。
広げてみれば、布製のワンピースだとわかる。
防御力を重視したものではない。
装飾が多くきらびやかなものでもない。
質素なデザインの、ごく普通の服。
ネルの器用な仕事振りを間近で見ていたアイリにはわかる。
これは、プロの仕事じゃない。
そして、勘のいいアイリにはわかる。
誰が作ったものなのか。
しかし、それを敢えて指摘するほど迂闊ではない。
「チュナ、ありがとう。大切に着るよ」
「気に入ってくれると嬉しいな」
「着てみても?」
「うん。サイズも合うかわからないし、着てるところ見てみたい」
チュナの許可を得て、アイリが脱ぐ。
見ているのがチュナだけということもあり、何も気にせず下着姿を晒す。
同性である妹のチュナから見ても、魅力的な肢体。
胸のボリュームは大きいと表現できるほどではないが、
全体的に引き締まったラインがとても美しい。
213 ◆1HLVKIREhA :2011/03/14(月) 19:43:21.61 ID:f+/Or/uK
「……何?」
その視線に、敏感に気付くアイリ。
「ううん。綺麗だなって思っただけ」
「チュナも、まだこれから綺麗になるよ。今も十分可愛いけど」
「や、やだなあ。そんなことないって」
ぱたぱたと照れるチュナに和みながら、ワンピースに袖を通す。
ぶかぶかという意味ではなく、ゆったりとしている。
膝丈のスカートと合わせて、動きやすい。
優雅に一回転すると、絶妙な角度でスカートが舞い上がる。
裾の飾り縫いが、地味ではあるがアクセントとして効いている。
「サイズは、どう?」
「……胸がきつい」
「え、あ、う。ご、ごめん」
「嘘。ぴったりだよ」
「んもう……でも、よかった。えへへ」
チュナの笑顔に、アイリの頬もゆるゆると緩んでいく。
結局、これが一番のプレゼントなのだ。
妹が激好きな姉なので。
「次は、私がチュナの服見立ててあげる」
「え、い、いいよ。どうせ似合わないし」
「可愛い子が可愛い格好しないなんて罪だよ。
大丈夫、姉さんに任せなさい」
「……うん。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「そうそう。甘えて、って言ったでしょ?」
「姉さん。ありがとう」
「それは今日は私の台詞。ありがとう、チュナ。
ちょっと目を瞑って」
「へ?」
頬に手を添え、艶っぽい声を出す姉に、軽く耳を疑う。
しかし、その真紅の瞳が本気の色を湛えているのが見て取れる。
「そんな、待って、姉妹なのに」
「姉妹だから。大好きだよ、チュナ」
徐々に近付く姉の顔に思わず目を閉じ、
――ちゅ
「……ふぇ?」
柔らかい感触は、頬に。
「冗談。妹のファーストキスを奪うほど鬼畜じゃない」
「……ぅ。ううぅ〜」
何だかよくわからない感情に駆られ、何だかよくわからない呻きを漏らす。
「可愛いよ、チュナ」
「あ〜もう!もう!!」
ああ、今日も平常運転。
214 ◆1HLVKIREhA :2011/03/14(月) 19:43:39.92 ID:f+/Or/uK
イチャラブ姉妹ホワイトデー編
ホワイトデーって何する日だっけ
アイリとチュナを俺の欲望で白く染める日じゃないことはわかるんだが
215名無しさん@ピンキー:2011/03/15(火) 00:06:01.57 ID:tAPgLEOY
言われなきゃ忘れてたのに!何の日だっけGJ

あと、不謹慎なのは判ってるけど何度も何度も露出て聞くたび
傭兵業に従事する神官が
216名無しさん@ピンキー:2011/03/15(火) 00:43:31.09 ID:Mods/mLu
>>214
GJ!
>アイリとチュナを俺の欲望で白く染める日
大体あってる
217名無しさん@ピンキー:2011/03/15(火) 10:27:16.22 ID:tAPgLEOY
作者生存報告来てた
218名無しさん@ピンキー:2011/03/15(火) 15:13:40.72 ID:Mods/mLu
リロったら来てた<生存報告
生きててよかった
21915 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/16(水) 04:40:53.35 ID:z0ePOArs
作者様生存確認と回線確保記念。短いま属性
>>196
※装備しているのは私です
22015 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/16(水) 04:41:29.62 ID:z0ePOArs
「こら!!!貴様一体どこから現れておるか!!!」

家具の上に飛び乗って叫ぶ武将の足元で顔を現した少年は、しゅるりと床へ上がった。
「だってお前、ゆか下から入ったらダメっていうからよ。えんとつとおってきたんだ」
「訳のわからぬ言い訳をするな!!この、うつけがッ!!!」
「いってえ、うひゃひゃひゃ!もう、そんなおこるなって、わるかったよ。ほら、あまいもんでもくうか?」
「食いもので釣ろうとするでない、この戯け者ッ」
「なんだよ、うめえのに」
へし折ってかじったチョコレートの、その残り半分を乱暴にひったくって背を向けた。大分驚いたらしい、
息を整えている。自宅のように歩き回る子どもを見つけた侍従たちは、無言のまま仰天しながら茶菓子
を用意し始めた。どれも美しい娘の癖に、使えている主と同じく騎士のようななりをしているが、薬や医
術の心得の面で相当な知識があるようだ。尋ねていく度むちゃくちゃに怒らせぶん殴られても、すぐに
あれこれ手当てしてくれる。気分の落ち着く飲み物や、興奮を鎮める煎じ薬といった物も常備していた。
「お前たち、以後すべての暖炉の火を絶やすな。この不届き者を容易く出入りさすでない」
「はは!」
「この次侵入されたら処罰するからそのつもりでいろ!判ったか」
「人んちかってにすみついといてよく言うぜ、わひゃひゃ!」
「そもそも貴様は何の用があって毎日参るのだッ!さては貴様、私を馬鹿にしに来ておるな?この場で
手討ちにしてくれる!!そこになおれ!!!」
「なーに言ってんだよ。ばかってのはな、おれみたいなのを言うんだよ。わかるんだろ?な!」
「ならば水菓子でも食らってとっとと失せろ!!!1」
「あいよー。すげえ、いいにおいがする。こりゃなんの木の実だい?」
「西シーウァで参ずる果実の砂糖漬けでございます」
傅く美女たちのささげ持つ皿には、ざら目砂糖がふりかかった杏のような果物が乗っていた。
「フゥ〜ン。なあそれよりよう、おれにおしえてくれよ」
「なんだ!!!!!!!」
邪魔をされ、今にもぶん殴って来そうな王女に睨まれても全く動じず、もりもり食いながら口を開いた。
「いまさあ、ダチのシーウァ人にきいて来たんだよ。お前んちって、ほんとうはもう一人おヒメ様がいて、
そいつがかえってくると、お前らの王様になるって、おしえてもらったのさ。お前しってる?」
「フン、そんな事か。無論だ。先帝の没する直前に秘密裏に産ませた娘がいて、もし今も生きていれば
我が父上たる今上帝を差し置いて第一王位継承者となる、という奴だな。それがどうしたのだ」
「なんでそうなんの?そいつお前よりえらいのか?」
「そんな事を聞きに参ったか」
22115 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/16(水) 04:42:09.71 ID:z0ePOArs
「お前んちのことだからな、お前にきくのがはやいとおもったんだよ」
「それは何も知らぬ民草が語るまやかしに過ぎぬ。現に帝位にあるのは我が父上だ。仮に戻った所で
継承権においては、私の義兄や叔父上たちが優先される。何より、仮にそのような小娘が継承権を主
張してきた暁には息の根を止めるまで。この私自ら陣頭指揮を取ってやる。新たな帝位につくべきなの
は姉上の婿君。訳の判らぬ端女等ではないのだ。どうだ?この説明で満足か?」
振り返ったが子どもは椅子の背もたれに腰を下ろして、自分の口に指を突っ込んでいた。
「貴様のような奴には少々難しすぎたか、ククク……」
「いや、あんたは王様にはなんねえのかなっておもってよ。すっげえつええんだろ?おれ知ってるぞ」
「間抜けが。私は三女だ。女であるだけでも既に継承順位を大きく後退させるのだ。本当に相応しいの
は、実は義兄君以上に姉上なのだがな。一度でもお目通り致さば――そのような幸運な機会が貴様
如きにあるとは思わぬが――貴様のような下賎の者といえどもしかと判ろう。あのように知性と美貌と
の天賦の才に恵まれたお方こそ、真に我が偉大なるシーウァ大帝国全領土を統べるに最も相応しい。
断言してもいい」
「そうかい。じゃあがんばって王様にしてやんな」
「ば、馬鹿者!出来るものならしておるわ!女の身では無理だといっておろう、この、痴れ者がッ!!」
ばさんと紙の束でひっぱたかれた。飛び散った書類を侍従たちが拾い集めている。
「うへへへ、ちょーいてえ。あんたもタイタスってしってるだろ。こええ顔したジイさんがいろいろ言ってた
クソヤローだけどさあ、そいつの国には何人も女の王様がいたんだぞ?大昔あったことがどうして今で
きねえと思うのさ。ほんとにそのほうがいいってんなら、みんな手伝ってくれるってもんよ。な!」
にこやかに女たちに笑いかけた。侍従は思わず釣られて微笑み返す。
「き、きさ、貴様が思うほど容易い事ではない……ッ」
再び書き損じた紙をぶん投げ背を向ける。
「そうかい?おれはお前がねえちゃんをだいすきなんだなってわかったぞ?な!」
侍従たちも背中に向かって恭しく無言で同意しているが、これで伝わるのだろうか。
「雪になる前に帰るがよい」
「あいよー。じゃあな、お前ら。ここらのふゆはさむいぞ。カゼひくなよ」
「おい貴様、だからせめて扉から退出せよと」
「なんでさ、カムールはおれがどっからでいりしようが四の五の言わなかったのに」
襟首を離してもらえないので諦めて床へ降りる。
「全く……本当に貴様はヤツの生前から出入りしていたのか?」
「は、幾度かこの者は城の者たちを地下牢から助け出そうとしていた様子です」
「その際のやり取りは、古くから付き合いがあったように見受けられました」
「ほう……」
「なあ、ところでさ。なんでお前らがカムールをヤっちまったことになってんの?」
「それはこちらが聞きたい事だ。到着した時点で既に血の海になっていたのだからな。……テオルめ。
素行でも咎め立てられて、邪魔になって暗殺でもしようと企てたのだろう。彼奴はそうした下種な男だ」
「それまじで言ってんのかよ、うひゃひゃひゃ!すげえなあ、よくわかったわあんた。おれ見直したよ」
「なんだと」
「公子はおれに殺せって言ったんだ。でもおれはカムールに恩ぎがあるからな。たすけてやりたかった
んだけどダメだった。うまくはいかねえもんだな。もうちょっとあんたらが早く来てくれてりゃ、ちがったか
もしれないけど、まあ……こればっかはしかたがねえ。死んだもんは、かえってこないよな」
ため息をついてうなだれた。普段やたら陽気な子どもが急にしょげたので、周囲の者は少々驚いている。
「にげろって言ったんだぜ、おれらなんかに。いっしょにヤられるとこだったのに、にがしてくれたんだよ。
おればかだよな。カムールのおっさんと、でぶのゼペックと、おれとあんちゃんと四人でやればあいつに
勝てるかと思ったんだよ。でもまけたぜ。ちょ〜つよいんだな、テオルって。おれ知らなかったぜ。すげー
ま法とかつかいやがんの。やってらんねえわ」
22215 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/16(水) 04:42:46.38 ID:z0ePOArs
「あの男がか?あり得ぬ」
「それはどのような術でしたか」
開いていた戸口のところに老神官が立っている。
「知りたいのかい、じいさん」
「教えていただけると助かります」
「いいよ。こんなふうに剣をうごかしてたな。そうすると、どっからかいやなニオイのするくろいカゲがでて
くるんだよ。体がつめたくなって、うごけなくなった。一回くらいで死ぬってことはねえけど、なんどもくらえ
ば死ぬんじゃねえかな。ダチ公がにたような術つかうんだぜ。死しゃのしょって本にのってたんだってさ。
ヤミのまじゅつだってよ、うひゃひゃ!ちょーかっけえ」
「死者の書……そんなものが……。ヴァン殿、それは禁術です。大変危険なものだ。貴殿のご友人にも
使わないよう言っておあげなさい。やはり公子は既に始祖帝の力を手に入れているのです。確証がもて
ました。これは恐ろしい事です。すぐにも身柄を押さえねば取り返しがつかなくなりましょう」
「あんたらだいじょうぶかよ」
「なに?」
「うへへへへ。おれみたいなクソガキのいうこと真にうけたりしてよ。いいのかよ、すこしはうたがえよ」
「虚言を申したと抜かすか」
「ほんとのことだと思うのかい?」
「貴様には嘘を申さねばならぬ謂れはなかろう」
「うひゃひゃ!あんたイイヤツなんだろうな。おれすきだぜ」
意味が分からんという顔で睨んでいたが、急に壁際まで飛びのいた。ちょっと怖い。
「だってよ、おべっか使ってとりいって、そっちでよろしくやろうとおもってるだけかも知れねえだろ、な!」
「元より信用などしておらぬわ、自惚れるな!いいだろう、見ていろバルスムス。必ずこの手で奴を亡き
者としてくれるわ、おい貴様。もし貴様が先んじて彼奴目を捕えることがあれば我が下まで連れて参れ。
たっぷりと褒賞をくれてやろう。なんならシーウァに家族ともども懇ろに暮らせるように取り計らってやろう。
よいな?首から下には興味ない。そのつもりでおれ。あのような御しがたい穢れた口を利く舌はよお〜く
熱した焼き鏝で引き抜いてくれる!!!」
猛烈に怒り狂って暴れている。被害がでないように素早く立ち回る侍従の中で、一人が振り返った。
「内親王殿下は御大将の首のみをご所望です」
「この人なんていってんの?」
「……首を切ってかしらだけにして持ってくるように、といっているのです」
「まじかよ……。ちょーやべえな。なに言ったんだよあのヒゲオヤジ」
「それは、聞かぬほうがよい事かと」
「きいちゃいねえしな。……よくまあ、こんだけおこらすもんだよ」

「言うに事欠いて私を絶世の美女などとたばかりおって!!!!!!あの髭!!!!髭が!!!!」

「なんだよ、あんたすげえび人だろ」
「地上最も美しいのは姉上であろうが!!!!」
「知るかよ。あったことねえのに」
「会えばわかる!!!」
棚をぶっ叩いて床板まで貫通させた。器用に破片をかわした少年は逃げる準備も万端、気楽なものだ。
「そうかよ、すげえな」
「それをあんのひょっとこ……私のほうが……わたしの……うぐぐぐぐ」

「ちょーやべえ、にげろ」
居合わせた侍従たちがいっせいに身を硬くした。

「姉上を侮辱する者は、何人たりとも決して許さぬわ!!!!」

シスコンだった。
22315 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/16(水) 04:44:12.29 ID:z0ePOArs
おわり。ソースはおねいさんについて発言したから
みんながんばれ
224名無しさん@ピンキー:2011/03/16(水) 04:52:17.00 ID:OqSkHN40
>5 ◆E9zKH0kZMc
無事でなにより

乙、パーシャかわいいな
225名無しさん@ピンキー:2011/03/16(水) 11:04:59.81 ID:L37onhSP
無事の報告とうp乙です

途中まで固唾を呑んでたのにワロタwwwありがとうwww
226名無しさん@ピンキー:2011/03/17(木) 23:17:11.26 ID:mHPs2VhE
まとめサイトはどうやって使用すればよいのですか?

キーワードを入力しないと落とせないみたいです。
227名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 03:39:02.22 ID:Tco2kWN2
>>226
パスはruina
228名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 07:36:20.88 ID:T49hkZzO
いきなりそのまま書いちゃだめだろ
229名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 07:51:47.83 ID:VHm0/ucj
>>227
ありがとうございました。
230名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 22:15:09.64 ID:igqY4Pqc
それにしても、一フリゲのエロパロとは思えない賑わいだよな
何だかんだで七世だし
入れ替えあるとは言え歴代の職人さん多いし
231名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 20:56:34.90 ID:SuySw9yr
サイト立ち上げている人も多いよね
プレイヤーの数だけいろんな性格の主人公がいて
妄想が広がること広がること
232名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 21:33:38.99 ID:SP7000J+
233名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 03:09:55.36 ID:YqxP9qCL
>>230
原作の面白さがそもそも化け物すぎる
世界観といいキャラ立ちといい、素人の作品と思えない
枯草さんってインタビュー公開されても結局謎の人のままだわ
234名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 19:38:03.48 ID:qoLgWDj3
並外れて面白いのは確かだけど、
あれは逆に素人ならではの面白さだと思う
235名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 17:38:19.53 ID:6yeK5arC
色々詳細な設定もあるけど
全てを描ききらずにプレイヤーの想像力に任せるところも
実に往年のゲームブック的だよな
236名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 18:42:14.68 ID:MFp9tZpx
エンダが卵を産むというシチュだけで十分いけます
237名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 12:48:00.51 ID:K1g6ggUG
何でもアリなこのスレでも、エンダのエロはあまり見た覚えがないな
人気がないわけでもないとは思うんだが
ガチロリ竜姦はノーサンキューというところかね
238名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 19:25:06.73 ID:BTOkIc+e
エンダは可愛いけど劣情を催すキャラじゃないんだよな。
健全でマスコットやペットとしてベタベタに甘やかすか竜王様モードで叱られたい。
239名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 19:55:41.32 ID:cWVGh+SL
オタといえばロリみたいに思われてるけど、
実際にはガチロリってどんなジャンルでも極少数だよ
そういう意味でエンダのエロありSSは
ノーサンキューどころかむしろ豊作だと思うんだけどなあ
240名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 23:35:59.76 ID:w1k9FNr/
姿が人間だからなあ。竜グラがあればいいのに。
241名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 05:52:44.06 ID:dg8XZjOG
熟女ものもないな。アイビアなんか女神様からねとったほどの美女なんだし
息子(子孫)で夫の生き写しと再会してなにも起こらないなんて、いや起こしてください
242名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 05:54:34.27 ID:dg8XZjOG
早朝からなに言ってるんだ俺……節電してこよう
243 ◆P14Sjd8nT6T6 :2011/03/24(木) 15:19:56.98 ID:usN1eUjb

 幾千年の間、私を燃やし続けてきた、白い炎。


 血族を火にかけたことを後悔したことはなかった。
 父のはかりごとは私を孤独にし、失意を重ねさせた。
 ああしなければ、私は永久に「ヴァラメアの王の娘」であっただろう。

 私が愛しかったのだろうと、言った人が居た。
 けれど私は信じていない。父が愛したのは私の母たる魔女。
 私を外に出さなかったのは、私が生まれつきの魔女だったから。
 ――だから甘やかした。私の不興を買わぬよう。
 ――だから閉じ込めた。私が誰も愛さぬよう。

 私は失意の中で、待っていた。いつか、父の思惑を超える人が現れることを。
 けれどその失意は澱のように、私をよりいっそう孤独にした。
 そんな折に、出会ったのだ。
 私の魔女としての天性が告げる、あらゆる奇跡に愛される一方で、それらを
裏切り踏みつけてでも世界に根付こうとする、もう一つの宇宙樹。
 それが私に微笑みかけた。

 父は身分なき白子と見るや難題を突きつけた。愚かだ。とても愚かだ。
 この時、私は悟った。私の失意と孤独から抜け出すのは、私自身がこの檻を、
父を裏切らなくてはならない。あらゆるすべをもって。そしてそれが出来るのは
今この時、このひとだけなのだと。

 手を貸す魔法はほんのささやかで良かった。
 あの人は全てを持っていたわけではなかった。けれど、ひとつを与えられれば
百を生み出すことの出来る才覚があった。宇宙樹のように。

『いつかお前も火で焼かれて死ぬだろう!』

 父の呪詛に、私はただ、今更気づいたのかと思った。
 私はとうに炎に焼かれている。あらゆる神秘を手に入れ、裏切り、焼き殺した
白い炎。兄を殺し、父を殺した私。永遠に、ヴァラメアの王女ではなくなった。
後悔していませんと囁き、賜った衣を握り締めた。
 私の思考を焼くこの炎が、消えるとしたなら、それは。
 父の呪詛が言葉を結び物語となり、いつか誰かが私を焼き殺す日。
 いつかはそのような日が来る。それはアーガデウムが降りてくる兆し。
 もう一度出会うことが出来る日まで、私は悪夢の種をまきつづけると約束した。
244 ◆P14Sjd8nT6T6 :2011/03/24(木) 15:23:45.46 ID:usN1eUjb

 ――そして今、私は炎に包まれ、発芽した闇と共に刈られようとしている。
 私の身を焦がすこの炎を生み出した、あのひとと同じ白い髪と、炎の輝きを映す
血の色そのままの瞳。感情の読めない目に、宇宙樹のように強靭な魂を秘めて。
 賜った衣が燃えていく。幾千年燃え続けてきた『私』が、灰燼の中でただの娘に
戻っていくのを感じる。この身はもうすぐ、本当に終わる。
 それまでの短い間、私は見つめている。
 抱きしめられることも、口づけられることも、もうない。
 愛をささやかれたのは遠い昔。あのひとは迎えに来ることはない。私がもう一度
あのひとの為に魔法をかけて、そしてあのひとは甦るから。
 女神のように、私も。あの方の為に、あなたを産み落とす。
 女神があのひとを愛したように、私もあのひとを愛した証を残す。

 衣が燃え尽きる寸前、黒髪の小柄な少女の剣が胸を貫く。
 女神とも魔女とも違う、女の目をした少女が、私にとどめを刺す。
 たまらなく皮肉で愉快なことのような気がして、私はもう一度、赤い目を見る。

 衣が、与えられた意思で燃え上がる。そして私は、私が終わる事を知る。
 赤い目が驚愕でわずかに見開かれるのを、私は見た。
 ――予言は成就した。役目は果たされた。私は、あなたの呪いに抱かれる。

 恋をしたばかりの娘のように、私は微笑んでいた。
 あなたは私の愛の証明。
 生まれてから求めてやまなかった、私の愛情。
 抱きしめる代わりに、最期の時まで、あなたを愛する。
 アーガデウムですら、共に夢を見られないとしても。
245 ◆P14Sjd8nT6T6 :2011/03/24(木) 15:24:24.23 ID:usN1eUjb

「……アベリオン様」
 戸惑うようなフランの声に、かすかに頷きを返す。
 ――表情を見せぬフードの奥で、魔女は確かに笑っていた気がした。
 何か策があるのか、気を張り詰めて備えていたのだが――
「ああ、本当に滅びたらしい。夜種の消え方とは、少し違ったが。火傷は?」
「大丈夫です。ありません」
 フランの刃に貫かれた瞬間、魔女が炎に包まれた。
 彼女は持ち前の機敏さですぐに距離を取ったが、魔女はそのまま姿を消した。
 逃げようとしているのかと思ったが、魔女はただ満足そうに微笑んでいた。
 役目は終わったと言うように。
「……何だか気に食わないが」
 あの眼差しは、いつか現れた鳥と似ていた。
 あの鳥よりもずっと、幸せそうな眼差しだった。
 それが、やけに癪に障る。
 これだけのことをしておいてという義憤もなくはないが、もっと根本的な所で
引っかかりを覚える。あの意味ありげな笑みは何だったのか。唇だけを動かして
何を言おうとしていたのか。

「独り仔だなんて、今更何を」

 夜の中で歌った怪鳥と、魔女が、こちらへ来いと手招きしている気がした。
 ここがお前の揺り籠だと、慈悲深く囁いている気がした。
 深く考えれば恐ろしい想像に繋がりそうで、それらを焼き払った。

 部屋に残る灰燼は、何も伝えなかった。

246 ◆P14Sjd8nT6T6 :2011/03/24(木) 15:25:41.67 ID:usN1eUjb
思いつきでカカッと書いたので荒っぽい文章になってしまった。
最初はもっとねっとりな予定だったのですが、何だかヤンデレ風味に
なりました。もっとねっとりさせたかった。
247名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 16:02:58.66 ID:dg8XZjOG
起こったあああああああああああああああああああああああああああ
ありがとおおおおおおおおおおおおおおいいよおおおおおおおおおおおおおおおお
せつないアイビアせつないGJ!!◆P14Sjd8nT6T6GJ!!!!
248名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 18:21:45.80 ID:q5Fadlqq
なんという仕事の速さ・・・
>>242が発電してこように見えたとかアホなこと考えてる場合じゃなかったぜ
純愛やのう
249名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 23:13:38.56 ID:vQ6+axSO
>>243
GJ
切なくていいね
次はエロあり頼む!
25015 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:34:18.03 ID:qA+6a05N
ヴァンの7000ちょっとで※ま属性※、ご不快の際は
とりあぼんでご協力下さい
25115 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:34:50.24 ID:qA+6a05N
「へ〜え、ほんとだな。よく気づいたなお前、すげえよ」

下着姿でくつろぐ青年は、寝台の上で小石をつまんでランタンの光にかざして見た。詳しくはないけれど、ふつうの宝石と
は違うと思う。根拠とか言われても困るが、どことなくよくない気配を宿しているのは間違いない。最近この手の本で勉強
している弟分によれば、成分は地上にあるものと違うのだそうで、かなり特殊な構成なのだそうだ。……と言っているよう
に推測したが、ヴァンのあの口調なのでよくは判らない。宝石ならネルがよく知っているだろうが、魔法に関わりがありそ
うなこっちの石は、多分シーフォンのほうが詳しいだろう。でもあれはあれで余計判りにくいから勘弁してください。

寝そべって見上げると、窓の向こうには抜けるような青空が広がっていた。今日もいい天気だ。通算……十九日目の晴れ、
ヴァン調べ。盥の湯に浸かっている少年はでれでれの笑顔で身をよじっている。褒められたのが堪らなく嬉しいのだろう、
意味の分からない事を口走っている。ここら辺はやはり、まだこいつ大丈夫なのかなと思わせる要因だ。あれ以来秋晴れ
が続いており、過ごしやすいのは有難いのだが、こいつとしては例の“節約”が叶わず、苦境にあると言っていい。何度
か河に落ちたりして色々と大変なことになったので、仕方なく表の井戸水を汲んで沸かした。ただし燃料はないので、適
当に調達してきたチョコパイを食わせながら魔法で火を起こしたのだ。湯を沸かしたいという、たったそれだけのために魔
術書を盗み出してくるわ、自力で読んでしまうわ、魔法具は作るわ……とまあここまでならやりかねないと思っていたが、
雰囲気を出したいとかで、へんな衣まで作り出したのには笑った。
「おれ用だと二まいつくれるぜ。せがひくいとおとくだよな!……おとくなんだよ ちきしょう」
実際のところ、遺跡を掘り当ててからというもの、シャレにならないほどあらゆるモノが高くなっているから、板チョコ一枚あ
ればいいうのは画期的だった。貧乏暮らしが長い(いや、ヴァンに関しては生まれてこの方終始ど貧乏だった)から、節約
のために骨身を押しまず体を張るところがある。それでも、ネルに空き地を丸焼きにされるだとか、エンダに盥を蒸発させ
られるだとか、祭りがどうとか傭兵が調子に乗ってえらいことになったり、最強呪文で下着もろとも爆発してけつが燃えた
りと、涙なくしては語れない苦難の道のりがあったのは、また別のお話……。
「赤と黄色だっけ?」
「うん、よこのトコとたてにあわすとぴたっといくばしょがあるんだよな。あおいのとき色のやつもだし、ミドリのとあかいやつ
もくっつくとこがあるんだ。だからおれは、もともと一つにしてつかうつもりで作ってたか、一つのかたまりだったんじゃねえ
かとニラんだワケよ」
「そうかよ。湯が冷めちまう前に頭洗っておけ」
「あいよー」
「このとこ、ずっと弄り回してるなとは思ってたけどよ。大したもんだな」
「そうでもねえよ。だってな、いくらやってもうまく一つにくみ合わさらねえの。なんでだろ」
「……さあな。てか、そもそもこれで全部なのか?」
その瞬間がばっと立ち上がって盛大に湯がこぼれた。

「石は五つあった!!!!」

「いや、五つとはかぎらねえだろ……。なんだよ急に」
「ちょ〜すげえ、もうなん日もかんがえてたのに、ちょ〜すげえ。ちょ〜頭いい。さっすがおれのあんちゃんはすげえや!!」
「ほれはしゃぐな、盥ひっくり返すぞ」
「あんちゃんはちょ〜切れる、あんちゃんはちょ〜かっけえ、あんちゃんはちょ〜つええ、あんちゃんあんちゃんあんちゃん」
「わかったわかった、さっさと洗って寝ろ」
25215 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:35:27.99 ID:qA+6a05N
「あいよー」
もう待ちくたびれた。手持ち無沙汰に石を押しのけ、ヴァンの本を手に取った。背表紙はもう取れてなくなっているが、つた
ない文字で大きく「れんきんじゅつ」と書いた紙が貼り付けてある。表紙にはごちゃごちゃとへんな落書きがしてあって、踏
んづけたかかじられたかしたような跡があるし、全体的には竈にくべたような按配になっていて、触った手もちょっと消し炭
のような匂いがしている。恐る恐るページを開くと、一面に流麗な筆致の振り仮名が書き込まれていて、ネルが様々な注
意書きを、子供に読ませるような文章でつけていた。これもまた拾ってきたものでも金になると知ったヴァンが、どこからか
持ってきた本だ。暇な仲間を捕まえては音読してもらいながら、雑貨作りのような事を始めたのは知っていたが、神殿の
ばあさん連中やネルの母親まで巻き込んでいたと聞かされたのはつい先日の事だった。仲間が調達してきた代物がヴァ
ンお手製と判った時は心底ぶったまげた。それこそ、普通に店で売っているのと遜色ない水準だったのだから。
「お前が器用なのは知ってたけど、まさか金取れるようになるなんて思いもよらなかったな」
「みんな手つだってくれるんだぜ?タダで。いいだろ」
「へっ、やるじゃねえかよ」
ネルは気前がいい女だし、付き合いも長いからあれこれ教えてくれるのだろうけれど、シーフォンのほうは意外だった。自
分で先に読んでおいて予習した上でヴァンにも教えてやっていたらしい、全力で否定しながら雷を打ってくるから、皆知ら
ん振りしているが。あらゆる顔見知りに迷惑をかけているのだけは確かだ。ヴァンは得意げに耳の後ろを洗っている。
「これなら……お前は堅気で食っていけるかもしれないな」
機嫌よく喋っているのを聞き流しつつ、うつらうつらし始めたころ、どこか遠くでみしみしいう音が聞こえてきて、薄い戸を叩
かれた。開けても碌なことがないと判っていたが、もとから鍵もしない上ヴァンが元気良く返事までしてしまったので、諦め
て石を鞄のポケットに押し込み、サンダルだけ履く。
「よっ、お前ら生きてた?おっ、ヴァンは風呂はいってるとこ?風流だねえ、キャハハ!」
「あんたにゃむりだろうな。うひゃひゃひゃひゃ!ケツがでかすぎてタライにはいらねえ」
「失礼だなあ、こう見えても僕は着やせするタイプよ?」
少年は泡を撒き散らして爆笑している。以前殺されかけたとは思えないはしゃぎっぷりでからかっている中年を、うんざり
しながら呼び止めた。
「……ピンガーさん。あんた、何しに来たんだ」
「あれ?歓迎されてない?」
「見てのとおりオトリコミチュウってやつだよ、ケツまくってかえんな」
「そういう訳にはいかないんだな、ウリュウちゃん、出番だよ。やっちゃって!」
「なんだ?」
硬い靴底の軽いステップとともに外套をまとった長髪の人物が現れた。裾からは凶悪な刃がちらついている……。
「……ゆらり……」
「なんだよ、ほとんどハダカじゃねえか。お前も金にこまってんの?」
「おいヴァン、服買うにも困るとかオレらだけだから、って言わせんな馬鹿」
「まじで?」
「……うん……」
「そうかよ、じゃあオシャレってやつか」
頷いているのでそうなのだろう。個人的にはゼスといい勝負だと思う。
「このウリュウちゃんはね、新進気鋭、現在売り出し中の始末屋さんだ。かの魔王殺しの英雄の剣技を継承してるって触
れ込みだから、凄いよね」
横目で見るとヴァンは真顔で鼻をほじっている。オレとしても心底どうでもいい。
「……なに?この微妙な反応」
「そんなもん、ひょろいじいさんだってつかってるだろ、べつに大したことないんじゃねえの。な!」
「何言ってんだ。アレで結構強いだろ、確かによぼよぼのジジイだけどな」
「えっ えっ」
25315 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:36:01.38 ID:qA+6a05N
「としよりと女がつかってるってきかされて、ほほう、これが世に名だかいえーゆー剣ぎ!とかいうヤツいんのかよ。な!」
「……人にもよるんじゃねえの」
いくら思い描いても失敗料理だとか、ぱんつだとか、釣り指南だとか、下ネタとか、鼻ちょうちんを作って居眠りするだとか
(一応言っておくが別にボケたのではない。ヴァンのお守で消耗したせいだ)、英雄とかいうヤツから対極にある姿しか浮
んでこない。たまぁ〜にそれらしい技を披露しているような気もするけれど。……そもそも英雄ってなんだ。尊大な貴族が
城館の手すりに寄りかかって偉そうに講釈を垂れていたのを思い出すが、困惑した女を見るうち、説明するのも面倒にな
ってため息だけが出た。
「だいたい、ラバンはウデかたっぽしかねえじゃん。な!」
「その割には普通に使ってるわな。てことは、まあ……その程度なんじゃねえか?」
「ウッソだぁ〜、だってウリュウちゃんこの技を使えるのは私だけとかいったじゃん!なんで他に使ってる奴がいる訳?!」
蒼白な顔の刺客は明らかに不快な色を浮かべてピンガーを睨みつけている。
「そこでおれらがフカしてるだけとかおもわねえってんだから、ひでえヤツだよな、お前ってさ」
「えっ、そうなの?!…………これって もしかして、罠?」
「あれ?おれのタオルしらね?」
「そこの棚……」
「ありがとよ。よう、こういうヤツだぞ?もしおれが、お前やとうからピンガーぶっころしてつったらどうすんの」
「フフ…………面白いね」
いい笑顔で見合っていた二人がゆっくりでぶを見た。会心の美笑なのは何故だろう。
「まって、待って待って待って、今は僕の商会と専属契約してる事は忘れないでよね!!いい!?いい?!ねえ!!!」
「お前、何のために汚れ仕事をさせられてんだ?弱みでも握られてるのかよ」
「させられてるってか、テメエで首つっこんでるだけだろどうせ。な!」
「お前、物分りいいね」
盥の中に立ち上がって体を拭きながらウリュウの顔をまじまじと見る。
「そうかよ。そんなこというヤツはじめてみるな。……あーあ、おれももっとつよそうに見えねえかな〜」
ぼろきれでびたびた体をたたきながら、窓に向かってポーズを決めているが、ガラスには弱々しいへなちょこが写っている
だけだ。体が小さいのをずっと気にしている。どうすれば背が伸びるのかとか男らしくなれるかとか、方々で聞いて回って
いるが、今のところ効果は無いようだ。被害者の顔をつい順に思い浮かべてしまう。最初がメロダーク、次がゼスで、ギュ
スタール。古代都市ではかなりの人数に聞いて回っていたと思う。真打は大廃墟で見かけた大男だった。

『……汝がこの河に落としたのは、おこめく稚児か。おさおさしき稚児か』

ずぶぬれのヴァンの足首を掴んで差し出してきたのは、確か梅雨のころだった。うっかり目を離した隙に河に飛び込んで
しまってもうどうしようかと半べそになった時、颯爽と暗がりからすっ飛びだしてきて粗方のバケモノを斬り捨ててしまった
あの二刀流の剣士。あれにはオレも惚れ惚れした。多分、ヤツこそ最もしつこく聞かれたに違いない。どうやって体を鍛え
たのか、何を食べて背が大きくなったのかと。
「お、おい……なんて言ってんだこいつ」
「ヴァンてアホかって聞いてんだよ」
「ああ……成程な。お、オレらが落としたのは底抜けのばかっす」
『拾い賃十二銭』
「あんちゃ〜ん……このおっさんすっげえよ。すげえむちむち。あとなんかくっせえ。お香みたいなにおい。ちょ〜くっせえ」
さかさまになったままクネクネと芋虫のように身もだえしている。片腕で二本担いでいる得物はどう見ても両手持ちにしか
見えない。あんなものを息も乱さず使いこなす二刀流なんてものが許されるのか?ヴァンは顔を近づけては衣を嗅いでいる。
25415 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:36:38.18 ID:qA+6a05N
「くっせえ。なあよう、どうやって体きたえてんの?すげえにおいなのになんでこんなのきてんだ?これでつよくなれるのか?」
「知るかよ、てかあんま嗅ぐな。おいシーフォン、身代金出せ」
「そんなに持ってねえよ。大体僕らは正直に答えたんだから、グレードアップしたもん出してよこすのが筋だろ。それを金取
るって、どんな守銭奴かっての。笑わせるね〜。あの泉のピンボケだって、それなりの物よこしたってのに。練り物とかな」
「なああんた、いつからそんなにでかくなったの?ガキのころはちゃんとちいさかった?」
「チクワのどこが悪いんだよ」
「いい出汁がでるんじゃねーのwwwwwwww」
「ほっとけ!!!」
思わずひっぱたいてしまった、チクワで。
「ハダ身はなさずもってると、いつまでもくさんねえんだってよ。おれらもう半月ももちあるいてるんだぜ。すげえだろ。なんせ
ま法のチクワだからな。でもよ、くさらねえってだけだから、くえねえんだけどね」
「食いものの癖に食えないとか、存在意義が根底から覆されてるよな。ま、なんにせよこれだけは間違いない。アンタ、碌
な死にかたしないね」
「いいなあ〜。おれももっとでかくなりてえなあ。ふだんどんなもん食ってんの?やっぱあんこくりょうりか?」
「そもそもこんなクソガキなんか、金貰ったって取り返したくないね。誰のせいで迷子になったと思ってるんだよ、え?お前
ら馬鹿兄弟に付き合わされたせいで、僕様のような偉大な妖術師様がこんなしみったれ廃墟に閉じ込められてるんだぞ?
そんなヤツ誰がびた一文だって出すか!!!とっととどっかつれてけやこのクソッたれヤロウ!!」
「なあなあ、気をつけてることとかないのかよ。どうやって背がたかくなったの」
「テんメエ〜!黙って聞いてりゃ人の弟分捕まえてなんてこといいやがるコラ!毎日毎日ぐちゃぐちゃグチャグチャ文句言
いやがって、この頭でっかちのへなちょこ妖術師が!!奥に入ろうって誘ったのはお前の方だろうが忘れたか青二才!!」
杖と鞭で殴り合っている。足首を掴んでぶら下げている渡し守は小さなため息をついたが、子供のほうは変わらず快調だ。
「なあよ、あんたさ。もしかしておれら、前りゅうが死んでたところでもあったろ?れいの一つも言おうとおもったのに、きゅう
にいなくなっちまうんだもんなあ。ったく、やぼなやつだぜ」
『礼には及ばぬ』
「フネおいてっちゃったけど、かえりの足はどうしたんだよ。あそこおよいだのか?」
『…………いや』
「てかふだんなにしてる人?ここらへんにすんでんの?おれらいがいネコしかいねえけど、わたし守ってもうかるのか?」
『………………御子』
「おれらは外からきたんだぜ。けどまい子なんだ。やべえよな。くいものとかあんまねえし、こいつらしょっちゅうけんかすん
だよ。まあ今もだけどさ。もしこのへんにすんでるなら、どっか外にでられるば所おしえてくれねえ?」
『この先……あなたなる山、こなたなる門。どちらでも』
「そうかよ。わかんねえよ。もしかして、おれの言ってるコトもちゃんとつたわってねえのかな。まいったぜ……」
しょんぼりしている。と、取っ組み合っていた二人が勢いよく河に落ちた。船上から目で追っていた二人は顔を見合わせた
後、投網を使って救い出したのも、また別のお話。あの時は結局、銀貨四枚ふんだくられた。絶対に許さねえとは妖術師
の談である。
25515 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:37:20.01 ID:qA+6a05N

「なんでおれってよわそうなんだろうな。やっぱしろいからか?」

「知るかよっ、今はそんなのどうでもいいだろ!!1」
長いマントの下から鞘のない太刀を見せ付けている。あれは多分、雪山の寺院で猫が売ってたのと同じ刀だ、突くのでも
断つのでもなく、引いて切り裂く異国の刃物、空の巨人の命取りになったあの代物だ。
「……フフ。今の時代、強敵と殺しあうにはこういう仕事をするのが一番いい。命を賭けた生死の狭間にこそ、本当の自由
がある……」
「おれももっと色がくろけりゃなあ……」
「私はそれが見たいだけ。さあ、自由を見せて!」
「あそうだ、ちん毛くろくなったらもっとつよそうにみえるんじゃね?」
一瞬卒倒しかけた。至近距離で刃物と殺気を突きつけられている人間のすることではない。
「ウリュウちゃんの話きいてないし。こいつってほんとフリーダムだよね……」
「フリーダムってなに」
「自由ってこと。キャハハ!ヴァンはもう、生死の狭間関係なくめちゃくちゃ自由だね!」
「そりゃお前、おれはいつでもジユウだもんよ。な!」
な!とかいってウリュウに同意を求めている。絶対まずい。言葉が口をついて出た。
「やべっ」
弟も同じく叫んだ。凄まじい殺気に戦慄する。

「馬鹿にしてんじゃねえぞこのビチグソどもが!!!!!!」

「――とっとと逃げろ、ヴァン!」
体当たりするのとウリュウがぶち切れ家具を切り刻むのとほぼ同時。ヴァンはサイドトライセップスのまま下の通りへ落ち
ていった。猿のような歓声が響いた直後、自分も飛び出そうとした所に一太刀喰らって石畳に叩きつけられた。死ぬほど
痛い。下敷きになった癖にヴァンはもう走り出している。
「待てよヴァン!!」
「おらおらはしるのおせえぞ」
「もっと労われ!」
反響する怒鳴り声は既に遠ざかっていった。目をぎらつかせて窓から見下ろしているものがいる……。
「……殺し損ねた。あいつら、活きがいい」
全裸と下着姿の馬鹿兄弟は近所の住人のはやし立てる声と犬の鳴き声から脱兎の如くかけだし、もう殆ど見えなくなっ
ている。裸足のくせにとんでもない逃げ足だ……。けれどこうした騒動は何時もの事なのか住人の中にこちらを見上げる
ものはいない。逃した魚は大きそうだ。直感がそう言っている。あれは、あの赤い目をした子供は同業者で間違いない。
無意味な言行を乱発することで周囲の注意を逸らしておきながら、さりげなく相手の急所を観察している。あの軽そうな
頭の中で何度ピンガーは死んだろう。ゾクゾクしてくる。あの腰抜けさえ邪魔をしなければ面白い戦いが出来たのに……。

