【ご主人様】メイドさんでSS Part5【召し上がれ】
■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は、読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルをお願いします。
・長編になる場合は、見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに注意書きをしてください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
◆正統派メイド服の各部名称
頭飾り:
Head-dress
("Katjusha","White-brim")
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ,ィ^!^!^!ヽ,
,/゙レ'゙´ ̄`゙'ヽ
襟:. i[》《]iノノノ )))〉 半袖: Puff sleeve
Flat collar. l| |(リ〈i:} i:} || .長袖: Leg of mutton sleeve
(Shirt collar.) l| |!ゝ'' ー_/! / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /::El〔X〕lヨ⌒ヽ、
衣服: (:::::El:::::::lヨ:::::::::::i 袖口: Cuffs (Buttoned cuffs)
One-piece dress /::∧~~~~ヽ;ノヾ;::\_, / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /:_/ )、_,,〈__`<´。,ゝ
_∠゚_/ ,;i'`〜〜''j;:::: ̄´ゞ''’\_ スカート: Long flared skirt
エプロン: `つノ /j゙ 'j;:::\:::::::::;/´::|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Apron dress /;i' 'j;::::::::\/ ::::;/
(Pinafore dress) /;i' :j;:ヽ:::/ ;;r'´ アンダースカート: Petticoat
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /;i' ,j゙::ヽ/::;r'´  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/;i'_,,_,,_,,_,,_,_,_,_,i゙::::;/ /
浅靴: Pumps ヽ、:::::::::::::::::::::::__;r'´;/ Knee (high) socks
ブーツ: Lace-up boots `├‐i〜ーヘ,-ヘ'´ 靴下: Garterbelt & Stocking
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i⌒i.'~j fj⌒j  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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イギリスの正装メイド服の一例
ttp://www.beaulieu.co.uk/beaulieupalace/victorianstaff.cfm ドレスパーツ用語(ウェディングドレス用だがメイド服とは共通する部分多し)
ttp://www.wedding-dress.co.jp/d-parts/index.html
>>1乙です。
麻由と武のSSを投下します。エロ無しにつき興味ない方はスルー願います。
時期的には、2人の婚約中の話です。麻由視点。
「同窓会」
同窓会のお知らせが来たのは、武様と婚約して3ヵ月目のことでした。
結婚式まであと3ヶ月、遠野家へ嫁ぐために毎日ダンスや着付けなど上流階級の婦人に必要なことを学んでいた時です。
武様の妻になれることの幸せを噛みしめていたものの、慣れぬことに四苦八苦していた私には嬉しい知らせでした。
2年前の第2回同窓会の時は、メイド長になってまだ日が浅かったために欠席していたのです。
職務を全うするだけで毎日くたくたに疲れていましたし、お休みも取りづらかったので諦めたのでした。
しかし、今回は行きたいと強く思いました。
これが、北岡麻由として出席する最後になるでしょうから。
同窓会は土曜日ですから、レッスンのお休みとも重なります。
一日くらいお屋敷を離れて昔の友達と旧交を温めても良いのではないかと考え、武様に出席の許可をお願いしました。
「高校の同窓会?」
「はい。行ってはいけませんか?皆と会うのは6年ぶりだから、ぜひ行きたいんです」
お願いすると、武様はなぜか渋々といった様子で頷かれました。
「そうか、じゃあ行っておいで。
その代わり、必ず婚約指輪をつけて行くんだ、いいね」
「はい」
「なるべく女友達とだけ話しなさい」
噛んで含めるように言い聞かされて、私は首を傾げました。
「親しい男友達はいませんでしたから、お言いつけの通りになりますわ」
「そうか」
何せ、私は中学1年生の頃から武様に思いを寄せておりましたもの。
「なるべく早く帰っておいで、待っているから」
抱き締められて囁かれ、そのまま唇が重なりました。
出席に○を付けたハガキを出して1ヵ月後、同窓会の日がやって来ました。
頭の中でクラスメイトの顔を思い出し、誰々はどうしたかしら、今日は会えるかしらと胸が躍って。
ウキウキしながら着替え、武様のお言いつけ通りに婚約指輪を取り出して指に嵌(は)めました。
通常、ダンスや着付けのお稽古の時には外しておりますから、これを見るのは久しぶりのことです。
指輪は、プロポーズをお受けした2日後、都内の宝飾店をあちこち連れ回されて選んだ物です。
今まで安価な品にしか縁のなかった私は、奥の別室に通され、白い手袋をした店員さんが恭しく持って現れる指輪の数々に度肝を抜かれました。
どれも大きくまばゆいダイヤが競うようにデザインされ、正視できないほどに輝いていたのを思い出します。
値札がついていなくても一目で高級だと分かるそれを指に嵌めるなど畏れ多くて、もっと石の小さいものにして下さいとお願いしたのですが。
一生に一度の贈り物なんだから、君に一番似合う物を選ぶと仰る武様に押し切られてしまいました。
とっかえひっかえして指に嵌めて見せた結果、最終的にはプラチナの台の中央に大きなダイヤが一粒あり、周囲に小振りなダイヤが取り巻いているデザインの物になりました。
これが一番似合うと武様が仰って、私もそれならと頷いたのです。
あれからもう何度も見ているというのに、手に取った指輪が燦然と輝くのに思わず目が奪われます。
これを頂いて指に嵌めることができるなんて、本当に夢のようです。
手の角度を変え、窓からの光に反射してきらきらと指輪が輝くのを飽かずに眺めました。
その時、23歳の時に行われた最初の同窓会の時のことが脳裏に甦りました。
指輪はとても綺麗だけど、駄目です、今日はつけて行けません。
あの時、私は女の子達がつけていた指輪を羨んだのです。
当時の私は武様と秘密の関係を続けていましたが、まさか将来結ばれることになるとは全く思っていませんでした。
それゆえ、彼女達が嵌めている婚約指輪や結婚指輪を見て、好きな人と結婚できる女性と自分との違いに悲しくなったのです。
私達はあの頃より年を重ね、結婚という問題は非常にデリケートなものになっています。
武様に頂いたこの立派な指輪を嵌めて行けば、そんな気はなくとも見せびらかすようで、良くないと思ったのです。
これが指に輝いていれば、間違いなく人目を引くでしょうから。
私は婚約指輪を外し、代わりに4年ほど前に自分で買ったファッションリングを嵌めました。
当時のお給料で買えた安価な品ですが、ブルートパーズの水色がとても綺麗な指輪です。
薬指に指輪をしていくことが求められているのですから、これでも大丈夫でしょう。
同窓会会場まで送り届けてくれるという運転手さんの申し出を断ってお屋敷を出て、駅まで歩きました。
外を一人で歩くのも、切符を買って電車を待つのも久しぶりのこと。
メイド長の頃は忙しくて外にはあまり出かけませんでしたし、今は連日のお稽古でずっとお屋敷の中にいます。
高校生の頃に毎日通っていた駅までの道を歩いているうちに、何だか楽しい気分になってきました。
当時は定期券を見せて通っていた改札も今は自動になっています。
年月の流れを思いますが、それでも私の心は浮き立ったままでした。
8つ先の駅まで行き、同窓会の会場に到着します。
会費を払って中に入ると、早く着いたこともあってまだ人はまばらでしたが、何人か知った顔が見えました。
誰のところに行って話し掛けようかと視線をさ迷わせていると、急に後ろから肩を叩かれました。
「北岡」
振り返ると、そこにいたのはスーツ姿の男性でした。
「えっと…茂田君?」
「うん」
名を呼ぶと、男性は嬉しそうに顔を綻ばせました。
茂田(しげた)君は中学高校と6年間同じ学校で、高校2年の時には同じクラスになったのを覚えています。
よく傘を忘れる人で、雨の日には行きや帰りに私の傘に入れてあげたことがあるのを思い出しました。
雨が降っているのに傘を忘れるなんて私よりもそそっかしい人でしたが、今はその癖も直っているのでしょうか。
「お久しぶりです」
「ああ久しぶり。お前、綺麗になったな」
にっこりとするその笑顔は当時のままです。
しかし、続いて言われた言葉に私の頬が熱くなりました。
「からかわないで、そんな…」
「いや、綺麗になったよ。なんか、着てる服もしゃれてるし」
「そ、そう?」
連日のダンス練習で身体が引き締まったお陰でしょうか。
夜、武様に抱かれる時にそう言われたことを思い出して、さらに頬に血が昇りました。
数人が加わりそのまま話しているうちに会が始まり、先生の挨拶や学生時代のスライド上映などがありました。
高校時代の思い出が一気に甦り、とてもとても懐かしくなって。
目頭が熱くなり、何度もまばたきをしました。
歓談の時間には幾人もが話しかけに来てくれて、思い出話に花が咲きました。
皆例外なく私を褒めてくれ、照れくさくなって俯きました。
「幸せそう」とも言われ、さらに面映くなってしまいました。
もうすぐ武様の妻になれるという嬉しさが内面から溢れているのでしょうか。
「あー!麻由!!」
突然甲高い声で名を呼ばれ、驚いて周囲を見回しました。
すると、つかつかと大股で近寄ってきた背の高い女性に手を掴まれるやいなや、上下にぶんぶんと激しく振られてしまいました。
「懐かしいっ!」
いたく感動しているらしい彼女は、その言葉とともに私を抱き締めました。
周囲の人が息を飲んだのが聞こえます。
「おい加納、北岡がびっくりしてるじゃないか。離してやれよ」
「何よ、人が再会に感激してんだから邪魔しないでよ、シケタ」
「シケタじゃねえよ、茂田!」
2人が言い合っている隙に私はその人の腕から逃れ、大きく息をつきました。
「はいはい、分かったわよシケタ」
「てめえ!俺は茂田だって高校ん時から散々言ってただろうが」
茂田君をからかうその姿には見覚えがあります。
「あの…、奈々ちゃん?」
おそるおそる呼びかけますと、その人は勢い良くこっちを見ました。
「そうよ、覚えててくれた?嬉しいっ!」
また私は勢い良く抱き締められ、もみくちゃにされてしまいました。
喜怒哀楽の表現の激しい彼女の姿は当時と変わりません。
加納奈々子ちゃんは、高校2年と3年の時に同じクラスになった女性で、卒業後は大学を経て栄養士になった人です。
とても楽しい人で、高校卒業後しばらくは連絡を取っていましたが、最近は疎遠になってしまっていました。
再会してこんなに喜んでくれるなんて私としても嬉しいですが、ぎゅうぎゅうと抱き締められるのは少し苦しいです。
見かねた同級生が奈々ちゃんを引き剥がしてくれ、違う友達の方に引っ張っていってくれました。
行った先でもキャーという奈々ちゃんの叫び声が聞こえましたが、とりあえず解放されてホッとします。
「なあ、北岡」
髪と服を直し終えたところで、私は向かいにいた男性に話しかけられてそちらを向きました。
「え、何?」
「お前さ、最初の同窓会でデモンストレーションやっただろ?」
「そうだったかしら」
「うん。『お帰りなさいませ』ってやつ」
「あ…」
前の同窓会のことを思い出しました。
卒業して5年後、23歳の時に初めて同窓会が開かれ、出席した時のことです。
大学を卒業して社会人一年目の人は会社のグチ、早く結婚した子は旦那さんやお姑さんのグチなどを言い合って。
せっかくの同窓会がどことなく暗い雰囲気になってしまい、白けたムードが漂ってしまったのです。
これではいけない、何か余興でもやって盛り上げようと誰かが発案しました。
そして幹事以下何名かが協議した結果、珍しい職業についた人がその職業特有の一芸を披露することになったのです。
自衛隊に入隊した数名はほふく前進を、英会話の先生になった人は即席の英会話教室を。
救急隊員になった人は人工呼吸の実演をすることになり、患者役を誰にするかで一しきり盛り上がりました。
そのお陰で会場の雰囲気も明るくなり、よかったと笑っていると、幹事がいきなり私の名を呼びました。
学年でただ一人メイドになったということで引っ張り出され、お前も一芸をやれと言われてしまったのです。
メイドといいましても、普段のお仕事は地味なものです。
前に演じた人のように絵になるパフォーマンスができるわけではありませんが、何もしないのではせっかくの雰囲気が壊れてしまいます。
頭の中でぐるぐると考えた結果、毎日しているお仕事を実演して見せることに決めました。
私たちメイドには当たり前のことが、皆にはきっと珍しいのでしょうから。
そこで、テーブルクロスを借りてのベッドメイキングと、ご主人様の朝のお見送りと夕のお出迎えの実演をしたのです。
声の出し方・お辞儀の角度・頭を下げている時間など、当時のメイド長に厳しく躾けられた内容を思い出しながらやりました。
いい加減にやっては、遠野家メイド全体の恥になりかねませんから。
ほふく前進をやった自衛隊員の時のような喝采は起こらず、ぱらぱらとまばらな拍手を貰って私の実演は終わりました。
「壷だ」「壷だな」と囁き合う男性の声は聞こえたのですが…。
遠野家にある骨董品の壷のことをなぜ今言うのかと不思議に思いました。
尋ねてもはぐらかされ、壷がどうしたのか釈然としなかったのを覚えております。
「あれさ、今もやってんの?」
男性の声に追憶からさめ、私は目を瞬かせました。
「ええ、やってるけど」
婚約後も武様のお見送りとお出迎えは毎日欠かさず続けています。
結婚しても、きっと欠かすことはないでしょう。
「ちょっとやってみてくれよ」
「え、今?嫌よ」
「男の夢なんだよ、その『ご主人様〜』ってやつは、さ」
その人の言葉に、何人もの男性が同時に振り向き、頷きました。
統率の取れた動きが何だか怖いです。
「な、一回だけ」
男の夢だなんて大げさすぎると思うのですが…。
あ、もしかしたら、男一匹功成り名遂げて、メイドを雇えるくらいの地位と収入のある男になりたいということなのでしょうか。
それなら納得がいきます、確かに出世は男性の夢でしょうから。
私がお出迎えをやってみせることで成功のイメージができるのなら、ここはやるべきなのでしょう。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そう判断した私は、メイド時代にしていたように教科書通りの動きと発声を再現しました。
所定の秒数お辞儀をして頭を上げますと、実演を促した面々は実に様々な表情をしていました。
固まっている人、にやけている人、なぜか頬を染めている人。
様々に違うその顔を順々に見ていくと、さっきの男性が口を開きました。
「さすがに本物は違うな、時給いくらのとは」
「時給?」
私達は時給ではなく月々の給金を頂いているのですが。
「いや、こっちの話だ」
慌てて言葉を続けたその男性を見るともなしに見詰めました。
「お出迎えしたらさ、やっぱ、すれ違い際に尻の一つも撫でられるのか?」
が、別の方向から聞こえた違う声にカッとなりました。
「武様はそんなことなさらないわ!!」
思わず言い返す声が大きくなり、しまったと手を口に当てました。
「たける様?」「誰だそれ」「察するにご主人様の名前だろう」「うぉー、名前に様付けかよ」「呼ばれてみてえ」
私の叫んだのを聞いた人達が大小様々な声で口にするのが聞こえました。
「お、お前さあ。ご主人様のこと名前で呼ぶの?」
「たまには…呼ぶけど…」
恥ずかしくなり、返答する声が小さくなってしまいました。
人前で武様の名を口にするのはいまだに慣れません。
反面、二人きりの時は「あなた」と呼ぶように言い含められていますのに、つい「武様」と呼ぶ癖が出てしまって。
そのたびにお仕置きだと称していろんなことをされ、くたくたになってしまうのが常なのです。
「頼む!俺もその呼び方で呼んでくれ!」
誰かがいきなり大声で叫び、ビクッと身体が跳ねました。
「うわ、ずるい」「北岡さん俺も」「俺も」
また皆が口々に言い、私は困ってしまいました。
私が様をつけて呼びたいのは武様お一人なのに。
気が進まないのですが、メイドを雇うのは男の夢だとさっき教えられたことが頭に甦ります。
断りたいですが、同窓生の立身出世の一助となるためには聞き入れるべきなのでしょうか。
「…じゃあ、一人だけなら…」
私が言うなり、そこにいた男性達は命でも賭かっているかのように熱の入ったジャンケンを始めました。
これほど立身出世の意欲があるなら、何も私が名を呼ばなくても皆それぞれの職場で活躍できると思いますのに。
「いやったああぁ!」
白熱したジャンケン大会の結果、勝ったのは茂田君でした。
まるでゴールを決めた時のサッカー選手のように激しいアクションで快哉を叫んでいます。
何がそんなに嬉しいのでしょう、勝負事に熱くなる性質なのでしょうか。
闘争心は出世のためには是非必要なものだとは思いますが…。
「えー、オホン。じゃあ頼むよ」
茂田君が自分の耳をぐりぐりとマッサージし、咳払いをして私に向き直りました。
「名前だけでいいの?」
「うーんと、そうだなあ…。
じゃあ、名前の後に『お風呂の用意ができました』って言ってくれ」
「そんなこと、言ったことないわ」
お屋敷の大浴場は24時間入浴できますし、武様の居室のお風呂もありますから、こう口にしたことは今までありませんのに。
「いいんだ、それで頼む」
「うん…」
きっと、茂田君がメイドを雇うようになったらこう言ってほしいのでしょう。
「じゃあ」
すっと息を吸い込み、言葉にしようとしたところで気付きました。
「…ごめんなさい、下の名前、何だったかしら?」
私の質問を聞いた茂田君は盛大にずっこけてしまい、皆から一斉に笑い声が上がりました。
名前を知らなかった失礼を詫びていたところ、私はまた奈々ちゃんに捕まって別の方へ引っ張られていきました。
今度は女同士の話になり、ファッションやケーキ屋さんの話に花が咲きます。
「麻由、あんた結婚は?」
「えっ?」
高3の時のクラスメイト(確か、水野さんです)が急に話題を変えました。
その質問に頬が熱くなり、あたふたしてしまいます。
「実は、婚約中なの、今…」
武様のお顔が浮かび、胸がドキドキします。
少し前までは決して結ばれることは無いと思っていた方が、私の婚約者だなんて。
こうして人前で口にしても、まだ現実味がありません。
「なるほどなあ、綺麗になるわけだ。愛されパワーってやつか……え、婚約!!」
さっきのジャンケン大会に加わっていた男性の声がし、私はそちらを向きました。
「いつだよ、誰?俺達の知ってる奴?」
「え…と…」
武様はつとに有名な方ですが、その名は知られていてもお顔を見たことの無い人がほとんどのはず。
それは「知っている」うちに入るのでしょうか。
「どんな奴?なあ」
「初恋の人なの」
迷ってそう答えますと、皆が息を飲むのが聞こえました。
初恋の人と結ばれるのがそんなに珍しいのでしょうか。
「え、俺?」
後方から、今気がついたような茂田君の声が返ってきました。
「馬鹿ね!本人の知らない婚約なんてあるわけないでしょうが」
「そうか…」
「大体、なんで麻由があんたなんかに初恋するのよ」
「…」
奈々ちゃんに突っ込まれ、茂田君はまた黙ってしまいました。
「どんな人?」
「えっ?」
「婚約者。ちゃんとあんたのこと幸せにしてくれるんでしょうね」
「うん。ちゃんと約束してくれたし、毎日そう言ってくれてるけど」
「毎日っ!?」
「ええ」
武様とは一つ屋根の下に暮らしていますので、毎日顔を合わせます。
忙しい方なのに、私の為に時間を作って下さるのは本当に有難いことです。
「それで、これ?」
奈々ちゃんが私の左手を掴み、指輪を示しました。
「いえ、これは…」
婚約指輪の代わりにつけていたファッションリングに皆が注目したのが分かりました。
「言っちゃあ何だけど、これ婚約指輪じゃなくってただのファッションリングよ?」
「ええ、そうよ」
頷きますと、奈々ちゃんの額に青筋が立ちました。
「『ええ』ですって?あんた、自分が何を言ってるか分かってんの?
婚約指輪っていえば、給料の三か月分って相場が決まってるじゃないの。
なのにあんたの彼氏は、見たところせいぜい3万ぽっちの、そんなのしか買ってくれないの?」
早口でまくし立てられ、あっけに取られてしまいました。
奈々ちゃんは勘違いをしているようです。
これは私が自分のお金で買ったもので、武様に頂いたものではありません。
値段に関しては、確か29800円でしたから、ほぼ当ってはいるのですが…。
「違うのよ、これは私が買ったの。貰ったのではないの」
「あんたが!?」
誤解を解こうと慌てて言うと、奈々ちゃんは悲鳴のような叫び声を上げました。
その声に、同窓生達の目がまたこちらに集まりました。
「…麻由、今なんて言った?」
俯いた奈々ちゃんの肩がわなわなと震えています。
何かいけないことを言ったのかと不安になりました。
「だから、この指輪は、私が買ったと…言ったんだけど」
「ああ!」
奈々ちゃんは頭を大きく左右に振り、私をキッと睨みつけました。
「麻由、悪いことは言わないからやめなさい。
あんた、騙されてんのよ。指輪も買えない甲斐性無しと結婚したって幸せになれるわけないじゃないの」
「えっ?」
「なまじメイド長なんかやってるから、変な男に引っ掛かっちゃったんだわ、きっとそう。
自分に生活力があるからって、駄目な男と付き合うのはやめなさい、あんたには『だめんず』なんて似合わないの」
「奈々ちゃん…」
「婚約指輪は、ダイヤの三枚爪リングって決まってんの、それも贈れない男となんて結婚しちゃだめ」
「立爪だろ」
「うるさいわね!」
茶々を入れた人を奈々ちゃんは一喝して黙らせました。
「いくら毎日幸せにするって言ってくれたって、そんな男は駄目」「やめときなさいよ」「そうだよ」「俺が本物をあげようか?」
あちこちから一斉に言われ、勢いに飲まれた私はあっけに取られてしまいました。
「『幸せにしてやる』なんて甘い言葉に騙されちゃ駄目よ、麻由」
奈々ちゃんが私の両手をがっちりと掴み、同情の目でこちらを見ました。
「あんたも辛いのね、ううん、隠したって私には分かる。
女が一人で生きていくって大変なんだから。そこんとこ、ゆっくりと話し合いましょ、今日は朝まで」
「えっ?」
「同窓会の二次会ってことで、いいわね、私がお店決めるから」
「あ、あの…」
「じゃあこれから、二次会行く人っ?」
奈々ちゃんが大声で叫ぶと、ガタガタと椅子を揺らして何人もが立ち上がりました。
男女比は7:3といったところでしょうか。
「あら案外いるじゃないの、まあいいわ。店は歩きながら決めましょ」
奈々ちゃんは大きく頷き、私の手をぐいぐいと引っ張ったまま歩き出しました。
二次会なんていきなり言われても困ります、武様に早く帰ってくるようにと言われていますのに。
「あのね、奈々ちゃん、私は今日はもう失礼し…」
「何言ってんの!あんたの為にやるんじゃないの!」
「え…」
「今の男なんかと別れて、もっとマシなの見つけなさいってば!
こんなに集まってるんだから、ちょうどいいわ、私が見繕ってあげる」
「見繕う…」
「誰を選んだって、女に婚約指輪を買わせるようなしみったれよりはマシだわ」
後ろを振り返った奈々ちゃんが大きく頷きました。
「だから、この指輪は私が自分で…」
「ああ、それはもういいんだったら!聞いてるだけでムカムカするわ」
「……」
説明しようとしても、奈々ちゃんは手を振るばかりで聞く耳を持ってくれません。
私はこのまま二次会へ連行され、朝まで付き合う羽目になってしまうのでしょうか。
手を引っ張られたまま同窓会の会場を出ると、すぐ前に大きな黒塗りの車が止まっておりました。
下町には場違いなほど高級な、しかしどこか見覚えのあるような…?
前を見ずに歩いていた奈々ちゃんがその車に体当たりしそうになって、慌てて立ち止まります。
「危ない、もうっ!」
今の奈々ちゃんには、この車すら気分を害する理由になるようでした。
これ以上刺激するのは良くありません。
このまま付き合って、隙を見てお屋敷に今日は遅くなる旨の電話をするしかなさそうです。
「奥様、お迎えに上がりました」
急に聞こえた声に、私はハッとして周囲を見回しました。
耳に馴染んだこの声は、確か…。
きょろきょろと首を左右に振り、すらりとした初老の男性に目が留まります。
車の脇に立っていたのは、執事の山村さんでした。
黒い執事服をいつものように一部の隙もなく着こなすその姿は、長年親しんでいるというのに今日も素敵に見えます。
「奥様……?」
奈々ちゃんが首を傾げます。
山村さんがゆっくりとこちらへと歩いてこられ、私の眼前で足を止められました。
「奥様、旦那様が屋敷でお待ちでございます」
「え?」
武様と婚約したとはいえ、私はまだ奥様とは呼ばれておりませんのに。
なぜ今、山村さんはそんな風に私を呼ぶのでしょう。
「麻由、どういうこと?」
奈々ちゃんが私の顔を穴が開くほど見詰めました。
「遠野家の執事をしております、山村と申します。
お嬢様は、麻由様のご学友であられますか?」
「は、はい…」
山村さんが奈々ちゃんの方を向き、3年前に「執事之友 第651号」のカラーグラビアに登場された折と同じ微笑みを向けて質問されました。
それにあてられたのか、奈々ちゃんはボンッと音がするくらいに赤くなり、もじもじと答えました。
「奥様。旦那様におかれましては、ご自分がプレゼントなさった指輪を奥様が嵌めておいでにならなかったことにひどくお怒りになっていらっしゃいます。
一刻も早く出向いて指輪を嵌めてくるようにと仰せられましたので、僭越ながら私が参上致しました」
「え…」
「失礼致します」
手が取られ、薬指のファッションリングが外されました。
そして、山村さんはまるで手品のようにあの婚約指輪を取り出し、私の指に嵌めたのです。
「ま、眩しい…」
奈々ちゃんが呆然と呟くのが聞こえました。
「あの、麻由の婚約者って…」
「はい。我が主人、遠野武でございます」
山村さんが実直に答えた瞬間、真っ赤だった奈々ちゃんの顔が今度はサーッと青くなりました。
「と、遠野、遠野家の…?」
救いを求めるような目でこちらを見る奈々ちゃんに、私は頷きました。
「か、甲斐性、ありまくりじゃないの……」
「太刀打ちできねぇ……」
奈々ちゃんと茂田君が呟くのが聞こえました。
「では、今日のところはこれで失礼させて頂きます。
奥様、旦那様がお待ちでございます。屋敷へ戻りましょう」
あれよあれよという間に山村さんにてきぱきと車に押し込まれ、私は会場を後にしました。
振り返りますと、そのままの姿勢で固まっている二人が見えます。
本当のことを言いそびれてしまったことに、申し訳なくなりました。
「山村さん、どうして『奥様』なんて」
先程そう呼ばれたことを思い出して言いました。
婚約中なのに、そう呼ばれるのはまだ早いです。
武様が私の旦那様になられることはとても嬉しいのですが、それとこれとは別問題だと思うのです。
「間もなくそうなられるのですから、問題は無いでしょう。
それに、同窓生の方々をけん制せねばとご主人様も仰いましたので、敢えて『旦那様』『奥様』とお呼び致しました」
「けん制?どうしてです?」
「お分かりにならないのなら、それで良うございます」
「はあ…」
それきり黙ってしまった横顔を見詰めながら、私はもっと大事なことを聞かねばならないことに思い至りました。
「あの…山村さん?」
「はい」
「武様は、やっぱり、お怒りになっていらっしゃったんですか…?」
「ええ、それはもう」
「…どんな風に?」
聞くのがものすごく怖いのですが、聞かないわけにはいきません。
胸を押さえながらおそるおそる尋ねました。
「指輪を外していくなんて、やましいことがあるんじゃないか、確かめてくると仰って。なだめるのに苦労致しました」
「…」
「あだ心をお持ちになるような方ではありませんと私が申し上げても、聞く耳を持って下さいませんで」
…まるで、さっきの奈々ちゃんのように?
「今にも飛び出して行かれそうになったので、このままでは御家名が傷つくことになると思いまして。
気が咎めましたが、少々手荒な真似を致しました」
「えっ?」
見た目に似合わず剣道五段の山村さんの「手荒な真似」なんて…。
武様は一体何をされてしまったのでしょう。
「山村さん、あの、一体何をして…」
背筋が寒くなるのを感じながら尋ねました。
「『束縛する男は嫌われます。それに、相手を信じてあげない男は、女性に最も嫌われるものでございます』と申し上げたのです。
それ以外に何かしたわけではないのですが、ご主人様は相当ショックを受けられたご様子で」
「はあ…」
「がっくりとして意気消沈なさいましたから、結果的に手荒な真似だったと判断致した次第です」
「そうですか…」
「屋敷に戻りましたら、ご主人様の居室には誰も近付けないように致しますから。
後のフォローは宜しくお願いします」
「えっ、そんな!」
冷や汗が出ました、このまま帰ったら武様にどんな目に合わされるか分かりません。
それこそ、さっきの奈々ちゃんとは違う意味で、朝まで……。
「山村さん、私は別に他意があって指輪をしていかなかったわけじゃないんです。
こんな立派なものをしていったら、見せびらかすようで良くないんじゃないかと思って、それで…」
「申し開きは、ご主人様の前でなさいませ」
「うっ……」
車のドアを開けて逃げ出したい衝動に駆られました。
しかし悲しいかな、この高級車に乗りなれぬ私にはその操作の仕方も分かりません。
これからのことを思って青くなっている私を乗せて車は静かに進み、そうこうしているうちにお屋敷の門扉が開いて玄関に到着してしまいました。
「ご主人様は、部屋でふて寝しておいでです。後は宜しくお願い致します」
車のドアを開けてくれた山村さんに一礼して見送られ、私は武様の居室へ向かって階段をとぼとぼと上っていきました。
──終──
GJ!!
山村さんもGJ!
雑誌に載ったことあるのかwww
>>12 GJです
麻由天然すぎるw麻由可愛いよ麻由
山村さんの載った執事之友ぜひ読みたいw
茂田君報われねぇーテラ不憫ッス
なんかコメディちっくなのもいいもんだな。
前スレのこれ張っておきますね^^
369 名無しさん@ピンキー 2008/06/12(木) 23:12:11 ID:nuLX4RTp
麻由さんが、婚約中にクラス会に行ったら
密かに思いを寄せていた男共とかが
旦那様と婚約したのを知って大ショックとか!
久方ぶりに見たら良いオンナになってるのだろうな
17 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 12:54:51 ID:wMMQsiQ2
いや〜、面白かった!
エロ無しでも読ませてくれますねよ! ぜんっぜんOK!
20 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 23:51:07 ID:qT5n7a8/
>>1乙
そして◆DcbUKoO9G.氏は超GGGGJJJJ!!!!
>>1乙&麻由さんの作者様乙
前スレで出てたスレタイ候補(次スレの時用に転載)
【エプロン】【ドレス】
【ご主人様】【旦那様】
【奉仕】【敬愛】
【美しき】【一輪の花】
【女中でも】【OK】
【貴方のために】【尽くしたい】
【朝の支度から】【夜のご奉仕まで】
【優等生も】【ドジっ娘も】
【スカートを】【めくるな!】
【優しく】【厳しく】
【ご主人様】【お嬢様】
【ご主人様】【お茶ですよ】
【お帰りなさい】【ご主人様】
【これが私の】【ご主人様】
【朝ごはんを】【召し上がれ】
【ご主人様】【お茶をどうぞ】
> ……字数制限ってどのくらいだっけ
> 48バイトまで。
> メイドさんでSS Part5
> で20バイト、【】【】で8バイトだから、
> 残り20バイト。全角で10文字まで。
>>22 や、流石に【これが〜は冗談だからさ・・・
24 :
前スレ369:2008/06/20(金) 21:37:07 ID:zhVWbdDU
GJ!です。
これが読みたかった!
やっぱり幸せな婚約時代ものが良いですね
25 :
前スレ369:2008/06/20(金) 22:11:08 ID:zhVWbdDU
>茂田(しげた)君は中学高校と6年間同じ学校で、高校2年の時には同じクラスになったのを覚えています。
>よく傘を忘れる人で、雨の日には行きや帰りに私の傘に入れてあげたことがあるのを思い出しました。
>雨が降っているのに傘を忘れるなんて私よりもそそっかしい人でしたが、今はその癖も直っているのでしょうか。
・・・・・茂田くん
今日は、とことん飲もう!
俺が奢っちゃる!
>>23 あ、いや、分かってる
分かっているが、せっかくだったので
身長が1500メートルなメイドさん
踏みつぶされそうになったから文句言おうと見上げたら手のひらの上に摘み上げられて
「どこ見てるんですか?えっちなのはいけないと思います」と顔の前に持ってかれてめっ、てされる
いや違うんですよスカートはいてるんだからそれは不可抗力ですよというかそもそも貴女たちのおかげで
部屋とか家具とか大きすぎて生活に困ってるのですが・・・
ところでこれだけ身長差があるといろいろ拡大してるのですよ呼吸とかだから顔の前なんぞに置かれると鼻に吸い込まれ
「くしゅんっ」
はい鼻の穴から飛び出しました絶叫マシンなんて目じゃないです滞空時間も射出速度も
とりあえず床に激突死はまぬがれたようですがここは一体でどこで・・・
「あん、くすぐったいですよぅ」
ああそうですかどうりでふかふかだと思ったのですよここなら突っ込んでも大丈夫
でもねそんなに揺らさなくてもいいじゃないですかたしかに胸は敏感な部位でしょうが1000分の1しかない人が
上でちょっと動いたくらいで感じるってどれだけ感度いいんですかそれだったら風が当たるだけできもちいいんじゃなんですか?
「先輩、ご主人さまは私と話をしているんです!」
「ふふ、雇い主を私なら踏みそうになったり吸いこんじゃうなんてまだまだね。その点私なら安全ですよ、ご主人さま〜うりゃうりゃ〜」
ちょ、指で押し付けないで柔らかいです気持ちいいですが潰れますいやほんと潰れまs(むぎゅ)
はっぴーえんど?
というような展開が小6のころからの10年近い夢ですなんとかならぬものか
麻由さんが帰った後の二次会の情景をオマケSSで・・・・
どうかお願いします
前スレ
>>336-343 『メイド・初音』の続きです。エロなし。
――――――――
『メイド・小雪』
あわてて食堂に飛び込むと、すでに全員が朝食の席に付いていた。
「おはようございます、お父さま、お母さま、お兄さま」
テーブルの横で頭を下げ、コックが引いた椅子に座る。
待っていたように父が箸を取った。
うちの朝食は和食と洋食が交互に出る。
忙しくてなかなか家族がそろうことがないので、平日の朝食だけは全員で、というのがきまりになっている。
末っ子で下っ端のぼくが、その席に遅れるなんてもってのほかなのに。
「直之さんも二十歳におなりになって、もう大人かと思いましたら。ねえ、正之さん」
兄びいきの母が、味噌汁の碗を取り上げて兄に言う。
「…すみません」
まさか、メイドが起こしてくれなかったので、などという言い訳は出来ない。
初音がなつかしかった。
小雪がぼくの担当メイドになって、5日目。
メイド学校の特別コースを主席で卒業し、半年ほどこの家で働いてしきたりを覚えただけだが、小雪は新人メイドのわりによく仕えてくれる。
ただ、ぼくは週末が近づくにつれて寝起きが悪くなる。
大学やサークルやつきあい、自宅での勉強や家族ぐるみ会社ぐるみの交際なんかが、そんなに疲れるわけではないけど、もとから低血圧ぎみなせいかもしれない。
だから、初音は木曜と金曜はいつもより30分早く起こしてくれた。
ま、小雪はそれを知らないんだから、ぼくがそうしろと言わなければいけなかったんだ。
それが、「メイドを育てる」ということで、二十歳になったぼくの最初の仕事だから。
朝食を終えて食堂を出てくると、廊下で小雪が待っていた。
「あの、申し訳ございませんでしたっ」
頭を下げる。
その横を、ぼくは速度を落とさずに通り抜けた。
「小雪のいたらない点は、なんでもおっしゃってくださいませ、ご主人さま」
小柄な小雪は、小走りになってぼくに付いてくる。
「どんなお叱りでも、お受けしますからっ」
ため息が出る。
これじゃまるで、ぼくがメイドをいじめているみたいに聞こえるじゃないか。
見ると、うっすら涙ぐんでさえいる。
初音はこうじゃなかった。
かゆいところに手が届く、という言葉がぴったりくるくらい、ぼくの考えていることを察して先回りしてくれた。
万一、それが食い違ったとしても、他の使用人もいるこんなところで、半べそかいて追いかけてくるような、ぼくの品格を下げるような真似はしなかった。
もっとも、夜になってからぼくの部屋でみっちりお仕置きをしてやることはあったけど。
あれは、楽しかったな。
玄関で振り返り、小雪からカバンを受け取った。
「いってくる」
「いってらっしゃいませ」
次男坊のぼくには、出かける時も帰ってきた時も、父や兄のように使用人が総出で見送ったり出迎えたりすることはない。
担当メイドだけが、そうしてくれる。
大勢でかしずくように仕える兄の担当メイドより、ぼくの担当メイドのほうが負担が大きいとも言える。
二十歳になって、ようやく自家用車での通学が許され、ぼくは自分でハンドルを握るようになった。
免許は大学に入ってすぐに取ったけど、友人たちと出かけるときには運転しない、という初音の規則があったので、もっぱら運転の練習のための運転で、日曜日に初音を隣に乗せてぐるぐる走り回ることが多かった。
初音が膝の上に地図を広げてナビと比べながら、信号や対向車、車線変更のタイミングなどを指示してくれた。
夏にはキャミソールにホットパンツの私服で、初音は日焼け止めを何度も塗りなおしていたっけ。
エアコンが寒いと、膝にショールをかけて脚を隠してしまうから、ぼくは少し暑いのをガマンして、その代わりサービスエリアでソフトクリームを食べた。
ほっぺたについたクリームを、初音が指で取ってくれた。
その指をそのまま含んだ唇に、車の中でキスした・・・。
ああ、大学の入学祝いにこの車を買ってもらったときも、ぼくはもうひとつグレードの高いのを欲しがったんだっけ。
だけど、初音が分相応なものになさいませ、と言ったんだ。
それから、こっそりとカタログを広げたぼくの耳元でささやいた。
若葉マークのうちは、助手席に乗せるのは初音だけにしてくださいませね。
結局、いまだに助手席には初音以外に誰も乗せていない。
週末だというのに、友人たちと食事をしてもひとりだけ盛り上がれず、店を変えるときに別れて帰宅した。
小雪が出迎えてくれ、鞄を預ける。
部屋に戻ったところで、軽くシャワーを使うことにした。
初音と一緒でないのに、風呂につかるのも面倒くさい。
脱いだシャツを丸めてカゴに放り込んだところで、小雪が立っているのに気づいた。
用を言いつけられるまでそこにいるのだろう。
別に、問題はない。
それが、メイドとして正しい。
初音だったら、ぼくがシャツを脱いだら受け取ってくれて、先にシャワー室にお湯を出してあたためてくれて。
「…小雪」
「はい!」
小雪は、嬉しそうに返事をした。
主人から用を言いつけられないメイドというのは、居心地が悪いものなんだろう。
「今日は、もういいよ。ご苦労さま」
ただそこに立っているのもかわいそうだ、と思ったのだ。
すると、小雪はみるみるうちにしおれたようにうつむいた。
「・・・あの、ご、ご主人さま」
「なに」
「なにが、お気に召さないのでしょう。あの、もちろんいたらないのは存じておりますけど」
チノパンのボタンに手をかけたまま、ぼくは小雪を見た。
「ん?いや、べつに。小雪はちゃんとやってるよ」
確かに、一般的なメイドとして小雪に落ち度はない。
部屋もきれいに掃除されてるし、頼んだことはしておいてくれる。
「…そうですか」
メイド服の前で、小雪は組んだ両手をぎゅっと握り締めた。
「お疲れ様でございました。おやすみなさいませ」
ひとりになって、ちょっとだけほっとした。
バスルームから出て、テレビをつける。
チャンネルをいくつか変えて、バラエティー番組くらいが頭を使わなくてよさそうだと決める。
髪から水がしたたるのでタオルを首に巻いて、ソファに座る。
黙っていても出されていた飲み物が、テーブルにない。
小雪を呼んで言いつけるのも面倒で、ぼくは小型冷蔵庫を横目で見たまま背もたれに寄りかかった。
「直之さま。よろしゅうございますか」
ノックと同時にドアの向こうから聞き覚えのある声がして、ぼくは立ち上がった。
「どうぞ」
二呼吸おいて、ドアが開く。
入ってきたのは、もううちで20年近く働いているメイド。
少し長めのスカートは、ベテランメイドの証だ。
部屋の中に入ってドアを閉め、ウエストの位置で両手を組んで、腰を折る。
「おくつろぎのところ、失礼いたします」
「う、うん。なんだい、久しぶりだね、千里」
千里は、パジャマの下だけはいて、タオルを首に巻いた状態で、あたふたとテレビのボリュームを下げようとリモコンを取り上げたぼくを見て、つつましく笑う。
さすがベテランメイド。
当主の息子に対する礼を尽くしながらも、余裕のある態度。
「もう、外は涼しゅうございますよ。お風邪を召しませぬように」
近づいて、背伸びをするようにしてタオルを取り、髪を拭く。
「うん。ありがとう」
なつかしい匂いがした。
千里の匂い。
千里は、ぼくが小学から中学までの間の担当メイドだった。
ぼくは兄に比べて落ち着きがなく、いたずら好きだったから、相当苦労したはずだ。
担当を初音に引き継いだあとも、初音のような縁がなかったせいもあって、ずっとここで働いている。
千里は、ぼくにパジャマの上を着せ掛けた。
どうも、千里にとってぼくはまだまだ小学生の男の子らしい。
かいがいしくアイスティーを出してくれ、それからぼくを座らせて隣に立った。
「少し、よろしゅうございますか?」
なんだろう。
というか、なにか用があるから来たんだろうな。
「うん」
座って、というとソファの端に静かに腰を下ろして、ぼくのほうに体を向ける。
「小雪が、泣いておりました」
いきなり、言われた。
「え?!」
「小雪がお気に召しませんか。それとも」
ぽかんと口を開けたぼくに、千里は厳しい顔で言った。
「初音と、比べておしまいですか」
「……う」
千里に言われて、気づいた。
確かに、小雪の仕事ぶりには問題はない。
それなのに、なんとなくよそよそしい気がする。
それは、小雪が気に入らないとか、いたらないとか、そういうことではない。
小雪がなにかするたび、ぼくが心の中で初音と比べているからだ。
初音なら、こうしてくれる。
初音なら、こう言う。
初音なら。
「それは仕方のないことでございますよ。初音は4年間も直之さまにお仕えしたのですからね。あうんの呼吸というものもできておりましょう」
「・・・・・・いや、ぼくだって、わかってるよ。最初から、小雪が初音と同じようには」
「ほら、もう比べておいでですよ」
千里の手が、ぼくの前髪を整える。
「・・・あ」
「初音をお忘れくださいませ、とは申しません。でも、もう少し小雪のことも見てやってくださいませ」
「・・・見てるよ。小雪はちゃんと言ったことをやってくれる。一度言ったら、次もやってくれる。時間さえかければ、いいメイドになってくれると思ってるさ」
「そうでございましょうか」
千里は、背筋を伸ばしたままちょっと肩をすくめた。
「失礼いたします」
そう断ってから立ち上がり、ぼくの手を取って立たせる。
「大きくなられましたね」
確かに、背はまだ伸びているらしい。
兄などは、とっくに追い越したぼくを見上げて、「お前はストレスがないから、栄養が頭より身体に行くんだな」と笑うくらいだ。
小さい頃は見上げていたはずの千里が、ぼくの胸くらいまでしかない。
「では、お尋ねいたします。初音は、背がどのくらいございましたか」
質問の真意がわからないまま、ぼくは千里の頭の上、自分の肩の辺りに手をかざした。
「このくらいだよ」
抱きしめた時、顎を上げさせるとちょうどいい具合にキスできる。
「では、小雪はどのくらいでございましょう」
うっ、と返事につまる。
もちろん、小雪を抱きしめたこともキスしたこともない。
ぼくは曖昧に手を上げ下げした。
「こ、このくらいじゃないか?」
千里が眉を上げた。
子供の頃は、この千里のくせが怖かったものだ。
千里が眉を上げたときは、必ずなにかぼくが失敗をした時で、その後は叱られることが多かった。
「では、小雪の利き手はどちらか、ご存知でございますか」
もう一度、言葉に詰まる。
特に違和感を感じたことはないから、右利きじゃないだろうか。
小雪がぼくの頼んだ買い物をメモしたり、荷物を受けとったりするのは、どっちだったかなんて覚えていない。
「小雪の今日のリボンは、何色でございましたか」
リボン?リボンなんかついてたっけ?
「小雪の腕時計のベルトの色は、黒でございますか、赤でございますか」
千里の質問が無茶になってきた。
「メイドの腕時計なんか、気にしたことないよ」
「では、初音の腕時計もご存知なかったのでございますね」
・・・ご存知、だ。
初音は、細くて茶色い革ベルトの、スクエア型の金縁の小さな腕時計をしていた。文字盤は、ローマ数字だった。
「そ、そりゃ、初音は4年も一緒だったんだから。だけど、ぼくだって4、5日めの時は初音の腕時計なんか知らなかったよ」
「直之さま」
千里が、両手でぼくのパジャマの襟をひっぱった。
「もちろんでございます。ただ、わたくしが申し上げたいのは」
千里の顔が、そばにある。
ちょっぴり、齢を取ったな。
ものすごく怖いメイドだったけど、ぼくの担当になった頃の千里は、まだ二十歳そこそこだったんだ。
メイドというより、母のようにぼくの世話をしてくれて、小学生の頃なんかは、千里がいなきゃ夜も昼もあけなかった。
いつまでも変わらないと思ってたけど、間近で見ると、少しだけ小じわがある。
千里は、若くて楽しいはずの20代を、ぼくのために費やしてくれたんだ。
ぼくは、千里を大事にしないといけないのに、まだこうして心配をかけている。
「とにかく、小雪を見てくださいませ。ああ、やってるなー、ではなく、初音ならこうなのに、ではなく、もっと小雪を注意して見てやってくださいませ」
「…千里」
「はい」
「齢とったね、おまえ」
千里が、にっこりした。
「そのくらい、小雪のことを観察なさいませ。小雪は一生懸命でございます。あの子は、いい子ですよ」
「・・・うん」
「それが、直之さまのお仕事でございます。今までは、直之さまの素行が悪ければ初音が非難されましたが、これからは小雪の働き振りが悪ければ、直之さまが非難されるのでございますよ」
「・・・うん」
「ご主人さまと担当メイドとの仲がギクシャクしていれば、使用人たちにはそれがわかります。担当メイドでさえ信頼できないような方を、どうして他の使用人が信頼できましょう」
「・・・うん」
「小雪の良いところを、探してやってくださいませ。小雪を理解してやってくださいませ」
「・・・うん」
二十歳になって、メイドが変わって、車で学校に行けるようになって、いろいろな規則から解放されて、ぼくは大人になったような気がしていた。
なのに、一番身近にいるメイドさえ、泣かせてしまったんだ。
すっかりうつむいてしまったぼくを、千里は昔どおり抱き寄せて、ポンポンと背中をたたいた。
ぼくも昔のように千里の身体に腕を回して、抱きつこうとした。
でも、そうするには千里はもう、ぼくより小さすぎた。
「・・・ぼくには、まだまだお説教をしてくれるメイドが必要だよ、千里」
「なにをおっしゃいますやら。でしたら、必要な時に小言のひとつも言えるように、小雪を教育なさいませ」
ぼくをソファに座らせて、千里はぼくの頭のてっぺんにそっとキスしてくれた。
子供の頃に、してくれたように。
よくできましたね、と言うかわりに、いつも千里はそうしてくれた。
「わたくしに小言を言わせるのは、これを最後にしてくださいませね。担当でもないメイドがこんなことを申し上げるのは、本当はいけないことなのでございますから」
千里の小さな手が、ぼくの肩に置かれ、そして離れた。
「すっかりお邪魔をしてしまいました。おやすみなさいませ」
ぼくは、立ち上がったりせずに、出て行く千里を目で追った。
千里は、ドアのところで振り返った。
「もうひとつ、お尋ねしてもようございますか」
「なんだい?」
「直之さまは、担当がわたくしから初音になった時も、わたくしを懐かしんでくださいましたでしょうか」
ちょっとだけ頬を赤らめてそう言う千里が、かわいらしかった。
「うん。千里が恋しかったよ」
千里は、今まで見たことがないほど嬉しそうに、そして少し寂しそうに笑い、その笑顔がなぜかぼくの胸を締め付けた。
千里が出て行ってから、ぼくは担当メイド直通のインターホンを取った。
「なにか、夜食が欲しいんだけど」
小雪が、肩で息をしながら夜食の乗った重いワゴンを押してきたのは、10分後だった。
見ると、サンドイッチに焼きおにぎり、グラタンにピザ、甘いもので鯛焼きやケーキまである。
「・・・小雪。ぼくはそんなに大食漢に見えるのかい」
じゅうたんに膝をついて、ワゴンから数々の料理を取り出しながら、小雪は首をかしげた。
「でも、ご主人さまがなにを召し上がるかが、わからなかったものですから」
「それにしては、短い時間によくこんなに準備できたね」
熱々のグラタンをそうっとテーブルに置く。
「はい。もしかしてお夜食を召し上がるとおっしゃったら、すぐにお出しできるようにしておきました」
夜食なんて、小雪に頼むのは初めてだ。
「もしかして、毎日準備してたのかい?」
「はい。あの、なにをお召し上がりになりますでしょうか?」
手を止めて、ぼくを見上げる。
うん。腕時計のベルトは、赤だ。
リボンは、ああ、制服の胸についてるのか。これも、赤。
「いい匂いだね。グラタンをもらうよ」
小雪が置いたグラタン皿の前に、腰を下ろす。
「はい、かしこまりましたっ」
ぼくの足元に、小雪がぺたんと座る。
スプーンでグラタンをすくうと、ふうふうと息を吹きかける。
なにをしてるんだ?
「はい、ご主人さま、あーんしてくださいませ」
ぼくは、大げさでなく頭を抱えた。
「ご主人さま?」
「いや、小雪。自分で食べるから」
「え?でも、熱うございますから」
「うん、でもだいじょうぶだよ」
小雪が肩を落とした。
「そうでございますか・・・。申し訳ございませんでした」
そっとスプーンを置く。
そんなに落ち込まれても困る。
膝立ちのまま下がっていく。
小雪の置いたスプーンを取り上げて、ぼくはうつむいている小雪を見た。
――小雪を、見てやってくださいませ。理解してやってくださいませ。
千里の言葉を思い出す。
「小雪」
「はいっ」
ぴょこん、と立ち上がる。
「あのさ。なんで今、小雪はグラタンをふうふうして食べさせようとしてくれたわけ?」
「え、あの、だって、熱うございましたから」
「でも、ぼくだって子供じゃないんだし、熱くたって自分で冷まして食べるとは思わなかった?」
「・・・でも」
とまどったように、小雪は両手をもじもじと動かす。
「ご主人さまがご自分で出来ることをみんなご自分でなさったら、メイドの仕事なんてなくなってしまいますし、それに」
「それに?」
「ふうふうして、差し上げたかったのですもの」
小雪が、耳まで真っ赤にして、そう言った。
「ぼくに?」
「はい」
「もう二十歳の、ぼくに?」
「も、もうしわけありません。でも、あの」
だんだん、小雪を困らせるのが楽しくなってきた。
「そうか、小雪はぼくなんかまだ子供だと思ってるんだね。担当メイドの仕事なんか、子守だと思ってるんだろ」
「そんなことございません!」
「どうだかね。悪かったね、同期の中でも貧乏くじを引かせて」
「ちがいますっ!」
小雪は、主人の話を途中で遮るという過ちを犯したことに気づいていなかった。
「小雪は、小雪は、このお屋敷にお勤めすることになって、初めてご主人さまを拝見しました時から、ずっと、ずっと、こんな方の担当メイドになってずっとお仕え出来たらと」
「・・・・・・」
「でも、ご主人さまには初音さんが担当でいらして、ほんとにすばらしいメイドで、あんなふうになりたいって、そうしたら今度は初音さんがお辞めになって担当が新人から選ばれるっておっしゃって、どきどきして」
小雪の両目に涙が盛り上がってきた。それをこぼすまいと必死で目をしばたいている。
「もう、ご主人さまをお廊下でお見かけしても逃げ出してしまうくらいどきどきして、そうしたらほんとうにほんとうに担当メイドを拝命して、夢みたいで、ご主人様に気に入っていただきたくて」
ついに、ぽろっと涙が一粒落ちた。
「初音さんにいろいろお聞きしたかったのに、全部直接ご主人さまに教えていただきなさいとしか言ってくださらなくて、でもご主人さまは小雪にはなんのご用もなくて、それで、それで、初めてお言いつけ下さったお夜食なのに、小雪は失敗を」
「もういいよ」
これ以上は、罪悪感に勝てそうにない。
ぼくは、座っていたソファの隣をポン、と叩いた。
「ここにお座り」
小雪は、驚いたような顔をして、それからおずおずと近づいてぼくの隣に腰を下ろした。
手をとって、スプーンを握らせる。
「やっぱり、まだ熱いよ。ふうふうしてくれるかい」
小雪が、まだ涙の残る目をぱっと見開いて、それから初めて見る笑顔で言った。
「はいっ!」
とっくに食べやすい温度になっているグラタンを、ふうふうする。
差し出されたスプーンをぱくっと咥えると、それだけで小雪は頬を染めた。
なんだ、けっこうかわいい顔をしてるじゃないか。
初音は美人系だけど、小雪はかわいい系だな。
・・・いけない、また初音と比べてる。
ぼくがグラタンを飲み込むのを待って、また小雪がふうふうする。
「はい、どうぞ、ご主人さま」
差し出されたスプーンを持っているのは、右手だった。
あとで小雪を立たせて、背の高さを測ってみよう。
それから、そのちょっと仰々しい呼び方を変えさせよう。
担当メイドは、担当メイドにだけ許された主人の呼び方があるではないか。
きっと、小雪はぼくのいいメイドになる。
そんな気がした。
――――了――――
gj
ほんわかGJ!
小雪ちゃん健気で可愛いよ(*´Д`)
GJ!!
いい
これはいい
小雪ちゃんいいわ
是非我が家へ来て欲しい
つ[売約済]
世話を焼かせてもらえないと落ち込む小雪ちゃんが可愛い。
あと千里さんgj。
どうしよう千里さんが激しくツボだ
優しく叱られたい
例えば、同級生オニャノコが後にメイドさんになるお話だとして
第1章で同級生時代、第2章以降でメイドさんになる話の構成とした場合
第1章だけ投下時点だと、メイドモノに見えないと思うが、投下できるのかな
注意書きで、第2章以降はメイドさん編になりますと断ればおk?
