【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】
2 :
266:2009/01/12(月) 20:48:00 ID:M4AbW5Db
残りどれだけ書き込めるかも忘れて投稿して前スレ埋めてしまった挙句、
新しくスレを立てたら、スレタイ間違えててしまいました……。
すみません。こういった場合はどう対処すれば良いのでしょうか……。
スレタイがあららーじゃねーか、かす
>>2 >>1乙です。
えっと… 立て直すのも何ですので、このまま使ってもよいのでは
スレ建て替え乙でした。
さして差し障りがないのならこのまま使おうか。
スレが終わり近くなったら「次スレは Part21になります」と知らせれば問題ないかと。
7 :
266:2009/01/12(月) 23:13:20 ID:M4AbW5Db
一応、このまま新スレとして使用するという方向で大丈夫と考えてもいいでしょうか。
みなさん、ご迷惑をおかけします。
申し訳ありませんでした。
テンプレも忘れちゃ駄目よン
===スレに投下する際の注意===
・SSの最後には、投下が終わったことが分かるようにEND等をつけるか
後書き的なレスを入れてください。
・書きながら投下はルール違反です。書き終えてからの投下をお願いします。
・前書きに主要登場キャラ、話の傾向を軽く書いておいてください。
・鬱ネタ(死にネタなど)、エロなし、鬼畜系、キャラ崩壊、百合801要素などは
注意書きをお願いします。
・ただし、完全に女×女や男×男のネタなら百合板、801板の該当スレで。
・過度な謙遜、自虐は荒れる原因になるので控えてください。
書き手にもルールがあるからといって必要以上に
気負わずにみんなと楽しくやっていきましょう。
時が止まっている…!
10 :
266:2009/01/16(金) 17:54:37 ID:HcfZyBCZ
先日はみなさんにご迷惑を掛け、申し訳ございませんでした。
書いてきたものを投下してみます。
命×倫。
エロなしです。
11 :
266:2009/01/16(金) 17:55:39 ID:HcfZyBCZ
ラストダンスはあなたと
年末、命が実家のある蔵井沢に帰省したのは大晦日の午後の事だった。
なにしろ、仕事が立て込んだのだ。
ただし、残念ながら糸色医院の仕事ではない。
命がまだ医者として若く、糸色医院の経営も始めていなかった頃に随分と世話になった人物。
先進的経営を行う大病院の院長である彼から、命は外科手術の執刀医として呼ばれたのだ。
難しい手術の為に、信頼できる医師を少しでも多く揃えたい。
そういう話だった。
旧恩あるその人物の頼みを、命は二つ返事で引き受けた。
そして、命の尽力もあって無事に手術は成功し、ようやく彼は自由の身となった。
しかし、今日はもう既に大晦日、蔵井沢に戻るにはもうギリギリの時間しか残されていない。
命は仕事を終えたそのままの足で実家に戻る事を決め、タクシーに乗り込んだ。
「全く参ったな……。しかし、安田院長の頼みを断るわけにもいかなかったし……」
彼には一つ気懸かりがあった。
妹の、倫の事である。
「倫、どうしているかな……?」
倫と、命の弟である望は命より一足先に実家に帰っているはずだ。
ただそれだけの事、普段なら気にするような話ではないのだけれど……。
「やはり、一緒に帰省したかったなぁ……」
命と、彼の妹である倫。
だが、今の二人の関係はただの兄妹ではない。
歳の離れた妹を、ずっと見守り続けた兄に芽生えた抑えがたい想い。
生まれた時からずっと見上げ続けた兄の背中に、妹が抱いた密やかな願い。
二人はその想いを、願いを、互いに受け入れ合い、求め合った。
その道の先に何があろうと、二人で誓い合った。
命にとって、倫はもはや妹であるだけでなく、何にも勝る最愛の人なのだ。
だが、しかし………。
(今のところ、倫に恋人らしい事をほとんどしてやれていないんだよなぁ……)
二人が恋人同士になってまだ日が浅いとはいえ、これは結構問題があるのではないかと命は考えていた。
むろん、世間に大っぴらにできる関係ではない以上、出来る事は限られるのだが……。
(クリスマスは望のクラスのパーティーに参加してしまったし……)
カップル定番のイベント、クリスマス・イブには命も倫も揃って、2のへの面々と過ごした。
兄の景まで参加して、まあ、何だかんだと楽しいひと時を過ごしたのではあるけれど。
(二人揃って酔っ払ってしまうとは、不覚だな……)
景が倫に酒を勧めたのをきっかけに、命まで強かに酒を飲む羽目になった。
その後、酔っ払った命と倫はその場で寝てしまい、保健室に運ばれ、そこのベッドで次の日の昼までずっと眠りこけていた。
ロマンチックとはかけ離れた聖夜の過ごし方である。
だからこそ、せめて年末には、少しでも長く倫と一緒にいてやろう。
命はそう考えていた。
だが、実際はこの体たらく……。
(年が明けると、親戚が来たりして、実家も騒がしくなるからなぁ……)
そうなると、倫と一緒の時間を二人でゆっくりと楽しむのは難しくなる。
命は少しでも早く蔵井沢に戻れる便はないかと、列車の時刻表を何度も確かめる。
しかし、現在命が乗る事を予定している列車よりも早く、蔵井沢に辿り着ける便は存在しないようだ。
これで、何か事故や故障で列車が遅れでもすれば、ヘタをすると年内に倫と会う事はもうないかもしれない。
(頼む。早く駅に着いてくれよ……)
それで蔵井沢への到着時刻が変わるわけでもあるまいに、
タクシーの後部座席に座った命は、祈るような気持ちで道路の先を見つめていた。
12 :
266:2009/01/16(金) 17:56:13 ID:HcfZyBCZ
「ただいま、帰ったよ」
というわけで、ようやく蔵井沢にたどり着いた命は、ガラガラと扉を開けて実家の玄関をくぐった。
「おお、命坊ちゃま、お待ちいたしておりましたぞ」
命を最初に出迎えたのは、執事の時田だった。
「遅くなってしまって、すまなかったね」
「お仕事が忙しいと伺っておりましたが、これで皆さまお揃いで年を越せるのですなぁ…」
時田があまりにも嬉しそうにそんな事を言うものだから、命もついつられて笑顔になってしまう。
「ところで、倫は今どこにいるんだい?」
「倫様ですか。ええ、確かさきほど望坊ちゃまと向こうへ……」
もう間もなく倫に会える。
東京でも毎日会っていたのだから、物凄く久しぶりというわけでもないのに、何故だか無性に嬉しかった。
「ありがとう、時田」
靴を脱いだ命はいそいそと時田の指し示した方へ歩いていく。
早く倫に会いたい。
望も一緒にいるらしいので、二人きりとはいかないが、それもまた良いだろう。
なにしろ実家なのだ。
そうそう命と倫だけで会う機会などない。
昔は自分と望と倫、この三人でよく遊んだものだ。
かつてのように、三人で他愛も無い事を話して、笑い合い、今年最後の数時間を過ごそう。
足取り軽く廊下の向こうに消える命の後姿を見ながら、時田が呟く。
「本当に、仲の良いご兄弟ですな…」
時田の話を聞いた時点で、命には倫と望の居場所の見当はついていた。
このまま歩いていくと、蔵井沢にいた頃の倫の部屋に行き着く。
家具もきちんと残してあるので、おそらく二人してそこで寛いでいるのだろう。
目的地の目星がついた事で、さらに命の足取りは早くなる。
と、その時……
「ん、なんだ……?」
何かが聞こえたような気がして、命は足を止めた。
廊下の向こうから聞こえてくる、耳を澄ませばやっと聞こえるほどの微かな音。
足音を殺して静かに進んでいくと、だんだんとメロディが聞き取れるようになってきた。
「……音楽?」
廊下の角を二度、三度と曲がって、命はついにその音楽が流れてくる源へと辿り着いた。
「間違いない。ここだ。倫の部屋からこの音楽は……」
僅かに開いた障子から聞こえてくる優雅な調べ。
倫と望はこの部屋の中にいるのだろうか?
それにしては、全く話し声が聞こえてこない。
不思議に思った命は、障子の隙間からこっそりと中の様子を覗き見る。
「……あ…」
まず、最初に見えたのは着物を着た倫の背中。
それが障子の隙間の狭い視界を右から左に移動して、くるりと回って今度は望の背中が横切る。
二人は互いに手と手を取って、一定のリズムで部屋の中を行き来する。
その動きは、ちょうど部屋から流れてくる音楽と同じリズム。
望が前に出れば倫は後ろに、二人は足並みを揃えて、軽やかにステップを踏む。
右に、左に、前に、後ろに、部屋中をくるくると回りながら、二人は踊っていた。
そして、そんなダンスの合間に垣間見える二人の表情は、とてもとても楽しそうで、
「……………」
何故だか、自分がここに居てはいけないような気分になって、
命は中の二人に気付かれないようこっそりと、倫の部屋の前から姿を消した。
13 :
266:2009/01/16(金) 17:56:53 ID:HcfZyBCZ
ない物ねだりをしても、仕方がないのはわかっている。
嫉妬するのがおかしい事も十分に理解している。
「しかし……なぁ…」
久しぶりの実家の、自分の部屋に寝転んで、命はため息をついた。
さっきの二人は、倫と望はとても楽しそうに踊っていた。
昔から、あの二人はそうだった。
糸色家の子供達の中でも、一番年齢の小さな二人は、いつも一緒に遊んでいた。
命も、確かに二人の面倒を良く見たし、たくさん遊んであげたのだけれど、
望と倫が一緒にいた時間はそれよりもずっとずっと長い。
そのせいか、倫と望、あの二人の間には、独特の親密な空気があった。
今の命は、自分の持たない、あの二人の間の絆を見せつけられたような気がして、何かとても孤独な気分だった。
「まあ、それを言っても仕方がないのはわかっているんだけど……」
望と倫の間にある親密さ。
それは最も近しい家族だったが故のものだ。
だけど、命だって、倫の大事な気持ちを、想いを受け取っている。
かけがえのない恋人として、愛し合っている。
そして、望はそんな命と倫の関係を、既に承知している。
倫の、命に対する想いを知って、彼女を勇気付け、後押しをしたほどだ。
(たぶん、望だって今の私と同じような気分を味わっただろうに……)
倫を命との、茨の道であるとわかりきっている恋へと踏み出させた望。
一番近しい家族が、その一歩を踏み出す様子を、望はどんな気持ちで見つめていたのだろう?
自分の想いを貫くため、一人歩き出した倫の姿に、きっと言いようの無い寂しさを感じただろう。
要するに、命と倫には命と倫の絆があり、望と倫には望と倫の絆があるという事だ。
それは、命と倫が積み上げてきたものと、望と倫が積み上げてきたものの違い。
どっちが良いという話ではない。
命は、自分と倫の絆を大切にすればいい。
ただ、それだけの話なのだ。
「こんな事がこれだけ気になるのも、倫に恋してるっていう、一つの証拠なんだろうな……」
だが、理屈ではそう解っていても、命の気持ちは落ち着かない。
実はもう一つ、命を憂鬱にさせているものがあった。
こっちはもっと子供っぽい話である。
「しかし、やっぱり羨ましい。私は……踊れないからなぁ……」
命はダンスの類は全く踊れない。
命達の両親、糸色大と妙の教育方針は自由放任が基本だった。
嗜み程度に僅かな習い事をやらせたりはするものの、後は子供達の自由にさせていた。
命の場合、昔から勉強好きで、しかもかなり早い段階から医者になる夢を抱いていたので、
子供の頃から、専らそちらの方面にばかり努力をしていた。
一方、望や倫は芸術的な気質が強く、そういった習い事をする事が多かった。
だから、望はいくらか楽器の演奏の心得があるし、倫の場合はそれが高じていまや糸色流華道の師範である。
そして、そんな二人が共に習っていたのが、ダンスのレッスンだった。
望のダンスの技量はそこそこ、倫もすぐに華道の稽古が忙しくなったので、あまり長い期間やっていたわけではない。
しかし、先ほど見た光景から考えると、今でもあの二人はそれなりには踊れるようである。
そういえば、さっきのように二人で踊っている姿を、命は昔、何度か見た事があった。
その時も、踊る事のできない命は、二人の様子を何となく寂しい気持ちで見つめていた。
いつもは三人で仲良くしていたのに、まるで仲間はずれにされたように感じたのかもしれない。
「うぅ、弟に嫉妬したり……かと思えば、今度は二人に構ってもらえないのが寂しいなんて……ああ、情けないぞ、私」
そんな自己分析にさらに憂鬱になった命は、もう一度、深くため息をついたのだった。
14 :
266:2009/01/16(金) 17:58:26 ID:HcfZyBCZ
それからしばらくして、命は家族揃っての夕飯の席に着いていた。
「あら、命お兄様、どこにいらしたのですか?もう帰って来ていると時田から聞いたのに、全然姿が見えないものだから……」
命の姿を見つけるなり、嬉しそうに近付いて来た倫。
その可憐な笑顔を見ていると、命も先ほどまでのつまらない悩みを忘れてしまう。
「ああ、すまなかったね。探していたんだけど、見つからなくて……」
「そうでしたの?私、望お兄様と一緒に、ずっと自分の部屋にいたのですけど……」
まさかそれを見て、自分の部屋にすごすごと逃げ帰ったとは言えない。
答えあぐねる命に、倫はにっこりと笑って
「でも、一時はどうなる事かと思いましたけれど、これで一緒に年を越せますわね……」
「そうだな……私も嬉しいよ」
「それから……実は私、後で命お兄様に頼みたい事が…」
と、倫が言いかけたとき、ちょうど部屋に入ってきた父、大の声がそれを遮ってしまった。
「おお、よく帰ってきたな、命。仕事の方はどうだった?」
「ええ、特に問題なく終わりましたよ」
「そうか……。しかし、こんな年の瀬に、安田のヤツも大変だな……」
それからしばらく、大と命の、父と息子の会話が続いた。
そして、そうしている内に、部屋には母の妙、景、望、交がやって来た。
ようやく揃った家族を前にして、大が嬉しそうに笑う。
「皆、こうして元気に年を越せるというのは、何よりの事だな……しかし」
そこで、大は声のトーンを落として
「来年も、縁からの年賀状は届かんのだろうか……」
「父さんの出した年賀状だからなぁ……」
絶縁状態にある糸色家の長男、縁。
しかし、彼が糸色家を去ってから歳月も過ぎ去り、大はそろそろ親子の縁を戻したいと考えていた。
さらに、彼の息子である交が望のもとに預けられてから、縁も同じ気持ちであるらしい事もわかった。
だが、糸色縁は縁の無い男だった。
ここ数年、縁が訪ねてきても家族の中で彼と会えた者はおらず、挙句、息子の交とまで離れ離れになってしまった。
どうやら年賀状も律儀に出しているらしいのだが、糸色家に届いたためしがない。
「ほら、あなた、そんな暗い顔をなさらずに…。縁もきっと、元気にやっていますわよ」
戻ってこない長男の話題に暗くなっていた部屋に、妙がフォローを入れる。
「そうだな……ともかく、こうして皆集まってくれたのだから、今夜は楽しく過ごそうじゃないか」
こうして、糸色家の大晦日の夕食の席は、なごやかな雰囲気で始まったのだった。
家族皆が笑い合い、夕食の時間は楽しく過ぎていった。
ただ、この場で倫とばかり話し込むというのは、流石に無理な話のようだった。
(倫はさっき、私に何を言おうとしていたんだ……?)
先ほど倫が自分に言いかけた言葉が気になる命だったが、倫に尋ねるチャンスがなかなか訪れない。
その上、食事が終わった後、倫は母の紅白歌合戦観賞に捕まってしまった。
演歌、洋楽、Jポップにロック、クラシックから民族音楽まで、妙はありとあらゆる音楽を無節操に愛する人間だった。
普段の名家の妻らしい、柔らかでありながら威厳ある物腰が、この時ばかりは小さな子供のようになってしまう。
「しゅーちしんっ!しゅーちしんっっ!!おれたちぃわぁ〜♪」
テレビの画面の中の歌手達に合わせて、妙が歌い、それに倫が手拍子や合いの手を入れる。
倫も楽しげな母に付き合うのは嫌いではないらしく、にこにこと笑いながら時たま母と声を合わせて歌ったりしている。
(邪魔をするのは悪いか……)
倫の先ほどの言葉も気になったし、何より一緒にいたいという気持ちが強いのだが、今更命の入る隙はなさそうだった。
仕方なく、二人の下を離れ、今度は景や望の姿を探す。
「いたっ!いたたたたたたっ!!!!景兄さん、タンマっ!!タンマですっ!!!」
「いやいや、この技はここからが見せ場なんだぞっ!!うりゃああああああっ!!!」
「がんばれーっ!!ノゾム、殺されんなよぉ!!」
ほどなくして見つかった景と望は何故かテレビの前でプロレスごっこをしていた。
傍では交が興奮した様子で望を応援している。
15 :
266:2009/01/16(金) 17:59:21 ID:HcfZyBCZ
おそらく、テレビの格闘番組の影響だろう。
命は見つからないように、そっと物陰に隠れた。
これは命と父の大以外知らない話なのだが、糸色家最強の男は、実は次男の景なのである。
ある時、景が大に勝負をしてくれと頼んだ。
「俺のオリジナル拳法の強さを実証したいんだよ」
景は自分の編み出した珍妙な拳法を世界最強であると信じ、庭先で稽古をしたりしていた。
大は景のこの奇癖を直したかったのであろう。
景の頼みを聞き入れて、彼と勝負をする事にした。
剣道、柔道など、さまざまな武道に秀でた父、大が負けるはずが無い。
この時、ただ一人事の成り行きを見守っていた命も、そして大自身もそう信じていたのだが……。
「うえりゃさぁあああああああっ!!!!!!!」
大は負けた。
時間にして一分も掛からなかっただろう。
秒殺である。
奇怪な動きで大の懐に潜り込んだ景の、ありえない角度からの打撃の一打で勝負は決したのだ。
糸色家に父に及ぶ武道の使い手はいない。
以来、景は自分の技に対する自身をさらに強くし、朝の稽古を欠かす事は無い。
「見つかったら、確実に巻き込まれるな……」
こっそりとその場から去ろうとした命だったが……
「………あっ!?」
「………えっ!?」
その姿を、景の技にかけられている望が捉えた。
「ちょ…逃げる気ですかっ!!この角メガネぇ―――っ!!!」
捕まってたまるものかと、命は廊下を一気に駆け抜けて、その場から逃げ出す。
「この卑怯も……げっ…ぐえええええっ!!!」
「まだ終わってないぞ、望っ!!そりゃあああああっ!!!!」
(許せ、望……)
後ろから聞こえる望の断末魔に耳を塞ぎ、命は自室へと逃げ込んだ。
それから二時間、三時間と時間は過ぎてゆき、とうとう時刻は23時20分を越えようとしていた。
はるばる蔵井沢に帰ってきたものの、倫と一緒にもいてやれず、他の家族ともあまり話せなかった。
「こんな筈じゃなかったんだが……」
命の後悔は募るばかりである。
ゴロリと自室の畳に寝転んで、天井をぼんやりと見つめる。
こんな事をしているぐらいなら、倫や母と一緒に紅白を見ているべきだったか。
こういうつまらない所で思い切りのない自分が、命は少し嫌いだった。
「もう今年も残り僅かだっていうのに、結局、倫に何もしてやれなかったな……」
そこで、命はもう一度思い出す。
音楽に合わせ、くるりくるりと踊る、倫と望の姿を……。
ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚。
そうだ私は……
「…私は倫の傍に居てやりたかったんじゃなくて、倫に傍に居てほしかったのか……」
気が付いて、どっと肩の力が抜ける。
情けない話だ。
色々と頭の中で理屈を捏ね回していたが、細かい話など命にとって本当はどうでも良かったのだ。
ただ、倫と話して、抱きしめて、一緒の時間を過ごしたい。
倫の事が恋しくて恋しくてたまらなかった。
自分の中に渦巻いていたのは、結局のところ、そんなにも子供じみた願望だったのだ。
「全く、恋は盲目とは言うけれど……」
そう言って、頭を抱えた命の背後から、声が掛かる。
「言うけれど……何ですの?命お兄様…」
「へっ!?」
思わず命が振り返った先に、倫は少し悪戯っぽい笑顔を浮かべて立っていた。
16 :
266:2009/01/16(金) 17:59:57 ID:HcfZyBCZ
「うぅ…参りました。…もう全身ボロボロです……」
「はっはっはっ!どうだ望、俺の拳法、ますます磨きがかかっただろう?
なんなら、一から手取り足取り技を教えてやってもいいぞ」
「遠慮します。あの動きは兄さんにしか出来ません」
その頃、望はようやく景から解放されて、畳の上にのびていた。
「まったく大晦日だというのに、今日は本当に疲れましたよ。景兄さんも倫も私の体力を全く考えないんですから……」
「ん?倫がどうかしたのか?」
「あ、はい、ダンスの練習に付き合ってくれって…もう随分やっていないから、
勘を取り戻した言って大分長い間付き合わされてしまいました……」
倫が望にその話を持ちかけてきたのは、今日の昼を過ぎた頃の事。
何故かと聞いても答えてくれなかったが、望には大体の見当はついていた。
「なるほど、命絡みだな……」
「ええ、たぶん……でも、不思議なんですよね。嬉しいんですよ……」
「嬉しい…?」
「ずっと私と一緒にいた妹が、倫が、遠くに離れていくみたいに感じているのに……
何故でしょうか、あの本当に楽しそうな、嬉しそうな笑顔を見ていると………」
「母さんの方はいいのかい?」
「大丈夫…。今頃、きよしのズンドコ節に夢中になっていますわ」
ボリュームを絞ったスピーカーから流れるメロディ。
それに合わせて倫がステップを踏み、命がたどたどしい足取りで着いていく。
お世辞にも上手なダンスとは言えない。
けれど、ところどころでつまずきながらも、命と倫の踊る姿はとても楽しそうに見えた。
「前から、こうして命お兄様と踊ってみたかったんですの……。簡単なステップなら未経験の命お兄様でも
すぐに覚えられると思って……後は私がリードしようと思っていたのですけれど」
「それで、望と練習を?」
「ええ、肝心の私の方が、すっかりダンスのやり方を忘れていて……」
手と手を取り合い、音楽に、そして相手の呼吸に身を委ねる。
最初はリズムについていくので精一杯だった足取りが、だんだんと滑らかになっていく。
「それにしても、『恋は盲目』なんて、嬉しい事を言ってくださいますわね、命お兄様?」
「う、うぅ……それはだな、倫…」
「ふふふ、焦らした甲斐がありましたわ」
「り、倫、それはどういう…」
「私と望お兄様のダンスを見て、こっそりお逃げになったでしょう?」
倫はあの時、こちらの様子を伺う命に気付いていた。
自分と望のダンスを見て、何を勘違いしたか、寂しげな表情を浮かべて去っていった兄。
追おうとすれば追えたのだけれど、倫はあえてそうはしなかった。
あの時の命のションボリとした顔が愛しくて、つい意地悪してしまったのだ。
「倫……」
「ごめんなさい、命お兄様……でもやっぱり、こうしてお兄様と二人でいるのが、一番嬉しいですわね…」
いつの間にか、二人は特に意識する事もなく、ダンスを続けていられるようになっていた。
たどたどしかった足取りも何とか様になって、流れるメロディの中で、二人は溶け合っていくようだった。
「全く、とんだ悪戯娘だよ……会いたかったんだぞ。本当に、会いたかったんだ、倫……」
「ええ、私も……」
命と倫、二人はどちらともなくステップを止めた。
互いの背に腕を回して、強く、優しく、愛しい人を抱きしめた。
そして、引き寄せあうように二人の唇は近付いてゆき……
「愛しているよ、倫……」
「愛していますわ、お兄様……」
そっと優しくキスを交わしたのだった。
17 :
266:2009/01/16(金) 18:00:37 ID:HcfZyBCZ
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
ぐっじょぶ
19 :
305:2009/01/18(日) 01:22:42 ID:LH9ChOuz
お疲れ様です。
霧ちゃんで一つ書いてきましたので投下させて下さい。
少々凌辱の風味ありで、不快な表現も入っていると思いますので
苦手と思われた方はスルーをよろしくお願いします。
どうも先ほどから手足に受ける奇妙な感触に、まぶたは閉じたまま少しうるさそうに眉をしかめて首をよじってみる。
寝苦しさとともに何とも言えない不快な感じを受け、半分ほど目が覚めかけているようだった。
重いまぶたをゆっくり持ち上げてみると、そこから入ってくる光とともに目の前の映像が瞳の中へと映り込んでくる。
宿直室の風景はいつもと変わらない。ただ、視界の中で自分の足元付近にいる少年の動きが気になり、意識が次第に覚醒してゆく。
彼の表情は良く分かっている。あれは悪戯をしている時の物だ。
悪い事と分かっていながら内緒で何かをしようとしている表情だった。
先生と同じように、良くも悪くも正直な彼は、表情に出てしまう事をまだ隠しきれない。
「交くん、何してるの……?」
唐突に、だが、出来るだけやんわりとした口調で交に話しかけた。
その声に、一瞬だけギクリと体を震わせるが、交は口を閉じたまま立ち上がり、無言で寝転がる霧を見下ろしている。
いつもなら、霧が何も聞かないうちから言い訳の一つや二つ飛び出して、そのまま御免なさいとなって行くのだが、
交の様子から何か異変を感じたのか、霧は完全に目を開いてまだ少し残っている睡魔を隅に押しやりながらもう一度口を開く。
「……交くん?」
やや口調を堅くして尋ね、同時に起き上がろうとするのだが、どういうわけか思うように体が動かず、霧はようやく自分に起きている異変を自覚し始める。
常に包まっているはずの毛布はどこにもなく、最近はもうすっかり楽な服装でいる事が多くなった事もあり、
タンクトップ一枚と下着のみという油断しきった格好を交の前にさらけ出してしまっていた。
それだけならまだしも、どうにも手足が動かない状態を目で追うと、霧の腕は真上にバンザイをするように伸ばした状態で、
手首をタオルか何かで結ばれてしまっており、その先は、位置からしておそらくテレビの足か何かに結わえ付けられているようだった。
とっさに毛布を探して包まろうとしたようだったが、それが出来ない事を悟り、霧は顔を赤く染めながらも少し怒った表情を交に見せる。
「交くん…! なんのイタズラなの!? やめてよ!」
それまで無言で佇んでいた交だったが、自分を睨む霧の方へゆっくりと向き直り、ぼそりと呟いた。
「……霧ねーちゃんが悪いんだ」
「……? 何の事…?」
交の口から飛び出した思ってもみない言葉に、霧は戸惑いの表情で無意識に首を小さくかしげる。
「だって、霧ねーちゃんは……」
交は両手のこぶしをにぎりしめ、それを震わせて続けていた。
霧は交の意思を量りかねているのだろう。戸惑いの表情で次の言葉を待っている。
「…このままじゃ、叔父さんのものになっちゃうんだろ……!?」
目を見開いて一息にそう告げると、呆然としている霧に向かい堰を切ったように喋り始める。
「そうだろ!? なんだかんだ言って、叔父さんが一番信用してて頼ってるのは霧ねーちゃんだろ!
ほとんど毎日一緒に暮らしてて、料理も洗濯も全部やって、そんな霧ねーちゃんを叔父さんが嫌なわけないだろ……!
絶対…… ねーちゃんは叔父さんの霧ねーちゃんになっちゃうんだよ……」
「交くん……」
少々頬を赤らめながら、霧は困った顔で視線をそらしてしまう。
「……大人って …好きな大人同士って『えっち』をするんだろ? ねーちゃんと叔父さんもそのうちしちゃうんだろ…!?」
「ま、交くん…!? 何言ってるのよ!」
抑揚もなくただ淡々と告げられた単語だけに、かえって意識してしまったのか霧は焦った声を上げるが、
どう説明すればいいのか言葉を選べないでいるようだった。
「オレ、そんなの嫌だからな! 霧ねーちゃんが取られちゃうなんてやだからな!
だから… だから…… オレが先にねーちゃんと『えっち』して、ねーちゃんをオレの霧ねーちゃんにするんだ!」
「そ、そ、そんな… 事……! 交くんには、まだ……!」
「できるよ!」
完全に真っ赤になって目を見開いている霧の前に交は顔を近づけ、言い放った。
「オレだってできるんだよ! 子ども扱いするなよ!」
怒りの色を含んだ瞳で霧を見据えたまま、交の手がタンクトップの裾を掴む。
「あ!?」
交が何をしようとしているのかを察した霧が身をよじるが、交は両手で裾を握り締め、強引にそれを捲り上げて行く。
両手が使えない状態では大して抵抗もできず、すぐに霧の白い腹部が見え、浮き上がった肋骨の辺りまで晒される。
たくしあげた裾に引っかかっているらしい霧の膨らみは、交の目の前で白い二つの塊となってその下部だけを見せている状態になっていた。
交の喉がごくりとなり、まくった服をほんの気持ちだけ上にずらすと、隠れていた先端が現れて、
二つの膨らみは柔らかそうに揺れながら元の状態に戻ってゆく。
「や……」
眉をしかめて顔を赤くしながら、霧の口から細く声が漏れた。
呆然とした顔で、揺れる膨らみを目で追っていた交だったが、やがて視線はそれに釘付けになったままゆっくりと両手を差し出してゆく。
「…霧ねーちゃんの……」
紅潮させた顔に真剣な表情を浮かべて、滑らかな霧の肌に触れ、ふわりと軽く揉んでみる。
「…う……」
「…わ、わ、わ…… すっげー柔らけーんだ……」
胸の膨らみをまじまじと見つめながら、その感触に魅入られたように揉み続ける交の姿に霧はぐっと唇を噛んで目をそらした。
「……先生にも見せた事なかったのに」
一瞬びっくりした様子で交は慌てて手を離し、窺うような視線で霧の顔を見つめる。
よそを向いたままの霧の顔と、目の前にある二つのふくらみを見比べていたが、
やがて意を決したのか、膨らみの片方を両手で包み込むように掴んだ。
霧のそれは小柄な体格に反して、
交の小さな両手ではとても包みきれない大きさを持っており、仰向けになった状態でもそれほど形が流れていない。
「……?」
訝しげに目だけで交の様子を窺う霧と一瞬目が合うが、すぐに目をそらして交はおもむろに両手で持った膨らみの先端部を口に含み唇で軽く吸い上げる。
「は……っ… ん……!」
微かに痛みを併せた刺激を与えられ、霧は思わず目を閉じて細く声を上げてしまった。
交は一瞬不思議そうな顔をして霧を見たが、すぐに顔を伏せ、固く立ってきた先端部を含んだまま、小さな音を立てて何度も吸い上げている。
最初は性感にも似た感覚を覚えてしまった霧だったが、舐めるわけでもなく、ただ無心にそれを吸い続ける交の単調な動作に次第に刺激は薄れていった。
目を閉じ、無意識なのか時折膨らみを両手で押す動作を加える交の様子に、霧の口元に微笑が浮かぶ。
──まだ、覚えてるのかな?
思わずその頭を撫でたい衝動に駆られたが、両手が動かせない事を思い出して口元の笑みが苦笑に変わる。
出るわけでもないのに一心に吸い続けている交の安心しきった表情に、霧の喉から無意識に声が漏れた。
「……可愛い」
ぽつりと言ったその言葉に反応したのか、交は目を開け霧の顔を見る。
目が合った途端、交はふくらみから口を離して立ち上がり、口元を袖でぬぐってみせた。
「……怒った?」
困った表情で笑いながら訪ねる霧には答えず、交は不機嫌そうな顔で少し後ずさり、霧の腰に手をやってスパッツに指をかける。
「あっ!?」
慌てて脚を閉じて脱がされそうになるスパッツを押さえるが、引っ張り続ける交の手により少しずつ少しずつ足の付け根から腿へ、
腿から膝へと剥かれてゆき、やがて膝を通った所で一気に引き抜かれ、霧は白い小さな下着一枚の姿となってしまった。
続け様に、残った下着も脱がそうと手を伸ばす交に、霧は慌てて首を振って制止の声を上げる。
「…まっ、待って交くん! 恥ずかしいから、そこは脱がさないでよ!」
霧の声に交は動きを止め、きょとんとした顔になる。
「なに言ってんだよ。脱がないとえっちできないだろ?」
「…できるよ ……ずらしたりとかすれば ……そういえば交くん、どうやってするのかはホントに知ってるの?」
「それくらいしってるよ! 男の人のちんちんを──」
交は憤慨した顔で自分の股間を指差し、続いて霧の両膝に手をかけて勢い良く脚を開かせる。
「やっ……!」
「女の人のここに──」
声と同時に人差し指で、下着に覆われたままの霧の秘所を指し示す。
「こうして入れると……」
説明する交の指先が下着の上からちょうど亀裂のある場所に触れ、柔らかい感触の中に交の指先が軽く沈む。
一瞬、秘所から背中に走った快感に、霧は体を小さく震わせて細い鼻声を漏らしてしまう。
「き…… 気持ちよくなるん、だろ?」
最後は少し自信なさげに告げ、指先で数回霧の敏感な部分を突っついた。
「やはっ! ……んっ…!」
我慢しきれず脚をビクつかせながら嬌声を上げた霧に、交はびっくりした様子で霧と自分の指先を見比べる。
「…霧ねーちゃん。もしかして…… 気持ちいーのか?」
「そ、それは……」
困惑した表情で答えようとした霧は言葉に詰まり、一瞬考えて、やがて目をそらしながらぽつりと呟いた。
「……ちょっとだけ」
「やっぱ、そうなんだ!」
嬉しそうな声を上げると、交は指で霧の入り口をかき回すような動きをし、下着の上から柔らかい霧の秘所を弄り回してゆく。
「やんっ!? あっ…! あ…… ふ……っ!? ま、交くん… 乱暴なのはやだ! もっとそっとして……!」
「あ…! うん……」
交は素直に指の動きを止め、今度はゆっくりと撫で回すように霧のそこに手を這わしている。
優しく動き回る手の感触に、霧は甘い声を交えた吐息を漏らし、恥ずかしそうに顔を赤くしながらもその瞳は次第にとろんと潤んでくる。
やがて交の手が撫で続けている霧のそこの感触が微妙に変わり、交が軽く指を立てると少し湿り気を含んだ音を立てるようになっていた。
「……あのさ…… 霧ねーちゃん、漏らしちゃった…… のか?」
「ちっ……!! ちがうよっ! ……これは、その……」
反射的に叫んで否定しながらも、霧は何と説明していいのか言いよどんでしまう。
口篭ったままの霧に、交は何かを思い出したのか、短く「あ!」と声をあげて霧の秘所から手を下げた。
「知ってるぞ! 確か、準備オッケーだとこうなるって言ってた!」
「…交くん、どこでそんな事覚えてくるの?」
赤い顔のまま眉をしかめて尋ねる霧には答えず、交はその場に立ち上がると霧を見下ろす形でその顔をじっと見つめる。
「…霧ねーちゃん ……いいよな?」
「え…!? え……っ?」
あたふたと視線を泳がせながら、霧は袴を履いたままの交の股間を視界の端でそっと確認する。
どう控え目に見ても、大人と同じように性行為できる男性器がそこにあるようには見えない。
霧の頭の中で疑問と戸惑いが交互に渦巻き、何度も交のそれがある場所に目を向けてしまい、そのたびに赤くなりながら視線を外して考え込む。
「……う……うん… そうだね……」
なんとも曖昧な返事を返す霧だったが、それでも交には了承の意に取れたのだろう。その顔が一瞬で嬉しそうに輝く。
「お…… おう! ちょっとまってて!」
踵を返し、部屋の隅でなにやらごそごそとしている気配が伝わってくる。
霧は苦笑しながらも、膨らんだ好奇心で頭の中が一杯になり、交が戻ってくるのをじっとまっていた。
「……もし、できなかったら、諦めてくれるよね……?」
「できるよ! そのために準備してきたんだからさ!」
「……準備?」
首をかしげた霧の視界に、準備とやらが出来たのだろうか、立ち上がった交の背中が見える。
特に着替えた様子もなく、下も相変わらずの袴姿のままで何も変わった様子はない。
だが、交がゆっくりと振り向いて自分の方へと歩み寄って来る姿を見た時、霧の表情は驚きと恐怖で凍りついてしまった。
袴の上から一見して海水パンツのような物をつけているように見える。
しかし特筆すべきは、そのパンツ状の物の前面に、一目で男性器を模したものだと分かる塊が据え付けられている事だった。
「ぺ……ペニス、バン……ド……!?」
霧の頭の中で、以前ネットショップでチラリと見た記憶が呼び出され、瞬時にそれが何をするための物かを理解する。
「そんな物、何で持ってるの……!?」
「…えすしー室、だっけ? あそこの戸棚の中で見つけたんだ。」
気軽な口調で答えながら交は霧の足元にしゃがみ込み、反射的に閉じてしまった霧の両足を開こうと、膝に手をかける。
「…や、止めよっ…! 交くん! こんなの止めようっ! お願い!」
「なんだよ…… さっき、霧ねーちゃん『うん』って言ってたぞ!」
「……あ! それは、その……」
交の言葉に戸惑った霧はそれで脚への注意がそれたのか、交の手によって両開きの戸を開けるように一息に開かれてしまう。
間髪いれず、交は膝立ちのまま両腿の内側へと進み、片手を霧の秘所を覆っている部分の布切れに手をかける。
「やめて! 待って、交君っ!!」
「……やめねーからな。だって、やめたら、霧ねーちゃんを取られちゃうだろ。…オレの霧ねーちゃんじゃ無くなっちゃうんだろ。」
「そんなこと……ない、から…」
否定しながらも、見開いていた霧の大きな瞳が揺れ、小さくなった語尾と同時に目を伏せてしまう。
交は眉をしかめ一瞬だけ泣きそうな表情を見せるが、すぐに先ほどと同じ不機嫌な顔に戻り、自分の陰部にある男性器を模した塊を霧の秘所へと誘導する。
「…見ないようにすれば、ねーちゃんは恥ずかしくないんだよな?」
言うと同時に交は目を閉じ、手探りで器用に霧の下着をずらしながら、剥き出されたその秘所に樹脂で作られたグロテスクな塊を無造作に押し当てる。
今まで、自分の指以外は触れたことの無い場所に、ひやりと冷たく固い無機質な塊を押し付けられ、堪えていた恐怖心が霧の中から一気に吹き出した。
「…やめて! やめて! いやぁ…! こんなのいやぁ! 初めては、先生と… 先生と……っ!」
激しく首を振って暴れながら懇願する霧の声に交の顔色が変わり、小さく唇を震わせながら躊躇しているようにも見えるが、
すぐに思い切ったのか、無情にも腰をゆっくり突き出して、その塊を霧の中へと埋め込もうとしてゆく。
先ほどの行為でまだ濡れたままだった霧の秘所へと塊の先端が吸い付き、まだ幼い形の割れ目を左右に開き始める。
自分の大事な部分がこじ開けられようとしている事を悟ると、
霧は暴れるのを止めてしまい、いつの間にか涙で溢れてしまっている瞳を閉じて小さく嗚咽混じりの声を漏らした。
「……せんせい、ごめんね…… 私、先生にあげられない……」
観念した様子で目を閉じて、予測される喪失の痛みに耐えようと歯を食いしばり、貫かれる衝撃を待ち構える。
「……ご…… …めん……」
すぐに自分の中へと入り込んでくるだろうと思っていたのだが、しばらく経ってもその様子は無く、霧の耳には今にも消えてしまいそうな交の声が届いた。
目を開けてみると、交はすでに霧の脚の間から離れており、半ばむしり取るように、履いていたパンツ状のそれを外して部屋の隅へと放る。
「交くん……」
目を真っ赤にして涙ぐみながら、交は急いで霧の手首を拘束してある布切れに飛びつき、焦りから震える手元でそれを解いてゆく。
「ごめん…! ごめん…! ごめん……!」
拘束を解かれ、両手が自由になると霧は上体を起こして少し赤くなってしまった手首をさする。
その背中に、ふわりといつもの毛布が掛けられた。
「交くん?」
「ごめん! 霧ねーちゃん、ほんとにごめん…!」
背中の毛布ごしに交の謝罪の叫びが聞こえ、そのまま霧の横を通って走り去って行こうとする小さな足音が聞こえた。
「! まって、交くん!」
とっさに手を伸ばし、目の前を逃げようとした交の足首を掴むと、勢い余って交は前のめりに畳の上に倒れてしまった。
「…ごめん ……ごめん ……ごめん……」
交は、うつ伏せに転んだ姿勢のまま小刻みに肩を震わせて、涙ぐみながら必死に謝り続けている。
足首を掴んでいた手を離し、その手を交の背中に伸ばして軽くぽんぽんと叩くと、霧は短く苦笑を漏らして口を開く。
「……怒ったりしないよ。だから、逃げる事ないよ」
落ち着いた声でそう言うと、それまで休みなく謝罪の言葉を続けていた交が言葉を切り、僅かに顔を振り向かせて霧の方を伺う。
「……で …でも、ほんとは怒ってるだろ? あんな事して……」
「んー……」
霧は一瞬考え込むように目をそらし、首を大きくかしげてみせる。
やがて考えがまとまったのか、交へ視線を戻すとやや真剣な面持ちとなった。
「ちょっと、怒ってるかな? ……でも、交くんの気持ちはとても嬉しかったから。だから、怒りたくはないな」
肩をすくめて微笑みながら交の頭に手を伸ばし、その髪の毛を指でくしゃくしゃとかき回してみせる。
それで少し落ち着きを取り戻したようで、交は目尻に涙を溜めたまま起き上がり、やや乱暴にそれを袖でぬぐいとる。
「霧ねーちゃん……」
「…でも、自分が、悪い事をしたのは分かってるよね? ……悪い事した子にはお仕置きなんだよ。それは分かるよね?」
ちょっとだけ怖い顔を見せて交の目を覗き込んだ霧に、交は息を呑んで頷き、神妙な顔でその場に正座をする。
膝の上で拳を握り締めてうなだれる交に、霧はクスッと一つ笑うと、もう一度その頭を軽くなでた。
「そんなに怖いことしないよ。ちょっとそのまままってて…」
毛布を羽織りなおしながら立ち上がった霧は、交に背を向けると何やら毛布の内側でごそごそと動いているようだった。
やがて軽い布すれの音と共に、霧の足元に今まで着けていたタンクトップが落ちてきた。
一瞬目を見開き、慌てて逸らしながらも横目でチラチラと伺う交も目の前で、霧は片足ずつ交互に上げると、つま先から下着を抜き取り脱いだ服の上に乗せる。
すとんと腰をおろし、まとめた服を隅に押しやると、半身をよじりながら振り向いて交に声をかけた。
「……いいよ交くん。こっち来て…… 服は脱いでね」
口元に薄く笑みを浮かべて指示する霧の声に、交は一瞬びくっと体を震わせるが、やがて真剣な顔で立ち上がって服を脱ぎ始める。
横目でこちらを見続ける霧の視線に、やや居心地が悪そうにぎくしゃくと着ている物を脱ぎ去ってゆき、
やがて下着まですべて取り払うと、両手で前を隠しながら霧の方へと一歩踏み出した。
「…隠しちゃだめだよ」
ぼそりとした霧の低い声に一瞬硬直してしまった交だったが、やがて観念したのか前を覆っていた手をおずおずと退けてみせる。
霧の表情は変わらないが、交にはその頬が僅かに赤くなっているように見えた。
次の瞬間、毛布の中から伸びた霧の白い手が交の体に絡みつくように回され、あっという間に毛布の中へとその小さな体を引っ張り込んでしまった。
そのまま頭から毛布をかぶって前を閉じたのだろう。
完全に暗闇となったその中で、交は霧の両腕の中にしっかりと抱えられていた。
突然の事に言葉を無くしている交の顔に霧の両手が回され、すこし冷たい手に両頬を挟まれる。
「……交くん ……私の事、好き?」
「うん……! すきだよ」
間髪いれず答えた交に、霧は少し苦笑を含みながらも嬉しそうな笑い声を漏らす。
「でも、さっきのは酷かったよ。…もう、あんなの嫌だよ」
「ご、ごめん! もう絶対しない! 約束する…!!」
必死な声で答える交に、霧は満足そうに触れたその頬を両手で撫でながら、少し声のトーンを落として口を開いた。
「…あのね。交くんの欲しかった『初めて』をあげることは出来ないけど… その替わり、他の『初めて』の事を、交くんにあげる。……絶対に秘密に出来る?」
「……できる! 絶対ヒミツにする!」
毛布に包まれた暗闇の中で、自分と向かい合っているはずの霧に、力強い声で交は答えてみせる。
霧の顔は見えず、どんな表情をしているのかは分からない。
が、すぐ間近から感じられるその吐息がすこし熱く荒くなって、交の額にかかってきているように感じられた。
頬にあった霧の両手が離れ、交の両肩にそっと添えられる。
「ふふ…… じゃあ…… ちょっとだけ、大人にしてあげるね……」
一瞬だけ喉の奥からくぐもった笑い声を漏らし、霧の口が交の耳たぶに触れる。
「ひゃあ!?」
「くすぐったい? …でも、動いちゃ駄目だよ」
その言葉に無言で頷いて答えた交の耳を口に含み、軽く噛みながらゆっくりと舌を這わせた。
動かないよう我慢しているらしく、全身を小刻みに震わせている交の耳たぶからゆっくりと首筋へ唇を動かし、舌先を尖らせて何度もうなじをなぞってみせる。
ふと、ひやりとした感触の霧の手が交の性器に触れ、交はびくりと体を跳ねさせると、霧の手首を両手で掴み引き離そうと力を込める。
「…だめだよ?」
耳元で囁かれ、交は一瞬硬直すると、渋々といった感じで霧の手首を離した。
「ふふふ……」
嬉しそうな声を漏らしながら、霧の手が、その掌に納まってしまいそうなサイズのそれをぐりゅぐりゅと揉むようにして弄り続ける。
霧の唇が交の肩や腕、それに胸などを動物が毛繕いするように丹念に舌を這わせ、交のものを時にはつまんだり、指の間に挟んだり、擦ったりしながら弄ってゆく。
「んー…… さすがにまだ気持ちよくはならないかな……?」
残念そうな響きの霧の声に、交はやや眉をしかめながら考え考え答えてみせる。
「よ……く、わからないけど…… くすぐったくて、時々むずむずする感じがする。…でも、霧ねーちゃんの手は冷やっこくて柔らかくて気持ちいいぞ?」
交の言葉に霧はくすくすと喉の奥で笑ってみせ、いきなり交の背中に手を回して抱きかかえると、ゆっくりと床に体を倒して交の上に覆いかぶさった。
すこし毛布がずれ、霧の紅潮した顔と、ゆらゆらと揺れる光を持った大きな瞳が見えた。
霧は交の性器を撫で続けながら、少しずつその真上に来るよう体を移動させてゆく。
「…交くん。大人はね。……お口でもえっちするんだよ。知ってる?」
「え? え?」
戸惑う交に、霧は悪戯っぽく笑みを浮かべてみせた。
「お口…… 交くんが初めての人だよ」
もう一度、今度は恥ずかしそうな笑みを投げかけ、霧はそのまま交の性器を唇で咥えてしまった。
目を見開く交の視界の中で、霧の口の中へとその幼い性器が含まれてゆき、温かい口中で柔らかな舌が絡み付いてくる。
困惑した表情のまま、それでも食い入るようにその光景を見つめる交の顔を上目使いで伺いながら、
霧は口に含んだ交の性器を舌で転がしたり、唇で吸い上げたりと、ややうっとりした表情になりながら愛撫し続ける。
やがて口淫を続けていた霧が口を離して顔を上げ、唇を自分の唾液で光らせたまま熱っぽい表情で交の顔を見る。
「…ねえ、交くん。私の大事な場所…… もっとちゃんと見たい…?」
「……みたい」
顔を真っ赤にして答えた交に嬉しそうな笑みを返し、霧は顔の位置は変えないまま体だけ動かして、交の顔の上に自分の陰部がくるように跨ってきた。
「見える……?」
「み、みみ、見える……!」
目の前に晒された一本の筋のようにも見える霧の秘所は、もう大分湿り気を帯びており、交は興奮した表情でその場所に目が釘付けとなってしまう。
「いま、私が交くんにしてあげてるような事…… 交くんもしてくれる?」
「うう、うん! いいよ!」
どもりながらうわずった声で返事をして、交は恐る恐る目の前の秘所に舌を伸ばしてゆく。
「……うん、やさしく…… そう、割れ目にそって動かして…… あ、ん……っ… 気持ちいいよ…
…そのまま、ちょっとだけ舌先を差し込んで…… うん、上手…… あっ……! ん! うふぅ……っ!」
霧は、目を細めて自分の秘所に与えられる刺激を感じながら、指と舌で交の性器の愛撫を再開する。
「…次…… 割れ目のはじっこに、ぷっくりした小さな物あるよね……? それを…… 優しく剥き出して… 舌でなでなでしてあげて…… きゃ…ん……!?」
言い終わらないうちに交の舌がそれを見つけたらしく、霧の体に何度も電流のように強い刺激が走った。
「大丈夫…! そのまま続けて… んっ! んんんっ……! 交くん上手だよ…… とっても、気持ちいい… あっ! あんんっ!」
もはや遠慮なく嬌声を上げながら、霧はうっとりとした表情で交の性器に目を落とし、その先端を指でつまんでみる。
「…まだ…… 剥くのはちょっとキツいかな……?」
包皮を指先で弄りながら、両手の指で皮の先端を掴み、中を覗き込むように小さく広げてみる。
「きれい…… かわいい…… 交くんの……」
蕩けそうな表情で呟きながら、細く縮めた舌先を性器を包む包皮の先端から差し込んでゆく。
「…痛っ……!? き、霧ねーちゃん! なんか、じんじんして、ちょっと痛い!」
「我慢して……! 続けて……!」
ほとんど無意識にそう言って、霧は秘所に与えられる快感に時折喘ぎながら、
包皮の中に舌を差し込み、その中にある幼い絶棒を求めるように何度もその上に舌を這わせる。
苦しさからか、霧の秘所を愛撫する交の動きが次第に激しくなってゆき、霧は自分の頭の中に急速に真っ白い光が広がってゆく事を感じた。
「…そのまま! 交くん…! そのままもっと激しく動いて!」
言われるままに愛撫の動きを早めた交の性器を自分も夢中で味わうように口淫を続け、
やがて霧の体が一瞬持ち上がるように軽くなり、その喉から声にならない嬌声が漏れ出した。
びくびくと何度も体を震わせて絶頂を迎えた霧の手から力がぬけ、無意識のうちに握り締めていた交の性器がくたりと抜け落ちる。
交に体をぐったりと預けたまま、余韻に浸るように霧の口からは長い吐息が何度も吐き出される音がしていた。
「…今日のことは誰にも内緒だよ」
「うん、わかってる」
満ち足りた表情で壁にもたれて膝の上に交を抱えながら、霧はその頭を優しくなでていた。
交は霧の胸に抱かれ、まだ少し照れが残った顔で柔らかいふくらみに顔を埋めている。
二人を包む毛布の中で交がごそりとうごき、霧の顔を見上げた。
「なあ、霧ねーちゃん」
「ん?」
「……どうすれば、霧ねーちゃんはオレを『好き』になってくれるのかな? …やっぱノゾムが好きだからダメなのか?」
真剣な表情で尋ねられ、霧はちょっと困った顔で考えるように目で天井を仰ぐ。
「…ん…… 今は、無理だけど…… 交くんがもう少し大きくなって、その時、先生よりも夢中にさせてくれたら……」
「ホントか!? あ! でも、もう少しって……いつなんだ? それまで霧ねーちゃんは、まっててくれるのか?」
一瞬表情を輝かせ、すぐに不安げに眉を下げた交に、霧は少し考えると微笑んで首を縦に振って見せた。
「いいよ。……待つのには慣れてるから」
交は今度こそ喜びの声を上げ、毛布から飛び出すと素早く着物を身にまといながら霧を振り返る。
「やくそくだぞ! 絶対、待っててくれよ!」
そういって部屋を飛び出そうとしたところで思い出したのか、
部屋の隅に転がしたままだったペニスバンドを掴み、「返さなきゃ!」と呟きながら、霧に手を振って元気良く廊下へと走り出て行った。
小さくなってゆく交の足音を聞きながら、霧は毛布の中から掌を出し、その指を何度も動かしながらじっと見つめている。
やがて霧の口から苦笑が漏れ、交の去っていったドアの方へと視線を向けた。
「……でも、……交くんの『好き』と、私の『好き』は…… きっと違うものなんだよ……」
一瞬寂しそうな笑みを浮かべ、一度大きく広げた毛布の中に全身を包み、霧はそのまま目を閉じて横になった。
「ノゾム!」
廊下を歩いていた先生は名前を呼ばれて立ち止まり、声の主の方を振り返る。
「…おや、交。どうし……」
「オレ、負けないからな! 正々堂々だからな! いいか!?」
「はあ?」
訳が分からず首を傾げる先生の手に、交は持っていたものを押し付ける。
「それ、返しといてくれよ。じゃあな!」
一方的に言い放ち、踵を返して去って行く交の背中を見送りながら、先生は首を捻ったまま手渡された物を確認し、
次の瞬間目を見開いてその場に硬直してしまう。
「……っこ!? これ…… これは、なんでこんなものがあ!?」
「先生!?」
思わず悲鳴に近い声を上げたと同時に背中からかけられた声に、先生は真っ青になって凍りつく。
振り返らなくても誰だかわかる。
その声の主から向けられる視線はまさに絶対零度の凍気となって、刃物のように背中に刺さってくるようだった。
「…誰と何をしてきたんですかぁっ!!」
「そのポイントで怒るんですか!?」
振り返った先生の視線の先には、全身に怒りの炎をまといながらスコップを構える少女の姿があった。
「…ぜ 絶望した! 身に覚えのない事でも即日処刑を行ってくる女学生に絶望し──」
問答無用で振るわれたスコップの唸る音と、続けて何やら鈍い音がし、校舎中に先生の悲鳴が長く響き渡っていった。
27 :
305:2009/01/18(日) 01:31:48 ID:LH9ChOuz
おそまつでした。
では、これで失礼します。
えろぱろびゃあああグッジョブ
29 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 12:04:39 ID:lS0gCtjg
>「……せんせい、ごめんね…… 私、先生にあげられない……」
に萌えた。
霧可愛いなぁ…!
霧がえろいえろすぎるエロエロエロGGJJ!!
交カワユス
GJ!! 超GJ!
霧好きなのでたまらん。いいものを見た!
32 :
*霧の秘め事:2009/01/22(木) 15:30:53 ID:BkUyHvwO
以前よりここを読ませてもらってました。
今回、初めて投稿します。内容は以下になります。
登場人物:小森霧たん
話の傾向:ひとりえっち
-------------
AM1:00
しんとした室内、霧はもぞりと布団の中で体制を替え、仰向けだった体を横にした。暗闇の中目を凝らし、少し離して敷かれている布団の上をじっと見る。そこには、望と交が仲良く寝息を立てている姿がぼんやりと確認できた。
(ちゃんと、寝てるよね……?)
念のため、もう数十秒聞き耳を立ててみる。穏やかな寝息は乱れない。
(よし)
霧は、少し肩の力を抜くと、そっと己の右手を小豆色のジャージの中へと入れた。
勿論、物音が立たないように。
足回りに薄いレースが散った白い下着の上から中指を当てて、割れ目に沿って控え目に往復させる。
膝はぴったりと閉じたまま、中指の往復に合わせて薬指と小指で太腿を撫でてみる。少し太ったかもしれない。
そんな事を思いつつも、己の体温とは言え、冷えていた指先に肌の熱が移り心地よかった。
布団の中で、空いている片手を胸元へと移動させ、シャツの上から膨らみを掴んだ。就寝時には下着を着けていないため、ふわりとした柔らかさが掌に伝わる。
普段は、胸元が目立つ格好はしない、と言うか、寧ろ布団を被っていたりして余り分からないかもしれないが、これでも結構あるのだ。交にはお子様体系だと言われたが、そんな事は無い。そう、霧自身思っていた。
(男の人って、巨乳が好きって言うけど、先生もそうなのかな。知恵先生みたいな?)
柔らかい膨らみをやわやわと揉むと、マシュマロのように僅かな弾力を返しながら形を変えた。
(先生、霧の胸も気持ち良いよ?ほら、こんなに柔らかいし。触って、先生……いっぱい揉んで……)
己の胸を揉む手付きが少し荒くなり、眉の根が切なげに寄る。
下着の下で、今のところは自分の指だけが出入りする秘密の場所が潤ってきたのを感じると、中に手を入れて指を這わせた。割れ目の間に隠れた、ぷっくりした肉粒はすっかり硬くなっていた。粒の両側の溝を指でなぞると、霧は小さく震えて背を丸める。
「っ…ん…」
荒くなる呼気を抑えようと唇を噛むが、全ては堪えきれずに口元を布団に埋める。
胸を揉む手を止めると、その頂の突起へと触れた。そこはすっかり硬くなっていた。
下から上へと押し潰したり、指の間に挟んでぎゅっと力を込めてみる。
33 :
*霧の秘め事:2009/01/22(木) 15:32:38 ID:BkUyHvwO
(あっ、あ……霧の乳首もっといじめて、気持ち良いよ……)
乳首に触れると、秘所からはあとからあとから、蜜が零れてくる。
人差し指と中指。2本の指で、肉粒を両側から擦り上げた。
指を動かすたびに、とろみのある液が指に絡んで、ぐちゅぐちゅと音を立てる。
実際の音のボリュームは、寝息と同等のものだったが、指の感覚のせいか、部屋中に響いているような錯覚を覚える。
(っ、まだ中弄ってないのに、イッちゃいそう。先生、早く霧の中にいれて?おねがいっ。……あっ、気持ち良い、いいよぉっ)
たまらずに、胸の突起を強く摘みつつ、きゅっと上へ引っ張って刺激する。そして、疼いていた場所へと、漸く中指を入れた。
こんな事、しちゃ駄目なのに。
ぐちゃぐちゃに濡れていたそこは、簡単に指を根元まで飲み込んでしまう。
――こんなに簡単に入ってしまいましたよ?小森さんはいやらしいんですね。
耳元で望に囁かれながら貫かれるのを想像して、夢中で指を動かす。いつの間にか体は熱くなり、膝の裏にはじっとりと汗をかいていた。指を抜き差しする度に内壁が擦られてどうしようもなく気持ち良い。
(は、ぁっ、あぁ…きもちぃっ、あぁんっ、せんせい、だめ、もうイッちゃう!いっちゃうよ……!)
もうイク!そう思った瞬間、足の先に力がこもる。触っている場所に、すべての感覚が集中しているかのような強い快感が押し寄せた。中の一番気持ち良い場所を、指でぎゅうっと押したまま、霧は昇り果て、びくびくと体を震わせた。
絶頂を通り越すと、脱力感と共に罪悪感がちくりと胸を刺す。目が慣れたせいか、望の寝顔もよく見えるようになっていた。
ゆっくり呼吸を整えながらそっとティッシュを取り、濡れた指先を拭うとゴミ箱へと捨てた。
ふいに、独特の匂いが鼻につく。気付かれたりしてないよね?少しの不安を抱えつつも、霧は仰向けになった。
(先生、ごめんなさい。……大好き)
瞼を伏せると、疲れもあってか、すぅ、とすぐに眠りに落ちた。
AM5:00
「ふぅ。……女生徒と一つ屋根の下では、さすがに明け方くらいしか出来ませんからね」
ゴミ箱の中に、霧が捨てたものとは別の、丸まったティッシュの塊がもう一つ増えていた。
END
-------------
おわりです。閲覧ありがとうございました!
絶望先生のパロだと、女生徒×先生が多く、私も好きなのですが、今回は「ひとりえっちはしちゃうけど、自分から迫るまでは出来ない霧ちゃん」です。
それでは、今後も皆様の作品投稿を楽しみにしています!
おっつぐっじょぶ
大好きだ
gjいいねいいね大好きだ
霧二連続ktkrGJGJGJGJGJGJGJ
小森ちゃんかわいー
GJです。先生も小森ちゃんをおかずにしてたら面白かった。
今週のマガジン読んでまといが自分から身を引くSSがあったことを思い出したんだけど
何てタイトルだったっけ
いくつかあった気がするが自分が覚えてるのは【卒業】かな
続き物だけど
え、今週そんな内容なの?
「先週」の意味でしょ
質問とは違うけどカフカが死んでまといが先生についてくSSが好きだった
また時が止まっている・・・
今週は絶望少女も出てこなかったし燃料もないか・・・
「さて、今年も節分がやってきましたね。」
待ちに待ったこの日、私はある計画を実行するための用意をしていたのだ。
「先生! 少し良いですか?」
「どうしました、藤吉さん。」
「実は、家庭科室に恵方巻きを作ってあります。 皆で食べませんか。」
「おや、珍しいですね。 折角ですから頂きましょう。」
クラスの女子数人が反応する、先生が誰の海苔巻きを食べるのか気になっているよう。
ま、そんな事は想定済みで答えも決めてあるけどね。
「誰が誰の海苔巻きを食べるかでケンカになるといけないので、シャッフルしましょう。」
「それは名案ですね。では大草さんと加賀さん、用意をしてきてもらえますか。」
「分かりました。」
「先生、わ、私なんかで大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫ですよ、お願いします。」
公正な人選をするのも想定済み、誰が誰の恵方巻きを食べようと私には関係ないからね。
ケンカになってスケッチを出来ないければ意味がないし。
「そろそろいいでしょう、では家庭科室へ移動しましょう。 先生は用意する物があるので、先に食べてて下さい。」
私はスケブを脇に抱え、誰を対象にするかもう一度整理する。
先生に木野君、工藤君に……妄想が膨らみすぎて少し涎が出てきてしまった。
「小節さんの恵方巻きだったら……ふふ、ふふふふ。」
……誰も居ないところから声が聞こえたけど、あびるちゃんが気味悪がるから黙ってよう。
「どうしたのですか、そんな所でぼーっとして? もう皆さんは中ですよ。」
「このクラスはやっぱり木×くど……せ、先生! 驚かせないでよ!鬼のお面なんか頭に突っかけて!」
「すみません。 さあ、入りましょうか。」
家庭科室に入るなり、視線が私に突き刺さる。 あ、先生と一緒に入ったらまずかったかな。
「お待たせしました、後で豆まきをしましょう。」
「先生のお面、可愛いですね。」
「マリア知ってる、アツイ豆をぶつければいいナ!」
「……いや確かにそうですが、今回は普通の大豆で許して下さい。」
……今回は大収穫ね、いろんな角度からスケッチできたし。
「先生! 臼井君が引きつり笑いをしながら倒れてる!」
「何ですって!? 食中毒ですか! ……こ、これはワライダケじゃないですかっ!」
「ヤッパリそのキノコは食べられなかったカ。」
「もう、しょうがないわね、マリアは。」
「いけません、吐かせてから保健室に連れて行きますので誰か救急車を!」
騒動が収まったのに先生が保健室から出てこない、どうしたんだろう?
中を覗くとベッドにカーテンが掛けられ、うめき声が聞こえてくる。
ん? なんだか吐息のように聞こえるけど……。
「く、ふうっ、まずいですね……。 せめてトイレへ……。」
「先生? どうしました。」
「……藤吉さんですか? 先生は大丈夫です……開けないで下さい。」
「す、すみませんすみません! 私のせいなんです!」
愛ちゃんがカーテンを引くと、先生がベッドに寄りかかっていた。
袴の上から股間を押さえ、着物とシャツが少しはだけ、苦しそうに肩を上下させている。
顔は見えないが、鎖骨辺りの白い肌がほんのりと赤く染まっているのが見えた。
「すみません、私が媚薬を少し入れてしまったんです! すみません、すみません!」
「愛ちゃん、罰を受けないと駄目だよね……。 先生を慰めてあげてよ。」
「いけません……私で処理しますから……生徒となんて、駄目、です。」
先生の耳元に口を寄せ囁くと、先生の体が少しビクリとした。
「先生……お尻ですればエッチにはなりませんよ。」
「ええっ、お尻……いえ、駄目ですっ!」
「すみません、すみません、私ので良ければ……。」
愛ちゃんがスカートをまくり上げ、お尻を突き出している。先生は無言になりそれを眺めたままだ。
私は急いで保健室の扉に施錠した。
「すみません……先生、苦しいですよね、私のでどうか……。」
「はぁっ、はあっ……加賀さん。 怪我、しちゃいますよ。」
「先生、私たまたまローションを持っていたのでそれを使えば大丈夫ですよ!」
私が愛ちゃんのショーツを下ろすと、まるでタガが外れたように尻の双球で陰茎を擦り始める。
隙を見てローションを垂らすと、ぐじゅぐじゅと音が鳴り始めた。
「先生、入れたらもっと気持ち良いですよ。 優しく入れたら大丈夫です。」
「やさしく……入れる……。」
「せん、せい……はぁ、はぁ、私は、大丈夫ですから。」
そっと手を伸ばし菊門を指で開くと、先生の陰茎が水音を立てて、ゆっくりと飲み込まれていった。
二人の汗と愛液に媚薬が混じっているのだろうか? 私も興奮して頭が焼き付いちゃいそう。
一心不乱に二人と私の欲望を書き留めていく、凄い、いやらしい。
「加賀さん、気持ちいいです……とても。」
「すみません……私のせいで、ああっ!」
片手でクロッキーしながら自分の蜜壺をぐちゃぐちゃにかき回す。 頭が、景色がグルグルと回ってくる。
先生達が達すると同時に、私の頭が真っ白になった。
・・・・・・
「すみません、すみません!」
「いえ、私が悪いのです!」
辺りが粘液でドロドロの中、二人して土下座をする姿がシュールで吹き出してしまう。
「先生、さっきのスケブが濡れてしまったので、もう一回やってください!」
「な、何を言うのですか!」
「すみません!すみません!」
ガタリと保健室の音が鳴り、ロングヘアのシルエットが浮かぶ……まさか。
「先生……私との関係を清算して下さいね。」
スコップでドアが破られ、其処には般若の形相をした千里が……。
「お、鬼は外ー!!」
おわり
以上保守終わりです。 まとめには不掲載でお願いします。
今週の絶望先生は嫌一な落ちでしたね。
逆のバージョンでは、望にギアスをかけられる落ちで考えます。
糸色 望
「木津さん、どうした?何故スコップで殴らないのか?
相手はただの書生だ。それとも気づいたか?
殴ってもいいのは、殴られる覚悟があるやつだけだと。
糸色 望が命じる!木津 千里は死ね!!」
木津 千里「うなっ!?グググ・・・。イエス・ユア・ハイネス!!」
でぃやーっ!!バキューン!!
>>47 全く、真相心理に入り込んで、糸色先生をきっちりお持ち帰りやがったからな…
しかしおまいらは久米田の漫画を見てよくハアハア出来るな。
キミは出来ないん?
もう19スレ目だよ
加賀さんに媚薬を飲まされたい
まぁ改蔵を一気に読んだ後に絶望を読んだら絶望でハァハァなんてできないけどな
改蔵のエロパロも大歓迎ですよ
地丹受けは有りですか?
もろちん。
ここで、セラヴィー+セラフィムガンダムを見た糸色先生が一言
「絶望した!ガンプラを2つ買わせようとすることに絶望した!」
57 :
◆n6w50rPfKw :2009/02/06(金) 20:30:50 ID:JMnGJ7AR BE:939810896-2BP(333)
ご無沙汰しています。真夜中か明け方に1つ投下したいと思います。
ただ、題材(基にした原作の話)が過去に書かれた方とダブってしまっていて、心苦しい限りです。
内容・方向性はまるで違っているのでどうかご容赦くださいまし(穴土下座)。
期待して待ってます。
材料が一緒でも調理の仕方が違えば、逆に「こういう見方もあるんだ」と思えて楽しめるんだぜ。
同じくwktk
60 :
◆n6w50rPfKw :2009/02/07(土) 07:55:10 ID:UxAC9kqt BE:522117656-2BP(333)
まことに遅くなってすみません。今から投下します。
(夜のうちに投下しようとしたんですが、弾かれてしまいました)
可符香、智恵×望。
望が拷問される場面があるので、そこだけ要注意ということで……
長くなるので今日は前半だけで失礼します。
61 :
湯莽草 1:2009/02/07(土) 08:01:01 ID:UxAC9kqt BE:243655627-2BP(333)
ふと思い立ち、望は可符香と一泊旅行に誘う事にした。
一年間、表舞台に出せない相談をいろいろしてもらった労をねぎらおうと思ったのだ。
いろいろ可符香には手酷い目にも合わされてきた。
が、彼女がいなければ学級運営がにっちもさっちもいかなくなるし、ずいぶん助けられたこともあった。
出かけるに当たっては、人目もあることだし、月並みだが鄙びた田舎への温泉旅行がいいと思った。
その旨を持ちかけると、可符香も快く了承してくれた。
例によって行きの列車内でもいろいろ事件が発生し、命の危険を感じるような出来事もあるにはあった.