「これだから殺し合いは面白い……」
25615 ◆E9zKH0kZMc :2011/03/31(木) 19:38:15.69 ID:qA+6a05N
終わり、いきなり戦後ですね
257名無しさん@ピンキー:2011/04/01(金) 22:58:01.09 ID:/1beVRId
おつです
タイタスさんもこのヴァンには振り回されそうだなw
258名無しさん@ピンキー:2011/04/07(木) 20:11:15.93 ID:tHTCpdLA
盗賊ルートでチュナ好感度MAXだけどキレハと駆け落ちエンド
主人公が突然いなくなってしまったためキレハに激しい憎悪を抱くチュナ
チュナがヤンデレに覚醒して主人公を追い詰め性的に襲うシナリオとか

騎士として跡取り問題が発生
婚約者が現れてどうしようとキレハに相談する主人公
キレハは主人公のことが密かに大好きで大好きで仕方なかったので婚約者に貞操をみすみす取られる位なら私が主人公を汚してやる!ってな感じで性的な意味で主人公を喰う


こんなシナリオ誰か書いてください><
259名無しさん@ピンキー:2011/04/07(木) 21:07:54.97 ID:ddjXPtVo
>>258
さあeraRuinaかeraホルム用の口上を書く作業に戻るんだ
260名無しさん@ピンキー:2011/04/07(木) 21:19:05.94 ID:JG/P8E8C
じゃあ俺は
キレハに好感度MAXのチュナと、チュナのことが密かに大好きで仕方ないキレハがラブラブイチャイチャする話が読みたい
261名無しさん@ピンキー:2011/04/07(木) 21:26:08.02 ID:oNxlUnL+
待てよおまえら
テレージャがキレハを襲っちゃうか、逆にキレハがテレージャを襲っちゃう
そんな話が読みたい俺のことも忘れないでくれ
262名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 06:59:44.56 ID:et+JMl2U
どこに潜んでたんだお前ら
263名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 09:54:48.48 ID:jZchkFFt
きっと天井にはりついて●ていたんだろう
264名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 11:19:29.59 ID:YcroLuHV
●ていたんじゃしょうがないな
265名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 17:53:48.14 ID:PAa5O5/w
じゃあ俺は逆恨みしたギュスターヴがウェンドリンをぐちょんぐちょんにする話が(ry
266名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 18:28:51.19 ID:jZchkFFt
ここへ来て新キャラが登場した。苗字はきっとモロー
267名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 18:43:29.01 ID:DW4CGU5W
鋼の十三世しか出てこないわ
268名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 20:52:45.62 ID:IEWY242R
  
269名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 21:21:37.35 ID:IEWY242R
270名無しさん@ピンキー:2011/04/08(金) 23:48:41.10 ID:l+QDYrbN
鋼の十三世は不能だから違うだろw
271名無しさん@ピンキー:2011/04/09(土) 00:00:54.58 ID:IEWY242R
              
272名無しさん@ピンキー:2011/04/09(土) 00:01:26.22 ID:IEWY242R
だあっだ
273名無しさん@ピンキー:2011/04/09(土) 00:19:06.55 ID:qyejvptd
           
274名無しさん@ピンキー:2011/04/09(土) 08:58:01.11 ID:iLHy9zhh
名有りキャラで書かれてないのってどの辺だろうな
七世・八世とアイラ・ミランダとターニャちゃんぐらい?
275名無しさん@ピンキー:2011/04/09(土) 21:38:47.24 ID:HgNgVI98
八世は確か書かれてたはず。
276名無しさん@ピンキー:2011/04/10(日) 01:07:33.16 ID:/dmtWq15
あの有様の七世は書きようがないな。
一体どういう経緯でああなったのやら……
277題名:見ていたよ:2011/04/12(火) 21:44:21.00 ID:vn22+jDy
今日初めてこのスレに来たけど、余震とかのどさくさに紛れて投稿しちゃお


踊り続けた。踊り続けた。気持ちを込めて。妖艶に。
幼馴染の、ずっと好きだった彼の視線を我が身に浴びながら。

今日、なんとも言えない不安を持ちつつも、古びた宮殿へと足を踏み入れた。
「お、俺さ…こういうの苦手なんだよ…」
「何弱気なことを言っているんだね。アイリ君に笑われるよ?」
パリスが怖がりなのは昔からだった。デネロスさんから幽霊屋敷の話を
聞いたときも、私とネルの二人で彼の震える肩を抱きしめていたものだ。
でも今はあの頃とは違う。何故ならここには…出るからだ。
 「やれやれ、幽霊などと…ん?ここは…書庫だね!」
どうやら悪い癖のスイッチが入ってしまったらしい。埃に塗れた本を華奢な手で
二、三度払うと早速別世界へ行ってしまった。
 「私はこの書庫で少し調べ物をするよ。この宮殿について何か分かるかもしれない」

 「はぁ、大した肝だよなぁ、こんな薄気味悪ぃとこで単独行動なんてよ」
彼も彼で、先ほどから愚痴ばかり言っている。
その辺に転がる骸骨を道端の小石と変わらぬように蹴り飛ばして。
 「あれ、なんか音がするぜ…ど、どうするよアイリ?」
一度来た道を引き返し、厨房の前を少し通り過ぎたところ。かすかに『歌』が聞こえてきた。
しかし聞いたことの無い、このような場所には不似合いな陽気な歌だ。
 「行ってみるか?…な、なんならテレージャを…あっ、おい!」
息を殺して壁に擦り寄り、少しだけ顔を出して音のする方を見てみた。
瓦礫のない大広間で踊る人々が見える。肺に溜めた息をゆっくり吐き出した瞬間、
"彼ら"の視線が私とパリスに注がれた。
その瞬間、不気味な微笑を浮かべながら雪崩のように私たちを取り囲み、
 「お、おい!離せよ!…アイリ!」
278題名:見ていたよ:2011/04/12(火) 21:44:58.35 ID:vn22+jDy
数人がパリスを羽交い絞めにして、手から武器を落とすと床に押さえつけた。
私はクリスナイフを抜く間もなく腕を掴まれ数人の男女に…弄ばれる。
担ぎ上げられ、腕を、脚を、髪を引っ張られ、服を破かれて、露になった胸を揉みしだかれた。
含みのある薄ら笑いや怒りに燃えた表情など、様々な顔に、人々に囲まれ。
 「や、やめろ!離せっつってんだよ!」
乾いた笑いや罵声がこだまする混沌とした広場で、冷たい床に顔を押し付けられながら、
パリスは私の名前を叫んでいた…しかしその声も、亡霊たちの声によって遮られいていく。
冷たい宮殿の壁のような感触が私の胸や内腿に触れる。
彼の名を叫びながら、私は涙を止めることが出来なかった。
やがてその冷たい感触が背中に広がった。
恐る恐る目を開けると、人だかりは私を囲むようにして距離をとっていた。
傍にあるのは一本の、時代錯誤も甚だしい鉄の柱。小太りの、ろくでもない笑みを浮かべた亡霊が一人、
私の前にやってくると、杖で私の脚と肩をつつき、鉄の柱を指差した。
踊れ、ということなのだろうか。この小太りが持つ杖が鉄の柱をカツカツと打つたび、
他の亡霊たちは品の無い笑い声を上げた。
嘲笑に満ちた視線から逃れようとパリスに目を向けると、互いの視線が合った。
唇の端から血を流し、苦痛に歪んだ表情を浮かべながらも、私を一直線に見つめている。
不思議だった。こんな辱めを受けながらも、彼と目を合わせていると、
とても温かい気持ちになれた。気が変になったのだろうか、こんな場所で、こんな状況で。
私は涙を拭い立ち上がると、胸を押さえる腕を解き、鉄柱を掴んだ。
冷たい手触りとは裏腹に多少のしなりを見せる柱に、私は体を委ね、足を絡め、
膝のストロークを使い、踊り始めた。彼の、好きな人の目だけを見つめて。
亡霊どもの下品な笑いなど無視して、時には瞳を潤ませ、時には何かをねだるように、
切なく、そして愛おしく、彼の目を見つめながら。
柱に両腕を絡めて深く腰を下ろし、いやらしく破れた腰布から私の秘部が顔を覗かせると、
亡霊たちは冷やかすような声をあげた。それでも私は、私達は目を合わせたまま。
もう私には貴方しか見えない。貴方はどうなの?私のことだけ、見てくれてる?
心配ばかりかけてる義妹、いつも明るい雑貨屋の幼馴染、そして私。
貴方の心の中に今いるのは誰?
279題名:見ていたよ:2011/04/12(火) 21:45:37.99 ID:vn22+jDy
 「おやおや、お取り込み中だったみたいだね…」
冷静な、それでいて深淵から這い上がってくるような憤怒を宿した声が、
すべての音を掻き消した。パリスの瞳から私の姿が消えた。そして私の瞳からも彼の姿が消えた。
 「この宮殿に住まう下郎諸氏は大層な御趣味をお持ちのようだ…が、少々おいたが過ぎたようだね」
すぅぅぅと大きく空気を吸い込むと、青筋を浮かべ、銀の剣を抜き放ったテレージャの瞳が亡霊たちを
ギラリと睨みつけた。この後に起きるであろう出来事を予想できた数人?の亡霊たちが彼女に背を向け、
慌てて大広間から逃げようとするが…当然それは許されなかった。
 「 ず っ と 見 て い た よ き み た ち い い い い い い い ! 」
空気が振動する。その衝撃で古びた宮殿の壁が揺れ、天井の方から石の欠片と埃が降ってきた。
彼女の声量に押し潰されるようにして、亡霊達は雲散霧消していった。あまりの恐ろしさに
顔を引きつらせ、歴史に名を残す画家が描いたような叫びの面持ちを浮かべ。

何事も無かったかのように冷静さを取り戻したテレージャが一息つく。
薄暗い、冷ややかでいて埃臭い空気を漂わせる大広間に私達だけが残った。
私は、気を取り直して彼に目を向けた。彼もまた私を見ていた。まじまじと。
変な様子に気がついて彼の視線を辿ると、その先には私の乳房があった…。
たぶん、むっとした顔を上げたと思う。彼に文句を言おうと思ったが、
その直前に―テレージャが投擲したであろう―分厚い本が彼の顔を覆っていた。
 「なんて酷い格好をしているんだい」
テレージャが苦笑いしながら、織布のマントで私を包んでくれた。
 「さあ、一度戻って出直そう。そのなりじゃ風邪をひいてしまうよ」
彼女の手をとり立ち上がると、華奢なその体を強く抱きしめて声も無く泣いた。
彼女は私の頭を優しく撫で、ブロンドの髪を軽く梳くと、涙をそっと拭ってくれた。
 「帰ろうか。覗き君、ランタンを持ってくれるかな?」
 「だ、誰が覗きだよ…」
280題名:見ていたよ:2011/04/12(火) 21:46:07.75 ID:vn22+jDy
鼻血を拭いながら、パリスは渋々ランタンに火を灯した。
軽い咳払いをする彼を見ると、自然と目が合った。
 「おやぁ?ひょっとしてまだお取り込み中だったかな」
眼鏡をくいと上げるテレージャが、悪戯っぽい笑顔で肩を寄せる私達を見た。
パリスは一瞬赤面し、自分の肩で私の肩を優しく押した。
私はといえば、マントから片腕を伸ばしてあっかんべー。
彼はどうして素直になれないのかしら。
そんなことを考えながら、鼻歌を歌うテレージャの後を追った。

―終わり―
宮殿で会話してた時にこのスレ開いたらこれだよ
281名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 23:57:19.35 ID:/9Jj7bsn
>>277
乙!
テレージャゴイスーw
28215 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:39:42.41 ID:oGCxEXP1
お久しぶりでヴァン編、神殿ルートの限定イベントを
カリスマ探索者Aさんぶりに絡めて強引に起す感じと
ウリュウから逃げた直後迄の二部立てでま属性です
28315 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:40:20.14 ID:oGCxEXP1

「おれのマブタチがまわしもんだってのか!!!ああん!!?    もういっぺん言ってみろやこらああ!!」

腕を掴まれてドキッとした。というか、こんな大きな声が出るのかという事にも驚いた。占領下のホルム
で、今にも袋叩きにされそうになったあの瞬間、テーブルの酒瓶を蹴倒し飛び移ってきた少年は、私の
元まで一直線にすっ飛んできてそう叫んだのだ。皆の前に立ちはだかって、顔などもう怒りで真っ赤に
なっていた。私が酷く動揺したのは、おそらく異国で非難の矢面に立たされたからだけではない。
「……君、私をかばって良いのかい?本当に私が、君の町を争いに巻き込んだ密偵かもしれないよ?」
「あんたがモンバンきりころしたってか?ばかにしてんじゃねえよ、ホルムの男はそんなにへなちょこか?
どうだお前ら!!下手人はおれらホルムのなかの、男のなかの男だけがなれるヘイタイさんを、まとめ
てぶったおせるような強さだぞ、分かってんのか、ええ!?このちょこっと歩き回っただけでおんぶしろっ
て泣きだすような、イイトコ育ちのカヨワイねえちゃんなんかにヤラれちまうっていうのか!どうなんだよ
テメエら!!!」
普段どんなにからかわれてもへらへらしている少年が、本格的に怒り出したことには酒場の者たちも相
当驚いたようだった。口々にぶつぶつ言い訳をし始めるが、ざわめく中で誰かが呟いた。
「でも、そいつが誰か雇ったかもしれないだろ」
「あ〜、なるほどな。それはおもいつかなかったわ、お前あたまいいんだな!」
「えっ」
「えっ」
「振り出しに戻っちゃったじゃない……」
「一体何がしたいんだ君は」
「もうよしましょう、こんなこと。幾らやっても不毛なだけです」
「出しゃばるな、役立たナイト!」
「役立たナイト!?」
「おいコラ、だれのあんちゃんがハゲだと!!!」
「えっ、オレ!?」
「いますぐおもてでろ!!!このくそアルソンさんやろう!!」
「えっ、えっ」
「何を言ってるの?この人」
「いや、俺にもちょっと分からんわ」
「……よせ、見苦しい」
「わあ!なんで本気なんですか!ちょっと待って!!」
「やべっ、止めろ止めろ!」
「よせと言っているだろう……」
「駄目だよヴァン、やめなよ本当に!騒ぎ起こすと兵士たちが来ちゃうよ!」
「それだ、エンダ!おれとこいつぶちのめしてヘイタイさんにアメちゃんもらいにいこうぜ!」
「ういうい!」
ふいに叫んだ探索者がいる。
「そうか、こいつネスの貴族だったな。奴らに売れば金になるぞ!お前ら、やっちまえ!!」
「ちょっとお!!?」
「なんだ!?子どもが火を吹いた!!」
「これはエンダの獲物なの!」
「ちょ〜やべえ、たべる気まんまんだこいつ。アルソンさんにげろ!」
「ぎゃはははっ、面白くなってきた。もう実力で決めろよ、負けた奴が敵の密偵な」
「うわあ、痛っ、ちょっと!駄目ですよう、噛み付かないで!大事なのは愛ですよ、愛っ!ぐわああああ」
「わひゃひゃひゃ!お前、食われかけてんのにまじでいってんのかよ。ちょ〜やべえな」
「僕はいつでも本気ですよ!今揉めていたら敵の思う壺なんです!こんな時に犯人探しなんかしている
場合ではありません」
28415 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:40:51.25 ID:oGCxEXP1
「あ、エンダそれ知ってるぞ。『真実はいつも一つ!うちのカミさんだ!』ってやつだな」
「それはちょっと違う」
「今度こそ本当の密室殺人事件ですね」
「お前あたまいいな〜、さすがフランだわ。食っちゃえばマジでかんぜんはんざいだもんな!」
「落ち着け、それは本当にまずい」
「食ったことあんの?」
「な訳ねえだろ!!?」
「なんだ食わないのかよ、ちょっと期待しちゃったじゃないか。……まあ、僕だって見返り次第じゃ密偵
ぐらいやるだろうけどな」
「へえ、ミッテイってもうかんのか」
「当然だろ、今頃気づいたってか?馬鹿じゃねえの、むしろお前が真っ先に飛びつきそうな話じゃないか。
こんなショボイ町どうなってもいいだろ」
「……てめえ……。もっぺん言ってみろ」
「あ? 何いきなりキレてんの?それって芸か何か? 新種のお笑い?」
「っンだとこの野郎、表に出ろ!」
「その辺にしておけ……見苦しいといっているだろう」
「見苦しいのはお前のツラほうだろ、すっこんでろよこのスッタコが!」
フルスイングした杖が脛を見舞って崩れ落ちたメロダークの風圧で、暖炉の灰が飛び散った。
「あんたたち、いい加減にしなさい!」
「みんなやめなって!あたしほんとに怒るよ!?」
「ハァ?お前ごときが僕様に敵うとでも思っt 斧は下ろせよ斧は!!!」
「いいから落ち着け、お前さんたち」

「「「うるせえヨボヨボ!!」」」

「俺を年寄り扱いするんじゃない!」
「やべっ」
「ラバンが怒っちゃった」
「そんなことよりみんなでアルソンつきだして金もらいにいこうぜ」
「そんな事とはなんだ、そんな事とは!こら待て!!」
「エンダ、お前まちがってくうなよ」
「味見!味見!」
「うーん、じゃあなめるだけな」
「よーし、ここは休戦だ。まずはこいつを……」
「そ、そんな〜……。本当にやる気ですか?勘弁してくださいよ」
「アルソン、お前の犠牲は無駄にせん」
「ふん縛れ!!」
「結託しないで下さいって!!」
「あんちゃんをハゲあつかいしたむくいだ。ていこうしないほうがいいぞ、くるしむだけだ死ね」
「笑顔で恐ろしいこといわないで下さい、誰か、だれか!」
「だからよせと言っている、見ぐわっ、やめろ。やめるのだ!むしるな!こらっ!!聞け!おい待て!!」
傭兵は飛んできた鍋をまともに受けながら、騎士からヴァンを引き剥がしノリノリの老人を床へ突き倒す。
「はなせテメー!シンリャクされたのはだれのせいだってんだこのやろー!!」
「なんだと」
腕をすり抜けテーブルをくぐり抜けて股に潜ったので、立ち上がろうとしていたアルソンがひっくり返って
床が抜け、板の先に座っていた探索者が椅子ごと跳ね上がる。
「なんてことするんです、危ないじゃないですか!」
「嫌な予感がしやがる」
「うひゃひゃひゃ!ちょ〜やべえちょ〜やべえ」
「止めさせましょうか?煙玉で」
「お願いだからやめて!」
28515 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:41:23.02 ID:oGCxEXP1
折角投げつけたのを投げ返してしまってカウンターだけ物凄いことになってしまった。取り押さえようと
追い回す兄や友人たちの鼻先を飛び回って食いものはぐしゃぐしゃ、上の階から飛び掛った探索者を
さっとかわしてシャンデリアにぶら下がり、右へ左へブランブラン、雪のように埃が舞い上がってオハラ
が金切り声を上げた、けれど足を掴もうにもヴァンは背が低いので誰も手が届かず、パリスが床で何度
も飛び上がる横へテーブルを寄せてきた傭兵が肩に着地されて悲鳴を上げた、そこから床へ飛び下り
た遺跡荒らしは広くなった広間中央に躍りいで、短剣を取り出している。これはまずい!慌ててなだめ
ようと息を呑むなり吸い込んだ埃で一斉にくしゃみし始めた。なんという地獄絵図。
「……馬鹿ばっかり」
フランの調理後のようにむちゃくちゃになった酒場の端で、固まったまま動けなくなっていた若者がおず
おずと話しかけた。
「な、なあアンタ……アンタ、もしかして……」

「なんだよ!!!!」

「ホルムの馬鹿兄弟の、弟さん……か?宮殿の、バケモノを倒したって言う、あの」
「あのってなんだよ。お前おれを知ってるのか?」
「馬鹿のほうは認めるのか、お前さん」
「ちがうのか?」
「馬鹿だよな」
「だろっ」
だろと言われて困ったのだろう、田舎なまりの青年は口ごもった。
「……いや。でも、あちこちで噂になってるよ、ホルムにいるすごいヤツが、不死のバケモノを倒したって。
なあ、それがアンタのことなんだろ?」
「誰とは言わないけど、それはどっちかといえば偉大な妖術師様の手柄だな。誰とは言わないけどね」
「言いたくてうずうずしてるようにしか見えないわ」
「た分ちがうんじゃねえの?おれはイスとたたかっただけだぜ」
「そんなことあるかよ、おめーさんがヤツを倒したんじゃねえか。おめーさんはワシらの誇りさ!」
「その通りだ!公子だかなんだか、ちょっと敵に囲まれたくらいで尻尾巻いて逃げちまうような、わけの
わかんねえヨソモンなんか目じゃねえ!!」
「そんな〜」
「これが彼らの率直な意見と言うやつだよ。心に刻んでおきたまえ」
「……トホホです」
「ヴァン様は、テオル様がくるより先に、魔女を倒したほどのお方です。本当にお強いんですよ」
「お前な、それだっておれだけでなんかしたわけじゃねえだろ。な!」
「知的な天才妖術師様はここでも活躍した訳だ、古文書を解読して弱点を炙り出したのはこのb、ぐふっ
天才妖術師様だからな!」
「エンダがもやしたんだぞ。エンダは強いんだぞ」
「な!エンダはリュウだもんな!ちょーつええんだよな!」
小猿のようにくすぐりあってはしゃいでいる。
「なんにせよ、どっちを倒した時もお前さんがいたってのは本当だな」
「そうだよーこう見えてもすごいんだよ、ヴァンは」
「つまりフカしじゃねえってこった、これが俺様の弟分よ!」
得意げな雑貨屋の側では、見慣れない人物が兄だと言い切り胸を張っているが、当のパリスは階段を
駆け上がったり降りたりしていて、それ所ではないらしい。
「やっぱヴァンはすげえのさ、そうだろ!!」
「俺達のヴァンだ、昔から良くしてやってる俺達に、いつも小遣いをくれる!最高に気前が良い!!」
「あなた、そんなことやってるの?」
「おれはよいごしの金はもたねえ主ぎだからな」
「それは無計画と言うんだよ」
「せわになったのはほんとだよ。それに金つかましときゃ、いざって時ごまかしがきく。うらカギョウやって
るんだからトウゼンだろ」
28615 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:41:56.19 ID:oGCxEXP1
醒めた表情で耳元へ小さく囁いてきた。奇妙な引っ掛かりを覚える……懐かしいだろうといっては時々、
西シーウァの産物を分けてくれたあれは……どのように手に入れたのだろう?ピンガーの商会でも取り
扱いがないような、王室献上品が紛れていた事もある。本人は盗み出したと言うけれど、本当は此度
の騒動に彼自身も一枚噛んでいたのではないか……。得心の行く点がなくもない。思いを巡らせている
間にも、自称昔からの知り合いとやらが次から次に自分の施しの程度を主張しはじめた。
「わしらが育てたようなもんじゃのう、がっはっはっは!」
「……なんだ、結局それが言いたかっただけかよ。くっだらねえ」
けれどその様子に目を輝かした若者は、常連客の一人に問いかけた。
「それじゃやっぱりこの人が……」
「見た目はこの通りタダのちびだけどな」
「なら、もしかして兄さんのほうもどこかにいるのかい」
「いるよ、ほら。あそこで鞭ほどいてる男だよ、見えるだろ。ここんとこに古傷があるヤツだ。おいパリス!」
怒鳴られた相手はシャンデリアにひっ絡まった先を必死になってほどいていたが、視線に気づいて振り
返り、怪訝な顔で妖術師に問いかけた。
「なんだ、どうかしたのか」
「ホルムの馬鹿兄弟だってよ、他に誰がいるっての。まさにお前らそのものだろ」
意味が分からんという顔。数人から握手を求められている少年を、酒場の者たちは囃し立てている。
「ようヴァン、そいつに話してやれや。おれは十六世が消えちまったときの話がいいな!」
「俺ももう一度聞きてえ、ホレそれにあれ、椅子と戦ったときの話してくれ」
「椅子?イスって、椅子かい?」
「そうだよ、こ〜んなちょ〜〜でっけえイス。もうおれなんか五人はすわれたね」
「六人じゃねえのかよ、お前。その前の時は七人て言ってたろ」
「バカいえ、おれもせい長してるんだよ。な!」
「ちがいねえ、そいつにはどんな足が生えてたんだ、言ってやれ」
「すげえんだぞ、こんなさ!こ〜んな太い足がなんぼんも生えててな。ガタガタガタ〜!っておっかけて
きやがるんだぜ!もう、ぜんぜんかわいくねえ犬みてえなのな。あれでもしシッポがありゃ、ぶんぶん
ふってたとおもうわ。な!」
同意を求められた狩人が顔を真っ赤にしている。ほんの数分前、あれほど殺伐としていた筈の酒場は、
いまや全く異なった空気に包まれていた。物資が底をつき始めたせいで、やたら薄くなった振る舞い
酒をまわし、おどけて語る少年を肴に笑い転げている。最早、誰も私のことを気にしてはいない。美容
術の本なんかなくても、もとから君には人の心を捉える才能があるのじゃないかな……。
「……大丈夫?本当に、何なのかしらねあの人たちは」
「もうぐちゃぐちゃだな。ゴハン、食べられないな」
「お酒さえ飲めれば、それでいいんだよ。テレージャさんも災難だったね」
「気にしていないさ。君たちこそ、怪我はしていないかい?」
気に、していない訳がない。何かよくは分からないけれど、彼は隠している事があるような気がする。恐
ろしい計画に、関わっているような気がする。そんな風に私の第六感は警告していた。それでも今、確
実に言えるのは、一つ。あのおぞましい始祖帝にですら、こんな面白い少年と出会えた幸運に感謝した
くなる、という事だった。
287>>251-255続き15 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:47:26.38 ID:oGCxEXP1
「おいヴァン!いいから待てって。……ったく、どうする気だよ」
「どうしようもねえだろ、うひゃひゃひゃ!すげえなーこれ。よく死ななかったじゃん」
「ほっときゃ今からでも死にそうだよ」
肩から腰に向かって真っ二つに斬られたので、どうにも止血しようがなく、下着から靴まで滲みて真っ赤
になっている。日陰では既にかなり肌寒く、傷口の辺りからさかんに湯気が立ち上っていた。追っ手の
存在を念頭に、方々走り回っていたのだが、もうくたくただ。ひと気のない裏通りで立ちどまり、すこし腰
をかけてしまったら、それきり立ち上がれなくなってしまう。さすがにやばいかもしれない。そんな考えが
頭をよぎった。
「まじかよ。まいったよな、くすりもなんもねえ。おれハダカだし、ハリもイトももってねえもんよ」
「チッ 殆ど手ぶらだからな……。こんな石っころだけあってもなんにもならねえ。……一旦帰るか?」
来客に気づいた時、とっさにポケットに入れた秘石があるだけだ。青い唇で震えながらため息をつく。
「テレージャかメロダークにぬってもらおうぜ。さけでものましゃタダでやってくれんじゃねえの?それに、
神でん軍がいた時つかってたヘヤにも、なんかのこってるかもしれねえな。ひばり亭に行ってみようぜ!」
「……おう」
辛そうに身を起こし、駆け出した少年を追おうとしたが足が動かないのかとぼとぼ歩いている。駆け戻
ってきた弟に手を引かれてようやく進みだす。長い一日になりそうだ、いや、これで終わってしまうよう
な気もする。ちょっと死にそうだ。酒場の裏口へゴミを捨てに出ようとしたフランの目の前に、フルチン
の子どもと半裸で血まみれの男が駆けて行った(ため浮かされて殺されかけた)ので、ちょっとした騒ぎ
となったのはそれから半時ほど後のことだ。二人とも何も身につけていなかったので即死してしまい、
巫女と傭兵が蘇生しなければならなくなった。じつに恐ろしいことである。
「すみません……」
「お前があやまることねえだろ、な!よけなかったほうがわりいもの」
「でもお怪我してる方を斬りつけてしまうなんて」
「ああ、まあ……いいよ。そんなに気にすんな。お前が裸なのが悪いんだよ」
「なんだと」
「あんたには言ってないだろ、てかなんか着るものねえのか?」
「身を隠してたとき使っていたお部屋に残ってると思います。あたし、いって取ってきます!」
「ちょー足はええ」
「……とりあえず、もう全部みんなにぶちまけちゃいなよ。隠してても得はしないでしょ」
「そうはおもわねえな。いくらダチでもカタギはまきこめねえ。それに、バラしたとこでお前が得しねえっ
てだけだ、ソンするやつはいるんだぞ」
「……確かにな」
うつ伏せで消毒されている兄貴分は暗い表情になる。暗殺にギュスタールが関わったと知れればフラン
の立場がまずくなると言いたいのだろう。少年は鋭くオハラを睨みつけ、余計な口を叩くなと釘を刺す。
「バチもへったくれもあるかよくそばばあが、ことわりゃチュナもろともけされるんだよ。お前のとこにげこ
みゃ店もろともツブされるわ。だからさけてたのになんだよ、そのイイグサは。お前みてえなばばあが
ヤツラ相手になにができるってんだ、え?ダレになにきかれようがゼンゼンしらねえっていっとけ!おれ
らなんかとなんにもカンケイねえってな。きいてんのかテメエ、ぼけっとしてんじゃねえぞコラ!!ちゃん
とわかったかよ!」
「あんたたち……」
「ヨケイなことさえしなきゃ、なんにも手出しはしねえっていってんだよ、オワカリィ?」
不釣合いなほどにこやかな表情だ、口では身を守る為の忠告をしているようで、脅しにしか聞こえない。
「テレージャさんよ、あんたあんちゃんみといてくれや。おれはこれからちょっと出てくる。夜にはかえる
から、そしたらふたりでカチコミいくぞ」
「こら待て、テメエ一人で行く気じゃねえだろうな」
「わひゃひゃひゃ!まだしにたかねえよ、だれが行くかっての。おれはイセキにいってこの石ころののこり
さがすんだ」
「うん?なんだね、これは秘石じゃないか。どうして装飾から外れて石だけになっているんだい?」
「おれがバラしたんだよ。こういうのつくれるようになったからな。いいか?見てな、こうやってよう……」
数個の宝石を次々組み合わせてみせる。
「な?こいつらってくっつくだろ。あと一つくらいありゃ、たぶん全ぶがひとつながりになるとおもうんだよ」
288これで終わり15 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/17(日) 19:48:06.66 ID:oGCxEXP1
「なるほど、失われた五つ目という訳だね。興味深い」
「だろ。じゃあよ、こいつは手まかけさせた礼だ、受けとれや。じゃあなー」
パリスの下着に縫い付けられていた数枚の金貨を、横からむしって放り出すと、出て行ってしまった。
「待て!イデッ、おいあんた追ってくれ!!」
「何故だ」
「裸だからだよッ!!」
傭兵は混乱した様子でたたき出された。石ころをしまいあぐねて立ち止まっていた少年を呼び止める。
「待て。追えといわれたぞ。どこへ行く気だ」
「あの世じゃねえの、うひゃひゃひゃ!」
「死ぬ気か」
「そのほうがいいだろ、あんたのショウタイを知ってるヤツがいなくなるんだから、な!」
「……もともと私の任務は、遺跡や公国軍の情報を神殿に伝える事、そして帝都復活を阻止する事だ
った。まさか、お前たちまで内通者となって関わってくるとは思っていなかったが」
「なんもイミがなかったな。れん中にツナギつけりゃカムールがたすけてもらえるかとおもったのによう、
なんだありゃ?あんだけタンカ切ってるから、こりゃ何かサクがあるなとおもったのに、あっさり返りうち
されてやがるのな。ざまあねえ」
小人の国で見かけた兵器が西シーウァの精鋭軍と神殿の古参兵を粉砕し、撤退して行った。その後の
会戦ではバルスムスがまさかの落命だ。彼に個人的に師事していたようなものだし、指令も口頭で出て
いただけだから、現在は責任の所在がうやむやになっている。町を離れてもいい、神殿に帰らなくても
いい、何かしても、しなくてもいい初めての状況にあった。この少年を始末すれば見た目上任務は完了
するのだろうし、黙って引き上げても咎められることはない。というか、戻る必要すらなくなってしまった
のだ。傭兵は黙って靴の中に石を詰め込む様子を見下ろしている。
「確かに……確かに第一の任務は無意味になったが、第二の任務は今でも生きている。与えられた使
命は果たさねばならない、だが……お前はもっと真面目に話を聞け!」
ヴァンの襟首を掴んで引き戻した。といっても裸だけれども。
「お前が死ねば終わりだとは思わん!迷宮のどこかに、すべての元凶になった古代皇帝の霊がいるは
ずだ。それを探し出して、倒すべきだろう」
「うへへへへ、そうかよ。……なあ、じょうかんに忍びこむにはどうすりゃいいとおもう?」
「まず警備の薄い場所を探し、警備兵を奇襲で倒して、そこから侵入すればいい」
「あんたな、そいつはホルムのモンバンにやった手口だろ……なんでそう、次から次にボロだしやがんだ。
もうちっとマシなヤツはいなかったのか?あー、もしかしてアナぼこのさいしょのあたりで死んでたヤツが
そうだったのか。ほら、あんたしょっちゅうエリオってヤツのハカまいりしてるだろ」
「……(しょんぼり)」
「まあいいや、あんたヒマならアナほり手伝え」
「ヴァン様!!」
「なんだよ」
しわくちゃのヴァンのぱんつをひらめかしてメイドが飛び出してきた。
「あたし、あたし……ごめんなさい、立ち聞きしちゃいました。一体、どういうことなんですか?」
相手が裸なのも忘れて掴みかかるフランを抱き止めながら、持って来たブリーフを摘み取って鼻先で
クルクルまわす。
「うへへへ、なあよ、おれみてえなチンピラのいうことなんかいちいち真にうけるなよ。お前はマジメで
いいやつだ。だからお前はお前のしごとしてろ、
さかばの出むかえとかな」
「そ、それはあたしの仕事じゃ」
「そうか?タンサクしてかえってくると、いつもさかばにいて、食えそうにねえへんなもん作りながらおれ
らに言うじゃん」

『お帰りでゴザルよ、ニンニン』

「ってな」
「あたし、ニンニンなんて言いません!」
「なんだよ、かわいいのに」
「……えっ……」
「夜にはかえってくるからよう、またいえよな」
ぱんつを被ると傭兵を連れて立ち去った。裏通りには真っ赤になって呆然としている娘だけが残された。
木枯らしが吹いている……。
289 忍法帖【Lv=13,xxxPT】 :2011/04/17(日) 23:10:36.56 ID:OPVY4RV+
相変わらずフリーダムだなこの小僧はw
290名無しさん@ピンキー:2011/04/17(日) 23:32:18.22 ID:R33q061E
乙乙
かっこいいのか駄目なのかわからんヴァンだw
とりあえずフランかわいい
291名無しさん@ピンキー:2011/04/22(金) 10:35:02.25 ID:tNch3dxM
>15 ◆E9zKH0kZMc
乙!
秘石ネタ面白いね

罪人ルートやり直してて思ったが主人公がアイリだと完全にパリスが一人勝ちというか
とことんハーレムモードだな
ダメ人間じゃなかったらフラグ立ちすぎててやばい

それとネルとのホルム定住エンドって
雑貨屋に婿入りしてネルとネルのお母さんを親子丼コースではなかろうか
292名無しさん@ピンキー:2011/04/22(金) 12:23:54.02 ID:PsmLkA+L
パリスがダメ人間なおかげで、アイリチュナの姉妹百合おいしいです
ネル母と墓地の未亡人は人妻属性的にいいラインなんだが、あまりネタにされないよね
293名無しさん@ピンキー:2011/04/22(金) 14:14:57.02 ID:T3UxNen7
墓地の人は見た目がホルスタイン系だし市場とかに瞬間移動するからな
ネルのお母さんは……たま子さんだっけ、のび太の母ちゃんと同じ種類の匂いがする
あと腕力的に、ネルに少しでも似たところがあるならへたなこと出来ない
294名無しさん@ピンキー:2011/04/22(金) 15:33:22.77 ID:+BgRXgBC
男の扱いに慣れたアイリに上手いこと扱われるアルソン
それを見て内心嫉妬する駄目兄貴のパリスっていう構図も乙なもんです
エンダ「ダーマディウスごっこー。はっ!」ズシュ
パリス「うおわっ!てめえ、待ちやがれ!」
ラバン「おぞましき浣腸か。なかなかやるな」
今日もひばり亭は平和です
295名無しさん@ピンキー:2011/04/23(土) 22:44:49.10 ID:Wr27qdQJ
フェラが一番似合う娘は誰かと妄想していた
ご奉仕王道のフラン、はにかみつつ割とあっけらかんとはしゃいでしそうなネル、
文句言いつつ一生懸命舐めそうなキレハ、乳を存分に活用しつつエロい舌使いのテレージャ、
ビクついたり頑張って強がったり嫌がったりしつつ半泣きで唇を近づけるチュナ、
色んな意味で怖いエンダ

ユリアはどんなんなるだろうか想像できん
296名無しさん@ピンキー:2011/04/23(土) 22:53:11.26 ID:lx7zQ2k4
世俗から離れた聖職者マナや純粋培養のウェンドリンは断固拒否するか逆に知らないから受け入れるかどっちだろうな
フィーは知的好奇心は高そうだから適当にもっともらしい理屈ひっつけたら素直に聞いてくれそうだが
297名無しさん@ピンキー:2011/04/24(日) 00:04:29.00 ID:o26vZmcz
アイリはむしろ手ですますか足で踏みつける方が似合うだろうな
ユリアは二千年暇だったから少しでも刺激的な一日を得るためにエロ方面にも色々手を出してるに違いない
298名無しさん@ピンキー:2011/04/24(日) 15:33:41.03 ID:r7Sx8H7K
>>295
チュナさんぜひお願いしますハァハァ
技術的にはフランがすごそうだ
299名無しさん@ピンキー:2011/04/24(日) 18:38:29.29 ID:nqe41Fo0
訓練されたアイリなら捕縛術での縛りSMプレイや
ネックハングでの首絞めプレイにも対応してくれるはず
弱点看破に注意しないと悦楽地獄でイカされまくることになりそう
300名無しさん@ピンキー:2011/04/24(日) 18:51:05.82 ID:b2o1tznV
>>297
妾の方が年上じゃからリードしてやろうと言わんばかりに余裕たっぷりに見せかけて内心ドキドキな耳年増お姉さんですね、わかります
「っ…!なんじゃ、初めてなのが不思議か?男女の閨事の経験などあるわけなかろう、妾が巫女として祭り上げられていたことを忘れたか。ましてや王の生贄でもある娘に手を出すような度胸のある不心得ものなどお主以外におるはずもあるまい」とばらすもよし
自分から誘惑したのはいいけど一方的に責められて「ま、待て!妾は初めてなんじゃ、もう少し優しく…!」と途中でボロが出て啼かせるもよし
301295:2011/04/25(月) 00:42:42.71 ID:55JV8HMT
>>298
二日くれ
302298:2011/04/25(月) 00:49:21.59 ID:mIfQrVtG
>>301
はい、いってらっしゃいませ295様。

ダンディで素敵……
303名無しさん@ピンキー:2011/04/25(月) 13:21:11.04 ID:lYfd74rv
・・・へんなの
304名無しさん@ピンキー:2011/04/25(月) 14:11:23.78 ID:Jo5PaSlN
ラバンがおかしい
305名無しさん@ピンキー:2011/04/25(月) 17:30:56.36 ID:JiYFifpN
>>300
よう、「既に書き込んだルート」の俺。
306名無しさん@ピンキー:2011/04/26(火) 10:07:28.55 ID:piHvpxLY
じゃあアークフィア様はどうするかな。吐かせて飲んで(呑み殺して)、
子供として再生させて責任とりなさいとか言うのかな。ヘビーだぜ…
うわなにをするやm
307名無しさん@ピンキー:2011/04/26(火) 10:23:54.00 ID:+l3jiHh0
>ヘビーだぜ…
蛇だけにな!
308名無しさん@ピンキー:2011/04/26(火) 12:26:07.58 ID:FLFEn5Ae
ああ、>>307がフランの手料理を食わされてる
一体誰がこんな酷いことを……
309名無しさん@ピンキー:2011/04/26(火) 13:21:31.65 ID:piHvpxLY
ERoina〜ヤンデレな女神とメイドに死ぬほど愛されて眠れない物語〜
310名無しさん@ピンキー:2011/04/28(木) 05:50:40.59 ID:7pVPIxor
*腕力に秀でた*ヤンデレ幼なじみはいないんですねー! やだー!
31115 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:39:23.79 ID:3Qo1101i
レスについ興奮してナショナルトレジャーみたいなものを
目指したら、MMRみたいなうさんくささが漂う8700くらい
ま属性ですのでご不快の際にはどうぞあぼーんください
31215 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:40:38.06 ID:3Qo1101i
冷たい秋の風が吹くたび、下ろされた鎧戸ががたぴしと音を立てている。灯火が大きく揺らぎ、片隅に
うずくまる青年の影が伸び縮みしていた。数人がかりで取り押さえられたまま、背中を縫い付けられて
いるうち、激痛のあまり失神した後部屋に移されたらしい。目が覚めた時にはすでにとっぷり日が暮れ
ていて、傷口もきれいに手当てされていた。が、かわりに押さえつけられていた腕や足に、酷いあざが
出来ていたりしたけれども。
「……握りつぶされなかっただけマシってとこだな」
ヴァンはまだ戻っていないようだった。仲間に見てきてもらった限りでは帰宅した様子もない。けれど、
さすがに一人でチュナを取り返しに行く訳はない。勝算もなく無茶な真似はしないヤツだ。出がけに秘
石を探すとか言っていたから、そっちに手間取っているのかもしれない。見つかったからどうなるのか
と言われても困るが、まあなんか意味はあるんだろう。けど、と思う。ヤツの言葉を額面どおり受け取る
のは大間違いのもとだ。多分、ヤツは城館に突っ込むための下準備をする気に違いない。拠点を押さ
えられたと言っていい今の状況では、うかつに荷物も取りに戻れないから、自力で何かするつもりだ、
……多分。というか、オレならそうするってだけの話だ。もともとそうだったが最近は特に、ヴァンがなに
考えてるんだかさっぱりわからん。
ネルが持って来た上着と残っていた服を着て食事に降りたのが十時ごろだ。星がキレイだのなんだの
とわあわあはしゃいでいる。メロダークの姿がないので尋ねたら、一緒に出て行ったらしい。ならばまず
大丈夫だろう。傷に触るとかやいやい言われたが、酒を呑む事にしたのが日付の変わる頃。店じまい
を済ませ、灯かりを落とした酒場で宵っ張りの年寄りや、暇な巫女たちと帰りを待つことにした。


