【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part21【改蔵】

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1名無しさん@ピンキー
前スレ
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】 (Part20)
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1231760633/

これまでに投下されたSSの保管場所
2chエロパロ板SS保管庫
ttp://sslibrary.gozaru.jp/

あぷろだ(SS保管庫付属)
http://www.degitalscope.com/~mbspro/userfiles_res/sslibrary/index.html

===スレに投下する際の注意===

・SSの最後には、投下が終わったことが分かるようにEND等をつけるか
 後書き的なレスを入れてください。
・書きながら投下はルール違反です。書き終えてからの投下をお願いします。
・前書きに主要登場キャラ、話の傾向を軽く書いておいてください。
・鬱ネタ(死にネタなど)、エロなし、鬼畜系、キャラ崩壊、百合801要素などは
 注意書きをお願いします。
・ただし、完全に女×女や男×男のネタなら百合板、801板の該当スレで。
・過度な謙遜、自虐は荒れる原因になるので控えてください。

書き手にもルールがあるからといって必要以上に
気負わずにみんなと楽しくやっていきましょう。
2名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 22:56:52 ID:DX4wnzsu
過去スレ
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225406105/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part18【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1218731031/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part17【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1212483646/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part16【改蔵】
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【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part15【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207085571/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part14【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1204387966/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part13【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200314711/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part12【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1196555513/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part11【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193976260/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part10【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191831526/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part9【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1190512046/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part8【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1189391109/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part7【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1186778030/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part6【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167898222/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Partご【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147536510/
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part4【改蔵】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1123772506
【改蔵】久米田康司エロパロ総合 Part3【南国】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1105319280
かってに改蔵 Part2 【久米田康治総合】
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1083582503/
【かってに改蔵〜天才エロ小説〜】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1035829622/
3266:2009/06/12(金) 23:14:22 ID:tVj2Z/lx
>>1
スレ立て、本当にありがとうございました。

続きを投下させていただきます。
4266:2009/06/12(金) 23:17:20 ID:tVj2Z/lx
倫を捜索する糸色家の黒スーツの面々からコッソリと抜け出した黒スーツの青年は、仲間からの報告を受けていた。
「6人がかりで襲い掛かって失敗したぁ?武器を持っても所詮、素人って事か……」
糸色家の人間にカモフラージュした彼の仲間が糸色倫達に襲い掛かったが、ものの見事に返り討ちに遭ってしまったらしい。
この日のために相当鍛えてはいたらしいが、やはり素人、武器を持って粋がったところでこんなものだろう。
だが、糸色倫達が今いる地点の周辺には、色々と罠を張り巡らせてある。
しかも上手い具合に糸色家の情報網は偽の情報の氾濫でほとんど機能を停止している。
「今、直接動かせる戦力はざっと20人か……よし、ここで勝負をかけるぞっ!!俺も直接、例の場所に向かうっ!!」
無線機にそう怒鳴ってから、青年は楽しくてたまらないといった表情でその場から走り去っていった。

「つまり、景兄さんは縁兄さんと倫を連れ戻しに来たんですね?」
「ああ、お前らと追いかけっこなんて、めちゃくちゃ楽しそうじゃないか」
偽者の黒スーツから逃れた倫達一行は小走りに進んでいた。
目指す先は交番である。
倫を狙って襲い掛かってきた暴漢達、彼らの出現によって事態は大きく変わってしまった。
もはや、家出がどうのと言っている場合ではない。
しかも、敵は倫が家出をしようとしていた事まで知っていたのだ。
糸色本家の内部に内通者がいるのは確実だった。
家出は中止、しかし糸色の屋敷に戻るのも安全とは言い難い。
そこで、命達は警察に連絡し、その力を借りる事にした。
しかし、である。
彼ら6人は揃いも揃って、携帯電話を持っていなかった。
命と望は学校の校則で制限されている為、海外を放浪していた景も当然持っていない。
倫、倫の友人、あんの三人は揃って親から『まだ早い』と言われていた。
しかし、雑木林と畑に囲まれた道の近くに公衆電話があろう筈もなく、6人は警察と連絡できる場所を目指すことになった。
幸い、昔この辺りで遊びまわった命や望、景はこの道をしばらく行くと周囲からポツリと離れた交番が一つある事を知っていた。
「ところで、縁兄さんはどうしたんです?」
「ああ、いや、そのな……自分がいちゃ、見つかるものも見つからないって言って、俺から離れてどっかに行っちまったよ」
縁の無い男、糸色縁、彼は倫の早期発見の為に自ら身を引いたのだ。
景、命、望、倫の四人はあまりに寂しすぎる長兄の行動に、しばし目に涙を浮かべる。
「さて、あの交番、昔っからオンボロだったし、無くなってなきゃいいんだけど……」
「ははは、そりゃあ十分有り得るなぁ」
「景兄さん、笑い事じゃないですから……」
正直、謎の敵に追われる身となった倫達にとって、景の存在はありがたいものだった。
自己完結型人間である景が自ら編み出した拳法は彼自身にしか扱えないが、戦力としては非常に頼りになる。
何より、景の振りまく明るい空気が怯える倫達に安心感を与えてくれた。
「あっ、見えてきましたよ!!まだやってるといいんだけど……」
遠くに見えた交番の影に、望が声を上げた。
命達の記憶が正しいなら、今もあの交番を一人っきりの老巡査が守っている筈なのだが……。
と、そこで望は、隣を歩くあんの表情が少し曇っている事に気付いた。
「どうかしましたか?なんだか不安そうな表情ですけど……」
「あ、ううん……別に何でもないよ、おにいちゃん」
「そうですか……?」
望は不安げなあんの視線の先に例の交番がある事に気付く。
(ああ、そうか…この娘もあの交番がまだ現役なのか心配なんですね…)
一人納得した望は歩調を速めて交番に急ぐ。
「おい、望、そんなに急ぐなよ!!」
「僕が早めに確かめてきますよ。命兄さんっ!!」
そう言って走り出した望は、早めに交番の事を確かめてあんやみんなを安心させようとしか考えていなかった。
だが、命が何気なく視線を向けたとき、走っていく望の後姿を見てあんの表情が固く強張っている事に気付いた。
交番まであと50メートルほど、揃って視力の悪い糸色の兄弟には交番が現役かどうか判別はつかなかったが、
少なくとも幼い少女を恐れさせるものが、そこに潜んでいるとは思えなかった。
やがて、望は交番にたどり着き、こちらに向かって手を振る。
「お巡りさんはいないみたいですけど、扉も開いていて、電話も使えそうですよっ!!!」
望の言葉を聞いて、命はホッと安堵する。
扉の前で待つ望と合流し、命たちはそのまま交番の中に入ろうとしたのだが……。
5266:2009/06/12(金) 23:18:38 ID:tVj2Z/lx
「命おにいさま、へんですわっ!!!」
その時、倫が叫んだ。
「お巡りさんがいないのに、お巡りさんの自転車が置きっぱなしですっ!!!」
その言葉に、命の全身がゾクリと戦慄する。
しかし、時既に遅く望は交番の扉を開いてしまった。
その瞬間!!!
「動くなっ!!!!」
交番の机の影から、奥の扉の向こうから、交番の裏や周囲の農機具小屋の影から、周囲を囲むように男たちが飛び出した。
その数、20人余り………。
「待ち伏せされていた……」
呆然と望が呟く。
(暴漢に襲われた後、その先には逃げ込むべき交番、しかも周囲に民家は少ない。手段を選ばないのなら最高の待ち伏せポイントじゃないか……っ!!!)
命もこれまでその事に気付かなかった自分の甘さに愕然とする。
男達は黒スーツが11人、10人がそれぞれ思い思いの私服を着ていた。
彼らは当然の如くその手にそれぞれ武器を持っていたが、その内4人ほどはボーガンをこちらに向けていた。
まさに最悪の展開、今度こそ王手詰みといった状況だった。
景、命、望の三人はそれぞれ少女達をかばうように三方の壁になるように立つ。
謎の暴漢達はそんな命達へとジリジリと距離を詰めてくる。
「この人数、突破できない事もないが……くそっ!!」
景がくやしそうに呟く。
「ボーガンの矢をかわして、それが倫達に当たったりしたら……」
命の顔も青ざめていた。
「ごめんなさいっ!!僕が焦ったばかりに……」
「望、お前が悪いんじゃないよ……」
6人の背中を嫌な汗が伝い落ちていく。
と、その時、11人いる黒服の内、一番年若い青年が前に出て、命達に話しかけてきた。
「さて、状況はわかってもらえてると思うけど、みなさん怪我をする前にそこのお嬢さん、倫様を渡していただけませんかね?」
「それだけは出来ないな……」
ぬるっとまとわりつくような、爬虫類を思わせる視線に命は嫌悪感を覚えた。
だが、ふと気がつく。
(俺は、こいつに見覚えがある……?)
そういえば、2年ほど前に新しく加わった黒スーツの中にいたような……。
「お前か…こいつらに倫の家出や居場所の情報を流していたのは……」
「お、流石は医大志望、頭の回転が速い。その通り、俺が二年前からアンタ達の家で世話になってるスパイさ……」
「糸色家で働くには入念な身元調査があるはずだぞ。お前みたいなヤツがどうして……」
命の言葉に、青年はクククッと嫌な声で笑い、もったいぶった口調で答える。
「その辺は、こんな事を仕出かす動機とも重なってるんでね。少し長い話になるんだけどな……。まあ、聞いてもらおうか……。
ほら、覚えてないかい?アンタのお父上の追及を受けて収賄やら何やら不正を片っ端から暴かれて死んだ議員がいただろ……」
それは5年ほど前、その頃まだ中学生だった命には遠い過去の記憶である。
父・糸色大の追及から端を発し、次々に不正を暴かれ、ついには自宅に火を放ち一家心中した一人の議員がいた。
「俺はソイツのいわゆる妾腹の息子……っていうのも違うんだよな。俺の母親は若い頃のオヤジに強姦されて俺を産んだんだからな」
彼の母は圧倒的な権力を持つ父に抗う事を諦め、渡された手切れ金と共に姿を消し、その心の傷も癒えぬまま若くして亡くなった。
「で、周りのコイツらはオヤジの元部下でね。敵討ちをしたいんだか、出世の道を絶たれた復讐をしたいんだか、
よりにもよって俺に手伝えなんて言ったんだよ。『お父上の敵を取りたくはないか』なんて、よく言えたもんだよ」
「それがどうして、こんな事の手伝いをしてる?」
「まあ、面白そうだったからなぁ」
悪びれもせず、青年は言った。
元部下達が欲したのは、糸色家内部に潜り込むための、自殺した議員と世間的にはほとんど繋がりの無い同志だった。
そこで、彼らは恥知らずにも、この青年を仲間に引きずり込んだのだ。
「復讐なら、他にいくらでも方法があるだろう?何故、倫なんだっ!!!」
「またまたぁ、それがどれだけ難しいのはソッチも良く知ってるだろ?」
糸色家の人間は強力なセキュリティに守られ、また、子供達は倫を除く全員が既に立派な大人の体格にまで成長している。
セキュリティの内側までスパイとして潜り込んでも、そこから攫い出すのはそれなりに困難である。
「まあ、攫い易いってのが一番の理由かな?それから、虐めて一番楽しいのも、小さいけれどお転婆な倫お嬢様だ……」
「なっ!!?」
「愛する末娘の無残な姿で脅しを掛けて、こちらの要求を呑ませようって算段さ」
命は怒りで頭の中が沸騰していくような感覚を感じていた。
6266:2009/06/12(金) 23:20:14 ID:tVj2Z/lx
チラリと左右を見れば、くやしそうに歯噛みする望と、鋭い目で周囲の男達を睨みつける景の横顔が見えた。
三人の兄弟の気持ちは同じだった。
こんな事を許すわけにはいかない。
しかし、この状況に抗うには、彼らはあまりに無力だった。
「命おにいさま……」
不安げに震える倫の手が命に触れた。
「だいじょうぶだ。だいじょうぶだよ、倫……お前だけはこの僕が……」
ジリジリと近付いてくる黒スーツの青年は、この計画の中では途中参加者らしいが、周囲の人間に指示を出しているあたり、
この場の中心人物である事は間違いなさそうだった。
(アイツを取り押さえれば、さっきの奴らと同じで後は烏合の衆だ……)
命は決意を固めた。
この身に代えても、倫の為に血路を拓く。
(後は、望と景兄さんが上手くやってくれるさ……)
また一歩、近付いてきた青年を、命はよく観察する。
青年は手ぶら、もちろん何か武器は隠しているだろうが、使わせなければいいだけの事だ。
「……望、景兄さん、倫の事、よろしく頼むよ……」
小さな声で、命は兄と弟に囁いた。
「命、何を考えてるっ!?」
「命兄さんっ!!!」
望と景が叫んだときには遅かった。
命は黒スーツの青年めがけてまっしぐらに飛び出していた。
「へえ?今日のでわかったんだけど、糸色家の坊ちゃん方って意外に肝が据わってるよね?」
少し驚きながらも、青年は命を受け止める。
どうやら筋力などでは命に勝っているらしい青年を相手に、命は必死に食い下がる。
その様子を見て、周囲の男達に動揺が走ったのを、望と景は見逃さなかった。
「こぉのぉおおおおおおおっ!!!!!」
望が件の洗剤を混合状態にして小瓶に入れたもの三つを、周囲の男達に向けて放り投げた。
立ち込める紫色の煙によって、男達の視界は奪われてしまう。
「これでボーガンは使えないでしょうっ!!!」
「ナイスだっ!!望っ!!!」
望の煙幕攻撃に続いて、景が飛び出す。
煙幕の中で身動きの取れない男達に得意の自己流棒術を食らわせる。
「どーして、あの煙の中で敵が見えるのかは聞いてもわからないんでしょうねぇ……」
景の不可思議な能力に半ば呆れながらも、望は倫を狙って襲い掛かってきた男達と戦う。
倫の友人が日本刀をむやみやたらに振り回したため、わが身大事の男達は倫に接近する事もままならず、望の戦いはずいぶんと楽になった。
倫も必死で友人の日本刀の鞘を振り回し、あんも手近にあった木の棒を向かってくる男に力いっぱい叩きつけた。
やがて、指揮を行っていた青年が命に釘付けになった事で男達の統率に隙が生まれ始める。
(これなら、望が先導してこの場所から倫達を逃がしてやれる。景兄さんがいれば、こっちもそう簡単に不覚は取らない筈だ……っ!!)
命が目配せをすると、望も力強く肯いた。
これで何とか窮地を脱することが出来る。
命がそう思った矢先の事である。
「ざ〜んね〜んっ!!!」
青年が腰の後ろに回した手を、命に向かって振り上げた。
それは、銀色の軌跡を描き、空中に赤い飛沫を舞わせた。
「ぐぅ…うぁあああああっ!!!!」
「命おにいさまっ!!?」
命の悲鳴が周囲に響き渡った。
青年の隠し持っていたナイフが命の胸を切りつけたのだ。
幸い傷はそう深くは無かったが、痛みに苦しむ命の見せた隙を青年が逃す筈も無かった。
「ほらほら、痛がってる暇なんてないぞぉ〜!!!!」
爪先が鳩尾にめり込み、鋭い手刀が幾度も命の体を打ち据える。
ギリギリで保たれていた均衡が崩れた今、命はほとんど青年のサンドバックになっていた。
だが、命はダウン寸前のギリギリのところで踏みとどまった。
7266:2009/06/12(金) 23:21:19 ID:tVj2Z/lx
(こんな…奴らに倫を…っ!望を…っ!!景兄さんを……っ!!!!)
青年がナイフを構える。
再び命の体を斬りつけるつもりなのだ。
だが、それこそが命の狙い目だった。
青年はナイフの力を過信していた。
刃物をチラつかせれば、どんな相手もひるむのだと思い込んでいた。
「悪いが、そう上手くはいかないっ!!!!」
青年がナイフを繰り出すより早く、命は相手に組み付き、そのまま道の横の雑木林へと突っ込んでいく。
青年が姿を消し、周囲の暴漢達に再び動揺が走った。
それを見て、望が叫ぶ。
「倫っ!!逃げなさいっ!!!早く逃げるんですっ!!!!」
「でも、命おにいさまが……っ!!」
「命兄さんは私が何とかしますっ!!こっちには景兄さんもいる。そう簡単にはやられませんっ!!だから、お前達三人だけでも……っ!!!!」
倫をこの場から逃がさなければならない。
だが、刃物を持った相手と格闘する兄を放って置く事もできない。
望にとっては苦渋の決断だった。
そして、それは倫にも十分に理解できる事だった。
きゅっと唇を噛み締め、目の端に涙を浮かべ、しかし、倫は望に肯いた。
「わかりましたわ、お兄様っ!!私、きっと逃げのびてみせますからっ!!!」
泣きじゃくりながら、それでも走り出した妹達の姿を見て、望はホッと胸を撫で下ろす。
しかし、少女達の一人がしばらく走ったところで踵を返してこちらに戻ってきた。
驚愕する望の前に舞い戻ってきた少女、それは……
「どうして君が戻ってくるんですかっ!?」
「だって、わたしはおにいちゃんに………っ!!!」
それはいつになく辛そうな表情のあんだった。
「わたしがおにいちゃんに、あの交番がおかしいって教えてたら、こんな事にならなかったのに……っ!!!」
少女をこの場に止まらせたのは、あの時、交番に対する違和感を指摘しなかった事に対する罪悪感だった。
もはや、倫達の姿は道の向こうに消えて、もう見えない。
望は、罪の意識に震えるこの少女を全力で守ろうと強く決意を固める。
今しも、警棒を片手に飛び掛ってきた男に、望は全力の体当たりを食らわせる。
(倫、命兄さん、どうか無事で……っ!!!)
心の中、望は必死の思いで叫ぶ。

こうして、倫を狙う悪漢達の手によって、糸色の兄妹は散り散りにされてしまったのだった。

景の奮闘によってなんとか敵を撃退した望達は、命と青年がもみ合いながら消えた雑木林を捜索した。
しかし、二人が争いあった形跡は認められたものの、命の姿を見つける事はできなかった。
「命兄さん……」
望たちは沈痛な面持ちで俯く事しかできなかった。
その後、交番の中を調べた望たちはさらに驚くべきものを発見する。
それは………
「畜生、じいさん、殺されてたのか……」
首を絞められ無残に殺された、老巡査の死体がそこにあった。
どうやら敵は、望や景のように抵抗してくる相手には弱腰であるにも関わらず、その力のない人間には容赦しないようだった。
電話や無線の類は完全に破壊され、ここから外部に連絡を取る事もできない。
果たして、命は無事なのか?倫達は逃げ切る事ができたのか?
望たちにはもはや知る術もなかった。
だが………
「わたしが囮になりますっ!!!」
沈黙する望と景に、決然とした表情のあんがこう宣言した。
「き、君は一体何を言って……!!?」
呆然とする望の前で、あんはポケットからいそいそと小さな子供用のハサミを取り出し、それから景に対してぺこりと頭を下げた。
「髪の毛をください」
「………あんちゃん、だっけか?俺の髪の毛を何に使うつもりなんだ?」
幼い子供のものとは思えないほど、張り詰めたあんの表情を見て景は静かに問いかけた。
8266:2009/06/12(金) 23:23:03 ID:tVj2Z/lx
「カツラを作ります」
「カツラ?」
「わたしが倫ちゃんになりすまして、囮になるんです……」
「な、何を考えてるんですか!?そんな危険なマネ……っ!!?」
望の叫び声も無視して、あんは続ける。
「この交番の先に続く、倫ちゃん達が逃げていった道は途中でいくつかに分かれてます。
その内一つは駅前に、そして、さらにもう一つ警察署の前に通じる道があるんです……」
あんは交番備え付けの地図を取り出し、そこを指でなぞりながら説明していく。
「あの人たちが倫ちゃんに一番行ってほしくないのは、もちろん警察署です。だから、きっと、警察署までの道であの人たちは待ち伏せをしている。
だけど、倫ちゃんは頭が良いからそれに気付くはずです。きっと、倫ちゃんは駅前を目指します。そこにも交番はあるし、人がたくさんいて安全だからです」
「……それで、囮になるっていうのはどういう考えなんだ?」
「……はい。倫ちゃんが駅前を目指している事、それを気付かれない為に、わたしが偽者の倫ちゃんになって、わざと待ち伏せに引っかかるんです。
おにいちゃん達は念のために、倫ちゃんを追いかけてください………」
「わざと、待ち伏せに……罠が張られてるとわかってて、わざわざそれにかかりに行くんですか!?一人きりで……!?」
あんの作戦を聞いて、苦しげな表情で望が尋ね返した。
「そうだよ、おにいちゃん」
「どうしてですっ!?あいつらは普通じゃありませんっ!!!君は自分がどうなってもいいんですかっ!!?」
望が思わず大声で叫ぶ。
「……だって、わたしのせいだから…」
だけど、あんはそんな望ににっこりと、だけど少し悲しそうに微笑みかけて、こう答えた。
「わたしが偽の情報を流したりなんかしなければ、今回の事ももっと早くおにいちゃんの家の人たちは気付いたはずなんです……」
確かに、倫の家出を成功させるため、あんが行った情報操作のせいで糸色家の黒スーツ達は完全に混乱してしまっている。
それがなければ、彼らの直接の助けを期待する事もできた筈だ。
だけど、それはまだ倫を誘拐しようなどという連中が現れる前の出来事だ。
「あなたはそんなつもりで、倫の誘拐の手助けをしようとして、あれをやった訳じゃないでしょうっ!!?」
「だけどっ!でもっ!!現に倫ちゃんは今もあいつらに追いかけられて、必死で逃げ回って……」
必死の表情で望が叫び、あんもそれに叫び返す。
あんの声はだんだんと涙声に変わり始めていた。
「あなたが危ない目にあって、それで倫が助かったって、誰も喜んだりしませんよっ!!」
「でも、倫ちゃんはわたしのせいで…わたしはこの交番がおかしいのにも気付いてたのに……っ!!!」
ほとんど泣きじゃくるような声になり始めたあんの肩を、望が強く掴んで叫ぶ。
「いい加減にしてくださいっ!!!」
「…お、おにいちゃん……」
「あなたをそんな危ない所には行かせませんっ!!!それでも、どうしても行くっていうのなら、僕もついて行きますっ!!!」
「そんな……どうしておにいちゃんまで……!?」
呆然と見上げてくるあんに、望は優しく微笑んで答える。
「僕だって、倫を守ってやれなかったのは同じです。それなら、囮は僕の役目の筈です!!」
「で、でも……」
「それなら俺も同じだな。それじゃあ、俺達全員で囮チームになるって事でどうだ?
正直、今更倫たちを追いかけても、追いつけるかどうかは怪しい。逆に敵に倫の行く先を知らせてしまいかねないしな」
望の言葉に、景もニヤリと笑って応える。
「だいたい、誰が悪いかなんて言い始めたら、君を巻き込んでしまった僕が悪いって言い方もできます。
みんなで一緒にここまで来たんです。最後まで一蓮托生でいきましょう……」
そう言って、望はあんの体を優しく抱き寄せた。
「君は僕が守ります。絶対に…絶対にです……」
「…おにいちゃん……」
そんな二人の様子を見ながら、景はニヤニヤ笑いで茶化してくる。
「望、なんだか知らないが、お前、そのくらいの年齢差の女の子にはやたらモテるよな?」
「な、な、な、何言ってるんですか、景兄さんっ!!?」
「倫ともやたら仲が良いし、将来教師になって生徒とラブラブな毎日を送るってのはどうだ?」
顔を真っ赤にした望を見て、気を良くした景は今度はあんに話を振る。
「あんちゃん、望おにいちゃんの事好きか?」
「好きですっ!!」
「ラブラブになりたいか?」
「なりたいですっ!!!」
「ふ、ふ、二人とも何を言って……!!?」
慌てふためく望を見て、景とあんは揃って笑う。
少し前までの張り詰めた空気が和らいで、三人の心にも少し余裕が出来始めた。
9266:2009/06/12(金) 23:23:52 ID:tVj2Z/lx
「誰かがついてきてるっ!?」
命が必死で作り出した隙を突いて窮地を脱した倫とその友人だったが、やがて背後に迫る追っ手の気配に気付いた。
曲がりくねった道のせいで直接姿は見えなかったが、数人の足音と、口汚く倫を罵る声が聞こえてきた。
ちょうどそんな時、二人は分かれ道に出くわす事になる。
「倫さん、ここは二手に分かれて逃げましょうっ!!」
「でも……」
「とにかく相手を混乱させて、少しでも距離をかせぐんですっ!!さあ、早くっ!!」
倫の友人の言葉は半分はウソだった。
彼女は倫が駅前に向かう右手の道を走っていった後、また道の別れ際に戻ってきた。
そして、後ろにくくっていた髪をほどき、追っ手が来るのを待った。
少しでも、自分を倫に見せかけるための苦肉の策である。
(倫さんを、あんな奴らに渡したりしないっ!!)
追っ手達が分かれ道の手前にやって来た直後に彼女は走り出し、彼らはまんまと彼女の思惑通り倫が進んだのとは逆の道に引き込まれた。
だが、そこからは彼女にとって、最悪の展開だった。
敵に対する彼女の持つ最大のアドバンテージ、彼女がいつも携えている日本刀は、彼女が逃げ込んだ竹やぶでは不利な武器だ。
群生する硬い竹にはばまれて、この竹やぶの中では彼女は日本刀を振り回す事もできない。
だから、彼女は必死で走る。
追いつかれれば、その瞬間に彼女の命運は尽きる。
まさに絶対絶命の状況だったが、彼女の心に後悔は一かけらもなかった。
彼女はただ大切な友達の、倫の安否だけを心配していた。
(倫さん、無事でいてください……っ!!!)

そして、望たちのいた交番から遠く離れた雑木林の一角では、例の黒スーツの頭目である青年がヨロヨロと歩いていた。
こちらの人数の総掛かりで糸色倫を確保する筈が、とんでもない結果になってしまった。
糸色景の予想外の強さと、糸色命の粘り、そしてそれ以上に致命的だった彼の味方たちの無様な戦いぶり……
「その結果が、俺のこの有様ってわけだ……」
青年は必死に抵抗する命ともみ合っている内に、すっかりこの雑木林の中で迷ってしまった。
「まあ、あの眼鏡のボンボンは、もう駄目だろうがな……」
しかし、青年はしつこく食い下がる命をついに撃退する事に成功した。
雑木林の中を移動する内にたどり着いた急斜面に、命を叩き落したのだ。
生きているのか死んでいるのかは知らないが、少なくともこれで命が青年の後を追って来る事はもうない。
後は、逃げ出した糸色倫をどうするかなのだが……。
「ん……!?」
その時、青年の無線機に仲間からの通信が入った。
『糸色倫を発見しましたっ!!』
「そうか、よくやったっ!!それで、場所はどこだっ!!?」
『は、はい、実はそれが……』
蔵井沢市内の要所要所に配された見張り役達が発見した、糸色倫の情報。
だが、それが問題だった。
例の交番の先でいくつかに別れた道の一つ、警察署に直行するルート上で糸色倫の姿が目撃されたという。
しかしその一方、糸色倫を直接追跡していた者たちが彼女を別ルートの先にある竹やぶへと入る姿を目撃したという。
つまり、蔵井沢市内の二箇所で同時に彼女の姿が確認されたという事になるのだ。
(奴らの作戦か?だが、だとしたら、どっちが本物だ……!?)
思いがけない事態に青年は歯噛みする。
偽者に踊らされて人員の配置を誤れば、計画はその時点でご破算だ。
しかし、糸色家のボディガードとして2年間を過ごし、直接間近で倫の姿を見てきた青年ならばともかく、他の人間にはその判別は難しい。
こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎて、青年達にとって状況は不利になっていくばかりだというのに……。
「ええいっ!!ちくしょうっ!!!!」
叫び声を上げて、ついに青年はその場から走り出した。
突如、出現した二人の倫、その難題を前に彼が下した決断とは………。
10266:2009/06/12(金) 23:25:33 ID:tVj2Z/lx
三人は、ただひたすらに走っていた。
望特性の紫色の煙を放つ混合洗剤をばらまいて、その煙に紛れながらまっすぐに走り続けていた。
あんが変装した偽者の倫の出来栄えは決して褒められたものではなかった。
景の髪を糸で器用にまとめ、その部分があんの襟足の髪に隠れるように装着した簡易ウィッグは近くから見ればすぐに偽物だと知れるはずだ。
倫の着物姿を少しでも再現するために、あんはさらに景の作務衣の上着を着て、
かわりに景は望の羽織っていた上着を着用、さらに景も命の髪型を真似て命に成りすます事で髪を切った不自然さを少しでも誤魔化そうとしていた。
無様な出来の変装を、望の投げる煙幕で誤魔化しながら、三人は警察署へ向かう道を急いでいた。
既に後方からは数人の追っ手が迫っていた上、道はしばらくは一本道。
挟み撃ちに遭えば一巻の終わりである。
「だ、だ、だ、大丈夫ですかぁ!?」
背中にヒリヒリと感じる敵意に恐怖を感じながら、望が震える声で隣を走るあんに尋ねた。
「…はぁはぁ…おにいちゃんの方が…大丈夫じゃないみたいだよ?」
「そ、そ、そ、そ、そんな事ないですぅ!!君を守るって、や、や、約束しましたからぁ……っ!!!」
景はそんな二人の様子を見ながら、額の汗を拭いつつ笑う。
「まったく、仲がいいな。……それにしても、短髪ってのも意外と過ごしやすいもんだなぁ…」
全力で走り続ける三人の体力はそろそろ限界だった。
だが、息を切らして走る望の瞳が、突然に輝いた。
「や、や、や、やりましたよっ!!見てくださいっ!!!」
「ああ、わかってるっ!!!」
三人の進行方向、進む道の先に蔵井沢の住宅街が見えてきた。
アソコまで逃げてしまえば、敵も周囲の目を気にして手を出しにくくなるはず……。
今にも膝をつきそうだった三人の体に、だんだんと力が戻ってくる。
「このまま突っ切るぞっ!!二人とも大丈夫かっ!?」
景の力強い言葉に、望とあんも肯く。
だが、その時である。
「えっ!?」
「なんだ、車!?…うわああ、こっちに突っ込んで来るっ!!?」
その住宅街から飛び出した自動車が、猛スピードで望達に真正面から突っ込んできた。
咄嗟にその場に停止した望達にぶつかる直前で、自動車は道を塞ぐように斜めに停車した。
そして、その車から降りてきたのは、やはり倫を狙う一味と思しき黒服の男達だった。
「くそっ!!あの娘、糸色倫じゃないな。まんまと騙された訳だ……どうする?」
「仕方ないさ、もう計画も滅茶苦茶だ。コイツらも糸色家の人間だろう?
叩きのめして、糸色倫の居場所も聞き出して、まとめて人質にすればいいさ……」
物騒な事を話し合う男達から、望達がジリリと後ずさると、今度は望達を追いかけていた男達も追いついてくる。
まさに前門の狼、後門の虎、絶対絶命の状況である。
(どうします、景兄さん?)
(突破するなら車を盾にしてる前側よりも、後ろの連中の方が楽なんだが、ボーガン持ってる奴が何人かいるな……)
(煙幕ならまだ余ってますよ)
小声で脱出方法を話し合う望と景に、あんも口を挟む。
(くるまを盗んじゃうのはどうですか?)
(なるほど、それが一番確実かもしれんな……)
(景兄さん、運転できるんですか?)
(免許はないが、ネパールでトラックの運転して稼いだ事はあるっ!!)
三人の覚悟は決まった。
もはや退路はなく、前に進む以外の道はない。
「いくぞっ!!!」
景の掛け声と共に、三人は走り出した。
すぐさまボーガンを構えた背後の男達めがけて、望は件の混合洗剤を投げつけて紫色の煙で視界を奪う。
前方、車に乗ってやって来た男達は合わせて三人、その内二人が警棒を、そして一人が高電圧タイプの警棒型スタンガンを持っていた。
だが、景は怯まない。
スタンガンの男に真っ先に当身を食らわせ、逆に奪い取ったスタンガンで瞬く間に残りの二人を昏倒させる。
「望っ!!車は奪ったぞっ!!!」
景が叫び、あんが開けっ放しの助手席に転がり込む。
後は、望が後部座席に乗り込めば、この場を離れる事が出来る。
その筈だった………。
(えっ?あれは………っ!?)
だが、望は見てしまった。
紫の煙幕を潜り抜けてこちらに向かってくる男、その手に持っているのよりにもよってボーガンだった。
その矢の照準はまっすぐに、助手席に座る、あんに向けられていた。
11266:2009/06/12(金) 23:27:00 ID:tVj2Z/lx
「くらえぇええええええっ!!!!!」
男が叫び、引き金を引く。
それを見て、望は何も考えずに飛び出していた。
「うわぁああああああああああっ!!!!!!」
ビュンッ!!!
勢い良く放たれた矢は、あんに命中するより早く、その手前に立ち塞がった少年の脇腹を貫いた。
「おにいちゃんっ!!!!」
真っ青な顔で、あんが叫んだ。
さらに、続いて現れた男達の放った矢が、次々に車のタイヤに命中していく。
「しまった……」
景が歯噛みした時には全てが遅かった。
自動車は発進不能になり、望は暴漢達に首筋にナイフを当てられ、人質にされてしまっていた。
「けい…にいさん……はやく…にげてくださ……」
痛みをこらえ、必死にそれだけを口にする望。
だが、今の景に目の前の弟を見捨てて逃げることなどできなかった。
(俺が馬鹿だったのか…?倫の事を考えてるつもりで、今度は弟を危険な目に遭わせちまった……)
「おにいちゃん…ごめんなさい……わたしが…わたしのせいで……」
「だから、そういうのは…もういいですよ……それに、まもるって約束したのは…ぼくなんだから……」
泣きじゃくり、今にも飛び出して行きそうなあんを必死で押さえつけながら、景は男達を睨みつける。
今度こそ完全なゲームオーバー、望達の命運はついにここに尽きたかのように思われた。
だが、しかし………。
「ん、なんだアレ?」
望を捕らえた男がふと空を見上げると、空中に弧を描いてこちらに向かって飛んでくる茶色い何かが見えた。
それは男の頭上を、そして男の背後の仲間たちを飛び越え、地面に落下し………
粉々に割れて、猛烈に燃え上がり始めたっ!!!!
「も、燃えてるっ!!?」
「コレ、火炎瓶だぞっ!!!」
驚愕する男達をよそに、次々と投げ込まれてくる火炎瓶によって、ついに男達の後方を炎の壁で閉ざしてしまう。
誰もが予想だにしなかった事態の中で、望だけは薄っすらと気付いていた。
「火炎瓶って、まさか……」
やがて、望の予期した通り、彼らは現れた。
揃いのヘルメットにゲバ棒を装備した、高校生と思しき四人の少年達が、いつの間にやら車のボンネットや屋根の上に立っていた。
「な、な、なんだお前たちはっ!!?」
「凹乱高校ネガティ部、資本主義の持つ本質的な歪みに鉄槌を加える者だ」
四人の中、ヘルメットを外した長髪の男が名乗った。
「ぶ、部長っ!!…どうして…ここに!?」
脇腹の痛みも忘れ、驚き呆れる望の問いに、部長と呼ばれた男はニヤリと笑って答える。
「何、今日は不審な電波が随分と飛び交っていたからな。怪しいと思って少し調べたら、お前たちに行き当たったわけだ」
それから、部長は炎に焼かれてうろたえる男達を見下ろしてこう言った。
「しかし、まあ、随分とつまらん連中だな」
「な、なんだと……お前ら、我々と戦うつもりか?…こっちには人質も…」
「それは困る。糸色は大事なウチのエースだ。こんな所で死なせるわけにはいかない。……よし!」
ナイフを突きつけられた望の様子を見てから、部長はゆっくりと右手を上げた。
すると、残る三人の部員達は各々両手に火のついた火炎瓶を持ち……
「やっちゃえ」
部長の一声と共に、男達に向かって投擲を始めた。
「う、うわああああああっ!!!!」
「こっちに来るぞっ!!!」
火炎瓶はどれも男達に直撃する事はなかったが、一つ投げられるごとに、彼らの逃げ場を奪っていく。
「わかってると思うが、わざと当ててないんだからな……まあ、このまま投げ続けたら逃げ場が無くなって結局丸焼けだが……」
「無茶苦茶だ。貴様ら自分のしてる事をわかっているのか……っ!!?」
あまりに残虐なネガティ部の攻撃に望を人質に取った男が叫ぶ。
だが、部長は眉一つ動かさず、男を見下ろしながら冷酷に言い放った。
「うるさいっ!!!さっさと糸色を解放して降伏しろっ!!!なんなら、お前以外の全員を焼き殺してから交渉してもいいんだぞ?」
「ひ…ひぃ……っ!!?」
部長の怜悧な眼差しに射抜かれて、男は望に突きつけていたナイフを取り落とし、その場にへたり込んだ。
「…部長……も、もうちょっと助け方ってものがあるでしょう?」
「すまん。お前のその有様を見たら、ついカッとなった……」
男から解放され、支えをなくしてふらつく望の体を、部長が受け止めた。
12266:2009/06/12(金) 23:28:14 ID:tVj2Z/lx
さらに、傷ついた望の元に景とあんが駆けつける。
「望、大丈夫か……!?」
「ええ…矢が刺さったのは脇腹ですけど、内臓には当たってないみたいなので……」
「…おにいちゃんっ!…おにいちゃんっ!!…おにいちゃん――――っっっ!!!!」
少し痛そうに顔をしかめてから、望は地面に膝をつき、すがりついてくる少女の頭を優しく撫でてやった。

こうして、この場で望達に襲い掛かってきた暴漢達は壊滅。
望達は警察に事情を説明し、行方不明の命や、倫とその友人の捜索と保護を依頼する事となった。

その頃、竹やぶの中を逃げ回っていた倫の友人も、最大のピンチに立たされていた。
慣れないでこぼこの地面で足をくじいた彼女は、ついに追っ手に追いつかれようとしていた。
「はぁはぁ…散々逃げ回ってくれやがって、結果がコレとはな……」
「なるほど、友達のために囮を買って出たわけだ。泣かせる話だねぇ……」
今、彼女を囲む男達の数は4人。
彼らの内二人が特殊警棒を、一人がスタンガンを、そしてもう一人がボーガンを持っていた。
一方の彼女の持つ日本刀は、この竹林の中では圧倒的に取り回しが悪い。
人数の差も考えれば、到底凌ぎきれる筈も無かった。
だが、それでも彼女は健気に刀を構え、迫り来る悪漢達と対峙していた。
「まあいい。こいつも捕まえれば何かの役には立つだろう。いくぞっ!!」
「ああ、わかったっ!!!」
四人の内、特殊警棒を持った二人が彼女の左右から襲いかかってくる。
彼女はまず左の男に向かって突きを繰り出し、一度、敵を間合いの外に追い払う。
そして、次に右からやって来る男に対応しようとしたのだが……
「あっ…しまった!!」
予想以上に近付いていた右手の男に焦って、彼女は刀を横に振るってしまった。
刀は一本を切りつける形になり、そのまま刃が食い込んで抜けなくなってしまった。
右の男は竹に食い込んだ刀をさらに日本刀で押さえつけ、完全に彼女の武器を封じてしまう。
「散々、物騒なものを振り回してくれやがって……オーイ、さっさとこの糞餓鬼を黙らせてくれっ!!」
そして、後方に控えていたスタンガンの男を呼びつけた。
どうやらスタンガンで彼女の意識を奪ってしまえという事らしい。
呼ばれた男はわざとらしくスタンガンの火花をバチバチと飛び散らせながらこちらに歩いてくる。
早く逃げなければ!!
彼女の心が警鐘を鳴らしたが、気持ちとは裏腹に足がガクガクと震えて全く身動きが取れない。
「さあ、痛いのは一瞬だからな……我慢しろよ」
ついにスタンガンの男が目の前までやって来て、ついに彼女は恐怖のあまり目を閉じた。
そして、すぐにでも彼女を襲うだろう高圧電流の衝撃を想像して、全身を固く強張らせていたのだが……
「な…がはぁああああああっ!!!!!」
ドゴッ!!!
鈍い音が響いて、スタンガンの男の悲鳴が聞こえた。
「な、なんだお前は!?どっから湧いてきた!!?」
「それはこっちの質問だ。こんな小さな子供に、お前たち、寄って集って何をしているっ!!?」
戸惑う男達の声と、朗々と響く青年の声。
彼女は恐怖を必死にこらえて、薄っすらと目を開けた。
そこに立っていたのは………
「なんだ?お前、良く見りゃあ、あの糸色の餓鬼共と瓜二つだな……」
「何?お前ら、望や命の事を知っているのか!!!」
鋭い目つきと整った顔立ち、男達の言う通りその容貌は糸色命や望にそっくりだった。
少しクセのある髪の毛と、楕円のレンズの眼鏡はどちらかというと望に近いものを感じさせたが、
細身ながらも全身にくまなく力が行き届き、一分の隙も感じさせないその様子は彼女の知っている倫の他の兄達とは一線を画していた。
13266:2009/06/12(金) 23:29:14 ID:tVj2Z/lx
「もしかして……あんたが糸色の兄弟の長男坊か?…確か、糸色縁とか言ったか?」
「そうだ……」
「コイツはいい。囮に騙されて、ハズレを引いたかと思ったが、とんだ拾い物だ……」
男達の顔に下卑た笑いが浮かぶ。
元来、彼らが倫を誘拐の標的に選んだのは、まずは比較的に誘拐を成功させやすい相手だった事。
次に、四人兄弟の後にようやく生まれた一人娘として、家族に溺愛されており、人質としての価値が高かった事があった。
だが、今ここに、糸色家の長男がボディガードもつけずに、一人で立っている。
彼らにしてみれば、これ以上の好機はなかった。
「悪いな、お坊ちゃま、俺達はあんたの親父さんに死ぬほど恨みがあるんだ。大人しく捕まってもらうぜ」
「逆恨みか……」
「何とでも言えよ。俺達が考えてる事は唯一つ、お前達糸色の一族を滅茶苦茶にしてやる事だけなんだからな……」
男達の言葉を聞いて、縁はふっとため息をつき、それからふいに背後にへたりこんでいる倫の友人を振り返った。
「どうやら、糸色家の事情でとんでもない事に巻き込んでしまったみたいだね」
「いいえ……私はただ、倫さんに無事でいてほしくて……」
「なるほど、倫の友達だったんだね。あの子もいい友達が出来たんだな……」
それから、縁は前方で武器を構える男達を睨みつけて、彼女に言った。
「しばらくの間、君の刀を借りる。いいかな?」
「は、はいっ!!」
彼女の答えを聞いてから、縁は竹に食い込んだままの刀を抜き取り、さらに鞘を受け取る。
そして、ついに縁と悪漢達の戦いが始まった。
「ばーかぁ!!そんな大仰な武器が、この竹林で役に立つかよっ!!!」
最初に突っ込んできたのは、特殊警棒の男の内の一人だった。
竹を盾にするようにジグザグに走ってくる男。
だが、縁はそれを見ても何ら慌てる事無く、男が構えた警棒めがけて横なぎの一閃を放った。
「かぁあああああっ!!!!!!」
「なっ!!?」
凄まじい気合と共に繰り出された一撃は、三本の竹と特殊警棒をいともたやすく断ち切った。
切り倒された竹は得物を失い呆然とする男めがけて倒れていく。
その衝撃に男がたじろいだ時には、既に縁は男の目の前までやって来ていた。
「一人目……」
縁は刀を持った手首をくるりと返し、その柄頭で男の顎を強かに打つ。
さらに、昏倒した男が地面に倒れるよりも早く左を振り返ると、そこには同時攻撃を狙っていたもう一人の特殊警棒の男がいた。
縁は、今度はその男めがけて、左手に持った鞘を使って強烈な突きを繰り出す。
それは、竹と竹の間を見事に潜り抜け、男の鳩尾に命中した。
「か…はぁ……」
「二人目………」
瞬く間に二人の仲間を倒されて、後方に控えていたボーガンの男は一瞬、縁に対して狙いを定める事さえ忘れていた。
その隙に、縁は竹林の間を駆け抜け、男がボーガンを構え直した時にはすでに残り四メートルの距離まで詰められていた。
(ちくしょうっ!!なんなんだこのバケモノは……だが、この距離ならボーガンの方が早い……っ!!!)
足元の安定しない竹林の中の四メートルは、一足飛びに踏み込めるような距離ではない。
たとえ急所でなくとも、腕でも脚でも一発当てて、怯んでいる隙にもう一撃をゆっくりと命中させてやれば……
ボーガンの男と縁は真正面から対峙したまま、互いに攻撃のタイミングを図る。
数秒が過ぎて、先に動いたのは縁だった。
(馬鹿めっ!!…こいつを喰らえっ!!!)
だが、引き金を引こうとした男の指はギリギリで止まった。
何故ならば……
(き、消えた……!?)
しかし、次の瞬間、手の甲に走った焼けるような痛みに男は我に返った。
「あっ!?あああああああっ!!!!!」
斜め下から手の甲を正確に狙って放たれた斬撃は、まるで野生の獣の如く恐ろしく体勢を低くした縁が放ったものだった。
その痛みに、ボーガンを反射的に手放してしまった男に、もはや勝ち目はなかった。
「三人目……」
男は、そのまま縁が左手に握った鞘で繰り出した横なぎの一撃によって気を失った。
そして、三人の男達を瞬く間に倒した縁が、残りの一人、スタンガンを持った男の方を振り返ると……
「四人目は……もう何もする必要はないみたいだな」
スタンガンの男はよほど臆病だったのか、恐怖のあまりに失神していた。
14266:2009/06/12(金) 23:31:07 ID:tVj2Z/lx
四人全員を倒した事を確認すると、縁は僅かに残った血のりをちょうど持っていたハンカチでぬぐい、刀を鞘に納めて倫の友人のところまで戻ってきた。
「ありがとう、助かったよ……」
「いえ、こちらこそ危ない所を助けてもらって、ありがとうございました」
だが、そう礼を言ってぺこりと頭を下げた彼女の前で、縁は少し複雑そうな表情を見せた。
「あの、どうかなさったんですか?」
「……いや、いくらなんでも、やりすぎだったんじゃないかと思って……」
縁は気絶した四人の暴漢を見ながら、気まずそうに呟いた。
「みんな、さぞ痛かったろうなぁ……と。最後の一人にしたって、手の甲を切るんじゃなくて、峰打ちにでもすれば十分だったと思うし……」
どうやら、この糸色家の長兄はその強さとは裏腹に、相当な非暴力主義者らしかった。
「そういえば、前に望が学校でいじめに遭った時も……それに、命が不良に絡まれた時だって……」
しかも、どうやら一度ネガティブ思考を始めると、どんどんと加速していってしまう質らしかった。
倫の友人は、先ほどとは打って変わった縁の情けない姿に苦笑しながらも、彼に穏やかに言葉をかけた。
「縁さま、縁さまはあの場でできるかぎり、相手に無用な傷を与えないようにしていたではないですか……」
「ほ、本当にそうなのかな?」
まるで子供のように不安げな表情の縁に向けて、彼女は優しく微笑んでこう言った。
「はい。縁さまはとても強くて、そして、とても優しい人です……」

かくして、望達に続いて倫の友人も助け出され、これで倫を狙う敵のほとんどが壊滅した筈だった。
倫自身も敵に行方を悟られぬまま、蔵井沢駅に向かう道を逃げ延びている筈であり、行方不明の命を除く全員がほぼ窮地を脱した筈だった。
だが、しかし………。
その頃、蔵井沢市内に、爆音を轟かせて一台のバイクが疾走していた。
「さぁて、俺の勘が当たるか外れるか、勝負といこうかっ!!!」

倫は必死で歩いていた。
左手には相変わらずの雑木林、右手には畑、その間の道を倫は歩き続ける。
今日一日歩き通しだった彼女の足はすでにガクガクと震え始めていたが、それでも懸命に足を前に踏み出していた。
命が、望が、景が、あんが、最後には大切な友人までもが、命がけで倫を逃してくれた。
今、ここで諦めるわけにはいかない。諦めたくはない。
「命…おにいさま……私…がんばりますから……っ!!」
小さく兄の名を呟いて、倫は今にも折れてしまいそうな自分の心を励ます。
あの時、命は倫を逃がすために、凶悪な凶器を持った相手に素手で立ち向かっていったのだ。
いつだって、優しくしてくれた。
倫よりずっと年上なのに、彼女の話を子供の言う事だからと馬鹿にせず、いつもきちんと聞いてくれて、答えを返してくれた。
真面目で頭が良くて、頼りになる倫の自慢のお兄様。
たまには失敗したりもするけれど、決して諦めずに最後まで頑張り抜く強い心を持った人。
命の下の兄である望だって、文句を言いながらも、そういう所はしっかりと認めていたと思う。
そんな命に、彼女はいつしか、憧れと強い好意が混ざり合ったような、不思議な感情を抱くようになっていた。
瞼を閉じて、命の事を思うと、胸の奥にポッと小さな炎が灯る。
それを支えに、倫はここまでの道のりを歩き通してきたのだ。
(命おにいさまは、あんなに必死に私を守ろうとしてくださった。だから、私も……っ!!!)
ふらつきながらも踏み出す小さな一歩、その積み重ねは今、倫の前で一つの成果を見せようとしていた。
ついに、道の向こうに蔵井沢の駅前の建物が小さく見え始めたのだ。
「もう少し……もう少し、ですわ……っ!!」
具体的なゴールが見えてきた事で、倫の体に僅かに元気が戻る。
一歩、また一歩、倫は蔵井沢の駅前まで確実に歩を進めていく。
だが、最終地点の事だけに頭を集中させ、必死で歩く倫はいつの間にか周囲に対する警戒心を失ってしまっていた。
だから、倫がその男の存在に気付いたのは、既に彼の立つ場所の100メートルほど手前に来たときの事だった。
「えっ……!?」
最初は我が目を疑った。
道端に停車したバイクに寄りかかる黒スーツの青年。
100メートルの距離を置いても、倫にはそれが誰なのかまざまざと思い出す事ができた。
家出をした倫に突然襲い掛かってきた悪漢達、その指揮をしていた年若い男。
糸色家の内部に2年間も潜り込んでチャンスを窺っていたスパイ。
楽しそうだから、などというふざけた理由で倫の誘拐に加担する事を決めた得体の知れない恐ろしい男。
「やあ、お疲れ様……」
「ひっ!!?」
15266:2009/06/12(金) 23:32:22 ID:tVj2Z/lx
突然、青年に声を掛けられて、咄嗟に逃げようとした倫だったが疲れきった体は思うように動いてくれず、
倫の足は無様にもつれて、彼女はその場に尻餅をついた。
そんな倫の様子をさも楽しげに眺めながら、青年は近付いてくる。
「随分待ったよ。一旦、蔵井沢の市街に出て、バイクを盗んでここまでやって来たんだ。
遅すぎて途中ずいぶんイライラしたけど、そんなちっちゃな足じゃあ仕方なかったね……」
「どうして…ここにいるんですの?」
「勘…ってとこかな?逃げ込む先としてはそりゃあ警察署がベストだろうけど、安全が確保できれば、
何もそれに拘る必要はないんじゃないかと思ってね。警察署へのルートは仲間が押さえてたし、せっかくだから俺はこっちに来たのさ」
青年は見抜いていた。
警察署に限らずとも、それなりの人通りと交番などがある場所へ行けば、倫は安全に逃げ延びる事が出来るのだと。
だから、二つの倫目撃情報には目もくれず、ここで彼女を待ち伏せする事にした。
「結果は大正解、おかげで君とたっぷり遊べる……」
「いや…いや、来ないでっ!!助けてっ……命おにいさまっ!!!」
絶対の窮地に立たされた倫は無駄と承知で頼れる兄の名前を呼んだ。
そうでもしなければ、恐怖で心がどうにかなってしまいそうだったからだ。
だが、しかし……
「命?ああ、俺にしつこく纏わりついてきたあのお坊ちゃまか……」
青年の言葉で倫は思い出す、命はこの青年ともみ合いになって雑木林に姿を消したのだ。
しかし、この青年は今もこうして倫の前に立ち塞がっている。
と、いう事は………
「いやぁ!!命おにいさまっ!!命おにいさまぁあああああっ!!!!!」
「あはははははっ!!気付いたんだ?その通り、俺がここにいるって事は……」
「いやぁあああああああああああっ!!!!!!」
半狂乱で泣きじゃくる倫を見て、青年は愉快そうに笑う。
だが、彼は途中でその笑いを止めて
「ごめんごめん、冗談だよ。アイツがどうなったかは実は俺も知らないんだ……」
「え…えっ!?」
「まあ、高い斜面から突き落としてやったから、生きてるかどうかもわからないけど……まあ、直接殺した覚えはないなぁ」
その言葉に少しだけ安堵の表情を取り戻す倫。
だが、その頬にヒヤリとした感触が押し当てられる。
「あ…うあぁ……」
「君はそんな事心配しなくてもいいんだよ。あんなヤツどうなろうと、俺にはぜんぜん関係ない……」
刃渡り30センチの大型ナイフ、その冷たい刃が倫の頬を撫でる。
そして、青年は倫の耳元で己が願望をそっと囁いた。
「俺が殺したいのはさぁ、君みたいな小さな女の子なんだから……」
「こ…ろす…?」
「そう、殺す。誘拐じゃなくて、殺すの。まあ、時間を掛けて殺したいから、結局誘拐はしなきゃならないんだけどね……」
それが青年が計画に参加した目的の全てだった。
『楽しそうだから』というあの言葉の、本当の意味だった。
「君を殺す。指を、耳を、目を、鼻を、唇を、そして内臓を、体の部品を一日に一つだけ切り取って、
君が何もない、がらんどうの皮袋になってから心臓を取り出すんだ……」
うっとりとした口調で、男は倫に彼女自身の解体計画を語った。
「君と楽しむための用意は既に出来てるんだ。清潔な部屋や、医療器具、内臓が無くなってからの食事になる各種の点滴や、
君の健康を保つための薬まで、二年間の間にこの日だけを夢見て準備してきたんだ………」
「…いやぁ…いやいや…そんなの……」
青年は道にへたり込んだ倫の首根っこをつかみ、無理矢理に抱き起こす。
「想像してごらん。だいたい2ヶ月ぐらいは掛かるかな?その頃の君には手も足も、その綺麗な髪の毛も真っ黒い瞳も無くなって、
ただ息をするための肺と、血液を送り出すための心臓だけが残された、人間の残骸になるんだ。素敵だろう……?」
倫は何度も叫ぼうとした。
近くに民家は無かったが、それでも一縷の望みにかけて大声で泣き叫びたかった。
だけど、全身がこの男の視線によって氷付けにされたようで、小さな歯はガチガチと鳴るばかりで喋る事もできない。
手も足も、身動き一つ出来なくなった今の倫は、まるでこの青年のための人形になったかのようだった。
「さて、そこでだ……」
青年は片手に持ったナイフを倫の右の耳たぶに当てた。
「一日に一つの部品、それはもう言ったよね?今日、君の体から消えて無くなるのは……この可愛い耳だ」
青年がさも楽しげに笑う。
16266:2009/06/12(金) 23:33:42 ID:tVj2Z/lx
「犯行現場に残されたのは、切り取られた耳たぶが一つきり。生活反応がある事から、生きている内に切り取られたのは確実だ。
ミステリーとしてはなかなかそそる導入部だ。糸色のお坊ちゃま達には随分な読書家もいるけれど、推理モノはお好きかな?」
叫べ、叫べ、叫ぶんだっ!!!
こんな男の思い通りになんてなってはいけない。
こんな終わり方じゃ、みんながあんなに頑張って私を助けてくれた意味がなくなってしまう。
コイツは今の私を、悲鳴を上げる事も出来ない無力な存在だと舐めきっている。
そんな事、許せるものか!!
叫べっ!!
叫んで、暴れて、思い知らせてやるんだ。
私は、糸色倫は、お前なんかの言いなりにはならないんだってっ!!!!
倫は震える体と、恐怖に染まりきった心の中から、必死でこの青年に抗うための何かを探す。
どんな時でも、折れない、負けない、倫が彼女の全存在を託す事の出来る何かを見つけ出すんだっ!!!
「さあ、いくよ……」
ジワジワと近付いてくるナイフ。
倫の心はその恐怖に抗って、抗い続けて、そしてついにソレを見つける。
「……………」
小さく開いた口から、肺一杯に空気を吸い込む。
この一言のために、全身が砕け散っても構わない。
倫は渾身の力を震える喉に集めて、その言葉を叫んだっ!!!!

「命おにいさまぁああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

思ってもみなかったほどの大声を上げた倫に、青年は一瞬たじろいだ。
ナイフの切っ先は方向を誤り、倫の耳たぶの端っこを傷つけただけで終わる。
さらに、その叫び声は恐怖で固まっていた倫の全身に力を取り戻させる。
ジタバタと暴れ始めた倫を押さえつけようと悪戦苦闘しながら毒づく。
「何が命おにいさまだっ!!誰を呼ぼうが、何を叫ぼうが、今更君に助けなんて………っ!」

だが、しかし……っ!!!!

「ここに……いるぞっ!!!!!!!!」
青年の真横から、強烈なパンチが襲い掛かった。
思いがけない方向からの衝撃に、青年の体はあっけなく吹き飛ばされる。
そして、青年の手から解放された倫の体は、地面に落ちる前に優しく力強い何かに受け止められた。
「な、なんでだよっ!?あの斜面から落ちたんだぞっ!!!どうしてお前が、今、こんな所にいられるんだっ!!!!」
「昔、父さんに武道の稽古でしごかれてたとき、他の事は大して出来ないのに受身ばっかり上手で、よく兄さん達にからかわれたよ……」
そこにいた人物。
他の誰であろう筈もない。
額には血の跡が残り、衣服は至る所がボロボロに破れ、眼鏡のフレームも僅かに曲がっていた。
斜面を落ちた時に怪我をしたのであろう左足は立っているのがやっとという様子だったけれど、倫を抱きしめる腕だけはどこまでも力強かった。
「みこと…みことおにいさまぁ……」
「無事で良かった、倫……」
糸色命は傷だらけの顔を倫に向けて、優しく微笑んだ。
「くそっ!!今更、ここまで来て、お前みたいな怪我人なんかに……」
青年がナイフを構えて、ゆらりと立ち上がる。
だが、命は欠片の動揺も見せない。
「ぶっ殺してやるっ!!倫以外はどうでもいいつもりだったが、お前はもう許さないっ!!!」
「無理だよ。俺はもう倫を泣かせるような真似は絶対にしない。今、俺が死んだら倫を泣かせてしまうんだ。そう簡単に、殺せると思うなよ!!」
命は倫を地面に下ろし、不安げなその顔に優しく微笑む。
それからゆっくりと、怪我をした足を引きずりながら、青年に向かって歩いていく。
命の余裕は何も精神的なものだけではなかった。
雑木林でさんざん取っ組み合いをして、彼は理解したのだ。
「うあああああああああああああっ!!!!!!!」
ナイフを構え、まっすぐに突っ込んで来る青年、だが、命はそれを僅かに横にずれてかわす。
青年はそこからナイフを横なぎに振るって、追撃を仕掛けようとするのだが……
「やっぱりナイフ頼みか……っ!!!」
その腕を、命に受け止められてしまう。
17266:2009/06/12(金) 23:34:39 ID:tVj2Z/lx
そして、命はそのままその腕をホールドし、そこに全体重をかけた。
「ぎゃっ!?うああああああああああああああっ!!!!!」
「お前は凶器に頼ってしか喧嘩ができない。その癖、それを扱う技術を鍛えているわけでもない。
お前の強さと自信の源は、自分がその大きなナイフを握っているという事、ただそれだけだっ!!!!」
父・大から武道をある程度学び、また医師を志す過程でさまざまな医学書に目を通してきた命は、人間の体のつくりを熟知していた。
命が青年の手首をひねると、彼の手の平からナイフが滑り落ち、そして、もう一ひねりするとゴキリ、という嫌な音と共に青年の腕から力が抜けた。
「ああああああっ!!!!痛いっ!!!痛いぃいいいいいいいっ!!!!!!」
「そんなに騒がないでくれ、肩の関節を外しただけなんだ……」
それから命は、青年が倫を攫うときのために用意していたと思われるガムテープで彼を縛り上げた。
それから、倫の元へと歩み寄り、地面に膝を突いて、妹の体をぎゅっと抱きしめた。
「倫……っ!!!!」
「命おにいさま…ちょっと痛いです……」
倫は最愛の兄からの抱擁に対して、自分も命の体を抱きしめる事で応えようとした。
だが、その直前、倫はある事に気付く。
「命おにいさま……泣いていらっしゃるの……?」
命は泣いていた。
ボロボロと涙をこぼし、倫の頭を何度も何度もクシャクシャと撫でながら、泣き続けていた。
「ありがとう……倫……」
「えっ?…ど、どうして…命おにいさまがお礼を言うんですの?命おにいさまは私を助けてくださって……」
「だって、倫はあの時、僕を呼んでくれたじゃないか……」
青年に斜面から突き落とされた後、命はボロボロの体で雑木林をさまよっていた。
おそらく、倫は蔵井沢駅に向かう筈だと考え、おおよそその方向に向けて歩いていたが、自信はなかった。
もし、倫に何かあったら……。
焦燥に駆られながら歩き続けた命、だが、その耳に届いた声があった。
『命おにいさまぁああああああああああっ!!!!!』
倫が、最愛の妹が自分の名を呼ぶ声。
命は体の痛みも忘れて、必死に声のした方に走った。そして………
「あの時、倫が僕を呼んでくれなければ、僕は倫を、大好きな妹を失うところだったんだ。だから………」
それ以上は言葉にならず、子供のように泣きじゃくる兄を、倫は今度こそぎゅっと抱きしめた。
空では太陽が西へと傾き、だんだんと近付いてくるパトカーのサイレンの音が長かった一日の終わりを告げていた。

暗い部屋の中、灯りの一つもつけず、妙はずっと待っていた。
今日の事件の発端、糸色流華道に関する自分と娘の諍い。
それが、倫をはじめとした彼女の子供達が謎の暴漢に襲われるという大事件に発展してしまった。
既に、景や望とその友人であるという少女、縁に助けられた倫の友人の無事は確認されていたが、
倫と命は未だどこにいるのか、行方不明のままであった。
「…今日は、倫にも言い過ぎてしまったものね……」
倫に対して、糸色流華道の基本が出来ていない、とまで言った妙だったが、この発言にはもう少し言葉が足りなかった。
倫は、糸色流華道の基本が『完璧には』出来ていない。
それが、正確なところだった。
「なのに私は、自分の焦りをあの娘にぶつけたりして……母親としても、華道の師匠としても失格ね……」
彼女がそこまで激昂してしまった理由の一つには、ここ最近のストレスがあった。
だが、最終的に彼女の怒りのトリガーを引く事となったのは別の要素だった。
ちらり、妙は倫が今日活けた花を見た。
色とりどりの花を生けた、まるで花火か、遊園地のような生け花だった。
問題は、ここに使われている花の種類である。
数だけ見ても多種多様なそれは、全て妙の好きな花だったのだ。
妙は、それらの花々を一つの生け花の中で使用する事を自らに禁じていた。
個性の強すぎるそれらは、結果として互いを潰し合い、作品を破綻させる事になってしまうからだ。
だが、倫はそれを全て一つの作品に盛り込んだ。
それが、妙にはどうしても許せなかったのだが………
「こうして見れば、これも決して悪くはない生け花なのにね………」
だが、今になって、妙には倫の意図が理解できてきた。
18266:2009/06/12(金) 23:35:25 ID:tVj2Z/lx
重ねて使う事を禁止された花々をあえて使ってみようという、娘らしい挑戦心。
そして、母親の好きな花で活けてみたいと考えた、倫なりの母への思いやり………。
それがどれだけ難しい事かは、倫も理解していた筈だ。
だけど、倫はそれに挑戦し、しかも、ある程度以上の水準を持った作品にまで仕上げてみせたのだ。
全ては、この生け花を母に、妙に見てもらいたいという倫の優しさだったというのに……。
「倫……命……ごめんなさい…」
花を抱き寄せ、妙は一筋の涙をこぼした。
その時である。
静かに障子が開いて、当主・大が姿を現した。
妙が恐る恐る顔を上げると、その顔には満面の笑顔が浮かんでいた。
「…倫と命が見つかった。命の方は足と胸を怪我しているが、二人とも無事だよ……」

「倫っ!!倫―――っ!!!!」
「おかあさまっ!!!」
糸色家の屋敷の門の前、互いに泣きじゃくりながら駆け寄った母娘は固く固く抱擁をする。
その様子を眺める、景、命、望の顔に浮かぶのは、安堵に満ちた笑顔だった。
「命兄さん…あの、その……本当に、倫を、ありがとうございますっ!!」
「よせ、望、俺だって倫の兄なんだ。っていうか、それだと、俺が助かったのがついでみたいじゃないか!!!」
「そうだな…命も、よく無事でいてくれた……雑木林を探し回っても見つからなかった時は、望と二人、本当にどうしようかと思ったぞ」
そうやって、互いの無事を喜び合う糸色の兄弟の足元では、倫の友人とあんが何やらぺちゃくちゃと話していた。
その内容が気になって、望がしゃがみこんで、あんに尋ねてみると
「おにいちゃんの家の、一番上のおにいさんの話をしていたんです!!」
「ああ、縁兄さんの」
どうやら、ピンチを助けられた鮮烈な経験のおかげで、倫の友人は縁の事が大好きになってしまったようだ。
「本当に素敵な方です……。あの後、まるで風のように消えてしまわれたけれど……」
「あの、それ多分、はぐれちゃっただけだと思いますよ………」

平和そのものといった光景に囲まれながら、命はあの時の倫の声を思い出していた。
あの声がなければ、今のこの平穏も無くなってしまっていたのだ。
『命おにいさまぁああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!』
何度も、頭の中であの声を噛み締める。
あの時、倫は自分の全てを懸けて、命の存在を求めてくれた。
それを思うたび、命の胸の内にこみ上げてくる熱い気持ち。
(僕は、倫の事を………)
ふと見ると、倫がこちらに振り返り、大きく手を振っていた。
「命おにいさまっ!!!!」
(そうだ!これからも、何度だって、いつだって、………)
何度だって応えよう!何度だって駆けつけよう!!
君が僕を呼ぶのなら、君が僕を求めるならば………。
芽生え始めた熱い感情を胸に秘めたまま、命は倫の元へゆっくりと歩き出した。
19266:2009/06/12(金) 23:36:52 ID:tVj2Z/lx
以上でお終いです。
スレをまたぐ事になってしまい、ご迷惑をかけました。
すみません。
それでは、失礼いたします。
20名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 02:10:25 ID:KdoJ9GTJ
GJ。いやはや丁寧で読みやすかった!縁兄さんの存在はあまりにも意外だったがそれもまたいい。
しかし226氏、相当頑張ってるな。読む側としては嬉しいけど、無理はし過ぎないでくれ。
21芦川 美鶴 (ミツル) ◆0VJXxliSFQ :2009/06/14(日) 04:15:55 ID:UBkZdY6z
芦川 美鶴と糸色 望との併結

キハ54系とキハ66系を併結するときのような格好となります。
新型気動車と旧型気動車との併結はなんかかっこ悪い・・・。

エンジン音は芦川 美鶴のN-DMF14HZEの音と
糸色 望のDML30HSHの音のハーモニーです。
22芦川 美鶴 (ミツル) ◆0VJXxliSFQ :2009/06/14(日) 04:21:56 ID:UBkZdY6z
芦川 美鶴(ブレイブ・ストーリー)
N-DMF14HZEエンジン(540PS/2,000rpm)
水平直列6気筒 総排気量14リットル 直接噴射式
ターボチャージャー、インタークーラー設置
乾燥重量 1,536kg 連続定格時燃料消費率 140g/PS/h

糸色 望(さよなら絶望先生)
DML30HSHエンジン(440PS/1,600rpm)
水平対向型12気筒(厳密にはコネクティングロッドの関係で、180度V型12気筒)
総排気量30リットル 予燃焼室式 ターボチャージャー付き
乾燥重量 4,000kg 連続定格時燃料消費率 192g/PS/h
23名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 09:23:48 ID:5OCJSy3w
>>21
消えろ
24名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 13:09:00 ID:aRz3r7bN
>>21
二度と来るな
25名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 20:48:35 ID:L7aWs1Av
最後まで読んで思った事。この話を絶望先生でやる必要あるのか?
26266:2009/06/20(土) 02:52:07 ID:HbeeM2hx
書いてきました。
望カフで、またエロなしで、申し訳ないです。

それでは、投下してみます。
27266:2009/06/20(土) 02:53:34 ID:HbeeM2hx
暦も六月の半ばを過ぎて、梅雨がやってきた。
曇天に覆われた蒸し暑い日々が続いたかと思いきや、降り続く雨の為に肌寒くさえ感じる日もある。
そうかと思えば、真夏を思わせる日差しの暑い日もあったりして、くるくると様々な様相を見せる気候に人間の体も振り回される事になる。
風浦可符香が風邪で学校を欠席したのは、そんな梅雨のある日の事だった。

放課後、教卓と生徒達の授業机が積みあがった山の下から、糸色望はようやく這い出した。
「ふう、死ぬかと思いました………」
ため息をついて、ズレていた眼鏡をかけ直す。
この有様の原因はいつも通りの2のへの騒ぎである。
今日は現国の授業で定番の『走れメロス』を扱っていたのだが、何がどうしてこうなったのやら……。
全身の痛みに耐えながら望が立ち上がると、懐に入れていた彼の携帯電話が着信音を鳴らした。
「はい、糸色です。………ああ、木津さん!」
電話の相手は、2のへの女子生徒の一人である木津千里だった。
千里は、何やら望に頼みごとがある様子だった。
『実は、可符香ちゃんにプリントを届けなきゃいけないのに、誰にも頼んでなかったんです』
病欠した可符香のために千里がきっちりと用意しておいたプリントを、教室での騒ぎの為に誰が彼女の家に届けるのか決められなくなってしまったようだ。
プリント類は千里の手によってまとめられ、彼女の机の中に置かれたままだという。
千里自身がそれに気付いたのも、自宅に帰り着いてからの事だったため、こうして望に連絡するのも遅れてしまった。
『すみません。今になって気付いたから、先生ぐらいしか頼める相手がいなくて……ほんとなら責任を持って私が届けるべきなんでしょうけど……』
「いいえ、構いませんよ。風浦さんの家までそう大した距離がある訳でもありませんし、私がお見舞いがてらに届けてきますよ」
こうやって、クラスの隅々にまで気を回してくれる千里の几帳面さは望にとってもあり難いものだった。
ただ、望が意識を失う直前、2のへの教室を両手に卒塔婆を持って走り回る千里の姿が、記憶の片隅に残されているのが多少気になるところだったが……。
望は瓦礫の如くつみ上がった机の中から千里のものを探し出し、可符香へ届けるプリントを見つけ出す。
『それじゃあ、先生、お願いします……』
「はい。このプリント、確かに風浦さんの家まで届けますよ」
それから、望は携帯電話を切って、長いこと机の下に閉じ込められて凝り固まった全身の筋肉をほぐした。
「風浦さん、朝、電話で連絡してきた時は苦しそうでしたけど、大丈夫でしょうかね?」
2のへで起こる様々なドタバタも軽々とかわし、何というかいつでも無敵で超然としたイメージのある可符香。
一度、彼女が夏風邪をひいて望の兄である命が経営する糸色医院にやって来た事があったのだそうだが、
命が望とそっくりである事や、命の名字と名前をくっつけると『絶命』と読める事などで騒いでいる内に、『治ったみたい』とあっさり帰ってしまったらしい。
そんな彼女だけに、今回の病欠は他の生徒のそれよりも何だか気がかりだった。
「ともかく、風浦さんの病状も気になる事ですし、まずは行ってみますか」
そう言って、望は可符香に届けるプリントを片手に、2のへの教室を後にした。

