【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part23【改蔵】
1 :
名無しさん@ピンキー:
乙です
おつ
人いないね
落ちそうで怖い
何か一気に人が減ったなぁ
7 :
20-32:2009/11/16(月) 18:14:40 ID:F0inBc1N
スレ立て乙です!
266さんのSS(前スレ
>>359-369)パロの第二段投下します。(一応前スレ
>>486〜の続きですがこちらだけでも読めます)
・望×まとい
・エロあり
ちょっと長さがあるので4つに分けます。
望が千里に夫婦の営みを求めた翌日の放課後。
千里の呼びかけによって、2のへの教室で望には秘密の集会が行われた。
たっぷりの間の後に切り出された千里の報告に、少女達はそれぞれ複雑な思いを胸に抱いた。
千里としては、話す途中で表現に困る部分が多々あったが、
一緒に生活している他の少女に隠しておくわけにもいかなかった。
今回の報告で一番胸が焼け焦げるような思いをしたのは、まといだった。
望が布団から出て行ったことに気付かなかった。
昨日の夜だって、自分は望にぴたりとくっついて眠りに落ちたはずなのに。
女性が必要な夜だったのなら、何故真っ先に自分を求めてくれなかったのか。
嫉妬心を燃やしている場合ではないと頭では理解していても、感情は曲げられない
。
互いにライバルだと認識しあっていたはずの霧を見るが、しおらしい様子で俯いている。
普段のあざとさは何処へやら、張り合いの無い霧の様子に、まといは深く溜息を零した。
深夜、望の腰元を探る手があった。
ぴったり隙間無く密着する体から伸びるのは、まといの腕だ。
望は落ちかけていた意識を浮上させられくらりとした。
「ん……まとい?眠れませんか?」
「先生、体の方も大分回復したみたいですし、久しぶりに…しませんか?」
「また、“先生”呼びですか?」
「ふふ、結婚前みたいで良いじゃないですか。マンネリ解消ですよ」
「それでは、私は常月さんと呼んだ方が良いでしょうかね」
常月さん。久しぶりに呼ばれる苗字に、まといの目尻が僅かに潤む。
暗がりの中に光るものを見つけた望は、少し焦って目の端を優しく親指で拭った。
「どうしたんですか?何か悲しい事でも?」
「いえ、違うんです。はじめて先生を好きになった頃を思い出しただけです」
体勢を変えて向き直ると、望はまといの背中に腕を回した。
背筋に沿い、幾度か撫でてから浴衣の帯紐を解く。
前の合わせを左右に開き、露になった外向きの膨らみを下から押し上げるように揉み始める。
ゆっくりと、温もりと柔らかさを味わうように緩慢な動作を繰り返すと、
まといの唇は薄く開いて吐息が熱くなり、表情は恍惚とした。
熱に浮かされて、とろりと緩んだ目元を見下ろしながら、
望は悪戯をするように臍の周りを撫でる。
「や…くすぐったいです……」
「気持ちよくなってくると、こんなところでも感じちゃうんですか?」
「ぁ…っ」
望の言った通り、まといの体は背を撫でても、滑らかな腿を撫でてもぴくんと反応した。
足の間に指を這わせ下着の上から触れると、
一番大切な部分を被っている一箇所に細長く染みが出来ているのが分かった。
「常月さんは感じやすいんですね…とても、色っぽいです…」
「だって、先生だから…っ…あぁっ」
ぷくりと膨らんだ芽を擦られ、まといは小さく声を上げてしまう。すぐに口元を手で覆った。
望はずっと、内緒話をするように声のボリュームを落として話している。
自分が声を上げたら気にしてしまうだろう。
しかし、本当はきっと必要ない。
放課後にあんな話を聞かされた後では全員が眠れずにいるに違いない。
ほんの10分前まで、自分の布団に望が来るかもしれないと期待と不安を混じらせていた筈だ。
望は、下着の隙間に手を入れて直に割れ目をなぞりながらまといの体を仰向けにさせ、身を重ねる。
表情にも快感を露にしてしまっているまといは、腕を上げて目元を隠した。
望に見られているのが嬉しい。そんな自分が恥ずかしい。
袖を外していない浴衣が肩で引っ掛かり、白い腋が晒される。
同時に、薄く色付いた乳輪の真ん中にある乳首がつんと真上を向いた。
「こっちもして欲しいんですね?良いですよ」
望はふふっと笑みを浮かべ、まといの豊かな膨らみに顔を埋める。
10代の滑らかな肌を存分に食み、吸って揉みしだいた。
刺激を待ち侘びるように立っている乳首を舌で舐め上げると、
まといの腰が揺れ、艶のある声が零れた。
「はっ…ぁあ…ん、せんせい…気持ち良いですっ…んん…」
「それじゃあ、これはどうですか?」
ちゅ、と幼子のように吸い付きながら、舌でぐるりと突起の周囲を舐め、押し潰した。
まといは下着の染みを更に濃くし、望からの愛撫にびくびくと身を震わせる。
望はいそいそと帯を解き腿の間に身を置くと、下着を大きくずらし、
ぬるりと潤んだ箇所に熱い絶棒を押し当てた。
「あっ、せんせ…」
「常月さん……、…ッ…」
「ゃ、…ぁっ…ぁあ…!」
望が少し力を加えるだけで、柔らかい奥へと絶棒が飲み込まれ、内壁と入口とで締め付けられる。
挿入の一瞬だけ背が寒くなるが、体はすぐに熱くなる。
一つ呼吸を置くと、腰を引いて中をゆっくり往復しはじめる。
動きを止めずに耳に口付けると、香るのは同じシャンプーの匂いだ。
「っ…常月さん、大丈夫ですか?」
「ん…ぁあッ、…はい、せんせい、っ…」
短くカットされた前髪から覗く額にもキスをすると、
望は少し上体を起こしてまといの両足を抱え上げた。
挿入の角度が変わるが、まといは多少眉を寄せただけで従順に受け入れる。
「先生っ……ああ、っ…ぁ、気持ちいい、です…」
「良かった、…私も、とても気持ちが良いですよ…」
「ひあっ、ぁああっ…恥ずかしい…!」
まといの内腿を撫で、左右に大きく開かせる。
薄闇に目が慣れ、恥ずかしがるまといの姿をじっと見下ろす。
自然と律動が速まっていく。
「あぁっ……ぁ、ぁあんっ、先生、だめ…っ…!!」
「はぁ、常月さん…っ、分かりました、ここもですね」
「えっ…先生――…!?ぁ、ふぁ…ッあ、ああぁッ!!」
激しく内壁を擦り上げながら下の茂みに指を乗せ、愛しげに撫でてから
しばらく触れていなかった割れ目の内側、赤く熟れたクリトリスを上下に擦る。
途端に、まといの体がびくりと跳ねる。
大きな収縮により自分自身が締め付けられ、望は僅かに表情を顰めた。
「先に、達してしまったんですか…?私はもう少し…こうしていたいですよ、まとい」
「ん…はい、先生、…望さん、どうぞ…いくらでも」
望が一度性器を抜き去った意味を理解したまといは、酔ったように蕩けた笑みを浮かべた。
四つん這いに体勢を変え、落ちてきた浴衣を捲り上げて望の方へ尻を高く上げる。
突き出すと、つい先ほどまで男性器を咥え込んでいた濡れた入口も後ろから丸見えになった。
従順な自分の姿に、まといは錯覚を起こしてしまいそうだった。
記憶を違えているのは望ではなく、実は自分達の方ではないのか。
望の事故の前にも、自分はこうして望に愛されていたのではないかと。
そう思ってしまいそうになるくらい、望の体は自分にしっくりと馴染んだ。
望は、まといの肉厚な尻を鷲掴みに揉みながらその少し下へ、腰を押し付けていく。
濡れそぼったそこは、余りの潤いに絶棒をにゅるりと入口より下へ滑らせてしまう。
「はっ…ぁ、はぅ……っ」
「常月さん、駄目ですよ…?クリトリスが気持ちいいのは分かりますが、ちゃんと先生のを受け入れてくれないと」
「やっ、ぁあ…はい、もちろんです…先生っ…」
まといは背中をしならせて望自身に入口を押し付ける。
ようやく、まだ硬いままのものがまといの体内へと収まった。
中が狭く感じられる体位に、望は肌を粟立たせた。
膝立ちの状態で、尻に手を添えたまま腰を揺らす。
激しくすると、肌と肌がぶつかる音が室内に響いた。
もう、周りに気を配ろうという余裕も無い。
快感を求める事だけに意識が集中していた。
「ああっ、先生…はげしい、です…!!ぁっ、ぅ…んんっ…!」
「はぁ、はぁっ……常月さん…っ、ぅ」
まといも自分から腰を揺らして望を深く求める。
望が息を詰める音がはっきりと響いた。
その直後、収まっていたものが引き抜かれ、まといの背に熱い迸りが散った。
お互いに体を拭い衣服を整えると、まといの体を望の腕が包み込む。
正面から抱き枕のようにされて、自分の中に満ちていく違和感に、
まといは、やはり錯覚は錯覚なのだと意識する。
いたんですか。
ええ、ずっと。
再び、この掛け合いをするまでは、この生活に終わりは来ない。
12 :
20-32:2009/11/16(月) 18:26:45 ID:F0inBc1N
以上でおしまいです!
読んでくれた人ありがとう!
神!GJ!!
さっそくのまといGJ!他の奥さんも楽しみだ
>>6 今はどこもこんなんだ、仕方ない
そろそろ規制解除のはずなんだけどね。
GJ!
17 :
266:2009/11/20(金) 00:07:50 ID:ZUd/Ibpu
20-32さん、GJです。
嘘の上に成り立った生活の、張り詰めた空気が良い感じです。
規制解除されたので、私も投下してみます。
望カフで、第200回のときのキッス券をネタに書いてみました。
久々にエロっぽい事を書いてみたのですが、上手くいってるかどうか……。
ともかく、いってみます。
18 :
266:2009/11/20(金) 00:08:52 ID:ZUd/Ibpu
人は誰しも己の過去から逃げ出す事は出来ない。
時の彼方から己が身を縛り付けんと伸びてくる戒めの鎖の重さは、他の誰にも背負う事が出来ない。
それがどんなに辛く苦しいものだとしても、過去はその人物の現在を形作る要素として自身に組み込まれているのだから。
たとえ自身が忘却の彼方へ追いやった筈のものだとしても、それはいつか必ず己の前に舞い戻ってくる。
人にはいつか、積み重ねたその膨大な過去を清算しなければならない、そんな運命の時が訪れるのだ。
と、いうわけで………。
「ん〜〜………」
頬を染め、瞼を閉じ、恥じらいの表情を浮かべつつ唇を突き出す糸色望。
彼に対する周囲の反応は冷たかった。
「だから、僕は使いませんよ。この券」
言ったのは、古本屋で見つけた本に挟まっていた問題の品を見つけた人物。
久藤准、彼が見つけたのは糸色望が幼い頃につくったという『キッス券』。
一枚につき一人一回、この券を望に提示すると彼とキスができるという、いわゆる肩たたき券と同種の自分券である。
幼い頃の望は女の子と見紛うほどの容姿で、周囲の大人からも随分と可愛がられた。
恐らくそのとき、誰か大人の女性が言ったのだろう。
『望くんがキスしてくれると嬉しいわね』
それがきっかけになった。
小さな頃から寂しがり屋で周りの人間に構ってもらいたくてたまらなかった望に、その記憶は鮮烈に焼き付けられた。
『自分がキスをすると喜んでもらえる』
寂しがりやの小さな男の子には、それはこの上なく嬉しい出来事だった筈だ。
彼は早速、大量の色画用紙から数え切れないほど多くの枚数のソレを作り上げた。
そして、幼稚園の先生に、友達の女の子に、その他思いつく限りのありとあらゆる人物にそれをプレゼントした。
当時、可愛らしい子供だった望からの風変わりなプレゼントを多くの人が喜んでくれた。
そして、受け取った人間の何割かは実際にそれを使って、望とキスをした。
が、その程度で全てを消費し切るには、浮かれて舞い上がった望の作った券の枚数は膨大すぎた。
現在、未使用のまま残されているキッス券の枚数、およそ千枚以上!!
彼の妹である倫は刀を鞘から抜き放ちつつ、望に断言した。
糸色家の人間たるもの、課せられた義務は果たすべし!!
『ん〜〜………』
というわけで、望はいつでも受け入れオーケーな態勢でキッス券の使用者を待っている。
だが、現在の望は恐ろしく整った顔をした細面の美男子であったが、かつての小さな男の子ではない。
二十代も半ばのいい大人である。
そんな望が一人唇を突き出してる様はハッキリ言って異様だったし、軽々しくキスを求める人間はいなくて当然である。
だが、しかし………。
「先生のキッス券かぁ。なるほど、面白そうだな……』
キス待ち顔の望を物陰から見ながら、何かを企む少女が一人……。
ところが、この後、事態は彼女の予測を越えて、とんでもない方向に転がっていってしまうのだが……。
その後の一週間、望のキス受け入れモードは続いていた。
相変わらず、キッス券利用者はゼロ。
ただし、彼を慕う2のへの絶望少女達にとっては、これはまたとないチャンスだった。
何やら気配を感じて、薄く瞼を開けた望は自分の周囲の状況を目にして驚愕する。
ふと気がつくと、望は彼のキスを求めて唇を差し出す四人の少女達に囲まれていた。
(常月さん、小節さん、日塔さんに小森さんまで!!?な、な、何なんですかぁああああああっ!!?)
ついさっきまでキッス券の使用者を待っていたくせに、こうなってしまうともう完全に及び腰である。
どちらに進んでも四人の内誰かとキスせざるを得ない状況に望は頭を悩ませる。
そして……。
(なら、この隙間から……っ!!)
唯一脱出可能な隙間へと走っていった望の末路は悲惨なものだった。
ぶちゅうううううっ!!!
激突!!
最悪のタイミングで出くわした旧友・一旧さんと望は出会い頭に思いっきりキスをするハメになってしまった。
知らない仲じゃないだけに、余計にキツイ。
というわけで、キッス券の義務を果たそうとした望の行動は惨憺たる結果を生み出して終わる事となった。
(だいたい、キッス待ちで待機してた一週間の間に、実際に券を持って来た人なんていませんでしたし、とんだ骨折り損ですよ……)
まあ、20年近く前の自分券を今更使おうなんて人物、そうそういる筈がないのが当たり前なのだが……。
放課後、とぼとぼと学校の廊下を歩きながら、望は深くため息をついた。
19 :
266:2009/11/20(金) 00:09:31 ID:QZmIdVIN
と、そんな時である。
「先生っ!」
明るい少女の声に、望は俯いていた顔を上げた。
「風浦さんですか」
望の歩く廊下の先、曲がり角から顔を出して微笑む可符香に、望も笑顔で答えた。
だが、しかし、曲がり角の陰から全身を現した少女が持っていた物を見て、望は怪訝な表情を浮かべる。
「何ですか、その箱?」
可符香は小ぶりな段ボールの箱を両手で抱えていた。
「それはもちろん、『いいもの』ですよ、先生!」
「……?」
まるで訳がわからないといった表情を浮かべる望の懐に、可符香はすっと滑り込んだ。
そして……
「えいっ!」
「おわっ!!?」
望の不意を突くように、可符香は彼の唇に自分の唇を重ねた。
「な、な、な、いきなり何ですか!?風浦さん!!?」
突然のキスに、顔を真っ赤にしてドギマギとうろたえる望。
可符香はそんな望に、ひょいっと一枚の紙切れを手渡した。
「これ、まだ有効なんですよね?」
それは件のキッス券だった。
「え、ええ、それはもう…自分で義務を果たすって了解して始めた事ですし」
望と可符香が互いに恋人同士として付き合うようになって、既にそれなりの月日が経過していた。
出会った当初から変わらぬ可符香の行動に、望は振り回されるばかりだったが、それでもこの少女が傍にいてくれる事が望には嬉しかった。
例のキッス券を口実にした先ほどの口付けに、照れくささを感じつつも可符香の振る舞いを愛おしいものとして望は感じていた。
だが、しかし、ここで望はよくよく考えてみるべきだったのである。
「良かった……。倫ちゃんはああ言ってましたけど、やっぱり昔の話ですからね。
今日の一旧さんとのアレのせいで、先生、嫌になってるんじゃないかと思って……」
「あ、あの件については…その…あまり思い出させないでくださると、有難いです……」
旧友との正面衝突を思い出して青ざめる望に、可符香はにっこりと微笑んでこう続けた。
「とにかく、それなら残りのコレも全部有効って事ですよね?」
「へっ!?」
可符香の台詞の意味がわからず、ポカンとする望の前で彼女は抱えていた小さな段ボール箱の蓋を開けた。
そこにあったものは……
「ちょ…これ、一体どうやって……っ!!?」
「苦労しましたよ。蔵井沢の昔の先生の知り合いに連絡を取って、集められるだけ集めたんですけど……。
でも、未だにこれだけの数が残ってるって事は、なんだかんだでみんな先生から貰ったコレが嬉しかったんですね!」
目の前の少女の無邪気な笑顔が、人を惑わす小悪魔のソレに見えた。
段ボールの中身は言わずもがな、幼い望が配って配って配りまくった自分券、それがギッシリと詰まっている。
「先生のキッス券、全部で1235枚。遠慮なく使わせてもらいますね!!」
20 :
266:2009/11/20(金) 00:10:23 ID:QZmIdVIN
可符香が大量のキッス券を手に入れた事で、望の生活は大きく変わった。
「こ、ここでですか?」
「はい。何かいけませんか?」
学校の昼休み、袖を引っ張られてやって来た校舎の廊下の人通りの少ない一角で、望は可符香と向かい合う。
「それじゃあ、先生……」
そっと首下に腕を回し、望の目の前で可符香は瞳を閉じる。
望は覚悟を決め、彼女の唇に自分の唇を近づけていく。
「ん……っ」
「………ぷあっ…先生…」
唇を離した瞬間、こちらを見上げてくる可符香の潤んだ瞳に望の胸はドキリとしてしまう。
しかし、その直後
「これで、残り1199枚。やりましたね、先生!1200を切りましたよ!!」
なーんて事を言われるものだから、望はどっと脱力してしまう。
「それじゃあ、また次もお願いしますね」
「……はーい。わかってますよ、風浦さん……」
キスを終え、ひらひらと手を振りながら笑顔で駆けて行く可符香の姿を見送ってから、望は深くため息をついく。
「1199枚って、終わるのはいつですか?」
あの日、初めてのキッス券使用の後、戸惑う望に可符香はこう言った。
『私一人で独占するのも悪いから、2のへのみんなに配ってもいいんですよ?』
完全な脅迫である。
ただでさえ望を巡って熾烈な争いを繰り広げている絶望少女達がこれを手に入れれば、結果は火を見るより明らかだ。
恐らく望は少女達に揉みくちゃにされて、徹底的にボロボロにされてしまうだろう。
そんなこんなで、可符香の望むままに、望は彼女とのキスに応じるしかなくなってしまった。
だが、はっきり言って1000枚を越えるキッス券を消費し切る事にはどれだけの時間が必要になるのか、望には想像もつかない。
そして、何より困った問題が一つ……
(それなのに……何を嬉しくなっちゃってるんですか、私はっ!!)
完全に可符香に主導権を握られ、彼女がキッス券をちらつかせらば、たとえいつどんな場所でもそれに応じなければならない。
しかも可符香が指定してくるのは、どこかで誰かが見ていてもおかしくない、際どいシチュエーションばかり。
もちろん、彼女の事だから、その辺りの注意は十二分に払っているのだろうが、望はいつ誰かに見つかってしまうのかと不安でたまらない。
回数を重ねる毎に危険度を増していく可符香の要望に、望の精神は磨耗していくばかりである。
それだというのに、望は、キスを終えた後、可符香が見せる笑顔が眩しくて、嬉しくて、どうしても彼女に意見する事が出来ないのだ。
詭弁と演技を分厚く身にまとった彼女だけど、その時の笑顔だけは何の裏表もない本心からのもの。
ずっと可符香に接してきた望には、それがよくわかった。
彼女のあの笑顔を見たい。
そんな思いが、今の望を可符香に従わせている、大きな要因の一つになっているのは間違いなかった。
(はぁ……我が事ながら、こりゃあ、相当風浦さんにイカれちゃってるんですねぇ、今の私は……)
というわけで、望のキッス三昧の日々は今日も続いていく。
ある時は体育倉庫で……。
「今回はベタなシチュでいってみたんですけど、どうですか、先生?」
「外でバスケ部が練習してるじゃないですかっ!!」
またある時は夜の宿直室から呼び出されて……。
「なんか、最近小森さんの視線が痛いんですけど……こう立て続けに呼び出されると…」
「先生、一つ屋根の下で暮らしてるんだから、ちゃんとフォローしてあげなくちゃダメじゃないですか」
「ちょ…あなたがソレをいいますか!」
「まあまあ、それじゃあ今回もお願いしますね」
そしてまたある時は始業前の2のへの教室で
「ヤバイヤバイヤバイですよっ!!いつ誰がやって来てもおかしくないじゃないですか!!」
「言ってる間に千里ちゃんが校門くぐったみたいですね。…早くしないと……」
「ひぃっ!!やります!やりますからぁ……っ!!」
21 :
266:2009/11/20(金) 00:12:38 ID:QZmIdVIN
果たしてこんな事を何度繰り返しただろうか?
既に気が遠くなり始めている望だったが、キッス券の枚数は一向に減る様子がない。
「やりましたよ、先生。今ので残り枚数は1175枚!着実に減ってます!!」
「私にはぜんぜんそんな風には思えないんですが……」
「いやだなぁ。千里の道も一歩から、焦っても仕方ないですよ、先生」
券を使うタイミングや状況についての決定権は可符香が握っているので、望がいくら焦ろうと全ては彼女の気分次第。
可符香自身もそれをしっかり自覚していて、なるべく長くじっくりと楽しめるようペース配分をしているようだ。
まあ、一気に券を消費するためにキスを10連発・20連発するなんてのも想像するだけでゾッとしない話なのだが。
そんな風にして続いていた望のキッス地獄が大きな変化を見せる事になったのは、
ちょうど券の枚数が残り1100枚を切ろうとしたある日の出来事がきっかけだった。
「キッス券も残り1100枚、今日もお願いしますね、先生!」
「うう、まだしばらくは1000枚以下になりそうにないって事ですね……」
相も変わらぬ笑顔の可符香と、毎日が緊張の連続で少しやつれ気味の望。
その日、二人は放課後の2のへで向かい合っていた。
キッス券の残り枚数の事も望にとってはかなり憂鬱だったが、既に100回を越えるキスをしたのだという事実もかなり恥ずかしいものがあった。
「いやだなぁ、今更そんなの気にする仲じゃないじゃないですか」
「いかにも見つかりそうな際どい場所や時間帯ばかり指定されるから、余計に気になるんですよ!」
顔を真っ赤にした望と、クスクスと笑う可符香。
おそらくは、望がこうして恥ずかしがる姿を見る事も、可符香にとってはお楽しみの内なのだ。
果たしてこんな日々がいつまで続くのか望には見当もつかなかったが、今は彼女に従い続ける以外の選択肢はない。
「しかし、今日は何だかいつもより随分と普通な指定ですね」
「えへへ、たまにはこういうのストレートなのも良いかと思って……」
夕陽の差し込む、誰もいない教室。
茜色に染まった彼女の姿が何故だか眩しくて、望は少し目を細めた。
(ああ、きれいだな……)
胸の内で、望はしみじみと思った。
今、夕暮れの色に染まったこの教室の中に立つ少女の姿は、ただ美しかった。
望は今自分がここにいる理由さえ忘れて、何もかもが赤く染まった空間の中、キラキラと輝く少女の姿に見入る。
「先生、どうしたんですか、そんなボンヤリして?あんまり見られると、ちょっと恥ずかしいですよ?」
「あっ、すいません…少しボンヤリしていたようです。……ていうか、見られて恥ずかしいとか、それこそ今更でしょう、風浦さん」
「それとこれとは別なんですよ、先生」
可符香の言葉で我に返った望は、恥ずかしさを誤魔化すように可符香に対して言い返す。
だから、望は気付いていなかった。
望の視線に気付いてから、僅かに数瞬、可符香もまた同じように、ぽーっとした表情で彼を見つめていた事に。
「それじゃあ先生、お願いしますね」
それから、いつも通りに可符香が取り出したキッス券を受け取り、望は彼女の間近に歩み寄った。
何度繰り返しても、この瞬間の気恥ずかしさには慣れる事がない。
だが、今日に限ってはついさっきまでの、可符香を見つめていたときの形容し難い感情が望の心を包み込んでいた。
伸ばした手の平で、そっと彼女の頬に触れる。
「あ………」
ふっと漏れ出た可符香の小さな声。
それがさらに望の心を掻き立てた。
22 :
266:2009/11/20(金) 00:13:30 ID:QZmIdVIN
胸に湧き上がる強い気持ちをあえて言葉で表現するのならば、己が身を焼き尽くすほど激しく、そして危ういほどに純粋な彼女への愛情。
そのまま思い切り可符香の背中をかき抱き、彼女と額をくっつけ合った状態で望は囁いた。
「いいですか、風浦さん?」
「あ、は…はい……」
望の突然の抱擁に呆然としていた可符香には、それだけ答えるのが精一杯だった。
なぜなら彼女もまた、望を動かしていたのと同じ感情に、いつの間にか巻き込まれてしまっていたのだから。
言葉の代わりに、可符香は望の背中をぎゅっと抱きしめて、その想いを伝える。
やがて、ゆっくりと近付いていった二人の唇が、そっと重ね合わせられた。
「せんせ……んっ…」
いつもとは比較にならない、熱く激しいキスが可符香と望の理性を溶かしていった。
どちらともなく突き出した舌先が触れ合う。
数度の接触の後、求め合うように二人の舌は絡み合い、時の経つのも忘れて互いの唇を味わう。
元々、この話を可符香が持ち出したときから、こうなる事は決まっていたのかもしれない。
キッス券なんて言い訳を間に挟んだ事が逆に望と可符香の熱情をここまで加速させてしまった。
肺の中の酸素が残り僅かとなり、限界ギリギリにまで達したところで、二人はようやく唇を話した。
荒く息を切らせながら、可符香と望は熱っぽい視線を交し合う。
「お、思ったより大胆なんですね……先生…」
「あ、うぅ……す、すみません、風浦さん……」
今更になって縮こまる望に、可符香も照れくさそうに微笑みかける。
いつの間にやら夕陽はほとんど沈みかけて、教室は薄闇に染まっていく。
二人は寄り添い合ったまま、しばしの間、言葉も無く窓の外の藍色の空を眺めていたが……
「あの、先生……」
不意に可符香が、望に話しかけた。
「何ですか、風浦さん?」
「今日は、もうちょっとだけお願いしても…かまいませんか?」
三枚のキッス券を持って、恥ずかしげな表情を浮かべた可符香が小さな声でそう言った。
「風浦…さん……」
もはや、望の側に可符香の要望を拒む理由などなく………。
その日を境に可符香のキッス券消費量は増えた。
元々、キッス券の使用で望を振り回し、彼を困らせたのは、複雑な性格を持つ可符香流の照れ隠しの部分が大きかった。
当の望にしたところで、可符香に呼び出されて行うキスの時間を、表面上はどうあれ、まんざらでもないと思っていた。
だが、お互いが夢中になって交わしたあの一回のキスの為にそのバランスは一気に崩れてしまった。
「んぁ…あ……せんせ……まだ、もう二回……」
「ええ、わかってますから……さあ、風浦さん……」
二人が会う頻度、時間の長さはそれまでとほとんど変わらない。
変わったのは、その僅かな時間に交わされるキスの、行き交う感情の圧倒的な密度と濃度。
坂道を転がり落ちるように、底なしの沼に溺れるように、望と可符香はお互いを求めて逢瀬を重ねた。
その中で、可符香の照れ隠しと悪戯の道具であったキッス券は、二人の熱情を高めるためのスパイスへと役割を変えた。
……まあ、それでもキッス券は全然減ってくれなかったんだけれど……
「おかしいですよね、先生。私たち、毎回あんなにキスしてるのに……」
「あの、それは、だって、風浦さん……」
「…?どうかしたんですか、先生?」
「だって、あれ以来、私たちのキス……一回あたりが物凄く長くなってるじゃないですか……」
真っ赤になって答えた望に、可符香も頬を染めて俯く。
確かにキッス券の消費量は増えた。
およそ3倍から5倍ほどの飛躍的増加である。
が、元から二人は一回会う毎に一枚しか券を使っていなかったのだ。
一枚だったものが、三枚や五枚に増えたところで、
1000枚の大台はなかなか突破できるものではない。
というわけで、二人のキッス三昧の日々はもうしばらく続く、その筈だった。
キッス券にうんざりしたような顔を見せながらも、正直なところ、この頃にはすっかり可符香と過ごす時間を待ち望んでもいた望。
(うぅ…風浦さんの事は好きですけど…現金な自分にちょっと絶望です……)
なんて、ちょっと節操のない自分に自己嫌悪したりもしていた。
だが、彼は気付けなかったのだ。
キッス券の持ち主である可符香の様子が次第におかしくなっている事に……。
23 :
266:2009/11/20(金) 00:14:20 ID:QZmIdVIN
事態がさらなる変化を見せたのは、とある日曜日の出来事だった。
「風浦さん、来ましたよ」
とあるアパートの玄関、呼び鈴を鳴らして、望は中にいる筈の人物、自分を呼び出した彼女に呼びかけた。
ほどなくして、ドアの向こうから足音が近付いてきてから、ガチャリ、扉の鍵が開かれ少女が顔を出した。
「あがってください、先生」
望は可符香の様子に若干の違和感を覚えた。
確かに目の前の望の姿を捉えている筈なのに、どこか焦点の定まらない瞳。
宙を漂っているような、心ここにあらずといった感じの口調。
何より、いつも2のへの騒動を安全な高みから見下ろしている、あの超然とした雰囲気が少し薄れているように感じられるのは気のせいだろうか?
「先生、はやく……っ!」
そんな可符香の様子をしばし見つめていた望を、彼女は急かすように部屋の中に引き込んだ。
(やっぱり、おかしい……風浦さんはこういうタイプじゃない筈なんですが……)
何事においても、周囲の条件や言葉でもって開いてを誘導するのが可符香のやり方だった。
先ほど、望の手を取り、玄関の内側に引っ張り込んだ強引さは普段の彼女なら見せないものだ。
(そういえば、最近の風浦さん、少し様子がおかしかったようでしたけど…まさか……)
今更になって気付いたここ最近の可符香の変化に、望はなんとなく不安になる。
一人暮らしの簡素なアパート、可符香の住まいの奥まで通された望はいつも以上に緊張しながら、目の前の少女と対峙した。
「先生、おねがいします……」
可符香がキッス券を差し出す。
その手が微かに震えている事を望は見逃さなかった。
それでも、なるべくいつも通りを装って、可符香の傍に歩み寄ろうとした望。
その動きを、可符香は小さくてをかざして制した。
「今日は……ちょっと……違う事を頼みたいんです、先生…」
「……違う事?」
鸚鵡返しに聞き返した望の目の前で、可符香は自分の上着に手をかけ
「場所は違っても…キスはキス……ですよね?」
胸の上まで上着と下着をたくし上げ、その白い肌を望に晒しながら、たどたどしい言葉でそう問いかけてきた。
「唇だけじゃなくて…もっと…体中に…先生のキスが欲しいんです……」
「ふ、ふ、風浦さん…あなたは…っ!?」
目を白黒させ完全にパニックに陥る望。
だが、頭の片隅では、可符香のその行動の意味するところをボンヤリと理解していた。
(そういえば、色々と素直じゃない娘でしたからね……)
可符香がその真意を他人に見せる事はほとんど無い。
なんだかんだで相思相愛の仲となった望に対してでさえ、迂遠な表現でその意思を伝えるのみだ。
いつも笑顔を振り撒き、詭弁まがいのポジティブ思考を語り、笑顔で人を煙に巻く。
だが、そんな厄介な精神構造を持つ彼女も、結局のところその実体は歳相応の少女でしかない。
ただ一人の人間に過ぎないのだ。
しかし、それでも彼女は頑なに自分の胸の内を閉ざし続ける。
可符香との付き合いも長く、その心の動きをある程度読み取る事の出来る望だったが、それとて完璧ではない。
今回のキッス券。
そして、あの日の熱く激しいキス。
それが可符香の内に鬱屈していた感情を呼び覚ましてしまったのだろう。
と、まあ、分析するだけなら簡単な話である。
「先生、駄目…ですか?」
「あ、いや、それは………」
即答できない時点で、望の負けは決まったも同じである。
一歩、また一歩と近付いてくる可符香の前から、望は動くことが出来ない。
やがて、望の目前でしなだれかかるように倒れこんできた彼女を、彼はその腕でしっかりと抱きとめていた。
「先生……先生…」
いつもの彼女らしくない囁くような、おっかなびっくりの呼び声。
「……わかりました……風浦さん……」
それを聞いた時にはもう、望には彼女の言葉に肯く以外の選択肢は残されていなかった。
24 :
266:2009/11/20(金) 00:15:24 ID:QZmIdVIN
一体、どうしてこんな事になってしまったのか?
望の頭によぎる疑問も、一度始められてしまった行為を止める事は出来ない。
「いいんですね、風浦さん?」
「はい……」
望が手渡されたキッス券はおおよそ五十枚以上、今までの十倍を上回るとてつもない数である。
それが意味するところは、可符香が望とのより深く、強い繋がりを求めているという事に他ならない。
そして、それに応じてしまった望もまた………。
「は…あ……ああっ……せんせ……っ!!」
カーテンを閉ざし、照明を落とした薄暗い部屋に、少女の悩ましげな声が響き渡る。
可符香の胸の膨らみの先端、薄桃色の突起に望は唇で吸い付き、舌先で延々とその敏感な部分を刺激する。
可符香は細い体をくねらせ、望の舌が動く度に走り抜ける刺激の奔流に震える。
望の舌先による丹念な愛撫によって可符香の胸は驚くほど敏感になってしまう。
そんな部分をさらに望の舌先に転がされ、ねぶられ、可符香の感じる刺激はさらに激しくなっていく。
最初はくすぐったいような感覚だったものが、電流を流されたかの如き刺激に変わり、最後には快楽とも判別できないジンジンとした熱だけを感じるようになる。
ようやく望が唇を離したとき、可符香の体はへたりとその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか、風浦さん!?」
「はい。ちょっとふらついただけですから……」
驚いて助け起こそうとする望に、可符香が答える。
しかし、残されたキッス券の量はまだまだ膨大。
そして、熱に浮かされた二人も、自分達の行為をもはや止める事が出来ない。
「それじゃあ、次はここに……」
「わかりました」
可符香が指差す場所に、望は次々とキスマークを残していく。
首筋に、鎖骨に、背中に……。
その度に震える少女の体を望の腕が優しく抱きしめ、可符香は応えるように望の手を握り指を絡める。
まだ幼さすら残した少女の白磁の肌に、望の唇がいくつもの赤いマークを刻んでいく。
「ああっ…はぅ…くぁ……先生…っ!!」
鎖骨に残されたキスの感覚の余韻も消えない内に、望の舌先が可符香の唇をなぞる。
望の背中に回した腕にぎゅっと力をこめ、可符香は全身を駆け抜けていく激しい刺激の波の中で声を上げ続けた。
目尻から零れる涙と、絶え絶えの息、キスマークがひとつ増えるごとに可符香は乱れていく。
「風浦さん、少し休んだ方がいいんじゃ……」
「嫌です……」
そんな可符香の様子を心配した望の言葉を、彼女はいつにないキッパリとした言葉で断る。
「それより…もっとください……先生のキス…もっと……」
可符香の足首から腿の付け根まで、延々と刻まれる赤いしるし。
少女の体の上に望の唇が触れるごとに、可符香の口からは苦しげで、悩ましげな、それでいて甘く蕩けるような声が漏れ出る。
熱情に身も心も奪われた二人の体温は火傷しそうなほどに熱く燃え上がり、その熱気が可符香と望をさらなる狂熱の中に追い立てていく。
「…風浦さん……私は……」
「ふああっ!…せんせ……先生っ…!!!」
時の経つのも忘れ、二人の行為はいつ果てるともなく続いた。
25 :
266:2009/11/20(金) 00:16:46 ID:QZmIdVIN
この一件が引き金となり、望と可符香はますますこの行為に没入していく。
そして、その過程において、実はキッス券の存在が大きな役割を果たす事となった。
『キッス券を用いて、可符香が望にキスをしてくれるように頼む』
二人の間で交わされる行為が大きく変わっていく中で、キッス券を介するこの形式だけはいつまでも変わる事がなかった。
そしてその事が、キッス券の存在に新しい意味を与える事になってしまった。
「先生…今日も…胸のとこから……」
「わかりました……」
キスをするもしないも、それを体のどの部分にしてもらうのかも、全てが可符香の意思で決定されるのだ。
要するに、可符香が自分がそうされる事を望んでいると、望に対して表明し続ける事と同じである。
対する望も、それがキッス券という建前がクッションになって、自分からでは躊躇ってしまうような行為にも積極的に応じるようになってしまっていた。
「はひっ…あっ…ああっ…せんせいっ…せんせ……っ!!!!」
長い長い行為の後、二人は互いの体を強く抱きしめ合う。
キッス券の存在ははからずも、ひねくれ者の二人が自分の想いを解き放つ、その為の鍵となっていた。
当然の如く、キッス券の消費量は膨れ上がり、ついには最初の百枚を使い切ったのと同じ日数で残り枚数は半分の600枚を割ってしまった。
そしてそれに伴って、可符香が時折暗い表情を見せるが多くなっていったのだが……
「風浦さん…最近、あなた、変じゃありませんか…?」
「うぅ…そりゃあ、自分でもエッチな事してる自覚はありますからね。少しは調子も狂いますよ…」
可符香の様子に気付いて問いかけた望の言葉に、彼女は誤魔化すように早口で答えて立ち去っていった。
残された望は、その少し寂しげな後姿を見ている事しか出来なかった。
「そっか、あんなにあったのに、もう残り半分なんだ……」
薄暗い部屋の中、キッス券の枚数を数え終えてから、可符香は深いため息をついた。
たとえ券が無くなろうと、望との縁が切れる訳ではない。
これまでと変わらぬ生活が続いていく。
それは十分理解出来ていた。
だが、それでも望と過ごす秘密の時間が失われてしまう事に自分が強い不安を抱いている事を、可符香は認めざるを得なかった。
「そろそろ、先生が来る頃か……」
部屋の時計を見上げ、時間を確認した可符香が立ち上がった。
そして、ちょうどその時、玄関の方から望の鳴らす呼び鈴の音が部屋の中に響いてきた。
可符香の体の上に望のキスが雨の如く降り注ぐ。
刻まれたキスマークは時間を置いてもジンジンとした熱で可符香の心と体を苛み、さらなる快楽の中へ彼女を没入させていく。
「くぁ…ああっ…せんせ…つぎは……」
「…わかってます…風浦さん……」
先ほどまで券の残り枚数を気にしていた筈なのに、可符香は行為に溺れる自分を止める事が出来ない。
もっと強く、もっと熱く、そして誰よりも間近で望の事を、愛しい人の存在を感じていたい。
その想いが可符香の理性をやすやすと蕩かし、自分の体のいたる所に触れる望の唇の感触が彼女の全てとなる。
そして、それはおそらく、望の方も同じだった。
「うあ…はぁ…せんせ……そんな…こゆび…ばっかり…」
「すみません…私も…もう自分で止まれなくなってるみたいです……」
望の舌が小指に絡み、細く繊細な指先が舌の上で思う様に転がされ、すみずみまでねぶられる。
物に触れ、掴むための器官であった筈の指先が、望の執拗な愛撫によって快楽を受容するだけの物体へと変えられていく。
延々と続く指への攻撃が終わったとき、それまで刺激に晒され続けてついに限界が来たのか、可符香は望の胸元に倒れこんだ。
26 :
266:2009/11/20(金) 00:18:25 ID:QZmIdVIN
「大丈夫…ですか?」
「いやだな…これくらいどうって事ないですよ。だから、先生……」
望の体に縋りつきながら、小さな声で答える可符香。
だが、そこで彼女の言葉が止まった。
(あ…もう体中…先生にキスしてもらったんだっけ……)
既に思いつく範囲では、可符香の体の上で望の唇の触れていない場所はもうほとんど無い筈だった。
(ううん…違う…本当はまだ一箇所だけ…キスしてもらってない場所が……)
しかし、彼女は思い出した。
自分がまだ望に対して、キスの場所として指定していなかった部分がある事を。
恥ずかしすぎて、どうしても言えなかったその場所を、可符香はついに言葉にした。
「先生……次は…」
震える指先でスカートを捲り上げる。
ショーツを下ろし、呆然とする望の前で、真っ赤な顔で俯いたまま可符香はその場所を告げる。
「次は…ここに……先生のキス…ください……」
脚の付け根と付け根の間、自分の一番敏感な部分を彼女は指差した。
「言いましたよね?…私は、先生のキスが欲しいんです……体中…先生の唇の触れていない所がなくなるまで…全部…」
今の望は可符香のその願いを拒む事が出来なかった。
何よりも、自分自身が可符香にもっと触れていたいと、そう願っている事を理解していたからだ。
一度外れた熱情のタガを元に戻せる人間など存在しない。
ましてや渦中にある人間が、その抑えがたい衝動を前に踏みとどまる事など不可能だ。
「…風浦さん……」
囁き、自分の名前を呼んだ唇が、そっとその部分に触れるのを可符香は感じた。
瞬間、甘く痺れる電流が背筋を駆け抜け、可符香の体がビリビリと震える。
「あぅ…っくぁああっ…ひっ…あはぁあああっ……っ!!!」
大きく声を上げ、髪を振り乱し、望の熱い舌先に触れられ、ねぶられ、かきまわされる悦びに声を上げる可符香。
望もまた、耳元に届く彼女の声に、手の平に伝わる震えに、そして舌先に感じる熱に浮かされて、可符香への責めに夢中になる。
「はぁ…ひっくぅ……うあ…せんせ…そこ…すごい……っ!!!」
丹念に、執拗に、外側の部分を這い回った舌が、今度は肉と肉の狭間を割り入って、可符香の中に入ってくる。
浅い部分をかき回されたかと思うと、奥の方まで突き入れられ、さらには唇でその部分全体に吸い付かれる。
間断なく続く責めは可符香の心と体を思う存分にかき乱し、さらなる快楽の渦へと彼女を引きずり込む。
「ああっ…ひああっ…せんせいっ!…せんせいっ!!…せんせぇええっ!!!!」
激しい刺激に苛まれ続ける可符香は我知らず背中を反らせ、腰を浮かせ、少しでも次に訪れる快感の衝撃に耐えようとする。
望は浮き上がった腰を強く抱きしめ、さらに密着した状態で可符香への責めを続ける。
恐ろしく敏感で、恥ずかしいその場所に吹きかかる望の息遣いと、感じる舌先の動き。
羞恥心も快楽も愛情も、全てがない交ぜになり、可符香の心はその灼熱の中でどろどろに溶けていく。
迸る激感に何度も思考を寸断され、めくるめく快感の中で意識が明滅する。
「ふあ…ああああああっ!!!…せんせ…わたしもうっ!!…もう…………っ!!!!!」
やがて、可符香の中で渦巻いていた、熱が、快感が、心の昂ぶりが、全て彼女の許容量をオーバーする。
そしてそれは、表面張力のギリギリまでコップに注がれた水のように、望が与えた最後の舌の一突きでいともたやすく崩壊した。
「…せんせ…せんせぇええええええっ!!!!!…ひああああああああああっ!!!!!!」
弓なりに反らせた背中を痙攣させ、押し寄せる絶頂の高波に可符香は声を上げる。
そして、その激しい快感の嵐の中で、可符香は自らの意識を手放した。
それからどれくらいの時間が経過したのか?
暗い部屋の中で、可符香はゆっくりと瞼を開けた。
そして、気付く。
「あれ……?先生、どこですか…?」
部屋の中には、彼女が意識を失う前までは一緒にいた筈の望の姿がなかった。
その代わり、行為の為に乱れた衣服が直されていた。
恐らくは望がやった事だろう。
「何にも言わずに帰っちゃうなんて……」
少し寂しそうに、可符香は呟く。
それから何となく、一人ぼっちの部屋をぐるりと見渡してみた。
「やっぱり、先生と一緒の方がいいな……」
きれいに片付けられ、隅々まで掃除の行き届いた部屋は見方によっては恐ろしく殺風景だった。
結局、キッス券なんてものを持ち出したのも、この部屋と同じくらい空虚な自分の心を少しでも埋め合わせたかったからなのだろう。
だが、そこで彼女は、望と同じく本来この部屋にあった筈のものが消えている事に気付いた。
27 :
266:2009/11/20(金) 00:19:08 ID:QZmIdVIN
「そんな…うそ…?」
目を擦り、何度も部屋中を見渡して、可符香は必死でそれを探した。
だが、彼女の手の届くところに置いてあった筈のソレは陰も形も無くこの部屋から消え去っていた。
勝手に無くなる筈がない。
ならば奪い取られたと考えるべきなのだろうが、それが出来る人物は可符香には一人しか思い当たらなかった。
だが、その推理は余計に可符香を混乱させた。
一体どうして彼は、そんな事をしなければならなかったのか?
「どうして……どうしてなんですか…!!?」
靴を履き、可符香はアパートを飛び出した。
頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいそうな混乱の中、可符香は住宅街を駆け抜けていく。
そして、ほどなくして、アパートのすぐ近くの公園で可符香は探していた人物、キッス券泥棒の犯人を見つけた。
コンクリート製のベンチに腰掛けた後姿に、可符香はゆっくりと近付いていく。
「先生……」
「ああ、ちょうど良い所に来てくれましたね、風浦さん」
あの時、キッス券の間近にいたもう一人の人物。
そもそも、これだけ大量のキッス券が存在する事を知っているのは、可符香を除けば彼しかいない。
「先生…キッス券は……?」
「あの券ならここにありますよ」
そう言って、望が指差したのは彼の足元。
そこでは、たくさんの落葉が積み重なって、真っ赤な炎と煙が立ち上っている。
そして、そのたくさんの落葉に混じって、見覚えのある紙切れが燃えていた。
それは彼女の最も危惧した事態だった。
「先生…どうしてこんな事………」
「すみません、風浦さん…私にはもう、耐えられなかったんですよ……」
力なく問いかける可符香の声に、望はそう答えた。
「馬鹿馬鹿しい話です。こんな紙切れにすっかり心を縛られていたなんて……」
『耐えられそうになかった』
望は確かにそう言った。
互いに唇を重ね合わせたあの時間、二人は同じ熱と感情を共有していると、可符香は思っていた。
だが、それさえも単なる可符香の願望に過ぎなかったのだろうか?
可符香の体から一気に力が抜ける。
しかし、うなだれる可符香の方に振り返った望の顔に浮かんでいたのは、少し困ったような、けれどもとても優しげな微笑みだった。
「この券が無くなったら、風浦さんと会えなくなるんじゃないか……そんな馬鹿みたいな妄想に本気で怯えていたんですから……」
「えっ?」
「だから、燃やしちゃいました。こんなものに惑わされるくらいなら、何も持たずにあなたの傍らにいる方がずっといい」
照れくさそうにそう言い切ってから、望は可符香にある物を手渡した。
「うあ…先生…これ、熱い過ぎます……」
「何しろ焼きたてですからね。火傷しないよう、気をつけてください」
それはアルミホイルに包まれた熱々の焼き芋だった。
「ただ捨てただけじゃ、また誰かが拾って使いかねませんし、こうして全部焼いてしまう事にしたんですが、
折角焚き火をするならと思って用意してみました……って、やっぱり熱いですね焼き芋は…」
「そっちこそ火傷しないでくださいよ、先生……」
アルミホイルと皮をむいて、白い湯気を立てる焼き芋を口に運ぶ。
口の中に広がる優しい甘さを噛み締めながら、可符香は思う。
(そっか、先生も同じ気持ちでいてくれたんだ……)
あくまで建前だったはずのキッス券の存在に、いつの間にか縛られていた心。
もし券が無くなってしまったら、そんな不安に取り付かれて、少しだけ憂鬱になっていた自分。
だけど、可符香は忘れていた。
同じように可符香の事を思い、同じように悩んでくれる人が隣にいる事に彼女は今の今まで気付いていなかった。
「だけど先生、こんな焼き芋くらいで全部をチャラにするのはちょっと虫が良すぎますよ」
「う……やっぱり、そう思いますか?」
「要するに先生は、借金を全部踏み倒しちゃったわけですから、それ相応の埋め合わせをしてもらわないと……」
ニヤリと笑う可符香と、困り顔の望。
だけど、二人の様子はどこか楽しげでもあった。
「そういう事ならわかりましたよ。私も大人です。あなたがどうしてもと言うのなら……」
そう言って、望は可符香の方に身を乗り出した。
「きゃ……せんせ……んんっ…」
再び重ね合わせられる唇と唇。
その時、可符香が感じたほんのりとした甘さは、きっと焼き芋のせいだけではなかった筈だ。
28 :
266:2009/11/20(金) 00:20:18 ID:QZmIdVIN
以上でおしまい。
久々のえっちぃ話で拙い出来でしたが、いかがだったでしょうか?
それでは、失礼いたします。
GJです!
GJ!!キッス券はネタになりますねー!
ゲーム感覚故に加速するエロス…GJ!
可符香は臑ですらくすぐったがる敏感さんだからキスの雨を降らされたら大変なことになっちゃうよ
コングラッチュレーション・・・
コングラッチュレーション・・・
投下します。
OAD発売記念、規制解除記念、それはそれとして最新刊関係無しに81話南極物語ネタ。
先生千里晴美の3P、先生と千里ができてる設定。
百合も含むので苦手な人はスルーしてください。
――望が極寒の地に取り残されてから数日。
ようやく今日救出され、現在その帰路、船の中である。
助かったとはいえ、さすがに厳しい寒さの中での一人の生活は相当の負担をかけていたようで、
体はもちろん、それは精神の方にも少々影響を与えていた。
望の無事を喜び、泣きじゃくる千里と抱き合いながら望が上げていた声は、
人の言葉としては機能していなかったが、恐らく千里と同じ事を言っていたのだろう。
それからずっと、望は千里を親とでも思い込んでいるのか、すがるように引っ付いている。
どうにも錯乱した様子であり、仕方がないのでそれはそのまま。
食事を取らせて服を着せ、暖かい部屋のベッドへと連れて行った。
すると、ここは安全だと思ったのか、急に望の瞼が重くなりスイッチが切れるように眠り落ちていった。
それでもまだ、千里が自分から離れるのは嫌なようで、千里の手を握ったままである。
「なかなかいい感じじゃない」
晴美にからかわれて、千里は少し照れた顔をする。
そんな千里の膝を枕にして、千里の手を握りながら望が眠っている。
普段より少しやつれているだろうか。
不意に望が、悪夢にうなされるように怯えた様子で身を震わせた。
千里は手を強く握って言う。
「大丈夫です、安心してください、先生」
声をかけながら頭を撫でてやると、次第に望も落ち着いてくる。
やがて望は、また穏やかな寝息をたて始めた。
(……暖かい?)
ずっと寒いところに居た望にとって、それは違和感だった。
辺りを照らすのは、窓から射し込まれる薄い月明かり。
今、自分が居る場所は柔らかなベッドの上、そこで誰かに抱かれている。
視線を上げると、とてもよく知った顔があった。
「木津さん…?」
本物だろうか……また凍えながら夢でも見ているのではないか。
もしそうなら、今ここにあるどれもが望を死へ誘おうとするものだろう。
不安げに手を伸ばし、穏やかに眠る千里の顔に触れてみると、千里がむにゃむにゃと寝言を言った。
手に触れる感触は、暖かく、柔らかい。
「……助かったんですね?私……生きてるんですよね?」
両手で千里を抱き寄せ、その胸に顔を埋める。
このぬくもりも、匂いも、全部現実の物だ。
ここ数日で何度か体験した死神のそれとはまるで違う。
「ん……先生?どうしたんですか?」
目を覚ました千里が望に気付き、柔らかく微笑んで望の頭を撫でた。
その感触が心地よく、自分に向けられた笑顔が嬉しくて、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚える。
「木津さん……」
愛しい少女の名を囁きながら、顔を近づけてちゅちゅと唇や首筋に軽く吸い付いていく。
千里は少し驚いたような素振りを見せたが、特に抵抗もなく、望のやりたいようにさせている。
「よかった……先生が無事で……んぅっ!あ……ちょ、ちょっと先生?」
望が千里のシャツをめくり上げ、露になった胸に触れた。
そのまま片方の胸を揉み、もう一方の胸は口に含んで甘えるようにちゅうちゅうと吸いはじめる。
「やっ……ん……ダメ……って……ば…」
ツンと尖った千里の乳首をくりくりと弄る望。
千里の静止も聞かず、望は一向にやめる気がない。
それどころか、今度は千里の秘部を目指し、服の中へ手をもぐりこませてきた。
下着の中をもそもそと動き回り、目当ての割れ目を発見すると、その入り口で指を擦りはじめる。
「あ、あ……だ……待っ……んっ」
千里の言葉を唇で塞ぎ、口内へと舌を侵入させ、同時に指を千里の膣内へと進ませて、
膣壁を引っ掻きながら前後に動かしはじめる。
千里の舌を探して、望は口内をくすぐりながら舌を伸ばしていく。
舌先に特に柔らかい感触が当たった。
望が誘うように千里の舌をくすぐってみると、千里が小さく反応する。
ちょんちょんと数度突いては戻ると、はじめは戸惑っていたが、それに引かれるように千里の舌が前に出てきた。
すかさず強く吸い付いて舌を絡めてやると、千里の中で望の指がきゅうっと強く締め付けられる。
秘部を指で責め立てながら、千里の唾液をすする。
長いキスの後、望が唇が離すと二人の唾液が糸を引き、千里の上へと落ちていった。
千里の愛液で濡れた自分の指を舐めると、望はくたりと脱力している千里の衣服を脱がし始めた。
そして自身も服を脱いで、千里の脚を開かせ、硬く大きくなった絶棒を千里の中に挿入した。
「だっ……っんぅぅぅ!」
千里は、大声で悲鳴をあげてしまいそうになるのを必死に耐えていた。
望の肉棒を受け入れるには慣らしが不十分だったのか、内側から引き裂かれるような痛みが走る。
涙をこぼして苦しむ千里を前にしても、望にはもう止まることは出来なかった。
会えなかった時間が……それどころかもう二度と会えないのではないかとすら思っていたのだ。
それが望の性欲を異常なまでに高めてしまっているのか、はたまた死を間近に感じていたが故の本能か、
痛いほど大きくなった絶棒が、早くその中身を千里の中へと吐き出せと命令し、それに抗う事など出来そうもない。
抵抗の強い膣肉を押し広げて、ズンと絶棒を奥深くに突き入れる。
ぎゅうと痛いくらいに強く締め付ける千里の中は、キツいけれど暖かくて心地よい。
今度は差し込んだ刺し込んだ絶棒を、入り口付近まで引いていく。
傘を張った部分にガリガリと内側を擦られる刺激に、千里がびくびくと全身を震わせた。
何度も動きを繰り返しているうちに、潤滑液も量を増し、抵抗は少なくなっていく。
だが、その分望が動きを速く、強くしてしまうので千里が休まることはない。
荒い息をあげながら、望は千里の体を強く抱き、腰を動かし続ける。
千里は、望の体に手を回して、ぎゅっと唇を噛みながら必死に声を上げまいとしている。
背中に回された指が爪を立て、望の背に血がにじむが望は一向に気にする様子はない。
「はあっ…出ます……出します…よ?」
「っふ……あ……ああ…ん」
千里の返事は了承とも拒絶ともつかない。
だが、望は絶棒が命じるまま、千里の中で精液を放った。
一瞬大きく膨らんだ絶棒の先から、熱く濃い白濁液が千里の最奥に勢いよく叩きつけられる。
射精の快感に酔いしれながら、望は千里の上に覆いかぶさり、千里の体にキスの雨を降らせる。
ようやく解放された千里は、だらりと疲れ切った様子で、目を閉じたまま肩で息をしていた。
望は千里の体をぎゅっと抱きしめて、生きている喜びを、再び千里を抱くことが出来た喜びを噛み締める。
それでもまだ、望が満たされることはない。
強く抱きつきながら、指で、唇で、千里の体に触れて、その耳元で愛を囁く。
「声、聞かせてくださいよ……いつもみたいにかわいい声で……いじわるしないでください」
必死に声を抑えようとしている千里の肌に吸い付きながら、望は子どものように甘えている。
だが、その肉体も知識もしっかり成熟した成人男性のもの。
指は千里の悦ぶ所を知り尽くしているし、一度は大人しくなっていた肉棒も硬さを取り戻していた。
無論その性欲もだ。
望が再び腰を動かし始めたが、千里は逃げるように腰を引いた。
しかし、もはやその体には抵抗らしい抵抗を見せる程度の力も入らない。
すぐに望に力で押さえられて、単にその背を望に向ける形になっただけだった。
「木津さん……木津さん……」
荒い息をあげながら、望は千里を背後から抱きしめている。
汗ばんだ肌にキスをしながら、後ろから回した手で千里の胸を揉み、背後から突き入れた絶棒を前後に動かす。
先ほど出した望の精液が粘着質の卑猥な音を立てながら、千里の中から押し出された。
腰を突きいれ、そして引き……繰り返されるうちに千里もその快感に負け、無意識に腰を振り始めてしまう。
それでも声だけはあげまいとしていたが、時折切なげなあえぎ声が漏れていた。
いつしかどちらも絶頂間際、お互いの性器を擦り合わせる快感に千里と望は酔いしれていた。
だが、そこでパチっというスイッチ音とともに辺りが強い光で照らされた。
望と千里が、ぴしっと動きを止める。
「あ…………だから、ダメって言ったのにぃ……」
そう言って、体を丸める千里。
がっちり固まった望は、落ち着こうとひとつ深呼吸をする。
そして、ぎぎぎと軋むような固い動きで首を回して背後へ振り返った。
そこには、少し乱れた髪でシャツと下着姿にメガネをかけた晴美が立っていた。
あきれたような表情を望に向けている。
ふう、と息を吐くと、晴美が二人の方へ近づきながら、じとりと非難するような目を望に向けて言う。
「なんで、こんなところで始めちゃうんですか……」
月明かりだけでは気付かなかったが、この部屋にあったベッドは二つ。
そして言うまでもなく、そこには晴美が眠っていたのだろう。
「う……」
今さらそれでどうなるわけでもないが、望は、ゆっくりと腰を引いて千里の中から肉棒を抜いた。
だが、肉棒に膣内を擦られて、千里が小さく喘いでしまったせいで余計に気まずくなる。
目を泳がせながら、後ずさりする望。
状況は非常に悪い、女生徒に手を出した教師……それも今回に限れば半ばムリヤリである。
涙を隠すように晴美から顔を背ける千里、口を開けたままの秘部から溢れ出ている白濁液、
もちろん最中の声も晴美に聞かれていたのだろう、とうてい言い逃れなど出来そうにない。
目の前に立ち、じっと見下ろす晴美を前にして、望は動けないでいた。
口の中がカラカラに渇いている。
何を言われるのだろう……千里の親友である晴美に今の自分はどう映っている?
教師としての人生はここで終わりかもしれない。
「先生……」
「っ……」
「私も……その……」
「……はい?」
「私にも……して……くれません?」
ぱちぱちと目を瞬かせた。
「だってこんな……すぐ近くでこんなの……だって先生が……」
「え?」
もじもじと指を絡ませながら、晴美は小さな声で望に対する文句を言っている。
「そ、それは私が悪かったですけど……」
「ですけど…?つまり、ダメ、ってことですか?」
不満そうな目を望に向ける晴美の目が、さっきまでの自分自身を思い起こさせる。
さすがにあのときの望ほどは飢えてはいないだろうが、それでも今この空間で一番力があるのは晴美である。
望はもちろん、今は千里も望と同等かそれ以下の力しか出せないだろう。
考えたくはないが、今度は自分が犯される番になってしまうのではないだろうか。
例えそうならなくても、ここで晴美が人を呼んだりすれば、もうそれで終わりだ。
職を追われ、千里とも引き離されるだろう。
ちらりと千里のほうを見ると、千里と目が合った。
そうだ、それなら……
望は千里に微笑みかけると、晴美の方へ向き直って手を伸ばした。
「いいですよ。ほら、こっちへ」
少なくとも、主導権だけは渡すまい。
そうなれば五分、事さえ終えればなんとか乗り越えられるだろう。
それに何よりも、今にも欲望を放たんとしていたところで止められてしまった彼の肉棒は、
すぐ傍に千里が居るというのに、晴美の体に興味津々のようだ。
「んっ……んぅ……っふぁ」
まずはキスから……望は晴美を全力で可愛がってやることにした。
同時に胸にも手をやってシャツの上から揉んでやる。
ブラはつけていなかったようで、その頂点の硬くなった蕾までシャツの上から確認できる。
そこにもう一本の手が乱入してきた。
「……私も、します」
くりくりと晴美の乳首を責める手は千里のもの。
望が晴美の相手をしているのを見ているのが嫌だったのか、望と共に晴美の体を愛撫する。
「千里も…してくれるの?ふふ……ありがと」
千里を抱き寄せてキスをすると、ちゅばちゅばと音を立てて舌を絡めあった。
「びっちゃびちゃですね……もう」
寝転がせた晴美の脚を持ち上げ、晴美の下着越しにぷりっと柔らかい土手肉を揉みながら望が言う。
望に触れられるまでもなく、晴美の下着は愛液で尻の方までべっとりと濡れていた。
「もしかして、私達の声聞きながら一人でしてたんですか?」
「っぷあ……そうなの?」
下着の上から割れ目の上を何度も指で往復させながら望が、いたずらっぽい笑顔を向けながら千里が詰問する。
晴美は恥ずかしそうに押し黙っていた。
望が晴美の下着に手をかけて脱がせる。
「上も脱ごっか」
と、千里にシャツも脱がされ晴美の裸体が二人の前に晒された。
いくら自分から誘ったからといっても、ピンと立った乳首やぐっしょりと濡れた秘部に触れられ、
まじまじと観察されれば、さすがに晴美も恥ずかしくなってしまう。
「うっわあ……ほんと、びっちゃびちゃ……ね、がまんできなかったの?」
「ははは、むしろコレでがまんしてたってことじゃないですか?結局がまんできなかったみたいですが」
「もーなによぉ……いじわる」
恥ずかしそうに身をくねらせる晴美に二人がキスをした。
「でもこれなら、すぐに出来そうですね」
望が、絶棒を晴美の入り口に押し当てる。
「あ……うん」
太く大きな望の肉棒を見つめながら、晴美がうっとりと目を細めた。
「それじゃ、早速」
と、望が絶棒を晴美の中へと刺し込んだ。
「んっ、んっ、んっ……あっ…はぁぁ」
「気持ちいいの?」
「うん、うん……先生の……あんっ、千里もぉ……」
「ふふ、ありがと……いいなあ、私はすっごく痛かったのに」
望が、ばつの悪そうな顔をした。
すぐ横に並んで寝る千里に抱かれながら、晴美は望に膣内を突かれている。
望と同時に千里は、晴美の胸を重点的に責めていた。
大きな胸を揉みしだき、ときには口に含んでちゅうちゅうと吸ってみる。
「あは、あっ……いい……せんせ、いっちゃうぅ…」
「ええ……一緒にいきましょう」
「うん、あ……ああぁっ…」
声をあげて、晴美が体を弓なりに反らした。
晴美の膣に絶棒をきゅうきゅうと締め付けられ、それがとどめとなった。
熱い精液が晴美の中に放たれていく。
「はぁぁぁぁぁ……」
深く息を吐きながら、絶頂の余韻に浸る晴美を、千里は抱きしめて全身にキスをする。
望は晴美の足を取り、その指先をぺろぺろとしゃぶる。
晴美は、恥ずかしそうにくすぐったそうに体をくねらせるが、その表情は幸せそのものといったところだ。
「藤吉さん、わかっているとは思いますが、今日のことは黙っていてくださいね」
「ふぇ?……先生と……えっちしたこと?」
「ええ、それに木津さんに私がしたこともです」
「……それと、千里と先生が付き合ってることも、ですか?」
「ええ…………へ?……え?」
くすりと晴美が笑った。
「言いませんよ。それに先生と千里がえっちしてることなんて知ってましたし……ま、見たのは初めてですけど」
「な……なんでそんなこと」
「なんでってぇ……」
ぴ、と晴美が千里を指差した。
「え……ちょ、ちょっと」
「……木津さん、私……秘密って言いましたよね?」
「い、言ってません!…………あの……その……晴美以外に……は………………ごめんなさい」
無言でじっと見つめて責めてくる望に、千里が観念する。
「言っちゃダメって……わかってたんです、けど……その」
「話したかった、と?」
こくん、と千里が頷いた。
ふー、と望はため息を吐いて、千里の肩を抱いた。
「なるほどね。まあ、気持ちはわかりますよ……それだけ嬉しかったっていう事なら悪い気はしません」
「はい……」
「…………よし。なら良い機会です。どうせなら話だけじゃなく実際に見てもらいましょうか」
ふ、と望が少し悪い顔で笑った。
「え?」
「ほら、脚開いて、藤吉さんにちゃんと見せなさい」
「なんでそんな……」
「だってスキなんでしょう?自分のえっち話するの……どうせなら直接見てもらいましょうよ」
「や…」
「大人しくしなさい、ね」
きっちりを重んじる千里には、約束を破ったことに対する負い目はとても大きな物だった。
それゆえに、望の無茶な要求を渋々ながら受けてしまう。
「うわぁ……いいんですか?ほんとに?」
「ええ、触ってくれても結構ですよ」
望に後ろから抱かれながら脚を開き、千里は泣きそうな程に羞恥を感じていた。
晴美が、千里の体を直接手にとってじっくりと観察する。
口や指先で、千里の体をつまみ食いするようにちょんちょんと触れていく。
髪、唇、胸、お腹、そして太股。
焦らすように少しずつ、晴美の指は千里の下腹部へと近づいていった。
「うひゃー……とろとろ」
晴美によく見えるように、望が千里の割れ目を指で左右に広げてみせる。
息がかかるほどに近くで、自分の最も恥ずかしい部分を、その中を覗かれる。
ただでさえ恥ずかしいというのに、今そこは千里の愛液で濡れ、さらに望の精液まで入ったままである。
晴美が指を出し入れしてみると、くちょくちょ卑猥な音がする。
それにあわせて望も、千里の陰核を弄り始めた。
「ふふ、久しぶりだね……んっ」
千里の中を指でかき混ぜながら、晴美が千里の乳首を口に含んで軽く噛んだ。
「久しぶり?」
ちゅっと音を立てながら、千里の首筋や背中に口付けをする望が晴美に尋ねると、千里が息を呑んで硬直した。
「ええ…以前何度か、千里が先生のこと相談してきたり、先生とのえっちのこと相談してきたりしたときに、
ちょっと……あ、コレ先生には秘密なんですけど」
くすくすと笑いながら言う晴美の前で、千里はぱくぱくと口を開けていた。
「へえ……」
「でも、最近はうまくいってるのか……話聞かされるだけなんですよね……ちょっと、寂しかった……んちゅっ」
ちゅばちゅば音を立てながらキスをして、晴美が千里に甘える。
(なるほど……木津さんがずいぶんと積極的に藤吉さんを攻めていたのはそういうことですか)
照れ隠しもあったのだろうが、彼女も晴美に秘密をばらされないために、主導権を取ろうとしていたわけだ。
だが、結局それは無駄足に終わったどころか、逆に晴美に火をつけてしまったようだ。
「…っぷあ……でも、嬉しいなあ……私、ずっと思ってたんだよ?
