【友達≦】幼馴染み萌えスレ21章【<恋人】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@ピンキー
幼馴染スキーの幼馴染スキーによる幼馴染スキーのためのスレッドです。
■■ 注意事項 ■■
 *職人編*
エロパロ板のスレですが、エロは必須ではありません。
ラブラブオンリーな話も大歓迎。
書き込むときはトリップの使用がお勧めです。
幼馴染みものなら何でも可。
*読み手編*
 つまらないと思ったらスルーで。
わざわざ波風を立てる必要はありません。
2名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 01:20:35 ID:zmneRkTn
前スレ 【友達≦】幼馴染み萌えスレ20章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268119221/

19代目:【友達≦】幼馴染み萌えスレ19章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255525442/
18代目:【友達≦】幼馴染み萌えスレ18章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242741528/
17代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1231947127/
16代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ16章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1221583669/
15代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ15章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205778691/
14代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ14章【<恋人】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1199161005/
13代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ13章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187193091/
12代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ12章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1179023636/
11代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ11章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171471579/
10代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ10章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161975824/
9代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ9章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1153405453/
8代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ8章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147493563/
7代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ7章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1136452377/
6代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ6章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1130169698/
5代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ5章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1117897074/
4代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ4章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1110741092/
3代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ3章【<恋人】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1097237524/
2代目スレ:【友達≦】幼馴染み萌えスレ2章【<恋人】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1078148899/
初代スレ:幼馴染みとHする小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1073533206/
3名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 01:25:14 ID:zmneRkTn
*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第9章(派生元スレ)
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1206353662/
いもうと大好きスレッド! Part 5(ここから派生したスレ)
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1275752246/
お姉さん大好き PART6
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1282668686/

*これまでに投下されたSSの保管場所*
2chエロパロ板SS保管庫
http://sslibrary.gozaru.jp/

--------
次スレはレス数950or容量480KBを超えたら立ててください。
では職人様方読者様方ともに今後の幼馴染スレの繁栄を願って。
以下↓

4名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 01:27:07 ID:zmneRkTn
えーと、こんな感じでいいのかな?
何か抜けてたりしたら、すみませんが付け加えてくださると嬉しいです。
5名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 02:03:04 ID:gspWaLHj

     ::|    ____
     ::|.  ./|=|    ヽ.    ≡三< ̄ ̄ ̄>
     ::|. / |=|  o  |=ヽ     .≡ ̄>/
     ::|__〈 ___  ___l   ≡三/ /
     ::|、ヽ|.|┌--、ヽ|/,-┐|    ≡/  <___/|
     ::|.|''''|.\ヽ--イ.|ヽ-イ:|  ≡三|______/
     ::|.ヾ |.::. .. ̄ ̄| ̄ /
     ::|  ';:::::┌===┐./
     ::| _〉ヾ ヾ二ソ./       こ、これは乙じゃなくてスラッガーなんだから
     ::||ロ|ロ|  `---´:|____    変な勘違いしないでよね!
     ::|:|ロ|ロ|_____/ロ|ロ|ロ,|`ヽ
     ::| |ロ|旦旦旦旦旦/ロ/ロ|旦,ヽ
6名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 17:48:36 ID:RatU7Q79
>>5
不意打ちでスラッガー喰らって仰け反ったw
7名無しさん@ピンキー:2010/11/15(月) 00:04:16 ID:HrbdD5Ek
スレ建ての父である同志>>1
8名無しさん@ピンキー:2010/11/15(月) 07:30:47 ID:UvARRS0u
>>1乙&前スレの投下GJ
9名無しさん@ピンキー:2010/11/15(月) 18:17:58 ID:pT6Xtjga
9るしみ悶えながら幼馴染みが>>1乙
10名無しさん@ピンキー:2010/11/17(水) 10:40:26 ID:1oLiDJay
禁断症状に苦しむ幼馴染みにキスですねわかります
11名無しさん@ピンキー:2010/11/17(水) 20:25:24 ID:7qQATjXw
ピコーンピコーンピコーン
ですね
12名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 14:39:16 ID:JfP5Zf0N
我慢に我慢を重ね、学校では必死に自重し――

――二人で家に入って後ろ手にドアと鍵を閉めた瞬間、男に飛びかかっちゃうんですねわかります
13名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 18:48:25 ID:zO/qdRin
朝の通学路


誰かの視線を感じる
というかまあ確実に見られているんだが
後ろを振り向くと案の定叶理(かなり)がいた
長い黒髪が顔にかかり、某映画の井戸から這い出てくるアレを彷彿とさせる少女
俺たちの通う学校で「井戸から出てこない貞子」の称号をほしいままにしている(?)俺の幼なじみである
「よう」
「お、おはょぅ…」
ぼそぼそと、どもりつつ挨拶を返す叶理
コイツはとにかく昔から暗いヤツで、友達と呼べるような奴は俺しかいない
特にこのビジュアルとどもり症のせいで随分損をしてきていると思う
「あ、あの…きょ今日も、す澄人くんの分のお弁当、つ作って来たから…」スィーとまるで幽霊のように俺の手に弁当を握らせる叶理
小さい子がこれやられたら泣くな
「あっ」
その時ぶわりと吹いた風が叶理の前髪を吹き上げ、その素顔を露出させた

その誰が見ても美少女な顔を見て、俺は今日も「お前、そろそろ髪切れよ…」と言うのだった

続かない
14名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 21:47:19 ID:FBcEGby2
15名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 22:03:23 ID:cLr5631G
16名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 22:26:07 ID:zO/qdRin
なんかごめんなさい
こんな幼なじみもアリかと思ったんですマジすいませんでした
17名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 22:34:27 ID:S+dRllrR
>>13
続けてくれるなら許す。
18名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 23:22:32 ID:1sOJhQQL
男が切ってやりゃいいじゃん!
いいじゃん!
19名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 23:34:04 ID:ZGY/uE4a
>>16
いや続けてって事だと思うぞw
20名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 23:37:51 ID:sW1iv6+w
無言の叫び
21名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 23:42:36 ID:hmoH8SnV
>>18
きってやろうとすると嫌がられるので
それならばと男が毎朝女の髪を上げてやる作業を…
22名無しさん@ピンキー:2010/11/19(金) 00:34:36 ID:HrkzOlU5
>>13
そんな続かないとか……
是非とも続きを!!
23名無しさん@ピンキー:2010/11/19(金) 12:28:21 ID:RLm4t4t8
>>21

筒井筒の世界ですね。わかります。
24名無しさん@ピンキー:2010/11/19(金) 19:02:21 ID:th+cVh92
>>13学校で抵抗しないのをいいことに性交渉を強要されるとこに割り込む男まで頼む
2513:2010/11/19(金) 19:50:43 ID:EGG1d0lT
ありがとうございます!
自分も続きが書きたくなって書きためているんですが、規制に巻き込まれていていつ投下出来るかわかりません

規制解除次第投下しにきますのでその時は宜しくお願いします
26名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 21:05:53 ID:87b+D5aV
つくば氏さんまたいらっしゃって欲しい
27名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 22:09:46 ID:7V/2mSOk
ボルボXさん・・・
28名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 22:26:00 ID:a5kXE3pY
ボルボXさんの続きずっと待ってたけどもうよく覚えてないや
29名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 22:58:31 ID:nuktMI7E
>>25
投下待ってる
30名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 23:38:31 ID:U3BQzbgw
自分の好きな話は未完でも定期的に読み返す俺に隙はなかった
31名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 23:52:30 ID:Py0eM618
華麗が読みたい!
32名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 17:19:52 ID:XTTUK9mN
とある田舎町に住む主人公と近所の幼馴染(♀)は非常に仲が良かったが、関係が近過ぎたせいかお互いを男女として意識する事はなかった。
しかし、高校の卒業直前になって、父親の事業が危うくなった幼馴染は町の大地主と結婚させられることになってしまう。
その時になって初めてお互いを愛している事を自覚したが時すでに遅し、幼馴染は地主と結婚し、主人公は逃げるように大学のある東京へ引っ越した。
数年後、久しぶりに帰郷した主人公は地主が死んだ事を知り、葬儀の席で幼馴染に再会するが、子供も出来ず苛酷な結婚生活を続けた彼女の心はすっかり傷付いていた。
主人公の愛の力で幼馴染を救う事はできるのか!?
33名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 17:24:27 ID:tpQkKgDc
中古品って時点で無理な人間はいる

俺とか俺とか俺とか
34名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 17:58:53 ID:T0eQH0h2
中古品とかこだわらないが
生家の経済的問題が解決していないと思われるので無理

子供ができてればおそらく乗っ取ることを考える
35名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 18:15:56 ID:O7WsdsqR
幼なじみは新品がいいなあ。
36名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 22:13:27 ID:dsVh1Eo5
昔からずっと好きだった少女が既に他の男によって女になっていたらもう全力で拒絶しかねない
仮にくっついても体は許せないかもしれない(互いに初めて同士じゃないと嫌だ)
逆を言えば女になってなければどんな遍歴を辿ってきてもある程度は許せるが
(もしくは自分が初めての相手となり、その後他の男のもとへ行っちゃっても)
俺の考え方は古臭い上に適当な所もあるとか言われそうだが
 
幼馴染って大体が物心ついた時から一緒だから何をするにも一緒だったから思い出があるわけだ
そしてずっと一緒にいれると信じてたが逢えなくなって初めて本当の大切さに気付いた
だけど相手に嫌われて逢わなくなったから好きという気持ちだけがどんどん膨らみ
後になって「幼馴染と一緒に過ごしたかった…」という後悔が大きくなってく…
こっちから嫌いになって逢わなくなったのなら苦しむ事もなかっただろうな…
37名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 22:28:36 ID:pKtBNUzP
寝取られスレの方があってると思うよ。
38名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 22:44:43 ID:dsVh1Eo5
寝取られ(他の奴に好きな子を取られる)は全く趣味ではない
ところで寝取った相手が自分や好きな子と幼馴染だった場合とかどっちの分類になるんだろう
39名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 23:07:50 ID:QF2/a+8M
>>38
よくわからんが寝取られるのはムカつくけど
寝取んのはヒャッハー!!ってなるし状況次第なんじゃねーの?

まぁ、このスレ向きではないだろうなぁ
40名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 23:13:14 ID:u1hC0aBa
寝取るとか寝取らないとか身の毛もよだつ話より自堕落でなまけんぼうの幼なじみの世話を焼きたい、男側で
41名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 23:43:33 ID:4j6mhBx0
>>40
その後、世話焼きの愛を感じ、男が好きだとなって自堕落な生活をやめようとする幼なじみ、
それによってもう必要なくなったんだろうかと苦悩する男のすれ違いまで浮かんできた。
42名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 23:44:22 ID:33v7pxiF
今ネトゲ廃人な幼馴染と毎日部屋の前にご飯を置き続ける男の話をちまちま書いていた
43名無しさん@ピンキー:2010/11/21(日) 23:49:18 ID:pKtBNUzP
告白された所を根暗な幼馴染に見られて取られたくない一心で逆レイプされたい
44名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 00:29:01 ID:gv3Ua0FR
>>42
なんつー難儀なおにゃのこw
そういうのも好きだが
45名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 08:28:03 ID:wkR7XdoK
無口無表情幼なじみの控えめな意思表示を自分だけが理解できるとかはどうだろうか

だけど恋心だけは気がつかないテンプレ男
46名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 08:42:17 ID:FoW5catL
>>32-33
「可能性を生み出しただけでもアウト」ってのはなかなか名言だと思う
この場合は「嫁に行った」時点でアウトって事だな
47名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 15:52:34 ID:ZlBzItzF
嫁に行っちゃった幼なじみというと、ちょっとトラウマがある。

俺の母親はフラワーアレンジメントを近所のおばちゃんや女の子に教えていた。
その中に、みさきという女の子がいて、俺より3つ年下だった。
最初は母親に連れられてきていて、俺が小学校に上がったばかりだったからまだ幼稚園児だったと思う。
みーちゃんと俺は呼んでいた。
みーちゃんと遊んでいると面白かった。
俺には女の子の友だちなんていなかったから、物珍しかったのもある。
小学校の高学年ぐらいになると、みーちゃんがどうやら他の子よりもずっと綺麗なんだということに気がついた。
目元が冴え冴えとしていて、鼻筋が通って、口元は小さく引き結ばれていた。
でも、なんだか俺はそれに気がついたことにものすごい罪悪感みたいなものがあって。
みーちゃんを避けるようになった。
うん、はっきりと避けていた。
みーちゃんはなんだかつまんなそうにしていたけれど、それでも俺の母親にフラワーアレンジメントを習い始めていたので、うちには週一で来ていた。
俺の姿が見えると、嬉しそうにしていたけれど、俺は口も聞かずにぷいっと向こうに行ったりしてたから、たぶん俺に嫌われていると思ってたんじゃないか。
俺は中学生になると、部活でやたら忙しくなったので、みーちゃんには顔をほとんど合わせなくなった。
ちょっといい記録を出したり部長に選ばれたりしたもんで、俺のことを好きだと言ってくれた女の子も何人かいた。
なんていうか、俺はそういうの苦手だったんだよな。
ものすごく照れくさいから、全部無視した。今考えればとんでもないことをしたと思う。
で、心の中でちょっと思ってたんだよな、みーちゃんも俺のことカッコイイって思ってるかなって。

俺が高校生になると、三つ年下のみーちゃんも当然中学生になって。
テスト前なんかで部活が休みの時には、みーちゃんと顔を合わせることもあった。
頭をがん、と殴られたぐらいみーちゃんを見るたびにショックがあった。
芸能人とかそういうのとは全然違った意味でどんどん綺麗になっていってた。
めったにニコリともしなくなって、なんだか思い詰めているような表情とか、ちょっと遠くを見ているような目とか。
だめだ、俺みーちゃん好きなんだ。
もう認めるしかなかった。でも、いくらなんでも当時の三つ下というのは完全に変態でキモい年齢差だったわけ。
俺、みーちゃんがちょっと背が低いのを気にしていたのを知っていたから、よくからかっていた、
「あれーっ、いつ小学校卒業したんだっけ?」って。
みーちゃん、怒ってたな。
あんまり彼女が綺麗なので、周囲の大人が「もう彼氏できた?」なんて聞いているわけ。
俺、聞き耳立てちゃったよ。
そのたんびにみーちゃんは、自分は男なんて嫌いだから結婚なぞしないんだと言い張ってた。
一度、俺がそのことでからかって「嫁のもらい手がないからなあ」って言ったら、俺の目をじっと見て、
「うん、私を貰ってくれる人なんていない」って真面目くさった顔で言うんだよな。
なんて返事していいかわからなかった。
48名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 15:52:59 ID:ZlBzItzF
俺の大学受験とみーちゃんの高校受験が重なって、みーちゃんはもう三年になるとうちへは来なくなった。
俺は、みーちゃん俺のこと好きなんだとなんとなくわかってた。
でも、いくらなんでも高校生が中学生に好きだとか言えないと思ってた。
今考えれば言えば良かったんだ。
俺の入った大学にみーちゃんが来てくれればいいなあと、そんなことを考えていた。
大学四年生と一年生なら普通に恋人同士じゃん、と。
なんだかんだで現役で三流私大にもぐりこんだはいいけれど、理系のキツさで彼女を作る暇もなかった。
いや、あるにはあったのかな。
結構可愛い子を紹介してくれた友だちもいた。
でも、みーちゃん見たときみたいな、胸がずきんとして悲しくなるような気持ちになる相手はいなかったな。
大学生が高校生に好きだとコクるのはちょっと、という思いがあってなかなか言えなかった。
というか、ゆっくり話す機会なんてなかった。
それでもみーちゃんに彼氏はいないらしいし、だったらまだ俺のことが好きなんじゃないかと期待していた。
たまに会うと俺のことをじーっと見て、滅多に笑わない子が、ちょっとだけ笑った。
あんな綺麗な子に見つめられて莫迦な妄想をしているだけかな、とも思えたのでやっぱり好きとか言えない。

結局みーちゃんは一浪して、別の大学に行ってしまった。
俺はみーちゃんの大学入学と同時に社会人になってますますみーちゃんには会えなくなっていった。
さらに悪いニュース。
みーちゃんに彼氏がとうとうできてしまったという。
みーちゃんちのおばさんがうちの母親に言ってたんだよ。
最近男とつきあいだして帰りが遅いとか。
「ねえ、○○君もどう思う?」なんて俺に聞くもんだから、俺もつい、
「みーちゃんもその彼氏と結婚すれば落ち着くんじゃないですか?」とか適当なことを言ってたけど、いや、実はショックだった。
さらに、俺は実はたいした規模ではないけれど家業を継がなければならなかったので、就職先は3年半で辞めた。
自宅に隣接した事務所で仕事するようになったんだけど。
ある日、みーちゃんが結婚相手を連れて俺の母親に挨拶に来るっていうんだわ。
俺、それを知っていたらその日、家にいなかったと思う。
いきなり知らされて、母屋へ来い、おまえもみーちゃんとは仲良かったから挨拶しろとか母親に言われて、俺は忙しいのを口実に断ったね。
いや、実はその日はそんな忙しくなかったように記憶している。
とにかく、俺はみーちゃんの結婚相手なんて男と顔を合わせたくなかったんだ。

一応、イナカの自営業者だから、嫁を俺も取らなければいかんと言われてそれから何回か見合いをさせられた。
断ったり断られたり。全然まとまらない。
そのうちの一人がみーちゃんの高校時代の同級生だった。
共通の知人がいるということで話がはずんだんだけど。
「みさきね、○○さん(俺のこと)が好きだったんですよ。
大好きな人がいるけれど全然相手にしてもらえないって言ってました」
なんか、俺、それを聞いたときは平然としていたけれど、あとで自宅に戻ってへなへなとなりましたよ。
あ、その見合い相手とは結局どうもお互いピンとこないという理由でまとまりませんでした。
いい人だったんだけどね。

みーちゃんが里帰りしたとき、偶然遠くから見かけたことがある。
小さい女の子の手を引いていた。
俺が記憶している一番小さいころのみーちゃんによく似ていた。
向こうはこちらに気がつかなかったみたいで、本当に良かった。

それにしても、俺の人生、どうしてフラグが立たなかったんだろう。

ってことで、長いつぶやき、終わり。
49名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 16:13:41 ID:wkR7XdoK
>>48
なんでそれを己の内に秘めて置かなかったんだorz


おのれ、鬱電波を伝播させる気だな!
そうはいかん!そうはいかんぞorz
50名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 16:19:00 ID:ZlBzItzF
>>49
すまん、実は一か月ぐらい前にみーちゃんから電話がかかってきたんだわ、うちに。
俺の母親がなんか送ったとかでお礼の電話だった。

なんかいろいろ言いたくてたまらなかったんだけど、「わかりました、伝えておきます」
とだけ言って切ってしまった。

俺、まだ独身だよ。つか、もう最近見合いの話もないから、
このままハゲデブこじらせたまま墓に行くことになりそうだ。
51名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 16:47:55 ID:d8/UoHN1
泣ける話だ・・・
52名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 17:16:49 ID:ZlBzItzF
俺の中のイメージではニコリともしない子だったみーちゃんだが、
元同級生の話によると、学校ではかなり莫迦騒ぎというか、はしゃぐ子だったらしい。
ただ、ひどく変わり者で校内一の変人といわれていたそうだ。
綺麗な顔と騒がしさのギャップがすごくて、近寄る男がいなかったと。
53名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 18:32:36 ID:l++wixDu
もういいよ
54名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 18:44:47 ID:6YckDXpp
悪いがリアルの話はスレ違いだ。
55名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 19:22:42 ID:2hX6CBOu
>>52
ぐちぐちいうくらいならSSのネタにして、存分にハッピーエンドにして、ここに落とせよ。話はそれからだ
56名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 20:17:04 ID:MAHIHTNs
>>52長文来てるから何事かと思ったわ。然るべき吐き出し場はあったろ?他の板に。
そういや前スレも序盤にリアル話絡めたNTR話の流れあったね
57名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 21:35:01 ID:vHZcnQo+
別の某板もそうだけど、幼馴染みスレってなぜか「めんどくさい」リアル話がくるよね。
58名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 21:49:38 ID:YzDLhtuy
そんなことより幼馴染とLCCする話でもしようぜ!(AA略
59名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 22:57:44 ID:T+wIc3tL
LCCって何だ・・・
ラブいっぱいのチュッチュ?
60名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 23:14:32 ID:wkR7XdoK
LCC(ラブ・チャイルド・子作り)
61名無しさん@ピンキー:2010/11/23(火) 02:50:58 ID:0CMemHDN
LCC・・・

 初めて飛行機乗って、離陸が怖くて手をぎゅっと握ってくる幼馴染、いや、なんでもない。
62名無しさん@ピンキー:2010/11/23(火) 13:30:44 ID:eYW3Oeak
ノビてると思ったら気のせいだった

ボルボXさんマダー

ああいう明治大正な空気が好きなんだが幼なじみものにしようと思うと難しいなぁ…。
身分とか絡めるのが定石か
63名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 01:17:23 ID:i25e5aSS
>48-49,>52
間違ってるかもしれんが、この文体はうにさんじゃないのか?
64名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 03:00:48 ID:gOE8zlpm
違うだろ。
65名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 08:39:54 ID:2TZuhZX7
>>57
リアルでも珍しくないジャンルだからな(´・ω・`)
66名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 13:01:19 ID:30y1Nuk3
幼なじみにNTRとか俺的に絶望的に合わない、いらない

せっかく安心して幼なじみとイチャイチャするSSを読める場所なのにここにまでそっちの話題が入って来たら俺の安住の地が無くなる

幼なじみ以外が寝取られるの?好物です(^q^)
更にその後一途に慕ってくれていた幼なじみとくっ付けば尚良し
67名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 15:46:37 ID:nW6envsP
待てそれは幼馴染の罠だ
68名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 23:30:29 ID:zgVORI5j
「幼なじみは孔明」
なんかエロゲにありそうな
69名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 23:41:10 ID:ufu801mT
恋敵との決戦前夜のお祈りの最中に邪魔が入って敗北しそう
70名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 00:58:26 ID:WsZYFfyp
エロなしで申し訳ないが投下してみます
71My:2010/11/25(木) 01:01:10 ID:WsZYFfyp
それは遠い日の思い出だった。

「ホント?」
夕暮れの公園で、あどけない女児の声が聞こえる。
「うん、絶対。約束するよ」
男児がその問いに力強く答えた。
「今みたいに、由梨(ゆり)ちゃんが困っているときはいつでも行くから。だから黙ってないですぐ僕に教えてね」
そう言って、男の子は右手に持っていた棒切れを捨て、右の小指を立てた。
「ほら、指切りしよう」
「うん、ありがとう満(みつる)くん」
二人の幼児は小指を交差させ、元気よく恒例の歌を歌い始めた。

「ねぇ、満くん」
「なに?」
「その・・・もし・・良かったら」由梨はもじもじとして言いよどんでいる。
「うん」
「由梨と・・これからずっと・・・一緒に・・・」遊んでくれる、という最後の言葉がどうしても出なかった。だが、
「いいよ」という満の声が聞こえた。
「由梨ちゃんの傍にずっといてあげる。そっちの方が、いつでも由梨ちゃんのこと守れるもんね」
満は少々由梨の意図とはずれた答えを言った。しかし、その言葉は由梨には何よりも嬉しかった。
「満くん・・・ありがとう」
「じゃあ、今のも約束だから、もう一回指切りしようか」
「うん」
こうして二人は再び指切りをした。子供達の弾んだ声が夕焼けの空に溶け込んでいった。
   
   *

約束の通り、満と由梨はいつも一緒に遊んでいた。
雪の日には二人で雪だるまを作ったり、日差しの強い日にはプールに行ったりしていた。

満が野球に励むようになってからは、由梨と遊ぶ回数は減ってきたものの、それでも二人は暇があればキャッチボールを行った。
由梨がボールをうまく取れず、その白球が顔に当たってしまったこともあった。
その時、満はすぐに由梨の傍へと駆けていった。
「ご、ごめん、由梨。大丈夫」
「平気だよ。私の方こそ下手でごめんね」
「何言ってんだよ、俺が下手くそなボール投げたのが悪いんだって」
そう言って満は由梨の赤くなっている部分を撫でた。
その瞬間、彼女の頬もまた赤らんだ。
「み、満くん。大丈夫だから、キャッチボールの続きしよ」
「あ、うん。ホントにごめんな、俺も気をつけて投げるよ」そう言って、満は由梨と距離をとった。
その間、由梨はさっきの気遣いの言葉と行動を脳裏で反芻していた。
昔から変わらぬその優しさが、由梨には嬉しかったのだ。
彼女は、そんな幼馴染みに淡い恋心を抱いていた。

しかし、由梨の幸せな日常は突如として終わりを告げてしまった。
満が引っ越すことになったのである。小学校の卒業式の翌日に、満の口から直接それを知らされた。
「前から決まってたんだけど、中々言えなくて。悪いな」
由梨は無言で話を聞いていた。
「でも、そんなに離れるわけじゃないぜ。電車で5駅分くらいの距離だし」
沈黙が続く。
「時間が見つかれば、夏休みにでも遊びに来るからよ。だからそんな暗い顔するなよ」
「うん」ようやく由梨が口を開いた。
「待ってるね、満くん」涙ぐむのを必死に抑えながら、笑顔でこう答えた。
「ああ」

この約束が実現されることはなかった。

こうして約3年の月日が流れていった。
由梨にとっては、満のいない日々を噛み締めるには十分すぎる程の年月だった。
72My:2010/11/25(木) 01:03:34 ID:WsZYFfyp
 *

「ん〜んん〜」
お気に入りの曲をハミングしながら、少女が鏡の前で長い黒髪を梳いている。
「ごきげんなことね、由梨」
由梨の傍らで、洋服を洗濯機の中に入れている母親がそう述懐した。
「だって、これから学校だもん」
「高校生活の方は順調みたいね」
「うん」由梨は何とも嬉しそうな声で答えた。
娘の新生活が始まってはや2ヶ月は経とうとしているが、母はその様子を見て安堵した。
髪を整え終えた由梨は洗面所を出て、玄関の方へと向かった。
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
母親の返事を聞くや否や、由梨はドアを開けた。
そして、外の暖かい空気が感化したのか、由梨は心をますます浮き浮きさせて駅へと向かっていった。

彼女は学校に行くことが何よりも楽しみだった。
そのため、鬱屈した表情を浮かべた人々が多い満員電車の中でも、由梨の顔は晴れやかであった。

なぜなら、もうすぐ行けるからである。
懐かしい人と再び一緒にいられる教室に――

由梨が教室の後ろ扉から中に入ると、そこに一番近い席で机に伏している男子が目に入った。
彼女はその傍まで行き、彼が起きていることを確認した。そして、
「おはよう、満くん」
と朝の挨拶をした。
「ああ、おはよ」
満はいかにもだるそうな声で返答した。
「やっぱり、今日も朝練キツかったの?」
「決まってるだろー」間延びした声だった。
「あはは、お疲れ様でした」
そう労わって、由梨は自分の席に着いた。
しばらくしてから満のほうを向いて見ると、彼はまだ机に伏したままであった。
由梨はそんな満の様子を、顔に喜悦の色を浮かべながら眺めていた。
もう会うことはできないと思っていた初恋の相手に出会えたことを感謝しつつ――

昼食の時間になり、生徒達はグループを作ってお弁当やパンを食べる。
由梨は3人の友達と一緒に会食している。
「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、由梨って風間とはいつから友達なの?」
高校に入ってすぐに友達となった葵(あおい)が満のことを話題にしたので、由梨はどきんとした。
「えっと、保育園の頃から、かな」
「じゃあ幼馴染みって奴?」
「まぁ、一応」
「へー、もしかして、それから小・中・高とずっと一緒なの?」
その質問を聞いて、由梨は一瞬だけ口をつぐんだ。そうだったらどんなに良かったか、と思ったのだ。
だが、すぐに気を取り直して会話を続けた。
「ううん、中学に入る前に満くんは別の学区に引っ越したから、中学は別々だったの」
「じゃあ、高校に入って再会したわけだ」葵同様、高校で友人となった智美(さとみ)が会話に入ってきた。
「うん、クラス発表のとき、一緒の組に同姓同名の人がいたからもしかしたらと思ったんだけど」
「驚いたっしょ」葵が尋ねる。由梨は首を縦に振った。
「でも、私はそんな驚かなかったかも」
そう言ったのは、由梨の小学校からの友達である千恵(ちえ)だった。
「ほら、ここの高校って野球部が凄く強いから、風間くんがいるのも納得って感じだし」
千恵の言うとおり、小学校の頃から満は野球がすこぶる得意であり、リトルリーグにも入っていた。
そして、由梨はよく満の野球試合を応援しに行ったものだった。
満は野球をその時からずっと続けており、現に高校へはスポーツ推薦で入学したのである。
73My:2010/11/25(木) 01:05:41 ID:WsZYFfyp
「そうそう、今朝野球部の友達に聞いたんだけど。あいつって、1年のくせにもうレギュラーになるみたい」
智美が少しばかり話題を変えた。
「えっ、マジ。・・・野球がめっちゃうまくて、そこそこの長身でなかなかのイケメン。騒がれるのも分かる気がするわ」
葵の言葉を聞き、由梨は内心狼狽した。
「さ、騒がれるって」由梨が葵に尋ねる。
「何だ、知らないのかよ。あいつ、めっちゃもてるらしいんだよ」智美が代わりに答えた。
「こないだも、2年の女子が告白したみたいだし。振られたようだけどね」葵が付け足した。
告白と聞いてさらに慌てたが、その後の言葉で由梨はほっと胸をなでおろした。
「しかし、入学して間もない1年坊主に手出すかな、普通。その女、よっぽど男に飢えているんだな」
「もてまくる美人だって聞いたけどね。何で断ったんだろ、風間の奴」
由梨は智美と葵の会話を聞きながら、気を揉んでいた。
満はそんなこと少しも言っていなかったし、それに、彼女の幼馴染みがそんなにもてるとは分からなかったからだ。
(確かに、満くんはかっこいいし、特に野球をやっている姿は昔から素敵だったし――)
そして何より、と由梨は思った。
(・・・とても優しい人だもんね)
由梨は、昔自分をからかっていた男の子達から満が助けてくれたことを思い出した。
保育園で同じ組だったこと、ただそれだけの理由で、それまでろくに話したことのない自分を助けてくれた男の子の勇姿を。
正義感が強くて優しくて、おまけにリトルでは4番打者だった満は、彼女にとって自慢の幼馴染みだった。
(何で気付かなかったんだろう。もてるに決まってるよね、満くんは・・・)
中学時代もそうだったのだろうか。きっとそうに違いない、と由梨は思った。
彼女の心は、寂しさで満ちているようだった。

「つーことで、由梨には忠告しとかなくちゃいけないんだよ」
葵の声が由梨の思案を止めた。
「風間は人気あるみたいだから、あんたは連中にとっちゃ目の上のたんこぶなの」
「えっ、でも私、満くんとは別に・・・」
「あんたらはただの幼馴染み同士なんだろうけど、向こうはそうは思ってないかもってこと」
「仲いいもんね、実際。勘違いする人はいると思うよ」葵の言葉に千恵が続いた。
「風間には彼女いないって言われているから、そうなると由梨は風間に気に入られようと媚を売っている女って映り、やっかみをかうわけ」
由梨には理不尽な誤解だった。ただ昔のようにお喋りをしているだけであるのに。
だが、由梨は同時に思った。もし、自分の想いが届き、満と付き合えるようになったらどんな反感が待っているのだろうか、と。
「ひでぇもんだよな、ブスどもの嫉妬は。あたしも経験あるよ、そうあれは中2の頃――」
「智美、今はお前の話じゃねーから。つーか、前聞いたわ、それ」
由梨と千恵が笑いを漏らす。それにつられて、葵と智美も笑う。
「まぁ、とにかくそういうことだから。もし何かされたらすぐうちらに言いなよ」
「そうだよ。由梨もこんなことで風間くんと話せなくなるのはいやでしょ」
「こいつはちょっと小柄な上に大人しい方だからなー。なめられるタイプっていうか。まぁ、由梨の代わりにあたしが恫喝してやるから」
「おお、さすが智美。経験者は違うね」
「慌てふためいて逃げてったなー。あん時は面白かったよ」
再び笑いが起きる。
「ありがとう、みんな」
由梨は友人達に感謝した。
そしてもう1つ。満だけでなくこの友人達とも過ごせる高校生活にも心の中で感謝した。
74My:2010/11/25(木) 01:08:16 ID:WsZYFfyp
 
   *

駅のホームに由梨は一人で佇んでいる。放課後、図書館に少し長くいたため辺りは暗くなっていた。
でも、これは彼女の望んだ通りのことだった。なぜなら、
「よぉ」
彼女の幼馴染みと一緒の電車に乗れるからである。
「今日は何の勉強をしてたんだ」
図書館では、由梨は読書というよりも専ら宿題や復習といった勉強を行っていた。
「物理かな」
「偉いよなぁ。俺なんか物理は3日で放棄したよ」
「そんな、満くんの方が凄いよ。朝も晩も毎日へとへとになるまで野球の練習して」
「いや、俺には野球しかねーから。スポーツ推薦だしな」
電車がやって来たので、二人は話を一時中断し、乗り込んだ。
車内を見渡し、空いている席を見つけたので、そこに対座し再び会話を続けた。
「そういえば、レギュラーになったんだよね。やっぱり凄いよ」
「ああ、サンキュ。まぁ、さすがに4番打者にはなれなかったけどな」
「それはそうだよ。まだ1年生だもん」
「でも、いつかは4番で甲子園に出るつもりだぜ」
満はバットを振るような動作をした。

しばらく会話が止まったので、由梨はまじまじと満を見ることとなった。
そして、ふと今日の昼食での会話が思い出された。――彼が女子から人気があること。そして、実際に告白されたことも。
そこで由梨は思った。どうして断ったのだろうと。綺麗な人だと葵は言っていたが。

「満くん」由梨は少しの間ためらっていたが、やがて腹を決めて聞くことにした。
「ん?」
「友達から聞いたんだけど」
「ああ」
「告白・・・されたんだよね」
「・・・ああ。生意気にも断っちまったけど」
「可愛い人だったんでしょ。どうして断ったのかなって気になって。あ、でも言いたくないなら別に――」
由梨は少し後悔した。なぜ振った理由を聞いてしまったのだろうかと。
そうまでして自分を安心させたいのか、と自問した。彼女は自己嫌悪に陥った。
「それはだな」
満が少し言いよどんでいた。由梨のほうを一瞥しては顔を伏せている、そんな動作を繰り返していた。
「それは、その、ありきたりすぎる理由でな。恥ずかしいんだけど」
「う、うん」
彼は由梨の顔を見据えてこう言った。その視線を受け、彼女は照れてしまった。
「昔から心に決めていることがあるからだ」
昔、という言葉に由梨はどきりとした。
(もしかして、満くん・・・。ううん、そんなことあるわけ――)
彼女は自分の雑念を取り払った。
「俺は――」
満の目はしっかりと由梨の目を捉えている。由梨は固唾を呑んで次の言葉を待った。
「野球一筋だって」そう言って満ははにかんだ。
由梨は特別がっかりしなかった。むしろ、喜びの方が大きかった。それでこそ満だと。
(それが、私の幼馴染みさんだもんね。何で自惚れたんだろ、私ってば)
彼女は一方で喜びつつ、もう一方で自分が劣情をもったことを自省したようだった。
「地区大会も近いからなぁ」
満の言葉を聞きながら、由梨は再び思った。
このままでいい、この先も今のような穏やかな関係でいられたら、十分すぎるくらい幸せなのだ。
せっかく再会できたのにこれ以上大きな望みを抱くなど欲張りにもほどがある、と。
75My:2010/11/25(木) 01:10:30 ID:WsZYFfyp
「小学校の時みたいに、応援しに行ってもいいかな?」
由梨は思い切って言ってみた。
「それはありがたいけど、ほとんど平日にやるからなぁ」
「そうなんだ」由梨は落胆した。
「あっ、でもうちの地区大、決勝戦は土曜日みたいだから勝ち続ければ――」
「じゃあ期待して待ってるね」
満が言い終わる前に由梨は言った。
「おう」

再三鳴り響いていた電車のアナウンスが、今度は由梨が降りるべき駅名を告げた。
彼女にとっての至福の時間は、あとわずかで終わりとなる。
「なぁ、由梨」
満がふいに話しかけてきた。
「なに?」
「応援、絶対きてくれよ」
「えっ。う、うん、もちろん。絶対行くよ」
「ありがとな。いま思い出したんだけどさ、何かお前が応援しにきてくれた試合は勝率が高かった気がするんだよな」
「そ、そうかな」
「うん、確か。・・・先輩達のためにも絶対甲子園行きたいんだよ」
「そうだよね」
「スタメンになった俺に、そうなれなかった3年生が『頑張ってくれ』って言ってくれたんだよ。
 3年間死ぬ気で練習してきた人たちを押しのけてレギュラーになったこんな1年にさ。だから、絶対勝ちたいんだ」
「うん」
由梨は、昔とちっとも変わらない幼馴染みの姿を見れて嬉しく思った。
「少しでも勝率を上げるために、由梨、応援頼む」
そう言いながら、満は思わず由梨の手を握り締めた。
「うわぁっ」
由梨はとっさの出来事に慌てて、声を漏らしたと同時に心臓を高鳴らせた。
「あ、ごめん。セクハラだよな、これ」
満はすぐに手を離した。

その時、アナウンスが由梨の降りるべき駅の名前を告げた。電車がゆっくりと止まる。
「じゃ、じゃあまた明日ね」
由梨は動揺しながらも別れの挨拶をし、席を立った。
「ああ、じゃあな」
満の方を向いて手を振りながら、彼女は扉へと向かっていった。

電車が動き出すのを見送った後でも、由梨はしばらく駅のホームに佇んでいた。
そして、満に握られた手を見つめ、その感触を思い出し、赤ら顔でふと微笑んだ。
76名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 01:13:27 ID:WsZYFfyp
以上です
続きが考えついたらまた投下したいと思っています
77名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 01:15:19 ID:v/guov3E
GJ
待ってるよ
78名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 02:03:27 ID:Q0pDYALp
良いじゃねぇか
79名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 08:16:48 ID:KPLvmsFt
続きに期待してるぜ!
80名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 18:07:09 ID:4EtiSjsA
GJ! 女の子視点いいね
81名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 22:25:54 ID:88GUQikO
ちょっと前になまけんぼうな幼なじについてあったから転と結だけ考えてみた。
転。男が好きだと認識した女は、世話を焼かれているだけの自分が相手に釣り合っていないと考え、自立しようと試みる。
男は、女の世話を焼くことに半ば依存しており、自分の手元から離れてってしまうことにショックを受ける。何故か関係がぎくしゃくし始める。
結。それまで何もやっていなかった女は自分では修正不可能な大きなミスをやってしまう。
それのフォローに来た男に泣きつき、思いのたけを告白する。

……考えたはいいけど基本すぎるな。
三秒ルートみたいに世話しているうちに気がついたら籍が入っていた。ぐらいの方がいいのかも。
82名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 22:33:42 ID:ZAr1qGS3
そういえば、あの虎の人、士郎とは年の差幼馴染みとも言える訳か……ちょっと萌えてきた。
83名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 22:34:21 ID:qX+dxHpQ
王道が王道である理由が良く分かる
これだけでもキュンとくる
84名無しさん@ピンキー:2010/11/26(金) 09:28:08 ID:mCqZU82K
新作キテタGJ
やっぱり幼馴染は最高です。

ところで質問なんだがこれまで読んできた幼馴染マンガで何か良かったものありませんか。

自分は[となグラ]というマンガです
85名無しさん@ピンキー:2010/11/26(金) 21:44:52 ID:pEFLQo6H
>>76 gj
これは続期待
86名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 00:37:58 ID:He+I3pPl
何で俺には可愛い幼馴染みがいないんだろうか
87名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 01:12:53 ID:aPqLVA49
近所の夫婦が頑張らなかったからさ
88名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 12:18:16 ID:AMqHsiol
転勤が増えるこの頃だと幼馴染ってのもなくなってしまうんだろうか
中国とか一人っ子政策で姉・妹萌えもないんだろうな
89名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 12:55:58 ID:0tMC8Kjs
現実では難しいからこそ我々は空想で欲求不満を補おうとする
だから創作物は大事なのだ

というわけで誰かSSを投下してください
90名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 14:10:28 ID:VF167/NU
>>88
転勤増→各地に「けっこんのやくそく」をした幼なじみが増える→ハーレム

一人っ子→隣に住む幼なじみと姉弟、兄妹のような関係に→ふとした瞬間に「あれ、こいつ可愛い」→イチャイチャ


ふぅ…
91名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 19:51:03 ID:sKCF9OkI
>>90
>転勤増→各地に「けっこんのやくそく」をした幼なじみが増える→ハーレム

これ、死亡フラグじゃね?
92名無しさん@ピンキー:2010/11/29(月) 21:01:26 ID:2qx3CR6J
幼なじみと甘〜くエッチに過ごす方法
93名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 00:34:13 ID:3R88wIlI
そろそろかおるさとー様の投下していただける時期だ
楽しみだな
94すなばのおばけがこいしたひとは1:2010/11/30(火) 01:06:24 ID:C8aobGUb
>>13です
規制解除されたので投下します
そんなに長くならない予定です

彼はよく、ぶっきらぼうに「ちょっとは髪切れよ」とわたしに言っていた
わたしの変化を見て、驚くだろうか
あの日、砂場で一人ぼっちだったお化けに一人だけ出来た友達

『おれはおまえのほごしゃだからな』
『しかたねえな』
『メンドイなぁ』

そんな言葉が口癖の、いじわるでぶっきらぼうで、優しい幼馴染
「澄人くん・・・」
彼は、なんと言うだろうか
わたしは長く伸びて、その顔を覆う髪の毛を黒い簡素なヘアピンで留めた
久しぶりに見る自分の顔
「ぅ・・・」
途端に顔が赤くなる
普段素顔を晒さないのは、わたしは酷い人見知りで、赤面症だから
幼馴染の澄人くんにさえ緊張して真っ赤になってしまうというのに、これで一日過ごせるのだろうか
思わず、手がヘアピンに伸びる

でも
「か、変わらなきゃ・・・」
わたしはヘアピンを着けたまま、荷物を手に取った



後ろから視線を感じる
いやまあ確実に見られているんだが
というかこの間もあったなこれ
振り返るとそこには叶理が___居ない
いや居た、電信柱に隠れている(しかし残念ながら肩がはみ出ている)
メンドイ、これはとてもメンドイ
「何やってんだお前」
「っ・・・」
声をかけるとびくりと震える叶理
「ぉおはよよう・・・」
いつもどおりどもった挨拶が聞こえて、電信柱からひょっこりと顔が覗いた
どきり、と胸が高鳴る
男に性を受けたものなら誰もが見とれてしまう愛らしさ
「お前、その前髪・・・」
叶理は、いつもは顔を覆っている髪をピンでまとめていた
「そその・・・澄人くん・・・どう?」
「どうって・・・」
叶理の問いに俺は答えに詰まる
もちろん文句なしに可愛い、だが、幼馴染にそれを言うのはなんだか気恥ずかしさの方が勝ってしまう
「別に・・・いいんじゃないか?」
結局、俺はそんな風にしか答えられなかった
95すなばのおばけがこいしたひとは2:2010/11/30(火) 01:07:01 ID:C8aobGUb
その日、叶理と昼飯を食いに屋上へ向かう途中
「よぉ有村(ありむら)、イメチェン?似合ってるよ」
「・・・・」
有村、というのは叶理の苗字だ
「どうしたの?彼氏できた?」
「・・・・・」
目の前には金髪の男子、綾乃瀬(あやのせ)
名前は知らん
叶理と同じクラスで、女子人気は本校一位のイケメンである
「さっきから喋んないね?具合悪いの?」
そして綾乃瀬は、何故かさっきから俺たちの後についてきて叶理に話しかけ続けている
当の叶理は、俺を盾に綾乃瀬を避けるようにポジショニングしていた
俺を中心にぐるぐると美少女を追うイケメン、追われる美少女
何だこの状況
とにかく叶理は人見知りだ、これ以上は叶理にとってストレス以外のなんでもないだろう
それ以前に、叶理はどう見ても嫌がっている
(仕方ないな・・・)
「叶理、お前今日職員室に用あったろ?」
ここは幼馴染として、助け舟を出してやることにした
昼飯はまぁ、少し遅くなっても仕方がない
「え・・・あ、うんっそうだった」
きっかけを掴めばこっちのものだ
次の瞬間には叶理は走り去っていた、中々の素早さである
運動神経良いんだよな、アイツ
「なぁ」
屋上に向かおうとして呼び止められる
振り向くと、綾乃瀬が俺を見つめていた
この目は苦手だ
何処か、見下したような目
「お前、有村とどういう関係な訳?」
「・・・・幼馴染だ」
「ふぅん」
俺の返事を聞くと、綾乃瀬は興味無さ気にそう言って何処かへ去っていった
96すなばのおばけがこいしたひとは3:2010/11/30(火) 01:10:05 ID:C8aobGUb
屋上に出ると叶理がいた
「ささっきは・・・あありがと」
真っ赤な顔でお礼を言う叶理
「別にいいが・・・綾乃瀬と知り合いなのか?」
「ううん、知らない・・・いつもは喋りかけてこないよ」
となると髪をまとめて美少女化した叶理を狙い始めたってことか
確かに、叶理は男どもからすれば狙い目だろう
男の経験も無ければ、気弱で好きにしやすく、且つ校内一の美少女とも言っていい容姿
しかも今までノーマークだったために邪魔な虫も少ない
(はぁ、まったく男ってやつは・・・)
この間まで陰で貞子貞子と罵っていたと思ったら、急に掌を返す辺りもう何と言っていいのやら
「そっか、まぁイケメンに言い寄られて良かったじゃないか」
モテモテだなあ、良かったなあと茶化しながら、心の奥で思った
コイツはきっとこれから色んな男に言い寄られるんだろう
その中から、好きな男を選んで、見つけて
そうしたら、俺の保護者ゴッコももう終わりだ
俺は、もう叶理の傍にいる必要はなくなる____
「・・・っ」
そう思った時、ちくりと突然胸が痛んだ
苦しくて、辛くて思わず叫びだしそうになったとき

「全然良くないよ」

はっきりと聞こえた、叶理の声
叶理らしくない、きっぱりとした否定の言葉
「えっ・・・?」
俺は思わず間抜けな声を出してしまう
「わたし・・・そんなの嬉しくない」
何故、叶理はそう言ったのだろう
それを問うことは、俺にはできなかった
そして、何故俺は


どうして俺は、その言葉を聞いて安心しているんだ?

今回は以上です
ありがとうございました
チャラ男が出てきましたがNTRは完璧絶対有り得ないと断言しますのでそういう属性持ちの方はすいませんです
ではまた
97名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 01:36:41 ID:79k04tpe
先の展開を考えながら読むのも楽しみなのに、〜〜はないって言っちゃうのはどうなんだろう。
まあ、書き手がそれでいいならいいのかもしれないけど。
98名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 02:00:08 ID:9P2qKwqS
別にいいんじゃない
99名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 03:12:40 ID:odh9mC/7
完結さえしてくれれば何でもいいよ
100名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 03:59:06 ID:w7Jj3miH
いいじゃないの。期待
101名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 10:43:59 ID:Sc53E7+D
書いてないなら書いてないで「NTR展開は反対」的なレスがついてた事が目に浮かぶ
102名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 17:59:08 ID:3R88wIlI
確かに誰か書いてそう


あっ俺か
103名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 18:53:43 ID:99DDxSKl
ごめんなさい、私がNTR寸前で主人公による助け入りなどというシチュを所望したばかりに,,,,
104名無しさん@ピンキー:2010/11/30(火) 21:52:50 ID:ukivJdrf
>>94-96
GJ!
続き期待
105名無しさん@ピンキー:2010/12/01(水) 10:16:18 ID:5DJ7qnmM
ぽちゃのオカン気質しっかり者と職業あそびにんなチャラ男幼なじみ

106名無しさん@ピンキー:2010/12/01(水) 10:17:12 ID:5DJ7qnmM
ごめん。ぽちゃスレと誤爆
107名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 21:52:43 ID:sLTsn+tZ
ぽちゃな馴染

・・ありだな
108名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 22:02:36 ID:bXwJU5CC
よくある窓を伝っての家渡りが窓のサッシにむっちりお尻引っ掛けて色っぽいことになるんですねわかります
109名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 22:30:31 ID:L/b6DlAN
肉付きが良くて太ってるんじゃないかって心配してコンプレックス程度なら
むしろポチャな幼馴染の女の子歓迎
デブとかあまりに肉付き良すぎるのは無理だがw
110名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 22:38:39 ID:SZiLU4wU
がおー、食べちゃうぞー
111名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 23:10:41 ID:0mOdao+8
胸とおしりが大きいのを太っていると思って異常に気にしていて必死に痩せようと思っている女の子

だがしかし実際はそのセクシーな体を狙う野獣ども(学校の男子生徒)が大漁にいて
男の幼なじみが日頃陰ながら成敗して回っているという…
112名無しさん@ピンキー:2010/12/03(金) 00:49:07 ID:47R8ByFf
アマガミのりほこか
113名無しさん@ピンキー:2010/12/03(金) 01:21:20 ID:S8MRRlmO
幼馴染男でさえも幼馴染女の前髪を取っ払った姿を一度も見たことがなくて
普段は意識してないのにふと風で前髪がなびいてフォーリンラブという展開を思いついた
114名無しさん@ピンキー:2010/12/03(金) 17:24:45 ID:9Eio5N8S
何の気なしに前髪あげた姿を見た幼馴染男が妙に自分を意識していて
それで虫の居所が悪くなる幼馴染女というのはどうだろうか
115名無しさん@ピンキー:2010/12/04(土) 10:01:25 ID:3e/6EqOL
もう男が毎日女の髪留めになればいいよ
116名無しさん@ピンキー:2010/12/04(土) 19:29:11 ID:EOwKMkNZ
女が美容室嫌いで(髪触られるのが嫌とか?)
親以外で唯一それを許しているのが男の幼なじみ

で、もっときれいに切ってあげられるようになりたいと美容師専門学校に行きたいと言い出したら
男が他の女の子の髪を切るのは嫌だとわがままを言い…
117名無しさん@ピンキー:2010/12/04(土) 20:25:45 ID:3e/6EqOL
>>116
きゅんときた
誰か書いてください><
118名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 01:21:32 ID:R6EOSSbl
119かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:33:47 ID:0b6R5TCS
こんばんは。三週間ぶりです。
『In vino veritas.』第四話を投下します。
今回はちゃんとエロありです。
120かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:34:31 ID:0b6R5TCS
 
 部屋に帰り着くと、いつものように彼女が出迎えてくれる。
「おかえりなさい」
 ただいまと返して、俺は自室に戻る。荷物を置いて、洗面所で手洗いうがいをして、リビ
ングに入ると華乃がテーブルに料理を並べていた。ご飯、味噌汁、豚の味噌漬、グリーン
サラダにマッシュポテト。出来たての温かい匂いが鼻腔をくすぐった。
 華乃とともに手を合わせて箸を取る。いただきますと言う習慣は俺にはなかったのだが、
華乃と暮らすようになってから、きちんと言うようになった。華乃はおそらく食べ物に、俺は
作り手に対する礼として。
 かつお節で出汁を取った味噌汁は、冬の外気で冷え込んだ体を内側から温めてくれる。
連日厳しい寒さが続くので、本当に生き返る瞬間だ。
「じゃがいも入れたんだけど、くずれてない?」
「ん、大丈夫。いつもどおりおいしい」
「よかった。今日は余りもので作ったから、あまりバランスのいいメニューじゃないと思った
んだけど」
 たぶんじゃがいもが余ってたのだろう。肉じゃがとかカレーの方が消費しやすいんじゃ
ないかと思うが、料理のできない俺にはわからない工夫があるのだろうか。まあついこの
あいだカレーは作ったばかりだから。
「もう12月だね」
「ん? ああ、そうだな」
 味噌漬を箸でうまく切りながら、華乃が言った。特に思い入れはないので適当に相槌を
返すと、
「……来年も同じようにいられるかな?」
 そんな意味深なことをつぶやいた。
 どう返したものか咄嗟に判断がつかず、俺は黙り込んでしまう。
 華乃は返事を期待していたわけでもないのか、黙々と食事を続ける。
 やがて、ごちそうさま、おそまつさま、と二人して食事を終えると、華乃はなんでもなかった
かのように食器を片付け始めた。俺も一緒になって手伝うが、特にこれといった会話が交わ
されることはなかった。
 俺と華乃が順番に風呂に入り終えると、時刻は九時過ぎだった。俺は胸の鼓動が激しく
なるのをうまく抑えられない。それは僅かながら期待というのもあったが、しかし今はそれ
以上に気まずさが強かった。
 別にさっきのやり取りが原因じゃない。ここ最近の互いの関係がその気まずさを生んで
いた。
「おやすみなさい」
 お風呂上がりの甘い匂いを残して、華乃は自室へと戻っていく。見慣れたパジャマ姿は
俺の情欲を掻き立てるには十分すぎるものだったが、俺はその気持ちを抑え込んだ。
 ため息をついて俺も自室へと引き上げる。ドイツ語の課題があったのでそれを済ませて
しまおう。期限は来週だが、早めに終わらせた方が楽だ。
 とはいえ全然集中できる気がしない。
 隣の部屋にいる幼馴染みのことがどうしても気にかかる。いや、正確には今の俺たちの
関係が気になる。
 今日も、何もなかった。
 もう一度、ため息をつく。
 俺は一ヶ月近く、彼女を抱いていない。
 
121かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:35:35 ID:0b6R5TCS
 
      ◇   ◇   ◇



 最後に彼女を抱いたのは先月のことだった。たしか、一緒に酒を飲む前日だったはず。
 関係を持って以来、俺たちは大体週に二、三度、ときには毎日肌を合わせていた。生理
周期の関係で一週間ほど間を開けたことはあったが、それ以外は結構なペースで回数を
重ねていた。
 しかし一ヶ月前を境に、その時間が消えた。
 特に関係を解消した覚えはない。
 何が原因なのか、俺にはわからなかった。華乃が俺を、華乃が言うところのパートナー
と認めなくなったのかもしれないし、あるいは他に理由があるのかもしれない。
 別に関係が解消されたところで、要は元に戻るだけだ。何も問題はない。――そう思え
たら楽だっただろう。しかし俺はひどく焦りを覚えていた。
 華乃が俺を必要としなくなったということは、つまり「練習」の必要がなくなったという
ことではないのか。
 この関係を始める際に華乃は言った。「男の人と付き合うための練習」と。
 それがなくなったということはつまり。
 思い過ごしかもしれない。ただ気が向かないだけなのかもしれない。しかし不安は拭え
ない。
 直接訊けば答えてくれるだろうか。だがそれをする勇気はなかなか起こせなかった。
薮蛇になったら、という思いが働いて、動けなかった。
 そうするうち冬になり、今年も残すところ半月ほどになった。
 クリスマス、正月とこれからイベントが目白押しだ。そのイベントを華乃は誰と過ごすの
だろう。一ヶ月前まではなんとなく一緒に過ごすことになるんだろうな、と思っていたが、
こうなるとわからない。
 去年のクリスマスは、華乃が俺の部屋に押しかけてきて、自作のケーキを振舞って
くれた。
 それを食べながら一晩中ゲームをするという、実に色気のない夜を過ごした。
 そんな気安い間柄でも俺は嬉しかったのに。
 一度関係を持ってしまうと、もうあの頃には戻れなかった。
 
122かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:36:30 ID:0b6R5TCS
 
 それからさらに四日後の朝。
「ごめん、涼二! 今日ちょっと帰り遅くなる」
 華乃の言葉に俺はどきりとした。まさか、
「友達と飲みに行くの。忘年会というか、そんな感じの」
「……酔っ払うなよ」
 内心ほっとしつつ返すと、華乃はにっこり笑った。
「大丈夫。女の子ばっかりだし、そんなに飲まないから」
「女ばかりで帰り大丈夫か?」
「あはは、平気だよ。場所は駅に近いし、遅くても日をまたぐことはないから」
「呼べば迎えに行くぞ」
「え、本当?」
 華乃の表情がぱっと明るくなる。反応を見るに、友達同士で飲むのは本当のようだ。
華乃のことを疑うようで、そういうことを気にしてしまう自分が実に情けないと思った。大体、
華乃が誰と会おうと、俺に何かを言う権利なんてないのに。
 そんな俺の心情など気づいていないようで、華乃は笑顔でうなずいた。
「じゃあ、お願いしようかな。あ……涼二の夕食どうしよう」
「適当に腹に入れるから心配するな。今日くらい休め」
「ごめんね」
「いつも作ってもらってるんだ。謝ることなんか少しもない。で、どこに迎えに行けばいい?」
「えっと……」
 聞くとそこは大学近くの学生通りにあり、俺もよく友達と飲みに行く店だった。了解と答え
ると、華乃は行ってきますと元気に出かけていった。
 今日の講義は午後の二つだけだ。華乃の用意してくれた朝食を食べながら、俺はぼん
やりとテレビを眺めた。
 星座占いの運勢は最下位だった。
 
123かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:37:39 ID:0b6R5TCS
 
 二つ目の講義を終えたとき、時刻は四時過ぎだった。当初は家に帰るつもりだったが、
課題のレポートを休みに入る前までに提出しなくてはならなかったので、普段は入ることも
ない図書館へと向かった。
 中は盛況だった。勉強机は満席で、仕方なく資料を探しながら空くのを待った。二十分
ほどしてようやく隅の席が空き、俺は静かに荷物を置いた。
 しばらくレジュメとノート、資料本とにらめっこをしつつ、適当にまとめていく。しかしニーチェ
やハイデガーにいきなり取り掛かってもまるでわからない。もっと簡単にまとめている本は
ないものだろうか。たぶん講義をしっかり聴いていれば、一番理解が深まったのだろうと
思う。二時間で一つの難解な思想を解説しようというのだから。先生方は偉大だ。偉大
すぎて眠くなる。しかし今は眠るわけにはいかない。
 こんがらがった頭を整理するのにしばらく無駄な時間をかけて、なんとか要点をまとめ
終えたとき、もう時刻は七時近かった。仕上げは帰ってからパソコンでしよう。
 外に出るとすっかり空は光を失っていた。夜風がコートを巻き上げるように凪いでいく。
思わず体が震えた。早く帰りたい。
 と、そこで思い出す。華乃を迎えに行かなければならない。華乃が言っていた店はこの
近くにある。このまま帰っても二度手間なので、どこかで食事でもして時間をつぶした
方がいい。
 学生通りに入ると、人の波が激しくなった。歩けないほどではないが、車が通れない
くらいにはにぎわっている。店々の明るい光が闇をかき消すように通りを照らしている。
無断駐輪の自転車群が幅を取って、人を追い越す際にひどく邪魔くさい。
 通りを半分ほど過ぎたところに、件の店があった。春先にできたばかりの店で、派手な
装飾のないシンプルな外観は一見飲み屋には見えないが、豊富なメニューと入りやすい
雰囲気で人気が高い。実際今も入ろうとする一団が見えた。華乃の姿は見当たらない。
既に中にいるのだろうか。
 俺は向かいの小さな料理屋に入った。半分は飲み屋のような店だが、正面にできた
新店舗のせいで、夜は客足が遠のいているらしい。少しは売上に貢献してやろう。
 一番奥の席に座って、メニューを開く。定食でもよかったのだが、時間はまだまだある。
幸い持ち合わせがあるので、単品をいくつか頼むことにした。ついでに酒も一杯。迎えに
行くのに酒を飲むのもどうかと思ったが、まあビールくらいなら。
 待つ間、俺は華乃のことを考える。
 華乃は俺のことをどう思っているのか。これまでに何度も自問し、しかし自答できない
問いだった。
 俺があいつのことを好きだというのは間違いない。いまやこの想いは確かな形となって
俺の中に息づいている。
 だがあいつは? 少しは何か特別な気持ちを抱いてくれているだろうか。それとも特別
じゃないから、夜をともに過ごさなくなったのか。
 俺はどうすればいいのだろう。
 ……いや。そもそも俺は、何かやってきただろうか。
 ただそばにいるだけで、華乃にはひたすら世話になりっぱなしで、俺が華乃にしてやった
ことなどほとんど何もない。華乃はボディガードと言ったが、そんな大層な役を務めた実感は
まったくなかった。
 それは、夜の時間も同じだ。
 振り返ってみて初めて気づいた。何度も夜をともにしながら、俺の方から華乃を誘った
ことが一度もなかったことに。
 いつも華乃の方から誘ってきて、俺は流されるだけだった。いや、流されると言うのも
違う気がする。俺は華乃の行動に甘えていなかったか。
 「華乃がそれを望むから」という理由付けに甘えて、俺は何もしてこなかった。
 想いを告げるわけでもなく、華乃にもたれかかっている。そんな俺をあいつはどう見て
いたのだろう。
 料理が運ばれてきた。唐揚げ、チンジャオロースー、シーザーサラダにライスとオニオン
スープをつけて、中ジョッキでビールが一杯。いざ料理を目の前にすると、空腹を強く感じ
られた。さっきまで頭脳労働をしていたせいだろうか。胃袋が少し締め付けられるように
苦しかった。
 とりあえず、食欲を満たすのが先だ。俺は箸を取り、香ばしい匂いを感じ取りながら皿を
手元に寄せた。
 唐揚げとビールの組み合わせは、うまかった。
 
124かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:39:05 ID:0b6R5TCS
 
 注文した料理はすぐに食べ終わった。
 まだ七時半くらいだ。華乃からいつ電話がかかってくるかわからないが、九時前という
ことはないだろう。遅くなると言ったのだから、おそらく十時以降になるはずだ。
 俺は少し迷った。また追加で何か注文するか、それともここを出てネットカフェにでも
入って時間をつぶすか。
 しかしこの店であと三時間も過ごすとなると、暇で仕方がない。酒も頼めないし、他の
ところで待った方が得策だろう。俺はもう一度時刻を確認しようと、入り口近くの時計に
目をやった。
 そのとき、入り口の扉が開いた。
 グループ客が入ってきた。同じ大学生くらいの一団で、女ばかりだった。
 その市五人ほどの一団の中に見知った顔があることに気づいた。
 華乃だ。
 幼馴染みは楽しそうに談笑しながら、店員に誘導されて真ん中あたりの大きなテーブル
席に座る。こちらに背中を向けていて、俺の存在には気づいていないようだ。
 俺は華乃の登場に戸惑っていたが、少し考えればそういうこともあるのだろう。予約を
取り忘れたか何かで、店に入れなかったのだ。それで急遽向かいの店に入ることにした
のかもしれない。
 華乃の後ろ姿が見える。セミロングの黒髪がふわふわ揺れている。
 俺は座り直して、近くの店員に声をかけた。
「フライドポテトと、生一つ」
 このままここで待っていよう。



 何を話しているかはわからなかった。
 周りの客が増えてきて、喧騒が一段と増したためだ。夜は入らないと思っていたが、そう
でもないのだろうか。ひょっとしたら向かいの店からあぶれた客が、こっちに流れてきている
のかもしれない。
 新しく持ってこられた小さいグラスに、ビール瓶を傾ける。黄金色の液体が微かにはじ
ける音を立てながら、グラスを満たしていく。ポップコーンが膨らむように、真っ白な泡が
湧き立ったが、長くは続かずに徐々にしぼんでいった。
 グラスに軽く口付けながら、俺は斜め向かいに視線を送る。
 そこでは女子の一団がかしましく酒を飲んでいた。ぱっと見たところではビールやらカク
テルばかりだ。カクテルも意外とアルコール度数が高かったりするので、飲みすぎには
注意してほしい。
 華乃のグラスはあまり動かない。箸はそれなりに動いているので、たぶん意識して抑え
ているのだろう。少しだけほっとした。この間みたいにテンションが変な具合に上がったら、
連れて帰るのに苦労しそうだ。
 周りに妙な客はいない。席は埋まっているが、みなそれぞれに食事や酒を楽しんでいる。
変な男に引っかかることもなさそうだ。俺はほっとして、同時にため息をついた。まったく、
告白する勇気もないくせに、独占欲だけは強い。
 また客が入ってきた。男が四人。テーブル席はもう残っていないようだが、座れるのか。
店員が困ったように席を見回している。
「こっちこっちー」
 不意に声が響いた。見ると華乃と同じ席の女子が手を上げて男たちに呼びかけている。
 おい。ちょっと待て。
 男たちは呼ばれた方向に目をやり、笑顔を見せた。俺はその顔に不安を覚える。
 当然のように相席になって、大きなテーブル席が埋まる。五人だと少し大きく思えたが、
九人となると少々狭い。
 華乃が隣の友人に話し掛けている。その横顔には戸惑いの色があった。
「聞いてないんだけど!」
 はっきり声が聞こえてきた。慣れ親しんだ声には珍しく苛立ちが混じっている。
 友人が何かを言った。華乃はそれに対して顔をしかめた。華乃は女同士で飲むと言って
いたが、たぶん知らされてなかったのだろう。彼女が嘘をついたとは思えなかった、今の
反応を見るに。
 俺はどうするべきか迷っていた。このまま華乃のところに行って、連れ出してしまおうか。
しかしいきなり介入して大丈夫だろうか。華乃にも華乃の付き合いがあるわけで、迷惑を
かけるわけにもいかない。
125かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:40:05 ID:0b6R5TCS
 とりあえずは様子見だ。俺はまたビールを傾ける。
 苦味が胸を熱くする。高揚しているわけではない。不安な気持ちが渦巻いて苦しい。
 対面に座った男が華乃に話し掛けている。何を話しているのだろうか。華乃が首を振った。
男はそれを見て嬉しげに笑ったが、どう見ても下心のあるものにしか見えなかった。
 背中しか見えない席位置は、気づかれないでいるには最適の場所だ。しかし今はそれが
仇になっていた。華乃の表情が見えない。時折横顔が見えるものの、極端に大きく動かない
ために、どういう状態かはっきりとは窺えなかった。
 目線を自分のテーブル上に戻す。あまりじろじろ見ていると、向こうに気づかれる。グラスを
口元に運びながら、ポテトを睨みつける。自分の不機嫌さをぶつけるように、フォークでひと
まとめに突き刺した。トマトケチャップを擦るように適当につけて一気に口に入れる。あまり
苛立ちはまぎれない。
 斜め向かいのテーブル席は、楽しげな雰囲気で程よく盛り上がっていた。華乃も硬さが
取れたのか、肩を震わせていた。笑っているのだろう。手元を見ると透明なグラスにこれ
また透明な飲み物が注がれていた。日本酒か、はたまた焼酎か。
 嫉妬心が沸き起こる。同時に自己嫌悪も生じる。華乃は悪くない。あいつは単に友人と
酒を飲んでいるだけで、何も悪くない。男たちも悪くない。彼らも誘われてきただけかも
しれないし、こういう場なら多少の助平心も仕方がないだろう。こんなことで腹を立てても
何にもならない。
 だが、もちろんそんな理性的な余裕は持てなかった。今すぐあそこに行って連れ出したい。
 しかし俺にそんな権利があるのか。俺は華乃の幼馴染みで、一緒に住んでいて。
 だけど、恋人じゃないんだ。
 体だけのつながりにずっとむなしさを覚えていた。
 今は、その体のつながりさえ途絶えている。
 華乃は俺を信頼していると言ってくれたが、その言葉にどれほどの意味があるだろう。
 一番背の高いのっぽな男が華乃の隣に席を移した。華乃は椅子をずらしてあまりくっつか
ないようにしている。のっぽは気にした風もなく、メニューを開いて華乃に注文を聞いている。
肩が触れ合うほど近い。
 気づいたらビールを飲み干していた。顔が少し熱い。駄目だ、精神状態が不安定なせいか
いつものペースを保てないでいる。
 俺は席を立ってトイレに入った。男性用のトイレは小と大の場所がそれぞれ一つずつ
備え付けられていて、俺は個室に閉じこもった。尿意だけなので別にその必要はなかった
のだが、気持ちを落ち着かせるために一人きりになりたかった。
 用を足し終えて身なりを整えると、多少一息つけた。喧騒の届かない狭い空間で、宙に
向かって大きく息を吐く。大丈夫。酔いはまだそこまでひどくない。あとは水でも飲んで
いよう。携帯で時間を確認すると、九時前だった。
 そのときドアが開く音がした。誰かが入ってきたようだ。一瞬外の騒がしい音が耳に
入り、ドアが閉まる音とともに遮断された。
 二人組のようだった。静かな室内で、二人の声がやけに大きく響く。
「飲みすぎてない?」
「俺は大丈夫だよ。それよりマッキーがさ」
「あいついつも飲ませすぎるもん。自分はあんまり飲まないくせに」
 俺はなんとなく外に出るタイミングを逃した。黙って二人の会話を聞いていた。
「マッキー絶対あの子狙ってるって。目がさ、いやらしい感じ」
「いや、普通にかわいいと思うし。ぼくもちょっといいなーって思うから。小林さんだっけ? 
なんかちょっと硬そうな感じだったけど」
 思わず顔を上げた。
「慣れてないんだろ。合コン初参加って城戸ちゃん言ってたし」
「焼酎に抵抗ない女子って珍しい気がする。お酒強いのかな?」
「いや、もう結構きてる気がするぞ。城戸ちゃんは煽るし、マッキーのせいでペース速いし」
 ……それは、かなりまずいんじゃないか?
 俺は、さっきまでのとは別の不安を覚えた。華乃は嫌なことは嫌だとはっきり断る性格
だが、酒が絡むと人は正常な判断を下すことが難しくなる。ましてや大勢で飲むと、その
雰囲気に流されてもおかしくない。
「あんまり酔わせると後が怖いと思うよ」
「酔っ払いの扱いって難しいんだよなー。俺知らないから」
 フォローする気はないらしい。俺は会話を聞きながら、次第に決心していた。
 
126かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:41:38 ID:0b6R5TCS
 
 二人組が出てから少し遅れて、俺は席に戻った。
 テーブルには空のビール瓶と皿の上のわずかなポテトのみ。俺はポテトの残りを次々
と口に入れると、一気に咀嚼して嚥下した。
 片付け終わったところで荷物をまとめる。上着を着直し、バッグを肩にかけて椅子を
戻した。
 そして、斜め向かいのテーブル席にまっすぐ足を向けた。
 後ろから見る華乃の様子はおとなしいものだった。しかし隣の男がしきりにべたべた
しているにもかかわらず、反応しないところを見るに、かなり酔っているのだろうと思わ
れる。俺がたまたまこの店に入らなかったら、お持ち帰りされていたにちがいない。
 ぐっと歯噛みする。あごに力が入る。
 怒りを抑えながら、華乃の真後ろに立った。
 しばらく声をかけずにじっとその黒髪を見つめた。いつもながら綺麗な質感で、つい見
惚れてしまうが、今はそんな場合ではない。
 隣の男がふと俺の存在に気づき、不審そうな目を向けてきた。右手を華乃の背中に
回して、こっそり髪先を撫でている。さっきからがんがん飲ませているこいつが、たぶん
『マッキー』だ。
 俺はとりあえず、そいつの手をつかんで離させた。
 急な俺の行為に目を剥いて、そいつは俺をはっきりと凝視した。
「誰?」
 俺は答えなかった。ただじっと男を見据える。てめえこそ誰だよ。その指折るぞ。
 不穏な空気を感じ取ったのか、周りが一斉にこちらに注目した。その中で華乃だけ
反応が鈍い。俺は華乃の肩に手を置き、呼びかけた。
「華乃」
 俺の声を聞くや、幼馴染みはぱっと振り向いた。
「あ、涼二!」
 華乃の顔は特にいつもと変わらない様子だったが、俺の姿を見ると嬉しそうな笑顔に
なった。
 俺は小さく笑いかける。
「連絡寄越さないから心配したんだぞ。言ってた店と違うし、なんか男も混じってるし」
 牽制するように大声で言うと、左隣にいた友人が「やばっ」と声を洩らした。
 まったく。
「ほら、帰るぞ。お前ちょっと飲みすぎだ」
「ちょ、ちょっと待て」
 マッキーが慌てて立ち上がる。俺は華乃を立たせながら、静かな声で聞き返した。
「何ですか?」
「急にやってきてなんなんだよ。カノちゃんは俺らと飲んでるんだけど」
「こいつ、あんまり酒強くないんですよ。このままだと心配なんで連れて帰ります」
 慇懃無礼に言葉を返すと、男は声を荒げた。
「待てよ! だいたいお前誰だ? カノちゃんとどういう関係だよ?」
 自分の目が細まるのを感じた。
「こいつの彼氏だよ」
 もう言い切ってしまうぞ。華乃がどう思おうと知るか。
「昔からの幼馴染みで、今は同棲してる。なんの手違いがあったか知らないけど、人の
女にちょっかい出すのやめてくれないか」
 男は明らかに鼻白んだ。
「そういうわけで連れて帰るんで。お金はここに置いていくから。帰るぞ、華乃」
 一息に言うと、俺はテーブル上に一万円札を置いて、それから華乃の手を軽く引いた。
127かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:43:40 ID:0b6R5TCS
 と、
「!?」
 そのとき、急に華乃が抱きついてきた。
「おい、華乃!?」
 華乃は返事をしない。
 ただ黙って俺の肩に顔を押し付けている。俺は予想外な華乃の行動に、何度もまばたき
した。
 やがて、囁くように問い掛けた。
「今の言葉……どういう意味?」
 華乃の表情は窺えない。
 俺はどう答えたものか困り果てた。てっきり酔っているからスルーしてくれると思って
いたのだが。
 しかしごまかすわけにはいかない。男たちに啖呵を切った以上、押し通す必要がある。
そのことを華乃が認識してくれているかどうか。
 ただ、そういうこととは別に、もうそのまま想いを吐露していいんじゃないかとも思った。
「そのままの意味だよ。俺はお前の彼氏だって」
 頭を振られた。
「そんなのうそ。涼二はずっと私の幼馴染みじゃない。ただの、幼馴染みじゃない」
「幼馴染みだよ。幼馴染みで、恋人だ」
「……私でいいの?」
「……え?」
 どういう意味か、わからなかった。
 華乃はかまわず続ける。
「あなたを好きになっていいの? もう悩まなくていいの? ごまかす必要はないの?」
「華乃……?」
「ずっと好きだったの。でも言い出せなかった。あなたはいつも遠慮してたから。関係を
持ってもあなたは一歩引いていたから。言えなかった。あなたを憎らしくも思った。でも
そんな風に思うのはお門違いだから。私がはっきり言えないのが悪いから。言えない
自分が情けなかった」
 華乃は周りが見えていないのか、少しも声を抑えない。酔っているせいだろう。感情が
オープンになっている。
 だが俺もそんなことは気にしていなかった。
 酔っ払いのたわごととは思えなかった。その言葉が本当だとしたら、俺は今までこいつ
の何を見ていたのだろう。
 華乃の体はひどく小さく、不安げに震えていた。
 まったく、馬鹿だな、俺は。
 そっと、背中を撫でてやった。
「俺も好きだよ。ずっと好きだった」
「本当に?」
「好きじゃなかったら、あんな関係持つかよ」
 酒の過ちから始まった奇妙な関係だったけど。それが良かったのか悪かったのか、今
でも判断は着かないけど。
 でもこうしてこいつを抱きしめていられるのも、酒のおかげだというのなら、少しは感謝
してもいいかもしれない。
「ごめんなさい。私が馬鹿な提案をしたから」
「俺も悪かった。最初からきちんと言っておくべきだったんだ」
 華乃がゆっくりと顔を上げた。
 その目は微かに潤んでいて、でもはっきりと笑っていた。
「……あー」
 そのとき横から呆れたような声が割り込んできた。見ると、華乃の左隣にいた女が席を
立ち、こちらを見やっていた。腕組みをして、笑みを浮かべている。
「華乃、もう帰る?」
「あ……うん」
「そ。悪かったね。騙すような感じになって」
「ううん、もういいの」
 友人はうなずいた。そして、
「オッケー。幸せそうでなによりだ。じゃあ……さっさと帰れこの裏切り者ー!」
 やけに悲しく聞こえる叫びが、店内に響いた。

 あとで聞いたところ、最近彼氏と別れたばかりだったそうだ。
128かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:44:46 ID:0b6R5TCS
 

 師走の夜風は冷たかった。
 しかしつないだ右手から伝わる華乃のぬくもりのおかげで、少しも寒くなかった。
 華乃は思ったより酔ってはいないらしく、しっかり歩調を合わせて歩いている。
 夜道を歩きながら、ただ互いの体温を感じ取り、その熱と感触に気持ちがどんどん
通じ合うような感覚さえ覚えた。
「なんだか馬鹿みたいだね」
「……何が?」
「今日の私たち」
 華乃はどこか嬉しそうに喋る。
「お酒のせいだよ、たぶん。酔いが回って浮かれてるの」
「かもな」
 見上げる星は、暗い暗い空の向こうではるかに遠い。
 そのはずなのに、俺はそれを簡単につかめそうな気がした。酒のせいではない。隣に
華乃がいることが、俺の気持ちを高揚させていた。
 どれほど酒を浴びようと、こんな気持ちにはなれない。
 あとから思い返したらきっと馬鹿みたいだと思うだろう。でも今は、この高揚感にただ
ただ浸っていたかった。
 ふと、気になった。
「なあ」
「ん?」
「華乃が前言ってた好きな奴って、俺のことだよな?」
 華乃はきょとんとなった。
 それからぷっと吹き出すと、盛大に笑い出した。
「な、なんだよ」
「ううん、すっごく涼二らしいって思っただけ」
 このタイミングで訊く辺りが特に、と華乃は一人ごちる。
「……なんか気になったんだよ」
「さっきはすごくかっこよかったのに」
「いやあれはその場の勢いみたいなもので」
 また華乃は笑う。
「私はずっとあなただけを見ていたよ」
 どきりとした。
「こんな風に」華乃はつないだ手をそっと持ち上げる。「一緒に帰ってたあの頃から、ずっと」
 暗がりの中を、ともに家まで歩いた小さい頃。
 その記憶は俺にとって大切な思い出で、華乃も同じように大切に胸にしまっていたの
だろうか。
 嬉しかった。
 本当に嬉しくて、胸が締め付けられた。葛藤していたときの苦しさにも似た、しかし少しも
苦ではない感覚だった。
 ごまかすように応える。
「俺も、ずっと好きだったよ」
「……うん」
「確信したのは最近のことだけど、でもずっと見続けてきたから。そばにずっといたいと
思ってたから」
 形だけじゃなく、丸ごとそばにいたかったから。
 華乃の手に力がこもった。
「いるよ。ここに」
「……」
「たとえこの手を離しても、いなくならないよ。それはあなたも同じでしょ?」
「……今は離したくないな」
 甘えん坊だね、と笑う。
「いいよ。私はあなたの専属のお手伝いさんだからね」
「改めてメイド服を要求する」
「……そのうちねっ」
 華乃とそうやって笑い合えることが、幸せだった。
 
129かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:46:03 ID:0b6R5TCS
 
 部屋に入った瞬間、俺は華乃の腕を引き寄せた。
「えっ!?」
 優しさより欲が強かった。この一ヶ月間、若いたぎりを少しも解消していない。
 ぎゅっと抱きしめると、華乃が掠れたような息を吐き出した。
「りょ、涼二?」
「外じゃこんなことできないだろ」
 絹糸のような髪を撫で上げる。さらさらとした質感が心地好い。
 腕を伸ばし、壁にあるスイッチを押す。明かりが点いて、互いの姿がはっきりと視界に
現れた。
 華乃は、顔を真っ赤にしていた。
「見ないで」
「何恥ずかしがってるんだよ」
 軽口を叩くが、華乃はそのままうつむいてしまう。
「華乃?」
 俺の胸に頭を押し付けて、顔が見えないようにしている。
 その状態で10秒ほど静止し、それから小さな声でつぶやいた。
「……こんなにくっつくの、久しぶりだから」
「……」
「だから……恥ずかしい」
「お前、さっき衆人環視の中で抱きついてきただろ」
「あれは、ちょっと酔ってたし……それに嬉しかったから」
 華乃は顔を伏せたままぼそぼそと答える。
 そんな華乃の様子は珍しくて、俺の顔はついほころんでしまう。
 膨れ上がる愛しさを抑えるように、強く抱きしめた。
「……困ってる?」
「いや」
 困るとこうしてごまかすくせがあると前に指摘されたが、今は困っているのだろうか。
「……どうすればいいのかわからない」
「……何でも、していいよ」
 華乃の手が俺の背中に回った。
「今は、何でもしていいの」
「……心臓に悪いこと言うなよ」
「お返しだよ」
 つぼみから花が開くように、顔がゆっくりと上げられた。
「私だって恥ずかしいんだから」
 俺の手の力が緩んだ隙に、懐から抜け出す。
 靴を脱いでリビングへと消える華乃の後ろ姿を、俺は誘蛾灯に誘われるように追い
かけた。
 リビングにはいなかった。電気は点いていたが、姿はない。華乃の部屋から明かりと
暖房のスイッチを押す音が聞こえた。そっちか。荷物をソファーに放り投げてから、俺は
華乃の部屋のドアを開けた。
 エアコンの音がする中、華乃はベッドに仰向けになって、ぼんやりと天井を見上げて
いた。
130かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:47:27 ID:0b6R5TCS
「眠いのか?」
 んーん、と小さく首を振る。
「ちょっと、緊張しちゃって」
「緊張?」
「だって……するんでしょ?」
 ストレートな言葉に苦笑いした。
「なんだ? ひょっとして嫌か?」
「そんなことないよ」
「逃げただろ、さっき」
「場所を移しただけだよ。前みたいなことはこりごりだったから」
「前?」
「涼二と初めてしたとき」
 言葉に詰まった。俺はそのとき酔っ払っていて、事の詳細をよく憶えていないのだ。
「玄関で押し倒されるのはさすがにね」
「俺、そんなことしたのか。……いや、さすがに今日は分別あるし、心配いらないぞ」
「うん。ちょっと落ち着きたかったのもある」
 華乃はまた深々と息を吐いた。
 いつもの飾らないジーンズ姿は、とても合コンに行った直後の女子とは思えない。合
コンの件は知らされていなかったらしいが、それにしても女の子らしい服装とはいえな
かった。
 正直俺はほっとしていた。華乃がスカートなど穿いて、他の男たちに見られるのは嫌
だった。みにくい嫉妬だが本心だ。
 華乃は軽く目を閉じながら、何度も深呼吸を繰り返す。
「涼二のせいだからね」
 唐突になじられた。俺は首をかしげる。
「何が」
「一ヶ月もご無沙汰だったこと」
 さらりと言われたことに軽く衝撃を覚えた。
 いや、それよりも、
「俺のせいなのか?」
「涼二が何も言わないんだもん」
 目を開けて、上体を一息に起こした。女の子には腹筋が弱くて出来ない子もいるらしいが、
華乃は運動神経もそれなりにある。
 頬を膨らませてこちらを見やる。じっとりとした目は非難がましいものだった。
 気まずい思いがしたのは、自分でもそれに気づいていたからだった。
「いつも誘うのは私ばかりで、涼二は一度も私を求めてこなかったもん。じゃあ私が何も
言わなかったらどうなるのかなと思って、試してみたんだけど、それでも一向に何も言って
こないから、腹が立って腹が立って仕方なかったよ。もうこうなったら意地でも誘うもんかと
思った」
「……あー……」
 俺は華乃のじと目に冷や汗をかきながら、どう答えたものか必死で考えた。
 しかしこういうときに限って俺の頭はまともに働いてくれない。
131かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:48:59 ID:0b6R5TCS
 結局平謝りした。
「ごめん……。俺も華乃と、その、すごくしたかった。けど、そんなこと言い出せなかった。
最初のときにあんなことをした負い目もあったから」
「……私ばかりしたがってるみたいで、すごく恥ずかしかったんだよ」
 それは確かに嫌だろう。男はまだそういう生き物として見られるが、女はそういうわけには
いかない気がする。知らないが。
「じゃあ、どうすればいいかわかるよね」
「え?」
 華乃はにっこり笑って促してくる。
 その笑みはこちらを試しているみたいで、優しげにもかかわらず怖かった。
 俺はまた頭をフル回転させる。早く。早く何か言わないと。
 しばらくして、決めた。
 ベッドに腰掛けて、華乃の目をじっと見つめる。
「華乃。お前を抱きたい。俺のものにしたい」
 華乃は大した反応を見せなかった。
 ただ一つうなずくと、おもむろに顔を近づけてきた。
 ちょん、と。
 軽い口付けにあっけに取られた。
「私はとっくにあなたのものだよ」
 そう宣言して、幼馴染みは微笑んだ。



 服を脱がすときいつも思うのは、彼女が着痩せをすることだった。
 スタイルがいいのは知っている。しかし今こうして目の当たりにしている体は、どこも
かしこも柔らかそうで、健康的な肉付きをしていた。
 自身は冗談めかして「肉だらけ」というが、細すぎるよりこっちの方がいい。快活な彼女
らしい。
 下着だけの恰好になると、華乃も俺の服に手をかけた。互いの服を脱がすのが、
不思議と暗黙の了解になっていた。
「……やっぱり脱がすの好き」
「俺はものすごく恥ずかしいんだけど」
「かわいい」
 わからない。だけど、俺も華乃の服を脱がすのに興奮するし、似たようなものかもしれ
ない。違うか。鼻息荒く脱がされたら怖いか。
 華乃は俺の服を丁寧な手つきで脱がせていく。暖房が効いているので寒くはないが、
熱のこもった華乃の目が気になる。
 五分ほどして、俺の体を覆うのはトランクスだけになった。
「いつも思うんだけど、痛くない?」
 大きくテントを張っている股間を見て、華乃は妙に真面目くさって言った。俺としては
苦笑するしかない。
「こういうものだからな……別に痛くはないぞ」
「苦しそうだけどね」
 おしゃべりをしながらも、興奮は高まっていく。
 互いに下着は着けたままだ。それでも近づき、寄り添い、愛撫を重ねていくと、性感が
刺激されて、息が荒くなっていく。鼓動が、早まっていく。
132かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:49:58 ID:0b6R5TCS
 俺は華乃の背後に回り、覆い被さるように抱きしめた。
「んっ」
 首筋に唇を落とし、鎖骨に沿うように舌を滑らせた。手は豊かに実った二つの膨らみに
回して、揉み込んでいく。
「ん……涼二って、この体勢好きだよね」
「……な、なんで?」
 図星を指されてうろたえてしまった。
「胸、揉みやすいもんね」
「……俺、そんなにわかりやすいか?」
 そんなに何度もこの体勢でしたわけではないのだが。
「手つきからわかるよ。ああ、好きなんだなーって」
「……」
 俺は沈黙するしかない。それでも手が止まらないのは、あれだ。魔力だ。おっぱいの。
「まあ涼二が喜んでくれるなら、私も嬉しいけどね」
「……なんか、外面を取り繕うのが馬鹿らしくなってきた」
 華乃はくすくすとおかしそうに笑う。
「いまさらかっこつけても意味ないよ。私は涼二のかっこ悪いところ、たくさん知ってるん
だから」
 それでもかっこつけたいのが男だけどな。
 華乃の手が俺の股間に伸びる。
「くっ」
 何度か手でしてもらっているので(口でも二度ほど)、触られるのも珍しいことではない
のだが、華乃の手の柔らかさに毎度毎度反応してしまう。一向になれない様子が、華乃は
おもしろいみたいだが。
 白魚のような指が、トランクスの上から逸物を撫でさする。指の腹で上下にしごかれる
のがたまらなく気持ちいい。
 俺も負けじと、華乃の下腹部に右手を差し入れた。
「ん、やっ」
 ショーツの隙間から人差し指を差し込むと、秘部はしっとりと濡れていた。
「なんだよ、お前も興奮してるじゃないか」
「恥ずかしいこと言わないでよ……」
「さっきの仕返しだ」
 今度は中指も一緒に入れてみる。人差し指より力が入る分、遠慮なく中に進入した。
「ひゃあっ!」
 嬌声がこぼれ、華乃の手から力が抜けた。
 ぬるぬるとした感触の中で、指を大きく動かす。俺の体だけを受け入れてきたそこは、
実に素直に俺の愛撫に応えてくれる。蜜が溢れて指先を濡らし、ショーツにまでしみを
作る。
「んっ、やっ、だめ、そんなにかき混ぜちゃだめ、あっあっあっ、ああっ、だめっ」
 華乃はもう俺への愛撫など考えられないようで、甲高い声を出して悶えた。
 膣内の具合は十分だった。肉は柔らかくほぐれていて、俺の物を簡単に受け入れる
だろう。このぬかるみの中に挿入することを想像しただけで、たまらない気持ちになる。
 このまま指でイかせてもいいのだけど。
「あっ、あっ、あっ、んんんっ、あん、あああっ、ああっ」
 首をいやいやと振って、刺激に耐えている。その乱れようがかわいくて、俺は横を
向いた華乃の頭を左手でしっかりと押さえ、唇を奪った。
「ん――」
 舌が絡み合う。愛液と唾液それぞれの音が重なって、いやらしさに拍車がかかる。
 華乃の体からはすっかり力が抜けていた。
「そろそろ入れたい」
「ん……」
 指の動きを止めて言うと、華乃は小さくうなずいた。
 火照った頬の赤みが、幼馴染みの高ぶりをそのまま表しているようだった。
 
133かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:51:09 ID:0b6R5TCS
 
 先端を膣口に押し当てただけで、俺は果てそうな気分だった。
 ゴムに包まれた逸物は、硬さを保ちながら少しも萎える様子はない。むしろ今からつな
がると思うだけで、硬度が増す気がした。
 ぐちゅ……と、濡れた秘部めがけて男性器が突貫する。
 ゆっくりと腰を押し進めると、ひりひりと痺れるような感覚が脳まで響いた。
 久しぶりの感触だった。
 正常位で奥までしっかりつながると、華乃と目が合った。
「……気持ちいい?」
「……なんか、前よりずっと気持ちいい気がする」
 華乃は不思議そうな顔で俺を見つめた。
「……久しぶりだから?」
「それもあるかもしれないけど……」
 たぶん気持ちが通じ合ったからだと思う。
 肉欲だけじゃない。心が満たされているから、空しくないのだ。
 何よりこの気持ちを、もう隠さなくていいから。
 口には出さないが、華乃もきっとそれを感じているだろう。さっきから膣内の締め付けが
強烈で、痛いくらいだ。
 腰を動かし始めると、また刺激が格別だった。
 電気が走ったかのような痺れが、熱とともに途切れることなく続く。一つ突き入れるごとに
内側から熱がどんどん上がっていって、下半身から頭の天辺まで、体の隅々に刺激が伝播
していくような、快感の波が全身を襲った。
 俺はその快楽に染められていく。
「あっ、あああっ、んん、刺激、強すぎ……っ」
 華乃も興奮していた。愛液が洪水のように溢れて、腰を振ると中でじゅぷじゅぷ水音が
鳴る。性器と性器が擦れ合う度に、華乃の喘ぎ声が耳朶を打った。
「あっ、あんっあっあっ、やぁんっ! 激し……ん、ああっ!」
 まずい。本当に気持ちいい。
 快楽に際限がない。この気持ちよさはどこまでも上っていけそうな気がして、逆に怖く
なった。このままおぼれて沈んだら、二度と抜け出せなくなりそうな。
 幼馴染みが必死で俺の体に抱きついている。
 指が背中に食い込む。吹き出る汗が肌と肌の間で滑り、光沢を生む。
 目の前の女の子は俺のものなのだ。こんなに淫らに喘いでいる彼女が、俺だけのもの
なのだ。
 体を動かして快楽を貪る度に、そのことを実感した。
134かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:52:32 ID:0b6R5TCS
「華乃……」
 幼馴染みの名前を呼ぶ。
「華乃、好きだ……」
 今まで言えなかった想いを、ひたすら言葉にして吐き出した。
「好きだ、好きだ……華乃」
 潤んだ瞳が俺を捉えて離さない。
「んっ、私も好き……涼二が好き……」
「もっと聞きたい。華乃の口から聞きたい」
「すき、すき、だいすき。ずっとずっと好きだったの……」
 溢れ出す気持ちを止められない。
 爆発しそうな想いを胸に抱えながら、恋人を強く抱きしめた。
 深く深く、呑み込むように唇を押し付けた。今はとにかく彼女のすべてが欲しかった。
 腰の動きが一段と激しさを増した。肉のぶつかる音がより生々しく聞こえ、この行為を
一層煽る。
 睾丸が飛び出そうなほど、逸物全体が快感に痺れた。もういつ発射してもおかしくない。
「華乃、もういく……」
「んっ、ああっ、あ、うん、きてきて、いっぱい出してえっ!」
 直後、お湯が噴出するように、溜まりに溜まった精液が勢いよく飛び出した。
「ん、あああ、んん……」
 華乃も同時に一際甘い声を洩らした。
 ゴムの中に吐精しながら、腰をぐうっと奥まで押し付ける。搾り出すように精液を放出し、
完全に出し切ると、疲労感でいっぱいになった。
 体がやけに重く、華乃の上からなかなか動けない。二ヶ月前に初めて味わった快感を、
さらに上回る衝撃だった。
 華乃は疲れきったように目を閉じている。
 俺は彼女を抱きしめたまま、しばらくじっと動かなかった。
 ベッドの上に残ったのは、互いの温もりと、確かな愛しさだけで、それで十分のような
気がした。



 髪を撫でると、華乃は嬉しげに目を細めた。
「涼二の手、優しい」
 うっとりした様子でつぶやく華乃は、すっかり甘えん坊になっている。
 体をくっつけながら、しばらく互いの体を触ったり撫でたりしていたが、やがて華乃が大きな
あくびをした。
「眠いか?」
「うん、ちょっと」
 つられて俺もあくびをしてしまう。思わず吹き出したが、しかし考えてみれば、酒に酔い
ながらさらに激しい運動をしたわけで、眠くならない方がおかしい。
 抱き合いながら、俺と華乃は一緒の布団を被った。
「おやすみ、涼二」
「おやすみ、華乃」
 目を閉じて、しかし抱き合う腕の力は少しも緩めない。
 このまま目を開けると、今日のことが夢に終わりそうな、そんな錯覚にとらわれる。
 でも。
 たとえ夢だとしても、俺は目が醒めたとき、すぐに華乃に想いを告げるだろう。
 そのときもきっと、幼馴染みは微笑んでくれるに違いない。
 触れ合う肌から伝わる想いは、勘違いなどではないから。
 行為の中で、華乃の気持ちがはっきり伝わってきたから。
 俺は自分と、そして華乃の想いを胸に抱きしめながら、ゆっくりと眠りについた。
 ようやくつかんだその想いを、俺は決して離しはしない――。

 <続く>
135かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2010/12/05(日) 03:53:38 ID:0b6R5TCS
以上で投下終了です。
たぶん次で終わりです。
136名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 05:01:33 ID:FiD4MuWz
乙です!
137名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 05:22:51 ID:CYvwHgRz
乙です!
最高
138名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 08:55:28 ID:SEeSag+0
>>135
最高過ぎるんですけど。
139名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 09:04:25 ID:p7jp7ci3
乙だよ これは乙だよ
140名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 10:52:59 ID:jsROK/N4
素晴らしい
GJ
141名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 10:59:14 ID:RmylbsEg
流石ですとしか言いようがないグッジョブ!!
涼二が嫉妬するところで、一緒に嫉妬してしまった
142名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 18:26:01 ID:yKcwMaEW
不良少女な幼馴染ってない?
143名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 20:25:54 ID:RmylbsEg
口が悪いならまだいいけど、不良は俺としてはちょっと・・・
144名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 20:43:40 ID:dSyswMxU
最低限新品のままでないとな
…という制限を設けると喧嘩の腕も高性能になるんだよね
負ける=即レイプだろうし
145名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 20:47:08 ID:M7L2rKRP
保管庫にまんまタイトルなやつなかったか?

ところで俺は
喧嘩は強いものの汚い手にハマり危うく・・・を救助する男側→そのまま・・・
というありがちな流れのがいい。
146名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 21:46:26 ID:2oiknDKz
フルバの今日子さんみたいに、「なんでこうなっちゃったんだろう」って悩んでSOS出してる不良幼馴染っ子なら可愛い
147名無しさん@ピンキー:2010/12/05(日) 22:22:48 ID:OFH5XOo6
男に近づく女に喧嘩ばっか仕掛けてたら
いつの間にか不良扱いされて
男子も女子も近寄ってこないから
男だけが頼りで、唯一の友達で、男にだけは甘えるっていうかツンデレっていうか
そういう電波ってだけなんすけども。はい
148名無しさん@ピンキー:2010/12/06(月) 00:10:25 ID:3Boizf0B
>>143
不良は微妙だよねー。
149名無しさん@ピンキー:2010/12/06(月) 01:09:05 ID:eQYpWYi9
幼なじみ「大きくなったらけっこんしようね」

約束を律儀に守る幼なじみ
しかしある日約束を忘れていた男が他の女と付き合う
幼なじみグレて引きこもりに
窓越しに話し掛けても「今更何よ…」「煩いわね…」の一点張り

でも男も気づいて無いだけで幼なじみのことが好きなので恋人とは長続きしない
その内お互いの気持ちを認め合って恋仲に
幼なじみは超絶あまえんぼに変身

しかし男に未練のある元カノに邪魔されて…

みたいなとこまで考えたけど需要ありそう?
あまえんぼスレ向け?
150名無しさん@ピンキー:2010/12/06(月) 02:55:39 ID:0CcZjnLp
>しかし男に未練のある元カノに邪魔されて…
この一文のせいで修羅場スレ向けかと思ったがあんな所に行けだなんて残酷過ぎて言えるわけがねえ

…まあ、ドロドロしないんならここでもいいんじゃないか
151名無しさん@ピンキー:2010/12/06(月) 08:07:06 ID:eQYpWYi9
>>150
ありがとう
そんな修羅場らない予定だから早速制作開始します
152名無しさん@ピンキー:2010/12/07(火) 22:27:30 ID:KyNl9Tab
In vino veritas 読みなおそうと思って保管庫いったら3話はまだ収録されてなかったわ。残念
153名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 04:25:39 ID:uQEO+L+u
某乙女ゲーで、
○主人公の幼馴染みのお兄さん
○家がお隣
○主人公の通う学校の先生
って設定なのに攻略対象じゃないキャラがいて、
「制作者わかってないな〜」と思ってたら
実は彼は主人公の死んだ姉と同級生で相思相愛、
「学校を卒業したら恋人になろうね」という約束を交わしてた…
というのがあって萌えたと共に(´Д`)
154名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 05:03:42 ID:zlLK5VTs
このスレってこんなに露骨に女アピールしても平気だっけ
155名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 10:26:48 ID:3fdHp3cS
そうやって食いつくのがいなけりゃ何とも思わないと思う
156名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 13:31:37 ID:l3nO1pmL
いや違うな…奴は女ではない
本能が告げている
奴は…ゲイだッ(キリッ)



という事でゲイな幼なじみ男を一途に慕う小動物系幼なじみマダー
157名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 15:55:22 ID:kmDdsaeQ
>>142
どういう不良を想定するかによる。
単なるDQNとかはあれだけど個人的に孤高少女とかなら全然ありですな。
158名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 17:12:35 ID:xeqExFEz
てか女がいたらダメかな?
159名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 17:59:51 ID:riYo4jUl
楽天の二年目のピッチャーが幼なじみと結構したそうな。三歳からで大学で再開。
160名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 22:49:14 ID:pQiauQui
>>142
不良っていうとどうしても「援交」とか「ヤリマン」みたいなイメージを抱き易いからな
要はその辺の説明をどううまくつけるかじゃね
161名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 23:01:11 ID:3fdHp3cS
自分の中ではそれはどっちかというと不真面目って感じ
不良だとあぁンやんのかコラって感じ
162名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 01:18:30 ID:UKKHaEBz
武闘派番長の主人公と武闘派スケバンの幼馴染が喧嘩して川原で殴り合って
夕焼けの川原で横になって「なかなかやるな」「お前もな」というぶつかるほどに深く結びつく作品か
163名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 01:20:10 ID:H11nusEp
ビッチと不良は違うような気もするが。
164名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 01:21:12 ID:pV03Tmg7
ヤンデレをヤンキーデレだと思ってた時があったな
165名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 05:16:13 ID:xXuY8cfz
>>159
戸村ドラ1の上に幼馴染と結婚かよ・・・
うらやましすぎる
166名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 18:25:11 ID:M0LpAcRA
>>165
中学生の時まで家族ぐるみの付き合いがあって大学で再開し交際に発展。と記事にあった。

このスレ的にはたまらない
167名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 19:03:11 ID:Je3M5JNB
>>166
しかも叱咤激励してくれたおかげで野球を続けてるとか、もうね。
最近野球への興味は薄れてたけど、何か応援したくなってくる。
168名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 20:39:40 ID:M0LpAcRA
>>167
あだち充のマンガ並の境遇
169名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 20:40:08 ID:fdcwyCHC
パワプロのレベル
170名無しさん@ピンキー:2010/12/09(木) 20:40:22 ID:pV03Tmg7
カカといいそのまま書けそうだな
171乙女心をカットして 1/4:2010/12/10(金) 01:24:33 ID:fPRypYc6
 俺の幼馴染の美幸は腰まで届く長い髪が印象的な女の子だ。
 顔も可愛いし、小柄ながらバランスのよい肢体や温和な性格とも相まって狙ってる男子生徒は多い。
 ま、俺がいつもそばに居るから変な虫は寄ってこないけど。

 だけど昔の美幸はこんなに長い髪はしていなかった。
 中学校に上がった頃はせいぜい肩に届く程度の長さだったし、今だって洗髪が大変だと良く
言ってるくらいだし。

 それでも長くしているのは数年前、いつもの美容室に行って髪を切ってもらっているとき、
美容師の手元が狂って、運悪く耳たぶを鋏で傷つけてしまったからだ。

 今でも美幸の耳たぶにはそのときの傷跡が残っていて、親や俺以外には余り耳を見せたがらない。
 そしてそれ以来、美幸は美容院へ行かなくなってしまった。

 最初の数ヶ月は髪を切ること自体を頑なに拒否していたので、伸びまくった前髪のせいでさながら
ホラー映画の幽霊みたいになっていた。
 余りに酷いので、せめておばさんに前髪だけでも切ってもらえよといったのだが、それも拒否
された。曰く、「お母さん不器用だから……」だそうで。
 ……確かに、おばさんはあんまり器用なほうじゃない。
 また耳をチョッキンとやってトラウマになっても困るしな……なんて思っていたのだが、続けて
美幸の口から出てきた言葉は、俺をさらにびっくりさせるものだった。

「こーちゃん手先器用だよね……こーちゃんが切ってくれるなら、いいよ。」

                   ◇

 あれから3年、月イチで、俺は美幸の髪を切っている。
 一番最初は前髪をまっすぐに切りそろえただけだったけど、何せこっちは素人。
 髪を切るのは意外に難しくて、上手くそろえるのに何度も切りなおして、前髪が短くなりすぎて
しまったのを覚えている。

 場数を踏んだ今ではかなり上達して美幸の注文にもそれなりに答えられる余裕も出てきたし、
最初の頃は絶対切りそろえさせてくれなかった耳の回りも切らせてもらえるようになっている。
 とはいっても豪快にカットする度胸は無いのでせいぜい伸びた分毛先を切る程度だけど。

 今日も美幸の家の庭に椅子を出して、ケープを羽織った美幸を座らせて鋏を振るっていた。
 長い髪の先を櫛で梳かしながら、スキバサミですいて自然な感じでまとまるように気をつけながら
長さを切りそろえていく

 櫛通りのいいつやつやした黒髪を梳くたびに、美幸の髪からいい匂いがする。
 その香りを楽しむのが、俺のひそかな楽しみだ。
 堂々と女の子の髪に触れる機会なんてそう無いしね。

 シャクシャクとスキバサミで長い髪の先をすいていると、美幸が話しかけてきた。

「結構伸びてる?」
「んー、いつもと変わらないけど。美幸髪伸びるの早いからなぁ。」
「そうかな?」
「うん。スケベは髪伸びるの早いって言うしな。」
「すっ、」

 美幸の背中がぴくんと動いて、そして少しして後ろから見える耳たぶが赤くなったのがわかった。

「……私、スケベじゃないもん。」
「うん、美幸は超オクテだよな。ちょっとエッチな話しただけで真っ赤になるし。」
「……こーちゃんの意地悪。」
172乙女心をカットして 2/4:2010/12/10(金) 01:26:01 ID:fPRypYc6
 前髪を切ろうと回り込んでみると、美幸はちょっとだけふくれっ面になっていた。
 でもそれがかえって可愛らしく見える。

「前髪切るから、目閉じろよ。」
「うん。」

 美幸がふくれるのをやめて目を閉じる。
 それを確認してから、俺は目にかかりそうになっていた前髪を手にとって櫛を入れる。
 そして長さを眉に掛かるか掛からないかぐらいに切りそろえる。

 目の前には目を閉じてすまし顔の美幸の顔がある……なんかこうやって見ていると、キスされるの
待ってるみたいな……いや、何考えてるんだ俺は。

 誤魔化すように白いつやつやのほっぺについていた髪の毛を指先でそっと取り除く。
 美幸は今でも緊張するのか、長いまつげがふるふると震えていた。

「まだ緊張する?」
「うん、緊張してる。」
「ハサミ、まだ怖いんだ?」
「……そうじゃないんだけど。」
「ちがうの?」
「……」

 なぜか美幸は少し赤くなっただけで答えなかった。
 なんなんだ?

 気を取り直して、鋏を動かす。
 耳の手前のところは特に慎重に、美幸が怖がらないように丁寧に切っていく
 一通り手を入れたところで、前や横からバランスを見てさらに少しずつ整える。

 耳は傷があるので普段出して無いけど、髪を切る時だけは前髪のバランスを見るのにちょっとの
間だけ出す事にしている。
 指で髪を掻き揚げて耳の後ろに流してやると、耳の後ろがくすぐったかったのか少しだけ肩が
ぴくっと震えた。

「くすぐったかったか?」
「……うん。ちょっとだけ。」
「普段髪で隠してるから敏感になってるんじゃ無いか?」
「こーちゃんの触り方がちょっとエッチなんだよ。」

 さっきの仕返しか、美幸はそう言ってニマニマ笑う。
 俺はそれを流しつつ、微妙に不ぞろいな毛先を鋏の先で切りそろえて整える。
 これで完成。素人としてはまあ上出来だろう。

「はい、出来上がり。」

美幸の顔の髪を払って、手鏡を渡してやる。
美幸は鏡の中の自分を覗き込んでからにっこりと笑った。

「うん、やっぱりこーちゃん上手だよ。綺麗になった」
「とはいっても素人だからたかが知れてるけどな。」

 場数はそれなりにこなしたし、ネットで調べたりはしてるものの、正式に勉強したわけじゃない。
 技術的な未熟さのせいでせっかくの美幸の魅力を引き出せていない気がする。
173乙女心をカットして 3/3:2010/12/10(金) 01:28:00 ID:fPRypYc6
「私は十分だと思うんだけどな……」
「いや、美幸をもっと綺麗にしてやりたいし……」

 おばさんが丁度いいタイミングでお茶を持ってきてくれたので二人で縁側に並んで腰を下ろした。
 お茶菓子をつまんでお茶をすすりながら、前々から思っていた事をふと口にしてみた。

「うーん、やっぱり高校卒業したら美容専門学校行こうかな。」
「え?」

 美幸がびっくりした顔で俺を見た。
 美幸の事だけでなく高校も残りあと一年ちょっととなって、これからの進路をどうしようかと
考えているときにふと思ったことだ。
 学校に行って技術を学んで美容師になれば今よりももっと上手に美幸の魅力を引き出すことが
出来るようになるかもしれない。

 でも、なぜだかそれを聞いた美幸は少しがっかりしたような、ふてくされているように見えた。

「私は……反対。」
「え? ダメか?」
「私は……こーちゃんと一緒に大学に行きたい。それに……」
「それに?」
「……なんでもない。」
「……いや、なんか気持ち悪いなぁ。言いたい事あるんなら言ってくれよ。」
「……笑わないでね。」
「? ああ。」

美幸は少しだけ赤くなって、こほんと一つ咳払いをしたあとで答えた。

「……他の女の子の髪触ってるこーちゃんが、なんか嫌なの。」
「へ?」
「なんか、嫉妬しちゃうって言うか……」

 そこまで言って美幸はうつむいてしまった。

「あ、あー、えっと……」
「さっきだって……前髪切ってもらってるときって、なんかキスしてくれるの待ってるみたいで、
 なんか緊張しちゃうって言うか……私が一人でそう思ってるだけなんだけど。
 ……やっぱり、私ってスケベな子なのかも。」

美幸はもうすごい真っ赤な顔で茹で上がりながらそんな事を言っていて、俺は俺で頭の中が真っ白というか極彩色というかになっていた。

「いや、まあ、さっき俺もちょっとそんなこと考えてたし……別にスケベってわけじゃ……」

 ぐしゃぐしゃの頭をフル回転させて搾り出した言葉はまさに墓穴を掘ってるとしか思えないもので。

「じゃあ、私だけがそう思ってたわけじゃないんだね……ん……」

 そんな俺の言葉に、美幸は真っ赤な顔を俺に向けて目を閉じた。

 そうまでされたら、俺のやることは一つなわけで……
 なんて言ったら良いか……美幸の唇はすごく柔らかかった。

                   ◇

 その後、丁度お茶のお代わりを持ってきていたおばさんにその場を見られて二人で大パニックに
陥ったりとか、まあ、色々あったりしたんだが……大学に進学した今でも俺は美幸の専属美容師を
続けていたりするのだった。
174名無しさん@ピンキー:2010/12/10(金) 01:30:23 ID:fPRypYc6
>>116でネタの振り逃げやっといてなんだが
手前でなんとなく書いてみた

久々に投下したらレスの数計算ミスったお
175名無しさん@ピンキー:2010/12/10(金) 02:17:12 ID:7MqVIJ21
ははははは、失敗したなら合うように続きを書けばいいではないか。



そして更にGJと言わせてくださいなにとぞどうかお願いします
176名無しさん@ピンキー:2010/12/10(金) 18:22:55 ID:xkrLn32L
小ネタの枠におさまりきらねえ
177名無しさん@ピンキー:2010/12/10(金) 19:03:19 ID:m0gzjjGZ
GJだ!
178名無しさん@ピンキー:2010/12/12(日) 01:56:32 ID:MHfdwAdg
>>164
ヤンデレ彼女という漫画があってだな

>>174
GJ
179名無しさん@ピンキー:2010/12/12(日) 04:07:52 ID:j8nnXa/9
これは実にうまくまとまった良品
実にGJ
180名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 10:16:51 ID:50gB2/Xl
>>169
パワプロやない、パワポケや!

ちなみにパワポケ13には生意気妹系幼馴染みが出ますよ。…トゥルールートが凄まじいが。
181名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 10:55:34 ID:/EdU/7Z6
何気に生意気系統の幼馴染って少ないよな
ちょっと気が強くても、すぐ顔が赤くなってへたれるし
182名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 12:32:43 ID:3Rde1vlM
母やくたすケにきで
183名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 20:23:35 ID:k+eVAevP
あ・・・あかねちゃ
184名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 23:11:11 ID:ZXUvTtak
両思いなのに、引っ付かないってのは幼馴染の醍醐味だと思う
185名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 00:14:11 ID:q0JB9Pwq
幼馴染の強気腐女子に
漫画描く資料という大儀のもと、あんなことやこんなことされまくってるヘタレやさぐれ系男子
幼馴染を好きな手前、嫌ともいえない
幼馴染は幼馴染で、腐女子仲間にも資料としていいように遣われている男を見てちょっとむくれたり

みたいなドツボ電波を受信したのに文を書く力がないしにたい
186名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 00:18:12 ID:yExkwdJY
全然読みたいと思わねえ
187名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 01:58:04 ID:a5RlzhEK
設定を読む限りでは、幼なじみである必要性が全くないな
188名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 02:02:23 ID:iWSXi/JO
試しに
強気腐女子に漫画描く資料という大儀のもと、あんなことやこんなことされまくってるヘタレやさぐれ系男子
強気腐女子を好きな手前、嫌ともいえない
強気腐女子は強気腐女子で、腐女子仲間にも資料としていいように遣われている男を見てちょっとむくれたり
189名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 02:02:38 ID:ecShKbwb
HOOKSOFT
190名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 05:02:17 ID:ZJvqmEKQ
くっ付きそうでくっ付かない。それがくっ付くまでの過程が一番面白い。
祭りは準備してる時が一番楽しいってな。
191名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 17:54:35 ID:SymRT2aG
ラノベのなんたら家族砲って最初からくっついてたっけ。
そんな設定をチラッと聞いたからまったく読む気がしない。
いくら甘甘でも
192名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 19:16:38 ID:fz9a5AA8
幼なじみラノベを絵で選んだらパクリ発覚して発禁になったでござる
193名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 20:39:38 ID:4vak5HUn
>>191
某所のテンプレにも入れないということはそういうことなんジャマイカ?
194名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 21:05:13 ID:iWSXi/JO
周りからは夫婦とか呼ばれるくらい阿吽の状況
そこでイベントが起きて急に異性として意識し始めてあたふた
紆余曲折あって俺はお前が好きなんだと告白
でも彼女はその告白は覚えていなかったのでした

で一巻は終わりだった気がする
195名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 21:47:01 ID:SymRT2aG
>>193あそこのテンプレ、未整理だからわからんけど今の段階では入ってないんだ?
微妙に騒いでた気がするが。
196193:2010/12/15(水) 12:07:46 ID:HIYdPXmm
>>195
久々に見に行ったら禁止図書扱いだったぜひゃっほい
197名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 18:23:42 ID:Pj5ag8Ck
結末知らんが、その展開による判断だろうな・・・。
198名無しさん@ピンキー:2010/12/18(土) 01:02:27 ID:F9Xo+N3k
世田谷の事件で被害者の女の子が8才の年に幼馴染の男の子とバレーしていたビデオが流れていた。
不謹慎だがもし生き残ったらを想像してしまった。
自分が悪い人間だと想うと共に犯人許せないと感じた
199名無しさん@ピンキー:2010/12/18(土) 02:10:39 ID:ieKfDajp
そういえばセックスレスで悩んでるマスオさん旦那がいて、実は奥さんは数十メートル程しか離れてない近所に住んでる幼なじみとW不倫してた、って話があったな
ありゃ旦那さんがかわいそうだったけど笑ったww
200名無しさん@ピンキー:2010/12/18(土) 19:53:21 ID:uRqAaQf4
「すなば〜」さんと「My」さんの続きをお待ちしております
201名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 00:03:20 ID:/MZvFnwt
>>199
W不倫って旦那は奥さんの幼馴染の男の奥さんと不倫してたのか?
202名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 07:00:14 ID:Yoqzf7UE
>>201
W不倫ってのは既婚者同士の不倫ね。片っ方だけでも

間男の家に突撃して「お前の嫁を抱かせろ!」の下りは笑った
203名無しさん@ピンキー:2010/12/21(火) 19:58:39 ID:72ILkGYm
帰ってきた大阪弁幼馴染(女)に襲われる少年
204名無しさん@ピンキー:2010/12/22(水) 00:57:22 ID:NvL8Vvwe
子供の頃からの幼なじみでお嬢様と執事見習い
もしくはその逆のおぼっちゃまと侍女でひとつ
205名無しさん@ピンキー:2010/12/22(水) 01:06:24 ID:+NWJm2x+
>>204
執事見習いがメイドさんと仲良くしてるの見て膨れるお嬢様とか最高です。はい
206名無しさん@ピンキー:2010/12/22(水) 16:06:00 ID:Nkle0qCB
マナケミア2のリリアのことかー!
207名無しさん@ピンキー:2010/12/23(木) 23:06:19 ID:IJP4H7vV
普段は色気なさそうな関係なのにふたりっきりになるとえろえろしちゃうのも
個人的に好きです。
208時代劇風味:2010/12/24(金) 21:30:40 ID:OMOQ4jW+
時代劇風味で書いてみました。

正直幼馴染かどうか微妙な設定ですが、
ここ以外に投下できそうなところが思いつかないので
なにとぞご容赦を
できれば批評を聞いてこれからに繋げていきたいです

では投下
209時代劇風味:2010/12/24(金) 21:33:08 ID:OMOQ4jW+
相田新左エ門は決して顔が悪いわけではなかった。
長身で体つきもがっしりしているし、仕事もそれなりにできる方だった。
しかし新左エ門はときたま、突然に物思いに耽る癖がある。そのうえ、またこれも突然に、くっくっと低く笑いだすのだ。
呆けているような顔をしていると思うと不気味に笑いだす新左エ門を、人は頭のおかしな奴だと言って避けて歩く。
だから同僚に持ちかけられた縁談で紹介された女――今は新左エ門の妻であるが――を一目見たとき、
新左エ門は驚きが隠せないでいた。
女の名は芳乃という。
変人、あるいは狂人扱いされている自分にとって、芳乃はまったくもって釣り合わないと新左エ門は思っていた。
芳乃は小柄で色も白く、そして誰もが目を引くような美貌の持ち主だった。
器量も良く料理もできて、誰からみても文句のつけようのない妻だった。ただ、物事に関して少し反応が薄いことと、
何事にも、何者にもはっきりとものを言うところは、人によっては鬱陶しいと思われることもあるようだが、
新左エ門からすればそれさえも好ましく思えた。
芳乃を娶ってからというものの、新左エ門は、妻の前では例の癖は出すまいと気をつけていた。
もっとも、この癖について新左エ門は自覚はなく、同僚に指摘をされてようやく気付いたので、
出さないようにするというより、芳乃とあまり顔を合わせないようにしていたのだ。
210時代劇風味:2010/12/24(金) 21:34:18 ID:OMOQ4jW+


 「おまえさまはそんなに私のことが嫌いでございますか」

 芳乃を娶ってから三年ほどたったある日、芳乃が突然にそう聞いてきた。

 「そんなはずはなかろう。お前ほどの良妻を、どうして嫌いになれようか」

 「ではなぜ私のことをお避けになるのですか」

 「そんなことはない」

 「そうでしょうか」

 初めて聞く芳乃のきつい物言いに、新左エ門は箸を置いて芳乃の顔を見た。
 そしておもわず、あっと声を出す。
 芳乃は目に涙をたたえていた。普段何にも動じない芳乃が泣いているのをみて、新左エ門は慌てふためいた。

 「まて、なぜ泣くのだ」

 「愛する夫に月に数えるほどしか顔を合わせてもらえないのですよ。それを三年も続けられていては、泣きたくもなります」

 「その程度のことで」

 「私にとってはその程度ではないのです」

 それは静かな口調ではあったが、まるで悲痛な叫びのようにも聞こえた。
211時代劇風味:2010/12/24(金) 21:36:10 ID:OMOQ4jW+

 「これ、落ち着かんか」

 「いいえ、もう我慢できません。私がなんのために、誰のためにこんなに肌を磨いて、家事やら料理やらを頑張って覚えたのかお分かりにはならないのでございますか」

 「それはもっと然るべき家に嫁ぐために女を磨いてきたのであろうよ」

相田の家は百石、対して芳乃の実家は二百五十石で、本来であれば芳乃はもっとほかに嫁の貰い手が然るところにあったはずなのだ。それは新左エ門が前々から考えていたことでもあった。

 「おまえさまは私ではご不満でございますか」

 「そんなことは言っておらん」

 「ではなぜ」

新左エ門は本当のこと――例の癖のことを言ってしまおうかと一瞬逡巡したが、
ほんの少しの男としての自尊心が邪魔をしたため、あえてそっけなく答えた。

 「どうでもよかろう」

 「私は、おまえさまを愛しているのでございます」

 またこれも静かに、しかしはっきりと芳乃は言い放つ。

 「おまえさまが私を愛していなくとも、私はおまえさまを愛しているのでございます」

 新左エ門は自分の頬が熱くなるのを感じていた。

 「女子がそのようなはしたないことを」

 「しかしおまえさまはこうでも言わないと私の気持ちに気づいてはくれないでしょう」

鈍いんですから、と呟きながら、芳乃はだんだんとにじり寄ってくる。新左エ門は逃れようと後ずさるが、
そこでようやく自分が既に壁際に追い詰められていることに気がついた。

 「まて、まて。落ち着け」

 「では訳を教えてくださいまし。おまえさまが私を避ける訳を。私のことがお嫌いならばどうぞそう言ってくださって結構です」

 「そうは言っておらんだろう。今話すから落ち着け」

そう言うと、芳乃はすっと身を引いて姿勢を正した。新左エ門もそれに倣うように芳乃と向き合って姿勢を正す。
しかしどう話したものか、と新左エ門は悩んでいた。
こんな話をして愛想を尽かされてしまってはどうしようもないし、何か良い言い訳はないものか。
しばらく俯いて考えていた新左エ門はちらと芳乃の方を窺った。そして言い訳を考えている自分がひどく情けなくなった。
芳乃は毅然とした表情をしようと努めてはいるようだが、今にも泣きそうな表情をしていた。
目尻には今にも零れんばかりの涙をたたえ、新左エ門が話を切り出すのを待っていた。
新左エ門はとうとう観念して、すべてを打ち明けようと決めた。
212時代劇風味:2010/12/24(金) 21:38:33 ID:OMOQ4jW+

 「わしはな、城内で変人、ともすれば狂人扱いされておる。知っているか」
 
 「……はい。そのような噂も、耳にしております」

 「ならば話は早い。わしはな、ときおり呆けた顔をしているかと思うと、不気味に笑いだすのだそうだ」

新左エ門は顎にうっすらと生えている髭を擦りながら、嫌そうに言った。

 「私はついぞ見たことはありませんが」

 「それはそうだろう。わしはそのような、なんだ、自分の不気味なところをお前に見せないようにしていたのだからな」

新左エ門は言いながら、なんと自分は女々しい男だろうと思っていた。
そして続ける。

 「だからそのために、お前と顔をあまり合わせないように――お前からすれば、避けるようにしていたわけだ」

 「な」

とそれだけ言って、芳乃は固まってしまった。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、自分に呆れたのだろうと新左エ門は思った。
そして次には罵倒でもされるだろうかと考えた。
芳乃はしばらくするとはっとしたようにまた姿勢を正して言った。

 「では、おまえさまは、私に嫌われないようにと、そのような理由で、私を避けていたと申すのですか」

 「……まあ、そうなる、か」

新左エ門が歯切れ悪く答えると、芳乃は俯いてしまった。
ああ、これは愛想を尽かされたかもな、と新左エ門は思った。
芳乃の父親は豪放磊落を絵に描いたような気質の持ち主で、いつもどっしりと構えていて、
言いたいことははっきりと言い、正義感にあふれ、上役にも喰ってかかるような人物だった。
そんな父親を見て育った芳乃からすれば、今の自分のなんと女々しいことか。
これは何を言われても仕方がないな、と新左エ門は思う。
しかし、芳乃は顔を上げたかと思うと、新左エ門に抱きついてきた。
かろうじて受け止めることはできたが、それでも新左エ門はな、な、と言って事態を飲み込めずにいた。
213時代劇風味:2010/12/24(金) 21:39:41 ID:OMOQ4jW+

 「うれしいです」

新左エ門に抱きついたまま芳乃は言う。首筋に当たる芳乃の息がくすぐったい。

 「これ、やめんか」

 「いいえ、やめません。今まで我慢していた分を、発散させていただきます」

今までもこうしたいと思っていたのかと思うと、新左エ門は自分の顔が熱くなるのを止められなかった。
しかしなぜこんなにも芳乃が喜んでいるのか、新左エ門はいまだに理解できないでいた。

 「私がお前様を嫌うなどありえません」

 「なぜ」

 「おまえさまを愛しているからです」

 「またそのようなはしたないことを」

新左エ門の咎めるような声も聞かず、芳乃は抱きついたまま、新左エ門に訊ねてきた。

 「おまえさまは、その、例の癖をしているとき、なにをお考えなのですか」

 「…………」

 「……私には言えぬようなことですか」

 「いや、そうではない。うん、昔のことを、少しな」

芳乃は、昔のこと、とどこか懐かしむような声で相槌を打った。
そうだ、と言って、新左エ門は話し出した。
214時代劇風味:2010/12/24(金) 21:44:12 ID:OMOQ4jW+

昔、新左エ門は川とか沢とか、そういった水辺でよく遊ぶ子供であった。

ある日、寺子屋の帰りにいつものように川で遊んでいると、遠くからこちらを眺めている少女がいた。
どこか寂しげにしているその少女と目が合うと、少女は慌てて背を向け、どこかへ走って行ってしまった。

次の日も同じように遊んでいると、前と同じようにして少女はこちらを見ていた。
そして同じように目が合うと、どこかへ走って行ってしまうのだ。

それが何日か続いた次の日、新左エ門は少女にちょっとした悪戯をしてやろうと考えた。

いつもは寺子屋から川までゆっくりと歩いてくるのだが、その日は走って行った。
そして少女がいつも立っているあたりに来ると、近くの茂みに身を隠した。

しばらくすると、少女がやってきた。初めて間近で少女のことを見た新左エ門は、素直に可愛いと思った。
色白で小柄な少女で、少し地味ではあるが、決して安物ではない着物に身を包んでいた。
悪戯などせず普通に声をかけようかと一瞬悩んだが、新左エ門は意を決して計画を実行した。

少女は新左エ門がいないのを確認すると、少ししょぼくれたような顔をして、とぼとぼと歩きだした。

新左エ門はなるべく気配を殺して少女の後ろに忍び寄ると、
あらかじめ捕まえておいた蟹を、少女の首にそっとくっつけた。

すると少女は、きゃあ、と可愛らしい声をあげて転んだ。

やりすぎたかな、と新左エ門が思っていると、少女はしきりに右足首のあたりを撫でていた。
どうやら捻ってしまったらしい。

これは悪いことをしたと思い、新左エ門は少女前に膝をついて、大丈夫か、と声をかけた。
少女は、大丈夫です、と言いながら立ちあがったが、足に力が入らないらしく、また転びそうになった。
新左エ門はそれをすかさず受け止め、送っていこう、と言った。

少女は、申し訳ありません、とはにかみながら顔を上げた。

そして新左エ門と目が合うと、みるみるうちに首から耳まで真っ赤に染まり、
あ、あ、と釣ったばかりの魚のように口をパクパクさせた。
新左エ門は、そんなに痛むのか、どこかほかに痛いのか、と声をかけるが、少女は首を横に振るばかりでなにも答えない。

少女の様子に動転してしまった新左エ門は、少女の膝の裏と肩のあたりに腕をまわし、少女を抱き上げた。
そうして一目散に自宅に連れて行った。

抱きかかえている間少女は顔を真っ赤にしたまま終始無言で、新左エ門の気を余計に焦らせた。

家に着くと、ちょうど非番だった新左エ門の父親がどこの家の娘かなどど少女に訊ねてみたり、
世話好きの母親が足首に包帯を巻いたりしていたが、少女は頬を少し赤くしたまま、まるで魂が抜けたように呆けていて、
ほとんど口を利かなかった。そうしてついには新左エ門と口をきくこともなく迎えの者におぶられて帰って行った。

その日は親父に、女子に怪我をさせるなどそれでも男か、と拳骨をくらい、長々とした説教を聞く羽目になった。
陽もとっぷり暮れてから、母親に、そこらへんにしたら、と言われてようやく親父は新左エ門を解放したが、
それ以来ことあるごとにこの話を持ち出されるようになって、新左エ門は、もう悪戯などするものか、と堅く心に誓った。
215時代劇風味:2010/12/24(金) 21:47:22 ID:OMOQ4jW+

それから数日。新左エ門は少女と会っていなかった。

新左エ門は初め、会って一言謝って、あわよくば友達になりたいなどと考えていたが、
今では、少女に会うことはもうかなわないのかもしれない、とも考えていた。

悪戯の挙句怪我をさせてしまったのだから、それも当然か。
そう思うと淡く寂寥感のようなものが心に湧き上がるのを感じたが、新左エ門にはどうすることもできなかった。

その日も寺子屋の帰りに遊んで行こうと新左エ門は川の方に足を向けた。
いつもの場所に来ると水の中に手を突っ込んで石の下やらを掘り返す。
蟹とかヤゴとか小魚を探して捕まえるのが新左エ門の常だった。

しばらくそうして、今日は不作だな、などと思って腰を上げた。

そこでふと、後ろからの視線に気がついた。

振り返ると、あの少女が立っていた。この前とはうって違って、かなり質素で、安っぽい着物に身を包んでいた。
少女は色白の顔をほんの少しだけ赤らめながら、もじもじとして何かを言いたそうにしている。

新左エ門はとりあえず謝らなければと思い、先日は済まなかった、などと堅くるしく謝辞を述べた。

すると少女は最初、まるで自分が何について謝られているのか分からないといったような様子できょとんとしていたが、
ようやく思い当ったのか、今度はより一層顔を赤くしながら、あたふたとしだした。
そして身振り手振りで何かを伝えようとしていた。

そうとは知らず、新左エ門が訝しげな顔をしながらまるで踊りのようなその動きを見ていると、
少女はとうとう首から耳まで真っ赤になり、眉を八の字にして、口をすぼめていつぞやのようにまた固まってしまった。

新左エ門は、どうすればいいのか一向に分からず、とりあえず言葉をかけようと少女の肩に手を置いた。
するとその瞬間、少女はいきなり新左エ門に飛びかかってきた。
新左エ門は突然のことに対応できず、そのまま少女と共に川に落ちた。

新左エ門が打った尻の痛みに顔をしかめていると、少女が自分に抱きついていることに気がついた。

新左エ門は、これ、女子がはしたないぞ、と少女に声をかけたが、少女は新左エ門の腰に腕をまわして、
顔を新左エ門の胸にうずめたまま離れようとはしなかった。

どうしていいのか分からずそのままにしていると、少女がぽつりと何かを呟いた。

川の水音にさえぎられて、新左エ門はそれを聞きとることはできなかった。

しかしもう一度言わせるのも何かおかしい気がして、とりあえず、こちらこそ、と言った。

少女はそれを聞くとひときわ強く新左エ門を抱きしめ、それからすぐに立ち上がってずぶ濡れの恰好のまま駈けて行った。

そして少女とはそれきり会うことはなかった。
216時代劇風味:2010/12/24(金) 21:50:06 ID:OMOQ4jW+

 「その時のことを思い出すと、なぜだか無性におかしくなってな。
  お前が嫁に来てからは前にもまして思い出すようになって、それで顔を合わせようとしなんだ」

芳乃は新左エ門の話を静かに聞いていた。新左エ門を見つめる瞳には、驚きと、どこか寂しげな色が浮かんでいた。

 「……その少女は、今どうしていると思っていますか」

 「さあな。綺麗な娘であったし、どこぞの大きな家の嫁にでもなっているのではないか」

 「……お会いになろうとは、思わなかったのですか」

 「思ったとも」

実際、新左エ門は少女に会いに行こうとはしたのだ。
しかし家を訪ねようにもどこの家の者か聞いていなかったし、両親に訊ねても教えてはくれなかった。
少女を探して町を徘徊したこともあったが、結局会うことはなかった。

なんとももったいないことではあるがの、と新左エ門がそう言うと、芳乃は、そうですか、とだけ言って俯いてしまった。
芳乃の様子に新左エ門は何かまずいことでも言ったのかと思って声をかけようと思ったが、芳乃の方が先に口を開いた。

 「その少女は、きっとおまえさまが会いに来てくれるのを、ずっとずっと、待っていたのではないでしょうか」

 「そうかもしれんが、所詮は推測の域を出んことだ」

新左エ門が少し冷たく言い放つと、芳乃は顔をあげ、綺麗な瞳で真っすぐと新左エ門を見つめて言った。

 「私は、お待ちしておりました」

新左エ門は、芳乃が何を言っているのか分からなかった。

芳乃は続ける。

 「川に落ちた次の日、私は風邪を引いて、それきり水辺に近づくことも、男の方とお話をすることも許されませんでした。
  父上は私を溺愛してましたし、怪我をしたり風邪をひいたりを立て続けにしたので、当然ではありました。
  でも、おまえさまのあの言葉のおかげで、ここまで頑張ってきました。」
217時代劇風味:2010/12/24(金) 21:53:28 ID:OMOQ4jW+
そこで芳乃はまた俯いて、でも、と再び言って続ける。

 「おまえさまには、私の気持ちは、伝わっていなかったのですね」

新左エ門はようやく理解した。

あのときの少女は――

 「芳乃、お前だったのか……」

こくん、と、芳乃は小さく頷いた。

 「だがなぜ、今まで黙っていたのだ」

 「おまえさまは、私のことなど憶えていないと思ったのです」

忘れるわけがない、と新左エ門は言おうと思ったが、芳乃はその言葉を遮るように言った。

 「町で一度だけ、おまえさまにお会いしました」

 「なに?」

新左エ門には心当たりが全くなかった。
会っていれば昔も今も変わらない美しさを見紛うわけもないし、新左エ門はきっと話しかけているはずだ。
しかしそんな記憶はない。

 「おまえさまは、綺麗なお方と楽しそうに二人で歩いていました。私は声をかけようかとも思いましたが、
  おまえさまの邪魔はするまいと、静かに見送りました」

 「ああ、そいつはな」

新左エ門は、それについては心当たりがあった。
二人で出掛けるような気心の知れた女といえば、新左エ門には一人しかいない。

 「おそらく、わしの従妹だ。お前がうちに来る前にな、どこの馬の骨とも知れぬ男と駆け落ちして、それきりだがな」

 「いと、こ」

うん、と新左エ門は頷いて、芳乃を見た。

218時代劇風味:2010/12/24(金) 21:53:56 ID:OMOQ4jW+

 「ところで芳乃」

 「は、はい」

芳乃は一瞬びくっとしたが、すぐに落ち着いて新左エ門を見た。

 「あのときお前は、わしになんと言ったのか、教えてはくれぬか。今更ではあるが、きちんと返事をしたいのだが」

新左エ門がそう言うと芳乃は顔を朱に染め、しかし、しっかりと新左エ門を見つめて言った。

 「私は……貴方様をお慕い申し上げています、と、あの時、そう、申しました」

新左エ門は自分の顔も同じように赤くなっているだろうな思いながら、しかしまた芳乃と同じように、相手の目をしっかりと見つめて返事をした。

 「わしもだ。昔から、お前のことしか見ていなかった」

新左エ門にそう言われて、芳乃は喜怒哀楽のどれとも取れないような顔をして。

いつか川の流れの中でそうしたように新左エ門の腰に手を回し、胸に顔を埋めて、

首から耳まで真っ赤に染めたまま、小さく、しかしはっきりとした透き通るような声で、

今胸にあふれる気持ちをそのまま伝える。

 「おまえさまを愛することができて、おまえさまに愛してもらうことができて、私は幸せです」

新左エ門もまた応える。

 「ああ。わしもだ。わしも、お前がいてくれて――お前がわしを好いていてくれて、幸せだとも」

新左エ門がそう返すと、芳乃は一層顔を赤くして、幸せそうに微笑んだ。
219時代劇風味:2010/12/24(金) 21:54:33 ID:OMOQ4jW+
終わりです
エロ無し宣言忘れてました
スイマセン

220名無しさん@ピンキー:2010/12/24(金) 22:34:16 ID:jnrhUBVo
まずはGJ!
お互い不器用そうなところが、時代物の三人称の文体にマッチしてていいんじゃない?
微妙に家格違いとかその辺りの要素がさりげなく効いてる。
221名無しさん@ピンキー:2010/12/24(金) 22:38:33 ID:85k7qLub
>>219
クリスマスプレゼントきた

GJ!!!!
222名無しさん@ピンキー:2010/12/25(土) 02:41:56 ID:NM9a+jgB
さっき作ったSSを投下します
暇だったもので・・・
223クリスマスの日 1/4:2010/12/25(土) 02:43:47 ID:NM9a+jgB
外には雪が降っており、冷え冷えとした空気が広がっていた。
にもかかわらず、町の至る所に人の姿が見えた。
とりわけ、カップルの姿が目に付く。それもそのはずで、今日はクリスマスだからだ。
人々の間には、寒さを忘れてしまうくらいの暖かい雰囲気が満ちていた。
寒さを与えるために降り注ぐ氷の結晶も、この日ばかりは多くの喜びをもたらす天からの贈り物となっていた。


「飾りつけはこんなもんでいいだろ」
「あとは星だけだね」

暖房の効いた温かい室内で二人の男女の会話が聞こえる。
女の子――沙希<さき>が星を手に取り、それをツリーの頂点に乗せた。

「これで完成っと」
「よし、終わったな」

二人は仕事を終えてコタツにもぐりこんだ。その上にはケーキが乗せられている。
食べる前に男子――武<たける>が沙希に声をかけた。

「あーあ、父ちゃんと母ちゃんがいれば、こんな飾りつけなんてしなくてすんだのに」
「仕方ないでしょ。おじさんもおばさんも今年は遅くまで仕事なんだから」
「しっかし、沙希はツリーの一番上まで届くような年齢になっちまったんだなー、俺も老け込むわけだ」
「どうしたの、急に親父くさいこと言って。まだ17歳でしょ」
「そうは言っても、昔の俺ならこんな雪の日は真っ先に外に出て遊んだんだけどなー。今じゃそんな元気は出ねぇんだよ」

そう言われると自分も老け込んだような気がしたが、それは雪を見てもはしゃがない年齢まで立派に成長したのだ、と沙希は思うことにした。

「まぁ、確かに。子供の頃は雪を見るとすぐ外に飛び出していったもんだよね」
「雪合戦したり、雪だるま作ったりしたなー」
「かまくらとかも作ったよねー」
「作った、作った。中に入った途端、崩れたりしてな」
「あれはホント・・・死ぬかと思った」
二人は顔を見合わせて笑った。
224クリスマスの日 2/4:2010/12/25(土) 02:45:11 ID:NM9a+jgB
ケーキを嚥下し終わると、沙希はツリーのほうへと視線を向けた。

「このツリー、もう十年以上使っているよね」
「悪かったな。買い換える金がねぇんだよ」
「あっ、いや、そういう意味じゃなくて。私達が子供の頃から――」
「ひひひ、冗談だよ。そうだな、昔からずっとこのツリーを飾って、家でクリスマス会をやってたもんな」

武の言葉を聞いて、沙希は感慨深くなった。このツリーは何十年も二人の成長を見てきたのだ。

「私達のことを、ずっと見守ってくれたんだよね」

沙希は思わず感懐を口に出した。
その途端、武が噴き出し、ついには声を上げて笑った。

「な、なに!?」
「だって、マジ顔で語っちゃってんだもん」

武にそう言われて、沙希は赤面した。急に自分のことが恥ずかしくなった。

「『私達のことを、ずっと見守ってくれたんだよね』」

武が沙希の声色を真似て台詞をなぞった。沙希はあまりの羞恥から今にも卒倒しそうだった。

「や、やめてよ〜」

沙希の懇願を無視し、武は再び同じ台詞を言った。

「やめろーー」

沙希は大声を出して、武の口を塞ごうとコタツから勢いよく出た。
無我夢中で飛び出したためか、片足をコタツの脚にひっかけ、バランスを崩してしまった。
床に倒れこむ、と思った刹那、座っていた武が沙希の体を受け止めた。
難を逃れた沙希は、下敷きとなってくれた武に謝罪とお礼を言おうとして、彼の胸から顔を上げた。
その瞬間、武の顔が間近に現れた。こんな近距離で顔を見合わせたことなど一度もなかった。

「うわぁっ!」

沙希は思いがけない事態に声を上げた。その顔は、またも赤面していた。しかし、今度は別な意味の恥ずかしさからだった。
胸に手を当てて、高鳴る鼓動が落ち着けようとしていた。

「何だよ、人の顔みてそんなに驚くなんて失礼じゃねーか。・・・まぁいい、それより大丈夫か?」
「う、うん、ありがと・・・」

沙希はコタツに戻ってしばらくうつむいていた。
今はまだ、目の前にいる男子を直視できなかったからだ。
225クリスマスの日 3/4:2010/12/25(土) 02:46:42 ID:NM9a+jgB
「そういや、さっきの話の続きだけどよ」
「さっきの話?」

あんなことがあったため、沙希はすぐに思い出せなかった。

「ほら、昔から俺ん家でクリスマス会をやってたこと」
「あ、ああ、うん」
「前はもっといっぱい人がいたんだよなー」
「そうだね。武の友達とか、私の友達とかも集まってたし」
「それが去年からか、ついにお前と二人だけになったのは」
「うん」

最もそれは沙希にとって嬉しいことであったが。

「高校に入ってから、何故かみんな彼女ができちゃったんだよな」
「私の友達も、ほとんどが彼氏持ち」

次に武が放った一言は、沙希をどきりとさせた。

「お前は彼氏つくらねーの?」
「えっ・・・わ、私は・・・」

沙希は言いよどんだ。実は目の前の人を彼氏にしたいなどとは言えなかった。だから何とかごまかすため、逆に訊いてみた。

「そ、そういう武はどうなの?」

そう言った瞬間、沙希は後悔した。
もし彼女が欲しいと熱望していたり、最悪いまいる好きな人でも聞かされたら、とてもじゃないがこの場で平常心を保つことなど無理に思えたからだ。

「お、俺かっ・・・そうだな・・・」

武は沙希を見つめた。沙希はまた胸が高鳴った。

「俺は・・・いいかな、彼女なんて。面倒くさそうだし、金かかりそうだし」

沙希は思わず頬が緩ませた。そして、お茶をすすってから穏やかに言った。

「そっか、そっか」

沙希に応じて武がしみじみと言った。

「そうだ、そうだ」

二人は再び笑いあった。
226クリスマスの日 4/4:2010/12/25(土) 02:49:18 ID:NM9a+jgB
「沙希、クリスマスプレゼントはちゃんとサンタさんに頼んだか?」

急に話題を変えて、武が話しかけてきた。
沙希はそれを聞いて危うくお茶を噴き出しそうになった。

「私、高校生ですけどー!?」

サンタなど今時の小学生でも信じていないのに。まして高校生が――。

「何だよ、ノリが悪いなー」

そう言われて沙希はムッとした。本当に欲しいものを今すぐ言ってやろうかと思った。
しかし、無論そんな勇気などなかったので、それはしかるべき機会にとっておく事にした。
代わりにあることを思いついた。

「・・・がほしいかな」
「えっ、何だって?」

沙希の声が小さかったので、武は聞き返した。
その瞬間、沙希は後ろに置いておいた物を武の目の前に見せた。

「勝ち星がほしいかな!」

沙希の手には携帯ゲーム機が握られていた。後で武と一緒に遊ぼうと持ってきたものだった。

「はっ、おもしれぇ。また返り討ちにしてやんよ」
「どうかな。私はあれから一生懸命育てたんだよ」
「そいつは俺だって同じだ」

二人は対戦を始めた。お互いのモンスターを1体ずつ戦わせて、相手の持っている6匹全部のモンスターを倒したら勝ちというゲームだった。
しばらく両者とも口を開かず夢中にゲームをしていたが、やがて沙希の顔が強張った。
それを見た武がすかさず沈黙を破った。

「俺はまだ6匹残っているけど、お前はあと2匹だな」
「・・・・」
「降参したほうがいいんじゃないか」

勝負は、言うまでもなく武の勝ちだった。

「やっぱり俺の勝ちだったな」
「ふふっ、ふふふ」

沙希が突然笑い出した。その様子をみて、武は狼狽した。

「おい、どうしたんだよ急に・・・」
「ごめんごめん、やっぱり楽しいなーって」
「楽しいって・・・負けたのに?」
「負けたのに」

そう言って、沙希は武に微笑んだ。その顔をみて、武はどぎまぎし、顔を背けた。


 *  *  *  *  *  *  *


サンタに頼んで願い事が叶うのなら、私はこうお願いするだろう。

『この幼馴染みと、いつまでもこんな仲でいられますように』 
227名無しさん@ピンキー:2010/12/25(土) 02:54:27 ID:NM9a+jgB
以上で終わります
喜んでいただけたなら幸いです

>>219
GJです!!
228名無しさん@ピンキー:2010/12/26(日) 00:02:12 ID:Gorh7+/B
>>219 >>227

GJ。
229名無しさん@ピンキー:2010/12/26(日) 22:59:13 ID:ba4mbrdH
世の中顔なんだと考えて自分に自信を持てない少年を幼馴染みに持つ女の子の話
230名無しさん@ピンキー:2010/12/27(月) 18:16:50 ID:+LIbuhaw
>>227GJ!!