それとも、第1章は別スレに投下しないと駄目なんだろうか
注意書があればいいとは思うけど、あまりに第一章に
力を入れられても読んでる方は興味削がれちゃうから、
そこそこ簡潔にまとめた方がいいと思う。
別スレからジャンプするのはやめた方がいい思う。
最悪、元のスレへカエレ!と言われる。
そういった実例も見て来た。
>>44 ありがとう、参考になった
前述のような事情があっても、スレ移行はあまり良くないんだね
気をつける
とりあえずメイド編から始めておいて、外伝などで学生編をあとから出すという手もある。
『メイド・小雪 2』
「違うだろ、小雪。大芝先生のゼミの日は、ぼくはポロシャツを着るんだよ」
朝の着替えの時にそう言うと、小雪は大慌てでまたクローゼットを開けた。
「申し訳ございません!うっかりいたしましたっ、うっかり、…うっかり?」
Tシャツの入っている引き出しを開けて、小雪は人差し指をほっぺたに当てて、首をかしげた。
「そうでございました?」
ぼくがぷっと笑うと、小雪は小さな唇をとがらせた。
「んもう、おからかいにならないでくださいませっ」
もちろん、ぼくはゼミの先生ごとに服装を決めたことなどないし、だいたいポロシャツは着ない。
まったく、小雪はからかいがいがある。
「ごめんごめん、ちょっと困らせてみたかったんだよ。怒ったかい?」
小さな小雪の頭に手を乗せて、撫で撫でする。
最初の数日は気づかなかったが、小雪はほんとに小さい。
子供の頃の担当メイドだった小柄な千里と同じくらいか、それよりちょっと小さいし、細い。
夏の半袖の制服から出た二の腕なんて、ぼくの手首かと思うくらいか細いし、ウエストなんて本当に内臓が全部入っているのだろうかと思うくらい、きゅっとくびれている。
「そんな、とんでもございません、小雪が直之さまのことを怒るだなんて、そんなふうに小雪のことを・・・、ひどうございますっ」
「わかったわかった、ごめんよ。知ってるよ、小雪がぼくのこと大好きだってことはさ」
小雪はぽっと頬をピンク色にして、また唇をちょっとだけ突き出した。
今日の口紅のツヤツヤした薄いピンク色と頬が同じになった。
ぼくは二十歳の誕生日を迎えて、初めて担当メイドが新人になった。
今までは年上のメイドばかりで教育される側だったから、今はこの小雪をからかったりちょっとだけいじめたりするのが楽しくてたまらない。
小雪も真面目な性格だし、ぼくのクセや好みを覚えようと一生懸命だから、何にでも真剣だ。
ぼくがいつまでも小雪の頭を撫でているので、小雪はぼくのシャツを抱きしめたまま居心地悪そうにした。
「あ、あのっ、直之さま、いつまでも、そのような格好ですとっ」
「うん?どのような格好?」
「ですから、あのっ」
パジャマを脱いだところでポロシャツ騒ぎになったので、ぼくは上半身裸だった。
「おっ、お風邪を召しますっ!」
「うん、大丈夫だよ。もう秋だけど、ここんとこは残暑が厳しいし、今も暑いくらいだよね」
ちょうど、小雪の目の前にぼくの胸がある。
「で、で、でも、ほら、シャツを。あの、お食事に遅れるといけませんしっ」
ああもう、このままずっとずっと小雪の頭を撫でていたい。
「うん、そうだね」
撫で撫で。
「それに、あの、あのっ」
「うん、なんだい?」
撫で撫で。
「このまま、このままずっとそうなさってますと…」
とうとう、小雪は抱きかかえたぼくのシャツに顔をうずめてしまった。
「うん、ずっとこうしてると?」
撫で撫で。
「こっ、小雪の頭がカッパになってしまいますっ!」
ぼくはのけぞって笑ってしまった。
まったく、小雪には飽きない。
ぼくは、それなりに小雪を気に入ってきていた。
満足するまで小雪をからかってから、ぼくは余裕を持って朝食の席に着いた。
父がフォークを取り上げて、食事が始まる。
「先月までうちにいた、初音だが」
いきなり父がいいだして、ぼくはオムレツが喉に詰まりそうになった。
もちろん、食事の席で咳き込むような行儀の悪いことは許されない。
ぼくは隣にいる兄と同じように、全くの無表情と無関心を装った。
「そろそろ結納ではなかったかな」
どきっとした。
もちろん、初音はそのために退職したのだし、結婚を先延ばしにする理由などない。
相手はいわゆる玉の輿で、三男とはいえ明治維新前からの家柄の息子だ。
うちと同じように、戦後の財産税や財閥解体を生き残った資産家。
パンにバターをつけながら、母が満足げに頷いた。
「初音でしたら、きっと三条のお宅でも気に入っていただけますわね。うちはメイドといっても、どこへ嫁がせても恥をかかない教養を身につけさせておりますもの」
確かに、うちのメイドたちは仕事の一部として、社交マナーや文化教養の講義を受けねばならないはずだ。
万一の時は、奥方や令嬢の身代わりもこなし、誰の目に留まって所望されても困らないように。
初音も、ダンスやお茶やお花に舞踊、英語にいたるまで週に一度はなにかしらを習っていたはずだ。
三条家の若奥様になったくらいで、困るようなことは何もない。
「なにかの席で顔を合わせても、もううちのメイドではないからな。三条に失礼のないように接しなければな、直之」
もちろんわかってる。
「市武くんは、人柄がいい。初音も安心だ」
当たり前だ。
顔がよくたって家柄がよくたって、性格の悪い男になんか、初音をやるものか。
ぼくは急に食欲がなくなった。
勝手に席を立つことはできないので、皆が食事を終えるまで適当に食べているふりをした。
まだ、ぼくは初音の名前を聞くと胸が痛んだ。
ぼくの初音。
ぼくだけのものだった、初音。
いまはもう、三条市武さんの初音なんだ。
食堂から出るとき、隣を歩いていた兄がぼくにこっそり言った。
「私も、七緒が交代した時は辛かったが、今は菜摘に満足しているよ」
足が止まった。
日頃、兄弟らしく一緒に遊んだり話をしたりする機会もなく育ったせいか、兄はさほど身近な存在ではない。
すっかり忘れていたけど、兄もぼくと同じように、ぼくより早く、4人目の担当メイドを使っているのだ。
もしかして、兄も三人目の、16の誕生日から二十歳までの担当だった七緒に、いろんなことを教わったんだろうか。
ぼくが、初音に対して抱いたような感情を、七緒に抱いたのだろうか。
七緒は、兄の担当を外れてしばらくして、一身上の理由で辞職した。
もしかして、新しい担当メイドである若い菜摘が、兄によって兄好みに教育されていくのを見るのが忍びなかったとか・・・。
ぼくが立ち止まったのを見て、兄が振り返った。
「おまえ、全くダメでもないんだろ?今夜、部屋に来いよ。たまに話をするのもいいだろう」
片手でくいっとグラスを傾ける真似をして、兄は正面玄関に向かった。
父と一緒に出社するために、使用人たちの総見送りを受けて、車に乗る。
兄の話を聞いてみたい、と思った。
「直之、聞いたぞ」
授業の合間に、聡が声をかけてきた。
倉橋家の跡取り息子だ。
向こうは家柄的には格下だが跡取り、こちらは次男ということで、子供の頃からなにかと気が合う。
「なんだい?」
「三条の市武さん、婚約したっていうじゃないか。しかも、きみの家のメイドだって?」
「ああ、それか。でももう退職したからね。うちのメイドじゃないよ」
せいぜい何気なく、ぼくは笑って言った。
「ま、三条家も三男だといろいろ自由だよね。で、どうなんだよ」
「どうって?」
「その、市武さんの婚約者だよ。どんな人だい?」
「どんなって」
最高だよ、と言いたいのを、ぐっとこらえる。
「うちにもメイドはたくさんいるからね」
「でも、市武さんが見初めるくらいだから、美人なんだろ?どの子かなあ、ぼくもきみの家のパーティーなんかで見たことがあるかな」
「…あるんじゃないかな。そういう席には出るメイドだったから」
初音を人前に出さないで、誰を出すんだ。初音はうちの看板メイドじゃないか。
看板メイドなんて言葉があるのかどうかは知らないけど。
だいたい、初音に気がつかないなんて、聡の目は相当なふし穴だ。
「そうか。直之んとこのメイドはレベルが高いからな。なんて言ったっけ、運動会の時にお弁当を持ってきてくれてた」
いきなり小学校の思い出か、と笑ってしまった。
「千里かい?」
「ああ、うん、そうだ。あの人きれいだったよな。ぼくなんかぼーっと見とれてたよ。直之の弁当がうらやましくてうらやましくて。おにぎりがアンパンマンになってたよな」
聡が本気でなつかしそうなうらやましそうな顔をした。
そういえば、小学校の運動会は、いつも千里がお弁当を持って応援に来てくれたな。
ぼくはいっつも徒競走で2位だったけど。
がっかりして帰ると、千里は僕の頭にキスして、言うんだ。
――直之さまが入賞なさって、千里は、鼻が高うございました。
「千里ならまだうちにいるよ。もうとっくに30越えたけど」
「いやいや、あの人なら30でも40でもキレイだよ。そうか、まだいるのか。会いたいなあ」
「なに言ってんだか。ぼくは君のお母さまが来てくれてるのの方がうらやましかったよ」
聡が階段教室の机に突っ伏した。
「そんなもんか?君んちくらいになると、奥さまが息子の運動会の応援、ってわけにはいかないのかな」
それはどうだろう。
ただ、うちの母がそういう行事を嫌っているだけかもしれないけど、ぼくは笑ってごまかした。
「はあ、ぼくなんかは三条家の披露宴によばれるかどうか、微妙だよなあ。あ、今度、君の家で交流会をやるときには、千里さんに会わせてくれよな」
市武さんと初音の、披露宴。
初音の白無垢やウエディングドレス姿は、どんなにかきれいだろう。
でも、隣にいるのは市武さんなんだ。
初音はきっと嬉しそうに恥ずかしそうに、市武さんの隣で微笑むんだろう。
ぼくは、それを見ていられるだろうか。
――初音のことを忘れろとは申しませんが…。
わかってる、わかってるよ千里。
ぼくだって、三条家の嫁になった初音に良からぬ思いは持たないよ。
それに、ぼくには小雪がいるから、さ・・・。
「…聡の家にもメイドはいるだろ。人の家のメイドばっかり気にするなよ」
授業の準備をしながら言うと、聡は自慢の腕時計を見た。
なんていったかな、大学の入学祝に買ってもらったっていう、どこだかのブランドの。
「まあな。あ、今年うちに入ったメイド、ちょっといいのがいるんだよ。見に来るか?」
教室に人が増えてきて、聡が小声になる。
ぼくが笑っていると、教授が入ってきた。
聡に、絶対に小雪は会わせないでおこう。千里にもだ。
s
「私は、16だったな」
夜になってから兄の部屋へ行くと、兄はぼくを大きな革張りのソファに座らせた。
なるほど、これが跡取り息子の部屋のソファか。
大きさとふかふかのクッションに、ちょっと他人事のようにそう思った。
兄の担当メイドの菜摘が、かいがいしく酒とつまみの準備をしてくれる。
ぼくと兄は5つ違いだから、兄が二十歳のときに担当になった菜摘は、今22歳。
5年も担当をしているということは、ぼくと初音より長いわけで、菜摘は兄が目配せ一つしないのになんでも先回りして世話を焼く。
ぼくの大学の話や、兄の仕事の話なんかをしながら、ぼくもこんなふうに小雪を教育できればいいんだけど、と菜摘の作ってくれた二杯目の甘いカクテルを舐めたところで、兄が言った。
「は?」
ぼくが顔を上げると、兄はふっと笑う。
少し長めの前髪の間から、弟のぼくが見てもぞくっとするような色っぽい切れ長の目がのぞく。
この兄ときたら、眉目秀麗という言葉のために生まれてきたような人だ。
顔良し頭良し運動神経良し性格良しの家柄良しで、幼稚舎から大学まで、ぼくが後を追って入学するたびに伝説を聞かされた。
教科書を取り出すそのしぐさすら優雅で品があって、視線を向けられただけで女の子は舞い上がったこと、
学校中の女の子だけでなく、女教師や生徒の母までを次々と夢中にさせ、
次々とつきあう女の子を代えたのに周囲の評判を下げず、別れてからも兄のことを悪く言う女の子は一人もいなかったこと。
「女だよ。16で七緒が担当になって、すぐ抱いた」
「…あ、ああ、そう」
こういう場合、どういう返事をすればいいんだ。
ちらっと見ると、菜摘は平然とした顔でチーズを取り分けている。
「菜摘、直之はゴーダを食べない」
「かしこまりました」
ぼくがゴーダチーズを苦手にしているなんて、兄に言ったことがあっただろうか。
なにかのパーティーや、関連会社の子女を集める交流会の席かなにかで、ちょっと選り好みをしているのを見たことがあるのかもしれない。
さすが、グループ企業の総帥になろうという人は観察力と気配りが違うと感心してみる。
「まあ、七緒はそういうメイドだし、別にのめりこみもしなかったつもりだが」
…そういうメイド、っていうのはどういうことだ。
16からの担当メイドは、そっち方面だけの教育係だとでも言うんだろうか。
兄ならぼくと違ってメイドに細々と説教されることもなかったかもしれないが、だからって。
少なくとも、初音は違う。
ぼくは、初音をそういう、性欲の対象だけのメイドにはしなかった。
ぼくの表情を観察するように見て、兄はまた笑った。
少しも嫌味でなく、皮肉っぽくもなく、ばかにしたようでもなく、優しい笑み。
どうやったら、こんな風に笑えるんだ。
「それでも、担当が替わったときは寂しかったものだよ」
櫛形に切られたカマンベールチーズを口に運びかけた手を止めた。
兄はウィスキーのグラスを片手で持って、一口飲んだ。
「今のお前の気持ちがわからないでもない」
そうだろうか。
七緒を、『そういうメイド』などと言う兄に小さく失望したぼくは、返事をしなかった。
「まさか、結婚しようなんて思ってなかっただろうな」
菜摘が小さなフォークに刺したオリーブを兄に手渡す。
「そういうメイドにのめりこむ危険はあるからな。従兄弟の涼太郎、あいつが以前、そう言ってごねたらしい」
涼太郎は父方の従兄弟で、ぼくより二つくらい年上だ。
でも、二十歳のメイド交代のときにそんなことを言ったとは聞いていなかった。
恐らく、両親が反対し、本人も納得したのだろうけど。
もし、ぼくが初音と結婚したいと言っていたら、どうなったのだろう。
初音は、三条に行かずに、ここにいてくれただろうか。
「あれは、メイドがかわいそうだった。そのまま働くつもりだったのに、いきなり暇を出されたそうだ」
「え…」
「主人のわがままが、メイドの人生を変えてしまうということもある。お前は、よく我慢したよ」
ぼくはちょっとだけ頷いた。
兄は兄なりに、自分も経験した、二十歳のメイド交代の時期にいる弟を気遣ってくれているのがわかった。
もし、ぼくが初音と結婚したいと言っていたら。
初音は三条市武との縁談も破談にされて、ぼくと二度と顔を合わせないようにどこかへやられてしまったのだろうか。
「で、小雪はどうだ?」
ぼくがぼんやりとカマンベールチーズを咥えていると、兄はまた平然と話題を変えた。
「小雪?」
さっき、自分の部屋を出てくるときに、小雪には今日はもういいから自分の部屋で休みなさい、と言い置いてきた。
スカートの前で手を合わせて、ぴょこんと頭を下げた小雪を思い出す。
「どうって?」
気がつくと、兄は隣に座って世話を焼く菜摘の膝をスカートの上から撫でていた。
「抱いたんだろう?」
「!」
ぽろっとチーズが落ちた。
菜摘がそっと動いて、それを拾う。
兄の隣に戻ると、また黙って膝を撫でさせている。
気のせいか、菜摘の目元がとろんと潤んでいた。
なんだ、これは。
眉目秀麗完全無欠だと思っていた兄が、予想以上の好色らしいという衝撃。
「いえ、だって小雪はまだ」
「なんだ、思ったより手が遅いんだな。小雪のあのお前の慕いようは、とっくに済ませたのかと思っていたのに。な?」
兄が菜摘の顔を覗き込むようにする。
「正之さまのお手が早すぎるのでございます」
「そうか?」
「はい。菜摘など、ご挨拶したその日のうちにお召し上がりに」
な、なんだ、この主人とメイドの睦言は。
「それは、お前があまりにおいしそうだったからだな」
「ま…」
放っておいたら、このままここで何かが始まりそうで、ぼくは不自然に咳払いし、カクテルをあおった。
「えー、あー、そうだ、例えば、メイドを躾けるのに、兄さんなりの秘訣とか、そんなのありましたか?参考までに」
徐々に上がってきた兄の手が、菜摘の太ももを撫でている。
いいのか、これで。うちの会社は。
「そうだな。菜摘は飲み込みが早かったし、よく出来たメイドだからな。強いて言えば」
ウィスキーグラスの氷が、カランと音を立てた。
「毎回、きちんとイかせてやることかな」
だめだ、これは。
兄が真顔でテクニックを語り始め、その間にも菜摘の脚を撫で続け、ぼくは目のやり場に困りながらなんとか話を打ち切って立ち上がった。
兄が、見送ろうと腰を浮かした菜摘の腕を引いて、自分の方に倒れこませる。
ドアのところでちらっと振り返ると、酒の入った兄はすっかりその気のようで、菜摘の顎に指をかけてキスしていた。片手は胸をまさぐっている。
「あん・・・」
ドアを閉める直前に、聞いたことのない菜摘の声がした。
まったく、兄の意外な面を見せられたものだ。
体の奥がかっと熱くなった気がする。
ぼくは兄の部屋に行ったことを後悔しながら、自分の部屋のドアを開けた。
「お、おかえりなさいませ」
クローゼットを開けてその前に座り込んでいた小雪が、ぼくを見てぴょんと立ち上がった。
「なんだ、休んでいなかったのか」
つい今までしていた話が話なので、ぼくは小雪を見るのがちょっと照れくさかった。
「は、はい。まだお戻りにならないと思っておりましたのでっ」
「ふうん」
目をやると、クローゼットの中の引き出しが開いてぼくの服が出ている。
「なにをしている?」
「あ、あの、あの、こ、衣替えでございます」
「こんな季節に?こんな時間に?」
「う、え、あ、あの」
しどろもどろになっている。
主人の留守に、主人の部屋で衣類を片付けたり掃除をしたりするのはメイドの仕事だ。
だが、どうも様子がおかしい。
ぼくは小雪の側に寄った。
「なにをしていたんだ?」
「あ、あのっ」
「小雪」
ぼくは、小雪の頭に手を乗せて、撫でた。
「正直に言わないと、カッパになるよ。いいのかい」
小雪が、うう、とうめいた。
「ボタンでございます」
「ボタン?」
「はい、今日直之さまのシャツにアイロンをおかけした時に、お袖のボタンがひとつ、緩くなっておりましたのですけれど、後でお付け直しするつもりで、あの、忘れてしまいました」
なんだ。
そんなことか。
隠すようなことでもないのに、小雪があまりにうなだれているので、ぼくの中にちょっといたずら心が芽生える。
「小雪。主人の服のボタンを付け忘れるなんて、とんでもなく悪いメイドだよ」
「はい。申し訳ございません」
「もしぼくが緩んだボタンのままそれを着て出かけたらどうするんだ。日中、ボタンが取れて袖口がブラブラするじゃないか」
「はい。申し訳ございません」
「小雪はまだ新人だから仕方ないかもしれないが、主人としてはメイドをきちんと躾けなければならない」
「はい」
「メイドが粗相をしたら、しかるべきお仕置きも必要だ。わかるね」
「……はい」
さて、これから小雪をどうしてやろう。
兄と菜摘の痴態を見せ付けられたばかりだし、これでメイドが初音なら間違いなく「脱ぎなさい」と言うところなのだけれど、どうも小雪にいきなりそれは可哀相だ。
しかし、二度とボタンを付け忘れたりしないように、しっかり反省させる必要がある。
ぼくはうつむいた小雪から離れて、ソファに腰を下ろした。
「こっちに来なさい」
小雪が、僕の前に立つ。
「そうだね。歌でも歌ってもらおうか」
小雪はびっくりしたように顔を上げ、両手で口元を覆った。
「う、歌でございますか?!」
「そうだ、なんでもいいよ。歌いなさい」
耳も首も真っ赤に染めて、小雪は一歩下がった。
「あ、あのあのあの、直之さま」
「なに」
「こ、こ、こ」
「こ?」
「こ、小雪は、あの、お、お、お、お」
「お?」
「音痴でございますっ!」
ぼくは、思わず噴出しそうになったのを、ぐっとこらえた。
「かまわない。歌いなさい」
小雪は泣き出しそうな顔をしながらしばらく考えて、それでも主人の命令に従った。
「ぽっぽっぽ〜、はぁとぽっぽ〜」
今度こそ、ぼくは噴出した。
すばらしい選曲センスだ。
そして、本当に音痴だった。
「なおゆきさまの、いじわる…」
最後まで歌ってから、小雪は両手でスカートを握り締めるようにして、顎が胸に埋まってしまいそうにうなだれた。
心ゆくまで笑ってから、ぼくは自分の膝を手のひらで叩いた。
「わかったわかった、もういいよ。反省しただろ?こっちにおいで」
小雪ははい、と返事をして顔を上げ、それからちょっと首をかしげた。
ここに、というのがどこかわからなかったのだろう。
ぼくはもう一度、膝を叩いた。
「さ、おいで」
小雪の顔が、火を噴いたようになる。
人間の顔というのは、どこまで赤くなれるものなのだろう。
「そ、そちらでございますか?」
「何度も言わせるものではない。命令は一度できちんと理解して従いなさい」
うん、我ながら、いい躾をしてるじゃないか。
「はい…」
小雪がぼくの膝の上に、浅くお尻を乗せた。
体重をかけないようにしているのか、脚がぷるぷると震えている。
ぼくは小雪のウエストに手を回して、ぐいっと引き寄せた。
「ひぁっ!」
思わず出た声を戻そうとするように、口を押さえる。
膝に乗せてみると、小雪は軽かった。
見た目どおり華奢な体つきをしている。
これでは、毎日のハードなメイド仕事はきつくないのだろうか。
顔を寄せてみると、覚えのある香りがした。
「あ、あの、直之さまっ」
「なに」
後ろから抱きしめて小雪のうなじに軽くキスしてみる。
胸は、まあ、平らではないかな。
「あ、あの、小雪は今日はお庭の草むしりなどいたしましてっ」
「うん。ご苦労様」
「それから、お廊下の窓拭きなども」
「そう。大変だったね」
「で、ですからあの、すっ、少し汗などもかきましたので」
「今日は暖かかったからね」
「で、ですからっ」
「小雪はちっとも汗臭くなんかないよ。いい香りがするくらいだ」
いやあん、と小さく言って、小雪は今度は両手で顔を覆ってしまった。
小さな小雪が膝の上で脚をパタパタさせたくらいで、ぼくの腕から逃れられるわけもない。
「ねえ、小雪」
呼ぶと、小雪はぴたっと動きを止めた。
回した腕に、小雪の心臓が飛び出しそうにドキドキしているのが伝わってくる。
そういえば、初音がいなくなってから、もう一ヶ月以上ぼくは禁欲生活をしている。
小雪はまだ未体験だと思っていいだろう。
その時は、優しくしてやらないとな。
「はいっ、あの、大浴場の!」
「大浴場?」
「び、備品のシャンプーをっ!」
緊張のあまり、変なことを口走っているのかと思った。
ぼくはちょっと考えて、そして理解した。
住み込みの使用人たちの部屋には、それぞれ簡単なシャワーの設備しかついていない。
あとは共同の大浴場があって、ゆっくりお湯に浸かりたい時などはそこを利用することになっている。
小雪はその大浴場にあるシャンプーを使って、髪を洗っているんだろう。
だから、他のメイドたちとすれ違った時に感じるのと同じ香りがするんだ。
覚えがあるのは、そのせいか。
「ふうん」
ぼくはきれいに結い上げて、後れ毛をピンで留めた小雪の髪に鼻をうずめるようにして深く呼吸した。
「小雪は、どこから洗うの?」
「は、はっ?!」
「お風呂で最初に洗うのはどこ、と聞いたんだよ」
腕に伝わる小雪のドキドキが大きくなる。
「あの、あの、えっと、かっ、髪の毛でございますっ」
「それから?」
「それから、あの、顔を」
「そして?」
「そして、あの、う、腕などを」
「うん、それから?」
「そ、それから、あの、身体でございます」
膝の上で小雪がこれ以上ないほど小さく縮こまる。
わざと何かの間違いのように胸にタッチした。
「きゃっ!」
「ここはいつ洗う?」
「う、え、あ、うう」
返事が言葉にならない。
「ボディソープも備品?ぼくと同じ香りにしてみるかい?」
「え、えええ、ええ?!」
小雪はぼくの膝の上でパニックになっている。
それがおもしろくてかわいくて、ぼくは小雪をぎゅうっと抱きしめ、それから解放した。
「ボタンは明日でいいよ。お風呂に入っておやすみ。また明日、起こしてくれ」
ぴょんとぼくの膝から飛び降りた小雪は、スカートの乱れを手で直しながら、頭を下げた。
「は、はいっ、では、お疲れ様でございました、おやすみなさいませっ」
まだ顔を真っ赤にしたまま、ドアのところで、もう一度頭を下げる。
顔を上げたとき、ぼくは機嫌を損ねていないことを伝えるために、笑顔で手を上げた。
小雪の顔が、ぱっと明るくなる。
兄のように視線を合わせる全ての女性をうっとりさせるには程遠いけど、まあ小雪に喜んでもらえるくらいなら、ぼくの笑顔もそう捨てたものではない。
手の中にまだ、小雪の温もりが残っていた。
惜しいことをしたかな。
――菜摘など、ご挨拶をしたその日のうちに。
兄の担当メイドの、色っぽい目つきを思い出した。
体の一部が、まだ熱を持っていた。
まあ、いい。
小雪はまだ子供子供している。
無理強いするのは本意ではない。
いずれそういう時が来たら。
――――了――――
途中から規制かかって携帯から投下しました。
見苦しい点ありましたら失礼。
>>56 GJ!
小雪ちゃんカワイイ。どんだけ萌えさせてくれるんだってくらいカワイイ。
前回投下の食事シーンで「直之の兄貴ってどんな人なんだ?」と思ってたので今回分かってよかった。
直之と小雪の進展も気になるけど、初音のことも気になるわ。
それと、朝から携帯投下乙です。
>>56 GJ!
今まで4時間ほどBOOK〇FFで立ち読みしてたら「エマ」っていう漫画があって思わず全巻買って来てしまった
で、いつになったら俺の家にメイドがくるのかね?
これは直之には過去にすがってもらって
小雪ちゃんは俺が引き取るしかないな
シャーリーの方がカワイイ
某アニメに登場したステルスメイドさんってのに惹かれたw
主人はメイドがいること自体知らなかったけど、ちゃんと働いてるとかすばらしいw
うちにも目には見ないけどいるんだろうか?
うちには小雪ちゃんがいます。
毎日頭をなでなでしてます。
目に見えないけど。
頭がカッパになっちゃいますよ。
とリアル会話でも言ってしまった俺って一体…
>>65 小雪ちゃんに視野狭窄してしまっていますね。
他のメイドさんに目を移してみるのもよいでしょう。
百合さんは夏を前にテレテレのトロトロになっているに違いない
咲野は夏向けの嘘っこ誘惑ネタをまた先輩メイドに仕込まれてるんだろうな。
麻由は結婚準備で忙しいんだろうきっと。
いい夏だなチクショウ。
夏だ水着だメイド祭り
70 :
小ネタ:2008/06/27(金) 19:27:45 ID:DcBwkeer
――あっ、今日は何時もより早く3割引に、ラッキー
スーパー高富のお惣菜・お弁当コーナーの値引き開始時間はマチマチだ。
毎日同じ時間にすると、それを狙ってその時間まで売れなくなるからか、客に値引き開始
時間を読ませない為、毎日時間をずらしている様である。
たまたま足りない物を買いに来た時間帯に、3割引品が残っていたのはラッキーだったと、
璃樹那は思った。
――ハンバーグにすると、ご主人様喜ぶかな…
買い物に来た目的の物と、ハンバーグ丼2つと、揚げシュウマイもカゴに入れた。
些か胃に重い感じもしない事もないが、ご主人様なら喜んで平らげるだろう。
レジに並びお会計を済ませて帰ろうとした時、ふとお惣菜コーナーに目をやった。
ガンッ……
ショックだった。
半額シールを持って、早速残っていたお惣菜類にシールを貼り始める店員さんの姿が
見える。
さっきまでの「私ってお買い物上手」と少しいい気分だったのが、一気に冷やされた。
残るのは…… 敗北感。
71 :
3割引5割引:2008/06/27(金) 19:28:52 ID:DcBwkeer
<場面は、お屋敷に>
「<かくかくしかじか>……というような事があったんですよ。 3割引でいい買い物
したなぁと思ったんですけど、あともう少し待ってれば5割引で買えたのに……」
帰るなり、ご主人様にそう璃樹那はボヤいた。
「あぁ、そういう事もあるよね。 でも3割引で買えたんだから良かったじゃないか」
「そ、そんなに落ち込むなって。 そうだ、代わりに今日は夜のお勤め時間を3割引、いや
5割引にするよ。 璃樹那もそれで疲れなくてラッキーだろう?」
「ご主人様、夜のお勤めは契約内容には入っておりません。 純然たる私の好意に拠る
ものでございます。 といいますか、なんとか5分もたせてるってトコロが3.5分や2.5分で
終わってしまうんですか? むしろ全然物足りません。 せめて10割増、いや20割増を
目指して頑張って下さい」
――なんて言える筈もない。
「お気遣いありがとうございます、ご主人様」
ニコッと璃樹那は微笑んで答えた。
夜のご奉仕後に不完全燃焼の体をどう慰めようかと、考えながら。
gj
なんかすごいかわええ(;´Д`)ハァハァ
主人の気遣いにケチをつけるとはけしからんメイドだ。
俺が(性的な意味で)お仕置きしてくれる!
マゾい主人はむしろその通り
罵って貰った方がオッキする
逆に考えるんだ、回復が猛烈に早くて5分×20セットをこなせる旦那様だと!
いかしメイドさんが五割三割にこだわるなんてきっと貧乏なご主人様なんだろうな
前スレで誰かが書いてた「落魄したご主人様〜」ってやつなんじゃね?
それはそれで味わい深い。
この場合だとメイドさん萌えに加えて頼りないご主人様萌えもある。
前スレ埋め乙
かおるさとー氏GJでした
ようこそメイドさんの世界へw
鋭角噴いたGJw
>>76 色々有って金が無くなる
↓
使用人が雇えなくなる
↓
メイドの一人が「私はお金が欲しくて傍に居るわけではありません」とか言い出す
↓
無いに等しい給料なのに働いてくれるメイド
貧乏でも良いじゃない
↓
でもって、彼女は諜報員だった
↓
旦那様の返り咲いた地位を使って任務完了
↓
プロポーズされた翌日、置き手紙を残して姿を消す
↓
空港OR港で、相棒から「いい男だったじゃない このまま嫁に行けば?」
↓
「あんな抜けた男(ひと)は願い下げ あのひとには可愛い奥さんがお似合い 任務だったのよ」
↓
流れる涙
こうですか?
いよいよ出発! というときに駆けつける旦那。
↓
顔を合わせないまま「お別れです」というメイド。
↓
旦那は彼女の素性を実は途中から気がついていた。「だけどボクはっっ」
↓
無情にも閉まるゲート。
↓
「キミの事が好きなんだ! ずっとそばにいてくれ!!!」
↓
「あーあ しかたないわね。実はあなたのチケットはないのよ…」と相棒に言われる。
こうですか? わかりま… というか>83が元ネタを知ってるっぽいんだが、
教えてくれないか?
>83さんよ、冥途が待ってるぜ?
>>84 どっかで見かけた気がスる
なんかのコピペと思う
362 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/08/19(土) 05:01:00 ID:rppsuWjM
ここね
過去スレデータベース
http://www.geocities.co.jp/Playtown/2330/bojo/index.html 今スレ
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/army/1152537565/ メイド教官とは?
初代スレで書かれたとあるレスがあまりに名作だったため設定が何度か書込まれたが
未だにSSが書かれない幻の作品である
>>121 「私の人生で一番辛く、苦しい時 支えてくれた君以外愛することができない
結婚してくれ」 とご主人様がプロポーズした直後に(その為の裏工作を
色々やっていたのだが)返り咲いた地位を通して任務完了。
翌日、ご主人様が花束と指輪をもって帰宅すると、いつもどおり整頓された
家の中で彼女と彼女の荷物だけがない
テーブルの上には、手紙が1通・・・・
「私はただのメイドにすぎません」で始まるわかれの言葉が
「どうか 私を忘れて」という言葉と共につづってある。
そのころ、彼女は港、もしくは空港で
「いい男だったじゃない。このまま結婚すれば」という相棒に
「あんな、抜けたひとは願い下げよ・・・・あのひとには可愛いおくさんがお似合い
・・・・任務だったのよ」と眼を合わさずに返答
流れる涙
>>84 補足すると他の板発祥のお話
何故かこのスレでも、落魄ご主人様関係のお話として
以前からいる住人には割と知られている・・・・・・・・・・・・・
かもしれない
>>82はそれを踏まえた上でののっかりw
>>84みたいな展開も全然ありだと思う
作品化に期待
覚えている方がいるかは分かりませんが前々スレ辺りで「真・専属メイド」を
書いていた者です、長い期間空いてしまいましたが新しいの投下します。
一応全員を出すつもりです。
『優雅な休みの過ごし方・雪乃編』
1
雪乃の声で目が覚め、身支度を済ませて朝食へと向かう、大体のメイドが
俺を起こすため俺より先に起きてしまうので俺は彼女達の寝顔を見る機会が少ないのが
未だに勿体ないと思う。
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
その内、夜中トイレに起きたときじっくり見てやるからいいさ。
朝食を済ますと部屋に戻る、今日の午前中は予定がないし午後も講習を少し
受けて終わり、ほとんど休みのような日、しかも明日は本当の休み。
サイコー!と、叫びたい気持ちもあるが少し悩む部分もある。
「明日はお休みですよね」
キた、この話題、雪乃の目が心なしかギラついている。
欲情燃やして走るメイド達は休日前に激しいアプローチを始める、俺と夜を
共にするのは1人、メイドは7人、一週間は7日、大体のメイドが一週間の
おあずけを強いられているのだ、そりゃあ獣にもなるだろう。
「雪乃は昨日一緒に寝ただろう?」
「関係ありません、それにご主人様がお仕事を控えている日はあまり求められませんから」
つまり休みの前の日や休日なら気兼ねなくやれるというのだ、少し怖い。
そう、このため俺はろくに休日を過ごした試しがない、この間の7人同時は
さすがにモノが千切れるかと思った。
そして考えた、休日丸々を俺一人で過ごす方法を。
「では私は一旦部屋に戻らせて頂きます、御用がお有りでしたら」
「うん、わかった」
雪乃と別れ、自室に戻ると俺はある物を取り出す、早くしないと
雪乃達は勝手に理由を付けてやって来るつもりだ、その前にこれを
飲んでおかないといけない。
「え〜っと、原液はまずいから水で薄めて・・・と」
俺が持っているのは先日、俺のメイド達の教育係のメイドから盛られた
抜群に効く精力剤である、あの時は大変だった・・・。
「このぐらいかな・・・よし」
ぐいっ、と薄めた精力剤を飲む、喉が熱くなり身体中が火照り始め
下半身が疼き始める、意識がちゃんとしている、成功だ。
2
内線でまずは雪乃を呼びつける。
「何でしょうか」
「こういう用さ」
「きゃっ!?」
そうだ、休み彼女達に潰されてしまうのだから休みの前に
彼女達の相手をしてやればいい、7人もいるけど。
「はぁっ・・・あっ、あのっ、ご主人様?んくぅ!?」
後ろから抱き締める形を取り左手は胸を、右手はスカートの中へと伸ばす。
「なにって、雪乃が望んでいたことだよ?」
「そんっ、な、当然過ぎます・・・あっあっ」
一年ほどの付き合いで俺なりにメイド達の事は知っているつもりだ。
雪乃、メイド長で普段はクールな立ち振舞いで隙がなさそうだが。
「ほら、眼鏡は邪魔だよ」
「あっ!」
性的な弱点は7人の中では目立ったモノがなく、むしろ技術力、持続力に優れ
相手をして一番疲れる、勿論体力的な意味で。
しかしそんな雪乃も眼鏡を外して優しく抱き締め、髪を撫でると。
「ぁぁ・・・ご主人様ぁ・・・」
この通り、いつもは眼鏡を取らせてもらえず大概マウントポジションで
搾り取られてしまうので今回みたいに隙を突くしかない。
「ほら、脱げたよ」
「ぁ・・ありがとうございます・・・」
お互い裸になると若干放心気味の雪乃を組み伏せ
メイド達の中でも1、2を争う巨乳の頂きへと口を寄せる。
「んっ!ふぁぁぁ」
「ふっ、本当に眼鏡がないと弱々しくなっちゃうんだな」
「め、眼鏡がないと不安になってしまうんです・・・」
「だからこんな事されるのが弱いのか」
「ぁぁ・・・ぁあぁあ・・・」
雪乃の頭を俺の胸の位置に来るように抱き締めると雪乃の顔は赤く染まり
瞳を潤ませて俺を覗き込んでくる。
「!・・・(か、可愛い)」
「ご主人様・・・」
「こんな時ぐらいはしっかり者じゃない雪乃が見たいな」
「・・・はぃ」
唇を重ねると激しく求め合う、両手を胸へと当てゆっくりと揉んでいくと
雪乃は時折体を反応させる、胸の中心が十分に硬くなったのを確認すると
掌でコリッ、コリッと刺激していく。
「ふむぁあっ!むうっ!ん!」
俺に唇を塞がれ十分な声を挙げられず、目の中の欲情の色が濃くなっていく。
3
俺は唇も胸を離さないまま確認もせずモノを雪乃の中へと挿入を試みた。
「んぐうっぅっつ!!ん゛ん゛!!」
毎日の鍛練(?)のおかげで一回でうまい具合に入る、雪乃のソコは
思った以上に濡れていた。
腰を動かすと雪乃の手が俺の背中に周り必死にしがみつく。
口、胸、秘所への同時責めはさすがの雪乃にも効いているようだ。
「ぷはぁっ!あっ!あ、あ、だ、ダメっ!おかしく、おかしくなっちゃいます!
ご主人様ぁ!ご主人様ぁ!!」
「おか、しく、なっていいんだよ・・・今は!」
ごりっ、雪乃の弱い部分へと俺のモノが擦り付けられ雪乃は激しく
痙攣して絶頂へ向かう、そして俺も絶頂へと向かうために腰の動きを
加速させていく、この時はもう両手は胸になく、雪乃を貫くための
腰を支える役目に変わっていた。
「いくぞ!雪乃!」
「いやぁっ!だめです!あ、あ、さっきイッたばかり、な、のにっ!
あぁぁああああ!!」
中で放たれた衝撃で雪乃は強制的に絶頂へと向かわされる。
ぐったりと横たえる雪乃をもう少し見ていたいがそうもいかない。
「雪乃」
「・・・ぁ、んっ、ご主人様・・・」
「続き、やるぞ」
「へっ?」
彼女達が一回で満足するはずはない、そのための精力剤、時間が惜しいので
早速二回戦を始める、体力的にも全然大丈夫、俺は。
「す、少しやすませてください・・・久しぶりにあれだけ激しくされたので、腰が・・・」
「だめ」
「そんなっ、・・・ああああ!!」
―――
――
「ぅ・・・むぅ・・・ご主人様ぁ・・・」
「ふぅ・・・」
疲れはて眠る雪乃を横目に時計を確認する。
朝食が終わり雪乃を呼び出したのが7時半、今が10時だから2時間半
このペースなら明日までに全員と相手出来そうだ。
「よし、ゆっくりとお休み、雪乃」
着替え、部屋を出ると次のメイドの元へと向かう。
―つづく
GJ!雪乃かわいいよ雪乃
あと六人か……普通に過ごした方が休めそうww
おかえり & GJ!
勿論 覚えているよ
前回あまり出番がなかった冬美さん(22)に 活躍して欲しいな
>>76 むしろメイドさんがしまり屋で、裕福なご主人様にも「無駄遣いはいけませんよ」と注意してると、萌える
>>94 たまにプレゼントすると、
「使用人ごときの為にこんな無駄遣いをして!」
と怒りつつ、内心大喜びなんですね、わかります
『メイド・小雪 3』
三条家から、正式に披露宴の招待状が届いた。
三男のことであり、事業的にメリットのある婚姻でもないので、式と披露宴はほとんど身内で行うという。
「どうしても、好きな娘と結婚したいと言いましてね。末っ子には甘くなりました」
三条の当主はそう苦笑いしたものの、メイド出身の初音の人柄は相当気に入っているようだった、と兄が教えてくれた。
初音なら、きっと三条家に見合う家柄出身の兄嫁たちともうまくやれるだろう。
初音の主家とはいえ、小規模な披露宴でもあり、うちを代表して出席するのは父ではなく兄、ということになった。
ぼくは少し複雑な気分で、それを聞いた。
初音の晴れ姿は見たいけれど、市武さんと並んでいるのは見たくない。
学生時代はスポーツマンだったという市武さんは、背が高く体格もがっしりしており、夏はヨットに冬はスキーと、いつも日に焼けている。
以前、交流会で一泊のキャンプに行ったときは、水辺で魚を釣り、ピッタリしたTシャツで逆三角形の見事な上半身を見せ、女の子たちを騒がせていた。
その胸に抱きしめられた初音を想像すると、胸の奥がぎゅうっと痛くなる。
三条家から持ちかけられた縁談を父が受けた形とはいえ、一緒に暮らせばきっと初音は市武さんを好きになる。
ぼくだけが見ていた笑顔を市武さんに向け、ぼくだけが口付けていた唇で市武さんにキスをし、僕だけが抱いていた身体を市武さんが抱く。
そしてそのうち、二人の間にはとてもかわいらしい子どもが産まれるだろう。
「あの、まちがっておりましたでしょうか」
おずおずと小雪が言い、ぼくはぼんやりしていたことに気づく。
買っておいてくれと頼んでいた買い物を小雪に渡されたところだった。
「ああ、いや。これでいいんだよ」
渡してもらった万年筆の換えインクを、机の引き出しにしまう。
「ありがとう。よく見つけてくれたね」
「はい、直之さまにお教えいただいた書店で注文いたしました」
ほっとしたように、小雪が笑う。
ま、小雪は小雪でなかなかがんばっている。
かわいくないこともない。
ぼくは、立ち上がるとぼくの胸までしかない小雪の頭に、手のひらを乗せた。
「ごほうびに、カッパにしてやろうか」
ぼくが小雪の小さいのをおもしろがって、いつも頭を撫でるものだから、小雪はそこだけ髪が薄くなるんじゃないかと心配しているのだ。
ところが、いつも困った顔をするだけの小雪が、今日はぷくっと頬を膨らませた。
「かまいません。直之さまが小雪をカッパになさりたいのでしたら、小雪はカッパになりますっ」
お。
珍しく、反抗的。
撫で撫で。
「でっ、でも、小雪がカッパになりましたら、きっとみんながどうしたのか聞きます。旦那さまも奥さまも、きっとお尋ねくださいます。そうなりましたら、直之さまは、メイドをカッパにしたことがみなさまに知られてしまいますからっ」
撫で撫で。
「それは困るな。メイドをカッパにするのはあまり誉められたことではない」
撫で撫で。
「そ、そうでございましょう、ですから」
「小雪には、いいカツラを誂えてあげるからね」
ふぇぇん、と小雪が泣き顔になった。
まったく、まったく小雪はおもしろい。
ぼくはソファに座ると、小雪を自分の前に立たせ、まだぷっくりふくれたままの頬を指先でつついた。
「どうした?不機嫌じゃないか。誰かにいじめられたか?」
主人に担当メイドとして仕えられる特別コースを卒業したからといって、そのメイドたちがみんな担当メイドとして働けるわけではない。
月々の余分な手当てと、自分だけの主人を持っているというステイタスをうらやまれることもあるのだ、と千里が教えてくれたことがある。
それは、次の担当メイドになる初音への気遣いを教えてくれたときの言葉だけど、きっと千里の体験でもあっただろう。
担当メイドに選ばれるだけあって、小雪は新人のわりによく気がついて細々と働くメイドではあるけど、たくさんいるメイドの中には、自分の方が担当メイドにふさわしいと考える子がいることもある。
小雪の頬がしぼんだ。
「そのようなことはございません」
「でも、今日の小雪はちょっと違うよ。ぼくは小雪の主人だからね。お見通しなんだ」
「……」
「こら。主人が何か言ったら、必ず返事をしなさい」
「…はい」
「で?どうして今日の小雪はそんなにご機嫌斜めなんだ?」
「そのようなことは、ございません」
おお、やっぱり反抗的。
「ふうん、そう来るんだ」
小雪が、ちょっと不安そうな顔をする。
ぼくは自分の膝を叩いた。
「ここに来なさい」
「…はい」
小雪は素直に後ろを向いて、ぼくの膝にお尻を乗せる。
うん、いい躾が出来ている。
ぼくは小雪の腰に手を回し、膝の裏にもう片方の腕を入れて横向きにした。
ソファに座ったままお姫様抱っこをする形になり、小雪は目を白黒させた。
「ひぁっ、な、直之さま?」
ひっくり返りそうになって、とっさにぼくの首にしがみつく。
はっと気づいてあわてて離したところを、背中に腕を回して引き寄せた。
体格差で、小雪はぼくの胸に顔を押し付けられて呼吸困難になった。
「む、きゅぅっ」
「ほら、言いなさい。でないと、カッパになる前に窒息するよ」
小雪の足が、ぼくの脇でパタパタする。
「お、お許しくださいませ、むきゅっ」
「言うかい?」
「申し上げます、申し上げますから、きゅぅぅ」
「よし」
少しだけ腕を緩めると、小雪は呼吸できるようになり、それでも身動きできない程度に抱きしめられたままで、もじもじする。
「あ、あの」
「これくらいなら話はできるだろう。さ、言いなさい。今日の小雪は、なにをそんなに拗ねてるんだ?」
「拗ねているわけではございませんけれども…」
顔を覗き込まれるのが恥ずかしいのか、小雪は自分からぼくに顔を押し付けるようにうつむく。
「…今日、お昼を頂くときに、他のメイドたちと一緒に使用人の食堂に参りましたのですけれど」
「うん」
「そこで、遙さんが、あの、先だってお辞めになりました初音さんのお式がお決まりになったというお話をなさいました」
まあ、メイドというものは噂好きと決まっている。
初音の結婚はメイドたちにとっても憧れの玉の輿だし、式が決まったのは事実なのだから話題にもなるだろう。
「でも、あの。初音さんは、あの。こ、小雪などはあまりお話することもございませんでしたので、あの、ほんとに存じませんのですけれども」
「うん」
「あの、あくまでも遙さんのおっしゃることで、ほんとうかどうかというのは、あの、直之さまのお耳に入れるようなことではないと存じますけれども、あの」
「……うん?」
「ですからその、は、初音さんは、三条さまのお宅に参られましても、その、あちら様のお気に召さないのではないか、ということを」
「…なんだって?」
遙というのは、うちの中堅メイドの一人だ。
年齢も初音に近い。
ただ、主人家族の誰かの担当、というのではなく、一般的に全体的な仕事をこなすメイドのはず。
同僚として初音のことも良く知っているだろうが、それなら尚のこと、初音が三条家に気に入られないなどと噂するなどと。
ぼくが少しムッとしたのに気づいたのか、小雪が縮こまる。
「遙は初音のことを良く知っているだろうに、そんな陰口をいうのはいただけないね」
ここで遙を責めると、小雪が言いつけたような形になるので、ぼくは控えめに、それでもはっきりと不快感を表した。
「は、はい。あの、でも」
「遙はあとで叱っておく。もちろん、小雪から聞いたとは言わないから安心おし」
「いえっ、そういうことではございませんっ」
小雪が急に頭を上げたので、ぼくの顎にごつんとぶつかる。
「きゃあっ、申し訳ございません、どうしましょう!」
別に、小雪の頭がちょっとぶつかったくらいでは痛くもなんともない。
小雪を抱いた手を緩めなかったので、また小雪は手足をぼくの膝の上でパタパタするだけだ。
「大丈夫、痛くないよ。なにがそうではないんだ?」
「…はい、あの」
小雪はほっとしたような顔をしたものの、心配そうに身体をよじってぼくの顎をそっと指先で触れる。
「よかった、赤くなったりしておりません」
「うん」
ぼくは脚をゆすって、小雪に話の先を催促した。
「…ですから、あの。…三条さまは、あの、初音さんを奥さまになさったら、そのことにお気づきになるでしょうからと」
「そのこと?」
小雪はまたぼくの胸に顔を押し付けた。
「…直之さまの……お手つきだからと」
ふう。
吐いた息で、小雪の髪がふわりと揺れた。
言いにくいことを、小さな小さな声で言って、小雪はまた小さくなる。
「それで?それを聞いて、小雪は不機嫌になったのかい」
「ふっ、不機嫌だなどということはございませんけれど、でも、あの」
小雪を抱きしめたまま、カッパにならないように頭の後ろを撫でる。
「初音さんは素晴らしいメイドだったと聞いておりますし、小雪も初音さんのようになりたいと思いますし、直之さまの担当メイドだった初音さんが、三条さまでお気に召していただけないなんて、それはまるでなにか直之さまがいけないと言われているように思いまして、それで」
「うん。それで」
「小雪はただ…悲しかったのでございます」
まったく。
まったく、小雪はかわいい。
ぼくは、小雪をぎゅっと抱きしめた。
胸の中で小雪がまた小さく、むきゅっ、と鳴いた。
「あのね。小雪」
「ひゃい」
くぐもった声で返事が返ってくる。
「こういう家柄では、別にうちだけではなくて、三条さんのところでも同じだけどね」
「ひゃい」
「主人がメイドに手をつけるなんて、珍しくもなんともないんだよ」
「ふぇえ?!」
「だから、ぼくが…、ぼくが初音となにをどうしていたかなんて、誰も問題にしないし、三条さんだって初めからご存知なんだ」
「ふぇ…」
「三条さんは、それでもお父さまに、初音をくださいとおっしゃったんだよ。初音はそのくらいすばらしい女性なんだ。必ず、気に入ってもらえるさ」
「……」
「小雪?」
「れも…」
小雪がパタパタしたので、ちょっとだけ腕を緩めてやる。
「で、でも、あの」
「うん?」
「こっ、小雪は、小雪は、あの、な、直之さまのお手が付いておりませんがっ」
思わず、笑みがこぼれた。
抱いていてもわかるほど、小雪の身体が火照っている。
顔は隠しているからわからないけれど、耳とうなじが真っ赤だ。
「うーん。そうだね」
「あの、あの、そ、それはやっぱり、こ、小雪がいたらないからなのでしょうかっ」
「ん?なに?小雪はぼくのお手つきになりたいわけ?」
「そ、そ、そっ!」
このまま虐め続けると、小雪がパンクしてしまうかもしれない。
ぼくはこみ上げる笑いがこらえきれなくなった。
「わかったわかった。小雪が初音のことを心配していることも、ぼくのことが大好きだってこともね」
「…うう、お笑いにならないで下さいませ…」
笑うぼくの膝の上で、居場所がないように小雪が真っ赤になった顔を両手で覆う。
その小雪の顔に唇を寄せて、もう少しだけぼくは意地悪をした。
「小雪がいい子にしてたら、そのうち手をつけてあげるよ?」
小雪の頭が、ぼんっと音を立てたような気がした。
恥ずかしさの限界を超えた小雪が、へなへなと崩れる。
その芯のなくなった小さな身体を抱きかかえて、ぼくは頭を撫でてやった。
小雪がカッパになる日は、そう遠いことではないかもしれない。
――三条市武さんと初音の結婚式の日は、空が高く青く晴れ渡っていた。
式はお昼で、午後からガーデンパーティ形式での披露宴が行われるらしい。
晴れてよかった。
ぼくは庭に出て車を洗っていた。
いつもは運転手が洗ってくれるが、できるときはご自分でなさいませね、と初音が言っていたのを思い出したのだ。
シャワーの付いたホースで愛車に水をかけていると、洗剤を溶かした水の入ったバケツを持った小雪にも水がかかる。
きゃあきゃあ言いながら逃げ惑う小雪に、わざとホースを向ける。
バケツを持ったまま転びそうになるのを、片手で抱きとめる。
もう、メイド服がかなり水をかぶっていた。
ぼくらは、年長のメイドや執事が見たら眉をひそめるほどはしゃいで車を洗った。
髪まで濡らされた小雪など、メイドとしてあるまじき行為ながら、いつまでも悪ふざけをやめないぼくを軽くぶつ真似までしたものだ。
それでもぼくは、なにかに気を紛らわさずにはいられなかったのかもしれない。
小雪もぼくもずぶぬれになって、車はぴかぴかになった。
顔が映るほどきれいにワックス掛けされた車を、小雪がまぶしそうに眺めた。
よし。
「小雪。今日は、これから仕事を抜けられるかい?」
小雪は目を丸くして、ちょっと首をかしげた。
「できるかと存じますが」
「じゃあ、制服じゃなくて私服に着替えておいで。せっかくきれいに洗車したんだ、ドライブでもしてこよう」
小雪が驚いた顔になる。
「は、はいっ、かしこまりました!」
返事をして、これ以上ないというくらいの笑顔になった。
まずは直之さまのお着替えを、と言う小雪に、自分で出来るからと部屋に帰し、着替えてロータリーに車を回して小雪を待つ。
小雪の私服を見るのは初めてかもしれない。
さほど待たないうちに、家の中から小雪が駆け出してきた。
髪をほどいて、肩にたらしている。
花模様の赤いキャミソールに、白い透ける生地のブラウスを重ねて、クリーム色のミニスカート。
足もとは白いぺたんこ靴。
「もっ、申し訳ございません、お待たせしてしまいました!」
ぼくは、まじまじと小雪を見ていた。
どこから見ても、その辺にいる17歳の女の子。
いや、その辺になどいない。
とびきり可愛い女の子だ。
「あ、あの、直之さま?」
なにか気に入られなかったのだろうかというように、自分の服装を見下ろす。
ぼくは、助手席のドアを開けた。
「さ、お乗り」
助手席に乗った、初音以外の初めての女の子。
ぼくはエンジンをかけてから、嬉しそうにシートベルトを締める小雪に言った。
「小雪、かわいいよ」
小雪がまた、ぼんっと音を立てて赤くなったような気がした。
さて、どこへ行こう。
とりあえず、景色の良さそうなところへ向けて走ろうか。
目的地なんかなくてもいい。
きっと兄はガーデンパーティーで参列者に気を使いながら、なにか美味しいものを食べてくるだろうけど、ぼくらはどこかで気軽にハンバーガーでも買おう。
そして、ソフトクリームを食べよう。
初音はきっとなにかを食べるどころではないだろうけど、そんな心配は市武さんがすればいいことだ。
今日は、小雪のことだけ考えよう。
街を抜けると、目の前に広い景色が見え始めた。
ねえ小雪。
ソフトクリームは、バニラとミックスとどっちが好きだい?
小雪が、首をかしげた。
「あの、あの。ストロベリーは、ございませんのでしょうか?」
――――了――――
小雪キタ、小雪!
直之も大分吹っ切れてきたようだが、小雪の存在はでかいよな〜
カッパの場面は笑いがこらえられず、洗車の場面はちょっと妬けたよ。
GJでは言い尽くせない。
ストロベリーGJ
苺ぐっじょぶ
パンツも苺なら即死しても本望だ
105 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 14:40:00 ID:Pga9qIFQ
ぼくも小雪ちゃんをむきゅっとしたいです。
麻由と武の話を投下します。麻由視点です。
エロ無しなので興味ない方はスルーかあぼーんして下さい。
「結婚式前編」
武様との婚約が整い、私は長年暮らした使用人棟を出て、母屋の来客用のお部屋に移ることになりました。
もう夫婦も同然なのだから、僕の部屋に来ればいいのにと武様は仰ったのですが。
やはりこういうことには節度が大事ですから、不名誉な噂の種を蒔かないようにしましょうと申し上げ、同室はご遠慮したのです。
そして、花嫁修業という名目で、私は上流階級の夫人に必要な教育を受けることになりました。
その内容は、主に立ち居振る舞いやマナーの勉強と、ダンスのレッスンを主軸にしたものでした。
お茶やお花などの稽古はもう少し後でもいいだろうと武様が仰ったので、それに従いました。
レッスンは、私の考えていた以上にハードなものでした。
名家のメイドとして一通りのことは身に付けているという自負はありましたが、その考えが甘かったことを実感させられました。
私の知っているのはあくまで使用人としての行儀作法で、上流階級の婦人としてのマナーではなかったのです。
名家にお生まれになった女性であれば、小さい頃から段階を踏んで身に付けられることを、私は短期間で覚えねばなりません。
ゼロからのスタートでしたから、まさに右も左も分からない状態でした。
いい教育係をつけようと約束して下さった通り、武様は一流の方をダンスの講師として招いて下さいました。
両性から教わった方が細部にまで目が行き届くからという理由で、男女一人ずつです。
二人の先生に手取り足取り教えて頂き、ダンスの特訓は始まりました。
しかし、ハイヒールに裾の広がったスカートをはいて踊るのは、なかなか思うようにいきません。
背筋を伸ばしてしっかりとした姿勢を保っているつもりでも、踊っているうちに段々と緊張感が抜けてくるのです。
次にどう動くかを考えてから体を動かすからそうなるのですと、講師の先生は仰いました。
たくさん練習を積めば、音楽がかかると同時に体が勝手に振り付けをなぞりますから、考えなくてもよくなりますとも。
雑念が取れて、動きの美しさだけに集中できるというわけなのでしょうか。
講師の先生が二人で手本を見せて下さる時は、その息の合った流れるような動きに見とれてしまいます。
パートナーに合わせた動きでありながら、個人だけ見てもその踊りは完成されていて。
「クイック」「スロー」「ターン」と言われるたび四苦八苦している私が、あれほど踊れるのは一体いつの日のことになるでしょう。
婚約期間中は、夜になって武様が社からお戻りになると、必ず私と語らう時間を設けて下さいました。
長い時も短い時もありましたが、毎晩必ず。
時には、レッスンの成果を試すと仰って、武様をお相手にダンスをすることもありました。
大広間で音楽をかけて二人きりで踊るのは、とても面映くありましたが楽しい時間でした。
想う方と手を取り合って呼吸を合わせて踊るのですから、胸も躍ってしまうのは無理もありません。
私の動きがぎこちなくなっても、武様はすぐにカバーして下さいましたので、踊ることに意識を戻すことができました。
でも、この方とパーティーで踊られたご令嬢方は、こんなに素敵なエスコートをされていたのかと思うと、胸がもやもやとしてしまいます。
それを正直に申し上げると、武様は笑ってこう仰いました。
「今まで僕が踊った女の人達は、僕の教材だとでも思えばいいさ。君をうまくリードする為のね。
実際、僕と一番長く踊っているのは麻由だよ」
令嬢方を教材だなどとは、とても思うことはできませんが…。
「どうしても気になるのなら、二人でサンバでも始めようか?あれは僕も未経験だから、君と同じ条件からのスタートだ」
苦笑して武様がそう仰って、ああいう明るい踊りも楽しいかと一瞬思いましたが、すぐ我に返りました。
衣装の布面積が小さすぎて、あれではとても踊ることに集中できないでしょうから。
武様は、ダンスの専門家でもないのにとても教え方がお上手で、まるで三人目の先生ができたようでした。
熱心に稽古を付けて下さって、ついつい練習が長時間になってしまい、深夜にまで及ぶこともありました。
踊りながら愛しい方のお顔を見上げると、その瞳に吸い込まれそうになってしまいます。
目を合わせると、恥ずかしくなって振り付けを忘れるかと思ったのですが、そうではありませんでした。
見詰めあい、相手のことしか考えられなくなることで雑念が消えて、動きの固さも取れてリードされるままに踊れるのです。
次の動きや姿勢の維持など一切考えていないのに、きちんと曲にあわせてひとりでに身体が動いて。
先生が、武様と踊る時の私をご覧になれば、きっと褒めて下さるのではないでしょうか。
二人きりの練習の意外な効果に驚きましたが、これは相手が武様でなくては意味がありません。
他の男性と踊っても、決してこのように見惚れてはしまわないでしょうから。
和服の着付けも習っておいたほうが良いだろうと武様が仰り、そちらに関しても学ぶことになりました。
着付けを教えて下さる先生には、武様にお心当たりがあるとのことでしたので、人選はお任せしました。
その方と初めてお会いする日、お屋敷に来られた人物を見て私はびっくりいたしました。
武様がお選びになった先生は、以前に遠野家で長年メイド長をしていらした高根秀子さんだったのです。
私はこの方にメイドとしてのイロハを厳しく叩き込まれました。
随分鍛えて頂きましたが、彼女が数年前に引退なさって遠野家を去られてからは、一度もお会いすることはありませんでした。
長年の功績に報いるため、武様が郊外にご用意になった一軒家で、悠々自適に過ごしていらっしゃるとは聞いておりましたが。
久しぶりにお会いした高根さんは、メイド達を厳しく監督しておられた頃とはまるで異なる、優しい老婦人になっておいででした。
お顔を見た途端に条件反射で背筋を正した私も、何度かお会いするうち次第に肩の力が抜けていきました。
一対一での着付け教室は、メイドとしてお仕えを始めた頃のスパルタ教育とは違い、とても穏やかなものでした。
丁寧な言葉遣いで分かりやすく教えて下さって、私は比較的短期間で着付けの技を身につけることができたのです。
高根さんは私のことをかつての部下ではなく、主家の当主の妻になる人として丁重に接して下さいました。
彼女の現役時代を知っているメイド達は、あの方が私にへりくだった姿勢をお取りになることにびっくりしたようです。
皆の私に対する態度も、次第に高根さんを真似るように丁寧なものになり、武様に対する時と変わらなくなりました。
庶民育ちの私としましては、皆が恭しい態度で接してくれるという状況など初めてのこと。
最初は居心地が悪かったり面映かったりしましたが、日を追うごとに慣れていきました。
そしてまた、高根さんは着付けのことだけではなく、私の立ち居振る舞いのことについて意見を下さることもありました。
曰く、今の言い方ではメイドに間違って伝わりますから、別の言い方をなさった方がよろしいでしょう。
曰く、そんなにおどおどとした物の申し付け方では、相手も困りますから、もっとはっきりと仰いませ。
このようにそれとなく教えて下さり、私の力になって下さるのでした。
『あなたが遠野家の奥方としてふさわしくあろうと励まれることが、ご当主様の支えになるのです』
ある時、高根さんがこう仰ったことがあります。
この言葉は私の心に残りました。
今の私はまだまだ力不足で、武様のお力になるまでには至りません。
でも、私がこうやって花嫁修業を頑張ることで、武様が心強く思って下さって、それが心の支えになるのであれば。
ダンスレッスンでの脚の痛みも軽くなるというものです。
高根さんとの時間の合間、時折着物や立ち居振る舞いとは関係ないお話をすることがありました。
話題はもちろん武様のことです。
先代の旦那様がお若い時からご奉公なさっていた高根さんは、武様のことも赤ちゃんの時からご存知です。
私の知らない、産まれてから十三歳までの武様のお話を聞くのは、とても楽しいものでした。
小さい頃はよく熱を出され、幼稚園の年少さんの時には運動会を休む羽目になってしまったこと。
夜に鏡からお化けが出てくるとおどかされたのを信じ込み、怖いから一緒に寝てくれと泣きつかれたこと。
一つ一つのエピソードが、今からは想像もできないように可愛らしいものでした。
私の知っている武様は、二人きりの時には甘えてこられることもあるものの、基本的にはいつも颯爽としておられる方です。
しかし、幼い頃には違っていたのだと知ると、もっと早く出会いたかったと思いました。
「本当に可愛らしい坊ちゃまでしたからね、麻由さんがそう思われるのも無理はありません。
でもご安心なさい。お二人に男のお子様がおできになれば、きっとあの頃の坊ちゃまにもう一度会えるでしょうから」
こちらの表情を読んで高根さんが仰った言葉を聞いて、私は真っ赤になってしまいました。
日にちが進み、そろそろ結婚式のことについても考える必要が出て参りました。
会場は、武様が経営される会社の系列ホテルにすでに決定しております。
「ホテルを持っている以上、よそで式を挙げるというのは中々難しいんだ。
式や披露宴の演出は麻由が好きなようにしていいから、会場だけは僕のわがままを聞いておくれ」
私がプロポーズをお受けして間もなく、武様がそう口にされたのです。
社長という立場であられる以上、そう仰るのは当然のことだと思いましたので、一も二もなく頷きました。
わがままだなんて、とんでもないことです。
それに、書店で買い求めたウエディング雑誌に載っていた遠野家系列のホテルは、とても素敵でしたから。
新作ドレスの撮影場所として提供され、雑誌に何ページも載っていた写真記事は、私の心をいっぺんでわし掴みにしてしまいました。
庭園や螺旋階段でドレスを着たモデルさんが佇んでおられる写真を見ただけで、素晴らしい場所であることが分かるのです。
会場はすぐに決まったのですが、どのような式にするかは武様と二人で相談致しました。
結婚式には、一般的に神前式、仏前式、キリスト教式などがあります。
神前式なら白無垢で三三九度、キリスト教式なら神父様の前で愛を誓うといったイメージが浮かびやすいでしょうか。
しかし、武様も私も、特定の宗教に帰依しているわけではありません。
そんな私達が、結婚式の時だけ宗徒になるような真似をするのは、何だかおかしいですねと二人で話し合いました。
すると、武様は「最近は人前(じんぜん)式というスタイルが徐々に広がっているんだ」と教えて下さいました。
人前式とは、神様や仏様ではなく、式に参列なさった皆様へ向けて二人の愛を誓うという形式なのだそうです。
「それはつまり、父や山村さんや高根さんに向かって誓うということですか?」
「うん、そうなるね」
対象が随分身近なようですが、よく分からない神様仏様に誓うよりは、こちらの方が現実味があって良いのかもしれません。
今までお世話になった方に誓うというのは、それはそれで筋の通ったことですから。
「人前式が良いかと思うのですが、構わないでしょうか」
「ああ、大丈夫だよ。うちのホテルはそれに対応した設備も人員もあるから。
と言うより、宗教的な結婚式から設備と人員を引き算すると、人前式に適した会場になるんだ」
(設備とは祭壇やオルガン、人員とは神父様や斎主様のことだそうです)
「そうなのですか。でも、やはり遠野家のご当主が結婚されるのなら、宗教色のある伝統的なものが良いとはなりませんか?」
少しだけ不安になって尋ねました。
「いや、そうとも言えないよ。
むしろ、列席者に人前式という新しい式の形を知ってもらえるから、伝統をなぞるより意味があるとも考えられる」
「なるほど」
「麻由と僕が結ばれるのは、世間にしてみれば画期的なことだからね。
変に伝統にのっとった式をやるより、いっそ、スタイルごと変えてしまったほうが面白いだろう」
武様のお言葉に、私は敬服いたしました。
こうして、私達の結婚式は人前式で行うことに決まったのです。
そして、武様と私は、結婚式を行うホテルのブライダルフェアに参加することにいたしました。
会場が決まっているのにフェアに参加するのは妙なようですが、模擬挙式やドレスの試着などに興味があったのです。
式と披露宴の詳細を詰める前に、実際のものを見たほうがイメージが掴みやすいと思ったからでもあります。
…お料理の試食会にも、大いに興味が湧きましたし。
武様も、うちのブライダル部門がどうなっているかを冷静な目で見たいと仰って、二つ返事で賛成して下さいました。
しかし、社長である武様がご参加になるとなっては、現場が大変なことになりそうです。
変装も視野に入れたのですが、ああいう場に帽子やサングラスをつけて行っては浮いてしまうでしょう。
それに、私の欲目ではなく武様は非常に端正な美男でいらっしゃるので、多少隠したくらいでは絶対にばれてしまいます。
二人で相談いたしまして、結局、武様のフェアへの参加は見送ることになりました。
でも、私一人が行くのは心細い…と思っていたところ、この話を耳にされた高根さんが名乗りを上げられたのです。
「麻由さんも、ご当主様の妻になられるのなら、遠野家の事業のこともお分かりにならないといけません。
私がご一緒しますから、あなたの目から見て感じたことを、帰宅してからご当主様にレポートなされば宜しいのでは?」
こう提案されて、なるほどと頷きました。
私は今まで、武様のお仕事について口を差し挟んだことは一度もありません。
せいぜい、通販部門のイチゴ食べ比べセットの箱の色について提案をしたくらいです(「風物詩」参照)。
全くの素人ですから、有意義なレポートができるかは、はなはだ怪しいですが…。
しかし、できるできないに関わらず、遠野家の事業をきちんと見ておくのは非常に大事なことだと考えました。
何分にも武様が経営なさっているのは大きな会社ですから、私などには全く理解の及ばない分野の事業もあります。
そういう方面の勉強をする前に、今の私にとって一番重大な結婚関連のことについて、見る目を養うのは良いかもしれません。
帰宅なさった武様に相談しますと、「ほう、では麻由のお手並みを拝見しよう」と仰って、承諾して下さいました。
そしてブライダルフェアの当日、私は手にメモとペンを持って会場におりました。
高根さんは、まるで記者か何かのようですよと笑っておいでになりましたが、私にしてみれば必死なのです。
お屋敷に帰って、実のある報告ができるようにとばかり考え、いやでも目が三角になってしまうのでした。
あら捜しをするようで、ホテルスタッフの方には申し訳ないのですが、気になったことがあるたびにメモを取って。
本来なら憧れをこめて見るべき模擬挙式も、目を皿のようにして見ておりました。
「麻由さん、少し怖いですよ?」
高根さんがこっそりと耳打ちして下さったのですが、表情を緩めることはできませんでした。
模擬挙式が終り、通常は披露宴として使われる宴会場に入りました。
本番と同じゲスト席と高砂席が用意されているそこを基点にして、ドレスの試着室や引き出物の展示スペースを回るのです。
カップルでフェアに参加しておられる人達を見ますと、少しだけ羨ましくなりました。
皆さん一様に幸せそうで、にこにこと笑いさざめいていらっしゃいます。
フェアの参加者は思ったより多く、もう少し空いてからあちこちを見て回りましょうと高根さんと相談し、椅子を借りて座りました。
「模擬挙式は、どうでしたか?」
対面に座られた高根さんが尋ねられました。
「雑誌で見るのとはやはり違いますね。窓から見える景色も良かったですし」
「ええ。お式の当日は、あなたとご当主様があそこに立たれるのですよ」
高根さんの言葉に、先程の模擬挙式のモデルさんの姿が頭の中で自分達に入れ替わりました。
「あんなに格好よくなるでしょうか…」
武様に関しましては、文句のつけどころがない花婿ぶりを披露されるでしょうが、自分はとなると自信がありません。
並んだ私達を招待客の方々がご覧になって、不釣合いだと思われはしないでしょうか。
「まあ、そんなことをお考えになって。
そろそろ、あちらへ参りませんか?ウエディングドレスを試着なされば、そんな不安もどこかへ吹き飛んでしまうでしょう」
「そうでしょうか…」
「ええ。ちょうど空いてきましたし、行きましょう」
促され、二人で宴会場を出て、ドレスの試着のできる場所へ向かいました。
ドレスのためのお部屋は二部屋に分かれていて、最初のお部屋がドレスの展示室、次の間は試着室になっていました。
そこにあるのは、デザインも素材も実に様々で、趣向を凝らしたドレスばかりでした。
これも素敵、あれも素敵と見るもの全てに胸が躍ります。
しかし、何着も着られるわけではありませんから、いつまでも迷ってばかりはいられません。
私は、手にしていたメモのページを利用し、ドレスの番号を書いて消去法で絞り込んでいきました。
「あっ」
ドレスとメモとの間を忙しく往復していた私の目が、ある一着のドレスを捉え、動かなくなりました。
目に留まったのは、肩の大きく開いたビスチェタイプのドレスでした。
上半身にはビージング(ビーズ刺しゅう)で草花模様が描かれていて、クリスタルのラインストーンが所々に散りばめられています。
スカートは、薄くふわりとしたシルクオーガンジーの地に、縦方向の繊細なプリーツが矢羽絣(かすり)のように入っていました。
裾は長く、プリーツが流れるように床へと続いていて、さながら夢のように美しいドレスだったのです。
ベールはと申しますと、裾に向かって刺しゅうが密になるように施されている、こちらも美しい物でした。
結婚式の当日、誓いのキスの時に、このベールに武様のお手が掛かり、そっと持ち上げられたら…。
私は考えただけでのぼせてしまい、呆けたようにそのドレスの前で立ち尽くしてしまいました。
「それがお気に召したのですか?」
「えっ?」
こちらへ来られた高根さんが仰った言葉に、私は我に返りました。
「この前で、ずっとお立ちになっていらっしゃいましたから」
「え、ええ」
さっきまでぐるぐると歩き回っていた私は、このドレスを目にした瞬間に足をピタリと止めてしまっていたのです。
他と比べてどうかというのではなく、「これだ!」と確信したから立ち止まったのだと思います。
「高根さんは、どう思われますか?」
念のため尋ねてみると、高根さんはクスクスと笑われました。
「着るのは麻由さんですからね、私の意見などお聞きにならなくても宜しゅうございます。
これがお気に召したのなら、試着なさってはどうですか?着られれば、お考えがはっきりするでしょう」
「ええ、そうですね」
あらためてお部屋にある他のドレスを見渡しますが、やはり私はこれに一番惹かれました。
係の方に声を掛け、試着のお願いをしました。
ドレスを着付けて頂き、鏡に向き直るとほうっと溜息が漏れました。
展示してあるのを見るのと、実際に着てみるのとでは、やはり違います。
身にまとったドレスは、マネキンが着ているときとは違い、プリーツの繊細さが際立ってさらに魅力的に見えたのです。
馬子にも衣装と申しますが、実際、このドレスを着た私はいつもより上等に見えました。
やはりこのドレスしかないと思います。
何着もとっかえひっかえして悩んでおられる女性もいましたが、私は早々と心が決まってしまいました。
元の服に着替え、展示室へ戻ります。
資料を覗き込みますと、先程のドレスは他のどのものよりもお高い品でしたが、決まってしまった心はもう揺らぎませんでした。
遠野家にメイドとしてお勤めして得たお給金をかなり割くことになりますが、それでもこれが着たいのです。
引き出物を高根さんと相談し、お料理の試食も終えてホテルを後にしました。
お屋敷へ戻り、借りている来客用の寝室で机に向かい、うんうんと唸りながら今日のレポートをまとめました。
フェアに参加して気付いたこと、それに対する私なりの改善案を書きまとめ、その夜、武様にお見せしました。
「なるほど、なかなか良く書けているじゃないか」
「本当ですか?」
褒めて下さるのに、現金な私はすぐに嬉しくなってしまいます。
おだてて持ち上げて下さっているのは、分かりきっておりますのに。
「ところで、ドレスの写真は撮ってきたかい?」
「え」
…すっかり忘れてしまっていました。
「秀子さんと二人で相談したのはいいが、僕にも教えてくれなきゃ困るじゃないか」
「申し訳ありません」
夫となる方にドレスのことを相談しないなど、あってはならないことです。
自分の失敗に、私は一気に悲しくなってしまい、ぺこぺこと頭を下げて謝罪しました。
「本当に申し訳ありませんでした」
「…うん」
「次からは、こんなことがないように肝に銘じます。ですから、お許し下さいませ」
もう一度深く頭を下げてから顔を上げると、武様は難しい顔をしておいででした。
「まあ、悪気があってしたことではないだろうから」
「はい」
「しかし、僕の存在をないがしろにされたようで、気持ちが納まらないんだ」
「うっ…」
「だから、お仕置きをすることにしよう」
「え…キャッ!」
伸びてきた武様の腕に抱き上げられ、私の身体は宙に浮きました。
「あの、何を…」
「僕が言うお仕置きには、一種類しかないじゃないか」
武様は笑顔で話されているのに、なぜでしょう、身体が震えてしまうのです。
平常心を取り戻そうと頑張るのですが、それができないまま、私はあっという間にベッドへ運ばれてしまいました。
「さて、どうやって埋め合わせをしてもらおうかな」
「…」
「案が浮かばないのなら、僕の好きにさせてもらうよ?」
「あっ!」
上になられた武様が、私の首筋に唇を寄せられました。
そのまま、位置を変えて何度も吸いつかれ、お手が胸元を這い回りました。
「君の夫になるのは誰か、じっくりと教えてあげよう」
鼻が触れるほどの距離で、武様が私の目を見詰めて仰いました。
そして、そのまま。
私は、自分が誰の妻になるかを、ベッドの上でいやというほど教えられてしまったのです。
ブライダルフェアの日から数日後、本格的な結婚式の打ち合わせが始まりました。
今度は武様と二人でホテルに出向き、担当者の方とあれこれ相談いたしました。
結婚式も披露宴も、通常のものとさほど変わらない構成にすることに決まりました。
本来は、名家の男性がご結婚なさる折には、何名もの来賓の方のスピーチが長々と続くものなのだそうですが。
それでは招待客が退屈してしまうだろうし、誰にスピーチをしてもらうかの人選も難しいと武様が仰ったのです。
ですから、来賓の方のスピーチは最初にお一人、乾杯の発声をお願いする方をお一人。
一般的な披露宴と同程度のものに留めるという方向になりました。
お色直しは一度で、私はカラードレス、武様は違う色のモーニングに着替えることにも決まりました。
結婚式の打ち合わせ、続けているダンスのレッスン、ウェルカムベアーの作成などと忙しくなり、日々は瞬く間に過ぎていきました。
そして、いよいよ結婚式の当日がやってきました。
朝、起きるべき時刻よりも随分早く目覚めてしまい、そわそわと落ち着きません。
お部屋の中も、窓から見るお屋敷の庭も、何も変わらないというのに。
今日が私にとって特別な日であることは、高鳴るこの胸が証明しています。
やっと、武様の妻になれる。
その喜びが身体中に満ち溢れ、ふわふわと雲の上を歩いているような心持ちになっているのです。
花嫁は花婿よりも支度に時間が掛かりますので、ホテルに入るのは武様とは別々でした。
数名の係の方にドレスを着せていただき、メイクなども施されて。
お屋敷を出て数時間後には、私はすっかり花嫁の装いに身を固めておりました。
傍らには、今日手に持つブーケが用意されています。
生涯、自分が持つことは叶わないと思っていたそれが、手の届く所においてあることに感無量になりました。
ドレスの裾に気をつけながら、座って鏡の中の自分を見つめておりますと、控室のドアの開く音がしました。
「麻由」
振り返ると、礼装に身を包んだ父が所在なげに立っていました。
「お父さん」
「入っても、いいかな」
「ええ、どうぞ」
親子なのに、何を今さら遠慮することがあるのでしょうか。
私は向かいにあった椅子を示し、父を部屋へ招き入れました。
「ああ、綺麗だね」
座った父が、感心したように褒めてくれました。
「そうかしら…」
「ああ。母さんにも見せてやりたかった」
「…うん」
父の言葉に、私が十三歳のときに亡くなった母のことが思い出されました。
「母さんが死んだ時は悲しかったが、今思えば、それがお前と坊ちゃまを結びつけるきっかけになったんだな」
「ええ、そうね」
母の死により、私は当時住んでいた家から、父が住み込んでいた遠野家の使用人棟に引っ越したのです。
それがなければ、私は母と共に元の家でずっと暮らしていて、武様に出会うことも無かったのでしょう。
「お前の晴れ姿を見たら、母さんは何て言うだろう。
きっと、泣いてしまって言葉にならないだろうな」
「そうね…」
優しかった母の姿が脳裏に甦り、胸が締め付けられました。
「私はまだ信じられないんだ、お前と坊ちゃまが結婚するということが」
父が目を擦りながら言いました。
「半年前、お前に結婚するという報告を受けた時には、狐につままれたようだった。
坊ちゃまと2人で挨拶に来てくれた時、私は驚きのあまり、随分とあっさりした応対をしたように思う」
ええ、確かに結婚を決めたことを告げた時、父は一言の反対も致しませんでした。
「…そうですか」とただ一言呟いたのみで、強硬に反対されることを予想していた私は肩すかしを食った覚えがあります。
「恥ずかしい話だが、私は夢を見ていると思っていたんだ。
しかし覚めるのを待っていても、一向にその気配が無くてね、現実だと気付いたのは二人が帰った後だった」
「まあ」
「それから数日は、心ここにあらずといった感じだったよ。
担がれたのかとも思ったのだが、お前は嘘をつく子じゃないし…と混乱していた頃、坊ちゃまがお一人で訪ねて来られたんだ」
「えっ?」
そんな話は初耳です。
「何度も問い返す私に、坊ちゃまはお前との結婚に至る経緯を繰り返し説明して下さった。
男二人で酒を酌み交わしながら、お前をいかに愛していて一緒になりたいかということを長々と仰ってね。
結婚を許してくれと改めて頼まれた時には、まるで自分が坊ちゃまに口説かれているように錯覚したほどだ」
父が頭をかきながら言いました。
「身分違いだからと反対しようとしたが、坊ちゃまの真摯なご姿勢に私は胸を打たれてしまって、何も言うことができなかった。
あの方なら、きっとお前を大事にして下さるだろう」
「ええ」
「坊ちゃまがお前の夫になることは、母さんも天国できっと祝福してくれているだろうね」
「…うん」
「天国には先代の旦那様と奥様もいらっしゃる。お二人にも喜んで頂けるよう、しっかりやりなさい」
「分かりました」
「私も、花嫁の父として今日は最後の務めを果たすから」
微笑んでみせる父の目が潤み、赤くなっているのが分かりました。
「ありがとう、お父さん」
「ああ、お前まで泣いちゃいけない。さ、歩く練習をしよう。足並みがずれては格好が悪い」
「…うん」
父が明るい声で提案してくれ、二人で腕を組んでバージンロードを歩く練習をしました。
十分ほどした頃、ドアをノックする音が聞こえて足を止めました。
「高根です、入っても宜しいかしら」
「どうぞ?」
高根さんの声が聞こえ、返事をしました。
入っていらっしゃった高根さんは、黒い留袖をお召しになった姿に貫禄があります。
今日この方は、武様のご両親の名代として式に参列なさるのです。
「お早うございます、麻由さん、お父様。
本日はまことにおめでとうございます、日和にも恵まれましたね」
恭しくお辞儀をして下さるのに、こちらからも頭を下げました。
「今日は、ご出席頂いてありがとうございます」
「ええ、お二人の晴れ姿が見られるのですから、何を置いても駆けつけましたとも」
着物の帯をポンと叩いて高根さんが仰いました。
「今、花婿の控え室にも伺ってご挨拶してきたんです」
「そうでしたか」
「ご当主様におかれましては、お部屋の中で立ったり座ったり、そわそわと落ち着かないご様子でしたわ」
「まあ」
「『式の前に花嫁の控え室に行ってもいいものなのか?』と、私に何度もお尋ねになったのですよ」
さもおかしそうに、袖で口元を隠しながら高根さんが仰いました。
「あまりにも何回も仰るものだから、辟易いたしましてね。
麻由さんのドレス姿が見たい気持ちはお察ししますが、大人気ないことを仰るものではありませんと申し上げましたの」
「まあ…」
「そうしたら、子供のように拗ねられたのですよあの方は」
「えっ?」
「それでもお諦めになれないご様子で、私の隙をついては控え室を出ようとなさるのですよ。
一家の主になられる方が分別の無い振る舞いをなさるのではありませんと、もう一度お諌めして」
武様は、一体何をなさっているのでしょう。
そんなに何度も高根さんに注意されるようなことをなさるなんて、あの方らしくありません。
「久しぶりにあの方をお叱り致しましたわ。そうしたら、ムッとしたお顔で黙られてしまって。
『それなら、せめてあなたが行って、麻由の花嫁姿を見てきてくれ』と仰いましたの。だからこうしてお邪魔しに来たんです」
笑いを堪えながら仰る高根さんのお顔を見て、私の頬もゆるみました。
「さて、そろそろ戻ってあげないと。ご当主様がしびれを切らしてこちらへ来られてしまわないうちに」
「はい、宜しくお伝えください」
「ええ。とても美しい花嫁さんでしたよとご報告申し上げて来ましょう」
「いえ、そんな…」
「今日は記念すべき日ですから、長く大変な一日になりましょうが、気を確かに持って下さいね。
では、斥候(せっこう)はこれにて失礼します」
ひらひらと手を振りながら、高根さんが控え室を出て行かれました。
「…今の人は、前のメイド長の高根さんだよな?」
あっけに取られたように父が言いました。
「そうよ、雰囲気が随分変わられたでしょう?