だが、どうにか目的駅で列車を降りた。
駅前に人気はなく、所在なげに構内にぽつんと停まっている車を拾い、宿に向かった。
ややあって二人が着いたのは鄙びた温泉旅館。
よくある「歓迎○○様」の表示もない。
一軒宿らしく、あたりには同業の旅館どころか人家すらない。
案内された部屋で旅装を解いていると、老婆が宿帳を持ってきた。
さらさらと記入していると、人の良さそうな老婆が告げた。
「今日はあとお一組いらっしゃるだけですので、どうぞごゆるりとお過ごしくださいまし」
「はぁ」
ほどなく夕食となった。
食事は素朴ながらも温泉宿らしい趣向に富んだものでハズレがなかった。
教え子にして悪巧みの相談相手と二人っきりで夕食を取っても気まずくはならなかった。
一本だけ頼んでいたお銚子を手にした可符香が望に酌をしようとした。
「先生、お一つどうぞ」
「あ、いや……生徒に注がせる訳には」
「まあそう固いことをおっしゃらずに」
可符香が片手でぽんと望の腕にタッチし、手にお猪口を持たせるとほどよく温かい酒をそそぎ始めた。
こんな何気ないボディタッチには媚びた様子など全然ない。
なので、望もつい気を許してしまうのだった。
夕食後、二人で浴場に向かった。
一旦入り口で別れたが、内風呂ですぐ一緒になった。
この地方の温泉宿の常として、入り口は男女別だが中が混浴となっているのだった。
内風呂には、小ぶりの浴槽と洗い場、それに寝湯があるだけの素朴なものである。
寝湯は入り口から見えないところにあって、湯に存分に浸かった体を休めるために横になれるスペースが二人分設けてある。
その脇の扉を開けると外の露天風呂に通じている。
源泉がどこからか湯船に流れ込んできていて、微かな水音が絶えずしている。
湯の色は無色透明。口に含むと微かに塩辛い。良質の湯だった。
ここまで来て人目をはばかる必要はない。
望は可符香と並んで入浴した。内風呂、外の露天風呂とも堪能した。
「ふぅ〜……なかなかいい所じゃないですか」
「よかったですね。当たりですよ」
たわいない会話を交わしながら内風呂に戻り、洗い場で互いに背中を流し合った。
そうしているうちについ望の指が可符香の若々しい乳房に当たった。
62 :
湯莽草 2:2009/02/07(土) 08:02:59 ID:UxAC9kqt BE:783175695-2BP(333)
「あん」
「おっと、失礼」
「もう……先生ったらぁ」明るくたしなめられた。
「じゃあ、こちらを向いてください。前も洗っちゃいます」
「え〜〜」
返事とは裏腹に、素直に望に向き直った。
目の前の健康的な若い裸身を、シャボンを含ませた手ぬぐいで柔らかに刷り上げる。
乳房は特に念入りに刷る。
「あん……おっぱいばかり洗いすぎじゃないですかぁ」
「そんなことないですよ。さぁ、足を伸ばして」
白い腹も優しく洗い、脚の間に入り込む。
すらっと伸びた脚をきゅっきゅっと磨き始める。
ゆるやか曲線を描いているふくらはぎ、細いがちゃんと脂肪がついて柔らかそうな太腿も丁寧に丁寧に擦る。
やがて太腿の付け根あたりを磨いたところで望が口を開いた。
「ここは手ぬぐいだとなんなので……」
言い訳をしつつ、望が可符香の微妙なところに指を這わせてきた。
そして若い叢を掻き分け、スリットに沿って指を軽く往復させたり、上のほうを指の腹でくりくりっと刺激しはじめた。
可符香は恥ずかしそうに身を縮めた。
「いやん、先生ったら。そこは」
「まぁまぁ」
望はしばらく指を這わせたまま、乳房に舌を這わせようとした。
だが、可符香はすうっと身を翻すと耳元で囁いた。
「いや……それは、あとで」
「そうですか」
「じゃ、今度は私が先生の前を洗いますね」
今度は可符香が望の前を洗い始めた。
少し力を込め、薄い胸板や細く長い脚をぎゅっぎゅっと磨く。
やがて望にぐいっと密着した。
「ここも洗っちゃいますね」
「え、そこはいいですよ。自分で」
「まぁまぁ」
シャボンを手にし盛大に泡立てると、泡を望の局部に塗りつける。
そうしてくちゅくちゅっと小さな音を立てて洗い始めた。
袋の皺を丁寧に伸ばし小さな指先で擦る。
かと思えば、細い指を起き上がり始めた絶棒に絡ませ優しく扱く。
「ん……ん」
望が下腹部から湧き上がる快感を堪えきれず呻くうちに、
時折可符香に男として上がっているなどとからかわれていた絶棒に力が漲り始めた。
なおも可符香は丁寧に刷り上げる。
カリのくびれも丁寧に指先で磨きあげる。
ついに絶棒は熱を帯び硬化しきってしまった。
おまけに、時折ぴくぴく震えている。
どこから見ても雄の威力を示す準備完了といった趣である。
63 :
湯莽草 3:2009/02/07(土) 08:05:50 ID:UxAC9kqt BE:313270092-2BP(333)
いよいよ漲ってきたところで、望が可符香の肩を押さえ、耳元で言った。
「もう、これ以上は……
寝湯の辺りが入り口から見えない所ですから、そこで。ね」
二人は寝湯に向かった。
二人分のスペースに並んで寝そべった。
望が腕枕をすると、可符香が素直に頭をちょこんと乗せてきた。
そしてこちらを向いた。望も可符香を見つめた。
見つめ合ううちに可符香が目を閉じた。
望は教え子の髪を優しく撫でると静かに接吻した。
舌を絡めながら望は自分が磨いた可符香の裸身に手を這わせる。
華奢なボディラインを確かめるようにゆるゆると上から下まで、下から上へ指先を滑らせていく。
やがてその手が乳房に達すると、ゆっくり優しく揉みこむ。
ほどなく固くなった乳首の下側を親指の腹で撫で、すりすりっと擦る。
時折を摘みながら、指で上からぐりっと押し潰してみる。
「んんぅ……あん」
舌を絡ませたまま体をくねらせていた可符香が喘いだ。
胸から沸き起こる快感に堪えきれず、口を離してしまったようだ。
望は教え子の頭の下からすっと腕を抜くと可符香を優しく横たえ、上に覆い被さった。
首筋、胸元へと軽くちゅっちゅっとキスを落としながら、固くなった蕾を口に含む。
「あん。う」
可符香の喘ぎ声がやや大きくなった。
かまわずそのまま舌先で存分に転がす。唇で甘く挟んでみたりする。
ちゅうっと音を立てて吸い上げる。
その間に手で教え子の下半身を探る。
するといつの間にか若い蜜があふれていて、指先の微妙な動きに合わせてくちゅ、ぴちゅっと秘めやかな音を立てている。
充分に潤っているようだ。
そのまま脚を割り、中に入り込む。腰を抱え込む。
出番が遅しと活躍の場を待ち構えている絶棒を入り口に当てる。
しばらく入り口付近で馴染ませた後、ずいっと装入する。
そのまま奥深くまで差し込む。
「はぁん……ああ、あっ、あっ」
やがて望は静かに動き始めた。
めったに聴けない可符香の喘ぎ声がさらに大きくなった。
もしかしたら、他人が入ってくるかもしれない場所での営みで、
いつも以上に興奮しているのかもしれない。
望もここしばらくになく気分が高揚していた。
教え子とのえっち、人が来るかもしれない場所でのえっちという二重の背徳感が、
自分のオスの部分を奮い立たせているのを自覚した。
可符香が両脚を望の腰に巻きつけてきた。
これまでの付き合いで、これは彼女が感じている証左である。
――私も、もうこのまま……
自分も限界が近いことを悟った望は、そのまま一気に動きを激しくした。
大きいストロークで、ぐいっ、ぐいっと可符香の中に絶棒を繰り込んでいく。
可符香も懸命に喘ぎを堪えているものの、どうしても洩れてしまうようだ。
64 :
湯莽草 4:2009/02/07(土) 08:11:09 ID:UxAC9kqt BE:261058853-2BP(333)
「うぅ……そろそろ、いいですか」
「あっ。今日は中へ、中へ」
珍しく可符香からねだられたので、望はそのままラストスパートに入った。
可符香の腰がくねるのに合わせ、ズン、ズンと腰を打ち付ける。
可符香の腰を抱え直すと一気に深いところまで突き刺す。
腰の奥から背筋を貫いていく。もうすぐだ。
中の襞が絶棒に絡み付いてくるのを振りほどくように奥へ奥へ突き上げる。
望は激しく動き続けたまま、ついに限界を突破した。
自分の分身から熱いものが後から後からほとばしった。
教え子の中にたっぷり注ぎ込んでいる間、望は可符香をきつく抱きしめていた。
可符香も発射を感じた瞬間、身を仰け反らせ、それでも望の背に回した手に力を篭めようとした。
同時に高みに達したのだった。
☆
肩を寄せ合って湯船に浸かっていると、女性側の脱衣場で物音がした。
ややあって戸が開くと、誰かが入ってきた。
髪はショートカット。
手ぬぐいで前を隠しただけの見事なプロポーションの若い女性――智恵だった。
望たちと同じ列車で、女友達と二人旅をしていたはずだったが、宿まで同じになったようだ。
だが、同じ列車内で同行していた女性が見当たらない。
智恵一人きりである。
こちらから声をかける前に、智恵のほうで気付いたようだ。
「あら先生、いらしてたんですか。お二人で」
「はあ。あの、お連れの方は?」
「それが、もう酔いつぶれちゃって」
智恵がやや渋い顔をした。
何でも、アルコールが入るとみるみる悪酔いし、
さんざん智恵に迷惑をかけたあげく早々と寝入ってしまったとのことだった。
そんな話をしながら体と髪を洗い終えると、智恵は湯に浸かろうと望たちの傍にやってきた。
だが、あいにく内湯の浴槽は手狭に感じられ、三人で入るとやや息苦しい。
そこで、充分温まっていた望と可符香は湯船から上がり、縁に頭を乗せてごろんと寝そべった。
「あらあら」
智恵は二人して行儀の悪い事に苦笑しながら望の傍を通り、ゆっくり湯に浸かった。
前を手ぬぐいで隠しているだけで、学校一の巨乳が前から横からこぼれ出ているのは仕方ない。
――いいものを見せてもらいました。
望がついにやけていると、突然可符香が望の脇腹をつねった。
「あいたっ」
「どうされました?」
望が口を開く前に可符香が機先を制した。
「何でもありませんよ、智恵先生」
「そう?」
「……」
望はつねられた脇腹をさすりながら、
智恵に見えないように可符香の脇腹をちょんちょんっと指先で突付いた。
望はつねられた脇腹をさすりながら、智恵に見えないように可符香をちょんちょんっと突付いた。
65 :
湯莽草 5:2009/02/07(土) 08:14:39 ID:UxAC9kqt BE:174039252-2BP(333)
しばらくは三人で静かに温泉の情緒を楽しんでいた。
源泉がどこかから浴槽に流れ込み、自然に湯があふれ出る音がするばかりで、
静かなことこの上ない。
ほの暗い内湯には湯気が立ち込めていて外は見えないが、風の音一つ聞こえてこない。
穏やかな夜のようだ。
智恵が湯船に浸かってどれくらいたった時のことだろう、ふと望に問い掛けてきた。
「先生」
「はい」
「もう死にたがりは収まりました?」
「は!? はぁ、いや、そのぉ」
昼間の出来事が脳裏をよぎった。
目の前の智恵の手で、展望車の最後尾、展望デッキから落とされそうになったのだった。
「あの」望は言いよどんだ。
「どうせ私なんてこの世にいてもいなくても……」
智恵がぼそぼそっと呟く望の首に腕を回してきた。
「まだそんなことを仰るんですね」
可符香が傍にいるのに頬にちゅっとキスを落とした。
そして耳元で甘く囁いた。
「じゃあ、ここで」
「ここで?」
「ここで……死んで」
智恵の手に急に力が篭った。
望は不意に頭を浴槽に引きずり込まれ、湯の中にぐいっと押さえつけられた。
「な!?……がぼごぼ」
そのままずるずると上半身も湯に沈められていく。
智恵の手を振り解こうとしても、角度がどうも合わず、触れることすらできない。
ならば、と浴槽の縁を掴もうとするが、どうしても指先がかからない。
じたばたともがいているうちに、視界が暗くなった。
間もなく顔の上に何か柔らかいものが乗ってきた。
智恵が望の顔の上に座ったのだった。
これで望は息がまったく出来なくなってしまった。
時間的には一分くらいの間だが、望にとっては永遠にその苦しみが続くかと感じられた。
「むごぉ……ぃむぅ」
――ザバァ……
不意に水音がし、顔を押さえつけていたものがなくなった。
とにかく息をしようと、懸命に頭をもたげた。
だが、頭が水面から出たところで何か柔らかいものにぶつかり、行き止まりになった。
顔を動かすと、鼻先が何か湿ったところに埋もれている。おまけに温かくて、周りに毛の感触がする。
「あん」
頭上で甘い声がした。
智恵が望の頭をまたぐように腰を浮かせていたのだった。
よくよく目の前を見てみると、なるほど目の前に白い肌と黒い叢がある。
調教される際に見慣れた智恵の神秘の部分だ。
今、自分が智恵の股間に思い切り顔を埋めることがようやく分かった。
思わず顔をふるふるっと動かした。
66 :
湯莽草 6:2009/02/07(土) 08:20:03 ID:UxAC9kqt BE:609136875-2BP(333)
「あぁん」再び甘い声が上から降ってきた。
「まだ死にたいですか、先生」
「え、あ、あの……ほわぁ」
自分の置かれている状況が整理できずまごついていると、突然下半身が熱いものに覆われた。
次いでくちゅくちゅと音がしだすと同時にたまらない快感が背筋を伝った。
可符香が絶棒を口に含み、しゃぶり始めたのだった。
一通りねっとりしゃぶると、すっかり大きく固くなったところで口を離す。
細く小さな指でしゅりしゅりと熱化した絶棒を扱きはじめる。
「おあぁ……あ」
望は緊急時なのに有り得ない快感に我を忘れ、もたげていた首の力がすっと抜けてしまった。
頭が半ば湯に浸かったところで上を見ると、智恵の豊かに張り出した見事な乳が目に入った。
奴隷として調教される際に時々味わったその爆乳に阻まれ、
智恵が今どんな表情でいるのか分からない。
「ああぁ……あぅ」
「煮え切らないわねぇ」
再び智恵が望の顔に腰を下ろし始めた。
望は為す術もなく再び息ができなくなった。
顔面を智恵の秘部で覆われることはこれまでの調教でよくあった。
むしろ顔面騎乗されて、女王様の襞の隅々まで丁寧に奉仕することが結構気に入っていた位だ。
だが、今は命がかかっている。とても奉仕する余裕などない。
何の抵抗も出来ないまま、また頭が完全に湯の中に静められてしまった。
「ぐぼばっ! ……ぐ、ぶ」
もがいていると、また絶棒を温かみを伴った快感が襲った。
先ほど刺激されて力を蓄え始めた絶棒を、再度可符香が口に含んだのだった。
しかも、今度は可符香も本気を出したようだ。
舌を積極的に幹に絡ませてくる。
膨れ上がった亀頭の周りを高速で回転させる。
鰓の周囲をねっとり舐め回す。
時には舌先ではじく。
そうしておいて、とどめに口をすぼめて含むと、音を立てて何かを吸い出そうとする。
可符香の本気の技を受けたのはいつ以来だろう。
絶棒から沸き起こってくる強烈な快感に、望は耐え切れなくなった。
だが、ちゅぱちゅぱっという音を水面下で耳にしていても、
わずかに顔を左右に動かす位しかできない。
苦し紛れに鼻や口を覆っている智恵のそこに舌を這わせると、嬉しい事にやや力が緩む。
息苦しい中、必死に舌を動かすと、もっとその動きを求めるように逆に押し付けられる。
苦しくて動きを止めると、動きを催促するかのようにますます押し付けてくる。
「うぐぅ……むぐぼ……」
ついに望の意識が遠のき始めた。
目の前が一時ふうっと白くまる。
また漆黒の闇に陥るかのように暗くなったりする。
だが、意識が飛びそうになった途端、顔を覆っていた力が不意に緩んだ。
67 :
湯莽草 7:2009/02/07(土) 08:26:30 ID:UxAC9kqt BE:626540494-2BP(333)
それとばかりに息を吸おうと頭をもたげる。
が、今度はようやく口や鼻が水面上に出るかどうかという所に智恵の股間が待ち受けていた。
奉仕をせずに息を吸うべからず、というようだ。
望の視界に映るものといえば、黒い翳り・白い下腹部か上方の爆乳しかない。
半ば水を飲み、時折咳き込みながらも、
自分の生死与奪を握っている主人に懸命に奉仕しようとした。
――息がしたい。死にたくない。死にたくない!
だが、生きるための奉仕を阻止しようという悪意に満ちた快感が、
容赦なく凄腕のテクニシャンの手によって加えられる。
どこでそんなテクニックを身につけたのかと疑問に思う余裕など全くない。
智恵が不意に口を開いた。
「もう一度伺いますよ。まだ死にたいですか」
「げほごぼっ……あの、あ、その」ここで可符香が赤化した亀頭をきつく吸い上げた。
――ちううううっ!
「ひゃあああっ!」
「真剣味が足りないわね」
冷たく言い放つと、無情にも智恵は再び望の顔面に座り始めた。
こうして、死に到る苦痛と極上の快楽が文字通り入り混じる残酷な拷問を受け続けたのである。
絶えず頭を湯中に沈められ、溺死する直前にわずかに息を吸うことが許される。
その間、自分の股間には極上の快楽が与えられる。
しかも、最大限の快楽を与えつつ、下半身が暴発せずに長持ちするよう――つまり拷問が長く続くよう、
可符香の悪意に満ちた存分なテクニックで刑の執行の終わりが引き伸ばされていた。
それでも最終的に果てそうになると、決まって智恵の尻が望の顔面を湯船の底に沈めてしまう。
そうしてぐりぐりと押さえつける。
これも暴発を先送りする事に貢献していた。
二人の見事なコンビネーションで、望は徐々に思考力を奪われていった。
ただイきたい、生きたいとぼんやり感じながら甘美にして残酷な刑を受け続けるしかなくなっていた。
何度目の事だろうか。
底の底まで沈められていた望の頭がまた不意に水面上に引き上げられた。
今度はそのままずるずるっと体を浴槽の外に引っ張り出された。
そして智恵・可符香の手で手早く四つん這いの姿勢を取らされた。
その姿勢を取らされたことを気付く暇もなく、望はげほんごほんと咳き込み、
飲んでしまった湯を吐いたりしている。
はっと気が付いて顔を上げた。
すると、目の前に智恵の漆黒の瞳が待ち受けていた。
「先生、まだ死にたいですか」
――ああ、吸い込まれる……
「いいえ、もう死にたくありません」魅入られたように、すらすらと口から言葉がこぼれる。
「じゃあ生きたいのね?」
「はい、いきたいです」
「そう……いいわ、存分におイきなさい」
微笑を浮かべると智恵は望の眼前にやや脚を開いて横たわった。
そして両手を大きく開いて微笑みかける。
「さあ、おいで」
68 :
湯莽草 8:2009/02/07(土) 08:32:04 ID:UxAC9kqt BE:104423832-2BP(333)
その聖母のような姿を前に、望の自我が崩壊した。
もはや恥も外聞もなく、智恵の豊満な乳房に、
まるで腹を空かせた赤子のようにむしゃぶりついた。
「うわあああん、恐かったよお!……恐かったんだよぉ」
「よしよし」
「ううう……すんすん……すんすん」
望は智恵の双乳に顔を埋めたまますすり泣いた。
そんな望の頭を智恵は優しく撫でてくれた。
可符香も後ろから抱きつき、望の胸に指を滑らせたり絶棒をあやしたりした。
智恵がふと望の頭を掴んで胸から引き剥がすと、まっすぐ眼を覗き込んできた。
「さあ」
「え?……う」
視線にしびれ、ふと下半身の快感に気付いてそちらに目をやった。
可符香にあやされていた絶棒が拷問の間に受けた快感を思い出させたようだ。
本体が死滅する間際に追い込まれた今、子孫を残しておこうという本能も作用したのだろうか、
絶棒がこれまでになく屹立し、今にも噴火しそうになっていた。
「さあ」
可符香にも促され、智恵を見た。
聖母のような純白の裸身が熱気でほてって桜色に染まっている。
そしてにっこり微笑んで軽く頷く。
望はするするっと智恵に重なり、熱に浮かされたかのように体を合わせた。
「う……ぐ」
「ん……あぁ」
動き始めると、智恵の中の温かさ、襞や微妙な突起の精妙な動きの気持ちよさでまた涙が目尻に浮かんだ。
そしてはらはらと頬を伝って智恵の裸身に零れ落ちた。
「うわあああん……うっ、うっ」
嗚咽を漏らしながら、それでも一心に腰を振った。
睦み事を覚えたての若者のようにただひたすらストロークを繰り出した。
智恵が一瞬のけぞり、やがて下から望の肩口に顔を埋めると、
背に腕を回し、ぐぃっと力を込めて抱きしめてきた。
望は嗚咽を漏らしながら、いくらもたたないうちに高ぶりが頂点に達し、
智恵の中に大量の精を放った。
長々と精を放っている望の腰を可符香が優しく撫でさすってくれた。
☆
可符香に付き添われて、望は時折しくしくすすり泣きながら部屋に戻った。
部屋にはもう蒲団が並べて敷いてあった。
枕もくっつけてある。
暖房も程よく効いている。
灯りは半分まで、人の顔が分かる程度に落としてある。
蒲団の上に向かい合って座った。
望がまだ眼に涙を浮かべていると、可符香が微笑みながら頭に手を掛け、自分の膝に導いた。
膝枕をしようというのだった。
69 :
湯莽草 9:2009/02/07(土) 08:35:01 ID:UxAC9kqt BE:243654672-2BP(333)
部屋の内外は静かで物音一つしない。
隣の部屋は智恵たちの部屋だが、誰もいないかのようだ。
外からは、かすかに遠くの渓流の水音がこぼれてくるばかり。
月明かりもほのかだ。
薄暗がりの中でじっとしていると、浴衣越しに可符香の肌のぬくもりが徐々に伝わってくる。
激動の出来事の直後で縮みきった心の皺が徐々に伸ばされていく。
ようやく精神が鎮まってきたようだ。
可符香が優しく声をかけてきた。
「先生」
「……ん」
「落ち着きましたか」
「……ええ」
消え入るような声で一言呟いた。
望は目を閉じたまま、可符香の膝にうつぶせになっている。
両手はだらりと投げ出したままだ。
「先生」
「はい」
可符香、望の頭を抱きかかえると、自分の腹に押し付けた。
いつの間にか浴衣の紐がほどけていて、健康的な少女の下腹部が望の顔に触れた。
甘えるように若い叢に顔を埋めると、すうーっと息を吸い込んだ。
そしてほうっと安堵したように息をついた。
再度可符香が口を開いた。
「先生」
「……」
「どんな音が聞こえますか」
「音?」
「ええ」望を抱く腕にやや力が込められた。
「赤ちゃんが育つ所、生命を育む所はどんな音がしますか」
望は耳を当ててみた。
――ギュウウウ……シーン……キイイイイン……
微かな、非常に微かだが幾多のかそけき流れが耳を満たした。
またゴーッとはるか彼方で何か大事なものが渦巻いているような音も聞こえる気がした。
そして、トクン、トクンという拍動も確かに伝わってきた。
「いろんな音がするんですね」
「でしょう」可符香が言葉を継いだ。
「だから、生きるってことは」
ぷつりと言葉が途切れた。
見上げると、薄暗がりの中で思いがけず悲しい眼差しをしている可符香を見出した気がした。
そんな視線に気付いたのか、可符香はすぐに笑顔を取り繕った。
「じゃあ、ここはどんな音がしますか?」
自分を見上げたままの望むの顔を、はだけて無防備なままの乳房に導いた。
望は双乳の合わせ目の下に耳を軽く押し当てた。
70 :
湯莽草 10:2009/02/07(土) 08:40:13 ID:UxAC9kqt BE:313271429-2BP(333)
――とくん、とくん、とくん……
「生きている……」思わず望は呟いた。
「でしょう」可符香が望の頭を抱いている手に力を込めた。
――可符香も生きている。そして自分も今確かに生きている。
急に目の前の教え子がいとおしくなり、桜色の可憐な蕾を軽く口に含んだ。
「ん」
――ちゅっ、ちゅっ……
しばらく無心にちゅっちゅっとしゃぶる。
やがてやや固くなった部分の周りを丁寧に舌先でなぞる。
「あ」
一瞬、可符香が望の頭を抱く手にさらに力が篭った。
が、やがてその手が力を失い、望の背中に下りていく。
可符香の全身からも力が抜ける。
望は目の前の愛しい教え子をそのまま蒲団に横たえた。
可符香、今この瞬間を待っていたかのように全身から力が抜けている。
望は、そんな教え子に優しく接吻した。
やがてどちらからともなく舌を絡ませ始めた。
接吻は長く長く続いた。
ようやく唇を離すと、銀色の細い糸が繋がっている。
二人は、そのまま見つめ合う。
見つめ合ったまま、そして無言のまま、望が可符香に優しく入っていった。
奥まで埋めた後、しばらくそのままでいた。
痺れるような幸福感が望を満たした。
やがて可符香がすうっと望の背に腕を回してきた。
望も壊れやすい存在を慈しむかのようにゆっくりと動き出した。
「あ……」
喘ぎを隠すかのように、可符香は望の背に回した手に力を込めると望の胸板に顔を押し付けた。
そして、担任の甘い律動に耐えながら、望の乳首を舐めてきた。
「くっ」
望は、自分の弱点である胸から生じる快感が絶棒から生じる快感と合わさると
計り知れない相乗効果を生むのを身をもって実感した。
可符香の舌先がちろちろと動くたびに絶棒にぴりぴりと電流が流れ、鰓の張りを大きくする。
膨張した鰓が可符香の中を擦り上げるたび、快感の束が絶棒をらせん状に通り抜け、腰の奥に突きささる。
そして全身を隅々まで駆け巡っていく。
頭のてっぺんから爪先まで全身が気持ちいい。気持ちよくてたまらない。
可符香の中がきゅうっと締まり、きつくなってきた。
いつの間にか若蜜があふれ、くちゅっ、ぴちゅっと可愛らしい音が二人の股間から聞こえてくる。
やがて望の律動が大きくなり、二人の押し殺した喘ぎ声も大きくなった。
絶棒が最も膨れ上がると同時に、可符香が激しく締め上げてきた。
「う、もう、もう!」
「あっ、あん、あん!」
ぴくんっと中で震えると、ついに望は上り詰めた。
絶棒が中で跳ね、自分が生きている証をこれでもか、これでもかと注ぎ込んだ。
可符香もそんな絶棒に濃い蜜を絡ませ、一滴も残すまいというようにぎゅううっと締め上げた。
最後まで搾り取られる感覚、最後まで注ぎ込まれる感覚に全身を包み込まれながら、二人は高みに上り詰めた。
71 :
◆n6w50rPfKw :2009/02/07(土) 08:42:38 ID:UxAC9kqt BE:626541449-2BP(333)
前半はここまでです。
後半は近いうちに上げさせていただこうと思います。
投下が遅くなってすみませんでした。
糸色 望は坂道が苦手
登り勾配に差し掛かると、編成の重さが後ろにかかるためと、
鉄のレールと鉄の車輪との摩擦で走るため、すべりやすく、
その分長い列車を引くことも出来ないし、スピードも出せない。
平らな区間に比べて、坂道に弱いのは鉄道の最大の弱点だ。
糸色 望と四月一日 君尋などの重い気動車の編成などで、
列車の重さが大きいとき、レールと車輪との摩擦の釣り合いが崩れると、
駆動輪はレールの上でスリップして進めなくなってしまう。これを空転という。
グッジョオオオオオオオオオオオオオオオオオブ!!!!
続きを楽しみにしているよ!
続き楽しみにしてます
GJ!
これでまた生きる希望が出来ました!
グッジョブ!
可符香と智恵先生のコンビはたしかに怖いですね
今回の箱で一つ
なんかない?
特定のものを突き入れる無限の可能性がある箱……とか
エロ漫画的発想しか思い浮かばん
中出しした後、二度と会うことがなければ
子供が出来てしまった未来と出来なかった未来が
同時に存在することになるのです!
・・・何故このネタ我慢できなかった!
>79
・・・それは単なるヤリ逃げと言わんか?
先生にそれは無理だな。
81 :
1/2:2009/02/14(土) 18:59:17 ID:xGvM3IUN
奈美と久藤でエロなし。保守がてら投下。
誰かがわたしを呼んでいる。
「……さん、日塔さん」
誰だっけ。
「…ダメだな、完全にオチてる」
ため息。椅子を引く音。そして本を開く音。
それから声はぱたりと止んで、わたしの寝息とたまにページを繰る静かな音。
いくらか浅い眠りについていた。
「やっと起きたの」
目の前で笑むクラスメイト。
「…久藤くん」
背中が熱い。夏の陽射しはずいぶんだ。
ぼんやりとした頭で時計を覗く。午後三時。驚いてがばりと起き上がった。
「普通にうっかり寝過ごした?」
ハハッと声を立てる。
「ふつうって言うなあ! どうしよう、千里ちゃんと待ち合わせしてたのにっ」
「それは大変だね。相手はあの木津さんだ」
「埋められる! いやぁぁっ」
取り乱すわたし。久藤くんは穏やかなまま。
「今からでも行くべきだよねっ。もう一時間も経ってるけど大丈夫だよねっ」
「一時間…。それはタダじゃ済まないんじゃ」
「いやぁぁ」
「とりあえず連絡取ってみなよ」
久藤くんが諭すように言った。
冷静さを失っていてこんなことも忘れてた。
「あ、う・うん!」
あわてて携帯の着信を確認する。
「どうだった?」
「…なんか千里ちゃん先生を追っかけまわしてるみたい。
知らない女の人と話してるのを見かけたとかで…」
82 :
2/2:2009/02/14(土) 19:00:18 ID:xGvM3IUN
「そ、そう。なら約束の方は大丈夫そうだね」
「だといいなぁ…」
ほっとして、とたん恥ずかしくなる。
そしてとっくに図書室は閉館時間を過ぎていることに気付いた。
そういえば久藤くんは図書委員だ。そうか、じゃあ…。
「あはは…いろいろごめんね久藤くん。わたしが寝てたからずっと…」
「気にしなくていいよ。中間考査が終わって疲れが出たんだろうし」
久藤くんの優しさにじーんとした。
「それに女の子と図書室にふたりきりなんて、美しい青春のひとコマだよ」
「へっ!?」
「なんてね。最近少女漫画に凝ってるんだ」
無駄にあせって我ながらバカだよなぁと思った。
「ふーん…じゃ、じゃあ遅くまでありがとう! バイバイ!」
奈美「少女漫画かぁ…わたしも主人公になってステキな恋がしたい・・」
久藤「もしさよなら絶望先生が少女漫画だったら、僕は普通少女の日塔さんと恋に落ちていたかもね…」
久藤「……この考え方、木野からの悪影響か…」
(オワリ)
GJ!
ほのぼのさせて頂きました
普通かわいいよ普通
久藤くんと日塔さんの普通の恋愛、、、アリですね
>>80 責任取るのも無理……かな
16集はどうですかね皆さん
160話はここに投下してくれる人を含めて色んな書き手にネタを与えたみたいだけど
喪服の智恵先生がエロいと思うんですよね
絶景×千里もありかなーと思ったな。最新巻で。
千里ちゃんと先生以外の男の組み合わせはありえ・・・ぬ。
ちょっと読んでみたいな
ちがう、そうじゃない
>86
絶景だったら千里の猟奇も超次元で跳ね返せそうだしな
いや、埋められたことあっただろ
以前からここを読ませて貰ってましたが、今回初めて投稿します。
可符香と先生で擬似フェラのみです。3レスほどお借りします
95 :
タイトル未定:2009/02/23(月) 17:37:12 ID:qb2Ca7KK
冬のある休日、いささか時代錯誤のような袴姿の青年が、コンビニ袋を提げて猫背で歩みを進めていた。
「さ、寒い…これのどこが小春日和なんですか・・・ああ、背中にもカイロを貼るべきでした」
大人気なく今朝の天気予報にケチをつけている男――糸色望は高校の教師を務めているのだが、
先日ふと自分が学生時代に書いた同人誌を読み直し、再び創作意欲が沸き、ペンを執ったのだった。
それはつい3日程前のことだが、早くも煮詰まってしまい、気分転換にと外にでかけたのだった。
しかし、数日間部屋に籠もりがちだった体には、だいぶ和らいだとはいえ、まだまだ寒い冬の風は厳しい。
望はただただ、温かい宿直室のコタツを頭に描いて歩調を早めた。
「あ、お帰りなさい」
そんな望を宿直室で出迎えてくれたのは、小森霧でもなく、甥の交でもなく、予想にもしてなかった風浦可符香だった。
「え、風浦さん?な、なんでここにいるんですか?」「先生そろそろ煮詰まってらっしゃるかな〜と思って様子を見に来たんですよ」
望が再び同人誌を書こうと思ったのは、以前、
藤吉と一緒に臨んだ同人会で、『石ころ』が全くとして売れず(まぁそもそも場違いだったのだが)、
意気消沈していた自分に光を差し込んでくれた可符香の存在も理由の1つだった。
お世辞でも、自分の作品を「わたしは好きですよ」と笑顔で受け入れてくれたのは嬉しかったのだ。
だから望は可符香にだけ、また作品を書き始めたことをそれとなく伝えたのだった。
というわけで、もはや彼女に読んで欲しいが為にまた同人誌を書き始めたと言っても良かった。そんな自分の煮詰まるタイミングを読まれていたことは恥ずかしかったが、気に掛けてくれたことは純粋に嬉しかった。
96 :
タイトル未定:2009/02/23(月) 17:40:19 ID:qb2Ca7KK
「そうだったんですか・・・ははは・・・恥ずかしながら、図星です。・・・そういえば交はどこに居るんでしょうか?」
「交くんなら、さっき倫ちゃんと出掛けましたよ」
「そうですか。ああ、じゃぁ丁度良いですね。あんまん2つしか買ってなかったので。あ、お茶でも淹れますね」
そう言って、望はやかんを火にかけた。
「ありがとうございまぁす。あ、わたしも差し入れ買ってきたんですよ。えっと・・・」ガサガサッ
「ピノに、雪見だいふくに、パピコに、ガリガリ君に・・・」
「全部アイスじゃないですかぁ!?いや、でもありがとうございます・・・でもせっかくですが、交と後で頂きますね。
しかしなぜもこうピンポイントで・・・」
「やだなぁ、先生。あったかいおこたで食べるからおいしいんじゃないですか。あ、アイス冷凍庫に入れておきますね」
「あ、どうも。はあ、そういうものなんですかねぇ・・・」そう言って、2人はコタツに入った。
「・・・・・・」「・・・・・・」「あ、先生小説の方はどうなんですか?」
「え?あぁ・・・まぁあまり捗っては、ない、ですね・・・」「そうですか」「はい・・・」
望は可符香の問いにぎこちなく返しながらも、頭の中では別のことでいっぱいだった。
と言うのも、可符香のことを考えながら筆を進めると、どうしても稚拙な恋愛モノになってしまうのだ。
それは今まで望が書いてきた作品にはない傾向であったし、とても気恥ずかしいことだった。
さらには、今こうして小説のモデルの張本人とも言える人物を目の前にしているのだから、たまらなく恥ずかしい。
(ああ・・・もし「どんなお話ですか?」なんて聞かれたらどうしよう・・・)
そんな心配でいっぱいで、望は沈黙の気まずさに気付かなかった。
(それにしても・・・先生やっぱりちょっと疲れてるなあ)
一方で、本来その疲れを癒すために来た(という名目で会いに来ただけだが)可符香だが、
やや隈がかかった目元を見ると、やはり心配になる一方・・・言葉尻がややぞんざいな望を 少し、からかいたくなった。
「先生、わたし1本アイス頂きますね」「え、あ、どうぞ…」
『まったく、自分で食べたいから買ってきたんじゃないですか?』いつもなら、そんな風に皮肉な言葉が返ってくるはずなのに、やはり生返事だ。
「このミルクのやつが、わたしちっちゃい頃から一番好きなんですよ〜」「はぁ…」なおも生返事。
97 :
タイトル未定:2009/02/23(月) 17:44:52 ID:qb2Ca7KK
(・・・こうなったら・・・)
「先生・・・ちょっと立ちあがってください」「え?こ、こうですか?」
「はい。それから、コタツに座って下さい」「え、行儀悪いですよぉ」「いいからいいから〜」
(せっかくコタツで暖を取れたのに・・・)
望はしぶしぶとテーブルに腰掛けた。可符香は望の足の間に体が収まるように、ぺたんと座り込んだ。
「角度はこんなもんかなぁ…」可符香はアイスの銀のフィルムを剥がしながらそう言った。「??風浦さん?いったい…」
すっかり小説の話題からそれて望は安心したものの、いつも以上に謎の行動をとる可符香に戸惑った。
「先生はただ見ててくれればいいんです」にっこりとそういうと、可符香は棒を両手で持ち、ちろちろとアイスの先を舌先で舐め始めた。
「・・・!?ふ、風浦さん!?」ついに望は彼女の意図に気付いてしまった。
その瞬間に顔がかっと赤く火照るのが自分でもわかった。
「あ、貴女・・・わるふざけは・・・」しかし、望は思わず彼女の口元に見入ってしまって、『やめなさい』と続けることが出来なかった。
「ん・・・ちゅ、ちゅっ、ちゅぅ…」可符香は望の視線に気づき、満足し、先端を丁寧に舐め続けた。紅い舌が踊る。唇がアイスでてらてらと濡れている。
先端がだいぶ溶けてくると、可符香はアイスをすーっと深くまで口にくわえた。しかし、まだ溶けかかっていない部分は、思っていたより太さがあったらしく、やや眉をひそめながら、またすーっと口から取り出した。
そして、「ふぅ・・・」と可符香は軽い深呼吸のようなため息をついた。
「も、ほんとに、風浦さん、やめてください・・・」これ以上からかわれては、本当にやばい。
しかし、可符香はそんな説得力のない望の言葉をまるで無視して、再びアイスに唇を近づけた。
今度は頭の角度を変え、側面を這うようにゆっくりと、舌の真ん中で舐め上げていく。右の側面の表面が舌の温度で溶けかかると、次は左の側面を。
そうして丁寧に溶かして、くわえやすい太さになると、可符香はアイス全体を口にゆっくりと抜き差し始めた。「んぅ…ちゅぶ、くちゅ・・・」ぐちゅっぐちゅっという音を立て、
時々のどを鳴らしすすりながら、少しずつ出し入れのスピードを上げていく。もちろん、棒を両手でしっかりと持ち、アイスを動かさずに頭だけを振って。
激しく頭を動かしたせいか、スカートもずれ、真っ白な太ももが、半分以上さらけ出されている。
そんな教え子の様子は、健気なようにも見えた。一生懸命に舐め続ける少女の頭を無意識になでながら、望は目の前の光景を、
脳に焼き付けるかのように、視覚と聴覚で味わった。そして彼女の舐めているアイスがどんどん溶けていくのに反比例して、袴の下が疼くのを感じていた。
「じゅるっ・・・ぐじゅ・・・じゅる・・・ごくん・・・」アイスを全て食べ終えると、可符香はほんのり頬を赤らめ、心なしかぼうっとした目で望の顔を見上げた。
望は彼女の唇から、顎を伝って垂れていく一本の白い筋を、服に付いてしまわないように指ですくいとった。
すると、可符香はその指をも口にしゃぶり、アイスを完全に舐め取った。
98 :
タイトル未定:2009/02/23(月) 17:45:39 ID:qb2Ca7KK
そして、とどめとばかりに「おいしかったです。ごちそうさまでした」と口角を上げて言い放った。
「あの・・・風浦さん・・・私、「さて、わたしそろそろお暇しますね。」…え?」
さっきまでの熱を帯びた表情がまるで嘘だったかのように、可符香はそそくさと帰る準備を始めた。
「え、ちょ、あの・・・」「じゃぁ、先生お邪魔しました。小説、楽しみにてますね。頑張って下さい。さようなら、また明日」
「え・・・あ・・・」望はあっけにとられたまま、ふわりっと去っていく彼女を何も言えずただ、見送った。ドアの前で靡いたスカートだけが残像となって、頭に残った。
床にはすっかり冷えてしまったあんまんの入ったコンビニ袋。まだまだ冷めそうにない袴の中の自身。
「え、私、どうすればいいんですか・・・」未だ濡れている、ぬるい熱を帯びた人差し指を見ながら、望は一人ごちた。
部屋の奥のやかんが立てるシュンシュンという音だけが、やけに響いていた。
―――終―――
99 :
95-98:2009/02/23(月) 17:49:00 ID:qb2Ca7KK
以上です。
原文をコピーしたら行オーバーしてしまい、修正しながらレスしたので、酷く読みづらくなってしまいました。
乱文失礼致しました。
可符香ばっかでつまらんなここ
最近は望カフ少なかったからうれしいよ
是非また書いてください
このスレときどき変なの沸くけど気にしないで
最新刊を読んで可符香熱が上がったところだった
是非また書いてください
「すん」が読めない時点で相手にするに値せず
>>106 2度と書きますんw
2度と書きますんw
2度と書きますんw
いや普通にIWGPと絶望の中の人のネタだろ>ますん
何がそんなに・・・
>>102 まぁ真に受けてないと思うけど、気にしないでいいよ
また気が向いたら是非書きに来て下さい
私がコードギアスのルルーシュでしたら・・・。
「下見です。」とおっしゃっている望に対し
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!糸色 望は俺の言うとおりにしろ!」と
いう風に遠慮無くギアスをかけていたかもな。ギアスをかけられた望は
「イエス・ユア・ハイネス!!」と言って、自分の頭にルルーシュから渡された
拳銃でぶち抜いて死んでいると。
ただ、超ネガティブな性格が災いし、想定外(イレギュラー)の出来事には弱い。
新刊発売されたというのにこの過疎りっぷりに絶望した!
大浦さん根津さん丸内さん
保守
ID:qb2Ca7KK
さっさと書けよ
久しぶりに来たけど
半端ねぇwww
オレでよければ書いてみる
お前しかいない
じゃあ俺も
お前しかいない
各キャラのエンジン
勝 改蔵、名取 羽美、坪内 地丹など
DMH17系エンジン1台
L Lawlite、セバスチャン・ミカエリスなど
DMH17系エンジン2台
ルルーシュ、四月一日 君尋、糸色 望など
DML30HS系エンジン
ギンコ、夏目 貴志など
DMF15HS系エンジン
デスノートのニア、バトルスピリッツのJなど
カミンズ DMF14HZエンジン
勝 改蔵のDMH17系エンジンは太平洋戦後の設計の古さから、エンジンの質量の割には出力は
十分でなく、燃費効率や始動性と機動性も芳しくなかったが、旧型のキャラクターに広く採用され続けた。
四月一日 君尋、糸色 望のDML30HSHエンジンはルルーシュのDML30HSEエンジンを安定性重視に
改良し、出力を500馬力から440馬力へとデチューンして余裕を持たせたエンジンである。
デスノートのニア、バトルスピリッツのJの直噴式以外はすべて予燃焼室式である。
今時、予燃焼室式エンジンはもはや時代遅れであった。
荒らしでさえ嬉しくなってしまうほどの過疎っぷりだな
どうしたんだ
なにがあったというんだ
これはもう小ネタで気を紛らわすしかないな
テスト
126 :
584:2009/03/15(日) 21:34:38 ID:zM4dIDli
お疲れ様です。青山×奈美で投下させて下さい。
127 :
普通なんて :2009/03/15(日) 21:42:08 ID:zM4dIDli
時は黄昏時、夕日に照らされた校舎。窓の外からは運動部の元気な掛け声が聞こえてくる。
私こと日塔奈美は誰もいない放課後の教室で悩んでいた。
「はぁぁ・・・・・・・・・・」
深いため息をつく。
私、日塔奈美はどこにでもいる、ごくあたり前の「普通」の少女。特に問題のない平均的な普通の家庭に生まれ、
普通に育てられ、普通の生活をしながら、普通の学校に通っている。
――――――――――普通――――――――――――――――――
この単語が私を苦しめる。普通、普通と言われ続ける毎日。
普通の境遇、恵まれた境遇に生まれたことにはもちろん、感謝している。裕福な家庭に生まれ、ちゃんと両親がいて、友達もいて、何の心配もなく学校に通えている。
それはとても幸せなことだと思う。それ以上のことを望むのは贅沢だとわかっている。
だが、普通なんだからそれでいいんじゃない―――――――――――と言われるのにはハラが立つ。
―――――――普通じゃなくなりたいと思うことこそが普通なんじゃないかな――――――――――
以前可符香ちゃんから言われた言葉。違う、そんなんじゃない。普通じゃなくなりたいんじゃなくて、私はただ純粋にほめてもらいたいだけなのに―――――――
普通だから・・・・・それ以上を望んではいけないのか?
境遇的にはもちろん恵まれているし、「普通」を「異常」との2項対立で見ればたしかに、「普通」は良いことだ。でも、それとこれとでは次元が違う。
能力や人格の面で言えば普通は基準値に過ぎない
普通未満のことしかできない人よりは、はるかに評価されていると思う。だが、普通で止まってしまってはそれまでだ。決していい意味では使われない普通、
私だって普通以上のことをして、人から評価されたい。普通からいい意味で脱却したい。たしかにそう思うこと自体が普通なのかもしれない。
だが、この思いはこの世に生を受けた者なら誰もがもつであろう憧れ。
それを単に境遇が恵まれているから、そのままでいいんじゃないと言われるのは悔しい。
普通の代名詞にされ、他人と比べられるだけのものさしとして扱われる。あくまで他人を引き立てるだけの道具に成り下がるのは悔しい。
128 :
普通なんて:2009/03/15(日) 21:45:44 ID:zM4dIDli
私は普通だからというだけで私自身の物語の主人公になることすらできないのか。
普通以上に憧れることは許されないのか。特別なものに憧れてはいけないのか
もちろん、私も努力はしている。部活動こそしてはいないが、成績向上のための勉強も以前より熱心にしているし、
就職に有利なように資格の取得にもチャレンジしている。
アルバイトだって頑張っているし、私なりに自分の進路を真険に考えているし、
社会に適応できるように日々スキルアップを図っている。
だが、それだって、この社会では人並みの努力に過ぎない。
私は今まで、どれだけ努力しても、以前よりよい結果を残しても、「普通」の一言で片づけられてきた。
思えば、このクラスに来てから、ほめられたことがあっただろうか、何かにつけて、自分に向けられる単語は「普通」の一言だけ。
自分の努力や言動1つ1つに対して、正当な評価をしてくれた人が今までいただろうか。
私が何をしようと、その結果は「日塔奈美がやることは全て普通」というフィルターに通され、「普通」という評価が真っ先に下されるのだ。
「あはは・・・・・・・、私って一体何なんだろうな、」
気がついたら、目からは涙があふれていた。
―――――――――――普通
―――――――――――あんまり、普通のこと言わないで下さい
―――――――――――そう思うのが普通だよね
―――――――――――奈美ちゃんは普通ですから
―――――――――――普通にやるよね、それ
―――――――――――普通は普通でいいんじゃないですか、普通ですし、
数々の言葉が脳をよぎる。
「ぐッッ――――――――――、なんだよ、畜生ッ―――――、畜生ッッ――――――」
思わず、悪態を吐く
――――誰も私のこと真剣に見てくれない。――――――
私は普通という概念そのものであって、誰も私を人間として、日塔奈美として見てくれないんだ。
私だって、必死に、がむしゃらに生きてきたのに、こんなに頑張っているのに、
ちゃんと私にしかない人格をもって、私らしくありたいと思っているのに
――――――それすら許されないのか
そんなのは悲しすぎる。
思考はどんどん暗い方向へ堕ちていく。
129 :
普通なんて:2009/03/15(日) 21:50:45 ID:zM4dIDli
「えっく・・・・・ぐすっ・・・・・・ぐすん・・・・・・」
しばらく突っ伏して、机を涙で濡らしていた。
「日塔さん―――――どうしたの、」
その呼び声で私は堕ちていく思考を再び取り戻した。男子の声だった。
「大丈夫、具合悪いの?」
顔を上げると、そこには心配そうに私を見つめるメガネの男子の顔があった。ウチのクラスの出席番号1番、青山くんだった。
普段でも穏やかな彼の顔だったが、夕焼けに照らされたその顔は余計に情緒的で優しく見えた。
「ぐすっ・・・ううん、何でもない、大丈夫だよ、」
そう言ってとりあえずごまかしてみる。ああ、こんなに泣いているところを見られて恥ずかしい。
「何でもないわけ・・・・・・・・、ないと思うけど」青山くんは私を逃がしてくれなかった。
「忘れ物を取りに来ただけなんだけど・・・・・・・・このまま日塔さんを放って帰るのは・・・・・・・できそうにない。」
青山くんは私の前の椅子に座るとこんなことを言ってくれた。
「男の俺がこんなこと言うの変なのはわかっている。・・・・・・・でも日塔さんが心配なんだ。もし迷惑じゃなかったら、話せる内容だったら、
俺に話してくれないかな。」
その言葉に驚いた。そして嬉しかった。私のことを見てくれている人がいる。私を心配だと言ってくれる人、青山くんの表情は本当に真剣だった。
私は青山くんに心のうちを打ち明けることにした。
「青山くん、私って1人の人間として、見られているのかな?、「普通」っていう概念が服を着て生きているだけと思われているんじゃないかな?」
思わず、そんな自暴的な問いかけをしてしまう。それを聞いた青山くんは血相を変えて、大声を出す。
「―――――――――――ッッッッッ、何言ってるんだ!!そんなことあるわけないだろ、日塔さんは人間だ!!自分の意思をもってちゃんとここで生きている。
自分をそんな風に言っちゃダメだ――――――!!」
青山くんは必死に否定してくれたが、今自分でした問いが引き金となり私の心は再び堕ちるところまで堕ちていく。
私の口からは涙声で次々と嘆きが再生される。
130 :
普通なんて:2009/03/15(日) 21:52:48 ID:zM4dIDli
「私はどんなに頑張っても、みんなからは普通って言われるだけ、みんな私のこと真剣に見てくれない。日塔奈美として見てくれない!!
『普通』の代名詞みたいに言われて、何をしても、ああ、こいつができるんだから、みんなできるんだなっ・・っていうふうに見られて。」
「違う、そんなことない、・・・・・日塔さんのこと、みんなはちゃんと見てくれている!!」
「私だってほめられたい。頑張ったら、頑張った分だけ、人から評価されたい。それだけなのに、
みんなは私が普通だからって・・・・・・・普通はいいことだって、・・・・・・それ以上を望むのは贅沢だって、それだけで片づけられて、
・・・・・・・・・ぐすっ・・・・・・・・・私だって恵まれた環境に生まれたのには感謝してる・・・・・・・・でもそれだけで満足だなんて思いたくない、
私だっていい意味で普通じゃなくなりたい、・・・・・・・・・人からちゃんと評価されたいの、・・・・・・ただそれだけなのに・・・・・・・」
両目を手で覆いながら、私は弱々しく言葉を紡ぐ。私の目から溢れ出す涙は止まらない。
「日塔さん―――――――、日塔さんは普通なんかじゃない、・・・・・・・・頑張り屋で、仲間思いの強い、すごく優しい女の子だよ。
俺、いつも見てるもん、・・・・・・・日塔さんがマリアや交くんの面倒見たり、大草さんの内職手伝ったりしてるところ・・・・・・」
青山くんはそんな私をなだめようと落ち着いた、優しい言葉をかけてくれている。
「図書館で勉強頑張っているところも、バイトで大きな声で呼びこみ頑張っているところも、・・・・俺はちゃんと見てる。」
本当に、本当に、真剣な言葉、思えば、他人からこんなに真剣な言葉をかけられるのはいつ以来だったか、
131 :
普通なんて:2009/03/15(日) 21:56:18 ID:zM4dIDli
「そして、日塔さんはこんなに美人じゃないか―――――――――――――」
――――――――――――――――えっ―――――――――――――――――
私はその一言に固まった。思わず目を覆っていた手をどけて、青山くんを直視した。
「こんなに可愛くて、美少女で、スタイルだっていいし、」
顔が真っ赤になっていくのがわかる。
――――――――可愛い――――――――――――――――今、目の前の人は自分のことを確かにそう言ってくれた。
しかし、それだけでは済まなかった。青山くんの次の言葉は私をさらなる驚愕に陥れた。
「俺・・・・・・・・日塔さんのことが好きだ、」
青山くんは頬を染めながら、私から目を反らさずにそう言った。
「えっ――――――――――――――、・・・・えええええ―――――――――!!!」
信じられなかった。
(男子から・・・・・・・・・・・告白された。・・・・・・・・・)
「俺、日塔さんが普通って言われるの悔しくてしょうがなかった。・・・・・・・・・こんなにいい娘なのに、
日塔さんがみんなから普通って言われるたびにイライラしてた。『日塔さんに謝れッッ!!』て言いたかった。
1月に2代目先生やらされたときは木津さんからせかされて、つい『普通のものさし』って言っちゃったけど、
本当は日塔さんがものさしにされたことが悔しくて震えてたんだ、
あの後、かばってやれずにあんなこと言ってしまっていたのをずっと後悔してた。」
そう言えば、あの時、青山くんは全身タイツに着替えさせられた私を見て、何かに耐えるようにずっと押し黙って震えていた。
それで千里ちゃんに怒られて・・・・・・
132 :
普通なんて:2009/03/15(日) 22:00:30 ID:zM4dIDli
青山くんの表情が悲痛で歪んでいく。
「日塔さんは普通って言われるの嫌がっているのに、みんな日塔さんのこと普通って決めつけて、
それを前提にして、よってたかっていじめて・・・・
許せなかった・・・・・・・・でも勇気がなくて守ってあげられなかった。見ていることだけしかできなかった。
情けない・・・・・・・・・・こんなに追い詰められていたのに、」
他人からこんなに強く同情されるのは、いつ以来だろう、知らなかった・・・・・・・・こんなにも私のことを思ってくれる人が同じクラスにいたなんて。
そう、青山くんの言う通りだった。
私は普通と言われるのが嫌なのに誰も彼も、その声を無視して、私を普通と決めつけて、それを前提に話を進めてくる。
私はまずそこから否定しなければいけなかったんだ。
青山くんの両手が私の右手を握りしめる。私の目をメガネの奥から真正面に捉えて、力強く言葉を投げかけてくる。
「日塔さん、この世に普通の人なんていない!!日塔さんはこの世に1人しかいない、かけがえのない女の子なんだ。
日塔さんにはちゃんとご両親がいる。ご両親は日塔さんのこと大事に思っていないわけない。
何より君は今までご親戚や近所の人、先生、友達、周りのいろんな人に支えられて、自分でも頑張って必死で生きてきたんだ。
その日々の積み重ねといろんな人の思いを「普通」なんていう一言で片づけるのは絶対に間違っている。
人間だけじゃない――――――、この世に生まれてきたものに普通なものなんてない。普通という一言で片づけていいことなんかない。
みんな『特別』なんだ。みんな、生んでくれた両親がいて、自分だけの意思があって、それぞれの思いを背負って、がむしゃらに生きている。
そうやって死に物狂いで生きた結果が歴史に残らない平凡な人生だったとしても、その中で数え切れないほどの人の役に立って、感謝されているんだ。」
1つ1つの言葉が心に強く突き刺さる。
「青山くん――――――――――――、」
「それに何より、日塔さん――――――――、今、この現代社会で生きることはものすごく大変なことなんだ。
当たり前のことが当たり前に出来るってすごいことなんだ。
どんな人だって、ものすごい努力して、がむしゃらで必死になって生きている。俺はこれから社会の荒波に出ていく日塔さんを本気で応援したい。
俺は当たり前のことを当たり前に出来る日塔さんを尊敬していた。俺は日塔さんの健気さがまぶしくて仕方なかった。
――――――――日塔さんはいつだって輝いていた。
日塔さんは俺のアイドルだった!!―――――――――――――、」
133 :
普通なんて :2009/03/15(日) 22:05:14 ID:zM4dIDli
(ア・・・・・・・・・・・・・アイドル・・・・・・・・・・・)
その単語を聞き、私の顔はさらに真っ赤になっていく。
「日塔さん―――――――――――、もう誰にも君のことを普通なんて言わせない、
―――――――――――俺が君を守る。」
青山くんはそう言って一息つくと、私の右手をしっかりと握りしめたまま、次の言葉を発した。
「日塔さん―――――――――――――――――俺と付き合ってくれ。」
それは偽りのない心からの求愛の言葉、
「な・・・・・・・・あッ・・・・・・・・・・・」
私はそのストレートな言葉に呼吸を奪われる
「この思いは紛れもない本物だ。―――――――――――
俺は日塔さんに出会う前まで、出来て当たり前のことすら満足に出来ない人間だった。目標も夢も持たず目の前のことしか考えずに怠惰に生きてきた。
でも日塔さんに出会ってから自分を変えようと思った。当たり前のことが当たり前に出来て、なおかつそれ以上のことも出来る日塔さんが本当にすごいと思ったし、ずっと憧れていた。
日塔さんの頑張りに負けないだけ自分も頑張ろうと思えた。日塔さんが俺を変えてくれた。今はまだ自分のことすら満足に出来ない人間だけど、
もっと強くなって成長して、日塔さんを守れるだけの人間になりたい。
――――――――――――――――――――こんなにも強い思いが俺にはある。」
私の目から再び、大粒の涙が溢れ出す。
「うぁ・・・・・・・あ・・・・・・・・・・うわあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
私は青山くんにすがりついて泣き出した。
「日塔さん・・・・・・・・・・・・」
今までどんなに頑張っても普通と言われ続けた日々、その日々を青山くんはしっかり見てくれていた。
私のことを普通なんかじゃないと、普通以上の特別な存在だと初めて認めてくれた。
この世に普通のものなんてないと、当たり前のことを当たり前に出来ることがどれだけ大変で、すごいことなのか気付かせてくれた。
私を応援したい、守ってあげたいと言ってくれた人。私のことを好きだと言ってくれた人。
―――――――――――――――――こんなにも私のことを思ってくれている人。
「あ・・・・・・・・・・・うぁ・・・・・・・・・青山くん、ありがとう・・・・・・・・」
私は青山くんの背中に腕を回し、思い切り抱きついた。
「日塔さん・・・・・・・・・・・・・君は俺が守る。」
青山くんも私を力一杯抱きしめてくれた。その腕は暖かった。
彼になら自分の全てをさらけ出せると思った。青山くんは私を普通という檻から救ってくれた。
私は青山くんのためにも、他の人の役に立てるような人間になれるように、これからも自分を磨き続けていこうと思う。
そしてもっと多くの人に普通よりすごいねっ・・ってほめられるようになりたい。
私たちは日が暮れるまで誰もいない、教室で抱き合っていた。
ED
134 :
584:2009/03/15(日) 22:13:24 ID:zM4dIDli
お粗末様でした。
普通に生きるのはすごく大変です。
だから普通に生きれない、普通に生きてこれなかったダメ人間の自分は
奈美がまぶしくて仕方ないし、応援してあげたいんです。
普通に生きることの大変さを1番知っているのは奈美だと思います。
普通が一番難しいよね
人並みに生きられるのは幸せだと思う
乙でした!
青山好きだわー
>584乙!奈美はいいものだ
このスレもPart6までは1スレ消化に半年以上がザラだったんだな
Part6の途中からアニメが始まり怒涛の投下が始まり・・・
あれは夢で今はその前の状態に戻っただけなんだそうなんだ・・・
千里「ジー」
カエレ(なんか私の胸見てるな…)
千里「……チラ」
カエレ(今度は自分の胸を…しかしどんだけ平らなんだ)
千里「…ねえ、脂肪がそんなにあるってどんな気持ち?」
カエレ「え?別にどうも」
千里「嘘。優越感に浸ってるでしょう。」
カエレ「いや、ちょっと肩がこったりして不便かなと」
千里「私は脂肪と言っただけで胸とは言ってないのに。やっぱり、私のこと馬鹿にしてるんだ。」
カエレ「いや別にそんなことは」
千里「いいなあ、大きい人は夢があって。」
カエレ「女の価値はバストでは決まらないだろ」
千里「それはあなたのようなおっぱい星人にだけ許される台詞ね。」
カエレ「で、でも将来垂れるかもしれないし、小さい方がいいって」
千里「うん、あと動くときスッゴい邪魔よね。あびるちゃんなんか運動神経ゼロだし。なんか大きい人って可哀想ね。」
カエレ「え……あ、うん、それに小さいのが好きって性癖の人もいるし…」
千里「あ、もう行かないと。それじゃ、体育に遅れないようにね。」バタン
カエレ「……って何なんだよ!でかくて悪かったな!」
ガラッ 千里「今、『貧乳女の僻みウゼー』とか思った?」
カエレ「思ってない!思ってない!」
千里「ふーん」バタム
カエレ「うう…心が折れそう」
千里「ジー」
カエレ「まだいた!怖!」
なんと鬱陶しい千里
140 :
266:2009/03/20(金) 00:42:27 ID:spH1Q6P/
凄く久しぶりに書いてきました。
16巻の限定版DVDネタの望×可符香で、エロなしなのですが……。
ともかく、投下してみます。
141 :
266:2009/03/20(金) 00:44:20 ID:spH1Q6P/
今も覚えているのは、観客たちですし詰めになったテントの中の何とも言い難いざわめき。
閉鎖された薄暗い空間を、強烈に照らし出すスポットライトの光。
さまざまな曲芸を繰り出す団員や動物達。
ピエロのおどけた仕草。
そして、それを見てはクスクスと、本当に楽しそうに笑っていたあの幼い女の子。
その笑顔は、スポットライトを浴びて華麗な技を披露するサーカス団と同じくらいに、僕の瞳にキラキラと輝いて映った。
この娘にのせられて半ば無理やりサーカスに連れて行かされて、
しかもなけなしの小遣いからこの娘の分のチケット代まで払う羽目になったけれど、
ざわめきに包まれたこの薄暗い観客席に座って、この娘の笑顔を見ている時間は不思議と満ち足りていた。
「楽しいね、お兄ちゃん」
女の子は言った。
「そうだね、僕も楽しいよ」
僕がそう応えると、女の子はより一層嬉しそうに笑った。
サーカスのテントの中は日常とは切り離された異空間、夢の世界だ。
赤、青、黄色、目にも鮮やかな原色と煌く光。
繰り広げられる息の詰まりそうな曲芸の数々、火の輪をくぐるライオンのしなやかな筋肉の動き。
めくるめく非現実じみたショーを見ている内に、心はうっとりと陶酔していく。
興奮と、心地良い気だるさが同居した現世の夢。
だけど、どんな夢もいつかは必ず醒める。
ふと、テントの入り口のあたりに僕が目をやった時だった。
「あれ、今更入場して来る人なんているんだな……」
テントの中に入ってきた背広姿の男を見つけて、僕は何気なく呟いた。
その男に、僕は妙な違和感を感じた。
険しい表情で、他の客を掻き分けて進むその姿は、サーカスを楽しみに来た人間のものとは思えなかった。
さらに続いて同じような男たちが次々とテントの中に侵入して来るに至って、違和感は不信に繋がる。
(あいつら普通じゃないな…もしかして、テロリストとか?…いや、まさかそんな……)
十中八九、気弱で疑り深い僕の思い過ごしだろう。
それでも、何かあった時のためにと、僕はとなりの女の子の小さな手の平を握った。
男たちは全部で7,8人ほどだろうか。
注意深く様子を見ていると、どうやら彼らは何かを探している様子だ。
一体何を探しているのだろうか?