千里が私に先生の話聞かせてくれてるとき……千里と、先生と、三人でえっちしてみたいなあ……って」
「さん……にん……って」
かあっと顔を真っ赤にした千里に、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた晴美が、にこにこと笑顔を向けていた。
望は何も言わず、しかし千里の下腹部を責める指を止めようともしない。
「ほら、千里。あーん」
晴美が千里の中から望の精液を指でかき出し、べっとりと精液のついた指を千里の口元に近づけた。
一瞬硬直した千里だったが、すぐに晴美の望んでいることを理解する。
千里はあーん、と口を開け、晴美の指をしゃぶり始めた。
ぴちゃぴちゃ音を立てて、千里が指についた精液を舐め取ると、今度は晴美の唇が指と代わる。
口内に舌を入れると、千里の舌が迎えてくれた。
口の中に残った精子をお互いの舌で転がしあっていると、千里の頭がぽーっととろけてくる。
「あのー…そろそろいいでしょうか?」
「……んっ、ごめんなさい、どうぞ先生」
よいしょ、と望が千里を支え、千里の秘部を望の肉棒へと下ろしていく。
「手伝いますね」
晴美はいたずらっぽく笑うと、千里の秘部に手を伸ばして、指でその入り口を左右に大きく広げさせた。
「もうちょっと……そこです…………あ、入ってく入ってく……ふふふ」
晴美の指示通りに動き、絶棒が千里の秘部へと挿入されていく。
そんな光景を晴美に間近で見られる千里は、羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。
「全部入っちゃった、気持ちいい?」
「うぅ……あっ…」
望が体を揺らすと千里の中で絶棒が前後に動く。
千里も望の手を握りながら体を動かし始めた。
「それじゃ、私もー」
晴美が千里の胸に優しく触れ、その頂点を口に含む。
コロコロと口の中で乳首を転がされる快感に千里が悶える。
「あっ、あっ、はっ、やんっ!噛んじゃ、だめぇ…」
「じゃあ、引っ張るのは?」
晴美が千里の両乳首を摘まんで手前に引っ張った。
「それもっ……あっ、あっん!」
「わがままだね、千里は……ふふ、かわいい……」
手を千里の下半身へと移し、ぐちゅぐちゅと音を立てる結合部の少し上に触れた。
そこにあるぴんと立った小さな突起を指で摘まんで擦りあげた。
「待って、や、あぁぁ…」
「だーめ、待ってあげません」
陰核を擦りながら、晴美がまた千里の乳首に歯を立てた。
千里の体がびくっと跳ねて、硬直したかと思うと力が抜けていく。
だらりと脱力した千里を望が揺すりつづける。
しばらくすると望のほうも限界を迎えた。
一度おあずけを食らった絶棒から、千里の中へと濁流のように大量の精液が流し込まれた。
快感と達成感を感じながら、ふぅ、とため息を吐き、ほうけた顔をしている千里の頬にキスをする。
「はぁ……なんかすっごくイイですよ今日は……あー…………よし、もう一回」
そう言うと、望は千里に挿したままの絶棒を抜きもせずにまた腰を動かし始めた。
「よいしょ、と」
千里の体を持ち上げて絶棒を引き抜くと、本日通算三度の射精を受けた膣からどろりと精液が溢れてきた。
肩で息する千里をベッドに寝転ばせると、晴美が望に体をすり寄せて甘えてくる。
ふふ、と笑うと、晴美が望の肉棒に口をつけた。
こびりついた3人の体液をぺろぺろと舐めとっていく。
(やだこれ……すっごいにおい……ドキドキしちゃう)
ただでさえ、においの濃い部分に、べっとりと精液と愛液がこびりついている。
そのうえ望は、ここ数日風呂になど、もちろん入っていない。
大きな汚れは救出されてからある程度は取られていたが、ここはその範囲外である。
熟成された濃いオスのにおいに晴美は酔わされてしまう。
「ん……ちゅ、はぁ……んっ」
玉や竿を撫でながら、音を立てて吸い上げていくと次第に絶棒は、硬さを取り戻していく。
すっかり大きく立派になった絶棒に、ちゅっとキスをすると、晴美は望を千里の横に押し倒した。
そして、その上にまたがり、腰を下ろして、絶棒を自身の中に沈めていく。
ぐりぐりと腰を回しながら、絶棒を奥へと導くと、晴美は望の上で淫らに腰を振り始めた。
その動きで晴美の胸が大きく揺れる。
千里の胸とは比べるまでもなく、ずっとずっと大きなそれが揺れる光景を下から眺めるのは圧巻だ。
「おおぉ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
だがそれを横で見ていた千里は面白くなさそうだ。
「やっぱり先生も……ああいうのが好きなんですか?」
「いやまあ……つい目は行ってしまいますね…………んうっ!?」
「……私だって、先生よりは大きいですよーだ」
千里が望の乳首をカリカリと爪で引っ掻いてくる。
それだけでは治まらず、今度は反対側の乳首に口をつけ、ぺろぺろと舐め始めた。
「ちょ、それ、なんか恥ずかし……あっ、あん、んぅぅ!」
乳首を責めたてられて、望は女の子のような声を上げながら達してしまった。
だが、少女達に弄ばれた事によって望の性衝動はさらに増大する。
もちろんその矛先は、千里と晴美に向けられた。
千里を、晴美を、ときには同時に、または一方の手を借りてもう一方を二人がかりで。
それから長時間、幾度も幾度も二人の少女は、望に犯され続けた……
仰向けに押し倒した晴美の胸を揉みしだきながら、望は晴美の膣内で絶棒を暴れさせる。
晴美は、すっかり望の与える快感の虜になってしまっていた。
何もかも望にされるがまま、少しくらい痛くても、それもすぐに快感へと変わっていく。
望が胸から手を離して、晴美の脚を取り、尻を高く上げさせる。
頭が下に、尻が上になって、晴美の秘部も菊門も望の眼前に晒されてしまう。
その状態で望が上から絶棒を晴美の奥へと突き下ろしてきた。
胸を強く揉みしだきながら、突き、戻り、また深く突き刺す。
しばらくその動きを繰り返し、ときに痛みを感じるほどに強く乳首を摘まんで引っ張ってみれば、
悲鳴と同時に訪れる膣内の変化が望を悦ばせる。
「ひっ!……ぃ……あぁぁ……せんせ……せんせぇ」
涙でくしゃくしゃの顔……望に無茶苦茶にされる快楽に酔いしれ、震えながらだらしなく涎を垂らしている。
望が一際強く絶棒を挿し、晴美の最奥にぐりぐりと押し付けると、晴美の中がきゅうっと締まった。
次の瞬間、絶棒が膨張し、尿道から勢いよく精液が発射され、晴美の中を満たしていく。
肉棒を引き抜くと、膣内からこぼれた白濁液が晴美の体を伝って流れていった。
その格好をさせたまま、望が晴美の菊門にちゅ、っと音を立ててキスをする。
「やんっ……あ、ダメ……そんな」
晴美の言うことは無視して、望が晴美の尻穴を舌でほじり、同時に指で陰核を刺激してやる。
とんでもなく恥ずかしい、しかしこうして流されてしまうことが心地よく、
特に抵抗も見せないまま、晴美はただただ甘い声を漏らすだけになる。
「はぁぁ……ん……あぁ……もう…お嫁にいけないよぉ……」
両手で口元を隠しながら晴美が言った。
「はは、それなら私がもらっちゃいますよ。木津さんと一緒にね」
「もぅ……何言ってるんですかあ……でも……嬉しいかもぉ……」
「ねぇ、ちりぃ……聞いた?先生、お嫁さんにしてくれるんだって……幸せになろうねえ」
すっかりその気になってしまってるようで、晴美は上機嫌で千里にじゃれついている。
「何バカなこと……んっ」
「ふふふ、せーんせ」
晴美が千里を抱きながら、手を伸ばして望を呼ぶ。
その腕の中で、千里は少し困った顔をしていたが、その瞳は確かに望を誘っていた。
「……んせい。先生?」
「ん……」
ゆさゆさと体を揺すられて望が目を覚ます。
目を開けて、辺りを見てみると晴美と千里が居た。
そして、自分が居るのはベッドの上……ここは……病院だ。
救出された望であったが、生死の境を彷徨うほどに衰弱し、ずっと眠り続けていたらしい。
気付けばここに居た、そしてようやく面会が許可されるまで回復することができた。
千里と晴美が学校でのことや、望が救出されたときの様子などを話している。
だが、望の頭の中で渦巻いているのはもっと別のこと、彼が聞きたいのは違うことである。
ついさっきも見ていた、夢……とても人に話せるような内容ではないが、
似たような内容の夢を何度も見ていた……そこに登場するのは目の前に居る二人の少女。
だがそんなことはとても訊けず、時間が過ぎていく。
「それじゃ、また来ますね、先生」
「ええ」
とりあえず今は仕方ない、後で千里にそれとなく尋ねてみよう。
浮気でもしたいんですか、と怒られてしまうかもしれないが。
「お大事にー。先生が元気になってくれるの待ってますからね……千里と二人で」
くすりと意味ありげに笑いながら晴美が手を振り、二人は去っていった。
「……二人で、ですか……それって……それってやっぱり」
一人残された望は、悶々と思い悩む。
その股間で、少し気の早い絶棒がむくりと顔を上げていた。
おしまい。最後死にネタにするか迷いました。
単行本のキタ姉追加ページは少し残念。
夢がない、夢が……
美子と翔子の輪姦ネタを書いたので投下します。
よろしくお願いします。
52 :
惚れ薬:2009/11/23(月) 07:52:15 ID:OIOC+p1y
「それで…お前たちの惚れ薬ってのは本当に効くのか?」
「はぅっっ!……ウソですぅ、ただのジュース…あっ、あんっ!」
「詐欺ってわけだ。ひどい話だな」
「あっ、あっ、あっ、ごめんなさ…やっっま、た…いっひゃ…ぅぅぅ」
涙と共に、淫靡で男に媚びきった笑顔をふりまきながら、翔子が喘ぐ。
愛液を滴らせる蜜壷を貫き激しく動く肉棒にあわせて、彼女自身も腰を振る。
それだけでは物足りないとばかりに、両手で2本の肉棒をしごき、しゃぶる。
さらにその柔らかな体を男達の手が、好き放題にまさぐっていた。
6本の手と3本の肉棒が彼女を快楽の虜にし、既に正気など失われているように見える。
今やその頭の中には、男達の精液と快楽を求めることしかありはしなかった。
商品のこと、商売のこと、彼女達自身のこと、何もかも洗いざらい吐いてしまう。
(翔子……)
情欲に狂った友人の姿に美子の胸が痛む。
彼女もまた翔子と同様に、男達に犯されていた。
四つんばいにさせた美子の背後から、激しく腰を受け付ける男。
肉棒をしゃぶらせながら、美子の喉奥を犯す男。
だが、幸か不幸か美子には翔子と違って理性が残されていた。
男達に犯されて、だがその快感に浸りきっている翔子を、酷いとも羨ましいとも思う。
あんな風に狂ってしまえれば、苦しまなくても済むのだろうか。
「ったくよぉ、俺らのシマであんなつまんねー商売されちゃこっちの信用にもかかるんだよ……わかる?」
男が、美子の頭を掴んで激しく腰を前後に動かしながら言う。
息苦しい、生臭くて気持ち悪い、だが男の望むようにしなければ何をされてしまうのかわかったものではない。
「…噛み付いたりしやがったら、歯全部抜いてやるからな」
怖気が走った。
どうしようもないくらい恐ろしく、引きつった笑顔を浮かべて肉棒に懸命に奉仕する。
男は、美子の様子を見て満足そうに笑った。
「っ!……ふぅ」
熱くて濃い白濁液が美子の喉奥に吐き出されたが、男はまだ肉棒を抜かずに肉棒を綺麗にするよう命令する。
言われるがまま、美子は舌で丁寧に男の精液を舐めとっていく。
屈辱的だが、それでも無理矢理肉棒で喉を犯される苦しみに比べればずっとマシだ。
53 :
惚れ薬:2009/11/23(月) 07:53:02 ID:OIOC+p1y
「ほら見てみろよ、お前らの紛いもんと違ってちゃんと効いてるだろ?」
美子に肉棒をしゃぶらせながら、男が顎で翔子の方を指して言う。
翔子は、二人の男に抱きかかえられながら、前後の穴を肉棒に貫かれていた。
膣と尻穴を交互に肉棒が行き来する快感に、翔子は全身を痙攣させながら喘ぎ、
だらしなく開いた口からは涎を垂らして、焦点の合っていない目でどこか遠くを見ながら男に抱きついていた。
「まあ、正確には惚れ薬じゃなくて、男ならなんでもよくなる薬だけどな」
にい、と下卑た笑顔で美子を見下ろしながら男が言う。
美子と翔子の違いはそこだった。
美子には、彼女達が売っていた惚れ薬を、翔子には彼らの言う『惚れ薬』が与えられた。
その差は一目瞭然。
所詮彼女達の商売など、子どものお遊びに過ぎないことを、あらゆる意味で思い知らされた。
「それに、お嬢ちゃんは若いから知らないだろうけど、男なんてみんな惚れ薬持ってんだよ?」
うつろな目で疑問符を浮かべながら男を見上げる美子。
ちょうどその瞬間、彼女を背後から犯していた男が美子の膣内に射精した。
「っっふぅ……ん」
体の奥が、きゅんきゅんと疼いて、思わず声を漏らしてしまった。
「はははは、ちょっと扱いが特殊で量も必要だけどな。効くだろ?」
だが、もちろんそれで終わるわけがない。
美子と翔子が謝罪しようが何をしようが、男達が止まることはない。
それは、二人が完全に身も心も屈服するまで続くのだ。
男達は入れ替わり、立ち代わり、終わったと思えばまた新しい男に犯され、浴びるほどの精液を受けさせられる。
翔子は、男を求めてよがり狂い、美子は泣き疲れて人形のように犯され続ける。
せめて苦しみから逃れようと美子が彼らの『惚れ薬』を求めても、彼らはそれを与えてくれない。
これからも彼らにけして逆らえなくしようと、翔子には悦楽を、美子には恐怖を刷り込ませる。
54 :
惚れ薬:2009/11/23(月) 07:53:57 ID:OIOC+p1y
「ゆるしへ……くださぃ…もう…」
これで何度目だろうか、美子が懇願する。
だが、そんなものは関係なく男達は二人を犯すのを止めはしない……はずであったが。
「やめてやろうか?」
「ふぇ?」
「その代わり、全員、翔子ちゃんに相手してもらうけどな」
「そんな……」
「ははは、さすがにぶっ壊れちまうかもなぁ」
美子が目を向けると、翔子は悦楽に浸りきり、男達に犯されながら笑っていた。
「そんなの……だめ……するから、私も…」
「いい子だ」
男が、彼の部下と思しき男に目配せする。
しばらくすると別の大柄の男がやってきた。
「じゃ、頑張れよ」
男が美子の背後に回り両手を背後から回し、拘束するように抱きしめた。
美子の前に立った大柄の男が、目の前で服を脱ぎだし、その肉棒をさらけ出す。
「へ…いや……なにこれ…」
他の男達よりも確実に一回りは大きな肉棒、しかし何よりその異形といえる形が目に付いた。
ごつごつと、丸みが肉棒のそこかしこに見られる。
何を埋め込んでいるのか、わからないがどうしようもないほど恐ろしく、美子は恐怖に震える。
「いや!やめて!やだ!や……ぎっ……いああああぁぁぁ!?」
暴れようとするがもはや疲弊しきった体は簡単に押さえ込まれ、乱暴に挿入された肉棒が体内で前後に動く。
ごりごり硬いものが中を擦り、肉を巻き込むように激しく暴れまわる。
「抜いて……ぬい…………ぁぁ……」
びくん、と全身を痙攣させたかと思うと、しゃああああと水音を立てて美子が失禁した。
「ははは、漏らすほどよかったのか?」
「あぁぁぁ……」
ぶるぶると体を震わせ、しばらくすると美子は意識を失った。
55 :
惚れ薬:2009/11/23(月) 07:54:49 ID:OIOC+p1y
頬を叩かれ、美子が目を覚ます。
「おいおい、頑張るんじゃなかったのか?見ろよ、かわいそうに」
「ああ……」
言われて目を向けると、先ほどの異形に今は翔子が犯されていた。
翔子も既に意識を失ってしまっているようだが、それにも構わず異形はその尻穴を犯していた。
「随分あの娘のこと気に入っちまったみたいだな、もう5回目だぞ」
絶望感、無力感、ぐらりと視界が揺れる。
「怖いだろう?もうこんなの嫌だよな」
美子が小さく首を縦に振る。
「だからさ、これからは俺達が世話してやるよ。金と仕事欲しいんだろ?」
ぶるぶる震えるだけで、美子は何も言えない。
だが、男にはそれで十分だったようだ。
「決まりだ。よろしくな」
その日、街から二人の詐欺師が消え……二人の娼婦が生まれた。
おしまいです。失礼しましたー。
すみません、誤字です。
>>52 四つんばいにさせた美子の背後から、激しく腰を受け付ける男→激しく腰を打ちつける男
これはひどいミス
>>50 GJ!!
先生と千里の間のエロエロな空気に、さらに晴美まで加わった濃密な内容に脱帽です。
死ネタにする可能性もあったと書いてありましたが、普通に呼んでてラストは先生、死んじゃうのかと思いました。
思わせぶりな雰囲気を残して立ち去る晴美と千里が良かったですね。
>>56 こちらもGJです。
かなりキツイ陵辱ものになってますね。
容赦のない描写で状況の凄まじさがビンビン伝わってきます。
59 :
50:2009/11/24(火) 01:34:31 ID:zEsoSeA2
>>58 一応誤解のないようにフォローしておくと来週には生きてるタイプの死に方ですんでw
GJどうも。
キタ姉って精液とかも呼びよせちゃうんだろうか?
前スレ
>>515乙
基本相手望ばっかりだけど、こういう輪姦ものもいいよね(望もいたけど)
また書いてくれる事を期待してます
62 :
今週号ネタ:2009/11/25(水) 22:34:32 ID:mPPaXngC
加賀ちゃんかわいいよ。
プライスレスな・・・
奈美ちゃんの笑顔、ハーフプライス
あびるが妊娠
↓
千里「余計な人口増やして!」
はるちり、みこしょこ最高!
特に晴美が先生にデレデレという展開はなかなか無いので嬉しいです!
また期待してます!
フォローなしのガチレイプってのも最近あんま見ないな
現在美子翔子のエロはレイプ率100%だ
67 :
266:2009/11/27(金) 23:06:58 ID:KsxfvBiq
書いてきました。
命×倫でエロなし、申し訳ないです。
それでは、投下します。
68 :
266:2009/11/27(金) 23:07:38 ID:KsxfvBiq
その日の夕方、倫は糸色医院の前に立っていた。
「よく考えたら、ここに来るのは久しぶりですわね」
ここ2ヶ月ほどの間、華道の師匠としての仕事に追われ、倫は多忙な生活を送っていた。
そんな状況の中でも欠かさず学校に通い、また望への大掛かりな悪戯もやめなかったものだから、糸色医院に来る時間がなかったのだ。
しかも、倫が糸色医院を訪れる目的である愛しい兄・命が、自分の方から倫の家をたびたび訪ねて来たので
倫は糸色医院に行く必要性をあまり感じる事がなかった。
恐らく倫が多忙である事を知っていた命が気を遣ってくれたのだろう。
医院まで出向かなくても、倫はたっぷり命との時間を過ごす事ができたのだ。
というわけで、久しぶりの糸色医院。
倫は早速、玄関をくぐり中へ入ろうとしたのだが、ふとある事を思い出して足を止めた。
「そういえば、”あれ”はどうなったのかしら?」
呟いてから、倫は小走りに医院の建物の裏手に回った。
目指すのは医院の玄関の正反対、関係者用の入り口のある建物の裏手だ。
だが、そこに倫の捜し求めたものはなかった。
「まあ、当たり前の話ですわね……もう十二月にもなろうというのですから」
予想していた事とはいえ、倫にとっては医院に来る度にその姿を確認していたお馴染みの相手がいないというのは寂しいものだった。
「そういえば、もう半年は前の事になるんですわね……」
かつて”それ”があった場所を見つめながら、倫の心は記憶をさかのぼっていった。
約半年前、だんだんと蒸し暑さが気になり始めてきた六月の頭のある日、倫は命を訪ねて糸色医院にやって来ていた。
出迎えた命がまず気付いたのは、倫が左手に下げた荷物だった。
「倫、何を持って来たんだ?」
「プレゼントですわ」
悪戯っぽく笑う倫に、命は首を傾げた。
そして、倫に手を引かれるまま、命は医院の裏手にまで連れ出されてしまった。
「命お兄様に是非差し上げたくて……」
倫が荷物の中から取り出したのは、茶色い鉢植えだった。
既に中には土が入れてあり、何かの植物の芽がそこから可愛らしく頭を出していた。
「倫、これは……?」
「朝顔ですわ。命お兄様も小学校の頃、夏休みの宿題でお育てになった事がおありでしょう?」
倫はさらに荷物の中から、じょうろやスコップ、朝顔のツルが巻きつくための園芸用の支柱を取り出していく。
「病院の中は何かと殺風景になりがちですわ。育てるのもそう難しくはありませんし、命お兄様の心の潤いにでもなればと思って…
もちろん、命お兄様が駄目だとおっしゃるなら、無理に置いていったりはしませんけど」
命は鉢植えの中の瑞々しい朝顔の芽の緑をしばし眺めてから、柔らかな微笑を浮かべる倫の顔に視線を戻した。
「確かに、なかなか悪くなさそうだ…」
病院の中でも花瓶に花を活けたりはしていたが、小さな芽の状態から自分で育てるのは、それとはまた違った喜びを命に与えてくれるだろう。
何より、愛しい倫がわざわざ自分の為に用意してくれたという事もあって、命の心の中にはまだ小さなこの朝顔の芽に対する愛着が生まれようとしていた。
「ありがとう、倫。大事に育てさせてもらうよ」
「どういたしまして、命お兄様。この子がきれいな花をつけてくれるのを、楽しみにしていますわ」
69 :
266:2009/11/27(金) 23:08:14 ID:KsxfvBiq
それから、倫が糸色医院を訪ねる度に、みるみると育っていく朝顔の様子を見る事が出来た。
「花が咲くのも、もうすぐですわね」
「ああ、今からそれが待ち遠しいよ」
やがて七月の半ばごろだったろうか、朝顔が一輪目の花を咲かせた。
梅雨が開け抜ける様な青空から真夏の日差しが降り注ぐようになると、朝顔の花はその数を増やしていった。
夏休みに入り、糸色医院を訪れる機会がさらに増えたので、倫は朝顔の様子を逐一見る事が出来た。
「命お兄様、仰っていた通り、大事にしてくださってるのですわね」
瑞々しい緑の葉と、濃い紫の大輪、美しいその姿を見れば、命が朝顔を大切に育ててくれたのがよくわかった。
倫はそれを見ていると、自分が命に優しくしてもらったような気分になる事が出来た。
夏休みが終わり、九月に入ってからも、真夏の頃の勢いは無くなったものの朝顔は美しい花を咲かせ続けた。
だが、ちょうどその頃から、徐々に華道家の仕事が多くなり始め、倫が糸色医院を訪れる事も、そして朝顔の姿を見る事も無くなっていった。
そして現在、おそらくは完全に枯れてしまったのだろう、病院の裏手にはもう朝顔の姿は無い。
自分はどこかであの朝顔を命との繋がりの証のように考えていたのかもしれない。
兄妹でありながら、恋人同士でもある倫と命。
望は倫の事を応援してくれていたが、二人の関係はとても公にできるものではない。
当然、命と倫が恋人として振舞える時間はごく限られたものであり、またその関係はいつ周囲の事情によって崩壊してもおかしくないものである。
それだけに、命が倫からの贈り物である朝顔を大事にしてくれた事が、倫には嬉しくてたまらなかった。
だが、時の流れは残酷である。
夏の盛りには見事に咲き誇っていた朝顔は、もう陰も形もない。
「せめて、最後まで見届けてあげたかったですわね……」
寂しげに呟いて、倫は再び玄関前に戻り、糸色医院の中へと上がった。
既に診療時間は終わり、院内はひっそりと静まり返っている。
そんな中、唯一明かりの漏れている診察室で、命はカルテ整理などの仕事をやっている筈だ。
「命お兄様、お邪魔しますわ」
「ああ、倫、忙しいのによく来てくれたな」
診察室のドアを開け命に声を掛けると、思いがけないほど明るい命の笑顔と声が返って来た。
そのお陰で、倫の中でさっきまでの塞いだ気分が少しだけ晴れた。
「カルテの整理はもうすぐ終わるから、それまで少し待っていてくれ」
「はい」
倫は診察用ベッドの端に腰掛け、英語の教科書を開く。
今日の授業で出された課題をやりながら、チラチラと仕事に励む命の背中を盗み見る。
だんだんと寒くなり、体調を崩して風邪をひく者も増え、また新型のインフルエンザへの対応など、いつもは閑古鳥の鳴く糸色医院も今はそれなりに忙しい。
積み重なったカルテの一枚一枚に真剣な表情で向き合う命の横顔が、倫には愛おしかった。
(命お兄様、頑張っていますのね……)
倫は公務員であるのをいい事にのんびりと仕事をしているもう一人の兄を思い出すが、あれはあれでハードな環境なんだからその辺り少し理解してあげてほしい。
(最近は少し疲れ気味でしたけど、私も頑張らないと……)
命の後姿に少し元気を貰って、倫は再び英語の宿題に意識を集中させた。
70 :
266:2009/11/27(金) 23:08:57 ID:KsxfvBiq
それからしばらくして、命の仕事がようやく終わった。
「思ったより待たせてしまって、悪かったな、倫」
「いいえ、命お兄様といられるだけでも、私は幸せですわ」
そんな倫の言葉に、命は少し顔を赤くする。
ここからは大抵、命と倫がそれぞれ思い思いの事を話しながら、ゆったりと二人の時間を過ごすのがいつものパターンだった。
だが、今日に限っては、それは少しだけ違った。
「あ、そういえば……」
「どうかいたしましたか、命お兄様?」
ふいに顔を上げた命に、倫が問いかけた。
「ちょっと思い出した事があるんだ。一緒に来てくれるかい?」
「ええ、それは勿論……でも、一体何ですの?」
不思議がる倫の手を引いて、命は診察室を出た。
医院の奥へ向かう廊下を歩き、辿り着いたのは命や看護師達が使う小さな休憩室だ。
「確か、ここに置いておいた筈なんだけど……」
呟きながら、命は部屋の中に置かれた腰までの高さのチェストの、一番上の引き出しを開けた。
そして……
「ああ、やっぱりここにあった……」
そこから小さな箱を二つ取り出した。
そしてその片方を倫に手渡す。
「命お兄様、これは……?」
「開けてごらん。倫ならすぐわかるだろ」
小さな紙箱の蓋を外すと、中には幾つもの小さな粒が入っていた。
「これ……もしかして……」
「ああ、朝顔の種だよ。倫がくれたあの朝顔が、これだけたくさんの種を残してくれたんだ」
園芸は専門でないとはいえ、華道家である自分がそんな事も忘れていたなんて……。
倫は不思議な気持ちで箱の中の種を見つめる。
確かに、倫の贈った朝顔は枯れて無くなってしまったけれど、確かに生きた証をここに残したのだ。
そして、あの日、朝顔と共に倫が命に託した思いも、消える事なくここに存在している。
倫からの贈り物であるあの朝顔を、命は本当に大切にしてくれた。
そしてそれは見事に実を結び、今度は命から倫へと手渡されたのだ。
「こっちの箱にも同じ数だけの種がある。これだけあると、また来年朝顔を育てるにしても、鉢がいくつあっても足りそうにない」
命は自分の箱から種を一粒取り出し、それを愛しげに眺めながら言う。
「せっかくだから、今度は倫にも一緒に育ててほしい。倫が咲かせた朝顔を、私は見てみたいんだ」
「はい!命お兄様……」
倫は種の入った小箱を胸元にそっと抱き寄せ、命の言葉に深く肯いた。
倫が感じていたように、あの朝顔が二人の絆の証だったというのならば、それが結実したこの種もまた同じだ。
しかも次は、命と倫、二人がそれぞれに朝顔を育てるのだ。
二人で朝顔を育てて、また種が残されて、それを次の年も二人で育てて……。
その繰り返しの中で、朝顔に込められた二人の想いも幾重にも折り重ねられて、大きく育っていくのだろう。
「来年の夏が楽しみですわ、命お兄様」
「ああ、そうだな、倫……」
見詰め合い、微笑みあう二人の手の中、小さな箱の内側でやがて来る芽生えの時を待つ種子達がカラリと音を立てて転がった
71 :
266:2009/11/27(金) 23:09:36 ID:KsxfvBiq
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
GJ
朝顔が、暗に二人の子供を連想させて切ない
73 :
305:2009/11/29(日) 00:27:55 ID:ZVJDcgTl
お疲れ様です。
先生×隣の女子大生で一本書いてきましたので投下させて下さいませ。
15レスほど使わせて頂くと思います。
では、よろしくお願いします。
……一体、何が起きている状況なのでしょう。
先程から幾度となく頭の中へと浮かんでくる言葉をもう一度繰り返し、部屋のほぼ真ん中の位置で正座しながら、
目の前に垂れ下がっている蛍光灯の紐を見つめている。
畳敷きの床ではあるものの、その床の大部分を覆うように柔らかいカーペットが敷かれている為、実際の気温ほ
どの寒々しさは感じられなかった。
「…ちょっとまってくださいね。すぐに暖まると思いますから」
自分の目線の斜め前、カーテンを敷かれた窓のそばにある
ファンヒーターのスイッチを入れながら、彼女はこちらへと振り向いて微笑んでみせる。
軽く会釈を返しながら愛想笑いを浮かべ、ちょっと照れたように目線を逸らし、何気なく部屋の中を見回してみ
る。
弱めの蛍光灯に照らし出されている室内にあるものは、ヒーターの他には家具らしき物や装飾類は見当たらず、
壁には今彼女が脱いだコートが掛けられているだけで全体的にがらんとした印象をうけた。
部屋の隅に丁寧に畳まれた寝具が置かれている事から、基本的にこの部屋で寝泊りしているのだろう。他にも部
屋があるようだが、この様子では何も置いてない空き部屋である事は想像に難くない。
質素というよりは、あまり生活感の見られない部屋に思えるが、掃除はきちんとなされているらしく、埃っぽさ
は感じられなかった。
部屋の様子を眺めているうちに、彼女はおそらく台所の方へ向かったのだろう。
廊下の向こうから、ヤカンか何かを扱うような音が聞こえてくる。
「……あ…!」
不意に、台所の方向から小さな声が聞こえ、望は微かに眉を動かすと、立ち上がり、廊下へ続く引き戸を開けた。
「どうしました?」
それと同時に、廊下の奥からぱたぱたと駆けてきた彼女の姿が近付き、ちょっと困ったような顔で笑いながら目
の前を通り過ぎてゆく。
「…あの?」
「すいません。……ちょっと、えっと… お茶を切らしてしまっていて! すぐ買ってきますから」
少々焦りながら靴を履いている彼女に、先生は笑い返すと廊下の方へと踏み出してくる。
「ああ。じゃ、私が……」
「あ、ホント、すぐそこですから。ちょっとだけ、待っていてくださいね」
軽く手を振りながらニッコリとしてみせると、しっぽのように背中で一つに束ねた髪を揺らしながら背を向け、
玄関の戸を開けて外へと出て行ってしまった。
すぐに聞こえなくなった玄関先の足音を見送ると、苦笑を浮かべて頭などを掻きながら、望は部屋を覗き込み
ヒーターが動き出している様子を確認する。
所存無げにして、部屋に入るでも廊下に出るでもない位置でしばらく立っていたが、やがて何とはなしに台所の
方へと向きを変えるとそちらへと足を向けた。
「…何でしょうね、この状況は……」
指で軽く頬をかき、困ったような嬉しそうな表情を浮かべたまま、遠慮がちに台所へと入って行った。
──時間にして、ほんの十数分前の事、
しごく真面目な表情で、冷え込み始めた空気の中、望は一人、表札の入っていない門柱の前に佇んでいた。
声に出して溜め息をつき、少しうつむき加減の顔を小さく捻って、その家の隣へと視線を動かす。
空き地だ。それ以外には何の例えも出てこない。
すっかり更地になっているそこには、以前自分が生活していた痕跡など、かけらも見当たらなかった。
「何をやっているんでしょうね、私は…。」
誰にともなく呟いて、望は目の前の一軒家へと顔を戻した。
そろそろ暮れ始めているのだろうが、灰色の雲に覆われた空では夕日の光も届かず、辺りはゆっくりと暗くなり
続けている。
そんな時刻にもかかわらず、目の前の家は灯りが入った様子もなく、
外から見える窓はずっとカーテンに遮られており人の気配は感じられない。
それに加えて、表札すら無いとすれば、空き家以外の何物でもなさそうに思える。
玄関先まで進んでインターホンを鳴らせばさらにはっきりするのだが、望は門柱と睨みあったまま動こうとはし
ない。
記憶を辿り、何とか思い出そうとするが、どうしても以前までここに付けられていた表札が何と書いてあったか
が浮かんでこなかった。
単純に注意力が足らなかっただけとも言えるが、望には表札など最初からなかったように思え、しきりに首を捻
っている。
ほとんど人通りの無い道を通りかかった人が立ち止まり、そんな望の様子を不思議そうに眺めていた。
やがて唸るのを止めると、望は肩の力を抜いて短く溜め息をつき、顎を上げて家を見上げ口を開く。
「……人違い… 見間違いだったのでしょうか……」
どこか納得の行かない表情で呟いて、もう一度溜め息をついた。
「あの…… 糸色さん?」
やおら背後から名前を呼ばれ、望は思わず叫び声を上げてしまいそうなくらいに驚き、目を見開く。
先ほどからそこに誰かいる様子は何となく分かっていた。
が、ただの通行人だと思っていた相手から発せられた声は、望を動揺させるのに十分なものをもっていた。
聞き覚えはもちろんある。久しく聞けなかった声が耳から入り、直に心臓を揺さぶっていると思えるほど動悸が
激しくなり、望は喉をごくりと鳴らすとゆっくり振り返ってみる。
「お久しぶりですね。」
振り向くと同時に相手の方から声をかけられると、望は返事をする事も忘れ相手の姿を凝視してしまった。
──何も変わっていない。
まず、一番に浮かんだ印象はそれだった。
長く、柔らかそうな髪を後ろで無造作に束ねただけの髪型。向けられただけで安心してしまうような笑顔と眼差
し。
「…ええ……っと。……はい。お久しぶりです。」
とぼけた返事を返す望に、彼女は可笑しそうにクスッと笑いかけた。
「…その。…実は今朝方、駅の方でお見かけしまして。
いや、なにしろ一瞬の事でしたので見間違いかとも思ったのですが、どうしても気になってしまいまして。」
しどろもどろになりながら説明を始める望に、彼女は少し驚いたように口を開ける。
「わざわざここまで……?」
「あ! いえ、今日は放課後も暇でしたし。夕食の買い物もありますし。ちょっと寄ってみただけでして!」
さらに焦った表情を顔に出し、意味もなく片手を振りながら弁解する望に、彼女は嬉しそうに目を細めて口元を
ほころばせた。
「憶えていてくれたんですね。」
「あ…… その……」
少し顔を赤くしながら言葉に詰まった様子で、望は一旦仕切り直す様に顔を背けて人差し指でずれた眼鏡を直す。
微笑んだまま、そんな望の様子を見ている彼女に再び向き直ると、やや落ち着きを取り戻した顔で小さく口を開
く。
「…いまは、どちらに?」
望の質問に、彼女は短く「あ。」と声を出した形に口を開き、横の家に視線を向けた。
「この家にはもう、時々、手入れをしに来るだけなんです。少し不便もありますし。あ、でも、まだ十分使えま
すから──」
何かを思いついたように足を踏み出して敷地の中に入ると、彼女は振り向いて玄関のドアを手で指し示す。
「立ち話もなんですから。よかったら中でお茶でもいかがですか?」
そう言いながら、着ているハーフコートのポケットに手を入れてキーホルダーを取り出した。
数歩離れた場所に居る彼女の全身が望の視界に入っている。
温かそうな黒っぽい褐色のハーフコートに、下はスカートだろうか。コートに隠れて判別できないが、裾の下か
らはコートと同色のストッキングに包まれた細い足が見えている。
ふと顔を上げると、自分の服装を見ていた望に気がついているのだろう。
彼女は僅かに頬を赤くしながら、恥ずかしそうに微笑んでこちらを見ていた。
望は瞬時に赤面し、口をぱくぱくさせながら目を泳がせている。
分かりやすい狼狽ぶりを見せる望に彼女は何も言わず、笑みを浮かべたまま取り出した鍵をドアの鍵穴に伸ばす。
「まっ……!」
「そういえば糸色さんに上がって頂くのは初めてですよね?」
「え? あ…… そ、そうでしたかね…… ……そう……ですね、確か」
唐突に尋ねられ、望はやや狼狽しながらも、それでも正確に答えようとしたのだろう、一瞬だけ記憶を辿り、そ
れを確認してからうなずいてみせる。
気がつくと、望が少し逡巡している間に、彼女はすでにドアを開けて玄関へと入り込み、靴を脱いでいる。
「…糸色さん? どうぞ。遠慮なさらずに」
先に家に上がり、コートを脱ぎながら振り返ると、後ろでもたもたしている望を遠慮していると見たようで、笑
いながら軽い口調で片手で廊下の奥を示しながら、自分も上がるように促している。
「……そ…… それでは、ちょっとだけ失礼して……」
彼女からは視線を逸らし、少しはにかんだような笑いを浮かべ、必要以上に丁寧な動作でドアを閉めると、望は
ゆっくりと下駄を脱いでひんやりとした板張りの廊下へと足を乗せた。
「……やっぱり、遠慮するべきでしたかね……」
あごに手を乗せて、困ったように眉を曲げた表情で、望は意味もなく台所の食器棚のあたりをうろうろしながら、
自分の言動を思い起こしていた。
「…仮にも、一人暮らしの女性宅に、ずかずかと上がり込むなどと……」
ぶつぶつ呟きながら、落ち着きなく目を動かしているうちに、ふと、彼女がやりかけのままにしているらしき、
ガスコンロに乗せられたヤカンの姿が目に入ってきた。
何気なく近づき中を見てみるが、その少し小さめのヤカンはまだ水も入っていないカラの状態で置かれており、
望はおもむろにその取っ手を持つと首を動かして台所の中を一通り見回してみる。
ざっと見た限り冷蔵庫らしき物が無い様子を確認すると、苦笑しながら流しの蛇口をひねり、ヤカンの中へと水
を注ぎ始めた。
「…水道水でかまいませんよね」
そんな独り言をつぶやいて適当な量の水でヤカンを満たすと、そのままコンロの上へと乗せる。
「…ああ、元栓が閉まって…………おや?」
火をつけようとしてガスの元栓が閉まったままな事に気が付き、それをひねろうと手を伸ばした所で、コンロの
脇のスペースに置かれている物に気が付き、伸ばした手をそちらへと向けた。
円筒形のそれを掴み、目の前に持って来ると、望はそれのフタを開けてみる。
「…お茶…… 十分にあるじゃないですか…?」
筒の中を満たしている緑茶らしき茶葉が目に入ると同時に玄関の方からドアの開く音が聞こえ、すぐに廊下をト
ントンと靴下の足で歩く音が近づいて来る。
「お待たせしました。ちょっと手間取っちゃいました…… あら? 糸色さん?」
「ああ、すみません。勝手ながらお湯を沸かしておこうと思いまして……」
「え? あ、そ、そうでしたか。すみません、かえって気を遣わせてしまって……」
やや狼狽している様子の彼女へと不思議そうな視線を投げかけながら、望は手に持っていた茶筒にフタをしてコ
ンロの横に置いた。
「それはそうと、お茶なんですが…… まだ、十分入っていましたよ? 買いに…… 行かれなくてもよろしか
ったのではと…」
愛想笑いを浮かべる望の前に立つ彼女は、買い物に行ってきたにしては手ぶらのままでレジ袋なども持っている
様子もなく、今の服装ではとても商品を入れておけるポケットなどはあるようには見えない。
少し気になるのは、こちらから隠すように体の後ろに回してある右手で、見ようによってはそこに何かを隠し持
っている様にも取れる。
「……ここで、突然、包丁とかを突きつけられてしまうオチなんですかね?」
「えっ……!?」
苦笑を浮かべてもらしたその独り言は、小さな声ではあったのだが、十分に彼女の耳にも届く音量だったらしく、
びっくりしたように目を見開きながら慌てて両手を目の前でパタパタと振って見せた。
「いえいえ! そんな危ないもの──」
苦笑しながら反射的に差し出した時に、無意識に手のひらを開いてしまったのだろう。
そこに握っていた物が手を離れ床に落ち、勢いのついていたそれはカラカラと軽い音を立てて板張りの床を転が
ってゆく。
「あ、私が──」
「あ!? ちょっ……」
自分の足元で止まったそれを無造作にしゃがんでひょいと拾い上げる望に、彼女は追いかけようと差し出した手
を前に出したまま硬直してしまっていた。
煙草の箱より少し小さいサイズの箱は見た目以上に軽く、拾い上げ、何気なくそれに目をやった望は、目の前の
彼女と同じように動きが止まり、目を見開いた状態で手の中のそれを凝視していた。
ゆっくり10を数えたくらいの時間が経っただろうか。
錆びた機械のようにぎこちない動きで首を曲げ、望は彼女の方へと顔を向ける。
途端に顔を赤く染め、勢い良く顔を背けてしまった彼女に、望はどんな表情をしていいのか解らないようで、何
とも中途半端な笑みを張り付かせて、自分もやや赤くなりながら乾いた笑い声を上げた。
「は… ははは…… これは、その…… あの… 指サック、ですね? 指サックを買いに行かれていたのです
ね…」
混乱している様子が手に取るようにわかる望の様子に、彼女も顔を背けたままチラリと視線をこちらに向けて小
さな声を出す。
「……そ、そうですよ。……指サック、です。………………男性用の」
「あ…… えっと… えー……」
ぽつりと付け加えた言葉が冗談なのかそうでないのか判別できず、望は手の中のそれを持て余しているように、
何度も持ち方を替えている。
「…………すみません……」
蚊の鳴くような細い声を出した彼女に、望は慌てて首を振ってみせると、一つ咳払いをして見せ、努めて落ち着
いた声で口を開く。
「…ここは寒いですから…… とりあえず向こうで話しませんか?」
望へは顔を背けたまま、こっくりと小さく頷いた様子を確かめると、彼女は体の向きを変えて部屋の方へと足を
踏み出した。
うっかり望が部屋の戸を開け放したままだった為か、部屋の中はさほど暖かい訳ではなかったが、台所で佇んで
いるよりはずっと過ごしやすい室温にはなっている。
小型のファンヒーターが働く音を聞きながら、二人はどちらからともなく微妙な距離と向きを保って座り込んで
いた。
「……な ……何だか緊張してしまいますね」
だいぶ快適になってきているはずなのに、寒そうに何度もゴソゴソと身をよじったり手を擦り合わせたりしなが
ら、望はやや上ずった声でそんな言葉をかける。
彼女はやはり顔を見せないように望からは背けたまま、やがておずおずとした様子の声で、ぽそっと呟いてみせ
た。
「……軽蔑…… されました……?」
「へ!? いや、そんな! ありえませんよ! 軽蔑するような事じゃないでしょう!」
がば、と勢いよく顔を向けて答える望に、彼女は顔を少し上げて、まだ目は伏せたまま上目使いに落ち込んだ表
情で口を動かす。
「…でも…… 最初から…… そのつもりでお誘いした、事…… こんな、あからさまに……」
恥ずかしそうな声で、再び耳まで赤くなって語尾が縮んでいってしまった彼女に、望は少しきまり悪げに笑いな
がら頬を指でかいて、ぼそぼそと呟き返した。
「…いえ、まあ…… 私も… ほんの少し、期待していたような所が有るでも無いでも、な感じでして……」
「…………」
望の呟きに、少し空気が解れた様子で、彼女はまだ赤い顔をようやく上げると、座ったままゆっくりと体の向き
を変えた。
「…糸色さん」
「は…… はい?」
少々、先程の消沈した声とは違った雰囲気を彼女から感じ、望はとっさに裏返った声で返事を返す。
「糸色さんが…… 私の事、お嫌でなければ……」
ゆっくりと上半身を望の方へと寄せながら、両手を正座した望の膝にそっと添え、彼女は熱っぽく潤んだ瞳で望
の顔を覗き込む。
瞬時にその意図を理解し、望はびくりと一度体を震えさせると、背筋を伸ばして膝の上に置かれた両手に自分の
手を被せた。
「…つい今、期待したとか言っておいて何ですが…… やはり私としては、こういう事はその… 少しずつ、お
互いを知りながら階梯を登って行きたいと思うわけで…… いえ、決してあなたが嫌などとそんな事ではなく!
むしろ、気持ちの方は飛び上がらんばかりなのですが──」
「でも……」
口早に弁解するような言葉を述べてゆく望に、彼女は見上げる形で覗きこんだ瞳を微かに潤ませ、ぽつりとした
呟きで望の声を断ち切った。
「次に、こうして二人だけになれるのは、いつになるか…… そんなの、私は…… もう…」
「それは……」
返す言葉が見つからなかったのだろう。
目を逸らして口篭ってしまう望に、彼女は潤んだ瞳を笑みの形に変えて、膝に置いていた両手をゆっくりと持ち
上げて望の背中へと回し、抱きつくような格好で体を預けてくる。
「あ……!?」
とっさに支えようとした格好のまま、ふわりと軽く倒れこんだ望の背中がカーペットの床に付いた。
彼女は望の上に覆いかぶさった状態で、その胸に顔をつけて鼓動を確かめるように耳と頬を当てている。
「…触れたかった。ずっと、こうして糸色さんに触れる事が出来る時を待って…… その待っていた人が今こう
してここにいるなんて…… 嬉し過ぎて、何て言って良いのか……」
両手を望の背中に回したまま、とろけそうな声で囁く彼女に、望は少し頬を赤くしながら困った表情を作ってみ
せる。
「…何だかもう夢なんだろうなと思ってしまいますよ。…私がこんなに愛……されるなんて、この状況でもまだ、
何かの間違いとしか思えなくて──」
力の抜けた声でぼやく望に、彼女は小さく吹き出すようにクスッと声を上げ、体を起こして天井を背にし、望の
顔を正面から見つめる。
「じゃあ、一緒に確かめましょう…? 間違いじゃないって……」
組み敷かれたようにも取れる姿勢で、真上にある彼女の口からこぼれた言葉に、望はのぼせたように顔を染めて
しまう。
反射的に顔をそらそうとした望の顔を左右から両手で捕まえるように挟み、間を置かず近付いた彼女の唇が望の
唇と重なり合った。
「あ…… あの… これって結構、情けない絵じゃないかと…」
「そんな事ないですよ? 誰かに見られるわけでもないんですし。任せてくださいね」
寝転がったまま彼女の手によって着物を脱がされてゆく今の自分の姿を想像したのだろう。
少々情けない声を出した望へと笑顔で返し、するすると手を動かし続けて着物を脱がしてゆく。
やがて、少々ためらいを見せながらも最後の下着まで取り払われると、さすがに羞恥に耐えかねた望の手が伸び、
自分の局部を隠そうとする。
「あ…… そんなに恥ずかしがらないでも…」
望の手が自分の局部に届こうとするより先に、それを察した彼女の手が伸び、まだ縮こまった状態のそれにそっ
と覆いかぶさり、僅かに撫でるように触れてくる。
ひんやりとした指が自分の敏感な部分を優しく撫でている感触に、望は次第にもぞもぞとした物が自分の中から
湧き上がって来る事を感じ、局部へと熱い血液が集中しようとしている様子を悟る。
手の中にあるそれが、やや膨らみを帯びてきた事に気がついたのだろう。
彼女は手の動きを止め、気恥ずかしげな視線を望の方へと送りながら口を開く。
「…糸色さんは ……手と、く…… 口と、どちらがお好きでしょうか?」
「えっ!? ええっ…… と……!」
全く予想していなかった質問を投げかけられ、望は泡を食ったように口をぱくぱくとさせて言葉が出せずにいる。
狼狽している望へと小さく笑いかけると、彼女は一瞬だけ小首をかしげ、すぐに上体を倒して望の局部へと顔を
近づけてゆく。
「やっぱり、お口で…… するのが基本でしょうか?」
「あ、いや…!」
何か言おうとしている望の目の前で、彼女の唇が自分のそれに近付き、ゆっくりと小さな口が開かれた。
恐る恐るといった様子で口を近づけながら、まだ縮んだままのそれが入るくらいの大きさまで調整し、指で支え
た先端部から口の中へと飲み込んでゆく。
「あっ……」
すぐに先端が暖かい舌に触れ、望の口からそれを感じ取った声が小さく漏れる。
男性の部分全てを口中に収め、彼女はぱくりと唇を閉じ、絶棒の根元を包み込んだ唇で少しきつめに押さえ、数
回、柔らかく咀嚼するように口の中の絶棒を刺激する。
「うあああ……」
目の前で自分のそれが彼女の口の中へと収まって行く光景と、絶棒を包み込んだ暖かい感触に望はたまらず声を
上げ、あっという間に局部へと全ての感覚が集中してゆく。
「ん…っ!? んむ、んっ…… あ…」
たちまちのうちに硬くなり口の中で立ち上がった絶棒が彼女の口からはみ出してゆき、唾液に包まれたそれが唇
から飛び出して淫猥な水音を立てた。
「すごい…… 糸色さんの、これ、あっという間に大きくなって…… そんなに、気持ちよかったですか…?」
驚いた表情で絶棒の幹へとそっと撫でるように手で触れ、掌へと伝わってくる絶棒の熱い脈動を感じ、彼女は愛
しそうな視線を望の方へと送る。
自分でも驚いてしまったのだろう。やや気恥ずかしげな表情で、望は彼女の方へとチラリと目をやり、慌てて視
線をそらしてしまった。
「…それは…… あなたに、口でしてもらっている事が…… あなたの口の中へ自分のそれが入っていると思う
と、もうそれだけで……」
顔を背けたまま呟く望の言葉に、彼女は一瞬だけ目を見開き、すぐにその目元を赤く染めて、潤んだ瞳で恥ずか
しそうに笑う。
「……じゃあ」
小さな声で一言言いながら膝立ちになった彼女は、タートルネックの裾へと手を伸ばし、そこに隠れているス
カートのベルトへ手を掛ける。
「私の…… 口じゃない方へも…… は…… 入りたいと思って、下さいますか…?」
「そっ……!?」
ひき、と表情を固ませて、のどに何かが詰まったような声を出し、そのまま沈黙してごくりと小さく喉を鳴らす
望だったが、そそり立った絶棒が彼女の言葉に反応してぴくんぴくんと震えている様子を見れば、返事の言葉は
一つしかないのは確実だろう。
「……男って悲しい生き物ですねぇ」
本当に自分の一部なのかと疑いたくなるほど歓喜に震える絶棒の様子に、望は悟ったような口調で溜め息交じり
にそうもらした。
自嘲するような望の言葉に、彼女は顔を赤らめたまま目を笑みの形に細め、悪戯っぽく笑ってみせる。
「年上の男の人にこんな事言うのは失礼ですけど…… 糸色さん、すごく、可愛いです…… 生徒さんたちが何
かにつけてちょっかいかけてくるのも分かる気がしますよ。ちょっと、虐めたくなっちゃうような気持ちになる
のかもですね」
どう返事をするべきか考えあぐねて、とりあえず曖昧な笑みで返す望の前で、ベルトを外した彼女のスカートが
ストンと落ち、ストッキングに包まれた彼女の下半身が目の前に現れる。
おもわず凝視してしまう望の視線の先で彼女はストッキングも脱ごうと腰に手をまわし、そこで望の視線に気が
ついたのだろう、手を止め、恥ずかしそうに笑い、手を蛍光灯の紐の方へと伸ばした。
「…すいません。……電気。消させていただいても?」
「あ!? あああ、すいません! つい、ジロジロと眺めて……!」
反射的に謝る望へと笑って答え、彼女の手により部屋の明かりは落とされた。
一瞬の暗闇ののち、すぐに入れ替わるようにカーテンを通して外の月明かりか星明かりが部屋の中へと入り、ま
だ目が闇になれる前でも、彼女のシルエットくらいはすぐに認識できる程度の明るさに保たれる。
ストッキングと下着を脱いでいるらしい布すれの音を耳にしながら、望はふと、先ほど脱いだ着物の方へと手を
伸ばして中を探り、袂の中から彼女が買いに行っていた小さな紙箱を取り出した。
手さぐりでそれを開け、ビニールのパックで包まれた一枚を取り出して、おもむろに封を切り、それをすぐに使
える状態にして片手の指で挟む。
やがて彼女が服を脱ぎ終わったのだろう。
段々と暗闇に慣れてきた目に、薄明かりを受けて鮮やかな程の白い脚が飛び込んでくる。
服を取り払ったのは下半身だけなのか、上はまだタートルを着たままの様子で、顔まではよく見えないがおそら
く恥じらった表情を浮かべているのだろう。自分の陰部を片手で隠した状態の彼女が、そっと望の体を跨ぎ、そ
の上に膝立ちになった様子がうかがえる。
空いてる方の手が望の絶棒へと触れ、その首元あたりへ指を回し、軽く握り締める。
陰部を抑えていた手が除けられて、視線の先には彼女の秘裂が自分の絶棒とすでに触れんばかりの位置にある様
子が見て取れた。
彼女の手が絶棒をゆっくりと誘って行き、もう片手の指で自身の秘裂を少し広げ、湿り気を帯びた柔らかい陰唇
へと絶棒の先端を近づける。
キスをするように、陰唇と棒の先端部を軽く触れ合わせると、彼女の口からは感嘆の溜め息が漏れ、望の方はそ
の蕩かされるように柔らかく魅かれる感触に、思わず腰を軽く震えさせて駆け抜けた快感を逃しているようだっ
た。
「…ああ…… 糸色さん……」
「まっ……! ちょっと、まって下さい…! まだ… 付けていませんよ…!?」
このまま彼女の中へ溶け込んで行きたくなる衝動を抑え込みながら、望は指で挟んだそれを差し出して、必死の
様相で声を上げた。
彼女は、答えない。
絶棒を支えた手はそのまま、もう一方の手でそのリング状のゴムを持った望の手に触れ、わずかに押し返したよ
うだった。
「あ、いや、でも…… こういう事はちゃんと……」
「…私…… やっぱり、糸色さんとの間に少しでも隔たりがあるのは、嫌です……」
「あ…… その……」
「我儘言ってごめんなさい… でも… でも、やはり糸色さんが、ご心配して下さるのでしたら、付けて、しま
しょう? あなたが望まれるのでしたら、私も……」
もう、暗闇に慣れた望の目には、切なそうに瞳の奥を揺らしたままにっこりと微笑む彼女の顔が、薄明かりの中
でも見て取れる。
望の顔に戸惑いが浮かび、すぐにそれが苦悩するような表情に変わるが、それも一瞬の事で、小さく喉を鳴らす
とゴムを持った手を床の上に置き、指先で挟んでいたそれを手放した。
彼女の唇が震え、期待と愛しさの入り混じった瞳で、神妙な面持ちとなっている望へと言葉をかける。
「……は、恥ずかしくなかったらで、いいですので… その…… 仰って下さいませんか?」
「…え?」
「糸色さんが…… ど…… どう… なさりたいのかを… 私へ……」
赤らめた顔で、少し声をつっかえさせながら言う彼女に、望はすぐにその意味を理解してこちらも顔を赤く染め
てしまう。
もう、条件反射なのか、顔をそらしてしまうが、その視線だけは彼女の方へと固定したまま、何度か口を無音で
ぱくぱくとしながらも、緊張した声で答えた。
「……は、……は、はいり…… 入り…… たい、です…… あなたの、中、へ…… 繋がり、たい… です…
…」
最後の方は消えて行きそうな声で告げた望の声に、彼女は何とも言えない感極まった笑みを浮かべて大きく息を
吸い込み、絶棒を支えたままの手を強めにしっかりと握りなおして、すでに陰唇と触れている先端をそっと押し
込んだ。
「あああ……」
「うあ!?」
望の目の前で彼女の秘裂を押し広げて自身の先端部が埋没し、すぐに絡み付いてきたとろりとした蜜のようなも
のと、熱くすら思える彼女の体温に包まれ、思わず声を上げてしまった。
まだ先端が入り込んだだけというのに、すでに射精の準備を始めようとしている絶棒に気が付き、望はわざと鈍
感になるように努め歯を食いしばって自身を制する。
そんな望の様子を知ってか知らずか、彼女は甘い鼻声を漏らしながら、じらしているようにも取れる速度で、ゆ
っくりと体内の奥へと望を誘ってゆく。
「は…… ああ…… 糸色…さ……ん」
絶棒を小さく揺らし、自分の膣内を静かに掻き回すようにして、ゆっくりと、ゆっくりと挿入してゆく。
頭の中で火花がちらつくような快感に立て続けに襲われながらも、望は目をそらさず、目の前で彼女の一番大事
な場所へと侵入してゆく自分を見つめ続けている。
絡み付いては離れ、暖かい蜜を浴びせ続けながら絶棒を飲み込んでゆく彼女の動きが止まり、望の絶棒が全て埋
没した様子を知らされた。
「入っちゃいました…… 入っちゃいましたよ… 糸色さんが、私の、中に……」
恍惚とした笑みを浮べながら、泣きそうな声で望へと報告するように話し、彼女は確認するように視線を下へと
向けて、自分たちが繋がっている部分を確かめる。
「…私たち、一つになってる…… 私、糸色さんと、エッチしてます……」
もう興奮の制する事が出来なくなっているのだろう。
荒く、熱い吐息を吐きながら上ずった声で独白するように呟くと、彼女は少しずつ腰を動かし始める。
絶棒が出入りする度に彼女の体内から掻き出された蜜があふれ出し、二人の体が打ち付けられる度その水音が大
きくなってゆく。
やがて溜まりかねたようにして望の腰が動かされ、寝そべったまま、自分の上で絶棒を愛撫している彼女を何度
も突き上げる。
「あっ…! や… 糸、色…さっ ……んんっ! そんなに、……そんなに、激しくえぐられたら、私… ああ
ああっ!」
彼女は望の体の上で跳ねながら、髪を振り乱して首を左右に振り続け、それでも自分の中を掻き回す絶棒を必死
に奥へと打ち込み続けていた。
自分に跨った彼女が乱れる姿をのぼせたような顔で見守っていた望は、不意にそっと手を伸ばして、今だ服で覆
われたまま揺れる胸の膨らみへと軽く触れた。
「あ……っ?」
「あ! す、すみませ……」
驚いたような声を上げた彼女に、望は慌てて伸ばした手を引っ込めるが、彼女はさして気にした様子もなく、自
分の手を背中に回して素早くブラのホックを外したようだった。
腰の動きを変えゆっくりと前後に動かすようにしながら、続けて裾をまくりあげて、望の目の前に柔らかそうな
膨らみをこぼれさせる。
「どうぞ……」
一瞬だけ小さく唇から舌を覗かせて、恥ずかしそうな声で望へそう告げた。
やや気まずさがあったものの、望の両腕が伸び、恐る恐る二つの膨らみへと触れた。
包みこんだ望の掌から少しはみ出る位のそれのサイズは結構大きい部類に入るだろう。見た目通りの柔らかさを
持ったそれを指で揉みしだきながら、すでに固く立ち上がっている先端の突起の先を人差し指の腹でくりくりと
捏ね回す。
「やああっ……! ああ、んっ!?」
ビクビクと上半身を震わせて上がった彼女の嬌声が望の耳に入った時、今まで必死でこらえていた何かがボー
ダーラインを越えてしまった様子を感じ取り、望は悲鳴に近い声を上げる。
「す! すいません! もう…っ! 私、もう限界です! 抜かないと……! …すいませんっ! 早漏ですい
ません!」
切羽詰まった声で訴え、自身の動きは止めて、張りのある彼女のヒップへと両手を移し、その体を持ち上げよう
とする。
その望の両手を制するように彼女の手が伸び、望の手を取り両手を自分たちの目の前へと運んでくると、自分の
両手で包みこむようにして握りしめた。
「…な……?」
「糸色さんが、私の事を気に入って下さったのでしたら──」
狼狽した表情の望の顔をまっすぐに覗きこみ、彼女は微笑みを浮かべて口を動かし、その続きを言葉にする。
「──このまま、あなたが、欲しいです」
一瞬、呆けたように口を半開きにした望だったが、その喉をごくりと鳴らすと、いつになく真剣な顔で彼女の手
を握り返し、緊張した声で返事を返す。
「一生、大切にしますから……」
望の言葉が返された瞬間、彼女の瞳の奥で一瞬のうちに様々な感情がよぎったような揺らめきが見え、泣き出し
そうな笑みを浮かべると、望の唇の上へと素早く口づけを落とした。
どちらからともなく行為を再開し、望の体の上で揺れながら、彼女も上気した色の顔で望の絶棒を絶頂へと導い
てゆく。
「…あああ! 糸色さんっ! 私も……! 私も、もう、駄目です…! いっちゃいます……っ!」
「一緒に! 一緒に……!」
「ああ! もうっ… もう駄目…… 糸色さん、恥ずかしい…! お願い、目を閉じていて下さい…… あああ
っ!」
「…あ! はい! すみません! 見てませんから! 一緒に……!」
望は慌てて目を閉ると、ひくひくと動く彼女の体内へと神経を集中させて、自分の中から駆けあがって来る物が、
もうすぐ絶棒を通り抜ける悦びを噛みしめる。
彼女が握っていた手を離し、そのままたくし上げていた上着を脱ぎ去ったらしい布すれの音が聞こえ、望の頭の
上辺りの床へと、それが脱ぎ捨てられた音が続けて聞こえた。
その瞬間はほんの一瞬だったのだが、自分の上を通過した際に、微かにではあるが違和感があった事を感じ取り、
望は押し寄せる快感の中でそれが何であったのかへと思考を巡らせた。
例えるなら、布地とは違った…… 長く細い… 髪の毛先の束に、肌をくすぐられたような感触──
些細な事かもしれないのだろうが、どうしても消え去れない違和感に、望はきつく閉じていた瞼をうっすらと開
いてみる。
ちょうど彼女もこちらを見ていたのだろうか。
まっすぐに望の瞳を覗きこんでいた彼女と目が合ってしまい、そして、それとは別の物が視界に入った事に、望
は思わす目を見開いてしまう。
横に分けた前髪を額の端で留めた、大きなバツ印の髪留め。
そして、背中側で束ねていた長髪はどこにもなく、うなじの辺りには少し癖のある短い後ろ髪が跳ねているだけ
となっている。
目元と口元にうっすらと残ったメイクで、まだ彼女の面影を感じる事はできるのだが、そこにいるのはあまりに
も見慣れた少女の顔だった。
呆然とした顔で、開いたままの望の口から声が飛び出す前に、その少女の口が開き、明るい声が望へとかけられ
る。
「いやだなあ、先生。──鶴がハタを織っている間は見ちゃダメだって、昔話にあるじゃないですかあ」
窘めるような口調でそう言うと、少女の口が、にいっ、と白い歯を見せて笑みの形を取った。
普段であれば、どうという事もない笑顔に見えるのだろう。
が、暗い部屋の中、見上げた位置、影となった目元で薄明かりを反射して光る瞳と白い歯だけが鮮やかに映るそ
の笑顔は、ともすれば凄絶とも言えるほどの圧力を感じさせる笑みだった。
「あ── あああああああ!?」
「大丈夫ですよ! 私、昔話のツルとは違いますから! 我慢できずに見てしまっても逃げたりしません!」
「ど、どういう…!?」
切羽詰まった思考の中、それでも何とか冷静を保とうと働いた頭で、望はその言葉の意味を問い返した。
少女── 可符香は、普段通りの軽やかな笑みを浮かべたまま、力強くうなずいてみせる。
「せっかく先生が我慢せずに出す事に決められたのですから! さあ、出しちゃいましょう、先生!」
「だめえええ! ど… どいてください! 風浦さ……」
いつも通り、言葉の意味以上の物は何も感じ取れない可符香の表情だったが、悲しくも反応してしまった絶棒が、
少女の中へと欲望を送り込むべく脈づき始める。
それと同時に、可符香の体内で望を包み込んでいる膣壁が別の生き物のようにうねり、絶棒を握りしめるように
張り付き、そこから放出されようとしている物を吸い出そうとでもするかのように柔らかい襞の塊が締めつけて
くる。
すでにもう、自分の意志では止められない状態になっていた快液が絶棒の根元へと送り出されてきた。
出してはならないという義務感と、出さなくてはならないという欲望と。
先ほどまで愛し合っていた女性が消え去った衝撃と、いつも自分の心の隙間に入り込み陥しめてくる少女と今、
男女の行為で繋がっているという違和感。
そして、その状態でも消えない、繋がっている相手へと自身の全てを吐き出したい切なさと、様々な物が入り混
じり、完全に混乱した思考の中で、絶棒の中を快液が駆け上がり初めた快感に頭の中が真っ白になり、目の前に
ある可符香の微笑みが視界一杯に広がって行き──
望は次の瞬間、無我夢中で起き上がり様に少女の体を突き飛ばしていた。
ごつん。という、軽い音を立てて可符香の小柄な体は仰向けにひっくり返り、それと同時に二人の結合が解け、
可符香の蜜にまみれた絶棒が外気にさらされ、ぶるぶると小刻みに震える。
「あたた……」
「す、すみませ……! う……っ…!」
あまり痛そうには見えない苦笑を浮かべた可符香が頭をさすりながら上体を起こし、慌てて手を伸ばそうとした
望の視界には、可符香の広げた脚の間にある女性器が、今、自分の絶棒を受け入れていた事を示すように、膣内
へと向かってぽっかりと小さな穴が広がっている状態が飛び込んできた。
その瞬間、限界を迎えたらしい望の絶棒が哀しそうに震え、先端から勢い良く迸った快液が可符香のへその辺り
まで飛び、白い小さな水溜りが出来上がる。
「お…?」
目を見開いて、望の鈴口から快液が飛び出した様子を見ていた可符香が小さく呟き、望は慌てて射精を続けよう
とする絶棒を両手で包んでしまう。
「うっ……! ううっ… あ……」
一度始まった放出はやはり止められないのだろう。
苦しそうな呻き声と表情で、自分の手で欲望の液体を受け止めながら、望は放出が収まるまでひたすら耐えてい
るように見える。
「おおーー……」
感嘆したような声を上げてまじまじとその様子を可符香に見守られながら、何かを言い返す余裕もなさそうな望
は、見ようによっては自慰行為をしているようにも見える態勢で、じっと快感が通りすぎるのを待っているよう
だった。
やがて、放出が収まったのだろう。
深い溜め息をついた望の目の前へと、ティッシュボックスを持った可符香の両手が静かに差し出され、望は沈痛
な面持ちのまま、それでも「どうも」と短く礼を言う。
可符香はというと、自分の体に付いたそれはいつの間にかふき取ってしまったらしく、望が手の平と絶棒に広が
ったそれを綺麗にしている間、すました笑顔を浮かべて、無言でその様子を見守っている。
居心地が悪そうに後処理をしていた望だったが、やがて一通り終えると、暗い表情の顔を前髪の間からのぞかせ
て口を開く。
「…どうせまた、チキンとか言われるのでしょう?」
自嘲気味の笑いを口元に浮かべ、そう呟く望に、可符香はすぐに笑みの表情を見せると快活な声を上げた。
「先生、もう少し地球に優しくしないと。今はエコの時代ですよ?」
「は…… はあ?」
完全に予想外の反応を返されてしまったのか、望は呆けたような声で何ともいえない戸惑った表情となる。
「ゴミを増やさない為、ゴムの使用は無しで── 外に出すとティッシュのゴミが増えるのでそれも無しで──
ほら! 環境に優しいです!」
場に相応しくないほどの明るい声でそう言いだした可符香に、望はその場に崩れ落ちそうになるほどの脱力感を
覚えるが、何とかそれに耐え、あえて冷静になり、その声に答える。
「……それは、女性には優しくないのでは……?」
疲れた声で返された返答に、可符香は小首をかしげて片手の指先を首の角度と同じ位置にそろえた変なポーズで
口を開く。
「ありゃ? なるほど! 先生は、地球より女性に優しく、と推奨しているのですね! それは素晴らしい事で
す!」
「それは…… そうで……」
苦笑を浮かべ、可符香の言葉に頷こうとした所で、ほんのつい先程の自分の記憶がフラッシュバックし、望は頭
を抱えると床に額をこすり付けて伏せってしまった。
「ああああ…… 私という人間は、何て……」
どんよりとした影が纏わり付いた様子が見えるくらい落ち込んだ望の背中を、可符香の手が軽い感じで、ぽむ、
と一つ叩いて見せた。
「先生。あまりに無沙汰の射精でしたから、気持ちよくなれなかったんですね」
「…だれのせいだと。…勝手にご無沙汰にしないでください」
暗い声で、それでも律儀に返事を返す望に、可符香は急に眉を落として心配そうな表情となり、声のトーンが下
げられる。
「…と言う事は、このままだと先生が大変なことに……!」
「は?」
意味が解らず、やや顔を上げて聞き返した望に、可符香は不安げに曇らせた表情で望の顔を覗き込む。
「快感を伴わない射精を行ってしまった男性は、その負担から、寿命が百日縮んでしまうのです……!」
「どこぞの新聞ですか!? そんな事あるわけないで……」
がば、と顔を上げ、さすがに抗議の声を上げた望だったが、可符香の悲しそうに眉を寄せた表情と、口元を隠し
て目をそらした仕草に、思わず言葉を途切れさせてしまった。
顔を逸らしてしまった可符香の横顔を見つめ、しばし息を呑んで沈黙していたが、やがて擦れた声を喉から絞り
出してくる。
「……あの? マジで……?」
ぼそりとした望の声に、可符香は沈痛な面持ちのまま、ゆっくりと頷いてみせた。
「…ど…… どうすれば…… よいので…!」
不安そうに目を泳がせて焦りだした様子の望に、可符香は人差し指を立てて力強く頷いてみせる。
「簡単です! 十倍返しですよ、先生!」
「じゅう… ばい……?」
「一日過ぎるまでに十倍の数だけ絶頂を迎えれば良いのです! もちろん気持ちよく!」
可符香の言葉に望は目を見開き、絶望的な表情で体を仰け反らせてしまう。
「そんな…… いくらなんでも十回など……」
「大丈夫です!」
頼もしそうに可符香は自分の胸を叩き、望はその拍子に揺れた少女の膨らみに、自分たちがまだ裸のままだった
事を思い出したらしく、思わず赤面して可符香の体から目を逸らしてしまった。
その隙を狙ったのだろうか。
可符香は一動作で四つん這いの姿勢になると、すばやく望の股間に顔を近づけて、しぼんでしまっている絶望を
口に含んでしまう。
「な!?」
「では、始めましょう!」
それを含んだ口で器用に喋ってみせる可符香に望は目を瞬いて驚くが、すぐに少し赤らめた顔のままで遠い目と
なり、諦めたような口調で呟いた。
「……ちょっと、いくらなんでも、まだ間も無いですよ? 私は、そんな盛んな……」
ぶつぶつと続ける望をよそに、可符香は唇を閉じて口淫を開始する。
──途端、望の顔色が変わった。
「ちょっ!? ふ、風浦さ……!」
まだぐったりとしている絶棒へと少女は舌を絡ませ、表面をこするように温かい舌を這わせたかと思うと、舌先
を尖らせて茎の裏側を舐め上げ、飴を舐めるように舌の上で転がし、再び絡みついてゆく。
濡れた唇で絶棒の幹をなぞりながら口の中で絶棒を弄り、その絡みつく少女の舌は、二・三本生えていなくては
不可能なのではと思えるほど、縦横無尽に絶棒を翻弄してゆく。
「ああっ! うう…っ!?」
空いた手で棒の根元から下へと辿り、四本の指で望の前立腺を強弱をつけて押したり、ほぐしたりして刺激を与
え続け、もう片手で望の陰嚢をそっと包み、掌の上で転がすように撫でながら、時々やさしく揉みしだく。
本能的に恐怖も覚えるほどの勢いで湧き上がる快感に、望は上体を仰け反らせてその攻めから逃れようと後ずさ
りするが、体の方はすでに可符香の愛撫を受け入れてしまっているらしく、両脚をピンと伸ばして突っ張った状
態の下半身は言う事を聞いてくれない様子だった。
「あ…… あああ…!」
情けない声を上げながら快感に翻弄される望の股間で絶棒が再び硬度を取り戻し、先程よりさらに見事にそそり
立つ姿は、この少女との行為を行う事を催促しているようにも見える。
ちゅぽん と、音を立てて、含んでいた亀頭から唇を離し、可符香は満足そうな笑みで絶棒を撫でると、いつの
間にか手にしていたゴムをその先端へと乗せて見せた。
「先生は女性に優しい方── それは素晴らしく尊い事ですよ! もっと誇ってください」
「それだけ聞くと、何だか良い事のように聞こえるのですが……」
微妙に半笑いをうかべながらも、大人しく可符香にゴムを装着してもらっている自分の絶棒を、何となく気恥ず
かしそうに眺めている。
細い指を器用に動かしてそれを装着している少女の姿は、これから男女の行為を行う事を暗に仄めかし、望は自
分の中に芽生えた後ろめたさに思わずそれから目をそらしてしまう。
「そうですよ! 素晴らしくチキンである事を誇りに思って!」
「褒めているようには聞こえませんが!?」
目を見開いて言い返す望に、可符香は顔をそらして口元に手をやり、言葉は返さずに上品に笑ってそれを流す。
不服そうな顔でそれを見ていた望だったが、すぐに状況を思い出したようで、気まずそうな視線を可符香に送り
ながらぽそりとした声を落とす。
「…その… あなたと、する… 訳ですか?」
わざとだろう。不満そうな表情を作り、溜め息混じりの声でそう呟く。
「チェンジも可ですよ!」
「…は!?」
あっけらかんとした声で即答した可符香に、望は思わずその顔を覗きこみ驚いた声を上げた。
相変わらず快活そうな微笑みを表情に乗せ、可符香は片手でオーケーサインを作って目の高さまで持ってくる。
「女子大生さんなんてどうですか?」
「!?」
さらりとした口調で言った可符香の言葉に、望は表情を引きつらせて全身を強張らせた。
ぷるぷると震える拳を握りしめて、声にならない様子の望をよそに、可符香は後ろを向いて手を伸ばし、先ほど
投げ捨てたタートルネックに絡まるようにしてそこにあったウィッグへと手を伸ばす。
次の瞬間──
唐突に、勢いよく伸びた望の両手が背中を見せている可符香のヒップを左右から鷲掴みにし、力任せに自分の方
へと引き寄せた。
「!?」
さすがに驚き、目を見開いた可符香が振り向くよりも早く、張りのある小さな尻の肉を左右へ引っ張るようにし
て脚を開かせ、その間に見える秘裂に絶棒の先端をあてがったかと思うと、躊躇なく可符香の中へずぶずぶと挿
入してしまう。
「せっ……? あ……っ!?」
これは予想外だったのか、あっという間に自分の奥まで侵入してきた望を受け止めきれず、突き上げられた可符
香は細い背中を一度びくんと震わせて体勢を崩し、腰を掴まれた状態のままうつ伏せになってしまった。
間を置かず、望は後ろから激しく何度も腰を打ち付け、乱暴なほど性急に可符香を攻め始める。
「せっ……! んせ……?」
「いつもいつも! あなたはどうしていつも私を! どうしてなんですか!?」
可符香への問いかけというよりは、ただ闇雲に声を発しているだけといった様子で、望は荒い声を吐き出しなが
ら、可符香の中へと自分の絶棒を打ち付ける。
人の肌を平手で激しく打ち付けているような荒っぽい音を立て、休む間もなく腰を打ち付ける望に、可符香はま
ともに声を出す事もままならないようで、乱れた呼吸の合間に短く呻く位がやっとの状態に見える。
突如、望が動きを止めて絶棒を抜き去ると、まだ勢いの残っていた可符香の体はそのまま床に突っ伏してしまう
が、間髪入れず望の両手が可符香の体を掴んで仰向けにひっくり返すと、両の足首を掴んでその細い両脚を左右
に広げてしまう。
「……!」
まだあまり余裕はなさそうに見えるが、望が何をしようとしているかは想像できたらしく、ちょっとびっくりし
た形に眉を上げて望の顔を見つめる。
望は剥き出しとなった可符香の秘裂に絶棒の先端をあてがい、少しずれてきたゴムの根元を指で押さえながら、
一息に腰を突き出した。
「…………っく!?」
一瞬のうちに奥まで打ち込まれた衝撃に、可符香は身をよじってその圧力を散らそうとするが、続けざま、ほと
んど倒れんばかりに抱きついてきた望の体に抑え込まれてしまう。
床を背にした可符香の背中に強引に左右から両腕を入れ、がっちりと細い体を抱きかかえた状態で、先ほどより
も激しく、壊しそうな勢いで、何度も何度も可符香へと自身をたたきつける。
「…そんなに私を弄るのが……! そんなに私を疎ましく……! どうしてそこまで!?」
意味は通っていないものの、言いたいことは理解できたらしく、望に何度も貫かれながら、可符香はわずかに眉
を寄せた。
「ええ、私はこんな人間ですから! 鬱陶しいでしょうとも! …でも、こんなにも、貶める事ないじゃないで
すか!? どうせ、あなたは私の事なんて…… あなたは、どうせ…… 何とも…」
困ったような笑みを浮かべて、わずかに自由に動かせる腕を望の肩へとまわし、耳元でつぶやき続ける望の声を、
可符香ははただじっと聞いている。
可符香の中で暴れていた絶棒の動きが変わった。
びくんと大きく震え、その幹の部分から激しい脈動を感じ、可符香は少し腰を動かして絶棒を包む膣壁を収束さ
せ、きゅうきゅうと締め付ける。
「……あ!? う……」
柔らかい襞に締め付けられた瞬間、望は体を反りかえらせると、小さくうめき声をあげながら快感を解き放った。
自分と望を隔てている薄いゴムの向こう側で、本来は可符香の膣奥へと放たれる液体が放出されている様子が、
はっきりとではないが確かに感じられる。
望の受けていた快感を示ように大量の快液がゴムを膨らませ、替わりに努張していた絶棒が少しずつ小さくなっ
てゆく。
上半身を突っ張らせて可符香の中で放出していた望だったが、やがて力尽きたように崩れ落ち、可符香の体の上
に倒れこんでしまった。
「……すいま……せ……」
最後に泣きそうな声で苦しそうに告げると、望の体から力が抜け、ぐったりと自分の体重を可符香へと預けた。
華奢ではあるものの、やはり男性である為だろう、それなりの重量でのしかかってくる望の体を受け止めたまま、
可符香は汗の伝う望の背中へと手を回し、こちらも汗ばんでいた自分の両手の指を広げぺたりと貼り付けるよう
に触れる。
「いやだなあ、先生── さっきちゃんと……」
呼吸を整えつつ軽く目を閉じ、腕の中にいる望へと語り聞かせるような口調で声を向けるが、ふと、望の様子に
気が付き目をあけて、ずっしりと体重を掛けてきている望の様子を伺っている。
望は、まだ呼吸は荒いものの、どうやら気をやってしまったらしく、ぐったりと伸びてしまい何の反応も示さな
い状態となっていた。
相変わらず薄く笑みを浮かべた表情のまま、わずかに唇の端を上げて苦笑のような形を見せると、下腹部に少し
力を入れて自分の中で望の体と同じように果ててしまった絶棒を一瞬締め上げ、まだその中に残っていた快液を
吐き出させる。
望の腰がぴくんと震え、意識はないものの小さな快感を与えられた体が反応した様子をみせた。
口を閉じた可符香は喉の奥で少しだけ低く笑ってみせると、目を細めて、自分の真横で顔を突っ伏している望の
髪に掌を添えた。
「──あら、先生。言いそびれちゃってますよ? 『絶望したー!』って」
初めて声に出してクスリと笑い、体の力を抜いて、軽く息を吐き出してみせる。
それ以上は何も言わず、抱きかかえた望の重さを感じながら、どこも見ていないような表情の瞳で、可符香は暗
い部屋の天井を眺め続けていた。
──スズメの鳴き声、ですか。
望はぼんやりとした頭にそんな事を思いながら、ゆっくりと目を開いた。
室内はまだ薄暗いものの、カーテンから透ける朝日は部屋の中を仄かな白い光で照らし出し、窓の外からはスズ
メの鳴き声に混じって新聞配達か何かのバイクが通る音が聞こえる。
いつの間にかファンヒーターは止まっており、部屋は朝の寒気に満たされひんやりとした空気となっているが、
包まっている布団の中は暖かく、望が、まだ眠気が消えない頭を振りながら再びその中へともぐりこもうとした
時、
もぞり── と布団の中で何かが動き、即座に緊張し目が覚めた望は、そっと掛け布団をめくりその中を覗き込
む。
自分と同じ布団の中、隣に寄り添うようにして、丸裸の少女が一人、体を丸めた姿勢で寝息を立てていた。
前髪で交差する髪留めを見ればこの少女が誰なのかなど自問するまでもなく、すぐに蘇ってゆく昨夜の記憶が頭
の中で広がり、望は冷えた空気の中、頬に汗を一筋たらしながら目を逸らして掛け布団を戻そうとする。
が、望の動いた気配を感じたのか、目を閉じたままの少女がもそもそと身をよじって、ゆっくりとした口調で声
を漏らした。
「…ん…… せんせい… すごいですね…… 私、もう…… 腰、がくがくです… よ……」
布団を戻そうとした姿勢のまま固まり、血の気の引いた顔をひきつらせていた望だったが、ふと、自分たちの包
まる布団の周井がやけに散らかっている様子に気が付き、メガネの下に指をいれて目を擦ると、部屋の様子を確
かめようとする。
すぐにそれが何か判り、望の頭に軽く頭痛が走る。
数えるのも嫌になるくらいの丸められたティッシュがそこかしこに散らばっている光景に、望はしばし絶句して
しまった。
「…ゆめ、ですよ…… ええ、これはきっと夢……」
自分に言い聞かせるように小声で呟きながら再び布団の中にもぐろうとするが、すぐにその中にいる少女の顔が
目に入り、慌てて戻ろうとして、今度は布団の外の光景が目に入り、望は虚ろな視線で天井を仰ぎ肩を落とした。
「……何ですか、この状況」
力なく呟く望の下、布団の中から微かに可符香のクスリと笑う声が聞こえたようだった。
冷え込みはそれなり。
風もなく、雲もなく、朝日が全開で降り注ぐ朝の通学路。
過ごしやすい一日となる事が予想される日差しの中、疲れた顔で少し猫背気味となってのろのろと歩む望と、対
照的に、元気良く足を上げて手を振り、望の少し斜め前を歩く可符香の姿があった。
手にした鞄も軽やかに振り、快活そのものの笑顔で歩きながら望の方を顔だけで振り返る。
「どうしたんですか先生! 元気ないですよ!」
さわやかな声を掛けてくる可符香に、望は大儀そうに顔を向けて、重そうな声を出す。
「……いや、もう、何が何やらで…… 正直疲れてます……」
「大丈夫ですよ先生! 頑張れば体力年齢60歳も57歳くらいまでなら回復できます!」
「三歳分だけ…!?」
さらに疲労が増したように肩を落とし、望は溜め息をつきながらもちゃんと足は前へと進めてゆく。
やがて校門が見えた所で、望の姿を見つけたのだろう、こちらに向けて声が掛けられる。
「あー! 先生どこに行ってたんですか!?」
校門前にばらばらと集まっていた女性徒の中から千里の声がまずかけられ、それを合図に他の女生徒達と一緒に
こちらに駆け寄ってくる。
「もう! 昨日から消息不明だって霧ちゃんが言うから皆で探しに行こうとしてたんですよ!」
「……いつもの死にたがりにしては、誰も行き先聞いてないっていうし、さすがにちょっと変かなって思った」
「朝のニュースにも、出ていなかっタからナ!」
口々に言いながら傍に寄ってくる生徒達に、望は少しジーンとしたように涙さえ浮かべ、千里たちの顔を見回し
た。
「……みなさん、私を心配してくれていたのですか……!?」
「本当に行方不明だったりしたら、それは心配しますよ……!」
安堵したように溜め息をついて苦笑する千里に、望が思わず感極まった声を上げようとした時──
「ちがいますよ、千里ちゃん! 行方不明だったんじゃありませんよ」
横手から、可符香の涼しげな声がかけられる。
「──先生は、行方不明じゃなくて朝帰りですよ!」
空気の凍りつく音が確かに聞こえた気がした。
いつの間にか望の背後にいたまといが、その服の背中から何かをつまみあげ、日の光に掲げてみせる。
「……長い…… 女の人の髪ですね… まだ、あの女と続いていたのですね…」
口調は静かだが、その中に含む物の圧力に望は思わず顔色を白くして、絶句してしまう。
「なんだ…… 取りこし苦労だったの… まあ、良かったですよ、先生が無事で…!」
千里の目つきが急速に変化し、背中から取り出したスコップを両手で構える。
「そうね、先生が無事だったから、私は何も聞かないであげる」
あびるの腕の包帯が不自然に伸び、絞首紐のように両手に絡め、こちらににじり寄ってくる。
「私も何も聞かないであげますから、先生……」
大振りの包丁を構えたまといと、いつの間にか後ろにはバットを持った真夜が立っており、望は完全に取り囲ま
れていた。
「ちょっ……! ちょっと待ってください! これは……」
なぜか姿が見えなくなってしまった可符香の姿を探し、望があたふたとしている間にも女生徒たちは包囲の輪を
縮めてくる。
「いいんですよ、何も、聞かないであげますから、何もね。…何も、聞か ──ぬ!」
千里のスコップが振り上げられ、それを合図に他の女生徒達も一斉に間を詰めてきた。
「あら、糸色先生は?」
「先生は行方不明中です!」
教室の入り口から中を覗き込んだ智恵先生に、黒板を拭いていた可符香が明るい声で返事をする。
「また一週間もすれば帰って来るでしょ。」
日直の表示を丁寧に直しながらそう付け加えた千里の言葉に、智恵先生は小さく息をつくと教室の中へと入り、
教壇の前へと進んで出席簿を手に取る。
「じゃ、しょうがないわね。とりあえず私が出席を取ります。…皆さん席について」
淡白な感じで告げて名簿を開いた智恵先生に、可符香と千里は黒板から離れ自分の席に戻る。
穏やかな日差しに包まれた教室の中に、普段と変わらぬ始業のベルが鳴り響いてきた。
88 :
305:2009/11/29(日) 00:45:49 ID:ZVJDcgTl
お粗末でした。
では、失礼します。
いつも大作GJ!先生がかわいいです
女子大生と可符香で二度おいしいとか・・・
エロいよ最高だ!