「……遺跡へ行くのか?」
「わるいかよ」
「……いや」
「なんだよ、言えよ」
「あれだけ家族を気にしているお前が、妹を後回しにするというのは、意外に思ったのだ」
「うひゃひゃひゃ!なにいってんだよ、ちんこまるだしでカチコミなんかいけるか?そこらのトバあらしに
行くんじゃねえんだぞ」
「西シーウァや神殿に協力を仰ぐより先に、今さらあるかどうかも判らない秘石を探す理由はなんだ。公
子が結晶を集めて何か企てているのだとして、やはり神殿が睨んだとおり、彼自身がすでに始祖帝と
関わりを持っているのは間違いないだろう。まともに挑んでいい相手ではない」
「まけたヤツらにきょう力あおいでどうすんだよ、全いんテオルにぶった切られたっつうのに。そのほうが
イミわかんねえよ。おれだけミ一つででてったって、さがすのはいくらでもできるけど、あの子をつれちゃ
帰れねえわな。チュナは今、でっけえ石ころの中にいるんだもんよ。と言ってあんた一人ふえたとこで、
トッパできるともおもわねえ。うっかりテオルなんかとはち合わせりゃ、ソッコーのぶっ殺されるのがセキ
の山だろうよ」
けらけら笑っているが意外と冷静だ、けれど石が増えたところで大差ないのではないか、思い巡らせて
いると道を外れてずんずん進んでいくのに気づいて顔を上げた。
「どこへ行く」
「あんたはついてこなくていいよ、そこらで待ってな。なんてな、うひゃひゃ!いっただけだよ。来てもい
いけど吹聴してまわんなよ」
謀りかねたまま後を追って草むらに入り、入り組んだ木の根の間を無理やり乗り越えながら、暗くなっ
た森の中へ分け入っていく。さすがに迷ったかと不安になり始めた頃、茂みの向こうで小さな灯かりが
点った。闇の中で白い人影が浮かび上がる。落ち葉を蹴散らすと地面から跳ねあげ扉を開けた。
「こんな所に隠し持っていたのか」
31315 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:41:46.23 ID:3Qo1101i
頑丈な錠前のかかった鉄の箱から衣類や薬品を取り出している。もしかするとこの箱自体、少年が手
がけたのかもしれない。順に服を身につけながら辺りを警戒している。やはり、普段に比べてピリピリし
ているようだ。
「おなじカゴに全ぶタマゴをいれるなって言うだろ。あのボロ家だって、いつおいだされるかわからねえ。
ダイジなもんは、みんなこうやってベツベツにおいてるんだよ。こうしときゃどっちか死んだり、かえって
来なくなってもこまらねえだろ。殺しヤが来たのだって、あの女がはじめてじゃねえもの」
じつに気軽に言っているが、事態は相当深刻だ。
「……本当にまだ、他に秘石があると思うのか」
「わからねえ。けど、どうもこいつはくせえのよ。どうもこの石はまだなんかある。あんたかんがえたこと
あるかい?コイツはどっからきたんだろうな。どんなヤツがなんで、どこで、いつどうやってつくったんだ?
そんな風におもわねえかい」
それほど重視しているとして、しめった靴に押し込められた宝玉たちは、どんな気分なのだろうか。
「コイツはかてえ。こいつはやわらけえ。比重はそれぞれちがう。でも形は、ひとつにあつらえる予定で
研磨されてるように見える。それにしちゃ、パーツが足りてねえんだけどよ。座金はおなじとこからきた
純銀だし、つくったやつもおなじヤツだとおもうな。てよか、こんなモンが作れるヤツがごろごろしてたら、
そのほうがやべえわ。うひゃひゃ!いいかい?見なよ、この彫金はいまじゃ道具もねえからマネもでき
ねえ。まちがってモゲても、直せるかもわかんねえってシロモノさ。ネルじゃぜってーつくれねえ。ガリオ
ーもた分むずかしい。おれなんか、いじくるだけだ。そういうちょーやべえワザモンなんだ」
手早く晒しを巻きつけている。殺る気満々だ。着込むのを待ってぼんやり聞き流していたが、ふと足元
へ放り出された石の存在に思い至る。
「ならばお前は、そんなものを分解したのか」
「うへへへへ、ちょーやべえよな。テレージャには言うなよ。あんたにもわかるだろうけど、この石は地上
じゃとれねえ。地下でもとれねえ。この世のもんじゃねえんだ。こいつらを作ったヤツは、どっから手に
入れてきたんだろうな?だれかにつくれってわたされたのか?それともテメエでとって来たのかな。つ
くったあとは、だれかにくれてやる気だったのかな。それとも、テメエでつかおうとおもってたのか?こい
つらを一体なんで作ろうとおもったんだろう」
喋り続ける間にも被ったローブの裾を手繰り寄せ、片手でボタンを留めながら器用に帽子も被っている。
「なんでヘビがくわえてるんだろうな。四つともアルケアに栄えあれとか、とこしえにたたえられよとかき
ざんであるんだぜ。でも、そんなことかなえたくて作ったなら、どうしてアルケアはほろびちまってて、こ
いつらを持たされてた連中は苦しんでたんだろうな?ぜーんぜんやく立ってねえじゃん」
「そこまで考えていなかった……蛇は、すぐに思いつくのは大河の象徴としての存在、か。或いは……
ミルドラ神か」
「まじかよ。アルケアしずめたちょう本人か、木の下にうずまってるおれの名づけ親かってことだよな?
……ヤなかざりだな、オイ」
「持ち主に力を与えると見せかけ、その実必ず呪いを与え、魂を縛り付けているのだ。恐らくはミルドラ
神だろう。お前の身にも、何事か悪しき影響をもたらさないとも限らない。……いや、既に何らかの触り
を受けているやもしれんな」
ベルトを締め上げると、薄明かりにすかして点検した得物を差し込み、手袋をぐいぐい押し込んでいる。
と、思いついたように顔を上げた。
「ならよ、テオルに全ぶおしつけてしぬの待つってのはどうだ」
「やめろ」
「フフン、なんだよ、まあいいや。……おもうんだけどよ、ほんとはこいつらって、なんかもっとちがう目テ
キがあったんじゃねえかな、もともとは」
ため息をついた後、取り出した背嚢に順番に物資を詰めていく。以前に比べ随分整ったしまい方が出
来るようになったようだ。はみ出した青い石をつまんでランタンにかざした。きらきらとこぼれる清浄な輝
きは、とても魔性を帯びているようにはえない。
「こいつはタイタスがやったら、もらったマブダチがくわれてしんだ石。死んだそいつは、いまだにあんな
アナぐらんなかでまってんだ。あいつは何がしてえんだろう。オジキとっつかまえておんなじ目にあわし
てえのかな。それとも、まだマブダチでいるのかな。どうなんだろう」
31415 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:42:17.97 ID:3Qo1101i
「小父貴?」
「オジキだろ、タイタスは。シンセキなんだし、おれにアトメつがせてシノギとらせようとしてんだからさ。
なあ、それよりあんたどうおもうよ。こんなワケわかんねえ石っころが、どっかから四つも五つもでてきた
とおもうか?それよりはもともと、べつの一コの石だったらってほうが、まだもっともらしいとはおもわねえ
かい。つっても、ふつうにくだいたからって、ちがう色した石になったりはしねえけどな、いひひ!これし
めて、中につっこんでくれよ」
頑丈な箱を再び梱包しなおして穴の中へ据えつけてやる。それから落ち葉をかけて、元の通りに目立た
なくするのだ。足跡やらを二人でならして、全体を整えてみる。
「まあこんなモン?どうだろ、もうちっとそのヘンもかけてくれー」
「……終わったぞ」
「よっしゃ、カンペキだな!じゃあいくか。とっととさがしてかえらねえと。こんなモン、いつまでももってね
えほうがイイのはたしかだよ。わかるかな、なんかこう……かなしいかんじがするんだ、コイツらもって
ると。メ入るのさ。こんなつかい方……するはずじゃなかったんじゃねえかって気になる」
もてあそぶ白い手のひらの中で、青々と灯火を反射している。
「もしもコイツを、だれかがばらばらにできたんなら、つまり、こいつらがもともと一コだったんならってコト
だけどよ、また元にもどしたりはできねえのかな?ふつうの石じゃそんなコト、ぜってーできねえけどよ。
もしコイツらが、おれがおもうような、すげえとく別の石ころなら、……どうにかすりゃあ、やれるんじゃね
えかな」
「……試してみればいい。だが、五つ目とやらの当てはあるのか。闇雲に探しても見つからんだろう」
「わひゃひゃひゃ!おれをダレだとおもってんだよ。いせき荒らしだぞ?それくらいあるにきまってるだろ。
まあ見なよ、こいつはエンダのしんでたミズウミの図面だ。で、こっちはその下にうずまってたおシロだよ。
とおりみちから見ると、シロはエンダのとこより南西にある」
精巧な地図をべらりと広げて、木の根元へ数枚並べていく。よくよく見てみると、どうやら丹念に書き改め
ていった手書きの地図のようだ。
「ホルムで出回っているものではないな、古代の記号か。それにしては新しいが、どうして手に入れた?」
「あんなモンやくに立たねえよ、テメエでかいたにきまってんだろ。たまたまいらねえ地図の本ひろって
よんでたら、テオルがおれも穴ん中あそびに行きてえからなんか地図くれっていうからさ、ならイッパツ
いいもん作ってタンマリもらおうとおもってたんだよ、はらいがいいヤツだからな。けど、けっきょくあのさ
わぎでウヤムヤになっちまったわ。バカいわなきゃイイ金ヅルなんだけどなあ」
古地図に多い書体で整然と記号が記されている。普段酷い書き様の癖に、なんというか、凝り性にも
程がある。そのうち一枚を指差して見せた。
「ちくわのネエチャンがいたのはシロの北西方向、アルケアがうまってたのはシロのま下で、寺があん
のがこっちらへん。ダリムんちはこのあたりだったろ?石はシロとそのもっと下の死にぞこないがうまっ
てるアナぼこを中心にして、四コならんでる。あおいの、みどりの、きいろの、あかいのだ。上下でいっ
てもこのジュンに、シロの上と下に分かれてならんでる。五コめがあるとして、あんたならどこにおくよ」
「すべての……中心、か?秘石は墓所、と言うよりかつてのアルケアである、かの大廃墟を中心として、
四方に配したように見える」
31515 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:42:56.43 ID:3Qo1101i
「うへへへへ、イイせんいってるよ。ラバンがいってたけど、なんかを守るためにおいてるみてえだよな。
それに、この四コでハカバのとびらがあいただろ?だからおれは、もってねえ石ってのが、どっかのカギ
じゃねえかとにらんでんだ。そいつはた分、ハカの下にある。カンだからコンキョはねえ」
断言されてしまった。そうかなどと曖昧に頷く。
「おれがおもうに、五つめはほかの石ころよりとくべつなんじゃねえかな。だって、いままで四つの石が
あるのはきこえてたのに、五コめがあるてハナシは一どもでてこなかったからな。まるでハナッからねえ
ようじゃねえか?」
「……無いかのようなのではなく、事実存在していないだけではないのか」
「そうかよ、じゃあ見てな」
耳の後ろから取り出したパン種に小麦粉を振ると、靴から引き抜いた宝玉をランタン油に浸して順番に
押し付けていき、四つ揃えたところで思い切りひねり潰す。さらにはみ出した生地を取り除くと、雫型を
した派手な色の塊が残された。灯かりにかざして見れば、継ぎ目も感じられない滑らかな曲線が観察
できる。明らかにこのように組み上げる事を意図していた形状だ。
「――待て。お前はこのパン種を竈もないのに練ったのか?これからどう調理する気だ」
「どうもしねえよ、酒ばのチュウボウで見てておもいついたから、ちょいとくすねてきたんじゃねえかよ。
ほれ、見てろ。今からこいつをはずすからよ」
生地をつぶさないよう慎重に石を外していくと、促され差し出した傭兵の掌へパン種が転げ出てきた。
歪んだ勾玉のような形をしている。
「どうだよ。もう一つくらいあっても、わるくねえ気がしてこねえか?でよ、もし五つあったとしてさ、しょっ
ちゅう四つある四つあるっていうのに、なんだってほかにももう一コあるとは言わねえのかねえ。あんた、
どうしてだとおもうよ」
「存在すらも隠匿したいほどに、重要な秘石だから……?」
胸の高鳴りが押さえられない、もしもこの見立てが一つでも合致するとすれば、形勢逆転を狙えるかも
しれない。あまりに刺激的で、にわかには信じられない気分だ。動揺し興奮する間者をにやにや眺める。
「しにぞこないのボケオジキに目にものみせてやろうぜ。おれがどんないせき荒らしなのかってな、うひゃ
ひゃひゃひゃ!もしまじでなんかのカギだとすりゃ、テメエい外のヤツがかっ手にあけちゃこまるモンに
ちがいねえ。でよ、ふつう大じなカギってのはテメエでもってるか、どっかにしまっとくもんだろ?けど、し
まうとしてもさ、しめときてえトコのソバってのは、えらばねえモンだよな。それに、あの石ころってのは
ボロい町の外がわにあるってのが大じなんだとおもう。とすりゃ、くせえのはシロん中一本にしぼれるっ
てワケよ、な!あんたどうおもう」
「悪くない」
「わるくねえって?わるくねえってか。わるくねえ!!?それだけかよう、たったそれだけ?なんだよう、
一しょうけん命かんがえたのにィイ」
崩れ落ち、がっくりその場に膝をついてしまった。
「すねるな」    
「うるせえよ。なあよう、そんなことよりさ、いっしょにオバケやしき行ってくれよ。もう日がくれちまったろ。
夜におれひとりで行きたくねえ。あそこはちょ〜やべえもんぜったい、ぜったいひとりじゃ行きたくねえか
らな、金つまれたって、金……は 金は、つまれたら、やっぱ行くんだけどよ」
傭兵の腿に抱きつきこわいこわいと連発している。
「怖い……?これまでほとんど頓着していなかっただろう、散々墓を荒らしておいて今さらなんなのだ」
「だめだ〜、ぜってーいやだ」
「……意志が弱いから、死霊ごときに怯えるのだ。心を強く持て」
「いやだよ、んなコトしたら死んじまうだろ」
「何?」
「食いものいらねえ、きがえいらねえ、金がなくても住むトコなくても生きてける!うらやましくなって死に
たくなっちまう!!ちくしょう!こえーよ!」
「そうか……。私は同行しても差し支えないが、あと一人は手が欲しいところだ」
「どうしよ、いきたくねえな。どうしよ」
ぶつぶつ呟きながら紙を折りたたみ、ふらふら歩き始めた。どうも危なっかしくて不安になる。
「だれに来てもらうか。もどるのめんどうだしな、犬かなんかつれてこうぜ!!」
指を加えるとぴーぴーと鳴らし始めた。果たしてヴァンの獣呼びは成功するのだろうか。
31615 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:43:50.70 ID:3Qo1101i



――この人とは、これ以上付き合っちゃ駄目。ぜったい。

いつの間にか研ぎ澄まされてしまっていた私の直感は、なんどもなんどもそう告げていた。あの時……
本当は逃げればよかったのかも知れない。どうしてこんな町に来ようと思ったのだろう。どうしてこんな
遺跡に入ろうと思ったのだろう。他の土地の、他の町でも影を探すことは出来たはずなのに。どうして私
は今、ここにとどまっているのだろう?

あの時、おそるおそるかけてみた言葉へ人間の返事があったことに私は舞い上がっていたと思う。知ら
ない土地だったし、帰り道も分からなくて、異教徒だと分かった後も親切にしてくれた人たちに安心して
しまった。けれど、やっぱり大失敗だったと思う。どうもあの人は距離感がおかしい。ぴたっとくっついて
きて、手を掴まれたり体当たりされたり、好かれているのか嫌われているのか全く理解できないし、白
状すればちょっと怖い。

他人を怖いと思うなんてへんなのはちゃんと分かってる、自分以上に恐ろしい存在がいるわけないのに。
脈絡のない言葉や、関連のわからない行動は私を常に動揺させる。無計画でいい加減で大雑把。整理
するとか整頓するとか、そういうものが脳みその中に存在してないのじゃないかというほどとっちらかっ
ていて頭にくる。気にする方が悪いのだろうけれど、しわしわの服やよれよれの装備を見るたびいらいら
して、つい余計な世話を焼いてしまった。他人と関わらないとか言っていた自分はなんなのだろう?無
関心を決め込んでいたはずの私は、一体何をしているんだろう。もうこれっきり。今度こそ寄せ付けない。
毎回、真剣に思ってセリフを考えて対策を練って……なのに毎回見事に押し切られ。あの馴れ馴れしさ
は誰に対してもそうなのだし、自分だけ特別なのではないと分かっているけれど、いつの間にか自分の
中でただの顔見知りといえなくなっていた。いつもいつも、本当にむちゃくちゃな要求をしてくるのに!射
撃の練習もそう、料理のお稽古もそう。獣呼びの特訓や、乗馬の訓練もそうだった。なんでなんだろう。
多分、一番苦手なタイプのはずなのに、ふと気づいた時にはすでに、かけがえのない大切な友人にな
っていた。全身傷だらけになってまで混沌の渦から引き戻してくれた私の親友。あの時、何も解決した
わけじゃないのに、ただそばで笑いかけられただけで、なぜかちゃんと生きていけるような気がした。

「…………ええと、今晩は」

木立の間から怪訝な表情で此方を眺める三人がいた。言われてびっくりした様に会釈を返してくる。
「なぜ皆黙っているの?私、何かおかしい?どうかした?」
「……いや。少し意外だっただけだ」
「エンダはら減ったー」
「肉やるよにく」
「やれと言うなら」
「なんも言ってねえよ。またまい子か?あんたってルロウのタミにしちゃ、しょっちゅうまい子になって
んのはなんでだよ」
「……遊牧民というのは、方向感覚が優れているものが多いと思っていたな」
「エンダのほうが強いし、カッコいいけどな」
与えられた干し肉をかじりながら主張している。あれから事あるごとにアピールしてくるのだ。
317終15 ◆E9zKH0kZMc :2011/04/28(木) 21:44:31.64 ID:3Qo1101i
「そう……。というかしょっちゅうって言うほど迷ってないわ。あなたに初めて会った時くらいじゃない。今
ここへ来たのだって、偶々」
「なんだまい子じゃねえのか。じゃあツキソイしなくていいんだな。じゃあきいてくれよ、おれ、ケモノよび
したんだぜ!!すごい?な、すごい?キレハ、すごいかおれ!な!な!」
「なっ、私を呼び出したとでも言う気なの!?……そ、そりゃちょっと、なんだか誰かに呼ばれたような
気はしたけど」
「まじかよ、それで来たのかよ。まじでまい子じゃねえのな。どうするよ」
尋ねられた傭兵は首を振った。勝手に決めろというのだろう。
「おれさ、犬つれてこうとおもったんだよな。前ひろったやつ。そしたらエンダがあそべよーつってでて来
てさ。お前なんできたの?犬じゃねえしウマでもねえよな」
「エンダは竜だぞ。竜はすごく強いんだぞ」
「だよな!つよいんだよな!さい強だもんな、エンダは!ちょーかっけー!火はいてはいて!」
「がおお!!」
「エンダちょーすげー!!!!ちょーあちー!!!うひょー!!!」
「……すごい馬鹿だわ」
枯葉が燃え上がっているので、慌てた傭兵が一生懸命消そうと上着を脱いだり下着を投げたりしている。
ヴァンが思い切りけつまづいて二人転んだ後、落ち葉の中に落とした干し肉の欠片を探して血眼だ。
「……もう帰っていいかしらね」
「なんだよー、せっかく来たのに。な!」
「お前もいっしょに遊べ、エンダと宝探しろ」
「宝探し?干し肉のこと?……さすがに違うわよね。これからどこかへ行くの」
「行きたくねえけどしかたねえ。チュナがいなくなったから、シロん中に石ころさがしに行くんだ」
「ふーんそう、まったく判らないわね。……妹さんがいなくなったの!?一体どういうこと?」
「公子の指示によって、水晶に取り込まれた者たちが城館へ集められているらしい。その企てが元で誘
拐されたのだ。我々は第五の秘石を探索し戦力を整えたところで城館へ突入し、奪還する計画を立てた」
「へえ〜、ちょーすげえのな」
「お前がそう言ったのだろう」
「ほんとかよ、お前わかったか?」
「うー……」
「わかんねえよな」
「私にもなぜ誘拐事件に、その石探しが結びつくのかわからないけど、困ったときに、最後まで味方でいる
のが家族の役目。妹さんを助けるなら手伝うわ。私について来て欲しいのなら、行かない事もないわよ」
「そうかよ。けどお前……、ま夜中にキュウデン行くからって、こわいハナシとかするなよ、ぜったいに」

「……(ニヤリ)」

「やめろよおおおおおぉぉぉぉこえええんだよおおおぉぉぉおおゴキブリくいたくねええええ!!」
「落ち着け」
「ハグキにフォークささったハナシとかぜってーやめてえええ!やめてくれええええええ!しぬううううう」


「だからそれはほんとに怪談じゃないから!!」
318名無しさん@ピンキー:2011/04/29(金) 00:27:47.46 ID:5DiDfSdd
み な ぎ っ て き た
異常なまでの冴えも始終意味不明な言動も全部素だと言うのだから恐ろしい
…見当違いだったら恥ずかしい
そして獣呼びに誘われるキレハマジわんこ
319名無しさん@ピンキー:2011/04/29(金) 05:59:12.81 ID:b7F2J09r
>>312
乙乙
メロさんほんと面倒見いいなw
キャシアス編に続きキレハがひどい目にあいそうでちょっと怖い
320名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 00:22:06.95 ID:/3N7yLN0
※非エロ注意※

賢者ルートよりデレてる神官ルートのシーフォンにショックを受けた一発ネタ
シーフォン×マナ
まだ全ルート終わっていませんのでおかしなところがあったらすみません
1レスのみですのでお嫌な方はIDであぼんお願いします
-----------

アーガデウムが消滅して半年。
もうそんな必要もないのに、マナは毎日ひばり亭にやってくる。
目当ては僕の部屋だ。
前から薄々気づいてたのだがどうやらこいつは深刻なアホらしい。

遺跡の探索という大義名分があった以前ならともかく、神殿の巫女が妖術師と親しくしてるのなんて
魔術への偏見が少ないこの田舎町でも歓迎されるはずがない。
二人で町を歩いていたらジジイやババアどもの嫌な視線を感じるのもしょっちゅうだ。うぜえ。死ねよタコ。
「それはシーフォンくんが大声でホルムの悪口を言うからだよ、だから嫌がられてるんだよ」
とマナは言う。うるせえよ、そんなわけあるかというかごくごく自然に嫌がられてるとか言ってんじゃねえぞ。
とにかくそうした町人たちの冷たい視線にも負けず、マナは毎日嬉しそうに僕の部屋へやってくる。
来て何をするわけでもない。
おしゃべりをして僕の邪魔をし、ベッドで眠って僕の邪魔をし、菓子を薦めて僕の邪魔をし、夕暮れには帰っていく。
「だってシーフォンくんと一緒にいると楽しいんだもん」
つまりどうやら僕のことを友達で仲間で頼りになるお兄さんだと思い込んでいるようなのだ。
「墓地でメロダークさんから庇ってくれたし大河で溺れたときも助けてくれたじゃない」
あれはそういうのじゃねえだろうが!
神殿軍に喧嘩を売りたかっただけだし後は成り行きだっつーの!
何度そう説明してもマナはアホなので理解しないのだ。

今日もベッドに寝転んで魔道書を読んでいた僕の足元らへんに座り、どうでもいい話をしていたマナが、突然口を閉ざした。
ごろんと僕の隣に寝転ぶ。スプリングがギィと音を立ててきしんだ。僕は魔道書から顔をあげる。
「なんだよ」
「えーとね。……キスしていい?」
緊張した声。
「……好きにしろよ」
僕がそう言うとマナの顔が近づいてくる。目を閉じてる。僕は意地でも目を閉じない。
頬に息がかかり、それから柔らかな唇が触れた。今日も震えてた。
あー。うー……。
唇はすぐに離れていった。
震える白い睫毛の下でマナの深紅の瞳が紅玉のように輝いていた。マナは照れくさそうに微笑した。
「ごめんね邪魔して」
耳まで真っ赤だ。
「いいぜ、別に」
僕は『頼りになるお兄さん』らしく落ち着いた口調でそう言ってやる。
……最近のマナはこうやって僕の頬だの額だのにキスをしたがる。
なんだよクソが。
どういうつもりなんだこれはってわかってるよ挨拶みたいなものなんだろ。
さもなきゃ好奇心か?
とにかくマナがそういうつもりじゃないのは確かだ。確かなはずだ。
だって巫女だぜ?こっちは妖術師だぜ?
万が一マナがそういうつもりだったとしても、そんな面倒な女、いや、こんなガキに誰が手を出すもんか。
それなのに。

あー、くそ。
それなのに、これだけでちんちん立った。
隣に寝そべったマナはまっかっかな顔で嬉しそうに僕を見つめている。
だから顔が近いんだよアホ巫女!
321名無しさん@ピンキー:2011/05/04(水) 23:46:04.54 ID:eXm46eef
マナxシーも乙ですなぁ。母性溢れるお姉さんにたじたじなシーフォンも面白そう
322名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 02:25:50.00 ID:/4fap0Df
この組み合わせはアリだな
323名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 04:47:22.21 ID:TBpvYqgs
本スレでも言われてたけどウェンドリンとシーフォンのカプって見ないね
能力値的にはいい組み合わせだと思うんだけど
324名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 11:59:18.01 ID:Xjqzf5WM
じゃあ、ウェンドリンxシーフォンネタ投下

アーガデウムでのタイタス討伐から一月たって、この辛気くせえ田舎街を出ようと思った。
そんな矢先だ…思い出すだけでため息が出る。
「剣の特訓に付き合いなさい」
剣バカ娘参上。ひばり亭に。朝っぱらから。うぜえんだよクソが。
アーガデウムから帰還して数日はおとなしかったが、また剣の虫が騒ぎ始めたのか毎朝これだ。
お前、この街の再建とか色々あんだろうが。あのメイド、仕事してんのか。こいつの首に縄巻いて
城に閉じ込めとけばいいのに。なんだって僕が…
「じゃ、待ってるわね。ああそうそう、今日は私の城に来て。早くしてよ?」
じゃねえよ。人の話を聞け人の話を。すこぶる嫌だったが、読みかけの魔術書にしおりを挟んで席を立った。
ああ、こうなったらもう逃げられない。一度逃げようとしたらあの女、メイドをけしかけて来やがった。
そりゃえげつねえことするもんだ。僕の昼飯が暗黒料理にすりかえられていたり、事あるごとに
「シーフォン様、何か大切な用事はございませんか?」
とか聞いてきたり。ねえよそんなもん、死ね。僕は渋々あの悪趣味な城に向かった。まともな魔術書でも
あればいいが、期待する方がバカだな。あの剣バカ見ればわかる。武術書や兵法書くらいしかねえだろうな。

「あら、少し時間がかかったのね。でも来てくれて良かった。うふふ」
最初から選択肢なんて無かっただろうが。いちいち白々しいんだよ。はぁ、もう少し淑やかさが
あればな…って、何考えてるんだ僕は。大体、僕の好みは年上なんだ。こんなじゃじゃ馬で無作法で
剣しか頭に無くて胸の薄いゴリラ女なんか…
「どうしたの?」
あー、またこれだ。その真っ赤な目潤ませて顔覗き込んでくるなよ。なんでもねえって。
それより、またクソつまんねえ剣の稽古だろ。バルなんとかってマッチョ神官がやって見せた、
魔法を剣で切り裂くっていう。で、今日は不似合いで悪趣味なドレス着て剣の稽古か。ふーん。
……
・ ・ ・ ・ ・ ・
はぁ?
325名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 11:59:39.82 ID:Xjqzf5WM
「な、なによ。私だってこういう服、着るわよ」
いや、剣の稽古するつったのお前だろ。何だよ、その…胸元開いて動きにくそうな格好は。
しかも切れ目入ったスカートとか。まあ、ドレスだからそういうデザインなのも当然だろうけど。
「言ったけど…はぁ、デリカシー無いのねシーフォンて」
お ま え が い う な 。普段から淑やかにしてれば誤解なんてされねえよ。それがどうだ、
口開くたびに剣の稽古だろ。大体なんでいつも僕ばかり呼び出すんだよ。あの脳筋騎士様と
よろしくやってりゃいいじゃねーか。脳筋同士、上手くいくだろ。僕はそろそろこの街を出たいんだ。
「でも来てくれて良かった。もう、いなくなっちゃうんじゃないかと思って…」
…はぁ、頼むからおぞましく清潔で、背筋に鳥肌立つような花の香り撒き散らして僕の胸に顔埋めるの、
やめろっての。あー、頼むから変にドキドキするな僕の心臓。魔術に女はいらねー。
「私、小さい頃からこんなだから…だから、好きな男の人にどう接したらいいかわからなくて…」

「色々悩んだけど、私はこういう性格だし…真っ直ぐ伝えた方がいいんじゃないかって」
わからねー、わからねーよ女って生物は。どうしてこう、変なとこで汐らしくなるんだよ。
普段からそうしてりゃ僕以外にも気の毒な男が寄ってくるだろうが。
「だから言います。シーフォン、ずっと私の傍にいて。お願い…」
いやいや、いやいやいやいや。第一、身分が違い過ぎるだろ。それに僕はこんな田舎街がどうなろうと
しったことじゃない。街の復興なんてどうでもいいんだよ。っつーか、何言い訳考えてるんだ僕は。
まったく、こいつらとひばり亭で馴れ合ったせいか、ろくでもないことばかり考える。完全に毒されたな。
「シーフォン様、あたしからもお願いします。シーフォン様のお力添えがあれば、ウェンドリン様もきっと…」
いちいち背後を取るな。殺s…逃げるぞ。全力で逃げるぞ僕は。
「フラン!もう、あれほど外で待っていてと約束したのに」
く、こいつ、部屋の外に待機させて逃げ道塞いでやがったな。僕が不覚だった…いつもいつもいつも
このゴリラ女にこき使われてるせいで警戒心が薄れてたのか…慣れって怖いもんだ。こうなったのも、
元を追求すればあの酒場が全部悪い。あの酒場が、あの酒場が…。
「死者の書をすべて揃えられたのはどなたのおかげでしょうか。あれをお譲りになったのは確か…」
小声で言うな小声で。しかもドス利かせて言うんじゃねえよ。人の弱み完全に握ってるなこいつ。
クソ、完全にハメられた…しかも相手はここの領主。断ろうもんなら…だから権力者はいけ好かないんだ。
「本当?ここに居てくれるの?ず、ずっと傍に居てくれるのね?うれしい…」
だーかーらー、その真っ赤な目潤ませてこっち見るな!
「良かった。シーフォン様のお力添えがあれば、きっとホルムをより良い街にできます」
死ね。マジで死ね。てめえの暗黒料理なんて絶対食わねえからな。俺の8号君を何回殺しやがった。
ぜってー逃げてやる。意地でも逃げてやるからな。もうタイタスは消えた。ここに拘る理由はねーんだ。
326名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 11:59:59.45 ID:Xjqzf5WM
そう考えてもう3週間。僕は未だこの城に…幽閉されている。僕の部屋は牢獄並みに施錠をかけられ、
僕程度の技量では開錠できないよう細工がされている。あのメイド、見抜いてやがったのか。
魔法で吹き飛ばそうと思ったが、運が悪く僕の部屋は二階だ。しかもあの剣バカの向かい側。
【魔法で吹き飛ばす→剣バカ死亡→どう考えても僕のせい→メイドに追い掛け回される】
運良く瓦礫の下敷きにならなくても、こうなることは予想できる。あの暗黒メイドに追い回されながら
魔術書漁りなんてできるわけねー。あークソうぜえ。毎晩毎晩あのゴリラ女と添い寝させられるわ、
おぞましい石鹸の殺人臭かがされるわ、窒息させる気か。最近は酷くなる一方で生意気な色仕掛けまで
しかけてきやがる。メイド、人の寝床にまで入って見張るんじゃねえよ。死ねクソが。
僕の8号君まで復興作業に駆り出しやがって…僕は諦めないからな。絶対、絶対、必ずここから逃げてやる。
自由よ待ってろ!クソがあああああああ!
327名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 12:01:16.04 ID:Xjqzf5WM
こんな感じかな、うちの場合は。
主人公は腕力持ちだし、野伏で生存取得すれば、
古代+盗賊持ちのシーフォンともますます相性いいね。
328名無しさん@ピンキー:2011/05/07(土) 00:29:32.72 ID:bmBRjQPU
>>324
乙乙、仕事速!
ある意味ハッピーエンドなのにwシーフォンww
329名無しさん@ピンキー:2011/05/08(日) 21:26:49.06 ID:2Rhu5nET
マナってどういうイメージで動かせばいいんだろ。
自分は顔グラ1で遊んでたから、ある程度歳いってて
大体パリスとかネルあたりとタメって感じで捉えてたけど。
330名無しさん@ピンキー:2011/05/08(日) 23:26:36.42 ID:xWdn725T
俺は顔2派だったな
大人しくて内にこもるタイプ
カンが鋭いから色んなことに気付くけど、口に出して不気味がられたことがあるから滅多に言わない
ネルの後ろにくっついて歩いてるイメージ
同じ年頃の男で口をきける相手はパリスだけみたいな
331名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 00:12:16.42 ID:I/zxo8rL
なんとなくわかるなぁ。顔2だと物静かな感じが似合うね。
顔1でやってたから、小さい頃はおてんばでやんちゃな感じだったけど、
歳重ねるにつれて淑やかさが出てきて、ってイメージだった。
俺の場合、女主人公はほとんど顔1だなぁ。
332名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 11:35:10.89 ID:MXFuRImy
俺は……顔4だったかな?
性格的にはエンダ+ネル/2くらいの天然行動派。
とりあえず捨て猫見かけたら、なーんも考えず拾ってくるような奴。
結果捨て竜ことエンダを拾ってきてアダさんびっくり、みたいな。
333名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 16:15:07.40 ID:iRrB1aFV
>>332
みてみてー!りゅうのこどもひろってきた!
みてみてー!むしょくのおじさんひろってきた!
みてみてー!女神様忘却界でなぐってきた!
みてみt(ry

アダさんが死んでしまう
334名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 20:27:19.92 ID:3WbzDeRW
拾った子供自慢で全世界規模のお尋ね者にしかける婆ちゃんだし
そんくらいじゃないとやってけない気もしないでもない
335名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 20:30:06.80 ID:MXFuRImy
>>333
その前には
「ばーちゃん!洞窟でホネ拾ってきた!」とかやらかす天然娘なわけですよ!

……ま属性持ちのヴァンと被る……かな?
336名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 20:58:30.23 ID:iRrB1aFV
神殿に拾ってきた野良猫とか犬とか大量に集ってそうだなw
このままだと変身したキレハすら洞窟じゃなくアダに見せに行きそうで心配です
>>335
「ちょっとタイタスひろいに世界すくってくる!」て飛び出していって、それきり・・・
というお話だったのさって昔語りする寂しげなアダばあさんとか想像したじゃないか
337名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 21:03:44.61 ID:iRrB1aFV
ずっと前のスレにあったマナダークの長編は凄くよかった
高校生に手を出してしまう体育教師的な年齢で想像しながら読んでたら
終わりのほうで顔4で書いてたと判って死んだ。ガチペドに目覚めかけたのもいい思い出です
338名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 21:48:26.17 ID:I/zxo8rL
>>336
>「ちょっとタイタスひろいに世界すくってくる!」て飛び出していって、それきり・・・
トゥルーエンドだとそうなるのかな。パーティメンバー次第では
あの街に出てくる人物の顔にもアダとかネルが混じってたりするし。
しかしトゥルーエンドは何回見ても複雑な気分になる。
ネルそのものの顔してるのに、見知らぬ人っていうのがまた…
339名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 22:09:58.87 ID:iRrB1aFV
名前聞くとラパンとかバリスなんだろうか
340名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 02:14:00.25 ID:VjLHZY1r
ヌルとかチェナとかか
341名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 03:26:02.52 ID:s47CFWLN
ttp://komica.dbfoxtw.me/indiegame/pixmicat.php?res=742&page_num=all
中国のふたばっぽいとこでRuinaについて色々話してるんだが
翻訳ページ通して見たところ、Ruinaを訳しようとしてるっぽい?
読める人いる?
342名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 04:00:54.98 ID:8U8QfEg0
あいつら著作権て言葉を知らないからな…
343名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 05:50:34.36 ID:B9E4ytUn
なんとなく話題の内容が判るな
最終戦の演出がサイコーだとか、隙間女の話とか、
豚コックに発見される話とか
344名無しさん@ピンキー:2011/05/11(水) 16:19:20.29 ID:caa9d/eX
訳・おっぱい大好き
345 ◆1HLVKIREhA :2011/05/11(水) 22:47:40.02 ID:xgj9ubmS
「ふあー」
密室に充満する湯煙に、心地良い吐息が混ざる。
浴室。それも、地下に住む小人族の高度な技術の粋を結集したもの。
一度戦火に見舞われ、ようやく復興の目途がついたホルムにおいて、
一般家庭に簡単に設置できるものではない。“一般”家庭であれば。
「流すよ」
「うん」
ざばー、と妹の頭からお湯をかける姉。
起伏に乏しい、年齢からしても少々発育に欠ける身体を洗い流す。
この仲睦まじい美少女姉妹が、この浴室付き一戸建ての住人である。
姉の名はアイリ。妹の名はチュナ。
彼女達の現在の恵まれた境遇に関しては相応の事情があるのだが、
本筋とは関係がないので詳細は割愛する。
「じゃあ、次は姉さんの番ね」
「ん」
前後を入れ替え、今度はチュナがアイリの背中を流す。
水滴を弾く、磨き抜かれた珠の肌は、妹の目からしてもため息が出るほど美しい。
そして、姉の肩越しに覗く胸部を自分と比較し、別のため息も漏れる。
当のアイリは、チュナのなすがままになっている。
「姉さんの髪の毛、やっぱり綺麗」
「チュナも、きちんと手入れすれば大丈夫」
「だといいなあ」
言いながら髪に指を通すと、アイリが気持ちよさげに目を細める。
「んに」
「わ、わっ」
そのままもたれかかってきて、チュナがわたわたと頭を支える。
チュナを信頼しているのかバランスに自信があるのか、或いはその両方か。
平然と、チュナの洗髪を妨害する。
「これじゃあ洗いにくいってば」
「ふふ」
可愛らしい抗議にも、アイリは悪戯な笑みを浮かべるだけ。
仕方なく、不自由な姿勢のままで続行しようとする、が。
「んにゃー」
「はわわっ」
さらに頭を動かし、邪魔をする。
「もう。どうしてそういう意地悪するの。いつまでも洗い終わらないよ」
「……終わらせたくないもの」
「へ?」
「誰にも邪魔されない、二人きりの時間。ゆっくりしよう?」
にへー、とチュナ以外には絶対に見せない蕩けた笑顔を作る。
もちろん、今の角度ではチュナにも見えないが。
ひばり亭のクールな踊り子アイリの、秘められた一面。
それを誰よりも理解しているからこそ、
「……しょうがないなあ」
「うん、やっぱりチュナは困った顔も可愛い」
このワガママな愛しい姉を、つい甘やかしてしまう。




好きなラノベ作者がネタに困ったら風呂に入れろ(意訳)って書いてた編
ついでにどっかで見たネタを流用する暴挙第五弾
カップリングで言ったらこのほのぼの姉妹が一番好きだなあ、と再確認
新たな境地も開拓したいとこだけど、キレハもアイリも絡まない方向は難しいのう
346名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 02:08:19.70 ID:R4uUauuu
>>345
GJ!
イチャイチャほのぼの甘々でニヤニヤした
盗賊姉妹はラブラブでいいのう
347名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 17:56:59.36 ID:MW8PL+cB
GJっすー
このスレ含むRuinaのせいで百合属性に開眼した気がするわ
348名無しさん@ピンキー:2011/05/13(金) 22:04:00.22 ID:jpNu6clI
百合ねぇ
顔1マナがロリ化して忘却界でアークフィア様と
にゃんにゃんするというシチュなら考えたけど
蛇ということもあって触手プレイもOK
349名無しさん@ピンキー:2011/05/13(金) 22:37:55.87 ID:WZU9Am3H
顔4じゃなく顔1のロリってところに気骨を感じてしまう
唯一の金髪だから貴重やね
350名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 00:44:38.69 ID:7P8R336m
神官ルートでエンダED見てからこのカップル意識するようになった
巫女としての修行積みながらエンダの世話してんのかなと思うとね
同じベッドで一緒に寝たり、>>345みたいに小人の塔の風呂に二人で
行って身体流してたりするところを考えてしまう
351名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 13:38:12.89 ID:FknVXQoJ
チュナとエンダは生まれからすると将来が期待できるよな
ロリコンじゃないけど、美しく成長した姿とか考えるとたまらん
光源氏シンドロームだろうか
352名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 07:12:41.36 ID:Iekej9wS
一周してチュナタイタスにエロスを感じるようになってきた
あの赤いジト目も改めて考えてみると割とアリだよな
353名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 08:44:56.60 ID:ia+lcPW1
敵の意のままに操られるお姫様
っていうと物凄いエロスを感じる
354名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 12:00:27.49 ID:/5xDOqMp
ミニスカひらひらで宙を飛び回るしな
355名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 15:48:43.24 ID:t5PnB+yJ
主人公敗北で少女皇帝から監禁子作り編まで想像した
12歳って歴代最年少じゃね
356名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 19:31:55.69 ID:aR7Va07/
いや敗北したら主人公の方に乗り移るんじゃ
357名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 21:51:01.54 ID:ia+lcPW1
主人公倒れて正気に戻るもタイタスに孕まされるという鬼畜ルート
考えて後悔した。全力で後悔した。今年始まって一番後悔した
358名無しさん@ピンキー:2011/05/18(水) 00:16:12.21 ID:Z0sfdDcS
>>357
興奮した
359名無しさん@ピンキー:2011/05/18(水) 03:56:15.20 ID:U/taeQiV
>>356
そこまでは描かれないことだから勝手に妄想したらいいんじゃね?
360名無しさん@ピンキー:2011/05/18(水) 04:07:10.99 ID:ck5uQNbw
なあにいざとなれば美容術の技能書で魅了を覚えればいい
361名無しさん@ピンキー:2011/05/19(木) 22:52:31.22 ID:wVuT9IoC
この勢い、チュナも隠れた人気キャラだったのか
アイリやヴァン以外と絡めばまだ化けそうだな
362名無しさん@ピンキー:2011/05/19(木) 23:25:26.16 ID:Famwmu+e
神殿主人公だな
一応固有イベントあるし
363名無しさん@ピンキー:2011/05/20(金) 04:02:04.54 ID:ZSDheckq
チュナと絡ませようとすると、どうしても冒険序盤かゲームクリア後じゃないと睡眠姦決定だからなぁ
結構ハードル高い
364名無しさん@ピンキー:2011/05/20(金) 06:40:52.24 ID:Vptpwa4Q
夢の中であわせりゃいんじゃね
主人公とならどっちも常人じゃないし
パリスとかとでも、チュナの特別な力でうんたらってな
365名無しさん@ピンキー:2011/05/20(金) 14:24:40.83 ID:+yNMIdpm
GWも終わったってのに、表のスレが香ばし過ぎてワロタ
366名無しさん@ピンキー:2011/05/20(金) 14:27:48.97 ID:WAX1PKJM
だからっつってここで表のグチ吐かれても困る
住み分けできない連中はどこでも迷惑しかもたらさんよ
367名無しさん@ピンキー:2011/05/20(金) 21:10:04.30 ID:aoEDDipu
>>363
好きな人が多い割に人気が出ないのはそこだろうなあ…
36815 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 00:03:38.94 ID:hV+qpvWG
お久しぶりです、長くなったので分割して
ヴァン>>312-317続きユーヌム獲得まで
まずは宮殿に入るまでで4400文字程度