結婚が決まってから、あの方には着物の着付けを習ったり、マナーを教えて頂いたりしてとてもお世話になったの」
「それは知らなかった。後で、私からもお礼を申し上げておこう」
「お願いします」
「しかし、変われば変わるものだな」
父は現役時代の厳しい高根さんのことしか知らないはずですから、驚くのは当然のことです。
「今はもう退職されて、郊外のお家で暮らしていらっしゃるのよ。重責から解放されて気ままに生きていると仰っていたわ」
「お前も、メイド長をやっていた時は、昔のあの人のように怖かったのかね?」
「まあっ!」
父がさも恐ろしそうに肩をすくめて言い、私は頬を膨らませました。
しばらくして、式場スタッフの方が間もなく結婚式が始まることを告げに来られました。
いよいよです。
胸が高鳴り、グッと息を飲み込みました。
「麻由」
父の呼びかけに応じて微笑んでみせようとしますが、顔がこわばってしまっています。
「そんなに固くならなくても大丈夫だ。うまくやれるさ」
「…本当?」
「ああ。私の可愛い娘の結婚式だ。うまくいかないはずが無い」
父の言葉を聞き、少しだけ呼吸が楽になったのを感じました。
「さ、行こう。坊ちゃまがお前を待っていらっしゃる」
「ええ」
私を待って下さっている愛しい方のお姿を思い浮かべ、お腹に力を入れました。
「もう大丈夫。行きましょう」
「ああ」
父の後になり、控室を出ました。
結婚式を行うホールへの距離を歩きながら、暴れている心臓をなだめました。
「皆様お揃いですよ。お二人がいらっしゃるのを今か今かと待っておいでです」
扉を開ける係の方が仰り、私達の緊張をほぐすかのように微笑んで下さいました。
「さ、腕を組もうか」
父に促され、ブーケを持っていた手を片方外し、父の腕に添えました。
一人娘の私は、小さい頃に父の腕に掴まって甘え、ぶら下がって遊んでもらったものです。
それはほんの少し前のような気がしますのに、いつの間に私は父の隣に立ち、腕を組むまでに大きくなったのでしょう。
正面を向き扉をじっと見詰めている父の横顔を見ながら、過ぎ去った日々を思いました。
「それでは、これより遠野家・北岡家の人前結婚式を執り行います。
皆様、ご起立願います」
扉の向こうから司会の方の声が聞こえ、荘厳な音楽が流れると共にホールの分厚い扉が開かれました。
大きな窓からさんさんと日の光が入り、白を基調とした室内は眩しいほどに目にしみました。
まっすぐ伸びるバージンロードの両脇には、かしこまった服に身を固めた既知の人達が、こちらを見て拍手をしてくれています。
視線を奥へ遣ると、バージンロードの終点には、愛しい方がこちらをじっと見詰めて立っていらっしゃいました。
白いモーニングを着こなされ、凛とした立ち姿で佇んでいらっしゃるのをベール越しに捉え、目が釘付けになりました。
愛しい方との距離が一歩ずつ近くなっていくたび、嬉しいような怖いような気分がし、せっかく静めた心臓がまたドキドキと暴れだしました。
あちらへたどり着けば、私達は夫婦になるのです。
それは、北岡麻由として生きていた今までの日々と決別し、武様の妻として今までと全く違う人生を歩みだすことでもあります。
期待と少しの不安、見詰められているという高揚感、そして緊張。
様々な感情が目まぐるしく入れ替わり、ゆっくりした歩調とは裏腹に呼吸が早くなりました。
父の腕を掴む手に力を込め、その場所まで歩きました。
少し眩しげに目を細めて、私をご覧になっている武様は、近寄ると更に素敵に見えました。
頬に血が昇るのが分かり、ベール越しにでも赤く染まったのが見えないようにと、慌てて俯きました。
立ち尽くす私の手から父の腕が離れ、私はホールの中央で武様と二人きりになりました。
「今、お父様の手によって新婦様が新郎様のもとにご到着なさいました。
ここで、お二人に誓いの言葉を読み上げて頂いたのち、皆様お立会いのもと婚姻届への記入をして頂きます」
係の方から結婚宣誓書が渡され、武様がそれをお受け取りになりました。
私も身体の向きを変えて隣に並び、開かれた宣誓書を覗き込みました。
『誓いの言葉。
私達二人は、ご列席頂いた皆様方の御前で、今日ここに結婚することを宣言します。
互いを尊重し、感謝の気持ちを忘れずに、いつまでも仲良く、末永く幸せな家庭を築いていきます。
困難にぶつかっても、二人で力を合わせて乗り越えていきます。
どんな時も、今日のこの気持ちを忘れないことをここに誓います』
二人で声を合わせて、ゆっくりと噛み締めるように読み上げました。
そして、テーブルの上に用意された婚姻届の前に向き直りました。
あとは二人の名を書き入れるばかりとなっているそれは、私達の到着を待ち侘びていたかのようにそこにありました。
まず武様が万年筆を取られ、すらすらと名を書き込まれるのを見詰めました。
次は私の番です。
万年筆を受け取り、紙の上に滑らせました。
今まで何度となく書いてきた自分の名が、今はとても特別なもののように思えます。
書き終えた婚姻届は、二人で皆様の目に触れるように掲げました。
「それでは、お二人の婚姻の証である結婚指輪の交換を執り行います」
その言葉をきっかけに、私達はまた最初の位置へ戻りました。
用意されていたリングピローには、揃いの指輪が二つ並んで出番を待っています。
まずは武様が私の手に嵌めて下さるのです。
左手が取られ、指輪がするりと差し込まれるのを、息を詰めて見守りました。
薬指に納まった指輪は、日の光を浴びてキラリと輝き、目にまぶしく映りました。
次は、私が武様に嵌めて差し上げる番です。
リングピローに乗っている指輪を持ち上げ、お手を取りました。
震える指を近づけ、薬指に指輪を通そうとしますが、なかなかうまくいきません。
何度か息をつき、集中してやっと無事に指輪が通りました。
二人並び、指輪を嵌めた手を顔のあたりまで上げ、皆様に示しました。
「お二人の指に婚姻の証である指輪が輝いているのをご覧になりましたでしょうか。
これから幸せな結婚生活を築いていく誓いのため、これより新郎様に新婦様のベールを上げて頂きます」
司会の方の言葉に、上げた手を下ろして武様と向き合いました。
顔の前に下りているベールがゆっくりめくられ、武様のお手が肩に掛かりました。
愛しい方のお顔が近づいて、私はそっと目を閉じ、夫となった人のキスを受けました。
誓いのキスをもって、結婚式は無事に終了しました。
音楽が流れ、武様が私の腕を取ってご自分の腕に絡めて下さいました。
「さ、行こう」
微笑みかけて下さるのに頷き、扉へ向かって二人で足を踏み出しました。
武様と並んで歩くなど、ほんの少し前までは考えられなかったことです。
私はこの方の妻になったのだという喜びが胸を満たし、夫となった人の腕にしっかりと掴まりました。
フラワーシャワーが終り、少しの休憩を挟んだ後、披露宴に来て下さる方々を迎える時間になりました。
先程の結婚式の列席者は、近しい友人やお屋敷の関係者が中心でしたが、披露宴では武様のお仕事関係の方も多くいらっしゃいます。
私とは面識のない方ばかりですから、少しでも第一印象が良くなるように、お迎えの段階から気を引き締めねばなりません。
新たな緊張が生まれ、お辞儀をしながら身体の前で組んだ手をギュッと握りました。
開宴の時刻になり、武様と私はまた腕を組んで入場し、列席して下さった皆様の中を歩きました。
高砂席につき、司会の方が開宴の言葉を仰ったのを合図に、披露宴は始まりました。
まず最初は、新郎新婦の紹介フィルムを皆様にお見せするのです。
武様の赤ちゃんの頃の写真がプロジェクターで映し出され、そこから年を経るごとに何枚かのスナップが映りました。
私の番になり、同じように赤ちゃんの頃、小中学生の頃の写真と共にまた生い立ちが紹介されました。
「そして、お二人の出会いは新郎新婦共に十三歳の頃にさかのぼります。
新婦様が初めて新郎様のご自宅へ足を踏み入れられた折、互いに一目惚れをなさったとのことです」
司会の方の言葉に、ほおっと感心するような声がそこここで聞こえました。
「新婦様は高校をご卒業後、新郎様のご自宅にメイドさんとして就職なさいました。
大変熱心にお勤めをこなされ、主家や上司の覚えめでたく優秀であったと伺っております」
大げさに紹介されてしまい、背筋がこそばゆくなって参りました。
私は真面目ではあったのですが、決して優秀なメイドではなかったのですから。
「新郎様が大学をご卒業になって間もなく、ご両親が相次いでご逝去なさいました。
まだお若かった新郎様を、当主として社長としてお支えしようと、お屋敷の皆様が一丸となってあたられたそうです。
新婦様は二十五歳でメイド長に就任され、新郎様の生活を陰になり日向になり支えられました。
その美しいお心栄えと真摯な態度に、新郎様はいたく感激なさり、妻にするのはこの女性しかいないと心に決められたのです」
司会の方はここを一番の盛り上がり所だと考えられたらしく、声が高くなりました。
「新婦様は、最初は固辞なさいましたが、意志を曲げられなかった新郎様の粘り強いプロポーズにより、お心を決められました。
中学一年生の頃に芽生えた淡い初恋は、十年以上もの時を経て、本日の佳き日へと至ったのです」
そこで私達の紹介は終り、スクリーンが上がりました。
司会の方にお渡しする資料を書く折、二人のことは変に隠し立てせずに、ありのままを皆様に知って頂こうと意見が一致しました。
ですから本当のことを書いたまでですが、一目惚れのことなど、今までほとんどの方が知らなかったことが公になり、何だか恥ずかしく思えました。
フィルムの感想を求められ、武様は「今まで友人の結婚式に出た時は、二人のツーショットの写真が多く使われていました。
麻由と私はツーショットの写真がまだ少ないので、今後増やしていきたいと思います」と仰いました。
私はと申しますと、緊張でよく覚えていないのですが「初めて会ったときの感動を忘れず、ずっと尽くしていきたいと思います」と言った気がします。
主賓の方のご挨拶の後、披露宴のプログラムはケーキカットにさしかかりました。
ケーキは、昔は三段四段のタワーになっているものが主流でしたが、近年は平たく四角いものが多く使われているそうです。
今日使用するものも、セレモニー用の張りぼてではなく、全て本物で出来ています。
色とりどりのフルーツで飾り付けられているそれは、とても美味しそうで、思わず喉が鳴りました。
「それでは、新郎新婦によるウエディングケーキ入刀です。お二人の初めての共同作業です。
カメラをお持ちの方は前へお進み下さい」
司会の方の言葉に、二人でピンクのリボンのついたナイフを持ち上げました。
ケーキの中央に当て、ゆっくりと切り下げていきます。
あちこちから向けられたカメラを順に見て、何人もの方に写真を撮って頂きました。
ポーズをとっている途中、武様の空いたお手が腰に回り、引き寄せられました。
「新郎新婦のうるわしいお姿をカメラにしっかりと収められたでしょうか。
では、ここでお二人に一口ずつケーキを食べさせあって頂きます。
これはファーストバイトと呼ばれる儀式で、新郎から新婦へは『一生食べることには困らせない』ことを約束するものです。
新婦から新郎へは『一生美味しい料理を作ります』と誓う意味があります」
司会の方の言葉をきっかけにケーキナイフが回収され、入れ替わりにリボンのついたフォークが一本運ばれてきました。
「まずは新郎様から新婦様へ、愛の一口をお願いいたします。
新婦様の可憐なお口にふさわしい大きさで食べさせてあげて下さい」
武様がフォークを取られ、切り取ったケーキを私の方へ向けられました。
目で合図をされ、口を開けて食べさせて頂きます。
予想通り、ケーキはとても美味しく、思わず笑顔になってしまいました。
「では、新婦様から新郎様へ愛の一口を差し上げて頂きます。
新郎様への愛情と同じくらい、大きい一口を食べさせてあげて下さい、どうぞ!」
武様への愛情を表すほどの一口なら、このケーキを丸ごとぶつけても足りないでしょう。
でもそんなことはできませんから、少しだけ大きめにケーキを切り取り、武様の口元へ持っていきました。
先程に習って目で合図をし、武様がケーキにかぶりつかれます。
しかし、わずかに目測を誤られたようで、クリームが口の脇に付いてしまいました。
「あ…」
私は慌てて左手を伸ばし、武様の口元に付いたクリームを指で拭き取りました。
その時。
「!」
いきなり手首を掴まれ、私の指に付いたクリームを武様が舐め取られたのです。
人前でそんなことをされるのにびっくりして、私は一瞬でのぼせて固まってしまいました。
白い光が何度か瞬き、指を取られたままの姿が写真に撮られてしまったのを呆然と感じました。
ややあって我に返りますと、武様はまるで何事もなかったかのように、ナプキンで私の指を拭って下さっていました。
衆人環視の中で指を舐められて頭に血が昇ってしまい、気がつくとブーケプルズは終っておりました。
会場では乾杯が済んでお食事が始まり、ざわざわと賑やかになっています。
お色直しの時間ですからご退席下さいと係の方に耳打ちされ、火照る頬に意識を向けないようにして高砂席を後にしました。
そして、控室に戻ってウエディングドレスを脱ぎ、カラードレスに着替えました。
今度身につけるのは、ブルーの地に同系色の濃淡のチュールが重なった優しい印象のドレスです。
銀の細いリボンテープが随所に配されていて、それがドレスのアクセントになっているのです。
係の方以外は誰もいない小部屋に入ることができ、私はようやく肩の力を抜くことができました。
高砂席にいますと、皆様の目がこちらに向けられておりますので、気を抜けないのです。
少し疲れを感じますが、プログラムはようやく半分ほどです、まだまだしっかりやらねばなりません。
着替えが終ってお化粧も直して頂き、控室を出ると武様が待って下さっていました。
「そのドレスも似合っているね」
じっと見て仰るのに、また胸が騒ぎだしました。
今日、私はこの方に何回ドキドキさせられるのでしょう。
愛しい方は、お召し替えになった黒の衣装も似合っていらっしゃって、先程とはまた違う凛々しさがあります。
普段からも格好良い方ですが、今日は更に何段も男振りが上がられたようで、見詰められるとどうしていいか分かりません。
「…あなたこそ、とてもよく似合っておられます」
私はパッと下を向き、口の中でもごもごと言いました。
「行こうか」
武様は私の腕を取られ、結婚式の時と同じように、ご自分の腕にしっかりと絡めて下さいました。
扉の前に立ち、係の方がドアを開けられます。
一度目の入場の時とは違う音楽が流れ、また皆様が拍手して下さる中を歩きました。
キャンドルサービスを終え、スピーチをして下さる方がマイクの前に立たれました。
新郎友人代表、新婦友人代表、そして武様のご親族の方とスピーチは順に続きました。
そして、祝電披露を挟んで、披露宴のプログラムは最後となる両家の挨拶まで進みました。
本来は新郎の父が挨拶されるところですが、武様のお父様はすでに他界されていますので、私の父が代理として挨拶を致しました。
父は、まずは列席して下さった方々へのお礼を述べ、武様のお父様である先代社長のお人柄のこと、奥様のことなどを話し、お二人の分も自分がこれから二人を見守っていきたいと申しました。
「武さんと娘には、互いを思いやり、努力して、明るく幸せな家庭を築いてほしいと願います。
新しい門出を迎える二人に、どうか皆様の温かいご指導をお願い致したい所存でございます。
本日は、本当にありがとうございました」
父が言葉を結び、深く頭を下げました。
「では新郎様より、本日ご列席下さった皆様に感謝を込めまして、一言ご挨拶頂きます」
係の方からマイクを受け取られた武様は、姿勢を正して口を開かれました。
「本日は、お忙しい中を、私ども二人の為にかくも大勢の皆様にお集まり頂きまして、誠にありがとうございました。
私は今ここにいらっしゃる皆様から、暖かい祝福のお言葉を頂戴し、無事に今日の日を迎えることがでましたことを、大変幸せに思っております。
皆様のお陰をもちまして、本日の披露宴は非常に思い出深く、決して忘れることのできない大変素晴らしいものとなりました。
私は、本日ご列席下さった方々は勿論のこと、残念ながら本日ご欠席になった方々にも、以前から大変お世話になっております。
大学卒業と前後して両親を亡くした私は、折に触れて皆様に教えを乞い、貴重な助言やご意見を頂いて参りました。
それを糧とさせて頂き、行動の規範にしたお陰で今日(こんにち)の私があると申しましても過言ではございません」
メモもご覧にならずにすらすらと仰る武様のお姿に、私はただただ見惚れておりました。
公の場で、このように凛とした立ち居振る舞いをなさるこの方を見るのは、初めてのことです。
私はメイドでありました関係上、屋敷におられる時のお姿しか存じ上げませんでしたから。
一歩後ろに立って聞いておりましたが、武様の立派なご様子を見て頬に血が昇り、のぼせ加減になってしまいました。
「私の結婚のことに際しましても、以前より各方面からご尽力頂き、またご意見も頂戴して参りました。
心を配って下さっていた方々におかれましては、私が麻由を伴侶に選んだことに対して、複雑なお気持を持たれていることと思います。
当主という立場の人間が、メイドをしておりました者と結ばれることは、はっきり申しまして非常に特異なことです。
私の知る限り、本日ご列席頂いた方々の中にもそのような例は見当たりません。
これにつきましては、私達の婚約が整いました後も、幾人もの方々からご意見を頂戴致しました」
え……。
急に武様の仰る内容が変わり、驚きました。
私との結婚のことで、何人もの方から色々と言われたということなのでしょうか?
そんなこと、武様は私には一言も仰いませんでしたのに。
きっと、この結婚をよく思っていらっしゃらない方が、武様に物申されたのでしょう。
それを、私に心配を掛けまいとして、武様はお一人で受け止めて下さっていた…。
温かいそのお心遣いがとても有難く、そして申し訳なくなりました。
「彼女に結婚を申し込みますのは、私にとって一世一代の大勝負でした。
忠実なメイドであった彼女は、主人である私が求婚しても、きっと断るという確信があったのです。
しかし、辛い時や苦しい時を支えてくれた麻由を妻にすることこそが、自分の望みであると思い決め、私はプロポーズする決意をしました。
彼女となら、人生の荒波にも手に手を取って、二人で立ち向かえると考えたのです。
実際、私達の生まれ育ちの違いなど、彼女と二人でいると取るに足りないものだと感じられるのです。
この人と家庭を築いていきたい、一緒に幸せになりたいと強く思ったからこそ、私はプロポーズしました。
予想通り、自分達が結ばれることなどできないと彼女に拒否され、随分手こずりました。
そうして何度も断られたのですが、私の心は揺らぎませんでした。
妻に迎えたいのはこの人以外にないという意思を貫き、時間は掛かりましたが、やっとの思いで結婚を承諾して貰えました」
武様の言葉に、プロポーズをして下さった頃のことを思い出しました。
私が武様のお立場を考えてお断り申し上げても、この方は何度も何度も繰り返し求婚して下さって。
言葉や態度から窺える武様の熱意に、断る立場でありながら、私はどれほど女としての喜びを感じていたことでしょう。
あの時の感情が瞬時に甦り、涙が出そうになりました。
「今日、こうして晴れて結婚式の日を迎えることができましたが、人生はおとぎ話ではありません。
私達は、やっと今、人生のスタートラインに立ったのだと思います。
皆様の目には、私達二人が、とても不安定で頼りないものに映っていることと思います。
まだまだご心配をお掛けすることになると思いますが、どうか長い目で私達をご覧になってほしいのです。
二人で共に努力し、温かく幸せな家庭を作っていくことが、皆様にご安心頂ける一番の証明だと肝に銘じ、頑張って参ります。
私も彼女も、まだまだ未熟者で、至らない部分が多くあります。
どうかこれからも、皆様の温かいご指導・ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します。
本日は、長い間お付き合いを頂きまして誠にありがとうございました」
武様が言葉を結ばれ、二人で頭を下げました。
大きな拍手が湧き、私は胸が一杯になりました。
主人とメイドが結ばれるというのは、誠に異例なことです。
私達の婚約が皆様に知れた頃から、きっと武様は幾人もの方にあれこれ物申されたのでしょう。
それを私には一切知らせずに、今日ここまで守って下さったのです。
また、こうして新郎の挨拶として口になさることで、噂話をしようとなさる心無い方に釘を刺されたのでしょう。
メイドが主人を騙して玉の輿に乗ったのではなく、愛し合って結婚するのだということを宣言して下さったのです。
これから始まる皆様とのお付き合いも、きっと変わったものになってくると感じました。
おそらく、私のことについて悪く言われる方は減る、そんな予感が致しました。
式はお開きとなり、私達は一足先に退場しました。
会場の出口で、お帰りになる皆様を見送り、何度もお辞儀をしました。
並んで立っておりますので、武様をきちんと見ることはできませんが、傍らに存在を感じるだけで十分心強く思いました。
先程の新郎挨拶について、なかなかやるじゃないかと一言褒めてからお帰りになる方も、多くいらっしゃいました。
本当に、あの場で正面切って口になさるのには、決意が必要だったことでしょう。
紋切り型の挨拶で終らせず、自分の言葉で包み隠さず本音を仰ったことに、涙がこぼれそうになりました。
そして、このような素晴らしい方を夫にできたという自分の幸福に、心から感謝を致しました。
世界中のどこを探しても、この方より素晴らしい人を夫にすることは私には無理でしょう。
今日のことを決して忘れずに、これからの長い人生を仲睦まじく生きたいと願いました。
──続く──
花嫁の顔の前に垂れるベールやバージンロードは、本来キリスト教式特有のもののようです。
二人の式は人前式になりましたが、この二つについては結婚式のイメージと直結するので、こうしました。
.
あ、連投支援(てここ規制あったっけ?)をと思ったら丁度終わってたのね。
不覚にもご当主様の方に心打たれたわ・・・
ついに結婚!長かった……本当に長かったよ……
でもまだ二人はスタートラインに立ったばかりなんだね
武様は本当に素敵な方だなあ。よかったね麻由。お幸せに二人とも
……続くということは、次はハネムーン編?
GJ!
しかしエロがなくともこんなに読めるとは・・・
暗い夜道を一人で泣きながら帰ってきました
ようやく結ばれた二人…。
お幸せに!!コンチクショウ!!!
読んでたら涙ぐんだ。GJ
うおおSUGEEEE
しかもエンディングじゃなくて続くのか!
126 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 23:28:30 ID:tdhUyQNe
「クラス会 その後」を希望しております。
二次会で自棄酒に沈没した男子同級生は片手の指では足りないと見た!
現役メイドはどこですか
>>106−118の続きを投下します。麻由視点です。
「結婚式後編」
招待客を見送り、披露宴はつつがなく終了しました。
私達も着替えて会場を去らねばなりません。
控室に戻り、係の方に手伝ってもらってドレスを脱ぐと、ホッとした後に何だか寂しい気持ちになりました。
ゆったりとした白いワンピースに着替えた後、係の方がドレスを持って席を外され、私はしばし一人になりました。
武様の妻になるべく、私はこの半年間色々と頑張って参りました。
ダンスの先生、高根さん、執事の山村さんなど、様々な方に教えを受け、励まして頂いて。
何より、教わったことが吸収できずに落ち込んでいる私を、一番元気付けて下さったのが武様です。
練習に付き合って下さったり言葉で励まして下さるたび、私はどれだけ心強く思ったでしょう。
お陰様で結婚式も披露宴も無事に終了し、私は今こうして一人、控室に座っています。
鏡に映る自分は少しだけ疲れていますが、とても幸せそうで。
私は三国一の果報者なのかもしれないと思いました。
細々とした荷物はお屋敷の方へ届けて下さるとのことなので、私は小さなバッグだけを持ち控室を後にしました。
そして、今日泊まることになっている上階のスイートルームへと向かったのです。
武様は、何やら披露宴のスタッフの方とお話をされているらしく、もう少し後で来られるとのことでした。
係の方に案内され、スイートルームという場所に初めて足を踏み入れた私は、その贅沢な設えに息を飲みました。
まるで映画の中に出てくるような広く美しいお部屋と調度品は、とても非日常的で。
メイドであったとはいえ、名家のお屋敷に長年おりました私が思うのもおかしいのですが、本当に夢の中にいるようだったのです。
やはり、今日が特別な日であるという念が胸にあり、心が浮き立っているから余計にそう感じたのでしょうか。
係の方が退室されてから、私はまるで子供のように目に付く扉を片っぱしから開けていき、スイートルームの中を探検しました。
大きなソファのあるリビング、白い大理石を使った浴室、清潔なトイレ、大きな鏡のあるパウダールーム。
次々と確認しては扉を閉め、フロアの奥へと進んでいきます。
そして私は、一際美しい彫刻のなされた重厚な木のドアの前にたどり着きました。
ここが最後のお部屋です。
ドアに手を掛けてえいっと開くと、そこはベッドルームでした。
清潔なリネンの掛かったベッドが二つ並んで置かれていて、意外にもとてもシンプルな造りになっていました。
ホテルの評判に恥じぬようベッドメイキングも丁寧で、一分の隙もありません。
こういう所に目が行ってしまうのは、やはり私がメイドであったゆえなのでしょうか。
壁のスイッチに手を触れると、微かな電子音と共にカーテンがひとりでに動き、窓からは東京の街が一望できました。
昼間であっても息を飲むその眺めは、日が暮れれば更に素晴らしい夜景となって見渡せることでしょう。
そう、夜になれば…。
「あっ」
私はその途端、石になったように固まってしまいました。
今晩は、私達にとって初夜にあたります。
至極当たり前のことなのに、なぜ私は今まで忘れていたのでしょう。
…だめです、考えた途端に緊張が全身にみなぎって、胸がドキドキし始めました。
このままベッドルームにいては身体に毒です。
私は慌ててそこを出て、元いたリビングスペースに向かいました。
クッションを抱き締め、落ち着き無くソファから立ったり座ったりを繰り返しながら、心臓が静まるのを待ちました。
二十歳の頃から、武様とは数え切れないくらいに身体を重ねています。
今更こんなにそわそわするのもおかしいのですが、胸の動悸は一向に治まってくれませんでした。
一緒に夜を過ごすのには慣れているつもりでも、やはり今夜は特別なものになるのだと思います。
初めてベッドを共にした日のことを忘れられずにいるように、今日は夫婦として過ごす最初の日になるのですから。
よせばいいのに、私はここで初めての日のことを思い出して、さらに血圧を上げてしまう羽目になりました。
武様も私も、それ以前に異性と関係を持ったことが無く、2人とも初体験だったのです。
婚約者を決め、将来の遠野家と会社を背負って立つ覚悟を迫られていた武様と、想う方が令嬢と結ばれることを想像して不安だった私と。
普段はあまり積極的ではない者同士が、いつになく自分に正直になり、相手への思いを吐露した日でした。
ずっと想い続けていた方に告白して頂き、私はまるで男性を知らないとは思えないことを口にしたように記憶しています。
「抱いて下さいませ」と。
今から考えれば、よくあの時あの言葉を口にできたものだと思います。
「本当に好きな人と結婚できない僕の‘初めて’をもらってほしい」
こう仰った武様も、もしあの時私が拒めば、おそらく無理強いはなさらなかったでしょう。
今はベッドで思うままに私を翻弄なさるあの方も、当時はまだ随分とお若くあられましたから。
私があの時、自分の本心を隠し通して武様のものになっていなければ、今日この日を迎えることはできなかったでしょう。
遠い昔のことのように思えますが、あの初めてのパーティーの夜、二人の関係のきっかけを作ったのは私自身だったのです。
それなのに、いざ結婚を申し込まれる段になって、私はプロポーズを断ってしまいました。
二人のきっかけを作ったのは私だったのに、あの時になって拒んでしまったなんて、武様はきっと混乱なさったに違いありません。
改めて申し訳ない気持ちになり、唇を噛みました。
その時、ドアをノックする音がし、びくりと身体が跳ねました。
このお部屋を訪ねられる方といえば一人しか思い当たりません。
私は弾かれたように立ち上がり、扉に駆け寄って開けました。
ドアの向こうに立っておられた、愛しい方の姿を一目見た次の瞬間、私はその方の胸に飛び込んでおりました。
「これはこれは、随分歓迎してくれるんだね」
嬉しそうな声で武様が仰り、背を撫でて下さいました。
「花婿が、花嫁を一人になさるからですわ」
ばつが悪くなって言いますと、武様は肩を震わせてクスクスと笑われました。
お部屋へ戻り、向かい合ってソファに腰掛けました。
こうすると、まるで武様のお部屋にいる時のようで心が和みます。
スイートルームに入った当初は、広い場所に私一人だったからあんなに落ち着きが無かったのでしょう。
物珍しいばかりだったこのお部屋も、二人でいるとしっくりと身体に馴染むようでした。
「花嫁を一人で待たせて済まなかった。
無粋な花婿は、さっきの式の事で会場の責任者にあれこれ申し付けていたんだ」
「えっ?」
私はきょとんとして武様のお顔を見詰めました。
武様は、会場の設備のことや式の進行のことであれこれ思うところがあったそうなのです。
「こればかりは、結婚をする当事者になってみないと分からなかったからね。一人で寂しかったかい?」
「いいえ、大丈夫でしたわ」
あの会場では明日も結婚式があるのでしょうから、目に付いた改善すべき点をすぐ指摘し、対応を指示されるのは立派なことです。
社長として当然のことをなさっているのですから、むしろ心強く思いました。
「…寂しいと言ってくれないと、花婿としての立場が無いんだが」
武様が拗ねたように言われて、私は慌ててフォローを入れました。
ルームサービスを頼もうかと武様が仰った途端に私のお腹が鳴り、穴があったら入りたいほどに恥ずかしくなりました。
結婚式で出たメニューは素晴らしいものでしたが、一挙手一投足が見られていると思うとあまり口に入らなかったのです。
二人でメニューを覗き込んで選び、少しだけ早めの夕食をとることにしました。
向かい合って食事をすることはやはり楽しいものです。
お式のことを話しながら、ゆったりと時間をかけて過ごしました。
武様が、食べていらっしゃるものを一口分けて下さった時、不意にケーキカットの折のことが思い出されました。
「どうした?」
思わず咳込んでしまった私に、武様が驚いて尋ねられました。
「い、いえ…」
「何か思い出してそんなに焦っているのかい?」
「うっ…」
どうして分かってしまうのでしょう、まだ何も言っておりませんのに。
答えを促すように見詰められ、渋々口を開きました。
「ケーキカットの時のことを、少し…」
「ああ、あの時のことか」
武様の口元についた生クリームを拭った時、この方は私の指を取ってそのクリームを舐め取られたのです。
人前でそんなことをされて、私は驚きで固まってしまい、されるがままになってしまったのでした。
「どうしてあんなことをなさったんです?」
「え?」
「私の、指を。その…」
口調がついつい恨めしいものになってしまい、慌てて言葉を切りました。
やっと二人きりになれたのに、詰問するなんて良くありませんもの。
「とっさのことだったからね、深く考えてやったわけじゃないんだ」
「はあ…」
「僕達の仲の良さが伝わって、あれはあれで良かったんじゃないか?」
そういえば、指に武様の唇が触れて私が真っ赤になっていた時、若い方がはやし立てる声が聞こえたような気がします。
「花嫁の手が汚れてしまったのを、そのままにしておく花婿は夫失格だろう?」
にっこり笑って仰ったのを見て、私はこの問題についてこれ以上話すのをやめました。
食事が終ってお皿を下げて頂き、食後のお茶を入れました。
「麻由のお茶はやっぱり美味しいね」
武様の言葉を聞いて、また私の頬に血が昇りました。
すっかりリラックスして微笑まれているこのお姿は、私の前でしか見せられないものです。
新郎の挨拶の時にお見せになった、凛々しすぎるほどのしゃんとしたご様子とは全く別物です。
「あ」
その時、私は訊かねばならぬことに気付きました。
「あの、武様」
「ん?」
名を呼ぶと、愛しい方は優しく目を細められ、私の方をご覧になりました。
「麻由、その呼び方は違うだろう?」
「はい…。あなた」
「うん」
「新郎のご挨拶のことなのですが…」
「ああ。あれがどうかしたかい?」
「結婚のことについて、皆様にあれこれと言われたのですか?」
問うて良いものか迷いましたが、思い切って尋ねました。
名家のご当主がメイド風情と結婚するなど、スキャンダルと言ってもいいようなものです。
皆様に知れた時、風当たりが強いものであったことは想像に難くありません。
私に辛い思いをさせまいと、この方はお一人で頑張って下さっていたのでしょう。
そこをあえて訊くのはどうかと思いましたが、夫婦なら分かち合わないといけません。
「まあね、言われなかったといえば嘘になるかな」
少し迷ったような様子を見せて、武様が返答をなさいました。
「どのようなことです?
…やはり、私を妻にするのは良くないと、そう仰ったのですか?」
「うーん、まあそういった感じのことかな。
代わりにうちの娘はどうかとか、ここぞとばかりに売り込んでくる人もいたよ」
「えっ…」
「僕の心はもう決まっていたのに、馬鹿なことをされたものだ」
「お心が揺らいだりはしなかったのですか?」
不安になり、胸が痛むのを押さえて尋ねました。
「ああ、全く揺らがなかったよ。だから安心しなさい」
「申し訳ありません。私とのことでご苦労をかけてしまって…」
私が暢気に花嫁修業をしていたのと同じ時期、武様はお一人で皆様からの言葉に耐えていらっしゃったのでしょう。
それを察することができなかったばかりか、ダンスのステップが難しい、着付けの手順が覚えられないとぼやいていた自分の無神経さに穴があったら入りたくなりました。
「君が気にすることはない。言いたい人には言わせておけば良いのさ」
泣きたくなって俯いた私の肩を抱き、武様が顔を近付けられました。
「でも…」
「結婚を申し込もうと思った時から、周囲の批判なんか覚悟の上だった。
何か言われることが本当に耐えられないなら、そもそもプロポーズはしなかったさ」
「…」
「君と結婚できるなら、僕はなんでもするつもりだった、だから耐えたんだ」
武様が微笑んで下さり、私は胸が一杯になりました。
「ありがとうございます」
目頭が熱くなり、やっとの思いでそう申しますと、武様は満足気に頷いて下さいました。
「ところで、麻由」
「はい」
「ああ言った以上、僕達は仲が悪くなれないよ?」
「えっ?」
「挨拶の言葉は選んだつもりだが、僕達二人のことについては以後口出し無用だと啖呵を切ったような形になったからね」
「え、でも『若い二人にご指導ご鞭撻を〜』と仰ったではありませんか」
「あんなのは形式的なものさ、定型文というやつだ。
まあ、なかには本当に心配して言葉を掛けてくれる人もいたから、その人達に向けては心を込めたつもりだが」
「そうなのですか?」
「うん。ああやって大見得を切った以上、短期間で離婚なんてわけにはいかないよ、分かるかい?」
片目をつむり、いたずらっぽく武様が仰いました。
「いやですわ、縁起でもないことを口にされて」
私が武様のことしか考えられないのはとっくにご存知のはずでしょうに。
「一応、確認しただけさ」
私が横目で睨むと、愛しい方は澄まして答えられました。
「麻由」
「はい」
「ああは言ったが、これからも僕達二人のことについて口を出してくる人はいると思うんだ。
だが、認めてくれない人に何を言われても、僕は決してそんなことで君を見限ったりしないと約束する。
だから、僕に一生ついて来ておくれ」
にこやかな表情から一転して、真剣な表情になられた武様が仰いました。
「はい。ずっとお傍に置いて下さいませ」
私も姿勢を正し、愛しい方の目を見て申し上げました。
「僕達のことを色眼鏡で見ている人も、二人の今後を見せればあるいは認識を改めてくれるかもしれない」
「はい」
「人の心を変えるのは難しいから、全員が祝福してくれるわけではないと思う。
だから今後も君を傷付ける人が出てくるかもしれないが、そういう時も強くいなさい。
僕が愛しているのは麻由一人だけで、それはなにがあっても変わらないんだから」
武様の言葉に、私の目から涙が溢れました。
こんなに真摯に私のことを思って下さっているなんて、本当に勿体無いほどのことです。
「僕達が頑張れば、同じ立場で苦しんでいる人のいい見本になれるかもしれない。
そう思って二人で強く生きよう。だから、もう泣くのはおやめ」
頬を濡らす涙を拭って下さりながら、武様は優しく微笑んで下さいました。
二人でバスルームへ行き、お互いの身体を洗いあいました。
そして肌触りのいいバスローブを着て、先程のベッドルームへ向かいました。
日はもうすっかり暮れて、美しい夜景が窓の全面に広がっています。
それにしばし二人で見入りました。
しばらくの後、肩を抱かれ、ベッドに相対して座り見詰めあいました。
「麻由…」
ふわりと抱き締められ、武様の口づけを受けました。
優しいそれは、まさに結婚式の夜にふさわしい甘いものでした。
そう、初夜にふさわしい…。
「麻由?」
瞬間、凍ったように動きを止めた私に武様が声を掛けられました。
「どうしたんだ?」
「い、いえ別に。何でもございません」
何とかそう答えますが、心に生じた緊張が全身をくまなく走りました。
「何でもないようには見えないが…」
「いえ、本当に大したことではないんです。初めてだからほんの少し緊張しているだけですわ」
ひきつった顔を何とか笑顔にしようと頑張るのですが、表情はこわばったままあまり動いてくれませんでした。
「‘初めて’?」
「はい」
「何が初めてだと言うんだ?」
「え」
問い返され、言葉に窮してしまいました。
「麻由?」
「あの…し…」
「し?」
「初夜、が…」
やっとの思いで答え、血が昇った頬を手で覆いました。
恥ずかしくて、とても武様のお顔を正面から見ることができません。
永遠に思えるほどの沈黙の後、愛しい方がプッと吹き出される気配がしました。
「麻由、初夜が初めてなのは当たり前じゃないか」
「…」
「僕だって、初夜を迎えるのは初めてのことだ」
「あ…」
「二人とも条件は同じなんだから、そんなに固くならなくてもいいんだよ」
「は、はい」
「特別なことをするわけじゃないから、ね」
顔を覆っていた手をどけさせられ、武様に正面から見詰められました。
情熱的な瞳に吸い込まれそうになり、目を逸らすことができません。
「何だか、いつもより一段と可愛いね」
武様がフッと目を細められ、私に口づけられました。
ふと寒気がして、身体が少し震えました。
「麻由、寒いのかい?」
武様の問いに頷き、自分の体を抱え込みました。
このようなお部屋なら、空調は完璧でしょうから寒くなどないはずなのに。
まだ先程の緊張が残っているのか、身体の震えが止まらないのです。
「ほら、入りなさい」
掛け布団をめくって武様が促して下さり、それに従いました。
横たわられた武様に上から重なるようにして、お布団の中に入りました。
体温が恋しくて、愛しい方にギュッと抱きつき、身体を密着させたのです。
そして逞しいお胸に頬をつけ、目を閉じて心音に聞き入りました。
規則的なその音に、心が段々と落ち着いていくのを感じました。
いつもより少しだけ鼓動が速いのは、この方も私と同じに緊張されているからなのでしょうか。
この広い胸に包まれて、私はこれからずっと守られるのかと思うと、泣きたいほど幸福な気持ちになりました。
「大丈夫かい?」
問われるのに目で頷き、微笑んでみせました。
私の様子を見て、武様も安心したように笑って下さいました。
「あ…」
口角の上がった、愛しい方の唇がとても魅力的に思えて、目が釘付けになりました。
私はそこから視線を逸らせないまま、吸い寄せられるように唇を重ねました。
昼間の結婚式で、誓いのキスはあちらから贈られましたが、今は私からです。
あの時よりも長く口づけを味わい、私は身体を離しました。
「…君からキスをくれるのは、珍しいね」
髪を撫でて下さりながら仰った言葉に、少しだけ恥ずかしさが湧きました。
いつもは、私がしたいと思う前に口づけて下さるので、こちらから唇を求めるということはあまり無いのです。
「昼間のお礼です」
「そうか」
満足気に仰った武様は、何か気付いたように私の顔を覗き込まれました。
「誓いのキスの時、唇を離した瞬間に君は少し不満な顔をしなかったか?」
「えっ?」
ばれていたのでしょうか。
婚約中、式のためだと言われてベールに見立てたスカーフや風呂敷をかぶらされ、散々キスの練習をさせられたのです。
しかし、その練習の時とは違い、今日のキスはあまりにあっさりしておりましたために、実は少々拍子抜けしてしまっていたのです。
「もう少し、あとほんの何秒か長くてもよかったと思っただけですから。お気になさらないで下さいませ」
「やっぱりそうか」
「え、ええ」
「唇を離した時、物足りなさそうな顔が可愛くて、危うくもう一度キスしてしまうところだった」
「え…」
「いつものように気が済むまでキスしたら、皆があっけに取られるだろう?だから我慢したんだ。
君と僕の仲を見せ付けることができるから、しても構わなかったんだが」
「まさか、あの場でそんな…」
「濃厚なものをしておけば、陰口を言う人も少なくなったかも知れないね」
「んっ…」
冗談めかして言われた武様から今度は唇を重ねられました。
チュッと音を立てて触れるだけの軽いものは、繰り返すうちに次第に深くなっていって。
ついには頭を抱え込まれ、思うままに貪られました。
「ん…っふ……」
息苦しくなって酸素を求めても、許されずにまた引き寄せられて。
まるで武様に食べられてしまうような心持ちになりました。
「はぁっ…あ…」
ようやく唇が離れ、湿った音が部屋に響いて消えました。
この寝室は木の厚いドアに隔てられ、外の音が全く入りません。
まるで、世界に二人だけしかいないような錯覚に陥りそうです。
「あなた…」
夫となった人の背に腕を回し、きつく抱きつきました。
応えるように優しく抱き締めてくれる腕が、私を受け止めてくれました。
「そう呼ばれると、ひどく嬉しくなってしまう」
私の髪を吐息で揺らし、武様は穏やかにそう仰いました。
「これからは、皆の前でも胸を張って呼べますわ」
「ああ、君がそう呼んでくれるたびに胸が高鳴る。何度でも呼んでくれたまえ、奥様」
「はい」
愛する方の妻になれた喜びがまた胸にこみ上げ、鼻がツンとして涙が出そうになりました。
「私は、一生あなたのものですから」
「ああ、精一杯大切にさせてもらうよ」
「はい…」
「僕も一生君のものだ。まあ、そうなったのは今じゃなくてずっと昔のことだが…」
「それなら、私もずっと前から…」
言葉を続けようとした時、私の口に武様が人差し指を当てて制されました。
「僕達はずっと一緒だ、いいね」
「はい」
身体の位置を入れ替えられ、私の背はシーツに沈み込みました。
腰のベルトを解かれ、バスローブがするりとはだけるのを感じました。
「綺麗だよ、麻由」
武様の手が全身をなぞり、私の中の欲望を目覚めさせていきます。
自分だけが裸を見られているのが恥ずかしくて、私は武様のまとわれているバスローブに手を掛け、ベルトを解きました。
手探りで下へ引っ張ると、武様の逞しい胸が現れて目に入ります。
二人とも同じ姿になったのに、愛しい方の素肌を見てしまうと、心ここにあらずといった状態になってしまって。
私は慌てて目を逸らし、シーツの布目を見ているふりをしました。
「いいね、初夜にふさわしい初々しさだ」
武様が喉の奥でクッと笑われたのが聞こえました。
「…からかわないで下さいませ」
拗ねるようにたしなめると、武様はまたクスクスとお笑いになりました。
「からかうつもりは無いよ、可愛がろうと思っているだけだ」
「あっ…」
熱い唇が胸元に触れ、ピクリと身体が反応しました。
唇が肌の上を滑るうち、その熱さが私の身体に染みとおり、内側から侵されていくように感じました。
「っ…あ…ん…」
武様の脱げかけたバスローブを握り締め、小さく声が漏れました。
その手が外させられ、指が捉えられて武様の左手と重なりました。
薬指に硬質な金属の感触がし、ハッとして目を見開きます。
愛しい方の指に嵌っている指輪を、そこに本当にあることを確認するかの如く、指先でくすぐるようになぞりました。
「うん」
短く頷いて下さっただけで、その思いが伝わってくるように思えました。
武様の左手が移動し、私の左手と並んで指輪のぶつかる微かな音がしました。
視線を下に遣ると、同じ指輪をした私達の手があります。
婚姻の証であるそれが瞳に映り、涙が出そうになりました。
武様と私は本当に結ばれたのです。
少し前までは夢物語だと思っていましたのに、二つの指輪がぶつかる時のカチリという音と感触は、まぎれもなく現実の物でした。
「…あなた」
何か気の利いたことを言いたくても、言葉になりません。
感謝していることや、幸福であることを伝えたいのに。
口をついて出たのは、たった三文字の呼びかけだけでした。
「愛している」
私の指輪に口づけられ、武様が仰いました。
それを聞いて、雲が晴れるように伝えたい言葉が見えました。
噛み締めるように呟かれたその言葉こそ、今の私の気持ちをも表現しているものでしたから。
「私も、あなたを愛しています」
曲げた指で武様の頬をなぞり、微笑んで同じ言葉を返しました。
それに応えるように武様は姿勢を落とされ、私達はまた唇を重ね合いました。
「あっ…ん…」
触れ合った唇が離れ、武様はまた私の胸元に口づけられました。
まるで初めての時のように心臓がドキドキして、息を詰めてその動きを見守りました。
「やっぱり、緊張しているようだね」
「んっ!」
武様が呟かれ、胸の頂に吸い付かれました。
あっという間に固くなり、敏感さを増したそこを濡れた舌で舐め上げられ、何度も高い声が出ました。
くすぐったくて身を捩るのですが、そんなことでは離してもらえません。
そのうち、何だかもどかしいような気分になってきました。
身体が跳ねるのがやみ、武様の舌と唇の動くのを望んでいるのが分かるのです。
あわよくばもっと触れてもらいたい、快感を感じたい、と。
二十歳の頃から身体を重ねるうち、私は武様の愛撫によってこんなにも貪欲な女になっていたことを知りました。
「ん…あなた…」
溜息混じりに抱きつきますと、望むように刺激が強くなりました。
舌が触れていない方の胸の先は指の腹で撫でられ、固く立ち上がるのを待っていたかのように抓られて。
「あっ!…ん…はぁ…ん…」
気持ち良くって、どうにかなってしまいそうでした。
胸を触られているだけでこんななのですから、その先へ進んだら一体どうなってしまうのでしょう。
考えると怖いようですが、それを上回る期待が自分の中に湧いてくるのを感じました。
私の心の内を読んだように、武様の唇が下へと向かいました。
胸の谷間、みぞおち、おへそを通り抜け、とうとうその場所へたどり着きました。
お風呂上りでバスローブ一枚きりだったのを脱がされて、いつもなら下着に隠されている場所が武様の目に触れています。
視線を感じるだけでそこが熱くなり、潤ってくるようでした。
「そうしていると、誘っているようにしか見えないよ?」
見られるのが落ち着かなくて、お尻をもぞもぞさせる私を見下ろして武様が仰いました。
その言葉に強い羞恥心が湧き、慌てて手を遣って秘所を隠しました。
「今度は拒むのかい?」
「…」
武様と触れ合いをしたくないとは露とも思っておりません。
花嫁が初夜を拒むのはおかしいですし、でも…。
「ここばかり見られるのは、その…」
「見なきゃ、夫婦の契りが結べないじゃないか」
「そう…ですが…」
「速く触って欲しいって、待ちきれないように濡れ始めているのに」
「っ…」
耳の傍で囁かれ、熱い息が掛かりました。
「あ…んんっ!」
耳の輪郭に沿って舌が這い、背筋がぞくぞくしました。
身体を震わせて懸命に堪えるうち、秘所を押さえる手に力が入らなくなっていきました。
このままでは手をどけさせられ、見られてしまう。
危機感が胸に去来しますが、耳に舌が這う感触に意識が持って行かれ、手の力が抜けるのです。
「あなた…いや…っ…」
身を縮め、耳を触るのはやめてと哀願しました。
舌の動きが止まったのを幸いに、身体をねじって逃れました。
散々なぶられた私の耳は、本来は体温が低い場所のはずなのに、じんじんと熱く疼くようでした。
「新妻が恥らうのはいいものだね」
なだめるように私の髪に触れ、武様が仰いました。
「もう何度も抱き合っているのに、本当に初夜のようだ」
「…」
「しかし、麻由はもう僕の妻になったんだから拒否することは許さない」
「あっ!」
秘所を隠す私の手を武様の指がスッと撫でました。
「ね、恥ずかしがってはいても、本当はここに触れられたいって思っているんだろう?」
「ん…」
武様の指が上下に動き、私の手の上から秘所の襞をなぞるような動きをしました。
いつもはここに指が触れて、舌で襞の奥に隠れた敏感な突起を舐められて、それから…。
身体に幾度と無く刻まれた快感を思い出し、身震いしました。
指が直接触れなくても、過去にここを愛されたのを思い出しただけで、また秘所が熱く潤んでくるようでした。
同じ快感が欲しい、触ってもらいたいと身体が望んでいるのです。
そこを押さえていた手からさらに力が抜けていきました。
見計らったように脚を開かされ、閉じることを封じるように武様の身体が割り込みます。
目をギュッと閉じ、観念した私は自分から手をどけました。
「いい子だね」
私のおへその脇に口づけられ、武様が仰いました。
茂みに息が吹き掛けられ、ぞわぞわとしたくすぐったさが腰を這い上がりました。
「やっぱり、濡れている」
笑みを含んだ声で仰って、武様はさらにお顔を近付けられました。
そして。
「あ…」
秘所に熱い舌が届き、その柔らかさに息を飲みました。
お腹に力を入れて堪えようとしても、腰が跳ねるのが抑えられません。
こうされることを心の底では望んでいたのですから、耐えられるはずもないのです。
「やぁ…あ…ん…」
シーツを掴んで堪えようとしますが、一分の隙も無く整えられたそれは指を滑るばかりでした。
でも何かに縋りつきたくて、私は手をさ迷わせた挙句、触れた枕を握り締めました。
手首が痛くなるほどに力を入れ、あられもない声が上がるのを止めようとしたのです。
少しは成功したかのように思えましたが、しかし、武様の舌が私の最も敏感な部分をつついた時、全ては無駄になりました。
「んっ…ああん!はぁ…あ!」
自分のものでないような叫びが口から漏れ出で、ベッドルームに響きました。
脚を閉じようとしても、いつの間にか両の太股はがっちりと押さえ込まれていて、動かすこともままなりません。
「あん…は…あぁ…んっ…」
拒否しようとしても、意味のある言葉はもう口にすることができませんでした。
快感に溺れ、もっと舐めて欲しい、イかせて欲しいと望むもう一人の自分が、恥ずかしがる自分より圧倒的に優勢になっていたのです。
「あ…あ…んっ…もう…だめ…ああぁっ!!」
目の前が真っ暗になった直後、白く強烈な光が瞼の裏で弾け飛びました。
そう長いことここに触れられていたわけでもないのに、私は達してしまったのです。
大きく息をつき、枕の下から手を抜きました。
「相変わらず可愛い反応をするね、麻由は」
口元を拭われた武様の一言で、一瞬にして全身の血が頬に集まったようにのぼせてしまいました。
「清らかな新妻が、羞恥に悶えるさまはひどく魅力的なものだ」
「っ!」
官能小説に出てくる文章のようなことを言われてしまい、必死で首を振りました。
愛撫を望んだのは確かですが、ああいう本に出てくる登場人物のように、はしたなく求めてしまったとは認めたくなかったのです。
「今更恥ずかしがっても遅いな」
「あっ…」
武様の熱く固いものが擦り付けられ、息を飲みました。
「麻由が嫌がっても、僕はもう完全にその気になってしまった」
「嫌がるだなんて…」
「君が鎮めてくれなければ、とてもおさまらない」
濡れた場所に武様のものが触れ、微かな水音がしました。
身体を繋げればどれほどの快感が得られるかなど、とっくに分かりきっています。
なのに、そこに触れられただけで欲しくなってしまうのはなぜなのでしょう。
今にも私を貫かんとする武様のものは、秘所から溢れた蜜を周囲に塗り広げるように動いています。
どんなに恥ずかしがっても、そうされてしまうと、もう武様に全てお任せするしか道は残されていないのです。
「あなた…」
武様の頬に手を触れ、引き寄せました。
そして、眉を動かして応えられた愛しい方のお顔を見、覚悟を決めて口を開きました。
「私も…、実はその気になっているんです。お気付きでしょう?」
「うん」
「このままでは私もおさまりません。だから、熱を鎮めて下さい」
視線を合わせたまま、目を逸らさずに頼みました。
「ああ、君の言うとおりにしよう。僕も早く入りたくて堪らない」
その言葉にホッとした瞬間、逞しいものがグッと私の中に侵入してきました。
「うっ…ん…」
圧迫感に息が詰まり、喉元が反り返りました。
私の奥を目指してそれがゆっくりと差し入れられ、繋がりが深くなって。
愛撫とはまた違った快感が全身を走りぬけるのを感じました。
全て入りきったところで、武様が唇を重ねてこられました。
触れている場所が増えたことに嬉しくなって、首に抱きついて深い口づけを求めました。
秘所、お腹、そして唇で愛しい方に触れて、自分は一人ではないのだという喜びを感じました。
互いの舌を貪りあい、しばらくして武様の唇が離れていきました。
なんだかぼうっと霞む目で、精悍なそのお顔を見詰めました。
「麻由…」
武様の目が細められ、呼ばれた自分の名が心地良く耳に届きました。
それに応えるべく、シーツの上にあった愛しい方のお手を取り、指を絡めて握りました。
まるでそれが合図であったかのように、武様が腰を使われ始めて。
最初は、私に負担を掛けぬようにとゆっくり動いて下さるお心遣いに、胸が温かくなりました。
もう数え切れないくらいに身体を重ねていますから、大丈夫ですのに。
そう伝えようとしましたがやめ、代わりに武様の腰に両脚を絡めて求めました。
「あぁ…はっ…ん…」
次第に大きく深く貫かれるようになり、息が乱れていきます。
少しずつ高みへと押し上げられるようで、快感の中にピリリとした緊張が走るようでした。
「あなた…はあっ…あん…ん…」
「麻由…くっ…」
揺さぶりに耐えられずに目を開けると、武様のお顔が目の前にありました。
私をからかわれる時のいたずらっぽい表情とは違い、力強く逞しい大人の男性の表情をされていて。
それに胸がキュンとして、ますますこの方を好きになるのを感じました。
「はっ…あ……キャッ!」
片脚を抱えられ、繋がりが深くなりました。
更に増した圧迫感に高い声が漏れますが、与えられる責めは緩められません。
むしろもっと深く、力強く貫かれてしまい、ますます追い詰められたのです。
それなのに、私の腰はひとりでに揺れ、更なる快感を求めています。
指を絡めた手に力が入り、肘の辺りにまで震えが走りました。
もう駄目、と涙の滲む目で訴えますと、やっと少しだけ突き上げられる力が弱くなりました。
この隙にと呼吸を整え、もうほとんど残っていない余裕を少しでも取り戻そうとします。
「大丈夫かい?」
心配そうにされている武様の前髪が乱れているのが、とても色っぽく目に映ります。
かき上げて整えて差し上げたいのですが、私の手は武様のお手と絡み合っていて、そうすることができません。
それに少しだけもどかしくなりました。
「あ…はぁんっ!」
急にまた深く突き上げられ、天を仰ぎました。
「余裕がまだあるみたいだね」
「そんな…んっ!あ…やぁ…んっ…」
整えたはずの息があっという間に乱れ、また苦しくなりました。
視線でそれを訴えても、今度は許してもらえず一気に責め立てられて。
私にはもうなすすべがありませんでした。
「あっあ…んっ…あなた…もう…」
腰がガクガクと震え、秘所が武様のものを一際強く締め付けるのを感じます。
もう駄目です、身体が思うようになりません。
「ん…僕も…そろそろ……っ…」
武様の切羽詰った声がし、最後の瞬間に向かってさらに力が込められました。
「ああ…んっ!あなた…はっ…んんんっ!」
「くっ…あ……っ!」
二人ほぼ同時に絶頂を迎え、繋いだ手を解いて固く抱き合いました。
私のけいれんが治まると、武様は少し身体を起こされて、優しい口づけを下さいました。
そして、愛しい方はごろりとベッドに横になられました。
私は荒い息を整え、そのお胸に寄り添いました。
そっと髪を撫でて下さる手つきが優しくて、また涙が出そうになりました。
「あなた…」
呼びかけた声が甘えを含んだものになり、それに気付いて恥ずかしくなります。
でも、今日くらいは甘えても構わないと自分を納得させ、もう一度同じ言葉を繰り返しました。
「ウエディングドレスを着た君は、とても綺麗だったよ」
武様が仰った言葉が胸に染み込み、柔らかい幸福感を生みました。
他の誰に褒められるより、この方にそう言って頂くことが一番嬉しいのです。
「式場のドアが開いて君の姿が見えた時、言葉にならないくらい嬉しかった。
あの時の感動は、きっと一生忘れられないだろう」
それは私も同じです。
窓から差し込む光を受けて立っていらっしゃった武様のお姿は、きっと生涯私の心に残り続けるでしょう。
そう告げると、武様は照れくさそうに微笑まれました。
「君がそう言ってくれるのなら、嬉しいな」
頬に軽く口づけられ、穏やかにそう仰るのに胸が一杯になりました。
「プロポーズを受けてくれた時と、式の時。どちらが感動したかをあれからずっと考えていたんだが、答えが出ない」
「まあ。そんなことはお決めにならなくてもよろしいではありませんか」
「そうなんだが、ついね」
「私は…」
振り返って考えてみました。
プロポーズをお受けした時は、それまでに武様からの再三の求婚をお断りした心苦しさがまだ胸にありました。
しかし今日は、この世で一番愛する方の妻になれたという幸福が全身に満ちています。
「私は、やはり今日ですわ。バージンロードの先に立っていらっしゃるあなたを見た時です」
「そうか。僕はまだどちらか決めかねている」
「ええ」
「意見が合わないね。家庭不和の種になるかな?」
笑いを含んだ声で武様が仰いました。
「こんなことでケンカなんかしませんわ。またからかっていらっしゃるんですね」
「ああ、確かにこれはケンカではないね。強いて言うなら『いちゃいちゃ』だ」
「まあっ!」
更に言葉を続けられるのに声を上げますが、言い返そうとした言葉は柔らかく溶けていきました。
抱き合った後にこうして話すのは、仲が良くなくてはできないことですから。
「半年ちょっと前までは、君と今日の日が迎えられるなんて想像すらできなかった。
僕と結婚してくれてありがとう」
武様が表情を引き締められ、真剣なお顔で私を見て仰った言葉にまた胸が一杯になりました。
「私こそ、あなたの妻にして頂いて、言葉にできないほど感謝しております。
いらぬ心労をお掛けして、苦しい思いをさせてしまったというのに、変わらず私を望んで下さったのには感謝してもし足りません」
武様のプロポーズをお断りした時、私達の関係は一旦切れかかっておりました。
私はこの方を諦める覚悟をしたのに、武様がそれでも私を妻にと考えて下さったことで今日があるのです。
あの時、武様が私との結婚を諦めてしまわれていたら、今頃この方は別の女性と初夜を迎えられていたかも知れません。
そう思うと恐ろしくなって、私は愛しい方に擦り寄りました。
「ずっと、お傍に置いて下さいませ」
「ああ。麻由が僕を嫌だと言っても別れてなんかやるものか」
「そんなこと、口が裂けても申しませんわ」
お胸の中で抗議の声を上げると、武様は分かっていると頷かれました。
「今日のことは、ずっと覚えていようね」
「はい」
「今日に至るまでのことも、辛くはあったが忘れずにいたいと思う。
そうすれば、この先何があってもきっと乗り越えていけると思うんだ」
「ええ、本当に」
今日の感動と幸福を心に刻み付けておけば、何があっても大丈夫な気がします。
「さ、奥様。そろそろお休みなさい」
少しおどけた表情で武様が仰るのに、頷いて応えました。
「はい。お休みなさいませ…旦那様」
「あ…」
愛しい方にさらに身体を寄せ、ゆっくりと目を閉じました。
「旦那様、か」
武様が呟かれ、またギュッと抱き締めて下さいました。
愛する人の心地良い腕の中で温もりを感じながら、私は知らぬうちに眠りに引き込まれていきました。
──続く──
次の新婚旅行の話で本編は終わりです。
GJ!
新婚旅行楽しみにしてます!!
GJ!
妊娠編とか出産編とかも読みたいが、全くもってスレ違いになってしまうからなあ(爆
GJ!次でついに完結ですか
最終回は寂しいけど楽しみに待ってます
それにしても武様かっこいいな
GJ!
本編が完結しても、番外編等があれば嬉しいです
楽しみにしています
武様、素敵ですね
こんな出来た人間になりたい
遠野家も安泰ですね
咲野さんは元気かなー
GJ!
どう見てもプロの仕業です。本当にありがとうございました
>>141 メイドが進化して”元”ご主人様の妻になるのは最高の理想形だぞ
妻なら勿論妊娠や出産イベントはあってほしいよな
妻として、一生武様と共に歩むのだから、出来れば、麻由には武様そっくりの男の子と、麻由そっくりの女の子を授かって欲しい
担当メイドとして配属され、お手付きになり結婚に持ち込むまでの期間
これをメイドの世界では『一念戦争』と呼ぶ
主人の個人的な世話を専門にするメイドって
「専属」「担当」どっち?
