◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
初の2ゲット
>1
スレを立てるなら保管庫案内と関連スレも貼って下さいね。
特に議論もなく変更無しで立てられてしまいましたが、こうなった以上は致し方ないので、
愚痴、恨み言はしばらくの間前スレか↓でお願いします。
女兵士スレのスレタイ・テンプレ等議論用BBS
ttp://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/suretaibbs/suretaibbs.cgi 今後の悶着の元にならないよう、
次スレのスレタイ・テンプレの議論は450kbごろから、
新スレ立ては480kbを越えた頃とルール化するよう提案します。
スレタイ・テンプレ変更を望む方々は、今スレが480kbを過ぎたあたりを見計らって
それまでの議論を考慮しながら抜かりなく立ててしまいましょう。
別に今のまんまでいいんじゃね?ってのが大半な気がするぜ
>>1乙
1さん乙です。
新スレも良SSに恵まれますように。
保守がてら小ネタっぽい軽めの話を投下。
アリューシアが姫の騎士として召抱えられて間も無い頃の、短いお話です。
今回はすみませんがエロ無しです。
このシリーズを初めて読む人には説明不足な内容となっています。
いつもの調子なので、苦手な方はなにとぞスルーでお願いします。
では、武士は食わねど高楊枝、のお話。「騎士は食わねど」です。
9 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:03:20 ID:dz9MHztr
舞踏会で奏でられている軽快な音楽が、微かに耳に届く。
仕事を果たし終えたグルドフは、石壁のむき出しになった薄暗い使用人用の通路を
出口へと進んだ。
既に懸念となるものは何一つ残っていない。
第一王子の主催する離宮での舞踏会は、何事も起こらなかったかの様に、
そして、何事も知らずに、今も広間で華やかに繰り広げられている。
王子暗殺の陰謀を事前に突き止め、今夜の喧騒に乗じて入り込んでいた男達は余さずに
捕らえた。
親衛隊隊長にそれらの身柄を引渡してしまえば、もう後は自分には用は無いだろう。
陰謀の確たる証拠を掴んだので首謀者が捕らえられるのは時間の問題だが、
それは王子の親衛隊の仕事であり、自分の役目は此処までである。
厨房と広間をつなぐ廊下は行きかう使用人でごった返しているが、そこを外れると、
殺風景な通路は打って変わって静まり返っていた。
このまま誰にも会うこともなく家に戻れるだろう、そう思っている途中
「ああ、そこの者」
突然、背後から声をかけられ、グルドフは立ち止まった。
「呼び止めて申し訳ない。この館の者か」
凛とした張りのある声。王宮衛兵の制服を身に着けた女が、革靴をかつかつと小気味良く
響かせて歩み寄ってきた。
「………」
グルドフが無言で頷くと、女はその歩き方にふさわしい、はきはきとした口調で
話し出した。
「少し尋ねたいのだが、厩舎はこの廊下の突き当たりの階段を下りて、外に出た左側で
あったかな。この館のことには疎くて、少し迷ってしまったようなのだが……」
「それで合っていますよ」
「そうか、かたじけない」
「今から一人で厩へ?」
「ああ、名馬ぞろいと言うここの馬を少し見せて欲しくてな」
こんな時間に?……そう思いながら、グルドフはその気配を出さずに闇に利く目で
相手を窺った。
見慣れない女だった。
深い藍色の瞳に、亜麻色の長い髪。
女にしては背が高く、人目を引くなかなかに整った容姿の持ち主ではある。
だが、引き締まった目元にはただの女とは思えぬ程に力があり、気安くは近寄りがたい
雰囲気を漂わせている。
「こんな時間にお一人では心細いでしょう。私も付き添いますよ」
グルドフがそう言うと、何故か女は秀麗な顔に不快気な表情を走らせた。
10 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:05:19 ID:dz9MHztr
しかし、それはともすれば見逃してしまう程一瞬のもので、すぐさま彼女は口もとに
形式的な微笑を浮かべ、凛然とこう答えた。
「私には婦人に対する気遣いの類は不要だ。一人だとて何の不自由も無い。
しかし、申し出には感謝する。ありがとう」
全くと言って良いほど隙を見せる事なく彼から離れ、点々と松明の灯る廊下に影を
落として歩いていく女の後姿を、グルドフはその場に立ち止まり暫くの間眺めた。
おそらくは舞踏会のために王宮から来た王族の護衛の一人であろう。
しかし、王宮衛兵である証のその深緑色の制服に、一般のそれとは一箇所異なる
部分があった。
通常なら無地であるはずの左胸部分に、鮮やかな金糸、銀糸で水仙のモチーフが
縫い込まれていた。
水仙の紋章──王子の末の妹、マルゴット王女の紋章である。
ということは、あれが新たに任命された姫の騎士か。
マルゴットはその奔放な性格を心配して父王が専属の護衛をつけるものの、気に入らない
と言っては片っ端からそれを止めさせているという、いささか問題のある姫君であった。
しかし、今度のアリューシア・何某、と言う名前の人物は、姫自らが見初めて
数ヶ月前に専属の騎士に取り立てたという話である。
審美眼、という言葉があるが、マルゴットの場合は、その人物の持つ才能や能力を
見抜く目に長けており、その天性とも言える人選には誤りが無い、と嘘か本当か
まことしやかに語られている。
そんな背景もあってか、今度の護衛は名のある者ではないが中々に優秀な人材だという
噂であった。今度こそは姫の付き人として長続きするのではないか、と周囲は期待を
寄せていると。
一体どのような女なのか。
純粋な好奇心も手伝い、グルドフは足音も無く後を追いはじめた。
*
グルドフが先回りして厩舎の梁の上に乗り、暗闇に溶け込み暫く待つと、
先程の女騎士がランプを手にそこに姿を現した。
「おい。誰かおらぬか」
彼女は二度ほどそう声をあげ、辺りを窺う。
しかし、それは本当に人を呼んでいるのではなく、自分以外に誰もいないことを
確認するための呼びかけのように見て取れた。
11 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:08:13 ID:dz9MHztr
ひとしきり周囲を見回し、ひと気の無い事を確認したらしい女は、そのままゆっくりと
居並ぶ馬の顔を眺めながら馬房の連なる通路を進み、ある所でぴたりと立ち止まった。
故意か偶然か、王子の愛馬の前である。
(何かする気か)
こんな時間に、こんな場所に、彼女は何のために来たのだろうか。
普段ならばここは夜間にも厩務員がいるが、今夜は来客達の馬車馬の世話の為に
別のところへ借り出されている。
梁の上からつぶさに彼女の様子を探るグルドフが表情を引き締める。
まさか逢引、と言うわけでもあるまい。
万が一、彼女が何かを企むような──例えば、王子に危害を加えようと、彼の馬を
狂わせるために毒を与えるような──そぶりを見せたら、この場で捕らえて……
………まあ、そんな事に関わるような女には見えないが。
グルドフに見られているのも知らずに、アリューシアは黒鹿毛の馬に向き合うと、
柵に手をかけた。
そして
「はぁーーーーーーーーーーーーーーっ」
棚に両手を付き、がっくりと頭をたれて大きく息を吐き出した。
(何だ)
グルドフは眉を顰めた。
「あぁ。こういう時には、私はどうしていれば良いのだ。……なあ?」
と、彼女は顔を上げて何者かに語りかけた。
いや、違う。
彼女が話しかけているのは、その目の前にいる馬だ。
「舞踏会などというきらびやかな場はもともと苦手なのに、こんな初めて来た館で
落ち着き場所を探すのなんて、不可能ではないか」
グルドフは肩の力を抜いた。
あの女がここに来たのは、人目を忍んで愚痴を吐き出すためという訳か。
王子の馬の前で止まったのも、どうやら偶然の事らしい。
「マルゴット様の警護で来たというのに、エル…何とか伯爵とか言う男と大事な話がある
からと部屋に篭ってしまわれた挙句、『お前は暫くの間どこでも良いからどこかに行け』
などと言って追い払われてしまうとは………。困った」
なるほど、マルゴットに上手くあしらわれてしまったらしいな。
やはり、お守り役はだいぶ手こずっているようだ。
12 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:10:39 ID:dz9MHztr
「こんな事は事前に聞いていなかったぞ。まったく……姫はあの男と、どんな重大な話が
あるというのだろう」
(いいえ。あの姫の事だから、今頃はその男とよろしくやってる、と言う事なのだと
思いますよ)
警戒を解いたグルドフは太い梁の上で腰を下ろし、女騎士を見下ろしたまま、
そのぼやきに心の中で応えた。
「いったい、どうすれば良いんだ。私は」
(………そこで姫にしつこく食い下がって不貞を諌めるか、相手の男を威嚇して
追い払うのが貴女の仕事になるのだと思いますが)
「はあっ……」
そのため息の後、頬杖をついたまま女は暫し無言になった。もしやさめざめと泣き出した
のではあるまいな、と思い始めたところで、俯いていた女の顔が、きっ、と上がった。
片手で拳を握り締めつつ、力強い呟きが聞こえる。
「こういう時はどう振舞えばよいか、明日の朝、早速隊長に相談して今後の対策を
立てるとしよう。よし、そうしよう」
グルドフは思わず頬を緩めた。
この女、随分と生真面目な性分らしい。
(面白い)
あの堅物そうな女はどんな顔をして、馬を相手にしゃべっているのだろう。
夜目の利くグルドフにとっては、これだけ月明かりがあれば何の不自由もないが、
彼のいる場所からは、彼女の表情までを見ることは出来なかった。
顔が見える所に移動しようと腰を上げかけるが、ふと、代わりの名案が浮かんだ。
グルドフは梁の上で体がずり落ちることの無いようにした後、
口の中で小さく呪文をとなえ、彼女が話しかけている黒鹿毛の馬に意識を乗り移らせた。
*
突然、ぶるんと馬の体が跳ねたので、アリューシアは「うわっ」と小さく悲鳴を
上げたが、すぐに柵ごしに馬の首をふわりと抱きかかえ、鬣を撫でた。
「どうした。虫でもいたのか?………大丈夫」
そう宥める声は先程グルドフに話しかけてきた時とは別人のように柔らかく、
耳に心地よいものであった。
「よしよし。………いい子だ」
やさしく馬の──正確にはグルドフの意識が乗り移った馬の、首筋を撫でる。
「少し私にここにいさせてくれ。他に居場所が思いつかないんだ」
付き人には専用の控え室も用意されているのに……この女はそれを知らないのか。
などと思いながら、彼は抱きつかれた状態で大人しくされるがままにする。
13 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:12:23 ID:dz9MHztr
「姫を待つ間、うろうろしていたら色んな男に声をかけられるし……。
結構しつこく誘ってくる男もいて、失礼の無いように丁寧に断るのも骨が折れた。
私は舞踏会の客ではなくてその付き人だと、この格好を見れば分かりそうなもの
だろうに……なぁ、お前もそう思うだろ?」
(その手の男には、一人でいる女であれば、貴女が貴族の娘だろうと、誰かの付き人
だろうとあまり関係は無いんですよ)
意図している訳では無いのだろうが、首にかかる彼女の息がくすぐったい。
グルドフは彼女の顔の位置を少しずらそうと体を動かした。
しかし、アリューシアは馬が身をすり寄せてきたと勘違いしたのか、「こら、何をする」と
笑いながら一旦体を離し、そしてふざけるように彼の首に腕を回し、ますます体を
密着させてきた。
「………お前、なつっこいな。皆から好かれているだろう」
(いえいえ、人からはよく警戒されるたちでして………)
「ふふ。可愛いな。お前は」
(………………)
「こうしていると、なんだかとても心地が良い。……やはり私は少し、疲れて
いるのだろうか」
アリューシアは毛艶を楽しむように、掌で首をゆっくりと撫でさすった。
「………私は本当に、これから騎士としての勤めを立派に果たせる事が出来るのだろうか」
小さな声でそう呟いて、甘えるように首筋に頬をすり寄せてくる。
グルドフは静かにアリューシアの顔に首を傾けた。
藁や獣の匂いに混じって、時折微かだが柔らかな匂いが鼻に入ってくる。
これは彼女の匂いだ。
着飾った女を抱いた時に感じるきつい香水の匂いではなく、もっと優しい、
しかし、本能を直に揺り動かしてくる様な香り。
何の飾りも無い亜麻色の髪にはよく櫛が通してある。それは緩やかに波打ち彼女の肩を
覆い、背中を流れていて綺麗だ。
体付きも悪くない。
剣を携える者らしく、鍛えられ引き締まった体をしているが、しなやかで、
骨太な印象は受けない。
首を撫でるこの手つきの優しさも中々のものだし、間近にみると意外に胸も大きい。
良い女だ。
この美貌も、その人となりも。
思わずその細い腰に腕を伸ばし、抱き締めてしまいたくなる。
手が前足になっているのが残念だ。
馬の身では、どうこうする訳にもいかないしな──
14 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:14:29 ID:dz9MHztr
と思いながらも、それでも下心などを持たないはずの馬の姿である特権を利用して、
グルドフは鼻先をアリューシアの豊かな胸のふくらみに堂々と押し付けるという不埒な
振る舞いに及んだ。
むにむに。
「こら、やめんか」
笑いを含んだ優しい声で叱られる。
人間の姿であれば、ここで切り殺されていただろう。
いつまでもこうしてじゃれていたいのは山々だが、そろそろ彼女は戻ったほうが良い
頃合だろうな。
グルドフは惜しみながらも数歩後ろに下がり、アリューシアから離れて短くいなないた。
すると彼女もその事に気が付いたように呟いた。
「そろそろ戻らなくてはな。姫の話というのも、済んでいるだろうし」
(そうでしょうね)
「お前に話を聞いてもらったら、なんだか気分が軽くなったみたいだ。ありがとう」
(いえいえ、どういたしまして)
「──さて」
アリューシアはそう言うと、背筋をしゃんと伸ばして、凛々しい騎士の顔に戻った。
「では、私もがんばるから、お前もがんばって務めを果たせよ」
そう言ってグルドフの顔を撫でると、彼女はもと来た道を引き返して行った。
*
彼女が薬を求めに来たマルゴット王女に連れられて初めて作業小屋までやって来たのは、
その約一ヵ月後の事である。
あの時から時間も経ち、なにぶん薄暗い場所であったので、彼女はあの日厩舎への道を
尋ねた相手がグルドフであるとは気が付いていないようであった。
姫に紹介されて以来、時々彼女とは言葉を交わす仲にはなった。
しかし、その時の印象が悪かった為か、どうもこちらを見る視線には棘が含まれる。
だからといって、ご機嫌を取るような態度を取る気はグルドフには全く無いのだが。
「今月分の薬です」
「うむ。確かに受け取った」
定期的に姫の薬を取りに来るアリューシアは、一人の時は用事を済ますと、無駄な話は
必要ないとばかりに帰ろうとする。
グルドフは彼女の進路に立ちはだかり、その足を止めた。
「最近、仕事のほうはどうですか?」
「……仕事?」
長身な彼に真正面に立ち塞がれ、威圧感を感じていないわけは無いはずである。
だが、アリューシアは些かも怯む様子を見せず、凛として彼を見上げる。
15 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:17:36 ID:dz9MHztr
「慣れない王宮勤めでは何かと気苦労も多いでしょう。私でよければ話を聞きますよ」
「……………」
不審気な表情を浮かべ、アリューシアは警戒心を露に眉を顰めた。
「少なくとも、物言わぬ何かに聞いてもらうよりは慰めになるのでは?」
一瞬、女騎士の顔色が変わった。
「──────結構だ」
しかし、すぐにはねつける様に毅然と言葉を返す。
「姫自らに求められ、この誉れある役目を担うにあたり、人に聞いて慰めてもらう様な
悩みや迷いなど何も無い。それに、たとえ傍目には至らぬ所があろうとも、私は
私に出来うる限りを全うしようと常に心がけるまでだ。そのような余計な気遣いなど
要らぬ」
「……へぇ。…………………」
普段と変わらぬ無表情ながら、その反応にかなりの含みがあるのを察知したのか、
彼女は僅かに身じろいだ。
「な、何だ」
「いえ、別に」
「何だ! 言いたい事があるならはっきり言えっ。いちいち感じの悪い男だな!」
「…………御立派」
その答えにアリューシアは虚を付かれた様に目を見開き、居心地の悪そうに、ふん、と
顔を背けた。
グルドフが半歩退いて進路をあけると、女騎士は不機嫌な顔で彼の横をすり抜けて行った。
多分、彼女はいつもの様にからかわれていると思ったのだろう。
まあ、半分は当たっているのだが。
アリューシアは周囲の期待に応え、姫の護衛としての役目を十二分に果たし、
今に至っている。
今ではすっかり板に付いた、彼女の騎士としての堂々とした働き振りを見るにつけ、
もしあの時弱音を吐き出した馬が私だと知ったら、彼女はどんな顔をするだろうと
グルドフは時々考える。
凛々しい顔をこれ以上無いと言う位赤くして、「何という奴なのだ、お前は!」と言って
地団駄を踏んで恥ずかしがる姿を見てみたい気もするが、彼女にも騎士としての
プライドが有るだろうから、実際にはその様な事をするつもりは露ほどにも無い。
なので、この楽しい二人の思い出は、生涯グルドフの胸に仕舞われたままとなった。
(騎士は食わねど END)
16 :
騎士は食わねど:2007/03/11(日) 03:21:07 ID:dz9MHztr
感想くれる方やリクエスト下さる方、励みになります。
読んでくれた方、どうもありがとう。
キタ――(゜∀゜)――!!!!
待っててよかったありがとうネ申様作者様!
アリューシアが可愛い過ぎて萌え死にそうです…
GJ!回を増すごとにグルドフもお茶目になっていくなw
GJ! 新作を待ちかねておりました!
二人の馴れ初めが読めて嬉しい。
アビゲイルの続きも気になる…
>>9-15 GJ!!
早速素晴らしいものを読ませてもらった!
GJ。
馬面がオパーイをムニムニする様子に激萌えた。
ルナの人、書かなくなっちゃったのかな・・・
GJGJGJ!
朝っぱらからイイモン読ませていただきました
ご馳走様でした
アリューシアたん、馬に男言葉で愚痴を吐いちゃってて面白可愛いよ〜
グルドフが惚れ抜いて→エロイ事していじめたくなるのが良く分かる!
グルドフの魔法を使えば何でもができそうだね。
しっかしこのシリーズは楽しいなぁ、GJ×10!
ほっしゅ
アビゲイル待ち
ほっしゅほっしゅ
25まで来てるなら即死は大丈夫かな
前スレ落ちたねー
埋めるのはいいとしても、女兵士に関係のあるAAで埋めた方がいいんじゃないかと思ったりする。
いいんじゃないの?
結局何も使われないんだったら、どんなAAでもGJじゃないか。
つか、最近うるさいよね、色々。
前は「なんにせよ投下ありがとう」って感じだったし、GJも付けやすかったのに。
色々注文が増えてきたね。なんでかな・・・・
ROM専のこちらとしては、本当に迷惑。
色んなのが読みたい。
AA埋めにGJも何も無いけどね。
まあまったりといこうよ
32 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/20(火) 14:33:10 ID:m4qJCw+N
異種族と戦う女騎士が負けて、無理矢理調教された挙句ハーフ孕まされる展開とかはこのスレの守備範囲ですか?
騎士ならいいんじゃないかな
ただそのシチュは…って人もいると思うから
@先に注意書きをして、鳥や題名で弾けるようにする
Aそのシチュが該当するスレに投下してこちらで勧誘
俺は@でいいと思うけど
孕み主体なら孕みスレでもいい気がする
新作待ち。
新作待ち。
新作待ち。
アデラ待ち
アビゲイル待ち!!
ヘタレ魔王まち
アシュレ待ち
40 :
投下準備:2007/03/25(日) 22:41:44 ID:QpoWLcI0
前スレに投下した『夢合わせ』の後の話です。
>>3の保管庫に載せて頂いてありますので、未読の方は先にそちらを読んでおいて下さい。
女魔術師と魔王の駆け引き、そして伏線回収の話なので
エロは期待しないで下さい。
41 :
魔王とマリガン:2007/03/25(日) 22:43:48 ID:QpoWLcI0
「私めの望みでございますか?」
艶かしく潤んだ視線を目の前の男に向けて、マリガンは言った。
妖しい魅力を秘めたその瞳を見れば、どんな男達でも多少はたじろぎそうなものだったが、
魔王は彼女の目線に一切心を動かした風には見えない。
「私ごときの持つ望みなど、至極ありふれた物でございますよ」
「……」
凍えるように冷たい眼光が突き刺さる。
マリガンとしても、自分の媚術に転びそうにない男を相手にするのは久しぶりであった。
相手の心底を全て暴き出そうとするかのような瞳を前に、女術師の手の平にじんわりと汗が滲んだ。
それを隠しつつ、魔王のすぐ側へとにじり寄り、相手の息吹が聞き取れる程に近付くと、
婀娜めいた声で相手の耳元に囁くのだった。
「私めの望むところ…… それはいずれの日にか世界の誰よりも強大な力を手に入れ、
この世界を欲しいままに支配し、そして愛しい恋人たちを囲って共に生きる事でございます」
マリガンは心の中に抱く野望をそのままに述べた。
彼女なりに、この相手に虚言は通じないと思ったためであるが、
自分の大それた望みを告白した所で、気分を害するような人物では無いと値踏みした故でも有る。
出来るか否かはともかくとして、その三つの望みは彼女の本心だ。
明らかに光の陣営に属する者たちの戒律には違反する願望だとしても、
それが事実なのだから致し方なかった。
魔王は呆れた様子も嘲笑する様子も見せず、赤毛の女術師の言葉をそのまま聞き入れていた。
「……人の子として生まれた身には、そのうちの一つでさえも叶える事が難しいのだぞ」
「『望みを明かしてみよ』との御状ゆえお答えしたまでですわ。
私とて、全てを叶える事は難儀であること位承知しております」
「……フッ」
マリガンの答えを聞いた魔王は、ため息に似た小さな吐息を口から漏らした。
闇の王を前にして、女術師の態度には怯えも緊張も無かった。
その勇敢さを愛でたのか、それとも『難儀』とは言っても
『不可能』と言わなかった彼女の豪胆さを善しとしたのか、
魔王の冷たい瞳も僅かながら和らいだように見えた。
42 :
魔王とマリガン:2007/03/25(日) 22:45:12 ID:QpoWLcI0
「随分と望む所が多いものだな…… 余がそなた程の年頃であった時分には力と叡智のみを求め、
この身が雪よりも白く冷たくなるまで、ただひたすらに修練を重ねていたものだが」
「『至純の闇』に近付くための行でございますね。機会があれば私も修めてみたい業ですわ」
雪よりも白く凍えた体になる――。
それがどれほどの苦行を達成した上での成果であるかという事は、マリガンにも判っていた。
己と同じ歳でそこまで魔力を高めたと自称する男に対し、彼女は畏敬の念を新たにした。
だが、相手の言葉を疑うわけではないが、どうしても知っておきたい疑問があった。
「無礼を承知で申し上げますが、今の御身は雪よりも白く冷たいと言う程ではおられないようですが?」
「…………」
彼女の問いに、しばし答えは返されなかった。
黒い天幕の夢世界の中で、瓶の中に詰められた夜光虫の羽ばたきだけが続いていた。
「……つまりはそれが望みか」
「えっ?」
「そなたは余の問いに答えておらなんだ。
何ゆえアデラを追って夢の中までやって来たかと、先程そう問うたのだが」
「………」
「余の口から魔道の秘薀について聞き出そうというのが、そなたの真の目論みであろう?」
「うふふ、お察しの通りでございます」
己の腹積りを見破られたにも関わらず、マリガンは微笑をもって魔王に応えた。
むしろこの程度を看破出来ぬ様では話にならぬ、そう言いたげな顔であった。
「どうぞ、この未熟者めに魔道の秘儀をお教えくださいませ……」
「……」
相変わらず魔王の表情には何も見出せなかったが、魔道士ならばここは呆れても良い場面である。
魔道を探求する者たちは、やすやすとその叡智を他人に開示したりはしない。
重要な知見は自分一人の頭の中に隠し続けようとするのが、彼ら魔道士の習性だった。
例え師弟関係にあったとしても、先達から伝授を受けるのは容易ではなく、
よほど目を掛けた相手でなければ秘奥を教えないのだ。
どこの誰が、素性定かならぬ一見の相手に自分の知る秘儀を明かしたりするだろうか?
そんな事は百も承知の上で、この女術師は言ってのけた。
それも、魔道の世界で最も高き地位に坐す王に、である。
彼女の声色は、戯れに言ったかの様でもあり、また真摯な思いのままに言った様だった。
あたかも乙女が青年の耳元で愛の言葉を語るかの如く、情のこもった熱い囁きであった。
ただし、それは貞淑な処女心が語らせた真実の慕情であるのか、
はたまた相手を弄ぼうとする浮気な娘心であるのか、
マリガンの口調にはどこか判断がつきかねる気色が秘められていた。
43 :
魔王とマリガン:2007/03/25(日) 22:45:59 ID:QpoWLcI0
俗人であれば、この赤毛の美女の態度に簡単に篭絡されていただろう。
また謹厳な男でも、彼女の真意が何処にあるのか探ってみたいという誘惑に駆られるに違いない。
マリガンの婀娜めいた囁きには、それだけ妖しい魅力が込められていた。
魔王は彼女の顎に指を添えると、真っ向から女術師の顔を覗き込んだ。
「余は未だ誰も弟子に取った事はない。それを承知で余から魔道の秘跡を手に入れようというのか?」
「何事にも初めての時という物がありましょう?
それが無ければ、世間は生娘と童貞だけになりますわ」
「ふてぶてしい、そして見上げた奴よ…… ラルゴンめはそなたを選ぶべきだったかも知れぬ」
「ご冗談を、私は切った張ったは苦手でございます」
双方とも何事でも無いように言葉を発したが、もしもアデラが二人の会話を聞いたのならば
きっと驚愕したであろう。
魔王もマリガンも聖王ラルゴンの霊が現世に介入を図り、光の救世主を選んだことを知っていたのだ。
「それにあんな床技の下手な、むさくるしい狒狒の相手をするのは、私は御免こうむります」
「己の友がその狒狒に襲われるのを、そなたは見捨てていたのか?」
「おほほ……、大義親を滅すると申すではありませんか。
光の陣営の未来を考えれば、一人の女騎士の貞操がいかほどのものでありましょう?」
「心にも無い事を口にする娘よ…… そなたの腹にあったのは、
ラルゴンの出現を観察して光の玄理を探ろうという事であろうが」
魔王の声はまた凍るような冷淡さが戻りつつあった。
そんな男の態度を察したのか、マリガンは男の身体にしなだれかかり、甘い吐息を彼の胸板に吐きかけた。
「その点はご想像にお任せいたしますが、私の願いは変わりませんわ。
どうかこの私に御身の秘術を明かして下さいませ……」
「……」
44 :
魔王とマリガン:2007/03/25(日) 22:47:32 ID:QpoWLcI0
マリガンには、これ以上の術策を講じる余地は無かった。
相手を虜にする全ての手管を用いて、自分の心に潜む情熱のままに魔王に相対していた。
しばしの沈黙の後、魔王は己が胸に顔を埋める女術師の赤毛を指で撫でた。
「マリガンよ……」
「はい?」
「何の供物も無く、余から秘密を聞き出そうというのが、光に仕える魔道士たちの流儀か?」
「……うふふっ」
その言葉を聞くとマリガンは立ち上がり、身体に纏ったドレスの肩紐を外す。
衣擦れの音と共に布地は床に落ち、つづいて下着も装身具もそれに続いた。
肌理細やかな肌と、豊かに膨らんだ乳房、滑らかな腰付き……
男なら思わず震い付きたくなるような見事な裸身であった。
一糸纏わぬ姿となったマリガンは、魔王の前に額づいた。
己の全てを相手に曝け出し、かつ差し出すことで門下への参入を乞おうとする、
それは古式に則った入門の儀式であった。
「どうか、私めに魔道の深淵を明かしたまえ……」
「誤解するな。余は弟子を取るつもりは無い」
「……えっ」
驚きの声を上げる女術師だったが、魔王は跪いた彼女を起こす。
「だが、そなたが捧げようとするものに見合った物は与えてやろう……」
「あむっ!?」
その唇に口付けを受け、女術師は魔王の意を悟った。
となれば、彼女としても拒む理由は無い。
両腕で男の頚を抱き締め、より深い繋がりを求めて自分から舌を絡めに行く。
魔王の手は女の豊満な胸乳を握るように掴み、それを弄ぶ。
互いの唇を存分に吸い合った後、マリガンはようやく相手から顔を離した。
「……私の身体は、安くありませんのよ?」
「それはこれから判る事だ、せいぜいその真価を余に知らしめてみよ……」
魔道を極めし王と、魔の力に魅せられた女術師……
余人の介在せぬ夢の中で、二人はそれぞれの思惑を抱え、互いの身体を貪り続けるのだった。
(終わり)
投下乙です。
マリガンは生まれる場所を間違えましたね・・・
GJ!
いつも思うんだが、魔王の作者さんは語彙が豊富だな。
その言葉のストックはどうやって蓄積されたものなのだろう?
もし良ければだけど次の投下の際にでもちろっと明かしてくださらぬか
あ、でも魔道を探求する者と同じで、やすやすとその秘儀を他人に
開示したりはしない、かなw
こういうオトナの女性の駆け引き文章ってすげー好きだ。GJ。
最後の一文が具体的に書かれてたらもっとGJw
すいません、桃肉氏のサイトのURL分かる方おりませんか?
PC変えたらブックマークが消えてしまい、google先生に聞いても
見つけることができませんorz
50 :
48:2007/03/31(土) 22:22:01 ID:Cyq/0VJV
>>49 ああありがとうございます
ググっても出てこないのでマジで助かりました
51 :
投下準備:2007/04/05(木) 20:46:45 ID:VEoJZFRo
下がりすぎなのでエロ無し幕間劇投下。
次はちゃんとエ口も書きます。
雪は溶け、大地に緑が芽吹き始めた頃である。
東方から新緑の草花を踏みにじり、先年王国各地に築き上げた骸の山を道標に、
暗黒の軍団が再侵攻を開始した。
ただし、魔王軍は大方の予想を裏切り、光の王国の都へは向かわなかった。
彼らが行軍した先は王国最大のエルフ族の居住区、古く深き森であった。
古く深き森は、かの大魔王でさえ陥とせなかった要害である。
そして大魔王打倒後、闇の軍勢同士の内訌に乗じて始まった光の連合軍の総反抗も、
闇エルフたち暗黒の種族を森から駆逐するのに五十年以上かかっている。
ここを攻略する為に時間を取られれば、先年大打撃を与えた敵方も息を吹き返すだろう。
王国の者たちが首をかしげ、慎重な者はいぶかしむ中、
総帥の命令に従って粛々と黒い軍団は陣を敷くのだった。
そんなある夜のことである…
「ぐるる、邪魔するぞ」
白い天幕のその隙間から、のそりと見覚えの無い魔獣が入ってきても、フィリオは少しも怯えなかった。
艶のあるその毛皮は血に濡れ、牙は獲物の脂に塗れ、両眼は炯炯と輝いている。
どこをどう見ても、人を害さない獣とは到底思えぬ姿だった。
「はい、どなたですか?」
これが言葉も通じない唯の獣であったならば、彼女も少しは慌てたかもしれない。
しかし端女たる彼女の身体は、闇の勢力全てを支配する魔王の所有物である。
王の許しなくその持ち物を傷つけようとする者は、魔王の権威に挑戦するに等しいのだ。
たとえ野良犬程度の知性しかない亜人、獣人の類でさえその理を解するのだから、
入ってくる際に断りを入れる魔獣が自分を害する筈は無い――
その点はフィリオも安心しているのだった。
事実、今回魔王の湯屋にやって来た魔獣も、別に彼女を獲って食おうというつもりは無かった。
「どなたは無いじゃろう、妾じゃ妾……」
「えっ? その口調は……ひょっとしてティラナさまですか?」
「当たり前じゃろ、他の誰だというのじゃ」
「でも、いつもとお声が違いますよ? おまけにその格好はどうなさったんです?」
「ふぇ、コレが妾の本来の声と姿よ」
のしのしと天幕の中に入って来たかと思うと、
金色の眼をした血塗れの剣牙虎は背中に載せていたものを床にふるい落とした。
「ほれ、土産じゃ」
「えっ?……」
一瞬だけ、フィリオはティラナの背から落とされたものに目を向けた。
しかし次の瞬間、剣牙虎の巨体が床を蹴り威勢良く湯船に飛び込むと、全くそれどころでは無くなった。
「えっ! あわわわわ!!」
水面を叩く盛大な水音と共に、水しぶきが波を伴って湯船の縁から零れてゆく。
「何をなさるんですか!? それは陛下の御湯ですよ!」
「けち臭いことを言うな、湯など幾らでも沸かせばよかろ?」
確かに湯は幾らでも沸かせるが、いつ何時魔王が入浴しようと訪れてもよい様、
準備しておくのがフィリオの職分なのだ。
その彼女の仕事場は、血塗れの剣牙虎が湯浴みした所為ですっかり台無しになった。
いきなり湯船に飛び込まれたため、床は溢れた湯でびしょ濡れである。
さらに湯は土と血で濁り、剣牙虎が身震いして湯を撥いたおかげで天幕中が飛沫で汚されてしまった。
「 ぐるるるるぅ……、狩りの後の湯は格別じゃのぉ」
「うう、こんなに汚れた所を見られたら、陛下に申し開きができません」
気持ち良さそうに喉を鳴らす獣に対し、フィリオの顔色は畏れのために翳った。
たかが端女風情には『狼藉者から湯船を守る』という所まで求められはしないだろうが、
いま仮に魔王が来てたとしてら、己は職分を果たせない事は明らかだ。
「ぶつぶつ言うな。ちょっと位汚れても構いはせんだろうに」
「ティラナさまは陛下がどんなに綺麗好きか知らないからそう仰るんです」
「……それよりもフィリオ、そこの土産を見てみい」
「へ?」
ティラナに促されると、改めてフィリオは入り口側の床に落とされたものに目を向けた。
白い肌と長い手足を持ち、輝く頭髪は白金の様だ。
気を失って目を閉じているが、その長い睫も目を引く。
だが、なによりも人間族と違う特徴を現しているのが――
「お前はまだ白兎を見た事が無いと言っておったじゃろうが?
ちと狩りに行ったついでに、一匹掠めてきてやったぞ」
「わわっ、本当だ…… 耳が長いのに肌は白いです!」
ティラナの言う『兎』とは、無論エルフ族の事である。
大陸東方の森林には、光の種族に属するエルフは居住していない。
そこに住むのは暗黒神に従う闇エルフだ。
だから東国生まれのフィリオがこれまで会ってきたのは、全員闇エルフであった。
彼女にとってエルフは『耳が長く肌の色が浅黒い』筈なのだ。
西国には『耳が長いけれども肌は白い』エルフがいる聞き、
羽根の白い鴉が居ると言われるよりも吃驚したのだった。
「……さっ触っても大丈夫ですかね?」
「好きにせい。気絶しとるからその雌兎も噛み付いたりはせんよ」
「うっ……、わわわっ髪の毛はサラサラですね……」
恐る恐る白いエルフに手を伸ばし、プラチナのように輝く髪を摘んでみる。
どうやら体色以外の特徴は、白エルフの娘も闇エルフと変わらないようだとフィリオは判断した。
上質の絹のように柔らかく艶やかな頭髪を弄んでいると、ふとフィリオの脳裏にある疑問が浮かんだ。
「ひょっとして、西国のエルフさんは下の毛も白いんでしょうか?」
「剃りたいのか?」
「い…… いえ、そういう訳ではないんですけど……ちょっと興味があったので」
「下の毛も大概頭髪と同じ色の筈じゃぞ。頭は白金で下が黒毛という事は無いじゃろ。
だが白も黒も兎は毛深くないからの、剃り甲斐は無いかもしれぬわえ」
「へー、そうなんですか……」
物珍しそうにフィリオはエルフの娘を指で突付いている。
東国のエルフとは、纏う衣服の形も材質も違っているようだ。
攫ってきた張本人の許しを得たため、時折むずかるように相手が反応するのを
おっかなびっくり彼女は触っていた。
「お肌はすべすべですね」
「うむ、兎の肉は柔らかくて舌触りもいいのじゃ。美味いぞ?」
「? 食べちゃうんですか、この子」
「当たり前じゃ」
「勿体無い、こんなに綺麗なのに……」
亜人部族の所有する奴隷が産んだ子として、フィリオは育成されていた。
物心付く前に食用に廻されてもおかしくなかったし、実際同じ境遇の生まれで彼女の歳になるまで
生き残れた者の方が少なかった。
だから彼女には『人間が鬼族や魔獣に食べられる』という事について違和感が無い。
惜しいとは思っても、強いて止めさせようとは思わなかった。
しかしその綺麗な髪の毛を見るうちに、ほんの少しだけこの娘の運命に同情を感じた。
顔を覗き込むと、整った高い鼻梁と形の良い細い顎筋が見えた。
首筋から肩、そして腕や腰周りは壊れそうなほど華奢だ。
「体つきはイリア様と似てますね。胸はそれ程大きくないです」
「ははっ! あの生意気な黒兎めも貧相な身体をしとるからのお。白兎どもも皆あんな感じよ!」
「ティラナさまだって人のことを言えるほど大きくない……というか、おっぱいが無いじゃないですか」
グゴォゥァルルルルルッ!!!