だが、その疑問はすぐさま解かれる事となった。
男たちの一人と目が合ったのだ。
僕はその男と数秒間は見詰め合っただろうか。
そして次の瞬間、鬼の形相に変わった男は仲間に合図を送りながら、まっしぐらにこちらに接近し始めた。
「な、な、な……何なんだ、一体!!?」
戸惑う僕はその時、男が懐から出した物を見てさらに仰天する。
警察手帳。
男は周囲にそれをかざして、道を譲って貰いながらこちらに向かって来る。
残りの男たちも同様にこちらへの距離を詰めている。
急転直下の自体に、僕のパニックが最高潮に達した。
その時である。
「たすけてー、おまわりさーん!!!!」
女の子が突然立ち上がり、そう叫んだのだ。
「へ……えっ…きみ……何を言って…!?」
「たすけて、おまわりさーん、ゆーかいされるぅ〜!!!!」
「えぇえええええええええっっっ!!!!!」
結局、全ては女の子の悪戯だったのだ。
彼女と出会ってから一年にもなるが、僕はこの幼い娘の行き過ぎな悪戯に毎回酷い目に合わされてきた。
まあ、それでも気付かず、またこうして引っかかっている僕も僕なのだが……。
取り押さえられてしまった僕は自分の間抜けさ加減を恨みながら、刑事達に保護されて去っていく女の子を見つめる。
「うぅ…今回もまんまとやられてしまった……」
自分自身の学習能力のなさにため息を吐く。
それでも不思議と悪い気分じゃないのは、さっきまで見ていた女の子の笑顔のせいなのだろう。
これだけ酷い目に遭わされて、それでもまだそんな事を思っている自分には少し呆れるけれど、
僕はどうしようもなくあの笑顔に憧れていたのだ。
142 :
266:2009/03/20(金) 00:45:14 ID:spH1Q6P/
何もかも後ろ向きでネガティブで、高校入学を機会に今度こそは明るい青春をと目論んだけれどそれも失敗して、
今まで以上に俯きがちに過ごすはめになった僕。
そんな僕が求めてやまないものが、その女の子の笑顔にはあった。
本物の幸せとか、希望とか、そういうキラキラと輝くもの全てがそこにはあった。
まあ、毎度毎度、代償が大きすぎるのが玉に瑕だったけれど……。
「ああ、また父さんに迷惑をかけてしまうなぁ……」
あの女の子に関わるようになって以来、度々警察のお世話になってしまった。
後になって誤解だとわかってはもらえるものの、そろそろ警察が僕を見る視線には苛立ちを通り越して殺意がこもり始めている。
たとえ濡れ衣でも息子の僕がこの有様では、代議士としての父の評判にもかなり影響が出てしまう。
しかも、その当の父が一応怒る素振りを見せつつも、その実かなり面白がっているようなので、余計に心配なのだ。
「……次は絶対に引っかからないようにしないと……」
呟いてみて、あまりの説得力の無さに自分で苦笑してしまう。
これからも、きっとこんな調子で僕はあの娘の手玉に取られ続けるのだろう。
そんな事を思いながら、最後にテントから出て行こうとするあの娘の方を見た瞬間、僕は息を呑んだ。
「……………っ!?」
こちらの方を振り返りながら、女の子が浮かべた笑顔。
その目元にきらりと輝いた雫が、赤い頬を流れ落ちるのが見えた。
女の子の唇が動く。
声は聞こえなかったけれど、そこから紡ぎ出された言葉を、僕はハッキリと読み取る事ができた。
また、会えたらいいね………
そのまま刑事達に付き添われてテントの外へと姿を消したその女の子。
『あん』という名前の彼女はそのまま、まるで最初からいなかったみたいに僕の世界から消滅した。
あの、桜舞い散る卯月の日からずっと見ていた夢から、僕はこうして醒めたのだった。
むくり。
真っ暗な部屋の中、夢から醒めた私は布団を押しのけて起き上がった。
ずっと昔の、忘れようとしても忘れられない苦い思い出。
いつもにこにこと笑って、幸せそうにしていたあの小さな女の子。
私はあの娘と一緒にいる時間が嬉しくて、幼い少女が胸の内に何を秘めていたのか、全く理解していなかった。
どんな事情があったのかは今もわからない。
よくよく考えてみれば、あの娘は『あん』という自分の名前以外、どこに住んでどんな家族と暮らしているのか、
それどころか名字さえも私に教える事はなかった。
たぶん、あの娘はあの日のサーカスでの別れが訪れる事を、最初に出会った時からわかっていたのだ。
彼女、もしくは彼女の家族に関する何かのっぴきのならない事情のために、いつかは私の前から去る事になってしまうと理解していたのだ。
だから、いつもの悪戯に紛れて、私には何一つ悟らせないままあの娘は消えようとした。
だけど、それでも堪え切れずに零れ落ちた涙が、呟いた言葉が、今も私の胸を締め付ける。
『また、会えたらいいね………』
どうして、気付いてやれなかったのだろう。
あれほど近くにいたのに、私はあの娘の事を何もわかってはいなかった。
今も昔も、いつだって無力だった私だけれど、それでもあの娘の涙を受け止めてあげる事ぐらいは出来たはずなのに……。
ため息を吐いて、暗い天井を見つめる。
胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感を噛み締めながら、私は眠れない一夜を過ごす事となった。
寝不足の頭を抱えたまま、何とか今日一日の授業を終えて私はホッと息をついた。
下校前のホームルームが存外長引いてしまったが、いつものように『絶望したっ!!』と叫んで暴走した私が悪いのだから文句は言えない。
2のへの生徒達はそのほとんどが所属する部活に向かったか帰宅してしまっていたが、
教室の一角に残って何やら話し込んでいる様子の生徒達が数人ほどいた。
随分盛り上がっているようで、何を話しているのか気になった私は彼らの後ろから近付いていく。
「随分楽しそうですね。何の話をしているんですか?」
「あ、先生」
振り返った生徒達の真ん中、どうやら話の中心になっていたらしいその少女、風浦さんが振り返った。
その手には何か、チラシのようなものを持っている。
「先生も一緒に行きませんか?」
そう言って、彼女は私にそのチラシを渡した。
143 :
266:2009/03/20(金) 00:45:47 ID:spH1Q6P/
「これは……!?」
そこに書かれた文字に、私は一瞬言葉を失う。
『○×サーカス公演』
昨夜の夢の光景が頭の中にありありと蘇る。
私がそのサーカスの名前を忘れるはずが無い。
それは間違えようも無く、あの日、私とあの幼い少女が見たサーカス団の名前だ。
ずっと昔に見たのと同じサーカス団と再びめぐり合う。
良くある事とは言えないが、あり得ない出来事という訳でもないはずだ。
しかし、私の心はこれ以上ないくらいに動揺していた。
思わず口ごもってしまった私の顔を、風浦さんの屈託の無い瞳が覗き込む。
「どうしたんですか、先生?」
「い、いえ……しかし、サーカスですか。中々お目にかかれる機会もありませんし、面白そうじゃないですか…」
少し声が上ずっているのが自分でもわかったけれど、彼女は特にそれを追及しようとはしなかった。
「可符香ちゃんがこのチラシを持って来たんですよ」
「それで、今度の終末にみんなで一緒にサーカス見に行かないかって話になって…」
木津さんと日塔さんが代わる代わるにそう言った。
確かに、サーカスの興行を目にする機会というのもそう多くあるわけではない。
「先生、もちろん一緒に行ってくれますよね?」
「え……いや…私は…」
藤吉さんがズイと身を乗り出してきたが、私は即答できなかった。
何しろ、あんな夢を見た直後だったのだ。
素直に肯くのには、私も気後れしてしまう。
しかし、そんな私の気持ちなど知る由も無く、ウチのクラスの面々はさらに詰め寄って来る。
「私も先生と一緒にサーカス見てみたいですっ!!」
いつの間にやら背後にいた常月さんにホールドされる。
こういう展開になると私はとことん弱い。
昨夜の夢の事以外で特段拒否する理由もなかった事もあって、気が付いた時には私はサーカス行きをOKしていた。
「それじゃあ先生、今度の週末、楽しみにしてますから」
ひらひらと手を振って教室から出て行く生徒達を、私は苦笑いしつつ見送る。
そのまま、生徒達が廊下の向こうに消えていこうとしたその時だった。
「あっ……」
生徒達の一番最後を歩いていた風浦さんが足を止めてこちらを振り返ったのに気付いた。
自然に視線と視線がぶつかり合ってしまう。
私と彼女の間に、何となく気まずい空気が流れる。
だが、それも結局は一瞬の事だった。
彼女はそのまま、少しバツの悪そうな顔をしながらも、そそくさとその場を立ち去ってしまった。
取り残された私はため息を一つ。
「どうにも妙な按配ですね……」
昨晩の夢に続いて、何やら自分の過去が無理やり掘り返されているような落ち着かない感じだ。
しかも、サーカスのチラシを持ち込んだのが風浦さんだという事実が私を悩ませる。
「そんな安っぽいドラマみたいな話、ある筈がないじゃないですか……」
私はクラスの出席簿を教卓の上に出して開く。
風浦可符香、という彼女の名前はあくまで通称、当人いわくペンネームだ。
私は、出席簿の中に記されたその名前に視線を落とす。
『赤木 杏』
………やはり、馬鹿げている。
私はあの幼い少女の名字すらしらないのだ。
『あん』、そんな名前はこの日本中にいくらでも溢れかえっている。
だが、風浦さんの笑顔と、サーカスを見ながら笑っていた彼女の精一杯の笑顔が、私の頭の中で重ね合わされてしまう。
それに、10年を越える歳月は、当時の私にとって強烈なトラウマをなったあの経験すらかなりの部分を風化させてしまっているのだ。
たとえ、風浦さんとあの少女が同一人物だったとしても、彼女がそれを覚えているかどうかなど……。
「しかし、それでも私は………」
夕焼けの教室で、私は一人うめいた。
144 :
266:2009/03/20(金) 00:47:01 ID:spH1Q6P/
ぱちり。
真夜中の宿直室、私は瞼を開けて真っ暗な天井を見つめる。
眠れない。
脳裏にちらつくのは、あの娘と風浦さんの笑顔ばかり。
悩みぬいた末、私は夜の学校を抜け出して、サーカスがテントを張られている公園へと行ってみた。
それなりに距離はあるものの、歩いて行けない距離ではない。
街灯の弱弱しい明かりに照らされて小山のようなテントが黒々とそびえている。
そのシルエットがあの日見たサーカスのテントとピッタリと重なる。
テントの入り口まで長い列に、私たちも並んでいた。
小さな手の平で私の手を握り、あの娘は何度も何度も、せわしなくこれから見るサーカスについての事を話していた。
彼女の手を引く私も、当時すでに立派な高校生だったというのに、子供のようにワクワクしていたのを覚えている。
あの時は、まさかあんな別れを経験するなんて思っていなかったけれど……。
「変わりませんね………って、これだけ暗いと細かいとこは判りませんけど」
夜中のテントはひっそりと静まり返って、華やかな舞台の開演を待って深い眠りについている。
その周囲をぶらり、歩いてまわる。
こんな時間のこんな場所に、あの娘の姿を捜し求めても仕方がないのは承知の上。
「我ながら、ナンセンスな事してますね……」
苦笑して、ため息を吐いて。
それでも、その後しばらくはこの場所に留まったのだけれど……。
冴え冴えとした月に照らされた夜の公園、私は一人きりでベンチに腰掛けている。
「何をしているんでしょうね、私は……」
馬鹿な事をしていると、自分でもわかっている。
今の私はかつての後悔に足を引っ張られて、自分でも訳のわからないままに行動をしているだけだ。
あの時の悔しさを、悲しさを、何とか取り戻したくて、意味のない事をしているのだ。
どんなに嘆いても、あの娘に何もしてやれなかったという事実を覆す事などできやしない。
苦い思い出と関わりのあるサーカス団と再び巡り合った。
だから、どうしたというのだ?
そんなものに希望を見出そうなんて、あまりに馬鹿げている。
それでも、凍える夜の公園のベンチから、いつまでも私は立ち上がる事ができない。
まんじりともせず、巨大なテントの影を見つめながら時を過ごす。
そんな時だった。
「………?」
ベンチと真向かいの方向からゆっくりとこちらに歩いてくる人影が見えた。
夜の街を徘徊している不良、という雰囲気ではなかった。
小柄で細身、女性だとしてもどちらかというと背の高い方ではない。
街灯に照らされたそのシルエットはサーカスのテントを見ているようだ。
やがて影はこちら側にある街頭の光が届く距離までやって来る。
照らし出されたその姿はやはり女性だ。
腰まで届く長い髪と、雪のように白い肌が印象的だった。
年の頃はうちのクラスの生徒達とそう変わらないだろう、美しい少女だ。
どうやら、彼女は私の存在に気付いていないらしい。
ただ一心にテントを見上げる彼女の瞳には、何かを懐かしむような切なげな色が浮かんでいる。
ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる少女。
その視線が不意にこちらに向けられる。
「えっ……?」
「あっ……?」
ずっと少女に注目していた私の視線と、彼女の視線が交錯する。
彼女の瞳が驚きで見開かれ、一歩二歩と後ずさる。
当然だ、こんな深夜の公園で得体の知れない男から注視されていたのに気付いたら、誰だって逃げ出したくなる。
だけど、彼女はそのまま振り返り、走り出そうとした寸前で、その場で足を止めた。
再び私の方を向いて、恐る恐るこちらに近付いてくる。
私も、思わずベンチから立ち上がり、彼女の方に足を踏み出した。
私の手前3,4メートルほどで立ち止まった彼女は、私の顔を見つめながら口を開いた。
145 :
266:2009/03/20(金) 00:48:21 ID:spH1Q6P/
「あの……」
「は、はい………」
か細い声、潤んだ瞳に見つめられて、私は金縛りに遭った様に動けなくなっていた。
そして、彼女は衝撃的な言葉をその口から紡ぎ出す。
「……失礼な事をお聞きするんですが……もしかして、『のぞむ』っていうお名前じゃありませんか?」
その瞬間、私の心と体は凍りついた。
まさか……。
「……『あん』っていう名前に、記憶はありませんか?」
畳み掛けるような少女の言葉。
私はそれに答えようとして、でも、何も言葉が思い浮かばなくて……。
そして、最後の一言が私の胸に深く深く突き刺さる。
「………ずっと昔…本当にずっと昔……どこかで…私と会いませんでしたか?」
眠い目をこすりながら授業を進める。
明るい日差しに照らされた昼間の教室にいると、昨夜の事がまるで一昨日見たのと同じ夢の出来事のように思えてくる。
私は教室を見渡しながら、その中の一人の様子をそっと観察する。
風浦さんは、特に何事も無いような様子で授業を受けている。
確かに昨夜の少女と、風浦さんはよく似ている。
だけど………。
夜の公園、サーカステントの前で出会ったのは『あん』という名のかつての幼い少女だった。
10年越しの再会。
私と彼女は、二人並んでベンチに腰掛けて、別れ別れになってからの歳月について互いに語り合った。
彼女が何故、私の前から姿を消したのか。
それには私がやはり辛い事情があったようだ。
不仲の両親は、いつ離婚をしてもおかしくない状況だった。
彼女が暴力を振るわれたりするような事はなかったが、彼女の父母は互いのエゴを彼女に押し付け、
ただ自分の方が相手より正しいと証明するために娘を欲した。
幼い彼女はそんなプレッシャーに晒され続けて、その精神はだんだんとボロボロになっていったという。
結局、彼女は母親に引き取られ、母の実家に引っ越す事になった。
「そうですか……そんな辛さを押し隠して、君はずっと笑っていたんですね……」
呟いた私に、彼女は苦笑いしつつ、首を横に振った。
「そんな風に思わないで……私、お兄ちゃんと一緒にいた時は、本当に楽しかったんだから……」
「そう……なんですか?」
「さすがに、お別れの時は辛くて泣いちゃったけれど、でも、あの当時、お兄ちゃんと一緒にいられる時間があったから
その時間が本当に本当に楽しかったから、私は両親の事もなんとか耐えられたんだよ」
思っても見なかった答えに、私は呆然と彼女を見つめる。
そんな私に、彼女はそっと微笑んで言った。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
その言葉は私の心の奥に凝り固まっていた後悔をすすぎ流していく。
だが、次の瞬間、彼女の笑顔に少し寂しげな影が差した。
「でも、残念だな……」
「ど、どうしたんですか…?」
「せっかく、また会えたのに……もう一度お別れしなきゃいけないなんて……」
彼女はこの週末に日本を発つのだという。
母の仕事の都合らしい。
果たしてどれほど長期になるか検討もつかない。
彼女自身も海外移住には乗り気で、日本を離れて見識と語学力を身につけたいと考えているそうだ。
少しでも早く母のエゴから逃れるため、一人でも生きていける力を、彼女は欲しているのだ。
「それで、出発直前にこのサーカスが近くまで来ているのを見つけて、懐かしくてこっそり見に来たんだけど、
まさかお兄ちゃんに会えるなんて思ってなかったから……」
彼女は彼女なりに自分の生き方を模索していた。
そんな最中での、こんな唐突な再会ともう一度のお別れだ。
彼女も相当に複雑な気分なのだろう。
146 :
266:2009/03/20(金) 00:48:54 ID:spH1Q6P/
「でも、それでも、やっぱりもう一度お兄ちゃんに会えて良かったって、私思ってるから……」
「私もですよ……」
そして、私と彼女は翌日またもう一度、この夜の公園で会うことを約束して別れた。
「また、明日ね」
「ええ、また明日、会いましょう……」
彼女は最初にやって来たのと同じ道を、何度もこちらを振り返りながら帰っていった。
そんな彼女の姿が見えなくなるまで、私はずっとその場で見送った。
やはり風浦さんにあの少女『あん』の面影を見たのは、過去を引きずる私の思い過ごしだったのだろうか。
二人の顔立ちは非常に良く似ていた。
が、昨夜間近で話した印象では、彼女たちが同一人物であるとは思えなかった。
髪の長さだけではない。
顔立ちの微妙な差異、ちょっとした仕草やしゃべり方の違い、全体の雰囲気。
それらを見る限り、風浦さんと『あん』は別人であると考えるのが妥当なようだ。
まかり間違えば勢い任せに風浦さんを『あん』だと勘違いして自爆、なんて事も有り得たわけだ。
その可能性を考えるだけで、私の額を嫌な汗が流れ落ちていく。
兎にも角にも、今週一杯、正確には金曜日の夜までは毎晩『あん』とあの夜の公園で話し込む事になるだろう。
彼女が日本を離れてもそれなりに連絡をとる手段はあるかもしれないが、直接話せるのはこれが最後の機会になるかもしれない。
かつてのように悔いの残るお別れだけは御免だ。
出来る限り彼女と一緒の時間を過ごしたい。
まあ、明日に明後日、明々後日と日が進むほど体力的にはキツイ事になるだろうけれど……。
つつがなく授業は終わり時間は昼休みに突入する。
早く昼食を食べて一休みしたかった私は早々に教室を後にしたが、ある事を思い出して立ち止まる。
「そうだ、サーカスを見に行く件がありましたね……」
例の少女『あん』の事で頭が一杯だったが、今週末にはクラスのみんなでサーカスを見に行くのだ。
その段取りを早めに決めておかなければなるまい。
こういう用事は思いついた時に済ませておいた方が良い。
くるりと踵を返し教室に戻る。
さて、誰と話し合うべきか。
木津さんと話すと確実に厄介な事になるだろう。
やはり、今回の話を持ってきた風浦さんと話しておくのが妥当だろうか。
昨日の自分の勘違いのせいもあって緊張したが、私は勇気を出して風浦さんに話しかけた。
「あの、風浦さん……」
「えっ、あ…はい…先生、どうしたんですか?」
振り返った彼女に感じたかすかな違和感。
少しだけ、ほんの少しだけ、話しかけられた瞬間、彼女らしくもない動揺が浮かんだような気がしたのだ。
だが、彼女はすぐにいつもの笑顔を浮かべる。
私も気を取り直して話を切り出す。
「今週末、みんなでサーカスを見に行こうという話があったでしょう。その事についてなんですが……」
「ああ、それならもう私の方で進めちゃってます。チケットももう用意してありますから」
「って、そんな勝手にやって、みんなの都合とかは聞いたんですか?」
「いやだなあ、もちろん全部チェック済みに決まってるじゃないですか。もちろん先生のスケジュールも既に把握しています」
流石は風浦さん、と思う一方で私はまた妙な感じを覚えた。
仕事が早い、というより早すぎやしないか?
それに彼女の話し方が、どことなく私との会話をなるべく早く終わらせようとしているようにも感じる。
「日時は追って知らせますから、先生は参加人数分のチケット代だけ用意して待っていてください」
「…やっぱりそういう流れになるんですね……」
「それはもう!!先生は非常に太っ腹な方ですから……」
「うわあああん!!!こんなの陰謀ですよぉ!!!」
私の家計を粉々に打ち砕く風浦さんの策謀に泣きべそをかきつつ、私は教室を後にする。
そして、廊下に出る直前、少しだけ振り返って、風浦さんの表情を盗み見た。
そこに浮かんでいたのは、機能見たのと同じどこかバツの悪そうな、寂しそうな表情。
「………」
その表情の意味を測りかねたまま、私は2のへの教室の前から立ち去った。
147 :
266:2009/03/20(金) 00:49:32 ID:spH1Q6P/
深夜の宿直室から抜け出し、公園へと向かう。
最初の夜と同じように、私がベンチで待っていると、やがて公園の向こうから近付いてくる彼女の姿が見え始める。
「こんばんは、お兄ちゃん」
「ええ、こんばんは」
それから彼女は私の隣に腰掛け、そこで私達はしばらく話をする。
思い出語りから、その日のちょっとした出来事まで、話題は様々だ。
失った10年間を取り戻すかのように、私達は限られた時間の中でひたすらに語り、笑い合う。
彼女はニコニコと笑いながら、私と別れ別れになって再会するまでに経験した様々な事を語った。
それは決して楽しい思い出ばかりではなかったが、彼女がその中でも幸せを見つけ強く生きている事に、私はホッと胸を撫で下ろした。
私も問われるままに学生生活の思い出や教師になるまでの経緯、今のクラスの生徒達の事を語って聞かせた。
親密で優しい時間はあっという間に過ぎ去り、そして私達は明日も会う事を約束して公園を立ち去る。
ぶんぶんと手を振る彼女に、私も精一杯に振り替えしながら、それぞれの帰路をたどる。
限られた時間を、私達は精一杯に楽しもうとしていた。
その一方、連日の睡眠不足は私のコンディションに大きくダメージを与えていた。
個人的事情でミスを犯すわけにはいかないので、いつにも増して私は仕事に集中しようとするのだが、
すると今度は生徒達の方から、先生の様子がおかしいとの声が上がり始める。
「うぅ……今更ですが、やっぱり私って真面目な教師とは見られてなかったんでしょうねぇ……」
ため息混じりに進める授業の時間は、少しだけ憂鬱だった。
まあ、それも身から出た錆、自業自得と諦めて、淡々と授業を進める。
風浦さんの事はその後も気にかけてはいるが、先日以降は特に彼女の様子に目だっておかしな点も見つかられなかった。
彼女はにこにこと笑顔を浮かべ、クラスメイトと談笑し、時に私をからかって、いつも通りの生活を続けている。
それでも、私は胸の奥でほんの僅かな違和感を感じている自分にも気がついていた。
ただ、それをどう判断していいのかは、全くわからなかったのだけれど……。
昼間に黙々と仕事をこなし、真夜中に『あん』と心ゆくまで語り合う。
蓄積していく疲れと、夜にしか会えない少女というある種謎めいたシチュエーションが、だんだんと私から現実感を奪っていくような気がした。
毎夜出会う彼女は紛れもない現実の存在である筈なのに、時折私は夢の中に迷い込んでしまったかのような感覚に捕らわれる。
「どうしたの、お兄ちゃん?何だか元気がないみたいだよ」
「えっ…いやぁ…そんなことはないですよ…あははは」
どうやらボーっとしてしまっていたようだ。
心配そうに私の顔を覗き込む『あん』に私は咄嗟に言い訳するが、彼女はそんな言葉では納得しないようだ。
「こんな真夜中に私につき合わせて、迷惑かけてるよね………」
「そ、それは………確かに、疲れているのは否定できませんが……」
「ほら、やっぱり…」
「でも、今はあなたといたいんですよ。残る時間もあと僅か、その間に少しでもあなたと……」
申し訳なさそうな彼女を見つめて言った台詞は、今の私の本心だった。
それを聞いた彼女は一瞬きょとんとしてから……
「ありがとう、お兄ちゃん」
そっと私に微笑んで見せた。
そして、あっという間に金曜日が、『あん』と会う事の出来る最後の日がやってきた。
148 :
266:2009/03/20(金) 00:50:10 ID:spH1Q6P/
その日も私はいつも通りに学校の授業を進めていた。
というより、むしろ私の授業は以前にも増して騒がしくなっていたかもしれない。
睡眠不足の限界を越えてどうやら私はナチュラルハイの領域に至ってしまったらしい。
今にも倒れそうなほどフラフラなのに、テンションだけは異様に高く、多少の脱線をしつつもポンポンと授業が進む。
正直、いつもの私の授業より効率が良くなっているような気がする。
(普段だってそれなりに頑張っているつもりなんですけどねぇ……)
なんて心の中でため息をつきながら、それでも何とか一日の授業を終える。
まあ、生徒達ならともかく教師にはこの後も仕事があるわけだが、一応は一段落だ。
ホームルームを終えた後、私は風浦さんを呼び止める。
「今週末のサーカスの件ですけど……」
「ええ、もう明日の夕方って事でみんなには連絡してあります」
今回、クラスの半分以上が揃ってサーカスを見に行く事になっていた。
私としては、色々と手伝いたいところだったのだが、風浦さんは既に二歩も三歩も先を行って準備を済ませてしまっていた。
彼女曰く『生徒同士で話をつけた方がスンナリ進みますから』との事であるが、どうにも私は未だに今回の彼女に対する違和感を拭えずにいた。
風浦さんにしては、どうにも話の進め方が強引過ぎる気がする。
どうにも彼女らしくない。
そう思ってしまうのは、風浦さんに『あん』の影を見た私の勘違いが尾を引いているだけ、一応はそう考えていたのだが……。
「それじゃあ先生、さようなら」
「はい、さようなら………」
笑顔で手を振る彼女に、また『あん』の面影が重なる。
そこで私はハッと気がついた。
(そうか……そういう事だったんですね……)
よく似た別人である筈の二人を繋ぐものを、私はようやく見つけた。
教室を出て行く彼女を見送ってから、独りぼっちになった私は俯いて呟く。
「さて、どうしたものでしょうかね………」
全ては私の妄想、勘違いである可能性は高い。
やっと気がついた風浦さんと『あん』を繋ぐものも、他人に問われて自身を持って答えられるようなものではない。
「それでも………」
それでも、『あん』と会えるこの最後の夜に、自分のするべき事は何なのか、私の心は既に決まっていた。
いつもの公園、いつもの時間に、いつものベンチで私は『あん』を待つ。
泣いても笑っても今日が彼女との最後の日になる。
おそらく、今日を逃せば、二度と彼女と言葉を交わす事は出来ないだろう。
メールや手紙といった手段でその後も連絡を取る、なんて事には多分ならない筈だ。
何故ならば、彼女は……。
「………来たみたいですね…」
やがて、公園の向こうから、こちらに近付いてくる小さな人影が見えた。
「こんばんは、待たせちゃったかな、お兄ちゃん」
「いえ、そんな事はないですよ」
小走りで私のところまでやって来た彼女はいつもと変わらない笑顔で私に話しかけた。
「今夜で……最後になっちゃうんだね……」
ただ、今日が二人で会える最後の日になる事が幾分、彼女の雰囲気を寂しそうなものにしていた。
「せっかく、また会えたのに……」
「ええ、寂しいですよ………」
肯いてそう言った私に、彼女はそっと体を寄せる。
私はそれを拒まず、寄りかかってくる彼女の体を受け止める。
それから、私達はいつものようにポツリポツリととりとめもなく他愛のない話を続けた。
だけど勿論その間にも刻一刻と時間は過ぎ去っていく。
気がつけば、いつもならば私も彼女も公園を立ち去る時刻になっていた。
149 :
266:2009/03/20(金) 00:50:50 ID:spH1Q6P/
「もう……終わりなんだ……」
ぽつり、彼女が呟く。
「そうですね………残念です」
「本当は……本当はもっとずっと一緒にいたい……」
ギュッと袖をつかんでくる少女の手の平に、私は自分の手の平を重ねた。
彼女は少し驚いてから、その後もう片方の手をさらに私の手の平の上に添えた。
そのまま、どれぐらいの時間、二人で寄り添っていただろうか。
やがて、彼女はベンチから立ち上がり、
「そろそろ、本当に行かなくちゃ………」
そう言って、笑った。
朗らかなその笑顔の影から滲み出る、悲しげな色合い。
かつて、幼い彼女の笑顔を見ながら、私はそこにキラキラと輝く希望や幸福を垣間見た。
彼女もまた、私と一緒にいるときには、本当の笑顔でいられたと言っていた。
だけど、今の彼女が見せている笑顔は、違う。
そこに重なる、私の良く知るもう一人の少女の面影……。
「また、会えたらいいね………」
かつてと同じ言葉を少女の唇が紡ぐ。
それから、彼女は私の右頬と、左肩に手の平を添えて、私の瞳を覗き込んで、
「最後に、お願いがあるの……」
囁くような声で、こう言った。
「キス……させて………」
顔を真っ赤にして、ようやくそれだけを伝えた少女の言葉に、私は一瞬たじろいでしまったが、やがて覚悟を決めて肯いた。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
私の答を聞いて微笑んだ少女の笑顔が、私の胸にグサリと突き刺さる。
何故ならば、今から私がしようとしている事は考えようによってはこれ以上もなく残酷な事なのだから。
それは彼女の心遣いを台無しにする行為なのだから。
だが、今の私にそれをしないでいる事などできようはずもない。
ゆっくりと近付いてくる少女の顔、私はそれに応えるように彼女に向かってそっと手を伸ばす。
右の手の平で、彼女の頭をそっと撫でてやる。
「お兄ちゃん……」
夢見るような少女の声。
だが、彼女は気付いていない。
彼女の頭を撫でていた私の指先が、ほんの僅かな異物感をそこに感じ取った事に……。
「忘れないでね……私がいなくなっても、ずっと……」
潤んだ瞳でこちらを見つめながら呟いた彼女の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。
「それは……できません……」
「えっ……!?」
そんな頼み事を聞くわけにはいかない。
いくらそれが彼女の切なる願いであろうと、都合よく作られた偽者の思い出の中に彼女を埋没させるわけにはいかない。
もし、ここで彼女を見逃してしまえば、彼女はあらゆる人間との別れの度に同じ事を繰り返しかねない。
振り向かせるんだ、彼女を。
彼女はこれからもずっと私といて、一緒に思い出を積み重ねてゆくのだから……
「お兄ちゃん……何を言ってるの…?」
「お兄ちゃんではありません」
私の指先が、探り当てた彼女のウィッグを固定するピンを外す。
「あっ………」
気付いてももう遅い。
そこにいるのは仮初めに作られた幻なんかじゃない。
私の良く知る少女の姿だ。
「今の私はお兄ちゃんなんかじゃありません。私はあなたの担任教師じゃないですか、風浦さん……」
「せ、先生……」
150 :
266:2009/03/20(金) 00:52:12 ID:spH1Q6P/
「いつから気付いていたんですか、先生?」
「確証を得たのは今日ですよ。それまでは、あなたの巧みな変装と演技のおかげで半信半疑でしたけど……」
「今日…ですか?何かありましたっけ?」
「大した事じゃないです。今まで気付かなかった私の間が抜けていただけとも言えます。
見つけたんですよ、今のあなたと夜の公園の少女の共通点を………」
呆然としている風浦さんに、私はその答えを告げる。
それは口に出してみると、少し恥ずかしい言葉だったのだけれど……
「笑顔、ですよ……」
「笑顔……?」
「性格に言うと、笑顔に漂う雰囲気、という事になるんでしょうかね……」
自分でもどうしてこれが決め手になったのか、疑わしいぐらいに不確かな要素。
それでも、私はこの結論に確信を抱いていた。
「なんていうか、昼間に見るあなたの笑顔も、夜見る笑顔も、どこか悲しげな、自分の気持ちを押し殺しているような雰囲気があったんです」
一度は風浦さんと『あん』を別人だと思い込んでいた私だっただけに、その違和感は拭いがたかった。
別々の人間である二人が、同じ笑顔を浮かべている奇妙な感覚が私の中で引っかかっていたのだ。
それも、風浦さんの笑顔や態度に変化が現れたのが、今週に入ってからというのが致命的だった。
「だから、私はやはり風浦さんと、私が昔であった少女は同一人物で、以前の別れのときと同じように、
自分を押し殺して私の悲しみだけを取り除き、その上で姿を消そうとしているのだと、そう考えたんです」
それから私は、私の隣で俯いて話を聞いていた風浦さんに問いかける。
「何か、言いたい事はありますか?」
「いいえ……でも、すごいですね。笑顔だけでバレちゃうなんて……」
風浦さんは苦笑いしながらそう応えた。
「まあ、笑顔以外にも気になっていた点もあったんですけどね」
「えっと……なんですか、それ?」
不思議そうに問い返した風浦さんに、私は意地悪く笑ってこう言った。
「はっきり言って、キャラ変わりすぎです」
「え、ええっ!!?」
「どうやったら、ダース単位の災難とトラブルをもたらすあの厄介な女の子が、私に向かって潤んだ瞳で
『お兄ちゃん』とか言うような夢見心地の素敵少女に成長するんですかっっ!!!!!」
「そ、そんな…そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ」
「だいたい、私が風浦さんがあの女の子なんじゃないかと思ったのも、そもそもその辺りのキャラが被りまくってたからです。
一度は騙されかけましたが、やっぱり案の定でした。どれだけ私に手を掛けさせれば気が済むんですか、あなたはっ!!!」
「うぅ…先生、酷いですよ……」
「いいえ、酷いのはあなたの方ですよ!!そうやって散々手間を掛けさせた挙句、
何も知らせず自分の都合で勝手にいなくなってしまうんですからっ!!!」
それまで、不服そうに私に言い返してきていた風浦さんの言葉がぱたりと止まる。
「あなたの方はどうなんです?私と昔で会っていた事に気付いたのは、いつからなんです?」
「…………なんとなく、以前からそうじゃないかと思ってたんですけど、確信を持ったのはサーカスのチラシに対する先生の反応を見たときからです……」
彼女があのチラシを持ち込んだのは、純粋にクラスの友人たちとサーカスについての話をする為だった。
私の反応を見る事も考えてはいたけれど、それはあくまでついでだったという。
しかし………
151 :
266:2009/03/20(金) 00:52:46 ID:spH1Q6P/
「先生のあの時の様子を見て気付いたんです。先生は、昔の私の事をずっと引きずっているんだって……」
だから、彼女は一芝居打つことを決めたのだ。
彼女は、私の後悔を断ち切り、安心させる為だけの嘘を用意した。
「先生も私の家の事は知っていますよね?今の私には両親もいなくて……」
「はい……」
「そんなんじゃ、先生の後悔を拭う事はできない。先生を安心させられない。だから、私……」
「ストップ!そこまでです」
だが、私はそこで風浦さんの言葉を遮った。
「何が『先生を安心させられない』ですか。今さらにも程があります」
呆然とする彼女の肩を掴み、その瞳をじっと見据えて、私は語りかけた。
「あなたほど手のかかる、迷惑で、厄介で、とんでもない生徒はそうそういませんよっ!!!2のへのみんなも相当ですが、あなたは別格です」
「そんな……私は……」
「だからさっきも言ったでしょう。キャラが変わりすぎ…というか、どうしてそんな風にキャラを作っちゃうんですか」
「そんな事ありません。私は……先生が私の事で気に病んでるってわかったから…」
「それがキャラを作ってるっていうんです。あなたは絶望教室と呼ばれる我がクラスでも随一の絶望的な生徒です」
畳み掛けるように反論されて、風浦さんはいつになく動揺している。
そんな彼女に、私は声のトーンを少しだけ落として、告げる。
「絶望的な事の……一体、何が悪いって言うんです?」
「それ…は……」
私の問いに、風浦さんは言葉を詰まらせる。
風浦さんは何もわかっていやしない。
あの時のサーカスでの出来事が今も私の胸を締め付けるのは、単に彼女の涙を見てしまったからじゃない。
その悲しみや苦しみに寄り添ってやる事のできなかった、自分自身への後悔のためだ。
私が望むのは、見栄えの良い嘘で取り繕った偽者の幸せなんかじゃない。
「悲しい時こそあえて笑って見せるなんてのも確かにアリだとは思います。
でも、自分が本当は悲しんでいる事を、忘れそうになるまで笑い続けるなんて、そんなの不毛ですよっ!!!」
そうだ、私が望む事はたった一つだけ……
「どうせいつかは朽ち果てる嘘なんかで、本当の貴方を塗り隠してしまわないでくださいっ!!!
希望も幸せも私には必要ないんです!!ただ、あなたの全ての不幸や苦しみに、一緒に涙を流したいだけなんですっ!!!!」
「先生………」
「それでも、もしも、もう貴方の中にはそんな嘘しか残っていないというのなら………」
私は風浦さんを抱きしめ、彼女の耳元に告げる。
私の思いのたけ、その全てを
「私の絶望を、全てあなたにあげます………っ!!!!」
私の言葉を受け止めてからしばらくの間、彼女は何も言わなかった。
ただ、凍りついたような沈黙が流れていく。
だが、やがて、彼女の手の平が恐る恐る、私の背中に回されて……
「…せんせ………」
ぎゅっと、私の体を抱きしめた。
「先生っ!!先生っ!!!先生―――――っっっ!!!!!」
泣きじゃくる風浦さんの体を、私もまた強く強く抱きしめる。
それから風浦さんが泣き止むまでのしばらくの間、私達はずっと抱きしめあっていた。
152 :
266:2009/03/20(金) 00:53:16 ID:spH1Q6P/
翌日、ウチのクラスの生徒一同でのサーカス見物を終えて、ようやく私も睡眠不足の日々からも解放される筈だったのだけれど……
「なぁんで、来ちゃってるんでしょうね、私……」
どうやら、宿直室に戻ってしばらく仮眠をしたのがまずかったらしい。
目が冴えて眠れなくなってしまった私は、再び真夜中の公園にやって来ていた。
まあ、今夜は風浦さんが来る予定もない。
適当にのんびりしてから帰ろうと思っていたのだが
「あ、先生……」
「あなた、どうしてこんな時間に……」
不意に後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには風浦さんの姿があった。
「いやぁ、サーカスから帰って仮眠を取ったら、今度は眠れなくなっちゃったんです……」
どうやら、彼女も私と同じパターンらしい。
風浦さんは昨日までと同じように、私の隣にトスンと腰を下ろす。
「まあ、本当は何となく先生も来てるんじゃないかと思って、ここまでやって来たんですけど……」
「確かに、まだ話す事は山のようにありますからね。昨日までに話してくれた事はほとんど嘘だったわけですし……」
私は皮肉交じりにそんな事を言ってみたが、彼女は少しも動じる事無く微笑んで
「ええ、それにやる事もありますし……」
「やる事、ですか……?」
「はい、キスの続きを………」
「ぶふぅううううううううううううううっ!!!!?」
思わずむせた私に、風浦さんはニコニコと嬉しそうに笑いながら語りかける。
「何ですか、その反応は。昨日、キスしていいか聞いた時はちゃんと肯いてくれたじゃないですか!!」
「それは……昨日はあなたの嘘を見破るために仕方なく……」
「仕方なくても何でも、一度は先生もOKした話ですよ!」
「だ、だいたい、あなたが変な嘘吐くから話がこじれてあんな事になったんじゃないですか!!」
「昨日は私にあんなに酷い事をしたのに……」
「そんな…ひ、酷いって……」
「頭ごなしに怒ったり」
「それは認めますが……」
「私の衣服を剥ぎ取ったり」
「カ、カツラじゃないですか、取ったのは!!」
「挙句、私の体を思う様に触って」
「抱きついてきたのはあなたでしょう!?」
「マスコミはそんな言い訳聞いてくれませんよ、先生」
「ぐ、うぅうう……」
どうやら、既に退路は絶たれているようだ。
いつの間にやら風浦さんは私の体に寄りかかり、間近から私の瞳を覗き込んでいる。
「マスコミを気にするなら、キスはもっとヤバイと思うんですが……」
「覚悟を決めてよ、お兄ちゃん」
今更の『お兄ちゃん』呼ばわりに、私の顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
もはや、観念するしかあるまい。
「……わかり…ました…」
「ありがとうございます、先生!!」
どうにも私は最終的には風浦さんの手の平の上で踊る運命のようだ。
それでも、まんざら悪い気分でもないのは、目の前の彼女の表情がとても楽しく幸せそうだからなのだろう。
キスの寸前、私は不意に思いついて風浦さんにこう言った。
「また、会えましたね……」
彼女の顔に広がる花のような笑顔。
そのまま、私と風浦さんは唇を重ねた。
”また、会えたらいいね………”
かつての少女の願いは叶えられ、私達はようやく今ここで再会を果たす事ができたのだ。
153 :
266:2009/03/20(金) 00:54:28 ID:spH1Q6P/
これでお終いです。
本当はエロも入れる予定だったんですが、無計画に書き始めたせいで出来なくなってしまいました。
エロパロスレなのに……すみませんです。
ともかく、この辺りで失礼いたします。
うっわああああああああGJ!!!!!!!!!!!!!!
最近アニメからポロロッカしてこの二人にどっぷりはまった自分としては嬉しかった!ありがとう!!
いいよいいよー!GJ
獄下のOP見たら2人にこんな設定を求めてしまうよな
気が向いたらまた続き書いてください
読みたいです
獄下はバイブル
GJでした!
そして次回のエロに期待せざるを得ない
また投下が増えてる感じですな。
とても嬉しい事な
今更だが保管庫のアドレスに絶望した
今更ですが、腐乱庫で腐乱死体と化していることに絶望した!
投下します。
エロなしで、読めばわかるのですが先生が死亡フラグをぶち上げていくお話です
先生がクスリ摂取で無敵なので、性格に疑問をおぼえる方はスルーしてくだされ
「いったい何用でしょうか。急に呼び出したりして」
ある日望は兄・命から電話を受け、医院に顔を出すように告げられた。
辿り着いた望は看護師に診察室で待つように言われたが、肝心の命が一向に現れない。
看護師たちも「待たせておくようにと言われましたもので」と申し訳なさそうにしている。
他の仕事もあるので彼女たちは部屋を去り、望が独り残された次第である。
患者用の椅子は座り心地が悪い。
手持無沙汰な望は部屋を見渡した。色気のないカレンダーに赤と青の丸が少し。何に使うのか見当もつかない器具の保管されているのがガラス越しに分かる棚。乱れひとつない簡素なベッド。
片付けられて無機質な部屋に、ひとつだけ、目を引くものがあった。
それは、ビー玉かと見紛う程に鮮やかな赤色の飴玉だった。机の上の瓶に入っている。
命が休憩時間にでもなめているのだろう。
陽光に照り返すその肌が、望を誘惑する。
「ひとつくらい拝借しても、構いませんよね……」
と思って蓋を開けると、それがうまいのなんの。苺とも林檎とも取れぬ不思議な味に、気が付けば残るのは数個ばかりになっていた。が、
「……まぁ、謝れば許してくれるでしょう」
などと、望は呑気なものだった。
コツコツ、コツと時計の針ばかりが部屋の中で反響し、遠くからは工事の騒音が僅かに入り込んでくるだけの静かな午前十一時。かなり待った気もするが、午後の約束にはまだ余裕がある。
「はて、そう言えば……」
こういう時は大抵、いつの間にやらまといが姿を現しお決まりになったやり取りを交わすものだが今日に限って彼女はいない。
彼女にとってのライバルである千里や霧、あびるもいないこの状況をあの愛が重い少女が逃すとも思えなかったが、とにかく後ろには白い壁とドア、ぶら下がったカレンダーがあるだけだ。
常日頃望んでいたはずの静寂は今まさに実現された。だがいざそれを手に入れてみると、時を数える歯車の音が聞こえるだけである。
「……つまらない、なんて考えてやしませんかね、私は」
生活によって人の嗜好も変わっていくものなのかと考えながら暖かい日差しを受けいれる。
うつらうつらしていると部屋の外、リノリウムの床に僅かに足音が反響した。
「すまんすまん、待たせたなのぞ……」
現れた命は部屋に入るなり、机の上のほとんど空になった瓶を見つけて絶句した。
座ったまま後ろを向いた望はパパがサンタだと気付いた小学四年生のようなその表情を見て、目を擦りながらぼんやりと答える。
「ああ、兄さんすみません。少しばかり退屈だったものでして……」
手に持った書類を一式落とし、命は望に掴みかかってきた。藤吉晴美が見れば小躍りしそうな場面である。
ひらり、一枚の紙がたてつけの悪い望の椅子の下に滑り込む。
「お前この中身……あれだけあったのに全部食っちまったのか?!」
「へぇっ?!」
眠気なんて吹き飛んだ。
命は深い溜息をつくと、書類を拾い上げもせず自分の椅子に乱暴に体を落とした。スプリングの利いたそれは大きな音と対照的に柔らかく沈んだ。
右手は頭を抱え、怒りと困惑の入り混じった表情である。
「どこの世界に他人の机の上の物、殊に医者の物を勝手に食う馬鹿があるかっ!」
「あ、あの……兄さん。それは一体何だったのですか……?」
望はおののいた。言われてみれば先ほどの自分の行動は軽率以外の何物でもなかった。
どうして「劇薬だったら」とか「患者の薬だったら」など考えもつかなかったのだろうか。
命は不機嫌に鼻を鳴らし、望を睨みつけて言った。
「それは、お前の薬だよ」
「私の、ですか?」
命が落ちた書類に目を向けるのに合わせ、望も視線を下げた。
「さっきは処方箋を取りに行ってたんだ。確かに、手の届くところに薬を放置していた私にも責任はあるか……」
望は思わず立ち上がって言う。
「ちょっと待ってください! 私は、何かの病気なんですか?! 重病ですか?! 危篤ですか?! 寿命は?! 喪主は?!」
「違う」
即答され、ますますわけがわからないといった顔で再び腰を下ろす。
「アレは、ちょっとした興奮剤みたいなものだ」
「興奮剤?」
「お前は何かというとすぐ絶望するからな。それが少しでも和らぐようにと思って。
海外から取り寄せた原料を独自にブレンドして作ったものだ。高揚感と多幸感を促進する作用がある。
名付けて……絶望に効く微笑(クスリ)」
「そんなマンガありましたね、掲載誌が大変なことになってるみたいですが……にしても、よくそんな手間のかかることを私なんかの為に」
「なに、腐っても実の弟さ……実験も兼ねて」
途中まで感心したように話を聞いていた望だが、最後の一言で驚愕した。
「どこの世界に他人に無断で、殊に自分の弟で勝手に人体実験する医者がいますかっ!」
「いや大丈夫。全部合法の品だ。まだどの成分も規制されていない」
「それ世間では脱法ドラッグと呼びますから!! JR新宿駅東口あたりのオニイサンと同じ穴のむじなですから!!」
そして望は例のポーズをとり、叫んだ。
が。
「絶望したっ! 実の弟に投薬実験をする兄に絶望……あれっ?」
不思議と、全く絶望的な心境ではないことに気付き言葉が止まる。
むしろ「弟のためにわざわざ薬を調合してくれた兄」という点が頭の中でどんどん大きくなる。
「兄さん」
命が顔を上げると、すぐそこに望の目があった。
ものすごい勢いで命は後ろに下がるが、望はその倍のスピードで突進し、命の手首をつかんだ。
ずいと、メガネと眼鏡が擦れるほどに身を乗り出す。
藤吉晴美なら鼻血を出して卒倒しただろう。
「ありがとうございます兄さん。こんな出来損ないの弟の為にここまでしてくれるなんて……」
命の背筋は氷柱を落としこまれたかのように冷えた。
一ヶ月分の量を一気に摂取したのである程度の覚悟はしていたが、まさかここまでになるとは思わなかった。
きれいなジャイアンが気持ち悪かった理由が、身を持って体験できた。容姿がどうとかではなくて。
いわゆる、普段の行いとのギャップというヤツ。
「いいえ、命兄さんだけではありません!! この私、糸色望がこれまでどれほど皆さんのお世話になってきたことか!!」
そう絶叫すると望は立ち上がった。解放された命は椅子からずり落ちて床にへたり込む。
「歓喜した! 私の生の立役者である皆さんに歓喜した!!」
ドアを破らんばかりの勢いで望は診察室から消えた。残された命は、うわ言のように呟く。
「もしかして私は目覚めさせてしまったのか……?」
眼鏡は耳の所で辛うじて引っ掛かっていた。
「やんちゃだったころの、望を……」
騒ぎを聞きつけ集まってきた看護師たちの中、命の目は閉じられた。
コツコツ、コツと、時計は変わらずに動き続けている。
一週目のはじめに戻った望が、或いは二週目ともいうべき望が、走り出した。
「先生……いったい何処へ行ってしまわれたのかしら」
不覚だった。それ以上に不運だった。
手洗いにまといは望の元から離れたのだがその一瞬で、彼を見失ってしまった。
普段からあっちにフラフラこっちにフラフラしている望のことだから、宿直室に居なかったこと自体は驚くに当たらなかった。
そこにいた座敷童と挨拶代わりに視線をぶつけ合って、ドアを閉めた。
しかしそこから一向に彼が見つからない。
いつもなら望から大量の「負のオーラ」が周囲に展開し、それを頼りにまといは彼を探っているからだ。
望の体に取り付けておいた盗聴器やGPSもなぜか機嫌を悪くして働かない。
まといは不安げに辺りを見回す。なんとなく近くにいるような気がするけれど、特定の位置までは把握できない。
電信柱の上、ビルの屋上、ポストの中を探してもいない。
途方にくれて、十字路の真ん中で立ち尽くす。
「先生、何処に居られるんですか……」
四散した呟きは
「ここに」
背中に回り込んで殴りかかってきた。
心の臓が跳びはねる。
ばっと後を振り向く。おかっぱ髪がふわり。
「せ、先生、いらっしゃったんですかっ?!」
「ええ、ずっと」
腕をくんで見下ろしてくる男は少女の求めていた、望本人に違いなかった。
しかし望に関して誰よりも詳しい彼女は、普段の彼との差異に戸惑った。
第一に、底抜けのポジティブさとオールマイティさ。
まといの得意技である気配の消去も、完全にコピーしてのけた。
「ああ、想い人のマネをしてみましたが中々気持ちの良いものですね。
この近さは素晴らしい。クセにならなければ、よいのですが」
「きゃっ、せ、先生っ!! こんなところで……て、おもいびとって、もしかして」
望がうしろからまといを抱きすくめる。
第二に、とにかく節操のないこと。
好き勝手出来る脇役の立ち位置に多いそれを主人公がやってしまうと、どうなるか。
「……」
まといは顔も、着物からわずかにのぞく掌まで真っ赤にする。いつもは一方通行な愛が急に全力で返され、対応できないのだ。
「常月さん」
くちびるがまといの耳に触れるか触れないかの距離で、望が囁く。
植物のように纏わる掌は少女のからだを捕らえたままだ。
「はい……」
シチューのように茹だったあたまで、返事をするまとい。呼気は少女の知る望の平熱よりも、少し高く感じられる。
「今しばらく、私を見失っていましたね?」
責めているのではないが、行動とは裏腹に冷淡な口調。
「……はい」
罪悪感すら、まといは覚えてしまう。やっともらえたこの腕も、体も、体温も、失うわけには――
「私を捕まえてごらんなさい」
右手が少女の髪の毛をとかし、ほぐし、乱す。
左手が少女の着物の襟をなぞり、さすり、玩ぶ。
「あなたは全力で私を探しなさい。今夜、月がのぼり切る前に辿り着けたら……」
踊る様に右手が少女のおとがいを持ち上げ、目と目、唇と唇が「目と鼻の先」になる。
縛る様に左手が少女の背中を締め付け、胸と胸、腰と腰が「肉薄」する。
「あ……」
目を限界まで見開いたまといは半ば恋に生きる本能で、顔を望へ近づけようとする。それを
「では楽しみましょうね――まとい、さん」
全ての緊縛を解き放ち、少しの力をこめて自分よりも小さな体を押し望は悠然と歩き去った。
たった数秒で数千メートル、あるいは、見えない壁の向こうへ行ってしまったかのように思えた。
交差点に残されたのは陸に上がってしばらく経った魚の様に、脱力した着物の少女。
「先生……せんせい」
だが魚は海に戻れば――己の領域に生きれば再び泳ぎだせるように
「――先生」
その少女もまた「庭」へと戻って、猟師と化した。
相手が獲物なのか、自分が猟場に迷い込んだ小鹿なのか、それはまだわからないが。
「くっ……!! ほんと、しつこいわねっ!!」
千里は焦っていた。
街中で工作活動の課外授業を行っていたところ、偶然某国のスパイを見つけた。
彼女はこっそりと子供たちを放置して追跡し、人気のない路地に入った瞬間スコップ一閃、斬りかかった。
しかし相手はそれをかわし、そこから仲間と思われるカーキ色の軍服を着た者たちが続々ビルから現れ、一斉に千里に襲いかかったのである。
相手は訓練されたプロで、しかも複数。さしもの千里も決定打を与えることが出来ず、次第に追い詰められていった。
そして
「あっ!」
スコップが弾き飛ばされ、ガランガランとビルの谷間に空しく転がる。拾いに行く間もなく千里は壁に押さえつけられた。
男たちの生暖かい筋肉が、ぎょろぎょろ動く目が、吐息が、肌を犯す。
彼らを血走った聴衆と見ればまるで新興宗教の奇怪な儀式のようだった。
ただ千里は、執り行ったことはあっても、生贄になったことはない。
「や、やめ……て」
ニタニタと笑いながら男たちが千里の細い体に群がる。背中はコンクリートの固い外壁に擦りつけられてもがけばもがくほど痛い。
しかし男たちのゴツゴツした手はそれ以上に不快だった。くびすじを、うでを、むねを、おなかを、こしを、ふとももを、這うなめくじ。全身が掘削機で削られているような錯覚に陥る。
「か、はぁ……」
無遠慮に体を蹂躙してくる指はもう本数を数え切れない。おとがいを跳ね上げ、荒い息を上げることしかできない少女は、普段の姿からは想像もできないほど「少女」でしかなかった。
その絶体絶命の状況の中、少女の意識の端に浮かんだのは担任教師――大好きな先生のこと。助けてほしいという思いと、そんなことあるわけないという絶望が、反発し合う。
「せんせえ……」
望への嗚咽が虚空に渡り、悔しさに涙が滲み、歪んだ手がその服を破らんとしたまさにその時。
ブゥン、と音がしたかと思うと目の前の男が突然千里から離れるように吹き飛んで、地面を苦しげにもがいた。
その首には、どこか見覚えのある縄が蛇の様に巻きついて、筋肉質なそれを締め上げている。
根元へと視線を送り、千里は、信じられないといった面持ちで叫んだ。
「先生っ!」
そこには片手を優雅にあごに這わせ、街の狭間からの逆光を背負った望がいた。
遠くでよくは見えなかったけれど、いつもと、何かが違うことは、千里にもわかった。
「小節さんの見よう見まねですが、なんとかなるものですね」
そう低く呟くと、グンッ、と縄を持った手を引き、のたうつ男をさらに引きずった。
元来首をくくるために用意されていたそれは頑丈さを遺憾なく発揮し、獲物の腕が電池の切れたロボットの様に落ちた。
「待ちあわせに行く途中でしたがね……知っているような後ろ姿、追っかけてみて良かったですよ。あんまりお転婆がすぎると危ないですよ? 木津さん」
目を大きく見開いた一同へ、実に軽い足取りで近づいてくる望。
その声も軽薄極まりなかったが、眼鏡の奥では紅蓮の炎が揺らめいていた。千里を拘束していた男たちは登場した謎の人物の雰囲気に圧倒され、焦りながら向き直る。
少女はぺたん、とその場に座り込んでことの成り行きをまるで観客の様に見守ることしかできなかった。
「次は木津さんの見よう見まね、でやってみましょうか」
そばに転がっていたスコップを拾い上げ、酷薄に男は笑った。
「きっちり半殺し――いえ、この際きっちり、殺しておきますか? ヒトの女に手を出す輩は」
どこか、夢の壁の奥でその声は響いた。
「やれやれ、この程度ですか」
五分もかからない内に工作員全員を叩き伏せ、つまらなさそうに望は吐き捨てた。
うめき声の溢れる路地裏を、まるで廊下でも歩くかの様に近づいてくる望の、しかしいつもとは確実に違う姿に千里は怯んだ。
でも手を伸ばせば届く距離にかがみ込んだ時に少女は気付いた。
その得意げな顔に、後悔が浮かんでいることに。
ポンと、手が黒髪にのせられる。
「かっこよかったですか?」
「……バカ、みたい」
唇を噛んで、顔を下げる。望に見られないように。
「――怖かった、ですか」
こくり、と頭がさらに垂れた。
その真ん中分けを、懐が包みこんだ。
「すみません。でも、もう大丈夫ですよ」
想い人の腕の中で千里は体を震わせ、その温かさに驚きの混じった幸福を思えていた。
なんとか元気を取り戻した千里を望は表へと連れ出した。
「しかし日本も物騒になったものですね。女性一人で夜も歩ける街――は過去の話ですか。白昼堂々これですもんね――まあ」
千里の頭をコツンと叩いて、望はなるべくおかしそうに言った。それが千里を励まそうとしていることは、明白だったが。
「危ないことに進んで首を突っ込む、あなたにも責任はありますけどね。おびえた顔も可愛かったから、珍しいものが見れたということで許しておきますけど」
叱られたと思って口を開きかけた千里は、おでこまで真っ赤にして一瞬とまり、何とかこれだけ言った。
「先生も、普段と違います」
否定もしないで
「ええ、だからこんなことも言えちゃいます」
華奢な肢体を抱き寄せ髪の匂いをかぐように、男は囁いた。
「今夜、慰めてあげますよ――婚約前の、きっちりしてない関係でよければ」
千里は人目くらい、気にして欲しい、と思ったけれど、トロンとした表情で頷くしかなかった。
髪を大好きな人にめちゃくちゃに乱されては、他にしようもないと。
我ながらだらしのない答えだと、千里はぼんやり思った。
短いですが今回はここで切ります。
チェックがまだ終わってないので次回はちょっと先になるかと思いますが気長にお待ちください。
読んでくださった方ありがとうございました
めちゃ面白いです
飴は「拝借」するものじゃなく、「失敬」するものだぜ。
面白いよ〜きれいなジャイアンな望w続き楽しみにしてるw
誰かエイプリルフールネタで1本
エイプリルフール終わってからエイプリルフールネタが完成しました。
ええい、まだだっ!!
まだ今は4月1日24時27分とかだっ!!
というわけで投下してみます。
望カフ、またもエロなしですみません。
一応、
>>141-152の続きです。
真夜中の公園、思い出のサーカステントの前で、かつて別れ別れになった幼い女の子と少年が
本当の意味での再会を果たしてから既に10日以上が経過しようとしていた。
風浦可符香はベッドに寝転がって、ぼんやりとその時の事を思い出していた。
「先生……」
つまらない嘘の中に自ら身を沈めていこうとしていた彼女に、糸色望は必死に手を伸ばし、救い上げてくれた。
可符香は望の懐に顔を埋めて、望の腕に抱きしめられて、ただひたすらに泣きじゃくった。
そして、その次の日、夜の公園でもう一度会った望に、可符香はキスをした。
望が自分の口付けを受け入れてくれた事が嬉しかった。
重ね合わせた唇のぬくもりからは、望の可符香を想う気持ちが伝わってくるようだった。
そうして、可符香の目に映る世界は少しだけその色を変えた。
ただ、問題がないわけでもなかったのだけれど……。
再び始まった日常の中で、可符香は望に対してどう接して良いかがわからなかった。
なにしろ、彼女はストレートな感情表現なんてほとんどした事もないような人間である。
これまでだって、望に対する好意は恐ろしいほどにひねくれた、わかりにくい方法でしか表現した事がないのだ。
あの日以来、望の自分に対する気遣いや優しさをより敏感に感じるようになった可符香は、
それにまっすぐ応える事のできない自分が少し辛かった。
彼女に出来るのは、せいぜいがいつも通りの望に対する悪戯ぐらいのものだ。
コロコロコミックを心の友とする小学5年生ではあるまいし、流石にこのままではマズイ。
彼女を受け止めてくれた望の気持ちに偽りはないだろうが、
当の自分がこの有様では学校卒業と共にそのまま再び別れ別れになってしまいかねない。
だけれども、そう一朝一夕に今まで自分のしてこなかったストレートな感情表現が出来るものではない。
「せめて、何かきっかけがあればなぁ……」
ぽつり、呟いてはみるが、いつもならばすぐに最適な答を思いつく彼女の頭も、今日は役に立ってくれそうにない。
「うぅ〜……参った」
ごろり、ベッドの上で寝返りを打つ。
それから彼女はベッド脇の自分の机の上に置かれた目覚まし時計を見るとも無く見た。
時間は既に深夜の零時を過ぎ、日付も変わっている。
そこで、可符香はふと思い出す。
「昨日が3月31日だったんだから………」
それはあまりにベタベタな作戦だったけれど……。
頭から布団をかぶり、その中で可符香はくすくすと笑った。
今日は、きっと楽しい一日になる。
そう思った。
176 :
266:2009/04/02(木) 00:29:23 ID:nHhchFaR
「好きですっ!!!」
宿直室の扉を開いて現れた彼女が、開口一番に言ったのがその言葉だった。
「あの、風浦……さん?」
「先生っ!!大好きですっ!!!」
呆然する望に可符香はもう一度そう言って、そのまま抱きついてきた。
一体何がどうなっているのやら、訳のわからないながらも、望はとりあえず一旦可符香に解放してもらおうとするのだが
ガッチリと抱きついた彼女を思うように引き剥がす事が出来ない。
「ど、ど、ど、どうしたんです、風浦さん?」
「えへへ……先生、好きですよぉ…」
いくら問いかけても答えは『好き』の一点張り。
望はもはやどうして良いのかわからず、途方に暮れてしまう。
ちらり、背後を見ると、同じく宿直室にいた交達もただただ唖然と可符香の突然の行動を目を丸くして見ている。
霧は洗っていた最中の皿を床に落として割ってしまっていたが、それに気付く気配も無い。
一番文句を言いそうなまといも言葉を失っているばかりだ。
絶望教室と言われる2のへの女子生徒達の中で、担任教師である望の人気は高い。
彼に対して思いを寄せている生徒は、今宿直室に居るまといと霧を含めて両手の指では数え切れない数になっている。
だがしかし、そんなクラスの中で可符香は対糸色望攻略戦に参加していないと見られる数少ない生徒だったのだが……。
(な、な、何があったんでしょうか?風浦さんに……)
ただ、可符香に抱きしめられている望だけは彼女の行動に対する心当たりがあった。
彼だけは、彼女の本当の気持ちを知っていた。
夜の公園で、口付けを交わした。
恐ろしいほどに頭が働くくせに、自分の幸せや気持ちに対してどこまでも不器用な彼女を、彼もまた愛しく思っていた。
が、今日のこれは何か違う。
絶対に違う。
「好きです、先生。大好きです…」
「風浦さん……ちょっと落ち着いてください、風浦さん」
「あぁ…好き好き大好き、愛しています、先生……」
何だかすごく嬉しそうな、楽しそうな彼女の表情は、明らかに愛の告白だとかそういう雰囲気ではない。
そもそも、ポロロッカ星あたりからの電波を受信したのでなければ、彼女がこんな意味不明の行動を取る筈もない。
となると、考えられるのは………
(いつもの、風浦さんの悪戯でしょうか……!?)
可符香お得意の先生いじりと考えた方が辻褄は合う。
そして、何気なく部屋の中を見渡した望は気付く。
カレンダーに記された今日の日付は……
「なるほど、4月1日、エイプリルフール……可符香ちゃんはこの機会を狙って……」
「ベタだけど有効な手段ではあるわね」
どうやら背後で見ていた霧とまといも同じ事に気付いたらしい。
「確かに今日なら、何を言ってもエイプリルフールだからって言い訳ができるわ」
「うん。しかも巧妙なのはエイプリルフールが『嘘だけを言う日』ではなくて、『嘘を言ってもいい日』だという事」
「発言のどこまでが真実か嘘なのかは言われてる先生にはわからない……」
「仮に今ここで、『全部嘘でした』って言っても、その発言の方が嘘かもしれない」
「そして、問題なのは先生の性格……ネガティブ思考の先生なら多分……」
いつもの剣呑な雰囲気はどこへやら、まといと霧は冷静に可符香の行動を分析する。
二人には、可符香の意図が次第に分かり始めていた。
それは………
「先生、好きですっ!!心の底から愛していますっ!!!」
「う……うぅ……風浦さん……」
糸色望はネガティブ思考の申し子である。
生まれついての資質を、高校時代に所属したネガティ部において鍛え上げられた彼のネガティブはまさに難攻不落の城塞の如し。
白か黒かで問われれば、必ず黒と答える人間、それが糸色望なのだ。
彼は考える。
エイプリルフールというイベント。
いつもの悪戯好きな可符香の性格。
これらの要素のために、今の望は目の前の可符香の発言が嘘か本当なのか判断できない。
彼女の言う『好き』は果たして真実か否か?
(……きっと…この『好き』はエイプリルフールの嘘に決まっていますぅ!!!!!)
望は心の中で叫んだ。
177 :
266:2009/04/02(木) 00:30:09 ID:nHhchFaR
一度、そういった風にマイナス方向にベクトルが向いてしまえば、後はもう止まらない。
しかも、望は可符香の事を大事に思い、愛おしく思っていたのである。
先日、思い悩む可符香を救い、彼女の気持ちを受け止めた人物の有様としては非常に情けないものであったけれど……。
ともかく、思いが深い分だけ、望がこうむるダメージは大きくなる。
一言『好き』と言われる度に、望のガラスのハートにピシリとヒビが入る。
「う…うぅ……先生…見てられないよぉ……こうなったら!!!」
「駄目っ!!迂闊に動いても逆効果よっ!!」
だんだんと気力をなくしていく望の姿を見かねて、霧が立ち上がろうとするが、まといがそれを止める。
「今の先生は疑心暗鬼の状態、私達の言葉も悪い方にしか取れないわ!!!」
「そんな…それじゃあ、どうすれば!?」
さらにまといは苦い顔で言葉を続ける。
「打つ手はないわ。先生に密着されている時点で実力行使は難しいし……そもそも、本当に恐ろしいのは今日が終わった時の事…」
「えっ?ど、どういう事!?」
「嘘が許されるのは、今日、4月1日だけの事。だけど、それを過ぎたなら……」
まといの危惧する事態はこうだ。
エイプリルフールの間中、真実か嘘かも分からない『好き』を聞かされ続けた望の心はズタボロになってしまうだろう。
だが、日付が変わってから、改めて『好き』と彼に伝えたならばどうだろうか?
既にエイプリルフールは終わり、嘘を言う事は基本的に許されない日常が戻った状態でのその言葉を、望は恐らく真実と判断するだろう。
すると、4月1日の間に言われた膨大な量の『好き』も自動的に真実であったと、肯定される事になる。
望の心にわだかまった巨大なマイナス思考はその瞬間、一気にプラスに変換されるのだ。
かわいそがり屋の担任教師にとって、それは様々な聖人達が体験した宗教的恍惚感にも匹敵するのではなかろうか?
「ていうか、散々自身を失わせておいて、最後に持ち上げるのって、自己啓発セミナーとかでおなじみの手段だよね……」
「そう、ほとんどカルト宗教の洗脳の手口よ……だから、もう一刻の猶予もないわ」
そこでまといと霧は互いに肯き合って、立ち上がる。
そして、可符香にハグされたままの望に駆け寄って……
「先生、好きっ!!!」
「先生、愛していますっ!!!!」
「ひぎゃああああああっ!!!な、なんですか、あなた達まで!!?」
自分達も同じように『好き』と言いながら、ぎゅっと抱きついた。
どうやら、可符香に便乗する事に決めたようである。
三人の少女達に囲まれて、もはや望の逃げ場はどこにもないようだった。
やがて、時間は過ぎて夜の11時50分ごろ、もうすぐエイプリルフールも終わる。
その後、望は可符香、まとい、霧にまとわりつかれ続けて、ついにダウンしてしまい現在は布団の中に寝かされていた。
ひ弱な望にとって、3人の少女に抱きつかれたまま行動するのは、かなり体力的にキツかったようである。
結局、心のほうが参ってしまう前に、体の方に限界が来てしまったわけだ。
これには流石に、まとい、霧、可符香の三人もしょげ返ってしまった。
その後は三人とも口数少なく、望の看病をしていた。
やがて、それらも一段落ついて、疲れてしまったまといと霧も今はすやすやと寝息を立てている。
そんな中、一人だけ起きていた可符香が、そっと望の枕元に座って小さな声で囁く。
「先生……好きです……本当に……」
昼間とは違った穏やかな調子で、ほとんど聞き取れないほどの微かな声で、彼女はその言葉を紡ぐ。
「愛しています……大好きです………先生に代えられる人なんて、私にはいません……」
そうやって、ポツリポツリと呟き続けて、数分ほどが経過しただろうか。
可符香が時計を確認すると、時刻は既に11時59分と30秒を回ろうとしていた。
「先生……大好き……」
そして、可符香がそう呟いたのを最後に、騒々しいエイプリルフールは、4月1日は終わった。
同時に、可符香はその場から立ち上がって、そのまま宿直室を後にしようとしたのだが……
178 :
266:2009/04/02(木) 00:30:52 ID:nHhchFaR
「…本命の……4月2日になってからの『好き』は言ってくれないんですか?」
「先生……起きてたんですか?」
可符香が振り返ると、布団から体を起こした望が少し寂しそうな目でこちらを見ていた。
「小森さんと常月さんの話は半端にしか聞いていなかったんで、よくは解らないんですが、それを言わなきゃ『洗脳完了』にならないんじゃないですか?」
「あはは……まあ、そうなんですけど……そのつもりだったんですけれど……j」
可符香は苦笑いしながら、望に向き直り、言った。
「確かに、そういう作戦とかは考えてやってたんですけど……それも、本当はついでの事ですから……」
「ついで……というと?」
「本当は……本当はただ、エイプリルフールにかこつけて、先生にいっぱい『好き』だって言いたかっただけなんです」
夜の公園での一件の後、彼女はより強く自分の望に対する気持ちを意識するようになった。
だけど、彼女は自分がある意味において非常に臆病な人間である事も理解していた。
同じクラスの女子達のように、おおっぴらに望に対する好意を口にする勇気を、彼女は持たない。
「変……ですよね?……あの時は、キスまでしたのに……」
エイプリルフールを利用した作戦というのは、彼女が自分自身についた嘘だ。
そんなものはせいぜいが建前にすぎない。
本当は、発言の真偽があいまいになるモラトリアムな時間に甘えて、好きなだけ自分の思いを望の前で口にしたかっただけ。
「だから……エイプリルフールの魔法が解けたら、もう先生に『好き』だって言える勇気もなくなっちゃいました」
しかし、そう言って苦笑した可符香に向かって、望はこう言った。
「残念ですが、あなたの目論見は大外れです、風浦さん……」
「えっ!?」
「だって……私はあなたが昨日言ってくれた『好き』っていう言葉を、もう信じちゃってますから」
呆然とする可符香に、望は愉快そうに笑ってみせる。
「最初は、エイプリルフールって事で不安になりましたけど、最後の頃はもうそんな事を思ったりしませんでした。
よく考えてみたら、あなたは私を罠にはめたり、詭弁を使ったりしますけど、嘘をつくような事はなかった」
そう、彼はこれまで、数え切れないほどの可符香の姿を見てきたのだ。
今更間違えるはずもない。
「私は、私の知っているあなたを、私に見せてくれたあなたの姿を信じる事にしました。
………ので、最後の方は頬が緩まないようにするので精一杯でしたよ」
「う……うぅ…それ、なんかずるくないですか、先生?」
「最初に仕掛けてきたのはあなたでしょう?」
可符香の顔がみるみる赤くになっていく。
「というわけで、今度はこっちから……もうエイプリルフールは終わったので、嘘の入り込む余地はありません…」
そして、そんな彼女に対して、望は愉快そうに笑って
「愛しています……風浦さん…」
そう言った。
それから望は、もはや完全に真っ赤になった可符香の元に歩み寄り、彼女をそっと抱き寄せる。
「あ……せ…せんせい……」
そして、先生の腕の中、可符香はかすれるような小さな声で、ようやくその言葉を口にする。
「私も……好きです……」
今度こそは、疑いの余地のないその言葉。
今更ながらに照れくささを感じながらも、想いを伝え合った可符香と望の胸にあるのは、ただただ幸せな気持ちだけだった。
179 :
266:2009/04/02(木) 00:31:57 ID:nHhchFaR
以上でおしまいです。
なんか先生が嘘くさいなぁ。
わかったようなわからないような話で、すみません。
それでは、失礼いたします。
エイプリルフール投稿乙です。
話の締め方がいい感じ。
グッジョブ!