出発前に望は宿直室に顔を出し、可符香の家にプリントを届け見舞いをして来る事を霧に伝えた。
「そっか、可符香ちゃん病気なんだね」
「はい。今朝の電話の様子だと、けっこう調子悪そうにしていましたね」
「それじゃあ……」
望の言葉を聞いた霧は夕食用の野菜の煮付けをタッパーに入れて、望に持たせてくれた。
「風邪なら、しっかり栄養をつけないとね」
「ありがとうございます。きっと、風浦さんも喜びますよ」
望は、煮付けのタッパーを入れた袋と、プリントを収めたカバンを持って宿直室を出発した。
夏が近付いて、だんだんと日が高くなっている。
既に午後の6時も近いというのに、まだまだ明るい空の下を、可符香の家へと歩いていく。
途中、スーパーマーケットを見つけた望は、風邪にはやはりコレだろうと、インスタントの生姜湯の素を購入。
野菜の煮付けの袋に入れて、さらに歩いていく。
途中、彼女の家の近くにある命の病院、糸色医院の前で立ち止まり
(風浦さんは、きちんと病院には行ったんでしょうか?)
命に、今日可符香が医院に来なかったか尋ねるべきかを悩み、結局、彼女の家に着くのが先決だと再び歩き始めた。
やがて、可符香が一人で暮らしているアパートへと来た望は、彼女の部屋の前までやって来る。
「風浦さん、糸色ですけど……」
呼び鈴を鳴らし、可符香に呼びかけた。
28266:2009/06/20(土) 02:56:04 ID:HbeeM2hx
もしかしたら、布団で眠っている最中という可能性もあるので、あくまで声の大きさは控えめに。
応答がなければ、新聞受けからプリントを室内に滑り込ませるとしよう。
生姜湯も同じように新聞受けを潜らせて、野菜の煮付けは仕方がないから持って帰ろう。
何度か彼女の名前を呼び、最後にもう一度だけ呼び鈴を鳴らす。
「………これ以上は、無理矢理起こしてしまうでしょうから……」
そして、それからしばらくの間、ドアの向こうに何の反応も無いのを確認して、
『糸色です。学校のプリントを届けに来ました。ゆっくりと休んで早く元気になってください。  
      追伸 生姜湯の素は一応お見舞いです。それを飲んで温まってください     』
と、メモを添えてから、予定通りにプリントを入れた袋と生姜湯の素を新聞受けに放り込む。
それから、手元に残った野菜の煮付けだけを持ってそのまま望が帰ろうとしたその時……
「…あ、せんせいだ……」
ガチャリ。
ドアノブが回る音が小さく響いて、ゆっくりと開いた扉の向こうから、頬を赤く染めた少女がこちらにちょこんと顔を出す。
それに気付いた望が振り返り
「……あぁ、やっぱり起こしてしまいましたか……。すみません、風浦さん…」
「いやだなぁ…そんなこと……ないですよぉ……」
いつもより舌足らずな様子で喋る彼女が、ドアにもたれかかりながら笑顔で望に言った。
「朝からずっと眠りっぱなしで…ちょうど今目を覚ましてから…ボーっとしてたところなんです」
「そうだったんですか……」
「…先生、プリントありがとうございます。あと、それから、これは……」
可符香がプリントと一緒に入れてあった生姜湯の素を見て首をかしげる。
「つまらないものですが、私からのお見舞いですよ。小森さんから野菜の煮付けも預かってます」
生姜湯に続いて、望から野菜の煮付けのタッパウェアを受け取ると、
彼女はまるで誕生日に山ほどのプレゼントを受け取った子供のような、無邪気で嬉しそうな笑顔を浮かべた。
望はそんな彼女の表情を見て、喜んでもらえた事を嬉しく思う反面、
たったこれだけの事でこんなにも反応を示す彼女が、今日どれだけ孤独な一日を過ごしていたのかを感じ取った。
「調子はどうなんですか?熱は、どれぐらいです?」
「ええっと…たしか38℃おーばー……」
「そ、それはすみません。こんな所で長話なんかさせてしまって……!!」
「でも、薬を飲んでたっぷり眠って、さっき目が覚めた時に体温を測ったら37,1℃になってました……」
なぜだか、えっへんと胸を張ってそう言った彼女に、望はホッと胸を撫で下ろす。
さきほどから、彼女の言動がいつもよりワンテンポ遅れているのは、高熱のためではなく、そのために消耗した体力のせいのようだった。
「たぶん、あしたにはもう学校に行けると思いますよ……!!」
「そうですか………でも、あまり無理はしないでくださいね…」
可符香が言って、望が応えて、二人は微笑み合った。
それから、とりあえず言う事のなくなった二人は数秒の間、互いに見つめ合っていたが……
「あの、先生……」
やがて、可符香がそっと口を開いた。
「少し、私の部屋に寄っていってくれませんか……?」
寂しくて、寂しくて仕方がなくて親に縋り付く子供のような、いや、そんな子供そのものの表情で可符香が言った。
そして、対する望も……
「実は、私の方からもお願いしたかったんですが、少しだけ部屋に上がらせてもらって、あなたのお見舞いをさせてもらえませんか……?」
自分の言おうとしていた言葉を口にする。
ぱっと明るい表情を浮かべた可符香に、望はぺこりと頭を下げる。
「それでは、お邪魔させていただきます……」
「どうぞ……いらっしゃいませ、先生…」
そうして……
バタン。
閉じられたドアの向こうに、二人の姿は消えた。

可符香の部屋は、寝室も兼ねた居室とキッチン、そしてトイレとお風呂だけの簡単でこじんまりしたものだ。
一人暮らしの人間の典型的な部屋、つまりは今の可符香は一人ぼっちという事だ。
パステルカラーのカーテンに、部屋の各所に置かれたぬいぐるみや小物などが女の子の部屋らしい雰囲気を演出していたが、
よく見れば、揃えられた家具や電化製品は全て、一人で暮らすのにちょうど良くまとめられている。
生活の温もりの影に、どこかうら寂しさを感じさせるような、そんな部屋だった。
望がこの部屋を訪れるのは今日が初めてではないが、今日に限ってその寂しさを一際強く感じたのは、
一人ぼっちで今日一日を過ごした可符香のまとっていた空気に、そんな孤独感が残っていたからかもしれなかった。
29266:2009/06/20(土) 02:57:49 ID:HbeeM2hx
「それじゃあ…てきとーに座っててください、先生……」
「はい……って、あなたは何をしようとしているんですか?」
可符香の部屋に座ろうとした望は、その当の部屋の主がよろよろとキッチンに向かうのを見て、思わず呼び止めた。
「えっ?…せんせいに、お茶をださなくちゃ……」
「病人がそんな気を遣って、どうするんです!…あなたは部屋のベッドで寝ていなさい」
どうにも風邪のせいで思考が空回りしているらしい可符香に代わって、望が立ち上がってキッチンに入る。
「せっかくですから、生姜湯を入れましょう。コップはどこにありますか?」
「そこの棚にありますよ」
可符香に指示されて、望がキッチンの棚を探すと、シマシマのしっぽがプリントされたマグカップが見つかった。
「風浦可符香ブランドなんですよ〜」
どうやら、自分のマグカップのデザインがお気に入りらしい可符香は、またしても得意げな様子で笑う。
望は、そんな小さな子供のような可符香を横目に見ながら、ヤカンにお湯を沸かし始める。
「持ってきたプリントなんですが、まずは国語の授業の、走れメロスの背景についてまとめたヤツが二枚入ってます」
「あ、ありました。………うわあ、凝ってますね」
「今回、少し張り切りすぎました。ちょっと、趣味に走っちゃっています」
「でも面白いですよー。……人間失格だったら、さらに枚数が伸びちゃいそうですねぇ……」
「ええ、そりゃあもう、途中から私がいかに人間失格かを交えて、大変な事になっちゃう筈です」
「あはは…さすがに、それはやめた方がいいかもしれませんね」
「でも、何度も二年生を繰り返してるせいで、だんだん扱ってない作品が減ってきてるんですよね……そろそろ、やっちゃうかもしれません」
沸かしたお湯をマグカップに注ぎ、よくかき混ぜてから生姜湯が完成する。
望はそれを可符香の手の届く、机の上に置いた。
「その内容、前回の授業でやりませんでしたか?」
「そんな昔の事、覚えていません」
「明日の授業、何やるんですか?」
「そんな先の事はわかりません………って、これじゃあ、いつか本当に同じ内容の授業をやってしまいかねませんよ」
「授業、カブサランカ?って事ですね…」
軽口を交わす二人。
可符香はクスクスと笑いながら、マグカップを持ち上げて熱々の生姜湯をちびちびと飲む。
「プリントの二枚目は、例の新型インフルエンザへの注意喚起ですね」
「今、風邪をひいてる真っ最中なのになぁ……」
「病み上がりは体力消耗してますから、あなたも気をつけてくださいよ」
それからしばらくの間、望はプリントの内容を可符香に伝え、可符香はそこに軽口を挟みながら望の言葉を聞いた。
風邪にやられた可符香の鼻やのどにも、生姜の香りは心地良く染み渡り、甘い味とその熱で体の芯から温まるようだった。
「これで一応、今日の分のプリントは全部ですね。後で自分でも目を通しておいてください」
「はい、せんせい」
「……それから、ちょっと伺いたいんですが……」
やがて、ようやくプリントの説明を終えた望は、こんな事を可符香に問うた。
「冷蔵庫の中、見てもかまいませんか?」
「えっ?あ、はい…別にかまいませんけど……どうしたんですか?」
手にしていたプリントの束を可符香の机の上に置いて、立ち上がった望は再びキッチンへ。
「うん、野菜もしっかりあるし、卵も……ご飯は…ああ、冷凍のストックが大分ありますね」
「せんせい……?」
「あの、もう一度キッチン借りてもかまいませんか?」
きょとんとする可符香に、望はポリポリと後ろ頭をかきながら答える。
「いえ、さきほど起きたばかりで夕飯の準備もまだみたいでしたから、それなら私がおじやでも作ろうかと……」
「えっ?あ?だ、だいじょうぶですよ?小森ちゃんの煮物もあるし、おかゆはレトルトのがありますから……」
「いえ、せっかくお見舞いに来たわけですから、これぐらいやらせてください」
望はそう言って、キッチンにある各種の調理道具や調味料の位置を確認すると、意外なほどの手際の良さで料理を始めた。
望が野菜を薄く刻んでいくと、トントントン、と包丁がまな板を叩く音が響く。
可符香は布団に寝転がったまま、その様子をなんだかポーッとした表情で見つめていた。
「……?どうかしましたか?」
その視線に気付いて、望が問いかけた。
「あ……いえ……なんていうか、不思議だなって思って……」
戸惑いながらも、可符香は答える。
「私の部屋の台所に、私じゃない人が立って料理をしてるんだなって思ったら……なんだか不思議で、信じられなくて……」
可符香がこんな光景を目にするのは、一体どれくらいぶりだろう。
30266:2009/06/20(土) 02:58:59 ID:HbeeM2hx
少なくとも10年以上前には、こんな光景を彼女は当たり前のものとして見ていた筈なのだ。
その頃には、彼女にはまだ家族がいて、彼女の家には彼女以外の人間もいたのだから……。
「こんなの、本当に久しぶりで………だから……」
そこまで言ってから、可符香は少し不必要な事まで喋りすぎてしまったのではないかと、表情を強張らせた。
だけど、その辺りの事は望も察したのか、可符香に聞き返してくるような事はなかった。
そのまま望は料理を続け、可符香はその音に、その気配に心地良く身を委ねた。
誰かがいてくれて、自分の為に何かをしてくれる。
それが心強くて、嬉しくて、可符香は今日一日で感じた事のなかったほどの強い安心感に包まれていた。
やがて、出来上がったおじやと、温め直した霧の野菜煮付けを皿に盛ったものを持って、望が可符香のところまでやって来た。
「わあ……」
鼻腔をくすぐる匂いに、可符香は声を上げた。
「最近、小森さんに頼りっきりでしたけど、前は交の食べる分も作ってましたからね……そこまで不味くはないと思います」
望に手渡されたスプーンを持って、可符香はおじやの最初の一口を掬い上げる。
ふうふうと息をかけて、十分に冷ましてから、口の中に運んだ。
そして……
「……………」
「あの、どうかしましたか?……もしかして、お口に合いませんか?」
いきなり沈黙した可符香の横で、あたふたと望がうろたえる。
一方の可符香は、望のそんな様子にも気付かず、ただ口の中にふわりと広がっていく味を噛み締めていた。
言葉が出なかった。
自炊経験の長い可符香には、望がそのおじやをどれだけ丁寧に、どれだけ可符香の事を思って作ってくれたのかがわかった。
だから、口いっぱいに広がった味と、胸の中をいっぱいにした暖かな気持ちで、もう可符香は口を開く事も出来なかった。
それから、ようやくその一口を飲み込んで、可符香は心底嬉しそうに微笑んで、こう呟いた。
「……美味しいです…」
「そ、そ、そ、そうですか!?…いやあ、良かった!…そうですよね!!きちんと作れば、そんなに失敗する料理じゃないですからっ!!」
可符香の言葉に安心したのか、ホッとした様子の望は額に浮かんだ嫌な汗を拭いながらそんな事を言った。
そんな望の様子を見て、可符香はすうっと目を細めながら、目の前のこの担任教師の事を思う。
臆病、小心、クラスの生徒達からは度々チキンだなんて言われてしまう人。
だけど、とびきりに優しくて、大変な生徒でいっぱいの2のへのみんなといつでも一緒にいてくれる強い人。
「あの、せんせい……」
「は、は、は、はいっ!!…どうしました、風浦さん!?」
そして、今もまた、いつの間にやら可符香の胸に巣食っていた孤独の影を追い払ってくれた。
この愛しい人の気持ちに、大好きな人の気持ちに、可符香は何とか応えたかった。
「お礼……させてください……」
スプーンを置いて立ち上がり、爪先立ちになって、自分の唇を望の唇にそっと近づけていく。
そして……
「………あっ…」
そして、ある重大で、根本的な問題がある事に気付く。
「私、風邪をひいてたんだ……」
どうやら、可符香の思考能力を縛る風邪の影響はまだ続いているようだった。
ガックリと方を落とし、可符香はうなだれる。
(よく考えたら……一人で勝手に盛り上がって、お礼だとか、馬鹿みたいだな……)
お得意のポジティブ思考も風邪で休業中なのか、可符香はさっきまでの元気をすっかり無くしてしまう。
だけど、その時……
31266:2009/06/20(土) 02:59:41 ID:HbeeM2hx
「………ひゃあっ!!?」
温かくて柔らかい何かが、そっと可符香の額に触れた。
驚いて顔を上げた先にあったのは、彼女に微笑む望の顔だった。
「お礼をくださる、っていう話でしたので……勝手にいただいちゃいました…」
望の言葉を聞いて、可符香はようやく事態を理解する。
先ほど何かが触れた場所、要するに望にキスされた場所がカーッと熱くなって、何も言えなくなってしまう。
「あ…うぁ……うぅ…せんせぇ……」
そうして顔を真っ赤にして呻く可符香を、さらに望はぎゅっと抱き寄せる。
嬉しさと恥ずかしさが頭の中でミキサーにかけられたみたいで、もはや可符香はただただ混乱するばかりだ。
そんな彼女の背中をトントンと優しく叩きながら、望はこう言った。
「…あなたの居ない学校は…あなたのいない2のへは、やっぱり寂しいですよ。先ほどのお礼の件、
まだお願いできるならもう一つだけ……早く元気になって学校に来てください。…早く元気な顔を見せて、私の隣でいつもみたいに笑ってください」
望の言葉に応えるように、可符香は望の体をギュッと抱きしめる。
それから、ようやく頭の中でまとまった言葉を、望に向かって投げ掛けた。
「…さっきの…アレ……」
「アレ、というと?」
「教師が生徒のおでこにキスって………やっぱり犯罪っぽいですよ……」
「あ…やっぱりそうですか……?」
胸に顔を埋めたまま、コクコクと何度も肯く可符香に、望は苦笑するばかりだった。

それから、夕飯を食べ終えてからしばらく後まで、望は可符香の傍にいてくれた。
夕飯の食器洗い、後片付けもきちんと済ませてから、帰る直前に望はこう言った。
「それじゃあ、風浦さん、また明日……」
可符香はその言葉をベッドの上でもう一度繰り返す。
(また明日……また明日、先生といっしょに………)
その事を考えるだけで、なんだか体中がウズウズ、ワクワクするようだ。
「先生、また明日……」
それから、彼女はそう呟いて、部屋の灯りを消した。
一人ぼっちのベッドの上、風邪は容赦なく彼女の心と体を弱らせた。
だけど、もう怖くない。
瞼を閉じれば浮かぶあの人の笑顔がある限り、可符香はもう少しも寂しくなんてなかった。
32266:2009/06/20(土) 03:00:36 ID:HbeeM2hx
以上でお終いです。
それでは、失礼いたします。
33名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 10:31:39 ID:A1IpUvML
すでにカフカじゃないw
だがこれはこれでよいものだ
34266:2009/06/20(土) 13:30:15 ID:HbeeM2hx
>>33
ううん、そうですか……。
もうこれは可符香じゃなくなっちゃっていますか……。
SSを書く時には、このキャラのこんな所が萌える、だからこんな事をさせたい……という風に考えて書いているんですが、
その基礎となっているのは今まで読んだ本編の内容や、他の方の二次創作からの影響があって、
その中で、萌えのために多少オーバーな行動をさせる事はあっても、自分の中のそのキャラはこんな人物だという像は崩さずに書いてきたつもりだったんですが……。
こういうご指摘を受けるという事は、それもかなり怪しいみたいですね……。

可符香を書いてるつもりで、可符香を書いていないとなると、結局、私は知らない別の誰かを書いているのと同じ事になりますよね。
ううん……これから、どういう風に書いたら良いのかわからなくなってきました………。
35名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 14:18:09 ID:DPGf64MI
三行で
36名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 15:33:52 ID:vBByJ/+z
気にしなくて、大丈夫。
一生懸命描いたSSはどれも素晴らしいもの。
本編ですらキャラは変わっていくんだから
SS書いていく過程でキャラが多少変わるのは当然だと思う。
永遠に変わらないキャラなんていないんだから
キャラや原作への愛があれば、大丈夫だと思いますよ。いつもお疲れ様です。

37名無しさん@お腹いっぱい。:2009/06/20(土) 20:43:45 ID:6Oz3pHXO
罵詈雑言は気にしてはだめですよ。
グッジョブです。

いつもありがとうございます!
38名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 20:46:47 ID:l9ZjOggM
GJ
39名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 21:36:41 ID:G6zah1h8
罵詈雑言と一言で切り捨てるのはどうなんだろうか
>>33は作品そのものを否定しているわけではないだろ

>>266さんいつも乙です
40名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 22:04:57 ID:+bkMCl67
>>34
まあ気になるなら原作を最初から最後まで読み返してみたらどうか
41266:2009/06/21(日) 02:14:10 ID:74lQaiQO
どうも、みなさん、お騒がせしてしまったようで申し訳ありません。
そもそも、同じ漫画を読んでも解釈は人それぞれなわけですし、
>>33さんの感想も受け止めた上で、また自分なりに考えるのが筋でしたね……。

自分の書いた可符香は、自分の見ている可符香像でもある事は確かなのだから、そこに自信を持っていれば
ただ普通に感想をいただいただけの事で、ここまで心を乱してみなさんに迷惑をかける事もなかったんでしょうね。

というわけで、本当にお騒がせいたしましたが、
また、ちょこちょこと何かを書いては投下する事になると思うので、
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
42芦川 美鶴 (ミツル) ◆z9Yu.QCvJHzs :2009/06/21(日) 05:09:03 ID:KAUPO429
糸色 望の原型エンジンであるDML30HSHの「グゥウーン!」という爆音に萌える。
「おはようございます。この列車は各駅停車の筑豊若松行きです。次は波布神に止まります。
波布神、壁沼田中、桃の木、筑豊白川、羽子倉、伊伝の順に止まります。」
43名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 06:36:44 ID:WD120nqS
>>42
二度とこの板にくるな糞キャラハンが
44名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 07:14:55 ID:JLZovWj4
まぁ、可符香は公式作品であるアニメでも別人になっちゃったからね
45名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 09:50:47 ID:Yi1fCTLl
いろんな面を持っているのが可符香の魅力
本質が分からないので見る人によって解釈が変わるのは当然だと思うよ
46名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 10:02:50 ID:sVhkiyW8
原作でも最初は天然だったのが連載が進んで全て計算づくの腹黒キャラと初期と逆のキャラになったわけだし
二次創作でさらに逆の優しい子になってもいいのさ
47名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 15:10:33 ID:dbaq5sPi
原型・・・留めてませんよね
48名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 20:10:53 ID:GEyYR0Ej
可符香は白にも黒にもなれる子
何でもありだ
49名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 22:23:59 ID:JLZovWj4
可符香は黒くない! いい子!
って本気で主張する子がいるのは困りものだけどね
50名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 00:36:40 ID:MifgAteD
カフカPNの謎とか最終回では明かされるのかねえ。
絶望世界が赤木の妄想だったというのもありがちだがちょっと読んでみたい。
そんなSSもあったよな、確か。
51名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 01:08:51 ID:5JBjSzne
普通ちゃんも最近全然普通じゃないしな
52名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 11:36:09 ID:MsxqAYDk
改蔵で最終回に妄想オチしちゃったから絶望先生ではやらないんじゃないかと思う
53名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 19:20:37 ID:ehU6lvBR
普通ちゃんは最近スイーツ化しつつある
54名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 22:53:04 ID:oB3C6Q39
可符香は一時は脇役化してたけどなんとか復活したよな
最近は無邪気だったり腹黒だったりネガティブだったりポジティブだったりかなり自由に動いてる
昔は無敵腹黒属性が足枷になってたが、最近はそれを逆手にとって演技派キャラということで何でもありになった感じ
55名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 23:38:05 ID:pf7Zp84P
木津は勢いで責めたりするけど、根は結構良い奴というのが今週の
エピソードとかでわかるな。
56名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 00:00:08 ID:DRWOARgK
確かに今週の千里は良かった。
「新しい怪我がなくてよかったわ」(うろおぼえ)
の台詞とかが胸にしみた。
57名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 00:33:23 ID:w6qr1pLm
役人
58名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 18:32:07 ID:ntfCC9Rf
千里があえて抵抗せずに受縛したからまといがイラっとしたんだな
59名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 23:43:34 ID:1ddlO/Tb
縛り方にエロスが足りない
60名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 23:59:25 ID:sH3otYkc
で・・・・? これは、何を。
っていうのは、普段と違う縛り方だからびっくりしちゃったんだね
61芦川 美鶴 (ミツル) ◆z9Yu.QCvJHzs :2009/06/26(金) 05:14:23 ID:EC2JxlNF
糸色 望のDW9.4形は、リスホルム・スミス式に準拠しており、トルコンは1個で、クラッチ機構と逆転機がある。

芦川 美鶴のDW24形は、フォイト式に準拠した高低2段/2個で充排油方式のトルクコンバーターを
並列に配置したもの。その後ろに直結段用の遊星歯車式変速機と逆転機とクラッチ機構がある。

変速運転では、使用するギア段のトルコンにオイルを充填して伝達し、使用しない方のトルコンは
オイルを抜いて空回りさせる。変速機周りの構造が複雑で、スペースを取る。
水平直列6気筒、総排気量14リットルの小型エンジンにしたことで、フォイト式が採用できたわけだ。

フォイト式は構造が複雑かつ大がかりなものとなるため、四乃森 蒼紫、芦川 美鶴以外での
採用例がない。
62名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 16:24:00 ID:Po285r5b
>>61
消えろ
63名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 18:02:20 ID:plKD+SbN
>>61
それ書いてて自分でおもしろいと思ってるの?
64芦川 美鶴 (ミツル) ◆z9Yu.QCvJHzs :2009/06/26(金) 18:43:57 ID:EC2JxlNF
機械関係を語るのが好きでして・・・。
最近は、アニメキャラをディーゼルカーのエンジンと変速機に例えるのがやみつきになってしまっています。
65名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 18:47:04 ID:plKD+SbN
>>64
そうですか
スレ違いだからさっさと出て行ってください
二度とこのスレに来ないでくれると助かります
66名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 18:49:48 ID:E7osEPDk
芦川美鶴って誰ですか?
67名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 20:54:08 ID:YPelrxhM
というか、いっそキャラ板に行ってスレ立てて語ってみたら?
誰か、同好の士もいるかもしれないよ。
ここらで語って嫌がられるより、実りがあるかもしれない。
68名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 21:18:56 ID:33HZziB7
荒らしにマジレスかっこわるい
69芦川 美鶴 (ミツル) ◆z9Yu.QCvJHzs :2009/06/27(土) 04:24:52 ID:cyM1wlS4
>>66
ブレイブ・ストーリーのアニメキャラ。
絶望した!ブレイブ・ストーリーを知らない人が多い世の中に絶望した!
70名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 07:04:30 ID:CUxn6Ahp
>>69
キャラサロンのガンダム総合で無視されたからってこのスレに来ないでください
71名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 08:44:35 ID:9aS9RcrD
スルーしろっつの
72名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 08:59:29 ID:7TRfAwuW
>>69
わざわざありがとうございます
アニメだったんですね(>_<)
73名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:12:12 ID:sXxzGBkn
アニメが始まるまでの嵐の前の静けさ?
7月になるとこのスレも夏のあらしが吹き荒れるんですかね?
74名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:19:27 ID:foFWA+K9
シャフトスレは既に荒らされてたけどね
75阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/06/28(日) 11:58:00 ID:3KJNiz6o
俺の化物語スレ、早々にネタバレを叩きやがって・・・。

「ギアス能力者として軸がぶれている」こと以上、
シャフトはユニバーサルジョイントの爪が甘いか、
しっかり頑丈に作らないと、DML30HS系エンジンの
太いトルクに耐えきれず、DD54みたいに折損して
脱線事故に招くからな・・・。
76名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 12:51:07 ID:RrFiDSQT
早く3期はじまんねーかな
動く可符香がみたい
77名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 02:00:58 ID:W48siBI2
景先生はヤク中なんですか?
78名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 02:46:15 ID:UgvBDY8k
ヤクが無くてもとべます
79266:2009/07/01(水) 00:45:03 ID:Mjcrjl7f
書いてきました。
望×可符香でエロはないです。

それでは、いってみます。
80266:2009/07/01(水) 00:46:07 ID:Mjcrjl7f
買い物を一通り終えて、電車に揺られてようやく駅に帰り着いた可符香を待っていたのは、土砂降りの雨だった。
「まいったな……」
現在、日本全域は梅雨の真っ只中、今日の天気予報でも空模様は安定しないとは言っていた。
だが、ここまでの大雨は予想外だった。
今日一日を振り返っても、ときどき雨粒がひとつふたつ肩に当たった記憶があるぐらいで、本格的に降りだす兆候はなかった。
それが、本降りを通り越して、道路の向こう側さえ霞んで見えなくなるようなとんでもない大雨になってしまったのだ。
「うぅ…油断してた……」
駅の入り口の屋根の下から、外の大雨を見ながら、可符香はため息をついた。
まるでバケツの底をぶち抜いたような、洪水と見紛う程の雨。
地面に勢いよくぶつかった水滴は、その強烈な落下エネルギーでもって屋根の下に居る筈の可符香のところにまで水滴を飛ばしてくる。
さてはて、これからどうするべきか。
一応、梅雨の最中に外出するわけだから、可符香とてそれなりの準備をしていなかったわけではない。
彼女のカバンの中には、愛用の折り畳み傘が出番を待っている。
だが、しかし………
「こんな雨じゃあ、さすがに役に立たないよね……」
悲しいかな、コンパクトがウリの折り畳み傘のカバーできる面積ではこの雨を防ぎ切る事はちょっと難しい。
今の状況下では、可符香の傘は残念ながら役者不足である。
かといって、駅の周囲のコンビニなんかで購入できるビニール傘も、能力的には大差ない。
この雨の中に、小さな傘一本で歩き出せば、家に帰りついた頃には頭の周囲のわずかな部分を除く、
可符香のほぼ全身がずぶ濡れになってしまう筈である。
降るかどうかもわからない、降ったところでたかが知れている。
そう、高を括った結果がこの有様である。
それからしばらく、降り続く雨を見つめ続けていた可符香だったが、ついに覚悟を決める。
「………仕方ない、かな?いつまでもここに居ても、埒があかないし……」
この土砂降りはいつまで続くだろうか。
雨足が弱まる事を期待してこの場で立ちんぼを続けるのも辛い。
買い物した衣類やその他の雑貨も、濡れたぐらいで致命的に駄目になる事は無い。
早く家までたどり着いて、シャワーを浴びて、乾いた服に着替えてサッパリした方がよほど建設的だ。
「よし……」
呟いて、可符香はカバンの中に手を突っ込んで、折り畳み傘を掴む。
(……別に、傘自体を忘れてきたわけじゃないんだし、雨具なしで帰るよりはずっとマシだよね……)
そうだ。
小さくて、頼りなくはあるけれど、ともかく今の彼女は傘を一本持っているわけなのだから……。
そして、可符香が折り畳み傘をカバンから取り出そうとしたその時だった。
「風浦さん?」
耳に馴染んだ声に、思わず振り返った。
「どうしたんですか?そんな所でぼんやり突っ立って……」
彼女の担任教師、糸色望が大きな傘を片手に持って、そこに立っていた。
「ああ、もしかして、傘をお忘れになったんですか?」
「あ…は、はい……」
問われて、可符香は咄嗟にそう答えてしまった。
持っている傘が小さくて、この大雨にしり込みしていたという事実は、ちょっと一言では説明しにくかったし、
さらに言うならば、この時、可符香はちょっとだけ期待していたのだ。
「それは困りましたね。確かに、天気予報でもこんな大雨になるなんて、言ってませんでしたからね」
「はい。だから、家に帰ろうにも帰れなくて、ちょっと困ってました」
可符香は見ていた。
望の持っている傘。
しっかりとした骨組みと、広い面積をカバーできる大きさ、もし、あの中に一緒に入れてもらえるのなら……。
もちろん、どんな大きな傘だと言っても、人が二人も入ってしまえば、可符香の小さな折り畳み傘と大差は無い。
傘のフチから防ぎきれずに飛び込んでくる雨粒で、二人の衣服はズブ濡れになってしまうだろう。
だけど、この場合、そういう細かい事は大した問題じゃあないのだ。
(したいな……先生と、相合傘……)
それが望に迷惑をかける行為だとは理解している。
望と相合傘をすれば、可符香が全く濡れずに済むというのなら、無理を聞いてもらうのも、まあアリかもしれない。
しかし現実は、相合傘でも、自分の折り畳み傘でも、どちらでも家にたどり着く頃にはずぶ濡れになっているだろう事には違いはない。
ならば、可符香も望もそれぞれ自分の傘で帰るのが、一番ダメージの少ない選択肢の筈だ。
81266:2009/07/01(水) 00:47:01 ID:Mjcrjl7f
それを望に頼むのは、単に望に迷惑を掛けるだけの事。
それを理解しているから、可符香は何も言わない、言えない。
でもその一方で、自分が折り畳み傘を持っている事を、どうしても伝える事ができない。
フェアな態度ではなかった。
人の良い望が、そんな状況の可符香を放って置けるはずも無いのに……。
やがて、おずおずと望が可符香に向けて口を開いた。
「では、家までお送りしますよ、風浦さん」
そう言って、大きな傘をすっと可符香の頭の上に差し出した。
「ありがとう……ございます…」
可符香の胸に湧き上がる、罪悪感の僅かな苦味と、望と一緒の帰り道が実現した事による甘い感情。
息苦しいような気持ちに苛まれながらも、可符香は望に促されるままに駅を出て歩き始めた。

激しい雨足は一行に弱まる気配を見せない。
地面から跳ね返ってきた水滴に濡れて、既に可符香の靴やソックスはずぶ濡れだ。
望の大きな傘も駅を出る時の予想通り、やはり望と可符香を同時に雨から守るほどの能力はないようだ。
傘を持つ望の右側に立っている可符香の肩はびしょびしょだ。
衣服のほかの部分も、時折猛烈な風に乗ってさまざまな方向から飛び込んでくる雨粒によって濡れてしまっている。
全身の衣服は湿って濡れて、傘の効果もせいぜい、無いよりはマシといった程度である。
こうなる事はわかり切っていた。
それでも、望と一緒の帰り道という誘惑に勝てなかったのは、他ならぬ可符香自身なのだ。
だが、そんな可符香が予想しなかった出来事があった。
それは………
「あの、先生…それじゃあ、先生ばっかりが濡れちゃいますよ?」
「いえ、大丈夫ですよ、風浦さん。それに、家まで送ると言っておいて、あなたをずぶ濡れにしたんじゃ意味がないですから」
笑顔でそう言った担任教師、彼は自分の傘をなるべく可符香寄りに傾けて、彼女が少しでも雨に濡れないようにしていた。
おかげで、望の着物は左肩を中心に、可符香以上のずぶ濡れ状態である。
「う〜ん、逆にお気を遣わせてしまいましたか?」
困った顔で尋ね返してくる望に、可符香は応える言葉を持たない。
ちょっと考えれば、こういう事もあり得るとわかった筈なのだ。
だけど、あの時、望と駅で出会った瞬間には、可符香の頭脳はそれに思い至る事が出来ないほどにドキドキしていたらしい。
先生の隣にいたい。
先生の隣にいられるのが嬉しい。
望をからかい、罠にかけ、悪戯をする。
そうやって愉快犯的な行動を繰り返しながら、可符香がいつも望の傍に居続けたのは、やっぱりそこが一番居心地の良い場所だったからなのだろう。
だけど、可符香にはそれを上手く伝える事が出来なかった。
互いの思いを確認し、教師と生徒以上の関係となった今だって、こんな回りくどいやり方で彼の傍にいようとしている。
その結果が、望にこんな気を遣わせてしまう事なのだから……
「あの、先生………」
「……どうかしましたか?」
いっそ、本当の事を言ってしまおうかとも思った。
だけど、望は事実を知らされても『それぐらい、構いませんよ』と笑顔で許してしまうだろう。
可符香は知っているのだ。
望は優しい。
普段はちょっとした事に引っかかっては『絶望したっ!!』と騒ぎ立てるのが常なのに、こういうときの望はとことん甘い。
結局、この可符香の小さな罪を罰してくれる存在など居はしないのだ。
(あはは…いつも先生をもっと酷い目に遭わせてるのに…こんな事ぐらいで動揺しちゃうなんて……)
「大丈夫ですか、風浦さん?さっきから、何だか様子がおかしいですよ?」
苦笑いをする可符香の顔を覗き込んで、心配そうに望が言った。
仕方がない。
全ては自分の始めた事なのだ。
せめて、望のこの厚意に対して、何らかのお返しができればいいのだけれど……
(そうだ。家に上がってもらって、タオルを貸して、お茶も出して、少しでも休んでもらおうかな
……って、よく考えたら、これはこれで私の願望が入ってるなぁ……)
それでも、望を冷え切った体のままで帰すよりは、それは少しはマシなアイデアに思えた。
そろそろ、可符香の家までの道のりも半分辺りまで来ただろうか。
少し早いかもしれないが、可符香はそろそろ自分の思い付きを望に伝える事にした。
82266:2009/07/01(水) 00:47:44 ID:Mjcrjl7f
「あの……先生」
「……?どうしましたか?」
可符香の声に、望が応えた。
そんな時だった。
「あ、先生っ!可符香ちゃんっ!!」
道の向こうから、聞き慣れた声が近付いてきた。
キキーッ!!とブレーキ音を響かせて、一台の自転車が二人の傍で止まった。
「あ、奈美ちゃん」
「ああ、日塔さん」
それは、レインコートを着込んで自転車に跨った、2のへの生徒の一人、日塔奈美だった。
「こんな大雨の中、雨合羽まで持ち出して、随分と大変そうですね?一体、どういう御用ですか?」
「ああ、実はですね……」
望に問われて、奈美は自転車の車体後部に取り付けられていたホルダーから、傘を外して二人に見せた。
「お父さんが傘を忘れて出かけちゃって、駅まで届けに行くところなんですよ」
どうやら、奈美の父も可符香と同じく今日の天気に油断してしまった一人のようだった。
その事を言ってしまってから、奈美は改めて二人の様子をしげしげと眺めてから……
「それにしても……」
羨ましそうな声でこんな事を言った。
「先生と相合傘なんて、可符香ちゃん、いいなぁ……」
ぽーっとした表情を浮かべ、奈美は二人の顔を交互に見る。
そんな奈美につられて、望と可符香の顔も知らず知らずの内に赤くなってしまう。
「あ、あはは……実はですね、風浦さんが傘を忘れて駅で困っていた所に偶然出くわしまして……」
「ああ、ウチのお父さんと同じだね……あれ、でも……?」
と、その時、奈美が少し怪訝な表情を浮かべた。
もしかして、自分が本当は折り畳み傘を持っていると指摘されるのではないか?
そんな奈美の様子を見て、根拠のない想像をした可符香は、らしくもなくドキドキと不安感に胸の鼓動を早める。
「あれ、でも……持ってますよね、折り畳み傘?」
(や、やっぱり……!!?)
次に奈美の口から出てきた言葉に、可符香は体を強張らせた
だけど、一瞬遅れてから、彼女はその言葉の中にある違和感に気付いた。
(あれ……?……敬語?……奈美ちゃんが私に?)
恐る恐る、可符香は奈美の視線の先を見た。
彼女の視線が向けられていたのは、可符香ではなく、その隣に傘を持って立っている担任教師……。
「な、な、なんですか!?…私が折り畳み傘を持ってるって……どういう事です!?」
望は、奈美の言葉に明らかに動揺していた。
「前に言ってたじゃないですか。『私みたいな人間は、出かけた先で必ず雨に降られるに決まってるんです!!』なんて言って
しかも、絶対に失くしたり忘れたりするに違いないから、必ず二本は折り畳み傘をカバンに入れてるって………」
「それがどうしたんですか!?べ、別にいいじゃないですか、備えあれば憂いなしですよっ!!!」
「それを可符香ちゃんに貸せば良かったじゃないですか?」
「う…うぐぐぐぐぐぅ〜」
もはや返す言葉も出てこない様子の望。
奈美はそんな望の様子を不思議そうに見つめてから
「あっ!いけない、もうお父さんが乗った電車が駅についてる頃だ!!」
腕時計を確認して、慌てて自転車に跨りなおした。
ペダルに足を掛け、再び漕ぎ出す直前、彼女はもう一度望と可符香の相合傘を見て……
「もしかして、可符香ちゃんと相合傘したくて、折り畳み傘の事を言わなかったんですか?
それだったら、やっぱり、羨ましいな……」
そして、再び駅に向かって自転車を走らせ始めた。
83266:2009/07/01(水) 00:48:33 ID:Mjcrjl7f
奈美がその場を去ってから、およそ数十秒は経過しただろうか。
互いに何も言えなくなっていた望と可符香だったが、ようやく望の方から口を開いた。
「すみません、風浦さん……」
「先生……」
「日塔さんが言ってた事は全部本当です。その折り畳み傘は、今日も持っています………」
しょげ返った、バツの悪そうな表情でそう言ってから、望はカバンの中から一本の折り畳み傘を取り出した。
望は自分の傘とは別に折り畳み傘を持っていた。
本来なら、これを可符香に貸せば事は足りていたのだ。
だけど、折り畳み傘で帰るのも、相合傘で帰るのも、衣服や体が濡れてしまう割合は同じくらい。
その事に思い至ったとき、望はこの事を言い出せなくなってしまった。
可符香と、相合傘で一緒に帰りたくなってしまったのだ。
「何というか…その……申し開きのしようもありません……すみません、風浦さん」
ガックリとうなだれて、可符香に頭を下げた望。
彼の頭の中は、自分の願望に任せの行動に対する後悔でいっぱいになっていた。
だけど………
(そっか……先生も私と一緒に帰りたかったんだ……)
そんな望を見つめる、可符香の気持ちは違った。
彼女は、俯いた望の顔を覗き込んで、
「先生、そんな顔しないでください。先生が傘に入れてくれて、私、嬉しかったんですよ……」
「風浦さん、ですが……」
「それに……それに、ちょっと恥ずかしいんですけど……」
可符香は、望の目の前で自分の鞄を開いて見せた。
そこにあったものは……
「あっ……これは……」
カバンから顔を出したのは、望と同じく不測の雨に備えて用意されていた彼女の折り畳み傘だ。
「ほら、私だって、先生と同じだったんです……」
恥ずかしそうに、バツが悪そうに、可符香は笑った。
それぞれの内幕をばらしてしまえば、なんて間の抜けた話だろう。
好きな人と一緒の傘で帰りたいという可愛い下心と、そのためのほんの小さな、つまらないウソ。
「あはは……なんだかバカみたいですね、私達……こんな事なら……」
「ええ、こんな事なら、最初から素直に自分の気持ちを伝えておけば良かったのに……」
顔を見合わせて、望と可符香はクスクスと笑う。
二人して、さんざん悩んだ挙句、見つけ出された答えはとてもとても単純なものだった。
でも、たまにはこんな風に、つまらない寄り道や迷い道をぐるぐると回ってみるのもいいものかもしれない。
だってほら、駅でばったり出くわしたあの時よりも、笑い合う二人の心はもう少しだけ近づけた気がするから……。
「それじゃあ、先生。私の家でちょっとだけ雨宿りして行きませんか?温かいお茶でも飲んで、二人であったまりましょう」
「そういう話なら、お言葉に甘えさせていただきますよ、風浦さん」
一つっきりの傘の下で、そんな会話を交わす二人は、ぎゅっと体を寄せ合う。
いやだなぁ。これは仕方なくやってるんですよ?
こうしてくっついて傘の下に入った方が、二人ともなるべく濡れないで済むじゃないですか。
それにほら、ここはこんなに暖かくて、優しい場所なんだから……。
寄り添う二人を雨から守りながら、相変わらずの大雨に煙る景色の向こうへと消えていった。
84266:2009/07/01(水) 00:49:15 ID:Mjcrjl7f
以上でお終いです。

それでは、失礼いたしました。
85名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 00:57:30 ID:1m8e9PH4
乙!
86阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/01(水) 06:13:47 ID:zJ4w2xF4
都合のよい落ちばっかりではなく、不都合な落ちで俺は絶望してしまうので、
この程度のキャラクター崩壊をやってもらわないと気が済まないので甲種!
87名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 07:01:12 ID:YisYSycX
>>86
頼むから本当にもうここへ来ないでくれ
88名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 19:34:59 ID:FM1aQpHh
おまいら誰の髪の毛にモフモフしたいですか?
89名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 21:13:48 ID:LK+fnQoH
>>88 もちろん霧。
90名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 21:15:35 ID:bJzcqoY0
千里ちゃんのさらっさらヘアーに真後ろから顔を突っ込みたい。触れた瞬間さらっさらじゃなくなる訳だが。
91名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 10:37:25 ID:eiYQPNAD
可符香のアンテナに刺さりたい
92305:2009/07/03(金) 16:56:02 ID:Edvsa+gj
おつかれ様です。

カエレさんで一つ作りましたので投下させて下さいませ。
およそ12〜13レスほど消費させて頂きます。

では、よろしくお願いします。
93世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 16:57:08 ID:Edvsa+gj

悪態── 他に形容の仕様がない言葉を吐きながら、広い廊下の真ん中を遠慮の無い足取りで歩いている。
片手を腰に当て、行き交う男子生徒と比べても長身な背を真っ直ぐに、堂々とした態度で胸を張り、靴音を立てている。
ひときわ短いスカートから伸びた脚は元々の長さをさらに強調するように、ほとんど腿の付け根近くまでもをさらしており、
僅かにでも風が吹いたりしたら簡単にその中身が見えてしまうだろう。
だが、すれ違う男子生徒の視線はそのポイントには無く、むしろ奇異の視線が一人喧嘩腰の口調で喋り続けながら歩くその少女の仕草に集まっている。
長身な上、背中に長く伸ばした明るい金色の髪という姿は普段でさえ目立つというのに、
その少女が何か見えない相手と口論でも繰り広げているような様子でいれば、注目を集めてしまうのは必然といえるだろう。
「だからもう! いつまでもウザイ事言い続けても始まらないだろ!? ウジウジ考えんな!」
突然立ち止まり、今までの調子とは違った、怒気をはらんだ声を上げ、その場で床を蹴りつけた。
その大きく響いた声と音に驚いた周りの生徒達は一瞬体をすくませ、そっと見守るようにそれぞれの視線が集まる。
激しい声を吐き捨てた少女だったが、次には一瞬その表情が止まり、頭痛でも起こったように眉間にシワを寄せて軽く呻き、頭に手をやってみせた。
だが、すぐに姿勢を正し、少し前屈みがちな格好で両手をスカートの前に置き、うつむき加減になった顔に悲しそうな表情を浮かべると、
カールのかかった長い金髪を揺らして頭を左右に振った。
「……どれだけ想っても、叶わぬ事は承知していますもの。──だから …だから、私、愛しきあの方の姿と思い出を胸に、
一人静かに、つつましく、この一生を終えたいと思いましたのです」
物憂げな瞳を潤ませ、胸に手を置き、その少女の口からは先ほどまでとは打って変わり、今にも消え入りそうな細々とした声が漏れ出した。
廊下の窓から入り込んだ風が、緩やかにウェーブしている金色の髪を、柔らかそうに揺らし──
「はああ!!」
止めていた息を吐き出したような声を出して勢いよく顔を上げ、ギリっと歯を食いしばる音をさせる。
「冗談じゃないわよ! 一生ぉ!? 馬鹿じゃないの!? 無駄すぎるだろ、そんな人生!」
信じれないと言ったふうに目を見開いて叫び、そのまま大きく首を横に振ってみせると、
少し落ち着いたのか軽く息をついて前に垂れてきた髪を肩越しに背中へと返し、少し手ぐしを通すようにして整え直した。
「ん……?」
そこでふと、周囲の生徒達から自分に注がれる視線に気がつき、少し唇の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべ、
脚を肩幅に開いて片手の甲を首筋にあて、モデルのような姿勢を取ってみせる。
大きく胸を張ると、遠目でも分かるほど豊かにブラウスを押し上げる膨らみがくっきりと形を作り、
その中にネクタイが隠れてしまうほどの谷間を作り出している様子が分かった。
「なにジロジロ見てるのよ? ──訴えるよ」
軽く睨むような笑みを周囲に送りながら、さらりとした口調でそう告げると、
──ぶいんっ!!
そんなはずは無いのだが、確かに聞こえた風を切る音と共に周囲の生徒達が一斉に顔を背け、まとわり付くように感じていた視線の気配が瞬時に消え去った。
「……ちょっ!? 何なのよ!?」
申し合わせていたかのように揃った周囲の反応に、思わず愕然とした表情となり、
きょろきょろと首を振って、視線を逸らしつつ静かに通り過ぎようとして行く生徒達の姿を追い──
突然、開いたままの窓から吹き込んできたつむじ風が廊下を通り、
長い両足の間を通り抜けた事を示すようにその短いスカートの生地を捲くりあげ、下着がさらされる。
「きゃっ……!!」
短い悲鳴をあげ、慌ててスカートの前を押さえるが、下着の後ろは丸出しのまま、はためくスカートの下で形の良いヒップラインの張りを公開していた。
おおおおおおおおおおおお!!
それと同時に廊下にいた生徒たちから一斉に感激したようなどよめきが響き渡り、うち何人かがこちらに駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。
色白の頬をやや朱色に染めながらも、強気な視線は崩さないまま、少し微笑んでいるかのような表情で顔を上げる。
──が、正面の方向から廊下を駆けてきた生徒は、視線を窓の外に向けたままその横を素通りしてゆく。
「…あ?」
一瞬ぽかんと口を開け、通り過ぎて行った生徒たちの方を振り向いた途端、
「智恵先生がセーラー服を着ているぞぉぉぉっっ!!」
「眼福だあぁぁ!!」
94世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 16:58:43 ID:Edvsa+gj
「生きててよかったぁー!!」
口々に魂の底から湧き上がってくるような雄叫びを上げながら、我先にと地響きを立てて廊下を走りぬけてゆく。

やがてその騒音が収まり、教室の中にすらだれもいなくなってしまったのか静まりかえった廊下でしばし固まっていた少女は、
やがて真っ直ぐに背を伸ばして、両方の拳を握り締める。
そして、ショックを受けたように引きつった表情で、大きく息を吸い込んでみせる。
「訴えてやるっっ!!」
涙目になりながら全身に力を込めて叫んだその声は、静かな廊下に響きわたり、微かに窓を震わせて校舎の中をこだまして行った。


「……ああ ……日が長くなりましたよねえ……」
未だ微かに茜色の名残を残した窓の外を遠い目で眺めながら、先生は小声でぽつりと漏らしていた。
明かりのついていない部屋の中には十数個の事務机が整然と並べられ、
机上に立てられているファイルやら教科書などの冊子がそれぞれの机にぼんやりとしたシルエットを落としている。
やがて放心していたような顔を目の前にある自分の机に向けると、小さく溜め息をついてみせた。
「…さて、どうしたものでしょうかね……」
微かに聞こえる小さないびきに耳を澄ますように、静かな動作で体ごと向き直る。
椅子に腰掛け机の上に上半身を突っ伏した状態で身じろぎ一つしないその背中には、薄暗い中でもはっきりと分かる金色の髪が腰まで流れている。
他の生徒達とは異なる特徴的な制服姿と併せて見れば、それが誰であるかは考えるまでも無く判別できた。
「……今の木村さんがカエレさんの人格ですと下手に起こせば訴えられそうですし… スルーして帰っても、
これもまた保護責任が云々となるかもしれませんね……」
困り果てたように眉をしかめ、先生が小さく唸り声を出した時、カエレの座っている椅子が小さく軋む音を立てた。
「──はっ!?」
その音と揺れに反応したのか、ほぼうつ伏せの状態でいた体を跳ね上がるように起こし、カエレは未だ少し眠気が残っていそうな表情で周囲の様子を伺う。
「…あ…… おはようございます」
半笑いでとりあえず挨拶の声をかけた先生を一瞥し、そのまま視線をぐるりと部屋全体に巡らせると、
意識が完全に覚醒したのか額に青筋を立てて荒い声を上げた。
「ちょっとぉ!! 職員室に生徒ほったらかしで先生達が全員帰宅ってありえないだろ!?」
目を見開いて激昂するカエレに、先生は愛想笑いを浮かべて目の前で両手を広げ、「まあまあ」と言いながらその手を軽く振って見せる。
「…きっと、あまりに気持ちよく寝ていらっしゃる木村さんを起こすのが恐……いえ、忍びなかったのでしょう。
──えー、まあ、それはそうと、木村さんはなぜここにいらしたのでしょうか? もう、とっくに下校時間は過ぎてしまっていますよ?」
おちついた声でなだめるように話す先生に、少し眉を寄せながらも軽く鼻で息をつくと、カエレは椅子を軋ませて座りなおした。
「──中々来ない先生を待ちくたびれて居眠りしてしまった訳ですから、この責任の所在は先生にあります」
きっぱりと言い放つカエレに、先生は困惑した顔で笑いながら言葉を返す。
「…それは、かなり理不尽に思えるのですが…… つまる所、私に御用があるという解釈でよろしいのでしょうか?」
首をかしげて訊ねる先生に、カエレは一つ頷き、
机の上に片肘を乗せて椅子の背にもたれかかり、長い脚を組みながらもう片手の親指で先生の足元を指し示した。
「目の前で突っ立ってないで座って下さい」
「…あ、はい」
短く返事を返し、先生は膝を曲げると、袴の裾を手で払いのけながらその場に正座をしてみせる。
「……椅子に座って、という意味だけど?」
「いえ…… 何となくこうしたほうが良い気がしまして。…あ、どうぞ、お構いなく、続けてください」
片手を小さく差し出して話を促がす先生に、カエレは一瞬眉をひそめるが、特に追及する事無く、一瞬考えをまとめたような沈黙を置いて、口を開いた。
「──ハッキリ言いますが…… 迷惑しています。 先生が、い……」
「すいませんでしたぁ!!」
言葉を続けようとしたカエレを遮ると、正座したままの先生は素早く土下座をする姿勢になり、謝罪の声を上げた。
「ちょっ!? まだ、理由も何も言ってないじゃ……」
「いえ! 私がとんだ事をしでかしたせいで御迷惑をおかけしてしまいましたぁ! 何をしたのかは分かりませんが、先に謝らせていただきます!」
「とりあえず保険で謝るなよ! 話聞けよ! って言うか、聞く気あるの!?」
腰を浮かし、眉を逆立てて身を乗り出すカエレに、先生は床に顔を伏せたまま首を振ってみせる。
95世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 16:59:33 ID:Edvsa+gj
「この責任は重く受け止めます……! また法廷画になるのは嫌です……」
床を見つめたまま動こうとしない先生の後頭部を嫌そうな顔で見つめていたカエレだったが、
やがて溜め息をついて肩を落とすと、椅子から立ち上がりながら、声のトーンを落として口を開く。
「…とりあえず、人払いを要求します。他人に内容を聞かれないような場所への移動を求めます」
「はい……? ここでは駄目なんでしょうか? ……すでに校内にも誰も残っておりませんが……」
ようやく顔を上げ、不思議そうに訊ねる先生に、カエレはしれっとした表情で淡々とした声を出した。
「盗聴器が仕掛けられている危険は?」
「そ…… そんなに危ない内容のお話なのですか!?」
「人に聞かれたら先生の身の破滅に──」
事も無げな口調で恐ろしい事を口にしたカエレに、
先生の顔色が一瞬で青くなり、がば、と身を起こして机の引き出しから使い込んだ様子のノートを取り出した。
「何ソレ…? 死に… るる……?」
「あああっ!! 最近はあちこち取締りが強化されてしまって……! ならもう、あそこしか無いでしょう! …遺書も持って行くべきでしょうか!?」
「……いいからさっさと引率して」
あたふたと机の中から色々取り出そうとする先生の背中を押して、カエレはあきれたような溜め息をついて髪をかき上げた。


少し錆びたような軋みを響かせながら、重い音を立てて所々ペンキの剥げた扉が閉まる。
今日はあまり風も無く、蒸した空気はまだ多少残ってはいるものの、昼間のように体にまとわり付くような感じは無い。
もう黄昏も過ぎ、一面に広がった藍色の空は、西の方に微かな橙の残滓を見せるだけとなり、
雲もほとんどない上空からは、これから少しずつ冷えた空気が降りてくる気配が伝わってくる。
「…ここなら、聞き耳を立てられる心配もありませんよ。
ここより高い建物は周りにはありませんし、こんな時間に屋上へ来る人はまずいませんから、静かに旅立つにはとても良い条件がそろっているのですよ」
若干、解説するのが楽しそうにも見える先生の声を背中で聞きながら、カエレはゆっくりと屋上の中心へと足を進める。
少し離れて先生が続き、やがて入口からも縁にあるフェンスからも離れた位置に移動したカエレは、足を止め、
ゆっくりと振り向くと腕を組んでその場に佇み、先生の方を正面から見据える。
先生はやや気後れしたような仕草で、カエレから数歩の位置で足を止め、こちらは露骨に視線を外してカエレの方を向いていた。
「…先生に初めてセクハラされた場所ですか」
「…何だか、これから少年漫画の対決シーンが始まりそうな雰囲気ですね……」
「意味が良く分かりませんが」
噛み合わなかった会話に機嫌を損ねたように、カエレは一瞬不愉快そうに眉をゆがめるが、
すぐに気を取り直したのか、首を軽く振ってからゆっくりと口を開いた。
「いつもいつもいつもいつもいつも四六時中、毎日! 欠かさず! ネガティブなダメ教師の話を聞かされる身にもなってみなさいよ!
 たまったものじゃないわ! 知らないうちに勝手に一目惚れして、全然何も進められずにずっと悩んでる奴の相手をするのは、
もう、うんざりしてきたのよ! いい加減どうにかしろよ!」
突然文句をまくし立て始めたカエレに、最初はぽかんとした顔でその言葉を聞いていた先生だったが、
やがてその言葉の意味する所を探り当てたのだろう、微妙に気まずそうな笑みを口元に浮かべて、そっと窺うような小さな声を返す。
「……あ…… もしかして楓さん、の事なのでしょうか?」
「他に何があるのよ? 先生には責任が無いとは言わせないよ! ……断るなら断るで、さっさとすれば一言で済む事でしょうが。
きちんとフッてしまわないままだから私が迷惑するのよ!」
イラついたように組んだ腕の中にある指で二の腕をトントン叩きながら、きっぱりとそう言い捨てる。
返答に詰まった先生が言い淀み、表情を曇らせていると、やがてカエレは力を抜いたように腕組みを解き、少しあごを上げて視線を上に向けた。
「…って、思ったんだけどねぇ…… それをやると、奴の事だから、一生ずっと引きずったままにしそうでさ。……勘弁してほしいよ、ホントに」
やや表情をゆるめて、欧米人がよくやるように、両手を広げて肩をすくめる仕草をしてみせる。
「…そう、ですか…… しかし、それでは一体私はどうすれば……」
「だから、私、楓の奴と賭けをしたよ」
「賭け…… ですか?」
オウム返しに尋ねる先生に、カエレは頷きはせずに視線を先生に向けて、少し早口になりながらはっきりと告げる。
「一度だけ。…先生と愛の行為をする事が叶ったら、きっぱり振り切るって」
96世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:01:20 ID:Edvsa+gj


さっきまでずっと止んでいた風が少しだけそよぎ、仁王立ちとなっているカエレの髪とスカートを微かに揺らす。
それでようやく硬直が解けた様子の先生が、ゆっくりと足を動かして後ずさろうとした所を目に留め、カエレは反射的に身を乗り出して制止の声を上げる。
「ちょっとぉ! 今、逃げようとしたでしょう!?」
「…あ、その…… もう夕食時でお腹が空きましたし…… 続きは、また今度と言う事で…」
「──夕食以下!? 私は夕食以下かよ!?」
一瞬よろめき、こちらを涙目で睨みながらぶるぶると握った拳を震わせるカエレに、先生は慌てて側まで寄りながら窘めるような声をかける。
「あああ……! すいませんすいません、訴えないで下さい! ……いえ、夕食はともかく ……木村さん、あなた今興奮して
判断力が鈍っているのだと思うのですよ…… よく考えて下さい。…私と、楓さんがその……すると言う事は、つまり……」
「わかってるわよ、そんな事!」
もうほとんど日が落ちているせいで顔色までは分からないが、眉間にしわを寄せ、めずらしくやや目をそらしながらカエレは忌々しそうな声で答える。
「一度や二度、過ちで抱かれたくらいで私の価値が下がるものじゃないだろ。
ダメ教師とするなんて最悪だけど、犬に噛まれたとでも思えば数の内に入らないよ」
「……犬って…………」
あからさまな表現で話すカエレの言葉にやや身を引きながらも、先生は少し嫌そうな表情でぼそりと返す。
またしても口籠ってしまった先生に業を煮やしたのか、
カエレは何かを振り払うように一度大きく頭を振ってみせると、片手を胸にあてて高らかな声を上げる。
「ああもう!  私の国では、女子からの告白を受けた男子には、その場で跪き、生涯を捧げる事を誓うのが義務付けられています!」
「…………はあ」
「…そして、断った者には20年以上の禁固刑が科せられるよ」
「犯罪なんですか!?」
目を見開いて引きつった声を出す先生の袖を逃がさないように掴み、カエレはずいと顔を近づけてくる。
「さあ! さっさと始めなさいな! …心配しなくても、すぐに楓と交代するわよ!」
やや切れ長の大きな青い瞳で睨みつけながら、カエレは自分の襟元に手を伸ばしてネクタイを少し緩めてみせた。

いまだ気が進まないように立ちすくんでいる先生の襟に手を伸ばすと、カエレはその着物を引っ張りながらもう片手で床を指差してみせる。
「先にこれを脱いで、そこに敷いて」
「……?」
「こんな床で直接転がったら、私の服が汚れるだろ」
「そりゃまあそうなんですが…… まあ、いいです。汚れたら、木村さんの帰りが大変でしょうからね」
いまいち得心はしていない表情だったが、言われるままに着物を脱いで床に広げ、カッターシャツと袴だけという妙な格好になった。
カエレはふわりと髪をなびかせてその上に腰を下ろすと、少し後ろに反りかえるように体を倒し、
背中側に回した腕を床に立てて体を支え、目の前に立つ先生を見上げる。
「先生は教師になる前は相当やんちゃしてたって話だから慣れてるね? じゃ、この後は任せますから。…乱暴な事したら訴えるよ」
「人聞きの悪い事を言わないでください!」
「女の子にリードしてもらわなきゃいけない程、経験無いわけじゃないでしょ」
「それは……」
ぽんぽんと即座に言葉を返すカエレについムキになっていた自分に気がついたのか、先生は言いかけた言葉を切ると、
その目の前にしゃがみ込み、膝立ちになりながら、少々気だるそうなポーズでこちらを見ているカエレと同じ目線で向き合った。
「……カエレさんはお相手に不自由したことなどなさそうですよねぇ……」
少々気後れしたように苦笑しながらつぶやく先生に、カエレは一瞬片方の眉を上げてから、得意そうに鼻で一つ笑って髪をかき上げる。
「あたりまえでしょ。このカンペキな顔とボディの美女を男たちが放っておくわけないだろ? 
向こうに居たときは言い寄ってくる男なんて星の数だったよ。……ま、よっぽどの男じゃなきゃ相手しなかったけど。
それでも喰った相手の数なんて軽く三桁はいってるかしらね」
ふふっ、と含むように笑いながら、あきらかに上から見下ろすような目線を先生に向けるカエレだったが、
先生は真面目な顔で首をかしげ何やら片手の指を折りながら数を数えているようだった。
「……木村さん、たしか三ヶ月くらいの留学でしたっけ? 日替わりでお相手がいたとしても、ちょっと計算が──」
軽く唸りながら考え込む先生の言葉に、カエレの動きが瞬時に固まり、涙目にゆがめた顔をずいと近づけて引きつった声を投げつけてくる。


97世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:02:19 ID:Edvsa+gj
「……うっ、訴えてやるっ!! …つーかくだらない事言っていないで、さっさとしなさいよ!
 女の子を待たせるなんて最低だろ! この国では『据え膳喰わぬは腹八分目』って言うでしょう!?」
「…いえ、先生そのことわざは存じませんが……」
掴みかからんばかりの勢いで迫るカエレに、先生はやや身を引かせていたが、
ふと、今にも噛み付きそうなカエレの背中に手を回すと、そっとその背中に掌を触れさせる。
ビクッ! と体を震わせて、再びカエレの動きが硬直した。
先生は固まってしまったカエレの体を背中からゆっくりと抱き寄せるように、自分の胸の前にカエレの頭が来るようにして、膝の上に抱え込んでしまった。
「……何よ」
「いえ、何となく…… ただその、……私、木村さんは結構体格が良いがっしりした方だと思っていたのですが──」
言いながら、両腕をカエレの背中に回してそっと感触を確かめるように抱きしめてみせる。
「こんなに柔らかなんですね…… 失礼ながらびっくりしていますよ…… スタイルなんか、これほどに発育が良いのに、触れると全然違った感じで……」
感動したように自分を抱きしめる先生に、少し頬を赤くしながらも、気の強い瞳で上目使いに睨みながらカエレは低い声で答える。
「…ガキ扱いするなら訴えるよ……?」
その言葉に先生は小さく肩をすくめ、特に返事はせずに背中に置いた手を、腰の方へと下ろしてゆく。
見事なくびれを見せている引き締ったその腰を優しく撫でながら進み、すぐに辿り着いたスカートのすぐ上で躊躇したように、一旦その手が止まる。
「…………いいって言ってるでしょう。今だけは触っても訴えないよ……!」
即座に様子を察したカエレが少々苛ついた声を上げると、「失礼します」との小さな声と同時に掌がスカートの上をすべり、ヒップラインへと触れる。
ゆっくりとスカートの上から張りのある丸みをなぞり、裾の方へと手先を進めると、遠慮がちに短いそのスカートが捲られてゆく。
「…普段から見慣れてるだろうに」
下着が晒されてゆく様子を感じ、溜め息交じりな声でつぶやくカエレに、先生の苦笑交じりな声が返される。
「確かに、普段はスベりパンチラくらいにしか思っていませんでしたが…… こういう時に目に入ると、やはり違うものですよ」
「ス…… スベ……!?」
ひき と頬を引きつらせるカエレだったが、先生の手が下着の上から自分のヒップを優しく掴んでくると、
抗議の声を上げようとした口を閉じ、少し視線を逸らしながら、そっとその場所を揉む指の感触を意識しているようだった。
先生の手が指を伸ばしながら少し位置を替え、その指先が微かに自分の大事な場所に触れると、カエレはギクリと身をすくませて思わず目を閉じる。
「…あ、失礼しました。…ちょっと、まだ、いきなりすぎますよね」
慌てて先生の手がそこから引いてゆき、少し安堵したような表情で目を開けたカエレは、
今度は先生の手がスカートのジッパーを下ろそうとしている事に気がつく。
「あ……! 服脱ぐのはダメ。……パンツは仕方ないけど」
「え……?」
「…万が一誰か来たりしたら、すぐに逃げられないだろ」
事も無げな表情でそう告げるカエレに、先生は困った顔で少し考え、頬を掻いてみせる。
「……私は逃げ遅れる事必至ですが」
「先生の裸なんて、みんな見慣れてるだろ。気にされないよ」
一瞬嫌そうに顔をしかめた先生だったが、チラリとだけ屋上の入口に目をやると、膝の上にあるカエレの体を抱えてその向きを仰向けに変えてしまう。