今更ですがGJ!です!
『トゥルーマンショー』ネタでハーレム物読みたいな〜
欲しい物が明確なら自分で書いたらよろし
日本語話せればできるよ
文才なんか必要ない
今週のあびると命がネタになりそうでならない
クンニしろよオラァー!みたいになってしまう
人いないなー
先生×奈美ネタ投下します。
エロあり。
ちゅるちゅるとラーメンをすする倫。
固唾を呑んで倫を見つめる奈美。
最後の一本を飲み込んで、倫は箸を置いて言った。
「……普通だな」
奈美は、がくりと肩を落として深くため息をついた。
「ううー……ああー……わかってたけどね…」
倫の横に掛け、奈美は机に突っ伏する。
ここは、倫が買収した元ラーメン店。
店も移転し、今や誰も使っていないその場所を利用して、奈美はラーメン作りに勤しんでいた。
キッチンも奈美の意気込みも立派な物だったが、出来上がった物に下される評価はいつも『普通』。
「ふつう……普通かぁー……」
奈美が愚痴りだした。
周囲の自分に対する評価、そしてその評価を受けても仕方のない自分自身のこと。
この折れるまでの早さも彼女を普通たらしめてる所以かもしれない。
話を聞く倫は、なぜだか少し楽しそうである。
次第にその対象は、ある一人の人物へとシフトしていった。
「先生もさぁー、チョコとかクッキーとかもらっといて『普通』、はなくない〜?
結構頑張って、おいしいの作れた……と思うんだけど」
「菓子は普通、おいしい物だからな」
「あ、そっか…………え?なら、おいしいって言えばいいじゃん」
頬を膨らませて兄への文句を言う奈美のすぐ横で倫は楽しそうにくすくすと笑っていた。
「……なあ、奈美?」
「なにー?」
「お兄様のこと…好きなのか?」
「うぇっ?な、なんで急に!?」
「気づいたらいつもお兄様の話をしている」
「そ、それは倫ちゃんが先生の妹だから……で……」
わたわたと動きながら否定する奈美だったが、じっと目を覗き込む倫の前で次第に大人しくなってくる。
「……先生の周りにはいつも女の子いるし、可符香ちゃんとか千里ちゃんとか霧ちゃんとかまといちゃんとか……
愛ちゃんみたいに気にかけてももらえないし、カエレちゃんやあびるちゃんみたいにスタイルよくもないし、
それに先生、大草さんとか智恵先生とかがタイプみたいだし……やっぱり普通だもん私……
あーあ……倫ちゃんみたいに綺麗だったら違ったのかな?」
自虐気味に笑ってみせる奈美の前で、倫はふーとため息をついた。
「ええ、普通ですわ。ですが…」
倫はラーメンの器を手にすると、凛とした態度で続ける。
「私は、このラーメンをまた食べたいと思いましたわ」
胸を張って、ふんと自身ありげに言うと、倫は奈美に微笑んだ。
ふー、と深く息を吐きながら上を見上げる。
透き通った空には、きらきらと星が瞬いていた。
普段見る夜空とは違う、とても綺麗な星空。
ぐっと体を伸ばすと、ちゃぷんと音を立てて水面が揺れる。
眺める景色は雪で白く、また辺りにも少し雪が積もっている。
少し肌寒い気温の中で、奈美は温泉に浸かっていた。
「お湯加減はいかがでしょうか?」
後ろから声をかけられて、振り向くと倫が立っていた。
一糸纏わぬ姿で堂々と立つその姿に圧倒される。
「え、あ……うん。すっごくいいよ」
「ふふ、当然だな」
(倫ちゃん……綺麗だなぁ……)
倫も湯に浸かり、なんだかドキドキしてしまっている奈美の横に掛けた。
「それで、今日のツアーはどうだった?」
「楽しかった……うん。すっごく楽しかった」
奈美は、少し頬を赤らめて答えた。
倫が新しく始めた事業……それが、今二人が居る温泉宿だ。
その宿も含めた糸色交通のツアープランのモニターをやらないか、と倫に誘われて今に至る。
そしてもう一人、そのモニターに選ばれた男性が居た。
倫の兄、糸色望だ。
「びっくりしてたね、先生。何の罠ですか!?とか言っちゃって」
「そうだな」
そのときの望を思い出して笑いあう。
結局、そこに居るのが奈美だけだったためか、それとも倫の押しの強さに負けたのか、望も参加した。
はじめは、望が少々警戒していたせいと、奈美も緊張していたせいで少しぎくしゃくしていたが、
次第に二人の緊張も解け、いつもの気安さで、そしていつもより近くで、長い時間を共に過ごした。
もちろん倫も居たがあくまでガイド、奈美としては望と二人きりでデートや旅行に来たような気分だった。
「ありがと、倫ちゃん」
お礼を言う奈美の前で、倫はこれみよがしにため息をついた。
「まったく……重要なのはこれからだぞ。今までのはお膳立て、わかっているのだろう?」
「あ……やっぱり?」
奈美が困った顔で笑う。
現在この宿に居るのは、少数の使用人を除けば、オーナーである倫と、望と奈美だけである。
もちろん、まだオープン前の宿であり、部屋などあり余っている。
そして、望と奈美は、男と女、教師と生徒、用意された部屋は当然別々だ。
倫によって用意された、二人っきり、邪魔者はなし、そして一夜を過ごすというこの舞台。
だが、倫の手助けもここまで、ここから先は、奈美自身が動かなければならない。
「うぅぅ…………うまくいくかな」
「今日のお兄様は、お前と過ごせて楽しそうだったぞ。それに……」
むにゅ、と奈美の胸に手をやって軽く揉んでみる倫。
「奈美は、なかなか殿方に好まれそうな体をしていると思うがな」
「きゃっ……そ、そう?」
「ああ。少しくらい下品な方が良いらしいぞ」
「げ、下品って何よぉ……そりゃ、倫ちゃんに比べたら……だけどさ」
むう、と不満げな顔をする奈美に、倫はくすりと笑った。
「お酒をお持ちしましたわ、お兄様」
「ああ、倫…と、日塔さんも」
倫の後ろに付いて、奈美はぺこりと会釈をすると、望の前に座った。
「どうぞ、先生」
「あ、どうも。ありがとうございます」
奈美が望に酌をする。
望は、既にアルコールが入っていたようで、ほろ酔い状態だ。
「お前もどうだ?」
「え、いいの?」
「あら、少しくらい構いませんわよね。お兄様も付いているんですし」
「んー…………まぁ、いいんじゃないですか」
「じゃ、ちょっとだけ」
奈美が、倫に差し出されたお猪口を口にした。
――――いつのまに眠っていたのか、目が覚めると奈美は布団の中に居た。
望と酒をちびちびと飲みながら、話をしていたあたりから記憶が少し飛んでいる。
とても静かだ。
静寂の中、穏やかな寝息だけが聞こえる。
「……え?先生?」
すぐ傍にあった望の顔、どうやら望の胸に抱かれて眠っていたようだ。
奈美がもぞもぞ動いたせいか、望もまた目を覚ました。
「ん……どうしました?」
優しく微笑んで、望が奈美の頭を撫でた。
びく、と奈美の体が硬直する。
(一緒の布団、優しい先生……これって……)
かぁ、と顔を赤らめて奈美が尋ねる。
「せ、先生?もしかして私……先生と……えっちしちゃったんですか……?」
「は?いやいや!そんなことは……あの、覚えてないんですか?…………好きって言ってくれたの」
「っあ……い、言った……気がします……言いました」
きゅ、と望の浴衣を掴み、火照った顔を隠すように望の胸に押し付けた。
少し記憶が回復した。
酒の力を借りて、どうにか望に伝えた想い、そしてもうひとつ。
「あの……そのとき、先生に何かされたような気がするんです……けど」
「……」
望の手に頬を撫でられ、奈美が顔をあげる。
一瞬望と目が合ったが、奈美はそっと目を閉じた。
少しして、唇に柔らかな感触が触れる。
「まだ酔ってますか?」
「ちょっと……先生こそどうなんですか?」
「少しだけ……でも、本心です」
「……嬉しい」
ぎゅう、と望に強く抱きつくと、今度は奈美のほうからキスをした。
体をすり寄せて奈美は望に甘える。
幾度も口付けを交わして抱き合うが、しばらくすると望のほうが腰を引きはじめた。
それに気づいた奈美は、足を望の足に絡めてくる。
望の大きくなった絶棒が奈美の太股に触れた。
「……すいません」
「ふふ、いいですよ」
望の目を見つめる奈美、少し怯えた様子ではあるが、確実に望を誘っていた。
「……普通、って言わないんですか?」
「いえ……きれいです、かわいい」
浴衣をはだけさせた奈美の胸に触れながら望が言う。
むにゅむにゅと、柔らかな胸を揉み、また口に含んで舐める望。
「……うぅ、なんか調子狂う」
「結構大きいんですね、すごく柔らかいですし、いやらしい体してるじゃないですか」
「あっん……誉めてるんですかぁ、それ……」
「愛してます」
奈美の耳元で甘く囁くと、かぷりと耳を噛んだ。
同時に手が奈美の下着の中まで入り込み、奈美の秘所に触れた。
優しく入り口をさすり、その中へと指を挿しこんでいく。
「あっ、あっ……あぁぁ、せんせぇ」
「痛くないですか?気持ちいい?」
「あっ……わかんな……ですぅ……うぅぅ、気持ちいいのかもぉ」
自身の中で異物が動く感覚に奈美は翻弄されている。
強く望に抱きついて、細かく震えながら甘い吐息を漏らす。
効果を感じた望が指の動きを激しくしていくと、一瞬奈美が硬直して、続いてがくっと力が抜けた。
「イッちゃいましたね」
「は……はいぃ…」
力の抜けた奈美の下着を脱がし、股を開かせると、望は奈美の秘所に顔を近づけて濡れた蜜壷に吸い付いた。
「ひゃっっ!だめ……そんなところ舐めちゃ……き……汚いです」
「汚くないでしょう。さっきお風呂にも入ったんですし」
「でも……あぅっ……ん、あっ、あん」
「それに、私が舐めたいんです、あなたのここを」
望に指で左右に割れ目を広げられ、その中を覗かれ、舐められる。
指や舌が動いて、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音がする。
とんでもなく恥ずかしくて、でも嬉しくて、気持ちいい。
「ま、まってぇ……せんせいばっかりずるい」
望の頭を押しのけて止める奈美。
体の向きを変えて、望の下半身に手をやる。
「私だって……先生にしちゃうんだからぁ」
そう言って、望の浴衣に手をかけて脱がす奈美。
だが、いざ望の大きくなった絶棒を生で見てしまうと動きを止めてしまった。
「うわ……」
「……してくれるんじゃなかったんですかぁ?無理しなくてもいいんですよ?」
望が奈美の膣内に指を入れて、前後に動かしはじめた。
煽られた奈美は半ば自棄になって、絶棒に触れる。
そして、かぷっとその先端を口に含むと、どうだ、と望に視線を飛ばした。
だが、単に咥えただけであり、望は一瞬驚いた顔をしたが、ふっと鼻で笑って奈美の秘所への責めを再開する。
(え?え?だめなの?男の人ってこうしたら喜んでくれるんじゃないの?)
襲いくる快感に翻弄されながら、奈美はぐるぐると眼を回す。
(そっか。先生みたいに……もっと舐めたり、さすったりしてあげないと)
奈美が絶棒をぺろぺろと舐め始めた。
しかし、緊張と望に秘所を責められていることもあって、動きも拙く、ぎこちない。
共に弱点を握り合っているはずなのに、圧倒的に奈美のほうが不利であった。
「ふぁっ、やぁぁ……また、私……せんせぇ、もう許して…」
「っ……だめです……あなたが言い出したことなんですから」
絶棒はいまだに元気なまま、しかし奈美のほうは既に何度も絶頂を迎えさせられていた。
だが、奈美も次第に要領を得てきたようで、そろそろ望のほうも辛くなってきている。
その効果が現れたのか、一瞬絶棒がびくっと震えて、望が小さく声を上げてしまった。
(あ、今の…………んっ!?)
今度こそ、と意気込む奈美だったが、それを感じ取ったのか、望が奈美への愛撫を強くする。
指が、彼女の最も敏感な芽に直接触れ、くりくりと弄られる感覚に意識が飛んでしまいそうだ。
(ダメぇ……今度こそ、先生イかせちゃうんだからぁ)
涙を浮かべてがくがくと腰を震わせながら、必死に望に口淫をする。
ついには望のほうが負け、びゅるびゅると大量の精液を奈美の口の中へと放った。
それに少し遅れて、奈美もまた絶頂を迎えた。
ぶるぶる体を震わせながら、口内に望の精液を流し込まれる。
「……けほ、けほ……んっ」
望がティッシュを取って、精液で汚れた奈美の口を拭く。
「気持ちよかったですよ…ありがとう」
奈美を抱きしめて、布団に仰向けに寝転ばせる。
「楽にしてください」
奈美の脚を開かせて、既に硬さを取り戻していた絶棒を奈美の入り口に触れさせた。
「あぁ、あっ……」
ずぶずぶと絶棒を奈美の中へ埋めていく。
しっかり濡れていたおかげか、比較的スムーズに入っていったが、その先端に引っかかりを感じた。
「ちょっと、痛いかもしれませんけど……」
「うん……」
ズン、と強く絶棒を挿入すると、奈美の中で何かが切れ、膣から鮮血が流れ出た。
奈美はぎゅっとシーツを掴んで痛みに耐えている。
「だいじょぶ、です……うごいて」
こく、と首を縦に振り、望が腰を前後に振りはじめる。
はじめはゆっくりと、奈美の様子を見ながら次第に激しく……荒い息と甘い声が交じり合う。
絶棒が膣内を擦る快感に、奈美は全身を震わせている。
それにあわせてぐにゅぐにゅと変化する奈美の中が、望を狂わせる。
「はっ……イきます!日塔さん、あなたの中に」
「せんせ、せんせ……あっあっ」
大きく膨らんだ絶棒が、その中身を奈美の中へとぶちまける。
射精の快感に酔いしれる望の肉棒から、さらに精液を搾り出そうと奈美の膣がきゅうきゅうと締め付けてくる。
最初の射精に続いて、残された精液がびゅ、びゅ、と断続的に奈美のなかへと吐き出されていった。
汗を浮かべるお互いの体を抱き合って、望と奈美は何度もキスをする。
「はぁ……先生と、えっちしちゃった……えへへへ」
「……シーツ汚しちゃいましたね……倫に……というか、グルだったんでしょ、倫と」
「あ、やっぱりわかっちゃいますか」
「出来すぎでしょう、いくらなんでも……それにしてもこんないやらしい子だとは、先生知りませんでしたよ。
いやぁ、普通の子だと思ってたんですけどねえ……」
「……でも、一応手を出したのは先生からです」
「まぁそうですね……それに、実は先生そういうえっちな子大好きなんですよね」
そう言う望の股間で、また絶棒が元気よくなっていることに奈美が気づいた。
一瞬硬直するが、ふぅと息を吐いて、奈美は望の前で指で自身の秘裂を左右に開いてその中を見せた。
「ど、どうぞぉ……」
かぁっと顔を赤くしながら誘ってくる奈美を、早速、望は押し倒した。
バスに揺られて、奈美と望は肩を寄せ合いながら眠っていた。
二人とも少し寝不足のようだ。
帰ったら、どうからかってやろうかと倫は思い巡らせる。
「うん……せんせぇ」
望は寝言で自分を呼ぶ奈美の肩を、まどろみながら抱き寄せた。
二人を見ながら、倫はくすりと笑ったが、今度はため息をついた。
「……ほら、妹なんかよりずっと簡単でしょう」
自虐気味に笑いながら、倫は窓の外の流れていく景色をずっと眺めていた。
おしまい。
久々の望奈美に歓喜
GJ
GJ!奈美ちゃんの胸は普通に揉みたくなる胸
ふと思ったんだが…生徒に手を出すのって危険じゃね?
(絶望先生の場合、ばれたら倫理や法律以前に生命の危険がある。)
だとすると、『0.001秒の天使』の妨害がありそうだなぁ…相手が一番安全な普通さんとはいえ。
もし妨害があったらの話だが、どうやってかいくぐったのかね?
何が気に入らなかったのか知らんけど、無意味にハードル上げないでくれよ
203話のラストで奈美とやったよ
質問ですが、レイプ物ってここでは忌避されますか?
花束レベルのものなら歓迎する
115 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 20:35:52 ID:pY7/hiQb
言うと思った
また昔は良かった話か…
>>113 ものによりまするが、イチガイに禁止ってことはないはずです。
最初に注意書きさえあれば
118 :
266:2009/12/06(日) 23:31:17 ID:um3iKt0p
書きました。
望カフで、エロなしです。
119 :
266:2009/12/06(日) 23:31:59 ID:um3iKt0p
糸色望が教師を勤める高校の校舎は、年代物ながらもしっかりとした造りで、外装及び内装のデザインもなかなか凝ったものになっていた。
そんな学校施設の中でも、学校の設立当時、特に力が入れられたと思われるのが図書室だった。
吹き抜けで繋がれ二階に分かれた室内には、ズラリと書架が並び、古典から最新のベストセラーまでありとあらゆるジャンルの書物が揃っている。
何でも、現在の校舎を建設する際、多額の資金を寄付した人物がいたそうで、高校の図書室としては大仰すぎるほどの規模は彼の要望によるものらしい。
その影響は現在にまで及び、ネーミングライツを売り払い学校名がくるくると変わるようになった今でも、
図書室には比較的多くの予算が用意され、毎月結構な数の新刊図書が新たに書棚に並べられている。
しかし、時の流れは残酷なものである。
完成当初はその膨大な蔵書量で学生達に重宝された図書室だったが、活字離れの進んだ現在の生徒達はあまり利用しようとはしない。
さまざまなメディアの氾濫する現代において、読書はもはや数ある選択肢の一つに過ぎないのだ。
限られた時間を読書に割り当てようとする生徒はどうしても少なくなってしまう。
それでも、近現代の名作を含めた小説の類の貸し出し状況はまだマシな方である。
立派な装丁の百科事典や各専門分野の書物を手に取るものはほとんどゼロに近い。
重たくて埃っぽいばかりの本を薄暗い図書室の奥からわざわざ引っ張り出すなんて、そんな面倒な事を好んでやる生徒など存在しない。
だって、ググった方が早いから。
ウィキでペディアなフリー百科事典の情報が必ずしも正確ではないとしても、宿題の空欄さえ埋まってくれれば問題はないのだ。
本なんて、読みたい人間だけが読むもの。
活字離れを嘆く教育委員会の面々にしたところで、この意見に本気で反論できるものやら……。
というわけで、その日、放課後の図書室にいたのは、図書委員の生徒達とその顧問である教師だけだった。
「そろそろ下校時間ですね…久藤君、木野君、二人は帰る用意を」
時計を見上げてから、顧問の糸色望が図書委員にして彼のクラスの生徒でもある久藤准と木野国也に声を掛けた。
彼ら三人は古くなった図書の修繕作業を行っていた。
図書室が出来た当初からの古い本や、何度も貸し出しされた人気の本は、どうしても傷んでしまうものだ。
剥がれかけた背表紙や破れたページをビニールテープや糊で丁寧に直していく。
放課後いっぱい、この作業に従事していた図書委員有志の二人は流石にクタクタに疲れているようだ。
「でも、まだ直さなきゃいけない本は残ってるじゃないですか。どうせだから、俺、最後まで手伝いますよ?」
「僕も先生だけに任せて帰る気にはなれません」
それでも、准と国也はそう言って、作業を続けようとしたが、望は首を横に振った。
「もう二人は十分に仕事をしてくれましたから。急ぐ仕事でもありませんし、後は私がやりますよ」
窓の外に目をやれば、既に空は濃い群青の中に沈んでいる。
街が完全に夜の闇に包まれるのも、そう先の話ではない。
「それに、あんまり生徒を遅く帰らせるのは忍びないんですよ。これでも一応、教師ですから。
期末テストも近い事ですし、久藤君も木野君も、家に帰ってそっちの方を頑張ってください」
望の言葉を聞いて、ようやく二人も肯いてくれた。
それぞれ鞄を持って図書室から立ち去る准と国也、二人の背中を見送ってから、望は再び作業に戻る。
しかし、一人になってみると思ったように作業が進まない。
「さっきは二人の手前、ああ言いましたけど、一人でやると結構時間が掛かりますね。
ていうか、さっきまでの作業で一番足を引っ張ってたのって、もしかして私ですか!!?」
いやーな推理が頭をよぎり、望は情けなくうな垂れる。
実際のところ、望の見立ては正しかった。
望の本の修繕の手際自体はそれほど悪いものではない。
ただ、彼のやり方は少し丁寧すぎた。
テープの長さ、糊の塗り方、その他諸々、修理の出来栄えにはあまり関係のないレベルにまで望は拘ってしまっていたのだ。
作業が遅れるのも道理である。
望自身も薄々それには気付いていているのだが、元来の生真面目な正確が災いして手を抜く事が出来ない。
120 :
266:2009/12/06(日) 23:33:12 ID:um3iKt0p
「こりゃ当分終わりませんね……。あうう、自分の見通しの甘さに絶望しました……」
とはいえ、下校時間までぶっち切って図書委員二人に無理をさせる訳にもいかなかったのだ。
仕方がないと諦めて、望は目の前の作業に集中した。
途中、宿直室に戻って夕飯を食べてから、また図書室で作業を再開する。
節電のため、望の周りのものを除くほとんどの照明を落とした図書室は暗い。
そこで一人黙々と破れて擦り切れた本達と向かい合っていると、まるで深い海の底にいるような気分になってくる。
年代ものの暖房設備は広い図書室内の全てを暖めるにはあまりに力不足だった。
宿直室から持って来た半纏越しに伝わってくる冷気に、望は何度も体をブルリ、震わせた。
暗く寒い、一人ぼっちの図書室の中で静かに時間だけが流れて行く。
相変わらず望の作業スピードは遅かったが、それでも休む事なくせっせと続けている内に直さなければいけない本はいつの間にか残り僅かとなっていた。
「やっぱり随分かかりましたが、後少しですね……」
そう言って、望が次の本を手に取った、その時だった。
パタン!
「………っ!?」
それはほんの小さな音だった。
だが、空耳などでは決してない。
薄暗い図書室の、幾つも並んだ書架の奥の方から、それは確かに聞こえてきた。
「……な、な、なんですか、一体?」
肝の小ささと神経の細さに定評のある望にとって、これはかなりの恐怖だった。
「不審者か何かでしょうか?もしかして、私が一度宿直室に戻ってる間に……でも、あの時は確かにしっかりと鍵をかけた筈なのに」
ガタガタと震えながら、それでも音の正体を確かめるべく望は立ち上がった。
宿直室に間借りしている以上、夜の学校に何者かが忍び込んでいるのを無視する訳にはいかない。
望は足音を殺しながら、ゆっくりと音のした方に近付いていく。
(もし泥棒か何かなら、図書室を狙ったりはしませんよね?まさか、幽霊とかじゃないですよね?)
望の脳裏に、先日宿直室で見たホラー映画のDVDのワンシーンが蘇る。
あの時は、交や霧も一緒に怖がってくれたが、今の望は一人ぼっち。
(ホラーだと、こういう怪しい物音に近付いたりしたら、その時点で大抵アウトなんですよね……)
不審者か?幽霊か?
どっちにしても望にとっては恐ろしい事この上ない相手である。
そして、立ち並ぶ書架の間を通り抜けたその先で、望はついに音の主に対面する。
「あ、あなたは……?」
そこにいたのは凶悪な強盗でも、泣き叫ぶ怨霊でもなかった。
すーすーと穏やかな寝息を立てて眠る、見慣れた少女の姿。
体育座りの姿勢で、本棚に背中をあずけて眠る彼女の表情はとても穏やかなものだった。
「風浦さん?何してるんですか、こんな所で?」
121 :
266:2009/12/06(日) 23:33:53 ID:um3iKt0p
呆然としたまま、望が問いかけるが、可符香が目を覚ます気配はない。
ふと彼女の座る傍らの床の上を見ると、何やら分厚い本が一冊転がっていた。
恐らくはこれが先ほどの音の正体だ。
可符香は膝の上に載せたこの本を読みふけっている内に眠りに落ちてしまったのだろう。
そして、ふとしたきっかけでバランスを崩し、本は彼女の膝から転がり落ちた……。
「しかし、私達が作業してる間、彼女を含めて誰も図書室にはやって来てはいない筈なんですが………まさか…?」
望や准、国也が作業していた机からは、図書室の入り口は丸見えである。
建物が古いだけあって、入り口の扉を開けるときの音も大きく、誰かが来たなら気付かない訳がない。
窓は換気のために一度開けた後、しっかりと鍵をかけてしまった筈だ。
それなのに、今、可符香はここに座って寝息を立てている。
考え得る理由は一つきりだ。
「もしかして、私達が来る前からずっとここにいたんでしょうか……?」
果たして何を考えて、彼女が図書室のこんな片隅に居続けたのか、望には想像もつかない。
望達の邪魔をしない為?
彼女一人が本を読んでいたところで、作業には何の支障もない筈だ。
それとも、彼女の読んでいた本は、時間も場所も忘れて夢中になれるほど面白いものだったのだろうか?
望は足元に転がるその本を拾い上げる。
「これは百科事典ですか……しかも、ウチの学校の蔵書の中では一番古いヤツですね…」
発行されて年数が経ち過ぎた為に内容が時代遅れになって、すっかり役に立たなくなってしまった時代の遺物。
だが、彼女がこの本に夢中になっていた理由が、望には何となくわかるような気がした。
確かにこの百科事典の内容はもはや古臭く、正確さも欠いていたが、そこにはこの本が執筆された当時の空気のようなものが残っているように感じられた。
「まあ、風浦さんらしいセレクトと言えなくもありませんね」
望は微笑んで、百科事典をパタンと閉じた。
さて、問題はこれからだった。
「風浦さんをこのままにしとく訳にはいかないんですが……参りましたね…」
可符香が起きてくれないのだ。
下校時間も過ぎた夜の学校にこれ以上生徒を置いておく訳にはいかないのだが、望の再三の呼びかけにも彼女は反応しない。
ただすやすやと安らかな寝息が返って来るだけである。
もっと激しく肩を揺さぶって、耳元で大声を張り上げれば、もしかしたら目を覚ましてくれるかもしれない。
だが、望はそれを実行する事が出来なかった。
「…………」
得体の知れない物音に怯え、おっかなびっくりで図書室の奥へと向かい、彼女を見つけた。
その時、望の胸に湧き上がったのは安堵の気持ちと、もう一つ……。
「風浦さん……」
彼女の傍らに膝をつき、その寝顔を見つめた。
望は早く可符香を起こさなければならないと頭では理解していながら、心のどこかで彼女をずっとこのままにしておきたいと、そう思ってしまった。
可符香の寝顔は本当に穏やかで、幸せそうで、それを壊す事は酷い冒涜のように思えたのだ。
迂闊に触れれば壊れてしまいそうな、たとえようもない程に愛おしいもの。
例えるなら、迷い込んだ森の奥深くで、静かに眠る妖精を見つけてしまったような、そんな感覚。
望はそれを、眠る彼女の姿の中に垣間見てしまった。
だが、しかしである。
「……やっぱり、体が冷え切っていますね」
望は可符香の手の平に触れ、彼女の体が随分と冷えてしまっている事を知った。
セーラー服の上にコートを着用していたものの、暖房の効果も薄い部屋の片隅で冷え切った床の上に座っていたのだ。
ある意味、当然の結果だった。
これ以上、彼女をこの場に留めておけば、確実に体調を崩してしまうだろう。
122 :
266:2009/12/06(日) 23:35:08 ID:um3iKt0p
「すみませんね、風浦さん」
望は彼女を寝かせたままにしたい自身の感情を押さえ込み、再び可符香を起こすべく声を上げた。
「風浦さん!起きてください、風浦さんっ!!!」
「ん…んん……むにゃ…」
先ほどよりも格段に大きな声に、可符香はやっと反応を示した。
さらに望は手の平を打ち合わせて、彼女の耳元近くでパンパンと大きな音を立てた。
「ふぇ…あ……先生?」
「ようやくお目覚めですか、風浦さん……」
ようやく目を覚まし、薄目を明けて自分の方を見上げてくる彼女の顔に、望は苦笑を返した。
目をぐしぐしとこすりながら、寝ぼけ眼の可符香は不思議そうに周囲を見回す。
「あれ?なんだか随分暗いですね……?」
「そりゃ、下校時間をとっくに過ぎてますからね。図書室の照明もほとんど落としてますし」
「どうして起こしてくれなかったんですかぁ…」
「それは、あなたがこんな所にずっと隠れてたからでしょう。自業自得ですよ」
寝起きの可符香は普段より少し子供っぽかった。
望はやれやれと肩をすくめ、可符香の手を取ってその場から立ち上がるように促す。
しかし……。
「もうちょっと寝ます…」
「って、何言ってるんですか、あなたは!?」
可符香は書棚に背中をあずけ、可符香は再び目を閉じる。
「こんな寒いところにこれ以上いたら、確実に風邪をひいちゃいますよ!!」
「構わないから寝かせてください」
どうやら今の彼女はまだ半分寝惚けているらしい。
体を丸め、完全に就寝態勢に移行した彼女を立ち上がらせるのは至難の業である。
(ようやく起きてくれたと思ったら、参りましたね……)
果たしてこの難局をどう乗り切るべきか?
顎に手を当てて、望はウムムと唸った。
そして、しばしの思案の後、彼が出した結論は驚くべきものであった。
「風浦さん、そちらがその気なら、こっちも強硬手段で行かせてもらいますよ……っ!」
「えっ?…せんせ?……ふあ!?」
右腕で彼女の肩を、左腕で彼女の両脚を支えて、全身に力を込めて一気に持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこの態勢だ。
望の、運動不足の全身の筋肉が悲鳴を上げたが、彼はそんな事は一切気に留めず可符香の体を抱えて歩き出す。
「せ、先生!?…ちょっと待ってください……っ!!?」
「強硬手段でいくと言ったでしょう?とにかく、あなたを放って置くわけにはいかないんですよ」
123 :
266:2009/12/06(日) 23:35:35 ID:um3iKt0p
驚きと恥ずかしさのあまり、頬を赤く染めた可符香に、同じく顔を真っ赤にした望が答える。
もしかすると、先ほど目にした眠れる可符香の姿が、そこに感じた言いようの無い愛おしさが、彼を突き動かしたのかもしれない。
可符香も最初は望の行動に戸惑ったものの、やがて諦めて望の腕にその身を任せた。
「そもそも、どうしてあんな所で寝てたんですか、あなたは?」
「あの本があんまり面白かったから、つい……それに百科事典って禁退出で貸し出し不可じゃないですか」
「それならそれで、机のある場所まで引っ張り出して、そこで読めば良かったでしょう?あんな暗くて寒い隅っこにいる必要はないじゃないですか」
望がそう言うと、可符香は悪戯っぽく微笑んで、こう答えた。
「なら、あそこにこっそり隠れて、ずっと先生の事を待っていたっていうのは、どうですか?」
可符香の口から出てきた言葉は、いつもの彼女の常套手段だ。
虚実をない交ぜにした捉えどころのない言葉で相手を煙に巻き、決して自分の本心を明かそうとしない。
こちらの心の隙間にはするりと入り込んでくるくせに、自分の心には複雑怪奇な言葉と論理の迷路を張り巡らせて、相手の接近を阻むのだ。
彼女の言葉がどこまで嘘で、どこまで本当なのか、望には全く見当もつかない。
だが、彼には一つだけ、確実に分かっている事があった。
(あなたの真意はともかく、さっきからあなたの顔、とっても嬉しそうに笑ってるんですよ、風浦さん……)
「暗い部屋の隅っこで、先生が見つけてくれる瞬間を、ずっとずっと待っていたんです。けっこうロマンチックでしょう?」
尚も楽しそうに言葉を続ける可符香の顔を、唐突に望の真剣な表情が覗き込んだ。
「えっ?…先生?」
「風浦さん……あんまり言われると、本気にしちゃいますよ、その話……」
思いもかけない望の切り返しに可符香はしばし、きょとんとした表情を浮かべていたが
「先生……っ!!」
そう言って、可符香は望の首元に、今度は自分からぎゅっとしがみついてきた。
その腕から伝わってくる彼女の確かな体温を感じながら、望はしみじみと思う。
眠る彼女を見たとき、自分が感じたものに間違いはなかった。
あの時、望は図書室の奥で妖精を見つけたのだ。
(まあ、随分とこちらを困らせてくれる妖精ですが、妖精なんてそもそもそういうものですからね……)
気まぐれで捉えどころが無くて、こっちの迷惑なんて知らない顔で好き勝手に飛び回る少女。
だけど、彼女が心底楽しそうに笑っている今この瞬間が、望には他に代えられないほど大切なものであると思えていたのだった。
124 :
266:2009/12/06(日) 23:36:04 ID:um3iKt0p
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
良いです!GJです!
126 :
51:2009/12/07(月) 18:09:48 ID:/vjXYQjb
>>51 の美子と翔子のレイプネタのその後の短編を書いたので投下します。
今回も輪姦で前提の前話がレイプ物なので苦手な方はスルーしてください。
よろしくお願いします。
肉棒をしゃぶりながら、翔子は背後から別の男に膣内を突き上げられている。
美子は、愛液を滴らせる蜜壷を舐められながら、さらに二人の男に体を弄られている。
美子と翔子はいつも一緒だった。
学校でも、私生活でも、二人で詐欺を行っていたときも。
そして、娼婦となった今も、二人は一緒だった。
彼女達が相手をさせられる客は様々だ。
例えば、複数で美子と翔子を犯すことを希望する者。
二人の負担が大きくなる分少々値は張るが、それでも人数分だけ個人の金銭負担は軽くなる。
また、単純にそういうプレイが好みのものもいる。
今日の相手は、5人の男性だ。
まだ若いが、美子と翔子よりは年上だろう。
「ああっ……おっぱい…もっとぉ……」
男と舌を交わらせながら、美子は別の男にねだる。
早速胸を揉みしだかれ、さらにもう一方の乳首に吸い付かれた。
またそれに負けじと、もう一人の男は美子の蜜壷から溢れる愛液を音を立てて啜る。
「っぁ!お兄さん、じょうず……ココも…いじめて」
指を自分の勃起したクリトリスへともっていき、男の前でさすると、男は指でそこを摘まんで擦ってやる。
「淫乱だね。こんないやらしいミコちゃん、お母さんが見たら泣いちゃうよ?」
「ぁん!はぁ……ごめん、なさいぃ……きもちいい、きもちいよおお」
美子の視界が白み、プシっと秘裂から飛沫がとんだ。
美子は、ベッドに沈みこむ。
男達に敏感な突起や穴や唇……体中を弄られながら、美子は翔子の方を見る。
秘裂から男の精液を垂らしながら、翔子は男に抱かれて舌を絡めあっていた。
「おにいさぁん……こっちもして欲しいです」
翔子が腰を上げて尻を突き出し、自分の後ろにいる男に向けてアナルを指で広げた。
「ショーコちゃん。お尻好きなんだ?」
「はい……」
「だってよ。ほら、してやれしてやれ」
翔子を抱いている男は笑いながら、翔子の尻肉を掴んで肉を引っ張った。
ひくひくと震えるアナルが男を誘惑する。
「あぁぁっ……おしり……きもちいい」
ずぷずぷ音を立てて直腸内を肉棒が前後に動く快感。
同時に前の男がクリトリスを丹念に弄ってくれるので、翔子はだらしなく涎を垂らしながら喘いでいた。
「おにいさぁん……こっちも、こっちもして……」
「こう?」
指を自分の蜜壷内へと導く翔子の言う通り、その中に指を入れて膣壁を掻いてやったが、美子は首を横に振った。
「こっち、こっちで……れすぅ」
翔子は肉棒を掴んで、淫靡な笑みを浮かべた。
「一緒に前にも欲しいって、大人しそうな顔してとんでもない変態だね」
「はっ……あは…………あ、くる……これっ!あ、好き!あっっ、これぇ」
前後から貫く肉棒がゴリゴリと体を内側から削り、狂ってしまいそうな快感の奔流が翔子を襲う。
(ああ…翔子、気持ちよさそう……)
体の奥できゅん、と切ない痛みを感じた。
美子は、指で秘裂を男達の前で、くぱぁと開かせた。
「ちょうだい……おちんちん……せつないの」
「ああ……あげるよ」
ごくりと生唾を飲み込んで、大きくなった肉棒を手にして美子の蜜壷に入れていく。
乗り遅れた二人の男達が、美子の顔に肉棒を近づけると、美子は二本の肉棒を握ってしごき始めた。
「あはっ、あっ……んんんん」
快感を求めて腰を振りながら、美子は嬉しそうに肉棒をしゃぶる。
ぴくぴく震える肉棒を嬉しそうに舌でなぞり、尿道口にせがむようなキスをする。
指も唇も膣も、男の扱いを心得ているようで、3本の肉棒は悦びに震え、今にも射精してしまいそうだ。
そのうちのひとつ、美子が握っていた肉棒が跳ねながら、精液を美子の顔にかけた。
勢いよく出た、どろりとした白濁液が美子の顔を汚す。
美子は、一瞬不満そうな顔をしたが、ぴゅ、ぴゅ、とまだ小さく精子を噴出している肉棒を咥えて吸う。
それに少し遅れて、翔子の子宮口と顔を目掛けて精子が放たれた。
肉棒が抜かれると、その中から白濁液がこぼれた。
「次は俺だな」
続いて別の男が挿入する。
音を立てて、肉棒を前後に動かすと、美子はだらしなく顔を緩め、かくかくと腰を震わせた。
「いきなりイッちゃった?」
口をぱくぱくさせて、美子は首を縦に振る。
「まだまだイかせてやるからな」
男が深く肉棒を挿し、美子の奥に先端がコン、と当たった。
「はぁっ!……ん、そこ、もっとぉ……」
腰をくねらせながら、美子は淫らに笑っていた。
美子と翔子の嬌声と、粘り気のある水音が響いている。
男達に尻を向ける二人の少女。
精液で汚れた4つの穴は、何度も何度も男達に犯され、口を開けたままひくひくとふるえている。
美子と翔子はそれでもまだ肉棒を求めて、無防備な穴を男達の前に晒す。
もっともっともっともっと。
犯して欲しい。
悦楽に狂ってしまいたい。
何もかも忘れられるくらいに。
自分が何をしているのかさえ忘れさせて欲しい。
今日も二人は男達に犯される。
131 :
51:2009/12/07(月) 18:14:53 ID:/vjXYQjb
これで終わります。
直接言われたわけじゃないですが、鬼畜系の話が出るたびに花束と比べるようなこと言うのは、
書くなって言われてるのと同じようなものなんで勘弁してください。
あのレベルでないと鬼畜系ダメみたいに言われたら、だったら書いてみろって逆ギレするしかありません。
では失礼しました。
投下で頭から飛んじゃって…今さらですが
>>124 可符香かわいいよカフカ
鬼畜系好きだから嬉しいなぁ。もっと増えて欲しい。
花束は好きだし何度も読み返してるけど、あれ基準にされても困るよね。
明日 マガジンの日か 我が人生唯一の光
ほ
136 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 22:04:42 ID:dXiXL0Cq
今さら二人目
>>124 すぱらしすぎる…!
ちょっと強気な先生もいいですな
し
ゅ
過疎ってるよ〜
こどもはかえりなさい
クレクレすらいない
うっぜぇぇぇのが居るからじゃね?
「なんでっ……足なんかで…あなた兄をなんだと思っているんですかぁ」
「あら?おっしゃる割には随分と嬉しそうに見えますわ?」
後ろに手を縛られた望の肉棒を、制服姿の倫は靴下越しに足でぐりぐりと踏むように弄ぶ。
肉棒は震えて今にも射精してしまいそうだが、それを止めているのは、
足なんかでイかされたくないという望の意地だった。
しかし、意思だけでどうにかなるものでもない。
「あああぁぁ!」
体を反らせて声を上げ、白濁液を噴出させる。
倫の黒い靴下が望の精液で白くコーティングされた。
畳の上に寝転んではぁはぁと荒い息をする望の口に、倫が足を伸ばす。
嗜虐的な輝きを讃えた瞳で見つめられ、望の背にゾクゾクと電流が走った。
一瞬躊躇するような顔を見せたが、望は倫の足についた精液をぺろぺろと舐める。
「綺麗にしてくださいましたわね。ほら、ご褒美ですわ」
倫は、望の顔の上に腰を下ろすと、下着を横にずらして秘部を望の眼前に置いた。
望は、すぐさまそこに吸い付いて妹の陰唇を嘗め回す。
「ああっ!ああぁ!お兄様ぁぁ」
喘ぐ倫は、同時にクリトリスを自分の指で刺激する。
溢れる愛液が垂れて、望の顔を濡らしていった……
「さぁ、どうぞお兄様」
倫が望の下で脚を開いて、肉棒を誘う。
手を縛られたままの望は、倫の上にのしかかると芋虫のように体を動かした。
「あんっ!おにいさま……おにいさまぁ」
ぐちょぐちょと音を立てながら性器を擦り合う。
倫の足は望の腰をがっちりと挟み込んで離さず、望の腰の動きもどんどん激しさを増していく。
ビクッと体が跳ねて、精液を倫の中に放った望に倫は強く抱きついて何度もキスをする。
ねだる倫を前に、望の肉棒はすぐさま復活し、再び腰を動かしだした。
「お兄様こそ、妹をなんだと思っていらっしゃるのですか?」
淫靡に笑いながら小馬鹿にするような目を望に向ける。
倫の秘裂からは、何度も何度も流し込まれた望の精液が入りきらずに逆流していた。
思う存分欲のまま倫の中へ射精した望は、ぐったりと疲れ果てて畳の上に寝ている。
倫は望を支え膝を立てさせると、よつんばいになった望の肉棒を後ろから握って、
牛の乳でも搾るかのように、それを上下にしごく。
「もう……出ませんよぉ」
「あら、そうでしょうか?」
倫が望の尻に顔を近づけ、ぺろぺろとアナルを舐めると、肉棒がむくむくと大きくなった。
「っっ!倫っっ!?そんな…!」
肉棒をしごかれ、同時にアナルも責められる。
既に限界だと言ったはずの肉棒は、再び白濁液を畳の上に放った。
「ほら、まだまだ出るじゃありませんか?しておかないと明日辛いのはお兄様ですわよ?」
袋を揉み、中に入った玉を弄ぶ倫。
「今日もちゃんと空っぽにしてさしあげますわ」
――翌日。
『先生ー。先生〜』
幾人もの女生徒が望を追いかけるが、望はしれっとした態度でのらりくらりと避けていく。
その様子を少し離れた位置から奈美と倫が見ていた。
「あれだけアプローチされてるのに、先生全然なびかないね」
「お兄様は、とうに枯れてらっしゃいますからね」
おほほほ、と倫が笑った。
ありがとうございました
久々のネタ投稿ですね!
GJ!
倫望GJ!!ごちそうさまでした。
GJ!
倫ちゃんは望先生にデレデレが好きだ!
149 :
266:2009/12/16(水) 23:53:38 ID:k9eR5QkL
短くてエロなしですが、書いてきました。
例によって望カフな小話です。
それでは、いってみます。
150 :
266:2009/12/16(水) 23:54:29 ID:k9eR5QkL
「先生っ!」
ふわり、と自分の方に倒れこんできた少女の体を、望は反射的に受け止めた。
少女はそのままの体勢で望の背中に腕を回し、彼の体に抱きついた。
「うわ?な、な、何ですか、風浦さん?」
驚き戸惑う担任教師の反応に、可符香はこっそりと微笑んで、望を抱きしめる腕にさらにぎゅーっと力を込めた。
二人がいるのは放課後の教室。
窓から差し込む眩しい西日が、一つに重なった望と可符香の姿をほの赤く照らし出している。
女子の中では若干小柄な可符香と、長身の望とでは相当な身長差がある。
そのせいで、望に抱きついた可符香の頭はちょうど彼の胸のあたりに押し付けられる形になっている。
ドックン!ドックン!ドッ…ドッ…ドッ…!!!ドッドッドッドッドッ!!!
おかげで、可符香と密着状態になってどんどん早まっていく望の心臓の音を、彼女は耳元で聞くことが出来た。
まずは奇襲成功である。
「ふ、風浦さん、一体どういうつもりですか?」
「どうって、それは先生にハグしてるんじゃないですか」
「だから、なんでハグなんですか?どうして抱きついて離してくれないんですか!!!」
「まあまあ、その辺りの事は別にいいじゃないですか。それより、いいんですか?」
「はい?まだ何かあるんですか?」
「そんなに大声出してると、人、来ちゃいますよ?」
「ひっ!!?」
可符香の言葉に、望がビクンと全身を強張らせたのがわかった。
本当にわかりやす過ぎるぐらいにわかりやすい人だ。
そんな望の頭の中を駆け巡っているのは、これまたわかりやすい社会的破滅のイメージ。
(1)『糸色先生何してるんですか!』→(2)あっと言う間に広まる噂→(3)職員会議でつるし上げ
→(4)PTAでもっとつるし上げ→(5)同僚体育教師『いやはや、糸色先生もなかなか大胆ですな(ニヤニヤ)』
→(6)『ところで、こちらはご覧になられましたか?(ニヤニヤニヤニヤ)』→(7)なんか週刊誌の記事になってる!!
→(8)『スクープ!公立学校教員の淫行』→(9)記者会見→(10)懲戒免職→(11)東尋坊行きバスはやたらと揺れるんだなぁ……。
……以上のようなシュミレーションがおよそ1秒ほどの間に望の脳内で展開された。
(風浦さんから抱きついてきたなんて絶対絶対そんな言い分誰も聞いてくれないっていうか
むしろ『向こうから始めた事なのでこれは合意の上での行為』ってどこの犯罪者の言い分で
すかそんな事言ったら最後みなさんから袋叩きですよ袋叩き塵の一欠片も残さず完全粉砕
ですよホントにもうどうしてこんな事になってしまったんでしょうか神様………)
パニック状態の望は青ざめてガタガタブルブルと震えるばかり。
一方、その胸にぎゅっと顔を埋めた可符香は、何だかすごく安らいだような幸せそうな按配である。
(先生…あったかい……)
なんて望の慌てふためく様などどこ吹く風で、可符香は望のぬくもりを体いっぱいに享受する。
さて、それからどれくらいの時間が経過しただろうか、可符香の頭上から呻くような、泣き出しそうな声が聞こえてきた。
「ふ、風浦さん……ホントにこの辺で勘弁していただけませんか?」
「いやだなぁ、相手への好意を表すときは、外国なんかだとこのくらい大袈裟にいくじゃないですか。
というわけで、私も担任である先生への敬意をこの全身で表そうとしているだけで……」
「ここは日本!ここは日本ですからっ!!」
相変わらずのニコニコ笑顔の可符香とは反対に、望は今にも泣きべそをかきだしそうな様子である。
(うぅ、どうしてこう、風浦さんの仕掛けてくる悪戯って容赦がないんでしょうか……)
なんて、そんな事を考えたりしていたのだが、その時不意に彼は思い出す。
151 :
266:2009/12/16(水) 23:55:04 ID:k9eR5QkL
(そういえば、今日はろくに風浦さんと話せてませんでしたね……)
2のへでの毎度の騒動の中、毎回望をより破滅的な方向に誘導する可符香。
だが、今日は他の女子生徒達がいつもよりさらにヒートアップしていた為に、手を出せずにいたようだった。
それから、望はしばらく考えて……
「風浦さん……」
「えっ?…あ…先生?」
今度は自分から、可符香の体をぎゅーっと抱きしめた。
予想外の望の行動に戸惑う可符香、その耳元で彼はこう言った。
「離してほしければ、まずはそっちから手を離してください」
「先生、私に抱きつかれて凄く困ってたじゃないですか?どうしてそうなるんですか?」
「あのままじゃ埒が開きませんからね。あなたの手には乗りません。こっちからも反撃させていただきます」
望の言葉に答える可符香の声は、あくまでいつもと変わらない調子だったが、彼女の体を抱きしめている望には分かる。
腕に伝わる可符香の鼓動が着実に早まっている事が……。
(ついでに、こっちがさらにドキドキし始めてる事も風浦さんには筒抜けなんでしょうね……)
そのまま、望と可符香は互いの体を抱きしめ続ける。
意地っ張りでなかなか人に本音を語ろうとしない、実は似たもの同士の二人は抱き合ったまま動かない。
離したくなんかない、なんて口が裂けても言えないから、二人はずっと無言のままだ。
ただ、さらにギュッと力のこめられたお互いの腕と、高鳴り続ける鼓動だけが雄弁に二人の本音を語っていた。
二人っきりの教室に、だんだんと赤くなっていく夕陽の光を受けて佇むシルエットは、そのまましばらく動く事はなかった。
………のだけれど、
ガララララッ!!!
教室の扉が急に開いた。
「せ、先生も風浦さんも、何をなさってるんですかっ!!?」
その声に反応して、ギクリとした表情で顔を上げた望と可符香が目にしたのは、何だか今にも泣き出しそうな愛の顔だった。
「ちょ…加賀さん、これはですね……」
言い訳なんてある筈もなかった。
だって、見たまんまだったから。
「加賀ちゃん、これはね……」
「全然気が付きませんでした。風浦さんは先生の事が好きだったんですね……」
可符香も何も言えない。
『いやだなぁ』の『い』の字も出てこない。
「すみませんすみませんっ!私なんかがお二人の時間を邪魔するなんて、本当にすみませんっ!!!」
真っ赤な顔でそれだけまくしたてて、愛はその場から駆け出していった。
後に残された二人は、ただ呆然……
「見られちゃいましたね、風浦さん……」
「見られちゃいましたね、先生……」
力なく立ち尽くす望の脳内では、先ほど頭の中で繰り広げた東尋坊行きバスへ至るシュミレーションがもう
152 :
266:2009/12/16(水) 23:56:05 ID:k9eR5QkL
以上でおしまいです。
二人がくっつき合ってる話が書きたかった、それ以上の理由はないです。
それでは、失礼いたしました。
GJ!
154 :
266:2009/12/18(金) 00:10:38 ID:HFgPdege
今更ですがミスに気付きました。
>>151の最後の一文が途中で途切れていました。
>力なく立ち尽くす望の脳内では、先ほど頭の中で繰り広げた東尋坊行きバスへ至るシュミレーションがもう
の『シュミレーションがもう』の部分で終わっていましたが、
>力なく立ち尽くす望の脳内では、先ほど頭の中で繰り広げた東尋坊行きバスへ至るシュミレーションがもう一度繰り返されていたのだった。
本来はここまでで最後になります。
単純なミスでお目汚しをしてすみませんでした。
それでは、失礼いたしました。
GJ!
愛ちゃんのその後が気になるぜ!
156 :
266:2009/12/22(火) 08:41:01 ID:F0zR4F88
書いてきました。
望カフのエロなしです。
それでは、いってみます。
157 :
266:2009/12/22(火) 08:41:48 ID:F0zR4F88
その時の彼女を見て、望が最初に思い出したのは彼が現在の学校に赴任してきた最初の日の光景だった。
風がやんで、先ほどまで荒れ狂うようだった雪が、ひらり、ひらりと静かに舞い降りてくる。
今は葉を落とした桜並木の道。
舞い落ちる雪に花びらを重ねて、望は春のあの日を、モノクロにしてもう一度見ているような、そんな錯覚を覚えていた。
積雪の為だろう、周囲の交通はほとんど途絶えて、海の底のような静謐がその場を支配していた。
白と黒だけの景色の真ん中に、彼女は無言で立ち尽くしていた。
これだけの寒さだというのに、彼女はいつものセーラー服に袖を通しているだけで、他には何の防寒具も着用していない。
肩や頭の上には薄く雪が積もっている。
彼女がどれだけの時間、ここにいたのかを考えて、望の顔が青ざめた。
望はすぐさまに彼女の下へ駆けつけようとするのだが、足元に積もった雪の為に上手く進む事ができない。
故郷の信州でこの程度の積雪には慣れている筈なのに、纏わり付くような雪が望を前に進ませてくれない。
望は焦った。
分厚い雪のカーテンの向こうの彼女の姿が、そのまま押し寄せる膨大な白の中に消えてしまいそうな気がした。
ずっとこちらに顔を向けている筈なのに、彼女の瞳には望の存在も、それどころか周囲の景色さえも映っていないように思われた。
雪の粒に紛れて、彼女の表情がよく見えない事が、余計に望を不安にさせた。
一歩でも前へ、少しでも彼女の近くへ、望は雪の中を進んでいく。
そして、ようやく望が彼女の下へ辿り着くその一瞬前に、彼女の小さな体は、ふらり、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
何とかその体を受け止めようと一歩前に進み出た望の腕は間に合わず、倒れこむ彼女の上体は望の鳩尾のあたりにぶつかる。
それはちょうど、あの日、桜の木の下で首を括ろうとしていた望を引きずりおろそうと、彼の体に彼女がしがみついた光景を思い出させた。
だけど、今度はその腕は望の体に触れる事すらなく、彼女はそのまま雪の中へとくずおれた。
「風浦さんっ!しっかりしてくださいっ!!風浦さんっっ!!!」
助け起こした望の呼び声に、彼女が応える事はなかった。
それから、望は冷え切った彼女の体を背負って、雪道の中を兄・命の経営する病院へと急いだ。
道路を埋め尽くし、交通を阻む雪の存在が、望にはこれ以上ない程に疎ましかった。
やっとの思いで辿り着いた病院で、彼女はすぐさま暖房の効いた病室のベッドに寝かされ、命による診察が行われた。
外ではあれほどに冷たかった彼女の体は、しばらくして恐ろしいほどの発熱を始めた。
40度を越える高熱。
だが、その燃えるような体温に反して、ベッドの上の彼女はうなされる様子さえなく、僅かな呼吸以外はピクリとも動かない。
傍から見ているとそれは、まるで死体が横たわっているように見えただろう。
看護師達が点滴を施した後も、熱は一向に下がる気配を見せず、彼女は昏々と眠り続けた。
望は、その様子をただ見ている事しか出来なかった。
結局、彼女に対する治療が効果を見せ、熱が下がり始めたのは望が彼女を発見してから、およそ二日後。
彼女が深い眠りから目を覚まし、その瞼を薄っすらと開けたのはさらに半日も後の事だった。
そして……。
「気がついたんですね!風浦さん!!」
「…………」
ベッドの脇で彼女の様子を見守っていた望は喜びの声を上げたが、直後、自分を見上げてくる彼女の無表情に息を呑んだ。
「……すみません、先生。迷惑、かけたみたいですね」
一切の感情を感じさせない声で、彼女は望に言った。
それ以来、目を覚まして一週間が経過した今日に至るまで、彼女・風浦可符香が笑顔を見せる事はなくなった。
158 :
266:2009/12/22(火) 08:43:24 ID:F0zR4F88
今日も望は糸色医院を訪れていた。
一時の40度を越える高熱は去ったものの、可符香の体温は未だ37度台を上下し、平熱まで下がらなかった。
食事にもろくに手をつけようとはせず、彼女はゆっくりと衰弱し続けていた。
まるで、失われた笑顔と一緒に、生きる意志までもどこかに置き去りにしたようだと、看護師の誰かが言っていた。
望が病室を覗くと、可符香はベッドの上に体を起こし、窓の外の景色をずっと見ていた。
その窓ガラスに、彼女の無表情が映っている。
「失礼します。今日もお邪魔しますよ、風浦さん」
病室に足を踏み入れた望が声をかけても、可符香が振り返る事はない。
だが、望はそれをさして気にする事もなく、可符香のベッドの脇へと歩み寄る。
「これ、今日の分の学校のプリント類です。まあ、今は読んでられるような調子じゃないでしょうが、とりあえず置いておきますね」
そう言って、望は鞄からプリントを入れた茶封筒を取り出す。
そこで、ベッド脇のチェストの上に昨日持って来たプリントがそのまま手付かずで置かれている事に気付く。
「…………」
望はそれを見て、引き出しの一段目を開く、中に入っているのはこれまでの一週間で溜まった茶封筒の束だ。
望はチェストの上の茶封筒を、今日持って来たものと一緒にそこに仕舞う。
それから足元に鞄を下ろして、ベッド脇の丸椅子に腰掛ける。
「体の調子の方はいかがですか?」
「………変わりません、何も」
そこでようやく可符香は望に言葉を返した。
だが、望の方に顔を向けようとはしない。
「そうですか……。せめて栄養のある物を食べて、体力を回復しないといけませんよ」
「…………」
再びの無言。
望はそれ以上無理に言葉をかけようとはせず、学校から持って来た諸々の書類、生徒からの宿題を鞄から取り出し、黙々とそれらに取り掛かる。
可符香が目を覚ます以前から見舞いに来ていた望だったが、現在の可符香は一事が万事この調子だった。
自分からは何も喋らず、望に何かを問われても、ほとんど答えようとしない。
それでも望は毎日可符香の下を訪れては、時間の許す限り彼女の傍らに居続ける。
「例の大寒波の方はようやく去ってくれましたが、まだまだ寒さは緩んでくれませんね」
時折話しかけてくる望の言葉にも、可符香は反応を示さない。
ただ、可符香が倒れたあの日から十日近く経過したというのに、まだ雪を残している窓の外の道路だけを彼女は見つめている。
望はしばらく可符香の背中を見つめていたが、やがて再び手元の宿題の束に視線を戻した。
「…………」
静寂に支配された病室の中、カリカリ、カリカリと望の赤いボールペンの音だけが絶える事無く響き続ける。
時が止まったような病室の中、可符香は身じろぎもせず、ずっと窓の方だけを見ている。
だが、果たして彼は気付いているのだろうか?