>>149 「担当」は複数可能だから「専属」が正しいかと
「専属」でFA
ご主人様専用メイド
「専属」の方がエロい
「お付き」はどう?
『メイド・小雪 4』
夕食と風呂の後、ぼくは部屋で調べ物をしていた。
威張ることではないが、ぼくは大学じゃ、そこそこ真面目で優等な生徒なのである。
机の後ろのほうでは、小雪がソファに座って本を読んでいる。
特に用があるわけではないから、自分の部屋に下がらせてもいいのだが、ぼくもメイドがそばにいる生活に慣れているし、用がないと言うと小雪が寂しそうな顔をするので、ぼくが勉強している間は、音を立てないかぎりなにをしていてもいいよ、ということにしてある。
それでも、「直之さまがお勉強をなさっているのですから」と、ぼくの本棚からわざと難しそうな本を選んで抜き取ってくるのだが、明らかに目が滑っているようで、不規則にページをめくっている。
しかし、どうも今日は勉強がはかどらない。
なんとなく、頭がぼうっとする。
そのうち、へっくしょん、とくしゃみが出た。
小雪が本をおいてぱっと立ち上がり、ぼくのそばに来た。
「お寒くございませんか?湯冷めなさったのでは」
もう、手にはブランケットを持っている。
そういえば、授業中、隣で女子生徒がずっとくしゃみをしていたな。
「風邪かな」
そうつぶやくと、小雪は飛び上がらんばかりに驚く。
「まあ、いけません、ちっとも気が付きませんでした!今すぐ、中村先生を呼んでまいります!」
中村先生というのは、うちの侍医だ。
「いや、そんな大げさにしなくていいよ。今日はもう寝るからさ」
「では、お布団に電気あんかをお入れしてまいります」
「小雪、まだ早いよ。そんなに暖められたら、ぼくは朝までに納豆になってしまう」
笑いながら言うと、小雪は真剣な顔で首をかしげた。
「まあ、その場合、納豆菌はどこから入るのでございましょう」
ぼくはくっくっと笑いながら、パジャマの上に着ていたフリースを脱いで、小雪に渡す。
ぶるっと身体が震えた。
まあ、早く寝れば大丈夫だろう。
続き部屋になった寝室へ行くと、小雪がかけ布団をめくってくれた。
そこにもぐりこむと、肩口が冷えないように丁寧に布団を掛けてくれる。
「本当に、お寒くはございませんか?」
「うん、大丈夫だよ。小雪も今日はおやすみ」
「あの、もし夜中にお具合が悪くなったら、すぐ小雪を呼んでくださいませね」
「夜中は、小雪も眠ってるだろう」
「いえ、小雪は今夜は休みません。ですから、いつでも呼んでくださいませ」
ちょっとくしゃみをしたくらいで、この騒ぎだ。
ぼくは布団の隙間から、ちょこっと指先を出した。
「じゃあ、ぼくが眠るまで、ここにいてくれるかい」
小雪はいつものように顔を真っ赤にして、それでも素直に椅子を持ってきてぼくの枕元に座ると、指先をそっと握った。
「こ、これでよろしゅうございましょうか」
「うん。ぼくが眠ったら、部屋に戻って、小雪もちゃんと眠りなさい。いいかい」
「はい」
目を閉じると、遠慮がちに指先を握っていた小雪が、少し手に力を入れた。
暖かかった。
眠りに落ちる半ばで、ものすごーく音程の外れた子守唄を聞いた気がした…。
朝には、なんとか元気になっていた。
小雪も喜んで、ぼくはいつもどおり大学へ行き、授業を受け、サークルに顔を出し、友人たちと最近できたという豚カツ屋で、食事までして帰ってきた。
ところが、帰る途中から、体調がどんどん悪化してきた。
豚カツの油が胸につかえ、悪寒に背筋が震える。
屋敷のロータリーを回って、裏玄関の前に車を止めた時には、ぼくはもうハンドルに突っ伏していた。
「きゃあ、直之さま、直之さま!!」
迎えに出た小雪が、泣きながらぼくにすがりつく。
「・・・まだ、死んでないから」
ぼそっと言ったけど、小雪は全く聞いていない。
「葛城さん、葛城さん、直之さまが!」
呼ばれて飛んできた執事の葛城が、運転席でぐったりしたぼくの額に手を当てる。
「少々お熱がございますかな。小雪から、昨夜は風邪気味のようだったと聞いております」
「ああ、どういたしましょう、直之さまが、直之さまが…」
「小雪は騒がなくてよろしい。お部屋へお運びいたしますから、沢木か北澤を呼んできなさい。それから、中村先生にお電話を」
「は、はいっ!」
小雪が飛んで行き、ぼくはやってきた使用人の沢木と葛城に抱えられて、部屋に戻った。
とりあえずソファにごろんと転がったところで、小雪がかけ戻ってくる。
「中村先生は、すぐにおいでくださるそうでございます!」
「じゃあ、後は・・・」
「直之さま、お着替えをお手伝いいたします」
葛城がなにか指示するまでもなく、小雪は氷枕や洗面器を積んだワゴンを押してきている。
メイド学校には、看護の授業もあるらしい。
葛城と北澤を部屋から追い出すと、小雪はぼくの服を脱がせて暖かい蒸しタオルで体を拭き、パジャマを着せ掛けた。
一度横になったことで、ぼくは少し楽になっていたものの、小雪が必死の形相で世話を焼いてくれるのが少しおもしろくて、だまってされるままになっていた。
「申し訳ございません、直之さまがお風邪を召してらっしゃるのを存じておりましたのに、小雪はちっとも気がつきませんで、ダメなメイドでございました」
小さいくせに、むりやりぼくを抱えてベッドまで連れて行こうとする。
小雪に片腕だけを預けて、ぼくは自分でベッドに入った。
「別に、小雪のせいじゃないよ。風邪なんてものは、夕方になると具合が悪くなってくるものだ。わかっていて遊んでいたぼくの自己管理が出来ていないだけだよ」
「でも、でもっ」
たぶん、ほんの少し風邪っぽい、というだけのところに、油のきつい豚カツをライス大盛りで食べたのが良くなかっただけの気がする。
豚カツを消化してしまったら、気分も良くなるんじゃないだろうか。
それなのに、ものすごい重病でもあるかのように、小雪が取りすがる。
「もし、もしこのままお熱が上がってしまわれて、お風邪の菌がどこかいけないところに入り込んでしまったりしたら、風邪は万病の元と申しますのに」
「大丈夫だよ。それとも、小雪は菌が脳にでも入ってぼくが馬鹿になってしまえばいいと思ってるのかい」
からかいたくて、わざと言うと、小雪は今度こそ本当にわっと顔を両手で覆って泣いてしまった。
「そ、そんなことになりましたら、小雪は、小雪は、死んでお詫びしても足りません!」
・・・大げさだ。
ぼくは布団から手を出して、ベッド脇に膝をついて泣いている小雪の頭に乗せた。
「冗談だ。小雪が死んでしまっては困る。まだ、ぼくは小雪をカッパにしてないじゃないか」
「う、うう、うっ。こ、小雪がカッパになって直之さまのお風邪が治るのでしたら、小雪は今すぐザビエルさまに弟子入りしてまいります」
支離滅裂なことを言っている。
ぼくは小雪の頭に乗せた手を持ち上げて、ぽんぽんと優しく叩いた。
「カッパよりザビエルより、ぼくは小雪がいいから。だから、そのままでいておくれ」
「・・・は、はい、はいっ」
まだぐすぐすと泣きながら、小雪が何度も頷く。
それから思い出したように、ぼくの手をとって布団の中にそっと戻した。
「お苦しくございませんか?今、中村先生が来てくださいますから」
中村・・・。
そういえば、さっきそんなことを言っていたような気がする。
ぼくは、がばっと布団を頭までかぶった。
「いや、いいよ。中村先生は来てもらわなくていいから、そう電話してきなさい。ぼくはもう寝るから!」
「・・・直之さま?」
「早く、早く電話してきなさい」
「で、でも、もう先生はこちらに向かっておいでですし、お熱なりと計っていただいて早めにお薬を」
「いいから!ぼくはあの先生が苦手なんだよ。なんでもすぐに注射するんだから・・・」
「なおゆきさまぁ?」
小雪が、頭までかぶった布団をちょっとだけめくって覗き込んでくる。
「まさか、まさか、お注射が嫌いでそんなことをおっしゃってるのではございませんよね?」
「・・・そ、そんなことがあるわけないじゃないか。子どもじゃあるまいしっ」
ちらっと顔を出すと、小雪の目元が笑っている。
「そうですよね?でしたら、せっかくですから、先生に大きなお注射をしていただいて」
「いやだっ!」
寝返りを打って小雪に背中を向ける。
正直に言おう。
ぼくは、注射が大嫌いなのだ。
決められている毎年のインフルエンザ予防接種だって、いつもどうにかして逃れようと悪あがきしているくらいだ。
小雪はくすくすと笑っている。
ぱふん。
布団の上から、ぼくに身体ごと覆いかぶさる。
「でしたら、先生がお注射をなさるとおっしゃったら、小雪が反対のお手を握っていて差し上げます。それで、お注射の間中、ずっと楽しいお話をいたします。それでよろしゅうございましょう?」
なんだ、この、主人の弱みを握ったといわんばかりの余裕の発言は。
ぼくは小雪の専売特許を拝借して、パンパンに頬を膨らませてやった。
「いやだよ。子守唄を歌ってくれるのならいいけどね」
昨夜、ぼくが聞いてないと思って、見事に調子っぱずれな子守唄を歌った小雪が、ずるずるとベッドから落ちていった。
ふん、主人を手玉に取ろうなど、百年早い。
結局、ぼくは小雪に手を握ってもらって、中村先生の注射に耐えた。
微熱さえ下がればよろしい、あとは様子を見ましょうと言って中村先生が帰っていくと、小雪はようやく安心したようだった。
「ほんとうに、直之さまにもしものことがあったらと思うと、小雪は胸がつぶれそうでございました・・・」
「小雪の胸がそれ以上つぶれたら、ぺったんこだな」
「まあっ、ひどうございます!」
小雪の頬が、ぷんと膨れて、ぼくはベッドの中で笑った。
「ほらほら、胸よりほっぺたのほうが膨らんでるよ」
「そのようなことはございませんっ」
「そうかなあ?」
ぼくがしつこく疑うと、小雪は心配そうに自分の胸をおさえた。
「そ、そうでございましょうか。小雪は、そんなにぺったんこでございますか?」
「さあ。制服の上からだとよくわからないね」
からかってはいるが、まあそれほどまっ平らではないことくらいはわかる。
「どれ、ちょっとこっちにおいで」
小雪が不思議そうな顔をして、横向きに寝たぼくのそばににじり寄る。
床に膝をついているから、ちょうどぼくの顔の高さに胸がある。
布団から手を出して、触る。
「きゃ・・・!」
むにゅ、という感触。思いのほか弾力がある。
下着に分厚いパッドなどは入っていないらしく、やわらかい。
そこそこの大きさがあるようだ。
「ななななな、なおゆきさま?!」
「なんだ、ぺったんこじゃないじゃないか」
むにゅむにゅと揉んでみると、小雪の顔がぼんっと音を立てるように真っ赤になる。
「あ、ああああ、あの、あのっ」
「あのね、小雪」
むにゅ。
「はははは、はいっ」
「ぼくは今、風邪を引いているんだ」
「ははははい、はい。存じております」
むにゅ。
「熱もあるし、弱っているし、正気ではない」
「そそそ、そ、そ、そうでございましょうか」
むにゅむにゅ。
「だから、なにかしたとしても、少しくらいは多めに見てくれるよね」
むにゅむにゅむにゅ。
小雪が、真っ赤な顔で半べそになる。
「は、はい・・・」
「ああ、頭がぼうっとするなあ。もし今朝、小雪が気を回して、風邪気味だから今日は休みなさいと言ってくれたら、こんなことにはならなかったのにな。小雪はぼくの担当メイドだっていうのにな」
「は、はい、申し訳ございません・・・」
むにゅうっ。
「ぼくの風邪は、半分くらい小雪のせいだよね」
「は、はい・・・、あの」
「だったら、この風邪を、ぼくだけが引いているのはおかしくないかな」
「はい・・・、はい?」
ぼくは小雪の胸を触っているのと反対の手を出して、おいでおいでをした。
小雪が顔を近づける。その頭に手を回して、ぐいっと引き寄せた。
「んきゃ・・・!」
小雪の唇は、ぷにっとしていた。
そのぷるぷるしたやわらかい唇を押し開いて、舌を差し込む。
「ん、んっ」
ぴちゃっ、という音を立てて、小雪の唇を楽しむ。
・・・ぼくは、なにをしているんだ?
ほんとうに、風邪のせいでおかしくなっているんだろうか。制御が利かない。
「あん・・・」
唇を離すと、小雪が惜しむような声を上げた。
「これで、おあいこだよね?」
抱き寄せたままそう言うと、小雪は布団の中に腕を入れて、ぼくを抱きしめてくれた。
「・・・はい」
もう一度、小雪の唇をいただく。抵抗はしないが、ややぎこちない。
「キスしちゃったね、小雪」
息がかかる距離でささやく。
「はい・・・」
「もしかして、小雪はキスするの初めて?」
「・・・はい」
「そう。悪いことしたかな」
「い、いえ、そんなっ」
注射が効いてきたのか、朦朧としてきた。
「ねえ、小雪・・・」
「はい」
「なんか、もっと・・・、ごめん、ありがとう・・・」
もう一度、小雪の頬に唇を押し付けて、手を離す。
小雪が布団を掛けなおしてくれるのを感じながら、ぼくはすうっと眠ってしまった。
「・・・おやすみなさいませ」
小雪の声を、遠くで聞いた。
注射のおかげか、小雪の看病のおかげか、翌朝はすっきりした目覚めだった。
微熱が下がっても、一日はお休みになりますように、と中村先生が言ったので、ベッドの上に起き上がって小雪を待つ。
しかし、部屋に来て「おはようございます」と言った小雪が、赤い顔をしていた。
あわてて近くに呼んで額に触れてみると、見事に熱を出している。
「小雪、大丈夫か?!」
「ふ、ふぇぇん」
肩をつかむと、力尽きたように床に座り込む。
「おあいこでございます。半分、いただきました・・・」
嫌がる小雪を、千里を呼んで部屋に連れて行かせると、間もなく菜摘がやってきた。
菜摘は、兄の担当メイドだ。
「正之さまから、今日は小雪の代わりに直之さまのご看病をさせていただくように、とお申し付けいただきました」
「…あ、そう」
別に、メイドにつきっきりで看病してもらわなければならないほどの重病でもないが、せっかくの兄の好意なので、素直に受け入れた。
担当メイドというのは、学校で専門の課程を終えているわけで、小雪が倒れたからといって誰でも代わりが務まるというのでもないらしい。
「お熱は、微熱でございますね。お食事は召し上がれました?」
菜摘の手がぼくの額に当てられる。
小雪に近寄られると、ちょっと甘ったるい匂いがするのだが、菜摘からは柑橘系の香りがした。
「香水つけてるのかい」
「ご不快でございましょうか」
恐らく、朝の段階で習慣的につけたのだろうが、病人の看病をすることになるとわかっていたら、控えたのだろう。
「ああ、いや。大丈夫だよ」
答えると、菜摘はほっとしたようにニッコリする。
なんだろう、この色っぽさは。
さすが、5年も兄の担当メイドを務めているだけある。
完璧に兄好みに教育された結果が、これか。
「正之さまのお帰りまでは、直之さまのお世話をするようにということでございますの。なんでも菜摘にお申し付けくださいませ」
昨夜の小雪と同じように、ベッドサイドに膝をついているだけなのに、顔を覗き込まれると、比較にならないほどこっちが気恥ずかしい。
微熱とはいえ、ずっとうとうとするほどでもなく、できれば起きてテレビを見るくらいのことはしたいのだが、どうやら菜摘はそこを動く気がないようだ。
菜摘はうちのメイドだとはいえ、なにか兄のものを借りたような遠慮があって、ぼくはもぞもぞと布団に潜り込んだ。
布団をかけてくれながら、菜摘が思い出したように言った。
「もし、少し体調がよろしいようでしたら、ご退屈もなさるでしょうから」
起きてもいいのだろうか。
顔を出して見ると、菜摘はまたニッコリした。
「菜摘が、なんでもお相手いたします」
なんでも、とはなんだ。
それも、兄の言いつけなのだろうか。
兄は、なにをたくらんでいるんだ。
そういえば先週あたりも、ちらっと意味ありげにぼくと小雪を見ていた。
お前、まさか、まだ?
目がそう言っていた。
確かに、風邪はそんなに悪くない。
今朝の様子だと、たぶん、小雪の方が重症だろう。
だからといって。
枕を当てなおしてくれた菜摘の手がぼくに触れた。
どきっとする。
ちょっと耳に触れただけなのに、かっと熱くなる。
この手つきはなんだ。
兄は、菜摘をどういったふうに躾けてるんだ。
教育いかんでは、5年もすれば小雪もこんなふうに触れられるようになるのか、いや、別にそうしたいわけではないけど。
小雪がぼくの担当メイドになって二ヶ月。
その期間はそのままぼくの禁欲期間に相当する。
菜摘は、なんでもなさそうに身を乗り出して、ぼくの顔や肩を優しく撫で、時には布団の中に手を差し入れて腕をマッサージしてくれる。
確かに心地いい。
しかし、これは、試練か。
それとも。
布団の中に入った菜摘の手が、だんだん下がってくる。
黙ってそんなところを触られても、困る。
「あ、そういえば、小雪はどうしてるかな」
慌てて話しかけても、菜摘は手を止めない。
「メイドたちが交代で様子を見に行くようでございます。熱はございますけど、あとから中村先生も往診してくださるそうですわ」
「そ、そう。かわいそうなことをしたな」
菜摘がぼくの腰をそっとつまんだ。
「小雪に、どうやってお風邪をお移しになりましたの?」
「え…」
冷や汗が出る。
なんだろう、なんとなく、いつもぼくにからかわれて慌てふためいている小雪の気持ちが少しわかる。
「正之さまは、直之さまのことを奥手でいらっしゃるとおっしゃいますけれども」
いや、その触り方は。
「でも、同じお血筋でいらっしゃいますのに」
うわ。
「一日ご看病申し上げましたら、菜摘にもお風邪を移していただけますかしら」
菜摘の顔が近づいてくる。
「正之さまには、お誉めいただきますの」
う。
上から、唇をふさがれる。
柔らかい舌が侵入してくる。
ぼくの舌に巻きつき、吸い上げ、口の中を動き回る。
されるままになって、ぼくはぼうっとしてきた。
これは、誉めたくなる兄の気持ちもわかる。
その間にも、菜摘は体中を撫でまわし、ついにそこに到着した。
「んっ」
思わず、声が出た。
「お風邪は、だいぶよろしいようでございますわ」
撫でるな、掴むな、しごくな!
「い、いや、あの、菜摘、こういうのは、後で兄さんに叱られたり」
「なぜでございましょう。菜摘は今日、正之さま直々に、直之さまのご看病を申し付けられましたのに」
これは、看病じゃないだろう。
そう言い返す気力が、わかなかった。
二十歳になったばかりの、健康な男に、二ヶ月の禁欲は限界だった。風邪を引いてはいるけど。
菜摘はパジャマの上から触れていた手を、腰のあたりに滑らせてするっと中に入り込んだ。
細い指がトランクスの履き口を持ち上げて、直接肌を撫でる。
「まあ、こちらのあたりなど…」
下腹で、菜摘の手が複雑な動きをする。
「正之さまに、そっくりの生え方のようでございますわ」
な、なにがだ。
絡めるな、引っ張るな、比べるな。ううう。
目の前に、メイド服の生地が来た。
菜摘は本格的に布団の中に潜り込む。
「小雪がかわいそうでございますわ。ご主人さまにかわいがっていただけない担当メイドなど」
布団の中で、菜摘が言った。
思わず、喉の奥が鳴る。
うまい。
「初音さんのことは、ずいぶんおかわいがりになったのでございましょう?」
菜摘がパジャマの下を下げて、脚の間に入り込む。
その間も、手は絶妙な動きを続けている。
「そんなことを、誰が言ったんだい?」
精一杯、平気なふりで普通の声を出そうとしたが、少し震えていたかもしれない。
菜摘の手だけで、暴発しそうだった。
「誰も申しません。でも、担当メイドでしたら、見ればわかりますわ」
遙のような一般メイドでさえ、お手つきの噂を立てるくらいだ。
自分の身に置き換えれば、同僚の担当メイドの様子がわかるものなのかもしれない。
「そう、・・・うっ」
わずかな時間で出してしまったなどと兄に知られれば、意味ありげにあの優雅な笑みを向けられてしまう。
「な、菜摘…」
「我慢なさらないでくださいませ。菜摘がみんな頂戴いたしますわ」
ぱく。
うおお。
暖かい粘膜に包まれ、なぞり上げられ、吸い上げられ、ぼくはもう堪ず菜摘の口の中に発射した。
最後の一滴まで吸いこみ、きれいに舐めあげてから、菜摘はぼくの足もとから顔を上げた。
「たいそう濃くてたくさんでございました。あまり出し惜しみいたしますとお体に良くございませんのよ」
もう、ぼくはすっかり菜摘の思う壺だ。
菜摘は手早くパジャマの上もはだけると、自分の制服のエプロンに手をかけた。
「エアコンを入れてございますから、お寒いことはございませんでしょう?」
ぬ、脱ぐ気か?
一度は元気をなくしたぼくのペニスが、菜摘の豊かな胸を見ただけで血液を集める。
たっぷりした量感のある乳房。
初音のそれより、二周りは大きい。
手を伸ばすと、菜摘がそっと押さえる。
「いけません。直之さまは、まだお風邪なのですから。全部、菜摘にお任せくださいませ」
そんな嬉しいこと。いや、違うけど。
「触りたいんだが」
なるべく威厳ある言い方をこころがける。
パジャマを脱がされて、メイドに乗りかかられている状態で、威厳もなにもないといえばそうだが。
「でしたら、どうぞ」
菜摘はずりあがるようにして、ぼくが触れやすい位置に移動する。
久しぶりに触れる生の感触だった。
ゆっくりと揉む。
大きさと表面の張りのわりに、指が食い込むほどやわらかい。
淡い色の先端に指先を当てると、菜摘がすぐにほうと息をついた。
なるほど、兄の仕込みがいいんだろう。
「舐めさせなさい」
「かしこまりました」
そのまま身体を伏せてくるかと思ったら、菜摘はぼくの顔の横に手をついて、そこにまたがった。
「どうぞ…」
ぱっくりと開いた、すでに濡れ濡れしたピンク色の粘膜。
いきなり、ここを舐めていいのか。
軽く動揺しながら、でもせっかくなのでいただく。
舌をとがらせて包まれた突起をつついたり、大きく舐め上げたりすると菜摘が声を上げる。
「あっ、素敵…」
快感の表現が新鮮だ。
「いい・・・」
ぼくの顔の上で、菜摘の腰が揺れた。
中腰の体勢はつらいだろうと、お尻に手を回して下から支えてやる。
舐め続けると、そこはひくひくと痙攣し、蜜が溢れてきてきた。
反応のよさに驚かされる。
ついに菜摘は体を下げて、ぼくの顔の上に伏せた。
「ああ、もう、いけません」
目の前に来た菜摘の胸をを撫でると、身もだえした。
「あん、直之さまがこんなにお上手だなんて、存じませんでした・・・」
ぼくは両手で胸をつかみ、指先だけで揉みながら顎を上げて乳首を咥え、舌で転がしていたぶった。
「あっ、あ!」
乳首がつんととがる。
股間が、熱く脈打ってきた。
手を下に伸ばし、菜摘の秘所をさぐる。
「んっ」
菜摘がぴくりと震え、それから脚を開いてぼくの指を受け入れた。
すでにずぶぬれになっている。
くちゅくちゅという水音を立てながらかき回すと、菜摘がぼくの上で喉をそらした。
「ああっ、直之さま」
いきなり二本の指を飲み込んで、菜摘が腰を振る。
親指で顔を出したクリトリスに触れると、悲鳴のような声を上げた。
すごい。
さすが、あの兄が仕込んだだけのことはある。
菜摘は息を乱し、ぼくの指の動きに合わせてはあはあと呼吸した。
「あん、ああ、や、あんっ、もう、焦らさないでくださいませ・・・」
菜摘が手を伸ばして、すでに硬くなっているぼくのペニスを握った。
「こんなに大きく・・・ああ」
身体を倒してそう呟くと、吐息がぼくの乳首に吹きかけられる。
意外に、それがびくりとするほど気持ちいい。
ぼくの反応を見たのか、菜摘は手でペニスをしごきながら乳首を唇で挟んで舌先でつついた。
「う、あっ・・・」
すでに一度出したとはいえ、この責めには耐え難い。
菜摘が腰を上げ、動きを止めたぼくの指が落ちる。
「くださいませね・・・」
いつのまに用意したのか、菜摘は手早く避妊具をかぶせ、指で秘所を開いてぼくに見せてから、ゆっくりと腰を下ろした。
枕を首の後ろに当てて頭を上げると、結合部分が見える。
「すごいね、菜摘」
ぬぷっ、と沈んだペニスが、菜摘の中で締め上げられた。
「くっ…、なにした?」
「膣を締めたのでございます。こうすると・・・いかがでございましょう」
「うあ・・・すごい、いいよ、菜摘・・・」
「うれしゅうございます・・・、直之さまのこれも、大きくて硬くて、ああ、奥まで入って・・・いい」
女の子の口から、そんな風に説明されると興奮する。
下から突き上げるように腰を動かすと、菜摘がまたきゅっと締めた。
「っ!」
「いけません。菜摘がみんないたしますから」
最初はゆっくり、それから激しく腰を上下に動かしはじめた。
「は、あ、ああん、あっ、いい、とても、ああ」
目の前で胸を揺らしながら、快感を求めるように菜摘が動く。
その激しい動きで擦りあげられ、時折締め上げられての繰り返しが、ぼくの頭を真っ白にした。
「はあ、はあ、ああ、こんなに素敵なのに、どうして、小雪を抱いて、差し上げませんの、あっ、ああっ」
「・・・うっ、そんなに、だめだ、菜摘・・・」
「あああっ、ああ!ああ!くださいませ、菜摘に・・・ああ、ん、気持ちいい!」
ぼくは、絶頂を迎えようとしている菜摘の乳房をつかみ、下から腰を突き上げた。
最奥を突き上げたタイミングで、腰を前後に動かす。
「いや、あああ!!」
何度も何度もそうすると、菜摘は強く膣内を収縮してぼくの精液を搾り取りながら、達した。
初音も、こうされるのが好きだったっけ。
「く・・・」
菜摘の中で果てたぼくが腰を落とすと、菜摘はぼくの胸の上に倒れこんだ。
「ああん、今の、とてもようございました・・・。直之さまったら、菜摘をこんなふうに…、もう」
器用に避妊具の始末をして、指先でつつっと胸をなぞってきた。
「もし菜摘が直之さまを忘れられなくなってしまいましたら、いかがなさいますの?」
嘘付け。
菜摘が兄を見る目を思い出して、ぼくはちょっと苦笑した。
今日だって、全ては兄のたくらみではないか。
「…ひとつだけ、よろしゅうございますか?」
しばらく休んでいると、菜摘の手が、またぼくのペニスをやわらかく包んだ。
「菜摘のことはこんなに悦ばせてくださいますのに、どうして小雪はいけませんの?なにか、粗相をいたしました?」
「いや…、そんなことはないよ。ただほら、小雪はまだ子どもというか」
「でも、もう17でございます。若さまの二十歳の担当メイドは、みんな17でございますのよ」
菜摘は、兄に挨拶をしたその日に『召し上がられた』んだっけ。
二度、果てた後だというのに、菜摘はまだ玩具のように触れている。
「そうだけど」
「確かに、小雪は少し幼く見えることもございますわね。まさか、なにも知らないということはないと存じますが…」
信じられないことに、菜摘の手技に反応してきた。
「でも、メイドがなにも知らないとしても、ご主人さまはそれをお教えくださらなければいけませんのよ。それもお仕事でございますもの」
「・・・な、つみ」
「ご主人さまにかわいがっていただくのが、メイドの喜びなのですわ」
隣に横になっていた菜摘の手足が、ぼくの身体にからみついてきた。
こんなことで風邪が悪化するのか治ってしまうのかわからないまま、ぼくは欲望に負けた。
さすがにもう動けないぼくを、さんざんいたぶるように翻弄してから、菜摘は身づくろいを整えた。
それから、何度もお湯を変えながら暖かいタオルで身体を隅々まで拭いてくれる。
全裸で仰向けになってそうされているのは照れるが、そんなことを構えないほど体力を消耗していた。
菜摘は、すごい。兄も、すごい。
新しい下着とパジャマを着せてもらい、かけ布団をかけてもらう。
なんとなく、シーツに菜摘の匂いが残っているような気がする。
一度寝室を出て行った菜摘が、戻ってきた。
「中村先生がお見えです」
寝たふりは、間に合わなかった。
中村先生は簡単に診察してから、なにか言いたげな顔をした。
バレてるんだろうか。
風邪で寝ているはずの患者が、メイドとなにをしてるんですか。
目が、そう言っている気がした。
「よろしいでしょう。明日は学校においでなさい。若いし、元気なようだ」
……バレてる。
中村先生は、手を拭いて立ち上がり、菜摘からカバンを受け取る。
「どれ、では小雪を見てまいりましょう。坊ちゃんにすっかり風邪を移されてしまったようですからな」
「あ、お願いします」
寝たまま言うと、先生は菜摘を見た。
「キミは大丈夫かね。風邪を移されんようにね。もう遅いかもしれないが」
…いたたまれない。
少し眠ってから目を覚ますと、ベッドサイドにちゃんと菜摘がいた。
「どのくらい寝てた?」
「ほんの20分ほどでございます」
「そう…」
「お腹がおすきではございませんでしょうか。おかゆなりとお持ちいたしましょうね」
半分目を閉じてあいまいに返事をすると、菜摘はそっと部屋を出て行った。
またうとうとしかけると、廊下側のドアが開いた気配がする。
もう、戻ってきたのか。
そう思って肘をついて身体を起こしても、菜摘が寝室に入ってくる気配がない。
誰かはいるようだから、ぼくは不審に思ってベッドから降りた。
寝室の入り口で、なにかがころんと転がった。
「…小雪?!」
「ふぇ…」
小雪が、メイドの制服を着て床に伏せていた。
あわてて抱き起こすと、青い顔で悪寒に震えている。
「なにやってるんだ、寝てなくてはだめじゃないか」
「で…でも、中村先生に、おっきなお注射をいただきましたので、もう」
もう、ではない。
「すっかり、元気でございます。お注射をいたしました、小雪は、ひとりで、お注射をがまんいたしました…」
触れただけで、熱があるのがわかる。
「ばか、ほんとに菌が脳に入ってばかになるぞ!」
脅かすように言う。
「ばかでございます…、こゆきは、ばかでございますから、なおゆきさまは、こゆきがお嫌いなのでございましょうか…?」
「なに言ってるんだ?」
とりあえず小雪を抱き上げて、自分のベッドに降ろす。
誰かを呼んで、部屋まで連れて行かせなければ。
「だって、こゆきが寝ていましたら、なおゆきさまは、な、なつみさんが、お世話をいたしますのでしょう」
いやいやをするように首を振って起き上がろうとする。
「だったら、早く治しなさい。そうしたらまた、小雪に世話をしてもらうから」
そう言って小雪の頭を枕に押し付ける。
「でも、でも、菜摘さんをお気に召したら、小雪なぞは、もう、お嫌いになってしまいます…」
「なんだそれは。小雪は菜摘にやきもちをやいているのかい?」
「……!」
急に、ぼくの手を跳ね返すように小雪が起き上がった。
病人とは思えない動きだ。
「…こ、小雪は確かに、風邪をひきましたのですけどもっ、それはメイドとして不始末ではございますけども、でも、でも、だからといって、いえ、直之さまはご主人さまでございますから、なにをなさっても小雪はなにも申し上げられませんけれどもっ」
いきなり、泣き出した。
熱のせいで情緒不安定なのだろうか。
「な、なんだ?どうした小雪」
ぼろぼろと泣きながら、小雪は枕を掴んで僕の前に突き出した。
「小雪は、ほんの半日、お側を離れましただけですのに!」
「な、なんだよ」
「…いい匂いがいたします」
メイドとしてふさわしいとは言いがたい態度で小雪が突き出した枕に、鼻を近づけてみる。
「……」
「いかがでございましょうか」
菜摘の香水の匂いがした。
「ああ、ええと、あのね小雪」
「…それは、たしかに、小雪は、いたらないメイドで、ございますけれ、ども」
また、肩をゆすって泣き始める。
まったく。
まったくもう。
ぼくは、小雪の突き出した枕ごと、小雪の小さな熱のある身体を抱きしめた。
むきゅ、と小雪が鳴いた。
「だから、ちゃんと栄養のあるものを食べて、たくさん寝て、早く風邪を治しなさい。そうしたら、こんどは枕にも布団にもたっぷり小雪の匂いをつけてあげるからね」
「……!」
見なくたってわかる。
今、風邪のせいで真っ青だった小雪の顔は、高熱を発しているかのように真っ赤になっているはずだ。
「いいかい?」
「…は、はい」
緊張の糸が切れたのか、小雪がくったりとぼくに身体を預けた。
「小雪の風邪が治りましたら、たっぷりとかわいがってやってくださいませね」
おかゆを運んできた菜摘が小雪をみつけ、千里を呼んで部屋に連れて行かせてから、少し潤んだ目で、この上なく色っぽく言った。
「あ、ん、な、ふ、う、に…」
ぼくは布団をかぶって聞こえないふりをした。
やっぱり、ぼくには菜摘は扱いかねる。
小雪くらいがちょうどいいのかもしれない。
自分の代わりに菜摘がぼくの看病をしていると聞いて、熱があるのに無理やりメイド服に着替えて、這うようにやって来た小雪。
枕についた菜摘の香水に、顔中を涙で濡らして抗議した小雪。
本当は、そのままベッドに押し倒したいと思うくらい、かわいいと思った。
ごめん、小雪。
もう、泣かせたりしないから。
おかゆは、菜摘にはふうふうしてもらわずに食べるよ。
だから早く元気になって、またぼくの世話をしておくれね。
ぼくの、小雪。
菜摘は夕方になると、兄を出迎えるためにいそいそとぼくの部屋を出て行った。
菜摘だってぼくの看病をしたのは兄の命令だからであって、兄が帰ってきたら一分一秒でも長く兄の側にいたいのに決まっているのだ。
ぼくは、夕方になっても体調が悪化しないのに気分を良くしながらも、大人しくベッドの中にいた。
風邪は大丈夫のようだけど、さすがに少し疲れた。
菜摘がシーツと枕カバーを取り替えてくれたので、鼻を押し付けてみても、菜摘の香水の香りはほとんど気づかない。
菜摘は、すごかった。
結局、3発も、抜かれてしまった。
下半身はすっきりしたものの、小雪を泣かせてしまったことがつらかった。
途中で、一度、初音のことを思い出したような気もする。
それでも、初音と市武さんの閨房を想像して切なくなることもない。
菜摘ともう一度、という気にもならない。
なぜか、僕の頭の中には、顔を真っ赤にしてほっぺを膨らませて、ちょっと首をかしげた担当メイドの顔しか浮かばなかった。
ぼくの、小雪。
――――了――――
GJ!!!
小雪かわいいよ小雪
GJ!初音さんから小雪へ、意識がすっかり変わりましたね
で、小雪のようなメイドはどこに行けば会えますか?
GodJob!
小雪もかわいいが、むしろ菜摘様らぶ
ベテランのなつみ嬢にGJ
男の扱いに長けているだけでなくケアと躾までこなすとは
さすが嫡子のメイドだけのことはある
だけど俺はカッパ娘が気になるw
GJだが、小雪を抱く前に終わっちまうなんて…。
orz
超ぐっじょぶ!!!
小雪かわいすぐる(;´Д`)ハァハァ
>>170 まだ終わってないだろー
安心しろwww
非常によい出来でしたので、
保管庫までいって過去作も全部読ませていただきました。
素晴らしかったです。小雪ラビュン。
GJ
回復後、たっぷり可愛がられる小雪を楽しみにしています
ご主人様お手つきのメイドと執事の禁断の愛とかもいいかなと最近思ってる
旦那様の描きかたによっては面白いドラマが書けそう。一歩間違うとチープになる怖さもあるな。
直之より先に小雪ちゃんに手をつけたい
途中投下失礼
直之より先に小雪ちゃんに手をつけたいと書いていて思ったのですが執事という設定に目覚めそうです。
すみません
執事の設定にもよるよな。
ご主人様に忠義者なのか、はたまた腹黒い奴なのか?
自分は、執事=俳優の藤村俊二とか榎木孝明みたいなイメージなんだが。
青年執事でも面白そう。めっちゃ優秀で、ドジっ子メイドをイジメ可愛がり〜みたいな。
きびしい執事に叱られるメイドを助けるご主人さま、というのは?
1
今日のメイド達の予定を確認する、ひとまず押さえておかないといけないのは
天姫と紅葉だろう。
「確か天姫は仕事だったな」
『優雅な休みの過ごし方・紅葉編』
「今日は一日休み?」
「はい!」
明日が俺の休みということで普段なら休日をショッピングなどに費やす紅葉は
メイド服のまま部屋にいた、確かにそういった形で休日を使うメイドは多いので
不自然ではないのだが。
当然の訪問に戸惑いながらもちらちらと俺を見て何やら期待している様子の紅葉。
「座っていい?」
「は、はいっ!」
紅葉が座布団を用意したが俺はテーブルを横切るとベッドに腰かけた。
「さぁ」
俺の横へ座るように促し紅葉も座る。
「今日は何のご用ですかぁ?」
そう言う紅葉だが顔は期待でいっぱいといった感じだ。
「あっ・・・」
膝に手を置きいやらしい手付きで触っていくと紅葉の息も荒くなっていく。
「今日のご主人さま、大胆ですぅ・・・んっ・・・」
既にメイド服の中に手の忍ばせ紅葉の大事な部分をショーツ越しに
指で擦っていく、敏感そうな部分には軽く爪を立てカリカリと擦り快感を与えた。
「ひゃっ!んんっ・・・あっあっ・・・あぁぁ・・・あっ!」
紅葉の目が蕩けてきたのを確認するとメイド服のままショーツだけを脱がす。
「もっと気持ちよくなりたいか?」
「は・・・はぃ・・・きもちよく・・・なりたいですぅ・・・」
俺はベッドに寝るとズボンから既に硬くいきり立つ自分のモノを取り出す。
「さぁ」
「ふぇ・・・それはぁ」
紅葉の得意技、それはキス、昔キスだけで射精してしまっ時は
しばらく立ち直れなかった。
「いやならいいんだぞ?ほかのやつの所に行くから」
「ダメですっ!紅葉がお相手しますっ!」
紅葉は他のメイドより少し若く体が幼い、だから俺のモノを受けるのは
ギリギリであり深く繋がる体位を嫌うのだ、しかし今回はその部分を突かせてもらう
そうでもしないと体が持たないから。
「んっ!・・・んんんんぅぅぅ!?・・・ふぅっふぅっ、は、入ったぁ」
2
メイド服に隠れて目では確認できないがモノはしっかりと紅葉に包まれた。
「じゃあ、動くぞ」
「ふぇっ、だ、ダメですっ!ああっ!んやっ!ふぁぁああ!」
「ぐっ、さすが紅葉はキツいな・・・」
ズンッと根本まで押し込むと紅葉は体全体を揺らし喘いだ、そのまま
腰を打ち付けると紅葉は涙目になりながら甘い声を上げる。
「ご主人さまっ!!んっあっあっはげしいっ!あっイ、イッちゃ」
「イクんだ!イッてしまえ!」
「んっ!やっ!あっあっああっあっあああっ!んぁっ!ぃぁあああっ!!――」
がくん、と紅葉が絶頂を迎えたのを確認するとすかさず紅葉の足を俺の腕に
引っ掻ける形で立ち上がる。
「紅葉」
「ふぁ・・・えっ!?やっ、もっと深いよぉっ!」
バランスを崩しかけ紅葉は俺の首に腕を回す、しかし俺のモノは紅葉に
容赦なく突き刺さり続ける。
「ほらほら、落ちるぞちゃんと支えて」
「だ、だってぇ、ああっあっ、そうしたらご主人さまのがぁ、あっあっ!」
俺は態と自分の腕を紅葉から離す、すると紅葉は落ちまいと
自らの腕と足を俺に絡め必死にしがみつく、その結果俺のモノがゴリゴリと
紅葉の中を抉る。
「ひぐぅっ、あぅぅ・・・」
「辛いか?」
「だ、大丈夫ですぅ・・・ふぁあっ!ああっあっ!」
紅葉の軽い体重による下がる力と俺の突き上げる力が合わさり
紅葉の中は想像以上の快楽と重圧を紅葉に与えているようだ。
必死に俺にすがり付く紅葉を愛しく感じながらも心を鬼にして
腰を突き上げ続ける、俺の足元には既に小さな水溜まりが出来上がるほどだ。
「あっああっああっ!あっあっあああっ!」
「そろそろ、イクぞ」
朦朧とする紅葉に言い放った言葉は紅葉を焦らせる。
「ダメぇ!今ご主人さまがイッたら、あっあっ、ご主人さまの精子がビュッビュッって
出ていっぱい感じて、んんっあっ、いっぱいイッちゃうからっ、ダメぇ!」
そうか、と俺は紅葉にキスを迫る、条件反射でキスに答える紅葉
それが自らの絶頂への引き金となると分からずに。
(くっ・・・さすがに上手いな、うっ、出るっ!)
「ふぐぅぅ!!?ぷぁっ!やっ、だ、ダメっあっああっああああっっ
あっあっあああっ!!――あっあっ――あぁぁ・・・んっ・・・」
3
肩で大きく息をする紅葉をあと数回ほど相手をしてからベッドに寝かすと
俺は紅葉の部屋を後にした。
ねんのため精力剤を補給する、俺のモノよもう少しだけ頑張ってくれ、と願いを込めて。
―つづく
投下が遅い割りに短くて申し訳ないです
ではまた
gj
GJ!
短いながらもエロいのう…。
麻由と武の番外編を投下します。
武が会社を継いで間もなくの、22歳頃の話です。武視点。
「もしもの話」
僕が大学を卒業するのと前後して、両親が相次いで亡くなった。
屋敷は火が消えたように静まり返り、がらんと広くなったように感じる。
年若い僕は、ビジネスの経験を積むこともないまま社長に就任し、なれない仕事に四苦八苦している。
会社も屋敷も、先代の主である父の死と共に斜陽になると考えたのか、何人もが辞めていった。
ライバル社の引き抜きに応じる者、退職金の出るうちにとそろばんを弾く者。
女子社員やメイドの中には、結婚を少し早め、寿退職をした者もいる。
メイド長である高根秀子は、今こそ坊ちゃまがしっかりなすって、動じない所をお見せになられませとハッパをかけてくれる。
しかし、僕のような若造がいきなり社長業をやるのは辛い。
今日も、取引先の社長に面会した折、心配するふりをしたきつい皮肉を言われてしまった。
胸に刺さったとげが抜けないまま、屋敷へ帰りつく。
使用人達は、いつものように丁寧な出迎えをしてくれるのだが…。
心の奥底では、今後の見通しのことを考え、不安がっているのが分かる。
皆を明るくする材料がないことに、いたたまれない気持ちになる。
当主の地位も社長の地位も、僕などにはまだ無理だったのだ。
早すぎる父の死が悔やまれ、皆に見えない所で血が滲むほど唇を噛みしめた。
夕食の給仕は、珍しく麻由がやってくれた。
僕のためにかいがいしく動いてくれるのを、久しぶりに近くで見る。
しばらく、彼女とは肌を合わせていない。
仕事のことで精一杯で、二人の時間を持つほどの余裕がなかったから。
だが、今日は麻由に傍にいて欲しい。
身も心も疲れている僕を、癒して欲しい。
麻由が近付いた時、テーブルの下でそっと手を握り、目配せをする。
彼女は何でもないふりで一旦離れ、食堂を出る瞬間に僕と目を合わせ、小さく頷いた。
食事を終えて風呂に入り、パジャマに着替えて麻由を待った。
中々やってこない彼女を待つのがつらくて、戸棚から酒を出し、ちびちびと飲んだ。
窓際に立つと、ガラスにはこの世の終わりとばかりに情けない顔をした男が映っている。
見るに堪えなくなって、ソファへ戻ってまたグラスに口を付けた。
しばらくして、やっとドアをノックする音が耳に届いた。
「まあ、お酒を飲んでいらっしゃったのですか?」
近寄ってきた麻由は、僕の手からさり気なくグラスを奪い、何でもないふりでそそくさと片付けてしまう。
舐める程度に飲んでいたつもりだが、いつの間にかかなりの量を飲んでいたことを知られたのか。
「いいんだ、明日は休みだから」
言い訳じみた返答をし、ソファに背を預ける。
社長になって以降、ろくに休みも取らずに働いてきた。
しかし、社の業績も株価も、父が存命の頃と比べて落ち込んだまま、上がる気配が無い。
そのことに焦り、追い詰められている僕を見た社の者に、休日を取らなければいけませんと進言されたのだ。
「お休みですか?それなら、明日の朝食は少し遅めにいたしましょうか」
酒を片付けた彼女が戻ってきて言った。
手招きをして、ソファの隣に座らせる。
肩と肩が触れ合う温かい感触に、ほんの少しだけホッとした。
「君は休みじゃないのかい?」
問うと、彼女は少し迷って首を振った。
「明日も、お勤めです」
「そうか。ここのところ毎日働いているようだが、ちゃんと休みを貰っているのか?」
「少々、入れ替わりがありまして…」
「あ……」
彼女の言葉に、冷水を浴びせられたような気分になった。
入れ替わりといっても、辞めたメイドの欠員は補充できていない。
その穴埋めのため、残ってくれた者達の休みが減ってしまったのに違いない。
「大丈夫ですわ、私、若いですから」
慌てたように彼女が早口で言う。
力こぶを作ってみせ、こちらを向いて微笑みかけた。
けなげなその仕草にも、僕の心は浮上しない。
自分を取り巻く状況は、ますます悪化していくのではないだろうか、そうとしか思えないのだ。
「…君は、いつまでここにいる?」
「えっ?」
僕の問いに、麻由がきょとんとした顔をする。
「うちも会社も、僕自身も、沈みゆく船のようなものだ。
いつまでもしがみついていては、逃げ遅れてしまう羽目になる」
「まあ、何を仰います!」
「君はまだ若いんだから、次の仕事もすぐ見つかるだろう。僕のことは心配しなくてもいいから」
いじけた心は多弁になり、マイナス思考の言葉を次々にはじき出す。
男らしくないことだが、今の僕には、明るくなれる材料など一つもない。
爪が食い込むほど強く握り締めていた僕の手を、麻由の手がそっと包み込んだ。
「武様。私、次の仕事だなんて考えたこともありません。
私に、遠野家を出て、どこへ行けと仰るのですか?」
「…」
「私の居場所も、職場も、ここですもの。ここしかありませんもの」
ね?と小さく首を傾げ、微笑んで言ってくれる彼女の姿に、心臓がトクンと跳ねた。
「…済まない、妙なことを言ってしまった」
「いえ、お気になさらないで下さいませ」
「うん」
「武様、大層お疲れになっているのではありません?だから、そのように仰ったのでしょう」
「ああ、そうだね」
彼女の前では格好をつけがちな僕が、いじけるような姿は今まで見せなかったように思う。
「私、今日は添い寝して差し上げますから、寝室へ参られませ。
早いですが、お休みになられては」
「…うん」
大人しく頷き、連れ立って寝室へ向かう。
麻由が掛け布団をまくり上げてくれ、僕は横になり、手を伸ばして彼女を求めた。
隣に横になった麻由が、僕を優しく抱きこみ、ゆっくりと背中を叩いてくれる。
彼女の香りを一杯に吸い込み、柔らかな胸に頬擦りをした。
小さな子供をあやすように扱われるのが、妙に心地良かった。
しかし、頭の中のもやもやは、すぐに解消するわけではない。
不安、疲労、プレッシャーなどが複雑に絡み合い、外套膜のように自分の身体を覆っているのを感じる。
呼吸をすると、口の中にまでべっとりと膜が張ってくるようで、また気分が傾いていった。
「…もし、僕がこのまま会社を立て直せなくても、君はうちを辞めないかい?」
恐る恐る口を開き、上目遣いに尋ねる。
口では取り繕った言葉が言えるかもしれないが、とっさの時に出る所作はごまかしがきかない。
息を詰め、彼女の反応を待つ。
視線を逸らしたり、目が泳いだりすれば、それが麻由の本心だ。
「辞めませんわ。私はずっと遠野家にお仕えします」
「…本当かい?」
「ええ。例え最後の一人になっても、自分から辞めるなどとは申しません」
麻由が僕の目をまっすぐに見て言う。
信じてもいいのだろうか。
彼女の忠誠心に疑いを持つわけではないが、環境が変われば人の心も変わるものだ。
「会社がますます傾いて、家屋敷を手放すことになっても?」
「ええ、よそへ引っ越すことになっても、ついて参ります」
「ボロアパートでも、かい?」
「はい」
当然だという顔で麻由が頷く。
「こことは百八十度違う場所だよ?」
「それは、そうですが…。
環境が変わることで、新しいお仕事のアイデアが生まれて、ビジネスに生かせるかもしれませんもの」
「四畳半一間でも?」
「狭いのなら、お掃除もお部屋の手入れも行き届きますわ」
にっこりと彼女が笑う。
不安や迷いの一切ない表情に目をみはった。
確かに、麻由なら古く汚いアパートであっても、ピカピカに磨き上げて快適にしてくれるだろう。
精一杯働いてくれ、僕が少しでも心地良く過ごせるように取り計らってくれるに違いない。
もし、四畳半一間のアパート暮らしになったとしたら。
頭の中にその光景を思い描き、イメージを広げた。
屋敷のコックや他のメイド達は連れて行けないから、当然二人きりだ。
普段は幾人かのメイドが持ち回りで僕の世話をするが、四畳半では麻由一人だけ。
僕に関する全てに彼女が手を触れ、パーティーなどの雑多な用に振り回されることなく、ただ僕のことだけを考えてくれる。
四畳半に二人暮らすのは狭いから、布団も一つしか敷けなくて、毎晩一緒に眠るのだろう。
冷暖房費にも事欠くだろうから、冬はぴったり密着して過ごして、夏は窓を開け放し、蚊帳を吊って寝るのだろうか。
水の節約をするため、風呂も一緒に入るのかもしれない。
風呂無しアパートなら、銭湯通いか。
一人で夜道を歩かせるのは心配だから、一緒に行って、昔流行った歌のように出口で待ち合わせをしよう。
髪が冷たくなるまで待たせるようなことはせず、僕が先に風呂から上がろう。
「…武様?」
名を呼ばれ、我に返る。
麻由が心配そうに僕を見詰めていた。
「あ、ああ」
埒もない想像に耽っていたとは、きまりが悪い。
慌てた内心を誤魔化すかのように、麻由の髪を撫でた。
「四畳半がお嫌なのなら、私も外へ出てお金を稼ぎますから、もう少し広いアパートに住みましょう」
「えっ?」
「私、メイド長に散々鍛えられましたから、他のお屋敷でもお勤めをこなせると思いますし」
どうやら彼女は、今さっき僕が黙っていたのは、四畳半に暮らすのが不満だったからだと思っているらしい。
彼女と二人きりで暮らすことを想像して、鼻の下を伸ばしていたとは気付かれていないようだ。
「他家に仕えるとしても、武様のお世話が手薄にならないよう頑張りますから」
ですから安心して下さいませ、と彼女が笑ってみせる。
どこまでも気立ての良い子だと思う。
落魄(らくはく)した主人など、もはや主人でも何でもないと思うのが普通だろうに。
麻由なら、他家で働くとなっても、そこの者達にすぐ受け入れてもらえるだろう。
皆に好かれ、愛されて容易に新天地に溶け込むに違いない。
いや、少し待て。
使用人同士ならまだしも、出稼ぎ先の主人に気に入られてしまう可能性が大いにある。
本人は無自覚のようだが、麻由はなかなかの美人だし、体つきも悪くない。
それに気立ても申し分ないとすれば、早晩、新しい主人に女として好かれてしまうのは目に見えている。
一人になった時を狙われ、卑劣な主人に手込めにされて…。
「駄目だ!!」
叫ぶように言った言葉に、麻由が飛び上がるほどに驚き、目をしばたたく。
「どうなさったのですか?」
尋ねられ、また妄想に耽っていたことに気付く。
一人の世界に入った挙句、いきなり耳元で怒鳴っては麻由も困るだろう。
「大声を出して済まなかった。びっくりしたかい?」
「…いえ」
「気持ちは嬉しいが、他家に出稼ぎに行くなんて絶対に駄目だよ」
「えっ?」
「麻由の主人は、僕一人だ。君が他の人をご主人様と呼ぶなんて、断じて許せない」
「…はい」
「新しい主人に惚れられてしまったらどうするんだい?麻由は僕のものなのに、無理矢理迫られてしまったとしたら」
「そんな、ご心配頂かなくても。惚れられるだなんて」
「いいや、あり得る。だいたい、麻由は自覚がなさすぎるんだ」
自分の口調が、責め立てるようなものになっているのを感じる。
「自覚と仰いますと?」
「男の使用人や、出入りの八百屋なんかと、たまに親しく話しているだろう?」
「話しかけて下さるのを、無視するのは失礼ですから…」
「その優しいのがいけないんだ。相手が調子に乗る」
優しくて心根が美しいのは、彼女の大きな美点だ。
しかし、それが男を引き寄せることになっているのだから、始末が悪い。
「出稼ぎ先の主人は、立場を利用して君に迫るかもしれない」
「そんなもの、お断り申し上げますわ」
「僕のことは断らなかったじゃないか」
「それは、想いを寄せていた方だったからです…」
目を逸らし、あさっての方を向いた麻由が小さな声で言う。
だから、そんな可愛い反応を男の前でするのがいけないというのに。
「君は押しに弱い。熱烈に口説かれたら、ふらっとなってしまわないか?」
「そんな!私にも節度はあります、そう易々と心が揺れるなんてことはありません」
心外だとばかりに彼女が抗議してくる。
「お慕いしている方のもとにいるのに、どうして好きでもない人に身を任せられましょう」
ぷりぷりと怒っている姿が可愛くて、思わず頬が緩んだ。
僕のことが好きだから、僕にだけ抱かれたいと言っているのと同じだと気付いているのだろうか。
有頂天になった僕は、けしからぬ考えを起こした。
「これでも、新しい主人にはなびかないと言えるかい?」
「え…キャッ!」
麻由の身体を引き寄せ、着衣の上から胸を撫で回す。
柔らかな膨らみは、今日も心地良く僕の掌を悦ばせた。
瞬時に真っ赤になった彼女が、いやいやをするように身を捩る。
「それで、抵抗しているつもりかい?」
「え…」
「その程度では、主人は手を触れるのをやめないだろう。むしろ煽られて、ますますやる気になりそうだ」
…今の僕がそうであるように。
動きを止めた麻由の背後に手を遣り、エプロンの結び目をほどく。
だらりとなったそれを引き抜いて、ベッドの下へ放った。
「あ…んっ!」
唇を奪い、舌をこじ入れて思うままにキスを楽しむ。
麻由は僕のパジャマを握り締め、震えながらそれに応えた。
口づけを味わいながら、その背をゆっくりと撫でる。
煽るように何度も手を動かすと、彼女の身体からは次第に力が抜けていった。
チュッと音を立てて唇を離し、鼻が触れ合うほどの距離で目を合わせる。
頬をばら色に染め、こちらをじっと見詰めてくる瞳に、抑え難い欲望が湧き上がった。
からかうつもりで仕掛けたキスに、こちらの方が本気になってしまった。
背を撫でていた手でワンピースのファスナーを外し、手探りで引き下ろす。
桜色をしたレースの下着が目に飛び込んできて、さらに僕を煽った。
体勢を変え、彼女を組み敷いて見下ろす。
また胸を撫で回し、露になった鎖骨の辺りに口づけた。
「あ…はぁ…ん…」
下着の上から乳首を探り当て、指先で柔らかく刺激してやる。
そこへ触れるたび、麻由はぴくぴくと背を震わせ、色っぽい溜息をついた。
「ひゃあっ…ああ…」
乳首を摘み上げると、一際大きな声を上げる。
もう片方の胸も触ってやると、彼女の声に更に艶が出て、甘さも増した。
こんなに敏感な身体をしているのに、他の男になびかないとはよく言えたものだ。
もっとも、彼女をこんな風にしたのは僕自身なのだが。
麻由が乱れる姿を見て、更に何か仕掛けてやりたくなった。
胸を苛む手を休ませず、さらに刺激を与えながら口を開いた。
「ね、君はこんなに快感に弱いんだ、拒否し通せるはずがない」
「ん…あんっ!ん…そんなこと…っ…」
彼女は否定しようと口を開くが、言葉はすぐさま喘ぎに取って代わる。
それでも必死に抗弁しようとするのが面白くて、もっと困らせたい気になった。
「新しい主人に『私と寝れば、遠野武の会社に便宜を図ってやろう』と言われたら、どうする?」
「!」
僕の言葉に、彼女は大きく目を見開き、凍ったように動かなくなった。
「…麻由?」
彼女のその反応に、僕の方も驚いてしまう。
『武様以外の男性になど抱かれません!』と、むきになって言ってくれると思ったのに。
予想外のことに、こちらも次にかける言葉を選べず、場を沈黙が支配した。
「…本当に、便宜を図って下さるという確信が持てるのなら…」
重い雰囲気を破り、彼女が口を開いた。
「えっ?」
「私がその人の思うようになることで、会社のためになって、武様もそれを望まれるのなら…。
私は、身を任せるかもしれません」
ギュッと目を閉じ、顔をそむけた彼女の言葉の意味が、僕の胸にズシリと響く。
他の男に抱かれることになっても構わないというのか。
麻由が別の男に身体を撫で回され、快感に喘ぐのを僕が望むなら…と。
冗談じゃない。
麻由は僕だけのものだ、こうやって触れていいのは僕一人だ。
何かと引き換えに彼女を差し出すなんて、とんでもない。
もしそんな交換条件を出されたら、僕はその相手を生かしておく自信が無い。
「…済まない」
軽い気持ちであったにせよ、己が言ってしまったことの馬鹿さ加減にあきれ果てた。
自分で自分に愛想が尽きる思いになった。
胸がムカムカして気分が悪いが、今は自分に腹を立てるよりも、謝る方が先決だ。
「妙なことを言って、悪かった」
麻由の手を取り、自分の頬にぴしゃりと当て、平手打ちをする。
悪気があったわけではないが、僕は彼女を侮辱したも同然。
普通の恋人同士なら、物をぶつけられたり、ヒステリーを起こされたりしても文句は言えない。
麻由は優しいし、自分はメイドだからと慎み深く接してくれているから、怒り出さないだけだ。
「駄目です」
麻由が僕の手を振り解き、枕の下に潜り込ませる。
「悪いのは僕だ、これくらいで済むなら軽い方だよ」
「それでも、いけません。武様をぶつなんてことは絶対に」
左右に首を振りながら彼女が言う。
「さっき言ったことは、取り消させておくれ。
もしこの先、屋敷を追われるようなことになっても、麻由をよそで働かせたりはしない」
「本当ですか?」
「ああ。麻由はうちのメイドなんだから、いつでも僕のことを考えていてくれなければ駄目だ。
他家に奉公したりすれば、僕の割合が減るじゃないか」
「それは、両立できるように頑張りま…」
「だめだ、許さない。麻由がご主人様として接するのは僕だけじゃないと嫌だ」
わがままを言う子供のように、眉根を寄せて駄々をこねる。
己の言った言葉に振り回される滑稽さを感じるが、それでもこれだけは主張しておきたい。
「もしボロアパート暮らしになっても、取引先やコネが欲しくなっても、そんなことと麻由を引き換えにはしない。
君に他の男の手が触れると考えただけで、僕は気が狂いそうになってしまう」
「そんな…」
「本当だよ。麻由も、他の女の人が僕と一緒に…なんて、嫌だろう?」
「イヤです、そんなこと!」
麻由がハッとしたように大きな声で言い、かぶりを振る。
「ね、僕も同じ気持ちなんだ。
変なことを言って悪かった、もう二度と言わないと約束する」
「はい」
麻由が神妙な顔で頷き、枕の下から腕を出して僕に抱きついてきた。
「…他の方に触れられるなんて、本当は、絶対にイヤなのです。
私も、できもしないことを申し上げて、済みませんでした」
「どうして君が謝るんだ?もともとの原因を作ったのは僕だよ」
「でも、私も『他家に仕える』と申しましたから…」
尚も彼女が言葉を重ね、申し訳なさそうにする。
僕の失言と、自分の言ったことを同等のものと見なし、両成敗にしてくれているのか。
どこまでも優しいその気遣いが、心に染みた。
「ボロアパート云々などと、弱気になっている場合ではないね。
僕はもっと頑張って、会社を立て直す。麻由や屋敷の皆に苦労をかけたくはない」
「はい」
「今すぐには無理だが、何としても叶えてみせる。
僕も男だ、このままずるずると株価も業績も下げるなんて、意地でも阻止してみせるよ」
「はい、微力ですが、私もお支えできるように頑張ります」
ようやく、麻由が微笑んでくれた。
この人に苦しい思いをさせないために、もう一度気力を奮い立たせて仕事に打ち込もう。
泣き言や悪い想像は、もう終わりにしなければならない。
「麻由は微力なんかじゃないよ、僕にとってはとても大きな存在だ」
正面から目を見て言うと、彼女はまた頬を染めた。
「そんな、買いかぶりすぎですわ」
「いいや、そうじゃない。僕はさっきまで最低の気分だったのに、今は何だかやる気が湧いてきているんだ。
麻由のお陰じゃないとすれば、何のお陰だと思う?」
「さ、さあ…」
彼女は困ったように目を泳がせるが、その頬はほころんでいる。
「麻由がずっと僕のことだけ考えていられるように、頑張るからね。
だから、これからもずっと僕の傍についていて欲しい」
「はい。ずっとお傍にお仕えします」
きっぱりと言ってくれたその唇に、感謝と祈りを込めて口づけた。
舌を絡め、彼女とのキスを十二分に堪能してから身体を起こす。
さっきは中途半端に触れただけだから、まだまだ不満だ。
こちらを物言いたげに見詰めてくる瞳を見ながら、彼女のまとっている物を全て脱がせる。
自分のパジャマと下着も取り去り、隠す物のなくなった身体を重ね合わせた。
「ん…」
麻由の胸を揉み上げると、柔らかく弾んで僕の手の中で形を変えた。
この身体を、彼女自身を、他の男に好きなようにされるなど絶対に嫌だ。
麻由は僕だけのものなんだから。
いつもより丹念に愛撫を施し、耐え切れずに漏らされる喘ぎを聞く。
もっともっと気持ち良くさせて、他家に仕えるなんていう発想が二度と浮かばないほど僕に夢中にさせたい。
「やっ…ん…あぁ…」
乳首を吸い上げ、舌で転がすとまた声に艶が生まれた。
時折、口を離して焦らしてやると、彼女は喉の奥でクッと不満そうに呻く。
愛撫を求めてくれているのが嬉しくて、お預けは早々にやめ、彼女が望むようにまた胸に唇を寄せてやる。
細い指が僕の腕を握り締め、少し震えているのを感じる。
声を我慢せず、もっと聞かせてくれる方が嬉しいのに。
「あ…ひゃあっ!」
乳首を甘噛みして、麻由の悲鳴を誘い出す。
背をのけぞらせて高い声を上げてくれたことに、僕は更に煽られた。
胸を苛んでいた指を、彼女の脚の間へと移動させる。
茂みを通り抜け、柔らかい場所に触れると、溢れ出した蜜が指先に絡みついた。
溝に沿ってなぞり上げたり、指を浅く突き入れたりと、思うままにそこを弄ぶ。
湿った音が次第に高くなり、頭の奥が痺れたように疼いた。
「あぁ…ん…あんっ…」
麻由の腰が僕の指の動きに合わせて揺れる。
クリトリスへの刺激が欲しくなって、僕の指が触れるのを待ちきれないのに違いない。
「ん!…あ…やぁ…」
愛撫を待ち侘び、ぷくりと勃ち上がりかけているそれに一瞬だけ触れ、すぐに指を離す。
びくりと跳ねた身体は、物欲しそうに捩られた。
「武、様っ…ん…もっと…」
求める声が上がり、天にも昇る心地になった。
「もっと、何だい?」
「ん……もっと、触って…下さいませ…」
胸に残した僕の手を握り締め、麻由が消え入りそうな声で言う。
羞恥と欲望の狭間で、その瞳が潤んでいた。
「ここを、触って欲しい?」
「あんっ!」
クリトリスをまたつつくと、甘い声が上がる。
「ね、ここで合っているのかい?」
「んっ…あ…はぁ…」
彼女がゆっくりと頷く。
「じゃあ、自分で気持ち良いように動いてみなさい」
「え…」
秘所を潤している蜜を指に絡め直し、クリトリスに軽く触れる。
「手を、こうしておいてあげるから」
「私が、自分で…?」
「そうだ。僕に触られてるだけじゃなくて、自分から求める君が見たい」
「……」
麻由がキュッと唇を噛み締める。
「どうしても、ですか…?」
「うん」
縋るような目で見上げてくるが、ほだされてはいけない。
何としても、積極的な麻由が見たいから。
そのままの姿勢で待っていると、麻由が諦めたように目を閉じた。
腰が少し浮き、僕の指に押し付けられる。
充血して固くなったクリトリスの感触が指に伝わり、彼女が感じていることを告げた。
「ん…んっ…あん…」
溜息のような声が彼女の口から絶え間なく漏れ続ける。
腰の動きが段々と大胆になってきたのに伴い、声も高くなった。
「はんっ…あ…うっ…」
伸びてきた麻由の手が、僕の手を押さえつける。
グッと力を入れて握り込まれ、僕の指は彼女の秘所にさらに押し付けられる格好になった。
いつもは恥ずかしがり屋の麻由が、今日は自分から腰を揺らし、快感を求めている。
まだまだうぶだとばかり思っていたのに、いざとなったら大胆なものだ。
もっと快楽の味を覚えさせれば、更に積極的に求めてくれるだろうか。
クリトリスへの刺激だけではなく、挿入をせがむ麻由が見てみたい。
「はっ…あん…ん……やんっ!」
僕は姿勢を低くして、上を向いてふるふると震えている彼女の胸に吸い付く。
両の頂を交互に舐めてやると、麻由は白い喉をむき出しにし、悲鳴を上げた。
弱い所を二箇所同時に刺激されているのだから、堪らないのだろう。
もっと追い詰めるべく、色づいた部分に舌先で触れ、ぴんと立ち上がるくらいに可愛がった。
「あん…は…いやぁ…あ…武様…」
彼女の声が途切れ途切れに聞こえる。
その脚は、僕の指を挟んだまま、もじもじと擦り合わされている。
指を動かしてやると、背筋がびくりと跳ねた。
「あぁ…あ…」
麻由が、もう耐え切れないとばかりに切ない声を上げる。
「武様、お願いです…」
涙の浮かぶ瞳が僕を捉え、訴えるように見詰めてくる。
「欲しい?」
即座に頷いた彼女が、ぼくの頬に触れてくる。
「下さいませ」
彼女の手に誘われるまま、唇が重なった。
挿入をねだられたのは初めてで、ひどく気分が良かった。
キスの余韻にぼうっとしている彼女の手に、ゴムを握らせる。
「欲しいのなら、今日は君が準備しなさい」
「え…」
「扱い方は、教えただろう?」
普段なら、できませんと断られるところだが、今日の彼女は違っていた。
素直に身体を起こし、封を切って手順どおりに僕のものに触れ、準備をしてくれる。
よくできたねと褒めた後、座り込んだ裸身を抱き寄せた。
あぐらをかいた膝の上に座らせ、華奢な腰に手を掛ける。
「さあ、おいで。僕も待ちきれないんだ」
痛いくらいに固くなった自分のものを擦りつけ、せかしてやる。
誘いに乗り、麻由は僕に抱きついて、切羽詰った表情で身を沈めてきた。
「あ…ん…っは…う…」
目を閉じ、夢見心地で麻由が動く。
腰を上下させるだけの動きは単調で、少々物足りない。
好きな女が求めてくれる興奮はあるが、僕とて、もっと深く強烈な快感が欲しいのだ。
「麻由、君の一番敏感な場所を、ぼくに擦り付けるみたいにして動いてご覧」
僕の指示に、彼女が素直に動きを変える。
抱きつく力を強め、腹をぶつけるようにして僕との距離を近付けた。
「あぁんっ…はぁ…」
クリトリスへの刺激が走ったのか、声がまた甘くなった。
秘所の締め付けも強くなり、僕の口から押し殺した呻きが漏れる。
「あんっ…あ…あ…武様…」
彼女の腕が僕の首に巻きつき、二人の身体が更に密着する。
間で押しつぶされた彼女の胸の柔らかさ、勃ち上がった乳首の硬さ。
それを自分の胸で感じ取り、全身に震えが走った。
麻由の腰がぐいぐいと押し付けられ、その力にこちらの身体がせり負けてしまう。
かくてはならじと、こちらも腰を使い、彼女の身体を押し返した。
「はっ…あ…やっ…ん…」
耳元で響く甘い声に、脳髄が蕩けそうになる。
先程まで心に巣食っていた不安や恐怖は、いつの間にか消えていた。
「麻由…っ…」
呼び掛けに顔を上げた恋人の唇を吸い上げ、舌を絡める。
好きな女と身体を繋ぐことができる幸福を思った。
「ああっ…は…あ!ん…武様、武様っ…」
堪えきれないといった様子で、麻由が悲鳴を上げる。
抱きつく手の力がまた強くなり、爪を立てられる痛みが背を走った。
「だめ…あっ!あ…っは…」
限界を訴える愛しい人を抱え直し、僕は最後の瞬間へ向かって動きを速めた。
「たける、さ……んんっ…あ…イく…やあぁぁんっ!」
「麻由、麻由っ!」
互いの名を呼び合いながら、僕たちはほぼ同時に絶頂を迎えた。
ぜいぜいと荒い息を整え、彼女の背をゆっくりとさすってやる。
麻由は、僕の肩口に埋めていた顔を上げ、嬉しそうに笑って唇を重ねてきた。
柔らかい口づけを堪能し、身体の繋がりを解いた。
引き抜く時、彼女の唇から漏れた切ない声を聞き、またその気になりかけてしまう。
もう一度求めようと欲望が頭をもたげるが、麻由は明日も仕事だ。
労わってやらねばと思い、名残惜しくもう一度口づけて、二人で浴室へと向かった。
自分でやりますからと拒む彼女の身体を洗ってやり、自分の身体も洗う。
肌から石鹸の泡が流れ落ちる時、先程まで身体を覆っていた外套膜も一緒に流れて行ったように思えた。
心はもうすっかり凪いで、穏やかになっている。
久しぶりの晴れやかな気分に、僕は深呼吸した。
ベッドへ戻り、麻由を抱き締めて横になる。
先程はあんなに積極的に僕を求めた彼女が、目が合うだけで頬を染めた。
形の良い彼女の唇が開き、言葉を紡いだ。
「あの…武様?」
「ん?」
「頑張って下さるのは嬉しいのですが…、無理はなさらないで下さいね?」
麻由が念を押すようにゆっくりと言った。
「そこは、君やメイド長が気をつけてくれるだろう?」
「ええ、それは勿論ですが」
「なら、いいじゃないか」
「はあ…」
彼女が歯切れの悪い返事をする。
「どうした?」
「私は、このお屋敷でなくとも、武様のいらっしゃる所ならどこへでもついて参ります。
でも、その前にお身体を壊されてしまってはと、心配なのです」
「確かにそうだが、麻由を他の屋敷へ出稼ぎに行かせるわけにはいかないし。その為には頑張らなければ」
「でも、身体を壊されては元も子もありません。
私がよそで働くことがお嫌なら、どこへも奉公へ行かず、ずっとアパートにおりますから」
「そうか?」
「ええ。大家さんにお庭をお借りして、そこで野菜でも育てます」
「農業をやるって言うのかい?あれはあれで大変だというよ」
「いえ、大々的にやろうとまでは思っておりません。
アパートなら、一日の仕事も今までより楽になりますから、二人で食べる分くらいならば」
「なるほど」
「自給自足すれば、家計も助かりますし、おかずを一品増やすことも可能ですから」
「ほう。そうなると、麻由はメイドというよりは主婦だね」
僕が言うと、彼女は赤らんだ顔をそむけた。
その反応に、自分が口にした言葉の意味に気付き、同じように僕の頬にも血が昇るのを感じた。
「でも、君に野菜の栽培なんかできるのかい?」
動揺を隠すため、わざとおどけた声色で言う。
「手の掛かる野菜は無理ですが、初心者向けのものなら大丈夫だと思います。
トマトや春菊なら、初心者でも育てやすいと聞いたことがありますから」
「春菊?」
僕の眉が動いたのを彼女が見て、しまったという顔になる。
食べ物に文句を言うことは良くないが、僕は春菊が苦手なのだ。
「この際、武様の好き嫌いを直して頂くのに丁度いいですわ。
食べるものが他に無いとすれば、選り好みもされなくなるでしょう」
にっこり笑って麻由が言う。
確かに、彼女が心を込めて作った野菜なら、文句など言わずに全て美味しく頂くだろうが…。
得意そうな顔をしている彼女を見るのは、少し面白くない。
常に自分が優位に立たなければ気が済まないのは、主人だという自負ゆえか、つまらないプライドなのか。
「君が仕事の合間に野菜作りまでしてくれるなら、僕も休みの日には手伝うよ」
「いえ、武様はお仕事のことだけを考えて下されば…」
「そんなわけにはいかない、食物は生活の基本だからね。
君が栽培する物に負けないよう、僕は庭の片隅でブロッコリーでも育てよう」
「えっ…」
実は、彼女はブロッコリーが苦手なのだ。
息を飲んだその顔を見て、形勢逆転したことに子供っぽい笑いがこみ上げた。
「ブロッコリーは困ります、私、苦手で…」
「贅沢は敵だよ、観念しなさい」
「うっ…」
恨めしそうにこちらを見ているつもりだろうが、僕にしてみれば可愛いだけの表情だ。
いっそ、アパート暮らしと野菜栽培が現実のものになっても楽しいかもしれない。
しかし、庭仕事をするとなると、彼女の色白の肌が日焼けしてしまう。
健康的になっていいのかもしれないが、細腕で重い物を運んだり、土を掘り返したりするのも大変そうだ。
「心配しなくてもいい。社の命運は今日明日にどうにかなるというわけではないんだ。
これからさらに頑張るから、V字回復は望めなくとも、緩やかに元の状態まで戻してみせるよ」
僕の言葉に、麻由がホッとした表情になった。
その髪に手を触れて撫でてやると、安心したような笑みを見せる。
「やはり、アパートに引っ越すわけにはいかないね。ああいう建物は壁が薄いそうだから、夜に困ることになる」
「どうしてです?お隣の話し声ですか?」
「いいや。麻由の声が大きいから、隣から苦情が来るだろう」
「私の声?」
「僕に抱かれる時の、ね」
「…っ!」
耳元で戯れに囁いてやると、彼女は身体を反転させ、掛け布団に顔を隠した。
「麻由の悩ましい声を、知らない人に聞かせることはできないからね」
布団を摘み上げ、更に言葉を重ねてやる。
潜り込んだ彼女がぷるぷると震えているのが布団越しに見えて、笑いがこみ上げた。
これだから、からかわずにはいられない。
僕の言動に一喜一憂して、可愛い反応をしてくれるだけで心が和む。
社の運命がどうなるかは分からないが、やれるだけのことはやってみよう。
麻由は勿論のこと、他の使用人達、社員達の生活を守る義務が僕にはある。
途方もない重荷だが、今のこの暮らしを手放すことはできない。
「さあ、もう寝よう。明かりを消すよ?」
ベッドサイドの照明をオフにし、天井を向く。
僕が寝る体勢になったのが分かったのか、麻由はごそごそと音を立て、布団から顔を出した。
「あの…武様?」
「ん?」
暗闇の中に、ぽつりと聞こえた声に耳を傾ける。
「今はお苦しいでしょうが、半年後、一年も経った頃にはきっと状況は良くなっておりますわ。
私、信じておりますもの。武様は優秀な方ですから」
穏やかな声で言ってくれるのを聞いていると、本当にそうなると思えるから不思議だ。
全く、彼女には参る。あんなに落ち込んでいた僕を、たった数時間で立ち直らせてしまうのだから。
辛い時に励ましてくれる人がいるのはありがたい。
一人で戦っていては、きっと潰れてしまっていただろう。
布団の中で、彼女の手を取ってギュッと握り締めた。
安心したところで、ようやく睡魔がやってきて、僕のまぶたを下ろしにかかる。
今日は久しぶりにゆっくり眠れそうだ。
「ところで、麻由」
「はい」
「僕が仕事にかまけて君に触れていない間、寂しかったかい?」
「え…」
暗闇の中、麻由はまた頬に血を昇らせているのだろう。
明かりを消すのが早かったのが悔やまれる。
「寂しく…は…ありませんでしたわ。武様は…お仕事で頑張っていらっしゃったのですし」
「そうかい?」
「ええ。私一人がわがままを言うわけには参りませんもの」
寂しいから二人の時間を持ちたいと伝えるのは、わがままでも何でもないのに。
僕のことを考えて、我慢してくれていたのだろうか。
「抱いて欲しいって、一度でも思ってくれたことはあった?」
「……少し」
「そうだろうね、君は意外に、僕と愛し合うことが好きみたいだから」
「すっ、好きだなんて、そんな…」
「おや、嫌いだとでも言うのかい?」
「ううっ…」
唇を噛み、恨めしげな目をしている彼女の顔が見えるようだ。
また愉快さがこみ上げ、僕は天井を見ながら笑いをかみ殺した。
「これから、寂しくなったら遠慮せずに言っていいんだよ。
言葉にするのが恥ずかしいなら、夜、僕のベッドで下着姿になって待っていてくれてもいい」
「よ、余計に恥ずかしくなるではありませんかっ!」
麻由が声のボリュームを上げて言い返す。
「そうかなあ。嬉しいよ、僕は」
「だめです。そんなはしたないことは、断じてできません」
「セクシーな下着姿で誘ってくれたら、抱きたくなって、生きる気力が湧きそうだと言っても?」
「むうっ…」
麻由が呻き、また黙り込む。
全く、こんなに可愛い麻由を、他の男の好きなようにされるわけにはいかない。
「お元気になって下さるのなら、嬉しいのですけれど…」
ようやく口を開いた彼女の方を向き、温かい身体を抱き締めた。
この人を守るためなら、何でもしよう。弱音はもう二度とはかない。
「僕の元気がないなあと思ったら、一度試しておくれ」
「…わざと気落ちしたふりを装われて、私を陥れようとなさるのではありません?」
「ばれてしまったか」
顔が近くなり、闇の中でおぼろげに見えた麻由は頬を膨らませている。
空いた手で柔らかい頬をつつき、中の空気を抜いてやった。
「冗談はこれくらいにしておこう。さ、もうお休み」
「はい。お休みなさいませ」
「ああ」
もぞりと動いて僕の胸元に擦り寄り、彼女が目を閉じたのを感じる。
狭いアパートで二人きりで暮らすのも魅力的ではあるが、現実逃避をしている場合ではない。
麻由を始めとする使用人達、僕を信じて残ってくれている社員達のためにももう一度頑張ろう。
胸の中で寝息を立てはじめた愛しい人を抱き締め直し、僕も目を閉じた。
──終──
旅行の話より、番外編を先に投下しました。
これで何度目かのリアルタイム遭遇だわ
>彼女は何でもないふりで一旦離れ、食堂を出る瞬間に僕と目を合わせ、小さく頷いた。
この時点で屋敷内のどれだけの人が気付いてたんだろうとか
>「本当だよ。麻由も、他の女の人が僕と一緒に…なんて、嫌だろう?」
が既に結婚フラグっぽいのに実際の結婚騒動がアレでもどかしいなぁとか
もう色々考えちゃうね。
おお、まだ武様が駆け出し社長の頃の話ですか
麻由以外のことで悩んでいる武様は珍しいですね
未熟ゆえに気落ちしている様子とかなかなか新鮮です
武様のためならどこまでもついていこうとする麻由
麻由のためなら気落ちしてられないと踏ん張る武様
やっぱり二人はこうでないと、ねw
199 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 00:56:38 ID:Mk6rQ4kE
ラブラブGJ!