続きは朝方の予定で連投規制回避です
36915 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 00:04:17.51 ID:hV+qpvWG
「……私は引き上げる」

「なんでだよ」
「四人もいらんだろう。宮殿へはお前たちで行けばいい」
「そりゃいいけどよ、ほとぼりさめるまでは、しばらくサカバにはもどらねえほうがいいんじゃねえかな」
顔をしかめていると、二匹ばかり白いのがまとわりついてくる。なぜか知らないが、えらく懐いている。
頻繁に食い物を与えたためだろうか。
「さっきはおれがいたからゴマかせたけどよ、つぎあんた一人でといつめられたら、どうすんだ?あいつ
しつけーぞ」
始末すれば、と喉元まででかかったが、仕損じて取り逃がせば、口を封じねばならない頭数がむやみ
に増えてしまうだけだ。何より同じ味っ子を求道する者として殺すのは忍びないし、ひばり亭での少年
の様子から察するに、メイドを殺害しようとすれば彼は離反しかねないのではないか。
「よう、お前さむくねえの?」
「エンダは強いからな。 ぶえっくしゅ!」
ボロ布を被っただけで白い腹を丸出しにしている子供が洟をかんでいる。汚い。
「おだいじにー。じゃあよ。お前コイツきてろよ」
「いやだ、こんなの着ないぞ。エンダは竜なんだぞ」
「ハラへったら食ってもいいぞ」
「おー!」
目を輝かせて鎧……?を受け取った。半月係りで中身をくりぬいたカボチャだが、どうやったらこんな石
のような強度が出るのかはわからない。食材の持つ無限の可能性の一端は、こんなところにも片鱗を
見せているのだ。素晴らしい。
「……上手いこと騙されてるわね」
狩人の言葉に我に返った。全くその通りだ、根本的なことは何も解決していない。体こそ小さいがヴァン
の力量を思えば今の自分ひとりで殺せる相手ではないと思う。といって増援を望める情勢ではないし、
一個師団動くならともかく、そこらの僧兵を幾ら集めようとも少年にとっては物の数ではないだろう。相
打ちできれば儲け物、こちらだけメッタ刺しされた挙句、神殿関係者がとばっちりで報復されそうだ、と
ても手を出す気になれない。よりによって面倒な相手に聞かれたものだ、どうしよう。ここは一つ、ギュス
タールのネタで揺すって黙らせればいいだろうか。だが一族の保身を計るメイドから逆に暗殺されそう
な気もする。どうしよう。憑依と分った時点で殺しておけばこんな事でくよくよせず済んだのに。孤児ごと
き一人や二人消すのを躊躇ったばかりに、バルスムスは死んでしまうわ神殿の立場は悪化するわ失
業の危機だわで本当にえらいことになってしまった。
「なーにしけたツラしてんだよ、え?これからシロんなか家さがしに行こうってんだ、あたま数は多いに
こしたことはねえじゃんか。ホレ、わるいよう
にはしねえって、いっしょに行こうぜ。な!な!な!」
「適任を探せ、他にいるだろう。西シーウァの女とか」
「やだよ、だってぜってーあいつはネルとかこいつといっしょになって、おれにこええハナシするもん。な!」
「だからタンスに足をぶつけて、小指の爪が剥がれる話は怪談じゃないから!」
「やめろおぉぉ!」
「夜眠っている間に耳から入り込んで、むしゃむしゃと脳を食い荒らすムカデの話も怪談じゃないから!」
「やめろってええぇぇ!」
「磯遊びしていて転んで切ってしまった膝から、何年もたって中にフジツボがぎっしり……っていうのも
怪談じゃないから!」
「やめてくれよおおおぉぉぉ!!!」
「母方の男の人が禿ていると確実に自分にも遺伝するし、女の貴方は男の子にも遺伝するから諦めろ
ハゲって言う話も怪談じゃないから!!」

「「ぐわあああたのむっ、もうやめてくれえええ!!!1」」

「うわああんうわああんキレハがおれをいじめる!!キレハがおれをこわがらせる!!」
「うわああんうわああんヴァンが泣いた!ヴァンが泣いてるう!!泣くなあ!ハゲてもお前はエンダの家
族だぞ!肉をくええ!!」
「もがもがっもが、うぐッ!!かてえよう、くえねえよう」
「しっかりしろ!お前は父方も母方もタイタスだろう!墓所の連中も見る限りそう派手には禿ていない、
幾人か除いては!!仮に禿だとしても、お前は毛が細るタイプの禿だ!!!」
「そんな分類しないで!?」
「上から来るタイプか……。いや、或いは」
「やめろお!ちくしょう、どうすりゃいいんだ!いますぐ石ころさがしにいかなきゃなんねえのにィ」
「なぜそう急ぐの?夜明けを待ってからでもいいじゃない」
「まってらんねえよ、グスッ いそぐんだよ。あんまりおきてたら、ねむくなっちまうだろ。な!」
37015 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 00:05:43.80 ID:hV+qpvWG
「そうだな、グスッ ヴァンは子供だからな」
「お前だってガキだろ」
「ガキだけどエンダは竜だからな、竜のほうがカッコよくて強い」
べそかきながら口を尖らせてキレハを見上げている。
「だから張り合う気はないのに……もう、そんなに泣かないでよ」
竜人とコソドロをそっと抱き寄せてやさしく頭を撫でてやる、今最も敏感な箇所だ。取り扱いに注意して
あげよう。こんなに脅えさせてしまうとは。ちょっとやりすぎたのを後悔する。
「わかったわ、もう怖い話はしない。約束するわ、本当よ。さあ、貴方が眠くなる前に皆で行きましょう」
「駄目だ!!寝られるものならすぐにでも寝ておくべきだッ、暴飲暴食と寝不足は、毛根を脅かす唾棄
すべき悪徳だ!忌避すべき罪悪だ!!」
「……この人はなにを言っているの」
「はえぎわがやべえんだろ。あーあ……、おれがもっとつよけりゃなあ。お前らはいいよなー、おれも火
とかはけねえかなー」
「私は吐かないわよ!?」
「ニジ色のやつピカーってやったじゃんよう、いいよなー。おれもなんかマネしようとおもったのによう、な
んでケツからでるんだよう、ちくしょ〜……」
本気でがっくりしている。初めて呪文を唱えた瞬間、そう、ちょうど今と同じで獣呼びの練習に付き合わ
されていた朝のことだったけれど、着ていたもののお尻のあたりがすっかり焼けてしまった時も、ちょっ
と言葉がかけられないほど酷い落ち込みようだった。二度目は、さっとお尻を出すところまでは順調だ
ったのに、少しマントが垂れて、裾が焦げてしまったので泣いて悔しがっていた。どうしてお風呂に入ろ
うというだけの事であんな情熱を傾けられるのだろう?この人の考えることはわからない。というかこの
人の頭にはものを考えたりする機能はついているの?草原の天候のように目まぐるしく機嫌が変わる。
いつの間にかヴァンはエンダとかわるがわる馬飛びしていた。物いいたげな傭兵の男と視線がぶつか
った所でふと我に返った。
「話はわかったわ、……わかった、よう、な?気がします」
落ち葉でスライディングしながら繰り返し行ったり来たりしている少年を目で追う。
「でも宮殿て結構広いわよ、いるのは、私 達 だ け で は な い のですしね(ニヤリ」
「やめろよぉおおぉこわいはなしするなよぉおおぉぉ」
「しないわよ、事実を言っただけじゃない。実際、普段より人数が多いのは良いのでしょうけれど、今夜
中に見つけるというのはどうかしらね……」
「目ボシはついてんだ、あとはマジで石ころをひろって、ハカバんとこまで行くだけなんだけどよう。いき
たくねえんだよな!ま、それがモンダイってワケよ。うひゃひゃひゃ!」
「何言ってるのよ。貴方何度もあがりこんで、一緒に夕食までご馳走になったりしていなかった?」
「……何?」
「くいものなかったんだもん。けどあんただも見たろ?わけわかんねえシンセキどもがうっじゃうじゃわき
やがってよう、どうすりゃいいんだあんなに」
「またそんなこと言って」
「あんな、あんな……あんなおおぜいガキいても、お年玉やれるワケねえだろ!?どうばっくれりゃいい
んだおれは!!!もうやだしにてえ!!!」
「なんて顔してるの。しっかりしなさい、ヴァン!誰だって、自分の全財産を犠牲にすることは出来ないわ。
家計を背負った上で、それを払うか抗うか決めるしかないのよ」
「うう……つれえよう、いやだよう」
「なくなヴァン、うまいものいっぱい食べれば元気が出るんだぞ。ほら、まだあるからどんどん食べろ」
「やめろよう、いやだよう」
「そんなんじゃエンダみたいに大きくなれないんだぞ」
「いやだよう、なんの肉だかわかんねえよう」
「心配ない、私が与えた干し肉だ」
371一旦中断です15 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 00:06:30.72 ID:hV+qpvWG
無言で狩人と顔を見合わせ、涙をボロボロこぼしている、駄目そうだ。エンダに手を引かれながら歩い
ていった。放り出された荷袋をいくつか拾い傭兵も後を追う。先頭の少年が黒い石柱にとび蹴りを食ら
わせると、表面に刻まれた古代文字の一部が輝いて大廃墟まで飛ばされた。便利なのは確かだが、
使えるのが少年だけである上に、毎回とんでもない扱い方をしているので不安で一杯だ。なぜ彼だけ
が操れるのか……。まさかタイタスの末裔だからだったとは。今おもえば、憑依を絞り込む為の材料は、
こんな早い段階からそこら中散らばっていたのだ。宮殿で、自身が河で拾われた捨て子であった話を
聞いた時点でも、タイタスの夢を頻繁に見ると聞かされた時点でも、全く候補に入れていなかった。
いや、それはどうだろう。認めたくなかっただけかもしれない。こんなばかそうな子供が、始祖帝の子孫。
それも、ただの子孫ではない、憑依体なのだ。これを認めるなら自動的にこれまで出会ったタイタスたち
に匹敵する人物という事になる。それが一番解せない。この……クソガキが?
「やべえ、ちょいまち、ダメだ。はらがいてえ」
「まさか、本当に食べてしまったの!?」
「うまかったな」
「うまくねえよ、かてえよ。けどエンダにもらったのに、おれだけくわねえワケにはいかねえ」
「そんなところに男気出さなくてもいいでしょう」
「エンダみてえなクイシンボが、おれのために分けてよこしたんだぞ!なんかクスリくれ!!!!1」
万能薬をばらまいてくしゃみしている。そうだ、獣呼びをして<魔王>の子孫やら転生した竜王を召還
するような小僧が只者であっても困るだろう、むしろこんな連中にただの通りすがりが混ざっていていい
のだろうか。白状すれば、帰りたくなった本当の原因はこれだった。場違いにも程がある。頭が痛い。
なぜ自分に肩入れしてくるのかもよくわからない。中々まともな報告を上げられず往生する度、どこからか
都合のいい情報をさりげなく流してきては何度も助けられた。いつからバレていたのだろう。それも見当
が付かない。ただ、かなり早い段階で勘付かれていたのは間違いない。
『いくらかくしたってイミねえ。あんたカンケンの顔してんだよ、見りゃすぐわかるわ。とくにおれらみてえ
なのにはな』
バルスムスから地元協力者としてこの少年が紹介されて死ぬほど驚いたのは、ホルム占領直前だった。
床板を外して出て行こうとする少年からにやにやしながら言われたけれど、そういうものなのだろうか。
自分が知らない間に犯していた失態も、こちらが気づくより先に手を回して隠匿し、証人諸共闇へと葬る。
幾度もそのように助けられていたらしく、人づてに知らされた際には愕然とした。彼こそ本当は、最も敵
に回してはならない相手なのかもしれない……。
372再開です@15 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:31:29.72 ID:hV+qpvWG
「意味が分からないわ……そもそも、何の話をしてたのよ」

頭を抱えてしまう。子供たちは竜になりたいとか、そのうち羽も生えるかとか、きゃんきゃん言い合って
いる。大廃墟から宮殿へ向かう途上のことだ、ヴァンの推理を大まかに説明してくれた男に、つい口を
挟んだのがまずかったのかもしれない……。
「なるほどね、確かに宮殿が妖しい感じ。あの黒い石柱は、他の秘石のありかと大廃墟を結びつけて
いるのじゃないかと思うけれど。石柱からの道も、お供の夜種を送り出したり、貴方みたいな人を自分
のところまで誘い込もうとして仕掛けられてるような気がするし。そんな風に重要な場所全てとつながり
があるのに、一時とはいっても住んでいたはずの宮殿だけが仲間はずれなのは、おかしいでしょう?貴
方たちみたいな、町に住む人たちは、何かなくすと困るような大切なものは、簡単に入っていけない所
にしまうものですしね」
「なんで?お前はちがうのか」
「私は定住しないもの。移動生活してるなら、そういう大切なものは肌身離さず持ち歩くわ」
「フーン。おっことさねえのか?」
「そうならないように、身につけておくんじゃない。着ているものに縫い付ける方法は、貴方もやっていた
でしょう?」
「すっぱだかでニゲるハメになったらどうすんだよ」
「案ずるな。肉体こそ、人類が持つ唯一にして最大の財産なのだから……」
「ハダカがイチバンだな」
エンダとメロダークは顔を見合わせ、意味ありげににんまり目配せしている。ついていけないなと目を閉
じていると、出し抜けに叫んだものがいる。
「ああ、わかった!やばくなったらのみこんどきゃいいワケか。お前らアタマいいな」
「ええ!?」
「ハラぶっさかれなきゃ、かくしとおせるってのはかなりイケる。イイかんがえだわ。今どやってみようっと」
「ねえ、それってあとで困るんじゃない?どうするのよ。どれでも飲み込めるとは限らないのだし、もっと
いい隠し場所を探しなさいよ」
「とられちまう位なら、ゲロはくなりクソつまらせて死にかけるほうがマシなモンてのがあるだろ」
「エンダがヴァンをのみこんだら、死ぬんじゃないか?」
「まじかよ。のむなよ。おれはダレにもとられねえぞ。オジキにもとられねえ。お前にもとられねえ。おれ
はおれのモンだからな」
「うー……じゃあ味見!味見!」
「お前な、そんなことするからク・ルームなんかにフウインされたんだぞ?ハンセイしろ」
かぶり付いていたエンダは、はっとした顔になってそっと腕を放した。
「……ごめんなさい」
「わかりゃいいってコトよ。ようメロダーク、ひまなら止血してくれ」
「歯型が付いてるじゃない、大丈夫なの?」
「うまかった?な、おれうまかった?」
「……終わったぞ」
37315 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:32:01.65 ID:hV+qpvWG
「ありがとよ。てか、なんでか知らねえけどニンゲン、なんかかくそうとするヤツてのは、大がいダレでも
にたようなかくしかたするんだよな。ちょいとなれりゃスグわかる。かくしてねえように見せようってひっ死
こくやつほど、よけいにバレバレってワケ。オジキもおんなじよ。な!」
「ふーん……バレていないと思うのは、当人ばかりという事かしらね」
「おうよ、バレバレよ。な!」
「バレバレだな!」

「……なぜ私を見る、私の、頭を見るのだ」

「見てないわよ?」
「エンダも見てないぞ」
「……いや、無いならいい。気にするな」
「気になるわ、なりすぎよ。大体、いつも兜を被ってるじゃない。髪型がどうかなんてわかりっこないわよ」
蒸れるからまずいのだ。一度意識してしまうとおかしなところばかりに目が行ってしまう。明るいもの、
点滅するものに自然に視線が集ってしまうあの効果だろうか。兜の話だが。
「駄目、気になって気になってイライラしてきたわ……」
「よせよ、こまかいこと気にしすぎるとなんかのアタマがかたくて、またがハゲるんだぞ。な!」
「ネルがしていたのは、そういう話だったかしらね」
「脱皮だな、知ってるぞ」
「おれもしってる。オトナになると一皮むけるんだってよ。いいなあ、オトナだなあ……」
まぶしげに傭兵を見上げている。そ知らぬ振りで兜を外し、自慢の長髪をかき上げ呟いた。
「風が、強いな……」
「やめて!」
「どうした、私の髪がそんなに気になるか?頭の皮から、じかに生えているこの黒髪がか?それとも、
お前は私の所有物なのか疑っているのか?なんなら領収書を見せてもいい」
「勘弁して頂戴、何を言っているのかわからないわ。また変身してしまいそうよ!」
「まじかよ、またオオカミにヘンシンするのか!」
「期待に満ちた目で見るのはやめて!」
「だってもこもこしててあったかそうだったろ。ちょ〜いいよな、冬とか。な!」
「な!フカフカだったな。竜はカッコいいし強いけどフサフサしないぞ。冬はさむいな。キレハはいいな」
「……念のため言っておくけれど、べつに防寒対策で変身してる訳じゃないですからね」
「なんだよ、ヘンシンしたらぬけ毛あつめてマクラでもつくれるかとおもったのに。な!」
「イッパイぬけたら、毛布つくれるか?」
ヴァンの腕に巻きついた竜人はすでに捕食者の目をしている。
「ちょっと待って、何をする気!?寝てる間に丸刈りしようとか考えないように!いいわね!?」
「あー、その手があったわな。なんてな、うひゃひゃひゃ!にらむなってぇ、やらねえよ」
「やりかねないと思うわよ!!」
「わひゃひゃひゃ!だってよ、まじかよ。あーあ、冬が来るまえにおれもお前らみたいにのばそうかな。
みんなモサモサしてていいなあ。ぜってーあったかいよな、ちょ〜うらやましいわ。けど、どれくらいかか
るかな。ちょっと足らねえか……」
「獣毛ならそれほど値は張らんぞ、それこそエンダから分けてもらえばいい。お前と色も似ているだろう」
「……なにか重大な行き違いがあると思うわ」
少年は壁によじ登っているエンダをまじまじと眺め回し、それから声をかけた。
「なあエンダ、お前はキレハよりも小さいのに、なんでキレハみたいに長くのびたんだ?」
「エンダは竜だからな。強くてカッコいいし、かみもイッパイのびるんだぞ。わけてやろうか?」
「いらねえよ、わるいことはいわねえから大じにはやしとけって。いつなくなるかわからねえんだぞ」
明るいとかまぶしいとか激しいとか、口の端に上る度知らん顔しながら微妙に反応してくる連れがいる
せいで、遠からず頭がおかしくなりそうだ、逃げるように宮殿へ足を向ける。大扉を入ってすぐの壮麗
な大広間にある九柱の石柱は、十六世の魂を分割して留め置かれていた、あの柱だ。未だに感じられ
る嫌な匂いに顔を背ける。
「こんなことまでして自分を現世に繋ぎとめようとするなんてね……」
「どうやったのかな。タマシイなんてマジでバラせるのか?なんで九コなんだ?もしかして、オジキも十
六コくらいにコナゴナになってんのか?」
「もう少し頑張れば、完全にいなくなるくらい分割できるかもしれないわね……むしろ分割した魂がもど
った時、なぜか最初よりも増えてしまったとしたら……蘇るのは他人の記憶、鏡を見たとき目に飛び
込んできたのは知らない素顔……ていうのはどうかしらね ブツブツ ちょっとありえないかしら。現実
味がなさすぎて、あまり怖くないのかも……」
「エンダは目が覚めたら、ニンゲンになってたぞ」
「そ、それはそうね」
37415 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:32:34.38 ID:hV+qpvWG
「古の賢者たちも、かつては議論の末、怪物に変身していたな……」
「あれは、シーフォンががまぜっかえしたせいで、とんでもないことになっただけじゃない」
今侵入しているのもちょうど件の賢者たちが討論していた部屋だ。すでに解決済みらしく、議事堂には
誰もいない。
「お前だってたまにヘンシンするじゃん。な!」
「それも……そうだけど」
「エンダのほうがカッコいいけどな」
「リュウがニンゲンだもんな、ちょ〜すげえ。またいつか、でっけえリュウになったりできるのかな」
「ハネも生えるぞ。すごいだろう」
「ちょ〜すげえ!ツノとか生えてくるのか?いいよな〜、おれもヘンシンできねえかな。アルソンカメンと
かかっこいいよな。ほぼかわってなかったんだけどな」
「……事と次第によっては、お前もタイタスに変ずるのではないか?」
「なりたくねえよ」
「なら立派な大人になりなさい」
「うひゃひゃ!なれるかよ、おれはゴクドーもんだぞ。な!」
「そう言われると、私だって異教徒の放浪民だし、この子は人間じゃないし、住所不定無職自称傭兵業
の男性じゃ参考にはならないでしょうけど」
「……(しょんぼり)」
「でもね、貴方に言えることはあるわ。チュナちゃんが目を覚ました時、貴方がそんなままで喜ぶと思う?」
少年はキレハの言葉に首をかしげている。よりそったエンダがうつむいた顔を覗き込んだ。
「……そうだな。そうだよな。おれがいつまでもゴクドーもんでいたら、あの子にメイワクかけちまうよな。
今だって、おれのせいで石なんかになってんだし、ピンガーどもにかどわかされちまってんだもんな。
おれはダメなアニキだ」
「そんなことないわ。貴方には出来るようになったことが沢山あるじゃない。だからこそ、判ったはずよ。
運命を変えることが出来るのは、いつでも自分自身だけなの。貴方にはその力があるわ。私にはわか
る。だって、混沌の渦に飲み込まれてしまうはずだった私を、助けてくれたのは貴方じゃない。永遠に
封印されている筈だったエンダを、こうして解き放ったのも、公国の王子様を出し抜いたのも、目も眩む
ような戦歴のお爺さんを追い返したのも貴方じゃない。そうでしょう?見て御覧なさい。この人なんか戦
士としては物凄い職歴なのに、貴方のせいで今やただの無職よ」
「……(しょんぼり)」
「誰かの運命をこんなにして変えてきた貴方が、自分一人、変えられない訳がないじゃない。違う?」
少年を台風の目として様々なものが巻き込まれていくのを感じる。もしかすると、あのタイタスさえも引き
ずられているのかもしれない。今まで何度もあっただろう(正確には十六度)始祖帝の試みを、根底から
破壊できる最初で最後の好機を掴んでいるのだとしたら。議場の扉を押し開けながら問いかける。
「……なにか、将来やってみたい事はないの?この怪異が、解決したら」
「そうだな。……おれもしゃべったり、メシ食ったりするプリンつくってみてえ」
「はあ?!」
「いつもカンタンに作っちゃうけど、あんたマジすげえよ」
「なに、そう難しいことではない。ニョロを倒せ。アニキンゲトリクスでもいい。べとべとした粘液を集めて
来い。後は小麦粉をまぶして火にかけたらひたすら混ぜろ。ひたすらだッ」
「生き生きとしないで頂戴!あれ凄く嫌な匂いなのよ!!!」
「まじですげえよな、入れてたカップつかえなくなるもんよ」
「わりとうまいけどな」
「いい子だ。さあ、パンをやろう」
37515 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:33:08.89 ID:hV+qpvWG
「おい!!テメエらしんでるか!!!」
一瞬の間を置いて、向かいの扉から半壊した死者が顔をのぞかせた。というか笑っているらしい首から
上は燭台に乗っかっており、肩より下だけがこちらへ姿を現している。足元には得体の知れない肉片
がどろどろと溢れ返り、吐き気を催す腐臭を放っていた。どこもかしこも酷いが、他にもましておぞましい。
「ハニー、その声は君なのかい?背が低すぎてここからは見えないぜ。もしかして、とうとう君も死人デ
ビューする気になったのかい!?」
「いやだよ、なんでだよ」
「じゃあなんで来たんだあ!オーミッスィン マイ オニーチュァアアン!!!!!」
「貴方が弟だったの?」
「こう腐っていては、年齢も性別も判別できんな……」
「その通りだよ、明日着るオシャレな服も、年を気にしてエステに行く心配もいらないノーマネー・ノーフュ
ーチャーな死人ライフにジョイナス!」
「うひゃひゃ!生きてるけどどっちもやってねえな。なんだこりゃ?お前のアニキがふりまわしてたヤツ
か?なにカンゲーなんかしてんだよ」
壁に何者かのはらわたで『熱烈歓迎』と読めなくもない古代文字が掲げられていて、彼らの部屋は以前
にも増して凄惨な状況となっていた。
「グレート!君も文字が読めるようになったんだね、アンビリーバブルなやつだ。ハグしてやるよ!」
腕を広げたが空振りしている。よく見えていないのは本当のようだ。
「なにやってんのお前、なんでそんなトコに頭がのってんだよ。イタくねえの?」
「心配してくれるなんて、なんてナイスガイなんだ君は。ノープロブレムに決まってるじゃないか!もしか
したら気づいてないかもしれないけど、僕って死んでるからね!骨が折れても痛くない、病気にだって
かからない、快適な死人ライフはタイタス十六世の提供でお送りしているよ!」
「フーン。十六世のせいでしんだの?じゃあお前って、生きてた時はなにしてたんだよ、ずっとここにすん
でたのか?」
「そうだよリトルボーイ。僕たち兄弟は女王様や、恋するスイートプリンセスの退屈をおなぐさめするため
に、日夜エキサイティングなダンスを提供していたのさ。オー!昔のことなんて久しぶりに思い出すなあ。
何もかも、全部かわってしまった。何もかも。この宮殿で何もかわっていないのは、多分ひとつだけ。中
庭にある池くらいさ。……なんだろうこの気持ちは。あふれ出るパッション!!ほとばしるナイゾー!!
踊らずにはいられない!」
「そうかよ、うるせえよ。じゃあな」
「僕らのショーはこれからさ!レッツ死人デビュー!!」
「そうかよ、でもなあ……あんた見てるとハラへってくるんだよな、なんかお前、ウシのハラワタとかくい
たくならねえ?」
「生肉くいたい」
「……うむ」
「狂ってるわ……全部燃やしてしまいましょう、これは正義よね」
「僕の話なんかナッスィン聞いてないんだね、いいんだよ。死んだ暁にはいくらでも語り明かせるからね、
楽しみにしていて!」
「がんばりな。せいぜいカンソーすんなよ」
「お前がひからびたら、ただのガイコツだからな」
「やっぱりあの骸骨戦士も、こういう歩く死体から骸骨になったのかしらね」

「そんなジョブチェンジはノーサンキューだよ、ハニー!!」
37615 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:33:41.64 ID:hV+qpvWG
ひっくり返しにすえつけ直され、珍妙な飾りを継ぎ足されてしまった彫像群の間を進む。まだたまに動き
出すこともあるのだが、あんまりな外見の為か、大して怖くはないし、笑い出してしまってやられた探索
者がいたとも聞く。少年はけんけんしながら床の模様で遊んでいるが、もし落ちたら死ぬのだろうか。
竜人と声高に話していたくせに、動作の途中で固まったのは、紋様の端のことだった。怪訝な顔をした
三人が見守っていると、たちまち冷や汗をかき始めた。一滴が頬を伝う……。
「どうかしたの?」
「ちょーやべえ。……お前ら、マッハでかくれろ」
「ういうい!」
エンダの腕をつかむや傭兵のマントに潜り込んだ。突然のことにメロダークは悲鳴を上げよろめいている。
「どうしたの?ねえどうしたの」
「なにをする気だお前たち、しがみつくな、すぐ降りろ!」
「はなしかけんなッ」
「エンダは今いないのッ」
二人羽織のようになった外套の下から押し殺した悲鳴で懇願してきたが、たかられたほうは狂ったよう
にもがいている。
「へおっ、わき腹を触るんじゃない!よじのぼるな!降りろ!!」
地団太を踏んでその場をぐるぐる回っている。気の毒だが宮殿の瘴気にやられて気が触れてしまった
ようにしか見えない。殴られないよう離れていた異邦人は思わず天を仰いだ。
「何をやっているのかしらね、この人たちは……」
尻に火のついた獣のようだ、怖気づきながらも助けてやろうとした時、どこかで声がした。

「……おかしいなあ、どこかなあ。声がしたのになあ」

すぐ側を、足音だけがぺたぺたと通り過ぎていく……。凍り付いていた二人は、背中にそっと囁いた。
「どういう、こと?今の」
「かつて、探索者を調理していた、あの料理長のようだったが……。なぜまだうろついている」
「いった?なあ、もういった?な、な、もういなくなったか?」
「やべーやべー」
「いなくなったから降りろ」
「まじで?ほんとにもういねえの」
肩口の辺りから囁き声がしたかと思うと、傭兵の後ろ髪の中から白いものが現れた。
「うひょー!見てみてエンダ、ちょーたけーぞ。いいなー、おれももっとセがたかけりゃなー」
「ほんとか!エンダも見るぞ」
「何をすr ゲフッ」
メロダークのフードの中から頭が出てきて辺りを物珍しげに見回しているので、首が絞まってのけぞった。
「くっ、苦しい……!」
「ねえ、あなたたちのほうが怪物みたいになってるわよ」
「うひゃひゃ!まじかよ、おれもヘンシンできたわけかよ。なあおいエンダ。もっとミギいけって、せめえだろ」
「ういうい!」
「……ッ、いいから早く」
「おい、ゆっくり歩け。まわるな」
「ひほほくひをひっはるは!!ちぎれる!!髪も駄目だッ!!」
手を振り払って叱り付けたが、メロダークの背中は大きく伸び縮みしているし、三つ頭がうごめいている。
「なあなあ、もっとあっちいってくれえ」
「やだ、エンダはむこうがいい。ほら、むこう行け ドウドウ」
「とにかく降り、ぐふうっ」
メロダークの兜を掴んで背中から抜け出そうとしている、息が出来ない!もう死ぬ!衣を引きちぎり背
負った子供たちを荷物ごと放り出す。転がった子供たちはさもおかしげに笑っているが、投げた方は膝
を突いてがっくりしているところだ。
「船頭多くしてなんとやらね……大丈夫なの」
「ああ、いや……お前たち、あれが何故滅んでいないか、心当たりはないか」
「コイツよう、むせんいんしょくしたんだ。な!やべえよな、まーださがしてやがんのかよ。しつけえ」
「割とうまかったぞ、じゅるり」

「嘘でしょ!?」
37715 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/21(土) 06:34:23.24 ID:hV+qpvWG
「いいかエンダ、おれはゼッタイふみたおしてやる、なにがなんでもにげきってやるからな!!なにが
テンネンジンニクだよ、そこらのノラてきとうにかっぱらってきただけじゃねえか、あんなモンどこにだっ
てわいてくんだよこんちくしょう、ぜったいばっくれてやる。ぜったいだ。古だい語でいうとZETTAIだ!!」
「ZETTAIか!」
「ZETTAIだ!じゃあ人ぎょのおっさんは?」
「HENTAIだ!」
「HENTAIだ!ちょーやべえ!!ちょーやべえ!!」
手を取り合ってくるくる回っている。
「本当に古代語なの?」
「知らん……」
「テレージャにならったんだ!すげえだろ」
相継ぎ手を広げて駆け出し、トンボを切って壁によじ登るや、天井飾りに次々飛び移って二人ともシャン
デリアと一緒に落ちてきた。怖い。
「な、な、な、これって売れるかな、いくらになる?な、たかく売れる?」
「売れるとして、これをどう運ぶつもりなの」
「エンダはこれくらいへっちゃらだぞ」
ぐいぐいひきよせて見せるが、繊細な飾りが千切れて無残な有様、床も傷だらけになっている。テレー
ジャに見つかればどやされそうだ。
「こりゃお前、こんなのもたせたかねえよ、お前は大じないもうと分なんだから。な!」
「ANNCHYANNが言うなら仕方ないな。けど、重くないからな、エンダはこれくらいへっちゃらなんだぞ、
エンダは強いからな」
「……わかったわよ、もう。あなたは強いわ」
「うー……」
「あなた の ほ う が 強いわ」
「ういうい!」
鉄格子をひんまげて侵入したくらいだ、確かに弱い筈もない。門に施されていた竜と花の図柄は台無し
だ。これを見た巫女が激昂した折には総出で知らん振りしてやり過ごしたが、今でも時たま思い出した
ように話題にするので口を滑らせないか不安になる。順に荷物と連れを入れ、中へ踏み込む。相変わら
ず派手な色の花々が咲き乱れ、強い香りに眩暈がするが、焼き払ったり引きちぎったりしたのを覚えて
いるのか、あれ以来植物が襲ってくるという事はない。
「あんた、かんがえたことあるか?このシロん中はみんなぶっこわれてる。十六世はいかれてるしヒメも
気がちがっちゃってるし、リョウリはコックのくせにまずい。ギロンは実がねえし、ハン決もねえのにショ刑
しようとしてる。見ろよ、カベはおちてるし、カイダンはくずれてるし、トビラははずれてる。水はドコもでねえ
し、フロはいつもどろだらけ。できそこないがそこら中ほっつきあるいてるから、おちおちひるねもできねえ。
なのにいっかしょだけ。今でも、このシロの中でこわれてねえトコがあるのさ。わかるだろ」
立ち止まり、ジョンの躍る真似をして見せた。
「この池ね……」
不思議に思ったことはないだろうか。どうしてここだけ今でも花が咲くのだろう?池に水が枯れず、なおも空
を映しているのはなぜだろう。どうして今も魚が生きているのだろう?なぜ、瘴気渦巻くおぞましい宮殿で、
ここでだけ清浄な水が湧き出しているのか……。少年はにこやかに微笑みかけてきた。
378名無しさん@ピンキー:2011/05/21(土) 08:04:09.07 ID:nR3IWxho

eraRuinaスレから転載




506 名前:15 ◆E9zKH0kZMc[sage] 投稿日:2011/05/21(土) 06:42:13 ID:zbrh5Kds0
大量投稿でレベル−10って/(^o^)\まーたやってしまったか……
ラスト1レスなので、お気づきの方がお出ででしたら転載願います。



「あんたらみんな、おれとちがっておよげるだろ?」
「よしきた」
「ういうい!」
有無も言わせず飛び込んだ。脱ぐのと踏み切るのとどちらが早かったろう?水しぶきを頭から被った狩
人は完全に一人出遅れている。
「何よもう、こういう時は素早いのね。……貴方が私たちを全員連れてきた理由も判ったわ」
「そうかよ。べつにあんたまで入らなくていいよ。ダレかおぼれたらたすけてやれ。まずねえだろうけどな」
池のふちの石組みに飛び乗るとぴょんぴょん飛び跳ねはじめた。じっと待っているのは辛いらしい。
「この池はさ、すげーフシギなんだ。なんとなく、おれに大じなヒミツをうちあけてくるような気がするのさ。
こうしてカオつっこんでると、どっかのケシキが見えてくる。おれにしか見えねえみたいなんだけどな」
「時々飛び込んでいたのはそれでなの?」
「そうだよ、食えるものもとれるしな!うひゃひゃ!いい池だよマジで」
水草の下を何か白いものや大きなものが縦横無尽にくぐり抜けていくのが見える。ふちに腰かけた少
年は、目を細めて天井を見上げた。高速で天を駆け抜けていく星たちが、白い筋を残して西の空へと
沈んでいく。それから身を乗り出して水面へ顔を向けた。
「……こんな石ころよりさあ、こいつをバラバラにかちわったヤツか、その弓矢がほしいよな」
「何を言っているの?」
少年は、夢を見ているようななぞめいた表情で水底を見つめている。そっと手を伸ばし、ちゃぷんとかき
まわし……白い石を掴み出した!

「ほれ見ろ、やっぱオジキもトウシロウだわ。こんなトコにかくしてやがったのな」
「これが、五つ目……」
白く濁った滑らかな石だ。指でつまんで差し出してくる。
「黒か白の石だろうとは思ってたけど……何の石なの?」
「月長石じゃないかな、ほら見なよ。ぴったしまん中にハマるだろ」
二人でしゃがみこんで石を組み立ててみる。強烈な色あわせだった四つの石は、中心に穏やかな白を
加えられたことで随分と上品な印象にかわる。
「ねえはずの五つ目だよ。うへへへへ、こいつをふんだくったってことは、オジキのキンタマつかんだよう
なもんだぞ。おれらでヤツをシメるとしたら、こいつしかねえ」
明確な宣戦布告に感心していて酷いたとえなのを聞き逃したが、ふいに魚が数匹打ち上げられてきた。
「ちょーやべえ、わすれてたわ。ダイジョウブかよ」
呼びかけられた池の中の連中は吸盤にやられて全身みみず腫れをつくっている。不満げな顔で上陸
し、ずぶ濡れのまま石を見せてもらった傭兵は、虹色魚を放り出しながら問いかけた。
「…………我々の存在意義は?」
「ニンゲン、イギで生きてるワケじゃねえだろ」
陽気に目配せしてきた。エンダは何の疑問も抱かず生魚を食っている。一瞬納得しかけたが、やはり
どことなくおかしいことに気が付いた。……なぜだろう、いつもまるめこまれてしまうのは。
379名無しさん@ピンキー:2011/05/22(日) 10:07:12.79 ID:hHkvzHVF
わっふるわっふる
規制されてるかと思ったぜっ
どんどん盛り上がっていくなあ
380名無しさん@ピンキー:2011/05/23(月) 00:38:10.91 ID:Yfaqo0tS
調子に乗ってウェンドリンxシーフォンカポー
>>324-326の続きですね。このカップル気に入りましたわw

僕がこの城に拉致されてから(※一応自分から来ました)二ヶ月か。
あのメイド、僕のハァルの杖を管理するとかほざいて奪いやがって。
剣バカのはからいで何とか僕の手に返ってきたが…杖の無い魔術師の
無力さを痛感させられたぜ。そんな折にだ、あの脳筋騎士がここに
来るって話を剣バカから聞いた。千載一遇のチャンスは、
案外身近なところから出てくるもんだ。今のうちに手を打っておかねえとな。
「あ、シーフォン様。今アルソン様が到着なされたそうです」


「アルソン…会えて嬉しいわ。変わりないみたいね?」
「お久しぶりですウェンドリンさん。フランさんにシーフォンさんも」
く、タイミングが合わないどころかメイドに見つかっちまった。
今回もダメか…一体いつになったら僕は自由を謳歌できるんだ?
「ウェンドリンさん、今日は大切なお話があるのですが…」
なんだ、そわそわしやがって。
「ええ。二人とも、外してくれる?それとフラン、紅茶を淹れてきてくれるかしら」
は?何なんだよ?ははぁ、見えたぜ。さては縁談だろ。
もしかすると、僕が動くまでも無く自由になれるか?
いや、念には念を入れておくべきだろうな。メイドが茶ぁ淹れてるうちに…
「シーフォン様、手伝っていただけますか?ウェンドリン様も喜ばれると思います」
…やるじゃねえか。でも負けねえよ?僕は必ず自由になる。
そう誓ったんだからな。この期を逃したら後はない。ぜってー勝つ!
はぁ、何が悲しくてこの僕が茶汲みなんて…ひゃはは、いいこと思いついたぜ。
この茶にトカゲの糞でも入れてやろうか。
「アルソン様、ウェンドリン様との縁談を断りにいらしたのですね」
あっそー、どーでもいいぜんなこたぁ…は?
「ナザリへお帰りになられる時、アルソン様は…その、プロポーズを」
へぇ、あの脳筋騎士がねぇ。つか、なんでそんなことお前が知ってんだ?
でもってなんでお前が顔赤らめてんだよ。いってぇ!めり込んでる!
スプーンが手の平にめり込んでるっ!
「でもアルソン様、右手の薬指に指輪をはめていらっしゃいました」
よく見てんなー。ってことは婚約指輪か。じゃーあの剣バカはフラれるんだな。
まあ僕には関係ねえけど。ったく、毎晩毎晩夜這いかけられる身にもなれよ。
「きっとウェンドリン様もお気づきになられたはずです。だから人払いを」
381名無しさん@ピンキー:2011/05/23(月) 00:39:03.57 ID:Yfaqo0tS
「ウェンドリン様は繊細な方なんです。気丈になさるのもご自身を守るため」
で?僕には関係ないね。
「シーフォン様、お願いです。今晩、ウェンドリン様を…」
…なんだよ。なんで顔赤らめて目伏せてんだよ。しかも耳まで真っ赤だぜおい。
なんなんだよ、何が言いてぇんだよ。
「さ、さぁ、紅茶をお持ちしましょう。冷めてしまわないうちに」
って、なんで僕にトレイごと持たせんだよ。てめえで持って行けよクソが!