可符香、霧、まといには先生にデレデレでいてほしい
182 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 10:55:35 ID:BisKoDP3
圧縮回避
保守
5日間も誰も書き込まないなんて
せっかく職人さんがSS投下してくれてるんだから
せめて感想だけでも書きこめばいいのに
そうだな、改めて
>>266乙
先生と可符香が一番好きな自分にとって読むのが恥ずかしいくらいのイチャっぷりだった
密かにエイプリルフールは可符香の誕生日じゃないかと思ってる
そうですよね、過疎ってるわけないですよね!
しかし過疎っ
いやだなぁ、神が降臨される準備期間ですよ
前の投下からえらい時間がかかってしまいました……
ほんとは二人分落としたかったんですが、ちょっと次もいつになるかわかんないので一人分だけ。
やらせていただきます。
昼過ぎ、奈美はバス停で待っていた。といってもバスに乗るのではない。乗ってくる人を待っているのだ。相手は、彼女の担任で、且つ彼女が好意を寄せている人。
手に持った少し古い型の携帯を見て、クスリと笑う。
「まさかホントに、こんなことが起こるなんてな……」
コトの顛末は先日図書館に行ったとき。
宿題をするために彼女はそこを訪れた。人気のないそこである程度区切りをつけ、立ち上がり振り返った時に席の後を通っていた望とぶつかった。
その拍子でどうも、互いの携帯が入れ替わってしまったようなのだ。
帰宅後それに気付いた奈美は驚き、喜びながらちょっと悩んで――電話を待った。自分からかけて向こうからもかけてきたらずっと話し中になってしまうし、電話での会話という「普通」ではない担任とのやりとりを向こうから仕掛けて欲しかったからだ。
しばらくして、電話が鳴った。望の携帯はリンリンリンと、古い黒電話の着信音で奈美を呼び、彼女はニヤニヤしながら受信ボタンを押した。
意図的だの普通に窃盗だの普通じゃないだのいつものやり取りを交わし、今日の昼過ぎに落ちあうことにしたのだ。
そして出発する一時間前から鏡の前であれこれ悩み、なんとか「がんばった」格好でここに至る。
「ついでに、お茶に誘われたりしたらいいのにな……」
望との休日の約束に奈美の心は弾んでいたが、ひとつ気になることがあった。
約束のちゃんとした時間と場所はさっきの通話で決めたのだが、その時の電話越しの声がいつもと違うように感じたからだ。
なんというか、テンション高めというか、陰気じゃないというか。でもまあ、あの人はけっこう情緒不安定だし、と奈美はそれほど深く考えなかった。
「……にしても先生おっそいなー。時間、もう十分も過ぎちゃってるよ」
靴のかかとを数回浮かせて、ハムスターの様にあたりを見回す。
もしかしてすっぽかされた? と時間に対してナーバスになる。目はさっきから何回も何回も腕時計と車道を行ったり来たり、落ち着かない。バスはもう何台も止まったけれど、そのどれからも望は降りてこなかった。
と、そのとき上着のポケットで携帯が震えた。リンリンリン、古めかしくしようとしている電子音が街中にかすかな声を上げる。奈美は反射的にポケットへ手を突っ込み、捕まえたそれを耳もとへ当てる。
そうだ電話すれば良かったじゃん、と頭のどこかで自分の声がした。
「もしもし、日等さんですか?」
「はい、日等で……て、日塔です!! 『普通』みたいな漢字を使うな分かりづらいボケをするなオチてないぞ!! つーかここでオチても出オチだ!!」
待たされた鬱憤とやっと聞けた望の声に、こちらもテンション高めの反応。なんだかんだゴキゲンな奈美である。
額に手を当てながら奈美は尋ねる。
「……ええと、先生は今どこにいるんですか? 電話してるってことはもうバスじゃないんですよね、先生が車内で通話するような度胸持ってないことは明らかですから」
イヤミたっぷりにそういうと電話口の向こうでアッハッハと、まるで旧財閥名家の坊ちゃんみたいな笑い声が聞こえた。そういやこの人、そのものだった。
なかなか手厳しいですね、と笑いをかみ殺したように続けて、
「いえ、確かに五分ばかし遅刻はしてしまって申し訳なかったんですが、もう約束のバス停にはいるんですよ、私。でもあなたがみつからなくて」
あなたがみつからなくてという言葉を奈美は心の中で反芻しながら、ちょっと考えてから言った。
「もしかして先生、私たち互いに道路の反対側にいませんか?」
話しながら二つの車線のむこうのバス停を探すと……すぐに見つかった。長身の着物姿なんて、この時代じゃ目立ちすぎる。あっちも自分を見ているらしく、顔がこちらを向いていた。
「ああ、見つけましたよ。カーディガン着てますね」
へー「カーディガン」って言葉知ってたんだと、なんとなく意外に思う。地元じゃチャラチャラしてるらしいし別に珍しくも新しくも無いファッションだが、望と取り合わせたイメージは新鮮だった。
ピンクなんて、先生には似合いそうだけど。
「じゃあそちらに行きますから、待っていて下さいね」
横断歩道を渡って、望はやってきた。ガラスの奥の眼は心なしか機嫌がよさそう。というか、毒気の抜けた様な晴れ晴れした表情だ。
「実によくある失敗でしたね」
「普通って……言って、ないですね」
ちょっと自覚のあった分、目ざとい先生ならすぐに突っ込んでくると思って準備していたのだが拍子抜けしてしまった。
微妙にかわされただけで実は同じことかもしれないけれど。
じゃらり、と音をたてて望は懐から奈美の携帯を取り出す。マカロンのストラップやタイルでデコレーションされた、流行りそのまんまの端末に目を落として望は口を開いた。
生肉とベルで条件付けされた犬つまりパブロフの犬で奈美は身構える。
(来るかッ?!)
「可愛いですね。似合ってますよ。その格好も、先生好きですよ」
「はあぁッ?!!!」
完全な逆サプライズを決められ硬直する奈美。なにこれ新手の戦略的いじめそれとも私ってば普通って言われるの待っちゃってるのかしらあははてかかわいいっていわれたすきっていわれた。
……ケータイと服装が。
弱点を突かれていないばかりか珍しく誉められてるんだけれどそのどちらも「本命」ではなく、宙ぶらりんの精神状態。
呆けた奈美に、望は困ったように言った。
「すみませんが日塔さん、携帯を」
「えっ? あっ、はい」
慌てて望の携帯を差し出し、自分の携帯を受け取る。手が一瞬触れただけでは、とても温もりは伝わらない。
「それでは」
行ってしまう、そう思った。
いやだ。
イヤだ。
手を伸ばす。待って、そう一言、淡いピンクのルージュをひいた唇が紡ぐのを遮る様に、望は言い切った。
「そこのカフェでサンドイッチでも御一緒しませんか? 先生、お昼まだなんですよ」
「よかったんですか? お昼ごはんに、デザートまでごちそうになっちゃって」
「いいんですよ。誘ったのは私ですから」
運ばれてきたパフェを前にして、改めて奈美は変だと思った。今日の望はそれこそ可符香並にポジティブだし自分のことを普通と貶さないしむしろ妙に誉めてくるし気前はいいし。
眉をひそめていると普段ではありえない、しかし気味が悪いわけでもないほほ笑みを溢しながら望は穏やかな声で言ってくる。
「さ、早く食べないと溶けちゃいますよ」
「あ、そ、そーですね」
居心地がいいか悪いか微妙にはっきりしないまま、ギクシャクとスプーンを口に運ぶ。でも途中から望の目がずっと自分を収めていることに気付き、白地に赤のチェックが入ったテーブルクロスに視線を落として動揺を誤魔化そうとする。
(あーもう! なんでそんなにこっち見てるのよ! きんちょう、するじゃないですか)
「ついてますよ、アイス」
「はえぇ?」
空気の抜けた様な返事をしてしまう。
気付けばもう器の中は空になっていたがどうやら顔のどこかにでもクリームを付けてしまっているらしい。慌てて鞄から手鏡を出そうと手荷物用の籠に手をかけたその時、細い指がいきなり口の横の頬に近付いてきた。
塩酸でもぶっかけられたかのように大きく震えて、固まってしまう奈美。そんな彼女にもお構いなしに望は少女の口を捕えた。
まず顔の下半分を。
くずれやすい果物でも包むかのように掌で抱く。人差し指が口元を丁寧に撫で上げ、その他の指は首筋や輪郭、反対側の頬を拘束している。それは愛鳥を籠絡する様に似ていた。
二人の視線がもし目で見えたのなら、糸で繋がったような直線を描いていたのが分かっただろう。
しかし指が離れるのは妙な冷たさを残すようなあっけなさ。つられて顔を少し突き出してしまうけれど手の引く速度は桜が散って地面に横たわるまでよりも切ない。
「こんなに口から外して、だらしがないですね」
いたずらっぽく言う望の人指し指にはなるほど確かに、結構な量の生クリーム。
その白さと長い指の白さをぼんやり眺めているうちに、再び目の前に――こんどは時間をかけて――その指が現れた。
「後始末は自分でやるんですよ?」
この人は何を言っているんだろうか。
この人は何がしたいんだろうか。
いつもなら、ごくごく「普通」の思考で今の状況の異常さや望の絶望的なまでの奇行にすかさず反応していたのだろう。
けれど、催眠術にでもかかってしまったかのように奈美の頭から常識や一般論が逃げ水よろしく手の届かない距離に逃げてしまう。
そして今は、この白いもので、あたまの中が埋められて。なんにも考えられなくなって。
わたしはなにをしたいんだろうか、なんにもかんがえられなくなって。
気が付けば口の中がさっきまで食べていたはずの甘いものと、それに包まれたコリコリしたモノをつかまえていた。
クリームのふわふわした感触はすぐに消えた。溶けて舌に張り付いて口の中を漂っている。けれどこのかたいけれどやわらかい、ちょっとへんな味がするものは消えない。
おいしいのかまずいのか、食べたことがないふしぎな味。勇気を出して噛んでみると上の方は硬く跳ね返してくるけれど下の方は受け入れてくれる。
喉の奥からジュッとよだれがあふれる。
熱が熱を呼び、激流が凍りついていた理性を溶かしつくす。
へんなものの正体を探るべく、舌が動き出す。
自分とは別の、なんだか地底や土星なんかにこっそり住んでいるような奇妙な生物が口の中にやってきて好き勝手暴れているみたいに、いうことを聞いてくれない。
異次元からの侵略者は大好物に出会えたらしく、よだれを垂らしながらそのへんなものにむしゃぶりつく。
熟れた果実をゆっくりと握り潰すか粘液どうしが絡み合う様な水っぽい音が頭の中で氾濫し、神経なんか洪水の中でショートしてまともに働いてくれなくなる。
もっともっと、怪物はごちそうのしっぽまで味わおうとしてその体を精一杯伸ばし、続けて巣穴も前に前にと引きずられてしまう。
なんだか苦しくなったけれどどうすることもできない。急に獲物が動き出した。
うねうねと、巣穴の中を探検するようにかきまぜられてよだれがくちゅくちゅと鳴く。
ああ、もしこれが「日塔奈美」の体の一部分であるのなら多分くちびるから水が漏れてあごのあたりを液体が伝って喉もとを這い、胸元にぬるい滝を流しているのだろう。
けれど、あつい。燃え上っているんじゃないかと思うくらいあついんだけれど何処があついのか見当もつかない。まあそんな些細なことはどうでもいい。
今はただこの酸素の欠乏と、液体の飽和と、熱の奔流に、身を任せ――
本当に食べられてしまうかと思いましたよ、そう言って望はドロドロになった人差し指を嘗めた。
目の前には壊れた人形のように口をあけ、顔を真っ赤にさせている少女がいた。
目の焦点は定まらず口から垂れた唾液がシャツやカーディガン、スカートにまで及んでシミをつくり、吐く息は水蒸気の様に熱い。
昼下がりの喫茶店においておくには、あまりにも淫靡な人形だった。
手拭きで出来るだけ汚れをふき取ってやり、未だ魂の抜けた様な奈美の耳元で告げる。
まだ時間が早いですからね、夜になれば。
その時、望の携帯が鳴った。数度のやり取りの後電話を切って、懐にしまう。
「すみませんが少し、用が出来てしまいました」
聞こえているのやらいないのやら。とにかく店から担ぐようにして奈美を連れ出し、人通りの多い公園のベンチへと彼女を座らせた。ここなら一人でも、安全だろう。
またあとで、そう言って望は歩き出した。電話の相手のもとへ。
これで普通は終了です。
あまりの短さとか。
あまりの急ぎ足とか。
あまりのキャラソン引用とか。
あまりのエロなしとか。
なまあったかく見守りつつ、読んでいただければ幸いです。
ごちそうさまでした。久しぶりに望奈美見れて本当嬉しかったです!!
口が少し悪くなるのが奈美の1番の可愛いところだと思うんですが、
そこをちゃんと捉えていてうれしかったです。
動作1つ1つの描写が本当に細かく美しくて、感動しました。
投下ありがとうございました。
>>196 GJ!!電話の相手が誰なのか楽しみです。
なんか先生がいつもと違ってて奈美がかわいくてピュアで先生の一言一言にドキドキしてる奈美がかわいくて
あれッ?
この素晴らしい文章・・・あなたはもしや・・・!
神!
夢日記か
うむ、普通ちゃんと最後までいってほしかったぞ
今からでも遅くないから頼みます
204 :
266:2009/04/17(金) 23:53:39 ID:aZ2I205s
うお、続きが来てた。
GJです!!
それでは続いて私も投下してみます。
またもエロ無し、前回の>175-178からさらに続きの望カフですが……。
205 :
266:2009/04/17(金) 23:55:20 ID:aZ2I205s
暖かな春の日差しも心地良いある晴れた休日、学校の宿直室に暮らす望達は押入れの中に仕舞っていた様々な家財の整理を行っていた。
「やっぱり木目糸はかさばるね、先生」
「もういっそ全部捨てちゃった方がいいんじゃないか?」
「ううん……でも一応実家から引き継いだものですし、なんか捨てたら新しいのがまた実家から送られて来そうで、正直そっちの方が怖いですし…」
いつの間にやら物で溢れかえっていた押入れの中から、必要な物と必要でない物を選別していく。
こんな作業をする切欠になったのは、先日、霧が押入れの中から学生時代の望の写真が収められた古いアルバムを見つけ出した事だった。
望はかつて住んでいた家を彼のクラスの生徒、三珠真夜による放火で焼け出されてしまっていた。
その時、火事場から必死の思い出持ち出したり、焼け跡から見つけた家財を持って宿直室へと引っ越してきた訳なのだが、
何分、突然の出来事だった事もあり望が持ってきた荷物のいくらかは整理もされないまま押入れの奥に仕舞い込んだままになっていたのだ。
ところが、霧が何気なく件のアルバムを見つけ出した事で、望自身もどんな物を仕舞っていたのか気になり始めてしまった。
そして、せっかくの機会だからという事で、押入れの中身を一度開け放ってみよう、という話になったのだ。
「交君、このマナベ関連のダンボールはどうする?」
「…う……むぅ……」
開いてみれば出てくる出てくる。
良い思い出も悪い思い出も、必要な物もそうでない物も、よくぞこれだけ入っていたなと感心するほどだ。
霧が最初に見つけたアルバムも、望にとっては様々な思い出の詰まったものだ。
パラリ、焦げ目のついたページをめくると、学ラン姿の5人の少年を写した写真が現れる。
「部長もみんなも、どうしているんでしょうね……」
望が高校時代に所属していた部活、その名もネガティ部。
ネガティブ思考を第一の信条に掲げるネガティ部にかなり強引な手段で入部させられた望は、そこで良くも悪くも濃厚な青春時代を過ごす事になった。
それも、今となっては遠い思い出、かつての部員達とも現在はさほど交流があるわけではない。
色々と酷い目にも遭った筈なのに、どうにも懐かしさばかりを感じてしまうのも、通り過ぎていった歳月の為せる業なのだろう。
「ほら、先生、ボンヤリしないでよ」
「ああ、すみません、小森さん」
「また古いダンボールが出てきたけど、これも先生のでしょう?」
霧が押入れから取り出したダンボールの箱を開けると、またも望にとっては懐かしい品々が現れた。
無造作に束ねられた原稿用紙は、せっかく書き上げたのにぜんぜん読んでもらえなかった望の同人誌『石ころ』の生原稿だろうか。
その他にも、小説のアイデアや習作を書いたノートなどがごっそりと入っている。
と、そんな時である。
「へ〜、すごいなぁ。こんなにたくさん書いていたんですね、先生」
「うぅ……恥ずかしいからあんまり見ないでください………って、あなたは!?」
後ろから掛けられた声に振り返ると、そこには望にとってはお馴染みの少女の姿があった。
「風浦さん…!?」
「えへへ、お手伝いに来ました」
ニッコリと笑う少女の名前は風浦可符香、難物ぞろいの2のへの生徒達の中でも最も注意すべき人物の一人である。
まあ、今の望にとっては彼女はそれだけの存在ではないのだが。
「手伝い……とか何とか調子のいい事言って、本当は私の昔の恥ずかしい思い出の品でも見に来たんでしょう?」
「いやだなぁ、そんな事しませんよ。先生の恥ずかしいところなら、昔に随分見せてもらいましたから」
「う…ぐぅうう……」
可符香と望はかつて、10年以上前に出会い、別れ別れになった過去を持っていた。
その事を確かめ合ったのはつい最近、それを機会に以前から惹かれあっていた二人は互いの想いを通じ合わせる事になった。
無論、教師と生徒という立場上、それは誰も知ることの無い密かな関係ではあるが、
それでも日常生活においてのお互いの距離はぐっと縮まったように二人は感じていた。
ただ、困った事もないではなかった。
距離が縮まるついでに、以前に比べて可符香の望に対する悪戯がパワーアップしているようなのだ。
「……『ああ、なんという悲劇だろうか!!男は暗澹たる表情で…』……」
「やめぇえええっ!!!!朗読はやめてくださいっ!!!ていうか、何で一番古いノートを的確に見つけ出すんですか、あなたは……!?」
変な遠慮や壁を作られるのも困るが、最近の可符香のパワーに望もすっかり参ってしまっていた。
206 :
266:2009/04/17(金) 23:56:04 ID:aZ2I205s
「もう、先生も可符香ちゃんも騒いでないでちゃんと片付けてよ」
「とか言いながら、あなたまでノートを読まないでください、小森さぁんっ!!!」
「でも、若さ溢れる先生の小説、とっても素敵ですよ」
「って、常月さんまでいつの間にぃいいいいいいっ!!!!!!」
そこにいつもの絶望教室の生徒達まで加わるものだから、望の苦労は押して知るべしであろう。
ま、それはそれで、楽しく充実した毎日であると、言えないでもなかったのだけれど………。
だが、この時、望は知る由もなかった。
遥か過去から蘇ろうとしているトラブルの種の存在に………。
「あれ、これ何かな?」
最初にそれを目に留めたのは可符香だった。
望は新たに発掘された高校時代の日記を読みふける霧とまといに翻弄されて、それに気付くどころではなかった。
「眼鏡ケース?……あ、中身もちゃんと入ってるんだ」
ダンボールの片隅から可符香が取り出したのは、古びたケースの中に入った眼鏡だった。
今も望が愛用しているものと同じタイプと思われるそれを、可符香は興味深そうに見つめる。
「レンズに傷もないし、今でも使えそうなのに……あ、そうか、先生の視力が落ちたから新しいのに換えたのかな…」
ほんの興味本位。
かつての望のものと思しき眼鏡を、可符香は自分でも掛けてみようと考えた。
そんな可符香の様子に望が気付いたのは、ちょうどその瞬間。
「あれ……眼鏡なんて、どうして……………って、あれはまさか……!!?」
その眼鏡の正体を思い出して、望の顔が一気に青ざめた。
「風浦さん、いけませぇええええんっっっ!!!!」
「ふぇ……せ、先生?」
だが、時既に遅し。
可符香はその眼鏡を掛けてしまった。
「どうしたんですか、先生?この眼鏡が何か……?」
血相を変えた望を見て、可符香は眼鏡を外そうとする。
だが、外れない。
その眼鏡はまるで可符香の顔に吸い付いたように離れない。
「えっ?この眼鏡………何?」
戸惑う可符香の顔に取り付いたその眼鏡こそは、かつて糸色望のネガティブ思考を不動のものとした恐怖のアイテム。
禁ポジの眼鏡に他ならなかったのである。
休みも明けて、また始まる新しい一週間。
いつも通りに登校してきた2のへの生徒達は、いつもとは違う彼女の様子にいち早く気付いた。
「あれ、可符香ちゃんどうしたの、その眼鏡?」
「あっ、千里ちゃん、これはね…」
なにごともきっちりと、細かな事にも目ざとい千里が、可符香の掛けている眼鏡を見て言った。
「いや、それには実は事情があるんですよ………」
千里の質問に答えたのは、どことなくやつれた様子の望だった。
「西遊記の孫悟空がつけている禁箍児の輪をご存知ですか?」
「ええ、あの三蔵法師がお経を唱えると締まるヤツですよね」
「これは禁ポジの眼鏡、ポジティブ思考に反応してこの眼鏡を掛けた人間の頭を締め付けるとんでもないアイテムです」
学生時代、ネガティ部を始めて訪れたときに、望は部員達から手渡された眼鏡を何の気なしに掛けてみた。
実は、それこそが世にも恐ろしいこの禁ポジの眼鏡だったのである。
ポジティブ思考を苦痛で抑制し、装着した人間をネガティブ思考へと導くこの眼鏡によって
元来暗い性格だった望は今のネガティブまっしぐらな性格へとさらなる進化を遂げる事になったのである。
「しかも、この眼鏡、外れないんですよ」
一度取り付いたら獲物を逃さないこの眼鏡。
昨日も色々と手を尽くして可符香をこの眼鏡から解放しようとしたのだが、何をしても全く効果はなかった。
「でも、元々は先生がつけてた眼鏡なんでしょう?先生は今はもうこの眼鏡をしてないじゃないですか……」
「確かにそうなんですが………」
現在の望は禁ポジの眼鏡を着用していない。
高校時代の最後の頃になって、自然に外れてしまったからである。
207 :
266:2009/04/17(金) 23:56:46 ID:aZ2I205s
「でも、その理由がわからないんですよ。せめてそれがわかれば何かのヒントになるのに……」
というわけで、万策尽きた望はすっかり途方に暮れていた訳である。
だが、それに反して、一番の被害者であるところの可符香の表情はあっけらかんとしたものだった。
「そんな暗い顔をしないでくださいよ、先生」
「そうは言いますが、よりにもよってポジティブが信条のあなたを被害者にしてしまうなんて……」
可符香の慰めの言葉にも望の顔は暗い。
超ポジティブ少女である風浦可符香にとって、この眼鏡はまさに鬼門であるのだ。
それでも、可符香はさらに前向きな言葉で望に答えようとするのだが……
「悲観していても物事は良い方向には進みませんよ。ほら、先生も顔を上げて………って、痛…痛い…いたたたたたたたっ!!!」
その言葉が途中で途切れる。
可符香のポジティブ発言に反応して、眼鏡が彼女のこめかみを締め付けているのだ。
「可符香ちゃんっ!!」
「ふ、ふ、風浦さんっ!!」
「い、いやだなぁ…こんなの全然へっちゃらですよ……」
思わず声を上げた千里と望に対して、答えた可符香の声もさすがに元気がない。
しかし、彼女はそれでもいつも通りの強引なまでのポジティブ発言をやめようとしない。
「ポジティブを禁じる眼鏡なんてあるわけないじゃないですか。……これは痛みに耐えても前向きに考えよう、っていうポジティブ養成メガネなんですよ」
「風浦さん……」
キリキリと頭を締め付ける痛みに言葉を詰まらせながらも、彼女はいつもの調子でそう言い切ってみせる。
そんな可符香の姿が余計に痛々しくて、望は胸が苦しくなるような気分だった。
『大丈夫だよ。こういう時には……あ…痛い…痛たたたたぁ!!』
『そんなことは…痛ぅ…あ、ありませんよ』
『でも、こう考えれば…ぁ…いたたたた』
『いやだなぁ、そんな事あるわけ……ぅ…痛ぅう』
『だけど…』
『それは…』
『そんなのは…』
やっと今日一日が終わり、望は宿直室のちゃぶ台の前でため息を吐いていた。
可符香のポジティブ発言は、やはり2のへには欠かせない要素だったようだ。
事あるごとに苦痛で言葉を詰まらせる彼女の様子を心配してか、クラス内の雰囲気も今日はどことなく暗いものだった。
授業が終わった後、不意に襲ってくる痛みに気をとられて可符香が事故に巻き込まれでもしないか心配だった望は、彼女を家まで送り届けた。
「さて、これからどうするかですが……」
禁ポジのメガネから可符香を解放してやらなければ。
昼休憩などには生徒達も色々と手を尽くして眼鏡に挑んでいたが、結局は全員ギブアップ。
千里などは護摩壇まで持ち出して加持祈祷をしていたが、効果は全くなかったようだ。
望自身は眼鏡から解放された以上、何らかの方法がある事は確かな筈なのだが………
「ん、そうだ!!すっかり忘れていました!!!」
と、そこで望は閃いた。
「どうしてこんな基本的な事を失念していたのでしょう。そもそもあれはネガティ部の物なわけですから……」
ガサゴソと、箪笥の中をひっくりかえして、望が取り出したのは一枚の葉書である。
それは、かつてネガティ部の部長を務めていた先輩から送られてきた望宛の年賀状だった。
すっかり疎遠になってしまった彼らではあったが、かろうじて年賀状のやり取りは行っていたのだ。
「できれば、電話やメールの方が手っ取り早いんですが、この際文句は言ってられません」
早速、便箋を取り出した望はいそいそと現在の窮状を知らせる手紙をしたため始めた。
208 :
266:2009/04/17(金) 23:57:27 ID:aZ2I205s
ポジティブ思考・発言の封印という可符香にとっては前代未聞のピンチから始まった日々も今日で4日目。
ことあるごとに自分を苦しめるこめかみの締め付けに、さすがの彼女もほとほと疲れ切っていた。
(ふぅ……今日も大変だったなぁ…)
禁ポジの眼鏡はポジティブな発言に反応して効果を発揮するため、望からはなるべく喋らないでいるように言われているのだが、
沈黙を守ろうとしてもついつい何かある毎に強引なまでのポジティブ発言をしてしまう。
その度に禁ポジの眼鏡にキリキリと締め付けられて、クラスのみんなにも随分と心配をかけてしまった。
それでも、可符香はやっぱりポジティブ思考を捨てようという気にはならない。
「先生も早くこの眼鏡が外せるように高校時代の先輩に連絡してるっていうし、きっと何とかな……あいたたたっ…何とかなるよね」
彼女はこの恐ろしく厄介な事態に対しても、楽観的で前向きな態度を崩さない。
自分を鼓舞するように呟いた一言で、またこめかみを締め付けられても、きっと最後には全部上手くいく、そう彼女は信じていた。
「さて、そろそろ寝ようかな…」
あくびをしながら、可符香はいそいそとパジャマに着替える。
いつもならまだ眠るには早い時間だが、眼鏡のおかげでもう体力は限界ギリギリだ。
ポジティブ封印以外にも、お風呂に入るときに眼鏡が外せなくて困ったり、地味に色んな苦労をさせられているのだ。
今はなるべく早く寝て、睡眠時間をたくさん取って、眼鏡を外せる日を待つのが得策だ。
「おやすみなさい」
部屋の電気を消し、ベッドの中に潜り込む。
真っ暗な天井をレンズ越しに眺めながら、ふと彼女は考える。
(だけど、もし……もし、このままずっと、この眼鏡が外れなかったら……)
望の場合は自然に外れたというが、それでも都合3年ほどの時間が必要だった。
仮にこのまま三年間、ずっとこの眼鏡に苦しめられ続けたら、さしもの自分でもポジティブな思考を維持できないのではないか。
そもそも、近いうちに眼鏡はきっと外れると信じているけれど、そんな根拠はないではないか。
むしろ、今の自分はこの眼鏡に捕らわれ続ける未来を見ない様にする為に、偽りの希望を自分に言い聞かせているのではないか。
そうだ、自分はこのままこの眼鏡の力によって、ポジティブに生きる力を根こそぎ奪われてしまうのだ。
「いやだなぁ、そんな事あるわけない。こんな眼鏡、すぐに外れて、また元のポジティブな私に戻れるよ」
暗い考えを打ち消すように、可符香は殊更に明るい声で言った。
大丈夫、何も心配はいらない。
そう自分自身に言い聞かせて、さっきまでのマイナス思考を追い払う。
そして、今度こそは安らかな眠りにつけるようにと、彼女は布団をかぶり直して瞼を閉じる。
だが、彼女は不安から逃れるのに精一杯で、つい先ほど起こった奇妙な現象に気付いていなかった。
『また元のポジティブな私に戻れるよ』
先ほど彼女が口にした言葉。
まぎれもない、前向き思考のポジティブ発言。
しかし、禁ポジの眼鏡は彼女のこの言葉に一切の反応を示さなかったのだ。
ポジティブ思考を禁ずる禁ポジの眼鏡にあるまじき現象である。
それが一体何を意味するのか知る由も無く、すやすや、すやすやと、布団の中の可符香は安らかな寝息を立てるのだった。
そして、翌日。
禁ポジの眼鏡によって可符香が受けるダメージを気遣って、ここ何日か望は『絶望したっ!!』と、いつものネガティブ思考をぶちまけないようにしていた。
しかし、高校時代にネガティ部に所属していた事を抜きにしても、望の性格の暗さは生まれついてのものである。
事ある毎に頭に浮かんでくる陰気な考えや未来への不安、世の中に対する絶望は消えてくれるものではない。
それでも、望はギリギリのところでそれをやり過ごし、何とか毎日を過ごしていた。
ただ、いつもなら何かと騒ぎを起こす望が沈黙している事で、どことなく2のへの教室から活気が失われてしまったようでもあったけれど……。
「こうなってみると、先生のネガティブ思考もウチのクラスには欠かせないものだったのかな、って思っちゃうわね……」
そんな沈んだ空気に引っ張られてか、千里の発言にもいつもの覇気がない。
「ははは、何を言ってるんですか。私は元からこういう明るい性格なんですよぉ」
「先生、痛々しいからやめて、ソレ……」
無理に明るく振舞ってみる望だが、奈美の突っ込んだ通り、今の彼の有様は無理がありすぎて痛々しいぐらいだ。
209 :
266:2009/04/17(金) 23:58:16 ID:aZ2I205s
正直、そろそろ限界だった。
自分の思いや考えを素直に口に出せないのは、やはりとてつもなく苦しい。
ついに、教壇の前でうなだれた望は”あの言葉”を呟いてしまう。
「ああ……絶望した……絶望しました……」
一瞬遅れて、望は今の自分の発言の意味を悟り、はっと顔を上げる。
しかし、時既に遅し。
望のいつもの言葉につられるように、可符香も反射的にポジティブ発言をしてしまう。
「いやだなぁ、痛々しくなんてないですよ。生徒のために頑張る先生の姿は、まさに理想の教師ですよ………って、あれ?」
「ん、どうしたんですか、風浦さん?」
発言の後、不意にきょとんとした表情を浮かべて眼鏡のツルに触る可符香に、望は問いかけた。
「いえ、今朝からちょっとおかしいんですよ。ポジティブ発言をしても、眼鏡が締め付けてくる時とそうでない時があるみたいなんです」
「ほう、それはまた不思議ですね……私のときはそんな事なかったんですが……」
禁ポジの眼鏡は途中で手を緩めてくれるような、そんな甘い道具ではない筈。
望も首を傾げるしかない。
「でも、痛いよりは痛くない方が良いですし、これはこれで……」
「そうですね、あなたが痛い目に遭わないのが一番ですよ」
望がホッとした表情を浮かべると、それを見た可符香も嬉しそうに微笑む。
そもそもが理解の及ばない呪いのアイテムに起こる出来事である。
これ以上は考えても仕方がないと、その後も授業はいつも通りに続けられていった。
そして、学校が放課後を迎えようとするその頃、校門の前に一人の男が現れた。
長髪と端正な顔立ちが印象的なその男は、学校の校舎を見上げながら呟く。
「そうか、ここがアイツの勤めている学校か……」
「う〜ん、部長はいつになったら連絡をくれるんでしょうか……もしかして、住所を間違えて書いたんじゃ…」
手紙を出してはみたものの、一向に連絡の無いかつてのネガティ部元部長。
一刻も早く可符香を禁ポジの眼鏡から解放したい望としては、一分一秒がじれったくてたまらない。
今日こそは手紙の返事が届いていないものか……。
「……って、電話番号とメールアドレスを知らせてあるのに、わざわざ郵便は使いませんよね……」
なんて、独り言を呟きながら、宿直室の扉をくぐった向こうにその人物はいた。
「よう、久しぶりだな」
瞬間、望の全身が固まった。
「相変わらず後ろ向きに過ごしているようだな。流石は我が部きっての逸材だ」
「な、な、なぁ………!!?」
そこにいたのは、他でもない望の待ち人。
「部長っ!!!」
「お、その呼び名も懐かしいな……」
ネガティ部元部長その人が宿直室の畳の上にどっかりと座っていたのだ。
「どうしてここにいるんですか?」
「どうしてって、お前、俺に用があるんだろ?」
「確かにそうでしたけど、それならそうと前もって連絡ぐらいしてくださいよっ!!!」
ネガティブ・マイナス思考を信条とするネガティ部の部長としては不釣合いなぐらいの
奇妙な自信に溢れるその態度は望の知る学生時代の部長となんら変わりが無いように見える。
「ああ、そうだ。せっかく部長が来たんだから、風浦さんも呼ばないと…」
突然の訪問に驚きながらも、望は携帯電話を取り出して可符香宛に『宿直室に来るように』とメールを送る。
一方の元部長はそんな望を横目に見ながら、霧が出してくれたお茶なんぞを悠々とすすっている。
「あ、これ、お茶菓子です……」
「ああ、ありがとう……しかし、糸色、お前も相変わらずのようだな…」
「はいはい、ネガティ部で鍛えられたお陰で、私は相も変らずの後ろ向き人間ですよっ!!」
「そうか、それは結構……ああ、そうだ、お前の手紙を読んで早速用意してきたぞ」
そう言って、元部長は鞄の中からなにやら小さなプラスチックの箱を取り出して望に渡す。
その中に入っていたのは……
「何ですか、これ……?」
「何って、ドライバー」
それは小さなネジなんかを扱うための精密ドライバーだった。
210 :
266:2009/04/17(金) 23:58:56 ID:aZ2I205s
「だから、どうして、ドライバーなんか渡すんですか!?」
「だって、必要なんだろ?」
「何に必要なんです!?」
「禁ポジの眼鏡、外れなくて困ってるって書いてあったじゃないか」
その言葉に、望はしばし呆然。
「…………あの、だから、私はどうやっても外れないあの禁ポジの眼鏡をですね…」
「ああ、外すためにはこれが必要なんだ」
再びの沈黙。
頭を抱えながらも、望は元部長に問いかける。
「どういう事なんですか?」
「どうもこうも、眼鏡を分解するんだよ」
「でも、あの眼鏡は絶対に外れない筈じゃ……」
「外れないとは言ったが、分解できないとは言っていないぞ」
もはや望はぐうの音も出ない。
ここ数日、そして高校時代に望を苦しめ続けていたあの禁ポジの眼鏡への対処法がこんな簡単なものだったなんて……。
「それじゃあ、電話で教えてくれても良かったじゃないですか……」
「電話は駄目だ。盗聴の恐れがある」
「手紙は?」
「当局の検閲を避ける為には当然の措置だ」
がっくりと体中の力が抜けた望は、その場にへたり込む。
「そんな……ここ数日の私や風浦さんの苦しみは……」
「ネガティブを学ぶ良い機会になったんじゃないか?」
「……あの眼鏡さえなければ…私の高校時代だってもっと明るく……」
「それは無理だ。お前には後ろ向きの才能が満ち溢れている」
楽しそうに答える元部長の言葉に望はすっかり打ちのめされてしまった。
深いため息を吐き出しながら、望は力なく呟く。
「はぁ……それでも、まあ、風浦さんがあの眼鏡から解放されるなら……禁ポジの眼鏡の調子もおかしいみたいですし、これでもう解決ですね」
だが、その望の言葉を聞いた瞬間、元部長の表情がさっと曇った。
「お前、今何て言った?」
「はい?だから、これでもう解決だって……」
「その前だ。禁ポジの眼鏡の調子がおかしいって、どうおかしいって言うんだ?」
いつにない元部長の真剣な表情に、望の緊張も一気に高まる。
望は今日の授業中にあった出来事、禁ポジの眼鏡が可符香のポジティブ発言に反応しなくなり始めている事を元部長に説明した。
一通り望の話を聞いてから、元部長は重々しい口調で呟く。
「それはマズイ……マズイぞ……」
眉根を寄せ、険しい表情を浮かべる元部長の言葉に、望は胸の中で得体の知れない不安感が広がっていくのを感じていた。
何となく、気分が浮かない。
可符香は学校の近くの公園のベンチに座りながら、何をするでもなく曇り空を眺めていた。
先ほど、望から宿直室に来るようにとのメールがあったが、どうにも腰が重くて立ち上がれない。
今日は禁ポジの眼鏡の発動率もだいたい30パーセント以下で、昨日までに比べると随分穏やかな一日だったのに……。
「はぁ……って、こんな暗い顔してちゃいけない。もっと前向きにしていないと」
なんて呟いてみるが、なんだか空しいばかりだ。
というか、これもポジティブな発言の筈なのに、禁ポジの眼鏡はまたも沈黙したままだ。
眼鏡の呪いも薄れて、悪い事なんて何も無い筈なのだけれど……。
「ううん……私、どうしちゃったのかな?」
彼女の心は依然、あの空を覆う雲と同じ鉛色だ。
暗く淀んだ気分は、それにふさわしい思考を呼び寄せる。
いつしか彼女の頭の中に、昨夜、ベッドの中で浮かんだ疑問が蘇る。
やっぱり眼鏡は外れないのではないか?
自分はその現実を見ない振りをして、偽者のポジティブ思考にすがっているのではないか?
可符香の脳裏に、禁ポジの眼鏡に捕らわれたまま年を経た未来の自分の姿が浮かぶ。
その陰鬱な表情に、彼女はブルリと身震いする。
211 :
266:2009/04/17(金) 23:59:52 ID:aZ2I205s
だが、しかし………。
(もしかして、そっちの方が本当の私なんじゃないかな……)
幼い頃から、様々な苦難を経験してきた彼女。
その中で行き抜く内に、彼女の性格の柱となるポジティブ思考を身につけたのだけれど……。
(だけど、それは誤魔化しじゃないのかな……現実から目をそらす為の言い訳を、ポジティブだと言い張っているだけじゃないかな…)
以前から、自分にそういった面がある事には気付いていた。
だが、彼女はこれまでそれと正面から向き合う事はなかった。
しかし、心にぽっかりと開いたその暗く深い穴は、もしかしたら彼女が考える以上に大きくて、既に自分はその中に飲み込まれているのではないだろうか?
(駄目だ……こんな事ばっかり考えてちゃ…前向きに…ポジティブに……)
際限なく湧き上がる不安を振り払おうと、彼女は自分に言い聞かせる。
しかし、そこで彼女は気付いてしまう。
今朝から禁ポジの眼鏡に起こっていた異変の正体と、自分の心の闇との関係に思い至ってしまう。
(禁ポジの眼鏡はポジティブ思考・発言に反応して頭を締め付ける眼鏡………それなら、今の私にそれが起こらないのは……)
可符香の顔が青ざめていく。
そう考えれば全ての辻褄が合うのだ。
例えば、今日の授業での彼女の発言、可符香のためにネガティブ発言を封じていた望を見て言った言葉。
『いやだなぁ、痛々しくなんてないですよ』
あの時、彼女は本当は、自分の為に無理をする望の姿を見るのが辛かったのではないか。
それをポジティブ発言で誤魔化そうとしていたのを、禁ポジの眼鏡は見抜いていたのではないか。
あの時だけではない。
その場をやり過ごし、現実に蓋をするだけの可符香の言葉の本質を、この眼鏡は冷徹に見抜いていたのではないか。
「そんな……いやだなぁ……そんなことあるわけ……」
体がガタガタと震える。
そんな事は当の昔に知っていた。
自分の中に潜む欺瞞ぐらい、承知でこれまでの人生を生きてきた。
それがどうして、今になってこんなにも残酷な形で目の前に突きつけられなければならないのだろう。
「ちがう……ちがう………」
可符香は震えながら、前向きな言葉を、ポジティブな発言を口にする。
すがるように、祈るように、何度も何度も………。
「…そんな……私は………」
だが、今にも泣き崩れそうな彼女の意思に反して、禁ポジの眼鏡はひたすらに沈黙を守るのだった。
「禁ポジ眼鏡はポジティブ思考に反応して着用者の頭を締め付けるが、そのトリガーになるのは言葉だ」
ゆっくりと語り始めた元部長の言葉に、望は息を呑んで耳を傾ける。
「着用者の発言から類推して、禁ポジの眼鏡はポジティブ思考を判別している」
「それは、覚えがあります。あの頃は、油断する度にキリキリと頭を締め付けられて……」
「だが、この仕組みには問題があるんだ。わかるか、糸色……?」
「問題って……そうか、もしかして……」
言葉によってポジティブ・ネガティブの判定をする。
そのシステムにはどうしても限界が存在した。
何故なら、言葉は使う人間によって、同じ発言でもニュアンスやそこに込められた意味合いが大きく変わってしまうからだ。
例えば、病気の人間が『きっと元気になってみせる』と言ったとしても、その真意は人それぞれだ。
心の底から自分の回復を信じて言ったのかもしれないし、本当はもう治らないと思っている人間が、強がりの空元気を言っているだけかもしれない。
「だから、禁ポジの眼鏡には学習能力があるんだ」
着用者の発言の積み重ねの中から、どの言葉が、どんな意図で使われているのかを類推する能力を禁ポジの眼鏡は持っている。
「だとしたら、禁ポジの眼鏡が風浦さんの発言に反応しなかったのは……」
「おそらく、それをポジティブな発言と認めなかったからなんだろうな………」
まさか、そんなカラクリがあったとは……。
望は袴の膝をぎゅっと握り締める。
可符香は頭のいい少女だ。
禁ポジの眼鏡のこの仕組みに気付いてしまう可能性は高い。
いや、もしかしたら、もう既に彼女は……。
「だから、禁ポジの眼鏡は時として、着用者の心の裏側を暴いてしまう。絶え間ない自問自答の果てに心を病んでしまう事もある。
お前にアレを渡したのは、お前ならあの眼鏡とも上手くやっていくと思ったからだ」
「そう……だったんですか……」
「その生徒、もしかして何やら込み入った過去を持ってるんじゃないか?だとしたら、マズイぞ……」
そこで望は思い出す。
そういえば、随分前にメールを送ったのに、可符香からは返事もなければ、宿直室にやって来る様子も無い。
212 :
266:2009/04/18(土) 00:01:35 ID:8OMeS3VR
望はちゃぶ台の上に置いていた精密ドライバーを片手に、ガバリと立ち上がる。
「すみません。部長、彼女を探して来ます……」
「なんなら手伝うが……?」
「お願いします」
そして、望は宿直室からまっしぐらに飛び出していく。
風浦可符香、彼女は何かと色んな問題を自分一人で抱え込んでしまう少女だった。
いつもの溌剌としたポジティブぶりや、時にとてつもない悪戯をたくらむその姿の裏に隠れているのは、繊細で傷つきやすいガラスのような心だ。
(風浦さん……待っていてください……っ!!)
湧き上がる不安をかき消すように、望はただひたすらに走る。
空からは、一滴、また一滴と、小さな雨粒が降り始めていた。
望が宿直室を飛び出してから散々走り回った挙句、ようやくその少女の姿をとある公園に見つけた時には雨はほとんどドシャ降りに近くなっていた。
声もなくうずくまる小さな背中に、望はどう言葉を掛けていいかわからない。
ただ無言のまま、ゆっくりと彼女の背後に近付いていく。
「風浦さん……」
一体、この雨の中、彼女はどれほどの時間をこの寂しいベンチで過ごしたのだろうか。
ずぶ濡れの服や髪、華奢な体は芯まで冷え切っているに違いない。
それでも僅かな体の震え一つ、身動き一つ見せようとしないのは、禁ポジの眼鏡が暴き出した心の闇が彼女を疲弊させてしまった為なのか。
「すみません……全て私の不注意です………あなたにこんな思いをさせてしまうなんて……」
「いやだなぁ…先生……そんなの…全然大した事じゃないですよ……」
望の言葉に答えた彼女の声はかすかに震えて、それでも明るい口調を維持しようと精一杯に強がっているように感じられた。
「これで良かったんです。いつかは向き合わなきゃいけない現実を、この眼鏡が教えてくれたんです……」
「ですが……」
「本当は気付いていたのに、見ない振りをしていた。ずっと目を背けて、そうやってやり過ごそうとしていた……」
確かにそれは事実なのだろう。
だが、それはもっとゆっくりとした時の流れの中で、彼女自身のペースで向き合うべきものであった筈だ。
出来得るならば、望も彼女の隣で、それを分かち合い、共に涙を流して、乗り越えていくべきものだった筈なのだ。
こんな、彼女の心を抉り、削り取るような形で終わってしまって良い筈がないのだ。
後悔にぐっと奥歯を噛み締める望。
だが、彼は気付いていなかった。
先ほどから耳に届く彼女の、風浦可符香の声音の中には単なる悲嘆や絶望の色だけではない、他の何かが混ざっている事に……。
「とにかく、まずはその眼鏡を外しましょう……そんな物はあなたには必要ない……」
「いやだなぁ、先生、さっきから心配しすぎですよ……」
「もう無理はしないでいいんです。だから、さあ早く………」
望が差し伸べた手の平に、可符香の手がそっと重なる。
そして、雨の中、ずっとうずくまっていた彼女がくるり、振り返った。
その瞬間、望は息を呑んだ。
「ホント、先生は心配性なんですね……」
振り返った彼女の瞳は涙で真っ赤になっていた。
だけど、その口元に浮かんだ微笑には、今まで望が見たこともないような力が滲み出ていた。
泣き濡れて、泣き続けて、だけどその果てに何かを掴んだ、そんな決然とした表情で、可符香は望に微笑みかけていた。
「私はもう大丈夫、大丈夫ですから…先生……」
「風浦さん……あなたは……」
「だって……私は……」
そして、彼女はその言葉を紡ぐ。
万感の思いを込めた、真実の言葉を望に伝える。
「私は…先生が好きだから………」
それこそが、今の彼女の笑顔の意味だ。
213 :
266:2009/04/18(土) 00:02:10 ID:8OMeS3VR
「この眼鏡のせいで自分の事とか色々、わからなくなったりもしたけれど……でも、もう大丈夫なんです…」
禁ポジの眼鏡は彼女のポジティブ思考を否定した。
足元の地面が崩れていくような不安の中、彼女は必死にすがるべきものを探した。
自分にとって何よりも確かなものを求めて、暗闇の中に無我夢中で手を伸ばした。
そして、見つけたのだ。
どんな時も揺らぐ事のない彼女だけの真実を。
誰に何と言われようと変わらない、彼女だけのポジティブを。
「私は先生が好き。この気持ちがある限り、私は前を向いていられる。この気持ちがある限り、禁ポジの眼鏡がどう反応しようと、
私の心はポジティブなんです……って、あいたたたた……どうやら、この件については禁ポジの眼鏡もポジティブだって判断したみたいです…」
そう言って笑う彼女の、風浦可符香の笑顔は間違いなく輝かしかった。
(どうやら、私はとんだ思い違いをしていたみたいですね……)
いつも、どこか不安定で、気を抜くとどこかに消えてしまいそうな彼女を、望はずっと気に掛けてきた。
だけど、人は変わる。
前に進む。
それは彼女とて例外ではなかったのだ。
(彼女の事を想っていたつもりで、こんな大事な所で見誤るなんて……まったく私は……)
苦笑しながらも、望の胸には嬉しさが一杯に溢れかえる。
苦悩しながらも、精一杯の答を見つけた彼女に応えるべく、望は雨でずぶ濡れの可符香に手を伸ばし、
「私も貴方が好きです。大好きです、風浦さん……」
ぎゅっと抱きしめて、耳元で囁いた。
雨脚は多少和らいだものの、まだまだ本降りと言っていい空模様。
だけどそんな事はお構いなしに、望は可符香を抱きしめ続ける。
「あ、それから風浦さん……禁ポジの眼鏡を外せる算段がついた今だから言うんですが……」
「ふぇ?何ですか、先生?」
「………何というか…すごく似合ってます、眼鏡……可愛いです、グッときます…」
望のその言葉に、可符香は満面の笑顔を浮かべて、ぎゅっと望の体を抱き返した。
そして、公園の入り口では
「まさか教師と生徒とは、アイツもやるなぁ……」
二人の様子を眺めながら、ネガティ部元部長が呟く。
正直、あれほど幸せそうな糸色望の顔を、彼は今まで見た事がなかった。
そして、件の少女もまた、同じくらいに幸せそうに見える。
「ネガティ部OBとしては、こういう時でも最悪の事態を考えるべきなんだろうが……」
だが、いくら考えを巡らせても、今の二人の笑顔を曇らせる事が出来る気がしない。
最悪の事態を想定して、想定し尽くして、だけでもその果てでも、あの二人なら笑っていられる気がする。
きっと幸せでいられる気がする。
どんな後ろ向きな考えも、ネガティブ思考でも揺らがない物がきっと二人の間にはある。
「全く、ネガティ部元部長が形無しだな……」
もう一度呟いた時には、元部長の口元にも、嬉しそうな微笑が浮かんでいたのだった。
214 :
266:2009/04/18(土) 00:04:30 ID:aZ2I205s
これでお終いです。
文章中、ネガティ部の元部長とされているのはODAで子安ボイスだったあの人です。
スタッフロールではネガティ部部員Aなんですが、なんか一番リーダーぽかったので、一応そういう想定で書きました。
それでは、失礼いたします。
GJ!
眼鏡可符香いいですね
ぐっじょぶ
呪・絶望先生3期決定。
タイトルは「懺・さよなら絶望先生」
これでまたこのスレに人が少しは増えるかな?
不思議なことに2期はあれだけ期待したんだが、なんかアニメはおなか
いっぱいになってしまって3期はそれほど楽しみじゃない俺がいる。
いや、観るのは間違いないですけどね、もうなんか感想とか予想が付く
感じ。
久しぶりに来てみたら良作が増えてて自分も書きたくなったんだけど
改変コピペの作品でもいいんだよね?
昔アニキャラ板の芽留スレで書いたのと
今書いたのがあるけど
どっちを先に載せたらいい?
どっちもどんなのか知らないし聞かれても分かりませーん
それもそうか
変なこと聞いて悪かったね
昔のから載せるね
ある日、俺は家に帰る途中に妙な違和感を感じていた。
道行く人がたまに俺のほうを見てびっくりするあたり、顔色が非常によろしくないのかもしれない。
こういうときは酒を飲んで早く寝るに限る。
コンビニで引きつった顔の店員から酒を買い、その日は10時前には寝た。翌朝、しっかり寝たはずだが違和感は消えていない。
朝の準備を済ませた後でふと昨日は携帯を朝かばんに入れたっきりで、一度も出さずに寝てしまったことを思い出しあわててチェックしてみた。
・・・・・・・新着メールあり9件、しまった、誰か俺に用事でもあったのか、とりあえず読まなければ
めるめる(今お前の後ろにいるぞ)
めるめる(さっきからお前の後ろにいるぞ)
めるめる(お前の後ろにいるんだけどー、もしもーし)
めるめる(もしもーし、いい加減気づけよ)
めるめる(芽留です・・・怨んだ人が鈍すぎるとです・・・芽留です・・・)
めるめる(うー、一日一回くらいは後ろ見るもんだろ普通!)
めるめる(おい、あのハゲ親父とかめっちゃこっち見てるぞ)
めるめる(な、なんでうつ伏せで寝るんだよ!いいかげんこっちみろよ・・・)
めるめる(えぅ・・・ぐすん・・・・このメールに気づいてからでいいので後ろみてください)
俺は背後の気配を確認すると、振り向かないで家を出て大学へ向かった。
その日俺の背後には、半べそかきながら後ろをついてくる少女がいたらしい
ルール違反してすみませんでした
来たのが久しぶり過ぎて忘れてました
ごめんなさい
1日ほったらかしにしてしまって
本当に申し訳なかったです
次のも出します
汚い芽留を見つけたので虐待することにした。
他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事にする。
嫌がる芽留の衣服を脱がし
自動で水に濡らす機械に薬品と一緒に入れてスイッチを押す。
その後風呂場に連れ込みお湯攻め。
充分お湯をかけた後は薬品を体中に塗りたくりゴシゴシする。
薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め。
お湯攻めの後は布でゴシゴシと体をこする。
風呂場での攻めの後は、大きめのTシャツを着せ、頭髪にくまなく熱風をかける。
その後に、乾燥した不味そうな塊をお湯でふやかしたモノを3分焦らしてから食わせる。
そして俺はとてもじゃないが飲めない白い体液を飲ませる。
もちろん、噴出する所から直にだ。
その後は突起が付いた棒を振動させて
芽留の性的本能を著しく刺激させ、体力を消耗させる。
ぐったりとした芽留を質素なベッドに寝かせ
寝るまで監視した後に就寝。
これで終わりです
ルールも守れないゴミのせいで
1日スレが滞ってしまって本当に申し訳ありませんでした
スレが滞ったのは君のせいじゃないと思うよ最近いつもこんな感じだし
スルーするという厳しさを見た
久藤は誰と付き合うんだろうか
三期でにぎわうといいなあ
もう追い出すなよ
他スレに久米田関連のSSを書いた奴はそのスレから追い出す
そうするとよいよ
235 :
199:2009/04/28(火) 00:15:19 ID:qNklaKlY
お久しぶりです。夢日記の回で電波を受信したのでそろっと投下。
・望×可符香。女子大生アリ
・とりあえず今回の投下分はエロ無し
それではさわりだけお邪魔します。
春眠、暁を覚えず。
そんな言葉に真っ向から立ち向かうかのごとく、ここ数日まともに睡眠を取っていない青年が1人、とぼとぼと廊下を歩く。
「はぁ〜……」
髪もすっかり白くなり、目の下にはどす黒い隈を作った糸色望の口から大きなため息が漏れた。
うっかり眠って夢を見てしまえば、千里の差し出してくる夢日記から逃れるわけにもいかず。
そしてそれを書いてしまえば、後はそれを夢分析という名のおもちゃにされることは想像に難くなく。
結局元を断つ、つまり眠らないことでどうにかこうにか夢日記から逃れている毎日である。
「……しかし、これはさすがに……」
辛い。
疲労が抜けない一方、眠ってはいけないという緊張感と眠ってしまったらという不安感だけが増大していく日々。
最近は食欲もなんだかなくなってきたような気がするし、頭もじんじんと痛むような気がする。
考えたら、睡眠というのは人間の生活にかかせないサイクルなわけで、それをなくすというのはもちろん
健康にも宜しくないわけで。
「死んだらどーするっ!?」
「嫌だなぁ、それこそ夢見る心配もなく好きなだけ眠りたい放題じゃないですかぁ」
「あぁ、なるほど」
思考力の薄れた頭がうっかり納得しかけて――
「いやそれ違いますから!目覚められない眠りはいりませんから!」
慌てて突っ込む相手は、一体何時の間に現れたのか、目の前でにこにこと微笑む少女――風浦可符香。
「先生、だいぶお疲れですね」
「寝不足なんです」
いつもどおり明るく笑顔で話しかけてくる可符香に、仏頂面で答える望。そんな望を見上げて、可符香がニャマリと微笑む。
「そんな先生に、素敵なプレゼントがあります」
「はぁ」
風浦可符香。2のへ組きってのポジティブ娘。人を掌の上で転がすこと、心の隙間に入り込むことが誰より得意な少女。
そんな彼女が笑顔で渡そうという『ぷれぜんと』とやらに思わず一歩引いてしまうが、その隙間を埋めるようにすっと
可符香が一歩近付いて、
「はい」
と『ぷれぜんと』を手渡してくる。
「……何ですか、これは」
「あいぽっ「固有名詞は言わなくて結構ですからっ!いろいろと面倒になりますからっ!!」」
別にネズミの国じゃないんですから大丈夫ですよぉ、等とあっけらかんと言ってくる可符香を見て
手渡された『ぷれぜんと』を見て、再び視線を可符香に戻す。
「そうではなくて、どうしてこれが『素敵なプレゼント』なんですか?」
望が首を傾げながら尋ねると、可符香はぴっと人差し指を一本立てて、顔の前で振って見せた。
「睡眠学習ですよ、先生」
「睡眠学習?」
あーそんなものも一昔前に流行ったような流行らなかったような、雑誌の裏表紙に広告が載ったような載らなかったような。
ぼうっとした頭でそんなことを考えていると、可符香が今度は人差し指をこちらの顔に突きつけてくる。
「先生、夢日記を書きたくなくて眠らないんでしょう?だから、これを聞きながら眠って夢の中で勉強するんですよ。
そうすれば勉強した内容をそのまま日記に書けばいいんですから」
「なるほど!」
ぱあ、と望の表情が輝く。それを見てにっこりと笑う可符香。
「あ、先生用にもう中に現代文の朗読を入れておきましたから。これでぐっすり眠っても現代文の夢しか見ませんね」
「それはわざわざありがとうございます!貴女のおかげで久しぶりにちゃんとした睡眠がとれそうですよ!」
「嫌だなぁ、困った時はお互い様ですよ、先生」
笑顔で言うと、あ、とわざとらしく声をあげる。
「今日スーパーの特売日なんでした、もう帰らなきゃ」
「ええ、気をつけて帰ってくださいね」
ありがとうございました、と最後にもう一度頭を下げる。はーい、という軽い返事と共に少女がくるりと身を翻して駆け出し――
思い出したように振り返って手を振ってきた。
「せんせーい、お休みなさーい」
「はい……さようなら、風浦さん」
下校の挨拶にお休みなさいはないだろう、と苦笑しながら手を振り返す。えへへと笑って「さようならー」と言い直して
駆けて行く後姿を見ながら、可符香がくれた『プレゼント』をそっと握り直した。
「……ありがとうございます、風浦さん」
今夜は、ぐっすり眠っても大丈夫。
自分でも不思議な位に、心が軽くなっていた。
* * * * * * * *
「絶望したあぁぁぁぁーっ!!」
そう、あれほど心が軽くなっていたというのに。
可符香から貰った『ぷれぜんと』をつけて少女本人の声による朗読を聴きながら眠った結果、望は夢の中で全力で頭を抱えていた。
その抱えた頭からひょこんと覗く、黒い柔らかそうな三角形の耳。
体の後ろで現在の精神の不安定さを表すかのごとく、ぱったんぱったんと大きく揺れる尻尾。
――風浦可符香。2のへ組きってのポジティブ娘。人を掌の上で転がすこと、心の隙間に入り込むことが誰より得意な少女。
そんな彼女が用意した現代文は、よりにもよって――
「『吾輩は猫である』っていう時点でこういう夢になるぐらい、どうして気付かないんですか私は!
それにしても絶望した!中途半端に耳と尻尾だけくっつくご都合主義に絶望したあぁぁぁっ!!」
どうせならまるっと猫になってくれればいいものを、なんで半端に原型を残す。
なんでよりによって『吾輩は猫である』を選ぶ。同じ夏目漱石なら『こゝろ』とか『坊っちゃん』とか。
ああでも『こゝろ』はともかく、『坊っちゃん』は乱闘シーンがあったような。それに比べればマシかも知れない。
いやでも、それを言うなら『吾輩は猫である』の猫だって確か――
「でも、最終的に目が覚めて終わるんですからどれでも同じようなものじゃないですか?」
「そういう問題では――」
思考に割って入った落ち着いた声に反射的に反論しかけ、はっと振り返れば。
「特売だからって買い物し過ぎちゃいました。はい」
半分持ってくださいね、等と言いながら差し出されたスーパーのビニール袋を咄嗟に受け取ってしまってから、
呆然として呟く。
「……隣の、女子大生、さん?」
こちらの言葉に、一瞬きょとんとしてから吹き出す女子大生。
「嫌だ、もう、隣のだなんて」
何言ってるんですか、変ですよ、と口元に手を当ててくすくす笑う彼女の様子にうろたえる。何がなんだか分からない。
「あの、え?どうなってるんです、これ?」
「もう、本当にどうしちゃったんですか?」
助けを求めるような望の様子に、女子大生が苦笑しながら望の手をとった。驚きに尻尾の毛がぶわと逆立つ。
そのまま、そっと握られる。ひんやりとした柔らかい手。
「あなた、自分の飼い主のことも忘れちゃったんですか?」
ヤバイ。この夢ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
この夢ヤバイ。
しかし先程から必死に起きろ起きろと念じているのだが、久しぶりに入った睡眠からどうも抜け出せる気配がしない。
それがまたヤバイ。この夢ヤバイ。大事なことなので2回言ってしまうくらいヤバイ。
「起きろ起きろ目を覚ませ目を覚ませ……」
女子大生に手を引かれるまま連れてこられてしまった自宅――時代背景相応に古めかしい、糸色本家を思わせる家屋だった――の
一室でごんごんとちゃぶ台に頭を打ちつけながら呻くのだが、一向に効き目がないのである。
まぁ、考えてみれば夢の中でいくら頭を打とうが、眠気覚ましになるはずもない。
「ああもう、本当に……」
諦めてちゃぶ台にぐったりとうつ伏せて深々とため息をつく。へにゃりとしてしまう猫耳と尻尾の感覚に気持ちが
二段底に落ちていくのを自覚しながら、「ああもう」と繰り返した。
「絶望した……原作通りから外れていく展開の行く末に絶望した……っ!?」
突如走ったくすぐったいようなむずがゆいような感覚に飛び起きると、何時の間にかすぐ傍で
尻尾をこちょこちょとくすぐる女子大生の姿。
「ちょ、や、やめてくださいっ!!」
「あ、元気になりました?」
間近で顔を覗きこまれて耳がぴんと立った。どこか幼さの残る綺麗な顔が、心配そうに微笑む。
「何だか帰ってきてから元気がなかったんですもの。病気かと思ったんですけど違うみたいですね。良かった」
言葉の途中から小さな手がそっと伸ばされて望の頭を撫でる。時折掌が耳に触れてだいぶくすぐったい。
あわわと慌てながらも母親が子供を慈しむようなその仕草を振り払うわけにもいかず、
座り込んだまま大人しく撫でられながらこっそりと深呼吸をした。
(彼女からしてみたら、ただのペットを撫でているだけなんでしょうけどね……)
そう、彼女からしてみたら自分はただの飼い猫なわけで。
――そりゃあ姿格好は人間の男に耳と尻尾がついただけという、ある意味奇妙な(変態な、と言われても仕方ないかもしれない)
姿ではあるけれども、この夢の中の設定では自分はこの女子大生の飼い猫で、だからこそ彼女は自分の手を引いて
自宅まで連れて来てくれたり、自分のことを撫でてくれたり、こうやって自分を抱きしめて包んでくれるわけで――
――へ?
「どこか痛いのか、苦しいのかって、心配しました」
髪を撫でる手はそのままに、自分の背に回されたもう1つの小さな手。
額にそっと押し付けられる華奢な肩。柔らかな毛に包まれた耳に直接かかる吐息。
母親が子供を慈しむような、女が男を甘やかすような。
「お願いですから、あんまり心配させないでくださいね?」
優しく言い聞かせるように耳元で囁かれる声に、頭の芯がじぃんと痺れる。
ぱたん、ぱたんと自分の尻尾が畳を叩く音がした。
――いやいやいや!マジでヤバイですって!ちょっとこの夢はガイドラインとか抜きでマジでヤバイですって!!
「っじ、っじょっ、じょしっ、女子大生さんあのちょっとぉっ!」
「はい?」
必死でもがいてその腕の中から逃げ出せば、きょとんとした表情で小首を傾げられ。
「ああ、そうですよね」
にっこりと笑顔で納得される。
「お腹がすきましたよね。もうすぐ晩ご飯ですから、少しだけいい子にして待っていてくださいね」
そう言うと、状況についていけず硬直した望の頭を最後にもう一度ぽんぽんと撫でてさっさと立ち上がる女子大生。
鼻歌交じりで軽やかに部屋から出て行く後姿を見送って――彼女が完全に廊下の奥に消えてから、やっと体の力が抜ける。
「っはぁ〜……」
体中の酸素を全て吐き出してしまうようなため息をつくと、ばたりとそのままうつ伏せに倒れこんだ。
「何なんですか、これ……」
とりあえずどう考えても『吾輩は猫である』ではないと思う。夏目漱石に土下座でも何でもした方がいいと本気で思う。
何がどう話が捻じ曲がってこんな展開になってしまったのか、どこでどう間違ったのか――と考え始めた脳内に
不意に蘇った言葉は。
『フロイトの夢分析によると、大抵の夢が性的要求不満の現れとされているのよ』
「ち、違います断じて違います!そんな、私は別に、あの人のことをそんな目でなんてっ――!!」
見てない、と言えばもしかしたら嘘になるかも知れない。
しっかりしているようでどこか幻のような、まだ詳しいことは何一つ知らないのに
時折既視感にも似たものを感じさせるような、そんな人。
たまたま会った近所のスーパーから2人並んで帰る時。自宅の前でちょっとした立ち話をしている時。
ほんの少し手を伸ばせば触れられる距離だと、抱きしめられる距離だと、そんな考えがふと浮かんだこともある。
そんな『触れたい』『抱きしめたい』という、胸に秘めた好意から生まれたほんの小さな願いだって
突き詰めて考えれば性的要求不満に繋げられるだろう。
ただ、別に自分はそこまで突き詰めて考えたことは決してなかったし、彼女への好意だって結局胸に秘めたままだったし。
――何より、こんな夢を自分は望んでいない。
自分だけの都合だけで出来上がる夢の中で彼女といくら近付いても、最後には目覚めが待つ以上、虚しいだけである。
と言うか、夢の中で自分は『お隣さん』どころか『ペット』なのだ。近付くどころか明らかに現実よりもランクダウン。
それでも夢を実際に見てしまっている以上、どんなに否定してもこれは深層心理で望んでいたこと――なのだろうか。
「……絶望した……自分自身の浅ましさに絶望した……情けなさに絶望したぁ……」
寝っ転がったままうじうじといじけていると、ぱたぱたと軽い足音が聞こえてきて慌てて上体を起こす。
どう女子大生と顔を合わせればいいのか分からないが、だからと言っていつまでもすんすんとしていたら
また撫でられたり抱きしめられたりされかねない。それは困る。非常に困る。
(と、とにかく出来るだけ普段どおりに、普段どおりに……)
心の中で繰り返して、1つ大きく深呼吸。丁度息を吐ききるのと同時に声がかけられた。
「お待たせしましたー。晩ご飯ですよ」
「ああ、ありが――」
立ち上がりかけた体が、ひょこりと覗いた顔を見て固まる。
「……風浦さん?」
ある意味今の状況を作り上げた張本人とも言える少女が、いつもの制服の上にエプロンをつけて立っていた。
「え?貴女、何をしてるんです?あ、あの、ひょっとしてお知り合いだったんですか?」
僅かに首を傾げて少女がちょこちょことこちらに寄ってくると、いつもの笑顔で――ひょいと望の手をとった。
「先生、何の話をしてるんですか?」
「え?何のって、いえ、そもそも貴女はどうしてここに……」
「嫌だなぁ」
可符香の手が、そのまま望の手を握る。
「私はここで先生と暮らしてる、先生の飼い主さんじゃないですかぁ」
ひんやりとした、柔らかい手だった。
240 :
199:2009/04/28(火) 00:23:45 ID:qNklaKlY
続いてしまってごめんなさい。
猫耳と尻尾とか使いこなせない感でいっぱい。正直反省している。
おひさー相変わらず調子良いね
この調子で続けてくれたまえ
ずっと待ってましたぁああ
続きも待ってます
おもしれえええ
なかなか変わった展開ですね
続き楽しみに待ってます
244 :
266:2009/04/28(火) 20:31:29 ID:nQ4QcdHZ
書いてきました。
またしても望カフ、前回投下した
>>205-213のそのまた続きになります。
一応、今回はエロありです。
それでは、いってみます。
245 :
266:2009/04/28(火) 20:32:53 ID:nQ4QcdHZ
暖かな春の日差しに包まれた街の中を、長身痩躯の青年が歩いていく。
端正な顔立ちの口元に浮かぶのは、穏やかで優しげな微笑。
「いい日和ですねぇ、ほんの1,2ヶ月前が嘘みたいな上天気です」
「ホントですね、先生」
青年の言葉に答えたのは、前髪を可愛らしい髪留めで留めたショートカットの少女だった。
青年と少女、糸色望と風浦可符香は寄り添って休日の街の人通りの中を歩いていく。
「まさか、あなたに出会えるとは思いませんでしたよ、風浦さん。でも良かったんですか?私の予定に付き合わせてしまって……」
「それはもう、先生と一緒にいられるだけで楽しいですから……それに、私も本は大好きだし」
普段は自分の暮らす宿直室で甥っ子の交の相手をしたり、同じく宿直室で暮らしている霧の家事を手伝ったりして、
のんびりと休日を過ごす望だったが、今日は少し遠くまで足を延ばして古書店めぐりをする事にしていた。
そして、宿直室を出て少しのところで偶然に可符香と出くわし、そのまま彼女も同行する事になったのだ。
ふらりふらりと、気の向くままに古本屋をはしごして、いつの間にやら二人の両手は購入した本をいっぱいに入れた袋でふさがれてしまった。
「なるほど、ミステリがお好きなわけですね」
「はい。でも、先生は色々な本を読むんですね」
「雑食と言ってください。節操がないんですよ」
「ううん、もっと文学一辺倒だと思ってたんですけど………先生の執筆した原稿すべてに目を通した人間としては……」
「な!?ふ、ふ、ふ、風浦さん!?今、あなた何て言って……!!?」
「だから、この間、宿直室の押入れから出てきた先生の原稿やノート、全部読んじゃったんです」
「いやああああああああああああっ!!!!!!」
以前、宿直室の押入れの整理をした時に、望が若い頃から書き溜めていた小説の原稿やアイデアノートが発掘された事があった。
どうやら、可符香はそれを片っ端から読みつくしてしまったようである。
誰にとっても触れられたくない黒歴史、それを暴かれた恥ずかしさに望の顔は真っ赤になる。
「う……うぅ…禁ポジ眼鏡騒動ですっかり忘れてました…油断してました……」
「えへへ……でも、先生の小説、面白かったですよ」
「ほ、ほんとですかぁ?」
「はい!………でも、技術的な面も考慮に入れて点数をつけると大体60点ぐらいかな……」
「うわああああああんっ!!!採点がシビアですぅ!!!」
「好きな作家、作品に影響されるのはいいですが、少し直接的すぎですね」
「本当に容赦がないですぅうううううっ!!!!」
可符香の作品評がザクザクと胸に突き刺さり、望はほとんど半泣きの状態だ。
「まあまあ、技術的なところはこれからの精進次第ですよ、先生」
「私はもう筆を置いた身です。あなたの言う通り、正直作品にはキツイ部分も多いし……」
「でも、私は本当に好きですよ、先生の書く小説……」
「あんな暗くてジメジメした絶望ストーリーがですか?」
「暗くてジメジメしてて絶望的で………でも、優しいんですよ。先生の書く話って……」
ニッコリと、可符香が微笑む。
「信じれば夢は叶います。今から小説家になるのだってきっと無理じゃないですよ」
「正直、その辺の志はもうどうでも良いんですが……あなたに読んでもらうために何か書いてみるのも悪くないかもしれませんね……」
可符香の微笑に、望も嬉しそうに微笑み返す。
それから互いにもう少しだけ近くに体を寄せ合った二人は、そのまま街の通りを歩いていった。
一方、学校の宿直室では、いそいそと夕飯の準備などしながら、霧が考え事にふけっていた。
彼女の頭に浮かぶのは担任教師にして同居人である糸色望の事である。
「………最近、楽しそうだよね、先生………」
いつも間近で見てきた霧だからこそわかる、望の変化。
そして、その原因となったのはおそらく………
「可符香ちゃんとも…仲良いし………」
以前から何かにつけて行動を共にする事の多かった二人だが、ここ最近の二人は一層親密になった気がする。
いや、気がする、なんてものじゃない。
246 :
266:2009/04/28(火) 20:34:27 ID:nQ4QcdHZ
つい先日、ポジティブ思考を封じる禁ポジの眼鏡を可符香が誤ってつけてしまった時の事。
彼女の状態が考える以上に危険であると知った時の、望の血相を変えた表情を霧ははっきりと覚えている。
それを思い出すたびに、霧の胸の奥はギュッと締め付けられる。
望は優しい、霧はそれをよく知っている。
例えば、自分が可符香と同じ状況に陥ったなら、やはり必死に霧の事を案じて解決策を探そうとしてくれる筈だ。
だけど、あの時望が見せた表情はそれだけのものではないのだ。
あの時、側で見ていた霧には、身を引き裂かれるような望の心の痛みが伝わってくるようだった。
「………やっぱり、駄目なのかな……私じゃ、駄目なのかな………」
と、その時である。
ガラガラと宿直室の扉が開く音が聞こえてきた。
望が帰って来たのだろうか?