『優雅な休みの過ごし方・冬美編』
1
他の部屋を当たったが春菜、夏希、秋深、天姫、冬美さんは見当たらず
仕方ないのでメイド達の談話室に向かう、メイド用だけあって部屋の中は
お菓子やジュースの類いがあちらこちらに置いてある。
この部屋は専属メイド以外のメイドに会える機会が多いのだが
みんなにはよほどのことがない限り来るなと強く言われている。
談話室には誰もいないようだったが、念のためにと中を覗いていたら
廊下から聞きなれぬ声が聞こえ、慌てて談話室に入りテーブルの下に隠れてしまった。
「へぇ〜そうなんだ」
「うん、そうそう」
「こ〜ら、廊下での私語はダメよ」
「「はーい」」
正直、雪乃達には慣れたが可愛いメイドがそこら中にいる環境にはなかなか慣れない
ただでさえ雪乃達が他のメイドと関わらせてくれないのだから。
幸いテーブルの下は長いテーブルクロスのおかげで死角となり気付かれずに済んだ。
(三人・・・あっ!、一人は冬美さんじゃないか!)
談話室に来たのはたまに廊下ですれ違うメイドが二人と冬美さんだった。
「あのぉ、優介様ってどういう方なんですか?」
「私たち、廊下ですれ違うくらいで会話もしたことないです」
「う〜ん、そうねぇ、凄く優しくて、何でも一生懸命な人よ」
どうやら話題は俺のことらしくメイド二人が冬美さんに聞き込んでいる様だ。
「あなた達は優介君の専属が希望なの?」
「はい」
「でも優介様って結構競争率高くて」
「そうねぇ、今まで一般の生活をしてきたから対応もそれなりに必要みたい」
三人の話を聞きながら三人が俺の隠れたテーブルにいるのを利用することを考えた。
なかなか長いテーブルを音を立てないように進み
冬美さんの足元まで着く、メイド二人は対面に座っているがテーブルの幅が
そこそこあるのでぶつかる心配はなさそうだ。
「あっ、紅茶煎れますね」
「私も〜」
二人が紅茶を煎れに席を立ったのを見計らい、冬美さんの下半身への突撃を開始した。
「ひぅっ!?な、なに!?ゆ、優介君!?」
(静かに)
(ど、どうしたの!?)
(いいからこのまま)
2
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
冬美さんは唯一専属メイドの中で俺より年上でお姉さん的な人だ。
七人の中で唯一Sっ気が強い人でもある、しかしSなのは俺も同じであり
この対処のため冬美さんにはある変化が訪れた。
「それで、優介様なんですけど」
「え、ええ、・・・くぅっ・・・」
「冬美さん?」
「な、なんでも・・・ないのよ・・・ぁ・・・」
俺は冬美さんの足を割り、股間に顔を埋めショーツ越しに舌を這わせる。
メイド二人に気付かれない様に両手で俺の頭を退かそうとするも無駄な努力に終わる。
ショーツをずらし指を冬美さんの秘部に入れ舌は敏感な部分へと向かう。
(んっ・・・あっ・・・くぅん・・・いけないわ・・・優介君・・・私、スイッチ入っちゃう)
「冬美さん!?大丈夫ですか!」
「・・・あ、冬美・・・さん?」
「だ、大じょ、うぶ、だから・・んふぅ・・・」
一年近く一緒に過ごしてきた冬美さんに俺がしたのはある種の調教とでもいうのか
普段Sっ気の強い冬美さんは俺に愛撫されイカされるとM体質になる
いや、そうならざる得なかった、だって俺がSだから。
「も・・だめ・・・んぅぅぅぅうううっ!!」
「きゃっ、冬美さん!」
「これって・・・」
「へ〜、冬美さんの状況が理解できるなんて君は一人でやることあるのかな?」
冬美さんをイカせると俺はテーブルの下から這い出る。
「優介様!?」
「え、えっ!?」
二人のメイドは突然のことに驚きに驚いている様子だ。
「あ、は、優介くぅん・・・酷いわぁ、この子達の前でイカせるなんて」
「でも今の冬美さんはそういうの好きでしょ?」
「・・・もぅ、ふふ」
完全にスイッチの入った冬美さんは二人を気にしながらも俺のモノが欲しくて
堪らないといった表情を向ける。
「えっと、君達は・・・」
「あ、花穂です」
「私は藍です」
「花穂に藍ね、よろしく」
にこりと笑うと二人は嬉しそうに微笑み返してきた、心踊ったのになぜだろう
後で雪乃や秋深に怒られる予感がした。
3
「ねぇ、優介くぅん・・・」
「そうだね、・・・花穂、藍」
「「はいっ!」」
「今から冬美さんが二人に専属メイドのお仕事を教えてくれるそうだよ」
俺以外の三人がキョトンとした顔をするが冬美さんはすぐ理解したようだ。
「ま、まって優介くん!それはちょっと・・・」
「見られる方が好きなんじゃない?」
確かに冬美さんは鏡の前ですると興奮していた、見られるのが嫌いじゃないはず。
「すごいね藍、冬美さんが何か教えてくれるって!」
「え、でもきっとそれは・・・」
なるほど、花穂は何も知らなくて藍は少しませているといった感じだろう
まぁ年齢は15〜6だろうから花穂の方が変わってると言えるだろう。
「ほら、椅子を持っておしりを突き出して」
「う、ぅん・・・あふぅんっ!」
俺は今、自己紹介したばかりのメイド、花穂と藍の前で専属メイドである
冬美さんを貫いている、よく考えたら変態もいいところだ、しかし七人もいるんだ
変態プレイの一つや二つあってもいいさ。
「なに?どうなってるの?」
「す、すごい・・・んくっ」
性に初なメイドの反応は実に良い、雪乃達とは一緒に性について学んだため
こういうリアクションのメイドを見るとなかなか興奮する。
「動かす、よ」
「ふぁっ!やっ!あっ!み、見ないでぇ!二人共、お願いっ!あっん!」
「二人共、よく見るんだ、これが専属メイドの大事な仕事だ」
「あっあ、あっあっあっ、んっあっぁぁああっ、だめぇ!いつもより感じちゃう!ぁああっ!」
俺も見られていることで興奮が高まっていたのか早く絶頂が来た。
「くぁっ、出る!」
「あぁぁあぁぁあああっ!!」
「まだ、まだだ・・・よ」
俺は冬美さんを持ち上げるとテーブルの上に座りそのまま冬美さんと再び繋がった。
メイド服を捲り上げ、座りながら突き上げられる姿を見せつける。
「いやぁっ!見えちゃう!見ないでっ、見ないでぇぇえ!」
「わ、わ、優介様のが出たり入ったりしてる・・・痛くないのかな」
「冬美さん気持ち良さそう・・・私もいつか・・・」
4
「こんな、こんなのぉ、ダメよぉ、あっあっ、イッちゃうぅぅうう、んぁぁあああああっ!!」
冬美さんは盛大に潮を噴いて花穂と藍に浴びせて気を失った。
冬美さんを自身の部屋に運ぶと後片付けを花穂と藍に任せ俺は次のメイドの元へ向かうことにした。
(やりすぎだったかなぁ)
少しばかり後悔する、あとで冬美さんに何をされるか分かったもんじゃない。
「あのぉ」
「ん?」
花穂と藍が何か言いたそうな顔でこっちを見ている、そして
彼女達へのフォローがないことに気付く。
「さっきはごめんね、いきなりのことで驚いただろう」
「いえ!専属メイドになる大変さが理解できました!」
「だから・・・」
「だから?」
「私たち、頑張って優介様の専属メイドになれるように努力します!」
大いなる決意の目をした二人のメイドを前にいらんことをしてしまった気がした。
―つづく
七人それぞれに違うプレイさせようとした結果変態プレイばかり浮かぶ
自分が悲しくなりました。
ではまた。
>>204 GJ。ウチに来て専属メイドをファックしても良い
夕食の後、部屋で勉強しようとすると、小雪がミルクティーを運んできた。
メイド学校で授業があったというだけあって、小雪に限らずメイドたちの入れる紅茶は、どんな茶葉を使っているのかと思うくらいおいしい。
カップを受け取る時に、小雪の左手の人差し指に、小さな絆創膏が巻いてあるのに気づいた。
「どうしたんだ?」
聞くと、ぱっと反対の手で隠してしまった。
「お、お見苦しくて申し訳ございません」
「かまわないけど、ケガでもしたのかい?」
「はい、あの、今日はサンルームの模様替えをいたしました。カーテンを取り替えましたのですけれど、その時うっかり脚立に指を挟んでしまいました」
失敗を叱られるかのように、しゅんとうなだれる。
ぼくはカップを置いて、小雪の右手に隠された左手を取って指先を見た。
血が滲んでいるわけでもないし、たいしたことはなさそうだと安心する。
「気をつけないといけないな」
「はい…」
「しかし、脚立とは驚いたね。小雪はそんな仕事もするのか?」
「小雪は、小そうございますので…カーテンの上まで手が届きません」
いや、うち中で一番背の高い人間でも、サンルームの天井近くから下がるカーテンを脚立なしでは外せないだろう。
「でも、これからは誰か男の使用人にさせなさい。もし脚立から転がり落ちたりしたら大変じゃないか」
「…小雪は、そんなにそそっかしく見えますのでしょうか」
小雪はちょっと不満そうに唇をとがらせて、小首をかしげる。
「こら。口答えしない」
見ているうちに気になって、指先の絆創膏をはがしてしまった。
ちょっと皮膚が擦りむけた程度なのだろう、赤くなっている。
「小雪は、昼間ぼくがいない間はなにをしてるんだ?」
今まで、留守の間の担当メイドの仕事などあまり気にしたことがなかった。
家の中をきれいに保つだけなら、担当メイドじゃなくて一般職のメイドや使用人でできるだろうと思っていた。
「あの、お仕事をいたします…」
ぼくに手を取られたまま、今度はちょっと困ったように首を傾かしげる。
見慣れてはいるけど、小雪のこの癖は、ときどきものすごくかわいい。
ぼくは小雪の赤くなった指先を口に含んだ。
「あ、あああの、あのっ」
「ほら、もう絆創膏はやめなさい。このくらいなら、乾かした方が早く治る」
「は、はい…」
手を離すと、真っ赤になった顔を伏せて、身体の前で両手を組み合わせる。
ぼくは机の前の椅子をくるっと回して、小雪と向かい合った。
「で?どんな仕事をしているんだ?」
「どんな…。いろいろでございます。ほんとうに、いろいろ」
「ふうん」
いつものように、ぽん、と膝を叩いた。
「ここにおいで」
ソファではなく、勉強机の椅子に座っているので、僕の膝は少し小雪には高かったのかもしれない。
背伸びするように、小雪はぼくの膝の上に小さなお尻を乗せた。
ウエストに手を回して、落ちないように抱いてやる。
それから、耳元で言う。
「じゃあ、今日一日、なにをしたのか言ってごらん」
わずかに考えてから、小雪は口を開いた。
こんなふうに膝に座らされるのにも慣れたのか、お腹に回されたぼくの腕に、そっと手を乗せる。
「朝、直之さまをお起こしいたしまして…、お仕度のお手伝いを」
「知ってる。ぼくが出かけるところまでスキップしていいよ」
「…はい」
小雪はまたちょっと考える。
一日を報告しなさい、と言われて最初から始めたので、途中をとばすのに考えを整理したのだろう。
小雪は決して頭の回転が鈍い子ではないのだが、真面目すぎて硬いところがある。
そこがまた、かわいいんだが。
「お見送りがすみましたら、お部屋のお掃除をいたしまして、それからお洗濯をいたしました。お天気が良うございましたので、リネンなどはお外に干しまして」
「うん。ぼくは太陽の匂いのするシーツが好きだからね。ありがとう」
「そ、それからアイロンかけなどをいたしますと、お昼でございますので、みんなと一緒にサンドイッチを作っていただきました。
あの、小雪はちょっと手が遅うございますので、ほんとうはもっと早くできるのかもしれないのですけれども」
「うん。かまわないよ。それで、お昼はサンドイッチだったんだね。朝ご飯はいつ食べるんだい?」
「はい、みなさまがお朝食をなさっている合間に、厨房でおむすびをいただきます」
「それだけ?」
「で、でも、メイドはみんなそういたしますし、あの、おむすびといっても、雑穀を混ぜたカルシウム強化米というのを炊いておりますし」
ぼくはいつも、コックが栄養価を考えて作ってくれた朝食を当たり前のように食べている。
その影で、メイドたちがそそくさと雑穀のおむすびをほおばっているというのは、少しショックだった。
父や兄は、こういうことを知っているのだろうか。
「あの、コックの西嶋さんが作ってくださいますので、ほんとうにおいしゅうございます。直之さまがお口になさるようなものではございませんけれども、でも」
「…わかった。朝はおむすびで、昼はサンドイッチだね。午後からはどうするの?」
考えながら、小雪の指先が無意識にぼくの手を撫でた。
「午後は…、メイドたち何人かでサンルームの模様替えをいたしました。カーテンを替えまして、家具を動かしてカーペットも毛足の長いものにいたしまして、
あと家具のカバーや壁の絵などもお取り換えいたしました」
「重労働じゃないか」
「でも、みんなでいたしましたし…。あ、大きなものは北澤さんにもお手伝いいただきました」
「ふうん。それは、大変だったね」
「それから、ほかのメイドはお庭のお花に水をあげたり、明日は奥さまが、お客様をお招きしますので、セッティングの準備などいたしますのですけれども、
小雪は今日はお稽古でございましたので、離れのお茶屋へ参りました」
うちは、メイドといえ一通りの教養は教え込む。
確か、メイド学校で教わることのほかに、お花にお茶、舞踊といったものからマナーや政治経済の授業もあるらしい。
「へえ、今日は小雪はお茶のお稽古だったのかい。今度、小雪にお茶を点ててもらおうかな」
「と、とんでもございません!」
ぼくの膝の上で、小雪がパタパタと慌てた。
ちっちゃいペンギンのように。
「こ、小雪はほんとうにお茶が苦手でございますので、あの、いつも先生にお叱りをいただきます」
「それはいただけないな。お茶なんてメイド学校で少し習っただけだろう?忙しい仕事の合間のお稽古なのに、そんな怒りっぽい教え方は良くないだろ」
「あの、あの、そうではございませんのですけれども、一緒にお稽古するメイドはお褒めいただけるのですけれどもっ、あの、こ、小雪は」
膝の上で、小雪が大人しくなった。
声も小さくなる。
「あの小さな入り口からにじって入りまして、先生にご挨拶いたしましたり、お掛け軸など眺めましたりしておりますうちに、なんと申しますか、あの、
頭がぼんってなりまして、ご亭主なさいませと先生が申されますと、もうお柄杓を取り落としてしまいましたり、棗をひっくり返しそうになりましたり、
袱紗のたたみ方などすっかり頭が真っ白になってしまいまして、ようやくお茶にお湯を注ぎましても、かき回す手が震えて震えて」
一生懸命説明する小雪の後ろで、その姿が容易に想像できて、ぼくはぷっと吹き出した。
上手にやろう、教えられた点前のとおりにやろうとすればするほどパニックになる小雪が、見えるようだった。
「そうかそうか、いいよ。ま、うちはお母さまがお茶会なんぞ催す人でもないし、水屋を手伝えとも言われないだろうからね。
苦手ならそのうちやめられるように話してあげようか」
「い、いえいえっ、とんでもございません、お稽古をさせていただけるなんてメイドにとりまして身に余ることでございますのに、
出来ないからやめさせていただくなどっ、小雪は一生懸命お稽古いたします!
いずれ、必ず直之さまにお茶を差し上げられますように、お稽古いたしますから!」
小雪が身体をよじって後ろを向いたので、ぼくは必死に動く、その小さな唇に軽くキスをした。
「……!」
お茶の先生にご亭主なさいませ、と言われた時の小雪もこんな感じなのかと思うくらい、小雪はぼんっと真っ赤になった。
もちろん、音は僕の頭の中で聞こえたのだけど。
「それで?午後は模様替えとお稽古だったんだね?」
後ろから抱くのもいいけど、やっぱり小雪の顔を見たい。
ぼくは小雪の膝の裏に腕を入れて、横抱きにした。
小雪は身を縮ませるようにして、顔を見られないようにぼくの胸に頬を摺り寄せる。
うん、これはこれでまたいい。
「はい。あ、いえ、お茶のお稽古の後に、お着物の着付けのおさらいをしていただきまして、それからお買い物に参りました」
「へえ。なにを買ったの」
「テーブルセッティングの準備をしておりました皆さまから、ナプキンが足りないかもしれないという話がございましたので、
デパートへお電話いたしましたら、なんとか一揃い用意できそうだということでしたので、それを買いに参りました」
「ナプキンなんか、うちには山ほどあるじゃないか」
「そうなのでございますけれども、明日のお招きは正式なアフタヌーンティーでございますし、
お菓子も食器もたくさん用意しなければなりませんのですけれども、ナプキンの色を飾るお花にあわせるのに、
しまい込んであった物を出してみましたら、数が足りませんでしたので・・・」
「へえ。テーブルセッティングにもいろんな決まりがあるからね。ぼくなんぞは皿に模様があろうがなかろうが、クロスに刺繍がしてあるかどうかも気づかないけれどね」
母は、ぼくらのような学生たちの交流会の延長で、あちこちの奥さま方と集まってはやれティーパーティーだお能の鑑賞会だと出かけたり招いたりしている。
招かれては招き返すから、自然と主催者が競い合う形になるらしく、自分でそう言うことを仕切るのが苦手な母にセッティングを任されるメイド長はいつも大変らしい。
「はい。でも、奥さまのお客さまですと、そういったことに、お詳しい方ばかりですので」
語尾が、小さくなる。
「小雪はそういうの、苦手なのかい」
「苦手ともうしますか、あの、ドレスコードですとかセッティングですとはの、決まりごとが多うございますから。先日も操さんが旦那さまのお支度をなさるのに、
小雪に、シャツのカラーとフロントはどうするかわかりますかとお尋ねになって、それからベストは、お靴は、とお尋ねになりましたのですけれど、
小雪はまた頭がぼんっとなりまして、ではご一緒する奥さまのドレスはどう、ですとか、ステッキはどう、ですとか」
「まるで試験じゃないか。操も意地の悪い」
「いえいえ、そうではございませんのですけれど、操さんはそうやって若いメイドを教育してくださるのです。でも小雪はほんとうに覚えが悪くて
明日のティーもとくにヴィクトリアンで用意なさるとお教えいただきました」
「・・・ふうん。メイドも大変なんだね」
正直、ぼくは覚えが悪いと嘆く小雪の言っていることでさえ半分もわからなかった。
社交というものは、かくも様式化され、めんどうくさいものなのだ。
「でも、がんばって覚えておくれね。ぼくが外で、一人だけ違う靴を履いていたりしないように」
「もちろんでございます、小雪のせいで直之さまが恥をおかきになるなど、そんなこと!」
「うんうん。わかってるから」
ぼくは小雪の髪を撫でた。
小雪の毎日は、ぼくが思っていた以上に忙しく、大変なものらしい。
「・・・小雪は、ほんとうにまだまだいたりませんのですけれども、でも、でも一生懸命いたしますから、です、から」
急に、小雪の声が途切れた。
どうしたのかと覗き込んで見ると、まぶたが落ちそうになっている。
ぼくはそっと小雪の額に唇を押し付けた。
「今日は忙しかったね、小雪。疲れたんだね」
ぼくの腕の中で、小雪がすうっと寝息を立てた。
主人の膝の上で眠ってしまうなど、メイドとしてけしからぬことこの上ない。
目を覚ました後、自分のしたことに気づいて、またパニックになる小雪を想像すると楽しくなる。
小雪が目を覚まさないように、そっと寝室に運んでベッドに降ろし、ブランケットをかけた。
「お菓子を、どうぞ…」
勉強に戻ると、寝言が聞こえてきた。
夢の中で、お茶の稽古をしているようだった。
おやすみ、小雪。
――――――――
「きゃあああっ!」
小雪の悲鳴が朝の寝室に響いた。
日頃は、あまり寝起きのよくないぼくではあるが、さすがにこれは一気に目が覚めた。
「おはよう」
昨日、ぼくの膝の上で眠ってしまい、ベッドに寝かせた小雪は、ほっぺたをつついても、お尻を撫でても目を覚まさなかった。
どうせ翌日は土曜だし、早起きする必要もないので、ぼくは小雪をそのままにしてパジャマに着替えるとその隣に寝ることにした。
その結果が、朝のこの悲鳴である。
目を覚まし、状況を把握したらしい小雪は、主人のベッドでメイド服のまま寝ていたこと、しかも隣で主人が眠っていることでパニックになった。
しかも、ぼくが横向きで小雪の身体に腕を回しているので起き上がることもままならず、きゃあきゃあと叫んで両手で顔を覆ってしまった。
「おはようってば、小雪。よく眠れた?」
「も、申し訳ございません!とんでもない失態をっ」
「うん」
「あ、あのっ、あのっ」
小雪の身体に回した手に力をこめてぎゅうっと抱き寄せたので、小雪はパタパタと手足を動かした。
「小雪は大失態だよ。ぼくより早く寝ちゃうんだから」
「あの、あの、あの、も、申し訳ございません!!」
ようやくぼくの手を振り切ってベッドから飛び降りた小雪が、頭を床につけそうなくらい下げた。
小雪に逃げられたぼくは、布団の中から体を半分乗り出して、小雪の背中を軽く叩いた。
「小雪、小雪。頭に血が上るよ」
「ふぇ・・・」
こんな事態は予想もせず、メイド学校で対処法も習っていないだろうから、どうしていいかわからないのだろう、ぺたんと床に座り込んでしまった。
ぼくはベッドの縁に腕を乗せて、顔を出した。
「ねえ、小雪。ここにおいで」
小雪が、恐る恐る顔を上げる。
ぼくはベッドの上にあぐらをかいて、その前のシーツを叩いた。
「そちらで、ございますか…」
「ほら、口答えしない」
小雪は、しわくちゃになった制服を気にしながら、のろのろとベッドに上がり、ぼくの正面に正座した。
「ねえ小雪、今日は土曜日なんだよ」
「はい…」
「ぼくは今日、学校もないし、これといった予定もないんだ。小雪は?」
は?と言うように、小雪はやっとぼくの顔を見た。
「小雪は、今日の予定は?」
「予定、とおっしゃられましても…、直之さまがご在宅でございましたら、小雪は直之さまの担当メイドでございますから」
「うん。じゃあ、ぼくは今日は引きこもる」
「はい・・・、はい?」
ぼくは脚を崩して身体を倒し、小雪のひざに頭を乗せて横になった。
「最近は忙しかったから疲れた。ぼくは今日、小雪に世話をしてもらって一日引きこもる」
「あ、あの」
「あーあ、昨日は小雪がさっさと寝ちゃったからさ、ぼくはお風呂に入れなかったんだよ」
「あ、あのっ」
「だからさ、朝風呂がしたいんだけど」
「はい、はいっ、今すぐお支度を、あの」
ぼくの頭が膝に乗っていて動けないので、小雪が戸惑う。
もっと戸惑え、もっと困れ。
主人のベッドで一晩熟睡するようなメイドには、もっともっとお仕置きが必要なのだ。
ぼくはだんだん楽しくなってきた。
小雪の背中に腕を回して、お腹に頬ずりする。
「小雪も、お風呂しなかっただろう?一緒に入ろうか」
「ははははははははははい?!」
「洗ってくれるよね?」
ぼんっ。
結局、小雪の頭がパンクしてしまったので、ぼくは大笑いして小雪を解放してやった。
小雪は大慌てでしわくちゃのメイド服を着替えに部屋に戻り、しばらくしてからぼくの朝食をワゴンに乗せて戻ってきた。
平日は家族全員が揃わなければいけない朝食も、休日はのんびり出来ていい。
もうほとんどブランチと言っていいような時間に、ぼくはあくびとともに小雪を迎えた。
「遅くなりまして申し訳ございません、お厨房のほうが、あの、本日はアフタヌーンティーがございますのでばたばたしておりまして、もちろんお朝食は出来ておりますのですけれど、小雪がいたりませんで」
ぼくにしゃべらせまいとするように、小雪はまくしたてながらティーポットにお湯を入れて紅茶の準備をした。
ベッドに身体を起こしてヘッドボードによりかかったまま、ぼくはストレートティーのカップを受け取る。
「…小雪」
「はい」
「熱いよ。ふうふうして」
カップを差し出すと、小雪はいつものように小首をかしげた。
「そうでございますか?」
それでも、両手でカップを抱えて、ふうふうする。
「これでよろしゅうございましょうか」
「うん、ありがとう」
「お食事はみんなこちらで召し上がりますか?」
ベッドから降りようとしないぼくに、小雪がカリカリのトーストの乗った皿を持って聞いた。
「うん。はい、あーん」
「・・・あーん」
小雪は指一本動かさないぼくに、パンと卵料理とフルーツを食べさせてくれた。
うん、こういうのも悪くない。
「あ、お風呂のお支度をいたしましょうか」
皿やカップをワゴンに片付けながら、小雪が聞いた。
「まだいいよ。食べたばかりだから。はい、ここ」
隣を叩くと、小雪はぼくの首から外したナプキンをたたんでワゴンに置いてベッドに上がると、ぼくの隣にちょこんと正座した。
慣れたものだ。
「うんしょ、っと」
小雪の膝枕で横になる。
「あの・・・」
沈黙に耐えかねたのか、小雪が言う。
「なに」
「きょ、きょうは、直之さまは、あの、ずいぶんと」
「うん」
「あの、甘えんぼさんでいらっしゃいます」
思わず、ぷっと笑ってしまった。
「うん。そうかもしれないね」
「なにか、あの、ございましたのでしょうか」
「なにかないと、小雪に甘えてはいけないのか」
「そ、そんなことは、ございませんのですけれどもっ」
「じゃあ、いいんだね」
「は、はい…」
「小雪はあったかいからね。好きだよ」
ぼんっ。
目を閉じると、小雪の指がゆっくりぼくの髪をすいてくれた。
今日は、部屋から一歩も出ないでおこう。
母がアフタヌーンティーをやるから、うっかり庭に出たお客様と顔を合わせたりしないように、窓のそばにも行かない。
できればずっとベッドの上にいて、そばに小雪を、小雪だけを置いて。
小雪に髪をすいてもらっているうちに、ちょっとむずかゆくなってきた。
「小雪」
「はい」
「お風呂」
「はい」
ぼくの頭をそっと枕に下ろして、小雪はうっと声を上げた。
「小雪?」
「・・・あの、あのっ」
「どうした?」
「・・・脚が、しびれてしまいました」
笑いながら小雪の脚をつつくと、振り払うことも出来ず、また小雪はパタパタとペンギンのように手を動かして耐えた。
お風呂にお湯をはって、ぼくは小雪にパジャマを脱がせてもらった。
シャワーで流してからバスタブにつかる。
いい香りがする入浴剤を溶かしてくれたらしく、お湯はピンク色に濁っていた。
ドアのそばに控えている小雪を呼ぶと、すぐに返事をした。
「ここにきなさい」
「・・・はい?」
すりガラスのドアの向こうで、小雪が小首を傾げるのがわかる。
「口答えしてはいけない、と言ってるだろう?」
「あ。あの」
「入ってきなさい。はい、ここ」
ぱちゃぱちゃとお湯を叩く。
しばらく迷ってから、小雪は思い切ったようにドアを開けた。
「し、失礼いたします」
湯気の向こうで、小雪の顔が真っ赤だ。
「こら」
「…はい」
「ぼくは、ここに来なさいといったんだよ。服を着たままでどうするんだ」
「はい…、は、はい?!」
にっこり、笑ってみせる。
「今日のぼくは、甘えんぼさんなんだ」
なにか言いながら、小雪が後ずさってドアを閉める。
ドアの向こうの影を見ていると、しばらく迷った挙句、覚悟を決めたのかメイドの制服を脱ぎ始めた。
ぼんやりとした影が、エプロンをはずし、ワンピースを落とし、下着を取る。
再びドアが開くと、うっすらした湯気の向こうに小雪が立っていた。
「よろしゅうございましょうか・・・」
すでに、恥ずかしさのためか肌がほんのり赤い。
ぼくはわざと見ない様にして、目の前のお湯を指差した。
「はい、ここ」
小雪はそろそろとバスルームに入ってくると、シャワーのお湯を身体にかけてから、ぼくに背を向けるようにしてバスタブをまたいだ。
入浴剤が入っているから、お湯にさえ沈んでしまえば体は見えない。
小雪に正面を向かせ、ぼくの脚をまたがせると、正面から見る顔は今にも泣き出しそうだ。
お湯から出た華奢な肩を引き寄せると、小雪はびくっとしてお尻を浮かせた。
お湯の中で、なにかが小雪の下腹に当たったのだ。
ぼくは気づかなかったふりをして、お湯の中で小雪を抱きしめた。
「いい香りだね。なんていう入浴剤?」
小雪が言った複雑な名前は覚えられなかった。
お湯の中で小雪の背中を撫でる。
ものすごく、人肌が恋しい。
理由は、わかっている。
暖かいお湯の中で小雪を抱いていると、安心する。
「ね、小雪」
「…はい」
「キスしようか」
ぼんっと真っ赤になるかと思ったら、小雪はちょっとうつむいたまま小さな声で答えた。
「…はい」
小雪の顎に手をかけて、上を向かせる。
お湯と蒸気で濡れた唇に、自分のそれを重ねる。
押し開いて、舌を入れた。
「…んっ」
小雪が差し出した舌をむさぼるように絡めると、小雪がぼくの背中に腕を回してきた。
抱き寄せると、ぼくの体に小雪の胸が当たった。
お。
意外と、あるかもしれない。
服の上から触ったときより重量感がある。
にごり湯のせいで見えないのが、かえってそそられる気がした。
小雪が、より深くぼくを求めるようにお湯の中で膝立ちになって乗りかかってきた。
思いのほか積極的な行動に、ぼくはバスタブの底で尻を滑らせ、小雪に上になられたままお湯に沈んだ。
「んごぼ…」
「きゃあ、直之さま!直之さま!」
小雪に助けられるまでもなく、バスタブの縁に手をかけて身体を起こした。
「大丈夫かい、小雪?」
「申し訳ございません申し訳ございません、直之さまを溺れさせてしまうところでございましたっ!」
「まったくだ」
笑いながら体勢を立て直す。
目の前に、おっぱいがあった。
夢中で、お湯から身体が出ていることにも気づかないようだ。
「これ以上入ってたらのぼせるからね、ちょうどいい。身体を洗ってくれるんだろう?」
ぼくの視線に気づいたのか、小雪は小さく叫んで両腕で胸を覆ってしまった。
その小雪を横抱きにしてバスタブから上がる。
浮力のなくなった小雪は、それでも軽かった。
「あの、あのあのあの、あ、危のうございますからっ」
「大丈夫だよ、小雪は軽いね」
洗い場の椅子に腰掛けさせると、小雪は胸を隠したまま悲しそうな顔をした。
「…それは、小雪がぺったんこだからでございましょうか」
「ん?」
前に言ったことを気にしているらしい。
「ぺったんこかい?どれどれ?」
両の手首をつかんで開くと、小ぶりとはいえ形のいいふくらみが二つ。
薄い身体のわりには豊満といってもいい。
閉じた脚の間に、うっすらとした影がある。
これは、すばらしい。
立たせると、ウエストが高くて脚が長い。
小柄なのにバランスがいい、バービー人形のようだ。
「…ぺったんこなんかじゃないよ。小雪はとってもきれいだ」
「そ、そうでございましょうか」
「うん。さ、洗ってくれるかい」
小雪が恥ずかしそうにスポンジに泡を立てて、滑らせるようにぼくの体を洗う。
胸から上を洗うときには、少し背伸びをしなければならなかった。
泡を流す前に、今度はぼくが泡を手にとって小雪を洗った。
洗うというより、ほとんど愛撫になった。
乳首を擦るように胸を揉み、脇と背中から腰まで撫で下ろす。
太ももの内側に、手をゆっくり上下に滑らせる。
「ほら、小雪。洗い忘れてる」
洗われてうっとりしていた小雪が、はっとする。
「あ、はい。…はい?」
耳の裏から足の指まで丹念に洗ったはずのぼくに言われて、小雪が泡だらけのまま潤んだ目でぼくを見た。
「こ、こ」
指差した場所をまともに見下ろして、小雪がついにパンクした。
「あ、あの、あああああのっ」
「洗って。大事なとこだから」
主人の命令には逆らえず、小雪は恐る恐るぼくのペニスを手に取った。
「丁寧にね。裏も、下側も…、そう」
小雪の指がたどたどしく動き、心地よさが上ってきた。
「よろしゅうございましょうか…」
小雪が真っ赤な顔を伏せたまま言った。
ぼくはシャワーで自分と小雪の泡を流し、上気した小さな身体を後ろから抱いて乳房を手で愛撫しながらささやく。
「ね。セックスしようか」
小雪は、こくんとうなずいた。
体を拭くのもそこそこに、ぼくは小雪を抱き上げてベッドに転がり込んだ。
とにかく、夢中で小雪の身体をむさぼった。
最初は固く緊張していた小雪が、だんだん力を抜いていくのがわかる。
気の遠くなるほど長い時間をかけて、ぼくは小雪の身体を隅々まで愛撫した。
くっきりと浮き上がった鎖骨も、細い腕も、上を向いても流れたりしないぷりぷりしたおっぱいも、縦に刻まれた小さな臍も、
その下のふわふわとした柔らかい陰毛も、ひきしまった太ももも、柔らかな膝の裏も、すらっとしたふくらはぎも、シンデレラのように華奢な足も、その指も。
そして、初めて男を受け入れようとしている小雪の肌が熱を持ち始めた頃、ぼくはついに秘境に達した。
溝にそって縦になぞる。
小雪がびくっと震えた。
何度もゆっくりと指を動かしてから、脚を立てて開かせる。
固く閉じていたそこがかすかに水音を立てて開いた。
それが聞こえたのか、小雪が両手で顔を隠した。
指で開くと、ピンク色。
「きれいだよ、小雪」
舌先でつつくと、もう一度小雪が跳ねた。
「きゃっ…!」
舌を大きくして下から舐め上げる。
ぺちゃぺちゃと音を立てて、通りすがりに尖らせて中までえぐるようにすると、小雪の腰がうねった。
「や、あ、あの、あのあのっ、ひゃ、あ!」
皮に包まれたクリトリスを舌先で剥くように舐めると、顔を隠していた両手をベッドに落としてパタパタとシーツを叩く。
「あん、あ、あのあの、あ、あ」
「おいしいよ、小雪。かわいいね」
顔を離して、ぐったりした小雪の背中に手を回して抱き起こす。
「あ、あの、申し訳、ございま」
もう口癖になっているような謝罪を口にしながら、小雪はぼくの首に腕を回してしがみついた。
「あの、な、なおゆ、き、さま、あの」
「なに」
「こ、これは、あの、直之さまの、あの」
「うん。なに」
聞きながら、小雪の秘所に指を当てる。
未開の地を探検するように、くちゅくちゅとかきまぜた。
初音との時とは違い、今度はぼくのほうに余裕がある。
痛くないように、しなければ。
「あ、あん、あの」
「だから、なに」
「こっ、小雪は、お、お、お手、がっ」
「…ん?」
少し小雪を抱く腕を緩めて、顔を覗き込む。
その間中、中を弄られ続けているせいで、真っ赤な顔で息を乱している。
「あ、あ、んっ」
「なに?小雪はそんなにぼくのお手つきになりたかったわけ?」
「ん、あ、あのっ、でも、あの」
「なんでそんなにお手つきにこだわるわけ?」
「ん、あ、そうい、では、ござ、ません、の、ですけ、れど、もっ、あっ」
「小雪はずーっとぼくをそういう目で見てたのかい?」
「とんでもっ、ござ、あん!で、ですけれ、ど、あの、たっ、担当、メイドがっ、あっ、お、お手も、つか、な、あん!」
どうやらなにか話したいようだ。
ぼくは指を入れたままで動きを止めた。
「ん?」
「あ、あの、メ、メイドの間で、な、菜摘さんは、ご主人にとてもかわいがっていただいて、よくお仕えしてて、あのっ、でも、こっ、こゆ、き、はっ」」
「ぼくだって小雪をかわいがってるじゃないか」
「そ、そうなのでございますか?」
「うん、ほら」
「きゃっ」
指を動かすと、小雪がのけぞった。
倒れないように、抱きとめてやる。
なるほど、メイドたちの間でもいろいろあるのあろう。
小雪が一生懸命に働いていても、陰口を叩かれることはあるのかもしれない。
「で、でも、直之さまは、小雪のことを、カッパになさいますしっ、ぺ、ぺったんこだとおっしゃいますしっ」
指を伝って蜜が流れ落ちる。
「そんなことを気にしてたのかい」
中をかき混ぜながら、乳首を唇で挟んだ。
「あ、で、でも、でもっ、あっ」
「ぼくは、小雪がカッパになってもかわいいと思うし、ずっとそばにいてもらいたいよ。それに、ほら」
手を添えて、乳房に舌を這わせる。
「ちっともぺったんこじゃないよ。今まで見せてくれなかったからわからなかったんだ」
「ほ、ほんとう、で、ご、ざいますか、あっ」
小雪をそっと仰向けに倒して、脚の間に入る。
「あの、あの」
「お手つきにするよ」
「…え?」
濡れそぼったそこにペニスを擦りつけた。
「きゃ…」
「いやかい?」
「いえ、いえ、あの、そんなことはございませ、あ」
大きく開かされた脚の間で、小雪の粘膜がひくついていた。
それを見ながら、挿入の準備をする。
「ごめん、もしかして辛かったら言って」
「はい、え、あ、ああ!」
ぐっと押し当てる。
したたるほど濡れているのに、そこは固く、一度ならずぼくを押し返した。
「小雪…っ」
何度目かで、ぼくは小雪の中に入れた。
暖かく、強く締めてくるそこはとても気持ちよかった。
そのまましばらく動かず、小雪を抱きしめた。
さっきお風呂に入ったばかりなのに、肌が汗ばんでいるせいかしっとりと吸い付いてくる。
ぼくと同じボディシャンプーの匂いがした。
「大丈夫?」
「は、はい」
「これから動くけど、痛かったら」
「大丈夫でございます。あの」
小雪が、はにかんだように笑った。
「……直之さまで、ございますから」
動き始めると、小雪が抜き差しの度にわずかに顔をゆがめる。
それでも痛いとは言わないのをいいことに、ぼくは小雪の小さな身体を揺らしながら突きたてた。
片足を持ち上げて角度を変えるとそのほうが楽なようで、途中から息遣いが変わる。
「ん、は、あ…、ん」
掴む物を求めて宙を泳ぐ手を握ってやる。
後ろからもしたいような気もしたが、まだあせることはない。
小雪にとって辛い経験にならないよう、ぼくはなるべく優しく動くようにしていた。
「あ、あ、ん、な、なお、ゆきさ、ま、ああんっ」
突きながら、そっと顔を出したクリストスをこねてやる。
小雪の腰が小さく揺れ始めた。
目を閉じて口だけで呼吸しながら、腰を押し付けるようにして、ぼくの手をぎゅっと握っているその姿が愛しかった。
「いくよ…、いいかい」
「は、はい…はい?」
小雪の答えを待たずに、ぼくは速度を上げて腰を打ちつけた。
「ぁ、あ!んんん!」
波に翻弄される木の葉のように、小雪が跳ねる。
「あ、あ、あ!」
限界だ。
「う…」
ぼくは低くうめいて、小雪に締め上げられながら熱を放った。
余韻を楽しみたい気はあったが、とりあえず引き抜いて処理する。
最中は気づかなかったが、シーツに擦れたような薄赤い汚れがついていた。
思っていたより激しく動いていたのかもしれない。
ぼくは小雪の隣に横になって、まだ息を上げている小雪にブランケットをかけて、頬に手を当てた。
「大丈夫かい、小雪?」
「は、はい、あの。…はい」
頭からブランケットにくるまって身体を丸める。
すがり付いてくるのがかわいい。
「はい、ここ」
とんとんと指で胸を叩いて言うと、ちらっと顔を出す。
「そちらでございますか…?」
「うん。ここ」
小雪が上半身を起こして、ぼくの胸に頭を乗せた。
「小雪」
「はい」
「…呼んだだけ」
「…はい」
庭のほうから、かすかに人の声がする。
どれほどぼくは小雪とこうしていたんだろう。
もう、母のお客さまが来ているようだ。
小雪を抱きしめた。
なんだか少し眠い。
しばらく黙ってそうしていると、小雪がもぞもぞと動いた。
「…小雪?」
「あ、あの…ちょっと、よろしゅうございましょうか」
「なに?どうした?」
小雪は自分の身体に巻きついたぼくの腕から逃れようと、遠慮がちに手をかける。
「ああああの、あの、…あ」
ぼくの腕をほどこうとしていた小雪が、ぴたっと止まった。
「ん?」
「…ふぇ」
なんだ?
小雪の背中に回していた手をお尻まで撫で下ろすと、小雪がパタパタして逃げようとする。
「ああ、出ちゃったのかい」
言うと、小雪が顔を押し付けてきた。
「も、もう、しわけ…」
「どれ、見せてごらん」
「ふぇえ?!」
ころんと小雪を転がして、簡単に脚を開かせる。
「なななななななな、なおゆきさまっ!」
「ああ、これは気持ち悪いね」
血の混じったような蜜がとろりと流れ出ていた。
ぼくのは中に出してはいないから、これは小雪のものだろう。
舐めてやろうと顔を近づけると、恥ずかしそうに小雪が脚を閉じかける。
ぼくはベッドサイドからティッシュを引き抜いて、そっと拭いてやった。
「痛む?」
「あの、あのあのあのっ」
ブランケットをかけなおして、また抱きしめる。
「あのね、小雪」
「…はい」
「これでもう、小雪はぼくのお手つきなんだよ」
「・・・はい」
「だから、これからもずっとぼくのそばにいておくれね」
小雪の腕がぼくの首を抱いた。
「よろしいのですか?」
「…うん」
今度はぼくが小雪の小さな、でも柔らかな胸に顔を埋めた。
「しばらくこうしてるよ。ぼくは今日は甘えんぼさんなんだ」
「…存じております」
「ん?」
「あ、いえ」
小雪が、ぼくの髪を撫でた。
どうやら、ぼくをカッパにするつもりらしい。
「不思議かい?急にぼくが、こんな…まあ、こんな状態で」
小雪は、ちょっと考えた。
「いえ、あの。よくは存じませんのですけれども、あの、今日の、奥様のアフタヌーンティーでございますけれども」
「うん?」
「…三条さまの奥さまも、お招きになっているということでございました。あの、若奥さまもお披露目なさるとか」
「…うん」
「ご存知だったのでございましょう?」
知っている。
初音が、今日、この屋敷に来ている。
ぼくの担当メイドとしてではなく、三条市武の夫人として。
「ですから、あの。今日、直之さまが、甘えんぼさんでしたのは、そのせいでございましょう?」
ふうん。
なかなか、鋭いところもある。
「それで?小雪は?ぼくがそんな理由で、小雪に手をつけたのを怒ってる?」
「と、とんでもございません。あの」
ぼくの頭に直接小雪の声が響く。
なんだか、本当に眠くなってきた。
「それは、直之さまが、…三条さまの若奥さまのことで、なにかお考えだといたしましても、それは小雪などには、難しくてよくは存じ上げませんのですけれども、でも」
「…うん」
「でも、今日、甘えんぼさんの直之さまと、ずっとご一緒してますのは、小雪でございまでしょう?」
「…うん」
ぼくは、小雪を強く抱き寄せて目を閉じた。
この胸で、窒息してもいいと思った。
小雪。
かわいくて、優しくて、強い。
「…ですから、小雪は、それだけで、ほんとうに…」
小雪の声がだんだん遠くなった。
――――了――――
↓ タイトル入れ忘れました。
『メイド・小雪 5』
いやぁ〜w やっと小雪嬢の思い通じたりってとこかw
いつも楽しく読ませてもらっております
心からのGJを捧ぐ
小雪ちゃんはかわいいし、直之が心を許してるのもわかるし、いいなあ。
風呂で溺れかけた時ちょっとワロタ。
とにかくGJ!小雪がいつかお茶をマスターできますように。
ぼんっ
なんか良い擬音だなぁ
和む
いつもながらGJ!
普通のエロはスルーするような自分でも
このシリーズだけは引き込まれるように
読んでしまう。
今回は何だか小雪が大人びて見えるな。
あたふたパタパタしてるのはいつも通りなんだがw
ますますもって可愛いよ、小雪。
GJ!
GJ!
小雪嬢の一途さが最高ですwww
保守
保守
228 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 05:36:02 ID:D3i2LpOH
ト、 ______)
「::::\┐ _,,. --──- 、..,,_ `ヽ. わ
r-‐'へ::::::::!_'´ __,,,,......,,,,,__ `ヽ、 ', 、
>:、:;::::::>''"´ `"'' 、 ':, i. 私
└─ァ''" / `':., ',. !. も
,:' / / ,' / ,' i. ', ':, i ',! i. |. で メ
/ ,' .,'`メ、!,_,/ ./! 、i__,,!イ .|. i ,ゝ | |. す イ
,' i ,!/,.-ァー;' / !/ァ;ー'-r'、 ! /__」 | | よ .ド
i ! ハ!イ i `ハ i `'ハ Y/ i/ ; | | ね
└'^iー! ,iヘ ':,_ン ':,__ン ノ!' | i. i ,' !?
,:' .!.7,.,., ' .,.,., ,'! .! | |∠,_ ________
o ゜/ ,:'. ト、 r‐,-‐ ''"´`ヽ. / ; | ! ! `Y´ ̄
,' .// i. `i:.、.,!/ ,.イ,:' ,' | ,'i .|
レヘ_/ヽ. !ァ''"´ `ヾi、ー=''"/ヨ___,/、___!へr┘ っ
/ ヾ!二へ/:::::ト,.-'‐'^ヽ,
,' ',l>く}:::7 rノ っ
K_ _,r-イYン/ムi:::::/ ,ノ´
/Y>ベ´ '';:::::io:/ ,イ
,.:':::::ヽ、ン':, ヽ/ ,イ /゙,ー、
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´::ヽ`'::、::::::::::::::::::::::::::::::::/!::::::::::!
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『メイド・小雪 6』
夜、ぼくは自分の部屋で来週には提出しなければならないレポートを書いていた。
勉強に関しては、子どものころから教育係の担当メイドがきっちり躾けてくれたおかげで、苦にならない。
幼なじみの聡などは「メイドがひとり専属でついてくれるなんて、さすが直之んちだよな」などと言うけれど、ぼくはその言い方があまり好きではない。
聡の言うそれは、たぶん、その手のアニメかゲームの影響だ。
実際、うちでは担当メイドだろうが一般メイドだろうが、フリフリのミニスカ制服で「おかえりなさいませ、ご主人様」なんてことはやらない。
いや、おかえりなさいませは言うけれど。
で、キリのいいところで、専属ではあるけれどミニスカではないぼくの担当メイドがなにをしているのかと振り向いてみる。
いつもはぼくの本棚から何か取り出して読んだり音のないテレビを見ていたりする小雪が、小さなノートを膝に乗せて、なにか書き込んでいた。
なんだろう。
ぼくがそっと立ち上がって小雪の背後に回っても、まるで気づかないという集中ぶり。
「なんだい、それ」
声をかけると、小雪はソファから数センチ飛び上がった。
「ももももも申し訳ございません、お呼びでしたでしょうか」
「いや、大丈夫だよ。それ、なにしてるんだい?」
小雪は一度胸に抱きかかえたその小さなノートを、膝の上に置いた。
小さな小雪の書く字は、やっぱり小さい。
小雪の背中から乗り出すようにしてページを覗くと、そこにはうちの会社と取引先の企業や銀行、付き合いのある政治家や文化人の名前と家族構成なんかが書いてある。
次のページには、格式別のパーティー会場のセッティング、さらに次のページには着物と帯の組み合わせがイラスト付きで解説してあり、さらにさらに会席料理のメニューとその説明、その次のページには…。
「そうか、小雪たちもそろそろ試験だね」
「……はい」
うちはメイドたちも日頃の仕事だけでなく、様々な習い事をさせられる。
メイドとして主家の日常を取り仕切る上で必要な様々はもちろん、上流夫人に立ち混じっても遜色ない教養や芸事、主人の客の話し相手まで務まるような社会的学術的知識。
その中から経験と知識を兼ね備えたものがメイド長に昇格することもあるし、パーティで同伴のいない客に相手を求められることもあれば、どこかの息子に見初められることもある。
その時、どんなことででも「メイド風情が」「メイド上がりが」と後ろ指を差され、主家に恥となることがないように。
そのようにして、仕事の合間を縫うようにして組まれたお稽古の数々が、年に数度、試験されるのである。
千里も初音も、その時期にはぼくの世話をしながら睡眠を削って勉強していたと知ったのはずいぶん後だったけど。
小雪がうなだれた。
「小雪は、ほんとうにいたりませんのです…」
「苦手なものがあるのかい?」
小雪が座っている隣に腰を下ろし、膝を叩く。
素直に叩いた膝の上にお尻を乗せた小雪を横抱きにした。
「ん?なにが苦手?お茶?ドレスコード?」
もう一度聞くと、小雪はぼくの腕の中で困ったように首をかしげた。
「いえ、はい、あの、ここのところ旦那さまと奥さまがお出かけなさる時に、操さんが小雪たち若手メイドにお衣装のお仕度をお手伝いさせてくださいまして、おかげで学校で勉強しましたことを実際に拝見できました。
お茶も唐物はよろしいとお許しを頂きまして、お懐石のお手伝いをいたしまして、…たぶん大丈夫でございます」
ちょっと驚いた。
毎日、ぼくが家にいるときは片時も側を離れず、外出した後は一般メイドと一緒に立ち働いている小雪が、いつのまにこんなにたくさんのことを勉強していたのだろう。
ちょっとレポートが多いくらいで愚痴ばかり言うぼくとは、大違いではないか。
「すごいね、小雪。よく頑張ってるよ」
頭を撫でると、小雪がちょっと不安そうにぼくを見上げる。
大丈夫、まだまだカッパにはならない。ふさふさしている。
「じゃあ、なにが心配?試験は大丈夫そうじゃないか」
「いえ、それがそうではございません…」
小雪が小さくため息をつく。
「今回は、お花があるのでございます」
「花?」
「はい。小雪は、あの、決まっていることをまるまる覚えるのは、大丈夫なのですけれど、決まっていないことを考えて作るのが、その」
「花は、きまってないのかい?」
「季節や花器で本数や高さが決まっているものはございますのですけれど、でもだからといって全部同じように活けてはいけないのでございます。ですから、さあこのお花の中からこの花器に活けてごらんなさいませとおっしゃられますと、小雪などはもう」
「ぼんってなるんだね」
「……はい」
思わず、笑ってしまった。
「なるほど、小雪は規則的なことを丸暗記して答えるのは得意でも、芸術的な発想は苦手なんだね。だから、
お茶もお点前を覚えるのは得意だけど、実際に動いてみるとぼんってなるだろ?」
「…そ、それは、あの、メイドとして不適格、ということでございましょうか」
「そういうことではないよ。それに、小雪は努力家だし、一生懸命だ」
小雪が後生大事に抱えているノートを取り上げようとすると、予想外に小雪が抵抗した。
「あのあのあの、こ、これは小雪が自分で読めるようにだけ書いたものでございますのでっ」
なにか、あやしい。
「なに?小雪の字はきれいだよ」
「でもでもでもっ、あっ」
ひょいとノートを高く掲げる。
小雪がぼくの膝の上でパタパタと暴れた。
「あの、お返しくださいませ、それだけは!」
小雪が立ち上がれないように膝でお尻を挟み込み、ぼくは頭の上でノートをぱらぱらとめくった。
びっしりと講義の内容やお稽古のおさらいなどがメモしてある。
返せ返せと騒ぐようなものではないのに…ん?