窓の外、暮れ行く夕陽に照らされた街並みだけを見ている筈の眼差しが、時折、その窓に映る望の姿に向けられている事を………。
159 :
266:2009/12/22(火) 08:45:19 ID:F0zR4F88
それから3時間近く経過しただろうか?壁に掛けられた時計を見た望は、既に閉院時間が近付いている事を知った。
「今日はそろそろ終わりですか……」
望は今まで膝の上に広げていた仕事道具を鞄に仕舞いこんだ。
それから、今日もほとんど会話を交わす事のなかった可符香の背中に視線を向ける。
もうかれこれ十日以上も彼女の笑顔を見ていないのだと思うと何か不思議な気分だった。
彼女が目を覚ましたときの、何の感情も感じさせない声を、表情を、望はまざまざと覚えている。
そしてあの時自分が感じた、自らの足元が崩れていくような言いようの無い絶望感を……。
それまでの平穏な日々はあの日呆気無く暗転してしまった。
「それじゃあ、私はこの辺りで帰らせてもらいます。風浦さん……」
そう言って、鞄を片手に立ち上がった。
だけど、いつもならば『風浦さん……また明日』そう続く筈だった言葉が今日に限って遮られた。
「先生……」
他ならぬ、風浦可符香の言葉によって……
「先生…もう、やめてください……」
いつの間にか、彼女は振り返り、望の顔をキッと睨みつけていた。
その顔に浮かぶのは、心の底から湧き上がる何かを必死で堪えているような、苦しげで険しい表情だった。
「先生は親切のつもりでやってるんでしょうけど、迷惑なんです、正直」
冷たく、突き放すように、淡々と、可符香は言葉を重ねていく。
「先生は私にどうして欲しいんですか?前みたいに笑っていればいいんですか?
どんな時でも、どんな事が起こってもニコニコ笑ってる、そんな私がお望みですか?」
可符香の言葉は、望の心をズタズタに切り裂くナイフのようでありながら、同時に彼女自身の心まで抉っているようにも聞こえた。
「残念ですけど、私にそんな余裕なんて無いんです。先生が思い描くような『風浦可符香』を演じて上げる余裕なんて、もうどこにも無い……」
望はそれらの可符香の言葉をただ黙って受け止める。
(全部、風浦さんの言う通りです。結局のところ、私は……)
望にはもう、返す言葉などありはしなかった……。
鞄の持ち手をぎゅっと握り締め、顔を俯かせて、望は病室を後にする。
可符香もまた去っていく望の背中から辛そうに目を逸らし、窓の外へと視線を戻す。
再び静寂に沈んだ病室の中に、言葉を発する者はもう誰もいなかった。
望が可符香の見舞いに来たときは必ず、医院の建物を出る前に兄の命に彼女の様子を報告するのが常となっていた。
診察室のドアを開くと、命は開口一番、こんな言葉で望を出迎えた。
「お前、今日はまた一段と酷い顔だな……」
呆れたような表情と口調、だが、その眼差しは可符香とのやり取りで憔悴した望を心配する色が滲み出ている。
望もそれに気付いているのか、努めて明るい口調で命に応える。
「ええ、どうにも、フラれちゃったみたいです……」
望は患者用の椅子に腰を下ろして、命に力なく微笑んだ。
「って事は、今日もいつも通り……」
「それよりもう少し悪いですね。もう私には来ないでほしい、風浦さんはそう言ってました」
望の言葉を聞いて、命は難しい顔で腕組みをした。命にとっても、可符香の容態は大きな懸案事項だった。
ゆっくりと、しかし着実に可符香の体は弱っていた。
それが肉体的な問題よりも、むしろメンタルの面に関わる出来事である事も命は理解している。
だが、彼女の心を解きほぐすのは、命はもちろん、専門のカウンセラーや医師にとっても難しい仕事だろう。
彼女の担任教師であり、最も親しい人間である望に一縷の望みを託していたのだが………。
「私自身、今の風浦さんを見て焦りすぎていたんでしょうね。とりあえず、しばらくは彼女の言う通りお見舞いは控えようと思います」
「そうか……」
それから、望は鞄を手に再び立ち上がる。
「そういう訳ですので、次に来るのは少し先になると思います。風浦さんの容態に急変があった場合は、すみませんけど、私に連絡、お願いします」
それだけ伝えてから、望は診察室から出て行こうとする。
その背中に命が問いかける。
「大丈夫……なのか?」
足を止め、振り返らないまま望が答える。
「大丈夫ですよ。彼女はそんなに弱い人間じゃありません。いずれ必ず回復してくれますよ」
「違う……。俺が言ってるのは、お前の事だ。望……」
今の望はまるで、可符香の容態に引きずられるように、日に日に衰弱しているように見えた。
望は命の言葉にしばし沈黙した後
「すみません、命兄さん……」
それだけ言い残して診察室を出て行った。
命にはその力ない後姿をただ見送る事しか出来なかった。
160 :
266:2009/12/22(火) 08:46:26 ID:F0zR4F88
望が病室を出て行ってからも、可符香はずっと窓の外を見ていた。
もとより、無機質で殺風景なこの部屋の中に、眺めている価値のある物などありはしないのだ。
びゅおおお、と冬空の下の街を吹きぬける、冷たい風の音が部屋の中にいても聞こえてくる。
寒々しいその音を聞きながら、可符香は先ほどの望とのやり取りを思い出す。
『先生…もう、やめてください……』
望に突きつけたあの言葉は、偽らざる可符香の本音だった。
『先生が思い描くような『風浦可符香』を演じて上げる余裕なんて、もうどこにも無い……』
彼女は疲れきっていた。
幼い頃の幸せな日々が少しずつ壊れていくにつれて、彼女がかぶるようになった笑顔の仮面。
過酷な毎日を生き抜くには、可符香はそれに縋るしかなかった。
「だけど……」
だが、あの十日前の雪の日、彼女は知ってしまった。
郵便受けを確認して見つけたおじからの手紙。
あの日の天気で郵便の配達がマトモに行われたとは思えないから、おそらく前日には届いていたのだろう。
手紙の封を切った私は、その内容を読んで、何故もっと早くそれが届いていた事に気付かなかったのか、死ぬほど後悔する事になるのだけど。
「おじさん……どうして…」
封筒の中から出てきた三枚の便箋、そこにはおじから私に向けての謝罪の言葉がびっしりと書かれていた。
『もう、杏ちゃんには迷惑かけられないから、俺が近くにいたら杏ちゃんきっと困るから、だから、ごめんな』
刑務所で服役中だったおじは、今月の終わりにようやく刑期を終えて出所する筈だった。
だけど、手紙を読んで初めて、おじが私に嘘を教えていた事が分かった。
本当のおじの出所日は先月の中ごろ、刑務所を出たおじは僅かなお金と荷物だけを持ってどこかへと消えてしまった。
『俺のように脛に傷持つ男が関わりを持てば、それだけで杏ちゃんがどんな目にあわされるか……』
そんな事はない。
これまでの短い人生の中で、数え切れない不幸に、可符香は晒されてきた。
だけど、その中で可符香は少しずつ、この世界を生き抜くための力を貯えてきた。
もうこれ以上、どんな事があろうとも、自分の大切なものを失いたくない、ただそれだけの為に……。
だけど、運命は呆気なく可符香の傍からおじの存在を奪い去った。
『そもそも、俺がどんな男かは、杏ちゃんだって知っているだろう?俺には杏ちゃんに顔を合わせる資格なんて本当は無いんだよ』
違う!違う!違う!
確かに可符香はおじの罪を知っている。
金銭を目当てに家に押し入り、結果として相手の命を奪う事にはならなかったが、人を傷つけた。
だけど、可符香はおじがその罪を悔い、塀の中で懸命に償いを続けている事を知っていた。
だからこそ、可符香は数少ない面会の機会に、出来る限りの笑顔でおじを励まし続けたのではないか。
可符香は以前から、おじの出所に備え、幅広い人脈を活用して彼のための働き口と住居の手配もしていた。
前科者にはとかく厳しいこの世の中で、おじが生きていく為のあらゆる算段を整えてあった。
だけど、それらは無残にも水泡に帰してしまった。
他ならぬ、おじ自身の意思によって………。
『散々世話になっておいて、礼も出来ずに本当にごめんな。杏ちゃんは幸せになってくれ。俺なんかの事は忘れて、誰よりも幸せに……』
手紙はそこで終わっていた。
161 :
266:2009/12/22(火) 08:47:45 ID:F0zR4F88
最後の一文を読み終わった瞬間、可符香はその場に突っ伏した。
「わ、笑わなきゃ…笑ってなきゃ………」
心の痛みでグシャグシャになっていく顔に手の平をあてがい、必死で笑顔を形作ろうとする。
「笑わなくちゃ……笑わ…なくちゃ…………笑えっ…笑えっ!!」
だが、それはボロボロと崩れて、苦悶の表情へと歪んでいく。
(私は笑ってなくちゃいけないのに……笑ってなきゃ、何もかも失ってしまうのに……)
幸せは常に笑顔の人の下にある。
どんな時も前を見ていられる人、笑顔と共にある人は最後には自分を取り囲む状況を幸せなものへと変えていける力がある。
過酷な運命に翻弄されながらも、可符香は常にそう信じ、笑顔を絶やさずにいた。
だけど、やっぱり無理だったのだ。
結局のところ、可符香の笑顔は仮初めのものでしかない。
そんな嘘に塗れた演技で、幸せを繋ぎとめる事なんて、最初から出来る筈がなかった。
本当はずっと前から気付いていた。
だけど、今更、長年かぶり続けた笑顔の仮面を脱ぎ捨てる事なんて出来なかった。
仮初めの笑顔で作り上げた、仮初めの人間関係の中で、仮初めの幸せに浸って、いつかやって来る破滅の時に怯える。
それが可符香の人生だったのだ。
そして、今、ついにその時はやって来たのだ。
今の自分には、バラバラに砕けた笑顔の仮面をつなぎ合わせて、もう一度笑う事なんて出来はしない。
だけど、それが無くなってしまえば、可符香に残されるのは何もない、虫食いだらけで空っぽの空しい自分だけ。
そんな人間に誰が触れてくれるだろう。
誰が微笑みかけてくれるだろう。
伽藍堂になってしまった自分には、もう何の価値もないのだ。
だからこそ、可符香には望の存在が腹立たしかった。
空っぽの自分に、かつての笑顔をどこかで期待する、そんな態度が憎たらしかった。
「先生……私はもう、先生の期待なんかには応えられないんですよ」
可符香はそう呟いて、口元に皮肉げな笑みを形作ろうとする。
だけど、可符香の顔は見苦しくこわばって、結局そんな僅かな笑顔さえ装う事が出来なかった。
ああ、本当にもう、私は空っぽになってしまったんだ……。
窓辺に佇む可符香の小さな背中は、どこまでも孤独だった。
蛍光灯の明かりを落とした暗い部屋の天井を見つめながら、望はずっと考えていた。
(これから、私はどうすればいいんでしょうか……)
三日前、今のところ最後のお見舞いとなったあの日の可符香の言葉がまだ望の耳に響いている。
『先生が思い描くような『風浦可符香』を演じて上げる余裕なんて、もうどこにも無い……』
彼女の言った通り、結局自分が求めていたのは、愛らしい笑顔を振り撒く、自分にとって都合の良い『風浦可符香』という存在ではなかったのか。
勘の鋭い彼女が、それに気付かない筈はない。
望のそうした態度が、何か深い傷を心に抱える今の彼女にとってどれだけ辛いものだったのか。
考えれば考えるほど、望の頭の中は後悔の念でいっぱいになっていく。
可符香が倒れてからずっと寝不足だった望だが、先日の一件以来それは酷くなる一方だ。
日常生活、学校での授業にもその影響は出始めていたが、彼の担当する2のへの生徒達は何も言わなかった。
彼らもまた、目を覚ました可符香の下へお見舞いに行き、そこで今の彼女の状態を目にしていた為である。
そして、今夜も延々と可符香の事ばかりを考えている内に、望の眠れない夜は過ぎていく。
162 :
266:2009/12/22(火) 08:49:15 ID:F0zR4F88
夜中の三時を過ぎた頃、望は布団の中から立ち上がった。
宿直室を出た望はそこから少し離れた、学校のトイレへと向かう。
用を足してトイレから出てきた望は、ため息まじりに呟く。
「こんな時でも、私の体は勝手に動き続けるんですね……」
望は廊下の冷えた空気に体を震わせながら、窓の外に浮かぶ月を見る。
「彼女は今頃、どうしているのでしょうか……?」
一日毎に命に電話して、可符香の容態を聞かせてもらっているが、やはりどうにも芳しくないようだ。
そして、彼女の今の精神状態が回復の足を引っ張る最大の要因となっている事はおそらく間違いないだろう。
この月の下、彼女は今も眠れぬ夜を過ごしているのか。
それとも、終わる事のない悪夢にうなされ続けているのか。
考えるだけで、望の頭の中はいてもたってもいられない気持ちでいっぱいになる。
だが、その度に望の耳にあの時の可符香の言葉が蘇る。
『先生…もう、やめてください……』
何もかもを諦めたような、力ない彼女の言葉。
それを思い出すと、望は自分が彼女のためにしてやれる事などあるのだろうかと、圧倒的な無力感に苛まれる。
きっと、あの雪の日、それまでの人生を必死で生き抜いてきた彼女の何かがプツリと切れてしまった。
彼女がどれだけ心の中であがき続けてきたか、それを知らない望に一体何が出来るというのだろう。
可符香の笑顔が戻ってくる事を願うのは、結局のところ己のエゴでしかない。
彼女の精神はそれよりもっとずっと深いところで苦しみ続けてきたというのに………。
ふらり、望は寝間着のまま、校舎の外へと出て行く。
行き先は学校へ通じる道の途中にある、あの桜並木。
あの日、望が雪の中で立ち尽くす可符香を見つけた場所であり、望と可符香が初めて出会った場所でもある。
「やっぱり冬の間のこの場所は、どうにも寒々しいですね……」
街灯に照らされ、道路に影を落とす木々の群れを見上げて、望が呟く。
全ての葉を落とした姿で静寂の中に立ち続ける彼らの姿は、来るべき春に備えて眠っているようにも見えた。
望はその光景を見ながら、あの春の日の出来事を思い出す。
あの時、望はここの桜のうちの一本の枝にロープを括りつけ、首を吊っていた。
それを発見した可符香が望を助けようと体にしがみついて来て、ロープが千切れて望が落下するまでずいぶんと苦しい思いをさせられた。
「あの時は、どうして首なんて吊ろうとしてたんでしょうね……」
今の望にはそれを思い出す事が出来ない。
きっと、ほんの些細な事だったのだろう、他人から見れば鼻で笑ってしまいそうなほど、些細な原因だったに違いない。
だいたいからして、望の自殺未遂はそうする事で自分の苦しみを周囲にアピールするかわいそぶりなのだ。
ただ、そうだとしても……
「そうだとしても、あの時の私は首を吊らずにはいられなかった……」
あの頃の望は今以上に心が弱く、不安定だった。
生徒向けの筈のカウンセリングルームに行っては、智恵先生に色々と話を聞いてもらったりもした。
ほんの小さな不安にも怯える事しか出来なかったあの頃の彼には、それしか自分を支える術がなかったのだ。
たとえ、誰に理解されなくとも、それは望にとって必要な事だったのだ。
「考えてみれば、風浦さんだって同じですよね……」
深く重い悩みを抱える彼女を、結局のところ誰も理解してやる事は出来ない。
同じように、他の人間には理解できない苦しみの中で生きてきた望にはそれが痛いほどに分かる。
「結局、私には風浦さんを助ける事なんて、出来はしない……」
望は空に浮かぶ月を眺めながら、力なく呟く。
だけど……
163 :
266:2009/12/22(火) 08:50:04 ID:F0zR4F88
「風浦さんっ!……風浦さん…っ!!」
理解する事など出来ない。
助けになんてなれない。
それを痛いほど理解している筈なのに、止め処もなく湧き上がる強い思い。
積み重ねてきた彼女との日々が、その思い出が、望の心を強く揺さぶる。
「風浦…さ……」
ボロボロと零れ落ちて止まらない涙が頬を濡らす。
ぐしゃぐしゃになった顔を両手で覆って、望はその場に膝をついた。
やがて、彼は気付く。
確かに自分は可符香の気持ちなど考えず、ただかつての彼女の笑顔ばかりを求めていたのかもしれない。
そして、その事が結果としては、彼女を余計に苦しめる事になったのかもしれない。
だとしても………
「そうだ…彼女が笑うから……その笑顔が『風浦さん』のものだっただからこそ私は……」
この学校にやって来てからこれまで、常に自分の傍らには彼女がいてくれた。
それが望を支え、前に進ませてくれた。
彼女は望の中でいつしか他の何にも代えられない存在へと変わっていた。
かつての笑顔を求める事が今の彼女を苦しめる事になるなら、そんな物はもういらない。
ただ、そこにいてくれるだけでいい。
「……風浦さん、私にはあなたが必要です……っ!!!」
翌日、糸色医院、可符香は昏々とした眠りの中にあった。
身体的・精神的な限界が近付いたという事だろうか。
彼女の体温は再び上昇を始め、命と糸色医院の看護師達は彼女の容態を固唾を飲んで見守っていた。
そんな中、可符香の意識はゆらめく悪夢の中を漂っていた。
暗く冷たい泥沼の中をどこまでも沈んでいく。
見上げれば遥かかなたに光が見えるのに、何とか浮かび上がろうとしてもがけばもがくほど、
手足にまとわりつく泥濘に邪魔をされて、さらなる深みに引きずりこまれていく。
手を伸ばせばすぐにでも届きそうなのに、可符香はその光に触れる事すら叶わない。
やがて、光は薄らいで消えて、どこまでも暗く静かな闇の底へ底へと可符香は沈んでいく。
(笑わ…なくちゃ……)
その暗闇の中で、可符香は思う。
どんな深い絶望の中にあっても、前を向いて笑っていられる人間は、きっとそれだけで幸せなのだから。
(だけど…私の笑顔は偽物だから……)
嘘っぱちの笑顔。
嘘っぱちの希望。
そんなものを幾ら並べたところで、一体何を得られるというのだろうか?
どれほど外側を飾り立てたところで、風浦可符香の内実は空しいばかりの伽藍堂だ。
そして、いまやその虚飾の仮面は粉々に砕けて消えたのだ。
それは風浦可符香、もしくは赤木杏と呼ばれた少女が消え去ったのと同義なのではないかと、彼女は考える。
風浦可符香は空っぽになったのではない。
風浦可符香は”いなくなった”のだ。
かつての自分を、風浦可符香という名前の嘘っぱちで覆い尽くして、今までの日々を生きてきた。
そして、その全ての嘘が崩れ去った今、そこにはもう何も残されていない事を知った。
(じゃあ、今こうしてその事を考えてる私は、一体誰なんだろう……?)
答えはきっと簡単だ。
赤木杏でもなく、風浦可符香でもなく、この世界の誰にとっても価値を持たないもの。
存在しない人間。
(そうだ。もう、私は誰でもないんだ……)
静かに肯いて、可符香はもがくのをやめた。
やがて、可符香の意識は冷たい泥の中に溶けて消えてしまう、その筈だった。
だけど……
(あれ……?)
ふと、左の手の平に熱を感じた。
それが、溶けて消え去る筈だった可符香の心を一点で繋ぎ止める。
その温もりに引っ張り上げられるように、可符香の意識は一気に覚醒へと向かった。
164 :
266:2009/12/22(火) 08:50:51 ID:F0zR4F88
「気がついたんですね、風浦さん……?」
目覚めた可符香を出迎えたのは、見慣れた担任教師の安堵に満ちた表情だった。
ここ十日ほどで見飽きるほど眺めた天井、薬品のにおいのする空気、窓の外は明るく、日差しの向きから考えてもう午後を回っているようだった。
そこで改めて、可符香は自分の左手を強く握る、手の平の感触に気がつく。
見ると、望の両の手の平が上下からそっと可符香の左手を包み込んでいた。
「先生………?」
「……命兄さんから連絡がありました。あなたの容態があまり芳しくない方向に向かっていると……
でも、ようやく熱も下がってくれたみたいで、少し安心しましたよ……」
望の言葉を聞いて、可符香の頭の中に先ほどの夢の内容が再びこみ上げてくる。
もう来ないで欲しい、数日前、望に告げた言葉をもう一度口にしようとする。
だけど、手の平から伝わる温もりは、優しく、そして頼もしく、彼女はどうしてもそれを言う事が出来ない。
(違う。間違えちゃ駄目だ。先生が求めているのは”以前の風浦可符香”。今の私じゃないんだ……)
可符香は、相反する二つの想いの狭間で葛藤激しくする。
しばらくの後、やっとの思いで喉から搾り出したのはこんな言葉だった。
「どうして…なんですか?」
震える声を抑えて、できるだけ平静を装う。
「あの時、言ったじゃないですか。もう私は先生の考えるような『風浦可符香』を演じる事なんて出来ない。
先生が何を期待したって、私にはもう応える事なんて出来ない。それなのに、どうしてこんな所にいるんですか!!」
しかし、可符香は湧き上がる激情を抑える事が出来なかった。
高熱で消耗し切った体を強引にベッドの上に起こして、可符香はほとんど泣き出しそうな声で叫ぶ。
「元から私には何もなかったんです。偽物の笑顔と偽物の希望の中に、偽物の幸せを見出して生きてきた私に真実と言えるものなんて何一つなかった。
だけど、今の私には、その嘘を支えていくだけの力も残っていない………っ!!!!!!」
「風浦さん……」
「全部を嘘で塗り固めて生きてきた私から、その嘘さえ消えてなくなってしまった。……私にはもう何も残されていないんです!!!」
そこまで叫び終えたとき、体力と精神の限界にあった可符香の体は、ぐらり、バランスを崩してベッドの上から崩れ落ちそうになる。
しかし……
「あ……」
「風浦さん…それは違います」
そのギリギリのタイミングで、可符香の体は望の腕に抱きしめられていた。
「すみません。私の考え足らずのせいで、随分と苦しませてしまったみたいですね……」
朦朧とする意識の中、可符香が見たのは自分をまっすぐに見つめる、望の決然とした表情だった。
「嘘だとか演技だとか、それがどうしたって言うんですか?あなたは何も失ったりしていない。
……私だって似たようなものです。その場しのぎの『絶望』なんかで自分を誤魔化して、ようやくここまで生きてきました……」
「先生……」
「嘘でも演技でも誤魔化しでも、それがたとえ何だったとしても、その積み重ねの上にあるあなたは本物の筈でしょう、風浦さん?」
あの日、可符香に言い放たれた言葉、それだけを考え続けて望が辿り着いた答えがそれだった。
確かに自分は、彼女の笑顔の中にどこか安易な安らぎを求めていたのかもしれない。
だけど、それだけじゃあなかった。
彼女に言われて、ようやく望は気付く事が出来た。
彼女が、『風浦可符香』が笑うから、自分も笑う事が出来た。
自分が求めているのは、他ならぬ彼女自身なのだと……。
笑顔の仮面も、偽りの希望も関係ない。それら全てを含めた風浦可符香という存在を、望は求めているのだから。
「私にはあなたが必要です、風浦さん……」
静かに、しかしハッキリと望は言い切った。
可符香は望のその言葉に、しばし呆然としていたが……
「せんせ……先生……先生っっ!!!」
ボロボロ、ボロボロと、まるで堰を切ったように流れ出した涙で濡れた顔を望の胸に埋め、彼の背中に回した腕にぎゅっと力を込めた。
薄暗い病室の中、望の胸で泣きじゃくる可符香は、もう一人きりでも孤独でもなかった。
165 :
266:2009/12/22(火) 08:51:19 ID:F0zR4F88
それから数日をかけて、可符香はゆっくりと回復していった。
そして、ようやく可符香が学校に復帰したのは、二学期の終わりを間近に控えたある日の事だった。
久しぶりに教室に姿を現した彼女は、鞄の中から一通の封筒を取り出して、望に見せた。
「それは、もしかして……?」
「はい。おじさんからの手紙です」
あの後、望は可符香から今回の一件のきっかけとなったおじからの手紙について話を聞かされていた。
彼女はおじの服役していた刑務所の関係者から話を聞いて、出所したおじが向かった先を何とか特定する事に成功した。
そして、現在の自分の心境をつづり、おじに宛てた手紙を出していたのだが……。
「どうでしたか?おじさんからの返事は……」
「やっぱり、私には迷惑をかけたくないそうです……。でも、定期的に手紙で連絡してくれるって、約束してくれました…」
そう語る可符香の顔に、心の底からの安堵の表情が浮かぶ。
可符香のそんな様子を見つめる望の顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいる。
「よかったですね、風浦さん……」
「はい……」
肯いて応える可符香の顔にも、また笑顔。
それでも可符香は、この瞬間にも、どこかで笑顔の仮面を被って、『風浦可符香』を演じようとしている自分を感じていた。
だけど、そんな部分も含めた全てが合わさって、今の自分が形作られている。
あの夜、望の胸の中で思い切り泣いて以来、可符香はごく素直に、そう思う事ができるようになった。
ふと窓の外を見ると、いつの間にやらちらちらと雪の粒が地面に舞い降り始めていた。
「どうにも寒いと思ったら、降り出しましたか……風浦さん、あなたは病み上がりなんですから、特に気をつけてくださいよ」
「いやだなぁ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。あんな事があったばかりなんですから、当然気をつけますよ」
振り返り、崩れ落ちそうだった自分を繋ぎとめてくれた、担任教師に微笑みかける。
その表情に、どこかぎこちなさや、演技や嘘の気配が残っているのだとしても、もう彼女が迷う事はない。
自分が今浮かべているのは間違えようもなく、『風浦可符香』の笑顔なのだから。
166 :
266:2009/12/22(火) 09:01:58 ID:F0zR4F88
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
またカフカか
書き手が少ない現状で書き手個人にも好みや書きたい事の傾向がある以上
内容やキャラに偏りが出てくるのは仕方ないんじゃないか?266さんの場合それがカフカなわけだけど
この人もカフカばかり書いてる訳じゃないし
それ以上を求めるのは酷だろう
可符香はあいぽんで再生されるんだけど、あいぽんのアナルを洗うトークを聴いてから、キャラがブレブレになっちまった。
オレはずっとカフカちゃんのアヌス気になってたよ
【世界の終わりとハードボイルド・ワンダー乱心 1】
TVアナ『大寒波が全国を襲っています!』
交「例によってまたオレら視聴者」
霧「うん・・・あれ?アナの後ろの人・・・」
冬将軍『ガハハハハハハハハハハハハッッ』
霧「あ、猛威を振るってる」
交「ってか何やってんだ」
冬将軍『ガハハハハァッ!震えて眠れ愚民どもォ!』
侍『将軍!生放送にござりまするお静まり下され!』
交「誰?」
霧「冬大佐じゃないの」
冬将軍『ええい放さぬかぁ!』
冬大佐『将軍、乱心めされたかぁ!』
霧「・・・・・・」
絶望「えー、気象庁によれば冬将軍の乱心は間もなく静まるとのことです」
あびる「寒波の原因が冬将軍のご乱心ですか」
奈美「寒波で乱心したんじゃないんですか」
絶望「将軍だけではありません。人は乱心すると何するか分かったもんじゃないのです」
奈美「そりゃまあそうだろうけど」
絶望「ただし、乱心といっても色々ありるのです。
この度の冬将軍のご乱心の類も迷惑極まりありませんが、滅多にあるものではありません。
本当に恐ろしいのは、日常に潜むプチ乱心なのです!」
奈美「プチ乱心?」
絶望「あなた方にも覚えがあるはずです。」
臼井「僕ですか?」
絶望「テスト中に消しゴム忘れて、挙手して先生に借りればいいのに指消しゴムしたり!
公衆トイレで紙が切れていて、鞄の中にいらないプリントがあるのに靴下を使ったり!
期限切れの定期で駅の自動改札を止めてしまって、駅員に言えばいいのに
隣の改札を通ろうとして結局五つの改札を止めてしまったり!
そんな、プチご乱心を!」
臼井「僕はそんなことはしない!
時田「お取り込み中ですが、一大事でございます望坊ちゃま」
絶望「何事です」
時田「倫様がご乱心あそばれました」
絶望「えっ?」
ニのへ「ええっ!?」
【世界の終わりとハードボイルド・ワンダー乱心 2】
倫「・・・・・・ああん、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ああっ・・・」
絶望「・・・・・・・・・」
倫「・・・ちゅぷ、ちゅぱ、んんっ、ぢゅぱ、んん、れろ、ぺと、
れろ、れろ・・・ああん・・・・・・あっ・・・ふう、もうお終い」
絶望「・・・・・・・・・・」
倫「あら、お兄様見ていらしたの。
すっかり口周りが汚れてしまいましたわお恥ずかしい」
絶望「・・・ただポッ○ーを食べてるようにしか見えませんが」
時田「食べ方が問題なのです」
ポッ○ーのチョコの部分だけを舐めとられているのです
糸色家の令嬢ともあろうお方が、黒くて長いものを舐めて口周りを汚すなどとは嘆かわしい・・・」
藤吉「それは言い方の問題なのでは」
時田「ポッ○ーだけではありません
フランクフルトの垂れかけたケチャップを舌で拭ったり
周りが半液状化したアイスクリンの表面を舐め取ったり
肉まんのつるつるした外皮だけをかじり取ってモフモフにしたり
そんな、令嬢にあるまじき食べ方をされ始めたのです!」
絶望「それで乱心だなんて大げさな」
時田「これを乱心と言わでいか!」
奈美「執事言葉が変わってるし」
倫「ええい煩い!私は庶民の食するものを庶民の食べ方で食べたいのだ!」
奈美「庶民の食べ方って・・・」
倫「そう言うオマエがこうやって食べてただろうに」
奈美「わ、わたし!?」
あびる「奈美ちゃんはそうでしょう」 藤吉「奈美ちゃんはそうでしょう」
倫「しかし口元を汚してしまうとは、私もまだまだ・・・
オマエの様に庶民らしく美しく舐めるのは難しいな」
奈美「私はいつもそんな風に食べてる訳じゃない!」
倫「さあ、次はとんが○コーンとやらを五指にはめて、一つずつ口へ入れていこう」
あびる「奈美ちゃんはやるでしょうね」 藤吉「奈美ちゃんはやるでしょうね」
奈美「だからぁ」
大草「・・・・・・・・・
倫「ん?」」
ぱ ん っ ☆
倫「痛っ」
一同「えええぇっ!?」
倫「何をするっ!?」
大草「食べ物で遊ぶんじゃありません!
そこに座りなさいっ!奈美ちゃんもっ!
いい?世の中には食べたくても食べらんない人もいっぱいいるんですそれなのに貴女達は・・・
ガミガミガミガミくどくどくどくど」
奈美「ひえええぇぇ・・・」
倫「う゛・・・・・・・・」
【世界の終わりとハードボイルド・ワンダー乱心 3】
可符香「あらら、普段は穏和な大草さんがご乱心しちゃいました」
絶望「ああ、食べ物で遊ぶと怒るお母さんって多いですからね」
あびる「主婦は年末年始で忙しくて色々溜まってたんですね」
大草「ガミガミガミガミくどくどくどくど」
倫「ううっ・・・でも、何で私がオマエに説教を受けねばならんのだ!」
大草「デモもストライキもメーデーもありません!
そうやって反省しないなら私にも考えがあります!」
奈美「?」
大草「そんなに口の周りを汚して食べたいなら、箸もスプーンも使わずにご飯を食べなさいっ!」
倫「何でそーなるっ!?」
可符香「ここに丁度、調理実習で作ったシチューがあります」
倫「余計な事をするなぁっ」
奈美「私関係ないのにぃっ」
倫「・・・ずずっ、ずじゅる、ずずじゅる、げほっ、ううっ熱い・・・」
奈美「うえぇっ、ずずっ、あふっ、ふぅっ、ずぶっ・・・ううっ」
時田「嗚呼、糸色家令嬢ともあろうお方がどろりと白濁した汁を、顔中を汚して啜られるとは・・・」
可符香「でも、冷めたシチューを暖め直したのはセバスチャンですよね」
倫「ずっ、じゅるるっ・・・・・・あっ!」
大草「こらっ!こぼしちゃ駄目でしょう勿体ない!」
マリア「こぼれたシチューは、後でスタッフが美味しく頂きまシタ」
臼井「・・・・・・(にゃんまり)」
倫「待てぇい!スタッフって誰だあ!」
了
ワロタ。肉まんモフモフ化は俺もやっていたぞ!
175 :
266:2009/12/24(木) 23:33:41 ID:NI7CmHTk
書いてきました。
すみません。また望カフです。
176 :
266:2009/12/24(木) 23:35:15 ID:NI7CmHTk
夜明け間近のほの暗い街を、ゆらりゆらりと歩く男が一人。
身長は高いようだが、今は手にした鉄パイプを杖代わりにほとんど這いずるように進んでいるので、一見しただけではそうは感じられない。
時折、街灯に照らし出されて見える服の色は白に縁取られた赤。
ただし、赤にも二種類があって、ごく普通の明るい赤の上に、白い縁取りの部分までを汚すどす黒い赤が散らばっていた。
実は、どす黒い部分のほとんどは、彼が流した血の色である。
僅かに混じる他人の血は、地獄の如き大乱闘の最中を彼が必死で逃げ回っている間に浴びてしまったものであった。
彼は人気のない朝の住宅街をよたよた、よたよたと歩いていく。
今にも倒れそうな彼がそうまでして歩き続けるのは、どうしても行かなければならない場所があるからだ。
一歩、また一歩、足を踏み出す度に全身を駆け抜ける痛みを堪えて、彼は進む。
やがて、彼の目の前にようやく目的の場所が、三階建てのアパートのシルエットが見えてくる。
「も、もうすぐです……」
彼は、何とかアパートのとある部屋のドアの前まで辿り着き、懐に手を入れる。
「後は…”コレ”を……」
だが、彼の肉体は懐の中の物を取り出す前に限界を迎えてしまった。
ぷつり、彼の意識は唐突に途絶え、彼はドアにもたれかかるようにその場に倒れてしまったのだった。
「あ、先生、やっと目が覚めたんですね」
彼がようやく閉ざされていた瞼を開いたとき、まず聞こえてきたのは耳に馴染んだその明るい声だった。
「風浦さん?どうしてあなたが……?」
「いやだなぁ、どうしてってそれはこっちの話ですよ。朝起きてドアを開けたら、先生が倒れてたんですから」
「そうですか。ああ、確かにそうでしたね。私はあそこで気を失って……」
風浦可符香の言葉を聞いて、だんだんと記憶が鮮明になっていく。
彼、糸色望はボロボロの体で可符香の部屋の前まで辿り着き、そこで気を失ったのだ。
寝かされていた布団の上にゆっくりと起き上がり、改めて今の自分の状態を確認する。
体中のところどころに、可符香が手当てしてくれたと思しき包帯を巻かれた箇所がいくつもある。
服は気を失う前と同じ、血まみれのサンタ服。
「そもそも、こんな格好をしたのが不幸の始まりだったんですよね………」
望が何故そんな状態だったのか、全ては昨晩の出来事が原因である。
未だにサンタを信じる千里のために、木津家総出で行われる小芝居の中、サンタ役を演じる羽目になってしまった望。
ところが、千里の目の前でサンタの付け髭が取れてしまい、彼女が『先生がサンタだったのね』なんて言い出した辺りから事態は妙な方向に進み出した。
サンタ達が集い、戦い、一番を決める……そんな場所に行く事になってしまったのだ。
そこで待ち受けていたのは秋田社の月刊漫画誌辺りが似合いそうなおっかない面々。
その上、何故だかいつもと違う鋭い目つきの甚六先生まで乱入してきたのだからもうたまらない。
熱い血をさらに熱く煮えたぎらせた男達の決戦場で、望は必死で逃げ回り続けた。
しかし、次々と襲い掛かる猛者達を前に、いつまでも無傷でいる事など出来る筈も無く………。
「……というわけで、今の私はこの有様です。ホント、何でこうなってしまったんだか……」
「それは災難でしたね……」
望の話を聞いてから、気遣うような優しい眼差しで可符香がそう言った。
望はその視線に、思わずグラリと心が揺れそうになるのだけれど………。
「……って、あなたも割りと楽しげに傍観してたじゃないですか!!!」
「あははー」
悪びれもせず笑う可符香を、望は恨めしげな眼差しで睨みつける。
「だいたいにおいて、あなたはいつもそうですっ!!毎度毎度私の心の隙間を突いて、ヤバイ方向に誘導して、
自分だけは安全な場所にいて、私の苦しみのたうつ様を見てる!!それもずっと!この学校に来て以来ずっとですよっ!!!」
「それは誤解ですよ、先生」
望の言葉にも一切動じない可符香の笑顔。
それを向けられただけで、望は、むぐぐ、と何も言えなくなってしまう。
(うう……結局、私は風浦さんに丸め込まれてしまう運命にあるんでしょうか……?)
だけど、そこからさらに可符香が呟いた言葉は、昨夜の凶悪なサンタ達の一撃を上回る衝撃で、望の思考を断ち切った。
「……でも、『ずっと見てた』っていう部分に関しては、私も否定できませんけど……」
それは正に殺し文句。
何気ない顔で可符香が放った言葉は、望の心臓のど真ん中を撃ち抜いた。
もはや思考停止状態の望は、せめて真っ赤になった顔を隠そうと、ドキドキと高鳴る心臓を抱えたまま俯いてしまう。
177 :
266:2009/12/24(木) 23:36:31 ID:NI7CmHTk
(……それは…ちょっと反則じゃないですか……風浦さん…)
顔を下に向けたまま、チラリと横目で彼女の様子を見ると、その顔には何とも嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
たぶん、全ては彼女の計算どおり、望の行動は可符香の手の平の上なのだろう。
こちらの気持ちを見透かされてる恥ずかしさも加わって、望の顔はさらに赤くなる。
(ううう……おのれ……風浦さんめ………)
そんな恥ずかしさの絶頂の最中、望はふとこんな事を考える。
嘘か真か、可符香は望の事をずっと見ていたと、そう言った。
ならば、自分はどうなのだろう?
今の学校にやって来た当初から、彼女に振り回されるばかりだった自分は、一体どれだけ彼女の事を見てきたのだろう?
ゆっくりと記憶の海を遡る望の脳裏に浮かぶのは、彼女の数え切れない笑顔と、時折見せる遥か遠くを見つめるような表情。
(そういえば、小森さんの家に行ったときも思いっきり出くわしちゃったんですよね……)
たぶん、ずっと見ていた。
ふと気が付けば、彼女の顔が視線の先にあった。
自分でも気付かない内に、視界に映る彼女の背中を追いかけていた。
ああ、そうだ。きっと、間違いない。
その証拠にほら、今だって必死に顔を隠そうとしながらも、チラリと盗み見た彼女の横顔から目が離せない……。
「……惚れた弱みって奴なんですかねぇ……」
小さな声で呟いて、望は苦笑する。
と、そんな時である。
「そういえば、先生」
ふいに可符香がこんな事を聞いてきた。
「どうして、私の部屋の前で倒れていたんですか?」
ギクゥッ!!
その言葉に、望は全身を強張らせた。
「こんなにボロボロに怪我してたのに、どうして真っ直ぐ学校に戻らなかったのか、ちょっと気になります」
「あ、その…それはですねぇ……」
全てはサンタ同士の死闘からやっとの思いで逃れた望が、朦朧とした意識の中で行った事。
もちろん、可符香の家に行こうとしたのはそれなりの理由があっての事だったが、今は少し『事情』が変わってしまった。
今となっては、絶対にその理由を知られる訳にはいかないのだ。
「…いや、例のサンタ対決の場所からは学校より風浦さんの家の方が近かったので……」
「あの場所からだと、どっちもほとんど同じ距離の筈ですけど?」
中途半端な誤魔化しは余計に彼女の付け入る隙を増やすばかり。
(うう、本当なら私だって、きちんと理由を説明したいんですよ。でも……)
俯いた姿勢のまま、望はサンタ服の上から懐の辺りに手を当てる。
布地越しに伝わってくる感触は、そこにある物がもはや致命的に破壊されている事を望に教えていた。
「へえ、そこに隠してるものが、その理由なんですね……」
「ひっ…し、しまった……?」
しかし、そんな望の僅かな仕草も、可符香は見逃さなかった。
「先生に隠し事されるなんて、ちょっぴり心外です。なので、そこに何があるか、しっかりと確認させてもらいますよ……」
「ひぃいっ!?風浦さん、やめてくださいぃいいいいいっ!!!!!」
背中側から抱きついた可符香の手が、望のサンタ服の上着をいとも簡単に脱がせてしまう。
そして、そこから出てきた物は………。
「あ……これ……」
千里を騙すために作られたサンタの衣装は、かなりしっかりとした作りをしており、胸元の辺りには内ポケットも備えていた。
そこから、グシャグシャになった箱が一つ、可符香の目の前に転がり落ちた。
「うう……だから、やめてって言ったじゃないですか………」
涙目の望から顔を背けて、一際深いため息を吐いた。
強い力で何度も押し潰され、もはや原型を留めていない箱だったが、
薄水色の包装紙と白いリボンのおかげでプレゼント用のものである事は一目で分かった。
「あの……開けても…いいですか?」
「どうぞ……今更、もうジタバタしませんから……」
少し緊張した声で可符香が言うと、望は暗い声で答えた。
破れかぶれの包装紙をできるだけ丁寧に開いていくと、中から白い箱が出てきた。
可符香は箱のフタに手を掛け、そっとそれを開こうとするが、箱自体が大きく歪んでいたため、
途中でフタが引っかかって箱は可符香の手の上からひっくり返ってしまう。
望の寝ている布団にバウンドして、ようやく開いた箱の中から出て来たのは幾つものキラキラとした破片だった。
178 :
266:2009/12/24(木) 23:37:10 ID:NI7CmHTk
「これ、もしかして……」
「全部、私が悪かったんです……」
その日、望はずっとソレを懐にしまっていた。
ところが彼は突然、木津家のサンタ役を引き受ける羽目になってしまう。
望にとって、それは非常に大事な物だった。
だから、望はそれをサンタ衣装の内ポケットに仕舞い、肌身離さず持っている事にした。
しかし、その結果はご覧の通りである。
千里が暴走する可能性ぐらいなら予想はしていたが、まさか不良まがいのサンタ軍団と戦う羽目になるとは望も思っていなかった。
激しい乱闘の最中、内ポケットのソレは外箱ごと、原型を留めなくなるまでグシャグシャに破壊されてしまった。
「絶対に壊したりしないように、安全な場所に置いておくべきでした。判断を誤りましたよ……」
それはバラバラに砕けて、折れ曲がった、美しい細工の髪留めの残骸だった。
可符香はその破片に混じって、一枚のメッセージカードを見つける。
そこに書かれていたのは……
「出来れば、あなたに手渡したかったんですけど。流石にこんな状態のものを見せる訳にもいかなかったもので………」
望は可符香の見つけたメッセージカードに視線を落として、苦笑いを浮かべて呟いた。
『メリークリスマス 風浦さん』
サンタ合戦をやっとの思いで生き延びた望は、懐のそれが無残に破壊されている事に気付かなかった。
気付かないまま、プレゼントを届けようと、傷だらけの体を引きずって可符香の部屋の前までやって来たのだけれど……
「ホント、申し訳ありませんでした……」
小さく沈んだ声で、望は可符香に謝った。
だけど、そこで彼は気付く。
「……風浦さん?」
俯いていた顔を恐る恐る上げて、望は可符香の方を見た。
彼女は何だか呆然としたような、不思議そうな表情で、自分の手の平の上をじっと見つめていた。
そこにあったのは、バラバラになった髪留めの一部。
細かな細工の施された、花の形の飾りであった。
白い頬を薄桃に染めて、可符香はその眼差しを一心に手の平の上のソレに注いでいる。
そして、ゆっくりと顔を上げ
「すごく…きれいです……」
花のほころぶような微笑みを浮かべて、望に語りかけた。
「え……あ……その…」
「すごく…嬉しいです。ありがとうございました、先生……」
そして、両手で優しく包み込んだ髪留めの残骸を胸にそっと抱き寄せて、可符香は確かにそう言った。
何か言葉を返そうとした望だったけれど、可符香のその幸せそうな表情を見ていると、何も言えなくなってしまった。
それから、可符香は散らばってしまった髪留めの部品を一つ一つ拾い集め、歪みを直した元の箱に収め、
それを見ながらもう一度微笑む。
「ほんと…きれい……」
その様子をじっと見ていた望は、ようやく喉から言葉を絞り出して、言った。
「今度は、きっと壊れてないヤツをプレゼントしますから……」
「はい、先生……また来年、待ってますから……」
言葉を交してから、二人は照れくさそうに笑い合う。
プレゼントは気持ちが大事、なんて言葉を聞くけれど、多分それは順番が違ってる。
私はあなたが大事です。
そういう気持ちを繋ぐために、プレゼントはきっと存在するのだから。
窓から差し込む冬の晴れ日を受けて、可符香の手の上の箱の中、髪留めの欠片達はキラキラと輝いていた。
179 :
266:2009/12/24(木) 23:39:58 ID:NI7CmHTk
以上でお終いです。
失礼いたしました。
>>171-173 一つ一つネタが冴えてて面白かったです。
食べ物を粗末にすると怒るお母さんな大草さんが可愛かった……。
180 :
430:2009/12/26(土) 00:01:32 ID:lTkhUbO+
>>171 笑かせていただきましたww
私も肉まんの皮をむいて食べるの(というより肉まんの皮が)、好きでしたw
>>266さん
望カフ好きには嬉しい可符香祭りでした!
幸せそうな2人に心が温まりました〜。
こんばんは。
今週のマガジンの奈美が可愛すぎて妄想が弾けました。
望×奈美の小ネタで、エロなしスイマセン。
「日塔さん、いいかげんそろそろ復活したらどうですか?」
教壇上で黒板を拭き清めていた望は、ため息をつくと
机の前で真っ白になっている奈美を振り返った。
千里により朝マ●クのセットが解体されたショックで、
奈美は今朝からずっと放心状態で座り込んでいたのだ。
「あなた、今日一日、授業も全然聞いてなかったでしょう。」
望は奈美に歩み寄ったが、奈美は目の前の冷たくなった
ハンバーガーを見つめたまま、何の反応もしない。
既に教室には誰もおらず、西日が窓から差し込んでいた。
望は、奈美の前の席の椅子に、後ろ向きにまたがった。
そして、奈美の顔を下から覗き込むように見上げる。
「たかがハンバーガーで、どうしてこんなに落ち込めますかね。」
その言葉に、今まで全くの無反応だった奈美がバッと顔を上げた。
「たかがハンバーガーなんかじゃっ………って、うぁぁぁぁあ!」
涙目で抗議しようとしたらしいが、それは途中から悲鳴に変わった。
かなりの至近距離で、望と目が合ったのだ。
「せ、せんっ、せんせい、いっ、いっ、いきな、な、な、…!!」
真っ赤な顔でのけぞってアワアワしている奈美を、
望は相変わらず同じ姿勢のまま、楽し気に見上げた。
「何を言ってるんだか、全然分かりません。」
「あぅぅ、だ、だって、先生がっ!」
「やれやれ…。」
望は再びため息をつくと立ち上がった。
「少しは落ち着きなさい、日塔さん。
あなた普段は普通のくせに、どうして食べ物のことになると
そうアブノーマルな反応するんですか。」
「普通って、いや、アブノーマルって言う…っ、!!!???」
奈美の抗議は再び途中で遮られた。
望が両手を伸ばすと、ふわりと奈美を抱きしめたのだ。
「そんなにセットがお好きなら…こんなのはどうですか?
私とセット、今なら無料キャンペーン中ですよ?」
「……!?」
望の腕の中で奈美が跳ね、そしてしばらく沈黙が続く。
やがて、望の耳に小さな声が聞こえてきた。
「…すいません、そのセット、一つください…。」
「よろこんで。スマイルもつけましょうか。」
望はにっこり笑うと、奈美を抱きしめる腕に力を込めた。
182 :
430:2009/12/26(土) 00:02:49 ID:lTkhUbO+
奈美と組み合わせると、何故か先生が強気になってしまいます。
とても嘘臭いですw
先生がIKEMEN過ぎてムカツクwww
かなり周回遅れだが、リリキュア3人総がかりで仮面教師ゼツボウをねじ伏せて強制××・・・・というネタが行間読まずに出てきた
185 :
266:2009/12/31(木) 10:58:46 ID:Rtf0QWN5
大晦日な話を書いてきました。
エロなしです。
186 :
266:2009/12/31(木) 10:59:36 ID:Rtf0QWN5
12月31日午後7時ごろ。
2年へ組の生徒達の多くが担任・糸色望の暮らす学校の宿直室に集まっていた。
今年最後の数時間をみんなで集まって、ワイワイと騒ぎたい。
そんな生徒達の要望を気弱な望が断れるわけもなく、ただでさえ狭い宿直室は人でいっぱいの状態。
各々が持ち寄った料理を食べたり、テレビゲームやトランプに興じたりしながら、まったりとした時間を過ごしている。
「今年も大変な一年だったわね」
そう口にしたのは、女子数人でトランプに興じていた晴美である。
「うんうん。学校にミサイ……じゃなくて飛翔体とか何とかそういうのが落ちてきたり」
言いながら、奈美がカードを一枚畳の上に置く。ちなみに彼女達がやってるゲームは7並べである。
「毎年思うけど、よくみんな無事に一年過ごせたよね」
残りの手札からどのカードを出すか吟味しながら、あびるが応える。
その発言に対して、隣にいた芽留が
【オマエが一番無事じゃねーだろ。今日もなんかまた新しい包帯増えてるし】
「心配してくれるんだ、芽留ちゃん?」
【そ、そんなんじゃねーよ!!オレはただ…】
「ありがと」
【うぅ……】
ご期待通りのツンデレを見せてくれた芽留の頭を、あびるがヨシヨシと撫でてやる。
俯いた芽留の顔が一気に真っ赤になった。
「うふふふふふふふふ……だいぶ場にカードが出揃ってきたわね…」
そんな会話をよそに四列に並んだカードを眺めながら、千里はやたらとニヤニヤしていた。
「ね、ねえ?千里ちゃん、いったいどうしちゃったの?」
千里の様子に若干引き気味の奈美が晴美に尋ねると、彼女はため息まじりに答えた。
「ああ、気にしないで。千里はこの手のゲームになると、いつもあの調子だから……」
何においてもキッチリしたい、させたい千里にとって7並べ等のゲームは他の人とは違う意味を持つ。
ゲームが進む過程で未完成だったトランプの並びが埋まっていく、その様子そのものに千里は勝負も忘れて夢中になってしまうのだ。
「……ああ、だから藤吉さん、最初に何か他のゲームにした方がいいんじゃないかって言ってたんだ……」
「そう…。千里とオセロなんかしたら大変よ。あのゲームって、勝っても負けても白黒どちらか一色で埋まるなんてあり得ないから……」
なるほどと肯く奈美の横で、晴美は再び千里に視線を送る。
千里は7並べの順番が回ってきて、どのカードを出すか考えている真っ最中だ。
(……でも、千里がこんな風にみんなとワイワイ過ごせるようになるなんて、出会った頃は思ってもみなかったな)
昔、晴美と出会ったばかりの頃の幼い千里は、その性格のせいだろうか、何かと孤立しがちだった。
それは、千里の面倒見の良さとか、真面目さとか、まっすぐで優しいその心を知る晴美には辛いものだったけれど
(……そっか、今はこんな時間を過ごせるんだね……)
一年の終わりという節目の日だからだろうか。
晴美はそんな事を考えてしんみりとしてしまう。
と、そんな時、今度はその千里から晴美に声が掛けられる。
「ほら、次は晴美の番よ」
「うん。わかってる、千里」
その楽しげな表情に、思わず晴美も微笑んでしまう。
「ど、どうしたのよ?晴美?」
「ううん、なんでもない」
晴美は心の内で、今年一年、千里と一緒にいられた事に改めて感謝する。
そして、また来年も彼女の笑顔を見られるよう、そっと祈るのだった。
さて、一方こちらは宿直室備え付けのテレビ前の面々。
「そろそろゲームも飽きたし、なんかテレビでも見る?」
最初に言ったのは芳賀だった。
長い事テレビゲームを続けて空気もダレかけていた頃の事、誰がそれを言い出してもおかしくはない状況ではあった。
ただ、ゲームからテレビ番組へ切り替えるとなると、避けては通れない問題が一つ。
「だね。なんかお笑いでもやってるかな?」
「ちょっと待て、紅白じゃ駄目なのか?」
チャンネルを変えようとした青山の手を、木野が遮った。
ちなみに木野が紅白を見たい理由は、毎年恒例の某歌手の超巨大衣装。
色が変わったり、変形したり、挙句の果てには飛んだりする事もある例の衣装を木野は毎年羨望の眼差しで見つめているのだ。
「そういえば、格闘技もやってたな」
「あ、まだ大晦日だよドラ○もん、後半やってるよ」
「年末はクラシックでまったりと……」
テレビは一つ、見たい番組は複数。
チャンネル争い……古来から続くこの熾烈な戦いは2010年代を直前に控えた今も変わらず続いている。
187 :
266:2009/12/31(木) 11:00:15 ID:Rtf0QWN5
「視聴者役はいつも私と交くんなのにな……」
テレビ前で繰り広げられる不毛な争いを見て、台所から出て来た霧が呆れ顔でつぶやいた。
それから、運んできたお盆から蕎麦の入った椀をちゃぶ台の上に置いていく。
「材料はたくさんあるから、先生もみんなも遠慮せずに食べてね」
「ありがとうございます、小森さん。それじゃあ、いただきます」
霧から箸をうけとって、望はさっそく年越し蕎麦を口に運ぶ。
「今年はお出汁から色々工夫してみたんだけど、どうかな、先生?」
「美味しいです……。いや、去年のもかなり美味しかったんですが、今年はまた一段と……」
「えへへ……」
心から感嘆した様子の望の言葉に、霧は嬉しそうに笑う。
しかし、その時彼女は望のとなりで、何だかどんよりとしたオーラを発している人物の存在に気付く。
「どうしたの、まといちゃん?お蕎麦、美味しくなかった……?」
問いかける霧の言葉には若干の緊張が含まれている。
何しろ、彼女とまといは望を巡って最大のライバルとなっている間柄なのだ。
「………美味しい…わよ」
「じゃあ、何でそんな顔するの?」
「だって…その……」
いつもならもっと積極的に噛み付いてくる筈のまといが口ごもるのを見て、霧は怪訝な表情を浮かべる。
霧が顔を覗きこむと、まといは視線を逸らして決して目を合わせようとしない。
明らかに様子がおかしい。
「ホントにどうしたの?」
「だって……このお蕎麦……」
「…………?」
まといは手に持った箸で蕎麦を一口すすって
「やっぱり美味しい……私には、こんなの無理よ……」
深い深いため息を一つ。
それで霧はまといのこの態度の原因を理解した。
何かにつけてぶつかり合い、意地を張り合うまといと霧だったが、家事全般については霧に一日の長があった。
共に学校で寝起きする望や交のために家事全般を引き受けている霧と、
持てる時間と労力のほとんどを望へのストーキングに費やしているまといでは料理の腕に差が出るのも当然の話である。
すっかりしょげ返ったまといを、霧はしばらくの間じっと見つめる。
それから、突然彼女の腕を掴んだかと思うと
「まといちゃん、ちょっとこっち来て……」
「えっ?ちょっと…何するのよ?」
「いいから早く……っ!!」
有無を言わせず、ぐいぐいと台所へ引っ張っていく。
「ちょっと、いきなり何なのよ!!」
「手伝って…」
「えっ?」
「お蕎麦、ここにいる全員分作るには私だけじゃ手が足りないから……」
その言葉で、まといはようやく霧の意図に気付く。
要するに、霧はこの場を借りて、まといに料理の技術を多少なりと教えてくれようとしているのだ。
「………余裕のつもり?」
「敵に塩を送る、って言って………それにね…」
そこで霧は少し言葉に詰まり、それから照れくさそうにこう付け加えた。
「まといちゃんがあんなだと、私も張り合いないから……」
それを聞いたまといは一瞬ポカンとしてから、心底可笑しそうにくすくすと笑い始める。
「な、何よ!?何か変だった?」
「ううん。それよりさっさと始めましょう?ぼやぼやしてる内に今年が終わっちゃったら、年越し蕎麦にならないでしょ」
「わかってるよ……」
というわけで、台所に並んだ二人は、次のお蕎麦の準備に取り掛かったのだった。
188 :
266:2009/12/31(木) 11:01:15 ID:Rtf0QWN5
一方、再びテレビの周りの面々に目を向けると、どうやらチャンネル争いは落ち着いたらしく、みんな大人しくテレビの画面を見ている。
結局、選ばれたのは紅白歌合戦。
代わる代わるステージに上がって歌う歌手達の歌声は、年末のひと時をのんびりと過ごすためのBGMとしては最適だったようだ。
宿直室のちゃぶ台の上には、霧の年越し蕎麦の他にも生徒達が持ち寄った様々な料理やお菓子が所狭しと並んでいる。
適当にそれらをつまみながら、紅白を見ていた木野だったが、何となく宿直室の入り口の方に視線を向けて驚いた。
「加賀さん……?」
宿直室の扉を僅かに開いて、そこからおっかなびっくり顔を覗かせている愛を見つけて、木野はすぐに立ち上がった。
人でごった返す部屋の中を苦労して通り抜けて辿り着くと、何を思ったか彼女はぺこぺこ頭を下げながら、扉を閉めてしまおうとする。
「すいません、すいません、私のようなものがいては、せっかくの皆さんの楽しい時間が台無しですよね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ加賀さん!お願いだから落ち着いて!!」
閉まる直前の扉に強引に体をねじ込み、木野は廊下に出た。
「か、加賀さん……せっかく来てくれたんだから、中に入りなよ……」
「すいません。皆さん、楽しそうにしてましたから、私のような者が混ざってもいいのかと思って……なんだか、ご迷惑をおかけしそうな気がして…」
「そんな事ないよ。加賀さん来たら、みんな喜ぶって」
「そ、そうでしょうか?」
「そうだよ、絶対っ!」
人一倍気弱なこの加害妄想少女は、いつもの如く自分の存在が周囲の迷惑になるのではないかと考えているようだった。
木野はおどおどと上目遣いにこちらの表情を窺う彼女に、そんな心配をする必要はないのだと、何とか伝えて上げたかった。
(久藤だったら、こういう時何か上手い台詞を思い付くんだろうけど……)
必死に頭を回転させた末、木野の口から出て来たのはこんな言葉。
「加賀さんが一緒にいてくれると、俺、すごくうれしいんだ。……だから、その、少なくとも俺は加賀さんがいても、全然迷惑じゃないから。
間違いなく、そう保証できるから………って、俺は一体何を言って……!!」
一気にまくしたててから、自分の台詞の恥ずかしさに気付いて、木野は頭を抱える。
だけど、次の瞬間、彼は目にした。
「わかりました……」
「へっ!?」
「木野君がそこまで言ってくれるなら、私……」
滅多に見る事の出来ないであろう、愛の本当に嬉しそうな笑顔。
それを見た木野の顔もぱぁっと明るさを取り戻す。
木野は愛の手を取り、言った。
「それじゃあ入ろう、加賀さん。みんなも待ってる」
「はい……」
こうして、木野と愛は二人肩を並べて宿直室の扉をくぐったのだった。
189 :
266:2009/12/31(木) 11:01:36 ID:Rtf0QWN5
「そこでクマ五郎は言いました。『さあ、今のうちにオイラの背中の上を渡って、向こう岸に行くんだ!』」
宿直室の一角、交やマリアに囲まれた久藤准は毎度の如く自作のお話を披露していた。
ただし、今夜は大晦日。
今年一年の最後の日であり、交のような小さな子供にとっては夜更かししても怒られない特別な日である。
おかげで交はかなり興奮気味。
ほとんど身を乗り出すようにして、准の膝の上にしがみつくような格好でお話に熱中している。
「それで、その後クマ五郎はどうなっちゃうんだ?」
「准、ハヤク続き!続き!」
准の背中におぶさったマリアも完全にテンションが上がっている。
いつの間にか宿直室に入り込んでいたマリアの友人までもが、キラキラとした眼差しを准に向けて続きを待っている。
そんな彼らの興奮にあてられたのか、今日の准のお話はいつもの感動的な要素に加えて、山あり谷ありのスペクタクル長編になっていた。
さらにその周囲では、他の2のへの生徒達も准の話に耳を傾けている。
その輪の中に、無限連鎖商女コンビの一人、根津美子もいた。
「ううん…この話を本にしたら、かなり売れそうなんだけどな」
准の感動巨編を聞きながら、美子はそんな無粋な事を呟いていた。
「だいたい、いつもちょっとした事からすぐに話を思いつくんだから、それが無駄にならないように活用してあげるのは、全然悪い事じゃないわよね」
どうやら美子は准のお話を商品にして、一儲けしようと頭の中で計画を巡らせているらしい。
「ただ、いつも突発的に話し始めるから、すぐに録音できる準備をしておかなきゃ駄目よね。
それから、音声を文字に起こす人が必要よね。久藤くんの語りは聞き取りやすい良い声だけど、それでも素人の私じゃ手間が掛かりすぎるだろうし……」
美子の中でどんどん広がっていくアイデア。
だけどその時、彼女の肩をポンポンと誰かの手が叩いた。
「ちょっと、美子……」
「いっそ音声データをCDに焼いてそのまま売ってみるとか……って、どうしたの、翔子?」
美子に話しかけてきたのは、相棒の丸内翔子だった。
「どうしたのよ?せっかく新しいビジネスの可能性について、人が真剣に考えてたのに……」
「ごめん、美子。でもね……」
そう言って、翔子は美子の頬に手を伸ばし
「美子が商売熱心なのは分かるし、それは良い事だと思うけど…………ほら」
「あっ………」
そっと、その指先で、美子の瞳から零れ落ちる涙を拭ってみせた。
どうやら美子は商売の事を考えながら、その片手間に准のお話を聞いていたつもりが、無意識の内にストーリーに引き込まれていたようだ。
「せっかく良いお話が聞けるんだから、今はそっちを楽しもうよ、美子?」
「……うん。そうだね、翔子……」
照れくさそうに目尻に浮かんだ涙を拭ってから、美子は翔子と一緒に話し手である准の方に向き直った。
お話はいよいよクライマックス、森に迫る危機に、クマ五郎と仲間の動物達の最後の大作戦が始まろうとしていた。
美子と翔子は胸踊り、感動に溢れたそのストーリーを心行くまで楽しむ事が出来たのだった。
190 :
266:2009/12/31(木) 11:02:18 ID:Rtf0QWN5
その頃、音無芽留は宿直室をこっそりと抜け出して、校門の前である人物がやって来るのを待っていた。
門柱にもたれかかって、手持ち無沙汰に携帯をいじっていると、やがて道の向こうに見覚えのあるシルエットが現れた。
(やっと来たか……)
芽留がそちらに視線を向けると、相手も気付いたらしく、足取りを早めて芽留の方に近付いてくる。
「おーい、芽留!!」
しかし芽留は、手を降り、彼女の名を呼ぶその声には一切反応を示さず、相手が近付いてくるのに合わせて自分も一歩二歩と踏み出して
(……せいやっ!!)