霧は夕飯の支度をする手を止めて、扉の方に顔を出す。
だが、そこで見たのは、彼女の予想もしないものだった。
「まとい……ちゃん?」
常月まといが、そこに立っていた。
望の姿はない。
いつも片時たりとも望の側を離れようとしない彼女が、たった一人でそこにいる。
「上がるけど……いい?」
「う、うん……」
霧はまといを宿直室に上げ、温かいお茶をだしてやる。
望を巡って普段対立の絶えないまといに対して霧がそこまでしたのは、俯いて覇気のない彼女の表情のせいだ。
「どうしたの?なんであなた一人なの?先生はどこに……」
「先生は………可符香ちゃんと一緒にいる……」
瞬間、霧は言葉を詰まらせる。
沈黙した霧に、まといは自分の見たものを語って聞かせた。
手を繋いだり、キスをしたりする訳ではない。
ただ、二人が一緒に古本屋を巡っているだけの話だ。
だけど、そんな二人の間に漂っていた、これ以上ないほどの親密な空気にまといは打ちのめされた。
二人が恋人同士として振舞っているのを見たとしても、これほどのショックはなかっただろう。
それでも諦めない、先生の事が好きなんだと、そう強く思う事ができただろう。
だけど、望と可符香の間にあった、まるでパズルのピースがぴったりとはまったようなあの親密な空気は、
二人の関係が何にも代える事の出来ないものであると示しているようで………。
「こんな事、初めてよ……私、どうしていいかわからなくなっちゃった……」
呟いて、ちゃぶ台に突っ伏したまといに、霧もかける言葉が見つからない。
(先生……可符香ちゃん……)
霧の頭の中を、言葉に出来ない思いがぐるぐると駆け巡る。
どこかで、今までのような日々がいつまでも続いていくのだと、霧はそう信じていたのかもしれない。
だけど、時はゆっくりと動き始めている。
これまでずっと見ない振りをしてきたものと直面しなければならない。
決断のときが、やって来たのだ。
古本屋めぐりを終えて帰途についた望と可符香の二人。
夕方近くになって、二人はそれぞれの帰る家への分かれ道の手前にいた。
「それじゃあ、ここでお別れですね、風浦さん……」
「はい、今日は楽しかったですよ、先生」
可符香のその言葉に、望は少しすまなそうな顔をして答える。
「そういえば……あなたにはあまり、恋人らしい事もしてあげられていませんね……」
互いに想いを通じ合わせた二人であったが、望の言う通り普通の恋人がするような事を行う機会には恵まれてこなかった。
望はそれを心苦しく想っていたのだが……
「でも、この間、一緒にチューリップ見に行ったじゃないですか」
「いや、その、あれは……なんというか、私の趣味に偏りすぎていて……」
それでも先日、二人は色とりどりのチューリップが広がる花畑を開放している農園に二人で行って、一日のんびりと過ごしてきたのだが
実はこのセレクト、望の趣味が如実に反映されていたのである。
「先生がああいうの好きだなんて知りませんでしたよ。一面のチューリップを見たときの先生の表情なんてもう……」
「うぅ……あの時の事は忘れてください………」
小さい頃は会う人会う人に女の子だろう、なんて言われていた望は、親戚の女の子やおばさん達に混じって遊ぶことも多く、多少、少女趣味なところがあった。
その辺が場所のセレクトに影響を与えたようだ。
247 :
266:2009/04/28(火) 20:36:16 ID:nQ4QcdHZ
「でも、あの時は私も楽しかったですよ」
「いえ、どうせなら行き先は二人で決められた方が良かったかな、と思いまして……」
なかなか可符香とじっくり話す機会が持てず、自分の独断で行き先を決めざるをえなかった事を望は後悔しているのだ。
だが、可符香はそんな望ににっこりと笑って
「いいじゃないですか……これからは一緒に決めれば問題ないですよ」
「………そうですね、これからそうしていけば、それで問題なしですよね」
そうだ。
ようやく想いが通じ合って、こうやって二人でいられるようになったのだ。
あれが出来なかった、これが出来なかったと悔やむより、それを未来に実現させていく事の方が建設的だ。
望と可符香は、どちらともなく体を寄せ合う。
「二人で一緒に色んな物を見ましょう、先生……」
「そうですね、二人一緒に………」
唇をそっと重ね合わせる二人。
だが、最後の瞬間、望が呟いた言葉が、二人の胸の奥底にほんの少しだけ引っかかった。
「二人一緒に……これからも、ずっと………」
ほんの少しの違和感。
ほんの小さな不安感。
何気ない言葉に、どうしてそんなモノを感じてしまうのか、望にも可符香にもわからなかった。
だから、二人はその事を顔には出さず、笑顔のままそれぞれの家路についた。
歩いている内に二人の頭からはその奇妙な感情の記憶は薄れていったが、
その時感じた小さなしこりのような違和感はいつまでも胸の奥に残り続けた。
いつもの教室、いつもの喧騒の中、望は授業を進める。
昨夜は買ったばかりの本につい夢中になってしまったため、寝不足の望は時折こっそりとあくびをかみ殺す。
(うう〜……社会人としてはちょっと駄目っぽいですねぇ……)
探し回っていた本をようやく手に入れた嬉しさと、その出来が期待以上のものであった事も夜更かしの原因ではあるが、
きちんと翌日の事を考えて行動しなかった自分に、望は後悔のため息を漏らす。
教科書をめくり、黒板に板書して、生徒達に問題を出して、その答えについて解説する。
2のへの生徒達は誰も彼もが一癖も二癖もある難物ぞろいだが、勉強への意識はそれなりに高い。
こうして淡々と授業を進めるのも、それはそれで充実した時間ではある。
(……というか、もしかして、私の存在が一番授業の妨げになっているんじゃないでしょうか……?)
なんて思いつつも、やはり授業がはかどるのは楽しいものだ。
眠気を堪えつつも授業を進める望の表情は明るい。
ふと見ると、一生懸命に板書を書き写す可符香の表情も活き活きとしている。
(そういえば、昨日も楽しかったですね……)
禁ポジの眼鏡にまつわる一連の騒動は、結果としては可符香の心にプラスに働いたようだ。
可符香がこれまで時折見せた不安定な部分も、ほんの少しではあるが落ち着いたように思える。
そして、望への想いをより確固たるものとした可符香を見て、望の可符香に対する気持ちも一層強くなったように思える。
だが、しかし
(でも……昨日のあれは何だったんでしょう?)
昨日、可符香との別れ際に不意に望の胸によぎった得体の知れない不安感。
昨夜の内はそれほど気にならなかったものが、今日になってから妙に心に引っかかってくる。
望と可符香、二人が互いを想う気持ちは確かで、もう何も不安に思う事などない筈なのに………。
(いけませんね……この手の事はいくら考えても埒が明きません。今は授業に集中しましょう)
不安を振り払い、再び授業に集中し始める望。
だが、その胸の奥で、心を苛む得体の知れない何かが着実に大きくなっていくのを、望は感じ続けていた。
授業が終わる。
「う〜ん」
伸びをして固まってしまった体をほぐしてから、可符香は自分の席から立ち上がった。
「昨日は、楽しかったな……」
望と一緒にいくつもの古書店を巡った休日。
とりとめもなく雑談を交わして、雑踏の中ではぐれないように二人寄り添って歩いた。
何か大した事をしたわけじゃない。
だけど、確実に充実した、満ち足りた一日だった。
それに加えて、実はそれなりに読書家でもある可符香には、以前から探していた書籍をいくつも購入できたのも嬉しい出来事だった。
同年代の少年少女達に比べると、豊富すぎるぐらいの知識を可符香は持っている。
だけども、世の中には彼女の知らない事もまだまだたくさん存在するのだ。
昨日、望につれられて訪ねた数多くの古書店もそうだ。
初めて訪ねた店の棚で出会った数多くの本達。
248 :
266:2009/04/28(火) 20:38:30 ID:nQ4QcdHZ
そうだ。
昨日までの自分は自分の読みたい本の在り処さえ知らなかったのだ。
まだまだ自分の知らないものも、場所も、いくらでもあるのだろう。
自分だけではない、先生が知らないものを、こちらから教えてあげられる事もあるかもしれない。
先生と一緒に、先生の隣で、色んな物を見て、色んな話をしたい。
少し前までは、そんな自分自身の気持ちに対してさえどこか臆病だった自分が、今ではこんな風に考える事ができる。
可符香にはそれがたまらなく嬉しかった。
「みんな、変わっていくんだ………」
呟いて、可符香は自分の唇に触れる。
昨日の別れ際のキスの感触を、今もこの唇は覚えている。
可符香が変わったように、望も変わった。
先日の禁ポジの眼鏡にまつわる騒動で、今までよりもずっとはっきりと自分の気持ちを望に伝えた。
それからだろうか。
これまで彼女を気遣うあまりにどこかおっかなびっくりだった望の可符香に対する態度にどこか安心したような様子が感じられるようになった。
信頼してもらえた、という事なのだろうか。
今までどこか不安定な部分のあった二人の関係が、少しずつ変化を見せようとしている。
寄り添って歩き始めた二人の気持ちが、未来を形作り始めている、そんな実感があった。
だけど………。
「昨日から……どうしちゃったんだろう、私……」
胸の奥に何か言葉では言い表せない淀みのようなものを感じる。
昨日、望との別れ際に一瞬感じたこの感覚が、どうしてこんなにも心を騒がせるのだろう。
つまらない事は気にしないように、そう何度自分に言い聞かせても気がつけばこの感覚に心を捕らわれている。
正体不明の不安感に駆られていた可符香はふと気がつく。
「あれ………どうして?」
それは、見慣れたクラスの面々の中、見慣れた顔がそこにいるだけの、どうという事もない出来事。
だけどそれは、同時にこの上もなく致命的な変化でもある。
授業を終えた望は教室を後にして、すでにここにはいない。
それなのに、どうして彼女がここにいるのか………
「まとい……ちゃん……?」
教室の片隅、誰にも気付かれることなく静かに佇む彼女の名前を、可符香はそっと呟く。
常に望の傍らにいて、片時も離れない筈の彼女がどうしてここにいるのか?
その時だった。
「えっ………!!?」
まといの顔がこちらを向いた。
いつもの彼女とは違う、どこか感情の感じられない瞳で、まっすぐに可符香を見据えてくる。
そして、可符香がどんな反応を返すべきか迷っている内に、まといは可符香から視線を逸らして、そのまま教室の外へと立ち去ってしまった。
残された可符香は、言葉もなくただ立ち尽くすしかできなかった。
それはほんの少しの、だけども致命的な変化。
可符香は変わった。
望も変わった。
それは二人にとって喜ばしい事だったのかもしれない。
だが、一つの変化は、そこからさらなる新しい変化を誘発せずにはおかない。
そして、その変化の流れがどこに向かうのかは、誰にも予想する事などできないのだ。
可符香と望の周りで、ゆっくり、ゆっくりと、何かが動き出そうとしていた。
授業が終わり、夕陽が西の空に沈み始めて、それまで学校で部活やら何やら色々な活動をしていた生徒達が徐々に帰宅し始める。
望も諸々の仕事を終えて、既に他の教師達の姿もまばらになり始めた職員室を後にする。
「休み明けのテストの採点も終わりましたし、しばらくはのんびりと出来そうですね」
大学受験や高校入試で何かと忙しかった時期も過ぎて、久しぶりに平穏な時間がやって来たようである。
仕事だけでなく、サーカスにまつわる出来事や禁ポジの眼鏡に関する騒動など、最近は私的にも慌しかった気がする。
だが、とりあえずはそれらも全て切り抜けて、当分は何事もない日々が続くだろう。
可符香と共に過ごす時間も、これからはもう少し多くとる事ができる筈だ。
「色々と、話したい事もありますからね……」
10年ほど前の突然の出会いと、同じくらいに突然に訪れた別れ。
望にも可符香にも積もる話は山ほどあった。
「それに、今度はどこに行くのか、風浦さんと一緒に決めるんでしたよね……」
可符香と共にある未来を心に描いて思わず浮き足立つ心に、望は少し苦笑する。
249 :
266:2009/04/28(火) 20:39:53 ID:nQ4QcdHZ
そんなに慌てずとも、今度は二人で足並みを揃えて一緒に歩いていくのだ。
二人の時間はどこまでも広がっている。
(どこまでも、ずっと、一緒に………いけませんね、またですか…)
そんな望の脳裏に、またあの得体の知れない不安感がよぎる。
(私は、一体何を恐れているのでしょうか?)
それはほんの微かなものであるが故に、その正体を探り当てる事ができない。
しかし、同時にそれは望の心の奥深くにしっかりと刻み込まれて、片時も消える事はない。
日常の騒がしさに紛れてその存在を忘れる事はあっても、それは決して消えてなくなったりはしないのだ。
さきほどまで高揚していた心に、冷や水を浴びせかけられたような気分だった。
「考えてもわからない事にいちいち気を取られているのも馬鹿らしいですね……今日はテレビでも見ながらのんびりしましょう」
気を取り直して、なるべく明るい調子でそう言った望だったが、胸の奥の不安は消えてくれない。
せめて、いつもの宿直室の賑わいがこの気分を紛らわせてくれないか。
望は足早に校舎の中を通り過ぎて、宿直室にたどり着く。
(大丈夫……こんな気分、すぐに忘れられますよ……)
そして、望は扉に手を掛け、愛しの我が家へ、いつも通りの日常が待つ筈の宿直室の中に踏み入る。
だが、そこで望が見たものは……
「な、なんですか……これは一体!?」
まだ茜色の空の光が差し込んでいる筈の窓が、何枚もの木の板と分厚いカーテンに閉ざされている。
部屋に明かりはなく、人の気配もない。
「小森さん!?…交!!」
いつもなら望を出迎えてくれる筈の引きこもり少女と甥っ子の名前を呼びながら、望は部屋の真ん中まで進む。
と、その時である。
ガラガラガラ、ピシャッ!!!!!
望の背後で勢いよく扉が閉まった。
さらに、ジャラジャラジャラッ!!と、鎖の音がけたたましく響いた。
そして最後に、ガチャッ!ガチャリッ!!ガチャガチャッ!!ガチャンッ!!!
いくつもの錠前が、南京錠が、鍵をかけられ閉ざされる音がした。
ゆっくりと望は振り返った。
「せんせい……」
そこにいたのは、先ほど望が名前を呼んで捜し求めた引きこもり少女。
彼女はいくつもの鍵を手に持ち、鎖と錠前でガッチリと閉ざされた扉の前に立っていた。
そのいつになく真剣な眼差しが、望の心を射抜く。
そして、彼女はゆっくりと口を開き、こう言った。
「先生、私といっしょに引きこもってくれるよね?」
夕暮れの街を、可符香は足早に歩いていく。
俯きがちなその表情は少しだけ暗い。
どうしても忘れられないのだ。
昼間に見た、まといの不可解な行動と、自分に向けられたあの眼差しの意味が……
「何か……あったのかな?」
考えられる事は、やはり望に関する何事かであろう。
以前は一年の間に何度となく恋愛感情を向ける相手が変わっていたまといが、今では一途に望の事だけを想っている。
彼女の他にも望に思いを寄せる女子生徒は数多くいる。
特にまといが望に向ける想いは強く純粋なものだ。
いずれは決着をつけなければならない現実である事はわかっていた。
だが、そうだとしても、彼女が望の元から離れた理由がわからない。
新しい恋愛対象を見つけた様子でもない。
一体、まといの心にどんな変化が生じたというのだろうか?
「先生に、相談してみた方がいいかな……?」
事態の中心人物であり、ある意味では2のへの中で最もまといと長く接してきた望ならば、彼女の思惑がわかるかもしれない。
そんな事を考えているうちに、気がつけば、可符香は自宅のアパートの近くにまでたどり着いていた。
いつの間にか夕陽は完全に沈んで、紫色の空に周囲の建物が黒いシルエットを浮かべている。
不意に吹き抜けた風の意外な冷たさに、可符香は身を縮め込ませる。
「……寒いな…」
そういえば、今日は春にしては比較的気温が低くなると天気予報で言っていた気もする。
可符香は足早に自宅の玄関に駆け寄り、鍵を取り出そうとして、ふと気がつく。
「あれ、開いてる……?」
普通ならば空き巣などを警戒すべき所だったが、可符香はついそのまま玄関のドアを開け放ってしまう。
250 :
266:2009/04/28(火) 20:41:09 ID:nQ4QcdHZ
決して広くはないアパートの一室ではあるが、夕方の薄暗さのためにそこに何がいるのか、誰が潜んでいるのかわからない。
「誰か、いるの………?」
可符香は薄闇に呼びかけながら、部屋の中に一歩足を踏み入れる。
その時、可符香は暗がりの中に、一瞬銀色の光が閃くのを見る。
「可符香ちゃん、私だよ……」
続いて聞こえてきたのは、2のへでの生活の中で散々耳に馴染んだ声……。
「まとい…ちゃん……」
常月まといが、そこに立っていた。
彼女はゆっくりと可符香の方に近付いてくる。
やがて、まといは可符香の2メートルほど手前、外からの弱弱しい光が差し込んでくる場所までやって来る。
そこで、可符香は気付く。
先ほど、闇の中に閃いた銀色の光の正体を……。
「まといちゃん、それ………!?」
彼女が手にしていたのは、一振りの出刃包丁。
可符香が自宅での料理に使用する、愛用の品だ。
そして、まといの手の平に握られた出刃包丁の、その鋭い切っ先はまっすぐに可符香の胸へと向けられていた。
「小森さん、これは一体どういう事なんです?」
「どうもこうもないよ……さっきも言った通り、私は先生と一緒に引きこもりたい。先生とずっと一緒にこの宿直室で過ごしたい、それだけだよ……」
霧の眼差しは真剣そのものだった。
彼女は、望の事を強く強く想っている。
その気持ちは、どこまでも純粋でまっすぐだ。
だが、しかし、だからといってこんな事をする理由がわからない。
部屋の窓を、扉を、外に通じる全てを閉ざして、彼女は一体どうしようというのだろうか?
「だって……こうしないと、先生、可符香ちゃんの所に行っちゃうでしょ?」
「…………っ!!?」
だが、次の一言で望は悟らざるを得なかった。
霧は、今、ここに自分の全てを懸けているのだ。
鎖と、鍵と、板で打ち付けられた窓、完全に閉ざされた二人だけの空間。
無茶苦茶なやり方である。
普通なら、相手の反感を買ってしまっても文句は言えないだろう。
だけど、確実に可符香に対して心動かされ始めてしまった望を引きとどめるには、これほどのパワーが必要なのだ。
霧の静かな眼差しが、望に語りかける。
嫌われてもいい。
どんな形でも構わない。
それでも、自分の側にいてほしいのだと………。
まっすぐと望を見つめる霧の瞳には、いつにない強い意思が込められているように思えた。
(いつかは、向き合わなければならない事だったんですよね……)
霧の眼差しに促されるように、望も覚悟を決める。
「小森さん、あなたの気持ちはわかりました……」
望はゆっくりと口を開く。
「そして、あなたも私の気持ちを知っている。なら、これぐらいじゃ、今の私を止められない事もわかるでしょう?」
霧は無言のまま、望の話に耳を傾けている。
「自分でも不思議なくらいですよ。私の中にこんなに強い想いがあっただなんて……
でも、それは今も確かに私の胸の奥で息づいているんです。風浦さんの存在が、深く深く刻み込まれているんです……」
それが、望の真摯な気持ちだった。
この可符香に対する思いがある限り、生半可に他の女性に触れる事は、結局その人物を傷つける事にしかならない。
それは、望自身には到底収める事が出来ないほどの熱く激しい想いなのだから………。
「うん、わかってる………」
対する霧も、その事は理解していた。
だけど、彼女もまた望への気持ちを留める事などできない。
だから、彼女は選択する。
今から自分が口にする言葉のその意味を考えてか、少しだけ辛そうな表情を見せて望に語りかける。
251 :
266:2009/04/28(火) 20:42:00 ID:nQ4QcdHZ
「わかってるよ、先生。先生の気持ちは、とてもよくわかってる…………でもね」
次に霧がその口から紡ぎ出した言葉に、望の全身が固まる。
「でもね……私は、いなくなったりしないよ。……可符香ちゃんみたいに、突然消えたりしない…」
驚愕に目を見開き、自分を見つめる望の眼差しに、霧は罪悪感を掻き立てられる。
(これは……すごく卑怯な言い方だよね……とても卑怯で、きっと許されない事……だけど…)
その情報は、まといから手に入れたものだった。
10年ほど前に、望と可符香が出会っていた時期があった事。
そして、突然に訪れた別れが、望の心に大きな傷を残した事……。
まといは、望についてのあらゆる事柄を調べる中で、その事実をおぼろげながらも探り当てた。
そして、二人が別れ別れになった因縁あるサーカスがやって来たのを切欠に、二人の距離がぐっと縮まった事から、確証を深めたのだ。
それは、とてもとても卑怯な手段だ。
望の心の古傷を抉り、動揺を誘って、その隙に付け入る。
だけど、霧はそれを全て承知で、この一手に懸けた。
(そうか……あの違和感、不安感の正体は……)
一方、望は霧の言葉から、昨日から胸の奥で燻っていた得体の知れない不安の正体を理解し始めていた。
望は、怖かったのだ。
確かに、今の望と可符香の心はこれ以上ないぐらいに近くに寄り添っている。
だけど、それでもいつ何が二人を引き裂いてしまうかわからない。
10年前のあの時だってそうだ。
二人は、互いが別れ別れになる運命に対して、何ひとつ抵抗する力を持っていなかった。
運命は、時に理不尽に襲い掛かってくる。
全てを破壊し、押し流す土砂流は、何の前触れもなく力ない人間からあらゆる物を奪い去ってしまう。
愛別離苦の言葉の通り、あらゆる別れは突然にやって来て、それに抗う手段など存在しないのだ。
望は、それを本能的に恐れていた。
10年前、一筋の涙を流して消えた少女の姿は、強烈なトラウマとなって望の心に刻み付けられた。
望は可符香を強く強く愛している。
愛しているが故に、それが恐ろしくてたまらないのだ。
「先生、私、悪い子だよね…卑怯な子だよね……でも、この学校の宿直室でなら、私はずっと先生と一緒にいてあげられる……」
己の中に潜む恐怖に気付いた望には、霧のその言葉はとても甘美な響きを持って耳に届いた。
魂に刻まれた恐怖を、霧の優しさに満ちた言葉が揺さぶる。
霧が一歩、また一歩と望の元へと歩み寄る。
「ねえ、先生、だから私と……ずっと、私と一緒にいて……」
望の手の平に、霧の柔らかな指先がそっと触れる。
そして、10年前のトラウマと、可符香への愛の狭間で揺らぐ望は…………
薄闇の中で輝く銀の刃を、まといは逆手に持ち替える。
その切っ先が向かう方向は、可符香の胸から180度反転して、まとい自身に向けられる。
「まといちゃんっ!!!」
自分自身に刃を向けるまとい。
その姿を見て、思わず可符香は叫んだ。
「ごめんね、可符香ちゃん………」
ぽつり、呟いたまといの声は思いのほか穏やかで、だけど、どうしようもないくらいの悲しみを湛えていた。
「ごめんね、私にはもう、こうする事以外考えられなかったの………」
「まといちゃん、やめてよっ!!どうしてそんな事……っ!?」
まといの眼差しはただただ静かで穏やかだった。
それは、全てを諦め切った瞳の色。
可符香は、そんな瞳を知っている。
(お父さんの時と、同じだ……)
かつて、どうにもならない苦境の最中に可符香の父は『身長を伸ばそうとした』
父だけではない。
可符香は短い人生の中で、どれほど多く、この瞳を目にしてきただろう。
「………恨んでいられれば良かった。嫉妬していられれば良かった。………そう出来たらなら、きっと、こんなに苦しまなかったと思う…」
静かに、まといが語り始める。
「私は、ずっと先生の事だけ見てたから……先生と可符香ちゃんの事も、わかったよ、だいたいだけどね………」
2のへでの生活が始まってからずっと、望の側にはいつも可符香がいた。
ネガティブ教師と超ポジティブ少女、コインの裏表みたいな二人はごく自然に近くに居て、ごく自然に会話を交わしていた。
252 :
266:2009/04/28(火) 20:42:50 ID:nQ4QcdHZ
まといも、最初はその親密な距離感が羨ましくて、妬ましかった。
だけど、いつの頃からだろう。
まといは次第にその光景を当然のものとして受け入れ始めてしまった。
「ほら、可符香ちゃんはクラスの他の娘みたいに先生が好きだって、表立って言ってなかったから
……だから、あれはそういうのとは違うんだって、無理にそう思おうとしてたんだ……」
だが、結局、まといは突きつけられる事になる。
だんだんと近付いていく望と可符香の心、二人がいっそう親密になっていくその姿を目の当たりにする。
しかし、その時まといの心に浮かんできたのは、彼女自身思いもかけない感情だった。
「先生が、可符香ちゃんに笑いかけられて、嬉しそうに笑い返したとき、私、嬉しくなってたんだ……喜んでたんだ……」
常に望と共にあり、望と同じ時間をすごして、望の感情を我が事のように感じる。
まといはずっとそうしてきた。
だから、望が心から笑えたその瞬間に、まといも同じように笑う事が出来たのだ。
大好きだから、愛しているから………
「私、わからなくなっちゃったんだ……こんなに先生の事が好きなのに、愛しているのに……
先生の心が可符香ちゃんに動いてるってわかってて、それでも悲しんだり、怒ったりできなかった………」
だから、彼女は自分で自分の事が理解できなくなってしまった。
何としても、誰よりも望の近くにいたいから、およそストーカーにだって出来ないぐらい近くに居続けてきたのに……
「そしたら、私、気付いちゃった……私はみんなの事が大好きだって…可符香ちゃんも、千里ちゃんも、奈美ちゃんも、あびるちゃんも……みんな」
何をしたって、望の事を渡したくないと思っていたはずだった。
何にも増して、望の事だけを思い続けているはずだった。
だからこそ、彼女には自分の中のその想いをどう考えていいのかわからなくなってしまった。
「先生以外は何もいらない……私はそう思ってるんだって……でも、それは嘘だった……
だったら、私のこの気持ちは、先生に対する気持ちは何なの……!!?」
そして、まといの中で何かが崩れ落ちた。
何よりも一途な筈の望への気持ちを、自分自身が信じられなくなってしまったのだ。
彼女は証を欲した。
自分が望を愛しているという証を。
自分が望の事だけを想っているのだという証を、心から欲した。
だから………
「だから、私はこうするの。これしか思いつかなかったから………私に懸けられるのは、もう、命しかないから……」
「駄目だよ……駄目だよ、まといちゃん……」
可符香もまた、ここに来て悟っていた。
昨日から、胸の奥でかすかに疼く、得体の知れない不安の正体を。
(私は、運命を恐れている………理不尽に、気まぐれに、全てを奪い去る存在を恐れている……)
それは突然に現れ、いとも容易く大事なものを奪い取っていく。
かつて、望と可符香が、抗いようのない運命の中で別れ別れになったように。
そして今、目の前で大切な友達の命が失われようとしているように。
「ごめんね、可符香ちゃん……」
まといは、もう一度謝った。
包丁を握る彼女の両手に、ぐっと力がこもる。
まといが包丁を自らの胸に突き立てるまで、ほんの一瞬もかからないだろう。
そして、強く高まった彼女の思いは、それを確実にやり遂げてしまうだろう。
可符香の脳裏に浮かぶ、10年前のサーカスの光景。
あの時の、あの別れと同じだ。
いつだって運命は強大で、抗い難い………。
だけど、しかし………
(これが、こんなのが運命だっていうのなら………っ!!!)
スッと、滑るように最初の一歩を踏み出す。
そのまま、二歩目、三歩目、まといまでの2メートルの距離を可符香は一気に詰める。
「駄目、可符香ちゃんっ!!」
ほとんど泣き出しそうな声で叫んで、まといは自分に向かって包丁を一気に突きたてようとする。
だが、それよりも一瞬……ほんの一瞬だけ早く……
「いやだよ、まといちゃん………」
「可符香…ちゃん……!?」
可符香の手のひらが、包丁の刃の部分を強く握り締めていた。
思い切り握り締めた刃で切ってしまったのだろう、その手の平からは、ポタリ、ポタリと赤いしずくが滴り落ちている。
可符香の手が、まといの包丁を止めたのだ。
「死んじゃやだよ……まといちゃん……」
253 :
266:2009/04/28(火) 20:43:32 ID:nQ4QcdHZ
「無理なんです。それは、無理なんですよ、小森さん………」
「先生…………」
どれだけ強く想い合う二人でも、運命は容赦なくそれを引き裂く。
だから、ずっと二人で、運命の荒波の届かない穏やかな場所で、二人っきりでいよう。
それが、霧の望に対する精一杯の言葉だった。
だけど、それに対する望の答えは、もしかしたら、最初から決まっていたのかもしれない。
「もし、また私と風浦さんが別れ別れになっても、そしてそれが二度と巡りあえない運命だとしても、私にはそれはできません……」
そこで、望は少し微笑む。
すまなそうに、申し訳なさそうに、霧に微笑んで言葉を紡ぐ。
「私のここには、風浦さんがいるんです……」
そう言って、胸に手を当てる。
少年の頃憧れた幼い少女の希望に満ち溢れた笑顔、この学校に赴任してからの日々で積み重ねられてきた彼女への想い。
それらは望の心の一番根っこの部分で、望の心の一番大事な部分を形成する芯となって揺らぐ事無く存在する。
確かに、かつての別れのトラウマは強烈で、それを拭う事は一生かかっても出来ないかもしれない。
強大な運命はやっぱり恐ろしくて、望にはそれに抗う手段などありはしない。
「もし、もう一度風浦さんと離れ離れになって、二度と会えない運命だったとしても、私は風浦さんの所に、きっと走って行ってしまう……」
いや、今の望の心はそれに止まらない。
そうだ、自分と彼女をへだてる何かが存在するなら、それがどんな物だって……
「いいえ、きっと運命が邪魔したって、私は風浦さんの所に辿りつく。辿り着いてみせます……っ!!!」
ほとんど絵空事のようなその言葉を、望は100%の確信を持って口にした。
そして、霧も悟る。
望の今の言葉には、一かけらだって嘘や偽りは含まれていない。
それは間違いなく望の、真実の言葉なのだと………。
(私に向かって行ってもらえたら……きっと、最高だったんだけどな……)
だから、全てを受け入れた霧の微笑は、どこまでも柔らかで、優しかった。
「私は先生が好き、まといちゃんも好き、だから、どっちも諦めないよ………」
ぽたぽたと、指先から流れ落ちていく赤い血の感触、鋭い痛み。
だけど、可符香は、自分に怪我を負わせてしまった事に怯えるまといに、精一杯に優しく微笑みかける。
「えへへ……私、無茶苦茶な事、言ってるよね……」
確かに無茶苦茶かもしれない。
だけど、それが可符香の出した答だった。
運命の荒波を前にしても、決して諦めない。
もちろん、その理不尽で圧倒的な力に対する恐怖は消えないけれど、それさえも呑み込んで前に進みたい。
望と共にある未来を掴み取りたい。
今の彼女には、それ以外の選択肢を思いつく事ができない。
もしそれが行く手を阻むのなら、世界にすら喧嘩を売って、自分の望む道を踏破する。
傲慢というなら、これ以上ないくらい傲慢な解答だ。
「駄目だね、最後まで敵わないな…………」
諦めたように、まといが包丁の柄からゆっくりと手の平を離す。
それから可符香に微笑んで見せたまといの笑顔には、どこかスッキリしたような、爽やかな色が含まれていた。
「これだけ大口叩いといて、先生を途中で諦めたりしないでよ。その時は、私、容赦なく先生の事、奪っちゃうんだから……」
「大丈夫だよ。私の心は、ずっと先生の事だけ、見つめてるから………」
微笑をかわして、可符香と入れ替わるように、まといは部屋の中から出て行く。
そのまましばらく歩いてから、道の途中で立ち止まった彼女は、ハッとしたように呟く。
「なんだ……心配なんかしなくても、私はやっぱり先生の事………」
こみ上げてくる切ない想いは、決して夢や幻ではない。
まといの心の中は、こんなにも沢山の望への気持ちで満たされていたのだ。
それを、ああだこうだと型に嵌めて考えようとしたのが、そもそもの間違いだったのか。
「大好きです、先生……これからも、ずっと……」
溢れる想いを抱きしめるように、自分の体をぎゅっと抱きしめながら、まといは夜の街並みの中を一人、歩いていった。
254 :
266:2009/04/28(火) 20:45:17 ID:nQ4QcdHZ
「………まあ、宿直室の扉は引き戸ですから……こうやって、こうすれば、ほら、この通り……」
ガチャガチャ、ガチャリ、ガチャガチャリ、金属音を響かせながら、望は宿直室の扉をレールから外してしまう。
せっかくの錠前も鎖も、こうされては何の役にも立たない。
望は宣言どおり、早速、自分と可符香の前に立ち塞がる壁をひとつ突破してみせたわけだ。
「うわああああああああっ!!!!私の鉄壁の引きこもりバリアーがぁ……っ!!!」
予想外の解決法に、アリの這い入る隙間もないと自信満々だった霧は呆然自失である。
そんな霧の様子を横目で見ながら、望が不意に呟く。
「……本当に、小森さんには迷惑をかけてばっかりですね………」
こんなに近くに居て、こんなに大切に思っていても、望には霧の想いに応える事はできない。
望には、自分の胸の内で燃える思いを、自分でどうこうする事などできないのだから………。
「ううん、いいよ、先生は私がいないと駄目なのはいつもの事だし……これからも、迷惑かけていいから……」
そして、それは霧も同じだ。
彼女の中の気持ちも、きっとどんな事があろうと変わる事はない。
「それでは、小森さん……」
春にしては冷え込んだ空気が入ってくる中、望は寒さしのぎの外套をまとう。
向かうべき場所はたった一つ。
今のこの気持ちを、できるだけそのままで、歪める事も、曲げる事もなく彼女に伝えなければならない。
今はそんな気がしていた。
「行くんだね。可符香ちゃんのところに………」
「はい…………」
その想いは、揺るがず、変わらず、常に望の中にある。
だから、望にはそう答える事しかできない。
どんなに残酷でも、真実の言葉を紡ぐ事しかできない。
「すみません、小森さん………それじゃあ、いってきます」
最後に、本当にすまなそうに、それだけ告げて、望は夜の学校を飛び出していく。
取り残された霧は、もう見えなくなったその後姿を思いながら、一人つぶやく。
「馬鹿だなぁ、ありがとう、だよ……先生……」
走る。走る。走る。
元来、体力の乏しい望の息はすぐに上がって、わき腹が鈍い痛みを感じ始める。
そもそも、何か時間の制約や、急ぐべき理由があるわけではない。
だけれども、望は少しでも早く前に進もうと、走り続ける。
伝えなければならない。
自分の言葉で、彼女の目の前で……。
だから、望は走る。
貧弱な体は既に根を上げる寸前で、足取りも次第に怪しくなってきている。
それでも、少しでも早く、少しでも前へ……。
「…っはぁ…はぁはぁ……やっと…はぁ……着いたみたいですね……」
望が走る道の先に、可符香の自宅が見えてきた。
玄関の手前までやって来て、望はようやくスピードを緩めて立ち止まる。
そこで、望は玄関の前にいた人影の存在に気がつく。
「風浦さん……?」
望の声を聞いて、可符香は振り返る。
「せ、先生……どうしたんですか?」
「いえ……話したい事があって来たんですが……何か用事がおありのようですね」
驚いた様子の可符香に、まずは何と説明したものか判断できず、望はとりあえずそう答えた。
「あ、その……実は私も先生に話したい事があって……」
「あなたも…ですか?」
意外な言葉に驚きながらも、可符香の元に歩み寄った望は、彼女の両手の指に不器用に巻かれた包帯の存在に気付く。
薄っすらとではあるが、滲んだ血の赤に、望は血相を変える。
「ど、ど、どうしたんですか?…怪我してるじゃないですか……しかも、両手とも…!?」
心配そうな望に、こちらも色々と込み入った事情のあった可符香は、とりあえず苦笑しながら答える。
「ちょっと、色々あったんですよ………でも、両手とも怪我しちゃったから、包帯も上手く巻けなくて……」
「……とりあえず、私が手当てしましょう……今よりはもう少しましに出来ると思いますから……」
そして、可符香と望は玄関のドアをくぐり、部屋の中で傷の手当をする事となった。
255 :
266:2009/04/28(火) 20:47:27 ID:nQ4QcdHZ
「そうですか……常月さんがそんな事を………」
「…小森ちゃんも…先生の事、大好きだったですからね……」
しゅるり、しゅるしゅると包帯を巻く音の中、二人は今日互いに起こった出来事を話していた。
「ありがとう、ございました……あなたがいなかったら、常月さんはきっと……」
常に自分の側にいて、常に時分の事を思い続けていた少女の危機に、何も出来なかった自分を望は悔いる。
だけど、可符香はそれを何でもないように笑って言葉を返す。
「いいえ、私もまといちゃんの事が好きで、まといちゃんに生きてて欲しかった……結局、私の我侭をまといちゃんに聞いてもらった、それだけですよ」
可符香の手の平の傷は、それほど深いものではなかった。
包丁を止めるときに握った部分と、タイミングが良かったのだろう。
少なくとも、傷口を縫い合わせる必要はなさそうだった。
だけど、それでもその傷口から流れた血は多く、丁寧に手を洗った後でも僅かにその痕跡を残している。
包帯を巻き終えた望は、可符香の手の平を優しく撫でながら、こう言った。
「常月さんも、小森さんも、みんな覚悟を決めて私と向き合ってくれました。だから、私も改めて、覚悟を決めて自分の気持ちをあなたに伝えたい……」
望は可符香の瞳をまっすぐ見ながら、その言葉を言った。
「私は、これからの一生をずっと、あなたと一緒に生きてゆきたい……」
それが、今の望の心からの気持ちだった。
可符香は、望のその言葉に頬赤く染めて、はにかみながら言葉を返す。
「なんだか……プロポーズみたいですね……」
「そう取ってもらってかまいません。……私は、あなたと一生を共に過ごしたいんです……」
ようやく望はその言葉を可符香に伝えることができた。
心の底からそれを望みながら、それが全て台無しになる不安に怯えて言えなかった言葉、その一線を望は踏み越えたのだ。
「やっぱり怖かったんですね。いつか離れ離れになる、その未来が恐ろしくて、どこかであなたに触れる事を怯えていた……」
「それは、私も同じ、私も怖かったですよ、先生……」
「でも、その怖さもひっくるめて、私はあなたと一緒にいる人生を肯定したい。あなたといる喜びを、あなたを失う事への不安を、全部抱きしめて生きていきたい。
たとえ、宇宙の彼方、冥王星の向こう側にまで吹っ飛ばされたって、きっとあなたの元に戻ってきますよ」
「それじゃあ、その時は、土星のあたりで待ち合わせにしましょう」
「……えっ?」
「先生が宇宙の彼方に行っちゃったなら、私もきっと追いかけますから……」
もう二人に迷いはなかった。
愛別離苦の苦しみが避けることの出来ないこの世の習いなら、それさえもひっくるめたものが自分の最愛の人に対する気持ちなのだから……。
全てを背負って、目の前の愛する人と生きてゆきたい。
「ありがとうございます、風浦さん……」
「先生………」
二人の唇が重ね合わさる。
今までに交わしたどんな口付けよりも熱く強く、互いを求め合う。
それから、唇をゆっくりと離した二人はうっとりと見つめ合い………
「先生、私………」
「風浦さん、私もあなたの事が……」
きつくきつく、二人は抱きしめ合う。
胸の内に燃え上がる熱情が、互いの存在をより近くに、より強く感じる事を求めていた。
望は可符香の体をゆっくりとベッドの上に横たえ、可符香もそれを望のなすがままに受け入れる。
「えへへ、ドキドキしますね……」
「私もですよ……」
「あれ?先生は昔、男女のべつまくなしのヤンチャさんで……」
「う…うぅ…その話はなしです。……っていうか、あなたが相手だからこんなにドキドキするんですよ!」
照れ笑いと軽口を挟みながら、望はその手の平をまずは可符香の頬に触れさせる。
そのまま首筋をなぞり、上着の上から彼女の柔らかな乳房に触れて、脇腹の辺りをなぞる。
「……あっ………ふぁ……先生の手が………」
ぴくり。
可符香の体は望の指先に触れられる度に敏感に反応する。
望はそんな彼女の体の上に、できるだけ慎重に、気遣うような繊細な手つきで触れていく。
だんだんと荒くなっていく吐息、触れ合った肌から感じる互いの体温の上昇。
しばらくの間、それだけが望と可符香の間に交わされる全てになる。
256 :
266:2009/04/28(火) 20:48:40 ID:nQ4QcdHZ
布地越しに敏感な場所に触れられて、切なげに体を震わせる可符香の姿が、望には愛おしくてたまらなかった。
ときに軽く、ときに深く、幾度となく口付けを交わしては、互いの瞳を見つめあう。
やがて、望の指先はおずおずと、可符香の上着の裾から、彼女の裸の脇腹へと伸ばされる。
「ひくぅ……くぁ…ああっ……せんせ……うああっ!!!」
幾度となく愛撫を受ける内にすっかり敏感になってしまっていた素肌に触れられて、可符香が声を上げた。
望の指先はそのまま彼女のおへその周囲を撫でて、上着をそっと捲り上げながら上へと進んでいく。
「………触り…ますよ…?」
「はい………」
緊張気味に問いかけた望の声に、可符香が答える。
その言葉を確認してから、望は可符香のブラをずらして、露になった柔らかな二つの膨らみにそっと触れてみる。
「……んっ……あぁ…先生の手……私の胸に触ってるんですね……」
望の指先が、可符香の乳房をゆっくりと揉みしだき、可愛らしく存在を主張するその先端のピンク色の突起を指先で撫でる。
おたがいに気恥ずかしさと静かな興奮に飲み込まれながら、行為は続いていく。
望が可符香の乳首を指先につまんで転がすと、彼女は体を軽く震わせて、甘い悲鳴を上げる。
「きゃっ…あうぅ……せんせ…先生…だめ…ふあああっ!!……」
望はその愛おしすぎる声をもっと自分の耳で聞きたくて、さらなる反応を求めて今度は手の平を彼女の太ももの内側に伸ばす。
「ひっくぅ…ふあっ……あ…せんせ……うあああああっ!!!」
太ももの内側、可符香の秘所にほど近い敏感な部分を、望の指先が絶妙な力加減で何度もなぞる。
その間にも望はもう片方の手の平で可符香の乳房を愛撫し、さらに首筋から鎖骨にかけてのラインに何度もその舌先を這わせる。
手を変え品を変え、様々な場所に触れてくる望の愛撫。
その刺激はいつしか可符香の心と体をいっぱいに満たし、飽和状態へと導いていく。
「風浦さん…ここ……いきますよ……」
「ふぇ…あっ……うああっ!!…先生っ…くあああっ!!!…うあぁ…そこぉおおおおっ!!!」
やがて、太ももの辺りを幾度も往復していた望の指先が、慎重に可符香の秘所に触れ始める。
下着の上から何度かその部分をなぞり、刺激を与えてから、望の手のひらが可符香のショーツの中に差し込まれていく。
「う…くああっ…あっ……せんせ…の…ゆび……あつい……ひぅ…ああああっ!!!!」
くちゅり、くちゅくちゅ、僅かに湿った音を響かせながら、望の指先が可符香の秘所を何度も撫で回し、浅くかき回す。
もはや望の与える刺激に体を躍らせるばかりとなった可符香に、望はさらに何度も何度もキスをする。
夢中で互いの唇を、唾液を求め合い、舌を絡ませあう中で二人の意識は陶酔の中に飲み込まれていく。
望も可符香も既に呼吸は行きも絶え絶えで、その視界には互いの姿しか映っていない。
そんな中、可符香が囁くような、微かな声で呟く。
「せんせ……きてください……私、先生が欲しいです………」
望も、その言葉に静かに肯く。
「はい。私も、あなたの全部が欲しい………」
言ってしまってから、二人は互いに照れくさそうに笑い合う。
それからゆっくりと、望は可符香の上に覆い被さるように態勢を変える。
大きくなった自身のモノを可符香の秘所にあてがうと、伝わり合う体温の思いがけない高さに、二人はビクリと体を震わせた。
「風浦さん……愛しています……」
「先生……私も、大好きです……」
言葉を交わし、笑顔を交し合い、最後にもう一度口付けをする。
それからゆっくりと、望は可符香の中へと、進入を開始し始めた。
「…っく……あ…痛ぅ……」
望が奥へと進む内に、ほどなく訪れた引き裂くような痛み。
可符香は下唇を噛み、望の背中に必死に抱きついて、それを堪えようとする。
だが、まといとの一件で傷ついた彼女の指先には十分な力が入らず、望の背中に回した腕もかすかに震え始める。
「風浦さん、大丈夫ですか……?」
だが、それを察したように、望の腕がかわりに可符香の体を包み込んだ。
望の細腕からは信じられないような力強い感触に抱かれて、可符香の心と体はようやく安らぐ。
「辛いようでしたら、無理はしない方が……」
「いえ、先生に抱きしめられてたら、だんだん平気になってきましたから……」
気遣う望に微笑んで、可符香はこの行為の続行を促す。
望はおっかなびっくり、可符香になるべく苦痛を与えぬよう慎重に、ゆっくりと腰を前後に動かし始める。
257 :
266:2009/04/28(火) 20:50:14 ID:nQ4QcdHZ
「っく…うああっ…あっ……せんせ…のが…なか……うごいて……っ!!!」
先ほどよりも若干は和らいだものの、やはり繋がりあった部分の痛みは続いていた。
だが、それに混じって感じる、自分の中にある望の質量、熱が可符香の心と体を震わせる。
「ああっ…風浦さんっ!!……風浦さんっ!!!」
望もまた、抱きしめる腕の中に、繋がりあった部分の熱に、全身で感じる可符香の存在に夢中になっていく。
ゆっくりと、二人の動きは次第に加速していく。
乱れる呼吸の合間に息継ぎのようにキスを交わし、互いを抱きしめる腕にはさらに力がこもる。
「くぅ…ああっ……あはぁ…あっ…せんせっ……あああっ…先生ぃいいいいっ!!!!」
涙をこぼし、可符香は何度も何度も望を呼んだ。
いまや下腹部に感じる熱と痛みは渾然一体となり、ほとばしる電流のような衝撃をともなって可符香の体を幾度となく貫く。
行為が加速していくほどに、全身がさらに狂おしいほどに望の存在を求め、可符香の意識はその熱の中に溶けていく。
求めて、求められて、汗に濡れた肢体を絡ませ合う。
望に突き上げられる毎に、頭の中を覆う真っ白な稲妻に声を上げ、涙をこぼして可符香はさらに強く望を抱き寄せた。
「うっ…ああっ……風浦さぁんっ!!!」
「ひぁ…あああっ…せんせ…好きっ!!…大好きぃいいいっ!!!!」
心も体も全てが溶けていく灼熱の中、二人は我を忘れるほどに行為に没入していく。
だけど、それでも、目の前の愛する人だけは見失わない。
ただそれだけを求め、求め続けて、今の二人はここにいるのだから……。
「…ああっ…せんせ……私…もう…っ!!…ふああああああっ!!!!!」
「風浦さん……私も…!!」
やがて、互いを求め続け、高まり続けた熱の中で、二人は限界を迎える。
望と可符香の心と体の中、弾けとんだ凄まじい熱の塊が、津波となって二人の意識を押し上げる。
「くぁっ…ああああああっ……風浦さんっ!!…風浦さんっっっ!!!!」
「あああああああああああっ!!!!…先生っ!!!…先生ぃいいいいいいいいいいいっ!!!!!!」
そうして、きつくきつく抱きしめあった二人は、絶頂の高みへと上り詰めたのだった。
258 :
266:2009/04/28(火) 20:50:46 ID:nQ4QcdHZ
ガラガラガラガラガラ。
引き戸が開かれる音が聞こえて、霧は顔を上げた。
宿直室の入り口に立っていたのは、彼女にはお馴染みの常月まといの姿だった。
「ちょっと、いい……?」
「うん、いいよ……」
霧の答を聞いてから、まといは宿直室の畳の上、霧のとなりに腰を下ろす。
霧は、まといの横顔を見ながら、いつにない優しい口調で語りかける。
「駄目…だったね……」
「……そうね」
「失恋しちゃったね………」
「……うん」
そのまま、それ以上言葉もなく黙りこくってしまったまといに、霧は自分の毛布をふわりとかけて
「な、何すんのよ!?」
「私、もう泣くのすませたから……」
「だから、何?」
「泣いてもいいよ……」
霧のその言葉に、まといは一瞬どうして良いかわからずに戸惑いの表情を浮かべ、しばらく沈黙してから
「……………」
ぽすん、と霧の毛布の中に顔を埋めた。
霧はそんなまといの頭を撫でながら、宿直室の窓から見える夜の空を、ただじっと見つめ続けていた。
望と可符香は、二人の始めての行為を終えてからずっと、狭いベッドの上に寄り添って体を横たえていた。
「………ていうか、このベッド、私にはちょっと長さが足りないような……」
「あはは、先生、無駄に身長高いですからね……」
「む、無駄とはなんですか、無駄とはっ!!」
時折軽口を叩き合いながら、親密な空気の中で、二人だけの時間を過ごす。
「……ずっと、一緒なんですよね……」
「はい、どんな事があっても、きっと、ずっと一緒に……」
これから過ごす日々の中で、あらゆる物が二人の行く手を阻むだろう。
そんな中で、二人が寄り添って生き続ける事は、言葉にする以上の困難だ。
だけど、それでも、今の二人に迷いはない。
望にとっては可符香が、可符香にとっては望が、互いに代える事の出来ない心の中核となっているのだ。
今の二人にとっての自分自身とは、相手を思う熱く強いその感情をもひっくるめて、初めて自分自身なのだから。
たとえ銀河系の端っこと端っこに飛ばされても、互いを思い、生きていこう。
二人が、お互いを目指して歩くのなら、どれほど広大な距離に隔てられても、それは実際の二分の一にしかならない。
あなたの心に私があるように、私の心にあなたがあるように、それが二人の行き方なのだから。
そして、だからこそ二人は、今一度、確かめ合うように互いの気持ちを口にする。
「愛していますよ、風浦さん……」
「私も、愛してます、先生……」
口付けを交わし、二人は微笑んだ。
互いの瞳に、愛する人の姿を映して………。
259 :
266:2009/04/28(火) 20:51:19 ID:nQ4QcdHZ
以上でおしまいです。
それでは、失礼いたします。
うおうハードですな
これからじっくり読ませてもらいますよぐっじょぶ
のぞかふが好きになりました
そういやマ太郎×久藤って今まで投下されてないよな
不思議だ
は?
>>263 え?あったのか?
よければタイトルを教えてくれ
保管庫はカプが書いてない作品が多いからこういうとき困るな
最初から全部チェックすればいいんだぜ
二人ともGJ!
今更ながら14巻で倒れた加賀を久藤が咄嗟に支えるシーンを見て加賀×久藤もアリな気がしてきた
加賀さんが攻めとな!?
「ごめんなさい!ごめんなさい!」と言いながら久藤准を押し倒す加賀愛さんとな!?
「わたしなんかが押し倒しちゃってすいません!すいません!」
アリだと思います!
加賀×久藤も面白そうだけどそろそろ交×芽留があってもいいような…
五歳だから無理がある?ははは、ならば数年後の設定にすれば良いじゃないか。
絶望先生人気男キャラランキング
@絶望
A久藤
B絶命
C木野
木野の絵よりも青山芳賀の絵の方がよく見る
ってか多分木野より絶景の方が人気
青山と芳賀のフルネームはいつ登場するのやら
しかしショタコンなのに霧はなぜ望ばかり見るのだろう
将来有望&ショタな交くんとくっつけないのはあまりにも可哀相です久米田先生!
霧のショタコンはあくまで趣味って事でない?
多分、動物を愛でるのとあんまり変わらない感覚なんじゃないかね。
実際、そう言う同人誌とか集めてても普通の彼氏がいる腐女子もいるらしいし。
絶望放送の某リスナーみたいにショタ趣味が高じて保育士を目指すほどじゃないって事でしょ。
半ズボンへの反応は変態としか言いようがない
はくのよ。
交はいずれ成長してショタじゃなくなってしまうからじゃね?
まあ初登場から数年経っても全く成長してないが…
でも交も成長すれば外見は望のようになるんじゃ…
そうだ、霧が交を理想の旦那様に育てる展開なんてどうだろう!
あれ?なんかこんな話を久米田作品で(ry
>>279 つまり交と霧が大学で初めて同級生になる展開か
東大に行く約束をするのか
成長した交が霧と結ばれる展開はたしかに見てみたいな、久米田はそんな終わらせ方ぜったいにしないだろうけど
>>280 その頃の霧って何歳だ?
霧が先生と結ばれて、交が人妻萌えに目覚める展開
まぁ実際のところ、交は皆のもてあそばれキャラだろう
望は誰とも結ばれないというか結ばずに一生を終えそうなんだよなぁ
望にとってはそれがハッピーエンドだな
だが現実そんなに甘くないぞ!
ウェディングドレスだらけの結婚式場
フロックコートに首輪といった出で立ちのやつれ果てた先生
参列者席でほくそ笑む可符香と倫
「全嫁代表、木津千里。前へ」
「はい。」
終
木津は少なくとも28までは独身だな
OLやってる
俺は日塔が普通に久藤に恋をして普通に付き合いを進めて普通にセックスして普通に結婚して普通な暮らしをする普通にエロいSSが読みたい
大浦とか丸内とか根津とか丸井のSSが読みたい
自分で書けよカス
お前がかけるのはせんずりだけか
なんで望を使ったSSばかりあるんだろうね
主人公様だから
久藤も結構人気じゃね?
でも少ないほうか
久藤より絶命の方が多そうだな
ちんこついてたら誰でもいいっすよ
望ばかりなのは、どうせなら主人公との方がいいから
原作も望絡みの恋愛ばかりだし
まあ木野加賀はもう少しあってもいいとは思うけど
俺は日塔×久藤が見たい
根津美子がクラスメイトである久藤准を騙そうとするが、その過程でなぜか彼に惚れてしまう…
という電波が届いた
>>298 腹黒いというか悪い女が普通の男に恋する話は好きだから見てみたい
見たいと思ったり電波が届いたんなら書けばいいんですよ
脳内うp
形に出来ないからこそ届いた電波を書き込むんじゃないか
根津は本編でも先生ではなく久藤に惚れてほしいな
望に女キャラが惚れる展開は飽き飽きだしね…
久米田はいつからネギま脳になったんだか
一話からそうですけど
一話はフラグ立ってないし
最初からといえばよかったんだろうか
ここは根津と丸内と久藤で三角関係をだな(ry
309 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 07:23:18 ID:D/0rWwOi
age
補修の話を
ところであの風紀委員につれていかれた方にはなにが…
久藤君と組めば女子層からさらにガッポリ毟れると踏んで接近するも
あくまでもストイックな彼の姿に逆に落とされるわけですね
わかりますん
だが物語は久藤をめぐり根津と丸内が争う昼ドラのような展開に…!
加賀さんと先生が布団で激甘子作りする話はまだかね?
単行本の加筆に期待しよう
今までの久藤SSって、倫様がらみが多かったような気がする。何でだろう。
だが最近は倫×久藤成分が足りない
てか望作品ばかりインフレ
そんなに気に入らないなら自分で書け
たしかに望は飽きてきたな…
女生徒のほとんどが望を好きだから仕方ないよ
久藤君っつっても女子とほとんど絡まないし話作りづらくってさぁ
このスレに限ったことじゃないが、一度も、もしくはほとんど絡んでなかったキャラ同士が
何故かベストカップルみたいな扱いになってたりするのが凄いわ
カプ厨の脳内ってどうなってんのよ
君より想像力と表現力があるだけさ
妖精の人はまったく接点のないキャラを絡ませているあたり、もの凄い想像力だな
妖精の人って何?
保管庫の未完の「加害妄想教室」というのが、今週のエピソードの加賀さんにつながると
面白いと思った。
誰か続きを書かないかな?
木野は加賀が好きだけど、あえて加賀×久藤を見たいと言ってみる
328 :
266:2009/05/16(土) 01:26:58 ID:UImuhSBn
書いてきました。
今回は二本。
一本目は16巻加筆の影響なんかもあって、景×千里のエロなしです。
それでは、いってみます。
329 :
266:2009/05/16(土) 01:28:14 ID:UImuhSBn
2のへの担任教師である糸色望の兄、糸色景。
強烈すぎるほどの独自の世界観を持った作風で知られる画家、その作風と同じく人の話をほとんど聞いていない自己完結性の強いパーソナリティ。
良く言えば個性的、悪く言えば変人。
そんな彼と2のへの生徒である木津千里が深い関わりを持つようになったのは、学校の体育祭で起こったある出来事がきっかけだった。
「取ってくれと言わんばかりの揚げ足!間違っているぞ!間違っているぞ!その方法は間違っているぞおおお!!!」
体育祭の応援のチアリーディングでクラスの他の女子達の足の揚げ具合が足りないと考えた千里が、
その解決方法として土砂加持法と呼ばれる密教の秘法を使おうと言い出した時の事である。
周囲の人間に密教の知識などある筈もなく、千里の行動は彼女一人の暴走、誰一人取る事の出来ない揚げ足となる筈だった。
しかし、そんな千里に反論して、体育祭の会場のど真ん中に乱入して高々と揚がった千里の足を取ったのが、件の糸色景だったのである。
「わ、私の方法が間違ってる?どういう事ですか!?」
「いいか良く聞け!!土砂加持法というのはそもそも……っ!!!」
誰もついて行けない超高高度の論戦。
「わかりました。土砂加持法については私の完全な間違いみたいです」
「そうか、わかってくれたか!」
「でも、納得できない点が少しだけあります。そこをきっちりさせないと!!!」
自分の最初の発言については退いたものの、今度は千里が別の疑問を景にぶつける。
「フツーにタイホされるレベルだよね」
という、あびるのツッコミは的確だったが、もはや誰もそれを実行しようとはしなかった。
ただ、体育祭会場のど真ん中でぶっちぎりで二人だけの世界に突入した景と千里を、周囲の人間は呆然と見ている事しかできなかった。
その後も二人は合間を縫って論を戦わせ続けたが、結局、最終的な決着の着かないまま体育祭の終わりの時間がやって来た。
「はははははっ!!いや〜、こういう行事に参加するのもなかなか楽しいもんだなぁ」
「そうですね………まあ、もう少し自重してもらえると、こちらとしてももっと嬉しかったんですが……」
千里と舌戦を戦わせ、運動会の競技の応援に熱を上げて、今日一日を楽しみ尽くした様子の景に望は苦笑する。
既に閉会式は終わり、保護者達は帰宅を始めているが、生徒達と教師は後片付けをしなければならない。
弟の見送る前で、ふらりと学校を立ち去ろうとした彼を鋭い声が呼び止める。
「景先生っ!!」
テントの片付けの手を止めて、こちらに駆けてきた少女。
「む?千里か……?」
景は、議論が白熱する内にいつの間にやら下の名前で呼び合うほどに打ち解けてしまった、彼女の名前を呼んだ。
千里は景の間近にまでやって来ると、景の顔をキッと睨みつけてこう言った。
「帰るんですか?まだ、私との話にきっちり白黒ついていないでしょう?」
密教の秘法にはじまった景と千里の諸々の言い争いには、未だに決着が着いていない。
千里はそれが不満でならないのだ。
何事もきっちりと、中途半端や曖昧を嫌う彼女にはそれは許しがたい事である。
だが、景はそんな千里の顔を見て一瞬きょとんとした表情を浮かべたかと思うと
「ああ、あの手の事をあれだけ話せたのは久しぶりだったから、少々残念ではあるな」
そう言って、にっこりと満面の笑顔で応えた。
「えっ…あっ……ちょ…待ってくださ……」
「それじゃあ、またな!!」
そして、そんな笑顔にたじろぐ千里を取り残して、景は足取りも軽く学校を後にした。
残された千里は恨めしさと戸惑いとが半分ずつ混ざったような複雑な表情で景の出て行った校門を睨んでいる。
何事もきっちりと、それは千里にとって何事においても優先すべき基準である。
こんな風に勝負のつかないまま終わるのは、千里にとっては許し難い事だ。
加えて、千里との論戦に景自身もかなり熱中していた筈なのだ。
向こうも完全決着を望むのが必然であると考えていた千里には、景がひとかけらの未練も残さずに立ち去った事が納得できない。
「すみませんね、木津さん」
「先生……」
「かなり話に熱が入っていたみたいですけど、景兄さんはああいう人なもので……また遊びに来た時にでも相手をしてあげてください」
ぺこり、千里に向かって謝る望の顔には、すまなそうな表情と一緒に
自由人そのものといった感じの景への肉親としての愛情が滲んでいるようで、千里にはそれがまた気に食わなかった。
330 :
266:2009/05/16(土) 01:29:06 ID:UImuhSBn
波間に揺れるくらげか、風に舞う風船か、ふわりふらりととらえどころのない長髪の変人画家。
性格を比べてみれば、千里とは正反対の人種だ。
(まったく、なんでもっときっちりできないかな?)
だからこそ、ふくれっ面の千里の頭の中に、その日の景の姿は余計にはっきりと刻み付けられた。
それが、千里が景に対する強い興味を抱く最初のきっかけとなったのだった。
ふらりふらりと、夜空に浮かぶ月を眺めながら、景は自分のアトリエまでの道を歩いていた。
「今日は楽しかったな……」
一人、呟く。
高校を卒業してもう10年以上の歳月が経つが、それでも青春の一時を過ごしたあの空間のにおいを体が覚えているらしい。
ほんの思いつきで訪ねてみたのだが、思いがけず楽しい時間を過ごす事が出来た。
別に若者のいる場所なんかに行かなくても、いつも元気で好き勝手にやっていると言われると、まあ言い返しようもないのだが、
それでも、景はあの場所が、あの空気がたまらなく好きなのだ。
「それから、あの娘も………」
景は、体育祭が終わるまで自分と密教を初めとした諸々のオカルトチックな話題で言い合った、あの少女の事を思い出していた。
『まだ、私との話にきっちり白黒ついていないでしょう?』
耳の奥に、あのいかにも強気で生真面目そうな声がしっかりと残っている。
「まっすぐな娘だな……」
常に飄々と構えて、自分のペースを全く崩さない景が、あの少女の勢いに少しばかりたじろいだ。
どこまでも真っ直ぐに、前だけを見つめる瞳。
若さゆえ、なんて言葉で簡単に片付ける事はできない。
まっすぐに、どこまでもまっすぐに進んで、立ち止まる事を知らないその心。
それが、景にはたまらなく心地良かったのだ。
きっと彼女はこれまでも、ただ一直線に前へと進むその気性故に、色んな事にぶつかって、時に傷つきもしたのだろう。
その性格はたやすく頑なさに結びついて、正直彼女を苦手に思う人間も少なくあるまい。
それでも木津千里は自分の生き方を変える事をしなかった。
立ち塞がる壁を叩き壊し、流れる川を一息に飛び越え、彼女は自分自身を貫いてきた。
今日一日ばかり話し込んだだけで、容易に見えてくるほどストレートな彼女のパーソナリティー。
それが景にはたまらなく眩しかった。
「さて、出来れば今日のこの感触を早くキャンバスに叩き付けたい所なんだが……」
いつの間にやらアトリエに辿りついていた景は入り口の扉をくぐって中に入る。
「ただいま、由香……」
景の妻である由香は、いつもと変わらず壁の隅に佇んでいた。
一時期はシュレディンガーの嫁との結婚を考えたりもしたが、正体不明の箱の中の怪物はいつの間にやら景のアトリエから姿を消し、
一方の由香はそれまでの騒ぎが嘘のように、以前と同じく景の部屋にいてくれた。
景と由香は元の鞘に納まった。
弟達は、『そりゃあ、壁のしみなんですから、いなくならないのは当然でしょう』と言う。
その理屈もわからないでもない。
確かに由香はアトリエ景の一角に残された壁のシミ、これも一つの現実だ。
だが、景からすれば、由香が気立ての良い妻であるというのも、また一つの事実なのだ。
この隙間風が少し気になるオンボロアトリエをわざわざ選んだのは、ひとえに彼女の存在故だ。
アトリエの下見にやって来た景は、部屋の壁に楚々として佇む彼女に心奪われた。
運命的な出会いだったと、今も思っている。
「今日は一日中留守にして、寂しい思いをさせただろう?」
由香の傍らに、景はゆっくりと腰を下ろす。
「ん、そんなに楽しそうな顔をしてるか?…うん、いや、実は学校でな……」
一人ぼっちの夫婦の語らい。
これを他人が見たらどう思うかなど、景はとっくに理解している。
だけど、景にとってはやっぱり、由香はここにいて、静かに微笑んでくれている。
ならば、それ以上、何が必要だというのだろう?