すなばさんとMYさん断筆してしまったのか?続編をまっている。
231名無しさん@ピンキー:2010/12/30(木) 19:22:53 ID:0AJ+35/o
投下します
エロなしです
232文章表現:2010/12/30(木) 19:24:43 ID:0AJ+35/o
1.

冬の短い日が沈み、辺りはすっかり暗くなっている。
人々の生活の証である電光が、その暗闇を照らしていた。

「あーっ、もう。この先の展開が思いつかない」
とある一軒家の一室で少女の声が響く。嘆声にしてはやや大きい。
「まぁまぁ」
そんな少女の横で、少年のなだめる声がする。
「落ち着いて。焦ったっていい作品はできないよ」
そう告げた途端、少年はティーカップに入っている紅茶をすすった。
「なに悠長なこと言ってんの、浩太。もう締め切りは近いんだから」
浩太と呼ばれた少年が、その少女の言葉を聞き、肩をすくめる。
「だったら、何でもっと早く着手しなかったの?」
「しーまーしーた。今年の春からずーっとパソコンに向かって。キーボードをカタカタと」
「それで、小説はどのくらいまで出来たの?」
「・・・構想の半分くらい・・・」
「・・・今年は諦めたほうがいいかもね」
「嫌。絶対今年に投稿するって決めたんだから」
そう言って少女は再びパソコンと向かい合った。

「ねぇ、美里」
頭を抱えている少女、美里が振り返って、浩太を見た。
「んぁー?」
「構想ができているのに、何で展開が思いつかないの?」
すると、美里は人差し指を上に立て、それを横へと振った。
「全然分かってないんだから、あんたは」
紅茶を飲みながら、浩太はその言葉を聞いていた。
「あの場面とあの場面を、いかにうまくつなげるか。そして尚且つ、読者をあっといわせる表現も考慮して――」
美里は自分の創作論を展開したが、浩太はうんざりした表情を浮かべ、半分以上を聞き流していた。
「君の理論はよく分かったよ、美里。だから、早くそれを実行してほしいな」
「あんたが話しかけてきたんでしょーが」
「ごめん、俺が悪かった。執筆の続きをどうぞ」
再び室内を静寂が支配した。
233文章表現:2010/12/30(木) 19:27:39 ID:0AJ+35/o
だが、手持ち無沙汰になった浩太はやはり退屈だった。
「ねぇ」沈黙に耐えかね、ついに浩太が口を開いた。
「なーにー?」丸っきり指を動かしていない美里が、ややけだるそうに応えた。
「今度はどんなジャンルの小説を書いているの?」
「んー、純文学に近いかも」
「うぇっ」
浩太は思わずうめき声を漏らした。
「何よー、その声」
「だって、また読まされるんでしょ、俺」
「当たり前じゃん。最初の読者があんたなのは、昔からのしきたりでしょ」
「ああいう堅い文は正直・・・」
「どこが堅いのよ。芸術的で素晴らしい名文の嵐じゃん」
浩太にとっては、美里の言うその「芸術的で素晴らしい名文」が苦手なのだが、目の前の少女にそれは分かってもらえなかった。
「いま暇でしょ。そこにある名作たちでも読んで、少しは純文学に慣れておいてよ」
そう言って、美里は本棚を指した。
背の高い本棚が4つほどある。そのうち3つには本がぎっしりと詰まっており、残り1つも半分くらい埋まっていた。
「えーっと、どの辺?」
「純文は・・・一番左の本棚の、上のほう」
浩太が見上げると、そこには名高い文豪の作品がずらりと並んでいた。
しかし、文学にまるで興味のない浩太には、一部の作品を除いて聞いたこともないタイトルばかりが目に入った。
そこで彼は、おそらく日本で一二を争うくらいに有名なタイトルを手に取った。

ベッドに腰掛け、活字を追っていた浩太だが、数十分も経たないうちに本を閉じてしまった。
「・・・ダメだよ、美里。何か疲れてきた」
そういって、彼は小説を本棚に戻した。
「えーっ、何でよー。無我夢中になるくらい面白いのに」
「安心して、君のはちゃんと読むから。・・・何とか努力して」
「もう」
美里は呆れ顔で浩太のほうを見つめている。その浩太は、一番右の本棚で読むものを物色していた。
「どんな本がいいってわけ?」
「俺にはこういうのが合ってるかな」
彼の手の中にはティーンズ向けの小説があった。
「また。あんた好きだよね、ライトノベル」
「まぁね」
浩太は再びベッドに腰掛け、読書に勤しんだ。
234文章表現:2010/12/30(木) 19:28:29 ID:0AJ+35/o
浩太の読んでいる小説は、主人公の少年と少女が活躍する冒険物語だった。
そして、その二人の人物の関係は――
(幼馴染み、か――)
浩太は思わず本から顔を上げ、パソコンの前で頭を悩ませている少女を眺めてみた。
(俺も美里とは随分長い付き合いになるなぁ)

浩太が美里と出会ったのは幼稚園の頃だった。
幼稚園から自宅まで向かうバスの中で、いつも最後まで残っていたのは浩太と美里だけであった。
園児が彼らだけになってしまった空間で、退屈を紛らわすために二人は話し込むようになり、そして大の仲良しになった。
お互い家が近所であるので、二人は毎日のように一緒に遊んでいた。
子供の頃から現在まで、その関係は変わっていない。

浩太は読書を中断し、ティーカップを手に持ち、美里を眺めながら物思いに耽っていた。
(それにしても、我が幼馴染みがこんなにも本の虫になってしまうとは思わなかったなぁ)
幼い頃の美里は、外でしか遊ばない女の子であった。
美里の探検ごっこやヒーローごっこといった遊びに、浩太はくたくたになるまでつき合わされていた。
(それが・・・)
本の世界に没頭するようになってから、美里は友達との付き合い以外ではあまり外に出ることはなくなった。
もちろん自宅で本を読んでいるのであるが、しかし何よりも自分で文章を書くことに時間を注ぐようになったのだ。
(ホント、人っていつどんな風に変わるかわからないもんだよねぇ)
浩太は空になったティーカップを床に置き、再び物語の世界へと入っていった。
その瞬間、キーボートを打つ音が室内に響くようになり、それはしばらく途切れることがなかった。

だが、その音を聞き読書に勤しむ傍らで浩太は思うことがあった。
(美里ってば、高校生なのに純文学なんて書けるのかな。・・・無理だと思うけどなぁ)
浩太はさっき見ていた小説の文章を拠り所として、そう勝手に結論付けていた。
(背伸びしすぎず、この本みたいにもっと軽い文章を目指して書いたほうがいいような――俺のためにも)
彼はため息をつき、そして今度こそ読書に集中した。
235文章表現:2010/12/30(木) 19:29:34 ID:0AJ+35/o
2.

美里が本に取り付かれたのは小学3年生のときだった。
     
「美里ー、お昼休みだよー。早くグラウンドに行こうよ」
今よりもっと少年であった浩太が美里を催促している。
「・・・うん」
返事はしているものの、美里は自分の机から一向に離れる気配をみせず、教科書を耽読している。
「何で休み時間でも教科書読んでるのー」
「だって、続きが気になるんだもん」
昼食の前の時間は国語の授業だった。その授業ではとある小説を題材としていた。
「また明日続きやるって先生言ってたよ」
「明日まで待てない」
「えーっ」
「悪いけど、今日はパス。あたし抜きで遊んできていいから」
「もー」

帰りの時間となり、ランドセルを担いだ浩太が美里に話しかける。
「美里ー、帰ろー」
「ごめん、ちょっと図書館寄ってもいい?」
「・・・・」
「何、その顔」
「あんな静かな場所、美里とは一番無縁なところだよ。騒いだら駄目なんだよ」
「あんたねぇ・・・あたしを何だと思っているの。本を借りに行くだけよ」
「美里が本・・・?・・・ぜ、絶対熱があるよ。確かめてあげる」
「・・・あんたって奴は・・・」
一人で図書館へと向かっていく美里の後を、浩太は慌てて後を追った。

           *

「いやー、悪いね。あんまり構ってやれなくて」
帰り際の浩太に美里が自宅の玄関で話しかける。
「別に気にしてないよ、そんなこと。・・・だっていつものことだし」
「あはは、本当に助かるよ。あんたがベッドに座ってると、あたしは椅子に固定されざるを得ないから」
「もうちょっと、集中力を養った方がいいんじゃない」
「むぅ・・・分かってるよ」
美里はふくれっ面をしてそっぽを向いた。
「じゃあね」
「うん、また明日」
外に出た浩太は冬の冷気に身を縮ませながら帰路についた。
236名無しさん@ピンキー:2010/12/30(木) 19:30:47 ID:0AJ+35/o
以上です
こんなんで良かったなら、続きでも書いてみようかなと思います
237名無しさん@ピンキー:2010/12/30(木) 19:53:38 ID:1ohTIB8N
どんどん続けて下さいませ!
238名無しさん@ピンキー:2010/12/30(木) 20:27:37 ID:H5fqH164
さぁ続きを書く作業に移るんだ
239名無しさん@ピンキー:2010/12/31(金) 16:59:23 ID:Cw5hun2U
>>236wktk! その直後で申し訳ないが
年賀状で小ネタ

「あっ」
――という声が出たときには、往々にして手遅れであることが多い。
今回もその例に漏れず、俺が年賀状を用意していないことに気づいたのは、既に31日のことだった。
「……まあ、いいか」
手遅れではあるが、その程度で済む問題だ。どうしても挨拶をしたいなら、年賀メールという手もある。
そしてそうまでして連絡しなければならない相手は、俺にはいない。
「うん、問題ない」
小学生のころ、せかせか十何枚も書いていた少年はこんなにずぼらな大人になりました。
「問題ない。じゃないでしょ、こらっ」
こたつの中で足を蹴られた。向かい合ってこたつに入っている幼馴染の彼女の仕業である。
ちなみに今は、彼女の家の雪はきを手伝った労いに、家に上げてもらい暖をとっている、という状況。
「でも、送る相手いないし」
「普通に生きててそんなことあるわけないでしょっ。友達が1人もいなかったわけでもないでしょうに」
「それはそうだが、何年も会っていないのにいきなり年賀状を送りつけるのもどうかと」
「年賀状ってそのためのものであるでしょ」
そうだったのか。さすが、今でも昔の友達のほとんどに年賀状を送り続けている奴の言うことは違う。
「小学校のころの友達とか、未だにあんたがどうしてるかも聞いてくるんだから」
「ああ……そうなんだ」
音信不通のままでいると、そのうち、死亡説が広まってしまうかもしれない。
「いちいち私が対応するのも面倒だから、ちゃんと年賀状出してあげなさいよ」
「うん、その気になってきた。そうしたいのはやまやまだが……もう大晦日だな」
「そーね。ま、そんなことだろうと思って、今年は私が手を打っておいたから」
と、彼女は書き損じて手許に残しておいた年賀状を俺に見せる。
差出人である彼女の名前の隣には、連名するように俺の名前が書いてあった。
「どうよ?」
「どうよって……お前、これ」
「なぁに? どっかおかしいとこあった?」
「いや……こんなん、同棲してるもんだと勘違いされて余計に問い合わせが来るぞ」
「あっ」
――という声が出たときには、往々にして手遅れであることが多い。
今回もその例に漏れず、二人の名前が並んだ年賀状は、既に(おそらく)発送された後だった。
「……まあ、いいか」
手遅れではあるが、その程度で済む問題――「なわけないでしょ、こらっ」
「どうせ一緒に住んでるようなもんだろ」
「家が近所でよく行き来するだけで、お互いひとり立ちすらしてないでしょっ」
「これからも年賀状はお前に任せるよ。苗字いっしょになったらちょっとは書くの楽になるだろ」
「 」
「あっ」
――という声が(以下略)
240名無しさん@ピンキー:2010/12/31(金) 17:25:57 ID:e5HR9dDe
>>239
くそうお前さんもなんて秀逸なんだ
もちろん小ネタで終わらせたら酷い目に遭うからな>主に俺が
241名無しさん@ピンキー:2010/12/31(金) 23:54:39 ID:dI2QKiwQ
お二人共GJです

小ネタ投下します。エロ無しですので嫌な方はスルーでお願いします



「瞬君…今年ももう終わるね…」
「みな姉?どうしたんだよ急に」
みな姉さんがいきなり呟く。みな姉は隣に住む一つ上の所謂「幼なじみ」と呼ばれる相手である。
ちなみに受験生の俺の家庭教師でもあるのだが、大晦日とお正月だけは勉強の休みを貰ったので二人して俺の部屋にこもり
みな姉は大学生だと言うのに、大晦日にどこにも行かず一緒にガキの使いを観ている…という状況だった。
「今年も何もなかったなぁ…と思って」
「何もって何が?」
「…」
俺の問いに返答をしてくれない彼女は、俺を見つめてくる。
「な…何?」
「瞬君…好きだよ…」
「…!?」
いきなりのみな姉の言葉に俺は口に含んでいた蜜柑を危うく吐き出す所だった。
「ゴホッゴホッ」
「ご…ごめんね?大丈夫?」
噎せている俺の隣りでみな姉が背中をさすってくれる。みな姉の手が温かくなんだか変な感覚だ。
やっと咳が治まった俺はみな姉の方に顔を向ける。心配そうに見つめてくる彼女に俺の心が苦しくなる。
「急に変な事言ってごめんね…瞬君が大学生になって彼女が出来たら
今年みたいに一緒に居られなくなっちゃうと思ったら我慢できなくて…」
俺から目を逸らしてみな姉が謝る。シュンとなったその顔があまりにも可愛くて俺は彼女を抱きしめていた。
「し…瞬君!?」
いきなり抱きしめられたみな姉は驚いて動けないでいた。
「俺も好きだ…てか俺みな姉一筋だったし」
抱きしめる力を緩め、目を見つめて告白をする。みるみる内に彼女の顔は真っ赤になっていく。
「あ…あの…本当?」
「こんな事嘘ついてどうするんだよ…てか受験が終わったら俺から告白するつもりだったのに…」
「瞬君から!?」
俺の言葉に驚くみな姉が可愛くて、もう一度思い切り抱きしめて耳元で「好きです付き合って下さい」と囁く。
「…はい…」
俺を抱きしめ返しながらみな姉が小さな声で頷く。
242名無しさん@ピンキー:2010/12/31(金) 23:58:33 ID:dI2QKiwQ
「受験生のくせに告白なんかしたら怒られるかな〜って思ってたんだけど杞憂みたいだったな」
胸の中にいたみな姉を解放し照れ笑いをしながら呟く。
「…ごめんね…瞬君受験生なのに私が我慢しなかったから」
「いや…その…俺の方こそごめん。大学落ちたら恥ずかしくて言えなかっただろうし…」
俺の別の意味での告白にみな姉の表情が急に引き締まる。
「そうだね!お正月返上で勉強だ!!私の告白が原因で落ちたりしたら…」
「え!?A判定もらったし今日と明日だけは特別に休みだったんじゃ!?」
「恋愛にうつつを抜かして落ちたなんて事になったらおじさんやおばさんにどう謝っていいか…
ですので明日からは今まで以上にビシバシいきますからね!」
お姉さん口調でキリッと言い放つみな姉に俺は露骨にげんなりするが、折角恋人同士になったのだここで終われるわけがない。
「明日からだよね?」
「うん…今日はもうすぐ終わるしね…明日からまた頑張ろう」
俺の言葉にみな姉は純粋な笑顔で返してくる。その言葉に再度みな姉を抱きしめて頬に手をあてる。
「ちょ…瞬君!?」
俺の行動に驚いたみな姉がわたわたしているが、関係ない。
「今日はあと数時間で終わるんだ…それまではみな姉とイチャイチャしたい」
俺の言葉に驚きつつ顔を真っ赤にさせながら、みな姉は恥ずかしそうに頷く。
みな姉の了承を得ると俺は自分の唇を彼女のそれに重ねた。



ちなみに勢いで服に手を入れようとしたらペチッと手を叩かれた。
「…ここからは大学に受かってからね…」
俺に告白した割に、真面目で奥手なみな姉が可愛すぎてどうしようもなくなる…。
ヤバい…早く大学に受かってキスの先がやりたい。みな姉以上に俺は猛烈に勉強に励むのだった。


あれ?俺みな姉の手のひらで転がされてる?これを見越して告白してきたなら、なんて女に惚れてしまったんだ俺は…。



以上です。
243名無しさん@ピンキー:2011/01/01(土) 00:27:50 ID:vPqZuPoX
お二人ともGJ
新年、並びながら良いもの見せてもらいました。
そして皆さん、あけおめ
244名無しさん@ピンキー:2011/01/01(土) 01:44:01 ID:GLvxHX/3
あけおめ
やっぱ幼なじみはいいですな、GJ
245名無しさん@ピンキー:2011/01/01(土) 02:47:47 ID:coysUxs7
あけおめ
新年早々GJ
246名無しさん@ピンキー:2011/01/01(土) 20:40:48 ID:lAyMpXuQ
>>242おめでgj!!!!
247名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 08:26:38 ID:xDcr6Qx+
お正月でさえ幼馴染みに会えない俺・・・
昔は気にならなかったのに・・・(ちょっと待てば学校で会えるからか)
そもそも正月には友達と会ったことないからお正月を家族以外と過ごすという感覚がわからない
248名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 22:39:05 ID:bkCz07oj
ツンデレと素直とか
チビとのっぽとか
デコボココンビが好きだ。
249名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 01:21:48 ID:l00vUcw0
素直クールと奥手とかか
250名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 16:39:24 ID:WWYKXqs/
すみません
ここの保管庫に書きかけの小説を置いている者ですが
それを削除してもらうことはできるのでしょうか?
251名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 19:02:33 ID:WWYKXqs/
自己解決しました。お騒がせしました。
252名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 21:35:32 ID:Tf9CqGcM
幼馴染みは同い年じゃないと駄目かな?
253名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 21:48:43 ID:l00vUcw0
例えば同じ学年で1歳違い(4月と3月)とかなら女の子の方がお姉ちゃん気取りして
それで男のほうが姉と認めない(女の子としてずっと好きだったから)とかいう展開ができて非常によろしいので
駄目どころか大歓迎であるが、小学校一緒にならないくらいに差があったら幼馴染にならないかも
254名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 22:07:39 ID:fnJgVO2T
>>250
誰でどの作品?

差し支えなければ教えて欲しい
255名無しさん@ピンキー:2011/01/06(木) 00:50:44 ID:qPRdstot
個人的には

同い年幼なじみ→対等の関係でバランスが成立しすぎていて恋愛関係を切り出しにくい
年齢差幼なじみ→兄妹or姉弟で関係が固定してしまっていて恋愛対象になりづらい

のような構図で話を考えるけど
歳の差は5歳差ぐらいまでならいけるかな、と思ってる
4歳差は書いたし
256名無しさん@ピンキー:2011/01/06(木) 01:47:29 ID:LV4LAv9e
>>254
17‐293の作者です
257名無しさん@ピンキー:2011/01/06(木) 04:06:19 ID:CtpJ5TyI
ボルボXさんかよ……
ずっと待ってたのに……
258名無しさん@ピンキー:2011/01/06(木) 08:03:35 ID:LV4LAv9e
>>257
すみません
止めるわけではなく、好きに改訂できる場所でいったん仕切り直したいのです
こちらには近日中に代わりに何か書いていきます
259名無しさん@ピンキー:2011/01/07(金) 01:06:01 ID:INkANiaG
保管されてる数が多すぎてどれから読むか・・・
例えばはにはにの保奈美とかFAの陽菜みたいな
幼なじみが好きな俺にオススメを教えてください。
260名無しさん@ピンキー:2011/01/07(金) 18:34:31 ID:795JX5lC
ツンまでいかないにせよ、素直になれない系が多くを占めてる気がする。>保管庫
確かに展開的にそっちのほうが盛り上がるだろうし、話も作りやすそうだけども・・・

控えめで献身的、健気とかそういうのはないような
261名無しさん@ピンキー:2011/01/07(金) 22:57:03 ID:Re7z/23D
全自動万能幼馴染か
262名無しさん@ピンキー:2011/01/08(土) 10:50:57 ID:YzLO5KOx
母親が主人公を作っている間に父親が作った主人公の全自動万能無敵遊び相手用ロボットか
…ごめんロボ子スレ行くよ
263名無しさん@ピンキー:2011/01/08(土) 21:37:53 ID:vrLaoDwA
彼女になってくれるロボットは作りやすいけど
幼なじみになってくれるロボットって難しいな

まず幼なじみって"作る・なる"ものじゃないな
264名無しさん@ピンキー:2011/01/08(土) 22:10:57 ID:9/dYYvgO
より人間に近い感情を得るべく学習型コンピューターを搭載、当初まだ赤子だった研究者の息子とともに十数年間ずっと成長してきた高機能AI搭載少女型ロボという電波が

265名無しさん@ピンキー:2011/01/08(土) 23:08:45 ID:jP9U1rSs
病死した幼馴染の脳を移植されたサイボーグってのはどうか。

かなり重いテーマになりそうだが。
266名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 01:17:12 ID:p9q2cNt0
じゃあ逆転して、壊れたサイボーグのCPUを移植された幼馴染み。
ガガガピー。
267名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 01:46:46 ID:U6/Sw7pd
娘or息子が欲しかった(表向き)どこまで周りを騙せるか試してみたかった(裏)な動機で
マッドな科学者の父親が作ってみた子供とか
もちろん本人も自分は人間だと信じてた

だがしかし、ある日事故で死にかけそうになっても平気だったことでバレて…
でも幼なじみはロボットでも好きな幼なじみには変わらないキリッと、彼or彼女を守るために苦労すると…


ちなみに動力源はぜんまいでw
268名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 02:07:50 ID:sFSffEbl
ロボ子「いままで…ずっ、と……すき…で…………」
主人公「ロボ子、しっかりしてくれ!明日一緒に映画見ようって約束したじゃないか!」
父親「あ、ゼンマイ回すの忘れてたわ」
主人公「ズコー」
269名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 05:33:20 ID:rskm7Bx/
あれー、shuffleの楓のつもりで>>261書いたら予想外の流れw
270名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 10:35:17 ID:hR444Y8B
>>265
>>266
境界線上のホライゾン思い出した
271名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 19:49:56 ID:UHu4aQjR
ここの住人は秒速5センチメートルのアニメは見たのかね?
俺は最後まで見ていろんな意味でしにたくなったけど、他の人たちはどんな気分で見たんだろうか?
ごめんね、DVD整理してたら出てきて、売る前にまた見ておこうとか愚かな考えしてごめんね
272名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 20:37:47 ID:p7E5Oehr
見た事ないんですけど、再会した幼馴染が人妻になってましたって話だっけ?
273名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 21:36:50 ID:qKtuwxjI
き、キツイな・・・
274名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 21:43:45 ID:6All8S4F
そうか、スレタイは【<恋人】と書いてあるが、
関係が恋人を大きく飛び越えてしまえば寧ろ・・・
275名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 22:15:33 ID:KmTwaMKf
そういう馴染みネトラレSSってここでやっていいの?
276名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 22:35:08 ID:ghAQlNlH
多分嫌がる人が多いと思うので冒頭で警告していただければ……
寝とり・寝とられ総合スレってのもある。
277名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 05:01:01 ID:+44sRTdA
>>271
昔、うっかりネタバレコピペ見てしまって神回避した。
正直、そのコピペが正しいかも知らないんだけど、
その後の評判聞く限り回避は間違いじゃなかったと思ってる。

PVとかでは映像きれいだったのでBD見てみたいと思いつつ、絶対後悔するだろうと我慢してるわ。
278名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 10:18:09 ID:N7puoYyr
寝とられスレがあるんだからここでやらないでくれ
279名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 12:32:13 ID:67In7lud
寝取られスレではヒロインが幼馴染だからといって嫌がられることはないが、
幼馴染スレでは寝取られ展開を徹底的に忌避する人が大勢いる。
ならばどちらが適切な場所かは明らかだと言えよう。
280名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 15:52:42 ID:I0mj0c8x
幼馴染が自分以外の男性経験あるだけでも回避する人があるくらいだからな
281名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 16:35:15 ID:l9R/XUhy
昔ここで投下されてたとある作品が、ntr展開になった時はどうなるかと思ったぜ
最終的にはハッピーエンドだったけど
282名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 18:15:02 ID:QF/OcG+E
NTRは嫌いだが現実では小さい頃よく遊んでたあの子だけどだんだん疎遠になって
久しぶりに会話したら「今〇〇(DQN)と付き合ってるんだー」とかよくあることだぜ……
283名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 18:29:17 ID:JxZ0U0s0
>>277
第一章と最後の歌の部分だけ見れば後悔はしないと思う内容。
それ以外の部分も別に寝取られたわけでもない。
284名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 20:47:40 ID:BmvQruZw
>>265
いいこと考えた

宇宙から地球外生命体の採掘機械が攻めて来た世界で幼なじみの脳を使ってバカデカい機動要塞を動かしてキャリオンマイウェー

すいませんエロゲ板行って来ます
285名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 22:27:09 ID:q18pmBba
>>284
同じこと思った仲間がいるwww
どの選択肢を選んでも幼馴染みルートってある意味斬新だよな
まぁ大まかなシナリオは一本しかないんだから当然だが
286名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 23:37:55 ID:BM4IPHLp
NTRした奴も幼なじみならスレの趣旨に反しないと思える
(当然注意書きは必要だろうけど)
287名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 00:11:55 ID:DpeExiy2
まあ読まないけどね
288名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 00:30:56 ID:F4fVibjr
泥棒猫から男の幼馴染を守る話が読みたい
ヤンデレ向きかな?
289名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 19:17:20 ID:QWid/5v+
>>288
それは見たいな
ずっと一緒に居たからこそ執着も半端じゃなさそうだし
しかしヤンデレスレ行きかなぁ
290名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 19:23:18 ID:WB6Yf5lB
なに犯罪がなければ大丈夫だ

上崎さんみてからストーカーな幼馴染が脳をよぎる日が続く
291名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 21:40:12 ID:YpSjrA42
このスレでも幾つかある続き保留の作品が待ち遠しいでし。
292名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 23:59:53 ID:AvVQvk1/
激しく同意&続き期待でし。
293名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 20:12:14 ID:O1xcj0x5

「…おい」
「?」
「何してんの」
「寝顔見てた」
 起きぬけに思わずふかーく溜息をつく。起きたばかりでいきなり強烈な疲労感を味わい、
布団から出る気が一気に萎える。目を覚ました最初の光景の疑問を尋ねてみれば、この返答である。

「授業は…って、連休か」
「祝日忘れるまでゲームとかよくないと思う」
「うっせ」
昨日は少しばかり夜更かししすぎた。
やはり一人暮らし+新作ゲーム+バイトのない日+休日という組み合わせはよろしくない。
実によろしくない。好きなことを好きなだけしてしまえば、生活リズムを大きく崩すという代償が
待ち構えている。
「せっかく可愛い幼なじみが起こしにきてあげたのにー」
「起こしてないだろ」
 同じ大学を受験し共に合格し一緒に上京してからもう2カ月になる。性別が違うのでお互い別々
の寮に部屋を借りたのだが、香菜ときたら地元に住んでた時と同じようにわざわざ来てはこうして
勝手に俺の部屋に上がりこんでくる。寮の面子と食堂で飯を食う時、「毎日お楽しみですね」と
いわれるのが辛い。 
「だってあまりにも気持ちよさそうに寝てたから。疲れ取れたでしょ?」
「起きてすぐ疲れたわ」
 仰向けの姿勢で目を覚まし横を向くと、視界に飛び込んできたのはこちらとは逆にうつぶせに
なってじっとこちらを見つめる幼なじみの顔である。にやつくわけでもなく、普段の表情のまま
淡々と答えられるのが相変わらずちょっと怖い。
「……」
 背中を向けて寝返りを打つ。壁沿いに布団を敷いてるので、回り込まれる嫌がらせを受ける
心配はない。
「浅助さん」
「なんでしょうか香菜さん」
「寝顔が見えません」
「見せません」
 まだ起きる気は毛頭ない、どうせ休みである。今日はもう寝てやる、すぐ寝てやる。無視だ無視。
「……」
「……」
294名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 20:13:11 ID:O1xcj0x5

「“あさすけ”」
「“せんすけ”だよ」
 あ、しまった。早速反応してしまった。
「買い物行きたい」
「…自分とこの寮の友達か一人で行けよ」
「浅助と行きたい」
 駄々こね入りました。ほとんど無表情ななくせして頑固だから始末におけない。
「その心は?」
「荷物持ちがほしい、こんなこと浅助以外に頼めないから」
 布団に入ってくるな布団に、さみーよ。
「断る」
「えー」
「昨日の続きがあるんだよ」
「ひどい」
「お前の買い物付き合うよりよっぽど大事なんだよ」
「ひどいひどい」
 わぁっと喚いてからしくしくと泣き始めた。両手で顔を覆ってるんだろうけど、間違いなく嘘泣きです。
付き合い長いんです、見なくてもそのくらい分かります。
「私とは遊びだったのね」
「確かに遊びの約束はしてたな」
「私以外に本命がいるのね」
「人じゃなくてゲームだけどな」
 ああもうクソ、寝れねぇ。
仕方ない起きよう。腹減ってないし休日は飯出ないしな。朝飯は無しということで。顔洗ったら
昨日の続きだ続き。昨日は確か7,8時間はやったから、今日はその限界を更に超えてみよう。
「もてあそばれたー、もてあそばれたー」
「うるせぇ、裾を掴むな裾を」
 無理にでも振りほどこうとするが、しっかりとつかまって引きずられながらも手を離そうとしない。
「後ろから抱き締めておっぱい背中に当ててあげるから―」
「お前トップ80未満な上にAAカップだろ」
「大丈夫、乳首がある」
「こっちが引くようなこと言うな」
 顔つきは割と可愛い方だと思うのだが、背がちっこくて胸もちっこくて表情があまり表に出なくて
言動がこんなのばっかりだから、どれだけ過度なスキンシップをとられようとも劣情を催さない。
我ながら悲しい話だ。
「こんなこと浅助にしか言わないよー」
「ならもっと別のことを俺だけに言ってくれ」
 思春期だった頃は、そりゃ色々妄想したこともないわけじゃない。ただ、終始こんな調子の奴に
そういった雰囲気を期待するのは無駄だと気付くのもあっという間だった。
「告白だって何回もしたじゃんー」
「ムードのかけらもない時にされても冗談としか思わんわ」
295名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 20:13:52 ID:O1xcj0x5

「冗談なんかじゃじゃないよ。小学校の卒業文集にも“浅ちゃんのお嫁さんになりたい”ってしっかりと」
「おいその話はやめろ」
 文集が出来上がった際、クラスメイト全員にニヤニヤされながら詳細を聞かれたり無駄に祝福され
まくったのは今でもトラウマなんだよ。
「『将来の夢、6年2組宮森香菜。私の将来の夢は、服部浅助君と結婚することです。理由は今までも
ずっと一緒にいたし、これからもずっと一緒にいたいからです』」
「朗読すんなよ! つかなんで文集持ってきてんだよ!」
なんなのこいつ! ほんとなんなの! 馬鹿じゃないの!? 頭おかしいんじゃないかしら!!
「オネエ言葉になってるよ浅助」
「うるさいわね!」
 まったく何なんだよこいつは! 
あー、まったくやだやだ、こんなのに付き合ってるとこっちまで頭がおかしくなってくる。こいつが
部屋に居座るなら出かけよ出かけよ。
「あ、出かけるんだ」
「お前と部屋にこもってると気が狂いそうになるわ」
「それはよかった。ちょうど買い物に行きたかったのだ」
「は?」
「でも一人じゃさびしいのだ。荷物持ち欲しいのだ」
「何言ってんのお前?」
「出かけるんでしょ? 付き合ってくれるんでしょ?」
「今はお前と同じ空気吸いたくないから出かけるんだよ、付き合わねーよ!」
香菜の元から逃げ出したいのに、一緒に買い物に出かけるとか本末転倒にもほどがある。
「そんなこと言うなんてひどい。ただ一緒に出かけたいだけなのに」
「……少しはめげろよ」
「嫌、一緒に買い物行くの。来なきゃダメ」
  急に子供っぽくなった、こっちの方が年相応に見えるからなんていうかアレだ。
「俺にメリットがねぇ、だから行かない」
「こんなに可愛い子と付き合っていると周りに勘違いしてもらえるよ。今ならそれが現実になるおまけつき」
「罰ゲームじゃねぇか」
「……むー」
  やんわり言ってもダメージ受けないなら思いっきり言ってやるしかない。
「そこまで言うなら買い物はやめだ」
「……今日俺と一緒にいる気か」
  もう一度言うが、こいつは極めて頑固だ。もし意見を変える時があるなら、その時はまず裏がある。
「小さい頃先生に言われたでしょ?  人が嫌がることをすすんでやりましょうって」
「意味が違う!」

  こうして、俺の時間は刻々と削られていく。ほんと、難儀な付き合いだ。
296名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 20:16:02 ID:O1xcj0x5
久々に書いてみたら想像以上に筆が鈍くてヤバい
拙い作品で申し訳ないです
297名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 20:59:38 ID:3tcDCChM
>>296
GJ!
前にもこのスレに投稿してるの?
298名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 21:03:00 ID:Hh/ajDZS
GJ!
もちろん続きはあるんでしょう?
299名無しさん@ピンキー:2011/01/15(土) 00:18:10 ID:KMUY5gRK
GJ!
続きマダー?
300名無しさん@ピンキー:2011/01/15(土) 18:48:02 ID:bDmQqNAX
GJ!これはかわいいなw萌えた
301ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:40:03 ID:LUv6dg9m
>>295
ウザ可愛いと幼馴染みって相性いい気がするwGJです

お久しぶりです。投下させていただきます。別シリーズですが……
302ねがいごと  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:41:22 ID:LUv6dg9m
 Kyrie eleison
 Kyrie eleison

 となりの家は、赤い屋根に風見鶏のある、鉄柵と木々に囲まれた洋館。
 隣家の姉妹ふたりが賛美歌を歌う光景を、幼い日に見た。

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 初秋の陽も落ちくれて部屋の隅はもう暗い。
 その中でも艶めかしく光るのは美奈の濡れた唇――その、桜桃の実をおもわせるつややかな美唇が、彼女を組み敷く健一郎へと、かすれた問いを投げかけてきた。

「ぁあ……ケン兄……終わりました、か……?」

 儚げで幻めいた美しさ――楚々としてたおやかな少女だった
 美奈の体は少年の下におさえつけられ、挿入されたままだった。
 身につけてきたその姉の服を、全てはぎとられた裸身は、汗の膜におおわれて白くけぶるように浮かび上がっている。

 腰まであるロングの黒髪を健一郎のベッドに乱し、美奈は数え切れないほど味わわされた絶頂に放心しかけていた。

 ……はあっ、はふっ……と悩ましく耳にからみつく、濡れた呼吸音。それは完全に性の悦びを知った「女」のそれである。
 しかし、あおむけで脚のあいだに男を受け入れ、手をぎゅっと握りこんで濃い余韻に耐えているその肢体は、痛ましいほどに骨細で華奢だった。

 いまの美奈には、触れれば落ちそうな三分咲きの白梅の可憐さと、それが強引に花開かされていくときのような無残な色香が同時にそなわっていた。

 終わったかと問われた少年は名を健一郎という――陸上部で絞られたシャープに引き締まった体と、理知的な容貌を持っている――ただし眼には精神が荒廃した者特有のぎらつきがあった。
 健一郎は美奈に向けていた視線をはずし、つながったまま枕元の眼鏡を取った。壁の時計をたしかめる。
 始めてから、それなりに時間がたっていたようだった

(……道理で窓の外が暗い)

 夕刻からいままで、健一郎は美奈をずっと嬲っていた。
 放課後に通っている進学校の門をでるや、少女をその通っている小中高一貫カトリック系女子学園の門前まで迎えに行った。
 共通した帰路をともに通って部屋に連れこみ、そして美佳の服に着替えさせて、すぐ組み敷いたのである。

 この数月、夏休みも含め、毎日のようにしてきたことだ。隣家のふたつ年下の令嬢を、このようして犯してきた。
303ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:43:57 ID:LUv6dg9m
注意書きを忘れていました。

調教描写あり(快楽系なのでヌルいけど)
寝取られあり(前の恋人が過去に)

なので、苦手な方は注意してください。
304ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:45:07 ID:LUv6dg9m
(けれど、親父とお袋がいつもの残業から帰ってくるまではまだ時間があるな)

 シャワーを浴びさせる時間をさしひいても余裕がある。それを確かめて美奈に視線を戻す。見下ろしたとき、ふと思ったことを健一郎は口にしていた。

「……あらためて見ても、おまえは小さいな」

 健一郎はさほど大柄ではない。男子高校生の標準程度で、それも痩せ型だ。
 それでも、美奈とは体の大きさが二まわりも違った。こうしてのしかかっていると特に体格の差を実感する。

「え……何を、いきなり……」

 美奈がけげんそうに眉を寄せ、瞳の焦点をぼんやりうるませたまま、おずおずと笑おうとした。――その媚びを含んだ苦笑に苛ついた。
 健一郎は美奈の乳房に手を伸ばして、敏感にしこりきった右の乳首をぴんとはじいた。美奈が背をびくんと反らして哀切な声をあげる。

「あうっ!」

 健一郎は笑いを薄く頬に刻んだ。

「気にするなよ。背は低くても、胸や腰は肉がついてるだろ。なにより感度がいい。
 ミカと同じ男好きのするカラダだよ、そのうちもっとそうなるだろうよ」

 健一郎は、自分と同い年である美奈の姉の姿を思いだす。
 双子と間違えられるほど容姿だけは瓜二つの姉妹――美佳もまた背丈が小さかったが、美佳については健一郎は、その小柄さをあまり意識したことはなかった。
 現在自分の下にいる美奈の体が、いかにも弱々しげに見えるのとは違って。

 背は低くとも幼い身体ではない――むしろ均整がとれて大人びた容姿の美少女である。頭が小さく手足はすらりと伸び、一方で女の曲線はそれなりに備えているのだから。
 美佳と比べてもあまりに華奢で、どこか不健康的なほど淫美な白さの、美奈の肢体。そこに表れているのは、未成熟さではなく生命力の薄さだった。
 姉とちがい、美奈は身体が弱かった。

 もてあそんでいた相手のか弱さを確認するにつけ、健一郎の胸の奥はささくれていく。

(……くそ)

 これがなんの感情なのか、そして姉妹のどちらに向けた感情か――考えたくなかった。

 ――いや。
 これは姉への――「ミカ」への憎悪だ。そうでなければ。
305ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:46:17 ID:LUv6dg9m

 衝動的に彼は、氷の浮いた水のような冷たい声を浴びせた。

「気を抜いて寝たりするなよ」

 けんめいに、美佳のことに意識をむける――憎しみと捨てきれない慕情が熱泥のように沸きたぎる。
 肉が破れるまでみずからの唇の端をぎりりとかみ締めても、彼を捨てた幼馴染みの元恋人の記憶は薄れてくれない。
 それも無理はないだろう。目の前にいる美奈の容姿は、姉にくらべ痩せっぽちだった体が女として熟していくにつれ、ますます美佳にそっくりになっていくのだから。

 わずかにとまどったように、美奈がまつ毛をしばたたいた。これ以上の快楽への恐怖が、声にはあった。

「あ…………ま……、まだ、するんですね……」

 けれど、すぐ唇をひきむすんだ彼女の表情には、諦め――というより覚悟と許容の色があった。
 それを見て、健一郎の胸はどうしてだかいっそうざわめいた。
 焦りに似たそれが、あざけりをまじえた、さらなる冷淡な態度をとらせた。

「おまえがさっさとイっちまって勝手にへたばりそうになるから、止めてやったんだろうが。こっちはまだ満足してないんだよ。
 ったく……ついこの前まで処女だったのに、あっという間にイキ癖ついた淫乱になりやがって」

 意識して下卑た言葉づかいで責める。

「……それは……ケン兄が……」

 美奈は細々と抗議をつむいだ。羞恥に潤む瞳が、茫洋と健一郎を見上げてくる。
 情感をたたえたその瞳に見つめられて、健一郎は胸のうずきが大きくなっていくのを感じる。
 ――胸中を黒く満たすのは、歪んだ嗜虐の欲求だ。
 そのはずだと自分に言い聞かせ、少年は唇の端をつりあげた。

「僕のせいだって? そうだな、仕込んだのは僕だな……だがな、ここまでになったのはおまえの素質あってこそだぞ。
 たとえば」

 そこでいったん言葉を切って、健一郎は腰をぐりゅん、ぐりゅんと押し回しはじめた。とたんに美奈のせっぱつまった叫びが噴きあがる。

「あわぁっ、そ、それぇ、駄目っ、ああっ……!」

 責める少年の円をかく腰の動きにともない、奥深くまで刺さった肉棒の先端が子宮口をコリコリ撫で回すように刺激していた。
 男の恥骨でおしつぶされた恥丘も圧迫刺激され、クリトリスがぷくんと充血を強める。
 少女は目を白黒させ、悩乱に身をよじって鳴きはじめた。膣口と肉棒の隙間からブチュプチュと愛蜜が漏れ飛び出した。
306ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:47:20 ID:LUv6dg9m

「んんんっ、いま、び、敏感なのにっ……!」

「なあ? こういうことしてやるだけで、そんな声を出すだろう。
 いくら毎日してやってるからとはいえ、たったの数ヶ月でイきまくる体になってんじゃねえよ、エロガキ」

 鼻の先で笑うと、健一郎は責め方を変えた。
 美奈の子宮をやさしく小突くように、腰を小刻みに前後動させはじめる。
 美奈の瞳がたちまち光を弱めてとろんと濁り、彼女の視界がじゅわっとゆるんだ。

「ひう……っ……ああぁ……ひどいです、ひどいい……」

「どうした? これは感じないか?」

「かんじるのがひどいんですぅっ……きもちいいのおさまったところだったのにい、
 んううう、ひっ……あ、もどってきたぁ、もどってきちゃったでしょうっ、馬鹿あ……っ」

 再度、絶頂に向けて官能が高まりだしたことを、彼女はそう表現した。
 とんとんと子宮を亀頭でノックされるたび、美奈の意識を、甘やかな肉の快美がむしばんでいく。牝の悦びに腰が勝手にくねり、脚を健一郎の胴にからめようとする。

 下になった形のいい美尻がうち震え、断続的にきゅうっと白い双球の谷間をひき締める。そうすると貫かれた蜜壺までが男の肉を絞って悦ばせた。
 艶にくずれた美少女の、悩乱の甘声が解き放たれる。

「だめえ、んっ、だめ、イクぅっ、あぁあああっ」

 身をよじり、細い雪白ののどをくっと反らし、美奈は絶頂の嬌声をほとばしらせた。
 その最中にもとん、とん、とんと奥を優しく突かれる。

「あぅ、ん、ん、ふぅっ、やぁ、おわらないのぉ……!」

 それをされると、絶頂が長引いてしまうのだ。
 涙と恍惚をふくんで甘い悲鳴がうわずる。
 悩ましい乱れ方をする美奈を、健一郎は言葉と腰使いの双方でなぶって追いつめていく。

「ははっ、ちょっと突くたびに奥のほうから膣内(なか)をビクンビクンさせて……子宮イキの味をすっかりおぼえちまったな。
 エロガキでなきゃなんだってんだよ、これが」

 雪細工のような繊美な両手首をつかみ、頭より高くあげさせてベッドに押し付ける。
 ねじふせるようにして美奈の体の自由を奪ったうえで、健一郎はまたしても責め方を変えた。
 激しく、スピーディーで、女体をがつがつとむさぼるような抽送に。
 美奈が濡れ羽色の黒髪をふりみだして鳴く。
307ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:48:18 ID:LUv6dg9m

「ひい――やあっ、ひゃうッ、いったばかりですっ、ケン兄っ、わたしイったばかりなんですうっ!」

「だからなんだ? どうせ子宮イキが続けて来ちまってるんだろ? 勝手に好きなだけイってろよ。
 なんで遠慮しながら動かなきゃなんないんだ? 僕もここらでもう一発さっさと出したいんだよ」

 健一郎は冷然とうそぶいた。
 少女の快楽ポイントを知り尽くして行う長時間のねちっこい責めで、美奈の体をこの過敏な発情状態に追いこんでおきながら。

 責めのペースに段階をつけ、疲れすぎない程度に絶頂を繰り返させて、雄がむさぼるにもっとも良い状態にまで膣肉を仕上げてあるのだ。
 ただ挿入しているだけでもヒクヒクと弱く痙攣しながらきゅっきゅっと肉棒を締め、半ば無意識に男に奉仕する少女の膣内の感触は、まさにいまが食べごろといえた。
 ――歳若いゆえに狭く、充血した粘膜壁のぷりぷり感が強く、それでいながら重ねられた絶頂のために硬さがとれてこなれきった蜜壺肉を味わっていく。

「やぁ、ひっ、またっ、あんんんんぅ、ん――っ……!」

 子宮を揺らされつづけて悩乱しきった少女が、あっけなく肉の高みに達した声を連続であげた。
 官能の責め苦に耐えかねたように、美奈が、さし上げた手首で拘束された上体をそらし、悶える――ふっくら張った双乳が強調され、小さな乳首がピンクの軌跡を、宙にふるんと描いた。

 健一郎は、美奈の感じるところは、すっかり把握していた。
 それをさぐりだすことは難しくなかった――美奈は、その姉の美佳と、弱い箇所がほぼ同じだったのだから。
 ミカはこうすれば反応したな、と記憶をひとつひとつ思いおこしながら試すだけでよかったのだ。

 そして、美佳のことを思えば思うほど、舌に悪魔が憑いたように、美奈を傷つけるための台詞はつぎからつぎへと出てくる。

「二回目に部屋に呼び出したときだったかな……おまえ、なんつった? 『わたしの体でもケン兄を慰められるなら』とか言ってたっけ?
 率直に言うと、聖女きどりかよってうざく思ったよ。悲壮ぶって、上から目線で……自分に酔ってんのかよってな。
 でも、美奈、おまえのほうがこれに骨抜きになっちまったいまじゃ、滑稽でしかないよなあ」

「ちが、わたし、んっ、ほ、骨抜きになんてっ」

「嘘つけ」

「ひゃぐうっ!」

 興奮状態で下がりきっていた子宮に、ひときわ深い突きこみを与えていた。牝の臓器を押し上げるようにして止める。
 少女が衝撃に目を見開き、口をぱくぱく開閉する。

「……あ…………あ……」

 躾けられた肉体が、鐘突きされた子宮の響きを快楽に転化していく。
 無意識のうちに、ブリッジ体勢を取るようにくんっと美奈の下半身が反り返る。
 折れそうな細腰と、意外に実った双臀がベッドから浮き、勃起陰核を強調するように恥丘が天井へむけて突き出され、蜜壺が緊縮し――
308ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:50:14 ID:LUv6dg9m

「……あああああああぁぁっ」

 一拍おくれて、凝縮された絶頂が、美奈のなかで今日一番大きく破裂した。

(う……キツ……)

 射精後の男性器を刺激され、健一郎は眉をしかめた。敏感になっている男根が、わななく初々しい膣肉にキュウキュウと絞りあげられている。
 彼も最後の瞬間が近かった――気をまぎらわそうと、健一郎はきつく食い締めてくる膣道をえぐるようにつぎつぎ腰を送りこんだ。
 相手の肉体はとうに堕ちているのに、さらにその身を髄までしゃぶりぬくようなしつこい責め。少女の泣き狂う声がよじれてゆく。

「あぁ――っ、だめ、だめええ――――っ!!」

 健一郎は爆発寸前の射精衝動の手綱をひきしめ、こらえながら抽送をつづける。少女の両手首をひとまとめに左手で押さえておく。
 愛欲の狂態をさらしてあえぐ性奴の麗貌を右手でぴたぴた叩きながら、「いまどうなっているか言ってみろ」とささやく。

「いってますっ、いっぱいいっぱいいってますう! あたまもおなかの奥もとけちゃってるのおっ、こんなのぉ、くるっちゃううぅっ!」

 天使のように清らかに澄んでいた瞳を快楽で濁らせ、黒目をわずかに裏返らせて、美奈が淫叫する。
 涙とよだれを噴きこぼしながら熾烈な連続絶頂にのたうちまわる少女の姿に、このあたりが限界だな、と健一郎は推しはかった。
 手を彼女の頬に添え、いつもの合図を口にする。

「今から何を言っても『おねがい』には含めないでおいてやる……どうしてほしい?」

 お願いには含めない――許しを乞わせてやるためのフレーズ。
 美奈が煮えた声で叫んだ。

「おわらせてくださいいっ、はやく出ひてえ、あなたもイってえ、びゅーびゅーしてえっ!」

「よし……」

 美奈の手首を解放すると、彼女が健一郎の首を抱きしめるようにして下からしがみついてくる。

 動きを止め、避妊具ごしではあるが、堕ちきった少女のなかに健一郎も放精した。
 びゅくびゅくとおびただしい精液がほとばしり、子宮口に密着したコンドームの先端を水風船のようにふくらませた。

 美奈が言葉にならない言葉を叫んだ――ぜん動する蜜壺が、射精する雄をにゅぐにゅぐと卑猥にしゃぶりたてて歓迎する。
 少女の全身もまた、肉棒をくわえこんだ妖しく美しい肉そのものになったように、脚まで少年の腰に回されて巻き締め、痙攣していった。
309ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:51:26 ID:LUv6dg9m

 ……熱い息をかわす間近から、健一郎が笑った。

「はは……今日も連続で深イキをキメちまってたな。尻ごとおま○こ肉をブルブルさせすぎだろ」

「……ぁっ、……ぁひ、うっ、……う、」

 少女は浴びせられる嘲笑にまともに反応することすらできないようだった。
 健一郎がコンドームの中に最後の一滴まで出しきって、ようやく細かい律動を止めても、美奈のほうは肌の痙攣が止まっていない。
 彼女はほつれた髪を頬にはりつけ、忘我の態だった。はふ、はふと熱っぽくつむがれる呼吸の音が、被虐美にみちた凄艶な響きを帯びている。

「美奈……抜くぞ」

 健一郎は射精の終わった腰を引いた。
 美奈が「ひぃん」と可愛らしく鳴き、なぜか制止しようとした。

「まっへぇ、ケンに……らめ……いま……だめで……」

「ああ?」

 ひきとめるようにきつく締まる膣口をカリでめくりかえし、亀頭がぬぽっと抜ける。
 肉の栓が抜かれるとともに、わななくピンクの肉の泉から、精液とみまがうほど濃く白濁した愛蜜が、牝の匂いの湯気とともにごぽりとあふれ出し――

「……んひぃっ」

 ぴゅくり。
 膣口の上の尿口から、一条の液体が飛んだ。
 一度だけで止まらず、ぴしゅ、ぴしゅと何度かに分けられて飛ぶ。ふやけきった表情の美奈が両手で股間を押さえても、それは指のあいだからピシャピシャ漏れた。

「ひっ……ひっ、ぁぁぁぁ――おさまっへ……おさまってよぉ……」

 やっといじめ抜かれる時間が終わったというのに、尿道を液体が駆け抜けるたびに絶頂感が持続するらしく、腰が抜けた様子で美奈は脚を閉じることもできないようだった。
 健一郎が失笑する。

「あーあ……ベッドカバーを濡らしやがって。
 潮かしっこか知らないが、イキながらのお漏らし癖つけてんじゃねえよ」

「ひっ、ひぃ……ひ……ごめ……なひゃ……」

「ほら、いつものように飲め」

「んみゅぅ……」

 肉棒から外されたコンドームの口をくわえさせられ、中にたっぷり溜まった精液を吸わされる。
 すっかり肉色に意識が混濁した美奈は、眠たげにも見える目で、チューブ入りアイスの溶けた汁を吸うように、コンドームの精液をじゅるりとすすった。

「うまいか?」

「ふぁい……『おち○ぽ汁』、おいひぃ……です……」
310ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:52:43 ID:LUv6dg9m

 たくさん覚えこまされた卑語――そのひとつを美奈がもはや意識もせずに口にしたとき、最後の一条、液体がぴゅくっと噴きだした。
 悦楽の桃源郷をさまよっている少女に、少年が言う。

「盛大に吹いたが……まあ、前のように、おもいきり失禁していないだけましか。
 なあ、あのときの自分の乱れ方おぼえてるか? 何度も何度もイってるうちに理性トバして、だらしない声であんあん鳴きながら『もっとして』とばかりに自分から尻突き上げてたろうが。
 さんざイキまくったあげく、最後は四つん這いで硬直してぶるぶる震えだしたと思ったらいきなりじょぼじょぼ漏らして失神……なにが骨抜きじゃない、だよ」

「あれは……あれは、いわないで……」

「おまえをここに連れこむときは、やる前にまず目の前でペット用トイレにしゃがませて、用を足したと確認するところから始めたほうがよさそうだな。
 それとも、脚おっぴろげで後ろから抱えられて、小さな子みたいに『しーしー』促されるほうがいいか?」

 健一郎は苛む台詞をつきつける――この場での羞恥責めとしてだけでなく、いま言ったことは次の時にでも、本気で実行するつもりだった。
 相手の人格を貶めるような責めは、いつものことだ。

「ケン兄、が……」

 だが、美奈は、期待した反応を示さなかった。胸を上下させながら、ふっと体のすべての力を抜いて彼女は言ったのである。

「ケン兄が、そうさせたいなら……」

 いつもの受け入れる態度――一気に、健一郎は不機嫌になった。苛々と目をそらす。

「勘違いしてんじゃねえよ。あとからおまえの小便でベッドを濡らされたくないから言ってるんだ」

「ご……ごめんなさい」

 ようやく理性が戻ってきたのか、恥じ入った美奈が蚊の鳴くような声で言う。
 健一郎は「ちっ」と舌打ちし、ハンガーにかけてある彼女の制服をほうって言った。

「今日はもういい。さっさとシャワーを浴びて帰れ。
 そのシーツを洗濯機に放りこんでおけよ」
311ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:54:05 ID:LUv6dg9m

 ……丸めたシーツと制服と、美佳の服を持った、裸の美奈が、疲弊したおぼつかない足取りでよろよろと部屋からでていく。
 階下に去ろうとするその背から視線をうつし、健一郎は窓の外の隣家を見た。

 広い敷地に植えられた木々の間をとおして、風見鶏のある赤い屋根が目に入る。
 家というより、館と言ったほうがしっくりくる、大きな三階建ての洋風の建物だ。

(おじさんは、なんでなにも言わない? 美奈がこっちに入りびたっているのには気づいているはずなのに)

 信用されているのかもしれない。
 昔から、互いの家の子供たちが歳が近くよく遊んでいたこともあり、経済格差にもかかわらずお隣りづきあいは密だった。
 そう、親しかったのだ。健一郎自身が、美佳と美奈の父親を、隣のおじさんと呼んできた程度には。美奈が彼のことを「ケンおにいちゃん」いまは「ケン兄」と呼ぶ程度には。

 だが、隣の家の主がいまでも健一郎を信用しているとするなら、それはもちろん、最悪の形で裏切られているわけだ。

(長女は駆け落ち。次女はなにをとち狂ってかこっちに犯されに来るぞ……おじさん、あんた、娘二人の周囲の男にはもっと気をつけるべきだったな)

 彼は冷嘲の笑いを浮かべた。……すぐにそれはひっこみ、彼は暗い部屋のなかで、黙って隣家を見つめた。
 先ほどのことを思い返して、鼻にしわを寄せる。

 ぐっと右手を握りしめる。
 先ほど美奈の頬に添えていた手――すこし下の頸動脈に触れ、脈が不規則に乱れていないかを測ってしまっていた手を。
 意識しないでやったことだった。なるべく慎重に快楽を与え、美奈の体に負担をかけまいと気づかってしまう自分がいた。

(くそっ――あいつを部屋に引き込むようになった最初のころは、もっと冷酷に当たれたのに)

 数ヶ月前と違い、いまでは気をつけていないと、優しく触れそうになってしまう。
 小さな頃から、美奈に対してとってきた態度に戻ってしまっていた。
 笑止にもほどがある――美佳、美奈姉妹との小さなころの絆など、とっくに壊れた。そのはずだった。

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

(わたしには出来ません……ケン兄)

 足をひきずるようにして自邸の敷地内に入ったのち、立ちくらみが来た。
 学園の制服に着替えなおした美奈は、鉄細工の格子門に寄りかかって、しばし気分を落ち着かせた。いま出てきたばかりの隣家の二階の明かりをふりあおぐ。
 よく浮かべる表情――ちょっと哀しげに、彼女は微笑した。

(あなたが、自分のことを悪いひとだと思わせたくても。自分でもそう信じていても)

 街中で迷子にならないようわたしの手をひっぱってくれた手。発作で苦しいとき背をさすってくれた手。眠くてうとうとしていると抱き上げてベッドに運んでくれた手。
 兄のような隣家の歳上の少年の手。
 いまは、彼に優しく扱われているとは言えないかもしれないけれど、それでもたまにあの手は、昔のように温かく触ってくれるのだ。
312ねがいごと〈上〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:55:05 ID:LUv6dg9m

 それに無理もないのだ。
 姉が駆け落ちしたのちに、彼が変わったのは。
 自分だってきっと心のどこかが壊れる――はっきり想像できる。
 子供の頃からどうしようもなく好きだった人と結ばれたと思っていたところで、あんな形で捨てられれば……

 彼とわたしは、同じだ。鉄の格子の冷たさを背に、美奈は窓明かりを見上げていた。
 美奈の場合は、最初から諦めていたから、それ以上傷つくこともなかったというだけだった。彼は勇気をだして行動し――一度手に入れ――最悪の形で失った。

 わたしの体。全力で走ることさえできない、お金がかかって、生きているだけで周りに面倒をかける体が、すこしでも彼の慰めになるのなら、全部好きにさせてあげたかった。

 長いまつ毛を伏せる。
 つらいのは……
 屈辱的に嬲られることでも、恥辱を与えられることでもなかった。
 彼が、わたしの体を通して姉を見ていると感じるときが、一番つらい。たとえ、わたし自身がそれを望んだにしても。

 もし、「お願い」で、お姉ちゃんを忘れてくださいと言葉にしたら、彼はどんな反応をするのだろう。……何度も妄想したことだった。
 試みたことはなかった――人は人に行動を強制できても、心を強制することはできない。美奈は、それを知っていたから。

「お願い」。
 美奈はひとつだけ健一郎にどんなことでも要求していいことになっているのだ。
 願いはまだ口にしていない。「僕の身だけですむことなら、どんなことでも聞くぞ」と健一郎には言われていた。