小柄な体格を活かして相手の懐に潜り込み、鳩尾に強烈なパンチをめりこませた。
「がはぁ……っ!!?」
ものの見事に決まった必殺の一撃に、その人物、万世橋わたるは道路に崩れ落ちそうになるのを、ギリギリのところでもちこたえる。
「い、いきなり何すんだ!お前っ!!」
【遅すぎるんだよ、キモオタ!!!!】
「だからって、何も出会い頭にあんな事をしなくても………って、ん…?」
いきなりの理不尽な急所攻撃に抗議の声を上げたわたるだったが、芽留の顔を見て言葉を詰まらせた。
芽留の表情は何か怒ってるとか不機嫌であると言うより、不安や寂しさでいっぱいだった心を必死に押さえつけているように感じられたからだ。
「芽留、お前もしかして……」
【な、なんだよ……】
わたるは両手を伸ばし、未だ固く握り締められた芽留の右の拳に触れた。
「冷たいな、お前の手……」
わたるのその言葉に、芽留はぷいとそっぽを向いた。
わたるは冷え切った芽留の手を握り締めながら、言葉を続ける。
「ずいぶん長く待ってくれてたんだな……」
【別に、そんな事はないぞ。さっきだって、出てきてまだ十分そこらだったし……】
芽留は嘘を言ってはいなかった。
ただし、七並べの決着が着いた後ぐらいから、何度も宿直室から校門の前まで出てきては、待ち人が来ないかと様子を窺ってはいたけれど……。
「ごめんな、芽留……」
【………わかりゃあ、いいんだよ…】
わたるの手の平が、芽留の手を改めてぎゅっと握り直す。
それに答えるように、芽留も、その小さな手の平で、わたるの手を強く握り返した。
【それじゃあ行くぞ!オレを散々待たせた分は、後日きっちり償ってもらうからな!】
「ああ、肝に銘じておく……」
言葉だけは不機嫌を装って、だけど顔には満面の笑顔を浮かべて、わたるの手を引いた芽留は校門を抜け宿直室へと歩いて行った。
191 :
266:2009/12/31(木) 11:03:41 ID:Rtf0QWN5
一方、舞台は変わってとあるマンションの一室。
そこは望の兄、糸色命の現在の住まいだった。
「しかし、お前は望のところに行かなくて良かったのか、倫?クラスメイトはみんな集まってるんだろう?」
「構いませんわ、命お兄様……正直、ちょっとぐらい顔を出したい気持ちもありますけど、命お兄様と過ごす時間には代えられませんもの……」
「そうか……」
命と倫、彼らは大晦日の夜を二人きりで静かに過ごす事に決めたようだった。
ただ、命の方は現在の状況に少しばかり言いたい事があるらしかった。
「ところで、倫……」
「何ですの、命お兄様?」
「そろそろ……起き上がっても構わないか?」
問題は、現在の二人の体勢にあった。
ソファの上に座った倫、命はその膝の上に頭を乗せて体を横たえていた。
いわゆる膝枕というヤツである。
倫にどうしてもと請われてその願いに応じたのだが、命はどうにも恥ずかしくていけないようだ。
「あら、そんな遠慮なさらなくてもいいですわよ、命お兄様……」
「いや、遠慮とかそういうのじゃなくて…………やっぱり、恥ずかしいんだ…」
「ここは命お兄様のご自宅で、私以外、誰も見ていませんのに……それに、膝枕は男のロマンだと景お兄様もおっしゃっていましたし……」
「確かに、その、倫の気持ちが嬉しいのも事実ではあるんだ。だけど、その、な………」
命の気恥ずかしさの原因は、主に膝枕の相手が倫である事によるものだった。
妹である倫に大して、命はこれまで年上の立場から色々と世話を焼いたりしてきた。
しかし、今現在、その関係は完全に逆転していた。
倫の膝に頭を預け、その温もりに見も心も委ねるのは、確かに幸せな時間ではある。
だが、兄としての自分が頭をもたげてきて、『妹に甘える』という今の自分の行為が何だか落ち着かないものに感じられてしまうのだ。
「よろしいではありませんか、命お兄様……」
倫の顔に浮かんだ優しい笑顔に、命の言葉が止まった。
「命お兄様は、少し、頑張りすぎる方ですから……今はこうして、倫の膝で休んでいてほしいんですの…」
倫の物心ついた頃から、命は医者になるためにずっと勉強をし続けてきた。
遠く故郷を離れ、個人で病院を経営するまでになった命。
どんな時にも努力を欠かさないその姿は、倫にとっては強い憧れの対象だった。
だが、その一方で、そんな真面目すぎるほど真面目な兄が、いつか無理を重ねて擦り切れてしまうのではないか、そういう不安も倫は感じていた。
「上手に甘える事も、人生には必要な事ですわ。一年の最後ぐらい、命お兄様にはも身も心も安らかでいてほしいんですの……」
「倫………」
その言葉に、自分を思いやる倫の強い気持ちを感じ取った命は、もうそれ以上反論しようとはしなかった。
「それじゃあ、もう少しだけこのままでいていいか、倫?」
「はい。命お兄様……」
優しく静かな空気に包まれて、命と倫の大晦日は穏やかに過ぎて行こうとしていた。
192 :
266:2009/12/31(木) 11:04:11 ID:Rtf0QWN5
さらに場所は変わって、今度は糸色家次男、景の自宅兼アトリエ『景』。
「そう言えば今年ももう終わりなんだよな、由香」
キャンバスに向かって一心に筆を動かしていた景は、ふと手を止めて壁に浮かんだシミ、彼の妻である由香に話しかけた。
「12月に入ってからはコレの仕上げに掛かりっきりだったからな。すっかり忘れてた」
彼の描くキャンバスの上を埋め尽くすのは、まるで絵の具箱の中身をぶちまけたような多種多様な色の乱舞。
だが、それは景の筆先によって崩れるか崩れないかのギリギリの均衡を保たれ、全体に不思議な緊張感を与える事となっている。
そして、その中心に描かれているのは、淡い金色に輝く流れるような紡錘形。
他人が見ても何が何だかわからないが、景曰くそれは『魚』であるらしい。
彼がここ最近、好んで描く題材である。
それは逆巻くような色の渦を切り裂くように、力強く前へと進んでいく。
独特な作風だけに、見る人によって評価はさまざまだが、少なくとも景はこの題材で描く事に強い自信とこだわりを持っていた。
「うん。悪くない出来だ………」
ほぼ完成間近の絵を眺めながら、景は満足げに肯く。
一度、絵の制作に入ると他の事が一切目に入らなくなってしまう景だったが、今回の作品はその労力に見合うものになったようだ。
「しかし、お陰でここ一月はほとんどアトリエに篭り切りだったからな……年が明けたら、みんなの所に顔を出さないと」
景の脳裏に浮かぶ親しい人たちの面影。
凄まじいまでの自己完結型人間で、常人には理解し難い独自の世界観を持っている景。
周囲の反応など気にもせず、我が道を進んでいく彼の生き方は、最後には周りから友人も家族も恋人も消えて一人ぼっちになってもおかしくないものだ。
だが、景の周りの人間達は彼の行動に苦笑いしつつも、結局は何だかんだで景の存在を受け入れてしまうのだ。
彼らがいなければ、きっと景の人生はもっと違った物になっていただろう。
孤独の内に自らの道を進み続ける人生と、気心の知れた仲間や家族とわいわいと騒がしく生きる人生。
どっちが良くてどっちが悪いかなんて事は分からないが、少なくとも景は今の暮らしをまんざらでもないと感じていた。
「おお、いい月だな……」
ふと窓の外を見ると、どこまでも澄み切った冬の夜空の真ん中に、丸い月が浮かんでいた。
静かに地上を照らす月は柔らかな金色で、景が今描いている絵の『魚』とちょうど同じ色だった。
その優しい光を見つめながら、景は思う。
幸せの尺度なんてものは人それぞれで、同じ人間の中でさえ簡単に揺らいでしまう不安定なものだ。
いわゆる『普通』から外れた生き方をしている景だけに、その事は強く実感していた。
だが、それでも願わずにはいられないのだ。
せめて、自分の周りの大切な人達が笑顔でいられる、そんな日々が続く事を……。
「来年も、いい年になってくれよ……」
そう言った景の口元には、柔らかな微笑が浮かんでいた。
193 :
266:2009/12/31(木) 11:06:29 ID:Rtf0QWN5
さて、舞台は再び学校の宿直室に戻る。
そんなこんなの騒ぎの内に、いつの間にやら時刻は午後の11時を回り、今年も本当に残り僅かになってしまった。
霧お手製の年越し蕎麦に舌鼓を打った後、望は何をするでもなく、部屋の中で楽しげに騒ぎまわる自分の生徒達の様子を眺めていた。
毎日、彼ら彼女らのお陰でエライ目にあってきた望だったが、こうして彼らの笑顔を見ているとそれも満更ではなかった気がしてくる。
何だかんだと文句を言いつつも、結局根っこのところで自分は教師なんだなと実感させられる。
疑いようも無く、今の望の居場所は彼ら2のへの生徒達の中にあるのだ。
「まあ、今年もこの子達には苦労させられましたが、まあ、みんな元気に年を越せそうで何よりです……」
「ホントにそうですね……お疲れさまでした、先生」
「はいっ!?」
驚いた望が声のした方を見ると、いつの間にやら自分の隣に座っていた黄色いクロスの髪留めの少女の姿を見つける。
「我がクラス最大の問題児であるところのあなたが、それを言いますか、風浦さん……」
「いやだなぁ、私はただ、純粋に先生に対する感謝の気持ちを言っただけですよ?」
「それなら、毎回騒ぎがある度にさりげなーく事態をややこしい方に持っていくのをやめていただけると、先生、もっと嬉しいんですが……」
「私はいつも、より前向きで希望の持てる考え方を、みんなに提案してるだけですから」
彼女と出会ってから、もう随分と長い時間が経ってしまった。
それなりに彼女の悪戯にも慣れた筈なのだけれど、対抗策は未だ見えず、やっぱり毎回こてんぱんにされてしまう。
「せめてもうちょっとお手柔らかに願えませんか?」
「うーん、それは無理ですねぇ」
今も会話の主導権を完全に可符香に握られている自分を顧みて、やはり彼女には勝てないなと望は強く実感する。
来年も、またいつものパターンで自分は彼女の手玉に取られてしまうのだろう。
ぶすっとした顔で可符香に文句を言う望と、それをひらりひらりとかわしてクスクスと笑う可符香。
思えば、こんなやり取りも今では望の欠かせない生活の一部だ。
(それを心のどこかで幸せだって感じてるんですから……これはもう、私に勝ち目なんてありませんね。なら、せめて……)
心の中で密かに呟いてから、望は可符香にこう言った。
「それじゃあ、せめてこれだけお願いできますか?」
「はい。何ですか、先生?」
「来年もまた、好き勝手に飛び回って、巧みな言葉で人を煙に巻いて、そうやって私を困らせてください」
望は可符香の頬にそっと手を伸ばし、おでことおでこをコツンとくっつけて静かに告げる。
「私の傍にいてください。風浦さん……」
「……先生……」
望の言葉を聞いた可符香はしばしぼんやりと、彼の瞳を見つめていたが
「わかりました……」
それからにっこりと、いつもの彼女の笑顔ですら霞むような、幸せそうな笑みを顔に浮かべて望に答える。
「先生も、きっと私の傍にいてくださいね……」
「もちろんです……」
やがて聞こえ始めた、一年の終わりを告げる百八つの鐘の音の中、
たぶん、誰もが願っていた。
不幸・理不尽、何でもありの世の中だけど、大事な人と過ごす穏やかな日々が来年もまた続きますように、と。
194 :
266:2009/12/31(木) 11:06:59 ID:Rtf0QWN5
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
まといに料理を教える霧ハァハァ
>>195 どうもありがとうございます
読む前に見て良かったです
197 :
51:2010/01/05(火) 22:36:38 ID:BzRTjAPe
――放課後。
ある者は部活動へ、ある者は家へ、ある者は友人と話している。
あまり他人とは関わる方ではないが、それ以上に今はその声が遠くに聞こえる。
「翔子……」
席に着いたままの翔子の元に美子が来た。
伸ばされた美子の手を取り、翔子は席を立った……
――頬をぺちぺちと叩かれて、翔子は目を覚ました。
それでも、体の自由は利かず、視界も真っ暗だ。
「…おい、起きろ」
しかし耳に届く男の声はとてもよく知ったもので、翔子は置かれた状況を思い出す。
視界は目隠しによって覆われていて、体の違和感は後ろで縛られた両手と、
膣と尻穴に挿し込まれたまま振動するディルドによるものだ。
男は翔子を起こし、顎を取って上を向かせると、その唇を翔子の唇に乱暴に押し付ける。
翔子が唇を開くと、男の舌が翔子の口内へと侵入する。
無遠慮に翔子の口内を嘗め回す男の舌を翔子は丁重にもてなし、ぴちゃぴちゃと唾液の混じる音が響く。
唇が離れたかと思うと、今度は何か生臭いものが翔子の口に触れた。
男の肉棒だ。
翔子は舌を伸ばして全体を舐めた後、口を開いてそれを頬張る。
口をすぼめながら前後に動かして、肉棒をしゃぶる翔子の頭を男が撫でた。
突然、パァンと乾いた音が部屋に響いた。
「ひっ……すみません!……ごめん……なさい」
そして、続いて聞こえる怯えた美子の声。
「良い子だな、お前は」
翔子の頭を撫でながら、その声は冷たい。
必死になって肉棒に奉仕していると、男は限界が近いのか、腰を揺すり始める。
荒い息をあげて、強く翔子の頭を掴むと、男は肉棒を翔子の口内深くへと突き入れた。
喉にまで達した肉棒が震え、翔子の喉へ直接熱い精液が注ぎ込まれた。
余韻に浸る男は、翔子の頭を押さえつけながら、ほっと息を吐いた。
今度は、翔子を寝転ばせて、足に手を伸ばした。
翔子は男に尻を向け、ディルドを咥えたまま溢れるほどの愛液をこぼす秘部をさらす。
軽く前後に数度動かした後、2本のディルドが抜き取られると、
アナルと蜜壷がぽっかりと口を開けたまま、ひくひくと震えていた。
「ずいぶんとこっちの良さもわかってきたんじゃねえか?」
アナルに指を挿し、ぐりぐりと動かしながら男が言った。
「あっっぅぅ……はい……ありがとうございまっっ…………んぅっぅぅ!」
返事を遮って、肉棒が翔子の菊門を貫いた。
剛直は翔子の内部を擦りあげながら、前後に激しく動く。
「ひっ、あっ!あぁぁ……あん!」
体を揺らして嬌声をあげる翔子は、尻穴に受ける刺激に酔いしれ、さらに愛液を溢れさせる。
嫌悪感を吹き飛ばすほど大きな快感に翻弄されて、自身も体を前後に動かしてしまう。
「はぁ……あぁっ……あんっ…」
どぷ、っと白濁液が翔子の中へと吐き出された。
男が肉棒を抜くと、翔子の尻穴から精液が逆流し、溢れ出てくる。
はぁはぁと息をあげ、ぐったりと力の抜けている翔子の尻を男が平手で打った。
「ひっぅ!あ、あは……はぁ」
それすらももはや快感になっているのか、翔子は舌を出して甘い声を漏らす。
にい、と男は口の端をあげた。
「安心しろよ、今日はいっぱい呼んでやったからな」
「はぃ……ありがとうございます……」
――何人もの男達の欲望を受け、全身を精液で白く汚された二人。
空ろな目で天井を見上げながら、翔子と美子は並んで寝ていた。
お互いの姿を見るのも辛い。
口も膣も尻も髪も肌も、男達の精液でべっとりと汚れ、体のそこかしこには赤く腫れた跡が見れる。
ただ、手を強く握り合い、言葉も交わさず、時間だけが過ぎていった。
以上です。
202 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:04:32 ID:So3T1rvU
>>201 ナイス陵辱!原作でも出番が増えるといいですね。
さて、久しぶりに書き込みします。桃毛です。
前スレにて加賀さんのSSを投稿したさい、望倫を書きかけと言って数ヶ月。
長期出張で島流しになりひたすら労働機械をやっていましたが、その間こつこつ書いておりました。
このほど出来上がりましたので投稿させて頂きます。
ただとても長くなってしまったため、五回くらいに分けて投稿します。
主人公は糸色倫。兄・望との物語となります。
幼少時より筆をおこし、最終的には昭和八十三年まで時系列順に語ってゆきます。
原作からわかる情報を都合よく解釈しつつ捏造を取り混ぜてお話を作ってあります。
第一回目はまだ倫が小学生前〜小学生の時点でのお話です。
エロは少しありです。
では以下よりどうぞ、『絶華の暦 破倫の歌』(読み・ぜっかのこよみ はりんのうた)
あるいは、――とある少女の年代記(クロニクル)
203 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:05:14 ID:So3T1rvU
『昭和八十二年・卯月』
信州県蔵井沢市。
高級避暑地として知られるここには、元禄から続く名家・糸色家がその広壮な本家邸宅を構えていた。
時は冬が去り、新緑萌えいづる春花の頃。
雲ひとつ無い皓々と月の照る夜。
母屋の奥まった所に建てられた湯殿は濛々と湯けむりにおおわれていた。
その間に見える、肌色のやわらかな曲線―。
成熟一歩手前の、少女の背中であった。
ここちよい檜の香りが、湯殿に陣取る少女の鼻腔を潤す。
少女は肩に集めたゆるやかに波打つ濡羽色の髪を手櫛で漉き、ほう、とため息をもらした。
練絹のような白い肌に、玉の雫が無数浮かんでは流れ落る。
糸色家長女・糸色倫であった。
澄んだ水面に、時おりはらり散るのは、格子より舞い込む桜の花びら。
広い湯船の縁に腰掛けた倫は、そのはかなげな花弁にうっそり見とれていた。
(あれから何年になるかしら。わたしの想いがはじまった日から―)
それは遠い日の記憶。
糸色倫はしだいに桜色に染まりゆく自らの肌をかき抱き、しばし過去に思いを馳せた。
204 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:06:02 ID:So3T1rvU
『昭和六十九年・卯月』
うららかな春の朝のことであった。
ところは信州、糸色邸内。
「おにいさま、一緒に遊びませんこと?」
倫はぐいぐいと兄の袖を引っ張っている。
望の上の三人の兄達は学校である。
本来望も高校生に上がったばかりの身、当然学校に通っているべきところ。
ところが先日入学の日に何か恐ろしい事態に遭遇し、それで登校を躊躇っているうち行く気がなくなったらしい。
つまるところ学校はサボり、優雅にテレビ三昧を決め込んでいたようだ。
両親はそれぞれの仕事に忙しく、家を空けていることが多い。
必然今このときにおいて、倫の標的、もとい遊び相手は(糸色家に仕える者を除けば)望一人しかいないわけであった。
「はあ‥今日は何?」
「なにがよろしいかしら?またチャンバラごっこにしましょうか?」
家長である父・大の教育方針で、糸色家の子弟はみなあらゆる習い事を幼時から仕込まれる。
その中から当人たちが気に入ったものに専心すればよい、ということだった。
闊達な倫はまず剣術が気に入ったようだった。
糸色家は信州の一角を支配した武家の血統である。地元に道統を伝える剣流に庇護を与えていた。
糸色の子弟は武道といえばまずその剣を学ぶのだ。
「ほほーい、ひかえひかえ控えおろう!抜けば玉散る氷のやいば、さぁおにいさま、はやくわたしをころしにいらっしゃい‥」
「‥色々混ざっているなぁ‥でもね、倫。今日は駄目、忙しいの」
望はてきとうにあしらって画面に視線を戻してしまう。
たちまち倫の頬がふくれた。
「妹よりテレビなんかがたいせつなの?!ひどいおにいさま!」
腰に手挟んだ子供用の竹刀を見事にスッパ抜くと、兄の背中をぶったたき始めた。
習い始めたばかりといえ、その打撃はなかなか強烈だった。
「いたっ!痛たた、わかったわかりました!一緒に遊んでやるから‥」
倫はその日、望と心ゆくまでチャンバラに興じる。
望は学校をサボったことを後悔しながらも、妹の無邪気な笑顔の前に、優しい兄の笑みを返していた。
−まだ無垢も無邪気も罪にも功にもならず、ただ楽しく過ごすことがすべてだった時代。
それは糸色倫の原初の記憶として、その心に刻印されている。
その楽しき記憶の中に、やがて育ちゆくなにかの萌芽があった。
倫は、その時それに、気付いてはいなかった。
一年後。糸色倫、蔵井沢の小学校に入学。
205 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:08:38 ID:So3T1rvU
『昭和七十一年・卯月』
地元の小学校での倫はひとりでいることが多かった。
この蔵井沢一帯はもともと糸色家の領地であったため現住民はその臣下や領民であったものの子孫が多い。
つまり倫はお殿様のお姫様というわけで、毎日高級車で執事の送迎つきとあっては同級の子どもたちも自然と距離をおいてしまう。
学校は倫にとっては義務的に勉学をこなす場所であって遊びの場ではなかったのだ。
そのため倫の遊び盛りの活力は自邸に戻ってから存分に発揮されることとなった。
その日は新しい学年の一学期を控えた春休みの日であった。
倫はその時はわくわくしながら、忍び足で廊下を歩んでいた。
長い糸色家の廊下は子供の足にはことさら長く感じられるはずだが、倫の胸は浮き立っていた。
その手には宝物のように捧げ持つ、紙屑や何ともつかないゴミの塊。
やがて倫はお目当ての部屋の前で足をとめた。そこは兄の望の部屋だった。
そっと覗くと、望は開け放たれた障子に背をむけて文机に向かい何やら書き物をしている。
―またなにかお話を書いているのかしら?
望は文を書くのが好きらしく、倫もたまに望が創作した物語を聞かせて欲しいとせがむこともある。
大体は子どもが聞いても憂鬱な内容で、倫は自分の容赦のない批評に兄がげんなりするさまを面白がっていた。
さて、薄手のパーカーを羽織った望はペンを動かすのに夢中で、背後の倫に気づく気配も無い。
倫は音も無くその背に寄ると、パーカーのフードにそっと手にしたゴミを落とし込む。
部屋の外に逃げてくると縁台に腰掛け、笑いを堪えながら反応を待った。
「ああっ!な、なんだこれ!?あぁもう、倫!また倫だな、こんな悪戯は!」
廊下に飛び出してきた望は肩を震わせている倫の姿に気付く。
「あははは!おにいさま気付くのがおそいですわ!」
「まったく‥」
だがころころと笑う倫を見ると望もそれ以上追求する気が失せてしまったようだ。
ただ、小さいことも根に持つ彼は、妹の姿が消えたのを確認すると部屋に引き返す。机に向かい、ノートに今の出来事を書きつけた。
その自らの恨み節を綴ったノートには『長恨歌』と題字がつけられている。
無駄にマメな望は、ここ最近の憂し事恨みごとをまとめていたのだった。
その望の肩口から、ひょこっと倫が顔を出す。
「まぁ!お話を書いてたのかと思ったら、ぶちぶちぐちばっかり!おにいさまカッコ悪い!」
「おわぁ!い、いたんですか!まったく油断も隙もない‥」
倫はひとしきり笑うと、兄の袖をひっぱり、遊んでくれるようねだった。
−楽しい春休みは、あと数日しか残っていない。
206 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:10:48 ID:So3T1rvU
望は倫にとって最高の遊び相手であり、安心して駄々をこねられる存在であった。
学校での孤独の反動か、邸内での倫は望にわがまま放題やりたい放題であった。
どれほど滅茶苦茶な要求でも、望は優しく倫に付き合ってくれた。というより、望しか付き合ってくれる者がいなかったのだ。
長兄の縁は年がずっと離れていることもあり、倫がどう構っても落ち着いてあしらわれてしまう。
それにこのごろは仕事が忙しくなってきたとかで蔵井沢にいないことが多くなってきた。
次兄の景は楽しいことこの上ない男だがやはり年が離れているうえ感性が独特で、言動が倫に理解できない事もある。
最近は作品を仕上げると言ってアトリエに篭もっているか修行と称して山奥に姿を消してしまう。
現在は世界最強拳法(自称)の奥義を開発中とのことだ。
三兄の命は望とともに倫に一番近しい間柄だったが、医師を目指す今は中央の大学に通うため実家を離れて一人暮らし中である。
必然的にこの時期の倫は実家から地元の私学に通っていた望にべったりとなっていたのであった。
207 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:12:06 ID:So3T1rvU
『同・昭和七十一年・霜月』
最近、望の様子がおかしい。
糸色倫は自室前の廊下に正座していた。
ひんやりとした空気が気持ちの良い朝のことであった。
彼女は水を張った盆の傍らに集めた花々と向き合っていた。
その中へ無造作に手を伸ばし、自分が良いと思うものを掴み取る。
茎根を捉えたそれらを盆の中の剣山に迷いなく挿しつけ、やがて盆にはひとつの花景色が描き出された。
それを使用人を呼びつけ捧げ持たせると、倫は廊下を真っ直ぐ歩んで行く。
末兄の望の部屋の前に来ると、声をかけた。
「お兄様、お目覚めですか?」
返事はない。しかし気配はあった。
倫はことわりを入れてから障子をあけ、兄の部屋に入った。
「あぁ‥倫。おはよう」
けだるげな兄の声であった。
望は敷き延べた布団にくるまり、倫を一瞥するや背を向けてしまった。
「今日も、学校へは行かれませんの?」
「‥」
眉根をひそめた倫は、使用人に顎をしゃくり、生けた花を望の枕元に置かせた。
「また生けましたの、お兄様。先生もお母様も、褒めてくださいますのよ。上手だって」
望は顔を倫のほうへは向けずにだが、その鮮やかな花々にちらりと視線を送った。
「倫はこれから行ってまいります。‥朝ごはん、さめてしまいますよ」
兄の枕もとの眼鏡をちらと見て、倫は部屋を出た。
208 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:13:14 ID:So3T1rvU
どうしてお兄様は、学校に行かなくなったのだろう。
そうなってから、どれくらい経ったっけ?
小学校への道すがら、車の中で倫は考えていた。
その傍らには父の大から仰せつかったのだろう、執事の時田が座してつき従い、倫を守っていた。
地方の世間は狭い。時田による情報収集によると―。
望がクラスで何気なく口にした一言がある級友を傷つけてしまい、望は衆目のなか土下座して謝る羽目になったという。
恥と自己嫌悪で、望は登校拒否に陥ってしまったのだろうか、云々。
倫にはさっぱり理解できない話だった。
級友には謝ればいいし謝ったならそれでおしまいのはずなのに、変なお兄様−。
そう考えてはみたものの、やはり倫は心配なのだった。
だから、近頃母に勧められて始めた生け花で習い覚えた手並みを、毎朝兄に見せているのだ。
ちょっとでも、兄が元気をだしてくれたら。
そして、上手だねって、倫を褒めてくれたら。‥前みたいに、また一緒に遊んでくれたら。
「‥ねぇ、時田。望お兄様‥だいじょうぶよね」
突然振られた言葉にも慌てず時田は恭しく答えた。
「望ぼっちゃまはお優しくありますが、気性に細やかなところがございます。
少々気にしすぎてしまう所が出てしまわれたのでしょう。‥今は、時間が薬でございます」
「むぅ‥」
「しかしながら、倫さまの励ましは不可欠。時おり今日のように見舞って差し上げれば、元気もでましょう」
学校が近づいてくる。
‥チャンバラごっこは、楽しかったのに−。
いままで続いてきたその楽しさが、なんだかよくわからない事で終わりになってしまったのが嫌だった。
その楽しさは、ずっと続いてゆくものと思っていたのに。
校門の前に車が停まる、その軽い反動を受けた倫は、今日帰ったら兄の部屋に遊びに行ってみよう、そう思っていた。
209 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:14:22 ID:So3T1rvU
暮れなずむ黄昏時の糸色邸は、広壮な旧家だけに影なお暗い独特の陰翳に包まれていた。
帰宅した倫は着替えを済ませると真っ直ぐ望の部屋に向かっていった。
母屋の隅のほうにある望の部屋は沈み行く日の陰に入り、夜のような暗がりとなっている。
その部屋に、明かりはついていないようだった。
(お兄様、寝てらっしゃるのかしら?)
自然足音を弱めた倫は、望の部屋の前まで息を殺して寄って行った。
兄の部屋の障子の前に来たとき、かすかな会話が聞こえてきた。
「‥なさい、のぞ‥。たし‥‥なことになるな‥」
倫には初めて聞く声、それは女の声だった。
「‥くの方こそ‥‥どうかし‥。あんなひどい‥‥。ごめ‥」
その声を聞いたとき、何かが倫の中で首をもたげた。
−何だろう、これ?この会話。
どうしてこの部屋に、知らない人がいるの?
かすかな恐怖と足元が揺らぐような混乱。
しかしけして声を出してはいけないという脅迫めいた観念だけが、なぜか倫を呪縛している。
「いつからこんな‥‥。‥この眼鏡‥‥ずっと‥。‥‥て、止まらなくて‥、本当は‥」
「むくん、‥ほんとうは、わ‥し‥」
それからしばしの沈黙。
何か質量を持った物体が動く気配。
かすかな衣擦れの音。
膝が震えだした倫は、ゆっくりそこにうずくまってしまった。
ミニスカートから剥き出しの震える膝を、爪を立てて掴んで―。
とまれ。とまれ。とまれ。とまれ。とまれ。とまれ。
何かとても恐ろしいことに自分は直面しようとしていると、肌に感じ取った。
ぽふっ。
なにか重いものが柔らかなところ、例えば布団の上のようなところに倒れこむ気配。
空気が攪拌される音、衣擦れの音、鋭く低く洩れる吐息、喘鳴のような音。
「‥よ、‥むくん‥。 ‥恥ず‥」
「‥‥なんだね、‥‥さん。‥は‥‥で‥ぼくは‥でも暗いから‥」
210 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:15:51 ID:So3T1rvU
倫は爪を膝に食い込ませ磨き上げられた床をにらんでいる。
何がどうなって、何が起こっているのか?何、何、何、とだけ心に浮かんでは来るが、それだ、という答えは閃いては来ない。
いや、考えるのを拒否しているのか?
障子の向こうではもうそこ以外の世界は存在しないかのような様子になってきている。
たまに低く聞こえる、何か湿ったものが糸を引くようなねばつく音―。
「‥て、‥‥ないで‥。‥‥けど、‥ちいいの‥」
望の、兄の声はいつしか聞こえなくなっていた。
女のなにか切なげな声ばかりが、倫の耳を打つ。
倫は爪を立てた膝の痛みより、その両の足の付け根――普段は排泄にしか用いていない場所が、
まるで溶けそうなほど熱を持っている事に気がついた。
(あつい‥あついよ、おにいさま‥何してるの、そこで‥)
倫の級友たちが時おり声をひそめてささやく様に口にしている、あれ。
教室で女子のあいだだけで廻し読みされている、綺麗な絵柄ばかりの漫画雑誌に描いてあった、あれ。
あれ、なの?お兄様。
どうして、倫の知らない人と、そんなことしているの?
「‥くよ、‥‥ん」
「‥よ、望く‥、‥いぅっ!」
何かが波打つような気配、音。
「‥‥よ、‥い、けど、‥‥あつ‥」
少しの静寂の後、ゆっくりと何かが動く気配。
それだけははっきりとわかった、兄のかすかにうめく声。
もう、うかがい知れぬ兄の部屋で何が行われているか、倫は悟っていた。
自分の手が止められない。
下着が重く感じる。
そろり、両足の湿った付け根に華奢な指を伸ばした。
ぞくりと、背骨を駆け上がる初めての感覚。
声を上げそうになるのを必死に押さえ込んだ。
涙がうっすら浮かぶ。
下着の上から割れ目をなぞるだけで気が遠くなりそうになる。
どうしてそんなことしているの?
そんな言葉を反芻しながら、聞こえてくるうめき声にあわせ、倫は夢中で指を動かした。
おとがいをそらし身をよじり、しかし音だけは立てまい声は出すまいと必死にこらえながら―。
やわらかい。わたしのここは、やわらかいんだ―。
そんなことを思いながら、鮮明に聞こえる兄と女のあえぎをひたすら拾う。
「‥さん、ぼくは‥‥!」
「‥くん、来て!‥よ、‥‥て!」
なにか、切羽詰った言葉を、兄が吐いたようだった。
本能的に浮かんだ予感にしたがって、倫は指をおのれの割れ目へと深く食い込ませた。
半瞬後の女の高く長い声を聞きながら、倫は人生で始めての絶頂間に包まれていった。
211 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:17:14 ID:So3T1rvU
倫は望の部屋の前の廊下の自らの体液の染みを袖で拭くと、這いずるように廊下の影にうずくまっていた。
熱に浮かされたようにはっきりしない意識の中で膝を抱き、兄の部屋の障子を見つめる。
時おり会話らしきものが聞こえたが、離れた倫にはその内容は聞き取れない。
どれ程の時が過ぎたのか、障子がすいと引かれ、兄と見たこともない女―兄の学校の制服を着ていた―が、
あたりをはばかるように出てきた。
日はすでにとっぷりと暮れ、影は闇の一部へと成り果てている。
その闇の中のさらなる影に身を潜めるようにし、手指を絡めあいながら長い廊下を彼方へ消えてゆく二人。
望が、女を送っていったのだろう。
「あした、学校で待ってます、から‥」
女の声が今度ははっきりと聞こえた。
倫はそのとき、ぎりぎり、と聞いたことがない音を聞いて我に返った。
それは、自分の歯軋りの音だった。
倫の中に無意識に芽吹いた何かは、このときその成長が決定的に捻じ曲がったのだ。
芽吹いたものも、それが捻じ曲がったことも、倫は気付きはしなかった、が―。
そのとき宿った暗い火の色は、おさな心に自覚したに違いない。
―その名を、嫉妬、という。
それは、己は女であるという自覚と同義であった。
212 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:18:20 ID:So3T1rvU
倫は、檜の香りかぐわしい湯殿の脱衣所にぼうと立っていた。
その身には一糸もまとってはいない。その身は年相応、成熟には程遠いあどけなさをたたえていた。
引き戸の向こうには、兄の望が、湯船に身を沈めているはずだった。
水音を聞くことしばし−。白い裸身の少女は一歩を踏み出すと、引き戸に手を掛けた。
茫洋と湯船に仰のけになっていた望はそのとき、その日初めて知った異性のからだの感触を思い出していた。
若さのせいもあり、その股間は硬く屹立している。
そこに手を伸ばそうか、どうかと逡巡していたとき―。
がらり。
独り占めしていた湯殿の静寂が、突然破られた。
「り、倫?!」
「‥」
望は湯船の中に大の字になっていた四肢を引っ込め、両膝を抱え込む。ざばりと水面が波立った。
「‥いっしょ、入って、よろしいかしら‥?」
倫の声はいつもの闊達さとは様子が違っていたが、望は自分の先ほどまでのざまを隠すのに必死で、それには気付かない。
いくつかある糸色家の湯殿のうち、温泉を引き、かけ流しにしたここは広い。ここは家族の団欒の場でもあった。
倫とはつい先ごろまで、命などとともども入浴していし、時には両親も一緒だった。
そのため望は抵抗なく倫の言葉を受け入れたのだったが。
いつもなら母とともに男衆の対面に座るはずの倫は、望の隣に身を沈めてきたのだった。
望は驚いて身を退こうとした。
「り、倫、何を」
狼狽する兄を逃さず二の腕にぴたり、寄り添う倫。
倫は自分とは違う、男性の肉の弾力に驚いていた。
男性としては細身、やや華奢な兄の体だったが、子供の倫にはじゅうぶん逞しいと感じられた。
いや、兄に『雄』を感じたというべきだろうか。
頬を兄の肩口によせ、頭の重さを預ける。自分の体が、兄の体が、湯よりも熱い。
望はいつもなら倫を適当にあしらい、湯殿を後にしたであろう。
しかし今日の彼は違った。
狼狽によって消し飛んでいた、先刻まで抱きしめていた級友の肉の柔らかさ、温度、そして肉の内側の感触。
それらが、腕によりかかる妹の肉によって蘇ってきてしまっていた。
「ええと、倫、心配かけて、ごめん。また明日から学校行くから‥」
理性が肉の衝動を押しとどめたか、言葉を取り繕う望。
「お兄様‥元気になったの?」
「え?あ、ああ、もう‥大丈夫‥だから‥。倫のお花のお陰かな‥、綺麗だったよ」
213 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:20:46 ID:So3T1rvU
う そ だ。
お兄様は嘘をついている。
それは倫にははっきりわかっていた。
わたしのおかげ?
嘘つき!嘘つき!嘘つき!
倫のお花が綺麗?口ばっかり!お兄様の嘘つき!
瞬間、心中に渦巻いた想念が、ぎりぎりと自らのまだ幼い心を締め上げた。
その兄への怒りもまた初めて抱いた情念−。倫は、それを制御するすべも、まだ持ってはいなかった。
「なにしてたの、お兄様‥?」
望の表情が凍りつく。総身から血が引き、せっかくの温泉も氷風呂に等しい冷たさに変わる。
「お部屋で、何してましたの‥?わたしの、しらない、ひとと」
そして望はゼンマイ仕掛けの人形のようにぎくしゃくと、腕にもたれかかる妹に顔を向ける。
望のその時見たものは−。
肉の感触、血の温度、遺伝子の近しさ、を持っていながら。
満月のように円かな、凄絶そのものの美しい瞳だった。
「‥!」
息を呑む望の視界に、その瞳がいっぱいに広がってきた。
望の引きつった唇に、倫の唇が押し当てられていた。
やわらかく、あたたかなそれ。
溶けかける脳髄、よみがえる級友の肉の―いや、これはいもうとの、それ。
妹の!
望が理性の断片にしがみつこうとしたとき、今や望の膝に跨った倫は、その手に兄の股間の屹立をつかんでいた。
わたし。
わたしなの。
わたしじゃないと、だめなの。いいこと?お兄様。
倫の中で、望への感情がはっきりと形を取って自覚されたのはこの時であったろうか。
わたしを見て―。
214 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:26:27 ID:So3T1rvU
「元気なら、わたしがさしあげますわ‥。お兄様、ねぇおにいさま‥。倫にも、同じことしてくれますよね‥?」
ぽそりとかすかに、倫は兄に恐ろしい言葉をささやきかけていた。
兄のからだの、多分何処よりも熱く硬い部分を握った手を、ゆっくりと前後に動かす。
異性の何処をどうするか、最低限の知識はあった。
「りっ、倫、やめっ‥!」
兄の端正な顔が、倫が見たこともない形にゆがんでゆく。
こまっている。あのお兄様が、困り果てている。
そして、困っているくせに気持ち良くなっている。
だらしない、お兄様―。
倫が手を動かすたび、望のふるえが唇を通して伝わってくる。
倫はすっかり兄の肉棒をしごくのに夢中になっていた。ぱちゃぱちゃと水面が波立つ音がここちよい。
糸を引いて唇を離すと、いつの間にか望の膝に腰掛けた倫は自分の柔かい部分を兄の太ももの肉に押し付けゆっくりと腰をうねらせ始めた。
「おにいさま、お兄様、倫は、倫は‥」
ぼうと桜色に染まる妹の裸身を目の当たりにしながら、望は快感とともに恐怖と混乱の中にあった。
どうして?どうしてこうなったのか?さっぱりわからない。
今あるのは温度と快感、そして眼前の幼い裸身だけ。
妹の手指の中の己に、その中を上り詰めてくるものを感じたとき、望の恐怖は頂点に達した。
「や、やめなさい!」
どん。
膝の上の妹を突き飛ばす。大きなしぶきが上がった。
立ち上がる望。
水面に浮かび上がる妹を顧ようとはせず一気に洗い場に駆け上がると、引き戸をくぐる。
215 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:28:28 ID:So3T1rvU
熱い湯の中に仰向けに浮かんだ倫は、湯煙にぼやける天井の明かりを見上げていた。
ぎゅうと手を握り締める。
さっきまで手の中にあった兄。
今はもう、いない。
倫は今日何度目か、ぎりりと歯を軋らせる。そして声を上げて泣き始めた。
ぼろぼろと、止まらない涙が湯のように熱い。
いつしか倫は自分が涙の中に浮かんでいるかのように思えてきた。
望は、大好きだった兄は、どこかへ行ってしまったのだ。
そして自分も。
何処へ?
―それは昨日までとは違う世界に、他ならなかった。
それからしばらく、倫は家族の誰とも話さなかった。
両親や上の兄達は、思春期に入り始めた年頃に特有の事だろうと、倫を見守っていた。
望が再び学校に行くようになって喜んでいたせいもある。
―望ぼっちゃまは、彼女が出来なさったようで。
ああ、なんでも望が土下座させられたのはその娘らしい。まわりの級友が望を責めたから、そうなった、とか。
その娘は、望が好きだったんだとか。はぁ、さようで。
使用人と、兄がそんなことを言っている。
一月もたたないうちに、次のように変わった。
―望の奴、別な娘と付き合っているらしいぜ。
前の娘とは別れたらしい。いや、いまでも続いている。皆様おモテになりましたが、やはり望ぼっちゃまも―。
倫は、それらの出来事の全てが、あの夜のせいだと知っていた。
だから、何も言わなかった。
糸色倫はそれから花と剣に打ち込むことになる。
いや、逃げ込むことになった、というべきだろうか。
ともあれ、その方面での才能はこの時期から文字通り花開いてゆくのである。
心中に蔵した兄への想いを、養分としながら。
216 :
桃毛:2010/01/06(水) 18:30:20 ID:So3T1rvU
『絶華の暦 破倫の歌』
第一回目は以上でおしまいです。
次の投稿は仕事の都合もありますが、明日かあさってには投稿できると思います。
次回は中学生前後のお話になります。
>>216 GJ!!望倫好きにはたまらない話でした。連載物だということなので、次回も楽しみに待っています。
219 :
51:2010/01/07(木) 18:10:27 ID:RR7qHamU
>>51からの美子、翔子ネタの続きを投下します。
4レス前後の短編が5つです。
終始エロシーンの短編なので、一度にやってもダレるから小出しにするつもりでしたが、
桃毛さんの投稿が続くようなので、邪魔にならないようにもう一気に出して終わらせます。
まずは一つ目、美子と翔子のお仕事。
今回は3Pです。陵辱系ではありません。
右手に美子を、左手に翔子を。
その真ん中に座る男性が、今日の二人の相手である。
がっしりとした体格の良い男、その舌に美子と翔子は競り合うように吸い付いている。
男の手はさわさわと少女の手をなぞり、ときには尻をなで、ときには胸を揉む。
「ふぅ……私にも娘が居てね。ちょうど君達と同じくらいかな」
翔子を後ろから抱き、胸を揉みながら美子に話しかける。
「可愛いんだがねえ、最近は随分と冷たくなってしまって……君達みたいに甘えてくれたらいいんだが」
ちゅばちゅばと音を立てながら、男は少女達の体にむさぼる様なキスをする。
「あんっ……それって、娘さんともこういうことしたいってことですかぁ?」
「うん?ははっ……そうかもねえ」
「でしたら、お父さんって呼びましょうか?」
くすりと微笑みながら美子が言う。
男は少し困った顔をするが、満更でもなさそうだ。
翔子が、その胸板にキスをしながら言う。
「どうかな?お父さん?」
「…………パパ、だ」
「はぁい、パパ」
その響きが気に入ったのか、男は二人を強く抱きしめた。
「うわぁ、パパのおちんちんすっごく大きい」
「ははは、そうかい」
寝転んだ男の剛直は天に向けてそそり立つ。
その体格に劣らず、むしろそれ以上にたくましい性器を前に二人は圧倒される。
「んっ、ふん……気持ち良い?」
「ああ、良い……ミコもショーコも上手だね」
美子は竿全体をぺろぺろと舐め、翔子は袋をはむはむと咥えたりその中にある玉を手で刺激する。
小さく震えながらその先端から透明な液体を垂らし始めると、美子が竿を口に含んでしゃぶり始める。
「おお……良いぞ……んっ!?」
「ふふふ、こんなのどうかな?気持ちいい、パパ?」
翔子が男の足を上げさせ、顔を男の尻に密着させていた。
その舌が、男の菊門を舐めている。
「ああっ……ははは、こんなにいやらしく育ってくれて、パパは嬉しいぞ」
ビク、ビク、と断続的に腰を震わせながら男は娘達の懸命な奉仕に酔いしれる。
精液が肉棒へと集まり、熱い滾りを今にも吐き出さんと肉棒が緊張する。
「ミコっ……!」
口内で肉棒が膨れ上がり、熱い精液を大量に美子の中に吐き出した。
その量と濃さを美子は受け止めきれず、思わず口を離してしまった。
口内から出ても射精は止まず、美子は顔を中心にべっとりと精液に汚されてしまう。
精液の臭いに酔い、頭がくらくらしている美子の前に男は肉棒を突き出した。
美子は舌を伸ばして、肉棒についた白い汚れを舐め取る。
そこに翔子も続き、二人の少女達に精液を拭われているうちに、肉棒は再びその硬さを取り戻した。
翔子の秘裂を左右に開き、その中へシャワーでお湯をかけてやる。
彼の性欲も体力もすさまじく、彼女達が失神するまで注がれた精液がお湯と共に流されていく。
中を綺麗にした後、男は仕上げとばかりに翔子のクリトリスにキスをする。
「よし、綺麗になったぞ」
「はぁ……ありがとうございます…………ここで…いいんですか?」
「ああ、頼むよ」
頬を赤らめながら、美子と翔子は男の前で軽く脚を開いて立ち、指で秘裂を左右に開いて見せる。
しばらく、そのままぷるぷると小さく震えていたが、男が二人の秘裂に指を入れて前後に動かしてみると、
それを引き金にするように、二人の股からしゃああと音を立てて黄色い水が飛び出した。
小水は男の体にもかかるが、気にするどころか嬉しそうである。
小水が止んだところで、男は美子と翔子の股に顔を埋めて、少女達の股に残った雫をすする。
「昔はおしめも変えてやったんだがねえ……まったく男親なんて、寂しいもんだよ」
またぐらを舐められながら、翔子。
「あは……ぁ……もう、ダメですよぉ、娘さんにこんなことしちゃったら……」
「ははは、そのときはまた、君達にお願いしようかな」
男は、娘達を両手に抱きしめ、キスをした。
223 :
51:2010/01/07(木) 18:14:01 ID:RR7qHamU
次、集団陵辱ネタです。
薄い隔たり越しに、2本の肉棒がゴリゴリと美子の体の内側を削る。
痛みを感じるほどにきつく強く、乳房を潰すように揉まれるたび美子は悲鳴をあげるが、
同時に強く肉棒を締め付ける膣と尻穴は肉棒を喜ばせ、そしてその悲鳴自体も男達には快感だった。
「はあっ!うぅうぅ、許してくださ…痛ッ!」
涙と共に哀願するが、男は美子の乳首を捻り上げて嗜虐の笑みを浮かべるだけだった。
いくらなんでも運がない……そう思ってもこれが美子と翔子の現実だった。
最初に二人の前に現れたのは、一人の男だった。
単にそういうプレイを望んでいるのか、とその男の言うまま、手錠をかけられた二人だったが、
その後、何人もの男達が部屋に入ってきた。
今日の男達は、彼女達を知っていた。
知り合いというわけではない、彼らは以前の二人の詐欺の被害者達であった。
無意識のうちに自分を犯す男の顔を見るのを避けていたのか、気づかなかったのは迂闊だった。
だが、既に遅い。
二人に向けられるのは、恨みを晴らそうと燃え滾る、男達の欲望に満ちた視線だった。
「んっ、んぅぅ…」
翔子を背後から抱きながら、男はその唇にむしゃぶりつく。
その下で、翔子に顔の上に座られる形になった男もまた、翔子の陰唇を夢中になって舐めていた。
「クソっ!これだよ、この顔にやられたんだ」
翔子の胸を揉みしだきながら、翔子の紅潮した顔を抑えて自分に向けさせる。
「こんな無害そうな…カワイイ顔で騙しやがって」
立ち上がり、翔子の頭を掴むと、その前に自身の肉棒を突き出した。
「しゃぶれ」
「はい…」
言われるまま、翔子は口だけを使って肉棒を咥えてしゃぶり始める。
男は、う、と小さく声を漏らしながら快感に浸る。
「うまいじゃねえか……こっちの方が向いてるよ、お前」
翔子の頭を押さえ、肉棒をさらに奥に突き刺しながら男は言った。
しばらくそのまま翔子にさせていたが、次第に男の方も昂ってきたか、
翔子の頭と自身の腰を前後に動かして、翔子の口内を蹂躙しだす。
「っ……っおおおおお!」
男の腰が跳ね、翔子の口内で白濁液を放った。
翔子の喉に直接精液を流し込み、放出した後も、びゅ、びゅ、と断続的に続いた射精が止むと、
男は口内から抜き出した肉棒にべっとりついた体液を翔子の顔に擦り付けた。
激しく腰を振り、美子の膣内を犯す。
既に何度も射精を受けた膣から、肉棒が動くたびに精液が音を立ててあふれ出す。
美子は、ベッドに手錠を固定されて自由を奪われているが、既に気力などありはしない。
男達に言われるまま、体を差し出し、ただただ怒りを買わないように奉仕するだけだった。
空ろな目をした美子の頭上に男が跨り、肉棒を美子の唇に当てる。
美子が口を開けると、男が肉棒を上から喉に向けて突き刺し、頬肉や舌に擦り付ける。
それだけでは満足しないのか、男は腰を上下に動かして、美子の喉奥を先端でゴンゴンと突き出した。
美子が苦悶の表情をすると、男は口の端を上げ、さらにペースをあげていった。
美子の横では、翔子が口と膣に肉棒を咥えさせられていた。
両手の自由を奪われたままの翔子を上に座らせ、下から激しく突きたてる男。
その前に立つ男は翔子の口内で肉棒を暴れまわらせていた。
乾いた音が響き、翔子の体が跳ねる。
翔子の尻に、紅葉模様の赤い跡が出来ていた。
続いて、何度も何度も翔子の尻を叩く音が部屋に響いていった。
今晩の美子と翔子は、男達に買われた商品だ。
もちろん、彼女達の価値を下げるような傷でもつければ、彼らにも危険が及ぶ。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせても、憎しみを持って自分達を犯す男達への恐怖は拭いきれない。
これほど恨まれてしまっているのは、かつての自分達が引き際をわかっていなかったが故か。
粗悪な商品を高額で売りつけられた分を取り返すと言わんばかりに、男達は美子と翔子を犯し続けた。
放心状態でベッドに並ぶ二人に向けて、男達は白濁液を飛ばす。
顔や胸や髪、股の付け根には水溜りができるほどたっぷりとかけて汚す。
「はははは、さすがにもう出ねえなぁ」
下卑た笑いを浮かべながら男達は言う。
「ほら、サービスだ」
肉棒を握り二人に向けた。
ぷる、っと小さく震えたかと思うと尿道から勢いよく小水を撒き散らした。
周りに居た男達も、それに続いて尿を少女達に浴びせていった。
「最高だったよ、二人とも」
男達が去り、悪臭のするベッドに美子と翔子が残された。
男達が居なくなるまでは何とか耐えていたようだが、美子がぶるぶると震えて嗚咽を漏らす。
それに釣られて翔子も泣く。
精液と尿の悪臭の中、二人は抱き合い、声だけはあげまいと必死に耐えていた。
228 :
51:2010/01/07(木) 18:23:10 ID:RR7qHamU
次、3Pで陵辱系じゃないです。むしろ和姦寄り。
連投引っかかりそうなので少しあけます。
「そんなに緊張しないでくださいよ」
「そんなこと言われても……」
美子と翔子、二人の少女に体を洗われている男は、二人から視線を外して答える。
ある意味運が悪いとも、運が良いとも言えるその男は、二人のクラスの担任教師、糸色望であった。
少女達の裸体は眩しく、張りのある肌と柔らかな肢体は魅力的で、ついつい視線が吸い寄せられてしまう。
「もう、先生さっきからチラチラおっぱい見てる……いいんですよ、ほら」
翔子が望の頭を抱き、胸を顔に押し付けた。
「じゃあ、私も」
「うわっ……あぁ」
さらにそれに続き、美子も胸で望の顔を翔子と一緒に挟み込んだ。
柔らかな双丘が二つずつ、その間に挟まれる心地よさに望が情けない声をあげた。
「どうぞ、先生」
「私と美子ちゃんとどっちのおっぱいの方が好みですかぁ?」
「どっちってそんな……二人とも……最高ですよぉ」
我慢するのをやめたのか、望は二人の胸を寄せて並べた二つの乳首に吸い付き、両手で乳房を揉みだした。
興奮した望の血流が下半身へと集まり、肉棒がむくりと顔を上げる。
「先生……溜まっちゃってますね?」
「ええ……」
「ふふふ。先生ならいっぱいサービスしちゃいますよ」
翔子が望の肉棒にシャワーでお湯をかけながら、慣れた手つきでしごくと、肉棒はさらに硬さをました。
あーんと口を空けて翔子が竿を咥え、それに続いて美子が袋をはむはむと軽く口で弄ぶ。
教え子である少女達、その二人が肉棒に奉仕する背徳感が興奮を加速させ望を昂ぶらせる。
「あぁぁぁ…こんなっ……もう…出ますっ!」
二人の髪を撫でながら望は腰を突き出し、尿道口から少女達に精液をぶちまけた。
湯船から上がった望の体を美子が拭く。
本番はこれからだ。
高揚感と、ここで引いた方が良いのではないかという気持ちが望の頭の中で渦巻いていた。
「実は……こんなのあるんですけど…」
「え、それ…は…」
翔子が手に取り、望に見せているそれは、彼もとてもよく知っている物…彼女達の学校での制服だった。
翔子がにこにこと微笑みながら再度尋ねた。
「どうします?」
「……おねがいします」
教え子との性交……そこにためらいを感じていたはずの望だったが、
その気持ちを吹き飛ばしたのもまた、教え子と体を重ねることの背徳的な魅惑だった。
ベッドの上に座った望は、左右に美子と翔子を抱いていた。
その手はスカートの中へと潜り込んで尻を撫で、舌で少女達の肌や唇を味わっている。
望の指が動き、秘部へと向かう。
下着の上から軽く数度恥丘を揉むと、横の隙間から指をもぐりこませ割れ目をさすった。
指先に湿り気を感じた望は、指をその中へと侵入させ、膣内を指で擦りあげてやった。
「あぁっ……あん……」
「せんせぇ……上手ぅ……」
二人は望に抱きついて甘い声を漏らす。
その反応に気を良くした望は、指の動きを激しくしていった。
(あれ?あれ?なんで……おかしいよ、なんか)
翔子は違和感を感じていた。
望に指で膣内をかき回される感覚が、異常とも思えるほどに気持ちいい。
美子のほうを見てみると、彼女も同じような気持ちを感じているのか、
まだまだ始まったばかりだというのに、ぎゅっと望に抱きついて自身を抑えていた。
(先生だから?……あ……そっか、先生は怖く……ないんだ……先生の指、優しくて……切なくなる)
今までの男達は誰も彼も、翔子と美子にとっては恐怖の対象だった。
壊れてしまった日常に現れた、彼女達の元の日常とも言える学校の先生。
顔も知らない、知りたくもない男達には、けして感じることが出来なかった安らぎを感じている。
おかしなことだとも思う。
ミコとショーコではない、自分達を知っている望に、今の彼女達を知られてしまったのは、
むしろ危険なことでもあるというのに……
「はぁ、はぁ……」
ベッドにくたりと横たわる美子と翔子。
望は仰向けになった美子の足を上げさせて、その腿の上に翔子を重ねて寝かせる。
ちょうど抱き合うような体勢で、少女達の尻が縦に二つ並ぶ形になった。
スカートの中からはびちゃびちゃに濡れた下着が覗き、うっすらと透ける秘裂が望を誘惑していた。
望が翔子の下着をずらし、尻側から下着の中へ肉棒をもぐりこませる。
前後に腰を動かし、秘裂やクリトリスを肉棒に擦られると、翔子はさらに愛液を溢れさせた。
「丸内さん……入れますよ」
耳元で望が囁くと、翔子は小さく頷き、美子と指を絡ませる。
肉棒が前後に動くと、快感が全身を駆け巡り、翔子もまた腰を前後に振り始めた。
強く締め付ける膣内、淫肉に吸い付かれる感触が望を悦ばせる。
うっすらと汗がにじんで来たあたりで、二人は最高潮に達し同時に絶頂を迎えた。
膣内から肉棒を引き抜いても、精液は下着に押さえられ、翔子の秘部に大量に残された。
「せんせいの……あったかいよぉ…」
うっとりと恍惚の表情で呟く翔子の下、焦らされていた美子の秘部は物欲しそうにひくひくと震えていた。
「待たせましたね…根津さん」
望が肉棒の先端をぐりぐりと美子の下着越しに秘裂に押しつけると、美子が可愛い声を漏らした。
今度は下着を横にずらして、覗かせた秘裂に肉棒を挿入する。
美子はたやすく肉棒を受け入れ、望はさらに奥へ奥へと侵入し、最奥をノックした。
「あぁっ……せんせっ…」
何度も何度もコンコンと突いてやる。
美子は涙を浮かべて悦び、そのたびに起こる膣内の変化が肉棒に快感を与えた。
「私にもっ、ください……せんせいのぉ…」
「ええ、わかってます……」
ビクン、と肉棒が膨張し、熱い熱い精液が美子の望み通り膣内に注がれた。
「あぁ、あぁ……もっとぉ……せんせぇ…」
「だめだよ…次は私の番…ね、先生?」
何度も絶頂を迎え、満足した表情で望はベッドに沈み込む。
その左右に並んで寝る美子と翔子。
二人が行為の間着ていたスカートもセーラー服も下着も、望の精液によって白く汚されていた。
「大変ですね…先生も」
「でしょう?我慢しているんですよ、色々と」
少し自棄になった様子で望は自虐的に笑う。
ふっとため息を吐くと、二人を抱き寄せた。
「ありがとうございます……きれいでしたよ、二人とも」
「ふふふ、先生も……ん?あれ?」
笑顔で望と語り合う美子、だが、その瞳からぽろりと涙がこぼれた。
「え?なんで?あ……はは、なんだろ……何でもないんですよ」
ぽろぽろと続けてこぼれ落ちる涙、美子は慌てて望から顔を隠した。
「そんな…ちょっと、どうしたんですか?」
背中を丸めた美子を抱きしめる望の手を、美子はすがるように握った。
その後ろから、翔子がぎゅっと望に抱きついた。
小刻みに震えているのを感じる。
(丸内さんも……泣いてる…んですか?)
二人が泣く訳もわからないまま、望は二人が泣き疲れて眠るまで少女達に体を貸してやった。
234 :
51:2010/01/07(木) 18:41:23 ID:RR7qHamU
次は、前回からの続き。同じく3Pです。
「先生」
昼休み……不意に呼ばれた望が振り向くと、美子と翔子が居た。
少し言葉に詰まる。何を話すべきか、逡巡するもとりあえず二人に言葉を返した。
「丸内さん、根津さん……来てたんですね……少し心配しましたよ」
ここ数日間、美子も翔子も学校を休み続けていた。
連絡が取れなくなっていたわけではないが、よりによって望が彼女達と体を重ねてから、
そして二人の涙を見てからである。
考えまいとしても、けして頭からは離れない。
「そんな、ちょっとサボっちゃっただけですから」
冗談めかして、手をひらひらさせながら美子。
それに続く翔子……笑顔で言う。
「それより先生、今日…お時間ありますか?」
ここで、彼女達に従う危険性など、もちろん望も理解していた。
教え子と肉体関係を持ってしまったことは、望にとっては弱みでしかない。
溜まった性欲を発散するために金を支払う、それだけで終えるつもりであったはずだ。
望ももちろんそういった関係を望んでいた……ただ、それがたまたまこの二人であっただけだ。
そう自分に言い聞かせる。
だが、二人のすがるような瞳に望の心は揺らされる。
――どうにでもなれ……望は、心中でそう呟いた。
二人に招かれたのはアパートの一室。
美子の家でも翔子の家でもない。
だが、その中には寝具や食器などもあり、そこで生活をするものが居ることを思わせる。
そこは、美子と翔子が詐欺を生業にしていたころの二人の隠れ家とも事務所とも言える場所だった。
そこに訪れた客人を、美子と翔子がもてなす。
望には、二人が丹精込めた手料理が振る舞われれた。
もちろん、彼女達自身も、である。
ベッドに寝転がる望の肉棒を、舌や指を使い愛撫する。
ちょうど望とは逆を向く形でその上にかぶさった二人は、尻を望に向けて秘部を露にしていた。
二人が肉棒を舐める音と、望が二つの秘部を指で弄る音が混じり合って部屋の中で小さく響く。
頬を赤く染めながら、肉棒にたくさんのキスをする二人。
快感が最高潮に達した望の肉棒が、ちょうどそのとき肉棒を咥えていた美子の口内へ精液を放出した。
「美子ちゃぁん、私も…んっ」
ねだる翔子に美子がキスをして、口内の望の精液を少し分けてもらう。
舌の上で何度か転がしてから、こくんと喉を鳴らして精液を飲み込んだ。
「私から……良いですよね?」
美子が立ち上がり、望の下半身に跨った。
陰唇はモノ欲しそうによだれを垂らしている。
「うんぅ……あはっ…ぁ」
ゆっくりと腰を下ろしながら、肉棒を咥えこんでいく美子の秘部をうっとりとした顔で見ている翔子。
その腰を取り、望が自分の方に引っ張って、翔子を自分の顔の上に座らせると、
秘裂を割ってその中を舌で舐め回してやる。
「あっ…ぁぁ…先生の舌……気持ちいいよぉ」
内側を舐められる快感に溺れる翔子は、自身もまたクリトリスを指で刺激して、甘い声をあげる。
美子の方は、腰を上下に動かしながら、円を描くような運動も加えて望の肉棒を膣いっぱいに感じていた。
望が受ける快感も凄まじいもので、ついさっき放出したばかりだというのに、
肉棒にはまた大量の精液が集まり膨張する。
息を荒げて性器を擦り合わせ、性感を高めあっていく。
そして、三人は共に絶頂を迎えた。
「はぁ、はぁっ……ん……ちゅ」
翔子が望と向かい合って座り、濃厚なキスを交わしている。
トロトロに柔らかくなっていた秘部は、たやすく望を受け入れた。
中へと入れば今度は、逃したくないと言わんばかりに、柔らかな淫肉が肉棒をきゅうきゅうと締め付けてくる。
「ふっぁぁぁぁ!?」
急に翔子が背筋を伸ばして、望に強く抱きついた。
同時に膣内も、さらに強く望の肉棒に快感を与える。
「ふふふ、翔子ったらね、こうやってお尻いじめられるの大好きなんですよ」
「はぇっ、やぁ、美子ひゃぁん、待ってぇ…恥ずかしいよお」
舌を出して、ぶるぶると快感に悶える翔子の首筋を舐めながら、美子は翔子の尻穴に差し込んだ指を動かす。
「何言ってるのよ。今日だって、先生に弄って欲しくてお尻きれーいにして来たんでしょ?」
真っ赤な顔で恥ずかしそうな翔子、淫らに悶えるその姿を前に望は意地の悪い笑顔を浮かべた。
「お尻でもして欲しいんですか?」
「ふぇ?あぁぁ…わたひ……」
一瞬硬直した後、力が抜けていく翔子。
軽くイってしまったようで、崩れた笑顔でうっとりと望を見つめる。
「おしり……おしりも……おまんこも……全部……先生の形になっちゃうまで、ひて…ほしい…」
その言葉にきゅうんと胸が締め付けられた望は、美子も一緒に翔子の体を強く抱きしめる。
「ふぇっ!?せんせの…中で、また大きくぅ…」
「遠慮なんてしませんよ……あなたの、あなた達のすべて、私のものにしてあげます」
鋭い眼光は、普段の望からは程遠い。
それを受ける少女達は、うっとりと目を細めながら望を見つめていた。
縦に並べられた少女達の蜜壷。
愛液と精液を滴らせるそれは、上に位置するのが翔子のもの、下が美子のもの、そしてどちらも望のものだ。
体を重ねて、美子と翔子は唇を触れ合わせ、望に犯される快感に酔いしれていた。
彼女達のもうひとつの唇も、キスをするように重なり合っていて、その間で望が肉棒を前後に動かしている。
時折、浅く秘部やアナルに入れては少し動いただけで抜き、二人を焦らす。
「あぁ…ん……いじわるしないでくださ…っぁぁあ!」
突然、望に膣の深くにまで挿入されて、美子はすぐさま声をあげながらイってしまう。
同時に、翔子のアナルにも指を挿して前後に動かしてやると、翔子は腰を浮かせて悦んだ。
何度も何度も……
行為を終えた望は、全て出し切ったと言わんばかりの顔で、両脇に美子と翔子を抱いてベッドに沈み込んでいた。
髪を撫で、優しく肌に触れ、口付けを交わす……しばらく、そうしていたところで美子が口を開いた。
「先生……先生にお願いがあるんです」
240 :
51:2010/01/07(木) 18:57:31 ID:RR7qHamU
次でラストです。最後もこの流れで3P。
「ん……んぅぅ…ひっぅう」
「声、我慢してください。気づかれちゃうでしょう?」
美子の口を手で塞いで望が言う。
だが、我慢しようとしてもどうしても声が漏れてしまう。
いつもの制服を身につけているが下着はつけておらず、美子はスカートをたくし上げて秘部を露にしていた。
椅子にかけた望の上に座る美子の秘部を、肉棒は下から貫き、上下に動き続けている。
さらにその前に座った翔子に、クリトリスを舐められる快感に抗うのは容易ではない。
それでも何とか声をあげないように、美子は目尻に涙を浮かべて必死に我慢する。
今は、まだ昼休みの学校。
生徒も教師もすぐ近くに居るのだ。
「まだ授業あるんですよぉ?」
翔子が、くすくす笑って美子の膣内から望の精液を吸い出しながら言った。
そして、ちらっと時計を見る。
もうすぐ授業が始まる頃。
残念ながら翔子は少しお預けのようだ。
美子の方は、望に抱かれながら熱く濃厚なキスをずっと続けていた。
その顔は、絶頂の余韻に浸り、蕩けきっていた。
この様子では、美子はすぐには授業に出れないかもしれない。
――先生にお願いがあるんです。
二人が、体の全てを捧げて望に願ったこと。
望もなんとなく、こういう話が来るであろうと思っていた。
恐らく、金の工面だろう。
望の実家の財力は彼女達も知っているし、少女が体を売る理由としてもありふれたものだ。
その上で望は二人を抱き、自身も納得しようとその身体を味わいつくした。
だが、二人の要求は望の予想とは違っていた。
「これ……受け取ってください」
翔子が差し出したのは、いくつかの通帳。
中を見てみると、女子高生が持つ金額とは随分と桁のかけ離れた数字が並んでいた。
それは、二人が今までの詐欺で稼いで来た金だった。
「それで、私たちのこと…買ってくれませんか……?」
「買って……って、あの、それならもう…」
「いえ、私達の全てを、これからもずっと…先生に買い取ってほしいんです」
かくして現在、美子と翔子の飼い主は望に変わっていた。
その商売柄、世間には隠れたままでいなければならず、少女を売り物にするにも限界がある。
それならば、その全てを大金で買い取ってくれれば、二人の主たる男達にとっても都合がいい。
だが、その金を美子と翔子が持っていては意味がない。単にそれもむしり取られるだけだ。
買い取り役の男が居たとしても、ただ飼い主が変わるだけで今と同じ生活が続く可能性もある。
そこで、望が選ばれた。
美子と翔子を知り、ミコとショーコを知る男。
二人が全てを捧げてもいいと思えた男。
望にもリスクがないとは限らない、その礼に二人は一生をかけて望のモノになると言う。
あくまで「買い取り役」となって、二人を自由にすることも提案したが、二人はそれを拒否した。
快楽を教え込まれた身体と、男性に対する恐怖を植え付けられた心。
その二つが混ざって、美子と翔子は望を求め、彼に仕えることを望んでいた。
ベッドの上で、三人が抱き合い、肌を寄せ合っている。
「倫が、あなた達のこと有能だって誉めてましたよ……卒業したらうちに来るとか、どうですか?」
「そんなこと言っちゃって、良いんですか?期待しちゃいますよ?」
「あははは。そうそう、こんなの買っちゃったんですよ」
翔子が、ごそごそと紙袋から何かを取り出した。
その手にあったものは、リードの付いた革製の首輪だった。
それを手渡すと、二人は望の前で目を閉じた。
「はい……似合ってますよ、二人とも」
犬のような首輪を望にはめられて、二人は嬉しそうに顔をほころばせる。
二人にペットにでもするように軽いキスをしてやると、望はベッドの上で胡坐をかいた。
股の間では、その剛直が立ち上がっていた。
望がリードを引くと、二人の首が一瞬絞まり、引かれるまま肉棒の前へと導かれる。
「今日も楽しみましょうね」
望が美子と翔子の頭を取って、肉棒へと寄せる。
二人は小さく頷くと、竿を握って、望の玉をひとつずつ口に含んで、口内で転がした。
淫靡で淫らなその笑顔。
愛しい男へ、今日も二人は愛を捧げる。
244 :
51:2010/01/07(木) 19:14:31 ID:RR7qHamU
大作乙。着地点が先生のとこで良かった。
246 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:06:57 ID:mdJmziW2
桃毛です。
>>244 自分と同じく書き溜めていたんですね。
美子&翔子祭り、お疲れ様でした。
ハードなものは書くのは苦手ですが読むのは大好きなのです。
気を使ってもらってどうもすみませんでした。
では、前回の続きを投稿します。
今回は倫の小学生の終りから中学生なかば程までのお話です。
倫のほかにさるやんごとなきお方が登場します。
エロス分はほんのちょっぴり。
それでは以下よりどうぞ、『絶華の暦 破倫の歌』 第二回
247 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:08:17 ID:mdJmziW2
『昭和七十五年・文月』
湯殿での一夜から閲すること四年。
倫は花と剣の稽古に専心し、その技に年を超えた冴えが出始めていた頃であった。
来年に地元の私学に進学が予定されている。兄たちも通った中高一貫の学校である。
小学生最後の夏休みをひかえたある日の午後。
糸色倫は招いている華道の師匠が帰った後、ふたたび花を生けはじめた。
開け放った障子から次の間へと、敷地の山林から庭園を通った涼やかな風が吹き抜けてゆく。
涼しげに仕上がった作品を書院の棚にすえると、道具を片付け、耳を澄ます。
と、足音が近づいてきた。耳に親しんだその足音の主は−。
「帰りましたよ、倫。久しぶりです」
兄の望だった。
いつものご多分にもれず、チャラチャラした出で立ちだ。着物の方が似合うのに、と倫は内心歯噛みした。
糸色望は東京府の大学に進学し、順調に四年に進級していた。来年三月に卒業を控えている。
学業には生真面目であった望は教員となるための単位資格はすべて取得していたが、その私生活は迷走状態と言ってよかった。
自動車学校は不登校になり、ギターを担いでフォークゲリラ。少々過激な社会思想サークル活動。文筆活動のあげく同人誌出版。
大学進学のとたん遊んでしまうという一般的な日本人の若者らしい学生生活と言えなくもない。
ともあれ望は、大学が夏休みとなり帰郷してきた。彼にとっては今年で最後の夏休みである。
糸色邸のあるここ蔵井沢は高級避暑地としても名高く、夏は快適に過ごせた。
「お帰りなさいませ、お兄様。他のお二人は、一緒ではありませんの?」
「命兄さんはもう学生じゃないですからね。朝も夜も、こき使われていると思います。‥景兄さんは、‥行方不明。
アトリエにお札が貼ってあって‥。熊野牛王印‥ですかね?まぁ、人のいる気配はありませんでしたね」
くすりと笑う倫。
「お二人とも相変わらずですこと」
長兄の縁は既に弁護士として多忙の中にある。休みが取れるか、微妙なところらしい。
次兄の景は画家として画壇に認められつつあり、現在は家を出て東京府にアトリエを構えていた。
兄の望との関係は表面上は常に戻っている。かつて時田が言ったように時間が薬、であった。
兄妹のあいだでは、あれはいたずら、そして二人しか知らない事だから誰にも言わない―という黙契のようなものが成立している。
だがそれは、たがいの心にそれぞれ横たわる恐ろしい何かからの逃避であるのかも知れなかった。
少なくとも倫の中には、黒い火はまだ燃えている。
望は棚に眼をやった。
「倫の作品ですか。見事なものですね。堂に入っているというか‥」
堂に入っているも何も、もはや倫の腕は流派の宗家である師匠が絶賛するほどのものだ。
流儀の宗家を自宅に招いての個人授業など、糸色家の家格と財力あってこそだったが、小学生の倫の才能は確かなものだった。
「まぁ、お兄様に花のことがわかりまして?でもありがとうございます。お兄様が帰ってこられるから、生けましたの」
「そ、そうですか‥。ありがとう、倫」
倫はにこりと微笑むと、裾を払って立ち上がる。
「夕食はお母様が腕をふるって下さるそうです。わたしもこれから手伝いますので、お兄様はごゆっくり」
248 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:09:31 ID:mdJmziW2
廊下を歩む倫はふと庭向こうの客殿に人の気配を感じた。
ひとりは執事の時田。誰かを客間に案内しているようだ。
その客は遠目に顔はわからなかったが、女のようであった。
ふん。
鼻をならす。お兄様ったら、また取り替えたのね―。
今年新年の正月休みに望が連れてきた女とは、別人のようだった。
ふいに、倫の胸に黒いものが渦を巻く。
いやでも、四年前のあの夜の記憶がはらわたの奥を焼いた。
倫は歯を軋らせる代わりに、唇を噛んだ。
右手が、うずいた。
夕食は料理家である母・妙の心づくしであったが、倫はどうでもよくなっていた。
母に照れなく女を紹介する兄に作り笑顔を送りながら、内心は一刻も早くこの場を離れたい思いで一杯だった。
その一方で、兄の連れてきた女を観察する。
今回は清楚でしとやかな雰囲気の、知的な美人−。兄より年上に見える。
手当たりしだいに目に付いた本を乱読するように、望の付き合う女は毎回タイプが違っていた。
―この女で何人目だったかしら。
のべつまくなし、という言葉がぴったりだろうか。女漁りという点でも望は迷走状態であると言ってよかった。
いいかげん笑顔の仮面をかぶるのも限界に近づいた倫は、望に寄り添う女を冷ややかに一瞥すると、箸を置く。
父の声で酒が席に回り始めたので、倫はごちそうさまと食膳を下げた。
胸中にくすぶり始めた黒い火を、何で鎮めようか−。
249 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:10:30 ID:mdJmziW2
糸色望の部屋には、旅装が脱ぎ捨てられていた。
倫は明かりをつけずに兄の部屋に突っ立ち、その残り香に浸っていた。
先ほどまで兄が身に纏っていた衣服を抱えこみ、鼻先をうずめる。
香道もたしなんだ倫の嗅覚は敏感である。
兄の衣服に、女物の香水のにおいが混じっているのを嗅ぎ取り、不快げにそれを放る。
ふと、靴下の丸まったのが転がっているのが眼に留まった。
ぞくりと背筋に走った波を自覚しながら、倫はそれを手に取った。
一瞬ためらう。
それに鼻先を突っ込む自分の姿の浅ましさを脳裏に描いたためだ。
「お兄様」
息が荒い。
「‥お兄様の、‥莫迦」
歯止めがかかったのは一瞬だった。倫は半瞬前に脳裏に描いたとおり、兄の靴下を鼻面に押し当てていた。
すぅ。鼻腔に広がる、ブーツの皮の匂いと、兄の濃い汗の臭い。
それはどう考えても、常軌を逸した行為のはずだ。
だが倫の脳裏には、脳髄そのものを兄に抱きしめられているのではないかという錯覚すら浮かんでしまう。
―へんたい、というのかしら。変態。この、わたしが―。
蔵井沢の名家の長女、学業は優秀、剣に花にその才能をひらめかせるスーパー小学生。
近隣のもの皆知らぬものとてない、おらが町のお姫様、それが糸色倫。その、わたしが。
自嘲の想念ですら、その変態的な行為の加速装置にしかならない。
倫は着物の裾を大きくはだけると、すべらかな白い下腹を兄の部屋の空気に晒した。
そこに手指をはわせる。旅装の上に転がりながら夢中でその指を動かす。
かつてこの部屋の前で初めて覚えたその罪深い快感は病み付きになっていたと言っていい。
兄が女を連れて来るその都度、倫はおのれのうずきを自ら慰めて来たのだった。
「んぅ、ぁあっ、んんぅ‥」
靴下をにぎるその手の袂を噛みながらあえぎを押し殺す。
裂け目を押し広げ、入口の周囲を指先でそろそろ掻き上げる。
膝が体を支えられない。畳に四つんばいになると、腰を緩やかにうねらせながら指を動かす。
快感が何度も走り抜け、倫はまだ肉のうすい尻をふるわせた。
「お兄様、いやらしいおにいさま‥。
お兄様のせいで、私は、こんな、こんな‥」
倫は敏感なつぼみを指先につまむと、くりくりと転がした。
おおきな快感の波とともに、いちどきに様々な想念が押し寄せてくる。
どうせ今日は、この部屋であの女を抱くのだろう。莫迦、おにいさまのばか。
わたしがこんな恥ずかしいことをするのは、お兄様のせいなのだ。
この指がいやらしく動くのも、ここがこんなに気持ちいいのも、ぜんぶ全部お兄様のせいなのだ。
―知っていまして?お兄様、倫はいやらしい娘なんですのよ?