…くっ…そがぁ…また、またダメだった。そしてまた今晩も…部屋のドアよ、
僕が命じる。頼む、ノックされんな。
「シーフォン。まだ起きてる?」
へぇへぇ起きてますよクソが。いい加減懲りろよ。はぁ、また殺人石鹸臭…
「今日ね…私、フラれちゃった」
…はーい、質問だコラ。ど・こ・が・繊細なんだよ。
変なとこで汐らしくなったと思ったら、こういうときはあっさり切り出す。
なんなんだよこいつ。これもタイタスの血筋のせいか?バカバカしい。
「でも当然よね。二束のブーツを履いてたようなものだし」
何の例えだ。それに僕はお前と結婚するつもりなんてねえよ。
「彼、アルソンが私にプロポーズしてくれた時、とても嬉しかったわ」
ふーん…
「一人の男として、騎士として私を迎えにくるって」

「でも、でも私は…あなたのことが好き。だから断るつもりでいたの。でも」
…泣くなよ。
「えっ?あ、あれ?どうして涙が出るのかな…」

「ずるいなぁ…プロポーズしておきながら断りに来るなんて」
僕らの仲をいつまでも伝えないお前が悪いんだ。ちっ、めんどくせえ…
「えっ…シーフォン?…ん…」
塩辛い唇だ…殺人石鹸臭とシャンプーの臭いと涙の味が気に障るが、
柔らかくて暖かい唇だな。不思議なもんだ、この真っ赤な瞳を見てると
なぜか落ち着くことに最近気づいた。毎晩人の胸に顔埋めて見上げてくる瞳。
「ありがとうシーフォン。ありがとう……き…」
あ?なんだよ、ハッキリ言えって。聞こえねえだろ。
382名無しさん@ピンキー:2011/05/23(月) 00:40:15.66 ID:Yfaqo0tS
「もう、ほんとにデリカシー無いんだから………大好き…」
…また暫くここに拉致監禁、か。めんどくせぇ。
でも、ま、特別大目に見てやるよ。あと僕の仕事量減らせよ。
お前ら人をこき使いすぎ、なん、だ、よ…
「ちょっと、シーフォン。寝ちゃったの…?」

「今日は立場逆転ね。いつも胸を貸してもらってるものね…うふふ」
なんだろうな…なんでこんなに懐かしいんだ。
あの酒場でこいつと会って、色々あったけど、すげえ充実してたな。
遺跡潜ってたあの頃に比べりゃ閑散としちまったが、ここにいるのも
悪かねえかな…ここを出る方法はまた考えることにすっか。
今はとにかく、眠りたい。



この二人、動かしやすいんだかそうでもないんだかw
うちのウェンドリンは顔1なんで、クールな感じのつもりですが…
383名無しさん@ピンキー:2011/05/23(月) 01:44:26.79 ID:WqlJ8k3q
こいつは……イイな
384名無しさん@ピンキー:2011/05/24(火) 12:00:23.10 ID:EyUUR9j2
表スレでアルソンさんの話題出てたけど、子供の頃ってどうだったんだろうね
意外と泣き虫だったりするのかな。テオルにぬいぐるみ隠されたりとかw
385名無しさん@ピンキー:2011/05/24(火) 12:32:11.63 ID:XrsLk3fL
>>382
GJ!これはいいデレフォン
ウェンドリン結構図太…強かだなw
386名無しさん@ピンキー:2011/05/24(火) 13:14:09.73 ID:IRES7xaQ
>>384
少なくとも一度は剣の柄に画鋲仕込まれたりしていじめられてるな
387 ◆1HLVKIREhA :2011/05/24(火) 20:55:22.03 ID:dpn/Mliy
アークフィアの大河の辺、ホルムの町。
大河の恵みを存分に受けるこの町の港に、一人の女性が座っている。
色素の薄い容貌から、正確な年齢は窺えない。
活力に溢れているようにも、経験と労苦が刻まれているようにも見える。
背格好からすると、まだ少女と呼んで差し支えないだろう。
その手には、釣竿。年季の入った、簡素なものだ。
水面に垂らした糸の先を見つめ、感情の読み取れない赤い瞳が揺れている。

「釣れる?」
背後から突然投げかけられた声にも、視線は動かない。
たゆたう河面から目を離さず、大物が釣れた、とぽつりと呟く。
「釣課はそれほどでもなさそうだけれど」
歩み寄ってきた黒髪の旅人が、空の魚籠を覗いて素直な感想を漏らす。
「釣れたら、またポララポにでもするのかしら」
「キレハに料理してもらった方が、魚も幸せだと思う」
ポララポとは、地元民ですら微妙な反応を示す郷土料理である。
死者も目を覚ますと言われるほどの強烈な料理だ。
「比較対象がポララポでも、そう言ってもらえるのは嬉しいわね」
言って、少女の隣に腰を下ろす。
白髪で色白の少女と、キレハと呼ばれた黒髪の女性。
コントラストが河辺に浮かぶ。
「それで、考え事は何かしら」
「……何の話」
脈絡のない話に、やはり動じる素振りはない。
「餌、ついてないでしょう?」
「かなわないなあ、キレハには」
ぼやいて竿を引き上げると、糸の先は釣り針ではなく真っ直ぐな針。
キレハの指摘したとおり、餌もついていない。
「あなたがわかりやすいだけよ」
「これでも、隠し事には自信があったんだけど」
再び竿を振って、針を河に沈める。その動作に、淀みはない。
「考え事してるとこまでわかってるなら、ほっといてくれてもいいのに」
「そうね。あなたの背中を見るまではそうするつもりだったわ」
「そんなに食いつきたくなる背中だった?」
「ええ。魚の餌になりそうなぐらい」
なおも視線を固定したまま茶化す少女に、キレハがクールに返す。
釣りの喩えに、マジで大物がかかってたのか、と少女が嘆息する。
「どうしても言いたくないなら、それでもいいけれど」
「ここまで振っておいてそれ?」
「話して欲しいのは私の気持ち。話すかどうかはあなた次第。
ここまで振らなきゃ、話そうなんて考えもしないでしょう」
「まあ、ね」
388 ◆1HLVKIREhA :2011/05/24(火) 20:55:58.11 ID:dpn/Mliy
ここまで振られて、まだすんなりと話そうとはしない。
のんびりと釣り糸を垂らしながら、高速で思考を展開する。
「……キレハも結局、わふわふの話、してくれなかったじゃない」
「あれは、その。最終的には大いに迷惑をかけてしまったけど、あなた達に迷惑かけたくなかったから……。
というか、そういう言い方しないで!」
「狼もふもふ」
無表情でもふもふ、わふわふと呟く姿はシュールである。
わんわん扱いされ、流石のキレハも平静を保てない。
「自分は相談しないけど、他人からは相談して欲しいなんてワガママだよ」
「自覚してるわ。最近は本当によくお節介って言われるもの」
「言われなきゃ自覚してなかったんだね……」
馴れ合いを好まない言動とは裏腹に、無自覚に世話を焼くパッシブスキルの持ち主である。
「とにかく、今のあなたは放っておけない。
私を救ってくれたのはあなただし、短い付き合いとは言え、仲間だから」
常に真面目で真っ直ぐな視線が、白い横顔に突き刺さる。
「ここで逃げたら、いくらキレハでも怒るよね」
「逃げたいの?」
「逃げたいよ。弱音なんか吐きたくない。弱い自分と向き合いたくない。
弱い自分を……キレハに、見せたくない」
胸の奥から搾り出すような本音。
竿を握る手が、小刻みに震えている。
「ふう。そんなどうでもいいことで迷ってるのね」
「よくない。どうでもよくないよ」
「……いいのよ」
ふわり、とキレハが背中から抱きつく。
いつくしむように。つつみこむように。
「弱くていいの。誰かに頼ってもいいのよ。
それを私に教えてくれたのは、あなたでしょう」
「キレハ……」
何かをこらえるように、ぎゅっと目を瞑り、ぎゅっと釣竿を握り締める。

「……あのね、キレハ」
たっぷり一分。思考の渦を脱した少女が口を開く。
「なあに」
肩にあごを乗せたキレハが、文字通り耳を傾ける。
「地下の町のことなんだけど」
「ええ」
それは、少女の起源。忌まわしき出生の秘密。全ての異変の原因。
「どうやら私は、盛大に祝福されて生まれてきちゃったみたいでさ。
正直、今までにも偉大なる始祖帝タイタスに身体を乗っ取られそうになったこともあるんだ」
「……そう」
「タイタスを倒して決着をつけるのは私の仕事だと思ってる。
だけど、これ以上タイタスに近付きたくない。自分が自分じゃなくなるのが、怖いよ」
「そうね。それは……怖いわ」
「だから、逃げたい。辛いことは人に任せて、のんべんだらりと生きていたい。
さくっとぶちのめしてきてよ」
「ダメよ。それは、ダメ。怖いからこそ、不安だからこそ、自分で向き合わないと。
誰かに任せたら、きっと後悔する。
そのせいで誰かが傷ついたりしたら、泣きたくなるくらいに後悔するわ。
一人で行けなんてことは言わないから。
何かあれば、引っ叩いてでも、傷だらけになってでも抱き締めて、喉が嗄れるまで呼んであげるから。
だから、決着はあなた自身の手で」
389 ◆1HLVKIREhA :2011/05/24(火) 20:56:20.79 ID:dpn/Mliy
「……いいのかな? 頼っても。迷惑かけても。信じても、いいのかな」
「今更、よそ者の顔をするつもりもないわ。最後まで、あなたと一緒にいさせて」
穏やかに、芯の通った声で言い切るキレハに、少女は深呼吸を一つ。
二つの瞳には、三度目の瞬きでいつもの茫洋とした光が灯る。
「ちょっとプロポーズっぽいね」
「っ、ああ、いえ、そういうつもりはなかったんだけれど」
茶化した台詞で、重い雰囲気が四散する。
「抱き締められちゃってるしなー。
耳元でそんな殺し文句を囁かれたらドキドキしちゃうなー」
「こ、これは、その」
正気に戻れば、野外で一方的に抱き締めている姿勢となっている自分に気付き、慌ててリリースする。
「なんて、ね。ありがとう、キレハ。
私自身の手でぶちのめしに行く決心がついたよ」
「助けになれたなら、何よりだわ」
「何か、お礼をさせて?」
慣れた手つきで引き上げた糸を巻き取り、ようやくキレハに向き直る。
その表情には、微かに笑みが浮かんでいる。
「いいわよ、そんなの。私が助けてもらったお礼でもあるし」
「いいからいいから」
がっしとキレハの肩を掴み、距離を詰める。
「え、ちょっ」
「よいではないか、よいではないか」
「何か違っ、んんっ」
唇が、触れ合う。
「……ファーストキス、あげちゃった。大事にしてね?」
「こんな、女同士なのに……どうしよう、全然嫌じゃない……!?」
お茶目におどける少女をよそに、キレハは何だかいっぱいいっぱいだ。
「キレハ」
「っではう!?」
頬に手を添えると、びくぅ!!と過敏に反応する。
「全部終わったら、改めてお礼をさせて。みんなにもしたいけど、キレハには特に。
私の、大切な人だから」
「ぇ、ええ。そうね。その時は私からも。大切な人だから、ね」
「……もっかいちゅーしていい?」
「……駄目」
「……」
「……」
「……」
「……って言っても諦める気はないんでしょう?もう、好きにしてよ……」
「ふふー。じゃ、遠慮なく……んっ」
二つの人影が、一つに重なる。
その光景を、大河だけが見ていた。
390 ◆1HLVKIREhA :2011/05/24(火) 20:56:41.54 ID:dpn/Mliy
釣り人の生まれ固有イベントwithキレハ編
白子族とのエンカウント〜墓所深奥一世戦の合間に地上戻るかなあ、どうかなあ
普段の癖で主人公を身元不明にしたけど、アイリとかにしても問題なかった気がする
最近エロいの書いてないなあと思いつつ、やっぱりいつものぬるいやつ
結局のところ、エロ苦手なんだよね
391名無しさん@ピンキー:2011/05/25(水) 02:36:51.72 ID:0BIww+Zh
>>390
GJ!イイ!イイ!キレハかわいい!
もっかいちゅーのくだりで激しく萌えた
392名無しさん@ピンキー:2011/05/25(水) 08:27:28.91 ID:SJ2AuXgA
キレハは美味しいキャラだよなぁ。
エロがなくても微笑ましいからいいじゃまいか。
393名無しさん@ピンキー:2011/05/25(水) 22:55:38.34 ID:MmBZmpxY
相変わらずキレハへの愛が深いのう
しかし初代スレから2年も書いててエロ苦手とかどういうことなの
394名無しさん@ピンキー:2011/05/26(木) 00:21:23.87 ID:5OXWIis9
調子に乗ってまたまたウェンドリンxシーフォンカポー
>>380-382の続きです。エロパロスレなのにエロがない。御免。


結局、僕はこの城に留まり続けている。何故かはわからん。
あれから僕の仕事量やペース配分の見直しがあって、
以前よりはマシになったからな。剣バカが脳筋騎士にフラれた日、
久々にぐっすり眠れた気がする…別に嫌味で言ってるわけじゃねえけど。
しかしまあ、こうしてみると、なかなか住み心地のいい場所だ。
このバルコニーから見る夜景も、どこにでもある田舎町の
風景そのものではあるが。ただひとつ、酒に酔ったドレス姿の
剣バカを除いてな。
「こっちに来てシーフォン…うふふ」
僕の首に両手を回してきた。背丈は僕の方が少し上で、
剣バカの目の高さに僕の鼻がくる。微風が剣バカの髪を揺らすせいで、
シャンプーの香りと葡萄酒の匂いがカオスに入り乱れて流れてきた。
何の嫌がらせだよ…
「ねぇ、テレージャさんからの依頼で、墓所の探索を手伝って欲しいって」
あの腐れインテリ巫女がか。あいつにやらせりゃいいじゃねーか。
っつか抱き付いてくんな。酒臭いんだよ。
「私の出生については、あなたのおかげで割り切れたところもあるけど。でも…」
…でも、何だよ?
「やっぱり墓所のあそこには、なるべく近寄りたくないなぁって…」
おいおい…伝説の剣の持ち主のくせしてヤケにヘタレたな。
以前だったら開口一発『墓所の探索に同行しなさい』って鶴の一声で、
メイドに引き摺らせてでも同行させたろ。
「もうそんなこと言えないわ。あなたに嫌われたくないもの」

「って言うのは半分嘘よ?墓所の探索に同行しなさい。ふふふっ…」
…けっ、今日は飲みすぎたんじゃねえのか。
あのだだっ広い風呂の浴槽にいっぺん投げ込んでやろうか。
「あら、一緒にお風呂に入ってくれるの?夫婦みたいでいいかも」
まんざらでもなさそうに言うな。あと、顔赤らめんな。
「お酒のせいよ。私が赤面するわけないでしょう」
ばーか。この前のこと、僕が見てないとでも思ってるのかよ。
キスしたあと顔真っ赤だったぜ。ウブなヤツ。けけけ。
395名無しさん@ピンキー:2011/05/26(木) 00:22:12.85 ID:5OXWIis9
「だってシーフォンが、その、いきなりキスするんですもの…」
…なんだよ、本当に顔赤らめて僕に寄りかかってくるのか。
毎晩僕のベッドに潜り込むくせに。こういうとこで妙に
しおらしくなるんだよな、お前って。
「デリカシー無いんだから。はぁ、アルソンだったらどうするのかなぁ…」
うるせーな、あいつのことなんかどうでもいいだろうが。
フラれたんだぞお前。未練でもあんのかよ。
「! み、未練なんて!…未練なんて無い…」
…あーもうクソうざ。泣くなよ。僕が泣かしたみたいじゃねーか。
あの酒場に入り浸ってた頃とは別人みたいだな。なんでこう、
急にメソメソするようになったんだよ。
「…もういいわ。同行しなくていい。フランと二人で行きますからね」
…おい待てよ。何も嫌だとは言ってねーだろ。
「違うわ…シーフォンがこんなにヒドい人だったなんて思わなかっただけ」
ムカッ。聞き捨てならねーな。確かに、僕は女の扱いなんてわかんねぇけど、
お前こそ二股かけてたようなもんだろうが。僕のこと責められるのかよ。
「…」
待てっつってるだろ。
「いやっ、離して!あ、何を…きゃっ!」
ったく、本当に自分勝手な姫さんだな。こういうめんどくせえ女は
こうするしかねえな。死ぬほど恥ずかしいけどよ。
「…どこで覚えたの?お姫様抱っこなんて」
知らねーよ。お前を泣き止ますために即興でやっただけだ。
「嘘。作法を知らない人が即興でするわけ無いもの」
…グサっと来ることをサラリと言うね。あのな、そーゆーのは僕の特権だろ。
「ねぇ答えて…誰に教えてもらったの?どうして?」
るせーな、あのメイドに聞いたに決まってるだろ。お前のこと頼むって
何度も言われてんだよ。あいつも故郷に帰りたいって言ってたし。
…何も聞いてねーのか?
「うん……そう、フランが私のことを心配して…」
なぁ…重いからそこの長椅子に座ってもいいか?
「重いとかいちいち言わなくていいの。あっでも…このまま腰掛けてね?」
わーったよクソが。
「ごめんなさい…私、ヒドいことを」
いーんだよ、慣れてっからな。ここに来てお前らとつるむ前は
もっと酷いもんだったぜ。まあ、僕様の考えを理解出来ないバカに
苦しめられたこともあったけど。
396名無しさん@ピンキー:2011/05/26(木) 00:23:06.39 ID:5OXWIis9
「そう…私、シーフォンのことよく知らないから…ごめんなさい」
何回も謝んなって。それに僕だけじゃないんだぞ。あのメイドとか、
執事のジジイとか、お前のこと大切に考えてんだからな。
「…」
ヤケ起こすのもメソメソするのもお前の勝手だ。だがな…
ま、まあ、僕が言うのもなんだけど、そんなに一人で何でもかんでも
抱え込もうとすんなよな。お前がタイタスの血を引いてたとして、
それが何だってんだよ?化け物なんかじゃねえだろ。墓所のヤツらにしても、
お前が生まれたってことは、あいつらはあいつらで何か変わっていくかも
知れないんだぜ。あいつらの生き様はあいつらが選んだことだ。お前は?
お前はどーすんだ?それが問題だろ。
「うん…うん…ね、もう一回泣いてもいい?」
ったく、仕方ねーな。好きにしろよ。ぐっ、ちょ、く"る"し"ひ"…
抱きつくのも勝手だが、ゲホッ、もうちっと手加減しろっぐへ。
「私、私…お父様が亡くなられて、でも本当の親の顔も知らなくて…」

「墓所で詰め寄られた時、とても怖かったの。本当に怖かったんだから…」

「私…自分が誰なのかもわからない。どうしていいかわからない」

「助けて…助けてシーフォン。私を一人にしないで。私を嫌いにならないで…お願い…」
一人になんてしねーし、嫌うわけねーだろ。嫌いだったらこんな
恥ずかしいマネしねえよ。頃合見計らって勝手に出て行くだろうさ。
この僕様が無報酬で律儀に仕事手伝ってやるわけがねえ。
「ありがとう…でも、本当はここを出たかったんでしょ?」
…んだよ、知ってたのか。そーだよ、少し前まではな。でも今は…
ま、僕の力が必要だってんなら、居てやっても構わないぜ。
「本当に?」
あ、ああ。
「約束してくれる?神様に誓っても構わない?」
約束はしてやってもいいけど、神様はねーよ。あんなもん、
僕みたいな崇高で真実を知ってる人間は信じないもんだ。
「うふふ、シーフォンらしい」
ふん…デリカシーとかまた言わねーのか?
「うん。そういうところも含めて………大好き…シーフォン」
397名無しさん@ピンキー:2011/05/26(木) 00:23:59.02 ID:5OXWIis9
…今度のキスも涙の味がした。葡萄酒の味も少しだけ残っていた。
でもこいつの顔は微笑んでた。やっぱこいつには笑顔が似合うかな。
ある意味偉大な血を引いてて、剣バカでガサツかと思いきや脆いとこがあって、
今、御伽話のお姫さんみたいに、僕の腕に抱かれて微笑んでる。
「…シーフォンが私をお姫様抱っこ…フランの言う通りになっちゃった。うふふ」
あー?なんか言ったか?部屋につく前に降ろすぞ?
「ダメ。降ろしたらお休みのキスの魔法。唱えてもらいますからね?」
てめえ…抱ーきーつーくーなっつの。お前抱えて歩くのキツいんだよ…
「やっぱり、シーフォンの胸は落ち着くなぁ…お父様の胸みたいで…」

「よくお休みのキスしてもらってたの…でも…嫌なら無理強いしないよ?」
…ったく、わーったよ。やりゃいいんだろ。また泣かれるとうぜぇからな。
「本当?うふふ、ラッキー……………」
って言ったそばから眠ってら。マイペースなヤツだ…
はぁ、ますますここを出て行きにくくなったじゃねーか。
何やってんだ僕は。くそっくそっ、僕のクソバカ。



クーデレを目指して出来上がった何か…です。
結局はいつもの凸凹カポーに。シーフォンは丸くなっているのか、
ウェンドリンに調教されてるのかwそしてもうホルムから
逃げられないフラグw悔しいのぅw
398名無しさん@ピンキー:2011/05/26(木) 09:15:57.79 ID:1dPqoshU
乙乙
口から砂糖が止まらないぜげっぷ
399ウェンxシーの人:2011/05/27(金) 00:12:31.81 ID:2BfNAjs2
糖分過剰だったかなw
騎士女でまた始めたけど、こういうの書いてると
なんか違って見えてきますな
40015 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/27(金) 18:58:33.23 ID:YJ6ch3Ld
リハビリで受信した怪電波の2800程度ま属性ヴァンと、ついでに

じつは連投過剰になるレスを投下しようとした時、初めての板に
レスする際に表示されるポップアップがでました。猿さん規制との
関連があるか不明ですが、もしあるなら連投中に表示が出た時
キャンセルすれば、ひょっとして回避できる?といいですね……

どの環境でも起こるかは判りませんし、警告ポップが出た時点で
レベルは下がったりするかも知れませんが偶然稀には成功する
メイドさんのお料理くらいの感じで読んでいただければと思います
40115 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/27(金) 18:59:06.00 ID:YJ6ch3Ld
ほったらかしの小麦畑ばかりがどこまでも続くこののどかなど田舎に、こんな人間が潜んでいたなんて。
ホルムは、とんでもない遺跡とともに途方もない逸材を隠し持っていたかのようにさえ思える。否、後で
それが本当にそうだったと判明した訳だが、その時は驚くよりも得心が行ったくらいだった。

彼とはじめて会ったのは、ホルムの市場だったと思う。立派なオベリスクに感銘を受けて眺めていたら、
職人見習いにうるさくじゃれ付く白子の子供に気が付いたのだった。まずぺらぺらの皮の鞭と安っぽい
靴に目がいく。続いて休みなく騒ぎ続けるその口だ。小さな体で走り回り、農婦と三人がかりで行商
人にもっと安くするよう懇願していた。僅かばかり割り引いてもらうと、それはもう大層なはしゃぎようで
初対面の私にまで勝ち取った戦利品を分けてくれようとしたのだ。
「残念だが、私は調理が出来ないんだ。それに食べ物には困っていないよ」
「神でんのばあさんがいってたもんよ。もしおれが、どこかでぼうさんやみ女さんにあったら、ちゃんとし
ん切にしろってさ」
「成程、喜捨という訳か、素晴らしいことだよ!ご好意だけあり難く頂いておきましょう。これは君がとり
なさい。もっと食べて大きくならなきゃね」
「そうかよ、わかった。おれちびだもんな」
「時に、君はこの柱が何なのか知っているかね?」
「ああ、カムールがおしらせはらせる石だろ。おれよめねえけどさ」
「君は背が低いものな。この柱は、古帝国期から暗黒時代にかけて建てられた記念碑――オベリスク
の一種だ」
分かるようにと注意して説明してみたが、どれ位伝わったものか心許ない。ふうんと生返事をしながら、
石柱の周りをぐるぐる歩いて眺めている。後になって思った。私はこの時、随分と酷い事を言っていた。
勿論、身長の事もだけれど、布告が読めないのは背が低くて見えないからではなく、読み書き出来ない
からだったとは……。まだ気づいていないだけで、本当はもっとやらかしているのかも知れない。この人
は何もいわないけれど。
「じゃあ、こいつができたのは、おれが生まれるよりもずぅ〜〜〜っと前ってことか?」
「そうなるね、大変飲み込みがいいよ。さて。挨拶もしておくか。私はテレージャ。新しい遺跡が発見され
たと聞き、西シーウァ王国から調査に来た」
「ふうん。あんたガイジンさんか。にしシーウァってどこだよ」
「日の沈むほうにある国だよ。ちょうど、向こう側になるのかな、いや、ええとあっちか」
「ほんとかよ。日がしずむのは、た分こっちのほうだぜ……」
「地理は苦手なんだ」
「まじかよ。ちょ〜やべえな。おれがあん内してやろうか?町んなかなら金はとらねえ、いつでもいいな。
……でよう、にしシーウァってどんなとこ」
「大シーウァの長女たるわが国は、伝統と信仰に彩られた古き王国ですよ。海に面しているから、海産
物に恵まれているだけでなく、海洋貿易も発展しておりますが、その割にはやや封建的なきらいがある
のじゃないかな。やはり神殿の影響力が大きい為でしょう。けれどユールフレールを臨む海岸線に沈む
夕日は大変美しいよ」
「ふうん、にしシーウァにはうみがあるのか。いいなあ、あとでいもうとにおしえてやろっと」
「妹さんがいるんだね。ところで、私がここに来た理由を、聞きたいかい?ちょっとだけ長くなるけれど」
「うん。なんであんたがチョウサしようとおもったのかききてえな」
「聞きたいというなら仕方ないね。私の目的は、太古の大河流域世界に存在していたと言う帝国の研
究だよ」
「そんな国がこんなどイナカにあんのかよ」
「確かに。その記憶は伝説や神話の中に残っているだけで実在さえ疑問視されてきた。だが我らの起
源を考えるなら欠かすことはできない要素のはずなんだ。だが神話上の古代国家は神々の怒りによっ
て滅ぼされたと伝えられていてその研究は神殿によりタブー視されている」
「たぶーしてなに」
40215 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/27(金) 18:59:41.39 ID:YJ6ch3Ld
「あるものを対象に触れてはならないものと看做す事だよ。とくに悪いものに言うんだ。しかし異教の一
神教や革新学派が勃興しつつある現在民衆の素朴な信仰の上に胡坐をかいて精々数百年前の高僧
の言葉を後生大事に崇め奉っているとは(続く)あまりに無防備が過ぎると言えるだろう。(中略)今こそ
神殿は自らの拠って立つ根源を見つめ直し、新時代の救済宗教としての役割を自覚すべきな(中略)複
数の神殿、教派、学派の区別はいまや弊害しかも(中略)それで大神殿の禁書庫になら何かあるんじゃ
ないかと思って忍び込んだら見つかってしまって、大神官や尼僧院の院長たちに総掛かりで思想から
生活態度まであげつらわれてねちねちねちねちといびら(略)そんな必死になって隠す何かがあるんです
か?と訊いたら反省が足りないとまた怒り出して実家を巻き込んで大騒ぎに(略)神代の研究は現在辺
境や遺跡での発掘物に頼るしかないのが現状だが、これまた禁止事項だらけで下手すれば異端扱い
されかね(略)なんだあの婆さんども私が憎いなら正面から議論すれば良いのに私の両親の身分が高
いからと僧院に押し込めるだけで済まそうと(略)そんな中途半端さに価値はない!いっそ私を殺せ!
(略)若い世代の学徒の犠牲によってのみ進歩が実現するのは(略)フィールドワークへのイデオロギー
的介(略)馬鹿者どもが(略)(略)見てろいつか(略)燃やす(略)すなわち私が神だ!」

「ぜいぜいはーはー……」

「いど水くんできてやろうか?」
「…………いや、大丈夫だよ。それで君、分かったかね?」
「そうだな。ようは、あんたがなんかしらべてやりてえってのに、ジャマしやがるウルセー年よりどもがい
るってんだろ?カンタンなこった」
「うんうん。よく分かってるじゃないか。君は賢いな。その服装から察するに君も探索者仲間なのだろう?
以後お見知り置きを」
「まじかよ。ほんとにそう見えるか?うへへへ、まじかよ、おれってたんさくしゃに見える?ねえねえ、きい
たかよおばちゃん」
振り返ると農婦が笑って、一目で見破るとはあんたも只者じゃないねと返してきた。
「見破るって……本当は違うのかい?」
「ちがってねえよ、おれはいせき荒らしなんだ。すごいだろ」
腕を組んでふんぞり返った。
「もう、なんにも心ぱいいらねえからな。おれがいりゃ、どんなトコだってだれにもバレねえように、あんた
をしのびこましてやるよ。そのよくわかんねえヘリクツこねくりまわすヨボヨボどもだって目じゃねえぜ。な!
おれにまかしとけって、うひゃひゃ!」
「そうかね。ふふふ、頼もしいな。では何か面白い品物を見つけたら、無知ゆえの破壊に晒す前に私に
見せてくれたまえ」
「じゃあ……今どから、穴にもぐるときはムチはやめて、たん剣つかうわ」
賢いと思ったのは気のせいだったか、別れを告げて歩き出した後、ちらりと振り返るとにこやかな笑顔で
手を振ってくれていた。学がある私を尊敬しているのだろう、愛すべき寒村の子供。――その時はただ、
そんなふうに思っていた。
40315 ◆E9zKH0kZMc :2011/05/27(金) 19:00:19.79 ID:YJ6ch3Ld
おそまつ。長いセリフ、ちょっと使ってみたかったから……
404名無しさん@ピンキー:2011/05/27(金) 20:01:20.47 ID:EpvrVdvb

ヴァンがいい感じに得体が知れない
405名無しさん@ピンキー:2011/05/27(金) 20:46:18.27 ID:uVEp2hnH
アホのオーラからにじみ出る只者じゃなさが半端ないなこのヴァンはw
406名無しさん@ピンキー:2011/06/08(水) 07:42:13.66 ID:wUKi6pcu
保守
407名無しさん@ピンキー:2011/06/09(木) 07:23:16.89 ID:ldU2MK4C
母親属性持ちって役立たナイトとネル母とレナ(故)ぐらいだよね
アダ様はお祖母ちゃんだし
イマイチこう、義母さんとの秘め事みたいな方向性が思いつかない
408名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/09(木) 20:38:00.67 ID:alRez6JU
>>407
何も現代である必要はないじゃないか
ダーマディウスとタイタス七世
409名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/09(木) 20:44:38.20 ID:TtkShKU7
>>407
最初にアルソンさんあげんなw
ネル母と顔3か4の主人公ならちょっとしっとりしそうだけど
ネルの母ちゃんだけあって天然気味だしな
410名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/09(木) 20:46:14.05 ID:icOtE/mm
熟女趣味ねえからそういうのは分からんなー
ふつーに旬の果実をいただきたい。青過ぎも熟れ過ぎもごめんだぜー
411名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/09(木) 21:26:02.41 ID:HVnDAxLf
ばっかおめえ青い果実を自分色に染め上げるのこそ至上だろ

とかいうとロリコン乙と言われてしまうがorz
412名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/09(木) 21:32:48.22 ID:TAsGSk0D
>>407
秘め事の方向性が全然違うが、フランの初恋はカムール父さんという妄想をしてた
夫人を亡くしたカムールの寂しさに忍び入って……
41315 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/09(木) 22:52:57.60 ID:AlRNB5dv
レベルが〜(泣レベルが〜(泣ということで、5000文字弱+ヴァン差分
>>130の代わりになる差分ですので、>>130版差分は削除いたします。
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/243237.zip
そういえばまとめてなかったなと思ったヴァン後半に最新版を追加して
うpしました。規制緩和議論が自治スレであるようなので、今後は以前
のように投下できると期待して、その場しのぎのヴァンまとめうpです。
414名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/10(金) 01:51:38.07 ID:Hs22gnGb
>>413

頂きましたー
415名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/10(金) 18:13:40.64 ID:KE9Tttjy
レベルってのは忍法帖とやらか
>>405-406の時間停止もその辺の影響かな
詳細は全然知らないんだけど、投下も難しいのかしら
416名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/10(金) 18:18:56.62 ID:c+my0pzX
>>415
レベルに応じて書き込み間隔と連投許容数、1レスあたりの容量が上昇していく
だいたい8くらい(レベルが到達するのに8日前後かかる)で安定して書き込めるんだけど
忍法帖の問題点をついたIP解析ツールがうpされたせいで、運営によるリセットが頻繁に
起こったため、数行を120秒間隔でしか落せない出来ない時期があった(で連投規制までくう)
417名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/11(土) 03:56:09.40 ID:uo3ryjl6
投下もだけどスレ立てできないのが地味に面倒臭いんだよな

スレ立てできない……立たない……
418名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/11(土) 03:59:28.95 ID:uo3ryjl6
フランは仲間の中で一番魔力低い→舌使いが下手→フェラが下手
そういうネタを考えている間に途中送信してしまいましたすみません
419名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/12(日) 18:36:03.15 ID:E7yU1eb9
だが手コキは上手い
420名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/12(日) 22:24:01.49 ID:bl+ibmQD
分身で速度ブーストして高速で素股をしてくれる
ちんこから火がでる勢いで
421名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/15(水) 21:42:38.89 ID:v4XvQtWL
フランがちんこバースト?
422名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/16(木) 17:01:38.57 ID:lYpm0M32
昔の作品を読んでて思ったが、何でみんな出番の少ないサブキャラまで原作っぽく書けるんだ
パーシャとかウリュウとかアイビアとか
読めばそれっぽいと感じるけど、自分で書ける気がしないぜ
423名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/16(木) 23:43:25.53 ID:qgXbgI1d
でもああ確かにこれ原作のイメージ通りだなーと解るから
原作もすごいよな
424名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/17(金) 00:41:49.66 ID:dApelVcA
>>422の言葉を借りれば、少ない出番の中に原作っぽさが存在するってことだからな
枯草たんも職人さんも、物書きの表現力って素晴らしい、というお話だったのさ
4251/6:2011/06/17(金) 05:01:31.24 ID:6g8PR7VM
シーフォン×フィー・・・・・・・・になるはず。
鍵の書争奪戦→ ニア シーフォンを見殺しにする→シーフォン離脱 ←今ココ!

--------------------


闇の底で、赤毛の少年が蹲っているのが見えた。
ローブは泥と血で黒く染まり、所々が焼け焦げ、破れている。
怯え、震えながら泥の中を這いずり、瓦礫の陰に身を隠す。
まばたきすら恐れるかのように目を見開いて、
水滴が落ちる微かな音、虫が這い回る小さな気配にさえ、飛び上がって驚く。
杖を握り締めた手は白く、カタカタと震えていた。

シーフォンだった。
どういうわけか、フィーの目に、遺跡で袂を分かった筈のシーフォンの姿が見えている。
あまりにも無様で、哀れな姿だった。
これが力を求め、求めるあまりに仲間を裏切った成れの果て。

「・・・どうして、こうなった・・・?僕に何が足りなかったんだ・・・」
体を縮こまらせて、シーフォンが呻く。
蚊の鳴くような声だったが、フィーにははっきりと聞き取れた。
「奴に、どこが負けてたって言うんだ・・・?」
恨みとも、妬みともつかない感情を、声にして吐き出す。
答えるものはいないと知っていた独り言。
だが、それに答える声があった。

飛び上がって辺りを見回す少年の傍に、闇が這い寄る――。
 
 
          *
 
 
4262/6:2011/06/17(金) 05:04:03.52 ID:6g8PR7VM
「・・・そんな夢を見たって?」
チキンサンドを食べる手を止め、パリスが顔をしかめる。
フィーはこくりと頷いた。
周囲にはこれから遺跡に向かう探索者や、仕事に向かう村人や、駐留している騎士でごった返している。
ここ数ヶ月の、ひばり亭の朝の馴染みの光景だった。
その一角のテーブルで、フィーは昨晩見た夢の内容を語っていた。
シーフォンが地上に出ることもできず、傷だらけのまま、一人で遺跡を彷徨っていると。
「でも、夢じゃないの?」
「夢だねえ」
ネルとテレージャが頷き合っている。そこにパリスが口を挟んだ。
「有り得ない話でもねえからな」
「そうなのかい?」
「ああ」
渋い顔で頷く。その時の様子を思い出しているようだ。
「フィーに負けた後、手当てもせずにそのままだぜ?こいつもあの時は本気だったし」
シーフォンはフィーに敗れた後、傷の手当も満足にできないままに逃げていった。
フィーとの戦いで魔法を打ちつくしていたとしたら、一人で脱出することは難しいだろう。

「自業自得だ」
当然だとばかりにメロダークが言う。
「罪人には相応しい末路だろう」
だが、その声に同意する者はいない。
傷ついた体であの遺跡に一人取り残されているという境遇に思うところがあるのか、数人が顔を伏せる。
「あそこに一人でいるなんて、ちょっと可哀想じゃないかなあ」
「そうですよ。遺跡に置き去りなんて、拷問のようではありませんか!」
ネルの言葉に、アルソンが激しく頷く。
その二人を、メロダークが鬱陶しげに見下ろした。
「自分から逃げて行ったのでは無かったか?」
「でもそれってメロさんが殺そうとしたからじゃ・・・」
「引き止めて説得するべきだったんですよ!」
「甘い。ああいった輩は何度痛い目に遭っても同じことを繰り返す。
 現に、死者の書を一度奪われているだろう。苦しみ抜いて死ぬくらいが丁度いい」
「ちょ、ちょっと待てよ。あの時は、力比べをして、勝った方が貰うって約束だったんだぜ?
 フィーもそれで構わないって言ったし。・・・後からだったけど」
フィーが小さく頷くと、メロダークは息をついて押し黙った。
それ以降は口を開くものもなく、それぞれが朝食を取る音だけが響く。
4273/6:2011/06/17(金) 05:06:27.32 ID:6g8PR7VM
「今日はどうする?」
ほぼ全員が食べ終えた頃に、ラバンが言った。
朝食後に、誰が誰を連れて遺跡に潜るのか決めるのが、この一行の不文律となっていた。
探索のリーダーが実質的にフィーになっていることもあり、自然、皆の視線がフィーに集まる。
「私は」
メロダークをちらと見てから、フィーは息を吸い込む。
「シーフォンを探しに行きたい」
安堵するような顔をするもの、困ったような顔をするもの。メンバーの反応は様々だ。
ただ、不快感を表したのは一人だけだった。
「……それなら、私は行かん。勝手にしろ」
「うむ、それが良い。君を連れて行った日には、
 見つけるなりその場でシーフォン君を斬り殺してしまいそうだからね」
テレージャの笑えない冗談に、数人がうんうんと頷いた。
フィーはちらりと微笑んでから、周りを見回した。
「誰か、ついて来てくれる?」
 
          *
 
結局この日は、パリスとテレージャがフィーについて来ることになった。
メロダークとアルソン以外の他のメンバーも、フィーとは別のルートでシーフォンを探している。
……アルソンは着いてこなかった。

「それにしても、彼・・・よくわからない人だね。
 ああも熱心に助けるべきだと説いていた割について来ないとは」
テレージャがランタンを手に、しみじみと話す。
パリスが呆れたように肩を竦めた。
「お貴族様は忙しいんだろ。テオルからの用事は断れないだろうしさ」
「はあ。全くもって、彼は反感を買うのが好きだね。悪意が無いのがより一層性質が悪い。
 あれを無意識でやっているなら、もはや一種の才能だよ」
「人に嫌われる才能?ヤな才能だな・・・」
二人の会話を聞きながら、フィーはくすくすと笑う。
だが、すぐにシーフォンの事を思い出し、表情を曇らせた。
4284/6:2011/06/17(金) 05:11:33.61 ID:6g8PR7VM
今いるのは、古代アルケアの都市の形がそのまま残る大廃墟だ。
夢に見た場所が解ればすぐにそこに向かえるのだが、廃墟は広く、正確な場所は解らなかった。
結局、シーフォンと分かれた古代図書館を中心に探すしか無い。
後悔が押し寄せる。
鍵の書を奪われそうになったあの時。シーフォンに剣を向けるメロダークを、フィーはすぐに止める事ができなかった。
フィーの境遇を知って尚、デネロスの形見と知って尚鍵の書を奪おうとしたシーフォンを、
恨む気持ちが無かったとは言い切れない。
――それでも、夢の中のシーフォンの姿が目に浮かぶ。当然の報いだとは思えない。

魔法使いは本来、狡猾であるべきもの。
教会からの弾圧は勿論、自らの術の失敗すら、場合によっては死に直結する。
死と隣り合わせの存在である以上、己の為に手段を選ばないという一面も必要だと言ったのは、他ならぬデネロスだった。
きっとそれは正しい。
デネロスは、教え子を逃がす為にバルスムスを騙し、教会を欺いた。
方法はどうあれ、本気で異変を解決しようとしている教会にたてつく事は世間から見れば悪なのだろう。
善も悪も主観でしかない。
フィーには、自分やデネロスを善だとは言い切れない。同時に、シーフォンを悪だとも思えなかった。

それに、あの「声」。
いつか夢の中で聞いた声と同じ、死臭をまとい、聞くだけで恐怖を感じるあの声。
万一にでも、あれが現実にシーフォンに囁きかけているとしたら。
放置してはいけないと、本能に近い場所が告げていた。

「――おい、フィー!!」
パリスの声で我に返った。同時に、すぐ横に何かが飛んでくる気配を感じた。
「っ!」
反射的に反対側に転がるように逃げる。
ついさっきまでフィーのいた位置に、潰れた肉塊を引き伸ばしたような腕が叩きつけられた。
視線の先に、人体の一部をこねて混ぜ合わせたような、醜い肉の塊が見える。
気づいてみれば、辺りには濃い腐臭が漂っている。
……混沌の獣。この距離まで近づかなかったなんて。
考え事ばかりしていた自分を恥じる。だが敵は後悔するような間も与えてくれず、歪み捻じれた腕を振り回した。
今度は避けられなかった。ぬるついた腕に打たれ、床にしたたか体を打ち付ける。
4295/6:2011/06/17(金) 05:13:19.08 ID:6g8PR7VM
「ぁぐ・・・!」
苦痛の声が漏れた。杖が手から離れ、床を転がる。
こちらに這い寄ってくる獣の向こうに、駆け寄ってくるテレージャとパリスが見えた。
「この野郎!」
パリスの短剣が敵の体を切り裂いていく。何とか起き上がり、杖に向かって走る。素手では身を守ることもできない。
後ろで、獣がのたうち回る音がする。振り返れば、振り回された触手が近くの壁を打ち壊していた。
……まずい。
このまま暴れられると、道が塞がってしまう。そうなれば仲間と離れてしまう。
早く杖を拾って敵を倒さなければ。
赤ん坊の声と女の悲鳴を足したような恐ろしい声を背に、フィーは杖に手を伸ばす。
もう少しで届く――届いた。
やっと攻撃に転じれる。獣に目を向け、杖を振り上げた。
呪文によって放たれた矢が、獣の体に突き刺さる。
その時。
危惧していた事が起きた。

「フィー!逃げたまえ!」
いち早く危険に気づいたテレージャが叫ぶとほぼ同時、音を立てて頭上から瓦礫が降ってくる。
他に逃げようもなく後じさった目の前で、瓦礫が壁を作った。
「パリス!テレージャさん!」
フィーは瓦礫にとびついた。
向こうではまだ戦っているような音がする。
パリスの怒鳴り声、獣の立てる気味の悪い声。
フィーが瓦礫を崩そうと努力を続けている間に、戦いの音は聞こえなくなった。
 

 
4306/6:2011/06/17(金) 05:15:48.89 ID:6g8PR7VM
「・・・そちらからはどうだい?」
「駄目です・・・上れそうにありません」
壁越しの声に返事をする。危惧した通り、仲間と分断されてしまった。
幸い声は届くが、行き来ができない。
さらに悪いことに、装備以外の道具は皆、壁の向こうだ。
「不幸な事にだな、手持ちのツルハシでは、この瓦礫は退けられそうにないのだよ。
 恨み言は、男の癖に瓦礫を持ち上げる腕力の無いパリス君に言いたまえ」
「うるせぇな、騎士とか傭兵とか化け物と一緒にすんな」
「最後の一人はネル君ではないのか。女性にも劣る力しかないというのは恥じるべきだよ。男として」
「・・・・・・」
「ま、それはどうでもいいとして・・・これは困ったな」
むう、とテレージャが唸る。
頭上にも人が通れるような隙間は見えず、ロープを使っても行き来はできないだろう。
「ごめんなさい・・・油断してたばっかりに」
消沈して謝ると、息を吐くような音が微かに聞こえた。
「過ぎたことは仕方ない。フィー君、そこに少し一人でいられるか?」
一人で動くのは危険だ。なら、人数の多い方・・・テレージャとパリスが、こちらに回ってくるという事だろう。
「はい」
動かずに息をつめて待っていれば、敵に襲われることもない。
何よりもこれは自分の油断が招いた結果なのだから、我慢しなくてはならないだろう。
そういった現実的なことを考える合間、フィーはふと思った。