「ああ、いい刺激になったよ。また、色々な着想が湧いてきた………ん、どうした?やっぱり心配なのか?」
そこで景は苦笑して、イーゼルに立てかけられた製作中の絵に視線を向ける。
331 :
266:2009/05/16(土) 01:30:21 ID:UImuhSBn
真っ白の、まだ一本の線も引かれていないキャンバス。
構想はいくらでもある。
周囲には具体的なイメージを殴り描いたスケッチブックが乱雑に散らばっている。
だけど、描けないのだ。
既に頭の中に確固とした絵のかたちを思い描けているのに、それを形にする事ができない。
欠けているのだ。
景の絵を、景の絵たらしめる何かが、絶望的なほどに欠乏しているのだ。
だから、今の景には圧倒的な空白を前にして、せいぜい苦笑いしてみせるのが精一杯なのだ。
「まあ、何とかなるさ……」
つぶやいて、床の上にゴロリと横になる。
これで都合3ヶ月、現代絵画の鬼才、糸色景のスランプは続いていた。
「納得がいか……」
「ぬ!」
「こら!晴美、最後の一文字だけ取るな!!」
「えへへ、ごめんごめん」
体育祭が終わり、くたくたになった千里と晴美は二人仲良く家路へと向かっていた。
学校からここまでの道のりずっと、景の事が引っかかっているのか不機嫌そうな千里の様子を横目で見て、晴美は苦笑して語りかける。
「まあ、確かにあそこまで熱の入った話を途中で切られたら、私だってちょっと未練が残っちゃうなぁ」
「そうなのよ!なのにあの人、へらへら笑って平気で帰っちゃうんだから!!」
答える千里の鼻息は当然の如く荒い。
思い返してみれば、最初に景の存在を知った美術館での展示といい、糸色コードと呼ばれる暗号の正体が家伝のおはぎの作り方だった事といい、
糸色景にまつわる全ては出鱈目の滅茶苦茶、千里には理解しがたい人物像である。
「でも、まあ……例のオカルト絡みの話の決着を着けるのは、たぶん無理だったと思うけどね」
「えっ、どういうこと?」
「つまり……ううん、例えばここにマッチとライターがあるとして、焚き木に火をつけるのに、どっちを使った方が正しい?」
「どっちが、って………。」
マッチとライター、共に火を起こすためには十分な道具である。
そのどちらかが火をつける正しい道具であると言うことはできない。
無論、『もしも空気が湿っている時は』といった前提条件が設定されれば事情は変わってくる。
だが、一般的には二つの道具の間に正しい、正しくないといった別は存在しない。
「二人が言い争ってた密教の秘法も、用は方法の話だからね。あの場合に最適な方法を選ぶっていうのが正解、
なんだろうけど、それだって立場や考え方によって何をベストと考えるかは変わっちゃうしね」
「そっか………」
きっちりさせたい、白黒をつけたい、そう千里が強く願っても、世の中の大半のものはそう簡単に結論を出させてくれない。
それでも千里はいつだってきっちりした結論を求めて、ごり押しの、力押しをしてしまう。
結局、それは自分だけのこだわりで、それが無くても誰も困りはしない、そう理解はしている筈なのに……。
だが、暗く沈みかけていた千里の思考を、晴美の次の言葉が断ち切る。
「でもさ、私にはぜんぜん判らない話だったけれど、千里も景先生もずいぶん楽しそうに話してたよね」
「えっ?」
「私も混ざりたいなって、ちょっと羨ましくなったぐらい……まあ、あっち系の知識が無いから無理なんだけど」
もう一度、千里は今日の景との会話を思い出す。
どんな些細な疑問も徹底的に追及して、納得がいくまで語り尽くそうとしていたあの時間は、千里にとってある意味充実したものだった。
そういえば、目の前で延々としゃべり続けていた景の顔にも、本当に楽しそうな表情が浮かんでいたように思う。
「こんな事言うと千里は怒るかもしれないけど………もしかしたら、結論とか、白黒をつけるとか、それ自体は別に重要じゃないのかもしれないね」
「……どういう事?」
「結論がきっちり出るとか出ないとかそんなのは関係なくて、結論を見つけようとする、そこに向かってどこまでも走っていくエネルギーみたいのが、
千里の中にはあるんじゃないかな……そういう千里が相手だから、今日の景先生との議論だってあんなに白熱したんじゃないかな?」
それから、ふっと千里の顔に視線を向けてきた晴美、その顔に浮かんでいたのは
まるで自分には手の届かない遠い場所に憧れるような、そんな表情だった。
「そりゃあ、もうちょっと時と場合を考えて欲しいなって思うときもあるし、周りの事も気にして欲しいって思う事もあるけど、
私は千里のそういう所、結構、すごいなって思ってる………」
いつになく真面目な様子で語る晴美の言葉で、普段なら迷惑がられるだけの自分の完璧主義をそんな風に褒められて、
千里はなんだかこそばゆいような、何とも落ち着かない気分になってしまう。
332 :
266:2009/05/16(土) 01:31:10 ID:UImuhSBn
自分でもときどき嫌気がさしてしまうこの性格、一度などはそこから脱出してドジッ娘を目指そうと暴走した事もある。
正直、そんな自分の事を、こんな風に言ってもらえるなんて思ってもみなかった。
「あ……ありがとう……」
ぽそり、小さな声でそれだけ返すのが精一杯の千里に、晴美はにっこりと肯いて見せた。
翌日のアトリエ景、今日もここの主は真っ白なキャンバスの前でまんじりともしない時間を過ごしていた。
創作意欲・体力は十分、頭に浮かぶ構想は数限りない。
だが、いざ絵筆を持ってみると、それらを絵としてこのキャンバスに繋ぎとめる事が出来るような気がしないのだ。
「ほんと、参ったな……」
途方に暮れた景は、ごろり、床の上に寝転がる。
スランプに陥った事に対する焦りや苛立ちは、景の中には全くなかった。
描けなくなったらそれはその時、手先の器用さには自信があるし、以外に顔も広いので自分が食っていくぐらいの収入を得る事は出来るだろう。
これまでの仕事で得た貯えはそれほど額の大きなものではないが、それをアテにしてフラリと旅に出てしまうのもいいかもしれない。
むしろ、景を悩ませるのは、絵を描けなくなった彼に対する周囲の態度である。
ある者はえらく心配するだろうし、ある者はひどく怒るかもしれない。
景自身は今度のスランプに対して、とりたてて感想があるわけでもないのに、それを周囲に伝えたらきっと大変な騒ぎになってしまう。
仕事上、景が描いてくれなければ困るという人間ならともかく、それ以外はそう目くじらを立てなくても良いと思うのだけれど……
「ズレてるんだな……」
ずっと昔から、景は、周囲の人間の感覚と自身のそれとの間に、恐ろしいほどのズレ、ある種の断絶を感じていた。
多分、まわりの人間と自分とでは、見えている世界が違うのだろう。
そういった事をまだ小学生にもならない頃から感じ続けていた彼の精神は、ある面で非常に早熟だった。
自分と他人の考え方や感覚の違いを意識しながら生きていく事で、景は諸々の人間関係を非常に客観的に見ることが出来るようになった。
ただし、それは景に自分がどれほど異質な人間であるかを常に意識させ、
いわゆる『ふつう』の世界とのどうしようもない距離を強く感じさせる結果にもなったのだけれど……。
年を重ねるごとに強くなっていく孤独感。
それを救ってくれたのは、他ならぬ糸色家の兄弟達だった。
無論、彼らとて景の感覚は理解できない、向こう側の住人である。
だが、彼らはいつも、景が自分たちとは違う世界を見ている事を薄々と理解しながら、ずっと景に寄り添ってくれた。
見えている世界は違えども、自分は孤独ではないのだと、景に教えてくれた。
それこそが、ともすれば彼岸の彼方に流されていきかねない景を、この世界に繋ぎとめてくれたものだった。
しかし、どうした事だろうか。
最近の景は、以前にも増して『ふつう』の世界との距離を感じるようになっていた。
画家が絵を描けなくなれば、それは致命的だろう。
そういう『ふつう』の考えも理解はできる。
でも、だからこそ、現状に対して何の危機感も抱いていない自分と、世界の間の距離がさらに広がってしまったように思えるのだ。
「さて、どうしようかね……」
このまま、何もせずキャンバスの前で無駄に時間を過ごすような趣味はない。
昨日の体育祭のように、またどこか適当な場所や友人知人を訪ねてみるべきか。
「命の奴もどうせ暇を持て余してるだろうし、まずはその辺から当たってみるか」
そう言って、景が立ち上がった、その時である。
「ごめんください」
よく通る声が、玄関前から景のいるアトリエの一室まで届いてきた。
しかも、この声は………
「もしかして……いや、まさかな……」
玄関まで、景は小走りでかけていく。
扉を開けて、そこで目にしたのは、景の予想と違わぬ、あの少女の姿だった。
「おお、千里じゃないか!どうした、今日は学校じゃないのか?」
「今日は体育祭の代休です。それよりも……!!」
驚き半分、喜び半分、そんな表情の景に向かって、千里はビッと指を立てて
「昨日の続き……今日こそ決着をつけさせてもらいますっ!!!!」
そう高らかに宣言したのだった。
333 :
266:2009/05/16(土) 01:31:54 ID:UImuhSBn
思いがけない来客を迎えて、きっちりと昨日の続きから議論は始まった。
「ですから、ナアカル碑文の記述を鵜呑みにするから話がややこしくなるんですっ!!」
「しかし、竹内文書を偽書と考えるなら、そう考えないと辻褄が合わないぞ」
ぶつかり合う言葉と言葉。
時間を忘れて語り合い続けて、気が付けば、朝の9時から話し始めてもう4時間、とっくに正午を過ぎている。
「腹がすかないか?簡単なものだったら、すぐに用意できるんだが…」
「あ、いえ、私が勝手に押しかけたんですから、そんなに気を遣ってもらわなくても……」
「いいんだ。客に何も出さないってのも、このアトリエの主としては情けないからな。
すぐ出来るから、その間にその辺に転がっている絵でも見ててくれ」
そう言って、景は立ち上がり、台所に向かっていった。
千里はせめて自分も手伝おうと、台所を覗いてみるが、一人暮らしのアトリエの台所は狭く、手伝いに行っても却って邪魔になりそうだ。
仕方なく部屋に戻った千里は、部屋中に無造作に散らばっている絵の数々に手を伸ばす。
公園の片隅のベンチに佇む、身長3メートルはあろうかという巨大な老婆の姿。
空に浮かんだ沈没船を、何本もの鎖でビル街の上空に係留している様子。
椅子のかわりにバスや大型トラックに使われる大きなタイヤに座ってお茶会を楽しむ貴婦人達。
満天の星空に煌々と輝く太陽。
銀河の果てまで伸びる梯子。
蓮の花の浮かぶ透き通った池の水底で静かに回転を続けている太陽系。
黒一色で塗りたくられたキャンバスに、それよりもさらに濃い黒で描かれた星のマーク。
乱雑に描かれた無数の縦線は、以前美術館で目にした東京タワーの描かれた絵に似ていた。
ただし、こちらの絵の縦線の数は以前見たものとは段違いで、まるで地平線の果てを越えてもまだ続いていく無数の高層ビル群に見えた。
どれをとっても、一見しただけでは何を表現したのか理解できないような、独特の世界が広がっていた。
いつもなら、これは一体どういうつもりで描いたのか、きっちり説明しろと言い出しそうなものなのに、
今の千里は無言のまま、夢中になって次から次へと絵を見つけては、それに見入る。
それから、どれぐらいの数の絵を見ただろうか?
不意に千里はそれに気が付いた。
「あれ……?…真っ白だ……」
イーゼルに立てかけられた真新しいキャンバス。
それは、景の内面世界を表現したとも言える無数の絵に囲まれたこの部屋の真ん中で、凍りついたような純白を保っていた。
「製作途中……なのかしら?」
キャンバスの周囲に散らばったスケッチは、どうやら作品の構想を練る為に描かれたものらしい。
千里はそれを一枚一枚手にとって、見比べてみる。
スケッチに描かれた絵は様々で、確かに何を描くべきか未だに迷っている様子が垣間見えた。
無数の下書きは、形を持ってこの世界に生まれ出てくる為の出口を探している、まだ肉体を持たない魂のように千里には感じられた。
そのまま、しばし呆然と千里はキャンバスを見つめていたのだが……
「おう、昼飯出来たぞっ!!…って、ん、どうした?」
あり合わせの材料で作った焼そばを両手に持ってやって来た景は、真っ白なキャンバスを一心に見つめる千里の様子に気付いた。
「製作途中の…絵なんですか?」
「ああ、まだ何をどう描いていいか決めかねていてな……別に急ぐ仕事ではないんだが……」
千里の質問に答えた景の言葉は、微妙に歯切れが悪いように感じられた。
らしくもない彼の様子に、千里は景の顔をじっと見つめる。
すると、景が急に何かを思いついたようにポンッ!と手をたたいて、こんな事を言った。
「そうだ、千里、俺の絵のモデルをやってみないか?」
「ふぇ…あ……ちょ、ちょっと待ってください!!?」
「うん、いや、これはいいアイデアかもしれん。千里ならば、今の俺の停滞を打ち破るパワーを持った題材になり得るっ!!!!」
勝手にテンション高く、一人合点をする景に、千里は何度も抗議するのだが、完全に自分の世界に入ってしまった彼には聞こえないようだ。
「よしっ!!昼飯を片付けたら、早速製作開始だっ!!!」
結局、千里の抗議は聞き入れられず、彼女は糸色景の新作のモデルに大抜擢されてしまう事になってしまった。
334 :
266:2009/05/16(土) 01:32:56 ID:UImuhSBn
モデルといっても、千里の肖像画を描くとかそういった事ではなく、景が千里をテーマにした絵を描くためのイメージを与えるという話らしい。
まずは千里のさまざまな姿をスケッチしてそこから着想を得る。
絵そのものの制作に付き合うかどうかは、その後の景の気分次第といった所だ。
「そうだな、とりあえず好きにポーズを取ってみてくれ」
「好きに、ですか……きっちり指定した方がいいんじゃないですか?」
「いや、まずは千里自身のイメージを掴むところからいきたいんでな」
なるほど、と納得して、千里が取ったポーズ。
それは……
「なんか、微妙に……えっちくないか?」
「あ、いえ、その、これは……ち、違うんですっ!!」
お尻を上に突き出した四つん這いのポーズ。
確かに、正直に言って、エロい。
「……こ、これは…晴美が同人誌描いてて、上手く絵が描けないときによくモデルをやらされて……」
幼馴染の藤吉晴美の同人誌製作をよく手伝っている千里だったが、晴美が作画に行き詰った時などにはモデル役をやらされたりもしていた。
何の、どんなシーンのためのモデルなのかは、彼女の描いている同人誌の内容から推し量っていただきたい。
モデルと言われて、パッと思い浮かんだポーズがこれだった辺り、同情を禁じえない話ではある。
「すぐに…すぐにポーズ変えますからっ!!!」
「もう遅い。大まかなラインは描いてしまったから、もう少しそのままでいてくれ」
「えっ!?もう…ですか?」
呆然とする千里の前で、あっと言う間に景のスケッチは描き上がった。
「こんなもんでどうだ?」
そして、渡された絵を見て、千里はさらに驚愕する。
何事もきっちり行うのが信条で、晴美のアシスタントもやっている千里は、正直に言ってかなり絵が上手い。
だからこそ、わかるのだ。
景のデッサン力は並外れている。
スケッチブックに描かれた千里の姿は、人体のバランスを完璧に捉え、影の出来る部分や服のしわの書き込みも完璧だった。
今にも動き出しそうな千里の一瞬の姿が、紙の上に縫い止められているかのようだった。
さらに、千里を驚かせる要素がもう一つあった。
それは……
「あの……これ、本当に私ですか?」
「ん?そんなに似てなかったか?」
「い、いえ……そうじゃなくて……なんだか、キレイすぎて…私じゃないみたいな……」
ふっくらとした少女の体の曲線、流れるような黒髪。
スケッチブックに描かれた千里の美しさは、モデルである千里自身が息を呑むほどであった。
「うーん、そうか…一応、美化も誇張も一切無しでストレートに千里を描いてみたつもりなんだが……」
首をひねり考え込む景の前で、千里は呆然とスケッチの中の自分を見つめている。
景が、千里には理解不能の強烈な個性を持った絵を描く人だとは知っていた。
だけど、こんなものまで、あの指先から描き出す事が出来るなんて……
「まあ、悩んでも仕方がないか。よし、次に行こう。今度も好きなようにポーズを取ってくれ」
景のスケッチに魅入られた千里は、まるでふわふわと浮かぶ雲に乗っているような気分のまま、
その後も景の指示に従ってモデルを続け、それは結局太陽が西の空を真っ赤に染める頃まで終わらなかった。
なんだか納得がいかない。
どうにも腑に落ちない。
今度の休みにもまた景の絵のモデルを引き受ける事を約束して、あの日、千里はアトリエを後にした。
それから再び始まったいつも通りの生活の中でも、千里の頭には景の事がちらつくようになった。
飄々としてとらえどころの無い人柄。
常人には理解不能な独特の作品群。
そして、千里が垣間見た普段見せる作品とは裏腹の凄まじい画力。
色々な事が頭の中に引っかかって、どうにもスッキリしない。
何事もきっちりしたい千里としては、何とかこの頭のモヤモヤを取り払いたかった。
というわけで……
「それじゃあ、晴美、今日は私一人で帰るから」
「あれ、どうしたの?」
「うん、ちょっと用事があるの。」
千里が向かったのは、景を良く知っているであろう人物のいる場所。
335 :
266:2009/05/16(土) 01:33:41 ID:UImuhSBn
「そういえば、この近所に可符香ちゃんの家もあるのよね」
きっちり頭に入れてきた道順を頼りにしばらく歩くと見えてきた建物。
『糸色医院』。
相も変わらずの開店休業状態が続いているらしい医院の入り口をくぐり、千里は待合室から中に向かって呼びかけた。
「すみませーん」
しばらくすると若い看護師が一人顔を出した。
彼女は千里の顔を見ると、何やら合点のいった様子で
「命先生なら診察室にいらっしゃいますから、どうぞお入りください」
と言った。
「いいんですか?まだお仕事中じゃ……」
「いいんですよ、どうせいつも暇を持て余してますから」
なるほど、と納得しつつも、どうやってこの医院の経営は維持されているのだろうかと疑問に感じながら、千里は診察室へと向かう。
「失礼します」
コンコン、とドアをノックしてから診察室に入ると、そこでは命の他にもう一人、思いがけない顔が千里を待っていた。
「む?おお、お前は……」
「あら、倫ちゃん」
そこにいたのは、千里のクラスメイトにして、担任教師糸色望の妹である糸色倫だった。
「こんな所で珍しいの。見たところ、怪我や病気ではないようじゃが?」
「あ、うん、ちょっと聞きたい話があってね」
命と倫、二人が揃っているのは好都合だった。
今の千里は、少しでも多く景の事について知りたいのだ。
糸色家の兄弟達はそれぞれ成人して職についてからも、何かと交流が多く、その仲の良さが窺える。
より多くの人数から景について聞き出せば、より多くの情報を聞きだせるかもしれない。
担任教師である望が午後から出張に出かけてしまった時は、タイミングの悪さに肩を落としたが、
ここでこの二人から話を聞く事ができれば、十二分にオツリがくる。
「どういうお話かな?また望が何かやらかしたかい?」
「いえ、そうじゃなくて……実は、景先生の事なんですけど……」
命に促されて、千里は話し始める。
千里がまず疑問に思ったのは、あの凄まじいまでの画力をどうして作品に活かさないのかという事。
抽象画より写実的な絵を好む千里の嗜好の偏りのせいもあったが、あの能力を活かさないのはどうにも勿体無い事の様に思えた。
手厳しく言ってしまえば、意味不明とも言える景の作品達も、あの能力をフルに使えばもっと違った形になったのではないか。
そう、千里は考える。
だから、千里には景がそれをしない事が不思議でならないのだ。
加えて、あれだけの画力を手に入れるには、相当の修練をした筈である。
それをあんな形で死蔵しているのは、せっかくの画力を無駄にしているのではないか。
「無駄、か……ははは、手厳しいなぁ」
千里の疑問に対して、命は困ったように苦笑して見せた。
「まず、誤解があるようだから、それを一つハッキリさせよう」
「誤解、ですか?」
「ああ、景兄さんの画力は修練によって身につけたものじゃない。言うなれば、天性のものなんだ」
「えっ?」
驚く千里に、命は微笑んで言葉を続ける。
「直感像、という言葉を知っているかな?」
直感像。
目で見たものを鮮明に、細部まで記憶する事の出来る能力。
放浪の画家、山下清などがこの能力を持っていた事で有名である。
山下清の場合、放浪の旅から実家に戻った後、旅先で見たものを貼り絵として作品に仕上げたという。
「景兄さんは、油絵の具の扱い方や技法なんかは練習しただろうけど、デッサンについて苦労したという話は聞いてない」
「そう、だったんですか……」
「そういえば、昔は景お兄様にお気に入りの漫画やアニメの絵を、たくさん描いてもらったけれど、その時も見本を見ている様子はなかったの」
「そうだ、これを見てもらえば、もっと良く分かってもらえると思うんだけど……」
336 :
266:2009/05/16(土) 01:35:03 ID:UImuhSBn
そう言って命が取り出したのは、絵葉書と写真がそれぞれ一枚ずつ。
絵葉書には景の描いた、東京タワーなどを描いたという例の縦線だらけの絵が印刷されている。
写真の方は、どこから写したものだろうか、東京タワーと周辺のビル群が写っている。
「いいかい、よく見ていてくれ」
命はその二枚を重ねると、レントゲン写真を見るときに使うライトボックスにそれを貼り付けた。
強い光が、絵葉書と写真を通り抜けて、景の絵とビル街の風景が二重写しに重なる。
そして、そこで千里は気付いた。
「あっ…これ!!」
景の絵に描かれた縦線と、写真に写ったビルの一つ一つがピタリと重なっているのだ。
位置も高さも全く同じ、寸分の狂いも見当たらない。
「これは風景画だったんだ。景兄さんなりのね……」
「すごい…ですわ……」
「これが景先生の絵の、本当の意味……」
無造作に引かれた線の一本一本が、ビルや東京タワーをある意味ではこれ以上ないくらい性格に描写していたのだ。
それを見つめる千里も、そしてどうやら今回初めてこの事を知ったらしい倫も、一様に驚きを顔に浮かべている。
「まあ、直感像だけで景兄さんのような絵が描けるわけじゃない。
多分、景兄さんは、私なんかには想像もつかない世界に生きているんだと思う」
そう、直感像は糸色景の世界の一端にすぎない。
おそらく彼は、絵を描く度に、自分の見る異質な世界を、最も端的に表現できる形まで磨き上げているのだ。
意味不明としか思えない作品群は、紛れもなく糸色景の内面世界の力強い表出だったのだ。
「まあ、これ以上、景兄さんの絵について語れる事は、残念ながら私にも出来ない。
ただ、兄として、家族としては、お調子者で気の良い、だけど結構頼りになる兄貴だったよ」
「私も同感ですわ、命お兄様……景お兄様は、私が遊んでと頼むととことんまで付き合ってくれましたわ」
景について語る兄弟の顔には、彼を本当に大事に思っているのだとわかる、優しい笑顔が浮かんでいた。
それを見つめる千里の心には、なんとなく、羨ましいような切ないような、不思議な気持ちが湧き上がっていた。
そして、一週間が終わり、また休日がやって来た。
前日の土曜、そして日曜と、千里はまたアトリエ景でモデルをやっていた。
何とはなしに、景の作品に潜むものを感じていた千里だったが、命の話を聞いてそれをさらに明確に理解するようになってからは、
部屋のあちこちに投げ出された作品や、未完成のスケッチなどから言い表しがたい何かを感じるようになっていた。
そのせいだろうか、今日の千里はなんだか全身がカチコチの彫像になってしまったようだ。
「う〜ん、千里、なんか、ちょっと硬くなってないか?そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ?」
そして、どうやら千里のその反応は景の方にもお見通しのようだ。
しかし、一旦意識し始めてしまったものから、途中で解放されるのは難しい。
(そうだ、もっとリラックスして……)
なんて考えれば考えるほど、千里の体はさらに硬直していくばかりだ。
「仕方ない。この辺で少し休むか」
そんな千里を見かねてか、景はスケッチブックを置き休憩するよう千里に促した。
「ごめんなさい、私、変に意識してしまって……」
「いや、いいさ。そういう生真面目な感じも、俺の描いてみたいものの一つだからな」
景が持ってきた菓子とお茶で一服していると、例のキャンバスが千里の視界に入った。
キャンバスは以前に訪れた時と全く同じ、何かを描こうとした形跡すらない真っ白のままだった。
千里がキャンバスを見ているのに気付くと、景はまた彼らしくもない気まずそうな表情を浮かべた。
「せっかく手伝ってもらってるのに、情けない話だな」
「まだ手を付けてみる気にはなれないですか?」
「ああ、もう頭の中ではどういう風に描くかまで決まってるんだが……」
「それならどうして?」
「実を言うとな、今、俺が描けないのは絵がどうこうとか、そういう問題じゃない気がするんだ……」
「どういう…事ですか?」
千里の問いかけに、景は少し寂しそうに笑ってこう答えた。
「怖い……そうだ、きっと俺は怖いんだろうな………」
337 :
266:2009/05/16(土) 01:35:53 ID:UImuhSBn
その翌日、学校の授業は終わり、もう日も暮れかかった頃、千里は宿直室にいた。
「はあ、どうして作品を書こうと思うかですか……」
万年筆を片手に、ちゃぶ台の上の原稿用紙にカリカリと筆を走らせていた望が、その手を休めて千里の問いかけに応えた。
「どうしてって言われても、なかなか難しいですねえ」
「でも、何の動機もなしに、作品を作り始めたりはしないんじゃないですか?」
千里がこんな話を望にしているのも、全ては昨日の景の言葉が原因だった。
描く事が『怖い』。
それは、一体どういう意味なのだろう?
だが、その事を考えるには、千里には重要な前提が欠けていた。
どうして、人は何かを創作しようとするのか?
作品を作り出すという行為は何なのか、その認識を欠いていたのである。
こんな事をして、一体自分はどうしようというのか。
千里は、自分で自分がわからなくなっていた。
ただ、どうにもらしくない景のあの不安げな表情が気に掛かって、こうせずにはいられなかったのだ。
「どうして書くのか……そうですね…」
望は今、久しぶりに小説を一本書いてみようと、原稿用紙に向かっていたところだった。
大学時代には同人誌を出すほどに文学に傾倒していた彼ならば、どんな答を出すのだろうか?
「うーん、やっぱり、書きたいから書く、という事じゃないでしょうか」
しばらくの沈黙の後、望が出した答えは拍子抜けするほど単純なものだった。
「先生……きっちり答えてください。書きたいから書く、それはそうでしょうけど、私が知りたいのは……」
「木津さん、突き詰めると何かを創作する動機なんて、こんなものなんですよ」
身を乗り出し抗議しようとした千里を、片手を上げて制し、望は言葉を続ける。
「『平和の大切さを訴えたい』とか、『真実の愛を描きたい』とか、まあ、言葉にしてみれば色々ですが、結局これらの根っこは同じなんです。
自分の心の奥底で燃え上がる何かを、形にして表したい。その強烈な衝動こそが全ての出発点なんじゃないでしょうか」
小説、絵画、彫刻、映画に漫画にその他諸々の芸術作品。
それらは詰まる所、表現する者の心の中身が、抑えきれずに噴出したものであると言えた。
「今、私が書いている小説も、久藤君が話してくれる物語も、藤吉さんの同人誌だって同じです。みんな、それを形にせずにはいられなかったんですよ」
心の中に生まれた思いがどうしようもなく膨れ上がって、形を求めて現実の世界に現れる。
自分自身でも抑えきれない強烈な思いの渦、それこそが創作の源泉だ。
「というわけで、私も抑えきれないこの胸の内を原稿用紙にぶつけているわけですが……よし、これで完成です!!」
ついに小説を書き上げた望は、たまらないといった感じの満足げな表情でガッツポーズをする。
しかし、万年筆を置くやいなや、原稿用紙は望の手元から取り上げられてしまう。
「それじゃあ、ここからは添削の時間でーす!!」
部屋の隅で小説の完成を待ち構えていた可符香は取り上げた原稿を持って行き、霧、まとい、交と共に車座に座る。
4人は輪になって望の小説を読み始め、原稿に目を通し終わると突然顔を上げて
「それでは、採点の発表に参りたいと思いますっ!!!」
可符香の号令と共に、それぞれが望の小説につけた点数を発表する。
交…48点
「筋立てが単純すぎる」
霧…68点
「先生頑張って書いたから……でも、もう少し内容は練れたんじゃないかな…」
まとい…63点
「先生なら、次はきっと、もっと素晴らしい作品が書けますっ!!!」
可符香…35点
「着想は良かったですけど、ブランク長くて文章力が落ちちゃったんですね」
4人の容赦ない採点に、一瞬前の浮かれようが嘘のように望は落ち込んでしまう。
「だから、もうちょっと甘く点数つけてくれても良いじゃないですかぁ!!!」
「何言ってるんですか!先生の将来性を信じればこその、この採点ですよ」
騒がしく言い合う望達の様子を見ながら、千里は考える。
338 :
266:2009/05/16(土) 01:36:42 ID:UImuhSBn
創作とは、突き詰めれば自分の内面をさらけ出す行為だ。
可符香達にコテンパンにされた望も、なんだかんだで楽しそうにしているのは、また小説を書きたいという衝動を彼が失っていないからなのだろう。
(それじゃあ、その創作活動が怖くなるって、一体、どういう事なの?)
景がその内側に凄まじいまでの創作への欲求を抱えている事は、ここ最近の付き合いで千里も理解した。
(創作は、自分の思いの丈をぶちまける事、それが『怖い』っていう事は……)
だんだんと、千里の中でパズルのピースが組み上げられていく。
おぼろげながら、景の抱える恐怖の正体が見えてきた気がする。
最後の問題は、それに対して千里がどう行動を起こすかだ。
だけど、その点に関しては、既に千里は答を出していた。
鞄を掴み、千里は立ち上がる。
「先生、ありがとうございましたっ!!」
「えっ?あ、はい……もういいんですか、木津さん?」
呆然とする望達を残して、千里は宿直室を飛び出した。
向かう先は、既に決まっていた。
真っ白なキャンバスの前にあぐらをかいたまま、まんじりともせず夜は更けていく。
「どうにもお手上げだな……どうする、由香?」
景のこの問いには、壁際に佇む彼の妻も答を持たないようだった。
景は『怖い』のだ。
それが全ての問題だった。
景の認識する世界は、『ふつう』の人間が抱くソレとは遠くかけ離れている。
景の不幸は、そのズレの度合いがあまりに大きく、また景自身に自分を冷静に見つめる客観的な精神があった事に起因している。
映画やドラマに出てくるマッド・サイエンティストや狂気を抱いた殺人者達、彼らはある意味で幸福である。
彼らは自らの異常性に気付かない、もしくはそれに気付きながら、『ふつう』の世界を意識的に踏み越えて行く事ができるからである。
それは、彼らが不完全な、ある意味で壊れた存在であるが故に可能な事なのだ。
自分と周囲の人間のズレに気付かない、気付いてもそれを実感として感じることが出来ない。
だから、彼らは好きなだけ、己の中の狂気に溺れ、酔い痴れる事ができるのだ。
だが、糸色景はそうではない。
彼の異常性は、ある意味で完成されたものだ。
完成されているが故に、彼は自分の精神がどのようなものかを客観視する事が出来る。
『ふつう』の世界と自分の認識との間の距離を、正確に測る事が出来る。
全く違う世界を生きながら、兄弟家族を愛し、喜びを分かち合い、共に笑い合う事が出来るのも、全ては景の持つこの性質のためだ。
だが、それは同時に、自分の心と、周囲の人間の認識、その間にあるどうしようもない断絶を、
景自身に強く認識させる結果となってしまう。
「ああ、だからなんだな………」
創作とは、己の魂を外に向かって形にする行為だ。
だけど、自分と周りの人間の違いを知る景は迷ってしまう。
己の内側を晒せば晒すほど、自分の心は周囲の人間の『ふつう』の世界から遠ざかってしまうのではないかと……。
だから、描けない。
絵筆を取る事が出来ない。
景は恐れているのだ。
このまま、書き続ける事が、最終的には自分自身を誰もたどり着けない孤独な世界に追いやってしまうのではないかと……。
パラリ、千里の姿を描いたスケッチブックをめくる。
そこに描かれた彼女の姿は、どれも瑞々しく、あのまっすぐなエネルギーに溢れている。
そういう千里と一緒ならば、今の自分がぶち当たっている限界も、越えていけるかもしれないと思ったのだけれど……。
「……怒るだろうなぁ…『きっちり完成させてください!!』なんて、顔を真っ赤にして……」
しかも、景は不用意にも、自分の抱えている不安について少しばかり千里に漏らしてしまっていた。
製作に行き詰れば、いやでも彼女を心配させてしまうだろう。
「全く、参ったな……本当にお手上げだ……」
途方に暮れる景が、力なくそう呟いた、その時だった。
ドンドンッ!!
玄関の扉を叩く音が、景の耳に届いた。
そして、次に聞こえてきたのは、ここ最近ですっかりお馴染みになったあの少女の声だ。
「すみませんっ!!千里ですっ!景先生、開けてくださいっ!!!」
339 :
266:2009/05/16(土) 01:37:35 ID:UImuhSBn
モデルの仕事をしてもらうのは休日だけと決めてあった筈だが、一体どういう事だろう?
疑問に思いながらも、景は玄関までやって来て、扉を開けて千里を向かい入れてやる。
「どうしたんだ、こんな時分に?」
不思議そうに尋ねる景。
千里はそんな景の瞳をまっすぐに見つめて、これまでにないほど真剣な表情で、驚くべき事を口にした。
「景先生、描かせてくださいっ!!」
「描かせてって、一体何を……?」
「あの絵を描かせてほしいんですっ!!景先生と一緒に、あの絵を完成させたいんですっ!!!!」
その気迫に圧されたためだろうか。
気が付けば景は彼女の願いを受け入れて、いつもの部屋に千里を案内していた。
一緒に絵を描く。
言葉にしてみると簡単だが、なかなかに難しい話である。
漫画のように、漫画家とアシスタントが役割分担をして一つの作品を描き上げるというわけにはいかない。
過去に描かれた大掛かりな絵画では、そういった前例もないではないが、やはり究極的には絵を描くというのは個人的な作業だ。
「それなら、せめて見ているだけでもいいんですっ!!!」
とにかく景が絵を描いている側にいたいという彼女の言葉を受けて、景は千里と二人並んでキャンバスの前に座った。
相も変わらず真っ白なキャンバスは、視界の全てを奪い去る吹雪の白い闇にも見える。
ともかく、どういった形であれこうしてキャンバスと向かい合うのは、景が再び描くための力を取り戻す良い機会かもしれない。
「モデルはしなくても、大丈夫なんですよね?」
「ああ、あくまでもイメージを掴むためのものだったからな。今の俺なら、目を閉じていても千里の姿を描けるさ」
言いながら、景は下書き用の木炭を手に取る。
既に何を描くべきか、イメージは固まっているのだ。
後はそれをキャンバスにぶつけるだけ。
それは十分に理解している、その筈なのに……
(駄目だ。手が震えて………)
やっぱり、怖いのだ。
描き始めてしまえば、自分は誰もいない暗い谷の底に落ちていくのではないか。
そんな錯覚が景の脳裏を支配する。
だが……
「千里、何を!?」
「景先生……っ!!」
震える景の手の平の上に、千里の柔らかな手のひらがそっと重ねられた。
「一緒に描くって、決めたんです」
冗談や遊びではない、真剣な表情の千里の横顔。
それを見ていると、何故だろうか、景は自分の胸の奥にわだかまっていた何かがふっと軽くなったように感じた。
(不思議だな……)
そのまま、まるで千里の指先に促されるように、景はキャンバスの上に下書きの線を描き始める。
今までの恐怖が嘘だったように、次々と描線が重なり、真っ白だった世界に景の脳裏にあったイメージが描き出されていく。
千里は、景が絵を描く手先の動きに合わせて、ただ自分の手の平を重ねているだけだ。
それなのに、景の心はまるで思い鎖から解き放たれたように軽やかだった。
木炭の荒い線は次第に密度を増し、キャンバスの上にまるで空を飛ぶ天女のような、一人の少女の姿が現れる。
千里だ。
しなやかな肢体を広げて、千里がキャンバスの中の空を飛んでいる。
「………なんで、裸なんですか?」
「いや、まだこれは下書きだから、これから色々描き足すんだから、そんなに怒るな、千里」
軽口を交わしたりしながらも、二人は黙々と作業を続けていく。
その中で、景は何となくわかってきた。
千里がどうしてこんな事を言い出したのか。
今の自分の心がどうしてこんなにも軽やかなのか。
(そうか……俺は一人じゃないって、そう言ってくれてるんだな、千里……)
景が呟いた『怖い』という言葉、ただそれだけで彼女は景の心中を察したのだ。
景が自分の感性を、心の景色を表現する事を恐れているのだと、彼女は気付いてくれたのだ。
340 :
266:2009/05/16(土) 01:38:12 ID:UImuhSBn
そして、彼女は景の側にいる事を選んでくれた。
一緒に絵を描こうと言ってくれた。
一人で描き出す世界が怖いなら、自分が側に居て手伝ってあげよう。
一人ではなく、二人で描いた世界なら、決して孤独になる事は無い。
千里は、景に対して暗にそう言ってくれているのだ。
どうしてこんな簡単な事を忘れていたのだろう?
世界は一人で作り出すものではないのだ。
人と人の間に取り交わされる様々なメッセージが、その二人の間に描き出すもの、それが彼らの世界である筈だ。
景の場合は、それがあまりに他人と隔絶し過ぎていたために、どうしていいかわからなかった。
ただそれだけの事なのだ。
右手に覆い被さる少女の手のひらは、優しくも力強い。
もはや、景の心を覆い尽くしていた恐怖はどこかへ消えて、アトリエを照らす裸電球のほの暗い灯りの中で、
景と千里は黙々と絵を描き続けた。
それから、どれほどの時間が過ぎただろうか。
「あれ?私、いつの間に眠って………」
眠たい目を擦りながら、千里は床の上に寝転がっていた体を起こす。
体の上にかぶせられていた毛布は、景がかけてくれたものだろうか?
「そうだ、景先生は?」
自分と景は一緒にキャンバスに向かって絵を描いていた筈。
思い出して辺りを見回すと、一人キャンバスに向かっている景の姿を見つけた。
「ごめんなさい、私、途中で眠っちゃったんですね……」
「いや、構わない。随分疲れていたみたいだし、今日も学校があるんだからな」
千里の言葉に、景は優しく応える。
キャンバスの上を走る景の手先の動きに淀みはなく、どうやら彼は自分の中の恐怖を乗り越える事が出来たらしい。
とりあえず、自分の思惑が上手くいった事に、千里はホッと胸を撫で下ろした。
「ああ、それから、アトリエにはしばらく来なくてもいいぞ」
「えっ?」
思いがけない景の言葉に、千里は驚いて顔を上げる。
すると、景はそんな千里になにやら自身ありげな顔でニヤリと笑って……
「久々の傑作の予感だ。完成したら、真っ先に千里に自慢したい。だからそれまで、どんな絵になるかはお楽しみって事でどうだ?」
まるで子供のような無邪気な表情。
本来の自分を取り戻したらしい景の姿に、千里の顔もほころんだ。
「わかりました。それじゃあ、完成、楽しみにしてますから……」
「おう、モデルの謝礼もその時にな……あっ、と……それからな……」
「……?…どうしたんですか?」
景はポリポリと後ろ頭をかいてから、
「ありがとう、千里……」
照れくさそうに顔を赤くして、そう言った。
言われた千里も、同じように頬を染めて、しかし、ニッコリと景に笑って見せたのだった。
341 :
266:2009/05/16(土) 01:38:44 ID:UImuhSBn
それから、およそ一ヵ月後。
例の絵がついに完成したとの知らせを聞いて、千里は再びアトリエ景にやって来ていた。
「どうだ、なかなかのもんだろ?」
まだ絵の具も生乾きのキャンバスの前で、景は自信満々といった様子でそう言った。
「……………」
一方の千里は、絶句。
ひきつった顔で、今にも暴れ出してしまいそうなのを、必死で堪えているという様子だ。
なぜならば、そこに描かれていたのは……
「……魚じゃないですかっ!!!」
魚、だった。
下書き段階では、天女のような千里が描かれていた筈の場所に、銀色の魚が描かれていたのだ。
現代画壇にその人ありと言われた変人、糸色景の本領発揮といったところだ。
景の手で描かれた美しい自分の姿に夢を膨らませていた千里にとって、これはなかなかに手痛い仕打ちだった。
「いくらなんでも、これは酷すぎますっ!!!」
「な、なんだ?千里、この絵の何がまずかったんだ!?」
「知りませんっ!!景先生が自分で考えてくださいっ!!!」
天女→魚の変化のショックですっかり不機嫌な千里と、わけもわからず戸惑う景。
だけど、『きっちり描き直してください!!!』なんて言い出さないあたり、実のところ千里もわかっているのだ。
この絵が表現しているものを。
景が描きたかったものを。
キャンバスの上、銀色の魚がしなやかなその身をくねらせ、深い海を泳いでいく。
周囲を囲むのは、かつては栄華を誇った文明の成れの果て、水没した高層建築物の古代遺跡だ。
遺跡はどれも、曲がり、歪んで、海の中を奇怪な形に切り取っている。
だが、周囲の歪められた景色とは正反対に、銀の魚はただ前へと向かって、まっすぐな軌跡を描いて泳いでいく。
その姿は、誰かに良く似ていた。
決して己を曲げる事無く、自分の信じる道を力強く進む少女の姿。
自分の中の恐怖に怯え、道を見失いかけた景を救った天女の飛翔。
常人とは遠く離れた異質な感性の持ち主、だけど彼の視線は違う事無く彼女の本質を捉えていた。
それは、糸色景の垣間見た、どこまでもまっすぐなあの少女の、木津千里の姿を見事に描き出していた。
342 :
266:2009/05/16(土) 01:42:04 ID:UImuhSBn
一本目は以上でお終いです。
続いて二本目、今週のマガジンの、例の加賀ちゃんの補習ネタ。
どう考えても、誰か書けっていう神の啓示にしか思えなかったので。
でも、カップリングは木野×加賀。
すみません、望×加賀の方が自然な流れなのはわかってるんですが、自分の好みのカップリングで書いてしまいました。
一応、エロメインで書いたつもりです。
それでは、いってみます。
343 :
266:2009/05/16(土) 01:42:57 ID:UImuhSBn
校則の『暗黙のルール』化によって、いつも以上にドタバタした今日の学校も既に放課後を迎え、太陽が西の空を赤く染めていた。
木野国也は夕陽の差し込む廊下を一人歩いていた。
特に用事があるわけでもないのに、こんな時間まで学校に残っていたのには理由がある。
待ち人がいるのだ。
「加賀さん、そろそろ補習、終わったよな」
木野が思いを寄せるクラスメイトの少女、加賀愛は先日の試験を休んでしまったため補習を受けているのだ。
木野はその補習が終わるのを待って、彼女と一緒に帰ろうと考えていたのだが……
「ん?あれって……先生か?」
しばらく廊下を歩いた先に、全身に耳なし芳一の如くびっしりと文字を書かれ、半裸の状態で倒れている男がいた。
近づいてみると、どうやらそれは2のへの担任教師、糸色望であるらしかった。
「この様子だと……また、ウチの女子達に玩具にされたパターンだな」
望は担当するクラスの女子の多くから好意を持たれているのだが、その女子達がくせものなのである。
一癖も二癖もある彼女たちは、気の向くままに行動し、時折このように望を悲惨な目に遭わせてしまう。
「そういえば、加賀さんの補習って、先生の担当だったよな」
足元に転がる望の姿を見つめながら、木野は呟いた。
どの時点で望がこんな有様になってしまったのかはわからないが、この分ではマトモに愛が補習を受けられたかどうかはかなり怪しい。
「もしかしたら、加賀さん、もう帰っちゃってるかもな……いや、でも、加賀さんの事だから……」
愛が、こういう時にサラッと見切りをつけてさっさと学校を帰ってしまえるような性格ならむしろ問題は無いのだ。
しかし、重度の加害妄想を抱えている彼女ならば、勝手に帰っては迷惑をかけてしまうと、いつまでも望の帰りを待っていてもおかしくない。
「よし!もしかしたら、誰かが加賀さんにこの事を伝えてくれてるかもしれないけど、一応、確認だけはしてみるか」
暗い教室でいつまでも望を待ちわびる愛の姿を思うと、木野はいてもたってもいられなくなってきた。
武士の情けとばかりに、はだけていた望の着物をキチンと直してやってから、木野は補習が行われる筈だった教室に急いだ。
だが、そこで彼はとんでもないものを目にしてしまう。
「加賀さんっ!!」
ガラガラガラガラガラッ!!!!
勢い良く扉を開いて飛び込んだ教室の中、木野は目の前に現れた光景に我が目を疑った。
「あっ……木野君!?」
ピッチリと閉じられたカーテンによって、夕陽さえも遮られた薄暗い教室。
そこに、一組の布団が敷かれていた。
その上で掛け布団をかぶって、木野の姿を呆然と見つめている少女の姿があった。
「加賀さん……何してんの!?」
「あ、その…これは……あの…!!!」
布団の中の少女、加賀愛と木野は驚愕の表情で固まったまま、しばらくの間互いに見詰め合う。
「えっと…加賀さんは…補習…受ける筈だったんだよね?」
呆然と呟く木野の視界に映る景色は、どう考えても勉強をしようという様子ではない。
暗がりの教室を照らすものは、布団の枕元に置かれた灯りがただ一つだけ。
薄明かりの中に浮かび上がる教室の光景は、なんだかとってもイケナイ雰囲気で、それだけで木野は何だか恥ずかしくなってしまう。
しかも、枕元に灯りと一緒に置かれている本のタイトルは『夜の補習』ときたもんだ。
どう考えても、マトモな状況ではない。
「あっ…これには、理由があるんです……っ!!」
戸惑うばかりの木野の様子を見て、何か言わなければならないと思ったらしい愛が口を開くが、これがまた良くなかった。
「…こ、これは…補習を受けて……きちんと成績をつけてもらう為に……」
愛の言葉に嘘偽りはなかったが、そこには重要な要素が抜けていた。
このいかがわしい教室の風景は、そもそも誰の考えによるものなのか?
その点をハッキリと説明していなかったのだ。
木野は必死に考える。
(この補習はそもそも、先生が加賀さんにやらせたわけだから……)
彼は、廊下に無残な姿で転がっていた担任教師の姿を思い出す。
例えば、こう考えれば辻褄が合うのではないか?
望は今は枯れているように見えるが、彼の妹の倫の話によると、昔は男女のべつまくなしだったという。
そんな彼が、成績の事を理由に、愛にいやらしい行為を強要したのだとしたら?
344 :
266:2009/05/16(土) 01:43:47 ID:UImuhSBn
そして、それは一度は成功しかけたように見えた。
だが、その現場を2のへの他の女子達に見られてしまったのだ。
その結果、望は女子連中に散々に弄ばれ、廊下の隅に打ち捨てられた………。
「これで、全部説明がつく………」
木野の表情がみるみる怒りの色に染まっていく。
「ちくしょうっ!!!担任教師だからって、こんな無茶な道理が通ると思ってんのかよ!!!」
「あっ!?木野君っ!!!」
怒りの声を上げて、教室から飛び出そうとする木野を見て、愛は何やらとんでもない誤解が生じてしまった事に気がついた。
「す、すみませんっ!!!木野君っ!!待ってくださいっ!!待ってくださいっ!!!!」
「は、放してくれ加賀さん、俺は絶対にアイツを許さねえっ!!!」
木野の腰に縋りつき、愛は必死で彼を止めようとする。
木野の口ぶりからすると、どうやら彼の怒りは誰か第三者に向けられているらしいのだ。
どうあっても、ここで木野を行かせてしまう訳にはいかない。
自分の発言のために、木野や、他の誰かにまで迷惑をかけるなんて、許されるはずが無い。
愛が木野の体を思い切り引っ張った、その時だった。
「うわっ!!?」
ほんの偶然に、木野は布団の端を踏んづけて体勢を崩してしまう。
バランスを失った彼の体は、力いっぱいに引っ張ってくる愛の腕によって後ろへと倒れる。
そして……
「あっ……!?」
「す……すみません…」
ドサッ!!
木野は愛の体の上に覆い被さるように倒れてしまった。
ほとんど受身を取る事もできなかった木野だったが、間に掛け布団が挟まった事で衝撃は吸収され、愛も怪我をしている様子はない。
布団の上の二人はただ呆然として、おでことおでこがくっついてしまいそうな至近距離で見詰め合う。
「本当に……すみません…なんだか、誤解させてしまったみたいで……」
「そんな、木野さんは……」
「いえ、本当に違うんです………これ、全部私がやった事なんです……」
それから、こみ上げてくる罪悪感に任せて、愛は木野に、自分がどうしてこの教室で布団なんかに包まっていたのか、その理由を説明し始めた。
愛曰く、それは匿名の指示だったという。
補習の行われる教室で、夜具を用意して、糸色望を待つべし。
それが、補習を受ける上での、暗黙のルールなのだと、そう伝えられたのだ。
その指示の意味するところを理解してから、愛は考えた。
(こんな事が暗黙のルール………でも、確かにそれぐらいしないと、きちんと補習は受けさせてもらえないのかも……)
その指示を疑う気持ちもあるにはあったが、生来気弱な彼女は結局それを実行する事に納得してしまった。
だが、結果は散々だった。
補習を行いにやって来た望は、布団の中で待っていた愛を見るなり、教室を飛び出していってしまった。
「だから、先生が廊下で倒れていたのも、きっと私が悪いんですっ!!!」
「いや、そんな事はないと思うよ。多分、あれはクラスのみんながいつもの調子でやったんだ」
「本当に、そうでしょうか?」
「大丈夫、請け合うよ」
木野の言葉を聞いている内に、愛もだんだんと落ち着いてきたらしい。
それからしばらくの間、木野はそのままの体勢で、加害妄想に震える愛の頭を撫でていたのだが……
(……って!?そのままの体勢!!?それじゃあ、今、俺は……)
だんだんと気持ちが落ち着いてくる内に、二人は今の自分達が置かれた状況に気付き始める。
345 :
266:2009/05/16(土) 01:44:39 ID:UImuhSBn
よくよく考えれば今の二人は、掛け布団越しとはいえ、木野が愛を押し倒し、その体の上に覆い被さっているような体勢になっているのだ。
(ま、ま、ま、まずいっ!!!いくらなんでも、これは……っ!!!!)
(あ…うあ……木野君の体が……私の上に………っ!!!)
ようやく事態を把握しはじめた二人は、猛烈な気恥ずかしさに襲われる。
早くこの体勢から脱出しなければ!!
だが、一旦、互いの存在を意識し始めると、ほんの些細な行動でさえもが途端にとてつもなく恥ずかしく感じられるようになってしまう。
愛の上から体をどけようと、木野の体の下から這い出ようと、二人が動く度に、手と手がぶつかる、足と足が当たる。
相手の体の感触を感じるごとに、二人の顔は急速に赤くなっていく。
さらに、掛け布団越しであるという中途半端さが状況をさらに悪化させた。
布団の厚みの向こう側に、相手の体の輪郭をより鮮明にイメージしてしまう。
そうやって、木野も愛も互いにどうする事も出来ず、ジタバタと布団の上でもがいている内にそれは起きた。
二人が、互いの体から離れようとする動きが偶然に重なり合い、愛と木野のおでこがぶつかり合ってしまったのだ。
「あ……!」
「うわ……っ!」
その思いがけない衝撃に、愛は咄嗟に木野の体に抱きついてしまう。
木野も、愛のその意外すぎる行動にしばし呆然としてから……
「か、加賀さん……っ!!」
「ひゃぁ……っ!!!」
思わず、愛の体を抱きしめてしまった。
ドキンドキン。
二人の心臓の鼓動が、これ以上ないぐらい近くでビートを刻む。
まるで体が燃え上がってしまったかのように体温が上昇し、愛も木野も自分では気付かないままに相手を抱きしめる腕にさらに力を込める。
ぎゅっと抱きしめた腕の中に広がる体温の愛おしさ。
やがて、熱に浮かされたように、二人は互いの唇を近づけてゆき……
「加賀さん…加賀さん……っ!!!」
「あ…木野君……んっ…んぅ!!」
一度、唇を重ね合わせたが最後、夢中になって強く激しく互いの唇を味わう。
無我夢中、ほとんど忘我の境地のまま、幾度と無くキスを繰り返してから、二人はようやく唇を離す。
「…………」
「…………」
見詰め合う二人の間に言葉は無かった。
だが、木野も、愛も、自分達が抗いようの無い怒涛の如き流れの中に飲み込まれてしまったのだと理解していた。
それからすぐ後、二人のいる教室の扉は閉ざされ、内側からしっかりと鍵がかけられた。
兎にも角にも、外界から遮断された環境を手に入れて、木野と愛の興奮はいよいよ高まっていた。
「あ…う……その、加賀さん……」
「は、はい…なんでしょうか?」
それでもまだ木野の心には迷いもあった。
状況に流されてこんな事になってしまったが、果たしてこれは本当に愛の望んでいる事なのだろうか?
「……なんだか…勢いでこんな事になっちゃって…キスなんかしたりして…でも、もしも加賀さんが嫌なら今からでも……」
我ながら情けない言い様だとは思ったが、今の木野には現在の状況は夢の出来事の中のようで、まるで現実感がない。
本当にこのまま、この熱に浮かされて、愛の事を求めるのが正しいのか、すっかりわからなくなってしまっていた。
だが、そんな木野に愛はおずおずと、しかしはっきりとこう言った。
「…う、嬉しいです…私は……木野君と…木野君が、あんな風に私なんかの事を抱きしめてくれて…あんなに強くキスしてくれて……」
それは、恥ずかしさで今にも胸が張り裂けてしまいそうな愛の、精一杯の言葉だった。
それは最後の一線で揺らいでいた木野の背中を、強く前に押し出す。
346 :
266:2009/05/16(土) 01:45:23 ID:UImuhSBn
「か、加賀さんっ!!!」
一組の布団の中で、木野は愛の華奢な体を強く強く抱きしめる。
先ほど以上に激しくキスの雨を降らせ、片方の手で愛と指を絡め合い、もう片方で愛のうなじから首筋をつーっとなぞった。
ビクンッ!!
僅かな刺激にも敏感に反応する愛の体に、さらに愛おしさを募らせながら、木野の指先は愛の胸元へと伸びる。
「あ…すみません………私…体…貧相ですから……」
「えっ…そんな事ないと思うけど……」
どうやら、愛は自分のスタイルに自信がないらしい。
確かに胸は大きい方ではないけれど、木野が見る限り標準的な程度の大きさはあるように見える。
全身を見ると、線の細さが目立つが、それはどことなく儚げな愛のイメージに合っているように思えた。
要するに、個性の問題だ。
木野にとっては何より、愛の姿が美しく可愛らしくその目に映るのだ。
「きれいだよ…加賀さん……」
「そ、そんな事……きゃっ!?」
戸惑う愛の胸を、セーラー服の上から優しく愛撫する。
手の平から伝わってくる愛のぬくもり、柔らかさ、それらが木野の意識をさらに深くこの行為にのめり込ませていく。
「…ひぅ……あっ…や……はぁはぁ……木野…くん……」
一方の愛も、木野の愛撫によってだんだんと心を蕩かされていく。
木野の指先の動きはつたなく、ぎこちない。
だけれども、愛の体をひたすらに慈しむような、繊細で優しい手つきが、愛の心を幸福で満たしていくのだ。
「……木野君……もっと…たくさん、木野君に触ってもらいたいです……」
やがて、愛はおずおずと自分の上着を捲り上げ、下着をずらし、その白い肌を木野の前に晒す。
「…あ……うあ……」
露になった愛の裸身に、木野はただ言葉を失う。
それは彼にとって、触れれば砕けて消えてしまいそうな、繊細な彫刻のように見えた。
「………木野君…」
愛の声に促されるように、木野は震える手の平をそっと彼女の鳩尾の辺りに触れさせた。
肌から肌へ、直接に伝わってくる、愛の存在。
(やっぱり…壊れちゃいそうだ……)
実際に触れてみても、愛に対するそんな印象は変わらなかった。
だから、木野はこれまで以上の繊細さで、そっと指を滑らせ、愛の乳房に触れた。
「……っあ…くぅ……ひぅ……」
切なげに声を漏らす愛の顔を見ながら、木野はその指先で次々と愛の体に触れていく。
乳房全体をやさしく揉んだ後、その頂点でピンと張り詰める可愛らしいピンクの乳首を撫でてやる。
滑らかな素肌の上に指を這わせて、脇腹に、おへその周囲に、何度も刺激を与える。
そのたびに、ピクン、ピクン、と愛の体は敏感に反応する。
「…ふあっ…ああっ……木野君…木野君……」
切れ切れの呼吸の合間に名前を呼ばれて、木野は彼女の求めるままもう幾度目かわからないキスを交わす。
その間にも、彼の指先は休む事無く、彼女の体への愛撫を続け、二人はただひたすらに互いの存在を求め続ける。
だけど、どうしてだろう?
こんなにも近くに居るのに、こんなにも触れ合って、キスをして、目の前の相手の事を精一杯に享受しているのに、
足りないのだ。
抱きしめて抱きしめて、触れて触れ合って、それでもまだ、彼女が、彼が欲しいと心が激しく訴えるのだ。
愛も、木野も、こんな気持ちは初めてだった。
相手を愛おしく思う気持ちが自分という器の中にさえ納まり切らないほどに、とめどなく溢れ出てくるのだ。
「…加賀さん…ここも…とっても熱くなってる……」
「ふぁ…あ……木野君…恥ずかし……っ…あぁ…ふあああああっ!!!!」
太ももと太ももの間に手の平を滑り込ませ、何度も愛の細い脚を撫で回した。
脚の付け根に、敏感な部分に近付くにつれて、高くなっていく彼女の声に、木野の心臓も鼓動を早める。
やがて、たどり着いた彼女の秘所を、下着の上から撫でてやると、愛の全身は雷に撃たれたようにビリビリと震えた。
「…ひぅ…くぅんっ!…あ…木野君に触られた所……痺れて…変にぃいいいっ!!!!」
駆け巡る甘い電流に、心と体を震わせて、愛は夢中で声を上げた。
木野も溢れ出て止まらない想いに背中を押されるまま、一心に愛を求め続けた。
ショーツの中に差し込まれた木野の手の平は、愛の秘所を優しく撫で、浅く割れ目をかき混ぜて、より大きな快楽を引き出そうとする。
347 :
266:2009/05/16(土) 01:46:16 ID:UImuhSBn
「……っはぁ…はぁ……木野君っ!…ふぁああああっ!!!…私っ…私ぃいいいいっ!!!」
「…加賀さんっ!!…ああっ!!加賀さん――――っっっ!!!!」
二人を照らすのは、枕もとの弱弱しい灯りが一つきり。
ほとんど相手の事しか見えないこの暗がりの中で、木野と愛は目の前の愛おしい人と快楽を分かち合う悦びに溺れていく。
やがて、二人はどちらからともなく、より強く、より深く、この熱情の中で一つになりたいと願い始める。
「…加賀さん…俺……」
「…はい…木野君……お願い…します……」
スカートとショーツを脱いで、露になった愛の大事な場所に、木野は大きくなった自身のモノをあてがう。
最初はふとした弾み、ほんの偶然の出来事の筈だった。
それがいつの間にか、こんなにも激しくお互いを求め合っている。
正直、木野も、愛も、そんな自分達がこうしている事がまるで夢のように思える。
だが、この胸に湧き上がる愛しさと熱は、まぎれもない現実なのだ。
「いくよ、加賀さん……」
「あっ…木野…くん……」
ゆっくりと、木野のモノが愛の中に挿入されていく。
やがて、彼女を襲った引き裂くような痛みに、愛は全身を震わせ、それを感じた木野も一瞬躊躇するが……
「………ん…くぅっっ!!!…うあ…あああっ!!!!」
背中をぎゅっと、強く抱きしめる愛の腕が行為を止める事を許さなかった。
愛の心の中で高まった情熱は、いまや木野を受け入れるこの痛みすらも強く求めていた。
やがて、愛が木野の全てを受け入れ、一つに繋がりあった二人は、高まる想いのままに互いの熱を、存在を求めて行為に没入していく。
「あぁっ…くぅ……うぁ…加賀さんっ!!加賀さんっ!!!」
「ひあっ…や…はぁああああっ!!!…木野くんっ!!…木野くぅんっっっ!!!!」
指を絡めあわせ、互いの手の平を強く握り合い、呼吸も忘れるほどにキスを繰り返す。
汗ばむ肌、際限なく高まっていく体温の中、溶けて混ざり合い、一つになっていくような錯覚を覚えながらも二人の行為は加速していく。
「あっ…くぁあああっ!!!…や…はげし…あああああっ!!!!」
突き上げられるたび、愛の体を駆け抜ける熱と痛みと、言い表しがたい切なさ。
木野が与える激しいその感覚に、神経の全てを塗り潰されて、愛はその中で我を忘れていく。
木野も、抱きしめて、抱きしめ返される度に高鳴る鼓動に、体が壊れてしまいそうな錯覚を覚えながらも、行為を止める事ができない。
ただ、駆け巡る熱の嵐の中で、二人は溶鉱炉の中で溶けていく鉄よりも熱く、ドロドロに溶け合って、ただひたすらに互いを求め合う。
「ひはぁ…あああっ!!…木野くん…すごく……熱くて…私……っ!!!」
「あああっ!!…加賀さんっ!…俺も…加賀さんの体、熱すぎて……っ!!!」
教室の中、唯一の光源である枕元の灯りが、二人の交わる影を壁に映し出す。
その中で、愛と木野の二人は、ほとんど見分けがつかないほどに一つに重なり合って、激しく交わり続ける。
二人の汗が、吐息が、零れ落ちる涙が、混ざり合って互いを分かつ境界線を曖昧にしていく。
何度も何度も呼び合う互いの名前ですら、いつしか自分のものと相手のものとの区別すらつかなくなってしまったような気さえする。
(一つになりたい……)
(加賀さんと…本当に一つになってしまいたい)
(木野君と、もう二度と離れられないぐらい、一つになって……)
(もっと強く、もっと激しく、愛して、愛されて……)
((この熱の中で、いつまでも二人で愛し合っていたい……っ!!!))
高まり合う二人の想いに呼応するかのように、二人が分かち合う快楽と熱もやがて臨界点を突破する。
「…加賀さんっ!!…くっ…俺……もう…っ!!!」
「…ひあっ…ああっ…何か熱いのがこみ上げて……ああああっ!!!…木野くんっ!!木野くぅんっっっ!!!!」
限界を越えた二人の中で、凄まじい熱量がこみ上げてくる。
それは容易く二人の神経を焼き尽くし、激しい絶頂へと二人を導く。
「…ああああっ!!!!加賀さんっ!!加賀さぁああああああんっっ!!!!」
「ふあああああっ!!!!木野くんっ!!!木野くぅうううううううううんっっっ!!!!!」
強く強く抱きしめ合い、互いの名前を呼び合いながら、二人の意識は絶頂の熱の中でホワイトアウトしていった。
348 :
266:2009/05/16(土) 01:46:47 ID:UImuhSBn
それからしばらく後、木野と愛の二人は、まだ例の教室の中にいた。
衣服は既に直していたが、何となく先ほどまでの行為の余韻が抜け切らない二人は、
狭い布団の中に仲良く並んでもぐりこんで、じっと天井を見つめていた。
二人の間に会話はない。
お互い、自分が勢いだけであんな行為に及んでしまうとは思いもしなかったのだ。
恥ずかしくて、隣の相手に話しかける事ができない。
ただ、心と体が繋がりあった証であるかのように、二人の手の平だけは布団の下でしっかりと握り合っていた。
(……なんだか、まだ信じられないな……俺と加賀さんが……あんな事になるなんて……)
今回の二人の行為を後押ししたのは、信じられないくらいの偶然の連鎖だ。
もし、愛に対して匿名の指示とやらがされなかったら。
もし、望が教室から逃げ出さなかったら。
もし、廊下の脇で倒れていた望に木野が気付かなかったら。
もし、あの時、木野が愛の上に倒れこまなかったら。
考えればキリがない。
(ここまで、都合よく色んな出来事が重なると、何だか今度の事自体がまるで嘘みたいに思えてくるな……)
木野の胸をふとよぎる、そんな考え。
そもそも、愛が彼を受け入れてくれた事だって、何かの気の迷いじゃないのか。
一度考え始めると、不吉な想像は次々と湧き出て、木野の頭の中はそんな考えでいっぱいになってしまう。
しかし……
「木野君……」
そう呼びかける声に、木野はそっとそちらの方向に視線を向ける。
少し心配そうに、自分を見つめる愛の眼差し。
「何を…考えていたんですか……?」
問いかける声の優しい響きを聞いて、木野は確信する。
ああ、嘘じゃない。
この気持ちも、彼女の気持ちも、一かけらだって嘘じゃない。
「ちょっと、どうでもいい事を考えてただけだよ。心配しないで、加賀さん……」
愛の心配を少しでも払拭できるよう、なるべく明るい声で木野は答える。
それを聞いて、愛もようやく安心したような表情を浮かべる。
そうだ、怯える事なんて何も無い。
(加賀さん、大好きだよ……)
想いを込めて、きゅっと彼女の手を握る。
すると、彼女も同じように、強く優しく木野の手を握り返してくれた。
それから、愛はとても嬉しそうに、木野に微笑む。
それは、これ以上ないくらいに最高の、木野の想いに対する愛の返答だった。
349 :
266:2009/05/16(土) 01:47:16 ID:UImuhSBn
以上でおしまいです。
それでは、失礼いたします。
ありがとう
木野加賀好きだ
すごいボリュームだな
これで一週間持ちそうだ
いろんなキャラが出てきて幸せになりました
GJ
木野×加賀はいいな…
もちろん景兄さんのほうもGJです!
話は変わるが17集を呼んで日塔×久藤も良いかなぁなんて思えてきた
>>353 久藤に話題をふるとき頬を赤らめてる(?)のがかわいかったな
日塔が久藤に普通に恋するわけか
いやでもこの2人の普通な恋もありだなと思ったよ>17集
それまでは久藤君は千里と似合うと思ってたけど
千里の相手…辛そうだな
千里の相手は先生以外には荷が重過ぎる
先生以外だと精々藤吉さんくらいだな
やっぱり、景くらいしか太刀打ちできないような気がするな。
…と、景千里SSでこのCPに目覚めた自分が言ってみるw
363 :
266:2009/05/21(木) 01:41:47 ID:YTRAXa5y
書いてきました。
17巻の加筆のうるう小オチからの派生です。
加筆では晴美がメインでしたが、すみません、個人的な趣味で望カフです。
短めのエロなし。
それでは、行ってみます。
364 :
266:2009/05/21(木) 01:42:45 ID:YTRAXa5y
にょんたかっ!
犬耳カチューシャを頭につけて、晴美は望の前に現れた。
にゃにょんっ!
可愛らしい子犬相手に愛情表現のつもりで、その耳に甘噛みする望の姿に彼女はひらめいたらしい。
こうやって、犬耳装備で近付けば、先生の気を引く事が出来るかもしれない、なんて事を思いついたのだ。
にょにゃんっ!