誰のせいでこんな娘になったと思って?お兄様のばか、ばか、莫迦―。
「ぅあぁっ!」
腰から下が、はじけたように波打った。
すう、と兄の匂いで鼻腔を満たしたとき、意識がどこかへ飛び上がっていった。
それは何度目の、後ろ暗い絶頂であったろう。
250 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:11:17 ID:mdJmziW2
ひくりとその身を震わせながら、倫は望の部屋から逃げるように這い出てきた。
また、やってしまった。
官能の余韻に耳まで赤く染めてはいたが、心中は自己嫌悪で一杯だった。
兄の靴下で自分を慰めたうえ、これ見よがしに部屋を散らかしたままその場を後にするとは。
どうしようもなかった。
どうせ、あの女を連れ込むに決まっている。酔った兄が気に留めることなどないだろう。
そう自分に言い聞かせながら倫は廊下で衣服を整えると、自室に戻ろうと歩み始めた。
と、母屋の廊下で、配下の使用人を差配する時田に行き逢った。
かすかに熱の残る頬を見咎められなかったろうか。
倫は取り繕うように、もつれた小声で命じる。
「刀を持て」
そう言ったとたん、部屋に戻る気が綺麗に失せたのは不思議であった。
月光降り注ぐ糸色家の庭園には、そこだけ別に区画された竹林がしめる一画がある。
心身を憩わせるのとは別の目的に用いられるそこには、『倫様専用竹林』の札が立てられていた。
倫は墨を流したように暗い闇の中、その竹林にためらいなく歩んできた。
その手には抜き身の白刃―日本刀が握られている。本身である。
小学生の倫には定寸の太刀は長すぎるため、これは摺り上げて寸を詰めた業物であった。
入り口にある盛砂に、抜き身を何度か打ち込む。
それによって刀身の刃がザラザラになり切れ味が上がる。荒砥をかけるのと同じ効果があった。
そう、ここは糸色倫の試斬のための場なのであった。
「しぃっ!」
押し殺すような鋭い気合とともに、倫は手当たりしだい、竹に真剣を打ち込む。
台に据えた竹ならともかく、自然に生えた竹は風に揺れ、その強靭な繊維もあいまって断ち斬るのは容易ではない。
刃筋をあやまれば刃が欠けたりめくれてしまい、或いは刀身が曲がったりしてしまう。
だが倫の手練は凄まじく、生き胴にも匹敵する太い竹の身を一刀のもとに切り離す。
しかも倫は据え物として竹を切るのではなく自ら動いて不規則に揺れる竹を打ち込んでいた。
左右の袈裟、逆袈裟と横薙ぎ、そして文字通りの真っ向唐竹割りの単純な技を繰り返す。
右方を打てば身を転じて左を打つ。打てば走り、走りながら打ち、飛び上がって打った。
手の内の極まり具合、拍子呼吸の取り方、間の見積もり、身の柔らかさと弾力、体移動による体重の有効利用。
それらを自然に行う倫の剣才は恐るべき天稟と言ってよかったが、今の倫には道に精進する清々しさだけが欠落している。
両断する竹を何に見立てているのだろうか、倫の眼は吊りあがり白い歯をむき出しに鬼気迫る形相であった。
どれ程の時間が経ったか、やがて息を切らした倫は笹の枝葉の上にうずくまった。
251 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:12:20 ID:mdJmziW2
「今頃、お兄様‥」
望は連れてきた女と抱き合っているだろう。
そう思い至り、腹の底のほうが重くねじれる。
嫌悪と、憤怒と、羨望と、そして後ろ暗い先ほどの官能の残滓が、そこにたゆたっている。
「いっそぶった斬ってくれようかしら」
ぽつりと、恐ろしい台詞が倫の口から吐き出される。
‥そもそも、誰を?
望お兄様?それともお兄様の連れて来る女ども?それとも、わたし?
あるいは、湯殿の夜から変わってしまった世界のすべて?
できるわけがない。
―どれも、斬りようがないものばかりであった。
だからこうして虚しく剣を振るうのではなかったのか。
動いている時は忘れていられた想念が、倫の心を再び責めさいなむ。
兄が東京府に戻るまで、こんな想いを重ねなければならないかと思うと、気が遠くなる。
ふと辺りを見る。
斬りつつ動くうち、いつの間にか竹林の裏側に来ていたようだった。
倫の立つ傍らに、笹百合がいく株か、ひっそりと咲いている。
その清浄可憐な白い花弁をいつしか倫は無心に眺めていた。
野の花は聞かず、問わず、悩まない。ただ咲き、それを繰り返し、やがて朽ちて地に還るのみだ。
いつしか倫の頬は大粒の涙に濡れていた。
なぜ、涙が出るのだろう。
天地自然の理のままに生きる花々を見ると、羨望と切なさでやりきれなくなる。
ほろり、倫のその一粒の涙が花弁に落ちるか落ちぬかの一刹那。
倫の心に何かが閃く。ふいに、太刀が奔った。
笹百合が一輪、茎の半ばを断たれ地に落ちる。
倫はそれを拾い上げるときびすを返した。
自らが荒れ狂った竹林。掌中の白い大輪。
倫の中に、何かがきざしつつあった。
252 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:13:02 ID:mdJmziW2
殺伐。あらぶる心の中のまま斬り散らした、その一見無残な竹林の真ん中に、それはあった。
天を刺すように立つ、袈裟に斬り断たれた若竹が一本。
その竹の節の室に、倫は笹百合をたむけるように挿しつける―。
やわらかな月光しろしめす静謐に、おのれの心象が凝ったような一輪挿しが出現していた。
若竹の切り口は涙滴のごとく、天を指すその切先は天地に寄る辺なき孤高の身の意地のごとし。
言葉に出来ぬ思いが白い大輪と咲き、地と分かたれたその様はいずれ朽ちゆく儚き定めを暗示していた。
このとき、倫は華道をたしなんで初めて、おのれの心の姿を顕すことが出来たと感じた。
それは倫の中で剣と花、二つがひとつになった時。
同時に、後の華道糸色流開眼の萌芽の時でもあった。
美しい。それは美しかった。
自分を苦しめる、暗い、醜いものからこんなものが生まれるのが、倫には不思議であった。
我が事ながらそのひらめきが尊いものであるという畏れも敬虔さもまた、同時に己の内にあるのがさらに不思議でならなかった。
心に浮かぶものがあった。
―わたしのうちにきざす、閃きに従おう。いまは、その想いをたどって、生きよう。
この地にとどまり、帰る兄を疎みながら待つなど、女々しいことこの上ない。
わたしも、せめてお兄様のそばへ。
‥生けた花は、いつしか枯れる。
けれど、花とともに生けた想いは心に力ある限り不朽なのだ。
その時浮かんだ願いを抱いて、倫は母屋の明かりへと歩みを向けた。
目指すは、父・大のもと。足取りは、軽かった。
―その日よりしばらくのち。
糸色倫、来年度より東京府・学習院女子中等科に入学内定。
253 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:14:07 ID:mdJmziW2
『昭和七十六年・卯月』
東京府戸山、学習院女子中等科。
凛然、威風辺りをはらう少女がやわらかな陽光のそそぐ中、校舎の前にたたずんでいた。
長い髪をひとつに束ね背に流し、延びた背と微かにそらした顎がみなぎる自信をうかがわせる。
傍らになぜか刀袋を捧げて立つ黒服を従え、彼女は校門をくぐって来る名も知らぬ同級生となるであろう少女達を眺めている。
時はまさに草木萌え出づる春、同校の入学の日であった。
春の日には珍しい風が、せっかくの満開の桜を虚空に舞わせてゆく。
少女はこの日本国の皇統に連なる某宮家の長女、すなわち内親王であった。
殿下、と尊称される身分である。
(※筆者註・その名を記すのは憚りがあるので、本編において彼女の呼称は基本的には『内親王』で通させて頂く)
彼女は翻るプリーツスカートも気に留めず、セーラー服の襟もとに舞い込む花弁をはらう。
花、といえばここ日ノ本においてはこの桜を云う。
彼女は思う。
−散るがさだめ、と誰が言う。無常のことわり、それがいのち萌えいづる春にこそあらわれんとは。
「吹かねど花は散るものを」
眉をひそめ、つぶやいた少女の言葉を、ふいにとらえた者がいた。
「心みじかき春の山風、かしら。けれども、鮮やかに散り急ぐ姿もまた美しからずや―」
豪奢な振袖を纏った少女が傍らに立っていた。
波打つ黒絹の髪、天空海闊ということばが相応しい澄んだ瞳。
その薄紅のつややかな唇にうかんだ笑みには気品が漂っていた。
少女が言った。
「花、という字と死という字がそこはかとなく似るのは偶然でしょうが、
春の日に散りゆく花の儚く切ない様は、若人に末期を想う情緒を与えましょう」
それを聞いてセーラー服の少女は白い歯を見せて笑った。
「入学の日に花を見て死を語るとは。剛毅も極まるとはこの事ですね。
少年少女よ、胸に大死をいだけ、と?」
「人生の暁の日に」
「ふっ、あははははは!‥花よりもあなたの方がよっぽど楽しい。
これからの三年間が楽しみになりました」
振袖の少女も口元を袂でおさえ、眼を細めた。
「笑い声はあなたのほうが豪快ですわ、内親王殿下」
セーラー服の少女は笑いをおさめ、面映げに姿勢を正す。
「わたしをご存知でしたか」
「殿下のご入学は様々なメディアにて報じられておりましたもの。同級の身となることができて光栄ですわ。
申し遅れました、わたしは信州蔵井沢の産、衆議院議員を勤めさせて戴いております糸色大の娘、糸色倫と申します」
倫は優雅に礼をしめし、笑みを返した。
さすがに相手が皇族では、普段身内以外には高飛車な倫も相応の敬意と礼儀を払って対するしかない。
ちなみに内親王は昨年度も学習院初等科に在学していた。そのまま中等科に繰り上がった報道がなされたわけである。
「あなたが糸色倫さん‥そのお年で華道に稀有の才能をお持ちと聞き及んでおります」
「お恥ずかしい。習い事が高じたまでのこと、父にいろいろやらされましたがものになりそうなのは華の道だけ、ということでしょう」
夏の夜の作品は華道の師匠にもしめされ、絶賛した師匠は斯界のみならず交友のある名士に触れ回っていた。
倫の父・大もさぞ鼻が高かったであろう。
二人は笑い収めるとともに護衛を従え、入学式の場へと親しく連れ立っていった。
それにしても中学生に上がったばかりとは思えない少女達の応酬だったが、
これは上流階級ゆえに身に付けさせられた基本的な社交教育のためである。
上位支配層のみずからの権力を維持・拡大するためのコネクションを形成する基礎が、
こうした年代からの関係性に由来することはしばしばであるから、そうした教育は重要なものなのである。
倫は幼少から躾けられてはいたが、学習院に入学するにあたって父から改めて仕込みを受けていた。
ただこの場合、そうした辞令を抜きにしても少女二人は初対面でお互いに好意を抱きあったようであった。
これが、これより五年近くを共にすることになる少女二人の、出会いの一幕であった。
254 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:37:59 ID:mdJmziW2
『昭和七十七年・水無月』
学習院の女子科はもとは明治帝の后・昭憲皇太后の思し召しによって四谷に創設された華族女学校という学習院とは別の教育機関であった。
その後移転や学習院との合併・改称を経て先の大戦後、学習院女子として現在の戸山に落ち着く。
明治・大正・昭和と、時の上流階級の子女を教導し、幾多の優れた人材を世に送り出してきた。
もとは皇族・公家の教育機関であったため、現在も皇族の子弟の入学は多く、支配層に位置する諸名家の子女もまた然りであった。
だが昭和の御世も七十有余の歳月を重ねんとする最近においては―。
戦後の昭和は立憲君主がまします民主主義国家という事になっている。
身分や出自は問題にはされず、旧制において平民とされていた一般市民の子弟も憲法に保障された自由と平等のもと
ここ学習院にて皇族や旧華族などの名家と机を並べている。
その数は一年ごとに増え、むしろ内親王や倫などの貴種は少数派となっていた。
二人は校内でも浮いた存在であった。
皇族の内親王は厳重な護衛やマスコミの取材などに囲まれる身。
倫は信州県から毎日ヘリコプターで通学しているうえ、剣と花で培った典雅なたたずまいは同世代の少女には近寄りがたい威を放っている。
しぜんと他の同級生達からは敬遠されるようになり、影で『デンカ』だの『絶倫』だのとあだ名を奉られるようになっていた。
倫にはそれがうっとおしい。
兄達も『絶望』だの『絶命』だのと縁起でもないあだ名で呼ばれていたそうだが、今度は自分の番というわけか。
倫の場合下世話にいう性豪の意味で揶揄されているようで、倫はその品のなさには呆れるばかりだった。
それは友人となった内親王も同様のようである。
「平民の入学を認めたばかりに平民ばかりに」
とは、内親王の談である。
そうした鬱屈はらしにかこつけて、倫は放課後、おなじ東京府内の望の部屋に遊びにゆく。
糸色望は教師となっていた。府内のとある高校に赴任している。
初任ということもあり、慣れぬ内は覚えることも多く、とかく忙しく時間を過ごしていた。
「‥という具合で、周りの方達のほとんどには品がありませんの」
「はぁ‥。そりゃあお前から見ればたいがいの人間は下品に見えるかもしれませんがね」
「それにしてもお兄様の格好も、倫には上品には見えませんわ。それにこの仮住まいも」
細身のラフな洋装に、銀のアクセサリに皮の小物。もともとセンスに優れた望の出で立ちは二十代前半の男性としては相当お洒落な部類だった。
だがそれは倫にはちゃらちゃらしたものと写るらしい。
そしてこの部屋も、コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンションであった。
洋式の硬質な空間は和の世界で生きてきた倫の基本的感性には少々そぐわない。
ただ、革張りの大きなソファの感触は気に入ったらしく、倫は望の部屋に来るといつもそこに身を預けている。
あれこれと文句をならべながらも、兄との時間は倫には楽しいものであった。
暗い欲望に身を焼いていた頃に比べれば、こうして兄の所にまで押しかけるようになった今は一歩前進できたと言うところか。
255 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:38:45 ID:mdJmziW2
楽しい時間は、過ぎるのが早い。
傍らに立つ執事の時田が、ティーセットを片付け始めた。
「倫さま、そろそろお時間でございます」
時田は本家の執事であるが、当主の大の命で倫にずっと付き従っている。倫の通学のヘリコプターすら彼が操縦していた。
今日は花の稽古の予定が入っている。そろそろ本家に戻る時間であった。
「帰るんですね、倫。父上母上によろしく。時田、倫を頼みますね」
かしこまる時田が倫の荷物を玄関に持ってゆく。
倫はどこかそわそわしている兄の気配を感じ取ってぴんと来る。
また、女だろう。望のご乱行はまだ続いていた。
忙しくて遊ぶ暇はありませんとか言っていたのに、悪い癖が直らないなんて。どうしようもない、いやらしいお兄様―。
もういい加減、望の女遊びにやきもきするのは倫自身うんざりしていた。
「あらお兄様、お行儀よろしいこと。なにか私達に早く帰って欲しいのかしら?どなたかお客様でもいらっしゃるとか?」
「いや、それは‥その、まぁ、来客があってですね」
「ふぅん‥」
ちらちらと時計を気にする望。倫は掛け時計を一瞥し、ちょうど切りの良い時間が差し迫っていることを確認する。
あと三十分で十九時であった。
にやり。望のフードにゴミを入れたときの何とも言えない気分を思い出す。
「時田、出立は十九時に」
倫の靴を揃えていた時田はその意を察し、白髯の下の唇をにやりと歪めた。
「かしこまりました。ではわたくしめは奥に控えております」
「とっ時田お前まで!」
十九時のきっかり五分前、チャイムが鳴った。インターホンから女の声が聞こえた。
「望くん、来たよっ」
何かを期待するような、踊った明るい声であった。
インターホンの前に陣取った倫は時田に羽交い絞めにされた望を振り返り、にっこり笑った。
「はぁい。どちらさまでしょうか?」
甘やかにつくった声で返答する。
「‥はぁ?ちょっと誰?」
外の女の声がとたんに棘とげしくなった。
「開いておりますので、どうぞお入りください」
倫は応えながら、兄の真っ青な顔をにやにや眺め、兄を押さえつける時田に目配せした。
玄関が開き空気が動く気配、かつかつと靴が脱ぎ捨てられる音、廊下を足早に歩む音。心得た時田が望の拘束を緩める。
時田はそのまま奥に身を隠す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!今の声はですね‥」
あたふたと、そちらに気を取られる望。
倫はリビングに来客が侵入する機を計り振り返ると、自由になった望に向かい飛び出した。
瞬間、一歩で望の内懐に入り、足に足を絡めて刈り、腰骨を手で押し込み、同時に肩で望の鳩尾を押す。
重心を後ろに崩された望もろともに、倫は狙い通りソファに倒れこんだ。
倫が学んだ古流剣術、その無手組打技の一手であった。
256 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:39:41 ID:mdJmziW2
リビングに侵入した女が見たものは−。
ソファに仰のけによりかかり、狼狽した望。
そして、望の太ももにまたがり足を絡め、その胸にすがってうっとりしているセーラー服の少女だった。
「ちょっ、ちょっと!望くん、なにこれ!誰それ!なにやってんの!?」
「あ、あの、その、これは‥」
倫はついと肩越しに逆上した女を振り返る。その眼は路傍の石ころか何かを見るように冷ややかだ。
「お兄様、新しい女ですの?わたしというものがありながら何人も何人も‥程ほどにして下さいませ」
そう言いのけざまさっと飛び退り、着衣のしわをはらう。女を見て、憐れむようにふっと鼻で笑った。
それは侮蔑と、何より倫の本音と願望の入りまじった自嘲気味の笑いでもあったが、女の肺腑を抉るには十分な鋭さだった。
「なぁっ!り、倫お前何を‥!」
「時田!帰ります。お兄様、ごきげんよう。また倫を可愛がってくださいましね」
その声に現れた初老の男にあっけに取られた女の横を、倫はその時田を従えて悠然と通り過ぎる。
部屋を出るとき、望に振り向いて舌を出し、いたずらっぽい笑みを送る。
それは望にはさながら悪魔の笑みに映った。
玄関に倫たちが差し掛かったとき、我に返った女の怒鳴り声が聞こえてきた。
「い、妹とデキてたの!?変態!性犯罪者!ロリコン!最っ低!」
「違います、あれはただの‥」
「何人も何人もってのも何よ!」
「いや、それは‥!」
「ど許せぬ!!」
何か打撃音もしたようだ。それは修羅場の開始のゴングと言ったところだろう。一方的な結果しか想像出来ないが。
痛快ないたずらの成功に、倫のテンションは一気に上がった。つい先刻の、かすかな自嘲もどこへやら。
倫は靴を履くと、時田の開けた玄関をくぐる。
波打つ髪をぱっと払うと、空にうっすら照り始めた月を見上げ―、
「ほほほほ、ご乱行のむくいですわ!お兄様カッコ悪い!」
口元を押さえ、高笑いを上げたのであった。
久々に晴れやかに笑った倫は、帰りのヘリコプターに揺られながら、今日の花は良いものが生けられると確信していた。
この日、糸色倫、花の師匠から免許皆伝の許し。
一年後、師の承認を経て華道糸色流創始。齢十五に達せずして一流派の家元となる。
257 :
桃毛:2010/01/08(金) 06:43:48 ID:mdJmziW2
『絶華の暦 破倫の歌』
第二回目は以上でおしまいです。
次回はやはり明日もしくはあさっての予定です。
まだ島流し中でして宿にネット環境がないので不自由しております。
次は中学三年から高校のお話になります。
これからしばらくはエロス分の薄い展開となります。最終話までご勘弁を。
ではまた次回で。
乙。
どんだけ倫好きなんだと思うくらい濃いね。
259 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:08:18 ID:iSEUqcRE
桃毛です。
>>258 このSSを書いたらさらに深みに嵌まったような気がします。
さて、前回より引き続いて第三回目の投稿になります。
『絶華の暦 破倫の歌』 第一回
>>203 『絶華の暦 破倫の歌』 第二回
>>247 ちなみに前回から出演の内親王殿下は原作百五十五話にて登場しております。
今回は中学三年生から高校一年生までのお話です。
2005年=昭和八十年の、原作連載開始の年までやってまいりました。
それでは以下よりいってみます。
『絶華の暦 破倫の歌』 第三回
260 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:09:07 ID:iSEUqcRE
『昭和七十八年・皐月』
倫はこの一時期、高校に上がるのを前にして華道の家元として多忙のさなかにあった。
父が設けてくれた流派創始披露の宴席で糸色家所有の企業や傘下の関連企業の社長・重役に宣伝してくれたお陰で、
弟子が殺到したためである。
当然、流派組織の体系化、法人資格の取得、定款の作成などそれにまつわるあらゆる事務・実務作業が発生した。
糸色家の法務や総務担当員から人数を割き対応がなされたものの、要所では家元の倫の関与が必要とされる。
それら社会と組織のかかわりという面で倫は勉強を実地に重ねねばならず、必然、学業とあいまってたいそう忙しい。
兄の家に遊びに行っている暇などなかった。
いっぽう望のほうは教師三年目である。
望は先年の倫の悪戯によって逆上した女の手で淫行教師の噂が校内にバラ撒かれていたたまれなくなり、逃げるように転勤していた。
今期より東京府小石川区のとある高校に赴任している。
赴任にともない同区に引越しし、趣味がひとめぐりしたのか畳の家で和装で過ごすようになっていた。
さすがに懲りたのか、近頃は特に浮いた話も無いようである。
ようやく倫の嵐のような世事もやや落ち着きを見せてきた頃。
倫は学習院で久々にまともに授業を受けている。
すでに社会と関わりを持って収入を得ている倫は、学校の授業内容の社会生活における有用性は低い物であると判断していた。
が、そこはそれ、まだ義務教育の縛りの中にいる年だ。そんな真理は言うだけ無駄であった。
倫にとって、東京府の学校での授業の退屈さは兄の近くにいるために支払う税金のようなもの。それで納得していた。
内親王は倫の隣席であった。
内親王は入学の日から糸色倫という凛々しい少女に無関心ではいられなかった。
芸道の天稟は言うに及ばず、若年ながら流派の家元として一門を仕切るカリスマ、経営の才。
それでいて驕りもたかぶりもしない快濶なたたずまい。
その経済力も当然中学生の域を遥かに超えている。
倫の華道の家元としての収入はかなりのもので、内親王は誕生日に時価数百万円は下らない大業物の名刀をぽんと贈られ仰天したものだ。
一年、二年と日を重ねる内に次第にこの糸色倫という少女は年に似合わぬ傑人なのだと畏怖の念を抱くようになる。
(倫さんこそまさに絶倫の人、字義の通り『衆に優れたる者』だ。
それを下世話な解釈で揶揄する平民どもの、なんと愚劣、下劣、身の程知らず。ええいひれ伏せ平民ども)
要するに、内親王は糸色倫にいつのまにか憧れていたのだった。
261 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:09:52 ID:iSEUqcRE
学習院では二人は敬して遠ざけられるような立場にあった。
やはり同年代の少女たちとは感性や話題、経済感覚が合わないのだ。
そんな気配は二人も察している。二人は休み時間ごとに教室の喧騒を避け、廊下のはずれで憩うのが習慣のようになっていた。
内親王はそれが嬉しい。彼女もまた初等科時代は周囲から浮き気味で孤独をかこっていた。
それだけに、今日の倫の、どこか足腰がおぼつかない様子をいぶかしんでいた。
「倫さん、最近お疲れに見えますが大丈夫でしょうか?」
内親王の眼は倫が登校しているときは常に倫にそそがれている。いつもと違う友人の様子に気に掛けずにはいられなくなった。
当の倫はそんな友人の観察など露ほどもしらず。
「ありがとうございます。‥体の方は問題ないのですが、どうも気だるい感じはしますわ。仕事疲れというものでしょうか」
倫の口から軽いながらも弱音が出る。それだけ内親王に心を許しているという事だが、本人はそれを意識はしていないようだ。
ところが、内親王はそんな倫の反応が嬉しい。親身な声で返答する。
「でしたらいっそ体を動かされてはいかがでしょうか?そのあと二、三日ゆっくりなさればよろしいでしょう」
内親王にそう言われてみると、確かに倫は近ごろ花の弟子への指導に専心せざるをえず、剣の稽古からも遠ざかっている。
内親王が続けた。
「聞けば倫さんは剣術も学ばれているとか。私も剣を嗜んでおりますが、警視庁の道場に凄い方が講師で来られるのです。
私の学ぶ流派の宗家なのですが、ひとつ出稽古に行ってみませんか?」
そういえば内親王はいつも刀袋を持っている。倫は刀を贈ったりしているのにこの方面での話題が今までなかったのは不思議であった。
倫は行ってみる気になった。友人の気遣いが嬉しかったからでもある。
「それではお言葉に甘えて、お邪魔させていただきましょう」
262 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:10:35 ID:iSEUqcRE
福徳円満、そんな言葉が相応しい老人だった。
内親王とともに警視庁の道場に出稽古にきた倫は、特別講師というその老人を見てそう思った。
中肉中背の均整の取れた体型ながら不思議と円相を思わせる優しげなたたずまい。
ころりと丸い猫の肉球のような両の手。
そして見るものの心を和らげる、柔和そのものの微かな笑みをたたえた顔貌。
その道着に包まれた体躯の進退の、なんとやわらかなことか。
よどみなく、力みなく、音も気配もなく、迷いなく隙もない。
道場に整列した警察官剣士と倫ら出稽古の者への挨拶に頭を下げたしぐさですら、微塵の無駄も感じられない。
美しい。
倫は、およそ一般的な美の概念とはかけ離れているはずの高齢の老剣士に
そんな思いを抱いたことに気づき、剣士として凄まじいまでの戦慄を覚えた。
道場で行われたのはいわゆる剣道の稽古ではなく古流剣術の稽古であった。
老剣士は名古屋の道場でいにしえの道統を受け継いでいるということだった。
基本動作、そして組太刀稽古−。
倫には幼少より親しんだ流れであるが、初めて習う型はたいそう高度なもののように感じられた。
使う竹刀が蟇肌しないという物で、これは竹の先を八つか十六割にして握りまでを皮で包んだものである。
剣道に使う竹刀よりは当たりがやわらかい。そのため組太刀の型で実際に相手を打つこともできる。
倫の学んだ流派では型稽古に木剣を用いていたため、この感覚は新鮮であった。
倫は内弟子とともに型を示す老剣士の動きのなめらかさに目をみはる。
動きに角がまるでないのだ。
その老剣士は一通り型を示すと生徒の間を歩き、柔和な笑みで動きを正す。
倫も内親王と組になって隅のほうで黙々と組太刀に取り組んだ。
内親王は先に述べた通り老剣士の流派を学んでおり、この流派の型に不慣れな倫にあわせてくれた。
だが、老剣士が最後に掛かり稽古を告げたとき、道場の空気が一変した。
否、正確には警察官たちの気配が一変したのだ。
必死、緊張、気負い、覚悟、気合、そんななんともいえぬ張り詰めた気が道場に満ちる。
この講義における掛かり稽古では、すなわち生徒がかわるがわる講師に挑むことも出来る、というものであった。
生徒である警察官達は剣道の世界においてはまさに日本で最高峰、錬士・範士などという称号を受けた猛者どもばかりである。
彼らの中には全国大会の優勝者すら何人もいるのだ。
高校中学と言ったレベルではその身に触れることさえ出来ぬ高次の技量を備えた熟達の遣い手である。
当然、倫や内親王からみても、雲上人のような名誉の剣士たちだ。
そんな彼らが今にも血管が張り裂けんばかりの緊張の中にいるのである。
倫は末席に座しながら隣の内親王の緊張した面持ちを察し、問いただした。
「皆さん、人生一期の決戦におもむくような気ぶりですが‥」
素面素篭手の老人に対し、警察官たちが普段用いているであろう剣道の防具を身につけ始めたさまが異様であった。
内親王はうなづくと、倫を見て答えた。
「倫さん、今から面白い‥いや、恐ろしいものが見れますよ」
冗談を言わぬ友人の真剣な剣幕に、倫は道場の中央に括目した。
263 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:11:29 ID:iSEUqcRE
そして倫は見たのだった。
競技剣道の頂点に位置する日本最高の剣士たちが、素面素篭手の老人に手もなく捻られる光景を。
防具に身を固めた警察官達の動きはまさに俊敏軽捷の獣−、風をまいて飛び込み、老剣士へと稲妻のような太刀を打ち込む。
対する老剣士の動きはむしろ緩慢にさえ見えた。
だがその緩慢な太刀遣いは、相手の打ち込みの動きの裏を取り、
ほとんどは相手と刃を組み合わせることさえなく、一挙動で勝負を決していた。
ぽん、と触れるだけに見える老剣士の竹刀が当たると、壮年の剣士たちは例外なく吹き飛び、或いは地にくずおれ、転がりまわった。
老人は淡々と、敗れた相手に欠点や誤った箇所を丁寧に指摘してやっている。
倫にはそれは魔法どころかおとぎ話を眼にしているのではないかという錯覚すら抱かせた。
やがて老剣士に挑んだ剣士たちの全てが敗れ去り、出稽古の倫に順番がまわってきた。
「糸色倫と申します。よろしくお願い致します」
目上の者への敬意を込めて、倫は深々と頭を下げる。
だが同時に道場はざわめき立っていた。
倫が防具をつけておらず、講師である老剣士と同じく素面素篭手であったからである。
「内親王殿下から伺っておりますよ。なるほど、本当に美しい立ち姿です。
わたしの内弟子にもそうはいません、そこまで軸の通った者は」
倫は褒められたのかわからない。
だが親しく聞く老剣士の声は低いがよく通る心地よさを持っていた。
「ありがとう‥ございます」
「聞けば剣も古流を学ばれていた、とか。そのいでたちはそれゆえでしょうね。
ならば私も、古の道統を受け継ぐものとしてお相手いたしましょう」
「はい、かさねてよろしくお願い致します」
格の違いか、流石の倫も極めて平凡な言葉をつむぐのみだ。
ともあれ、立合いである。
倫は中段に竹刀を据え、―いざ向き合ったそのとき、それは来た。
264 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:14:06 ID:iSEUqcRE
それは、虚無であった。
殺気、気合、敵意、憎悪、気負い、衒気、フェイント、そうした通常の試合に応酬するあらゆる気配・感情、
それら一切が存在しない空白だった。
それでいて、竹刀を無造作に垂らした老剣士の姿はいやに鮮明に写っているのだ。
微かな笑みともつかぬ笑みが、倫に向けられている。
―ほう、私が見えますか。なかなか出来ていらっしゃる―
そうその口が動いたかと見たその時、老剣士の姿がふいに透明になり、掻き消えていた。
ぽんむ。
竹刀の鍔元を握った倫の、右手首の上に老剣士の太刀が軽やかに乗っていた。
瞬間、倫の肘の感覚がなくなり、肩から力が抜け、膝がくだけ、腰が支えを失った。
それはなにか己の核とも言うべきものがこの星の中心へ墜ちてゆくかのような感覚。
そして背骨のすべてが宙に飛び去ったかと感じた刹那、倫の体はぐしゃりと真下の地面へへたり込んでいた。
「均衡、つりあいを真っ直ぐ崩しました。が、かなり手ごたえを覚えました。あなたは天稟をお持ちのようだ」
微笑む老人に助け起こされながら、倫は戦慄を通り越して愉しくさえなっていた。
自分の技倆には多少は自信を持っていた。
それがこれほど木っ端微塵、大人と子供どころか紙人形のごとくにあしらわれるとは。
「感動、いや感激いたしました。わたしどもの学ぶ先には、これほどの境地があることを教えて頂けるなんて」
熱に浮かされたように、倫は興奮していた。
何が起きたかわからなかった。
何をされたのかわからなかった。
上には上が、先には先がある。
そのことがたまらなく嬉しかった。
翌日、ヘリコプターで信州の糸色邸に帰った倫は自室で眼を覚まし、常の二倍ほどにも脹れ上がった手首を見て愕然とする。
老剣士の竹刀を受けたそこは真っ黒に変色し、肉どころか骨の髄のそのまた芯まで痛んだ。
そして気分が悪くなって厠に行った倫は、はじめて己のからだから血尿が排出されるのを見る。
ただ、腕いっぽん打たれたのみで何ということだろうか。
だがそれ以上に驚きなのはいつ何時どう打たれたかがまったく解らなかったことであった。
まるで時間でも止められたかのようだ。
老人がその気であれば竹刀で倫の体の何処だろうと自在に打ち、いとも容易く撲殺できたであろう。
それは速さも力も備えた上での、それ以外の異次元の何か。
おのがたしなむ剣の道の遥か彼方に垣間見える最も恐ろしいものの片鱗を、倫は文字通り骨の髄に徹して感じたのだった。
とにかくも、この腕と軋む体では何もしない方が良い。
倫ははからずも先日の内親王の言葉どおり、しばらくゆっくり休む羽目になった。
265 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:15:20 ID:iSEUqcRE
『昭和七十九年・文月』
糸色倫は学習院女子中等科からそのまま高等科に進学した。
相変わらず関連企業の経営参画や花の指導、学業に剣の稽古と、それらをヘリで往来する忙しい日々を送っていた。
華道の家元であるということは学校内では有名になっており、口さがない級友たちから『絶倫先生』などと呼ばれている。
倫にはうっとおしいだけの事だった。このころから「結婚して糸色の姓を捨てたい」などと言い出すようになった。
だが一方で兄の望にちょっかいをかけることも忘れてはいない。
生活のめまぐるしさに慣れた倫はそのなかで自分の自由な時間を捻出できるようになっていた。
内親王も倫と同じく高等科に上がっていた。
先年より剣の稽古を共にするようになってますます親密となっている。
護衛や侍従に囲まれ、同級生からは敬して遠ざけられる中にあって倫とともに汗を流す時間は彼女には貴重なものだった。
最近では老師の東京府での稽古のほかにとある武道場を借りての自主練習まで倫と行うようになっていた。
今日はまさに、その自主練習の日である。
組太刀の型がぴしゃりと決まる。一瞬に筋肉と神経の緊張が弾け、脱力の中に張りの気を秘めた残心に余韻がたゆたう。
幾度も繰り返された型のなかで倫と内親王の剣はだいぶ練られてきていた。
老師の内弟子との乱取りに近い間切り稽古でも、二人を打ち込める者は高弟数人に過ぎなくなっていた。
内親王の剣は巧緻精密、むろん才の確かさはあるが修練を積み重ねた理詰めの強みがあった。
型で培った、攻めるに重厚、守るに堅実の上品かつネバリの効いた剣風である。
倫のそれは瞬速無形、切り覚えに身についた無駄の無い動きが如何なる態勢からも繰り出される天稟が光る。
合理の極みとも言える型から斬法の精髄を吸い上げ、拍子を違えて展開する難剣であった。
やがて組太刀を崩し、実際の立合いに近い形で展開される稽古の激しさは凄まじいものがあった。
266 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:16:34 ID:iSEUqcRE
見よや、内親王に向きあう倫の、竹刀を構えた立ち姿の凛々しきさまを。
糸色倫は、美しい。内親王は友人を素直にそう思う。
それは剣においてのみならず、日常の様々なる事柄においても―。
それは挙措であった。
立ち居振る舞い、たたずまいであった。
手漉きに髪を漉く指先の柔らかな動き、食するに箸の扱いの確かさと整った作法。
膝を不如意に割らぬ慎み、手を使うに必ずいま一方の手が動きにしたがうそのなめらかさ。
歩むに踏み出すかかとを引きずらず靴音を不必要に立てず、その自らの重さを地球の中心めがけ真っ直ぐ貫きおろしている。
なにより、背筋のきりりとした伸び、身を転ずるときも崩れぬ腰の落ち着き。
それはつまりいかに動くともぴたりと決まって揺るがない正中線の美しさであった。
明治以前、日本人は手足を交互に振っては歩かなかった。
階級職業によって姿の違いはあるが、みな腕を振らず腰を捻らず歩んだものだ。
例えば侍は右手は扇を握り袴の膝上に当て、左手は袖口を持って動かさず、上体を伸ばして歩いた。
その体を捻らない運用法は帯を締めたあわせ袖の着物を着崩れさせない。
手足を同じく遣うのは武術においても同じだった。
刀でも槍でも棒でも弓でもいい、打ち込むときに踏み出す足はどちらか考えてみるとよい。みな手足が揃っている。
茶、花、香、書ほか歌舞音曲にいたるまで、芸能のすべてはこの着物をまとった体の用法を前提にしている。
すなわち、日本人は伝統的に正中線を軸とした腰を捻らないからだの扱いを、自然に行っていたのだ。
そしてその動きが洗練されていればいるほど、理にかなえばかなうほど、日本人はその者に『美』を感じたのである。
美女を言う『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』などという言葉は、
風雅な感性とともに運動体としての美のありかたをも表現している。
現代の我々が、道行く着物の紳士淑女の歩みに郷愁とともにそこはかとない美しさや格好の良さを感じるのは、
何世代にもわたって遺伝子のレベルにまで浸透しているその美意識によるものなのだ。
皇族という、伝統のうえではこの上ない立場にある内親王が、糸色倫に日本的な美しさ、
その精髄たる正中線の美しさを感じたのは当然だった。
倫は学校での制服を除けば生活のほとんどを和服で営んでいた。
由緒ある家に生まれ、和の伝統的建築様式の屋敷に住まい、古き由来を持つ行事と芸能を自然のものとして営む生活を送ってきた倫には、
いにしえの日本人の身体運用法が原型に近いまま染み付いていたのだ。
そしてその美しさは老剣士の謦咳にふれて後ますます研ぎ澄まされて来ているように見えた。
互いの汗が剣尖より飛び散る。
内親王は飛び違う倫の汗の匂いに脳裏を痺れさせている自分に気がついていた。
倫の弾む胸、乱れる気息、筋肉のぴりりとした強張り、そうした気配に胸が疼く。
それは甘やかな、しかしにぶい痛みを伴なう感覚であった。
その甘い痛みはなんという名であったか―。
内親王の寸瞬の思考のぶれに、倫の太刀が決まっていた。
びしりと左の肩口を袈裟に打たれ、内親王は手の竹刀を取り落としそうになる。
「参りました、倫さん」
莞爾と笑みを浮かべた倫は残心を示し礼を返す。
「やっと打ち込めました。殿下の剣の綻びの少なさは素晴らしいですわ」
267 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:17:32 ID:iSEUqcRE
二人は更衣室に備え付けのシャワーを使い汗を流す。
湯を浴びて後、二人は身体を拭いて鏡台の前に座った。
内親王は髪を乾かしながら、同じく隣に座る倫を時々横目で見ていた。
倫の白い喉、鎖骨の曲線、タオルにくるまれた胸のふくらみ。閉じられた膝からつま先までつたう汗がなまめかしい。
倫は育ちのせいかはじらいに薄いところがある。汗がひくとタオルを取り捨て裸身をあらわにした。
「倫さん‥綺麗‥ですね‥」
内親王の声はどこか湿った響きを持っていたが、それには倫は気がつかない。
倫は他人に裸体を誉められたのは初めてだった。同性に褒められると言うのは異性からのそれとはまた別の嬉しさがあるものだ。
もう着替えるつもりでタオルを取った倫だったが、普段兄に発揮しているいたずら心が少し頭をもたげる。
鏡の前に座る内親王にそろそろ近づくと、そのやや控えめなふくらみをおおうタオルに手をかけた。
「殿下のも、見せていただけるかしら‥?」
「え‥り、倫さん‥」
倫の指先が、内親王の鎖骨の下のくぼみをそろりと撫でるように動いた。内親王は思わず声が漏れ出そうになるのを、間一髪押しとどめた。
倫の間近にせまった肌が眩しい。その身からはシャンプーでもボディソープでもないほのかな薫りが、内親王の脳裏をうずかせる。
それは肌に焚きしめられた香の薫りだった。
微かなるそれは嗜みの高雅さとゆかしさ、そしてどこか蠱惑的な官能を感じさせた。
内親王は頭が真っ白になり、鎖骨から肩へとうつる倫の手のひらの、その触るか触らぬかの微かな感覚に身をゆだね切ってしまう。
先ほど打たれた左肩のあたりを倫の指が這うたび、痙攣する喉を奥歯を噛んで制した。
倫の指が、脇に掻い込まれたタオルと肌肉の間に挿し込まれてきた。その爪は剣を扱うために爪が丸く切り整えられている。
うずきは、もう脳裏からいまやからだの奥にまで広がっていた。それは初めて味わう、えも言えぬ心持ち。
乳房の内が、肺の底が、そしてはらわたの奥深くの女の部分までが、甘い痺れを背骨を通して脳に送り込んでくる。
内親王は他者にみずからの身体に触れられるのがこんなにも心地よいものとは、考えてみたこともなかった。
‥否。
他者、ではなく―。糸色倫だから、心地よいのではないのか。
そんなことばが心に浮かんだとき、この日本国の皇統に連なる少女は、自分がはっきり眼前の友人を恋しているのだと自覚していた。
気になって、いつも見ていた。いつも気にかけていた。
見とれていた。そしてそんな自分が、わからなかった。
その答えは、あなたがくれました、倫さん―。
268 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:33:16 ID:iSEUqcRE
少し困ったことになった。倫は思っていた。
ちょっとじゃれてみようかと思っただけだったのに、存外過敏な反応が帰ってきてしまった。
頬も、耳も、ふるふると揺れる肩まで桜色に染まってしまった友人を見て、内心やり過ぎたかと後悔すること数瞬―。
「まぁ、殿下、鏡をご覧になって。殿下のお顔、まるで茹で上がった蛸のよう」
「‥ぁ」
うっとりと半眼で何処か違う世界に遊んでいた内親王は倫の言葉に反射的に右手の鏡に顔を向ける。
そこに本当に真っ赤になった己の顔を目の当たりにして、我に返る。いや『帰らせられた』。
「御免あそばせ、殿下。どうかいたずらをご寛恕くださいましね」
芝居がかった台詞を畏まって吐いた倫は白い裸身をひるがえし、先刻稽古前に執事にヘリから持ってこさせた手荷物をほどきにかかっていた。
内親王は動悸を抑えるのに精一杯だ。
なにかとても上手く機を外されてしまったような気がする。絶妙の呼吸と言うやつだろうか。
彼女はタオルの乱れ捲れ上がった裾を整えると、逃してしまった官能の時に浮かんだ汗をぬぐいはじめた。
それでも眼は倫を追ってしまう。
花の稽古に直行すると言っていた倫は来た時に身につけていた制服をしまい、着物を纏わんとしている。
「‥?あ、あの、倫さん下着は‥」
「‥え?この襦袢が下着‥あ、なるほど。殿下、私は着物のときはお尻に線が出てしまいますので、つけてはおりませんわ。
色々便利なものはあるようですが、わたしはこれに慣れておりますので」
「!?」
今日何度目かの動悸の高まりが内親王の胸を打つ。普段見慣れている友人の着物姿のその下は‥。
「殿下、今日は予定が押しておりますのでお先に失礼いたしますわ。ごきげんよう」
そんな内親王の心は知らずもがな、倫は更衣室のドアを開け退出してしまった。ドアの向こうで執事を呼んだようだ。
その声と足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなっても、内親王の動悸はおさまらなかった。
内親王は、この日の事をずっと後になっても忘れなかった。
それは自分が自分の気持をはっきり自覚した日。そして公人たる皇族としては許されぬ同性に対する想いを自覚した日であった。
この日から彼女は、表にはけして出せぬ想いを心中に蔵して日々を送る事になる。
その埋み火は時折燃え上がり、内親王の臓腑を焼くこととなるのであった。
内親王には知る由もないことであったが、奇しくもそれは、彼女が恋した少女と同じだった。
倫は時田の操縦するヘリのシートに身を預けながら、先刻の事は綺麗に忘れている。
今日の弟子たちへの指導は信州の糸色邸である。
倫はここ何日かの予定と懸案を脳裏に整理すると、その後にできる時間でまた兄の家に遊びに行こうかと考えていた。
この年はその後表面上平穏に推移した年であった。
だがそれはやがてやってくる嵐の前の静けさに過ぎなかった。
当然、誰もそれには気づいてはいなかった。
269 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:34:19 ID:iSEUqcRE
『昭和八十年・葉月』
夏の盛りの暑い日であった。
倫は夏休みであったが蔵井沢の糸色邸で弟子に稽古をつけており、それなりに忙しい。
やがて稽古が一段落し、帰宅する弟子たちを玄関に見送る。そして涼を取りに庭へ回ろうと日傘をとった。
(そういえばお兄様はお出かけだったかしら)
望も帰省してきていたが、今日はいつものちゃらちゃらした格好に着替えるとどこかに出かけたと聞いている。
母屋の角をめぐり庭に向かった倫だったが、何やら庭が騒がしい。
見ると、時田と望が何やら揉みあっている。
その周りに自分と同じ年頃の少女たちが何人か立っていた。初めて見る顔である。
どうやら望の教え子であるらしい。
すかさず時田が少女たちに倫を紹介した。三千の弟子をもつ糸色流華道師範にして糸色望の妹―。まぁ他に言いようもない。
―ふむ、どれも庶民の娘のようじゃな。
倫は時折、無意識裡にではあるが、話し言葉とともに思考言語すらもその口調が時代がかったものになる。
その大元は小学校や学習院での疎外感からくるものなのかも知れなかった。
孤独ではなく孤高。そう自ら思い込むための、倫が社会とその構成人員たる大多数の凡俗に対応するためにいつしか身につけた性質だった。
弟子の指導時もこの口調であったがその場合は若年の自分―弟子たちの大半より、倫はずっと若い―を
師として演出するためにあえて用いる仮面でもある。
眼前の少女たちに改めて眼をやる。
金髪の娘、小学生のような小柄な娘、真ん中分けの娘、ほか何人か―くるり見回して風体を確かめると、興味を失った。
倫は兄の手前、適当に挨拶を返して去るつもりだったが、その少女たちの一人が倫の経歴を聞いて、ぽつりと言った。
「絶倫先生」
途端に倫の血が沸騰する。初対面というのに学習院の下品な地女どもと同じ事をぬかす輩が、人もあろうに兄の教え子にいようとは!
自分がこれほど短気だったとは思いもよらなかったが、湧き立つ怒りは止められない。
「刀を持て」
殿中でございますとなだめる使用人たちに囲まれ、ともあれ引き下がった倫だったが―。
兄の教え子たちとの出会いは差し当たって最悪の部類であったと言えようか。
270 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:35:11 ID:iSEUqcRE
だが、本当に倫を仰天させたのは兄の帰省理由とその教え子たちの糸色家を訪れた理由であった。
それは『見合いの儀』であった。‥よりにもよって見合いの儀とは!
糸色家の伝統行事とされるそれは領内の人間同士が目と目を見合わせたら即座に結婚が成立するという冗談のような行事である。
それは性別を問わない。男同士だろうと女同士だろうと、たちどころに婚姻させられてしまうのだ。
もともとは領主主催の神事や祭の一種だったのだろうが、正確な由来は倫も知らない。
長らく行われていなかったが、面白そうなものなら何でもありの現当主・大の代になって復活されたものであった。
今回は乱脈生活を送ったあげく枯れたように身を謹んでいる望への、皮肉めいた父からの諧謔なのかもしれなかったが、
父の差金であるならば冗談ではすまない。
とにかく問題は兄と目と目が見合った娘が兄の花嫁として迎えられてしまうということだ。
当然ながら実妹である倫は対象から除外されている。聞けば実際に兄を慕う娘も何人かいるとのことだった。
兄が結婚!倫にとってそれは考えてみたこともない、否、考える事を無意識に避けていた絶望的悪夢であった。
いつもなら時田を使いあらゆる妨害を行い、こんな行事などぶち壊しにする所だが、此度の時田は父の命で動いている。
倫が命を下すことはできそうにない。
ことここに至った上はみずから手を下すしかなかろうか―。
倫は不安で波打つ自分の心裡が意外であった。自分はこんなに不安定な人間だったのであろうか?
ところが倫が動くよりも前に、事態は呆気無く終熄してしまった。
当の望本人が、何があったのか、邸内で気絶してしまっていたからである。
時田に介抱された望が言うには何か恐ろしいモノを見た、との事であった。
胸をなで下ろすと言うか、安心する、というのだろうか。
倫は何とも言えない感情を胸に抱きながら時田の報告を聞く。兄の教え子たちは邸内の客殿に一泊し、翌朝帰京するという。
(お兄様を慕う娘、か‥私と同年代の)
まだ個々の名前など記憶していなかったが、倫は『敵』というものの存在をおぼろげに認識させられた。
また自分が糸色望の妹であるということ、そしてそれゆえにこうむる社会的制約というものを思い知らされた出来事でもあった。
そう思うと何やら不快なものが胸に渦を巻きはじめた。
―その夜、倫は刀を手に専用の竹林へと憂さを晴らしに向かったのであった。
271 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:36:13 ID:iSEUqcRE
この日を境に倫は兄の勤務する学校のリサーチを開始する。
兄を取り巻く女生徒達、同僚の教員、近所の住人に至るまで調べ、報告書を上げるよう糸色家の情報部に命じる。
そして見合いの儀で学習したのか、糸色家の歳時記を紐解いて伝統行事を把握し、積極的に催行しはじめた。
それどころか倫本人が由来を捏造し勝手に催したものまであった。
時系列順に―きもいだめし、架空人物誕生会、年が変わって地下段ひな祭り、無縁仏供養、ダメ通過儀礼の七五三などである。
むろん、それを口実に兄に関わり、いじることが目的であった。
倫本人も参加し、次第に兄の教え子たちとも関わるようになってゆく。
それは同年代の知己が少ない倫にとっての新鮮な刺激となった。
学習院での疎外感の裏返しで、庶民の暮らしとその感性に関心を持っていたからでもある。
それらに対する「貧乏人」「庶民」などという上から目線の言い回しは、倫らしい直截的なものだったが。
後にクリスマスで自らが不要になったブランドバッグや高級車をただで配り、感覚のズレを兄から指摘されている。
上記のいわば私的な道楽にくわえ糸色家が新たに始める複数の事業への参画もあり、
華道の指導もあわせるとこの年の倫は公私共に多忙を極めていたと言える。
いぜんとして学習院女子高等科に在籍していたが、スケジュールのすり合わせの為に登校日が削られることが増えていった。
過去最高の忙しさにてんてこ舞いとなった倫は今年度における出席日数が不足してしまい、結局留年する羽目になった。
もっともそんな事は倫は大して気にしてはいなかった。むろん父からの咎めもない。
倫は企業複合体の支配者としての糸色家の家長・大からその代理人、エージェントとして自由に活動可能な、
一族でも重要な役割を持つ立場であると考えられていたからであった。
なにしろ本来その責務を負うべき四人の男子たちは独立してそれぞれの生業を持っている。
本家の娘として兄たちの代わりにその任を果たしている倫に咎められる理由などなかったのである。
糸色倫、学習院女子高等科二年を留年。
来年度もふたたび二年生に編入される。
272 :
桃毛:2010/01/10(日) 06:43:31 ID:iSEUqcRE
『絶華の暦 破倫の歌』
第三回目は以上でおしまいです。
次回もまた明日以降あさってあたりになると思います。
274 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:47:41 ID:r7ev33WA
桃毛です。
すみませんやらかしてしまいました。
前回の投稿で数行のヌケがあったのでここで補足しておきます。
>>264 の末尾、
『倫ははからずも先日の内親王の言葉どおり、しばらくゆっくり休む羽目になった。』
の後に以下の文が入ります。
================================================================
腕が癒えるのにはその後数ヶ月もかかったが、倫は内親王に願い出てともに老剣士に師事することとなる。
新しい刺激は、新しい感性を育む。
倫の剣はそれから長足の進歩を遂げるが、老剣士の教える剣理は手先の領域のみならず組織のレベルにまで適用が可能な普遍性を持っていた。
それはいわば大の兵法とでも言うべきもの。彼女は自らの華道糸色流の運営にも剣で培ったキレを示してゆく。
ほどなく、糸色流は門下に三千人に迫る弟子を抱えるまでに拡大する。
そのことは父の目にもとまり、糸色家の傘下にある企業の運営にも関わるよう命ぜられることになった。
―この年の暮。糸色倫、糸色家の関連企業数社の役員に任命される。
================================================================
読んで下さる方のテンポを損なってしまい本当にすみません。
次回からは気を付けます。うおお。
275 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:48:26 ID:r7ev33WA
引き続き桃毛です。
それと、259の自分のコメ間違ってましたね。
× 今回は中学三年生から高校一年生までのお話です。
○ 今回は中学三年生から高校二年生までのお話です。
学年間違えました、SS本文が正解です。昭和八十年において倫十七歳、高校二年生。失礼しました。
さて、気を取り直して。
『絶華の暦 破倫の歌』第四回目を投稿します。
今回はエロスの前の静けさ、ということでエロ成分はありません。
起承転結闇の「転」的なお話となります(ちなみにこの先、闇はありません)。
昭和八十一年末からの、糸色倫二回目の高校二年生時のお話です。
では以下よりどうぞ、
『絶華の暦 破倫の歌』第四回
276 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:49:21 ID:r7ev33WA
『昭和八十一年・師走』
内親王は学習院女子高等科三年に進級している。留年した倫の一学年先輩になってしまったわけで、当然教室も別となる。
そのため彼女は倫が登校しているか、休み時間などに二年の教室を覗くのが日課のようになっていた。
―また、倫さんは学校に来ない。
廊下の窓から覗いた教室の、ぽかりと開いた倫の机をぼんやり眺めていた内親王は憂鬱の中にあった。
今年度も倫は出席日数が怪しいのではないか、という心配すら抱いていた。ここ一月程はほとんど登校していない。
近頃はともにしていた剣の稽古も倫の予定が合わず、流れ続けている。
会えない、それだけのことで内親王の恋情はつのりにつのった。
あの日の倫の手指の感触と温度を思い出すだけで、内親王のからだは火をともしたように熱くなるというのに。
ただ、今日の放課後には久しぶりに倫に会える。
体調を崩し入院している剣師の見舞いに、ともに訪う約束があったからである。
老師が入院しているのは彼の地元の名古屋の病院であった。
倫とは東京府内で待ち合わせ、ヘリで移動する事になっている。
「お久しぶりです、殿下。少々立て込んでおりまして、ご無沙汰しておりました」
放課後、なんと校庭に降り立ったヘリから現れた倫は、内親王を見ていつものように優雅に挨拶した。
豪奢な振袖に毛皮の外套を合わせた冬の装いであった。
「今度は製菓業を立ち上げる事になりまして、父の代理としてこき使われておりました」
会社組織の整備と工場の手配や従業員の確保などはほぼ済み、やっと自由の身になったという。
内親王は倫の話も上の空に、ただその姿を見て動悸を高鳴らせていた。
「ただ、殿下―。せっかく久しぶりにお会いしましたのに、それが先生のお見舞いになるなんて‥。
相当お悪いとうかがい、心配しておりました」
その言葉に、はたと我に返る内親王。
「はい、内弟子方のお話ではもはや道場には立てぬとか。次回の東京府での指導を楽しみにしておりましたのに‥」
倫はうなずいて内親王の手をついと取ると、ヘリへいざなう。すぐさま、操縦席の時田に離陸を命じた。
277 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:50:21 ID:r7ev33WA
老剣士はもはや死病の床にあった。
警察剣士と倫たちを手も無く捻った頃から兆候は顕れていたらしい。
寒さ厳しい二度の冬を経て、症状がはっきり出たということである。
護衛と執事を従えた少女たちは病院に特有の薬品の微かな香りただよう廊下を下り、目指す老師の病室を訪う。
夫人に先立たれた老剣士には内弟子が交代で世話に当たっていた。少女たちの姿を見て、当直の内弟子が席を外した。
病棟の隅にある個室はこぢんまりとして静かであった。
倫がヘリの中で生けた花を、棚に飾り付けた。内親王は見舞いに携えてきた茶をいれ、老師に捧げる。
「いや、この年になって年頃の女性の見舞いを受けるとは―」
柔和な顔に照れる様がいっそ可愛らしいとさえ言える老師の様子であった。
一見、その顔は死病にある人間とはとても思えない穏やかさだ。
だがその体はげっそりと肉が落ち、なんとも言えぬ衰えた気配が漂っている。死の匂い、とでも言うべきものだろうか。
「お見苦しいでしょうが、ご覧の有様です。殿下、糸色さん、お見舞いに感謝しますよ」
すでに末期を悟った観がある老師の静かな表情に、明日ある若者である少女たちはことばをつぐんでしまう。
だが、老人は違った。
「稽古は続けているようですね。歩む動きが以前より綺麗です。大変結構‥いつまでも精進を忘れぬように。
あなたたちにはまだまだ先があります」
その言葉に、少女たちはどう仕様も無い切なさを覚える。
老師の見舞いにかこつけて倫に会えると心弾んでいた内親王は、師の姿を目の当たりにして己を恥じていた。
「先生にはもっともっと、教えていただきたい事があります。早く良くなって、また道場に‥」
内親王の言葉は、重い声に寸断された。
「殿下。私の体です、もう保たぬことは己が一番わかっております」
それは長い人生を重ねた者にしか出せぬ深い響きを持っていた。
「‥」
「稽古、とはいにしえにならう、と読みます。型には先人が辿り着いた剣理の精髄と自らの人生への想いが詰まっています。
そしてそれらを受け継ぎ、精進した私の想いも。‥稽古なさいませ。私が去っても、型の中に私は剣理とともにあります」
倫の胸にもそれまでにない何かが去来していた。
「先生、でもわたしどもは、とても先生のようには」
老人は茶を一口すすって湯のみを置き、おもむろに答えた。
「私は四、五才の頃より剣を初め、以後七十有余年、一日十時間、たゆまず稽古を重ねて来ました。
糸色さん、あなたにもあと六十年はありましょう。道に果てはなく、ただ生に涯てあるのみ。
ひとそれぞれ、行けるところまで行ってみようと思えば、歳月は意外に早いものですよ。‥花でも、剣でも‥人生でも、ね」
倫たちには返す言葉が見つからなかった。
最期の時を淡々と受け入れつつある老人に、若者が掛けられる言葉などない。
278 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:51:25 ID:r7ev33WA
押し黙ってしまった可憐な見舞い客を思いやったか、老人は口を開く。
「では余興までに、最後の技を見せましょうか。よろしいですかな」
突然のことにはっとなる少女たち。老人は寝床に端然と座った姿であるのに、技とはなんとしたことかと一瞬疑問が浮かぶ。
その刹那であった。
倫と内親王はその背後に何者かの気配を感じ、身を翻す。倫たちは見た―真剣を掲げた老剣士の、今まさにこちらを断ち割らんとする姿を。
それも倫と内親王の後ろにそれぞれひとりづつ――老師が二人いる!
あまりのことに驚愕し身体が強張ったその時に、空気が振動した。
ずしん。
いきなり腹の底に重い何かが叩きつけられた。
その衝撃は少女たちの背後、すなわち身を翻す前に向いていた方向、老人の寝台の方から発せられた。
茶を注いだ湯のみがまっぷたつに割れ、ふたりの黒髪が幾筋か虚空にはね散る。
「!!!」
数瞬の意識の凝固のあと、再度身を転じ半歩下がって身構えようとした少女たちであったが、なぜか膝に力が入らずよろめいた。
腰が痺れ、肩がすくんでいる。今の衝撃ゆえかと眼前の老人を見て愕然とする。
老人は座したまま、指一本だに動かしてはいなかったのだ。
「いかがですか?体は動かずとも技を練ることはできます。意念をもってあなたがたの心をくらまし、
我が斬ノ気をあなたがたの心へ打ち込みました。‥軽く、ですが」
無形ノ神剣。
敵手を居すくめて気絶させたり、甚だしきは気死すらさせる気合術であった。
この老人は死病の床で動かぬ体を横たえながら、一意専心、自らの術技を飽くこと無く研ぎ澄まし、ついにこの神妙絶域にまで至らんとは。
畏怖、感動、恐怖、感謝―。いくつもの想いが少女たちの中に浮かんで消えた。
言葉にできぬ想いは涙と凝ってあふれゆく。
倫と内親王はいつしか滂沱と流れる涙を止めもせず、老師の前に立ち尽くしていた。
老人は二人へにこりと笑う。
「今日のお礼までに、そして遺言がわりに秘伝口訣を授けましょう。
‥それ武は、戈を止めるの意に非ざるなり。『止』とは『歩』なり。則ち戈を担いで戦に歩み赴かん、の意なり。
行く手に何が待ち受くるとも断じて征かん戦人の心なり。
‥当流道歌に云う。切結ブ刀ノ下コソ地獄ナレ、タダ切リ込メヨ神妙ノ剣。‥歌うは武の心、それすなわち『勇心』なり。
私は一生剣術莫迦でしたが、案外人生に通じる言葉だと思いますよ」
看護師が面会時間の終りを告げに、病室を巡回し始めた。
倫と内親王は涙を拭くと老師に名残惜しく別れを告げ、部屋をあとにした。
279 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:52:16 ID:r7ev33WA
帰りのヘリの中で、倫は押し黙る友人をおもんぱかり、そっと見やる。
内親王は沈鬱げに眉をひそめていたが、その瞳には悲しみより何か名状し難いものが浮かんでいる。
倫はそれは今日の濃密な時間の追憶であろうかと憶測した。彼女の方が老師との関わりは長く深かったはずだ。
友人を府内のヘリポートにおろす。
倫は憂いに眉をひそめて、窓から曇天の闇空を眺めていた。
内親王は押し黙って、北西に去ってゆくヘリの光を見送っている。
‥地獄。そう、地獄。
口に出せない、出してはいけない想いを抱いて生きるなんてそれ以外の何物でもない。
倫さんの温度と気配はこうして感じても、その身に触れることはできない。
誰にも相談できず、そして先生にだって言えなかった。
でもその先生は、言葉を遺して下さった。
『勇心』。勇気のことだ。人生勇気が大切、そんな単純な真理。
ああ、私にそんなものがあるのだろうか。
‥人生は、切り結ぶ刀の下だ。
こわい。こわい。こわい。
倫さん、私は−。
内親王はうつむくと、しばらくそのまま胸を押さえていた。
その日が、老師との今生の別れとなった。
しばらく経った年の暮れに、倫は老師の死の知らせと葬儀の日取りの連絡を受ける。
倫にはそれは病死でありながら、朽ちる直前まで己を磨き術技を研ぎ澄ました求道の果てであると感じられた。
最後のときこそ、老師のその生涯で最強の瞬間であったろうとさえ思う。
内親王と初めて出会った桜舞い散る日の会話を思いだす。
あのとき己が語った何気ない言葉、そして内親王の言葉。
(人は、花なのだ。散るが定めの儚き花だ)
倫は思う。
―その花は、老師のように死の寸前に最も大きく咲き誇り、その姿のまま地に落ち逝くことすら、できるのだ。
わたしも、花でありたい。老師のような理を超えて咲いた花でなくともよい。
まずは咲き開き気高く薫る花となりたい。
―常に死を思おう。
去りゆく定めの人の身なれば、悔いを顕世に残さぬように。
寂びゆく余韻を加えた倫の芸道はまた一段、高みへのぼってゆく。
その日から、倫の花に剣に、一層の凄みが加わった。
280 :
桃毛:2010/01/11(月) 18:53:33 ID:r7ev33WA
『昭和八十二年・睦月』
剣師の逝去は悲しみとともに様々な思いを倫にもたらした。
人は死によって無に返るゆえに、生ある今を愉しまねばならない。
さしあたっては、また兄にイタズラでも仕掛けてみようか。気持ちを切り替えた倫はまたそんな事を思っていた。
冬休みの倫は信州の糸色邸にて新年を迎えていた。
望も帰省してきている。標的は同じ屋根の下にいるのだ。
幸い新事業は工場の稼働を待つばかりとなり、今の倫には少々時間がある。
さらに新学期の開始まで、あと数日の猶予があった。
ちなみに他の兄たちはというと、長兄の縁は数年前に息子の交が誕生し時折家族で帰省してきたものの、ある日父に勘当され行方知れず。
交は現在望とともに生活している。次兄の景は暦に縛られるような男ではないため、不意に現れてはいつの間にかいなくなる気ままぶり。
三兄の命は医師として開業し一城の主となったが看護師を数名使うのみの零細医院であり、おいそれと休むわけにも行かない内情があった。
余裕がある時には望と連れ立って帰省してきてはいたが、今年は新年早々忙しいようで、府内にとどまっていた。
雪ぶかい信州の冬は寒い。日の落ちた夜分はなおさらである。
この日の倫は自室で火鉢に手をかざしながら、花の稽古始めに飾る作品の想を練っていた。
夜食にと火鉢の灰に埋めたホイルに包んだ芋の火の通り具合を気にしながら、籠の蜜柑を引き寄せて皮を剥く。
蜜柑もあぶったら美味しかろうかと他愛も無い考えが浮かんだとき、廊下から時田の声がした。
「倫お嬢様。望ぼっちゃまの身辺調査定期報告書が上がって参りました」
望の事は常に悪戯出来るように定期的に調査員を送り込んでいる。だが、ここしばらくは忙しさに報告書を手に取る暇がなかった。
最新の報告を受け取ると、時田を下がらせる。
眼を通していなかったここ二、三ヶ月分のものを引っ張り出し、ファイルをめくりはじめた倫だったが―。
肩がわなわなと震え、見る見るうちに不機嫌になった。
それには望がいかに教え子の女生徒と親睦を深めているか、かつまた女生徒達がいかに望を慕っているかという事ばかりが書かれてあったのだ。
たとえば、『同校生徒・小森霧と宿直室にて同棲状態。交もまじえさながら家族の如し。小森は望の財政管理も行っている模様』
といった具合である。他にも日を遡れば『同校生徒・木津千里と保健室にて同衾したる事実が判明。その後木津は何度も求婚』だとか、
『同校生徒・常月まといと幾度も心中未遂したる事実が判明。以下詳細云々』等といったものだ。
望の生徒たちとは時折倫の催行する行事で顔を合わせていた。
少々極端に過ぎる性格の者ばかりではあった。
だが、学習院の地女どもより余程面白みがあり、兄へのイタズラに巻き込むには最適のスパイスであると思っていた。
しかしながらこのような事実があり、あくまで兄に思いを寄せるというのなら話は別だった。
それに兄も兄だ。悪い癖は治らなかったということだろうか。
自分と同年齢の娘たちに囲まれ、その恋心の対象となっている兄を想像すると、無性にイライラする。
居ても立ってもいられなくなった倫は褞袍を羽織ると勢い良く立ち上がった。膝が火鉢に当たり、埋み火がぱっと火の粉を散らす。
倫の胸中の火も、もう自分ではとめられなかった。
281 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:08:58 ID:r7ev33WA
しんしんと冷気の滲みてくる廊下を、兄の部屋めがけて足早に歩む。
お兄様。お兄様。お兄様。倫の中はその言葉でいっぱいになっていた。
とにかく、お兄様の顔が見たい。
だが、何処かで冷たく今の己を俯瞰している自分もあった。
―いったい今時分兄の部屋に押しかけて何をしようというのか?
いったいどう声をかけて部屋に入り、そして兄になんと言うつもりなのか?
倫はいつしか辿り着いた兄の部屋の前で、引き戸に手を伸ばすことができずに立ち尽くした。
その向こうには確かに兄の気配がする。何年か前のような女連れではない。
障子を透かし見ると、どうやら何か書き物をしているようだ。几帳面で生真面目な望のことだ、何か学校の書類ででもあろうか。
そういえば、幼い頃もこんな姿を見たような気がする。
手が震える。それは寒さのためではない、どう力を込めようともそこから先に伸ばせないのだ。
幼い頃は何の遠慮も会釈も無くこの戸を引き開け、無茶な事を言っては兄を振り回した。
いや、つい最近まで、兄の家に前触れなしにいきなり遊びに行き、ずいぶんと兄を困らせていたはずだった。
それが何故か、今この時は手が出ない。まるで壁でもあるかのように―。
「倫?倫ですか?」
「!」
いきなり、中から声を掛けられた。廊下の薄い明かりが倫を影絵のように浮かび上がらせていたのだろう、望が振り返れば一目瞭然のはずだ。
倫は、何故か声が出ない。ただ眉根を顰ませて、唇を震わせるのみだった。苦しい。からだが重かった。
―お兄様。お兄様。お兄様。‥たすけて。倫を、助けて。
すらりと障子が開き、倫と同じく部屋着の着流しに褞袍を羽織った望がひょいと顔を出す。力なく震える妹を見て少し驚いたようだった。
「どうしたんですか、風邪をひいてしまいますよ。さ、入りなさい。何か用でもあったんですか?」
寒いところに立っている妹を気遣った、それは兄として自然な台詞であったろう。望は機嫌がいいのか、屈託がない。
優しくぽんと肩を叩く兄の顔を、何故か倫は真っ直ぐ見れなかった。
顔をうつむけたまま手を遠慮がちに伸ばし、兄の褞袍の襟をそっとつまむ。
「‥入っても、よろしいの?」
やっとそれだけを搾り出す。倫は自分のそのしわがれた声を聞いて、さらに暗澹たる気分に落ちていく。
―何故、こんな優しく声を掛けられているのに、胸が痛いのだろう。
「?あたりまえです、何か用があるんでしょう?それにそんな所にいたら寒いですよ」
「お兄様の‥クラスは‥」
「え?」
「どうですの?」
倫には見えなかったが、望は怪訝な顔をしたようだ。
「どうって‥ま、まぁ騒がしいと言うか賑やかと言えばいいのか‥色々大変ですが、楽しいところですよ」
「お兄様を慕う娘などいるのではなくて‥?」
そのとき倫には兄が一瞬強張るのがわかった。その喉がふるえ言い淀んだ気配を感じ取る。
「い、いや、中にはそんな生徒さんもいますが、それはそんな年頃にありがちなはしかみたいなものですし‥。
だいいち、私がはるかに年下の、そう、ちょうどお前ぐらいの女の子に手を出すわけないじゃないですか」
282 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:09:49 ID:r7ev33WA
倫の視界で、ぐらり、と足元が揺らぐ。
兄はいま、なんと言ったのか。
そして、なぜ言い淀んだのか。
どうしてそのあと言い繕うような否定的な言葉を吐いたのか。
―だいいちわたしがはるかにとししたの、そう、ちょうどおまえぐらいのおんなのこにてをだすわけないじゃないですか。
‥そして。‥‥おまえぐらいの。‥お前ぐらいの?‥お兄様それはどういうことなの。
なんで私が例に出てくるの?
「ほら、倫。立ち話もなんです、入りなさい。そうだ、蜜柑でもあぶりましょうか?美味しいですよ」
「‥入っても、‥よろしいの?」
さっきと同じ質問が倫の口から出た。だがその声色は先刻より遥かに暗く沈んでいた。
「‥?‥あたりまえです、なに遠慮しているんです、兄妹じゃないですか。それにそんな冷える所にいたら‥あっ、倫!」
‥兄妹。
きょうだい!
その言葉を聞いた刹那、倫は兄の顔を見ると身を翻し、冷たい廊下に駆け出していた。
「倫‥」
望は伸ばしかけた手で虚空をなぜると、その手を胸に置いた。そして廊下の鎧戸を開け、しばらく庭の雪を眺めていた。
なにか思い当たる事があったのか―。ぽつりと呟く。
「なんて顔を、するんですか‥」
廊下を髪振り乱し駆けながら、倫のはらわたは捻れそうだった。
―きょうだい。兄妹。そう、私は妹であの人は兄なのだ。兄の部屋の引き戸に手を伸ばせなかった理由がこれだ。
兄の言葉にやるせない思いを抱いた理由がこれだ。
壁はあったのだ。そう、それはまさしく壁だ。超えられない壁、超えてはいけない壁、‥人倫の壁だった。
283 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:10:37 ID:r7ev33WA
自分の部屋の前に戻ってくると、障子を開けて中に飛び込む。さらに奥の寝室の襖を開けると、敷き延べたしとねにうつ伏せに転がった。
兄が自分の生徒を女性として相手にするにしてもしないにしても。
妹である自分は兄から恋愛対象になりうる異性とすら見ても貰えないのだ。
それはただ兄妹であるゆえに。自分では選べない、両親がそう産んでくれた事によって成立した関係であるがゆえに。
あの部屋には、兄の部屋には。‥自分は『妹』としてしか、入れないのだ!