「あ……!?」
驚いたカエレを背中から抱きかかかえ、そのままシャツの上から胸に両手を伸ばし、豊かな膨らみを掌で捕らえた。
ゆっくりと撫でながら軽く揉み始める先生の手の動きに、顔を赤らめながらも、ヤル気のなさそうな表情でカエレはぶつぶつとつぶやいてみせる。
「…何なのよ……今日は…… いつものチキンはどこに行ったん……っ、あっ……ん…!」
シャツの生地とブラに遮られている膨らみの先端を先生の指に探り当てられ、カエレの口から初めての嬌声が漏れ出した。
「いえ…… しないと訴えられてしまうのなら、これはさすがに私もせざるを得ないといいますか、まあ、その……」
「不可抗力だってか!? …あっ…… ふ……っ…!」
先生の手の動きが次第に激しくなり、大きな膨らみをこね回すような愛撫にカエレの口からは何度も溜め息が漏れる。
「やっぱり… 大きいんですね、木村さんの胸は… 自慢したいのも分かる気がします」
愛撫を続けながら感心したような声でそう言う先生に、一瞬まんざらでもない笑みを浮べるが
すぐに少し表情をしかめると、背中側からシャツの中へと自分の手を伸ばしてみせた。
98世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:03:14 ID:Edvsa+gj
「…ちょっ……と… ブラ…苦しい…… 今……」
言いながら背中のホックに辿り着いたカエレの指が留め金を外し、
開放された二つの膨らみは、先生の掌の中に作り立ての餅のような柔らかい感触と、ずっしりとしたボリュームを伝えてくる。
膨らみを持ち上げるようにすると、たった今緩んだブラのカップが外れたのだろう、シャツ一枚隔てて、硬くなった膨らみの先端が掌に触れる。
その先端を指の腹で弄ると、声もなくカエレが体を震わせ、そこが敏感な部分である事を知らせてきた。
しばらくそこを撫でていた先生の指がシャツのボタンに伸びる。
が、それに気がついたカエレの手が先生の手を叩き、退けてしまう。
「……え?」
「…見せてやらない。……触るだけならOK」
睨むように自分を見上げる青い瞳を覗き込んでいた先生だったが、小さく肩をすくめ、
次の瞬間素早くシャツの裾を捲くり、カエレのへその上を通って、直に、少し汗ばんだ膨らみを片手で捕まえてしまった。
「ちょっ…!? …あっ!……あ………あっ…!」
「触るだけですか……」
シャツの中をまさぐるように膨らみを愛撫しながら、指先で先端の突起をはさみ、くりくりといじり出す。
膝の上で、びくびくと体を震わせるカエレの耳もとへともう片方の手を伸ばし、
頬をなでながら自分の方を振り向かせるように顔の向きを変えてやると、目を閉じて眉をしかめているカエレの唇へ、自分の唇を重ねあわせた。
「…………んっ……!?」
驚きに目を見開くカエレの唇を舌先で軽くなぞると、その唇を割って、口内に自分の舌を侵入させてゆく。
「…………!!」
反射的に自分の舌に絡み付いてくる先生の舌先を避けようとするが、
未だシャツの中で続けられる愛撫へどうしても優先して反応してしまい、そのまま狭い口内で先生と自分の舌が絡みあった。
喉から背中へと抜けるゾクゾクとした感覚に一瞬頭の中に火花がはじけ、唇を離そうとするが、
口内までもを愛撫する先生の舌先に捕まってしまい思うように動く事ができず、じわりとした物が自分の中から湧き上がってくる様子を感じてしまう。
「…………! …………っ!! はあ!」
むりやりに唇を引っぺがすと、カエレはキッと険しい目つきをしてみせ、不服そうな声を上げた。
「ちょっとお! いつまで私に任せる! 早く交代しなさいよ!」
切羽詰った声色で文句を放つカエレに、先生は小さく笑うと、頬に添えた手でカエレの耳たぶのあたりをそっと撫でる。
「…ひょっとして、楓さんが来ないんでしょうか?」
「応答ナシって! 冗談じゃないわよ! 誰のためにやってると……! ここにきて恥ずかしがってんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にして焦るカエレに、先生は困ったように微笑むと、今度はそっと触れるだけのキスでカエレの唇を塞いだ。
文句を中断させられ目を白黒させているカエレだったが、先ほどとは違った優しく唇をあわせるキスに、
次第に落ち着いてきたのか吊り上がっていた目が柔らかく、遠くを見るような瞳をしながらまぶたを閉じて行く。
耳たぶにあった手は後ろ髪を撫でるような仕草に変わり、
やがてゆっくりと唇が離されると、一瞬とろんとした表情で目の前の先生を見つめたカエレだったが、すぐに我に返ったように表情が厳しく引き締まる。
「あのへタレ……! 何考えてるのよ!」
「楓さんは恥ずかしがっていらっしゃるようですから…… そっとしておいてあげましょうか」
「できるか! 楓とじゃないと意味ないだろ!?」
「……私はそうでもありませんが」
ふっと、真剣な表情となる先生に、カエレは思わず言葉をなくし、
薄暗がりの中で星明りを携え、逸らすことなく自分を見つめてくるその瞳に思わず息を呑んでしまう。
──と、いつの間にかカエレのスカートの中に移動していた先生の手が、自分のパンツの端を掴んだ事に気がつくが、
カエレが動くより早く、先生の手がその布切れをめくり、するすると膝近くまで下ろしてしまった。
「──!? ……! …………!!」
真っ赤な顔で目を見開き、
声も無く何度も口をパクパクさせているカエレの背中に腕がまわされ、床に敷いた着物の上へとその長身をゆっくりと横たえられる。
覆いかぶさるように目の前にいる先生が、再びスカートの中に手を差し込みながら小さく口を開く。
「…ここも、見てはダメでしょうか?」
「絶対、ダメ!!」
ほとんど脊椎反射で返事を返しながら睨みつけてくるカエレに、先生は残念そうな苦笑を浮べると、
カエレの片足を上げ、パンツを片脚だけ残して足を抜くと、むき出しの秘所に指で触れた。
99世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:03:53 ID:Edvsa+gj
「は!? やっ!?」
身をよじって先生の指先から逃れようとするが、かわそうとした方向を察知したように先生の指が追いかけてくる。
指先はカエレの秘裂の上をなぞり、すでに湿り気を帯びているそこへとほんの爪先程をうずめ、細かに動かしながら丹念に割れ目にそって往復を繰り返す。
やがて、カエレの中から湧き出してきた蜜のようなそれが指に絡みつき始めると、二本の指を使って秘裂を左右に広げてしまった。
いままで隠れていた自分の大事な場所に外気が当たり、
それが晒された事に気がつくと、カエレは歯を食いしばった顔で必死に反応しまいと耐えているようにみえる。
先生の指先が、陰茎のある位置へと触れ、
さらに空いている他の指が膣の口になる部分を軽くつつくと、たまらずカエレは体を跳ねるように反応してしまい苦しそうな息を漏らした。
「くう……っ……!! く…っう……ん……んっ……!」
秘所を愛撫したまま、先生の指がカエレの胸に伸び、シャツの上から先端をつまんで弄り始め、さらにもう片方の膨らみを口で含み、舌先で転がし始める。
「…い……やあぁっっ! ……あぁん……! はっ…… あああっ!」
耐えきれなくなったのだろう。カエレの口から快感を訴える声が上がり、目を閉じて首を左右に振りながら逃れようともがいているようだった。
勢い付いたように先生の愛撫の動きが早まってゆき、カエレは頭の中にショートする火花のようなものを感じながら、いまや成す術もなく身を任せてしまっている。
やがて、絶頂を迎えたのだろう。その長身を大きく震えさせ、
一度、胴を弓なりにそらせると、全身から力が抜けたようにぐったりとなり、眼を閉じたまま荒い息をついていた。

目を開けると、すぐそばで覗きこむような先生の顔が見えた。
機嫌が悪そうに眉をしかめてみせると、カエレはまだ乱れている呼吸を落ちつけようとして一度深く息を吸い込んでみせる。
「……しかし…… あらためて言うのもなんですが、本当に抜群のスタイルをされていますよね……」
一瞬何かの皮肉かと邪推をしてしまったカエレだったが、
本当に他意のなさそうな先生の表情をみて、少しあごを引いて、寝そべる自分の姿を目に入れてみた。
身につけているシャツとスカートは、いまや吹き出した汗でべったりと肌に張り付き、
胸の膨らみなどは形が完全にわかるほどに布地がぴったり張り付き、ピンと立った先端部までもはっきりと見て取れる。
おそらく腰回りも似たような物だろう。水着をつけている時よりもはるかに体のラインが浮き出ている事は明白だった。
一瞬頬に朱が差したカエレだったが、反射的に隠そうと動こうとした手を止め、少し余裕をみせた誇らしげな表情で先生にニヤリと微笑んでみせた。

やがて、横たわるカエレを見つめていた先生がのそりと動き、同時に袴を下げたらしき布擦れの音が聞こえてきた。
一度鼓動が大きく跳ね上がるが、何気ない表情でそれを流しているうちに、自分の上へと体重をかけないように気をつけながら先生の体が覆いかぶさってくる。
「……もう、我慢がきかなくなってしまいました」
意外なほど切なそうな表情をしている先生の顔に、カエレは一瞬だけ躊躇をみせ、すぐに皮肉っぽい笑みを浮かべて答える。
「下半身で物を考える生き物に、ここでおあずけってのは酷でしょ? ──しかたないねぇ……」
どこまでも挑戦的なままの眼差しを向けるカエレに、
先生は少し相好を崩して肩をすくめ、微笑を浮かべて何も言わずに軽くカエレに口づけながら、緩やかな声で囁いた。
「……では ……お相手してください、カエレさん」
一呼吸置き、自分が名前で呼ばれたことに気がついたカエレが、眼を見開き口を大きく開けて声を上げる。
「ちょっ…!? ちょっとぉ! 私じゃないだろ!? ちゃんと楓の方を呼びなさいよ!」
やや赤くなりながらも迷惑そうな表情で抗議するカエレに、先生は真剣な表情で正面から見つめ返し、その頬に片手を添える。
「でも…… 私の目の前にいるあなたは、カエレさんですよ──」
一瞬のうちに顔が火照り上がり、激しく打ちつける動悸を悟られまいとしているのか、
カエレは怒ったように先生を睨み返すと、そのままプイと横を向いてしまった。
「…もう、好きになさいな」
突き放すような返事を返したカエレに先生は小さく苦笑いをしてみせ、
すでに目前にある情交を期待しはち切れんばかりになっている絶棒を、手探りでカエレの秘所へと導いてゆく。
先ほどの愛撫で濡れそぼっているその場所を探り当て、絶棒の先端を、柔らかく吸いついてくるような秘裂の間にピッタリと押しつける。

100世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:05:15 ID:Edvsa+gj

自分の大事な場所へと触れた絶棒から伝わってくる、じんじんとした痺れるような感覚に、
カエレは首を正面に戻して先生と眼を合わせ、少々上ずった声で口を開く。
「…わ、わかってるでしょうね!? これは楓の為なんだからね!
 言ってみれば義理よ! 義理でしているんだからね!! …いくらヘタクソでも、あまりに痛くしたりしたら訴えるよ!?」
噛みつくように迫るカエレに、先生は少しびっくりした表情を浮かべるが、すぐに、大丈夫とでも言うようにゆっくりと頷いてみせる。
「これだけ十分に濡れていれば痛い事はないでしょうから…… 私も、まだ理性は残っていますから。カエレさんを粗雑に扱ったりはしませんよ?」
静かに、諭すように答える先生に、まだ不満気な表情のままだったが、とりあえずカエレが沈黙した様子を見届けると、
ふたたびそっぽを向いてしまったカエレの横顔を見つめながら、秘裂にあてがっている絶棒をゆっくりと押し込んでゆく。
じりじりと先端からカエレの中へと埋没してゆくが、
絶棒の亀頭までがもぐりこんだ所で、急に侵入を拒むように押し返されるような抵抗を絶棒に感じ、先生は少し苦しそうに顔をしかめる。
カエレの表情へとチラリと眼を向けると、特に反応している様子はなかったが、よく見ると、口の中では強く歯を食いしばっているようにも見え、
閉じた瞼にある長いまつ毛がまぶたと共に小刻みに震え、何かを必死に耐えているように感じられる。
さらに腰を突き出し、カエレの奥深くを目指して絶棒を打ちこんで行くが、
思った以上に窮屈で、きつく締めあげるように絶棒を包むカエレの体の中に、先生の方もなかなか攻めあぐんでしまっているようだった。
「…せ…… 狭くて中々入ら…… くうっ…… これは、もしかして、カエレさん……」
それでもなんとか少しずつ侵入してゆくたびに、先生はカエレの中を絶棒で裂きながら進んでいるような感覚に囚われ、思わず声を上げてしまう。
「……狭いんじゃなくてっ! 名器……っ…! って言いなさいよ! ……余計な事考えてるなら、干からびるまで絞り取るよっ!」
潤んだ瞳を見開き、ドスの聞いた声で凄むカエレに一瞬驚いた表情を見せた先生だったが、
次に、この状況に似つかわしくない穏やかな微笑みを浮かべると、カエレの手を取り、二人の指を絡めてしっかりと握りしめ、
その体の上にゆっくりと倒れるように覆いかぶさって来る。
「──カエレ…… さん……」
小さな呟きと共に腰を深く突き出し、カエレの奥底を目がけて絶棒を深く押しこんだ。
「────っ!!」
先生に貫かれた瞬間、その衝撃に、たまらず口から声を上げようとしたカエレだったが、
一瞬早く先生の口がその唇を塞ぎ、それは声にならないくぐもった音となって二人の耳に届く。


二人はたった今繋がった体を重ね合わせたまま微動だにせず、握りしめた手とまだ離れない長いキスを続けたまま、時が過ぎるのを待っているようにみえた。
──やがて、頭を振り払うようにして重ね合っていた唇を離したのはカエレの方だった。
少々怒っているように柳眉を逆立てているが、その口から罵声が飛び出すことはなく、やや荒い息をついて先生の様子をうかがっているように見える。
そんなカエレを見つめたままの先生の口が静かに動いて、細い声で言葉が紡ぎだされてきた。
「……入ってしまいました、カエレさんの中に。 ……まさか、カエレさんとこの様な事をする時が来るなんて、あの頃は夢にも思いませんでしたね……」
呆然と、というよりは、感極まったといった感じでつぶやきを漏らす先生に、カエレは顔をしかめたまま一つ鼻を鳴らして横を向いてしまった。
「──あー、はいはい。……そりゃ良かったですこと」
投げやりなセリフを吐くカエレに、先生は少し笑って、そっと、乱れた金色の髪を撫でている。
愛しそうな手つきで髪をなでられながら、カエレは困ったような微笑を浮かべ、肩をすくめて溜息をついてみせた。

「何……? うごかないの?」
繋がった体を密着させたまま、いつまでたってもじっとしている先生に、カエレは訝しそうな声で尋ねる。
「え…… ええ…… も、もう少し、このままがよいです……」
少々固い表情で笑ってみせる先生に、カエレは特に返事は返さずに、そのまま顔を背けてまぶたを閉じた。


101世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:05:50 ID:Edvsa+gj
目を閉じてみると、感覚がそこに集中するのか、自分の中を押し広げるように入り込んでいる絶棒が異物感となって下腹の中で感じられ、
そこから感じられる僅かに自分よりも高い体温と、ここに侵入しているのが目の前にいるいつも自分がなじっている担任教師だと言う事を実感させられ、
止めようがなく湧き上がってくる興奮を落ちつけようとカエレは何とか意識をそらそうとしていた。
しかし、考えなくしようとすればするほど、体内にいる絶棒へと注意が向いてしまう事を止められずにいる。
ふと、自分の中でじっと待機しているような絶棒が、時折ぴくりぴくりと震えている事に気が付き、
その様子から伝わってくる余りに切なそうな衝動を感じ、カエレはたまらず目を見開くと、じろりと先生の顔を見据えて口を開く。
「──気持ちいいんだろ?」
カエレの低いトーンがすぐに耳に届いたらしく、先生は小さく体を震わせて目をそらしてしまう。
「早く私の中で動きたいんだろ!? 正直におっしゃい!」
詰問口調ではあるがストレートな言葉を使うカエレに、先生は苦しそうな顔に申し訳なさそうな表情を混ぜた状態で、何とかといった感じで口を開く。
「……すみ、ませ…… カエレさんの中…… 良すぎて…… 理性がとろけてしまいそうです……」
「──訴えられるのが恐くて自分から攻められないチキン?
 もう、私は、早くシャワー浴びてエアコン効いた部屋でくつろぎたいんだよ! つべこべ考えずにさっさとやりなさいよ!」
イラついた様子を露わにして喧嘩腰の言葉を吐くカエレに、先生は一瞬、驚いたようにカエレの怒った表情を真剣な眼差しで見つめ、
「──カエレさん…… 申し訳、ないです……っ」
苦しそうな言葉と同時に、腰を引いて絶棒の中程までをカエレの中から引き出し、
続けてもう一度、未だ侵入を拒むようにきつく押し返してくるカエレの奥深くへと滾り切った絶棒を挿入する。
「──っぐ…………!」
やや仰け反ったカエレの口から微かに低い呻き声がもれた。
「……う…あっ……ああ……!」
それと同時に、挿入した絶棒へと握りつぶそうとするかのような締め付けを与えられ、
絶棒とカエレの膣壁が摩擦するごとに与えられる快感に先生の口からも声が漏れ出した。
「…すみません、カエレ……さん…! もう、止められそうに……っ!」
精一杯といった感じで謝罪の言葉を告げ、先生は腰を前後に動かし始めると、何度も何度もカエレの中へと絶棒を打ち付けてゆく。
「…いっ……!? あ……かぁ……っ…!」
押し殺しきれない呻き声を唇の端からこぼれさせながら、目尻一杯に涙を溜めて、
それでも不機嫌そうな表情のまま、無我夢中の様相で自分を求めてくる先生に一瞬だけ口の端で笑みを作ってみせた。
「……中坊みたいにがっついちゃって、本当に格好悪いわね」
皮肉っぽい口調で先生に聞こえるようにつぶやくカエレに、先生は少し余裕を取り戻したのか、
困ったように微笑んで、腰の動きを緩やかにしてゆき、絶棒を半分くらいの所まで引き出すと、蜜壺の浅い部分に先端が当たるような動きに替える。
「…何? もう疲れた……の…… ア……っ……! うっ……ん……」
続けざまに先生をなじろうとしたカエレだったが、先ほどまでとは違うじわりとした淡い快感を結合部に感じてしまい、
思わず漏らしてしまった嬌声混じりの溜め息に顔を赤くして先生の方を鋭くにらみつけた。
その視線をどこか心地よさげに受けながら、先生は片手をカエレのほほに伸ばしてそっと触れ、
もう片手は胸の膨らみに添えると、掌に余るそれをゆっくりと揉んでいる。
「カエレさん……」
「……何……よ……」
時折小さな甘い鼻声を漏らしながらも、面白くなさそうな顔で返事をするカエレに、
先生は膨らみを愛撫しながら腰を突き出し、ゆっくりとカエレの奥へと絶棒を押し込んでゆく。
「……う…… んん……」
かすかに快感を受け取っている声をあげ、不貞腐れたような表情で顔をそらすカエレに、先生はそっと笑って静かな声を出す。
「──どうやら私たち、とても相性がいいのかもしれません…… そしてほら、身長のサイズも私たち、ぴったりだと気がつきましたよ……」
カエレは思わず先生の顔を見つめ、それがやや上目使いであり、自分の目線には先生の口元あたりが来ている事に気がついたようだった。
男女の部分を繋がった状態で初めて認識した自分の位置は、覆いかぶさる先生の腕の中にすっぽり包まれてしまっているようで、
冷たい視線を送ろうとしても、どうしても普段のように見下ろすような目線は出来ない事に気がつき、反論できず、不服そうに溜め息をついてみせた。
102世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:06:32 ID:Edvsa+gj

静かな屋上に、先生とカエレ、二人の息遣いと、時折、互いを求め、肌を打ち付ける音が聞こえている。
あくまで不機嫌な様子を崩さないカエレの中で絶棒と膣壁が擦りあい、そこから湧き出す感覚に、
今、自分たちが愛の行為をしているのだという事を実感させられてゆき、次第にカエレの息遣いも先生動揺荒くなり始めたようだった。
このままカエレが絶頂を迎える気配は感じられない一方で、
ちょっと激しくするとすぐにでも昇り詰めてしまいそうな所に自分が来ている事を認識し、先生は豊かな膨らみを愛撫する手を止め、すまなそうな声を出す。
「…す…… すみませんカエレさん… 私の方は、そろそろ……」
そう言いながら腰の動きを続けたまま、自分に繰り返し突き上げられ目の前でゆさゆさと揺れる柔らかそうな膨らみと、
少し眉をしかめながらも目を細く閉じて、体にあわせて揺さぶられているカエレの顔を覗き込む。
少し遅れて、カエレはゆっくりと目を開け、夢の中にでもいるようなぼんやりとした瞳で先生を見つめ返す。
その唇からは漏れる小刻みな吐息は、先程とは違って、あまり苦しそうな様子は見えず、どこか艶のある小声を交えて吐き出されていた。
やがて、その大きな青い瞳に少し意思が戻ったように、焦点が先生の瞳へと合わさった。
「……あ……ちっとまって、ちゃんと…ヒニン……」
「…ええ。すみません。 ……もう、抜きますね」
名残惜しそうにカエレを突いていた動きを止め、ゆっくりと腰を引いて絶棒を引き抜こうとしてゆく。
自分の中を何度も擦っていた物が急に大人しくなり、そこから去って行こうとする動きをハッキリと感じ、カエレは息を詰めて少し唇をゆがめる。
するっ、と、何の前触れもなくカエレの長い足が動き、先生の腰に絡まりついてきた。
「……えっ!? ちょっ…? カエレさん!?」
後退しようとしている動きを突然封じられ、先生は泡を食ったような顔で驚きの声を上げる。
「──あ! こ……っ……! これはっ……! その、楓が……!」
「か、楓さん…… ですか?」
目を丸くしている先生に、カエレは少し困ったように目を逸らして頬を赤くする。
「……あ…えっと…… つまり… 『欲しい』とか『産みたい』とか訳の分からない事を言い出すから……!」
ぼそぼそとした声で話すカエレに、先生は口を半開きにしたまま言葉をなくしたのか、その顔を凝視しつづけている。
カエレは逸らしていた視線を戻し、真上から自分を組み敷いた格好のまま硬直している先生と、目が合ってしまった。
激しく気まずい感じが湧き上がってくるのだが、目を逸らす事ができないままでいると、
先生の顔が先程よりも朱色が増している事に気がつき、そしてその瞳の奥から自分へと訴えてくる切なさを感じ、カエレの顔はのぼせたように赤く染まってゆく。

「…………だ…… だから…… つまり……」
「……えっ…………あの…… それは……」
互いに赤らめた顔を見合わせ、中々出てこない次の言葉を探しているように、意味を持たない単語ばかりが口からでてくる。
しだいにカエレの中にいる絶棒が先程よりも膨れ上がった感があり、
そして何かを期待するようにビクビクと小さく震え、催促されているような感覚が下半身に伝わってくる。
ただでさえ赤面した様子が分かりやすいカエレの白い肌が、さらに赤く染まったように見え、
怒ろうか笑おうか決めかねているような引きつった表情の唇が一度閉じ、一瞬目を逸らして、すぐに先生の顔へと向き直る。
「……で……だ…ダメに決まってるだろ! 常識で考えなさいよ! 教師だろが!」
目を吊り上げて声を荒げるカエレに、先生はほんの一瞬切なそうに表情を翳らせるが、すぐに慌てた様子となり、カエレが脚を解くと共に腰を引いてゆく。
「す、すみません! そうですよね……!」
焦った顔の先生が腰を引くと、ほどよく絡みついた蜜で滑りが良くなっていた絶棒は、
名残り惜しそうにカエレの内壁に自らを擦りつけながら、するりと抜き去られてゆく。
「…………あぁ………」
自分の中から先生が出て行ったと同時に、微かな吐息がカエレの唇から漏れ、逆立っていた眉がすこし下がり、一瞬だけ表情を曇らせる。
だが、すぐに、不機嫌を露わにした表情へと戻ると、覆いかぶさっていた先生が離れ起き上がろうとしている様子に気がつき、
素早く片手を腰へと伸ばして、捲くれ上がっていたスカートを戻し、今まで絶棒を受け入れていた場所を隠してしまった。
苦笑しながら身を起こす先生と同時に、カエレも起き上がり、先に立ち上がった先生を見上げるように膝立ちとなる。
背中を預けていた着物はカエレの汗を吸って多少色が変色していたが目立った汚れはない。
103世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:07:48 ID:Edvsa+gj
が、着物の端、丁度尻を乗っけていた辺りを境に床の上に小さな染みのような物が出来ている事に気がつき、
カエレは慌てて靴の裏で擦って、その汚れを消した。
「…ちょっと…… どこか、その辺で処理…… してきます」
カエレの動作には気がついていないのか、そわそわとした様子で、まだ自分の股間でいきり立つ絶棒に手を沿え、
きょろきょろと適当な場所を探している先生をやや気恥ずかしげな目で見ていたカエレだったが、
その視線を下に落とし、硬直したままの絶棒が目に入った途端、カエレの瞳が見開かれた。
素早い動作で先生の股間へと手を伸ばし絶棒を鷲掴みにすると、そのまま自分の顔を近づけ、開いた口の中へするりとくわえ込んでしまう。
「えええっ!?」
ほぼ一瞬でその動作をやって見せると、慌てふためく先生には構わず
その腰へ両手を回して逃げられないようにがっしりと抱え、絶望の根元まで唇を進め、口内へと飲み込んでしまった。
「カ、カエレさ…… あつっ……!?」
焦ってカエレの頭に手を伸ばし引き剥がそうとした所で、カエレが歯を立てたのだろう、絶棒に軽く痛みが走る。
「ン…… オ……ッ!」
口いっぱいに先生自身を含んだ状態でカエレが何か言おうとしたようだったが、
当然声になどならず、絶棒が奥まで入ってしまったのか、少し苦しそうに喉を鳴らした。
口元を手で隠し、自分の顔を呆然と見下ろしている先生を上目使いにギロリと凄むような目つきで睨みつける。
慌てて先生が顔を逸らした様子を確認すると、少々ぎこちなく絶棒へと舌を絡ませ始めた。
ほとんど前後に扱くような動きはせずに、絶棒全体へと満遍なく舌を這わせて舐め取るような動きを繰り返す。
やや息苦しそうにしながら、少々ザラついた舌で撫で続けられ、
先生は早くも臨界点が近付いて来ている事を感じ、思わずチラリと目を動かして、口淫を続けるカエレの様子を伺おうとする。
絶棒の形に開き咥えている柔らかい感触の唇、少し赤らめ膨らんだ頬、
困ったように曲げられた眉が視界に入り、その視線に気がついたのか、ふと、カエレの青い瞳が動いて先生を見上げた。
「あ──っ!? う…… うあっ……! あぁ……」
カエレと目があった、その瞬間、それが刺激となったらしく口内で絶棒が弾け、大量の快液が先端から迸った。
「ンムッ……!?」
ほとんど反射的に喉への直撃を避けようとし、カエレは息を止めて舌でそれを受け止める。
どくどくと震え脈打ちながら口の中で動く絶棒からは止め処なく温かく粘り気のある液体があふれ出し、
逃げ場の無い口の中で溜まって行くそれはむせ返る様な匂いを鼻腔の方へと押しやり、
頭の中がクラクラしてゆく状態に耐えながら、じっと放出が終るのを待っていた。

やがて、絶棒が急速に鎮まり硬度を失って行き、もう口内に新たな快液が吐き出されて来ない事を確認すると、
カエレは唇をすぼめてそれを引き抜き、ちゅぽっ、と軽い音を立てて絶棒はカエレの口内から去った。
それと同時に、腰が砕けたようにへたへたと座り込んでしまった先生から離した両手で口を押さえ、
両の頬を少し膨らませて涙目になりながら、カエレは吐き出す場所を探しているのかしきりに周囲を見回している。
「カ…… カエレさん…! 早くその辺の側溝にでも吐き出しちゃってください…!」
苦しそうなカエレの様子に、のろのろと手を伸ばして、屋上の床にある雨水避けの溝を指し示し、カエレを促がしている。
迷わず膝立ちのままそこまで進み、口の中の物を吐き出そうと上体を屈みかけ──
そこで、何かに気がついたようにハッとした表情になると、カエレは口に手を当てたまま空を仰ぎ、目を閉じてごくりと喉を鳴らした。
「カエレさんっ!?」
裏返った先生の声には答えず、そのままもう一度、重たいものでも飲み込むように喉を大きく鳴らす。
それでようやく息がつけた様子で、一旦勢いよく息を吐き出すと、また口に手を当て「おえ」という気持ち悪そうな声を出しながら、手の甲で唇を拭った。
「……あの…………」
「こんな所に吐き散らかして、万が一誰かに見つかったらヤバいでしょ」
まだ驚きが抜けない先生を振り返り、渋そうな表情を浮かべ、そっけない口調でカエレは答える。
「…そ、そうでしょうか?」
「鑑識並みの調査力とか、いざとなったらDNA鑑定も辞さない奴とか、色々心当たりはあるでしょ」
「あ…………」
思い当たる物が頭をよぎったのか、引きつった笑いを浮かべる先生に、カエレは少し湿気を吸って乱れた髪を背中に流しながらその場に立ち上がる。
104世界の中心で愛を叫んだだけだもの:2009/07/03(金) 17:09:10 ID:Edvsa+gj

「さあ! もう終わったでしょう! 綺麗にしてあげたんだからさっさと服着てその見苦しい物をしまわないと、今度こそセクハラで告訴するよ!」
「あ、はい」
苛ついた口調で急かされるままに、先生は手早く袴をはき直し、広げてあった着物に袖を通して帯を巻く。

「まったく…… 奴はこないし、とんだ目に会ったわよ…! もう、金輪際こんなのは御免ね」
律儀に待っているのか、先生に背をむけたままぶつぶつ毒つくカエレに、
はや着物を身にまとった先生は、その背中にそっと近づきながら悪戯っぽい笑みを浮かべ、
腕組みをして何やら文句を言い続けるカエレの背中から、ふわりと腕を回して包み込むように抱きしめる。
「ちょっ……!? なに……」
突然背中から抱きしめられて狼狽するカエレに、先生は口元に微笑を浮かべて目を閉じ、カエレを腕で包みながら小さな声をその耳元に寄せる。
「……カエレさんは…… なんと言うか… やっぱりカエレさんでした。 ……これ以上言うと訴えられそうなので言いませんが」
「──ちょっとお! 何を、なんだか意味深な事言った気分になって纏めようとしているのよ!? 訴えるよっ!」
目を吊り上げた顔で、緩く自分を囲う先生の腕の中で振り返り、少し上にある先生の顔を見上げながら睨みつける。
──と 先生の手がカエレの両頬にそっと添えられた。
思わず硬直したカエレの目の前に、真剣そのものな先生の顔がゆっくりと近づけられてくる。
目を見開き、頬を真っ赤にしながらそれに見入っていたカエレだったが、
すぐに唇を真一文字に結び、キッ、と眉を寄せて顔をそらし、先生の腕を掴んで振り払うようにして撥ね退けてしまった。
「ああもう! 一度抱いたくらいで相手が自分のものになったなんて思わないことね!」
ダン! と床を音を立てて踏みしめると、そのまま先生に背を向けてスタスタと出口に向かい始める。
振り払われた先生は、少しだけ寂しそうな、でもどこか嬉しそうな苦笑を浮かべ、ぽつりとした言葉をカエレの背中に投げかける。
「…また、沢山、訴えられてしまいそうですねぇ……」
「──訴状を書くのに徹夜になる事への損害賠償も含めます」
さっくりと切り返し、カエレは一度足を止め、先生の方へと顔だけで振り返る。
「泣き寝入りはしないわよ!」
こまった顔で頬などを掻く先生に、まだ少し赤らめた頬のままそれだけ吐き捨てると、正面を向きドアノブに手をかけようとして、
「……あ、カエレさん、ちょっと……」
「何…! ……って、きゃああっ!?」
先生に声をかけられ、もう一度振り向こうとしたカエレだったが、
突然屋上を吹き抜けた風が足元を通り、めくり上げられてしまったスカートの前を咄嗟に両手で押さえた。

よくある事とはいえ、後ろまでもはどうやっても咄嗟にカバーしきれず、風にまくり上げられるままとなっている。
「…何なのよ! いつもいつも! …どうせ義務とか言う……」
乱れたスカートを直しながらこぼすカエレだったが、
ふと、背中側にいる先生が自分の方を見たまま凍りついたかのように動きが止まり、その頬をなぜか赤く染めている事に気がつく。
「…何よ? どうせ、いつもの自意識過剰とか言……」
「……か……過剰といえば過剰ですが……いつもより… その、それ……」
ぎこちない動作で腕を上げ、こちらを指差す先生に、カエレは苛々した態度を隠す様子もなく、大きな声を上げる。
「だから、何!?」
「…………パンツを…… はき忘れてみえるようで……す…」
顔をそらしながら指し示す先生の言葉に、弾かれたように自分の脚── その腿のあたりを確認する。
先ほどの行為の時、先生に途中まで脱がされたパンツが太い紐のように丸まった状態で、片方の腿の途中に引っかかっているのが見える。
みるみる耳まで真っ赤になり、目尻に涙を溜め、拳を握り締めたカエレは先生に向かい、喉の奥からあらん限りの声を絞り出す。
「言えよ!! 早く!! ──訴えてやるぅ!!」
カエレの声は屋上から夜の空へと反響しながら広がり、星の瞬く暗い空へと昇り、僅かな余韻を残し吸い込まれていった。






105305:2009/07/03(金) 17:10:11 ID:Edvsa+gj
お粗末でした。

では、これで失礼します。
106名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 20:47:42 ID:N3SxdgSi
GJです!!
貴方さまのご帰還を心から待っていました!!
カエレの口調といい、先生の優しさといい
本当に読むものを魅了します。これからも楽しみにしてます。
お疲れ様でした。
107名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 05:39:33 ID:0mV2wHoy
うまく原作らしさを残しているね。
いい出来でした。
108名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/04(土) 12:19:58 ID:IwKA2roJ
しゃらあああーッ!
カエレきたあああーッ!
109266:2009/07/04(土) 22:25:58 ID:tw0sXql6
また書いてきました。
短いやつが二本です。
どちらもまたエロなしで申し訳ない。
それでは一本目、木野加賀で今週のマガジンの話が前提のSSになります。
110266:2009/07/04(土) 22:26:50 ID:tw0sXql6
右の手の平には、あの少年の頬をはたいた時の痛みと熱がじんわりと残っているような気がした。
それが、自分のしでかした事がとりかえしのつかないものであると静かに告げているようで、愛は胸を締め付けられるような気分だった。
「……でも、そのガキの言い方、やっぱりひどいと思うけどな」
2のへの教室の中、愛の対面に座り、彼女の話を一通り聞いてから、国也は静かに口を開いた。
愛が人の、それも子供の頬をはたいたと聞いた時、国也は正直に言ってかなり驚いた。
加害妄想に加えて、人一倍心優しい彼女が人に手を上げるなど、これまで考えた事もなかったのだ。
だが、愛がどうしてその少年にそんな事をしたのか、それを聞いて国也も納得した。
おそらくは不慣れな機械の扱いを必死に学んで、ようやく孫に向けてのメールを打てるようになったおばあさん。
だが、少年はそんなおばあさんの言葉を、メールぐらいは打てて当然、と一蹴したのだ。
愛の加害妄想も、控えめなその態度も、全ては彼女の優しさの裏返しだ。
優しいとは、他人を思いやる事ができるという事、他人の気持ちを慮る事ができるという事。
おばあさんがそのメールを打てるようになるまでに費やした努力、そこに託された気持ち。
そういうものがわかるからこそ、普段は人に迷惑をかけているのではないかと怯えてばかりいる彼女が、少年にその気持ちをぶつけたのだ。
だから、国也は思う。
「それで良かったと思うよ。加賀さんは何も間違ってない」
「でも、私は自分の怒りをあの子にぶつけて、しかもあんな風に頬を叩くなんて……」
「でも、加賀さんはそれがどうしても許せなかったんだろ?」
「………………」
愛は沈黙する。
あの時の自分をいかに否定しようと、あの瞬間に愛が抱いた怒りは否定できない。
だけど、人に暴力を振るうなんて事を、愛が許容できる筈もなかった。
彼女は、あの時の少年のはたかれた頬の痛みを思い、それを為した自分の罪を思う。
だから……。
「あのさ、加賀さん……」
だからなのだろう。
国也の次の言葉もまた、愛は到底受け入れる事など出来なかった。
「俺は、それで良かったと思う。世の中には、叩かれてみなきゃ、自分のやった事の意味にも気付けないヤツがいるよ」
「そんな……じゃあ、木野君はあれで良かったと…」
「うん。……正直言うとさ、加賀さんの話を聞いててスッとしたんだ。同じ場面に出くわしたって、俺は加賀さんみたいに怒れるかどうかわからない」
それは、愛がどういう人間であるかを知っている者としては、少しばかり不用意だった。
国也にすれば、少しでも愛の行動を肯定し、彼女を元気付けようと殊更に明るく、励ますような調子で口にした言葉だった。
だが、その言葉のすぐ後、目の前の愛のうつむいた顔が、みるみると悲痛な色を帯びていく事に国也は気付いた。
愛は、かぼそい声を喉の奥から絞り出すようにして、国也に向けて言葉を放った。
「……そんな……そんなわけ、ないです………」
ゆっくりと、愛が顔を上げた。
その視線は、俯きがちになりながらも、しっかりと国也の瞳を捉えている。
「………人が人を叩いていいなんて……そんなの許される筈がありません………」
「…か、加賀さん……?」
愛はいつだって真剣なのだ。
頬をはたいた程度で、確かに人は死んだりはしない。
だけど、痛みの強弱以上に振るわれた暴力自体が人の心を深く傷つける事があるのだと、彼女は理解していた。
ただ静かに、じっとこちらを見つめる愛の瞳に、国也はようやく自分の発言の不用意さに気付いた。
「…す、すみません!!……私のような者が偉そうに……」
ガタンッ!!
椅子から勢いよく立ち上がり、逃げるようにして愛がその場から去って行く。
「加賀さんっ!!」
「すみませんっ!木野君……すみませんっ!!!!」
国也が彼女の後を追って教室を出た時には、愛は廊下を駆け抜けて、その先の曲がり角の向こうへと消えていた。
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「なーんで気付けなかったかな、俺……」
翌日の昼休憩、学校のベランダの柵によっかかりながら、国也はため息をついた。
愛が求めていたのは、安易な同意や慰めの言葉なんかではなかった。
国也からの言葉で、少年に手を上げた自分を正当化して、それで終わり。
そんな事を彼女が望む筈はなかったのに………。
「それで、加賀さんの様子はどうなの?」
問うたのは国也の話を聞いていた、久藤准である。
「避けられてる感じだな。それも俺を嫌ってるとかじゃなくて、昨日俺に言った事を気にしてるんだ」
「それなら、なおの事、加賀さんときちんと話をした方がいいんじゃないかな?」
「わかってるけどさ……わかってるんだけど………」
情けない話ではあるが、意気地が折れた。
愛の真意を察してやれなかった自分の不甲斐なさが国也の心を苛んだ。
昨日、彼女の思いに対して安易な言葉で応えてしまったのは、
国也が愛を気弱で優しい女の子なんていうステレオタイプに押し込んでいたからではないのか?
彼女は苦しんでいた。
自分で自分のした事がわからなくなって、それを一緒に考えてくれる存在を求めていたのだ。
それを自分は、愛に簡単に許しを与える事で終わらせようとした。
「俺、加賀さんに何て話していいかわからないよ………」
国也が力なく呟いた。
その覇気の無い横顔をじっと見ながら、ぽつり、准がこんな事を言う。
「でも、加賀さんは木野にも言ってくれたんだよね?」
「……へ?」
不思議そうな表情を浮かべて自分の方に視線を向けてきた国也に、准はこう続ける。
「人を叩くのはいけないって、加賀さんの考えをちゃんと言ってくれたんだよね?」
「……あっ…!?」
微笑んでそう言った准の言葉で、国也は気付く。
そうだ。
彼女は言ったのだ。
『人を叩くなんて許されない』と、自分の気持ちを国也にぶつけたのだ。
少年の頬を叩いた時だって同じだ。
気弱で人の事ばかり考えている彼女にとって、他人に意見する事はとてつもないエネルギーを必要とする事なのだ。
だけど、彼女は伝えた。
その思いを言葉にした。
愛は、それほどまでに、国也に自分と向き合ってもらいたかったのだ。
国也の言葉を欲していたのだ。
国也はベランダの柵によっかかっていた体を起こし、ぐっと伸びをする。
「久藤、ありがとな……俺、行ってみるよ……」
「うん。それがいいと思う。加賀さんもきっと、木野を待ってるよ」
さきほどまでとは打って変わった、決意に満ちた表情を浮かべて、木野はくるりと踵を返し校舎の中に戻っていく。
「がんばれ、木野」
その後姿を見送りながら、准が優しくそう呟いた。

だが、しかし、その頃、事態は国也の思いもしない方向に動き出していた。
いつもの職員室の、いつもの昼休み。
だが、そこにはいつもと違った緊迫した空気が流れていた。
職員室の脇の応接スペースで、金切り声を上げる30代中盤の女性に、2のへの担任・糸色望がただひたすらに頭を下げていた。
「こんな小さな子に暴力を振るうなんて、一体この学校ではどういう教育をしているの!!!」
「も、申し訳ありません。生徒の方にはきちんと言って聞かせますので……」
「信用ならないわっ!!学校っていうのは自分達にマズイ事は何でも隠してしまうんですもの。
会わせなさいっ!!その生徒と直接会って話をします。それから、この子に……っ!!!!」
そう言って、女性は自分の傍らに座る少年を見る。
それは、昨日、愛が頬を叩いて叱ったあの少年だった。
女性は、少年の母親だったのだ。
「きちんとこの子に謝らせますっ!!!!」
鼻息も荒くそう言い切ってから、母親は平身低頭といった状態の望を見下ろしてフンと鼻息を漏らした。
少年の母親は、少年が家に帰ってから愛に叱られたという話をするやいなや、
自ら出かけて愛しの息子の頬を拳で殴り飛ばした(母親の中では何故かそうなってしまった)犯人を捜し始めた。
学校の特定は簡単だった。
いつも、学校の周囲で何かと騒ぎを起こす2のへの面々と、彼ら彼女らの身につけている制服を覚えている者が大勢いた。
母親は、周囲への聞き込みを続ける内に、その学校には一際問題児ばかりが集まったクラスがあると知ったのだ。
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しかも、事件の現場にはそのクラスの担任教師まで居合わせたという。
もはや、言い逃れはできまい。
事件の犯人は2のへの女子生徒の一人であると確信し、彼女は学校までやって来たのだ。
「全く、最近の学校は生徒に対する指導を何だと思っているのかしら!!
会ったばかりのこんな小さな男の子に暴力を振るえるなんて、どこぞの凶悪犯罪者と変わらないわっ!!!」
「は、はい……まったく、本当に、あなたの仰る通りだと思います」
へこへこと、母親に謝り続ける望。
だが、望の謝罪などお構いなしに、母親のテンションは上がっていく。
そして、その様子を、職員室の扉のすぐ向こうから、2のへの生徒達が伺っていた。

「う―――っ!!!なによ、あの女っ!!!訴えてやるわっ!!!」
「カエレちゃん、落ち着いて」
今にも叫び出しそうなカエレを、あびるが押さえる。
だが、そのあびるも職員室で喚き続ける母親に対して、決して良い感情を持っているわけではない。
あの時、その場に居合わせた者なら誰だって確信している。
加賀愛が一方的に責められる様な謂れはないと。
現場に居なかった者達も、愛が少年の母親の主張しているような理不尽な暴力を振るったなどとは欠片も信じていなかった。
さらに言うなら、一方的に愛を断罪する母親の態度に、誰もが静かな怒りを抱き始めていた。
そんな中に、事件のまさに当事者である愛が、不安げな様子で立っていた。
「加賀ちゃん、あんなヤツの前に出て行く事なんてないんだからね!!」
奈美がぎゅっと拳を握り締めて愛に言った。
「どう考えても、あの一件はあの子に非があるわ」
千里も愛の肩に手を置いて、そう言った。
愛を励ます言葉の数々、だが彼女の表情は晴れない。
未だ右の手の平に残る感触が、知らず知らずの内に彼女の心の中を罪悪感でいっぱいにしてしまうのだ。
扉越しに聞こえる母親の怒号に、幾度となく全身をビクリと震わせる。
(やっぱり…間違いだったんですね。……暴力なんて……そんな事、許されませんよね………)
愛は次第に決意を固め始めていた。
行こう。
行って、話しをしてこよう。
怒られてこよう。
今も職員室の中では、人に頭を下げるのは大得意な望が必死に母親に謝り続けている筈だ。
だが、それじゃあいけないのだ。
少年を叩いたのは自分、ならば責めを受けるのも自分でなければならない。
「加賀ちゃん?」
すうっと、愛が自分を囲むクラスメイト達の間を抜けて、職員室の扉へと向かっていく。
「……私、行きます」
「ちょ……あんた、何言ってるのよっ!!?」
思わぬ愛の行動を止めようと、カエレが愛の前に割って入った。
だが、愛はそんなカエレにぺこりと頭を下げて
「すみません……」
彼女の脇を抜けて職員室の扉へと近付く。
その場にいた誰もが、愛の意図を悟っていた。
責任感の強い彼女は、あの平手のただ一発を自分で許す事ができないのだ。
やがて、愛の手が職員室の扉にかかる。
ゆっくりと深呼吸をしてから、少年の母親と対峙すべく、愛が扉を開けようとしたその時だった。
「はぁ…はぁ……加賀さんっ!!!」
背後から聞こえた声に、愛は思わず振り返った。
そこにいたのは、彼女の良く知る、あの気のいい少年の姿。
「加賀さん、待ってくれ。俺から、話したい事があるんだ……」
木野国也が、そこに立っていた。
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国也は、愛を探して校舎の中をうろついている途中で職員室の騒ぎを知った。
(もし、これを加賀さんが知ったら………)
事態は一分一秒を争う。
国也は必死で学校の廊下を走りぬけ、階段を駆け下りて、ようやくギリギリのタイミングで愛の所へやって来た。
「木野…くん……」
「昨日はごめん。加賀さんが真剣に悩んでるのに、俺、いい加減な言葉しか言えなかった」
「そんな……木野君はそんなこと……」
「だから、今日こそはきちんと、加賀さんの言ってた事に答えたいんだ」
国也の手の平が、愛の右の手の平を、あの少年の頬を打った手を優しく包んだ。
見つめてくる国也の真剣な眼差しに、愛はほとんど身動きも出来なくなる。
やがて、ゆっくりと国也は語り始めた。
「加賀さんがその男の子の頬を叩いた事、それが正しいかどうかは俺にもよくわからない……」
国也は、昨日の愛との会話以来、その事をずっと考えていた。
だけど、結局答えは出なかった。
愛がやったように何かを叱るときに手を上げる、それが有効な場合もあるだろうし、そうでない場合もあるだろう。
それに、もし仮に有効だったとして、だからといって暴力は許されるのかという問題もある。
きちんと程度をわきまえていればいいのか?
ならば、その基準はどこにあるのか?
あらゆる場合を考えたが、どれにも明確な根拠は見出せず、国也の思考は振り出しに戻ってしまった。
だが、さきほどの准との会話で気付いたのだ。
「ただ、それでもわかる事がある。方法が良かったとか悪かったとかはこの際関係ない。
加賀さんは、その子に人をバカにするような事は言っちゃいけないって、それを伝えたかったんだ」
昨日の愛との会話でも、彼女は国也に自分の思いを、彼女が抱えていた悩みをぶつけてくれたのだ。
思いを伝える方法、それが正しいか正しくないか、それも重要だろう。
だが、それに拘泥するあまりに忘れてはいけない。
自分が言いたかった事、伝えたかった事、その思いをないがしろにしてはいけない。
「加賀さんがその子を叱ってあげなきゃって思った気持ち、俺もよくわかるよ」
「木野くん……」
「だから、加賀さんがその方法に、その子を叩いた事で迷っているんなら、もう一度話せばいいよ」
「えっ……!?」
「母親だけじゃなくて、その子も一緒に来てるんだろ?」
国也の言葉に、その場に居た2のへの面々は凍りついた。
「無茶よ。あの母親が、そんな話を聞いてくれるわけ……」
千里が険しい表情で叫ぶ。
だが、それを遮るように、愛の声が響いた。
「わかりました。木野君、一緒に来てくれますか?」
「当然だよっ!!」
愛の言葉に、国也は力強く肯いた。

ガラガラガラガラ………。
なるべく静かに開けたつもりだったが、扉は予想外に大きな音を立てた。
その音に反応して、職員室の入り口へと母親と望、二人の視線が向けられた。
「誰なの?……もしかして、アナタがウチの子に暴力を振るった……」
「加賀さん……」
立ち上がり、自分達の方を振り返った望に、愛はぺこりと頭を下げた。
「……来るんじゃないかと思ってましたよ……」
「……すみません。先生、私のせいで、こんな大事になってしまって……」
申し訳なさそうな愛の言葉を聞いて、母親は確信する。
この一見気弱そうな少女が、わが子に暴力を働いた憎むべき適なのだ。
「あなたっ!!あなたなのねっ!!!よくもウチの子に……っ!!!」
ついに我慢の限界に達したのか、母親はズカズカと愛の方に向かって歩いてくる。
だが、今にも掴みかからんばかりの彼女の進む先を、望が体で阻んだ。
「ちょっと…何をするのよ、このクソ教師っ!!!あの子が犯人なんでしょう!?あなたもその場で見てたんでしょう?」
「ええ、そうです。その通りですよ」
「なら、どうして邪魔をするのよっ!!!二度と乱暴な真似が出来ないように、私が徹底的に懲らしめなきゃっ!!!」
114266:2009/07/04(土) 22:31:28 ID:tw0sXql6
凄まじい剣幕で、望を押しのけて愛の下へと向かおうとする母親。
だが、望は決して道を譲らない。
彼は今までと変わらない気弱そうな声で、しかし、きっぱりと彼女に言った。
「……それをするのは、もう少し待ってからにしてくれませんか?」
「な、何を言っているのよ?生徒が暴力を振るったのに、あなた、責任を感じないの!!?」
先ほどまで自分に頭を下げ続けていた教師が逆らった事が、彼女にはとても信じられないようだった。
「確かに、これまで伺ったお話はそのような内容でしたね……」
「そのような内容って……事実よっ!!私が自分の足で調べた事実に、何か文句があるっていうのっ!!!」
「いいえ。ただ、気になっていた事があるんですよ……」
そこで、望はちらりと応接スペースのソファに腰掛けた少年の姿を見やる。
「あの子が…今回の一件の当事者であるあの子が、あなたの隣に座りながら、なんだかずっと何かを話したそうにしているように見えたんです」
「えっ……!?」
それから望は、少年に優しく微笑んで呼びかけた。
「どうですか?あなたには何か言いたい事があるんじゃないですか?」
望の声に、少年はおそるおそる顔を上げた。
「あっ……アンタ、俺に『クソガキ』って言おうとしてたオジサンだよね?」
「う……聞こえてたんですか?」
少年の発言に、母親はさらに怒り狂うが、望はそれを必死で押しとどめながら話を続ける。
「ま、まあ、それはともかく、あなたが何か言いたいのを我慢しているように、私には見えたんですが……」
望の言葉に、少年はしばし俯いて黙りこくるが、やがて顔を上げて……
「話、させてくれるの……?」
「ええ」
「………俺、あの時の事で、そこのねーちゃんとずっと話したくて………」
少年がソファから立ち上がる。
そして、ゆっくりと愛のいる方に向かって、どこか恐る恐るといった足取りで歩いてくる。
「加賀さん……」
「はい……」
そんな少年の様子を見て、国也は愛の背中をそっと押し出してやった。
少しずつ、少しずつ歩み寄っていく二人。
やがて、互いに真正面から向き合って立ち止まった二人は、お互いに視線を交し合った。
それから、少年はバツの悪そうな表情で、愛から視線を逸らして
「あの……その………ご、ご、ごめんっ!!!」
言った。
愛は少し腰をかがめて、少年と目線を合わせる。
「……あのばーちゃん、いっつもあの辺ウロウロしてるから、あの後、探して、ちゃんと謝ったんだ……」
「それは……良かったです……」
「俺、もうあんな事言わないから…人をバカにしたりしないから……だから、ごめんなさいっ!!もうしないから、ごめんなさいっ!!」
「それなら、私だって…本当にすみません。あんな風に、あなたのほっぺを叩くなんて……」
「そんなの平気だよ。俺、あの時、ねーちゃんに怒られて、やっとわかったんだ。自分がどういう事をしてたのか……」
少年の言葉に、愛は自分の心が温かな感情に満たされていくのを感じた。
少年の頬を叩いた事。
それがベストな方法だったのか、それは今もわからない。
だけど、少年は愛の思いを受け止めて、あのおばあさんに、そして愛に、今こうして謝ってくれている。
それが愛にとっては何よりも嬉しい事だった。
115266:2009/07/04(土) 22:32:04 ID:tw0sXql6
「こういう事です……」
一方、傍らで愛と少年の様子を見ていた望は、少年の言葉にすっかり戦意をなくした母親に語りかけていた。
「お子さんを傷つけられて、それでお怒りになる気持ちはとてもよくわかります。
だけど、あなたには今回の行動を起こす前にやるべき事があったんだと、私は思います」
母親は、少年が自分がおばあさんをバカにして、愛に頬を叩かれ、叱られたという話をされたとき、その最後の部分まで聞こうとしなかった。
話の表層をなぞるだけで、息子の言いたかった事を自分の怒りで捻じ曲げ、それを息子のためと勘違いしたまま暴走してしまった。
「あの子の話を聞いてあげて欲しかった。あの子がその出来事で、何を考え、何を感じたのかを聞いてほしかった」
少年は、母親に伝えれば、また叱られてしまうかもしれないその話を、それでも打ち明けようとしたのだ。
おばあさんには、本当に悪い事を言ってしまったと思った事。
頬をはたかれ、怒られた事。
それでも、その後、おばあさんには謝れた事。
それを全部、母親に伝えようとしていたのだ。
「それじゃあ……私はこれからどうすれば………」
「もう一度、お子さんとしっかり話してあげてください。あの子には、あなたの言葉が必要です」
その望の言葉が引き金になったかのように、母親の目から大量の涙が溢れ始めた。
職員室には、昼休憩の終了を告げるチャイムが鳴り響き、事件の終わりをその場に居るみんなに伝えていた。

というわけで、なんだかんだと騒がしかった一日も終わりを告げ、学校は放課後を迎えていた。
愛と国也は二人並んで、学校の脇を通る道を歩きながら、今日の事をぽつりぽつりと話していた。
「木野くん……今日は、本当にありがとうございました……」
国也に向かって、愛がぺこりと頭を下げた。
実際のところ、あの時、木野が来てくれるまで、愛は望に代わってあの母親に平身低頭謝り続ける事しか考えていなかった。
だが、木野の言葉でそれが変わった。
自分が誰に、何を伝えようとしてあんな行動に出たのか、それを思い出す事ができた。
「そんな……俺は加賀さんが必死に話してくれた事に、適当な答を返したりして……」
「でも、その後もずっと私の事を考えてくれて、最後には私を助けてくれました………」
今回の事件は、国也と愛の心までも、また少し近づける事になった。
誰かの事を思うときの、愛の真剣さ。
そんな愛の心に応えようとした、国也の真摯な気持ち。
誤解して、ぶつかりあって、だけどその分だけより近くにいられるようになる。
なにしろ、引っ込み思案な少女と、あんまり勘が良いとは言えない少年の事だ。
これからも、何だかんだと騒ぎの種は尽きないのだろうけど……。
「だから、やっぱりもう一度言わせてください。ありがとうございます、木野君……」
「あ…う……ど、どういたしまして……」
愛の笑顔の眩しさと、その言葉のこそばゆさに、国也の顔にさっと朱が入る。
そして、まるで今の二人の心の距離を表すかのように、隣り合って歩く二つの後姿が互いにもう少しずつ近付いたのだった。
116266:2009/07/04(土) 22:32:57 ID:tw0sXql6
一本目はこれでお終いです。
次は望と可符香のお話で、さらに短いです。
117266:2009/07/04(土) 22:33:43 ID:tw0sXql6
それは、とても無残な光景だった。
葉っぱを無くし、短冊と飾りが揺れる枝だけになった笹。
そしてその笹の葉は、周囲の道路に落ちて、道行く人々に踏みつけられてしまっていた。
星に願いを届ける七夕としては、あまりにうら寂しいその風景。
それを見ながら、風浦可符香はため息を吐いた。
「こんな事になるなんて、さすがに思ってなかったな……」
この光景を作る原因となった騒ぎ、それを先導したのは他ならぬ彼女なのである。
『振りかざす武器が小さい人』がいる。
そんな話題から始まったいつもの2のへの面々の会話。
最初は『大した事のないものを自慢げに武器として振り回されても困る』といった感じで話が進んでいたのだが、
その流れが途中で大きく変わった。
扱い慣れない携帯電話で孫へのメールを打てるようになった事が自慢のおばあさん。
それを馬鹿にする子供を、あの気弱で優しい加害妄想少女・加賀愛が叱ったのだ。
その光景を見ていた2のへの面々は認識を改めざるをえなかった。
どんなに小さな武器に見えても、それは持たざる者にとって精一杯の一撃であるのかもしれないのだと。
まあ、そこまでは良かったのである。
だが、ここで可符香のいつもの悪い癖が出てしまった。
可符香はたとえ小さな武器でも、それを振りかざし戦うのは尊い事だと周囲の人間を焚き付けたのだ。
多くの人々が己の小さな刃の象徴として、笹の葉を手に持ち叫び声を上げた。

………ま、その後すぐに、突如現れたパンダ好きのおばさんの一喝によってその集団はちりぢりになってしまったのだけど。

それでも、これもいつも通りの可符香の悪戯、人の心の隙間に入るのが大得意な彼女が起こしたいつもの騒ぎという事で終わる筈だった。
だが、今回の騒ぎは、少しばかり大きすぎる爪あとを残していった。
それが、この有様である。
考えてみれば、何も無い所から笹が出てくる筈がないのだ。
あの騒ぎに参加していた人間は、みな笹の葉を手に持っていたが、その出所こそが七夕の飾りの笹だったのだ。
しかも、パンダ好きおばさんの一喝で彼らが逃げ出したときに、まだ無事だった笹のいくつかまでもが折られたり倒されたりしてしまった。
悪戯と権謀術数の天才、風浦可符香といえど全てを見通せる訳ではない。
というか、今回はその場のノリで行動していたので、自分の行動が引き起こす事態にまで頭が回らなかったのだ。
さまざまな人々の願いの短冊を吊るされた笹をこんなに滅茶苦茶にしてしまった事に、さすがの彼女も少しばかり落ち込んでいた。
「願いなんて………」
彼女はその言葉を呟こうとして、結局最後までそれを口にする事は出来なかった。
踏み潰された笹の葉と、枝を折られ葉を失った笹。
そんな光景を見ていると、なんだかどうしようもなく空しい気持ちが胸の奥からこみ上げてくるのがわかった。
黒い感情が心の中を多い尽くしていくのがわかった。
短冊に託された願いなどにどんな意味があるのだろう。
一体、どこの誰がそれを聞き届けてくれるというのだろう。
その保証は?
根拠は?
少なくとも彼女は、風浦可符香は知っている。
七夕の願いが一体どうなるのかは知らないが、人が胸の奥に抱く切実な願いが一体どんな末路を辿るのかを……。
何度も願ってきた。
何度も裏切られた。
強く強く強く願い続けた切なる祈りが、無残に踏み潰されて消えていくのを何度も見てきたのだ。
ならば、目の前に広がる無数の願い事だって同じだ。
星の力の加護とやらがどれほどのものだろうと、あらゆる願いは等しく同じ運命を辿るのだ。
彼女は、先ほどの言葉を、今度こそ最後まで口にしようとした。
「願いなんて……叶わな……」
と、そんな時である。
「願いなんてぇ、叶いませぇええええええええええんっっっっ!!!!!!」
聞きなれた声が、彼女の言おうとした言葉で、彼女の声を掻き消してしまった。
「せ、先生……?」
呆然と、可符香はその人物に呼びかけた。
118266:2009/07/04(土) 22:34:49 ID:tw0sXql6
「あ……ふ、風浦さん!?…もしかして、さっきの聞いてました?」
可符香の方を振り返り、そこでようやく彼女の存在に気付いたらしい担任教師・糸色望はバツの悪そうな表情でそう尋ねた。
あまりに衝撃的な登場に少しばかり度肝を抜かれていた可符香は、誤魔化す事も出来ずにその問いに素直に肯いてしまう。
「み、み、み、見られてしまいましたぁああああああっ!!!!!」
コクコクと肯く彼女を見て、望は世界の破滅を目にしたかのような表情でその場に膝をつく。
可符香はしばし呆然としながらも、泣き叫ぶ望の出で立ちを眺める。
衣服はさきほどまでの浴衣姿ではなく、いつもの着物と袴。
そして、片手にはほうき、片手には大きなビニール袋を持っていた。
さらに、少し離れた所には真新しい笹が数本、商店のシャッターに立てかけられているのが見えた。
「あの……先生?」
「あああ、だから七夕なんて嫌いなんです。叶いもしない願いをわざわざ飾り立てて、ナンセンスもいいところですっ!!!」
「先生……ちょっと、私の話も聞いてください!先生っ!!」
「そういえば、子供の時の七夕だって倫が笹を使って私に…………って、あっ!す、すみません、風浦さん!!
無視するつもりはなかったんですが、七夕の事を考えてるうちになんだか、色んなトラウマがこみ上げてきて……」
「いいえ、大丈夫ですよ。先生は、だいたいいつもそんな感じですから」
「な、なんだかその言い方、酷くないですか?」
可符香の容赦ない一言にショックを受ける望。
だが、可符香はそんな望の様子はお構いなしに、望に対する疑問をぶつけた。
「先生、そのホウキとビニール袋、一体何に使うつもりなんですか?」
「あ、ああ、これですか……」
問われて、望は急に思い出したように自分の手に握った二つの道具を見た。
「さっきの騒ぎの後片付けをしに来たんですよ。一応、私のクラスが発端になって起こった出来事ですから」
ビニール袋の中を良く見ると、道端に捨てられた笹の葉が入れられていた。
どうやら望は、例の一件で辺りに散らばった笹を掃き集めていたらしい。
それは、本来ならば周囲の人々を煽り立てた可符香に最大の責任があるはずの事だ。
ビニール袋の中に押し込められた笹の葉は、道端に散らばっている時よりもさらに汚く、ズタボロになったように見える。
なんだか、また胸の奥をぎゅっと締め付けられたような気がして、可符香は軽くため息を吐く。
「風浦さん……大丈夫ですか?」
そんな可符香の様子に目ざとく気付いたのか、少し心配そうな様子で望がそう尋ねた。
「い、いえ、別に何にもないですよ………それより…」
何となく、今の自分が考えた事を見破られそうな気がして、可符香は咄嗟に話題を逸らそうとした。
それは………
「あそこに立てかけてある笹、あれは何なんですか?」
「ああ、あれはですね………」
望は可符香のその問いを聞くと、自分の懐に手を入れてそこからある物を取り出した。
それは少し小さめのビニール袋で、中には少し汚れた短冊が何枚も入っていた。
「さっきの騒ぎで地面に落ちたのを集めました。笹の葉を片付け終わったら、あっちの新しい笹に吊るそうかと思ってます」
「えっ……」
それは、可符香にとっては意外な答えだった。
「……誰かにそうするように言われたんですか?」
「い、いえ……一応、自主的にやろうと考えて、なんとか笹を調達してきたんですけど……」
「それじゃあ、どうして!?」
可符香の声が思わず大きくなった。
彼女は理解できなかったのだ。
「だって、先生はさっき、『願いなんて叶わない』って言ってたじゃないですか………」
そう、確かに望は言ったのだ。
可符香が言おうとしたのと同じ言葉を、大声で叫んだのだ。
「いえ、確かにそうなんですけどね……」
そんな可符香の問いに、望は少しバツが悪そうに、ポリポリと後ろ頭をかきながら答える。
119266:2009/07/04(土) 22:35:40 ID:tw0sXql6
「確かに私は七夕の短冊なんかで願いが叶うなんて思ってません。大体、天の川が見えてなきゃ話にならないお祭りなのに、
微妙に梅雨の時期と被るから晴れてない事も多いですし、短冊だって良く見たら滅茶苦茶な願いが書いてあったりしますし……」
「それならなおの事、こんな事をする必要なんてないじゃないですか……」
「はい。そう思います。そう思うんですけど……」
そこで、可符香は自分に向けられた望の表情が、ふっと柔らかくなったのに気付いた。
「たとえ叶わないのだとしても、何かを願うのはそんなに悪い事じゃないと思うんですよ……」
「えっ……」
「思えば、昔から何かを願って思い通りになった事なんて一つもありませんでした。明るい高校生活も、作家になりたいと思った事も、
いまやただの泡沫の夢です。だけど、願いに裏切られて、裏切られ続けて、そうして今いるこの場所が、私は結構、嫌いじゃないんです」
望はまあ、何と言うか、冴えない男ではあった。
教師という今の職業にしたところで、彼が自ら積極的に選び取ったものではない。
さまざまな挫折を経験した上で、今の彼はここにいるのだ。
だけれども、今の望はそうやって紆余曲折、苦い経験を幾度も越えた上で立っているこの場所に愛着を感じていた。
確かに、望んだとおりの未来からは程遠いかもしれない。
それでも、凶悪なまでの個性を持つ生徒達に囲まれ、騒がしく生きる毎日が彼にとっては愛おしかった。
そしてそれは、彼が未来へ託した望みや願いがなければ、おそらくはたどり着けなかった場所なのだ。
「胸に抱いた願いは折れても、その願いを抱いた事が私をここまで連れて来てくれました……」
それから望は、不安げな表情の可符香を優しく抱き寄せ
「だから、私はこうしてあなたの隣にいられるんです……」
言って、笑った。
「先生………」
その一言で、可符香の胸にわだかまっていた黒い塊が、すうっと消えたような気がした。
願いが叶うかどうか、それも大事な事だけれど、願いを抱いて歩いた道のりはたとえそれが虚しく終わろうと、決して無駄にはならない。
可符香だって同じだ。
幼い頃から次々に襲い掛かる理不尽の中、息も絶え絶えの状態でようやくたどり着いたこの場所を、確かに愛していた。
「というわけで、まあ、私の主義としては叶わないと思いますが、この願い達を無下に扱うのも気が引けるんですよ。
ところで、風浦さん……」
「はい」
「自分で片付けるって大見得切っておいて情けないんですが、今日もあの騒ぎがあったせいでへとへとです。
…………後で短冊を笹につける作業だけでも、手伝ってくれませんか?」
いつもの気弱そうな笑顔で、ぺこりと可符香に頭を下げる望。
今の可符香には、その笑顔が、言葉が、たまらなく愛おしくて……
「はいっ!」
大きな声で答えた彼女の顔には、満面の笑顔が浮かんでいた。
120266:2009/07/04(土) 22:42:31 ID:tw0sXql6
以上でお終いです。
いよいよ三期の放映開始ですが、私はネットされてる地域にいないので関係なし。
うう、羨ましい………。

てな話は、まあ置いておいて、それではこの辺りで失礼いたします。
121名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 23:19:23 ID:v8RhAfGk
いよいよ後1時間ちょっとか。
このスレ的にはインスピレーションを注入してくれるような内容を期待。
122名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 00:07:39 ID:6OAbm8VF
乙です。
266氏の手にかかれば「さよなら絶望先生」がさわやか青春恋愛ものになるから不思議!
123名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 03:32:23 ID:EeHWoF55
なんでどう考えても妄想しにくい久米田作品のエロパロが保管庫で一勢力を築いてるわけ?
124名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 04:55:42 ID:Sb3Cn7ue
山も高いほど登ったときの快感は大きかろう
125阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/06(月) 05:41:46 ID:kZVsySNl
蟲師本線は弦間駅から蟲師駅まで全体的に40‰勾配が連続する山岳路線だ。

絶望先生の世界の鉄道は山がないため、山岳路線とは言わないが…。
可符香線では一部に勾配上に駅があるため、絶望先生の世界観における年代の
列車の性能では、勾配上にある駅に停車して、それから発車させるのは難しかった。

そこで、士幌線の電力所前駅のように、上り線ではふもとの糠平ダムホームに停車。
発車時にはそのまま勾配を登り切って、電力所前駅ホームを通過。
下り線では通常どおりに駅に停車して発車の扱いと同じになる。
126名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 09:19:44 ID:Gp2plPnF
絶望先生の方がSS多いのに、改蔵の表記はなくて絶望先生の表記があることに違和感ある>保管庫
最初は改蔵の方が多かったんだろうけど、今となっては…
127名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 15:46:04 ID:8Bur43SD
保管庫の読んでみると改蔵の奴ってなんか気持ち悪い内容のが多いよね。
ほんとに心病んでいるファンが多かった感じ。
128名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 17:54:13 ID:80T5JXue
>>120
GJ!
望以外のSSって少ないから嬉しい
もちろん望のも好きだけど
129名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 19:43:41 ID:ammNO7Wu
>>125
ここはエロパロ作品を投下するスレであって君の個人的な趣味を晒す場所ではない
130阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/08(水) 05:09:40 ID:8TC/VU1k
責任感を感じて、自分の手首をとりあえず1本いってと…。

-このスレは個人的な趣味を晒す場所ではないと言われたことに絶望して、
剃刀を左手首の内側に当てた阿良々木は…-
131名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 06:59:07 ID:8jn/3wiY
>>130
そういうネタはいらないから早く出ていってくれ
絶望先生のキャラでもないしその前に板違いなんだよ

キャラサロンにでも自分のスレ立ててそこでやってくれ
132名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 22:06:09 ID:o07mTRni
いちいちかまうな、喜ばせるだけだろ
出現頻度上がっちまったじゃねえか
133名無しさん@ピンキー:2009/07/10(金) 22:48:20 ID:/+SFl20a
>>131
ここにいたらしいhttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1225526303/
あと、NGも忘れずにね
134430:2009/07/10(金) 23:30:13 ID:cyk22HXc
お久しぶりです。
エロなし小ネタでスイマセンが投下させてください。
今週のマガジンネタで命×あびるです。
135気がつかない人々:2009/07/10(金) 23:31:21 ID:cyk22HXc
「あれ…ここは?」
目を開けた命の上から、呆れたような声が降ってきた。
「ようやく気が付きましたか。」
見上げると、包帯を巻いた少女が自分を見下ろしている。
「小節さん…?私はいったい?」
「急に出てきて、患者の話をしはじめたと思ったら
 いきなり気絶したんですよ、覚えてませんか?」
「ああ…そういえば。」
『大きな間違いには気がつかない』という話題に乗って、
自分が話した大怪我に気がつかない患者達の惨状を思い出し、
命は再びすーっと体中の血が引いて行くのを感じた。
あびるがそれを見て、大きなため息をつく。
「命先生、それでもお医者さんですか。」
「何?」
「だって、大怪我の人思い出しただけで倒れるなんて…。」
命はムッとした顔であびるを見返した。
「その医者に毎週のように掛かっている君に言われたくないな。」
「それとこれとは違うんじゃないですか。」
「何がどう違うんだ。」

「あれって…。」
言い合う命とあびるを遠巻きに眺めながら、奈美が誰にともなく呟いた。
「どうみても2人とも気がついてないですよねぇ。」
望が奈美の隣で笑みを浮かべる。
「どうやら、そのようですね。」
「どうします、先生?言ってあげますか?」
「いいんじゃないでしょうか、あれはあれで放っておいて。
今回は『気がつかれなかった大きな間違い展』なんですから。」
「うーん、間違いって言うのも違う気がするけど…。」

あびると命は、全く気がついていなかった。
口をとがらせて文句を言い合いながらも、いまだにお互い、
相手を抱きしめ、そして抱きしめられていることに―――。
136430:2009/07/10(金) 23:32:09 ID:cyk22HXc
以上です。
今週のあのシーンは絶対に久米田先生の燃料投下だと思いました。
それでは、どうもお邪魔しました!
137名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 01:51:40 ID:2Dg6uyzJ
さくっと1レスで面白いな、乙。
138名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 01:56:47 ID:gaGMdJ6a
やっと巻き添え規制解除された……続きで、兄妹です
どんどん長文化してますが相変わらず本番は先送り
139絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 01:59:29 ID:gaGMdJ6a
携帯電話をハンドバッグへと収める。ボタンのとまるぱちん、という音は障子に嫌われて部屋の中を一寸漂ったあと、畳へと落ち着く。
糸式家所有の料亭、その敷地内でもっとも表通りの喧騒から遠い離れに、糸式倫は雑念を燻らせていた。
「……些か、暖か過ぎるわね、今日は」
聞く者のない呟きも高揚感からの産物。
昔のこと、今のこと、あたまの中によぎってその表情を秋の日のようにうつろわせている。
自分一人では大きすぎる樫の机に浮かぶ木目の模様は、あても無く漂う、そしてなにも出来ずに消し飛ばされる紫煙に似ていた。
外の雀がさえずりばかりを消費している。
待つこと半刻、春の風に紛れて廊下を叩く足袋の音が、川の流れに乗った幻燈のように聞こえてきた。神経を澄ませていた倫がそのひとつめを逃すはずも無く、自然と背中が竹を入れたように居直る。豹の如く、速いくせ粗さを露ほども感じさせない来訪者の足音に倫は唇を噛み――
「相変わらず無駄に広い建物ですね。玄関からこの離れまで、学校の廊下という廊下全部ひっくるめたくらいは歩かされましたよ」
和紙の向こうに見えた影を視認してみる間もなく、糸式家四男はひゅん、と障子を引いた。
電話してから到着までのこの時間で歩いてきたというのは恐らく嘘であろうが、息ひとつ乱していない姿を見るとそう信じてしまいそうになる。
細い指が眼鏡を押し上げて、止まった。
陽の光が庭の桜色とあいまって部屋に雪崩れこんでくる。目に万華鏡が為される。
襟の内側に血液の高鳴りを仕舞い込み、倫は言った。
「お待ちしておりましたわ、お兄様」
「して、どうしたのですか。なにやら急用のような声音でしたが」
長く波打った髪の端を薬指と小指ですく。
庭の、宝玉をあしらった龍の翼の如き桜だけを見るように努めて、涼しい声をつくる。
140絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:03:26 ID:gaGMdJ6a
「あら、そのつもりはありませんでしたが、そうお聞こえでしたか――? ほんの気紛れで久しぶりに離れを使ってみたのですがほら、この桜――これを独りで楽しむのもつまらないし、望お兄様ならどうせヒマだろうと」
一息に、何度も頭の中で繰り返した文句を言ってのけた。声はたわまなかった、はず。
そこで初めて兄の目を窺ってみると、なにやら困ったような、呆れたような様子。
ちょうど猫を可愛がっていたのを邪魔されたというか、気掛かりなものを置いて来てしまったという風だ。
戦う前から負けそうになったが、なんとか視線を外さずにおく。
「そうですか。いえ、ちょっと私も取り込み中だったもので」
まあなんとかコトは落ち着かせてきましたがね、と続ける。
「あらそれは、失礼しましたわ……」
大事な用だったら戻ってはどうかと、自分ですら聞き取り辛いほどの小さな声で言うと
「いえ、まああちらも、私がいては気詰まりでしょうし」
何があって、どうしてそう思うのか、大方の予測はついたが訊こうとした。それは
「それにお前と花見というのも懐かしい。糸色の家にいた頃を思い出します」
腰をおろしながらの兄の答えで沈められた。
どうか今は桜に目をやり、この頬の石竹に気付かないでほしい。