剣牙虎の怒りの咆哮が天幕を揺らし、頭骨に響く重低音に思わずフィリオは耳を塞いだ。
「ぐるるるる、噛むぞ貴様っ!」
「そんなに大きな声で咆えないで下さいよ…… 頭が割れるかと思ったじゃないですか」
「妾もあと百ね…… いや八十年もすれば、誰よりも大きくなるのじゃ!」
「本当ですか?」
「疑うのかっ? 今に見ておれよっ!」
「はい、そのお言葉を信じますよ。でも八十年後じゃあ私きっと生きてませんけどね」
「ぐるる…… ネリィといいお前といい、ちょっとばかり成長が早いと思って妾を子供扱いしよっ……」
その時である。
湯に浸かっていたティラナが、何の前触れも無く苦悶の咆哮と共に暴れだした。
「ぐるっ!?、グワワアオオオオウゥゥッ!!!」
「へ!?」
飛沫が舞い湯が零れるのにも構わず、狂ったかのようにその四肢を振り回す。
苦しみもがく剣牙虎はその爪を湯船に立てると、金属音を立てて青銅製の湯船に傷跡が刻まれていった。
「ぐごぉおオおぅぅうっ!」
「わわあっ! 止めて下さいティラナさまっ!!」
ティラナの所業に慌てて叫ぶのは今日二回目であったが、
さすがにこの暴挙だけはフィリオにも予想外であった。
彼女が魔王に仕える為に必須な浴槽が、今正に傷つけられているのだ。
取り返しがつかなくなる前に、いや既に取り返しがつかなくなっているのかもしれないが、
それでもフィリオは己の非力を省みずに暴虎を止めようと駆け寄ろうとしたのだった。
だが、聞きなれた鈴の音を聞いた瞬間その脚は凍りついた。
(ひいいぃっ!?)
フィリオは鈴の音を聞いた瞬間、反射的に額づいた。
否、あまりの恐ろしさに腰が砕け、上体を支えきれなくなったと言った方が正しいかもしれない。
白い天幕の布が捲り上がると、漆黒のローブを纏った魔王が入ってきた。
「ぎゃううっ、魔王か? 妾が何をしたと言うのじゃっ!?」
「……」
己の湯屋が剣牙虎の狼藉で汚されている事にも、跪いて震えている端女にも、
彼は何の関心も抱いていないようだった。
ただその掌をゆっくりと湯船の中で暴れるティラナに向けると、ひとまず彼女を苛む苦痛は治まった。
「ぐはうっ、酷い奴じゃ…… 魔力で頚を絞められるのは死ぬほど苦しいのじゃぞ……」
「……」
「一体妾に何の咎が有るというの……ぐごおぉうっ!?」
(ひええぇっ!!)
再び苦痛にもがき苦しむ剣牙虎が暴れ、派手な水音を鳴らして飛沫が撒き散らされる。
心の中で恐怖に慄きながら、フィリオはそれを聞いていた。
顔を伏せていた彼女にその様は見えなかったが、物音だけで何が起こっているのか想像できたのだ。
「……勝手に毛皮を持ち出したな」
「悪かった! ネリィの所から黙って借りたのは謝る!
しかし元々これは妾の父上の毛皮じゃろうが…がぐグぉるる!!」
「余に断り無く、あまつさえ未だ使者も戻らぬうちに集落を襲ったか」
「どうせ奴らは降伏勧告など聞かぬっ!
ちょっと先走って摘み食いしたが、結果は同じじゃっ ……ぐごがががっ!!」
(あわわわわ……)
「ぐごっ、ぐごぉるるる! あぐぐぐ…… ごぼごぼごぼごぼ、ごぼごぼ…………」
剣牙虎の暴れる音がしなくなっても、魔王の拷問の恐ろしさにフィリオは唯震えて畏まっていた。
魔王はそんな端女には目もくれず、苦悶に耐え切れず気を失った剣牙虎の巨体を湯船から引っ張り上げた。
「……」
そして湯を吸った毛皮から雫が滴るのも構わず、ティラナを引き摺って魔王は天幕を去った。
天幕を出る前に一度だけ、床に転がる見知らぬエルフと端女に一瞥を投じたが、
いつもの通りフィリオには何の言葉もかけられぬまま、魔王は湯屋を出て行った。
咎められる事も無く、フィリオはその場に残された。
(うう、どうしましょう?)
主が去ってしばらくしてから、ようやく彼女は頭を上げたが、
何の沙汰も無いというのもまた不安を掻き立てる。
変わり果てた天幕の中を見渡すと、まだ気を失ったままのエルフの娘が目に入った。
けれど、そんな物は彼女にとって最早どうでもいい事だった。
「ティラナさまったら酷い…… 陛下の湯船が傷だらけじゃないですか」
爪跡が生々しく残る湯船を見て、フィリオはそう嘆いた。
刻まれた深く鋭い溝は、鍛冶場で打ち直さない限り直りそうに無い。
(打ち直して使うか作り直すかは、侍従長に決めてもらうとして……
しばらくは朱天幕の寵姫様の湯屋を使って頂くしかないかな)
そう考えると、フィリオは思わず身震いをした。
あの朱色の天幕に住む寵姫は決して悪い人間ではないのだが、
彼女の世話は下手をすれば命に関わるとして、端女たちの間でも忌避する向きが強かった。
(でも、なんで私が当番の時に厄介事が持ち込まれるのかなあ)
そういえば、前にも意識の無い娘が湯屋に持ち込まれた事があった。
あの時も彼女は驚き慌てる羽目になったのだ。
何の因果か知らないが、どうやら自分はそのような巡り合わせの下に生まれてしまったらしい……
そう考えると、フィリオは思わず大きなため息をつくのであった。
(終わり)
魔王キテターーGJ!!
60 :
名無しさん@ピンキー:2007/04/05(木) 22:31:35 ID:VvKErCcV
エルフ娘とフィリオのレズ・・・期待してみたり
久々にフィリオの出番ですか?
wktkしてエロを待ってます
わっふるわっふる
そろそろヴィオラ様に踏まれたい。
自分もそろそろアビゲイルに会いたい
同上
圧縮来そう保守
67 :
投下準備:2007/04/24(火) 01:46:00 ID:/+/17ekH
今回のエロは過去編。
最初に登場した割りに出番が少なかったあの子の話です。
「今は魔王にメロメロだけど、初夜ではこんなでした」という話。
68 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:47:40 ID:/+/17ekH
その瞬間まで、精鋭百余名からなるエルフ族の部隊は、十倍近い魔王軍を周到な待ち伏せで迎え撃ち、
一切の反撃を許さないまま完勝を遂げようとしていた。
だが、彼らは一瞬で全滅した。
エルフ族の精鋭部隊は、骸さえ残らぬ程に消滅した。
同時に魔王軍の敗残兵たちも壊滅した。
彼らには自分が死んだ事を知覚する時間さえなかった。
・・・・・・
大気を揺るがす爆音が、森の外周部に造られた魔王の本営にまで轟いた。
突然の爆発音に驚かされた森中の鳥が、自分たちの巣穴から泡を食って飛び立っていく。
轟音の余韻が残るなか、本陣台座の上に立つ魔王はゆっくりと錫杖を降ろした。
立ち上る土煙が森の外からも視認できる。
台座の下に整列した夜の森の将兵達は、それを複雑な面持ちで見つめていた。
「長よ、この森に住むエルフの数はどれ程か?」
「おおよそ二万前後ではないかと思われます、陛下」
「では二十万もあれば事足りるな」
「さ、左様で……」
族長の声が震えていた。
魔王の言葉に、闇エルフの族長も戦慄さえ覚えていた。
相手が言う数は、投入する兵士の数ではない。
この戦いで捨て駒に使う数だと知っているからだ。
二十万といえば、今回動員した遠征軍の半分を超える。
それをこの一戦で犠牲にするというのに、魔王の声には何の感情も込められていなかった。
「……」
闇エルフの部隊は全員無言であった。
怨恨積み重なる光のエルフ族への攻撃であるが、上空を飛ぶ鳥たちの鳴き声と羽ばたき、
森が燃える匂い、そして噴煙のように立ち昇る土煙を目にした今、
あの地獄のような日々を思い出さずにはいられなかった。
有史以来守り通されたエルフたちの聖域は、この魔王によって破られるだろう。
なぜならば、これと同じ戦法で彼らの森は攻められ、
総人口の半数が虐殺されるという惨劇を味合わされていたからだ。
69 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:49:46 ID:/+/17ekH
魔王の戦術は単純だった。
森に住む種族たちにとって、森林地帯全域が天然の要害である。
彼らの住処で戦うのは、どれほどの大軍を動員したところで不利は免れない。
十倍の兵で攻め込んだところで、満足に身動きすら取れぬまま敗れ去るであろう。
ならば部下が全滅することを前提に、敵も壊滅できるとしたらどうか?
今より六年前、魔王は臣従を拒否した夜の森に対し、大規模な侵略軍を編成した。
夜の森の前族長および長老たちはその愚かさをあざ笑ったが、思い知らされたのは彼らの方だ。
古く深き森の光エルフと同じく、彼ら闇エルフも得意の伏撃作戦で侵略軍を迎え撃った。
魔王は天空から星屑を召喚する高位魔法『星の鎚』の術によって、
配下である亜人、獣人の混合軍ごと闇エルフの迎撃部隊を吹き飛ばしたのだ。
大爆発によって敵も味方も無差別に塵と化し、着弾地点に残るのは巨大な孔だけだった。
これにより、夜の森の闇エルフが誇ってきた戦術は打ち破られた。
迎撃部隊を出せば、魔王は確実に彼らをなぎ払う。
損害を恐れて反撃を控えれば、敵の探索部隊に集落を発見されて森ごと塵にされる。
膨大な魔力と戦力の消耗が前提だが、この戦法はエルフ族の伏撃作戦を完封することが可能なのだ。
尽きることなく送られてくる大軍を前に、誇り高き闇エルフは抵抗を続けた。
魔王軍の損害も大きかったが、闇エルフが被った打撃は深刻さの度合いが違った。
闇エルフも光のエルフ同様に出生率が低く、老化は遅い。
百人の闇エルフが一人前の戦士になるまで成長するのは、百年以上の歳月が必要だが、
亜人、獣人を千人揃えるのは一年も要らない。
闇エルフ一人殺すのに十人失っても、まだ魔王軍には余裕があるのだった。
総人口の差、即ち繁殖力の差がこの戦いで如実に現れた。
戦が長引くほど闇エルフは抗戦の力を失っていった。
長老達は『星の鎚』を封じるための術を講じようとしたが、結局無意味だった。
「東方よりドレイクも召喚した。冬を迎える前に大局は決しよう」
「グッ……」
その名を聞くだけで、闇エルフの浅黒い肌がさらに青褪める。
魔王は相変わらず無表情に、台座を降りつつ族長に声をかけた。
「案ずな、長よ。余に再び背かぬ限りあれがお前たちを灼く事は無い」
戦果を確認した以上、もうここに居る意味はないと云う事か、
魔王は己の寝所である黒き天幕へ向かって歩いてゆく。
その後姿を、黙ってイリアは見守っていた。
焼ける森、漆黒の王の背中、そしてドレイク……
それらは彼女が魔王の褥に侍る事になった頃の記憶を呼び覚ましていった。
・・・・・・・・・
70 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:50:48 ID:/+/17ekH
魔王宮に聳える塔の最上階。
窓の外は厚い雲に覆われて夜のように暗く、どこかから雷鳴すら聞こえてきそうだった。
その日、イリアはそこに居た。
褐色の肌を引き立てる綾絹の装束と金銀の飾り物を纏い、彼女は相手の到来を待っていた。
(……くっ)
これから行われる屈辱を思うと、イリアは唇を噛まずにいられなかった。
いくら着飾ったところで、自分の境遇を受け入れるのは相当の忍耐力が必要だった。
彼女は生贄だった。
神代より伝わる闇エルフ族の歴史で、自ら和を請う事例は少ない。
まして異種族に人身御供を差し出す例は絶無である。
だが、それも受け入れなければならなかった。
これまで誰にも屈する事の無かった闇エルフ族は、魔王に全面降伏したのだった。
(父上…… 娘が身体を敵に与えるなどと聞けば、貴方はどう思われるでしょうか?)
イリアは死んだ父親の顔を思い出した。
父は夜の森の前族長であった。
彼は先日、彼女の目の前で生きながら焼かれた。
尊大で傲慢、残忍かつ無慈悲……
闇エルフの美質を凝縮したかのような父は一族の誉れであり、彼女の誇りであった。
その父を殺した男に、彼女は体を捧げなければならないのだ。
漆黒の影が部屋に入ってきた時、イリアはそれを睨みつけていた。
彼女は拳を握り締め、全身はかすかに震えた。
だが、それは床入りを前にした乙女の怯えではありえない。
影はそのまま彼女の前に進み、そっと手を伸ばした。
頬に触れられた時、全身が固く強張る。
覚悟は出来ていたが、腹の底では屈辱と憎悪が滾っていた。
だが、それは面に出してはならない事だった。
褐色の滑からな頬を、白い手が品定めするように撫でていった。
71 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:51:42 ID:/+/17ekH
頤に指がかかり、少女の顔を軽く上向かせる。
黒いケープの奥に潜む魔王の素顔を見たのは、この時が初めてだった。
憤りを隠した麗しき供犠に、魔王は問いかけた。
「名は?」
「……イリア」
イリアは最低限の事しか答えなかった。
この男の為に、口を開くことすら嫌だった。
周りからは魔王の機嫌を損ねないよう懇々と諭されていたが、
父と種族の仇を相手に、どうして媚びる事ができるだろうか。
気を緩めれば、怒りで唇が歪みそうになる。
それを堪えながら、彼女は相手の眼光を受け止めていた。
「……」
何も言わず、吐息がかかる程に魔王の顔が近付く。
男の視線は相変わらずイリアの双眸を捉えていた。
そして無言のまま魔王はイリアと口を重ねた。
ちゅっ…、
視界一杯に、相手の顔が映る。
魔王は目を閉じよと言わなかった。
そしていまさら目を瞑るのも、相手に屈するかの様に思えた。
二人は互いの瞳を見つめあったまま、初めての口付けを交わしたのだった。
72 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:52:56 ID:/+/17ekH
(うっ……)
柔らかい感触が唇に当たった時、イリアは一瞬後ろに逃れたくなった。
だが、わずかな所で覚悟が怯えに勝った。
そのまま身を硬くして、彼女は魔王の行為を受け入れた。
唇で唇を甘噛みされたかと思うと、音を立てて口を吸われる。
だがイリアには、男女の接吻の作法など身に付けてはいなかったし、
そもそも憎い仇の行為に応えてやる心算もなかった。
(む、むむぅ……)
暫くの間、一方的に弄られる行為が続いた後、魔王はイリアから顔を離した。
ようやく自由になった口で、イリアは大きく息を吸う。
(くそっ……)
唇を奪われ、イリアは心の中で毒ついた。
もし逆らってはならない相手でなければ、あてつけに目の前で唇を拭ってやりたい位だった。
そんな少女の気持ちなど眼中にないように、再び魔王の白い手が彼女に伸びる。
「!?」
複雑に巻き付けられた闇エルフの盛装を解こうとするが、
この時ばかりはイリアも衣服を押さえ、その動きに抗った。
異種族の男に裸を晒すという事を、無意識のうちに体が拒絶したのだった。
両手で体から服が脱げ落ちようとするのを止めようとするイリアに、
魔王が冷たい言葉を浴びせた。
「イリア、そなた何のためにここに呼ばれたか、判っておらぬのか?」
「うっ……」
「闇エルフの長老どもが軍門に降らんとした際の口上では、
今後一切、夜の森の衆は余の意に従うとの事であったが?」
「……」
眉を顰め、イリアの顔に困惑と悲しみが入り混じる。
その心算になれば、魔王はいつでも闇エルフを絶滅させうるのだ。
73 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:54:39 ID:/+/17ekH
「余の言葉が曖昧であったゆえ、真意がそなたらに伝わらんだと云うなら、
ここではっきりと命じようか」
「いっ……いえ、その必要は…………ございません」
服を押さえていたイリアの手が離れ、衣擦れの音と共にその肩から布地が床に落ちる。
腰巻は躊躇いながらも自分の手で解いた。
琥珀を塗った木工細工の様な艶のある肌が、余すところなく魔王の眼前に晒された。
「ど……どうぞ、私の体は陛下の……御意のままに……」
途切れ途切れになりながら、ようやくその言葉を紡ぎだす。
しかし、相手の瞳を見続けながら口を開くのは辛すぎた。
イリアは顔を横に背け、魔王の視線を逃れなければならなかった。
そんな恥辱と悲憤に苛まれる闇妖精の細い顎を、魔王はその手で掴む。
「うぐっ………? ちゅっ、」
背けた顔を力ずくで己に向けさせ、魔王は再びイリアの唇を塞いだ。
逃れられぬように一方の手で裸身を抱き寄せ、先程よりもさらに深く口中を貪ろうとする。
少なくとも一度目のキスの時には服と云う鎧がまだ存在した。
今は魔王がその気になれば、自分の身体の何処でも鑑賞し、味わう事が出来るのだ。
彼女にも覚悟はついていた筈だったが、生まれたときから刷り込まれてきた闇の純血種
としての矜持が、今更ながらに異種との交わりに恐怖を湧き上がらせる。
「むぐぐ……」
二度目の口付けを受けたイリアの体は、先程よりも深く迫ろうとする男の行為に耐えかね、
顎も首も背筋も固く強張って震えていた。
「イリア…… 口を閉じるな」
「えっ?」
「そなたに歯を食いしばらせたい時は、余がそう言う」
「く……う……」
奥に進入しようとしてきた舌を、固く閉じた歯でイリアは思わず防いでいたが、
魔王はそれも許してはおかなかった。
己の立場の弱さを呪いながらおずおずと開いた口に、魔王はその舌を差し入れる。
74 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:55:51 ID:/+/17ekH
(む、むぅ……)
濡れ蠢く軟らかな肉片に口腔内を蹂躙され、二人の唾液が絡み合う。
おぞましさに吐き気すら催す中、イリアは唇を重ねたまま床に押し倒された。
厚い絨毯の上に組み敷かれた少女は、己を犯す男の顔をこれ以上見続ける事はできなかった。
先程までの憤りと虚勢は何処に行ったのか、彼女は瞼を閉じ視界から魔王の姿を消した。
相手に屈しない態度を見せて自分の矜持を守ろうとしたイリアだったが、
そんな幻想を打ち砕くように、現実は容赦なく襲い掛かる。
相手の好い様にはさせまいとした彼女の態度は、
所詮は男女の交わりに実感を持たない処女の虚勢に過ぎなかった。
魔王の意向には背いてはならないという事実を思い出してしまった上は、
心の中に築いていたプライドに何の恩恵も無かった。
後に残るのは初めての交合に怯える生娘の姿だった。
それでも泣き叫ぼうとはしないのは、闇エルフの貴人としての誇りであった。
神代の頃から己の身体に脈々と流れる闇の血は、一滴の汚れも無く父祖から受け継いだものだ。
異種族の男を迎え入れるという事は、彼女にとって単なる交わり以上の意味を持つ。
己が血脈への冒涜にも等しいこの行為に、イリアは改めて背筋が凍えた。
「……」
だが、魔王はイリアの怯えや葛藤に何の意義も見出さぬかの如く、
目前に有る乙女の身体を堪能していった。
肉が付きにくい妖精族特有の、引き締まった美しい肢体であった。
唇をその奥まで味わった後は、魔王は口付けを相手の首筋へと移していく。
そして愛撫は首筋から鎖骨、胸部へと下る。
その肌理細やかな皮膚の上を、舌がゆっくりと舐めていく。
(う…… あぅ……)
愛撫を受ける最中、時折イリアは怯えでも憤りでもない震えを感じる事があった。
強いて表現すればむずがゆいと言うのか、背筋を恐怖以外の何かが走り抜けるかの様な感覚が貫いていく。
彼女がそういった感覚を覚える所を、魔王は丹念に弄っていった。
そのような時は、ともすれば口から漏れそうになる呻き声を殺すため、
イリアはきつく瞼を閉じ、奥歯を噛み締めるのだ。
75 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:57:20 ID:/+/17ekH
その元凶が臍まで降りてきたときだった。
それまで腰骨の辺りに触れていた魔王の手が、少女の腿の付け根へと撫で進んだ。
「ふぁ……あぅん!?」
股間の茂みに指が当たる感触に、とうとうイリアは声を漏らした。
秘め所に触れられ、驚きの声を上げたイリアだったが、無論魔王はそこに触る程度で終わる心算はない。
薄い草叢の如き毛を掻き分け、指は彼女の肉の花びらをなぞる。
そして裂け目を割って、未だ異物を受け入れた事のない少女の奥殿へと侵入を試みた。
「なっ? ……やぁうっ!!」
乙女の最も神聖な場所に踏み入られ、イリアの口から悲鳴が上がった。
まだ魔王の指は半分も入っていない。
それでもイリアは痙攣のような震えを見せた。
「少し力を抜け……入らぬだろう」
「そっ…… むっ、無理、 無理ぃ!」
力を抜くのが無理なのか、それとも入れられる事に無理と言ったのか、それともその両方か。
あるいは魔王の言葉にとりあえず逆らってしまったのか。
おそらくイリア自身もはっきりとは分かっていなかったであろう。
「いっ……入れなっ、あああぅ!?」
拒絶の意を表し切る前に、指が力ずくで押し進んできた。
魔王は少女の胎内の具合を確認するかのように、指で膣壁を撫で回す。
そして秘道に入らなかった指で、膨らみ始めた少女の陰核を弄った。
「きゃぅんっ!!」
鋭い悲鳴が部屋に響いても、指の動きは止まらない。
組み敷かれたイリアには体を捻って逃れる事も出来なかった。
暫く間、部屋には少女の喘ぎ声が途切れ途切れに続いた。
瞳の奥から溢れてきた涙が、彼女の睫毛を濡らし始めた頃、
ようやく魔王の指は膣口から引き抜かれた。
76 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:58:23 ID:/+/17ekH
(うっ…… 指、抜かれたの…… )
目に涙を浮かべながら、愚かにもイリアは異物が胎内から出されたことに安堵さえ感じてしまった。
指での愛撫が終わったという事が何を意味するのか判断できぬ程、
その時のイリアは追い詰められていたのだった。
「……」
何も言わぬまま指に付いた分泌液を確認し、魔王は不意に少女の足首を掴み、脚を広げさせた。
「ひやっ!?」
膝を閉じようとしたイリアだったが、相手の腕力がそれをさせなかった。
開かれた両足の間に魔王は体を入れ、装束の下から己の男根を出す。
硬くそそり立った男性器を、物心ついて以来イリアは初めて目にした。
生憎、この時はそれを十分鑑賞する時間はなかった。
魔王は男根を少女の裂け目にあてがうと、容赦なくそこに捻り込んだ。
「ぎぃっ!?」
小さな入口を守っていた肉の膜に痛みが走った。
イリアは己の立場も部族の存亡も忘れ、圧し掛かる男の体を突き放そうとした。
だが妖精族の非力な腕では、それは無意味な試みだった。
少女の手を軽く払いのけながら、魔王は相手の腰をしっかりと押さえ、さらに深く腰を進めた。
「あ、あうぅっ……」
瞬間、体が引き裂かれる感覚が走った。
その痛みで、イリアは自分の純潔が失われた事を知った。
(う、奪われた…… 暗黒神の血に連なる私の処女が…… 異種族の男に……)
77 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 01:59:57 ID:/+/17ekH
艶出し液を塗られて綺麗に整えられた爪が絨毯を掻き毟り、背筋は弓のように反り返る。
血のぬめりの助けも借りて、侵入してきた初めての異物は、少女の最も深い場所へ突き立てられた。
不意に全身から力が抜けた。
どんなに抵抗しても、失った純潔は戻らないのだ。
その代わりに涙がとめどなく溢れてきた。
「うっ、ううぅ…… うわぁあうううううっん……」
目尻から滝の如く零れた涙が、彼女の長い耳朶を伝って絨毯に落ちた。
闇の種族の純潔を失った事で、まるで自分が全く無価値な存在になったかの様に思えた。
打ちひしがれるイリアは、魔王に貫かれたまましばし泣き続けた。
後から思えば、よくあれ程の涙が蓄えられて居た物だと思える位に、イリアは泣いた。
ようやく止まったのは、泣き疲れるまで泣いた後だった。
ふと気が付くと、胎内に硬い男根を入れたまま、魔王の瞳に見つめられているのに気が付いた。
「あ……?」
「涙は止まったか」
彼女にも、魔王が自分が泣き止むのを待っていてくれたことが判った。
泣き喚くのに気を取られている間に、いつしか股間の痛みも少しは収まっていた。
そして、改めて彼女は覚悟した、この交わりがこのまま終わるわけにはいかない事を。
「……」
無言のまま、彼女は小さく頷く。
奇妙な落ち着きがイリアの心に溢れていた。
いまさら魔王を拒絶しても失われた物は戻らない。
己が成すべき事は、契りを成し遂げる事以外になかった。
逆に言えば、今の自分にはそれより他に出来る事が存在し得ないのだ。
78 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 02:00:47 ID:/+/17ekH
相手の嗚咽が止まった頃を見計らい、魔王は少しづつ腰を動かした。
まだそこに痛みを感じるが、イリアは歯を噛み締めて耐えた。
「あぅっ……、 くぅ……」
魔王の物が自分の奥深くまで突き上げ、掻き出す様に引き抜かれる。
その度に、くぐもった悲鳴が少女の唇から漏れた。
初めて異性を受け入れた膣道は、ともすれば陽根を押し戻そうとするかの用に締め付けている。
それを強引に押し広げ、魔王は注挿を続ける。
しかし決して力任せではない。
少女の体を気遣うように、ゆっくりと交合は続けられた。
何時の間にか、イリアは魔王と掌を合わせていた。
少しずつ、男の腰の動きが激しくなってくる。
彼女にも、それが射精の前兆であるということは判った。
(ううっ……)
新鉢を割られた今、もう魔王の行為を受け入れるより他に無いということは理解できている。
ただ心のどこかで、まだ同族以外の胤を子宮に受け入れることに躊躇いが有った。
厭うべきなのか、甘んじて受け入れるべきなのか、最早イリアにも判らなかった。
イリアの苦悩を他所に、腰を打ち付ける拍子は少しづつ速さを増す。
しだいに心中の葛藤さえ、身体にかかる苦痛が塗り潰して行った。
その瞬間を待つように、男の掌を握ったイリアの指に力が篭る。
そして遂に、その瞬間が来た。
「あああぁぅんっ!」
純血の闇妖精の胎内に、魔王の放った精が蒔き散らされる。
どくどくと流し込まれる精液の感触を味わい、イリアの叫びが塔に響いた。
夜の森で最も尊い血を引く処女が、魔王に捧げられた。
これで闇エルフ族は、名実共にこの男に屈服したのであった。
先程枯れ果てたと思った涙だが、最後の一筋が頬を伝わって行った。
・・・・・・・・・
79 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 02:01:34 ID:/+/17ekH
少女の涙が絨毯を濡らした、まさにその時である。
グ ゲ ァ ル ァ ア ア ア ア ル ル ル ル ッ !!
魔王宮の高楼すら揺さぶる禍々しい唸り声が、荒天の空に轟いた。
「!?」
その声を聞いて、イリアはかってない戦慄に震えた。
肌が総毛立ち、口は歯の根が合わぬように鳴りかけた。
だが魔王は、雷鳴のように響く声に何の感傷も抱かぬかの如く窓の外を見た。
『ドレイクよ…… 戦が終わりし今、何ゆえ空を騒がすのか?』
古代語よりなお古い、まだ世界に言葉というものが出来始めた時代の言葉、
心話を用いた神代語であった。
その言霊に牽かれて、羽ばたきで大風さえ巻き起こしながら、
唸り声の主は魔王宮に舞い降りた。
『それ』が着陸した時、『それ』の重みに耐えかねて王宮の一角が崩落した。
黒い鱗に覆われた、角と翼を持つ蜥蜴。
単純に表現してもいいのならば、それは文字通りの存在だった。
だが神々の歴史と同じ位の歴史を持つ、世界の生き証人たるいと古き竜。
ドレイクはそんな言葉で割り切れる存在ではなかった。
巌さえ簡単に砕きそうな鋭い牙が顎に並び、その瞳孔は人の頭ほども大きい。
まして崩れた建物の上からとはいえ、そこから首を伸ばして高楼に届くのだから、
どれほどの巨体の持主であるかは押して知るべしであろう。
80 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 02:04:23 ID:/+/17ekH
『ゲァオオオォォォゥ…… 魔王ヨ、我ニハ贄ガ足リナイ……』
硫黄臭い吐息を撒き散らしながら、それは二人の居る塔の窓を覗き込んだ。
『我ハ焼キタイ! アノ黒イ森ヲ…… 我ハ欲シテイル、我ガ焔ニ灼カレル贄ヲ…… 』
夜の森の魔道士たちが魔王軍の攻撃を避け切れなかった理由がそこに居た。
『星の鎚』の術が放たれる時、修練を積んだ魔道士ならば防ぐ方法がある。
天地の隔てを貫いて地に星が堕ちる間、ほんの少しでも星の軌道をずらされたならば、
星は空で燃え尽きるか、あらぬ地点に落下してしまう。
下手をすれば自分の頭の上に星が落ちてくることも考えられるのだ。
この術が野戦や城攻めで主流戦法になりえなかったのは、そういった理由があったからだ。
勿論夜の森の闇エルフも、敵の術を防ごうと試みた。
だが、魔王は術式を妨害される度にその呪力を探知し、即座にこの巨大なドラゴンを送り込んだのだ。
ドレイクはそこに居た生きとし生ける者を焼き焦がした。
多くの町や集落が焼かれ、千年以上を生きた古老達も殺されていった。
そして先代の族長たるイリアの父も、彼女の目の前で炎に包まれた。
あの惨劇をもたらしたものが、彼女のすぐ側に在った。
塔の外から覗き込む殺戮に飢えた古代龍に、魔王は厭わしげに命じる。
『戦は終わり、夜の森は余に屈した。最早灼くべき物は無い』
『足リナイ!足リナイゾ!』
『狩りが終われば、猟犬は小屋に還るものだ。お前も疾く巣穴に還るがいい』
『貴様ァッ!!
我ヲ犬呼バワリスルカ!!?』
人の頭ほどに大きい龍の瞳孔が、明確な殺意を込めて睨み付けた。
「ひっ!?」
吸い寄せられるように、イリアはその瞳を見てしまった。
その刹那、心臓は比喩でなく停止した。
血液は巡るのを止め、全身は彫刻の様に固まる。
呼吸する力も失われた。
彼女は瞼を閉じる事でさえ出来なかった。
81 :
イリアと魔王:2007/04/24(火) 02:05:43 ID:/+/17ekH
それは凶眼というレベルを遥かに超え、視線だけで命を奪う呪いの眼だった。
もしこの瞬間、黒い布地が彼女の視界を覆わなかったのならば、
間違いなくイリアは絶息していたに違いない。
(……あ、)
半拍子遅れてだが、魔王が己の袖で呪眼を遮ってくれた事が判った。
装束の影に闇妖精の少女を匿いながら、古代龍に魔王は冷たい眼光を返した。
『原初の龍が孕みし八つの卵、そこから孵った最初の番、その嫡子たる古き龍よ。
お前たちドレイクは百年をかけて齢を重ね、千年をもって鍛えられる。
余に敗れて幾歳も経たぬお前が、何時の間に余に逆らえる程の力を蓄えたか?』
まるで常と変わらぬ物言いである。
巨大な龍を眼前にして、魔王の態度にはほんの僅かな変調も見られなかった。
ブ シ ュ ル ル ル ル ル
まるで凄むかの如く、鼻を摘みたくなるような息を吐き出し、ドレイクは相手を睨み続ける。
だが、それも長い事はなかった。
『 グゲァオオオォォォゥ…… 』
己を支配している魔王を呪うかの様に、天に向かってドレイクは咆える。
腹立ち紛れか、長く太い尾で建物を一つ薙ぎ倒しつつも、龍は翼を広げて再び空へと飛び上がって行った。
そしてニ三度間王宮の上を旋回した後に、東方の己が領域へと去った。
『龍が吐く炎が雲を赤く焦がすのは、まるで雷光の如くであった』と、それを目撃した東方人は語り継いだ。
・・・・・・・・・
ドレイクを去らせた後、魔王もイリアに半句も与えず塔から去った。
今にして思えば、あの日からすでに魔王に心惹かれる運命であった様な気がする。
魔王は黒い袖で彼女の眼を蔽ったが、漆黒の闇こそ暗黒神の眷属たちの安らぎである。
命有る物はいずれ暗き死を向かえて、闇の眠りに安らぐのだ。
闇妖精たるイリアは魔王の袖に匿われた時、言い知れぬ安堵感を覚えていた。
それが相手への慕情に育つには、数年しかかからなかった。
絶対の安息をもたらす漆黒の魔王。
いつの間にか彼女は、己の命の有る限り彼の元に侍りたいと願うようになったのだ。
(終わり)
82 :
投下完了:2007/04/24(火) 02:06:41 ID:/+/17ekH
「森に立て篭もったエルフ族をどうして魔王は簡単に破れるんだよぉ〜!
この筋立て超イラつくぜ〜〜!!」
という設定厨の性根を発揮してしまい、いろいろ蛇足やら蛇の角が付いてます。
でもこういうのを考えてる内に次に繋がる話が出来たりするので、ご容赦いただきたいところです。
GJ!GJ!
投下キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
イリアかわいいよイリア
ドレイクは♂か♀か?と即座に妄想した俺ってもう駄目かもしれない。
魔王かっこいいよ魔王
保守
念のため上げ
ルナの人、帰ってきてー!
いまなら迷わずGJつける!
えらい失礼なレスだな。
過疎ってなきゃつけないGJなんていらんだろ。
90 :
神は淫らなり ◆2mxwBLFt7E :2007/04/29(日) 03:12:21 ID:IHgvqe8K
投下します。
逆レイプあり ハーレムになる予定
真面目なファンタジー世界ではありません。
神は淫らなり
彼女の最後の記憶は、胸から飛び出た銀色の刃だった。
見事に背後から刺され、熱い血を口から吐いて、彼女は倒れた。
寒さが襲い、四肢の感触が無くなり、目の前が暗くなった。
これが死、あたしは死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
「生は性なり、性は聖なり。……の神よ、我が祈りに応え……」
少年らしい甲高いはずの声が彼女に重々しく響いた。
死にたくないとつぶやく彼女の心が、最後の力を振り絞らせた。
うつぶせに倒れて指一本動かせないから、彼女は目だけで上をみる。
金髪な少年の神官。なぜこんなところに?
「動いてはいけません。今、あなたを助けますから。目を閉じて、意識を楽に」
疑問に感じる心を押しのけて、生を渇望する狂気が、彼女を突き動かした。
「……死……に……たく……な……」
「大丈夫です。僕は神と共にありますから」
次の瞬間、彼女は白く明るい光だらけの世界に包まれていた。
そこは草原だった。彼女は普段決して着ない可愛いらしい服を着て、男と歩いていた。
突然、男に押し倒され、服を脱がされても、彼女は嫌でなかった。
身体をまさぐってもらえる喜びでいっぱいだった。早く、早くあたしをめちゃくちゃにして!