もしかしたらこれは、シーフォンを見捨てた自分への罰なのかもしれない。
431名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/17(金) 09:02:09.55 ID:iuwOX4qC
>>425
GJ!
おお、読み応えあって面白いね
続き期待
432 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 12:51:42.72 ID:KulR5toZ
 冷たい朝靄が、外套をしっとりと濡らしている。
 前髪も眉の上あたりに張り付いて、鬱陶しかった。
 冬が開けたばかりとはいえ、以前なら日が昇る頃にはもう、町の住人は皆起き出して漁
や畑仕事に向かっていたものだが、ホルムの朝は近頃めっきり遅くなったようだ。
 土と天気を相手にするより、人を相手にする商売が増えたためである。
 静まりかえった石畳の通りを足早に抜けて鍛冶屋の裏を除くと、小柄な人影がこんもり
と膨れて重い足音を立てていた。
 炉に使う炭の入った大きな革袋を――大の男でも腰を挫きそうな代物だ――軽々と二つ
肩に担いでいるのは誰あろう、雑貨屋の娘ネルである。今は鍛冶屋ガリオーの新弟子だ。
 声を掛けると、相変わらずの朗らかな調子で、
「やあやあ、こりゃ伯爵様、朝も早くからご機嫌よう」
 おどけた物言いでそう言ったのへ、キャシアスは赤い双眸を細め、苦笑いを返した。
 ネルは「ちょっと待ってて」と言い置いて軽快に裏口から中の作業場へ駆け込んでいき、
表口の鍵を開けて、キャシアスを迎え入れた。
 革のエプロンと作業着、髪から頬に至るまで炭の粉で真っ黒だが、若い娘にあるまじき
ことに、それがやたらと様になっている。
 ネルが手拭いを貸してくれたので、キャシアスは有り難く顔と髪を拭い、湿って陰気に
萎れたアッシュブロンドを手櫛で掻いた。
 鍛冶屋の店先には見本の刃物や鎧がずらりと並んでおり、商談用の卓が設けられている。
 ネルはキャシアスに椅子を勧め、自分は立ったままおざなりに顔を拭いた。
433 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 12:52:14.00 ID:KulR5toZ
「久しぶりじゃないキャシアス。ナザリへ行ってたんだって? フランちゃんから聞いた
よ。いつ帰ってきたのさ。都ってどうだった?」
「つい一昨日、戻ったばかりだ。都は……忙しなかった」
「確か、年明けからずっとだったよね」
「あれこれ折衝があってな。アルソン殿とも二、三度顔を合わせたが、あちらは俺の倍も
立ち働いている。冬の分の麦も回して頂いたし、頭が上がらんよ」
「へえ。あのアルソンが」
「少し痩せられていた」
「大変なんだねえ。あ、お茶も出さなくてごめんね、こんな格好でさ」
「いや、こっちこそ早くに押しかけてすまん」
「いいよいいよ、キャシアスも忙しいものね。それで、何か用? 刀のこと?」
「ああ」
 頷いて、キャシアスは革帯から佩剣を外し、ネルへ手渡した。東夷様式の片刃。ネルと
ガリオーの作だ。
「研ぎを頼む」
「あいあい」
 ネルは鞘を払い、白刃を一瞥して……笑みを消し、難しげに眉を顰めた。
「聞かない方がいい?」
「すまん」
「いいよ。どーせ、偉い人たちの話なんか分かんないもん。でもさ、大丈夫?」
434 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 12:52:53.87 ID:KulR5toZ
「軽い小競り合いがあっただけだ。心配ない」
「そう。大丈夫なら、いいんだけどさ。でも、何か出来ることあったらさ、わたしとか、
パリスとかみんなとか。声、ちゃんと掛けてよ。剣や鎧だって、新しいの必要になったら
いつでもタダで作ってあげるし」
「ああ。分かってる。……みんなのことは頼りにしてる。本当だ」
「なら良し」
 ネルは微笑んで、刀を納めた。
「もう大張り切りでやっちゃうから。そうだね、週明けくらいには仕上げるよ」
「有り難い。多分、フランへ取りに行って貰うが」
「りょーかい。そういやフランちゃん、どう?」
「元気だ。留守を任せて、色々面倒を掛けたからな。少し休ませようと思ってる」
「うんうん。そうだね」
「ネルが会いたがってたといえば喜ぶ。そうだな、今夜にでもこっちへやろうか。何か良
い物でも食べさせてやってくれないか。一人で休めといっても、どうも働きたがるから」
「……って、違うでしょ。そうじゃないでしょ」
「何がだ?」
 ネルは不機嫌そうに、刀を手近の台に置くと、両手を腰に当ててキャシアスを睥睨する。
「フランちゃん、キャシアスが留守の間、すっごく心配してたんだよ。寂しがってたよ。
その埋め合わせ、してあげたの」
「埋め……?」
435名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/19(日) 12:53:35.34 ID:KulR5toZ
「お話ししたりとかさ」
「留守の間の話は、詳しく聞いておいた。礼も欠かしていないつもりだ」
「そうじゃなくってさ。ってか、どうなの、フランちゃんと」
「どうとは」
 ネルは息を詰め、ぐいと顔を寄せた。
 吐息が鼻をくすぐる。椅子から立ち上がれば口づけしてしまいそうなほど近い。
 妙な、迫力があった。
「恋人でしょ」
「……違う」
「……」
「フランは、よく仕えてくれてるが、そういうのじゃあない」
「キャシアス」
「そういうのじゃあないんだ」
 ネルは暫く強い視線を外さなかったが、やがて大きく息をつき、キャシアスから離れた。
「とにかく、なるべくフランちゃんとの時間、作ってあげなよ。心配してたのはホント」
「ああ」
 その場は頷いて見せたが、結局、私的な時間を作れたのはその朝だけで、後は雑務に追
われて日を過ごした。当のフランとも、執務以外ではろくに話さぬままである。腹心の密
偵とはいえ、平時表向きは伯爵と館の女中なのだから、当たり前だが。
 私事で顔を合わせたのは、研ぎの仕上がった刀を届けて貰ったのが最初になった。
 交わした会話も、
「御館様、ガリオー様から差料を受け取って参りました」
「ああ、有り難う。すまないな」
「いえ。では、失礼致します」
 という程度のものだったから、ネルの諌言は結局、ないがしろにした態となる。
436 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 12:54:24.15 ID:KulR5toZ
忍法帳を試しがてら、一旦此処まで
437名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/19(日) 14:21:07.74 ID:ZxKEHW/k
この投下ラッシュと豊作ぶりはどうしたことだ
>>436
GJ!こりゃまた読ませるなあ
二人とも大人っぽくていいね
ネルがネルお姉さんだ
438『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:49:26.02 ID:KulR5toZ
>>435続き
エロ未到達 バトル成分含有
439『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:50:56.45 ID:KulR5toZ

///

 古の帝国においては、鉄材も現在より優れていたらしい。
 月光へ抜き身を透かし見ると、緩やかに反った刀身は蒼く妖しく濡れ光り、刃から峰に
かけて微妙に変化する鋼質が漣に似た紋を描いている。闇に冴えた輝きに、浅い樋が影を
落として優美な曲線の輪郭を象っており、素っ気ない拵えを差し引いても、その太刀姿は
十分に、一種の美術品として成り立っていた。
 刃渡りは歩兵の長剣と同程度。革紐を巻いた柄は刀身の割に長く、両手持ちの寸法を備
えている。鍔は鉄製、小振りの円形で、手首の防護には心許ないが、抜刀に際して甲冑や
障害物に引っかかることもない。レンデュームに伝わる東夷の流儀では盾を用いず、身軽
さを利して先手必勝を機すために、長剣でもこのような拵えになるようだ。
 朽ちた古代の剣を鋳潰し、上質の鉄と共に鍛え直した逸品である。
 刃味極めて鋭く、人の皮肉なら軽い打ち込みで容易く裂き、獣や怪物の分厚い筋肉でも
泥水のようにずぶりと食い込む。蒼穹を覆う巨人にさえ深手を与え、失血たらしめたこと
もある。
 先の異変が収束してから、キャシアスは専らこれを佩剣としていた。
 遺跡から出土した様々な名剣業物の類は、尋常ならざる怪物どもへ立ち向かうべく成り
行きで活用させては貰ったが、終わってみれば、とても平常持ち歩ける品ではない。本来、
武具というのは消耗品である。斬れば欠け、防げば歪む。いちいち価値を気にして振り回
せるものではない。保管にも手入れや警備といった手間がかかるので、結局、特に価値の
高い幾つかは都の大公家へ献上し、他は神殿の研究者に貸与するか、古物商に売って領内
の復興に充てた。父を死なせたあの聖剣などは、真っ先に然るべき筋を通じて返還した。
館の倉庫に残っているのはごく僅かだ。
440『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:52:07.66 ID:KulR5toZ
 しかしこの剣の場合、発掘品を素材に用いたとはいえ、剣自体はガリオー・ネル師弟の
手になる作であったから、手元に残したのだった。
 扱いに独特の操法を要するこの刀が、不思議とキャシアスの性に合った。
 今は槍や馬術よりも熱心に練習している程である。
 刀身と目釘を改めて確かめると、キャシアスは徐に正眼を取り、呼吸を練った。
 頭上、芽吹いて間もない枝が、半月に重なっている。
 微かな夜風には木々の息遣いが匂う。藪に潜んだ鼠の吐息さえ嗅ぎ取れる。
 森の闇と天蓋の瞬きが、キャシアスの勘を研いでいた。
 剣を振る。
 夜気が研ぎ上がりの刃先に裂かれ、樋に梳かれて清澄な音を立てた。
 刃音で切れ味が計れるわけではないが、空を斬った掌の感触は好ましく思われた。
 キャシアスは黙然と素振りを始めた。
 初めは大きな振りを、ゆっくりと繰り返して体を解す。
 手足の血肉に十分な暖が入ると、闇の中に対手を見立て、素早く複雑な型を使い出す。
 斬り下ろす。防御の体捌き。薙ぎ。偽攻。袈裟斬り。誘いの踏み込みから握りを換えて
添え手突き。小刻みな技の連なりはあくまでも滑らかで、緩急はあれど遅滞はない。立ち
並ぶ木々の枝葉、足場に這う根や茂みに全く遮られることなく体を運んでいるのである。
 手練れの所作だ。
 一挙手一投足、息遣いに至るまで、実際に敵と相対し切り抜けた――或いは、そうした
経験を元に模索した術理と確信に基づいている。
 太刀筋の重さ鋭さは彼の若さにしてはや、剣の奥義に指を掛けているようだった。
 キャシアスの太刀筋はやがて二人、三人と相手取る人数を増し、より奔放を極めていく。
 蒼光の軌跡がひときわ繚乱に走り、ぴたりと止むと、森に深い静けさが降りた。
 鳥獣、虫や精霊の類に至るまで、じいっと息を殺したものか。
441名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/19(日) 22:52:45.30 ID:KulR5toZ
 周囲の気配に注意を絶やさぬまま、キャシアスはゆっくりと構えを解き、剣を納めた。
 都で二月ばかりも雑務に明け暮れていたから、こうしてじっくりと稽古に耽るのは久し
ぶりだ。
 流石に鈍っているようで、息が上がるのが早い。動きも思う様にならない。
 暫く、鍛え直す必要がありそうだ。
 キャシアスが、皆の寝静まった夜更けにわざわざ館を抜け出し、四半刻ほども森に分け
入ったこの場所で剣を振るようになったのは、別段、精神修練を試みているわけでも、孤
高を気取るわけでもない。昼の間は執務と政(まつりごと)の勉学が忙しく、夜は館裏など
を使うと夜警の者に気を遣わせて面倒である、と、それだけの話である。
 無論、これはこれで、苦労を掛ける相手もいるが。
「師匠殿。いるのなら、たまには相手をしてくれないか」
 暗がりに声を掛けると、フランの、いつもの女中姿がそこにあった。
 影も気配の一つもなく消えていたが、読んだ瞬間に当然の態でそこにいる。
 平時と変わらぬ装いが、そのなにげなさを際だたせていた。
 稽古で勘を研いだキャシアスの耳目は、寝静まる小鳥の位置さえ判別できそうなほど冴
えていたが、フランの忍び足はやはりおぼろげにしか察知できなかった。いると確信して
いなければ、見過ごしていたかも知れない。
 フランは困った顔をして、
「師匠はお止しください。握りと基礎の型をお教えしたくらいじゃありませんか」
「基礎が良くなければ上達はできない。フランは良い師匠だった」
442『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:54:00.01 ID:KulR5toZ
「からかわないでください」
「本気だ」
「それよりも、またこんな夜中に抜け出して」
「昼は暇がない。フランこそ、俺に構わず休め」
「曲者が出たらどうされます」
「この通り、剣は持ってきている」
「そういう話では御座いません」
 珍しいことに、フランは露骨な苛立ちを見せた。
 これまでは黙認をしてくれていたのだけれども、都から戻って早々やらかしたことで、
流石に堪忍袋の緒が切れたものか。
「御立場を分かっていらっしゃいますか」
「当然だ」
「でしたら――ええ。もう僭越ながら申し上げます。大概になさいませ。
 執務が多忙でなのは存じております。けれども、まるで夜遊びみたいに抜け出さなくて
も宜しいでしょう。夜種や賊がどこに潜んでいるか知れないのですよ。貴方の身にもしも
のことがあったら、ホルムはどうなります。家格を継がれた以上、前のように、武芸にば
かり熱心ではいられないことくらいは、お分かりのはずでしょう」
「いざというとき働けないのは困る」
「あたしの話を聞いていらっしゃいましたか!」
「フラン。今は平穏を得たが、先々、世がどう傾くか分からない。グリムワルドはこの地
を預かる騎士だ。政(まつりごと)だけでなく、剣も疎かには出来ない」
「存じております。しかし、不用心ですと――」
443『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:54:28.41 ID:KulR5toZ
「仮に賊が出たとして、剣を執り、気を張っている最中に不覚を取るようなら、俺もそこ
迄ということだろう」
「キャシアス様?」
「なら、居ない方がましだ」
 掃いて清めたように、フランの面立ちがすぅと平坦になった。
 怒っている。
 これは怒っている。
 だがキャシアスの方も引けなかった。
「始祖帝は討ち果たしたが、俺の生まれがまた火種になるかも知れない。奴の企ての大凡
は大河神殿も神託や文献で知るところだ」
「……」
「それで面倒が起きたとき、皆を守るどころか自分の面倒も見れないようなら、そもそも、
居ない方がましだ」
「……だから、警護も連れずにお一人で、こんなところで剣をお振りになっていらっしゃ
っても、何の差し障りもないことであるから、あたしは気にせずとも良い、と」
「何かあったところで、館の衆を巻き込まない分、却っていいだろう」
「……一手」
「ん」
「一手、お相手仕れば満足なさいますか。今夜は大人しく帰って頂けますか」
「相手をしてくれるか」
「はい」
444『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:55:07.83 ID:KulR5toZ
 いつしか、フランは両手に剣を抜いていた。
 キャシアスが同意する気配を見て取るや、闇と枝葉に紛れて抜いたのだろうが、それに
しても鞘走りの音さえない。
「ご無礼を」と、フランが目礼した。
 左手に小太刀、右手に長い両刃の短剣を握った二刀構え。
 左半身で中段に切っ先を据え、右手はだらりと下げて腰裏に隠している。
 木剣の用意はなく、またこれまでフランの指導で用いたこともない。得物の握りと重さ
に修練の時点で慣れておいた方が良いというためだ。
 それに、当たればただで済まないのは木剣でも同じである。なら下手に当てるつもりで
木剣を使うより、最初から当てないつもりで真剣を用いた方が却って気安い。
 フランの小太刀は肉置きが薄く、鋭利で、切っ先が細長く伸びている。
 相対するキャシアスの刀はフランのそれと比べ刀身の幅が広く、切っ先も太い。
 不意を突いて急所を抉るか、武装した敵と真っ向切り結ぶかという剣質の違いだ。
 フランの方が一手一手の速度で勝り、重さと粘り強さではキャシアスに分がある。
 打ち合う格好になれば、フランはその時点で負けを認めるだろうが……
 キャシアスは柄に手を添え、そのままで対峙した。
 刀は抜かない。
 既にして得物を抜いたフランを前に、構える余裕がないためだ。
 フランは俊足だ。体格を補うため、瞬時に間合いを奪う瞬発力を身につけている。悠長
に引き抜こうとしたら、すかさず懐へ飛び込まれてしまうだろう。
 受けを捨てて抜き打ちで応じるものと、キャシアスは腹を括っていた。
445『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:55:56.22 ID:KulR5toZ
 長さ重さが手頃で反りのある刀は、鞘内から技を繰り出すのに適している。
 フランは数瞬ほど機を伺っていたが、キャシアスの構えにつけいる隙がないと見て取る
や、即座に後ずさって身を隠した。
 初めからいなかったかのように、先ほどまで話していたのが現の夢であったかのように、
気配が消え去る。
 茫漠とした闇に変じて、押し包んでくる。
 フランは怒れば怒るほど静かだ。目の奥の光だけが細く鋭く尖っていく。その視線が肌
身をちくちくと刺すようであったが、どこから向けられているのか、全く掴めない。
 キャシアスは手近な樹木で左手側を庇うよう位置を取った。
 左腰へ帯びた剣を抜き打つ以上、左に剣を振ることは出来ない道理である。彼女はまず
そこを狙うだろう。盾で生じた死角を突くのはフランの常套手段だ。
 例えば、まず左の小太刀を盾で防がせる。対手にすれば右から来る剣を左の盾で防ぐの
だから、自然と左半身に体を捩ることになる。フランはすかさず敵の盾を利用して目を盗
み、右から背後へ回り込む。そして悠々と、甲冑の継ぎ目から短剣を差し込む――
 言葉にすればごく単純なことを、実戦で成就できる素早さが恐ろしい。
 因みに、盾に頼らず剣で応じようとした者は大抵がすかさず手首を裂かれた。左の剣と
いうのは普段相手取ることがない分、やりづらい。ましてフランの小太刀を、重い長剣の
手業で相手取るのは至難である。
 フランは、盾にした木の陰から回り込んでくる。少なくともそのつもりでいるべきだ。
 左前方から懐へ飛び込んでくるのなら、抜刀を諦めて組み合いに持ち込む。
 左背面を盗んでくるなら、初撃をかわして振り向きざまに斬る。
446『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:56:43.30 ID:KulR5toZ
 それ以外で来たら、その時はその時。
 キャシアスは感覚をぼかし、周囲への注意を均等に保った。
 目はあてにならず、耳もどこまで通じるものか。集中するべきはむしろ己の内面だ。
 フランの目配り、足運び、太刀筋を、キャシアスはよく見知っている。自分の知覚の外
で彼女がどういった働きをこなしていたか知っている。あの災厄に挑む間、ずっとともに
居たのだから。
 ――あたしの主君……
 フランはキャシアスをそう呼び、我が身を省みることなく仕えてくれる。俊敏さを武器
にするということは、戦いにあっても防備の薄い軽装で臨むということだ。多勢を相手に
先陣を切って敵を牽制するというような危険な役目も、彼女は顔色一つ変えずにこなした。
 手傷を負ったのは一度や二度ではない。女の身にして、フランの肌には幾つもの傷跡が
刻まれている。剣の傷、突起つきの棍で打ち破られた傷。火傷が特に酷い。火を操る魔将
に、左肩から胸元にかけてを焼かれた時のものだ。皮が剥がれ、筋に達する深手だった。
折良く巫女が同行していたため一命は取り留め、左腕も損なわなかったが、法力で癒しき
れなかった跡が無惨に残った。
 キャシアスと巫女はしきりに詫びたものだが、フランは一切の衒いなく笑っていた。
「御役目を果たすために受けた傷です。何を恥じることがありましょう」
 フランは揺るがない。自分の身に何があっても。
 キャシアスの身の上が真実どれほどおぞましいものであったかを知っても、変わらず、
ただ我が主と呼んで寄り添っていてくれる。
 では、主君でなくなればどうなるのか。
447『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:58:29.04 ID:KulR5toZ
 ――これからも、お側に仕えさせてくださいね。
 いつであったろうか。酷くのんびりとした、穏やかな日和だった。呆けたような空白に
たゆたっていた。フランと、話をした。喉から迫り上がった言葉を、腸の奥へ飲み下した。
それが今になってもまだ疼く。
 我が双眸の奥に在るフランは、変わらず静かな顔をしている。
 闇の向こうにいる今の彼女も、恐らくは。
 左背面。
 ざわりと背筋をくすぐる、音とも呼べない微少な大気の震え。
 キャシアスは抜刀した。
 左手と腰で鞘引きを効かせ、抜きざま右袈裟に斬り下ろす片手打ち。
 背後は一顧だにしない。注意を向けることさえない。
 正面から音もなく、地を這う様に疾走してきた矮躯を、ものの見事に迎え討った。
 片手業ながらに細い首は骨まで断たれ、しなやかな四肢がみるみる脱力して頽れる。噴
き出た血が草木を汚し、黒土を生暖かいぬかるみに変えていく。
 その幻影が夜風に消えると、キャシアスは無造作に構えを解き、刀を納めた。
 血ぶりも残心もない。
 死人にそんなものは不要だ。
 剣を納めるくらいは見逃して貰うとして。
「負けか」
「はい」
448『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:59:17.33 ID:KulR5toZ
 キャシアスの脚で大股三歩ほども外れた間に佇み、フランは淡々と頷いた。
 フランもやはり死人である。構えもなく無造作にキャシアスへ近寄ってきて、脇の木に
突き刺さった短剣を引き抜いた。
 フランの衣服の胸元が裂け、ちらちらと肌身が覗いている。
 キャシアスの打ち込みは完全に間合いを外したはずであったが、フランが瞬間に今一段
の踏み込みを見せ、腰を低く落とした疾走から大きく伸び上がりざま、そのばねで左手に
持ち替えていた短剣を投じたのだった。
 空を切るはずだった剣先は、フランの衣服を裂いた。
 刀が届くのと短剣を擲つのとでは、刀の方が僅かに早かった。しかし、本来の間合いで
あればキャシアスの刀は物打ちを外され、勢いの乗らない元打ちで伸び上がったフランの
肩に受け止められていただろう。それでも利刀と腕力で致命傷にはなっただろうが、一瞬
で絶命せしめるには至らず、最後に短剣を擲つ間を与えてしまう。その短剣にしたところ
でキャシアスの急所を抉るかどうかは、フランの腕前であっても五分以下というところか。
しかし、
「あたしの申し上げたいこと、お分かり頂けましたか」
「独りで出歩いていた俺は、刺客を打ち倒した後、館へ帰る前に血の気を無くして野垂れ
死ぬな」
「よろしゅうございます」
 フランは、ほう、と溜め息をついた。
449『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 22:59:47.55 ID:KulR5toZ
「これでお分かり頂けない場合は、力いっぱいひっぱたくつもりでした」
「すまん。少し、捨て鉢になってた」
「キャシアス様のお考えも分かりますが、今度からはちゃんと、あたしかお祖父様に同道
をお申し付け下さいませ。……あたしどもは密偵です。休息の管理くらい子供の時分から
仕込まれておりますので、夜だろうとなんだろうと無用なお気遣いは結構です」
「そうする」
 どちらからともなく座り込む。
 湯を引っ被った様に、二人とも汗にまみれていた。
 ごく短時間ではあったが、実戦を想定した立ち合いは疲労が激しい。
 特にキャシアスはただでさえ汗をかいた上でのことだから、皮の下からあるだけの水を
絞り出されたような気分で、喉がからからに渇いていた。
 もうもうと汗の湯気が立って、空へ登っていくようだった。
「……さっきのあれは、枯れ木でも結んでおいたのか」
「はい。木の枝に、落ちていた小枝を糸で結んで、暫くしたらほどけて落ちるように」
「俺が呼ぶ前に仕込んでたのか」
「どうせあのようなことになると思っていました」
「……そうか」
「失礼ながら、気を逸らすくらいは出来るかと目論んでおりました」
「見せかけにしたって、フランにしては騒々しすぎだ」
「恐れ入ります」
450『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 23:00:05.92 ID:KulR5toZ
「……斬れたのは服だけか? 怪我はしていないか?」
「大丈夫です」
「フランの大丈夫は信用できない」
「本当に大丈夫です」
「そうか、斬れてたか」
「薄皮一枚です、怪我とは言えません。第一、あたしから当たりに行ったんです」
「灯り、つけるぞ」
「……はい」
 夜とはいえ歩き慣れた森だ、夜警の者に見つからないよう普段は使わないのだが、一応
ランタンを支度している。また稽古中の事故に備えて傷薬もある。
 キャシアスは地面に置いたランタンを手探りで見つけると、火口を使って灯りを点した。
451『霧薙』 ◆/K08NdWDjo :2011/06/19(日) 23:00:31.36 ID:KulR5toZ
……お粗末
エロシーンは週末にでも
452名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/19(日) 23:41:14.78 ID:L42Wkg+h
まるで剣豪小説だw
エロパートもお待ちしております

芸風も広いよなあここ
453名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/20(月) 08:51:24.59 ID:YE++WYLR
これはいいキャシフラ
エロ期待
454名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/20(月) 10:28:59.13 ID:hlM4+IX3
レベルたけぇなあ…
455 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:01:32.64 ID:uZTyN1qY
フィーが陵辱されるおはなし。
・ややシーフォン×フィー。一応エロ描写あり。
・暗い。欝。人がバタバタ死んだり狂ったりしてます。


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ふと、読まないままに置いてる魔道書に視線が行った。
いつだったか、ド田舎のクソ生意気な魔術師から奪ったものだ。

黒い皮表紙は、部屋に置いているだけでもある種の緊張感を漂わせている。
しかし、僕には読むことができなかった。内容が理解できないのだ。
呪文の真髄は下巻に書かれていて、それを解読するためのヒントが上巻にあるということは解ったけど、
僕にはそれが限界だったようだ。
あのハゲジジイ。僕には習得できないって言ってたっけ。その通りだった。
――ムカつく。
今となっては、これが本当に欲しかったのか解らない。
あいつが持ってたから、奪い取りたかっただけなのかもしれない。
育ての親も家も無くしたあいつが、最後まで離さなかったのがこれ。
これさえ奪い取れば、あいつは一人になる。そしたら……そしたら、どうするつもりだったんだろう?

イライラする。
あいつに会って、もう一度叩きのめせばそれも収まるかと思って、またあのド田舎に足を向けた。
せっかくだから、鍵の書も持っていった。泣いて頼んで来るくらいなら、返してもいいと思った。
どうせ僕には読めないんだから。
456 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:03:06.13 ID:uZTyN1qY
久しぶりに来た町は、すっかり様変わりしていた。
町のあちこちからは毎日のように煙が上がり、人が死に、騒ぎが起きる。
神殿軍とアルケア帝国軍――と名乗ってるテオルの私軍が、町を挟んでずっと睨み合ってる。
一月か二月ごとに町を占領する主が変わるのだと、疲れ切った顔をした雑貨屋の娘に聞いた。
まるでボードゲームの駒みたい。
そう言った娘の幼馴染だった無頼漢の男は、神殿軍に逆らって死んだらしい。
絡まれてた人を助けようとしたの。馬鹿だよね。連れてかれて、拷問されて。
戻ってきたのは、手足が無くなった死体だけだよ。
わたしチュナちゃんが起きたら、どう言えば良いんだろう。
虚ろに笑う娘に、魔術師の行方を尋ねた。
娘はより一層絶望的な表情をしたが、無言のままに僕をひばり亭の二階の部屋に連れて行った。

彼女は、壊れていた。
ベッドと、戸棚と、テーブル、そして椅子が二つあるだけの狭い部屋。
この中のベッドに腰掛けて、彼女は微笑んでいた。
銀色の髪も赤い瞳もそのままに。ただ、その瞳に光は無かった。
「お帰りなさい、おじいちゃん」
入ってくるなりそう言った彼女にただいま、と返して、娘は僕を振り返った。
驚かないでと。彼女にとって、味方は全て「おじいちゃん」なのだと言う。
「おじいちゃん、今日はネルは来ないの?」
うん。来ないよ。泣きそうな顔で、娘は自分の名前を呼び捨てながら話す。
「そっかぁ。ねぇおじいちゃん、ネルのお店に遊びに行っちゃ駄目?」
戯けた会話に、腹が立つ。
でも、それ以上に驚きで何も言えない。吐き気がした。

いつからこうなった、原因はと尋ねると、娘は彼女を気にするでもなく答えた。
日付は、僕が去ってからそう遠くもない日。
墓所の奥で、彼女は本当の家族を見た。
それで茫然自失になっていたのだけど、ある日ちょっと仲間が目を離した隙に、
身寄りの無い娘だからと、軍に慰み者にされていたらしい。
ただでさえ磨耗していた彼女の精神は、その時に完全に壊れてしまったのだろう。
娘と、その時まだ生きていた幼馴染が見つけた時、彼女は自宅の焼け跡で、
男達が好き放題に吐き出した欲望にまみれて薄ら笑いを浮かべていたらしい。
そして、娘と幼馴染を見るなり、言った。おじいちゃん、おかえりなさい――と。
457 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:04:32.84 ID:uZTyN1qY
「なんだよ、それ!」
思わず声を荒げてしまった。
だって、そんなの。どうしてお前と奴がついてて、そんな事に。
醜い八つ当たりは、彼女の叫び声で中断された。
耳に突き刺さるような叫び声を上げた彼女は、怯え、シーツを握り締め、恐怖の表情でこちらを見つめてい

る。
やめて、来ないで、お願い、もうやめて。繰り返される拒絶の言葉。
頭を抱え、伏せて震える姿に、以前の明るい彼女の面影は無かった。
痛いのは嫌。言うこと聞くから、ちゃんと舐めるから。
歯も立てないから、だからそんなもの入れないで。殴らないで。お願いします。
切れ切れに繰り返される言葉に、こいつがどんな扱いを受けたかを知る。
娘に出て行ってくれと言われて、逃げるように部屋を出た。

          *

僕は彼女のいる部屋に通うようになった。
娘やひばり亭の女主人は、僕に何も言わなかった。
僕が鍵の書を奪ったと知らない筈は無いのに、書については一言も触れなかった。
それどころではないのかもしれない。

毎日のようにベッドの上の彼女に向かい合う。
「ごめんなさい、おじいちゃん」
そして毎日、彼女は僕に謝り続ける。
「鍵の書を取られちゃった」
鍵の書を奪った僕を、師と思い込んだまま、そんな謝罪を繰り返した。

おい、それだけなのか?奪った僕のことは覚えていないのか。
苛立つ。不愉快だ。腹が立つ。醜い感情が、胸のうちで燻って消えない。
あのジジイは死んだし、鍵の書は僕が奪い取ったのに、こいつはまだ、妄想の中の師と暮らしている。
一人になると思ったのに――そうしたら……。
そうしたら――彼女は――僕を――
激情に任せて、彼女を押し倒した。
声を出そうとした口を塞ぎ、痛い目に遭いたくなければと陳腐な脅しを口にする。
彼女は怯えきった表情で頷くと、声を出さなくなった。
服を剥ぎ取り、ろくに慣らしもしないまま、彼女の中に自身を突き入れる。
痛みにか、羞恥にか、赤い目から涙が零れる。
口に自分の手を突っ込み、悲鳴すら堪える姿が哀れで、同時にひどく腹立たしい。
誰かが、もっと酷い事をしたのだ。強かったこの娘が、現実を捨て去ってしまうくらいに。
こいつを見ていいのは僕だけだ。
そんな子供じみた独占欲で、傷つきぼろ布のようになった彼女を犯した。
気遣いも何もない。ただ苛立ちをぶつけるだけの、獣じみたやり方。
狂ったように腰を振って、果てる寸前、何故か椅子の上に置きっぱなしの袋に……
鍵の書を入れたままの袋に目が行った。
僕はいつも、間違ったやり方ばかり選んでいる。

          *
458 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:06:19.02 ID:uZTyN1qY
やぁ、と町で声をかけられたのは、そんな生活を二週間も続けた頃だった。
緑の髪の巫女が、以前と変わらない態度で、町の広場で片手を振っていた。
まだ生きてたのかと思わず言ったら、不良はしぶといものさと答える。

ここを離れようと思うんだ。そうあっさりと切り出した彼女もやはり、疲れているようだった。
本国の両親が、帰って来いとしつこく手紙を寄越したらしい。
命と知識欲を秤にかけるつもりもないがと、それでも名残惜しそうに巫女は言う。
だが君が戻ってきていると聞いて、最後に顔を見ておこうと思ったと、巫女はそんな意味のことを口にした。

「私は悲しいよ。古代のロマンが、今や戦争の火種だ」
遺跡の為に集まった探索者も学者も、ほとんどが死に、あるいは出て行ったらしい。
この町に残っているのは、命知らずの馬鹿か、故郷を離れられない者、もしくは兵隊だけだと。
「パリス君が死んだのは聞いたかい?」
頷くと、巫女はあの日の娘と同じようにため息を落とした。
「嘆かわしいものだ。善人ばかり病み、死んでいく。
 残るのは神殿の犬や、私のような不良巫女、君のような悪人ばかりだ」
僕は笑った。悪人、その通りだ。
巫女はそんな僕の顔を覗き込むと、何かあったのかと眉を顰めた。
天秤の神キューグは裁きの神。こいつはそれに仕える巫女なのだと、このとき思い出した。

鍵の書を奪ったことを告げた。
その正当な持ち主が正気を無くしていることに付け込んで、書も返さず、その体も犯したことも。全て。

「それはまた……」
巫女は言葉をなくしたようだった。だが、責める言葉を一言も口にしない。
何も口にしないまま、巫女は前を眺めていた。
人の叫び声がする。町人が一人、兵士に引きずられていくところだった。
巫女は目を背けるように僕を見た。年の割に老獪な瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。
短期間とはいえ仲間だった誼だ。そう前置きすると、巫女は神託でも授けるかのように言う。

「残された時間は少ない。後悔しないようにするといい」

          *

巫女は町からいなくなった。
ここに残っているのはもう、狂った魔術師と雑貨屋の娘と、酒場の女亭主、そして僕だけだ。
他は皆、危険を避けて出て行ったか、死んでしまったようだ。
シーフォン君も出て行った方がいいよ。雑貨屋の娘はそう言ったが、僕はそうはしなかった。
459 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:07:56.37 ID:uZTyN1qY
日々、壊れた女の元に通う。
後悔しないように。そう言われたが、正解は何なのかが解らない。
今まで間違った道ばかり進んできた。これしか知らなかった。
今更正しい道なんて選べない。
そうすれば今までの自分が嘘になる――というのは多分詭弁で、単に僕は正解を知らないんだろう。
今からこの女を元に戻して、僕の望むようにする事は出来るのか?

解らない。
解らないままに、苛立ちを欲望に変えて彼女にぶつける。
彼女は命じれば何でもした。犬のように四つん這いになり、けだものの姿勢で男を迎え入れることも。
上になり、自分から腰を振れという要求にも逆らわない。
ただ苦痛に耐えるような顔で機械的に体を動かす女を見ていると、何かが違うと思う。
こいつはもっと、ものをはっきり言う人間だったはずだ。
逆らわせたくて、わざと無茶な事を言った。
けれど彼女は、何ひとつ逆らわなかった。

目の前で自慰をしろと言えばやったし、
舐めろと言えばその通りにした上、言ってもいない内から吐き出されたものを飲み込んだりもした。
苛立ちが募る。
無茶な事をやらせて、黙って従う彼女に不満を抱え、我慢できなくなれば、彼女をむちゃくちゃに犯した。
行為はどんどんエスカレートしていく。
……僕は何がしたかったんだろう。

          *

巫女の言葉の意味が理解できたのは、言葉を聞いた十日後だった。
その日は朝から騒がしかった。窓から外を見ると、神殿軍と西シーウァの連合軍がが町を襲っているところ

だった。
兵の数は百や二百ではない。事態の進展が無いことに焦れて、大軍を投入してきたのだと理解した。
鍵の書と、杖だけを持って宿を飛び出す。
襲ってくる兵士を何人も消し炭にした。

そして、目的地に辿り着く。ひばり亭には、既に火が放たれていた。
燃える建物の前では、女主人が息絶えている。
――ちくしょう。
建物を見上げた。一階の窓からは、火が赤々と燃えているのが見える。
全体に火が回るのは時間の問題だろう。
ちくしょう、ちくしょう。舐めやがって。あの女は僕のものだ。誰にも渡さない。
ミルドラにも、アークフィアにもだ。
460 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:10:09.94 ID:uZTyN1qY
遺跡にもぐって冒険していた頃に読まされた魔道書の恩恵、熱を緩和する鏡の魔法で、燃える建物の中を

走る。
見慣れた酒場の、何もかもが赤い。
あそこにはいつも騎士と巫女が座っていた。
あの柱の傷、僕とあいつが術比べをしたときについたんだっけ。
そしてこの隅のテーブルに、僕はいつも座っていて、あの女は毎日のようにそこに来て――。
怖い。腹が立つ。変だ。イライラする。頭が痛い。吐き気がする。
後悔しないようにって、どういう事だ――。

狂った魔術師は、煙の充満した部屋で咳き込んでいた。窓や扉を開けることさえ忘れたのだろうか。
窓を開けて、下を見下ろした。二階の高さは、飛び降りるには高い。
こいつを連れて来た道を戻るかここから飛び降りるか考えて、決断した。
半狂乱になって泣き叫ぶ彼女を捕まえようとする。
できるだけ優しく、怖がらないように言う。だが、いくら宥めすかしても暴れるのをやめない。
「いいから静かにしてろ!!死にてーのか!?」
この言葉が一番効果があったのが、皮肉と言えば皮肉だ。
これが脅し言葉に等しいことに気づいたのは、彼女が大人しくなってからだった。

――後悔しないように。
けどよ、テレージャ。もう十分間違ってる。
一度間違ったら、最後まで続けるしか無いんだ。でないと……。

窓枠に足をかける。杖を振るい、自分達が落ちるだろう場所に人工精霊を呼ぶ。
杖ごとフィーを抱えて、その上に飛び降りた。

          *
461 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:11:06.29 ID:uZTyN1qY
気を失っていたらしい。
人工精霊がクッションになったとは言え、人一人庇って飛び降りるのは随分と無理をしたようだ。
とはいえ意識がなかったのは恐らくほんの一瞬らしく、建物はまだ崩れておらず、フィーは腕の中で硬直したままだった。
目の前で、二人分の体重を受け止めた人工精霊が消え失せる。
クソ、痛ぇ。クッションがあってもやっぱり痛ぇ。
でもひとまず、二人とも助かった。な、良かったな。僕のお陰だぜ、感謝しろよ。
軽口を叩きながらフィーを見て。
狂ったはずの女の目に光が戻っていたのを、見た。

彼女が目を血走らせて見ているのは、鍵の書だ。落下の衝撃で袋が破れ、地面に転がっている。
開いたページが、風に吹かれてぱらぱらと捲られていた。
「鍵の書……」
掠れるような声と同時、杖が奪い取られた。肩を打たれ、痛みに呻き声が出る。

見上げた彼女は、はっきりと僕を見ていた。
炎を背に、僕を見て、唇を動かす。震えてはいたけど、その毅然とした瞳は、他でもない彼女のものだ。
「鬼子のシーフォン……やっぱりあなたを信じちゃいけなかった。……鍵の書を奪った。おじいちゃんの形見を」
ああ、そうか。
安らかな気持ちで、フィーを見上げた。
僕を覚えていてくれたんだな、フィー…。

逃げる気は起きない。僕はこれで満足だ。
今までずっと感じていたイライラも不快感も無く、不思議な位に落ち着いた気分だ。
杖が向けられる。

最期の瞬間になって、やっと僕は自分が何をしたかったのか悟る。それが今叶ったことも。
今だけは、彼女は僕を見てる。シーフォンと呼んで、僕を見た。
たったそれだけ。馬鹿馬鹿しい位ちっぽけな事の為に、ひどい遠回りをしてしまった。

……ま、いっか。
最期の力で口を動かす。
最初で最後の謝罪の言葉が、果たして聞こえただろうか。
462 ◆s5pGoeiV.w :2011/06/20(月) 19:13:18.68 ID:uZTyN1qY
ひい変な所に改行が。見逃してください。
しーぽんは不器用さとプライドの高さが祟って破滅に突っ込みそうだと思うんです
463名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/20(月) 20:45:08.58 ID:MHBd/n7H
いいSENKAだ
フィーってなんでこう不幸が似合うか

しかし一番可哀想なのは一人っきり残されたネルだなあこれ……
464名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/20(月) 21:42:31.03 ID:YE++WYLR
>>◆s5pGoeiV.w
フォオオオオオ力作GJ!GJ!面白かった!
一気に読んだ、ラストも泣ける
シーフィーは鬱展開だととことん暗くなるな
465名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/21(火) 07:23:16.04 ID:9rrMwHRg
乙、雰囲気あってよかった
パリスェ……
46615 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:43:28.02 ID:rOqiBgK2
何レスいけるかよくわかりませんが7000文字くらい
>>413zip分続き(読まないでも支障ないと思います)
場面は、奪還イベントin出勤直前自室の14歳から

※部分的にイベントどおり倒すので大虐殺気味※
46715 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:44:11.27 ID:rOqiBgK2
ふと違和感に気づく。耳を澄ました。目をつぶる。しとしとと降り注ぐ雨に混じって時計の針の音が響く。
僅かに暖炉から薪のはぜる音が聞こえた。なぜ、何も聞こえないのだろう。城館は、あまりにも静まり
返っていた……。