最後の方のページが、綴じ目に向かって二つ折りにしてあった。
「なんだ、これ」
「ああああああの、あの、ほんとに、ほんとにお返しくださ、ああんっ」
ぼくが折ってあるページを開くと、小雪は両手の中に顔をうずめた。
そのページには図解入りで説明文が添えてある。
この図は…。
「小雪ぃ?」
「は、はい…。なんでございましょう…」
「これは、なんのお勉強?」
「な、なんのことでございましょう。小雪にはさっぱり」
悪あがきだ。
ぼくは小雪の前にそのページを開いたノートを差し出した。
「これも、試験に出るんだね?」
「そそそそそれは、それは、お、恐らく、出ませんのですけれどもっ、あの、な、な」
「な?」
「な、菜摘さんが…」
その名前だけで、腰の奥がひくっとなった。
「先日、小雪をリネン室でお呼び止めになりまして、あの、こっそりとおっしゃったのですけれども」
「なんて?」
「あの。な、直之さまの、あの」
「ぼくの?」
「お、お手が、ついたのでしょう、と」
さすが菜摘。
小雪のなにを見て、それを見抜いたのだろう。
「そ、それであの、お、お手のついたメイドは、それだけで満足してはいけないとおっしゃいまして、あの、ご、ご主人さまに飽きられないために、日々、勉強と努力を欠いてはいけませんと」
「ふうん。それで、小雪はこういうことを勉強してるんだ」
折りたたまれたページには男性器の図とその名称などの解説、さらにそれを口腔内に含んだ時の断面図と舌使いの説明文がこと細かに記されている。
「そそそそそれは、あの、な、菜摘さんが、あの」
なるほど。
先輩メイドのご指南というわけか。
ぼくは図案化されたそのイラストに添えられた名称をひとつ、指先で隠した。
「じゃあ、問題。ここの名前は?」
「も、問題でございますか?」
「ほら。菜摘に聞かれて答えられなかったら、勉強してないことになるだろ。先輩の親切な指導に対して、それはよくない」
困ったような顔で、小雪がそっとノートを見た。
「そこ、は、あの、あ…」
「じゃ、こっちは」
「え、あの、あの、それは」
「ヒント。『カ』」
「カ、カ、カっ…」
ぼんっ。
「小雪は暗記物に強いんじゃなかったのかい。じゃ、穴埋め問題いこうか」
もう、小雪は半分泣きそうになっている。
「『○○を舌の裏側や舌先で突きながら、○○部分を舐め、その後喉の奥まで加えながら唇にのみ少し力を入れて舐め上げる。その時舌で○○の部分も舐め上げる』」
「あのあのあの、ほんとうに、ほんとうにもう、お許しくださいませ…」
いたたまれないように、小雪は身体を縮めて僕の胸の中にすっぽりとおさまるようにくっついてきた。
赤面を通り越して、ふるふると震えてさえいる。
これ以上は、かわいそうかな。
「わかったよ、じゃあ口答試験はやめて、実技にしようか?」
楽しくてたまらなくなってきた。
「え…」
「小雪はお風呂で洗ってくれることはあるけど、あまり触ってくれないじゃないか。ぼくは小雪のことを舐めるのに」
「え、え、え、え」
お許しくださいませと言うくせに、逃げようとせずに、安全な場所を求めるようにぼくにすがってくる。
「ね。今日は、小雪が舐めてくれないか」
答えを待たずに、小雪を抱きかかえたまま立ち上がる。
「あ、あのあのあのあの」
そのままバスルームへ向かいながら、小雪の頭に顎を乗せた。
「でも、小雪がいやならいいよ。小雪のいやなことはしなくていいから」
ドアを開けて小雪を下ろす。
顔を覗き込む僕から逃れるようにうつむいた小雪が、消えてしまいそうな声で答えた。
「そ、そのようなことは、ございませんのですけれど、あの」
「最初から上手だなんて思ってないよ。何事もお稽古が大事だろ?お茶も、着物も」
メイドの制服を脱がせようとすると、小雪はぼくの手を押さえる。
「あの、小雪が、いたします」
Tシャツの裾に手をかけて持ち上げてくれ、ぼくは腕を上げて身体をかがめ、小雪が脱がせやすいようにした。
小雪はぼくのジーンズを脱がせてから、シャワーのお湯を出してバスルームの中を暖め、バスタブにお湯を張る。
その背中を見ながら、ぼくは下着を脱いだ。
小雪はまだ、ぼくの下着までは脱がせてくれない。
そうしなさいと言えば、真っ赤になりながらしてくれるだろうと思うが、いずれ、ぼくが命じなくても進んで脱がせてくれるように躾けなければ。
お湯の温度を手で確かめている小雪の後ろに近づいて、白いエプロンのリボンを引っ張った。
「ほら、小雪。小雪だけ服を着てるのはずるいよ」
リボンをほどいて、制服の背中にあるファスナーを下ろす。
「は、はい、きゃ…」
ワンピースとエプロンがいっぺんに肩からずり落ちて、小雪は慌てて両手で押さえた。
ブラは、いつもどおり白だ。
「小雪は白い下着が好きなの?」
小雪の押さえたドレスをずるずると引っぱりながら、聞く。
「はい、あの、いえ、その、き、決まっておりますので」
「決まり?」
「はい、あの、メイドは、白でなくてはいけませんのです」
そういえば、初音も菜摘も下着は白だった。
担当メイドは休日らしい休日はあまりないし、あったとすれば主人の留守のときなので、休日の下着を見る機会はない。
「じゃあ、小雪は白以外は持っていないの?」
「も、持っていないことはございませんが、あまり」
バスルームの床が濡れているので、ぼくは小雪のワンピースを頭の上から引き抜いた。
結い上げた髪がくずれたので、ピンをはずしてやると、ふわりと肩の上に落ちる。
制服を外に出し、髪の中に手を通して小雪の顔を引き寄せる。
「今度、違うのを付けて見せてくれるかい?」
「あ、あの、あの、でも」
言葉を遮るように、唇をふさぐ。
舌で唇を押し開くと、小雪が自分から舌を差し出してきた。
抱き寄せた背中に手を回して下着のホックをはずす。
唇を合わせて舌を絡ませたまま、手は背中を撫でさすりながら降りていき、ブラとお揃いの小さな下着にかかる。
小雪が助けるように腰を離し、ぼくは下着を一気に引き下ろす。
小雪とぼくの体に挟まれていた白いブラが落ちた。
「でも?」
唇を離して聞くと、足首に下着を絡ませた小雪は潤んだ目でぼくを見上げる。
「はい…?」
「違う下着。でも、と言っただろう?」
「あ、はい、あの」
「ぼくの部屋に持ってきて、着替えて見せてくれるだろ?」
「でも、あの、小雪は、あまり持っておりませんので」
「持っていると言ったじゃないか」
「でも、あの、直之さまにお見せできるような」
小雪を抱き寄せたまま、片手でスポンジにボディシャンプーをつけてくしゅくしゅと泡立て、その泡を小雪につけて洗う。
「どんなのだい?」
「い…」
泡が背中を覆い、手が前に回って小雪の丸い乳房をつかんだ。
「い?」
「イチゴですとか…パンダですとか、あの、そんなのですので」
小雪の身体を横向きにして乳房をゆっくり揉む。
この胸を包むイチゴ模様のブラを想像する。
「いいじゃないか。そのイチゴのを持ってきなさい。ぼくの前で着替えられるだろう?」
「ふぇ…」
乳首を指で挟みながら、小雪の背中に反対の手を回した。
お互いの身体に手が挟まれて動きにくくなるが、そのまま構わず乳首を転がしながら乳房を揉みしだく。
「あ、あの、あん…、な、直之さま、あの」
「なに」
乳房から片手を離さず、もう一方の手で小雪の身体に泡を滑らせていく。
「あの、こ、小雪が、いたしますから」
先に洗われることに、メイドとして戸惑いがあるらしい。
バスタブを背にして椅子に腰を下ろし、髪を洗ってもらう。
シャワーをかけるとき、顔にかからないように手で覆ってくれるのだが、そのために小雪はぼくの膝の間に入らなければならない。
自然と、目の前には小雪の身体が来る。
小雪の脚を膝で挟んで、ピンク色の二つの突起を指先でつつくと、小雪はシャワーヘッドを持ったまましゃがみ込もうとし、脚を挟まれている関係でぼくの太ももに座り込む形になった。
「きゃ、も、申しわけございま、やんっ」
髪からお湯を滴らせながら、バランスを崩した小雪の身体を抱きかかえる。
ちょうどいい位置にあったので、乳首にちゅっとキスをした。
身をよじったので、シャワーヘッドが踊って小雪が頭からお湯を浴びる。
「なおゆきさまぁ、もうっ」
ぼくはくすくす笑って、濡れた髪をかきあげた。
立ち上がって、身体を洗ってもらう。
座ったままのほうが洗いやすいだろうとは思うのだが、小さな小雪が背伸びしてぼくの胸や背中を洗ってくれるたびに、小雪の胸や脚が触れるのが好きなのだ。
お返しに小雪を隅々まで洗い、最後にぼくは小雪に言った。
「ここ。また忘れてる」
小雪はうらめしそうにぼくを見上げ、それから床に膝をついた。
ゆるく立てた泡で包むようにそっと撫でる。
両手でそっと交互に擦り、持ち上げてやわらかい袋の裏まで指を這わせてくれる。
恐る恐る、といったように触れてくるのがかえって気持ちいい。
シャワーですっかり流し、小雪を抱きかかえてバスタブで暖まる。
上がってから小雪に大きなタオルで拭いてもらい、そのまま小雪をそのタオルで包む。
隙あらば逃げ出そうという顔をしている小雪をひょいと抱き上げて、部屋に戻りベッドに放り出した。
小雪は「んきゅっ」と鳴いて、ベッドの上で小さく跳ねて転がった。
弾みではだけたタオルを小雪が引き寄せるより早く、ぼくは小雪の腰をまたぐようにして上に乗る。
「だーめ。試験だって言っただろ?」
「でも、あの、あのあのあのっ」
「だいじょうぶ。まだ講義だから」
小雪のほっぺたに唇を押し付ける。
「教えてあげるよ」
ぼんっ、と真っ赤になった小雪の熱い首筋から胸元まで唇を下ろしていった。
両手を乳房に置いて、小さく刻まれた臍に舌を差し入れた。
「ひぁ、あっ!」
小雪のお腹が持ち上がった。
胸を揉んでいた手で腰を抱き、そのまま薄い茂みに舌でわけ入ると、持ち上がった腰が高く上がった。
「あ!」
脚を開かせて、縦の溝まで舐め下ろす。
「や、あん、な、なお…、さ、あ!」
下から何度も舐めあげると、そこが潤んできた。
ぼくは小雪のポツンとしたピンク色の小さな小さな塊を探り当てた。
まだかわいいそれは、その主人のように恥ずかしそうに身を隠している。
「あ、あんっ!」
そこを舌先でつつきながら、指一本で秘孔をくじった。
「ん!」
小雪の腰がどさっと落ちる。
指と舌が取り残されて、ぼくは脚の間から、真っ赤に上気させた小雪の顔を見た。
「わかった?」
「はい、は、はい…?」
「ここ」
割れ目に沿って指を滑らせると、小雪はまだぴくんと跳ねた。
「小雪の気持ちいいとこ。ここだろ」
「……あ、あの」
返事に詰まったのは、気持ちいいところがたくさんあるからだろうか。
「じゃあ、ぼくの気持ちいいところはどこかわかるかい」
手首をつかんで上体を起こさせ、座ったまま向き合う形になる。
あぐらをかいたぼくの股間に目をやって、小雪は真っ赤になった。
「触ってみなさい。ほら」
小雪が哀願するような目を向けたが、ぼくはその手をとって導いた。
風呂で洗ってくれるときのようなクッションの泡なしで、直接小雪の指が絡みついた。
その上から自分の手を添えて、動かす。
「ゆっくりしごいて。そう。う、そこは敏感だから強くしないで。うん、いいよ」
小雪の手を使って自分でしているような感覚。
ぼくはもう一方の手を小雪の頭の後ろに回した。
軽く引き寄せると、小雪は涙ぐんでぼくを見上げた。
「やっぱり、いやかい?」
小雪とこういう関係になってから、まだ日が浅い。
口ですることに抵抗があるとしても仕方ないのかもしれない。
「…そのようなことはございませんのですけれども、あの」
小さな小さな声で、小雪が言う。
すっぽりぼくの手で覆われた小雪の手が、ずっと動いている。
「あの、よろしゅうございましょうか。あの、ほんとうに、あの」
主人の大事なものを口に含むということに自信がないようだった。
「うん。小雪にしてもらいたいんだ」
「……はい」
小雪は背中を丸めて、顔を伏せた。
ぼくが手を離すと、自由になった小雪の手が根元のほうに下り、唇が先端に触れた。
亀頭が口の中に飲み込まれる。
そろそろと舌が這う。
「小雪、さっきぼくが舐めて気持ちよかったところがあるだろ」
「……ひゃい…」
「もう少し、そう、そこが同じ…気持ちいいところ」
小雪の舌がくびれをなぞり、裏筋を舐める。
…いい。
初めてとは思えない。
これは、菜摘の指導の成果だろうか。
段々と慣れてきたのか、深くくわえ込んで唇でしごきだした。
「…う」
思わず声が漏れた。
小雪が上目使いにぼくを見上げ、ぼくは小雪の頭に手を置いてもっと深い愛撫を要求した。
唾液が溜まってきたらしく、ちゅぱちゅぱという音がしてくる。
根が真面目でなんにでも一生懸命な性格の小雪らしく、一心にしゃぶっている。
それが小雪の小さな口の中いっぱいにふくらみ、ついにあふれるように小雪の唇から飛び出した。
「んっ、あ、も、申し、ございませ」
屹立して口から飛び出したものに慌てて手を添えようとする小雪の腰を両手でつかむ。
「あ、あの、いけませんでしたでしょうか、やはりあの」
抱えあげられて、小雪はぼくの肩に手を置いて身体を支えた。
そのままゆっくりと下ろしてくると、先端が小雪の秘所に当たる。
「自分で入れてごらん」
「……は、はい」
膝立ちになった小雪が、ぼくの肩につかまるようにしてそっと腰を沈める。
「んっ」
ぎゅっと眉根を寄せた。
うまく入らないらしい。
手を差し入れてまさぐってみると、まだ潤いが足りないようだ。
このまま入れても痛いだろう。
「いいよ、小雪。ちょっと中断。交代しよう」
「こ、交代でございますか」
一生懸命、ぼくを身体に収めようとしていた小雪が、はあ、と息をついた。
腰をつかんで持ち上げて小雪の身体を浮かせ、ベッドに下ろす。
「あの、も、もう、しわけ」
「いいから。ぼくがいけなかった。自分だけ小雪に気持ちよくしてもらって、急ぎすぎたね」
ベッドに座り込んだ小雪を抱き寄せて、頬に唇を押し付けた。
「あの、あの、あの」
「なに」
背中に手を滑らせながら聞いた。
「ほんとうでございましょうか。あの、小雪がいたしましたので、ほんとうに」
「うん。気持ちよかった。小雪に舐めてもらって、もう、すぐ小雪に入りたいと思うくらい気持ちいい」
はにかんだようにうつむいた小雪の背を反らせるようにして、乳房を舐めた。
乳首を咥えて舌先でねぶる。
つんと固くなったそこを唇で挟んだり吸い上げたりしながら、反対側を指の間に挟んで大きく揉みたてる。
「あ、の、あ…」
背中に回した手もおろそかにせず、指先を小さく動かして小雪の肌に這わせる。
小雪が膝をすり合わせて、ため息をついた。
「感じる?」
小雪はもう返事もできないようで、小刻みに呼吸しながら、ぼくの腕につかまるようにして身体を支えていた。
仰向けに倒してやると、顔を見られまいとするように横を向いてしまった。
「こら。聞いているのに答えないとはなんだい?」
手を止めて言う。
「は、はい…」
途中でやめられて、小雪がうるんだ目を開けた。
「聞いたんだよ。感じる?」
指先で乳首をはじく。
「ん、あ、の…」
ちゅっと口付けて吸い上げると、ぴくんと身体が震えるのがかわいい。
手を下ろして、ぴったりとくっついた太ももをこじ開けるようにして差し込む。
割れ目にそって指を沈めると、そこはさっきよりも水気が多く、ぬめっていた。
「ね、小雪。こっちと」
乳首を指で潰すようにぐりぐりと回してやる。
「こっち」
ぬかるみに沈めた指を縦に動かす。
「どっちが感じるの?」
小雪が真っ赤になる。
メイドを躾けるコツは、毎回きちんとイかせてやること。
小雪が菜摘の指導を受けるのなら、ぼくも兄の助言に従わねばならない。
自分の担当メイドが一番感じるところを、覚えなければ。
ま、言い訳だけど。
小雪はいやいやをするように首を振り、ぼくの手を押しのけようとする。
たぶん、小雪はまだイったことがない。
触ったり舐めたりされると気持ちいいという感覚はあっても、イってはいないようだ。
せっかく小雪が初めて舐めてくれたんだ。
ぼくも、小雪をイかせたい。
今まで決して抵抗しなかった小雪が、必死でぼくから逃れようとしている。
ぼくはクリトリスに親指を置きながら、小雪の中を丹念にかきまわした。
「ん、んっ、あ…」
立てさせた膝が動く。
中からじゅくじゅくと蜜があふれてくる。
「小雪、すっごい濡れてるよ。どうして?」
そう言うと、顔を横に向けた小雪が、手で顔を覆った。
顔が見えなくてはつまらない。
「だめだよ、隠すんじゃない。小雪の感じてる顔が見たいんだよ、ほら」
中に沈めた手はそのままに、もう片方の手で小雪の手首をつかんで顔から引き離した。
「ん、や、あの、いっ」
「ね、どうして小雪はこんなに濡れてるの?」
くちゅっっと音を立てると、小雪がまたぼくの手を押さえる。
「……は…」
小雪が押さえたくらいではどうということもなく、ぼくはなぞり上げるように動かしながら乳首を舐めたり吸ったりする。
次第に小雪の息遣いが変わってきた。
もっと、もっと感じさせたい。
ぼくは指を抜くと、準備をして小雪に反り返ったペニスを押し当てた。
「ぐちょぐちょだから、するっと入っちゃうかもね」
言うと、小雪は涙ぐんだ目でぼくを見上げた。
「な、おゆきさ…まの…いじわる、っ」
ほんとに、するっと入った。
途中で少しつかえた。
「んあ!」
ぐいっと押し込むと、小雪が声を上げた。
「あ…、うんっ」
ゆっくりと浅く突く。
それからぐうっと深く入れる。
「あ、あっ」
抜け落ちそうなほど引いてから、また浅く出し入れすると、小雪の腕がぼくの首に絡みついた。
ちょっと体勢が苦しい。
膝を抱えるようにして上から突く。
「ん、ん、あ、ん…」
ぎゅっと小雪の中が締まる。
う、これじゃ長持ちしない。
一度抜いてから小雪の身体をひっくり返して、後ろから抱きかかえた。
「あ、やぁん…」
この格好をさせるのは初めてだ。
膝と肘で身体を支えさせると、腰を抱いて押し入る。
「あん!」
小雪の手足から力が抜けて、ぼくが抱いた腰だけで浮いている。
続けていると、さすがに小柄な小雪でもこのまま抱えているのは疲れてきた。
もう一度仰向けに寝かせると、小雪が目を潤ませたまま、大きく胸を上下させて手を伸ばした。
その手をつかんで、かわいい声を上げる唇にキスした。
舌を絡めながら、手を添えずに小雪の中に入る。
つい今までかき混ぜるように突き入れていた、ぐちゃぐちゃに濡れたそこに三度吸い込まれた。
「うん、んんっ」
唇を離すと、小雪は背筋と脚をぴんと突っ張らせた。
イくかもしれない。
ぼくも、もう限界だ。
小雪の両足を抱え込んで、速度を上げた。
「あ、ん!あ……!!」
小雪がぎゅっと目をつぶって声を押さえ込む。
ぼくがもう少し、というところで小雪はぼくの手を握る手に力をこめた。
「ああああああん!!」
小雪の中がぎゅっと痙攣するように締まった。
「ひゃ、あ!」
達して敏感になったところを更に激しく責められた小雪が跳ねる。
ぼくも、小雪の中で達した。
ぐったりした小雪を抱き寄せると、小雪はぼくの胸にすがりつくように丸くなった。
「良かった?小雪」
「…むきゅ」
そんなに強く抱いてないぞ。
「ね。今、いつもと違わなかった?」
小雪がちらっと目だけを上げる。
「……は、はい?」
「いつもより、すっごく気持ちよくなかった?」
「…あ、あの…あの。……はい」
やっぱり。
ぼくは満足して、今度はほんとに小雪がむきゅっとなるまで抱きしめた。
「ぼくも、すっごく良かった。ね」
「……」
「ん?小雪?」
そろそろ、顔を上げてもいいころなのに、小雪はいつまでも丸くなっている。
「どうした?」
「…あ、あの、は、恥ずか…」
「恥ずかしい?どうして?」
背中を撫でてやる。
「あの、あの、こ、小雪は、あの」
「ん?」
「は、はしたない…声を」
笑ってしまった。
今までも、小雪がなるべく声を立てないようにしているのは気づいていた。
一生懸命我慢していても漏れる声が、嫌いではなかったけど。
それでも、初めてイく時には、抑えきれなかったものらしい。
小雪の髪を撫でて、頭に唇をつけた。
「うん、いい声だったよ」
「あ、あの、あの、そ、それに、あの」
「なに?まだ恥ずかしいことしたの?」
「・・・い」
「ん?」
小雪の顔を上げさせて、覗き込む。
「い、いっぱい・・・濡れて…しまいました」
消え入りそうな声。
ぼくは小雪の身体を仰向けに転がして、その上に覆いかぶさった。
「うん。小雪はいっぱい濡れてたね。嬉しかったよ」
「…え、え、え」
「ちゃんと、勉強したことを実践できたじゃないか。上手にできたから、濡れたんだよ」
「そ、そうなのでございましょうか」
「うん。そう。今日の講義は、優等生」
額に唇を押し当てて離し、ちゅっと音を立てた。
「講義は何回にしようか。そのあと模試をして、本試験はどんな問題が出るかな」
「え、え、え、あのあのあのっ」
ぼくの腕の中で、小雪がパタパタした。
「だめ。逃がすものか」
さあ、講義をもう一つやろう。
兄と菜摘に負けない、立派な主人とメイドになろうね、小雪。
――――了――――
リアルタイムGJ!
小雪の必死さがよく伝わってきてよかったです。
GJ!小雪がかわいすぎる
本格的に「しつけ」が始まりましたねw
お願いだ
小雪を私に任せて欲しい
イチゴパンツGJ!!
>>240 借り物のメイドさんなど魅力の1%も出ないのだよ
本来のご主人様に使えてこそのメイドさんなのだから
GJ
>「…むきゅ」
あなたは何回俺を悶え殺せば気が済むのかw
GJ!
前回、二人の関係に新たな側面が見えた気がしたが、
やっぱり基本は小雪がいぢめられるのねw
保守
246 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 01:32:20 ID:+Zst+rgA
保守
とある週末に出入りの商社の営業さんが息荒く飛び込んできた
「新開発の素材です。 馬鹿と愚者には見えないステルス素材の服です」
執事は営業さんを蹴り出そうとしていたが、私は買うことにした。
「150着ほど納品してくれ」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして執事が問う。
「なぜですか? こんなものインチキに決まっています」
私は仕方なく説明してやった。
「週明けから当家のメイドの服は この素材で作るように」
納得した執事は姿勢を正して応える。
「かしこまりました旦那様。 早速、手配いたします。 キミ、納品は間に合うね?」
続きを頼む
麻由と武のSSを書いていた者です。
新婚旅行話や番外編は、やはりここではスレ違いになるので、別の場所にうpしました。
下記のうpろだに置いてあります。パスはmayuの4文字です。
〈A〉はエロあり、〈B〉はエロなしです。
お手間を掛けることになりますが、よろしければどうぞ。
http://www4.uploader.jp/home/mayutakeru/ これ以降の話は↑に投下します。
今までありがとうございました。お世話になりました。
見れん・・・。
こちらに投下を願います
こっちでいいんじゃないかなとみれない人がいってみる
いや、見れるし
>>250です。
何故か見れない。 見れるのは題名だけ・・・。
使ってるパソに問題があり?
>>255 249のリンク先に飛んでファイル名クリック
↓
パスワード入力して横のダウンロードボタンをクリック
↓
認証おkの文字が出るから「ダウンロード」をクリック
これだけだぜ?文字入力かセキュリティ設定か何かが邪魔してんじゃねえか?
うpろだ携帯からみれないんだよな。
この際フルブラウザ入れちゃおうかな
読めただよ・・・。
皆さんありがと〜。
259 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 01:14:02 ID:x7B3SLMB
保守
260 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/08(金) 01:26:07 ID:M37SKp2c
保守
初めまして
すこし人とは違う趣向で書いてみようと思い書きました
そして職人さん。名前お借りします
たのしんでくれればこれさいわい
「悟様、今宵行われるパーティーへは行かなくてよろしいのですか?」
「うん。だって僕は-------------------」
『dance』
私は悟様の専属メイドだ。
初めて会ったときはかっこいいというよりかわいらしい人だと思った。
まだ幼さが残る顔たちや、声変わりが終わっていない声。専属メイドになったといっても弟ができたような感じだった。
専属といっても悟様はアレコレと用事を頼む人ではないので、一日のほとんどは無駄な時間だ。
おそらくメイド長もその事を知っていたから新人である私を専属という結構重要なポジションにしたのだろう。
気になる事といえば悟様は自分に触れることが無かった。
専属と言うのは大抵その人のお手つきだと考えてもいい。現に悟様のお兄様の専属は毎日かわいがられていると聞いた。
私はそういう経験が無いので少し怖いが、まったく手を出されていないのは女としてのプライドが少し傷つく。
既に専属となって3ヶ月は立っているのだから。
ある日のこと、メイド長が朝の集会で近日どこかの家でパーティーがあると言った。
こういう場から将来妻となる人が決まったりするので、しっかりとした服装をさせなければならないと聞いたことがある。
そんなわけでその日のために悟様に着ていただくものをタンスから探し出したりしていた。
しかし当日になっても悟様は出発の準備を始めようとはしなかった。
そして今すぐ準備を始めないと間に合わない時間となった。
ベッドの上で昨日買ったらしい新作ゲームを楽しんでいる悟様へと声をかける。
「悟様、今宵行われるパーティーへは行かなくてよろしいのですか?」
いや、行かないといけないはずなのだ。なのでこの言葉は遠まわしに準備をしてくれと言っているのだ。
悟様はうつぶせの状態から仰向けへと体勢を変えて言った。
「うん。女性に触れないから行くわけないじゃん」
…………は?
「どう言う事ですか?」
「え?僕女性恐怖症じゃん」
「女性恐怖症?………初めて聞きましたが」
「あぁ、言ってなかったっけ?昔色々有ってね、僕は女性に触れられないんだよ」
だから今まで自分に手を出さなかったのか。ホッとしたような悲しいような………。
「ですが将来的にどうするつもりですか?独身で行くというのは……」
「んー?僕は末っ子だから結婚しなくたって何も言われないって。」
まぁたしかにそうかもしれないが………
ふぅと息を吐いて、用意したのに無駄になってしまった服をタンスへとしまった。
ちらりとベッドを見ると悟様はゲームに集中していた。その集中力を勉強にも生かして欲しいところだ。
今は夏休みなので学校は無い。明日は習い事も無いので特に用意すべきものも無い。
となると今はただ命令があるのをまつだけだ。と言っても悟様は何も頼んでこないだろう。
そうなると少し考え事ができる。頭の中を回るのは先ほどの言葉。
「女性に触れられない」
最近気が付いたのだが、私はどうやら恋をしているらしい。
たまに悟様から命令されるととてもうれしいし、悟様に褒められると心が温まる。
屋敷の外の友達に言うとそれが恋だと言うのだ。
私にとって恋と言うのは初めての経験なのだが、その気持ちが日増しに大きくなっていくのがわかった。
だが身分が違いすぎる。
それでもこの気持ちは抑えらない。
心が得られないなら体だけでも良いと思った。
なんとか私の体の魅力をアピールして抱かれたいと思っていた。悟様の性処理用の道具として生きていけるのならそれで良い。
だがしかし、その幻想はあっさりと打ち砕かれる。
『女性恐怖症』
自分は 悟様の 体すらも 手に入れる事が できない
「彩?」
ふと気が付くと悟様が自分の事を見て心配そうな顔をしていた。
どうやら悩み事が顔に出ていたようだ。
「どうかした?」
悟様が自分を心配してくれている。でも、今はそれがなぜか悲しい。
「いえ、大丈夫です」
「そう………でも心配だし、今日はもう休んでいいよ」
本来ならば断るべきところだが、今は悟様を見ていて耐えられなかった。
「はい。ありがとうございます」
廊下を出て自室へと向かう。
その足取りは何時もより重く、その途中で歩みを止めてしまった。
目が熱くなってきた。そして喉から何かがこみ上げてくる。
声を出してはならないと思い必死になって押し殺した。
「どうした?」
後ろから声をかけられ驚いて振り向いた。
「達也様……」
悟様の二つ上の兄でこの家では三番目の男子だ。
「君は………悟のメイドだったかな?」
「はい。………見苦しいところを見せて、申し訳ありません」
「いや、それは構わないが……ところで何かあったのかな?」
ここで悟様に振られました、とは言えないだろう。
「いえ……」
「そう……とりあえず僕の部屋に来なよ。落ち着くまで話を聞いてあげるから」
いつもなら断るところだったが、今の私の心は平常時のソレではない。
達也様に連れられ、部屋へと向かった。
その部屋は豪華な廊下や今と違って、調度品の数が少なかった。
必要最低限の物しか置いていないと言った感じだ。
なぜかパソコンが三台並んでおいてある。………なんに使うのだろうか。
部屋の中では達也様の専属メイドが居た。私の先輩である由美だ。
「由美、紅茶を入れてくれ。鎮静効果があるのはカモミールだっけ?まぁとにかく頼む」
達也様が由美先輩に紅茶を入れるように頼んだ。そして私にソファに座るように促す。
それに従い沈み込むようなやわらかさを持ったソファに腰をかけると達也様はその反対側に座った。
入れてもらった紅茶を飲むと心が落ち着いていく。達也様は何も言わずにやさしく微笑んでいるだけだ。
紅茶を飲み干してしばらくすると達也様が口を開いた。
「さて、そろそろ話をしようか、とりあえず僕の話を聞いているだけで良い。」
「………はい」
達也様は優雅に紅茶をすすりながら話し始めた。
「まぁ君が泣いていた理由も多分分かる。悟の女性恐怖症が原因だろう。
おおかたあいつの事が好きなのに絶対結ばれないってことが分かったってとこだろう?」
肯定すべきか否定すべきか迷った。
言っていることは正しいのだが、主人に恋心を持っている事を知られたくなかった。
だが、きっとこの人に対して隠し事はできないだろう。達也様の目は全てを見透かすように輝いているからだ。
ゆっくりと首を縦に振る。
「まぁ、あいつは昔色々有ったからなぁ……嗚呼、それについては本人から聞いてくれ」
さてどうするか、と呟いて達也様は何かを考え出す。自分は由美先輩に入れてもらった二杯目の紅茶に口をつけた。
カップの中の水面に移る自分の顔が、吐く息によって大きく揺れた。
ふと、視線に気がついて前へと顔を向ける。達也様が自分の事を見つめていた。
「僕はね………欲しいものは絶対に手に入れる主義なんだよ」
先ほどと違いどこか重い口調。
「金はほっといても手に入るし権力なんかはただの飾りだ」
背筋が凍った。その目が氷のように冷たかったからだ。
「今までに欲しかったものは大抵簡単に手に入ったよ。新作ゲームは発売日前に手に入れられるし、
成績も僕の頭脳ならば余裕だしね」
ぎゅっと自分の手に力が入るのが分かった。
「でも唯一手に入れられなかったものがあるんだよね………でもそれもようやく手に入る」
頭の中で警告がなる。危ない、すぐに逃げろと。
「それはね………君だよ」
後ろからぎゅっと抱きしめられた。首を向けると由美先輩が無表情で私を抱きしめている。
いや、これは抱きしめているのではない。逃げないように拘束しているのだ。
怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い
私が今から何をされるのかが分かる。
そこには恐怖しかなかった。
絶望に心が押しつぶされそうになったその時、部屋のドアが荒々しく開く。
「兄上、何をしているのですか?」
悟様が立っていた。静かだが、確かな怒りをもって。
「悟か、何の用だ?」
「それはこっちのセリフですよ。彩に何の用です?」
二人は静かに対峙し、静かに言葉をぶつけ合う。
「お前が彼女に手を出さないからな、てっきり好みじゃないのかと思ってね。僕がいただこうと思っていたのさ」
ドゴンと鈍い音が部屋に響いた。
悟様がドアを殴りつけたのだ。
同時に悟様から激しい怒りが見えたような気がした。
「ふざけんなぁ!!彩は俺のだ!!てめぇのものじゃねぇ!!」
始めて見た。
いつもは温厚な悟様がここまで怒る姿を。
「でも触れられないだろう?」
「うるせぇ!」
そう言って悟様はずかずかと自分に歩み寄る。由美先輩はその剣幕に恐れたのか私の拘束を解き部屋の隅へと移動した。
ガシッと腕をつかまれた。
誰に?
プルプルと何かにおびえているかのようにその腕は震えている。
悟様だった。
グイッと引っ張られる。そっちを向くと悟様と目があった。
そのまま引っ張られて、気がつくと、唇にやわらかい感触が。
え?今、私キスを………?
「これで、こいつは俺のものだろう?」
勝ち誇ったように達也様に言い放つ悟様。ちょっとまってください今のキス、私の初めてなんですが。
「腕が震えているぞ?」
「この体質は直せば良い」
自信満々に言い放つ悟様だが、自分を抱くその腕はそろそろ限界のようだった。
パッと腕を放すと、少し離れて悟様は息を整えた。ちょっとショックです。
「くくっ、あの悟が言うようになったなぁ」
達也様は楽しそうに笑った。
「とりあえずはおめでとう、晴れて両思いというわけだ」
先ほどのシリアスな空気を打ち消すかのように明るく言う達也様。
………え?
「いやいや、お前ら両思いの癖に互いに中々気がつかないようでなぁ、
見ていて面白かったがそろそろくっついた方が良いかと思って芝居をさせてもらったよ」
「じゃあ……あのメールを送ってきたのは?」
「悟をこの部屋に呼ぶため」
「悟様、メールとは?」
「………恥ずかしいから教えない」
悟様をこの部屋におびき寄せるためのメール。一体どんな内用なのでしょうか?
ふぅと一息つく悟様。何かに安心したような顔をしている。
何に?当然私が達也様に取られないと分かったからだ。
と、頭の中でその理由が分かった時に顔が熱くなっていくのが分かった。
つまり 悟様は 私の 事が 好き?
「ほら、悟。ちゃんと彼女に告白しな」
達也様に促され悟様は私に体を向けた。
「彩、僕は……君が好きだ」
頭の中が真っ白になった。3ヶ月夢に見ていたことが現実で起こった。
「はい。私もお慕いしています」
私の夢はかなったのだ。
「ところで兄上」
ソファに2対1の形ですわり、達也様と悟様が色々と他愛の無い事を話していたが、悟様が唐突に話を仕切りなおした。
「こんな面倒な事をしてまで僕たちをくっつけたんだ。何か他に目的があるのでしょう?」
悟様が訊くと達也様は真剣な表情になって首を立てに振った。
「味方が欲しくてな」
「味方?」
ああと答えて達也様は由美先輩を自分の傍へと呼び寄せた。そして由美先輩を自分の隣に座らせてこう言った。
「俺は、将来コイツと結婚する気でいる」
主従関係である者が結婚する。簡単に言うがそれは大変なことだ。
高貴な血に庶民の血が混じるのが良くないと考えている者が多いからだ。
「なるほど、たしかにそれは味方が欲しくなりますね。僕も彩と結婚したいですし」
サラリと重要な事を言う悟様。このお付き合いは結婚前提ですか?
「幸いにも俺らは三男と四男だ。兄上たちよりは楽だろう」
「ええ。それに最近は結構メイドと結婚する人もいますしね、と言ってもまだまだ風当たりは強いですが……」
「遠野家の当主なんか跡継ぎが他にいないというのにメイドと結婚したしな」
そういえば聞いたことがある。父が早世し若くして社長となった青年が普通のメイドと結婚したと。
「傾きそうな会社の社長など誰も相手にしてくれないからと僕は聞きましたが?」
「腐っても遠野家だ。それに内側から乗っ取ることも可能だしな」
それは達也様だからできることです。
「まぁともかく俺らにもチャンスは有る、がんばっていこうじゃないか」
そう言って微笑む達也様。欲しいものは何でも手に入れる主義と言うのは本当らしい。
「彩」
「はい」
廊下に出ると声をかけられたのでそちらを向く。月明かりに照らされるその顔は真剣そのものだ。
「僕の体質を直すために色々と協力してくれるかな?」
「はい当然で」
と言ったところで唇を何かにふさがれた。それが悟様の唇だと分かると頬が熱くなる。
「特訓」
そう言って再び唇を重ねてくる悟様。
まだ手が震えていたけど、悟様の女性恐怖症。もうすぐ直るかもしれない。
続
おお乙です
特訓てオイw
GJ!
なんか久しぶりに胸キュン(表現が古いが許して…)した!!
初々しくていいなあ。続き楽しみにしてます。
275 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/08(金) 16:37:55 ID:Y/hA7sVB
なかなか面白かった。
その上でいわせて貰えば、少し説明不足というか、
展開が急すぎると思う、かな。
あと、立っている>経っている、内用>内容
GJ!
これからえろえろな“特訓”が始まるんですね
わかります
GJ
続くということなので続きにwktk
278 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 01:53:46 ID:rWJ6UG54
保守
エロ無しですが投下します。
「雪恵さん、ひとつ、この孫を男にしてやっておくれでないかね?」
爽やかな朝、湯気の出る食卓を囲んで食事をしている最中のこと。
不肖の祖母が言った言葉に、僕は盛大に味噌汁を噴いた。
雪恵さんというのは、うちの家で女中をしている妙齢の女性だ。
名前の通り、雪のように色が白く、すらりとしている。
落ち着いた色の和服に白い前掛けの似合う、華奢で美しい人だ。
女中にしておくにはもったいなくて、むしろ老舗旅館の若女将の方がぴったりくるくらいなのに。
なんで、うちなんかで働いているのだろう。
僕の家は、いちおう近隣では名家ということになっている柿崎家だ。
本家は少し離れた所にあり、現柿崎家当主の大伯父はそれなりに大きな会社の経営者だ。
祖父も父も兄も、その会社で働いている。
いや、前の二人については「働いていた」と言うべきか。
祖父は僕の生まれる前に、父は僕が10歳のときに亡くなっている。
兄は仕事の関係で今アメリカに住んでいて、こちらにはたまにしか帰ってこない。
現在、家に住んでいる柿崎の人間は祖母の菊子、母の千鶴子、そして僕の3人だ。
あ、僕の名前は大二郎といいます。高校3年です。
その他のメンバーは、下働きのトキ江婆さんと、さっき言った雪恵さん。
恐ろしいことに女性全員が未亡人で、男は僕一人だけ。
しかも僕は一番年下なものだから、特に祖母にはいいように扱われ、からかいの種にされている。
小さな頃からそうだったから、身体が大きくなっても祖母にはかなわないという刷り込みがされてしまっている。
絶対に勝てない相手だから、たまに「ババア」と呼んで溜飲を下げるだけの情けない始末だ。
10歳年上の兄は、そんな扱いを受けていなかったというのに、なぜ僕だけこうなんだろう。
おだてられるのは電球を替える時とか漬物石を持ち上げる時とかだけで、それ以外はみそっかす扱いだ。
兄は頭が良くて男前だったから、祖母も遠慮したのだろうか?
その割には「周一郎は私の若い頃にそっくりだ」とことあるごとに吹聴していたように思うが…。
男の子は母親に似て女の子は父親に似るのだから、周一郎兄さんは母方の祖父似なんじゃない?と正論を言ったら頭をはたかれた。
そんな風にすぐに手や言葉で攻撃を仕掛けてくる祖母だが、母はこの人とものすごくうまくやっている。
おっとりとした人で、やかましい祖母とは正反対の性格なのに。
嫁姑争いなんてのも見たことないから、人間の相性っていうのはよく分からないものだと思う。
祖母の言いなりになっているようで、時たま自分の意見をちゃっかりと通すところもあり、母もなかなかやるらしい。
ただ、僕が祖母にやられっぱなしなのを見ても、苦笑するだけで味方にはなってくれないのだが…。
トキ江婆さんはもう40年以上もうちで下働きをしている筋金入りの使用人だ。
婆さんとはいっても、本当は祖母よりいくつか若いのだが、それを言うとまた祖母の雷が落ちる。
手も顔もしわしわだが、とっても料理が上手くて、敷地の片隅で栽培している野菜の世話も見事なものだ。
ずっと通いだったが、旦那さんを亡くしてからは二人で住んでいた家を引き払い、うちに住み込みでやって来たらしい。
雪恵さんがうちに来たのは、2年前の寒い日のことだった。
祖母が知り合いからの紹介だという触れ込みで彼女を連れてきたとき、僕は一目で恋をしてしまった。
男の子は必ず年上の女性に惹かれるという言葉があったような気がするが、まさにそれを地でいってしまったってわけ。
学校近くの文房具店で懐紙や何かを買ってくるように祖母に言われ、下校時にお使いをすることがある。
買ってきた物を帰宅して雪恵さんに渡すわけだが、毎回ドキドキして、今でもまともに顔を見ることができない。
すれ違った後の後姿や、家事をしている時の姿を見ることならできるんだけど。
雪恵さんは僕より5歳年上だから、今年は23歳になるはずだ。
素性はあまり詳しく説明されなかったが、若いのに未亡人だということで、我が家には温かく迎え入れられた。
女中経験が無いということで、最初は小さな失敗もしていたようだが、そのうち段々と慣れていったようだ。
子供の出来なかったトキ江婆さんには、実の娘のように世話を焼かれているのがおかしい。
随分遅くにできた娘さんだと皆にからかわれ、婆さんは顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
兄が家にいた頃は、二人が並ぶとまさに美男美女で絵になったものだった。
雪恵さんも、僕のことは「坊ちゃま」と呼ぶくせに、兄さんのことは「周一郎様」と名前で呼んでいたし。
二人がいい仲にならないかとハラハラしたが、兄はアメリカで出合った女性とあっさり結婚してしまった。
ライバルが消えてくれたと僕は喜んだが、兄嫁になった綾乃さんも結構な美人で、やはりいい男にはいい女がつくのかと思った。
僕は雪恵さんよりも年下だしまだ学生だし、はっきり言って格下だ。
兄と比べると顔も成績もうんとダメな方だから、雪恵さんとどうにかなりたいという気持ちはあっても、願望だけで終ると思っていたのに。
味噌汁まみれになったシャツを着替えて学校へ行って、帰宅してから改めて祖母に文句を言った。
「あら、あたしが何か妙なことを言ったかい?」
いつものようにとぼけられ、ヤツの狙い通りに僕は逆上する。
「思いっきり妙なことだよ!あんなことを言って、雪恵さんに失礼だと思わないのかよ!」
言い終わって肩で息をするが、祖母はあっけらかんとしているだけなのがまた頭にくる。
「あたしは親切心で言ってやったのさ。お前、雪恵さんに憧れているんだろう?
じゃなきゃ、あんな雑誌をベッドの下に隠しているわけがないものねぇ」
「なにっ?」
「随分と薄着の女が何人か写真で出ていたねぇ。『年上美人』だったかね?本の題名は」
「うわあっ!それ以上言うな!」
雪恵さんに聞こえたらどうするんだ。
「この家には年上の美人があと3人いるが、あれに載っていたのはせいぜい三十路手前の女ばかりだった。
大二郎、私の推理は間違っているかい?」
思い切り目が笑った顔でのぞき込まれて、僕はバカみたいにうろたえた。
「あ、あ、あんたなんか年上であっても美人じゃないじゃないか!」
出てきたのはこんな言葉だけだというのが情けない。
周一郎兄さんなら、ババアが黙るようなもっと気の効いたことが言えるのだろうけど。
「おや、失礼なことを。あたしだって昔はちょっとしたもんだったんだよ」
「そんな大昔のこと知らないって言ってるだろう、とにかくもうこの話はやめにするっ!
二度と、あんなことを僕にも雪恵さんにも言わないでくれ!」
圧倒的に形勢が不利なのを感じ取った僕は、それだけ言って祖母の部屋をあとにした。
ちくしょう、あのババア。
当っているだけに何にも反論できなかったじゃないか。
これ以上何か言われないうちに、あの雑誌は処分してしまおう。
……載っていたのは洋服の女性ばかりで、僕好みの和服美人はいなかったし。
夕食の時間になっても、給仕をしてくれる雪恵さんの顔をまともに見ることができなかった。
俯いて黙々と食べて、さっさとごちそうさまをして自分の部屋に戻る。
勉強をする気にもなれず、ベッドに足を投げ出して座って今朝のことを考えた。
無神経な祖母のせいで僕の淡い想いは台無しだ。
旦那さんを亡くして、今なお喪に服すように静かにしている人にあんなことを言うなんて。
それに、僕にだって失礼だ。
いくら僕が彼女いない歴=年齢の、さえない高校生だからって。
そりゃあ、雪恵さんが僕と一晩…なんてことになったら嬉しいけどさ、憧れの人だから。
きっちり着込んだ着物を脱がせて、髪をほどいてあげて、そして……。
初めての時はやっぱりベッドよりも布団の方がいいな、その方が雪恵さんのイメージに合う。
なのに全く、今日は厄日だとぶつぶつ独り言を言いながら、僕はいつしか眠ってしまっていた。
「坊ちゃま」
まどろみの中、呼びかけられて意識が覚醒した。
僕をこんな風に呼ぶのは一人しかいない。
ババアも母も大二郎と呼び捨てにするし、トキ江婆さんは「二郎様」って呼ぶし。
目を開けた僕の目に映ったのは、さっきまで考えていた雪恵さんその人だった。
「へっ?」
起き抜けのものすごく間抜けな声で返事をしてしまい、あわててしまう。
雪恵さんがなんでここにいるんだろう。
「どうしたの、何か用?」
大急ぎで身体を起こして尋ねる。
雪恵さんは、心なしかいつもより顔色が青白いように思われた。
「…夜伽をしに参りました」
小さな小さな声で呟かれた言葉に、僕は一気にパニックになった。
「よ、夜伽!?」
「はい」
雪恵さんが頷き、きっちり締めてあった帯に手をかける。
シュルシュルと音を立て、彼女の胴に巻き付いていたそれがただの細長い布になるのを呆然と見つめた。
ちょっと、ちょっと待って。お願いだから待って!
この展開は余りに不自然すぎる、きっと夢の中の出来事なんだ。
雪恵さんを止めようとした手で自分の頬を思い切り引っ張ってみる。
飛び上がるほどの痛みに、これは夢ではなく現実だということを知り呆然となった。
頬を引っ張ったままの姿で固まっている僕に、雪恵さんが静かに言った。
「ご遠慮なさらないで下さいまし。大奥様がお命じになったことですから…」
きっちりと合わされた胸元に手をかけて開きながら、さらに雪恵さんが言う。
「こちらに…置いていただく為ならば、私は…構いません」
震えながら苦しそうに言われて、僕の胸はギュッと押し潰されたように痛んだ。
「僕のことを好きじゃないのに、相手をしてくれるって言ってるの?」
「え…」
雪恵さんが言葉をなくし、暗にそうであることを認めた。
何だよ、それ。
ババアに言われたから、僕とそういう事をするってことなのか?
いくらなんでもそれは僕のことを馬鹿にしているよ。
童貞には童貞のプライドってものがある。
「僕は、嫌がってる女の人を無理にどうこうしようなんて思わないよ。雪恵さん、さっさと服を直してよ」
精一杯の虚勢をはって言うと、雪恵さんは驚いたように目を見開いた。
「あの…」
「僕を好きになってくれたのならともかく、そうじゃないのにババアの言うことなんて聞く必要は無いよ。
初めては、僕のことを好きになってくれた人とするって決めてるんだ。ガキのたわ言だと笑うなら笑っていいよ」
相手をしてもらえと下半身が悪魔のささやきをしてくるが、そんなものは無視だ。
いくら雪恵さんが美人でも、今そういう関係になってしまうのは何か違う。
ここで誘惑に負けてしまえば、何か大切なものを失うと直感した。
「いいえ!大奥様のお申し付けですから」
しかし、ホッとして服を直すかと思いきや、雪恵さんは食い下がってきた。
祖母が戯れに言ったことを、こんなに真剣に受け止めていたのだろうか?
「私は構いません、構いませんから…」
ベッドに座り、雪恵さんは僕の方に向けて身体をもたせ掛けて来た。
でも体も声も震えていて、とても大丈夫だとは思えない。
「ダメだったら、ダメだよ!」
僕は声を裏返らせながら言って、雪恵さんを押しのけた。
ザリガニみたいに後ろに飛びのき、距離を取って説得する。
「僕とどうこうならないからって、追い出したりなんかしないったら。雪恵さんは僕よりよっぽどうちに馴染んでいるもの。
トキ江さんも実の娘みたいに可愛がってるし、雪恵さんをどうこうしたら僕のほうが追い出される」
手を変え品を変え、どうにか思い直してくれるように言葉を重ねた。
雪恵さんが考え込むように動きを止めたのを見て、ベッドの上掛けを引っつかんで彼女に被せる。
白い襦袢と、それに勝るとも劣らない白い胸元が隠れたのを見て、僕はようやく一息つくことができた。
十分に距離を取って、ベッドの端に座る。
上掛けをかぶったままの肩がひくひくと上下しているのを見て、いたわしくなった。
「…坊ちゃま、申し訳ございませんでした」
ようやく紡ぎだされた小さな声は、やはり震えていた。
さっきの雪恵さんの様子は尋常ではなかった。
物静かなこの人が、いきなりあんな風に迫ってくるなんておかしい。
「気にしてないから、雪恵さんも気にしないでいいよ」
本当はものすごく気にしているのだが、せめてもの虚勢をはって答えた。
「…はい」
「雪恵さん、何か悩んでいることがあるの?」
「え…」
さっきこの人は、「こちらに置いて頂く為なら…」と言った。
うち以外では働けない事情でもあるのだろうか。
気立てがよくて美人なんだから、もっと人前に出る華やかな仕事だってできそうなものなのに。
「僕でよかったら、聞くよ。僕でよければ、だけど」
深刻であろう彼女の事情を、青二才の僕が受け止めきれるとは思わない。
でも、さっき迫られてうかつにも反応してしまった下半身の熱を冷ますためにはこれしかなかった。
長い沈黙の後、雪恵さんはぽつぽつと自分の身の上話を始めた。
それなりの家に産まれ、19歳になったときに父親の独断で二周りも年の離れた男の後添いにやられたこと。
しかしその夫は酒癖が悪く、しょっちゅう手を上げられていたこと。
21歳になる年にご亭主が事故で急死した後は、義弟夫婦にいびられ、身一つで追い出されたこと。
横暴な父親のいる実家にも戻れず、行く当てがなくて困っていたところをうちの祖母に拾われたこと。
何も持たずに来たのに、身の回りのものは祖母や母のお下がりを与えてもらい、本当に感謝していること。
雪恵さんの口から、僕が今まで全く知らなかったことが次々と明らかにされた。
女中さんにしては綺麗で洗練されているとは思っていたが、まさかひとかどの家の出身だとは知らなかった。
それよりも、雪恵さんが地味にしているのは、亡きご主人をしのんでだと思っていたのに、そんな事情があったとは。
予想していたよりもはるかに重い身の上話に、僕は絶句してしまった。
下半身の熱は早々に冷めてしまったから、こちらは予想通りであったのだけど。
「私、こちらを出ては行く所が無いと思いつめて、あのようなことをしてしまいました。
坊ちゃまには本当に申し訳ないことを致しました、どうかお許しください」
雪恵さんがベッドを下り、床に座って頭を下げる。
その姿があまりに哀れで、どうにかして守ってあげたいと思った。
「本当に気にしてないよ。こっちこそ、祖母が変なことを言ってごめんなさい」
僕もあわてて床に座って頭を下げた。
そして、祖母には僕がきつく文句を言っておくからと言い含め、雪恵さんを部屋から出した。
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを聞きながら考える。
雪恵さんが来たとき、本当の事情が知らされなかったのは、僕がまだ子供だからだろうか。
兄は大人だから事実を知らされたのかもしれないと思うと、とても悔しくなった。
それにしても雪恵さんの父親も亡夫も義弟も、揃って不届きな野郎だ。
美人をいじめるなんて男の風上にも置けない。
いや、人類共通の敵だと言ってもいい。
これで、雪恵さんが男性恐怖症にでもなったらどうするんだ。
もしかすると、もうなってしまっているかも知れないと思うと、ひどく焦った。
その夜、僕はほとんど眠ることができなかった。
明朝、祖母の部屋へ押し掛けて昨日のことの文句を言った。
雪恵さんが思いつめてしでかしたことを話すと、さしもの祖母も言葉を失った。
黙っている祖母に、不用意な発言をしたことを叱りつけ、もう二度と無神経なことを言っては駄目だと釘を刺した。
初めて、この人に口で勝てたような気がする。
「確かに、今回は私が悪かった。雪恵さんには私からも謝っておこう、お前にも済まなかった」
素直に謝られるのにびっくりしたが、さも当然だという表情を作って受け流す。
「雪恵さんの事情を知っていたなら、なんで昨日みたいなことを言ったんだよ」
もう少し何か言ってやりたくて、更に言葉を続ける。
「もう2年も経つから、そろそろ傷も癒えたかと思っていたんだが。浅はかだったようだね」
きっと、たった2年ぽっちでは立ち直れないくらい、深く傷ついたのに違いない。
改めて、雪恵さんにひどいことをした奴らに対して怒りがこみ上げてきた。
僕がもっと大人だったら、傷ついた雪恵さんを優しく包み込んであげられるのに。
6つも年下であることに、歯噛みするほど悔しくなった。
いや、年はこの際考えないことにしよう。
僕がもっといい男になって、雪恵さんに好きになってもらえばいいんだ。
あんまり自信が無いけど、雪恵さんがこのまま自分の殻に閉じこもったままでいるのは惜しいと思う。
亡きご亭主を慕い続けているのなら振り向いてもらうのは難しいだろうけど、今回は幸いその正反対だ。
僕のことを好きになってくれれば、いずれ自分の意思で身を任せてくれるかもしれない。
急に黙り込んだ僕に祖母が疑わしげな視線を向けてくる中、明るい未来を無理矢理思い描いた。
〔続く〕
ぐっじょぶ!!
続き楽しみにしてますぜ
284 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 00:16:52 ID:JLP7hEJN
いい…これはいい
出だしとしては最高だな!GJ!
続き楽しみにしてるよ!
続きが気になって仕方ない
GJ!
GJ!
年上なのに保護欲を掻き立てられるのってある意味最強
良い!すごく良い!
GJ!GJ!GJ!(大事な事だから三回言いました)
GJ!
ちんちん握って待ってます
290 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 14:32:07 ID:nA7UHB/n
wktk
ただ、文中で5歳年上だったり6歳年上だったりするのが気になる
一晩空けてるから作中で誕生日を迎えたって線もあるけど
麻由さんの人はもう返ってこないの??
293 :
291:2008/08/16(土) 19:56:31 ID:ApAiZtmF
292ありがとう。
別ん所で続いてたんだな。そのレス見逃してたわ。すまん。
咲野さんや小雪さんはどこですか?
メイドさんはみんなの心の中に…
>>294 小雪さんはカッパになってしまったので地元に引きこもってます
どうしても読みたいなら自分でグーグル先生にでも質問しろ、としか言えんわな。
原作知らん奴でも読める様な二次創作なんて、説明過多で読めたもんじゃないだろ。
誤爆失礼
「メイド・初音」のせいもあって小雪のビジュアルがリンにしか思えなくなりました
>>300 ちょっと待て俺も頭から離れなくなったじゃないかw
>>300 リンがわからない自分に教えてエロい人。
ボカロの鏡音リン
可愛いからいいけどさw
d!www
リンと聞いてFM5しか浮かばなかった俺
リンと聞いてカイフン兄さんしか浮かばなかった俺涙目w
何故そこで兄さんの方なんだw
カイ
カイ糞氏ね
Maid in Japan
『メイド・小雪 7』
十二月に入ると、朝の着替えのときに小雪が薄手のセーターを出してきた。
大学はもう暖房が入っているし、ぼくはそんなに寒がりじゃない。
だいたい、カッコ悪いじゃないか。
「そうでございましょうか。でも、もし直之さまがお風邪などお召しになりましたら…」
心配する小雪の頭を撫でてやる。
「いいよ、じゃあ来週になったらセーターを着る」
「は、はいっ」
小雪は嬉しそうにセーターをしまい、かわりに厚地のシャツを着せ掛けた。
まあ、このくらいは心配性の小雪に免じてよしとするか。
「あ、あの、クリスマスパーティーのお召し物でございますけれども」
シャツのボタンを留めながら、小雪が言う。
「今日、出来上がってくる予定でございます」
「ああ、そう」
「タイとカマーバンドは、ご用意したものでよろしゅうございましょうか。あの、カフスボタンは今お持ちのもので」
「うん、いいよ。小雪にまかせる」
「…はい」
小雪がぼくの担当メイドになってから、正式なパーティーに出席するのは初めてだ。
年末は、大学のクリスマスコンパといったものから、交流会のメンバーが集まる若手のパーティー、グループ会長である父が主催する正式なものまでが立て続けにある。
クリスマスが終わっても、小雪たち使用人は年越しと正月の準備に大忙しだ。
やることがたくさんあって、小雪の頭は最近やや混乱状態のようだった。
しばらく前に、今までのタキシードを着てみたところ、あちこち身体に合わないことがわかった。
背が伸びたのかなと思いながら、仕立て直すことにしたのだ。
「お背が伸びたと申しますより、お体が出来てまいりましたのですね。筋肉が増えて、たくましい大人の体型におなりです」
たテーラーの職人がそう言っていた。
そのタキシードが出来上がってくるのだろう。
「お靴は、ストレートチップでよろしゅうございましょうか…」
小雪の頭の中は、クリスマス期間にぼくが着る服のことでいっぱいのようだった。
正式な場であればあるほど、主人の装いには担当メイドの実力が試される、と脅かされたらしい。
ぼくは小雪の頭にもう一度、手を乗せて撫でた。
「それでいいよ。ありがとう」
小雪が着せてくれるのなら、ぼくはメイドの制服でだってパーティーに出る。
その日の授業のあと、聡が買い物に付き合ってくれというのでぼくは一度家に帰ってから、倉橋家の車で出かけることになった。
予定外の行動だったので、小雪はお使いででも屋敷を空けているのか、出迎えに出なかった。
物足りない気はしたが、屋敷に入って着替えるわけでもない。
そのまま、迎えの車に乗り換えて走り出したとき、裏玄関のほうで小雪らしいメイドの姿がちらっと見えた。
ああ、すれ違いになったな。
そう思ったとき、小雪が一人ではないのに気づく。
やけにひょろっとしたその立ち話の相手は、使用人の誰かだろうか。
主人の帰宅にも気づかないほどの、なんの用があるんだ。
帰ったら、みっちり叱ってやろう。
うん、ひとつ楽しみができた。
で、聡がなにを買うのかと思えば、最近始めたというゴルフのウェア。
この寒いのに、ゴルフ。
誘わないでくれるといいな、と思っていたら、まだそんなレベルではなく、冬のうちに練習して春にコースデビューをするんだそうだ。
「直之はどれくらい飛ばす?あ、いいパターがあれば教えてくれよ。シューズはさ…」
などと言いながら、デパートの売り場を歩きまわり、そうそうに飽きてきたぼくはふらふらと別の売り場を見たりする。
選び終えた聡は、それらを家に届けるよう店員に言い、ぼくを引っ張ってエスカレーターに乗る。
「もう十分買ったじゃないか」
「違うよ、本命はこっちなんだ。うちの人間は今日ぼくがここに来たのを知ってるからね、今のはカモフラージュだよ」
そんな小細工をしてまでなにを買うつもりなんだ。
連れて行かれたのは、アクセサリーやバッグで有名なブランドのブース。
聡が時計好きなのは知っているから、ここでまたなにか買うのかと思うと、しきりにケースを覗いている。
奥から飛んできた店長らしい女性が奥へと勧めるのを片手を振って断り、ぼくを手招きした。
「これ見てくれよ。今年の新作なんだ」
「変わった趣味だな。似合うとは思うけど」
聡が指差したのは、クロスのモチーフに三つダイヤが光る、ネックレスだった。
「…直之。ぼくがこんなものを付けていても、お前は友達でいてくれるのか」
ぼくは笑いをこらえている店員の視線を感じながら、聡に向かってキッパリ言った。
「努力するよ」
ついに店員がこらえきれなくなり、聡も笑った。
「理奈だよ。クリスマスにこれを欲しがってたんだ」
理奈というのは、聡が夏ごろから付き合っている女子大の女の子だ。
あいにく、交流会で会うような令嬢ではなく、父親はサラリーマンで、母親はコンビニでパート、弟は高校を中退して音楽活動、といった家柄らしい。
グループ企業の一つを任される社長として跡取り息子に常識的な期待をしている親には、紹介できないだろう。
店員に言ってケースから出させ、確認してからカードでなく財布から現金で払って受け取った。
…なかなかいい値段がする。
聡が財布から出した札の枚数を見て、ぼくはちょっと感心した。
こういうものを、欲しいと言える理奈という女の子は、やはり聡の財布目当てで付き合っているんだろうか。
確か、ついこの間も誕生日だとか言ってバッグを買ってあげてなかっただろうか。
玉の輿でも狙っているんだろうか、でも聡はサラリーマンの娘とは結婚しないだろうし、などと勘ぐる。
ネックレスがラッピングされている間に、ぼくは順にケースの中を覗いてみた。
指輪やピアス、ネックレスにブレスレットといったアクセサリーが並んでいる。
プレゼントですか、と店員が声をかけてきた。
さっとビロード張りの台の上に幾つかの商品を並べてみせる。
「今、このシリーズが若い女性に人気なのですよ」
ピンクゴールドだというそのペンダントトップは、ころんとした球体に幾つかの突起があって、どの角度からもなんとなく雪の結晶のように見えるデザインで、上に小さな羽根とダイヤがついている。
確かに、かわいい。
ぼくがそれを見ていると、店員は手早くそのペンダントトップに細いチェーンを通して、自分の胸元に当てて見せた。
天使の羽のついた、小さくて丸い雪の結晶。
「…それを」
気づいたら、言っていた。
手の平くらいの紙袋を受け取ったぼくを、聡が笑いながら見ていた。
「なんだよ、隅に置けないな」
「…衝動買いだ」
天使の結晶4つぶんくらいの値がするネックレスを買った聡が、ぼくが指先に引っかけている紙袋を覗き込む。
「誰にだよ?」
ぼくは、返事を濁した。
家に帰ってから、風呂に入っている間に見つかるように、わざと上着のポケットにネックレスの紙袋を押し込んでおいた。
しかし、主人の持ち物を勝手に見たりしない躾のいいメイドである小雪は、そのまま上着の埃を払ってクローゼットに片付けたらしかった。
風呂から出て、少しがっかりしながらクローゼットを開けたぼくの後ろから、小雪が背伸びして髪の毛からしたたる水を拭こうとする。
ぼくはポケットから紙袋を取り出すと、指一本でひっかけて、小雪の目の前にぶら下げた。
「小雪にあげるよ」
小雪はいつものように首をかしげた。
「小雪に、いただけるのですか?」
タオルと紙袋を取り替えて、ぼくは小雪の嬉しい顔を想像する。
「うん。ほら、見てごらん」
紙袋を開き、リボンを解いて箱を開けた小雪が、小さな悲鳴を上げた。
「え、どうした?」
もしかして雪の結晶が死ぬほど嫌いとか、天使の羽アレルギーとか?
小雪は両手で箱を持ったまま、ぼくを見上げた。
「あの、なにかお間違えではございませんでしょうか。ほんとうに、これを小雪がいただいてもよろしいのでございましょうか」
「もちろん、そのつもりで買ったんだけど。気に入らないかい?」
「とんでもございません!とても、とても素敵で…小雪は、驚いて」
もう、泣いている。
ぼくは小雪の頭のてっぺんにキスした。
「ちょっと早いけどね。メリー・クリスマス」
そういえば、小雪になにか買ってやったことなど今まで一度もなかったんだな。
……あれ、小雪の誕生日って、いつなんだろう?