 あれは、処女を奪われたときのことだった。
 のしかかった少年は声をたてずに頬をゆがめて笑い、美奈の言うことをひとつだけ聞いてやると約束したのだった。お前の姉貴からの頼みはそれで帳消しだと。
『僕にできるなら、どんなことでもやってやるよ――「どこかに消えて」でもいいし、わかりやすく「死ね」でもいいんだぞ』と、美奈に対し、言った。
 健一郎の涙が頬を伝って美奈の顔に落ちてきていた。

 傷ついた彼のそばにいて、この日々をずっと続けたいと思っている自分がいる。
 でも……もうすぐ、すべて終わらせないとならない。
 時間がなかった。

(もう少しだけ、このまま……もうすこし……)

 格子門から離れ、背筋を伸ばし、すこしふらつきながら、美奈は敷石で舗装された庭の道をたどって玄関に向かいはじめた。
313ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:55:54 ID:LUv6dg9m
つづけて投下します。ここから〈中〉です。
314ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:57:20 ID:LUv6dg9m

 風邪をひいて三日になる。
 熱と息苦しさのなかで健一郎はベッドに寝返りをうち、手負いの獣のようなうなりを漏らした。

「体調管理なんざしてなかったなあ……」

 本来ならば受験生であったはずだった。
 彼自身もともとまめな性質で、うがい手洗いは特にテスト前には必須として行っていたのだが、あの日からこっち、そんなことに気を使ってはいなかった。
 どうせ受験などしないのだからどうでもいい。学校に行くのだっていまや単なる暇つぶしだ。

 だが、こうして寒気とだるさに苦しみながら無様に横たわっているのはもう飽き飽きだった。
 あまりの体調の悪さに学校から直帰するなり、着替えもせず倒れるようにベッドに転がって今日で三日目だ。

 両親は息子にいっさい関わってこない。かつて彼が優等生だったころも放任主義の親だったが、こうして荒廃しきってからは、腫れ物扱いという感じである。
 腐ってもあいつなら自分の面倒は自分で勝手に見るだろうと思われているのか、二階に上がってくることもなかった。まあ、実際ありがたい。

(薬は飲んだし、寝ていればそのうち治るさ)

 ワイシャツがべとつく。制服の上着はさすがに脱いだが、それ以外は三日間着替えすらしていない。

(早く治れ……)

 部屋で横たわっていると、不快なことばかり頭に浮かんできてしまうのだ。

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 健一郎が幼稚園のとき、空き家だった隣家にひっこしてきたのは資産家の一家だった。
 いや、資産家といえるほどの金持ちでもないが、その家の家長が大企業の役員という地位にあるため、そこそこ経済的余裕がある家だった。
 伏せりがちの妻と、母とおなじく虚弱体質の娘のひとりにかかる医療費をまかなえる程度には。
315ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/15(土) 23:58:32 ID:LUv6dg9m

 娘ふたり――健一郎と同い年の姉を美佳と、二つ下の妹を美奈といった。
 男勝りなくらい活発な姉と、生まれつき病弱でおとなしい妹。
 内面は対照的だが、容姿だけはよく似ていた。あまり外にでない美奈が姉より青白く、ほっそりとしていることをのぞけば。

 姉妹の母は、美奈のことを、気にかけていたように思う。
 みずからの病弱な体質を娘に遺伝させてしまったことを悔やんでいたのかもしれない。
 「お外で遊ぶとき、美奈を見てやってちょうだいね、健一郎くん」と少年は託されたことがある。

 それでも脳裏を占めてきたのは美佳だ。託されたゆえの義務感から美奈の面倒を見てやりながらも、健一郎の視線はいつしか美佳を追っていた。
 ずっと美佳に恋していた――明るい笑顔に、躍動的でのびやかな肢体に、大胆ではっきりして陰りのない気性に。

 ……こうなるまでは、健一郎は自分を、もう少しましな人間だと思っていた。

 笑顔をふりまくタイプではなかったが他人に優しくできなくもなかった。
 ともすればぎすぎすしがちの進学校だったが、健一郎は人づきあいは普通にこなしていて、なかでも親友と思っていた気の合う者が二人いた。
 勉強は最大の取り柄だった。成英学園は名の知られた進学校で、そのなかでも健一郎は上位の成績からすべり落ちたことはなかった。
 陸上部では二年生でありながら副キャプテンも務め、冬の大会では入賞していた。

 そしてなにより、通うのは別々の学校とはいえ、高校に入ってからは恋人になってくれた美佳がいた。充実した青春だったといえるだろう。

 ある日とつぜん、すべてが狂った。
 何の前触れもなく、美佳が、妻子持ちの男と駆け落ちしたのだ。

 ……美佳が消えたとき、健一郎あてに残されたのは一通の手紙だけだった。

 それによれば、美佳は昔からずっと好きな男がいたのだという。

 相手は健一郎も知っていた。
 姉妹の母親の主治医だった。

 中等部のときに一度、高等部にあがってすぐのときにもう一度告白したことがあったという。そのときはいずれも振られたと。

「長年焦がれてきたけれどどうにもならないと諦めていました」そう手紙にはつづられていた。
 だが、つい先日の母親の葬儀ののち、もう一度だけ話をして、ようやく彼が応えてくれたのだという。

 彼はこう言ったらしい。自分も美佳に惹かれていたが、診るべき患者をもつ医者である以上、美佳のアプローチに応えるわけにはいかなかったと。
 美佳とは歳の差がある――当主様にこのことが露見すれば自分は代えさせられるだろうし、そうなれば主治医としての責務が最後まで果たせないからと。

 母親が没したことでそれも終わり――彼はすべてを捨て、手をとりあって逃げると誓ってくれたということだった。
316ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:00:06 ID:Yw+FasOY

〈許してもらえるとは思わないけれど、ごめんなさい。ケンには必ず、わたしよりずっといい子が現れるから。
 どうか、体の弱いミナのことをお願い〉

 その一文が、健一郎への手紙のしめくくりだった。

 当初はわけがわからなかった。何度読んでも、意味がのみこめなかった。頭が文章を受け付けなかったのである。
 なにしろ彼は、美佳とは、大学に行ったら結婚しようとまで約束していたのだ。
 その後は一日じゅう文面を繰り返し読んだ。真夜中になって唐突に、「要するに自分は美佳に捨てられたのだ」とやっと認識できたとき、健一郎の心には亀裂が走っていた。

(昔から好きだったというのなら、僕だってお前に対してそうだったぞ、美佳)

 凍った自嘲の笑みを最後に、表情は消えた。
 気づいてしまっていた。叶ったと思っていた彼の長年の恋はけっきょく、最後まで一人相撲でしかなかったことに。
 彼が美佳に告白したのは高校に入った直後だった――つまり、この手紙を信じるなら、美佳が二度目に母の主治医に振られた直後だ。

 彼の初めての告白を受け入れたのも、抱かせてくれたのも、ベッドの上であれほど乱れた姿を見せたのも、気が早いけどそのうち結婚してほしいと照れながら求婚した健一郎にうなずいてくれたのも。
 ただ美佳は、叶わない恋に自暴自棄になっていただけだったのだ。
 それを悟れなかったむくいと言うべきか、幸福から叩き落されたあと少年に待っていたのは、惨めさだった。

 物静かな美奈とちがい、美佳はいつでも快活だった。母親の葬式のときも、さすがに悲しげではあったが、涙をこらえて毅然としていた。
 隣家ということで制服を着て出席した健一郎がお悔やみをのべると「ありがとね、ケン。母さんはケンを信頼していたから喜ぶと思うよ」と言い、逆にかれの背中をばんと叩いてみせさえした。
 ……苦悩や傷心のさまを、かれには見せようとしなかっただけなのかもしれない。

 健一郎が放心しているうちに、どんどん日がすぎていっていた。
 部屋の壁にもたれ、日がな一日、幼い日からいままでの美佳との思い出を思い返した。どこでどうすれば彼女の心をこちらに向けられたのかを自問自答した。

 学校も、部活も、成績も受験も進路も、もうどうでもよかった。

 志望していた大学にいったところでミカはそこにはいない。
 そもそも、かれの進路は子供の頃、ミカがある理由のために約束させたことだった。
 食べてもなにも味がせず、食べることが億劫になってそれも放棄した。

 部屋にひきこもって眠って、起きて、ミカのことを考えるだけの日々だった。
 彼女と駆け落ち相手の医者を追っていって殺すことを妄想し、自分が死ぬほうがよいと結論し、それだけで一日を終えていた。
 すみやかな自殺を決行しなかったのは、ただきっかけの問題だったと思う。
317ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:01:54 ID:LUv6dg9m

 それまで放任主義だった親もさすがに、繰り返し部屋に怒鳴りこみ、泣き、殴って目を覚まさせようとした。陸上部の者が数度来た。教師が一回来た。
 親友と思っていた者たちは一回も来なかったが、健一郎にしても彼らのことは忘れていた――つまりお互いにその程度の相手だったというだけだった。
 父親に階段下まで引きずり落とされても、黙ってのろのろと立ち上がり、部屋に入ってドアを閉めた。戸に鍵がついていれば迷わずかけていただろう。

 十数日たったころには、親さえも諦めたのか部屋に来なくなっていた。
 洗っていない服と体から異臭を放ちながら壁にもたれ、健一郎はひたすらに無気力だった。

 そのころには親には内緒で水を飲むのをストップしていたので、死が目の前にちらついていた。水断ちは、緩慢だが、断食よりはかなり早い自殺の方法だった。
 水をまったく口にしなければ人は通常、五日以内で確実に脱水症状による死にいたる。
 個人差はあるが、水の補充を断ったのちに体内の水分のわずか2〜5%が失われるだけで、頭痛、めまい、幻覚などが起きはじめるのだ。ちなみに一日に体外排出される水分は2.5%である。
 水は、億劫だから飲まなくなったのではない。はっきり命を断つつもりだった。

 けれど最後に、美奈が来た。
 美佳の服に身をつつんで。

 外界のなににも関心を示さなかった健一郎の灰色の意識が、激怒の赤に染まった。
 双子かと見まがうほど美佳とうりふたつの少女が、美佳の服を身につけて自分を叱咤する――目障りすぎた。

 ひきこもってからはじめて声を荒らげた。その姿を見せるな、出て行けと怒鳴った。
 美奈は……それまでおとなしくつねにひかえめで、姉や健一郎の言うことに従順だった美奈は、この日は決して従おうとしなかった。
 涙をにじませた彼女に、腕にしがみつかれながら懇願された。

『いつまでこうしているつもりですか、部屋から出て何か口にしてください』

『なんのつもりだ、ミナ。腕をはなせ』
  (出ていってくれ、おまえにその格好をされるとおまえすら憎くなってくるんだよ)

『このままだと死んでしまいます!』

『このまま死ぬつもりでやってるんだ。はなせ。出て行け。二度と来るな』
  (本当にどういうつもりだ、この匂い――美佳の香水まで付けて。体をくっつけるな)

 何十分だったか何時間だったか――美奈がまったく諦めず、互いの声が激しくなっていった。
 健一郎の脳裏には、理不尽にもミカに糾弾されているような錯覚が起こっていた。

『お姉ちゃんだってケン兄が死ぬことなんてけっして望んでいません!』

『そうかい! あいつが気に病むというなら願ったりだよ!』
  (この服は僕がミカに告白したときあいつが着ていた服だった)
  (この香水は僕がミカに贈った物だった)
  (そうか、ミカは僕のプレゼントを置いていったのか。本命のところに行ったんだからあたりまえだな、畜生が)
318ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:03:08 ID:Yw+FasOY

『当てつけで死のうなんてそんな了見っ……意気地なし、弱虫っ!』

『……もう黙れ』
  (きゃんきゃんうるさい。頭に響く)
  (こいつを憎むな――筋違いの衝動だ、これは)
  (これはミナだ、ミカじゃない――断じてミカじゃないんだぞ、混同するな。こいつは、僕に憎まれるようなことはしなかった)

『あの世に逃げようとしているだけでしょう、お姉ちゃんに去られた現実をこれ以上直視するのが怖いから!』

『離れろっての……』
  (ぐらぐらする。水を飲んでいないせいで視界があやふやだ)
  (こいつは思っていたよりずっとミカそっくりだ、怒るときのこの激しさ)
  (似ているだけだ、こいつはミカじゃないんだ――ミカの匂い――ああ、くそ、柔らかい体――)
  (ミカのように柔らかいこの体――)

 人体は、極限状態におちいったとき、自分の遺伝子を残そうと性的欲求を増大させる現象をたびたびおこす。
 水欠乏症で朦朧としていたことが、さらにまずかった。
 それまでやり場のなかった慕情と憎悪が、行き先をもとめてぐるぐる渦巻き、それは自然に眼前の少女に向いた。

 最後の一押しは、美奈のあの涙声での言葉だった。

『わたしは……わたしが……お姉ちゃんの代わりをします。
 お姉ちゃんだと思って、怒りを全部ぶつけていいから……どんなことでもしていいから、水と食べ物を口にして……お願い』

 その台詞を聞いて、
 ぶつんと――
 キた。

  (お願い? ミカの手紙にはなんてあった? 〈ミナをお願い――〉)
  (こいつを傷つければ、ミカの信頼を裏切ることになるな)
  (……むしろ、僕はそうしてやりたい)

 美奈の言葉が美佳の「お願い」を思い出させたとき、美奈の姿が「ミカ」と完全に重なった。
 性的衝動と破壊衝動が削られていた理性を打ち負かした。
 舌が動いて言っていた。

『ミカの代わりだ? 耐えられるなら耐えてみろよ』

 美奈を引き倒して、のしかかって、床で処女を奪った。

 破瓜の血だけを潤滑油にして健一郎が腰を動かしているあいだ、美奈は苦痛にかたく目を閉じていたが、叫びも、抵抗もしなかった。
 すさまじい痛みで蒼白になりながらも、彼女は自分の手で口をおおって、悲鳴をもらさぬよう耐えていた。
319ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:04:15 ID:Yw+FasOY

……………………………………………………
…………………………
……

 寒気に体を丸めて毛布をかぶりながら、ぎり、と健一郎は回想に奥歯を軋らせた。

 あの日、かれは美奈を犯した。
 美佳の残した頼みも、姉妹の亡き母からの信頼も、実の妹のように親愛の情をいだいていたこの年下の幼馴染みとの関係も、残らず全部ふみにじったつもりだったのだ。
 なのに……終わったあと、美奈は、一言も責めないどころか、

(笑いかけてきやがって)

 脂汗をうかべてあんなに苦しそうだったくせに。
「ケン兄、泣かないで」と、下から、痩せこけて無精ひげを生やした健一郎の頬をそっとなでてきた。自分と健一郎双方の涙に汚れた顔に微笑を浮かべて。
「どうしてもお姉ちゃんが許せないなら、これからこうやって、好きなだけわたしにぶつけてください」と言って。

 彼の全部を受け入れようとするあの泣き笑いが、いまにいたるまで健一郎の胸にとげのごとく突き刺さって抜けない。ときおり胸をうずかせ、苛つかせるのだ。

 許せなかった。そのうずきが。
 美佳への想いさえ薄れさせそうで。

(こいつが僕を憎めば――こんな痛みは残らなかったのに)

 いっそ。
 もっと踏みにじってやる。
 こいつが僕を憎むまで。
 もしくは、僕が、こいつをどう扱おうが気にならなくなるまで。
 胸に刺さった、得体の知れない忌々しいとげが抜けるまで。

 社会復帰した――表面上は。
 学校にも戻った――勉強も部活も一切どうでもよくなっていたが。
 学業放棄に抵抗はなかった。どうせ、自分という男の中身が屑であったことは、美奈を衝動的に犯したことでとっくに思い知っていたのだから。
 屑なら屑らしくするつもりだった。

 実際に毎日、放課後になると美奈の通う女子校まで迎えに行き、共に帰って部屋につれこんで犯した。夏休みのあいだも部屋に呼んだ。
 たしかにしばらくの間は、「ミカ」を責め立てているつもりにもなれた。
 美奈もわきまえていて、私服で来るとき、彼女は美佳の残した服をまとって訪れた。本当にどんな要求にも応じた。なにをされても受け入れた。

 だが、その従順さは、なぜかますます健一郎を苛々させた。
320ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:05:17 ID:Yw+FasOY

 しだいに、「ミカ」へ憎しみをぶつけているのか、美奈本人を責め立てているのか曖昧になっていった。
 体力的にすぐ限界を迎える美奈に「役立たず」と吐き捨て、彼女に装着した犬用の鎖と首輪をひっぱって床に引き倒し、首をおさえてむせこむ彼女に「あとは上の口でやれ」と命じもした。
 そんな扱いをしても美奈は謝り、ひざまずいて命じられたとおり奉仕するのだ――可憐な唇と舌で奉仕しながら、目元を赤らめ、愛撫する肉棒に愛おしそうな様子さえ見せて。

 あるとき、ただ乱暴に犯すだけから責め方を変えた。
 処女を破ったときのことを思い返してみれば、美奈は意外に苦痛に耐性があるようだった。体質ゆえさまざまな病を併発してきたからだろうか。
 暴力的な扱いはたぶん無駄だった。だから責めはもっぱら、強い羞恥や屈辱を与えるようなものに変えた。
 ……――美奈の体を気づかったのでは絶対ない。そう、健一郎は自分に言い聞かせていた。

 皮肉なことに、美奈の精神は苦痛に強くとも、繊細な性の悦びには弱いようだった。きちんと手順を踏んで愛撫すれば、明敏な反応を伝えてくるのだ。
 なら、それでもいいさ、と健一郎は暗く思った。
 こちらがあいつをさげすめるようになるまで、どろどろに堕としてしまえばいい。

 なんだ、こんな雌犬だったのかと軽蔑してしまえば、厄介な胸の痛みなどは消えるはずだと。

 けれど美奈は、本質はけっして変わらなかった。
 健一郎の目論んだとおり官能の毒にひたされきっても……熱く乱れた息の下でケン兄とささやく声には、幼いころにおぶった少女の声の響きが残りつづける。
 胸のうずきはしだいに、耐えがたくなっていった。

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 ひんやりした感触が熱いひたいに触れた。
 眠っていたようだった――ぱちりと目をあけると、美奈の顔があった。
 熱を測るように触れてきていた彼女の手を反射的にふりはらい、健一郎は上体を起こした。ぐらぐら揺れて倒れこみそうになりながら、彼女をにらみつけた。

「なんだ……勝手に……入ってきやがって」

 三日、迎えに行かなかったことになる。それまでほとんど空けたことがなかったのだから、美奈が不審に思うのは無理もない。
 だが、彼女のほうからここに来るとまでは思わなかった。

 かすむ視界がようやく定まって美奈の姿が澄明に見える。

 美佳の服ではなく、いつものカトリック系女子学園の制服姿だった。
 黒のワンピース風の制服――コルセットでもはめたようにウエストが細く締まり、スカートや袖の丈は夏服というのに長く、なるべく肌を見せないようにしてある。
 上にはおったボレロカーディガンの襟と袖口の折り返しだけが白で、首元にはベルベットの細いリボンタイが結ばれていた。

 古風で禁欲的で単純なデザイン。女子修道服を意識したらしきその黒と白の制服姿は、それゆえにすらりと肢体にはりついて優美さを引き出している。
 これだけは美佳より美奈のほうにイメージが合っているなと健一郎は昔から思っていた。美奈が似合いすぎているだけかもしれない。
321ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:06:17 ID:Yw+FasOY

「具合が悪かったんですね、ケン兄」

 美奈は奇妙に静かな声をだした。

「寝ていてください。何か食べましたか?」

「帰れ。お前が帰ったら寝る」

「食べましたか?」

 食べていなかった――腹は減るが、胸のあたりにむかむかしたものがあって、最初の夜に吐いてからは食べ物を口にしていなかった。

「食べるか食べないかは、僕の勝手だ。薬は飲んでる――さっさと帰れと言ってるだろう」

「お粥を作ってきます」

「ああ?」

 苛々――苛々。

「なんのつもりだ、お前――」

 険悪に視線で刺す。
 美奈は影絵のように微動もせず立っていた。

「治ったら呼ぶ。それまで来るな」

「治るものも、治りません。
 その服、寝汗でべっとりですが、いつから代えていないのですか? 手伝います」

「お節介なんだよ、やめろ!」

 とうとう怒号した。

「それとも何か? それが『お願い』でいいのか――」

 それを皮切りに、とにかく追い払おうとして思いつく悪罵を次々投げようとして、直前で健一郎は黙りこんだ。
 美奈は涙をためた瞳に強い意志をあらわし、唇を一文字にひきむすんで、凛然と健一郎を見返していた。
 健一郎は知っていた。これは美奈が引き下がることを肯んじなくなったときの表情だと。
 彼女は、ごくまれに、とても頑固になることがあった。彼を部屋から出したときのように。

 ――こうなったらこいつ、決して自分を曲げない。

 ふいに、抵抗の力が体から抜けた。
「勝手にしろ。そのかわり早く帰れ」そうつぶやくのが精一杯だった。
322ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:07:43 ID:Yw+FasOY

………………………………………………
………………………
……

 美奈が作った、梅干しで味付けしたお粥を食べさせられた。
 ミネラルウォーターのペットボトルに、大げさなことに病人用の吸い飲み器(水を飲むための器具)まで美奈は持ってきて、枕元に置いた。

「食はあとから吐いてしまうから食べなかったが、薬はちゃんと飲んでいた。水なしでも飲めるから大丈夫だった」と言い張る彼に、美奈は懇々と説き聞かせてきた。

 たとえ後で吐いてしまうとしても、すこしは胃に残留して栄養として吸収されること。
 それに、食後服用と注意されている薬を飲むときは、食べておかないと胃を痛めるから食事が必須であること。
 錠剤やカプセル剤は、胃の中で水に溶けることを念頭において開発されているため、水なしで薬だけ服用することは『ちゃんと』とは言わないこと。

 薬を飲み慣れている美奈の言うことである。
 加えて、面には出ていないが、美奈からは怒っている感じがひしひしと伝わってきていた。
 何も言い返せないまま、健一郎は粥を無言ですすることになった。
 食べ始めると美奈が出て行ったので、健一郎はやれやれと肩を下ろした

 ……が、食べ終わって薬を飲んだとき、美奈が真新しい男物の下着とフリースの上下をもって戻ってきた。
 また出ていき、つぎにはビニールシートとお湯のはいった洗面器とタオルをも。
 おい、なんだそれは――その文句を口にする前に、美奈が彼に言った。

「お父さんの代えのフリースと、封を切っていない下着です。
 着替えてください。寝汗は体力を奪います。ですから着替えのついでに、体も拭かせてもらいます」

「冗談もたいがいに――」

「恥ずかしいのですか? わたしは、あなたの体をすべて見ています。それに病人に恥ずかしがる資格はありません」

 シスターを思わせる制服の美奈に、静かな迫力でぴしゃりと言われ、健一郎は口をつぐんだ。
 好きにしろと言った手前、どうしようもない。それに、実をいえば、昔から美奈はめったに怒らないが、怒ったときは彼は逆らないことにしていたのだった。
 ……もともと昔は、といっても数ヶ月前のあの日までは、彼も美奈には本物の兄妹に接するように接していたのだった。

 優しいけれど怒らせたら怖い妹と、成績はいいが案外に弱気な兄――美佳を中にはさんだ幼馴染み仲間で、それに似た親密な関係がかつてはあった。
323ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:09:27 ID:Yw+FasOY

(熱のせいだ……熱に浮かされているせいで、僕は昔の態度になってしまっている)

 こんなことは、今日限りだ。
 床のビニールシートの上に立ち、美奈に熱いタオルで体を拭かれながら健一郎は決意した。
 ほんとうに全裸にされている今は、あまり様にならない決意だったが。

「――こうして、ケン兄がわたしの世話をしてくれたことが子供の頃にありました」

 彼の背を拭きおわり、前面に回ってきた美奈がどこか懐かしげに言いだした。

「体調を崩してベッドに寝ていたわたしのそばに来て、『退屈そうだから本読んであげるね』と。
 『何かぼくにできることある?』とほかにも聞いてきて、」

「やめろ」

 健一郎は冷ややかに断ち切った。

「あのときは、僕は美佳に会いに行った。たまたま美佳はまだ帰ってきていなかった。
 退屈だったのは僕だ……おまえにかまったのは美佳が来るまでの暇つぶしだった。それに、おまえに優しくすればするほど、美佳がそれを嬉しく感じると知っていた。
 僕の内面などこんなものだ、昔から。あのころは偽善者だっただけのことだ」

 これを言うとしばらく、健一郎の望んだ沈黙が場に与えられた――けれど、

「それでも、わたしは嬉しかった」

 小さく彼女はささやいて、清める手をまた動かしはじめた。またあの胸のうずき――健一郎は苛々して吐き捨てた。

「それに、昔は昔だ。ぜんぜん別の世界のようなものだ」

 それに対し、美奈は、ほんの少し哀しげなあの微笑を浮かべて、黙々と手を動かした。
 健一郎は彼女から目をそらした。美佳のこと以外の過去など思い出したくもない。もっと下卑たことを考えたかった。自分は下卑た人間であると自分自身に証明したかった。

(……そういえば、この制服のときに抱いたことはまだなかった)

 甲斐甲斐しく彼の腹のあたりを拭いている美奈の制服を、あらためてじっくり見る。
 たしかに肌色が見えぬよう全身を覆っているが、シスター服と同じで腰や腕など体の線がぴったり浮き上がっていて、見ようによってはかえって艶めかしさを感じさせていた。

「腕を上げてください」

 美奈が言い、彼のわきを温かいタオルで清めはじめた。健一郎はくすぐったさに顔をしかめた。懸命に彼の体を拭く彼女の細い手が、腹や腰のあたりを這いまわっている。
 こいつを今、いつものように抱いてしまおうか――そう思った。
324ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:11:25 ID:Yw+FasOY

 けれど……なぜか、その考えは頭をよぎっただけで、全くその気になれなかった。

(美佳の服じゃないからだ)

 彼はそう結論した。「ミカ」の服を脱がせるところから始めないと意味が無いから興味を覚えないのだと。
 ――違う。けっして、免疫機能の弱いこいつに感染ることを心配してなどいない。

 するりと股の間にタオルを持つ手が伸びてきて、健一郎の思考を中断させた。
 やめろと言いかけたが、体のうちでとくに不潔に蒸れていた部分を熱いタオルで清められるのは心地良かった――それに、美奈は手馴れていた。

「……おい、やったことがあるのか?」

「はい。学園の方針で、二ヶ月に一度ほど老人ホームでの奉仕活動をしています」

 美奈の学園の卒業生の何人かは、看護師や介護士の道へと進み、学園と同じ財団が経営しているカトリック系の病院に務めることもあるのだという。
 その説明は納得いったが――困ったことが起きていた。

 笑劇じみたことに、会陰から睾丸にむけてこすられているうち、健一郎の男根が硬くなって頭をもたげはじめた。
 三日というのは、体内で造られる精液が充填され、空から満タンになるまでの期間でもある。

 あ、くそ、と健一郎は焦ったが、三日前まで抱いてきた少女を前にして、その部分は意思に反してますます血をのぼらせ――
 見る間に、傘を開くように包皮まで亀頭冠の下に落としてすっかり勃起してしまった。
 美奈が気づいていないはずもなかった――実際に彼女の清めの手は止まっていた。健一郎は赤くなり、非常にばつの悪い思いで下をむいた。

(おかしい、なんでこんなに恥ずかしいんだ?)

 何も見なかったかのように、美奈が体拭きを再開する――が、心なしか手つきがぎこちなくなっていた。

 気まずい雰囲気のまま、それからすぐに清める作業が終わり……健一郎は置かれていたフリースのズボンをひったくるようにしてそそくさと身につけようとした。
 が、片脚を通そうと足をあげたとたんに平衡感覚を失って体がかたむく。
 美奈が小さく悲鳴をあげ、倒れかけたかれの体を抱きとめて支えた。

「先に下着を――ズボンは、ベッドに座って穿いてください!」

「わ、わかっている……いや、そうしようと思っていたところだが、ちょっと焦って……」

 みっともないと自分でもわかる言い訳がつい口から出た――美奈が相手にせず彼の肩をおさえてベッドに座らせ、着替えのTシャツをとってくる。

(おいおい、まさか着付けまでする気か)

「ぼ……僕は着るものは下から先に穿くんだよ。上だけ着て下半身が裸である時間があると、そのあいだは男の威厳が損なわれ……」

「臓器が冷えてしまいます。上が優先です」
325ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:12:28 ID:Yw+FasOY

 聞く耳もたずてきぱきと美奈が彼の頭にTシャツをかぶせ、袖を通させた。続いてフリースの上を。
 まともなようでよく考えれば怪しいような気がする論理だったが、健一郎はもう黙って従った。着替えるから帰れと言えば済んだな、と思ってもあとのまつりだった。

 美奈がボクサーパンツを持ち、健一郎の股間を見て停止する。健一郎はげんなり――情けなさそうに言った。

「収まるまで待てよ……というか、それをこっちに渡せ」

 まだ勃起が続いていた。だからさっさとズボンを穿きたかったのだ。
 しかし――

「……それも、ちゃんと処理しますから」

 困ったように眉を八の字に下げた美奈が、言った。
 ベッドに座った健一郎は、唖然として、ついまじまじ彼女を見た。

 美奈は消え入りそうな声で、「でも、見られたら恥ずかしいから、目を閉じていてほしいです」と言った。

 そして、その場にひざまずいた。健一郎の脚の間に身を入れ、太ももに手をおいて、緊張した顔を伏せた。
 ――ちゅぷ。
 温かくぬめる感触が亀頭にかぶせられる。美奈が口唇で彼を射精にみちびこうとしているのを知って、健一郎はうめいた。
 手でやらせるのではなく、口で奉仕させるほうをずっと教えてきた――というより、手を使わせないで口だけでやらせる調教をほどこしてきていた。

「ばか……精液は血液と同じだ、感染するから口でなんかするな」

 と、亀頭から唇と舌がはなれ、美奈が顔をあげる気配がした。彼女は生真面目に否定した。

「だいじょうぶです。風邪ウイルスなら、体液での経口感染はおそらくありません。
 それにこの風邪はインフルエンザのような悪質な伝染性ウイルスではなく、季節の変わり目で体調を崩したことが大きいと思いますから、わたしでも予防できます」

 まあ、健一郎に関するかぎりそれは妥当な分析といえた。
 抵抗力が落ちていたのだ。食生活からして、栄養など知ったことではなく食べられるものを口に放りこんでいただけだったのだから。
 どうやら成績が良かっただけで自分はとても馬鹿だったようだ、と健一郎は渋い顔になった。

「楽にしていてください」美奈の含羞の声は、とても甘く響いた。

「すぐ出せるように力を抜いて。わたしの口に出し終わったら、眠って……」
326ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:13:16 ID:Yw+FasOY

 本格的に奉仕されだす。

 肉棒への口づけから始まった――美麗な桜色の唇が、醜悪な形の亀頭にキスを二三度降らす。
 三日も洗われず雄の臭いが濃くなってしまっているであろう亀頭表面を、うすもも色の小さな舌が丹念に舐める。
 舌先がちろちろと鈴口を割れ目にそって掃きはじめると、健一郎は思わず声が出そうになった。

 やがて、先端が唇に含まれた。
 ぬるる……と桜色の唇の輪が先に進み、亀頭冠の段差をおりてそれは止まった。傘の下のくびれが唇にやんわりと締めつけられる――亀頭海綿体の膨張がぐぐっと進む。
 それから、舌がおずおずと触れ、裏筋を丁寧にあやしてきた。ぬりゅぬりゅと舌が、その男の弱いポイントをなぞってくる――腰がはねそうになる。

 包皮を剥かれた敏感な肉の実が、ぬめらかな粘膜にくるまれ、汚れを清めるようにくちゅくちゅと優しくしゃぶられる――彼はもうはっきりと背筋をわななかせてしまった。
「ン……」美奈が肉棒の根元に白い指をからめ、もう少し深く呑みこんでくる。
 とろけそうな甘悦だった。

 薄目を開けて股間を見下ろした。
 目を伏せた美奈が、かしずいて一心に尽くす光景があった――彼女が片手で落ちかかる髪をかきあげながら、その頬をすぼめると、深く呑み込まれた肉棒にぴたりと粘膜が吸いついてきて快楽を高めた。
 男の肉を吸いあげる淫らな表情のはずなのに、静かに奉仕に没頭する美奈の美貌は、どこか聖性をおびていた。健一郎は、胸が痛みとともにうずくのを感じた。

(なんで動揺してるんだ)朦朧とした意識が自問する。

 そして、ふっと浮かび上がってきたのは、

(……こいつの唇は、歌や楽器や静かな言葉や、いずれできるはずの、こいつをちゃんと大切にしてくれる恋人とのキスのためにあったのに。
 こいつをレイプするような最低の男のものをくわえさせられるためではなく)

 妹のために嘆く兄のような、そんな答えが、ごく自然に出てきたことに、健一郎自身が驚愕した。

(僕は馬鹿か――なにを勝手な。こいつにこれを覚えさせたのは僕で、させているのも僕だ)

 きつく目を閉じて、甘美な口唇愛撫と胸のうずきの双方に耐える。
 が、美奈が、彼の体がこわばったその様子に気づいて、彼がきつくにぎっていた両のこぶしに手を重ねてきた。

「がふぁん、しふぁいふぇ(我慢しないで)……」
327ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:14:05 ID:Yw+FasOY

 目を開けると、くわえたまま上目づかいで見つめてきていた美奈と目があった。
 男の肉を口にして頬をすぼめた表情を見られた美奈が、かああっと顔を赤らめてひどく恥ずかしげにして、泣きそうに瞳をうるませた。それでも、奉仕は止めなかったが。
 いつもならわざとじっくり見つめ、「そんなにしゃぶるのが好きか」などと、意地悪な言葉でさんざん嬲る――だが、この日は、健一郎は黙ってまた目を閉じた。
 両の手は、美奈におさえられたままだった。

 言われたとおりに力を抜くと、射精まではあっという間だった。
 美奈が首を前後させ、柔らかく口をつかってにゅくにゅくと唇で幹をひきしごいてくる。温かい水アメに肉棒がくるまれているような愛楽の官能――朦朧としていく。
 ちゅぷちゅぷと鳴る音……ぷりぷりした唇、うごめく可憐な舌、熱い口内……気がつくと達していた。

 勢い良く、ではなかった。前立腺が熱くなって輸精管が震えたかと思うと、その熱がゆっくりと尿道を上がってきた。
 白いゼリー状のかたまりとして彼女の口に、どく……どく……どく……と、気の抜けた速度で流れこむ。
 美奈が放出を助けるように裏筋を舌の腹でマッサージし、ちゅぅと穏やかに吸引してくる……それでわずかに放出速度が速まったが、あくまでもゆっくりした絶頂だった。

 健一郎はほうとため息をついた。
 奉仕「させる」のではなく奉仕「され」、すべてをゆだねきって与えられる快楽――それまで知らなかった種類の悦びだった。

(すごく、きもちいいな……これ……)

 ゆっくり引き伸ばされた、長く甘やかな法悦だった。
 美奈が出てくる精液をこくん、こくんと飲む音がしていた。教えたことに忠実に。
 健一郎は心地良い消耗でぼんやり酔ったようになっていた。目を開けて、言うはずのないことを彼は言っていた。

「今日は別に、飲まなくていい……美奈……『あの時間』以外で、僕にそこまでしないでくれ、頼む……」

 優しくされたくないんだよ。

 美奈が驚いた顔をして口を離した――健一郎はまた目を閉じた。眠い。
 目が覚めて、正気に戻ってから発言を悔やむにしろ、今は考えたくなかった。
 どのみちとっくに、もっと別のことを悔やんでいた。

 心地良い消耗――また眠い――眠気が翼でも生えているかのように迅速に戻ってきて、まぶたを閉ざさせた。
 毛布をかぶりながら、下を穿くのは明日でいいだろう、と結論した。そのあたりはもうやけっぱちだった。男としての威厳など今夜全部ふっとんでいる。
 美奈が何か言っていた。

「……できれば、水分はこまめにとってください。暖かくしていてくださいね……」

 追加の毛布がぱさりとかかる。おやすみなさいの声を最後に残して、気配がベッド横から去っていった。
328ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:15:49 ID:Yw+FasOY

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 Kyrie eleison
 Kyrie eleison

 澄んだ歌声。
 新しい夢だった。

 ……それまでは、美佳の夢ばかりだった。
 あの「お医者さん」と美佳が腕をくんで、幸せそうに歩き去っていく。その後ろ姿を見ている自分はぴくりとも体を動かせない、そういう悪夢だった。
 それが、この日は違った。

 新しい夢の内容は、自分自身の記憶だった。
 小学四年生のある日、隣家に遊びに行って、姉妹が母の伏せる部屋で歌う賛美歌を聞いたときの夢だった。

 美佳がピアノを演奏しながら歌い、姉と同じ学園で二年生の美奈もまたそれに合わせて唱和する。
 姉妹の母が、ベッドから上体を起こして、にこにこと子供たちを見ている。いつもはしかつめらしい顔の「お医者さん」も相好を崩していた。


 マリアはあゆみぬ Kyrie eleison
 しげるこかげの いばらのこみちを


 ふだんは青白い顔の美奈は、きらきら目を輝かせて頬を燃やし、習い覚えた賛美歌を母のためにいっしょうけんめいに歌っていた。
 何度も歌ったせいで、そのうち疲れて、美奈は母親のベッドでいっしょに眠ってしまった。

 美奈をのこし、健一郎は美佳にお菓子でもたべようと誘われてリビングのほうに行った。
 だが、ドアの取手に手をかけた美佳が動きをとめた。二人でリビングの扉ごしに漏れ聞いた――隣家の親戚の大人たちが話しているのを。

 ――医者ノ話デハ、ドコガ悪イトイウモノデハナイソウダ。
 ――全部ダト。ソシテ悪イノデハナク、『弱イ』ノダト。

 ――循環器系モ呼吸器系モ。免疫機能モ自己治癒力モ。全テ、常人ニ比ベ虚弱トイウ話ダッタ。
 ――タダ生マレツキ生命力ガ弱イ……ソレダケナノデ、治シヨウガ無イト。

 ――結局、アノ子ノ母親ノ体質ヲ受ケ継イダトイウコトカ。
 ――セメテモノ救イハ、治療費ニ不自由シナイ家ニ生マレタコトダガ……

 聞いた内容はところどころ難しくてわからなかったが、とても怖かった。
 だれの話かは、すぐに名前が出たのでわかった。

 ――美奈ニハ無理サセナイコトダ。ドノミチ、人ヨリ長クハ生キマイガナ。
329ねがいごと〈中〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:16:44 ID:Yw+FasOY

 美佳が横で泣いた。健一郎も、このとき美奈をとても哀れに思ったことを覚えていた。
 だから後日、美佳が「あたしたち、ミナに優しくしようね」と言って彼に指きりげんまんさせたとき、彼も心の底からうなずいたのだった。

 急に場面が暗転して、気がつけば、幼い自分と向かい合っている。
 正面からにらまれ、こちらはまともに子供の自分の顔を見られず、足元に視線を落とすしかできなくて――

………………………………………………
………………………
……

 はねおきた。
 呆然とする健一郎の部屋の内には、朝の光が満ちていた。
 時計を見る――午前十時――今度は、半日以上も眠ってしまっていたようだった。

(……何か妙だな)

 枕元をたしかめる。吸い飲み器の中の水は減っていた。飲んだ覚えが無い。
 にもかかわらず、喉は乾いていなくて、唇は湿されていた。
 ふわりと、室内にかすかに甘い残り香がただよった――美奈の匂い。

 夢のなかにしては妙にはっきりと響いていた「憐れみたまえ(Kyrie eleison)」の優しい歌声を思い出す。

「あいつ、登校の前にもこっちに来たのか」

 思わずいまいましげなつぶやきが出た。
 わざわざ来て寝ている彼の顔の汗をふき、吸い飲み器の水を口に含ませ、ことによると子守唄がわりの賛美歌をつぶやくように歌っていったのかもしれない。
 十時まで夢の中だったから、たしかによく効いたのだろうけれど。

「こういうお節介はいらないと言っただろうが、畜生……」

 ぎゅっと、われ知らず心臓の真上をつかんでいた。
 いま見た夢の原因――そしてこの胸のうずきは、罪悪感だ。
 そんなことには、健一郎はとっくの昔に気づいていた。

 子供のころ、あの話を聞いてから、美奈を守る役目は美佳と彼のものだった。美佳が去ったいまは彼一人が残っているのみだ。
 なのに、いまは、守らなければならない者を傷つけている。その現在の彼を、夢で幼い日の彼が責める目で見つめるのは当然だった。

 そして、美奈はけっして責めてくれない。
 何をされても腕を広げて、自分が与えられるかぎりのすべてを彼に捧げようとするだけだ。

 あの儚い微笑で。仔羊のような、聖母のような慈愛で。
 ――切なく健一郎を恋い慕う瞳で。

 罪悪感と同じく、目をそらして気づかないようにしてきたそれにも、さすがにもう直面せざるをえなかった。
 自分に向けられ続けている美奈の想いに。

「……なんでなんだ、あの馬鹿は……」

 髪をひきむしるように自分の頭に爪をたてて抱え、健一郎はうめいた。

「……どうして……」

 こんな男に。
330ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/16(日) 00:21:14 ID:Yw+FasOY
この話はすっぱり完結させます。っていうか次で終わりです。
近日中に出します。
331名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 01:00:47 ID:M9JR0GRz
乙、長いSS書ける人ってすごいなあ
もう数か月ちまちま書いてるがまだ4KBだ
332名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 01:41:56 ID:ZWtneFFX
GJです。
続き、楽しみに、お待ちしてます
333名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 02:31:31 ID:yl3t1Wjz

美奈ちゃんまじ天使
334名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 03:01:51 ID:yZ9BtKzo
美佳うぜー
何か妙にイラッと来るな。立ち直れそうにない
335名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 08:37:07 ID:dXSlfcVt
GJ! 美奈ちゃん天使すぎるだろ…
336名無しさん@ピンキー:2011/01/16(日) 13:59:55 ID:VEXk9e/4
乙!
さすがですなー
美奈ちゃん、マジ天使
337名無しさん@ピンキー:2011/01/21(金) 00:12:21 ID:DGA+sp7L
言われてみれば性処理要員と化した幼なじみも恋人未満か

勉強(?)になった
338名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 20:32:05 ID:rBqqcIPl
続きマダー?
339ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:44:11 ID:yUpUnVHb
投下させていただきます。
340ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:45:21 ID:yUpUnVHb

 美奈は健一郎を立ち直らせることを、考えていた。

 ……それだけとは、主張しない。
 この爛れた日々のなかには、美奈にとっての幸福がたしかにあったから。

 健一郎は美佳が――美奈の姉がいたころには、優しくはしてくれても決して振り向いてはくれなかった。それが、どんな形にしろ今は美奈を求めてくれるのだ。
 今の状況を終わらせたくないと浅ましい願いが芽生えていた。

 代償は、それなりにあった。
 自分でも知らなかった淫らな本質を引き出されることになったのだ。

「温雅で物静か、体が弱くたおやかなお嬢様」――美奈は周囲にそう思われていた。
 が、そう評価した者たちが、健一郎に抱かれているときの美奈を見れば、恋情と官能を激しく燃焼させる彼女の、あまりに淫麗な狂いように唖然としただろう。

 美奈は健一郎の愛撫で、肉体そのものが変えられたのかと思うほど、女としての業を引き出させられた。
 被虐的な快楽の妙味を覚えさせられた。無垢なところ、彼の精液を浴びなかったところは残っていない。
 彼に抱かれること自体に抵抗はなかったが、淫らな女と軽蔑されるのは嫌だった――だから、最初は快楽と戦おうとした。けんめいに肉の反応を拒んだ。

 けれど毎回、最後は必ず、いじめられる悦びの前に屈服させられて、気がつくと惑乱の声をあげながら双臀を揺すって止まらない絶頂に泣き叫んでいる自分がいるのだ。
「何を言ってもお願いには含めないから言っていいぞ」と許可を与えられるや、恥もなにもなく媚声で「許してください、これ以上気持よくしないでください」と哀願してしまうほどに肉を堕とされてしまった。
 朦朧としながら男根を唇と舌で掃除させられると、考える力もなく残り汁をジュルジュルと吸い上げて、それを美味しいとさえ感じるようになってしまった。

 美奈は自分の体が破廉恥なほど快楽に弱いことを認めざるをえなくなった――そして、堕とされることを受け入れた。
 いったん受け入れてしまえば、それすらも後ろ暗い幸福の一部となった。それは甘い毒のように美奈の肉体も精神もむしばみ、倒錯した深い悦楽をもたらした。

 こうやって乱れるわたしのほうが、本当のわたし。
 あの人に教えられた、本当のわたし。
 蔑む言葉をかけられ、もてあそばれる奴隷の扱いを受けることにも、ひそやかな喜びを覚えるようになった――被虐性癖の開花だけではない。
 彼の手で変えられていくことが、嬉しかったのだ。

 時間が迫っているのはわかっているけれど、もうすこし。もうすこしだけこの毒に浸かっていたい。彼のそばにはべっていたい。

 その美奈のささやかな幸せも、この秋の日、終わることになった。
341ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:46:06 ID:yUpUnVHb

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 窓をおおったカーテンが、受け止めている西陽を透かしてオレンジに燃えている。
 琥珀色の淡い夕闇の室内、美奈は口づけに酔いながらぼんやり考えた。
 苦しい。心が。

 もともと、今日、きつめに抱かれることは覚悟していた。
 危険日よりも、安全日のほうが健一郎の責めは容赦なくなる。それでも避妊具無しのことはほとんどない。
 ……するときには、一日かけ徹底して、膣出しされる官能を植えつけられ、美奈の理性が溶けて自分から膣内射精をねだるまで精神を堕とされるのが常だが。
 そして今日はおそらく膣内に出される日だろうと、予測がついていた。

 けれど、いま苦悩しているのは、そういうことではなく――

(こんなに優しく抱かれることが、一番つらいなんて思わなかった……)

 健一郎の愛撫で官能の愉楽にあえがされているのは同じだけれど――その日の交合は、いつもとは違った。
 導入からしてそれまでと様相が違っていた。

 まず、姉の美佳の服を着なくてよいといわれた。学園の制服のまま部屋に来いと。

 ベッドに座る健一郎の膝のうえに横座りさせられた。
 すぐに脱がされるのではなく、制服の上から優しく愛撫されながら、何度も何度もキスされた。
 ひたいや頬やまぶたや唇に触れるだけの軽いキスの雨をたくさん降らされ、それから唇と唇をしっとり深く重ねられた。

 まるで恋人同士が営みをはじめるときの手順――美奈は戸惑い、いぶかしんだが、疑問よりも圧倒的に大きかったのは、わきあがってきてしまう甘酸っぱい幸福感だった。

 健一郎の右手が美奈の後頭部を抱いてきて、指で耳朶をくすぐり、つぷりと耳穴にさしこんできた。その時点で少女はわななき、ぶるりと腰をよじってしまっていた。
 彼の左手で片方の乳房を丁寧に揉みあげられながら、彼の唾液を流しこまれると、体も頭の中も陶然とゆるんでしまった。
 情感が高まって、うっとりと芯からほころびて、愛しい人にいただいた唾液をこくんと嚥下してしまう。犬ならぱたぱたと尻尾をふっていただろう。

 けれど……

「……『ミカ』」

 キスの合間に、彼が目をつぶってぽつっと言った言葉に、幸福感は消し飛んでぎゅっと胸がつまった。
 ああ、そうか――大事な者を扱うようなこの始め方は。
 彼が、姉を抱いていた手順の再現なのだ。

 悄然と涙がにじみそうになって、それをこらえる。
 そうだ、自分で言ったことだ。姉の代わりにしていいと。なら、責任をもってやりとげないとならない。

 また、深い、優しい口づけ――美奈の心が軋む。覚悟はあっても、やっぱり苦しい。
 けれど体は反応して、自分からぴちゃりと舌をからめた。

 ワンピース風の制服のスカート部をまくりあげられ、ショーツの上から股間を男の手に押さえられた。健一郎の手が下着ごしに陰唇をなぞって、秘部を前後に摩擦してくる。
 いつもより丁寧な愛撫を哀しく思った――けれど美奈の肉はみるまに奥から濡れ、じわりと愛蜜をにじみださせた。
342ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:47:46 ID:yUpUnVHb

 さすられる下着の底がクチュクチュ水音をたてだすと、健一郎のキスはむさぼるような情熱的なものになった。

 美奈のうなじをおさえた右手でぐっと抱きよせ、力強く美奈の舌を吸い、からみあわせてねぶりはじめる。
 そうしながら、左手では巧みに、する……と美奈のショーツを脱がせて、黒のニーソックスを穿いた脚から抜いた。
 激しい口づけにうめき、それさえ唇で封じられてくらくらさせられる。酸欠になるほどの長いキスに、美奈はいつしか酩酊したように上気してしまっていた。

 唇がようやく離される――銀の糸をひきながら。
 あえぎ、ぽうっと酒を飲んだような顔色になっている美奈に、健一郎が命じた。

「こっちを向いてまたがるんだ」

 健一郎が導くままに体の向きを変えさせられた。
 下着だけ抜き取られて、早々と結合させられる――腰掛けた彼にまたがらされ、向い合って抱きつく、いわゆる対面座位の格好。

「ん……ふっ……」

 そそりたつ男の先端をきつく締まろうとする膣口に当て、白い尻を下げる――
 亀頭に押されて桃色粘膜の口径が開き、にゅぷっと肉棒の頭が押し入る。肉棒がじわじわ胎内を進むと、胎内の膣肉がさっそくぷりぷりからみつき、雄の肉をもてなしはじめた。

 結合部をおおいかくす制服のすそを、腰の上まで引き上げられる。健一郎が、美奈の双臀を抱えてきた。
 のっけから、彼女の膣内の勘所を知り尽くした細かい動きを送りこまれ、美奈はおもわず足指をきゅっと握ってしまった。子宮がじゅくっと甘痒くしこる。

「今日は前戯はさほどしていないが……挿れたまま蕩かしてやる。すぐにそうなる。おまえはミカと、感じる場所も感じる責めも同じだからな」

 ゆるやかな腰使いでじわじわ性感を煽られつつ、首元のリボンタイをしゅるりとほどかれる。
 制服のボレロを脱がせ、少女の白いのどに顔をうめて、鎖骨の上にキスを降らしながら、健一郎がささやいた。

「僕は『ミナ』には用がない。おまえが僕をどう思っていようが知ったことじゃない」

 ――心が。

「用があるのはこの体だけだ……ミカに似ているこの体だ。
 すぐへたばることをのぞけば、おまえの体は僕には都合がいい」

 千々に。

「おまえは僕にとって、ミカの代わりでしかない。わかっていただろ?」

「はい……」
343ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:49:10 ID:yUpUnVHb

 首筋から耳の後ろまで舌先で舐め上げられて背筋をわななかせながら、美奈は虚ろに返事した。
 体はとても丁寧に抱かれて、蜜に漬けられるかのような甘悦を与えられているのに――
 胸の奥が、裂かれる痛みに悲鳴をあげている。

 ……それでも、彼の宣告どおり、肉は蕩けてしまうのだ。

 健一郎が蜜壺をならすように、一定リズムで奥を、小さくノックするように繊細に突き上げてくる。
 同時に、まくりあげられたスカートすそからちらちらのぞく、丸く柔らかい美奈の尻たぶを、左右それぞれ手をかけてこねまわしてくる。
 時間がたつうちに、出したくもないのにしぼりだされる艶声が徐々に高まってしまう。

「……ぁ……」

「……ん、ぁっ……」

「うぁっ……ン、ふぅっ……」

 美奈の白かった肌がうす赤く火照りだす。
 白い尻房の双球が、男の手に媚びるように汗をにじませ、揉み心地をしっとりと良くする。
 蜜壺の無数のひだが蜜をからめてざわめき、貫いてくる男の肉の表面をねぶりはじめる。
 結合部からあふれた蜜が、べっとり彼の下腹から内ももを濡らしてしまっていた。

 健一郎が耳元で命じてくる。

「脚をこっちの胴に回せ」

 ……まるで下から男に抱きついて射精を受けるときのように、黒のニーソックスを穿いた美脚で、彼の腰をきゅっと巻きしめさせられた。
 健一郎もまた、手をかけていた美奈の尻をぐっと引き寄せてくる。

 座位による結合がより深まり、性感帯と変えられた子宮口をなおさら刺激された。羞恥と悦感のあえぎが美奈の唇からこぼれる。
 それだけではなかった。体前面の密着が強まった結果、陰核が彼の恥骨で押しつぶされ、快美のしびれが神経を走った。

「ンンっ……や、……やぁ……」

 恥知らずな肉豆が恥毛にこすれて勃起し、さらにトクトク脈うって膨らんでいく。

「当たってるだけでわかるくらい勃起しているぞ、恥ずかしい粒が」

 健一郎がささやいて、また唇を重ねてくる。
 同時に、腰の前面をすりあわせて、美奈の陰核をコリコリすり潰すような動き。

「〜〜〜〜!」

 恥丘の下のその一点から刺激が流れっぱなしになり、美奈は目の焦点を散らして、くぐもった叫びを唇と唇のあいだで漏らした。
 子宮が痙攣する。まぶたの裏でぱちぱち閃光が散る。
 反射的に腰を引こうとしたが、彼の手に双臀をぐっと引きつけ直された。またすぐ恥骨をこすりあわされる羞恥の密着体勢にもどってしまう。

 刺激されつづける陰核が限界まで充血する。包皮がにゅるりと向きあがってつやつやした肉真珠がこぼれでる。
 少年の硬くはえそろった恥毛が、ぞり、と敏感すぎる剥き身を摩擦した。その一瞬で、電流があっけなく美奈の脳裏を焦がした。

「ひああぁぁっ!」

 痛みか快楽かすら判別できないうちの、瞬間的な絶頂だった。隠すこともできなかった。唇を離して叫んでしまっていたから。
 健一郎が淡々と言った。
344ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:50:08 ID:yUpUnVHb

「ほら、な? 反応が同じだよ。気持よかったか?
『ミカ』。……いっそ、これからはそう呼ぶか」

 彼のその呼びかけに、

「わ……わたしは」

 ……受け入れると覚悟したはずだったのに、のろのろ舌が動き、否定の言葉が切れ切れに出た。

「わたし、は……ミナで……」

「……ミナじゃない。『ミカ』だ。そう呼ぶぞ、この時間は。いいんだな?」

 いやです。美奈の内で、冥い深淵がそう叫んだ。

 わたしの名前を呼んでください。
 お姉ちゃんの代わりでいいと言ったけれど、本当は、本当の本当は、こうしている間ほんの少しはわたしのことも見てほしかったんです。
 あなたがわたし自身をかけらも見てくれなくなるくらいなら、前のように鎖と首輪をつけられてひきずりまわされて、罵られているほうがずっとずっと幸せなんです。

 押し殺して、承諾した。

「…………わかり、ました……」

 さすがに顔を上げていられず、暗然とうつむく。
 ……どちらも、何も言わなかった。
 美奈が顔をあげようとしたとき、健一郎の苦い声が聞こえた。

「ばか……本気にするな」

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

(わかりましたとか言うんじゃない)

 健一郎の小細工は、あっさり失敗した。まさか、恋心をずたずたにするような一連の発言の後でも、美奈が受け入れるとは思わなかったのだ。
 自分はいま、さぞ情けない顔をしているだろうなと思った。こらえきれない涙をにじませてうつむいている美奈を見つめる。

(はやく僕に愛想を尽かせよ、この馬鹿娘)

 健一郎は、美奈に、どうにかして彼への愛情を醒ましてほしかった。
 ここしばらく、さんざん虐げていた美奈からの愛は、罪の意識で彼の胸をえぐるだけだったから。

(それなのに、なんで耐えようとするんだ、こいつは)

 かえって、罪悪感が増すばかりだった。

「ばか……本気にするな、ミナ」

 苦渋に満ちた声で、そう言うしかなかった。
 美奈がきょとんと顔を上げて彼を見る。しかし、その目はすぐ、哀しげな色を浮かべた。
 その表情に無理やり浮かべた微笑が広がるのを、健一郎はなぜか不吉なものとして見た。

「ありがとう……いいんです、好きなように呼んでくださって」

 無限の許容とひたむきな情愛の混じった目。

(こいつ、はったりだったと信じていない。僕が本気で言って、こいつの様子を見てそれをひっこめたと勘違いした)
345ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:51:28 ID:yUpUnVHb

 どう言えばいい?
 本当はとっくに、美奈を美佳と重ねることに罪悪感を覚えているのに。
 まして、美奈の想いにはっきり気づいた今は、それを試みるだけで、心痛は耐えられる限度を超えそうになる。

 決して心の表面には出さなかったけれども……胸底でひとつの声がしていた。こんな奴を好きだなんて、ミナがかわいそうだ。
 かつての健一郎は、美佳に恋する一方で、美奈については「幸せになってほしい」と漠然と思っていた。過去の彼が、ほのぐらい夢の中から、現在の彼を厳しく見つめている。

 かといっていまさら優しく慰撫することもできず、結果、まったく関係なく嘲弄するようなことを言った。

「おまえ……レイプまでされておいて、よく僕のような屑にそこまでへつらえるな? ご主人様が欲しい天性の犬体質かよ」

 本音――なんであんなことをした僕なんかを好きなんだ。そこまでしようとするんだ。
 こんなこと、おまえが「お願い」さえすればいつでもやめてやるよ、はやく嫌になって投げ出せよ。

 ……美奈がぎゅっと健一郎の頭を抱いた。

「ケン兄は、屑では、ありません」

 仔羊のような彼女の温かみに、健一郎はあっけにとられ、それから顔が歪むのを感じた。
 阿呆か。屑だよ。ほかの何だ。
 おまえには、少なくともおまえにだけは十分すぎるほどひどく当たってきたんだぞ、ミナ。

 耐え切れなかった――抱きしめてくる美奈の温もりが。

 温かさを、過去のすべてを拒絶するように、健一郎は彼女の腕をふりほどいた。黒い心をかきたてた――それはかっと勢いを増した。消える間際の火のように。
 体勢を入れ替えて、引き倒すようにベッドに美奈を転がしてのしかかった。小さく驚きの声を出した美奈の、濡れ羽色の黒髪がシーツに広がる。

「……なるほどね。よっぽどいじめられる抱かれ方が忘れられなくなったというわけか? 淫乱なのは知っていたが、こんなにまでとは思わなかったぞ」

 つながったままの腰を引いて、吸いついてくるような蜜壺からぬぽんと肉棒を抜くと、刺激をうけた美奈が今度は「んっ」と声をあげて腰を震わせた。
 健一郎は眉を寄せて苛立った目で彼女を見下ろした。

「このやり方はもうやめだ、いつものようにしてやるよ」

 美奈の、すべてを許そうとする愛情に怯えた――逃げた――歪んだいつもの、お互いの関係に逃げこんだ。
 まだしもそちらのほうが、自分にとっても美奈にとってもましだと思えたから。

 そうだ……これは、型の決まった「お約束」なのだ。裏切っていなくなった美佳を挟んだ、幼馴染みの三人の。
 美佳に重ねて、彼は嬲る。美佳に重ねられて、美奈は嬲られる。
 美奈がやがて濃すぎる官能に限界を迎えれば、それを彼は察して、許しを乞わせる――その一連の流れ。

 辱められることを宣告されて、美奈の整った小顔に安堵が浮かんだ。
 それから、これから始まる隷属の時間を想像したのかうっすら赤くなり、妖しく蕩けた。
 彼を抱きしめたときは澄んでいたつぶらな瞳が、愛欲のもやを帯びて艶めいていく。

「はい……どうか、狂わせて……」

 健一郎は気付かなかった――彼女の欲情に濡れた瞳の奥に、いつもより思いつめた色があることに。
346ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:52:56 ID:yUpUnVHb

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 制服を剥かれ、黒いニーソックスだけを残されて美奈は全裸にされた。
 赤いアイマスクで目隠しされ、おもちゃの手錠で両手首を拘束された。

 手始めに背面を愛撫されたときは、思考能力はまだ残っていたはずだ。後半はかろうじてではあるが。
 美奈はうつぶせに寝かされ、うなじ、耳たぶ、背中、太もも裏、わき腹、つぶれた横乳、それに臀部などをゆるゆる愛撫されて、長い時間を焦らされた。

 彼の手のひらや指先や唇が、触れるか触れないかのフェザータッチで柔肌の上を、あせることなく一定の速度で這いまわるのだ。
 彼の枕に顔を埋め、あえぐうちに全身が総毛立ち……毛穴が開いて汗が噴き、ヒクヒクと尻が痙攣し……ベッドに押しつぶした乳房がじんじんうずき……
 雪のように白かった肌が赤らんでいよいよ汗でぬめり……彼の手が内ももをスーッとなでたとき、ひざを開いてしまい……
 円をかくように双臀の球面を撫ぜられたときは、なにかをねだるように尻をヒコッと持ち上げてしまい……淫らにふやけあえぐ膣口からこぽりと濃い愛蜜の滝をこぼし……

 身体の奥のなにかを目覚めさせられ、肉体の発情状態を何段階も先に進められていくような前戯。
 視界と手の自由を奪われているからこそ、より敏感に愛撫を受け止めてしまった。
 また、その間ずっと健一郎の枕に顔を埋めていたせいで、呼吸が速くなるほど彼の体臭を感じさせられてしまった。自分を調教した愛しい雄のにおいに、全身の細胞が彼を求めてうずいてしまうのだ。

 最後には、あまり体重をかけないようにではあるが背中にまたがられ、ボディオイルをわずかにつけた手で腋のくぼみをヌルヌルとこすられはじめた。
 子供のころ、ふざけて取っ組み合いをしていた健一郎と美佳の二人の遊びに入れてもらい、押さえつけられて二人にくすぐられ、泣き出してしまったことを思い出させられる責め。

 ……成長してからのこの腋責めでも、美奈は顔を真っ赤にし、首をふって悶え、すすり泣き、おさえこまれた身をよじってシーツに波のような皺をつくり、妖しい快楽でのよがり声をほとばしらせた。
 美奈が枕を噛んでむせびを殺しながら、その異常な場所での絶頂に震える艶景を健一郎に見せるまで、その責めは続いた。

 その後、決定的に自分の理性が飛んだのが具体的にはどのあたりだったか、美奈にはよくわからない。

 包皮を剥かれたクリトリスを執拗に口唇愛撫でねぶられ、仰向けでベッドにのけぞって恥丘を彼の口に押しつけ、刺すような絶頂を間断なく極めさせられていたときか――

 蜜壺に指をさし入れられ、陰核裏側のGスポットを粘っこい指使いで刺激され、脚をひらいて潮を繰り返し噴き、魂を引っこ抜かれるような肉悦に叫びっぱなしにされたときか――

 健一郎の長い指で子宮口周りをまさぐられ、今度はまたイかせない焦らし責めを受け、子宮の発情を臨界点ぎりぎりまでおし進められて、わけがわからなくなりかけていたときか――

 拘束された手を壁につかされて、立ちバックと呼ばれる後背立位でようやく挿入してもらえたときだったかもしれない。
 子宮口焦らしでうずきにうずいていた膣奥を、後ろから貫く男の肉に一気に突き上げられた瞬間、美奈は快楽を爆ぜさせてしまった。よだれをこぼして切なく叫びながら。

「イクッ! ひっ……ひいいっ……っ!」
347ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:54:23 ID:yUpUnVHb

 しかも、健一郎もいいかげん我慢できなくなっていたようで、絶頂する蜜壺肉に卑猥に絞られてあっさりと最初の一発目を放った。
 絶頂の最中にその射精を受け止めさせられて、美奈は脳が溶けそうになった。
 以前にいやというほど仕込まれた膣内射精の快楽――久々にこってりと子宮に浴びせられると、丹念に準備された体がたまらなかったのである。
 甘鳴きしながら太ももをすりあわせ、内また気味でひざをがくがく震わせて、続けざまに子宮で達した。

 その体位がそれだけで終わるはずもなく、抜かれないまま責められ出した。

 けれど、まだその腰使いは、躾けられた女体には物足りなさ過ぎるもので……奥に入れてくれてはいるが、抽送は2センチ程度の、それも決して速くはない腰づかい。

 それに反して、上半身への愛撫は濃密にほどこされた。うなじにキスマークをつけられ、くれないに染まった耳たぶをかじられ、耳の穴を舌で犯された。
 形のよい乳房をねちっこく背後からすくい揉まれ、胸愛撫で悶えさせられた。
 小さめで薄い色だった上品な乳輪まで、興奮状態でぷくりと乳肌から浮いて膨れてしまった。それなのに、そこにコチコチの乳首を押しこむように指を埋められて、乳房ごと円を描いてこねくり回されるのだ。
 酸欠になったように美奈はあえいだ。乳腺が開いてしまいそうな両胸からの快感に、簡単に胸だけで達しそうになってしまう。

 そして、上半身への責めのすべてが下半身の情欲を煽った。
 一度射精を受けたのに、美奈の体はまったく満足してくれていなかった。
 かえって、子宮に直接媚薬を浴びせられたように、精液を詰め込まれた奥はじくじくうずきはじめたのである。

(うごいてほしい)(突いてほしい)という肉の飢餓感で発狂しそうになり、結果、

「自分で尻を振って……そんなに待ちくたびれたか?」

「ひぃっ、だって、や、腰がぁ、うごいちゃっ……あんっ」

 低い声で言われたとおり、男をくわえこんだ美奈の尻は、なめらかな肉感を背後に押し付けながら艶めかしくよじりたてられていた。
 子宮口に亀頭を食いこまされたまま、左右にねっとりくねり、ときおり後ろにしゃくり振って、柔らかい桃丘を弾ませながら夢中で快感をむさぼっている。
 意思をはなれて動く身体に愕然とするだけの気力ももうなく、美奈は濡れた羞恥の鳴き声をあげるしかできなかった。

「いやぁ……あぁ、あぁぁ……っ」

「嫌? とろんとしたエロ惚け声でなにを言ってる。……子宮、気持ちいいか?」

 ようやく彼がスピードを上げてくれた。
 小刻みな抜き差しは相変わらずだったが、とろけた膣奥でぐちぐちとそれが速まっていくと、刺激はたちまち子宮が燃えるような官能に化けた。
 せりだした子宮口を亀頭が小突き、カリが膣奥の肉ひだを一つずつめくり返すたびに、美奈の思考も甘声もよじれていく。

「ひぅ、胸の先つまんじゃ、ぁ、いきます、ああイクっ」

 周到な前戯で、とっくに下ごしらえが済んで、女の肉がトロトロになっていたところだったのだ。
 両乳首をコリコリと指でつぶされて軽く達してしまったのを皮切りに、そのまま細かい絶頂が止まらなくなり、
348ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:55:08 ID:yUpUnVHb

「ふあああぁっ、なか、びゅーってぇ、すごいのくるのぉ、あぁぁあああああっ……!」

 ドプンと二発目の精液を注がれたときはひときわ深い絶頂に陥ってしまった。
 目隠しされた少女の眉が八の字に下がる。宙に突き出た舌がわななき、若い牝の発情香が甘く立ちのぼる。
 絶頂する子宮口を亀頭でくじられながらドクドク注がれると、精液のとろみも熱さも勢いも、ほとばしるすべてが、子宮が溶けるような肉悦につながった。

「あひぃ……い゙…………い……」

 あれだけ噴かされた後なのにまた潮を漏らしてしまっていた。
 可愛らしい尿口がぱくぱくあえいで、ピュッ、ピュッと潮液を飛ばす。子宮口に伝わる男の律動に同調した、リズミカルなほとばしりだった。
 溶かされた腰の中身を尿道から飛ばしてしまっているような絶頂感が、断続的に訪れる。子宮口絶頂での重い余韻とあいまって、肉の桃源郷に放りこまれた心地だった。

「あああ……あ……きもちいい……しきゅうに、ぶっかけられへぇ、イクの続いてますう……」

 潮射精に連動して、勃起したクリトリスがヒクつきっぱなしになっていた。精通を迎えたばかりの小さな男の子のような有様――紅艶に上気した美貌がだらしなくあえぐ。
 うごめく膣ひだが肉棒をしゃぶりたてる――男の腰におしつぶされるように密着した美奈の双臀は、しっとり汗をにじませて細かく震え、蜜壺で残り汁まで搾っていった。

 震える少女の、ニーソックスの足の間――ぼたぼたと、精と愛蜜の潮の混合液が白濁溜りをつくっている。
 壁についている手で体を支えられなくなり、くずおれる寸前に健一郎に抱きとめられた。

「気をつけろ、手間をかけさせるんじゃない」

 彼の焦った声。不機嫌な怒りを装った声――自分で気がついていないのだろうか、と美奈は夢うつつに聞いた。
 美奈をこんなにも優しく抱きとめながらだと、どんなに苦々しげに言おうとしても、説得力なんてないのに。
「いつものようにしてやる」と言いながら、彼の抱き方は、最初の頃と現在ではまったく違うものになっている。

 それとも……気遣ってくれているのは、わたしの体だけだろうか。

 先ほど、「必要なのはミカに似たこの体、ミナとしての意思はいらない」と言われた。彼はすぐに撤回したけれども、本当に望んでいたのかもしれない。
 この人が望むならわたしはそうなろう。肉の人形にでもなんにでも。
 心を殺すのは、簡単だ。
 罪深いこの淫らな行いにとろけていればいい――あまりの気持よさでただ頭を真っ白にして、動物のように泣いて叫んで、彼の足元に仕えて、命じられたら彼に奉仕して……

 ううん、違う――美奈はこくんと喉を鳴らした。
 これはわたしの願望だ。いつまでも彼のそばにいたいから、楽な道を選ぼうとしてしまっている。けれどこの関係は、もうすぐ終わらせなければならないのだ。
 そうとわかりながら、美奈はそっと彼の腕に触れた。

 でも今日だけは……溺れていたい。最後になるかもしれないなら、なおさら。
349ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:56:40 ID:yUpUnVHb

……………………………………………………
…………………………
……

 日が落ち、宵の空に明星が輝いていた。

 室内は、闇色の蜜溜りと化していた。

 静かな、だが凄艶な色香がけぶって、天井へとたちのぼり……しとしと降る雨露のごとく、部屋全体にふりそそいでいく。
 ベッドシーツはところどころ濡れ、大波小波の皺がよっている。
 現在進行形でその皺はさらによじれ、新しい模様をえがき、陰影の形を変えていく。
 しどろにほつれた黒髪が、汗みずくの白肌とあいまって、幻想的なほど艶めいている。

 身をも髪をも乱れさせ、かつ悩ましくにおやかに、愛欲に耽溺しきった様をみせる少女――美奈が、のしかかっている健一郎を下から抱きしめて、甘く泣きむせんでいる。

「ケン兄……ケン兄、ケンにいっ……」

 ――ケンおにいちゃん。

 激しく腰を使われて責め上げられ、官能を炎上させられながら、美奈は健一郎の名を呼ぶばかりだった。

 赤いアイマスクは手錠とおなじく外されていたが、美奈の視界に映っているのは、やはり真紅……真っ赤な快楽だった。
 時間の感覚も溶け失せて、淫虐の火の海にたゆたっている気がした。

 実際、もうどのくらいの時をつながっているのかわからない。
 幾度もの射精を受けた秘肉は、妖紅色にますます濡れ輝き、恋い慕うように肉棒をねぶり奉仕している。

 うわごとのように彼の名を呼びながら、美奈はひっきりなしに達していた。

 対して健一郎は、彼自身もこの肉の交歓に没頭しながらも、しだいに危惧を強めていた。
 小さな体を軋むほど激しく責めたてながら、彼は彼でこれでも慎重に、美奈の限界を測っていた。

(こいつ、今日はまだ、一言も「許して」と言っていない)

 息苦しさにも似た恐怖感――どういうことだ、と健一郎は思った。
 おかしい。いつもなら、そろそろ美奈が「もう限界です」と伝えてきてもおかしくないはずなのだ。

 先刻、「なにを言っても『一つきりのお願い』には含めないぞ」と、すでに明言してある。
 それは、これまで言葉にこそしなかったが「本当に限界なら身体が危なくなる前にストップをかける」という、嬲る彼と嬲られる美奈とのあいだにあった暗黙の了解であったのだ。

(いつもと違う……こんなはずじゃなかった、今日はいろいろとおかしいぞ)
350ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 21:57:48 ID:yUpUnVHb

 ……健一郎は動きをとめ、顔を近づけて屈みこみ、美奈の首筋に手をそえる――
 彼は美奈の体調を測るためにそうしたのだが、美奈は別の意味に受け取った。
 朦朧とした少女は、少年の首を腕で巻きしめて、花弁のような唇を自分から重ねた。
 舌をひらめかせて彼の口内を掃除し、無我夢中で奉仕愛撫のための口づけを行っていく。

 最初はためらっていた健一郎だったが、結局、あきらめて激しく口づけを返した。
 どこかで、引き返せない泥沼にはまっている気が、した。

(なんだよ、これは……)

 この行為を彼からは、止めることができなかった。
 もし誰かが知れば、馬鹿げていると思うはずだ。健一郎の意思しだいでいつでも止められるはずだ、と。

(そうだ、責めたてているのは僕のほうのはずなのに……)

 出来なかった。阿片を吸ったように、彼もどろりと思考を濁らせていた。
 出しても出してもいつのまにか勃起していて、気がつけば身体も思考の大半も、蠱惑的に乱れる少女のほうへ強烈に誘引されていくのだ。

 美奈の体は、彼女自身さえ知らない魔性を帯びているかのように、健一郎を呪縛し……妖しい力でもって彼をとどめ、この加虐行為から手を引かせようとしなかった。
 健一郎は少女の白い裸身にぞくりと畏怖を感じた。妖術によって、自分が、腰を振る本能だけの、昆虫の雄にでも変えられたような気がしはじめていた。

 そして畏怖よりなにより、彼女から伝わってくる想いに圧倒されていた。
 組み敷いた年下の幼馴染みの呼気に、声音に、色づく肌に、くゆる女香に、男を搾る胎内に、そして潤む瞳に、恋を見た。尽きない愛が揺らめいていた。

 命の薄い少女が、その命を燃料に恋の火を燃やし、みずからの身で雄をつなぎとめている。炎から火の粉がふりまかれるように、無音の声が室内に響いていた。

 わたしを抱いて。
 わたしを抱きしめて。

 あなたが好き。
 あなたが好き。
 あなたが好き。
351ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:02:44 ID:yUpUnVHb

(――やめだ!)