「公子!」

思わず叫んで駆け出した、踊り場から身を乗り出すと、真下の食堂で武装したままの騎士が伸びていた。
喧嘩か酔いつぶれ?いや、まだ椅子にかけている者も顔を皿に突っ込み伏している、姉ちゃん何した!?
倒れた酒瓶からはぶどう酒が流れだし、テーブルクロスへゆっくりと広がっていく。違う!料理じゃない、
この匂い……襲撃はもう始まってる!手すりから真下へ飛び降り窓から歩哨たちを確かめる。……誰一
人として姿が見えない、ぞくぞくしながら梁へ飛んで表から屋根へ上がった、縁取る雨どいから勢いよく天
水が噴出している、顔を上げた瞬間目に飛び込んできたのは強力に揮発する異様な煙だった。
(なに混ぜたんだ?……これ)
煙突という煙突から奇妙な煙が昇っている、暖炉でなにかを燃やした?どれも……この匂いは眠り霧!
してやられた、悪天の隙を付いて屋根へ登り、すべての煙突に瓶を放り込んでいったのだ。こんな天気
じゃわざわざ外に出るやつもいなけりゃ、見上げるやつもいない。仮に見上げても町全体が濃霧で霞ん
でいて、わかる訳がない。発覚を遅らせるにはうってつけ!しかも眠り霧は痕跡が残らないのが特徴だ
し、炎に放り込んだのでは遺留品も出まい、なんて賢いやつ!吸い込んだ直後に意識を失うが長くとも
三十分程度しか持続しない、つまりそれだけの時間でカタをつける気だ、騎士どもの様子から推して拡
散からまだ間もない、とすればまだ屋根にいる!?慌てて身を潜め息を殺す。気配はない……すでに
内部に入り込んでるのか?さっき派手に動いたのを後悔する。どうしよう、気づかれたろうか?警戒しつ
つ移動する。部屋のすみ、窓辺にいて暖炉から離れていたから無事だったのだ。まだ起きているヤツは
いるとして、異変を察知したかどうか。侵入者を郷単独で押さえられれば大手柄、おれはツイてる。胸の
奥で鼓動が強まっていく。まずは公子、無事だろうか?辺りを窺いながら屋根伝いに最上階へ向かった。

「若長?交代前からずぶ濡れじゃないか」
「ああ、なにか変わったことはなかったか」
「公子は来客中だ。ホルムのピンガー商会会長、ピンガー。身体検査済み、護衛を一人同伴させている。
いつもの髪の長い女剣士だ」
頷きつつ隙間を覗きこむと、公子と商人が顔を寄せ合って密談していた。襲われていない、間に合った。
「皆そのままで聞いてくれ、何者かが眠り霧を館内にまいている、歩哨もすでにやられたようだ。公子の
手勢で残ってるのはおれたちしかいない、今のうちに悟られないように仲間を集めて待機させておくんだ。
……気をつけろ、相手はかなりの手練れだぞ」
頷くや屋根裏を抜け出て周囲に散った。残る者たちも警戒の色を強めている。着替えつつ様子を窺ううち
気配を感じて目配せしあい、耳をそば立てた。順次引き返してくる仲間たちの表情も、緊迫の度合いが増
していた。部屋に響くのはホルムの商人の下卑た笑い声だ……。
46815 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:44:55.34 ID:rOqiBgK2
「エッヘッヘ。礎ですね。イシズエイシズエ。はい覚えました。それでですね、その石人の種を仕入れて
おきたいのですが」
「もう少し待て。魔術師達に作らせている――」
言葉を切ってピンガーを制し扉の方向に視線をむけた。足音が階段を上がってくる……と、何者かが取
っ手を回して押し開けた。
「ほう? 客が来ていたか」
「チッ、なんだよ。姿が見えねえと思ったら、こんな所にいやがったか」
「うげっ、パリス。ウリュウちゃん、そいつ始末しちゃって!」
廊下に向かって呼びかけるとすでに剣をぬいた状態の女が入ってきた、一人乗り込んできたゴロツキは
躊躇なく駆け出し商人に斬りつけるや、甲高い悲鳴を上げて公子の後ろへ回り込んだ。テオルは迷惑
そうにため息をつく。
「ギュスタール。曲者だ。片づけろ」
「応!」
「やべっ、すげえ大勢出てきた!」
つんのめって引き返すが入り口では剣士がにやにや笑いながら腕を広げる、テオルとピンガーの前に
は部下が並んで刃を向けた、これぞ袋の鼠、チンピラ風情が公子を人質にとろうなどとはおこがましい!
一斉に身構え威嚇するが、逃げると思いきや真っ直ぐ向かってきた、身の程を知れ!
「ようようよう。イノチがおしけりゃそれい上うごくんじゃねえ。おい、きいてんのか?この、ちんぽしゃぶり
のオカマやろうども!」
なんか陽気な罵詈雑言にびっくりして振り向けば、部下の一人が部屋の奥で公子に刃をつきつけ立っ
ていた、違う、装束が同じだけの替え玉だ!
「この己を人質に取るか。フフフ……これだけの手勢相手に大した度胸だ」
「何者だ!」
「うるせえぞザコが、丸ヤキにされたくなきゃすっこんでなー。ほら、あんたも大人しくしてろよ」
テオルに向かってやさしく付け加え、大仰な仕草でお辞儀している。こいつ正気か?唖然としていると
忘れていたもう一人が怒鳴りつけた。
「ほら、ぼさっとしてねえで壁を向け!跪くんだよ!!」
一人が頭を強打されて倒れ伏す、なおも一撃お見舞い、死んだようなので渋々壁の方へ歩いてみせる。
公子から目を離さずにいると覆面の若い男がげらげら笑い出し、手が滑って顔に傷がついたようだ、うっ
かり間違って刺し殺しそう、こいつ……イカレてる。
「なんだよ、なさけねえツラしやがって。なにもそうさみしがることはねえ、すぐコイツとおんなじトコつれて
ってやるからよ」
従兄弟甥の亡骸を顎で示して目配せしてきた。幼馴染の三従兄弟が殴りかかりそうになって抱きとめる。
「わひゃひゃひゃ!ほれ、そうイキんなや、ちゃーんとじゅんばんにぶっ殺してやるからよ。うへへへへ、
そうだな。まずはぁ〜、お前でいいか。な!」
「ボク?!」
膝を突いたまま飛び上がった、口調、というかこのひどい馬鹿笑いに聞き覚えがある。
「……お前。ヴァン、なのか?ここでなにやってる」
「ほれみろ、言わんこっちゃねえ。もうバレちまったじゃねえか、ったく。もっとニンジャらしく喋れよ」
「うひゃひゃひゃ!むちゃいうなよ、できるワケねえだろ。な!」
むしろ今まで紛れ込まれてたのが驚きだ、いつからいたのか見当もつかない、ずっとうつむいてた奥の
奴か?それは今死んでる。背を向け表を見張ってたヤツか?そいつは隣にいる。いつ入れ替わった、
いつからだ?休憩中の連中を起こしにやった時か!外に出たから装束が濡れてもおかしくないし、皆戸
口の不審者のほうに気を取られて、すぐ側の侵入者を見落としたのだ。馴れ馴れしく公子に寄りかかり、
辺りを見回していたヴァンと目が合った。覆面していても目の色はあんなに赤いじゃないか。どうして気
づかなかったのだろう。
46915 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:45:42.62 ID:rOqiBgK2
「なんだよ、どうかしたかよ」
「お前、どういうつもりだ」
「テメエらぶち殺しにきただよけだよ。な!お前こそなにやってんの?さっきからずぅっとイッショにいたの
になんでサッパリおれに気づかねえのさ。こいつのゴキゲンとりでいそがしくて、コッチはごぶさたか。え?
まじでテオルのイロにでもなっちまったのかよ。やってらんねえよなあ、のべつまくなしほられてウデが
ニブっちまったってか、ったく。ひでえもんだぜ。せいぜいオシゲリにはげんでな。よう、かっ手にうごく
んじゃねえよでぶ」
「ウヘェッ」
書机から無造作に掴んで投げつけたペンが、はいつくばったピンガーの指の間に突き刺さる。へたば
って涙目だ、命乞いする商人にむちゃくちゃな暴言を浴びせてせせら笑っているが、一国の長が同席
していることを理解しているのだろうか。この期に及んでも、まだ側の男が誰か思い出せないらしい公子
は、好奇心丸出しで目を輝かせている。こいつはこいつで頭大丈夫か?
「貴様……ッ、公子に刃を向けるってのがどういうか分かってるんだろうな!?自分が何してるかわか
ってるのか!」
「判ってないのはお前らのほうだろ、ホルム中からガキかき集めてきて、ここで何してるか言えのるか?
知らなかったじゃもう済まされねえんだよ」
「違うよ、ぜんぜん違うよ。だってこれは全部治療のための研究だし、ね!陛下」
裏返った声でまくし立てる言葉に思わず頷くが、再び笑い転げたのでテオルの髭がわずかにこぼれる。
「フザけたことヌカしてんじゃねえよ、笑わすなやこのでぶ。なにお前らもシュショウなカオしてうなづいて
んの?あかんぼ一人守れねえのにどこがアンゼンのためってんだ、え?なーにがイチゾクのホコリだよ、
くっだらねえ。まさかテメエらのトコのビョーキのガキどもをホイホイさし出しといてよろこんでるんじゃね
えだろうな。それでなにいっちょ前にイキがってんだよ。あ?ばあっかじゃね〜えのォ?」
物凄い癇に障る言い方で一番痛いところを突かれた。かっとなりなりふり構わず襲い掛かり乱闘になる、
嘲笑しながら何か投げつけてくるのも確かめずに切り捨て追い回したが、公子のことすっかり忘れてた!
殺されてたらどうしよう!!慌てて振り返ると書斎にかけたままテオルは、暗殺者を見上げていた、いや
……見上げているのは暗殺者の手だ。小さな種火のゆれる、白い指先だった。
「総員退避!!!」
放たれた炎が油を伝って装束に燃え移り、たちまち火達磨となった、転がった床まで灯油でヒタヒタだ
からあっというまに延焼して煙が充満する、公子を守る為手遅れの部下に止めを刺してて避難させよう
と試みるが、肉の焼ける匂いと煙に咳が止まらず数人が嘔吐し始めた、書類が燃え上がって家具から
天井に燃え広がっていく、手当てを!消火を!増援を!部下を分散させ自分は下手人を追って外へ飛
びだす、すでに母屋の屋根まで達していた侵入者は、飛び跳ねながら手を打ってはやし立てている、
追いかけて来いというのだ、兄はどこへ消えた?これは囮!公子を援護せねばえらいことになる、猶予
はない、一気に距離をつめて退路を断つ。
「逃がさん!」
なぜか歓声をあげて駆けよってきた、不安定な瓦を身軽に飛び回って手裏剣をかわし、親戚同士が交
錯して重傷を負おうや脚払いをかけられ、あっさり階下へ滑落した。首を引っ掛けようにも体が小さいの
で捕まえにくく、殆どの者よりこなしが早くて目潰しも満足に決まらない、……こいつ上達してやがる。
戦いながら思い浮かんだのは姉の存在だった、稽古してやったのか、こんなやつに!
「いいな〜、おれも分しんしよっと」
「あ、こらマネするな!!」
慌てて斬りかかったのにひらひらかわされ中々切り結べない、どうして抜刀してこない?焦りばかり募
ってたたらを踏むや鞭が巻きついて武器を取り落とす。
47015 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:46:27.60 ID:rOqiBgK2
「しまったとでも言うと思ったか!」
逆にたぐり寄せて引きずり倒してやれ!手首にからんだ端を掴むなり腕が前に飛び出しつんのめる、
そんな馬鹿な!全部刀を落としてしまった。仕方なく手裏剣を投げつけ素手で挑んだが、へんな杖を
使って火を放ってくるから分身全てが焼かれてしまう、話にならんじゃないか!いきなり食パンで打た
れて胸当てが外れた、予想外に衝撃が重く呼吸が出来なくなってしまう。よろめく振りでとどめを刺しに
きたところを返り討ちしようと待ち構えていたのに、急に距離をとったかと思うと、伯父の攻撃をかわして
庭へ蹴落とした後は、逆立ちしたまま行ったり来たり。なんだこいつ。
「貴様……ッ、さっきから 何が狙いだ!」
「なんだよ、ちゃんといったじゃねえか。きいてなかったのか?まあいいや、とっとと死ねよ」
といって攻撃するでもなく、くねくね踊っているだけだ、こんなやつに姉ちゃんは敬語を使ってるのか?
こんなやつにテオルは面白いといったのか?こんなやつなのに……!拾った短剣で頚動脈を狙ったが、
微妙に外され返り血を浴びる、何度も切りつけてるのにどうも手ごたえがない。
「うひゃひゃ!ちょ〜いてえ、ちょ〜いてえ、うひょー」
傷ついたところをかきむしって踊りかかった親類に突きつけた、呻いて後ずさった叔父は血が目に入っ
たか動きが悪くなりたちまち懐に入られて膝を突く、ぼたっと頭が落ちるや分かれた体もろとも、屋根
に引っかかったままの三従兄弟を通り越してすべり落ちていった、どれもじつに凄惨な死に様。
「……本当に、テオルと戦うつもりなのか」
「わるいかよ」
拾った太刀で襲い掛かる、軽いステップでかわしながら逃げていく。手ごたえがなくて腹立たしい。
「敵うと思ってるのか?あいつは、多分。ただの人間じゃなくなってるんだぞ!?」
「かてないからよせってか?うへへへへ、いいじゃん、死ぬだけなんだし。おれ一人いなくなったとこで、
お前となんのかかわりがあるんだよ」
あっと思った瞬間剣を素手で鷲づかみされた、引っこ抜けない……、慌てて持ち替えたが足を踏まれて
膝蹴りを喰らい、ぐいぐい後退させられる、やばい、まずい、剣を奪われる!不意に手首をひねられ全
身が裏返った、あんまり綺麗に決まって呆然とする。たった今盗られた刃に貫かれた従兄弟が目の前
を滑り落ちていった。見回せば、もう誰も残っていない。どうして……?息を呑み、言葉を失った。

「やまねえなあ」

つまらなそうな呟きに我に返り、仰ぎ見る。ヴァンは、端のほうでちょこんと腰かけ揺れていた。今完全
に戦意喪失してたのに。どうしてさっきから体勢を立て直す間を与えてくるのだろう?脚をぶらぶらさせ
ながら鼻歌を歌っていたヴァンは、思い出したようにぐんにゃり体をねじってこちらを見下ろした。
「なあギュスタールよう、お前さあ。テオルなんかについてって、どうするの?いくらよくしてくれたって、
あいつからネスはもらえねえだろ」
「なんだと」
「だってお前はおともだもん。どこまでいってもおともさ。ちがうか?ならいっそ、ヤツを首だけにしてさ、
パーシャにでもくれてやればいいんじゃね?」
「はぁ!?なんでいきなりそうなるんだッ」
「パーシャなら女だろ、ネスてみやげにして会いにいってやんな、お前はそこでムコにおさまるのさ」
「……今蟄居させられてるんだろ。子飼いの騎士団も解散させられて、反乱起こしたやつ等は……皆
殺しにされたって、おれの親父が」
「だからお前がいくんじゃねえか。あのアマさえはらましゃ、テメエのガキがシーウァの王子さまだよ?
カンタンなこった。血さえひいてりゃだれでもいい国なんだから。あとはお前らでやつのシンセキを全
いんバラしてけば、お前のガキだけがユイイツのセイトウなオウイケイショウシャってわけ。おわかりぃ?
なんなら手つだってもいいぜ、どうだい」
稀有壮大すぎて意味が分からない。殺されかけたかと思ったら、今度は国を二つ乗っ取れと唆される
なんて!なんだこいつは。
「お前……、気は確かか?」
「くるっちまってるんじゃねえの?わひゃひゃひゃ!ダレがまともなもんか、な!」
47115 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 00:47:18.97 ID:rOqiBgK2
隙を突こうと合流した仲間が死角から飛び掛ったのに全身に手裏剣を浴びて血煙を上げている、門外
不出の奥義を奪われた!器用にもちかえた杖から火を放ち次々火達磨だ、武器を奪おうとした一人
がパンでめった打ちを喰らって振り落とされ地面に叩きつけられる、止めに入った自分まで突き飛ば
されてしまった!瓦の継ぎ目に打ち子を突き立て踏みとどまるが、一斤投げつけられてずり落ちる。信
じられない腕力だ、どうなってる?あのチビが!
「あー、そういやよ。テンショクのおしらせってやつだ、わすれてたな。うへへへへえ、どうするよ。あん?
たすけをよぶかい」
笑いながらびしびし刃を打ち込んでくる。おれたちからとった刃物だ、破片が飛び散り周囲はぼこぼこ、
わざと外してやがる、ついには捉まっていた瓦が砕け再び滑り落ちる。慌てて飛びつき抱きしめた雨ど
いが外れて雨水が噴出してきた、やばい。むせながらよじ登ろうとしていると、つま先が見えてきた。
小首をかしげ、覆面をずらしながらおれを見下ろしている。口元はほころんでる。こいつ、まともじゃない。
「そんなに言うなら、自分でためせばいいだろ!なんでおれに言うんだ!」
「家ぞくのためなんだろ?お前の。おれは国なんかいらねえ。金もいらねえ。なんにもおれには必ようねえ。
お前がほしけりゃすきなだけもってけよ。いるっていうんなら、いくらでもお前に手ぇかすさ。……そしたら、
アイツがよろこぶんだろ?」
あいつってだれだ。
「…………まさかお前、姉ちゃんにほれてんのか」
あんな料理で!?
「そうだよ。フランはいい女さ。いつかやりてえ。お前もおれのダチだ。お前はいいやつだし、おれのセン
コウだし、……おれはお前がだいすきだよ」
笑ったままなのに、一瞬なぜか泣きそうに歪んだ直後、はっきりとした憤怒にかわった。
「テメエらはおれのシマをあらした。それはいい。んなモン今さらどうでもいい。けどな、テメエらはおれ
のゾクに手ぇだした。それだけはどうしてもカンベンなんねえ。だれにも、お前にも、テオルにも、タイタス
にも、おれのいもうとに、手 だ し は ゆ る さ ね え」
笑みが消えるのと同時に三連撃喰らって雨どいごと切り捨てられた。地面に叩きつけられた体へ降り
注いだ瓦礫の下敷きになるや視界が真っ赤に霞んで猛烈な激痛が見舞う!反射的に顔を抑えた掌
へ、ごろっと硬いものが零れ落ちた。なんてこと!なんてこと!言葉にならない喚きを上げる様子を眺
めていた少年は、雨だれを拭って顔を覆いなおすと、静かにどこかへ戻っていった。城館は、いまや主
戦場と化している……。
472 忍法帖【Lv=9,xxxP】 :2011/06/22(水) 00:48:05.58 ID:rOqiBgK2
やたーぜんぶいちどにとうかできたよー\(^o^)/
47315 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:10:57.63 ID:rOqiBgK2
誰もいないので続きで残弾打ち切り僕っ子討伐6000文字くらい
裏で国家権力と結びついた地元マフィアに敢然と立ち向かった
兄弟の運命とは!?衝撃のクライムアクション!みたいなヤツ

※本作には暴力的な表現が含まれています※
胸糞は良くないと思うので、どなた様もご対処の程ねがいます。
47415 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:11:49.01 ID:rOqiBgK2
辺りは静まり返っていた。破られた窓からは雨が吹き込み、こうばしく香る生焼けの死体を濡らしている。
外界からは獣のいななきや何かを言い争う男たちの声が実に賑やかに響いている。誰かが納屋の鍵
を閉め忘れたせいで、家畜が逃げてしまったのだ。町中を悠々と闊歩する乳牛や群れを成して糞をば
らまく羊達を追って、大半の歩哨たちは城館を出て行ったらしい。残る兵士たちも想像以上の跳躍力で
所狭しと駆け巡る鶏との格闘で手一杯の様子だ、誰も見上げない。道理で加勢が来ないわけだ。あの
クソガキ、ただのマヌケと思っていたのにとんでもないタマだった。使い方を間違ったのかもしれない。
ぬかったと思う。浮かれすぎたろうか。すごい金づるを掴んで舞い上がっていたのかも。適当に利用して
ふんだくってやろうと思っているうちに、いつの間にか抜き差しならない状況になっていた。
「は〜、ヤバいことに首を突っ込みすぎちゃったかな。でも今さら手は引けないしな。下手打ったらテオル
に殺されちゃうしな〜」
ちょっと小銭が稼げて、ちょっと大きな顔ができて。ただそんな程度で面白おかしくやりたいだけだった
のに。いつから主導権を失ったのだろう?ほんとうに巧妙すぎて嫌になる。勇ましいことを言ってバカ
共を追いかけていった公子も、会った当初は大金持ちの自信家なボンボンといった程の印象だったの
に、ふと気づいた時には逆らいがたい、人間離れした凄みが感じられるようになった。
「今のあいつって人間なのかな〜……。なんか違うんだよねえ、ほら、なんていうの。オーラ?みたいな」
「おーらってなに」
「え!? なに!?ヴァン!?」
がたーんとすごい音を立てて椅子ごと横倒しされた、床へ転がったところを力一杯足蹴にされる。ひどい。
「痛痛たっ!てめえ、ヴァン、こんな事してタダで済むと思ってんのか!?」
「まじ?なんで小づかいくれんの?」
「は!?イミわかんないだけど、なにこの人!!ふざけてんじゃねえ、ぶっ殺されたいのかよ!」
「イキがってんじゃねえよ、なんだ?うわあ……お前、ショウベンもらしてんじゃねえか」
「うっさい!ここがどこか分かってんのか!?兵士どもを呼ぶぞ!?てめなんかすぐに処刑だ!笑って
んじゃねえ、なにがおかしい!」
「うひゃひゃひゃひゃ!だれもこねえよ。わかったらさっさとあきらめてオネンネしてなー」
ヴァンは商人の背中にまたがったまま武器を放り出し、濡れた装束を脱ぎ捨て始めた。
「おいコラさっさと放せ、今なら見逃してやっても……」
さっくり切りつけられて金切り声を上げたが、あまりぼこぼこと殴られるので、涙でぐじゃぐじゃになりな
がら口をつぐむ。
「オメーはいちいちぴーぴーわめくなや、うるせえんだよ。もしかしてお前、耳きこえてねえの?なあ!
もしもーし。なんてな、うひゃひゃひゃひゃ!」
ぺちゃっと落ちてきたのが自分の耳たぶだと気づいて卒倒したが、臭い食い物を浴びせかけられて蘇
生されてしまった。目を覚ますと顔をのぞきこんでいた少年と視線がぶつかる。よく熱した石炭のような
目!猛烈に身の危険を感じる。ヤ・バ・イ!
「あの、ヴァン?ひょっとして怒ってた?恨んでたの?」
「そうだなあ。おこってねえっていや、そいつはウソになるわな」
「ねえ、まずちょっと話し合おうよ、誤解があるんだよ、今までの恩に免じてちょっと話聞いてよ!食べ
物だってイッパイ分けてあげたじゃん!!」
「うへへへへ、そいつもそうだな〜。どうしようかな。なにきこうか」
でれでれと笑みをこぼし、それからピンガーの血で真っ赤の短剣を片手に、首を傾げてみせる。余裕ぶ
っこいてないで早くして。
「お前チュナどこやったの?」
「チュナって誰だっけ?」
ぽろりと小指がころげる。
「あ、ちょ、痛っ ああハイハイ思い出しました、水晶に封じられてた妹さんね!」
「ちゃんとおぼえてるじゃねーか、すっとぼけやがって。おれはいもうととり返しにきただけだからな。お
前さえスナオにはきゃ、これい上お前らのジャマはしねえのに」
「ほんとに!?それなら岩山の洞窟のほうにいますよ!ええこれホント!ちょ、だからちょん切るのは
ナシ!ナシでね!!テオルのヤツは、あの水晶の種を国中にばらまこうとしてるから、早く止めに行
かないとヤバイですよ!ホラ、ボクのことなんかおいて早くヤツのトコまでいかないと!」
47515 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:13:14.46 ID:rOqiBgK2
「はあ?なんでおれがそんなコトやんなきゃなんねえの?そんなモンど〜でもいいよ、かっ手に石でも
なんでもなってろや」
「ごもっとも、ご尤もでございます!」
「おめー、しかもテオルなんか」
突然腹を抱えて笑い出した。刃物を持ったままだ、間違って斬られそうで生きた心地がしない。
「わざとヒゲ切ってやったら、ちょ〜しょぼくれてやがんの、わひゃひゃひゃ!見た?あのツラ」
「あれワザとだったの!?もっと加減しないとお!!つるんでる奴からタダの顔見知りまでそっくりバラ
されちゃっても文句言えないじゃん!!」
飛び上がって叫んだ商人にぐらぐら肩を揺すられる。
「んなことはねえだろ、ヤツならこれからおれがバラすもん」
「お前、お前ね、今あいつがどんなか知らないからそんなコト言っちゃうんだよ、知らないんだもんなあヴ
ァンは。あれ絶対ヤバイから。絶対まずいって。最早人間じゃないんだよ?わかる?お前が遺跡とかで
毎晩戦ってるようなのとはレヴェルが違うんだから!わかる?レヴェル。段違いってイミだから。ね?」
「ふぅ〜ん、テオルってそんなつええの?」
「そうだよ?今はちょ〜つえぇんだから。ね?悪いこといわないから考え直しなよ。今からでも遅くない
って。こんだけの騒ぎ起こしちゃったけどさ、逆に高く売り込むチャンスだよコレ、あ、チャンスっていい
機会ってイミだから。だってお前ほんとすごいもん。たった一人か二人でレンデュームの忍びが全滅で
しょ?普通ありえないよ?こんなのってさ。ただ殺されに行くんじゃ勿体ないって!あのギュスタールを
殺っちゃったんだろ?てことはやつの後釜が空いたってことじゃん。お前だったら後釜どころか陛下の右
腕以上のポジション狙えるコト間違いナシだね。あ、ポジションて地位ってイミだから。そりゃお前もさ、
ここまでやっちゃったし引っ込みつかなくなっちゃったかなーってキモチもあるんだろうけどさあ、人間、
死んじゃたらオシマイなんだよ?」
いぶかしげな少年に向かって膝立ちになり、血まみれの両手で手を取って見上げている。
「謝るのは一時の恥っていうでしょ?あ、違うか。まあいいや、とにかく謝っちゃいなよ、ね?ボクが一緒
に行ってやるよ、これから一緒に行ってさ、あやまろ?許してくれるって。すっごい理想とか語っちゃう
けど、結構ゲンキンなタイプだからね、お金積んで土下座でもすればきっと許してくれるって!ね?もう
最悪なレベルまできちゃってるかなー?ってカンジだし、ボク以外のとりなしじゃかえって怒らしちゃって、
火に油っていうのはほぼ確実だけどさ、その点ボクならテオル陛下とは気心が知れてるからね!」
「なんで?おれのことなんてどうでもいいだろ」
「酷いなーヴァンたら。ボクとお前とは長い付き合いだろ?親子みたいなものじゃない。それでお前が死
ぬと分かってて、はいそうですかって送り出せるほど薄情な男じゃないよ?見くびらないで欲しいなあ。
ここはボクにまかせてみなって。一肌脱がしてよ。ね?」
「……まじかよ」
ちょっと目が覚めたような表情でこちらを見ている。
「そんなにシンパイしてくれんの。あんたビビりすぎてアタマどうかしちゃったんじゃねえか?」
そら来た。“あんた”だ。誰でもお前呼ばわりするが、よく聞いていると言葉の使い分けは一応している。
もう一押しだ!
「心外だなー、ボクはいつだってお前らのこと考えてるのに!それにね、下心がないわけでもないんだ、
ボクは商人だからね。お前には昔っから投資して来たんだ、何年もかけてここまで育ててきたのに、ぽ
っとでの公子なんかに殺されたら勿体ないじゃん。そうは思わない?それにヴァンなら、ボクのマネジ
メントさえあれば絶対大きなことができるよ。あ、マネジメントって要するに、ちょっと手を貸してやるって
ことだから。意味判る?お前字を読むのとか苦手じゃん?そこでボクの出番ですよ。暗殺だってきちーん
と契約取り交わさなきゃ、せっかくいい仕事したのに貰える物ももらえないんだよ?適当にそこらのバカ
に任せてたら足元見られちゃうけど、ボクだったら数字はお手の物だよ。しかもボクは神殿にも公国にも
西シーウァにも顔が利くからね!売込みだったら任せといてよ!どう?すっごくいい話だと思わない?」
つぶらな赤い瞳だ。じつに単純そうに輝いている。テオルにさえ引き合わせれば、始末してもらえる。仮
にひょうたんから駒が出たとしても、仲介料がとれるだろうし、本当にありえないことだが何かの間違い
で公子が負けたとしても、ここまで恩を売っておけば……。一世一代の大博打だ。
47615 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:13:58.33 ID:rOqiBgK2
「ふぅ〜ん、そうかよ。じゃあそいつ、今どこにいんの?」
「テオル?さっきまでここにいたけど、侵入者を探しに行っちゃったよ」
「そうかよ、じゃあちょっといってくるわ」
「えっ」
とくに戒めるでもなく、ただ部屋を立ち去ろうとしている。これはもしや大勝利?ふと歩みが緩んだ少年
は、戸口に手をかけ振り返った。
「そういやーあんたにゃ、さんざんセワになりっぱなしだったな」
「え?なんだい急に改まって。ボクとお前は親子みたいなもんなんだから、世話をするのは当然じゃな
いか。キャハハッ」
「そうかよ、ふーん」
立ち止まり、体をこちらへ向けるとまじまじとピンガーの顔を眺めている。気絶している間に着替えたの
か、小間使いのような身なりに扮していた。
「じゃあ、あんたはおれのとうちゃんかい」
「そうだよ、わかるだろ?キャハハッ、息子を思えばこそ、危険を冒してでも一緒にいって、テオル陛下
に謝ってやるって言ってるんだよ」
「ふーん。てことは、あんたぶち殺せばおれもハァルにむこうはれるかな?」
驚いた猫のような跳躍で距離をつめるや、一瞬で懐に入って刃を襟元に突きつけている。
「ちょっ……ヒ、ヒハハハハッ、やめてよ、冗談きついよ、物騒な顔して……」
「うひゃひゃひゃ!なーにねぼけたコトいってんだよ、いつもほめてくれたじゃん。カンペキだよ、あとは
コイツをバラバラにしてアークフィアのソコにぶちこんで来るだけだね、ってさ、な?おれ、いつもちゃ
んとやってただろ?ヴァンはすっごいユウシュウだね、って小ヅカイくれたじゃんか。な!そうだろ?おれ
らは い つ だ っ て ちゃんとやってきた。あんたのために」
ぐっと顔を近づけゆっくりと話しかけてくる。……もしかすると、笑っていないこんな面を見るのは初めて
なのかもしれない。
「おれらをうら切ったのは、お前だよ」
突然膝の力が抜けて跪く。これじゃまんま処刑スタイルじゃないか、このまま殺られる。真っ青な顔で
出口とヴァンを見比べた。逃げられないよ!
「……テメエのオトシマエは、トーゼン、テメエのカラダでつけろや。わかってるだろ、な?」
せり出した腹の肉がいつの間にか血塗れている、呻こうにも口に手袋を突っ込まれてしまった。歯を折
られ、爪をはがされ、皮をむかれ、鼻をそがれ、時たま河魚の食い残した同業者の一部に見つかる拷
問の痕跡が、凄まじい勢いで思い浮かんできた、考えなしだった。こいつは野良犬じゃない。食い物
だろうが体罰だろうが決して飼いならしようのない狂犬だ。かまれたら最期、化け物のようになるまで
苦しみ抜いて死ぬしかない。
「んんんんんん!!!」
きらきらした笑顔で膾切りしてくる。嫌というほど柄で殴りつけられ鼻から滝のように血が噴出す、こんな
に出るのかと思う間もなく喉に流れて咳き込んだ、よろめき床へ突っ伏したところを無理やり抱き起こさ
れてあえぎをもらす、と、襟元に軽い衝撃が加わった。全身を硬直させたまま必死で目を動かす、喉、
いや自分の顎からにょっきり伸びているのは短刀の柄だ。頚動脈のすぐ側を、冷たいものがゆっくりと
侵入していく……。白い手が今にも刃を引き上げようと持ち返る、汚物と一緒に手袋を吐き出した。
「やめっ、だめっ、だめ!!だめ!!いやっ、いやだ!死んじゃう、しぬ、しんじゃうよ!!」
「わひゃひゃひゃ!しなねえよこれくらいのレヴェルじゃ。そうそうイージーにはいかしてやらねえからさ?
せいぜいかくごしとけや」
47715 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:14:45.78 ID:rOqiBgK2
な?と微笑みかけられるや商人まで狂ったように笑い出した、駄目だと判っていてもがくがく震えがとま
らない! 再び失禁したのを笑われ泣きじゃくっていたが、首の刃物をそのままに二本三本と突きたてる
刃の数を増やしていく少年の意図を悟って押し黙った。ビンゴで何が飛び出すのか楽しみにしているの?
本当には死なないように急所を外して刺してきている、醜いハリネズミのようになった自分の腹が信じ
られない。終に打ち子を右の目玉にぶち込もうとした瞬間、ようやく飛び込んできた影があった。けれど、
どうやらすでに何かの手傷を負っているようだ。ふらつき方が尋常ではない。
「……ゆらり」
「ウリュウちゃん!どこ行ってたの!?もっと早く助けに来てよ!」
「どさくさまぎれに脚にしがみつかないで下さい糞豚」
「糞豚!?」
無碍にも足蹴にされて二人の丁度まん中へ押し返される。得物を持ったままの少年は、殺気立つでも
なくのんびりと応じた。
「ぶたならもうチョイ食いようがあるだろうよ、お前こいつのニクしゃぶる気になるか?」
脅えて見上げるピンガーを二人ともしげしげ見つめている。彼らはどこかよく似ていた。年も性別も、生
まれも髪の色も、背格好だって違うのに。
「ならないね。……面白かったので、つい窓の外から見物しちゃってたんですよ」
「よく言うぜ、おもてでゲロはいてただけだろ」
「えっ、そうなの?嘘でしょ」
「お前なに混ぜた?効きすぎよ、あの薬」
「うん?お前かざ下にいたから、それでじゃねえの?あー……、いやゴメン。ちがうわ。おれ、なんかの
ハラワタいれたかもしんねえ」
ごく自然にピンガーへ足をかけて刀を引き抜く。喉が裂かれ、びっくりした顔のまま死んでしまった。屍
の上着で刃の血を拭い、剣士に向き直る。
「……殺気、しないね、お前」
「あん?なにがだよ」
「こいつ殺したのに……。お前、すごいよ、すごい…………本物の自由だよ」
なぜかウリュウはうっすら汗をかきはじめ、呼吸が乱れて来たようだ。赤らんだ頬で目を輝かせ、食い
入るように少年を見ている。
「どうでもいいよ。で、なんか用か?」
「忍者だけ戦えてずるい……。私の相手もしてもらうわ」
「やだよ、せっかくきがえたのに。これからテオルぶったぎって、いもうととり返してくるんだ」
言うなり突きつけたウリュウの刃を素手で乱暴に払いのけた。
「駄目ね。テオルに殺されたら、私がお前と戦えない」
「あ゛?」
思い切り睨んでいる。負けるのが前提だったからだろうか。

「だったらおれがまけねえように手つだえやバカ!!!できねえならとっととケツまくってかえれ!!!」

「…………ええっ!?」
「あー、もうまくれてんのか。こんなんでさむくねえの、お前」
ひょいとマントをめくられぺろりと尻を撫でられた。思わず平手打ちしたが、華麗にかわされ後ろをとられ
たかと思うなり、扉から出て行ってしまった。
「なっ……なめるなクソがアアァァァ―――ッ!!」
怒りに任せて斬りつける!ちっとも当たらない!野獣のように咆哮しながら手当たり次第に切りつけた、
少年の駆け抜けていく階段全体が切り刻まればらばらに崩落していく。足場ごと投げ出されたヴァン
は壁に飛びついて、昆虫のように垂直面をよじ登ってきた。まだ崩れていない下の階の手すりに飛び
移ると、そのまま姿を消して……と思いきや、再び頭を覗かせている。どうやら笑っているらしい。ひら
ひら手を振り、それから本当に姿が見えなくなった。こいつの頭は相当な数のネジが千切れ飛んでいる。
いや、根本的に構造が違っているのかもしれない。これはきっと運命の出会いだ、一生かけても必ず
捕まえて斬りたい。斬りたい、斬りたい!斬りたい!!――ウリュウの中に猛烈な飢餓感が刻み付け
られた瞬間だった。
47815 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/22(水) 20:15:37.13 ID:rOqiBgK2
お粗末
479名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/22(水) 21:08:40.72 ID:3Qle/VOf
>>478
乙乙
カルマ値振りきってそうだ
480名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/23(木) 02:26:41.94 ID:Jd6sOAUi
投下乙です
回を追うごとにパリスの扱いがw
481名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/23(木) 02:43:11.62 ID:hzL13Se7
乙です
あんなカッコしといてお触り禁止なのかウリュウさんw
482名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/23(木) 10:47:53.64 ID:/Bm2E9eO
ヌードグラビアはOKだけどAVはNG、みたいなもんだろう
483名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/23(木) 14:57:14.88 ID:uxo+wf9Q
※踊り子さんには触らないでください
48415 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:38:27.92 ID:SXNcTkNn
Xファイルみたいな事をする公子といんちきくさい対決を
頑張る7200文字くらい。みんなわるいやつばかりです。
48515 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:39:15.55 ID:SXNcTkNn
思ったとおりだった。ちょっと挑発するだけで簡単に頭に血が上る。血気盛んといえば聞こえは良くても
要はただのバカタレ。ギュスタールなんかが集めるような連中じゃ高が知れてる。ヴァンが紛れ込んで
も違和感がないような年恰好のガキがちらほら混じっていた。オレが火炎瓶を取り出すきっかけで、あ
いつも杖に持ち替え火を放つ。引火した忍者どもがのた打ち回って床から壁に、壁からカーテンを伝っ
て天井飾りへ炎が回り、下から吹き込む新鮮な空気に火勢はぐんぐん増して、視界はたちまち真っ暗。
「生きるか死ぬかの大バクチ!」
気持ちよく吹っ飛ばす、油をかけたら火をつけろ!作戦はまじでこれだけ。だけど相手はニンジャ、動き
が素早いから普通にまいてもよけられる。こういう時はワザと怒らせるに限るが、なにしろ暗殺者だ。感
情を殺すのは慣れてるんじゃないかと思ってた訳だが、どいつも育ちがいいだけに軽くおちょくるだけで
激昂したのには笑った。郷のことが大好きな、みんな真面目なイイヤツらだ。けど、ちょいとばかり世間
知らずがすぎる。ののしりついでに毒玉も放り込んだから、かっとなって暴れてる間に全身回ったようで、
何が起こってるのか判らないまま一斉にげえげえやり始めた。トチ狂ったギュスタールは同士討ちし始
め、公子を突き飛ばした途端窓を全部粉々にして、手水の甕をぶちまけ窓から飛び出していった。全員
後を追って出てったと思ったら今度はばたばた引きかえして来る……こいつら絶対アホだろ。どえらい煙
の中、体当たりを食らってずっこけそうになっていた公子は、オレに気づくなりガンガン魔法を打ってきた。
やばいっちゃやばいが、ここまで作戦通り。たぶん。
「おいテメエ!町のガキどもをどこへやった!!」
まず動きを封じないとやばい、てか魔法すごい、ばっさばさ斬られるので手首を狙って鞭を打つ。
「なに?」
腕を引っ張られ剣を投げ出した公子は、呪文を中断して立ち止まり、めちゃめちゃに斬りつけてくる忍び
を制して言う。
「フフフフ……良かろう、貴公の胆勇に免じて質問の暇を与えよう。さて、幼子がどうとか言ったのか?」
「ああそうさ、石にとりこまれちまったオレらの町のガキどもだよ。治してやるって吹き込まれた親が自分
から連れてったのに、それからもう何週間も音沙汰がねえし会いに行っても追い返されるって毎日嘆い
てるんだ!返してもらうって出て行ったきり、戻ってこなくなったヤツまでいるんだぞ!」
「ほう?己の預かり知らぬこととは言え、子を思う親の心と言うのは計り知れぬものだ。真、憐憫の情を
禁じえぬな」
鞭を手繰りながら火の巡りと風向きを読んで距離をとる、公子は発言こそ神妙だが、いかにも小バカに
した薄ら笑いを浮かべ、舐めくさった態度でこちらを見下ろしている。ま、当然だろうだけどな。
「それだけじゃねえ、テメエらの治療の誘いをけった連中が急な心変わりでカギを見捨てたり、ある日
いきなり子供だけおいて皆消えちまったり、後ろから刺されたのに自分で死んじまったことにされたりし
て、なぜか都合よくガキどもが次々孤児になったとこで、突然さる奇特なお大尽とやらが引取りに現れ
るってのは、一体どういう訳だろうな。おかしなのはそのお大尽てのがまた、いくら調べても素性が判ら
ないってコトだ。ほんとにそんなやつは存在してるのか?親ってのはどこの誰とも知れない奴に、テメエ
が大切にしてたガキをホイホイくれちまうもんなのかねえ?なにより、ホルムには孤児なんていくらでも
いるってのに、そいつらには見向きもしねえでわざわざ石人だけ選んでいきやがるのは、マジでどういう
魂胆だ?眠ってるだけで育つでもねえ笑うでもねえ、働かせようたって動きもしねえ、売り飛ばすたって
石の塊だ。人買いがやりたがりそうな事なんか何にも使えねえ。なんだってこんなことしやがる?養子
にとられたガキどもは、一体どこ消えちまったのかなあ?馬鹿なオレじゃまるでわからねえ」
へたに気を抜くと切り刻まれそうだ。後ろへ下がりながら戸口を確保した、足元を吹き抜ける冷たい風
が煙を窓の外へ流していく。
「ふむ、実に奇怪だな。それだけ大量の失踪者がでているか。流石にこれだけの怪異が続いては市街
地の治安維持も困難なようだな」
「しらばっくれんな!こっちの調べはとっくについてんだよ、ぜんぶテメエらが仕組んだってのはお見通
しだ!ここで一体何企んでやがる!」
「……貴公は、たったそれだけの事を聞く為に、わざわざ城館へ押し入ってきたのか?」
「それだけ?それだけとはなんだ、それだけってえ!?こっちは大切な家族がかかってんだよ!あいつ
らどこやった!とっとと返しやがれ!」
48615 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:41:18.39 ID:SXNcTkNn
といって証拠はないし斬る自信もない、仮にアルソンを通してラウルにぶちまけたとこで、処分してもら
える見込みはないだろう。てかまだ生きてるのか?バクチにしても勝ち目がうすすぎたかも、そろそろ
逃げるか腹の底で迷い始めた時、風向きが変わった。
「お前たちに任せておけば……、こちらとの接点は決して露見することなく、一切を処理できると言って
はいなかったか」
扉の影に隠れていたピンガーがへんな声を上げて飛び上がった。忍びたちも少なからず動揺している。
ハッタリ効きすぎ。
「それとも己は、この者が精鋭の巡らせた計略をあっさりと見抜ける程の器と褒めればよいのか?……
追って沙汰する。そのつもりでいよ。さて、確か貴公はパリスと言ったな」
「へえ、オレの名前なんか覚えておいでっスか。こいつはすげー光栄なことで」
「貴公はなぜ斯様な所業をなすかと問うたな。教えてやろう。大業を成すには多少の犠牲がつき物だ。
貴公のような小物には幾ら言っても判らぬだろうが、己は何度でも言おう。必要ならば、如何な大罪だ
ろうと、己は犯すことを決して厭わぬと……!やれ」