そう叫んだところで、彼女は起きた。
「……なんて夢を……」
下着が不快に湿っている。腰のあたりが妙にうずいていた。生理はつい一週間に終わったはずだった。
身体を起こし、彼女はぼんやりとあたりを見る。
薄暗い石造りの壁と廊下。時折響く、不気味なものの鳴き声。
地下迷宮。そこに思考がたどり着いたところで、彼女は思い出した。
あわてて胸を見て触る。女を示すそこそこの大きさの膨らみには、傷もなく痛みも無い。
あたりを探して剣を見つけた。少しだけ抜いて、映りが良いところを鏡にして、身体をみてみる。
赤毛の髪は変わらない。豹とも猫とも称される顔立ちにも傷はない。
贅肉無しが自慢の身体はむしろ最近出来た傷が全て消えていた。
まめが出来て潰れた手も、その早さで彼女を幾度となく救った足も、思い通りに動く。
「……意識が戻ったようですね?」
後から声が掛かり、彼女は慌てて胸を隠した。
干した果物をもって、その少年は彼女の前に回り込んで、かがみ込む。
白色ではなく、深い青色の神官服と帽子。薄暗い迷宮の中でも輝いているのがわかる金髪が帽子からはみ出ている。
小柄で頼りない体つきも、変わった色の神官服が、聖なるなにかを醸し出すものに変えている。
顔立ちは王子様や貴族と言っても良い穏やかさと気品にあふれていた。
瞳は、ダークブルー。そしてそこに叡智と年には不似合いな落ち着きが宿っている。
迷宮には似合わないが、徳の高い神官にはこんな目を持つものがいるのを彼女は知っていた。
「助けてくれた……の?」
いぶかしげな顔をする彼女に、神官の少年は微笑んだ。
「はい。見つけるのがもう少し遅いと駄目でしたが、神のご加護と恩寵で助けることができました」
そういうと少年はなにやら印を切り、感謝の祈りらしきものをつぶやいた。
そして彼女に干した果物を差し出した。それは甘みの強い携帯保存食であり、この地方で良く売られているものである。
それを彼女は受け取って瞬く間に食べた。予想以上に空腹だったらしい。
「ところで、お体に異常はありませんか?」
がっつく彼女の前に、少年はのぞき込んで尋ねてきた。
「……何が?」
そう答えた彼女は、しかしすぐに己の身体の異変に気付いた。
胸を押さえるその手に、乳首が痛いほど尖って先端を押しつけていた。微妙な手首の動きに、快感さえ走った。
さっきから感じていた腰のうずきが強くなり、太股にぬめりすら垂れてきている。
触りたいという欲望が上にも下にもこみ上げてきて、彼女は思わず身体を折った。
「な、何かあたしにしたの! ゆ、許さないからね!」
「……えーと、もし、その身体がうずいているのなら、それは僕のせいです。すみません」
責める彼女に、少年はあっさりと謝罪をした。驚きが彼女を捕らえる。
「僕の術は、命の源の神、ロエ様のものなのです。生は性なり。性は喜びにして、生の源なり。
生を癒し命を救う僕の術は、性も強くするのです。
……だから強い回復魔法や今みたいに高レベルの蘇生魔法を使うと……、かけられた人はとってもHしたくなっちゃうんですよ」
沈黙が落ちた。
「……ちょっと待って! じゃ、あたしは!」
「あの、勘違いしないでくださいね。
あなたがHしたくなっているからといって、僕はそれにつけ込んでどうこうするつもりはありません。
あなたはロエ様の信徒でありませんから、僕はあなたの身体には触れません。
その代わり結界を張っておきました。思う存分自分で慰めることができますから、それで鎮めてください」
「な! な! ちょっと慰めるって!!」
「親しいお連れの方が近くにいるのなら呼んできて差し上げましょうか?
あ……、それとも張り型がないと駄目でしたか? すみませんが今は持ってなくて」
本気ですまなさそうな顔をする少年が、張り型などと言うもので、彼女は言葉を失って混乱した。
「あ、あの我慢出来るのなら、我慢しても構いませんよ。
ただ欲求不満はかなり続くので……、すっきりしておいた方がいいと思います。
……そろそろお邪魔ですね。じゃあ、僕はもういきます。
僕の結界は半刻ほどは保ちます。声も姿もその間は一切漏れませんから安心してください。
でもこの線香が燃え尽きたら、結界が解けますので注意してください」
そういうと、少年は石畳の隙間に線香を挟んで立てる。甘い香りが漂いはじめた。
「あなたの鎧はすぐ後です。では、ロエ様のご加護がありますように」
そういうと少年神官は立ち去り、迷宮の闇にその姿を消した
彼女はしばらく混乱と警戒心で、その場でうずくまったままだった。
だが結界は有効だったらしい。
すぐ目の前をゾンビ達が知らぬ顔をして通り過ぎ、冒険者がそれをしとめても、誰も彼女を気にもとめなかった。
安堵が心を満たした。その瞬間、彼女は自らの胸をもみしだいていた。
反対側の手を股間に差し入れて、クリトリスをいつものやり方でこすった。
それだけで腰が抜けそうになり、警戒心も忘れて、声をあげた。
胸はもういつもの揉み方では満足できなかった。痣が出来かねないほど強く掴み、乳首をひねりあげる。
下はもう滴るぐらいだが、胸から腰の重い熱はさするだけではいっこうに冷めてくれなかった。
欲しい、切実にそう願った。過去の男達がよみがえる。昔の情事を思い出して、秘所に指を入れた。
自分でも驚くぐらいに彼女の中は自らの指を締め付けていた。
彼女の中に入ってきた男達の動きを思い出して指を出し入れすると、腰が震えた。
だがいっこうに治まらなかった。
ふと、あの金髪を思い出す。叡智と落ち着きを満たした深い青の目が浮かぶ。
背筋をぞくぞくしたものが通り抜け、尻が浮いた。
干した果物を渡してくれた、長く優しい、けれども男の固さをもった指の感触を思い出した。
乳房をしびれが支配した。揉むとしびれが秘所に伝わり、さらにぬめりが広がった。
石畳にうつぶせになる。石の冷たさが心地よく、固さが乳首に快感を走らせる。
あたしは、あの子に狂わされた。
彼女はそう思った。もう指を3本も膣に出し入れしているのに、物足りなかった。
膝をがくつかせて、軽く絶頂に達する。だけど頭の中はあの神官がちらついて離れなかった。
秘所からの蜜でベトベトになった3本の指を、彼女は口に持って行く。
そして少年の陰茎を思って、指をなめ回した。それだけで口の中にむずがゆい快感がわき起こった。
押し倒して、なめ回して、吸い尽くしたい。そう想像すると身体が小さく震えた。また軽く達したのだった。
あの子が悪いんだ。あの子のせいなんだ。あたしがとんでもない淫乱になったのはあの子のせいなんだ。
快感で溶けている頭に、その言葉がぐるぐるとまわる。
責任をとってもらおう。
そう考えただけで続けざまに2〜3回中程度の絶頂がやってきて、尿か潮かわからないものが股から吹き上がった。
ほら、やっぱりぜんぜんすっきりしないよ、神官君。君が悪いんだから。
腰の重く熱い熱は、もはや全身を満たしていた。うずきが強いあまりに彼女は自慰でどうにもならないことを悟って止めた。
震える手で防具と剣をつける。
逃がさないから。
舌なめずりしながら、彼女は歩き出した
階段を降りたところで、少年神官は、くのいち達に囲まれていた。
もっともどのくのいちも、生物としては死んでいた。ありえない方向に頭が曲がったもの。身体に穴が開いたもの。片手がないものが群れをなしている
どれもこれも先行してこの迷宮に挑んだものの末路だった。
一人のくのいちが、神官に襲いかかった。
神官はくないを、最小限の動作で危なげなく避け、すれ違う瞬間に掌底をくのいちの腹に押し当てた。
打撃ではなかったのか、くのいちはダメージを感じさせずに素早く離れると、距離をとって再度構えた。
だが、すぐにその場でへたりこむ。
「……あ、あた、た、かい……」
「すみません。もうあなた方を生き返らせることはできません。……ですが、せめて……せめて苦痛ではなく、温かさと喜びの中でロエ様の元にお上りください。
エクスタシー・ボルトっ!」
沈痛な顔で少年は呪文を放ち、指先からほとばしる桃色の電撃が、へたりこんだくのいちに走って直撃した。
瞬間、死せる女は、紛れもなく生者のごとく顔を紅潮させて絶頂に浸り、己の身体を抱いて、倒れ込んだ。
それきり、そのくのいちは動かなかった。ただその顔は、安らぎに満ちたものになっていた。
そしてその光景を見ていた他のくのいちが、音もなく一歩後退した。
「命の熱さで、生の喜びで、あなた方を死してまでなお縛る理不尽から、解き放ちましょう。
熱き思いと、直なる心根を持ちし、乙女の精霊よ、僕の願いに応えて、おいでませ、スナオヒート!!」
彼方の廊下に火球が落ちた。そして爆炎を纏って、燃える瞳の少女がこちらにすごい勢いで駆けてくる。その姿はまさしく炎の玉であった。
「男ぉぉぉぉぉぉ、好きだぁぁぁぁぁぁぁ」
愛の炎に灼かれて、ゾンビくのいち達が薪のように燃え上がる。でもその顔は、ぬくもりを感じて微笑みが浮かんでいた。
そしてスナオヒートの精霊は、神官に飛びつく。
神官は、手を広げて精霊を抱き留め、そして唇を重ねた。
「僕も大好きです、女さん」
「わわわ!」
抱きしめられたスナオヒートの顔が、さらに赤くなり出す。そして暴れ出して、神官の手から逃げ出した。
「うわぁぁぁぁ、すごく照れるぅぅぅぅぅぅぅぅ」
纏った爆炎がさらに大きくなり、逃げ出したスナオヒートは、でたらめに走り回り、残ったくのいち達を灼いて走り去った。
焼かれたくのいち達の顔には、ごちそうさまとでもいわんばかりの苦笑が浮かんでいる。
スナオヒート精霊の愛の炎と照れの焦熱によって、神官の周りの敵は壊滅していた。
「ふう、数が多いと、どうしても精霊様に頼ってしまいます」
そうしてくのいち達の成仏を祈って、歩き始めた少年の肩が叩かれる。
「……おや? あなたは先ほどの女戦士さん。もうよいのですか?」
「ケイ。ケイ・クーピン。ちょっと、あたしにつきあってもらうわよ」
「はい? あ、僕の名前はジェス・ローパです。……えっと?」
ジェスの少しずれた感じもケイには可愛くて仕方がなかった。
「ごめんね、でも君が悪いんだから」
そういうとケイは、ジェスをひっつかむと手近な小部屋に疾走した。
小部屋の中にいたインキュバスを一撃で絶命させる。その骸が消えた所に、ケイはジェスを突き飛ばして転ばした。
「ど、どうしたんです?」
尻餅をついたジェスがケイを見上げる。その先で彼女は鎧を外して、下着も脱いだ。
そして全裸になってジェスに剣を突きつけながら、ケイは笑った。
「責任をとってもらうから」
その太股を液体が光る筋を残して、滑り降りた。
To be continued
本日はこれで投下終了
キャラクターの名前の直球さに和んだ
続きwktk
捻った投下作品が多い中、ストレートな球で勝負して来ましたね。
新規職人さんは大歓迎です。
一スレ目の最初のほうで書いてた者です。
まだこのスレ続いてたんですね。懐かしい。
トリップも忘れてしまったので新規気分でまた何か書いてみます。
このスレのpart1って2005年10月から始まっているんだよね。
自分はそのころからの住人だけど、もう1年以上続いているんだ。
そう思うと感慨深い。
>>100 投下待ってますよ〜
wktk
どのSS書いた人かな?
一度去った人が戻ってくると嬉しいね。
新規投下待ってます。
初代と言えばアズリンが忘れられないな。
新作でいいからまた書いてくれないかなー。
年度末から四月にかけては実生活が忙しくなる上に、環境が変わる場合が多いので、
職人の入れ替わりが結構有るのかもしれないですね。
古参の方の復帰や、新規職人さんの参入を歓迎したいと思います。
久しぶりに保管庫を読み返してみたら、かなり良作揃いだと改めて思った
初期って言うと「副長の日々」が好きなんだが
従兄弟殿って呼びかけがツボで
作者さんがまだこのスレを見てるなら、是非続きが読みたい
とリクエストしてみる
ROMってましたが、リクエストされたので一念発起してみましたよ。
折良く電波受信も好調。
今日一日で一気にテキスト28KB書けてしまったので、長くなりますが投下します。
1スレ目89からの「副長の日々」2、基本的に和姦です。
1
「ふむ。上流の滝壷近くに、小鬼が30。加えて三角山の大杉近くにも、蜥蜴人が10……か」
机上へ広げられた、この城塞を中心とした地図上に小気味よい音を立て、魔物を模した兵棋が置かれる。
小鬼の群れに襲われた炭焼き小屋で農婦の赤子を救出したあの日から、すでに四日。
従姉妹殿は近隣の村民から情報を集めるとともに、城兵を斥候として各地へ出し、周辺の魔物たちの動きを探っていた。
「それぞれ根拠地は分散・独立しているし、異種族間で連携しての行動もまだ見られていない。
だが、さすがに……一度にこれだけの数が出没するというのは気味が悪いな」
我が従姉妹殿にして守備隊長たる若き女騎士、フレア・ランパートは腕組みして唸ってみせる。
午後の穏やかな光の中に鮮やかな赤髪と胴鎧を輝かせ、配下の副長や下士官らを従えて城塞の一室で軍議する女騎士。
確かに絵になる光景だ。だが世の中、絵になりさえすれば何をしても良いというものではない。
彼女はしばしの沈思黙考のあと、私に話を振った。
「どう見る、従兄弟殿?」
「……そうですな。現時点ではまだ情報が少なすぎます。
ただ、着任当初からここ百年ほどの記録に目を通していましたが、これだけの規模の魔物が出現するというのは、やはり異常です。
これはおそらく……百年前に現れたという北の森の悪魔に、なにか関係があるのではないかと」
「北の森の悪魔?」
「百年前って……」
「聞いたことがないな?」
従姉妹殿が眉を吊り上げ、居並ぶ下士官たちもざわめく。それはそうだろう。
従姉妹殿も私も、そして下士官たちのほとんどもこの近辺が地元なのだ。そんな悪魔の伝説があるなら、父母や古老などから聞いているはずだからだ。
「ええ。この土地の皆が疎いのも分かります。この北の森――といっても、なにせ山向こうのことですからね」
「山向こう……」
それでか、と納得したような声が上がる。
この城の北には魔物たちが潜む広大な森林地帯が広がり、さらにその奥には峻険な山脈が横たわっている。
この森林と山脈とを隔てた北向こうの地方とは、直接の交流がない。
交通のためには、それらが途切れる平原まで出る街道を経由しなければならなかった。
直線的な距離はともかく、事実上の遠隔地と言えた。当然、これでは話も伝わりにくい。
「私が書物の記述を拾い集めた結果では……その山向こうで百年前に森から悪魔が現れ、多数の魔物を従えて一月近くに渡って地域を蹂躙。
山向こうの城だけでは対処しきれず、近隣諸城や王都からも援軍を得ての激戦の後、ようやく森へ再び封じられた、というものでした」
「それほどか……」
ううむ、と唸り声があがる。下士官たちの列の中から、ひとり長身の女性が進み出た。
「では、副長。独力での対処が難しいほどの敵なら、我々も援軍要請の算を整えるべきなのでしょうか?」
「いや。準備しておくに越したことはないでしょうが、今の段階はやはり防戦準備と、敵情偵察に全力を尽くす段でしょうな」
「やはり偵察、ですか」
彼女の名はライナ・グレアム。
斧槍の名手であり、守備隊の兵を間近でまとめて私たちを補佐する、軍曹の任を務めている。
艶やかな黒髪を頭頂部近くで結んで一筋にまとめ、後ろに流している。女として長身の部類に入る従姉妹殿よりもさらにいくぶん背丈があり、私などはつい圧倒されそうになる。
14になる娘がいるが、その容貌は若々しく美しい。だが彼女は歴戦の勇士として、従姉妹殿とはまた違ったかたちで常に落ち着きを見せている。
若い頃は傭兵として各地を転戦していたが、やがてこの地の守備隊に仕官して、娘とともに落ち着いたのだそうだ。
その力量は確かで、守備隊の古株の兵士たちも、私や従姉妹殿も彼女に多くを負っていた。
特に従姉妹殿は彼女の存在を重視しており、最近も訓練をともにするほか、いろんな相談に乗ってもらっているようだ。
「まだ現状では、この怪異の根源が北の森の悪魔と決まったわけではありませんが……常に最悪の事態に備えるのが軍事の基本ですからね」
「よろしい、従兄弟殿。
では従兄弟殿には王都や周辺諸城への援軍要請の書状と、有事に周囲の村民を城内へ収容、あるいは安全圏へ避難させる場合の計画作成にあたってもらおう」
「……は、はあ。……まあ……書状作成のほうは、ともかく……」
「いかがした従兄弟殿。なにか言いたいことが?」
「…………」
私はわざとらしいジト目で従姉妹殿を見上げるが、この美しき女騎士にはまるで効果がない。
下士官たちのほうへ視線を転じても、彼らは一様に苦笑いを返すだけで、ライナ軍曹も曖昧な笑みを浮かべてみせた。
「なにせ、私の身体がこのザマでは……何をやるにも一苦労でしてね、従姉妹殿」
「ああ。それか」
それか、じゃないんですが。
私は軍議の行われている部屋で、さっきからずっと椅子に座ったまま首を巡らせる。
控え目に見ても、私はずいぶん酷い有様だった。
先日の炭焼き小屋から帰るや否や、私を鍛えなおすと称していきなり行われた、一対一の剣術訓練。
甲冑を着用していたにも関わらず、彼女の木剣は並外れた威力で私の全身を殴打し、その結果として現在に至る。
正直、今でも普通に歩くのも辛い。最初の二日は日がな一日寝て過ごした。
その間も従姉妹殿はちょくちょく様子を見に来ては、さすがにやり過ぎたと思ったのか、
『従兄弟殿には撃ち込み相手の才があるものだから、つい』
とか、
『従兄弟殿の打たれ強さは昔から大したものだった。これには私もかなわない』
とかいう、慰めなのかなんなのかよく分からないような慰めの言葉らしきものをかけたり、あと骨にいいからと牛乳を差し入れたり、臥せったときはこれだと林檎を手ずからに剥いて食べさせてくれたりした。
それは確かにありがたかったが、何せ状況が状況なので、ありがたみ以外の理由で涙が出そうだった。見舞うぐらいなら最初からやるな。
言外にそうしたあらん限りの思いを込めて、私は従姉妹殿の端整な顔立ちを見上げる。
「……承知した」
従姉妹殿はしばらくの間、相変わらずの無表情を顔面に貼り付けていたが、やがて一計を案じたのか、懐刀のライナ軍曹を呼んだ。
「ライナ軍曹! 今日から別命あるまでのあいだ、副長の業務を補佐してほしい。
各小隊長は引き続き、斥候と防備の計画を練りなおせ。特に斥候の者は計画が仕上がり次第、私とともにすぐに動くぞ――解散!」
2
一歩進むたびにあちこちがギシギシと軋む身体を誤魔化しながら、私はなんとか城の裏手を歩いていた。
「その、副長……大丈夫ですか?」
「ハハハハ。ライナ軍曹、何のことですかな? いやいや、なんのこれしき」
だが、泣いても笑っても私は騎士である。騎士である以上、部下の前で弱みを見せることなど許されないのだ。
途中で何人かすれ違った城兵たちは皆、なんとも言いようのない哀れみを目にたたえていたような気もするが、全部見なかったことにする。
このような痛みなど、無いも同然――
私の目の前で突然、矢が石壁へ突き刺さった。
「ぶっ!?」
「副長!?」
ライナ軍曹が慌てて私をかばうように前へ出、すぐにその射手を捉える。
だが軍曹が何か言うより先に、その射手が気の無い謝罪を口にしていた。
「ああ。副長殿、すいませんでしたー。訓練中、ついつい狙いが逸れちゃって」
黒髪のショートカット、城兵としてはかなり細身で小柄な身体、端整だが中性的な幼い顔立ち。
それでも弓兵の革の胸当をいくらかは押し上げる曲線が、その性別を教えている。
上官である私に対して無礼を働いた少女兵へ、ライナ軍曹が烈火のごとく怒った。
「馬鹿者ッ! ハンナ、あんた副長殿になんてことを! こっちに来い!」
「嫌だね! 母さ……軍曹も、そんな情けない奴に上官ヅラさせとくことなんかないよ! こっちはもうすぐ、魔物相手の戦になるかもってときなのにさ」
情けない奴、ときたか。
ハンナは守備隊の新入り弓兵で、ライナ軍曹の一人娘だ。
ライナ軍曹はなんとか娘を女らしく育てあげようとしたらしいのだが、いかんせん血は争えず、ハンナはひどくおてんばに育った。
そして成長したハンナは、母と同じ守備隊員を志したのだ。
守備隊軍曹たる母の猛反対を振りきり、あらゆる策謀を巡らせた末に自ら弓兵としての実力を証明してのけ、とうとう彼女は守備隊へ入隊するに至る。
ちなみにこの入隊時期が、私や従姉妹殿の着任よりも一月ぐらいだけ早かった。
逆風の中、己の実力のみで守備隊へ入隊してみせた彼女にしてみれば、騎士修行を終えたばかりで偉そうに副長として着任してきた私に、さぞかし反感を覚えたのだろう。
実際、その思いがさほど的外れでもないと分かってしまうだけに、辛い。
「……はっ!」
「! 待て! 待て、ハンナ!」
吐き捨てると踵を返し、ぱっと駆け去ったハンナを追ってライナ軍曹が駆け出そうとする。
その手首を、私は反射的に掴んでいた。
「……! 副長……?」
「いいんだ。いいんだ、軍曹」
「良くなどあるものですか! このまま軍紀の乱れを放置せよとおっしゃるので!?」
「……ハンナの言うことはもっともだよ」
どこか虚脱したような気持ちの中で、私は壁に向かって呟いていた。
「従姉妹殿の気まぐれで思いついた剣術訓練ごときでいいように叩きのめされ、それで痛みが尾を引いて任もまともに果たせない。
確かにこれは情けない。まったく……。一体どうして私のような輩が、騎士など務めているのだろうな?」
「副長……」
ライナ軍曹の表情が苦渋に歪む。それもまた、私の弱さゆえか。
「……ふむ……。そうなのですか」
「?」
しばらく沈思黙考していたライナ軍曹が、ふと呟いた。しばし何か思案顔をしたあと、私より少しだけ高い目線から告げた。
「では、副長。僭越ながらこの私が副長に、隊長に対抗しうる力を備えるお手伝いをさせていただきましょう」
「え?」
「こちらへ」
ライナ軍曹は私の手を引き、ずんずんと進みはじめた。人気の無いほうへ向かっていく。
3
私が軍曹に連れこまれたのは、薄暗い半地下の倉庫だった。
私が戸惑っている間にも、ライナ軍曹は扉に内側から閂を掛けてしまっていた。
「ぐ、軍曹? な、何を――」
「…………」
彼女は答えない。
まさか。まさか私の上官としての資質に危機感を覚え、戦場で足を引っ張られる前に始末しようとでもいうのか。
――だとしても、やむを得ない。
私は依然として、ひどい虚脱感に苛まれていた。何もかもに無気力になりかけていたのだ。
「ふむ……。これで、いいかな」
軍曹は腰に佩いた剣を外して壁に掛けると、壁際に敷き詰められた藁を抱え出し、地面へ敷き詰めはじめた。
いくらもしないうちに、冷たい地面は藁で分厚く覆われる。
そしてライナ軍曹が扉からこちらへ向き直り、まっすぐ近づいてきたときも、私にあるのは奇妙な諦観の念だけだった。
「それでは、副長。――今からここで、私と組み討ちの特訓をやっていただきましょう」
「組み討ち……?」
締め殺すつもりか……? 苦しいのは嫌だなと思う間もなく、ライナ軍曹が襲いかかってきた。
「あぐっ!?」
強い腕力で私はあっさりと頭を取られ、地面へ引き倒すようにしながら、そのまま彼女の胸に押さえつけられた。
女性の胸特有の豊かな曲線を描いた、胴鎧――鋼鉄の装甲板に。
「あでででででっ! 痛い痛い痛い!!」
「ルールはこうです。こうやって相手の頭を捕まえて、10数えるまで逃がさなければ勝ち! 1,2,3,4――」
痛む身体をじたばたと操り、ライナ軍曹の腕と鎧の挟み撃ちから逃れる術を必死で探った。
だが締め付けられる頭がキリキリと痛むばかりで、どうにもならない。そのまま軍曹は10まで数え上げ、私はあっさりと緒戦に敗北した。
「いけませんね。諦めずに、最後まで最善を尽くしてください」
「ぐ、く、う――あぐっ!」
つかの間の解放にあえぐ間もなく、軍曹は再び襲いかかってきた。
またも頭を拘束され、分厚い鉄板の曲面で押しつぶされる。
腕力の三倍の力を持つという脚力で体ごと抗おうとしても、ライナ軍曹は巧みにその力を滑らかに受け流してしまい、状況の変化を許さない。
私にも扱える基礎的な体術で反撃を試みたが、ライナ軍曹は巧みに私の腕を殺している。
いくら足掻いても触れられるのは胴鎧の冷たい感触ばかりで、私は彼女の腕に触れることすらできなかった。
そうしたことを繰り返すうち、すでに五度目。
またしてもあらゆる反撃手段を封じられ、私はそろそろ限界を感じはじめていた。
「3,4,5,6――またダメですか」
失望したかのような、ライナ軍曹の声。
だがそのとき、まだ足掻きをやめていなかった私の手が、何か今までと異なる感触に触れた。
「これ、は……」
革紐と……金具?
胴鎧の胸当と背当を合わせて繋ぐ、革紐と金具。頭蓋を強烈な圧力に曝されるなかで、私はほとんど無意識のうちに、それを解いてしまっていた。
「あ」
ライナ軍曹が、どこか間の抜けた声を上げる。
彼女の背当が落ち、敷き藁の上へゴトンと転がった。
背当が外れたということは、それと結び付けられていた胸当も外れるということで――
「――おおおおおおおっ!!」
私は下半身に力を入れて踏ん張り、胸当の曲線に自ら頬を当てながら、全力で首を回した。
「あっ! ひゃっ――」
ライナ軍曹が切なげに吐息を漏らす。私はそのまま強引に、彼女の胸当を顔面で押し上げた。
足腰の力を使って彼女を抱え上げると横向きに直し、そこへ向かって胸当を押し出す。
やがて鋼鉄の装甲板は重力に引かれ、再びガランと音を立てて転がった。
「7,8,9,……10」
気を取りなおしたようにカウントしつづけるライナ軍曹が、再び10を数え上げた。
「はあっ、はあっ、はあ……っ」
頭を締めつける痛みは、いまだ治まっていない。だが少なくとも、次からはあれほどの痛みはなくなるのだ。
それどころか、むしろ――
「……ん?」
そのときになって私は、ようやく自分の置かれた状況に気づいた。
「わ……わ……わ、わわわわわっ!?」
私はライナ軍曹の胸に――ひときわ豊かで弾力の強いその乳房に、シャツ越しとはいえ、顔面すべてを埋める格好になってしまっていたのだ。
「あっ!」
ひょっとしたらさっきまでより強かったかもしれない力を発揮し、地面を蹴飛ばすようにして慌てて離れる。
「も、もももももももっ。申し訳無い、軍曹! けっ、決してこれは狙ってやったわけではなくついその」
「ふふっ……」
思わず平謝りする私の前で、ライナ軍曹は穏やかに微笑んでいた。
「いいんです、副長。最初に言いましたよね? 私は副長に、隊長に対抗し得る力を着けてほしいって。
……もし仮に今度、隊長に今と同じことをされたとしても、次は自力で反撃できますね?」
「い、いや……そういう問題じゃ」
「そういう問題なんです」
ライナ軍曹は今までの厳しさが嘘のような、優しい表情をたたえていた。
「私の個人的な考えをお話します。私にとっても、隊長にとっても、守備隊の皆にとっても……あなたは必要不可欠な存在なんです」
「私が……?」
「ええ。あなたは本当に気づいていないか、それともあえて自分がそれに気づかないようにしようとしているか……そのどちらかは分かりません。
でも現実として、私たちにはあなたが必要なんです。あなたの存在は、私たちに欠けていたものを埋めてくれる。
……だってそうでしょう? 北の森の悪魔の話だって、あのままだったら誰も気づかなかった。それで対策が遅れて、決定的な被害を出すかもしれなかった」
「あれはまだ……確証のない話ですよ」
「でも、そのとおりかもしれない」
ライナ軍曹は、まっすぐな瞳で私を見つめてきていた。
「私たちに欠けたものがあるように、あなたにも欠けたものがある。それを私たちが補いましょう。あなたが私たちを補うように」
「互いに……補いあえと……」
「そういうことです、副長。だから、――あなたにはこれからも、胸を張って副長でいてほしい。そう思うのですよ」
「…………。ありがとう、軍曹」
「どういたしまして」
私の内側に、なにか強い力が宿ったような感触がある。それを彼女も感じ取ったのか、より穏やかな、見守るような表情を浮かべる。
「さて……。副長に納得していただけたところで、続きに入るとしましょうか」
4
「え?」
さすがに寝耳に水だった。また、……アレをやるのか?
私が何を考えているか見透かしたのか、ライナ軍曹が柔らかく微笑んだ。
「最初に言いましたよね? 『私は副長に、隊長に対抗しえる力を着けてほしい』って」
「それ、今ので終わったんじゃ?」
「何言ってるんですか。――本番は、これからですよ」
言うなりライナ軍曹は身を起こし、私に伸しかかる格好になった。そのまま私を抱きかかえ、ぐるりと上下を入れ替える。
「へっ……?」
「ふふ……」
気づけば私は、ライナ軍曹の上を取らされていた。そう、ちょうど……彼女を押し倒し、組み敷くような格好にされて。
「な……なな、な……なあぁ!?」
そして私の片手はライナ軍曹の左乳房を、鷲づかみにさせられていた。彼女に手を添えられていて、離すことができない。。
「副長。今日のあなたは、合格です――だから、上級訓練を受けさせてあげます」
「え? え? え? え?」
頭の中が白い。わけが分からない。
だが軍曹は私を置き去りにしたまま、妖しい笑みを浮かべる。
「私の身体……このままここで、好きにしてください。練習、させてあげます……」
「、え――ええええええええっ!?」
練習!? 何の!?
「大丈夫です。誰にも見られてませんし、ここなら声もそうそう漏れませんよ」
「そっ、……そうじゃなくて!!」
「魅力……ないですか? 私の、体」
唾が一気に喉を落ちる。さっきから全力で意識から外そうとしていた右手の感触が、一気に意識へ侵入していた。
シャツの布越しでも味わえる、蕩けてしまいそうな柔らかさ。温かい。
それでいて張りがあり、少しでも揉んで指を沈ませれば、その柔らかな乳肉が指全体を押し返してくる。
ライナ軍曹のシャツは、乳房の重みを支えていた胸当や鎧下との間で汗に濡れて張りつき、その輪郭にたわわな実りをくっきりと浮かび上がらせている。
胸板から大きく盛り上がって屹立する乳房は、重力で四方に引かれながらも崩れることなく山型を保ち、あまつさえその頂は硬くそそり立って上を向いてすらいる。
頬を上気させたまま少し俯き、ライナ軍曹は嗜虐心を煽るように呟いた。
「乱暴にしても、……いいですよ……」
その一言で、私の理性は吹き飛んだ。
左乳房を鷲掴みにしていた右手を、そのまま一気に引きずりおろす。ぶちぶちっとボタンがいくつも弾け飛び、シャツの間から白く深い胸の谷間が露わになった。
シャツはそれでもまだ汗でぐっしょりと肌に張り付き、ライナ軍曹の乳房がすべて剥き出しにされるのを妨げようとでもするかのようにまとわりついている。
邪魔だ。
襟ぐりの両側を掴むと、左右へ引き裂くようにして一気にシャツを剥いた。
「あんっ!」
あれほど強く凛としていたライナ軍曹が、まるで仔猫のような声を上げる。それがまた、私の雄を昂ぶらせた。
ぴっちりと張り付いていたシャツを一瞬で剥ぎ取られて、いよいよ二つの巨乳がぶるんと弾けるように飛びだした。
閉じ込められていた汗が外気に触れて飛び散り、薄い靄になって立ち昇る。
その靄越しに、普段は揺れ動くことのないよう、鎧の中にしっかりと収められていた大きな乳房がたぷたぷと揺れ動き、やがて止まった。
――従姉妹殿のより、大きい。
先日炭焼き小屋の陰で目にした、従姉妹殿の眩しく豊かな美しい乳房。
いま完全に露わになったライナ軍曹の乳房は、従姉妹殿のそれよりさらに一回りは大きく張っている。掌で包みきれないかもしれない。
それでいて張りつめた乳肉の先で、赤い乳首はこれからのことを期待するようにツンと上を向いているのだった。
「ふふっ……。どうしました、副長? もう何もかも、あなたの好きにして……いいんですよ?」
ライナ軍曹は甘くささやき、そして、挑発するように身を起こすと、右乳房を手で下から支え、私の口許へ近づけた。
私はまるで、そうすることがさも自然な行為であるかのように、ライナ軍曹の乳首を口に含んでいた。
「んっ……」
乳首の尖端にざらりと舌を這わせ、そして、窮屈な鎧の中で汗ばんでいた女軍曹の巨乳を味わう。
口いっぱいに乳肉を吸い込んで頬張り、胸元の付け根から乳房を絞りだすように揉みしだきながらちゅうちゅうと吸った。
これがあの練兵場の女軍曹かと思うほど、ライナ軍曹の乳房は大きくて柔らかかった。
「そっ……そんなに一生懸命吸ったって、もう何にも出ませんよ。あふ……私のおっぱいはもう、ハンナに、ぜんぶ吸い尽くされちゃいましたから……ああん……」
ハンナにぜんぶ、吸い尽くされた――夢中でたわわな乳に頭を埋めながら、あの勝ち気な少女兵が脳裏をよぎる。
そう、従姉妹殿のそれとは違う。この乳房はもう、少女ひとりを無事健やかに育てあげたという、立派な実績を持った乳房なのだ。
そうして、母乳としての務めを見事に果たして、すでに14年。
なのに今なお、こうして重く豊かに実り続けているとは――なんとわがままな、けしからん乳房だろうか。
「ダメえ……おっぱいだけじゃ、嫌ぁ……」
あまり執拗に乳房を責めすぎたからだろうか。ライナ軍曹は息を弾ませながら身を起こし、私の左手を彼女の股間へ導いてきた。
恥毛の荒い感触を通りすぎると、早くも濡れはじめた秘所の入り口へたどり着く。
思わず緊張し、それ以上どうすることもできない私を、ライナ軍曹は誘った。
「もう、そのままでいいですよ。……来て、ください……」
「あ、……ああ……」
私はライナ軍曹の重い臀部を両腕で抱え込み、彼女の膣口へ堅くそそり立った男根の切っ先をあてがっていた。
亀頭を、愛液に濡れた秘所へ侵入させる。そのまま滑らかに包み込む女肉に導かれるまま、私は腰を突き入れた。
「あ、あはあぁぁ……っ」
「おおおおお……っ!」
ライナ軍曹の女肉は私を拒まず、ほどよい圧迫感を与えながら、ついに私のほぼ全身を包み込んだ。
ほどなくして、私の尖端が行き止まりにぶつかる。
「あ、あは……っ。いちばん奥まで、入っちゃいましたか……。ひうっ、副長……いいもの、持ってらしたんですね……」
私は答えない。いま考えるべきことは、いかにしてこのライナ軍曹の女体を、完全に征服するかだ。それ以外には何も無い。
そう――彼女を、征服する!