「……ふふ、お兄様、カッコ悪い」
「そうは言ったって、私にどうしろっていうんですか。それは、勝手に人の机の上なんかいじった自分が悪いのはわかっていますが……」
茶菓子をつまみ、開け放たれた障子から飛び込んでくる花の光を受けながら兄妹は飄々と笑う。望は誤って飲んだ薬のことを、倫に語っていた。
無論、「極端なプラス思考に陥った」という点だけを話し、医院を出てすでに三人の教え子にちょっかいを出してしまったことなどには触れていない。
効き目の有効期限や波があるのかはわからないが今はとりあえず落ち着いているらしく、薬の効用が切れるまでここにいようかと望は考えていた。
ともすれば頭の中で勝手にリプレイされる生徒たちの痴態は、出来る限りの意識の底へ仕舞い込んで蓋をした。
「でも……」
倫の柔らかな声に導かれたか絹の衣であおいだような風が庭へ吹き下ろし、噴水の落ちる際のようにさめざめと花が散る。
苔の生した庭石の上で桜が転がる。黒の表面を濃緑の霧がはしる台座に、飾り文字めいた花びらが輪を描いた。
「本当に、昔のお兄様みたい……」
あぐらをかいた望のすぐ隣で正座していた彼女は膝立ちになり、両手で望の輪郭を擦る。
141絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:07:27 ID:gaGMdJ6a
次いで男としてはかなり細い身へともたれかかった。
倫の腰まである髪が清水に洗われたように艶を湛え、光り輝く鯉の肌のような帯から一房、二房と宙へ落ちる。
それ一枚で屋敷が建つ程の着物に包まれた肉は、いかにも頼りない風な腕へと吸い寄せられるように纏わる。
望は目だけを動かして倫を見遣り、さも呼吸のついでのように言った。
「それ程見た目も違うものですかねぇ」
「ええ、普段と比べれば、シックハウスとホームシックくらいの差がありますわ」
なんですかその喩えは、と目を伏せて口が笑みを作る。その間も倫の頭は望の肩の上を動かなかった。柔らかな頬が膜を張った様に骨を包む。
「ねえ、お兄様……」
竹をゆっくりと引き裂くような、緩みながらもどこか一点に決意を隠した声で倫は言う。
離れが土台から瓦の一枚に至るまで全て宇宙に投げ出されたように、何も聞こえなくなる。
「……なんですか、倫」
妹の、女の声の体温を呼吸から嗅ぎとって、「昔の」望は表情から安堵を消し、眼鏡を押し上げた。
桜は樹に集まっている時はそれこそ塗りたくったような極彩色を魅せてくるが、風に飛ばされてしまえば雪のように白い。
花の落ちる音と間違えるかのような、小さな小さな呟き。淡い色の花弁が四散して、空中で羽根を引き裂かれた蝶宜しく墜落する。
「……お兄様と接吻を、キスをしてみても、よろしいでしょうか?」
肩にかかる重みが僅かに増した。いつになく望は目を尖らせているが、それが妹に向けられることはない。
「また突拍子もないことを言い出しますね。どうしてですか」
動揺してはいなかった。ただ質問というよりも咎めるように兄は言った。
談笑していた時となんら変わらない調子で倫は。
「あら、子どもの頃は、やんちゃだったお兄様のことが大好きでしたのよ? 『おにーさまのおよめさんになる』なんて、可愛らしい妹だったではないですか」
「今も十分子供でしょうが。それに可愛らしいとか、自分で言いますか」
肌に落ちるような含み笑いと一呼吸を置いて。
「そんなお兄様を久しぶりに見ることが出来て、懐かしくなりましたの」
蔦が支えに絡まる様に、縄が首に絡まる様に、腕が望の体へと巻きついてくる。早熟な肢体が、蛇の誘惑する林檎を想わせる。
その淫靡な果樹園の内側で冷徹に口が動いた。
「駄目ですよ、そんな意味のないこと。からかうにも程があります」
倫の黒目が夢から追い出された様に広がる。それを突き放すが如く、望は視線を振りかざす。
倫は珠の瞳を露に煙らせる。
142絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:09:14 ID:gaGMdJ6a
「そんな……お兄様、お遊びではありませんわ」
お互いが肉親の目を見つめて、これほど心が震えたのは初めてだった。
「それに私とて恐ろしかったのです」
彼は妹の独白を許さない。ある種普段では考えられないような真剣な口調で、冷えた息を吐き続ける。思い出を凍りつかせてゆく。
「お前は女として、かなりの器量ですからね。昔の私も苦労しましたよ」
忌むべきものを消し去ろうとしているかのような声は低く、肌の、筋肉の繊維の、黒い静脈血の中へと浸みてゆく。
「性格も容姿も、本当に実の妹を愛しそうになって……それこそ絶望的ではないですか?」
愛するからこそ別れる。それはいつか、望が語った愛の形に他ならなかった。
張りつめた指で穏やかに、しかし万年の壁で隔てるように、妹の体を押す。しかし彼女は離れようとしない。不毛な両想いでしたのねと言って、裏腹な明るい声で続けた。
「でも安心なさってお兄様……私、こちらへ来て、お慕い出来る殿方を見つけましたの」
雀は桜の木を既に飛び立っていた。後に残るのはただ風に揺れる、乙女の腕のように細い枝と花。
だれ、などと無粋なことは聞かれない。ただその先を語ることを、ついに望は許す。
夜想曲を瞳に宿し、倫の唇は悲恋を紡ぐ。
「だから貴方への思いを断ち切りたいのです。お兄様、最後にうつくしい思い出をどうか、お兄様のちいさな妹へ……最後に、私の初めてのキスを、与えながら奪ってください――」
「最後の、初めてのおもいで、ですか……」
互いの前髪が触れ合う距離で、二人は呟く。
これまで、自分が行けばいつだって後ろについてきた小さな妹。
とうとうそれが離れていってしまうことの成長の喜びはあるはずなのに、それで終われない感情の不思議。
兄の眼鏡に映った自分の顔を倫は見ていたのだろう。

雀のさえずりよりも小さく、歪で清浄な音がなった。

鏡写しのような無表情が並ぶ。目は瞬きを忘れている。口は夢を見ているような熱い空気を漏らす。
永遠に続くと思われた刹那は

「くすっ」

残酷な三日月に破られた。
143絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:12:19 ID:gaGMdJ6a
う、そ。

意識を取り戻したように望の目が形をつくる。
倫はそれまでの姿勢から買ってきたばかりのバネのように立ち上がる。足の布が畳との摩擦でキュウとなった。
「他の誰かが好きなんてウソですわ! 私は今でもお兄様が一番大好き!」
下らないギャグ漫画のひとコマのように倫は絶叫する。その勢いは思いを遂げた喜びと兄の唯一のけじめを出し抜いた優越感で燃え盛る太陽に似ていた。
「こうでもしないとお兄様、絶対に私とキスしてくれないんですもの! 他の女には見境がないくせにヘンに道徳者ぶっちゃって、そこだけは昔も今も変わらずチキンですわね!」
ガッツポーズで振り回した袖を今度は銅像と化した兄の胴に巻きつけ、自身の反対側の胸元をはだける。下着のない白い肌を晒して、枯れ楓のように広げられたままの望の掌を掴んで押し付ける。
「触ってみて、お兄様。もう、『こども』じゃないんですわよ?」
自分の胸が兄の手の形に沈みこむのがただ愛おしくて、倫は声を上ずらせる。
「私、お兄様とならもっともっと、血の束縛を破る様な事だってかまいませんわ。せっかく育ったこの体――味わうのに唇だけじゃ、物足りないでしょう?」
甘酒を呑み過ぎたような倫の声は桜の花よりも艶やかに咲き誇る。
「だから、もっと綺麗になってお兄様を閉じ込めてみせますわ! あんな、後出しジャンケンの小娘たちに横取りされて堪るものですかぁ!」
ホホホホとまるで百人の村娘を殺して生き血を集めた魔女のように笑い、倫はトドメとばかりに兄の呆けた唇を吸った。
「悪いのは全部、私を愛させたお兄様なんですからね!!」

倫はそのまま動かなくなった望の頭を赤子のようにむき出しの胸で抱き、勝利と達成の余韻に酔い痴れていた。
幼いころから望のことを好いていたというのは、紛れもない事実である。そのころの彼は「男女のべつなしにやんちゃな」時期であった。
倫は見合いの儀の時など、ここぞとばかりに
「わたしのおむこさんにしておにいさまをこまらせてあげますわー」
などと言いながら本気で追いかけたものの、「見ること」と「見ないこと」を使い分けて色恋沙汰を御していた望の前では彼女の行いは文字通り児戯に等しく、その後数回行われた儀式でも全く歯が立たなかった。
日常でもそれとなく好意を示してみたが通じず、倫は望に対して完全な敗北感を味わっていたのだった。
今の望をやたらコケにするのは、そのあたりのコンプレックスからきているのだろう。
望は倫を残して実家から出ていき、彼女も後を追うように兄の学級へと転校するも(手続きの誤りにより少し時期がズレた)彼はうけ持った女生徒達に囲まれていて、悶々としたまま日々を過ごしていたのである。
しかし今日、この桜舞うよき日に「兄」は現れ、「今」の自分はそれに勝利した。
(あとはクラスの娘たちですわね……)
兄の独占を守るため思案する。それを。
144絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:14:51 ID:gaGMdJ6a
ペロン。
「ひいぃっ?」
犬の様なひと嘗めが遮った。
続けて奈落の底から聞こえてくる哄笑が、倫の体内を駆け巡って鐘のように震わせる。
「いやあ、実際諦めていたんですよ。それだけはやめておこうって」
言葉を切ると、胸を赤子のように吸ってくる。それに応じて水鉄砲の様な、「引けば出る」喘ぎを漏らしてしまう倫。
「兄からいくと不純で、妹からいくと純粋――そんな偏見、ありますよね」
胸の先端を粘液が綱渡りしているのが、敏感な肌で感じられた。そしてそれを丸ごと飲み込むように再び口が近づいて、着陸する。
柔らかな地面を蹂躙する。
「本当に、あ、り、が、と、う」
「お、おにっいさ、ま。つ、付けたまま、ものを、仰らないでぇ……」
人に感謝されてこんなに恐ろしいと思ったのは初めてであった。水の中に落とした若草のごとく髪の毛が揺らぎ、畳の上をのたうつ。
胸の官能から解放され、熱い吐息を漏らしながら目の焦点を絞っていくとそこには兄の顔があった。完全に昔恋い焦がれていた時の顔だった。
その時望は――あの薬には作用と副作用があるのかもしれない。ゲーテの主人公のように時に昂り、時に深淵まで落ち込む愛欲の波状攻撃――そんなことを考えていた。
「もう遠慮しなくても、いいですよね」
そのまま剣の刺突で急所を貫くが如く、倫の唇へと自らのそれを押し付けた。鳥の囀りと間違えるような、放縦な意思疎通の水音が場を濡らしてゆく。
倫は驚きと悦びで急速に脳を満たされて、決壊寸前になっていた。唇から喉へ内臓へ腰へ、舌を動物に犯され煮えた鉛を流しこまれたように体全体が焼かれ、着物を茹だった汗が侵略する。ちょうど体中の分子という分子全部を振動させられているかのようだ。
制したと思われた兄はやはり超一流の色事師で、それと悟った頃には時すでに遅く。
成長したと思っていた自分の心と体は、兄の前では為す術も無く快楽を与えられ愛玩されるだけの、小さな女の子でしかなかった。
――認めるか認めないかは別に、嬉しくもあったのだが。
体重を掛けられて倫の体はほんの数秒、しなやかな弓のように持ちこたえていたけれどすぐに畳の上へと背を沈められた。そのまま大地が雲に覆われるように、兄の上陸を許してしまう。
倫はこれから行われる営みへの期待不安に全身の力がてんでバラバラに散らばってゆくのを感じて。
145絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:17:55 ID:gaGMdJ6a
「倫様」

開け放たれていた戸に立つ執事に、全て持って行かれた。
風が一陣、熱気と色香で噎せ返りそうな部屋に流れた。そういえば障子は開けたままだった。
望は妹の胸から口を離し、慌てる風も無く互いの着衣の乱れを直し始める。そのついでに若干の悪態を吐いた。
「少年漫画にはありきたりの寸止めですね。来客、電話……」
倫も着せ替え人形のような自分の状態のまま、あくまで平静を保って訊いた。
「どうした、時田」
さらに執事も、特に普段と変わらない声のまま頭を下げる。
「そろそろお花の時間かと思いまして――」
ああそんなものがこの世にはありましたわねといった風で倫は眉をしかめる。
この頃にはすっかり二人分の身を整えてしまっていた望が、立ち上がった。
その顔には一切の未練も感じられない。
「それでは私もお暇しましょうか」
倫の目に一筋黒い光が奔ったが、畳に伏した髪をすきあげ、ずいぶん高いとした声で続けた。
「ええ、良い所を邪魔されてしまいましたね」
もう一度腕全体に髪を乗せ、ゆっくり、ゆっくりと持ち上げる。すると狐の尾がしなるように落ちてゆくそれの最後の一房を、兄がつかまえていた。
さっき立ち上がっていたと思ったらいつの間にか倫の顔のすぐ前にその目があって、驚く暇もなく囁かれる。
「考えてみたらまだ陽も高いですし」
小さな口から、心臓が血液を動脈に送り出す音を隠すようにわざとらしい溜息がでて、望をくすぐった。
「――そう、ですわね。でもよろしいのですか? 今宵は沢山、たくさん、クラスの娘が押し掛けるのではなくて? 今日これまでの分と、これより外出してからの分と」
敵いませんねお前には、と実に愉快そうに言って、望は眼鏡に手をやった。庭からの光がその線をなぞる。
「まあ皆さん、こどもですし」
体の芯から凍り付かせるような微笑。
つくづくロクでもない兄だと思う。
「それでは私も、悪逆非道の大王に立ち向かう哀れな義勇兵の一人として馳せ参じますわ」
優雅に頭を下げ、顔を隠す。
そんな兄が戻ってきてよかったのか、「先生」と呼ばれるようになってからの兄の方が人としてマシなのかは、倫にはわからない。
まあどっちでもいいのだろう。いや、どちらにも敵わないのだろう。
自分も、彼女たちも。
板張りに足音。顔を上げる。
既に部屋を出ていて廊下で、望は言った。隣には時田が立って、身嗜みを確認している。
背中をこちらに向け、庭を見たまま。
「あにといもうと、という前提なら、地獄まで付き合ってもらいますよ?」
桜はまだ、舞を続ける。兄の目を、倫の目を、潤し続ける。
「まあお前なら、地獄も天国に変えてくれそうですが」
何を言っているのか、そう逡巡したのは、瞬きふたつ分よりも短い間。
「ええ、あんなに大きな剣山があれば――最高の物語を、活けてみせますわ」
その繋がりの堕ちるところは地獄道だか畜生道だか。
「覚悟なら出来ています。お兄様こそ、据え膳揃うも薬が切れて、なんてチキン、一家の恥ですから晒さないで下さいね?」
教え子や妹を抱かなくて一家の恥とは、言ったものだ。
「努力します。ではご機嫌よう、倫」
 望は障子に影を残し、それもすぐに消えた。花の散るように早く、潔く。

「旦那様からおことづけが――『まだ陽が高い』、とのこと」
というか大らか過ぎやしないかこの家は。
146絶望に効くクスリ:2009/07/11(土) 02:21:39 ID:gaGMdJ6a
これで今回の投下は終わりです。
4ヵ月前には出来てたんですが、ずっと規制で書き込めませんでした。
まだ続くらしいです。では読んでくださった方、ありがとうございました。
147名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 02:52:15 ID:iKF62v7z
素晴らしかったです!!
GJ!!!!
148名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 17:49:31 ID:pcVAOSDX
GJ
続きを楽しみにしてます
149名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 23:37:12 ID:VBSSXA6T
乙です。やっぱり絶大はすげぇや
150名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 21:21:06 ID:FlWERV5R
そうか皆さん規制されてたのか
151名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 22:32:11 ID:Q6dIA0cG
ということは温泉宿の話の後編がなかなか来ないのは規制のせいか
152名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 00:41:06 ID:Yp85lcCk
いつの間にか保管庫分割されてるね
結構な量だもんなぁ
153名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 04:04:07 ID:0mMCYVdO
一応改蔵からの信者なんだが久米田作品で妄想なんて出来ない。
なんでエロパロ保管庫で独立できているのか不思議でならない。誰か教えてくれ
154名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 06:32:19 ID:Tchh0Prr
アニメになったから
155266:2009/07/15(水) 08:18:21 ID:FHjrGEo4
書いてきました。
望×可符香でエロはなしです。
色々、舞台設定に疑問や矛盾がありまくりですが、大目に見ていただけるようお願いいたします。
156266:2009/07/15(水) 08:19:16 ID:FHjrGEo4
黎明 side望

カーテンの隙間から差し込む街灯の光だけが部屋の中の薄闇を照らしている。
チクタクと律儀にペースを守って進む時計の針の音に混じって、微かに聞こえる静かな吐息に望は耳を傾けていた。
すぅ……すぅ……。
自分の腕の中で眠る少女・風浦可符香の、本当に安らかな寝息。
額がくっつくほど間近にいるのに、耳を澄ましていなければ聞き逃してしまいそうなほどに小さくて、
だけど、心の底から安心し切っているのだという事が聞いているだけでわかるような、そんな穏やかな呼吸。
望はそんな可符香の頭を、時折慈しむように撫でてやる。
すると、可符香はそれに反応したかのように、わずかに身を捩って望の方へと体を寄せてくる。
まるで幼い子供に戻ったような、子供そのもののような可符香の姿をじっと見つめながら、望は思い出していた。

だしぬけに部屋の襖が開いて、寝間着姿の可符香が現れたのは日付が変わる少し前、
そろそろ望が部屋の電気を消そうとしていたまさにその時だった。
「あの……先生……」
いつもと変わらない笑顔を見せる彼女は、だけども、いつもよりどこか心細げに見えた。
「風浦さん、どうかしましたか?」
「ええ、ちょっと……」
曖昧に濁した言葉を笑顔の仮面で誤魔化しながら、可符香は部屋の中、望の布団の脇にちょこんと腰を下ろす。
ただ微笑むだけの彼女に、どう対応していいものかわからず望が可符香の顔を見つめると、彼女もほんの少しだけ困ったような表情を見せた。
どうやら、何を言えばいいのかわかっていないのは、可符香も同じのようだった。
そのまま、しばらくお互いに無言の二人だったが、やがて望が仕方がないという風に笑ってから、こう言った。
「今夜は、この部屋で寝ますか?」
可符香は少し驚いた顔をして、それから満面の笑顔を浮かべる。
「いいんですか?」
「ええ、もちろん」
「それじゃあ……お言葉に甘えて……えいっ!!!」
嬉しそうに声を上げて、可符香は望の布団の中に転がり込んできた。
望はそれを見て、少し慌てた様子で
「あ…いや……こっちの部屋にももう一組布団はありますから……!?」
「ここまで来てそういう事言っちゃうから、チキンなんて言われるんですよ」
可符香を止めようとして、結局は彼女に押し切られてしまう。
「それとも、私と一緒なのは嫌なんですか?」
「…………そ、それは…………………嫌じゃ…ないです……」
「ほら、やっぱり」
くすくすと笑う可符香の前で、望は赤面する。
「こっちの枕でも大丈夫ですか?」
「今更、自分のを取りに戻るわけにもいきませんから」
布団や毛布と違ってこればっかりは一枚を共有できない枕を、望は可符香に手渡した。
可符香はその枕を一度きゅっと抱きしめてから、望の枕の隣に置いた。
二つの枕はほとんどくっつきそうなぐらい近くに置かれていたが、望はもう何も言わなかった。
「それじゃあ、電気を消しますよ」
「はい」
天井にぶら下がる蛍光灯の灯りを落として、二人は布団の中に滑り込んだ。
狭い布団の中で、お互いの肩が、足が、手の平が、僅かに身じろぎするだけで触れ合ってしまう。
可符香はほとんど望に寄り添うようにして寝ているので、望は無性に気恥ずかしい気持ちになった。
だけど、その内に望は気付く。
微妙に手足が触れ合う距離にいながら、可符香は決して望とぴったりとくっついてこようとはしなかった。
一緒の布団の中に居る筈なのに、ギリギリのところで望に対して薄い壁のようなものを作っているようだ。
それは、突然に部屋を訪ねてきて、同じ布団で寝ようと提案した彼女の大胆さを考えると、微妙な違和感を感じさせた。
よしんば、望とくっついて寝るような事を可符香が望んでいないのだとしても、
それならそれで、望にもう少し向こうへ行ってくれと頼めば済む話で、それを遠慮するのもまた彼女らしくなかった。
157266:2009/07/15(水) 08:21:04 ID:FHjrGEo4
そして、さきほどからずっと消えない、彼女のどこか不安げな雰囲気………。
それらを考えたとき、望は自分でも思ってもいなかった行動に出ていた。
「風浦さん、ちょっと失礼します……」
「…せ、先生?…ふえっ!?」
望は、可符香の方へと腕を伸ばし、その華奢な体をぎゅっと抱き寄せた。
戸惑い気味に声を上げた可符香だったが、やがて望の腕に身を任せ、彼の胸下に頬を寄せその体に縋り付いてきた。
「先生……ちゃんとチキンじゃない対応、できるじゃないですか……」
「う、う、うるさいですよ!あなたこそ、妙に中途半端な態度を取ったりするから……」
望の胸元で、可符香はクスクスと笑う。
それは、先ほどまでのどこか不安を感じさせるものではなくて、心の底から安心したようなその声に望もホッと胸を撫で下ろす。
そして、望は思う。
きっと彼女の、可符香の心の中では、さまざまな葛藤や感情が絡まりあって、自分でもどうしようもなくなってしまう事があるのだろう。
そんな自分自身に対して恐ろしく不器用なこの少女が、望には愛おしくてたまらなかった。
いつもの教室で過ごす、あまり普通とは言えない日常の中、いつでも傍にいた彼女が大好きだった。
抱き寄せられた胸の中、ようやく全ての不安から解放されたように彼女が笑うのが、とてもとても嬉しかった。
「先生……ありがとうございます……」
囁くように、可符香がそう言った。
望はその声に言葉では応えようとはせず、代わりに彼女の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
可符香は望の背中に手を回し、強く強く抱きしめて、望の胸に顔を埋めた。
しばらくすると、やがて可符香は静かに寝息を立て始め、その意識は夢の世界へと誘われていった。

それから、望は薄闇の中にうっすらと見える彼女の寝顔を見守っていた。
可符香がやって来るまでは確かに感じていた眠気はどこかに去ってしまったが、望はそれを別段困った事とは考えていなかった。
安らぎに満ちた可符香の寝息に、それを聞いている望自身も心地良い安心感を感じていた。
このまま朝が来るまで、彼女の寝顔を見つめているのもいいかもしれない、半ば本気でそんな事を考えていた。
ときには可憐に微笑み、ときには独自のポジティブ理論で周囲に騒ぎを巻き起こす。
悪戯と言うには生ぬるい、彼女のいくつもの策謀に振り回された事は数知れず、だけどそれは望にとって他の何にも代えられない日々でもあった。
彼女がいたから、今の自分がここにいる。
そういえば、先日、カウンセリング担当の智恵先生もこう言っていた。
『最近はカウンセリング・ルームに来なくなりましたね』
今の学校に着任したばかりの頃の望は精神的に不安定で、
首を括ったり、走る電車の前に飛び込もうとしたり、智恵先生にもかなり迷惑をかけてしまっていた。
無論、望の自殺未遂は言うなればゴッコ遊び、望自信の構ってもらいたがり、かわいそがり、そういった性質の発露だった。
だけど、その馬鹿みたいに滑稽な振る舞いの影で、望の心はもがき苦しんでいた。
教師として、決して優秀な人間だったわけではない。
以前の学校でも、生徒達や同僚の教師の望に対する評価は、イマイチ冴えない、むしろ少し厄介な人間といった所だろう。
教師になってからの数年、どこのクラスの担任も任される事なく、それどころか学校での重要な仕事からは遠ざけられている実感があった。
それが突然、新たにクラス担任として別の学校へと転任する事が決まったのだ。
それまでの数年で自信を磨り減らしていた望の心は、一気に不安定になった。
周囲の同情を買いたいが為の自殺ゴッコ。
言葉にしてみれば、馬鹿馬鹿しい話ではある。
当時の望自信も、自らの振る舞いのみっともなさを自覚していた。
最後の最後には、『死んだらどーするっ!!!』と叫んでしまう己の滑稽さに一人苦笑いをしていた。
だけど、あの時の望はそうでもしなければ自分を保てなかったのだ。
『自分は生きている価値の無い人間である』
あの時、幾度と無く口にした言葉、あれは多分、心の底からの望の叫びだったのだ。
ただ、望にとって幸運だったのは、厄介者ばかりのクラスである筈の2のへの生徒達が彼をしっかりと受け止めてくれた事だった。
望の奇矯な振る舞いや発言に呆れつつも、彼ら彼女らは決して望と向き合う事をやめなかった。
だから、望も少しずつ、そんな生徒達に応える事が出来るようになっていった。
そして、そんな日々の中で、クラスに転任してきた一番最初のときから、ずっと望の傍らにいたのが彼女だったのだ。
まだロクに知りもしない望の事を信じて、いつでもその傍らにいてくれた人物。
風浦可符香がいたから、糸色望は教師でいられたのだ。
158266:2009/07/15(水) 08:21:56 ID:FHjrGEo4
やがて、望も可符香も過ぎていく日々の中で少しずつ変わっていった。
望は2のへの生徒達に振り回される事の方が多くなって、それに対応できるだけのタフさを手に入れた。
可符香はただのポジティブだけではない、陰謀・悪戯を自在に張り巡らすようになって、望をさらに悩ませたけれど、
そうやって、騙され振り回され、文句を言ったり怒ったりしている内に、もっと近くに彼女の存在を感じる事が出来るようになった。
そして今、望は心の底から思う。
「愛しています、風浦さん……」
この好意と感謝と敬意と愛情と、湧き上がる全ての感情を言葉に乗せる事は出来ないけれど、
それでも、僅かばかりでもこの思いが伝わってほしい。
そう考えて、望は可符香の体をきゅっと抱きしめた。
やがて、遅れてやって来た眠気の靄が望の意識を包み込んで、望はその中へと沈み込んでいった。

それからどれほどの時間が経過したのか。
望はカーテン越しに差し込んでくる朝日に、薄っすらと瞼を開けた。
そして、見た。
「……………あ…」
見慣れた少女の背中が、まだ柔らかな光を放つ夏の朝日の中でシルエットになっている。
望はゆっくりと体を起こしたが、その気配にも彼女は反応しない。
まだ薄暗い部屋の中、眼鏡をかけた望は改めて可符香の姿を見た。
朝日の差し込む窓に向かって、ひざまづき、両の手の平を組んで、静かに瞼を閉じた少女。
可符香は祈っていた。
そういえば、と望は思い出す。
彼女は独自の神を信じているという話があったような気がする。
以前、『お祈りの時間だから』という理由でその場を立ち去った事もあった筈だ。
(それが、コレなんでしょうか………?)
普段の振る舞いから想像すると、もっと怪しげでいかにも新興宗教の神様といったモノをイメージさせられるのだけれど、
今の彼女の姿は、そんなものからは遠く離れた場所にいるように思えた。
神様、この世界を作り上げ、そして見守り続けているという誰かに向けて、縋るでもなく頼るでもなく、ただ思いを伝える。
今の彼女の姿は、望にそんな事を想像させた。
朝日に照らされたその姿は、言葉を無くすほどに美しかった。
やがて、望はゆっくりと彼女の背後へと近付いていった。
望もまた、彼女と共に祈ってみたくなったのだ。
彼女の純粋な思いが、感情が、いるかいないかもわからないその誰かにきっと届いてくれるようにと……。
「あ……先生?」
望の手の平が可符香の背後から、彼女が組んだ両手の上に覆い被さった。
少し驚きながらも、可符香は背中に感じる望の体温の暖かさにふっと表情を柔らかくして肯いた。
お互いの存在を感じながら、二人はしばしの間祈り続けた。
望は思う。
もしも、誰かがいるのなら。
絶望と希望を無作為に混ぜ合わせて出来たかのような、この理不尽で残酷な世界を創造し、見守る者がいるというのなら。
ただ、感謝を伝えたい。
これまでこの身に受けたあらゆる苦しみと、あらゆる喜びを生み出してくれた事に。
今の望には、それに確かな意味を見出す事ができるのだから。
腕の中、ただ純粋な祈りを捧げ続けるこの少女と、共に見て聞いて感じる事の出来た全てのものに感謝の気持ちを……。
「先生……」
やがて、可符香は組んでいた手の平を離して、そっと望に体を預ける。
望はその小さく華奢な体を、ただ優しく抱きしめた。
窓の外、朝日に照らされて周囲の景色が色を取り戻していく中、二人はそのままずっと抱き合い続けたのだった。
159266:2009/07/15(水) 08:23:31 ID:FHjrGEo4
黎明 side可符香

それはとても穏やかで、安らかな一時だった。
自分の体を優しく包み込む温もりに可符香は身を委ねていた。
夢も見ないほどの深い深い眠りの中、しかし可符香の意識はその温もりだけはしっかりと感じ取っていた。

可符香はよく夢を見る。
それ自体は何の不思議も無い事である。
ただ、彼女の場合、問題になるのはその頻度だった。
毎晩欠かさず夢を見る、といった程度の話ではない。
一晩に幾度と無く夢を見るのだ。
良い夢も悪い夢も、そのどちらともつかない意味不明な夢も、繰り返し彼女の意識の中に立ち現れては消えていく。
そして、そのほとんどを可符香は覚えていた。
もちろん、一つ一つの夢が持つ意味など知りようもないし、恐らくは詮索しても仕方のないものだろう。
問題は、先ほども言った通り、その頻度・回数だ。
一般に知られるように、夢は眠りの浅い状態、睡眠下で脳の活動が比較的活発な時に見るものである。
可符香の異常な夢見の多さは、すなわち、可符香がほとんど深い眠りを得られていない事を意味していた。
一体、どうしてそんな事になるのか、可符香自身にもわからない。
しかし、それは可符香にその原因の心当たりがないからではなく、心当たりとなる出来事が多すぎて特定できないためであった。
深い眠りを得られないのは、一日を終えて布団の中に入る時でさえ、可符香が心の底から安心できてはいないためだ。
そして、自分の心から安心や安堵といった言葉を奪い去るような経験には、いくらでも心当たりがあった。

だけど、今の可符香は深い眠りの中に居た。
それは心の底から自分の全てを委ねる事ができる、そんな存在が今、彼女の隣にいるからだ。
やがて、彼女の意識は深い深い眠りの底から浮かび上がってくる。
目覚める直前、今夜初めて見る夢ともつかないおぼろげな夢の中で、彼女はその名を愛しげに呼んだ。
「…せんせ……」
その言葉に応えるように、彼女を包み込む温もりが、彼女の担任教師・糸色望の腕が彼女の体をきゅっと抱きしめた。
そのくすぐったさに、可符香は子供のような無邪気な表情で笑う。
やがて、窓の外、カーテンの向こうの景色がほんの少しだけ明るくなり始めた頃、彼女はゆっくりと瞼を開けた。

寝ぼけ眼のまま、布団の上に体を起こした可符香は薄暗い部屋の中を見回して首を傾げる。
「あれ?……ここ、どこ?」
壁が、窓が、カーテンが、家具が、広さが、空気が、自分の部屋とは違う。
しばしの間考え込む彼女だったが、ふいに聞こえてきた自分以外の人間の寝息でようやく気付く。
「そっか……先生…」
自分と同じ布団の中で、安らかな寝息を立てる望を見て、可符香は昨夜の事を思い出した。
理由もわからない、得体の知れない不安に捕らわれ、どうして良いかわからなくなってしまった可符香。
そんな彼女が頼ったのが、今はすやすやと眠る担任教師だった。
彼は突然に現れた可符香を受け入れ、同じ布団の中で一緒に眠ってくれた。
望の温もりに包まれただけで、可符香は安心して眠る事ができた。
「先生……寝顔、可愛いな…眼鏡つけてないところ見るのも、よく考えたら久しぶりだし……」
言いながら、可符香は熟睡する望の頬をそっと撫でた。
その可符香の手の平の感触に、望が心地よさそうに反応するのが嬉しくて、可符香は何度かその動作を繰り返す。
思えば、こんなに安らいだ眠りと目覚めはどれくらい振りだろう。
彼女にはすっかりお馴染みとなった、断続的に現れる夢に惑わされ続ける眠り。
これだって、よくよく考えれば昔よりはずいぶんとマシになっているのだ。
数年前、まだ可符香が中学校に通っていた頃は、彼女を取り巻いていた厳しい現実をそのまま映し出したかのような悪夢と、
不安に震えながら過ごす眠れない夜の繰り返しだった。
それが、まがりなりにも眠りを得られるようになったのは、望との出会いから始まった2のへでの日々のおかげであると可符香は確信していた。
担任教師・糸色望と、2のへの友人達と過ごす日々は徐々に可符香を変えていった。
160266:2009/07/15(水) 08:24:29 ID:FHjrGEo4
先生が、みんなが自分を受け入れてくれている。
その確信が、可符香の心の底にわだかまっていた過去の暗闇を少しずつ晴らしていった。
まあ、そのおかげで、最近では2のへの面々の前でまで、自分の黒い一面を見せてしまうようになったのだけれど。
でも、彼女の友人達はそれさえも平然と可符香の一部として受け入れてくれているようだった。
少しずつ少しずつ、変わっていく自分に喜び、戸惑う日々。
その傍らにはいつだって、望がいてくれた。
臆病で小心、だけど、可符香がどんな無茶をやっても望は彼女を絶対に拒絶しなかった。
情けない顔で文句を言いながら、それでも笑って可符香の行動に付き合ってくれた。
幼い頃から色んな物を失い続けて、何もかもが信じられなくなって、
何もかもを無理矢理信じたように振舞うしかなくなった可符香に、初めて出来た安心できる場所。
それが、この担任教師の隣だった。
「こんな風に眠れたのも、先生のおかげですしね……」
可符香は思い出す。
かつては彼女も何の不安も感じる事なく、安心して眠る事ができた。
その頃、可符香の傍らには大好きなお母さんがいて、彼女が眠りにつくまで色々な絵本を読んで聞かせてくれた。
そんな母親が、彼女の元からいなくなってしまったのは、一体どれくらい前の事だったろう。
『…神様にお縋りするにはね。現世のしがらみを全て捨てなくちゃいけないの……』
母親が家を出て行く前、何度も何度も言い訳のように繰り返し可符香に聞かせた言葉を思い出す。
今頃、母は一体どこで何をしているのだろう?
と、ここで、記憶の海をさまよっていた可符香は、彼女の日課を思い出す。
「あ、そうだ……お祈りしなくちゃ……」
彼女が信じる神様へのお祈りは、欠かすことの無い習慣となっていた。

布団のはしっこにひざまづいて、両手を胸の前で組み合わせる。
そして、だんだんと明るくなっていく窓の向こうの東の空に向かって、彼女は祈る。
「………………」
実のところ、彼女はこの習慣を、神様の実在を信じて始めた訳ではない。
かつて、まだ彼女が母親と一緒に暮らしていた頃、彼女の母はエクソシストによる悪魔祓いを受けた事があった。
その頃の母は突然に不可解な言語を喚き散らし、暴れまわるといった事を繰り返していた。
過剰なストレスによって抑圧された母の精神が悲鳴を上げていたのだ。
母はそれら全てを、悪魔の仕業であると確信していた。
相談を受けた母の知人は、腕の良い精神科の医師を紹介し、さらに母の精神状態を安定させるために悪魔祓いを行う事を決めた。
母の妄想の存在である悪魔を、実際にエクソシストによって祓ってもらう事で、母に悪魔はいなくなったのだと安心してもらう。
それが、母の知人の狙いだったのだが………
「すごい……神様って、本当にいるのね………」
悪魔祓いの劇的な経験は、母に神の存在を確信させた。
精神科での治療によって症状が安定し、ようやく元の生活を取り戻し始めた頃、
可符香の家を男女数人ずつのグループが訪れた。
自分達の所属するボランティアグループで、今度、とても面白い講演を企画しているのだと彼らは言った。
テーマは『神の実在と救済・天上における救いについて』
実際のところ、古今東西のさまざまな思想宗教を切り張りし、自分達の教祖を現世に降り立った神そのものであるとする彼らは、
信者の救済よりも、その救いを受けるために信者がどれだけの物を教祖に対して差し出せるかにしか興味はなかったのだが。
しかし、可符香の母は信じた。
母の知人や担当の精神科医、悪魔祓いを行った当のエクソシストまでもが説得したが、彼女の心は動かなかった。
全てを差し出し、全てを捨てれば救われる。
単純で短絡的な教えは、困窮を極める生活と不安定な精神状態に苦しむ母にはあまりに魅力的だった。
そして、母は消えた。
自分一人が救済されるために、可符香を捨てたのだ。
可符香は泣いた。
泣いて泣いて泣き続けて、母親を求めて泣きじゃくって、そしてそこで初めて両手を組んでどこにいるともしれない神様に向かって祈りを捧げた。
161266:2009/07/15(水) 08:25:27 ID:FHjrGEo4
それは、あまりに子供染みた考えだった。
可符香の考えはこうだった。
自分が祈る神様は、お母さんが信じる神様とは全く別の神様だ。
神様は一人だけと決まっているのだから、もし自分の祈りが届けば、お母さんの神様は偽物という事になる。
神様が偽物ならば、きっといつかお母さんは戻ってくるはずだ。
可符香の神様は、ただ母の信じる神を否定するために作られたつくりものの神様だった。
可符香は来る日も来る日も祈り続けた。
ささやかな幸せを、家族との団欒を、もう一度母と過ごしたいという願いを、可符香はつくりものの神様に祈った。
一年、二年と時間が過ぎても、可符香はそれをやめようとはしなかった。
つくりものの神様を心底から信じていたわけではなかったけれど、
母を連れ去った神への挑戦をやめれば、母親と自分の間の最後の絆までが断ち切られるような気がして恐ろしかったのだ。
だけど、何かに追い立てられるように祈り続ける日々の中で、可符香はある疑問を抱いた。
神様って、一体なんだろう?
全知全能にして善なる存在である筈の神様がお作りになったこの世界は、こんなにも理不尽と不幸に塗れている。
なんてのは、まあ、大昔から考えられてきた定番の疑問だ。
先人達が頭を悩ませたのと同じく、可符香も考え続けた。
だけど、結論どころか、答えに近付く足がかりさえ得られなかった。
理不尽なこの世界の意味も、母親を取り戻す方法も何もわからず、それでもがむしゃらに可符香は祈り続けるしかなかった。
だけど………
『死んだらどーするっ!!!!』
満開の桜の下で、あの人と出会った。
あの日から、何かが変わった。
大好きな先生と、気の置けない仲間達、その中で心の底から笑えたとき、ふと思ったのだ。
祈ってみたい、と。
今の自分を成り立たせている全てのものに、祈りたい。
良い事も悪い事もひっくるめた、自分を取り巻く世界の全て、そういうものに対して祈ってみたいと、可符香は思った。
いつかまた、手痛い不幸で可符香を叩きのめすかもしれないこの世界を、それでも今の可符香は好きだと言えるような気がした。
自分がこの世界を好きになっている事に、可符香は気がついた。
可符香は、自分の神様を見つけた。
「………………」
だから、可符香は両手を組み合わせて、ただ無心に祈る。
たぶん、世界に意味なんてなくて、不幸と理不尽もいつまでも消えてなくならない。
だけど、この世界は可符香と絶望教室の面々を、そして最愛の担任教師とをめぐり合わせてくれた。
いい事も悪い事もひっくるめて、今の可符香が可符香でいられる全てを与えてくれた。
今の可符香は、その全てを肯定できるような気がしていた。
それは多分、可符香が自分を好きになれた事と同じ意味なのだろう。
可符香は祈る。
あらゆる出会いと、日々の思い出に最大限の感謝を込めて。
そして、心の真ん中にいつだっている、あの眼鏡のレンズの向こうの優しい眼差しを思いながら、祈る。
そのまま、可符香が祈り続けてどれくらいの時間が経っただろう。
「あ……」
不意に自分を包み込んだ温もりに、可符香は声を上げた。
「先生……?」
組み合わせた可符香の両手を包み込む、見覚えのある細く繊細な指先。
可符香は、望が自分と一緒に祈ってくれているのだと理解した。
手の平から伝わる温かさが、望の心が嬉しくて、可符香はもう一度愛おしげに彼に呼びかける。
それ以上の言葉は無く、ただ伝え合う温もりに最愛の人の存在を感じながら、可符香は祈る。
「先生………」
やがて、お祈りを終えてそのまま望のいる方に体を傾けた可符香を、彼はそっと受け止め、優しく抱きしめてくれた。
可符香も身を捩り、体勢を変えて望の背中に手を伸ばし、きゅっと抱きしめる。
暗闇の中、何をすればいいのかもわからず震えていた自分を受け入れてくれた人。
共に過ごす毎日の喜びを分かち合ってくれる人。
大好きな、本当に大好きな、私の先生。
あなたがいてくれたから、きっと、私の世界は色を変えた。
いつかまた不幸の大波に飲み込まれ、全てを失う時が来たとしても、
今あなたといられるこの瞬間があるから、私はきっと生きていけるんです。

窓から差し込む眩しい朝日を背後に感じながら、可符香は望の温もりにその身を委ね続けたのだった。
162266:2009/07/15(水) 08:28:23 ID:FHjrGEo4
以上でおしまいです。
内容の出来、不出来もアレなんですが、
この話、先生と可符香が一つ屋根の下に住んでいないと明らかにおかしいわけで
雰囲気優先で書いたとはいえ、もう少しどうにかならなかったものかと反省中です。
それでは、失礼いたします。
163名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 16:39:04 ID:/G/0l0Li
乙。こまけえこたぁいいんだよ!
164名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 22:21:50 ID:uIenvjtF
原作でも、宿直室に住んでるはずの先生が何故か可符香と登校するという話をさらっとやったしな
165名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 22:51:35 ID:PDRLMkoo
アニメ始まった割りにスレはまったりだな。
166名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 09:13:18 ID:4w528HsF
保守
167名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 22:38:09 ID:W3bqSPNh
紅月カレン「イレヴンってゆうなぁー!」(CV:新谷良子)
168阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/19(日) 03:55:23 ID:Nmz0LBS7
>>167
なぜこんなところにギアスキャラが…。

イレヴンは、コードギアスでブリタニア人が言う日本人をののしる言葉だ。
※コードギアスの世界観は十分に知っている。
169名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 10:51:19 ID:1Y1O0JdC
>>168
だからもう二度と来ないでください
何回言っても理解できないほど頭が弱いんですか?
170名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 11:20:53 ID:IxjJ6ZpP
まあ実際頭弱いらしいからな
171名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 11:37:51 ID:5p3Rg45G
知的障害者更生施設に通ってるらしいな
172266:2009/07/19(日) 12:25:55 ID:rC890Bhc
書いてきました。
ついに明らかになった懺のオープニングがあまりに衝撃的すぎて……。
望×可符香でエロなしの短め。
懺オープニングを見ていないと(もしかしたら見ていても)意味不明の雰囲気SSです。
それでは、いってみます。
173266:2009/07/19(日) 12:26:47 ID:rC890Bhc
意識は宇宙を漂っていた。
くるりくるくると回る視界の中で、太陽が、月が、地球が幾度も現れては消える。
「きれいだな……」
可符香は嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
広大無辺の宇宙を、まるで川の流れに落ちた木の葉のように流されていく。
これは一体どういう状況なのか?
これから自分はどうなってしまうのか?
何一つわからなかったが、可符香はそんなものは気にしていなかった。
「うわあ………」
眼下に広がる青い星を見つめながら、可符香は感嘆の声を上げる。
先の事など大した問題ではないのだ。
ここからはきれいなものが沢山見えて、重力の戒めから限りなく解き放たれた体はどこまでも自由だった。
これ以上、一体何を望むというのだろう?
もはや可符香の心は満たされて、この世界の何一つとして必要としないように思われた。
だけど、それなのに………。
「やっぱりきれい……」
もう一度呟いた彼女の心の片隅に、何だか割り切れないもどかしい感じがあった。
何かが足りないような気がする。
可符香は周囲を見回した。
だけど、暗黒の宇宙では太陽と月と地球がくるくるとコマのように回っているばかりで、それ以外の何も見つけられない。
「なんだろう……?」
足りないのだ。
足りない筈なのだ。
いつもそこにある筈の、大切な何かが足りないのだ。
いつしか、可符香の心の中に、言い知れない不安が滲み出し始めていた。
そんな時である。
「あ、あれ……?」
ほんの少しだけ、体が重くなった気がした。
それとも、可符香を捕らえる地球の重力が少しだけその力を増したのか。
ゆっくり、ゆっくりと可符香の体は下降を始めた。

落ちていく。
まるで風に舞う鳥の羽のようにゆるやかに、だけど確実に地面へと向かって可符香は落下していた。
地球を覆う空気は壁となって可符香の前にあったが、それも一般的な大気圏突入の摩擦熱を生じるほどではない。
せいぜいが風の強い日に街の中を歩いている程度。
頬を撫でる風は心地良く、だんだんと宇宙の暗黒から群青へと色を変えていく空はとても美しかった。
だけど、可符香の心の片隅で先ほどの感覚はさらに強く疼き出している気がした。
まるで親とはぐれた幼子が訳もわからぬまま彷徨っているような、
夕暮れの迫る暗い森の中を、遠くから聞こえてくる獣の声に怯えながら歩いているような、そんな感覚。
どこまでもどこまでも落ちていく可符香は、その胸の疼きをどうしていいかわからず、母親の胎内にいるときの赤ん坊のように体を丸める。
空はすでに晴れ渡ったコバルトの色に変わっていた。
青い空とコントラストをなす白く大きな雲。
きれいだな、としみじみ思う。
だけど、瞳に映る世界が美しければ美しいほど、可符香の胸の疼きは強くなっていくようだ。
きれいだけど。
きれいなのに。
きれいだから………?
そうだ、きれいだから、私はこの景色を………。
丸まっていた体を、手足をのばす。
すうっと、誰かに差し伸べるように広げた両腕の、その向こうに広がる空に可符香は確かにその人の笑顔を見た。
「あ………」
と、そのとき、そんな彼女の周囲を強烈な風が吹き抜けていった。
舞い落ちる木の葉同然の可符香の体は思う様に揺さぶられて、思いがけない衝撃に彼女は意識を手放してしまう。
174266:2009/07/19(日) 12:27:39 ID:rC890Bhc
落ちる落ちる落ちる。
地表が近付くにつれて、可符香の体の落下速度は確実に増していく。
びゅぉおおおおおおお………っ!!!
耳元を通り過ぎる風の音が可符香を覚醒させた。
ちらり、首を回せる範囲で周囲の状況を確認すると、相変わらずの青空の下にはどこまでも続く荒野が広がっていた。
意識を失っている間に、随分と地表まで近付いてしまったようだ。
可符香が地面に落ちるまで、もういくらもない。
今現在の可符香の落下速度は先ほどよりもう少しだけ増していて、上手く着地できなければ結構な衝撃が彼女の体を襲うだろう。
体勢を整えなければ……。
そう思って、ほんの僅かに首を動かしたとき、可符香はその姿を見つけた。
「あ………せんせい…!?」
走ってくる。
可符香が先ほど思い浮かべた笑顔の主が、今は驚き慌てた様子でこちらに向かって走ってくる。
糸色望。
彼の視線の先にはまっすぐ、落ちてくる可符香の姿があった。
「……先生っ!!!」
可符香が小さく叫んだ。
胸の疼きはいつの間にかそれを凌駕する心の熱に取って代わられていた。
望の姿を見つけて呆然としてしまったほんの僅かな時間が災いして、もはや可符香は自分では着地態勢を取る余裕はなくなっていた。
だけど、彼女の胸には一かけらの不安も無い。
ただ必死に、ひたすらに、彼女の姿だけを見つめて走ってくるあの人の、望の存在がそれをいとも簡単に打ち消してしまうのだ。
自分は落ちてきたのだと思っていた。
重力に捕らわれ、天上の世界から引き摺り下ろされたのだと思っていた。
だけど、違った。
(私は帰ってきたんだ……)
地表が迫る。
可符香はそっと目を閉じて、全てを『彼』に委ねる。
その『彼』、糸色望は目一杯に広げた両腕を可符香に伸ばして………。
「風浦さんっっっ!!!!」
叫び声が耳元に響いた。
可符香の華奢な体は、地面にぶつかる直前に望の両腕に受け止められる。
やがて、ゆっくりと可符香が瞼を開いたとき、目の前には心配そうな、戸惑うような望の顔があって……。
「大丈夫ですか、風浦さん?」
「はい。大丈夫です」
そう答えた言葉に、望の顔がホッと安堵の色に染まるのを見ていた。
そして、望がそっと降ろしてくれた地面の上で、可符香は望に向き合って改めて思う。
帰って来た。
一人ぼっちで漂う宇宙で感じた心の疼きの原因は、わかってみれば単純なものだ。
いるべき人が、自分の隣にいなければならない人がいなかったのだから。
可符香は心配そうに見下ろしてくる長身の担任教師に、チラリと空を見上げてから話しかけた。
「きれいですね、空……」
それを聞くと、望は言われてから初めて気付いたように、眩しげに目を細めながら広がる青い空と白い雲を見上げた。
「ええ、きれいですね……」
それから、感嘆したように呟いてから、可符香の方を見て笑った。
可符香もにっこりと笑い返した。
(そうだ。太陽も、月も、地球も、広がる宇宙も、そんなものそれだけじゃ意味がないんだ……)
どちらともなく差し出した手の平を、望と可符香の二人はしっかりと繋ぐ。
(ここが私の居場所だから……先生がいなくちゃ、先生と一緒でなくちゃ、そうでなくちゃ何も始まらないんだから……)
広がる荒野の真ん中、固く手を繋ぎ合わせた青年と少女は、高く広がる空を見上げる。
出会った頃は戸惑うばかりで、だけどいつの間にか、お互いがお互いの隣にいるのが当たり前になっていた。
いつの間にか胸の奥でこんなにも大きく育って、私を変えてしまったこの気持ち。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか、風浦さん」
「はい、先生」
やがて、そんな受け答えと共に、二人は歩き出した。
どちらともなく歩調を合わせ、時折くだらない会話を差し挟みながら歩いていく二人。
どこまでも高く広い空と大地、その果てに消えて見えなくなるまで、二人の後姿はいつまでも寄り添い合っていた。
175266:2009/07/19(日) 12:29:13 ID:rC890Bhc
以上でお終いです。
よくわからないSSで申し訳ないです。
でも、あのオープニングは衝撃的すぎました。
ああ、これから毎週あれなのか………素晴らしいなぁ……。
176名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 18:22:57 ID:9SojzEXu
乙です
今日は絶対266さんのスイッチ押されたなと思ってたけど
まさかこんなに早いとは
177home:2009/07/21(火) 08:27:18 ID:mUVp2tXk
久しぶりに書いてみました
帰郷ってssの続きです
望霧ですが、そんな昔のss知らねーよ
って人は二人が望の実家に帰る話と思ってください
178home:2009/07/21(火) 09:29:44 ID:mUVp2tXk

時は師走。
長い旅の末。
望と霧は、糸色家の目の前に来ていた。
久しぶりに外へと出掛けた霧は、疲れきっていた。
室内で被っている毛布の代わりに、今は大きめのフードコートをすっぽり着ている。
ここへ来るのは、一度目の見合いの儀式の日以来。
あの時は有無を言わせずに、連れてこられた。
だが、今は違う。
自分の意志で望と共にやって来た。

「相変わらず、大きい家だね〜…」
「まぁ、それだけが自慢ですから」

悠然とそびえ立つ糸色家の門。
運び込まれるわけではなく、自分の足で跨がなくてはならない。
それは、とても怖く辛い試練のように思えた。

(この門を越えれば、せんせぇと、…ううん、望と一緒になれるんだ)

緊張が体を貫いた。
頭のてっぺんから爪先まで、金縛りにあったかのように動けない。
手先がびくびくと震え出した。
そんな霧の状態を感じ取った望は、すぐに霧の手を取り握り締める。
驚いたのか、こちらを見上げる霧に微笑みを向ける。口には出さない。
でも、自分の気持ちは伝わっている確信があった。
霧の震えは止まり、同時に望の手を強く握り返して、ニッコリ笑う。
二人が同時に足を踏み出した。
それには、誓いのキスを越える絆が二人の間にあることを示していた。




屋敷の中に入ると、慌ただしく見合いの儀式を行う準備がされていた。
屋敷の広さに見合った数の人が、忙しそうに走り回っている。
しかし、いち早く望の来訪に気付いた時田が目の前に現れる。

「これはこれは、望ぼっちゃん、お早いお着きで」
「久しぶりです、時田」
「わたくし、またお迎えに上がらないといけないと思っていたのですが」
「えぇまぁ、今回は事情が変わりまして…」
「と、言いますと?」
「…後になれば分かります。部屋に案内して下さい」

かしこまりました、と小さく呟き望の部屋へと案内をする。
案内とは言っても此処は望の実家。
ハッキリ言ってそんなものは必要ないのだが、緊張している望は、何故か頼んでいた。
今や望は部屋の中で一人きり。
早めに到着しているので、見合いの儀式が始まるまでまだ時間がある。
望は夜景を見ようと荷物を置いて、外へ出掛けた。
179home:2009/07/21(火) 09:31:46 ID:mUVp2tXk
「前に来た時は、もうちょっとスッキリしてたのになぁ…コホコホ」

歩く度に埃が舞い上がり、咳込み、床が軋む。
念のため断るが、決して霧の体重が重たいわけではない。
建物の造りが古いからである。

「せんせぇ、鐘が鳴ったらお見合い開始って言ってたっけ…」

時計を持たない霧には、今が何時であるかすら分からなかった。
ただ一つだけある窓から差し込む月明かりが頼りだった。
霧はフードコートを被り直し、その時を静かに待った。



庭先を歩くと、冷たい冬の外気が肌を刺した。
一応、厚着をさせてはいるが、それでも霧のことが気になった。
どんなときでも彼女のことが気にかかる。
心細くはないだろうか?
寒さに震えてはいないだろうか?
心配で仕方がない。
早く霧の元へ行きたいと逸る気持ちを抑え、鐘を待つ。
もう少しで鳴るはずだ。
そんな望の想いを感じたのか、時田が屋敷中、いや、村全域に聞こえる程の鐘の音を鳴らした。

(…鳴った)

確かにその響きを鼓膜に受けて、望は歩き出した。
今やもう気持ちを抑える必要はない。
早歩き、またはジョギングと呼ぶようなスピードで霧の元へ向かう。
重く固い扉を開き、やけに暗い蔵の中。
以前の儀式と同じように一人の少女が立っている。
霧のことを知らない者だと幽霊ではないかと疑うような存在だ。
望が入ってきていることに気付いてはいるものの、照れてしまい顔を合わせられない。
真っ赤に染めた頬を、長い前髪が隠している。
その姿をしっかり確認してから、望はまた歩き始めた。
霧の元へと。
屋敷が広けれへば、当然のように蔵も広い。
再び床がギシギシと軋む。
一歩、また一歩と霧に近づく。
儚く、消えてしまいそうな白い肌。
触れてはならないような錯覚に陥る。
180home:2009/07/21(火) 09:37:02 ID:mUVp2tXk
「…せんせぇ」
「もう先生ではありませんよ」

月明かりが謀ったように二人を照らす。
この暗い空間の中で、瞳に映るのは互いの姿のみ。
まるで、世界に二人しか居ないかのような静寂。
望は大きく手を伸ばし、霧に触れる。
二人が初めて会った日のように。
前髪を左右に分ける。
綺麗な漆黒の双眸。
しっかりと瞳を見つめる。
まるで、吸い込まれるかのような闇の中で、語りかける。

「…望と呼んで下さい」
「はい、望、さん」
「霧さん、いや、霧…」
「…」
「私と結婚して下さい」
「…はい」
「…!?何で泣くんですか?」

少女の眼から涙がこぼれ落ちる。
それは悲しみで流れるものではない。
歓喜の極みがもたらしたものである。
すんすんと泣く少女をなだめる望。
二人の門出を知るのは、空に瞬く星だけである。
181home:2009/07/21(火) 09:40:11 ID:mUVp2tXk

久しぶりなんで感想もらえると嬉しいです
あとエロなしで、スイマセンッス
182名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 11:40:13 ID:2yQr2oOM
>>181
うおおおおお!!続きがあるとは!!
「望霧来ないかなー」と思っていたところに待ちに待った方が。
望が下の名前を呼ぶときは、さん付けじゃなくて呼び捨ての方が家族になったって感じでいいですよね。
ただ、>>180では霧は「望さん」と呼んでいるけど、
>>178の独白では呼び捨てになっているのが気になった。誤植?

何にせよ、いい活力を頂きました。
また書いてくれると嬉しいです。
183home:2009/07/21(火) 12:55:51 ID:mUVp2tXk
うおーい
マジで誤植してたーorz
指摘ありがとございます
また望霧書きます
184名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 12:57:11 ID:u6IWfz/E
ここ最近、ずっと連投してる266ってのはどういうつもりなのか?
レベル低いSSばかりで正直スレの水準を下げてるのに自分で気づかないんだろうか
住人もほとんどスルーしてるのにまだ続けるってどれだけ厚顔無恥なんだ?
185名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 13:06:13 ID:iAY0iO9q
好き嫌いはあるかもしれないがレベル低くはないだろ
じゃあお前が書けよこの望霧厨が
むしろこのタイミングでそんな書き込みすると深読みされるぞ
186名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 13:12:57 ID:2yQr2oOM
どっちに対してもスルーライフで。

>>183
やっぱり「望さん」の方が正しかったのかな?
望霧待ってますぜ!!
187名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 13:27:07 ID:u6IWfz/E
望霧厨って何の話だ
だいたいここは奴の為の掲示板じゃないのにどうしてあんな我が物顔で駄目SSばかり書く?
さっきも書いたがみんなアイツを無視してるのに
自分が邪魔な人間だと何故気づかないんだ?
188名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 13:53:43 ID:E8YplTpn

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        |卞W {k:::ィリi     ´ ̄ ヽ  `':.:.:.:.:.:.:リ
        |__.!  `""      ィ戊ミ.、  /:.:.:.:.:.:.:./
        |:.:.|           {k:::ィリ } /:.:.:/:.:./
        |:.:.|      /    `"" /:./:.:.:.:イ
        |¨/:>、  ヽ __      フへ:.:.:、:.:.:|
        | '   >、        ム__ ノヽ:.:{ヽ!
        |__./  ヽ_ ,...xzイ:./ \:.:{  ヾ
        |〈 <     / V∨ レ′  ヽ
        | ヽヽ    ハ
        |  \\//ヽ
        |    ヽ/    \
        |   /       >、
189home:2009/07/21(火) 13:54:37 ID:mUVp2tXk
>>186

やっぱエロのほうがいいっすよね?
190名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 13:54:38 ID:nBZV/Nkh
美味しい加賀さんの美味しい全身を舐めまわしたい
美味しい頭のてっぺんから美味しい足の先まで丹念に何回も
恥ずかしがっても止めない
加賀さんが何回も絶頂に達しておしっこを漏らして
漏らしたおしっこを僕が全部舐めとるまでこの儀式は終わらない
191名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 14:17:51 ID:2yQr2oOM
>>189
貴方のエロシーン好きなので、あった方が確かに嬉しいですね。
もちろん望霧が読めるのなら何だって嬉しいけど。

というか俺以外に感想言う人がいないのは、やっぱり夏休みとはいえ平日だからかなぁ。
夜になれば来てくれる事を願う。
192名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 14:57:08 ID:u6IWfz/E
どうにも誰も問題をわかっていないみたいだな
266が粗製濫造して書き散らしたSSのせいでスレの雰囲気がおかしくなってるだろ
駄目な作品(とさえ言えない駄文)の連発で俗が終わった後ただでさえ活気がなくなっていたのにそれに拍車がかかっている
みんなスルーするだけで何も言わないから266に自分のSSがまともな作品だと勘違いさせてしまった
正直、俺はあんな酷いのは他に読んだ事がない
193名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 15:16:28 ID:beYHRst9
スレの雰囲気おかしくしてんのはお前みたいな奴だよ
194名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 15:25:33 ID:O33jHKgN
絶望先生の登場人物で誰が非処女か考えてみた。

望が非処女なのは、倫の発言や色眼鏡の話からほぼ確実。
臼井君も色眼鏡の話で掘られただろう。
地丹は男から性的サービスを受けた描写はあるが、ベッドの盛り上がり方からしてあの場面で挿入されたとは考えにくい。
久藤は無敵キャラで攻められている場面が思い浮かばないので処女。
木野は久藤の性奴隷なので非処女。
2のへ女子は全員先生のお手付きなので皆非処女。ことのんも例外ではない。
195名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 15:30:38 ID:E8YplTpn
>>192
>どうにも誰も問題をわかっていないみたいだな
そもそもお前にしかわからない擬似問題なんじゃないの?266がここに投稿していなかったとしても、
他の書き手が積極的にここに投稿しにきていたとは思えないよ。ifの話を持ち出して人を叩くな。

それに、読み手が「スレの雰囲気がおかしくなるから出てけ」って書き手を追い出す様子を見て
他の書き手がここに投稿したくなるだろうか。
196名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 15:39:38 ID:/PhZhq5h
交×霧が見たい
197名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 17:02:41 ID:yYg7arhp
俺は知らなかったがこのスレはID:u6IWfz/Eの所有物だったらしい
198名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 19:29:14 ID:DLwREGtu
レベルが低いなんつって騒いでるのが一人だけなことに何で気付かないんですぉーね
199阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/21(火) 19:36:06 ID:MUMqjDvu
>>169
シャフト作品なので、事実上強引niマイYeah〜状態でつなげている。
ずーっと粘着し続ける見込みだ。
200阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/21(火) 19:39:26 ID:MUMqjDvu
特ダネが絡むと強引だ。

私は特ダネが絡むと、粘着をし続けるタイプだ…。
例:日食ネタとか。
201名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 20:06:49 ID:/PhZhq5h
◆nN3pi.piMoが粘着するって宣言したから荒らしとして依頼出せるよね?
202名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 20:09:03 ID:DhZ1cfSC
なりきりスレとかにも割と悪質な粘着の仕方してるらしいので
そっちも含めて依頼出せばいいんじゃないかな
俺は太ってるから行かないけどね
203名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 23:03:54 ID:ce+izs/b
>>181
おかえり!また貴方の望霧が読めて嬉しいですGJ
次も期待してます
204阿良々木 暦 ◆nN3pi.piMo :2009/07/22(水) 06:32:36 ID:3H+GmUJy
絶望した!私は非常に嫌われた存在というだめ人間であることに絶望した!
>>201-202の議論という激烈な非難社会に絶望した!

本当は相手にしないでスルーするつもりでしたが、相手にしてしまいました。
気ままに書き込みたいだけなのだが…。では、これに懲りて、退散します…。
205名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 08:53:28 ID:VRSxI4m4
>204
いや、書き込むこと自体は問題がないの。
問題なのは、あなたがルールを守らないことなの。

1.二次元作品のキャラを名乗ること。
その作品のファンからすると不快だし、そのスレと無関係のキャラだとスレ住人を不快にさせる。
阿良々木暦は絶望先生とは一切関係ない。中の人以外は。

2.スレと無関係な書き込みをすること。
ネット掲示板はコミュニケーションの手段で、他人との対話や情報交換を楽しむ場所なんだよ、基本的には。
あなたの書き込みは単に自分の思いついたことを書き込んでるだけで、妄想日記と同レベル。
対話の意志が一切見えない。

3.他人からいくら注意されても、改善しようとしないこと。
猿でも反省も学習もしてるのに、あなたは一切改善しようとしないで、どこでも同じ事をしてる。
2ちゃんねるはわりとフリーダムな空間だけど、それでもルールは存在するんだよ。
あなたはそのルールを一切守ろうとしていない。

これで嫌われない方がどうかしている。
妄想を気ままに書き込みたいなら、2ちゃんねるに来ないで、ブログを作ってそこに書きなさい。
そこでなら好き勝手に書ける上、他人の迷惑にもならないから。
206名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 09:47:33 ID:j5No6QPv
荒らしにマジレスかっこわるい
207名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 12:32:58 ID:itOGP/VZ
>>196
交がどう攻めろと
208名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 13:50:13 ID:xvy5Nr2y
前に305さんの作品であったな、交攻め
萌えた
209名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 13:55:32 ID:iTE3iHae
>>206
しかし、ある程度は軌道修正して道を正してあげるのが人の務めではなかろうか
210名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 15:23:56 ID:iHXDX7rs
>>209
荒らしに構う人も荒らしになるんだよ
211名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 17:18:08 ID:3H+GmUJy
原付は最高速度は30キロ以下。
二段階右折は守る。

などなど、走行には、厳しい決まりがあります。
「30キロなんてすぐに超えちゃうよ〜。」
「二段階右折って意味が分からないよ〜。」

と、納得がいかないライダーも少なくありません。
しかし、交通規則を守らなければ、事故や違反を犯すでしょう?