 胸を貫く痛みに、健一郎は唐突にそう決心した。その決意が、甘やかな呪縛からわずかに精神を解き放ってくれた。

(こいつをミカに重ねるのは、もうやめだ)

 その「やめ」というのが、とりあえず今日はということか、それとも永久にということか――突き詰めて考えるのを後にして、彼はどうにか腰を引いて肉棒を抜いた。
 尻もちをつくように彼は床に座りこんだ。瀕死のように横たわったままで荒い呼吸をついている美奈に、半ば悲鳴のような声をかける。

「おい……苦しいときは、やめてとちゃんと口にしろ。お願いには含めないって言っただろ!?
 いや、『やめて』というのがお願いだっていいんだ、なんでもいいから、おまえの体力が尽きる前に言えよ!」

 お願い。
 どこか遠くから聞くように、美奈はぼんやりとそれを認識した。
 健一郎に聞いてほしい自分のための欲望……いくらでもある。

 ――お姉ちゃんのことを忘れて、心から消して――
 ――わたしを愛して、わたしだけ見て――
 ――お姉ちゃんを忘れさせてみせるから、わたしのそばにずっといて――
 ――お姉ちゃんを忘れられなくてもいいから、どんな形でもいいから、あんまり長く生きて束縛しないから、だからわたしを捨てないで――

 美奈がこれまで夢想してきたいくつもの懇願が「お願い」となって、喉元まで出かかる。
 少女の、残っていないと思っていた理性がかろうじて働き、すべて飲み下して封じ――

「して……もっと、してぇ……」

「……おまえ……」

「やめ、ないで……」

 許しを乞わない――これまでのときとは全く逆に、彼女は続行をねだった。
 淫艶にぬめる裸身をよろよろと起こし、這うように身体をひきずり、座りこんだ健一郎のもとに近づく。
 呪縛がまたしても健一郎をとらえ、彼は呆然と少女を見つめることしかできなくなった。美奈が近づいてくるほど、意思に反して股間のものがミキミキいきり立っていく。

「ケン兄、好き……」

 四つん這いの美奈が、とろんと濡れた瞳で健一郎を見つめてささやき、そっと触れるだけのキスを重ねた。
 彼女にとってははじめての告白だった……言葉では。

「あと……いっかい、だけ……させて、ください……」
352ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:04:06 ID:yUpUnVHb

 健一郎の股の間に座りこもうとして美奈が双臀を向けると、しどけなく乱れた髪が濡れた背にはりついた。
 ぽってりふくらんだ二ひらの大陰唇に指をかけ、彼女がみずから開く――くちゃぁと開いた膣口から白濁がごぽりと溢れ――美尻がねっとりとうねって、肉の泥沼がふたたび男根を呑みこんでいった。
 背面座位で結合し、過敏になりすぎた奥までをみっちり男の肉に埋められて、少女はぶるッと腰をおののかせ、ほうと熱く吐息した。

 ……そして、美奈は床に手をついて、健一郎の股間に押しつけた尻を使いはじめた。
 ∞の形にうねらせ、左右にくなくな揺らし、前後にしゃくり、上下に振りたてるようにして淫らに肉棒を蜜壺で引きしごく。

 しだいにその腰使いがこなれ、より妖艶になっていく。複雑さは少しずつ失せて上下に振る動きだけに収斂していくが、双臀の動き方はなめらかさを増していた。
 男に快楽を与えようとしながら、美奈にとっても薄い、気だるい絶頂が延々と続いていた。もう、ほんの数擦りされただけで蜜壺が達してしまうような過敏状態なのだ。
 淫楽にどうしようもなくとろけきった顔で、美奈は叫んだ。

「ケン兄っ、わたし……インランでしょうっ?」

「ミナ……」

「おねえちゃん、よりっ、インラン、でしょう……っ?」

 会えなくなる前に、なにかひとつ自分のことを、どんなことでもいいから、姉にくらべて強烈に覚えていてほしかった。
 ――健一郎が、後ろから美奈の腰をつかんで動きを止めさせた。

「ああそうだ、くそ……おまえは、ミカよりずっと淫乱だよ……!
 すぐ終わらせるから、自分で動くな!」

 ぐちゅっと突き上げられて、深く極めてしまい、「んひぃっ」と歯をくいしばった。
 実をいうと前からされるより後ろからの体位のほうが美奈は弱かった。膣奥の特に弱いポイントに、後ろからだと亀頭がもろに当たるのだ。
 そうはいっても彼は最後の一回を慎重に責めてきた――腰をぐりぐり押し回すようにして。

「あんっ……ああぁ……あぁぁ……っ」

 甘ったるく、天使的な官能だった。濃厚な悦びにひたらされる。
 本来なら、女体をじんわりととろ火で煮込む責めだ――なのに、もうこれだけで子宮が達し続けて、骨が全部溶けたみたいになってしまう。
 乱れた吐息にあふあふと恍惚のあえぎが混じった。

「ふあっ……これぇ…………これ……こわいくらいぃ、いいですぅ……」

 円運動で、子宮口周りをコリュコリュとほぐされる一秒ごとに、快美な肉悦が天井知らずに高ぶっていく。
 蜜壷の最奥で味わわされる、穏やかながら深い、極甘の絶頂感。それは静かに大きな波紋を広げていって――

「あ――…………」

 絶頂のなかで失禁してしまった。
353ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:06:06 ID:yUpUnVHb

「いやぁぁぁ……ごめ、なひゃ……はずかひ……」

「……おまえの恥ずかしいところなんかもう全部見てるよ、気にするな」

 やけになったような声で、背後の少年が美奈を抱きしめ、頭を撫でてきた。
 ……たしかにそうで、夫婦でさえけっして見せないようなところを、健一郎には何回も見られてしまっている。
 けれど、頭を撫でられ、はっきりと気遣われたこと自体が美奈には予想外だった。
 これではまるで、昔の優しかった健一郎のような――

「ふわぁぁ……ン……」

 美奈の混濁した意識に、それは驚愕より先に至福感をもたらした。
 飼い主に蹴られても足元を離れようとしなかった犬が、ある日いきなり可愛がってもらえたときに感じるような、幸せの感情。
 健一郎がささやいてきた。

「……これで終わりだからな」

 ――びゅく。
 量はさすがに少なくなったが、熱さは変わらない精液が子宮に浸透してくる。

「――――、――――、――――」

 自分がどんな言葉を叫んでいるのか、美奈は認識できなかった。イク、とか、好き、とかそのあたりなのはわかりきっていたが。
 阿片を凝縮したものを、脳に直接ぽとぽとと垂らされているような気がした。

【どぐん】

 ――あ。

 胸の奥で、

【どぐっ、どく、どく、どくどくどく】

 ――ああ……ちょっと、からだに、むりさせちゃったかも。

「はっ、はっ、はふっ、ぁっ、はっ」

 急に感覚が鋭敏になった――自分がせわしなくあえぐ声が、美奈にはやけに大きく聞こえた。
 強すぎる快楽。苦しい。乱れる心脈。
 きもちいい。くるしい。ああ、いくのとまらない。

「……おい、ミナ?」
354ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:07:03 ID:yUpUnVHb

【どっどっどっどっどっ】

 不規則に心臓がはねる。さっきから妙な具合に暴れてる。
 よだれが溢れるのが止まらない。どれだけ呼吸しても息が吸えない。
 くるしいのもきもちいいのも、いままででいちばんすごい。

「はっ、あ゛、ぁぁっ、あ、は、っ、はっ」

「ミナ! ミナっ!」

 あ……ケン兄が、わたしの名前を呼んでくれている。
 わななき、ひきつる体をケン兄がずっとだきしめていてくれる。
 ケン兄が耳元で、わたしの名前を呼びつづける。こんなにいっしょうけんめい。

 焼けつくように、幸福だった。

「はっ、はっ、はふ、ぁぁぁ――…………はひ……」

 もろい肉体を破綻させかけた濃烈な肉の高みが、美奈からようやく通り過ぎていった。

 健一郎の抱擁のなかで体の力を抜き、くったりと首をかたむけた。
 全身が弱い電気を流されているみたいにヒクヒク動く。濃い余韻――桃色の裸身がねっとりと汗を噴き、艶美におぼろめいた。
 死の一歩手前まで命を燃焼させた少女の恍惚――瞳から光の消えた美貌には、放心しきった淫麗な痴笑が浮かんでいる。

「……あはぁぁ…………すご、かった……」

「この……馬鹿……」健一郎が、胸がつまったような声をだして、彼女の肩をより強くうしろから抱きしめた。
 彼女の体にまわされて震える健一郎の腕にのろのろと触れて、美奈は絶えそうな声で言った。
 安心させようとして。

「だいじょうぶ、です、よ……ちょっと、よすぎて、からだが、おどろいた、だけ……
 かんたんに、しんだり、しません……ねだったのは、わたし、ですから、気に、しないで……」

「――なんでだ!?」

 健一郎がとつぜん叫んだ。
 こらえてきたものが爆発するように。
355ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:08:51 ID:yUpUnVHb

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 限界だった。健一郎のほうが。
 ぐったりした美奈を横抱きにして体の前に抱えなおし、歪んだ意地の最後の一片を投げ捨てて、彼は叫んだ。

「なんで、僕にここまでするんだよ!」

 今しがたの、発作のごとき美奈の体の変調で――こいつ「まで」失う、いや、こいつ「を」失う――その可能性に直面したとき、はっきりわかった。

 もう、自分にはできない。
 ミナへの罪悪感を消すことは決してできない。
 ミカへと向けた憎しみを上書きしていく、こいつの優しさを、こいつの微笑みを、こいつへの罪の意識を、心から消すことができない。
 これ以上、こいつを踏みにじろうとすることができない。

 勝てないと思い知らされた――こんなに細くて壊れそうな体のこいつに、勝つことができない。

「なあ、なんでここまで我慢する!? 死ぬところだったんだぞ――僕のすることなら、殺されるまで受け入れ続けるつもりかよ、おまえは!
 『いつだって、ひとつだけなんでも言うことを聞いてやる』といっただろ!?
 責める言葉を言え、僕を罰しろよ! ……せめて、『美佳の代わりにされるのはもういや』と言えよ……言ってくれ……」

 血を吐くような声で彼は嘆願し、それから、

「……いいや、もう、やめだ……こんなのは、こっちがおかしくなりそうだ……」

 精神的に憔悴しきった声を出して、彼は、美奈の儚い体を正面から抱きしめた。

「ミナ、僕にはおまえがここまでする価値なんて、ないんだぞ……
 ……好意があったって、いままでされたことで醒めるのが普通だろ……おまえが怖い、わからないよ……なんで僕を責めて、憎んで、軽蔑しないんだよ」
356ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:09:45 ID:yUpUnVHb

「……責めることなんか……できませんよ」

「だから、なんでだ……!?」

「お姉ちゃんが駆け落ちしたとき……ケン兄は、想いが醒めましたか……?」

「っ……」

「わたしも、ケン兄と同じだから……きっと、自分がその立場だったら、あのときのケン兄みたいになりました……軽蔑することなんか、できません……
 それに……それにねえ……お姉ちゃんの駆け落ちは、わたしのせいでも、あるんです……」

 耳元の声に、ざわりと、健一郎は血が引くのを覚えた。
 体を離して彼女を見る――美奈の笑顔――困ったような、泣き出しそうな。

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 話すことを、ずっと美奈はためらってきた。自分勝手な想いで。

 だがもう終わりだ――健一郎に話さなければならなかった。でないと、時期的に取り返しがつかなくなる。
 力ない声で、語り始める。

「むかしから、お姉ちゃんは、病気がちな妹のわたしを甘やかしてくれた……ぬいぐるみでも、お菓子でも、わたしがほしがったものは、なんでもゆずってくれた……
 だからわたし……だれのことが好きか、隠したままでいなくちゃ、いけなかったのに……」

 後悔にまみれた告白をつむぐ。

「ケン兄とお姉ちゃんが付き合いだしてから、ずっとずっと心の中で、お姉ちゃんに嫉妬していたんです……
 だから……あの日の前に、お姉ちゃんに相談されたとき……お姉ちゃんにはケン兄じゃない好きな人がいるって知ったとき……『許せない』って、思ってしまって……」

 わたしがケン兄しか見ていないように、ケン兄はお姉ちゃんしか見ていなかったのに。
 わたしは、お姉ちゃんにならしょうがないって思おうとしていたのに。
 わたしのいちばん大好きなふたりならって、ずっと押し殺して、諦めていたのに……

「かーっとなって、嫉妬むきだしで、お姉ちゃんだって辛かったことなんかぜんぜん考えず、いっぱい、ひどいことを言いました……
 弱りきって頼ってきてくれたお姉ちゃんに……それまでわたしを守ってくれていたお姉ちゃんに……
 お姉ちゃん、あれで間違いなく、わたしがケン兄のことを好きだと気づいたと思います……
 きっと、それで、『自分さえいなくなれば』って、かんがえて……」

 美佳が読みそこねたのは、捨てられたことで健一郎が壊れたことだったろう。
 妹がどれだけ彼を好きかは察しても、彼がどれだけ自分を好きかは、姉は本当にはわかっていなかったのかもしれない。

 だからといって、美奈は自分の責任を忘れることはできなかった。
 お姉ちゃんをあんなふうに感情的に責めるのではなかった。せめて、ケン兄と話し合うよう取り持つべきだった。わたしがそうしていれば、もっと別の結末があったかもしれないのに……と。
 姉がいきなり出奔した理由の一端は、まちがいなく自分にあると美奈は知っていた――それゆえに、姉にも、健一郎にも、美奈のほうこそが罪の意識を強く抱いていたのだ。

 美奈は声をつまらせる。

「ゆるしてください……」
357ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:11:22 ID:yUpUnVHb

 美奈にはわかった。幼馴染みを見つめ続けてきた彼女には、同じ立場の健一郎の想いがよくわかった。彼がどれだけ衝撃を受けたかを思うと、慄然とした。

 償おうとした。
 姉が去って壊れた健一郎に、自分のすべてをさしだしてでも償うつもりだった。
 最初は、自分の命にさえも無関心になった彼を、この世につなぎとめるところから始めなければならなかった。

 健一郎がひきこもる部屋に入るとき、かつて姉が着ていたお下がりの服を選んだ。姉の香水をつけた。
 出て行けと激昂する彼の腕にしがみつき、いっしょに部屋を出よう、せめてなにか口にしてと懇願する間も、体を密着させていた。
 血走った彼の目に暗い情欲がうずまきはじめても、離れなかった――姉の服をまとったまま、ずっと体を押しつけていた。

 なんとか彼の心を動かそうというくらいの意図で、襲われようと計画していたわけではなかった。
 でも、“そうなってもいい”という思いが間違いなくあって、“そうなればいい”と思う心さえきっとあったのだ。ほかの家族のいない時間帯を無意識に選んだのだから。
 結果として、彼に罪悪感を負わせてしまったが、彼を現世に引き止めることができた。

 現世に引き止めつづけるために、それからも体を差し出した。
 健一郎が抱く現世への執着は姉に関連することだけだろうと知っていた。だから、彼が、自分を通して姉を見るようにしむけたのだ。

 笑顔でいようとしたが、苦しかった。
 強引に犯されようが屈辱を強いられようが、健一郎にされているのだから、それ自体は耐えることができた。
 彼の、姉への想いを、自分の体を通じて確認させられるのがつらかったのだ。
 健一郎が見ているのは、どこまでも美佳であって自分ではない。あるときまではそう思っていた。

 けれどそのうち、美奈は気づいた。
 健一郎が、美奈への罪悪感をどんどん膨らませていくことに。
 それから解放されるため、罰が欲しいと無意識に望んでいることにも気づいていた。
 最初は居心地が悪かった。健一郎を安心させてやりたくて、自分のせいだということを何度も話そうとした。
358ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:12:34 ID:yUpUnVHb

 ……だが、浅ましい私欲が入った。
 罪の意識を抱いているとき、健一郎は「ミカ」ではなく「ミナ」を見ていてくれる。
 それに気づいたとき、「話したくない」と思ってしまった。
 すべてを打ち明けて話してしまえば、彼のその罪悪感を消すことになるかもしれない。

(いやだ……消してしまいたくない)

(罪悪感がなくなれば、たぶん、ケン兄はわたしのことを気にしなくなる)

(きっと、わたしと一緒にいても、ずっとずっとお姉ちゃんのことを考えているようになる。
 こんどこそ、わたしを通して、お姉ちゃんしか見なくなる)

(――そうだ、罪悪感だけがただひとつ、かれの心に刻まれたわたしの――)

「……だから、いままで話さなかったんです……
 ねえ……ずるい女だと、言ったでしょう?」

 虚ろな笑みを浮かべながら言った――後半は、湿った声に変わっていた。
 石のように固まっている健一郎に力なくすがり、頬をかれに押し当てて美奈はすすり泣いた。

「ごめんなさい、こんなことになって……お姉ちゃんを、失わせて……」

 わたしが、あなたをほしがったから。

「ごめんなさい、ケン兄……ずっと黙っていて……気に病む必要のなかったことを気に病ませて」

 このまま、少しでもわたしを見ていてほしいと思ってしまったから。

「ごめんなさい……好きです……ごめんなさい……」

 彼の想いの行き先をずっと知っていながら、焦がれていた。
 絶対に叶わないとわかっていたから、自分の想いを告げることなく、秘めたままためこんだ。最後は姉を糾弾して彼をゆずってもらった、卑怯者。

 しかし、健一郎は、「違うだろ」と、美奈の体をそっとはがした。

「おまえが謝ることじゃない。
 それに、おまえが望んでいたからって、僕の責任がなくなるわけがないだろう。罪の意識が消えるわけがない……」

「ケン兄、でも……」

「僕を甘やかすのもいいかげんにしろ、ミナ。
 僕はおまえの意思なんか確かめないまま、傷つけるつもりで押し倒したんだ。そのあとのことも……」

 言いさして絶句した彼の顔が、沈痛に青ざめている。
 これまで良心とともに心の底に押しこめられながら、育ちつづけていた悔恨が、一時に噴出してきたのだった。
359ねがいごと〈下〉  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:13:46 ID:yUpUnVHb

 ――やっぱり、昔のケン兄。
 美奈は、後悔で言葉をつまらせた彼の態度に、そうと悟った。この人は元に戻りかけている。
 では……本当にこれで、この日々は終わりになるのだ。
 感傷を振り払って、彼女は言った。

「それなら……ケン兄、やっぱり」

 頃合いだ。
 先延ばしにしてしまっていた、最後の仕上げの時が来ていた。
 ――夕星のきらめきの下、窓から見える風見鶏のある赤い屋根で、夜のカラスが鳴いている。
 その、物寂しげな鳴き声に混じって、なぜか、かつて姉と歌った歌が聞こえる気がした。「憐れみたまえ」の賛美歌が。

(もう、わたしは十分に……)

 主の憐れみをたまわった。体だけでもしばらく彼を独占できた。一生、思い返せる恋だった。
 歪んだ幸せは、このあたりでおしまいにしなければならない。
 彼女は言った――湿りが残る、しかし決然とした声で。

「どうしても叶えてほしいお願いを、聞いてくださいますか」

 健一郎は目を開き、迷う色もなく即答した。

「言えよ」

「はい」

 美奈は、抱きついたまま伸び上がるようにして彼に唇を近づけた。
 裸の胸と胸をぴったりくっつけ、互いの鼓動を重ねた。
 心臓の音のなかで厳粛に誓わせるように。

 そして、美奈は彼に願いごとを告げた。
360ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:14:38 ID:yUpUnVHb
以下、エピローグ投下します
361ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:15:39 ID:yUpUnVHb

 秋が深まり、街路樹も校庭の木も、葉の色を変えていた。
 カトリック系女子学園の、午後の鐘が鳴っている。
 下校の時刻も近い休み時間――教室内の窓ぎわの席に腰かけ、なんとはなしに校門のあたりを見つめていた美奈に、声がかかった。

「彼氏とは別れちゃったの、ミナさん?」

 話しかけてきたクラスメートに顔を向け、美奈は目をぱちくりさせた。

「彼氏?」

「あら、なにをとぼけているのかしら。ついこの前まで、下校時間になったら校門の前で待っていたでしょう。
 成英学院の制服を着て眼鏡をかけた、いかにも成績優秀そうな顔した男子が。ま、ちょっと雰囲気暗かったけど。
 なのに、一月ほど前から姿を見かけないわ」

「ああ、ケン兄のこと」

 困った微笑みをどうにか作る。
 このクラスメートは、姉の駆け落ち事件前後のときもまったく変わりなく美奈に接してくれた良き友人の一人だが、目ざといところが少し苦手だった。

「彼氏では、ないです」とはっきり告げる。

「わけあってしばらく、家が近い知り合いに送り迎えしてもらっていただけです。
 かれは受験生なのでもともとそんな余裕はなかったんですけれど引き受けてくれました。いまはもうこちらの事情が変わりましたので……」

 虚弱体質であることは周りに知られているので、「事情」といっておけば深読みして引き下がってくれるはず――と思ったのだが。
 クラスメートは、良家の令嬢らしからぬにやにやした笑みをうかべた。

「あら、そうだったの。放課後近くなるとぼうっと窓から校門を見つめているあなたの様子を見て、『これは恋人でまちがいないわね』とみんなで話し合っていたのだけれど」

 赤面した美奈をおもしろそうに眺めて、クラスメートはその笑みのまま遠ざかっていった。
「もう……」とため息し、美奈は頬づえをついて、また窓から校門を見やった。
 当たり前だが、健一郎の姿はそこにはない。
362ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:16:24 ID:yUpUnVHb

 もう、かれは来ない。そう確認して、美奈は無言で目を閉じた。
 胸中の哀愁は、つとめて無視した。
 来なくなったのは、美奈が口にした願いごとのためだから。

 願いごとで心は強要できない。
「健一郎が心の傷を治して立ち直ること」が、美奈の望みだったが、姉を忘れろなどというのは言うだけ無駄だったろう。
 だが、行動は強要できる。

 ――「ちゃんと受験して。もともとの志望校に進学して」

 あの日、そう言うとかれはけげんな顔をしたが、きちんと約束してくれた。
 だから彼はいまごろ、血まなこになって机にかじりついているはずだ。
 本来の彼の学力なら、じゅうぶん合格見込みがあったのだが、この数ヶ月の空白時間は大きなブランクといっていい。
 出遅れた受験勉強にしゃかりきになって、いまさら美奈といる余裕なんてあるはずがない。寝る時間もないほど追いこまれているだろう。

 なんとなく、ぽそっとつぶやいてみた。

「ざまーみろ」

 彼が求めていた罰は、これでじゅうぶんだろう。彼自身が決めるはずの人生選択に干渉してやったのだから。

 姉の駆け落ちによって彼が負った心の傷は深かった。最初は生きることを放棄し、部屋から出てもそれまでの受験勉強を放棄してしまうくらいには。
 彼が回復するかはわからない――いずれは癒えて思い出になるかもしれないし、決して癒えないかもしれない。

 だが、現実の時間は容赦なく進むのだ。現実を生きているかぎりきちんと大学に進学しておいたほうがいいだろう。
 人生、高学歴だけが重要ではもちろんないけれど、高等教育を受けていれば、のちのち選べる道が増える……陳腐だが、それが現実だった。

 彼のよりよい人生を、より多くの幸を美奈は願った。
363ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:17:21 ID:yUpUnVHb

 ――わたしがいっしょにいてもあれ以上はケン兄の役に立てなかった。

 美奈には、体で慰めて、共に溺れてあげることしかできない。それでも、彼があそこまで持ち直す手助けにはなれたのかもしれないが。
 あの快楽――阿片のような背徳的な官能。
 まさしくあれは阿片で、彼の美佳を失った痛みを和らげるために、鎮痛剤として役立った……だが、最後に自力で立ち直らねばならないときには、たぶん邪魔になるだけなのだ。

 もちろん、うまくいくとは限らない。
 強いられた人生選択にやっぱり意欲はわかないかもしれない。
 結局、彼は立ち直れないかもしれない。現実逃避の日々に立ち戻ろうとするかもしれない。ある日また、わたしを校門前で待っているかもしれない。

 ――もしそうなったら、その先わたしはずっと彼のそばにいよう。こんどは彼の望むだけ、わたしを通して“お姉ちゃん”を見つめさせてあげよう。
 ――哀しいけれどそうすれば、せめて彼のそばにいられる。骨まで溶けてただれるようなあの悦びに、いっしょに溺れていられる。

 そんな後ろ向きの決意――淫靡な期待が、じゅわりと下腹からせり上がってくる。

 ……だめ、と美奈は机に突っ伏して思った。自分のひそかな、よどんだ願望を押し殺す。

(また、自分の望みを優先させそうになるなんて。
 真相をなかなか話せず、二学期始まっても黙っていた時点で、ケン兄の受験勉強を決定的に出遅れさせてしまったのに)

「彼がもう少し、元の彼にもどるまで癒えてから言おう」と、都合よく自分に言い聞かせてお願いを先送りしつづけたことを美奈は恥じている。
 それはたしかに単なる口実ではなかった――あの日お願いを告げたのは、流れもあったが、健一郎がかつてなく昔の彼に近づいたと判断したことが大きかった。
 これならきっと、美奈のお願いを真摯に叶えてくれるだろうと判断できたのである。

 ……だが、タイムリミットは当然ながら、センター試験の願書出願のしめきり日までだ。美奈はぎりぎりまで「もう少し様子を見て」しまっていた。痛恨事だった。

(もう、あの日々の続きに浸りたいなんて思っては駄目。わたしは、ケン兄から離れないと)

 恋しい――けれど健一郎のことを考えれば会わないほうがいいのだろう。
 彼はわたしを見たとき、お姉ちゃんのことを思い出してしまうのだから、わたしは近づかないほうがいい。

 健一郎と全く顔を合わせなくなって、とても寂しい。切なくて苦しい。
 それらにも慣れた。薄れたり消えたりしたわけではない――ただ慣れた。
 押し殺すことにはむかしから慣れていた。

(できることなら、もう来ないで……どうか完全に立ち直ってください、ケン兄)
364ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:18:15 ID:yUpUnVHb

   ●   ●   ●   ●   ●   ●

 健一郎は手をあげた。

「……よお」

 首にマフラーを巻き、かばんを下げて校門を出てきた制服姿の美奈に声をかけると、彼女は衝撃を受けたように立ち止まった。
 以前とはちがい、健一郎は校門でずっと待っていたわけではなくさっき来たばかりなので、美奈はいまのいままでかれの存在に気付かなかったのだろう。

「……ケン兄……どうして」

 健一郎をみる美奈の表情は完全に凍りついている。
 だがすぐ氷が溶けたように涙をにじませて歪んだ――悲痛、諦念、それから……かすかに、暗く儚い笑みをにじませたのは見間違いだったかもしれない。
 ともかく、彼女が何か勘違いをしているようなので、かれは真顔で否定した。

「先走るなよ、受験勉強ならきちんと本腰入れてやってる。ほら、センター対策の問題集を買ってきた帰りだ」

「な……なら、なんで、今日はここに」

「なんでって、今日はおまえの誕生日だったろ。手を出せよ」

 毎年恒例だった美奈へのプレゼントを渡す。
 実をいうと美奈へのプレゼントを毎年欠かそうとしなかったのは美佳だったが、ふたりで選んでふたりで渡していたのだ。
 健一郎のほうは、プレゼントを選ぶための買い物という口実で美佳とデートできるから、という理由が大きかったのだが。

 手のひらにのせられたプレゼントの包みを信じられないように見つめていた美奈が、どうすればいいかわからないとばかりの困り顔をあげて、おろおろと言った。

「あ、ありがと……でも……その、直前の時期なのに、そんなことに時間を割いちゃ駄目――」

「ちょっとくらいなら問題ないから心配すんなよ」

 むっとしてぶっきらぼうにさえぎると、美奈がびくりと身をすくませる。
 健一郎はため息をついて頭をかいた――こんな態度を取りたいわけではないのに、自分の人間の小ささがいやになる。

「そんなこととか言うなよ」
365ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:19:06 ID:yUpUnVHb

 いまの僕にとって、おまえへのプレゼントは大切なことだよ――それは言わず、

「そりゃ、たいそうなもんじゃないけど、ミナに喜んでもらいたいと思って選んだんだ」

「……ケン兄が、わたしに?」

「なんで疑ってんだよ。開けてみろ」

 うながすと美奈がおずおずとプレゼントの包みを開けた。

「……手袋?」

「ブレスサーモのやつ。おまえ、体が冷えやすいだろ。今年発売の新式だからあったかいぞ」

「ありがとう」

 美奈が目元を染めて涙ぐんだので健一郎は驚いた。
 うつむいた少女の鼻をすする音が響く。それを聞く健一郎の胸にせまるのは、むずがゆさに似た何かだった。
 ややあって照れかくしに彼はいった。

「ミナ、せっかくだから一緒に帰ろう。
 ああ、さっきみたいに勘違いするなよ。今日は部屋に連れこまないぜ。僕は勉強しなきゃなんないしな」

「そんなことわかってます!」

 美奈が面白いくらい真っ赤になる。健一郎が薄く笑ったとき冷たい風が吹いた。
「うわ、寒……今朝から急に冷えたな」健一郎は制服の上着のポケットに手をつっこんだ。
 ふと見ると、美奈が彼のポケットにじっと視線を落とし、何かいいたそうにしていた。逡巡ののち思い切ったように、美奈は顔をあげた。

「あ……あの……、ケン兄、自分のぶんの手袋はいま持ってきていないのですか?
 それなら、このプレゼントですけど、ふたりで片方ずつはめて帰――」

「んー……自分の手袋は捨てたんだ」

「……え?」

「あれはミカとのペア手袋だったから。……ほかにもペアにしていた小物は、全部捨てた。
 未練がましくとっていたんだから、ほんと情けない限りだな」

 たたずんで黙っている美奈に、彼は悲しげな笑顔を向けた。

「ミナ、今後は僕の前でミカの服を着なくていい……いや、いまさら勝手で悪いけど、もう二度と着ないでほしいんだ。
 もう、おまえとミカをほんのちょっとでも重ねたくない。……すぐには、無理かもしれないけれど……」

 美奈の手をとって指をからめるように握ると、彼女が泣きそうな目で見上げてきた。
 美奈がさきほど言いかけたこと、したかったことを、健一郎は察していた。
 ふたりそれぞれ片方ずつ手袋をはめて、空いた手どうしをつないで温めあう――まるで恋人同士のように。
 そのようにして帰路を歩き出すと、手を引かれてついてくる美奈が、ふりしぼるような弱々しい声をだした。
366ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:19:52 ID:yUpUnVHb

「お姉ちゃんのことを忘れるなんて、できないくせに」

「そうだな」

「こ……こんなふうに……手をつないだり、背負ったり、絵本を読んだりしてくれたのは……小さなころからわたしに優しくしていたのは……
 そうしたらお姉ちゃんに好かれると考えていたからのくせに」

「そうだ。ミカはそれを喜んだ。いつだっておまえのことを考えていた」

 美佳の影はけっして心から消せないだろう。
 それでも、吹っ切る決意をやっと固めたのだ。
 ――美奈がひとつきりの願いごとを、自身のためではなく健一郎のために使ったことを、かれももちろん気づいていた。
 それからは、どうしても立ち直らなければならないという思いが、日をおって強まっていった。

 昔の自分に戻って、どうしても美奈に伝えなければならないことがあったから。

「僕の志望は医学部だよ、ミナ。むかし、ミカが僕に約束させたんだ」

 美佳はこう言ったのだ。「えらいお医者様になって、ミナの体が弱いのを治してあげて」と。
 数年後、理由不明の虚弱体質が現代医学で治せるような簡単なものではないと知ったあとは、「それでもお医者様が何人も家にいたら、ミナが急に体調崩しても安心だよね」に変わったが。

「ミカはおまえにはどこまでもいい姉貴だったよ。
 でも……僕はミカを吹っ切ることにした。忘れられなくても、諦める決心がついた。
 だから、いまから言うことは、ミカの願いだからじゃなくて自分の意思だ」

 緊張にこわばっている美奈の手をにぎりしめ、健一郎は約束したことを繰り返した。

「もし今年落ちたとしても、浪人して必ず進学するよ……おまえがいるかぎり、医者をめざすのは無駄じゃないって気づいたからな。
 ずっとひどいことをしていてごめん。それと、ありがとうな。ミカがいなくなったあと、ひとりだけ僕のことを見捨てないでくれて。
 部屋から引っ張り出そうとしてくれて。弱い体で無理をして慰めてくれて。立ち直らせようとしてくれて。
 ……僕なんかをずっと好きでいてくれて。
 まだ、いっしょにいてくれるつもりがあるか?」
367ねがいごと エピローグ  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:20:30 ID:yUpUnVHb

 とうとう、美奈が泣き出した。「いっしょにいる」強く、強く、手がにぎりしめられる。

「いっしょにいたい。ケン兄といたいです」

 幼いころ、併発していた小児ぜんそくの発作を起こしていたときみたいに、背を丸めてうつむき、ぽろぽろ涙をながして、彼女はしゃくりあげた。
 健一郎は美奈を肩ごしに振り向いて、べそをかく彼女にあわせて足取りをゆるめた。ふと、遠い日の情景がよみがえってきた。

(そういえば、三人で遊んでいたとき、こいつは二回ほど発作を起こしたなあ)

 家のなかでぜんそくの発作が起きたときは、美佳が飛び立つように人を呼びにいくあいだ、かれは治まれ治まれとミナの小さな背をさすっていた。
 外で――砂場で発作が起きたときは、彼が美奈を背負い、近くの診療所にかつぎこんだ。
 泣きながら背中でむせこむ命の薄い体に、よろよろ必死に走る健一郎自身も涙ぐんでいたのを覚えている。

 ――あのころミナにしてやったことは、必ずしもミカへのご機嫌とりってわけじゃなかったな。

 気づけば頬が優しくゆるんでいた。
 泣き声を聞くうちに、妹分に向けていた思いやりが、かつてのように――かつてより純粋に満ちていく。
 欠けていた胸の内を愛しさがひたひた満たしていく。美佳に対して抱いていた激しい恋情ではなく、静かで、穏やかで、春風のように温かい想い。

 体質的に同じだった母親の死んだ歳までなら、残り二十年余り――
 人より短い彼女の命が、いつかひっそり燃えつきるまで、かたわらにいてやりたいと思いはじめていた。

 こんな静謐な恋も、あるのだと知った。

「ミナ、ミカのこと全部吹っ切るのも、きちんと医学を学んだうえでおまえのそばについていられるようになるのも……いろいろ待たせると思うけど、できるだけ早くするから」

「まちます」美奈の嗚咽が強まる。「まってます……」

「初めてを無理やり奪っちまったし、ひどいこと沢山しちまったけど、こういう形で責任とること、許してくれるか。
 ほんとにこんな男でいいなら、僕が大学行ったらちゃんと婚約しよう」

「ばかあ……」

 手をつないで、家路をゆっくりと、ふたりで歩んでいった。
368ボルボX  ◆ncmKVWuKUI :2011/01/23(日) 22:23:42 ID:yUpUnVHb
これで終わりです。

本当は先週末には投下するつもりだったのですが……
調子にのってエロ詰め込みすぎて、ストーリーよりエロパートがだいぶ多くなったうえ、
「さすがに心停止しないとおかしい」って感じの無茶な責め描写がやたらあったので、ざくざく削除&書き換えてたら遅くなったのです。
ドロドロのグチャエロ期待していてくださった方にはすみません。
369名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 22:38:55 ID:TBjlAvSF
GJ過ぎて言葉が見つからない・・・乙でありました。
370名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 23:06:35 ID:OUlM/a7c
すばらしい〆だなあ
GJ&乙です
371名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 23:11:17 ID:wtMwOZTM
素晴らしい作品、乙でした。
372名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 23:39:28 ID:kuTJA7PD
とてもよかったです。GJ
373名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 00:22:32 ID:RbQCCsph
乙です。読んでて引き込まれました!
ミカをフルボッコにしたい
374名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 00:45:03 ID:gFsDB7qC
良い物語でした。
心温まるラスト素晴らしかったです。
375名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 18:30:11 ID:R5XMcmsZ
すげー…プロですよね
376名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 18:53:17 ID:q5BjPGR9
よし作者のgjさを讃えて健一郎に手袋を買ってやろう

なに?野郎からのプレゼントなんて誰得?ひとまず俺以外だ。
377名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 19:16:07 ID:Ma/F3mDs
幼馴染みにビンタされてしまった
378名無しさん@ピンキー:2011/01/25(火) 02:42:03 ID:W4/AGmAv
幼馴染みにちんぽビンタされてしまった
379名無しさん@ピンキー:2011/01/25(火) 04:07:37 ID:sZIf+u8H
幼馴染みに乳ビンタされただと!?
380名無しさん@ピンキー:2011/01/25(火) 23:52:48 ID:8IhpkxO8
まとめるとデブ男馴染みに乳とちんぽでビンタされたでおk?
381名無しさん@ピンキー:2011/01/26(水) 08:23:34 ID:P5EblmtF
>>380
うわぁぁぁ!?
382名無しさん@ピンキー:2011/01/27(木) 23:19:35 ID:V1xJMmD6
>>380
されたのが細身の美少女幼馴染ならその話をSS化してここに投下して欲しい
出来れば本番中出し込みで
383名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 21:04:06 ID:JoZzZ7+o
「幼馴染はまさにテンプレと言える
あらゆる男女間において幼馴染と言う単語だけでほぼ全ての事象が矛盾なく理解できる
いわゆるボーイミーツガールで言うなら、あって3日も経たぬうちに意気投合したり
ファンタジー物であるなら、舞台設定の説明と共に主役格の秘められた力の複線になったり
この世の数ある物語で、主役格の人間の人となりがわかる最高の素材である
だのになぜ!?昨今の物語は幼馴染を軽視するのか!?
ある程度物語が進めば、幼馴染の存在はなかったように扱われ、なおかつ、主役格とそのヒロインの当て馬として扱われる
幼馴染の絆ゆえに、物語の中の舞台装置として扱われる
この暴挙を許していいものだろうか? いやないっ!!
幼馴染には無限の可能性がある! その先にある関係と言う無限に広がる大宇宙がある!!
もともと近しい関係故の気安さと、これ以上は踏み込んでは為らないと言う不文律が存在する!
それ故に、偉大なる先人達は悩み、考え、研磨して今の幼馴染と言う概念を生み出したのではないだろうか?
物語を描くものとして、これほど興味深い題材があろうか?
あえて言おう、ありえる筈が無いと!! それほど幼馴染と言うのはすばらしいもので稀有なものなのだ!
さて、君はなぜそんな風にうつむいてるのかな? よければ私に教えて欲しい」

「長い」
長々と恍惚の表情で語り続けた幼馴染の問いに俺はそう答えるしか回答を持っていなかった

「……、要するに、何が言いたいんだよ?」

彼女の回答がわかりきっているが、付き合わないと色々と生命の危機なので投げやりに聞き返す
しかし、彼女の回答は俺の度肝を抜くありえない言葉だった

「決まっている、今夜、君と、フォーリンラブだ!」

古い、そして、ありえない
何より、言い切った後のドヤ顔がムカつく、何だその言ったったみたいな顔は、こっちはテンパってんだぞてめぇ
仕方ない今まで我ながら、大人気ないと思って封印してきたがいい加減限界だ

今 宵 こ そ く す ぐ り の 計 の 封 印 を と く 

覚悟しろよ?そこのドヤ顔ッ!!

省略されました、続きはありません
384名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 00:35:04 ID:A9yqA9J1
そして世通しぐったりするまで愛撫し倒して(主に腹筋が筋肉痛になる方向で)逝かせてやるんですねわかります

そしてGJ!
385名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 00:21:16 ID:3dxetZAf
慕ってくれる小柄で可愛い幼馴染の女の子を冷たくあしらって悲しませたい
386名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 18:36:24 ID:tCYlDAl4
くくく、いいね
387名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 19:09:41 ID:d6WQ3lW5
でも幼馴染に悪い虫がつきそうになったら颯爽と妨害するんですよね
388名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 20:29:07 ID:3dxetZAf
>>387
それは勿論
389名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 22:21:50 ID:PEnSoPkK
ちょっと違うかもわからんがとなりのせきのますだくんがすごく萌える
390名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 23:41:28 ID:1IarkqnV
パワプロクンポケット13ってゲームに出てくる幼馴染みカップルがかなりツボ
391名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 18:23:35 ID:3QHshNW8
響ちゃん透ちゃんですね、分かります。
はじめから出来上がってる感がたまりませんな。朝弱い彼女を毎朝起こしにいくとかなにそれ。

主人公とチハヤも幼なじみなのだが、あれはこのスレではなく人外スレとか触手スレ向けだな。
ていうか作中でのセクロス率高過ぎ。しかも青姦ばっか。
392名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 20:01:56 ID:IkwFP9JI
やきうバラエティだもの
393名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 23:22:44 ID:V/mt4Qih
>>385豆をぶつけまくる小ネタはとうとうでませんでしたね
394名無しさん@ピンキー:2011/02/05(土) 23:56:23 ID:PeqfF7F+
いつだか読んだ喧嘩するほど仲がアレというエロ漫画がよかった
幼なじみバカップルが喧嘩しながらセックルするやつ
395名無しさん@ピンキー:2011/02/06(日) 16:49:51 ID:4HTZToS2
「那智子の話」新作投下はまだ...
396名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:05:34 ID:Kv828U2l
小ネタ投下しますエロ無しです。嫌な方はスルーでお願いします




「美奈姉さんおはよう」
「あ…お…おはよう有君」
俺の発した朝の挨拶に動揺しながら目の前の女性が答える。
俺の名前は片桐有。目の前の女性は朝岡美奈。三つ年上の隣に住むお姉さんだ。
片桐家と朝岡家は俺達が生まれる前から家族ぐるみの付き合いがある。
俺と美奈姉さんは所謂『幼なじみ』という間柄だ。
「あ…あの…私こっちだから」
そう言うと美奈姉さんはだっとのごとく走り去って行った。
彼女の後ろ姿を見つめながら、俺は一つ溜め息を吐く。
「俺とじゃ嫌なのかな」
ここ数日、彼女は俺を見ると先ほどのように逃げるように去って行ってしまうのだ。
原因は親同士が決めた俺との『婚約』。世間的には『許嫁』と呼ばれるやつかな。
まぁどっちでも意味は一緒か…。いや違うのか?そんなしょうもない疑問が浮かぶが気にはしない。
397名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:08:00 ID:Kv828U2l
昔読んだ漫画に影響されたのか、お互いの家に男と女が産まれたら結婚させようと言っていたらしく
で、俺と美奈姉さんが産まれたから本当に結婚させようって話になったらしい。
その話を俺達は数日前に聞かされた。で、その結果が現在の状況である。
「っざけんなよ糞親父が!!美奈姉に避けられまくってんじゃねーか!!」
高校に向かいながら俺は、一人ブツブツと小声で愚痴を呟いていた。
許嫁とか関係なく元々俺は美奈姉さんが好きだ。そりゃ、最初にこの話を聞いた時は
「美奈姉をどこの馬の骨にやらなくてすむ」などと内心喜んでいたが、
美奈姉さん自身が嫌がっているのであれば話は別である。
本音を言うと美奈姉さんも俺の事が好きで、今回の話も喜んで了承してくれるものだとばかり思っていたのだが…
実際は俺の事なんて何とも思っていなくて寧ろ嫌がっている…と。
あぁ〜知らぬは本人(俺の事ね)ばかりなりってか…。
小さい頃は「美奈ね〜将来有君のお嫁さんになるから絶対浮気しちゃダメだよ」とか
「有君…キスして…大人がするキス」とか俺的リア充爆発だったんだけどな。
398名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:10:41 ID:Kv828U2l
そんなモヤモヤした気持ちのまま学校で過ごしていた。



「はー…こんな気分の時は家でオナるに限るな」
家に帰るなり、俺は美奈姉さんに似た嬢が出ているAVを見ながらしこっていた。
美奈姉さんを汚している気がして、この嬢のAVは封印していたのだがどうせ報われないのだ。
もう構うまい。思う存分美奈姉さんを犯しているつもりで俺はオナニーをした。
「美奈姉さん美奈姉さん…はぁはぁ…」
嬢の霰もない姿を美奈姉さんに変換して、俺はひたすら愛しい人を脳内で犯していた。
「好きだ…美奈…美奈!!」
ありったけの想いのたけをぶちまけながら、俺は自身の息子の精液もぶちまけた。
「いや…ギャグじゃねえけど…」
誰に言うともなく呟く…オヤジか俺は。溜め息をつきながら、ふと窓を見ると
窓の向こうには凍りついたように固まったままの美奈姉さんがいた。
勿論俺と息子も固まった。向かいの部屋は美奈姉さんの部屋だが大学からまだ帰っていないと思い
俺はカーテンも閉めずにオナニーをしていたのだ。勿論窓は開けっ放しだ。
「あ…あの…これは男の習性と言うか…えっと…」
動揺して下半身を露わにしたまま俺がしどろもどろに言い訳をしていたら
「…有君も…男の子だもんね…ごめんね…」
真っ赤な顔をした美奈姉さんが窓とカーテンを閉めながら謝ってきた。
終わった…。もう燃え尽きたよ…。糞親父、母さんごめん。破談だ…。
どのみち美奈姉さんにその気がないのだから破談は仕方ない…。
だが、その理由が俺が美奈姉さんを想ってAVでオナニーしたのが原因って!?
399名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:13:39 ID:Kv828U2l
殺される。俺は明日美奈姉さんのご両親に殺される。
糞親父はどうでもいいとして母さん先立つ不幸をお許し下さい。
その日俺は最後の夜になるかと思い、窓とカーテンを閉め切り
改めて美奈姉さんを想ってオナニーをしたのだった。



次の日、俺は覚悟を決めて騒がしいリビングに足を踏み入れると
そこにはすっかり出来上がった糞親父と美奈姉さんの親父さんが宴会を開いていた。
後ろの方には小さく縮こまる美奈姉さんがいるが様子がおかしい。
「おお!!有君!!美奈を想ってオナニーをしちゃう位美奈の事を愛してくれているんだってな!!」
「!?」
美奈姉さんの親父さんのストレートな発言に俺は顔を真っ赤にしてしまう。
「いや〜美奈の奴有君は自分の事を好いていないから許嫁なんて無理とゴネていたんだが、とんだ杞憂だったね」
美奈姉さんの親父さん改め酔っ払い親父が嬉しそうにまくし立てる。
「有君これからはオナニーで我慢するのではなく美奈で性欲を満たしてくれよ!!」
そう言いながら酔っ払い親父共は酒を煽り続けていた。
居たたまれなくなったのか美奈姉さんが呆然としている俺を俺の部屋に連れてきた。
「ご…ごめんね…なんか有君の例の現場を有君のお父さんも目撃してたみたいで
しかも私の名前を呼びながらしてるって私のお父さんに言ったみたいで」
美奈姉さんの言葉を聞きながら俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
美奈姉さんには見られてしまったけど、家には誰も居なかったはずだ。
糞親父は一体いつ帰ってきて、しかも俺のオナニーを見たんだ…。
呆然としている俺に美奈姉さんが更に声を掛ける。
「こんな時にこういう事を言うのもなんだけど私嬉しかった…
有君が私の事を好きって言いながらしてた事…
私も有君の事…好き…です…だからもし…ああいう事がしたいなら私でして下さい」
顔を真っ赤にしながら美奈姉さんが俺に告白してくれた。
400名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:16:50 ID:Kv828U2l
「美奈姉さん!!」
美奈姉さんの告白が嬉しくて俺は力一杯彼女を抱きしめた。
「俺も好きだ!!ずっと好きだった!!」




晴れて俺と美奈姉さんは許嫁となったのだが、片桐家も朝岡家も大らかだな。
てか糞親父…一体いつ俺のオナニーを見たってんだー!!




以上です。
婚約と許嫁がイマイチ分からず『許嫁』と言いたかった為に勢いで書いてしまいました。
401名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 00:45:29 ID:ssyf/kIy
笑ったw
これはGJです
こんな許嫁で幼馴染なお姉さんが欲しい……
402名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 09:17:53 ID:sO4PvqYA
続きが読みたい。
エロありで!
403名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 15:50:42 ID:drvVDVlw
幼なじミルク


男のか女のかはご想像にお任せする
404名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 22:06:50 ID:tyBl770g
>>400

gj
405名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 12:01:26 ID:NgzHTejI
急過疎苦
406名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 13:20:06 ID:soB6LMIq
続き待ってるの大杉だぜ
407かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:13:41 ID:QollcZNW
こんばんは。二ヶ月ぶりです。
『In vino veritas.』第五話を投下します。最終話です。
ちなみに前回は>>120-134にあります。
408かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:14:49 ID:QollcZNW
 
 夜、一人で眠るのが怖い。
 二十歳になってこんなことを言うのは変だろうか。
 別に幽霊みたいな超常的なものを恐れているわけじゃない。悪夢を見るわけでもない。
闇を恐れているわけでも、一人でいることが心細いわけでもない。
 私が怖いのは、そういうことではなくて。
 朝、起きたときが怖い。
 たった一人で目覚めたとき、いつも不安になる。
 彼がいなくなってしまったのではないかと。



 目を覚ましたとき、私はぬくもりに包まれていた。
 布団のそれではない。もう少しごつごつした感触が、微かな鼓動と熱を裸の私に伝えて
くる。横向きの私の体を、同じように裸の体が抱きしめていた。
 顔を上げると、見慣れた男の顔があった。
 少しだけ開いた口から静かな寝息が聞こえる。穏やかに眠るその表情は、いつも不機嫌
そうな幼馴染みの様子からは想像も出来ないほど優しく映る。
 お互い、酒の匂いが残っていた。昨日はろくにお風呂にも入っていない。二日酔いはない
けど、汗もかいていて体がべとべとしていた。
 急に恥ずかしくなって、私は布団を抜け出そうとした。しかし彼の両腕が私の背中に回さ
れていて、容易には動けない。無理に動くと起こしてしまう。布団から出るのはあきらめて、
しばらく彼の顔を眺めることにした。
 精悍な顔立ちといえばいいのか。昔のような幼さはもう残っていない。いつの頃からか、
彼は大人の男になっていた。細面の顔が凛々しく映るのは身贔屓だろうか。
 僅かに開いた口元に唇を寄せたくなる。
 もちろんそんなことはしない。気持ちよさげに眠る彼の顔を曇らせたくなかったし、私は彼と
そんな仲では、
 あ、
 いや、違う。
 そうじゃなかった。私は夕べ、彼と、
「…………」
 顔が真っ赤になったと思う。昨日の彼の言葉を思い出して、私は身悶えた。
『こいつの彼氏だよ』
『幼馴染みで、恋人だ』
『好きだよ。ずっと好きだった』
 夢じゃないだろうか。
 ずっと好きだった。小さい頃からずっと好きだった。
 彼がいてくれたから、今の私はあるのだ。そのことを彼は知らないだろうけど。
 私は飽きもせずに、恋人の顔を眺め続けた。
 
409かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:16:33 ID:QollcZNW
 
 切れ長の目がゆっくりと開いた。
 ぼんやりとした様子で、二、三度まばたきを繰り返して、焦点を合わせようとしている。
 私は彼に微笑みかけた。
「おはよう、涼二」
 涼二の目に戸惑いの色が浮かんだ。それがなんだかおかしかった。
 なんとなく、涼二が今何を思っているかはわかった。
「夢じゃないよ」
 目が見開かれた。
「昨日のこともちゃんと現実だよ。あなたが言ってくれたこと、ちゃんと覚えてるもの」
 涼二はしばらく固まったままでいた。
 私はそれがますますおかしい。
 さらに言葉を重ねようとした。
「涼二は、」
 そこで私は息を呑んだ。
 いきなり抱き寄せられたのだ。
 お互いに依然裸のままだから、当然直に肌が触れ合うことになる。いや、触れ合うなんて
ものじゃなくて密着していた。胸が彼の体に押しつぶされて、少し苦しい。
「ああ、夢じゃないな」
 そんなとぼけたことを言う。
「りょ、涼二!」
「なんだ?」
「は、はな、してよ」
「いやだ」
 一言で却下して、涼二は私の首筋に唇を寄せた。
「ちょ、やだ、くすぐったい」
「いい匂いがする」
「やだ、昨日お風呂入ってないのに」
 ああ、さっき彼を起こしてでもここから抜け出して、シャワーを浴びてくるんだった。なんで
気を遣ったりしたんだろう。
 鎖骨の辺りをそっと舐められた。
「ひうっ」
 背筋がぞくぞくした。ぴちゃぴちゃと音を立てられて、私はより恥ずかしさを覚えた。
 そのまま彼の舌が顎を伝って、
「ん――」
 唇を奪われた瞬間、私はほっとした。元の位置に収まったような、安心感があった。多分
それはこうして真正面から抱き合うことで、彼の存在をはっきりと確かめられるからだろう。
 目を閉じて、彼とのつながりにただ意識を傾けた。
 ベッドの上で、同じ布団に入りながら、裸で抱き合ってキスをしている。
 そっと唇を開けて舌を差し出した。
 えさを受け取る育ち盛りの雛のように、涼二がそれに食いついてきた。ざらついた感触に
私は思わず身をすくめた。しかしそれは一瞬のことで、すぐに馴染んでいった。
 唾液の味は、味というほどのはっきりとした味覚は感じないのだけれど、とても甘い心地が
した。同時に強く抱きしめられて、体温を直に感じられた。
 恋人としての甘いキス。それが私にとってどれほど奇跡的なことか、彼はわかっているの
だろうか。
 そっと唇を離すと、彼はニヤニヤ笑っていた。
「……何よ?」
「お前、すごくいい顔してるぞ」
 慌てて表情を引き締める。どんな顔をしてたのだろう。
410かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:17:23 ID:QollcZNW
 私は彼を小さくにらむと、密着した胸の間に両腕を割り込ませた。そのまま突き放すように
して空間を作り、ベッドを抜け出す。
「どこ行くんだ?」
「シャワー」
 手で胸と下腹部を隠しながら、私は短く答えた。背中を向けるとおしりが丸見えだけど、
まあ仕方ない。さっさと部屋を出よう。
 ところが涼二もベッドを抜け出してついてきた。
「俺も行く」
「は?」
 バスルームはトイレと別々のセパレートタイプだけど、二人で入るにはちょっと狭い。私は
涼二をまじまじと見つめた。
「急にどうしたの?」
「何が」
「さっきから涼二らしくない気がする」
 積極的に求めてきたり、少しも恥ずかしがる様子がなかったり。今だって裸をさらしながら
まるで隠す様子がない。こういうことにはうるさいと思っていたのだけど。
「まさか偽者!」
「失礼なこと言うな」
「実は生き別れの双子と入れ替わって……」
「何の話だ」
 うん、ツッコミはいつもの涼二と変わらない。
「……離れたくないんだよ」
 ぼそぼそと小声で言った。
 それは蚊の羽音ほどに小さい声だったけど、私は聞き逃さない。なんだかすごくおもしろい
ことを聞いた。
「もう一度言って」
「……あー、その」
 言いよどむ幼馴染みに、私は背を向けた。
「じゃあ入ってくるから」
「いや、待てよっ」
「早く言いなさい」
「……」
 困り果てる涼二に、私は吹き出しそうになった。こういう隙を見せるところが涼二らしくて、
とてもほっとした。
 そして、次に涼二が何をするか、私にはなんとなく予測がついた。
 涼二は困り果てると昔から――
「はい抱きしめるの禁止」
「え」
 私は二つの迫りくる腕をすり抜けて、今度こそ部屋を出る。
 後ろで呆然と立ちすくむ涼二に、私は言った。
「一緒に入ろ?」
 振り返り、目を丸くした幼馴染みの顔は、なかなか見ものだった。

411かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:19:16 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 幼稚園からの付き合いだから、私と涼二の関係はかれこれ十五年に及ぶ。
 出会ってまだ間もない頃、私は特に彼と親しいわけじゃなかった。ただ、家が近所だった
から、近くの公園や駄菓子屋でよく遭遇した。
 彼は行動力に欠ける子供だった。
 木に登ったり、登った木から降りたり、そういうときに即決や即行をできないで出遅れて
いた。
 今でこそ違うけど、涼二はどちらかというと、臆病な子供だったのだ。
 そんな彼が、私はあまり好きではなかった。
 性格上の問題だろう、私は悩んだり迷ったりするのが嫌いだったから、うじうじしている
彼によく苛立っていた。たまたま近くに住んでいたから一緒に遊んでいただけで、本当は
彼のことを疎ましく、軽んじていたと思う。相手にしてあげているという傲慢な思いもあった。
 それが決定的に変わったのはいつのことだっただろうか。
 明確なきっかけがあったわけじゃなく、いろんなことの積み重ねが今の慕情につながって
いる気がする。はっきりした出来事は、たぶんない。
 あえて言うなら、その積み重ねのすべてがきっかけだ。
 私は彼の様々な行動に、言動に、徐々に惹かれていったのだ。
 たとえば小学一年の頃。私は町を流れる川に沿って、ひたすら上流に上っていったことが
ある。
 川が海につながっているのは知っていた。しかしどこから流れてくるか、一番最初の地点が
どこにあるのかは知らなかった。それをつきとめたくて、彼を伴ってひたすら川沿いの道を
歩いていった。
 最初はわくわくしていた。知らない場所に行くことに妙な興奮を覚え、まるで物語の主人
公になったような気がしていた。
 冒険には仲間がつきもの。躊躇する涼二を、私は強引に引っ張っていった。仲間という
より家来のように見ていたかもしれない。
 歩きながら気づいたことは、川は綺麗ではないということだった。漫画やアニメで見る川は、
美しい青色だったり、もっと底が透けるほどに澄んだ透明色だったりしていたけど、実際は
底が見えるどころか泥が混ざったような、よどんだ色をしていた。
 そのことに落胆しなかったと言えば嘘になる。でも私は上流に行けばもっと綺麗な流れに
出会えると思い、ますますいきり立った。涼二も少しずつやる気になってきて、私たちは
鼻息荒く、夢と希望を両腕に抱えて歩を進めた。
 足取りが重くなり始めたのは、日が傾きかけてきた頃だった。
 川沿いの道を進んでいれば何とかなると思っていたのだけれど、途中でその道が途切れた。
正確には川沿いから逸れて、見知らぬ住宅街へと伸びていた。その中を進むことに抵抗が
無かったわけではないけど、そのうちまた河岸の近くに出られると思って、未知の場所へと
入っていった。
412かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:20:02 ID:QollcZNW
 案の定、迷った。
 できるだけ河岸の近くから離れないように心掛けていたけれど、私の意思に応じて道が
変化するわけじゃない。進めば進むほど、自分がどこにいるのかわからなくなっていって、
川のことなんかどんどん意識から抜け落ちていって、不安と恐怖で頭が真っ白になった。
 とにかく戻らないと。そう思ってもどのような道を通ってきたのかわからない。記憶はあや
ふやで、周りの建物はどれも覚えのないものばかり。なんとか元の場所に戻れないだろう
かと、淡い期待を抱きながら、私は歩き続けることしかできなかった。
 闇が刻一刻と濃度を高め始める頃になっても、私は迷路から脱出できないでいた。歩き
疲れて、おなかも空いて、すっかり弱気になっていたときに、不意に私の手に何かが触れた。
 びっくりして隣を見ると、幼馴染みの顔がすぐ近くにあった。
 表情は若干硬かった。臆病な性格がそのまま表れているようで、決してこちらを勇気
付けるような力強さは無かった。
 なのに、私はひどくほっとした。
 自分の都合で連れまわしておきながら、私は完全に涼二のことを忘れていた。だから
彼の、いつもと変わらない気弱げな顔を見て、心底安心したのだ。一人じゃなかった、と。
 涼二は、その頃はまだ同じくらいの背丈で、その体を甘えるように寄せてきた。
 唐突に抱きしめられて、私は戸惑った。でもそのときは、夕暮れの風が肌寒かったから、
暖かくて心地好かった。よりくっつきたくて、私も小さな体を抱きしめ返した。
 涼二もきっと不安で、すがるものがほしかったんだと思う。それは私も同じだった。涼二が
一緒で本当によかった。ひとりぼっちだったら、即断即行の信条もかなぐり捨てて、座り
込んで泣き叫んでいたかもしれない。
 私は涼二と手をつないで、元来た道を戻った。そこが果たして本当に元来た道だったのか
よくわからなかったけど、無我夢中で歩を進めていくと、やがて見覚えのある曲がり角に辿り
着いた。その角のすぐ横を、私たちの苦闘などそ知らぬ様子で、見慣れた川が穏やかに
流れていた。
 建物にさえぎられていた夕日が、川向こうの空に沈んでいくのが見えた。その薄い光を
僅かに反射させて、泥交じりの水が輝いていた。
 染み入るように、その光景は胸に残った。
 私たちは重たい足を懸命に動かして、家へと戻った。帰り着いたときにはもう辺りは真っ
暗で、二人とも両親にめちゃくちゃ怒られた。安堵のあまり泣きそうになったけど、でも涼二が
泣いてなかったから、意地になって我慢した。
 今となっては、いい思い出だ。

413かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:22:22 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 冬にシャワーはちょっと堪える。
 私たちは浴槽にお湯を張りながら、その横で体を洗った。お互い体にタオルを巻いて、
大事なところは隠している。
 室内が湯気に包まれる中、私は涼二に背中を向けるように言った。
「俺としては洗われるより洗いたいんだけど」
 そんなことを言う。起きてからなんだからしくないなあと思ってしまう。
「いいからむこう向いて」
 涼二は渋々といった様子で壁を向く。
 スポンジに石鹸を泡立てて、背中をこすっていく。最初は力を込めずに優しく。左から
右に縦に刻むように。次第に力を入れて、念入りに洗っていくと、涼二が吐息を洩らした。
「気持ちいい?」
「ああ。背中以外も頼む」
「え?」
 手の動きを止めると、涼二は続けた。
「全身洗ってほしいな」
「……本当、あなたらしくない気がする」
 昔から知っているあなたは、私に甘えるような人じゃなかった。どこか遠慮があって、
少し臆病なところもあったりして、私は少し壁を感じていた。
 それが、そんなことを言うなんて。ちょっとおかしい。
 私は右手、左手と順に洗っていく。泡にまみれていく彼は、マシュマロマンみたいに
真っ白で、洗っている私は雪遊びをしているみたいで、なんだか楽しくなってくる。
 ……マシュマロマンってなんだっけ。ゴーストバスターズだっけ。
 まあいいけど。
 膝をついて、太ももの付け根から脚も洗っていく。腰に巻いたタオルに覆われている
部分はさすがに手をつけないけど。
「そっちは洗ってくれないのか?」
「やだ。そこまで面倒見切れないよ」
 最後に頭をシャンプーで洗い、シャワーで泡を落としていく。白い塊がみるみるうちに
流れていき、排水溝へと消えていく。それはちょうど、昔見た川の流れのように緩やか
で、かつての光景が思い起こされた。あの頃もこんな風に、よく涼二の面倒を見ていた。
面倒を見ていた、なんて。ずいぶんと思い上がった子供だけど。
 懐かしさに浸っていると、涼二がさっぱりした様子で再び向き直った。
「ありがとうな、華乃」
「残りは自分でやってね」
 涼二が石鹸を手に取る間、私は背を向けた。デリケートな部分を洗っている姿を見る
のは少し恥ずかしい。
 私も頭を洗おう。普段なら座るところだけど、二人だとそうもいかない。仕方なく立った
ままシャンプーを手に取り、手のひらの上に広げてから濡らした髪に浸透させるように
塗りこんでいき、
「洗ってやろうか?」
 不意に、別の手が割り込んできた。返事も聞かずに私の髪を撫でるように梳いていく。
「涼二?」
「いやか?」
「……ううん、お願いします」
 涼二は私の声を聞くや、手際よく指を動かしていく。傷まないように気遣っているのか、
優しい手つきだった。
「……もうちょっと、強く洗っていいよ」
「そうか」
 揉み込むように、先の方まで丁寧に洗っているのがわかる。見えないけど、彼の大きな
手指の感触はどこまでも優しくて、安心する。
 シャワーで綺麗に洗い流し、今度はリンスをつけていく。手つきがシャンプーのときと
同じ要領だったので、慌てて注意した。地肌にまで馴染ませる必要はない。男の人は
リンスをつけないのだろうか。
 リンスを落とすと、涼二はシャワーを止めて浴槽に浸かった。
414かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:23:37 ID:QollcZNW
 体を洗おうとして、刺すような視線が気になり、
「あっち向いててくれる?」
「恥ずかしいか?」
「うーん、ちょっとね」
「恋人なのに?」
 その言葉にこそ恥ずかしくなって、私は口を無意味に開閉した。
「顔真っ赤だぞ」
「だ、だって」
「……ほんと言うと、俺も結構恥ずかしい」
 涼二は顔を背けてつぶやいた。私はその様子に少し呆れる。
「言った方が照れてどうするの」
「慣れてないんだから仕方ないだろ」
「恋人とか、変に意識しなくていいんじゃないの?」
 その方がぎくしゃくせずに済む。
「……見たいのは本当だからな」
「後で、いくらでも見れるじゃない」
「何のために一緒に入ってると思うんだ」
 そういうこと、力強く言われても。
 私はため息をつくと、バスタオルに手を掛け、そっと外した。
 白い湯気越しに、私の裸身が鏡に映っている。恐る恐る涼二を見やると、なんだか幽霊
にでも出くわしたかのように、固まっていた。
「そんなに見つめないで」
「無理だ」
 周りの熱気に負けないくらい、熱っぽい視線が私の体に突き刺さる。普段よりもずっと
強い目力に、私は思わず体を引いた。
 バスタオルを隅に置き、気を取り直して体を洗う。まずは左肩から。左腕。右肩。右腕。
脇から胸、と行ったところで恥ずかしくなって手を止めた。
「気になるよ」
 さっきからちらちらと涼二が視線を送ってくるのが、どうにも気になって仕方がない。体を
洗うところを見られるのが、こんなに恥ずかしいとは思わなかった。
「やっぱりあっち向いてて」
「……しょうがないな」
 涼二は渋々ながらも素直にむこうを向いてくれた。私はようやくほっと安心して、再び手を
動かし始めた。
 胸を下からすくい上げるように洗う。脇から乳房の下側にかけては、ちょっとむれやすい
ので念入りにこする。そこからお腹に移って、そのまま脚へ。太ももからふくらはぎまで、
表も裏も満遍なく泡まみれにした。背中と、最後にデリケートな部分を済ませて、私は浸る
ようにシャワーを浴びた。
「もういいよ」
 呼びかけに応じて涼二がこちらに向き直った。私は耐えるようにその視線を受け止める。
 涼二は意外そうに私の裸身を見つめた。
「……なに?」
「いや、てっきりバスタオルを巻き直すものだと思っていたから」
 それも少し考えた。けど、もう体は洗い切ったし、別に見せても構わなかった。洗っている
ところを見られるのはいやだけど、裸を見られることにそこまで抵抗はない。
 それより、
「私も裸になったんだから、涼二もタオル取ったら?」
「……」
 涼二は動かない。
「りょ、う、じ」
「わかってる。ちょっと待て」
 涼二は苦虫を噛み潰したような顔で、腰からタオルを剥ぎ取った。大量のお湯を含んだ
それを絞って、隅に置かれたバスタオルの上に放り投げる。
415かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:24:22 ID:QollcZNW
「はい、これでお互い様だね」
「お前、結構根に持つんだな」
「そんなつもりはないよ。ただ、タオルを中に入れるのはルール違反じゃない?」
「公共の場じゃないんだからカンベンしてくれ」
 私はくすりと笑った。うん、やっぱりこういうのが私たちらしいやり取りだ。
 私は膝を抱えて身を丸めた。狭い浴槽に大人二人はやはり窮屈だ。そのうち温泉旅行
でもしてみたい。今はとりあえず我慢するけど。
 涼二も脚をもてあましている。平均を若干なりとも上回っている涼二の体格では、一人
でも狭いのではないだろうか。長い脚を私の脚の外側に伸ばしているものの、私と浴槽の
狭い隙間に入れているだけなので、どうにも自由が利かないようだ。
「やっぱり狭いよね」
「まあ仕方ない」
「横向きに並んで入るのはどうかな?」
「どっちにしても狭いとは思うがな」
 やってみると、こちらの方が狭く感じられた。涼二は肩幅も広くて、くっついてしまう。
 腕と肩がお湯の中で触れ合って、私は落ち着かなくなった。離れた方がいいのだろうか。
 しかし涼二は何も言わなかった。
「ねえ」
「ん?」
「もう少しくっついてもいい?」
「……別にいいけど」
 私は嬉しくなって、彼の肩に頭を乗せた。もたれかかるようにくっつくと、涼二ははあ、と
ため息をついた。さっきまではちょっと乱されていたけど、
「やっと本来のペースに戻った気がするよ」
「なんだそれ」
「涼二を引っ張るのは私の役目だからね」
 昔から、あなたは私の無理を聞いてくれたから。私のそばにいてくれたから。
「不本意だ」
「褒めてるんだけどなあ」
「もっと嬉しくなるようなことを言ってくれよ」
 苦笑いの彼に、私はにっこり微笑んだ。
「涼二が好き」
 苦笑いの顔が強張った。
「あなたが好き。昔から好き。私のことをずっとそばで見てくれていたあなたが好き」
「……」
「嬉しくなった?」
「……ノーコメント」
 涼二はそっぽを向いて顔を合わせようとしない。
 でもお湯の中で、そっと手を握ってくれた。
 そこから涼二の想いが伝わってくるような気がして、私はしばし彼の肩にもたれかかった
まま、ひっそりと目を閉じた。
 耳の奥に涼二の鼓動が響いてくるような気がした。

416かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:25:56 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 こんなこともあった。
 たしかあれは私が十歳だから、小学五年のときだ。
 まだ学年が上がって間もない頃、クラスでいじめが流行り出した。
 あれは確かに「流行」だった。いじめられていた相手は、別に恨みを買っていたとかそう
いう理由のようなものを持っていたわけじゃなかった。子供の間に起こるいじめなんてそんな
ものだ。理由なんてない。なんとなく。いつのまにか。そんな空気が醸成されていって、
それが当たり前になるのだ。あえていうなら「みんながしているから」という、そんなつたない
共通意識がいじめを引き起こす。
 いじめられていたのはクラスでも体の小さい子だった。気が弱く、おとなしい女子だった。
 なかなか新しいクラスの輪の中に入れず、正直いじめられやすいタイプだったと思う。
 ちょっとしたからかいから始まって、言葉の暴力がその子を苦しめた。殴ったり蹴ったり、
そんなわかりやすい直接的な暴力はなかった。しかし言葉は、重いのだ。ときに人の命を
奪うくらい、重いのだ。
 その子は自殺なんてしなかったけど。でも、校舎の裏でよく泣いていたことを、私は知って
いる。
 最初はそのことに気づかなかった。私の中に「いじめ」という認識がなかったのだ。今日も
からかわれっぱなしだな、としか思っていなかった。私はその輪に加わっていなかったけど、
まるで反撃をしないその子に苛立ちを覚えてもいた。
 私は、何か言われても言い返すことができたから。
 それに、私は一人じゃなかった。私にはずっと涼二がいた。
 けど、たまたま校舎の裏で泣いている彼女を見かけたとき、私はようやく気づいたのだ。
 一人であることがどれほど恐ろしいことか。
 私には涼二がいる。でも彼女にはいない。
 それだけじゃない。新しいクラスといっても、四年も過ごしてきた学校内のこと。友達くらい
いるだろう。前のクラスメイトがいるだろう。なのに一人ということは、かつての友達が敵に
なったのかもしれないのだ。
 もしも、ある日突然、涼二が私の敵になったら――
 恐ろしいことだった。
 それを考えると、もうそ知らぬ顔はできなくて、私はなんとかその子を助けたいと思った。
 涼二に相談すると、彼は驚いた様子で言った。
「華乃はすごいな。すごいし、えらいよ」
 なんのことかわからなかった。訊くと涼二は、いじめのことには気づいていたのだという。
しかしどうすればやめさせられるのかわからず、積極的に働きかける勇気が持てなかった
のだそうだ。
 そのことをばつが悪そうに告白して、涼二はでも、と続けた。
「華乃は、俺とは違って行動に出られるんだもんな。すごいよ、本当に」
 私は恥ずかしくなった。そもそもいじめという認識自体がなかったのに。でも涼二は、そう
じゃなかった。私とは違って、きちんと問題を捉えていた。
 私はすごくなんかないよ。涼二の方が私よりずっとえらいよ。
 だから、
「……私、もっと話し掛けてみる。あの子と話をして、少しずつでも、周りの空気を変えて
いきたい」
「それは、友達になるってことか?」
「うん。そうできればいいかな」
 私だって、自信があったわけじゃない。
 でも、昔から行動するのは私の役目だったのだ。臆病な涼二を引っ張って、ときには
無茶なこともした。そんな私を、涼二は認めてくれた。それが嬉しかった。
 涼二が認めてくれるから、すごいと言ってくれるから、私はまっすぐ立っていられる。
417かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:26:51 ID:QollcZNW
「俺もそうしてみるか。女子と話すのは難しそうだけど……」
「いやいや私も女子なんだけど」
「……そういえばそうだな」
「ちょっと待って、なんで素で驚いてるの!?」
 あなたがいつもそばにいてくれるから、私は勇気を持てるんだよ。
 だから、あなたにそう言われたら、頑張らないわけにはいかないじゃない。
 馬鹿話をしながら、私はありがとうと心の中でつぶやいた。

 ……その後、私はその子と友達になった。
 すぐにいじめがなくなったわけじゃないけど、私を通じて少しずつ他の友達も増えていった。
 でも私は、義理や同情で仲良くなったわけじゃない。話していくにつれて、その子が私
よりもずっとしっかりしていることを知った。
 その子は、確かに気の弱い子だった。でも一度として学校を休んだりはしなかった。
 逃げ場がなかったといえば、そうかもしれない。しかし彼女は確かに耐え切ったのだ。
 流行り廃りは早いもの。新しい学期に入る頃には、もういじめなどどこにもなかった。
 彼らにはいじめていたという感覚すらなかったかもしれない。彼女はそんな無責任な彼らを
許し、そして溶け込んでいった。当時の私には、ちょっとできない真似だった。
 その頃から、私自身も少しずつ変わっていったように思う。涼二は私のことを、気遣いの
できる人間だと思っているみたいだけど、最初からそうだったわけじゃない。そういう風に
動けるようになったのも、彼女の影響だ。いじめのことだって、本当は完全に敵対する気で
いたのだから。彼女がそれを止めたから事が大きくならなかっただけで。
 だから、その子は私にとって、今でも尊敬する友達だった。涼二とは別に、大切なことを
教えてもらったように思う。高校から別々になってしまって、最近はなかなか会えないけど。
 そういうこともあった。
 それは多分に涼二のおかげだったと思う。涼二を通してその子を見つめ、涼二の言葉で
友達になれた。私はそのことを、今でも感謝している。
 そういうこともあって、
 そういったいろいろを積み重ねて、少しずつ、少しずつ私は――。

418かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:28:37 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 お風呂から上がるともう正午になろうとしていた。
 食事当番はもちろん私。涼二はテーブルを片付けたり、お皿を用意したり。でも料理の
手伝いはさせない。これまでにも何度か手伝おうかと涼二に言われたけど、私は断って
いる。涼二と一緒に暮らす前に、約束したのだ。食事を作るのは私の仕事。おばさんにも
ひそかに任されているし。
 なにより、私は涼二のために料理をするのが好きなのだ。
 茹であがったパスタを、軽く和風仕立てにする。涼二はカルボナーラが好きなんだけど、
玉子がないので今回はこれで勘弁してもらおう。あとで買いに行かなくちゃ。玉子なしでも
作ろうと思えば作れるけど。
 小学校の時からの友達に習った料理の腕は、それなりのものであると自負している。
大抵のものは作れるし、こうして人に食べさせることもできる。彼女は私の大切な友達で
あると同時に、料理の先生でもあった。意外とスパルタだった。
 刻んだ野菜を交ぜ合わせて、簡単なサラダも作っておく。ご飯とコンソメスープをつけて、
とりあえず終わりだ。味見はパスタしかしてないけど、構わないだろう。
 涼二は喜んでくれたし。
 朝は何も食べてなかったから、というのもあるだろう。空腹は何物にも優る調味料。いつも
より彼はよく食べた。米粒一つ残すことなく食べ尽くされて(こんな言い方が似合うくらい勢い
のある食事だった)、その姿を眺めているだけでお腹いっぱいになりそうだった。
 食後のお茶を淹れながら、私は涼二に提案した。
「午後は出かけようよ」
 幸い二日酔いもない。涼二の方も体調は問題なさそうだ。
 しかし涼二はなぜか眉を寄せた。
「何か用があるのか?」
「んー、玉子がない。チーズもない。調味料はいいとして、できればお米も買っておきたい
かな」
「ん――そうか」
 微妙な間。
「どうしたの?」
「いや……」
 歯切れの悪い口ぶりに、私は突っ込んだ。
「なーに?」
「なんでもない」
「何か都合が悪いことでもあるの?」
「そういうわけじゃない、けど」
 どうにも煮え切らない。こういうところは昔から変わってない。昨日みたいに啖呵を切る
姿は、本当に珍しいことなのだ。それだけ彼に想われていたということなのかもしれない
けど。
 そんなことを考えていると、涼二に訝しげな目を向けられた。つい口元が緩んでしまった
だろうか。はっとなった私は、慌てて表情を引き締める。失敗失敗。
419かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:29:23 ID:QollcZNW
 ごまかすように、私は話をつないだ。
「ほら、今日は晴れてるし、ちょっとしたお出かけ日和じゃない。せっかくお風呂にも入ったん
だから、買い物ついでに街を歩いてもいいんじゃないかなーと思ってさ」
 涼二は一つ、間を置くようにうつむいた。それから顔を上げ、
「つまりデートか」
 ……せっかく人がオブラートに包んであげていたのに。
「はい、その通りっ。というわけでかわいい彼女とデートしなさい」
「……了解した」
 そんな返事をする彼氏だった。
 私がひどいみたいじゃない。言わせてるみたいで。
「あの、嫌なら別にいいんだけど」
 すると涼二はぶんぶんと首を振った。
「嫌なわけないだろ。家でゆっくりするものだと思っていたから、意外だっただけだ」
 たぶん涼二の中では、昨日いろいろあったから今日は、という考えがあったのだろう。
 正直に言うと、どこにも行かないで二人っきりで過ごすのも、魅力的ではあった。きっと
それは涼二も同じ。
 だけど、今日の私はそれだけじゃ我慢できない。
 嬉しくて嬉しくて、たまらないんだから。
 私はわざとらしく首を傾げてみせた。
「……まさか涼二、昼間から性行為に及ぼうとしてたとか?」
「なんでだよ! 昼間から性行為とか言うな」
「失敬失敬。……昼間から繁殖行為に及ぼうとしてたの?」
「なんで言い換えた! 全然失敬に思ってないだろ!」
 ちゃんと避妊はしてるしね。ツッコミどころはそこじゃないか。
 涼二とだったらそういうことしてもいいけど。
「街を歩くっていっても、どこか行きたいところとかないのか? 時間はあるし、ついでに映画
でも観てくるか?」
「まあその辺りは適当でいいんじゃない? 外出自体急なものだし、あんまりかっちり決め
ても楽しめない気がする」
 そもそも昨日までは、こんな状況はまるで想定していなかった。ずっとイレギュラー続きだ。
「ただ街を歩くだけでも、きっと楽しいと思うから」
「この前も歩いただろ」
 違うよ、と私は首を振る。
 そう、この前とは全然違う。
 私は照れ笑いを浮かべながら、彼氏に向かって言った。
「今日は、二人が付き合って初めてのデートなんだから」

420かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:30:44 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 どうして涼二だったのかな、と思うときもある。
 私の傍にいたのが彼で、私が好きになったのが彼で、そのことは本当に幸運だったと思う。
 でも、幼馴染みとして会わなかったら、と疑問を抱く時もあるのだ。
 もしなんて意味がないとわかっている。だけど私はそこまで自分の想いに確信を持てない。
 もし私が涼二と幼馴染としてじゃなく、別の形で会っていたとしたら。
 それでも私は彼を好きになっていただろうか。
 私は涼二を好きになったのか。それとも、幼馴染みだから好きになったのか。
 自分のことなのにわからない。きっと割り切るのが一番なんだろうけど、一度悩んだらもう
不安の渦は広がっていくばかりで、私はずっと引っかかったまま高校時代を過ごしていた。
 中学の頃は悩まなかった。あまり自分の気持ちの深いところに、触れようとしていなかった
ために、そこまで思い悩むことはなかった。どちらかというと涼二とどう接していけばいいのか
わからずに、気持ちを持て余していた時期である。
 高校時代は、ある程度自分の気持ちを把握していたから、涼二とも自然に触れ合うことが
できた。しかしそれは表面だけで、裏ではずっと悩んでいた。
 吹っ切れたのは、進路相談をしてからだ。
 私は将来についてあまり考えていなかった。なんとなく、涼二の隣にいられたらいいな、と
しか思っていなかった。
 志望校欄に、涼二と同じ大学名を書いてしまう自分がいた。
 このままでは駄目だ。私は真剣に考えた。人生の選択まで、涼二に理由を求めるなんて、
それは間違っている。涼二だって、こんなの望んではいないはずだ。
 彼は私を「かっこいい」と言ってくれたのだ。
 ならばそれを嘘にさせるわけにはいかない。
 ……よくよく考えてみれば、これも涼二を理由にしているわけで、つくづく当時の私は融通が
利かなかったと思う。
 やりたいことはなかなか見つからなかった。
 自分がつまらない人間に思えた。差異はあれど、周りはきちんと将来を考えて進路を決めて
いるというのに、私だけ何もない。お前は所詮こんなものだと、周囲に言われているような気が
した。
 三者面談があって、いまだ指針を持たなかった私は話し合った結果、とりあえず進学という
実に無難な答えを、担任に提示するしかなかった。
421かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:31:31 ID:QollcZNW
 帰り道、母が言った。
「華乃は、涼二君と同じ大学に行きたいの?」
 思わず立ち止まってしまった。
 家までまだ五百メートルはあった。周りには誰もおらず、車もめったに通らない細い路地が、
まっすぐ続いていた。
 家に着くまで、まだしばらくあった。
「……どうして?」
 なぜそんなことを訊くのか。
 動揺が声に出ていないか、心配になった。母は小さく笑い、
「華乃のやりたいことって、具体的には何も決まってないでしょ? そうなると、もう積極的な
動機はそれしかないじゃない。好きな人の傍にいたい、って」
「……でも、それは」
 よくないと思う。恋心だけで生きていくことはできないし、そんな風に彼に寄りかかる理由を
作ってしまうのもよくない。
 私は私。私はどうしたい?
「そんなの後から考えてもいいと思うけどね」
 私の悩みなどまるで意に介さない口調で母が言う。
「本当にしたいことはないの?」
「……私は」
 私らしくありたい。でも、具体的な何かは思いつかない。
「じゃあ、涼二君に相談してみたら?」
 その言葉に私は目を丸くした。
「ど、どうして?」
 母は肩をすくめて、
「一人で考え込んで行き詰まったのなら、誰かに相談するのが一番じゃない。涼二君なら
聞いてくれるでしょ」
「でも」
「ついでにあの子の相談にも乗ってあげなさい。それならいいでしょ?」
 相談。
 涼二も悩んでいるのだろうか。簡単に志望校を決めたように思っていたけど、違うのか。
 たぶん母は、涼二のお母さんから何か聞いているのだろうけど。
 どうにも思考がまとまらなくて、いろいろ考え込んでいるうちに家に着いた。
 家の前に誰かが立っていた。
「涼二」
 制服姿だった。帰ってきて間もないのだろう。幼馴染みは私の姿を見ると、あまり愛想の
よくない表情を微かに緩めた。この微妙な変化がわかるのは、たぶんクラスでは私だけだ。
「華乃。よかった。ちょっと相談に乗ってくれないか?」
 開口一番、涼二はそんなことを言った。
 ……テレパス?

422かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:33:01 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 陽光がシャワーのように降り注いで、外はいい天気だった。体全体が洗われてリフレッシュ
した気分になる。
「シャワー浴びたからな」
 とは涼二の台詞。
 電車に乗って市街地へと向かった。大学とは逆方向で、駅が近づくにつれて人の数も
どんどん増えていく。
 到着して繁華街に下ると、人の波はピークに達した。昼下がりはにぎやかで騒々しく、
とてものんびり歩けそうにない。涼二は人ごみを睥睨して、小さくため息をついた。
「デート中にため息はNGだぞ」
 私は隣の幼馴染みの顔に、ずいっと人差し指を突きつけた。涼二はぎょっとした様子で、
「え、俺、ため息ついたか?」
 自覚なしですか。
「これは、退屈させないように、頑張る必要が、あるね」
「いや、退屈なんて、思ってない。ただ、」
 半身になって人をよける。私もそれにならって、涼二にくっつくようにして人をかわす。
「……これは、少しばかりしんどいだろ」
 言葉が途切れがちになるのは、声が喧騒にまぎれたり、歩みが止まったりするためだ。
ウィンドウショッピングとはとてもいかなくて、正直辟易した。
 どこか店に入った方が落ち着けそうだ。私は涼二の、
 手をつかまれた。
 涼二の大きな手が急に伸びてきて、私の左手をしっかりと握った。
 足を止めそうになって、しかしそのまま軽く引っ張られた。少しつまずきながらも、私は
彼の歩についていく。
「はぐれないようにしないとな」
「あ、うん」
 呆けたような返事しか返せなかったのは、私の未熟ゆえかもしれない。
 今日はこういう場面が多かった。私が取るよりも先に、主導権を握られて戸惑ってしまう。
 かつて彼が相談にやってきた日もそうだったように思う。
 私が彼を引っ張っているようで、その実、彼に引っ張られているのだ。それはもしかすると、
本当にテレパスなのかもしれない。
 幼馴染みだから。
「なんか、くやしいな」
 彼の言うとおりになってしまったみたいだ。十五年の間に、いつのまにか並ばれてしまった。
 昔は家来扱いしてたのに。
「何がだ?」
 つぶやきに反応して、涼二が振り向いた。前向いて、と私は注意する。
「涼二の手はあったかいなあって」
「お前の手は冷たいな」
「手が冷たい人は心が温かいのだー」
「それは手が温かいやつは心が冷たいという証明にはならないな」
「逆・裏・対偶?」
「引っ掛け問題だろ」
 引っ掛けるつもりはないけど。
 むしろ引っ掛かったのは私の方だ。幼馴染みの網に絡め取られて、掬われて。
 心地良くもくやしい矛盾した気持ちに、私はため息をつきたくなった。まったくもう。
423かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:33:44 ID:QollcZNW
 私たちは人の波に呑まれないように、道の端に寄った。銀行の大きなガラスが私たちの
姿を綺麗に映している。そのまま建物沿いに歩いて、脇の小道に入った。
 本通ではないせいか、そちらは人も少ない。道の幅は三メートルもなかった。
 立ち止まって少し足を休める。つないだ手はそのままで、私は彼の体温を感じ取りながら
虚空に向かって真っ白な息を吐き出した。冷たい空気の先に見える空は、青いというより
光の加減で白っぽかった。
 こういう綺麗な天気の下で、仲良く歩くのもいいのだけど。
「……なんだか飲みたくなってきた」
「どんな衝動だよ」
 即座に突っ込まれた。
 まあ花の女子大生が昼間から吐く台詞じゃないとは思う。でも言葉に出してみたら、案外
悪くない提案に思えた。
 昼間から飲んでもいいじゃない。特に行き先も決めていないのだから。
「ね、昼間からお酒飲めるところ知らない? 私行ってみたい」
「昨日飲んだのにまだ飲むのか」
「別に意識喪失とか前後不覚になるほど飲んだわけじゃないもの。大丈夫大丈夫」
 涼二とは前に、一緒に飲みに行く約束をしたことがある。いつ約束したのか、よく覚えて
いないけど、今からそれを果たしてもらおう。私は涼二の手を軽く引いた。
「この辺りの店は、ほとんど夜からだ。今はまだ早すぎる」
「ないの?」
「いや、あるけどさ。もっと他に行くべきところがあるだろ」
「たとえば?」
「映画観に行ったり、遊園地に行ったり」
「うわ、ベタすぎ」
「悪かったな」
 私は涼二と一緒ならどこでもよかった。きっと楽しいはずだ。
 涼二は携帯でどこかに電話を掛け始めた。いくらか言葉を交わして何かを確認する。
 しばらくして電話を切ると、よし、と一つ頷いた。
「知り合いの店が特別に開けてくれるってさ。ちょっと準備するから一時間くらい待って
ほしいそうだけど」
「そこにはよく行くの?」
 そう、それは重要だ。私はただお酒を飲みたいわけじゃなくて、涼二の薦めるお店に
行きたいのだから。
「前にバイトしたことがあるんだよ」
 携帯をポケットにしまいながら、涼二は答えた。
「じゃあ、今のはそのお店の?」
「少しの間だったけど、よくしてもらったからな。たまに顔出すんだ。そこでいいか?」
「うん。でもちょっと待たなきゃならないんだよね。それじゃあさ」
 私は涼二の手を今度こそ引いて、本通に戻ろうとした。涼二は慌てて、
「おい、どこ行くつもりだよ」
 その言葉に、笑顔で答える。
「リクエストに答えてあげる」

424かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:36:11 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 相談を持ちかけてきた涼二を私の部屋に通すと、彼はどこか落ち着かない様子で視線を
さまよわせた。
 昔の彼を知っている私は、そんな姿をかつてよく目にしていたのだけど、最近になって
振る舞いが大人びてきたせいもあってか、なんだか珍しい気がした。まあお互いの部屋へ
の行き来がなくなってしばらくになるし、その辺りは涼二も思春期の男子ってことなのだろう。
 とりあえず学習机の椅子を勧めて、私はベッドに腰掛けた。目線の高さが合わず、私は
心持ち彼の顔を見上げるように、頭を上げた。
「で、相談って?」
 自分から口を開く様子がなかったので促してやると、涼二はうつむくように目線を下げた。
 ぱちりと、目が合う。
「華乃は、将来の夢ってあるか?」
 本当にテレパスかと思った。
 それともシンクロニシティとか。そんな大げさなものではないか。
「……それ、私も涼二に訊きたかったことなんだけど」
 私のため息交じりのつぶやきに、涼二は呆気に取られたようだった。
「進路のことで悩んでてさ、将来の夢とかやりたいことって何だろうって、この間からずっと
考えてるの。でも全然思い浮かばなくて、とりあえず進学ってことにしたけど、やりたいこと
ちゃんと考えてからじゃないと、学部も決められないじゃない。で、涼二はどうするのかな
って相談に行こうかなと思ってたときに、あなたが来たの」
 本当はさっきまで相談のことなんてまるで考えてなかったんだけど、それは言わないで
おこう。
「涼二はもう志望校決めてるんだよね」
「いや、決めたというかとりあえず書いただけで……なんで知ってるんだよ」
「ちょいと机の中を検めさせてもらって……」
「おい」
「冗談だよ。職員室に行ったときに、先生の机の上にあったのをたまたま見たの」
「……」
 涼二の目が胡乱気に細まる。ごめんね。
「どうしてそこに決めたの?」
 その大学は学部差はあれど、偏差値でいうと大体60ちょっとくらいで、良くも悪くも平均の
涼二には厳しい学校に思えた。
「……いや、必ずしもそこに行かないとって、思ってるわけじゃなくて」
「でも何かがあったから、そこを書いたんじゃないの?」
 適当に書くにはちょっとハードルが高めだ。
 涼二は目に見えて狼狽した。口をつぐんだまま黙り込んでしまって、顔を横に背けて目も
合わせない。私は涼二、とはっきりした声で呼びかけた。しかし答えない。隠し事をする子供
のような態度が、ちょっとおかしい。
425かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:37:12 ID:QollcZNW
 代わりに、私から話し始めた。
「私はさ、全然ピンとこないんだ」
 涼二に目立った反応は見られないけど、続ける。
「なんとなく、胸を張ってできることがあればいいなと思ってるけど、夢も目的もいまいちはっきり
しなくて、それがちょっと悔しい。何も考えずに生きてきたんだなと思うと、自分が情けないし、
どうにかしないとって思う。でも具体的な何かがまるで思いつかなくて、いろいろ職業を自分に
当てはめてみても、しっくりこない。みんなそんなものかなと思ったら、友達は結構いろいろ
決めたり考えたりしてて、私だけ置いてかれているような気持ちになる」
 ……こういう風にはっきり弱音を吐いたことが、今までにあっただろうか。
 これは『隙』かもしれない。私は強がりなだけで、全然強くない。
「俺は、そこまで考えていなかったな」
 涼二は自嘲するような、寂しげな笑みを浮かべた。
「俺だって何も決めてない。就職は厳しいってよく聞くから、評判のいい大学を書いただけだ」
「そう、なんだ」
 なら私もそうしようかな。それとも、そんないいかげんな気持ちで選んだら、涼二に怒られる
かな。
 本当に、進路って難しい。
「あのさ」
「ん?」
「俺、そこは厳しいって言われたんだ」
 まあ担任からすれば、ちょっとお勧めできないだろう。相当な努力が必要だと思う。
「でもそこが俺にはちょうどよかったんだ」
「……どういう意味?」
「お前なら、そこを狙えるからさ」
 聞いてもいまいち理解できなかった。お前って、私?
「私でも、それなりに頑張らないといけないところだと思うよ。偏差値60強って、決して
簡単なものじゃあ、」
「だからだ」
 涼二の目が真剣みを増す。
「お前は俺にとって、ある意味目標だからさ、なんとか並びたいんだ」
「目標って」
「昔からかっこよかったから、お前は。でも俺は普通。別にコンプレックスなんてないけど、
身近に憧れのやつがいるんだ。近づきたいって思うだろ」
「……」
 それは女の子に言う台詞としては、何か微妙にずれているような気がする。
「そういうわけで、お前に対しても胸を張れるそこを、書いたんだ」
「私のせい?」
「いや、俺が勝手に選んだだけ」
「そういう話を聞いた後だと、とてもそうは考えられないんだけど」
「少しは苦労する子分の気持ちがわかったか?」
 涼二は意地悪そうに唇の端を吊り上げる。似合ってないよ、まったく。
 まあ、確かに昔は子分扱いしていたけどね。今はその子分に恋しているのに。鈍感男。
426かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:37:51 ID:QollcZNW
 いいことを思いついた。
「……じゃあ私が勉強を教えてあげようか?」
 私は内心で緊張しながらも、平静を装って言った。
 親分としては、きちんと面倒を見てやらないといけない。
 涼二はわざとらしい笑みを収めて、真顔になった。
「いや、お前だって一応進学希望なんだろ? 人の世話を焼いてる余裕なんて」
「私の志望校もそこだから」
 驚く涼二の顔に、私は微笑んでみせた。
 本当の理由は言わないけど。
「同じ大学を目指すなら、一緒に勉強してもいいじゃない」
「俺としてはありがたいけど、いいのか?」
「並びたいなら、その相手の近くにいるのが一番だと思うよ」
 涼二は、少し迷うような素振りを見せてから、やがて頷いた。
「じゃあお願いする。あまり優秀な生徒じゃないけどな」
「私も別に優秀じゃないけどね。いまだに学年で50位前後だし」
「100位以内にも入ったことのない俺に謝れ」
「謝る代わりにビシバシ鍛えるよー」
「……スパルタは勘弁してくれ」
 却下ですよ涼二クン。
 ああ、駄目だな。私は自分に呆れた。さっきまであんなに悩んでいたのに、こんなことで
立ち直ってしまうなんて。
 でも、一つの答えは得られた気がした。
 進路のことは、まだはっきりとは答えを出せない。でも、彼を好きだという気持ちの整理は
つきそうだった。
 私は、涼二が好き。
 それは幼馴染みだから好きというわけじゃなくて、でも幼馴染みだから好きだという面も
あって。
 要するに、今の彼がまるごと好きで、理由なんてきっと言葉にできない。
 この胸に広がる温かい感触や鼓動の速さが、そのまま理由でいい。
 彼にかっこいいと言われると、頑張らなきゃって思う。彼と一緒にいると勇気が出てくる。
 こうして少し話しただけで、私の暗い気持ちはすっかり吹き飛んでしまう。
 それは私にとって、本当に大切なことなのだ。
 だから、私は彼に向かって、そっと想いを述べた。
「……ありがと、ね」
 吐息ほどの微かな声は、彼の耳にははっきりと届かなかったらしく、「何か言ったか?」
と訊き返された。
 なんでもない、と私は小さく首を振った。

427かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:39:52 ID:QollcZNW
 
      ◇   ◇   ◇



 カウンターの椅子に座りながら、私はかつての出来事を一つ一つ語っていた。
 その中にはあの進路相談の話もあって、お酒の力も借りながらおもしろおかしく聞かせた。
 カウンターを挟んで、店の主人が興味深そうに耳を傾けている。対して隣に座る涼二は、
なぜか頭を抱え込んでいる。
「どうしたの?」
 涼二は苦々しい口調で文句を言う。
「昔の出来事を他人の口から聞かされるって、どんな羞恥プレイだよ。しかもなんで吉野
さんに聞かせる必要があるんだ」
「いやー、だって特別にお店開けてもらったから、せめてお礼にと思ってさ」
「他ので返せよ! お礼になるかそんなの」
「そんなことはないけど」
 吉野さん――この店の女主人は、その美しい顔に素敵な微笑を作ってみせた。
 歳はたぶん二十代後半。バーテンダーお決まりのベストに身を包み、背中まで届く長い
黒髪を後ろで纏めている。スタイルもよく、仕草の一つ一つが艶やかで、女の私でもため
息が洩れそうなほどの美人だった。
 ここは裏通りにある小さなバーで、彼女が一人で経営しているらしい。この不況時代に
いかにも大変そうだけど、若い人を中心にそれなりに人気があるそうで、涼二は一年の
時にここでバイトをしていたそうだ。その頃はまだお酒を飲めない年齢じゃないだろうか、
という突っ込みはまあ置いておく。
 店内はテーブル席が奥に申し訳程度にあるだけで、ひどく狭かった。通路はだいぶ幅を
取れているので、窮屈な感じはしないけど、空間としてみるとやっぱり小さい。一人だと
これくらいがちょうどいいのだろうか。でも雰囲気はいい。白を基調としたインテリアは清潔
感があって、夜の店というイメージからは離れた、明るい装いだ。女性向かもしれない。
 マダムの声は涼やかで、耳に心地良いし。
「涼二君の彼女さんはどんな娘だろう、って前から気になってたの。涼二君、私にはまるで
教えてくれないんだもの」
 囁くように言う。涼二はしかめっ面で、
「聞いても仕方ないでしょう。誰にも言いたくなかったし」
「あら、どうして?」
「……ネタにされるのは嫌なんです」
 子供みたいだ、と私は吹き出しそうになった。
「それに、昨日まではそもそも彼女じゃなかったし」
「でも同棲してたんでしょう?」
 改めて他人に言われると、ちょっと恥ずかしい。涼二はええと、まあ、などと歯切れが悪い。
「それで彼女じゃないって言っても、あまり説得力はないわね」
 確かに。
「いや、それ以前に俺、話してないじゃないですか。華乃のことも、一緒に住んでいることも。
誰から聞いたんですか?」
「それは秘密」
 吉野さんはにっこり笑って問いかけを跳ね返した。謎な人だ。
428かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:40:57 ID:QollcZNW
「でもよかったわね。ちゃんと気持ちが通じ合えたみたいで。それと、華乃さん?」
「はい?」
 吉野さんは優しげな表情になった。
「今の話、とてもおもしろかった。本当に涼二君のことが好きなのね」
「え、あ、え……と」
 そのまっすぐな質問に、私は顔が火照ってしまった。思わずうつむいてしまう。
 うーん、涼二相手ならこうはならないんだけど。
「ね、ちょっとそこに立ってくれる?」
 吉野さんは私の背後のスペース辺りを指差した。私は首を傾げながらもそれに応じて席を
立つ。
 白いライトの光源が少しばかり近づいた。天井もやや低めに作られている。
 吉野さんはさらにその場で回るように頼んできた。言われるがままに半時計回りにくるり
と一回転する。スカート部分がふわりと舞う。
「素敵。お似合いよ」
 優美な笑顔を向けられて、私はまた赤面した。
「ほら、涼二君も何か言ってあげなさい」
 その言葉に涼二の顔が動く。視線を受けて、私はますます恥ずかしくなった。
 しかし、恥ずかしいのは涼二も同じだったようだ。すぐに目を逸らして明後日の方を向いた。
その反応は、それはそれで寂しい。
「こら、ちゃんと彼女のこと褒めないと」
「いや、だってさっきもう……」
 ここに来る前、私は涼二を連れて服を買いに行ったのだ。元々着てきた白のコートに合わ
せて、柔らかいベージュのスカートを選んだ。ちょっと寒いと思ったけど、涼二の反応がおも
しろかったのでそれにした。
 普段スカートなんて穿かないせいか、涼二は私の姿を見てしばらく呆けていた。これでも
高校時代はずっと制服を着ていたわけで、当然スカートなわけで、そこまで驚くほどのもの
じゃないと思っていたのだけど、どうも制服と私服では違うらしい。下にジャージやらハーフ
パンツを着ていたのがまずかったのだろうか。
 でも喜んでくれるなら、やっぱり嬉しい。「……似合ってる」と小声で褒められて、思わず
笑みがこぼれた。財布には痛かったけど。
「何度でも褒めなさい。減るものじゃないんだから」
「……華乃」
 涼二の目が私の姿を捉える。お酒のせいか、頬の色が赤く染まっているような。
「うん」
「……俺の前以外ではスカート禁止な」
「へ!? あ……う、ん」
 予想外の言葉に私は目を白黒させるしかなかった。
 吉野さんはお腹を抱えて笑っている。
429かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:41:48 ID:QollcZNW
「涼二君は案外嫉妬深いのね。知らなかったわ」
「嫉妬深い?」
 そういう印象は抱いたことがなかった。涼二はどちらかというと、淡白なイメージがある。
「今のだって、かわいい彼女の姿を他の人に見せたくないからでしょ。さっきも『ネタにされる
のは嫌』とか何とか言ってたけど、本当は単に他の男に知られるのが嫌なだけで」
 そういえば、昨日の彼女発言も、涼二らしくなかった。あれも嫉妬の表れだろうか。
 涼二はそっぽを向いて答えない。ごまかすようにグラスの中の酒を煽った。
 図星だったらしい。
 私は笑みを抑えることができなかった。
「かわいいわね、あなたたち」
 そんなことを言われて、私も照れ隠しに座り直して一口。グラスの中身は、この手のお店
には珍しく焼酎である。「海」という芋焼酎で、女性向の一品らしい。昨日飲んだものより
飲みやすくて、これは好きになりそうだった。
 しばらく他愛のない話が続いて、またたく間に夕方になった。
 お酒はほどほどにしていたので、酔ってはいない。多少温かくなった程度だ。涼二も後半は
ほとんど飲んでなかったので、全然酔っていなかった。頬の赤みももう治まっている。
 吉野さんは最後に、もう一杯カクテルを作ってくれた。
「初恋が実った記念に」
「え?」
 年上の女主人は、口端をいたずらっぽく吊り上げた。
「『ファースト・ラブ』っていうのよ、これ」
「……綺麗ですね」
 グラスの中身は綺麗なピンク色で、飲むのがちょっともったいなかった。
 口に含むと甘味の中に苦味も混じっていた。なるほど、これは確かに初恋かもしれない。
 私の苦味は、報われたけど。
「俺には作ってくれないんですか」
 涼二が言うと、吉野さんは顎に右手を添えて、
「そうね、『ブルームーン』なんてどうかしら」
「……何の嫌味ですかそれは」
「あら、そんなつもりはないんだけど」
 そのやり取りの意味は、私にはわからなかった。

 帰りにそのことについて尋ねると、涼二は苦りきった顔で教えてくれた。
 『ブルームーン』には相手の告白を断る意味があるのだそうだ。

430かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:44:12 ID:QollcZNW
 
 夕食はファミレスで適当に摂った。
 お酒も入れて気分はよかったものの、食料品の買い物もしておきたかったので、お腹を
満たすとすぐに電車に乗って、自宅の最寄り駅まで戻った。
 駅裏のスーパーで買い物も済ませて、部屋に帰り着くと、しばらくゆったりして過ごした。
 ソファーに並んで座りながら、のんびりお茶を飲んだり。雑談に花を咲かせつつ、ぴったり
寄り添ったり。
 デザートに買ってきたプリンを二人で仲良く食べながら、本当に何気ない時間を過ごした。
 幸せだった。
 夢みたいだった。
 昨日までとは世界が違った。私は今、すごく緩みきった顔をしているのだろう。たぶん。
 涼二の手が私の髪を優しく撫でる。
 私は涼二の顔をじっと見つめる。
 こんなに近くに、彼がいる。
 心が浮つくのを抑えられない。
 お酒のせいにしておこう。私は目をつむり、そっと唇を突き出した。
 彼が来る間、心臓が止まりそうなほど緊張して、息が苦しかった。
 互いの唇が触れた瞬間、安堵感が全身を包んだ。
 涼二の唇はグミのように柔らかく、甘い。
 何度もやったことなのに、この感触は飽きない。どこまでも求めてしまう。
 背中に回された腕が、ぎゅっと私を抱きしめる。私もそれに応えて、涼二の体を抱きしめ
返した。
 深まるキスに同調するように、互いの密着が増していく。ソファーの上に乗り出すように
して、より正面から抱擁を交わす。ニット越しに彼の厚い胸板が、私の乳房を押しつぶす。
 まるで全身でキスをしているみたいだ。服越しに伝わる熱も鼓動も、すべてが浮つく心と
連動するように高まり、高鳴っていく。
 唇を離すと、荒い息が洩れた。
「……どっちでする?」
 涼二の問いに私はすぐには答えられなかった。頭が熱でぼうっとして、うまく回らない。
ようやくどちらの部屋に行くか訊かれているということを理解し、私は呼吸を整えて答えた。
「あなたの、部屋で」
 別にどちらでもよかった。ただ、昨日は私の部屋だったから、今日は涼二の部屋がいい
かなと思っただけだ。
 涼二は頷くと、私の手を取って立ち上がった。足元が少しおぼつかなくて、よろけそうに
なったところを彼の手に支えられる。体にうまく力が入らず、夢遊病のような感じだった。
 ああ、私、酔っちゃってる。お酒じゃなくて、今の幸せな瞬間に。彼の存在に。
 あなたはどうなの? 涼二。
 涼二に手を取られながら、私は彼の部屋に入った。
431かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:45:14 ID:QollcZNW
 相変わらず、殺風景な部屋。
 机と椅子とパソコンとベッドと。あとは何もない。服はクローゼットに全部仕舞ってあるの
だろう。部屋を彩り飾るものはなく、引っ越してきたばかりの部屋みたいだ。前の部屋は
もう少しごちゃごちゃしていたように思うけど、たぶん私がいるから気を遣っているのだ。
 暖房の効いたリビングからすると、この部屋はだいぶ冷えていた。冷たい空気の中で
涼二の手だけが温かく、私はすがるように強く握った。
 その手をぐっと引かれた。
 抱え込まれて、そのまま仰向けに押し倒された。ベッドの上に、いたわるように。こんな
優しい押し倒し方も珍しい。
 再びキスをされて、今度は舌を入れられた。口内の熱が唾液とともにじっとりと伝わって
くる。重力に引かれて、ベッドに沈み込みながら磁石のようにくっつき合って、私は涼二の
重みを全身で受け止めた。苦しくはない。涼二なら。
 呼吸困難になりそうなくらい、私たちはキスに没頭した。
 涼二はなかなか次の段階に進まなかった。唇を離したかと思えば、すぐにまた繋がって、
しばらくキスだけを何度も繰り返した。
 ダンスを踊るように、くっついては離れて。回数を重ねるごとに同調も深まって。
 唇がひりひりした。
 キスは嫌いじゃない。でもいい加減次に進みたい。
 私は手を涼二のお尻に回した。男の人の臀部は、他と比べたら柔らかいけど、それでも
がっしりした印象だった。
「涼二……」
 風邪をひいたような声が出た。知らず、媚びるような色が混じっていたかもしれない。
 手が涼二の腰から太股辺りをうろつく。体が熱い。なんだかお腹の下がくすぐったくて、
じっとしていられない。
 欲が高まっていくのがわかる。焦燥感が私の全身を蒸し焼きにしていくかのようだ。
「涼、二……!」
 幼馴染みの手がおもむろに動いた。私の喘ぐような声に応えてか、大きな右手が私の
脇腹を撫でた。
 そこじゃない。私が欲しいのはそこじゃ、
 涼二の膝が私の太股の内側をつついた。
「っ」
 びくりと、下腹部が震えた。近い。でも決定的に遠い。
 なんで今日に限って焦らすんだろう。私はだんだん腹が立ってきた。
「涼二……どうして……!」
 叫んだつもりが、かすれた声しか出なかった。
「きついか?」
「そんなの、見ればわかるでしょ……」
「……俺もきつい」
 え? と顔を上げると、脚の付け根に硬いものが当たる感触があった。
 スカート越しでも、その変化ははっきりとわかった。
「昨日は性欲をぶつけるようなやり方しかできなかったから、今日は気持ちよくさせたい」
「……あの、いつもどおりでも十分気持ちいいんだけど」
 相性がいいせいか、私は涼二とするといつも完膚なきまでに果ててしまう。涼二もそれは
同じようで、私はとても満足できる。
 特別なことなんていらないのだ。
「涼二とそういうことをするってだけで、私的にはもう変になりそうっていうか……」
「今まで何度もしてきただろ」
「慣れないよ、何度やっても」
 今までのはやはり練習だったのかもしれない。昨日からがきっと本番だったのだ。
 練習。
 馬鹿なことを言ったものだ。私は自分の言動を改めて恥じた。
 あなた以外とこんなこと絶対しない。するわけがない。
 なのに、あんな言い方。
「練習はもう終わりだからな」
「え?」
「だから力を入れるのは当たり前だろ」
 そう言って、涼二は笑った。私は咄嗟に答えられなかったけど、でも同じように微笑む
ことはできた。
 自分たちのための練習、という意味だろう。そう置き換えることで、私に暗に気にするな
と言ってくれている。
432かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:46:29 ID:QollcZNW
 私は火照った体を落ち着かせるように深呼吸をした。
「……いいよ。私を狂わせて」
「……馬鹿、そんなことはしない。いっぱい気持ちよくさせる」
「じゃあ、涼二も私で気持ちよくなって」
 涼二の首が縦に振られるのを確認して、私は体の力を抜く。
「ひっ」
 右手が裾の下から中に入ってきた。少しだけ冷たい掌の感触に思わず奇声を発した。
 そのまま大きな手が、ブラの内側に滑り込んできて、
「んんっ」
 また唇を奪われた。
 キスと同時に胸を揉まれて、私はまた熱が上がりだすのを自覚した。涼二にいつも弄ら
れるせいか、胸はどうも弱い。
 私は涼二の着ているトレーナーをつかんで、刺激に耐える。
 するすると裾がまくられて、お腹と胸をさらされた。右手が器用に動き、私の背中辺りを
探る。ホックを外されて、あっさりブラも剥がされてしまった。
「なんか手馴れすぎてて怖いよ……」
「練習期間が長かったからな」
「蒸し返さないでよ」
「すまん」
 口とは裏腹に、手はよく動く。乳房を直接触られて、私は身震いした。冷たい空気や掌の
感触に加えて、乳首が押しつぶされるように擦れて気持ちいい。
 されるがままなのは嫌だった。そろそろと右手を伸ばして、涼二の股間に触れる。ジーンズ
の上から撫でると、微かに身じろいだ。
 私たちはしばらく、互いを愛撫し合った。
 でもそれは長く続かない。いつも私の方が先に参ってしまうのだ。
 指で乳首をつままれると、刺激が電流のように走った。さらに唇を寄せられて、先端を強く
吸われる。
「や、そんな強く吸わないで……」
 涼二は私の言葉などそ知らぬ様子で、ひたすらに胸を求めてくる。
 ストローのように先っぽを吸い、舌で転がし、歯で甘噛みする。私はその快感にたまらず
嬌声を上げた。
「だめ……んっ」
 手に力が入らない。こちらから仕掛ける余裕なんてなくなっていき、次第にただ快楽に
耐えるだけになっていく。
「あ、ん……やだ、もう……」
 満足したのか、涼二の顔が離れた。唾液でまみれた胸が、空気に触れてひやりと冷たい。
 と、今度はスカートがまくられた。
「ひゃあっ」
 不意を突かれて驚いた。短い奇声にもまるで怯まず、涼二の手は一直線に下腹部へと
伸びた。
 ショーツを掴み、そのまま脱がされた。抵抗する暇もない。上半身に続いて下半身も
下着を奪われ、心許ない気持ちになった。
433かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:47:30 ID:QollcZNW
 しかし、それだけでは終わらなかった。
「えっ!?」
 涼二の顔が私の大事なところに迫った。
 スカートの内側にもぐるように、涼二の上体が脚の間に割ってきて、鼻を、口を、私の
そこに近づけてくる。そんなことは今までされたことがなかったので、私はおおいに慌てた。
「りょ、涼二! なにやってるの?」
「舐めたい」
「な、なめ……って、ええ!?」
「なんだよ、お前だって前に俺のを舐めただろ」
 確かにしたけど。でも。
「やだ、は、恥ずかしいよっ。だめ、息当たってるって……ひあっ!」
 舐められた。
「んん、やあっ、そこだめ、だめえ」
 ざらついた感触が割れ目に沿って生じ、同時に痺れるような快感が沸き起こった。背筋
がぞくぞくと震え、脚がびくりと強張る。
「や、そんなところ……ひあっ、あっ、ああっ」
 中まで入ってきた。深いところまでは進入してこないものの、それでも今までに感じた
ことのない刺激に頭が狂いそうになる。
 涼二は調子に乗って、ますます激しく舌を動かした。
 逃げないように腰をしっかりと掴み、果物にかぶりつくように入れてくる。舌の長さなんて
たかが知れてるから、もちろん男性器のように奥まで入ってくることはないのだけど、でも
さっきからキスや胸への愛撫で散々焦らされているために、それだけで私はもうイって
しまいそうだった。
 少々乱暴な舌遣いでも、高まった性感を弾けさせるには十分で。
 脳のどこかが沸騰して、溶けてしまいそうで。
「ああ、んんっ――」
 絶頂を迎えたのは、直後だった。クリトリスまで舐められて、私の頭は真っ白になった。
「ん、ん……あん……」
 涼二の頭が遠ざかる。拘束されていた下半身が解放されて、私は一気に脱力した。
 ベッドに体が沈み込む。激しく呼吸を繰り返しながら、ぼんやりと天井を見つめた。
 ここまでされたら、羞恥心もどこかに吹き飛んでしまう。
 ちょっと恨めしく思った。
「……絶対、責任取ってもらうからね」
 私のつぶやきに涼二は小さく笑った。
「当たり前だろ。彼氏なんだから。ましてや他の奴になんて渡せるか」
 存外はっきりとした口調で言われて、私は口をつぐむ。
「おい、まさか疑ってるのか?」
「ち、違うの。そんなにはっきり言われるとは思わなかったから」
「いつまでも子分のままじゃないってことだ」
 涼二の手で抱き起こされる。私の体を支えるその腕は、頼もしいほどに太い。
 もうとっくに追い越されていたのかな。
 なら私も一生懸命並ばなくちゃいけない。
 涼二がそうしたように。
 私は涼二の胸に頭を預けて、ぎゅっと抱きしめた。
「いっぱい、抱いて……」
 心臓に吐息をかけるように囁くと、涼二は私を無言で抱きしめ返した。

434かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:49:02 ID:QollcZNW
 
 貫く衝撃に私の脳は激しく灼かれた。
 生まれたままの姿で抱き合いながら、私たちは愛し合う。彼の膝にまたがるようにして、
正面から抱き合って、繋がり合う。
 膣奥を強く蹂躙される度に快楽の波が生まれ、私の理性を呑み込むように攫っていく。
 下だけじゃなく、上もたくさん攻められた。胸を揉まれ、先端を吸われて、脇や背中も
何度も撫でられて、どこを触られても気持ちいい刺激しか生じない。
 私はもう、完全に染められている。
 できれば涼二もそうであってほしい。
 彼の首に腕を回して、私は唇を奪った。すぐに舌が絡み合い、またそこから熱が伝わって
快感が湧き上がる。
 直接肌が触れ合って、涼二の熱も高まる鼓動もこちらに流れてくるようだった。
 腰の動きが一段と激しくなった。奥を突き上げられて、私は甲高い声を上げた。
「ああっ、んっ、あっ、は、はあっ、あん、ああっ」
「華乃……華乃……!」
 名前を呼ばれただけで、気持ちよくなってしまう。
 断続的に襲ってくる快感の前に、私はただ喘ぐことしかできない。
「涼二……好き、好き……」
「ああ……俺もだ。愛してる……華乃」
「私も、んんっ、愛し……ああん……」
 意識はどこまでも高く上っていきそうで、同時にどこまでも深く沈んでいきそうで。
 あまりの気持ちよさに、自我さえ消し飛んでいきそうで。
 彼と抱き合ってその存在を直に確かめることで、かろうじて私は意識を繋いでいた。
 重ねられる快感に、もう耐え切れそうにない。
「りょうじ……もうだめ、わたし……」
 涼二の顔も苦しげに歪んでいる。
「俺ももう……」
「うん、いっしょに、いっしょに……!」
 涼二の動きに合わせてひたすら動いた。性感を高めて、同時に辿り着こうとして、
 やがて、私の意識は波に呑まれた。

435かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:51:28 ID:QollcZNW
 
      ※   ※   ※



 ぱち、と目が開いた。
 柔らかいシーツと、被さる毛布の感触と、その上の布団の重みを全身に受けながら、
私はぬくもりに包まれていた。
 横を見ると、裸のまま幼馴染みが眠っている。
 既視感を覚えた。たしか昨日も似たような状況に遭ったような。
 なんだかおかしくなって、私は涼二の寝顔をしばらく見つめた。これも昨日と同じだ。
 静かに眠る幼馴染みの姿は、穏やかだった。
 その穏やかさは昔の名残を残しているようで、でも体の大きさはやっぱり昔とは違って
いて、その違いを探すように、私は彼との思い出を振り返った。
 もういつから好きだったのかもわからない。でもその想いは確かに積み重ねられていて
ここにある。
 想いが実ってよかった。涼二に会えて、本当によかった。
 あなたは今、ここにいる。
 もう不安にはならない。あなたは私のもの。
 そして、私はあなたのもの。
 ずっと怖かったって言ったら、あなたは笑うかな?
(あのね、涼二)
 私、教師になりたいの。
 涼二といっしょに勉強した時から、なんとなく考えてはいたのだけど、大学に入って決め
たの。
 私、誰かを導いたり、教えたりするのが好きみたい。
 小さい頃に涼二を引っ張っていたのは、もちろん涼二だからという理由もあるのだけど、
きっとそうやって手本になったり教えたりするのが好きだから、と思ったんだ。
 だから私、決めたの。
 高校の頃は決められなかったけど、今はちゃんと決めてるよ。
 夢があるよ。
 だからね、私のこと応援してほしいな。
 あなたが傍にいて見ていてくれたら、私は頑張れるから。
 これまでも。これからも。
 どうかな。
「……」
 私は時刻を確認して、ベッドから抜け出した。午前七時だった。
 朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
 さあ、幼馴染みのために、今日もおいしいご飯を作らないとね。



   <了>
436かおるさとー ◆F7/9W.nqNY :2011/02/12(土) 03:55:01 ID:QollcZNW
以上で投下終了です。
一応これで終わりです。
が、番外編一話を追加するかもしれません。

えっと……要するに、ヒロインにメイド服を着せるかも。
それではまた。
437名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 05:46:17 ID:3Eq/UoUN
乙でした
438名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 08:43:40 ID:uFUnJJ3A
乙!
最高すぎる。番外編、わっふるわっふる
439名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 12:10:38 ID:a8RU6wDE
最終話ずっと待ってました!
このシリーズ、2人の気持ちの描写が丁寧で好きです。
あれだけすれ違ってた後だと気持ちが通じた時のカタルシスが半端ないね。
GJでした!

番外編もwktk
440名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 13:22:27 ID:gng/HRMU
GJ!
番外編に期待せざるを得ない
441名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 14:04:40 ID:3+o38Y0g
番外予告が最高すぎてちんちんおっきおっき
442名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 21:29:01 ID:TRKHjAU6
ハッピーエンドまで見れてうれしい!
番外編も期待してます!
443名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 23:06:08 ID:mdzSS9k0
GJ過ぎて言葉にならないです。
番外編とかwktkすぐる。
444名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:33:42 ID:8rILIVTf
  
 うちのクラスには一組の幼なじみがいる。

 男の方は、クラスのムードメーカーみたいなやつで、いつだって明るいし、いつだってバカだ。
けど、頭の回転がいいのかテストの成績は悪くない。少なくとも、学年全体で毎回100位前後な
俺よりは頭が回る。
「お前って頭いいのになんでいつもバカやってんの?」と聞いてみたら、「バカやってるから
頭良くなるんだよ俺の場合」とよく分からない回答をしてくるあたり、普通の人間とはそもそも
頭の回転の仕方が違うんじゃないかと最近思うようになった。

 女の方は、これがまた難物で、鉄と氷で固められたかのように表情が冷たい。言動も冷たい。
多分冷え症で手も冷たい。髪型だけは後ろで編みこんで、先っぽのほうを小さなリボンで
まとめているからなかなか活発そうに見えるんだが、一度「後ろから見たら寿司に乗っかってる
エビみたいだな」とポロっと口を滑らせたところ、こっちの体が石化するくらいに睨まれた。
 いや、あれ、今思い出しても寒気が出る。本当に怖かったんですよ、ええ。
 
「佳隆! 英語の課題見せてくれぇぇ」
 昼休みに入るや否や、前の席に座るその男の方が、振り返り声をかけてくる。ちなみに、
その男の方とは結構仲がいい。佳隆ってのは、俺の名前だ。
「またかよ。お前なんでいつもやんないんだ」
「忘れた方がこうしてスリルがあるし楽しい」
 満面の笑顔でサムズアップをよこすあたり、本当に楽しそうに見える。友人として付き合い
始めて結構経つが、相変わらずこいつの思考パターンが読めない。
「そうは言ってもですよ、謙吾君。あなたにノート貸すと落書きされて返ってくるからご勘弁
願いたいんですよ」
「いやあっはっは、面白かったらいいじゃないか広崎君」
 相馬謙吾。この男の名前がそうなんだが、こいつはほんとマルチというか多芸というか、
何をやらせても人並み以上に上手い。前に数学のノートを貸したら、ヅラの噂があるクラスの
担任に波平ヘアーのカツラを被せたイラストを描きこんでて、授業中にノート開いて思いっきり
吹いたことがある。
 ちなみに広崎は俺の名字な。
「その後俺は思いっきり怒られたんだぞ」
「どんまい!」
「どんまいじゃねぇ」
 その後、職員室にしょっぴかれたのは言うまでもない。あのせいで、俺もこいつとセットで
要注意人物にされてしまった。もっと色々言ってやりたかったが、八重歯を見せながらにかっと
爽やかに笑われると怒る気力も失せてしまう。
「うーん、しかし渋られるとは思わなかったな。ちょっと困る」

「なら、見せてあげようか?」

 振り向くと、鉄と氷でできているんじゃないかと思われる女の子がノート片手に佇んでいた。
「わお美由紀ちゃん。嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「ちゃん付けはやめて。貸さないわよ相馬君」
 両手を大きく広げて喜ぶ謙吾にため息をつきながら、柏原美由紀はゆっくり近づいてくる。
「美由紀、俺、お前そんなお前が大好きだ」
「貸さないわよ」
 声を太くして格好つけた謙吾の告白を、鋭い瞳で跳ね返す。もっとも、ノートはしっかり
相馬の机の上に置いてやってるが。
「授業が始まるまでには返してね」
「あいあいさー」
 それだけ言うと、彼女は昼食をとるのか自分の席へ戻っていく。
「……」
「どうした、佳隆君」
「いや、なんでもない」
 余談だが、俺がこの二人が幼なじみだということを知ったのはつい3か月前のことである。
こいつの家に遊びに行った時に、柏原が急に訪問してきたもんだから随分テンパった。
445名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:36:23 ID:8rILIVTf

『どうしてあなたがいるのかしら?』
『いや、だって、俺こいつと友達だし』
『……』
『ごめん美由紀、今日はこいつが来てるからまた今度にしてくれ』
『仕方ないわね、今度埋め合わせはしてもらうわよ謙吾君』
 どういう関係か聞いたところ、幼なじみだと白状された。当時は、相馬と柏原はクラスで
会話をあまり交わしていなかった。避けてたんじゃなくて、接点がないという感じだった。
それが最近は、教室内でもちょこちょこ会話をするようになった。もう隠すつもりないって
ことなんだろうか。
『はー、お前と柏原が幼なじみとはなぁ』
『意外?』
『まーな。でもいいのか? せっかく遊びに来たのに』
『買い物のお誘いだよ。いつものことだし、たまには断ったっていいっしょ』
 もうひとつ余談になるが、この時柏原が俺に向けた視線は相当鋭いものがあった。やっぱり
こわかったです、ええ。

 今では相馬と柏原の関係は、クラス全体に知れ渡っている。それでも、茶化すような輩は
全くいない。相馬にけしかけても受け流されるし、柏原に聞かれようものなら、どういう目に
遭うか想像に難くない。
「しかしなー、あんな怖い女とよく友達付き合いできるな」
「怖いって美由紀が? まさかぁ」
「いやいや、俺はもうあいつに睨まれるのはトラウマだよ。ゴーゴンだゴーゴン」
「またまた」
 柏原に対する正直な印象をぼやくと、相馬は少しだけ苦笑を洩らす。こいつがこんな表情を
見せるとか珍しい。
「自分にも他人にも厳しい性格なのは確かだけどね。可愛いところたくさんあるよ」
「ふーん、たとえば?」
「猫が好きでね。小学生のころ、帰り道に捨て猫見つけた時はしばらく傍から離れなかったし、
なけなしの小遣いはたいてキャットフードや牛乳買ってたね」
 あの柏原が…猫好き……いかん、想像できん。
「確かその猫今でも飼ってるよ、他にも2匹くらいいるし。遊びに行くと大抵どれか抱いてる
んだよね。頬擦りなんかもよくするし」
 何だか急に身体中にぞわっと鳥肌がたった。やってることは全くそんなことないのに、
物凄く怖い。
「そうそうそれでさ、この前とか…」

「 相 馬 く ん 。ノート写さないなら返してもらうわよ」

 いつの間にか、戻ってきてました氷の女。動けなくなる俺マジ蛙状態。
「ああごめんごめん、すぐやるよ」
 鋭い視線に意を介することもないのは、流石幼なじみとでも言うんだろうか。こいつ肝も
太いのかもしれない。
 しかしなー、柏原が猫好きとかなー。ギャップがありすぎてイメージできないっつーか
なんつーか…。
「……」
 え、あれ。柏原がこっち睨んでる。そして近付いてくる。
あのちょっと、ほんと怖いんですけど、勘弁してくれないっすか、マジで。わりとマジで。
いや、ほんとマジで。
「佳隆、声が出てる」
「マジで!?」
 口許を手で覆いながら笑いを噛み殺す相馬に指摘されても信じられん。が、それ以外に
俺の思ってたことがバレる理由が無い。くっそ、漫画じゃねーんだぞ。
「……私が猫好きなのがそんなに可笑しい?」
「いやあの、……めっそうもないです」
 やばいやばいやばい、今の俺ヘビに睨まれたカエル状態だ。ほんとすいません。
446名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:39:30 ID:8rILIVTf

「美由紀、脅すのはよくないって」
「別に脅してないわよ。そもそも、相馬君が余計なことを言うのがいけないんじゃない」
 おお、救いの神よ。私は貴方様に感謝いたします。初めて貴方と友人で良かったと心の
底から思いました。
「いやあ、美由紀の可愛いところを知ってもらいたくてつい」
 でも、そういう性格は真似したくても真似できねーし、真似したくないです救いの神様。
「……」
 およ、柏原が顔をそむける。というか俯いた。しかもなんか小刻みに震えてる。
「……ノート没収ね」
「あー、うそですごめんなさい! 許して!」
「…知らない」
「そんなこと言わないでさー、お願い!」
 ノートをかすめ取ってすたすた歩いていく柏原を、焦った相馬が追いかけて行く。ありゃもう
どっちにしろノート写せないだろうな、ご愁傷さまだ。
 
 しかしあれだな、ひょっとして柏原って相馬のこと好きなんじゃねーかな。幼なじみってのも
あるとは思うが、それを差し引いても相馬に対してだけ物腰が柔らかい。ああいう関係って
漫画とかじゃむしろ逆で喧嘩とかばっかりするよな。現実どうかは知らんけど。

「で、それを俺たちに言ってどうすんの」
「いやね、ちょっと試してみたいんだよ」
 思い立ったが吉日。ってわけじゃないが、同じクラスの他の友人を巻き込んでちょっと
一計案じてみたくなった。昼食時に二人っきりにさせてみるのである。
「なんでそこまでするんだ? めんどくせーだろ」
「そりゃ他の奴だったらやんねーよ。でも相手があの柏原だぞ」
 俺がそう言うと、友人全員の耳がぴくりと動いた。あの女を怖がってるのは何も俺だけじゃ
ないのだ。
「これ絶対内緒な。相馬に聞いたんだけどさ、柏原って猫が好きで、家じゃ頬ずりとか
してんだってさ」
「またまた御冗談を」
「柏原が怒ってきたから多分マジだって。それにさ、二人きりとかだと、柏原も相馬の
名前で呼ぶぜ」
「いやいやいやねぇよ、なんだよその推論」
「ほんとだよ。だって俺聞いちゃったし」
「……マジ?」
「マジマジ」
 相馬の家に遊びに行って柏原が顔を出した時、相馬のことを「謙吾君」て言ってたのは
この耳がしかと記憶している。むしろ、それこそが最初に疑った理由だ。
「普段と違う柏原さんを見てみたいと思いませんか」
「「「「……見たい」」」」
 氷と鉄でできていると揶揄されるほどの女だが、容姿は抜群なものがあった。整った顔立ちに
切れ長の瞳に、一目ぼれした奴は少なくない。もっとも、揃って告白することなく諦めてたが。
もちろん怖すぎて。
 
 というわけで、全員の全面協力の元、二人を昼食時に二人きりにしてみるという作戦を
決行することとなった。
 当然女子の力もいるが、こっちも快諾の返事をもらえた。同性で頼れる存在である柏原の
そんな姿を女子たちも見たいらしい。しかもお相手が、クラス一のお調子者である相馬なら
なおさらだ。
 高校なのでクラスの半分は学食やパンで昼食を済ますが、残り半分はいつも教室で弁当を
食っている。幸い相馬も柏原も弁当組だ。ほかの面子にご退場願おうというわけである。
 もちろん全員同じ理由で、教室で飯を食わなくなるってのは流石に怪しまれる。というわけで、
母親と喧嘩して弁当作ってもらえなくなっただの、他のクラスに仲のいい友人ができてそいつと
食べるだの、学食の美味さに目覚めただの、それぞれ適当に理由をつけて徐々に面子を
減らしていくことにした。
447名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:41:56 ID:8rILIVTf
 
 それも減る一方じゃ怪しまれる。一時的に教室で飯を食う面子を戻したりすることも
忘れなかった。こういうのはバレたら終わりだ。作戦は慎重に慎重を重ねた。

 そうしてかれこれ一ヶ月。ついに俺達は、教室で飯を食う面子を5人程度にとどめて、
それを不自然と思わせない空気を作り上げることに成功したのである。

 チャイムが鳴ると同時に、教師と相馬と柏原除いた全員の顔に緊張が走る。いよいよ今日、
こいつらを二人っきりにするのだ。
「さあて」
 飯を食うスピードが遅い相馬は、飯を食いだすタイミングが早い。学食、パン組が教室を
出る前に、既に弁当を取り出している。
「お、今日はとんかつですよー。贅沢だね」
「とんかつとか。お前学食のやつ食ってみ? マジ美味いぞ」
 みんながみんな、雪崩れるように出て行くのも不自然だ。俺を含め何人かは、一旦その場に
とどまる。
「え、そうなの?」
「最近教室で弁当食ってる奴少ないだろ? 学食の味が変わったんだよ、いい方向にな」
「へー」
 返事をしながらも、相馬は箸をとりだして、今にもぱくつこうとしている。
「ま、そりゃ今度の話だな」
「そりゃそうだ。じゃ、俺も飯行ってくるわ」
「願わくば、そのおいしくなったというとんかつを一つ持ち帰ってきたりとかは…」
「しねーよ」
「ですよねー」
 こうして俺も教室を後にする。残ってる面子も教室を出て行こうとしたところで、そのうちの
一人の女子が弁当を持った柏原に呼びとめられていた。いつも柏原とご飯を食べていたのが
その女子なのだが、打ち合わせ通りなら彼女も今日は弁当を持ってきていない。今日は一緒に
飯を食えないってことを話してるんだろう。
 
 こうして、二人を除いた全員が教室を後にする。機械に詳しい友人が、相馬と柏原の机に
盗聴器をとりつけているから、その場にいなくとも二人の会話を聞くことはできる。
バレたら俺、停学になるかもしんねーな。
「聞こえるか?」
「いや…今のとこ会話ないみたいだ」
 一か所で固まると流石に周りの目が辛いので、一つのグループあたり五、六人に分かれて
各所に散らばって聞いている。他のグループも、今頃それぞれの小型スピーカーに耳を
凝らしているに違いない。
『誰もいないね』
『…そうね』
「「おっ!」」
「バカうるせぇ、肝心の声が聞こえなくなるだろ」
 会話が始まって色めき立つ声を遮る。ここまで本当に苦労してきたからな。しかも二人きりに
したからといって、何もない可能性の方が高いし。それを考えると、ここから先は一言一句
聞き逃せない。ここはひとつ、一緒にご飯を食べてみてもらいたいところだが…。
『どうせなら一緒に食べようよ』
 よくやったぞ親友! それでこそ親友だ! これで何か起こる確率が跳ね上がる!
『……』
『美由紀』
『……』
 柏原の沈黙が、妙に緊張する。
『二人きりだしいいじゃん』
『でも、謙吾君』
 来た! 名前で呼んだよ柏原さんが!
「マジかよ…!」
「広崎の言ってたことは本当だったのか…」
448名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:43:36 ID:8rILIVTf
  
 盗聴器を持ってる奴の手に力がこもっていくのが分かる。やった、やりましたよ俺は。
これで何も起こらなかったらクラス全員に顔向けできないところだった。ほんと、みんなには
感謝してるぜ。これなら他の場所で聞いてる奴ら含めて満足してくれるに違いない。
『なんでしょう』
 おっと、いかんいかん。肝心の会話内容を聞き逃すわけには…。

『家で一緒に食べてるのに、学校でまでなんて…』

 ……

 ………………
 
 なんだと!?