「あ」
私はライナ軍曹の両足をさらに大きく広げさせ、私の両肩の上に掲げさせた。同時に私の両腕で、彼女の両足を拘束する。
「な、なにを――きゃうっ!」
そして思いきり、腰を腰へと撃ちつけた。
軍曹の女性としては重い体が大きく揺れ、一瞬遅れて乳房も弾む。
「あっ、あう……あ、ああん……っ!!」
柔らかな乳肉に支えられた乳房は、直接男根で突き込まれる体よりも反応が遅い。
たぷんと揺れた乳房が逆側へ戻るよりも早く、ただひたすらに突く。突き続ける。ぎゅっと女肉が男根を締め上げてきた。
「う、ううっ。い、いい――」
「大丈夫――大丈夫です、あっ、ああっ、副長! 大丈夫、大丈夫ですから――そのまま、わたしの、中でぇ――」
黒髪を振り乱して、ライナ軍曹は切なげに喘ぐ。
その表情に浮かぶ、一児の母、一部隊の兵を間近に統括する歴戦の軍曹とは思えぬ、淫らで、しかし可憐な女の表情に私はいっそう昂ぶり、腰を強く撃ちつけ続ける。
「おっ、おおうっ。ライナ、ぐんそ」
「だっ、ダメぇえ! 名前で、呼んでぇ――」
「ら、ライナ。いくっ! いくっ――」
「来てぇ! ユアンの熱くて濃いの、私にぜんぶ注ぎこんでぇ!」
「ううッ!!」
切なげな哀願とともに、私は彼女のいちばん奥で限界に達した。同時に彼女の両足が私の腰に絡みつき、さらに強く、ぎゅっと私の槍先を彼女の子宮近くへ押しつけさせる。
「――あ、あ、あああ――」
私の下腹部で、濁流が堰を切った。
熱いほとばしりが男根に導かれるままに突き進み、私は、ライナ軍曹の中へ大量の精液を送り込み、射精しているのを感じていた。
これが、膣内射精……。
「はっ、はぁ……あ! はああぁあ、はうぅ……っ! すごくいっぱい、出てる……中で、出てるぅ……っ!」
ライナ軍曹のしなやかに鍛えられた、しかし女の甘い重みを要所にしっかりとまとった女体が、雷に撃たれたようにビクビクと跳ねる。
「あっ、ああ。あああああ、あああ――」
童貞の喪失、そして初めて味わった女体。その圧倒的な快楽の中で、私はとうとう最後の一滴までもをライナ軍曹の膣内へ注ぎ込んで、敷き藁と彼女の上へ倒れこんだ。
仰向けに横臥しても重力に負けて潰れきらない、張りと厚みのある大きな二つの乳房。わがままなけしからん乳房。
私はその谷間に頭を埋めて、ぜいぜいと喘いでいた。
「ふふ、副長……。可愛かったですよ。力強さも……まあ及第点、かな」
す、とライナ軍曹が手を伸ばし、私をかき抱く。肌の温もりと、乳房の厚みを通して伝わる心音のなかで、私の意識は急速に沈んでいくのを感じていた。
ライナ軍曹が、まだ何か言おうとしている。
「……そろそろ、二人目も欲しかったところですし。実るかどうかはわかりませんけど……あなたのお種、ありがたくいただいておきますね」
え? それは、どういう……
しかし疲れきった私に、彼女に質問する余力など残ってはいなかった。
5
そのあと、私は同じ部屋で目を覚ました。
だが、やけに全身がさっぱりとしている。ライナ軍曹に聞けばあのあと、彼女が私たちの全身をきれいに水で拭き取ったのだそうだ。
「あれだけ激しかったんですから。気取られないため、あらゆる細工が必要ですよ」
「……そ、そうだな……」
くすっ、とライナ軍曹が微笑する。
私はその後、普通に剣の稽古をつけてもらい、夕食のため食堂へ向かった。
こうして並んで歩いていても、ライナ軍曹の素晴らしい肢体がまざまざと思い出せる。言葉ではうまく表すことができない。
「な、なあ。ライナ軍曹」
「はい?」
彼女が振り向く。今の彼女は守備隊軍曹、凛とした女兵士だ。それもまた好ましいと思いながら、弾む気持ちで私は訊ねた。
「こ、今度は……いつ……」
ライナ軍曹が一瞬、ふっと微笑む。それから、はっきり言った。
「ありません」
「……え?」
「今日、私たちは剣の稽古と書類仕事をいくらかしました。それだけです。それ以外のことは何もありませんでしたし、これからも何も無いでしょう」
「え? え……? 軍曹、それはどういう――」
「あ、隊長!」
私の質問を遮って、軍曹が振り向く。
従姉妹殿は兵を従えた騎士の重装で、いま城外から帰還して軍馬から降りるところだった。私たちのほうへまっすぐ向かってくる。
「従兄弟殿、軍曹。私の留守間、何も異常はなかったか?」
「はい隊長。なべて太平、なにほどのこともありませんでした」
一瞬答えられなかった私に先んじて、ライナ軍曹が報告する。
「そうか、軍曹。従兄弟殿のこと……君に頼んで、正解だったと思っていいのかな?」
「ええ、無論ですとも。そうですね、副長?」
「え? え、え、ええ……」
ライナ軍曹と従姉妹殿。二人の女性に挟まれて、私は今ひとつ歯切れの悪い答えを返した。
「…………。まあ、軍曹……君が言うなら、間違いないのだろうな」
くる、と。完全甲冑の重さを感じさせない動きで振り向き、従姉妹殿は去ろうとする。
どこかほっとして見送ろうとしたそのとき、もう一度従姉妹殿が私に振り向いた。
「従兄弟殿。本当に……何もたいしたことは、なかったのだな?」
「え……」
夕焼けの、赤い光を背負って――私に問いかける従姉妹殿の目はどこか、常ならぬ異様な気配をはらんでいた。
うまく言い表すことはできない。だが、それを強いて言うとすれば……『返答次第で命はない』というものが最も近いだろうか。
「ご心配なく、隊長。なにごともありはしませんでしたよ」
「そ、そうですな従姉妹殿。世はなべてことも無し、です」
「…………。ならば、良い」
それだけの言葉と不気味な気配を残して、今度こそ従姉妹殿が去っていく。私はようやく肩で息をつくことができた。
ポン、と軍曹がそんな私の背を押した。何事かと振り向けば、ライナ軍曹が不敵な薄笑いを浮かべているところだった。
「副長、私は急用を思いだしてしまいました。夕食は隊長とご一緒してください」
「え……ええ!? どうして」
「急用ですので、私はこれで。今すぐ行かねばなりません。せっかくですから、副長は隊長をお待ちになってはいかがかと。……今日の会合も兼ねられますしね?」
そこまで言われては、食い下がる理由も無い……。
しかしそれでは私は、これから一対一で従姉妹殿と付き合わなければならないのか。
あの炭焼き小屋の帰路よりも強烈な殺気に満ちた、剣呑すぎる状態の従姉妹殿と。
「…………。生きて、帰れるかな……」
足早に去り行くライナ軍曹を見送りながら、私は今日のあの謎めいた秘め事が最期の思い出にならぬよう、心中密かに祈るのだった。
6
「……従兄弟殿は?」
「お休みになりました。お疲れのようでしたし、明日のための段取りはすでにつきましたので」
「…………。ふうん……」
その夜。軍議の間。
今そこには蝋燭が幾つか灯され、地図上に兵棋の姿を映し出している。
昼と違うことといえば――
「思ったより……魔物の進出が早い」
魔物の兵棋の数がぐっと増え、代わりに友軍の配置を表す兵棋の多くが、かなりの後退を強いられていた。
今日出発した斥候隊のひとつは、いくらも進まないうちに魔物の群れと遭遇してしまった。隠密偵察のつもりが、威力偵察になったわけだ。
「忙しくなりそうだ。従兄弟殿に託した任務も、繰上げでやってもらわねばならないかもしれん。……頼むぞ、軍曹」
「はっ」
「ところで、軍曹」
フレアは何気ないしぐさで、作戦用の鉛筆を手に取る。しばらくのうちはその筆先を空にさまよわせていたが、やがて彼女は地図の隅っこの白い部分に、のの字を連ねはじめた。
「本当に……本当に何も無かったのだな?」
「ええ。本当に本当に何もありませんでした」
「本当に……本当に本当に、何も無かったのだな?」
「本当に本当に本当に、何もありませんでしたってば。……そもそもあの副長殿に、私をどうにかする気概があるとお考えで?」
「むっ!」
少し意地悪そうにライナが言うと、フレアは眉をキッと吊り上げて見返した。
しばし、二人の視線が熱く拮抗する。だが今回は、ライナのほうが先に折れた。
「やれやれ……今夜は、もういいでしょう。隊長もお休み下さい。私も失礼します」
「う、うむ……」
「それでは。お休みなさいませ」
不承不承ではあるがどうにか納得させたのを確認し、ライナは軍議の間から出た。後ろ手に扉を閉めると、数歩離れて呟く。
「まったく、この二人は……。無理やりにでも、足して二で割れればちょうど良いのに」
フレアはよほど、自分とユアンが二人きりになっていた空白の時間があるのが気になるらしい。
しかしそもそも、『自分ではやりかたがよく分からないから』と、深刻な顔でユアンを励ましてくれるよう頼んできたのはフレアなのだ。
その際ちゃんと『方法は任せる』との言質も取ってある。
だから本来、ライナがどんな手段でユアンを元気づけたとしても、文句を言われる筋合いはないはずなのだが……。
隊長フレアと副長ユアン。二人の騎士は、いずれもこの守備隊にとって欲しい人材だ。その二人がいつまでもあの調子では困るのだ。
その一番簡単な解決策を考えるなら、副長が隊長を一気に襲えばいいのだろう。それで何もかも解決だ。
そういう考えもあって彼を『育てる』ための、いわば布石として仕掛けた今日の情事だったのだが……。
「あれではやっぱり望み薄かな……。まあ、私は久々でなかなか良かったから、別に良いかな」
そんないい加減なことを言って、ライナは笑う。だがやはり、あれでは問題解決までへの道はさぞ遠かろう。
「だが。それもまた、若さ……か」
扉の向こうに若き上官の姿を見透かして、ライナは微笑む。
願わくば、あの若者たちの前途に幸ありますように、と。
以上です。
今まで魔王やアビゲイル、アリューシアのような本格派の迫力に気圧されていましたが、
枯れ木も山の賑わいということになれれば幸いです。
従姉妹殿の出番がいまいち少な目でしたが、これでも許していただけますでしょうか?
次があるとしても、次もまた従姉妹殿は比較的脇のほうになってしまうのですが。
それでは。
GJ
次を待つし、その次も待つし、そのまた次も待つ。
ライナがそのままユアンを寝取る……ナンデモナイデス
GJだよGJ過ぎるよ
GJ
なんかワロタ
126 :
104:2007/05/09(水) 21:57:58 ID:NOXsc0f/
本当に続きがきてる!
リクエストしてみて良かった!
相変わらず幸せな受難の日々を送る副長がうらやましい
最後まで楽しみに待ってるので、どんどん続けてほしいです
GJでした!
GJ!!
むしろ、ハンナは隊長ラブで従兄弟殿を忌々しく思ってる
とかいう電波を受信した!!
続き期待して待ってます
ハーレムとか……
孕みスレ住人としては、ライナが孕んだのか気になる。
とても気になります。
130 :
名無しさん@ピンキー:2007/05/14(月) 22:32:43 ID:LaTVSBou
過疎だねぇい
もうちょっとで書きあがるから待ってて。
おk。待ってる。
131さんではないですが、
前々スレの「チアニ」と前スレの「ディットル」の間に入るものを投下します。9レスです。
134 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:01:15 ID:l86f0dWv
ルーゼンは、ジルドニからの書簡を手に取り、封を切って中身を開けた。
その内容は、手紙の主がとある令嬢と婚約したとの報告で、その披露宴の
招待状を兼ねたものだった。
自分の身分でそれに出席することは出来ないが、なにかしらの祝意を表すことは
構わないだろうと、一見して判断する。
――望んだものを手に入れられなかった、哀れな男。
自邸の書斎の机の上に手紙を広げて、ルーゼンは肘掛け椅子に座り込んだ。
あの記憶は、もう半年以上前のことなのだと、感慨深く思い返す。
蝋燭の明かりに照らされて、ジルドニの望んだ近衛の女騎士は今、彼の目の前で
内治部の書類を読みふけっている。
――半年前は、彼女がここにいるようになるとは思いもしなかったが。
「来いよ、シーア」
シーアをうながして膝の間に座らせ、自分の固くなったものを押し付ける。
彼女は拒まなかった。ルーゼンの欲求を察し、黙って書類を机に置いて、
近衛の制服のボタンを外し始める。
何もかもがうまくいく日というものがあるなら、ルーゼンにとって、それはまさに
今日のことだった。
弓術部門の会場の件もすんなり決まったし、内宰府や王統府からの差し戻しの
書類はなかった。来たる武芸大会に浮かれる空気はあるものの、首都は平和で、
ややこしい問題は起きなかった。
極めつけは、邸に帰ったルーゼンへ向けられた、書斎にお客様が……と言い渋る
チアニのしかめ面だった。
ルーゼンさま、とチアニが更に眉をひそめ、嘆くように彼の名を呼んで咎めたのは、
おそらく彼が喜びの表情を表に出しすぎると思ったからだろう。
シーアが来ていることへの期待は大きくて、それゆえに不安と欠落感に悩まされもした。
チアニの報告をさえぎって来邸者の有無を聞き、その返事に気がくじけ、遅れている
だけかもしれないと、大窓からバルコニーに迎え出て、暗がりに聞こえるはずのない
足音を聴きすました日々。
こうやって彼女の髪の毛に顔をこすり付け、耳元やうなじの熱さを唇で感じていても、
そんな日々の埋め合わせには全然足りないと、ルーゼンは餓えて求める。
135 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:02:09 ID:l86f0dWv
はだけられた胴衣の隙間から手を差し入れ、やわらかな乳房を手のひらで覆い、
親指でその先端を刺激する。
下までボタンを外し終えたシーアの指先が震え、今度は彼の部屋着の前を開けて、
吐息とともにゆっくりと胸を撫でさする。
布張りの肘掛け椅子は、一人で座るには大きかったが、二人には少し窮屈で、
ルーゼンは、その密着せざるを得ない狭さが嬉しかった。
半年前、厩舎の片隅で彼の兄がそうしたように、ルーゼンはシーアの唇に
ついばむようなキスをした。
そして、その記憶を壊すため、もっと深く口づけしながら、体を彼女の火照った肌に
直接押し当て、鍛えた体のしなやかさを堪能する。
舌を入れ、からめてシーアを求めると、彼女の手が応えるように、そっとルーゼンの
背中に回された。
「シーア、ジルドニを覚えているか?」
「……んっ」
「お前に求婚した男だ」
キスの合い間に交わす会話。かすかな溜め息は、肯定とも否定とも定かには分からない。
二人の口の端からこぼれた唾液が顎に伝い、糸を引いて彼の腹部に垂れ落ちる。
彼の背中をつかむ手が緩み、背筋に沿って滑り降りた。
彼女の愛撫が何よりもルーゼンを高ぶらせるから、肌が歓喜に総毛立ち、
血液が熱くなって一ヶ所に集まる。
彼女の中に入れたい、その衝動にルーゼンは、彼女を覆う全ての衣服を剥ぎながら、
責めるように舌を動かす。
彼女の帯とズボンを床に落とせば、すらりと伸びたふくらはぎが彼の膝の上で揺れた。
かかえ上げるように腕を差し入れ、手探りで彼女の中心に触れる。
「あっ……やっ」
ぎゅっと縮こまる体に空気が押し出されて流れ、興奮した女の特有の体臭が
ルーゼンの鼻腔に届く。
136 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:03:10 ID:l86f0dWv
「……ルーゼン殿下」
うるんだ緑の目が一瞬こちらを見詰めた。
だが、すぐにまつげが伏せられて、影の中に沈み込む。
自分を見ながらせがんで欲しいと思うのは高望みだと、彼は腕に力を込めて
彼女を抱き寄せる。
――シーアに望むことが出来るのは……。
「殿下、寝室へ……」
シーアが彼の口づけに顔をそらしてささやいた。
「いや、もう……待てない。……ここが、いい」
「でも、……んっ、つっ、…」
わずかに指を入れて探り、そこが熱くなって、とろけきっていることを確認する。
ルーゼンは彼女の臀部に手を添えて、自分の体にまたがらせるように膝をつかせた。
彼女の手をつかんで誘導すると、シーアは彼の意図を理解して、自身の秘裂に
指を当てて蜜をすくった。
てらてらと光る白い人差し指、とろりとした液体の垂れる中指が、彼の反り返った
ものに近づき、そっと触れる。彼の先から漏れる透明な液と混ぜ合わせるように、
それを雁首にからめ、手首をひるがえつつなすりつける。
指の関節が曲げられて、幹の部分が包み込まれ、上から下まで往復すると、
そのさまに、ルーゼンはこらえきれず、彼女の手をつかんだ。
「シーア……」
「は…い、……ん」
ルーゼンは名を呼んで誘い、シーアがあえいで答える。
彼女はもたれかかるように、彼に体を寄せた。たわわに揺れる白い乳房と
腫れてとがった乳首が眼前に迫り、彼の視線を惹き付けて惑わす。
それから、シーアは股の間に手を伸ばし、自らの裂け目を割ると、彼のそびえ立つ
ものを、そのやわらかな場所にあてがって、徐々に腰を落とし始めた。
*
137 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:04:09 ID:l86f0dWv
ジルドニは、下流貴族の家の四男坊で、いつも肩の辺りを緊張させ、くせのない
黒髪に、うつむきかげんの顔を隠しているような、控えめでおとなしい青年だった。
六弦琴の名手で、優しい旋律の曲を作るので、ルーゼンは彼の才能を買い、
自分の主催する茶会にたびたび誘うなどして、引き立てていた。
その彼がある日、茶会に来た青年貴族たちに囲まれて、顔を赤くしていた。
「ジルドニがどうかしたのか?」
ルーゼンが水を向けると、青年貴族はからかうような口調で、どっと囃し立てた。
「こいつ、ついに意中の女性に申し込んだそうです」
ルーゼンは、自分の意中の黒髪の彼女を脳裏に思いえがいて、思わず微笑んだ。
「それで、その幸運な女性は誰だ?」
「お聞きになったら、きっと驚きますよ。予想もつかない人物ですからね。
なんと、近衛の女騎士で、"王太子のお気に入り"、護国将軍の末娘の……」
ルーゼンは呆然としてそれを把握できず、呼ばれた彼女の名を反芻した。
やがて我に返り、持っていたティーカップを下ろして、テーブルの陰に隠すように
震える手を腿の上に重ねる。
「……しかし、彼女とは……身分が違うだろう?」
つかえながら吐き出した彼の言葉に、珍しくきっぱりと顔を上げて、ジルドニは
ルーゼンを見返した。
「それは分かっています。でも、後悔はしたくないのです」
「で、返事は?」
冷や汗で肌着が背中に張り付く不快感に耐えながら、ルーゼンは先をうながしつつ、
みぞおちが痛くなるほど祈った。
「あの、よく考えさせて欲しい、と」
滅多にない父王の呼び出しがあったのも、同じ頃だった。
国王の執務室は、仰々しい臙脂色を基調として、重厚な装飾がほどこされ、
近寄りがたい父の姿そのもののようだと、気後れが彼の足をすくませる。
日頃入ることのない場所で、見慣れない父を前にひるんでしまうのは、いつもの
ことだったが、加えて今日は、兄と護国将軍がそろっていて、シーアも国王の後ろに
他の近衛騎士と並んでいるのが、更に彼をためらわせていた。
138 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:05:13 ID:l86f0dWv
「ルーゼン、妃を持つつもりはないか?」
格式ばった一通りの礼を済ませた後、父王がそう切り出し、ルーゼンは答えに窮した。
「兄上がまだなのに、自分が妃を持つわけには……」
返事を待つ父の沈黙が痛く、それが求められている答えではないと察知しつつも、
ルーゼンは両手の指を腹の前で組み、精一杯の拒絶を示す。
「いかぬか……」
父は失望したように息を吐き、王太子と目を交わした。
王太子は静かにうなずき、それは国王を満足させる答えだったらしく、
彼は王太子に笑いかけた。
「だが、いつまでも一人ではいけない。誰かこれと思う人はおらぬか?」
ルーゼンに視線を戻した国王が質問を重ねた。
「いえ、……あの……」
ルーゼンは口ごもり、つばを呑み込む。
シーアを見ないようにするには、渾身の努力が必要だった。
「……いや、ルーゼン。もう、よい」
父の退出をうながす合図は、わずかな苛立ちを含み、ルーゼンは目を伏せ
膝を折って礼をとった。
周囲の人間から"智の王子"と呼ばれ、もてはやされていても、己が不肖の息子、
病弱で期待に添えられない王子だという事実を思い出し、彼はうなだれて
国王の執務室から引き下がる。
――シーアにはどう見えただろう。
ルーゼンは自分の執務室で、集中できない仕事をにらみ付ける。
埋められない父との溝、近づけないシーアとの距離。
閉塞感に囚われて、あせる気持ちばかりが先行し、彼を突き動かして立ち上がらせる。
「ルーゼン殿下、どちらへ?」
「気分転換だ。構うな」
側近が慌てた声で制止するのを振り切り、彼は部屋を出た。
139 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:06:09 ID:l86f0dWv
自分は何を迷っているのかと、ルーゼンは王宮内を彼女の姿を捜し求めながら、
彼女への言葉を考える。
訓練所を通り、馬場の角を曲がれば、厩舎へ入るシーアの後ろ姿。
彼はそれを追い、そして彼女が兄と一緒にいるのを見た。
ルーゼンが兄と言い争うことになったのは、その直後だった。
*
――今なら分かる。本来、あの王女の相手は自分だったのだ。
ルーゼンは記憶をたどり、かつては結びつかなかった事柄に思い至った。
だが、国王と意思の疎通を図れないような第二王子では全面的な信頼が置けず、
大事な政略結婚をまかせられなかったのだろう。
彼女の吐息が彼のこめかみをなぶる。
あの時に兄がなんと言ったか、シーアがどう答えたか。
――知りたくはない。
記憶は淡雪のように消えて、腰にかかる彼女の重みに取って代わる。
――シーアは、兄のそばにいるのではなく、ここにいるのだから。
彼女に根元まで包み込まれ、ルーゼンは下腹に力を入れて、その圧迫感に抵抗する。
「シーア……」
体を曲げて視線を落とし、彼女のやわやわとした黒い陰毛が、自分の黄金色の毛に
繋がっているのを眺め、ルーゼンは口元を緩めた。
彼女の反応を引き出したくて、二つの色がからまった茂みに指を差し入れ、
中に隠れた前の襞にそっと触れる。
「あっ、やっ……」
期待に違わず、シーアの体は反りかえり、ひときわ大きな声が上がった。
ルーゼンの肩に置かれた彼女の手が、滑り落ちて彼の腕を強くつかむ。
感じやすくなっている肉の芽をもてあそんで、更に彼女を刺激する。
140 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:07:09 ID:l86f0dWv
彼女の膣内がうねり、快感が波となって高く持ち上がった。
「ん、……んんっ、……くぅ」
こらえきれずに漏れ聞こえる息が一段と浅く、速くなっていく。
もう一方の手で乳房を持ち上げるようにもみしだき、その谷間に顔を寄せて、
くすぐるように舌先を白い肌に這わせた。しずくとなって浮かんだ汗をすくいとれば、
口中に広がって満たすのは、わずかな塩辛さ。
臀部に手を回してを支え、彼女を動かして、快楽を思うままに操る。
やわらかな乳房を体に密着させ、恥骨をこすりつけるように上下させる。
彼女の肌が張りつめ、弛緩し、また緊張するのが、彼には手に取るように分かった。
「いぁ…あ……、ん…、んぅ」
シーアの喘ぎ声を耳元で受け止めて、肘掛け椅子のきしむ音を遠くに聞く。
彼女は気づいていないだろう。
いつしか自分の腰が淫らに動き、彼を動かしていることを。
彼を欲しているように中をきつく締め付けていることを。
自分の腕の中にいる時だけが、彼だけのものと実感できる至福の時。
「ジルドニが婚約したそうだ」
手を滑らせ、汗に濡れてなめらかな彼女の腰のくびれをつかんで、
シーアの動きを押さえこむ。
「……そ、う…」
シーアが戸惑い、のどの奥から引き絞ったような震え声を出した。
彼の胸板に広げた手を固く握り締め、上体を起こして視線をさまよわせる。
二人の間に流れる空気が、行き場をなくした情欲に水をさした。
「なぜ、ジルドニの求婚を受けなかったのだ?」
あれからほどなく、ジルドニが断られたらしいと人づてに聞いても、
ルーゼンは安堵する気になれず、焦燥を募らせるばかりだった。
今までは誰とも――兄以外とは、噂されたことがないけれど、護国将軍が
彼女の相手として誰かを考えていてもおかしくはない。ぼんやりしていたら、
他の男に取られるのを指をくわえて見ていることになりかねない。
父王が自分に誰か他の女を無理やり押し付けるかもしれないし、シーアと兄が
厩舎の一件からどうなったのかも分からなかった。
国王や王太子が寵妃とした女を適当な男に娶らせた例は、過去にもある。
息を潜めるように時を耐え、何らかのきっかけをうかがっていた半年間は、
あの日、ルーゼンをアリスン監獄へ向かわせるほどに、彼の精神をむしばんでいた。
141 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:08:12 ID:l86f0dWv
「……父が、反対しましたので」
こくりとつばを飲み込み、口調を整えたシーアが、ジルドニには何の感情も
ないことを思わせるような静かな声で答えた。
「あの護国将軍なら、ジルドニなど問題にもしないだろうな」
「ええ。父はわたくしの相手に、近衛か護国府の者を考えていたようですから」
「下流貴族の四男坊では、身分が低すぎて利用する価値もない、か」
――では、第二王子は? それでも不足か?
「俺が近衛育ち、だった……ら?」
彼女がふっと小さく息を吐き、かすかに困ったような、笑ったような顔をした。
「ルーゼン殿下が、他の騎士たちと同じように、生粋の近衛育ち……なら、……」
暗くくすぶる苛立ちとともに、ルーゼンはゆっくりと突き上げ始めた。
話を振ったのはルーゼン自身であったが、やはり彼女の唇から出る男の話などは
聞きたくなかった。まして彼らは兄と同じく、近衛でシーアと一緒に育ち、
時には戦場を駆け、生死を共にしたのだ。
「もっと……、話は、ちがっ、違って……んっ、あっ」
ルーゼンは彼女の奥の一点を責め立てる。
そこは彼だけが知っている秘密の場所。
彼女の嬌声が大きく高く鳴り響き、仰け反った首が左右に振れる。
粘液のこすれる水音と揺れる乳房と、肘掛けの上に手を乗せ、腕を突っ張らせて
快楽をむさぼる彼女の姿とが、彼を恍惚とさせる。
彼女の乳首を口に捕らえ、強く吸い付きながら、膣奥に彼自身を幾度となく叩きつける。
「んんっ、…あっ、ああっ、…あっ、…ん、ん、ん」
彼女の肌が粟立って、背中を弓なりにたわんだ。
絶頂にいる彼女は淫らで、ルーゼンは限界を感じ、せりあがってきたものを
一気に解放する。
「いっ、あぁっ」
彼の最後の一突きに彼女はまた達し、肉襞が細かく振動させて彼の全てを搾り取る。
そして、至福の時は終わりを迎え、縮こまって彼の肩口に顔を埋めた彼女を
抱き締めても、それをとどめることは出来なかった。
142 :
ジルドニ:2007/05/17(木) 01:09:11 ID:l86f0dWv
*
大窓から出て行くシーアを無言で見送り、ルーゼンは気だるい体を背もたれに預けた。
――シーア、次はいつ来る? 明日、来るか? あさっては?
のどから手が出るほど答えを欲しているのに、彼女がいつかもう来ないと
言い出すのを恐れ、或いは半ば諦めて、ルーゼンはその問いを口に出来ない。
シーアと兄。シーアと叔父。シーアとジルドニ。
特にシーアと兄のことを考えると、今でも心がざわめく。
ルーゼンは顔を上げ、天井の格子を凝視した。
もし、兄のことも叔父のことも知らなかったら、知らぬふりをしていれば、
物事はもっとうまくいったのだろうか、と当てもない夢想にむなしさを覚える。
ことが終わった後の、彼の上から降りたシーアの内腿に垂れる、一筋の白いしたたり。
湧き上がった奇妙な満足感は、しかし、すぐに後悔へと変わった。
眉間にしわを寄せ視線をそらせたシーアが、やがてそのまま床にへたりこみ、
ぎゅっと自身を抱き締めて、唇を噛んでいたから。
――望んだものを手に入れられなかったのは、ジルドニだけではない。
ルーゼンの望んでいたのは別の未来。それを壊してしまったのは彼自身の軽率さ。
己の間違いを認めても、時間が戻るわけではない。
――彼女は確かに、ここにいたのに。
ただよう汗臭さに饐えた匂いが混ざるのは、彼女と交わった証。
「シーア、……」
ルーゼンはまぶたを閉じて、その残り香を吸い込み、彼女の名とともに
彼女に言えない言葉をつぶやく。
それでも、今日もルーゼンは、チアニのしかめ面を期待して、はやる心臓を
押さえながら、家路をたどるのだった。
以上です。
前スレでは感想をたくさんいただき、ありがとうございました。
GJ!!!!!
このシリーズ好きですよ
もう完結していたと思ったので、また見れてうれしいです
このスレの職人さんはみんなそれぞれ自分の個性と世界を持っていていいね
シーアの話がまた読めてうれしい
GJ!