だけど、望はなびかない。
目の前をチラチラと行き来する犬耳カチューシャに対して、彼はぷいっと顔を背ける。
どうやら、犬耳晴美ではお気に召さないらしい。
それでも諦めずにアプローチを続ける晴美だったが、望のあまりにそっけない態度についに根気負けしてしまう。
「うぅ〜、これならいけると思ったんだけど……」
未練たらたらといった表情を浮かべつつも、犬耳カチューシャを鞄の中にしまいこんでその場を後にする。
望とすれ違いに駆けていった彼女の後姿をチラリと見て、望は少しバツの悪そうな表情を浮かべる。
「………ちょっと可哀そうな事をしちゃったかもしれませんが…本物の子犬なわけじゃなし、どう対応していいか困っちゃうんですよねぇ……」
望が子犬の耳を甘噛みしたのは、あくまで可愛い子犬に対する反応であり、人間向けのものではない。
子犬と晴美では接し方も違うわけで、同じように扱うには無理がある。
要するに、犬に対する愛情表現と人間相手のソレは違うという話である。
それに、望が晴美に反応しなかったのはもう一つ理由がある。
今も、望の右斜め後ろにいるはずの少女、風浦可符香。
晴美がやって来るより前、望が本物の子犬相手に、頬ずりをしたり、耳に甘噛みしたりするのをかなり冷静な瞳で見つめていたのである。
その視線に気付いた事で、望は一気に我に返ってしまった。
可符香は特に何も言わなかったし、馬鹿にしてるとか呆れてるとか、そんな様子もなかったけれど、
だからこそ逆に、可符香の眼差しは、望の心に深く突き刺さり、彼の羞恥心を抉っていったのだ。
まさか、子犬の前でのあの有様を見られた後では、迂闊な行動は出来ない。
そう思っていたからこそ、望は晴美に対しても勤めて冷静でいようとしたのだ。
しかし、まあ、彼女もどうやら諦めてくれたようだし、これで一安心。
そこで、望は、何気なく可符香に声をかけようとしたのだけれど………
「あのう、風浦さん………って…えっ!?…ええええええええええっ!!!!?」
振り返った望の視線の先にいた彼女の姿、それは……
「……………」
にょんたかっ!
先ほどまで晴美がつけていたのと同じ犬耳カチューシャをつけて、表情は先ほどまでと変わらないおすまし顔。
だけども、やっぱり少し恥ずかしいのか、微妙に頬が赤く染まったりしている。
(ふ、ふ、ふ、ふ……風浦さぁあああああんっ!!!!!)
望の声無き声が響く。
こうして、犬耳カチューシャ作戦は主役を可符香に変えて、第2ラウンドへと突入した。
365 :
266:2009/05/21(木) 01:43:54 ID:YTRAXa5y
可符香はずっと見ていた。
望が子犬を夢中になって可愛がり、その小さな耳を甘噛みするのを。
晴美に犬耳カチューシャで迫られて、今度は手の平を返したように、彼女にぷいと顔を背け続けた様子を。
可符香は冷静に観察し続けていた。
途中、彼女の視線に気付いた望がやたらと恥ずかしがる一幕もあったが、その間も可符香は望の事をただ見つめていた。
(ああ、確かにああいう所を見られると気まずいよね……)
なんて考えて、最後まで傍観者の立場でいる、その筈だったのに……。
(私、どうしてこんな事をしているんだろう?)
晴美が望達の前から立ち去ろうとした時、鞄への仕舞い方が浅かったのか、彼女の犬耳カチューシャが外へ飛び出してきたのである。
そして、それは寸分違わず、可符香の手元に落ちてきたのだ。
晴美にこれを返さなければ、そう思った時はもう遅かった。
学校でもトップクラスの身体能力を誇る晴美の背中は、すでに道の彼方へ小さく消えていこうとしていた。
で、問題はこれからである。
犬耳カチューシャは、明日学校に行った時にでも晴美に手渡せばいい。
それで、万事解決となる筈だったのに、何故だろうか、可符香は魅入られたように犬耳カチューシャを自分の頭につけてしまったのだ。
(ああ、先生も見てる……困った顔してる……)
表面上こそ冷静な風を装っているが、正直な話、今にも恥ずかしさでどうにかなってしまいそうである。
一体、どうしたらいいのだろう?
いや、今からでもカチューシャを外して、鞄に収めて、それで一件落着にできる事は頭では理解できているのだけれど……
(わ、私も…晴美ちゃんみたいに……!!)
いつの間にやら、そんな事を考え始めている自分がいるわけで、全くなんとも厄介な話であった。
こうなれば仕方がない。
さっきの晴美のように、一応の諦めがつくまでアピールすれば、このカチューシャを外せる空気になるかもしれない。
というわけで、犬耳装備の可符香は戸惑う望に向かって一歩、足を踏み出したのだ。
(な、な、な、なんですかぁ!?風浦さんどうしちゃったんですかぁ!!?)
先ほどまで、子犬にじゃれつく自分の事を冷静に観察していた彼女が、一転、犬耳装備でこちらへ一歩、また一歩と近付いてくる。
しかも、今回は晴美のときと少し勝手が違う。
相手が、今の今まで、我関せずといった冷静な態度を取っていた可符香である事。
さらに、そんな彼女が、どうやら犬耳カチューシャが恥ずかしいのか、何でもないといった感じの表情を保てず、僅かに赤面している事。
(う……うぅ……こんなの反則ですよぉ……っ!!!)
どうやら、当人は犬耳以外は普段どおりのつもりのようであるが、それにはかなり無理があった。
薄っすら紅く染まった頬と、低い位置からの上目遣いの視線。
正直、今の可符香に望のハートは完全にノックアウトされていた。
(で、で、で、でも、この場合、どういう対応をするのが正解なんでしょうか?)
前述の通り、耳を甘噛みするのは望にとっては子犬に対する愛情表現である。
だけど、目の前の可符香の姿を見ている内に、望の中で人間への対応と子犬への対応、二つをわける壁が曖昧無いなっていく。
366 :
266:2009/05/21(木) 01:44:45 ID:YTRAXa5y
「…………」
その間にも、可符香はまた一歩望に近付く。
既に、ほとんど望の懐に入り込んだような状態、真下から見上げてくる視線に、望の心はさらに揺らぐ。
(あっ…ああ……あああああっ!!!!…私は…私はぁああああああっ!!!!)
最後にもう一歩、これでもう望と可符香は完全な密着状態。
無言のまま、可符香はただ望の瞳を覗き込んでくる。
至近距離で見る彼女の表情からは、今の彼女の感じている恥ずかしさや緊張が滲み出ているようで……
(だ、駄目ですっ!!可愛すぎますっ!!!もう限界ですっ!!!!)
そして、これ以上耐え続ける事も、今の望には無理な相談だった。
望の手の平が可符香の肩にそっと置かれる。
そして、熱に浮かされたような表情の望は、薄く開いた唇を可符香の方に……。
そして……
「ふ、風浦さん……っ!!!」
はむっ!!
望の唇はそのまま、可符香のつけた犬耳カチューシャの先端を捕らえる筈だったのだけれど……
「ひゃっ!?……せ、せ、せ、先生っ!!!?」
可符香自身の耳をくすぐったく包む感触。
望も、どうやら様子がおかしい事に気付き始める。
「……ふ、風浦さんっ!?……これは、その……っ!!!」
「先生っ!!…耳っ!!…私の耳ぃいいいっ!!!!」
もうここまでくれば、誰だってわかる筈である。
望が甘噛みしたのは犬耳カチューシャではない。
それをつけている可符香自信の耳たぶだったのだ。
みるみる真っ赤になっていく二人の顔。
しかし、覆水盆に返らず、今となっては全てが後の祭りである。
「すみませんすみませんすみませんっ!!!風浦さん、わ、私はこんなつもりでは……っ!!!!」
「ふわわわわわわわわわわわわっ!!!!先生がっ!!先生がぁあああああああ……っ!!!!」
もはや恥も外聞も無く、道の真ん中で喚く二人。
こんな展開、100万人が予想しただろうけれども、当の二人にとっては完全に想定外だったわけで……。
その後、望と可符香は、パーティーグッズなんかで売られている動物耳つきのカチューシャを見る度に、
何やら物凄く恥ずかしそうな表情を浮かべて、顔を真っ赤にするようになったとかならないとか………。
367 :
266:2009/05/21(木) 01:47:22 ID:YTRAXa5y
以上でおしまいです。
なんというか、17巻は表紙やら折り返しやら、各種の加筆やら、色々とおいしすぎる巻でした。
晴美と千里とか、もうねえ……。
では、この辺りで失礼します。
>>365 太刀打ちだけなら色んなキャラができるけど、そんなものができたところで、千里には何にもならん
それに比べて先生は、太刀打ちは全くできないし、
千里には一番ひどいことされてるけど、千里が危ない目にあったときには助けにきてくれたり、
なんだかんだでちゃんと千里のことを思ってくれてる
藤吉さんは言わずもがなだな
久藤君を推す人もいるけど、ありゃ綺麗な言葉を言うだけで何もしない、だめだめだ
そもそも、自分が作った物語を聞かせただけなんで当然だが
久藤×千里のSSだらけにして
>>368を追い出そう
はむはむGJかわいいよ
自分は何巻か忘れたけど巻末の千里と久藤君のニュース漫画読んでありだなと思ったけど
きっちり×包容力で案外ありだな、と
久藤君は千里の奇行に動じない数少ない人物だからなぁ。
アリだと思うが。
ほぼ接点のないキャラで妄想ができるのが羨ましい
糸色 望 オールSN編成 特急「おき」
自慢のDML30HSHエンジンを「クォオーン!!」と猛烈に唸らせながらじわりと起動。
60km/hあたりでいったんノッチオフ。そして、ギアを直結に入れて再度力行し、
100km/hほどまで加速。直結に入ったときのエンジン音では「クォオーン」が「クゥウーン」に
変化していくのです。※よほどの66/67通、181通でないと分かりませんが・・・。
惰行走行に入ると、ガタガタン、ガタガタンという重たいジョイント音が長々と続きます。
惰行走行に入るものの、速度を保つ運転を強いるため、力行と惰行を何度も繰り返します。
糸色 望のトルコンは本来は、特急・急行形用のもので、中間速度域での引っ張り力をおもくみた
特性のトルコンで、加減速の多い運転よりも、長々と一定の速度を保つような運転や、快速運転などに
適していると言えます。※同型変速機を搭載したルルーシュやティエリアも同じ。
>>375は他の板でも意味不明な文を書いてる荒らしなのでスルー推奨
個人的に前にも上がった加賀×久藤が読みたい
>>374 会話がない、あっても二三回くらいなのにお似合いとか言い出すからな・・・
ひどい人は、本当にくっついてほしいとまで言い出す
>>374 >>377 おいおいお前らはこの板で何を言ってるんだい?
そんなの一々気にしてたら二次創作なんてできないぞ
ひどい人とかいう方がひどいわ エロパロだぞここ
接点のないキャラ同士のSSばかりにして
>>377を追い出そう
>>377の書き込みを直訳すると「望のSSだけ書けよ!」って事だな
383 :
266:2009/05/22(金) 00:38:57 ID:X0qizo1B
こんな話の流れの時にアレなんですが、また書いてきました。
以前書いていた、万世橋×芽留のSSの続きの話です。
かろうじて覚えてるよ、って方以外には意味不明、謎そのもののカップリングです。
すみません………。
一応、保管庫の方に過去のSSは掲載されているので、興味が湧いたなんていう奇特な方がいたらチェックしてみるのもいいかもしれません。
それでは、投下させていただきます。
384 :
266:2009/05/22(金) 00:39:49 ID:X0qizo1B
ぽふっ、と軽く柔らかい音が頭の上で聞こえた。
その後、2度、3度と優しくいたわるような手の平が芽留の頭を撫でる。
「よう」
【勝手に撫でんな】
なんて憎まれ口で返答をしながらも、実のところ、芽留はこうして彼に、万世橋わたるに頭を撫でてもらうのが嫌いではなかった。
【だいたい、その妙な馴れ馴れしさが傍から見ると、幼女を誘拐する危ない犯罪者っぽいんだよ!!】
「いや、その言い方はお前自身の弱点の方もザックリ抉ってるから、その辺でやめとけ」
言い合いながらも、わたるは芽留の頭を先ほどより少し荒く、だけど決して乱暴にならない程度の強さで撫で続ける。
散々文句を言いながらも、芽留はその手の平を押しのけようとせず、ただその優しい感触を甘受する。
芽留の頭はどういうわけか、叩くと、ぽんむ、とまるで小さな太鼓でも鳴らしたかのような音がする。
小さな頃から、この事に気付いた同級生達にからかわれる事が多く、芽留を溺愛する父親もその度に激怒して色々と大変な事になったものである。
つい先日も、芽留のこの秘密に気付いた奈美が、つい芽留の頭を押しすぎたために、全身を緑色に塗られてしまうという災難にあった。
芽留自身にとっては、少し嫌なことも思い出すけれど、それ以上はどうという事も無いごく普通の現象なのだけれど………。
ただ、だからこそ、芽留はある事に気付く事が出来た。
(でも、わたるが頭を触ってくるときは、絶対にあの音がしないんだよな……)
たぶん、それはぶっきらぼうな物言いとは裏腹に、わたるは芽留にそっと優しく、まるで壊れ物でも扱うように慎重に触れているからなのだろう。
言外に込められたその優しさに、身を委ねる瞬間がたまらなく心地良くて、芽留はいつもこの時間を待ちわびていた。
時間は夕方の4時を過ぎ、学校は放課後、こうして廊下でわたるの事を待ってから帰るようになって、もうどれくらい経つだろう。
「んじゃあ、帰るか」
【おう!】
芽留とわたるは眩しい西日の差し込む廊下を並んで歩き出す。
二人の影は足元から薄暗い廊下の先の先まで、仲良く寄り添ってのびていた。
「で、今日は寄っていくのか?」
【ん、そのつもり】
わたるが尋ねた言葉に、芽留は肯いた。
ここのところ、芽留は帰宅の途中にわたるの家に寄ってから帰る事が多かった。
わたるの家には大概、わたるの母親や妹がいるので、彼としてはどうにも気恥ずかしいのだが、
以前、その程度の気恥ずかしさなどどうでも良くなるような事件を経験してしまい、それ以来芽留と一緒に過ごす事への照れも和らいだようである。
「ただいま」
【じゃまするぞぉ】
わたるの家にたどり着いた二人は、玄関をくぐりわたるの部屋のある二階への階段を上っていく。
「あ、芽留さん、また来たんだ」
と、その途中で芽留に声をかける人物がいた。
わたるの妹である。
【おう、相変わらず、双子と見紛うようなソックリ兄妹だな】
「芽留さんも相変わらずお兄ちゃんと仲良いみたいだね」
なんて、すっかり気安く言葉を交わすようになった妹と芽留を見て、わたるは流石に恥ずかしくなったのか
「おい、さっさと行くぞ」
顔を少し赤くしながら、自分の部屋の方に急ぐ。
「それじゃあ、芽留さん、くつろいでいってくださいね」
【ああ、ゆっくりさせてもらうぜ】
ひらひらと妹に手を振る芽留を引っ張って、わたるはようやく自室に転がり込む。
以前、この部屋の鍵の不調のせいで大変な目に遭ったせいか、今のわたるの部屋のドアは新しいものに変わっている。
わたるの部屋の中は、相も変わらずのオタク的な品々の山で埋め尽くされていた。
芽留はそんな部屋の隅に鞄を下ろして、すっかり自分専用と決め込んでいるクッションの上にポフンと座り込む。
【相変わらず、妹には弱いのか?】
「うるせえよ」
未だに顔を赤くしているわたるをからかうように、ニヤニヤ笑いながら芽留がそう問いかけた。
二人はこの部屋でゆっくりと語り合ったり、だらだらと漫画を読んだり、ゲームをしたり、好きなように時間を過ごすのがお決まりだった。
だが、今日は、芽留がわたるの部屋を訪れた理由は他にもあるようだった。
【ところで、例のアレ、もう出来てるんじゃないのか?】
「……むぐっ…!?」
芽留の言葉に、わたるの顔が青ざめる。
【締め切りも近いって言ってたし、お前はそういう約束はキチンと守るからな………出来てるんだろ?】
「う……うぅ……出来てちゃ…悪いのかよ?」
すっかり蛇に睨まれた蛙のような顔になってしまったわたるを、芽留は意地悪く追い詰める。
「……例の小説なら…もうとっくに書き上がってるさ……」
385 :
266:2009/05/22(金) 00:40:40 ID:X0qizo1B
事の発端は3ヶ月ほど前に遡る。
芽留に会う為に2のへにやって来ていたわたるに、ある人物が声をかけた。
「万世橋くん、ちょっと相談があるんだけど……」
「……藤吉?…なんだ?」
わたるが聞き返すと、藤吉晴美はニヤニヤと笑いながら、一冊のやたら薄っぺらい本を彼に手渡した。
わたるはそれを受け取って、ぺらぺらと中身に目を通す。
「どう?」
「…………どうも何も…」
「結構、良い出来だと思うんだけど?」
「……んな、評価を聞かれても、そもそも俺にはソッチの趣味は無い……っ!!」
バンッ!!とわたるが机の上に叩きつけたのは、晴美作の同人誌である。
もちろん、内容はぶっちぎりのBL。
ジャンルは全長18メートルのロボットが紛争根絶の為に撃ったり、斬ったり、暴れたりするダブルでオーなアニメである。
カップリングは、『アニメ一期の終盤で死んだ射撃上手のお兄さん』×『声が2のへの担任教師に瓜二つの眼鏡美少年』。
まことにもって、王道であった。
「こういうのは無理だから、同じ趣味の奴と話してろ」
「まあ、そう言わないで、万世橋君に話したのも訳あっての事なんだから…」
「……訳って、なんだ?」
晴美はこのカップリングで新しく本を出したいそうなのだが……
「戦闘シーンがね……やっぱり、描き慣れないから……」
「まあ、そりゃあそうだろうな」
晴美の描きたい話では、どうしても戦闘シーンを多く描かなければならないのだという。
しかし、描き慣れないメカを描写するのは、流石の晴美にも手間のかかる作業らしかった。
それで、ダブルでオーなこのアニメに限らずメカ関連は一通り押さえているわたるに相談したいという話らしい。
「でも、俺は絵なんて描けないぞ?」
「設定的にこういうのは変だとか、こうはならないだろうとか、そういうのは分かるでしょう?
千里もそりゃあもう有り得ない精度でメカの作画を手伝ってくれてるけど、作品自体は見てないから……」
「要するに、ちゃんとロボット同士の戦闘の雰囲気が出せるようにアドバイスが欲しいと…」
「そうなの、お願いできる?」
結局、わたるはその話をOKした。
BLな描写を目にする事になってしまうのは少しキツイが、我慢できないほどではない。
何よりも、自分の知識が必要とされているところに、オタクとしての自尊心を刺激されてしまったのだ。
以来、わたるは晴美の持って来るネームなんかに逐一目を通して、さまざまなアドバイスをする事になった。
が、これこそが不幸の始まりだった。
元来が凝り性で、千里ほどではないが完璧主義の気があったわたるは、次第にネーム全体に目を通すようになっていった。
おかげで、わたるのアドバイスはストーリーも踏まえてより的確さを増していったのだが、
だんだんとわたる自身がBL慣れしていってしまうという弊害も起こり始めた。
そして、ある日、わたるは気がつく。
「いや、ここまでの流れを考えたら、そこでティエがニールにそう発言するのはおかしいだろ?」
「ああ、なるほど、これはちょっと前後の何ページかもまとめて練り直さないと……」
そこで、わたるはふと、自分が先ほど晴美に対して言ったアドバイスの内容を省みて……
(あれ?俺はなんで野郎同士の感情をこんなに熱く語ってるんだ!?)
気付いたときには、全てが後の祭りである。
「それにしても、最近の万世橋君、BLってものがかなり解ってきたみたいね!!」
嬉しそうにそう言った晴美の言葉で、わたるは全てを悟る。
自分が今、とんでもない方向に向かって脱線し始めている事に……
「いや、ちょっと待て…さっきのは……!!!」
「むしろ、私よりも二人の恋心を分かってる感じだし………そうだっ!!」
キラキラと目を輝かせて、晴美はそのアイデアをわたるに告げた。
「絵が描けないんだったら、小説っ!!万世橋君、私の本にゲスト原稿として、小説を書きなさいっ!!!」
386 :
266:2009/05/22(金) 00:42:44 ID:X0qizo1B
で、場面は再びわたるの部屋に戻る。
【まさに、墓穴を掘った感じだな】
「うぅ……俺とした事が……」
結局、テンションの上がり過ぎた晴美の頼みを断り切れなかったわたるは晴美の新刊本に掲載される小説で同人デビューを飾る事になってしまった。
そんなの絶対に書けるはずがない、そう思っていたわたるだったが、どうやら彼の脳はBLを血肉として吸収し、
すらすらと自然にBL二次創作小説を書ける人間に、彼を変えてしまったようだった。
感性した小説は既にメールで晴美のもとへと送られ、今頃印刷所で製本されている頃である。
「一生の不覚だ……」
【オタクとしての新しい世界が拓けて、良かったじゃねえか。………さてと、どれどれ】
「……って、お前、何読んでるんだよっ!!!」
【ん?一度学校に持ってきてただろ?推敲前の小説のプリントアウト】
「ちょ…ま、ま、ま、待てぇええええええっ!!!!!」
必死の形相で自作BL小説を取り返そうとするわたると、そんなわたるから愉快そうに逃げ回る芽留。
やがて、小説にも全て目を通し終えたらしい芽留は顔を上げて
【うんっ!!素晴らしい作品だったぞ!!!】
わたるにとっては悪夢のようなその言葉をぶつけた。
最後はほとんど芽留ともみ合いになっていたわたるは芽留の首にチョークスリーパーで組み付いたままの状態でしばし呆然。
「よ、読まれた……もう生きていけない……」
【初心者にしては文章も及第点以上、戦場で揺れ動く恋心をよく描けていたと思うぞ。男同士のな!!」
「う、うわああああああああっ!!!!!」
悲鳴を上げるわたると、ケラケラと楽しそうに笑う芽留。
まあ、この辺も、いかにもこの二人らしい、いつも通りのじゃれ合いだったのだけれど……。
「………あ…」
不意にわたるが、芽留を捕まえていた腕を離した。
密着状態だった二人の体が離れていく。
【どうしたんだ、急に?】
「いや、ちょっと調子に乗りすぎたな。すまん……」
どうやら、わたるは先ほどまでの小説のプリントアウトを巡る、芽留との取っ組み合いの事を気にしているらしかった。
だが、その口ぶりはどうにも歯切れが悪く、いつものわたるらしさに欠けているように、芽留には感じられた。
【別に気にしなくていいだろ?いつもの事だし】
「まあ、そうだが………とにかく、すまん」
そう言って、わたるはぺこりと頭を下げた。
芽留もそれ以上の追及はできず、急に元気をなくしたわたるの様子を見ている事しかできなかった。
その後、何となく言葉少なになってしまったわたると芽留。
いつもと違う微妙に居心地の悪い時間を過ごしてから、芽留はわたるの家から帰る事になった。
【別に子供じゃないんだし、毎回お前に送ってもらわなくても大丈夫だぞ?】
「まあ、そう言うな。俺の自己満足だ。気にせんでくれ」
隣を歩くわたるの表情を見ながら、芽留は考える。
そう言えば、わたるはなるべく自分の体に触れないようにしているように思える。
あれほど、頭をたびたび撫でてくるのに、体に手を触れてきた事は数えるほどしかない。
過去に感情が高ぶって抱きしめられた事や、今日のように互いのテンションがよほど上がった状態でなければ、わたるは芽留の体に触れないのだ。
そして、芽留にはわたるがそうしてしまう理由が、何となくわかるような気がした。
【もしかして、気を遣ってるのか?】
「何の事だよ?」
【お前、俺の体に触らないようにしてるだろ。あれは、オレに気を遣ってるんだろ?】
芽留は過去に二度ほど痴漢の被害にあっている。
どちらとも、わたるによって大事に至る事は避けられたが、その時の恐怖は芽留もまざまざと覚えている。
特に、二度目に痴漢にあった時は、相手は数人がかりで共謀して芽留を取り囲んできた。
今思い出しても、背筋の凍るような経験である。
わたるは、そんな芽留のトラウマを気にして、迂闊に芽留の体に触れないようにしているのではないか?
芽留はそう考えたのだ。
それに対するわたるの答えは……
「ん、まあ、それもあるんだけどな……」
わたるは苦笑しながらこう言った。
「たぶん、一番の理由は、俺がビビってるって事だと思う……」
「ビビってる?」
その言葉を反芻した芽留に、わたるは肯く。
387 :
266:2009/05/22(金) 00:43:24 ID:X0qizo1B
わたるがビビっている。
何を?
何に?
膨らむ疑問の中で、わたるは言葉を続けた。
「お前が痴漢にあった時、特に二度目、ギリギリの間一髪でお前のところにたどり着いた時、俺は怖くてしょうがなかったんだ。
痴漢なんて、言葉にしてみれば何でもないようだけど、される方がどんなに辛いかは一度見て、知っていたからな……」
わたるが芽留と深い関係を結ぶ事になったきっかけ。
それは、痴漢の被害に遭っていた芽留を、わたるが助け出した事だった。
あの時、不安と恐怖の中で震えていた芽留の姿は、わたるの脳裏に強く焼き付けられた。
そして、芽留が傷つき、涙を流す姿は、わたるにとっても強いトラウマとなったのだ。
「しかも、お前にあんな事をしようとした奴らと同じ欲望が俺の中にもあるんだ。それを考えると、正直、怖い」
【そんな、お前はっ!お前はあんな奴らとは違うだろう?】
「ああ…きちんと自分で制御できているっていう意味では確かに違うな。でも、俺の中にあるのはやっぱり奴らと同じモノだよ」
だから、わたるは芽留になかなか触れられなかった。
その問題はいくら考えてもキリがない事。
そうやって芽留を避けるような態度が逆に彼女を傷つけてしまうかもしれない事。
全てわかっていた。
わかっていても、やはり怖かった。
「やっぱり、気を遣わせたな。……すまん、俺に意気地がないせいだな」
【わたる……】
寂しそうな、申し訳なさそうな、そんなわたるの笑顔が、芽留の胸に突き刺さった。
そうだ。
誰かが傷つく事は、その人の近しい人の心にも傷を残していくものなのだ。
(もうちょっと、オレがちゃんとわたるの事を見てたらな……)
それでも、わたるは芽留の頭をいつも撫でてくれた。
軽口と憎まれ口の間に、そっと優しい言葉を掛けてくれた。
だから、今度は自分から、そんな彼の気持ちに応えてやりたいと、芽留はそう思った。
「……ん?…って、お前何してんだ!!?」
ぎゅうっ、と小さくて細い腕が、わたるの体を抱きしめた。
【気にすんな…】
「気にすんなって…お前!?」
芽留はわたるの胸に顔を埋めて、携帯の画面だけでわたるに話しかける。
【大丈夫だから……信じてるから……】
「信じてる……?」
【お前がお前を信じられなくて、ビビって仕方がなくなっても、オレは勝手にお前を信じる。だから……】
芽留の腕を、温もりを通して、彼女の気持ちがわたるの心に伝わってくる。
二度の痴漢との遭遇で、確かに彼女は傷ついた。
だけど、そんな恐怖も乗り越えて、全てを信じて託す事のできる相手がわたるなのだと……
【だから、ほら、もう大丈夫だろ…?】
「ああ……」
芽留の言葉に応えるように、わたるは彼女の背中に腕を回し、きゅっと抱きしめる。
なんだか、こうしているだけで、自分が恐れていたものが、まるで馬鹿みたいに小さな事に思えてくる。
わたるは、少し恥ずかしそうに笑ってから、芽留の耳元でこう告げる。
「ありがとうな、芽留……」
その言葉に、芽留はわたるの胸の中で、わたるには見えないように、満面の笑顔を浮かべたのだった。
ちなみに、例の晴美の同人誌はその後イベント等で販売され、なかなかの売れ行きだったようだ。
収録されている、わたるの小説もかなり好評だったらしく、その後わたるは何通かのファンレターまで受け取ってしまった。
【お前の人生、はじまったな】
「うるせーっ!!!」
388 :
266:2009/05/22(金) 00:44:18 ID:X0qizo1B
以上でお終いです。
ほんと、微妙なネタで申し訳ないです。
それでは、失礼いたします。
キャラ同士の具体的な組み合わせの相性についての主張をしてる
>>368と
妄想そのものの否定の
>>377は別だと思うな
自由に書いてる人だって、誰と誰でも良い訳じゃなく取捨選択はもちろんあるわけだし
突飛な組み合わせである以上、原作のエピソードだけでうまくいかないのも普通
結局のところこんなのは二次創作に限るなら実際やってみてどうだったかだ
面白けりゃ正解
>>388はGJと思う
カップリング論争とかいらねーっつの
>>373 サプライズパーティーでは先生以外みんな動じてなかったじゃん
逆に、絵描き歌では久藤はびびってた
絶望先生の二次創作物って、
原作をもとにして作るって言うよりも、原作をネタにして作るものなんだと思ってる。
人によっては違うのかもしれんが。
>>388 そんなことないぞ〜
むしろこの流れで作品投下は空気を読んでる
GJ!!
>>391 ス〇ーの絵かき歌のパロディだから驚かせてたんじゃないのか?
そういう元ネタ再現だと思ったけど
要するにだな、死ネタとか純愛とか、エロパロにはいらないんだよ
軽くてちょっと笑えてエッチぃなのがあれば俺は満足だ
純愛成分も必要だ!
お前の満足のためだけにエロパロ板があるわけじゃねーっての
>>393 二人とも元ネタとは大分態度違うぞ
元ネタの二人は終始苦笑してたけど、久藤は笑えないくらいドン引き
千里は自信満々で、「みんなも上手に描けたかな?」で頷く始末
千里の態度はカラオケの話とも一致するし、やっぱりあれがあの二人の性格だろ
てっきり、原作と違うのは重々承知だけど自分の妄想だから勝手だろ、って人も結構いるかと思ったんだけどな
都合のいいところだけ抜き出したささいな描写から「この二人はこういう性格だからお似合い!」
「こういう性格のキャラは○○しかいないから××とお似合い!」って本気で言ってる人がほとんどなのか・・・
エロパロでこんな意見出すなっていう批判ももっともだけどさ
エロパロや個人のブログとか以外で、わけのわからんカップリングを推されるこっちの身にもなってくれ
なったらお前は何かしてくれるのか
このスレの支配者がきたぞー
自意識過剰すぎる
絶望サイトを巡って感じたことだが、望を含まないノーマルCPで人気があるのは
久藤×可符香、木野×加賀、命×あびる
このあたりだな、特に久藤×可符香は多い
想像上のカップリングを否定されちゃったら
絶望先生スレでのエロパロは成り立たないってことは
つまりこのスレは消えゆく運命なのさ
どんなカップリングでも「そういうカップリングもアリだと思う、少なくともうまく調理すれば」
というふうに受け入れる方向に持っていけば、エロパロ板としての生産性はうまれるけど、
「そのカップリングはダメダメ、こっちのほうがいい」というような主張は、
鬱陶しい話は基本的にスルー推奨の2ちゃんねるの性質上、スレの空気を悪くした上での
「自分はほにゃららというカップリングが好きです」ということの宣言以上にはなりにくい。
千里オタに何言っても無駄
>>397 後半完全にお前の被害妄想だよ
そんなクソみたいな自己中話聞かされるこっちの身にもなってくれ
自分の好みとズレたもん見たらキレちゃう人のことも考慮して望カフだけにすべき
このスレにはゲッペルさんのいない人が沢山いますね><
よろしい
ならばまと霧だ
いやここは交霧だ
ストレートに望霧を推す
一旧×倫はそんなに多くないのか。
ここは藤吉さんの多いスレですね
キャラとCPの好き嫌いはあるだろうけど
同じ作品のファンなのだから・・・
みんなで仲良くしようよ。
結局お前らはどんな組み合わせのSSが読みたいんだい?
俺×真夜
ところで388のSS
万世橋と芽留のカップリングって、アレはOKなのか?
ここの住人的にはアレはああいう物という事で問題ないのか?
千里とは関係ないカップリングだから問題にしようという奴もいなかったんだろ
OKに決まってる
アレって?何が言いたいのか、全然分からん
421 :
418:2009/05/25(月) 19:59:39 ID:7U9J77Y8
言葉足らずだったかな?
保管庫を見たら過去にも万世橋と芽留のSSは投下されてるみたいだし
ここのスレではあのカップリングはOKみたいな空気になっているんだろうかと疑問に思ったので
ああいう事を書き込んだ
いや、初見だと正直あの組み合わせは、原作でも接点皆無だしあまりに衝撃的だったので
もしデカい叩きがあったならこんなに続いているわけないだろ
前スレまでは「原作にないカップリングは駄目」みたいなことを言い出す奴はほとんどいなかった
ああそういうことか
ここはエロパロなんだから、もう少し想像力豊かになったほうが楽しめるぞ
仮に君の想像力が貧困でも投下されたカップリングにいちゃもんつけるのやめてね
これ以上職人さん減らしたくないんだよ
原作でほとんど接点無いキャラがSSでは初めから既に仲良いとかだと萎えるが、
仲良くなるまでの過程をSS中にしっかり書いてれば無問題
425 :
418:2009/05/25(月) 22:54:22 ID:7U9J77Y8
保管庫の万世橋芽留SSにざっと目を通した
妹が色々な漫画で俺からすると無茶に思えるカップリングを口にしていたので
少し過敏になりすぎていたかもしれない
今までは、ちょっと了見が狭かったかもしれん
色々と想像して楽しむのもありなんだな
とりあえず万世橋芽留は良かった
お騒がせして申し訳ない
このスレはとっくに手遅れなんで気にしなくていい
千里ヲタは失せろよ
カップリング・・・。
流体継ぎ手のことですか?1段2要素の構成で、タービン・ランナー、
ポンプ・インペラーの構造となっており、筐体には油が充填されており、
入力軸でポンプ・インペラーを回すと、油がかき回され、タービン・ランナーが
油の流れを受けて回り出します。もちろん、トルクの増大には使えませんので、
流体クラッチあるいは、簡易な液体変速機としての使用ですね。
この継ぎ手の中に、ステーターと呼ばれる機械部品を入れると、トルクの増大が出来、
その代わり出力軸の回転数が下がります。これが液体変速機です。液体変速機の構成は
基本的には1段3要素です。
絶望の『倫と同じ所』と書かれた住民票を見て、嬉しそうな倫様の話はまだかね?
431 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 20:10:15 ID:V8o5F5EE
っていうか、倫ちゃんが貧乏ごっこを続けてたのにびっくり
絶望が住民票移してるのを知ってたからじゃね
434 :
266:2009/06/04(木) 20:09:29 ID:TpguXFdh
描いてきました。
エロなしで短いですが、枯れ木も山の賑わいという事でどうか。
景×千里で、以前書いた
>>329-341の続きです。
それではいってみます。
435 :
266:2009/06/04(木) 20:10:58 ID:TpguXFdh
とたとたとた、とせわしない足音がアトリエの中に響き渡る。
それを背中に聞きながら、糸色景はキャンバスの上に無心に筆を走らせ続ける。
「これはこっち、それからこれはあっちの戸棚へ……最後に、これはどうしようかしら?………う〜ん、景先生!!」
「ん…?ああ、千里の好きにやってくれ」
景の絵のモデルを引き受けた事がきっかけになって、千里はアトリエ景を何度となく訪れるようになった。
特に用事があるというわけではないが、アトリエに無造作に置かれた景の作品を見たり、
景と他愛も無い会話をするのが千里の日常の一部になろうとしていた。
今日は決してキレイとは言えない景のアトリエを掃除しようと、千里はやってきたのだがこれがなかなか進まない。
実はこれまでも何度か挑戦してきたのだが、千里が景の家の掃除を終える事が出来た例は一度もない。
どうして、そんな事になってしまうかというと………
「こ、この黒いのはどうすれば……?」
「おお、それをずっと探してたんだ!ありがとう、千里!」
正体不明のナマコのような黒い物体を景に手渡しながら、千里はため息をつく。
これまで、大掃除の度に他人の家を掃除して、ついでに必要ないと判断したものは容赦なく捨ててきた千里だったが、
正直、このアトリエ景では、今までとは少し勝手が違うようだ。
千里が必要不必要を判断しようにも、正体すら不明な物品がそこかしこに隠れているのだ。
一抱えもある異常に巨大な巻貝の貝殻、
どの角度から見ても目が合ってしまうどこかの部族の儀式用の仮面、
黒く、しかし透き通った石を磨いて作られた23の面を持つ多面体、
解読不能の文字列の並ぶ羊皮紙に書かれた古い本、
ぐにゃぐにゃと曲がった奇怪な金属パイプが絡まりあった謎の物体は、景曰く時代の最先端をいく楽器なのだとか。
さっきの『なんか黒いの』にしたって同様である。
あんなもの、ゴミに出すとしても、燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか、それともまさか資源化ゴミだとでもいうのか、
きっちりハッキリ決断を下す千里でさえ迷うようなものばかりなのだ。
そんなわけで、千里は幾度かアトリエ景の掃除に挑戦しようとして、あえなく挫折を強いられてきた。
だが、それでも千里は今日、再びアトリエ景の大掃除に挑んでいる。
胸に抱くは不退転の決意。
次々と出てくる不可思議な物品を前にして戸惑いながらも、千里はそれが現在の景に必要かどうか判断をくだし、部屋の中を片付けていく。
「さてと……画材とか、絵の道具は基本的には必要なものだけど、もう使えないものもあるだろうから、まずはそこを整理しようかしら」
景の仕事道具、様々な画材やら、いくつものイーゼルが立てかけられた区域にまで千里の掃除は進んでいた。
絵画道具についてはほとんど知らないが、ほとんど崩壊寸前で修理のしようもないイーゼルや、完全に毛の抜けてしまった筆、
完全に使い切った絵の具のチューブや、空っぽのテレビン油の壜なんかは捨てても問題ないはずだ。
だが、そうやって道具の山を崩して整理している内に、千里はまたもやとんでもないモノにでくわす羽目になる。
「ええっ!!?」
埃だらけの巨大なキャンバスをどけた向こうから、じろり、二つ並んだ目が千里の姿を睨みつけていた。
今回の品は正体不明というわけではない。
それは、千里も歴史の教科書なんかではお馴染みのものだった。
「け、け、け、景先生!?…こ、こ、こ、こ、これぇええっ!!?」
「ん?どうした、千里?…お………おお、ソイツは…懐かしいなぁ……」
「なんでこんな物がここにあるんですか!?」
「なんでって……掘ったら出てきたんだよ」
見間違うはずが無い。
皇帝の永遠の眠りを守るため、地下の空間に整然と並ぶその姿を知らない人間はいないだろう。
「これ、兵馬俑じゃないですかっ!!!」
千里が叫ぶのも無理はなかった。
秦の始皇帝陵の一部である兵馬俑抗、そこに収められている等身大の兵士人形が、この部屋の隅っこに当然の如く突っ立っているのである。
千里の手の平がそっと兵馬俑に触れる。
436 :
266:2009/06/04(木) 20:11:53 ID:TpguXFdh
何事にも完璧主義の千里は当然の如く、本物の兵馬俑の特徴についても知っている。
身につけた鎧や兜の形状、ちょっとやそっとでは壊れないほど硬く焼き上げられた土の手触り。
悠久の年月の経過を表すように、退色してしまった塗装の色合い。
どう見たって本物である。
仮に複製だとしても、相当なレベルのものである事は間違いない。
「………どこで掘ったんですか?」
「一度、風景画を描きに中国を旅行した事があってな……で、どっかの町の近くで見つけたんだが……」
「もしかして、その町って、西安市の事じゃありませんか?」
「おお、それだっ!!その西安の近くの農家の裏山を描いてた時の事なんだよ………」
景によると、大体このような事と次第であったという。
突然、ふらりと姿を現した長身長髪無精ひげの怪しい男。
ろくろく中国語も扱えないが、やたらと陽気で人懐っこい彼に、最初は警戒していた地元の住民もだんだんと打ち解けていった。
その男、糸色景は自分は日本の画家であると言い、近くにどこか絵を描くのに良い場所はないかと住民に尋ねた。
『なるほどなるほど、糸と色と景、繋げると絶景というわけか。面白い名前だな』
『あはは、そうかい?ところで、件の絵を描く場所の事なんだけど……』
『ああ、それならアンタの名前に相応しい、とっておきの場所があるよ!!』
カタコトの中国語と筆談、後は身振り手振りに表情だけで自分の意図を伝えた景は、地元住民の男にある場所を紹介された。
『ウチの畑の裏から見える山は、ちょうど今頃花盛りでね。きっと気に入ると思うよ』
男の言葉に喜んだ景は、男に連れられて彼の畑にまでやってきた。
斜面に作られた畑を登りきって、その向こうに見えた風景は、まさに絶景と呼ぶに相応しいものだった。
山そのものを埋め尽くしてしまいそうな満開の花、舞い散る白い花びらのせいで辺りの風景が白く霞んでいた。
『コイツは凄いな……これならいい作品が描けそうだ!』
『へへへ、だろう?この山はここらの住人の自慢だよ』
景はスケッチブックを開いて、凄まじい勢いでこの風景を紙の上に描き写し始めた。
日が暮れるまで描き続け、満足のいく量のスケッチを描き終えた景はその後、
この場所を紹介してくれた男を初めとした地元の住民達と酒場で飲む事になったのだが……
『なるほど、画家先生ってのは伊達じゃないなぁ。アンタ、大した絵描きだよ!!』
景の描いたスケッチを見た住民達は、口々に彼を褒め称えた。
画家としての景の作風は不可解で自己完結しまくりのものだが、基礎的な画力については右に出るものがいないのだ。
住民達の賛辞にさすがの景も照れくさくなってきた頃、例の場所を景に紹介した男が質問してきた。
『ところでよ、先生……ここの所なんだが……』
『ん?そこがどうかしたのか?』
『いや、ここの所に何だかたくさん人がいるみたいに描いてあるけれど、あそこに人なんていたかい?』
男が指差したのは花盛りの山の麓の一角である。
そこには男の言う通り何十人もの男や馬が描かれている。
『ん、まあ、いなかったと言われればそうだけど、でも、いるような気がしたんだよな?』
『ますます、わからねえなぁ』
『勘、インスピレーション、そういうもんかな……いるような気がしたから描いてみた。それ以上は、俺もよくわからんよ』
男は納得のいかない顔だったが、とりあえずその場では話はそこまでで終わった。
だが、景が滞在している間に、絵に描かれた謎の集団が事が気になった男は住民達の同意を得て、その場所を調べる事にした。
特に目立つ建物や、木や岩などの自然物もないその場所を、住民達はとりあえず掘り返してみる事にした。
すると、いくらか掘り進んだところで穴の底が、がらんどうの空間にぶち当たった。
そして、そこから見つかったのは………
『こ、こ、こ、こ、こりゃあ!!!!?』
発見されたのは件の兵士人形をはじめとした数百体に及ぶ鎧姿の人形達。
その日の内に地元近くの大学の考古学者達も押しかけ、辺りはとんでもない大騒ぎになってしまった。
437 :
266:2009/06/04(木) 20:13:14 ID:TpguXFdh
「で……?」
「『で……?』って、なんだ千里?コイツを見つけたときの状況はこれでわかっただろ?」
「どう考えても貴重な文化財じゃないですか!!どうしてコレが景先生の手元にあるんですか!!?」
「あはは、いやぁ、たくさんあるからって、お礼に一つくれたんだ」
深々とため息を吐いて、千里は頭を抱え込む。
どうしてこの人が関わると、こんな非常識な事態になってしまうのだろう。
大体、こんな文化財、税関を通るわけがないのだが……
「あの時は帰りの飛行機のチケットが急に二人分必要になったから、随分と苦労したなぁ……」
「……って、乗客として飛行機に乗せたんですか!?」
どうやら空港のゲートでは荷物として、機内では乗客として扱ったらしい。
ルパンも真っ青の大胆犯行である。
あまりに突拍子も無い話を聞かされて、すっかり疲れた千里がその場に座り込むと、
景が千里によって既に整理されていた様々な物品に手を伸ばして、懐かしむような眼差しで眺め始めた。
どうやら、兵馬俑くんとの再会が景のノスタルジックな感情を刺激してしまったらしい。
「おお、これも懐かしいなぁ……」
黒くて透き通った23面体を窓から差し込む日の光にかざして、景はうっとりと呟く。
「千里、コイツはな、アメリカの廃教会でオバケと対決して手に入れたんだぞ」
疲れきった千里は、キラキラと瞳を輝かせながら想い出語りを始めた景の横顔にそっと視線を向ける。
無邪気なその笑顔に、いつの間にか千里の表情もほころびはじめていた。
「じゃあ、コッチの本はどうなんですか?」
「ああ、これは挿絵を見て面白そうだから買ったんだが、見ての通り何語で書いてあるかもわからなくてなぁ……」
「それなら、まといちゃんの持ってる暗号解読器で読めるかもしれませんよ。今度お願いしておきましょうか?」
廃教会でのオバケとの対決の話や、解読不能の本を手に入れた霧に覆われたどこまで行っても古書店しかない町の話、
異常に巨大な貝殻ばかりを扱う露天商の話(3メートルはあろうかという巨大な二枚貝の貝殻も売っていたが値段も高額で景には手が出せなかったそうだ)
究極の金管楽器を開発しようとして夢半ばで死を迎えた楽器職人の息子から、試作品の一つを譲り受けた時の話、
そんな様々な思い出話を、景は千里に向かって実に楽しそうに話して聞かせた。
めくるめく夢のようなその話と、なんとも愉快そうな景の顔を見ているだけで、千里の心は満たされていくようだった。
「……あっ!?…もしかして、また掃除の邪魔をしちゃったか?」
「はい。景先生のお話のお陰で、あれからかれこれ3時間も経ってしまいました」
「そうか……せっかく頑張ってくれていたのに、悪かったな、千里……」
千里の言葉にションボリと肩を落とす景。
だけど、千里はそんな景ににっこりと笑いかけて……
「でも、とても楽しかったです。景先生のお話に夢中になって掃除を放り出したのは私ですから、ほら、そんな顔をしないで……」
見つめる先の景の顔に、もう一度笑顔が戻る。
それを見る千里の心に湧き上がるのは、何とも言えない満足感と愛おしさ。
今日も結局、掃除を終える事が出来なかったというのに、千里の顔に浮かぶのは笑顔ばかりで………。
「ほんと、景先生には参っちゃうわね」
再び思い出話に花を咲かせ始めた景を横目に見ながら、優しげに、千里はそう呟いたのだった。
438 :
266:2009/06/04(木) 20:13:59 ID:TpguXFdh
以上でお終いです。
それでは、失礼いたしました。
おつ
千里が優しい
どうも絶景のキャラに違和感を感じるのだが、自分だけ?
黙って乙しとけよ
442 :
266:2009/06/10(水) 02:11:44 ID:+kD2EE7W
書いてきました。
久藤×マリアという、またもや妙なカップリングですが……。
それでは、いってみます。
443 :
266:2009/06/10(水) 02:13:15 ID:+kD2EE7W
毎日、日没近くの時間になると、西の空に沈んでいく夕陽を眺める彼女の姿をよく見かける。
その日によって場所は違うけれど、彼女がいるのは決まって高い場所だ。
学校の屋根の上、高い木の枝、どこかの教室の窓枠に腰掛けている事もある。
少しでもバランスを崩せばたちまち転がり落ちてしまいそうな危なっかしい場所で、
彼女は足をぶらぶらさせながら、ただずっと西の空がだんだんと赤く染まっていくのを見ている。
鼻歌を歌いながら、実に楽しそうな様子で、ただ一心に空を見つめているのだ。
そうでなくても、やたらと高い場所や危ない場所に行きたがる彼女の行動を、僕も、クラスのみんなも、最初は随分とハラハラしながら見守っていた。
彼女の身体能力、すばしっこさやバランス感覚の良さを知った今となっては、そこまでの心配はしていない。
(勿論、彼女の行動に慣れたというだけの話で、なんだかんだでやっぱり心配なのは今も変わらないのだけれど……)
そうして、ハラハラした気持ちが落ち着き始めたからだろうか。
僕はだんだんと、夕焼け空を見つめる彼女の横顔に、不思議と惹かれるようになっていった。
朗らかな笑顔を浮かべて、空の向こう、遠く遠くを見つめる彼女の瞳を、いつの間にか僕もじっと見つめるようになった。
彼女は遠い国からやって来た。
褐色の肌と小さな体。
年齢は不詳だけれど、彼女の外見を見れば僕たちと同じ高校に通うような年齢でない事はわかる。
愛らしい姿の影には平和なこの国に生きる僕なんかには想像も出来ないような壮絶な記憶を宿している。
だけど、彼女はいつだって、変わらぬ笑顔で笑うのだ。
最初は僕自身が子供好きだった事もあって、学校に紛れ込んできた小さな女の子を世話するような気持ちで関わった。
だけど、今、その認識は徐々に揺らぎ始めている。
夕焼けを見つめる彼女の瞳の深い色に、僕の心が揺れ始めている。
最近は暑くなってきたからだろうか、日光に焼けた屋根ではなく太い木の枝に腰掛け西の空を見つめる彼女、マリア。
それをじっと見つめている僕の事を、久藤准というクラスメイトの事を、彼女はあの深い色の眼差しで一体どんな風に見ているのだろう?
本を読む事。
物語を語る事。
それらは僕という人間の中心を為す柱となっている。
特に、物語を作りそれを人に聞かせる行為は、僕自身にも制御できない部分がある。
普段は人に頼まれて、誰かのリクエストに応えて物語を話す事も多いのだけれど、
それと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、何かの瞬間に生み出されたインスピレーションに従って衝動的に物語を作ってしまう事が多い。
去年のクリスマスの頃には、クラスメイトの日塔さんに『石田純一に靴下の話したら』と言われた瞬間、
湧き上がる衝動に背中を押されるまま、道のど真ん中で物語を話し始めてしまった。
何とも迷惑な話だけれど、こればっかりは僕自身にも止める事が出来ないのだ。
一応、僕の話す物語をクラスの仲間や先生、その他の多くの人たちは喜んでくれるけれど、
流石に暴走して話してしまった場合には後で随分と後悔してしまう。
そしてもう一点、僕の話にはある特徴が存在する。
それは、主役クラスの登場人物が物語り上で命を落としてしまう事だ。
僕自身は、そういった死にまつわるイベントを意図的に盛り込んで、物語を盛り上げようとする事もある。
だけど、基本的に物語というのは生き物だ。
いかにキャラクターを入念に作り込み、計算高く配置する事でストーリーを作るのだとしても、
やはりそれらのキャラクターたちはそれが計算によるものであれ、何であれ、それぞれの個性を持ち行動する生きた存在であると僕は考える。
最後に主人公が死んで感動させる、そんな話を作るために、あらかじめそういった性格に作られた登場人物だったとしても、
その最後の死の瞬間まで、彼・彼女は自分の信じるままに行動する。
その結果が死であったとしても、それは登場人物達が彼らの生を全力で生きた結果なのだと、僕は考えている。
だから、これまで僕は僕の物語が、みだりに登場人物を死なせるような話であると指摘されても、自信を持って話し続けてきた。
だけど、その自信が最近になって危うくなり始めている。
その原因は、彼女の、関内・マリア・太郎の存在にある。
444 :
266:2009/06/10(水) 02:14:07 ID:+kD2EE7W
「どーしタ、准?続きハ話してくれないノカ?」
「ああ、ゴメン…どこからだっけ?」
そんな僕の思考を、当の彼女、マリアの声が断ち切った。
「オオツノジカの柳太郎が池に落ちたところからだよ。だいじょーぶか、久藤のにーちゃん?」
いつも通りみんなの前で物語を披露していた筈が、いつの間にか考え事をしてしまっていたらしい。
窓際に寄りかかって話をしていた僕を、周囲を取り囲んで座っていた聴衆達が少し心配そうに見上げてきていた。
僕はその中で、一番最初に声をかけてきたマリアの姿を見つめる。
「ホントにどーしたんダ?准、様子がヘンだゾ」
「いや、何でもないよ。柳太郎が池に落ちたところの続きからだったね」
僕は死を語る。
だけど、彼女に比べて僕はあまりに死を知らない。
彼女が時折口にするシニカルな言動や、過去を臭わせる数々の発言。
彼女は僕なんかの想像もつかない様な深く暗い世界を通り抜けて、今を生きている。
「オオツノジカの柳太郎は三日間も水を飲んでいませんでしたから、それはもう喉はカラカラです。
柳太郎は喜び勇んで池の中へ飛び込みました。その池が、実は少し進むと一気に深くなる事なんて知りもしないで……」
僕は後ろめたいのだ。
背中に刃物を押し当てられたかような、ヒリヒリとする死の実感と共に生きてきた彼女に、軽々しく死を語る事に罪悪感を感じているのだ。
彼女はいつも楽しそうに僕の話を聞いている。
実際に尋ねてみても、彼女は僕が拘っている『死』に関するアレコレなど、気にしてもいないだろう。
僕は話したいように物語を話して、彼女もそれを聞いて楽しんで、そこにはきっと何の問題もないはずだ。
だけど、目の前の彼女の笑顔と、夕陽の沈む空を見つめる彼女の瞳の色がないまぜになって、僕はひどく混乱してしまうのだ。
だって、あの瞳は、間違ったやり方で触れてしまえば、瞬く間に砕け散って消えてしまいそうで……。
「オオツノジカの柳太郎は走ります。池で助けられた恩を返すため、走って、走って、ひたすら走り続けます」
たぶん、惹かれているのだろう。
「走り続けて疲れ果てた柳太郎ですが、進行方向に凍った池を見つけます。『しめたっ!!池の氷の上を走れば、もっと早く子グマ達のところに行ける!!」
いや、もっと端的に言うのならば、僕は恋をしたのだ。
「柳太郎は勢いよく氷の上を走ります。思えばここは昔柳太郎が溺れた池、子グマ達と出会った池。
あの時、柳太郎が溺れた池が、今は最高の近道になっているのです。ところが………」
僕なんかよりずっと遠い場所を見つめて、それでも無邪気に笑う小さな女の子から目を離せなくなった。
色んなモノを心の内側に秘めて、それを映したかのようにくるくると変わる彼女の瞳の色に、僕は魅せられてしまった。
だけど、だからこそ、僕は思うのだ。
「ところが、もう少しで岸に辿りつくというまさにその時、柳太郎の足元の氷が音を立てて割れました」
こんなにも無知な僕が、実感としての死すら知らない僕が、平然としてその死を扱う物語を語る。
そんな事が許されるものだろうか?
いいや、事はそれだけに限らない。
彼女がこれまで通り抜けてきた地獄を受け止めるには、僕の無知はあまりに致命的なのだ。
「『もう少しで薬を届けられるのに……』もがけばもがくほど、周囲の氷は割れて、柳太郎の体は池の中に沈んでいきます。
だけど、柳太郎は凍えた脚を必死に動かし、せめて岸まで薬を持っていこうと、冷たい水の中で脚を動かし続けます。そして……」
まさに息を呑む、といった感じの表情で物語のクライマックスに聞き入る彼女。
だけど、僕は自分の語っているモノの意味さえ、ろくに知りはしないのだ。
遠すぎる。
彼女の世界と、僕の世界は、あまりにも遠く離れすぎている。
「『柳太郎、ありがとう、キミのおかげで兄さんたちはすっかり元気になったよ。キミともうお話したり遊んだりできないのは、とてもとても辛いけれど…』
柳太郎の亡骸を囲む子グマ達はみな、ぼろぼろと涙を流していました。だけど、無事に薬を届けた柳太郎の顔はどこか安らかに微笑んでいるようでした」
物語が終わり、万雷の拍手が僕を包む。
その中には、彼女の、マリアの拍手も混ざっている。
僕は、油断するとすぐに顔に出てしまいそうな自嘲的な感情を笑顔の仮面で押さえつけて、彼らの喝采に応えたのだった。
445 :
266:2009/06/10(水) 02:15:10 ID:+kD2EE7W
今日モ学校が終わっタ。
昼休みには准が得意のお話ヲ聞かせてクレテ、ミンナでそれを聞いタ。
この国に来てカラノ毎日は、イツダッテ楽しい思い出でイッパイで、ダカラ、マリアもあの国にイタときの事を忘れそうにナル。
日本人は優しい。
クラスのみんなモ、マリアにたくさん良くしてクレル。
お腹が空いテ死ぬ事モ、日本デハぜんぜん心配しなくてイイ。
一緒に日本にやって来タ、同じ家デ暮らすミンナも親切デイイ奴らばかりダ。
今のマリアはトテモトテモ幸せで、あの頃、村を焼け出されてジャングルをさまよった時が本当にウソみたいダ。
今、マリアは学校の校庭の隅っこに生えた木に登って、夕焼けを見てル。
世界中どんな所デモ、空は同じ空なハズなのに、生まれ故郷の村で見た夕焼けと日本で見ル夕焼けは少し違って見えル。
先生にこの事を話したラ、
「専門じゃないのでよくわかりませんが、やっぱり空気が違うと空の見え方も違うものなんでしょうね」
ッテ、教えてくれタ。
マリアにはあんまりよく解らなかったケレド、本当に遠い国に来たんダッテ、それだけは解るような気がシタ。
遠い国、生まれ故郷とは大きな海を隔てタ、少し前までは行く事になるナンテ想像もできなかった国。
夕陽でさえも、マリアの国とは違う国………。
ポロリ、マリアの頬を突然涙が零れていっタ。
「ア、アレ………?」
ポロポロポロポロと、マリアの目から涙が流れ落ちてイク。
拭いても拭いても、止まってくれないソレは、いつしかマリアの顔を覆いつくして、ぐしゃぐしゃにシテしまった。
マリアは日本にいて、クラスのミンナや、仲間と一緒にいられて、本当に幸せ。
ダケド、それでいいのカナ?
燃え盛る炎と、絶える事無く撃ち込まれ続ける銃弾の嵐に、マリアの村は壊された。
デモ、マリアは運よく生き延びて、今はこの国で元気に暮らしてる。
ソレナノニ、ソレでいいはずなのに、時々トテモ悲しい気分になる。
そんな時、マリアはある人の名前をつぶやく。
いい人ばかりの日本人の中でも、とびきり優しい人。
マリアが2のへにやって来てから、ずっと良くしてくれる人。
アノ人が話してくれたお話を、寝る前に何度頭の中で繰り返したか、モウわからないくらいだ。
「准…。准……」
呟いた名前が胸の中に染み込んでいく。
ずっと必死で生きてきて、これがどういうキモチなのかも良くわからないケレド、
たぶん、きっと、マリアは好きなんだ。
准のコトが、大好きナンダ。
とぼとぼと下校途中の道を歩いていると、後ろから声を掛けられて、僕は振り返った。
「おい、久藤っ!!」
「あ、木野、どーしたの?そんなに走って…」
「いや、どーしたのって言われると、アレなんだけどよ……」
僕に聞き返されると、木野はなんだかバツの悪そうな表情をして、視線を逸らせた。
「……その、な…昼にお前がいつものお話してただろ。あの時のお前の様子がなんだか妙だったから……」
やっぱり昼間の僕の様子がおかしかった事は、誰が見てもわかる事だったらしい。
それを木野が心配してくれたのが嬉しくて、僕は彼に少し微笑んだ。
「…いや、一応、何かあったんじゃないかって気になっただけだから!あくまで、一応、だからっ!!」
しきりに『一応』を、木野は強調する。
わざわざ木野の方から心配してくれて、コッチは嬉しかったのに、どうして木野はあんなに恥ずかしがってしまうのだろう。
まあ、それが木野らしいといえば木野らしいのだけれど。
「で、やっぱり何かあったのか……?」
「うん……何かあったっていうか、悩んでる事があるんだけど……」
僕は、走って追いかけてきてまで、僕のことを心配してくれたこの友人の厚意に甘えてみる事にした。
「僕のお話では、ラストによく登場人物が死んじゃうよね……」
「ああ、俺もどれだけ泣かされたかわからないな」
「でも、それを語る僕は、死ぬっていう事について何も知らない」
僕はそこで一拍置いてから、自分の考えている事を木野に伝えた。
「僕が今まで触れた死は、おじいちゃんと親戚の伯父さんの葬式、それから道端で車に轢かれた猫や犬ぐらいだ」
無論、今の日本人の死に関する経験なんて似たり寄ったりで、大した差はないだろう。
だけど、僕はそんな人間としては、死を語りすぎているのではないか?
知りもしない事を、延々と口にし続けるのは、無責任な態度ではないのか?
446 :
266:2009/06/10(水) 02:16:37 ID:+kD2EE7W
僕の話を一通り聞いてから、木野は真面目な顔で口を開いた。
「なあ、久藤……ダンテって実際に地獄に行ったのか?」
「えっ!?」
木野が言っているのはおそらく有名な『神曲』の事だろうけれど、どうしてだしぬけにそんな事を言うのだろうか?
「紫式部は色んな女性と付き合いまくったりしたのか?」
「それは…ないだろうけど……」
「夏目漱石って、猫になった事があるのか?」
「……………」
だんだんと、木野の言わんとしている事が僕にもわかりはじめた。
「実際に見た物しか書けないんなら、作家なんてとうにいなくなってるさ」
「でも、それじゃあ、間違ったお話を作ってしまうかもしれない」
「間違っててもいいじゃねえか」
そこで、木野は僕に向けてニヤリと笑って見せた。
「確かに『死ぬこと』について、俺もお前もよく知らないし、だから間違った事を言ってしまうかもしれない。だけどだ!!」
木野は僕の肩をぐいと掴み、力強い表情でこう言った。
「そのお話の中でお前が言おうとした事まで間違いだって言うのは、少しおかしいんじゃないか?」
心の奥で、僕を縛り付けていたロープが千切れる音を、確かに聞いた気がした。
そうだ、完璧な知識は持っていなくても、それでも表現し得るものは存在する。
どんな作家だって、そうやって物語を編み上げて来た筈なのだ。
間違って、迷って、それでも生み出された作品に込められた魂は、だけど決して恥じ入るようなものじゃない。
そもそも、いつも彼女は、マリアは僕の話を聞き来てくれていたじゃないか。
彼女から見れば、僕の死に関する観念は稚拙な部分もあるのかもしれない。
それでも、お話に込められたモノを、彼女はしっかりと受け止めてくれていた。
「というわけだ!!お前も納得できたみたいだし、これで万事解決だな!!」
僕の表情が晴れていくのを見ながら、ふんぞり返って木野がそう言った。
本当に助かった。
木野がいなければ、僕はずっと思考の迷路をさまようハメになっていたかもしれない。
………だから、僕は思い切って、もう一つの問題についても木野に相談してみる事にした。
「ああ、ありがとう。よく解ったよ……でも…」
「でも……なんだ?」
「問題の核心は、実は別のところにあるんだよ」
怪訝な表情の木野の耳元に口を近付け、僕は自分が彼女に対して抱いている気持ちについて打ち明けた。
目を丸くして、呆然と僕を見る木野。
「マジ……なのか?」
「うん、マジ」
「本当の本当に、マジなのか?」
「本当の本当に、ウソ偽りなく完璧に、マジ」
木野はゆっくりと空を仰ぐと
「うそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
これ以上ないくらいの大声で、そう叫んだのだった。
「本気、なんだな……」
「うん。自分でもちょっと信じられないけど………こういう事、ほとんど無かったから……」
僕のマリアに対する感情、それを抱く事となった今日までの経緯。
僕がその全てを打ち明けたのを聞いてから、木野は難しい顔をして腕を組んだ。
「あの目が、ね……」
「うん?」
「色んなものを見たり聞いたりしたとき、キラキラって輝いて、一瞬だけとてもとても深い色が見えるんだ。
それがとても綺麗だったから………なんて、こんな抽象的な理由しか言えないのが、自分でもどうかと思うけど……」
「いーや!そりゃあ、やっぱり好きって事なんだろ。そこだけは自信持てよ、久藤」
木野の言葉はいつになく優しく頼もしかった。
「俺は、お前がそういう気持ちならそれは悪い事じゃないと思う。長期戦で考えるなら、アイツがもっと大きくなるまで待つのもアリだし」
それから、木野は名探偵よろしく、顎に手を当てて、うむむ、と考え始めた。
「周りからの非難とか、そういうのが激しいのは当たり前として、もう一つやっかいな問題があると思うんだ」
「どういう事?」
「お前とマリアの今までの関係そのものだよ」
447 :
266:2009/06/10(水) 02:17:24 ID:+kD2EE7W
今までの僕と彼女の関係は、小さな子供と、それの面倒を見る年上の男子、それ以上でもそれ以下でもない。
そんな関係の中で、いつの間にか僕がこんな感情を抱いてしまう事など予想もしなかった事だ。
さらに言うなら、子供にとっては一つの年の差さえ大きな壁になってしまう。
恋愛はその二人が互いに対等の立場で、足並みを揃えて歩いていくものだ。
マリアはどんな大人にだって遠慮なしに大暴れするけれど、年齢の壁から感じる抵抗感はそれとはまた別のモノだ。
見てきたものや経験したものの違いだけじゃなく、僕と彼女はその立場においても遠く離れた場所に立っているようだ。
「要するに、向こうがお前をそういう対象として見るかどうか、つまり、スタートラインに立てるかどうかもわからないんだ」
「ううん………」
この分析に、僕も木野もすっかり途方に暮れてしまう。
冷静に考えれば、やはりその可能性は高い。
しかも、この場合、年月が経過してもそういう立場の隔たりだけは残っていたりするものだ。
彼女の成長を待つにしても、これはどうにかしなければならない問題だ。
「そうだっ!!」
突然、木野が叫んだ。
何かアイデアを思いついたらしい。
「どうしたの、木野?」
「年の差の年齢といえば、一番身近に最高のサンプルがいるじゃねえか!!!」
「で、こんな所に呼び出して、一体何の用ですか?復讐ですか!?恫喝ですか!?それとも単なるストレス解消にひ弱な担任をフルボッコですかぁ!!?」
木野の言う最高のサンプルというのは、糸色先生の事だった。
宿直室でこの話をするのはマズイという事で、僕たちは先生を校舎の裏まで連れてきたのだけれど、
臆病で警戒心の強い(って書くと、なんだか森の小動物みたいだ)先生は、それだけで若干パニくってしまっている。
まあ、確かに、先生は10歳以上も年の離れたウチのクラスの女子達の多くから熱烈な好意を寄せられているけれど……
「どうやったら先生みたいに、年下の女子生徒からの好意を受けつつ、しかもまるで教師じゃないみたいな雑な扱いを受ける事ができますか!!?」
「ひ、ひどいっ!!!木野君、それはあんまりですっ!!!確かにそんな感じの日常を送ってますけど、何もわざわざ口に出して言わなくてもっ!!」
涙目の先生と、真剣な表情の木野が言い争う。
一方の僕はすっかり蚊帳の外だ。
そもそも、先生の今の境遇って、先生自身の性格や行動のせいである割合が高いわけだから、果たして僕の参考になるかどうか……
と、その時、先生が何かを閃いたような表情を浮かべ、こう言った。
「あれ?それって何だか物凄く年下の女の子、木野君の年齢なら下手したら幼女ぐらいをターゲットにした発言に聞こえるんですが……」
「ギクゥ!!」
「って、何を青ざめてるんですか!?まさか、木野君、あなたは加賀さんが好きなのだとばかり……」
「いやいやいや、それは違います。何ていうか、あくまで一つの参考として先生の話が……」
木野がどうしてこんな事を聞こうとしているのか、それに先生はおぼろげながら感づいたらしい。
それでも木野は僕の事を何とか隠そうとしてくれていたが、僕はついに覚悟を決めた。
「先生っ!!」
「は、はい?どうしたんですか、工藤君……?」
「お、おい、久藤、早まるなっ!!」
木野の声が聞こえたけれど、僕は止まるつもりはなかった。
これはやっぱり、僕自身の問題だ。
「木野が先生に相談してたのは、僕に関する事なんです……」
「工藤君に…?」
それから僕は、先生に全てを打ち明けた。
「ふむ……」
僕の話を聞き終えた先生は、そう呟いて目を閉じた。
しばらく、そのままの状態で何事かを考えていた先生はゆっくりと瞼を開き、まっすぐと僕を見つめた。
いつもの先生とは違う、真剣な眼差しだ。
「なるほど、それで年の差がどうとかと、そんな事を私に聞いたわけですね」
「はい」
「それなら、工藤君には是非知っておいてもらいたい事があります」
それから、しばしの沈黙の後、先生はその事を口にした。
「年の差を気にする以前に、おそらく、そもそも関内さんの年齢はあなた達が考えているほど幼くない、と私は考えています」
「そ、それって、どういう……?」
「彼女自身から私が聞いた話からの類推に過ぎませんが、関内さんの年齢は………」
448 :
266:2009/06/10(水) 02:19:42 ID:+kD2EE7W
その日のマリアは、仲間たちの待つ我が家に帰る事も無く、どこかのビルの屋上からぶらぶらと脚を垂らして、眼下に広がる夜景を眺めていた。
生き残った理由はカンタン。
マリアが臆病だったカラ。
マリアより少し年上の男の子や、マリアと同い年の女の子達は、勇気を振り絞って家族を助けに村に行って、二度と帰って来なかっタ。
生き残ったのは、震えながら生まれ故郷が焼き尽くされていくノヲ何もできずに見ていたマリアと仲間の6人ダケ。
ミンナミンナ、死んでしまった。
それからの事はよく覚えてイナイ。
村を焼いたヤツらから逃げたくて、必死でジャングルの中を歩き回った。
喉が渇いタラ泥水を飲んで、村のオトナたちが教えてクレタ食べられる木の実や、虫、トカゲでお腹を膨らませた。
ダケド、ある日、イツモの食べられる木の実を見つけて、喜んでかぶりついた仲間が一人、食べたばかりの木の実を口から撒き散らしナガラ死んだ。
ソレハ、マリアが知っている食べられる木の実とよく似た、毒のある別の木の実ダッタ。
ジャングルの中を歩いているウチに、マリアたちはいつの間にか自分達の知っているコトの通じない場所までやってきたミタイだった。
ソレカラハ、何を食べるにもビクビクして、コレを食べたら死ぬんじゃないかと怖くてタマラナクテ、ソレデモ泣きながら色んなモノを食べた。
そうしている内に、タクサンタクサン下痢をして、仲間がもう一人死んだ。
ジャングルの中を、ドッチを向いているのかモ解らないママ、たくさん歩いた。
マリア達の敵は、毒のある食べ物の他にも、村を焼いたのと同じようなタクサンの武器を持ったコワイ奴らがイタ。
人が住んでるトコロにはその跡が残ってるカラ、それを避けてイツカ安全な街や村にたどり着けると信ジテ歩き続けた。
だけど、そんな場所に着くヨリ早く、マリア達はある日、鉄砲を持った怖そうな男に会ってしまった。
マリア達は全員でソイツに飛び掛った。
鉄砲を使わせないヨウニ、最初に手を踏みつけて鉄砲を蹴っ飛ばした。
ダケド、全員子供で、しかもロクに何も食べてなかったマリア達は軽々と男に吹き飛ばされた。
それから、ケホケホと咳をしながら立ち上がってから、マリア達は気付いた。
マリア達はその時合わせて五人、ダケド立ち上がったのは四人。
「ア、アアア――ッ!!!!」
その一人は、お腹からドクドクと赤黒い血を流しナガラ、地面に倒れてイタ。
男は右手に刃こぼれだらけのナイフを握っていた。
ジリジリと、マリア達は男に追い詰められた。
男は、マリア達をさんざんに痛がらせてカラ殺すつもりみたいだった。
男がナイフを振り上げて、モウ駄目だ、ミンナがそう思った瞬間。
タタタタン!!!