「ど、どういうこと…?」
「お、俺に聞くな」
 動揺しながら説明を求めてくる声に、俺もめいっぱい動揺した声で返す。まさか飯まで
一緒に食ってるとか…これひょっとして柏原の片思いってレベルじゃないんじゃ…。
『たまに違うところで一緒に食べるのもいいもんじゃないか』
『……まあ、いいけど』
 短い会話の後に、柏原の方にしかけた盗聴器の方から、椅子がガタガタ動く音が響く。
「一緒に住んでるわけじゃ…ないよな」
「バカかお前、そんなことあるわけないだろ」
「家が近所なのか?」
「…多分」
「確か相馬んところって共働きだろ? もしかして柏原が飯の世話してんのか?」
「いやいやまさかそこまでは…」
 必然的に、みんなであれこれ推論を立てて行く。
 いやしかし、これは正直想像以上っていうか、予想外だ。その可能性を全く考えてなかった。
『美由紀、今日とんかつ入れてくれたんだな』
『時間がなかったから冷凍ものよ。そこまで喜んでもらえることじゃないわ』
「「「「えええ!?」」」」
 おぃぃいいいぃいい!!? どうなってんだこいつはぁぁあぁ?!! まさかまさかの
連続じゃねーか!
「広崎…お前ここまで想定してたのか?」
「……んなわけねー」
 はっきりいって緊張どころか動揺しまくってるが、そうもいかない。ここまできたなら、
これからもっともっと爆弾発言が出てきてもおかしくない。返事もそぞろに、これまで以上に
盗聴器に耳を傾ける。

『でも俺がこの前食べたいって言ったから入れてくれたんだろ?』
『べ、別にそういうわけじゃ』
『ありがとな美由紀…いっつも感謝してる』
 箸をかちりと置いた音と、衣同士が擦れる音が聞こえてくる。どうやら、相馬が柏原の手を
握ったらしい。さっきからこいつ何言ったりやったりしてんだほんと。
『ほんと……?』
『うん』
『…………嬉しい』
 おいちょっと待て、この女は誰だ。
『大げさだなぁ、美由紀は』
『そんなことない。そう言ってもらえて…凄く嬉しい』
 軽く笑った相馬の声を逃さないかのように、感極まったため息交じりの女の子の声が
聞こえてくる。
「……」
「広崎、この女は誰だと思う」
「柏原しかいないと思うが、柏原とは思えん」
 
449名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:44:45 ID:8rILIVTf
 
「俺もそう思う」
「俺も」
「俺もだ」
「俺も俺も」
 みんな目が泳いで、口元が必死に笑いを殺そうとしている。どういう表情を作ったら
いいのか分かんないみたいだ。多分、俺も今そんな顔になってるんだろう。

「確かめに行くか」
 ついに一大決心をする。
「マジかよ…」
「バレたら殺されるぞ」
「んなことはわかってる」
 それでも、この様子を会話だけで満足させることはできなくなった。今、二人がどんな
様子なのか見てみないことには気持ちが治まらない。
「でも、お前らだって聞くだけじゃなくて、見てみたいだろ?」
「そりゃ…」
「まあ…」
「俺は行くぞ。勇気が無い奴はここにいろ、そいつは置いていってやる」
 盗聴器を顎でしゃくって立ち上がる。機械の向こうからは、笑い声が徐々に増えていく
相馬と、段々饒舌になっていく柏原の会話をしっかりと伝えてくる。その度に、足が勝手に
教室へ向かおうとする。いや、もう向かい始めていた。
「気になってるのはお前だけじゃないぞ」
「俺も行くわ」
 その後を、結局全員がついてくる。周りは普通に昼休みを過ごしてて、昼食や談笑に
明け暮れている。そんな中を、潜入工作員にでもなったかのように俺達は、静かに静かに
歩いていく。
 俺達の教室は廊下の突き当たりにある。だから、用がある人間がいないと、教室前の
廊下には人気が全くなくなる。なくなるはずなのだが、着いてみるとそこには、十人くらいが
身をかがめて教室内をうかがっている。どうやら直接様子を窺おうとしているのは俺達だけじゃ
ないらしい。
「お前たちも来たのか」
「そりゃ気になるでしょー……」
「俺達だけじゃないぜ、ベランダ側に回ってる奴らもいる」
「というか多分、来たの広崎君たちが最後だと思うよ」
 かがんでひそひそ話をしているものの、見つかったらやばいという危機感からか、みんなの
表情も強張ってる。そのせいで、奇異の目で隣のクラスの連中に見られてはいるものの、
話しかけられることは無い。正直、構ってられないが。
『謙吾君、ほっぺにご飯粒ついてるわよ』
『あ、悪い』
 全員が全員顔を出してると流石にばれるので、交代しながら中の様子を窺う、その間、
他の奴らは盗聴器に意識を向ける。俺は話の立ち上げ人ということで、特別に場所を譲って
もらって、交代なしで覗かせてもらえることになった。
『ほら、こんなところにもついてる』
『ごめんごめん』
『もう…』
 すると柏原が、その飯粒を指先ですくって頬張る。

 ……。

『昔から変わらないわね。そういう身だしなみに疎いところ』
『美由紀がいたからね』
『? どういうこと?』
『優しいから、いっつも俺の世話焼いてくれる』
『……』
『優しいから、いっつも俺のこと気にしてくれてる』
『……そろそろ、甘やかすのもやめようかしら』

 ……なんだこれ。なんだこれ。
450名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:46:26 ID:8rILIVTf

『またまたー。その台詞何回目かな?』
『今度こそ本当よ』
『物心ついたときから数えて百回は聞いたかな』
『そっ、そんなに言ってないわ!』

 俺もう、なんか吐きそう……。

「なんか俺涙が出てきた…」
「わはぁ、美由紀ちゃんかわいい」
「分かった、柏原は実は双子だったんだ」
「多重人格者の方が辻褄合うんじゃない」

『け、謙吾君!?』
『ん?』
『どうしてそんな顔を近づけるの?!』
 途端に、誰も口を開いていないのに俺達の緊張感が増した。ベランダ側の窓がガタガタ
揺れ出したのは風だけが原因じゃないだろう。
 そういや昼休み潰してるけど、このまま終わったら俺達昼飯どうしよう。流石に短い時間で
弁当食いきれるだろうか。パンとかもうろくでもないものしか残ってないだろうし、学食も
売り切れるメニューが増えるだろう。弁当持ってきてない奴らも大変だな俺はその点弁当が
あってよかったけどそういや今日のメニューはなんだろうなああもう俺一体何を言ってんだ。

『昨日の続き』
『ま、待って! ちょっと待って! 誰か帰ってきたら…』
『美由紀…』
『まっ……』

 と、その時。動かした膝が思いっきり扉に当たって不自然にガタタンと響いた。
「…やっべ」
「バッ…!」
「何やってんだお前っ」
 顔をこわばらせてこちらを向く奴、声をひそめて咎める奴、それぞれがこっちに向いて
俺に非難の目を浴びせる。

 が。

 盗聴器から、教室内から一切の音がしなくなったことに気付き、全員同時にその表情を
改める。優先順位を瞬間的に察知する。
「撤収」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」」
 もう誰も教室の覗いていないが、さっきまでの甘ったるい空気は一瞬で消えうせ、冷たく
重い何かが漏れてきている。それが徐々に量を増してくる。誰かいるのかとか、そういう
様子を探ろうとする声すらないのが余計に恐ろしさを煽る。
 当然もう、みんな一斉にダッシュし始めていた。校則より命が大事だ。ベランダ側の連中を
うらやみながら、一目散に駆け出す。悔やんでも悔やみきれない。俺ってホントバカだ。
付き合ってくれたみんなに申し訳ない。
 ガラガラと、扉がゆっくりスライドする音が聞こえた瞬間、背中全体が粟立ち、背中にも
鳥肌が立つ。物凄いプレッシャーと引力を感じながらも、俺達は振り向くことなくその場から
逃げ出したのだった。

 余談になるが、事がばれたことで二名除いたクラス全員、担任の教師からこんこんと
お説教を食らうことになる。 
 更に余談になるが、歯並びが比較的きれいなはずの俺に“出歯崎”“詰めの甘い男”“チャンス1”と
様々な不名誉なあだ名がつけられることにもなる。
 
 そして最後にもう一つ余談になるのだが、その日以降、話題に触れられるたびに顔を
真っ赤にする柏原美由紀という女子は恐怖の対象ではなくなり、堂々と交際宣言をし
「応援してくれ!」と胸を張った相馬謙吾という男は、大いにその評価を上げることに
なるのだった。
451名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:47:51 ID:8rILIVTf
突発ネタかつバレンタインに関係ない話でごめんなさい
ちっともエロくなくてごめんなさい
452名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:48:14 ID:2r+AV61x
リアルタイム乙
453名無しさん@ピンキー:2011/02/14(月) 23:58:13 ID:ycy8vUAZ
GJ!
第三者からの話もいいもんだねー
454名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 02:06:24 ID:Wbdov1mV
GJ!!

美由紀ちゃん可愛いけど、それより謙吾君が眩しすぎてやばい
455名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 18:47:37 ID:2w5TUbce
何この幼馴染み可愛い…
456名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 07:30:13 ID:L/1PKrVb
GJ!
幼馴染が2人きりの時どう過ごしているのか想像がしてやみません。
こういうギャップものは大好物です。すばらしい作品をありがとうございました。
457名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 00:12:07 ID:cQfKVcV0
俺の家(の隣)にも一人ください
投下失礼します


『慧太郎(けいたろう)ちゃん・・・』
『好きだ、恋心乃(ここの)・・・』
見詰め合う二人、立ち上る虹色オーラ
運命という名の赤い糸に結ばれた二人は、生まれた病院まで同じ幼馴染である
『慧太郎ちゃん・・・』
『恋心乃・・・・』
熱く見詰め合う二人、最早この至高のカップルにとって障害となるものなど何もない
『慧太郎ちゃん・・・ちゅー』
そして遂に初恋の実った二人はお互いに熱い口付けを___

「ちゅー・・・」
想像してみて欲しい
朝、幼馴染の『バカ』を起こしに来たら想像以上のバカ面で幼馴染が虚空に向けてキスしている状況を
「おい、起きろ」
一応一声かけてやる
「ちゅう・・・ちゅー」
「・・・もう知らん」
俺は恋心乃の部屋を出てキッチンへ向かった
作るのは、二人分の弁当と朝食
「慧くん、私がやるからいいわよ」
おばさんはそう言ってくれるが、ここは遠慮しておく
「いいですよ、大した手間じゃないですから」
我ながら手馴れた手つきで玉子焼きを作りながら、俺はそう返す
「いつも悪いわねぇ」
なんておばさんは言うが、俺が好きでやっていることだし、まったく苦にならない
めんどくさそうに言っておいてなんだが、俺は結構料理が好きだ
どうして好きなのかはわからないが、それこそ、将来はそういう職に就いてもいいかもしれないと思うぐらいに
「砂糖は多め・・・っと」
恋心乃は甘いのが好きなので砂糖を多めに入れ、焦げないうちに皿に盛る
すると、美味しそうな甘い玉子焼きの出来上がりだ
おいしそうに頬張る恋心乃の顔が目に浮かぶ
「今日は結構上手く出来たな」
一人満足していると後ろから声をかけられる
「良かったわぁ、これでいつでも家に婿入り出来るわね!!」
振り向くとおばさんが写真を撮りまくっていた
大袈裟な


「んぐんぐんぐ」
「お前なぁ」
朝食時、向かい合って座った恋心乃が一心に玉子焼きを頬張っていた
「慧太郎ちゃんの朝ごはんはやっぱり世界一おいしいね」
にぱっとほっこり笑う恋心乃を見て、呆れつつもなんだか嬉しくなる
自分の作ったものを美味しいと言って食べてくれる人がいるというのは、くすぐったいけど、嬉しい
(こういうのがやめられないのかもな)
特にコイツの能天気な笑顔を見ると悪くないなと思ってしまう
が、しかし
「お前、もう少し早く起きれないのか」
「あ・・・・」
時刻はすでに遅刻ギリギリの時間を回っていた
おばさんは既に仕事に行っている
「今日・・・学校休んじゃおうか」
悪戯っぽく笑う恋心乃に俺はたじろいでしまう
(コイツ・・・ヤる気だ)
普段はなまけんぼうでほにゃほにゃしている恋心乃だがイチャイチャに関しては恐ろしいほどの気を放つ
俺はいつも流されるままにちゅっちゅしてしまい、後で後悔するのだが、いつも負けてばかりはいられない
「ダメだ、今日はちゅっちゅはナシだぞ」
「やだ」
即答
クッ・・・なんて威圧力だ
今背中を見せたら確実にソファに押し倒される
「ちゅっちゅ」
「しないからな」
「ちゅっちゅっちゅー」
「ねずみかお前は」
じりじりと距離を詰める恋心乃、後退する俺
「ちゅー!!」
そして飛び込んできた恋心乃にカウンターを一発
「うおおおおおっチクビーム!!!」
恋心乃の乳に人差し指を、ふにりと突き立てる
見事、B地区に直撃した
「ひゃあっ!!」
その場にうずくまる恋心乃、立っている俺
勝者は一目瞭然だった
「よし、学校行くぞ」
「ううぅ・・・ちゅっちゅ〜」
朝っぱらから一体何をやってんだ俺らは
「おかえり〜慧太郎ちゃん」
さて想像してみて欲しい、家に帰ると当たり前のように幼馴染が自分の部屋のベッドに裸で包まっている様を
「何やってやがる・・・」
「ちゅっちゅ〜」
人間語しゃべれ
「だーかーら、今日はちゅっちゅしないっつったろ」
「やだよ、ちゅっちゅするもん」
ものすごい執念だ
「ああもうわかった、わかったよ・・・ちゅっちゅしような」
「やったぁ!!ちゅ〜・・・ん」
まずはキス
これは俺達の決まりごと
お互いの意思の確認だ
「胸また大きくなったか?」
「ん・・・ふぅ・・・だって慧太郎ちゃんおっぱい星人だし」
ちょうど俺の掌に納まる程度の形のいい胸
こういうなんと言うか、色んなところがぴったりと自分に嵌るのがすごく嬉しい
俺達は一緒になるために居るんだなって思うから
それを恋心乃に言ったら「あたりまえだよ〜」と言われたっけ
なんとも恋心乃らしくて可愛い
「そういや、あんまり言わないな俺」
「あっ・・・ふぇ?」
「可愛いってさ、ごめんな」
「ううん、いっつも慧太郎ちゃんちゅっちゅしながら言ってくれてるよ」
そういう時だけしか言わないのか俺
ちょっと自己嫌悪
「これからは、もっとちゃんと言うようにする」
「えへへ、また恋人レベルがアップしたね」
するりと俺のズボンに侵入した手が、しゅこしゅことムスコを扱きあげる
「うっ・・・こら、今俺のターンだぞ!」
「あったか慧ちゃん棒、恋心乃の冬のお供だよ!」
この頭の悪いネーミングセンスはどうにかならんものだろうか
と、思っている間にも俺の『あったか慧ちゃん棒』は臨界に近づいていく
まずい、このままでは挿入れる前に終わってしまう
「恋心乃、手ぇ止めてくれ・・・出そうだ」
「仕方ないなぁ」
漫画やゲームの主人公ならいざ知らず、ただの学生の俺は何度も射精できるわけではないんだ
わかってくれ恋心乃・・・
「じゃあ、本番ちゅっちゅだね♪」
「超嬉しそうだな」
「うん、慧太郎ちゃんとちゅっちゅするの大好きだもん!」
俺に跨り、自分から腰を下ろしてく恋心乃
初めてのとき以外は、俺から挿入れたことはなかったりする
恋心乃いわく「慧太郎ちゃんにご奉仕だよ!」だそうな
多分初めてのとき俺がテンパって腰を抜かしたのに気を使っているんだろう
「ふにゃ・・・はいったぁ♪」
嬉しそうな恋心乃の声
こうやって繋がると一緒な感じがいつもよりもっとして嬉しいらしい
腰つきも卑猥な水音に合わせて激しくなる
「んにゃ・・・ふにゃあっ・・・けーたろちゃんしゅきぃ・・・んちゅぅ」
腰を振りながらちゅうちゅうと俺の唇に吸い付く恋心乃
「俺も・・・好きだ・・・」
照れくさくて中々素直に言えない言葉
けれど、もっと照れくさいことをしてる今なら、なんだって言える
「ふにゃああああああ!!!」
「うっ・・・・・!!!」
恋心乃が達するのと同時に、大量の精をぶちまけた
「今日もちゅっちゅしたね〜」
「ああ・・・そうだな」
ベッドに二人で寝転がりながら、心地よい疲労感を感じながらだべる
今日は逃げ回っていたが、俺だってちゅっちゅが嫌いなわけじゃない
「今日はずっと添い寝してて欲しいな」
「ん?おばさんにちゃんと言ってきたか?」
「うん!ちゅっちゅしてくることも言ってきたよ」
「それは言わんでいい・・・」
最後の最後に爆弾を落としてくれる恋心乃に呆れつつ、俺は恋心乃が風邪を引かないように、毛布を深くかぶせるのだった


以上です
失礼しました
本文では明言されていませんが、慧太郎が料理好きなのは幼い頃恋心乃がお嫁さんになったら慧太郎の作ったご飯を毎日食べさせてもらうという約束をしていて、それに影響されているという裏設定があります
462名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 21:28:18.41 ID:+bdy6pBa
幼馴染スレを開いていたはずなのに、体中から砂糖が拭きでてきやがる…!

そんなかんじなGJ!
463名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 21:45:02.33 ID:+fcIeGr8
すごく甘いw
GJでした!
464名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 21:46:00.29 ID:Ojbbjkbs
久しぶりに甘々なの来たー
GJです
465名無しさん@ピンキー:2011/02/20(日) 02:47:18.09 ID:4l3qugbH
>>461
おゐゴルァ今飲んでるブラックコーヒーが甘くなっちまったじゃねえかGJ
466名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 00:53:17.18 ID:p+2a43c/
歳の差幼馴染み
467名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 01:35:27.76 ID:5608K0eB
男の後ろをちょこちょこついて歩くちびっ子幼馴染み
成長しても関係は変わらないってのが良い
468名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 02:27:44.22 ID:ypqwFfm6
>>461
おい。
どうしてくれる。
ブラックコーヒーがココアに大変身だGJ
469名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 22:15:48.71 ID:DSxh5X6b
新生児の入院とか長くて生後一週間くらいだぞ。
幼なじみがどうとかあるのか?

そこが気になっただけで後は良かったgj
470名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 22:26:15.75 ID:PKJOoQBs
病院で生まれたころから幼馴染よりもっと古い幼馴染はいないのか…

そうか!二卵性双生児!あれなら生まれる前から一緒だ!

あれ…?
471『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/02/22(火) 16:45:42.56 ID:v5cLeE65
お久しぶりです。
短めのバカっぽいえろ話の予定だったのですが、
微妙にずれてきたので舵が戻るまであと数話続きます。


-----------------------------

一話 (12月6日)


私は冬が好きだ。
冬というよりコタツと蜜柑が好きなのだと思う。
公営住宅の間取りは全て同じだけれど、私の家にはコタツがおいてない。

目の前では、てっちゃんが完全に拗ねている。
二つ年下の茶色い髪をぐしゃぐしゃにした浪人生で、粋がっているけれど中身は可愛い弟分だ。
夏頃から、徹君とおばさんに頼まれてたまに勉強を見てあげることになった。

「もう、てっちゃん。起きなさいよー」
「………」

湯のみでつついてみるのだが、問題集から額をあげようとしない。
しかたないので蜜柑を剥く。
ふたつに割って、白い筋を取りながらひとつずつ食べる。

「……俺にこんなの分かるわけねえじゃん」
「大丈夫大丈夫、やる気の問題だって」

蜜柑が美味しい。

「どうせ桜子とか兄貴みたいになれねえし。やっても無駄だし」
「私も徹君も関係ない。てっちゃんは、てっちゃんに出来る範囲で頑張ってるんだから大丈夫だって」
「だって全然分かんねえんだもん」

もう一つ蜜柑をゆっくりと剥く。

「てっちゃん、拗ねると語尾に「もん」ってつけるよね。可愛いよねぇ」
「………うるさいな、なんなんだよ」
「もう。そっちこそなんなの?努力してるんだから何とかなるでしょ。するんでしょ。
それより私が仕事が終わってからの時間、ずうっと来てあげてたのに、それは意味がなかったんだ?
飲み会に誘われても半分くらい断ってたのに。家の用事ですって言って頭下げたのに。頼られて損した」

経験上てっちゃんは、突き放し過ぎると諦め、甘やかしたら付けあがる。
そりゃあ、進路が決まらないのは辛いだろうけれど。
最近の愚痴はまるっきりただの泣きごとなので、真面目に受け止めていたら持たない。

それにこの半年間。
私が仕事帰りの貴重な時間を、使っているのにお礼の一つもなくて、正直少し、きついのも本当だ。
システムの入力だのなんだの、一日中キーボードを打ってからに、
帰ってからは久しく使わないシャープペンシルやら赤ペンやら。

「今まで一回もお礼の言葉もないしさ。手が痛いのに蜜柑の一つも剥いてくれないしさ。
愚図ってれば何とかなるなら、いつまでもそうやっていればいいじゃない。もう知らないよ」
472『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/02/22(火) 16:47:45.65 ID:v5cLeE65
通勤用のニットコートをスーツに羽織り、筆記用具を手元にまとめる。
いつもはおばさんが仕事から帰るのを待ってお暇しているけど、今日はもう疲れた。
ふとてっちゃんが顔をあげた。
目が合う。

「知らなかった。手、痛いのか?」
「痛いっていうか、疲れた。毎日毎日仕事してから勉強見てるんだから、そりゃそうじゃない?」
「ごめん……」
「謝るくらいならやる気を出してくれた方がいいなぁ。ねぇ、どうやったらやる気出るの?
受かったら御馳走してあげるとか、そういうのでいいなら、希望言って。約束するから 」

言いつつ荷物を肩にかけ、(名残惜しい)こたつから立ち上がる。
窓がうっすら結露していた。
今晩も冷え込みそうだった。
情けない顔で俯く幼馴染を一瞥して、蜜柑を右手に取り左手を振った。

「やる気がないなら今日はやってもしょうがないよ。じゃね、また明日」

勝手知ったるダイニングキッチンを抜けて玄関へ。
パンプスの踵をはめて、溜息をついた。
そりゃあ、てっちゃんは年下の男の子だけれど、
男の子に成長してほしいと思うのはわがままなことなんだろうか。

「てっちゃーん。お邪魔しました、おばさんによろしくね」

居間に向かって声をなげる。
返事を待つが、何もない。
まったくもう。
金属製のノブは手のひらにジワリと冷たく沁みた。
コンクリートの階段は雪がうっすら積もっていた。
公営住宅の403と303。
すぐ上の階が十年来の私の家だ。
昇り階段から冬の雪空が見える。
一緒に小さい頃から見てきたのに、私が成人した今も、てっちゃんは少年のままみたいだ。

不意にポケットが震えた。
足をとめて、鍵の隙間から電話を探る。
画面を開くと思わず頬が緩んだ。

『 title: ごめん
 本文: 頑張ります。今度手のマッサージとかするから』

「そういうことじゃないんだけどなぁ…」
一人ごちながら思わず笑う。
考えて、すぐ扉向こうの相手にぽちぽちとメールする。
吹きさらしの階段で立ったままメールを打つなんて、中学時代に戻ったようだ。

『 title: だめです
 本文: おさわり禁止。ただし合格したらいくらでも手を好きにしていいですよ。
     あと、やる気が出そうな約束があれば考えておいてね。
     ちょっとお高い中華料理とかどうかな? 桜子姉さんより』


ぱたんと携帯電話を閉じて、白い息をはく。
明日も仕事を頑張ろう。
473『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/02/22(火) 16:51:22.68 ID:v5cLeE65
二話 (3月6日)


花粉症なので、春が嫌いだった。
ただし、――二浪の俺が無事合格できた今年の春は特別に、好きだと言ってやれなくもない。
PCの画面を食い入るように見つめながら、充電中の携帯電話を慌てて取り上げた。
スピーカー越しで鳴るストイックな呼び出し音に、耳を押し付ける。
「早く出ろ、早く出ろ」
呟きながらも何度も受験票と合格発表のPDFを見比べる。

間違いない。
信じられねえ。
あんなにバカだった俺がなんて、なんて奇跡だろう。

『――てっちゃん、どうだっ』
「合格ったよバカヤローー!!!桜子どうだ見たか、約束守ってもらうかんなっ!」

穏やかな声が飛び込んできた途端、実感が急に込み上げてきた。
合格できたのは何より―幼馴染の桜子姉に勉強を見てもらったことが大きい。
公営住宅の上階に住む天城桜子は俺のふたつ上で、俺が浪人しているまにとっくに社会人になっている。
市内の短大を出た後、既に地元工場の事務員として勤めている。
小さい頃から、俺の兄貴と同い年なのもあり、てっちゃん、てっちゃんと弟のように扱ってくれた。
つまるところ俺は、桜子姉にとって永遠に「てっちゃん」であるらしかった。

『やったじゃない、てっちゃん!すごいすごい!頑張ったねー!』
「その『てっちゃん』てゆーのヤメロ」

…だからその呼び方は嫌いなのだと言っているのに、何べん言っても聞きやしない。
鬱憤晴らしに、高校に入って「桜子姉ちゃん」を呼び捨てにしだした時も『生意気だなぁ』と肩を竦めて流され

た。
完全に弟扱いである。

『えー、だって、てっちゃんは、てっちゃんじゃない?そんでえっと、約束ってなんだっけ。
手のひらマッサージだっけ?あれ?これは私がしてもらう?』
「それは俺の約束だったろ。桜子の約束ってのはさ、受かったら、その」
『うん、なんだっけ』

なんで忘れてるんだよ。
恥ずかしい。
マウスパッドを凝視して、携帯を握りしめる。

「だ、…だから、その。てっちゃん、ってのを止めろって言うのが約束だったじゃねぇか」
『そうだっけ!?』
「そうなんですよ!お前なぁ」
『あ。はい、今行きます。てっちゃんゴメン、休憩時間終わっちゃった。また帰ったら話聞くね!』
「は?いやちょ、…待っ」

耳元で無情な電子音。

突っ伏して横目に窓を眺めれば、花粉が俟っていそうな青空だった。
やっぱり春は嫌いだ。
着信音が鳴ったので期待して開いたら、親からの合格伺いメールだった。
返信するべきなのだろうが、とてもじゃないがしばらく立ち上がれそうにない。


---------
つづく。
ではまた。
474名無しさん@ピンキー:2011/02/22(火) 18:25:42.32 ID:7WUC+zyc
援護
475名無しさん@ピンキー:2011/02/23(水) 04:28:54.45 ID:TgUfU/N8
243氏キテター! ちょう期待
---------------------------------------

三話 (4月16日)


葉桜が好きだ。
桜の花びらを踏みしめたまま、見上げると広がる緑と桜色の鮮やかさがいい。
夕方から会社の新入社員歓迎会があるので、土曜なのに昼から髪を洗い直した。
最近美容室に行くのをサボっていたので、耳下で半端に伸びた髪があちこち揺れてまとまらない。
家を出るときには、お母さんがつけたラジオに混じって、開いた窓から野球少年の声が聴こえていた。
公営住宅のすぐ脇に、河原とグラウンドがあるのだ。
小さなバッグを肩にかけ、川沿いの桜並木を歩く。
これでも私は昔、野球少女だった。
才能がなかたっとか、男子に球威で敵わなくなったとか、中学にソフトボール部がなかっただとか、遠ざかった理由はいろいろとある。
小学校も上の学年になると、プレイするより見守りながらスコアを書くことが多くなり、中学では男の子みたいな髪型もやめ、マネージャーになった。
少女の頃、雪が解けて河原のグラウンドを使えるようになる4月は、あんなにも眩しい季節だったのに。
春風が強く、私は小さく眼をこすった。
私は花粉症ではないが、この分だと近いうちに発症するのかもしれない。
歩きながら、なんとはなしに携帯電話を開くと、ちょうどのタイミングで着信が来た。

「――はい。天城です。ええ、今向かっています……スーパーありますよ。分かりました。
 ビールのメーカーは…はい!?」

急に肩をつつかれて、携帯を肩に挟んだままで振り返る。
無茶な体勢になったうえに、目の前に居たのがマスクと色つき眼鏡の男性だったので、
一瞬電話を取り落としかけた。

「あ、いえ、なんでもないです。買い出し了解です。ではまた……、てっちゃん!びっくりさせないでよ」

変質者かと思ったじゃない。
軽く頭を小突くと、てっちゃんはなんともいえない顔をした。
眼鏡の奥の表情が目に見えるようで、妙にくすぐったくなる。
二つ下の幼馴染は、4月に入り、服装がちゃんとして髪も整い、大学生らしい格好になっている。
だから余計、マスク越しに話すたびに鼻がズビズビなるのが可哀そうだ。
こんな恰好でも表情が分かるのは、小さい頃から傍にいたゆえなのかもしれない。

「ごめんごめん。つらそうだね、花粉症。外に出て大丈夫なの?」
「授業があるし、しょうがねえよ…。実家から通いだし」
てっちゃんの大学は、自宅から徒歩15分の駅まで行き、そこから電車に30分揺られてさらに20分歩く。
つまり、通うには充分だが、けして近いとも言えない場所にある。
私も駅に行くので、並んで土手を町へ下りた。
踏切りを渡る風も暖かい。

「ね、てっちゃん。今年は無理かもしれないけど、アルバイトして、一人暮らししたらいいんじゃない?
 大学の近くだったら、外を歩く時間が減るでしょ?」
「……そうするかも」
「そしたら遊びに行かせてね!あのあたり、いろいろ喫茶店とか映画館とかあるし、
 遅くなっちゃうと帰るの大変なんだあ」
「便利な基地かよ!やだよ!」
「誰のおかげで大学合格したんでしたっけー」

頬をつつこうとしたらよけられた。
生意気である。

「お礼は手のマッサージ券やっただろ!大体…恥ずかしいからやめろってんのに、
 てっちゃんとか、いつまでも」
「そっかごめんね、約束だったもんね。言いやすくって」

『恥ずかしいからやめろ』というてっちゃんは、時々知らない男の子のような顔をする。
引っ越して、下の階には居なくなったら、ますます私から離れていくのかもしれない。
たくさん新しい女の子と出会って、知らない関係をいろいろ紡いでいくのかもしれない。
弟離れをしてないと言えばそれまでだけれど、少し寂しかった。

――本音をいえば。
多分この先、「てっちゃん」と呼び続けられるのは私の特権かなと気付き、止めるのが惜しくなったのだ。

でも約束を破るお姉ちゃんはあまりよろしくない、それもきっと、私だけが見せてあげられる姿だろうから。

「呼びやすいけど…いい加減諦めようかな。じゃあ、なんて呼べばいい?君?さん?呼び捨て?」
「ガキ扱いしてない奴にしてくれよ」
「じゃあ『徹哉さん』……やばいこれなしこれなし!!しずかちゃんみたいあはははは徹哉さんー!!」
「すっげえむかつくそれ」
「そうそう、私スーパーで職場の飲み会用に、ビール買うんだけど。徹哉さん、荷物持ってくださる?」
「……それ以外の呼び方ならいいよ」
「じゃあ徹哉、荷物持ち手伝ってちょうだい」

マスクの向こうで、余計ランク下がってねえかとてっちゃんがぶつくさ言いながらついてきた。
あまり長くしませんが、まだ続きそうです。すみません。
甘いの待ちにでもお茶代わりに流していただければ。
479オレと雪乃と:2011/02/25(金) 15:51:25 ID:mxC6o5WM
このスレでの投下は初めてです。
よろしくお願いします。

雪乃は小さい頃から名前通り色が真っ白で、目と髪が真っ黒だった。
オレより三歳も年下だったし、同学年の子と比べて体も小さかったから、なんだかもっと歳が離れているような気がしていた。
オレのうちは、雪乃をよく預かっていた。
雪乃の家は父子家庭で、オレのオフクロは雪乃の母と昔なじみだった。

もう雪乃がうちに来なくなって何年ぐらい経っただろう。
オレはふと道ばたで雪乃を見かけた。
紺ブレの制服はここらへんではわりと成績の良い学校のものだ。
「おい、ゆき─」
声を掛けようとして驚いた。
雪乃は泣いていたのだ。
しまった、とオレは思ったが、努めて何もない風に訊いてみた。
「なんだよ、泣いてるのか! いい歳をして」
雪乃は怒ったようにオレに言った。
「振られた。彼氏に振られた」
へ? 彼氏? おまえ、そんなのいたのか。
オレにはまだ彼女なんかいたためしがないというのに。
「おまえはやらせてくれないから、って振られた」
うわーっっ!! 

とりあえず、オレの家に連れて行くと、オフクロはまだ帰っていなかった。
オレはリビングで雪乃にコーヒーを勧めた。
「とにかくだね、そんな男はケダモノだな。
振られて良かったぐらいに思えばいい。振る手間が省けただろ?
で、相手って誰よ?」
「友だちのお兄さん。三つ上」
オレと同い年じゃねえか。
よくこんな子どもみたいな雪乃に─と思ってその白い顔をよく見た。
小さい頃から綺麗な顔立ちだとは思っていた。
しかし、あらためてよく見ると、長い睫毛の影が頬に落ちて、はっとするほどの艶が出て来ている。
なんだかオレは背筋がぞくりとした。
「あーちゃん」
「ん、なんだ?」
「次の彼氏ができるまででいいから、私の彼氏になってくれる?」
雪乃は泣きながらオレにしがみついてきた。
アタマがくらくらする。雪乃の体のいい匂いが立ち上ってくる。
雪乃の肩を抱いて思わずオレは言った。
「ああ、ああ、そうしろ。
オレはどこぞのケダモノと違って安全だぞ」

その言葉を、オレは後から滅茶苦茶後悔することになった。
480オレと雪乃と:2011/02/25(金) 15:52:04 ID:mxC6o5WM
一応、それからオレは雪乃に勉強を教えてやるという口実で時折家に呼んだ。
まあちっとは勉強もしたが、できるだけ早く終わらせると雪乃を抱き寄せた。
モトカレとはキスまではしていたらしく、雪乃は嫌がらなかった。
情けないことに、オレにとってのファーストキスだったのだが。
だが、俺の手が首筋に当たると、雪乃は体をぴくりとさせて硬直した。
どうやらキス以上のことはしていないらしい。
痩せて小柄な子だと思っていたが、ブレザーを脱ぐとブラウス下には形の良い胸が盛り上がっていた。
ぎゅっと抱き寄せるとその胸が押しつけられる。
オレは部屋の隅にあるベッドをちらちら見ながら雪乃を押し倒そうかどうか迷っていた。
いかん、いかんいかん!
オレは安全宣言したからこその暫定彼氏なのだ。
名残惜しいが、いつもここまでと決めている。
「そろそろ家まで送るよ」
夜道をエスコートして、最後に門の前で周囲に誰もいないのを確かめてから軽いキスをして別れる、そういうつきあいを続けるしかないのだ。

今日もオレは部屋で雪乃を抱きしめた。
キスはもう容赦ないディープキス。
舌を思い切り深く差し入れると、雪乃は苦しいらしく、「んっ、んっ」と小さいくぐもった声をあげた。
ぷりぷりとした胸の感触がしっかり伝わってくる。
手で触りたいが、どうも憚られた。
キスを頬に移すと、雪乃の息が荒くなっていた。
キスが息苦しかったからか? それとも?
そのまま、首筋にもキスをする。
雪乃は荒い息の下から「あっ」という小さな声をあげた。
くすぐったいのか? それとも?
雪乃はオレの背中に手を回したまま体を反らした。
そのままオレたちは床に倒れ込み、オレは雪乃を上から押さえ込むような形になった。
もう、どうなってもいい!
オレは手を雪乃の胸の上に置いた。
ブラウスの上からその形をなぞるように手のひらを滑らす。
「あーっ、あっあっ……」
雪乃の声。
気持ちいいんだろう、お願いだそうあってくれ。
オレはそう願いながら手をスカートの中に入れようとした。
すべすべの腿をオレの指が滑ってゆく。
そのとき、雪乃が小さな声で言った。
「……あーちゃん、い、いや……」
オレは頭をがんと殴られたような気がした。
体を雪乃から離すと、雪乃はそっと乱れた胸元をかき合わせてオレの部屋から出て行った。
481オレと雪乃と:2011/02/25(金) 15:52:34 ID:mxC6o5WM
やっちまった。もうオレはおしまいだ。
すいません、オレも危険なケダモノでした。
つかそんなことは最初からわかりきってました、ウソついてごめんなさい。
もう翌日から雪乃はオレのところには来なくなった。
オレは泣き泣き、雪乃にかまけてやってなかったレポートの山をかたづけることになった。
頭を冷やせ、オレ。
学生の本分は勉強だ。
ああ、なぜ涙が出るんだろうねえ。

幾日かして、なんとかレポートの目途もたったころ、オレの部屋のドアがノックされた。
こ、このノックの仕方は!?
「あっ、開いてる! 開いてるよっ!!」
オレは慌てて言った。
雪乃がちょっと恥ずかしそうに顔を出した。

雪乃は斜め下を向いて、「あのね……」と何かいいかけた。
オレは雪乃を抱きしめて、言った。
「ごめんな、ごめん。
もう二度とあんなことはしないから。
絶対しないっ!」

もちろんその言葉を吐いたことを、オレがその後かなり後悔したのは言うまでもない。

 ─ 了 ─
482名無しさん@ピンキー:2011/02/25(金) 15:59:16 ID:lSMaYapE
GJ……え?

了?



これで終わり??
483名無しさん@ピンキー:2011/02/25(金) 16:01:17 ID:mxC6o5WM
ええと、続きは思いついたら書こうかと。
とりあえず、エロはなくても萌えだけあればいいスレだということだったので。
484 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/02/27(日) 02:27:53.52 ID:S6cT1tQZ
>>483
ならば待つ
485名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 02:30:26.96 ID:QeExA08+
続きも待ってるぜ! 乙
486名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 22:16:30.97 ID:hRku33uD
世話焼き敬語幼なじみ
487名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 05:35:12.50 ID:+AbboQcO
>>478
待ってましたー
続き楽しみだ
488名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 12:33:12.85 ID:q/5/RmB6
幼馴染と入れ替わり
489名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 19:57:29.84 ID:9IaPhAmu
>>486
ただし年下……たまらん
490名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 23:31:01.79 ID:tSW8mqOB
久しぶり・・・というほどでもないけど、
来たら投下がいくつも……シアワセ
どの作品も続き投下楽しみにしてます!!
491名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 23:42:32.94 ID:yKxZBqP6
個人的には幼馴染は同い年がいいな
492名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 00:03:40.47 ID:zSYS1dQb
同い年でよく喧嘩する感じがいいよね
493名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 03:33:19.95 ID:KdtnODrW
お互いに好意を持ってるんだけど素直になれなくてついつい喧嘩しちゃう…
やっぱり幼馴染はこの王道パターンだな
494名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 03:44:57.65 ID:ec3OIucC
または阿吽の呼吸過ぎて男女とか考えてなかった所にちょっとしたイベントがあってドキドキとかな
495名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:43:32.49 ID:fjV0oEGy
短編エロ無しですが4レスほど貰います。
496名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:44:10.20 ID:fjV0oEGy
幼馴染兼彼女の香奈がどうしても見たいと言うので、俺達は二人で今流行りの恋愛映画を見に来ていた。
二時間たっぷり映画を見た後、エンドロールを見ながら俺はこの映画を見に来たことをもの凄く後悔した。

簡単にこの映画の内容を説明すると、主人公(♂)が幼馴染(♀)と付き合うところから始まり、
最終的には主人公は幼馴染と別れ、もう一人のヒロインと付き合うことになるというものであった。
実際は山あり谷あり、涙なくしては語れない物語ではあるのだが、今はそんなことを考えている場合ではない。

横目でちらっと隣の席をのぞき見ると、目と口を大きく開き、
まるでこの世の終わりでも見るかのようにスクリーンを凝視している香奈の姿があった……

『映画鑑賞後』〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「うう、ひどいよ……信じてたのに……グス」

映画が終わると予想通り香奈はあまりにも残酷なその映画の内容に困惑しているようだった。
俺の服の裾をきゅっと握り、一般的な女子より一周り半も小さいその体をくっつけて離そうとしない。
まあこの手の話は幼馴染ヒロインは不遇ってだいたい決まってるからなあ……

「でも、いい話だっただろ?」
「ぜんぜん良くないよ……幼馴染はこれからどうすればいいの?」
「うーん……新しい恋を探すとか?」
「涼太のあほー! 幼馴染はずっとずっと主人公のこと好きだったんだよ? そんなに簡単に割り切れる想いじゃないもん絶対!」

妙に力のこもった香奈の力説に、少々圧倒されてしまう情けない俺。

「いや、そんなこと言われても……そもそも恋愛なんてそんなもんだろ?」
「ッ!! りょ、涼太もそう思うんだ?」

うっすらと涙を溜めながら、香奈は上目使いでキッと俺を睨んできた。恐くないけど。むしろかわいい。

香奈のことだから、きっと映画のキャラクターに自分を重ねているのだろう。
俺達も最近になってやっと付き合えたばかりだから、香奈はきっと自分も捨てられてしまうのではないか心配になっているのだ。
そんな香奈がちょっとだけ可愛くなって、くしゃくしゃっと頭を軽くなでた。

「大丈夫。俺は香奈を裏切ったりしないよ」
「……涼太」

チワワのようにうるんだ瞳でこちらを見つめる香奈に、ちょっとだけ胸がきゅんとなったのは内緒だ。

「そのセリフ、さっきの映画の主人公も同じこと言ってた……」

絶対に内緒だ。
497名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:44:36.87 ID:fjV0oEGy
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「……流れはなんとなくわかったけど、それで何で今日も香奈があんたにくっついてるわけ?」
「わかんないけど、こいつ俺の服掴んで離さないんだよ……困った……」

俺がチラッと後ろを見ると、口をへの字に曲げた香奈が地蔵のように無言の圧力を放っていた。

あの後、俺たちはちょっとした口論になり、
ムカっときた俺は香奈を置いて帰ろうとしたのだが(といっても家は隣)、奴はずっと俺の背中にくっついてついてきた。
最初はシカトしていたのだが、家の門の前まで来てやっとある異変に気がついてしまった……

――コイツ、俺の服を掴んだまま解放する気が全くない!!

引っ張ったり叩いたり30分くらい粘ったが、結局俺は香奈の無言の圧力に屈することになってしまったのであった。
最終的に俺の家にもそのまま入ってきので、とりあえず部屋の中に入れてお茶を出し、2時間くらい説得して飴玉もあげてやっと納得して帰ってもらったのだが、
次の日、香奈に家の前で待ち伏せされていたため、俺はまた難なく捕まってしまったのであった。

それでこのまま大学にも行くハメになってしまい、
とりあえずこの世に数人しか存在しない、香奈の貴重な友人である久美に相談することしたのだった。

「知らないわよそんなの。自分でどうにかして」
「そんな殺生な……」
「そもそも香奈に幼馴染モノの寝取られ映画なんて見せるのが悪いのよ。どうなるか容易に想像できるじゃない」
「だって、そんな内容だなんて知らなかったし……」

久美は俺をしばらく眺めて「はあ」、と深いため息をつくと、今度は俺の背中の物体に目をやった。

「まあこうなるとこの子、頑固だからねえ……。男子便所にでも逃げ込んでみれば?」
「もうやった……」
「っ!? まさか!!」
「そのマサカさ……」

つい先ほどの話だが、俺が男子トイレに逃げ込もうとすると香奈は抵抗するどころかあまりにも平然と中に入ってきたため、
俺のほうがビビってすぐにトイレを出てしまったのだった。このままではうかうかトイレに行くことすらできない。

久美は俺の想いを読み取ったのか、口に手を当て一筋の涙を流すと、俺の肩をポンポンと二回ほど叩いて立ち去ってしまった。
498名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:45:05.63 ID:fjV0oEGy
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結局、今日は一日中香奈から解放されることなく自分の家に帰宅した。
どうやら香奈はまだご機嫌斜めらしく、むっと口をふさいだままだ。でも、そろそろ香奈の意地っ張りも限界を迎える頃だろう。

「なあ、お菓子持ってくるから香奈はそこらへんに座っててくれないか? もちろんこの手を離してな」

香奈は俺の部屋に入ったことで少し安心したのか、素直にコクンと頷くと、俺の服から手を離しペタンと床に腰を下ろした。
俺は急いで居間のタンスに入ってるチョコクッキーの箱を持ってくると、皿の上にバラバラと適当に乗せた。

とりあえず香奈の目の前に皿を置いてみたが、俺とクッキーを交互にチラチラと見るだけでなかなか食べようとしない。
チョコクッキーは香奈の大好物だから、食べたくないわけがない。
そもそもこのクッキーは香奈のために買いだめしてるようなものだ。食べてもらわないとこっちも困るし、つまらない。

「ほれ、クッキー食べろクッキー」

意地を張ってなかなか食べようとしない香奈に、一枚のクッキーを摘まんで手渡した。
香奈は不思議そうに数秒間クッキーを眺めた後に、まるで許可でも求めるかのようにジッと俺を見つめ始めた。

仕方ないので笑顔で一回頷いてやると、途端にパアっと顔を輝かせ、モクモクとクッキーを食べ始める香奈。
そんな姿がかわいらしくて、ついにやけてしまう。こんなだから結局俺は、香奈に振り回されてばっかりなのかもしれない。

思えばまだ香奈が、「涼ちゃん、涼ちゃん」っていいながら俺の後にちょこちょこついて歩いてきたころから、この関係は全く変わらない。
(というか今でもちょこまかと俺の後についてくるんだけどね……)
そのせいで元々人見知りが激しい香奈には友達がほとんどできなかったりとか、中学では香奈のあだ名がピクミンになったりもした。
こんなくだらない喧嘩(?)も数え切れないほどしたし、本気の喧嘩も何回もした。それでもこの関係は変わらない。たぶんこれからも一生。

「涼太、ありがとね」

「へ?」

そんなことをボーっと考えていると、思わぬタイミングで攻撃を食らった。
499名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:45:30.75 ID:fjV0oEGy

「なんだよ突然」
「なんとなくね、言っておきたくなったの」

そういうと、香奈は優しく笑った。

「思ったの。私の意地っ張りのせいで喧嘩になったときも、いつも涼太は最後には優しくしてくれるなって。
 それでね、そのまま昔のことをなんとなく思い出してたらね、気付いたの」
「な、何に?」

開けていた窓から心地よい風が入ってきて、香奈の長い髪の毛をさらさらっと揺らした。

「涼太は絶対私のことを見捨てないって。あの映画見て、ちょっとだけ怖くなったんだけど、
 もし、涼太は私のことを好きじゃなくなったとしても、恋人じゃなくなったとしても、ずっと私を大切にしてくれる……でしょ?」
「……お前、ときどき物凄く恥ずかしいこと言うよな……しかも自分で言って自分で赤くなるなよ……」

俺が香奈にそう指摘すると、最初はホッペタだけだったのが、みるみる耳までトマトのように真っ赤になってしまった。
しかも、一般的な恋人通しの関係でこんなことを言われたら、普通重すぎるとドン引きしてしまうところだろう。

だけどまあ、もう俺達にはこれくらいでちょうどいいのかもしれない。
生まれた時からずっと一緒で、もう二人はお互いの人生の一部にもなってしまっている。
これから離れることなんて、きっともう無理だ。

そんなことを考えているうちに、俺のほうもなんだか頭がおかしくなってしまっていたらしい。
気が付くと、香奈をギュッと胸の中へと強引に抱き寄せていた。

「ひゃあっ、ん……りょ、りょうた?」

思えば、付き合ってから一度も抱きしめたことすらなかったな。
恋人らしいことなんかも一切してないし、そもそも付き合う前と付き合った後の変化すらほとんどわからないくらいだ。

香奈も最初はモゾモゾと俺の胸の中で動いていたが、しばらくすると動きを止め、俺の背中におそるおそる腕をまわした。

「なあ香奈?」
「ななな、なに?」

俺も緊張してはいるが、香奈は相変わらずあわてすぎだ。

「たまには俺たちも恋人らしいこと、するか?」
「!」

ピクンっと、小さく俺の胸の中で香奈が反応したのがわかった。

しばらく香奈は無言のままだったが、一旦俺から少し距離をとると、クイっと顔を上にあげた。
目をギュッと閉じていたため、それがサインだとわかった俺は、そのままゆっくりとその小さな唇に自分のを重ねた。
不器用だけど、これが俺達のファーストキス。

「……ん。涼太……大好きだよ」

〜終わり〜
500名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 11:46:47.60 ID:fjV0oEGy
投下した後にスレタイとは若干違うことに気がついてしまったorz
お粗末さまでした。
501名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 12:06:11.77 ID:AuaQXNnl
いやいや、幼馴染み特有の信頼感が非常に可愛かった

GJ!
502名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 13:04:58.64 ID:MEcNm8M5
これはなかなかニヤニヤできる良作
犬っぽくてよかった
GJ!
503名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 13:09:34.05 ID:ouTsLCo1
GJと言わざるを得ないようだ
504名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 19:51:59.08 ID:7fTtSs4+
GJ!
俺と名前が(漢字まで)同じだったから、自分に幼馴染がいる気分になった。
505名無しさん@ピンキー:2011/03/03(木) 12:31:19.32 ID:mW/Ooc/W
あだ名がピクミンで噴いた。
gj!
506名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 21:49:09.39 ID:5KlahX6P
いじっばり幼なじみ
507名無しさん@ピンキー:2011/03/05(土) 14:29:08.23 ID:mnUpv9CJ
香奈ちゃんはこの日一日中お手洗いを我慢していたのかと考えると…
GJ
508名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 11:13:17.82 ID:z2vZyHcY
お前等はどんな感じの幼馴染が好き?
雑談が無いと書きたくてもネタが思いつかない…
509名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 22:18:23.99 ID:ARgm5lxF
顔も声も可愛いのは確定事項として
眼鏡をかけていて髪の毛サラサラでちっこくて自分と苗字が同じで・・・
まあ俺のリアル経験の上での事だけど
その娘と喧嘩別れしてしまってそれっきりだから
いっそ出会わなければ良かったと絶望している

幼なじみとして大切なのはやはり小さい頃の思い出の共有とかだな
毎日起こしに来るとかはまあ幻想だな
510名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 22:50:07.50 ID:oM3/KAKP
3歳の頃、近所に住んでいてよく遊んでいた女の子に「大きくなったら結婚しようね」と言った私

「え〜、○○ちゃんなんかやだ〜」

……もてない男は生まれついてもてないようです
511名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 23:14:44.14 ID:z5RnAaag
>>510
それが照れ隠しで、でも男本人は真に受けて
違う女の子と遊ぶようになって
でも一番好きなのは最初の子で
女の子はやきもち焼きまくりで

みたいな話まで幻に現した
512名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 23:35:26.53 ID:yzcF/hCG
幼稚園の時は4人位侍らせてもてもてだった私はいつの間にかおひとり様ライフに慣れていました
513名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 00:17:44.76 ID:zpLhXjRw
>>508
理想は東鳩のあかり
いつも一緒に居すぎて恋愛対象になってなかったけど…
とか最高
514名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 00:59:06.46 ID:9Rx13Bro
ネタではあってもSSにはなりにくい熟年夫婦系が好き
色っぽいシーンでも最初は探り合ってるけど、そのうち普段のように通じ合ったイチャイチャを見せるようになるとなおよしだな
515名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 09:15:03.55 ID:OE3JTXJq
純夏!
516名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 09:47:06.49 ID:g38yVh6L
万能尽くし系幼馴染みか
ちょっぴり生意気幼馴染みかでいつも悩む

前者
・口調とかがいちいち丁寧
・朝毎日起こしてくれる
・お弁当毎日作ってくれる
・他にも男の身の回りの世話をいっぱい見てくれる
・もちろん料理を始め家事は得意
・でも気は弱い
・基本的に素直だが男の事になると…


後者
・口調とかがちょっぴり生意気
・家事は全般的に苦手
・もちろん朝起こしてくれないしお弁当も無し
・素直になれない
・男とよくケンカをしちゃう
・でもときどき優しい
517名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 14:15:49.72 ID:0qQgFj/j
前者希望o(^▽^)o
518名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 16:10:01.13 ID:jd+zz1o1
幼なじみとまだまだ交流のある今年大学卒業の俺
小中高大と同じとこに通ってるわ

たまに昔の約束とかの話をして盛り上がったりね
519名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:09:55.50 ID:L8SRgFr4
初めて書いたSSです。
多分、あんまりうまくないですがせっかく書いたので投下します。
520名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:10:16.11 ID:L8SRgFr4
インフルエンザで学校を1週間近く休んでいる。
やっと明後日ぐらいから学校に行けるがまだベッドの中で横になりうとうとしていると
コンコンと窓をノックし幼馴染みの彩花が「お見舞いに来ましたー」と言いながら入ってくる。
手には美味しそうなリンゴを持っていた。僕を見るなり「大丈夫そうだね。安心したわ」
と言いながらポケットからナイフちょっと格好よく取り出しリンゴの皮を切り始めた。
「はい!アーンして」正直ちょっと恥ずかしかったがこんな機会は滅多にないだろう もったいない
「アーン」むしゃむしゃ
「おいしよぉう」
「ふふ」
家族に見られたら終わりだ
521名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:10:43.07 ID:L8SRgFr4
彩花は制服のままだった。
キリッとした顔付きにサラサラの黒髪をポニーテールにしていた。
柔らかそうな唇、スラッとした体にムチムチで白い太ももにふくらはぎ、
いつもは紺ハイだが今日の授業に体育があるから白ハイを履いている
。あぁぁ早く元気になってしゃぶりついたりドロドロの精液を身体中にぶっかけてやりたい
522名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:11:19.13 ID:L8SRgFr4
リンゴをペロリと食べてしまった後、彩花と学校のことやいろいろなことを話したり軽くゲームをしたりして過ごした。
「とりあえず食欲はあるしゲームする馬力あるならもう大丈夫だね」ニコニコしながらそう呟いた。
あぁ大丈夫だ これからはさらに体調管理も気を付けないとな
すると彩花は立ち上がりもう帰るのかなあと思っていると僕に近づきなんと!
布団の中に入ってきた。
523名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:12:39.17 ID:L8SRgFr4
もぞもぞと動きながら僕の胸のところで顔を出しキスをするすると耳元で
「早く治して学校に来てね♪元気になったらまたエッチする?」
と囁きながら背中の僅かな隙間に手を回しぎゅうーと抱き締められ熱いキスをした。
彩花は気づいていないみたいだが胸にはもちろん強調しすぎない胸も押し付けられている。
オナニーは2週間近くやっていない。溜まりに溜まった僕の息子は一瞬でビンビンになってしまった。
パンツの中ではち切れそうな息子の状態をさすがに彩花も気づいたようだ。
「うふふ 性欲もだいぶあるみたいね」襲ってやりたいところだがイフンルがぶり返したら面倒だ。
ここは後でオナニーで我慢だ。さてと彩花をこれ以上調子に乗らせないようにしないとな
とりあえず彩花を抱きながら起き上がらせよう
524名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:13:15.27 ID:L8SRgFr4
しかし、力が入らない・・まさか!
腰が抜けてしまったのか? しかも腕にも力が入らない。
金縛りか?いきなり抱きつかれ興奮し過ぎておかしくなったみたいだ。
何かを察した彩花が何か言いたそうな顔を僕に向けてくる。
「いきなり抱かれたから腰が抜けたみたいだ。すぐな治るからどいて」
と言うとなにやらニヤニヤしながら布団と共に起き上がりエアコンの暖房のスイッチ勝手にを入れた。
「何をするつもりだ」
「もうわかってる癖に・・」
両腕を持ち上げられ枕に被せてたタオルでベッドにくくりつけら
寝間着のボタンを一個づつはずされて行く、鼓動が彩花聞こえるぐらいバクバクいっている。
全部はずし終わると肌着をめくられ乳首を舐められ吸われた。
ペロペろペロぺ じゅるじゅるジュルちゅー「はぁはぁッうっっあ」思わず声を出してしまった
525名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:16:06.65 ID:L8SRgFr4
半身は彩花に舐められベトベトになっていた。
ついに下半身にも順番が来たようだ。ギンギンになった息子を優しく撫でた後
ズボンをゆっくりと脱がされてゆく、ついに最後の砦パンツまで何も抵抗出来ないまま侵略されてしまった。
彩花は自分の手に唾液をつけ僕のパンツの中に入れ「いつもよりだいぶ固いよ」
と感想を述べてきたが
僕のもう頭の中は真っ白だった。
生暖かい手に包まれ逝きそうになるがいいタイミングで止められパンツを脱がされほとんど全裸にされてしまった。
もうどうにでもしてくれ
彩花が立ち上がり「何をしたい?」
「足コキしてくれ」
なんだかちょっと引かれたみたいだ。
するとゴミを見るような目で
「え??足で?」
「お願いします、足コキしてください」
「わかった・・・・・」
僕はド変態だ
526名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:16:40.84 ID:L8SRgFr4
まず足で顔をふまれた。彩花の甘い酸っぱい匂いがする
思わず舐めてしまいベトベトにする。
ドMの僕にはたまらない
ハァハァ彩花のハァハァ蒸れたハァハァ足の匂いがする」
と自然に言ってしまった。足は体のいろんなところを踏まれてゆく
たまらないついに限界に近い息子のところに到着していた。
息子には彩花の唾液をかけられ我慢汁と融合しどろどろになっている
ぐちゃぐちゃの息子に優しく覆い被さりベトベトの白ハイが擦ってゆく
「ここんなのが気持ちいい?」と心配そうに聞いてきた。しかし僕はもう我慢出来なかった。
白ハイから伝わる体温や感触、
真剣な彩花の表情
足コキとはこんなに気持ちいいのか
「うぅああぁぁきっ気持ちいいよ でも もうダメ出すよ」
527名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 19:22:29.47 ID:L8SRgFr4
「でっ出る・・・・うぉぉぉぉぉぉぉおお」
今まで溜まっていたものが勢いよくに飛び出し
彩花の足にドロドロの精液を大量にぶっかけった。
いっぱい出たね」
とちょっと引きながら言われたがもうどうでも良かった。
正直な気持ちタオルをほどいたら彩花を襲ってやりたかったが
これ以上するとぶり返しそうなのでやめておこう
結構疲れたし元気になってからのほうが気持ちいい
しかし、タオルをほどかれて寝間着を着ていると息子が勃起しはじめた。
性欲が底なしにあるないったいどれだけ飢えているんだ僕は・・・・
それに気づいた彩花は
「後でオナニーするんでしょ」
と言い自分のパンツを脱いで貸してくれた。
「洗って返してね」と言われた。
ゴメン、ぶかっけてドロドロにすると思う
最後に彩花と軽くキスをして耳元で
「大好きだよ」呟いてやった。顔を赤くさせながら
「私も大好きだよ」と言い彩花は家に帰った。

早く元気にならないとな・・・・

おわり 文才なくてごめん
528名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 22:58:21.12 ID:g38yVh6L
乙です!女の子可愛かった

ただもう少し幼馴染みという設定を活かしたほうがいいかも…
また書いてくれるの待ってます!
529ガリさん:2011/03/08(火) 04:40:54.69 ID:ehtd805u
実に面白い!
530名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 13:36:06.33 ID:1hVKR6va
「お前が俺との関係をあることないこと言い触らしてると聞いた」
「…………(ふるふる)」
「しかしだな、商店街に買い物に行くと『結婚おめでとう』とか『式はいつだい?』とか言われるんだが」
「…………(てれてれ)」
「なに照れてる。とにかく事実無根の噂を流すのは止めろ」
「…………(ぽかぽか)」
「何故叩く。第一お前は高校に上がったばかりだろうが。結婚なんてまだ早い」
「…………(じわ)」
「ちょ、泣くな。良く分からんが謝るから」
「…………(ぐすぐす)」
「……で何でこんな噂を流したんだ?」
「…………(ぽそぽそ)」
「なに? 俺が子供の頃、『女って十六でケッコンできるんだってよ。じゃあ俺もお前が十六になったらケッコンしてやるよ』って言ったから?」
「…………(こくこく)」
「…………」
「…………(どきどき)」
「結婚……するか?」
「…………(にこっ)」
531名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 17:17:51.73 ID:W0qGYsTT
>>530
スレチでは……?
532名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 17:26:19.97 ID:ygFlfwhh
>>516
前者もいいけど後者のタイプが好きかな
素直になれない幼馴染ってかわいい
533名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 19:15:18.88 ID:JDXlPfTY
>>530
萌えた
534名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 19:36:46.24 ID:vVm1NJGg
>>531
どう見ても無口幼馴染と幼少時結婚の約束ネタだと思うが?
535名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 22:21:39.55 ID:OamhcW/v
俺が幼なじみの内容を考えようとすると
十中八九が甘えんぼうスレとかぶるんだが
どうしたらいいものか
まぁ、俺の脳内としては結びつけやすいんだろうな
我ながら単純だなって思うわ
536名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 00:01:01.47 ID:+YvutrqB
幼馴染成分があればいいじゃない
537名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 00:46:00.77 ID:MJFsu4at
自分が書きたいと思う幼なじみ像でええことよ
まとめサイト見て自分の好みの幼なじみが無かったって理由で
書き始めた人もいるし
538名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 17:35:01.69 ID:bnkebVeX
>>537
禿同
539ちゅっちゅ禁止令発令一日目の出来事:2011/03/09(水) 20:54:55.44 ID:2AFoHVS2
1レスいただきます

突然、恋心乃が立ち上がり両手をクロスさせ、叫んだ
「イチャシウム光線!みみみみみみみみみ!!」
「・・・・・」
嗚呼、恋人よ、お前は遂に壊れてしまったのか
面白いので俺はとりあえずこの奇怪な行動を観察することにした
「みみみみみみみ!!」
「・・・・・」
「みみみみみみみみみみみみ!!!」
「・・・・・・・」
「みみみみぅ・・・・ぐすん」
「だああああっこら泣くな!!」

「で、あの奇怪な鳴き声はなんだったんだ?」
目じりに涙を浮かべる恋心乃を膝の上に座らせ、事情聴取を行う
「イチャシウム光線だよ」
「イチャシウム光線?」
「イチャシウム光線を浴びると、いちゃいちゃしたくなるの!」
そんなわけわからん光線を浴びせられていたのか俺は
いちゃつきたいのなら素直にそう言えばいいものを
「むかしっから変わらずおこちゃまだなぁ、お前は」
「慧太郎ちゃんも子供だからいいんだよ〜だ」
べっと舌を出し、恋心乃が頬を膨らます
機嫌が悪いようだ
ご機嫌取りに、頬にちゅっとキスをする
何故か、恋心乃が噴出した
「ぷっ・・・えへへ、慧太郎ちゃんちっちゃいころわたしが泣くといつもこうしてくれてたよね」
そうだっただろうか?よく覚えていない
「でも小学校入ってからしてくれなくなって・・・すっごくひさしぶりで、なんだか笑っちゃった」
こいつは俺の覚えてないことまで覚えてて、感心する
「ねえ、慧太郎ちゃん」
「ん?」
「一緒に育ってきてから今日まで、ずっと慧太郎ちゃんが好きだよ」
あーやべ、今日も朝チュン決定しました


終わりです
だだ甘で、べったべたな普通の日常が書きたかった、ただそれ(ry
540名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 08:54:49.96 ID:Sj59c+W8
乙です!  甘甘だね!
541 ◆NVcIiajIyg :2011/03/11(金) 12:43:47.13 ID:6D0HBcYG
>>471-473,>>476-477の続きです。
542『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/03/11(金) 12:45:47.83 ID:6D0HBcYG
---------------------------------------

四話 (5月14日)


指の腹で捏ねるように押し込むと、薄桃色の唇から吐息が漏れた。

「……ここ?」
「そ、そう。うん。……ああっそこ。そこ、いいぃ……」

表面はすべすべしているのに奥は固い。
女の身体はどうしてこんな風なのだろう。
桜子は今まで見せたこともないうっとりとした表情で、ソファに背を預け切っている。
頬にかかる髪が首を振ると揺れて心臓に悪い。

「ね、徹哉、もっと。うん、それ…」
「………そんなにこれ、気持ちいいの?」
「うん!最高!ありがとう〜」


仕事着の時は近寄りがたい、格好良い年上の幼馴染はふにゃふにゃと笑ってもう片方の手を出した。

馬鹿にしてんのか。


「もう20分もやってるだろ…終わり!俺も手が疲れた!」
「ええええー。私は、てっちゃんのお勉強、毎日毎日お仕事が終わってから一時間は見てたのにぃ」
「うっるさいなー」

俺は今、大変後悔をしている。
マッサージ券に、一枚当たりのマッサージ時間も書いておくべきだった。
春先から週一くらいで週末に渡されるのだが、これが長い。
初回は一時間くらい延々とやり続けて次の日筋肉痛になった。
こっちの手が疲れる。
確かに、浪人生活からの解放は本当に大きかった。
桜子には感謝している。
桜子を頼んだ親のお節介にも言葉にはしないが感謝もする。
あの頃は自分のことでいっぱいいっぱいだった。
学生生活は楽しいし、勉強はものによってはサッパリ分からないが、授業も高校時代じゃ考えられないくらいに出ている方だと思う。
それは……上の階に住む幼馴染が、通勤するところに合わせて出たいというのが動機なのだからちっとも褒められたものじゃないのだが。
543『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/03/11(金) 12:47:37.83 ID:6D0HBcYG
何にせよ、ようやく先の開けた新生活は2年間燻った甲斐のあるものだった。
風呂掃除も飯炊きもたまの掃除も、叱られる前に進んでやるようになった。
もちろん気になる幼馴染の手のマッサージもお安い御用である。

桜子が、文句を言った割には「ありがとね」と柔らかに目を細め、外していた時計をまたつけている。
春先切った髪が少し伸びてきて、伸ばそうかどうしようか、とか反応に困る話題を振ってくる。

「反応悪いなあ。じゃあ徹哉はどういう髪型が好き?」
「ショートカット」
「それ今の髪型だもん。ダメ」

……どうしろと!