ほす
147 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:40:43 ID:rZu6oxLV
保守ついでに、ルナの続きを投下させてください。
ツィツァのあと、
クウリが、ルナに素性を明かしたあとの話です。
念のため、以前書き込んだ部分から重なってます。
148 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:42:54 ID:rZu6oxLV
結局、ただの女か。
偉そうにしていて・・・・・。
得意の、腫れ物に触るようなそっと抱きしめるように優しく、「隊長・・?」と呼びかけると、
意外なことにルナは泣いていなかった、微笑んでクウリを見て、言った。
「もしお前の言うことが真実であっても」
クウリが多少驚きを隠せないのに、ルナは、
「サクラ=リタ、中佐の言動を踏まえて、お前の告白は・・・・・・・ほぼ真実であるのでしょう、が、私は」
「真実です、だからあなたも」
と勢いづいたクウリに微笑むと、
「そうだね、でも」
軍に、と言いかけたルナを遮って、「あんた、馬鹿ですか」とクウリは怒鳴った。
「殺されるんですよ?」
胸倉を掴まんばかりに身を乗り出す。
「あなたはそのための駒だ!身を守ろうとは思わないんですか?!」
ルナはじっと黙って、それから、
「自分の命を守ることだけを考えたら、その時点で失格だと、」
クウリを見つめ、
「私は教えたはずです」
きっぱりと決め付けた。
一瞬の沈黙。
クウリが、わざとらしくせせら笑って、腰を下ろしたのに、
「私は、出来るだけお前を守りましょう、部下として。
例え、どんなに狙われても。
せめて、お前に逃げるだけの時間は、与えられる自信はある」
「へええ?」
クウリの唇は震え、そんなことができるはずがない、とおもいながら精一杯の思いを込めて、
「僕の為に死ぬんですよ?」と言った。
ルナは、疲れたように笑い、「そうだな、結果的にはね」
「それ以外、何が出来ようか?」と言った。
149 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:44:23 ID:rZu6oxLV
結局、簡単だと思っていたルナを篭絡することに失敗したクウリは、今ぽつぽつと回廊を歩く。
「お前を守る」そう言い切ったルナ。
クウリの計算では、彼女は失意のあまり自分の駒になる予定だったのだ。
思い通りに行かなかった悔しさに、壁を殴っては見たものの・・・・・
彼は過酷な運命、と言えないこともなかったが、11歳までの甘えた生活、その後の恵まれた境遇まで掘り下げて
考えることは出来ない、いわば珍しいだけの環境を理由に、自分の能力と影響を過信していたのである。
僕の苦しみなんて、ルナになんか解るはずがない。
あんな女、何も知らないくせに。
僕は、他人より苦労をしているし、僕の言うことは真実だ。
大人しく協力するべきなのに、あの女。
ルナのように、女として生まれ人生にも恵まれて、黙ってればいいものをあえて男の中に混じり、そこで評価を求めるなど、単なるわがままで、自己満足の頂点でもある、と思う。
いつだって退ける立場の彼女に、僕の気持ちなんて解らないだろう、
僕を、守れるわけがない。
命を捨ててまで僕を守るなんて、出来るはずがないのだ。
できるもんか。
「守りましょう・・・・・」
頭から離れないその言葉を、クウリは悲しいような、信じたいような、甘酸っぱい気持ちで反芻する。
150 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:46:19 ID:rZu6oxLV
次の休暇の前だった。
ルナは、クウリの「会わせたい人、が居ます」と言う真剣な目に、頷いていた。
彼はあの日の翌日から、突然、聞き分けのいい訓練生を演じて見せ、それはルナにとって大変に好都合だったのであり、
解雇しようとしても、そうはならなかった理由にもなり、
ついでと言ってはなんだが、周りの訓練生にも、クウリの豹変はかなりの効果があった。
やっと、解ってくれたのか、とルナは思った。
あれ以来サクラとは、以前のように関係は変わらない。
会えば話をするし、悩んでいれば彼はさりげなく聞いてくれる。
申し訳ない気もしたが、それ以上は進まないし、進める気もなかった。
それでよいのだ、と思っていた。
逆に言えば、最終的に飛び込める胸があると、ルナは思っていたのかもしれない。
空は晴れ渡り、ここち良い風が吹いていた。
一糸乱れぬ整列にルナは満足し解散した後、そこへクウリが最大の礼を尽くし頭を下げたものだから、何とはなく
感謝のような、満足のなせた業なのか、気がつけばルナは頷いて、時間を決める段になっていた。
「では、明日」
言うクウリの敬礼や身のこなしを感慨深く見つめ、「守ってやる」と言った自分と、あっさりと信用したらしいクウリの、態度。ふて腐れた先日のやり取りを思い出した。
冷静に考えれば、あいつを、狙われそうな戦場に出さなければいいだけの話。戦場での人選の権限は、私にある。
彼は、連絡や諜報に置けばいいのだ。
そう簡単に、命を奪わせはしないし、私とて死ぬ気もない。
乗りきってやる。
かねて気を揉んでいた自分の訓練生が全員、兵士格付けに合格したのも、彼女の自信に繋がっている。
彼らは、もう訓練生ではなく、れっきとした兵士である。
その兵士らで構成され、ルナの受け持つ一隊は、それなりの評価を得ていた。
全てが、上手くいっていた。
ここから、自分と同等の少佐も出てくるかもしれない。それはクウリかもしれないし、それもいい。
ルナは、軽やかに馬を降り引きながら、クウリの言った会わせたい人、について少し思い及んだが、
大方「彼の想い人だろう」と考え、厩に行き愛馬を戻すと、一抹の不安を振り払うように、
思いっきり伸びをした。
151 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:48:03 ID:rZu6oxLV
翌日。
ルナは厩から引き連れた愛馬の様子が少し弱気なのに、鬣を手で梳いてやりながら、
近頃、城壁内にしかいなかったことから、久々の遠出に怯えたのかと思った。
「お外に行くよ、思いっきり遠出するの。きっと楽しい」
なだめながら、愛おしそうに頬ずりをする。
この時、こんなにも自分が無警戒で、浮かれ調子だった――――――。
愛馬はルナに頭を寄せている、それに答えながら、
「思いっきり、走ろう。 スーの街まで」
ルナはそれと見せるようにはしゃいだ様子で馬を駆り、草原を走った。
王都から西に行ったところにある、スーの街。そこは芸人と、夢覚めやらぬ魔法とが混合した、サーカスの街だった。
日帰りできる手頃さと、その独特な喧騒に、ここで休みの日を過ごす騎士や兵士も少なくない。
街に近づくにつれ、その華やかな空気が伝わってくる。
ルナがこの街に来るのは、初めてだった。
うわさに聞くスーの街、
華やかさの裏側・・・・・
ここの賭博や売春宿は国中に有名で、用のないルナは特に来たいとも思っていなかった。
兵士に志願した頃から全く遠ざかっていた華やかな喚声、ルナは少し気後れしたものの、
それでもやはり、徐々に聞こえてくるその歓声やら笑い声には心を惹くものがある。
近衛兵と気づき平伏した門番には気難しそうに頷きを返したが、徽章を外すと内ポケットにしまい、
ルナは馬を降り、門番に預けながら「口外するな」と言うと、大げさなほど、きびきびと歩いていった。
152 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:50:57 ID:rZu6oxLV
通りにはそこここに幟が立っており、それぞれ呼子が踊っている。
それが次々彼女を取り囲んで、おかしい顔をして見せ、ルナが困った表情を見せると、囃し立てては辺りを巻き込んで笑わせ、すぐ次の客を引き寄せようとする。
ここでは、誰も自分の行動に関心がないようだ。
普段視線にさらされることの多いルナは、それを心地よく感じる、
まるで足枷の外れた気分になりつつある。
知らず知らずにルナは、微笑を浮かべていた。
初めて見る街、盛況、
ルナは興味深く、次々と来る誘いを如才なく断りながら、我知らず浮かれ始めていた。
「お待ちしてました、隊長」
腰に腕を折り、迎えたクウリもどこか微笑ましく、ルナはいつにない笑顔で応えた「面白い街だな」
「わざわざ、ご足労を・・」言うクウリを手で制した、この気分を壊されたくない。
口では「近衛兵と知られたくない」と言い、にっこりと笑って見せ、
「クウリ、お前の紹介したい人とは?」
辺りで炎を口から出して見せる芸に目を奪われながら、任務は忘れない証拠だというように即座に聞いた。
目をきらきらさせているルナを、意外にも思いながら、クウリは「こちらへ」と言った。
ルナは神妙に「ああ」と言って着いていったが、
案内されるうちでも、そこここから物売りの声、打楽器を鳴らし踊る男と女、
この町には楽しみしかないのではないか、と思わせる。皆が笑い、皆が生気盛んに動いている。
歩きながら、ルナはあちこちに目を走らせ、そのたびに微笑んでしまう。
王都の規律に縛られた空気を、初めて、窮屈だと思った。
この街には何か魔力のようなものがあり、人々が求めて止まない素直な感情が、
ここに集約されている気がした。
壷から蛇が出てくる、驚いたルナの様子を街人は屈託なく笑う。
庇うようなクウリを冷やかし、お幸せに、といった言葉を投げかけてくる。
ぶどう酒のビンを傾け、驚いたように量を確かめ、感情たっぷりに眺めてから飲んでみせる人。
逃げるひよこを、大げさに追いかけて見せ、捕まえては売る人、
風船を子供にもったいぶっているピエロ。
笑い声は渦巻き、普段なら騒がしくて耐えられぬ喚声や嬌声すらも、なくてはならない彩りのようだった。
騎士とあらば平伏して迎えられるのに慣れていた彼女は、抑え切れない様子で、時折笑い声をもらした。
153 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:53:23 ID:rZu6oxLV
クウリは、改めてルナを見る。
「楽しそうですね」
ふふん、とルナは笑い、照れくさそうだったが、割と素直に、
「こんな、楽しい場所、知らなかった」と言った。
クウリは「この街の、売りですから」と微笑む。
それから、ルナをじっと見る、あちこちに目をやりながら、楽しそうに、笑っているルナを。
不意に止まったクウリを、ルナは不思議そうに見つめた。
「クウリ?」
「あ、いや・・・・なんでもないです」
クウリは慣れた様子で、ある一軒の前に立つと、こつこつ、とそれを叩いた。
「はあい」
すぐに開いた扉、ルナは近くで手のひらからハトを出す様子に見惚れていて、その声を聞き逃していた。
「クウリさま、」
出てきたのは、長い髪を後ろで一つに結った、美しい女だった。
袖口の広い、ガウンのような衣装は華やかで、緩やかな襟口から、白い肌が見える。
女の絡み付いてくる腕に応え、クウリはその耳元で何かを言った。
女は微笑み、クウリから離れると、
「あらあ、騎士さま〜、お待ちしてました・・・、」
芸人そのものの口調で、ルナに話しかける。
色っぽく、袖を口に当てている。
ルナはその声にはっとし、振り向いたのに、
「アタシ、騎士様を知っててありんすよ、」
意味ありげに言った女・・・。
娼婦じみた言葉、その声は、間違いもなく、カイヤだった。
154 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:55:35 ID:rZu6oxLV
「カイヤ!?」驚いて駆け寄るルナに、平伏して「お待ちしてたでありんす、」と言う。
「カイヤ・・・・・本当に、カイヤ・・・・?」
聞きながら、思う、間違いない、この声。
平伏した女は、かすかに頷いた。
ルナは泣きそうになりながらたまらず、その手をとって口付けた。
この時代、騎士に口付けされれば身分を認められたようなものであり、
カイヤは顔を上げ、花開くように笑い、
「ルナ」昔と変わらぬ呼び方で、言った。
「カイヤ!!」
ルナは女に抱きつく。カイヤは「こらこら、騎士様?はしたのうござんすよ、」と笑いながらその体を受け止め、ぽんぽん、とその肩を叩いた。
「カイヤ・・・・」ルナは抱きしめる。
「よかった、元気そうで・・・・」
あの日、別れてから私はずっと引っかかっていたカイヤ。
もう、会えることもないか、と思ってた。
任務を受けるたび「一人勝ちね」と言うカイヤを思い出し、逃げたのを憎くも思い・・・・。
それでも、いつもどこかで気になっていた、カイヤ。
数年もの月日が立っていた。
目の前でカイヤは微笑んでいる。
面影は変わらず、もとより美しかった彼女だが、より艶を増し、それは凄絶なほどだった。
「あの時・・・」というルナに、
「わるうござんした・・・・・、おかげで、今は芸人になれたでありんす、」
カイヤは、優しい声音で言う。
すっかり芸人言葉が板に付いたカイヤに、ルナはその肩に手を添えてしっかりと見つめ、目を潤ませた。
「ごめん」と言った、それに思いの全てを託したつもりだった。あのとき、解ってあげられなくて。
「カイヤ・・・・・あの時」
「自由に、芸人になれたのは、あなたのおかげ、でありんす、」
その言葉に、逃がしてあげて良かったのだ、思って感極まるルナに、カイヤは実に美しく笑って遮り
「感謝してありんすよ、」と、一呼吸おいて、微笑みなおし、
「あたしゃ近衛兵なんぞ、・・・♪合わぬながら会いたさをこしよる女もまた愛し♪」
(注:近衛兵なんて自分には合わないけれど、そんな自分にあやまる女もまた愛おしい)
見事に歌い上げてみせたルナは驚き、思わず手を叩いて心から賞賛した。
「きれいな声!!」
「芸人でありんすよ、アタシゃ、」
カイヤは、ぞっとするほど美しい笑いを浮かべ、ルナの頬を、愛おしそうに撫で、
「今は、キヤという名でありんす、」
と、優雅に指でつまんだ裾を、広げてお辞儀をして見せた。
155 :
ルナ:2007/05/22(火) 02:57:29 ID:rZu6oxLV
「僕は、お邪魔のようですね」
苦笑しながら言うクウリに、
「お前、会わせたい人というのは?」ルナは振り返った。
「この人ですよ、隊長」
ルナはこみ上げながらも、半分、不思議そうに2人を見た。
クウリは、「このキヤは、以前から情報通で、世話になっていて・・・」
と、申し訳ないように、「ツィツァの過去も、この人から」と、カイヤと目をあわせ、
「すみません、あなたのことも、聞いたので、もしかしたら会いたいかと、と思いまして」
にこりとする。
不思議な偶然を思いながら、ルナはクウリを見つめた。
照れたようにクウリは、にこりと笑い、
「違えば、この街を案内し、ごまかすつもりでした」
と、言った。
「この御方はね、アタシのくだらない愚痴を思えていてくだすったんですよ、
ここにはね、色んな方々が来る、情報はいつでも入ってくる、
だからあなた様のことも、まるで手に取るように、
解ってた・・・・・。アタシはずっと聞いていましたよ。
ただ、情報はあっても、こちらからは何も出来なかった。
このクウリ様はね、
貴方様に会いたい、と言ったことを、覚えていてくりゃんすえ」
くりゃんすえ、下町にもこの街にも慣れていないルナにはそう聞こえたが、正しくは「くれやんすえ」
くれました、とか、くれたんですよ、とかそういった意味だ。
なんとなくは理解しながら、いまやすっかり染まってしまったカイヤを思い、
それから、小さなことを汲み上げてくれたクウリに、また、自分のことを思い出し、会いたいといってくれたカイヤに、ルナは胸がつまる。
「ありがとう」
ルナは想いを込めてそれだけを言い、クウリは目をそらすと、小さく「いえ、」とちょこんと頭を下げた。
「後でお戻りくりゃんすね?」と言うカイヤに目を合わせしっかり頷くと、くるりと喧騒の中に消えていく。
なぜか急に引きとめたくなる気がし、
「さあさ、お支度をしてありんすえ」と言うカイヤに引きずられるようにしながら、
ルナの目は、見えなくなるまでクウリの後姿を追っていた。
156 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:03:53 ID:rZu6oxLV
テーブルの上には、古今東西、ありとあらゆる料理が並べられたが、それは、
宮廷で出されるものとは程遠く、ただ、思いついたものを全て並べた、と言わんばかりの食卓だった。
じゃがいものスープ、ライ麦のパン、焼いた鶏、・・・・
一挙一同に並べたそれは、色彩にもこだわらないばかりか、
提供される温度、盛り付けも全て見よう見真似のいい加減で、これを豪華極まりないと言うにはかなりの無理を要した。
それでもルナは、取り分けられる料理を美味しそうに口にしては、感嘆の息を漏らすように微笑んだ。
「田舎料理でありんすが」というカイヤの目に少し卑屈なものを感じ取って、いたたまれずにいたのだった。
よく見ると、カイヤの暮らすというこの宿屋は、見た目には豪華なものと見せていても、どこか貧素で暗く、胸のつまされる雰囲気だ。
ルナは、初めて見る「庶民の暮らし」と言うものを、呆然と思っていた。
そして、本当にカイヤはこれでよかったのだろうかとの疑念も同時に湧いた。
「申し訳ないが、私は・・・」と酒を断るルナに、悲しそうな顔でカイヤは、
「このくらいしか出来ないことを、お分かりくりゃれ・・・」と言った。
ルナは言葉につまる。が、騎士には行動規範、と言うものがある。
素行には注意しなければならない立場である。
それに気づいたのか、「いらぬことでありんすかえ・・・・」とカイヤは目を伏せた。
「アタシも苦労しましたっけ・・・あの頃は」
騎士になっていたらねえ、とカイヤはいった。
「アタシらと違って、お立場がおありでしたえ、これは申し訳のないことを・・・」と無理に笑い、
杯を持った手を膝に置き、俯くと、
「騎士様でありんすもの、な」悲しげに呟いた。
ルナはたまらず杯を取ると「頂こうかな、酔いもしなければ問題ない」と出来るだけ屈託なく言った。
ぱっと顔を耀かせると、カイヤはいそいそと寄り添ってきた。
ふくよかな胸がルナの腕に絡む。物慣れた様子、カイヤの副業に大体の予想が付いたが、
顔には出さずにルナはいた、
彼女の注いだそれをくいっと飲み干すと「ご返杯」と差し出して言って、笑った。
洗い上げたような微笑で
「お流れ頂戴」といってしずしずとあごを見せて彼女が飲み干すのを、眺めて頷いた。
飲み干したカイヤも頷き、
「お会いできてようござんしたえ」
花のように、笑う。
「本当に、元気そうでよかった・・・カイヤ」
2人は年月を飛び越して、同室でありライバルであり気の置けない仲間であった頃に戻ったように、
お互いの顔を見ながら過去と比べては笑い、ひとしきりはしゃいだ。
物のついでのように「アタシは騎士には向いていなかったようでありんす・・・」
とカイヤが言ったのに、ルナは微笑むしかなかった。
どんなに打ち解けあったようでも、カイヤの口調は娼婦じみたものが染み付き、過去には戻らずにいた。
芸人のような地位の者は、致し方なく娼婦のような真似もしていると聞く。
157 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:05:53 ID:rZu6oxLV
ルナは考えないようにして、また注がれ、笑いながら注ぎ返しているうちに、ふと、くらりと視界が揺れた。
あれ、と思いつつ、何気なくしているところに、
「姐さん、そろそろ・・・」と若い男が迎えにきたのにカイヤは頷いて立ち上がると、
「僭越ながら、芸を披露させてくりゃれ」
とルナに微笑んだ、ルナは期待の混じった笑いを返した。
「姐さんの代わりと言っちゃあ甚だ霞みますが、お酌を」と両隣に座った男たちは、
芸人らしく華やいだ雰囲気と、要領のよさを感じさせる態度で、すかさずルナに密着した。
咎めようとも思ったが周りを見渡したところ、二人はあまりに自然でここで声を荒げるのも不躾なようだ、ぎこちなく笑った。
「姐さんから聞いといますえ、優秀な騎士様だとか」
「・・・ああ、だが優秀か、どうかは・・・」
めまいがひどくなっている。
「儂ゃ、雰囲気で解りやんすええ」
さあさ、と勧めてくる酌を受けながら、ルナは舞台と称された一線隔離された板の間で踊るカイヤを見、
「綺麗だな・・・・」と感嘆して言った。
「そりゃあ、姐さんは」
なあ、なあ、と示し合わせたように両隣で頷きあい、
「芸人になるべきヒト、天賦の才がおありなヒトだもの」
複雑な気分で、ルナはそれを聞き、
「以前・・・・」と呟いてから、この者たちには関係のないことだ、と思い直し、
めまいを抑えるように頭を支えながら、
「本当に、天から授かったような・・・宮廷にもここまでの踊り子はいないね」
とこれは本心から言う。
「そりゃあ、姐さんは・・・・」
誇らしげにいう男を斜めに見やって笑いながら、カイヤは確かにここで基盤を作り上げているのだ、と思った。姐さん、姐さん、とカイヤは慕われている。
「一人勝ちね」もうそれは過去の確執、もう、近衛兵になりたいと望んだカイヤはいない。
ルナは、新しい人生を切り開いていったカイヤを一種尊敬の眼差しで見ていた。
よかったのだ、あれで。それなりの仕置きを受けたものの、カイヤを逃がした甲斐があったのだ。
ルナは目を無意識に潤ませながら、夢中で彼女を見ていた。
カイヤの舞が終わりルナが万感を込めて拍手をしている中、カイヤが会釈すると同時に照明が暗くなった。
ざわざわと人の動く気配がする。
158 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:07:23 ID:rZu6oxLV
ルナはしばらく様子を見ていたが、一向に明るくならないのに「これは?」と右隣の男に話しかけた。
それを機に左の男が立ち上がるのを、不安な面持ちでルナは見た。
「どこへ行く?」
彼は答えなかった、代わりに右の男が、
「姐さんが戻るまで、お待ちを・・・」といい、落ち着かないルナの膝をそっと叩いた。
ほんの十数分、経っただろうか。
黙っているうちに、どこからともなく喘ぐような声が満ちてきて、ルナはまさかと思い暗闇に目を凝らす。
椅子と言う椅子の上で、重なり合う体・・・見間違いとも思え瞬きをしてもそれらは確かにうごめき、
息を漏らしながら、歓喜の声を上げている。
「な・・・っ」小さく叫んだルナの口を覆うと、男は耳元で、
「我慢くらしゃいませ・・・」と言った。耳元で囁いた男は、身を離そうとしたルナの腰をしっかりと捕まえ、
「すぐに終わります・・・今ここで騒げば、皆の者が女将に叱られます・・
どうか、お収めくらしゃって・・・・」と止めるのにルナはしぶしぶながら、力を抜いた。
「これが・・・普通なのか・・・?」
男は、後ろからさらにルナの目を覆うように手を差し伸べ、
「儂ゃらは、こうしてしか生きていけません・・・芸人は男でも女でもなあ、
来る方来る方の欲望をかなえて差し上げるのが、役目でありんすえ・・・ご辛抱を、ねええ」
と、言い切れないのを込めた口調で言う。ルナは、黙るより他がなかった。
159 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:09:02 ID:rZu6oxLV
宮廷では、表立った行為は処罰の対象となるが、
その実、軍での強姦、社交場での不倫、領地における横暴など、
数えたらキリのないほどの欲望が渦巻いている。
それならばいっそ、欲望を顕著にしたこういった場の方が、まだ救いようがあるとも思えた。
が、それは自分がここにいない場合である。
ルナはじりじりとし、「いつ終わるのだ?」と聞いた。
「女将が灯を灯したときで・・・」と男がいったとき、さら、とした衣擦れの音がした。
びくっとして男はルナを抱き寄せると驚いて拒絶するルナを力に任せ、「黙ってて・・・」と言った。
衣擦れは近づいて来、やがてルナたちの横をすり抜け、離れていった。
「ああやって、調べているのですよ、お客に満足頂いているかどうか、をねえ」
苦しげな男の顔を間近に見たとき、突然ルナの内部に、あの、変化が起こった。
ためらいがちに動く彼の唇に触れたい、と思い、暗闇の中でそれは可能なことであると思えた。
ぐっと目を閉じ堪えていると、ひや、と耳に唇が触れた。
「ゴメンナサイよ、女将にばれないように、協力してくりゃあ・・・」
「わ、かった・・・」ルナは言ったが、それは耐えられない愛撫にも感じて、身を固くしながらも、
理性が自分を抑えているのが辛く、じっと彼女は受け入れる。
彼の舌は熱く、ルナの耳の裏を這い、ぐっと力を入れた首筋に滑り落ちた。
ルナはきつく目を閉じ、自分の反応を抑えながら、黙っていた。
160 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:10:20 ID:rZu6oxLV
彼の舌が再び耳朶に触れ、離れたと思うと唇に触れた。
柔らかくて、押し付けがましくなく、ついばむように吸う、
ルナの体から、力が抜けていくのに男は腕を絡ませ容易にほどけないように抱きしめる。
「まだ・・・?」抑え切れないルナは聞いた。
これ以上、耐える自信がない、が騎士としてこれ以上は許されない。
だから、明かりがともるのを待ちかねて、ルナは囁く。
男は黙って口付け続ける、ルナは「これ以上は・・・」と体を離そうとした。
が、男の体は離れず、口元からせせら笑うような声が聞こえる、
「逃げないでさあ〜〜〜、ほんとは、もう、感じてるんでしょ?騎士とはいってもねえ」
いやらしく言う男の手は、ルナの胸元に触れようとした。
「どんなにか周りの男に・・・」
ルナは、自分の欲情を知られたような羞恥に、怒りが沸騰するように覚え、男を突き飛ばした。
大きな音を立てて、ルナの突き飛ばしたその男はソファの横に置いてあった燭台にぶつかった。
灯は点された。
いつか、どこかで見たことのある光景に似ている、ルナは思いながら、ため息をついた。
161 :
ルナ:2007/05/22(火) 03:21:42 ID:rZu6oxLV
以上です。
GJ!!!
ルナの人、待ってたよ
ひさびさにのぞいてみたらシーアの作者さんとルナの作者さんの作品が!
お二方GJ!!!続きが読めてうれしいです。
ルナの人のストーリー構成にはいつも感動するなあ。
続きがどうなるか気になってしょうがないです。
ライナ軍曹けしからんなあ。
ユアンが前回の行為を思い出して興奮し
ライナ軍曹を襲う展開を期待したくなった。
お久しぶりでございます。桃肉であります。
何を思ったのか 【 Quest:Imperial Corruption 】 の4話を書きますた。
今は投下形式ではなく自分用保管庫を用意して好き勝手やってるので、リンクだけ置かせてもらいますね。
ttp://momoniku.h.fc2.com/ob/ob04.html 相変わらずアシュレをフルボッコで虐めてます。しかも未完。
陵辱モノ苦手な人はスルー推奨です。
アシュレ?ヒィヒィ言わしてやんよ
∧_∧
( ・ω・)
(っ っ ババババ
/ =つ≡つ
( / ̄∪
フルボッコというから、顔面殴打のリョナものかと思ったのに
んじゃあフルボッキに訂正
アシュレはエロかわいい
女騎士アリューシアの話、投下します。
いちおう順調(?)に交際を進めている二人の話。
甘々なので苦手な方はなにとぞスルーでお願いします。
それでは、「はた迷惑な客」です。
172 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:09:37 ID:OFkVYKWr
暗闇の中、足音も無く近づく気配がある。
(賊か──)
アリューシアは一日の勤めを終え、自室で眠りに付いていた。
微かな気配に目を覚ますと、そのまま寝台の上で息を潜め、枕の下に手をそっと
差し込んだ。
気配が寝台の脇まで寄る。
その刹那、枕の下に忍ばせてあった短剣を掴み取り、素早く彼女は跳ね起きた。
「何者っ!」
刃先が閃き、気配を横一文字に切り裂く。
だが僅か紙一重の差で、それは後ろに飛びのいた。
「──危ない」
「───!」
発せられた平坦な声が聞き慣れたものであるのに気付き、彼女は動きを止めた。
その声がなければ、さらに踏み込み、再び剣を振り下ろすところであった。
「寝顔を覗くのも、命がけとは……甘い気分など吹き飛びますね」
皮肉めいた口調で言いながら声の主が指を鳴らすと、その背後にある棚の燭立の
蝋燭に、一斉に火が灯った。
こげ茶色の髪の長身な男と、彼に刃先を定めた寝巻き姿の女騎士が、暗闇の中
ほの明るく照らし出される。
「今度からは、声をかけてから近づくようにします。荒馬を驚かせないようなやり方で」
「────グルドフ」
アリューシアは半ば呆れたような驚きの声を上げた。
その顔に、既に先程までの気迫は無い。
「お前、……何故ここに居るんだ。賊が入り込んだのかと思ったじゃないか」
鞘に収めた短剣を枕の下に戻したアリューシアは、ふと、言いながら何かに気が付いた
ように、慌てて扉に向かった。取っ手を押すと、がちゃりと抵抗がある。
閂はきちんと差してあり、外から開けられるはずは無い。
部屋を横切り、窓も確認しようとしたところでグルドフから声がかかった。
「ああ、そこもきちんと戸締りはしてありましたよ」
「……………どうやって入った」
声に怒気を含ませながら、アリューシアは彼を見咎めた。
「まあ、色んな方法がありますから」と、事も無げに答えた男に胡散臭げな
表情を露にする。
王子付きの薬師であり、魔法使いでもある彼は、おそらくは怪しげな術でも使って
入り込んだに違いないからだ。
173 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:11:36 ID:OFkVYKWr
「で?何故ここへ来た?」
アリューシアは寝台に腰をかけ、腕を組んだ。安眠を妨げられたこともあり、その表情は
限りなく不機嫌である。
床に入ってから暫くは経っていただろうから夜もかなり更けているはずだ。
辺りは寝静まり、当然二人の会話も外に漏れ聞こえないようごく小さい。
「何故って、恋人に会いに来てはいけませんか」
グルドフは言いながら、寝台の横の机に軽く寄りかかった。
その態度と口調は、口ではそう言いながら恋人に語りかけているとは到底思えない、
相変わらずの親しみ感の無さである。
「……何を考えている。こんな所に来るな」
返ったきた答えに一瞬唖然としつつ、彼女はグルドフを睨み付けた。
「私の部屋のあるこの棟は男子禁制だと言っておいただろう。私と長くつきあいを
続けたいと思うのなら、こちらの意思も尊重してもらわねば困る」
「一応、貴方の意思は尊重しているつもりなのですが」
と、グルドフは肩を竦める。
「貴方にお説教されて以来、勤務中に押し倒すような事はしていないでしょう」
「仕事が終わっても、ここにいる時はだめだ」
「そんな事を言っていたら、する機会がないな………」
常日頃感情を大きく出さない薬師が、その顔に僅かにうんざりとした気配を滲ませた。
周囲に伏せたまま続ける親密な関係というものには、様々な苦労が付きまとうものである。
馬で駆けて一時間はかかる離れた場所に住み、互いに仕事の都合を付けながらの逢瀬。
頻繁に会えるわけでも、会いたい時に会えるわけでもない。
前回二人が会ってから、どれくらい日にちが過ぎただろうか。
しかし、わざわざ『会う機会』ではなく、『する機会』などとほざくムードのかけらも無い
薬師に眉を顰めながら、アリューシアは突き放すように答えた。
「仕方あるまい。我慢しろ」
「我慢したって、誰も褒めてはくれませんよ」
「他人の評価ではない。自分自身の問題だ」
アリューシアはきりりと表情を引き締める。
「第一、姫の素行にあれこれ口出しする立場にあるお目付け役の私が、節度の無い行いを
していては示しがつかん」
「融通が利かないな」
グルドフがわざとらしく、ふう、と物憂げにため息を付いた。
「高潔な騎士と言うのも結構だが、あまり真面目一辺倒なのも考え物だ。
こういう時に面白味がない」
「なんだと!」
「声が大きい………外に聞こえてしまいますよ」
アリューシアははっとして口を覆った。
その一瞬の隙を突き、グルドフは彼女の腕を掴むとそのまま勢いよく寝台に押し倒した。
174 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:13:40 ID:OFkVYKWr
「──うわっ!」
どさりと仰向けに倒れた体の上に素早く圧し掛かり、彼は勝ち誇ったようアリューシアを
見下ろした。
「隙有り」
「何が隙有りだ、馬鹿者っ」
降りてきたかさ高い男の肩をむんずと掴み、アリューシアは強制的に自分から
引き剥がした。片足を二人の間につっかえ棒のように立てる。
「重いっ。ちょっ、…待て!」
「まだ何か」
うるさそうに言いながら、グルドフがさらに体重を掛けた。
「何か、じゃない! 本気か? 本当に、する気?」
「そうだと言ったら?」
「い、いかん! 夜這いなど駄目だ。──止めんかっ、堪え性の無いガキじゃ
あるまいし」
「…………堪え性の無いガキなのでね」
悪びれる様子も無い淡々とした口ぶりで、薬師は二人の間に隙間を作る片足を
器用に体で押しつぶした。
掌に力が入り、掴まれていた二の腕がシーツに押し付けられる。
もう一方の手が彼女の腰紐を手際よく解き、胸元へと伸びた。
寝巻きの前がするりと広がり、はだけた胸の谷間の白さが薄闇に浮かんだ。
アリューシアは体をよじって逃れようとしたが、太腿の上に馬乗りになられては、
脚をばたつかせる事もできなかった。
「こら! グルドフ!」
彼女は小声で叱りつけた。
「今度会う約束の日は決めてあるだろう。六日後だっ。それまで堪えろ。ここでは
風紀を乱す行いなどするなっ」
「………風紀?」
「そうだ。風紀」
意味を咀嚼するようにグルドフが呟いたので、アリューシアはぶんぶんと首を縦に
振ったが、
「建前はそうでも、おおっぴらにやらなければ、ある程度は夜這いも黙認されているのは
貴方だってご存知でしょう?」
思いがけない鋭い反論にあい、説得を重ねようと開けた口のままで固まった。
実のところ、夜警をする立場の彼女は、それは誰よりも良くわかっている事であった。
いくつかある城の住人の宿舎のうち、独身女性ばかりが集まるこの棟は男子禁制を
掲げているが、実際には、個々が自己責任のもとで上手く隠してくれるのであれば
厳しく言窮されることは無いというのが昔からの不文律となっていた。
もちろん強姦行為などは厳しく取り締まるが、夜の見回りの最中に、こそこそと
潜むような怪しげな気配に遭遇しても、せいぜい同僚と苦笑いをして肩を竦めるくらいで
目こぼしするのが実情だ。
175 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:15:14 ID:OFkVYKWr
「それはそうだが………だからと言って、他がやっているから私も、という事は出来──」
言い終わる前に、問答無用とばかりに顔が近づき唇が塞がれてしまった。
グルドフの片手が夜着の中に滑り込む。
その性急さとは裏腹に、掌が寝巻きに隠れた乳房を優しげに包みこんだ。
じっくりと撫で回し、淡紅色の頂を指で何度も擦り上げる。
「う、んっ………ふぅっ……」
欲情をくすぶらせるような刺激に、びくっとアリューシアは体を弾ませた。
「……んっ………」
彼の一方的なやり方に反発を憶えるのももちろんだが、同時に、ここで、こんな事をして
良いわけはない──生真面目なアリューシアはどうしてもその考えが頭からはなれず、
身を強張らせた。
耳朶から首筋を滑るようにグルドフの唇が這う。体を浮かし、押さえ込んでいた脚の
片方だけを開放して膝を立たせられる。その膝を何度か撫でまわし、ゆっくりと太腿を
摩るように掌が往復した。
鍛えられて引き締まった太腿の肌触りを確かめながら、掌は徐々に脚の付け根へと向かう。
アリューシアは顔を背けた。
「嫌だ…………」
微かに、しかしはっきりとそう呟く。
すると、そこでグルドフの動きが止まった。
きつく縛られていた縄が一瞬で解けたように、アリューシアの体にかかっていた全ての
力がするりと緩んだ。
強い視線を感じアリューシアが見上げると、グルドフが静かに自分の目を
覗き込んでいた。
蝋燭の淡い光に照らし出された、濃いこげ茶色の瞳。
その真っ直ぐな眼差しを受け、息を呑む。
(────そういえば、こうして見つめ合うのは久しぶりだ)
そう思った瞬間、彼を咎める言葉が頭の中から消え去ってしまった。
前にこうしてこの瞳を間近で見たのは、いつだったろう。
前回会う予定だった日は、彼が忙しくて駄目になってしまったから、かれこれもう………
一ヶ月以上は会えなかったんだ。そう、一ヶ月以上も。
「ねえ」
グルドフが耳元に唇を寄せた。
「本当に、嫌?」
再び、ゆっくり耳元から離れ、アリューシアを見下ろした。
その答えを待つように。
176 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:16:57 ID:OFkVYKWr
「…………」
きっと、私がここで『嫌だ』と答えたら、本当に止めるつもりなのだろう。
彼はそういう男だ。
そう思うと、急に寂しさがアリューシアを襲った。
本当はずっと会いたかったし、一日も早くこの温もりに触れたかった。
アリューシアは無言で、じっと自分を見つめるグルドフの頬に手を伸ばした。
贅肉の無い、整った顔の輪郭をゆっくりと撫で、頭の後ろに手をまわし自分に引き寄せる。
それを合図にしたように、グルドフが二の腕を掴んでいた手を離した。
アリューシアの背中に手を回し、まるで水底に沈みこませるかのように、ゆっくりと
体が押し付けられる。
顔を寄せ合い互いの唇が触れ合う寸前に、グルドフの唇が動く。
「…………久しぶりだ」
アリューシアが思っている事と同じ事を呟いて、唇は重ねられた。
率先して風紀を守らなければならない自分がこんな事をして、という気持ちはある。
でも、今回だけは許してしまおう。
意思の弱い自分と、彼を。
唇が触れ、重なり合うと、ゆっくりと深い口付けに溺れていく。
可愛げの無い事ばかりを吐き出す唇なのに、一旦触れるとそれはとても正直で、
甘くて優しくて激しくて、貪欲だ。
しんとした静寂が、暖かな炎の織り成した陰影の上に広がる。
時折漏れる甘い吐息のような息継ぎのほかには、僅かに唇からこぼれる愛し合う音と、
重なる体同士を擦り合わせるたびに立つ衣擦れの音。
それだけの世界の中で、互いを味わう長いキスに没頭する。
「グルドフ……」
「ん?」
「…………会えない間、寂しかったか?」
体を起こして服を脱いでいたグルドフを、アリューシアは柔らかな眼差しで見上げた。
横たわっている彼女に、グルドフは無言で軽く口付けをした。
「ずるいぞ」
アリューシアは彼の背中に腕を廻して捕まえると、不満げに呟いた。
「そうやって誤魔化してばかりで。……お前も少しは自分の素直な気持ちを言葉にしたら
どうだ。会いたくてたまらなかったとか、愛してるとか」
「────嫌ですよ。そんな事」
そう答えながら、グルドフはきつく抱きしめ返した。
緩やかな手つきで、しなやかな体の曲線をなぞっていく。
掌が内股を辿り、秘所に触れた。アリューシアの体がびくんと小さく震える。
既に潤っていた場所からは蜜が溢れ出し、指を濡らした。
177 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:19:51 ID:OFkVYKWr
「あっ……………ん………」
指が探るように秘裂を往復し、敏感な部分を捕らる。彼はそこをじっくりと執拗に
責め立て始めた。
(声が漏れる……)
アリューシアは手の甲を口に押し付けた。
「大丈夫」
蕩けさせるように指を動かしながら、髪に隠れる耳にグルドフは唇を押し付けた。
「外には誰もいないし、誰にも気付かれてはいませんよ、今のところは。
───人に気取られるのが嫌なら、上手にやりますから」
上手に………?