そんな音が聞こえて、男はマリア達の方に向かって倒れタ。
ナイフにさされた仲間が、最後の力で鉄砲を撃って、マリア達を助けてクレタみたいだった。
引き金を引いたときには、もうその仲間は死んでいたミタイだった。
残された鉄砲は一番仲の良かった、マリアのトモダチの女の子が持つようにナッタ。
それからも、飢えと乾きに苦しんデ、ジャングルをあるく生活が続いた。
ゲリラにも何度も出会って、何度も死にそうな目にアッタ。
そして、運命の日、お腹が空いてもう一歩も進めなくなったマリア達は、木の根元に生エテイタ毒キノコを見つけた。
ソレがドレダケ恐ろしいキノコで、どんな事があっても食べちゃイケナイ事は村のオトナ達に何度も言われていたケレド、
マリア達はモウ一歩も歩く力がナクテ、生きるタメには何かを食べなければイケナカッタ。
結局、マリア達はキノコを食べた。
二人が死んで、マリアとトモダチの女の子だけが残った。
マリア達が小さいけれど平和な村にたどり着いたノハ、その次の日だった。
『もう少しだったノニ……』
そう言いながら、マリアはトモダチと二人でタクサンタクサン泣いた。
それからマリア達は、大きな街のスラムで暮らすようになった。
そこもヒドイ場所だったケレド、ジャングルをさまよったアノ生活にくらべれば天国だった。
毎日のヨウニ聞こえる銃声も、村を焼いたアイツラのマシンガンのコトを思えば、まるで子守唄だった。
お腹が空くコトも多かったケド、毒のある食べ物はなかった。
悪いヤツはタクサンいたけど、イイヤツも少しはイテ、マリアとトモダチの女の子はそんな人たちの仲間になる事ができた。
それからの生活はズット幸せで、日本に来てからはモット幸せだった。
ダケド………。
449 :
266:2009/06/10(水) 02:21:09 ID:+kD2EE7W
「ウアアアアアアッ!!!!!」
「いやぁ、助けてぇええええっ!!!!」
目を閉じると、頭の中であの時燃え上がっていた村が、ジャングルの中で次々に死んでいった仲間の顔が浮かび上がる。
ダカラ、マリアはずっと考えている……。
「いいのカナ?マリア、こんなに幸せでいいのカナ?」
ミンナミンナ死んだノニ、マリアだけ幸せで、本当にいいのカナ?
震えてる手の平で、ギュッとスカートの裾を握った。
「関内さんの育ってきた環境は劣悪そのものでした。彼女の出身国の人間が経験した中でも最悪の部類でしょう。だから……」
「ああ、そういう事なんですね……」
先生の説明で、僕にも大体の事はわかった。
僕が肯くと、先生は辛そうな表情で続けた。
「命の糧である食料も得られない状況で、マトモに成長なんて出来るハズがないんです。
ほんの子供にしか見えない彼女ですが、あなた達との年齢差は考えている以上に少ない筈。
そして、普段があんな調子だから気付きにくいですけど、過酷な環境を生き抜いてきた彼女の心も我々が考えるよりずっと大人です」
それから先生は僕の肩に手を置いて、僕の顔をじっと覗き込みながら言った。
「今、私は工藤君の存在が関内さんの支えになるのなら、それでいいと思っています。……全く以って、教師失格ですが……
ただ、覚えておいてください。彼女とあなたの間の距離は、単なる年の差なんかよりずっと深くて遠いものです………」
「はい……」
僕が真剣な顔で返事をすると、先生はようやく少しだけ安心したような表情を見せた。
「でも、結局具体的にはどうすればいいんだよ?久藤とマリアの間がそんなに遠いんなら……」
そこで、木野が少し途方にくれたような様子でそう言った。
すると、先生はにこりと笑って
「それなら、私より、私の周囲のあの娘達の方が参考になるんじゃないでしょうか?」
「はあ?」
「辿りつきたい場所が遠いなら、走っても、歩いても、這ってでも、どうやってでもそこに辿り着けばいい。
論より証拠、行動あるのみ、やってみるしかないでしょう!!工藤君なりのやり方で少しでも関内さんの近くに寄り添うんですよ」
結局のところ、僕がマリアに感じていた距離のいくらかは、僕自身の心が作り出してしまったものだったのだろう。
最初から、心のどこかで届かないと思い込んでいたから、余計に彼女を遠く感じる事になってしまったんだ。
やり方はわからない、彼女の胸の内も相変わらず全く見えない、でも、僕は僕なりに彼女の少しでも近くにいようと考えた。
ある日の放課後。
「こらーっ!!マ太郎、待ちなさーいっ!!!」
「待てないヨーっ!!!!」
木津さんに追いかけられたマリアがこちらに走ってくるのが見えた。
彼女が何かをやらかしたのか、それとも、木津さんが例の如く暴走しているのか、どうにも話が見えなかったのだけれど……
「木津さん、片手にパンツもってるね………」
「あ、ああ…なるほど……確かに、きっちり穿いていてほしいところだからな……」
気恥ずかしくて、その場にいた僕と木野は下を向いてしまった。
だけど、これが良くなかった。
「准ーっ!!国也ーっ!!ソコ、危ない、ドイテよーっ!!!」
全速力のマリアは僕たちへの激突コースを辿っていた。
この時僕達が取るべき行動は下を向く事なんかじゃなくて、彼女に道を譲る事だった筈なのだ。
だが、時既に遅し……
「ウワァ――――――ッッッ!!!!」
僕達二人と、マリアは思い切り正面衝突してしまった。
遅れて反応した僕はようやく事態を悟り、激突で吹き飛ばされた彼女の体に必死で手を伸ばした。
そして、間一髪、僕の両腕は廊下に叩きつけられる寸前でマリアの体をキャッチする事ができた。
「ア、アウウ〜……って、アレ?…准、どーシテ?」
「いや、僕達が避けてればぶつからなかったんだし、マリアに怪我をさせるのも嫌だからね…」
僕がそう言うと、フッと彼女の頬に恥ずかしげな色が浮かんだ気がした。
そのまま思わず、彼女の顔を見つめてしまったのだが
450 :
266:2009/06/10(水) 02:22:01 ID:+kD2EE7W
「マぁ太郎ぉ――――っっっっ!!!!」
木津さんの叫び声が間近に聞こえてきた。
「マ、マ、マ、マズイヨーっ!!!」
それに反応して、マリアは僕の腕の中から飛び出した。
木津さんに追いかけられて、彼女の姿が廊下の向こうに消えていく。
それを見ながら、僕は先ほどマリアが見せた赤い顔を思い出す。
恥ずかしかったのかな?
やっぱり、女の子だものな。
よくよく考えれば、僕はマリアの存在をどこか遠い物のように思い込んで、そんな当たり前の事にさえ気付かないでいたんだ。
少し、ほんの少し、僕はまた彼女に近づけた気がした。
「何を感動してるかよくわからんが、こっちの事も少しは気にしてくれー」
僕の背後で、ひっくり返ったままの木野がそう言ってうめいた。
千里からヨウヤク逃げて、マリアは学校の校舎の屋根の上で一休み。
シンゾウがまだドキドキしてるのは、キット千里との追いかけっこダケのせいジャナイ。
「准……受け止めてくれタ……」
アノ瞬間ダケ、まるで時間が止まったミタイだった。
准は驚いてるマリアの顔をじっと見つめて、ソノママ時間が止まってしまうんジャナイカと思った。
だけど、スグに千里が追いついてきたせいで……
「ウ〜……バカバカバカッ!!千里のバカァ〜!!!!」
アノママが良かった。
アノママ、准の腕の中にいられたら良かった。
だけど、モシ、ズット准の腕の中にいたら、アノ後、マリアは一体どうなっていたんダロウ?
ずっと考えていると、グルグルグルグルと頭の中を、色んな想像がウズマキみたいにかき回す。
アノ後、准の手で抱き起こされて、ソノママ、准の腕に抱きしめられて、ソレカラ、ソレカラ……
「う〜にゃぁああああああああああっ!!!!!!」
いつのまにか、自分がスゴク恥ずかしいコトを考えてる気がして、マリアは大声で叫んでしまった。
と、その瞬間……
「見つけたわよ、マ太郎〜」
「ウワッ、千里ダヨ!!?」
屋根の上までヨウカイみたいに這い登ってきた千里に追いかけられて、マリアはまた走り出した。
ダケド、マリアの体の中にはサッキまでと違う、なんだかウズウズしてくる不思議な感じでイッパイになってイタ。
まずは相手を知ろうとする事、自分の事を知ってもらう事。
人と人との距離を詰める方法なんて、まあ、そんなにあるものじゃない。
僕は、相手の心をグイと鷲掴みにして引き寄せてとか、そういうタイプじゃないから、前よりマリアと話すようにするしか方法はなかった。
実際、これまでの僕はマリアを対等な存在というより、庇護すべきものとしてしか見ていなかったのだと思う。
同じ目線に立って言葉を交わすと、今までよりたくさんの彼女の表情を見ることができた。
「あのコンビニの裏の鍵、カンタンに開くから食べ物手に入れ放題ダヨ」
「でも、それだと競争率も激しいんじゃない?」
「うん、ダカラ、これはマリアと准だけの秘密ダヨ!」
人差し指を口の前に立てて、シーッとやる彼女に合わせて、僕も人差し指を立てる。
彼女の視線で、町の景色が色を変える。
「僕のおすすめの本はこれかな?」
「分厚くないカ?」
「でも、読みやすいし、面白いよ」
「ウゥ〜、マリア、頑張って読んでミルヨ」
僕がよく知っていた筈の世界でさえ、彼女といると少し違って見えてくる。
どこか隔たりのあった他人行儀な関係から、少しずつ彼女に近付いている事を実感する。
「上手くいってるみたいじゃん」
「まあね」
話しかけてきた木野に、僕は笑顔で肯く。
「しかし、まさかお前がロリに転ぶとはなぁ」
茶化した様子で木野がそう言う。
「違うよ。僕が好きなのは、マリアだよ」
だけど、僕がさらりと答えたその一言を聞いて
「ホント、言うようになったよ、お前」
木野も嬉しそうに笑ってくれた。
451 :
266:2009/06/10(水) 02:24:07 ID:+kD2EE7W
最近、准とタクサン話せるようになってスゴク嬉しい。
マリアは自分の家で准の選んでクレタ図書館の本を読んでる。
「准のウソツキ、全然読みやすくナイヨ〜」
わからない漢字や言葉がタクサンで、ページはなかなか進まない。
デモ、面白い本だっていうのは、准の言ってたとーりダッタ。
ペラリ、ペラペラ、何度も同じページを繰り返し眺める。
わからないトコロは明日、准に教えてもらおう。
先生の授業も悪くはナイケドやっぱり退屈。(これは先生には秘密ナ)
准ならきっと楽しく判りやすく、マリアのわからないトコロを教えてクレル。
そうやって、明日のコトを考えているダケデ、今は嬉しくて楽しくて仕方なくなる。
ダケド、ふっとある言葉が、マリアの中で引っかかった。
『明日』………。
今日の次にやって来る日。
ダケド、村の中で焼かれたミンナや、ジャングルの中で死んだ仲間には二度とやって来ない日のコト。
「あ……うぁ……あああっ……」
手の平の中で、准の選んでくれた本が震えル。
息が苦しくナッテ、目の端に涙がニジンデ、頭の中を色んなコトがぐるぐると回る。
「ドウシタ、マリア?」
一緒に住んでいるオトナの一人が、心配そうに声をかけてクレタ。
でも、今のマリアには答えられない。
ミンナは死んだ。
ダカラ、ミンナはもう幸せにナレナイ。
ソレなのに、マリアだけ幸せにナッテル。
いつの間にか、マリアは准の選んでくれたアノ本を投げ出していた。
膝を抱えて、震えながら、マリアは何度も何度も呟いた。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ………」
何度も何度も、家族に、仲間に謝り続けた。
「ゴメンネ、准、この本、マリアには難しすぎたヨ」
いつも通りの笑顔でぺこりと頭を下げながら、マリアは僕にこの間図書館から借りた本を渡した。
それから彼女は逃げるようにして、僕の前から駆けていった。
それ以来、僕はマリアとじっくり話をする事ができないでいる。
マリアは休み時間になると、楽しそうに声を上げながら校舎の中を走り回るようになった。
彼女らしい気まぐれならば問題はないのだけれど、なんだか今の彼女の行動には彼女らしくない痛々しさがあった。
放課後、学校の帰り道で僕と木野は彼女の変化について話し合った。
「………避けられてるのかな?」
「……もしかしたら、そうなのかもな。でも、マリアはお前と一緒にいて、いつも楽しそうにしてた。多分、何か理由があるんじゃないか?」
僕も木野と同じ意見だった。
だけど、その肝心の理由が僕には見当もつかない。
彼女が経験してきた世界に比べれば、僕の見てきたものはあまりに薄っぺらだ。
少しずつ少しずつ、彼女との距離を縮めてきたつもりだったけれど、結局は届かなかったという事だろう。
わかりもしないで無責任に言葉を発すれば、それは結局相手を傷つけてしまう。
彼女を苦しめている原因が僕ならば、今はきっと静かに彼女から離れる事が最善の策なのだ。
452 :
266:2009/06/10(水) 02:25:17 ID:+kD2EE7W
「帰ろうか、木野」
「いいのか、アイツ、多分まだ学校にいるぞ?」
「今の僕に出来る事はないよ」
そう言って、足早にその場を立ち去ろうとしたのだけれど……
「もしかして、また自分には相手の事がわからないから、何もしない方がいいなんて思ってるんじゃないだろな?
そんな事、人間同士なら誰だって同じようなもんだろう?」
木野が言った。
「そうだね。でも、マリアと僕の間の溝は、きっと普通より深くて大きい。一般論じゃどうにもならないよ」
「……………」
木野の沈黙は、おそらくは同意の意味だろう。
僕だって、出来ることがあるなら彼女に何かしてあげたい、力になってあげたい。
「でも、その溝は前よりは狭く浅くなった筈だろう?」
それでも、木野は諦めないつもりらしかった。
「その分だけ、ほんの小さな、つまらない事でも、前よりはマリアの事をわかってやれるようになったんだろう?」
「それは……そうだけど…」
「それで十分なんだよ。前も言ったろ、きちんと相手を理解できていなかったとしても、お前の話にはお前の心がこもってて、
きっとそれだけで意味がある。前よりもマリアに近づけたんなら、きっともっと、お前の言葉はアイツに届くよ」
「木野………」
「それからお前、まだ肝心な事は一つも言ってないだろ?」
木野はニヤリと笑ってこう言った。
「行って来いよ。伝えて来い。お前が腹の内をさらけだせば、お前とマリアの間の溝とやらだって、もう少しは埋まるだろ?」
「ああ……」
それから木野は僕の鞄を強引にぶんどって、
「コイツはお前の家まで責任持って届けとくから安心しろ!!」
そう言って、駆けて行ってしまった。
残された僕は、くるりと踵を返し学校へと戻る道へと視線を向けた。
行かなければ、彼女の、マリアの所へ。
真っ赤な太陽が西の空に沈んでイク。
マリアは教室の窓に腰掛けて、それをボーっと見ていタ。
空の赤の中に、死んでいったミンナの姿が繰り返し横切った。
「准には悪かったケド、これでいいんだよナ」
呟いてみると、今のマリアは准から遠ざかったんだと、改めて身に沁みて胸が苦しくナル。
太陽はドンドン傾いて、教室はドンドン暗くナル。
ダケド、マリアはいつまでも、この窓から離れる気分になれなかった。
俯いたまま、ぷらぷらと揺れる自分の足を見ている、そんな時間がどれだけ過ぎたダロウ。
ガラガラガラッ!!!!
突然、教室の扉がイキオイ良く開いた。
そして、廊下の暗がりのムコウから、マリアの良く知っているヒトがゆっくりとコッチに歩いてくるのが見えた。
「准……」
准はイツモ通り優しく笑っていた。
准から離れナクチャ、そう思うのダケド、マリアの体は全然動いてくれない。
ソノウチ、マリアの近くにまでやって来た准は、マリアの座っている窓に手を掛けて
「よっと……!」
「あ……」
窓枠を乗り越えて、マリアと同じように、窓の外に足を向けて座った。
ウデがくっつくぐらい近くに座って、准がマリアの事を見下ろしていた。
ソレカラ、窓の外の空を見て
「綺麗な空だね……」
そう言って、笑った。
その笑顔を見ただけで、今まで胸が苦しくてイッパイだったのが、ウソみたいに消えてなくなった。
一瞬、准が隣にいるのが嬉しくて、准に抱きつきたくて甘えたくて、そんな気分でイッパイになったケド……
(駄目ダヨ、だってミンナは……)
ミンナの事を思い出してガマンした。
ソレなのに、今度はマリアの両目からぽろぽろと涙が零れ出して、瞼をぎゅっと閉じても止まってくれなくナッタ。
ダケド、その涙の流れたアトを、そっと優しい感触が拭った。
准の手の平ダ。
マリアは今、准が側にいてくれて、ホッとしていた。安心していた。
でも、マリアにはそんなマリアが許せなくて、頭の中がグルグルで、ワケがわからなくって、
必死で准のソバから離れようとしたそのときに……
453 :
266:2009/06/10(水) 02:26:22 ID:+kD2EE7W
「あっ……!!?」
マリアはバランスを崩して、窓の外に投げ出されそうにナッタ。
ダケド、そのマリアの腕を准の手の平が、強く優しく、しっかりと掴んでクレタ。
「マリアぁああああっ!!!!!」
准が力いっぱいにマリアを引き上げる。
マリアと准はソノママ、もつれるみたいにして、教室の中に転がり込んだ。
「あ……准……准…」
助けられたマリアは准の腕の中にイタ。
そこはあったかくて、ホッと安らいで、ダカラ、マリアは今まで堪えていたものがガマンできなくなって……
「…准っ!…ウワアァ……准っ!!准っ!!!!」
涙と鼻水でグチャグチャの顔を、准はその胸で受け止めてクレタ。
優しくてあたたかい両腕で、震えるマリアのカラダを抱きしめてクレタ。
そのヌクモリの中で、マリアは思い出した。
昔、ずっと昔、マリアの村が焼かれて無くなるよりも前。
ジャングルの中で味わった地獄の記憶のせいで、思い出せなくなっていた昔のコトを思い出した。
食べ物はそんなにナカッタけど、家族がいて、トモダチがいて、ミンナが笑い合ってたころのコトを。
ミンナが幸せだったころのコトを………。
突然奪われ、消え去ってしまったケレド、幸せはアソコにあった。
ミンナの笑顔がマリアに教えてくれる。
マリアが幸せにナルのはぜんぜん悪いコトじゃないって……。
マリアは幸せの中で笑っていてもいいんだって………。
(ミンナ、アリガト……)
そうやって、ヨウヤク泣き止みはじめたマリアの頭を撫でながら、准が優しく語り掛けてきた。
「マリア、今日、僕は大事な話があってここに来たんだ……」
准の言葉が気になって、涙で濡れた目を擦って顔を上げると、ソコにはマリアの事をまっすぐ見つめる准の顔があった。
そして、ソレカラ准が言った言葉は、マリアの考えもしないモノだった。
「僕は、マリアの事が好きだ……」
最初、言葉の意味がわからなくて、まだ日本語がよくわからなかった頃みたいに、准の言葉だけを頭の中で繰り返した。
ダケド、それに被せるように、准の言葉が続く。
「マリアの事、ずっと見てたんだ。ずっと、綺麗だなって思ってた。………いつの間にか、好きになってた」
マリアの心臓の音がドンドン大きく早くナル。
頭の中がカーッと熱くなって、カラダがふわふわと浮かびあがりそうだった。
准が、マリアの事を『好き』?
「僕はマリアの事が大好きだよ…………マリアは僕の事、どう思ってる?」
准はマリアにそう尋ねた。
その答えは一つっきりだってわかってるノニ、マリアの頭はグルグル回って、上手くその言葉が出てきてくれなくて……。
ダカラ、マリアはその気持ちを伝える一番の方法で、准に応えた。
「准……っ!!」
「マリア……っ!?…ん……あ…マリア……」
重なった唇をゆっくりと離すと、照れくさそうな准の顔が見えタ。
ソレを見てると、マリアもやっと自分の気持ちが言えそうな気がしてきた。
「准……」
「うん?」
「マリアも准のコト、好きだヨ……」
ソレを言われたときの准の嬉しそうな顔を、マリアは一生忘れないと思っタ。
「准、好きだヨ……大好きだヨ……」
今まで言えなかったコト、伝えられなかったキモチ、それを口にしながらマリアは准に何度もキスをする。
「マリア…僕も好きだ……」
そう言いながら、准の右手が制服の上カラ、マリアの左胸を撫でる。
准の手の平に触られると、カラダが痺れて、頭のナカがとろけそうで、何度も准の名前を呼んでしまう。
マリアも必死に手を伸ばして、准のカラダに触って、思い切り抱きしめる。
准のカラダはマリアの知ってるオトナの男の人より細いけど、それでもやっぱりガッシリしてて、
大きな木にしがみついてるみたいに安心デキル。
キスをして、キスをして、またキスをして、数えきれない、一生分ぐらいのキスをスル。
舌も口のナカもとろけそうで、息が苦しくなっても、それでも准のキスが欲しくて次をねだる。
「はぁはぁ……准……准…」
「ああ…マリア……」
454 :
266:2009/06/10(水) 02:28:01 ID:+kD2EE7W
「ああ…マリア……」
准の腕はマリアのちっちゃな体を何度もツヨク抱きしめた。
ソレは少し痛いぐらいに強いチカラが込められていて、キット准もマリアの事をずっと抱きしめたかったんだと思っタ。
准の手のひらが、ユビが、マリアの体中に触れる。
平らなオッパイの先を准のユビが撫でると、それだけで体中が痺れてマリアは崩れ落ちそうになってしまう。
おへそに、クビに、脚に、准のユビが丁寧に触れて、それから何回もキスをする。
「ふあっ…あああっ…うアァアアアアアッ!!!!…アアッ…准っ!!!」
ビリビリと、マリアの体じゃないみたいに、全身がケイレンして踊る。
准に触られてると思うダケで、カラダがスゴク敏感になって、准の息ひとつ、動作ひとつにも反応してシマウ。
体中にキスマークを残されて、体中をキモチヨクされて、まるでマリアが溶けていくミタイだった。
マリアが溶けて、准も溶けて、混ざり合ってヒトツになってしまうみたいだった。
「…ッアアアアアア!!!…マリア…モウ…ワケわかんないヨ…うアアアッ!!…准っ!!!」
「マリアっ!!…僕も…頭のナカ…マリアの事だけでいっぱいになって……っ!!!!」
准からデモナク、マリアからデモなく、まるで磁石がくっつくみたいに何度もキスをシタ。
准の指は太ももと太ももの間から、ゆっくりとマリアの一番熱くナッテル場所に近付いていく。
ソコを撫でられたトキ、マリアの頭のナカで白い火花が散った。
「…ックゥ…ヒアアアアッ!!!…ソコぉ…ふああああっ!!!!」
「あ…だ、大丈夫?…」
「…はぁはぁ…ううん…平気ダヨ……それより、准のユビでもっとタクサン、ソコを触って……」
准のユビがちっちゃく閉じられたソコを何度も撫でて、浅いトコロに入ってきてくちゅくちゅとかき回す。
サッキまでよりずっと凄い刺激に、マリアはただ必死に准にしがみついて、声を上げるダケになる。
「……クアアアアッ!!…アアッ!!…准っ!!…准っ!!!!」
頭の上までデンキみたいのが駆け上がってきて、ソレがマリアの体中を気持ちよく痺れさせてしまう。
そのイキオイと、気持ちよさがあんまり凄くて、恥ずかしいハズなのに、マリアの声はドンドン大きくなってイク。
ドレダケそうしていたかワカラナイ。
いつの間にか、マリアは准にぐったりとしたカラダを抱きしめられていた。
少しダケ、意識がトンダみたいだった。
ダケド、マリアの体も、心も、まだこれぐらいでは止まってくれないみたいだった。
マリアの髪を撫でながら、マリアの顔を見下ろしていた准の耳元に、そっと口を近づけて、ドキドキしながらこう言った。
「准……欲しいヨ…」
「えっ…!?」
「准が欲しい……ヒトツになりたい……」
准は少し驚いたような顔をしてから、ゆっくりと肯いた。
それから、准がマリアに優しくキスしてくれた後、ついに准とマリアがヒトツになる時がやってきた。
「マリア…いくよ……」
「うん…准…来てもイイよ…」
ゆっくりと、准の一部がマリアの体の中に沈み込んでくる。
熱くて、おっきくて、マリアの中を埋め尽くしていく准の感触。
それだけで、心も体もどこかに吹き飛ばされてしまいそうで、マリアは准のカラダに必死にしがみついた。
ソレカラ、奥まで入ったところで、准はゆっくりと腰を動かしハジメタ。
「大丈夫……マリア?」
「ウン、…少し痛いけど、へーき……准がマリアの中に来てくれて、スゴク嬉しい……」
モウ一度、准はマリアとキスをして、だんだんと腰の動きを早めていった。
准が動く度に、マリアのお腹の中で熱さのカタマリが弾ける気がした。
優しく、激しく、准がマリアのカラダをかき混ぜるたびに、マリアは大きく声を上げてしまう。
「ふぅ…アアアアアッ!!!…アアンッ!!…准っ!!…准―――っっっ!!!!」
「マリア…綺麗だよ…マリア……っ!!!」
ズンッ!ズンッ!!
准が動くたびに、衝撃の波がマリアの全身を貫いていく。
目に見えるスベテは涙でぐしゃぐしゃに濡れて、気持ちよさと熱さのナカで息もドンドン荒くなっていく。
マリアの汗と、准の汗が絡み合って、混ざって、マリアは准の、准はマリアのカラダの色んなトコロに触れて、その全部がどんどん熱くなってイク。
455 :
266:2009/06/10(水) 02:28:41 ID:+kD2EE7W
洪水みたいに押し寄せる准の感触に、頭の中まで真っ白にされて、マリアは何度も准の名前を呼んだ。
准はそれに応えてマリアの事を呼んでくれて、それからマリアの唇や、体中のあちこちにキスをしてくれた。
マリアもお返しに准のカラダにキスをして、准のカラダを強く強く抱きしめた。
熱いのも、気持ちいいのも、マリアが准を好きなコトも、准がマリアを好きなコトも、
全部大きなナベのナカでかきまぜられて、ヒトツになっていくみたいだった。
そして、マリアと准のナカでぐるぐる回っていたそれは、ドンドン熱く激しくなっていって、破裂寸前にまで膨らんでいった。
「…マリアっ!!…僕は…!!!」
「准っ!!…あああっ…マリアも…もう……っ!!!!」
准の熱がマリアのお腹の奥をズンと強く突くのを感じた瞬間、マリアの中でギリギリで繋がっていた糸が切れるの感じタ。
その途端、怒涛のように押し寄せた熱くてたまらない何かがマリアと准を押し流していった。
「くあああっ!!!マリアぁあああっ!!!!!」
「…ふァアアアアアアッッッ!!!!准っ!!…准っ!!!…准――――っっっっ!!!!!!」
ぎゅっと抱きしめあいながら、マリアと准の心と体は高い高いところまでとばされていった。
僕とマリアが互いの思いを確かめたその翌日、僕達がしたのは一度は図書室に帰したあの本をまた借りる事だった。
そして、今は放課後、マリアが本を読んでいてわからなかったという部分を、図書室の席に二人並んで教えてあげているところだ。
「なー、准、ここ、どういう意味だ?」
「……夏目漱石…ああ、これは人の名前だよ。少し昔の日本の、小説家の名前」
「うー、漢字って、どれも同じみたいで難しい……!!!」
「それはこれから少しずつわかっていけばいいよ、マリア……」
それからしばらく二人で、少しずつ少しずつ本を読んで、気がつけば下校時間になっていた。
「もうそろそろ帰らなきゃね。マリア、僕の説明で参考になったかな?」
「うん、また新しいところを呼んで、明日准に質問スル!!」
図書室の鍵を閉めて、くるくると踊るように歩くマリアの後について、僕は廊下を歩く。
僕とマリアの間にある溝は、きっと多分消えないもので、それはどんな人にしても同じ事なのだろう。
だけど、大事なのはその溝がなくなる事じゃなくて、その溝が少しずつ埋まって、少しずつ二人の心が近付いていく事なんだ。
傍にいようとする事、寄り添おうとする事、近くにいる事じゃなくて、近くにいようとする事が、きっと二人の世界を変えていく。
人は死ぬときにはみな一人だなんて言うけれど、僕はそれを信じない。
かつて、自分に寄り添おうとしてくれた誰かの気持ち、ただそれだけで孤独の闇はきっと晴れてしまう。
「おーい、准!!早くしないと置いてくゾーっ!!!!」
廊下の先で、彼女の呼ぶ声がする。
だから僕は走っていく。
心と体を少しでも近くに、二人で一緒に行きていくために………。
456 :
266:2009/06/10(水) 02:29:21 ID:+kD2EE7W
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
>>456 GJすぎる!
前々から読んでみたい組み合わせだったんだ…ありがとう
>>456 いろいろとキャラ保管もできて、普通にエロなしでもイケる作品だな。
つまりはGJということだ!!また何か書いてくれ、じゃなくて書いてください!!
久々に来たら良作が二つも投下されていた
460 :
266:2009/06/12(金) 21:07:00 ID:tVj2Z/lx
書いてきました。
何というか、今回のは好きに書きすぎてます。
文章量も多すぎて、容量オーバーもあり得るんじゃないかと思います。
内容的には、望達が高校の頃の話で、命×倫がベース、エロなしになります。
迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
461 :
266:2009/06/12(金) 21:09:17 ID:tVj2Z/lx
春を彩った満開の桜の花々もあらかた散り終えて、空の青と鮮やかなコントラストをなす瑞々しい新緑が辺りを覆い始めた頃。
信州蔵井沢随一の名家、糸色家の大きなお屋敷の中の一室に、何かを言い争う母娘の声が響き渡っていた。
「おかあさまの事なんて、もう知りませんっ!!!」
「コラっ!!倫、お待ちなさいっ!!!」
勢い良く障子を開け放って部屋から飛び出してきたのは、年の頃は五つほどの着物姿の小さな女の子だった。
波打つ滑らかな黒髪と、幼いながらも整った顔立ちの美しい少女は目に涙をためて廊下を走っていく。
続いて部屋から出てきたのは、同じく着物姿の美しい女性、さきほどの少女が『おかあさま』と呼んでいた人物である。
母は娘を必死に追いかけようとするが、廊下を通る使用人をひらりとかわして走る娘に母は追いつく事が出来ない。
走って、走って、広大な屋敷の中を走り抜けて、娘が逃げたと思われる彼女の自室の前まで母はようやくたどり着いた。
母はコホンとひとつ咳払いをしてから、部屋の中に居る筈の娘に呼びかける。
「倫、きちんと私のお話をききなさい!あなたは糸色流の華道を学ぶ身なのですよ。あんな活け方では……」
だが、母は気付く。
部屋の中から感じる気配が少しおかしい。
障子の向こうからは、わずかに風の吹き込む音が聞こえてくる。
まさか……!?
母が気付いて障子を開け放った時には既に遅かった。
部屋の中はもぬけの殻、娘が幼稚園で使っているカバンと、彼女の全財産の入ったがま口がその場から消えていた。
娘の不在を確認して、母の体からフッと力が抜ける。
「倫…どうしてわかってくれないの……」
力なく呟いた彼女の遥か上で、一部始終全てを見下ろしていた鳶がくるりと宙に輪を描いた。
「で、なんで、倫を尾行するのが僕達なんですか、命兄さん?」
「使用人のみんなは着物か、黒のスーツを着てるかで目立つんだ。普通の服で街に紛れ込める俺達が行くしかないだろ」
倫が家出してしまった。
その知らせを命と望、糸色家の三男と四男がすぐに聞きつけたのは幸運だった。
普段から何かと妹である倫の遊び相手をしている二人には、倫の逃げ込みそうな場所、行きそうな場所もある程度絞り込む事が出来たのだ。
早速、母親である妙の頼みを受けて、二人は倫を探して街に飛び出した。
そもそもが小さな女の子の足での移動である。
倫が家を出てからまだ一時間強、さして遠い場所に行ける筈もない。
ほどなくして、命と望は探し人の後姿を糸色家の屋敷から少し離れた住宅街の一角に見つけた。
「この辺りには倫がよく遊びに来る公園もあるしな。ここに狙いを定めたのは正解だったな」
「あの公園、そういえばコンクリートのドームみたいな遊具がありましたよね?そこで一晩過ごすつもりだったんでしょうか?」
二人が小声で話しながら倫を追いかけていくと、案の定、倫は件の公園へと向かっていった。
そして、公園にたどり着いた倫は、望の予想した通りドーム型の遊具の中へと隠れてしまった。
「倫には悪いけど、あの娘をこんな公園にいつまでも放っておくわけにはいかない。倫の気持ちは僕達からも母さんに伝えてあげよう」
「僕はどうでもいいんですけどねぇ…。最近、倫のやつ、僕の事をほとんど玩具みたいにしてるんですから……」
言いながら、忍び足で命と望はドーム型遊具に近付いていく。
遊具の出入り口となる部分はいくつかあったが、その内4つはドーム屋根の曲面に開けられた子供がやっと潜り抜けられるほどの大きさのもの。
(ドームの色んな場所から出たり入ったりするのが、この遊具の正しい遊び方なのだろう)
命達が入っていけそうな入り口は地面近くの一つきりだった。
「じゃ、命兄さんが行って下さい」
「どうして?」
「これ以上、倫に恨まれたら、今度は何をされるかわかりません!!」
「お前、妹に何をされてるんだ?」
嫌がる望の代わりに、命はドームの入り口にしゃがんで、その中を覗き込む。
薄暗いドームの中、命はそこに倫らしい人影ともう一人、同じくらいの年恰好の女の子の影を見た。
(えっ…二人!?)
そして、命が驚くよりも早く、その薄暗がりの中に銀色の光が閃いた。
ヒュンッ!!
「うわぁああああああああっ!!!!」
ドームの中から命の頬スレスレを鋭い刃が通り抜けた。
刃の正体は日本刀、チャキリ、金属音を立てて命の首筋にヒヤリとした感触が触れる。
462 :
266:2009/06/12(金) 21:10:31 ID:tVj2Z/lx
そして………
「まんまと罠に掛かりましたわね。命おにいさま、望おにいさま……」
ドーム型遊具の中から二人の幼い少女が姿を現した。
着物姿の倫と、日本刀を携えて髪を頭の後ろでまとめたおとなしそうな少女。
(そ、そういえば、倫の幼稚園の友達にいつでも日本刀を持ち歩いている子がいたっけ……)
首筋に当てられた刃の感触に胸を締め付けられるような気持ちを味わいながらも、命はようやくそれだけの事を思い出していた。
チラリと背後を見ると、望も完全に腰を抜かして身動きが取れない状況のようだ。
「倫、これはどういう事なんだ?」
「命おにいさま、おにいさま達は倫の捕虜になっていただきます!」
どうやら、全てが倫の計略のようだった。
倫の自室の近くには糸色家本宅にいくつかある電話機の一つがある。
倫はこれを使って頼れる友人を呼び寄せ、さらには自分の追っ手が街中でも目立たない格好の兄達になる事を予測。
自分の行動範囲から兄達が彼女の行方を探し出そうとすると考え、逆にこの公園で罠を張ったのだ。
今回の家出が突発的なものであった事を考えれば、見事と言う外ない頭の冴えである。
「命おにいさま、望おにいさま、お二人には倫の家出を手伝っていただきます!!」
追っ手であるはずの兄二人を味方につければ、確かに家出の成功率は増すだろう。
しかし、我が妹の女傑ぶりに肝を抜かれた命であったが、倫のその言葉には肯かなかった。
「倫、駄目だよ」
「命おにいさま、おにいさまは倫の味方にはなってくれないのですか?」
思いがけない拒絶の言葉にたじろいだ倫に、命はゆっくりと首を横に振ってから
「違うよ。家出の話じゃない」
そう言って、微笑んだ。
そして、首筋に当てられた日本刀をそっと掴み、倫とその友人の二人を見つめて優しく語り掛ける。
「こんな風に人に刃物を突きつけて言う事を聞かせようなんて、良くない事だ。倫なら、わかるよね……」
「あ………」
その言葉に、倫と友人の二人は初めて自分達のしている事に思い至ったという表情を浮かべた。
「まずは、僕に母さんとの事を話してくれないかな?」
命の穏やかな言葉を聞いて、幼い少女二人は顔を見合わせて肯いた。
そして、カチャリ、音がして命の首に当てられていた日本刀が地面に下ろされた。
糸色の母娘、糸色妙と糸色倫の諍いの原因は、妙が倫に手ずからに教えている糸色流華道が原因だった。
母の厳しくも的確な指導を受け、だんだんと華道の技術を身につけつつあった倫であったが、
今日、彼女が渾身の力を以って活けた活花を、妙は糸色流華道の基礎が全く出来ていない悪い作品だと言い切ったのだ。
「……それは、倫のお花はまだおかあさまみたいに上手には活けられませんけれど、今日のあれだけは………」
厳しい練習を重ねてきた倫にとって、今日の活花を無下に否定されるのは辛すぎた。
反論した倫の言葉に、妙がさらに言葉を重ねる。
そうしている内に互いの感情がヒートアップしてしまい、ついには今のような事態に至ってしまったのだ。
一通りの話を聞いてから、命はうむむと考える。
事の発端は糸色流華道の専門的な問題であり、命には何とも言えないが、その後の言い争いは喧嘩両成敗でしかるべきだろう。
妙は気の強い人物であり、一度こうと決めたら絶対に曲げようとしない。
おそらく、今回も倫の方から謝るまで許すつもりは無い筈だ。
だが、それはやはり不公平ではないかと命は考える。
娘である倫は、親である妙に対してどうしても立場が弱い。
既に命は心の中で、どんなに母の機嫌を損ねようと、倫の側に立って弁護してやるつもりになっていた。
「倫、やっぱり家出は良くないと僕は思うよ。ただ、母さんと倫の喧嘩を放って置くつもりもない。
………僕は最後まで倫の味方をするつもりだ。みんなもきっと心配してる。一緒に家に帰らないか?」
「………やっぱり、命おにいさまは倫の家出には反対ですのね……」
「うん………だけど、全力で力になると約束するよ……」
命からの、家に帰ろうという提案に、倫は不安そうな表情を見せた。
そこに、望の声がかぶさる。
「そーですよ、倫!父さんや母さん達と争ったって、ろくな事にはなりません。ここは素直に家に帰って謝っちゃいましょう!!」
望らしい弱腰な発言。
だが、命はそんな望を睨みつけて
「望、そうやって俺に同意してくれてる割には、さっきからのその体勢はなんだ?」
「はい……?」
463 :
266:2009/06/12(金) 21:12:00 ID:tVj2Z/lx
命達は先ほどの公園のベンチに腰掛けて話をしていたのだが、その内、望の座っている位置が問題なのだ。
平面上で見ると、倫と全く同じ点の上、要するに望は倫の体を膝の上に抱えて、ぎゅっと抱きしめながら話していた。
その体勢と目つきは弱腰な言葉とは裏腹に、倫を死んでも離さない、倫と一緒に今から家出してやるとでも言いたげな様子だ。
「文句を言ってる割には、お前、倫には甘いんだよな……」
「倫さんはおにいさまと大変仲がよろしいのですね」
10歳以上も年齢が離れているにも関わらず、倫と望の関係は年の近い兄と妹のような遠慮のないものだった。
倫は命の事をとても慕ってはいるが、望との間のような気安さはない。
その辺り、実のところ自分も倫が大好きな命は、二人の関係に少し嫉妬してたりもしていたのだが……
(参ったな。あの二人、このままじゃ梃子でも動きそうにない……)
正直、命だって倫の家出を手伝ってやりたい気持ちは持っていた。だが、それは蔵井沢最大の名家、糸色家を敵に回すのと同義なのだ。
広大な屋敷内には、ボディガードを兼ねた黒スーツにサングラスのいかつい使用人達が150名待機している。
本格的に家出をするというなら、まずは屈強な彼らから逃れなければならない。人数に体力に情報網、到底自分達のかなう相手ではない。
そして、家出を強行した上で家に連れ戻されれば、倫の立場はますます不利になってしまう。
「…………倫だって、ほんとはこんなのいけないってわかってます。……でも、おかあさまが話を聞いてくださらなかったのが悲しくて……」
「倫………」
倫は母である妙に対して、自分の意思をキッパリと伝えたいのだ。
そのための倫に可能な最大の抗議行動、それが今回の家出だったのだ。
「倫……倫は家出してから、その後どうするつもりだったんだい?」
「…………おばあさまの所に行くつもりでした…」
おばあさま、妙の母は既に他界しているので、父である大の母親の事であろう。
「おばあさまに倫のお花を見ていただいて、それからおかあさまとお話しようと思っていました……」
なるほど、と命は心中で手を打った。
祖母は先代の糸色流華道の師匠でもあった人物である。
倫はその祖母の目を通して、自分の花のどこが良くて、どこが悪かったのか、公平に判断してもらおうという考えだったようだ。
(本当にすごい妹だよ……。そんな事まで考えてたなんて……それに比べてコッチは…)
じっとりとした視線を、命は弟の望に向ける。
「何ですか……?」
「いいや、何でもない」
「何でもないわけないでしょう、この角眼鏡」
「お、やるつもりか、丸眼鏡」
「お、おにいさま達が喧嘩して、どうするんですの!?」
倫の声を聞いて、ようやく二人は我に返る。
「………そうか、倫はそこまで考えていたんだな……」
命は思う。
ここまでの決心をして決行された倫の家出を無下に台無しにしていいものなのか?
倫が求めているのは自分の活けた花に対する公平な再評価だ。
無分別に自分の主張を押し通そうとしているわけでは決してない。
考えてみれば、命自信も母や父に対してでも、譲れないものがあるときはキチンと主張していた筈だ。
命は倫と、倫をぎゅっと抱きしめる望の姿に目をやる。
この二人の覚悟は既に決まっている。
それならば………
「わかったよ。倫がそのつもりならとことんまで付き合おう」
「命おにいさまっ!!!」
倫が心底嬉しそうな表情で歓声を上げる。
(さて、腹を括ったのはいいけれど、相手はあの我が家の面々だ。気合を入れてかからないと……)
目指すは蔵井沢から離れた祖母の家。
ろくな交通手段を持ち合わせていない命達がそこへたどり着くには、やはり鉄道を使うのが手っ取り早いだろう。
ここはまだ蔵井沢市街の奥の方にある糸色家本宅の周辺だ。
蔵井沢駅まではここからそれなりの距離を走り抜けなければならない。
「まあ、やってみるさ……!!!」
覚悟を決めて、命は立ち上がる。
それから、ベンチに腰掛けた倫の友人に顔を向けて
「ご家族も心配されるだろうし、君は戻った方が……」
「いいえ!!わたしは倫さんと最後まで一緒に行くって決めましたの!!!」
どうやら、こちらも梃子でも動かない様子だ。
「よしっ!それじゃあ行こうか、倫!!」
「はいっ!敵は糸色本家、相手にとって不足なし、ですわっ!!!」
倫も立ち上がり、命の言葉に頼もしく応える。
ここに、糸色の少年少女達の熾烈な戦いが幕を落とされたのだった。
464 :
266:2009/06/12(金) 21:13:10 ID:tVj2Z/lx
糸色家本宅の一室、ここでは当主である大と妻の妙が倫を連れ戻しに行った命と望が戻って来るのを待っていた。
「まったく、あの娘はどれだけみんなに心配を掛けていると思って……」
「まあ、命と望なら倫を説得できるだろう。三人とも仲が良いからな……。説教はその後だ」
「あなた、びみょ〜に…楽しそうにしていませんか?」
「そ、そうか?そんな事は……」
「望が最近、どこかの小さな女の子と遊んでるなんて話を聞いたときも、あなたは面白がるばかりで……」
「いや、アレは望と遊んでるというより、望が遊ばれてる感じだったからなぁ……ついおかしくて…」
「ほら、やっぱりそうじゃありませんか!糸色家の当主がそんな事でどうするのです!!」
「む、むう……だがなぁ…」
痛い所を妙に突かれて、なんとも居心地の悪そうな大。
二人がしばらく言い合いを続けていると、今度は執事の時田が部屋に入ってきた。
「時田……倫は見つかったのか?」
「はい、ですが旦那様……」
どうやら、命と望は無事に倫を発見したらしい。
しかし、時田の曇った表情を見れば、どうやら事態は一筋縄ではいかない状況に陥っているようだ。
「どうしたのです!倫は、倫はどこにいるのですか!?」
「はあ…実は……」
急かすように問いかけた妙に、時田は額に汗を浮かべながら答えた。
「蔵井沢市内を命ぼっちゃま、望ぼっちゃまとご一緒に走っている倫様のお姿を近隣の住民が目撃したようです……」
「そ、それは……?」
妙が青ざめた表情で頭を抱える。
大はそんな妙に見えないようにニヤリと笑い、兄二人を味方につけ見事に家出をなしとげようとしている娘に心の中で喝采を送る。
「命ぼっちゃまと望ぼっちゃまは倫さまの側に寝返りました。お三方は今なお逃亡中です!!」
というわけで、糸色家のご令嬢の家出という非常事態に、糸色家本宅詰めの使用人兼ボディガードである黒スーツ150人の内、
120人までが倫達の捜索と確保のために動員される事になった。
だが、ここにも罠があった。
時にとんでもない我がままを言い出し、そのお転婆な性格で周囲を振り回す倫であったが、糸色家の使用人達には礼儀正しく優しかった。
何かあるとすぐ行方の知れなくなる長男・縁、奇人変人を地で行く次男・景、三男の命こそ普通だったが、続く四男・望はネガティブ一直線。
糸色家の子供達に苦労させられてきた使用人達の中で、そんな倫の人気は異様に高かった。
今回の家出の発端となった糸色流華道の修行にしても、子供ながらによく頑張っているものだという評価が大半を占めていた。
というわけで、今回の倫捜索に対する黒スーツ達の士気は総じて低かった。
無論、彼らもプロである以上、仕事はキッチリとこなすだろうが、戻ってきた時には全員で倫を弁護するぐらいの事はやりそうだった。
そこで、当主・糸色大は彼らとは別に倫達を確保する役目を、この二人に頼む事にした。
「倫が家出ですか……」
糸色家長男・縁、文武両道に秀でた糸色家の名に恥じない人物であったが、あらゆる縁に見放される不憫な人でもある。
「そうか……しかも命と望も一緒、やるもんだなぁ……」
糸色家次男・景、糸色家きっての変人である。
画家を志し修行に出ると言って一年余り、東アジアを当人曰くヒマラヤの地下深くシャンバラ経由でぐるりと一巡り、
日本に戻ってきたばかりの彼は髪は伸びっぱなしで顔も無精ひげだらけである。
命、望、倫の三人を良く知る実の兄弟であるこの二人ならば、より確実に彼らを連れ戻す事が出来るだろうという考えである。
「わかりました。命と望もついていますが、二人ともまだ高校生……できるだけ連れ戻した方が良い」
「うーん!あの三人相手に鬼ごっこっていうのは燃えるなぁ!!!」
「縁、景、二人ともくれぐれも倫達の事を頼んだぞ」
大の言葉を受けて、縁と景は並んで部屋を出て行く。
その後姿を見送る大に、妙が心配そうな顔で耳打ちをする。
「あなた……どうして縁まで……」
「ううん……だって、お前には絶対、倫を見つけられる縁なんてないから諦めろなんて言えないだろ?」
糸色本家の倫捜索作戦は前途多難のようであった。
465 :
266:2009/06/12(金) 21:15:19 ID:tVj2Z/lx
一方、糸色家本宅から少し離れた雑木林の中、糸色家使用人の黒スーツの若い青年が何やら小さな機械に向けて話しかけていた。
「だから言ってんだろ、千載一遇のチャンスなんだよ!!今なら使用人連中に紛れて糸色の末娘を攫える!!
予定よりは早くなっちまったが、カモフラージュ用の黒スーツはもう用意してあるんだろ?」
男が話しかけていたのは、糸色家の人間が使っているタイプとは違う小型の無線機だった。
青年は黒スーツ達の中でも礼儀正しく、人当たりも良く、同僚達からの厚い信頼を得て糸色家本宅の警備の仕事を請け負うまでになっていた。
だが、今の青年の顔には普段の穏やかさは欠片も見当たらない。
その瞳に宿る光はどこか飢えた肉食動物を思わせた。
「ああ、わかってる……全てはオヤジの復讐の為だろ?ソッチもへまするんじゃねえぞっ!!!」
それだけ言って通信を打ち切ると、青年はクククと不気味に笑い、懐から一本の銀色に閃く刃を取り出す。
刃渡り30センチ以上、カーボン製のグリップとチタンの刃を持つ巨大なナイフである。
「さぁて、せっかく糸色のお嬢様から始めてくれたお祭りだ。せいぜい楽しませてもらうさ……」
走る。走る。走る。
なるべく人目につかない通りを選びながら、倫達は蔵井沢の町を走り抜けていく。
彼女達に立ち止まっている暇はなかった。
恐らくは命と望が倫の味方について逃走している事は、既に屋敷にまで伝わっている筈である。
蔵井沢の住民からの糸色家に対する信望は厚く、黒スーツや普通の使用人達など
糸色家に関わる人物から尋ねられれば彼らはすぐに倫たちに関する目撃情報を話す筈である。
そして、糸色家が現在家出中の娘を探していると聞けば、協力を惜しむような事はするまい。
ハッキリ言って、現在の倫たちは蔵井沢中からの監視を受けているようなものなのである。
「はぁはぁ…せめて、自転車を持ってくれば……」
「だらしないな…望…これくらいでへばってるようじゃ……」
というわけで糸色家の中でもインドア派の命と望の二人はもう息も絶え絶えである。
「おにいさまたち…早く行きますわよ〜!!!」
一方、歩幅の分だけスピードは劣るものの、倫はまだまだ元気イッパイという様子であった。
倫の友人に至っては重い刀を持っているにも関わらず、息切れひとつしていない。
さすがにまだまだ小さな妹に負ける訳にはいかないと、命と望は気合を入れる。
と、その時である。
「ああ、倫様っ!!」
「こちら第七班、根賀3丁目付近で倫様達を発見しました。至急応援をっ!!!」
行く手の曲がり角から飛び出してきた4人の黒スーツ、糸色本家の放った追っ手についに追いつかれてしまった。
「命兄さんっ!!」
「わかってる!悪いけど、倫を渡すわけにはいかないっ!!」
命と望は一気にスピードを上げて、倫達をかばうべく前に飛び出し、そのまま黒スーツの一人に二人同時の体当たりを食らわせる。
いかに鍛えられた黒スーツといえど、男子高校生二人分の体当たりは支えきれなかった。
一人目の黒スーツが吹き飛ばされたのを見ると、残りの三人が命と望を取り押さえようと一気に飛びかかってきた。
命はその内一人と激しいもみ合いになる。
「お、思っていた以上にやりますな。命ぼっちゃま……っ!!!」
「こう見えて武道経験者なんだよ。小さい時には散々、父さんにしごかれた!!」
「なるほど……っ!!!」
一進一退といった感じの両者だったが、残りの黒スーツは二人、望一人の手には負えるはずもない。
だが……
「命おにいさまをお放しなさいっ!!!」
叫び声と共に命と組み合っている黒スーツの両脚を衝撃が襲う。
「り、倫様!?」
「命おにいさまに乱暴は許しませんっ!!!」
かぷり!!
倫の小さな口が黒スーツの足に噛み付いた。
実際のダメージ以上に倫から攻撃を受ける戸惑いのせいで、黒スーツの足元は少しふらついてしまう。
その隙を命は逃さなかった。
「でりゃあああああああああああっ!!!!」
柔道で言うなら変形版の大外刈りとでも言うべきか。
命の投げによって宙を舞った黒スーツの体が地面に叩き付けられる。
一方、倫の友人をかばいつつ、二人の黒スーツから逃げ回っていた望だったが……
「命兄さんっ!!全員と相手をしても拉致があきませんっ!!僕が隙を作りますから、一気に逃げましょうっ!!」
「隙!?…だけど、どうやって?」
疑問に思う命の前で、望は両袖から何やら液体の入ったボトルを取り出す。
どうやら、それぞれ有名な塩素系と酸性の洗剤のように見えたが……。
466 :
266:2009/06/12(金) 21:17:14 ID:tVj2Z/lx
「望式旅立ちパック・試作品その一っ!!混ぜても安全な洗剤っ!!!!」
ボトルから流れ出た洗剤が路面で混ぜ合わさった瞬間、紫色の毒々しい煙が一気に立ち上がった。
周囲を覆う煙の中から、命と倫のところへ倫の友人を連れて望がやって来た。
「望、お前いつの間にあんな物を……」
「あれはヤバそうな煙が出るだけで完全無害な代物です。さあ、今のうちに逃げちゃいましょうっ!!」
「ああ、わかってる……」
望の言葉に肯いた命。
そんな彼らを命が投げ飛ばした黒スーツが、どこか嬉しそうに目を細めて見つめていた。
「みなさま、やるものですなぁ……流石は糸色家のご兄弟ですよ…」
「すまない。それでも僕達は倫の家出を全うさせてやりたいんだ……」
応えた命の言葉に、黒スーツは肯いて
「ええ、こちらも全力、手加減はいりません。………ここだけの話ですが、倫様、応援していますよ」
にこりと笑顔を浮かべた。
そして、命達はその場から駆け出し、黒スーツ達が呼んだ応援が到着した頃には、その姿は影も形もなかった。
その後も倫達一行は何度か黒スーツ達に遭遇しながらも、それをかわして蔵井沢駅を目指して走っていた。
「この調子なら、駅まで行けるんじゃないですか、命兄さん?」
「だといいがな……」
笑顔で言った望に対して、命の声は少し暗い。
「ど、どういう事なんです?」
「望おにいさま、私達はもう何度も黒スーツ達と出会っていますわ。その場所をたどれば、だいたいどの方向に向かっているか見当はつきます」
「な、なるほど……」
「さすがですね、倫さん!」
確かに、ここに来るまでに徐々に黒スーツ達との遭遇頻度が上がっている気がした。
「それじゃあ、このまま進み続けて、僕達の目的地が蔵井沢駅だってバレたら……」
「ああ、駅前で待ち伏せされて一網打尽、だな……」
「というか、その前に私達の走ってる方向に集まってたら、それだけで……」
望、命、倫、三人が息を呑む。
その時である。
「倫お嬢様、お坊ちゃま方、お待ちくださいっ!!!!」
進行方向にあった十字路の左右から、それぞれ六人ずつの黒スーツ達が飛び出した。
これまでは一班四人単位としかぶつからなかったのだから、一気に三倍の人数と出会ってしまった事になる。
「ひ、ひぃいいいいいっ!!!言ってたら、ホントに来ちゃいましたぁ!!!」
「倫、一気に駆け抜けるよっ!!!」
「はい、命おにいさまっ!!あなたも遅れないで!」
「もちろんです、倫さんっ!!」
これまでは体格に勝る命と望が最初に突っ込んで活路を開いてきたが、今回は相手を強引に突破するため四人全員で突撃を行う。
糸色家の子供達に乱暴は振るえないという気後れもあるためか、真っ向の激突では倫達がなんなく黒スーツを打ち破る事ができた。
しかし、それからの黒スーツ12人の追跡は今まで以上にしつこく、ねちっこかった。
「ま、ま、まだ追いかけて来ますよ〜!!!」
「しかも、こっちは走りっぱなしでクタクタだ。マズイぞ……っ!!!」
黒スーツ達を突破してからしばらく後、歩幅が小さくてどうしても早く走れない倫とその友人のために、
倫を命が、倫の友人を望がそれぞれ抱えて走っていたのも、体力の消耗に拍車をかけた。
「すみません、命おにいさま……私のせいで……」
「いいや、倫、いいんだ。これは僕達が好きでやってる事だからね」
とは言ってはみたが、望の混合洗剤煙幕などを使いながら距離を取ってはいたものの、そろそろ命達の体力は限界だった。
(いざという時には、俺と望が盾になって、少しでも遠くに倫を逃がしてやらないと……)
命はすでに頭の隅で、最悪の事態に向けての算段をし始めていた。
「ひっ、ひっ、ひぃいいいっ!!!もう駄目ですっ!!限界ですっ!!!」
「倫さんのおにいさまってすごいんですのね。弱音が多くなるたびにスピードが上がってる!!」
一方の望も必死で足を動かし、スピードはむしろ前より上がってはいたが、これは火事場のバカ力といったところだった。
いつしか追いかけられる四人は、住宅と住宅の間に入り組んだ狭い道を走っていた。
道が狭い分、横から回りこまれる事を心配しなくて良くなったが、だんだんと命達の方向感覚もおかしくなり始めていた。
「み、み、命兄さんっ!!僕達、ちゃんと正しい方向に走ってるんでしょうか!?」
「すまない、望っ!!俺もよくわからなくなってきたっ!!!」
逃げ回る四人の頭の中はもはや不安でいっぱい。
走りっぱなしの足は悲鳴を上げ、追っ手の黒スーツ達は背後近くまで迫っている。
命、望、倫、倫の友人、それぞれの心が諦めに捕らわれはじめた、そんな時である。
467 :
266:2009/06/12(金) 21:19:32 ID:tVj2Z/lx
「ふ、ふわぁあああああああっ!!!?」
四人がある曲がり角を通り抜けた直後、そこから小さな女の子が飛び出したのだ。
すぐ後ろを猛スピードで走っていた黒スーツ達もこれには驚いた。
このまま12人もの屈強な男達に激突されては、あの女の子はひとたまりもない。
「止まれぇええええええっっっ!!!!!」
先頭の一人の号令で、黒スーツ達は緊急停止を試みた。
だが、今まで全力で走っていたスピードをすぐに殺せるはずもなく、黒スーツ達は道端にドミノ倒しのように山になって転げてしまった。
それでも、一応、女の子が無事であった事にホッと胸を撫で下ろしながら、先頭の男が彼女を見ると……
「えへへ、ごめんなさい……」
女の子は楽しそうに笑って、そう言った。
この表情、まるで悪戯を成功させた時のような……
「あ、あなたは……」
そして、黒スーツ達の声を聞いて立ち止まった四人の中、望が驚愕の表情を浮かべていた。
「ど、どうして、あなたがここに……!?」
高校に入学したばかりの望が舞い散る桜の下で出会った幼い少女。
無邪気な笑顔と裏腹に、とんでもない悪戯の連続で望を参らせる女の子。
彼女・『あん』はにっこりと望に笑いかけて答えた。
「おにいちゃんを助けに来ましたっ!!!」
「もう黒い服の人たちは追いかけてこないと思うよ。わたしが仲良しのおじさんやおばさん達に頼んで、ウソを言ってもらってるから」
「そ、そこまでの影響力を持ってたんですね、きみは……」
あんの言葉通りすっかり黒スーツ達による追撃が無くなったため、倫とその友人は地面に下ろしてもらって歩いていた。
(なるほど、あれが例の……)
命は、望が高校に入学して以来、なにやら悪戯好きの小さな女の子と仲良くしていると聞いていた。
その少女・あんの悪戯は過激極まりなく、望は警察のお世話にさえなった事もあったが、それでも変わらずに仲良くしているらしい。
父親・大もその件については『面白いから』という理由で本気で怒った事がない。
そんな二人の様子を初めて間近で見た命だったが、なるほど確かにまるで本物の兄妹のような仲の良さだ。
(いや、ああいう風に少し変わった人間とも打ち解けられるのは、望の才能かもしれないな……)
なんて考えていると、あんはこちらを向いてニコリと笑った。
正確に言うならば、どうやら命の足元にくっついて歩く、倫に笑いかけたらしい。
さっきから不機嫌だった様子の倫は、その笑顔にぷいとそっぽを向く。
どうやら、望を取られた事が不服であるらしい。
それから、倫は、今度は命の足にすがりつき、あんに向けてあっかんべーをしてみせる。
どうやら、『みことおにいさまはわたしませんわ!!!』という事らしい。
(うう……倫には悪いが、ちょっと嬉しいかもしれない……)
ともかく、蔵井沢に張り巡らされた『あんのお友達ネットワーク』によって、黒スーツ達の情報は完全に混乱しているらしい。
既に四人は駅までの道のりの半分弱を歩いていた。
あまり目立たない、人通りの少ない道を選んでいけば、駅にまでたどり着くのもそう難しくは無い筈だ。
さきほどまでの全力疾走の疲れも抜けて、命も今回の家出の成功について楽観的な見方をし始めていた。
倫達一行は人目を避けるため、左手に雑木林、右手に畑の広がる山沿いの道を歩いていた。
少し遠回りにはなるが、ここから駅の近くの道まで歩いて、後は一気に突っ切ってしまえば、家出は成功したも同然だ。
命や、幼いながらも用心深いあん、ネガティブ思考の望までもがそう信じていたその時、それは起こった。
「えっ!!?」
倫が驚きの声を上げた。
進行方向左手の、少し斜面になっている雑木林の中から、ズザザザザッ!!!!と音を立てて数人の男達が現れたのだ。
五人の前後にそれぞれ三人ずつ、合計で6人、全員が糸色家のボディガード達が見につける黒スーツを着ていたが、どこか様子がおかしい。
「こんなところにいらっしゃったのですね、倫お嬢様……」
語りかけてくる口調こそ丁寧だったが、その声には怜悧な響きが篭っていた。
命はきな臭い様子の男達を警戒して、倫をそっと抱き寄せる。
(黒スーツは四人一組で行動していた筈……それにこいつら、どれも見覚えのない顔だ……)
150人もの数を誇る黒スーツ達とて、毎日会っていれば、自然と顔を覚えるものだ。
だが、この6人とは屋敷の中ですれ違った気さえしない。
「命坊ちゃま、倫お嬢様を渡していただけますか……?」
そして、次の発言で命の疑念は確信に変わる。
語るに落ちる、とはまさにこの事だ。
よりにもよって、倫を渡せなどと、邪心を持った人間の言葉でしかない。
468 :
266:2009/06/12(金) 21:20:29 ID:tVj2Z/lx
「いやいや、使用人のみなさんにそこまでお手を煩わせるわけにはいけませんよ。倫は最後まで僕が面倒を見ます」
「………そうですか、それは残念ですねぇ」
自分の失言に気付いたのか、バツの悪そうに笑った男は懐に手を入れ、ある物を取り出した。
シャキン、と音が響いて伸びたのは、黒く塗られた金属の棒。
「と、特殊警棒って!!?」
望の顔が青ざめる。
残りの五人も各々が懐に手を入れて、自分の得物を取り出す。
三人が最初の男と同じ特殊警棒、そして二人がバチバチと火花を散らすスタンガンを持っていた。
(くっ……これじゃあ、今までのように取っ組み合いでどうにかするのは無理だな……)
命の顔に焦りの表情が浮かぶ。
特殊警棒だけでも厄介だが、接触自体が命取りになるスタンガンを使われては、命達にほとんど勝ち目はない。
ジリ、ジリ、6人の男達が前後から間合いを詰めていく。
命と望は三人の少女達をかばうように前後の男達を阻む壁になるが、命の手も望の手も恐怖と緊張のためかすかに震えていた。
「それじゃあ、手早く終わらせてしまいましょうか……」
男達の一人が言った。
(く…来る……!!)
命と望は覚悟を決めて、男達に飛び掛ろうとする。
だが、それよりも一瞬早く……
「うおりゃああああああああああっ!!!!!」
ドカッ!!
大声と共に放たれた一撃で、倫達の背後にいた男の一人が倒された。
全員の注目がその声のした方向に向けられる。
そこにいたのは……
「命ぉ、望ぅ、この物騒な連中、お前らの友達か?」
「景兄さんっ!!!」
先端の湾曲した奇妙な棒を肩に担いで、髪を伸ばしっぱなしにした無精ひげの男がそこに立っていた。
糸色景、芸術家を志す糸色家の次男坊である。
「なるほど、お前が一年以上も海外でフラフラと遊んでいた、糸色家の次男か……」
「別に遊んでいたつもりはないんだがなぁ……」
「いいだろう、まずはお前から黙らせてやるっ!!!」
二人の男が、それぞれ警棒とスタンガンを手に景に襲い掛かった。
「どうやら、友達じゃないみたいだな……」
だが、景は少しも慌てる事無く、まるで蛇のように身をくねらせて二人の男の初撃をかわす。
そして、斜めに傾いたその体勢のまま、次はスタンガンの男に蹴りを繰り出し……
「うおわっ!!?」
その手からスタンガンを叩き落す。
そして、その隙を狙って打ち込まれた、もう一人の特殊警棒の一撃を手に持った棒で軽々と受け止め……
「てありゃぁあああああああっ!!!!!」
そこから一旦、棒を引いて、男の鳩尾に容赦のない突きを入れる。
「望っ!今だっ!!俺達もっ!!!」
「は、はいっ!!」
景が後方の三人を相手にしている間に、命と望は前方のもう三人に挑みかかる。
「望式旅立ちパック・試作品、安全首吊り用ロープっ!!!」
望が、またどこから取り出したのか、長いロープを巧みに操り男達の動きを阻む。
ロープが巻きついて、せっかくの得物が使えない男の一人に、命が強烈なパンチを見舞う。
「「うおぉおおおおおおおおおっ!!!!!」」
さらに、今度は望も加わって、残りの二人に体当たりを食らわせ、三人を地面に倒す。
その隙を見て取った景は、後方の三人にとどめとばかり一撃ずつ突きを食らわせてから叫ぶ。
「命っ!望っ!!こっちは子連れだっ!!これ以上やりあっても仕方がない、逃げるぞっ!!!」
景の言葉を受けて、命を先頭に一行は走り出した。
469 :
266:2009/06/12(金) 21:51:34 ID:tVj2Z/lx
すみません。
容量がほぼいっぱいまで使ってしまいました。
新スレッドを立てようとしましたが、出来なかったので誰か他の方、お願いできますでしょうか?
ご迷惑をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
やってみます
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