「まぁいっかー。暫く伸ばそうかな」
「で、なんで手を出している」
「左手まだだもん。てつやー。私も約束守ってるんだし、お互いさまでしょ?」

むむむ。
そう言いつつ呼び方が3回に1回くらいは「てっちゃん」に戻っているのも、
3回に2回は「徹哉」なので、充分満足することにする。
手のマッサージもお安い御用。
そもそも好きなだけという約束だったのだし、恩を返せて、喜んでくれるならなによりだ。

「徹哉、上手なんだもん。するたび上手くなるし、すごいよ……ん、」

だがしかし。
最近聞きたくて仕方がない。
延々と満足するまで腕とか手をこねくり回してあぁとかそこーとか、それは俺をバカにしているのか?
俺の手は便利な機械か?
あまり触っていると、我慢が出来なくなりそうだがそれは考えているんだろうな?
朝から寝巻みたいな某ファーストリテイリングな部屋着とかお前それふざけているのか?
そんな態度を取り続けて、目の前の男が切れても知らないぞ。
544『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/03/11(金) 12:48:38.67 ID:6D0HBcYG
「うう、そこ気持ちいい…」
「どんだけ凝ってんの?」
「だって今忙しいんだもん。仕事してから体力落ちたー。バッティングセンターとか行きたいなぁ」

こっちを見た。
――頭が真っ白だ。
いきなり何。
俺に誘えって言ってるのか。
それとも今までみたいに、全く意味はないのか。

「い、行けばいいだろ。誰か誘って」

ああ、俺の間抜け。何を言ってるんだ。

「てっちゃん予定あるの?一緒に行こうよ。デート」

そしておまえも何をさらっと言っているんだ。

「あ、あのなあ」
「いや?」
「……いいけど」

目を逸らすと、ベランダ向こうは5月の青空が広がっていた。
少しあけた窓から風が吹き込んでくる。

桜子は全然分かっていない。
分かっていたらこんな軽い態度のわけがない。

小学校に上がる前、初めて見た、青空に吸い込まれる彼女の打球、最速で塁を踏む笑顔。
俺にとっては、あの日の憧れが、これまでずっと続いているというのに。

ぺしりと腕を叩いて、左手のマッサージは終了した。




つづく。
545 ◆NVcIiajIyg :2011/03/11(金) 13:00:11.84 ID:6D0HBcYG
あと少しの続きは時間のあるときにまた。
546名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 15:38:28.82 ID:vZNQXzH9
GJ!!

続きwktkしながら待っております
547名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 19:19:24.31 ID:ADSENK38
GJ!
桜子ねえさん大胆だ(*゚∀゚)=3ムッハー
548名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 03:06:35.78 ID:dmUZpmlc
タッチの南ちゃんは超がつくくらい地震嫌いだったよな
今回みたいなの来たら平静でいられないだろうな
549名無しさん@ピンキー:2011/03/15(火) 20:27:12.03 ID:c9OxJ/0m
>>545
いつもながら萌えますなあ
続きが楽しみ
550名無しさん@ピンキー:2011/03/16(水) 19:13:36.19 ID:UdvLWEYi
◆NVcIiajIyg氏長編まだぁっ!?
551名無しさん@ピンキー:2011/03/16(水) 22:08:16.25 ID:UdvLWEYi
Scarlet Stitchの続きが読みたい
552名無しさん@ピンキー:2011/03/17(木) 23:02:29.97 ID:JpTX+MaA
余りにやることがないから妄想
・主人公は転校生
・転校先の学校で、教職員をしている幼なじみのお姉さんと再会
・お姉さんは主人公との約束を覚えているまま胸をときめかせるが、勘違いと発覚する
・でも主人公はその勘違いを嬉しく思い、それを伝える。
・お姉さん感極まって号泣、泣きやんだ後にいちゃいちゃし始める


うんテンプレだね
553名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 14:39:25.78 ID:rwwQzl+Q
約束事態が勘違いだったってこと?
554名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 14:58:24.43 ID:MNBOAZgQ
>>553
ぶっちゃけると、幼なじみのお姉さんは「いつか結婚しよう」と約束してたと思ってたが、主人公は「いつかまた会おう」だと思ってたっていうすれ違いみたいな感じ
555名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 15:23:07.29 ID:8UKlvoDM
なんかエロゲの主人公みたいなのが多くてゲンナリ
もっとちゃんとしたのが読みたい、文章がなんか稚拙すぎる
556名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 16:24:19.69 ID:chZHQ53c
純文学だと元カレがどうとかレイプがどうとかスウィーツ()藁のようになり「こんなビッチはちょっと・・・」と引き始め
そして最終的に男とくっつく感動的なシーンになるはずの場面も「なにこれ気分わりぃ(´・ω・`)」になっちゃう虹元に馴れすぎた俺にはちょうどよい空間です
557名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 17:05:39.99 ID:lTRdpK+d
かといって過去作のお薦めを挙げ始めると
自演を連呼する奴が現れたりもする
558名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 19:54:32.15 ID:suxvrp0/
こういう場はやはり投下あってこそだよな。

>>555
ご自分の好みの作品をぜひ書いてみてください。
559名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 23:10:10.09 ID:gOgL+u3I
>>555
そこまで言うなら自分で書け。偉そうに
560名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 23:15:30.79 ID:Lr755c8R
自分の文章が稚拙ってことの自虐だろう
561名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 06:47:02.88 ID:IdAyvvie
虐めっ子(虐められっ子)型の幼馴染とかはあんまり無い気がするな
562名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 11:48:12.65 ID:ixf2T05j
なんていうのかな〜
設定ばかり凝っててテキスト力が追いついてないというか〜
俺は○○、で、こいつは○○みたいなエロゲの冒頭みたいなのばかしだし〜
おもしろいラノベって登場人物を別に詳細に説明したりしないんだよね〜
ハルヒとかも本名すらわからないキャラとか多いし、別に谷川のテキストがそこまでおもしろいとは思わないんだけどさ〜
あえて説明しないとキャラの輪郭が読者に見えないって感じかな〜
寒いギャグに逃げるのも心理描写が描ききれないから逃げてるだけだし〜
あと誤字脱字や間違った日本語が普通に多いのも〜
563名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 11:59:00.00 ID:s/pJdAmU
甘えん坊だけどやきもちやきな幼なじみは嗜好
564名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 12:14:24.15 ID:0chVPcRS
>>562
〜多用し過ぎわろた
565名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 12:44:09.04 ID:kz9CCuJz
>>561
・いじめっ子型幼なじみ
ずっと隣にいる幼なじみが気になるけど、素直に甘えたり遊んだりするのが恥ずかしいから、別の形で関わろうとする。
幼なじみをいじめていいのは私だけ!という、独特の感情もあり。

・いじめられっ子型幼なじみ
いじめられる度に庇ってくれたり助けてくれる幼なじみに依存しがちなデレデレ型幼なじみ。
いじめられっ子故にマゾっ子になる資質も少しながらあったりする。
幼なじみにSMプレイを強要されても喜んで受け入れたりする。
566名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 13:26:55.58 ID:oBKM75F/
>>565
なかなかよいがただ一点
マゾ資質は「少しながら」ではなくがっつり持っていてくれてかまわない
567名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 15:04:40.43 ID:uWwvlnmr
いじめっ子幼馴染はいじめを庇う女の子に嫉妬すればいい感じ。
568名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 16:57:08.66 ID:ObgiIn25
いつもパンで済ませているのを見かねて、
弁当を作って、早朝に家に起こしに来た幼なじみ
「学校で渡すのは恥ずかしいから」と手作り弁当を渡してくれた
設定3択
→料理が下手な事を知っている
→料理が下手な事を知らない
→料理が上手いのを知っている
行動3択
→ありがたくいただく(受け取る意味で)
→ありがたくいただく(その場で食べる意味で)
→ありがたくいただく(性的な意味で)
569名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 20:00:08.72 ID:kz9CCuJz
機会があったら書きたい、っつか今日からでも書きたいぐらいだが、ちょっと叩かれるのが怖くて触ってもいない俺が参上
570名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 21:37:45.64 ID:duC3ldMm
是非とも書いてください!!
571名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 01:49:53.50 ID:3u2YQ+0U
ゲリラ的に投降、じゃない投稿
見たことあるタイトルかもしれませんが、残念ながら望まれてないほうですね
572懐・幼なじみがデレない幼なじみモノ(謝):2011/03/20(日) 01:51:07.38 ID:3u2YQ+0U
……いやはや、やっぱり世の中の幼なじみは素晴らしいね。
日本人が昔から培ってきた幼なじみ文化が如何に偉大か、それがよくわかる。
近すぎて逆に遠い関係、もはや距離のない状態。懐かしき再会なんてパターンもあるな。
素直になれない、あるいは今さらと気恥ずかしさを感じたり……と、関係も様々なものが描かれるし。
しかも、色々と情報を漁れば「事実は小説より奇なり」を地でいく話すら見受けられる。
いやはや、「幼なじみ」という概念を考えた人は偉大だね。そうは思わないかい?
「電波か」
……今のは、ちょっと傷ついたなぁ。その返しはひどくない?
「知るかよ。いきなり大層な御託を並べて、結局は『幼なじみ萌え〜』みたいなことしか言ってないし」
バレたか。
「バレるわ」
いや、けどやっぱり幼なじみは素敵な関係だよ。まったく、
「『持つ者は持たざる者の気持ちすら考えようとしない』、だろ?」
……今日はいやに絡んでくるじゃないか。彼女と何かあったの?
「べ、別に?雪菜とは、何もないぞ!」
相変わらずわかりやすいなぁ。確かに委員長、朝から機嫌悪かったしなぁ。
「あっ……く、いや、それは」
ほらほら、話してごらんよ。とりあえず話すだけでもすっきりするからさ?
「……お前、そんなに嬉しそうな顔でいうなよ」
あはは、元からこういう顔なもので。

そりゃ怒るよ。
「はぁ!?いや、明らかに理不尽だろうが!」
わかってないなぁ……相手は女の子だよ?
やっぱりさ、特別な日には想い人がどんな行動をするか、気になるじゃないか。
「お、想い人って……べ、別に」
『オレとアイツはそんな関係じゃないし』?
「……そ、それに」
『今までそんなのなかったのに、いきなり言われても』?
「…………おい、」
『人のセリフを取るんじゃねーよ』?
「…………」
まぁまぁ、そう怒らないでよ。からかってるだけだからさ。
「怒るわ!」
さておき。やっぱりさ、何だかんだで前とは違うんだと思うよ?
「さておくなよ……」
まぁまぁ、聞いてよ。
キミらってお互いの気持ちを確かめあったわけじゃないか。
頑なに認めようとしないけど、それは自分でよくわかってるはずじゃないか?
それでも付き合わないのって、今さらどんな付き合い方をしたらいいかわからないから、だと思うんだ。
「まぁ……一理ある、か」
けど、このまま煮え切らない関係が続くのも辛いよね。
だからさ、何かしらのアクションがあればちょっとは関係が変わると思ったんじゃないかな?
些細なことでも、いつもとちがうことが起こったら……って。
少なくとも、彼女はそう考えてる。けどキミはそうじゃない。そこに怒ったんだと思うよ。
「……やっぱり理不尽じゃねーか」
理不尽でも、だよ。それともキミは、中途半端にギクシャクした今が好きなの?
「いや、それは」
ほーら、結局イヤなんじゃないか。けど残念、今からはもう前の関係には戻れないんだな。
だからキミは前に進むしかない……ずっと前から言ってるじゃないか。
「……じゃあ、オレはどうしたらいいんだよ」
さぁね。知らないよ、そんなこと。
「無責任だな、おい!?」
当然。だって僕には関係ないし。
まぁ、キミが何を感じたか……それを基準に行動したらいいじゃないか。
「……まぁ、そうだな」
じゃ、それをしたらいいさ。頑張れよ、若者。
573懐・幼なじみがデレない幼なじみモノ(謝):2011/03/20(日) 01:51:44.96 ID:3u2YQ+0U
……校門前ってなかなかの素敵スポットだよね。
学生の特権というか、何かイベントが起こりそうじゃないか。
……っと、きたきた。
「おう」
「…………」
「っ、おい雪菜!」
「何よ、ついて来ないで」
「帰り道が一緒なのに無茶言うな」
「……じゃあ距離を離しなさいよ、半径1kmくらい」
「あー言えばこー言いやがって……とりあえず、話があるんだよ」
「私は何もないわ。それじゃ」
「ちょ、待てよっ!」
お、これは修羅場の予感?
「離して!離しなさいよ!」
「待て、せめてオレの話を聞いてから……っ!」
……まぁまぁご両人、とりあえず落ち着いて。
「なっ……!?」
「お、お前いたのかよ!?」
一応ね。本当は見守るだけにしたかったけど、楽しくなさそうだから介入してみた。
二人とも落ち着いて、話し合うことが大事……ん?
「…………」
「…………」
……いやだなぁ、キミらのラブラブイベントを覗くなんて、そんな野次馬みたいなことするわけないだろ?
……ないだろ?
「……っ、もう知らん。行くぞ雪菜」
「……って、いた、だから放してって!」
「いやだ」
「はぁ?」
「絶対に放さない。今日はこのまま帰る」
「ちょっと、アンタ、それは」
「うるせぇ!オレがお前と手を繋ぎたいんだよ!」
「……へ?」
「……ほら、行くぞ!」
「え、ちょっと、ま、待って、痛いから……!」

……全く、幼なじみのくせに、ろくに手も繋げないとか。
彼女がさりげなくアプローチしても無視、挙げ句に気付いたら「何かキメてんのか?」はないよなぁ……本当に鈍感。
ま、けどあれか。それで気づけっていう彼女にも無茶はあるか。
……幼なじみって、意外と大事なことは意志疎通できないんだね。

……ねぇ、キミはどんな幼なじみが好き?
574名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 01:53:38.75 ID:3u2YQ+0U
以上。
あんまり幼馴染してないと思われたならごめんなさい

できればそのうち「幼なじみと○○」で一本書きたいな、と思いつつ……
なくしたものの続きを書かないといけませんし

ではでは、スレ汚し失礼
575名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 14:44:22.64 ID:4VaWNtd8

周りで眺めてニマニマできるのも幼馴染のよいところ
576名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 18:43:56.19 ID:sNuQMH5U

面白かった!
577名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 16:23:38.72 ID:hF9FEge6
ところで、ふと思ったんだが、某魔法少女の青も確か幼馴染で、
結末があんなになってしまったんだが、アレはアレでカタストロフィ
好きな幼馴染ものとして、このスレでも許容できるものかな?
578名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 17:32:03.87 ID:JvegoSru
オレは無理かなぁ
幼なじみはやっぱりちゃんと結ばれて欲しいんだぜ
別のヤツとくっついたとしても、また離れてくれるなら許せるが……
579名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 20:14:17.24 ID:Fdd+j6Ea
好きだった幼馴染みをねとられて別の幼馴染みとくっつくのは?
580名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 20:21:49.16 ID:WLLqr8xA
2人の幼馴染がいたら修羅場になる…
俺には選べないぞ…いったいどうしたらいい
581名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 20:42:25.71 ID:3gl5Dd1z
三角関係って好きじゃないなー
特にドロドロしたのは読んでて辛くなる
主人公がヘタれだったりにぶちんだと更にイライラする
582名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 20:58:41.36 ID:K4Emls+C
二人一緒に愛してやる、と言ってのけるくらいのガッツが必要だと思うのよ。
そしてそれが上手くいくのは創作上のものに限られるのよ
583名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 22:08:18.55 ID:WLLqr8xA
幼馴染女Aは幼馴染男が好きで、幼馴染男は幼馴染女Bが好き
でもBはAの気持ちを考えて手を引いたりなんかしたら俺はいったいどうしたらいいんだ
584名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 22:34:31.23 ID:hF9FEge6
Aと付き合って、AとやりながらBの事を考えてればいいよw

・・・どこかのエロゲであったような気がするな。
585名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 23:16:22.90 ID:CFBXXysT
目を閉じておいでよだな
586名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 00:24:32.69 ID:mJLz7bhs
AとBが男なら二人同時もできそうだ
ただ物凄く難しいだろうけど・・・
587名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 00:38:32.12 ID:k3L8tnkf
つまり前の穴と後ろの穴を分け合うのか(ぉ

三角関係はひとつ考えてるネタがあるんだが
今書いてるのが筆が進まなくていつになるやら
588名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 01:28:01.42 ID:73C+rJmu
双子と同時に付き合うとか
589名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 01:30:42.98 ID:dgd9KYp7
>>586
583の設定でAとBが男だったら、確かに幼馴染ものではあるが
ジャンルが違ってくるがなwww

幼馴染(男)、A(男)、B(男)

確かに物凄く難しいな・・・
590名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 09:47:08.13 ID:R/eBjsB2
普通に三角関係大好物だわ
ただしラストではっきりしないのは駄目だが
591名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 17:10:08.40 ID:yhslULXW
やっぱ一途な純愛が一番だわ
592名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 17:12:06.49 ID:INs8m+qa
うむり
593名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 22:13:21.47 ID:mJLz7bhs
>>587
いや、一つのところに二つのを、といった感じを想定
一応不可能ではないと思えるが・・・

二人のは女の方だと一つしかないからどちらか片方は余ることになってしまうな
男に二つあるとかはもはやファンタジーの世界だし
594名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 00:37:07.76 ID:bcbpdvtc
この流れで、恋の三角海域sosって歌を思い出した
いや、二丁目の話だから幼なじみは関係無いんだけどな?
595名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 02:19:05.92 ID:0ckjlcDT
とぅららーとぅららーとらーいあんぐーる
さんへーほーのてーりーはぴったごーらーすー
596名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 11:08:29.40 ID:jrv0Q6UQ
村中が壊滅どころですまないレベルだろそれw
597名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 13:57:09.07 ID:7yB1PT+G
>>敬語世話焼き幼馴染

男「先輩、いい加減携帯に出てくださいよ……って部屋きたねえ!?」
女「あー。どしたのさっちゃんー」
男「どうしたもこうしたも音沙汰なしで一週間も学校さぼらんでください!
  あと俺が先週掃除したばっかりなのになんですかこの部屋は!」
女「さっちゃん……、人は消費し、また生産する……。その過程ではさまざまな事柄が起きるの……。神秘的だと思わない?」
男「つまり趣味に没頭してロクに片づけどころかゴミをきちんと収集日に出すことすらサボってたって事ッスよね!?」
女「いひひ。正解だよん」
男「笑い事じゃないっすよ! ちゃんとメシ食ってんスか! 風呂最後に入ったのいつ!」
女「えとね、ごはんは納豆ごはん食べたよ。お風呂は確かね、三日の夜?に入った。か、な?」
男「今日はもう七日っすよ!? あと納豆食った後は茶碗をとりあえず水に付けろって何回言わす気だアンタは!」
女「えー、だって流しまでいくの面倒くさいんだもんー」
男「良いです、もういいです。とにかく片付けしてメシ作っときますからアンタは風呂に行ってください」
女「んー、さっちゃんがわたしのこと『先輩』とか『アンタ』とか言わずに昔みたいに『みい姉ちゃん』って呼んでくれたら考えてあげる」
男「ちょっ……!?いきなりなに言いだすんですか!?」
女「最近のさっちゃんが他人行儀なのがいけないのー。ねえ、呼んでくれないの? ダメ?」
男「こ、このトシになってそういうガキっぽい呼び方はちょっと……」
女「ねー。呼んでよう。お願いだからさあー」
男「ぐ……。み、みみみ、みい姉ちゃん……」
女「あはは、ホントに呼んでくれたぁ。ねーねーさっちゃん、顔真っ赤だよ?」
男「あーもう、うっさいッスよ!!良いからとっとと風呂に入ってこい!!」
女「きゃー、怒られた! そいじゃ、ぴかぴかになるまで磨いてくるよ〜」

男「……はあ。まったくもうあの人は」
男「他人行儀とかなに言ってるんだか」
男「本当にそう思ってたら、こんな面倒くさい女の世話焼きになんか来ないッスよ」
男「ったく、本当に鈍いっつうかガキっぽいつうか全然わかってねえんだから」

女「ねーねー、さっちゃんさっちゃん!ねえ、パンツさあ、セクシー系がいい? それともキュート系がいい?」
男「はあ!?」
女「ん? だってお掃除とごはんが終わったら後で見るでしょ? あ、どうせホコリかぶるしもっかいお風呂入るからその時の方がいいかな?」
男「いや、ちょ、何の話だよみいねえ!?」
女「えへへ。まったくもう、さっちゃんたら全然わかってないんだから!」
598名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 14:01:46.71 ID:7yB1PT+G
小ネタ投下してみました。
世話焼きさん系幼馴染はツボなので一度きっちり書いてみたい。
男女逆だと、しっかり者姐さん系幼馴染と大家族長男主人公とか。

なんというか犬型男×猫型女の関係が好きです。
599名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 22:10:52.81 ID:biAMrODW
猫といえば大人しい系の気まぐれっ子だな、俺の中では
だが>>598を読んで活発型も良いと思った
600結婚:2011/03/24(木) 12:11:05.87 ID:S3J10bJw
幼馴染みの女の子が結婚することになった。
で、アルバムやら何やら実家の押し入れから引っ張り出して眺めていて、
幼稚園の卒園文集のようなものにはこんなことが書いてあったんだ。
おとなになったら、やきゅうせんしゅ、けいさつかん、アイドル、ケーキやさん、かんごふさん…

(俺)のおよめさん

思わず笑って、なかなか笑いがおさまらなくて、しまいには涙まで出てきちゃったよ。
確かに俺もあいつと結婚するものだと思ってたこともある。
だけど、それぞれ好きな人ができて、何人かと付き合った。
あいつのおかげでフラれたこともあったっけ。
俺とあいつが恋人どうしになったことは一度もないが、
実を言うと互いにはじめての相手だったりする。
高2当時、俺が付き合ってた彼女に経験がないのを悟られないようにと
フリーだったあいつに相談したら、練習の相手をしてくれた。
結局、その彼女とはえっちの前に別れてしまったんだけど。
あれは申し訳なかった。
でも、これって運命なのかとも思ったんだ。
それから、自分は彼女とあいつのどっちが好きだったのか。
あいつのことは恋人とは思わないが、大事な人ではある。
じゃあ、恋人でもない相手とセックスするというのはどういうことか。
あいつは俺なら安心してはじめてをまかせられると言っていた。
その後もたまにセックスして、恋人がいるときはしなかった。
恋人は恋人だ。
結婚すると聞いて、あ、俺じゃないんだ、とは思ったけど、これでいいんだ。
彼の「およめさん」になれるんだ。
ダスティン・ホフマンごっこなんかしないからな。
もしうまくいかなかったら…そのときは俺がなんとかするよ。
でもそんなこと考えなくていい。
幸せになってくれ。
601名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 12:55:54.32 ID:3CreZCmJ
さぁ、ゴミ出しの日に偶然ばったり会いに行くんだホフマン
俺が許す
602名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 15:37:26.30 ID:H8h1g1dm
犬型幼なじみに甘え倒されたい
甘え倒されたいんだ


でも幼なじみ居ないんだorz
603名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 16:35:40.88 ID:6imsZh7D
>>602
来世に懸けるんだ
そして子供たちの仲立ちに励むと良い
604名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 21:35:05.03 ID:Iv/Umtr2
息子の幼馴染みが大きくなったところで
大人のテクで寝取るわけですね、わかります
605ゲリラ投稿:2011/03/24(木) 22:30:32.74 ID:SerBDcVY
「(まだかな・・?まだかな・・?)」

頬がゆるみ、思わず含み笑いを漏らす。
幼い頃、よく面倒を見てあげた隣の家の男の子と、今日から同棲生活なのだ。
お姉ちゃん、お姉ちゃんと後を着いてきた姿が、今でも鮮明に思い出せる。

「(結婚の約束もあるし、ずぅっと恋人なんて作らずに、可愛くなることに一生懸命だったんだからね?)」

両親がいなくてよかった――いたらきっと自分の奇行を咎めていただろうから。
数日前、母親は父親の出張先に行ってくると言って、出ていってしまった。
出ていく間際に、幼なじみの少年を家に住まわせてあげるから、とだけ言って。
十何年も前に、自分の父の栄転で別れてしまった彼に、また会える。
普段なら母親が急に物事を伝える度に怒ったりしたのに、今回ばかりは嬉しくてたまらないのだ。
ベッドの上で抱きまくらを抱いて悶えてみせる度、豊満に育った巨乳が震える。
髪を長くしたのも、胸が大きくなるように頑張ったのも、家事を全部出来るようになったのも、エッチな知識を覚えたのも、大好きな男の子に嫌われないために。

「えへへへ・・・私は、ずっとずうっと君だけの女の子だからねっ♪早く来てほしいなぁ♪」

とろっとろに蕩けた顔で、身もだえしながらよこしまな妄想に浸ってみる。
その姿は学園で慕われる美少女ではなく、一人の恋に恋する乙女だった。
606ゲリラ投稿:2011/03/24(木) 22:31:16.78 ID:SerBDcVY
「ったく、何考えてやがんだあのクソオヤジはよ!」

俺は不機嫌さを隠そうともせずに、小春日和の坂道を歩いていく。
小学校に通っていた頃は毎日歩いていた道なのだ、目的地までの地理もはっきりと分かっている。
腹立たしいのは、親父の自分勝手だ。
小学生の頃に親父の栄転でこの町を離れるときは、『家族は一緒に暮らすもんだ』と単身赴任を拒んだ癖に、今回は海外に行くから仲の良かった隣の家に預かってもらうと言い出しやがった。
―――最も、ずっと憧れていたお姉ちゃんと一緒に暮らせるのだ。
不満と言い切りはしないが。

「でもなぁ・・・」

不安感は拭えない。
もしお姉ちゃんに恋人が出来ていたら、この初恋は始まる前に終わっていることになるだろう。
お姉ちゃんが、一人だけ別のところに住んでいたら?
俺はお姉ちゃんに憧れていたが、お姉ちゃんは俺を手のかかる弟だとしか見ていなかったら?
不安というのは、一度その渦に巻き込まれるとある程度の決着がつかないと解消されるものではない。
悶々と悶えながら、俺は見覚えのある、懐かしい家の前まで歩いてきたのだった。
607ゲリラ投稿:2011/03/24(木) 22:31:54.29 ID:SerBDcVY
続きはない。

というか、上手く書けないから断念した。
豆腐マインドは伊達ではないよ。
608名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 22:39:13.24 ID:6imsZh7D
>>604
なん・・・だと・・・

>>607
とりあえず豆腐マインドからナカデココマインドに進化しようず
609名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 22:42:07.62 ID:OuatmAqE
>>598
乙。
ふむ……敬語で会話する幼なじみか、悪くないな
先輩なほうは、もっとエロく奔放でもいいかと思います!(断言)

>>607

何という寸止め……これは間違いなく続くな
きっと二人暮し始めてから、色々と誤解が積み重なるんだろうなぁ
ま、解けたらゴール一直線なんだろうけど
610悲惨な初体験:2011/03/24(木) 22:42:26.25 ID:6AhIVYH4
「悲惨な戦い」の替え歌ネタ 

私はかつてあの様な 悲惨な光景を聞いたことがない
それは10年以上も前からの 幼馴染夫婦の話です

片や生徒会長のたけるくんと 片や学校一の美少女ユミちゃんが
両者抱き合いベッドイン 二人とも初体験でその口からは
色めかしいな嬌声がキレギレに流れだして来て
初体験の雰囲気を出すのだった

この色っぽい嬌声がいずれ あの不幸な事件を巻き起こすとは誰しも
あの 世にも恐ろしい戦いになるとは 誰しも思わなかったのだ

全く振動とは恐ろしいもので 
振動を伝える物質があれば 音として伝わるのだから
アンアンと言ってる間に幼馴染の嬌声は 響いた

さすが姉思いの弟は すぐに姉の部屋へとを駆けつけたが
折りも悪くもノックの習慣が無かった為に セックスを見てしまったのだ

ユミちゃんの弟が又、弟で
一階の両親にはわからないものを
姉ちゃんとタケル兄ちゃんがたいへんだなどと言ったものだから
見なくてもいい人たちまで見てしまったのだ

さすがユミちゃんの男親 すぐに二階へと突入したが
折りも悪くも気づいてなかった為に 
破瓜の瞬間を見てしまったのだ

ユミちゃんの家族の皆様は 意外な事実を知ったのだ
あの小さかった坊主が父より立派に成長していると
そういう事実を知ってしまったのだ

さすがユミちゃんのお母さん
旦那さんから二人をかくそうとしてやったが
彼女も非常に興奮していたもので
股間をイヤという程 見つめてしまったのだ

私はかつてあの様な 悲惨な初体験を聞いたことがない

611名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 22:44:23.15 ID:6AhIVYH4
ゲリラ投稿氏、タイミング悪かった・・・・・・すまん。
612名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 22:53:07.69 ID:SerBDcVY
>>609
脳内では、
再会→お姉ちゃんがベタベタデレデレ、主人公くん困惑→ふたりぐらしが発覚、主人公くん困惑の極みに→でもお姉ちゃんが昔みたいに優しく諭してくれた後告白される→主人公くん、躊躇わずに了解→二人で毎日いちゃいちゃと

こう考えてた。
書ける気がしなくて断念
613名無しさん@ピンキー:2011/03/25(金) 00:10:50.94 ID:gvW3OYoq
ゲリラ氏乙!

ただ自分の好みを語らせてもらうと
そういうシチュの場合、男の子はお姉ちゃんを変に意識してない方がイイ!
そして優柔不断じゃない男らしい方がイイ(´・ω・`)
614名無しさん@ピンキー:2011/03/25(金) 10:09:57.22 ID:9CQXyFvY
設定は面白いんだから1,2レスじゃなくてみんなもっとちゃんと書いてけばいいのに…
そうすれば俺が嬉しい
615名無しさん@ピンキー:2011/03/25(金) 10:16:31.91 ID:xyyrOoIt
>>610
なにかつかむものは…

こんなところでなぎらがわかる人に会うなんてw
616ほとり歳時記:2011/03/25(金) 23:52:01.11 ID:htYwvR3R
1.しあわせのいろ

 あれは、まだあたし達が小学校に上がるか上がらないかくらいの頃だったと思う。
 あまり外で遊びたがらない修《おさむ》を連れてアチコチ出歩いていた時のことだから、多分そうだ。
 散々遊び倒して帰ってくると、珍しく父が家に居た。
 製薬会社で新薬の研究に携わるだけあってか、父は理屈屋だ。そしてその癖子供っぽく癇癪持ちで、照れ屋だった。
 そんな父は、修に向かって何がしかの禅問答のようなものをするのが楽しみだったらしい。
 その日も修はあたしに振り回された挙句、父にやり込められて閉口していた。
 目の端に涙をいっぱい溜めて修はごにょごにょと反論し、父がそれをにやにやとしながら正論で組み伏せる。
 屁理屈のこね合いをする二人は、実の所あたしにとっては羨ましかった。
 いつも不機嫌な父が、形はどうあれ笑って見せる数少ない場面が、ここだったからだ。
 定規杓子、四角四面、融通のきかない昔気質な父は、本音では息子が欲しかったのかもしれない。
 だから年の離れた姉と二人、お隣の修が父のオモチャにされているのをほんの少しだけ羨ましく見ていたのを憶えている。
 父と修と言えば、こんなこともあった。
 町内にある神社の縁日に、父と出かけることになった日のことだ。
 向こうで修と修のお父さんの二人と合流することになっていた。
 あたしの父と修のお父さんは昔から仲が良くて、時折二組の親子連れでアチコチ出歩いていた。
 その縁日に行く準備をしていた時のことだ。
 白状すると、子供の頃のあたしはあの神社が妙に苦手だった。
 理由はよく分からないが、多分あの神域特有の厳かな雰囲気がダメだったのだろう。
 けれど父と二人だ。あたしはわくわくしながら前の年にあつらえた浴衣に一年ぶりで袖を通した。
 少し大きめだったその浴衣が丁度よくなっていて、お気に入りの赤色で、それだけで物凄く嬉しくなった。
 もう怖い境内のことなんかどうでも良くなった。
 夕暮れの赤い色が差し込んできていて、祖母が打った水の匂いがして、遠くから賑やかな声とひぐらしの鳴く声が聞こえて。
 几帳面な母らしい丁寧な着付けが終わる頃になると、もう私の頭の中は父と行く縁日のことではちきれんばかりだった。
 だが、癇癪持ちでせっかちな父は、女の子の用意が待ちきれなかったらしい。
「おいもう行くぞ」
 と言ったが早いか、父はあたしを置いて先に出て行ってしまった。
 風呂は熱湯じゃないと気に入らない、ベルトはぎゅうと締めないと落ち着かない、がま口はぱちんと音が出ないと納得しない、そんな癇性な人だったのだ。
 今思えば大したことじゃないけれど、それでも当時の私には理不尽な出来事だった。
 なだめる母の声なんて聞こえなくて、とにかく泣いた。
 母はその場を取り繕う様に「追いかけて行きなさい」なんて言うが、怖い神社に行く父を追いかける気になんてなれる筈もない。
 父と一緒だから行く気になったのだから。
 わんわん泣いたらむかむかと腹がたってきて、縁側の端っこでむくれていると、修がひょっこり現れた。
 あたしより背の低いちんちくりんの修は、呆れたように唇を尖らせるとあたしの手を取って立ち上がらせた。
 むずがるあたしなんて気にもせず、修はどんどんと歩く。
 結局神社の長い階段の前まで無言のままあたしを引っ張ってくれたのだった。
 要領悪い上に泣き虫で不器用な修らしい、エスコートだった。
 長い階段を二人で息を切らせて登ると、あたしの父がリンゴ飴を手に待っていてくれた。
 不機嫌そうに「ん」と鼻先に突きつけた飴は、どうやら反省したらしい照れ屋な父の精一杯の謝罪であるらしかった。
 けれど、そのセロファンがくっついて取れないリンゴ飴一つで機嫌を直したのだから、あたしも安い子供だった。
 隣で修のお父さんが優しそうに笑っていて、あたしはちょっとドキドキした。
 修はと言えば照れくさそうに自分のお父さんの足にくっついてまごまごしていた。
 父に言わせれば修のお父さんはぼんやりしていて優柔不断らしいが、何か言いたくてまごまごしている修の方が優柔不断だった。
 今思い出してみれば、あの親子はよく似ているということなのだろう。
 まあつまり、あたしにとって幼なじみの男の子は、ぼんやりしていて優柔不断で、要領悪くて泣き虫で不器用さんだけどとっても優しい人なのだ。
 それが、あたしの神流 修《かんな おさむ》だった。
617ほとり歳時記:2011/03/25(金) 23:54:22.59 ID:htYwvR3R
 周囲からの評価は『変人』だということに気付いたのはいつのことだったか。
 いつも本を、それも流行り物ではない物を好んで読みふけるのが、周囲には奇異にうつるらしかった。
 そもそも神流の家系はその昔骨董を商い一財産稼いでいただけあり、みんな古い物や本が好みなのだった。
 同じ町内の外れに住む大叔父などは良い例だ。
 在野の民俗学者と言えば聞こえは良いが、ほとんど世捨て人の道楽者だ。
 次の台風で吹き飛んでしまいそうな古い家に一人で住む善治爺さんは、いつも本の山に埋もれていた。
 変人ぞろいの本家の中でも極めつけの変人だったけれど、俺は善治爺さんの小難しい話を聞くのが好きだった。
 そんな神流の家の中で、ウチの親父はごく珍しい人だった。
 他の兄弟が骨董やら書やらを扱ったりする中で、一人公務員の道を選んだのだから。
 そのせいか親父は本家の人たちと折り合いがよくない。
 その息子の俺は、しっかり神流の家らしい人間に育っているのだから皮肉なものだ。
 小難しい話といえば、隣に住むほとりの親父さんも外せない。
 どこかの製薬会社の研究室に勤めている人だが、俺みたいな子供の言うこともバカにせず聞いてくれた。
 口は悪いけれど面白い人で、ほとりと一緒によく屁理屈をこねて遊んだものだ。
 呑気な親父と、竹を割ったような性格のほとりの親父さんは昔からの友人であるらしい。
 まるで性格が違うのにどうして馬が合うのか親父達二人は、息子の俺と、娘のほとりをよく遊びに連れ出してくれた。
 確かあれは十一歳の夏休みだったと思う。
 ほとりが俺を連れ出さなくなった頃の話だから、多分そうだ。
 キャンプを張りにどこかの山へ行ったことがある。
 何かと心配性な親父はごてごてと荷物を大量に用意していた。
 けれど道具だけは一丁前の俺達一行は、それを使う技術がなかった。
 どうにかこうにか不恰好ながらテントらしきものを張ったところで日が暮れて、隣でほとり達が笑いを堪えていた。
 あんまりな展開だったが、俺も親父も妙なテンションで夕食に挑みかかっていた。
 けれど食事全般母さんに頼りっきりの親父が、初めて包丁を持つところを目の当たりにした俺はふと我に返り、思わずほとり達に助けを求めていた。
 あの時のほとりの得意そうな笑みを、俺は一生忘れない。
「もうしょうがないなあ」
 なんて言葉を何度も楽しそうに口にして、ほとりは小学生ながら危なげなくカレーを作ってくれた。
 その間俺も親父二人もほとりの小間使いだ。
 やれ水が足りないだの火が弱いだの、ほとりはにこにこと俺達を使い倒した。
 ほとりが得意そうに俺に何かを言うのはしばらくぶりだったので、なんだか妙な気持ちになった。
 今もあまり変わらない。そのうち立場を逆転させてやろうと思っているが、ほとりはまったくその隙がない。
 ついでに言えば、ほとりのカレーはとても旨かった。
618ほとり歳時記:2011/03/25(金) 23:56:27.45 ID:htYwvR3R
 親父とほとりの話をするなら、小学生六年の時のバレンタインも外せない。
 どうやらほとりの初恋はウチの親父だったらしく、随分手の込んだチョコレートを寄越してきたことがあった。
 身長もあって、優しくて、知的な雰囲気がよかったのかしらねえ、と母さんが楽しそうにしていて俺は何とも複雑な気分になった。
 おっとりした母さんと年の離れた兄貴は他人事みたいにほとりをつまみに談笑していて、俺はなんだか無性に腹が立ったのを憶えている。
 文句にならない文句をぶつけると、母さんは優しそうに微笑んで
「お父さんがモテるのは、わりと嬉しいものよ」
 と大人の余裕をみせていて、俺はますます惨めな気分になった。
 もちろん親父は受け取るだけは受け取ったもののしっかりお断りをしていた。
 いつもならわんわん泣くほとりだったが、その時は「そうですか」と静かに答えて綺麗なお辞儀を一つ残して帰っていった。
 何となく気になった俺は後を追いかけてしまった。
 川原まで一目散に走ったほとりは、そこで大きな声で上を向いてあるこうを歌い始めた。
 何かの宣伝で覚えたらしい古い歌謡曲を歌う女の子を、散歩中のおじいさんが楽しそうに眺めていたのが妙に印象に残っている。
 俺は転げ落ちるように川原を駆け下りると、ほとりの隣で俺も下手くそな上を向いて歩こうを歌った。
 声が枯れるまで上を向いて歩こうを歌うと、目を真っ赤にしたほとりがそれでも顔いっぱいに笑ってくれて。
 俺も一番の笑顔をしてみせた。
 それまで小学生らしく疎遠だった俺達は、この日からもう一度少しずつ話をしたりするようになってきた。
 親父に言わせるとほとりの親父さんは強い人らしいが、いっぱい泣いた後でも笑えるほとりも強いと思った。
 今思い出してみれば、あの親子はよく似ているということなのだろう。
 まあつまり、俺にとっての幼なじみの女の子は、泣き虫でお転婆だけどとても強くてしっかり者なのだ。
 それが、俺の州崎《すざき》ほとりだった。

   ◇

 進路が同じだと聞いた時、白状すると、あたしはほっとした。
619ほとり歳時記:2011/03/25(金) 23:58:56.49 ID:htYwvR3R
 資料庫を根城とする郷土文化研究部は、現在部員たったの一名。
 部長兼副部長兼会計兼部員兼その他もろもろの俺だけということだ。
 晴れて高校二年生になった俺は、新入部員を獲得するべく案を練っていた。
 資料庫の整理を主な任務とする我が郷土文化研究部、略称郷文研は、自慢じゃないが万年部員不足だ。
 それでも廃部にならないのは、部費が学校から出てないのと、整理係の別名だからだ。部室の取り合いにも係わり合いない訳だし。
 我ながら小汚い字で書きなぐられたビラをしげしげと眺めるが、こんなので旧校舎最上階まで来る新入生がいるとは思えない。
 事実、もうすぐ五月が見え始めているのに誰一人現われはしない。
 日が暮れるまで途方に暮れてから、俺は諦めて帰ることにした。
 もうそろそろ新入生達も新しい環境に慣れてきた頃だろうし、今年は諦めて来年から頑張るということにしよう。
 呑気にそんな危機感のない結論を得た俺は、だらだらと靴を履き替えてのんびりと校門へ。
 宵闇の蒼が、黄昏の緋色を追いかける紫色の空の下、校門前に女の子が立っていた。
 背中にまで届く艶やかな髪は黒絹糸のよう。
 綺麗な夜空を押し込んだみたいに煌く大きな瞳と、少しだけ生意気な風にツンと上を向いた形の良い鼻。
 幼い頃の活発な雰囲気を残したまま、けれど日ごとに整っていく目鼻立ち。
 華奢な肩や首の白さや手折れそうなほど儚い腰の線は明らかに少女から女に変わりつつあり、何となく落ちつかない気分になる。
 けれど夕焼けに溶けていきそうな横顔が、俺の姿を認めた途端いつかみたいな笑みを浮かべていた。
「修」
 いつも通りのほとりの声に、俺は少しだけほっとした。
「何、待っててくれたのか」
「ん、あたしも丁度終わったトコだし」
 校門まで走ると少し速度を落とす。
 ほとりはごく自然に左の少しだけ後ろからついてくる、いつものポジションに。
「生徒会?」
「ん、この時期だからさ、それなりに忙しいんだ」
 人に頼まれると断れない難儀な性分が災いしてか、ほとりは生徒会副会長なんてやっている。
 気風はいいし頭の回転も早い、口は親父さん譲りで少し悪いかもしれないが、面倒見も良い。なかなか上手くやっていると俺は思う。
「で、郷文研は……聞くまでもないか」
「まあね」
「もう……」
 ほとりの声音が変わる。振り向くと、ほとりが唇をきゅっとひきしめている。
「でも、正直郷文研って、生徒会じゃ評判悪いよ。気をつけないと」
「先生受けは、いいんだけどな」
 大体、生徒会の評判が悪いんじゃなくて、生徒会長に俺が嫌われているだけだ。
「……ごめんね」
「何の謝罪さ」
 ほとりが謝る必要なんかないのだが。単にどうも生徒会長はほとりがお気に入りらしく、俺が目障りなのだろう。
 とはいえ、そんなことはほとり本人にはさして関係のないことなんだから。
 いつも勝気なほとりがしおれさせるのが何だか嫌で、俺は気が付いてないふりをしてみせる。
620ほとり歳時記:2011/03/26(土) 00:00:57.62 ID:WrfBOEA8
「それよか兄貴達の結婚式だよ、もうニヶ月ないんだよなあ」
「ん、結婚……結婚か。多分そうなるんだろうとは思ってたケド」
「実際そうなると、何だか変な気分だよな」
「同感。でも、六月がいい。なんてお姉ちゃんちょっとロマンチックぶりっこすぎ」
「ジューンブライドかあ」
 本音の所じゃほとりが羨ましがっているのは分かっている。今のはただの照れ隠しだ。
「日本じゃ梅雨だから、ハレの結婚式には向いてないんだケドな」
「だから春のうちにやればよかったのよ」
 拗ねたような声だが、ほとりは今からどんな格好で式に出ようか楽しみらしい。ちらりと横目に見れば、頬が緩んでいる。
 もうしばらくすれば、神流智《さとし》と州崎かがりの結婚式。それはつまり、俺達の兄貴と姉さんが結婚するということだ。
「ねえ修……」
「あん?」
 家に着く少し前、意を決したような瞳でほとりが俺を呼び止めた。
「修の初恋の人って、あたしのお姉ちゃんでしょ」
「……はあ?」
「だから、その―――落ち込んでないかなって思ってさ」
 下らないことを憶えていたものだ。
「落ち込むわけないだろ」
「でも……」
「ほとりがウチの親父が好きだったのと同じみたいなもんさ」
「アレはアレで、あたしなりに真剣だったんだけど」
「そんなの俺も同じ。でも、まあ……子供の頃の想い出って奴だよ。それもあんまりほじくり返されたくない手合いの」
 笑ってみせると、おずおずとほとりも笑い返してくれて。
 俺は今日はやたら神妙なほとりに少しだけ苦笑する。
 いいからさっさと家に入れ、と手で追い立てると、ほとりは唇を尖らせてから
「また明日」
 と、ハデに音を立ててドアを閉めた。
 それを見送ってから、俺もドアを開ける。
 確かにかがりさんは俺の初恋の人だったけれど……同時に、ほとりもそうだったのだが、それは気付かれていないようだ。
 俺は何だかむず痒い気がしてきて、乱暴に靴を脱ぎ散らかした。
 じきに梅雨が来る。
 紫陽花の紫色と、静かな雨音と、新しい門出の二人の、六月が。

   ◇

 お姉ちゃん相手に勝てるはずがない、あたしなんかに。
621ほとり歳時記:2011/03/26(土) 00:03:16.78 ID:htYwvR3R
 かがりさんの晴れ女が兄貴の雨男よりも勝っていたらしい。
 梅雨前線を物ともしない見事な快晴の空の下で二人の結婚式は無事終わった。
 かがりさんからのブーケトスを受けたったほとりは目を白黒させていて、自分の姉からの意味深な目配せに気付いたのだろうか。
 多分かがりさんは妹にブーケを渡したかったのだろう。他の女の人には断っていたのかもしれない、妹に譲ってあげて、とでも。
 兄貴も何がしかの視線を俺に送っていたが、鼻で笑って返しておいた。
 翌日からは梅雨らしくしとしとと降り続け、我が校が誇る紫陽花の花壇は見事な咲き振りを今年も見せていた。
「おい神流、卒業生名簿ってこっちにきてないか」
 むすっとした顔でひょっこり現れたのは、変人のあだ名を俺と二分している文芸部の部長だった。
 文芸部という名の書庫のお留守番係りにして唯一の部員、まるで俺のような男だ。
 弱小部活同士の変な連帯感の為か、代々郷文研と文芸部は横の繋がりがあったりする。
 多分この男は何代か前の先輩が受け取った資料の山を探せと言ってきているのだろう。
 文芸部に管理権委譲の名の下に押し付けられた本の山をざっと眺めてみるが、そんなものはない。
「ないな。それより面白いことになってるじゃないか」
 文芸部部長は見るからに渋い顔になる。
「冗談じゃない、代わってもらえるならいくらでもだ」
「それこそ冗談じゃない。ここにまで声が聞こえてくるぞ、書庫から」
 何の縁があったのやら、資料庫とは逆の端にある書庫は今年に入ってから人が増えた。
 なんでも、恋愛相談を受け付けているそうだ。
「で、俺も聞いてもらえるのか? 恋愛相談」
「あるんならな。その代わり解決方法は保障しないぞ」
 文芸部部長は呆れたような顔でため息をついた。
「それより名簿だ、図書室に行くのは面倒だな」
「……なんで名簿なんて要るんだよ」
「紫陽花の話、聞いたことあるだろ」
「まあな」
 あの紫陽花の花壇には変なジンクスがあるらしかった。
 告白すれば成就するトカ永遠の愛を保障されるトカの、アレだ。
「アレの噂の出所を調べることになった。とりあえず紫陽花が植えられた十六年前辺りの人に話を聞こうと思って」
「そりゃまた、ご愁傷様」
「……そう思うんなら手伝え、こういうフィールドワークは本来郷文研の専門分野だろうが」
「噂の調査がフィールドワークに入るかどうかは微妙だな」
「ジンクスでも伝説でも何でも良い、俺には重荷だよ」
「ならお前あの娘に助けを求めたらいいんじゃないのか、ほら」
「こんな下らんこと、どう言えばいいのか分からん」
 俺達が良く似ているのは立場だけではないらしく、この男にも幼なじみがいる。
 ほとり程ではないにしろ、それなりに可愛い子だったように思う。
 どうも中学時代に一悶着あったせいで微妙な関係らしいが、仲自体は悪くないから、どうにもむず痒い付き合いが続いている。
 俺が言うのもアレではあるが。
 もう一度探したが名簿はなかった。ない袖はふれない。
 ぶつぶつと不満げな文芸部を追い払って、俺も資料庫を出た。
622ほとり歳時記:2011/03/26(土) 00:05:23.42 ID:WrfBOEA8
 昇降口でほとりと鉢合わせた。
「今?」
「ああ、そっちもか」
「ん、帰るんでしょ?」
「一緒に帰るか?」
「うん!」
 何が楽しいのやら、花が綻ぶように笑顔になったほとりは、傘立てに駆け寄る。
「どれー?」
「そこの安物、ビニールの」
 そこら辺のコンビニで幾らでも売っているビニール傘だ。
「はい」
 上機嫌のほとりは俺の傘を差し出し、昇降口へ。
 遊んで欲しくて仕方のない子犬か何かのように、雨を前にうずうずと待っている。
 靴に履き替えて出ていけば、本当に待ちきれなかったのだろう、ほとりは自分の傘を開いて飛び出していく。
 薄霧に煙る校庭に、ほとりの淡桃色の傘が咲いている。
「買ったのか」
「うん、昨日ね。前のがダメになっちゃったから」
 それで見せびらかしたかったのか。
「どう、どうよ」
 得意そうに傘を回して、踊るような足取りで水溜りを踏んでいく。
「淡い色、好きな」
「ん、柔らかい感じがいいでしょ。それよか、もっともっと」
 早く褒めろと頬を桜色に上気させている。早く褒めないと先に進めそうもない。
「似合ってる似合ってる。可愛い」
「心がこもってないなあ」
 ほとりは不機嫌そうに唇を尖らせるが、照れくさくて何て言えばいいのか分からない。
 静かに耳を過ぎる柔らかな雨音をなびかせて、ほとりがくるくると回っている。
 艶やかな黒絹糸の長い髪が。
 ほっそりとした白い腕が。
 黒真珠をはめたような大きな瞳が。
 ガラス細工めいたおとがいから首の甘やかな線が。
 愛らしく整った小さな耳が。
 まだ少女のあどけなさを残しながら、それでも穏やかに起伏する胸の女らしいふくらみが。
 抱きしめれば折れてしまいそうな程儚い腰が。
 律儀に校則通りの長さのプリーツスカートから伸びる小鹿のように躍動する足が。
 そのどれもが生きている喜びに満ち溢れた、一幅の美しい絵画のよう。
 雨音を従えて、瞳を興奮に輝かせて、この梅雨空をも楽しんで。
 ほとりが雨の中を歩いていく。

   ◇

 照れ隠しに言う適当な褒め言葉に、あたしの心はそれでも舞い上がった。
623ほとり歳時記:2011/03/26(土) 00:08:08.93 ID:WrfBOEA8
今回ここまで。

思いの外長くなった。申し訳ない。多分全四話。
その手のシーンは多分最後のお話になりそう。

NTRとか陵辱とか人を選ぶシチュはないよ。
624名無しさん@ピンキー:2011/03/26(土) 00:15:36.65 ID:yf5MtRj2
素晴らしい雰囲気
気長に待ちますわ
625名無しさん@ピンキー:2011/03/26(土) 01:29:25.74 ID:PdFaSRXj
書き方工夫されてるなぁ・・・

修かわいいな。修。
あ、性的な意味はないぞ
626名無しさん@ピンキー:2011/03/26(土) 18:54:26.08 ID:n91qMDMm
これはいい
627名無しさん@ピンキー:2011/03/28(月) 20:01:23.06 ID:LhyX3YRK
投下したいケド、容量がアレだ。
次スレの方がいいんだろうか。
628名無しさん@ピンキー:2011/03/28(月) 21:17:43.39 ID:7kiyDjuQ
次スレ立てときました
【友達≦】幼馴染み萌えスレ22章【<恋人】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1301314289/
629ほとり歳時記:2011/03/28(月) 22:11:38.76 ID:F2MsaiLf
1,5.銀のスプーンで

 いつだったかヨーロッパでは赤ちゃんに銀のスプーンを贈るのだと教えてくれたのはやはり修だった。
 いつものぼんやりした顔で小難しい話や薀蓄を教えてくれるのが、あたしは結構好きだった。

 いつもの帰り道で、ちょうど産婦人科から退院する新米お父さんとお母さんに出会った。
 お母さんに宝物みたいに抱かれた赤ちゃんはすやすや眠っていて、あたしはあまりの可愛さに思わず大きな声を出してしまった。
「ほとり、うるさい。赤ちゃん起きるだろうが」
「でもでも、ほら修、めちゃくちゃ可愛いよぉ」
 ぷくぷくのほっぺたをリンゴみたいに染めて、赤ちゃんは安心しきったように眠っていた。
 突然叫ぶあたしに嫌な顔一つせずそのお母さんはにっこり笑って
「少し、だっこしてみますか?」
 と言ってくれた。
「い、いいんですかッ」
「おいほとり、遠慮しとけよ」
 修は呆れたようにあたしを諌めようとするケド、目を覚ました赤ちゃんはとても可愛く笑ってあたしを見てくれて、とても我慢できなかった。
 思わずお預かりした赤ちゃんは、すっぽりと腕に収まってあたしに寄り添ってくれるみたいだった。
 心の奥の柔らかな所を鷲掴みにされたみたいだった。
「ほら、ほら、ほら!」
「はいはい」
「どうしよう、可愛くてあたし死にそう」
 修は呆れ半分に、でもとても優しくあたしと赤ちゃんを見てくれた。ほんの少しだけ困ったような、けれどとても優しい目をしていた。あたしの大好きな目だった。
 あたしの髪を握った赤ちゃんの手のひらはぷくぷくと福々しいくて、一つ一つの行動がとろけそうなほど可愛くて仕方ない。
 名残惜しいけれど、背中をつつく修に急き立てられて赤ちゃんをお母さんに返して
「ありがとうございました」
 と頭を下げる。
「あなたも、早く大人になってお母さんになれるといいね」
 赤ちゃんを大事にだっこしたお母さんは、あたしと修を交互に見てから笑っていた。
 修はお父さんの方に何か耳打ちされて、答えあぐねてあやふやに笑っていたケド。

「ほとり、お前何やってんだよ」
「んー、ほら」
 いつまでも赤ちゃんをだっこするみたいな格好をしているあたしに、修は怪訝そうに尋ねる。
「赤ちゃんの匂い、まだするよ」
「……そっか」
「ところで修、あのお父さんから何言われたの?」
「大したことじゃないよ、さっきほとりがお母さんの方に言われてたことと同じ」
「そっか」
 赤ちゃんをあやすみたいに体を揺らしていると、修があたしの頭を撫でてくれた。
 それは、言葉につまった修の癖。あたしが大好きな癖だった。
630ほとり歳時記:2011/03/28(月) 22:13:48.27 ID:F2MsaiLf
うめついでに小ネタ投下でした。
631名無しさん@ピンキー:2011/03/29(火) 07:56:20.71 ID:aoBTTmfV
My氏まだぁ!?
野球少年のSSまだぁ!?
632思い出:2011/03/30(水) 18:53:00.73 ID:LIXBcCJu
 親戚で幼馴染み。田舎では良くあるカテゴリで育った私達は一緒に近所のお寺を走り回り、例に漏れず思春期手前には顔を合わせなくなり、別々の高校へ進学してからは家族の話題に昇る事も無くなった。
「信(しん)君、覚えてる?」
 お母さん、さすがに幼馴染みの名前くらい覚えてるよ。
「東京行くんですって、長男なのに、あの両親も・・・」
 ぺちゃくちゃとお喋りを続けるお母さんから、久しぶりに聞いた名前はもう、上手く顔が思い出せない。

 大学を卒業して教師になった私は、何となく故郷を離れられず一人暮らしをしながらも、週末には良く両親の顔を見に行っている。半同棲している彼氏はまだまだ甘えん坊だと笑うけど・・・。
「陽子ちゃん結婚だってさ。本当に年月は早いな〜」
 陽子・・・信くんのお姉さんか、歳が一回り離れてるから全然知らないけど。
「東京でやるの?確か上京してたよね」
 私の何て事無い質問にお父さんは細かく答えてくれる。
「何でも旦那さんが、良くこっち来るみたいでよ?んでその両親は蕎麦が大好物って話で・・・」
 だからこっちで結婚式か。
「信も来るらしいぞ?勘当していたらしいが・・・」
 この界隈じゃ有名な話。勝手に仕事を辞めた信くんを、彼のお父さんは許せなかったらしい。


「お父さんも行くの?」
「ああ、呼ばれてるし美味いご飯食べれるからな」
「ふうん・・・」
 結婚かぁ、何でこの言葉はあまり知らない人の事でも、少し幸せな気持ちになるのだろう。
「何だ、真奈も行くか?」
「行かない行かない、陽子さんって面識無いもの」
「久しぶりに信と話たら良いじゃないか」
 信くんか・・・。もう知らない人だよお父さん。
「ううん。明日買い物あるからさ?よろしく言っといてよ」
「そうか?まぁ恥ずかしいか!」
「飲み過ぎだよお父さん!」
633思い出:2011/03/30(水) 18:53:57.08 ID:LIXBcCJu
 シャワーを浴び終ると皆寝ていて、この田舎から家族の喧騒が無くなると本当に静かになる。確か結婚式は明日だから、もう信くんは来てるのかな?
 此処から10メートルも無い、あの家に。
 携帯を開くと無意識にさ行を選択。
 久しぶりと短い言葉。
 でも、このアドレスは中学時代に交換した古い古い繋がり。
 案の定、送信したメールは機械的な文面で、もうその人が過去の人である事を伝えるため返って来た。
「何してんだろ、私」
 
 溜息を吐き、携帯を閉じると見計らった様に彼氏からのメール。この時間は仕事だし、そもそもあまりメールを得意としない人だったのに。
「珍しい」
 付き合ったばかりの懐かしく喜びを感じながらキイを押すと、まるで別人の様なテンションで、一日あった事を楽しそうに、その時間が特別だった事がきちんと伝わる様にチョイスされた言葉の羅列があった。私じゃない誰かに向けられた、キラキラとした言葉の羅列が。
「馬鹿なんだから・・・気付かないフリ、してたのに」
 楽しかったのは判るけど、相手はキチンと確認しようね?
 素早く打ち込み、送信を確認したらさっさと電源は切ってしまう。
 荷物片してね?って打ち忘れ、まいっかと惨劇の舞台をソファーへ投げ捨てる。
 家族は未だ知らないので、そっとバッグから煙草を取り出した。外で吸うのは絶対寒いけど、コートは二階の自室にあるので、一瞬考えてから結局諦め、素足にサンダルを突っ掛ける。
「さっむい・・・」

 市街地にアパートを借りていた私には、県内なのに随分気温が違って思える。内から来る震えを噛み殺しながら煙草に火を点けると、何処かから違う煙草の匂いがした。ああ、きっと私みたいにしょうもない気付かいをしているのだろう。「ふふ」
 街明かりの届かない空は、うんと綺麗な星が見れる。この事を教えてくれたのは誰だったか思い出せないけど、今はありがとうと言っておく。
「あっ」
 私はどうやら、泣いていたらしい。
634名無しさん@ピンキー:2011/03/30(水) 18:54:21.97 ID:LIXBcCJu
埋めにでも
次ラストだす
635名無しさん@ピンキー:2011/04/01(金) 21:35:09.55 ID:qcpJsDcJ
ラスト期待うめ
636エイプリルフール・小ネタ:2011/04/01(金) 23:55:41.68 ID:8GPNj5mn
 今日はエイプリルフールらしい。
 ウソをついてもいい日らしい。
 ならば隣に住んでいる幼馴染みにちょっとウソをついてみるか。
「好きだ」
 相手の家を訪ねて、告白をしてみた。
 まわりくどいのは苦手なのでストレートにぶつける。
 すると幼馴染みはぎょっとして、食い入るように見つめてきた。
 場所は通い慣れた幼馴染みの部屋。お互いの距離は、座卓を挟んでいるものの2メートルもない。
 眼鏡の奥に覗ける目は、俺の体を縛り付けるように鋭い。
 大きめの黒い瞳に、少し気圧される。
 ううむ、さすがに芸がなかったか?
 動揺を隠しながら真剣な(作り)顔で見つめ返すと、幼馴染みはなぜか顔を伏せた。
 あれ。いつもなら冷たい目で「何馬鹿なこと言ってるの」と無残に切って捨てるところなのに。
 この反応は予想外だ。
 幼馴染みはうつむきながら、あ、とか、う、とか意味をなさない声を洩らす。
 そして不意に顔を上げると、俺の作り顔よりもはるかに真剣な表情になって、こちらをきっと見据えた。
 な、なんだ。ちょっと怖いぞ。
 殴られるんじゃないだろうかと内心びくついていると、彼女が口を開いた。
「わ、私も好き……」
 真っ赤な顔で。でも真面目な顔で。
 真正面から、真っ直ぐな言葉を受けて、頭が真っ白になった。
 え、あ、う、
 その、ええと。
「……それ、本当?」
 動揺のあまり、間抜けな問いかけをしてしまった。
 幼馴染みは少し目つきを強めた。
「ウソだと思ってるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
 あれ、なんで俺が慌てているんだ?
 たじろいでいる場合ではない。きちんと答えなければ。
「あのさ、つまり俺たち……」
「うん……両想いだね」
「……」
「……」
「……付き合ってくれ」
「……うん」
 幼馴染みはおもむろに立ち上がると、俺の隣に移動してちょこんと腰を下ろした。
 ストレートの黒髪がふわりと浮いた。
 肩が触れ合う。
 うわ、なんかいい匂いする。しかも温かい。
 俺は幼馴染みの肩を抱き寄せると、その髪に顔をうずめた。
 くすぐったそうに、彼女が身じろぐ。
 唇を彼女のそれに寄せると、温かい吐息が端をかすめた。
 愛しさが胸を締め付けて苦しく、俺は恋人と優しいキスを交わした。



 ん? お前の告白はウソじゃなかったのかって?
 何言ってるんだ。今日はエイプリルフールだろ?
 そういう風に騙されてくれると、ウソをつく甲斐があるってものだ。
637名無しさん@ピンキー
うひgj