僅かに身を竦ませたアリューシアの心を見越したように、グルドフは余裕の或る表情で
不安を残す顔を覗き込み、その胸に顔を落とした。濡れた唇で豊かに盛り上がる胸の
丸みをなぞり、薄桃色の頂に来るとそれを咥えた。
戯れのように、ちゅ、ちゅ、と音を立てて幾度も吸い上げられ、纏わり付くように動く
舌で乳首を弄ばれる。
「…………ん」
「感じるの?」
「……うん…………はぁっ」
アリューシアは甘く蕩けるような吐息を漏らした。
掌で乳房を柔らかく掴まれ、乳輪から頂までを何度も舌で舐め回されながら、
もう片方の掌が脚の間の潤みに触れ、蜜の溢れる源に指が抜き差しされる。
くちゅくちゅと淫らな音をたてて中をかき乱され、アリューシアはかすかに体を痙攣させ、
小さく達した。
「アリューシア」
名前を囁かれ、アリューシアは潤んだ藍色の瞳をグルドフに向けた。
「もう挿れる?」
「うん……来て」
膝裏を持ち上げ、柔らかな場所にグルドフは自らの怒張をあてがうと、
何度か擦り付けるように動かした。
「………………ぁあ……」
もどかしげな切ない声があがる。ようやく硬く熱を持ったものがゆっくりと
挿し込まれると、アリューシアは白い喉を反り返らせた。
完全に押し込み、動きが止まる。
「あっ、あ…ん………」
押し込めたものを同じ速さで引き抜かれると、甘い感覚が湧き上がる。
グルドフが緩やかな往復を体の上で繰り返し始めた。彼の肩に手をかけ、アリューシアは
ゆっくりと瞼を閉じる。漣のような快楽を生む、彼の動きに身を任せていく。
不意に、その動きが止まった。
顔を上げ、扉のほうにグルドフが視線を向けている。
「誰か来ますね」
落ち着き払った声で彼は静かに呟いた。
178 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:21:35 ID:OFkVYKWr
「………え?」
危惧していた事態に、アリューシアの背中をすっと冷たいものが走った。しかし、何か
言おうとして口を開けたものの言葉が浮かばない。
「あ───」
頬を紅潮させたまま、虚ろな瞳を向けることしか出来ないでいるアリューシアを、
グルドフが黙って見下ろしていた。
頭の中はぼんやりと薄く霞がかかっている。
汗ばんだ脚が挟みこんだ、グルドフの厚みのある胴体が密着している。
火照った部分に待ち望んだものが深々と埋め込まれ、情けないことに心も体も
既にそちらに奪われて、心地の良い気だるさをすぐには拭い去れない。
アリューシアは呆然としていた。
彼に抱かれている時、自分がこんなにも骨抜きな状態であるのだと、今まで意識した
ことも無かったから。
「……私のところに?」
「おそらく」
ようやく少しだけ醒めて問い掛けると、グルドフが頷いた。
何故そんな事がわかるのか定かではないが、こういったときの彼の予感めいた言葉は
外れた事がない。
アリューシアは全く頭の働かない状態でどうすることも出来ず、困惑の目を彼に向けた。
しかし、
「……………どうしましょうか?」
脇腹から腰への滑らかな曲線をするりと撫で、まるで他人事のようにグルドフが
問いかけてきた。
意地の悪いその目付きを見て、アリューシアは青ざめた。
「どうしましょうかって……そんな」
そんな事をのん気に言っている場合ではない。それなのに──彼は明らかにこの状況を
楽しんでいる。
アリューシアの胸の鼓動が一気に早まった。
やはり、こんな事をするべきではなかったのだ。
「どうしよう……とにかく、離れて…」
身をよじって起き上がろうとしたアリューシアの肩をグルドフが押さえた。
「静かに」と、どこか楽しげに人差し指を口に当てる。
「じっとしていて─────大丈夫ですから」
何が大丈夫なものか。
そう叫びたい気分だったが、こんな状態で彼がそう言うのなら、最早彼に従うしかない。
いくら彼が何を考えているのか分からない男でも、いざとなった時には自分を守って
くれるはず。
と、思う……………たぶん
179 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:23:21 ID:OFkVYKWr
組み敷かれたまま半ばあきらめの境地で、アリューシアは全てを彼に委ね、
自分の心臓の音を聞いていた。
わざとしているのか、時折グルドフが微妙に体を動かすので、その度にアリューシアは
眉根を寄せて危うい感覚と戦う。
程無くして廊下を歩く足音が彼女の耳にもはっきりと届くようになった。
足音が近づき、部屋の前で止まる。
扉が幾度か控えめにだが、鋭くノックされた。
「アリューシア、起きてる?」
夜番をしている同僚の女の声であった。
素早くグルドフが「彼女の名前は?」と小声で尋ねる。
メリッサだ、と答えると、彼は薄く笑みを浮かべ、片手でアリューシアの口を塞ぎ、
もう片方の手を自らの咽元へと当てた。
そして、口を開く。
「ああ………メリッサ? 何かあったのか?」
アリューシアは驚愕のあまり目を見張り、咽の奥で声にならない悲鳴を上げた。
グルドフの発した声も、いかにも今、目を覚ましたばかりというその口調も、
それはまさしくアリューシア自身のものであったのだ。
「ごめん、夜遅く」
扉の向こうの女も、答えたのはアリューシア本人だとなんら疑いを持っていない様である。
「つい今しがた城内に賊が入り込んだらしいんだ。けど、それが、すこし不可解な
事件みたいで……今皆で手分けして不審者を捜しているから、応援を頼みたいのだけど」
「不可解な事件?」
グルドフが言葉を返す。
「どんな?」
「玉座の間が荒らされたんだ。でも、まだ詳しい事はわからないのだけど、どうも普通の
荒されようじゃないというか……床一面に何かの書類がぶちまけられていて、縛られた
男が二人残されていた。その二人を憲兵隊が保護して、今事情を聞いているところ」
「そうか」
驚愕の表情を固めたままのアリューシアを眺めながら、彼は目を細めた。
「────悪いんだが、どうもさっきから体調が悪いんだ。応援は他の者に
頼めないだろうか」
「そうなの。大丈夫? 医者を呼んでこようか?」
「いや、月の障りの痛みだから明日の朝までには収まると思うし、その必要はないが…」
アリューシアの常日頃の真面目な勤務態度を知っている同僚は、部屋の中から聞こえる
言葉をすんなりと信用した。
「わかった。応援ももう結構数が集まっているし、そういう事なら仕方が無いから
ゆっくり休んでいて。お大事にね」
そう言うと、女の足音は忙しげに遠ざかって言った。
180 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:25:49 ID:OFkVYKWr
「なっ、何だ! 今のは!!」
足音が聞こえなくなって暫くしてグルドフが手を離すと、アリューシアはわなわなと
声を震わせた。
驚きのあまり、繋がっているのも忘れたようである。
「貴様、変な妖術などを使って……おまけに、誰が月の障りだっ。勝手な事を……!」
「めったには無断で貴方に成りすましたりはしませんので、ご安心を」
「当然だ!………応援を頼みに来ていたぞ。大丈夫だろうか」
「心配する事はないですよ」
グルドフは悪びれる様子もなく答える。
「今回ばかりはズル休みしても、気を揉む必要もありません。どれだけ応援の人数を
増やしても賊は捕まりませんよ。
こういう言い方をしたら気の毒かもしれないが、彼らの努力は徒労に終わる」
「……………お前、何か知っているのか?」
「それにしても、貴方は本当に快感に弱いタイプだな」
アリューシアの問いかけの言葉など耳に入っていないかの様に、彼は呟いた。
「こういう時は、全くと言って良いほど、こちらのされるがままだ」
アリューシアの両脇に腕を付き、緩やかに前後に動き始める。
「普段とは大違い」
「えっ………あっ──」
再び、繋がっていた──行為の最中であった──現実に引き戻され、アリューシアは
それ以上追求の言葉を出せず、かわりに官能の喘ぎを零した。
「ほら、こんなふうに」
柔肉を抉られると、美しい顔には恍惚の表情が浮かび、僅かに開いた艶やかな唇から
悩ましげな息が漏れた。
「………気持ち良くなると……動けなくなってしまうのは……仕方ないじゃないか」
「別に、悪いなどとは言っていませんよ」
するりと首に絡みつくように廻された腕に引き寄せられ、グルドフはアリューシアの
耳元で囁いた。
滑らかな摩擦を与えながら太い杭が引き出され、甘い声が上がるのを合図に深々と
また打ち込まれる。
ひっそりとした部屋の中で、粘膜の擦れ合う淫らな音が続いた。
(声が…………)
アリューシアは朦朧とする意識の中、かろうじて手繰り寄せた自制心で自らの人差し指の
関節を噛んだ。
そうしていないと、無意識のうちに快楽が声となって吐き出されてしまいそうだった。
脚を掴み、グルドフが高く抱え上げた。より深くまで入るように腰を押し付ける。
上気して淡く色付いたアリューシアの体が、動きに合わせるように大きく揺れる。
腰が密着するまで突き込まれた硬くて猛々しいものが、入り口間際まで抜かれる。
熟れた肉のきつい締め付けに逆らうように圧力をかけて擦りたてられ、その度に
痺れるような快感が体中を駆け巡った。
181 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:29:02 ID:OFkVYKWr
「…んっ………あっ、ああっ……だめ…ぇ…」
深い藍色の瞳を潤ませ、堪えようとしている唇から押し出されるように甘い声が
こぼれていった。
「そんなに、気持ち良い?」
グルドフはアリューシアにより強く体を叩き付けた。
「良いっ……いいの!……ぁあっ、グルドフ…もっと」
「─────声」
わざと喘がせるようにいたぶりながらの指摘に、アリューシアは必死に手で口を
押さえ直す。
グルドフが何かを思いついたように僅かに口の端を上げ、その手を掴んだ。
それを取り払い片手で顎を捕えると、覆いかぶさるように体を倒し、唇を重ねて
彼女の声を封じ込めた。
「────」
舌でアリューシアの口腔を蹂躙し、うねるような動きで腰が打ち付けられた。
硬くて熱いこわばりが繰り返し奥を突く。
唇と、胎内を快楽で支配され、意識を手放しそうになる。
アリューシアは両腕を首に回し、与えられたグルドフの唇を夢中で貪った。
白い脚を汗ばむ彼の体に絡ませ、縋りついて心の中で何度も彼の名前を呼ぶ。
熱く蕩けた柔らかな肉がグルドフの猛りを包み込み、腰を引くと、引き止めるように
きつく吸いついてくる。
何度でも応えるように、彼は荒々しく抽送を繰り返した。
互いを抱いて一つの甘美な快感を紡ぎ出し、二人は互いに与え合う。
アリューシアはグルドフの腕の中で、その果ての高みに昇りつめた。
「………………はぁっ……」
塞がれていた唇が開放された。
アリューシアはやっとの思いで大きく息を吸い込み、吐き出した。
「いった?」
グルドフはまだびくん、びくん、と射精を促すような収縮を続ける胎内に自らのものを
納めたまま、虚ろな表情を浮かべるアリューシアの顔を覗き込んだ。
「うん……グルドフは?」
「いった」
荒い息を吐きながら満足そうに答えた後で、言葉を付け足す。
「貴方の求め方が激しいから………」
「それはこちらの台詞だ」
アリューシアがそう返すのを面白そうに聞きながら、グルドフは彼女を抱き寄せた。
隅に追いやられていた毛布を上掛けごと手繰り寄せ、二人の体の上に掛ける。
「小さいな」
「一人用だからな」
言いながら、アリューシアは自分の背中がすっぽりと毛布で覆われているのに気が付いた。
182 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:30:50 ID:OFkVYKWr
「お前の方にもちゃんと掛かっているか?」
腕を動かし、毛布を半分彼の方へ移動させる。
「構いませんよ」
「いいから、きちんとお前も毛布の中に入れ。風邪を引くぞ」
アリューシアがもそもそ動いたり、グルドフが背中に回した腕で体をぴったりと
押し付けたりで、ようやく何とか二人とも小さめの毛布に包まることができた。
毛布の中の空気が二人の熱で暖かくなっていく。
グルドフの胸元に耳を寄せると、今までの激しい交歓の余韻を残す鼓動が聞こえた。
髪の流れを辿るように、大きな掌で肩や背中を撫でられる。その動きがいつのまにやら
止まったので見上げると、彼は既に安らいだ顔で微かな寝息を立てていた。
無理もないだろう、こんな夜遅く。
夜のしじまを破る物音が、時折風に乗って部屋にまで届いている。
それが外で探索をしている兵士達のものと気付いて、やはり少し後ろめたいものがあるな、
とアリューシアは思った。
メリッサの言っていた「不可解な事件」とは何なのだろう。
しかし、そうは思っても、今更出て行くわけにもいくまい。
はた迷惑な客の腕に包まれ、アリューシアは目を閉じた。
来られるのは困るけど、会いに来てくれて嬉しくないかといえば、嘘になる。
複雑な気分ではあるが、厚みのある体と重たい腕に挟まれているのはとても心地が良い。
いつもこうして二人で一緒に眠りに付くことが出来れば、それはどんなに幸せだろう。
温もりの中で彼の鼓動を聞きながら、アリューシアも緩やかなまどろみの中へと
身を任せた。
*
彼女の体を最低限動かすだけに気を配りながら、そろりとグルドフが寝台から降りたのに
アリューシアは気が付いた。
眠りの淵から這い上がり重い瞼を薄く開けると、身支度を整える彼の姿が視界に入る。
「ああ、まだ眠っていても大丈夫ですよ。夜明けまであと少しありそうだ」
彼女の目に気付き、グルドフが声を掛けた。
「……もう行くのか?」
「ええ」
椅子に投げ捨ててあった黒い外套を掬い上げて身につけると、彼は身を屈めて
アリューシアの頬に口付けをした。
「お邪魔しました」
ぼやけた視界の中で、彼が一度外套を翻し、短く何かを唱える。すると、その姿は
ふっと闇に飲み込まれ、音も無く部屋から消えた。
183 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:34:05 ID:OFkVYKWr
アリューシアはそれを夢でも見ているような気持ちで眺めていた。
先程あんなに訝しんだにも関わらず、彼が彼の言う『いろんな方法』の一つを使い、
閂のかかったこの部屋からそれに触れる事無く出て行っても、半醒半睡の彼女には
それはもはや大して気に留める様な事ではなかった。
彼女は再び重い瞼を閉じ、そのまま深い眠りに付いた。春の気配が漂う靄の中に
朝の鐘が鳴り響くまでの、あとしばらくの間──。
*
その二日後、アリューシアは薬師の作業小屋の戸を叩いた。
「おや、どうも」
仮眠を取っていたのか、小屋の主は顔を両手で擦りながら寝椅子から身を起こした。
「もう暫くしたら、マルゴット様がこちらにお見えになられる。
失礼のない様に部屋の中を片付けておけ」
カツカツと革靴を鳴らし、深緑の制服も凛々しく颯爽と小屋の中に入ってきた彼女を、
だらけた風情でグルドフは見上げた。
「今日はここに来る予定ではなかったはずでは?」
「気が変わられたそうだ」
「あの姫らしいですね」
マルゴット王女の従者として現れた女騎士を前に、グルドフはのろのろと寝椅子から
立ち上がると、作業台の上の整理に取り掛かった。
その長身な背中をアリューシアは険しい顔で見やっていた。
「それともう一つ、言っておかなければならない事がある」
「何ですか?」
「私の部屋はお前の為の身の隠し場所でも、避難所でも、ましてや休憩所でもない。
覚えておけ」
そう言うと、彼女はグルドフのすぐ脇にまで歩み寄り、声を潜めた。
「…………二日前の、城に入った賊というのは、お前なのだな? グルドフ」
確信めいた問いかけに、グルドフは否定も肯定もせずに、醒めたこげ茶色の瞳を
アリューシアに向けた。
「あの晩の侵入者騒ぎは、結局のところ物取りなどの類ではなく、王の玉座の間で財務官
二人が縛りあげられ、床一面に無数の書類が散らばっていただけという随分と奇妙な
事件だったそうだ」
「へえ………」
彼はさしたる反応を見せることも無く、台の上に無造作に置かれていた薬草の束や
道具類を纏めている。
「それとは別に、財務大臣のシェンフェルダー公爵があの夜を境に心の病にかかり、
不可解な言動をするようになったということだ」
「…………」
184 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:36:28 ID:OFkVYKWr
「うわ言で訳のわからぬ事を呟いて、誰とも充分な会話が出来ないのだそうだ。
まるで魔物にでも取り付かれた様にな。このままだと、近いうちに役職を解かれ、
病を理由に永蟄居という事になるだろう」
グルドフが表情を変えずに作業台を整理しながらも、話は聞いている様子であるのを
見届けながら、アリューシアはその傍らで話を続けた。
「最初その二つの出来事には関連はないと思われた。だが──これは公表はされていない
事だが──散乱していた書類を集めて調べたところ、大掛かりな不正が発覚し、
それがシェンフェルダー公爵の指図によるものだとわかった。
縛られていた二人は実際に不正を働いた男で、公爵の右腕と呼ばれる者達だ。
………………二つとも不可解な出来事だが、どちらも魔術を操るお前のような者が
誰かに頼まれてしたことだと思えば、或る程度は納得が出来る。そうではないか?」
真実を引き出そうと、アリューシアは目の前の薬師の反応を探りながらさらに付言した。
「シェンフェルダー家は皇后陛下のご実家でもあり、この国で最も旧い家柄、一族の
多くが要職についている名門だ。だが、公爵の黒い噂は私も何度か聞いたことがある。
その一方で、彼の権勢を恐れて皆追及が及び腰だ、と言う話も………」
「そう、猫の首に鈴をつける者が、誰もいなくてね」
グルドフは手を休めずに淡々とアリューシアの言葉を受けた。
「彼は私腹を肥やすだけに飽き足らず、隣国のフバランカと内通して国王を窮地に
陥れ、玉座を自らの物にしようと動き出していたんです」
「本当か!?」
思わず声を高めたアリューシアに向かって、彼は静かに頷いた。
様々な噂が耳に入ってきてはいたが、まさか、そのような策謀まであったとは。
それならば、グルドフのしたであろう事も納得がいく、とアリューシアは思った。
もし公爵をまっとうな方法で罰すれば、家名を傷つけられまいとする
シェンフェルダー一族からの反発は必至だ。
同時に、彼の陰謀が裁判によって白昼の元に晒されれば、かろうじて和平を保っている
状態のフバランカとの関係にも緊張が走る。
国王にとっては、公爵と関わるどちらとも今は不必要な揉め事を起こしたくないのは、
或る程度国情を知っている者には容易に想像出来ることであった。だから、全てを曖昧に
した状態のままで『猫の首に鈴を付ける』ように、王はグルドフに命令を───
「溜まっていた膿はこれだけじゃない。この機会に出来るだけ膿を出し切る事に
なりそうですよ」
グルドフの言葉に、女騎士は神妙な顔つきになった。
これはもはや自分が軽々しく口を差し挟むべき問題ではない。
アリューシアは一度深く息を吐いた。
185 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:38:15 ID:OFkVYKWr
「…………公爵の関わりは言及されずに、縛られていた男達とその関係者は一掃される
ことになった。だが、彼らを縛った賊のほうは誰が何の目的でこんな事をしたのか、結局
うやむやのままで処理される事になりそうだ。
雰囲気からして、憲兵隊も真剣には犯人探しはしていないな。事件から二日目にして、
もはや形だけといった感じだと知り合いの憲兵も首を捻っていた」
「そうでしょうね」
「それでも、何も事情を知らない衛兵や憲兵の多くはお前にいいように振り回されて
しまったわけだ。……私も含めて」
そう言って非難めいた視線を送ると、グルドフは何食わぬ顔で肩を竦めた。
「家に戻る前に、一息つきたいと思っただけなんですが」
「何が一息だ」
彼女は眉を顰め、ふてぶてしい男を睨みつける。
「自分の起こした事がきちんと騒ぎになるか、見届けるだけでよかったんだろ。
……それなのに、あんな事をするなんて」
「殺伐とした仕事をこなした後っていうのは、潤いが欲しくなりましてね」
「とにかく、これからは城に来た後で私のところに寄るのは禁止だ。
お前はああいうのが楽しいのかもしれんが、私の性には合わぬ。お前が城に呼ばれる度に
あんなひやひやする思いをさせられるのは、御免だからな。今度は来ても叩き出すぞ」
刺々しく告げた女騎士を前に、グルドフは片付けの手を止めて呟いた。
「───あまり禁欲を強いられると、病気になってしまいそうなんですが…………」
「病気になったら薬を処方すればいいだろう。お前は腕の良い薬師だ」
「では、少し顔を見に行くだけでも駄目ですか?指一本触れずに」
「駄目だ」
「水を一杯もらうだけ」
段々とせせこましくなる提案にアリューシアが「却下だ」と短く答えると、
彼は眉間に皺を寄せた。
「ずいぶんとまた嫌がられたものですね」
その顔を見て、アリューシアはぐっと言葉を詰まらせ、目を逸らした。
そして若干の沈黙の後、言いにくそうに言葉を搾り出す。
「…………き、来たら我慢ができなくなってしまうのが今回の事でよくわかったから…
……来ては駄目だ」
「我慢?」
きまりの悪そうに床に視線を泳がす彼女を前に、眉間に皺を刻んだまま、グルドフは
微かに片眉を跳ね上げた。
「─────我慢って、何の?」
「そっ、そういう事をいちいち私に言わせようとするなっ!!」
動揺を必死で押し隠すアリューシアはそう叱り付けると、急いで元の威厳を身に纏い、
扉へと向かった。
186 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:42:04 ID:OFkVYKWr
「とにかく、私に話はそれだけだ。姫は今、殿下とお食事中だ。食事を終えられたら
姫をお連れして又来るから、それまでにこの辺りを掃き清めておけよ」
聞こえていないかのようにグルドフがむこうを向き、ふっとため息を付く。
「せっかく城に行った後の楽しみが出来たと思ったのに……」
「わかったのか、わからんのか、返事は?!」
「わかりましたよ。ああ、それで──」
グルドフは人差し指を口に当てた。
「今回の事は、内緒ですよ。貴方には、ばれてしまいましたが」
「……口外できるわけないだろう」
扉を開け外に出たところで、グルドフが彼女の背中に声をかけた。
「アリューシア」
「何だ」
「また四日後に」
「…………」
扉の向こうに立ち止まったアリューシアを前に、普段通りの飄々とした口調で
彼は言葉を続けた。
「今度の逢瀬では、貴方も後ろめたい気持ちにならずに心置きなく乱れる事が
出来るでしょうから、安心してお越し下さい。
………………まあ、なんだかんだ言っても、先日の貴方も中々のものでしたが」
硬く口を引き結んだ女騎士の顔が、はっきりとそれと判る程、さっと赤らんだ。
「お待ちしています」
常に冷静で、涼やかな目をした薬師の口元が僅かに上がる。
堅物な彼女をつついて、その反応を楽しんでいる時に時折見せる表情だ。
「そんな事ばかり言っていると、もう此処には来てやらんぞ、馬鹿者っ」
声を荒らげ、叩きつけるように扉を閉めていったアリューシアが、後日、彼の元を
のこのこと訪ねたかどうかは………まあそれは、内緒の話という事で。
(はた迷惑な客 END)
187 :
はた迷惑な客:2007/06/05(火) 13:43:32 ID:OFkVYKWr
以上です。
読んでくれる方、感想くれる方、
いつも励みになってます。
ありがとう。
アリューシアのピロートークが凄まじくエロかわいい
GJです。
グルドフめがっさ有能杉
だがそこがいい
アリューシアお待ちしてました〜!
GJ!! 今回も堪能いたしました!!!
GJ!真面目騎士の振り回され感がたまらないw
GJ!
こちらこそいつもありがとう!!
あなたの書かれる話は大好きだ!
男の俺でもアリューシアだけでなくグルドフにまで萌えるから困る
この二人の絶妙の噛み合いはまさに最強
前回は感想をありがとうございました。おかげさまで一月ぶりに続編が仕上がりました。
テキストで約32KB、今回は少女兵の異種姦凌辱(?)ものです。
そこまでハードなものではないつもりですが、苦手な方はスルーしてください。
1
狭い山道に車輪の音を響かせ、駄馬に曳かれた輜重隊が行く。
駄馬を引く人夫は、守備隊が駐屯する城塞近隣から集めた農夫たちだ。
その輜重隊を指揮するのは、私こと守備隊副長、ユアン・ランパートである。
馬車にはいっぱいに物資が詰め込まれている。兵糧、矢束、油壷、武具や毛布の数々。いずれもいま守備隊が切実に必要としているものだ。
これらのうち特に油壷は、ただ照明や暖房をまかなうためのものではない。
その内容物は、いったん点火すれば爆発的に燃え上がり、きわめて強大な火力ですべてを焼き尽くす新兵器『火蜥蜴の油』である。
騎士修行時代、物珍しさも手伝って何度か扱ってみたことがある。手投げが可能な大きさの火壷へ小分けにされたそれらは、特に城塞戦で大きな威力を発揮するはずだ。
北の森の悪魔復活の兆候――魔物による大挙侵攻の可能性。
私がそれを書類にまとめ上げ、騎士修行時代に従姉妹殿の陰で築いていた要路の人脈を通じて報告したことで、王都も今回の案件の重要性を認識したようだ。
それで王国の軍需倉庫に保管されていた、この『火蜥蜴の油』をはじめとする物資の数々が、今回私たちに補給されることになった。今の私たちは、それを受領しての帰路にある。
だが護衛隊の陣容は、決して十分ではなかった。
そもそも指揮官が私という時点で推して知るべしであろうが、その数少ない兵にも、正規兵はほとんどいない。
護衛隊の主力は、近隣の村落から徴募した壮丁による民兵隊である。確かに彼らは辺境に生きる身体壮健な男たちではあるのだが、なにぶん軍隊で死活的に重要な組織的行動に慣れていない。それに、人数も少ない。
そこで人夫たちにも、なまくらではあるが一応は剣を配ってはいる。しかし気休めにしかならないだろう。
この状態で、もし強力な魔物の群れや何かと遭遇したらと思うとぞっとする。
だが、現状を呪うばかりでは何も始まらない。堅い甲羅も鋭い牙も望めないなら、頼みの綱は長い耳だ。
「あのう、副長殿。兵隊さんが、前から戻ってきなすったっすよ」
「――ん。ああ」
下からの民兵の言葉が、騎乗していた私を物思いから引き戻した。
ちょうど輜重隊の前方から、小柄な軽装の弓兵がひとり駆け戻ってくるのが見えていた。
輜重隊はその前後に二人ずつ、身軽な哨兵を配置している。彼らが安全を確認しながら進むことで、本隊の安全を確保するという寸法だ。
彼らの荷物は輜重隊が預かり、可能な限りに身軽にしてある。しかし周囲を索敵しながら、常に主力に先行して進まねばならない彼らの心身の疲労は察するに余りある。
彼らが疲れ切ってしまい、輜重隊の耳目の役割を果たせなくなるような事態だけは避けねばならない。
そうして休ませるための交替要員も必要になることから、私は必ずしも十分な数の哨兵を配置できていなかった。現状の布陣はぎりぎりの最低限度だ。
「止まれー!」
軽快に駆けてくる小柄な影が近づき、私は輜重隊に停止を命じる。
そして眼前に辿りついた弓兵が、浅く息をつきながら私に報告した。
「この先に、車陣を組めるだけの広場があります。稜線に出るから視界もそれなり。――そろそろ大休止には良いかと思いますが? 副長殿」
てきぱきと要点をまとめ、しかし、どこか声色に敵意を絡ませて報告するのは、高い少女の声。
汗に濡れながら弾むショートカットの黒髪の下で、勝ち気そうな灰色の瞳が私を挑むように見上げている。
彼女の名はハンナ・グレアム。守備隊の新入り弓兵にして、守備隊の屋台骨たるライナ・グレアム軍曹の一人娘である。
2
どういうわけかは分からないが、彼女はひどく私を嫌っている。この前など訓練中の事故を装って、いきなり目の前に矢を射ち込まれたことさえあった。
最初は単に私の頼りなさ、実力不足が気に入らないのかとも思っていたのだが、最近どうもそれだけではないような気がしている。しかし、それが何なのかがさっぱり分からない。
とはいえ、それはさておき。何故……数少ない護衛正規兵の一人が、よりにもよって、この扱いにくい少女なのだ。
いや、理由は分かっている。分かっているのだ。
最近ますます魔物の活動が活発化してきており、守備隊は正面での戦闘や斥候、警備に前にも増して兵力を取られている。
城内には負傷者が搬送され、村の女たちが看護のために詰めてきている。
同時に正規兵の不足を補うため、武器庫から武器を搬出して、近隣村民による補助兵力として民兵隊の編成も始まっていた。
そして従姉妹殿は守備隊の主力を率いて、ライナ軍曹が指揮する分遣隊とともに激しい戦闘に明け暮れている。
熟練の正規兵は、そちらにすべて割かれている。その実力に一目置かれてはいても、未だ目立った戦功もない新兵のハンナが護衛隊へ回されたのもやむを得ないことだ。
この任務に出る前の見送りのときも、従姉妹殿の鎧には返り血が散っていた。
従姉妹殿はいつも通りの感情を見透かさせない、力強い調子で私たちの無事を祈ってくれたが、いま本当に幸運が必要なのは彼女たちのほうだろう。
そのためにも私は、この任務を成功させなければならない。
王国軍需倉庫からの補給物資。必ずやこれを無事持ち帰り、援軍到着までの体勢を磐石のものとするのだ。
私への態度はともかく、ハンナが年若くとも優秀な兵士であることだけは間違いない。不幸中の幸いだ。城塞までの帰路、なんとかして彼女を使いこなしてみせるしかなかった。
私は馬を輜重隊に先行させ、ハンナの報告した広場を確認した。なるほど、確かにここなら警戒も防御も容易と思える場所だった。
私は後続を導き入れると馬車を鎖で繋げて円陣を組み、その内側に人馬を入れて休ませた。護衛兵たちが弓や弩を構えて、交代で見張りにつく。
馬車そのものを防御壁として活用する、車陣と呼ばれる戦術だ。
「ユゴー伍長。哨兵の交替要員は出したんだね?」
「はっ。ほとんどが民兵ですが、猟を営んでいる者たちです。この手の任務では、むしろ我ら正規兵より心得たものでしょう」
「うむ。そう期待したいな」
守備隊の古株であり、この護衛隊では私に次ぐ階級である初老のユゴー伍長に確認すると、私は山道の前後に目をやった。
体力と集中力を維持させるため、哨兵は数時間おきの大休止ごとに交替させる。それが城塞出発前から示してあった、私の方針だった。
しかし交替して戻ってきた哨兵はひとり少なく、代わりに先ほど送り出した交替要員の一人が、申し訳なさそうな顔でそこに立っていた。
「なんだ、いったいどうしたんだ?」
「あ、あのう……。ご命令どおりに交替へ行ったんですが、……ハンナが……」
交替要員に出したその民兵は、近隣の村の若者で――ハンナの顔なじみの一人だった。
聞けばハンナは彼との交替を意固地になって断りつづけ、それでも若者が折れずに粘ると、ついには剣を抜き、弓矢を突きつけて帰るよう脅したというのだ。
昔からの彼女を知っている若者はそれで青くなり、とっとと逃げ出してきたという。
「…………。彼女らしいというか、なんというか……」
その話を聞いても、私にはこの若者のことを情けなく思ったり、ましてや命令不服従として叱責するような気持ちは起こらなかった。
私にも似たような破天荒の幼馴染みがいたし、何よりハンナの気性の激しさと私に対する反抗的な態度は、私の骨身にも染みていたからだ。
しかし、放置しておくわけにはいかない。このままでは規律はもとより、輸送任務全体に致命的な影響を与えかねないからだ。
どうあっても、ハンナはここで休ませる。
「ご苦労だった。君たちはここで休め」
「副長殿はどちらへ?」
「私が直接話してくるよ。伍長、ここを頼む」
「え、あ――はっ!」
ユゴー伍長にその場を託すと、車陣の切れ目から、私はハンナの持ち場へ馬を走らせた。
3
少女兵の姿は、尾根の疎らな木陰にあった。
翳りはじめた午後の光の中で、ハンナは見事に緑の陰影へ溶け込んでいる。
事前に示しておいた配置から見当をつけながら、よほど目を凝らしていなければ気づかなかっただろう。
私は下馬し、下生えを蹴散らして彼女へ歩み寄りながら呼んだ。
「大休止だ。哨兵をみな交替させる。ハンナ、君も車陣へ入って休め」
「……はぁ?」
露骨な敵意を宿した目で振り返ると、少女兵は臆することなく異を唱えた。
「大丈夫ですよ。このまま城塞に帰り着くまで、ちゃんと前衛を務めてみせます――あなたとは鍛え方が違うんですから」
ハンナは払暁と同時の出発から今まで、既に半日以上も前方での警戒を続けていた。実に並外れた、素晴らしい持久力といえた。
だが彼女への賞賛は別として、休ませないわけにはいかない。
城塞への帰路は未だ道半ばだ。ここで彼女を使い潰してしまったり、あるいは疲れさせたせいで本当の危機を避け損ねたら、元も子もないのだ。
「ハンナ。自分で気づいていないかもしれないが、君は疲れている。これは君一人だけじゃなく、部隊全体の問題なんだ――」
「自分のことは自分がいちばん分かってますよ。あなたこそ指揮官なんですから、さっさと戻って休んでくればどうなんですか」
少女は苛立たしげに舌打ちして明後日を向き、私を歯牙にもかけない。予想できたことではあったが、やはり彼女は取り付く島もなかった。
私は溜め息をつき、なんとか彼女に命令すべく次の手を考える。
だがそのとき、ハンナが不意に声をあげた。
「――あ」
「どうした?」
声を発しようとした私をきつい横目で睨みつけ、少女は蛇のように身を低くしてその方向を見る。
「どうした? 何が――ぐむ!」
反応の遅れた私の頭を無理矢理押し込んで地面へ倒し、ハンナは遠方の谷を這いつくばりながら凝視していた。
私もハンナの手に押さえ込まれた頭を動かし、その方向へ目を凝らす。
遠方の谷にゴマ粒ほどの、なにか黒い人影らしきものが蠢いている。複数。
私の視力では判然としないが、あれは、まさか――
「小鬼」
ハンナが断言する。魔物だ。
私は素早く、彼我の位置関係と戦力比を計算した。
今のところ、敵はこちらの存在に気づいていないようだ。だが、あの場所は輜重隊の予定進路にごく近い。
決断を急がなければならない。すぐに迂回路を取るか、あるいは引き返すか、それとも一気に突っ切るのか?
戦闘になった場合――あれだけの数なら、この護衛隊でも撃退は可能だろう。
だが敵戦力がいま見えているだけとは限らないし、何より貴重な軍需物資と鈍重な車列を抱えたままで戦うなど、どうあっても避けたい事態だ。
最善手を模索して黙考する私の目の前で、いきなり影が動いた。
素早い動きでハンナが這い出し、弓を手にしたまま、尾根の陰を滑るように降っていく。
「ど、どこへ行く気だ!?」
「奴らに探りを入れるんですよ! どのみち情報は必要でしょう? それにもし主力が気づかれるようなら、陽動をかけて奴らの目を逸らせます。後で合流しますから、先に行っててください!」
「ま、待てハンナ! 勝手な行動は――」
「はっ。どっちにしろ、時間稼ぎは必要でしょうが!」
吐き捨てると、ハンナはそのまま眼下の森に紛れて駆け去り、すぐに五感で追えなくなった。
「くそっ……!」
私は歯噛みしたが、確かに今は彼女一人に関わっていられる事態ではない。
踵を返して騎乗すると、私は本隊の車陣へとひたすら駆けた。
4
昼下がりの森を、ハンナは滑るように駆け抜けていた。
「はっ……。普段の道理だけで、戦場の筋が見えてない奴って最悪。本当、なんであんなのがウチの副長に収まってんのよ……!」
国王陛下にお仕えする王国軍守備隊の兵士として、陛下が直々に叙任された騎士を上官に頂くのは当然のことだ。
だがそれならば、なぜあのような男が副長なのだ。せめて――フレア隊長の数分の一ほどの力量もある騎士であれば、こちらも進んで仕える気になれるというものを。
「フレア、隊長……」
唇から熱い言葉がこぼれる。森を行く少女兵の頬に、疾走のためでない赤みが走った。
常に寡黙でありながら果断、烈火のように激しい力強さと、乱れることのない水鏡のような平静さを併せ持った女騎士。
兵に対しても威厳を保ちながらも、その指揮の背景には細心の慈愛を感じ取ることが出来る。
本当に信頼して心からの忠誠を誓える、命ぜられたなら地獄まででもともに進軍できる上官だ。
彼女が自分より、ほんの三つ年上の娘でしかないなど信じられない。強く凛とした赤髪の女騎士は、着任から今までの僅かな間に、ハンナの心を奪っていた。
本当は自分も、フレア隊長の指揮下で魔物を迎撃する主力部隊への配属を志願した。だが母が、ライナ軍曹が反対したのだ。
個人としての実力はあってもまだ若すぎる、しかも戦功に焦るハンナを矢面に置くことは、部隊全体を危険に曝しかねない。ライナはそう判断していた。
そのライナにしても原因までは掴みきれていないことだったが、ハンナのそうした傾向はここ最近で、さらに顕著になっているように見受けられていたのだった。
そのための、比較的安全と見られる輜重隊護衛への配置だったのだが、今はそれが裏目に出てしまった。
「これは、好機なんだ。……ここで手柄を上げれば、母さんも、フレア隊長も認めてくれる。あんな奴なんか、今度こそ何も言えないようにしてやれる。あんな奴より私のほうがずっと必要な人間だって、フレア隊長に認めてもらえる……!」
ハンナは知っていた。誰に対しても常に冷静さを崩すことなどないように見える憧れの女騎士が、実は密かに、その態度の例外を一人だけ作っていることを。
「どうして……。どうして隊長が、あんな奴なんかに……!」
彼女を一途に懸想する、自分だけが気づくことが出来た。
あの男と話すときにだけ見せる、彼女の瞳の輝き。微かに息づいた弾む物腰。柔らかな口許と穏やかな眼差し。
あいつだけが、あの人の特別。
千千に思いの乱れる胸をぎゅっと掴んで、ハンナはひたすらに森を行く。
だが、それも今日までのことだ。
あの小鬼の群れは、決して小規模な集団ではあるまい。こんな今まで魔物の話もなかった山道に、突如として出現するのも不自然だ。北の森から湧いて出た魔物の別働隊という可能性もある。
何らかの情報を掴むか、あるいは弓の一撃で首領を討ち取る。
首領を討たれれば群れは混乱を来たし、跡目争いを起こして次の首領を決めるまで身動きも取れなくなるだろう。それだけで、守備隊は自分の戦功を認めざるを得なくなる。
そうすれば、彼女の目を覚ますことができる。出自と血縁、ただ幼馴染みというだけで近くにいられるあんな男より、ずっとフレア隊長の近くに行ける……!