ただし、一般道を30キロなんかで走っていては非常にあぶなくて仕方がありません。
違反を犯さないためには、乗らないでいるしか方法のない難しい乗り物。
212名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 17:21:36 ID:CWUic4ir
あーあ・・
213名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 18:40:14 ID:iHXDX7rs
>>211
スレ違い
てか誤爆かこれは
214名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 18:59:45 ID:N0eR7QSE
「そういえば今日は怪奇日食でしたね」
215名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 22:22:20 ID:4gGR7/aA
もしかして211とか214は例の奴か?スレと関係ない話題を持ち出しているし。
216名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 22:28:28 ID:zqCxefWn
ID見ろよ糞
217名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 02:38:00 ID:9MOrwnlU
>>215
>>214は望の喋りじゃね?誤変換がネタかマジかはわからんが
218home:2009/07/23(木) 07:55:00 ID:jMqyrvsj
できれば今日中に投下したいでーす
219名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 09:09:03 ID:fulAH4O2
そういうの恩着せがましい
220名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 12:16:46 ID:gmYaIzyo
>>218
待ってるぜ!
221名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 14:46:28 ID:eg53uzV6
>>218 wktk
222home:2009/07/23(木) 19:23:36 ID:jMqyrvsj
続き行きます
読んだら感想おねがいします
223home:2009/07/23(木) 19:25:18 ID:jMqyrvsj
月が顔を出してから随分と時が経つ。
時計の針は深夜2時を指し示した。
二人きりの布団の中でモゾモゾと動きがある。
共に眠りにつく霧を起こさぬように、最善の注意を払って望が抜け出す。
布団を持ち上げ、その隙間からスッと身を通らせる。
眼鏡をかけて、最愛の人の顔を覗き込む。
スヤスヤと穏やかに眠る霧を確認してから、望は立ち上がった。

「…さて、頂きますか」

何をするのかと思えば、望は霧には何もせずに、台所へと向かう。
わざわざ懐中電灯まで用意して、台所の中を捜し回した。

「あった…!」

それを見つけた望はやかんに水を張り、ガスコンロにかける。
暫く待てば沸騰したお湯の出来上がり。
それを先程見つけた物の中に必要量注ぎ込む。
3分程まてば美味しいラーメンが一人前。

「いただきまーす♪」

割り箸を左右に分かち、さぁ食べようというその時に。
後ろの蛍光灯が明々と輝き出した。

「…望ぅ、またそんな物食べて」

霧が可愛らしいネグリジェの上に布団を羽織り、仁王立ちしている。
望は冷や汗が頬を伝うのが分かった。

「…いや、霧、これは違うんですよ」
「私はちゃんとご飯作ってあげてるのに、望はそっちのほうがいいんだ?」

霧がツーンとそっぽを向いてしまう。
さすがにこの状況はマズイと思い、弁解する望。

「いや、違うんですよ、これには理由が…」
「どんな理由なの!?」

珍しく怒り顔の霧。
しかし、それも子供の悪戯を見つけた母親のようなもの。
心の底では許しているのだが、それに気付かない望は何とかごまかそうとし
224home:2009/07/23(木) 19:26:27 ID:jMqyrvsj
「最近、仕事が忙しくて、お腹が空くんですよ」
「…」
「それに夜中に運動をするので、ねぇ…?」

望はこの言い訳は効くと思った。
そして、その考え通りに霧は赤くなって下を見た。

「それは、望がしたがるからでしょ…(//△//)」
「まぁ、誰かさんが可愛く啼くのでやめられないんですけど…」

そう言うと、真っ赤になった霧が敷布団まで戻り、望に背を向けたまま寝転がる。
霧は何も言わなかったが、その背中は怒りとちょっぴりの淋しさを醸し出していた。
そんなことにも気付かない望は、お手製インスタントラーメンの味を堪能してか
ら眠りに着いた。




翌日の朝。
目を覚ました望は、朝食を準備する妻の背中を見つけた。
リズミカルな音で包丁がまな板を叩く。
布団から起き上がり、洗面台へと向かう。
ちゃぶ台の前に座ると、丁度よいタイミングで朝食が運ばれてきた。
いつもに比べると幾分か豪勢に見える。

「今日はやけに豪華ですねぇ」
「…望が、お仕事忙しいって言ってたから、元気がでるように…」

昨夜程ではないが、少しだけ恥じらいを持つ横顔に赤みがかかる。
あんな適当な言い訳にも耳を傾けてくれるとは…。
望の胸に罪悪感が募った。
ここまで自分のことを考えてくれる少女を裏切っていたとは…。
とは言っても、カップラーメンを食べただけではあるが。
些細なことで思い出す。
彼女が、どれ程自分を大切に思ってくれているのか。
自分が、どれ程彼女を愛しいと思っているのか。
宿直室を出るとき、後ろを振り返る。
毛布で身を守る霧が、すぐ近くに。

「はいっ、望」

ハンカチを渡そうとするその腕を取って、引き寄せる。
片腕で頭を抱き、耳元で囁いた。

「…愛しています」

一瞬の静寂の後、何が起きたかを理解した霧が顔を上げる。
相変わらず顔は赤かったが、望の目を見てしっかり返事をする。

「私も、愛してるよ」

軽く額に口づけられ、続いて唇に。
最初は触れ合う程度だったが、段々と深いものになってゆき。

「んっ、…ふぁ」
225home:2009/07/23(木) 19:26:57 ID:jMqyrvsj
口の中を望に侵されていく。
宿直室では、他に音を立てるものもなく、ただ二人が口づけ合う音だけが響いた。
30秒も霧の唇を味わった望は漸く彼女を解放した。
とろーんとした目の霧は、あまりにも可愛くて。
そのまま押し倒したい衝動に駆られたが、予鈴が鳴り、すぐに行かなければならない。

「…続きは夜にしましょうね」

最後に頬に軽く口づけて望が宿直室を離れた。
一人残された霧は、火照った体を持て余しながら、洗濯に取り組んだ。
約束の夜を夢描きながら…。





終礼の鐘がなり、今日の授業の終わりを告げた。
特に用事もない教室に別れを告げ、望は職員室へと戻る。
その後、雑務を終わらし、宿直室に向かう。

(昨日は霧を怒らしてしまいましたからね…、今日はたっぷり可愛がってあげましょう)

ニヤニヤした顔を隠すこともなく、望は宿直室の扉の前に立った。
引き戸の扉を難なく開き、自らの帰りを伝えた。

「霧、ただい、ま…?」

なんだか妙に部屋が暗い。
普段なら準備された夕食の匂いが漂う台所も。
綺麗に整えられた居間も。
暗くなった外からは断絶された空間になるはずなのだが。
今や、外と内の区別は存在しない。
部屋は何処も暗かった。
しかし、人の気配はする。
霧は何処にいるのか、望が部屋の中をさ迷い歩く。

「霧!居ないのですか?」
「…望ぅ?」

小さく答える声が聞こえた。
一番奥の霧の部屋だ。
特に区別があるわけではないが、パソコンや全座連の本など、霧の私物が多い部屋。
障子が閉められており、中は見えない。
望が障子を開けながら、声をかける。
226home:2009/07/23(木) 19:27:41 ID:jMqyrvsj
「ここにいたのです、ね…」

最後の方はちゃんと言葉にならなかった。
毛布に包まり、仰向けに寝転がった霧。
虚ろな目でこちらを眺めている。
いつもはジャージを着ているのだが、今は目に映る限り毛布しか見えない。
スラリと伸びた足に、チラリと見える白い肩。
よく見ると、ブラジャーの紐のようなものが。
つまり、毛布の下は下着姿。
あまりにも欲情を誘う。

「…望、お腹空いたでしょ?」
「へっ!?…えぇ、まぁ」
「わ、私を食べて…?」

恥じらいながら口にするのは、卑猥なる呪文。
立っている望と寝転がる霧の間は、十二分に開いていたが、まるで耳元で囁かれたかのようで。
とても望が逆らえるものではなかった。
霧の元まで歩いていき、覆いかぶさると、まずはその姿を堪能した。
綺麗に保たれ、自分以外の誰をも知らない純白。
まさに、純白。
霧の肌にはピッタリの言葉に思えた。

「そんなに見られたら恥ずかしいよぉ…」
「自分から誘っておきながら、今更何を言ってるんですか」
「だって、望が喜ぶと思って、あっ…んっ」

確かにその通りですね、と外には出さず口の中で呟き。
そのまま、霧に口付けた。
朝とはまた違う、優しさの片鱗を見せないような、強引なもの。
舌を捻りこみ、中の様子を探る。
少しでも霧の舌に触れると、体がびくりと反応する。
その反応が楽しくて、望は何度も霧の舌を蹂躙する。
狭い部屋の中で、二人が舌を絡ませる音だけが響く。
ただでさえ霧の姿に興奮していた望は、更なる気持ちの高揚を感じていた。

「んっ、…ふぅ」

口付けすることにだけに集中している霧は、望の手が自らの胸に伸びているのに気付かない。
可愛らしい少女が身に付けているのは、薄い布切れ一枚。
いとも簡単に外され、白色の小高い丘が姿を見せる。
まずは、軽く揉みしだき、その柔らかさを確認する。
相変わらず感度は高いようで、望の指先が少しでも触れると、ビクビク体が疼きだす。
こんな状態で頂に触れればどうなるか?
その結果を知るためにも、望はその秘密の頂に手を出した。
ピンクに彩られたそこは、望に触れられることだけを持ちわびていた。
指の腹で転がす。親指と人指し指で、先を摘む。
先程とは比べ物にならないほどの快感が霧の走る。
227home:2009/07/23(木) 19:28:10 ID:jMqyrvsj
「あぁ!…い、んっ」
「ふふ、そんなに気持ちいいですか?」
「…んっ、気、持ちいいよっ…」
「それじゃ、これはどうですか?」

そう言いながら、顔の位置を下へとずらしてゆく。
大した時間も掛からない距離であるのに、望はわざとゆっくり進み、その胸を目の前に抱く。
左手で右の頂を、口で逆側を吸い上げる。
手は時々全体を揉むように動かし、口の中に乳首を含み、舌で転がす。
一片に与えられる愛撫の連続技は、霧の意識を一気に天まで届かす。
そんな呆けた脳でも、霧は自分の秘部に手が添えられるのを感じた。
すでにそこはずぶ濡れで、下着は下着としての役目を果たしていない。
透け通るピンクのパンツは、いかに霧が感じているかを物語っていた。

「霧、腰を浮かしてください」
「へっ、…うん」

恥じる気持ちがあるのか、霧はゆっくりとその腰を浮かした。
一瞬の隙を見て、望が下着を抜き去る。
今まで外気に曝されなかったそこは、十分に湿っていた。
パンツを脱がしたその手で、霧の秘部に触れる。
望が少し動かすだけでも、クチュクチュという音が。
その音は自然の興奮剤となり、望の脳髄を溶かしていく。
もはや、霧のことしか考えられない。
そんな危険な思想に染まった望には、すでに我慢の限界が来ていた。
ギンギンにそびえ立つ絶棒を狭い袴から取り出し、霧のそこにあてがった。
望のモノが少し触れるだけでも、霧は可愛らしく反応した。
ピクッと動くそれは小動物のようでもあり。
望には肉食獣としての帰巣本能が蘇る。

「霧。いいですか?」
「うん。…来て、望」

あてがっているそれを、ゆっくりと進めていく。
絶棒は少しずつ、霧の中に沈められていき。
その間の可愛い反応を望は眺めていた。
先っちょが入ると、まずギュッと目をつむる。
それから、竿が入ってゆくと恍惚とした表情になり。
全部入りきったときには小さく喘いだ。
入れる動作だけでイッてしまいそうになる。
それはお互いにいえることなので、少しの休息が必要になり。
望は、腰を止めたまま霧に話しかけた。

「全部、入りましたよ」
「んっ、…望の感じるよ」
「痛くないですか?」
「大丈夫だよ、…望ぅ、動いて?」
228home:2009/07/23(木) 19:28:40 ID:jMqyrvsj
最上のおねだりをされてしまい、従わないわけにはいかない。
今動いたら、イクのではないかと心配しながらも、望は腰を動かした。
様子を探るためにも、最初は大きく動かず、全部を入れたままで小刻みに動く。
霧のリズムのいい喘ぎ声を聞きながら、徐々にグラインドを広くしてゆき。
最終的には抜けるギリギリまで腰を引いて、一番奥を目指して突き入れた。
行為自体は、今まで行われたものと何も変わりはしない。
しかし、望の心情はいつもとは違った。
甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれる霧。
身を結んでからも、変わらず自分を見ていてくれる瞳。
どんな些細な言葉も聞き漏らさないでいてくれる。
霧に対する深い愛情がその胸に溢れていた。
だから、いつもより霧に気を掛けていた。
泣きそうで、目に涙を溜めていても、嬉しそうな眼差し。
うわ言のように繰り返される愛の言葉。
全てが、愛しかった。
幸せな時間は長くも続かず、望には限界が迫ってきていた。
延々と続けられていた運動は、最果てに向かい急ピッチになる。
それにつれて、霧の喘ぎ声も大きく跳ね上がった。
肉のぶつかる音、そして、水の音だけが空間を支配していた。

「霧、…そろそろ」
「あぁん!あっ、望ぅ、…んぅ、イク、の?」
「イキそうです、…」
「いいよっ、ふぁ…、中に出してぇ」

解き放たれた性の塊は、誰にも止められない。
望は自分の考えうる限りの奥深くに絶棒を突き入れ、そこで静止した。
流れ出す欲望を受け止める霧の体が、ビクビクと跳ねる。
全てを出し切り、絶棒を霧の中から抜き出す。
ビクリと反応した霧の秘部から、白い欲望が溢れ出す。
あまりに扇情的なその光景は、望の絶棒をもう一度元気にさせた。
それに気付いた霧が、望の元へと歩み寄る。

「ふふ、またおっきくなってるよ?」
「いえ、…申し訳ありません」
「いいよぉ、望となら何回でも…」

呟いた後に、それを口に咥える。
先を舌で舐め上げ、手でしごきあげる。
暫らくしてから手を離し、全体を万遍なく舐め上げ、顔を前後に動かす。
霧は自分の口の中で、絶棒がより大きくなるのを感じると口を離した。
立ち上がり、今度は少し離れ、また座り込む。
自分の秘部が見えやすいようにM字開脚をして、言う。

「おかわり、する…?」

永い夜はまだ始まったばかりだ。
229home:2009/07/23(木) 19:30:25 ID:jMqyrvsj
今回はこれで終わりです。
名称とか違うのはちょっと違和感ある気がするんですが…
皆さんの感想が知りたいです
230名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 19:57:31 ID:P+0dNfgK
感想欲しい感想欲しい言われるのがウザい
231名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 21:21:51 ID:DHgnc2r7
久しぶりに小森ちゃんの話を見れて嬉しい!
だけど呼び方が変わるとやっぱり違和感が…。
「せんせい」と「小森さん」がしっくり来るね。
232名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 21:49:26 ID:eg53uzV6
霧がすっかりいやらしい子されてる辺り見えない部分を物語りますね
呼び方は同じく気になるかな
また貴方の書く先生と小森さんが読みたいです
233名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 22:07:00 ID:ufJjAhfH
グッジョブ!
だが感想せがむのが恩着せがましいですね
234名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:42:43 ID:uhoyksGm
久藤×絶倫はまだか…
235名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:52:16 ID:fl4DJo85
男「大良さん、中に出しちゃっていいかな?」
可奈子「いいですよ どーぞぉ」
236糸色 望 ◆wjvkOypwx5bg :2009/07/24(金) 01:03:51 ID:nxjsmZuq
この作品に沿った書き込みで語るか?

糸色 望

440馬力と、ルルーシュの500馬力と比較すると、若干見劣りはするものの、
蟲師のギンコのような非力さは見せずにそれなりに軽快に走りました。

かなりの騒音が悩みの種で、特に発車直後の力行時と登坂時には、
すさまじいエンジンの爆音と、冷却装置の騒音で、通常の会話が
成り立たないほどの猛烈な騒音というエピソードが語られるほどでした。

絶望先生は第三期でもオリジナルの原型エンジンであるDML30HSHのままです。
1970年代という昔の設計のエンジンで、今となっては時代遅れのエンジンです。
237名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 01:55:13 ID:uhoyksGm
>>236
スレ違いだからさっさと消えろ
238名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 07:01:16 ID:5lWQ/dDD
>>236
あんた、退散するって宣言したのに何故また来たの?
いいかげん自分のブログなり立ち上げてそこで好きなだけ書き殴るが良いよ
239名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 09:09:33 ID:RK0Gw52r
わざと構ってるんだよな?そうなんだよな?
240名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 12:28:02 ID:xjApFNZx
SSよりも荒らしの方がたくさんレスがつくと言うこのスレの不思議w
241名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:13:14 ID:XOVegW9y
「突然ですが、小森さん。貴女は、天ぷらはお好きでしょうか?」
「うん、嫌いじゃないよ」
「…嫌いじゃない、日本人らしい答えですね」
「天ぷらがどうかしたの?せんせぇ」
「いえ、美味しい天ぷら料理を出すお店を見つけたので、いつもお世話になっているお礼にどうかと…」
「せんせぇと二人でぇ?」
「やはり、嫌ですよね…?」
「ううん、嬉しいよ。でも…」
「あぁ、心配しないで下さい。完全な個室ですので、引きこもれますよ」
「そぉなんだ、なら一緒に行きたいよ」
「では、予約の電話をしておきますね」
「うん」
242名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:16:04 ID:XOVegW9y
「明後日なら個室が空くそうなので予約しておきましたから」
「楽しみだね」
「それでは、今日は寝ましょうか」
「…せんせぇ、今日は一緒に寝てもいい?」
「えっ…!?」
「やっぱり、嫌だよね…」
「いえっ、決して嫌ではありませんが…、ただ」
「…?」
「そのっ、誰かにばれるとクラスで面倒なことになってしまうので…」
「分かったよ。ゴメンね、せんせぇ、我が儘言っちゃって…」
「理解していただけると有り難いです」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、小森さん」

243名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:18:14 ID:XOVegW9y
「あっ、起きたぁ?せんせぇ」
「おはようございます、いい匂いがしますね」
「今朝はお味噌汁作ったんだ」
「早速いただきましょうか」
「どうぞ♪」
「………美味しいですね、やはり小森さんの料理は最高です」
「えへへ、嬉しいよ」
「ごちそうさまでした」
「せんせぇ、新しい袴だしてるから、そっちを着て行ってね」
「あぁ、すみませんね」
「ううん、いいの。好きでやってるんだから」
「…小森さんにはいつも迷惑をかけますね」
「せんせぇにだけだよ」
「…えっ?」
「お世話したいって思うの、せんせぇだけだよ」
「…小森さん」
「ほら、今日もお仕事頑張ってね」
「ありがとうございます…」
「いってらっしゃい」
「…小森さん」
「なぁに?せんせぇ」
「今夜は一緒に寝ましょうね」
「………うん」
「では、行ってきます」

244名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:19:59 ID:XOVegW9y
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい、せんせぇ」
「今日も忙しかったですよ」
「ふふっ、お疲れ様」
「この匂いは…、今夜はカレーでしょうか?」
「正解♪いっぱい煮込んでるから、きっと美味しいよ」
「それは楽しみですね」
「お風呂も沸いてるけど、どっちにする?」
「では、先にご飯にしましょう。小森さんもお腹が空いたでしょう?」
「うん。それじゃ準備するから、ちょっとだけ待っててね」
「いやはや、実に美味しそうですね」
「今日のは自信作だよ」
「それではいただきましょうか」
「…ドキドキ」
「………実に、美味しいです」
「…よかったぁ」
「あんなに美味しいカレーは、久しぶりに食べましたよ。」
「せんせぇいっぱい食べてくれるから、作り甲斐があるよ」
「食べ過ぎで暫く動けませんね…」
「せんせぇ、頭上げて」
「どうかしましたか?」
「耳かきしてあげるから、頭上げて?」
「…ありがとうございます」
「せんせぇいっぱいあるよぉ」
「最近してませんでしたから」
「…んしょんしょ」
「………なんだか昔を思い出しますね」
「せんせぇが子供のころ?」
「えぇ、母上が小森さんとおなじように優しくしてくれました」
「お母さんのこと好きだったんだね」
「…そうかもしれません」
「わ、私とどっちが好き?」
「えっ…?」
「…お母さんと私、どっちが好き?」
「母上は家族として愛しています」
「…」
「小森さんに感じるのとは、違う愛ですけれど」
「…それって、どうゆう」
「小森さん、愛しています」
「えっ!?」
「私は、一人の女性として、貴女のことを愛しています」
「…せんせぇ」
「泣かないでくださいよ」
「…だって、嬉しくて」
「私は、貴女を幸せにしたい」
「…私もせんせぇが好きだよ」
「ずっと一緒に居たいです」
「…うん、ずっと一緒に居て」
245名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 02:42:26 ID:pFj8SxoG
爽やかというかまろやかというか……地の文抜きでも面白いな。乙
246266:2009/07/25(土) 10:12:27 ID:+fkWNuIC
GJです。なんというか、まったり幸せな感じですね。

私も書いてきたので、投下してみます。
望×可符香で、今回はエロ有りです。
それでは、いってみます。
247266:2009/07/25(土) 10:13:30 ID:+fkWNuIC
ある暑い夏の午後の事である。
糸色望は走っていた。
窓から差し込む強い日差しと、その日差しが作り出した影が強烈なコントラストを織り成す学校の廊下を、
前だけを見つめてひたすらに走っていた。
何のために?
逃れるために。
背後からひたひたと迫ってくる絶望と恐怖から逃れるために、望はなりふり構わず走り続ける。
「せんせ〜い……」
後ろから聞こえた声に、望は全身をギクリと強張らせる。
「どうして逃げるんですか?待ってくださいよ〜」
望に語りかけてくるのは、彼の良く知る少女二人の声。
彼の担任するクラス、2のへの女子生徒達の声である。
「待ちませんっ!!絶対に待ったりしませんっ!!!あなた達の思惑通りにはさせませんよっ!!!」
震える声で叫び返した望に、少女の一人が応える。
「いやだなぁ、どうして怖がるんですか?私達が先生に酷い事するわけないじゃないですか」
望の走る廊下の遥か後方、廊下の曲がり角から現れたのは、二つの声の内の片方の主、風浦可符香であった。
「そうですよ。ただ先生にちょっとこの服を着てもらいたいだけなんですから」
続いて現れたもう一つの声の主。
眼鏡の奥の瞳をらんらんと輝かせて、藤吉晴美が歩いてくる。
「ひぃいいいいいいっ!!!!!」
その姿をチラリと見ただけで、望は悲鳴を上げてしまった。
ゆっくりと歩み寄る彼女達がその手に持っているものは………
「先生なら、きっとこのウェディングドレス、似合いますよ」
「せっかくサイズまでピッタリに作ったんですから、袖を通してみてくださいよ」
眩い日差しを浴びて、キラキラと輝く純白のドレス。
それが今の望が怯え逃れようとしている恐怖の正体であった。
小さな頃の望はその容貌から女の子だと間違われる事が多かった。
以前、望の兄、景がその事を話していたのを聞きつけた可符香と晴美によって望は女装をさせられる羽目になった。
そして、今またその悪夢が蘇ろうとしている。
学校中を必死で逃げ回っても、まるで彼の行き先がわかるかのように現れる二人によって、望は追い詰められようとしていた。
「せんせ〜い」
「待ってくださ〜い」
「イヤですっ!!もう女装はこりごりなんですよっ!!!」
スピードを上げ、可符香と晴美を引き離そうとする望。
だが、その進行方向を遮るように、望の眼前に突然一本のスコップが突き立った。
「な……っ!?」
「先生、覚悟を決めてください……」
床に刺さったスコップを引き抜いて、ゆらり、望の前に現れたのは可符香や晴美と同じ望のクラスの女子生徒
「木津さん、あなたがどうしてっ!!?」
前回、望が女装をさせられた時には参加していなかった彼女がどうしてここにいるのだろうか?
「今回は、私がきっちり監督させてもらいましたから、きっと前の服よりも先生に似合う筈です!!!」
「なななな………っ!!!?」
可符香と晴美だけでも望の手に余る強敵だというのに、この上彼女までが参加していようとは……。
目の前の千里に睨まれ、背後から迫る可符香と晴美の足音に追い詰められ、まさに望は絶体絶命である。
だが、しかし………。
「捕まってたまるものですか―――っ!!!」
望はそのまま前へ進むのでもなく、後ろに退くのでもなく、廊下の右手にあった教室へと飛び込んだ。
「あっ!!?」
思いがけない望の行動に、千里が望の入った扉からその教室に突入する。
しかし、それこそが望の作戦だった。
学校の教室は大抵前と後ろの両方に扉がある。
だから、望はぎりぎりの距離まで晴美と可符香、千里を引きつけてから
「しまった!!」
もう一つの扉から再び廊下に脱出したのだ。
望はそのまま全速力で走って、廊下の向こうへと駆け抜けて行った。
248266:2009/07/25(土) 10:16:18 ID:+fkWNuIC
「う〜ん、先生も結構やるね……」
望を取り逃してしまったというのに、どこか楽しげな、余裕のある声で可符香が言った。
「それだけ先生も必死なんだよ」
その台詞に答えた晴美ものんびりとしたものである。
「できれば、私の手で先生を捕まえたかったんだけどね……」
千里も少しばかり悔しそうだが、その態度は落ち着いたものだ。
「それじゃあ、先生捕獲作戦は他のみんなに任せようか」
最後に、可符香がそう言ってにっこりと笑うと、千里と晴美も同じようにいかにも楽しそうな笑顔で肯いたのだった。

「……ぜぇぜぇ…どうやら…まだ追いついては来ないみたいですね……」
可符香達から逃げ出した望は、未だ追っ手が自分の背後に現れない事にホッとしながら呼吸を整えていた。
とはいえ、これから先も彼女達の追跡は続くだろう。
それをどう凌ぐかが大きな問題だった。
本気になった2のへの絶望少女達を相手にするのは恐ろしく困難な事である。
先ほどは上手く逃げおおせたが、あんな幸運はそうあるものではない。
「どこか、安心できる隠れ家があるといいのですが……」
望は可符香達の魔の手から確実に逃れられる場所はないものかとしばらく思案するが、なかなかいいアイデアは浮かばない。
命の病院や倫の家など望の家族に匿ってもらったのでは、すぐにバレてしまうに違いない。
かといって、学校の近辺で頼れる人間などそうはいない。
考えあぐねた望の足は自然とある場所へ向かっていた。

「あ、先生、おかえりなさい」
「ただいま、小森さん」
結局、望が選んだ行き先は、現在、望が暮らしている宿直室だった。
ヘタに学校を離れるよりも、住み慣れたこの部屋に閉じこもっていた方がまだ安心できる気がした。
(小森さんや交なら信用しても大丈夫でしょう……)
ここは素直に事情を話して、可符香達がやって来ても帰ってもらうようにと、霧にお願いするのがいいだろう。
可符香達も霧を相手にあまり強引な手段に出る事はあるまい。
というわけで、望は早速、自分が現在置かれている状況について霧に伝える事にした。
「あの、小森さん、少しお話があるんですが……」
何やらちゃぶ台の上に広げられたこまごまとした道具を整理している霧に、望は話しかけた。
「どうしたの、先生?」
「いえ、ちょっと困った事になっているので、小森さんに少しだけ助けていただきたいんですよ」
「困った事?」
霧は道具を整理する手を止めて、望の顔をきょとんと見上げた。
「はい。実はですね……」
望は霧に、ウェディングドレスを持って今も自分を探し回っているであろう可符香や晴美、千里のことを話した。
「……というわけなんです。だから、あの三人がやって来ても…」
「大丈夫だよ、先生。ぜんぜん、心配しなくていいから」
望の話を聞いた霧がそう言って、にっこりと笑うのを見て、望もほっと胸を撫で下ろす。
だが、霧の次の言葉で、望の全身は凍り付いてしまう。
「大丈夫……私達がちゃんと先生を綺麗にしてあげるから!!」
「……へっ!?…こ、小森さん!!?」
そして、望は気付く。
さきほどから、霧が整理しているのは、各種の化粧道具である事に………。
「小森さん、これは一体どういう……!?」
腰を浮かせて立ち上がった望が、じりじりと霧から離れていく。
だが、突然背後から回された手に体を抱きしめられて、望はそれ以上後退できなくなってしまう。
「私達もきれいになった先生を見てみたいんです」
「つ、つ、常月さん!?あなたまで、何を考えて……!!!」
いつの間にやら後ろに立っていたまといにホールドされて、望のパニックは最高潮に達した。
「ごめんね、先生。私達も可符香ちゃん達の仲間だったんだよ」
「う、ウソでしょう?」
「だって、前に先生が女装した時の写真を可符香ちゃんが見せてくれて、それが、その、あんまり可愛かったから……」
「も、も、も、も、もういいですっ!!!もうこれ以上何も言わないでくださいっ!!!!」
望はそう叫んで、霧のそれ以上の発言を断ち切る。
そして、改めて宿直室の中を見渡して、そこに起こったある異変に気がつく。
大きな姿見の鏡がいつのまにやら部屋の隅に設置されている。
もしかしたら、望がここへ逃げ込む事など彼女達には最初からお見通しだったのではないか?
そんな事を考えていると、宿直室の扉がガラガラと勢いよく開いた。
249266:2009/07/25(土) 10:17:33 ID:+fkWNuIC
「あ、先生!!やっぱりここに戻って来てたんですね!!!」
開いた扉の向こうには、嬉しそうに微笑む可符香を先頭に、晴美と千里、そして先ほどはいなかった2のへの女子生徒達までが立っていた。
「心配しないでくださいね、先生。私、お化粧してあげるの、結構上手なんですよ」
にっこりと柔らかな笑みを湛えた大草さんが、宿直室の中に入ってくる。
【まあ観念する事だな、タコ】
パシャリと、芽留が携帯のカメラで望の姿を撮る。
「えへへ、先生ごめんね。私も先生のウェディングドレス姿、ちょっと見たいかも」
ぺこり、と一応頭を下げてみせるものの、明らかに楽しそうな奈美。
「ウェディングドレスには、きっとこの尻尾が似合うと思うんだけど……」
「あんまり色々ゴテゴテとつけるのも、あんまり良くないんじゃない?」
「そうかな?」
「そうよ」
さまざまな尻尾の入った紙袋を持ったあびると、その言葉に答えるカエレ。
「み、み、みなさん……」
次々と姿を現す絶望少女達に、望は絶句する。
彼女達は最初から全員グルだったのだ。
「それじゃあ先生、みんなで綺麗にしてあげますからね!!」
コレ以上ないくらい嬉しそうな表情で笑う可符香を前にして、もはや望には返す言葉など何一つなかった。

以下、望にとってはあまりにも惨たらしい場面が続くため、しばらくの間台詞オンリーで話を進めていく。

「うわあ、前々から思ってた事だけど、こうして間近で見るとやっぱり先生の肌って白くてキレイ……」
「いやああああっ!!!脱がせないでっ!!脱がせないでぇええええっ!!!!」
「いやだなぁ、先生。脱がなくちゃ、せっかくのドレスを着られないじゃないですか」
「素材がいいから、お化粧すると余計に引き立ちますね」
「うわっ!ほんとだ!!下手したら本物の女の子の私達よりきれいになるんじゃ……」
「ちょっ!?下着には……下着だけは勘弁してくださいっ!!!」
「いやだなぁ、そんなデリカシーのない事、私達がするはずないじゃないですか」
「そ、そ、そうですよね?そんな無茶なこと、いくらなんでも……」
「だから、先生は一旦向こうでコレに穿き替えて来てください」
「いやぁああアああああああああああああああああああああっ!!!!!」

それから都合3時間は経過しただろうか?
絶望少女達による丹念な仕事によって、望は完璧に生まれ変わっていた。
「先生っ!!きれいですっ!!!先生っ!!!」
感嘆の声を上げながら、何度もまといがカメラのシャッターを切る。
ストロボフラッシュを浴びて浮かび上がるのは、純白の花嫁の姿だ。
「う、うううう……もうお婿に行けません……」
力なくその場にへたり込んだ花嫁、糸色望は力なく呟いた。
もはや抵抗する気力もなくした望だったが、その憂いを帯びた表情が余計にその美しさを増幅させている事には気付かない。
男性的な体のラインをある程度誤魔化せるようにデザインされたドレスの効果と、元来の望の線の細さの相乗効果によって、
完成した花嫁望のたたずまいは、触れただけで花びらを散らしてしまう繊細な花のような儚げな美しさを醸し出していた。
大草さんが中心となり晴美や霧がアシストしたメイクも、望の顔立ちの元からの美しさを最大限に引き出している。
まさに完璧以上。
望のウェディングドレス姿は100点満点中120点の最高の仕上がりだった。
250266:2009/07/25(土) 10:18:22 ID:+fkWNuIC
「先生っ!!最高ですっ!!!もうたまりませんっ!!!!」
「うんうん。一分の隙もなくきっちりと仕上がったわね!!!」
満足げな晴美と千里の表情が辛くてふと顔を背ける。
しかし、今度は視線を向けたその先に、望は例の大きな姿見の鏡とその中に映る自分の姿を目にしてしまう。
一見すると、誰もが目を見張るような美しい花嫁の姿。
だが、それは確実に望自身なのである。
(もう嫌です……どうして私がこんな仕打ちを……)
現在の自分の姿を再認識させられ、望はもはや泣き出しそうな様子だ。
「ああっ!!先生、その表情いいですっ!!!やっぱり、先生は素敵すぎますっ!!!!」
そんな望の気も知らず、撮影係のまといはさらにエキサイトしていく。
と、そんな時だった。
「宿直室……でいいのかな?」
「中から人の気配もするし、間違いないだろ。さっさと入ろうぜ」
宿直室の扉の向こう、廊下の方から何やら数人の男子の声が聞こえてきた。
しかも、その全てに望は聞き覚えがあった。
彼らは全員、望のクラスである2のへの男子生徒達だ。
「ちょ、待ってくださいっ!!!今入ってこられたら……っ!!!」
「失礼しまーす」
さらなる悪夢の襲来に悲鳴を上げた望の祈りは、天に届く事はなかった。
ガラガラと開いた扉の向こうにいたのは、教室ではお馴染みのメンバーだ。
「あ……えっ!?……先生!!?」
宿直室内部の状況を目にした男子達は、一人残らず石化したように固まってしまった。
「あ!みんな来てくれたんだね」
嬉しそうな可符香の声も、彼らの耳にはほとんど届いていなかった。
久藤准、木野国也、青山、芳賀、それから臼井の計五人は目の前の花嫁の姿を凝視したまま、みるみる顔を赤くしていく。
どうやらこの五人、今日ここで何が行われているか、何も知らされないまま集められたようだった。
恐らくはこれも可符香あたりの手配だろう。
彼らが一様に顔を赤くしたのは、何よりもひとえに花嫁望の美しさのためであった。
だが、彼らの脳は次第に正気を取り戻し、それが担任教師の女装姿である事に気付く。
男性が女性の服を着るなんて変だ。
最初の衝撃が過ぎ去ってから浮かび上がってくるのは、そんなありふれた常識的思考だ。
だが、それは彼らをさらなる混乱に突き落とす事になる。
男が女の格好するなんておかしいのに、今目の前にいる望は間違いなく男だというのに、
『美しい』、そう感じる気持ちがいつまで経ってもなくならないのだ。
やがて、困惑の渦に捕らわれたまま、彼らの一人、木野国也がぽつりと言った。
「先生、きれいだ……」
「き、木野君…何を言ってるんです!?」
「あ、き……きれいです、先生……」
「久藤君までっ!!!?」
二人の言葉に呆然とする望に、さらなる追い討ちがかけられる。
「な、なあ、芳賀……お前、あの先生見てどう思う…?」
「う……う〜ん………そうだな………ア」
「……ア?」
「アリアリ……かな?」
もはや男子達の間には、この先生はきれいという事でOKという共通認識が出来始めていた。
望にはもう、この状況に抵抗する気力など一かけらも残されていなかった。
そして………
「ほら、先生、今度は外で撮影しましょう。私、近所の結婚式場の人と友達で、後で使わせてもらえる事になってるんですよ」
きらきらと輝く瞳を望に向けて、これからの予定を語る可符香に手を引かれるまま、
ほとんど生きた着せ替え人形となった望は宿直室を出て行ったのだった。
251266:2009/07/25(土) 10:19:24 ID:+fkWNuIC
宿直室に集まった2のへの生徒達は望を校内、校外のさまざまな場所に連れ出して撮影を行った。
「そうです先生、こっちに視線を向けて、そうそう、そうやって微笑んで……」
すっかりカメラマンとしてハッスルしているまといに指示されるまま、望は笑いポーズを取り、あらゆる角度から写真を撮られた。
さらに撮影の一部始終はカエレの持参したハンディカムによって撮影された。
「ウェディング先生の写真集には初回特典としてメイキングDVDが付属するんです」
そんな可符香の言葉を聞かなかった事にしながら、望は被写体としての自分の役目に専念した。
とにかく、少しでも早くこの時間を終わらせたい、その一心だった。
さらに付け加えるならば、少しでも余計な事を考えてしまうと、現在の自分の姿を恥ずかしがるだけの理性が戻って来そうで恐ろしかったのである。
予定通り可符香の知り合いに結婚式場を使わせてもらっての撮影も終わり、ようやく望が解放されたのは午後の七時を回った頃だった。
「やっと……やっと終わりました………長かった…」
現在、望は2のへの教室のカーテンを閉め切って、一人で元の服に着替えている所だった。
女子達はウェディングドレスを脱がせるのも自分達の手でやろうとしたが、望はそれを断固辞退した。
というわけで、2のへの面々は今日は解散し、望はようやく自由を取り戻したのだった。
自分の着物に袖を通すと、いつもなら何でもないその布の肌触りがひどく懐かしく感じてしまう。
化粧も落とし、袴を穿いて、ようやくいつも通りの自分の姿を取り戻すと、望の肩に今日一日の疲れがどっと押し寄せてきた。
「うぅ…まさか…二度もこんな目に遭わされるなんて……」
可符香と晴美に女装させられた前回の記憶と、それよりもさらにハードになった今回の記憶を思い出して、望は深く深くため息をつく。
悪い夢だというのなら、そう思ってしまいたかった。
しかし、ちらり、望が傍らを見ると、今日一日自分が着ていたウェディングドレスが椅子に引っ掛けられている。
それこそがまさに、今日の出来事が紛れもない現実であった事の証拠だった。
「写真集を作るという事は、今回の一件がいつまでも記録として残されるという事ですよね……」
出来るならさっさと忘れてしまいたい。
だが、そういう訳にもいかないだろう。
恐らく写真集完成の暁には、もう一度くらい今日のような大騒ぎをやるハメになりそうな気がする。
「そうですね。たとえば……販促キャンペーンとか言って、もう一度女装させられたり……ありそうな話です」
「なるほど、それはいいアイデアですね。流石は先生です!!」
独り言のつもりだった言葉に、突然返答を返されて驚いて振り返ると、そこには今回のウェディング望を企画した少女が立っていた。
「ふ、風浦さん……どうしてここにいるんですか!?今、この教室は私の着替え専用スペースになっているんですよ!!?」
「さっきからノックはしてましたよ。でも先生が気付いてくれないから……」
「だからって、勝手に入って来ては駄目じゃないですか!もし私がまだ着替え中だったら……」
「いやだなぁ、先生の着替えなら、今日はたっぷり見させてもらいましたから、そんなの今更ですよ」
「そんな事思い出させないでくださいぃいいいいいいっ!!!!」
再び今日一日の記憶がぶり返し、望は頭を抱えてうずくまる。
「宿直室で、小森ちゃんが今日の写真を何枚かプリントアウトしてくれてますから、後で見てくださいね。すっごく良く撮れてるんですよ!」
「そんなの見たくないです〜っ!!」
「藤吉さんと千里ちゃんが編集を始めてくれてますから、写真集も今月中には完成すると思いますよ」
「いやぁあああああああああああっ!!!!!!」
2のへの担任となってから随分と月日が流れたが、これ程ハードな状況が他にあっただろうか。
可符香の発言の一つ一つに、望はまるで魂を抉られるようなダメージを感じて叫ぶ。
可符香はそんな望の様子を、クスクスと楽しそうに笑いながら眺めていたのだが………
「……………」
「……どうしたんですか、風浦さん?」
望はふと、可符香の視線がある物に向けられている事に気がつく。
可符香が先ほどからじっと見つめているのは、今日望が女装に使用したウェディングドレスだった。
「きれいですよね。このドレス……」
先ほどまでの、悪戯を楽しんでいるような雰囲気とは少しだけ違った声音。
また今日の事について茶化されるのだろうと思っていた望は何となく返答に詰まってしまう。
252266:2009/07/25(土) 10:20:12 ID:+fkWNuIC
可符香自身もそれにすぐに気付いて、誤魔化すように殊更明るい声で口を開く。
「せ、先生もほんとにドレス似合ってましたよ。流石は100万人に『女の子』って言われただけの事は……」
「風浦さん」
だけど、望には何となく、ドレスを見つめていた可符香の気持ちが理解できるような気がした。
だから、望は可符香に向かってこんな言葉を投げかけてみた。
「私も、見てみたいですね」
「えっ!?」
望はウェディングドレスを取り上げて、可符香に手渡して言葉を続ける。
「私ばっかりじゃ不公平だと思うんですよ。だから、私も見てみたいんです」
「………先生、何を言ってるんですか?」
ドレスを手渡された時点で望が何を言わんとしているかは可符香にもわかっていた。
それでも問い返した彼女の言葉に、望はにっこりと笑ってこう答えた。
「私も、風浦さんがウェディングドレスを着たところを見てみたいんですよ」
予想済みの答えだった筈なのに、可符香の顔は望の言葉を聞いてみるみる赤くなっていく。
「でも、その、サイズが全然合いませんから……」
「ええ、だから、無理にとは言いません。あくまで私の我がままですよ」
「は、はい……」
そして、望は可符香の顔を覗き込みながら、こう問いかけた。
「風浦さん、そのウェディングドレス、着てみてくれませんか?」

結局、可符香は望の頼みに首を縦に振った。
「………先生に気を遣わせちゃったな」
痩せ型であるとはいえ男性であり、身長もかなり高い望に合わせて作られたドレスに、可符香は袖を通す。
今日の一件で使った小さな手鏡に映る自分の姿だけを頼りに、持ち合わせていたヘアピンを使って可符香の体に合うように布を固定していく。
一応、スカート部分の丈も調整して、なんとか可符香にフィットするように調整したのだが
「やっぱり、そんなにキレイには仕上がらないなぁ……」
ヘアピン固定で無理矢理可符香サイズに合わされたドレスは、至る所に不自然な皺が出来てお世辞にも綺麗に着こなせているとは言えない。
だけど、仕上がりの出来・不出来とは別に、手鏡に映る自分の姿を見つめる可符香の胸は奇妙な高揚感に満たされていた。
(ウェディングドレスに憧れてるなんて、ちょっと恥ずかしくて言えないよね……)
実はこのドレス、晴美と可符香の手によって製作されたものだった。
望にサイズがピッタリだったのは、まといからの情報を基にして作ったからである。
望にこの純白のドレスを着せる日を夢見ながら、毎日せっせと細かな作業を行っていた可符香だったが、
ある時、思った。
もし、こんなウェディングドレスに自分が袖を通したのなら……
「先生は、なんて言ってくれるかな?」
自分のウェディングドレス姿を、大好きな人に見せたい。
そんな少しだけ子供っぽい願望は、日を追うごとに可符香の中で膨らんでいった。
しかし、望が可符香のそんな気持ちを汲み取ってくれたのは全くの計算外だった。
望にウェディングドレスを着させようとあの手この手で追い詰めたり、
そういった事には頭が回る可符香だったが、今は自分のドレス姿を見た望がどんな感想を抱くのかで頭がいっぱいだった。
「あはは、やっぱり私、こういう事はへたっぴなんだなぁ……」
苦笑いして、可符香は呟く。
遠まわしだったり、天邪鬼だったり、ひねくれてたり、自分がストレートに思った事を表現できない人間である事は自覚していた。
だけど、そんな自分の気持ちを、望はさりげなく見ていてくれた。
それが今の可符香には嬉しかった。
「さて、じゃあ、そろそろ先生に入って来てもらおうかな」
ゆっくりと、可符香は望がその外で待っているであろう扉の方に視線を向け、そちらに向かって歩き出した。
253266:2009/07/25(土) 10:21:06 ID:+fkWNuIC
壁に寄りかかって、可符香の着替えが終わるのを待っていた望。
その目の前で、ゆっくりと教室の扉が開いた。
「もう、入って来てもいいですよ」
恥ずかしがっているのか、扉の影に隠れているらしい可符香の声が望を呼んだ。
「それでは、風浦さん、失礼します」
望はその声に従って扉をくぐり、そして、見た。
「…風浦さん…」
目を見開き、望はその姿をじっと見つめた。
「やっぱり、先生用に作ったドレスですから、あんまり上手く着られませんでした……」
弁解するようにそんな事を言いながら、スカートを摘んで可符香はその場でくるりと一回りする。
だが、そんな可符香に対して、望はただ無言で、少しばかり驚いたような表情で立ち尽くしているだけだ。
「せ、先生?」
無言の望を見て、可符香の心が不安に揺れる。
最初から理解はしていたけれど、やはりサイズの違いが大きすぎたか。
せっかく望がこちらの気持ちを汲んでくれたのだけれど、やっぱり無理があったのだ。
(ちょっと…残念かな……)
可符香は落胆をなるべく顔に出さないように、未だ無言の望に語りかけて
「先生のご期待には応えられなかったみたいです。すみませ……」
「きれいです」
その台詞を最後まで言い切る前に、望の口から漏れた呟きによって思考を寸断された。
「えっ!?えっと…せんせい,何を…?」
「何て言ったらいいのか……すごく…すごくきれいです。似合っています、風浦さん……」
そこでようやく可符香は気付いた。
望の顔に浮かんだ驚きの表情の意味に……。
「あの、すみません。……まさかこんなに似合うなんて思っていなくて、一瞬、何を言っていいのか解らなくなってました」
ゆっくりと赤く染まっていく望の顔。
それを見つめる可符香も同じく、顔がカーッと熱くなるのを感じていた。
顔を真っ赤にして見詰め合う二人の胸の内は、いつの間にやら戸惑いと照れくささでいっぱいになっていた。
「あ、ありがとうございます……。そんなに褒めてもらえるなんて思ってなかったから……」
「いえ……私が風浦さんに無理に頼んだ事ですし、こちらこそ……ありがとうございます」
ぺこり、望と可符香は互いにぎこちなく頭を下げる。
その時である。
可符香はうっかり、丈の長いスカートの裾を踏んづけて、体のバランスを崩してしまう。
望はとっさに彼女に向かって腕を伸ばし、可符香の体は、ぽすん、と望の懐へ倒れこんだ。
もはやお互いに気恥ずかしさは最高潮。
見下ろす望と、上目遣いに見つめ返す可符香、二人の視線は絡まり合い、お互いを求め合うようにそれぞれの両腕が背中に回されていく。
「あの…先生……ありがとうございました…」
ぽつり、可符香が呟いた。
「お礼なんて必要ないですよ。そもそも、私のわがままを聞いてもらっただけの話しですから……」
可符香が何の事を言っているのか何となく理解した望は、それだけを言ってそっと微笑んで見せた。
抱きしめて抱きしめられて、至近距離で見詰め合う二人。
「あの……もう一度、言ってくれませんか?」
「もう一度?」
「はい。もう一度、さっきの言葉を……」
恥ずかしそうに、小さな声で囁いた可符香の言葉に、望は肯いた。
「きれいですよ、風浦さん……」
「先生………」
やがて、二人っきりの教室の中、望と可符香は惹かれ合うようにして互いの唇を重ねたのだった。
254266:2009/07/25(土) 10:21:57 ID:+fkWNuIC
それから何度、二人は唇を重ね続けただろうか?
いくつかの隣接する机同士をくっつけ合わせたその上に、背中を預けた可符香の姿を見ながら、望は改めて思う。
(…本当にきれいですね……)
純白の花嫁衣裳はそれを身につけた可符香の美しさを、可憐さをさらに引き立てていた。
細かなレースや刺繍による飾りつけは、彼女本来の繊細さを思い起こさせる。
本来ならば望に合わせたサイズであるため大きく布が余ってダボダボになってしまう筈のドレスだったが、
可符香が応急処置的に行ったヘアピンを使った仮止めによって、ほとんど違和感は無くなっている。
2のへの女子達の私服はみな洒落ていたが、彼女がここまでのセンスを見せるとは予想外だった。
一見すると、このドレスはまるで可符香のためにあつらえたかのようにさえ見える。
そしてこの姿、この衣装を見ていると、どうしても意識してしまう事が一つ………。
「えへへ、なんだか本当に先生の花嫁になったみたいですね」
恥ずかしそうに、可符香が笑う。
望もまた同じ気持ちだった。
この少女と将来を共にしたい、そう強く願っている望だったが、少なくとも現時点で二人が結ばれるには色々と障害が多すぎた。
何年か先の将来、いつか必ず、とは思っていたが悲しいかな『さよなら絶望先生』は同じ学年を何度も繰り返すぐるぐる漫画である。
その時がいつになるのやら、望にも全く見当がつかない。
だが、今ここに望と可符香、二人の願いが具体的な形をとって存在していた。
否応もなく、二人の感情は昂ぶっていく。
「風浦さん……」
「あ……せんせ…」
そっと、望の手の平が可符香の頬に触れ、そのまま首筋を撫でて、純白に覆われた乳房に触れた。
「ふあ……ああっ……」
ドレスの薄布越しの触れ合いは互いの肌の熱を、指先の繊細さを逆に際立たせ、望と可符香の興奮を一気に加速させた。
望に触れられる度に可符香の体がピクンと反応して、ドレスの裾が舞い上がり揺らめく。
あくまで優しく繊細に、しかし絶える事無く続く愛撫によって、可符香の呼吸は徐々に乱されていく。
「うあ……あぁ…先生……ひゃ…あぁんっ!」
さらに、追い討ちをかけるように望は可符香の耳たぶにキスをして、さらに甘噛みする。
首筋に鎖骨、白い肩、可符香の肌のドレスから露になっている部分全てにキスマークを残して、望の行為はさらにヒートアップしていく。
ドレスの胸元の部分をずらして露になった乳房の、そのピンク色の先端を摘み、何度も指でこねまわす。
痺れるようなその快感に踊る可符香の体を抱きすくめ、望はさらなる刺激を彼女に与えようと今度は乳房全体を手の平で揉みしだく。
「あっ…ああっ……せんせ…せんせぇえええっ!!!!」
「風浦さん……可愛いですよ………んっ…」
「ふあ?…あ…んむぅ……んんっ……」
押し寄せる快感の多重攻撃にもう息も絶え絶えの可符香の唇を、望の唇が塞いだ。
小さく開いた口の隙間から舌を差し入れると、可符香も同じように舌を突き出し、絡ませて応えてくれた。
何度も何度も、短い息継ぎの時間を挟んで、夢中になって互いの唇を、舌を味わう二人。
快楽と熱情に理性を蕩かされていく中で、望と可符香は幾度も視線を交し合った。
自分の事をまっすぐに見つめ、求めてくれる愛しい人の存在。
それを確か合うかのように、二人はより激しく、深く、お互いの唇を重ね合わせる行為に没入していく。
「…ん…くぅ……んっ!…あぁ…ふあ…あ…うむぅ…んんっ……んぅううううっ!!!!」
その間にもより一層の激しさを増して、望の可符香に対する愛撫は加速していく。
体中を幾度と無く駆け抜ける快感の電流に震える可符香の細い太ももの間を通って、
望の指先はついにスカートの裾をくぐり、彼女の一番敏感な部分に触れる。
「ひあっ…あ……せんせいのゆびが……っ!!…っあああっ!!!!!」
ショーツ越しに触れられるだけで爆発する、焼け付くような強烈な快感。
悩ましげに表情を歪め、可符香は体を弓なりに反らせて全身を震わせる。
そうして無防備に曝された白い首に、望はさらに舌を這わせる。
「ふあっ…あ…くふぅうんっ!!…だめぇ…せんせ…そんなされたら私、へんになっちゃうよぉ!!!」
快感で快感を上塗りしていくような、まるで快楽の泥沼に沈んでいくようなその感覚に、可符香は思わず声を上げる。
だが、それは望とて同じようなものだった。
あふれ出す熱が、愛しさが、望をどこまでもこの行為に駆り立てるのだ。
止まる事もできず、深みに嵌って溺れる人のように、望は可符香に触れることをやめられない。
255266:2009/07/25(土) 10:23:03 ID:+fkWNuIC
手の平から伝わる熱、震え、間近に感じる吐息、その全てを漏らす事無く受け止めたかった。
彼女の、可符香の全てが欲しい。
純白の花嫁衣裳に包まれた少女の姿は、望が、可符香が、互いに夢見る将来の鏡写しだ。
まだ訪れる筈のない未来を可符香のウェディングドレス姿に垣間見てしまった事が、望の感情から歯止めを無くさせているのかもしれなかった。
「風浦さん、愛していますよっ!!!」
「っあああああああ!!!?…せんせい……ふぁああああああああっ!!!!」
そして、ついに望の指先によって、可符香は軽い絶頂にまで押し上げられる。
全身から力が抜けて、望の腕の中にくてんと倒れこむ可符香。
望はそんな可符香の様子を見て、心配そうに声を掛けた。
「だいじょうぶですか?すみません、なんだかやりすぎてしまったみたいで……」
「いやだなぁ…先生、大丈夫ですよ。……それに、私だって同じなんですよ……」
だが、望の言葉に応えた可符香は息を切らしながらもニッコリと笑って見せた。
可符香もまた、とめどなく襲い掛かる快楽の嵐の中に、望の存在を、その想いを強く感じ取っていた。
だからこそ、可符香の心と体もまた、熱く激しく望を求めて暴走した。
(いつか、もっとちゃんとしたドレスを着られる時まで、その時まで先生と一緒に……そして、その先もずっと…)
ドレスの存在が、自分の、そして望の強い想いを改めて実感させてくれた。
だから、可符香は微笑んで、望に言うのだ。
「先生、きてください……」
「風浦さん……」
望は可符香の体を優しく抱き寄せ、彼女の額に軽くキスをする。
可符香はくすぐったそうに笑って、お返しとばかりに望の唇を自分の唇で塞ぐ。
望の手が可符香のショーツを脱がせ、露になった大事な部分に望の大きくなったモノがあてがわれる。
「あ……先生……」
「風浦さん、いきますよ……」
望がゆっくりと腰を前に突き出して、可符香への挿入を開始する。
望のモノが少しずつ可符香の体の奥に進んでいく度に、熱く濡れた粘膜同士が擦れ合って強烈な刺激を二人にもたらす。
「くぅ…風浦さん……っ!!」
「ああっ…せんせ……せんせぇえええっ!!!」
押さえきれずにもれ出てしまう声の合間に互いの名前を呼び合いながら、二人は溢れ出る快楽と熱情の渦に溺れていく。
望が腰を動かす度に、可符香は目元に涙をためて、体をくねらせて切なげに啼く。
望はそんな可符香が愛しくて、目を逸らす事も出来ず、乱れる彼女の姿を見つめ続ける。
二人は互いの手と手を合わせ、指を絡ませ合い、快感の電流が走るその度にその手にぎゅっと力を込める。
「ひうっ…くぅんっ!!…ひゃああっ!!あっ…ああああああっ!!!!」
くちゅくちゅと響く水音と、止め処も啼く溢れ出て絡み合う汗。
何度も口付けを交わした唇と唇の間には唾液が銀色の糸を引く。
自分が、そして自分の愛する人が、この灼熱の中で乱れていく。
それを実感させられる事が、二人の興奮をさらに高めていく。
夢中になって少女の体を突き上げ、その衝撃を受ける度に少女もまた全身で反応してしまう。
汗に塗れた肌と肌を合わせていると、それだけで体温が上昇していくような錯覚を覚える。
「ふああっ…うあ…ああああっ!!!…せんせい…せんせ……私、すごく熱くて…もう……っ!!!」
「…風浦さんっ!!!…風浦さん―――――っ!!!!!!」
握り合わされた手と手に、強く強く力を込める。
快感が爆発する度に二人の視界に火花が飛び散り、思考が寸断される。
しかし、それでも望は、可符香は、愛しい人の事を見失ったりはしない。
快楽の灼熱が全てを溶かしていく中で、互いの存在だけはより鮮明に感じ取る事ができるようになっていく。
激しく互いの体を絡ませ合い、津波のような快楽に翻弄されながらも、二人は互いを求め合い加速していく。
「…風浦さん…そろそろいきますよ……っ!!!」
「…せんせ…きてくださいっ…いっしょにっ!!…いっしょにぃいいいいいっ!!!!!」
やがて際限なく高まっていく熱の中で、二人はクライマックスを迎える。
その勢いを増し続けてきた快感がついにダムを決壊させたかの如く溢れ出し、可符香と望を飲み込んだ。
「…ああっ!!!風浦さんっ!!!!風浦さんっ!!!!!!!」
「ひあっ…あああああああああっ!!!!!…せんせいっ!!!…せんせぇええええええええっ!!!!!!」
絶頂の中で叫びを上げた二人は、やがて糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
それでも、望は何とか体勢を保ち、未だ絶頂の余韻の抜け切らない体で息を切らす可符香を愛しげに抱きしめた。
256266:2009/07/25(土) 11:55:58 ID:+fkWNuIC
「せんせい……好きです…」
掠れる声で可符香が囁いた。
「ええ、私も……」
そして、望はその言葉に応えて
「愛していますよ、風浦さん………」
そっと可符香の頬に口付けたのだった。

それから数日後、望女装計画の余韻も騒がしい日常生活に流されて、望は普段どおりの生活を取り戻したかのように見えた。
だが、しかし、教室の中に致命的な変化が起こっている事に望はちゃんと気付いていた。
(ううう……どうしてこんな事になったんでしょう?)
視線を感じる。
戸惑いながらも望に熱い眼差しを送る者の存在を感じる。
それは……
「それじゃあ芳賀くん、続きを読んでください……」
「あ、……は、は、は、はい……!!」
数日前にはなかった反応。
望に向けられる男子達の視線が明らかに以前のものから変化していた。
全ては女装事件の後遺症とも言うべきものだった。
2のへの女子達は事が終わった後はすぐにいつも通りに戻ったのだが、男子達はそうはならなかった。
女装させられた担任の男性教師に思わずときめいてしまったという経験は、女子達よりも男子達にとってより衝撃的な経験だった。
忘れようとしても思い出してしまう。
ウェディングドレスを着た望の可憐な姿が頭から離れないのだ。
おかげで、2のへの男子のほとんどが望の授業中に顔を赤くして俯いているという有様である。
「ホント、参ってしまいました……」
「先生も大変ですねぇ……」
というわけで昼休憩、がっくりと肩を落とした望の頭を、可符香がよしよしと撫でる。
「……って、今回の事を企画したのは、あなたと藤吉さんじゃないですかっ!!!」
「えへへへへ………ところで先生、次は何を着たいですか?」
「どさくさに紛れて何を言ってるんですか!!次って……この間のでもう十分じゃないですか!!」
「私もそのつもりだったんですけど、ほら、予想外の需要が開拓できたじゃないですか」
可符香はそう言って、何人かで集まって雑談をしている男子達に視線を向けた。
「新しい需要って……」
「既に男子のみんなにはアンケートを取り始めてるんですよ。今のところ、一番人気はバニーですね」
「うう……絶望したっ!!何かヤバイ方向に向かっているウチのクラスの男子達に絶望したっ!!!」
まさに絶望的な事態の進展に頭を抱える望を見て、可符香はクスクスと笑う。
すっかり意気消沈した望だったが、目の前の可符香の笑顔に、
ふとあの時のウェディングドレスをまとった彼女の笑顔を思い出す。
ほんのささやかな願いや、素直な気持ち、風浦可符香という少女はそういった自分の心の声を知らず知らずの内に押し殺してしまう。
だけどあの時、真っ白な花嫁衣裳に袖を通したとき、彼女は心底嬉しそうに笑っていた。
複雑怪奇な思考と発言で、自由自在に周囲を惑わす風浦可符香という少女。
だけど、その奥底には誰よりも繊細で不器用な心を隠し持っている。
もう一度、あの時の彼女の笑顔を見てみたい……。
望はそう思っていた。
「うぅ……わかりました。観念します……ただ、バニーだけは勘弁していただけると嬉しいです」
「そうですか!きっとみんな喜びます!!」
「ただ、その代わりお願いがあるんですが………」
「はい?何ですか?」
だから、望は彼女の耳元でこんな事を囁いてみるのだ。
「もう一度、ウェディングドレスを着てみてくれませんか?」
「えっ…そ、それは……!!?」
「あの時の風浦さん、やっぱりすごく綺麗でしたから……」
「先生………」
今度は、自分の女装用にあつらえたものなんかじゃない、彼女用のドレスを着てもらおう。
きっと、とても似合うから。

やがて、真っ赤な顔で、照れくさそうに笑いながら肯いた可符香を見て、望もまた、嬉しそうに肯いたのだった。
257266:2009/07/25(土) 11:57:40 ID:+fkWNuIC
以上でお終いです。
途中、こちらのトラブルで投下がかなり長い時間中断してしまいました。
本当に、申し訳ありませんでした。


それでは、この辺りで失礼させていただきます。
258名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 14:56:51 ID:86VNHI2Z
なんかどんどん作風が女性向けに寄っていってる
259名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 16:21:43 ID:8l3E7ibU
>>244
素晴らしいです。
やっぱ先生にデレデレな小森ちゃんは可愛いですね。
260名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 00:18:58 ID:kIKpY74D
ありがとうございます
また書かせてもらいます
261名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 01:16:50 ID:JncAoGBQ
先生は総受けだよな
262名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 01:32:09 ID:NINSVevm
なんというか、何でも投下すりゃスレが盛り上がるってもんでもないだろう
たぶんここもメインは男オタだろうし…その層は喜ばんだろこれは
263266:2009/07/26(日) 02:17:43 ID:/2OiI+cB
>>262
申し訳ありませんでした。
そうですね。このスレを読む人の事を考えれば、不適切な話だったかもしれません。

ただ、先生の女装はあくまで前フリのネタとして笑い飛ばしてもらえれば、というのが私の考えでした。
女装というちょっとアレなネタから望×可符香な展開につなぐ落差が面白いんじゃないかと考えたのですが、
やはり考えが甘かったというべきでしょうね。
女装という時点で引いてしまう人はそれなり以上の数になるでしょうし、
SSの中での女装した先生が『きれい』である、というのもそういった方面を苦手とする方には辛い内容になってしまったと思います。

>なんというか、何でも投下すりゃスレが盛り上がるってもんでもないだろう
これも私にとってはかなり耳に痛い言葉です。
ここ最近、思いついたネタを書き上げては投下する、という事ばかりを繰り返していましたからね。
お陰で、今回のようなご指摘を受けてしまう事にもなってしまいました。
もう少し、よく考えて書かないといけませんね。

それでは、失礼いたしました。
264名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 02:25:24 ID:d3hkNR8e
いやー何でも望カフに繋いでいくのが266氏のなんというか芸風だからいいんじゃないっすか
265名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 02:32:54 ID:krxPlph7
んだんだ
266名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 06:17:46 ID:NINSVevm
そう思うなら感想でも言っときゃいいじゃん
俺にうけなくても、楽しんでる奴がいるんなら文句言わんよ
>>258から数レス見てたらほとんどが引いてるって思うのも仕方ないだろ
そんなタイミングで急なフォロー入れても自演に思われるだけ
267名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 09:40:59 ID:krxPlph7
カリカリし過ぎで引くわ
いきなり自演扱いだし

まあ感想書かなかったのは確かにアレか
リアクションが無いと書き手のモチベーションも下がるというもの
268名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 11:44:02 ID:bV87pc+w
長くてくどい地の文と説教臭い話が合わさって読むのしんどいんだよなあ
好きな奴は好きなのかもしれんが、おかげで女の子が可愛くないと感じる話も多い
その傾向もどんどん強くなってきてるので俺はダウンして好みのSSが来るのを待ってる状態
まあ支持する人がいるならそれで良いんでない?
269名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 12:16:13 ID:yDuiItGW
>>266
たかがエロパロのSSの為に自演したって誰も得しないだろ
270名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 12:25:01 ID:d3hkNR8e
>>266
なんでも望カフに繋ぐのが266氏の芸風なんだなぁ……というのが俺の感想だよ。悪いか。
271名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 12:50:11 ID:hrkEAaZl
普通に引いたけど
272名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 13:44:20 ID:Ey+c5oS0
自分は266氏のSSは好きだけど
脈絡もなくただヤッてるだけの話より
なんて言うとここはエロパロだって言われるんだろうけどな
273名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 13:59:49 ID:kPgc0KMz
266氏、あまり気負わずに書いてくれ。その作風を楽しく読ませてもらってる奴もいるから。
274名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 16:11:03 ID:5KgEIFci
文句があるなら黙ってろよ
このプロギャラリーどもが
275名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 20:41:30 ID:r4Sioj67
だったらお前が書けよ!
276名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 21:45:40 ID:+tndECl9
「小森さん、もうそろそろいいです。」絶望が小森の頭をなぜると、
ぷわっ。と絶棒から口をはずして顔を上げる。
「でもせんせー、まだ出てないでしょ。」唾液でゆるゆるとなったそれを口腔の肉で吸い上げる
「だって、小森さんが苦しそうですし。」小森の額に汗が滲んでいたのは照れや興奮だけが原因ではなかった。
「小森ちゃんはあまりお上手じゃないから。仕方ないですよ、センセ。」
「つ、常月さん…いたんですか?」
「ええ。ずっと。」
「ら…らにょ」小森は頭だけで髪をずらして視界を確保する。敵は小森を冷ややかに見下している。
「先生はここが弱いんですよ。」もぞもぞと袴の壁に手を滑らせて指をうずめていく
「ひっ!つ、つ、常月さん…おやめな」
「で、こうすると…」まといの口角が少し歪むのに応じて絶望が小森の頭を掴む力を強めた
「うああっ! 」「んふっ!」波は同時に襲ってきたのだ。
「ほら、堪えきれずにあっというまに爆ぜるんですよ。かわいいでしょ。」引き抜いた指先を音を立てて舐めてみせる
「常月さん、それはちょっと…」
「げふっ…うぅ…。まといちゃん手を洗ってきなよ。」
「私は先生のならなんだって!」思わず二人の間を割って入るも、二人とも表情が芳しくない。
「常月さん、もし今私が貴女とその…キスをしようとは正直。思いません。
277名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 21:46:18 ID:+tndECl9
推敲途中で送信してしまった。

続きません。
278名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 22:13:57 ID:kIKpY74D
書かぬなら 書いてみせよう 望霧を
279名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 22:14:34 ID:QaQTFoM5
霧交で頼む
280名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 22:16:44 ID:kIKpY74D
「小森さん、実はプレゼントがあるんですが…」
「えっ…!?ホントに?」
「えぇ、いつもお世話になっているお礼です」
「ありがと、せんせぇ」
「それで、これなんですが…」
「何だろ?開けてもいい?」
「えぇ」
「…万華鏡だぁ」
「今日、久しぶりに寄った骨董屋で見つけたんです」
「凄い…、綺麗だよ」
「気にいってもらえましたか?」
「うん!ありがと、せんせぇ!」
「それはよかったです」
「でもいいの?こんな高そうなもの…」
「構いません、お礼ですから」
「えへへ、大切にするね」
「喜んでもらえて、私も嬉しいです」
「せんせぇ、大好き」
「こ、こら抱き着いたら…」
「んふふ、なぁに?」
「そ、その小森さん。当たってます、けど…」
「せんせぇだけの特別だよ」
「まったく、とんだおませさんですね」
「えへへ♪」
281名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 22:20:23 ID:kIKpY74D
地の文書けない
てゆーか霧交は無理ッス
282名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 23:37:37 ID:LZwQN9mz
266のは内容は別に悪くはないが投下量が多すぎて感想書くのが面倒くさい
俺の理想の可符香像とだいぶ違うのは別に構わないが
283名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 00:53:44 ID:Pitkv468
望霧また読めるようになって嬉しいぜ。
増えてくれると良いなぁ
284266:2009/07/27(月) 01:24:57 ID:zGpYyryM
みなさん、色々とご意見をありがとうございます。
地の文のくどさ、説教臭さという点、可符香のキャラが変なんじゃないかといった部分は、
以前から自分でも意識はしていましたが、どう改善していいか今まで思いつかなかったというのが実情です。
ただ、友人に相談したりした結果、もうちょっと新しい方向性を模索しようかとは思っています。

そして、今回一番の問題だったであろう『女装』などの、
このスレでの主な読み手を不快にさせるような要素については
これからはもっと慎重になろうと思います。

投下量の多さも不快さの要因になっているようなので、
これからはもう少し自重して、内容についてもっと良く練り込むようにしたいと考えています。

ただ、上に書いたような事は、あくまでこれからも私がこのスレで書いてもOKならば、というのが前提の話です。
こんな私でもまだこのスレで書かせていただいても良いというのならそれは嬉しいですが、
いや、やはり266はちょっと駄目だろう、と仰るのならそれも仕方が無いかな、というのが今の心境です。
285名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 01:48:14 ID:q0//R80+
書きたい人が書きたい時に書いて投下するのがこのスレの存在意義なんだから
基本的には誰に気兼ねすることないと思う
かといって独り善がりになってもしょうがないけど

あーしかしその繊細さがあってこそ物が書けるんだろうな
うらやましい……
自分はパロは書けてもエロは書けない
286名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 08:39:33 ID:0P6RA40W
>285

いいじゃないですか、パロが書けるんなら。
ここは「エロ」「パロ」スレなんだから。
エロでなきゃいけない訳じゃないし。
実際保管庫にもエロ無し話がたくさんあるし。

ちなみに私はSSは読む専門で書くのは一切×。
287home:2009/07/28(火) 19:06:59 ID:C3Pc2OXM
>>285
自分もエロは苦手です
288home:2009/07/28(火) 19:40:35 ID:C3Pc2OXM
とゆうわけでエロなし
あと望←霧、まとい
289home:2009/07/28(火) 19:41:31 ID:C3Pc2OXM
火事が起きた。
放火したのは、真夜。
放火されたのは、まとい。
特にこれといった理由はないのだろう。
望を廻る戦いは目に見えていないだけで、あらゆる場所で起きている。
今回は目に見える形で現れた。


「というわけで、先生。しばらく泊めて下さい」
「何がというわけですかぁ!」
「…プンスカ」
「だって先生、私には帰る家がないんですよ?」
「しかし、女生徒が教師の家に泊まるなど…」
「…」
「…その女はよくても、私はダメなんですか?」
「えっ!?いやっ、…それは」
「せんせぇが迷惑してるのが分からないの?」
「うるさいわね、私は先生と話をしてるの」
「…その、小森さんは別ですよ。不下校なんですから」
「…ニヤリ」
「特別扱いはいけませんよ先生。PTAが知ったら、何て言うでしょうか…?」
「ひっ!贔屓教師としてマスコミに叩かれる!絶望した!」

チキン教師として名高い糸色 望。
不下校少女、小森 霧。
ディープラブなストーカー、常月 まとい。
三人の奇妙な共同生活が始まった。
290home:2009/07/28(火) 19:42:14 ID:C3Pc2OXM
朝が始まった。
熟睡とは言い難い眠りから覚める望。
結局まといの宿泊を許した。
布団は三つあるが、少女が左右に寝ているのだ。
どちらに寝返りをうつかだけでも喧嘩の原因になりかねない。
金縛りの感覚。
ただただ、天井を眺めていた。
そんな長い夜から抜け出すように、望は布団から出た。
横を見るとまといは未だ眠りに着いたまま。
すーすーと寝息を立てるその小さな鼻。
寝顔は可愛いと形容するしかないほど穏やかで。
つい頭を撫でてしまった。
不意に嫌な予感がして、後ろを振り返る。
しかし、そこには霧が寝ていたはずの空の布団があるだけだった。
ただの気のせいであったことを安堵して、望は居間へと向かう。
そこには朝食の用意をしている霧が。

「おはようございます、小森さん」
「おはよう、せんせぇ」

望と一緒にいるときは、いつでも嬉しそうな霧。
今朝だけは、様子が違った。
明らかに不機嫌な顔で、
「あいつは、まだ寝てるの?」
「…常月さんですか?まだのようですが」
「しょうがないなぁ、ご飯冷めちゃうよ」

よく見ると、食卓には三人分の朝食が用意されていた。
口では、あからさまに嫌がっているが、きちんと三人分を用意する。
それが小森さんの素敵なところだな、と思う。
頬を膨らませる霧の頭を撫でる。
291home:2009/07/28(火) 19:43:02 ID:C3Pc2OXM
「小森さん、…貴女は優しい人ですね」
「えっ…!?(//△//)」
「常月さんは、私が起こしてきますから」

そういいながら、立ち上がる。
さっきまで自分がいた空間はなにも変わらず、そのままだった。
相変わらず可愛らしい寝顔のまといに近付く。

「常月さん、朝ですよ。起きてください」
「…ZZZ」

軽く揺するが反応はない。
仕方がないので耳元で話しかける。

「常月さん!起きてください」
「…んっ、先生そんなところ触っちゃダメですよ、…ZZZ」
「……変な夢を見るのはやめてください!」

まといの寝言につい大声でツッコミを入れてしまう望。
さすがに耳元で騒がれては、起きないわけにはいかない。
モゾモゾと動き出しまといが目を開ける。
目と鼻の先には望の顔がある。

「そんな先生…、寝込みに唇を奪おうとしなくても、言って下されば私はいつで
もオッケーですのに…」
「…へっ?いや、私はただ貴女を起こすために」
「そんな言い訳なんて必要ないです。さぁ、熱い接吻を」
「いや、違いますから!」

正面からまといに抱き着かれ、身動きが取れない望。
それでも何とかキスだけは避けようと、身を捩りジタハダ動く。
バランスをなくした二人の体は倒れ込み、望がまといに押し倒される形で横たわ
る。
その拍子に、まといの唇が…。

「せんせぇ、まだ起きない、の…?」

タイミングがいいのか悪いのか。
霧が襖を開けると、そこには望に抱き着き口づけるまとい。
まといから逃げようと、もがいている望。
望の首筋に、これでもかというほど吸い付きながら霧をちらりと見る。
その瞳には勝利の色が輝いていた。
霧が来たことに焦り、望はまといを無理矢理引きはがした。
292home:2009/07/28(火) 19:45:42 ID:C3Pc2OXM
「せんせぇに何してるのよ!」
「あらっ、先生のほうから誘ってきたのよ」
「…そんなっ、私はただ」
「せんせぇがそんなことするわけないでしょ」
「どうしてそんなことが言えるのかしら?」
「二人とも落ち着いて…」

延々と繰り返される争いは、呼び鈴がなるまで続いた。
せっかく霧が用意してくれていた朝食も、授業に行かなければいけない望とまと
いは一口も箸をつけれないままに宿直室を後にした。
朝から嫌気がさす出来事に、霧の気分はがた落ち。
毎日の生活を共に過ごしている望は、そんなこと百も承知だった。
あまりに不憫に思え、また、申し訳なく思った。
一限目の授業が終わる鐘が鳴る。
今までこんなことしたことない。
望は真っ直ぐと宿直室を目指した。

「小森さん、いらっしゃいますか?」
「あっ、せんせぇ。どぉしたの?」
「いえ、少し小森さんのことが心配でして…」
「心配してくれたの?でも大丈夫だよ。朝のことなら気にしてないから」
「すみません、私が優柔不断なせいで…」
「ううん、せんせぇのせいじゃないよ。それより上がって?時間あるでしょ?」

さすが望のことをよく分かっている。
今日の望のスケジュールでは、一限目の次は三限目に授業があるので、暫く暇が
ある。
望としても断る必要はないので、部屋の中に足を踏み入れた。

「悪いのはせんせぇじゃなくてまといちゃんなんだから」
「まぁ、常月さんも大変な境遇ですから。あまり怒らないであげて下さい」
「…せんせぇは、優しすぎるんだよ」
「そうでしょうか?」
「…プンスカ」
「私は貴女のほうが、ずっと優しいと思いますが…」
「…(//△//)」
293home:2009/07/28(火) 19:46:19 ID:C3Pc2OXM
照れて顔を上げない霧の頭を撫でる。
何だか望自身がこの動作に、魅力を感じ始めていた。
素直に頭をこちらに預けている霧の姿勢は、あまりにも可愛らしくて。
つい抱き寄せてしまった。
嫌がる様子もなく、体全体を望に寄り添わせる霧。
二人は、そんな姿を誰かに見られているとは夢にも思わずに、ただ時間が流れる
のを待っていた。
すると、予鈴が鳴り響いた。

「私、そろそろ行かねばなりませんね」
「…うん、いってらっしゃい。せんせぇ」
「また、後でお会いしましょう」

急ぎ足で宿直室を後にする望。
扉を開けっ放しにしたままで行ってしまう。
しょうがないなぁ、と心で呟き、扉を閉めに行くと、そこに一人の影が。
まといがそこに立っていた。
今までの場面を見られていたことに呆然とする霧を睨みつけ、
「…負けないから」
「えっ…!?わ、私だって」

それだけを言い残し、まといは望の後を追い掛けた。
霧も一瞬だけついて行きそうになるが、踏み止まる。
少しだけ悲しい衝動だったが、忘れようと努力して霧は晩御飯の準備に取り掛か
った。
二人の少女の熱き戦いが始まる。
294home:2009/07/28(火) 19:48:03 ID:C3Pc2OXM
今回はここまでで
295名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 20:06:38 ID:QFrsJRJT
エロ苦手なのか…でもかわいいGJ
続き待ってます
296名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 20:08:23 ID:o+0WWtzy
GJ
続き待ちます待ちます
297名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:28:21 ID:4var69uK
今望千里書いてるけど、エロどうしよう・・・ノーマルプレイだったら削った方がいいのか、普通でも入れるべきか迷い中。
妙な第三の選択をしそうw
298名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:31:53 ID:ZDrZa+eb
>>294
小森ちゃんがとっても可愛いです。続き楽しみにしてます!