触れることも出来ずに箱の中を見つめている小雪の後ろに回って、ネックレスをつまみ上げ、細い首に回してつけてやった。
「うん。いいんじゃないか。そこの鏡で見てごらん」
クローゼットのドアの内側についている鏡の前で、小雪が身動きせずに見入っている。
「きれい……」
「小さい雪の結晶みたいだろ?見た時すぐに小雪にぴったりだと思ってね」
「そんな…、もったいない…」
ぐすん、と鼻をすする。
「泣くことないじゃないか。気に入ったんならつけてなさい。仕事中は襟の中に入れてしまえば見えないだろう?」
鏡を見ながら、小雪がそっと指先でピンクゴールドの結晶に触れる。
「でも、こんな素敵な…、小雪などには」
「いいんだ。ぼくが、それを小雪につけさせたいと思ったんだ。小雪の喜ぶ顔が見たいんだよ」
後ろから肩を抱いて、鏡の中の小雪を見る。
「似合うじゃないか」
そう言うと、小雪はやっとはにかんだ笑みを浮かべて、頷いた。
「あの、あの、あ、ありがとうございます……」
「うん」
「あの、でも、小雪には、お礼できるようなものが」
ぼくは小雪の頭に手を乗せて、ぽんぽんと軽く叩いた。
「うん。お礼はね。小雪でもらうから」
意味がわからないようにぼくを振り仰いだ小雪が、たっぷり5秒考えてからぼんっとなった。
「あのあのあのっ」
小雪が、パタパタと両手を振ってペンギンになる。
「喜んでくれて、ぼくも嬉しい」
小雪のこめかみの辺りを両手で挟んで、真っ赤な顔を上向かせた。
「あ、あの、あのあの、こっ、小雪は、あの」
「うん?」
「小雪は、小雪のいないところで、直之さまが小雪のことを思い出してくださったのが、一番嬉しゅうございます…」
ぼくは小雪の顔を挟んだまま、額に唇を押し付けた。
小雪は小さいから、立ったままだとどうしてもそうなる。
ぼくは小雪の両手を取ってソファに座った。
小雪を見上げる。
「ね、小雪。ちゅーして」
「え、え、え!」
上を向いて目を閉じる。
「あの、あの、あの」
「早く」
「は、はい…」
じっと待つ。
「失礼いたします…」
顔の近くで、小雪の声がした。
ぷるん。
小雪の唇が一瞬押し当てられ、すぐに離れた。
目を開けると、小雪がすぐ近くでぼくを見ていた。
「もう一回」
言うと、また小雪の顔が近づいてくる。
ぼくは握ったままの小雪の手をぐいと引っ張った。
「んきゃ…!」
腕の中に転がり込んできた小雪を受け止める。
「あのね、小雪、このペンダントね、チェーンが別売りだったんだよ」
「むきゅ…、しゃ、しゃようでごじゃいましゅか」
「今のちゅーはすっごく嬉しかった」
「きゅ…」
「でもさ、これってチェーン分くらいかな?まだ本体の分のお礼がさ」
「……」
「小雪?」
小雪がぼくの胸の中で窒息しそうになっていた。
「小雪、小雪!」
「むきゅ…、ひゃ、ひゃい」
腕を緩めると、小雪がくたっとしていた。
「ごめんごめん。悪かったよ、許しておくれ」
「ひえ、あろ、ひょんでもござ、ございません」
背中を丸めるようにかがんで、顔を上げた小雪の唇にキスした。
「お詫びに」
制服の上から、胸元をつつく。
「いっぱい、いいことしてあげるから」
ぼんっとなった小雪が両手で顔を覆った。
「ふぇ…」
ぎゅっと抱きしめると、小雪の髪から太陽の匂いがした。
鼻を押し付けみて、ああ、小雪は今日外出してたんだな、と思う。
ん。
待てよ。
「小雪、今日ぼくが学校から帰ってきたとき、いなかったね」
「は、はい、申し訳ございません。ちょうど裏のお庭のほうにおりましたものですから…」
急に言われて驚いたように、小雪が顔を上げた。
「うん、いいんだ。車を置きに来ただけだし、すぐ出かけたからね。だけど、庭で誰かと話をしていなかったかい?」
ぼくの腕の中で小雪が身体を立て直して、首をかしげた。
「あの、あ、はい、お話をしておりました」
「誰?」
「葛城さんでございます」
「執事の?いや、他の人と話さなかったかい」
葛城も背は低くないが、ぼくが見たのはもっとひょろひょろした感じだったし、もっとずっと若い。
「いえ、あの、葛城さんでございます。あの、葛城康介さんでございます」
ちょっとわからない。
葛城は、康介なんて名前だったっけ。
「あのあの、申し訳ございません、あの。小雪がお話しておりましたのは、葛城さんの息子さんでございまして、あの、近々、お屋敷にお勤めなさるということでございましたのですけれども、あの」
思い出した。
そういえば、しばらく前に父が言っていたような気がする。
葛城の息子が、執事見習いで勤めることになったと。
あれがそうか。
しかし、あんなもやしみたいな体格で執事の激務がこなせるんだろうか。
父親の葛城は柔道と剣道の有段者で、いかにも頼りになりそうだけど。
だいたい、正式に勤めてもいないうちから屋敷の庭に入り込んで、主人家族に挨拶もなしにメイドとおしゃべりとはなにごとか。
「あの、あの、直之さま?」
ぼくがぎゅっと抱きしめたまま黙ったので、小雪はソファの上で手をパタパタした。
「なんか、やだ」
「は、はい?」
「いや。なんか、やだって言ったんだ」
「あ、あの」
「葛城の息子となにを話してたの」
「あ、あのあの、メイドは、お休みはいつなのですとか、お仕事は何時までですとか、そのような」
なぜ、そんなことを聞くんだ。
小雪は、朝までぼくと一緒にいるんだ。一日の終わりなんか、ない。
「あのあの、あの、いけませんでしたでしょうか…」
ぎゅう。
「むきゅ…」
「小雪はぼくの出迎えより、葛城の息子とおしゃべりしたかったんだね」
「ひょ、ひょんな、ひょのようなこと!」
だんだんムカムカしてきた。
「なんだよ、小雪のばか」
言葉と裏腹に、ぎゅうっとする。
「ふぇ、ええ?!」
小雪がパタパタと暴れた。
ぼくが出かければ、小雪は他のメイドと一緒に仕事をするけれど、普段ぼくが家にいる限り、小雪はぼくのそばにいる。
つまり、ぼくは小雪が他の使用人たちとどんなふうに接しているかを見ることはない。
今回みたいなことがないかぎり。
もしかして今までも、小雪に色目を使ったりする奴がいたのかもしれない。
康介みたいな若い男がこの屋敷に一緒に住めば、たくさんいるメイドの中から小雪に目をつけないとは限らないじゃないか。
もしかして、もう目をつけたのかもしれない。
それが、三条市武さんに感じたものとはまた違う種類の嫉妬、やきもちであることはぼくにもわかっていた。
「で、なんて答えたの。お休みとか、仕事の終わる時間とか」
小雪が苦しそうにパタパタしたので、腕を緩めて膝の上に抱きなおす。
「あの、小雪は直之さまの担当メイドでございますから、そういうのは決まっておりませんと」
「…ふうん。葛城の息子はなんて?」
小雪は、ぼくの胸にほっぺたをくっつけた。
「あの、よくはわからないのですけれど、労働基準…なんとかが、どうですとか」
見習い未満のくせに、なまいきなことを。
「それで?」
小雪は、ちょっと考えた。
「その、小雪もちょうどお使いに参るところでございましたので、そのくらいでございますが…」
それから、小雪は心配そうにぼくを見た。
「あの、やはり、いけませんでしたのでしょうか」
「いけないに決まってるじゃないか」
小雪がわけもわからず不機嫌なぼくに、当惑している。
「申し訳ございません…」
そんな、耳にタコができるほど聞いたセリフでは許せない。
「だめ。小雪は、葛城の息子に話しかけられても、おしゃべりしちゃいけないよ」
「は、はい?」
理由なんか、うまく説明できない。
「…なんか、やだから」
「はい…?」
しゅる、っと小雪の胸元のリボンをほどく。
腰に手をかけてくるっと後ろを向かせると、背中のファスナーを下げた。
「あ、あのあのあの」
「お仕置き」
「え、え、え」
制服を床に落として、白い下着に包まれたお尻に手を当てた。
「イチゴじゃないんだね」
メイドは制服だけでなく、仕事中の下着は白と決まっているらしい。
「あ、あのあの」
「イチゴじゃなきゃ、だめ」
ほんとうはそれほどイチゴにこだわるわけじゃない。
白だろうが赤だろうが、小雪がどんなぱんつをはいてたって、かわいいに決まっている。
ただ、ちょっと小雪を困らせたい。
困ってぼくを見る、小雪の顔が見たい。
「ははははははい?」
小雪が、ぼくの望んだとおりの表情で顔を上げた。
うん。かわいい。
ぼくは小雪の制服のワンピースを肩の上に引き上げた。
「ほら、部屋にお戻り」
ファスナーを上げて言うと、小雪はびっくりした顔になる。
「…え」
さっと顔から血の気が引いていくのが見てわかった。
ぼくがほんとうに怒って出て行け、と言っていると思ったのがわかる。
みるみるうちに今にも泣き出しそうな顔になった。
落ちそうな制服を押さえて、ふるふると震えている。
ぼくは急いで小雪を抱きしめた。
「違う、違うよ、ばか。部屋に戻って、イチゴのパンツを持っておいでって言ったんだよ。前に見せてくれるって言ったじゃないか」
ぼくが、小雪のことを怒るわけがない。
小雪だってぼくのことを怒ったことがないのに。
「…むきゅ」
小雪が苦しそうに鳴いた。
「び、びっくりいたしました…、小雪は、ほんとうに、いま、ちょっと、心臓が、止まってしまいました…」
少しだけ腕を緩めてやると、小雪は鼻をすすりながら、途切れ途切れに言った。
「…ごめん。ほんとうに、ごめんよ」
ぼくはなんて器の小さい男なんだろう。
小雪が執事の息子とほんのちょっと立ち話をしただけで、こんなにやきもちをやくなんて。
「ほら。行っておいで。急いでね、ぼくを長く一人にしないでくれるだろ?」
ほっぺたを両手で挟んでそう言うと、小雪はやっと安心した様子を見せた。
「……はい」
ぼくの手の中で小雪がはにかんだように笑った。
「小雪」
「はい」
手を離さないぼくに、小雪がちょっと小首をかしげた。
どうしても、ひとつだけ聞いてみたくなった。
「ね、小雪。ぼくのこと、好き?」
「あ、あのあのあのあのっ」
ぼくの大切な小さなペンギンが、パタパタした。
「どう?」
重ねて聞くと、小雪は湯気を上げそうになる。
ああ、まったくもう。
ぼくはイチゴのパンツをあきらめて、もう一度小雪を抱き寄せた。
イチゴは逃げない。
それに、どうせすぐに脱がせてしまうんだし。
抱きしめて、頭を撫でる。
「ペンギンの子供って、大きくなるとカッパになるんだよ。知ってるかい」
「は、ははははい?」
撫で撫で。
「うそ」
撫で撫で。
「…は、はい?」
どうしよう。
小雪が、かわいい。
どうしてもっと、小雪のことを大事にしなかったんだろう。
ふらっと現れた執事見習いに嫉妬してしまうまで、自分がどれほど小雪を愛おしんでいるのか気づかなかった。
ぼくは、小雪にしてもらうばかりで、なにもしてやったことがないんだ。
小さな小さなネックレスひとつを、こんなに喜んでくれるのに。
「ぼくはペンギンもカッパも大好きだから、ほんとでもいいんだけどね。でも、一番好きなのはね…」
「……」
「…小雪?」
くったり。
限界を超えた小雪が、ぼくの腕の中で真っ赤な芯のない人形のようになった。
しかたないか。
ぼくは一人で笑いながら、くたっとした小雪を抱きかかえた。
ぼくはその夜、ぼくの大事な大事なペンギンを、将来カッパになることを心配してばかりいるペンギンを抱いて眠った。
「…おゆき…さまぁ」
小雪が、寝言でぼくを呼んだ。
ぎゅってすると、すりよってくる。
ことの後ではないから、小雪はぶかぶかのぼくのパジャマを着ている。
そのパジャマの上から、小雪の背中を撫でる。
眠ったまま、小雪が笑っている。
どんな夢を見ているのだろう。
「……ちゅーで…ございます…」
起こさないように、ぼくは眠っている小雪の頭をそっと抱き寄せた。
夢の中で、小雪はぼくにちゅーをくれたのだろうか。
それとも、ぼくが小雪にちゅーしてるんだろうか。
朝になったら、聞いてみよう。
ねえ小雪、小雪の誕生日はいつだい?
――――了――――
GJ!小雪がかわいすぐる…
相変わらずいい仕事をしてくれるなあ
ヤキモチGJ!
小雪のセリフを読んでいると、なぜか脳内では
新井里美の声に変換される。新井は最近メイド役が
多かったのと、口調のせいだろうか。
>小雪が着せてくれるのなら、ぼくはメイドの制服
そんなプレイも見てみたいけど流石にそれはスレチだなw
>>317 なんで小雪はこんなにかわいいんだ。説明できないかわいさだ。
いや、説明する必要のないかわいさなのか。
超GJですよ!
おおおお!
久しぶりに小雪が!!
GJ!!
>>319 俺はなぜか池田昌子だ・・・
いろんな意味で複雑だ、助けてくれ
4時起きなのに保管庫の1から読んでしまった…
だがそんなのは問題じゃない!
GJ!!!
小雪の可愛さに目から汗が・・・。
あれ、こんなの初めてだ・・・。
……ふぅ
326 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 16:45:06 ID:gZaj1Qy/
テスト
麻由と武が更新されてた
>>327 新キャラが出てきてるね
二人の子供を希望していた者としては嬉しいが
娘、可愛いな
ところで、次スレの時は保管庫で二人を知った方の為にアドレスを関連サイトとして貼る方が良いのかな
サイト主の了承がとれればいいと思う
その後はスレチなんだし
保管庫の最後の話の末尾にでも
誘導URL貼ってもらえばいいと思う
「以前ここで連載されていた作品のアフターストーリー掲載サイト」という形で
関連サイトに入れてもいいのではないかな
というか、その方が親切だと思う
サイト主が拒否しなければ
>>330でいいと思う。
一作品だけテンプレに載せるのはどうかと思うし、次スレになればどうせ新しい人は保管庫から読むんだから。
真・専属メイドの人来ないかな
『メイド・小雪 7』
年が明けて最初の交流会は、持ち回りの順でうちが主催することになっていた。
参加するのは、旧華族だの財閥だの成り上がりだの、いわゆる家柄や資産のある家の年頃の若者。
若いうちから人脈を作るのが目的で、その気になれば手っ取り早く結婚相手を見つけることが出来る。
同世代が集まるから昔からの幼なじみも多く、ちょっとした社交界めいたものである。
父の代かそのちょっと後くらいまでは、南の島を貸しきってヨット遊びをしたり、ヨーロッパの別荘で狩猟をしたりという、暇とお金を使うことが上流の証拠、みたいな交流会が盛んだったらしい。
でも今は、気取った振る舞いと格式そのものを楽しむようなブルジョワな集まりは敬遠される。
で、もっぱら最近は日帰りが可能な場所かせいぜい1、2泊で、人気のマジシャンを呼んだディナーショーみたいなものや、わざと田舎風にしたガーデンパーティーや、海辺のコテージでキャンプの真似事のようなものが多い。
もっとも、それらにも正式な招待状が届くし、暗黙のルールやマナーも盛りだくさんなわけだけれど。
今月は、うちの別荘をそっくり改造してどこかのテーマパークのお化け屋敷のようにし、一晩泊まってそこを歩きまわったり所々に用意されたテーブルで軽食や会話を楽しんだり怖がったりするという、ぼくから見れば軽く悪趣味な催しになるようだ。
もちろん、それを計画したのは主催者たるぼくの兄であって、ぼくではない。
「暗闇でどこかの令嬢に抱きつかれたり、手を引いてやったりぐらいはお前でもできるだろう。明るいところでよく顔を見てかわいいのを選んでおけよ」
とは、さすがに兄らしい助言。
そう言う兄自身、そろそろと父に言われたらしく、交流会でも未来の妻を探す気になったようだった。
イベント色の強い今回は、幼稚園から大学までずっと一緒、という腐れ縁の倉橋家の長男・聡も、楽しみにしている。
「直之自慢のメイドは?会場にいるんだろう?」
「誰のことだよ」
「新しい担当メイドだよ。どんな子だ?」
「どんなって、聡の好みじゃないよ」
まったく、なぜそんなに人の家のメイドが気になるんだ。
だいたい、交流会で主人が家を空ける日は、担当メイドにとって数少ない完全休日になっている。
とはいえ、三条市武さんと結婚した初音に、元メイドだと誰かが指さすような事がなかったように、もし聡がうちのメイドの誰かを妻にしたところで、「倉橋の社長も息子には鷹揚な」で済む。
家が格式にとらわれすぎなかったり、次男か三男だったりした場合、当主の息子や孫がメイドと結婚することはあまり珍しいことではないのだ。
メイドというのは、まったくの庶民階級で育ったお嬢さんなどより、よほど上流階級のしきたりに通じているし、礼儀作法も身につけているものだ。
うちはメイドの教育には定評があるし、初音に限らず、他家に望まれるメイドも多かった。
しかし、自分の家のメイドは手を付けることがあってもあくまでメイドであって、そのまま妻にするという前例はないようだ。
兄が企画したばかばかしいような楽しいような交流会は、悪ふざけの大好きなお坊ちゃんや世間知らずのお嬢さんたちに概ね好評のうちに終わった。
交流会といえば会場の隅に陣取って入れ替わり立ち代り寄ってくるご令嬢を愛想よく、かつ適当にあしらっているだけの兄も、さすがに幹事らしくあちこち歩き回ってみんなの世話をやいていた。
ぼくは聡やほかの幼馴染たちと女っ気なしで夜通し遊び話をし、酒を飲んだ。
そのほうが、楽しかったのだ。
交流会の後、まっすぐサークルの合宿に合流し、ぼくが屋敷に帰ったのはさらに三日後だった。
さすがに疲れもあり、小雪の笑顔にに出迎えてもらうとほっとした。
交流会の話を聞きたがる小雪に、お化け屋敷の曲がり角で天井から落ちてきたシラタキのことや、廊下の床に塗られたワックスで転んだ聡がとっさにつかまったベンチからビックリ箱のようにろくろっ首が飛び出してきたことなどを、身振り手振りで大げさに小雪に話して聞かせた。
小雪は、驚いたり怖がったり、笑ったりしながらぼくの話を聞いた。
ぼくの膝の上の小雪が、たくさん笑った後で、ことんと頭を胸につけた。
「さぞかし楽しゅうございましたのでしょうね。あの、……小雪なぞには、縁のない場所でございますけれども…」
交流会の手伝いをしたメイドは一般職で、小雪や菜摘は連れて行かなかった。
「そんなに楽しいわけじゃないよ。気も使うし、仲の良い人ばかりでもないしね。ぼくは」
小雪の頭に手を回して、胸に押し付けた。
「こうして小雪といるほうが楽しいな」
「……」
「小雪?」
「……はい。小雪も、直之さまとご一緒しているときが、あの、一番楽しゅうございます」
そう言う小雪を、むきゅっとなるまで抱きしめた。
「ああ、そうだ。サークルの合宿ではね、みんなで闇鍋をしたんだよ。小雪は闇鍋を知っているかい?」
「……」
「小雪?」
「……」
抱きしめすぎて呼吸できなくなったかと腕を緩めて顔を覗き込んで、驚いた。
「小雪?どうした?お化け屋敷の話がそんなに怖かった?」
ぼくのシャツは、小雪が顔を押し付けていた部分だけ涙で色が変わっていた。
慌てて小雪の頬に手を当てる。
こらえきれないように、小雪は両手で顔を覆ってしゃくりあげ始めた。
なんだ?どうした?
ぼくといるのが楽しいと言ったばかりじゃないか。
なにを泣いているんだ?
「小雪、泣いてちゃわからないよ。なにが悲しいんだ、言ってごらん」
小雪が、息をするのも苦しそうに泣いている。
次から次へとあふれる涙が止まらない。
わけがわからず、ぼくは途方にくれた。
「小雪、言いなさい、どうした?」
小雪はただ、首を横に振り続ける。
こんな小雪を見るのは初めてだ。
「…小雪、わからないよ、なにかあったの?」
「も、も、申し上げられません…、小雪は……、口が裂けても…申し上げられません」
小雪の口が避ける前に、ぼくの心が引き裂けてしまいそうだった。
次の日、ぼくは午後から小雪に買い物を頼んで出かけさせ、その間に千里を呼んだ。
担当を外れてから4年、ぼくが自分から千里を呼びつけるのは初めてだ。
それでも千里はまるで毎日そうしていたときのように、やってきた。
千里が部屋のドアを閉めると、待ちきれずにぼくは一気に吐き出した。
「千里、ぼくはまた小雪を泣かせたよ」
千里はウエストの前で手を組み、まっすぐぼくを見上げた。
「さようでございますか」
「だけど、わけがわからないんだ。ぼくには小雪を泣かせるような事をした覚えがない」
「…わかりました。まずはおかけくださいまし。落ち着いて、ゆっくりお話を伺ってもようございますか」
千里に言われて、ぼくはどさっとソファに腰を下ろした。
「昨日だよ。帰ってきて…、交流会のこととか、合宿のこととか話してたんだ。面白いことを教えて笑わせてやりたかったのに、小雪は急に泣き出したんだ。まったくわからないよ」
部屋の隅にある冷蔵庫を開けて、千里がミネラルウォーターをコップに注いでテーブルにおいてくれた。
「小雪に理由を聞いても言わないんだ。命令だから言いなさいと言っても、口が裂けても言わないと言うんだよ」
そこまで言って、コップの水をごくごくと飲んだ。
黙って聞いていた千里が、口を開いた。
「小雪が申し上げられないと言うのなら、尋ねずにいてやってくださいませ。メイドには、メイドの守秘義務がございます。本来、秘密を持っているということを主人に悟られること自体が誉められたことではございませんが」
「秘密?」
「さようでございます。一般メイドはもちろん、担当メイドは特に、自分の主人のことを他の者に話してはいけないのでございますよ」
「……」
そこで千里は目元をやわらかくした。
「わたくしも、直之さまが小学校の3年生のとき、最後のおねしょをいたしましたことを、今まで誰にも申しておりません」
いやなことを思い出させる。
「だけど、千里は今、ぼくに言ったじゃないか。小雪はぼくの担当メイドなんだ、ぼくにはなにかを秘密にする必要なんかないだろ」
「そうでございますね」
千里はちょっと考えた。
「でもそれは、直之さまのことではないかもしれません。もしかして旦那さまか奥さまか、正之さまか…、主家のどなたかのことでしたら、小雪は例え直之さまにも申し上げることはできません」
「…なんで、小雪が、ぼくが知らないようなお父さまたちの秘密を知ってるんだよ。それに、だからってあんなに泣くことはないだろ」
「もしかして、でございます。それに、使用人たちのネットワークは直之さまが思ってらっしゃる以上に張り巡らされております」
「……」
わたくしが他言しなくとも、直之さまのご様子を見たり、リネンのお洗濯を見たりして使用人の誰かが、今日は直之さまはおねしょなさったと気づかないとも限りません。
そして、それに気づいた使用人が5人おりましたら、例えそれぞれが誰にも他言せずとも、5人は知っていることになります。そのうちの一人が小雪だということもございましょう?」
「…おねしょの例えはもういいよ」
ぼくがむすっとすると、千里はぼくの足元に膝をついた。
「直之さま。わたくしが、以前申し上げたことを覚えておいででございましょうか」
「以前?」
「はい。小雪が担当メイドになりましたばかりの頃でございます。わたくしは、直之さまに小雪は一生懸命で、良い子ですと申し上げました」
「…うん」
「わたくしは、まもなくメイド長を拝命いたします」
いきなり、話が変わった。
千里はぼくの両親や他の使用人たちの評判もいいし、今のメイド長が退職すれば次のメイド長として千里の名が上がっても不思議ではない。
「今のメイド長からは、ずいぶん前からお話がございまして心構えはしておりました。そうでなくとも、若いメイドたちの教育はわたくしたちのような齢をとりましたメイドの務めでございますから、よく観察しております」
「……まだまだ千里は若いよ、きれいだよ」
そう言うと、千里はにっこりした。
「ありがとう存じます。でも、長くお屋敷におりますから、たくさんのメイドを見てまいりました。その中でも、小雪はとりわけ良い子でございます。多少不器用なところはございますが一生懸命で、なにより」
ぼくを見上げ、膝に手を置いた。
いつも、小雪が小さなお尻を乗せてくれる膝。
「小雪は、直之さまが大好きでございます」
胸が、ぎゅっと痛くなった。
千里は黙ってしまったぼくの膝を撫で、そして屈んだまま少し下がり、立ち上がった。
「失礼してもようございましょうか?」
ぼくは、黙ったまま頷いた。
ドアが開き、閉まった。
わかってるさ。
小雪は、最初からぼくのことが大好きだった。
たぶん、4年ぼくに仕えてくれた初音より、ずっとぼくのことを大好きだ。
小雪なら、たとえ当主である父の持ってきた話でも、お嫁になんか行かない。
一般メイドでも下働きでも、この屋敷にとどまってぼくのそばにいてくれる。
初音も、ぼくのことが好きだったとは思うけど、それだからこそ離れることを選んだのだとは思うけれど。
もし、16からの担当メイドが小雪だったら、ぼくは従兄弟の涼太郎のように、離したくない、結婚したいと駄々をこねたかもしれない。
そして、それを反対されて小雪が暇を出されたら、一緒に出て行く。
裕福ではない暮らしをしたことがないから苦労するだろうけど、小雪がいてくれたら大丈夫な気がする。
涼太郎は、どうしてそうしなかったんだろう、と腹が立ってきた。
小雪が担当メイドになって1年にもならないのに、ぼくは小雪がぼくを大好きなのに負けないくらい、小雪が大好きなのに。
「あの、遅くなりまして、申し訳ございません」
小雪が頼んだ買い物を抱えて戻ってきた。
ちょうどぼくは夕食で部屋におらず、小雪は食堂の前の廊下でぼくを待っていてくれ、一緒に部屋に戻ってきた。
昨日の事については、ぼくは何も聞かず、小雪も何も言わなかった。
「あの、こちらでよろしゅうございましたでしょうか」
お使いそのものが小雪を遠ざけるためのものだったので、頼んだのはとりたてて急がないものだったけど、小雪はきちんと買って来てくれた。
「うん、ありがとう。外は寒かっただろう、大丈夫かい」
「は、はいっ、あの、あの、デ、デパートまで、北澤さんに…送っていただきました」
お使いに行くのに屋敷の運転手に車を出してもらったことに恐縮するのか、小雪が縮こまる。
「それは良かった。ぼくのお使いで風邪を引いたりしたら、大変だからね。すぐに見つかった?」
「はいっ、あの、あの、はい」
ん?
小雪の制服のスカートが変な形に膨らんでいる。
ポケットになにか入っているのだろうかと、荷物を受け取るついでに上から触ってみた。
「んにゃっ」
びっくりしたのか、小雪が変な声で叫び、両手で口を覆った。
「も、申し訳ございま、っ」
スカートの縫い目に沿って開いているポケットに手を入れると、小さな紙袋のようなものが入っている。
出してみると、今お使いに行ったデパートの包装紙。
「あのあのあのあのっ」
「小雪。これはなに?」
別に、お使いに行ったついでになにか自分の欲しいものを買ってきたりするくらい、とがめだてられるようなことではない。
それなのに小雪の慌てぶりを見ると、今のメイド長はことのほか厳しいという噂を聞いたことがあるから、もしかしていけないと言われているのかもしれない。
「あの、あのあの、申し訳ございません、あの、直之さまがお待ちくださっているのは、存じておりましたのですけれど、あの、どうしてもあの」
慌てる小雪の目の前で、包みを振ってみる。
固いものと柔らかいものが入っている。固い方には、大きさの割りに重さがある。
「見てもいい?」
小雪は涙ぐんだ目を伏せて、スカートを握り締めた。
「…は、はい」
叱るつもりはないけど、小雪がそこまでしてなにを欲しがったのかが気になる。
小雪が欲しいものなら、ぼくが買ってあげるのに。
出てきたのは、小さな液体の入ったビンと2枚の布。
なんだろう。
「これはなに?」
聞きながら、ビンの裏に書いてある説明文を読む。
「あの、あの、あの、おっ、お手入れでございます。あの、きっ、金の」
「金?」
小雪が買ってきたのは、金細工品を手入れする布と洗浄液だった。
「あの、ほんとうでしたら、直之さまのお留守のときに参りましたらよろしかったのですけれども、あの」
「今日になってどうしてもお手入れしたい金があったのかい?」
「い、いえ、あの」
予想していなかったことを尋ねられて説明に困っている。
ぼくは小雪の手を引いてソファのところへ行き、腰掛けてから膝を叩いた。
「叱っているのではないよ。さ、お座り」
小雪がぼくの膝の上にお尻を乗せ、ぼくは小雪の手に紙袋を返した。
「小雪は、まだお給料が少ないだろ?ぼくはほら、余るほど小遣いをもらっているからね。ぼくが買ってあげられるものなら、なんでも言うといいよ」
「いえいえいえ、とんでもございません、あの、小雪はあの、あ」
ぽんぽん、と背中を叩いてやると、小雪は自分を落ち着かせるように何度か大きく息をした。
「あの、おととい、直之さまがお戻りになる前の夜に、小雪はリネン室でパソコンをしておりまして」
リネン室というのは、文字通りシーツや布団などの保管庫だが、同時に部屋の半分は使用人たちの休憩室のようになっていて、最新の雑誌やちょっとしたおやつが置いてある。
何年か前にはパソコンが置かれて、なかなか外出できない使用人たちがネット通販で必要なものや欲しいものを取り寄せたりするようだった。
「ふうん、小雪もネットでなにか買ったりするんだ」
「いえいえ、あの、小雪はまだあの、カードを持っておりませんので、お買い物はいたしませんのですけれども、あの。メイドたちのおしゃべりの中で、しまっておいたアクセサリーが傷んでしまったというお話を聞きました」
「ふうん?」
「銀のものなどは、空気に触れて黒ずんでしまったりするそうなのでございます。それで、小雪はちょっと心配になりまして、パソコンで調べましたら、ピンクゴールドというのはとても繊細で、
お手入れしないとピンクがピンクではないようになってしまうということでございました」
「へえ……」
「そうしたら、もういてもたってもいられなくなりまして、あの、そのままネットでお取り寄せできればよろしゅうございましたのですけれど、なにぶんあの」
「小雪はカードを持っていないんだね?」
「…はい。あの、大事なお使いの途中で、いけないことだというのはよくわかっておりましたのですけれど」
ぼくの膝の上で、小雪が自分の胸元のリボンの辺りを握り締めた。
あ、そうか。
小雪は、ぼくがクリスマスに贈ったピンクゴールドの小さなネックレスを、肌身離さず制服の下につけている。
チェーンが千切れてしまうのを恐れて、夜だけは外しているようだが。
小雪はメイドのおしゃべりで貴金属が変質することを知って、不安になったのだ。
ぼくが初めて小雪にあげたプレゼントのネックレスが、心配で。
そして、いつともわからない次の休日まで待つことができずに、お使いにいったデパートでついつい別の売り場を覗いてしまったのだ。
ぼくは、小雪をぎゅっとした。
「ありがとう、小雪」
「…はははは、はい?」
「ぼくがあげたネックレスを、そんなに大事にしてくれてるんだね」
「あのあの、でもでもでも、それはだってあの」
言いかけて、小雪はまた自分で口元を覆った。
『だって』は禁句だよ、と言ってある。
だけど、ぼくには小雪の言いかけたことがわかる。
だって、直之さまの下さったものですから、と。
「ごめんよ」
「ははははは、はい?」
「ぼくは毎日小雪にいろんなことをいっぱいしてもらっているのに、小雪にはその小さいネックレスをひとつあげただけじゃないか」
「と、とんでもございません、そのような!」
小雪の胸元のリボンをほどき、ワンピースの前の飾りボタンを二つ開ける。
天使の羽のついた雪の結晶は、小雪の白い胸の上で光っていた。
「小雪の誕生日は、このあいだ聞いたよね」
「…は、はい」
半年も一緒にいて、ぼくはようやく小雪に小雪のことを聞いたのだ。
小雪の誕生日は、3月3日だった。
小さな小雪にぴったりの、小さなお雛さまでお祝いをする日。
「まだ先だけど、その日は大学も休みだし、二人でお祝いをしようね」
「そ、そのような、とんでもございません、こ、小雪の誕生日なぞ、そんな」
「プレゼントは、なにが欲しい?」
「い、いえいえ、そんなそんなっ」
「二人で出かけるのもいいね。小雪はどこか行きたいところがあるかい?」
「そ、そんな…」
小雪が声を詰まらせた。
「うちは女の子がいないから桃の節句のお祝いはしないんだ。お雛さまもないしね。小雪は、誕生日とお雛さまは一緒にお祝いしたの?」
なにげなく聞いたのに、小雪はぼくの膝の上できゅっと両手を握り締めて小さくなった。
「あ、あの。小雪の家は、あの、お雛さま飾りが、ございませんでしたし、あの、お誕生日も、あまりその」
「ん?」
「あの。あまり、あの、小雪の家には、余分なものがございませんでしたので」
遠まわしに、言いにくそうに、小雪が言った。
そうか。
自分の家がそうだし、周りもそういう家柄ばかりだから気がつかなかった。
使用人の実家が、裕福だとは限らない。
子供の節句や誕生日を、大々的に祝う習慣がなくても不思議ではないんだ。
「じゃあさ、小雪の誕生日には、おひな祭りをしようか」
そう言いながら、子供の頃、親戚の桃の節句に呼ばれたときはどうだったっけと考える。
部屋の壁一面に大きな雛段があって、女の子は赤い着物を着て、散らし寿司にハマグリのお吸い物、白酒に雛あられ。
雛飾りは無理かもしれないけど、小雪にも着物を着せてあげようか。
母はいつもメイドの成人式には振袖を一揃い贈ってあげる習慣だけど、ぼくにも貸衣装を着せてやるくらいはできるんじゃないだろうか。
それとも、千里の成人式の着物を借りようか。
まだ先だと思っていたけど、もう小雪の誕生日まで2ヶ月を切っている。
いろいろ計画するのに遅いことはない。
ぼくは膝の上で丸くなった小雪の頭を撫でた。
ねえ、小雪、お雛さまはさ。
そう言おうとして、ぼくはびっくりする。
ぼくの膝の上で、昨日と同じように小雪が泣いていた。
今度こそ、今度こそわけがわからない。
「小雪!」
ぼくは小雪の肩をつかんで胸から引きはがし、その顔を覗き込んだ。
「なんだよ、今度はどうしたんだ?お雛さまがいやなのかい?それとも、ぼくが小雪の家のことを聞いたのがいけなかった?」
小雪が、ほっぺたを濡らしたままぷるぷると首を横に振った。
「そうでは、そうではございませんのです…あの、こ、小雪は、あの」
また、口が裂けてもいえないようなことなのだろうか。
「小雪は…、ただの、ただのメイドでございますのに、な、直之さまに、クリスマスのプレゼントをいただいて、あの、その上、お、お誕生日まで気にしていただいて」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「あんまり、あんまり幸せで、嬉しくて、あの」
「…ばか」
ちょっとほっとして、それから小雪をぎゅっと抱いた。
小雪の涙をぬぐってやり、頬に唇を押し付ける。
背中のファスナーに手をかけた。
…ちょっと、いきなりすぎただろうか。
泣いてる女の子を押し倒すというのは、どうなんだろう。
少し迷ってから、でも我慢できずにぼくは小雪を抱き上げて寝室へ行った。
ベッドの横に立たせて、メイドの制服を下ろす。
いつもの白い下着を、ろくに見もせず脱がせた。
今は下着姿で回らせて眺めるより、まだ目に涙を浮かべている小雪をかわいがりたい。
小雪が、ぼくのシャツのボタンに手をかける。
この辺は、躾が生きている。
ジーパンを下ろしてもらって、小雪をベッドに腰掛けさせてから自分で下着を脱いだ。
その間に、小雪がピンクゴールドのネックレスを外して、そうっとベッドサイドに置いた。
今更ながらシャワーがまだだっけと思った時、ふいに小雪が自分の目の前にあるぼくのペニスに触れた。
びく、っとしてしまった。
小雪の唇が近づいてくる。
「…こ、ゆき」
ちろちろと舌が出てきて先っぽを舐める。
したいようにさせていると、どんどん大胆に舐め、咥えこんだ。
小雪なりの感謝の気持ちなのだろうか。
血液が一箇所に集まりだしたそれを、熱心にしゃぶる。
ぼくは小雪の頭に手を置いて、息をついた。
「上手になったね、小雪。講義が役に立ってるのかな」
「んぐ…ひゃ…ひゃい」
限界まで大きくなると、小雪の口には余る。
ぼくは途中でベッドの上に移動したが、小雪はペニスを離さない。
仰向けのまま、心地よさに身を任せていると、だんだんこみ上げるような快感が強くなってきた。
頭を上げると、身体を伏せた小雪が手と口で一生懸命しごいているのが見える。
時折、おっぱいが揺れているのが見え隠れしていた。
何もせずに気持ちよくしてもらうのもいいが、小雪の身体に触りたい。
すべすべの肌を撫でたり、小さな唇にキスしたり、すぐに引っ込んでしまう舌を吸ったり、ぷりんとした乳房を揉んだり、ピンク色の乳首をいじったり。
それから、ぽつんと引っ込んだお臍に舌を入れたり、脚を広げさせて小雪の一番恥ずかしいところをじっくり眺めたり、指で広げてみたり、とにかくいろいろしたい。
ちょっと休憩、と言おうとしたところで、いきなり小雪が強く吸い上げた。
「…う」
思わず、声が出た。
小雪がじゅぼじゅぼと吸いたてる。
こんなことまで教えただろうか、という上手さ。
もう、出る。
小雪の肩を押して引き離そうとした。
「ん、あんっ」
小雪がぼくから口を離した。
「く…」
間一髪、と思ったとたん、小雪がもう一度ぼくのペニスを咥えた。
「うわ、だめだ、こ、ゆっ」
やってしまった。
ぼくはこらえきれず、小雪の口の中に出した。
「小雪!」
慌てて起き上がり、小雪の腕をつかむ。
「ん、む…」
飲み込もうとしている。
ぼくはベッドサイドのティッシュをばさばさと引き抜き、小雪の顎を両側からつかんで口を開けて吐き出させた。
「けほっ…ご…」
「ばか、なにやってるんだ!」
ごほごほと咳き込む小雪の口の中にもティッシュを突っ込んで拭く。
「んあ、も、もうひわけ、ご」
「ばか!あんなもの、飲むものじゃないだろ!」
「れ…れも」
「誰に教わったかしらないけど、いや、だいたいわかるけど!ぼくは小雪にそんなことさせたくないよ」
ぼくだって興味半分でそういうDVDを見たりしたことはあるし、それが男のロマンだと言う聡の意見にも反論したりはしなかった。
だけどそれはきっと、男のエゴだ。
小雪には、ほんのちょっとでも辛いことなんか、させたくないんだ。
「口をゆすいだほうがいいんじゃないか?まずいだろう?」
「あ、あの、いけません、でしたのでしょうか…、あの」
「まったく……びっくりさせないでおくれよ、小雪…」
もう一度口を開けさせて、自分の舌を入れる。
小雪の口の中を、舌でなぞった。
少し、変な味がする。
これが自分のものの味かと思うと、複雑な気分だった。
唇を離すと、小雪が息をついた。
「…あ、の、で、でも」
心配そうな目をしている。
「あのね、小雪。ぼくは小雪のことを舐めるけど、それはぼくがしたいからだよ。でも小雪は誰かにそうすることを聞いただけで、ぼくのを飲みたかったわけじゃないだろ?」
「そ、そのような…」
「今だって小雪はゲホゲホしちゃったし、おえってなったじゃないか」
「も、もうしわけ、あり…、で、でも、小雪は、小雪はあの」
ベッドの上に座り込んだまま、ぼくは小雪を後ろから抱きしめた。
「…ありがとう。でもいいんだ」
「で、でも、あの…」
誰に教わったかなんて聞くまでもなく、小雪の師匠は菜摘しかいないはずだ。
…そういえば、菜摘には飲んでもらったっけ。
ふと思い出して、ぼくは冷や汗をかいた。
菜摘には平気でさせたくせに、小雪にはさせたくない。
理由はわかっている。
菜摘とは、そのときそういう気分を解消したかっただけだ。
でも、小雪は違う。
小雪のことは、もっともっと大事にしたい。
ぼくは小雪を抱き寄せたまま、そっとかわいい乳房を手のひらで包み込んだ。
ぷるぷると揺らしながら、反対の手で脚の間のふわふわした毛を指に絡めた。
「小雪に舐めてもらうのもすごく気持ちいいけど、でもぼくが一番好きなのはこっちの中だから」
人差し指を押し込むようにすると、小雪はぼくの腕にしがみついた。
「ね。ここじゃないところに出しちゃうなんて、もったいないだろう」
「あ…、んっ」
前から割り入れるように指を差し込むと、クリトリスに触れた。
小雪がぴくんと背を反らせる。
いきなりで刺激が強すぎたかもしれない。
「ごめん、痛かった?」
「い、いえっ、あの、あの」
小雪が身体をよじる。
後ろからではなく、前からぎゅっとされたいらしい。
仰向けに寝かせてから、身体を密着させるように覆いかぶさると、背中に腕を回して抱きついてきた。
小雪があまりくっつきたがるので、触りたいところに触れない。
密着したまま小刻みに身体を揺する。
秘所にぼくの指を挟んだまま、小雪が潤んだ目でぼくを見た。
縦に指を滑らせると、目を閉じた。
何度もそこを往復しながら、キスをする。
小雪がいつになく積極的に舌を絡めてきた。
腰を上げてぼくの手に押し付けてくる。
中をさぐると、じんわり潤ってきている。
「…う」
落ち着きかけていたペニスが小雪の手のひらに包まれて、ぼくは声を漏らした。
ぼくらは、お互いにお互いの一番気持ちいいところを捜し求めた。
弄っているうちに柔らかくなり、二本入れた指が熱くて膨らんだその場所を見つけると、小雪の目に溜まっていた涙が一筋、耳の方に流れた。
背中に抱きついていた小雪の腕が、ぱたっとシーツの上に落ちた。
息遣いが短くなっている。
ぼくのペニスを包んでいた手にも、もう力はない。
自分の気持ちよさに、頭がぼんっとなっているのがわかる。
「…気持ちいい?手がお留守になってるよ」
耳元で言ってやると、真っ赤な顔で小雪が首を振った。
中に入れた指がくちゅくちゅと音を立てながらかき回している。
焦れたように腰が動く。
それでもぼくは、小雪の中を弄り続けた。
ぎゅっと目を閉じて、胸を上下させるように息を乱しながら、小雪が腰を揺らす。
「まだ、だめ」
もっともっと、小雪が泣きながらぼくを求めるようになるまで焦らしてやる。
それから小雪が望んでいるものを与えるんだ。
そうすると、小雪は必ずイける。
「や、あ…」
ついに、小雪が泣き声になった。
耐えかねたように、ぼくに両手を伸ばしてくる。
やっと、小雪の中に入れる。
手探りでベッドサイドから避妊具を取り出して、装着した。
小雪の腰を抱きこんで、熱くぬめったそこにペニスを当てた。
「すごい、どぶどぶだよ、小雪」
「ん、ああん…」
「いくよ」
何度も何度もしているのに、小雪のそこはたっぷり濡れているのにまだ少し固い。
少し飲み込んでから、つかえたように押し返してくる。
中のぬめりをかき出すように動いてやると、ほんとうに泣き出した。
「も、う…、んっ、いやぁ…」
上の方をこするようにすると、腰が持ち上がった。
ひくひくと痙攣するように締め付けてくる。
すごい。
速度を落として小雪の感じる場所を外さないようにじっくりと突いてやる。
「あ、んあ…、はあっ」
声を抑えようと必死になっているのに、どうしても漏れるらしい。
感じているのに恥ずかしがる、その様子がたまらない。
わざと外したり、強く突いたり、押し当てたまま動きを止めたりすると、小雪の表情が変わってくる。
だんだん早くして、激しく腰を振った。
もうそろそろ、ぼくもイきそうだ。
小雪が差し伸べてきた手を握り、小さな身体を揺さぶる。
「ん、んん!」
喉をそらして、小雪が硬直する。
そのまま叩きつけるように突き上げると、ぴんと手足を伸ばしてからがっくりと弛緩した。
「あ…ああん……」
その声を聞きながら、小雪の奥に当たるほど深くで、ぼくもイった。
すごく、気持ちよかった。
やや落ち着いてから、くったりした小雪のぐちょぐちょになったそこをぬぐってやり、髪を撫でてちょっとキスしてやる。
「すごかったね、小雪」
小雪は返事もできずに、ころんと転がってぼくにしがみついた。
「ね、よかった。小雪は?」
小雪は今更のようにぼんっとなり、いやいやをしながらぼくの腕の中に隠れる。
ぼくにすがりついたって、ぼくから逃げることにはならないのに。
それがかわいくて、小雪を抱きしめて、むきゅっと鳴かせてみる。
枕が、小雪の涙で小さな染みを作っていた。
小雪を、大事にしたい。
もう泣かせたくない。
もちろん、ベッドではもっともっと泣かせたいけど。
それは、いいよね、小雪。
――ぼくが、この頃の小雪の涙の本当の理由を知ったのは、ずっとずっと後のことだったのだ。
――――了――――
小雪がかわいいのはいつもどおりだ。
しかしなんだ最後の引きはっ!
一体どうしたんだ小雪ぃぃぃぃぃぃっっ!
GJ!続きが気になるぜ……。
小雪かわいいよ小雪
涙の理由にわっふるわっふる
小雪はお菓子をかってあげたくなる可愛さだな
>>347は雛あられと菱餅を頼む
俺は5段飾りを用意する
GJ!!
小雪カワイイよ、小雪(*´Д`)
それにしても何か一波乱が起きそうな終わり方だな…
GJ!
まさか小雪まで…
なんて事は絶対に無いんだぁっ!
※ぬるいエロ注意
千春が新米メイドとして屋敷にやってきて、4ヶ月が経った。
仕事にも少しは慣れたのか、皿を割るなどの失敗は無くなった。
彼女の失敗に「お仕置き」を与えることを楽しみにしていた広樹にしてみれば、少し面白くない。
週に1〜2度ほど千春の若い肢体を味わうことは、広樹にとってもはや欠くことのできない慣例になっていたから。
千春は相変わらず処女のままだが、何もまとうことの無い体は何度も「ご主人様」の目に晒され、触れられている。
そのためか、彼女に少々色っぽさが出てきたように思うのは、広樹の手前味噌ではないはずだ。
眠るまでの時間を千春と共に過ごすのは、もはや広樹の中に定着している。
夜着の支度や酒の給仕を教えるとの名目で、広樹は千春を自室へ呼び、二人きりで過ごすようになっていた。
小さなミスをさせるように仕向けては、叱って穴埋めを要求する。
つまり、彼女が失敗するのを待つのではなく、主人自ら失敗を捏造するような真似に及んでいるのだ。
両親が存命であれば、きっと嘆くであろうことは想像に難くない。
千春に触れるうちに、広樹は段々と彼女の体を開発していった。
最初は胸だけへの愛撫しか施していなかったが、今では下半身への責めも加えるようになった。
全くの受身であった彼女にも、男のシンボルに触れることを教え、口を使って主人を気持ちよくさせることを教え。
千春をよがらせ、また性の知識を与えることが何よりも先決で、抱くのはもう少し後でも良いと考えていた。
まずは、自分が見ている前で千春に服を脱がせる。
まだ「お仕置き」を与えていた当初は震えていた彼女の指も、今ではしっかりと動き、自らのボタンを外す。
脱いだ服を丁寧に畳ませたあと、ベッドに横にならせて覆いかぶさる。
そして、まだ成熟しきっていない体を堪能するのだ。
今日は、脱がせたところで先に奉仕することを申し付けた。
素直に屈みこんだ千春が、広樹のパジャマと下着を下ろす。
現れた男のシンボルをそっと手で包み込み、さするように撫で上げ始めた。
自分が教えたとおりに動く千春を見て、広樹の口角が上がる。
最初は手で撫でて、次には口に含み舌で愛撫する。出たものは全て飲み込む。
従順にそれを守らせているだけなのに、どうしてこんなに心が浮き立つのだろうかと頭の隅で彼は考えた。
「そう、もう少し…力を強くしてもいい」
やがて、千春がそれを口の中に迎え入れ、たどたどしく舐めしゃぶり始めた。
アイスキャンディーを舐めるようにしなさいと教えた如く、下から上へ丁寧に舌が這い、時折ジュッと吸い付いてくる。
まだ慣れないとはいえ、回数を重ねるごとに上手になっていく様子が分かって、広樹はまたニヤリとした。
股の間で動く頭を押さえ、腰を使って熱の解放を求める。
ややあって、むせそうになっている千春を尻目に、広樹は小さく呻いて絶頂を迎えた。
「全部飲んだね?えらいぞ、千春」
広樹の言葉に、涙をたたえた目で千春は恥ずかしげにうなずく。
パジャマをギュッとつかんでいたその手が、ゆっくりと外された。
下からじっと見上げられ、広樹の胸に甘酸っぱい感情が生まれる。
気に入りの娘に見つめられ、柄にもなく照れているのだ。
「おいで、さあ」
面映さをかくすように、二度瞬きをして腕を広げる。
素直に立ち上がった千春を抱きとめ、ベッドにそっと組み敷いた。
頬を染め、恥ずかしげにしながらも、その若い体は期待に震えているのが分かる。
この子のこういった所が、自分をとらえて離さないのだと広樹は思った。
快感を覚え始めた少女の、純粋な性への興味。
女の下心などとは無縁の可愛らしい本能に、応えてやらねばという使命感のようなものが心に生まれた。
「あ…ご主人様、っ…」
再び胸に舌を這わされ、千春が小さく声を上げる。
はかなげな呟きに、広樹は顔を上げて短いキスを贈ってやった。
しばしのあと、開いた千春の丸い瞳に自分が映っているのをみとめ、微笑む。
「私の言いつけを守ったお前には、褒美をやろう」
小さく息を呑んだ千春の下着に手をかけ、一気に奪い去る。
折れそうなほど細い足首をつかみ、大きく開かせてその間を見やった。
「あっ…そんな…」
千春が羞恥に震え、緩く身じろぎをする。
年端も行かぬ少女が大股開きをし、大事な部分を覗き込まれているのだ。
心の底では触れられることを望んでいても、とっさに身をすくませるのは自然な流れ。
「濡れているようだね」
広樹が指で彼女の溝をなぞると、喉の奥で押し殺した悲鳴が上がる。
その千春の反応は、広樹をいたく満足させるものであった。
「もっと、滴るくらいに濡らしてやろう」
開かせた脚を押さえ、広樹は楽しげに囁いてその中心へ顔を埋めた。
「やっ!あ…んっ…ご、主人…様っ…」
わざと音を立てて舐めすすってやると、千春が切なげに声を上げる。
産毛を逆立てるように動かされる主人の手に、その腰がもぞもぞと動いた。
まるで誘っているかのようだ。
わざとらしい媚態などまだ身につけていない千春の、天然の誘惑に広樹の頬がほころぶ。
もっと触れてほしいと望んでいるのだ、応えてやらねばならない。
「やんっ!あぁ…ひゃんっ!」
舌に力を入れ、襞の奥に隠された肉芽をつつく。
千春の尻が大きく跳ね、彼女の弱点が広樹の舌に押し付けられる格好になった。
「いやっ…ダメ…」
だめなわけがなかろう、と広樹は心の中で言い返す。
腰をくねらせ、嬌声を上げていながらも、よくそんなことが言えるものだ。
わざと焦らしても楽しめそうだが、もっと千春を乱してもやりたい。
しばし迷ってから、広樹は後者を選択した。
肉芽を責め苛めるよう、千春の柔肉を指で左右に開く。
ぷくりと丸いそれが物欲しそうにひくつくのを一瞬眺めてから、広樹はそれを大きくべろりと舐め上げた。
「ひゃああっ!」
一際大きく上ずった声をあげ、千春が身をよじって暴れる。
「大人しくしなさい」
広樹は威厳を込めてぴしゃりと叱りつけ、動く内股をつねった。
「痛っ」
悲鳴が上がり、つねる指を押しのけようと千春が広樹の手にかかる。
懸命な抵抗をすることが、逆に体の中心に隙ができていることにも気付かずに。
広樹は、千春の力に負けたふりをして、太股をつねっていた手を離した。
「はあっ…」
安心したように息をつき、千春が体の緊張を解く。
一番敏感な場所に舌を這わされていながら、緊張感を手放すとは早計にすぎる。
浮かぶ笑いをかみ殺し、広樹はもう一度、隙をついて千春の肉芽に舌を伸ばした。
押しつぶすように圧迫してやると、また色めいた悲鳴が上がる。
「ダメ、ご主人様…んっ、ああんっ!」
細いその手から力が抜け、肘がシーツにぱたりと落ちた。
軽く達してしまった千春は、はあはあと荒い息をつき、体中の力を抜いた。
広樹は、今まで寝た女にこういった反応をほとんどされたことがない。
そもそも、女のここを舐めてやることが、滅多にないことだったから。
手を付けたメイドたち、後腐れのない女たちを、必要以上に悦ばせる必要を感じなかった。
胸の感触をしばし楽しんだ後に、指で大事な部分をある程度ほぐし、さっさと挿入する。
相手の女がどんな反応をするかには、さほどの興味を感じなかった。
しかし、この少女を相手にするようになり自分は変わったと広樹は思う。
千春が恥ずかしがれば、もっと恥ずかしい目にあわせてやりたくなる。
すすり泣けば、もっと大粒の涙がこぼれるのを見たくなる。
ねだるような声を上げれば、もっともっと気持ちよくしてやりたくなる。
千春の反応の一つ一つに、広樹も敏感に反応し、一喜一憂する。
今までと違うのは、この少女に惹かれているからだと自覚しているのかいないのか。
「今日は、なかなか良かった」
いかめしい口調で言い、起き上がらせる。
シャワーを使ってくるように言い、大人しく浴室へ向かうその後姿を見つめた。
腰の辺りの肉付きが少し良くなってきたように思える。
千春の失敗をあげつらってお仕置きをするという名目も、そろそろ苦しくなってきている。
次はどうやった手を使おうかと思いながら、広樹は煙草に手を伸ばした。
=オワリ=
どこがぬるいエロなのかkwsk
多分もっと激しいプレイがあるんだよ!
>>335-の小雪は「7」じゃなくて「8」の間違いでいいのかな?
道場破りをするメイドさん
282の続き。エロ無し。
あの夜から二週間ほどが過ぎた。
僕も雪恵さんも、何事も無かったかのように互いに接している。
でも、なんとなくしこりが残ったままのような気がして、しっくりこない。
元々そんなに仲が良かったわけじゃないが、今のままではなんというか、いけないと思う。
せめて、雪恵さんが僕の顔をまっすぐに見られるくらいまでには回復してほしい。
それにはどうすればいいか、勉強そっちのけで考え、接する時間を多く持つしかないという結論に達した。
家にこもりっきりの雪恵さんを、外に連れて行ってあげるなんてどうだろう。
何か特別なこと、例えば映画に行くとか。
そう思いついた僕は、帰宅するやいなや台所へ行き、いんげんの筋取りをしていた雪恵さんを誘った。
「映画…でございますか?」
「うん。駅前の映画館で、面白そうなのが公開してるんだ」
「ですが、坊ちゃま。私などより、お友達と行かれたほうが楽しいのでは…?」
予想どおり煮え切らない返事をする雪恵さんに、僕はとっておきの武器をポケットから取り出した。
「それが、だめなんだ。ちょっとこれを見てよ」
高校の生徒手帳を出し、校則のページを開く。
『保護者同伴の場合を除き、劇場・映画館・ボーリング場等への立ち入りを一切禁ずる』
この条文を指で示し、どうだと胸を張った。
「保護者…ですか」
「うん、そう。大人がいないとだめなんだ」
本当はこんな校則は死文で、今どき守っている律儀な奴はいない。
でも、雪恵さんを誘うためならこんなものでも使わなきゃ。
「保護者なら、大奥様や奥様では…?」
「婆さんはアクション映画じゃなきゃ見ないし、母はホラー専門なんだ」
「トキ江さんは…」
「老眼なんだから字幕が見えないよ。暗い所で座ったら寝ちゃうかも」
「そう、ですね…」
雪恵さんが前掛けのフリルをいじりながら、首を傾げて考え込んだ。
「他の大人に、お心当たりはないのですか?」
「うん。兄さんや義姉さんはアメリカだろう?だから、雪恵さんしかいないんだ。お願い!」
大げさに手を合わせ、拝み込むように頭を下げた。
「坊ちゃま、女中にそんなことをなさってはいけませんっ」
慌てたように雪恵さんが言い、僕の頭を上げさせる。
距離が近くなり、ふわりといい香りがした。
「うんって言ってくれたら頭を上げるよ」
しつこいかと思ったが、もう一押ししてみる。
意地でも、一緒に映画に行ってやるんだ。
「坊ちゃまが、そこまでおっしゃるなら…。
承知いたしました。私で宜しければ、お供させていただきます」
「えっ、本当!?」
耳に届いた言葉に、僕はばね仕掛けの人形のように一瞬で頭を上げた。
目が合った雪恵さんは、少し困ったように笑いながら僕を見ていた。
「大奥様と奥様に許可頂ければですが…。私が、坊ちゃまの保護者代理をするなど認めませんと仰るかもしれません」
「そんなことないよ、きっと大丈夫だったら。今から僕が行って、2人に許可をもらって来る」
だから待っててと言い置いて、僕は祖母の部屋へと走った。
外出がちな祖母ではあるが、今日は家にいるはずだ。
勢い良くドアを開けると、祖母はテラスの椅子に座っていた。
「お前、レディの部屋に入るときはノックくらいおし」
「誰がレディだよ、誰が」
いつもの軽口に、反射的に反論する。
その年で、よくもレディなんて言えるものだ。
「そんなに息を切らして。何かあったのかい?」
尋ねられ、ああそうだったと思い出し、咳払いを1つ。
「週末、雪恵さんを貸してほしいんだ。一緒に映画を見たいんだけど、誘ったら、あなたと母さんの許可がいるって言われて」
「なるほどねえ」
「普段は生意気ばかり言ってすみません。2人で出かけるのを許し…てください」
不本意だが、頭を下げて頼む。
許可が下りなければ、2人きりで出かける計画はパアだから。
「なるほど。お前にしちゃあ考えたじゃないか」
「うるさいなあ。許可してくれるの、くれないの、どっちなんだよ」
にやにや笑いながら言う祖母の態度にムカッとくるが、ここで怒ってはだめだ。
「そうだねえ。こないだは私が不用意なことを言ったから、雪恵さんに迷惑をかけてしまったし。
いいだろう、気晴らしをさせてやっておくれ。千鶴子さんには私から言っておく」
「ほんとかい?恩に着るよ!じゃあ」
許可が下りたことを雪恵さんに知らせたくて、さっさときびすを返したところでシャツをつかまれた。
「ちょいとお待ち」
「何だよ」
「これを持ってお行き」
祖母が袖から財布を取り出し、5千円札を差し出した。
「軍資金だ。映画の切符代とお茶代にでもおし」
「いいの?」
「お前にあげるんじゃないよ、雪恵さんの子守賃代わりだ」
「へっ?」
「お前のね。私がスポンサーなんだから、帰ったら会計報告をきちんとすること」
僕はデートのつもりなのに、祖母にしてみれば孫を雪恵さんに子守してもらうだけにすぎないか。
腹が立つが、しかし、懐が暖かくなるのはありがたい。
そういえば、小遣い日前なのに財布の中身のことをちっとも考えていなかったし。
「…分かったよ。ちゃんと報告する」
「みっともない真似をして、恥をかくんじゃないよ」
「分かってるよ」
ムッとしながら言い、お金を受け取る。
会計報告という名目で、僕にその日の行動をしゃべらせて、また一笑いしようと画策しているくせに。
しぶしぶ礼を言って祖母の部屋を後にし、許可が出たことを雪恵さんに話しに駆け戻った。
それでは、不束者ですがお役目を果たしますと頭を下げられ、僕も慌てて同じくらいに頭を下げた。
人生における初デートだから、失敗はなんとしても避けたい。
雑誌を読んだりしてイメージを描き、万全を期して当日に備えた。
言うべき言葉を実際に口にして、その似合わなさにベッドの上を転げ回ったことは僕だけの秘密だ。
にやけたり不安になったりと、忙しいウイークデーが過ぎ、そして週末がやってきた。
その日の朝、いつもより早く起きて身繕いをし、たんすの中のありったけの服を出して着ていく物を選んだ。
なるべく大人びて見える物を選んで着て、玄関へ行くと雪恵さんはすでに待ってくれていた。
いつもの白い前掛けをしていないのが、何だか新鮮に思える。
珍しく明るめの色の着物を着ているのが、出かけることを意識してくれたようで嬉しかった。
「じゃ、行こうか」
精一杯落ち着いた口調で言い、並んで歩きながら映画館へ向かう。
本当は、ここで手をつなげればいいんだけど…。
それは無理だったので、せめて見るだけならと、道中に雪恵さんの整った横顔を何度も盗み見た。
女性、しかも美人と並んで歩くなんて初めてだから、妙に緊張してしまう。
そんなに脚も長くないくせに、歩くスピードは大丈夫かなどと気を使って。
やっと映画館が見えたときには、早くも一仕事終えた気になっていた。
雪恵さんには入り口で待っていてもらい、窓口へ券を引き換えに行く。
当日券を買うんじゃなくて、それよりも数百円安い前売り券だから、あんまり見られたくない。
指定券を持って何食わぬ顔で戻り、館内に入った。
「あ、あの…足元、大丈夫?」
暗い客席を移動するどさくさに紛れ、雪恵さんの手を取る。
手と手が触れ合った時、ちょっとびっくりされたが、拒否するそぶりは見えなかった。
華奢なその手指をそっと握るだけが、今の僕には精一杯だ。
触れ合った部分の温もりを感じながら、映画館の暗闇に感謝した。
席についてしばし、予告編に続いて映画が始まった。
初デートに深刻な作品はふさわしくないと、洋画のオーソドックスなラブロマンス物を選んだ。
定まらぬ恋を繰り返していたヒロインが、最後はいつも傍にいてくれた男と幸せになるという筋書きらしい。
男は年下じゃなく、年上のエリートなのがちょっと引っかかるけど。
しかし、草食動物のようにおとなしかった男が、映画の後半で情熱的にヒロインに迫るシーンは圧巻だった。
僕も外国人ならああいうキザなせりふを言って、雪恵さんの心を動かしたりできるのだろうか。
自分が同じ言葉を言うことを想像し、空しく沈黙した。
ちょっと僕には荷が重い、この映画を参考にしようと思ったのは失敗だった。
溜息をつく僕の前で、ずっと思っていてくれた男の真心にヒロインは涙を流し、キスシーンでENDマークが出る。
照明がつき、隣をうかがうと、雪恵さんはぼうっとした目でスクリーンを見ていた。
映画の最中にもそれとなく窺ったところでは、雪恵さんはストーリーに集中していたように思える。
ヒロインに感情移入して、楽しんでくれただろうか。
屋敷にばかり閉じこもってないで、自分にもああいう恋愛をできる可能性があると思ってほしい。
できれば、その相手がこの僕だったら、とも想像してほしい。
…もっとも、僕はあの男ほど頭もよくないし、顔も普通だけれど。
映画館を出て、また並んで歩く。
さっきよりも二人の間の距離が少し近くなったみたいで、嬉しい。
でも、まだ手をつなぐには至らないのがもどかしい。
思い切って触れてみようかとも思うが、保護者代理にと頼んだ外出で手をつなぐのは変だ。
妙な小細工をせず、いっそのこと「デートをしよう」と誘った方が良かったのかと今になって考える。
微妙な距離を目で測りながら、うずうずする手を持て余した。
手のことばかり考えていてもしょうがないと、別のことに意識を向ける。
祖母にもらった小遣いは、前売り券2枚を買って2600円が消えた。あと2400円残っている。
映画代とお茶代にでもしろと言われたお金だから、どこかで一休みしようかと思う。
「ね、雪恵さん。喫茶店へ行こうよ」
多少遅くなっても構わないという言質を祖母からとってあるので、今日は強気だ。
だが、映画をおごって頂いたのだから今度は私が払います、と雪恵さんに食い下がられてしまった。
「だめだったら!僕が誘ったんだから僕が払う」
男としては、初デートくらい格好をつけたいのに。
意外に強情な雪恵さんもかわいいなと思いつつ、僕も一歩も退かずに主張を続ける。
「僕は年下だけど、今日は雪恵さんをエスコートするつもりで来たんだ。
高校生だから、洒落たレストランには連れて行ってあげられないけど、せめて喫茶店でパフェでも食べよう」
「パフェ…ですか?」
あ、雪恵さんの心が少し動いた。
やはり女の人だから甘いものには弱いとみえる。
「うん、僕も食べたいから付き合ってよ。家じゃ食べられないだろ?」
うちの食事は和食が中心だから、若い雪恵さんは物足りなく思うこともあるんじゃないだろうか。
そう予想して、女心に訴えてみる。
「そう、ですね…」
「じゃあ決まりだ。行こう」
こくりと頷いた雪恵さんの手を取り、喫茶店へと歩いた。
手をつなぐというよりは引っ張るという感じで、甘い雰囲気はかけらもなかったのだが。
しかしさっきとは違って、明るい場所で雪恵さんに触れているという高揚感のようなもので、僕の頭の中は一杯になった。
どうにか喫茶店に入り、狭い2人掛けのテーブルに腰を下ろした。
お辞儀をしたら頭がぶつかりそうなくらい小さなテーブルを挟んで、雪恵さんと向かい合う。
それだけのことなのに、何だかウキウキしてきた。
「雪恵さん、先に選んでよ」
メニューを取り、開いて置いてあげると、雪恵さんはそれに目を落とした。
僕も反対側からのぞき込み、書いてある文字を見る。
しかし、視線の先に俯いた雪恵さんの胸元が目に入ってしまい、目が釘づけになってしまった。
あの夜、一瞬だけ露になった胸の谷間は、今も僕の脳裏に焼きついている。
変に紳士ぶったりしないで、どさくさにまぎれて軽くでも触れておけばよかった。
惜しいことをしたと、今になって猛烈な後悔がこみ上げる。
女の人の胸にはまだ触れたことがないけど、聞いた話では男のそれとは違い、しっとりと柔らかく指先に馴染むらしい。
雪恵さんは肌がきれいだから、きっと僕の想像よりもはるかに触れ心地がいいんだろう。
メニューを見るふりをしながら、着物の胸元から透視するみたいにして、さらにその膨らみを凝視した。
今日の下着はどんなだろうか、普段の着物と同じで控えめか、それとも意外に大胆なデザインだったりして…。
「───、坊ちゃま?」
「はへっ?」
本人には絶対言えない妄想に浸っていたところ、いきなり呼ばれてすごくマヌケな声が出てしまう。
慌てて咳払いをし、何でもない様子を取繕った。
「な、何?」
「私、チョコレートパフェを頂きたく思うのですが、構いませんでしょうか…?」
「あ、うん。じゃあそうしなよ」
「坊ちゃまはどうなさいます?」
雪恵さんの胸元に夢中で、自分の注文を決めていなかったことに気付き、慌ててメニューに視線を落とす。
いつのまにかこちらを向いていたメニュー表。気がきくなあ雪恵さんは。
「えーと、どうしようかな…」
抹茶パフェの文字が目に入り、さらにはフルーツパフェ、特製モンブランの文字にも誘惑されてしまう。
注文をぐずぐず考えるのは男らしくないと、雑誌に書いてあったのに。
僕が決めるのを待っている雪恵さんの視線を感じて焦り、結局同じ物を頼むことにした。
注文を済ませてメニューが下げられ、何となく雪恵さんと目が合って微笑んだ。
いい雰囲気だ、ひょっとしたら周囲の客に本物の恋人同士だと思われるかも。
今の空気を壊さないような、気の利いた会話をすべきだな。
盛り上がる話題、話題……。
「雪恵さん、映画はどうだった?」
残念ながら、ムードのある話題というやつが思いつかなかったので、映画の話題に逃げる。
「はい、とても面白うございました」
「うん、僕も面白かった。思っていたより、コメディの要素も多かったよね」
「ええ、ヒロインの靴が池に落ちてしまったところ、とてもおかしくなりました」
「ほんとだね、せっかくおめかししたドレス振り乱して『私の靴ー!!』って叫んだところでしょう?」
「はい。あんなに綺麗な女優さんなのに、役のためならみっともなく叫びもするものなのですね」
「女優魂ってやつなのかなあ?当たり役だったよね」
話が盛り上がり、雪恵さんが楽しそうな顔になったのを見て僕のテンションも上がる。
いいぞ、大人っぽくはないが、会話は弾んでいる。
「ね、雪恵さん。また映画に付き合ってよ」
「えっ?」
気をよくした僕の言葉に、雪恵さんはパチパチとまばたきをした。
「僕、今度はあの予告編でやっていたのが見たいんだ。来月公開って言ってた、あれ」
「北欧の村のナントカという映画ですか?」
「うん。あの犬ぞりの男の人の話」
肝心な所で映画の題名を忘れてしまい、じれったい。
「雪恵さんはどう?見たくなかったら他のでもいいよ?」
僕は別にあの映画じゃなくても、雪恵さんと見られるのなら何でもいい。
ホラーやスプラッタは御免こうむりたいけど…。
「私でよろしいのでしたら、お供させていただきます」
雪恵さんがにっこりと笑って言ってくれた言葉に、僕は天にも昇る心地になった。
最初に誘った時の煮え切らない態度とは雲泥の差だ。
「ほんと?約束だからね?」
また来月、2人で映画に行けるんだ。
小遣いを貯めておかなくちゃ。
「でも坊ちゃま、あれは男同士の友情のお話ですから、お友達同士で行かれたほうがいいのではありません?