「――!」
目の前の木々が途切れ、その向こう側に小鬼たちの姿を認めてハンナは止まった。弓を抱えたまま地に伏し、慎重に様子を窺う。
思ったとおりの大集団だった。目の前にいるだけで、実に20体近く。
小鬼たちの社会では、単純に身体の大きさが地位に直結する。最大の個体が指揮官格ということだが、一望する限り、これだけの群れを統括できるような個体は見当たらなかった。
他にも別働隊がいるはずだが、いずれにせよまともに相手できる数ではなかった。
「だけど、動きがない。行軍中に休止している風でもないし、どこかに拠点を置いて、待機しているのか?」
小鬼たちは石斧や棍棒などの原始的な武装のほか、下士官クラスと見られる一部が人間の武器を装備して、特に移動する様子もなく、ただ漫然とそこに群がっていた。
ハンナはこの群れから慎重に離れ、迂回した。だが、すぐに別の集団を発見する。やはり20体前後。
そうした偵察を繰り返すうち、ハンナは敵情を掌握した。
確認できた小鬼は4個小隊、総数70ほど。ほぼ一定の間隔を取って待機しており、そして彼らの布陣の中央には何らかの空間が開けられている。
この偵察に要した時間の間にも、小鬼たちはいっこうに動く様子を見せない。
ハンナは敵の配置から、侵入経路を勘案した。小鬼どもは情けなくダレており、警戒も適当で密度もバラバラ。中央への侵入は、決して不適当ではないように思えた。
夜を待ちたい気持ちもあったが、ハンナはすぐにその考えを捨てた。
ここから街道までは、絶妙の距離にある。すなわち街道からここの存在はなかなか気づけないが、こちらから街道に見張りを立てておけば、一気に街道へ躍り出て、輜重隊を襲うことが可能なのだ。
だが、今や攻守は逆転している。敵は無防備な脇腹を彼女の前に晒し、油断しきって横たわっているのだ。
速戦即決。それ以外にない。
周囲の地形を一通り頭に入れると、ハンナは敵中へ忍び込んだ。一応の歩哨らしい小鬼の隙間をあっさりと抜いて、木々と草葉の間を縫うように進む。
途中も何体か、バラバラと立つ小鬼には遭遇したが、ハンナに気づく様子はなかった。彼らは仲間同士で無意味にじゃれあうか、その辺の果実や昆虫を漁るのに熱中していた。
やがてハンナは歩測で、自分が敵陣の中央付近に達しつつあることを知る。敵の首魁がこの近辺にいると睨んでいたが、予想を外したか、それとも単なる留守か。
戸惑いながら次の行動を考えていたハンナの、六感が不意にざわめいた。
「!」
矢筒から矢を引き抜き、弓へ番えながら獣の動きで振り返る。
つい先ほどまでは確かに何もなかった場所に、顔面を驚愕に染めた小鬼が現れていた。
至近距離からの強弓が、小鬼の頭を林檎のように射貫く。石斧を掴んでハンナの背中を襲おうとしていた小鬼はそれで即死したが、断末魔に高い叫びを上げていた。
全身から血の気が引く。
周囲でまばらに散っていた小鬼たちが駆け寄り、仲間の死体と侵入者を発見する。
そこへ向かって、ハンナは矢継ぎ早に弓を引き絞る。奇襲的な矢はあっさりと急所を射貫き、3体が続けて屍骸となった。
「なんてこと……っ!」
囲みの外を目指して、飛ぶようにハンナは駆けた。弓矢の射程と発射速度では、一度に相手出来る数は限られる。一群と出くわせばひとたまりもない。
だが何故、自分は最初の小鬼に気づかなかった? 草むらにも頭上の枝葉にも、自分は意識を向けていた。小鬼を見落とすなど考えられない。
いったい、何故――
囲みの外縁を抜ける直前、十体近くの小鬼が一丸となって駆け込んでくるのが見えた。他の集団の気配は遠い。
たった一人でぶつかれば、勝算は良くて五分五分。だが、もはや強硬突破しかない。
ハンナは即座に決断し、少しばかり高い地面の隆起へ跳び上がると、太い幹を盾にして弓を絞った。
「ギルラルラアァァ、グブッ!」
奇声を発し、石斧や棍棒を振り回して迫る小鬼が、次々に分厚い毛皮を射貫かれて転がる。
下手な革鎧ほどの防御力を誇る小鬼の毛皮も、ハンナの矢には無力だった。その狙撃はこの期に及んでなお精確で、狙いを外すことがない。
団子状態で疾走していたところを射られて、倒れた小鬼が後続の足に絡む。動きが止まったところを、ハンナはさらに容赦なく狙撃した。
「グゥウウウウッ!」
「!」
一方的に的にされつづける状況へ業を煮やしたのか、先頭になった小鬼の一体が石斧を投げつける。
ハンナは盾にした木へ引っ込みながら反対側へ身を乗り出し、素手になったそいつは無視して、武器を持った後続を射殺した。
「一体でも、多く……!」
ハンナの射撃は速射の面でも並外れていた。小鬼どもが数十メートルを走り抜ける間に放たれた矢は、十体近かった小鬼どもを最後の二体にまで削り取っていた。
だが、もう弓矢の間合いではない。
「グジャァアアアッ!!」
「来いッ!」
素手の小鬼が拳を、もう一体の生き残りが棍棒を振り上げ、ハンナは剣で応戦する。
素早い踏み込みで棍棒のほうへ跳び掛かり、削り取るように刃を滑らせた。
棍棒に柄や護拳などない。小鬼の強烈な打撃を受け流すように走った刃は、一気に指を切り落として棍棒を明後日へ放らせる。
そのまま剣を返し、無防備な喉を貫いた。渾身の力で蹴飛ばしながら剣を抜き取り、最後の一体とも距離を開く。
「グルゥ……!」
最後に生き残った素手の小鬼は、ハンナの剣を突きつけられて逃げ腰に、恐れるように呻いた。
最後の一体。だが、他の敵がすぐに駆けつけてくる。今すぐこいつを始末し、一気に逃げ去らなければならない……!
その焦りが、今まで守勢に徹していたハンナを攻めに転じさせる。
「死ねえぇっ!!」
「ヒッ、グアアゥッ!」
予想外の強敵の接近を恐れて小鬼は引いたが、退路の途中で何かに気づいた。笑みのようなものを浮かべる。
「!?」
それに気づいた次の瞬間、ハンナは何かに足をすくわれていた。
あっと思う間もなく視界が反転し、少女の身体は宙を舞って森の地面へ叩きつけられる。肺の空気が叩き出され、一瞬、身動きが取れなくなった。
そして小鬼たちには、その一瞬だけで十分だった。
素手でハンナに追われていた小鬼が身を捻って反転し、少女兵に伸しかかって組み敷く。小鬼の単純な筋力は疲れたハンナを圧倒し、揉み合う間に敵の後続が殺到した。
「こっ、この! 離せ。離せ、離せ――っ!」
弓矢と剣を奪われ、ハンナは乱暴に引き立てられる。小鬼たちのきつい体臭が鼻を突いたが、それとは別の情報が少女の意識を支配していた。
何の変哲もない草むら――いまハンナが転んだ場所をかき分け、地下から沸いて出てくる小鬼たち。
彼らが、ハンナの足を掬ったのだ。
天然か人工かは知らずとも、網状に張り巡らされた地下洞窟だ。その入り口は草で巧みに偽装されており、そしてハンナはそれを見破れなかったのだ。
屈辱と後悔の中で、覚めゆく戦闘の興奮が、虜囚となった事実を少女へ残酷に突きつけた。
5
乱暴に両腕を封じられたハンナが引きずりこまれたのは、森の中の洞窟だった。ここが洞窟網の中核、小鬼どもの拠点なのだろう。
最奥の大部屋は崩落したのか、頭上に外界への大穴が開いて森が覗け、土砂と岩石がうずたかく山を作っている。
その山で玉座のように折り重なった岩に腰掛ける、図抜けた体躯の小鬼――いや、鬼の前に、ハンナは引き立てられた。
「ぼ、ごぼぼぼぼぼぼ……。お、女……若い、娘……」
「小鬼が、人語を……!?」
その事実に、ハンナは慄然とする。基本的に知能の低い小鬼が人語を操る。それはつまり、目の前に座す小鬼たちの王が、かなりの歳を経た怪物であることを意味していた。
汚らわしい獣欲に満ちた、ぎらつく黄色の大きな眼で、鬼はハンナの全身を舐めるように観察した。
「お、オマエ、オデの仲間、大勢殺した……。だからオマエ、オデの子、大勢産まセル。イッパい犯シテ、いっパイ孕マセる」
「な。何をっ……!」
小鬼どもの王は玉座から立ち上がると、鋭く伸びた太い爪をハンナの眼前へ突きつける。それにも怯まずにハンナが睨み返すと、含み笑いしながら、その爪先をハンナの肩口に当てた。
弓の弦から胸を守る、革の胸当。それを縛る紐をことごとく断ち切ると、そのまま爪で払いのける。裏側に底の浅い曲線を描いた胸当が転がり、薄い乳房でささやかに押し上げられる上着へ、鬼は次の目標を定めた。
ぷつ、と繊維の裂ける音がして、爪はゆっくりと布地を切り裂いていく。めくれた上着から白い肌と、そこに引かれた赤い線が露わになり、周りの小鬼どもがどよめいた。
だが、汗で素肌に張りついた上着をすべて切り裂いてしまう前に、鬼は途中で爪を止めた。
「……ふム」
「な……何。やるんなら……一思いに、やりなさいよ」
なお気丈さを崩そうとしないハンナの顎を上げさせ、長い舌で少女の頬を舐めずりながら、呟いた。
「タ、……たダ脱がセルだけでハ、面白くナイよなァ……?」
「な、何……?」
「オイ!」
「ギッ!」
鬼が一声あげると、背後に控えていた小鬼が何か持ってきた。壷だ。
器用に壷の栓を抜き取ると、鬼は卑しい笑みを浮かべて、その中身の液をハンナの胸へ垂らした。
「な、何を……あっ!?」
透明の液はハンナの衣服に触れるや否や、しゅうしゅうと音を立ててその繊維を溶かしはじめたのだ。
「ッ!!」
さすがに恐怖が沸き上がり、ハンナの肌を青ざめさせた。酸か?
醜く焼かれる肌と肉、そして未知の激痛を思って少女はきつく目をつむる。
しかし、いくら待っても、肌を焼く痛みは訪れなかった。
「え……? な、なに……?」
だというのに、明らかにそれとは違う種類の熱を感じて、ハンナは堅くつむっていた目をそっと開く。そして、目を疑った。
「なっ……何、これェ……!?」
ハンナの上半身を包む衣服だけが、どろどろに溶かされて煙を上げている。
だがその下に覗く白い素肌は同じく濡らされながらも、何の侵食も受けることはなかった。
衣服だった繊維が半液状のだまになり、ゆっくりと肌を伝い落ちる。液は繊維へ染みるはしから煙を上げて、ハンナの衣服を冒していった。
上着が完全に溶け落ちると、次に冒されたのは、その下で胸を縛りつけていた布帯だった。なだらかな双丘の谷間へ液が流れ込み、そこを集中的に溶かしていく。
早熟な乳房をぎゅっと縛りつけていた布帯が、中央から溶かされて細まり、ついには押さえつけられていた内側からの反発力を抑えきれなくなっていく。少女は甘い悲鳴をあげた。
「あっ……! や、やだぁっ!」
とうとう布帯は、あえなくプチンと音を立ててちぎれ落ちる。まだ若干の堅さがあるが、しかし既に十分な丸みを帯びた青い果実がふたつ、弾けるようにまろび出た。
「オホッ!」
小鬼どもが奇声をあげる。胸当と布帯で二重に圧迫されていたのは、母親に負けず劣らずの将来性を感じさせるだけの乳房だった。
守備隊員を志し、隊員たちに混じってひたすら鍛錬を重ねた幼い日々。
四肢とともに次第に育っていく乳房は、幼かった彼女にとってひどく異質で、増していく胸の重みは恐怖感すら感じさせた。
だからハンナは、その胸を布帯できつく押し潰してきた。
そうまでして隠してきた柔らかく弾む乳房は、いま邪悪な小鬼どもの目の前へ無防備に曝け出されてしまっていた。
「オホッ。おおお思ったより、え、エエ乳しとるなァ……!」
あえなく剥き出しにされた思春期の乳房を、鬼は遠慮もなく眺め、長い舌を伸ばして嘗めまわした。
「ひぅぅっ!」
ざらりとした感触が、汗ばんだ乳房の滑らかな白い肌を襲う。舌はそのままハンナの乳房に巻き付き、乳肉をぎゅっ、ぎゅっと絞り出すようにしごいてみせた。
「グ、グゲ。チチ、チチ……。いいゾ、オデの子孕めばお前の乳、すぐ、もット大きくなる。オデの子、いっぱい吸える……!」
乳房の裾野をぐるりと二周した舌が乳肉を捏ね回しながら、桜色の尖端を執拗に責めた。
「やっ、やめろ。止めろ……っ、ひあっ!?」
同時に鬼はハンナの股間へ片手をやり、下着を剥いて秘裂の入り口へ触れていた。
「ギギッ。――濡れテオる。ふしだらに濡れておるぞ、娘ェ」
溢れる蜜を一筋すくうと、鬼はそれを少女の顔面へ突きつけた。潤んだ瞳が驚愕に揺れる。
「う、嘘。嘘だ……そんなの、そんなの、あるわけない……」
あの女騎士に出会ってから、密かに寝床や物陰で、うずく熱に追われるままに耽った手淫。
一度だけ触れたフレアの指先の感触や、流れる赤髪から覗くうなじ、凛とした号令を発する形の良い唇を想いながら重ねていた、禁じられた淫らな、しかし純粋な慕情に則った行為。
そのときと同じ熱を持った蜜が、こんな醜い小鬼どもに四肢の自由を奪われ、爪と怪しげな薬で半裸に剥かれた今、同じように溢れてきている。
「悦ンデおるナ。感じテおるなァ? まだ年端も行かぬ身でありながら、なンとふしだらな娘ヨ」
「ち、違う! 違う。こんなの……こんなの、違う……!!」
必死に否定しながらも、自分が分からなくなりそうだった。今までの犯される恐怖とはまったく別の恐怖が、ハンナの胸に渦を巻いた。
指についた愛液を舐め取りながら、鬼は独りごちるように呟く。
「クブブブ……確かにヨゥ効いてオルわ。山向こうの。盟約ノ品々、なかなか良イものを寄越シテくれタようだナ」
「え……?」
こいつ、今、なんて――
なんとか恐怖から立ち直り、鬼の言葉の意味を探ろうとしたハンナは、しかし、すぐに思考を凍らされる。
「あ、……」
「さァて……準備ハ万端。オデの子種を植えつける苗床も、じゅうぶん濡レたことだしなァ……!」
「う、嘘……こんな……こんなのって……」
恐怖に染まっていくハンナの瞳の中で、鬼の男根が堅く大きくそそり立ち、堂々と天を突いていた。
真っ黒な、堅くごわごわとした鱗のような角質に覆われた男根は、馬並みなどという言葉すら陳腐に思われるほどの邪悪な豪壮さを誇っていた。
それでいて男根は先走り汁に濡れててらてらと光り、淫靡な印象を際立たせている。
こんなものに侵入されたら、自分は……いや、それ以前の問題だ。……入るわけがない。
あんな太くて大きな、ゴツゴツとした堅いものが、……自分の中に、入るわけが……
「サ。イくゾォ」
圧倒的な現実に思考を停止させられ、ただ呆然と見上げるだけのハンナをなんとも満足げに見下ろしながら、鬼は両腕を封じられた生贄の直前へ、ゆっくりと進んだ。
両手をハンナの腰へ伸ばす。不用意に爪で切り裂いてしまわぬよう、彼なりに一応の注意を払いながら、突き込んだときに少女の腰を逃がさぬよう、軽々と宙へ持ち上げると、力強くしっかりと掴んで固定する。
宙に泳ぐ両足にも小鬼たちが一体ずつ取りつき、彼女の四肢を完全に封じた。
「嘘……嘘だ……嘘だ、こんなの……」
うわごとのように繰り返すハンナの、その剥き出しにされたままの細く小さな縦筋に、鬼はゆっくりと長大な男根の切っ先をあてがう。
「ひっ……!」
鬼の陽物がまとう粘液が女肉に触れて、ハンナはなんとか逃れようと発作的に身をよじる。
だが小鬼たちは欲情しきった喜悦を浮かべながら、ハンナの四肢をいっそう強く押さえつけた。
「ぐぼぼぼぼ……そォレ……」
若鮎のようにしなやかな下肢の付け根、胸よりも肉づきの薄い14歳の少女兵の臀部を握る。
その感触を楽しむようにしながら、これ以上ない邪悪な喜悦を浮かべつつ、鬼はゆっくりと腰を押し込みはじめる。
「あッ……!」
びくうっ、とハンナの身体が跳ねる。
自分の太股ほどもあろうかという男根による侵入を拒否しようと、全身の力で健気に足掻いた。
しかし両腕と両足に一体ずつ取りついて組み伏す小鬼たちの前では、少女による必死の抵抗はあまりにも儚い。
その間にも男根の尖端、強いいぼの浮いた真っ黒な亀頭は、ゆっくりとハンナの膣口を押し広げつつ侵入していく。
「嫌っ……嫌あぁぁっ、嫌あああああっ……。抜いて。抜いてぇ、こんなの嫌、絶対に嫌、――入ってこないでぇえええ!!」
少女の肉は敏感に、圧倒的な質量でゆっくりと侵入してくる岩のような質感と、それがまとう粘ついた先走り汁の侵入を感じていた。
犯される。
犯されて、いく。
「グフゥ……ッ! ヲ、オウゥッ……?」
「あっ……あっ、あああっ……あああああああああ……っ!!」
この堅い肉棒の切っ先から、汚らわしい子種の汁を、膣のいちばん奥でいっぱいに注ぎ込まれるんだ。
子宮までをも満たされて腹を大きく重くされ、何の知恵も理性もない、小鬼を宿され、産まされるんだ……!
眼を見開いて絶叫しながら身をよじり、しかし次第に絶望に染まっていくハンナの反応を楽しむように、鬼はひどくゆっくりと腰を進めていた。
だが、まだ亀頭の前半分すら少女に埋まっていないというのに、その尖端は少女の肉の、明らかにこれまでとは異なる種類の抵抗に遭遇する。
寸時、鬼は挿入を止めて笑った。
「ぐ、げ、げ、げ……オマエ、処女か。処女かァ……」
この鬼はそれこそが、この少女兵がその身にまだ男を迎え入れた経験のない、清い身体であるという証明であることを知っていた。
激しく絶叫してなおも無駄な抵抗を続けようとする少女兵に、鬼はいっそう征服欲をたぎらせる。
美しく勝ち気なみずみずしい処女を弄ぶのは実に得がたい悦楽だったが、そうして極限まで高められた原始的な獣欲は、そろそろ我慢の限界に達しつつあった。
一気に突き破り、そのまま最奥まで押し込んでやる。
おそらくそれだけで、もうこの少女兵の肉体は一族の新たな苗床としてはもう使い物にならなくなってしまうかもしれない。
だが、そんな打算を脇へ押しやるほど、鬼はこの美少女に欲情していたのだ。
こふうう、と鬼は深く呼吸する。一瞬だけ男根の侵入が止まり、むしろ後方へ腰を引く。
自分の中から寸時、鬼の気配が遠のく。だが次に何が起こるのか、ハンナは本能的に理解していた。
「あ、ああ……私、私……こんな、奴なんかに……母さん……フレア、隊長……」
「ふゥン……ッ!!」
ぎゅっ、と腰を掴む鬼の両手に力が篭り、きつい鼻息が吐き出された。
来る。
「いやぁぁああぁぁぁああーーーっ!!」
次の瞬間に襲い来るであろう破滅的な蹂躙と激痛を思い、ハンナはきつく目を瞑って声の限りに悲鳴を上げた。
「おぶゥ――ッッッ!!!」
「ギャハワゥアーーッッ!!」
そして鬼と小鬼どもが、この世のものとも思えぬ絶叫を上げ――
ハンナの身体は、鬼と小鬼どもによる拘束をあっさり解かれた。放り出され、地面へ落とされる。
破瓜の痛みは、いっこうに襲ってこない。
「痛っ……、え?」
「ギャワッ、ギャウワワァ! ウギャルグワアアァッ!!」
鳴りやまぬ鬼どもの絶叫の中で、ハンナが目を開けたとき、そこに飛びこんできたのは――強烈な光、だった。
だが、それは陽光などではなかった。
劫火。
洞窟の中で荒れ狂う、まるで大蛇のような炎。それが鬼や小鬼たちを狙ったように取りついて、その背を容赦なく焼いているのだ。
「キャアッ!?」
焼かれて踊る鬼に踏み潰されそうになって、ハンナは自由を取り戻した四肢で慌てて跳ねる。
もはや洞窟の小鬼たちは、ハンナのことなどまったく眼中になかった。
彼らはただ自分を焼く炎から逃れることだけに必死で、そこいらじゅうで激突し、もつれあい、倒れ、踏み潰されていた。
「あ、ああ。あああ――」
ハンナは壁際に背を寄せ、小鬼たちが阿鼻叫喚する地獄絵図をただ呆然と見る。
何が起こったのかは分からない。だがこのままでは逃げ場もなくなり、彼女も炎に焼かれることになるだろう。
「ハンナッ! こっちだ!」
だがそのとき、聞き慣れた声が耳朶を打った。見上げる。
先端に石を括りつけられた縄が、ハンナの目の前へ投げ込まれた。
その縄をたどり、いくつもの火柱に照らしだされる頭上の穴を見れば、そこには、
「ふ、……副長!?」
どうして――
騎士の甲冑をほとんど外して身軽になったユアンが、縄を片手に、穴から身を乗り出して叫んでいた。
「ハンナ、早くッ。この炎も、長くは持たない!」
「え、……あ……」
「早くッ!!」
ユアンの鬼気迫る叫びに、ハンナの身体がびくんと震える。
背中を蹴飛ばされたように、ハンナは縄へ跳びつきながら走り跳んでいた。
同時にユアンが全力で引き上げ、ハンナは縄を手繰って必死に登る。
放火の被害を受けなかった別室の小鬼がその部屋へ突入してきた頃には、もうハンナは地上へ引っ張り上げられるところだった。
「よい、しょ――おあっと!」
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
そして彼女は、息を切らして地面に転がる。
横向きの視界には、縄をきつく縛りつけられた木、自分と同じようにひっくり返ってゼイゼイ言っている副長、いくつも転がる玩具の水鉄砲のような筒状のなにか、そして小鬼の死体が二つあった。
「ふ……副長……?」
「はは。はははははは。やった、やった――うまく行った」
しばらくの間、ユアンは倒れたまま笑い転げていたが、やがて大の字になるとハンナに言った。
「あいつら、本当に規律も統率もあったもんじゃないな。見張りはどいつもこいつも持ち場を離れて、君の見物に夢中になってた。おかげでうまく近づけたよ」
「え……? じゃ、じゃあ。い、今の……、全部。あんたが、やったの……?」
「ああ」
ハンナがどれだけ周囲を見渡しても、自分たち以外の人影は見えない。気配もしない。
まさか、一人で?
「こういうの、結構慣れてるんだ。慣らされたというか……私も一応、あの従姉妹殿の幼馴染みだからね」
ユアンは水鉄砲をひとつ、ひょいと掲げてみせる。筒の後ろに伸びる取っ手を軽く押し込むと、火蜥蜴の油がぴゅっと一筋飛び上がった。
「こいつでこっそり、奴らの背中へ『火蜥蜴の油』を垂らしてやったのさ。あいつら毛皮がやたらに分厚いし、何より皆が君に夢中になってたから、上から背中に油をぶっかけられても全然気づかなかった。
あとは地面にも油を垂らして火の通り道をつないでやれば、火種をひとつ落とすだけで全員がボン、さ。おかげで準備にずいぶん時間が掛かったけどね」
「…………」
と、いうことは。
「全部……」
不意にぴたり、と動きを止めて。震える瞳で、ハンナがユアンをじっと覗き込んだ。
「ん?」
「全部、……見てたの……?」
「え? いや、……うん。まあ一応、そういうことに――あ! で、でもそれは、決してやましい気持ちからではなく、作戦の組み立てと実行に時間が必要だったからで、そのっ」
「……ッ!!」
暴力と妖しげな薬で剥ぎ取られた衣服、ずっと隠してきたのに無防備に曝け出させられた乳房や秘所、そして圧倒的な巨体に伸し掛かられて、じっくりと嬲られた凌辱。
全部、見られた。
つい数十秒前までのそれら恥辱の記憶が、一瞬にしてハンナの脳裏で閃き、彼女を瞬間的に沸騰させた。
発作的に飛んだハンナの正拳が、ユアンの頬を吹っ飛ばす。声も出せずに一回転してユアンは倒れた。
「、あ……」
肩で息を切らせながら、ハンナは思わず殴り倒してしまった上官を見下ろす。
同時に、自分が安全圏へ救い出されたという事実と、相変わらず無防備な裸身をこの青年に曝し続けていることにようやく気づき、頬を真っ赤にしながら胸を抱くように座り込んだ。
「……上着」
ユアンが頬を押さえながら身を起こし、上体を覆う衣服を襟や袖以外ほとんど溶かし尽くされたハンナに、自分が羽織っていた上着を渡す。
「貸すよ。寒いだろ?」
「…………」
寒くなどなかった。むしろ、身体の芯から沸き出る熱が強くて仕方ない。
だがハンナは無言のまま肯き、恥じ入るようにしながらユアンの上着を受け取って羽織る。
「……あ、ありがと……」
それから数秒もしてからようやく、聞き取れないような小声で礼を述べたが、そのときにはユアンはもう洞窟の入り口方向の闇を凝視していた。
ハンナもその方向へ視線を向けて、鋭敏な感覚で、蠢き、迫り来る気配を察知する。
「早く逃げたほうがいい。――まだ、奴らの生き残りがいる」
ハンナの孤軍奮闘、そしてユアンの火計で大打撃を受けたにも関わらず、小鬼たちはなお少なからぬ数が生き残っていた。
今の二人で、正面から渡り合える数ではない――冷静さを取り戻したハンナが判断するころ、ユアンが少女の手をぎゅっと握って引いた。
「行こう」
「あっ、……は、はい!」
力強く手を引かれるまま、ハンナは駆け出す。奇妙なほどに弾む心臓と、火照った肌を抱えたまま、少女はユアンの後を走った。
妙に長引いたうえにエロ場面も一つ入り、話も一段落してしまったので二分割することにした、第三話前編は以上です。
何か回を追うごとに、従姉妹殿が空気化……というか、今回はとうとう直接登場場面無しの背景キャラになってしまいました。
フレアにはいずれちゃんとした見せ場を用意しますので、それまでお待ちいただければ幸いです。次の後編もそのまた次の第四話も、現行のプロットでは相変わらずこんな感じなのですが……。存在感だけは持たせてやりたい。
ユアンは相変わらずヘタレですが、直接戦闘はともかくとして、やれば出来る子ということを描きたかった回ですね。
あと
>>127さんには、今回のエピソードを彩る上で重要なヒントを頂いたことを感謝します。話の方向性はアレでしたが、ハンナが百合ん子になってしまったのはあなたのせいです。
次回はこの直後の場面から始まる後編。引き続き、ハンナがあれこれ暴れます。
gjだぜ
続けえぇ〜〜〜〜! GJ!
208 :
127:2007/06/07(木) 21:00:03 ID:5enE69fU
うわ・・・まさかあんな電波言葉が採用されるなんて・・・
本当に百合ん子になるなんて
GJ!
すばらしくGJ!
ハンナ、可愛いよ、ハンナ!!
これからも期待しております
圧縮きそう保守
梅雨が来るまでにアビゲイルが読みたい
ルーゼンとシーアの、結婚後のラヴなエチーが見たいです。
213 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:48:02 ID:mEwuo1Im
ご希望に添えませんで申し訳ありませんが、ルナの話を。
退屈しのぎでもなれば、幸いです。
214 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:48:58 ID:mEwuo1Im
しいん、とした薄暗い部屋にその声は響き、ルナは目を伏せた。
売春宿、と言うところは公的な規範の及ぶところではない。
私的自治がある意味の規制をなし、それによって規律が保たれている。
いわく、所有物に損害を与えたものは、過失に関わらず、所有者に対して責任を負う。
この場合、売り物である男の顔を傷つけたルナは、所有者、楼主に対して、反論の余地なく責任を負う。
どんな理由にせよ、このような宿に来て、触れただけの手を跳ね除けた挙句、相手に怪我を負わせたとなっては弁明の余地もない。
「この男はねえ、わしらのお墨付き、であるんで。この先どんなにか稼げたものでありんすかねえ・・・」
自分のやったことは、どうしようもない。
ルナは受けなければならない、とわかっていて、黙っていた。
どうして、こんなことに・・・・後悔は、先にも、もちろん役にも立たない。
だからと言って、はいそうですか、とは、了承できないのだった。
すぐそばに男と、カイヤが居た。
カイヤは、沈黙に、うなだれながらおずおずといった
「アタシが無理にこの方を・・・」
楼主はパイプにタバコをつめながら、まるで相手にしないように、
「うるさいよ」
ゆっくりと火をつけ、吸って、ふううと息を吐くと、それを火鉢に添え、「あんた、代わりにできんのかい?」
「あの子が居たらね、ドンだけ稼げるのかねえ??」
パイプをふちに当て、かあん、と鳴らした。
びくっとしながらも「どうか、ご勘弁を・・・」カイヤは頭を下げ続ける。
「わかってんのか!」突然楼主はカイヤの髪をつかんだ、振り回しながら、怒鳴る「ああ?」
ルナは、たまらずに止めようとしたが、そこで両側の追廻に捕まれた。
カイヤが頭を押さえながら、「お願いしましょうえ!」という、楼主は
「それとも、おまえが払うと言うのかい」
と憎憎しげにあざ笑った。
215 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:50:29 ID:mEwuo1Im
ゆっくりと、言い聞かせるように、
「お前だったらね、看板を捨ててだね?
今まで断ってた後ろも、輪姦も、そうだねえ、この際、獣姦もいいとしようかね?!」と振り切り、それでも足りないようにイラ立ちも頂点のまま「1回や二回じゃないんだよ!!」とカイヤを投げ捨てた。
そのとき、短い悲鳴の後間髪いれず、
「払いましょうえ?!」
カイヤが言ったのに、楼主は驚いたように言葉をつぐんだ。
鈍い音を立てて転がったカイヤが睨み返すのに向けて、絡みついた抜け毛を振り払い、
ふん、と黙ったかと思うと、しばらくぽりぽりと頬の黒子をいじっていたが、
「そんなに言うのならね、見上げたご友情に免じて」
ルナをじ、と見つめ楼主は目を細め、にじむようににんまりとした。
ぽん、と膝をたたき、「そうだねえ・・騎士様だと、後が怖い。公決は理不尽なものだから」
思わずルナは叫んだ。
「何!!」
すぐに追廻に押さえられ、もがいているところに上半身を起こしたカイヤが投げやりに言った。
「わかってるでありんすよ!どうせ落ちるとこまで落ちた女え!!」
その眼差し、強く見据えるようで艶やかに輝いていて、強気で・・・美しかった。
216 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:51:40 ID:mEwuo1Im
「そう自棄におなりでないよ」
間をおいて、楼主は眉を上げて見せたが、同情したように、
「・・・・何年かかるかねえ?お前の体が売れるうちに、とっとと返してもらおうかね・・・」
楼主はしぶしぶ納得してやったとばかり、気だるげに腰を上げ、
「よかったですねえ、騎士様?これで無罪放免だ、
キヤの友情に感謝なさいませよ」
やれやれ、とため息をつき、
「そうと決まりゃあ、とっとと売り出しましょうかねえ、」おい、と奥の下働きを呼びつけながら、
「ほら、幟を用意しな。
カイヤの、二度目のお披露目だよ、これで最後のね、せいぜい華やかにしてやりや?」
斜めに佇んだカイヤは、その言葉に、悔しそうにこぶしを握った。
寄せた眉、引き結んでこらえかねるような口元、それらはカイヤの生活のなか、避けられないものであったのかも知れず、だが、ことの発端は、自分だった。
これ以上、自分が理由だと思い悩むのはいやだ、
そのためには、カイヤに不幸であって欲しくはない、
ルナは、ごくっと喉を鳴らしてから叫んだ
「金なら払ってやる!!」
楼主はあえて目を大きく見開いて見せた。
一度上げた腰を下ろしながら、訝しげに、「おやおや・・・」
「人一人買うんですよ?
失礼ながら、お支払いできるとは、ねええ」
くっくっ、と笑う。それでも試すようにルナの目を見据えた。
217 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:52:55 ID:mEwuo1Im
ルナは騎士とはいえ、そして貴族の出とされているとはいえ、
「望みの金額は」少し怯むのを隠しきれなかった。人一人、買うんですよ――――
「騎士様とは言え、ねええ」
「いいんですよ、騎士様」カイヤは、疲れたように笑う。
騎士様・・・・、卑屈な物言いだった。
「お支払いできる金額じゃあ、ござんせんよ。アタシが一生かかって・・・・」
払いますえ・・・・呟いて、カイヤはルナの目を見ずに口の端で笑って見せた。
ルナはぎゅっと目を閉じる。
そして、糸の切れたように叫んだ
「私の責任だ!!
なんとしてでも、自分で返す!!」
ルナは必死で、抑えられる手を避けて一気に言った。
しいんとした中、楼主はこらえ切れないように笑う。
「ははあ・・・・・、そいじゃ、払っていただきましょうかね」
それは、心の奥底からどす黒いような、そんな笑い方だった。
「いくらだ?いってみろ」
今にも飛びつきそうな目でルナが言うのに、楼主は反して快活な様子で、
「金300リュウ」と事も無げに言い放つ、
ルナは思わず目を見開いた。
「人一人買うんです、安いもんじゃございませんか」
兵士の一ヶ月の給料が銀500リュウ、これでも庶民に比べれば、かなりの破格だ。
通常、街で流通するのは銅で、これは銀の千分の一、そして銀は金の千分の一。
「ばかな、兵士の給料を知っていて?」
銀500リュウといえば郊外の家なら一軒買えるほどの価値である。
「傷を治せばいいだけだろう!!」
ここで、楼主は男を招き寄せた。男はおずおずと寄ってき、
「お前、今後仕事が出来るかい?」と優しく楼主が聞くのに、
「・・・もう、怖くて、できやしません・・・」
袖口に目を当てて、よよ、と涙声を出す。
「おお、そうかいそうかい、かわいそうになあ」
泣き崩れる男、そのわざとらしい芝居を前に、ルナは、「お前!!」と怒鳴った。
「おお、怖い」
楼主が言って、「お前が怖がるのも無理ないよ」と男の肩を抱いた。
「この落とし前は、きっちり、つけさせてもらいやんすよ」
楼主は凄みをきかせた目でルナを見据え、「こちとら商売なんでね」
「手段は選びませんよ。キヤか、あんた様か」と言い、ルナが睨み返した瞬間、
「きちっと払ってくれやんすね!」
楼主は大音声で呼ばわる。
218 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:55:02 ID:mEwuo1Im
沈黙が辺りを覆いつくす。
蝋が垂れる間に、ルナは考え、そして、静かに言った。
「金300リュウ、その内訳を聞かせてもらおうか?」
辺りがしん、となる。
「こいつの値段ですよ、またおかしなことをおっしゃる」
あざ笑うように楼主が言うのに、ルナは怯まず、
「へえ?楼主、お前、いくらでこの男を買い入れた?」
と言った。
楼主は舌打ちをし、「さあねえ」
「私が追求を出来る近衛兵だと忘れるな」
「ここにきて暴力沙汰をさらした近衛兵ですか」
斜めに笑う楼主に、ルナは同じように笑って見せ、
「この店の男があまりに下手だったのでな、とでもいおうかな。少なくともお前の店の得にもならん」
「騎士様の得にもなりませんがね」
男も、カイヤもじっと成り行きを見守りながら、楼主をちらりと見やった。
「私が、私的な批判さえ我慢さえすれば、ここは私的自治なゆえ、公的には通用しない。
これは、ここで私が城壁内に帰ってしまえば全く効力がないものと思うが。
ごく当然な判決を待つだけだ、それは多分、銀・・いや銅、で済む価格であるだろうな。
そして、もしここで私が拘束されることがあれば、告知してきてある者もいる、
ここが調べられるも時間の問題」
219 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:56:49 ID:mEwuo1Im
くくと笑う楼主にルナはいったが、
「さすが騎士様、公的、とはお得意な分野。
しかしながら、この妓楼に損害を与えたことをお忘れですか」
楼主はちらりと男を見た、男はさも痛そうに腕を押さえる。
「ああ、与えたね」
それがどうした、と言うようにルナはあごを上げ、華やかに微笑んだ「それもこの楼主の至らなさ、と言える」
楼主は苦笑し、顎を上げて、不適に言った。
「・・・五分ですが?」
「では」
ルナは大きく息を吸うと、「この男には150リュウの価値、お前の取り分は150リュウ。
これは、この国の売買法を明らかに超えているな、
・・・残念ながら、149だったらまだ救われたのにな」
同情するような微笑を浮かべ、
「年季その他に関する法の23条、・・・買主は、代価より越える報酬を受け取ってはならない」
ぴしりと言い放つ。
ルナのこの言葉に、追廻を含め、皆が敗北を思ったところだった。
「クウリ様のことで?」
220 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:57:45 ID:mEwuo1Im
「はは」と楼主は口をあけ、突然、は、ははははは、と止まらず笑い始めた。
「あんた様、この世界に詳しくないね?」
なんだと?とルナは睨むのに、そんなのはね、と楼主は上目遣いに、
「いくらだって言い訳がつくんですよ。
世の中ね、規律で全て済むほど簡単じゃない、むしろ簡単に済む世の中なんて嘘っぱちだ。
買い入れた金額に、衣装代、芸の仕込み代、日々の食費、生活費・・・・。
そんなのね、全部足したならね?これでも良心的なほうですよ、
本当にあんた様は、城壁の中の人だ・・・・」
あきれたように息をつないで、
「いいですか?あんた様の身柄は今、ここにある。
クウリ様がそれを証言しなかったら、どうなります?