エロ苦手とは思えない程、読みやすいですよ。
299名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:45:18 ID:ZDrZa+eb
ごめん、sage忘れ
300名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:36:35 ID:qx6Us2G6
>>297
ノーマルだとなにか不都合があるの?
少なくとも俺は大歓迎だぜ!
301名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:12:19 ID:FaiKIiAe
実を言うと まといもけっこう好きだ
(キャラ崩壊注意かも)
302名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:24:35 ID:FaiKIiAe
地の文書けない者
実はまといもけっこう好きです
(まといキャラ崩壊注意かも)
303名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:34:01 ID:FaiKIiAe
「先生、今夜は外食ですか?」
「おや、常月さん。いたんですか?」
「えぇ、ずっと」
「今日は夕飯の食材を買っていなかったので…、丁度いい、常月さんもご一緒にどうでしょうか?」
「えっ…、いいんですか?」
「えぇ、実は外食に一人で行くのは、寂しいと思っていたところです。御馳走しますよ」
「嬉しいです♪」
スタスタ
「何だか、常月さんが隣に居るのは不思議な感覚ですね」
「嫌ですか?」
「いえ、嫌という意味ではありませんよ。何と言いますか…」
「…?」
「どちらかと言えば、今のほうが先生、落ち着きます」ニコリ
「そ、そうですか」ドキドキ
「あぁ、ここですね」ガラガラ
「いらっしゃい!何名様で?」
「二人です」
「お二人様、御案内です」
スタスタ
「さて、常月さん、何にしますか?」
「そぉですねぇ…」
「おや、限定メニューがありますね」
《気まぐれシェフと森の妖精達のリゾートカレー》
「じゃあ先生と同じのにして下さい」
「それでは、…すみませ〜ん!」
「はいっ、御注文はお決まりでしょうか?」
「これを二人分頂けますか?」
「スミマセン、そちらのメニューは限定メニューですので、本日残り一品となっております」
304名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:35:11 ID:FaiKIiAe
「なんと、困りましたねぇ…」
「それでは私は《頑固なシェフと小牛達の嘆きのビーフシチュー》でお願いします」
「分かりました、すぐにお持ち致しますので、少々お待ち下さい」
スタスタ
「いいんですか?常月さん…」
「えぇ、御馳走していただくんですから…。当然ですよ」
「すみませんね」
「お待たせ致しました、《気まぐれシェフと森の妖精達のリゾートカレー》と《頑固なシェフと小牛達の嘆きのビーフシチュー》です」
「美味しそうですね、」
「ホントに美味しそうです」
「…ほぉ、こんなカレーは今まで食べたことありませんね。絶品です!」
「このビーフシチューも凄く美味しいです」
カチャカチャ
「…モグモグ、ゴクン。常月さん」
「何ですか?先生」
「こちらのカレーも食べてみて下さい、美味しいですよ」
「えっ…!?いいんですか?」
「えぇ。はい、どうぞ」
「ちょっ…!?先生!お店の中で恥ずかしいですよ」
「いいから、早く食べなさい」
「…アーン、パクッ」
「どうです?美味しいでしょう?」
「と、とっても美味しいです…(//△//)」
「よかった。では常月さんのも食べさせて下さい」
「わ、私がするんですか?」
「えぇ、その通りです」
「は、はい」
「アーン、パクッ、モグモグ」
「お、美味しいですか?先生」
「ゴクン。とても美味です」
「ここのレストラン、とても料理上手なんですね」
「そのようですね、…またご一緒しましょうか?」ニコリ
「えぇ、是非」ニッコリ
305名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 00:35:40 ID:FaiKIiAe
っていう夢を見たんだ…
306名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 01:06:31 ID:mBYtNGfh
>>303
なんというか、平和ですね。ちょっと面白かったです
307名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 06:23:46 ID:4slzqYYX
姉妹丼万歳です^q^
308名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 08:44:43 ID:41jDVV/S
さて、キタ姉はこのスレで燃料になるのでしょうか。
309名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 08:57:28 ID:4slzqYYX
先生と両想い的描写があるキャラは今回が初めてだから燃料にならなきゃ困る


来週はどうだかわからんが
310名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 10:14:53 ID:wWgkBG+d
夏休みだから家に帰ってきているという設定で出たキャラゆえ出番は少なそうだな
31120-32:2009/07/29(水) 12:24:46 ID:S+cZSiA6
エロパロスレには二回目の投稿になります。
望×千里エロあり、キタ姉ネタあり
五分割にしてみましたが見辛かったらすみません!

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「ただいま、―…え、先生?」

千里が図書館から帰宅し、家の戸を開けると、そこには担任の糸色望の姿があった。

「おや、木津さん」
「どうして、先生がうちにいるんですか?」
「ああ、多祢さんとお話していたんですが、もうお暇しますよ」

さらりと言って下駄を突っ掛け、千里の横を通り抜けようとする。千里は強く唇を噛んだ。
この熱い中、わざわざ姉のために家を訪ねてきたのだ。家庭訪問に来るからと思い、千里が今か今かと待っていたときですら家の戸をくぐらなかった望が。

「いつもいつも女の子を勘違いさせていると思っていたけど、きっちり責任を取るどころか、今度はお姉ちゃんとなんて!」

気付けば、参考書が何冊も入った手提げバッグを望の後頭部めがけて、思い切り投げつけていた。後ろで倒れる音が聞こえたが、構わずに階段を駆け上る。自室に飛び込むと、床に蹲り涙を拭う。
また、やってしまった。

「木津さん!」

少しすると、部屋をノックする音と共に望の声が聞こえた。
返事をせずに立ち上がり、慌てて手の甲で涙を拭く。泣いているのを見られるのは嫌だった。

「木津さん、開けますよ?」
「か、勝手に開けないでください!」

しかし、止める間もなく扉が開き、望が入ってきてしまった。

「先生、もう帰るんじゃ無かったんですか?」
「木津さん、これ、外に放っておいたら盗られてしまいますよ」

望が手にしていたのは、さっき投げつけたバッグだった。反対の手で、自分の後ろ頭をさすっている。早く謝らなければと思うが、顔を見ると、さっきの悔しさが再びこみ上げてくる。
312続き02:2009/07/29(水) 12:25:27 ID:S+cZSiA6
「…お姉ちゃんの部屋、とっても汚かったでしょ」
「はあ、それは確かに」
「それに、髪もボサボサだし、服も適当だしっ」
「木津さんは、お姉さんの事が嫌いなんですか?」
「嫌い、では無いですけど…」
「私も上の兄弟が多いので、反発してしまう気持ちは分からなくもありませんが。でも、多祢さんはあなたの事をとても心配していますよ」
「っ…どうしてお姉ちゃんは名前呼びなのに、私の事は苗字のままなのよ……」

情けなくも、一度は拭いた涙がまた零れそうになる。
姉が帰ってこなければ良かった。その前だって望が振り向いてくれていたわけではないのに、そんな事を思ってしまう。

「木津さん、…いえ、千里さん」
「今更、結構です!」

千里は、ぷいっと望へ背を向けた。自分はいつでもきっちりしていたいのに、望の事になるとおかしくなってしまう。
本当は、さっきの事を謝りたい。
名前を呼んでくれた事も、こんな状況にも関わらず胸が弾んだ。
意地を張れば張るほど、自分が我侭な子供のようで、どんどん望は離れてしまうのに。

「…本当にあなたは、仕方ないです。世間様から見たら、私も十分に仕方ない人間でしょうが、千里さんには敵いませんよ」

呆れた声が思ったよりもすぐ傍で聞こえて心臓が跳ねる。背中が温かい。
望に、抱き締められている。
そう気付いた瞬間、肩が強張ってぴくりとも動けない。気持ちも混乱している。望は姉に心を寄せてしまったのではなかったのか。何故、今更抱き締めたりするのか。

「私は、多祢さんがあなたを思い心を砕いている事に、共感したのです。私も、肉親のようなそれとは違いますが、あなたの事を放っておけないと言いますか、その」

 望の言葉の歯切れが悪くなる。腕の力だけが強くなって、腕を動かす隙間も無い。

「先生、い、痛いです」

それに、少し怖いです。いつもの先生じゃないみたいで。
続けてそう思ったが口には出せなかった。千里にとっては、追いかけても、いつも逃げられてしまうのが常になっていて、望の方から歩み寄られる事にはひどく戸惑ってしまう。
313続き03:2009/07/29(水) 12:27:15 ID:S+cZSiA6
「生徒としてではなく、それ以上に、あなたに好意を持っています。…好きです、千里さん」
「え! で、でもっ。お姉ちゃんの事綺麗だって…」
「綺麗だと思いましたよ? でも、一言でも好きだなんて言いましたか?」
「でも、私また先生に酷い事を…」
「それこそ今更ですよ」
「でも、でも―」
「もう、『でも』は結構です」

体を反転させられて唇が重なる。千里は、反射的に瞳を伏せた。唇の間を探られて、柔らかい舌が入ってくる。

「ん、んんっ……」

歯の裏側や、上顎を丁寧になぞられて、完全に望のペースだ。とても、きっちりなんて出来そうにない。襟元を掴んで体が倒れないようにしているのが精一杯だった。
舌先同士を擦り合わせられると、甘く声が零れる。

「ん、ふ…ぁ…」
「はぁ、…千里さん、嫌でしたか?」

唇を離し、大人びた雰囲気を纏いながら望が声をかける。しかし、千里は顔を真っ赤にして、強く望の襟元を引いた。

「い、いつからなんですか?!」
「え?」
「いつから、私のこと好きだったんですか?! きっちり教えてください! …そうじゃないと、先生の言う事、まだ信じられません」
「ええと、そうですね。あなたと保健室で一緒に寝たときくらいからでしょうか」

望は、困ったように笑った。

「信じられないでしょう?」
「信じ…られるわけないじゃないですか!」
「あの時から、あなただけは、他の女性に対してのものとは何か気持ちが違うと思っていたんですが、よもや、それが恋愛感情だとはすぐに自覚出来なかったのですよ。十程も歳が離れた女性とに恋をするとは…」
「…本当に、本当なんですね?」
「はい、本当ですよ」

千里は望の首に腕を回してぎゅっと抱きついた。こんなに近くで触れる事は無かった望との身長差を改めて意識する。
314続き04:2009/07/29(水) 12:32:33 ID:S+cZSiA6
「さっきは、酷い事をしてすみませんでした。まだ痛いですか?」
「はは、もう慣れましたよ」

後頭部に触れるが、望は軽く笑って千里の長い髪を撫でた。

「外、暑かったでしょう。首の後ろ、汗をかいてますね」
「っ、せんせい、何して…」

望の唇が千里の首筋を辿る。ぞくりと肩を竦めるが、肌に触れる熱は退かなかった。

「髪、こんなに長いのに上げないんですね」
「私、きっちりしていないと嫌なので…。先生は、結った髪の方が好きなんですか?」
「いえ。ただ、こんなに綺麗な肌なのに汗疹が出来たりしてしまっては勿体無いと思いまして、ね」

自分が、望からこんなに甘い言葉を貰う日が来るなんて。
いつの間にか、望の手は千里のシャツの内側へ潜り込んでいた。
心も体も溶けそうになりながら寄りかかっていると、飾り気のないシンプルなブラジャーがずり上げられる。
嫌ではない。寧ろ心地がいい。
それなのに、千里はつい、服の上から望の手を押さえ込んだ。胸はコンプレックスなのだ。
クラスメイト達の豊満な体を見る度に、内心気にしてきた。
望はそっと手を退くと、畳へ座って千里の手を引いた。

「横になりましょうか、木津さん。…あ」
「木津で良いです。もう、名前の事なんて気にしてないですから」

千里は小さく笑い、畳に横たわった。髪が床に散らばり、膝丈のスカートが太股にまとわりつく。
望は、千里の膝を立てさせて足の間に腰を収め、自分よりも小さな体を組み敷いた。遠慮なくシャツを下着ごとたくし上げ、控え目な膨らみの先端に吸い付く。
同時に、片膝で千里の足の付け根を刺激するとすぐに濡れた声が上がった。

「あ…! せんせ…い、っ…」
「ん、気持ち良いですか…?」
「あっ、ぁ…はい……っ、ん、あぁっ! だめ…」

かり、と乳首に歯を立てられた千里の腰が揺れる。望は顔を上げ、今度は唇にキスを落とすと、下着越しに指で割れ目を辿った。下着は既にしっとり濡れていた。
一度、腰を引いてずり下げ、伸びてしまうのも構わず足首から引き抜く。小さな抵抗の声が上がるが、甘えたように弱々しいものだった。
望は袴の紐を引き、千里の膝の裏に手を入れ、軽く腰を上げさせる。

「せ、先生…?」

耳に唇を触れさせる望の手付きが最初の穏やかなものから荒々しいそれに変わっている事に気付き、千里は不安げに名前を呼んだ。その間にも、望は絶棒を取り出して千里の腿を大きく割り開かせていた。はしたなくスカートが捲れ上がり、明るさの下に秘部が晒される。
315続き05(最後):2009/07/29(水) 12:33:31 ID:S+cZSiA6
「す、すみません。どうしたんでしょう、何だか余裕が無くて」

はっとしたように望が手を止めるが、千里の目には勃起した男性のものがはっきりと映っている。千里は、にっこりと微笑み自ら太股を軽く閉じて、誘うように望の腰を挟んで擦り合わせた。

「…先生、嬉しいです。先生がちゃんと興奮してくれて」
「当たり前じゃないですか、私はまだ現役なんですからね」

冗談めかして頬にキスをしてから、望は小さな入口に絶棒を合わせた。濡れた箇所は、たいした力を加えずとも、にゅるりと男性器を受け入れ包み込んでいく。

「っ…、木津さん、大丈夫ですか?」
「ぁ…あぁぁっ、はぁ、せんせ、だいじょうぶ…です…」

根元まで収めて息を深く吐く。耐えるような千里の目尻には薄く涙が浮かんでいたが、鳥肌が立つような快感に、望の腰はすぐ動き出してしまう。

「やっ、ぁああっ、あん、せんせい、せんせいっ!」
「ん…、はぁ、すみません、でも、気持ち良い……、木津さん…っ」

千里は、想像以上の圧迫感に、ひっきりなしに声を上げていた。しかし、内側から引っ張られるような違和感は、次第に疼くような快感に変わっていき、だんだんと自らの腰も望に合わせて動きはじめた。

「え、あっ、や…こんなっ、ああぁっ、わたし、ごめんなさいせんせえっ」
「良いんですよ、っ…あなたも気持ちよくなってくれたみたいで、嬉しいです…」
「ひゃっ、あ、せんせい、なんだか、奥が、おくがあつくて…ぁああっ、あっ」

望を受け入れている千里の内壁は、入口から奥の方まで大きく収縮し、まるで絶棒を吸い絞るかのように締め付けた。

「はぁっ、イキそうなんですね、…私も、そろそろ限界です…」

望の腰の動きが激しくなり、千里の奥を何度も突き上げる。寄せては引いていた快感の波が受け止めきれない程の強い波になり、引く事無く持続する。初めての行為に、千里の頭は真っ白になっていた。

「ああっ、もっと、せんせっ!! っ、ん、あぁ、もうダメ…っ、…あぁッああああッ――!!」
「ッ、……千里さんっ―…ぅ…っく…!は…!」

望はすんでのところで腰を引こうとするが、千里の太股ががっしりと細腰をホールドして離れない。深く繋がったままの状態で白濁を吐き出すと、くったり千里の上へ体重を預ける。

「はぁ、はぁ……先生…」
「すみません、あの、中に出してしまって…」
「良いんです。…でもその代わり、こ、今度こそ…きっちり責任を取ってもらいますからね?」
「はい、もちろんですよ…」

望は、柔らかく微笑んで千里の唇を啄んだ。
互いに、幸せそうに相手へ腕を絡めて強く抱き合う。
夏の温い風が窓から吹き込んで、二人の汗ばんだ肌をそっと撫でた。


end.
316home:2009/07/29(水) 12:36:48 ID:eQWjnpMw
GJリアルタイムで見れた
千里可愛い
31720-32:2009/07/29(水) 12:47:19 ID:S+cZSiA6
おしまいです
もしよければ感想などいただけたら嬉しいです!

今後キタ姉も投下されるのか楽しみ
318名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 13:38:03 ID:bUWkkUW0
千里かわいすぎる
姉妹丼!姉妹丼!
319名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 17:23:04 ID:AOLvYJkH
さっそく来たねえ
320名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 17:27:47 ID:AOLvYJkH
そういうつもりで書きこんだのではありません
321名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 20:14:05 ID:IhuRBoSF
>>320
何言ってんのお前?
322名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 20:37:15 ID:O3AdzznX
>>321
よく読んでやれ
323名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 21:38:18 ID:AoahtgYE
不覚にも
324名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 00:04:19 ID:GDsgSILB
>>317
GJ! 俺が本編に期待してる展開と被ってるところがちらほらw 覗いたんですね!
本編でもラブコメやってほしいというか、やらないわけないよね!
325名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 08:56:24 ID:LUvNoL47
千里ちゃんすごいなモテモテだ
326home:2009/07/31(金) 09:12:39 ID:OfIj2dKO
>>293
からの続きです
327home:2009/07/31(金) 09:13:59 ID:OfIj2dKO
キーンコーンカーンコーン。

「それでは、今日の授業はこれで終わりです。…あと三珠さん、警察の方が聞き
たいことがあるそうですので、行ってください」

ガヤガヤとしだす教室内。
それは、生徒の一人が警察に事情聴取されるからではない。
授業が終わり無駄話を始めたからである。
特に代わり映えのない生活の中で、望は宿直室へと向かった。
後ろにはピッタリとまといがくっついている。
それも日常茶飯事に過ぎない。
扉に手をかけて、それを開く。
がらがらと音を立ててながら、その隙間に体を割り込ませる。
台所には夕飯の準備をする霧が。
二人が帰ったことには気が付かない。
いつもより短い毛布なのか、普段は見えない生足がすらりと伸びている。
それに気付き、一瞬眺める望。
さらに、それに気付いたまといが望の耳を軽く引っ張った。

「いたたた…、な、何をするんですか!常月さん」
「…早く中に入りましょう、先生」
「あっ!せんせぇ、おかえりなさい。…まといちゃんも」
「ただいま、小森さん」
「……ただいま」

帰ってきてすぐ険悪になりかけの二人。
喧嘩をされては堪ったものではないと思う望は、とにかく何か話題を考えた。
が、何も思い付かない。
今この空間では、何か喋り出した方がまずい気がしてならなかった。
じっと押し黙ったままの望。
部屋の中にはトントンと大根が切られる音だけが響く。
いつもなら好きなはずの沈黙は、望の背に重くのしかかった。

(ダメです、もう堪えられません…)
328home:2009/07/31(金) 09:15:04 ID:OfIj2dKO
「あ、あの、小森さん」
「ん〜、なぁに?せんせぇ」
「えっ〜と、…風呂の掃除をしておきますね」
「えっ、いいよ。せんせぇ、私がやるから」
「いえいえ、小森さんに頼りきりではいけませんから」
「なら先生、私がやります」
「つ、常月さん…」
「…」
「お風呂場は確かこっちでしたよね?」

まといが、望の背中から離れて歩き出した。
昨夜身を清めたので、風呂場の場所は知っていた。
すぐにそれを止めようと望が手を伸ばすが、思い留まる。
…別にまといが行ってもいいのではないか?
自分はただ、この場にいるのが嫌だったから。
風呂掃除を口実に抜け出そうとしただけで。
この雰囲気が変わるのなら、それはそれでよい。
望は伸ばした手を落とし、元の位置に戻した。
その思考に辿り着いた望は、この生活を生き抜く必勝法に感づいた。

(小森さんと常月さんを、一緒に居させてはいけない!)

今更な気もするが、望にとっては死活問題であった。
何とかしてピリピリとした空気を追い払った望は、つかの間の安堵をゆっくりしようと思ったが、そんなものはありはしなかった。

「きゃあっ!?」

風呂場から急に聞こえた短い悲鳴。
望はなんであろうかと訝しく思い、様子を見に。
霧もその手を止めて、心配そうに風呂場の様子を伺っている。
そこには頭から水を被ったまといがいた。
329home:2009/07/31(金) 09:17:17 ID:OfIj2dKO
「どうしました?常月さん…、って大丈夫ですか?」
「うっ、先生…。冷たいです…」
「どうしてそんなことに…?」
「水を出そうと思って蛇口を捻ったら、シャワーになってて…」
「と、とりあえず服を脱がないといけませんね」
「…はい」

幸いなことに、濡れていたのは上着のほうだけ。
しかし、髪の毛はビシャ濡れだ。
タオルを手繰り寄せ、少女の頭に乗せた。
手際よく着付けを外しているので、まといは両手が塞がっている。
しょうがなく望は、まといの髪を拭いてあげた。
大人しくしているまといの髪を、丁寧に拭いていく。
この少女が髪に思い入れがあるのか、望は知りはしなかったが、自分に出来る限
り丁寧に拭いた。
肩までの、女性にしては短い髪の毛を拭くことに集中していると、いつの間にか上着を脱ぎ終えたまといが、そこに立っていた。
白い死装束のような胴着をだけを着た少女は、恥ずかしがりもせず、真っ直ぐ望を見つめた。
髪を拭く手が不意に止まった。
妖艶にも見える目付きは、こちらを意識してのことだろうか。
先程の霧と同じように、長くすらりと伸びた足が白く眩しい。
少し濡れて肌に張り付く肌着が、望の網膜に焼き付けられる。
目線は変えないまま、まといが呟く。

「あの子と、…小森ちゃんと、どっちが綺麗ですか?」
「…へっ?そ、それは…」

つい口をついて出そうになる。
目の前の少女を称賛する評価が。
その麗しい瞳に騙されそうになる。
いや、騙されているのではない。
虜にされているのか。
ここで答えると、どうしようもなく面倒なことになる。
それを知っている望は、黙り込んでいる。
やけに長い時間が経った気もするが、本当には10秒も過ぎていない。
その長く短い時間を見つめ合って過ごし、そうして、まといの方が観念した。

「…さぁ、先生。着替えるので出て行って下さい」
「えっ?あっ、はい」
330home:2009/07/31(金) 09:18:12 ID:OfIj2dKO
背中を押されて、その場から退出するように命じられる。
普段のまといからしたらあまり考えられない行動な気もした。
しかし、まとい目にはしっかりとした満足気な色を映しており、また頬を赤く染めていた。
それが何を意味しているのか、望には少し理解できていた。
けれど、それを否定できるような立場に望はいなかった。
少女の潤んだ瞳はそのままで、望は脱衣所を後にした。
鼓動を早くした心臓を鎮めもせずに、居間に座り込む望。
自分が何をしていたのか、食事の準備を終えた霧が聞いてきたが、何故か素直に答えられなかった。
正直に答えるのは、まといへの裏切りに思えたし、二人の喧嘩が再開する原因にも思えた。
暫くすると着替え終わったのか、まといが早々と脱衣所から出てくる。
まだ赤い頬をおしべもなく晒し、望へと微笑みかけた。
二人のいつもと違う雰囲気に、霧はただ疑念を抱くことしか出来かった。
まといが起こした事件も、時が経てば望の心からは少しずつ失せ始めた。
今は目の前に広がる夕食に目を奪われ、舌鼓を打つのに夢中だ。

「相変わらず、小森さんの料理は美味しいですね」
「えへへ、そうかな♪」
「えぇ、食がよく進みます」

まるで新婚の夫婦であるかのような会話は、望が自分の存在を忘れているのではないかと、まといに危惧させた。
楽しそうに食事を続ける望に大きな寂しさと、ちょっぴりの悔しさを持つ、まとい。
時に嫉妬の念は、少女を大胆な行動に移させるものだろうか。
自分の箸で自分のおかずを摘み、それを望の元へと。

「はい、先生。いつもみたいに私が食べさせてあげますよ♪」
「へっ…!?いつも?」
「そんな邪魔女がいるからって遠慮しないで下さい」
「い、いえ…」

そんな有りもしないことを言われて焦る望だが、まといには有無を言わせぬ迫力が溢れていた。
望は口に放り込まれた物を、それが食べ物であるかも確認せぬまま飲み込んだ。
冷静に見れば、望の態度は全然そうではないのだが。
傍から見る霧は、まるで二人がラブラブなカップルかのように振舞っている。
そう見えて仕方がなかった。
目からは嫉妬の炎が吹き出んばかりで、霧の箸はミシミシと悲鳴を上げていた。
そんな霧をチラリと見て、勝利の冷笑。
普段は温厚な霧も、さすがにこれには我慢ならなかった。
331home:2009/07/31(金) 09:20:38 ID:OfIj2dKO
「せんせぇ…」

声を掛けたが返事を待たないで霧は立ち上がると、望の首に手を回してそのまま膝の上にちょこんと座ってしまった。
そのままの状態で顔を望にすり寄せ、甘えだした。
あまりの霧の行動にまといは箸を落とした。
望も声をださないまま、固まる。

「せんせぇ、いつもみたいに私に食べさせて…?」

顔を真っ赤にしながらも潤んだ瞳で望の顔を見つめながら、霧はもてる勇気を振り絞ってその言葉を口にした。
もちろん、そんな事実は無いのだが、まといも同じ手段を用いているので、おあいこだ。
甘い砂糖菓子みたいな香りと、霧の体の柔らかさに望の鼓動が勝手に早くなり顔も赤く変わってきた。
二人の女生徒の誘惑は、望の心労をピークまで持って行き。
事切れたように望は、その場で倒れた。
しかし、霧を道連れにはせずに器用に倒れた。
頭から湯気が吹き出ている。
そんな状態の中で…。

「あんたがあんなことするから、先生倒れちゃったじゃない!」
「まといちゃんだって!昼間にせんせぇのこと誘惑してたじゃない!」

もちろん霧のはったりだ。

「…!?」

図星を突かれて少々焦るまとい。
まといの反応に確信を得た霧は、言葉を続ける。

「ふふーん、知らないとでも思ったの?せんせぇは私に隠し事なんてしないもの」
「嘘よ、先生は話してないわ」
「なんでそんなことが言えるのよ?」
「だって、私にはちゃんと盗聴器があるのよ」
「そんなもの持って…、ストーカー!」
「…!?引き篭もり!」
「ストーカー!ストーカー!」
「引き篭もり!引き篭もり!引き篭もり!」

少女達の言い争いは、望の目が覚める深夜まで行われていたそうだ。
332home:2009/07/31(金) 09:42:24 ID:OfIj2dKO
今回はここまでで
333名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 10:30:55 ID:5Mo64SMU
GJ
だけど証拠過多の三珠ちゃんが事情聴取されちゃったら駄目じゃないでしょうか
334名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 10:33:48 ID:nj+twyEe
>>332
すごーくGJです!
小森ちゃんもまといもどっちも可愛すぎ
335名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 10:34:18 ID:nj+twyEe
ごめん、またsage忘れ…
336名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 21:08:00 ID:tT0La8xt
gjおもしろい
337名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 21:27:08 ID:EqTppc+H

エロゲ表現規制対策本部 179
http://qiufen.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1248967827/

エロゲ表現規制 政治系対策本部13
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1248497515/

エロゲ販売規制問題まとめwiki - トップページ
http://www28.atwiki.jp/erogekisei/
338名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 23:23:44 ID:dE2LlVax
>>333
すぐに釈放なんで大丈夫でしょう
339266:2009/08/01(土) 12:16:08 ID:UEpiTVyb
先日はお騒がせして申し訳ありませんでした。
短いやつ、例によって望カフを投下します。
兎にも角にも、住人の方が不快に感じるようなSSにはならないように、気をつけたいです。
340266:2009/08/01(土) 12:16:49 ID:UEpiTVyb
その日、2のへの面々は海水浴にやって来ていた。
思い思いに泳ぎ遊ぶ生徒達の姿を、少し離れた場所から望は見ていた。
「先生、みんなの所へは行かないんですか?」
「ん?ああ、風浦さん」
振り返ると、可符香の水着姿が目に入った。
「高校生の体力について行く自信はありません。精々のんびりさせてもらいますよ」
「先生ももうお年ですからね」
「そこは何かフォローしてくださいよ。『何言ってるんですか。先生もまだまだ若いんだから、こういう時はしっかり遊ばなくちゃ』とか」
「何言ってるんですか。先生もまだまだ若いんだから、こういう時はしっかり遊ばなくちゃ」
「…………泣いてもいいですか?」
言葉だけでコテンパンにされた望の横で、可符香は楽しそうに笑う。
涙目の望はそんな彼女の姿を見て、ある事に気付いた。
「………水着、新調されたんですね」
「えへへ、気付いてくれたんですね」
白を基調としてパステルカラーの花がアクセントとなったワンピースの水着。
眩しそうに目を細める望の前で、可符香はくるりと回って見せた。
「どうですか?」
どうですかも何もない。
申し分なかった。
その水着は彼女に完璧なまでに似合っていていた。
だから、望は感じたそのままを言おうとして
「風浦さん、その水着……」
「似合ってるとか、きれいだとか、可愛いとか、素敵だとか、そう言ってもらえると嬉しいです!」
言おうとした内容の全てを、片っ端から彼女自身に叩き潰された。
「え……!?」
望の目の前で、可符香が笑う。
確信犯だ。
向こうから質問を投げ掛けておいて、こちらが何か言うより早く、予想され得る答を全て自分で言ってにして潰してしまう。
「あう……う……」
「……もしかして、似合ってませんか?」
ちょっと不安そうな顔をしてみせるのもわざとらしい。
素直に「きれいですよ」とでも言えばいいのだろうが、変なところで意地っ張りな望にはそれができない。
「風浦さん……あの…その……なんというか……」
「まっさきに先生に見てもらいたかったのに、残念です」
ぐるぐると望の思考が空回りする。
脳内辞書に一斉検索をかけて適切な言葉を何とか見つけようとするが、望の中では何か言わなければという焦りばかりが蓄積して
「ふ、ふ、風浦さん……っ!!」
「はい?」
「好きですっっっ!!」
出てきたのは、こんな言葉だった。
少しばかり焦りすぎたのだ。
完全に使用する場面を間違えた台詞に、望も、可符香も凍りついた。
「あ……うぅ…はい……うれ…しいです………」
「ああ…そうですか……それは良かった……よかったです……」
互いに赤面して、二人は俯いてしまった。
空も海も相変わらず青く、そこに響く2のへの面々の声はこのひと時を満喫しきっている様子だった。
そんな中、時間に取り残されたみたいに硬直した二人が金縛りから解かれるには、
そして、互いに面と向かって話せるようには、まだしばらくの時間が必要なようだった。
341266:2009/08/01(土) 12:17:45 ID:UEpiTVyb
以上でお終いです。
失礼しました。
342名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 16:53:44 ID:dlnlr05j
GJ
安定感がハンパない
343名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 22:56:51 ID:yCSMcyat
乙。
先生切羽詰まり過ぎw
344名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 09:55:12 ID:Zke5VD+c
>>341-343
自分で自分にレスして虚しくならないの?
345名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 12:39:16 ID:X1jdadFB
粘着乙
もう、そういう不毛な嫌がらせやめようよ
他の職人さんも来なくなるよ
346home:2009/08/03(月) 16:16:45 ID:RJilr/kW
ひつまぶし
347たまには、こんな雨の日も。:2009/08/03(月) 16:19:28 ID:RJilr/kW
重力に逆らわず、大粒の雫が降り注ぐ。
毛布に包まったままの霧が、窓から外を眺める。
珍しくテレビもパソコンも、電気類は付けられていない。
静かに流れる雨の音は、外の世界と宿直室とを隔離していた。
仕事もなく、外に出掛けるのも億劫な天気の中で、望も静かに読書をしている。
時折ページを捲る音が、部屋の中で響いた。
窓の外のグラウンドには、水が溜まる。
この中を歩き廻れば、際限なく足が濡れるだろう。
もう長いこと外を歩いていない霧は、ボンヤリ考えた。

「…凄い雨だね」

読んでいた本から目を離して、霧の方へと目を向ける。
窓から顔を逸らさずに、外を見たまま霧は話しかけていた。
身を乗り出してた霧の身体から、毛布が落ちそうだ。
望はキャミソール一枚とショートパンツの霧の向こう側に目を遣る。
風は強くないのか、雫は叩き付けられるようには降っておらず。
真っ直ぐに導かれるように、地面に落ちている。
たまに物好きなものだけが、窓にぶつかり。
ツゥー、っと一筋に流れる。

「確かに、凄い雨ですね」
「…うん」
「どうかされたのですか?小森さん」
「ううん、何でもないよ。せんせぇ」

霧の興味は雨に向かってだけ注がれており。
自分の姿には無頓着だった。
ずり落ちた毛布から覗く、白い肌。
ゆらゆらと揺れる、長い髪。
望の目には霧の足の裏まで、美しく見えた。
霧が気付かないほどに静かに立ち上がり。
ゆっくりと側まで歩いていく。
後ろまで来て、ようやく霧が気付いた。

「小森さん。そんな格好では風邪をひきますよ」
「あっ、…うん」
「ちゃんと毛布を被るか、服を着てください」

そう言って霧の背中にそっと、毛布を掛ける。

「ありがと、せんせぇ」
「どういたしまして」

振り返り、望を見つめる。
そんな姿が愛らしくて、微笑みかける。
霧もまた、望に極上の笑顔を見せた。
二人共に思う。
たまには、こんな雨の日も…。
348home:2009/08/03(月) 16:43:26 ID:RJilr/kW
ひまつぶし、とも言う
349名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 17:24:08 ID:Q76St2vd
これはにやにやが止まらない。
350名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 17:41:47 ID:ppgBeRvJ
ひつまぶしご馳走になりましたgj
351名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 21:39:02 ID:ddGlalEi
どんどん暇を潰して下さい
352home:2009/08/04(火) 19:38:05 ID:vtmw8gPK
今日も一日暇でした
エロなし 望霧
353home:2009/08/04(火) 19:39:08 ID:vtmw8gPK
霧がゴソゴソと物を探っている。
今日は土曜日で、朝から掃除を手伝う望。
久しぶりの休日は、宿直室の大掃除をして過ごす。
きっかけは霧の提案で。
ただでさえ宿直室は狭いのに、望の私物が多すぎると。
普段から世話になっている霧には言い訳も出来ず。
望は嫌々ながらも、部屋を着実に綺麗にしていった。
溜めに溜め込んだ新聞紙をまとめて運び。
その時、霧の姿に気が付いた。
押入れの中に頭を突っ込み、お尻がこっちに向いてる。
包まっている毛布は霧の背中を守っているが、お尻にまでは届いてない。
何を探しているのか、望には分からないが。
その可愛らしく、美しい下半身。
それが何を意味するかは、分かる。
昼間からそんな事を考える自分を、聖職としてどうかとも思うが。
雄としての本能は、それが正しい事を示している。
すっと立ち上がり、ゆっくりと近づく。
あと1メートル。
50センチ。
もう少し、…。

「あったー!せんせぇ、あったよ♪」
「へっ…!?な、何があったんですか?」

慌てて伸ばしていた手を引っ込める。
それと同時に霧が押入れから顔を出した。
少し焦っている望には気付かず。
霧は自分の探し物を見せてくれた。
あまりに無邪気な、その笑顔に望はすっかり毒気を抜かれてしまった。
354home:2009/08/04(火) 19:39:42 ID:vtmw8gPK
「ほら、全座連から送られてきたんだよ。座敷童子のストラップ」
「座敷童子の、ストラップ…?」
「うん。これに座敷童子が願いを込めると、持ち主が幸せになれるんだって」
「へぇ…、それはまた珍しいものですね」
「ずっと前に送られてきたの。忘れちゃってた」
「…まぁ、忘れても仕方がないものですね」
「はい、せんせぇ♪」
「えっ…!?頂けるんですか?」
「うん、せんせぇの為にいっぱいお願い込めたから。きっと効くよ」
「ありがとうございます、小森さん」

受け取った望はじっくりとそれを眺める。
金色に光る座敷童子は毛布に包まれおり、どう見ても霧だった。
長く伸びた髪と、微笑んでいる瞳。
望はそれを鞄に付けると荷物をまとめだした。

「どぉしたの?せんせぇ…」
「掃除も終わりましたので、少々気晴らしに出掛けてきます」
「分かった、帰りは何時頃になるかな?」
「はっきりとは言えませんが、夕方には戻ります」
「いってらっしゃい、せんせぇ」

そうして、宿直室の出口まで霧が見送る。
掃除も終わり晴れ晴れした気持ちの望は、ランラン気分で校庭を行き。
校門を抜けようとした、その時。
望の足元に大きな石が、落ちていた。
それに気付かずに歩き続け。
結果として、望は派手に転んだ。
両手を前に伸ばし、うつ伏せに倒れる。
丁度その手に革張りの感触。
望が握り締めたまま起きて確かめると、それは財布だった。
中身を開いてみれば札束がぎっしり。
355home:2009/08/04(火) 19:40:44 ID:vtmw8gPK
(こ、これが小森さんの力………!?)

いくら望がボンボンに育っていようと、財布にぎっしりの諭吉は見たことがない。
さすがにネコババする勇気もなく、望は真っ直ぐに交番へと持っていった。
大した距離でもなく、望の足でも5分しか掛からない。

「すみません!落し物なのですが…」

声を掛けてみるが、すでに先客が居る様子で。
中から話をしているのが聞こえる。
とっととこの場から離れたい望は、勝手に中へと押し入る。
そこには一人の警官と、紳士の姿をした中年が。

「すみません、落し物なのですが」
「今、それどころじゃないんだよ…って」
「あー!それは…、わ、私の財布」
「へっ…!?そうでしたか。学校の前に落としていらっしゃいましたよ」
「糸色先生は人間の鑑ですな。生徒たちの立派な手本になられますよ」
「本当にありがとうございます。いやー、これがないと何もできませんでしたよ」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
「貴方は何て素晴らしい人だろうか。これはほんのお礼です」
「そ、そんな、お気になさらないで下さい」
「いえ、どうか受け取って下さい」
「そ、そうですか。それでは遠慮なく」

ラッキーボーイ望は、お礼として一割を頂いた。
この場合は10万円を指す。

(こ、これが小森さんの力………!?)

元金を手に入れた望は先程を上回るルンルン気分で、商店街に向かう。
目指すのはただ一箇所。
新規オープンを先週から始めたパチンコ屋。
早く来ようと思っていたのだが、なかなか機会が無く。
今日まで先延ばしされていたのだ。
入り口までスキップで、早速店内に入る。
ガヤガヤとうるさい場所だが手馴れた望は全く気にせず。
取り合えず落ち着こうと、適当な場所に座る。

(まぁ、10万もあれば、いつかは当たりが来るでしょう)
356home:2009/08/04(火) 19:41:31 ID:vtmw8gPK
軽い気持ちで始めた望だが。
すぐにまた霧の力を思い知ることとなる。
望が座ってから2時間。
望の周りには数え切れないほどの箱の山。
そして、それらの全てがパチンコの玉で埋め尽くされていた。
自分がパチンコを楽しむことも忘れて、野次馬が集まる。
望は笑いが止まらなかった。
調子に乗った望は、時間も気にせず打ちまくった。
打った。
打ちに打った。
打ちまくった。
どれだけ時が経とうと、自分の力を信じて止まない望は。
店を潰す勢いで玉を弾き出した。
刻々と流れる時間は、霧の心を蝕む。

(せんせぇ…、まだかなぁ)

望は気付かなかった。
鞄に取り付けられたストラップの表情が悲しみに染まるのを。
その瞬間から、望の台にはぱったりと当たりが来なくなり。
望の後ろに積み上げられていた玉は、あっという間に無くなった。
すっかりしょげた様子の望と、満足顔の店員。
あれだけあった富の象徴は、いまや両手いっぱい分しかない。
このまま続けても勝利はないと考えた望は、残っている玉を全てチョコレートに変えて店を出た。
帰路を急ぎ、霧の元へと。
宿直室の前に来ても、ストラップは悲しんだまま。
しかし、それには気付かないまま。

「ただいま戻りました」
「あっ…!おかえり、せんせぇ」
「すみません、小森さん。遅くなりまして」
「ううん、そんなに待ってないよ」
「それはそうと、お土産があります」
「えっ…?本当に?」
「ええ、コレです。小森さんが喜ぶだろうと思いまして」
「チョコレートだ♪ありがと、せんせぇ」
「いえいえ、どういたしまして」
357home:2009/08/04(火) 19:42:32 ID:vtmw8gPK
それから望は、今日一日だけで何があったかを霧に話して聞かせた。
普段からは考えられない強運の出来事を全て話して聞かせ。
最後に問いてみる。

「…小森さん、やはり今日あったことはこのストラップと関係があるんでしょうか?」
「へっ…、わ、分かんないよ。そんなすごい力は多分、師範代くらいじゃないと…」
「しかし、今日に限ってあんなに良いことが立て続けに起こるとは。何か運命を感じませんか?」
「ん〜…、私せんせぇのこと大切に思って願いを込めたから」
「…!?あ、ありがとうございます」
「えへへ、またお願い込めとくね」
「ふふっ、お願いしますね」

少女のその嬉しそうな瞳を見ては、望に遠慮など出来なかった。
夕ご飯のことも忘れて望は、今日の出来事の感謝の意を込めて。
霧が自分にしたように、霧の幸せを願いながら。
毛布の上から霧を抱きしめた。
望に身を任せて、寄り添う霧。
鞄のストラップは、幸せそうに微笑んでいた。

end

題は”それが霧の本気”
358home:2009/08/04(火) 19:44:37 ID:vtmw8gPK
明日は暇だろうか…
359名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 21:17:23 ID:+PV9I/iM
明日も暇であることを願おう
360名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 21:41:12 ID:Mt96A+Di
gj霧かわいい
361名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 22:47:20 ID:Bj55jQMA
>>353の望は間違いなくエロ教師
座敷童子すげー…。
362名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:34:21 ID:4DH3k7cE
霧とカフカばっかりね、ここ
363名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:50:26 ID:27orw50k
というか霧のを書く人と可符香を書く人しかいないんだよな
364名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 06:19:33 ID:ALJ8RfuU
三期始まって賑やかになるかと思ったんだがなぁ
365名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:32:34 ID:Ye9Iqwg3
>>358
あなたの作品を読むのが楽しみになってます
366名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:33:01 ID:dQMHwavT
まだ書く人がいる分マシでしょう
367名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 13:01:41 ID:L+xnkr0l
霧と可符香だけで総需要の8割はカバーできる
368名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 13:07:49 ID:nBE/rjqZ
>>367
気付いたか?このスレには俺とお前とあと一人しかいないんだ。
三人だけでスレを回してたんだよ。
369名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 13:50:21 ID:MyuToRVt
>368
それどこの絶望放送ww
370名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 10:35:32 ID:CyIPm5kP
絶望した
371home:2009/08/06(木) 13:04:23 ID:uKuFsmJm
意味なしオチなし
望霧
372霧は死んだふりが上手い:2009/08/06(木) 13:06:00 ID:uKuFsmJm
それは朝から起きた出来事。
また何でもない一日が始まると考えていたのに。
望にはあまりにショックだった。
宿直室で、霧が倒れている…。
あまりの出来事に口が利けなかったが。
すぐに霧の元へと近づく。

「小森さん!」

…心臓は、動いている。
だが意識がなく、息をしていない。
こういう場合は、人口呼吸しかない。
望はすぐに気道を確保して、霧の口を開かせ。
息を吹き込もうとするが。
その瞬間、霧が目を開けた。
しかも、自力で呼吸をしている。

「えっ…!?小森さん、大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「い、一体、何があったんですか?」
「え、えと…、死んだふりをしてたの…」
「…はい?」
「その、暇だったから…」

大きく息を吐く望。
少し顔を赤らめておどおどする霧。

「ご、ごめんね。せんせぇ、あんなに驚くと思わなかったから…」
「…いえ、小森さんが無事なら良かったです」
「えっ…!?それって、どうゆう意味?」
「とにかく、ビックリさせないで下さい。私の心臓が止まるかと思いました」
「ごめんなさい。…でも」
「…?」
「せんせぇが、そんなに心配してくれるの嬉しいな…」
「ま、まぁ、小森さんは私の大切な教え子ですから、心配するのは当たり前です」
「えへへ♪」
「もう、あまり驚かさないで下さいよ」
「はぁい」
373home:2009/08/06(木) 13:06:59 ID:uKuFsmJm
もちょっとマシなもの考えてきます
374名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 13:24:07 ID:HY6tQcwD
金魚ショックから心を癒すには嬉しい投下なんだぜ。
小森さん可愛いよぉ。
375名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 16:02:09 ID:+HhTlkG1
よくそんなにネタが浮かぶなぁ
しかも望霧で
376名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 17:51:18 ID:1CgbUw+p
まぁ小森さん出番少ない方だからなぁ。
これだけ思いつけて羨ましい。
情熱は一番の燃料という事か。
377名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 18:48:14 ID:ppXxyQnD
原作では先生との絡みが少ないから嬉しいです。
378266:2009/08/06(木) 23:34:21 ID:v4URWDp9
>>372
GJです。
恥ずかしくも微笑ましい雰囲気がいい感じです。
そういえば、確かに小森さんは色んな暇つぶしの方法を考えついていましたね。

私も書いてきたので投下します。
以前から書いているちょっとアレなカップリング、万世橋君と芽留の話です。
エロなしの短め。
それでは、いってみます。
379266:2009/08/06(木) 23:35:56 ID:v4URWDp9
「よくもめるめるを消したなぁ〜っっっ!!!!」
連載時にはページ上に存在していた筈の娘・音無芽留の姿が、コミックスでは編集ミスの為に消滅してしまった。
怒りに震える芽留パパは既存の物理法則を遥か彼方に置き去りにした超巨体で、怒りの叫びを上げた。
その場に居合わせた望や2のへの面々もこれには圧倒されるばかり。
芽留もまた、今まででも最大級の自分の父親の暴走にガタガタと震えるばかりである。
だが、そんな時である。
「よう」
芽留の背後から、耳に馴染んだ声が聞こえた。
【わたるっ!!!】
芽留が振り返った先には、万世橋わたるが立っていた。
その姿を目にした芽留の胸の内に、嬉しさと不安感がない交ぜになって湧き上がる。
この場面でわたるが来てくれた事は心強い。
だが、芽留の父親は娘に近付くこの太った目つきの悪いオタク少年を快く思ってはいなかった。
ただでさえ怒り心頭の芽留パパが、わたるの姿を見てどんな行動を起こすのか?
だが、わたるはそんな周囲の緊迫した空気など気にもせず
「ほれ、行くぞ」
【ふえっ!!?】
まるで子猫でも摘み上げるみたいに、芽留のセーラー服の後襟をつかんでひょいと彼女を持ち上げた。
【な、な、な、何しやがるっ!!はなせーっ!!!オレをどこに連れて行く気だ、このキモオタっ!!?】
「いや、お前が言ったんだろ。今日のこの時間に迎えに来いって」
【えっ?】
「買い物、行くんだろ?」
そういえば………。
芽留は思い出した。
今日の昼の事である。

【つれてけ】
「な、なんだ?藪から棒に?つれてけって、どこにだ?」
【いいから、つれてけ!!】
「だから、そういう話は具体的な場所を言ってからだな……ん?」
あまりに唐突な芽留の発言に、わたるは戸惑った。
だが、その内彼は思い出した。
一週間ほど前の昼休憩、2のへで交わされていた会話の内容を。
『夏休みに入ったら、2のへのみんなで海に行こう』
何となくではあるけれど、その一件が関係しているように思えた。
そこから連想される諸々と、最近の芽留の様子・発言をわたるは照らし合わせて、一つの結論を導き出す。
「もしかして、水着でも買いに行こうってのか?」
【…………っっっ!!!?】
芽留の顔が真っ赤に染まる。
どうやらアタリを引いたらしい。
【……いやその、別に無理にってワケじゃない。ただ、出来るんならお前がいた方が何かと都合が……】
「さっきは無理矢理にでも連れて行け、っていう風情だったぞ」
【…………そりゃあ、まあ……お前に選んでもらいたいし……水着………】
急にしおらしくなった芽留の様子に、わたるまで何だか恥ずかしくなってしまう。
まあ、別に急ぐ用事があるわけじゃない。
女子の水着選びの場に自分が居合わせるなんて、少し前には想像もしなかったが、コイツの頼みでは断れない。
何より、芽留が自分に一緒に来て欲しいと思ってくれているというのは、素直に嬉しい話だった。
「わかった。今日の授業が終わってすぐでいいか?」
【お、おう!忘れたりしたら、承知しないぞっ!!】
380266:2009/08/06(木) 23:36:48 ID:v4URWDp9
……とまあ、そんな事情だった。
【……そういえば、そうだったな】
自分の父親の行動が、もはや人類の範疇を遥かに越えてしまう異常事態に動揺して、
すっかりその約束を失念していた芽留だったがようやく思い出した。
そうだ。
今日は、わたると水着を買いに行くのだ。
【よしっ!すぐ行こうっ!今行こうっ!!早く行こうっ!!!】
こうなると芽留も現金なものである。
持ち上げられたままの状態で、手足をバタつかせてわたるを急かす。
だが、その場に横たわる『彼』は、娘がむざむざと連れて行かれるのを傍観していられるような人物ではなかった。
「ちょぉっと待てぇええええええっ!!!!!!」
大気を震わす大音声と共に、芽留パパが巨大化したその体を起こす。
「きゃあああっ!!!」
「ちょっと、その図体で動き回らないでよぉ!!!」
割れて砕ける地面と、舞い上がる砂埃、崩れ落ちる瓦礫の山。
芽留の父の激情はまさに天災の如く、周囲の2のへの面々に襲い掛かった。
「めるめるをぉ、連れて行くだとぉおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
ギロリ!!
先ほどのコミックス第十二集芽留消失事件だけでも怒り心頭だった芽留パパは、
烈火のごとく燃え上がる瞳でわたるを睨みつけた。
だが………
「それじゃあ、さっさと行って、さっさと選ぶぞ」
【いや、ちょっと待て。お前、今のこの場の現状を解ってるのか?】
「なんだ?お前が約束を忘れるから、時間が押してるんだろうが」
父親の大暴走で今にも泣き出しそうな芽留とは反対に、わたるはまるでそれが見えていないかのように落ち着き払っていた。
まるで、芽留の父親が眼中に無いかのように……。
だが、それは違った。
「おい、ちょっとそこのお前、これ以上勝手にめるめるを……っ!!!」
「ああ、すみません」
芽留パパの叫び声に、わたるは振り返った。
「娘さんの事、ちょっとお借りします」
「な…っ!?…か、借りるって!!?」
「用事が済んだら、責任を持って家まで送りますから、心配しないでください」
「ちょ、ちょっと待て!!!!」
「それじゃあ、時間ももうあまり無いので、失礼します」
戸惑う芽留パパに淡々と言い切って、わたるはくるりと踵を返した。
そして、芽留を片手に抱えたままの状態ですたすたと去って行く。
【……お前、思っている以上に大物なんじゃないか?】
「………?さすがにお前の父親の前で、挨拶もなしは失礼だろ?」
【いや、そーじゃなくて………ああ、まあいいか……】
「それより急ぐぞ。次のバスに乗り遅れるとマズイ」
【わかった………って、なんでさっきからオレはお前に担ぎ上げられてるんだ!!?】
「お前の歩幅じゃ、バスに間に合わん」
【何をっ!!デブオタの鈍足よりは百倍マシだっ!!】
言い合いながら遠ざかっていく二人の後姿を、芽留パパは呆然と見送っていた。
やがて、その巨体はしゅるしゅると縮んで、普通の人間並みのサイズに戻る。
「………………ああ、……めるめる……」
愛娘の名を呟き、深くため息をつく芽留パパ。
完全敗北だった。
いや、先ほどの状況の何を持って敗北とするのかはわからないが、うなだれたその姿はまさしく敗北者だった。
「あの…そんなにお気を落とさないで……」
見かねた望の慰めの言葉にも無反応。
もはや、誰もその背中に声を掛けてやる事は出来なかった。
381266:2009/08/06(木) 23:37:25 ID:v4URWDp9
それから数時間後、無事に水着を購入した芽留は、約束通りにわたるに伴われて家路を歩いていた。
【何も、お前がカネを出す事無かったと思うぞ。小遣いなら、クソヒゲハットから嫌になるほど貰ってるしな……】
たっぷりと時間をかけて水着を選んだ後、その代金を支払ったのはわたるだった。
【お前もオタクなんだから、色々と入り用だろ?特に八月には例の祭りがあるし】
「ああ。それに水着があんな高いもんだとは思わなかったからな。なけなしの資金に大損害だ」
【それなら……】
「でもな、今までの俺はお金だけじゃなくて、時間も行動も何もかも内向きに、自分の為だけに使ってきたんだ。
他のヤツの事なんて考えもしなかった。………それが今は、お前の為に何か出来るのが嬉しいと思ってる」
満足そうに、わたるは笑っていた。
「お前は普段、金のかかる事を要求したりはしないし、たまにはいいだろ?」
【うん……】
「それに、お前が海であの水着を着てるところも見てみたいしな」
最後のわたるの言葉に、芽留は一瞬、怒ろうか、それとも思いっきり皮肉ってやろうかと迷った挙句
何も出来ないまま、真っ赤になった顔を俯けて、水着の入った紙袋をぎゅっと抱きしめた。
やがて、道の先に芽留の家の門が見えてきた。
芽留はそこに、一人立ち尽くす父親の後姿を見つけた。
今日の一件がよほど堪えたのだろう、その背中はいつもより随分と力ない。
ちらりと横目でわたるを見ると、わたるもまた芽留パパの背中を見つめていた。
やがて、わたるは芽留の背中をそっと押した。
『行ってやれ』
要するにそういう事らしい。
芽留はわたるの方に振り返り、笑顔で肯くと、そのまま父親の元へと走っていった。
父親の強烈なハグを受けながら、こちらに手を振ってくる芽留に手を振り返してから、わたるはその場を立ち去る。
果たして、海水浴の当日、今日選んだ水着を着た芽留がどんな表情を見せてくれるのか。
「楽しみだな……ああ、楽しみだ」
嬉しそうに呟きながら、わたるは家路に着いたのだった。
382266:2009/08/06(木) 23:38:04 ID:v4URWDp9
以上でお終いです。
失礼いたしました。
383名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 23:47:39 ID:+HhTlkG1
なんとも見慣れないww
つか話は上手いけど画が浮かばんww
384home:2009/08/07(金) 08:24:06 ID:Lz4NvK56
GJ
昔書いたものが出てきたので
ちょい恥ずかしいけど投下

望霧エロなし
385home:2009/08/07(金) 08:25:45 ID:Lz4NvK56
私は今、学校に居る。
薄暗い校内を独りで歩いている。

「はぁ…、進路絶望調査の整理に随分手間取ってしまった…」

長い間放って置いた為、木津さんにこっぴどく叱られてしまいました。
生徒が教師を叱るだなんて、間違っていますね。
おかしな時代に成ってしまったものです。
今日は早く床に着きましょう。
私は、何時の間にか小森さんの部屋と姿を変えた宿直室に手を掛ける。
スムーズに開くものだと考えていたのですが…。
扉は途中で止まってしまいました。
この懐かしい感触は…?
やはり、鎖が幾十にも連なっており私の入室を妨害しています。
これは、私が帰る時には外してくれているはずでは?

「小森さん?」

私は部屋の外から声を掛けますが、返事はありません。
どうしたんでしょうか?

「小森さん…? 居ないのですか?」

しかし、それは有り得ないはず。
彼女は他に類を見ない引き籠り少女なのですから。
此処から出る事が考えられない。

「…せんせぇ?」

予想通り、彼女は居た。
しかし、妙に違和感を感じます。
顔が良く見えない…?
頭まで毛布を被っているのですかね?

「小森さん、どうかしたのですか?」
「…」

どうやら様子が変ですね。

「何にせよ、先ずは鎖を外して下さい」

少しづつ私は焦り出しました。
私の嫌な予感は大抵当たりますからね。
小森さんは私の願いを聞いてくれたようで、一本一本鎖が外されていきます。
開けられた扉をくぐり、私は部屋の中へ。
小森さんは何故か、一生懸命に鎖を巻き直しています。
何のつもりでしょうか…?
386home:2009/08/07(金) 08:27:11 ID:Lz4NvK56
「何かあったのですか? 小森さん」

私は少女の後ろ姿に声を掛けましたが、鎖がうるさくて聞こえてないようです。
暫く待ちますか…。
しかし、普段以上にガチガチになったあの扉は開ける気が失せますね。
と、いうよりは開くんでしょうか? あの扉。
ようやく此方に向き直った小森さんに再び質問をします。

「…何かあったのですか?」

少々聞くのが躊躇われましたが、やはり教育者で有る限り避けて通れぬ道の様な気がしますね。
日常の中であまり動く事のない小森さんが此方へとやってきます。
ペタペタという足音が、部屋に篭る。

「…せんせぇ」

何時もの儚げな声で彼女は私の名を呼ぶ。
何だか嫌な予感がします。
先程とは比べ物にならない程に。
これは…、不味いです!

「ど、どうしたのです? 小森さん」
「糸色せんせぇ…」

彼女は私の質問には答えず、胸の中へと頭を埋めてきました。
こ、これは、どうした事でしょうか?
私はもう一度口を開こうとしましたが、胸元からすすり泣く声を聞き断念します。
どう対処すべきか検討がつきません。
…しょうがないので、気が済むまでこのままでいましょうか。
私は彼女の頭に手を添えて優しく抱き締める様にしました。
小森さんに触れた瞬間。
驚いたのでしょうか?
彼女はビクっと体を震えさせましたが、今は落ち着いています。

「落ち着きましたか?」
「…はい」
「何があったか聞かせてもらえますか?」
「………」
387home:2009/08/07(金) 08:29:02 ID:Lz4NvK56
彼女は声を出す変わりに、眠たい人の様に一度だけ頷く。
彼女の話は何とも、聞くに堪えがたいものでした。
今朝、彼女が起床する前に部屋に手紙が入れられていたそうだ。
中身は私への恋慕の想いと、彼女への罵詈雑言。
何とも腹立たしい内容でした。
どうやら彼女はその事に頭を悩ませていたようですね。
…情けないと感じます。
色々と、ですが。
はっきりとしない私の態度にも。
手紙で負の想いを伝える誰かに。

「…すみません、小森さん」
「ううん、せんせぇのせいじゃないよ…」
「…」

沈黙の闇。
何時もの私なら喜んで受け入れる環境なのですが、今だけは勘弁して欲しいです。

「………あ、あのね、せんせぇ」
「何でしょうか?」
「…お願い聞いてくれる?」
「はい、何ですか?」

重たい沈黙を破る彼女の声。
普段からお世話になっていますからね。
まぁ、私の許容範囲を越えなければ叶えて差し上げますよ。
しかし、彼女がお願いなんて珍しいですね。

「今日は、一緒に寝てほしい…」
「………はい?」
「やっぱり、駄目、かな…?」

上向きの目線。
伏せ目の私。
当然、視線が絡まります。

「そ、その…」
「…」

うぅ…、無言は辛いです。
何と答えれば良いのでしょうか。
どう考えても、これは了承し難いです。
しかし、断れば小森さんは深く傷付くでしょう。
どうすれば…?

「やっぱり、駄目だよね…」
388home:2009/08/07(金) 08:31:16 ID:Lz4NvK56
あぁ…、不味いです。
彼女まで伏し目になってしまいました。
…仕方がありません。
覚悟を決めましょう。

「いえ、構いませんよ。 小森さん」
「…本当に!?」
「えぇ、一緒に寝ましょう…」

大丈夫です。
寝るだけですから。
私は自らにいい聞かせました。
そうと決めれば後はいつも通りでしたね。
夕食に入浴。
授業の準備。
後は寝るだけという状況です。
まぁ、それが大変何ですけどね…。
どうしましょうか。
等と悩む暇もないようで、アッと言う間に布団の準備が終わっています。
仕方ありません。
本当に覚悟を決めますか。
既に毛布にくるまっている小森さんの隣へ身を滑らせます。
温かい。
随分と懐かしい。
人の体温を感じるのは。

「………せんせぇ」
「…何ですか?」

彼女の顔が見えない。
再び私の胸に顔を埋めている。

「私は、邪魔かな…?」

小さく呟く。

「此処に居ちゃいけないのかな…?」

何と儚い。
今にも消えてしまいそうだ。
私は彼女を抱き締めた。
壊れぬように。
そして、何処にも行かないように。

「貴方は、此処に居て良いのですよ」

私の声は彼女のものと変わらない程小さかった。
だが、その振動は鼓膜に届いたようで。
彼女の両腕が私の胴に回される。
あぁ…、こんなにもか細い体で、貴方は耐えていたのでしょうか?
彼女の全てを愛しく感じる。
私の理性が歯止めを掛けたが、あまり意味はないようですね。
教え子に愛され、私もまた愛すのだから。
愛おしく、儚い少女を。
389home:2009/08/07(金) 08:33:43 ID:Lz4NvK56
終わりです
題は昔のすぎて特に考えてないです

儚い少女を。でいいや
390名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 11:30:00 ID:pmMNEfdV
GJですっ!!
弱ってる小森さんもいいよ!!
相変わらずのラブラブぶりにニヤニヤさせていただきました。
391名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:01:51 ID:pmMNEfdV
>>383
保管庫に同一作者で他の話も載ってる
読めば一応これまでの経緯もわかる

まあ、それでも画が思い浮かばないカップリングではあるが
392名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:02:20 ID:5dem4Ic3
>>389
素晴らしいの一言です。
この話の続きは…妄想で補います。
393名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 14:07:32 ID:3Cfab4Qo
まあ確かに他の女子からしたら霧は勝手に宿直室転がり込んで女房面してるウザいメンヘラ女以外の何者でもなかろう
394名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 15:06:09 ID:pmMNEfdV
>>393
いや、何もそこまで悪意に解釈する必要はないだろ
SS作中の描写を見ても、イヤガラセの手紙は複数の女子によるものとは考えにくいし
原作では他の女子ともそれなりに仲良くやっている
明確に敵対しているまといだって、せいぜいが「私の先生に近付くな」ぐらいにしか考えてないんじゃないかと思う
そもそも、SSに出てくる手紙はその内容によって霧が傷ついてしまうという状況を作り出すための
あくまで道具立てにすぎないのだから、そこから他の女子達が霧を『勝手に宿直室転がり込んで女房面してるウザいメンヘラ女』と考えているというのは言い過ぎだろう
395名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 15:41:45 ID:mc/djHj+
霧は別に宿直室で寝泊まりしてるわけじゃないから、
転がり込んでるってのとはちょっと違うんでないかな?

普段は・・・理科室?かどこかに住み着いてたはず。

で、日に何度か宿直室に来て家事全般と交の世話をして、
それ以外は自分の部屋に籠もってたんじゃなかったっけ?