「やべっ」
慌てて階段を駆け降りた。罵声と一緒にニンジャが降ってくる、当たり前だ、誰だか知らないがオレは
ヤツらの親戚をぶち殺したのだから。
「追え!郷の名誉にかけても必ずしとめろ!!」
怒鳴り声が追いかけてくる。手すりを飛び越え下の階へ滑り込んだ。居場所はどこだ?どこにアイツら
は監禁されてる?誰か知っているはずだ。地下牢があるらしい。フランが言ってた。隣り合う山も結構
な要塞になってるらしい。こいつもフラン情報。動けるのは三十分、その時間でオレらのどっちかが探し
出さなくちゃならない。いや、探し出して、連れ帰らなくちゃなんねえ。たったの三十分、それも音は出
せないから自由に戦えない。
命がけの追いかけっこを必死に逃げ回って、死角の中で息を止める。こっちも見えない。物音だけが頼
りだ。蝶番が軋み、扉が閉まる……、やけにゆっくり歩いてきやがる。そいつ(多分テオル)はオレの真
下で立ち止まって、そのまま長い沈黙が続いた。物凄くやべえ。汗が噴出してきた。じんわり手がぬめ
り始める。流石にやばい。傷がずきずきうずき始める。本格的にまずい。まじでヤバイ。その時、ふっと
小さなため息が聞こえた。
「やれやれ……また捕り逃がしたか。流石に逃げ足は速いな。まあ良い、鼠の一匹や二匹、いつでも
始末できる事だ……」
聞かせるつもりの呟き、カチンと鞘に収める音がして、衣を翻すのが聞こえた。聞こえた?それきりだ。
全く物音がしない。黙って立ってるのか?相手は慎重な性質じゃない、身を潜めて罠を張るタイプでも
ない、で、何をしているのだろう?そろそろ息が吐きたい、というか吸いたい。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。
たまんね。トリップして沸かした湯に浸ってはしゃぐヴァンを思い出した。そうだ、テオルはいつも甘った
るいお香の匂いがしてる、さっきまでその場にいたかどうかも区別がつくくらいだ。音を立てないように
鼻を利かしてみる。けむくてあんまりよくわからん、梁から顔を出してみた。……いつの間にか辺りは無
人だ。扉も閉まっている。窓も。鍵も。カーテンも。
(どうやって出てったんだ……?)
おそるおそる降りる。誰もいない。一応寝台の下も覗いてみた、念のためだ、そんなもん。こんなトコに
テオルがいたら絶対がっかりする。ちゃんと掃除してあるのな。流石金持ち。扉に耳を押し付け、鍵穴
から覗いてみた。館内は本当に静かだ。雨の音がうるさいくらいに響いている。嗅いでみてわかったコ
トもある、ヴァンが仕事前、決まって風呂にはいりたがる訳。自分の匂いを消すためだったのだ。本当
に、すっかり暗殺者だった。
(……ああ、てことは多分、油足だと一生なれないんだな)
窓の外を覗いてみる。霧も凄いし見えたとしても区別はつかないが、歩哨どもの中に仲間が紛れ込ん
でいるはずだ。家畜をわざと逃がして邪魔をし、注意をひきつけて襲撃の発覚を遅らせる作戦。まさか
こんな事をキレハが言い出すとは思わなかったけど、うまい手だ。ついでに振り落とされてきた死体を
バレる前に隠してるのも連中だ。今のとこ、首尾は上々とみた。
48715 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:42:21.74 ID:SXNcTkNn
(……バレなきゃイイけど。モノホンの鎧着せても、オッサンだとどことなくうさんくせえのは、なんでだ?)
盗み出しておいた正規兵の支給品で一応は下っ端風に仕込んでいる。余程のことがなきゃ公子とは直
接話さないし、この霧だ。基本的にいつも兜を被ってるから、余計なことさえしなけりゃまず大丈夫、大丈
夫の、はず。あんな横柄な密偵が見張りなんかになりすませるか?キレハにも鎧を着せてはみたが、
きゃしゃだから重すぎてよたよたしてたし、声も体格も明らかに女なんで、変装はあきらめて物陰から狼
をけしかけてる。
(なんか……今頃すげえ不安になってきた)
ラバンもいるから大丈夫。だいじょうぶか?鎧は着られるし剣術もいける、そこそこアドリブも効くのは分
かってるけど、警備兵にしちゃ面からして年が行き過ぎだし、なんとなく心もとない。けどアルソンじゃ面
が割れてるし、成りすますとか誤魔化すとかまずムリ。といって騎士っぽい武器が使えるのも鎧を着られ
るのも、男の中にはラバンしかいないから仕方ない。仕方ない……。いくら自由に動けても、ネルには行
かせらんねえよ。
そして、オレの役割は公子と忍者たちを引き離すこと。よりによってピンガーまでいたのは想定外だった
が、なにか聞き出せるかもしれないからむしろツイてたのか?ウリュウが来ないかビクビクしていたが、
どうしたのだろう。途中で外に逃げ出して吐いてるのは見かけた。オレを追ってたのは五人、ひたすら
腰抜け呼ばわりされたし、何度か一方的に斬られたが、こっちの狙いに気づくより前にツブしてやったし、
テオルも割合早く飽きてくれた。こういう時は相手がアホだと助かる。
(建物の中じゃねえのは確かだ。てことは、地下か山んなかか……残り二十分、どっちに山張る?)
このカチコミは留守番を含めて酒場の連中全てが一枚かんでる。これで失敗したら絞首台は賑やかな
んてもんじゃすまない。責任は重大だ。公子からは聞きだせなかったが、まだギュスタールとピンガー
が残ってる。ヤツがガキすぎて知らされてなかったとしても、あのデブならちょいとシメれば吐くだろう、
ガラを押さえられたのは相当な幸運だ。取引に使えるかもしれない。そしてオレらが失敗したり漏らす
前に始末された場合に備え、ほかの連中にも探りを入れさせていた。内部の事情に詳しいもの、という
といかにもアレっぽいが、要するにフランの手引きで侵入させてもらった。言っちゃなんだけど、お前の
城に忍び込んだネズミは一匹二匹どころか、片手じゃおさまらない数になってるよと。よっぽど腹を減ら
した猫でも途中で飽きるだろう。小さな音の漏れる戸口に立つと、相手から先に声がかかる。さすが忍
者、耳がいい。それとも……オレがくさいのか?
「……ご無事でしたか、よかった。そちらはいかがですか」
「問題ねえ、お前らは大丈夫か」
「なんだよ、生きてたのかよ、つまんねえ。絶対テオルに殺されると思ってたのに」
傷薬を投げつけてよこす。古代知識があるからとか言って、何着も自分のお古の衣を持ち出してきたの
がコイツだった。
「へっ、確かにヤツには鼻で笑われちまったな」
「だいぶやられたようだね、座りたまえ。治療してあげよう」
着古したような魔術師のローブで変装している巫女と、本職のクソガキは揃って文書の盗み読み中だ。
背が低くても女でも魔術師ならおかしくないし、だぶだぶの服の中にはいろいろ仕込んでいける。シー
フォンにしちゃいい考えだ。本当はヴァンを誘いたかったようだが、変装と聞くなりテレージャがやたらと
食いついてきたから組んでもらってる。これなら何かあっても治療できるし、いざとなりゃフランが非常通
路を知ってるから、こいつらを逃がすだけならできるだろう。部屋には他に数人、筆を握ったまま机に突
っ伏しているヤツらがいるが、長いこと眠っていなかったのか、みょうに幸せそうな顔をしてすやすや。
「そっちはなんかわかったか」
「お前と違って僕様は天才だからな。こいつの師匠のつるっパゲがいたから吐かせてやったよ、隣接し
てる山の中に監禁されてるらしい」
48815 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:43:24.07 ID:SXNcTkNn
「吐かせたって、カタギ相手に拷問したのか」
「いえ、ご自分からお話くださいましたよ。ね?」
「あの人は兎角お喋りな性質だから。誰もいなくても何かしら話しているくらいだし」
「へえ。ああちょっと待て、どのハゲだ?エリマキトカゲみたいなヤツだっけ」
「ほら、テレージャ様とよく似てる、あの方ですよ」
「そうそう、ほんとコイツそっくりだよな」
「ご親戚同士じゃないのがいまだに信じられないくらいです」
「……なんだか将来必ず禿ると言われている気分で、酷く滅入るんだがね」
「そいつは気の毒だったな。で、他にはなんか分かったか?」
「あー……、うん。どうやら、締め切りを設けて学者たちに、大量の古文書を翻訳させているようでね。
天文学やら鉱物学やらというのは、考古畑の私はどれも管轄外なんだけれども、シーフォン君の協力
で随分理解し易くなったよ。やはり餅は餅屋だね。それに例の薄紫の結晶についても少なからず記述
が見つかりましたよ。というか、あの人……君のいうハゲが提唱していたんだけれど、あの結晶は鉱物
ではなく、実のところ惑星外から飛来した生命体で、翻訳期限の設けられたおよそ十二時間後、数百年
に一度という、大変珍しい天体ショーが起こるというんだね。なんというか出来すぎた話だと思うけれど、
もしヴァン君が本当に始祖帝の憑依なのだとすれば、最初からこの日に合わせて送り出されたと考える
事が出来る訳で、まあこんなイベントはやや不規則ながら定期的に見られるものなんだが、それがまた、
丁度うまい具合に各タイタス王朝が開かれた年代に観測されているというから困るのさ。この際事の信
憑性は置くとして、少なくともテオル公子は、あの結晶に天体の運行と結びつくなんらかの現象を期待
しているのは確かでしょう。彼は目的の儀式を実現させる為、ホルムの石人をかき集め実験を行ってい
るに違いない。そしてそれは永遠の呪いとなるだろう!!」

「ぜいぜい、はーはー」

「あの、大丈夫ですか」
「勿論大丈夫だとも。それで君たち、分かったかね?」
「すまねえ。悪いけど、ほとんど分からねえわ」
フランもこくこくと頷いている。
「それは残念」
「要はお前の妹使って、しこたまえげつない儀式を計画してるってことだよ。想像してたより時間がない」
「待てよ、テオルはさっき、石人の種をまいてどうのこうの言ってやがったな。なんか関わりがあんのか?」
「感染させて石人を増やす気だろう、これはいよいよ、本格的に拙くなってきているんじゃないかな……」
「僕の想像だけど、多分あの結晶は何かの媒体になるんだ。大廃墟と古代都市が結晶で繋がってたろ?
あの規模であの有様だ。公子も、大量の結晶を使ってどこかとホルムを繋げる気なのかもな。それも、
もっと大掛かりに」
「それって!」
「しっ、こっちも時間がねえ、そろそろクスリが切れるヤツもではじめるぞ。お前らはこの辺でずらかれ」
「はい、お気をつけて」
「……今さら言うのもなんだけど、すまねえ。お前らまでこんな、つまんねえことにつき合わせちまって」
「君の妹さんのためじゃないか。私達皆の気持ちは同じだよ」
「ぼ、僕は違うぞ!違うからな!勝手に含めるなよ。僕はあくまで研究成果が目的だから、違うから!」
「素直じゃないねえ、君も」
「へいへい、碌な獲物が見つからなくて悪うござんした。こいつら任したからな、フラン」
「はい!必ず三人みんな無事にお戻りください。あたし、待ってます」
「こんな事でしか力になれないが。祈っていますよ」
「分かってるだろうな、コイツみたいな生臭坊主じゃ、死後のおとりなしなんか期待できないぞ」
「なに、鰯の頭も信心からというじゃないか」
全てを盗りかえす。やるべきことはそれだけだ。脇に置いておいた剣をとる。
「こっから先はオレたちにまかせろ、悪いようにはしねえ。安心しな」
天井の羽目板を外して顔を出した弟分の腕をつかむ。引っ張り上げられよじ登った。
「後の事は心配するなよ。遺品は全部僕様が頂いてやるから」
「そうかよ、たすかるぜ。あとあんた、あんちゃんなおしてくれてありがとな」
「礼には及ばないさ、そんな事よりもっと気にしてあげて欲しい人がいるんだけれどね」
見ればフランが一生懸命つま先だって心配そうに見上げている。
「へ〜え、そういうヒラヒラしたもんきてると、おヒメさまみたいでかわいいな」
「えっ、えっ」
「よう、こんどかえるときは、ちゃ〜んとニンニンっていえよな」

「だからあたし、ニンニンなんて言いません!!」
48915 ◆E9zKH0kZMc :2011/06/28(火) 20:45:12.92 ID:SXNcTkNn
おしまいです
>>480
ばれてしまった
490名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/29(水) 19:07:38.79 ID:iHMpgznu
>>489
乙乙
ベッドの下まで掃除されるなんて、金持ちの家はおそろしいところだ
491名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/29(水) 20:09:13.22 ID:f3GYj8q0
落ちてましたよってフランのメモといっしょに机の上で待ってるんだ・・・
492名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/29(水) 21:59:15.38 ID:KrLdqs4Y
墓所のねじれてる女性と結婚したい
493名無しさん@ピンキー:2011/07/02(土) 13:30:34.72 ID:oL313Y1H
ちょっと領主様のベッド下にメイドもののエロ本と『シャーリー』仕掛けてくる
494名無しさん@ピンキー:2011/07/02(土) 15:08:55.96 ID:R1R12I2L
>>493
メイドもの以外
例えば金髪巫女もの、幼馴染のお姉さんもの、黒髪わんこもの
を同時に置いて反応を見てみたい
495名無しさん@ピンキー:2011/07/02(土) 15:32:00.65 ID:66aefkkb
>>493
テレージャは緑髪だと思っていたけど
金髪なのか

496名無しさん@ピンキー:2011/07/02(土) 16:22:42.63 ID:P4WVM4bw
>>495
緑の髪がふつうだと、教授がやってたアルソンさんの占いであんな驚かない気がする
フィルタかかってるだけで金髪かなと思ってた。というかネルさんも桃色だけど
アニメチックな色の毛が珍しくないから主人公もスルーされてるのかな

いかん、地上の毛根談義思い出したら生え際が不安になってきた
497名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 21:32:55.30 ID:3tANrKrW
リアルに考えるとテレ子は赤みのないアッシュ系なんだろうな
でもテレ子の髪の謎は色よりあのボンボンみたいなやつ
498名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 21:54:49.82 ID:0yWuLVx4
丸いカップ?ごと下にでてるふさふさが外せる仕様だったらどうしよう
499名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 22:15:55.42 ID:/W7OhUoy
テレージャさんカツラかよ…まさかの伏兵

Ruinaキャラは髪型もいいよね
オタっぽいのにそこそこリアルで、キャラごとに特徴のあるいいデザインだと思う
シーフォンの髪型は描こうとしたら地味に難易度高い
500名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 22:33:42.16 ID:0yWuLVx4
フェイスグラフィックも顔の向きとか視線とか、配色が
単調にならないようによく計算されてるなと思うし
おおまかなキャラクターも読み取れるようになっててすごい
501名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 22:54:50.52 ID:3tANrKrW
ふと思ったが盗賊ルートは頭髪薄い人が多いな
パリス、オハラ、ピンガー・・・チュナは普通っちゃ普通だけど
他キャラと相対的に見ると毛量が少ない
皆それぞれ過酷な人生を歩んできた証拠なのか
502名無しさん@ピンキー:2011/07/03(日) 23:46:47.73 ID:PptvK7HS
つまりピンガーがチュナの髪を売って金を作るように脅迫するも
パリスがそれを嫌って自らの髪を差し出す18禁な話を書けと?
503名無しさん@ピンキー:2011/07/06(水) 15:18:02.11 ID:gNA8Zmbx
パリスが自分の髪を売ってチュナに貞操帯をプレゼントし、
チュナは自分の処女を売ってパリスに髪飾りをあげるんだな
504名無しさん@ピンキー:2011/07/06(水) 21:03:11.46 ID:5W+qOaLP
モジャモジャの贈り物…
505名無しさん@ピンキー:2011/07/09(土) 03:39:17.02 ID:D29Rjfv5
ヴァン「妹に貞操帯プレゼントする兄貴とかどんな変態だよ」
506名無しさん@ピンキー:2011/07/09(土) 04:14:47.89 ID:BREAgi0m
星護符文張形
507名無しさん@ピンキー:2011/07/09(土) 09:52:46.61 ID:jVTJFbUy
アイリ「チュナの処女はいくら出せば買えるのかしら」
508名無しさん@ピンキー:2011/07/09(土) 16:03:06.86 ID:rsRhPE4Y
チュナ「兄貴の童貞を返してくれるなら良いよ」

こうするととたんに修羅場っぽくなるぜ!
509名無しさん@ピンキー:2011/07/13(水) 20:18:59.23 ID:W31piXN4
>戒律の「婚姻と性行為の禁止」は「人間同士では」程度の意味で
そこを解禁されても何ひとつ嬉しくないんだが

はっ…だから「私は犬だ」発言…
510名無しさん@ピンキー:2011/07/13(水) 20:20:41.40 ID:W31piXN4
誤爆なんだがまあいいや

この理屈ならキレハとエンダも完全解禁だな
511名無しさん@ピンキー:2011/07/13(水) 23:37:03.19 ID:zHSLtvAI
歴史の通りなら、結婚は発覚したら嫁と子供はボッシュートだからシャレにならんぞw
でも巫女は昔から、その、ね・・・お仕事が色々あったんだよ
別にユリア様のことを言ってるわけじゃないよ!
512名無しさん@ピンキー:2011/07/15(金) 16:03:30.67 ID:rIdmTGK4
でもアレでしょう?最近だと坊主も神職も神父も牧師も既婚者多いと聞く。
やっぱりさがせば抜け道があるんじゃない?
513名無しさん@ピンキー:2011/07/15(金) 22:48:42.45 ID:g8nQKuJd
婚姻を禁止する目的は、ぶっちゃけ聖職者の力を削ぐことが大きいんだよ
ruinaだと他には魔術の禁止とかあるけど、目的は同じだね
真面目に考えれば、あの世界にも宗教改革が起こって色々変わるんじゃないか?
つーかこのネタが続いてるあたり、みんなバルスムス×アダのSSが読みたいんだな
514名無しさん@ピンキー:2011/07/20(水) 09:09:47.90 ID:iXKdFGR5
エメク×テレージャのがいいです。
律儀に考えて苦悩するエメクと、妙にあっけらかんとしたテレージャさんとか最高じゃないですか
515名無しさん@ピンキー:2011/07/23(土) 01:17:54.76 ID:pjV7GPL6
中田氏を嫌がるエメクを逆レイプとかそういう方向で一つ
テレージャさんはおっぱいおっぱいだし騎乗位似合うな
516名無しさん@ピンキー:2011/07/23(土) 20:57:56.20 ID:BKvN8f1O
嫌がるメロダークに上からまたがるテレ子さん
というものでいかがかな
517名無しさん@ピンキー:2011/07/23(土) 21:33:19.28 ID:DGoLYX6G
メロさんは相手に対しては全裸派なんだろうか着衣派なんだろうか
518名無しさん@ピンキー:2011/07/24(日) 01:52:49.07 ID:gTkwgRto
pixivとか一部の二次創作系サイトで検索してみたらシーフォン人気過ぎて笑った
女ってどうしてこの手のキャラ大好きなんだろ
519名無しさん@ピンキー:2011/07/24(日) 02:25:53.71 ID:I7GJF4Un
男の書き手もフィーの相手に丁度いいと思ってるよ
520名無しさん@ピンキー:2011/07/24(日) 03:04:33.34 ID:lwX/9/Ls
女が好きな男キャラ シーフォン メロダーク
男が好きな女キャラ キレハ エンダ

pixivやサイト見てたらこういうイメージなんだけど
男が好きな男キャラと女が好きな女キャラって誰なの?
主人公キャラは除外で
521名無しさん@ピンキー:2011/07/24(日) 03:34:02.87 ID:nx9l7rpk
上から目線ワロタ

実は>>425〜430の続きを今か今かと待ってるんだが
更新マダー?(・∀・ )っ/凵 チンチン
522名無しさん@ピンキー:2011/07/27(水) 03:08:42.30 ID:3bDhrGuN
エンダってそんなに人気あるか?
女キャラはキレハが飛び抜けてて後はどっこいどっこいに見える

それよりパリスの不人気が理解できん
おいしいポジションだしキャラデザもいいから絶対人気あると思ってたのに
523名無しさん@ピンキー:2011/07/27(水) 04:58:07.36 ID:hBT4t8Xs
大事な家族があんなことになったという事情は汲むが、それでもあの落ち込みようはちょっと誘いづらい
524名無しさん@ピンキー:2011/07/27(水) 08:23:54.77 ID:dURB4syU
パリスは古代都市から帰ってきたときの「もっと早く帰って来てくれれば良かった」と
終盤ネルに向かって「口に出すなよ、うっとうしい」が格別きつかった
余裕のなさをこっちにぶつけられても困る
もし人気投票が3位まで選ぶタイプなら、まんべんなく票がとれそうではある
525名無しさん@ピンキー:2011/07/27(水) 09:41:22.55 ID:kd4bJ7JP
パリスはワンカップ片手に公園のブランコに座ってても違和感のない背中が
52615 ◆E9zKH0kZMc :2011/07/27(水) 19:19:37.14 ID:Ic1LDHpz
トリテスこれがあってたら投下3500くらい
52715 ◆E9zKH0kZMc :2011/07/27(水) 19:20:46.08 ID:Ic1LDHpz
化粧板が閉じられる。かたりと僅かな物音がしただけで、移動するような気配は感じられないまま二人
の兄弟は姿を消したようだった。残る魔術師たちは心配そうに見上げていたが、眠っている男がもぞも
ぞしはじめたことに気が付いた。確かにそろそろ逃げなければならない、フランを先頭にそそくさと後片
付けを済ませ、慎重に母屋を後にする……。
むにゃむにゃと喃語をつぶやく学者たちは、今のところまだ目を覚ましていない様子だ。せっかくなので
窓から表を見てみよう。午後になって日が傾いてきたこともあり、ホルムは濃い霧で更に見通しが悪く
なっている。敷地の中もぼんやり母屋から庭先が見えるくらいで、少し離れてしまうと何がどこにある
のかもはっきりとしない状態だ。こんな時、常ならば歩哨を増やし、かがり火を焚いて明るくしておくが、
本日はそうした措置が全くとられていない。発覚を計算しているのは遅番が起きだして来る夕刻だ。そ
こまでの間に救出と逃亡を済ませておく必要がある。……と、ヴァンは言っていたが実際のところどう
なのだろう。チュナをつれ、パリスとともにしばらく町から離れほとぼりを冷ますそうだが、冷めることなど
ありえるのだろうか?ネスを相手に、あのテオルから盗みを働こうというのに。

「えーほうちょー、包丁はいりませんかぁー、ほうちょー、ホルム印の文化包丁、よおっく切れますよー」

敷地の外に淡い灯かりが近づいて来ていた。小山のような人影は、どうやら行商のようであるらしい。
愛らしい娘の声だが押し車でも使っているのだろうか?正門付近にも見張りがいないかわり、雨合羽
の誰かが大きな水たまりで楽しそうに長靴を鳴らしている。飛び跳ねるたびにびしょびしょになるけれど、
誰もとめる者がないからすでに一時間近くこの辺りで遊んでいた。この子供はホルムで遺跡が発見さ
れて、しばらくしてから姿を現すようになった少女で、聞けば町の神殿に住み着いた孤児だと言う。物
乞いとまで行かないが道行く人からよく可愛がられ、ちょくちょく菓子を貰っている。折々探索者に混じ
って遺跡荒らしのようなこともしているようだ。今日もこの肌寒いのに元気よく水遊びをしている。いつも
なら門扉の辺りや玄関口にたむろしている兵士たちが話しかけてくるのだが、先刻来申し上げたとおり
揃って姿が見えない。歩き回るうち脱げてしまった長靴で水溜りを汲んでいると、ランタンをぶらさげ行李
を幾つも担いだ娘が現れた。……両手にも何か沢山ぶら下げている。このなりでどこからか歩いてきた
とでもいうのか、泥だらけでご機嫌の少女を見つけると懐の鞄からタオルを取り出してやる。
「もー、下着まで濡れちゃってるじゃん、だいじょうぶ?寒くないの」
「ゼンゼンさむくないぞ。エンダは強いからな」
「門番さん誰もいないね」
「みんなエサ追いかけていっちゃったからな」
「チャーンス!今のうちに着替えちゃいな。すいませーん、軒先お借りしマース……」
「キレハが逃がしたんだぞ。エンダもオテツダイした。えらいか?ほめろ」
適当に聞き流しながら邪魔にならないよう荷物を積み上げると、取り出した衣を着せてやる。多少は抵
抗したものの、食べてもいいといわれた鎧で決着がついたようだ。濡れた衣を絞ってため息をつくと、積
荷に腰かけた。何を待っているのだろう?ちらちらと何度も時間を確かめている。
「雨やまないねー……。これじゃ洗濯物がかわかないや」
「エンダがかわかしてやろうか」
「多分、全部燃えちゃうよ」
52815 ◆E9zKH0kZMc :2011/07/27(水) 19:22:02.25 ID:Ic1LDHpz
魚の干物をあたえて座らせた。ざわめきが聞こえる。兵士も姿が見えないだけでどこかにはいるようだ。
沢山の箱が高く積みあがっているので、二人して隠れているつもりなのかもしれない。と、目の前を兎
が数羽矢のように駆け抜けていった、どたどたとあさっての方向へ騎士が追いかけていく。おかしな音
に気づいて顔を出すと、羊がべしべしと植え込みをむしって食べているし、石垣の上を子山羊が楽しげ
に飛び跳ねている、槍を振り回す一団が一生懸命おりるよう騒いでいるが、言葉は通じないようだ、雄
山羊に体当たりを貰っている。座り込んでしまった乳牛を牛舎に戻そうと躍起になって突っついていた
騎士が全く相手にされず、鋭い牛の鳴き声がした直後にはガタガタ大きな物音と一緒に絶叫が響いた。
大惨事だ。皆、とても忙しそうにしている。
「すいませーん」
空耳かと様子を窺うが、さらに幾度か同じ声が聞こえた。蹄鉄の音に続いて颯爽と駆け込んできた騎士
は、出迎えが誰も来ないので自分で槍を立てかけ降りてくる。
「あ、どうも。ちょっと失礼しますよ。すいませーん!!あのー!どなたかいませんか!!」
「えっ駄目だよ大きな声だしちゃ!」
「すいませーん!誰かいませんかー!」
「だれかー」
扉を叩いているが、応答がない。しかし施錠の有無を確かめるとか、体当たりで開きそうかとか確かめ
るでもなくさらに声を張り上げ始める。
「わー……。不法侵入しようとしてるのにノックしてる……どうしたの?酒場にいなくちゃダメだよ」
「皆さんにもそういわれました。でも、僕にも協力させてほしいんです!」
「えー」
「…………僕では、皆さんの力になれないでしょうか」
「ゼンゼンダメダメだな」
「そんな〜」
「ダメってわけじゃないんだけどさ……。もし何かあったら一番困るのって、多分、アルソンさんなんだと
思う。だからヴァンは、酒場に残ってろって言ったんだよ」
「そうなのかもしれません。けれど……、もし本当に僕に言えないような何かを、テオルがやっていたと
したら……。近しい立場にいながら、彼を止められなかった僕にも責任があります。ヴァンさんはきっと
僕のことを気遣って何も言ってくれなかったのでしょうが、貴方やエンダさんだってこうして危険を冒して
まで協力しているのに、自分だけが一人安全な場所にいるなんて。……僕にはとても耐えられません!」
「ほんとにいいの?」
「僕はもう、恐れません。今の僕が怖いのは、何も出来ずに終わることだけです」
「よし、カベほろうカベ!」
「ええっ、それはちょっと」
「まずは正面から乗り込むのが筋だと思います。僕が強く言えば、なんとか……」
「でも、今誰もいないよ?」
「おかしいですよね……、受付も出さないなんて。鍵もかかってますよ」
「まーかせて」
「あ、ちょっとすいません」
「はい何か」
なぜか鶏をぶら下げた門番が歩いていた、頬には引っかき傷をつけているし、鳥の羽にまみれている。
どう見ても尋常な様子ではない。
52915 ◆E9zKH0kZMc :2011/07/27(水) 19:23:22.93 ID:Ic1LDHpz
「務め、ご苦労様です」
「どうかしたんですか?鶏なんか捕まえて」
「あなたは、アルソン殿……?いやこれはお見苦、うわっなんだ急に!」
観念していたはずの鶏が突然暴れだし、男の腿を突っつきまわす。
「わちゃちゃちゃ、イテテ!ちょっと!!痛いのに!!ああっ」
「あっ、わっ、すいません、もしかしたらいつも料理しに行くから僕を覚えてるのでは」
「ちょ、あわわっ待て!逃げるな!!誰かきてくれー!!」
とんでもない逃げ足だ、血まみれになった見張りが慌てて追いかける。鶏の鳴き声などはするのだが、
それきり戻ってくる気配もない。
「よし、しのびこもう」
「勝手に入っちゃいけませんよ。すいませーん、誰かー」
「えっ、だから駄目だって大声だしちゃ!」
「すいませーん!誰かいませんかー!」
「おーいだれかー」
「どうしたんでしょう……?誰も出てきません」
「まーかせて」
「困りましたね。これではテオルに取り次いでもらえませんよ」
「いや、そういう問題じゃなくてさー」
この男へは、なんと説明すればわかるのだろう?途方にくれているところへやって来たものがいる。
甲冑をまとってはいるが、火車騎士ではないようだ。カムールがいた頃からの歩哨らしい。

「あのー、いそがしいから俺が行って代わりに用件を聞いて来いと言われたんですが」
「これはどうも。他の皆さんはどうしたんですか?」
「どうして動物がこんなに庭にいるの」
「なんだ。雑貨屋のお姉さんじゃないか、今日は行商に来たのかい?こんな天気なのに大変だな」
「うん、天気が悪ければ皆暇にしてるだろうから、ちょうどいいかと思ってきたんですけど、誰もいないん
ですねー。これじゃあ商売上がったりだ」
「そっかー、ついてないね。今裏に犬が迷い込んでるんだよ。それで嫌がって逃げちまったみたいで」
「迷子のわんちゃんですか?なんでまた」
「それよりさ、ほら。用件を言わないと」
「あっ、はい。テオルに問いただしたい事があります。火車…騎士、団……?」
しゃべりながら三人が目で追うのは大変美しい軍馬の群れだ。見慣れない雌の馬を追って、鞍もつけ
ずに通りへ向かって出ていった。ぽかんと眺めていると馬方と数人の門番が半べそで追いかけてくる。
「おおい!誰か殿下の馬をとめてくれえ!もうなにがどうなってるんだあ!」
「ええっ、大変じゃないですか!何かあったら打ち首ですよ、僕は後回しでいいですからいって捕まえま
しょう、手伝いますよ!僕の馬を!あれ?」
「今の人アルソンさんが乗ってきた馬を追って行っちゃったよ」
「そんな〜、まぁってくださいよぉう!」
一瞬で半泣きになったアルソンは鎧兜のまま駆け出し、霧の中へ消えていった。どうやらほとんどが敷
地の外へ行ってしまったらしい。おびただしい量のふんだけが残されている。

「行っちゃったな」
「……しょうがないなー、壁でも掘りますか」
53015 ◆E9zKH0kZMc :2011/07/27(水) 19:25:35.41 ID:Ic1LDHpz
sage忘れてごめんなさい。じつは私事ですが
ハァル様とか落雷なめてたらPC全損しました
出かけるときはコンセント、ちゃんと外そう。
531名無しさん@ピンキー:2011/07/27(水) 21:12:34.92 ID:QjZ4T1Gx
怖いハナシだ
532名無しさん@ピンキー:2011/07/29(金) 02:02:50.75 ID:1u9VZQW9
> ◆E9zKH0kZMc
乙、ありゃーご愁傷様
雷を舐めてはいかんぞ
533名無しさん@ピンキー:2011/08/04(木) 08:09:41.40 ID:M66DY1C7
このところ静かだな
534名無しさん@ピンキー:2011/08/05(金) 21:56:14.19 ID:tfCyNhkj
シーフィーまだか
535名無しさん@ピンキー:2011/08/05(金) 22:05:50.94 ID:d+jrQlJY
規制とか食らってんのかねえ
夏だし
53615 ◆E9zKH0kZMc :2011/08/08(月) 19:19:33.50 ID:Sx+v2vnS
ハァルが寝ている隙に3800、ためてる間に
また壊れたら怖いのでやや小出し気味です
ご不快の際はとりあぼんでご協力願います
53715 ◆E9zKH0kZMc :2011/08/08(月) 19:21:24.11 ID:Sx+v2vnS
天窓の向こう側、秋雨の流れる岩壁を何者かが登ってくる――。

洞窟内部にはがっしりとした足場が組まれ、天井近くまで薄紫の結晶体が据えつけられている。立ち
並ぶ灯火に照らされ、水晶に謎めいた明滅が起こるたび、窓を伝う雨水が菫色に反射していた。広間
を行きかう従者たちも、呪文を唱える魔術師たちも、封じ込まれた子らのことなど気にもとめない。あまり
長いこととどまっていては、遠からず障りがありそうな魔の気配に全身がさらされていることも。
不意にどこからか忍び笑いが起こった。見れば小さな人影が窓枠の外にぶら下がって、必死に笑いを
かみ殺しているのだ。足を滑らせたらしい。落ちればかなりの確率で死ぬのではないかと思われるが、
少年はしきりに肩を震わせている。やっとの事で息を整えると涙を拭い、台所へ物色に来た野良猫の
ように忍び込む。身を低くして天井付近に納まり、じっくり内部を観察しはじめた……。
「こんな詠唱するとか自分全然聞いてないんですけど。あ〜喉いてぇ」
「腹筋使って唱えろよ、そのくらい常識だろ。お前、まさかニワカじゃないだろうな」
「もめるなよ、疲れてるからカリカリするんだ、ほら甘いものでも食べとけ。馬に食わせるほどあるからな」
「……うう、チョコなんか見たくもない。嗅ぎたくもない。何かしょっぱいものほしい……」
「いくら血糖値あがるの早いからって、毎食毎食チョコパイばかりじゃ誰だって嫌になりますよね」
「わしは幾らでもいけるがの」
「うわっ、あんたまた鼻血が出てるじゃないか。無理すんな爺さん」
円座の側で慌てて従者から紙をもらっているのは魔術師たちだ。詠唱中の仲間の近くで菓子を食いな
がら休憩し、様子を見ながら入れ替わって切れ目なく呪文を唱え続けている。期限までに生産せねば
ならない石人の種の総量があるのだろう。こうした無茶を繰り返すうち、ついには卒倒する者もいるが、
広間には蘇生できる高位の神官まで待機させている。関わったが最後、彼らとて逃げ道はないのだ。
従者たちは詠唱に当たる魔術師を世話する者と、籠を背負って収穫に当たる者とに分けられるようだ。
ごっそり集めた結晶は大きな特製の鉄箱に回収され、手際よく梱包されて機械仕掛けの輸送路へと
流し込まれていく。ピンガーが言ったように全国へばらまく下準備をしているのだろう。誰かがバランス
を崩して巻き込まれたが、あっさり見捨てられた。構造上、全体を停止させるか壊さねば救出できない
からだ。酷い染みのついた箱が次々排出されていく。物陰からじっと目で追っていた侵入者は水晶の
上を腹ばいで移動し、菫色の塊の間からふらりと紛れ込んだ。
「まーた刺さっちゃった」
「大丈夫かよ、くすりぬっとけや。お前できる?」
脇から覗き込むと砕けた切片が手袋をつきぬけ指を傷つけている。持たされている籠も、破片の先で
破れないよう鉄線が編みこまれているのでかなりの重みがあるようだ、これを背負って上り下りしつつ、
石人の芽を集めるのでは相当な重労働と言えるだろう。従者の利き手を掴んだ少年は、親切にも駄目
になった手袋を外して手当てしてやっている。
53815 ◆E9zKH0kZMc :2011/08/08(月) 19:22:35.43 ID:Sx+v2vnS
「有難う」
「きをつけな」
二言三言かわして別れると、渡り廊下へ乗り移った。服装のためもあって従者の一人と思われている
ようだ。数百人規模で使役されている上に、頻繁に死傷しては入れ替わるから、顔を見たことがあるか
どうかが問題でなくなって久しい。作業する彼らの真似をしてせっせと水晶の芽を摘み取りつつ、それ
ぞれの結晶体を覗き込んで中身を確認していく。死角になる裏側にまわると更に大胆に伸び上がった
り抱きついたり、一生懸命探し回るうちにとうとう足をかけよじ登った。小僧は夢中でなにか探している。
誰にも気づかれぬうち広間まで入ってきていた公子は、おかしなところから尻が見え隠れしているのに
気づくと、クスクス笑いながら足場へ登って来た。
「どうだ、探し物は見つからぬか」
子供がこちらに気づいて手を振ってきた。一瞬姿が消えた後、結晶から柵へ飛び移って駆けだした。
まるで興奮した犬のようにはしゃいでいる。
「な!な!なにしてんの!なにしてんの!おれをさがしに来たのか?!な!な!」
「そうだ、貴公のような訪問客を歓待するのも城館の主の役割だからな。どうして下の鍵を開けてこな
かったのだ、わざわざ貴公の為に遠路遥々小人国から取り寄せさせたと言うのに」
「だってだってだってこっから入いりゃ、あんたがまってるだろ。だから来たんじゃねえか。な!うひゃひゃ
ひゃ!かかったかかった、おれがワナにかかった!まんまとワナにかかっちまった!うひゃー!」
振るった鞭が対角線の手すりに巻きつき飛び降りた!勢いよく振り回された小僧の体が、輪になる魔
術師の遥か上を反対側まですっ飛んでいく、横向きに櫓へ飛び込むや再び跳び出し、鞭のしなりを使
って振り子のようにテオルの足場まで移ってきた。異変に気づいて見上げる者たちに手を振りながら
するすると骨組みをよじ登る。まだ距離はある、だが……既に両者とも双方の射程に入り始めていた。
じりじりと緊張が増していく。
「フフフ、闇の戦士たちが敵わなかったのも道理だ。流石だな。貴公の読みは深い。ではひとつ、賢い
貴公に講義と参ろうか」
先導するように公子は背中を見せて進む。不安定なだけでなく、いかにも的になり易そうな渡り廊下へ。
「壮観だろう。――この結晶たちは魔術で改良された種族でな。魔力によって増殖し、魔力の供給が
途絶えると自壊する」
「フーン、まじかよ。てことは、こいつらってメシくうのか。すげー」
待ちうける公子の前を横切って少年は結晶に抱きつき、頬を押し付けて中を覗き込んだかと思えば、
引っぱたいたり蹴飛ばしたり。或いは、眠り込んでいる少女が目を覚まさないか試しているのだろうか。
荒っぽく剣の柄で小突いたりしている。
「フフフ、理解が早いな。さて。こやつらに、一気に大量の魔力を注ぎ込むと、どうなると思う?」
「知るかよ、おれはいもうととりにきたんだ。見つけたらかえるぜ」
「ほう?貴公の妹君が、我が城館へおいでとな?成程……すると貴公は、妹君を追ってここまで取り
返しに来たのか」
「そうだよ、知らねえならいい。どうせあんたらじゃ、ダレがドレだかわかりゃしねえだろうしよ、な!」
訝しげにこちらを眺めている従者たちに笑いかけ、テオルに目配せする。腕組みで見下ろしていた公子
は小首をかしげた。
「その妹君のためだけに、貴公はこの己を、アルケアを!敵に回そうと言うのだな。ハハハハ、美しい
兄妹愛ではないか」
「ガキさえかえってくりゃなんにも文句はねえ。あんたが王様になろうが、タイタスが王様になろうがこれ
っぽっちもキョウミがわかねえな」
下段で働く者たちとテオルを交互に見ながらさらに続ける。
「おまえらがどうなろうと、テメエらがなにしようと、おれはちっともかまいやしねえのよ。オワカリィ?」
539終15 ◆E9zKH0kZMc
「なればこそ、敵国に内通もすれば己を売りもするという訳か」
「そうだよ、おれはいもうとがゲンキならそれでいいんだ。いもうとのためなら、おれはどんなコトだって
する、なんだってする、どんなことでもやる、なんでもやれる、なんでもできるんだ。それでおれが死んじ
まおうがイイんだ、おれがどうなるかなんてちっとも気になんねえ。あの子さえまっとうに生きていけりゃ
それでいいんだ、もう会えなくなってもいい。てよりゃ、会わねえほうがいいのさ。あのこのためには」
少年は結晶の前に跪き、まるで何かへ懺悔しているようだ。不意に顔を上げる。
「やれってならなんでもやる、メイレイしろ、カムールの時みてえなことはしねえ。とってこいてんならダレ
の頭だろうが体だろうがもってくるわ。ほしけりゃなんでもぬすんできてやる。きえちまえってんならすぐ
出てく。今ここでおれの首ちょんぎってよこせってんでもいい。……いもうとさえ、ちゃんとかえってくりゃ」
「おれはなんでもやれる。なんでもやった。なんでもやったんだぞ……!」
目を真っ赤にして大粒の涙をこぼしている。
「なのにどうしておきねえ。どうしておきねえんだ、なんでこの子は目をさまさねえ。なんでお前は目を
さまさねえ?どうしてお前は目が覚めねえ、どうして、どうして、どうして ど う し て だ ! ! ! 」
一瞬周囲の結晶が共鳴して激しく瞬いた、不意に足場が動揺して魔術師たちが腰を浮かせる、体勢を
崩した従者の籠から水晶片がこぼれ落ちていった。詠唱が途切れた洞窟の中には、顔を覆ってむせび
泣く子供の声だけが反響している。
「……かえってこねえ」
消え入るような声で呟く。

「テメエら全いんぶっ殺さなきゃかえってこねえ!!」

どーんと音がして従者が投げ出された、崩落した骨組みが容赦なく結晶体をなぎ倒し、近いほうから順
に柱を引き倒していく。棚から雪崩落ちてきた水晶の下敷きにされ従者が魔術師が潰されてしまった。
逃げ惑う者たちが火山弾のように飛び交う結晶に打ちのめされ無残に殺されていく。運よく生き残った
者たちも次々水晶に飲み込まれ、封じられてしまった。きらきらと細かな結晶片が雪のように散っている。
静まり返った洞窟広間の最上階で、水晶体に出来たくぼみに取り残されていた少年は、そぞろ立ち上
がって飛び降りてきた。他に動く者の気配はない。公子は下の階に去ったらしい。瓦礫の中を、ソムニ
ウムに食い破られた扉へむかって歩き出す。明滅を増した結晶たちは何を望むか窓へ、外へとゆっくり
溢れ始めていた……。