――絶望した!超えようがない壁に絶望した!
なにも考えず、ただ衝動だけで兄に迫ることが出来た幼時の自分が羨ましい。もうあんな真似はできない。
長ずるに従って身についた常識、理性、道徳。それが恨めしかった。
そして『倫』と言う自分の名前も、今では重かった。
その名はまさに、人として守るべき道徳、正しき行いを意味していたからだ。
己の望みとまさに相反するその名前。
なんという皮肉か!まるで呪いでも掛けられているようだ。
思えば、自分は兄に迫ったその日に拒絶されているのではなかったか。それは、兄に人倫の分別があったからだ。
こんなに近くにいるのに、けして触れてはいけない、なんて。
―いちばん、わたしが、ちかくにいるのに。
ぼろぼろと、ただ流れる涙だけが熱い。身体は冷え切ってしまった。
もう竹林で荒れ狂うなどという幼稚な真似はする気も起きない。そんな力も出ない程、倫の心は拉がれてしまっていた。
倫はそうしてしばらくしとねをかきむしっていたが、今は風邪などで体調を崩すわけにはいかないと思い至り、布団をかぶろうとした。
その時であった。
廊下から、時田の声がした。
「倫お嬢様。お手紙が届いておりますのを失念しておりました」
倫は涙を急いで拭くと鼻をかみ、ひきつった喉を咳払いで整える。
寝室を出て居間に戻り、時田に部屋に入るよう促した。火鉢を火箸でかき回し、息を吹いて炭の火を生き返らせる。
障子を開けた時田が盆に載せた奉書紙と思しき封書を倫に捧げた。
「‥ずいぶん大仰じゃな」
手に取った倫はまっさらの表面を一瞥し裏を返す。ぴくり、倫の眉がわずかに跳ねた。
封書は左封じとなっていた。
文面には墨痕鮮やか、見事な筆跡で―。
『ともに精進練磨せし剣の道、一手試したく候。
即ち来る初稽古の折、道場にて仕合所望にて候。
木剣、真剣、何れなりとも苦しからず候』
とだけあった。その署名こそは―。
「殿下‥!」
これはすなわち、内親王からの果たし状とでも言うべきものであった。
「倫様‥それは‥」
控える時田には文面は見えない。ただ、左封じや封書の大仰さから、何かただならぬものであるということは感じているようだ。
倫はしばらく押し黙っていたが、やがてにやりと唇を釣り上げた。
―老師が亡くなられて思うところあったのかしら。ちょうどいい、私もどう仕様も無いこの胸の内を持て余していたところ―。
「光栄にもデートのお誘いじゃ。時田、紙と筆硯を持て」
時田はむしろ凄絶さを覚えさせる倫の笑みに不安を感じないでもなかったが、いわれるまま道具を用意する。
そして倫はこれも見事な筆蹟でただ一字、『諾』と記したのであった。
ぱきん。
剥き出しの炭火が撥ね、火の粉が舞った。
倫の心にも、先ほどまでとは別の烈々たる焔が踊っていた。
だが、その色は前にも増して黒かった。
284 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:11:34 ID:r7ev33WA
『同・昭和八十二年・睦月』
東京府には雪は積もるどころか降ってさえいない。ただ高く晴れた寒空に冷たい風が吹きすさぶのみだ。
いつも倫たちが稽古に借りている武道場も、そんな厳冬の風になぶられていた。
件の果たし状を受けてから三日が過ぎていた。この日はもともと倫と内親王がかねて約束していた稽古初めの日であった。
この日はいつもとは違い、倫は単身新幹線で府内に乗り込んでいた。乗り換えの後、最寄の駅からタクシーで武道場に到着する。
その手には道着袋とともに、あでやかな振袖に似つかわしくない無骨な荷物を携えていた。
真剣と木剣を収めた、刀袋であった。
内親王はこちらも一人、道場の一隅に座して倫を待っている。ウォームアップは既に済ませ、その身は軽く汗ばんでいた。
彼女は上下する己の胸を見下ろしながら、自問自答している。
―どうしてあんな書面など書き送ってしまったのだろう。確かに剣友としての倫さんと仕合をしてみたいと思ったことは一度や二度ではない。
でも、どうしようもなかったのだ。面と向かって倫さんに、『好きです』などと言えようか?
あのひとはどう思うだろう?
きっと自分は異常な人間だと思われてしまうだろう。平民の言葉で『きもい』、とかいうのかしら?
せっかく親友と思えるほど仲良くなった、そんな関係が、自分が想いを告げることで壊れてしまうかも知れない。それが恐ろしい。
そう、恐ろしかった。
でも、倫さんとは真っ直ぐ向き合いたい。とは言え私は恋愛なんてした事ない。どうしたらいいかわからない。
周りの男性はみんな大人で、私をお姫様としてしか扱ってくれなかった。ただ倫さんだけが、私と同じ高さで接してくれたのだ。
だから、一緒に汗を流したこの剣でなら、倫さんに真っ直ぐ向き合えるのだ。
これがわたしの精一杯。『勇心』の、かけら―。
そのとき内親王は道場の隅の入り口に気配を感じた。そこには道着袴の倫が刀袋を手に、ふわりとたたずんでいた。
「明けましておめでとうございます、殿下。お誘いにより糸色倫、まかりこしました」
倫は音も無く道場の床を歩み、内親王の正面の壁際で止まった。
内親王は八方眼に倫の姿を捉えながら、語りだす。
「陛下より賜剣の儀にて賜った小刀を手にした時から、日ノ本の皇族に連なる者として日本文化の精髄たる剣を学ばねばならぬと志し、
稽古を始めました。それより幾星霜―。
剣師の逝去を節目として師より承けしこの身の技倆、あなたと一手試したく書を致した次第。
‥不躾な申し出ながら、快諾頂けたこと感謝いたします、倫さん」
すでに、ぴりぴりと空気が張り詰めてきている。互いの肌に感じる冷気は、気温の為だけではなかった。
倫は木剣と真剣を包む刀袋の緒を解くと、両刀の柄をあらわにした。
「口上承りました。して、木剣、真剣何れにて仕らん?」
「真剣が所望!」
内親王が叫ぶ。
二人の少女は同時に抜刀すると鞘を置き、道場中央に歩む。立間合いを取って向き合うと、ゆっくりとその剣尖を上げていった。
285 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:12:46 ID:r7ev33WA
対峙した二人のあいだに、重く、しかし澄んだ空気が満ちてゆく。
おたがい、その身に変化未然の剣気を練りながら、張り詰めた虚空に意識のフェイント−斬の意のみを飛ばしあう。
中段青眼の剣尖が鶺鴒の尾のごとく揺れ、体中の筋肉が寸瞬、痙攣する。
心気のこもらぬフェイントといえど、それに迂闊に反応してしまってはその動きの裏を取る様な嵌め技が仕込まれている。
それが二人の学んだ剣術の特徴であり、お互いその手の内は知悉していた。
それゆえに、不動無言の心と心の削りあいは熾烈を極めた。
えぇい!
ぅおおう!
臍下丹田の底から上がる唱歌の気合が応酬する。いつしか二人はびっしりと汗を流し、息も僅かに乱してきていた。
(流石ですね、倫さん。これほどの敵手とは‥冥加!)
内親王が唇を僅かにほころばせる。
倫はその一瞬に一足一刀の間ざかいを割り、上段から打撃を相手の真っ向に送り込んでいた。
内親王が剣を逆立てて右半身に体を移しざま打撃を鎬で受け流した。
上体が流れかける倫に、かぶせた太刀でがら空きの頚動脈へ袈裟に切り落とす。内親王が自信をもって送った一刀であった。
その必殺の太刀の閃くところ、倫の姿が消え去っていた。
「!」
倫は内親王の返し技を自らの打撃の瞬間に読んでいた。太刀を流される一刹那前に膝を抜き、相手の斬撃を潜ったのだ。
倫はその地を摺るような脇構えから内親王の足をなぎ払う。瞬転、内親王は飛燕のごとく横っ跳びに飛び退った。
空中で刀身に身を蔵し、地に着くときには身をかばいつつ既に次の動きの態勢を整えていた。
倫は地から伸び上がりながら真半身上段に太刀をかかげると、鳥居の構えに移りざま一気に踏み込み、右片手打ちに相手の真額を襲う。
これははるか遠間からの奇襲となった。半瞬反応が遅れた内親王だったが着地の態勢が前面投影面積の狭い半身だったことが幸いした。
その一刀を鎬で撥ねそらしつつ剣を左肩に柄尻を前に担ぎ、逸れた倫の太刀道の内側に入り込みつつ柄尻を踏み込んできた倫の顔面に叩き込む。
そのカウンターを倫は小首をひねって躱し、腰に控えさせていた左腕の突きを内親王の水月へ打ち込んでいた。
片手打ちを内側に入られて生命あった時のために備えた、窮余の一手であった。
もし脇差か小刀を帯びていればそれを用いてまさに必殺の交差法となったであろう。
「ぐぅっ!」
だがそれは所詮は素手の打撃。呻くだけで耐えた内親王は踏み込んだ自らの左足を倫の右足膝裏に踏み変えて刈り、身を転ずる。
重心を掛けた前足を一瞬で崩された倫はあおのけに倒れかかった。その崩れた倫に内親王が横薙ぎの一刀を容赦なく送り込む。
倫の反応は凄まじかった。
地に残った左足で跳び相手の斬撃の外側に身を逃すと同時に交差するように反撃を繰り出していたのである。
だがそれはさすがに不十分な態勢であったためか、内親王の拳を狙った一撃はその鍔の端を削り落としたのみであった。
倫は後ろに一歩二歩と跳び、立間合いを保って剣を構え直した。
一方の内親王もまた攻勢を収め呼吸を整える。鍔を越えた倫の切先が僅かにかすったか、左手の甲に一滴、血が滲んでいた。
ほんの十秒にも満たない、つむじ風のような攻防であった。
286 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:14:01 ID:r7ev33WA
二人の少女は互いの太刀の重さ、駆け引きに瞠目していた。
倫は内親王の手堅く揺るがぬ磐石のような身構えと隙のなさに。
内親王は倫のどんな態勢からでも繰り出してくる変幻万化の技に。
たがいにぶるぶると、胆の底から震えが走る。
最も親しい友でありながら、最もかみ合う恐るべき敵手たるとは。
「心底恐ろしいと思いながら、不思議に安らぎますわ。あなたは、ほんとうにふしぎ」
倫は剣の向こうに敵手をみつめた。
「こうしていると、嫌なことも憂し事もみな忘れられそう」
脳裏に浮かんだ、兄の笑み。におい。温度。
倫はそれらが決して手に入らぬという絶望から、今この時だけは自由に解き放たれていた。
「安らぐ、と?倫さんこそ、本当にふしぎですわ」
内親王は僅かに歯をきしらせる。
―忘れられない。
倫と刃を重ねれば重ねるほど、黒雲が心の地平を覆いゆくようだ。
ああ。本当に伝えたい事は違うのに。あなたの芸道への賞賛などではないのに。
言ってはいけない言葉、抱いてはいけない思い。それゆえに剣を交わす事を望んだはずなのに―。
彼女はこうして己が剣を手に友人と対峙しているという事に、揺らぎ始めていた。
師に示された『勇心』をなんとか奮って、倫の前に立ったはずであったのに。
「倫さん‥私は‥」
「殿下‥もっと、いいですわよね?もっと、この時間を―」
いつしか倫の気配が変わっていた。
自分の中でどうにも処理しようのない兄への想い。
それをすっかり忘れ去って思うまま生命を燃焼させることのできる仕合という時空に、倫は現実世界を離れて逃避しつつあったといっていい。
それは一度兄に迫るも拒絶され、その後少々屈折したやり方でしか兄に関わってこれなかった倫の精神の弱さであろう。
だからこそこの真剣と言う常軌を逸した仕合を受けたのだ。
極論すれば彼女は逃げ続けてきたのだ。花に、剣に、兄へのイタズラに。
そして今またこの真剣勝負のもたらす麻薬にも似た充実感に。
今このときの倫は、嫌な事に眼をそむけ、貪欲に目先の快感を追求しようとするわがままな少女にすぎない。
だがそれだけに、剣への全霊の傾注ぶりは凄まじい。さながら鬼神憑きのごとく、この時の倫の技量は研ぎ澄まされつつあった。
内親王は眼前の剣友が、自分の知らない何か別のものに変じてゆくように感じられた。
倫の掲げる剣に篭もる剣気は試合の領域を遥か越えつつあった。
彼我の生死を問わぬ必死必殺の境地−。
倫は岩間に染み入る水のように自然に、内親王の間を侵し始めた。
内親王には倫の姿がおぼろにゆらぎ、その剣ばかりが巌山のごとく巨大に迫って見える。
そしてその剣にたたえられた静謐な殺気は、まっすぐに『死』のイメージとなって彼女に衝きつけられてきた。
「り、倫さん‥私はもう‥」
「何をおっしゃるの、殿下‥私はまだ満足してはいませんわ。‥さぁ、いきますわよ」
一刹、白刃が虚空を裂いて走った。
その凄まじい迅さは、内親王が回避に専心せざるをえないほどのものだった。
倫の一撃はまったく剣を振り上げずに体移動と手の内の締まりのみで打つ、最短最速の『石火の打ち』であった。
もし決まっていたら、内親王は横面から脳漿を撒き散らして地に転がっていただろう。
内親王が倫の太刀をかろうじて避けえたのはともに技を練った間がら、かすかに太刀筋と呼吸の見切りがついたゆえか。
激烈な打撃を避けてかしぎながらも間を取ろうと退る内親王のからだを、倫はつるつると、流水の足捌きで追うともなく追う。
恍惚となった倫の菩薩のような半眼は、眼前の敵手が己の親友であるという認識をもとうに離れ去っているかのように静かであった。
すい、と、倫の剣先が虚空をたゆたう。
風に舞い上がる花びらのように軽く自然な動きであった。
その虚空に巻く風を、内親王はもう読む事はできなかった。
287 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:15:34 ID:r7ev33WA
―次は、斬られる‥。
内親王は迫り来る絶望的な現実にかろうじて自我を保ってはいた。
倫は先ほどまでとはまるで別人のようだ。
倫をさながら剣鬼ならしめたきっかけは、自分がもたらしたものなのか−。
―怖い。
初めて抱くその感情は、剣術において最も忌まれるものであった。
身がすくみ、心がかたまり、気が萎え、意は働かなくなる。
行き着くところは、ただ死である。
人は変わる。
何かがきっかけである刹那とつぜん、それまでとは別の存在に変わってしまう。
転生とさえ言えるほど、異次元の技量が突然備わってしまう者もいる。
そして、凛々しき者も心くじけた瞬間、永遠に卑屈な者に変わりうる‥。
内親王の心は今にも砕かれんばかりとなっていた。
その時、倫の身体が間ざかいを無造作に割っていた。内親王が恐怖に身の運びがほころんだその意の虚の一刹那。
絶妙の、そして必殺の拍子であった。
そのとき倫は、ただただ楽しかった。
掌中の剣と自分がまるで一体のように感じられ、心とからだが自在に動くのだ。
圧倒的な歓喜と全能感の中で、眼前の存在などもはや塵芥ほどの障害にも感じなかった。
もう倫にはその想念のどす黒さに気づける理性はない。
その心はもはや剣の魔界にあり、その中には次は何をしても斬れるという確信だけがあった。
―もうお仕舞いにしようかしら。
終局の決断にためらいはなかった。
―そう、こうやって、手を伸ばすだけで−。
内親王の頭上に、もはや受けもかわしもならぬ絶対必殺の一刀が振り落とされた。
288 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:31:45 ID:r7ev33WA
まさにその、涅槃寂静の時空の一点に。
内親王は認識だけが鋭敏となり、死を前に極限まで引き伸ばされた時空感覚の中で複数の思考の海に浮かんでいた。
―嗚呼。
仕合には負け、心を折られ、何も出来ず何も言えず、果ては命まで喪う!
絶望した!己に絶望した!
眼前の相手は、もう糸色倫ではないのか。まるで剣魔、恐怖の存在―。
ああ、見える、私の頭上に三日月のごとく煌めく太刀が落ちてくる。
私をまっぷたつに断ち割って、その血の海に一掬の涙を注いでくれるだろうか?それとも‥?
‥いやだ。
倫さんの手にかかるのも、倫さんがその手を汚すのも、いやだ。
そんな事のために、私は立合いを望んだのではなかった。勇心をふるって、私は‥!
ふるって?
‥そうか。それも、ごまかし、ただの逃避だったのだ。本当はわかっていた。
私が想いを伝えても、勝手に倫さんはこう思うだろう、どうせ駄目だと諦めていたのだ。
果たし状など送って、真剣で斬り合っても、それは『真剣』なんかじゃ、なかった。
‥死ねない。‥逃げたまま、死ねない。
先生、私は、ばかでした―。
もう一度、今度はしっかり勇気を持って、やってみます。
‥わ た し の 、 い と し き ひ と に 向 か い 合 う た め に ―
―切結ブ刀ノ下コソ地獄ナレ、タダ切リ込メヨ神妙ノ剣―
師より受けた道歌が脳裏に閃く。手にはしかと、愛刀の感触があった。血が通い、意が通い、気が満ちる。動く。この手は動く!
やいば閃く地獄の底に、すくむ己を動かすものは。
武の本儀、生の極意。
まことの、『勇心』であった。
からだが剣が、自然に技に乗っていった。
喝吶!
倫の一刀に、後から発した内親王の太刀が鎬あわせに交錯した。
体移動とシンの重さが乗った内親王のネバりの効いた太刀が、倫の正中線にぴたり、合わさる。
内親王の正中線を断ち割るはずだった倫の剣はそれによって太刀道をはずされ、半身に体を移した内親王の体の外にはじき出される。
倫の太刀の鎬から峰に合い乗りスリ落とした内親王の太刀は手もと鍔元に倫の太刀を押さえ、
その物打ちはぴたり、倫の頭上一寸で止まっていた。
剣と剣の交差法、その窮極の一手‥合し撃ち、であった。
内親王が剣を止めねば倫は脳中まで斬割されていたはず。
絶対必勝の勢にあったはずの倫の、完璧な敗北であった。
倫が呆然、眼が見開いて固まったその心気意の虚に。
内親王は剣を倫からはずすと、自然に一歩を踏み出していた。
その足が地を踏むと同時に。
口唇が、倫のそれに押し当てられていた。
289 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:33:11 ID:r7ev33WA
「え‥?」
「倫さん‥眼が覚めまして?」
「‥‥。わたし、あなたを斬ろうと‥!」
人肌のぬくみが、人外魔境にあった倫の心を呼び戻す。
倫は今まさに友を手にかけるところを、その友によって救われたのだと悟った。
「わたし、わたし‥何ということを」
内親王は唇を倫のそれにふれさせたまま、剣をはなしたその手を倫の背に廻した。
そのまま、みずからの想いを倫の中に注ぎ込むかのように、静かに言葉をつむいでゆく。
「わたしは、倫さん、あなたが好きでした。あなたはとても綺麗で‥気品、威厳、才能、そして自由、その全てを持っていました」
「‥」
倫はただ黙ってその告白を聞いていた。友人の言葉が重く肺腑にのしかかる。
しかし自分が人生でも幾度もあるわけではない真実の時間に立っている事を自覚していた。
「なればこそ、あなたの奔放と闊達は私の憧れとなったのでしょうね‥それが恋へと育つのを、とどめる事ができませんでした。
おなじ、女性であるというのに」
倫の背に回した手が、震えた。
「けれどこの身は皇族、逃れることもやめることもできぬ立場。
‥いずれは国民の前に立ち、その代表として異国の貴顕と交わり公務を果たさねばならぬ身。
だから、言えませんでした。ずっとずっと、あなたを好きでした、と」
自らに言い聞かせるかのような内親王のその声は震えしわがれ、自らの境遇への呪詛すらも滲んでいた。
抱いてはいけない思い。
口に出してはいけない言葉。
彼女にとって人生とは逃れえぬさだめ、未然の夢幻境ではなく確定された閉塞、牢獄だったのだ。
倫は手の内をゆるめ、掌中の白刃を放り出す。
倫の太刀は重力に従い道場の床に突き立った。
いつしかふたりは眼を閉じ、身じろぎもせず、その唇が魂のふるえと温度を伝えあうのみとなっていた。
「こうして、あなたに真剣白刃での試合などを望んでしまったのは‥ただの逃避、わたしの弱さでした」
倫は親友の抱擁に身をゆだねながら、その言葉を自らの身に引き比べていた。
想いあぐねて悶々とし芸事に気を紛らわせ、挙句に勝負に淫してこの友人を手にかけようとすらした自分に比して、何という強さだろう。
刀の下に命をさらし、今またこの糸色倫のみならずおのれ自身をも打ち破って心を直接ぶつけてきている―。
「その弱さゆえに、わたしは倫さんを人殺しにする所でした。
すみません、倫さん。わたしは愚かでした。はじめからただこうして向き合って、想いを告げればよかったものを。
本当に私は、ばかでした―」
倫は、内親王が身に宿した強さのみなもとを、はたと悟った。
自らの弱さ、愚かさを受け入れ、そしてなお前へと進んでゆこうとする意志―それは、『勇心』であったのだと。
途端に、恥ずかしさで頭がいっぱいになった。自分の愚かしさに胸が潰れそうになった。
そして自分はこの友に救われたのだと思い知らされた。
「殿下‥あなたは本当の『勇心』を悟られたのですね。
先の一刀は愚かなわたしとあなたの弱さを斬って捨てる、会心の一太刀‥。
糸色倫は負けました、そして、‥ありがとうございます」
その時、ぱたぱたと倫の頬に熱い雫が散りかかる。
唇以上に熱いそれは内親王の涙―倫がその人生で初めてその身にうけた、真実の『生命の水』であった。
290 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:34:05 ID:r7ev33WA
内親王は倫の衷心からの言葉に誠を感じていた。
だが彼女の悲しいまでの聡明さは涙と感動に流されることはなかった。
倫が自分の恋情を受け入れてくれたとは、判断しなかったのだ。
涙をおさめ、彼女はまっすぐ倫を見た。倫もまた、彼女を見返していた。
その倫の瞳の色を、何とあらわせばいいだろう。
からだは触れ合いながら、永遠に遠い−。
こころは届いた。
だが、まごころは届くとも、相手がそれを受け入れるかどうかとは別の物語なのだ。
「ですが、殿下。申し訳ありません、わたしは−」
恋する者の勘働きに、年齢や経験は関係がない。内親王は倫の様子を見て、すぐに答えを悟った。
「‥好きな方が、いらっしゃるのでしょう‥?倫さん。
今日は何という日でしょう、決死の勝負に勝って、必死の恋に敗れるとは」
内親王の肩に両手を置き、倫はそのからだを離す。
倫は、答えねばならないと感じていた。
命を懸け、勇気を振り絞って己に挑んできた対等の者へ。
誰にも漏らすことのなかった秘めおきし感情がいま、真摯な言葉に答えるため倫の中で形となる。
「あなたの想いには‥応えることはできません。
私は、ずっと恋する人がいます。
それはけして口に出してはならぬひと、抱いてはいけない想い。触れてはならぬ‥禁忌」
「倫さん‥わたしと、おなじ‥?」
「私が恋ふるのは‥わが四人の兄の末兄、望‥お兄様」
二人の少女は、いまや深閑と静まり返った道場の中央、突き立つ太刀を傍らに正座して向き合っていた。
薄明かりに鈍くきらめく白刃のごとく、彼女達は抜き身の己を晒し合っている。
「まだ分別もつかないころ‥兄には一度迫って拒絶されました。あの時は恋というものでもなく‥
でもきっと、今の私はあの夜から生まれた」
「‥」
「それから私は‥きっとまた拒絶されるのが怖くて、いたずらして兄を困らせるぐらいでしか関われませんでした。
兄の怒る顔、困る顔を見るのが楽しくてしょうがなかった。
このくらいなら許してくれる、ここまではやっても大丈夫、そんな卑しい見切りを心のどこかでつけながら。
今までずっとそう。そうするたびに、あの人への想いは強まっていったのに」
同じだ。内親王は思っていた。程度の差こそあれ、怖くて、臆病で、恋する相手にたいした事も出来なかった自分と。
何でも出来て颯爽としていた倫さんが、私の憧れだったこの人が。
「これからも、そうなさるの?倫さん」
「‥それは‥。‥あれから何年も経って、色々と知って‥。
身についた常識や道徳や人倫の道が、邪魔をします‥。兄妹‥ですもの」
291 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:34:54 ID:r7ev33WA
突然、内親王の両腕が倫の肩をつかんだ。
「倫さん!これから一生迷うの?ずっとそうやって死ぬまで悶えているの?そしておばあちゃんになって、死んでいくの?
私は嫌、だから生きるか死ぬかの瀬戸際で勇気を出して自分を変えて、倫さんに告白したんです。
ねえ倫さん、先生から何も感じなかったんですか?今のままじゃ、何も変わりませんわ!」
「殿下‥」
「先生の道歌を思い出して。私でさえ、勇の心であなたに向き合えました」
「‥」
倫の手が内親王の身体を引き寄せ、その背に回されていた。
倫は腕の中の友人を抱きしめながら、溢れ出る涙で相手の肩を濡らしていた。
先ほど嫌というほど思い知った恥が、自らの愚かしさが、再び身を焼く。
自分は逃げていた。逃げて逃げて、やけになっていた。
だが、生命を懸けて自分の眩んだ眼を覚ましてくれたこの友の想いからは逃げるわけにはいかなかった。
変わらねばならない。応えねばならない。そう思ったとき、倫の心は決まっていた。
「そう‥ですね‥。‥道徳も、常識も、顔も知らない他人が作ったもの。何が人倫、ですか。そんなものまっぷたつですわ‥」
それは道徳という人として守るべき道、即ち『倫』をみずから打ち破るという宣言だった。
それは破倫の恋という許されぬ道へ踏み込んでゆく、不退転の覚悟だった。
そして糸色倫が糸色倫を打ち破り、越えて行くという決意であった。
「殿下、‥いえ、眞子さん。ありがとうございます。私はもう一度、もう一度だけ兄にぶつかってみます。
後悔しないよう、‥ええ、この生命かけて」
内親王は胸と胸をふれあわせているこの友に、いま何かが宿ったことを確信していた。
そして失恋の痛みはあったが、倫に何かを与えることが出来たという喜びも感じていた。
「‥やっと名前で呼んでくれましたね。‥嬉しい。‥わたしも今日できっぱりけじめがつきました。
ではいつか、上手くいったかどうか聞かせて頂けますね‥絶倫先生?」
「まぁ」
ぱっと身を離しざま、口さがない同級生達が呼んでいた倫へのあだ名を、ほろり口にした内親王。
いたずらっぽい笑みに込められた、そう諧謔に紛れさせてしかあらわせない何か。
それは少々の悪態や悪口の応酬をむしろ楽しむ、人と人とのある関係性へ、二人が踏み出した証なのかもしれなかった。
ぷう、と頬を膨らませた倫は、次の瞬間、ころころと笑い出した。
その笑い声に、すぐにもうひとつの笑い声が重なる。
広い道場に、年頃の少女たちの楽しげな声がしばらくやまなかった。
人は生きる間、幾度も真実の瞬間に出会う。それは人の人生に成長と変化を与える運命の種子だ。
多くの人はその刹那、それが宝石のように貴重なものだとは気付かない。遠く過ぎ去った或るとき、もどらぬ時の重さに気付くのみだ。
けれどこの二人の少女は、今日幾度もその一瞬を共有し、それを認識し、その価値を受け止めあった。
身を重ねずとも心をともにせずとも、白刃に散らした火花、そして手に入れた心の力は、彼女たちが人生を生きるしるべとなるだろう。
新学期初日。
糸色倫、学習院女子高等科より小石川区の某高校へ転校届を提出。
292 :
桃毛:2010/01/11(月) 19:42:32 ID:r7ev33WA
『絶華の暦 破倫の歌』
第四回目は以上でおしまいです。
今回はたまたま仕事が早く片付き前回の翌日に投稿できました。
エロスもなく趣味に走った回ですみませんです。
さて、次回はやはり明日かあさってかになると思います。
ずいぶん引っ張りましたが次回で最終回となります。
倫の艶姿です。
ではまた。
最終回を楽しみにしている。
荒らしと思われないようにするため、
必要なレス以外はしないようにした。
エロではない二次創作ネタはここではスレ違いだしな…。
私の二次創作は、リストカッターケンイチ方式が主だからな。
例:エロパロネタを一太郎で編集している最中、突然、ハングアップし、
「問題が発生したため、ititaro.exeを終了します。」というメッセージが出て、
新しい差分が消えてしまった。ゆっくりとパソコンの電源を落とした絶望先生は、
そこで1本…。
♪チャ〜 チャラ チャ〜♪←絶望が手首を切った事を意味する音楽
このような感じのネタにハマっているし。
294 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:28:06 ID:KJkS/idv
桃毛です。
『絶華の暦 破倫の歌』第五回目を投稿します。
今回で最終回となります。
お話はエロありです。やっとエロパロに投稿する者の本分を果たすことができます。
最後だけに今まででも一番長いのですが、濡れ場が結構ありますもので‥。
では以下よりどうぞ、
『絶華の暦 破倫の歌』最終回
295 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:29:06 ID:KJkS/idv
『昭和八十二年・如月』
決心はついたものの、新学期が始まると倫はやはり忙しい日々に翻弄された。
その中で先年より倫が関わった製菓業の方も無事に創業し、工場の稼働を開始していた。
彼女の考案になる痛チョコなどの珍商品も今月のバレンタイン商戦において売れ行きはなかなかであった。
その際兄と童貞男子を含むその教え子たちを工場に招き、『チェリーとチョコレート工場』に掛けたちょっとしたイタズラも試みている。
兄を見学から締め出し『のべつまくなしやんちゃな時期』などをからかっても、以前のような黒い痛みはもう、湧かなかった。
今はもう、時期を選んで挑むだけ―。そう想い定めた倫は、純粋に兄と触れあう時間を楽しめたのであった。
ちなみにこの糸色製菓は後に『神シールチョコ』というヒット商品を発売し、倫をして「お金を刷っているよう」と言わしめる程の
莫大な利益を上げることになる。
転校の手続きも並行して進められていた。
学習院から転出するにあたってやはり出席日数が不足していた倫は、転入先でさらにもう一度二年生をやり直す事になった。
望の勤務するその小石川区の某高校で、倫は自分が兄のクラスに編入されるよう工作する事も忘れない。
倫は一つ一つ事案を片付けながら、己の心が平静な事に少し驚いていた。
もう以前のように専用竹林で荒れ狂う事もふっつりと絶えている。
友と刃を交えた時からの戒めか、真剣はあまり執らないようになっていた。
『昭和八十二年・弥生』
その日は学習院女子高等科の卒業式であった。
満開の桜が在校生と卒業生の頭上を覆い、思い出の日に文字通り花を添えている。
このとき倫は学校から依頼を受け、壇上はじめ会場各所を飾る花を仕上げている。弟子も動員しての大仕事となった。
式も無事に済んだ後、校門前でマスコミと護衛に囲まれる内親王に倫は歩み寄っていく。
「ご卒業おめでとうございます、先輩」
倫のそのからかうような物言いに、内親王は眉をしかめる。だがその眼は笑っていた。
「本当はあなたも送られる立場のはずでしたのに。でも、ありがとうございます」
内親王は国際基督教大学への進学が決まっていた。今度は日本以外の文化を積極的に学ぼうと志したとのことである。
彼女はふいに倫の耳に口を寄せ、周りに聞こえないようにささやき声で問いかけた。
「その後、上手くいきましたか?」
「いえ、まだですの。ただD-DAYは決めております。糸色倫、一世一代、史上最大最後の作戦ですわ」
「倫さん‥頑張って」
倫は頷くと、友人に携えてきた花束を捧げた。
「今日が私にとっても学習院最後の日です。眞子さんも、どうかお元気で」
その眼は力に満ちて澄んでいる。風に翻る倫の髪に過ぎし日の香の薫りを嗅ぎながら、内親王はやはり強い瞳で微笑みを返した。
「ごきげんよう‥ひとまずは、さよなら‥絶倫先生」
別れの感傷が、内親王の胸を満たす。
だがそれゆえに、友人の言葉にただようどこか切羽詰った危うさには気がつけなかった。
互いに振り返らず去ってゆく少女たちのあいだを、ひとひら散った桜の花弁が、風に乗って飛んでいった。
296 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:30:29 ID:KJkS/idv
『ふたたび昭和八十二年・卯月』
湯浴みを済ませ、髪を乾かした倫は湯殿を出ると自室に向かった。
廊下から庭のはるか彼方に皓々と照る月を見やる。信州の澄んだ空気に照る月は美しい。今宵は更待月であった。
(もう十年以上も経つのね‥。私の世界が変わった夜から)
新年度を控えた春休みも終りに近い宵であった。倫はまさにこの休み明けから東京府小石川区の高校の生徒となり、兄の教え子となる。
同じく帰省してきている兄の望も今夜は自室でくつろいでいるのは確認済みであった。
倫は新しい学校の環境について話を聞いておきたい、そんな口実で兄の部屋を訪う約束を取り付けてある。
しばし立ち止まった倫は胸に手を当てる。動悸はない。それを確認して頷くと、自らの部屋にこもった。
鏡台に向かい、艶紅の貝殻を取り出す。薬指―それは紅差し指とも言われる―でつややかな唇に薄く紅を引く。
髪に櫛を入れ、浴衣を脱ぎ捨てると、素肌に肌襦袢、そして白無垢の小袖に袖を通す。
前をはだけたまま、香を焚いた香炉の前に膝立ち、襟をくつろげて肌に香を焚きしめた。
身を整える倫の仕草は落ち着いていた。作戦、などと内親王に謳った倫であったが実のところそんなものはなかった。
ただ生のままうぶのままの心と身体をまっすぐ兄に晒すのみである、倫はそう決めていたのだ。そう、今宵はあの夜の続きなのだから。
襟を合わせ、帯を締める。
倫は衣裳部屋の隅の刀箪笥の引き出しを開けると、所有する本身のなかから鎬造りで厚重ねの短刀を選び出す。
寝刃を合わせて身に帯びた。準備はすんだ。
覆いを備えた優美な手燭に蝋燭を差し火を灯す。障子を開け、廊下に出た。
ためらいはない。ひんやりとした空気が、倫には心地良かった。
薄暗い廊下を、おぼろな火を掲げた白装束の少女が歩む。
もしもこの情景を見るものがいたら、その眼には人の世の者ならぬあやかしめいた幻想とすら映ったかも知れぬ。
歩みを進める倫の眼前には曲がり角―この先が、望の部屋であった。
と、その角の暗がりから染み出るように倫の進路を扼する黒服の人影が、ひとり―。
執事の、時田であった。
297 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:31:12 ID:KJkS/idv
「時田‥」
初老の老執事は、恭しく、しかし重々しく口を開いた。
「どうしても‥行かれますか」
「‥」
「この時田、倫様ご幼少のみぎりよりずっと見守って参りました。倫様のお気持ちはこの時田よく存じあげておりますが‥。
‥ご兄妹でありますぞ。こればかりは、こればかりは倫様‥」
時田は倫に従い長年その行状を見てきていた。
人の心の機微に通じた彼には、倫の抱く兄への恋情は自明のものとして写っていたに違いなかった。
だが倫はきっぱりと言い放った。
「時田。あくまで阻むなら、この糸色倫を討ち止めるつもりでかかってくる事ね。
今宵の事は思い決めた譲れぬ願い。私が引き下がる事はないと覚えよ」
時田とてこの家に仕えて様々な修羅場をくぐった古強者と言っていい男である。腕に覚えの無いはずは無かった。
しかしその時田から見てなお今宵の倫は、揺るがぬ力に満ち満ちているように感ぜられた。
なにより、倫の言葉には彼の胸を打つ成長の確かなしるしがあったのである。
初老の執事は、動きを起こすことができなくなってしまっていた。
(‥みごとな‥女になられて‥)
彼もまたけして表には出さなかったが、倫に自分の孫に対するような愛情を秘めていたのかも知れなかった。
眼前の少女にみなぎる力。気迫。覚悟。それは―。
「時田。私は行きます。私が私であるために」
「り、倫‥様‥」
時田は、今の自分の心に従う事に決めた。その場に膝を折り、頭を垂れる。何かあれば、自分が全力でこの方をお守りすればよい‥。
「ご武運を」
時田は後々までその時なぜそんな台詞が自然に出たのか、思い出しては苦笑していた。
確かに倫の凛々しきたたずまいは恋に燃える乙女というよりは先陣に赴く姫将軍、といった威が漂っていたのだが。
十数秒ののち、倫は兄の部屋の前に立っていた。
やはり、ふるえは、なかった。
298 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:32:02 ID:KJkS/idv
「お兄様。倫です。入ってもよろしいですか?」
すぐに応えがあった。
「ああ倫ですか。どうぞ」
倫は障子に手を掛け、静かに開ける。部屋に入ると障子を閉め、兄の方に向き直り、音も立てず膝行する。
望は文机に向かい書類を整理していたようだった。
「ちょうど良かった、いま出席簿に‥」
言いながら振り返った望は、倫の身体が膝が交わるほど近くにあるのを見て驚く。
ちょこんと正座した倫と眼が合い、その真っ直ぐ自分を見つめてくる視線に気圧されるものがあった。
「倫‥お前‥」
その瞳の色に見覚えがあった。そう、あれは‥。
「糸色倫は、糸色望を愛しています」
望の脳が記憶を探る前に、倫の言葉がまるで大上段の一太刀のように望の心に切りつけられた。
「な‥!いきなり何言ってるんですか‥?そりゃあ兄妹ですから、その‥」
混乱する望に、倫は言葉を継ぐ余裕を与えない。
「いいえ。倫は一人の娘として、お兄様を愛しています」
それを聞いて望は思わず後ずさった。肘が文机にぶつかり、机の上の書類が畳の上に何束か散らばる。
寝室への襖に背が当たり、それ以上下がれないことに気づいた。
いま自分はなにかとんでもない場面に遭遇しているのではないか?彼の危機回避の本能がそう告げている。
その時望は元の位置で身じろぎせず座する妹が、まっさらな白装束に身を包んでいることにやっと気が付いた。
ずれた眼鏡をなおし、その顔を見返す―。
倫の顔は桜色に染まり、耳まで血がのぼっている。けれども真っ直ぐこちらを見る瞳の強さは、いささかも損なわれていなかった。
「お‥お前‥」
本気だ。あの妹の顔は、真剣そのものの恋する少女の顔だった。
かつて望が乱脈生活を送ったのべつまくなしやんちゃな時代、望に思いを告げた娘たちもこんな顔をしていた。
そして―。
望は思い出していた。
すべてが始まったあの夜の、湯殿であった出来事。
そうだ。倫のこの瞳の色は、あの時自分を見つめていたあの眼の先にあるものではないのか。
「倫‥お前‥あの日から‥ずっと」
真っ赤な倫がかすかに頷く。その後で僅かにかぶりを振った。
「その前から、きっと一緒に遊んでもらった時からずっとですわ‥」
うつむいた倫は膝の上に置いた両手をきゅっと握り締めると、再び望に顔を向けた。するすると膝行し、たちまち望の目の前に迫る。
「今宵はあの夜の続きをしたくてやって参りました。お兄様、私を受け入れて下さいますか‥?」
どくん、と望の内で何かが脈打つ。‥続き。この妹はあの時、その手に私の‥。
299 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:33:01 ID:KJkS/idv
望は己の体の中に揺らめいたものを押さえつけていた。
予感はあった。望とて木石ではない、他者の心の動きにそれなりの感度を有している。
―ですが。ああ、倫。
望は何かを振り払うようにかぶりを振り、倫の肩を掴んでいた。
「いけません‥倫‥私たちは‥」
ぱっと倫が望の手を払う。兄の眼を見て悲しげに顔がゆがめた。
望はその顔を既視感を持って見た。雪の夜、廊下を駆け去った妹の顔。
その妹の髪が揺れ、薄い笑みが浮かぶ。
望はそれにぞっとしたその瞬間、彼女が何をするか一目で悟っていた。
倫は帯に差した厚重ねの短刀を鯉口を切ると、右手で逆手に一気に抜き放った。
柄尻をいま一方の手で支えると、胸乳の下をめがけ―!
「やめなさい!」
咄嗟であった。
彼に抜刀そのものを抑えるほどの反射神経は無かったが、刃が姿を表した瞬間やっと動いた手で倫の手首と刃を掴んでいた。夢中だった。
倫は兄の反応と、なにより刃を掴んだその手を見て驚いていた。力を入れたら、兄の手指が落ちてしまう!
力の抜けた妹の手から短刀をもぎ取ると、望はそれを部屋の隅に放る。幸い猿の手のように峰の側から刃を掴んだ望は無傷であった。
望はその手で片手をついている倫の頬桁を張り飛ばした。
びしゃりと物凄い音があがり、倫は畳に叩きつけられた。
「莫迦!何を考えているんですか、お前は!こんな、莫迦なことを!」
300 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:34:41 ID:KJkS/idv
いざりよった望の膝を、伏した倫の手が掴んでいた。
「‥なの」
「‥」
「だめなの、だめなの。お兄様じゃなきゃだめ。だめなの」
倫の肩はおこりのように震えていた。その叫ぶでもなく吐き出すようでもない低い淡々とした声は、高ぶった望の心に重く響いてくる。
「お兄様だけだったの。周りには誰もいなくて‥ずっと一人で‥だからお兄様がずっとずっと好きだったの」
「お前‥」
ぱたぱたと、こぼれ落ちる倫の涙が畳にはじける。望は膝の上の妹の手におのが手を重ね、じっとそれを見ていた。
「いつも周りに誰かがいて、かっこ悪くても楽しそうなお兄様が羨ましかったの。
でも‥お兄様が他の女といるのが嫌だったの」
倫は顔を起こすと望に向き直った。
「私を見て。倫をみて。お兄様、私はお兄様が好きなの!」
望は思った。
この妹は確かに外ではずっと一人だった。内親王を除けば同年代の友達の姿どころか話さえ聞いたことはない。
弟子、部下、使用人、スタッフ、庶民、平民。対等に接することのできるものは、倫の周りにはほぼいなかった。
様々な分野に才能をもってはいたが、それゆえにさらに孤独は深まったのだろう。
だからこそ、兄の自分へわがままを言い、いたずらを働いたのだ。
そしてそれは、愛情の屈折したあらわれだった。
望の胸に、この妹への切なさと憐れみと、愛情がないまぜになって湧き上がってきた。
「確かに、お前は‥ずっと一人でしたね‥」
望は膝の上の倫の手を引き、その肩を抱き寄せる。妹はぐったりと望の胸に頭をあずけてきた。
「こんなに‥綺麗にしてきて‥」
その薄紅を引いた唇。まるで絹のようになめらかな黒髪。薫る香のかおり。柔らかな、艶と張りのある肌。おろしたての白無垢。
改めて見て妹がこの部屋に来るためにどれだけ身を磨き上げてきたかが伝わってきた。
同時に、この純白の装いが死さえも賭した恐るべき覚悟のあらわれであったと遅まきながら気づいた。
それだけに兄である自分への想いと時々の関わりだけが、この孤独な妹の心の平衡を今まで辛うじて保っていたのだと感じられた。
十年。それは十年以上も。
何があったのかは知らないが、何かのきっかけで倫は勇気を振り絞って今夜の挙に及んだのだろう。
だがその心の力とは別に、倫の精神そのものはもう研ぎ過ぎた刃のごとく鋭くも脆い、危うき瀬戸際にあったのだ。
極端へと振り切った針が、戻らぬように。
あんな刃などを、自分自身に向けてしまうほどに。
人の精神にも、耐用限度はやはりある。
私の躊躇の言葉に、妹は本人も気づかぬ炉心融解の臨界点を越えてしまった。
誰かが支えてやらねばならなかった。そしてそれができるのは―。
301 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:51:20 ID:KJkS/idv
糸色望という男は臆病で小心であるゆえに、他者の心の痛み苦しみに敏感であった。
それは他者への本質的な理解と深い優しさとなって現れる。
そして文学で培った感性と高い共感能力もあいまって、その理解と優しさは望本人すら意識せずに相手の心の最も深い場所に入り込んでゆく。
それが、糸色望の魅力の本質、彼が持っている特別な力であった。
その力こそが、彼をして幾多の女性の心を捉えさしめたのだろう。大抵の場合、望は遊んでいるつもりはなかったに違いない。
彼はその都度、本気で相手を思いやり、共に泣き、笑ったのだ。
そしていままた彼は妹へ向きあおうとしている。
妹の想いに応える、彼なりの真摯な愛情をもって。
「いっぱいいっぱいだったんですね‥あんな真似までして‥。」
望は倫の耳朶に唇をふれさせた。
「お前はやることなすこと極端なんですよ‥。心臓が止まるかと思いましたよ、本当に」
「だって、だってお兄様」
「‥わかりました、倫。お前は私が支えます。‥兄としても、そして」
「おにい‥さ、」
倫の微かに開いた唇を、望の唇がふさいだ。
一人の男としても。
そう、望の唇が動いた。
お兄様の舌が、私の口をかきまわしている。私の舌をさぐり当て、ああ、先端を絡めてきて―。
倫は兄の抱擁と口づけに驚くより早く陶然となっていた。膝の裏が、腰骨の後ろが痺れ、指先から力が抜ける。
唾液の糸を引いて離れた兄の顔を見上げた。突然のことに少々の混乱はあった。
「お兄様‥いきなり‥」
「あの夜の続きと言ったのはお前でしょう。それに‥思えば今の私も、‥あの夜から生まれたのかも知れませんね」
「え‥?」
望の手が倫の帯にかかる。結び目に指を差し入れ、器用に解いてしまうと緩め始めた。
「お、お兄様‥ここでは廊下に聞こえます‥せめて」
倫の脳裏には一瞬、先ほど退けた時田のことが浮かんだのだろう。
もちろんいま彼が外にいるはずはないが、先に立った恥じらいの言い訳だった。
「わかりました‥では」
二人の揉み合ったここは、もともと部屋の奥、寝室の襖を背にしていた。望は手を伸ばすと、その襖をすらり開け放った。
暗い寝間には夜具が敷き延べられていた。
望は倫を引き寄せたまま立ち上がりながら、一方の手でその両膝を掬い上げ、いわゆるお姫様抱っこに抱え上げた。
解かれた帯が畳に落ちて重なる。抱えられた倫の太ももが、裾からあらわになった。
兄の意外なたくましさに、倫は少し驚く。
「お兄様‥けっこう力ありますのね」
「お、女の子に格好つけるくらいはありますよ。なに言ってるんですか」
照れる兄の仕草言い草が可愛らしい。
そして女の子、の言葉に倫は嬉しくなった。それは兄からの、初めての女の子扱い。
望は鴨居をくぐり、倫をしとねにおろし座らせる。さがって襖を後ろ手に閉めた。
透かし彫りの鴨居から僅かに漏れる光が、暗闇に倫の白装束をほのかに浮かび上がらせている。
倫は近づいてくる兄の衣擦れの音に、からだが熱くなってゆくのを感じていた。
302 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:53:00 ID:KJkS/idv
膝を崩ししどけなく座る倫の背後から望の手がその身を抱きすくめる。
望はさすがに手馴れた仕草で襟から手を差し入れ、すべらかな腹を撫で回しはじめた。
妹の波打つ髪をかき分け、その香のかおりを呼吸しながら、首筋に舌を這わせる。
倫はただなすがままに身を委ねながら唇を噛み、漏れ出ようとする吐息をこらえている。
「倫‥お前はあの日、私の‥その、初めての時、廊下にいたんですよね‥?」
ひくりと震える倫。
「あれから私は女性とこうするたびに、何処かにお前の視線、気配を感じていたんです。ええ、それは錯覚とわかっています。
でもお前がいるはずのない場所でも確かにそれがあった」
もどかしくなったのか、望は倫の襟をくつろげ乳房をあらわにさせる。
張りのあるそれは倫の動悸にあわせて微かに揺れた。
望は脇から手をまわし、それにそっと触れた。
そして乳房を手のひらにのせ、手首をうねらせてそのつきたて餅のような丸いふくらみを思うさま揉みしだく。
その薄桃色の乳首が起き上がってくると、そっとつまみ、転がし始めた。
「お前のあの眼、手指の感触、そして裸身。それがずっと頭から離れなかった。どんな女性に出会おうともです」
「ぁあ‥」
「いやむしろ、お前に見られているような気がして興奮すら覚えていたんです」
兄の言葉はなんとか耳に入ってはいたが、もう倫は我慢が効かなかった。
眼下で自分の乳房がいいように弄ばれるのを見て、あえぎが唇から溢れてしまう。
「さっき言ったのはそういう意味です。そう、あの夜から、私もあるいはお前に呪縛されていたのかも知れません‥。
思えばお前のいたずらのお陰でずいぶんと酷い目にあいましたね‥職場を変えねばならないほどの目にも遭いました」
乳首がつままれ、きゅう、と引っ張られる。痛いか、痛くないかの際で兄の指がはなれ、倫の胸ははずみながら元の形に戻った。
「‥それにしても、立派に育ちましたね」
くすりと笑った兄の気配に倫は恥らいに耳まで赤く染ながらあえぎ、鼻をならした。
「いやぁ‥お兄様、私の胸であそばないで‥」
兄の指が唇を割り、口内に侵入してくる。倫はそれに夢中で舌をのばし、舐めしゃぶった。
303 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:54:30 ID:KJkS/idv
いつの間にか倫の身体は横倒しにされている。
望の標的は胸からもっと下の部分に移ったのか、もう一方の手が倫の白無垢の片襟を大きくさばくと腰骨のあたりをうろつきはじめた。
倫はその微妙な感覚はここち良かったが、さっきまで胸に与えられていた快感に比べると物足りない。
下腹のうずきも耐えられそうになくて膝をすり合わせ始めているというのに、兄は一向に強い刺激を与えてくれなかった。
「どうしました?倫、物足りないですか?」
倫はちいさく頷く。倫の唇から離した指を今度はあばら骨の上に這わせ、爪の先で琴でもひくように小さく掻き始めた。
「ぁあっ‥!で、でも、もっと‥」
「自分の手があるじゃないですか、倫。ほら」
望は意地悪くささやくと倫の手首をとり、乳房に導いてやる。
「いやっ、お兄様、お兄様がして」
兄の眼の前で自分の胸を揉むなんて。ひとりの時ならともかく―。官能にあえぎつつも、倫にはまだ己を客観視できた。
闇に眼もだいぶ慣れた二人は互いの表情までおぼろに判別できるようになっていた。
恥じらう妹の表情を楽しみながら、望はその下腹に手を伸ばす。
「ここも一緒にしてあげます。きっともっと気持ちいいと思いますよ」
いじわる。お兄様のいじわる―。
いつもとは違う攻撃的な兄に翻弄される倫は、きゅ、と唇をかむと自分の乳房を手で包み、揉みしだきはじめた。
(今までこの部屋に連れ込んだ女達にも、こんなふうにしたのかしら―)
一瞬胸を黒いものがよぎるが、意識から強いて追い出す。今は私だけが、兄と抱き合っているのだから、と―。
気を持ち直した倫はさっき兄にされたように乳首もつまみ、転がしてみる。
「あ、ぁ、ぁ」
―兄に見られていると、こんなことでさえも気持ちいい。
手指の一動作ごとに小さくあえぐ倫を見た望は、約束どおり彼女の両足のつけねに手をのばす。
片手で倫の膝を少し持ち上げ、もう一方の手指で秘所をさぐりあてた。
「ああああぁっ!」
倫は突然敏感な部分に触れられ身を震わせた。望の指先はそのちいさな肉の芽をそっと転がしている。
やがてそれはさらに下へと這ってゆき、糸引くほど濡れそぼった秘裂へと埋まっていった。
「ぃああっ!ああっ、お兄様、気持ちいいです、お兄様っ!」
倫は自分の中でうごめく兄の指に、たまらず悲鳴のような喘ぎをもらす。
兄を想い自分で何度も慰めたはずのその場所。その想い人からの愛撫はそれまでの感覚とまったく別だった。
自分で聞いたこともない声をあげながら、倫は胸の何処かに生まれた幸せ、という想いを感じている。
尻に、何か固いものが押し当てられているのに気づく。
布越しのそれは、倫が身体を震わせるたび尻肉の合わせ目にそってゆるく動いているようだ。それは倫が湯殿の夜に握った、あの―。
いつのまにか兄の手が快感のあまり胸に載っているだけになっていた倫の手をのけ、そこを責めたててきていた。
ぎゅう、と肉の芽がつねられたとき、倫の意識は真っ白になっていった。
304 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:55:36 ID:KJkS/idv
倫の意識を呼び覚ましたのは、乳房の先端の、新しい快感だった。
仰けに横たわった自分の胸を兄が吸っているのだと気づいた。きらりと光るものも見える。望の眼鏡の弦だった。
(お兄様ったら、こんな時まで眼鏡を)
軽く苦笑しながら、揺れる兄の頭を抱きしめる。夢中で胸に顔を埋める兄を見ていたら、なんだか可愛く思えてきた。
「気づきましたか。軽く、イってしまったみたいですね。可愛かったですよ、倫」
倫はまた恥ずかしさに顔を赤くしてしまう。胸から顔を離した望は倫の上体をおこすと、その手を軽く握った。
「倫、今度は私のも‥いいですか?あの夜の続きを、してくれるんですよね‥?」
「‥あ」
倫は望の部屋着の襟がはだけているのに気づいた。胸板と薄い腹筋が闇を透かして見える。その下には―。
「み、見えませんわ‥」
どうやら倫が気をやっている間に、望も帯を解き、下着を脱いだようだった。倫と同じように、前をあけた着物だけになっている。
「じゃあ少し、明るくしましょうか?」
不意に兄の上体が遠ざかった。もそもそと闇を探る気配がする。そしてカチリというスイッチの入る音。
と、急に弱いが暖かい光が少し離れた場所に灯った。どうやら枕元の置行灯のようだった。
望は普段これを就寝前の読書にでも用いていたのだろう。
今の明るさは最低限に調節してあるようで、先ほどの暗闇よりはましというほどでしかない。
が、お互いの身体が見える程度ならば十分だった。陰影が強く出て、輪郭は闇に溶け込んでいる。壁に襖に、大きな薄い影が映じていた。
枕元に腰をおろした望が振り返る。
「うっすら見えます‥綺麗ですよ、倫」
倫は兄の言葉に引き寄せられるようにその膝下に身体を伸ばした。
「あ‥」
今度は見えた。ほの明かりに屹立する、兄の肉棒が。
これが、お兄様の―。そういえばあの時は直接これを眼にしたわけではなかった。ふと見上げると兄も顔を真赤にしているのがわかった。
そろそろと手を伸ばす。そうだ、あの時、自分は―。
倫は兄の膝にまたがるとその首に腕をまわし、そして肉棒を手のひらに包んだ。
赤い兄の顔を見ながら、ゆっくり手を上下に動かし始めた。時に強く、早く。そしてゆっくり、やわらかく。
―戻ってきた。私の手の中に、これ。私の、お兄様―。
今度はもうはねのけられたりはしない。望は視線を泳がせ、口を半開きにして喘いでいる。ああ、可愛い、お兄様。
倫は望の足に乗った腰をうねらせ、敏感な部分を擦り付ける。背筋を駆け上がってくる快感に顎をそらせながら、兄へ問いかけた。
「お兄様、気持ちよくって‥?倫の手、気持ちよくって?」
「ええ、いいですよ、倫‥」
兄の肩が時に震え、すくめ、どうにもやるせないような感覚を味わっているのだとわかった。
眼鏡の奥の、睫毛の長い瞳が潤んでいるのが見える。妹と目が合った望は恥ずかしさを覚えたのか、眼を閉じてしまった。
ところが、その手は倫の揺れる乳房に伸びてきた。片手に倫のうねる腰を抱き、片手で胸をもてあそび始めた。
「あっ!お兄様、手癖がよろしくなくてよ‥」
倫は指を肉棒の先のほうににもってゆき、亀頭のえらをしごきはじめた。指が何か粘つく液体に湿る。
「お兄様、これ―」
「知らなかったんですか、倫。男も、濡れるんですよ―」
「まぁ。‥倫の指で、感じてらっしゃるのね‥いやらしいお兄様」
薄く笑った望が、唇を重ねてくる。倫は躊躇なく舌を絡め、吸い付いた。
粘液質の音が時おり響く中、二人の手は互いの身体をまさぐり続ける。
しだいに荒くなる望の呼吸に、倫はある瞬間が近いのかと感じ取る。さっきのお返しとばかり手の動きを激しくし、兄の顔を凝視する。
「お兄様、お兄様もいきそうですの?‥見せて、私に見せて、お兄様のイくところ見せて!」
「り、倫、もう‥あぁっ」
望の身体が一瞬こわばった。波打つような痙攣―。倫が掌中の兄の分身に眼をむけたその時、望は妹の手の中に精を放っていた。
「きゃっ」
思いもよらない勢いに手から撥ね飛ぶそれを、倫はほの明かりにはっきり見た。
同時に背筋を走るたまらぬ快感―。腕の中の兄は、眼をあらぬ方にそらし、低く喘いでいる。あの時見れなかった、その顔―。
倫の視線に気づいたのか、一瞬こちらを見てすぐに眼をそらした兄に、倫はたまらぬいとおしさが湧いてきた。
「お兄様、可愛い‥」
305 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:56:33 ID:KJkS/idv
火が出そうな顔になった望は、冷ますようにかぶりを振ると手を置行灯の方に伸ばした。
その下に置いてある鼻紙箱から何枚か摘み取ると、倫の手をぬぐい始める。
「ほ、ほら。綺麗にしなさい」
倫にはその細やかな気づかいは嬉しかったが、拭き取られてゆく兄の絶頂のあかしが、なんだか少し勿体無いような気もする。
つい、と手を引くと残滓の残る指の谷間に鼻先を近づけてみた。頭がくらくらするような、濃い匂い。兄の、牡のかおり。
「こ、こら‥倫‥」
何か言いかける兄の眼を見ながら、それに舌を伸ばした。
「へんな味‥お兄様の‥味」
倫の膝には、まだ頭をもたげている兄の分身が当たっていた。
倫は濡れた唇を舌でなぞると、兄の太ももから降りてその腿に膝枕のようにころり横たわる。まるで子猫のようだ。
「綺麗に、しますわ‥」
「そ、そういう意味では‥!」
倫は鼻先にある兄の肉棒にくちづけると、先端を口に含んだ。
「うぁっ!り、倫」
射精直後の敏感な亀頭を、妹の舌が這い回っている。望は背をそらせ、それでも眼下の倫のあられもない横顔から眼を離せない。
ぎこちなくはあったが思い切りのいい舌の動きに、望は声が出るのを堪えるのに必死だった。
身をよじる兄の反応が面白くなったのか、倫は肉棒の根元に指を伸ばすとゆるゆるとしごきあげる。
同時に先端をねぶる舌がそろりと動くたび、ぴくりと引きつる兄の反応が倫を興奮させた。
体の奥が、また熱くなってくる。倫は今度は我慢しなかった。空いた手を己の秘裂に伸ばしまさぐりだした。
芯が抜けたようだった兄の肉棒がだんだん硬さを取り戻し、やがて倫がしっかりくわえていないと飛び出してしまいそうになった。
ちゅぷちゅぷと、糸を引くような音が倫の唇から上がっている。
倫はひとまず肉棒を口内から解放すると兄を見上げ、唇は触れさせたまま聞いた。
「お兄様、倫の口は、舌はいかが?気持ちよくて‥?」
「ま、まったく‥お前は‥この方面の才能も大したものですね‥。ええ、気持ちいいですとも。気が遠くなりそうですよ」
答えながら、望は倫の髪を撫でてやる。
「嬉しい‥」
「ああもう、つくづく可愛いですね‥。じゃあお返しに」
望はまだ手に持っていた先刻の丸まった鼻紙を行灯の向こうの屑籠に放り投げ、自分も倫の足の方へと倒れ込んだ。
妹の柔らかい太ももを持ち上げ、その足と足の間に頭を突っ込む。
「や、そこは」
「お前のも舐めてあげますよ」
望はそこにあった倫の手首をつかむと、その濡れ光る指先にくちづける。指先を口にくわえ、舌を這わせねぶりあげた。
「ふふ‥倫の味がします」
「やぁあ‥」
306 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:57:14 ID:KJkS/idv
望は妹の手をどかすと鼻先をさらに奥へと進めた。もっちりと柔らかい太ももの弾力が頬に心地よい。
糸すら引いてぬめるそのあたりは、倫の甘い牝の匂いでむせかえるようだ。
「綺麗ですよ、倫。お尻も、‥ここも」
薄めの茂みをかき分け、めざす妹の秘所を目の当たりにした望はふぅ、と息をふきかけてやった。
「きゃぁっ!‥いやぁ、お兄様‥みな‥いで‥」
肉棒をくわえる倫が悲鳴のように鼻をならす。それでも肉棒をしごく手の動きが止まらないのが可笑しい。
「すごく、綺麗ですよ‥倫のにおいが、します」
くすりと笑った望はうすい茂みをかきわけ、その先の肉の芽に軽く口づけた。
「ひぁ‥っ」
二度三度、舌で舐め上げ転がすと、たまらなくなったのか、倫の片足が望の頭にくるり巻き付けられてきた。
肉襞を押し広げる。脈打つそこに唇を押し付けると舌を挿し入れ、あふれる蜜を舐めすすった。
忘れずに指も挿し入れると、肉の芽の裏をこね回してやる。
じゅるじゅるという淫らな音に、倫は思わず声を上げてしまう。
「あぁ、やぁああ!お兄様、お兄様のばか!そんなこと‥っ」
―舐めまわされている。吸われている。かきまわされている。お兄様に倫の、あそこが―。
一秒ごとに味わったことのない快感が自分の脳をひっくり返す。
じゅるり、ぴたぴた、ちゅくちゅく。淫らなねばつく音はその間ずっと続いている。
兄の丹念な愛撫は自分への愛情そのものなのだと、倫は胸がいっぱいになった。
―好き。お兄様好き。でもそれ以上、倫を苛めないで―。また、おかしく――。
倫は、唇のなかの兄の亀頭への愛撫に気を散らそうとしたが、どうやら無駄だった。
「やぁあぁあっ‥!」
押し寄せる快楽の波に、ふたたびさらわれてしまった。
307 :
桃毛:2010/01/13(水) 19:58:15 ID:KJkS/idv
撫でられている。頬が撫でられている。
倫が気づくと、望の顔がすぐ近くにあった。添い寝のように、二人並んで寝そべるような態勢らしい。
兵法を嗜んだ者らしく、倫は自分を取り巻く状況を本能的に把握しようとする。
身体がしびれ、けだるく重い。
「まったく‥お前はすごく感じやすい質なんでしょうかね。大丈夫ですか?」
感じやすい、などと言われて倫は途端に恥ずかしくなった。襟をかきあわせると兄から顔をそらす。
と、その視界に陰がよぎる。
望が上体を倫にかぶせるように手をついた。膝が割られる。頬が再び、優しく撫でられた。
あ。そうか。
倫は望が何をしようとしているか思い至る。
「お兄様、その‥するんです‥ね」
ひんやりとした空気の中で汗ばむ二人の身体は熱かったが、それでも兄のより熱い部分が脈打っているのが倫にはわかった。
「え、ええ‥」
「すみません、また私だけよくなってしまって‥。お兄様もどうか、倫で気持ちよくなって」
倫はゆっくりと膝を開いていったが、望はそれから動かない。
「倫‥本当にいいんですね‥?此処から先は」
この期に及んでいつもの気弱な兄が帰ってきたのかと、倫は半ば呆れつつ苦笑した。
刃を抜いた先ほどなら冗談ではすまなかったろう。
だが想いを通わせ肉体の親しさを持った今では、情けない兄の発言も愛嬌のひとつ位に思えるようになっていた。
あんなに格好良く啖呵を切ったくせに。
こういういざとなって弱いところも、兄なのだ。私の愛しい、兄なのだ。
「まぁ!お兄様ったらなんたるチキン!妹の身体をこれほどもてあそんでおいて、今更いいか、もありませんわ」
倫の手がふわりと伸びる。下から望の首を抱きしめると、そっとささやいた。
「来て、お兄様‥。私をお兄様のものにしてください。想いを遂げさせて‥」
「‥倫」
308 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:14:25 ID:KJkS/idv
望は倫の入り口に肉棒をあてがうと、そのまま一気に奥まで貫いた。
「いっ‥あ‥!」
倫のそこは一瞬だけ、にぶい痛みが閃く。兄の背に回した腕に力がこもった。
「倫、大丈夫ですか?」
「‥ええお兄様。どうか好きに動いて。この日を私が忘れないように」
「まったく‥お前は‥」
妹の剛毅さに少々気圧されつつも、望は言われるまま遠慮なく腰を使い始める。
はじめ抵抗を少し感じたものの、十分に濡れていたせいかそのうち気にならなくなった。
「ああ‥きついですね‥でも暖かくて‥。すごく良いですよ、倫」
倫は直前の軽い絶頂の余韻もあったためか、痛みはさほど感じなかった。
今はただ、己の暗い妄想の中の産物でしかなかった兄との交わりが現実のものとなったという感動にひたっていた。
ほろりと一粒、涙がながれ落ちる。
その涙が枕の上に消えるころには、倫は自分の奥底から押し寄せる体験したことのない快感の中に浮かんでいた。
望が動くたび、奥に望の先端がぶつかるたび、倫は衝動を抑えることができずにあえいだ。
「はぁ、ふぁあっ!おにいさまあぁっ‥!」
「倫、いいんですね?私も凄く気持ちいいですよ‥!」
倫の入り口はきつかったが、奥のしめつけは絶品だった。剣術で鍛えられた体幹の肉が、臍下丹田のさらに奥底で望を絞り上げる。
望はその子宮を何度もこづき、腰にひねりを与えながら、今度は浅く入り口をこね回してやる。
どう動いても上がる妹の甘いあえぎが、官能を煽りたてる。
慣れた望も気を抜くとあっという間に果ててしまいそうになる。
「おにいさま、これ、いいです、おにいさまっ」
互いに汗まみれだった。夢中で妹の肉に腰を打ち付ける望は、もう熱さに我慢ができなくなった。
望は上体をおこし、汗で重くなっている部屋着の袖をはらい脱ぎ捨てる。
眼下に喘ぎとともに上下する妹の乳房をわしづかみし、もみくちゃにした。
「やぁっ!‥もう、おにいさま、私の胸、すきなんですの‥?」
「ええ、程よい大きさで、可愛いですからね‥」
「‥すって。私のむね、吸って!」
望はいわれるまま倫の白い乳房にむしゃぶりつく。勃起した乳首を舐めまわし、吸い上げ、甘噛みしてやる。
腰の動きに合わせて愛撫してやると、倫の嬌声はひときわ高く上がった。
309 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:15:23 ID:KJkS/idv
女のからだに慣れた望でも、倫との交わりは格別だったといっていい。
小さな頃から遊び相手になってやった、十程も年の違う妹。
女わらべの時分からおんなとして熟してゆくその全ての姿を、自分は見てきていた。
嫁入りして糸色の姓を捨てたい、などと言っていたその妹。
その言葉通りに自分の前からいずれ離れてゆくのであろうと思っていた妹のからだを、今こうして兄の自分が抱きしめている。
倫もこうなることを望んだ日から、それは想い遂げたとしてもけして陽の下では一緒になれないとわかっていたはずだ。
だから、この闇の中では。
その禁忌を犯したからこそ得られる禁断の果実―背徳の愉悦と官能が、自分たちの脳髄を灼く。
今はその果実を、官能を、一瞬でも長く味わいたい。この愛しい妹にも味わわせてやりたい―。
望は乳房から口をはなすと倫のからだを抱きかかえながらともに上体を起こし、つながったままあぐらをかくように座った。
倫の腰を抱きながら下からゆっくり奥深くをかきまわす。
兄の首に両手をかけた倫は兄の腰がうねる度にのけぞり、後ろに倒れそうになって揺れながらあえぎ続けた。
「おにいさま、いや、こわい、怖いの‥。でも、きもち、よくて‥」
置行灯の薄い灯りに倫の肉が跳ね、うねり、反る。倫の背後で壁に映ずる淡い影も同じく美しくも淫らな影絵を踊っていた。
倫の髪が揺れ、汗が舞い散る。まるで幻のような光景の中で、望は限界に近づいていた。
「倫、そろそろ、私は‥」
「だめ、だめ、おにいさま!一緒じゃなきゃだめ!‥もっと、ね、あと少し‥」
望に抱きついて背をかきむしる倫は、今度は自分から腰をひねりだした。
「うぁっ!り、倫、それは‥」
「おにいさま、うふふ、どう?もっと気持ちよくなって‥」
望の肩を甘噛みし、舌を這わせる倫。
味をしめた倫は首筋や鎖骨に歯を立て、兄の背に爪を立て引っ掻き、そして首筋にキスの雨を捧げる。
唇で吸いつきながら、兄の肉を前歯で細かくついばみ、舐めまわした。
「あ、つっ‥倫、やめ‥!」
望にはそんな痛みすらも快感だった。腕の中の妹を突き上げながら、そのうねる腰の与えてくる刺激に陶然とする。
これ以上は本当にまずい。このままでは、妹の膣内に‥。
310 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:16:38 ID:KJkS/idv
体重をかけてくる倫の上体の動きに、望はそのまま後ろにひっくり返ってしまった。
「はじめと反対ですわね、おにいさま‥ふふ‥おにいさま可愛い」
今や倫は望の腰にまたがり、感性の赴くまま腰をうねらせていた。
自分が動くたびに湧き上がる新しい感覚に、そして兄の反応に官能を昂ぶらせてゆく。
その激しい動きに白無垢が肩からしだいにずり落ち、やがて倫は兄の上で一糸まとわぬ裸体となった。
「まったく、お前は‥初めてのくせにはしたないですよ」
望は下から倫の胸をすくい上げ、揉みしだきながら腰を跳ね上げる。
それは倫の子宮を、脳髄をえぐり、快楽を刻みつけた。
「きゃぁっ!ぁあ、でも、おにいさまだから、‥おにいさまだからこんなにいいの」
倫も突き上げてくる望の動きに、もう腰に力が入らなくなっていた。
上体を折るとぱたんと望の胸に倒れこむ。
最後は兄の胸に抱かれていたかった。
望は倫の尻肉をつかむと、最後の力とばかりに妹の内に腰を送り込む。
「ふぁ、ぁあおにいさまぁああっ‥!」
倫が望の胸にしがみつき、力を込めてその肉をつかむ。剣を執らぬ間伸びていた爪が食い込んだ。
薄くにじむ兄の血を見た時、倫に自分でも恐ろしいほどの昂ぶりが押し寄せてきた。
―今日でいくつ、兄の身体に傷をつけただろう。でもいいのだ。つけていいのは、私だけなのだから―。
「倫、もう限界です、外に‥っ」
「だめ、私に、わたしのなかに!」
「‥り、倫っ!」
「おにいさまぁぁっ‥!」
兄の肩をおさえ、下腹を擦り付ける。ぜんぶ、うけとめられるように。
ああ。わたしの、お兄様。
望の吐息が聞こえ、倫のなかに何か熱いものが叩きつけられる。
世界が、真っ白に晴れ上がった。
どれほど経っただろう。
倫は、まるで眠りから覚める一瞬前のような、そんな夢うつつの官能の波に浮かんでいた。
もうひとりではない。孤独の時間は永遠に終わったのだ。心結んだこの時間が、倫にそれを教えてくれる。
あたたかい兄の胸にすがりながら、幸せで泣きそうだった。
‥そうか、泣いてもいいのだ。
悲しいからではない、悔しいからでも怖いからでもない。
嬉しくて泣いてもいいのだ―。
‥そう、この世界は、昨日までとは違う世界に、変わったのだから。
静かに流れる倫の涙を、兄の指がそっとぬぐった。
311 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:18:32 ID:KJkS/idv
翌朝。
あのあと倫は何度か兄を求めた。疲労の果てに眠った後、兄より早く起き出して自室に戻っていた。
身を清め、衣服を整える。
そしてなんとなく居着けなかったので、庭に散歩に出た。
庭の池を臨むあずま屋には着替えた望が座して茶を喫していた。
ぼう、とほほに上ってくる血の温度を感じながら、倫は声をかけた。
「おはようございます、お兄様」
望の方もどこか気恥ずかしいらしい。挨拶をかえすと視線をそらしてしまう。だが一服茶を立て、倫にすすめてくれた。
倫は礼を返し、望の隣に座った。しばし無言の時間が流れる。
やがて、望が口をひらいた。
「倫、昨晩は」
「‥はい」
兄の首筋に自分の噛み跡を見つけた倫は、そのままうつむいてしまった。
「その‥」
「‥お兄様、顔が赤いですよ」
「お前の方こそ。‥ええ、まぁ、なんというか」
望は手にした茶碗を一気にあおった。
「言い方は悪いんですが、いや、お前にも悪いんですが‥。我ながら大変なことになったな、と―」
「まぁ」
いつも通りの何処か情けない兄の台詞に、倫は呆れつつも微笑ましい思いを抱かずにはおれない。
やはり、兄は相変わらず兄なのだ。
情けなくて、カッコ悪くて、臆病で、でも愛しい―私のお兄様。
「それと‥倫。必死だったのかもしれませんが‥あんな刃物を自分に向けるような真似はもう二度とは」
「‥すみません、お兄様。‥でも、普段やたらと死にたがるお兄様がそんな事をおっしゃるなんて」
倫は冗談に紛れさせようとしたつもりだったが、望は真顔だった。
「私は今まで一度も本気で死にたいと思った事はありません」
「お兄様‥」
「今日からは離れていても一緒ですよ。それを忘れないで下さい」
倫は返答のかわりに、頭を兄の肩にあずけた。
「いやぁ‥それにしてもとんでもない事に‥明日からが思いやられます、本当に」
「またいつもの恨み節ですの?‥ふふ、そんなに仰るなら『長恨歌』にでも書いておけばいかが?」
そのいつもの兄に、倫も普段のごとく舌鋒でちくりと刺してみた。
「‥書けるわけないでしょう」
むろんそんな事をしたらそれは破倫の恋の証拠品になってしまう。できるわけがない。
望は抱えたままの茶碗を盆に戻すと、ふいに倫の方を向く。
「ですがそれとは別に‥お前との事は‥墓まで持って行きますよ」
きっぱり言った。それはこの関係を誰にも明かさないという意志のあらわれだった。
倫も心得ている。それは昨晩しとねでかわした黙契なのだ。
「休み明けからは、お前は私のクラスの生徒です。学校では、大人しくしていてくれないと困ります。
うちのクラスは、何と言うか、やっかいな生徒ばかりですから」
「わかっていますわ、お兄様。なんでもクラスの女子は全員お兄様のお手つき、とか」
「そっ、そ、そんなわけ‥」
倫は、兄の眼を見てくすりと笑う。
「安心なさって。張り合うつもりは、ありませんもの‥」
そして兄の手指に指を絡めながら、新しい世界に、思いを馳せた。
312 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:19:30 ID:KJkS/idv
兄と妹、教師と生徒の恋人同士。
陽の下では絶対に秘さねばならない関係となった今となっては―。
きっと自分は今までにも増して、学校で兄をからかい、いじり、いたずらを重ねることだろう。
兄を取り巻く同級生たちに、表には出せぬ嫉妬を抱くだろう。
それでいいのだ。
この恋は、誰にも明かせぬ、かげのみやび。
光の下では、胸につかえを積み上げよう。
そして胸の重さにあえぐ頃、ふたりきりの闇の中。
思い切り愛し愛されよう。
一夜の破倫の交わりに、胸のつかえを飲み干せば。
明日からまた、仮面のままでいられるのだから――。
「でも、それまでは‥。ね、お兄様、もう一度‥今から」
「‥え?!」
数日後、東京府小石川区某高校、新学年度開始日。
同日付をもって、糸色倫、二のへ組に編入。
313 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:20:23 ID:KJkS/idv
『その後・昭和八十三年・神無月』
夕刻の小石川区。糸色倫は自らの通学する某高校の校門をくぐり、区内に所有する自宅に帰宅しようとしていた。
倫はそのこぢんまりとした家への帰還には徒歩を心がけている。
その家は兄の高校に通うため、倫にすれば小遣い銭にもならない額で即金購入した仮宅である。
執事の時田には『貧乏ごっこの一環』などと揶揄されていたが、倫は黄昏時の下町の雰囲気が気に入っていた。
彼女には未知の、庶民の生活感息づく世界だったからだ。
いくらも歩かぬうち、歩道を行く倫の歩みに合わせるように後方からゆっくり走行してきた黒塗りの車が、横にふいに止まった。
倫はその車に見覚えがあった。
日産プリンスロイヤル。それは過去において皇室の御料車であった車であり、倫の同級生が通学に用いていた車であった。
倫は停車の状況から、校門を出た時から尾行されれていた事を悟った。
だが倫は驚かない。なぜなら、その車が自分の歩みを追う理由など、ただひとつしか考えられなかったからだ。
防弾仕様であろう窓ガラスがゆっくりと下がってゆく。
「お久しぶりです倫さん。乗っていかれませんか?」
あらわになった堅牢な車体の中、シートに背を預けこちらを向いていたのは、懐かしい無二の学友の顔だった。
互いの環境の変化もあり、剣の稽古を共にすることも絶えていた。再会は一年半ぶりとなる。
倫は何の躊躇もなく友人の誘いに乗った。
「私この国の未来に憂れいています」
挨拶もそこそこに憂い顔の内親王は凛然たるかんばせを曇らせて、時勢の不穏を論じ出しかねない剣幕だった。
だがそれは、かつての学友との私的な会話のための導入に過ぎなかったらしい。
彼女は途端に口調を変え、倫を見て続けた。
「ですが、友人の恋のゆくすえも案じていました。倫さん、首尾はいかが?」
それこそ倫の予想し、また待っていた質問だった。
それもそのはず、倫がこの話題を語ることの出来る同性の友は、この世で内親王ただ一人だったからだ。
彼女は学習院の制服を纏って来ていた。
倫に会うのに往時と変わらぬ友誼を示すためわざわざ着込んできたとの事である。携えた刀もあの時のままだ。
ちなみに前部座席と仕切られたこの後部では、会話は運転手に漏れる事はない。
「‥想いを遂げました」
万感こもったその短い返答に、内親王は一瞬遠くを見るような表情を見せ、そして柔らかく笑みをこぼした。
「そう‥よかった。おめでとうございます、倫さん」
倫は頬を赤らめて微笑む。友人を慮ってか少々の罪悪感をただよわせたその表情に、内親王は初めて倫を可愛らしい、と思った。
「いろいろ障りはあるでしょうが‥どうか頑張って」
「ええ‥確かにいつも一緒にいれるわけでもありません‥でも、そのもどかしさは、貴重な時間の、よろこびの糧となりますわ」
314 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:22:14 ID:KJkS/idv
倫のその言葉に、今度は内親王の頬が赤く染まった。
けして許されぬ関係を生きる者たちの、秘められた淫靡な時間を想像してしまったからだった。
―やっぱり、倫さんに先を越されてしまいましたね―。
自らの未だ知らぬその世界。敗北感とちょっぴりの羨望を込めて、かつて恋した友を横目に見る。
確かに、以前と何処かたたずまいが違う。
―倫さんは、少女から女へと変わったのだ。
「綺麗になりましたね、倫さん‥。
私もいつか、よい殿方と出会って、結ばれて、その方の赤ちゃんを宿して―そんな日がくれば‥。
‥あ、申し訳ありません‥。倫さんどうか気を悪くされないで‥」
意識せずにつらつらと、倫の痛いところに触れてしまったかと狼狽する内親王。
だが倫の反応は意外だった。
「大丈夫。きっとあなたにも素敵な物語が待っていますわ。そうですね、もし私に赤ちゃんができたら‥」
「‥あらあら」
「私の赤ちゃん‥。男の子なら、なんて名前にしましょうか‥」
本気で思案する倫を見て内親王は心に白旗を掲げ、振り回した。
―まったく、この糸色倫という友は。剛毅も剛毅、花の下での出会いから色々あったけれど。
やっぱり倫さんは倫さん。
とりあえず今日は――ごちそうさま、というところかしら。
‥どうかあなたとあなたのお兄様が幸せでありますように。
「では、女の子なら?」
「それなら、華、とでも名づけますわ」
なんじ、人中に咲く絶華なれ。その意はすなわち絶世美人―。
「華。いとしきはな。まぁ、可愛らしい名前‥。
でも今の倫さんこそ、まさに華のよう」
二人は、顔を見合わせて静かな笑みを交わした。
それは、過去と未来を祝福する笑いであった。
二のへの教室。
担任教師糸色望は、今日も女生徒にとりまかれている。
彼を巡っての恋の鞘当ては陽に陰に激しさを増し、時には血を見る日もあるという。
だが、糸色倫はそれを時には超然と、時にはいたずらっぽく笑いながら見ている。
そのやわらかな笑みの意味を知るものは、この教室には一人もいない。
―糸色倫の物語は、つづいてゆく。
いつか誰にも訪れる、定められた最後の日まで。
その日に華はまだ咲いているか―それはまだ誰にも、わからない。
『絶華の暦 破倫の歌』 完結
315 :
桃毛:2010/01/13(水) 20:23:26 ID:KJkS/idv
大作乙だよい。
読み手の好みは分かれるだろうけど、こういう想いの詰まった投稿があるのは幸せなことだね。
317 :
266:2010/01/13(水) 21:52:11 ID:UBQaWW+F
大長編、乙でした。
文章量、密度、描写にキャラクターへの思い入れなど、どれをとっても感嘆するばかりの作品でした。
桃毛さんの描かれる倫ちゃんは一挙手一投足がイキイキとしていて魅力的でした。
本当にGJです。
ところで、私事なのですが、みなさんにお伺いしたい事が一つ。
先週のマガジンの温泉ネタでエロを一本書いたのですが
女の子同士でのシーンがエロ部分の八割以上になってしまいました。
完全な百合ではなく、また百合スレのノリとも違うと思うのでこちらに投下したいのですが、よろしいでしょうか?