同棲とも微妙に違うから・・・言うなれば・・・えー・・・

校内通い妻?
396名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 18:56:03 ID:3Cfab4Qo
別にこのSSがそうだというのではなく、単に霧ってウザいところがあるなって言いたかっただけ。言葉足らずスマン。
397名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 20:32:12 ID:lqRZye05
つまらん悪意だな。

霧が寝泊りしてる場所は科学室のままなのかな?
絶望先生って設定がコロコロ変わる漫画だし、今の雰囲気からすると宿直室で寝泊りしててもおかしくなさそうだ。
というか宿直室の間取りが気になる…。
398名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 21:23:33 ID:xfYUfQf0
>>389
GJ!!すごくいい

>>396
絶望少女達はみんなウザい部分もってるし、ある意味みんなメンヘラだろ
霧アンチ乙 お前みたいなコメが一番ウザいよ 
399名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 23:27:07 ID:qlP4rHfM
この程度の煽りなんか多くのキャラが受けてるだろうに今回はやたら反応あるな
400名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:07:13 ID:W+HixMaT
霧アンチ対策
まとい投下 エロ無し
401名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:09:23 ID:W+HixMaT
長く伸びた影。
放課後の学校に、傾いた太陽が灯を当てる。
カラスが空を蹂躙し、我が子の待つ巣へと舞い戻る。
夕陽に照らされた廊下を、望が一人歩く。
その後ろに付き纏う一つの影。
望と同じような着物を身に着ける。
おかっぱ頭の、美しい黒髪が怪しく光る。
その手に持つものは、首輪。
金属製のそれは、一度付ければ決して取れない。
そのような雰囲気を醸し出しており。
今まさに、ターゲットに向かって付けようとしている。
ふと、望が窓の外を眺めて立ち止まる。
絶好の機会を逃さないように、まといが走る。
最後の一歩は、愛しい恋人に抱き着くかのように。
思い切り飛び付き。
その両手は、望の首を狙い。
その両手は、首輪を掲げる。
もうすぐ見えなくなるカラスを眺めていた望。
あまりの衝撃にその場に立ってはいられず。
前のめりに倒れ込む。
その上にホントに嬉しそうに抱き着くまとい。

「いたたた…、一体なんですかぁ!?」

後ろに誰がいるかも確かめずに、立ち上がる望。
まといが軽すぎるのか、ひ弱な望でもまといが背中にいるまま立ち上がれた。
結果として、まといは腕だけでおんぶをされた格好のまま話をすることに。

「先生!よくお似合いですわ」
「つ、常月さん。居たんですか?」
「えぇ、ずっと」
「そんなことより、私に似合っているって、何がですか?」
「先生、よく首を確かめて下さい」
「へっ…!?な、何ですか、これは?」
「首輪です」
「な、何故、私の首に首輪を…?」

その質問には答えず、望の背中から降りる。
手には首輪の鎖が持たれている。
まといは相変わらずニコニコしているが。
鎖が繋がっていることを知った望は、逆に青くなっていった。

「…な、何が目的ですか?」
「ふふっ、私ダメなんです」
「…?」
「好きな人が今何をしてるのか気になって」
「首輪は関係ないでしょう!?」
「いいえ、これで私と先生はずっと一緒です」

そう言い放ち、手に持った鎖を手錠に掛けて。
余ったもう一つの手錠を自分の左手首に掛ける。
人間用の散歩紐。
それが今、完成してしまった。

「離れませんよ、先生♪」
「もぉ、やめてくださーい!!」

暗くなる校舎の中に、望の声が響いた。
402名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:12:21 ID:W+HixMaT
続きは考えてませーん
まとい可愛すぎ
403名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:31:19 ID:vo3h4/OB
いい!
まといに飼われたい!
404絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:02:12 ID:v0rww0A8
gjです。まといと先生のヘタレさがたまりませぬ

間が空きましたが、続きです。今回は加賀さんで、エロは終点まで先送り。
設定が分からない方は、保管庫を見ていただけるとありがたいです。
405絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:03:36 ID:v0rww0A8
花が飛ぶ。
糸色の庭園から放たれた桜は風に乗って、街の空を泳いだ。もし彼らに下界を眺める為の目が在ったのなら、とある少女の俯く背中を見つけることができたのだろうか。
「あぁ……いったい、どうすればいいのでしょうか」
人気の無い公園、そのベンチに彼女は居た。抱えた頭から括られた後ろ髪がぴょんと風に揺れ、当人の嘆きとは全く逆の微笑ましさをもたらしている。
まあ、見る者が居ればの話ではあるが。
加賀、愛である。白一色のワンピースで細い身体を包み、木の陰に隠れるようにして腰を下ろしている。周りに人が居ないのは決して偶然ではない。
「自分が公園に居ることで人に迷惑をかけたくない」――そう考えた彼女がやっと見つけ出した、街の中のグレーゾーンである。喫茶店にも入ることを躊躇ってしまう彼女の、唯一独りで落ち着ける場所であった。
しかし今日の愛は、いつにも増しておどおどとした表情を浮かべていた。そこには誰も、居ないというのに。

その灯りを思い浮かべるだけで、焼け死んでしまいたくなる。
「赤点をご勘弁」
その闇を思い浮かべるだけで、穴を掘ってそこに潜ってしまいたくなる。
「暗黙のルール」
その言葉を、言葉を思い浮かべるだけで。
「よろしくお願いします」
鳥肌が立つのが分かる。喉が独りでに絞まる。呼吸が犬のように乱れる。
(――ああああああああああああああああああ!)
叫べるものなら全身を磨り潰すまで叫んでいたかった。
そうは出来ない勇気の抜け落ちが心の中に感情を氾濫させ、どんどん身体が前のめりになってゆく。
何も知らなかった。
何も知らなかった。
あんな恥ずかしいこと、知らなかった。
敷かれた布団。薄暗い灯り。開かれる障子。
そして、驚いた先生の顔。
406絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:05:00 ID:v0rww0A8
(私ったら、なんてふしだらな!)
それだけではない。愛の頭の中にこれまでの望とのやりとりが悉く蘇って、疾風の如く吹き荒れたのだ。
落ち崩れそうな土砂降り空の下、差し出された言葉と傘。自分自身の傘を持っていたというのに、先生の傘を半分も使わせて濡れさせてしまった。
落ちていきそうな蒼天の空の下、繋がれた手と緑の嵐。熱い島の中掌から体温を、先生に伝えてしまった。
落日に濡れた紅の海の下、しがみ付いた身体と酸素の欠乏。沈んでゆくのが怖くて、もがく先生の足に抱きついてしまった。
落ちた陽の黄昏の空の下、紡ぎだした声。突然の告白はきっと先生を当惑させてしまったに違いない。

そんなものじゃない。あれも、あれも、あれも、あれも。あれも。
水に濡れた猫の様に身震いする。局地的に震度八の地震が起きていると言われたって、誰も疑わないくらいだ。
だが彼女が慄いているのは、単に「先生を驚かせ、迷惑をかけてしまったのかもしれない」という恐れだけではなかった。
震える、ふるえる。頭の中で地面が裂け、その落ち窪んだ深淵から「なにか」が顔を覗かせる。
いや、「なにか」などぼかす必要など、彼女にはまるで無かった。その正体はとうの昔に気付いていて。

あの冷えた傘の中で、私はずっとそうしていて欲しいと、そう思ってはいなかったか?
あの熱い畑の間で、私はずっと手を引いていて欲しいと、そう思ってはいなかったか?
あの暗い水の底で、私はずっと閉じ込められていたいと、そう思ってはいなかったか?
あの校舎の裏で、私はいっそのこと世界なんて滅んでしまって、本当の想いが伝わってくれはしないかと、そう思ってはいなかったか?
そして。
あの布団の中で、私は何を望んでいたのか?
知らないはずが無い。この年になって「アレ」が何を意味するか。
「こうしろと言われて」
「こんなメモがあって」
そんなの言い訳に過ぎないこと、知らないはずが無い。
認めてしまえば楽になる。もう逃げ場なんて無いのだから。
「――私なんかが、先生のことを」
好きになってしまっては迷惑だと。
言えない。
言いたくない。
例え本当に迷惑だとしても、人に迷惑なんて掛けたくないとしても。
「それだけは……いえません」
震えは止まり、代わりに溜息がついて出た。足元を桜の破片が、亡骸のように転がって行く。隣に、雫が落ちた。乾いた地面にを湿らすことも無く、それは吸い込まれて消える。
初め、なんだろうと思った。もうひとつ落ちた。蟻が踊る。
そしてその地面を、影が覆った。途端、愛は雫の意味を知った。
「こんなところでどうしたんです、加賀さん」
407絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:06:11 ID:v0rww0A8
「す……すいません!!」
愛は目元を拭って顔を背けた。どうしてこんなところに、こんなときに出会ってしまうんだろう。
「こっちから声を掛けといて申し訳ないんですが……今ちょっと女性と話をしない方がいいような状態なんですよ」
顔は見なかったが間違いない。間違えようが無い。今の今まで、その人のことしか考えていなかったから。

そこを訪れたのは彼女の担任、糸色望であった。倫と別れてから、出来るだけ人(特に見知った女性)に会わないように移動してきた彼は、同じように人目を避けて来た愛と鉢合わせてしまったという次第である。
最初は引き返そうと思った。
けれど彼女の存在を認め、震える肩を見つけてしまってはもう駄目だった。摂取した薬のスイッチが入り、「やんちゃ」状態にオンしてしまったのである。

愛は考えた。女性と話をしない方がいいとはどういうことだろう。心なし落ち込んだ声が、心配になる。
もしかして先生は自分がここにいるから座りたくても座れなくて、迷惑であることを遠回しに言っているのではないのだろうか。
それは、悲しい考えだった。今までに無いほど、胸が冷たく凍り付いてしまいそうだったが、先生に迷惑をかけることもいやだった。
もう駄目だ。とてもじゃないが望をちゃんと見られそうにないし、こんな顔なんて見せられない。
「ごめんなさい……し、失礼しますっ!!」
さっさと立ち去ってしまえと、腰を浮かせた。
「なので出来ればこのまま行ってしまいたかったのですが……困りました」
露にしていた左の肩が、不意に温かくなる。逃げ出しそうになって引いた腰を、もう片方の腕が巻き取る。
「そんな泣き声を聞かされちゃ、ほっとけないじゃないですか」
頬が熱くなるのを感じて、弱々しく愛は暴れた。
「す、すいません! すいません! 余計なご心配をお掛けしてすいません!」
しかし強く、一本の芯が通っているように感じられた声に愛は絡めとられたようになった。
豹変、とはこういうことを言うのだろうか。普段クラスの皆からチキンと罵られる姿と、時折見せる粋の欠片。そのギャップを皆は好いているのだろうと愛は思っていたし、多分自分もそうなのだろうと思った。
しかし今のこの人は、良く言えば正の塊。悪く言えばキャラが違う、のかもしれない。抗いようが在る筈もない。
「まあまあ落ち着いて下さい、加賀さん」
普段呼ばれているはずの苗字でさえ、金縛りの魔法の様。いつの間にか輪郭に添えられた手にも抵抗できないまま、くいと視線ごと抱き寄せられてしまう。
そして見てしまう。正面から、望の目を。カメラさえ常に真ん中を避ける彼女にとって、想い人の視線は槍の一撃に等しかった。
言葉にならない焦りが熱い息と一緒になる。桃の花が愛撫に喘いだなら、きっとこんな声であろう。
「ほら、涙を拭いて」
身動きが、取れなかった。
さっと指が愛の右の目元を優しく撫で、少し強く擦って離れる。それを彼女は、手品でも見ているかのように、されるがままで。
「あ……あ――」
謝るべきか、お礼を言うべきか、判断がつかない。混乱が涙腺を震わせ、また雫が睫毛を光らせる。
すると望は低く、しかし聞いたこともないような悪戯っぽい声で言った。
「自分で拭けないなら……その可愛らしい目玉ごと、舐めてしまいましょうか?」
「あっ」
今度こそ何もできなかった。
近づいてくる顔。望の口が迫り。目を閉じる間もなく。

音は外のエンジン音に消えた。
408絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:08:04 ID:v0rww0A8
意識の飛び掛けた愛の身体が、不意に突き放された。
夢の揺り篭から振り落とされた彼女は、肩で息をする望の姿を認める。黒い髪を振りかざし、下向いた彼の表情は分からない。
その手は愛の身体を掴んでいるが、腕はおよそ限界まで伸ばされている。まるで愛を、汚いものから遠ざけるかのように。
完全に腰の抜けた愛に弱く微笑んだ後、望は訊いた。
「ところで、今度は何に謝ろうとしたんですか? 加賀さんのことですから、きっと加害妄想なんでしょうけど」
ショートした思考を必死に取りまとめて愛は答えようとした。だが言いたい言葉はひとつのくせに無限大まで膨らんで、彼女は何も言えずただ赤い上目遣いを送るばかり。
やっと搾り出した台詞は、自分でも厭になるような条件反射。
「……すみません」
ふっと溜息をついて、望は言う。
「……ホント、昔でなくてよかったですよ。貴女に会うのが」
愛はきいた。初めてまともに発せた言葉のような気がする。
「どういう、ことなんですか……?」
愛をゆっくりとベンチに落ち着けさせて、望は答えた。その刹那前まで見せていた色気は影を潜め、代わりに憂いを帯びた表情が張り付く。
それはそれで、愛の意識を再び揺さ振るほどには鮮やかであった。
「さっきの私が、昔の私です。節操無き男で、まあ人間失格、の鏡じゃないですかね」
自分を抑えるように袷を握り締めて、望は吐き捨てるように言った。
「さっきは、私こそすみませんでした」
そう言い、望は踵を返した。足元におちた無数の雫は、どちらの涙でどちらの汗か。
いつものように叫びなどしなかった。
もうひとつ、枯葉を落とすように言い残す。
「もっと自信を持っていいですよ? 生きていて迷惑をかけない人なんて、この世にはいません」
骨を埋めるような静けさにこそ、愛は恐怖を感じた。
いつもの先生でなかったことと、いつもの先生がどこかへ行ってしまうことに。
言いようもない不安に駆られた。完成したパズルの真ん中を抜き取られるような欠落感。
自分にこんなことを言う資格はない。
自分にこんなことを言う資格はない。
自分に。
こんなことを言う資格は。
ない。
「あのっ!」
のに。
409絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:08:58 ID:v0rww0A8
止まる振り返る。
愛は立ち上がる。
閃く硝子。
泣きそうな顔。
薄くなる大気。
二度吹いた風。
揺れる木の影。
開く口。
「どうしたんですか?」
その怯えた、片目の無いぬいぐるみのような視線を、愛は受け止めた。
「私は……」
粘っこい唾が喉をゆっくりと通り過ぎる。
「……いまの先生と会えて――うれしいです。昔の先生は、知らないけれど」
すいません。
そういって駆け出したくなる衝動を全力で押し返す。
何があったかは知らない。そこに口出しする権利なんてない。
「今の先生が、私のぜんぶです」
ならば、今感じたことを言うしかない。たとえそれが差し出がましくたって、あんな水色の憂いを。
ほうっておけなかった。
「――ありがとうございます」
俯いた愛に聞こえたのは、夜の海のように優しさと悲しさを混じらせた声。思わず顔を上げたときには既に、望の姿は無かった。
ぺたんと、座り込む。遠くで夢のように犬が鳴いている。
途端、自分の口走った言葉が風船のように膨れ上がって、愛の顔は赤くなったり青くなったり。
だがそこに後悔は無かった。
自分の想いは、きっと誰かに迷惑をかける。
けれどそれがもし、もし先生を救えるのなら。
思い上がりだろうか。
もう一度、お話をしたい。お話を聞きたい。夜に伺うのは迷惑だろうか。今は腰が抜けて、動けそうにない。
「……先生」
右目の下――泣きボクロに残った温もりを愛は指ですくい、唇をなぞった。
「いとしき、せんせい」
410絶望に効くクスリ:2009/08/08(土) 02:11:58 ID:v0rww0A8
今回はここまでです。読んでくださった方、ありがとうございます。
先生×女性メイン全員分書こうとか思ってて終わりがいつになるやら分からないんですが、長い目で見ていただければ幸いです。
では、失礼します。
411home:2009/08/08(土) 09:25:32 ID:GieuD8/n
>>410
GJ!
続きが楽しみ

>>393
つかそんなに深く考えてss書いてないよ…
雰囲気を楽しもうぜっ!
412名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 09:57:59 ID:vo3h4/OB
愛ちゃん
来たあ!
413名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 11:18:33 ID:3ZeqxqWb
GJ
414名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 11:45:37 ID:CEvwKC4/
暗黙のルールはもっと評価されていい
415名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 15:20:00 ID:W+HixMaT
先生はたらしだからきっとこう言う
416名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 15:20:22 ID:W+HixMaT
霧が投げる辞書。
千里が投げるスコップ。
あびるが投げる包帯。
真夜が投げる包丁。

いかに投げられようとも望は決して避けようとしない。

「どうして避けられないのですか?」
「常月さん、居たんですか」
「えぇ、ずっと」
「避けないとは、どうゆうことでしょうか?」
「ですから、邪魔女達の武器を、何故避けようとされないのかと思いまして」
「あぁ、それは…」
「…?」
「避けると貴女に当たってしまうじゃありませんか」
「…先生、死ぬまで側にいます(//△//)」
417名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 15:21:32 ID:W+HixMaT
まといのSSが読みたいー
418名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:44:14 ID:YZ0lhrYi
「先生、本当に私でいいの?」

 彼女の目は私を真っ直ぐ見つめている。
首をかしげる瞬間、おさげの隙間から綺麗に整えられたうなじがのぞく。 影武者の奴、一体彼女に何を……。
そんな事など知らないのでしょう、ただ私の手を引き、無邪気に喜ぶ彼女。
少々残酷なようですが、本当のことを伝えなければいけないでしょう。

「小節さん、あなたは夢を見ていたのではないでしょうか?」
「うん、今も夢みたい……名前で呼んでくれたら、今死んでも幸せだと思う」
「今、覚ましてあげましょうか?」

 酷く困惑した様子で立ちすくんでいる彼女の肩に指をあて胸の辺りに引き寄せ囁く。
彼女の片方の瞳には、既に花火など写っていない様子だ。

「せ、先生? ……あっ」
「……あれは私の影武者なのですよ、あなたの見ていたものは正に夢だったのです」
「嘘、からかおうとしてる」
「ほら、あそこに私の影武者が」

 指さした方向に面を被った影武者の姿。 彼女は二人の間を往復し、ただ困惑していた。

「嘘、本当に夢を見てるんだね」
「現実です、受け止めて下さい」
「嘘だよ」

 この選択は間違っているのでしょうか? ……いえ、この世の中には覚めた方が良い夢もあるはず。
419名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:44:46 ID:YZ0lhrYi
「教師と生徒の間に恋愛感情が芽生えることは、そう珍しくないようです。 教師の中にはそれを利用し弄ぶものもいると

か」
「やめてよ、先生」
「結局は禁断の関係と言ったところでしょうか、すぐ覚めてしまうことも往々にして有るようです」
「やめて先生」
「年上の男性は大人に見えるのでしょう、いずれ、覚めてしまう」
「先生、お願い」
「ましてやあなたが選んだのは影武者……いわゆる禁断の関係に恋をしていただけ」

 彼女の目から涙がこぼれ落ちるのを見てハッとする。

「残念です、これから本当に好きな人を見つけるのが良いでしょう……」
「あああああ!」

 へたり込んだ彼女の手を無理矢理に引っ張る。

「さあ、立って。 あまり遅くならないうちに帰りましょう」
「……先生、好きです」

 カッとなり彼女の体を木に押しつけ、浴衣の裾を捲り木に噛みつく。

「くっくっ……何処までも愚かな娘なんでしょうね」
「……先生、いいよ」
「馬鹿な娘です。 いい加減目を覚ましたらどうなんですか?」
「覚めないよ」

 首をかしげる仕草に思考能力を奪われそうになり、自分自身の上腕に噛みつき肉に食い込ませる。
大丈夫、まだ冷静です。

「では、ここでお別れしましょう。 あなたは冷静ではない。」
「先生」

 首筋にしっとりとした包帯の感触に振り返る。
光彩異色(オッド・アイ)の瞳が、私をずっと見つめて……。
420名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:45:21 ID:YZ0lhrYi
 ぬちゅり、ぬちゅりという音に目を覚ます。 ふらつく景色、薄暗いコンクリートの部屋……。

「はて、ここはどこでしょう?」
「楽園だよ、先生。」
「楽園? 私は誰も……救えずに、一人で来てしまったようですね」
「救われるのはあなたじゃないんです」
「はて……?」
「先生、わたしを救ってくれたのはあなたです」
「……あなたは誰ですか? ええと……。」
「どうでも良いでしょう? 楽しみましょう」

 キシりとバネの軋む音がする、肌、裸でしょうか? 今?
水音と背筋を震わせるような快楽、そしてモヤがかかったままの思考。

「先生、私……先生との子供の名前を考えたんです」
「子供ですか、よい子を授かると良いですね」
「……望って言うんですよ」
「どこかで、いや、良い名前ですね……・」
「先生……」
「ええと、何か大切なことを忘れたような気がします」
「愛しています」

おわり
421名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 23:53:20 ID:YZ0lhrYi
まとめには非掲載でお願いします。
422home:2009/08/09(日) 11:32:35 ID:Cg+wg8gK
なんだか抽象的なss…
そうゆうところ嫌いじゃないよ
423266:2009/08/09(日) 13:33:40 ID:+YcTxLVy
書いてきました。
万世橋君と芽留の話、エロはありません。
それではいってみます。
424266:2009/08/09(日) 13:34:22 ID:+YcTxLVy
窓の外には遥か彼方まで、目の覚めるような青が広がっていた。
街を、山を、トンネルを越えて延びる鉄路を辿り、ついに列車は海へとやって来た。
「久しぶりだな、海水浴なんて」
万世橋わたるはつり革に掴まりながら、眩いばかりの窓の外の光景に目を細めた。
【はしゃいで溺れるなよ、わたる】
わたるの目の前の席に座る芽留がニヤリと笑った。
【どうせ運動不足なんだろ?】
「ああ、最近は特にな」
わたるは苦笑で返した。
「藤吉のヤツめ、こっちが何も言ってない内から新刊に俺の小説を組み込みやがって……」
【なんて文句言ってる割には、律儀に仕上げたみたいだな】
「うるせー」
夏休みという事もあって、どこかしらへと遊びに出かける乗客でいっぱいだ。
そして、その内の一割程度が芽留の所属する2のへの生徒達だった。
彼ら彼女らは夏休みが始まる前からの計画で、連れ立って海水浴に向かうところなのだ。
芽留を通して2のへの面々と付き合いのあるわたるも、今回の海水浴に参加する事になっていた。
普段は徹底したインドア派のわたるだったが、件の藤吉晴美の同人原稿にここのところ掛かりきりだったせいもあって、
久しぶりに、思い切り外の空気と輝く日差しを浴びてみようという気になっていた。
満員の車内では、ほとんどの生徒達が立ちっぱなしの状態であり、芽留のように座席に座っているのはごく僅かだ。
相変わらず女子生徒達に人気の担任教師・糸色望は彼女らに取り囲まれて逃げ場無しの状態。
そこから少し離れた場所では、自分の座席を譲ろうとする加賀愛と、あくまで立ち続ける事を主張し愛を座らせようとする木野の姿があった。
そのすぐ隣では、同じく吊革に掴まった久藤准が片手に文庫を開いて本の世界に没入している。
座っている事に気付かれないまま太ったオバサンのお尻に潰された臼井影郎や、網棚をベッド代わりにしているマリアなど、
少々アレな場面を見受けられたが、概ねこのクラスとしては平和な光景。
しかし、その一方でこの場に居る誰もが、これから始まる夏の一日への期待を隠し切れず、どこかソワソワとしていた。
ふと見ると、わたるの目の前の少女も、まるで子供のように両足をパタパタとさせている。
それを見て、ふっと笑いをこぼしたわたるの様子に、芽留はようやく自分の行動に気付いたようだ。
自分の足を覆い隠すようにカバンで押さえつけてから、彼女はわたるを睨みつけてきた。
【見たのか?】
「ああ、見た」
【馬鹿にしてるだろ?】
「いいや、それはない」
【なんでだ?】
わたるは窓の外の水平線を見つめながら、笑顔で答える。
「俺も、すごく楽しみだからだ」
やがて列車はスピードを落とし、海辺の駅に停車した。

冷房の効いた列車から降りると、夏の日差しはさらに眩く感じられた。
白い砂浜は広く、大勢の海水浴客を受け入れてもなお、十二分なスペースを誇っていた。
各々水着への着替えを済ませた2のへの少年少女達は早速その砂浜へと駆け出す。
気の早い、木野・青山・芳賀の男子三人組はさっそく海に突撃し、ついでに久藤までも強引に引っ張り込んで泳ぎ遊び始める。
そこに数名の女子も加わって、辺りには彼らの歓声が響き始めた。
そんな光景を遠くに眺めながら、わたるは海水浴場の隅っこで入念な準備体操を行っていた。
そこに通りかかる人影。
【熱心だな、わたる】
「海は久しぶりだからな。せっかく遊びに来て溺れたんじゃあ釣り合わん」
両肩をぐるりと回し、アキレス腱を伸ばして手首足首の間接をほぐす。
一通りの柔軟を終えてから、今度はわたるが言った。
「お前こそ気をつけろよ。調子に乗って深みなんかに嵌るなよ」
【言ってろ!】
軽く言葉を交わしてから、芽留はわたるの前から立ち去ろうとする。
だが……
「あ、おいっ!」
【ん?まだ何かあるのか?】
「やっぱりその水着、似合ってるぞ」
そう真っ正直に褒められて、芽留はどう言葉を返していいのかわからなくなってしまう。
【あ、ありがとう……】
やっとの事でその言葉だけを伝えた芽留はくるりと踵を返し、真っ赤な顔を隠すようにして走り去ってしまった。
425266:2009/08/09(日) 13:35:30 ID:+YcTxLVy
水面に影を落としてボールが跳ねる。
「ほら、芽留ちゃんそっち行ったよ!!」
現在、芽留達2のへの面々は男女に分かれて浅瀬でビーチボールに興じていた。
芽留はバシャバシャと水を掻き分けて、自分の方に飛んできたボールを打ち返す。
芽留が弾き返したボールは山なりの軌道を描いて、今度は慌てふためく青山に襲い掛かる。
腰まである水のせいで容易に移動すら出来ない事が逆に勝負を白熱させていた。
その上、何かアクションを起こす度にむやみに飛び散る水しぶきのせいで少年少女のテンションはむやみやたらに上がっていった。
「きゃ!?ごめん、カエレちゃん!!」
「まかせなさいっ!そぉーれっ!!!」
あびるが取りこぼしたボールを、カエレが思い切り打ち返す。
鋭角に飛び込んでくるボールに、周囲の男子は誰も追いつけない。
あびるや奈美が快哉を上げ、カエレもガッツポーズを決める。
だが、その時である。
あり得ない場所から、あり得ない人物が姿を現したのだ。
「うぉおおおおおおおおっ!!!!!!」
ザバァアアアアアッ!!!!
水しぶきを上げて水中から現れた影が、ボールを跳ね返した。
高く高く打ち上げられたボールは、不測の事態に慌てふためく愛の真上に落ちていった。
そして………
「きゃうっ!?……す、す、すみませーんっ!!!」
彼女のおでこにポーンと跳ね返ってから、水面に落ちてしまった。
周囲の視線が、女子の攻撃を阻んだその人物に集まる。
「悪いな。男子に加勢させてもらうぞ」
(なっ!?…わ、わたる!!!?)
芽留はそこにいた人物の姿を見て、心の中で叫びを上げた。
万世橋わたるが、お馴染みのふてぶてしい表情で腕組みをして立っていたのだ。
「ちょっと、いきなり現れてどういうつもりよっ!!」
「男女に分かれて勝負してるのに、女子が6人で男子が4人、これじゃあさすがに釣り合いがとれんだろ」
いかにも不服そうなカエレに、わたるはそう答えた。
要するに小勢の男子チームに助っ人として参加するという事らしい。
「ふーん、まあいいわ。そっちに足手まといが増えてくれた方が、有利に戦えるものね」
カエレの言葉には、芽留も内心で肯かざるを得なかった。
わたるの運動能力はハッキリ言って低い。
短距離・長距離を問わず走りは学年ワーストクラスで、持久走では周回遅れの常連。
動きも鈍く、球技大会ではいつも補欠扱い。
当人もスポーツは苦手だと公言していた筈なのだが………。
(なんなんだ?あの自信ありげな表情は……!?)
芽留にはわたるの不敵な笑みが気に掛かった。
だが、その一方で、何かと一人でいる事を好むオタク少年がこの場に出てきた事を喜ぶ気持ちもあった。
「さあ、続きを始めようか」
わたるの言葉と共に、ビーチボール合戦は第二ラウンドへと突入していった。

「いっけぇえええええっ!!!!」
奈美の打ち返した鋭いボールが、木野と芳賀の間をすり抜ける。
今度こそは攻撃成功か!?
だがしかし、息を呑む女子チームの前で、水中から現れた腕がまたもやボールを弾き返した。
「でぇえええええいっ!!!!!」
かれこれ、これで何度目になるだろうか?
わたるは女子チームからのきわどい攻撃を、こうして何度も防いでいた。
「うぅ…やるね、万世橋君……」
(あんにゃろ…猫かぶってやがったな……!!)
自由自在に海中を泳ぎ、神出鬼没に現れてはボールをブロックするわたる。
彼の存在によって勝負は男子優勢に流れを変え始めた。
「海水浴は久しぶりだとは言ったが、泳げないとは言っていないぞ」
彼の活躍に呆気に取られるばかりだった芽留に、わたるは言った。
「昔取った杵柄ってやつだ。ずいぶん長く水泳教室に通わされていたからな」
その事を勘定に入れても、わたるの泳ぎの腕前は異常だった。
だいたい、その水泳教室にしたところで、現在のわたるの生活を見る限り通っている様子はないのだが……
426266:2009/08/09(日) 13:40:10 ID:+YcTxLVy
(ていうか、アレだな。陸では鈍重で海の中では自由自在って、トドとかセイウチとかああいう海獣系みたいだな……)
今もまた水しぶきを上げて出現し、ボールを跳ね返すわたるの姿を見ていると、
彼がどこかの海凄動物の生まれ変わりだとしても不思議ではないように思えてくる。
まあ、わたるの泳ぎの秘密など、結局は瑣末な問題だ。
携帯と畳は新しいほど良いし、敵は手強ければ手強いほど良い。
しかもその相手がわたるであるのなら、もはや言う事はない。
(ふん、燃えてきたぜっ!!)
心の中で呟いて、芽留は目前に飛び込んできたボールに挑みかかる。
その顔に浮かんでいたのるのは、わたると同じ、不敵な、それでいてどこか楽しげな笑顔だった。

白熱したビーチボール合戦に決着がついた後も、2のへの面々は思い思いに海水浴を楽しんだ。
どうやら体育の水泳でもひた隠しにしていたらしい水泳の腕前がばれて、わたるは男子連中に連れ去られてしまった。
というわけで、芽留は海から離れ一人日光浴を楽しんでいた。
と、そんな芽留の上に誰かの影が覆い被さった。
「隣、いいかな?」
聞きなれた声は、風浦可符香のものだった。
【おう】
「それじゃあ、遠慮なく」
言って、可符香は芽留の隣に腰を降ろした。
「楽しそうだね、芽留ちゃん」
【まあ、そこそこはな】
「万世橋君も来てるから?」
【………………そうだな】
少しばかり躊躇したが、芽留はその質問に、最後にははっきりと肯定の言葉を返した。
【オマエこそどうなんだ?ビーチボールで遊んでた時には姿が見えなかったけど】
「うん。ちょっとね…」
【そういえば、先生もいなかったな】
「あははは……」
何でもないようないつもの笑顔だったが、芽留は気づいていた。
可符香の頬にうっすらと浮かんだ紅色は、この夏日のためではないだろう。
それからしばらくの間、二人は遠く広がる海原を見つめながら、波の音に耳を傾けていた。

負けず嫌いの国也に何度も水泳勝負を挑まれてから、ようやくわたるは陸地へと戻ってきた。
泳ぎは大得意と言っても、水泳教室に通っていたのはあくまで過去の話。
現在はコレといって体を鍛えている訳でもなく、体力的にもごく普通のわたるはすっかり消耗し切っていた。
とはいえ、もう一方の国也は息も絶え絶えといった状態で、歩く足元もおぼつかない。
「すごいね。あれだけ泳いで平然としてるなんて……」
「結構、ふらふらだけどな。……というか、あんな状態になってもまだ勝負を挑んできたアイツの方が凄い」
「あははは、確かに……」
国也を横目で見ながら苦笑したわたるに、准は笑顔で応えた。
泳ぎ疲れた男子一同は2のへ一行がビニールシートとパラソルで陣取った、砂浜の一角へとやって来た。
そこでは、同じく遊びつかれた女子達がクーラーボックスに持参したジュースで喉の渇きを癒していた。
だが、その中に芽留の姿はなかった。
「ん、アイツはいないんだな?」
「芽留ちゃん?ああ、さっき海の方へ歩いていってたけど」
どうやら、一人で泳いでいるらしい。
随分長く男子連中、というか主に国也に付き合っていたので、出来れば顔を合わせておきたかったのだが
「さすがに、今は泳いで探し回る体力はないな」
「慌てなくてもその内戻ってくるよ。それまで休んでたら?」
奈美に言われるまま、わたるはジュースを受け取って砂浜に腰を降ろした。
427266:2009/08/09(日) 13:41:15 ID:+YcTxLVy
芽留は一人泳いでいた。
先ほどのわたるの泳ぎに多少なりと中てられたのかもしれない。
波をかき分け水中を進む感覚にすっかり心地良さを感じるようになっていた。
(出来れば、わたるを見つけたいところなんだが………)
ぐるりと周囲を見渡すと、いつの間に陸に戻ったのか、砂浜で休むわたるの姿を見つけた。
(入れ違いになっちまったんだな……仕方ない…)
ついさっき泳ぎに出たのに、わたるの姿を見た途端にとんぼ返りに砂浜に戻るのはなんだか気恥ずかしかった。
今日はまだまだ時間もあるし、焦る必要は無い。
(わたるとはまた後でゆっくり話せばいいか)
そう考えて、バタ足を再開したその直後だった。
突然、右足の付け根からつま先までを、引き攣るような痛みが襲った。
(…えっ!?)
足を攣ったのだと理解するより早く、芽留の体は水中でバランスを崩した。
もがく。
視界がぐるりと反転し、平衡感覚を失って、水面がどちらにあったのかが判らなくなる。
息苦しさに思わず開いた口から海水が流れ込んでくる。
(誰か……助け……)
混濁していく意識の中で、芽留はその名を呼んだ。
(……わたるっ!!!)

「大変だっ!!誰か溺れているぞっ!!!」
そう叫ぶ声に、2のへの面々は顔を上げた。
見れば、海水浴場の沖合いで、小学生らしき少年達数名がひっくり返ったゴムボートの周りで溺れていた。
助けに行くべきか?
わたるや、2のへの数人が腰を浮かせかけたが、それよりも早くライフセーバー数人が少年達の元へ向かっていた。
人数が多い分てこずってはいるようだが、流石に彼らの手並みは鮮やかだった。
「素人の出る幕じゃあないな……」
次々と助け出されていく少年達を見て、わたるもホッと胸を撫で下ろした。
海水浴客達の注目の集まる中、救助活動は順調に進んでいく。
だから、わたるがそれに気付いたのはほんの偶然だった。
「……ん?」
誰かに名前を呼ばれたような気がして、何となく海水浴場の隅の方にわたるは視線を向けた。
そこで目にしたものに、わたるは一気に顔面蒼白となる。
「…な……あ…!?」
音無芽留が溺れていた。
見間違う筈が無い。
助けを求める小さな手の平が空を掴み、また水しぶきの中に消えていく。
「ん、万世橋、どうした?」
「おいっ!!こっちでも溺れてるヤツがいるっ!!!助けてくれっ!!!」
わたるが叫ぶが、少年達の救助に必死のライフセーバー達はそれに気付かない。
一刻の猶予もないというのに……。
(くそっ!!こうなったら……)
わたるは立ち上がり、手近にあったクーラーボックスを手に取った。
「ど、どうしたの?そんなに血相変えて!!?」
「アイツが溺れてる!!コレ借りるぞっ!!!」
言って、わたるはクーラーボックスの中身をビニールシートの上にぶちまけた。
「万世橋君、無茶だよ」
事情を察したらしい准に、わたるはすまなそうに頭を下げて
「ロープでもビニール紐でも何でもいい。何か使えるものを探して俺の方に投げ込んでくれないか」
そう言って、空のクーラーボックスを抱えたわたるは、猛烈な勢いで走っていった。
428266:2009/08/09(日) 13:42:04 ID:+YcTxLVy
苦しい。苦しい。苦しい。
ぼんやりと霞む芽留の思考を満たすのは、ただその一語のみ。
手をかき、足をかいても、せいぜい2メートルと少ししかないはずの水底に触れる事が出来ない。
もはやどちらが水面だったかも判らず、芽留はもがき続ける。
だが、その時である。
バシャアアアアアンッ!!!!
大きな水音と共に、何かが海面を揺らした。
音のした方向を見ると、青い空を背景にして浮かぶ、四角いシルエットが見えた。
(あっちが……水面…?)
藁にも縋る思いの芽留は、その四角に必死で手を伸ばす。
だが、その四角のフチに触れるギリギリで、芽留はまた体勢を崩してしまう。
(そんな…イヤだ……死にたくないっっっ!!!!)
最後の希望に見放されて、芽留は完全にパニックに陥った。
もがいて、暴れて、芽留の体は確実に沈んでいく。
その時……
(あ………っ!!)
強い力が芽留を引き寄せた。
大きな腕が芽留の体を抱き寄せて、そのまま水面に向かっていく。
(ああっ…助けてっ!……助けてっ!!!)
だが、パニックを引きずったままの芽留はじたばたともがき暴れて、
自分を助けようとするその誰かまで水底に引きずり込んでしまいそうになる。
しかし、その人物は芽留を抱きしめた腕に必死に力を込め、諦める事無く水面を目指す。
その頼もしい感触に、芽留はようやく気付く。
(あぁ……来てくれたんだ……)
やがて、芽留の体は水面を破り、海上に浮き上がる。
そして、芽留を助けたその人物、万世橋わたるはその場に浮いていた四角形=浮き輪代わりのクーラーボックスにしがみついた。
「……けほ…かはっ…ぜぇぜぇ…はぁはぁ……」
芽留は肺一杯に酸素を取り込みながら、咳き込む芽留の背中を、わたるの腕が撫でる。
霞んだ瞳で、芽留がその顔を覗き込むと、同じように険しい表情のわたるが彼女の顔を見つめていた。
(こいつ…怒ってる……?……いや…)
自分を見つめてくる瞳からは、身を引きちぎられそうな彼の痛みが伝わってきた。
(泣かせちまったんだな………ごめん…わたる…)
そのまま、肩に体を預けてきた芽留を、わたるは強く抱きしめてやった。
遠く砂浜では、ようやく事態に気付いたライフセーバー達がこちらに駆けつけて来るところだった。
429266:2009/08/09(日) 13:42:42 ID:+YcTxLVy
帰りの電車の中、隣り合って座るわたると芽留の間にはほとんど会話はなかった。
自分が溺れて、どれだけわたるに心配をかけたかと考えると、芽留はとても口を開く気にはなれなかった。
そして、そんな芽留の気持ちを感じ取ったわたるもまた、何となく口が重くなってしまっていた。
夕陽の差し込む車内は行きとは打って変わって、どこか静かに感じられた。
2のへの面々や、他の海水浴客達は疲れ果てて、その半分ほどがすやすやと夢の中にいた。
聞こえてくるのは、ただ一定のリズムを刻み続ける、レールの音だけだ。
陸に助け上げられてから、わたるは芽留を責めるような事は一切言わなかった。
溺れた人間を直接助けに行くのは、助けに行った当人までも危険に晒す、あくまで最後の手段だ。
他に方法がなかったとはいえ、もしかしたら、彼はあそこで芽留と一緒に死んでいたかもしれない。
だけど、芽留の為に命を張った彼は、その事を責めるでもなく、むしろどこかバツの悪そうな様子で、ずっと黙りこくっている。
理由は、聞かなくてもわかる。
自分を助けたときに、彼が見せたあの表情、それで十分だ。
【心配、かけたな?】
ようやく言葉に出来たのはそれだけだった。
わたるは、携帯の液晶に浮かぶその文字をちらりと見て
「別に、気にするな」
そう言った。
(やっぱり、そういう返答か……)
なんでもかんでも背負い込むのは、わたるの悪い癖だった。
(そんなに頑張んなくてもいいんだよ、お前は……)
だけど、芽留が好きになったのは、そんなわたるだったからこそだ。
ならばせめて、出来る限りの笑顔を、この不器用なオタク少年に送ってやりたかった。
【しかし、あれだな……せっかく溺れた所を助けてもらったんだから、定番のアレも欲しかったな】
「何だよ、アレって?」
【人工呼吸】
「ぶっ!!?」
【ん?どうかしたのか?】
「大体、お前、俺が助けた時点で呼吸できてただろうが!!!そ、そ、それをなんで……っ!!!」
【何だ?単なる人命救助だぞ?まさか変な事を考えてるんじゃあ……】
「てめぇ、このやろーっ!!!!」
芽留にからかわれて、ようやくいつものふてぶてしい表情を取り戻したわたる。
それを見て、ようやく芽留も一安心する。
そして、芽留はそんな彼の懐にすうっと滑り込むように抱きついて
【わたる……】
「あ……!?」
彼の頬にそっと唇を触れさせた。
【ありがとうな……本当に……】
「あ…う……お、おう…」
精一杯の感謝を込めた芽留の笑顔に、わたるは顔を赤くして肯いた。
列車はまだ夕陽の色に染まった海沿いを走っている。
二人がいつもの街に戻るまでは、もうしばらく時間が掛かりそうだった。
430266:2009/08/09(日) 13:43:17 ID:+YcTxLVy
以上でお終いです。
失礼いたしました。
431名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 13:57:18 ID:BAd5Y/09
GJ!
だんだん万世橋がイケメンに見えてきた
432名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 00:09:28 ID:ls/Sco5F
パロファンにも品格というものがあろうによ!
433名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 00:12:25 ID:Uz1rtonn
みんなGJなりよ
434home:2009/08/10(月) 11:18:18 ID:FwLOllBd
久しぶりの望霧はネタ
435髪の毛の長さbP:2009/08/10(月) 11:21:42 ID:FwLOllBd
ゆらりゆらり。
揺れ動く霧の髪の毛。
足元まで届こうかと言うような長さにも関わらず。
艶やかで美しい。

あまりの暇な休日の中で、望の視線はそこに集中していた。
霧が歩けば、それに付き従い。
霧が座れば、綺麗に拡がる。
風呂好きな霧は、やはり髪にも気を遣っているのだろうと、望は考えた。
視界の端で髪の毛を見ながらコーヒーを啜る。
もはや手に持った小説には興味がなく。
霧に釘付けになったように見入る。
あまりにじっくり見られるものだから。
霧も気付かないふりを続けるのは無理だった。
意を決して、望に話し掛ける。

「どぉしたの?せんせぇ」
「えっ、いえ、何でもありませんよ」
「なんか付いてる?」

そう言って霧は自分の背中を見てみる。
とは言っても、毛布だが。
しかし、得に変わったものはない。
当然だが。
霧は仕方なく、全身を確かめるために、その場でクルクル回ってみる。
あまりの可愛らしさに、つい見とれる望。
そうしてまた、その視線に気付く霧。
少々顔を赤らめて、問い掛ける。

「な、なんなの?せんせぇ、恥ずかしいよ…」
「あ、そのっ、すみません…」
「…私、どっか変かな?」
「いえ、そういうわけじゃありません」
「…?」
436髪の毛の長さbP:2009/08/10(月) 11:22:23 ID:FwLOllBd
言い辛い。
今更だが、自分が教え子に見とれていたことを話すのは、あまりに気恥ずかしかった。
徐々に顔が火照るのを感じて、望は目線を逸らした。
このまま見つめ続けるなど、所詮無理な話。
だが、霧はより望の事を不審がる。
片付けている途中の洗濯物を投げ出し、望の前に座り込む。

「ねっ、なぁに?」
「そ、その、…髪を」
「………髪の毛?」
「えぇ、見ていただけです…」
「…やっぱり長いかな?」
「いえ…」
「でも、毎日洗ってるから汚くはないよ!?」
「小森さん、私は」
「せんせぇ、ショートのほうが好きなの?」
「小森さん、話を聞いてください」
「…」
「私は、貴女の髪を綺麗だと、思っています」
「…!?」
「とても、美しいですよ」
「あ、ありがとう…」









「はっ、夢!?」

霧は飛び起きた。
437home:2009/08/10(月) 11:23:57 ID:FwLOllBd
はははっ
誰かネタをくれ!
438名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 11:59:29 ID:DnWkLzb2
>>437
普通ちゃんが
本の虫に
普通に恋する話
439home:2009/08/10(月) 12:34:07 ID:FwLOllBd
久藤くん、何読んでるの?
『特別に普通』っていう小説だよ
普通っていうなぁー!!!
440名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:17:18 ID:kY5pl7XV
>>437
どんな作品でもあなたの書くSSは大好きです
441名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 13:43:29 ID:G37MCdDC
>>439
やっつけww
442名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 16:02:33 ID:UB9eoCID
GJ夢なのがもったいないw
443名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 19:07:50 ID:0CkW3OsK
いつものようにみんなにいたずらをする真夜


千里「ちょっと!三珠さん、何すんのよ!?」
真夜(え?)
カエレ「訴えてやる!!」
真夜(あれ?)
芽留[何しやがんだツリ目女!]
奈美「ひっどーい!三珠ちゃん!!」
望「何をするんですか!三珠さん!!」
真夜(ええええええええ!?)
可符香を「イタズラするような悪い子にはお仕置きが必要ですねえ」
一同「おっ仕置き!おっ仕置き!!」
真夜(え!?なんでだっていつもは誰も気付かな・・・え・ちょっちょっと待・・・・・)
   
「おっ仕置きおっ仕置き」

真夜「いやああぁぁぁ!!」





可符香「ふ」 












下手くそのくせに焦る真夜が書きたくて勢いで書いた。反省も後悔もしている。
どうか見なかったことにしてくれ。             
444名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 19:55:54 ID:9fpSkyBi
>443
書き方を勉強すれば誰でも書けます。
初期の妄想ほど大切にするといいかも。
445名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 21:12:25 ID:G37MCdDC
勉強しなくても
書いてたらいつか上手になる

真夜好きの期待の星頑張れ
446なぞなぞ:2009/08/10(月) 22:55:55 ID:efba6Vcf
可符香「問題です。冷蔵庫にキリンさんを入れる方法は?」
奈美「えっ?大きな冷蔵庫を作って…」
千里「キリンを解体すれば簡単でしょう。」
あびる「冷蔵庫を開けてキリンを入れ、冷蔵庫を閉める」
可符香「第二問。その冷蔵庫にゾウさんを入れる方法は?」
奈美「子供のゾウなら入れるかな?キリンが入れるんだし」
千里「ゾウも解体する。」
あびる「冷蔵庫を開けてキリンを出し、ゾウを入れて冷蔵庫を閉める」
可符香「第三問。ライオンさんが全ての動物を集めて会議を開きました。なのに欠席したのは?」
奈美「えー……あ、ナマケモノ!」
千里「ライオンが食べてしまえば、欠席。」
あびる「ゾウ。今は冷蔵庫に入ってる」
可符香「最後の問題です。ワニさんの住む川を渡る方法は?」
奈美「うーん、現地の人に頼めば船を出して貰えるかなあ」
千里「ワニを解体する。」
あびる「泳いで渡る。ワニは会議に出席中」
可符香「あびるちゃん全問正解!」
447名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 23:18:17 ID:Uz1rtonn
面白いよこれ
448名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 00:32:31 ID:fnXNZ4mo
>>446
やるなお前、思わず笑った
449名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 04:09:31 ID:6kwROPuh
この面子、いい子悪い子普通の子ができるな
450home:2009/08/11(火) 17:01:26 ID:7eY3l5aN
>>440
ネタ切れでも
読んでくれる人が居るのなら…
451夢じゃないよ:2009/08/11(火) 17:04:20 ID:7eY3l5aN
>>436から


今朝見た夢が忘れられない霧。
飛び起きた時間は、いつもの起床より少しだけ早い。
朝食の準備をする前に、鏡台に向かう。
鏡に映る自分は、やはり髪が長かった。
毎日丁寧に洗っている甲斐もあり、枝毛もほとんどない。
霧にとっては、自信のある女の武器だった。
時間に余裕のある今朝は、いつもより慎重に、手間をかけて櫛を通す。
黒く美しい髪が、鏡の中で揺れる。
満足のいく結果となったのか。
霧はニッコリ笑って鏡台の前を離れた。

望が起き出す前に、朝食の準備を始める。
和食が好きな望のために、朝食には必ず味噌汁を作る。
けれども、低血圧な望は朝から多くは食べない。
長い間、望の世話をしているので、霧は望の好みや趣向を十分に理解していた。
時計が7時を回った頃に、望が起き出す。
襖一枚奥の空間で、望が伸びをするのが分かる。
幸せな気持ちが胸に拡がり、つい微笑んでしまう。
味見をしようと、味噌汁をおたまで掬ったときに望が襖を開けた。

「おはようございます、小森さん」
「おはよう、せんせぇ。ご飯もう少しだから、ちょっと待ってね」
「いつもすみませんね」

そう言って寝間着のまま、ちゃぶ台の元へと行く望。
上半身から手を伸ばしてテレビの電源をいれる。
昨夜、霧が見ていたテレビショッピングのチャンネルを変えて、ニュースを見る。
台風による日本列島の被害状況を映し出す。
テレビに釘付けの望は、霧のほうを向いていない。
台所から望の様子をチラ見しながら伺っていた霧は、すぐにそれに気付いた。
452夢じゃないよ:2009/08/11(火) 17:05:41 ID:7eY3l5aN
(せっかく頑張って梳いたのに…)

やはり夢のように上手くはいかず、苛立ちが募る。
出来上がった朝食をちゃぶ台に移動させて、食事を整える。

「今朝も美味しそうなご飯ですね、いただきます」

子供のように、喜びながら言う望。
普段からはあまり感じない可愛らしさに、霧の胸が高鳴る。
少し赤くなった顔を隠すために、両手でお椀を持ち味噌汁を吸った。
その時、霧は気付かなかった。
自分の肘の位置に、お茶を置いていたことを。
少し腕を動かしただけで、霧の肘は見事に湯呑みに当たり、中身が一気にこぼれだす。

「きゃっ!?」
「あっ!?」

熱々に煎れていたお茶は、霧に向かって脅威を放つ。
ちゃぶ台に留まらない茶の滴は、滝となり。
宿直室の畳を濡らす。
そして、霧自身をも。
幸い肌にはかからず、霧が纏う毛布が濡れていた。

「大丈夫ですか?小森さん」
「う、うん。大丈夫…」
「すぐに拭かなくては…。タオルを取ってきますね」
「ごめんね、せんせぇ」

先程まで高鳴っていた気持ちはがた落ち。
お気に入りの毛布に染みができるのではないかと心配をしていると。
すぐに望が戻ってきた。

「ありがと、せんせぇ」

手に持ったタオルを受け取ろうとするが、無視する望。
霧の後ろに回り込み、自ら持ってきたタオルで毛布を拭き始める。
男特有の少しだけ力強い動作で、毛布を乾かしていく。

「いいよ、せんせぇ。自分でやるから…」
「しかし、毛布を脱ぎたくはないでしょう?」
「…そ、そうだけど」
「では、大人しくしていて下さい」
453夢じゃないよ:2009/08/11(火) 17:07:25 ID:7eY3l5aN
望の命令通り、大人しくなる霧。
後ろで懸命に奉仕する望の優しさにドキドキする。
まるで抱き締められているかのような近い距離で。
霧の心は更なる高揚を感じていた。
十分に拭き取られた毛布。
望は他にもかかっている所がないか、入念に確かめる。
毛布を捲った時にある事に気が付いた。
毛布に隠れて見えていなかったのだが、長い霧の髪にもお茶がかかっている。

「髪の毛まで濡れてしまってますね…」
「えっ!?ウソッ…!?」
「少しだけですから、ジッとして下さい」
「あ、…うん」

毛布を拭くのとは訳が違う。
濡れているであろう部分を、優しく持ち上げる。
さらさらに流れていく髪を注意深く見つめると。
しっとりと、美しく光る場所が見える。
艶やかで、それでいて整っている。
微かに香るシャンプーの薫りは、望の心を少しだけ揺らす。
自分に出来得る限りの丁寧さを持って、霧の髪を撫でる。
日本人特有である黒髪の美しさに、朝食の途中であることも忘れて没頭する
何度もタオルを重ねて、雫を吸い上げる。

「ごめんね、せんせぇ。こぼしちゃって…」
「いえ、大丈夫ですよ。…それにしても、小森さんは髪が長いですねぇ」
「い、嫌かな?髪長いの…」

その時には、もう夢のことなんて忘れていて。
ただ、望と一緒に甘い時を過ごすことだけが、喜びだった。

「先生は、小森さんの髪の毛、好きですよ」
「…!?」
「とっても、綺麗ですね」
「あ、ありがと…」

呟いたお礼は吐息のようで、望の鼓膜に届いたかは分からない。
望は再び手を動かし、作業を続ける。
髪の中に手を通して、掬い上げる。
最後の手櫛は、まるで、霧の頭を撫でているかのようで。
霧を幸福の崖へと、叩き落した。
454夢じゃないよ:2009/08/11(火) 17:11:11 ID:7eY3l5aN
学校が予鈴が鳴り響かせるまで、その幸福は続いた。




これで終わりです
また書けたら、投下させてもらいたいと思います
455名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 19:35:21 ID:q32AY9qm
>>454
GJ!
原作の200話で先生と小森ちゃんの日常生活とか書いてくんないかなぁ
456home:2009/08/11(火) 20:48:39 ID:7eY3l5aN
書いてほしいですねぇ
ネタが増えます
457名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:08:26 ID:mguDalS6
相変わらずGJ
望霧の神やな
458名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:21:59 ID:qPtEjeNF
いいなぁ…。ニヤニヤする。
出番はもっと増やして欲しい。せめて一月に1回ぐらいは全身絵があるぐらいに。
459名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 22:57:22 ID:KhAGMHSj
霧賛美に辟易してきた。望霧以外のSSが読みたい。
460名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 23:09:11 ID:07kwiW77
またそーやってワガママ言って盛り下げるんだから
461名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 01:19:55 ID:tdckvr0M
正直な話、望に飽きてきた
462名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 02:24:20 ID:jljo/XTs
交芽留なんか読んでみたいんだけどなぁ。
一度オチに使われた程度のフラグしかないとはいえ、もっとあっても良さそうなのに。
やっぱり子供過ぎるのが問題なんだろうか。
463home:2009/08/12(水) 07:48:17 ID:LAZ4V1Tl
>>459
書こうじゃあないか
でもまといは需要あるかな?
464寝言の正しい聞き方:2009/08/12(水) 07:49:55 ID:LAZ4V1Tl
寝言を聞いているだけでも、幸せ。
そう考えたまといは、一直線に望の元へと向かった。
時刻は夜の10時。
まだ望は就寝前で、本に集中していた。
霧は理科室に引きこもっており。
交は今日、奈美の家に泊まっている。
つまり、望は一人きりで居るのだ。
壁に寄り掛かり、小説をめくる。
背中のすぐ近くには、大きな窓。
まといは気付かれないように側に寄る。
暑い夜を快適に過ごす為に、窓は開け放たれていた。
静かに風が入り込む宿直室の中で、望は小説を閉じる。
両手を上げ、足を伸ばす。
固まった間接をほぐしてから、望は立ち上がった。

「さてっ、風呂にでも入りましょうか…」
(チャンス!?)

望の独り言を壁一枚後ろで聞いていたまといは、心の中でガッツポーズをした。
望が不在の間に、色々と仕掛けをしようという魂胆だ。
望が居間から離れて、風呂場に行ったのを確認してから、まといは中に潜り込む。
相変わらず殺伐とした空間は、霧がこまめに掃除しているという事実を連想させる。
一瞬だけムッとなったまといだが、すぐに気を取り直して、準備を始める。
とりあえず部屋に置いておいた盗聴器が外されていないかを確認する。
全部で158個あった盗聴器は、152個に減っていた。これも霧に違いないと思った
が、圧倒的な勝利による優越感に浸る。
外されていた6個のスペアを出して、より判りづらく、見付けにくい場所にセットする。
新たな勝利を予感したのか、まといはニヤリと笑った。
そして、最後に今日の大一番。
望の寝言を聞きたいが為に、今日はやってきたのである。
早速、寝所へと移動。
すでに敷かれている布団が、その部屋の大部分を占領していた。
枕元にひざまつき、新たな盗聴器をセットする。
途中で邪魔な枕を掲げあげると、微かに望の香りが。
ドキリと胸が高鳴る。
悪いことをしているのだという背徳感からも、ドキドキが止まらなくなる。
やってはダメだと自分に言い聞かせながらも、まといは枕を抱きしめる。
鼻から胸一杯に空気を吸い込むと、ハッキリ望の匂いだと分かるものが、鼻腔をくすぐる。
数回繰り返していくうちに、まるで麻薬常習犯のように止められなくなり。
ついには、布団の中にその身を埋めていた。
入ってすぐは冷たい掛け布団だったが、すぐに体温で暖かくなり、心地好い。
人の温もりと、望の香りにほだされて、まといの意識はだんだん遠くへと流れていった。
最高に幸せそうな寝顔を望が見付けるのは、それから約10分程後でした。
465寝言の正しい聞き方:2009/08/12(水) 07:52:23 ID:LAZ4V1Tl
おまけ



「どうして、常月さんが寝ているのでしょうか…?」
「…ZZZ」
「全く…、私のスペースがありませんよ」
「…ZZZ」
「しかし、寝顔は可愛いものですね」
「…ZZZ」
「起こさないようにしないと…」ゴソゴソ
「…ZZZ」
「おやすみなさい、常月さん」


翌日、期待を遥かに越えた望の言葉が録音されている盗聴器を手に入れたまといでした。
466home:2009/08/12(水) 07:54:35 ID:LAZ4V1Tl
終わりです

あと男は望しか書けないので
別の男は別の職人に任せます
467名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 08:01:08 ID:lELh0DmL
需要ならば各女子それなりにあると思いますよ。そして俺はまとい大好きなんだ。
とっても良かったぜ!愛してる!
468名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 09:27:28 ID:ffWwC/D6
これはいいミイラ取りが。萌えた
469名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 10:17:38 ID:/tS6POun
望まときたあああー!
無茶ぶりに応える home氏、
あなたが神か。
470名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 11:52:31 ID:85ewgwnJ
ああ、まとい可愛いよっ!!
home氏、GJです!!
471名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 12:23:30 ID:XlobcHcw
まといかわいいよまとい
472home:2009/08/12(水) 17:03:18 ID:LAZ4V1Tl
まといのが需要高い気が…
というわけでもういっちょまとい
473雨に打たれて:2009/08/12(水) 17:05:05 ID:LAZ4V1Tl
怪しい雲行きの中。
望は薄暗い街中を歩く。
手には、少し大きめの傘。
天気予報では降水確率70%。
このまま行けば、そのうち降り出しそうだ。
目的地まで、もうしばらく掛かる道のり。
望の足は急ぎ始めた。
そんなに足が速いわけでもない望。
急ぎとはいえ、その速さは、たかが知れていた。
不意に立ち止まると。
ついに降り出してしまった。
手に持った傘を拡げて、後ろを振り返る。
誰もいない、寂しい街角。
望は独り言のように、呟いた。

「常月さん。風邪を引いてしまいますよ、こちらにいらっしゃい」
「…分かってたんですか?」
「えぇ、ずっと」

少し悪戯っぽく微笑む望。
悔しいのと、嬉しいのでまといはどんな顔をしたらいいか分からない。
ただ、頬を軽く染めただけ。
美しく白い肌に、ほんのり朱色が混ざる。
降り始めた雨から逃れようと。
望の元へと駆け寄る。
すっ、と持ち替えられた傘。
望の左肩が、少しずつ湿気をおびていく。
まといは、何処も濡れてはいない。
地味ではあるが、よく着こなされた着物。
少し派手で、女の子らしさがよく表れた着物。
二人は、共に並んで歩き、帰路を急ぐ。
しとしと流れる雨は、二人を包み。
他には誰もいないかのような、空間を作り出す。
一歩、また一歩と踏み出される足。
揃えて歩く二人が見えなくなったのは、雨のせいだろうか。
474雨に打たれて:2009/08/12(水) 17:07:32 ID:LAZ4V1Tl
おまけ


「…ぶえっくし!うぅ…、私のほうが風邪を引いてしまいました」
「先生!大丈夫ですか?こんなときは…」
「…?」
「裸で温めあうしかありません!」
「それ違うから!!」
「先生のためなら、私恥ずかしくなんてありませんよ?」
「そういうことじゃありませんから!」
「…♪」ゴソゴソ
「こ、こら!服を着なさい!貴女まで風邪を引きますよ!」

翌日、二人とも風邪で学校を欠席したとさ。
475home:2009/08/12(水) 17:29:10 ID:LAZ4V1Tl
女の子みんな好きなんで誰でも書けます
でも男は望だけ…
476名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:46:18 ID:nU7+ieuW
木野や久藤も書いてほすぃなあ
477名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:58:16 ID:WjwmICXz
あきらめろ
478名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 18:11:55 ID:rgwZO6cP
>>446みたいな軽いタッチなの好きだなあ。
今さらながらGJ!
479名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 18:30:15 ID:nU7+ieuW
>>477
なんでだよ
480名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 18:36:52 ID:k+GLbKA+
本人じゃね?技量的に無理ってことだろ
481home:2009/08/12(水) 18:41:41 ID:LAZ4V1Tl
本人じゃないッス

>>476
書こうじゃあないか
482名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 18:58:03 ID:nU7+ieuW
>>481
わあ!ありがとうございます!

遅ればせながらあなたの情感的な描写が好きです
483名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 19:09:51 ID:tdckvr0M
>>481
とてつもなく期待してます!
484名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 20:55:45 ID:z/ZQXR0/
あれだけ無理って言っといて書けんの?
485名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 21:02:08 ID:gECvkflQ
>>481
今度はかなり期待して待ってるぜ









全裸で
486名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:22:15 ID:lELh0DmL
>>473もgjね
487名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 23:53:33 ID:z/ZQXR0/
GJなのにみんなスルーだったのはあえてかと思った
488名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 02:33:34 ID:aw7zvXMe
最近は同じ職人がリピってばかりのスレだしな。
新しい職人さん大歓迎です。
489名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 03:01:27 ID:QfYhUvY0
なんかそれじゃ、コイツ飽きたって言ってるみたい
そんな使い捨てる気満々なこと言いながら新しい職人さん大歓迎ですじゃ逆効果じゃないだろうか
490名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 05:46:23 ID:gAMBU8nZ
まとめを見ても思ったけど、すっかりエロなしパロになってしまいましたね
去年とかまだもっとエロがあった気がするんだけど…
491名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 17:13:26 ID:KmkLCIrA
もんくばっか一人前に言いやがって
492名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 17:33:17 ID:7SsdtaV5
文句言うくらいなら書けって話だろ
そしたらみんなも満足だし
オマエラも満足だろ?
493名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 20:25:57 ID:HqNYLjr0
職人が居なくてあれだけ過疎ってたのに
戻ってきたらこれだよ・・・
書き手は気にせず好きなもの書けばいいよ
494266:2009/08/13(木) 21:35:34 ID:NqoN9maN
こんな時にすみませんが、投下させていただきます。
望カフのエロなし。
アニメ一期11話、あばれチンチン電車にはねられた先生からの妄想話です。
495266:2009/08/13(木) 21:36:13 ID:NqoN9maN
そして私は長い長い夢から醒めた。

ズキズキと痛む頭を抱えて、私、風浦可符香はベッドの上に起き上がる。
「ここは……?」
見覚えの無い部屋だった。
くすんだ白の天井、薄いクリーム色のカーテン、枕元に見えるあのボタンはもしかしてナースコール?
という事は、ここは病院なのだろうか?
どうして私が病院なんかで寝ているのか、頭がボンヤリして全く思い出せない。
ただ、ハッキリと覚えている事が一つだけあった。
「行かなくちゃ……」
私はベッド脇の床の上にあったスリッパを履いて立ち上がろうとする。
どうやら足腰も相当弱っているらしく、それだけで私の足元はふらついてしまう。
だけど、そんな事は今はどうでもいい。
私は力の入らない足を、強引に一歩前に進める。
そこで、何かが腕を引っ張るのを感じた。
振り返ると、長い金属の支柱に引っ掛けられた点滴の袋が見えた。
その点滴の袋から私の腕まで、一本のチューブが伸びている。
点滴の中身は何か特別な薬という訳ではなく、栄養剤の類のようだ。
そういえば長い間眠っていた気もするし、こういう物も必要だったのだろうと私は納得した。
それに、点滴はともかく、支柱の方は今の私にはありがたい物だった。
移動用のコロがついた支柱は、杖の代わりにはもってこいだ。
私は点滴の支柱をぐっと握り締めて、再び歩き始めた。
頭の中に浮かぶのはただ一つ……。
「行かなくちゃ…先生の所へ…行かなくちゃ……」

病院の廊下を行き交う人々はみんな忙しそうで、私に構う人は一人もいなかった。
途中、エレベーター手前のロビーにあった日めくりのカレンダーで日付を確認した。
自分がどれくらい長く眠っていたかを知りたかったのだ。
だけど、私は自分がいつどうして意識を失ったのかを覚えていなかった。
それでも、その日数が決して長いものではないと分かったのは、私が『あの日』の事だけはハッキリと覚えていたからだ。
先生に、私達のクラスに思いがけず降りかかった不幸な出来事。
「そっか…もうあれから四週間も経ったんだ……」
四週間、つまりはほぼ一月……その言葉の重みに私の体は震えた。
もし、全ての事態が私が眠りに落ちる前から全く変化していなかったら?
もし、私が眠っている間に、事態がさらに悪化していたら?
点滴の支柱を握る手の平に、ぎゅっと力を込める。
そうだ。
急がなければ。
私なんかより、ずっと深くて暗い眠りに捕らわれていた先生がどうなったのか?
それを確かめなければいけない。
目指すは集中治療室。
逸る気持ちを抑えながら、私はエレベーターのボタンを押した。
496266:2009/08/13(木) 21:37:27 ID:NqoN9maN
意識を失ってから目を覚ました今日まで、私はずっと夢を見ていた。
夢の内容は何てことはない日常の光景ばかりだったけれど。
ただ、夢は夢らしく、おかしな部分もあった。
季節の感覚が滅茶苦茶なのだ。
春だったかと思えば、次には冬になって、そのまた次は夏になる。
春夏秋冬がシャッフルされたそんな時間を奇妙だと思わなかったのは、それもやはり夢ならではの事なのだろう。
だけど、それ以外はいつもと何ら変わらない。
私がいて、みんながいて、そして先生がいる、騒がしくも楽しい日々の夢だ。
どうしてそんな夢を見てしまったのか、それも分かり切っている。
その日常が壊れていく耐え難い現実を、私の心が拒絶したのだ。

そしてついに、私は集中治療室の前までやって来た。
エレベーターを降りてからここに来るまで大した距離は無かった筈だが、随分と長く歩いた気がする。
ここから先は関係者以外の入室は禁じられている。
「そうだ……」
私の記憶がだんだんと鮮明になっていく。
脱線を起こし暴走する路面電車に激突された先生は、すぐにこの病院に運び込まれ手術を受けた。
生死の境目を彷徨っていた先生だったけれど、何とか手術は成功し、みんなはホッと胸を撫で下ろした。
「………だけど、それからいつまで経っても先生は目を覚まさなかった」
いくら検査を重ねても、その原因はわからなかった。
最新の検査機器でも感知できないほどの脳神経の微妙な損傷が影響しているのかもしれない。
そう呟いた絶命先生の暗い表情を今でもハッキリと覚えている。
集中治療室の中の先生と会うのを許されたのは、先生の家族だけだったけれど、
先生のご両親のおかげで、私や他の2のへの生徒も特別に面会の許可を貰えた。
ただし、誰であっても時間は一日30分まで。
そして私はそれ以外の一日中を、部屋の外の長椅子に座って過ごした。
497266:2009/08/13(木) 21:38:10 ID:NqoN9maN
『お前、今日もいたのじゃな……』
『あ、倫ちゃん……』
あの日も、私は集中治療室の前にいた。
先生が事故に遭ってから、かれこれ24日が経過しようとしていた時の事である。
『先生は……?』
私の質問に、倫ちゃんは首を横に振った。
『いつもは絶望した絶望したとうるさいのに、まるで子供のようにすやすやと眠りこけておる』
倫ちゃんは寂しそうに笑った。
長く続く昏睡状態に加えて、先生の体は激しく消耗しており、その容態は芳しいものではなかった。
『このまま……本当にこのまま、目を覚まさないのかもしれんな……』
『いやだなぁ、そんな事あるわけないじゃないですか。先生はきっと目を覚ましますよ』
『本当に……そう信じておるのか?』
『もちろんです』
『………ならば何故、ほとんど飲まず食わず、眠りもせず、お前はここに居続けるのじゃ?』
私の言葉が止まった。
『お前も不安なのではないか?こうしていないと不安に押し潰されそうなのではないか?今のお前はあまりに痛々しくて……』
私の顔を覗き込んでくる倫ちゃんの瞳には、今にも泣き出してしまいそうな痛みの色が見えた。
(見透かされちゃってるな……)
倫ちゃんの言う通りだ。
2のへのみんなは無駄を承知で毎日かわるがわるこの部屋までやって来るけれど、私のようにずっとこの場に留まり続けるような事はしない。
だけど、私は弱いから、先生から離れるのが怖いから、ずっとこの椅子に座り込んだままだ。
『違うよ。ほら、先生って寂しがりやだから、目を覚ました時に誰かが居てあげないと可哀想だし……』
それでも、私は笑顔の仮面を捨て去る事が出来ない。
倫ちゃんに泣いて縋って、全ての気持ちを吐き出せば、きっと楽になれるのだろう。
だけど、それをしたら最後、私は、先生はきっと帰ってくるという、その希望を信じられなくなってしまう気がするのだ。
だから、私は笑い続けるしかない。
絶えない笑顔で先生を待ち続けるしかない。
私がそうしてる間は希望の火はきっと消えない。
『そうか………』
やがて、諦めたように倫ちゃんは長いすから立ち上がった。
時計を確認して、私も立ち上がる。
面会時間が終わるのだ。
今日も駄目だった。
でも、明日はもしかしたら……。
頭の中で何度も自分に言い聞かせる。
そうして、廊下の上に一歩踏み出した、その瞬間だった。
『あ……!?』
ぐらり、世界が揺れて、ひっくり返った。
支えを抜かれたように崩れ落ちた体が、無造作に床に叩きつけられた。
全身を襲う強烈な痛みが、まるで他人事のように感じられた。
(…駄目……私は先生を……待って…いなくちゃ……)
その叫びを声にする事すら、私には出来なかった。
目の前で青ざめた顔の倫ちゃんが何事かを叫んでいるのをぼんやりと眺めながら、私は意識を手放した。
498266:2009/08/13(木) 21:38:54 ID:NqoN9maN
そして今、私はあの時の自分が倒れたのと同じ場所に立って、集中治療室の入り口を見つめている。
私が倒れたのが事故から24日目で、目を覚ました今日がちょうど4週間、つまり28日目だ。
かれこれ四日もの間、私は眠っていた計算になる。
精神と肉体の疲れが限界に達していたのだろう。
問題は、その四日の間に何があったのかだ。
よろよろと手を伸ばして、私は部屋のドアに手を掛ける。
大丈夫、きっと先生は大丈夫。
呪文のように頭の中で繰り返しながら、ゆっくりと扉を開いた。
そこで私がみたものは………
「えっ………!!?」
さんざん見慣れた部屋の中、ずらりと並んだベッドの中でただ一つだけ、先生がいた筈のベッドだけが空っぽのまま放置されていた。
「あ……うあ……ああ………」
呻きながら、私は入り口へと後ずさっていく。
乱暴に扉を閉めて、その場に膝から崩れ落ちた。
だが、どんなに扉で閉ざしたところで、私の目に焼き付いたあの空白は消えてくれない。
何もかも、私が意識を失う前と同じ部屋の中で、そこにだけポッカリと開いた穴。
先生の不在。
「いや……先生…先生……っ!!!」
『長く続く昏睡状態に加えて、先生の体は激しく消耗しており、その容態は芳しいものではなかった。』
どうして気付かなかったのだろう、少し考えればわかる筈なのに……。
先生の心が戻ってくるまで、先生の体が待ってくれるとは限らない。
そんな単純な事に、何故………?
私は激しく床を叩いた。
その衝撃で点滴の支柱が倒れ、周囲の肉を抉りながら注射針が抜けた。
視界はボロボロと零れて止まらない涙で埋め尽くされ、喉はまるで呼吸困難に陥ったように泣き声さえ上げる事が出来ない。
「せんせ…先生っ……せんせいっ!…先生…先生……先生……っ!!!!」
苦しい呼吸の中で何度も何度もその言葉を繰り返す。
希望という言葉を糊塗して、無理矢理維持してきた堤防が音を立てて崩れようとしていた。

「ちが…先生は……きっと…」
私はあの部屋を見た筈だ!!!
「…先生は…目を覚まして…」
空っぽのベッドがそこにあった筈だ!!!!
「…戻ってくる…先生は戻って…」
違う!もう居ないんだっ!!!
「…信じない…」
信じろ!!!
「…希望は…きっと最後までなくならない……」
そんなモノはもうここには存在しないっっっ!!!!!!!!