クラスメートを誘われた後、私が同伴いたしますから」
「だめだよ、僕は雪恵さんと行きたいんだから!」
友達となんか行けるわけない、恋敵をわざわざ増やすようなものだ。
「僕の友達は、映画よりテレビゲームなんかの方が好きみたいなんだ。だから2人で行こうよ」
雪恵さんの案を却下し、2人で行くことを強調する。
早く本人に「デート」と言えるようになりたい。
「来月の上映予定を調べておくから。祖母にも僕から言っておく、今回もすぐOKくれたから、来月も大丈夫だよ」
「坊ちゃまがそう仰るなら…」
雪恵さんが少し赤くなり、小さく頷いた。
…かわいい。
「忘れないように指切りしておこうよ」
素直に差し出された雪恵さんの細い指に、僕の指をからめる。
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲ますっ」
「指切った…」
雪恵さんも小さな声で唱和し、頬をほころばせた。
これで、来月も2人で出かけられる。
ああ、バラ色の未来が見えるようだ。
「…あの、坊ちゃま」
「ん?」
真っ赤になった雪恵さんが、からめた指を必死に解こうとしている。
どうしたのかと思ったら、パフェを運んできたウエイトレスが、テーブルの前で困ったように立ちつくしていた。
パフェを食べながら、また映画の話をした。
二人の共通の話題というのを模索すると、ふさわしいのはこれしかなかったから。
祖母を始めとする家人の話をするのは、せっかく二人きりでいるのにもったいないと思えた。
僕は何時間でもしゃべっていたかったのだが、テーブルの上が空になると、さすがに店を出ざるを得ない。
レジの前で、自分が支払いをすると言い合ってまた一悶着した後、外に出る。
ご馳走になりましたと頭を下げられ、こちらも慌ててお辞儀をする。
僕としては、もう少しぶらぶらしたかったのだが、夕飯の準備があるからと雪恵さんが帰宅を勧めた。
さすがに、夕飯をすっぽかすわけにはいかないので、しぶしぶ頷いて家路につく。
途中、水ようかんが名物の村雲庵の前を通ったので、土産でも買っていくかと店に入った。
来月も映画に行くから、祖母へのワイロの代わりにしようと思って。
5個1050円の水ようかんを買い、もらった軍資金の残りは50円になった。
帰宅し、夕食前に祖母の部屋へこっそりと行って、今日のてん末を報告する。
映画に喫茶店、全く私の言った通りじゃないか、センスが無いねえとからかわれてしまった。
しかし、来月もまた行くつもりだと告げると、祖母は得たりという顔でニヤリと笑った。
「ほう。じゃあ来月には何べんもお使いを頼もうじゃないか」と言って。
お駄賃という名のデート代をくれることを匂わせているのだろうか。
憎まれ口ばかり言うこの人も、本当は僕のことを気にかけていてくれるのかもしれない。
素直に礼を言い、祖母の部屋を後にした。
夕食時には、給仕をする雪恵さんはいつもの地味な着物と前掛け姿に戻っていた。
少し残念な気がするが、今日はとても楽しめたから、よしとすべきなのだろう。
来月の外出がもっと楽しくなるように、もっと策を練らなければいけない。
部屋に戻り、昼間の反省会を一人とり行う。
とりあえず、喫茶店で同じ物を注文したのは失敗だった。
違う物、例えばイチゴパフェなんかを注文しておけば、一口あげることもできたのだろうから。
そうすれば、もっと親密な雰囲気になれただろうに、返す返すも残念だ。
「坊ちゃまの物を頂くなんてできません」と遠慮されるだろうけど、そこを押して食べてもらう。
映画に誘った時みたいに、きっと少し困ったみたいに笑って、最後には言うとおりにしてくれるんだろう。
その時の表情を想像し、いい気分になったところで睡魔に負けてしまった。
寝る前にいいことを考えたせいか、その夜はとてもよく眠れたように思う。
翌朝、僕が食堂で目にしたのは、一足先に朝食を終え、デザートに僕の分の水ようかんを食べている祖母の姿だった。
以上です。
>>290 5歳上が正しいです。後半ミスタイプしてた、指摘感謝。
>>364 雪恵さんいいですね。しかし振り向かせるのは至難ですな……GJ!
GJ!・・・・・・・・・・・か?
初めまして
以下、9レスぐらい投下します
冒頭にレイプありです
苦手な人はスルーしてください
ブリストル海峡を一望するビデフォード・パークの一室で、ジェイムズ・イングラムは息を潜めて待った。
深紅の絨毯と薄桃色の壁紙に包まれたこの寝室で、純白のマルセイユ織りの布団に身を沈めながら、
ジェイムズはひたすら胸の高鳴りをおさえて待った。
と、マホガニーの分厚いドアをノックする音が響いた。
「入ってくれ」
ジェイムズが答えると、寝間着の上からショールを羽織ったメアリが現れた。燭台はない。
廊下の暗がりを手探りだけでここまで来たのだろうか。煖炉のあかりを受けて、メアリの表情は
いくらか深刻そうに見えた。
「坊っちゃん、お話というのはなんでございましょうか?」
「今夜は特に冷える。こちらへ来て火にあたったらどうだ?」
五月とはいえ、夜ともなれば二月に逆戻りしたような寒さだ。ジェイムズは手招きしたが、
メアリは首をふった。
「いえ、ここで結構でございます。寒いのにはなれておりますし」
「お前が結構でも、ぼくは寝台を出たくないのだ。大声を出す気力もない。だから、さあ、
こちらへ来てくれ」
メアリは渋々といった体で進み出た。
「できれば、お話は手短にお願いいたします。朝が早いものですから」
ジェイムズは枕元に立ったメアリの腕をとると、強引にキスした。メアリが身体をよじって
ジェイムズから逃れる。
「坊っちゃん、いったい何をなさったんですか?」
まだあどけなさの残る十六歳のメイドは、顔を真っ赤にして若主人をにらんだ。
「お前が好きなんだ」
メアリは弾かれたようにしりぞいた。
「あたしは、あたしは……そんなこと、無理です」
「なぜだ?」
「だって、だって、あたしは坊っちゃんのこと、なんとも思ってませんもの」
メアリの表情は真剣だった。ジェイムズに愛を告げられ、それを断った婦人などいたろうか。
いや、いない。
ジェイムズは寝台から下りると、メアリの腕を力任せにつかんだ。
「やめてください、坊っちゃん、痛いわ……」
ジェイムズは寝台までメアリを引きずると、押し倒した。ガウンのひもで彼女の両腕を縛る。ガウンの下から
のぞいた寝間着のズボンは、猛々しく怒張したペニスによって、すでに限界まで張りつめていた。
「いや、何なさるの、やめて、いや、い――」
ジェイムズは、かぼそい声で抵抗するメアリの口を唇でふさいだ。舌を押し込むと、メアリは口の中でも
逃げようとしたが、それを捕らえ、吸い上げる。その間に寝間着の襟元を強引に押し下げ、あらわになった
乳房を押しつぶすように揉む。
口を離すと唾液がふたりの間につーと糸を張り、ジェイムズは誠意の表れとして、それを丁寧に舐めとった。
「お願いです、坊っちゃん。こんなこと、もうおやめになってください。あたし、誰にも言いませんから。
本当です。神に誓いますわ」
ジェイムズはメアリの哀願を無視して、壁紙と同じ色の乳首に歯を立てた。それから乳首をごろごろと
転がすように舐めまわすと、メアリは口を閉ざし、代わりに荒い息を吐くようになった。片方を口で吸い、
片方を指先でつまんだりこねたりしていると、メアリがだんだんと背をのけぞらせ、右に左に頭をふるようになった。
ジェイムズは手からはみ出るほどの乳房から離れると、舌をはわせながら下腹部に向かった。下着をはぎとり、
脚を大きく広げさせる。
「待って、いや、何するの、この人でなし! 卑怯者、いやいやいや、お願い、いやなのよ……!」
ジェイムズは、大きく広げた脚の中央にあるメアリの陰部をつぶさに眺めた。てらてらと光った
薄桃色の陰唇が、深紅の女陰を縁どっていた。ジェイムズは、すでにふくれている小さな芽を
音を立てて吸った。
「……んん、んあっ、あっ、ああんっ、ああんっ、いやっ、だめっ、ああんっ……!」
メアリは腰を浮かせ、背を弓なりにそらせ、髪をふり乱してよがり声をあげた。その声は涙に濡れ、
哀願はさらに悲痛なものとなった。
「お願い、やめて、ああんっ、ああんっ、んんっ、やめてっ、あんた、なんか、地獄に、んんっ……!」
ジェイムズは、小さな芽を舌先でこね、吸い、甘く噛むといったことを繰り返した。やがて、メアリは
絶頂に達した。目尻からは涙が流れ落ち、口からはよだれが垂れている。細いももは朱に染まり、
上気した胸にそそり立つ乳首は、さらに肉欲を求めて硬くなっている。女陰からあふれ出した蜜はカバーを
ぐっしょりと湿らせ、まるで池でも出現したかのようだ。
ジェイムズは、ぜいぜいと肩で息をしているメアリの女陰に指を差し入れた。親指で芽をいじりながら、
膣の内壁を指先でこするように往復させる。とたんに、ぐったりと横たわっていたメアリの身体が、
びくんとはねた。神聖な泉のように蜜は涸れることなく、ぐちゃぐちゃといやらしい音を立て続ける。
ジェイムズは敏感な箇所を探りあてると、そこを執拗に責めた。
「いやあっ、んんっ、んっ、あっ、ああんっ、ああんっ、いやいやいや、んんっ、んっ……!」
メアリは二度目の絶頂を迎えたが、ジェイムズは彼女に休息を与えようとはしなかった。口と手で責められ、
さらに一度ずつ絶頂を迎えたメアリは、とうとう気を失ってしまった。ジェイムズは、何の反応も示さない
メアリにペニスを差し込んだ。
ぬらぬらと透明な汁におおわれていたそれは、数度行き来しただけですぐに果ててしまった。
ジェイムズはペニスでメアリをつらぬいたまま、彼女の胸に顔をうずめた。それは実にいやらしく
美しい身体だった。ペニスを抜くと、充血した性器どうしが名残おしそうに糸を引いた。
メアリに寝間着を着せ、逆流してきた精液をきれいにぬぐいとり、布団をかけてやると、ジェイムズは
長椅子に横になった。心身ともに疲れ果てていた。
※ ※ ※
メアリは見慣れぬ寝台の上で目を覚ました。天蓋からは真っ赤なカーテンが下がり、頭の下には
白い枕が雪のように積もっている。窓からは緋色のカーテンごしに朝日が射し込んでいた。
メアリは起きるべき時間がとっくのとうに過ぎていることに気づき、慌てて寝台から飛び下りた。そこで、
はたと思い出した。ゆうべ何が起きたのかを。いや、正確には何をされたのかを。メアリはあたりを見回した。
あの恐ろしい男はどこにいるのだろう。
いた。
ガウンを羽織ったジェイムズが、煖炉のそばの長椅子に寝そべっていた。静かな寝息を立てている。
メアリは火の消えた煖炉から火かき棒をつかみとると、それをジェイムズの頭上にふりかざした。
だがジェイムズは、きのうの鬼畜じみた所業がまるで嘘のように、安らかな寝顔ですやすやと眠っている。
天使のようだと言っても過言ではない。
メアリは火かき棒をとり落とすと、大急ぎで寝室をあとにした。この身に起きたことはすべて忘れよう。
それが一番いい。
だが、メアリの仕事ぶりは、あっという間に地に落ちた。ぼーっとすることが多くなり、些細なミスを
繰り返してばかりいるのだ。そのたびにメイド頭に注意されるのだが、いっこうによくなる気配がない。
メアリは、このビデフォード・パークを追い出されたらどこへ行こうかと、真剣に悩みはじめていた。
そんなある日の晩、メアリは意を決してジェイムズの寝室を訪れた。足が震えて仕方がなかったが、
恨みだけでも晴らしたいと思ったのだ。
ドアをノックすると、「どうぞ」と短く返ってきた。あの日のようにまた乱暴されたらどうしよう。
そう考えただけで吐き気が込み上げてくる。メアリは逃げ出したくなるのを堪え、ドアを開けた。
ジェイムズは、長椅子に脚を投げ出して本を読んでいた。明かりは煖炉だけだ。本からつと目を
離したジェイムズは、メアリの姿を認めて腰を上げた。
「やめて! お願い、来ないで!」
メアリはそう叫ぶと、うずくまった。めまいがひどく、視界がぼやけて何も見えない。
「わかった。大丈夫だ。ぼくは何もしない。ここから動かない。本当だ。神に誓うよ」
メアリは恐る恐る顔をあげた。ジェイムズは長椅子に腰かけ、両の手の平を見せている。
「安心してくれ。何もしない」
「……よくもまあ、そんな嘘がつけるものね」
メアリは涙をぬぐうと、毅然と立ち上がった。ジェイムズが目を見張る。
「嘘だって?」
「そうよ。何もしないとか、安心してくれとか調子のいいこと言って、今まで何人も
メイドを手篭めにしてきたんでしょ。違う? この人でなしの外道野郎」
「信じてくれ。ぼくは無実だ。メイドに手をつけたことなど、今まで一度もない。あんな乱暴なことを
したのはきみが初めてだ」
「だったら、何だっていうのよ? 喜べとでもいうの?」
ジェイムズがかぶりをふった。
「いや、違う。ぼくはただ、きみのことが好きで好きでたまらなかったんだ。どうしてもきみが欲しくて、
あんなひどいことをしてしまった。どうか許してくれ」
「それが許しを請う態度なの? まるで自分は悪くないような言い方じゃない。あたしはどうなるの?
ここを辞めたら行く場所がないわ。仕送りをちょっとでもやめたら、家族は飢えて死んじゃうのよ!」
「すまない。きみが謝れというのなら、いつまでも謝り続けるよ」
メアリは窓際の机にかざられた写真立てをつかむと、怒りに任せて投げつけた。
「謝ればいいってもんじゃないのよ!」
鈍い音がした。ジェイムズの額から、血がひとすじ流れ落ちた。メアリははっと我に返ると、
すぐに心の底からわびた。
「申し訳ありません、坊っちゃん。あたし、こんなことするつもりじゃなかったんです」
「いいんだ、謝らなくていい」
ジェイムズはメアリの足下にひざまずくと、その両手をとった。
「本当にすまない、メアリ。ぼくは取り返しのつかないことをしてしまった。きみが許したくないと
いうのなら、許さなくたっていい。永遠に許さなくていい。ただ、ぼくが後悔していることだけは
信じてくれ」
メアリはジェイムズの暖かい手の中から、自分の手を抜き取った。何かもっとひどいことを言って
やろうかとも思ったが、結局言葉にならなかった。
メアリは背を向けると、寝室を飛び出した。耳の中で鼓動が早鐘を打っていた。
それからというもの、メアリはジェイムズの姿を見かけるたびに、心臓が激しく脈打つのを感じた。
女性の来客があったり、馬車で舞踏会へ出かけていく日などは特に息が苦しくなった。メアリは気のせいだと
思うよう努めた。だが、ジェイムズの手の暖かさが忘れられなかった。ジェイムズの舌先も忘れられなかった。
ジェイムズにもてあそばれたあの日、身体を走った熱の荒々しさも忘れることができなかった。
メアリは就寝前、屋根裏の湿ったメイド部屋で、こっそり自分を慰めるようになっていた。寝息を立てる
ほかのメイドたちに気づかれぬよう、枕に顔をうずめながら、メアリはジェイムズの指を思い出した。
舌がはった場所や、歯が立てられた場所、指がかき回した場所を同じように再現するのだ。
メアリは切ない吐息をもらしながら、ジェイムズが自分の中で果てる姿を何度も想像した。それだけは
憶えていなかったからだ。
夏の盛りの緑が萌え立つころ、メアリは夜中にこっそりと屋敷を抜け出した。月が照らす広大な庭を、
誰に気がねすることもなく歩く。毎晩のように自慰をしても、肉欲はいやましに募り、もはや自制することなど
不可能だった。
メアリは鼻歌をうたいながら、あてどもなく庭をさまよい、厩舎を見つけると忍び込んだ。わらをしまっている二階なら、
ジェイムズを思いながら存分に芽をいじることができると思ったのだ。
メアリは不審者を警戒する馬を怒らせないよう、そっと歩きながら、はしごを二階に立てかけた。足をかけると
ぎっときしんだが、馬をいななかせるほどではないようだ。メアリは気をよくして、走るように二階まで登った。
太陽をさんさんと浴びたわらの上にごろりと横になると、香ばしいかおりが胸を満たした。メアリは寝間着の裾をまくり上げ、
脚を広げた。
彼女の身体もなれたもので、メアリが乳首を転がしながら芽をつつくと、たちまち蜜をあふれさせた。メアリは二本の指で
敏感な箇所を刺激しながら、ジェイムズに舌を入れられる自分を思い描いた。
と、そのとき、はしごがきしんだ。メアリは急いでからげた裾を元に戻すと、わらの山に隠れた。息を殺してはしごを
見つめていると、なんと驚いたことに、現れたのは当のジェイムズだった。
「メアリ、メアリ」
ジェイムズは小声でメアリの名を呼んでいる。
「どこに行ったんだい? 出てきておくれ」
メアリはおずおずとジェイムズの前に進み出た。
「やあ、やはりきみだったんだね。出ていくところが見えたものだから、あとを追ってきたんだ。邪魔してしまったかな?」
「いえ、そんなことありません。あたし、何もしてませんでしたから」
メアリは、ジェイムズと顔をあわせることなどできなかった。恥ずかしさのあまりうつむいていると、ジェイムズが
心配そうにたずねた。
「何か悩みごとでもあるのかい? 言っておくれ。ぼくにできることなら何だってする」
その言葉にメアリは思わず顔をあげた。とたんに、ジェイムズと視線があう。メアリの頬は、紅葉したカエデのように
真っ赤になってしまった。
「ぼくの顔に何かついてるかな?」
ジェイムズがごしごしと口元をぬぐった。
「いえ、あの、何もありません。すみません」
ジェイムズがおかしそうに笑う。
「なんできみが謝るんだい?」
「だって、あの、あたし、あたし……」
メアリは何か大事なことを伝えたかったのだが、それを言葉にすることはついにできなかった。その代わり、
無意識のうちにジェイムズの口元に手が伸びていた。メアリの指がジェイムズの形のいい下唇をなぞる。ジェイムズは
仰天したように、メアリを見つめ返している。メアリは今度は上唇をなぞった。と、次の瞬間、それはジェイムズの
口に根元まで含まれていた。ジェイムズはメアリの指を一本ずつなめ、指のまたを舌先でくすぐっていたが、突然、
表情をほころばせた。
「どうなさったんです、坊っちゃん?」
ジェイムズは意地悪そうな目でメアリを見た。
「きみは今の今まで、自分を慰めていたんだろう」
あとはもう、ふたりとも言葉にならなかった。ジェイムズはメアリにキスをし、メアリはジェイムズの舌をすすった。
ジェイムズはメアリの寝間着を脱がせると、壁に手をつけて立たせた。メアリが促されるまま脚を広げると、ジェイムズの
顔が局部にうずめられた。
メアリは喜びに身体をわななかせた。ジェイムズはひだの奥に舌を走らせ、膣の天井をこそげ落とすようになめた。
ときおり、敏感な箇所を責めるのをやめ、膣の下部を舌の表面でくすぐることがあった。その不規則な動きに、メアリは
涙を流しながらあえいだ。
メアリのももは蜜まみれになり、それがひざまでしたたった。ジェイムズはふと舌を抜き取ると、指で蜜を集め、
それを尻の穴に塗りたくった。
「あんっ、やめて、何をなさるんです」
ジェイムズはそれには答えず、今度は舌で小さな芽を刺激しだした。そして、肛門に指を入れた。
「いやっ、ああんっ、そこはいやっ、ああんっ、あんっ、人でなし、んんっ、んっ、ああっ!」
ジェイムズは、メアリの肛門に指を少しだけ入れたり出したりしながら、芽も責め続けた。そして、メアリのあえぎ声が
頂点に達しそうになると、芽から会陰を通り、肛門のまわりをなめつくした。
メアリは身体が小刻みに震えるのを感じた。頭が真っ白になり、何かがあふれ出る。メアリは足下を見下ろした。
ジェイムズの寝間着のズボンにしみができている。
「坊っちゃん。今、あたし、どうしちゃったんでしょう?」
「ちょっともらしちゃっただけだよ」
ジェイムズが何てことはないという顔で答えた。
「そんな……。すみません、坊っちゃん。あたし、あたし……」
メアリは込み上げてくる涙を我慢しきれなくなった。そんなメアリの頬にジェイムズが優しくキスする。
「気にすることはない。よくあることだから。みんな、そうだ」
「ほんとですか?」
メアリがジェイムズを見上げると、ジェイムズはほほえんでうなずき返した。
「本当だとも」
「よかった。あたし、もう坊っちゃんには会えないと思いました」
「それより、この味どう思う?」
ジェイムズが舌を入れてきた。かすかに塩っぽい苦い味がした。
「よくわかりません」
「これ、きみの味だよ」
「……やだ、そんな、恥ずかしい」
顔を伏せたメアリにジェイムズがふたたびキスをした。メアリは乳房と尻をまさぐられながら、
腹に硬いものがあたるのを感じた。さわってみると、それは熱を帯びて今にも火をふきだしそうだった。
ジェイムズはメアリの身体に唇をはわせながら座り込むと、ペニスをメアリの女陰にあてがった。
ペニスはするりとメアリの中に吸い込まれた。不思議なことに、メアリの膣はジェイムズのペニスを隙間なくおおった。
メアリはジェイムズに催促されるまでもなく、自分から腰をふった。
メアリの膣はよくしまり、彼女が力を入れるたびに、ペニスをきゅっとくわえ込むのだった。ジェイムズは早々に
果てないよう、歯を食いしばって耐えた。
「ああんっ、ジェイムズ様、ジェイムズ様、ああっ、ああんっ」
メアリはうわ言のようにジェイムズの名を繰り返している。濡れた陰毛どうしのこすれあう音が、世界のすべてから
ふたりを隔絶していた。
「ジェイムズ様、ジェイムズ様、ああんっ、ああっ、だめっ、だめっ、もう、んんっ、んんっ!」
メアリがいくと、それを追いかけるようにジェイムズも細かく痙攣した。ふたりは身体を重ねたまま、わらの上に転がった。
月はすでに西のかなたに消え、朝の近づく気配だけが、唇をあわせるメアリとジェイムズを包んでいた。
(了)
377 :
368:2008/09/06(土) 18:39:41 ID:IXG125ng
8レスで済みました
>>377 GJ
俺はこういうの好きだ
この二人にはうまくいってほしい気がする
やっぱレイプモノは多少救済要素がないときついよな
>>335-344の『メイド・小雪 7』は『メイド・小雪 8』の間違いでした。失礼しました。
以下、番外編になります。
『メイド・小雪 9 ――メイド・菜摘――』
菜摘でございます。
当家のご長男、正之さまの担当メイドを拝命して5年。
わたくしの全ては、正之さまのためにあると申し上げてもかまわないません。
朝、正之さまをお起こし申し上げ、お支度をお手伝いし、お見送りする至福の時。
正之さまのお部屋をお片づけし、お召し物を調え、お帰りをお待ちしながらメイドの務めを果たす間の幸せ。
お帰りをお迎えしましたあと、お着替えやお風呂のお世話。
そして、お気が向けば、わたくしをベッドに呼んで抱いてくださるのです。
身も心も蕩けるようなめくるめく時間。
朝、正之さまの腕の中で目を覚まし、そっと寝顔を拝見する喜びは何にも換えられません。
時にはわたくしが抜け出そうとする気配に正之さまがお目をお覚ましになり、わたくしの腕を取ってお引き寄せ下さることもございます。
まだうとうとなさっているのに、わたくしに朝のキスをくださるのです。
それから自室に戻り、身支度を整える間もつい笑みが浮かんでしまうのでございます。
その日がお休みであれば、正之さまは前夜たっぷりとかわいがってくださった余韻の残る場所に触れてくださり、そのままもう一度、ということも少なくはございません。
昨日から、正之さまは弟さまの直之さまとご一緒に、良家の子女たちが集まる定例の交流会に一泊でお出かけになりました。
今回は主催が当家でございましたので、正之さまはお忙しい中いろいろと趣向を凝らしたものを計画なさっておいででした。
主人がお屋敷を留守にするときが、担当メイドにとっては貴重な完全休日になるのですが、わたくしにとっては正之さまにお会いできない寂しい日でしかございません。
直之さまの担当メイドである小雪が休みだというのに外出しないので、わたくしも休日をどう過ごそうかと思案した結果、正之さまのためにエステに行こうと思いつきました。
お帰りになったときに、すべすべの肌をかわいがっていただきたいのでございます。
急ではございましたが予約が取れ、マッサージやサウナですっかりリラックスいたしました。
つやつやになった全身を鏡で見て、はしたないとは思いつつも、早く抱いていただきたくてうずうずするほどでございました。
そして、翌日の午後、お屋敷にお戻りになった正之さまは、わたくしにお風呂の支度を言いつけられましたのでございます。
まだ日も高いのに、と胸を躍らせながらお支度をいたしますと、正之さまはわたくしに小さなデジカメを手渡されました。
「これをプリントしておきなさい」
かしこまりました、と受け取り、正之さまがバスルームにいらっしゃる間にお机の上にあるプリンターにカードを差し込んで、自動印刷のボタンを押します。
シュッシュッ、という静かな音と共に吐き出される用紙には、交流会でのご様子と思われる写真が何枚も印刷されておりました。
どこかにお出かけになって、そこで写真をお撮りになるというのは正之さまにとってお珍しいことでございます。
見るとはなしにそれを見ていますと、わたくしは顔色が変わっていくような感覚になりました。
写っているのはどれも、交流会に参加したおきれいなご令嬢たちだったのでございます。
お風呂から出ていらした正之さまは、何度拝見いたしましてもほれぼれするような均整の取れたお身体でございます。
お帰りになったときとはうって変わっておくつろぎになり、上半身はバスタオルを肩におかけになっておられるだけのお姿。
わたくしが揃えた写真をセンターテーブルに置きますと、その前のソファに腰をおかけになり、わたくしの手をお取りになって隣にお導きくださいます。
「見てごらん、なかなかの美女揃いだろう」
「まあ、ほんとうに」
お隣に座らせていただきまして、お答えしましたものの胸は騒いでおります。
いよいよ、そのときが参りましたのでしょうか。
覚悟していたつもりではございますが、心臓が高鳴るのがわかります。
正之さまはペンをお取りになり、写真に写っているお嬢様たちの幾人かに印をおつけになりました。
「母さまのお勧めは、このへんかな。私は」
色の違うペンで、また別のお嬢様のお姿を丸く囲われました。
「どう思う?」
正之さまが選ばれたお嬢様。
拝見したところ、まだ幼いと申し上げてもよいくらいのお年頃。
贅を競うようなお嬢様たちの中で、少しではございますが控えめなご様子です。
とは申しましても、わたくしどもからしてみますと、とても手の届かない装いではございます。
隠し撮りでしょうか、斜め後ろから少し近くで撮ったお写真も拝見しました。
アクセサリーは、小さな真珠の耳飾り。金具がチラリと見えますところ、ピアスではございません。
お顔の形がやや丸いのはお若いせいでございましょうか、黒目がちなお目元、小さなお口元などが上品でございます。
ご自分では何一つなさったことのない、白いお手でグラスを持っていらっしゃいます。
わたくしは、メイドの仕事で酷使されている自分の手を、そっと正之さまのお目に触れぬよう隠しました。
「こちらは中学高校と全寮制のお嬢様学校に通われてね。今は女子大に通っている。卒業したらすぐに結婚するつもりでお相手を探しているそうだ」
「まあ、すぐに?」
そこに生まれさえすれば、一生カクテルグラス以上のものを持たずに暮らしてゆけるお家が、ほんとうにあるのでございます。
「女性は下手に世間に出て知恵がつくと扱いにくいからね。純真無垢なうちに家に入れてしまったほうがいい。大事なのは健康で人形のようにきれいにして客に愛想よくできることだからね」
なぜでございましょう。
その正之さまのおっしゃいようが、少しだけ悲しゅうございました。
正之さまは、握り締めるように隠していたわたくしの手に、ご自分のそれを重ねられます。
「ま、ものの役には立たないだろうけど、私には菜摘がいるからね」
そっとお顔を拝見しますと、にっこり微笑んでくださいました。
「…そちらのお嬢様に、お決めになりますの」
お尋ねしますと、お写真をテーブルに放り出され、わたくしの頬にお手を当ててくださいました。
「父さまが良いとおっしゃって向こうがいやだと言わなければね」
「お人柄、ですとか」
「興味ない」
でも、と言いかけたところを唇でふさがれてしまいます。
「パーティーで連れていて見栄えがするなら、自我がなければないほどいい」
深い口付けの後で、わたくしの脚に滑らせたお手がスカートの中に入ってまいります。
「あとは、そうだな。子供は作る。一人だと何があるかわからないから、二人か三人か」
跡継ぎの責任だからね、とお笑いになりながら、わたくしのスカートをすっかりまくり上げてしまわれました。
ソファに横倒しにされ、正之さまが脚の間に入ってこられました。
「抱き心地がよければそれに越したことはないが、菜摘ほどは期待できないだろうな」
指先でそこを何度も擦りあげられ、わたくしはぞくっといたしました。
下着が下げられ、正之さまがそこに顔を近づけられます。
羞恥に頬が熱くなります。
正之さまはそれにかまわず、すでに熱を持っているそこを開いて指先でなぞってくださいます。
「結婚しても、菜摘は、私の世話だけしてくれればいい。妻には妻のメイドをつけるからね。今までどおりだ」
今までどおり。
なにが、どのように今までどおりなのでございましょう。
わたくしの弱いところを隅々までご存知の正之さまのお手が、休みなく動かれます。
「ん…」
思わず、声が漏れてしまいました。
「反応がいい。体つきも、感じ方も、中の具合もね。菜摘ほど相性のいい身体はないよ」
わざと音を立てるようにかき混ぜられて、わたくしはもう何も考えられなくなってまいりました。
ああ、でも、もし、奥様になられる方が、わたくしより相性のいいお方だったら。
正之さまは、こんなふうに。
「菜摘は、最高だよ」
身体を入れ替えた正之さまが、わたくしに熱いものを押し当てられました。
メイドの制服を着たまま、ソファで、こんなふうに性急に求められることに、わたくしは嬉しささえ覚えました。
自分が、正之さまに求められることが、幸せなのでございます。
結婚しても、今までどおり。
正之さまがそうしろとおっしゃるなら、わたくしに異存のあろうはずもございません。
わたくしは、この方に女にしていただいたのでございます。
巧みな腰使いで頂点へと運ばれながら、わたくしは声を上げてしまいます。
わたくしを感じさせることで満足されるのか、正之さまはぐったりしたわたくしの上で自由に動かれました。
上り詰めた後で激しくされることで頭が真っ白になり、気づけば準備がなかった正之さまはわたくしのお腹の上に射精なさっておいででした。
これを、身体の中に受けることができるまだ見ぬ若奥さまに、わたくしは嫉妬いたしました。
その夜は正之さまがお戻りということもあり、旦那さまと奥さまもご一緒にお夕食をなさいました。
わたくしも他のメイドたちと一緒に、厨房で夕食にいたします。
朝と昼は忙しいこともあって簡単な食事が多いのでございますが、夕食は当番のメイドがしっかりしたものを作ります。
この日はお肉のソテーと温野菜にスープ、ピラフでございました。
弟の直之さまがまだお戻りではないのに、小雪はお屋敷におり、一緒のテーブルについておりました。
小雪は担当メイドになりました後もなかなか直之さまのお手がつかず、わたくしも影ながら心配いたしましたが、どうやら今はたいそうかわいがっていただいているようでございます。
その小雪が、お食事をしながらなにやらわたくしのほうを気にしております。
なにか、用があるのでしょうか。
同席のメイドたちもおりますので、食事が終わってお皿を下げますときに、そっと小雪のスカートの裾をひっぱりました。
ぐずぐずしていると正之さまのお食事も終わってしまいます。
小雪はちょっと首を傾げました。
これはこの子のクセのようでございます。
メイドとしましては、しぐさに特徴があるのはあまりふさわしくございません。
呼び止められた小雪は、お食堂の様子を気にしながら、周りに聞こえないようにわたくしに申しました。
「あのあのあの、菜摘さんは、あの」
この口グセも、良いものではございません。
「あの。だいじょうぶ、で、ございますか」
なんのことでしょう。
聞き返そうとしたとき、自分でも予想していなかったことに驚きました。
一筋、涙がこぼれてしまいましたのでございます。
なぜでございましょう。
悲しいことなど、なにもございませんのに。
小雪は、黙ってエプロンのポケットからハンカチを出して、わたくしの目頭に当てました。
正之さまとご両親さまは、お夕食の後のお茶が長いようでございました。
なんのお話なのかは、わかるような気がいたしました。
はらはらと涙の止まらないわたくしを、食料庫の中に引っ張り込んで、小雪はずっと手を握っていてくれました。
心配ばかりかける、頼りない後輩だと思っておりましたのに。
それほど長い時間、そこにいたわけではございません。
メイドとして訓練された成果でございましょうか、ほどなく気持ちを落ち着けることができました。
なにも言わずにそばにいてくれた小雪を見ますと、にっこりしてくれました。
直之さまが、小雪をお気に召すはずでございます。
わたくしは、いつか小雪も経験するかもしれないわたくしの今日の気持ちを考えると、この小さなかわいらしいメイドが愛しくさえ思えてまいりました。
小さな手を握り返し、大丈夫であると伝えます。
メイドたちが、お食事の後片付けをする音が聞こえてまいりました。
こんなところに二人でいるところを見られると不思議がられるでしょう。
食料庫のドアを開けようとすると、小雪が心配そうに付いてまいりました。
「あの…」
「直之さまは、明日お戻りかしら。あなたも今日は早く下がって休ませていただいたらよろしいわ」
「あ、あの」
「わたくしも忙しくなります。正之さまのご婚約が決まりましたら、お支度が山のようで」
小雪が背後で息を呑むのがわかりました。
ああ、こんなことを言うなんて、わたくしはなんと意地が悪いのでしょうか。
小雪は決して頭の悪い子ではございません。
わたくしが言ったことで、今のわたくしの状況も、将来必ず自分が歩む道をも、察することができる子でございます。
いつか小雪も、主人をどなたかに奪われるのでございますから。
それは、今この時に知らなくても良いことかもしれません。
でも、わたくしは、感情をさらけだしてはいけないはずのメイドでございますのに、どうしてもこらえきれなかったのでございます。
小雪を不安にさせ、悲しませるとわかっていても。
わたくしの気持ちを、どうしても一人で抱えておくことができなかったのでございます。
お食事を終えられた正之さまをお廊下でお待ちしました。
出てこられた正之さまの後をついて、お部屋に参ります。
正之さまは、お夕食のために整えられたお召し物を少しくつろげて、お酒を召し上がりました。
先ほどしてくださったばかりなのに、またわたくしの身体に触れてくださいます。
今日の肌はひときわ滑らかだとお褒めくださり、見つめてくださるお目元の涼しげで悩ましいこと。
正之さま。わたくしの、ご主人さま。
頭脳明晰容姿端麗完全無欠。
でも、わたくしは存じ上げております。
非の打ち所のないこの方の、たった一つの欠点を。
――――ただひとつ。
この方には、女心がおわかりにならないのでございます……。
――――了――――
泣けた
小雪ラヴな俺が菜摘嬢に惚れるじゃんかw
いい話だ。GJ。
GJ!菜摘さんかわいいよ菜摘さん。
小雪の涙のわけはこれかしら?
今まで心情描写のなかったキャラを描かれるとちょっとドキッとしますw
新鮮さにぐっとくる……のだろうか?
日陰女話 乙!
正之は前のメイドが去るときも
「どうして出ていくんだい?君がいなくなると寂しいよ」とか
当然のように言ったんだろうな
バカな男
いいわ〜、すげえいいわ
菜摘にも色々考えるところがあるんだな…
これからも楽しみにしてます
GJ!
なのだけど、菜摘が可哀相で、良作を手放しで喜べない。
切ないお話なだけに、菜摘の健気さとかしおらしさが加味されて余計に気の毒だ。
正之は、菜摘のことを「気に入っている」けど、「愛している」わけじゃないんだなあ。
菜摘は正之のことを愛しているのになあ。
そこが麻由&武などのカップルと違う所というわけか。
いつも楽しみに拝見してます。菜摘さんかわいそう。
でもきっと小雪とは違って正之の前では弱みは見せなさそうです。
だからなおさら不憫。あと正之は女心が分からないというより鬼畜ですよ…
小雪の話では、直之と小雪が車を洗う場面が一番好きですv
切なさがにじんだ文章。
すごいわ。
あと1作投下されれば新スレの季節?
394 :
マリ:2008/09/13(土) 14:26:20 ID:i76TMer0
あたし、マリ。
メイドになって2年目、まだまだ新人です。
お仕えしているご主人さまはこの家のお嬢さま。
まだ中学生で、ワガママいっぱい元気いっぱい。
お兄さまであるお坊ちゃまは優しいのに、あたしはお嬢さまには振り回されっぱなし。
今朝、お嬢さまは学校の修学旅行でカナダへご出発なさったの。
ぎりぎりまで、持って行く荷物やお着替えのことで大騒ぎだったけど、お見送りをしてほっとした。
あたしがいつもより早くご出発なさったお嬢さまのお見送りから戻ってくると、坊ちゃまがニコニコとあたしをみていた。
「マリ。今日くらいはゆっくり羽を伸ばしたらどうだい?」
あたしは、ほっとしているのが顔に出たかしらと両手を頬に当てた。
「今日は僕も部活が遅くなるから、それまでは自由にしていいよ」
実はあたし、お嬢さまのメイドでありながら、坊ちゃまとただならぬ仲。
これはつまり、帰ってきたら……、というお誘い。
あたしはちょっと恥ずかしそうに身をよじって見せる。
きょろきょろと周りに誰もいないのを確かめてから、坊ちゃまはあたしにチュッとキスをしてくれた。
お嬢さまがいないとあたしはお休みなので、あたしは本家のメイドのところへ遊びに行くことにした。
あたしのお勤めしているお屋敷は、お金持ちの家だけど、ご当主にはお兄さまがいらしてそっちが本家。
たまにおつかいなんかで本家に行くことはあるけど、ただ遊びに行くのは初めて。
ちょうどお昼の休憩の時間についたので、顔なじみのメイドたちが休憩室に入れてくれた。
メイドのナツミが来てくれた。
ナツミはこの家の跡取り息子のメイドで、すっごい美人で大人びていて、色っぽい。
あたしが坊ちゃんの自慢話をしても、余裕たっぷりにほほえんで、紅茶なんか飲んでいる。
「今日も、お帰りになるまでは自由にしてていいよ、ですって。もう、お若いからいやんなっちゃう。週に二度は呼びつけられるのよ」
ナツミがあまりにおっとりとしているので、あたしはわざときわどいことを言った。
「してるときは、あたしもそりゃ、ねえ。でもやっぱり夜遅くまで何度も、ってことになると朝がつらいじゃない?夜中に部屋に戻るところを誰かに見つかるのも気恥ずかしいし。ね?」
ナツミがゆっくりカップを置いて笑った。
「さあ、そちらのことはわかりませんけど。でも、まだそのお年頃で週に2度は少なすぎますわね」
やられた。
「あ、あらそうかしら。サルじゃあるまいし。坊ちゃまは部活もしてるから、忙しいのよ」
週に2度は少ない、ですって。
ナツミのご主人はもう仕事をしてて坊ちゃまより忙しいだろうに、もっとエッチの回数が多いのかしら。
「そ、それにね、坊ちゃまはものすごくいろいろしてくれるし、な、なめたり」
ナツミは動じない。
どういうこと?
「この間はあそこだって、ほら」
言ってる方が恥ずかしくなるじゃないの。
「あたしが、よくなるまで我慢してくれるのよ。あたしちゃんと、エクスタシーになるんだから」
395 :
マリ:2008/09/13(土) 14:27:13 ID:i76TMer0
勢いで言ってしまった。
ナツミが、ふっと笑って腕時計を見た。
そこへ、ノックをしてもう一人、知り合いのメイドが顔を出した。
こっちは背が低くてこどもっぽい、ナツミとは正反対でこの家の次男のメイドのコユキ。
「こんにちは、マリさんが来ているって聞いて」
「ひさしぶり、元気だった?」
入れ替わりに、ナツミが立ち上がった。
「わたしはもう行かなくては。マリ、ゆっくりしていってね」
「ええ、ありがとう」
「それと。やっぱり、週に2度は少ないわ」
くやしい。
コユキがきょとんとしていた。
この子はナツミよりはずっと相手にしやすそうだ。
あたしはコユキに坊ちゃんの自慢話をすることにした。
「あー、この時間は眠くなるわね。あたし、昨夜も遅くって」
それとなく匂わせる。
「寝不足ですか?忙しいんですね」
「ううん、ほら、あたしはお嬢さまのメイドだけど、どういうわけか坊ちゃまにも気に入られてるの」
「?」
「坊ちゃまもお年頃だし、女の子に興味があるじゃない?」
コユキにはナツミよりはっきり言わないと意味が通じない。
「若いと元気なのよね。一晩に2回は当たり前なの」
コユキが顔を真っ赤にした。やっとわかったらしい。
あたしは身を乗り出した。
「坊ちゃまってね、あたしの胸が大好きなの。ベッドに入っていくと、まっさきに触ってくるのよ」
「そ、そうですか」
「すごーく長いこと触ってくれるから、気持ちよくって」
どう、うらやましいでしょ。
「あなたのご主人は?」
勝ったわ。
「さあ、お風呂は一緒に入るのでどこから触られるかはわからない」
「なんですって。メイドが主人といっしょにお風呂に入るの?!」
声が大きくなり、コユキは口に指を当ててしーっと言った。
396 :
マリ:2008/09/13(土) 14:28:16 ID:i76TMer0
「だって、服を脱がせて抱いていってくれるから。一緒に入って洗いっこして、体拭きっこして、ベッドに行くし」
ショック。
それじゃまるでメイドと主人じゃなくて恋人同士じゃない。
「2回か3回はするけど、そのうち眠くなって一緒に眠っちゃうでしょ。寝不足だとも思わないわ」
「一緒にお風呂だけじゃなくて、そのまま同じベッドで眠るの?!」
「だって、毎日のことだし」
「毎日ですって!」
あたしはあんぐりと口を開けた。
「ふ、ふん、そんな回数ばっかり多くたって、入れて三回こすったらお終いじゃないの?」
コユキはとうとう下を向いてしまった。
「そんな。でもいつも先にわたしがいってしまうからなにもわからないけど」
い・つ・も、い・っ・て、し・ま・う、ですって。
あたしなんか、何回にいっぺんか、それもがんばってがんばってもらってやっとエクスタシーになれるのに。
こんなお子様なコユキがそんなに満足なエッチをしてるなんて。
あたしは帰ってきた坊ちゃまをつかまえて、悔しかった話をした。
「本家のメイドは、主人と一緒に毎日お風呂に入って、毎日何回もエッチして、毎日エクスタシーになって、そのままベッドで一緒に寝るんですって!」
「そうなんだ。マリもぼくとそうしたいんだ」
「したいにきまってるじゃないですか!」
「本家のメイドに負けたくないだけかい」
「ちがいます!」
坊ちゃんは、やれやれというようにあたしの手をつかんで引っ張った。
あたしが服を脱ぐと、胸に両手を乗せる。
いつものように揉んでくれるけど、そういえばあんまり気持ちよくない。
コユキみたいに、入れてしまってどうなるかわからないくらいすぐにエクスタシーになんかなれそうもない。
「坊ちゃま」
あたしは思い切っていった。
「それ、あんまり気持ちよくないんですけど」
「えっ」
「もっと、乳首とか」
「そう?わかった」
乳首を指先でくりくりしてもらうと、ちょっとだけ気持ちいい。
坊ちゃんを引っ張るようにしてベッドに行く。
坊ちゃんは、ずーっと乳首をいじっている。
そのうち、自分でも興奮してきたのか、ズボンを脱いでしまった。
397 :
マリ:2008/09/13(土) 14:29:04 ID:i76TMer0
「い、いいかい」
いいわけない。
あたしがいやがると、坊ちゃまは指をなめてあたしのあそこを濡らした。
こんなので入れられても、気持ちいいわけない。
今までは黙ってたけど、あたしは坊ちゃまが入れようとしたときに、わざと大きな声で言った。
「痛い!」
坊ちゃまはむっとした顔で、もう一度あたしの胸を揉んだ。
それから、もう一度あそこを指で広げて、やっぱり入れてきた。
若さのせいなのか、もうハアハア言っている。
仕方なくガマンしてると、むりやり入れて、三回こすったらいってしまった。自分だけ。
あたしは腹が立った。
「もう、坊ちゃまも本家に行っていろいろ教えてきてもらってください!」
あたしは坊ちゃまにベッドからも部屋からも追い出されて、人に見つからないように走ってメイドの部屋へ帰った。
先輩メイドに泣きつくと、笑われてしまった。
終わり。
長男のメイドのナツミとか、次男メイドのコユキとかにひっかかる
作者の小ネタか?
作者さんはトリつけてらっしゃるけど、一応お聞きした方が良いかな?
401 :
マリ 2:2008/09/14(日) 12:05:40 ID:Z8zQl0L/
あたし、マリ。
今日も坊ちゃまに呼び出された。
いつもはいきなりガバって来てヤられちゃうんだけど、今日はソファに座れと言う。
坊ちゃまはあたしの隣に座って、部活や高校の話をし始めた。
どうしたんだろう、あたしは友だちやサッカーの話しをされてもちんぷんかんぷんなんだけど。
すると坊ちゃまは、いきなりあたしにキスをした。
「ん、んんん」
自分で服を脱ごうとしたら、坊ちゃまはあたしの手を叩いた。
「マリはいいんだよ」
それからあたしの耳をべろべろなめたり、服の上から胸を触ったりする。
ハアハアしてるからちょっと気持ち悪い。
「坊ちゃま、どうかしたんですか。あたし、脱ぎましょうか」
「いいんだ、こうしなさいってタケルさんに言われたんだよ」
「タケルさん?ああ、お屋敷に来たんですか」
夕方、坊ちゃまにお客さんが来ていた。
なんかきれいなメイドを一人連れた、いかにも青年実業家風の。
なんでも古くからお付き合いのある家でそこの若き当主で、坊ちゃまが兄とも慕う人なんだとか。
あたしが本家で勉強してきてくださいと言ったのが少しは答えたみたい。
結局、坊ちゃまはあたしの体をべろべろなめまわして、少し気持ちいいかなと思ったころに入れてきて、やっぱり三回で終わってしまった。
あたしはこっそりお屋敷を抜け出して、タケルさんのお屋敷に行った。
メイド長のマユさんを呼び出す。
「どうかしましたか」
「教えてください!」
あたしが頭を下げたので、マユさんはびっくりしている。
「うちの坊ちゃま、どうしたら上手なエッチができるようになるでしょうか」
「えっ」
「このままじゃあたし欲求不満、いえ、坊ちゃまの将来が心配です。だって、いつも三回こすったらおしまいなんです」
マユさんは困ったように、あたしを、部屋の中に入れてくれた。
「おたくのお坊ちゃまは、ほんとに三回で終わりなんですか」
「そうなんです。その前だって、ちょっと胸を揉むくらいで自分だけ興奮してしまうんですよ。それで入れようとするから、あたし痛くて」
ナツミやコユキには見栄を張ったけど、マユさんは年上なのもあって正直に言える。
マユさんは優しくて、本気で心配してくれるようだ。
402 :
マリ 2:2008/09/14(日) 12:06:36 ID:Z8zQl0L/
「そんなことでは、将来結婚するときに差しさわりがありますね」
「そうなんです!」
あたしは、自分のことじゃなくて坊ちゃまの将来の方を、ここぞとばかりに強調する。
「私は、ご主人さましかわからないから、いいアドバイスができるかどうか」
「いいんです、マユさんはタケルさんで満足できるんですよね?それを教えてください」
「でも、私が何か言うより、ご主人様がお坊ちゃまに直接話したんだからいいんじゃない?」
「それが、どうもあまり実践できてないんです。だから、あたしのほうでなにかできればいいなと思って」
「そうですか」
マユさんはなにを思い出したのか、一人で顔を赤くしている。
あたしは坊ちゃまとのエッチを思い出しても、ちっとも恥ずかしくないのに。
「マリさんは、お坊ちゃまになにをしてあげるの?」
「え?」
「まさかマグロ?お坊ちゃまに胸を揉んでもらってる間とか、ただぼーっとしてるの?」
「そうですけど」
マユさんがフフフと笑った。
「自分がしてもらっていいことは、お坊ちゃまもいいんじゃないかしら」
「あたしが坊ちゃまをなめまわすってことですか?!」
またマユさんがフフフと笑った。
「あら、マリさんはお坊ちゃまになめてもらってヨかったのね」
うっ。
「じゃあ、なめてあげたら。私もご主人様の胸とかあそことかなめますけど、ヨさそうですよ」
ええっ、マユさん、おとなしそうな顔して大胆なことをする。
この美人があのご主人様を押し倒してべろべろしているところを想像したら、あたしはムズムズしてきてしまった。
「若いから早いのは仕方ないかもしれないけど、マリさんが主導権を握ったらお坊ちゃまも少しは我慢しないとならないでしょ」
なるほど、やっぱり先輩の意見は役に立つ。
あたしがお坊ちゃまにいろいろすれば、いきなり入れたくても入れられなくなるかもしれない。
「お坊ちゃまがあまり上手でなくても、こちらがなめたり揉んだりしているうちに意外と自分もヨくなるものですよ。お坊ちゃまが入れてくる頃にはもうぐっしょり。あら私としたことが、ホホホ」
あたしはマユさんにお礼を言って帰ってきた。
403 :
マリ 2:2008/09/14(日) 12:07:49 ID:Z8zQl0L/
その日は、あたしが坊ちゃまに襲い掛かった。
「どうしたんだいマリ」
坊ちゃまは驚いていたけど、あたしが服を脱がせて上に乗ってべろべろすると目をつぶった。
唇とか首筋とか乳首とか、自分がされていいところを一生懸命なめた。
坊ちゃまのあそこが硬くなってきたのがわかったので、そこも思い切ってなめた。臭かった。
「マリ、すげえいいよ」
坊ちゃまはびくんびくんとして、あたしの顔にかけた。
臭いしべとべとするし、あたしはうんざりしてしまった。
こんなものが出てたんだ。
いきなり坊ちゃまがあたしを押し倒して、腰の下に枕をはさんだ。
え、あたしまだなにもしてもらってないのに、いきなり入れるの。
「ちょっと、坊ちゃま!」
「もう我慢できないよ」
だって今出したばかりじゃないの。
坊ちゃまはもう早カチンコチンになったあれを、あたしのあそこに当てた。
絶対痛い、と歯を食いしばったのに、あまり痛くなかった。
「あれ?」
「うわー、濡れ濡れだよマリ。ぼくのち○ぽなめて興奮してたわけ?いやらしいメイドだなあ」
そんなことを言われて、あたしは恥ずかしくなった。
坊ちゃまは一回あたしの顔に出したせいか、ちょっとは長持ちするようだった。
「ああ、ああ、ああっ」
あたしより、坊ちゃまがあえいで、いってしまった。
あたしはエクスタシーにはならなかったけど、いつもよりはちょっとよかった。
やっぱり、先輩のアドバイスは役に立つ。
「坊ちゃまも、タケルさんに教わったことをもっと実践してくださいよ」
そう言うと、坊ちゃまは急に怒り出して、またあたしを部屋から追い出した。
先輩メイドが、またあたしを笑った。
終わり。
人のキャラクターを勝手に使うのはどうなんだろう……
しゃべり方とか違う気がするし。
やっぱり許可を取ってから使ったほうがいいのでは。
それとも新種の荒らし?
レスに反応しないあたり荒らしっぽいかな
とりあえず書きたいなら作者に許可をとるんだ
テンプレに二次創作おkと書いてあるが許可はとった方が良いぞ
二次創作って、例えば小説とかアニメとかでスレがない作品って事だと理解していたんだけど。
キャラの名前は変えた方が平和だったな。
原作とふいんき(ryがあまりに違いすぎて二次創作と認め難い。
好きすぎてのことだろう
410 :
マリ 3:2008/09/15(月) 13:08:41 ID:SHvoc0Zj
あたし、マリ。
目が覚めたら、両手がバンザイの形で、ベットに縛りつけられていた。
足は折り曲げた形で縛ってある。
「きゃーーー、坊ちゃま、なんですかこれはーーー!」
寝たまま暴れると、上から三人の男が、見下ろしていた。
「起きたみたいだね。はじめようか」
そう言ったのはタケルさん。
隣にいるのは、見たことがない人で、もう一人はもちろん坊ちゃま。
「マリはぼくとのエッチが不満で、あちこちのメイドに、相談してるんだってね。僕も相談したんだよ」
「えー、なんですかそれ!」
「はじめまして。こないだはコユキがどうも」
見たことがないほうの人が言う。てことはこの人は、コユキのご主人のナオユキさん。
ナオユキさんは、白い鳥の羽みたいなものをとりだした。
「ところで、君はいつも、どんなふうにしてるのかい」
言われて、坊ちゃまは、あたしを見下ろした。
「マリは胸が、好きなんです」
なに言ってるんですか、胸が好きなのは、坊ちゃまじゃないの。
ナオユキさんは羽で、あたしの胸をこちょこちょした。
くすぐったい。
でもずーっとコチョコチョされていると変な気分。
「坊ちゃま、なんのつもりですか、あたしをこんな目にあわせて!」
叫んだら、口にハンカチを入れられた。
ナオユキさんが、あたしの胸とかお腹とかを、コチョコチョしてる間に、タケルさんがあたしの足を開いた。
まるみえになっちゃう。
「ナオユキくん、ここもコチョコチョして」
「いいよ」
あんまりのぞきこまれると、恥ずかしい。
羽であそこを、コチョコチョされる。
「さぼってちゃだめだよ」
言われて坊ちゃまがあたしの胸を揉んだ。
「もっとそっとしてあげなさい」
「マユもいきなりつまむと、痛いって怒る」
「コユキなんか、仕返しに、ち○ぽをえいって握ってきたり」
411 :
マリ 3:2008/09/15(月) 13:09:34 ID:SHvoc0Zj
坊ちゃまは言われたとおりにそっと揉んだり、乳首をクリクリしたりした。
あ、ちょっといいかもしれない。
羽で、コチョコチョされてるあそこも、いい感じ。
「少し濡れてきた。でもまだまだ」
「まだですか」
「まだだ、いつもこんなので入れてるのか」
坊ちゃまが、くちびるを突き出した。
「でも、もうビンビン」
見ると、坊ちゃまの、ズボンの前が持ち上がってる。
タケルさんやナオユキさんの見てる前で、ヤる気なんだろうか。
「じゃあ、なめてあげなさい」
坊ちゃまがベットに上がった。
あそこをべろべろする。
「それじゃだめだ」
「いいかげんになめてる」
タケルさんと、ナオユキさんのダメダシ。
ナオユキさんが、あたしのあそこを手で広げた。
「この穴のまわりとか、上の豆とかをなめなさい」
きゃーーっ、すごい。
坊ちゃまが言われたとおりにしたのか、すごくいい。
「穴にも舌を入れて、まわりのビラビラも、なめなさい。お尻の穴も」
どうにかなっちゃいそう。
あそこが、熱い。
こんなの、初めて。
「豆はむいたほうがいい。マユは飛び跳ねて喜ぶ」
「コユキにはすこし強いみたいだから、あまりむかないな」
「むいてみろ、反応が違うぞ」
あたしを見下ろしながらしゃべっている。
坊ちゃまはずっとなめてる。
こんなに長い間、べろべろしてもらったことはない。
しかも、その間もずっとナオユキさんは、羽であたしの胸をコチョコチョしてる。
「脇の下とか太ももとか。そういうところもなめるといい」
「でも、乳首がとがってきてる。いいんじゃないか」
「ちょっと、みせてごらん」
坊ちゃまがべろべろをやめて、代わりにタケルさんが入ってきた。
「ここに指を入れてみろ」
412 :
マリ 3:2008/09/15(月) 13:10:34 ID:SHvoc0Zj
あ、入ってくる。
でも痛くない。
指が抜けて、もう一度入ってきた。
最初のがタケルさんの指で、次のが坊ちゃまの指。
「まだかたい。こういうときに入れると、女の子は痛い」
「でも、もうずいぶん、なめてるのに」
もう一度、指が変わった。
中で動いている。ああ、いい。
「まだまだだよ。胸とま○こだけじゃなくて、体中なめたり揉んだりしなさい」
「えー、めんどうくさい」
めんどうくさいってなによ、と言ってやりたかったけど、タケルさんの指がすごくヨかったので我慢した。
乳首の方もいい。気がつくと、ナオユキさんがなめていた。
坊ちゃまとちがって、すごくじょうず。
だんだん、体中が、熱くなってきた。
「一度いってみたらどうだろ」
「そうだね。タケル、お手本を頼むよ」
と、タケルさんとナオユキさん。
あそこの中に入っていた指が、いきなり早く動き出した。
奥の方とか、ヒダヒダのとことか、いっぱいこすられる。
坊ちゃまには三回しか、こすってもらえないのに。
グチョグチョ、という音がした。
タケルさんが、中をグチョグチョしながら、豆をなめた。
クリクリ。ナオユキさんも胸をなめる。
ビンビンになった坊ちゃまが、ハアハアしている。
あーーー!
あたしはタケルさんに、グチョグチョされながら、舌で、豆をグリグリされて、エクスタシーになった。
あんまりヨかったので、指を抜かれたのが残念だった。
「もうだめだ」
ガバっと坊ちゃまが襲いかかってきて、ビンビンのあれを入れてきた。
いやーーー。
あれ、いい。
タケルさんの指で、すっかり気持よくなったせいか、坊ちゃまのあれが入ってもヨかった。
中がこすれて、いい。
「ガマンガマン。すぐ出しちゃだめだよ」
タケルさんが横で声を書ける。
坊ちゃまは顔をしかめて、がまんして、それでも五回か六回でいってしまった。
でも、先にエクスタシーになったので、あたしはそんなに腹が立たなかった。
「まだまだだけど、前よりいいんじゃないか」
「あとは回数だ。あせらないで」
「ありがとう、おかげで自信がついたよ」
413 :
マリ 3:2008/09/15(月) 13:11:15 ID:SHvoc0Zj
あたしを縛っていたひもをほどきながら、三人で楽しそうにしゃべっている。
坊ちゃまのエッチ講習も、終わりみたい。
教えてもらってください、といったのはあたしだけど、本気で坊ちゃまが勉強する気になってくれたのはうれしい。
今度は、ナオユキさんにもなめてもらいたい。
「坊ちゃま、今度、ナオユキさんタケルさんが、来るのはいつですか」
なぜか坊ちゃまは、また怒り出して、あたしを部屋から追い出した。
先輩メイドは、腹を抱えて笑っていた。
終わり。
414 :
マリ 3:2008/09/15(月) 13:12:05 ID:SHvoc0Zj
借 り ま し た wwwwwwwwwww
出来が良ければまだ良かったものを
416 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 20:32:36 ID:/DT12n5D
リアルな女だな
実体験?
r ‐、
| ○ | r‐‐、
_,;ト - イ、 ∧l☆│∧ 良い子の諸君!
(⌒` ⌒ヽ /,、,,ト.-イ/,、 l 信じるものがすくわれるのは
|ヽ ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒) 足元だけなのだという事を肝に銘じておけ!
│ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|
│ 〉 |│ |`ー^ー― r' |
│ /───| | |/ | l ト、 |
| irー-、 ー ,} | / i
| / `X´ ヽ / 入 |
次スレの季節が来てるわけだが
次スレ立てたいんだがスレタイはどうしたらいいかな?
【ご主人様】【お戯れを】
422 :
419:2008/09/16(火) 04:12:51 ID:xvoK89lu
151 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/09/16(火) 11:49:09 ID:aVRNJIDV
ぎゃあぎゃあうるさいな、連休で暇だったから、スレ埋めてやったんだよ
おかげで次スレ立てられただろ、
どうせエロパロだよパロディだよ素人作者の許可とかちゃんちゃらおかしい
なんのかんだいっておまいら楽しんだろwwwwwww
なんだ、ただの荒らしか
草レスするやつは やっぱりこの程度か
駄作に無駄に容量くわれたな
本人も負け惜しみで言ってる通り、埋めになって
よかったと思っとけばいいんだ
こういうのはほっとくのが一番だよ
以下いつもどおりの流れで
↓ ↓
時節ネタ的にはこの季節やはり台風だろうか。
お月見ネタもなかなかいけるかもしれん
地方によってはお祭りネタとか
田舎の祭りは男女の親密なお付き合いの場所だったとか
スイーツ(笑)小説レベルだな
ご主人様、いけません!月が、十五夜の月が見ております…
あんっ、あ…ダメ……
と恥らうメイドさんか。
ということは野外プレイ?
台風だったら、いつもスレ終盤に出てくる没落主人&メイドが雨漏りに悩む感じ?
部屋中に鍋釜ヤカンを置こうと走り回るメイド、それを「○○さんは働き者だね」
と、冷めた茶をすすりながらのんびり見詰める主人という図しか浮かばなかった。
「急な雨で参りましたね、ご主人様。
お風呂は先程の連絡で沸かしておりますのでごゆっくりお暖まり下さい」
「お前も濡れてるじゃないか。よし、お前も一緒に暖まりなさい」
「ご、ご主人様!?いけません・・・あっ」
こうですか?わかりません!
台風がものすごいので、年下主人が心細くないよう、
一晩中そばに控えているメイドさん。
え?本当は彼女の方が心細いなど、まさかそんなw
水が屋根を叩く音が気になり、本を持つ自分の手は一向にページをめくろうとはしなかった。
今日は朝からひどい雨で、せっかくの杞憂実も家で過ごすはめになっている。
しかも夕方からは遠くで雷の音が鳴っていた。
「台風は何時ごろ通過するのかな?」
「天気予報だと明日も強い雨らしいです」
そうかと呟いて空になったティーカップを指で叩いた。
すると彼女は手際よく新しい紅茶と、砂糖を入れた。
湯気の立つそれを口に運びながらたずねる。
「風呂は沸いてるか?」
「はい、先ほど準備ができましたが。入られますか?」
その質問には首を横に振り、彼女の足を指差していった。
「震えている。君が寒くないのかと思ってね」
そう言うと彼女は驚いた顔をしてそれを否定した。
ではその震えはなんなのだろうと思ったその時、まばゆい光と耳を劈く大音響が窓から入ってきた。
一瞬心臓がどきりとしたが、それが雷だと頭が理解すれば大して怖くはない。
「ずい分近くに落ちたな」
と言ったが返事が返ってこない。
怪訝に思いそちらを無くと青い顔をして彼女は立っていた。
なるほど、足の震えはこれか。
いまだに生気が抜けたように立っている彼女は、普段の凛とした雰囲気がかけらも残っていなかった。
何時ものかっこいい姿も好きだが、こんなしおらしい姿もそれはそれでいいものだ。
そんな彼女の腕を取って軽く引っ張ると正気に帰ったようだ。
「あっ……す、すいません」
恥ずかしい姿を見られたからか何時もより頬が赤い。と、また空が光る。こんどは若干の悲鳴を上げた。
ふっ、と笑って彼女の腕を取り寝室へと引っ張っていく。
そして彼女をベッドに寝かせ、自分はその上に覆いかぶさった。
「雷の事を考える余裕もなくしてあげる」
そう言ってキスをしつつ頭の中で考えた。
そういえば、明日の天気も雨だっけ。
終
GJGJGJGJ!
好きだーこういうの
埋めネタです。前回の埋めネタとキャラは共通です。
『停電話』
その日は近年稀に見る大型台風が県全域を覆い、この町も激しい風雨に見舞われました。
昼食後の休み時間、私はちょうど由伸様のお部屋で由伸様のお耳を掃除していました。
こうして二人きりでいるのは、私にとってとても幸せな時間だったりします。
外の風が雨戸をばしばしと叩いています。あまり快いものではありません。
「強いですね、風が」
「そうだね。希美は台風嫌い?」
「あまり好きではないです。いろんなところで被害が出ますし、お庭の手入れやお掃除も
大変になりますから」
「なるほどね。確かに大変そうだ」
「あ……申し訳ございません」
つい愚痴をこぼしてしまいました。
「いや、希美の話ならなんでも聞きたいからね。遠慮なくいろんなことを言ってくれ」
「は、はい」
と、おっしゃられても、それはなかなか難しいことなのですが。
「使用人さんたちには悪いけど、ぼくは結構好きだな」
「台風ですか?」
「うん。なんていうか、ワクワクする」
由伸様には申し訳ないですが、その感覚は私にはよくわかりません。
右耳の掃除が終わったので、今度は左耳を上に向けてくださいと頼みます。
そうすると、由伸様のお顔がちょうど私のお腹を向くことになります。当たり前のこと
ではありますが、私はどうにも慣れずに恥ずかしく思ってしまいます。
「わ、ワクワクですか?」
私はそれをごまかそうと、由伸様に尋ねました。
「うん。停電とか最高だね。ロウソク立てたり、ラジオつけたりさ」
「……」
子供みたい、と私が心中に呟くと、それに被さるように風が雨戸を強く叩きました。
「きゃ!」
つい声が出てしまいました。
「怖い?」
「え、あ、今のはその、」
「大丈夫。ぼくがついてるから」
由伸様は横になられたままそうおっしゃいました。
その体勢ではあまりカッコがつかないと思いましたが、私はちょっと嬉しくなりました。
「ありがとうございま──」
ぶつん。
唐突に部屋の電気が落ちました。
一瞬何が起きたのかわからず困惑しました。咄嗟に耳かき棒を由伸様のお耳から離します。
「停電?」
「……そのようですね。ちょっと見てきます」
緊張しながらも私は落ち着きを装って答えます。
正直暗がりは好きではありません。なんというか、気味悪く思います。
暗いのは怖いですが、これも使用人の務めです。私はベッドから立ち上がろうとしました。
しかしその瞬間、由伸様に左手を掴まれてしまいました。
「行っちゃダメ」
「え?」
「主人をほっといてどこかに行くなんて、メイド失格だよ」
「で、ですが」
「大丈夫。桜が対処してくれるよ。希美はぼくの専属メイドなんだからこっち優先」
「……」
私はしばらく黙り、それから由伸様のお手を遠慮がちに取りました。
「では、どうすれば」
「こうする」
由伸様が私の手を強く引かれました。私は真っ暗闇の部屋の中で、ベッドに倒れ込み
ました。
「よ、由伸様?」
「ちょっとだけ、ね」
そうおっしゃいますと、由伸様は私の体を抱き寄せました。
私は慌てて体を離そうとしますが、しっかりと抱き締められてそれができません。
「あ、あの、何を」
「暗闇でメイドを押し倒す……興奮するね」
貞操の危機を感じました。
「や、ダメです!」
「心配しなくても変なことはしないよ」
いや、この状況がすでに変ですが。
「君に殴られると結構首にくるからね」
「そ、それは、由伸様がセクハラをされるからじゃないですか」
「男ならみんなメイドさんにいたずらをしてみたいものなんだよ」
理解に苦しみます。
「……それって、メイドなら誰でもいいってことですか?」
「いいや、ぼくは君にしかそういうことはしたくない」
ちょっとドキリとしました。
顔が熱くなるのを感じます。真っ暗でよかったと私は思いました。
「というわけでおっぱいを」
「何が『というわけで』ですかっ!」
今日のパンチはいつもよりも手応えがありました。
本当に油断ならないお方です、私のご主人様は。