どうぞ
お願いします
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/ | ご自由に | \/
| お持ち帰りください。 | /
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321 :
266:2010/01/14(木) 20:57:34 ID:GQyPEjXx
昨日お話しした先週のマガジンの温泉ネタのエロSSを投下させていただきます。
それではいってみます。
322 :
266:2010/01/14(木) 20:59:10 ID:GQyPEjXx
もくもくと立ち昇る白い湯気。
寒風吹きすさぶ寒空の下にあっても、その場所だけはホカホカと心地良い空気に包まれていた。
ここはとある温泉旅館。
しかし、この旅館、普通の温泉宿と比べると随分と様子が違っていた。
大勢の客達の応対をするのは、全員が十代の年若い少女達ばかり。
実は彼女達、2年へ組の女子一行もこの温泉に客として訪れた人間だった。
ところが、彼女達がたっぷりと温泉を楽しんで旅館の館内に戻ってみると、つい先ほどまでいた筈の従業員達は揃って姿を消していた。
残されていたのは、『温泉をよろしくおねがいいたします おかみ』と書かれた書置きが一枚きり。
彼女達は旅館の運営を託されてしまった。
実はこの温泉旅館は『かくし湯』ならぬ『たくし湯』だったのだ。
というわけで、女将代理の千里を筆頭に2のへの絶望少女達は旅館の従業員の代わりを務める事となってしまった。
そんな所にふらりと現れた彼女達の担任教師、糸色望。
彼がやって来た事によって、事態はさらにややこしい方向へと進んでいくのだった。
旅館自慢の露天風呂、現在、その一つは十数人もの入浴客ですし詰め状態になっていた。
しかも、そのほとんどが女の子である中にたった一人男性が混ざっているという奇妙な状況。
女の子達はみな件の2のへの少女達、男性は彼女達の担任・糸色望である。
これにはちょっとした事情があった。
いくつもある露天風呂の中からまだ誰も入っていない風呂を選んだ望。
しかし、この『たくし湯』において、その行動は少し軽率だった。
『たくし湯』に一番最初に入ってしまった者は他人から何かを託されてしまう。
今回、望が託されてしまったもの、それは……
「託されてしまいました」
「託されちゃいました」
温泉に入った望の左右から寄り添ってくるまといとあびる。
彼女達に惚れちゃってた若干ストーカーっぽい男達から、望は二人の事を託されてしまったのである。
そして、ソレはまといとあびるの二人だけにはとどまらなかった。
次から次へとやって来る見も知らぬ男達が、勝手に絶望少女達の事を望に託して去っていくのである。
気が付けば、温泉にやって来た2のへ女子のほとんどが望のたくし湯に入っていた。
残っているのは可符香と千里の二人だけである。
可符香は立て続けの『たくし』連発によってすっかりドツボに嵌った望の姿を見ながらニヤリとダークな笑顔
「これはまた、いい委ね」
なぁんて事を言ってみたりする。
一方、千里は裸の女子生徒達と露天風呂でハーレム状態の望にご立腹。
可符香曰く「絶望先生 混浴温泉で女生徒に囲まれてもっはもっはの巻」なこの状況に対して
にっこり笑顔と共にスコップを構え
「いや、普通に湯けむり殺人事件だろ」
と、殺る気マンマンである。
若く瑞々しい素肌を晒す少女達に囲まれてガクブル状態の望はそれに気付く余裕もない。
このまま毎度の猟奇な展開に突入するのに、さして時間は掛からないだろう。
ところが、そんな時である。
「そっか……あの人が千里先生の好きな人なんだ……」
「へっ!?」
いつの間にやら、彼女の背後に立っていたまだ小学生と思しき少年。
彼は望の姿を見ながら、少し寂しそうに呟いた。
「やっぱり、僕みたいな子供じゃ千里先生の相手は出来ないよね……」
その言葉で千里は思い出す。
以前、千里は以前、小学校で(ちょっとばかり過激かつ危険な内容の)図画工作を教えた事があった。
その時、千里によく懐いてくれた男の子が一人いたのを思い出す。
「僕は、千里先生に幸せになってほしいから……だから、お願いしますっ!!!」
少年の手の平が千里の背中をポンと押した。
それはごく軽い力だったのだけど、不意をつかれた千里はバランスを崩しそのまま望達の浴槽にドボン!!
「ちょ…ちょっと待ちなさい!!」
ズブ濡れになった千里が体を起こし、周囲を見回した時には、既に少年の後姿は遠く彼方へと走り去っていた。
残された千里はただただ呆然。
そんな彼女の所へ、晴美が近付いてくる。
323 :
266:2010/01/14(木) 21:00:22 ID:GQyPEjXx
「なるほど〜、あの子にとって、千里は憧れのお姉さんだったわけだ」
「な、な、な、何よ晴美!?何なの、その言い方?」
「千里ってなんだかんだで面倒見は良いもんね。年下の子に好かれちゃうのもわかるなぁ……まぁ、それはともかくとして…」
戸惑う千里の前で晴美はにやまりと満面の笑みを浮かべ
「ていっ!!」
「きゃあああああっ!!!」
千里の着ていた着物を、肩からズリ下ろし、下着も脱がせて一気に彼女を裸に剥いてしまう。
「ちょっと晴美、何するのよっ!!!」
顔を真っ赤にして怒る千里に、晴美は悪びれた様子も見せずにこう答える。
「千里こそ、何をボンヤリしてるのよ。せっかくのチャンスなんだから積極的にいかないと!」
「あっ……」
そうなのだ。
現在のこの状況、千里は他の絶望少女達と同様に自分の事を勝手に望に託されてしまったのだ。
これは望に想いを寄せる千里にとって、またとないチャンスである。
すぐ近くには少女達に囲まれて、すっかり弱り切っている望の背中が見えた。
「そうね。私だって……」
望の後姿を見ながら、千里はぐっと拳を握り締める。
というわけで、『たくし湯』での絶望少女達による望へのアプローチはさらに激しさを増していく事になった。
一方、そんな温泉の様子を見ながら可符香は満足そうに微笑んでいた。
千里による猟奇オチも良いが、この展開もなかなか悪くない。
だが、絶望教室の黒幕はどこまでも貪欲だ。
彼女は望む、さらなる混沌と混乱を…………。
「もしもし、ちょっと用意していただきたいものがあるんですけど……」
温泉をこっそり抜け出した可符香が、電話で依頼した『ある物』は、この後、望と少女達をとんでもないパニックへと導く事となる。
それは突然の出来事だった。
「うわあああっ!!!しまった、積荷がっ!!!!」
露天風呂の外から聞こえてきた強烈なブレーキ音と叫び声。
それから少し遅れて夜空に弧を描き、その『積荷』とやらが温泉に飛び込んできた。
パッと見、セメント袋のようなそれは露天風呂の敷地の内側に落下した後、水に濡れた石床を滑りその全てが望達のいる浴槽へと突っ込んできた。
「きゃあああああっ!!!!?」
悲鳴を上げる少女達の目の前で『積荷』はお湯の中に落ちてしまった。
しかも、ここまで飛ばされてくるまでに袋が破れてしまったらしく、その中身がどんどんお湯に溶け出していく。
大草さんが袋に印刷された文字を読み上げて、少女達は温泉のお湯を白く濁らせていくソレの正体を知った。
「……片栗粉…業務用!?」
「片栗粉って、あんかけとか料理にとろみをつけるのに使う、あの片栗粉?」
意外な答えに声を上げた奈美に、大草さんは肯いた。
空から飛来した片栗粉の大袋。
訳のわからない状況にお湯の中の面々は呆然とするしかない。
「とにかく、このままだと片栗粉がどんどんお湯と混ざってしまいます。とりあえず、お湯の中から出してしまいましょう」
そんな中、兎にも角にもこの異常事態に対処しようと立ち上がったのは望だった。
彼は周囲の2のへ女子達の裸が目に入らぬよう顔を伏せながら、片栗粉の袋に近付いていく。
そして、袋の近くにしゃがみ込み、そのまま袋を持ち上げようとしたのだが……
「ひえっ!?」
スッテーン!!!!
望は足を滑らせて、水しぶきを上げながらその場に転倒してしまった。
「先生っ!」
さらに心配して駆けつけようとした愛も同じように足を滑らせ
「危ない、加賀ちゃん!!」
彼女の体を支えようとした奈美も、巻き込まれてお湯の中に倒れこむ。
「ど、どうなってるの、コレ?」
「とにかく助けなきゃ」
そう言って、千里と晴美が三人の方へ一歩踏み出したが
「駄目っ…足元が滑って進めない!」
「なんだかお湯がぬるぬるしてきてるよ、千里…っ!!」
ねっとりと肌に絡みつくお湯がそのぬめりで少女達の動きを阻む。
この露天風呂の中で何が起こっているのか、ここまで来れば理解出来ない者はいなかった。
「片栗粉のせいで温泉にとろみがついちゃったの!?」
呆れたようなまといの声が響く。
324 :
266:2010/01/14(木) 21:00:55 ID:GQyPEjXx
だが、一見すると馬鹿馬鹿しいだけのこの状況、よく考えると実は非常に拙い。
「きゃっ!滑った!!」
「翔子、大丈夫?って、しまった、私まで!!?」
片栗粉が混ざって粘性を持ち始めたお湯のせいで、少女達は滑ったり転んだり散々な目に遭ってしまう。
しかも、元々十数人が一緒に温泉に浸かっていたせいで、浴槽の中は誰かが手足を動かせば別の誰かに当たるような状態である。
誰かが転べば、周りの誰かにぶつってしまう。
ぶつかられた誰かはバランスを崩して、次の誰かを巻き込んで自分も転ぶ。
次々と起こる連鎖反応のおかげで、いまや露天風呂の浴槽内は完全にパニックに陥っていた。
しかも、そうやってじたばたともがく少女達の動きにかき混ぜられて、お湯はさらにとろとろのぬるぬるになっていく。
「うわっ!!」
「きゃあああっ!!?」
ぬめるお湯に足を取られて転んだカエレは、咄嗟に目の前にいたあびるの体に抱きついた。
「ごめん、あびる……」
「カ、カエレちゃんこそ大丈夫?」
謝るカエレと、彼女を心配するあびる。
二人の顔は真っ赤だった。
なぜなら、あびるに抱きついたカエレの右手はあびるの右の乳房を掴み、左手はあびるのお尻の辺りを抱きしめ、
最後に右頬はあびるの左乳房に押し付けられていたのだから。
気心知れた友達同士とはいえ、この密着状態は恥ずかしすぎた。
「す、すぐに体勢立て直すから、待ってなさい…!!」
慌ててあびるの体から離れようとするカエレだったが、足元もおぼつかないこの状況では簡単な事ではなかった。
慎重に、慎重に、バランスを立て直そうとするカエレ。
しかし……
「カエレちゃんの指…胸に当たって…ひああっ!?」
「あ、あびる?」
カエレが体勢を立て直す際、体中のいたる所を彼女の手の平で触られ、
ぬるぬるの肌を密着させられるその未体験の刺激が、今度はあびるの体のバランスを崩させた。
当然、あびるに寄りかかって立っていたカエレも同じ運命を辿る。
二人の体はもつれ合うようにしてぬるぬるのお湯の中へドボン!
「ああんっ!?…あびる…そこ、触っちゃ駄目ぇ……!!」
「カエレちゃん…太もも、すりつけないで……っ!!」
お湯の中で起き上がろうとする動きがぶつかり合って、意図せずして相手の体を刺激してしまう。
二人の大きめの乳房がぶつかり、くにゅくにゅと形を歪めながら何度も押し付け合わされる。
必死にしがみついてくるあびるの指先に背中をなぞられて、カエレがたまらずに声を上げる。
「ひっ…あっ…あびる…だめっ!…だめよぉ!!!」
「カエレちゃん…止まってぇえええっ!!!」
抜け出そうとすればするほど、互いの体が刺激し合って体がさらに敏感になってしまう。
あびるとカエレはまるで底なし沼にでもはまったように、ぬるぬるの中でもがき、悲鳴を上げ続けた。
325 :
266:2010/01/14(木) 21:02:06 ID:GQyPEjXx
一方、片栗粉の袋の付近で倒れた望、奈美、愛の三人は、袋から直接溶け出した特に片栗粉の濃度の濃い場所にいた為にほとんど身動きを取れずにいた。
方膝立ちの望に左右から奈美と愛が必死でしがみついている。
三人ともこの状態が恥ずかしくて仕方がないのだが、手を離せばたちまち滑ってぬるぬるのお湯の中に沈んでしまい、
二度と起き上がれなくなりそうだったので、このままの体勢から動くことが出来ない。
「日塔さん、加賀さん、二人とも大丈夫…ですか?」
「う…うぅ…あんまり大丈夫じゃないかもです」
「すみません…こんなはしたない格好で先生にくっついたりして……」
互いを気遣いながらも、三人は決して目を合わそうとはしない。
思いを寄せる担任教師が相手に、素っ裸で密着しているこの状況。
お湯の熱さも手伝って、ほとんど脳が茹で上がってしまいそうな恥ずかしさである。
この上相手の顔など見てしまった日には、頭がショートしてしまいかねない。
「こうなっては、もう片栗粉の袋を回収しても意味はありません。とにかく、誰か一人でもここを出て助けを呼んで来ないと……」
望はそう呟いて周囲を見渡すが、ぬるぬる温泉の中の少女達は誰もがほとんど同じような状態で、ここから抜け出せそうな者はいない。
「わ、私がいってきます……」
愛が静かにそう言った。
「加賀さん、無茶ですよ」
「そうだよ!こんなにぬるぬるじゃ、お風呂から出る前に絶対転んじゃうよ!!」
望と奈美がくちぐちに愛を止めようと言葉をかける。
「でも、誰かが行かなければならないんです……」
しかし、愛の決意は固かった。
「それじゃあ、いってきます……」
慎重に最初の一歩を踏み出す愛。
お湯の底のぬめりの状態に気を付けながら、さらに一歩、もう一歩と進んでいく。
だが、しかし……
「きゃあああああっ!!?」
やはりそれは無謀な挑戦だったのか?
フラリと倒れこんできた女子の背中にぶつかられて、愛の体勢はいとも容易く崩れてしまった。
「か、加賀さんっ!!」
こちらに倒れてくる愛に向かって、望は咄嗟に手を伸ばし、彼女の体を受け止めた。
その衝撃に望は危うく転倒しそうになるが、そこをさらに奈美が支える。
「だ、大丈夫ですか、加賀さん?」
「はい……でも…」
しかし、この一連の動作によって望、奈美、愛、三人の体勢はさっきより不味い感じになっていた。
望は愛を正面から受け止めたため、当然二人の体の前面は否応なしにくっつき合う形になっていた。
さらに望を背後から支える奈美の胸が、彼の背中にぎゅうぎゅう押し当てられている。
しかも、三人はこれ以上バランスを崩さないために、互いに強く抱きしめ合っていなければならないのだ。
密着した肌から伝わってくる体温の熱さが三人からだんだんと思考能力を奪い去っていく。
「せ、せんせ〜い……すみません…すみませぇん……!!」
「ちょっ…加賀さん、落ち着いて!体を擦り付けないでくださいっ!!」
「うう…加賀ちゃんばっかりズルイよ…私だって、せんせい……」
次第に暴走を始めた愛と奈美。
二人に前後から挟まれ、サンドイッチ状態の望には抵抗の術もない。
ぎゅっと望をしがみついて体を擦り付けてくる愛と、そんな愛と望、二人の体をまとめて抱きしめてくる奈美。
「せんせい…!せんせい……っ!!」
「ああっ!!せんせいがドキドキしてるの、伝わってくるよう……」
絹よりも滑らかな二人の少女の肌が、ぬるぬるのお湯を潤滑剤にして望の体の上を滑る。
愛と奈美は望の体の感触を全身で受け止めて、さらなる興奮の渦に飲み込まれていく。
当然、こんな状態で望の体の、男性としての機能が反応しない筈がない。
「あ……せんせい…なにか硬いものがあたってます……うあ、これ、熱いですぅ……」
「か、加賀ちゃんばっかりずるいよぉ……先生…先生ももっと私のこと感じてください……」
「二人とも勘弁してください!ていうか、止まって!止まってくださいよぉ!!」
無論、望の哀願など聞き入れられる筈もない。
愛は望の腰のタオルを下から盛り上げる硬い部分に、夢中になって自分の大事な部分を擦りつけ
同じく奈美も、大事な部分を背後から望のモモに擦り付けて、何度となく切なげに声を上げる。
「せんせい…すみません…わたしっ!…わたしぃいいいいいいっ!!!!」
「ふああああああっ!!!!せんせい…私…もう……っ!!!!!」
一際大きな声を上げ、全身をビクビクと震わせてから、奈美と愛はその場にへたり込んだ。
326 :
266:2010/01/14(木) 21:03:59 ID:GQyPEjXx
「…もう私…お婿に行けません……」
そして、望も力尽きたようにその場にペタンと尻餅をつく。
もはやこの三人に、旅館の館内にまで助けを呼びにいける気力など残っていなかった。
さて、今度は露天風呂の浴槽のフチ近く、そこでは美子が必死になってお湯の中から脱出しようとしていた。
だが、浴槽の外に伸ばされた彼女の腕はお風呂の外の石敷きを空しく滑るばかり。
溢れ出たぬるぬるのお湯が周囲を囲んで、浴槽の外までも滑りやすくしているのだ。
「や、やっぱり駄目みたい…きゃっ!?」
幾度かのチャレンジの後、お湯の中に滑り落ちそうになった美子の体を、翔子が支える。
「美子、あんまり無理しないでよ」
「ごめん、翔子……」
二人は色々と工夫を凝らして浴槽の外への脱出を図っていたが、それらはことごとく失敗に終わっていた。
「このまま脱出できないのは辛いわね……だいぶのぼせてきちゃった。頭がくらくらするわ」
翔子に背中を預けたまま、美子がぼやいた。
彼女達がこの露天風呂に入って、はてさてどれくらいの時間が経過したものか。
冷たい外気に直接触れる事のできる露天風呂とはいえ、そろそろ熱いお湯の中に留まり続けるのも限界である。
それなのに、風呂から上がろうとしても、目の前のせいぜい数十センチの段差を越えられないのだ。
「普通に従業員がいるなら、そっちの助けを期待してもいいんだけどね……」
いい加減ぼんやりし始めた頭を抱えて、翔子もため息を吐いた。
現在、この旅館の営業は全て彼女達2のへの女子に託され、本来の従業員は影も形もないのだ。
そして、その2のへ女子ご一行はほぼ全員がこのぬるぬる温泉から抜け出せない状態。
まさに打つ手なしである。
と、そんな時……
「うわわ…すべる…すべっちゃう、翔子助けて!!」
「み、美子っ!!?」
翔子にもたれかかっていた美子の体がぬるりと滑って浴槽の中にひっくり返りそうになっていた。
そうなれば最後、とろみのついたお湯の中から這い上がるのはかなり困難である。
翔子は慌てて美子に抱きつき、彼女の体を支えようとした。
ところが、翔子の手の平が掴んでしまったものは……
「しょ…翔子…痛い…そこ、痛いから!!」
「あ、美子……ご、ご、ご、ごめんっ!!!」
翔子が掴んだのは美子の乳房だった。
そんな所に滑り落ちそうな自分の全体重がかかっては、痛いのも当然。
しかし、翔子にはそれに対処する術もない。
せめて腋の下に手を入れられれば、そこで美子の体を支える事が出来るのだが、あいにく彼女は美子の両腕の外側から体を抱きしめていた。
美子も手足を動かして何とか自分の体がこれ以上沈まないように踏ん張るが、なかなか体勢を元に戻すことが出来ない。
ぬるぬるのお湯の中でじたばたともがいて、ようやく美子が起き上がる事が出来たのはそれから五分も経過した後だった。
「あうう…翔子、ごめん…ただでさえのぼせてるのに、疲れさせちゃって……」
「き、気にしないで、美子……」
ようやくピンチを脱した二人は、さっきの二の舞にならぬよう、互いの体にしがみついて支え合っていた。
しかし、体力を激しく消耗した二人の意識は、温泉の熱に当てられてだんだんぼんやりと霞んでいく。
327 :
266:2010/01/14(木) 21:04:42 ID:GQyPEjXx
朦朧とする意識の中で翔子は、さきほど掴んだ美子の胸の感触を思い出していた。
(美子のおっぱい…柔らかかったな……形もキレイだし………もう一回ぐらい、触ってみたいかも……)
頭の芯までのぼせきった翔子の思考回路は、なんだか妙な方向へ流されていく。
翔子にしがみついて、自分の体を休めるのに精一杯な美子はそれに気付く由もない。
やがて、翔子の左手はゆっくりと美子の胸に伸びてゆき……
「ひあっ!?…ひゃあ!!…しょ、翔子!!?…いきなり何して……!!!」
「やっぱり美子の胸、すごく柔らかくてすべすべ……気持ちいいな…」
美子の悲鳴も耳に届かないのか、翔子は夢中で美子の胸を交互に触り、揉み、手の平の中で弄ぶ。
現在の体勢を支えるので精一杯な美子は、その間、翔子にぎゅっとしがみついている事しか出来ない。
翔子の手の平はあくまで優しく美子の乳房に触れてくる。
先ほど胸に感じた痛みとの落差もあって、美子は親友の指先の感触をいつしかこそばゆくも心地良く感じ始めてしまう。
翔子の指に弄られるたび、美子は翔子の体に抱きついた腕にぎゅっと力をこめる。
(あ、また美子がぎゅっとしてきてる……もしかして、気持ちいいのかな……?)
そして、そんな美子の行動がさらに翔子を暴走させてしまう。
美子の胸の先端、薄桃の突起を指の間に転がし、何度も力をこめて摘み上げる。
敏感なその部分を刺激されて、美子の息はどんどん乱れていく。
「ふあっ…ああっ……翔子っ…翔子ぉ!!!」
「美子、可愛い……すごく可愛いよぉ…」
翔子の責めを味わい続ける美子には恥ずかしさを感じる余裕など既に無く、何度も大きな声を上げてしまう。
そして、普段はクールな親友の乱れた声が、翔子の興奮をさらに高めていく。
「美子っ!好きっ!大好きっ!!」
「あああっ!!翔子っ!私もっ!!私もぉおおおおっ!!!」
温泉で高められた体温がさらに燃え上がり、密着した素肌を通じて二人を高みへと導いていく。
「ひっ…あっ…くぅううんっ!!…翔子っ!…翔子ぉおおおっ!!!」
「ああああっ!!!美子ぉおおおおおっ!!!!」
やがて、美子はビリビリと全身を痙攣させたかと思うと、ぐったりと翔子の体へ寄りかかってきた。
翔子はそんな彼女の体を愛しげに、優しく抱きしめる。
それから、荒く息を切らす美子の耳元に、翔子はこう囁いた。
「ねえ……今度は美子が私にさっきのアレ、してくれないかな?」
それを聞いた美子は少し考えてから、
「うん……」
頬を赤く染めて、肯いたのだった。
328 :
266:2010/01/14(木) 21:05:51 ID:GQyPEjXx
美子と翔子がそんな事をやっているそのすぐ隣では、音無芽留がなにやらじたばたともがいていた。
(は、放せっ!放しやがれぇええええっ!!!!)
「こら、芽留ちゃん、そんなに暴れないの。お湯が周りに飛び散って迷惑でしょう?」
(お前がオレを放さないからだろうがぁ!!!)
芽留は大草真奈美の膝の上に抱かれていた。
というか、麻菜実に捕まって、ぎゅうっと抱きしめられていた。
芽留はこの状況が非常に不味いものであると理解していた。
普段ならば旦那さんの為に苦労して、危ないお金儲けに嵌ってしまう以外はごく常識人の麻菜実だが、
ときどきとんでもない暴走をし始める事があるのだ。
芽留の脳裏に昨年の、ダメAEDでの一件のときの麻菜実の姿が蘇る。
今の彼女は、あの時と同じ目をしていた。
「芽留ちゃん、おとなしくして。でないと、ちゃんと体を洗ってあげられないじゃない」
(だから、何でオレがオマエに体を洗ってもらわなきゃならないんだよ!)
怪しい光をたたえた眼差しを向けられて、芽留の全身が震え上がった。
麻菜実は芽留の体をそっとその指先で撫でて
(ひ…ああっ!?…なんか、今、体がゾワって……っ!!?)
「タオルが流されちゃったけど、私の手で丁寧に洗ってあげるからね、芽留ちゃん」
優しげな声で芽留にそう囁きかけた。
それから、麻菜実は芽留の体を洗うべく、彼女の体中をその柔らかな手の平でこすり始める。
麻菜実の指先は一切の遠慮無しに芽留の肌の上を動き回る。
小学生と見紛うほどに小柄な芽留には、そんな麻菜実の手の中から逃れるだけの力は無い。
ただ、甘んじて麻菜実の指先が体中を撫でて、揉んで、こするのを受け入れるしかない。
(…うあっ…くぅううっ!?…そんなとこ…さわんなぁっ!!!)
腋の下に脇腹、そして小さな胸に至るまで麻菜実はどんな場所でも一切手加減なし。
敏感な場所を好きなように弄くられて、芽留は何度も体を仰け反らせ声にならない悲鳴を上げた。
(…っあ…こんな…むちゃくちゃされたら…オレ…変になるぅ……)
目尻に涙を浮かべる芽留を無視して、麻菜実は彼女の幼い胸を徹底的に揉み洗い。
さらに、先端の突起を指で摘まみ
「芽留ちゃんのここ、綺麗な色してる……」
なんて言いながら、指の間でくにくにとこね回す。
(はぁ…ひぃ…くぁあああっ!!…だめ…それいじょ…むりなのにぃいいっ!!!)
あまりに激しい刺激に頭をイヤイヤと左右に振る芽留の反応も、暴走中の麻菜実には芽留が喜んでいるようにしか見えない。
329 :
266:2010/01/14(木) 21:06:25 ID:GQyPEjXx
「慌てないで、たっぷり時間をかけて、体の隅々まできれいにしてあげるから……」
(…ひゃ…ひゃめろ…もう…そんなの耐えられない……)
全身に絶えず刺激を与えられ続けた芽留は、もはや手足を持ち上げる気力すら失われてしまっていた。
そんな無防備を晒す芽留の体を、麻菜実の指は容赦なく侵略していく。
やがて、麻菜実の指先が辿り着いたのは、女性の体の中でも最も敏感な部分。
両脚の付け根に挟まれた大事なその部分も、麻菜実の指のターゲットになっていた。
(や…めろぉ…そこは…そこだけは……)
麻菜実が次に何をしようとしているか、それに気付いた芽留は必死に体を起こそうとするが、刺激に痺れた体は全く言う事を聞かない。
「ほんと、芽留ちゃんの体ってきれいね……私も頑張って洗ってあげなきゃ…」
(だから…洗わなくていいだろぉおおおおっ!!!?)
なんとかそれだけは回避しなければと、麻菜実の手を掴み芽留だが、指先が痺れて力が入らず、結局彼女の手を止める事が出来ない。
やがて、麻菜実の人差し指と中指が芽留の股の内側に割り入り、その部分に触れた。
(…………っっっ!!!!)
瞬間、芽留の頭の中を強烈な電流が駆け抜ける。
芽留の体のほかの部分と同じく、まだ未発達なソコを自分以外の誰かの手に触れられる衝撃に彼女は耐えられなかった。
「うわあ、芽留ちゃんのアソコぷにぷにしてる。奥の方まで徹底的にキレイにしてあげるからね」
傍から見ると、麻菜実の行動はどこぞの変態と変わらないのだが、当人に全くその自覚はない。
ただひたすらに善意と真心をこめて、麻菜実は芽留の体を洗うのだ。
そして皮肉な事に、麻菜実があくまで真摯に真面目に、芽留の体を洗おうとすればするほど、それは芽留を激しく責め立てる事になるのだ。
(ひにゃ…はうぅうううっ!!…くぅ…あはっ!…ああっ!!!…こんな…めちゃくちゃにされるなんて……うああああっ!!!)
敏感な部分を徹底的に弄り倒されて、麻菜実の腕の中で芽留の体が激しく踊る。
麻菜実の指先はさらに幼い割れ目に押し入り、くちゃくちゃと内側をかき回す。
一切の遠慮容赦のないその指の動きに、芽留の意識は何度も寸断される。
(あああっ…も…だめ…これ以上オレ、ぜったい我慢できない……)
「それじゃあ、最後の仕上げにもう一度、徹底的に洗うわよ!!」
(や、や、やめろぉおおおおおおおおおっ!!!!!)
芽留の心の悲鳴は届くことはなく、麻菜実の指先は芽留の割れ目の一番奥深くまで差し入れられた。
(ひぅ…ああああっ!!…だめだっ!!だめぇえええええええっ!!!!)
そしてその状態から、激しく内側をかき回す。
あまりに凶悪で強烈なその刺激が芽留の全身を貫く。
(…うあ…ゆるして…も…ゆるしてぇええっ!!!!)
既に許容量いっぱいの刺激を受け入れた芽留の体に、麻菜実の指がさらなる激感を送り込む。
麻菜実の指に深く強く突き上げられた芽留の体は、まるで雷に撃たれたように震えた。
全身を弓なりに逸らし、白い喉をむき出しにして、恍惚と困惑の狭間で翻弄され続けた芽留は絶頂の高みへと持ち上げられる。
(ひぅ…くぅああああっ!!…や…あぁ…イクぅ…オレ…イっちゃうよぉおおおおおおおおおっ!!!!!)
そして、芽留の体は糸の切れたマリオネットのように力なく崩れ落ちた。
「うふふ、芽留ちゃん、体きれいになったね……」
満足げに微笑む麻菜実の声も、意識を失った芽留には届くことはなかった。
330 :
266:2010/01/14(木) 21:07:26 ID:GQyPEjXx
もはや誰も彼もが乱れに乱れ、とんでもない騒ぎになっている露天風呂を見渡しながら、千里は呆然と呟いた。
「変よ。これ、絶対変だわ。ただの片栗粉だけで、みんながこんな風になる筈ない……」
千里の推理は当たっていた。
この騒ぎの原因の片栗粉、それを持って来るように依頼した犯人である可符香は、
片栗粉の中にちょいと怪しいおクスリを混ぜておくように指示していたのだ。
その成分はお湯を通して、風呂の中の全員の体にすみやかに浸透し、彼女達をここまで乱れさせてしまった。
(ちなみに片栗粉自体もこの温泉の成分と反応して、よりヌルヌル感が増すように細工をされている。)
千里はその事を、何よりも温泉の熱以外の原因で熱く火照り始めた自分の体から感じていた。
そして、この後彼女はさらに、片栗粉に混ぜられた怪しい成分の力を、嫌というほど実感する羽目になる。
「ち〜り〜!!」
「きゃっ!?は、晴美!!?」
突然、背後から抱きすくめられて、千里はあやうく体のバランスを崩してこけそうになる。
何しろ、今のこの浴槽の中はぬるぬるのお湯でいっぱいなのだ。
それは晴美も承知している筈なのだけど……
「晴美、いきなりどうしたの!?転んじゃったらどうするのよ!!」
「えへへ〜、千里、そんなに怒んないでよぉ」
「な、何?ちょっと変よ、晴美……?」
「変じゃないよ。ほら、お詫びの印………」
そう言ってから、晴美は突然に千里の唇にキスをした。
「んぅ!?…んんっ…んくぅうう……ぷあ…あ……は、晴美!!?」
「あは、千里ってやっぱり可愛い…初めて会った頃と全然変わらないなぁ……」
どこか遠くを見るような、蕩け切った晴美の瞳。
それを見て、千里は彼女に何が起こっているのかを悟る。
(やっぱり、あの片栗粉……)
何とか晴美を止めなければ、そう考える千里だったが、片栗粉に混ぜられたモノの影響を受けているのは自分も同じである。
「は、晴美…ちょっと落ち着いて…少し話しましょう」
「だーめ!千里って目を離すとすぐにどこかに行っちゃうから……今日は私、ぜったい千里の事、離さないんだ」
二度目、三度目のキスが千里の唇に降り注ぐ。
そして、親友からの口付けの感触を味わう度に、千里の中で保たれていた理性がぐずぐずと溶けていく。
(ダメなのに…こんなのいけないってちゃんと分かってるのに…私……)
心の中でぐるぐると葛藤を繰り返す千里。
そして……
「は、晴美…私も……」
「ん…んんぅ……ち、千里……」
四度目のキスは千里から仕掛ける事になった。
息継ぎも忘れて、互いの唇に自分の舌を差し入れ、夢中になってお互いの唾液を味わう。
長い長いキスが終わった後、唇を離して晴美を見つめる千里の瞳は恍惚の色に輝いていた。
今まで考えた事もなかった、同性との行為。
しかも相手は幼馴染であり、長年の親友でもあるのだ。
だけど、今の二人には一度堰を切った感情を止める事が出来ない。
「はぁ…あ…千里っ…千里ぃ……」
「…うああ…晴美ぃ……」
互いの名を呼び合いながら、ぬるぬるの温泉に濡れた艶かしい肌を擦り付け合い、まさぐり合う。
晴美には千里の、千里には晴美の感じやすい部分、触れて欲しい部分が手に取るようにわかった。
(こんな事するなんて、考えた事もなかったのに……不思議ね)
ぼんやりとした意識の中で千里は思う。
多分、これは二人が重ねてきた長い長い時間のためなのだろう。
小さな頃、ろくに友達もいなかった千里と出会い、今まで一緒にいてくれた親友。
想いはきちんと言葉にしなければ伝わらないもの。
だけど、一度伝え合う事が出来たなら、お互いの気持ちを感じ取って通じ合う事ができる、それだけのものが二人の間にはあるのだ。
331 :
266:2010/01/14(木) 21:08:07 ID:GQyPEjXx
「千里の胸、すごく可愛いね……」
「や、晴美……ダメよ。私、晴美みたいに胸、大きくないから……」
「ううん。私は千里の胸、好きだよ」
「ひあ…はぁあああっ…あっ…晴美ぃいいいっ!!!」
晴美の舌が千里のささやかな胸をぺろぺろと嘗め回す。
くすぐったくも心地良いその感覚に、千里は何度も声を上げた。
「あ…はぁ……晴美…それなら、私だって晴美にたくさんしてあげたい……」
そして、晴美が唇を千里の胸から離すと、今度は千里が晴美の胸に両手をあてがい、その形の良い乳房を優しく揉み始めた。
「あっ…くう…千里の手が…私のおっぱい触ってる…気持ちいいよぉ……」
ときに繊細に、ときに大胆に、千里の愛撫は晴美の胸をたまらない刺激で満たした。
快感の強さに耐えかねて、千里の背中に回した晴美の腕がビクビクと震える。
「晴美のおっぱい…すごく柔らかい……」
「ふあっ…ひああっ…千里っ…もっとして…もっとっ!!!」
晴美は千里の右肩の辺りに顔を埋め、そこから鎖骨を通り首筋に至るラインに何度もキスをした。
こそばゆい唇の感触を何度も味わって、千里の声も一際大きくなる。
「千里…私もっと、千里といっしょに気持ちよくなりたいよ……」
「晴美……私も…大好きな晴美と一緒に……」
そんな言葉を交わした後、千里と晴美、二人の右の手の平はそれぞれ相手の一番敏感な部分へと伸ばされていく。
「あっ…千里のここ、すごく熱くなってる……」
「あんっ…晴美ぃ……晴美のだって、すごく熱いよ……」
余った左腕で互いを抱きしめ、唇は幾度もキスを重ねる。
そして右手の指先で、愛しい親友の大事な部分に指を這わせ、くちゅくちゅとかき混ぜ始めた。
「はうっ…ふぁ…ひやああっ!!…あっ…千里っ!!すごいっ!すごいよぉ!!!」
「は…晴美ぃいいっ!!!…私も…も…気持ちよくて……うああああんっ!!!!」
互いに互いをぎゅっと抱きしめながら、一心不乱に相手の熱い部分を弄る二人。
触れ合った体の全体から伝わる、相手の強い想いが千里と晴美の行為をさらに白熱させていく。
ぬるぬるのお湯はお互いを愛撫する際の最良の潤滑剤となり、擦り付け合わせられる素肌と素肌が艶かしい光を放つ。
「ああっ…千里…いっしょにイこう……私、千里といっしょにイキたいよぉ!!!」
「私もよ、晴美ぃ!!……二人でいっしょに…いっしょにぃいいいいっ!!!!」
一際強くお互いの体を抱きしめながら、二人は叫んだ。
互いのアソコを弄る指の動きは激しさを増し、千里と晴美を際限のない快楽の高みへと引きずり上げていく。
やがて、二人の中で極限まで高められたそれは、ダムの決壊の如く津波となって千里と晴美を飲み込んだ。
「くぅ…ひあああああっ!!!!千里っ!!イくよっ!!私、イっちゃうぅううううっ!!!!」
「晴美っ!晴美ぃいいっ!!!…ああ、私もイくぅううううううううううううっ!!!!!!」
怒涛のような快感の中で、二人は絶頂へと上り詰めた。
それからしばらく、二人は動く気力もなくその場にへたり込んでいたのだが、
「千里……」
「晴美……」
お互いの名前を呼び合い、もう一度強く抱きしめあったのだった。
332 :
266:2010/01/14(木) 21:08:50 ID:GQyPEjXx
さて、そんなぬるぬる風呂での大騒ぎを物陰から見る人物が一人。
「あらら、予想以上にとんでもない事になっちゃった。クスリがききすぎたかな…?」
みんながたくし湯に入る中、一人だけ傍観者の位置をキープし続け、片栗粉を使ってさらなる混乱を招いた張本人。
風浦可符香はクラスメイト達の乱れ様を見て、流石に少し後悔していた。
「そろそろ、みんなをお風呂から引っ張り上げてあげた方がいいよね」
呟いた彼女は、救出用のロープを片手に2のへの面々の入る露天風呂へと近付いていった。
「先生、大丈夫ですかぁ?」
可符香はまず、浴槽の真ん中あたりで数人の女子に囲まれてぐったりしている望に声を掛けた。
「これが大丈夫に見えますか?みなさん、このぬるぬるのお湯のせいで大変な事になってたんですよ」
「あはは……とにかく、今、助けのロープを投げ込みますから、体重の軽い人からそれを使ってお風呂から上がってください」
「うう……そんなものがあるなら、もっと早く助けに来てくれてもいいじゃないですか」
ロープを受け取った望は、それを近くにいたマリアの手にくるくると巻きつけてやる。
その様子を見ながら、可符香が口にした次の一言。
これが余計だった。
「すみません……でも、今回は私もちょっとやり過ぎたかなって反省してるんですよ?」
「えっ!?」
驚きに顔を上げる望と、明らかにしまったという表情を浮かべる可符香。
「風浦さん、もしかして今回のコレ、ぜんぶあなたの仕込みなんじゃ……」
「い、いやだなぁ、先生……そんな事あるわけないじゃないですか……」
苦しい言い訳を口にしながら、可符香は一歩前に踏み出す。
だが、そこには露天風呂から溢れ出たぬるぬるのお湯がたまっていて……
「きゃああっ!!?」
足を滑らせた可符香は前のめりに宙を飛び、露天風呂の中へドボンと落ちてしまった。
幸い、咄嗟に望が手を伸ばして受け止めてくれたお陰で怪我はなかったのだけど……
「どうするんですか!!これじゃあ、ロープを引っ張ってくれる人がいないじゃないですか!!!」
「あ、あらら〜」
流石の可符香もこれには呆然自失。
「こ、これはですね。私も自分の事を先生に託してみたいなって……」
「託されたって、この中にいる限り私には何も出来ませんよぉ!!!!」
露天風呂の上に広がる冬の寒空に、望の絶叫が響き渡る。
2のへの面々がこのぬるぬる風呂から脱出するには、まだしばらくの時間が必要なようだった。
333 :
266:2010/01/14(木) 21:09:33 ID:GQyPEjXx
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
すげー…………狂ってやがる(最上級の褒め言葉)
温泉が媚薬入りのローションになって乱交大会とか、その発想に勝てる気がしない
GJでした
なんというとろとろむらむら
よかったー
待望のハーレムエンド!
ナイス!!!
まさかの加賀望奈美
加賀さんはなんて卑猥なんだ
gj
そろそろ容量いっぱいに近付いてきたから
新スレ立てなきゃな
ていうか、俺は無理だったので誰か頼む
>>340 乙!
最近の流れだったらまだ余裕あるかもしれないけど
いきなり大量投下もあるから安全のためには新スレ立てたほうがいいかもな
と書こうとしてたら新スレで大量投下があって吹いたw
しばらく離れていたと思ったら、なんか投稿増えているのな。
何があった?
次スレ以降の案内
エロパロなどの二次創作は、大規模なものでは、投稿ログ容量が
かなり大きいため、そろそろ次スレ移行の時期ですね。
>>340が紹介している次スレへどうぞ。
345 :
266:2010/01/23(土) 18:37:40 ID:AwvFqVpr
穴埋めついでに、先日の温泉SS(
>>322-332)の続きを少し書いてきました。
可符香総受けと、その後の絶望少女達の姿を少し。
最終的には望カフに。
それではいってみます。
346 :
266:2010/01/23(土) 18:38:29 ID:AwvFqVpr
湯煙の立ち昇る露天風呂のお湯の中、風浦可符香はかつてない窮地に立たされていた。
露天風呂に浸かる2のへの女子生徒達と担任・糸色望に彼女が仕掛けた、
膨大な量の片栗粉を彼女らの入る風呂の中に投入するという悪戯はものの見事に成功した。
片栗粉でぬるぬるになったお湯の感触と密かに配合されていたあやしいおクスリの効果で
絶望少女達は身も心もとろとろに蕩けて、湯船の中で級友や担任教師の肌の感触、体温、悩ましげな喘ぎ声に溺れに溺れた。
その様子をこっそりと物陰から見ていた可符香は、悪戯の成果に満足し
お湯のぬめりのせいで湯船から脱出不能になっている望と女子達を助けるべくロープ片手に救助に向かった。
ところが、ふとした弾みで湯船の外まで飛び散っていたぬるぬるのお湯に、彼女は足を滑らせてしまい湯船の中にドボン。
幸い、望の腕に受け止められたおかげで、怪我こそ無かったものの、
仕掛け人である彼女までがぬるぬる風呂の中に落ちた事でもう誰の助けも期待できなくなってしまった。
というわけで、現在、その露天風呂の中。
ぬるぬるしたお湯の中で迂闊に動くのは危険なため、可符香は彼女が湯船に落下したときに受け止めてくれた望の腕にしがみついていた。
周囲ではのぼせ上がった絶望少女達がさらなる快楽の渦に巻き込まれていた。
「あっ…うぁ…芽留ちゃん!…そこ…おっぱい吸っちゃだめぇ……っ!!!」
芽留の体を洗うと言って、彼女の全身を撫で回し、くちゃくちゃにしていた麻菜実。
そのせいで芽留の方にまでスイッチが入ってしまったらしく、今は麻菜実の方が芽留の手の平に全身を愛撫されていた。
(さっきは…オレが洗ってもらったんだから…今度はオレが大草さんの体をキレイにしなくちゃ……)
果たして、麻菜実の体を洗う事と、彼女の豊かな乳房に吸い付く事にどんな因果関係があるのかは分からないが、芽留は真剣そのものである。
一方、あびるはカエレの体に背中を預け、うっとりと二人で見詰め合っていた。
「あびる…ここの傷もまだ跡が残ってる……ホントに大丈夫なの…・?」
「うん。これくらい慣れてるから、ありがとうカエレちゃん………んっ」
互いの体をいたわり合うように触れながら、幾度と無く甘い口付けを交わす。
今のあびるの瞳にはカエレだけが、カエレの瞳にはあびるだけが映っていた。
うっとりと蕩けていく意識の中で、あびるとカエレは二人だけの世界に浸り切っていた。
さらに、こちらは無限連鎖商女の二人。
「あんっ…美子…そんなとこキスされたら…だめ…くすぐったいよぉ……」
「だって、翔子の肌、すべすべでいい匂いがして、私止められないの……」
湯船のフチの石に背中を預けた翔子の体の至る所に、美子が夢中になってキスマークを残していく。
美子の唇に触れられる度、翔子の体がピクンと跳ね上がる。
親友の肌の味わいを唇に感じ、そのとろけるような甘さでさらなる深みに嵌っていく美子。
二人は終わる事のない快楽のループの中で、どこまでも果てしなくお互いの存在に溺れていく。
347 :
266:2010/01/23(土) 18:39:11 ID:AwvFqVpr
「うわあ、なんだか凄い事になってますね……」
「全ての元凶のあなたが、何を言ってるんですか……」
そして、再び可符香と望。
可符香は望にしがみつきながら、周囲で繰り広げられるクラスメイト達の乱れた姿に見入っていた。
遠くから観察していただけでは分からない、渦中に居てこそ分かる絶望少女達の熱情の激しさ。
こうなる事を予想して全てを仕組んだ筈なのに、可符香はしばらくの間、言葉もなくその様子に見入っていた。
それから、先ほどから感じていた疑問を、望にぶつけてみる。
「そういえば、どうして先生だけ普通の状態なんですか?」
「そりゃあ、ここであなたの策略に乗せられれば、一発で職を失って、社会復帰もままならなくなりますからね……」
「なるほど、枯れた心とチキンハートが先生を救ってくれたわけですね」
「相も変わらず失礼な物言いですね……」
なんて、軽口まじりの会話を交わしながらも、可符香は気付いていた。
望もまた、既に限界いっぱいの状態である事を。
人一倍臆病でネガティブな精神構造がブレーキをかけているだけで、何かきっかけがあれば彼も周囲の絶望少女と同様の状態になる筈なのだ。
その証拠に、彼の胸元にしなだれかかり、そっと耳を当てれば、長風呂のおかげでただでさえ早まっている鼓動がさらにスピードを増していく音が聞こえる。
望は明らかに、自分に密着している可符香の存在を意識している。
(後は、最後の一押しがあれば先生だって………って、私、何考えて?)
そこまで考えたところで、可符香はハッと我に返る。
(私も…先生といっしょに…みんなみたいな事をしたいと思ってるの……?)
いつの間にかそんな事を考えていた自分自身に可符香は戸惑う。
とろとろ風呂のあやしい薬効にやられているのは、望や級友達だけではない。
可符香が露天風呂に落ちてまだ五分も経過していなかったが、その効果は少しずつ可符香の理性を奪おうとしていた。
このまま、湧き上がる感情に身を任せるべきか否か、可符香は迷う。
だが、彼女をとりまく状況はそんな逡巡をしている余裕など与えてくれなかった。
「ふ、風浦さ〜ん…すみませ〜んっ!!」
「か、加賀ちゃん!?」
突然、可符香の背後から抱きついてきたのは、すっかりとろとろ風呂の虜となった愛だった。
彼女は可符香の着ている着物の隙間から、その細い手を差し入れ、可符香の柔らかな肌を好き勝手に愛撫し始める。
「ひゃ…あはっ…ああっ…加賀ちゃん…くすぐったいよぉ…ああっ!!!」
「すみません…でも、風浦さんのその声、すごく可愛くて…私、止まれません……」
弱気な口調とは裏腹に、愛の責めは積極的かつ丹念で執拗だった。
可符香の首筋に、鎖骨に、柔らかな乳房に、腋の下に、背中。
彼女の上半身のいたる所に指を這わせ、特に可符香が感じやすい場所を見つけるとそこを集中的に愛撫する。
「ひ…あっ…加賀ちゃん…待って…うああああんっ!!!」
「風浦さんっ!…風浦さぁんっ!!!」
間断なく続く愛の責めに踊らされる可符香は、体を駆け抜ける刺激を堪えようとぎゅっと望の腕にしがみつく。
「加賀さん、落ち着いて。風浦さんを放してあげてください」
「あ、先生…先生も風浦さんを気持ちよくしてあげてください。私の手だけじゃ、全然足らないんです」
「って、だから、こっちの話を聞いてくださいってば!!!」
望も、そんな可符香の様子を見かねて助けようとするが、そもそも身動きの取れない状況。
愛もすっかり説得の通じる状態ではなくなっており、何をしてやる事も出来ない。
「それなら、私が手伝うよ。加賀ちゃん……」
と、その時、また別の声が可符香達に近付いてきた。
「奈美…ちゃん?」
「ふふ、可符香ちゃんも一緒に気持ちよくなろ?」
声だけはいつものまま、とろりと蕩けた目つきの奈美は愛と同じように可符香の背後から近付いてくる。
そして……
348 :
266:2010/01/23(土) 18:40:08 ID:AwvFqVpr
「ひにゃぁんっ!!?」
「可愛い……可符香ちゃんっていつも落ち着いてるから、こんな声は新鮮だなぁ…」
可符香の着物の中に手を差し込み、さらにその下のショーツの内側にまで指先を侵入させる。
奈美の指先はためらいなく、可符香の最も敏感な部分に狙いを定め、少しおぼつかない動きでそこを刺激し始める。
「な、奈美ちゃ…そこダメ…だめぇえええっ!!!」
「そんな可愛い声で言われたって止められないよ。ねえ、加賀ちゃん」
「はい。今の風浦さん、とってもえっちで可愛いと思います」
あやしいおクスリの効果のせいだろうか、二人の愛撫には一切の容赦というものがなかった。
激しく、ただほとばしる熱情のままに奈美と愛の二人は可符香の体を責め立てる。
そして、その責めを受ける可符香もまた、早まる鼓動にあやしいおクスリの成分の浸透を促進させられて、
次第に意識は朦朧と、うっとりとした気分に飲み込まれ始める。
「ちょっと、だから日塔さんも加賀さんも落ち着いて……風浦さん!しっかりしてください、風浦さん!!」
(あ……先生……先生が私の事、呼んでくれてるんだ……)
目の前で繰り広げられる可符香の痴態に戸惑い、何とか止めようとする望の声にも、
今の可符香は愛しい担任教師が自分の名を呼んでくれている事への幸福感しか感じられない。
次第に剥がれ落ちていく可符香の理性。
そして、それに追い討ちをかけるように、またまた別の人物が彼女達のところにやって来た。
「うわ、可符香ちゃん、気持ち良さそう……ねえ、千里…」
「うん、晴美、わかってるわよ……」
ぬめぬめの浴槽の底に膝立ちになって、ゆっくりと近付いてきたのは千里と晴美の二人。
彼女達は可符香の体の左右に回りこんで……
「ふふ、可符香ちゃん……」
「私達がきっちり気持ちよくしてあげるから……」
彼女の左右の耳たぶにそっと甘噛みをした。
既に体中が敏感になっていた可符香は、その刺激にたまらず声を上げる。
「ひっ…ふぁああんっ!!…千里ちゃ…藤吉さん…耳…だめぇえええっ!!!」
舌先で耳たぶのフチをねぶられ、むずかゆいような、くすぐったいような絶妙な力加減で耳たぶを噛まれる。
両耳に与えられる刺激は左右から押し寄せて、可符香の頭の中まで揺らしてしまうようだった。
さらに、千里と晴美はそれぞれ、右手と左手を可符香の着物の中に滑り込ませ、愛や奈美といっしょになって可符香の体を愛撫する。
首筋に、鎖骨に、這い回る千里と晴美の指先。
愛は可符香の両の胸を揉みしだき、さらにうなじの部分に何度もキスをしてくる。
奈美の指先は可符香の大事な部分を内側から徹底的にくちゃくちゃにかき回し、怒涛の如き快感で可符香を翻弄する。
級友四人に自分の体を好き勝手にされて、快楽の渦の中で可符香はぼんやりと考える。
(先生……先生もいっしょに……)
絶える事のない快感の波に溺れて、涙で滲んだ視界に映る担任教師の顔。
今はそれに少しでも近付きたかった、触れたかった。
(キス…したい……)
可符香はその一心で、しがみついていた望の腕を頼りに彼に少しでも近付こうとする。
望の肩に腕を回し、そっと自分の唇を彼の唇へと近づけていく。
(先生……)
数瞬後に訪れるであろうキスの瞬間を想像しながら、可符香は瞳を閉じた。
そして……
「風浦さん……」
望の腕によって、可符香の体は抱き寄せられた。
「んっ…んぅ…ぷあ……あ…先生……?」
「風浦さん…私はあなたの事が……」
強く重ねあわされた二人の唇から、互いに舌を差し出して、可符香と望は存分に舌を絡ませ合い、お互いの唇を味わった。
長く激しいキスが終わった後、唇を離した可符香が目にしたのは、まっすぐに自分の瞳を見つめてくる望の眼差しだった。
「風浦さん…私はあなたが…欲しい……っ!!!」
いつになくストレートな望の言葉。
いまやまともに思考する事も出来ないほど蕩け切った可符香には想像もできない出来事だった。
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266:2010/01/23(土) 18:41:02 ID:AwvFqVpr
望の眼前で繰り広げられた、可符香と絶望少女達の行為。
それを見させられ続けた事が、ギリギリのラインで踏みとどまっていた望の理性を一気に決壊させたのである。
今の望にあるのは、愛しい少女をその腕で抱きしめたいという強い想いだけ。
「先生……先生…っ!!!」
こちらもあやしいおクスリの効果なのだろうか。
可符香もまた今までにないくらいストレートに望を求めた。
ぎゅっと抱きしめあった二人は、互いの想いを確かめ合うようにもう一度キスをする。
そして………
「私、先生とひとつになりたいです……」
「私だって…っ!!風浦さんっ!!!」
着物をはだけさせ、下着をずらし、露になった可符香の大事な部分、その入り口に望のモノが押し当てられる。
二人は潤んだ瞳で見つめあいながら、互いの耳元に囁く。
「きてください…先生……」
「風浦さん、いきますよ…」
ヌルリ。
とろとろのお湯が潤滑剤になって、望のモノはスムーズに可符香の中に入っていく。
体の内側から硬く熱い質量に摩擦されるその感触に、可符香はゾクリと身震いする。
「ふあ…ああっ……せんせ…の…入ってきて……うああっ!!!」
既に愛達四人に散々責められた体は、臨界点ギリギリの快感を叩き込まれている。
そこにさらに打ち込まれた、望の、愛しい人の確かな存在感が可符香をさらに乱れさせていく。
「ああっ…ひゃああんっ!!…せんせっ!…せんせいぃいいっ!!!…すご…きもちいいよぉ!!!!」
「くぅっ!!…ああっ!!…風浦さんっ!!…風浦さんっっっ!!!!」
そして、それは望も同じであった。
ギリギリまで理性を保ち、湧き上がる欲望を押し殺す内に溜め込まれたものが、可符香への気持ちというベクトルを与えられて一気に噴出したのだ。
激しく突き上げ、強く抱きしめ、何度となくキスをして、火がつきそうなほどに燃え上がるお互いの体温を感じ合った。
そんな怒涛の如き行為の最中、望の頭の片隅にほんの僅かに残った冷静な部分はこんな事を考える。
(こうまで自分を抑えきれなくなってしまったのは…やはり、相手が風浦さんだから…なのでしょうか……?)
「ふああんっ!!…やはぁ…せんせいっ…せんせいっ!!ああああああっ!!!!」
自分の背中に確かに感じる、一心にしがみついてくる少女の細腕の感触。
それが愛おしくて、愛おし過ぎて、望の中の熱はさらに高まり、暴走は止まらなくなっていく。
着物の前をはだけさせ、露になった鎖骨や首筋にキスをして、乳房に吸い付きその先端の薄桃の突起を舌先で思う様にねぶる。
望の責めに反応した可符香の体がビクンと跳ね、切なげな声が鼓膜を震わせる度に望の心は可符香への感情で爆発してしまいそうになる。
「ああっ!!風浦さん、好きですっ!!好きなんですっ!!」
「せんせいっ!!私も…っ!!私も先生のこと………っ!!!」
可符香と望の心が、体が、快楽と熱情の螺旋の中をどこまでも上り詰めていく。
そのあまりに激しい快感に時折途切れそうになる意識を繋ぎ止めるのは、腕の中に感じるお互いの存在だ。
二人は互いの名前を、気持ちを叫び、加速していく行為の中でついに限界を迎える。
「風浦さんっ!!私は…もう…っ!!!」
「あああっ…せんせいっ!!…私も…いっしょにぃいいいいっ!!!!」
一際強く突き上げられた衝撃が、可符香の全身を電流となって駆け抜ける。
そして、それが望と可符香の心と体の中、ギリギリまで熱を溜め込んでいた巨大なダムを決壊させた。
「風浦さんっ!!ああ…愛していますっ!!!」
「せんせ…私も…ふああああっ!!!…好きっ…好きぃいいいいいいいいっ!!!!!」
強く強く抱きしめあいながら、可符香と望は絶頂に達した。
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266:2010/01/23(土) 18:41:39 ID:AwvFqVpr
それから、どれくらいの時間が経過しただろうか。
可符香と望はあの後もずっと抱き合ったまま、過ごしていた。
二人の周りには、愛に奈美、千里に晴美がそっと寄り添っていた。
「先生、これで教師失業確定……かもしれませんね」
「今回のは、単に教え子とそういう関係を持ったとか、そんなレベルの話じゃありませんからね。一体、どうなる事やら……」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。この一件は、私が先生をちょっと脅迫したいときにしか使いませんから。
他の誰かに漏らすなんて、絶対にないですから、どうぞ安心してください……」
「うぅ……そもそもはあなたの仕組んだ事なのに……」
「それに乗っかったら、先生だって同罪ですよぉ」
くすくすと笑う可符香と、心底弱り果てたような口調の望。
だけど、その言葉はともかくとして、二人の表情はどこか楽しげで、晴れ晴れとした様子さえあった。
「あんなにストレートに、先生が好きって言ってくれるなんて、なかなかある事じゃないですからね」
「実は私も……なにせチキンなものですから、普段はどうしても言えなくて……」
と、そんな時……
「そういえば、風浦さん、ちょっと前まで呂律も回らないような状態だったのに、普通に喋れてますね……」
「見てください、先生。お湯が……」
可符香は手の平ですくい上げた湯船のお湯を、望に見せた。
そこには少し前までのとろみや粘り気はほとんど残っていなかった。
「もしかして……」
望が湯船の中に投入された、あの片栗粉の袋を見ると、既にその中身は全くの空っぽになっていた。
露天風呂にはその温度を保つため、新しいお湯が流れ込んできて、古いお湯が排出される仕組みがあった。
今までは、新しく入ってきたお湯と袋から溶け出す片栗粉の量が拮抗して、常に一定以上のとろみが維持されていた。
だが、袋の中の片栗粉が尽きた事でその均衡が破れ、お湯の成分も元通りになったのだ。
「考えてみれば、家風呂みたいに少人数で使うんじゃないんだから、お湯の入れ替わりはあって当然でしたね」
しかし、お湯の方は元に戻っても、すっかりのぼせてしまった2のへの少女達はどうにもならない。
腰にタオルを巻きなおし、立ち上がりながら望が言う。
「みんな、これ以上お風呂に入れとくのは危険ですし、ここは唯一動ける私達がやるしかありませんね」
「はい、先生」
ずぶ濡れの着物の前を合わせて、可符香も同じく立ち上がる。
それから、まずは手近な四人の救出から取り掛かろうとしたところで、ポンポンと望の手が可符香の肩を叩いた。
「おっと、忘れるところでした……風浦さん」
「はい?」
振り返った可符香の体を、望が抱き寄せ、その唇にそっとキスをした。
「さっきの勢いが残っている内に……これくらいはいいでしょう?」
「は、はい……先生…」
ここで素直に照れてしまう辺り、可符香もまだ先ほどまでの雰囲気から抜け出せていないようだ。
それから、二人はおでこをくっつけて、照れくさそうに笑い合ってから、他の2のへの少女達を助けるべく救出作業を開始したのだった。
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266:2010/01/23(土) 18:42:12 ID:AwvFqVpr
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
GJ!!