そして、私の思考は真っ白な虚無の中に呑みこまれていく。
その筈だった……。
499266:2009/08/13(木) 21:39:28 ID:NqoN9maN
どこかで誰かが叫ぶ声がした。
だけど、空っぽになった私には何もかもが無意味で、私の体は床に突っ伏したままだ。
もう一度声が聞こえた。
今度はもっと近くで。
自分の名前を呼ばれたような気がした。
それでもピクリとも動かない私の右手首を、声の主が強く掴んだ。
(…………あれ?)
空白の意識が僅かに揺らめいた。
私は、この手の温もりを知っている。
私の右手首を掴んだ誰かは、もう片方の手の平を私の左肩に回し、私の体を抱き起こした。
そして、今度は真正面から、その叫びを私にぶつける。
「風浦さん………っっっ!!!!!!!」
「あ…………」
聞き間違える筈も、見間違える筈もなかった。
頬はこけ、事故の時に壊れたいつもの眼鏡は当然かけていない。
カサカサの唇はさっき叫んだせいで端っこが切れて血が滲んでいる。
艶を失った髪の毛はいつもよりボサボサだ。
だけど、私がこの人の事を間違う訳がない。
「先生……?」
「風浦さん、あなたは何をやっているんですかっ!!!」
先生は泣いていた。
私をぎゅっと抱きしめたまま、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
「事故の昏睡からやっと目を覚ましたら、あなたが倒れたって聞かされて、
担当の先生に無理をお願いして病室に行ったら、あなたのベッドはもぬけの殻で………」
ああ、なんて馬鹿みたいな早とちりだろう。
「先生…ごめ…ごめんなさい……」
再び私の心の中から、感情の津波が堰を切ってあふれ出す。
先生の服の胸元を濡らして、私は子供のように泣きじゃくり続ける。
騒ぎに気付いた看護師達や病院の関係者が駆けつける中、先生はずっと私を抱きしめ続けていた。
500266:2009/08/13(木) 21:40:09 ID:NqoN9maN
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
501名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 23:22:45 ID:7SsdtaV5
お疲れGJ
おんなじ職人ばっかは飽きるから
あなたの作品が読めてよかった
502名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 02:14:11 ID:oaudD+ob
何故余計な一言が抑えられないのか
503名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 02:38:57 ID:2Ph4ojFt
この間からやたらつっかかっている人だろ
一人で騒いでるだけ、かわいそうだね…
504名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 08:29:35 ID:sRcQZR+2
homeまだ〜?
505名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 10:08:13 ID:urkj505N
催促が早いわ
506名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 11:00:22 ID:b/uOBc7w
もういいよ
507名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 13:01:54 ID:rMRUZPWR
home氏にも自分のペースがあるし必要以上の催促はやめとけ
それと266氏への感想も必要だろう
こんな事を書いた後でちょっと不自然かもしれないが、今回のSS、GJだったと思います
508名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 15:07:47 ID:ORwKj6J4
なんか望以外は書きたくなさそうだったじゃん
509名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 15:26:30 ID:rMRUZPWR
職人の守備範囲にも限度があるんだから
home氏が書けない部分は仕方ないと思うよ
510名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 15:47:02 ID:snOZfJy2
無理なら無理で仕方ないよな
511名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 17:07:22 ID:falmnpoh
480の言い方がスゲーひっかかる
技量っつーか趣味の問題じゃない?
512名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 17:42:03 ID:D5egLN/a
皆スルーしてたのにわざわざそんな前のレスをほじくり返すとか悪意が見え見え
513絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 18:42:35 ID:Wod+wTJQ
続きを投下させてもらいます。今回は無限連鎖商女の二人なんですが……
・丸内さんがよく喋ります
・出番が少ないので勝手にキャラ付けしてます。
根津さんは秀才型のしっかり系、丸内さんは天才肌のおっとり系 みたいな感じ
・相手への呼び方とかも勝手に決めてます。
・やっぱり先生に好意がある風にしてます。
・エロくはないです。
以上の設定があります。気になる点があったとしてもそれは作者のせいなので、ご了承ください。
514絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 18:58:29 ID:Wod+wTJQ
「やっと効き目が弱くなってきてくれたようですね。あとは誰にも会うことが無ければいいのですが……」
望は身体を引きずる様にして公園を離れた。本能の部分がまだ愛を、女の性を求めていたが、薄っぺらな理性が何とかそれを黙らせるくらいにまで薬の効用はおさまっていた。
宿直室には霧がいるのでもう少し時間が必要だろうが、それもそう長くはかからないだろう。
「しかし絶対安全な場所などなさそうですね――こちらから、避けていかなければ」
新たにした決意は
「あら先生、お散歩ですか?」
二秒も持たずに崩壊の危機。それは無条件幸福の微笑による。
「こ……こんにちは」
後ずさりしながら、冷や汗を感じながら、望は辛うじて返した。
アパート暮らしをしていたときの隣人の女子大生だった。優しい笑みは花に喩えるのこそ相応しく、世のどんな男だって抗えるものではない。抗うべきものでもない。
ただ一人この男の、この状況下以外においては。
「き、奇遇ですね。お元気でしたか?」
今すぐ逃げたい走って逃げたい。それが望の本心であった。だが世話になっていた手前そういうわけにもいかず、無難に、深く関らずやり過ごすことのみが至上目標となる。
「せんせい……」
そんな望の考えを嘲笑うような微笑のまま、女子大生は望へと歩み寄る。後退しようにも、いつの間にかそこは袋小路。塀に張られた政党のポスターの憎たらしい笑みも相まって、望は笑顔に追い詰められる。
「ど、どうしたんですかっ? ちょっと、なにか言って下さい、ち――!」
拳一つ分の距離にある目は、どこか神話に聞くゴルゴンの瞳を喚起させた。美しいはずのそれが、全身を血を凍らせる。水晶に映りこんだ自分の転落した姿に、望は恐怖さえ覚える。
逃げた背中が石の壁と出会った。二度と開かないような必死さで目が閉じた。空気が身体を縛り上げる。
「どーぞっ!」
唇に何かが触れた。唇かと思った。口に何かが入った。舌ではなかった。
「このアメ、おいしいですよ……どーしたんですか、先生?」
離れてゆくのが分かった。全身を再び、血液が駆け巡る。目を開けるとストロボのように色調が反転した世界の中で、彼女は曖昧な笑みを浮かべていた。
緑色の指を、舐める。
「それじゃ突然で申し訳ないですけど、用事があるのでこれで失礼します。またお会いしましょうねっ!」
出鱈目な色の世界から退場してゆく女子大生。そういえば彼女の名前はなんといったか。
口の中を転げまわる玉はデジャビュの塊。酷く酷く甘い、記憶の塊。

「あれ……あの薬の残りが、あとひとつだけあったはずなんだが」
「どうしたんですか命先生?」

遠く遠く離れた場所で、彼女は誰にも真似できないような笑みを描いていた。
515絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 18:59:26 ID:Wod+wTJQ
「美子ちゃん美子ちゃん、次のお仕事、どんなのにする?」
紙コップの中のシェイクをストローでかき混ぜながら、翔子が訊く。
「そーだねぇ――」
フォークを皿に置き、美子が応じる。
二のへの無限連鎖商女、根津美子と丸内翔子は次の商売に向けての打ち合わせをしていた。
「やっぱりウチの先生を使った方がいいんじゃないかな。あの人を基点にすると、何かとシノギがよく回るみたい」
「だよねぇ」
辺りをちらと見回して、翔子は囁いた。以前二人は自分たちの担任の人気に目を付け、等身大人形のパーツを付けた雑誌を大当たりさせたことを思い出していた。
「すごかったよねぇ。クラスのみんな、創刊号買ってったもんね。第二号、第三号もけっこう売れたし」
翔子が「みんな」という部分を強調し、両腕を組んで自慢気に言う。それに美子は苦笑しながら付け加えた。
「欲を言えば、最終号まで買ってくれる人がもっと増えてくれたらよかったんだけど」
「ちょっと造形が甘かったのかな? アンケートにも書いてあったよ、『もっとかっこよくしてください』って」
申し合わせたように二人は笑い、途切れる。間を埋めるようにそれぞれ、コップと皿に手を伸ばす。
チーズケーキがバランスを失って倒れ翔子が再びクツクツと笑い、美子は蚊に刺されたような顔をした。
「もう一回、それでいこうか」
立ち上がりながら美子は言った。翔子はストローを口から離し、楽しそうに頷く。遊園地に連れて行ってもらえる子どものような笑顔だった。
「今度はもっとちゃんと採寸しようね……裏」
「ちぇっ」
美子は掌の上の十円玉を仕舞い、会計へ向かった。
「ごちそーさま、美子ちゃん!!」

喫茶店を後にした二人は望を探し始めた。
「それにしても、どうしてウチの先生はあんなにモテんのかな?」
美子が街路樹の桜を見上げながら言うと、翔子は一歩分、速度を落とした。前を行く美子の背中に言う。
「顔がいいっていうのはあるんだろうけど……美子ちゃんも、もしかして?」
やめなよ、と振り返って美子は翔子の頭を軽く小突き、溜息をついた。翔子は天使のように笑っている。
美子は短髪をいじりながら、至極どうでもよさそうに呟く。
「まあ嫌いじゃないけどさ――みんなみたいには追いかけられないかな」
ふうんと頷いて、翔子が言った。
「わたしは、好きだよ?」
516絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 19:01:05 ID:Wod+wTJQ
美子が立ち止まった。接着剤の水溜りに踏み込んだような唐突さで、翔子は避けることが出来ずに追突する。
「み、美子ちゃんっ?!」
「あ、ごめんごめん――前」
人の溢れた商店街、美子の指差す遥か先を見れば、そこには見覚えのある後姿。
「よく見つけられたね、あんな遠くなのに」
「――まあそもそも目立つ人ではあるし」
行こう、そう美子は言って駆け出した。翔子は一瞬だけ呆然として、すぐに笑みを浮かべた。素直じゃないのね、そう独りごちてから走り、人の林をすり抜ける。
翔子はすぐ、美子に追いついた。ギリギリ見失わない程度の距離を保ち、翔子は美子に耳打ちする。
「ところでせんせいを捕まえる話なんだけど……」
「準備してるよ。対糸色望用最終兵器」
そういって美子が鞄から取り出したのは、直径五ミリほどの穴がいくつも開いた、人間の二の腕ほどの太さと長さの
「……バッグにレンコン入れてる女子高生って、どう?」
レンコンだった。不本意そうに美子は唇を尖らせる。
「――これで先生は気を失うって聞いたから」
「それは私も知ってるけど……もっとお薬とか、確実な方法がよかったんじゃない?」
美子は反論した。
「経費は浮く方がいいでしょ。それに――」
ところが後半声が落ち、何やらはっきりとしない。
ピンと来た翔子はいじめっ子のようにニヤニヤと笑う。
「大好きな先生にクロロフォルムなんて、かわいそうで使えない?」
どごん。
美子がレンコンを翔子の頬に突き刺した。そのままグリグリと、ゴマでも磨り潰すように穴を回転させる。
「しょ・う・こー?」
「ご、ごめんごめんごめんなさい!! かゆいから止めてっ!」
517絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 19:02:05 ID:Wod+wTJQ
「ああもう、どこ行ったかわかんなくなっちゃったじゃん!!」
「美子ちゃんがいつまでもぐりぐりするから……」
「なんか言った?」
「いえ、なにも」
ひと悶着を起こした二人はその隙に望の姿を見失ってしまっていた。いつの間にか大通りの人の姿はますます増え、まっすぐに歩くことさえ困難だ。
美子も翔子も目をドングリのようにして望を探し回ったがどこにも見当たらない。甘味処や映画館、パチンコ屋にアンテナを伸ばしても、その姿を見た者は無かった。
「もう三週目になるよ? そろそろ学校に帰っちゃったんじゃないかなぁ」
「確かに――この場所は潮時かもしれないね」
諦めかけて商店街の出口へ向かっていると、遥か先の建物からすう、と望が出てきたのを二人は偶然目撃した。遠目だったがあの背格好と、さっき見たのと同じ着物の柄からそう判断する。
「あんなところに――」
タイミングのよさに驚いたが美子と翔子は頷き合い、歩を速める。
門をくぐると、望は学校の方角へと足を向けた。レンコンを鞄の中で掴み、美子が言う。
「やっぱり帰るみたいね――ここからだったら路地を通ることになるから、そこで捕まえよう」
うん、と合点して翔子も後をつける。
担任は、尾行に気付く素振りは見せないが歩くのが恐ろしく速く、二人は殆ど小走りにならざるを得なかった。
「なんなんだあの人――!」
そしてそれは曲がり角の向こう――二人が望を捕縛する計画地点の路地で起こった。
距離を詰めようと路地に飛び込んだ美子が先に手のレンコンを落とし、続けて入ってきた翔子の目が大きく見開かれた。
「うそ」
「えっ」
誰も、いなかった。塀の向こうから垂れ下がった木の枝を風が揺らす、それだけがその路地で動くただ一つのものであった。
二人揃って木の下に駆け出す。震える唇をようやく動かし、美子は吐き出した。
「どういうこと――?」
ウロウロと歩き回り、考え込む美子。だが翔子の方は、別の、ある違和感に気付いた。口元に手をあて眉をひそめる。それを見た美子は聞いた。
「翔子?」
信じられないというような、自分で言った嘘が現実になりつつあることに驚いているといった風で翔子は言った。
「……いない」
意味を図りそこね美子は聞き返す。
「えっ?」
翔子は――彼女にしては珍しいことであったが――動揺した様子で言った。
「まといちゃんが、いなかったのよ。商店街から、今の今まで」
518絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 19:03:13 ID:Wod+wTJQ
そのときには既に遅かった。
足首に何か巻きついたかと思うと、途端に重力が逆転した。アスファルトが眼前に迫り二人は目をつむる。暴風に煽られたが如く四肢と髪が跳ねる。
二度三度頭が金槌で殴られたように振られ、しかしだんだんと高く吊り上げられてゆく。二人が次に目を開けたときには先ほどまで自分たちが立っていた地面と、逆転した世界と。
「影武者と木目糸は使いよう、ですね」
追っていたはずの獲物の、勝ち誇った姿があった。
「――先生」
「せんせい……」
思わず睨み付けたようになったのは、頭を下にした姿勢から上目遣いに担任の顔を覗き込んだ、という理由からだけではない。
「私服がスカートじゃなくて、よかったですね。いや私としては残念なんですが」
浮かべた笑みも、見上げているくせに見下すような目も、二人分の体重を繋いだ紐を持つ細い腕も、知っているはずなのにまるで馴染みと現実感が無い。
「追いかけっこは私の勝ち、みたいですね。では、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
決して強制ではなかった。彼自身の目がそう言っていたのを、美子も翔子も感じ取った。ただそこには拒否という選択肢を自ら捨てさせるような、無言の誘惑を秘めた光が宿っていた。
半ば無意識のうち、美子の口が開く。それを
「おっと、先に下ろさせてください……悪戯が過ぎました」
望が、木目糸で束ねて作られた紐を柵に括りつけると、二人は逆さてるてる坊主のようになる。しかしそのロープもすぐに切られ、支えを失った身体は熟れ過ぎた林檎の様に地面へと飛ぶ。
その落ちゆく少女たちは、後頭部とひざの裏を抱きとめられて地上へと戻された。
二人の顔が赤かったのは、逆さに吊るされた血流と抗議の感情のせいだけではあるまい。
まるで子どものような無防備な姿勢を抱えられたことの、恥ずかしさというのも、それのみでは答えとして惜しいのだろう。
「どうして今日は、常月さんの真似事を? レンコンまで持ってくるなんて、イヤな予感しかしませんが」
時間稼ぎのようだが結構気になっていたこと――まといの所在を、美子は尋ねた。
「常月さんは、一緒じゃないんですか」
望は答える。
「あぁ、あの娘はいま私を探しているのでしょうね。どこにいるのかまではちょっと存じませんが――ところで」
帰ってきた視線はガラスの針。喉元に突きつけられれば黙秘などありえない。
二人は望を尾行していた理由を説明した。望の模型をつくること、採寸をきっと嫌がるだろうと思ったこと、こっそりと眠らせて測ろうとしたこと――
「――ごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人は頭を下げた。もし普段の望であったならきっと、そんなことはしなかったであろう。せいぜい笑いながら逃げ出すくらいだ。
だが今日の担任には、どうしても嫌われたくなかった。そういった雰囲気を彼は持っていた。
地面に向いた四つの瞳。
それは驚きに見開かれる。
「別にかまいませんよ」
519絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 19:03:47 ID:Wod+wTJQ
わしゃわしゃと髪の毛を梳かれ、二人は顔を上げた。そこには担任教師の、普段見せない悪戯っぽい笑み。
「――本当ですか?」
ええ、と頷く望を見て、美子と翔子は思わず上気した顔をほころばせる。
「ただし、二つほど条件があります」
意地悪そうな微笑を浮かべたまま彼は続けた。人差し指と中指を立て、盾を掲げるように見せつける。
「ひとつは、商品化しないこと」
美子と翔子はバツが悪そうに視線を落とした。あえて説明をしなかった本題をきっちり指摘されたからだ。「ウソはついてない」――そんな言い訳が通用しない、柔らかくも冷徹な声音。
「小森さんが私にそっくりな人形のパーツを集めてたことがあって、大変な目に逢いましたからね……それと」
決して「誰が」それを売っていたか、という部分に触れなかったのは無知か、意図してのことか。それを考えていた美子と翔子は、次の言葉で一時停止を余儀なくさせられた。
「私にも採寸させて下さいよ」
「「はあっ?」」
熱も疑問も吹き飛ばされ呆けたようになった二人に、望は当然の如く言う。
「私だけ採寸されるなんて不公平じゃないですか? だから私も、貴女達の身体の採寸をしたいってことです」
台詞の半分辺りで真意を理解し、真っ赤に頬を染めた二人の肩を、望は間に入って両方とも抱いた。そして耳元で恋人に囁くが如く、選択を迫る。細い首筋に、猫よりも甘く爪を立てる。
「さていかがです? 金銭的な利益はなんら生み出せませんが」

「――なんで承諾しちゃったんだろ。お金にならないのに」
「……もう、美子ちゃん。分かりきったこと言わないでよ。それと」
二つの影が路地の細い道を、取り残されたように漂っている。
「先生の人形が出来たら……試運転、しなきゃだよね……」
「うん――その為にも採寸、しないとね」
520絶望に効くクスリ:2009/08/14(金) 19:07:43 ID:Wod+wTJQ
今回は以上でお終いです。この二人も先生とフラグを立てるなりして、本編にたくさん出て欲しいです。もっと丸内さんも喋ってほしいです。
それでは読んで下さった方、ありがとうございました。
521名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 19:27:18 ID:ZKfXeCMN
GJ!楽しみにしてました。攻め攻めな望が良いです。
丸内さん根津さんあんま違和感無かったですよ
522名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:46:23 ID:1R19KVEv
>520
珍しい組み合わせも良いですね。 


>>420 連作、虐待表現あり、まとめ非掲載でお願いします。

 私はいつも通りお盆に食事を乗せ、地下室の階段を下りていく。
コンクリートに重い鉄の扉、湿った空気。 半年前に見つけたその場所は、まるで牢獄のような作りだった。

「先生、入るよ?」

 お盆を下に置き、扉を押すと、部屋の隅っこで先生が床にうずくまったまま寝ていた。 ベッドもあるのに。
私はヒザを抱えながら座り、先生をじっと見つめている。 この時間は私だけの幸福だった。

 今日のメニューはサニーレタスにサラミを載せたベーグルサンド、牛乳のたっぷり入ったコーヒーに暖かなスープ。
ボンヤリしていた先生は、ハッと気付きお盆に飛びつくけど、先生とベッドの脚を繋ぐ包帯に足を取られて転んだ。

「先生、ちゃんとあげますよ。 あまり慌てないの」

 右手をそっと差し出すと、先生はおびえたように頭を抱えた。
お盆をそっと、手の届くところに差し出すとコーヒーを一口飲むと無我夢中でサンドを口に頬張り始めた。
コンクリートの床に、ベーグルの欠片がころりと転がる。

「はしたないよ、悪い子。」
「う……うう」

 先生の躰を平手で打ち据える。 とても怯えて震えているのを見ているのは辛いけど、これも躾だから許して下さいね、
私の心と手も痛いの。

「この位で許してあげる。 さ、ご飯の続きを」
「ひぃっ、あ……あ、うう」

 しばらく私を上目遣いで見つめ、何かを言おうと口をパクパクさせる姿に嗜虐心がフツフツと湧いてくるけど、我慢した。
尾てい骨辺りに皮バンドで付けた、シマリスのしっぽが震えていた。

「こ、こぶしさん、もうやめて、かえしてください」
「小節さんじゃないでしょ? あびるって呼んでって言ったでしょ」
「ひぃ、あびるさん、ぶたないで」
「ぶたないよ。家には帰っちゃ駄目。 だって、こんなに先生のことを愛しているのは私だけだよ? ね、知ってるでしょう。 さあ、ご飯を食べて」
523名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 23:46:44 ID:1R19KVEv
 食事が終った後、首に包帯を巻き付け先生をベッドまで歩かせる。薬で先生の思考力が落ちているため、アメと鞭で躰に教え込む。
先生は、私のもの。 だから、毎日私のマークを刻み込むの。 抵抗する先生をベッドに押しつけた。

「先生、気持ち良いですか?」
「うぐっああ、はあ……」

 口に陰茎を含み、顎の上と奥、舌で刺激する。 唇で搾っているため、ぶちゅ、ぶちゅといやらしい音がたってしまう。
筋張り張り詰めた陰茎の根本を指で押さえ、馬乗りになった。
何度やっても緊張する瞬間、また先生と一つになれる。 そして私は宿すの、先生の子供を。


入り口を捕らえ、ゆっくりと味わう様に腰を落とす。 滑らかに飲み込む感触に意識が飛びそうになってしまった。
奥まで到達した時、電流を流したかのように腰から脳髄まで快感が走る、目がチカチカする。

 十数秒の沈黙の後、狂ったように腰を前後上下に叩き付け、髪を振り乱す。 何度も意識がどこかに行ってしまう。
太腿が痙攣する、目の前が白くフラッシュしよく分からない。 炎天下でもないのに汗が噴き出し、先生の躰を濡らしている。
私のお腹は、先生でたっぷりと満たされていた。

おわり
524名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 10:43:53 ID:oWasGFuB
乙です。先生は受けが似合うな
525名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 10:51:01 ID:GhQSU7rC
GJ!
読みやすい
526home:2009/08/16(日) 12:12:01 ID:cpN0hrL1
やっぱ俺には無理だったよ…
期待してくれたみんなごめんな

木野くんと加賀さんの話だよ
527木野の幸せな一日(久藤は空気:2009/08/16(日) 12:13:09 ID:cpN0hrL1
図書館を一人歩く木野。
週末の休日に久藤を誘って、此処に来ている。
活字離れした現代っ子はほとんどおらず。
高校生と思しき人は、二人だけ。
わざわざ用意されている雑誌のコーナーも、利用されず虚しい。
眼鏡をかけた爺さんや婆さんが、あちらこちらに座って本を読む。
その間を縫うように、木野は歩き続けた。
読もうと決めていたライトノベルは見当たらず。
右往左往と探し廻る。
本棚ばかり見つめていて、歩いていて。
周りに気が付かない。
本棚の角を曲がるとき、人の姿が。
そのまま激突してしまう。
手に持った本を地面にばらまく少女。
二人の間に、バサバサと渇いた音が響く。

「あぁ…、すみません!すみません!」
「いやっ、こちらこそすみません。って、加賀さん?」
「えっ…!?木野くん」
「奇遇だね、こんなところで会えるなんて」
「わ、私ごときが図書館なんて高尚なところに来てしまってすみません!」
「本を落としてしまったね、ゴメン」

木野が拾い上げた本は、『素直に謝る五十の方法』と大きく書かれていた。
木野から本を受け取り、大袈裟に謝る愛。
それをなだめてから、また会話に戻る。

「ところで、加賀さん。本借りて帰るの?」
「いえっ、私なんかが借りて汚してしまったら申し訳ないので、読んでから帰ります」
「そっか。それじゃ、一緒に席取らない?」
「えっ…!?そんな!木野くんにご迷惑をおかけしてしまいます!?」
「俺なら平気だから。それに一つの椅子に座ったほうが、他の利用者に迷惑にならないで済むよ?」
528木野の幸せな一日(久藤は空気:2009/08/16(日) 12:14:04 ID:cpN0hrL1
木野の言葉に悩んだ愛。
だが最後には、木野くんのご迷惑でないなら、と承諾する。
図書館の隅に用意されている長椅子。
木野がそこに座り込むと、隣に愛がやってくる。
怖ず怖ずと座り、木野の様子を窺いながら、本を開く。
意外と細かい字で書かれたハウツー本に困惑するが、せっかく取ってきたのだか
ら読もうと努力を繰り返す。
ライトノベルを片手で携え、黙々と読み続ける木野。
その端正な横顔を一瞬眺めてから、愛は視線を落とした。
相変わらずの細かい活字を、目は受け取ることを拒否しだし。
うつらうつらと頭をもたげる愛。
そんな姿を横目で確かめて、萌えている木野。
少し頬が朱い。
愛が眠たそうにしてるだけでも変な気を起こさせるのに。
とうとう愛の頭は、木野の肩に収まった。
夢の中では謝っていないのか。
幸せそうな寝息が、木野の耳に届く。
もはや、ライトノベルを読んでいるような場面ではない。
現実に、ライトノベルのような場面を迎えているのだから。
どう対処すればよいか分からない木野は、ただ動かないで、精一杯。
しかし、大体10分も経てば、状況に慣れる。
肩で眠る愛の顔を観察したり。
手に持つ本の内容を追うことも可能に。
愛がいつ起きるか分からないので、じっとしたまま本を読む。

(加賀さん、疲れが溜まってるのかな?普段からあんなに謝ってるのに、こんな本を読んでたら余計に疲れるだろうに…)

静かな図書館の中。
ぺらっと、ページをめくる音が耳の奥で響く。
流れていく時の重さを、片手が。
本を持つ左手が、感じる。
徐々に痺れて、疲れていく右手。
それは、幸せの証明なのか。
木野は軽く微笑んでから。
ゆっくりと本を読み続けた。
529木野の幸せな一日(久藤は空気:2009/08/16(日) 12:14:38 ID:cpN0hrL1
「はっ、私は…」
「あ、加賀さん。起きた?」
「き、木野、くん?」
「加賀さん、寝ちゃったから…。起こしたほうがよかったかな?」

意識を覚醒させてから、理解をするまで、しばらく時間がかかる。
ようやく、自分が木野の肩にもたれていたのを理解して、顔を赤くして謝る。

「すみません!すみません!」
「そんなに気にしないでよ」
「私ごときが木野くんの肩を借りるなんて…」
「よく眠れた?」
「えっ…?あっ、はい…」
「そっか♪」

恥ずかしさに顔をうつむかせる愛。
そんな可愛らしい姿にドキドキしてしまう木野。
なんだか、図書館でデートしてるみたいだと。
イメージが頭をよぎる。
しかし、そんな甘い時間も一時でしかなく。
閉館時間が迫っていた。
館内に流れる、蛍の光。
人の歩く音や、本棚に書物を戻す音。
少しずつ騒がしさを取り戻す図書館。
幻想的な空間は、人で溢れかえる生活空間になり。
そんな中で木野と愛は、二人佇んでいた。
勇気を出して愛から一言。

「そ、それじゃ、私帰りますね。今日は本当にすみません」
「だから、気にしないでって」
「す、すみません。では、また明日、学校で」
「あっ、ちょっと待って加賀さん」
530木野の幸せな一日(久藤は空気:2009/08/16(日) 12:15:08 ID:cpN0hrL1
何か自分に不手際があったかと思いビクビクしながら振り返る。
申し訳なさそうにしている黒い瞳は、潤みながら垂れ下がる。
そんな彼女らしい一面に、可笑しさを感じながら、木野も一言。

「また、…一緒に来ない?」
「そ、そんな、木野くんにご迷惑をかけてしまいます!」
「俺は、迷惑だなんて思ってないから」
「…!?」
「加賀さんにピッタリな本とか、紹介してあげられると思うし…」
「…そ、その」
「…?」
「木野くんの、ご迷惑でないのなら…」
「よかった、じゃあまた学校でね」
「はい、ありがとうございます」

愛と別れてから外に出る木野。
こんな日もあるもんなんだなぁ、と空を見上げる。
真っ赤に染まっている夕焼け空。
まるで、自分が久藤に恋心を打ち明けた日のようだ。
ベランダからグラウンドを眺めていても、考えていたのは愛のことばかりで。
そんな自分を久藤は後押ししてくれたっけ。
優しい奴だよなぁ、と思いふけたとき。
木野はようやく、図書館に誰と一緒に来たのかを思い出した。
そんな、木野の幸せな一日。
531home:2009/08/16(日) 12:16:38 ID:cpN0hrL1
あんなに時間かけてこれしか書けない…
やっぱ望のほうが書きやすいね
532名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 12:26:00 ID:J039G8gy
GJ
謙遜するな。立派にやったさ
533名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 13:11:38 ID:mLXLcmJi
GJ!木野加賀いい!
よかったよー
534名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 13:52:28 ID:wbpOmleE
homeキター!
木野加賀GJ!
535名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 14:50:42 ID:iEE4leIv
十分いいじゃねぇかwww
挫けずに頑張ってほしいぜ

というわけで木野加賀GJでした!!
536名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 17:41:54 ID:aukvhaR/
木野加賀良いのう
乙GJ
537home:2009/08/17(月) 07:37:17 ID:wZ4mH7Oz
次は望
霧→望←まとい
エロなし
538酒飲んで立ち往生:2009/08/17(月) 07:40:12 ID:wZ4mH7Oz
酒に酔った高校生。
しかも女生徒が二人。
望が日々を過ごしている宿直室に溜まっている。
いつも着ている毛布が、少しずり落ちている霧。
丁寧に付けられた着物が、少し着崩れているまとい。
冷や汗をダクダクにかいた望を挟み込む。

「先生から離れなさいよ、この引きこもり」

望の左腕を、まといが抱き寄せる。

「アンタが離れなさいよ、このストーカー」

望の右腕に、抱き着く霧。

「ふ、二人とも、喧嘩はよくありませんよ…」

ただ一人だけ素面の望が、二人をなだめる。
それでも両者は一向に引こうとしない。
赤らめた顔を望に近づけて、睨みつける。

「せんせぇは黙っててよ」
「先生は黙ってて下さい」
「…はい」
539酒飲んで立ち往生:2009/08/17(月) 07:42:06 ID:wZ4mH7Oz
当事者であるのに、意見が言えない望。
あまりの虚しさに、飲んでいないのに涙が出そうになる。
せめてきちんと服を着て欲しかった。
毛布の下は薄着の霧は、その白い肌を隠し切れていない。
酒に酔ったせいなのか、その純白の肌にうっすらと朱色が染まり、美しい。
着物が崩れているまといは、胸元が大きくはだけていた。
霧よりは小さいが、しっかり谷間を作るそれは、色っぽさを強調する。
霧からは女の子の柔らかさを感じる。
まといからは女の子の香りを感じる。
男としては天国。
望の立場からすると地獄。
女生徒と関係を持つなんてことはあってはならない。
しかし、揺れる理性を直す方法を、望は知らなかった。
もういっそ、何にも考えないで…。
今日何回目か分からない思考に行き着く。
結局はチキンハートが踏み止まらせるのだが。
そんな望の心を知らない二人。
相も変わらず、口論を続ける。
540酒飲んで立ち往生:2009/08/17(月) 07:44:42 ID:wZ4mH7Oz
「アンタねぇ、髪長すぎなのよ。ちゃんと洗ってるの?」
「洗ってるわよ!それに、せんせぇ私の髪を好きだって言ってくれるよ」
「なっ…!?私でも言われたことないのに」
「ふふーん」
「でも、私だって寝顔可愛いって言われたし」
「なっ…!?なんで寝てるのに言われたって分かるのよ?」
「盗聴器に録音されてたの」
「………ストーカー」
「…!?」
「なにがディープラブよ」
「うるさいわね、引きこもり!引きこもりなんか先生には似合わないわよ」
「そんなのせんせぇが決めることでしょ?」
「…じゃあいいわ、どっちが先生に相応しいか。決めてもらいましょう」

いつの間にやら、主題になっていた望。
真ん中にいるので当然、会話の中身は丸聞こえ。
汗の量が更に増える。
急激に焦りだす望。
無言で見つめてくる二人。
その視線には期待、脅迫、恋心、…あらゆるものが詰まれている。
どちらが、より望に相応しいと、望が考えているか。
悩みに悩んだすえに出した答えは。
やはり、チキンな答えだった。

「せ、先生は二人とも相応しいと思いますよ…」
「…ジロリ」
「…ギロリ」
「こ、小森さんは家事をしてくださってとても助かってますし…」
「…ニヤリ」
「…ギロリ」
「つ、常月さんはいつも側にいて下さるので、寂しくないです!」
「…」
「…ニコリ」

この答えではダメだろうかと、冷や汗がピークに達する。
が、二人の反応は満更でもなかった。

「せんせぇそう言うなら、ずっと家事しててあげるよ」

ニコニコしながら右半身にしな垂れかかる。

「先生がそうおっしゃるなら、私一時も離れません」

ニッコリ笑って左半身に胸を当てる。
二人の純粋な反応と汚れなき笑顔に、優柔不断な心がチクリとする。
しかし、この場は収まったようで。
口論が起こることはなかった。
二人とも、思い思いの様子で、望に甘える。
同時に相手をするのは辛いが、どちらかに偏るとまた口論が始まる。
それを恐れた望は、完璧な50対50で二人の相手する。
霧が甘えれば頭を撫でてやり。
まといが甘えれば膝枕をしてやる。
相手が望むことを返してやり、それを延々と繰り返すと。
ようやく酔いが回ってきたのか。
二人は頭をもたげて眠り込んでしまった。
どうすることもできない望は、二人の少女を膝に抱えたまま次の日を迎えましたとさ。

めでたしめでたし。
541home:2009/08/17(月) 07:47:24 ID:wZ4mH7Oz
久しぶりの霧とまといは
書いてて楽しかったです
542名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 10:31:36 ID:N4vS3+FS
>>541
う〜ん、朝からGJです

home氏は情景を書くのが上手いというか、真似出来ないです。
543名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 10:32:13 ID:N4vS3+FS
またsage忘れ

ごめん
544名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 10:35:39 ID:xKxDPyt1
GJGJGJ
いいよねこのふたり
545名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 13:58:44 ID:CcMcl+PF
望霧まとで
ウッハウハです。

home氏GJ!
546home:2009/08/17(月) 18:00:45 ID:zf7+FHo3
GJ!
つかこれって>>331の続き?
547名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 18:13:11 ID:ekUFoSP+
>>546
どしたの名前欄
548名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 19:04:28 ID:qKi+MJMt
あらら
やっちゃった?
549名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 19:16:43 ID:feh+p4fq
酉ならアウトだけどな
550home:2009/08/17(月) 19:20:14 ID:wZ4mH7Oz
いやいやよく見て!
ID違うから!
551名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 19:28:23 ID:OClqUucm
  ( ^ω^) …
  (⊃⊂)


⊂(^ω^)⊃ セフセフ!!
 ミ⊃⊂彡
552名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 19:39:25 ID:zf7+FHo3
>>546
homeの才能に嫉妬してやった…
今は反省している
553名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 20:17:57 ID:+TIadIcd
PCと携帯の両方にコテハンを入れたままで書き込んだのか
554名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 20:42:04 ID:4mmUPg37
homeさんが墓穴を掘り出した・・・
555名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 21:00:21 ID:GrZgRBpv
アッー!
556home:2009/08/17(月) 21:21:03 ID:wZ4mH7Oz
しかし、これは焼け太りのチャンス

望霧
557夢に絶望、希望:2009/08/17(月) 21:22:57 ID:wZ4mH7Oz
昔、見たような夢。
大切な人が死んでしまう夢。
現実なのか、夢なのか。
あまりにもリアル過ぎて、判断がつかない。
今、目の前にいたはずの人が死んでしまう。
ショックが大きすぎて、上手く呼吸ができない。
なんとか体が動くようになったら、その人の元でひざまづく。
いつもなら縄が切れて、背中から落ちてくるはずなのに。
今だけは宙に揺れて、ピクリともしない。
まだ温かい手の平を握りしめた。
ボロボロこぼれ落ちる涙が止まらない。
自分が喋る言葉も。
自分が出しているとは信じられないもので。
空気のように口から抜け出した。

「…せ、せんせぇ。死ぬときは、い、一緒だって…、」

指が手から離れる。
空中に浮かぶ袴を握り締めた。
手汗が染み込むのが、分かる。

「し、死にたくなったら、言いなさいって、言ってくれたのに…」

止められない涙は、頬を伝り顎に溜まる。
しばらくはその場で耐える雫。
重力に逆らえなくなった、その瞬間。
雫が落ちて、地面にぶつかる、その刹那。
霧は意識を取り戻した。

「…さん、小森さん!」
「あっ、…せんせぇ」
「よかった、起きましたか」
「えっ、あれ?…夢?」
「ひどく、うなされていらっしゃいましたよ」
「あっ、…えと、ありがと」
「大丈夫ですか?余程ひどい夢だったのですね」

心の中で霧は返事をした。
558夢に絶望、希望:2009/08/17(月) 21:24:21 ID:wZ4mH7Oz
自分が望の自殺する夢を見たことは、何故か伝えたくなかった。
そんなに弱い人間であることを示したくなかった。
何より、望に心配をかけて、これ以上の重荷になるのが嫌だった。

「だ、大丈夫だよ、せんせぇ。ちょっと変な夢見ちゃった…」

か弱い笑顔でニコリとする。
普段の癖からか、先程まで被っていた毛布を抱き寄せて、体に巻き付ける。
外界から身を守ろうとする霧の姿。
非常に細い少女のことが心配になる望。
黙ったまま暗闇で見つめ合う二人。
霧が先に動き出した。

「じゃあ、もう寝るね。明日も早いから」

背を向けて寝ようとする霧。
あまりに寂しそうなその背中に耐え切れず。
そっ、と身を寄せる。
霧と比べれば大きな体で、毛布ごと優しく包み込む。
一瞬、ビクッとした小さな体。
今は落ち着いて座っている。

「何を見たのか分かりませんが…」
「…」
「私は、いつでも小森さんの側にいますよ」
「…ありがと、せんせぇ」

最後の一滴だけ。
望には気付かれないように、涙を落とした。
559home:2009/08/17(月) 21:26:14 ID:wZ4mH7Oz
絶望した!
560home:2009/08/17(月) 21:29:00 ID:NKfHrBLL
まいったか怪人ども! 俺がhomeだ!
561home:2009/08/17(月) 21:34:34 ID:St1lRDFk
いやいや俺こそがhomeだ!
562名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 22:07:10 ID:NfSylJAV
鳥つけないからこういうことになる
563名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 22:18:50 ID:OClqUucm
ここはスルーライフで
564home:2009/08/17(月) 22:35:15 ID:N4vS3+FS
>>559
いいね〜
望霧が一番好きです

小森ちゃんには先生に対して常にデレでいてほしいです
565名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 23:42:28 ID:CMfPPw+3
あー
そんなに必死にならなくてもいいのに…
痛々しくて見てられないな
566名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 23:46:00 ID:f51CeWVl
こうやって騒ぎ立てることで
>>546もアンチの仕業だったってことにしたいってことなんだろうけどな
567名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 06:16:22 ID:5apA4zDM
これだけ過疎ってるスレで、home氏のSSにだけ
毎回レスがてんこもりっていうのが不思議だったんだけど
そういうことなの?
568名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 06:32:40 ID:/+63s0p3
俺みたいに望霧以外はあんまり読まないっていう人もいる
木野加賀とかも好きだけど
569名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 07:04:32 ID:weNcNhzv
俺はhome氏のSS好きでよく書き込みにレスしてたんだけどな。

こういう書き込みは余計疑われるだけか。
570名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 08:11:25 ID:D2lTD4R9
「毎回レスがてんこもり」ではないし(感想がそんなに付かないこともあるし)、
本来の意味で過疎ってもないだろ。ずばり、人はいるけど書き込まないだけだ。
571名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 08:21:29 ID:CDrKWP7n
自演かどうかなんてどうでもいい
良作のSSが読みたい、それだけだ
572名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 09:49:14 ID:CQfddw6d
自分の書いたものに対して感想が少なかったりするのは辛いだろうし
つい自演でもして書き込むのは仕方のない事なのかもしれない
573home:2009/08/18(火) 09:59:05 ID:rzh3aMpP
これは過疎化を逃れる第一歩だ!
どんなカップリングにもSSで答えよう
574名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:12:15 ID:1t3JOSPv
無理やり自演扱いしてる奴が単発でわかりやすくて助かる
575名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:14:57 ID:98asFhuz
home「だったらおまえが書けよ!!!」
576home:2009/08/18(火) 10:31:03 ID:v1zw4Cxw
ううん!自演なんかじゃないよ!
577home:2009/08/18(火) 10:31:32 ID:v1zw4Cxw
>>574
単発でもないよ!
578名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:32:50 ID:EhjXboDB
擁護してる奴みんな単発だが
つーかこのスレ単発ばっか
579名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:39:48 ID:mHAwxuEs
よしわかった
これからは投稿されるSSに感想をつけるのは禁止しよう
580名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 10:48:29 ID:1t3JOSPv
>>578
単発の意味を知らない人ですか?
581名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 11:12:16 ID:CDrKWP7n
あーあ、心配したとおりの展開に…
ただでさえ前いた職人さん達逃げちゃってるのに
今いる職人までつぶす気かお前ら
582名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 11:13:05 ID:TqfZdM0Y
homeさんは酉つけるの嫌なの?問題無いならつけてくれるとありがたい
583名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 11:18:08 ID:CQfddw6d
別に自分なりの意見を書いただけで叩いたつもりではないんだけどな
仕方ないよ
584名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 11:22:45 ID:D2lTD4R9
>>572が自分なりの感想なのか。
これは俺なりの感想なのだが、自分の発言が他人にどんなふうに受け取られるか、考えてみて欲しい。
585名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 12:10:33 ID:EhjXboDB
>>580
IDのことだろ?
こんな過疎スレで単発がどうこう言ってどうするの?
586名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 12:44:30 ID:nJ+kwdEE
homeさんをいろんな人が擁護してるからきっと人望のあるひとなんだろうなー
587名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 12:56:15 ID:98asFhuz
>>586
あぁ、きっと素晴らしい人に違いないぜ
588home:2009/08/18(火) 13:30:34 ID:rzh3aMpP
いや〜…
俺にできることはSS書くことだけ
589home:2009/08/18(火) 13:31:57 ID:rzh3aMpP
ただ、先生の後ろにいたい。
たったそれだけのこと。
それは、とても簡単なことなのに。
それは、とても幸福をもたらす。
望の一挙一動が、まといの心を満たす。
どこまでも罪作りな人。
自分を冷静に眺めるまといは、静かに呟いた。
時刻は夕方の6時。
いつものように、宿直室で暇を持て余す望。
あまりに空白の時間が長いため、普段ではあまりしないことをしてしまう。

「常月さん、いらっしゃいますか?」
「はい、先生」
「…本当にいたんですね」
「えぇ、ずっと。何か御用ですか?」
「こちらにいらっしゃいませんか…?」
「…先生が、そうおっしゃるなら」

何処から現れたのか、まといが望の目の前に座る。
ちゃぶ台を間に置いて、望がまといを見つめる。
好きな人を見つめるのには慣れている。
だが、見つめられるのには慣れていない。
望の真っ直ぐな視線に堪えられず、ついドキドキしてしまう。

「常月さん、…実はお願いがあるのです」
「は、はい!何でしょうか?」
「その、私、また実家に帰らなければならないことになりまして」
「あの、お見合いの儀ですか?」
「はい…」
「では、私も付いて行きます♪」
590home:2009/08/18(火) 13:33:58 ID:rzh3aMpP
ここまでは、望の予想の範囲内。
愛の深いこの少女なら、付いて来ると考えていたから。
ここからが、勝負所なのだ。

「…できれば、恋人のふりをお願いできませんか?」
「えっ…!?」
「両親が早く結婚をするように勧めて来まして…」
「…」
「私はまだ、結婚する気などないのです」
「だから、恋人のふりを…?」
「はい、…やはり嫌でしょうか?」
「いえっ、その…」

じっ、と望がまといを見つめる。
少女が、自分に恋慕しているのは知っていた。
それを利用しようというのは、ひどく心を痛める。
だが、もはや望になりふりを構っている余裕はなかった。
すぐにでも結婚をするように強要してくる両親。
逃れるためには、これしか方法がない。
思い詰めた様子の望。
普段の様子からは、あまり考えられない相談。
余程切羽詰まっているのだと、まといは判断した。
だが、それは同時にチャンスでもある。
どさくさに紛れて望との婚姻関係を、締結させられるかもしれない。
前に婚姻届を出したときは、まといが勝手にやったことだ。
今は、望のほうからそれを望んでいる。
内心ニヤリとしながら、まといは口を開いた。
少し困ったふうにして。

「わ、分かりました、先生。先生の頼みでは断れません」
「すみません、助かります。常月さん」
「…常月さん、じゃあダメですよ」
「えっ…、まぁ、確かにそうですね」
「まとい、って呼んでください」
「ま、…二人きりのときは意味ないでしょう…」
「いいえ、先生。練習ですよ」
「…仕方ありませんね。まとい、さん…」
「はい、あなた♪」

既にノリノリのまといに、少々不安を抱えながらも望は出発の準備を始めた。
591home:2009/08/18(火) 13:35:16 ID:rzh3aMpP
続きは書けたら投下
題忘れてた
「望とまといの結婚締結」
592ている:2009/08/18(火) 14:10:10 ID:4S/FV2MD
はじめましてです。
homeさん最高です。
ここって注意書きを書けば、100パーセントエロなしも載せてよろしいのですか?
本当に絶望先生っぽいやつです。
593名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 15:02:53 ID:6ToLcCQ8
新参だが、ここって最初に注意書きっぽいのを書いておけば
エロ無しでその上甘くも無い物でも投下していいのか?

それでもいいならかなり前に書いた奴を落とそうと思ってるのだが‥‥
594名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 16:11:48 ID:D2lTD4R9
このスレはなんでもウェルカム
595名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 18:17:43 ID:CDrKWP7n
むしろ投下してこの流れを変えてくれ!
596home:2009/08/18(火) 22:00:50 ID:rzh3aMpP
>>590
続きです
597まといと望の結婚締結2:2009/08/18(火) 22:02:33 ID:rzh3aMpP
翌朝の宿直室。
朝早くから起き出す望。
閉め切られたカーテンを開けて、朝陽を拝む。
照り付けられた光りに少し眉を潜めて、窓を背にする。
天気予報より先に、降り注ぐ日光が、今日を晴天であると告げている。
顔を洗い、タオルで顔面の水を吸い取る。
そうして、置いておいた眼鏡をかける。
鏡に映る自分の姿、そして、後ろには和服姿の少女が。
普通なら驚いて、慌てふためくところだが、望は冷静だった。
慣れとは素晴らしいものでもある。

「居たんですか…」
「えぇ、ずっと」

別段、少女が居て困ることなどないので、気には止めない。
そのまま洗面台を離れて、居間に向かう。
いつもなら霧が、朝食を用意してくれている。
しかし、今朝は時間が早過ぎるので、前の晩に断っておいた。
なのに、朝食は用意されていた。

「…貴女が、やってくれたのですか?」
「はい、これでも料理は得意なんです」
「ありがとうございます」

どうして少女が料理を得意としているのか。
深くは追求しない望。
理由は明快な気がしたから。
ただ、昔付き合った男性の中に料理好きな人が居ただけだと。
その考えは何故か、心の内に黒いモヤモヤをもたらす。
そんな馬鹿げたことはない、と望は考えるのを止めた。
綺麗に並べられた朝食を平らげる。
いつもと違う味、しかも美味しい朝食に、つい舌鼓を打つ。
598まといと望の結婚締結2:2009/08/18(火) 22:04:10 ID:rzh3aMpP
「ごちそうさまでした。しかし、常月さん。こんなに朝早くに来て、荷物はあるんですか?」
「えぇ、ちゃんと準備して来ました」
「そうでしたか、用意がいいですね」
「いつでも後を追えるように準備してましたから」
「…。では、そろそろ出発しましょうか?」
「はい、先生」

身支度を整えて、外へと向かう。
大きな正門を抜けて、一番近い駅へと。
その体に似合わない巨大な荷物を運ぶまとい。
それに引き換え、いつも持ち歩く旅立ちパックと変わらない荷物の望。
横に並んで共に歩く。

「大きな荷物ですね…、何が入ってるのですか?」
「着替えとか、他にもいろいろです。先生は随分と荷物が少ないやうですが…」
「私は実家に私物がありますから…」
「そういえば、そうですね」

少し気怠そうに荷物を引く少女。
何も言わず、すっ、と手を差し延べる。
まといが荷物を持つ手と、望の手が重なる。
それが何を意味するのか、まといには理解できた。
しかし、あえて意向に逆らう。
差し出された手を荷物を離して、ニッコリ笑って掴む。
指を絡めて、きゅ、っと締め上げる。
絡み合う指。
まといからすると、至福の感触だろう。
自分の考えと違う行動に出た少女にビックリする望。
しかし、幸せそうにニコニコする顔には何も言えない。
まといはもう片方の空いた手で、荷物を掴む。
力強く握って、また歩きはじめた。
せっかく繋いだ手を離せず、望は黙って後に続いた。
まだ残る朝霧の中に二人は、仲良く消えて行った。
599home:2009/08/18(火) 22:06:19 ID:rzh3aMpP
もう萌えとは言わん!
これからは惚れと言う!!
600名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 22:46:19 ID:iY/0JT+N
>599
結局定着しませんでしたね。「惚れ」。

最近は「化物語」発祥の「蕩れ」がちょっとずつ広がってますけど。
601名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 23:40:01 ID:iu8aLB8T
それなんて読むの?
602593:2009/08/18(火) 23:46:10 ID:6ToLcCQ8
>594と>595から許可が出たので投下。
内容はオールキャラギャグで、若干のキャラ崩れ注意。
文章力は多めに見てください(´・ω・`)
603名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 23:46:47 ID:MsNTYJS/
>>601
見蕩れるの蕩れで「とれ」だよ
604593:2009/08/18(火) 23:52:58 ID:6ToLcCQ8
すまん、文字数制限に手間取った。

「さて、今日は何ページからでしたっけ‥‥」
一応教師であるからして、授業はちゃんと行わねば、と
先日の授業内容を必死に思い出す望だが、全く思い出せない上に
人間、一つの事に集中しようとすると雑念が入る物である。
このままでは千里にどやされてしまうので何が何でも思い出そうとしていると、背後からの声に気付く。
「先生、今日は現国の93ページからです」
「いたんですか」
「はい、ずっと、ちなみに先生の雑念の内容に関してですが、今日安いのは鶏肉です」
「なっ‥‥私の心を読みましたね!、というか、何でそんな細かい所まで覚えてるんですか!」
いきなり出てきたまといに対して、最もであろう疑問を投げかけると、
得意げにメモ帳を見せながら返してきた。
「先生の事は全部記録してますから、先日お風呂でどこを先に洗ったかとか」
「見てたんですか!」
「ずっと、昨日は胸からでしたね、一昨日は‥‥」
「そんな事公開しないでくださぁぁい!!」
高らかに望に関する事柄を読み上げるまといを制止しながら歩いていると
チャイムが鳴り、既に遅刻確定で教室に向かって行くと、
教室の前には人だかりができていた。
「おや、なんの騒ぎですか?」
「先生、やっと来ましたね。」
見ると、そこにはにのへの生徒達の殆どが
集まって、なにやら呆れているような、困っているような感じで話し合っている。
「これは‥‥‥あぁ、皆さんそろって遅刻ですか?」
「そんなわけ、無いでしょ! きっちり、5分前に着たけど、入れなかったんです。」
「ほら、これですよ」
可符香が指した教室の窓には、内側から紙が張られており、そこには
『対象内に入れるまで立てこもってやる! by対象GYI』と書かれていた。
対象GYIは元々は三人が自虐で作ったグループだが、
いつの間にやら対象外な扱いを受けた男子達の慰めあいの会となっており、
その規模も大きくなっていたようだ。
605593:2009/08/18(火) 23:55:29 ID:6ToLcCQ8
「せんせー、これどう思います?」
「困りましたね、引き篭もりは小森さんの特権なのに」
「うん、私の特権なのに‥‥」
奈美の問いかけに対して、一歩ずれて返す望と、
ワンテンポ遅れて消火器入れの中から出てきてそれに答える霧。
「そう言う、問題じゃ無いから!」
「無理やり連れ出そうとしたら爆破するとか言ってるんですよ! 説得してください」
「何で私が!」
嫌そうにする望に対して、「教師でしょう!」と一同の声。
大衆に屈して、仕方なく説得に向かい、教室の入り口をノックする。
すると、中から「誰だ!」と声が返って来た。
「あー、担任の糸色です、ここを開けなさい!」
その声に、ざわざわとする教室内部だったが、
やがて静かに扉が開いた。
「先生ー、頑張ってくださいねー!」
望が中に入ると、直ぐに扉は閉められ、
その後、少ししてから
何となく手持ちぶさたな生徒達は聞き耳を立てだした。
「全く、何でいきなり立てこもり等と‥‥」
「いつも対象外対象外と言われている気持ちが先生に分かるか!」
「そうだそうだ!羨ましい生活しやがって!」
「え?、え?」
「いつも帰ったら同棲相手が家に居たり‥‥」
「隣の校舎の女の子がラヴレター渡しに来たり!」
「あげくの果てには奪い合いの選手権だと!?」
「あの‥‥話を‥‥」
「大体、普段から愛されすぎだろ!」
「何がですか!」
「皆揃って『愛しき』先生、『愛しき』先生と……」
「それは最早こじつけですから!、確かに私は『糸色』ですが……」
「とにかく!お前に俺たちの気持ちが分かるか!クラスの女子殆ど持って行きやがってー!」
「うわあああん!出てけよー!」
「あ、ちょ!、わっ!」
その後、直ぐにぺいっと望が廊下に投げ出され、
倒れ込んだ姿勢からそうっと顔を上げると、
明らかに冷たい周りの視線が辛くなって目を背ける望。
606593:2009/08/18(火) 23:56:35 ID:6ToLcCQ8
「‥‥先生、ちょっと失敗してしまいました」
「でしょうねー」
「っ、そもそも!貴方たちが『対象外』とか言い出したからでしょうが!」
周りからの冷たい視線に涙目になりつつも、
ビシッと指差して反抗する望。
「誰かが認めれば済む話なんです!」
「そう言われても‥‥」
「ねぇ‥‥」
望の言いたいことは分かるものの、それを誰がすべきかと
顔を見合わせる女生徒達。変にフォローして誤解されても困るのだ。
やがて、責任のなすりあいが始まった。
「丸井!、この前、誰でも良いって言ってたわよね?、なら、きっちり範囲に含めなさい!」
「えぇー!?、部長ー、それって職権乱用ですよー!」
「貴方!いい加減先生の事は諦めなさいよ!」
「嫌だよ、そっちがせんせの事諦めてよ!」
突然大喧嘩が始まり、慌てて制止する望に対し、
ならどちらを選ぶのかと問い詰めるまといと霧。
「先生、私ときっちり籍を入れる話はどうしたんですか‥‥?」
「先生、私を選んでくれましたよね?」
「先生」
そこに、千里、あびる、楓、真夜とどんどん増えて行き、
集結した女生徒に追い詰められていく望に対して彼女たちの意見は一つ。
「先生、誰を選ぶんですか!?」
「ひっ‥‥」
逃げ道を探すも、周りは殆ど包囲されているに等しい状況で、
無理に駆け抜けても普段オフエアバトルで鍛えられている彼女に叶う筈も無い、
どうせ猟奇オチならば‥‥と望は最後の賭けに出る。
「藤吉さん!私を連れて全速力で走ってください!」
「はい!?」
自分は関係無いとばかりに同人誌を読んでいたのに、
突然の名指し指名に当然「無理ですよ!」と言う晴海に、望が交渉を持ち掛けた。
「逃げ切ったらあなたの趣味に全面協力しますから!」
607593:2009/08/18(火) 23:58:05 ID:6ToLcCQ8
「協力!?‥‥つまり、ネコミミでメイド服やウェディングドレスもアリアリですね!?」
「はい!?、それは厳し‥‥って目がイッちゃってます!」
一人ぶつぶつと呟く晴海に、もしかしてスイッチかと青ざめる望と、
じりじりとにじみよる女生徒達、どうやら、あの手段に出たせいで
猟奇モードに入っていて、とても話を聞いてくれそうに無い。
もう自分終わったな‥‥と、ちじこまる望の手首を誰かが掴んだ。
「その条件超OKです!、しっかりつかまってください!」
「藤吉さ‥‥って貴方、まさかそこから飛ぶ気じゃ無いでしょうね!?」
言うが早いか、猛スピードで駆け出したかと思えば開いていた窓から飛び降り、
情けない悲鳴を上げる望とは反して、かなりの高さであろうに余裕で着地する晴海。
あっけに取られていた女生徒達も、影が小さくなるに連れて我に返る。
「‥‥あー!、逃げられた!」
「晴海の奴‥‥!、追うわよ!」
先導する千里に続いて、女生徒達は次から次へと学校の外へ
走って行き、後には男子生徒と一部の女子だけが残った。
「‥‥加賀さん‥‥」
「‥‥元気だせよ、な」
愛まで流れに乗って一緒に行ってしまったので
大分落ち込んでいる国也と、慰める青山。
「先生いいなー、あれだけモテるとエロティックな事も選り取り見取りなんだろうなー」
それと、全く空気の読めない上に何が言いたいのかイマイチ掴めない芳賀。
そんなこんなで、男子達がぼーっとしていると、
教室の扉が開いた。
「あれ、出てきたんだ?」
「‥‥あのやりとり見ていたら、俺たちのやってる事ってちっぽけなんだ‥‥」
「あぁ、今日はもう帰ろうぜ同志よ‥‥」
どうやら、自信と戦意を完璧に叩き潰された
『対象GIY』なる方々が出てきたらしい。
「‥‥やる事もないし、僕達もみんなの所に行く?」
准が読んで居た本にしおりを挟み、パタリと閉じて
面白いものでも見に行くかのように切り出した。
608593:2009/08/19(水) 00:00:35 ID:6ToLcCQ8
――丁度その頃、望達は――
「大分引き離せましたね、助かりまし‥‥た?」
窓から飛び降りた時は思わず「死んだらどーする!」と毒気づいたが、
見る見る内に離れていく校舎に(ちなみに、望は動きやすさの問題で晴海の肩に
荷物の様に担がれている体制である)
全く追いつけそうな気配の無い女生徒達を確認して、
ほっとして礼を言う。
「ふぅ‥‥ありがとうございました」
「いえいえ、お安い御用ですよ」
「それで‥‥あの、そろそろ降ろして頂いても大丈夫ですが‥‥?」
引き離せたというのに未だにガッチリと担がれている望は、
少し困惑して晴海の顔を見上げる。
「先生‥‥趣味、付き合ってくれるって言いましたよね?」
「言いましたが‥‥それより貴方目がイってますってば!」
「そうですか?、それより、私の家に招待しますね、親もお兄さん達も、皆旅行中ですから」
「はぁ‥‥」
何故招待なのだろう、というか何故こうも都合良く家族が留守なのかと思う望だったが、
横でまたぶつぶつ言っている晴海を見て次第に状況が掴めて来た。
「!、藤吉さん!もう十分なので下ろしてください!」
「‥‥糸色先生、お持ち帰りぃ〜♪」
「その台詞は色んな意味で危険ですから!いやああああ!!」
それから半刻程前、
千里達の方では作戦会議が行われていた。
「‥‥これは、急いで追わないと大変な事になるわよ!」
「大変な事?」
焦る千里に、大変な事になるという状況が
イマイチ掴めない他生徒達。
「あの晴海の目は危険ね‥‥このまま行くと、拉致監禁じゃ飽き足らず犯すわね、間違いなく」
「さらっと言ったナ」
「なら、議論するより追った方が良いんじゃない?」
奈美から追いかけよう、と言う意見が出たが、
それは千里が直ぐに否定した。
「晴海の脚力よ?、ましてや暴走中で本気の。追いつける訳が無いじゃない。」
走って追いつくのは不可能なので、
それ以外の方法を考えるが中々思いつかなくて
皆してあーだこーだと言いあっていると、千里が一人右往左往している人影に気付いた。
「先生ー!、‥‥先生ー‥‥」
「そこの貴方!」
「何よ!私は今忙しいの!」
望から離されてしまいオロオロとするまといに、
千里がふと思いついたかのように疑問を投げかける。
「そういえば貴方、普段一緒に居るけど先生の位置とか、分かるの?」
609593:2009/08/19(水) 00:02:47 ID:Sj3N4eyE
「そんなの‥‥分かるに決まってるでしょ!、現在地から進行してる方角まで全て!」
帰ってきた答えに辺りが騒然となり、
ぽかんとした様子でまといが周りを見渡す。
「分かるの!?」
「発信機くらい付けるわよ?」
「何でそれを早く言わないのよ!、先生は今どこに!?」
「えっと‥‥○×商店街の裏から、北東の方角へかなりのスピードで移動中!」
千里にまくし立てられ、あわあわとしながらもディープラウの力で
望の大体の現在地をさらさら述べるまとい。
「○×商店外から北東?その方角にあるのは‥‥‥晴海の家!」
「藤吉さんの家、今は家族は留守らしいよ、連絡網で回ってきたの」
千里が結論に到ると同時に、今まで大人しく聞いていた可符香が
自分の携帯の『藤吉家現在家内全員留守』と言う文字を見せた。
「‥‥晴海は、真っ直ぐ家に帰るわね、幸い晴海の現在地からは遠いわ、先回りよ!」
そう言うと、千里は鞄からメモ帳を取り出し、すらすらと地図や文章を書いていった。
それから少しして、回りに指示を出し始める。
「作戦完成よ!、日塔さん、風浦さん、貴方達はここ!、家から少し離れた所で晴海を説得して!」
「了解ー!」
「えぇー!?」
「‥‥日塔さん、大人しく作戦遂行するのと、肉片になるのどっちがいいか。」
「行ってきます!」
嫌がった事により千里を魚目モードにさせてしまい、
冷や汗をかきながら逃げるように目的の場所まで向かう奈美と
楽しそうについていく可符香。
「次!、小節さんは日塔さん達が失敗した時に拘束作戦!説得が通じなきゃ力ずくよ!」
「ん‥‥分かった」
「そして、私が最終決戦を挑むわ、晴海に勝てそうなの私だけだし。」
「マリア達には何もないのカ?」
「そうね‥‥それじゃあ、私についてきて。」
作戦も決まった所で、全員目的地へと向かう、
しばらくすると、晴海が第一作戦地点の付近にやってきた。
『こちら千里!こちら千里!晴海がもうすぐ着くわよ!』
「‥‥こちら奈美、了解しましたー‥‥」
千里からの連絡が途絶えると、とことん乗り気じゃない奈美は
深く溜息をつくと、説得に使う台詞を考え、ようやく思いついた台詞に「普通」
と言われ軽くヘコむと言う繰り返しである。
心なしか、ありがちな説得用の台詞を次々と言えば言うほど飽きてきたのか
可符香の目が冷ややかになっている気さえしてくる奈美であった。
そんな事をしていると、遠くの方から物凄い速さで接近している
足音と話し声が聞こえてきた。晴海の到着だ。
「お持ち帰りー!」
「だからそれは色々とマズイですから!」
路地を通り抜けようとする晴海の前に、
奈美と可符香の二人が立ち塞がる。
610593:2009/08/19(水) 00:04:23 ID:Sj3N4eyE
「おや、風浦さんに日塔さん、奇遇ですね」
「ですねー♪」
「いや!、奇遇じゃないから!救出作戦ですよ」
早速ずれてる先生と、それに合わせる可符香に
ビシッっと突っ込む奈美。
「救出作戦ですか?、それは有難いですね!」
「私達のお仕事は説得ですよ?」
そう言うと、さらさらとお得意の人の心を
掴む説得を開始する可符香に、基本相槌オンリーの奈美。
「と、言う訳で、お持ち帰るより‥‥」
ある程度説得に試みてもただブツブツと何かを呟いている晴海を見て、
可符香が『あぁ、これ無理だな』と道を空けるのと、
晴海が進行ルートを塞いでいた奈美をはるか上空に吹っ飛ばすのはほぼ同時であった――
「日塔さーん!、貴方何てベタな吹っ飛び方を!」
「まぁ、奈美ちゃん普通ですから」
「普通って言うなああぁぁぁぁぁ」
とかいいつつも、体に染み付いてる普通さのせいで
吹っ飛んだ空から『キラーン』と擬音まで流れてくる。
それを思わず見届けた後、晴海は再び走りだした。
「‥‥‥行っちゃったかぁ」
小さくなっていく二人を見て、
自分の携帯を取り出し千里と連絡を取る可符香。
「こちら可符香、対象の説得に失敗しました!」
『失敗?、貴方でも駄目だったの?』
「藤吉さん、暴走してて話聞く気も無かったの」
『そう‥‥第二作戦に行くしか無いわね』
――場所は変わって、第二作戦の路地、
ここではあびるが待ち構える事になっている、が‥‥。
『こちら千里!こちら千里!、小節さん、何やってるのよ!?、普通に通り過ぎたわよ!』
「こちらあびる、頑張ってるけどまだ到着して無いよ」
『‥‥ごめん、貴方の運動能力みくびってたわ。』
あびるが辿り着く前に晴海が通りすぎてしまった事により、
第二作戦まさかの不発、最終策で挑むしか無くなった。
「そろそろ到着する頃ね‥‥」
千里がまといの発信機で位置を確認していると、
足音が聞こえてきた、ラスボスのおでましだ。
「う‥‥藤吉さ‥‥もう少しゆっくり走ってください‥‥」
望は乗り物酔いなのか何なのか既にかなりグロッキーだが、
そんな事はお構い無しに作戦は続行される。
「晴海!止まりなさい!」
「!、千里‥‥!、そこをどいて!私は約束通り着せ替えたり色々スケッチしたりするの!」
「‥‥貴方とは、一度、キッチリ勝負したいと思ってたわ。」
どちらも一歩も引く気は無いと見て、
じりじりと距離を詰める二人と、それを見守る者が多数。
やがて、晴海が眼鏡を置いた瞬間二人が同時に飛んだ。
ここから常人の目では追えない戦いが開始する――。
「流石ね、晴海‥‥」
「千里こそ‥‥」
どれ程の時間が経過したか、二人共既にボロボロで、
まさに次の一撃で決着が着くと言う所だった、が、
ここでまといがハッとしたように叫ぶ。
「ちょっと 先生は!?」
「え?‥‥あれ?」
611593:2009/08/19(水) 00:06:54 ID:Sj3N4eyE
――生徒達が先生を捜索してる頃、
とあるやたらにゴミの溜まっている公園では――。
「ふぁぁ‥‥ここも汚れちゃったなぁ‥‥体質だねぇ…‥」
通称キタ姉こと多祢がベンチに座って
まったりと買って来たカップ酒を飲んでいると、
突然ドサッという音と共に横の木が大きく揺れた。
何事かと見に行くと、着物を着た男性‥‥望が
枝にぶら下がっているでは無いか。
「‥‥望様?、あぁ、望様はゴミじゃ無いので大丈夫よぉー‥‥」
酔ってる事もあって、自分は何か幻覚でも見てるのだろうと思い込む多祢だったが、
やがて望の重量に耐え切れなくなった枝がミシミシと悲鳴を上げ出したのを聞いて、
まさか本当にと慌てて枝の下に回ると、待っていたかのように枝が折れた。
「っと!‥‥ちょっと重たいなぁ‥‥」
何とか抱きとめる事に成功し、大丈夫かと顔を覗き込むが、
どうにも目覚める気配が無い。困ったように抱きかかえたままぼーっとする多祢だったが、
その内、「これって‥‥」と何か閃く。
「これって‥‥俗に言う、んー‥‥あ!」
いい例えが中々浮かばずにむぅ‥‥と考え込んだ後、
閃いた!とでも言うようにポンッと手を合わせる。
「望様、お持ち帰り〜」
そう言うと、ふむ、と満足気な顔をして
ふわふわと帰路に着く多祢であった――。

この勝負、キタ姉の一人勝ち!

糸冬
612593:2009/08/19(水) 00:09:11 ID:Sj3N4eyE
以上です。空気読まない内容でサーセン。
言われる前に行動をモットーとして、
一ヶ月程ロムります(´・ω・`)
613名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 00:12:07 ID:msOWzuBc
homeも593もGJ!593は空気読んでますって。キャラ掴んでると思うし。
まといの活躍するSSがまた増えてきて小躍りしてる。
614名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 00:20:06 ID:78pbpiVq
593さんGJ
603だけどリロミスとはいえ割り込む形になってすまん

暴走晴美と最後のオチにワラタ

また投下してくれ
615home:2009/08/19(水) 00:42:02 ID:6ZnQXxBD
とってもGJです!
全員書けるなんて羨ましい…

あと>>598から続きです
616まといと望の結婚締結3
ガタガタと揺れる電車。
ボックス席を占領する、二人の和服姿。
好きな人と一緒に居られてニコニコなまとい。
しかも、いつもなら邪魔をする他のクラスメイトもいない。
まさに、幸せの絶頂。
そんなまといとは対照的に、浮かない顔の望。
これから先の旅で、自分に降り懸かる苦労を見透かしている。
そんな暗い表情のまま、窓から外を眺めた。
次々と流れていく情景。
その時、広い田んぼの中で。
一人ポツリと立っている案山子。
物寂しい様子で立つそれに、自分の姿が重なる。
不意に、望は深い溜め息をついた。

「はぁ…」
「どうかされましたか?先生」
「いえ、なんでもありませんよ」
「なんでもないのに溜め息をついては、幸福が逃げてしまいますよ?」

相変わらず上機嫌のまといが言う。
いつもは後ろで黙っているだけの少女が。
こんなにもお喋りな少女だと知った望。
そんな活発なまといを、素直に可愛いと思える。
しかし、自分の立場を考えると自嘲して終わり。
それ以上のことは、何も浮かばない。

「ねぇ、先生。練習、しましょうか?」
「練習ですか?」
「はい、二人が恋人のふりをするための練習です」
「はぁ、一体何でしょうか?」
「簡単ですよ、名前を呼び合うんです」

…それは、必要な練習だろうか?
強く疑問に思ったが、少女は既に始めている。
額から頬に汗が流れるが、無視。