どうせあんたはそれ以外にここへ来ることを言ってはいまい。
して、我々が逃がすとでもお思いか?
あんた様は行方不明のまま。
いやなに、ここにいたとしてもよろしいですよ、むしろ歓迎だ。
いくらで売れますかねえ?」
ルナの体を値踏みするように見る
「この場合において、どちらが有利か、お分かりでしょ?」
「クウリは・・・・・」
信じたい。
「試してみます?あんた様の部下があなたを庇うかを。なあに、クウリ様には後ほど御礼しますよ、
いやね、クウリ様はこのキヤが殊の外お気に入りでね、このキヤを守るためなら、いやあ・・・ねえ」
「私を裏切ると?」
「どうですかね?あんた様を庇って、肝いりの女を売って得られるものはない、逆に、あんた様の所業を告発しても、彼に損や否やはないとねえ、おもいますがね、
騎士様には行動規範と言うものがおありだとか・・」
含み笑いをする楼主に、ルナは、目を見開いて言葉を失った。
確かに、クウリには真実とはいえ私を庇ったことに利益はないだろう、
こんな宿に来て、気に入らないからと言っただけで男に傷を負わせるような、不埒な上司を庇ったところで。
あの、如才ないクウリ。
成り行きとはいえ、何も疑わずここへ来てしまったことにルナは大きな後悔をする。
ルナはただ楼主を睨んだ。その瞳はきらきらと灯火を反射し、ルナの勝気さを輝かせた。
「あんたさんは、馬鹿じゃないようだ」
舐めるように楼主はルナを見た。
221 :
ルナ:2007/06/14(木) 01:59:37 ID:mEwuo1Im
「・・・・・なんでしたら、ねえ」
ルナは黙ったまま、楼主を頷いたあごで促す。
楼主はパイプを弄んでから、じっとルナを見つめる。
いやな予感がする。
充分に間を置き、そのてろりとしたあごを撫でてから、楼主は、
「私が、一晩、買って差し上げましょうか」
「金300リュウで、ね」
と言った。
ルナは一瞬息を呑んで逆上しそうな自らを抑えた。
「はっ・・・・」
笑い飛ばそうとして、雰囲気に飲まれたように、「楼主が、私を買うと・・・?」
何を言っているんだ、今自分が何を言っているのかわかっているのか、
ルナは何度も反芻する。
「ええ、金300リュウでね。破格の値段でしょうが」
「でなければ・・・」楼主はじっとカイヤを見据えて、それからゆっくりとルナに視線を戻す。
「ルナ!」
カイヤは叫んだ。ルナは、睨むように目を細めていた。
222 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:00:29 ID:mEwuo1Im
「まあ、上々な結果ね、
一時はどうなるかと思ったけど、まさか蹴り飛ばすとは思わなかったわ」
何かを考えるように女はふと口をつぐんだ。
紙タバコをふかしながら、女は楼主と呼ばれていた男を見た。楼主という名の男は、女と視線が合ったとたん、緊張したように平伏し、
「落ち度はなかったでしょうか?」
髪など摑んでしまって・・・と言う。
「そうねえ?」
声に出したのとともに女は微笑んで、
「迫真の演技だったわ、よかったわよ」
楼主はほっとしたように、「いいんでしょうか?私なんぞが・・・」
「あの、薬とやらは本当に効く・・・?」と上目遣いに聞く。
女は白煙の中、楼主を見下ろすと、
「大丈夫」
と、歪んだ笑みを浮かべた。
「先ほど、舞が終わったときには、騎士様は確かにもう一歩のところだった、と聞いたわ。
まさか突き飛ばすような行動にでるとは思わなかったけどね・・・。まあ、なんにせよ、」
女はふと天井を見上げて息を吐き、余裕に、
「アタシで実験済みよ」
思う存分、楽しみなさいよ、と言って微笑を浮かべる、
楼主が弱気ながら、目を輝かせていくのに合わせるように、
「騎士様にあるまじき行為よねえ?」
ふふ、と芯からおかしそうに笑いながら、
「騎士だろうがなんだろうが、外套脱がしちゃあ中身は同じ、後はこちらの思うとおり」
あははは、と腹黒く笑う女に、
「いいんですかね?」と幾分怯えながら、それでも手を揉みながら、期待にうずいたように楼主は聞いた。
「ん?」女は問い返す。
「いえ・・・だってその騎士様に何かして・・そのあとは・・・」
「咎められるってか?」
「いや、あの・・・、こうなっても命は惜しい、というか・・・」抜け目なく自己保身に走ろうとするのに、
女は、侮蔑したように彼を眺める。
「い、いや、あの、あの騎士様ほどの方を、と思うと色々考えるものでして・・・・」
卑屈な笑いを楼主は浮かべた。
「黙りな」女は鋭くいい、
そしてつま先で、楼主のあごを持ち上げると首をかしげ、
「ああいう女は、一度嵌れば自分から欲しがるようになるわよ。・・・それとも」
口元を近づけ、楼主に白煙を吐くと、
「アタシに落ち度があるとでも?」女は、苦々しく微笑んだ。
223 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:01:46 ID:mEwuo1Im
今ルナは考える、
カイヤが「騎士様、乗ってはいけません!」と叫んだことも、
「一晩耐えれば、丸く収まるんですよ、すべて」と言う楼主のニヤつきも。
結局、いまベッドの上にいるのだった。
楼主に買われた、と言うことがじわじわと実感として攻め上ってくる。
じっとりとした汗が体に湧き上がるのとともに、小さな音でさえ反応しながら、
ルナはじっと、今か今かと、開かれる扉を、睨みつけていた。
床入りの前には、茶を酌み交わすもんなんですよ、と楼主が言うから、渡されたぐい飲みをルナはあおり、
静かに、それをベッドの横に置いた。
楼主は膝を乗せてベッドをたわませながら、
「騎士様、まず鎧のようなその服、 脱いでくれますかね」
買われた身では仕方ないとばかり、ルナは感情を一切表さないように一枚一枚を脱ぎ始めた。
そこには、恥じらいやもどかしさもなかった、ただ仕事の一環のような仕草でしかなく、
楼主は苛立ったように、
「安売りしているようですねえ、慣れた感じだ」
ルナはただひたすらに楼主を睨み、低い声で「この私が?」と聞いた。
「まあ、いい」ふ、と笑う楼主は、その白いふくよかな腕でルナを抱き寄せた。
「暴れなさいませんよう・・・」もはやそうできる余地がないことを知っていて楼主はいい、ルナの肩に両手を添えると身を引いて、まじまじとその裸体に視線を這わせた、
「鍛えているだけあって、無駄のない・・・おきれいな体だ」
上から下まで舐めるようにためつ眇めつ、いやらしく笑みをうかべた。
224 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:04:01 ID:mEwuo1Im
ルナは屈辱に瞼を震わせながら、「好きにしろ」と言う。
伏せた目の端が潤んでいるのを、楼主は芋虫の様な指で拭って、
「まあまあ・・・そう構えずに、ね」
いやらしいその唇を、ルナのそれに這わせようとしたとき、ルナはとっさに顔を背けた。
「おやおや・・・買われた身でしょうが?」
楼主は意外だと言うように眉を顰める、ルナは塩辛い唾液を飲みながら、目を閉じた。
冷たく濡れたその唇がルナのそれに触れて来、体を竦めたが、
濡れていくうちに、熱い舌に吸われて音を立てる、鳥肌が立ち、ルナは短い吐息をついた。
逃げてはならない、と思いつつ嫌悪は増してきた、そこへ
「足を開きなさい、あなたは買われた身なんだから」と楼主が言う。
「い・・いやだ」
「いやだ?いいから、開きなさい」
ルナは、なんとも言いようのない征圧を感じた、
足を、開け―――――
「あ・・・・いや・・・ちがう・・・」混乱する、足を開け・・・・
ルナの視覚は惑い、今目の前にいる楼主を捕らえられなくなっていく。
「ご自分の立場、わかっている でしょう?」
ルナはなぜだか―――――お分かりだろうが、ぐい飲みに、いやむしろ最初から仕込まれた酒によって――――束縛されたように、体に制約を感じる。
楼主が緩やかに彼女の肌を撫ぜたとき、ルナは静電気に触れたように跳ねた。
「耐えて・・・みせ・・ます・・・」
ルナの思考はもはや過去と現在を縦横していながら、自分に触れる指を無視できるものではなく、唇や指が肌を行き来するたび吐息をもらし、言えなかった「もっと」と言う言葉と、「私を愛していますか?」という聞きたいながらに足を絡ませる。
彼の指は、ルナの割れ目に沿って撫でたのであり、緩やかな下の口からの唾液を絡ませ、一番敏感な箇所に触れながらそこを舐めとるように動いた。
ルナが小さな悲鳴を上げ、それを自身で隠すように手で押さえたのに、楼主は「自分が望んだことでしょう」
と言った。
225 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:20:39 ID:mEwuo1Im
困ったようにルナは眉を寄せ、顔を背ける。
が、消して四肢は強張っているわけでもなく、楼主――と呼ばれた男――が上の伸ばすよう促せばそのとおりになり、まるで言いなりだった。
これに対して、このある種弱気な男は、薬の効果を思った。
「ルナ」彼は呼び捨てにし、もはやその不安もないのながら念のため、綱の両手を押さえてから、
「どうだ?」
ここは、応えてるんだ、とささやいた。
抑えられたルナはぎゅっと目を閉じたまま、「なんと言っていいのか、わかりません」とつぶやいた、
これに、征服欲を掻き立てられなかったとしたら、この男よほど鍛錬した男であったとも言え、
結局は、彼はその表情と言葉に、ますます欲情をあおられた、
ルナの首にいくども跡をつけては、足の間をなぞり、指先を何度も動かして、彼女が震えるたびに何度も舌を上向いた乳首に這わせる。繰り返して繰り返して、彼女の足の間に大きなしみが出来るころに、
やっと男はそこに顔を伏せ、あふれ出るそれを掬い取った。
ルナは、身をのけぞらせながら、「いや・・!」と叫んだが、その手はまったく抵抗していない。
ひくひくくとする足を男は捕まえて天井を仰がせ、赤く膨らんだその箇所を、興奮で赤らんだ顔と荒い鼻息で見つめた。
226 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:33:57 ID:mEwuo1Im
真っ赤だ・・と言ったのにルナは慌てて両足を閉じようとしたが、
それは無理な話だった。脂肪に守られた男の体はすでにその間に入っていた。
頭を中心にし、その脇を両の手で押さえられ、ルナの秘所はさんざんに舐められ、いじられる。
抵抗?
それは、出来なかったのだ、ルナの中で、その刺激を与えているのは常に「あのひと」で、
拒むことは許されない、しかも自分で望んだ・・・・
「あのひと」
ルナは、薬のせいだったとは、これっぽっちも思っていず、
むしろ、今が夢だったとしても、彼に犯されていくのは求めていたものでさえあると思う。
ルナは、甘い悲鳴を上げ続け、抵抗するように見せかけながら招き寄せた。
「大佐・・・・」
「入れて欲しい?だったらそう言え」
その声は、大佐とは違う声だったが、これも夢のなせるわざかとルナは思い、その言葉を口にする。
227 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:37:57 ID:mEwuo1Im
「こんなことまで頼んでいない!!キヤ!!」
門番に、「上手くいっていますよ」と報告を受け中に入ったクウリは、そこでことの経過を聞いた。
途端、怒鳴ったのだ。
入り口に近い顔見世の場にいたカイヤは立ち上がり、あら、というように早足のクウリの後ろに立った。
「騎士様が自分でおっしゃられたのえ?」
「だからって程と言うものが・・・」言いながら
がたんと扉を開けたクウリの前には、うなだれたルナと、
そこに、また新たに腰をうずめようとする楼主が居た。
「隊長!!」
鋭く呼ぶクウリの声に、ルナは無言で、隠れるように、いや、物憂げに顔を背けた。
「おや・・・」言う楼主を突き飛ばし、クウリは、「隊長?!しっかりしてください!!」ルナを抱き起こす。
横で、楼主が苦く笑う。
「仕方ないんだ・・・もう、これは・・・、私の責任だ・・・」
言うルナは、クウリの腕の中で、くにゃくにゃと腰をよろけ、
蕩けたように濡れた目で、「もう、こうするしかないんだ・・・」と呟く。
その顔は諦めていながら、どこか欲情に支配されたような、性的な目をしている、
「逃げられない・・・・」ほうけたような表情。
「僕が誰だか・・?」
クウリは焦点の合わないルナの肩を揺らした。ルナは眉を寄せ、すがるような顔をした。
「申し訳ありません・・・、お願いします、逃げたり、しません・・・」
ぞくっとしたクウリは、まさかと打ち消しながら、「隊長?」と聞く。
ルナは、半目のままだった。
228 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:39:16 ID:mEwuo1Im
おかしい。
クウリは思い、カイヤを見た。
カイヤは片眉をすい、と上げると、
「少々、遅かったみたいで、クウリ様?」
「時間通りだろ」
確信を持ったクウリが言い返すのに、カイヤは、本当におかしそうに、腹を押さえた。
「ねえ?クウリ様?
あなた、このルナを配下におきたいのやえ?
だったら黙っていらっしゃい、見ていれば、このルナは、落ちますえ?」誘うように、斜めに彼を見る。
クウリは黙ってカイヤを睨んだ。
その横で、ルナは、身をくねらせた。
「ん・・・・、あ・・・・お願いします、
私は、逃げません、先は、わかりません・・・・」
意識のないようなルナが呟くのを背に、「キヤ?おまえ、・・・?」
「へえ、なにか?」カイヤの、禍々しい微笑が、クウリをぞわっとさせる
クウリは守るようにルナの前に立ち、カイヤに対しきつく言う。
「何を企んでた?」
「はっ・・」柳眉をゆがめると、カイヤはルナを見つめた。
「・・・・・・企む、ねえ」
遠くを見るような目で、思い出すようにカイヤは言う。
「そのために、置いてきたんだけど、さ」
ため息をつくように、ふと足元を眺めるカイヤに、
「何を?」
クウリが問うのに、カイヤは、目をそらして、
「強 姦 を、楽 に す る 薬」
カイヤは、その一瞬だけ、悲しそうな顔をしたように見えた。
「まあ、要は媚薬の一種。飲まないかなーとも思ってた。けど・・・・」
説明するうち、その意地悪げな表情に戻る、横目でクウリとルナを見やり、
「この女が、私を逃がしたつもりで・・・、あのあと、どんな思いをしたか??
この女はね、単に自分が可愛いの、自分さえよければいいの、
その証拠に、私の逃亡を、止めたりなんかしなかったわ。
だけどねえ、飲んだみたいね?しかも一気に。」あはははは、と乾いた笑いを聞かせると、
斜めにクウリを見て「そのあと、どうしたかって?この女は、私の逃亡ついでにツィツァを物にした・・・・、
私はね、その頃、地を這い回るような生活だった。
ここに来たって、体を売るのは同じよ、まあ服を着れるだけましかもね?」
229 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:40:37 ID:mEwuo1Im
カイヤはそこまで言うと、急に表情を変え、
「ルナは結果、ひとり勝ちしたけれどもね」
寄りかかっていた壁から、すっと身を起こし、顎を上げて、言い放った。
「この薬、後に引くの」
クウリは背後のルナが目を覚ましていないかを確認した、
うにうにと何かを言っているが、この話は聞こえていないようだ・・・・
「キヤ・・・僕は、味方になってくれるようにと頼んだだけだ、こういったことは頼んでいない」
クウリは言った、それを聞いて、カイヤは嫌悪感を示すかのごとく、苦笑した顔を大きく仰いだ。
「あらあ・・・・
襲われそうな女を助ける?それで味方になんぞなりますかえ。
甘いわねえ、ほんと、反吐が出そうなくらいで。
もうちょっと頭いいかと思やんしたが・・・」
物憂げな様子で、あごを下げると、後れ髪をかき上げる。
「あの時は、それで、上手くいくと!!」
「なりますええ?
これでねえ?」
クウリは、何かにせめぎあうように、首を振る。
「脅せば、いいのえ??
ここであったことは、ルナにとって公表されたくないはず
最初から、そういう計画だったはずでありんすええ?」
その言葉に、クウリは黙って下を向いた。
230 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:41:51 ID:mEwuo1Im
それから、自分を責めるかのように下唇をかみ締めた、血の味がして、クウリは目を閉じたが、
かっとカイヤに一瞥をくれると、ルナのほうを向いた。
「クウリ様・・?」
カイヤを無視して、脱がされたルナの服を集めた。
「隊長、行きますよ」
シーツを巻きつけてルナの脇に自分の腕を差し入れ、彼女を起こし上げた。
「もう、逃げません・・・」
なにやら呟く彼女を抱き上げると、カイヤに向かい、
「僕が頼んだのは、・・・・・・」
といおうとして、遮られる。
「利用できるようにしてくれ、ときいといやんすえ?」
カイヤは言い、
「同じことよ」とほくそ笑む。
「僕が頼んだのは」
クウリはじっとカイヤを睨んだ、しばらくお互いの睥睨が続き、先にそらしたのは、カイヤだった。
クウリは、「二度と来ないよ、ここには」とそれだけ言うと、ルナを抱き上げる。
「キヤ、お前が、こ こ の 主 人 だ か ら 、僕は思ったのだ、安心できると!
こんな風に、君との友情が切れたことが、僕には惜しまれてならないよ」
王者らしい清潔なその返答を聞いたときに、カイヤは、思わぬ嫉妬を感じた。
ルナを落とすことを願ってきたのは彼であり、協力した自分が非難されることをはじめ、
彼女が寸前で救われたことに、
彼が高潔な、いかにも清純な、場合によっては処女的な理想を抱いていたことに、
彼女は自分の穢れを思い、また、その理想に守られるルナを、極めて憎たらしく思う。
クウリはこのとき、決してルナを愛してはいなかったし、ルナもまたそうだった。
カイヤが、この二人を利用し、何をもくろんでいたのかは今は
まだ定かではない。
ただ、この時点でのルナの幸せは、この宿の本当の主人を知らなかったことだった。
231 :
ルナ:2007/06/14(木) 02:57:16 ID:mEwuo1Im
以上です
ルナは善人過ぎるのか。
人間の業みたいなものがよく描けてるね。GJ!
最近知ったけど、読ませる作品が沢山でイイ(・∀・)!!
どのシリーズも好きだ(勿論単発物も)
アリューシアとグルドフの『二度目』ってどんなだったんだ?
初めては薬だろ?
どっちから持ちかけたのかな…
>アリューシアとグルドフの『二度目』
つ保管庫「最も多忙なる一日」
>>234 それと拝借を読み飛ばしてたみたいだ…
d!
魔王楽しみにしてるのだが…マダー?(・∀・)
女騎士新作キボン(*´д`)
遅くなったけどルナの人GJ。
クウリの心情の変化が面白かった。
楽しみにしているので続きをまたお願いします。
ルナの人GJです
綺麗な女性が太った男に凌辱されそうになるシチュは大好きなのでハァハァさせていただきました
241 :
投下準備:2007/06/17(日) 23:06:48 ID:v3S99Y/C
現実世界での生業が忙しかったりしたので、だいぶ久しぶりですが投下します。
魔王の話は続き物ですので、このスレから入った方は先に保管この話を読んでおいて下さい。
……しかしこんなに長く続くと、読んでおいてと言うのも心苦しいですが。
『アデラ』です。
242 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:08:08 ID:v3S99Y/C
凛とした声が訓練場に轟いた。
「未熟者共がっ! 女一人にこの様は何だ!?」
彼女の周りには三名の騎士が蹲っていた。
陽光にきらめく白銀の甲冑を着た姿は、彼らが皆聖騎士団の一員たる証である。
反論もできずに頭を垂れる三人に、さらに辛辣な言葉が放たれた。
「そんな腕でよく聖騎士を名乗れるものだな! この程度ではオーク一匹倒せんぞ!?
いや、ゴブリンだって屠れるか怪しい物だっ」
鉄甲に覆われた手で面頬をずらせば、鋼の装具の奥から現れたのは麗しい女の顔だった。
銀の冑に引けを取らぬ白く艶のある肌に、うっすらと汗が滲んでいる。
ただし、呼吸は些かも乱れていない。
「前衛隊長……」
「ふざけるなっ! 貴様らの様な腑抜けに隊長と呼ばれたくないわ!
三人とも冑着たまま訓練場を五週して来い。走り終わるまで帰営は禁止だ!」
「ぐっ……」
罵声を浴びた三名は兜の奥で歯を食いしばった。
聖騎士の重甲冑は、着たまま歩くことさえ難儀だ。
広大な野外訓練場を五週も周るとなれば、終わる頃には足腰立たぬ程に困憊するに違いない。
それでも三人はそれぞれ立ち上がり、新隊長の命令に従った。
のろのろと歩き出す部下を尻目に、彼女は剣を鞘に収めた。
訓練用の剣であり、刃は潰してある。
それでも思い切り振り回せば、甲冑の上からでも相当の痛手を喰らうだろう。
今しがた彼女はそれで三人の騎士叩き伏せてみせたのだった。
三名とは反対に宿舎に戻るために稽古場を後にすると、
従卒がそこで彼女を待っていた。
「お疲れ様です。アデラ隊長」
「あの程度で疲れなどしない。一番威勢の良い隊員でさえあの有様では実戦が心配ね」
243 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:09:30 ID:v3S99Y/C
被っていた兜を外して従卒に渡すと、心地よい風が彼女の頬を撫でた。
先程まで部下の訓練に参加し、女と侮る輩を稽古場でまとめて打ちのめしてやったのだが、
不思議に疲れたという感覚は無い。
これまでの自分とは明らかにどこか違う。
以前なら、三人掛かりで打ち込んできた聖騎士をあしらうなどできはしなかった。
(どうなってしまったの…… 私の身体は……)
手足は羽根のように軽く、まるで何処からか力が湧き出してくるようだ。
自分の身体に訪れた変化に、アデラは不審を抱かざるを得なかった。
知らず知らずのうちに伏し目がちになった瞳を見て、従卒は受け取った甲を落としかけた。
睫毛が濡れているのは汗のせいだが、どこか憂いを帯びた面立ちに魅入られそうになった。
(隊長殿って、あんなに強いのに…… とっても綺麗)
まだ騎士叙任を受けることのできない年齢だったが、
アデラの姿は短期間で幼い従卒の心に憧れを抱かせるようになっていた。
初めは大敗戦で払底した人材を補充するための人事だと思っていたが、
新しい前衛隊長はどの隊員よりも強く、おまけに美しかった。
脱装を手伝いながら、従卒には彼女の身体から立ち上る汗の匂いすら芳しかった。
そんな従卒の淡い想いなど全く気付かず、アデラは機械的に甲冑を外していく。
「……宿営に戻る。残りの奴らにも適当な所で上がれと伝えて」
「はい、隊長殿」
軍服に着替え終わると、アデラはそのまま訓練所を出て行った。
その姿を見送った従卒は、周りを見回して誰もいない事を確認すると、
憧れの上官の甲冑を胸に抱き締めた。
(隊長殿こそ聖騎士の鑑だ……)
自分では意識していなかったが、いつの間にかアデラの顔立ちや振る舞いに
異性同性の目を引く魅力が宿りつつあった。
それがある意味で配下の反発の原因ともなり、この従卒のような信奉者を増やす要因ともなったのだが、
アデラにとってはどうでもよい事であった。
否、むしろそんな事に気を遣う暇が無かったと言うべきかも知れない。
彼女の心配事は、自分の身体そのものにあるのだった。
244 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:11:26 ID:v3S99Y/C
・・・・・・・・・
自室のベッドに身を投げ出すと、アデラはため息をついた。
(本当に、どうしてしまったんだ……)
囚われていた頃は武術の稽古など出来なかった。
だから自分の力量は衰えて当然なのだ。
けれど、なぜか身体は軽く、動きは鋭い。
腕が落ちるどころか以前よりも上がっている。
強く在る事は騎士として望ましいのだが、理由の判らぬ強さというのは不気味である。
体を寝具に沈ませたままブーツを脱ぎ、床に放り投げた。
沸き起こる疑念を鎮めるため深呼吸をすると、アデラは自分に起こったもう一つの変化を感じていた。
(ふぅ……ん、)
裏手にある井戸で汗を洗い落とし、身体は冷ました積りだった。
しかし、身体のどこか芯の方にまだ熱が残っている。
必死にその衝動に抗おうとするが、我慢しても無駄なことはこれまでの経験から明らかだった。
両脚を硬く閉じてみても収まらない。
この疼きは、力ずくでどうにかできる代物ではないのだ。
(またっ……なぜ、 何でなの?)
いつの間にか、右手が下腹へと伸びていた。
下穿きの上から股間を指が押さえる。
だが、抑えるばかりでは済まされない。
渇望を押さえ込むどころか、指の刺激で益々昂りは強くなっていく。
(あっ……)
指は裂け目の頂点に有る花芯を潰すように押していた。
再びアデラの唇からため息が漏れる。
それは先程の吐息よりも熱く、潤みを帯びた吐息であった。
245 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:12:26 ID:v3S99Y/C
(嫌っ、なんでこんな…… 聖騎士が、こんな淫らな真似しちゃ……あう……)
つま先に力が篭り、シーツに皺が寄る。
してはならない事だとは判っていながら、指の動きは止まらない。
布地の上からの手慰みに満足できず、右手はついに下穿きの中へと潜りこんで行った。
(ひぅ……)
直に触れあう肌の感触が脳髄に走った。
悦楽を憶えてしまった身体は、もはや歯止めが利かない。
膨らんだ肉芽を転がすように、下着の中で指は蠢いている。
身体の奥に燻る火を消すどころか、滾る肉欲は既に全身に燃え移ってしまった。
その熱に促されるままに、もう一方の手も動く。
引き締まった体のなかではっきりと膨らんだ乳房に、左の掌が当てられる。
股間をいじりながらも、胸乳を恐る恐る握る。
(あっ、あぅんん……)
叫びそうになるのを堪えるが、歯をきつく噛み締めて耐える。
だが左手は容赦なく自分の身体から官能を引き出そうと動いてしまう。
軟らかい乳房に食い込むほど揉みしだき、その頂点にある突起にさえ指は攻めかっていった。
「くぅっ、ああん!」
乳首を摘み上げると同時に、股間を撫で回す指にも力が入る。
弾くように陰核をなぞり、痺れるような愉悦を味わうと、思わず甘い喘ぎ声を漏らしてしまった。
簡素な造作の兵舎とはいえ、大声で叫べば隣室に聞こえるだろう。
(誰かに…… 聞かれたかしら……)
今の時間隣人が居る可能性は低いが、それでも彼女の指は一瞬動きを止めた。
冷静さを取り戻しかけ、呼吸を整える。
身体はまだ熱い。
そう簡単にこの火照りは鎮まらないだろう。
あの夜教わったまじないにより、夢の中に忍び寄る存在はなりを潜めている。
その代わり、激しい運動の後にはしばしば身体の疼きを覚えるようになってしまった。
246 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:14:14 ID:v3S99Y/C
(はぅ……)
先程に比べればゆっくりとだが、再びアデラは指を使い始めた。
下半身に伸びた右手が動くと、擦られた陰毛がしゃりしゃりと音を立てていく。
自分の体がどう扱われれば感じるかは、あの黒い閨で知った。
誰が教えたかは言うまでも無い。
黒天幕の世界から帰還して闇の陣営を離れるまでの間に、幾度もあの男と肌を重ねた。
瞼を閉じると、黒い閨で過ごした夜の事がまじまじと浮かんでくる。
ローブを脱いだ彼の体は、夜光虫の光で青白く照らされ、その冷たい瞳で彼女を見下ろしていた。
細いが引き締まった両腕で抱き締められると、もう何も抵抗は出来なかった。
そしてくすぐるように熱い吐息が耳朶に吹き付けられ―――
(だっ、ダメよっ!……よりによって、奴の顔を思い出しながら『する』なんてっ!)
とんでもない背徳行為を冒している事に気が付くと、脳裏に浮かんだ怨敵の顔を振り払った。
あの宿敵の姿を忘れるため、別の人間にこの妄念を置き換えようと試みた。
しかし、彼女にとって誰を想いながら体を慰むべきであろう?
彼女と共に戦った輝かしき聖騎士団の先達・同輩たちか?
否、彼らに肉欲を感じた事は無い。
それにこのような行為で今は亡き彼らを穢すのは許しがたかった。
先日体を奪われそうになったあの赤毛の友か?
それも否だ。アデラは彼女と違って、同性に劣情を憶える性癖は無い。
では夢の中に現れた偉大なる聖王か?
(……)
論外だ。
頭の中にかの幽体を思い出した瞬間、寒気すら覚えた。
なぜだろう、望まぬまま奪われたのは変わらぬはずなのに、
光の守護者に対してのこの嫌悪感は?
おぞ気を掻き消す為には、結局あの男の姿に頼らなければならなかった。
(…………魔王)
アデラは心の中で憎き敵を呼んだ。
そして彼の指がしたように、自分の体を嬲ってゆく。
「あうっ……!」
魔王の愛撫を思い出しながら、アデラの指は深く己の中に潜っていく。
あまりの快楽に、声を封じるために左手で口を封じた。
甘い痺れに戸惑いつつも、さらに指を蠢かす…… かってあの男にされた通りに
247 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:15:22 ID:v3S99Y/C
(奴は、暗闇の世界から逃れた私に…… また辱めを…… ぅぁん!)
(でも二回目の時は、初めての時のように縛り上げてじゃなくって……)
(私もあの時は…… 打ちひしがれて、惨めに弱り果ていたから、拒む力も無くって……)
記憶の中にあるあの交わりを反芻し、アデラはしとどに濡れた己の秘裂を深く穿ち、
体の奥に眠っている官能を掘り尽くそうと、その指を曲げて一番感じる場所を丹念に弄くり廻す。
(あの時に、魔王があんな真似をするから…… あの手で、あの指で、
弱りきった私の身体を労わるように、慰めるように抱くから…… ひゃぅぅ……)
欲望の箍が外れたかの如く、身体を弄る指は止まらない。
行為の初めに憶えた躊躇は何処にいってしまったのか、
口を押さえていた左手も、もう一度肌着の下をくぐって胸乳へ這っていく。
そして魔王がしたように、勃ち上がった乳首を優しく、時には強引に抓り上げる。
(くぅ!……ぁぅ、)
迸る快感に叫ばぬよう、彼女は枕に噛み付いた。
膣内を掻き回しつつ、別の指は膨らんだ陰核を擦り上げる。
蕩けるような肉の歓びに、益々彼女は高みへと登りつめてゆく。
最期が近いのが自分でも判る。
しかし、もう止められない。
指の動きは一層早さを増すばかりだ。
歯型がつくほどに、アデラは強く枕を噛み締める。
「んんっ!?、 ンんんんーーーーーーーーっ!!!?」
女騎士の肉体がベッドの上で跳ねるようにのけぞった。
信じがたい快楽の奔流に押し流されるように、彼女は絶頂に達した……
・・・・・・・・・
248 :
アデラ:2007/06/17(日) 23:16:32 ID:v3S99Y/C
「はあっ、はあっ、はあっ……」
まるで遠駆けをしてきた後の如く、アデラは貪るように空気を吸い込んだ。
形容しがたい官能の極みを味わった後に残るのは、決まって自己嫌悪と背徳感だ。
(こんなっ、何でこんな真似を……)
聖騎士がこんな自涜行為をするなど、清純と貞操の戒律は何処に行ったのか。
自問するが、答えは無い。
先の敗戦から、彼女の運命を狂わすありとあらゆる事が起きた。
いや、それともこの狂った運命こそあらかじめ予定されていた事なのだろうか。
アデラもよほど誰かに相談しようかと思ったが、
変調を解明するよりも、騒ぎを大きくするだけに終わる可能性が高いだろう。
あの赤毛の友人に話そうかとも考えたが、
冷静になってみれば彼女にだけは絶対に打ち明けられる話ではない。
(フフッ…… いっそ夢であいつにもう一度教わるか? 身体が疼くのは何故なの!って)
自嘲気味にアデラはそう思った。
浅ましい質問だが、今の自分にはそんな真似こそ相応しいとさえ感じた。
そして身体に残った気だるい疲れのまま、一時の安らぎを求めて眠りにつくのだった。
(終)
249 :
投下完了:2007/06/17(日) 23:30:21 ID:v3S99Y/C
いつも読んでくださる方、感想下さる方ありがとう御座います。
仕事とM2TWに忙しかったりしながら少しずつSSを書いてますが、
どうもネタが大きすぎると纏めるのに大変で。
その割りにエロシチュが尽き始めてきたし……
またしばらくしたら書くと思うので、次もしばらくお待ち下さい。
おお! リアルタイムに遭遇。
投下乙です。
待ってました!GJ!!
アデラかわいいよアデラ
ともあれGJ!
アリューシアマダー?
アビゲイルまだー?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
保守しますぞ
257 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:05:10 ID:PU1OFF/K
また、保守ついでに、退屈しのぎによろしければ。
今回エロなしなので、それも含め、
おきらいな方は、どうぞスルーの方向でお願いいたします。
258 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:05:59 ID:PU1OFF/K
背負ったルナは、時折呻いた。
スーの街を出て少し離れ、道を外れた奥へと入ったところで彼女を下ろし、クウリは川面に向いて座り、
時折、寝返りを打つ気配に見守るような視線を投げかけるが、すぐに戻してはそこに佇んでいた。
水分を含んだ柔らかな風が頬を撫でるのに、彼はため息をつき、そのため息こそ自分の甘さにつながるような気がして、そこらの石を川面に向かって投げては、また呆けるのである。
「あの女・・・」言いながら、あっさりとだまされた己と、巻き込んだ女騎士を思う。
これで、もうこの女騎士が自分にすがるような恩義はなくなった、
この人は目が覚めたとたん、これがすべて計画されたことであったことを糾弾し、僕を許さないだろう。
キヤの言うように、脅すしかなくなるのだ。
脅されたものがどんな行動を取るものか、それはクウリがよく知っている。
が、ここで逃げたところで、僕はどこにも行けないのだ。
259 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:07:52 ID:PU1OFF/K
彼女のうわごとはやがて終息して行ったのにクウリは安心しつつ、
それにしても、と呟いた。
こんなことにだまされるとは、と思う。
自分だけがだまされるならまだしも、この精々卓越な騎士が、
自分より先に騙されていったことに、見当違いの怒りを覚えていた。
なぜ、騙されるのだ!あなたほどの方が、なぜ、騙されるのか!!
これは、彼の八つ当たり、責任転嫁であるとしか言えない。
が、クウリは、「僕を守るといった人がこれでは!!」と不信感新たにルナを睨んだ。
「口ばかりじゃないか!!」
大方、内心で彼は気がついていたであろう、ルナが例えいなかったとしても、
自分はキヤに踊らされるほどの甘さであったのだろう、頼んだことを忠実にやってくれるほどの信頼関係を、彼は築いてはいなかったことも、また、心づけや駆け引き、術を知らなかったことを直視せざるを得なかった。
この意味で、下町のある意味厳しい生活を、彼は考慮していなかったとも言える。
俺の頼んだことを、キヤが利用し、それに甘んじたのはルナ。
だから、自分にはこれほどの非もない、と彼は思おうとしていた。
彼は、依然回りは自分に対して好意的なものであって当然、と疑わずにいた自分に気がついていたが、
わかっていて、自分の甘さを認めたくないだけの理由で、いやそういう彼だからこそ、怒りはルナに向かう。
何の穢れもないような、眉間を開いて眠る女を睨んだ。
「起きてくださいよ!!」彼は乱暴にルナの体をゆすった。
どうせ、もうこの先はないのだ。
ルナはこの先自分の事を許すとも思えない。
260 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:08:54 ID:PU1OFF/K
彼女の体を巻いていたシーツが、少し零れ落ちたのにも気がつかず、
「いつまで寝てる気ですか!」クウリはゆすり続けた。
さらさらと、仕立ての悪い麻のシーツは擦れ行き、横向いた彼女の片肌をさらけ出した。
肌の白さ、柔らかさを目の当たりにしたクウリが、はっと身を引いたとき、
ぱっちりと、ルナは目を覚ました。
「おまえ・・・クウリ」
言いながらルナは身を起こそうとしたが、
頭痛に苛まれたように目を瞑り、頭を抑えながら、ゆっくりと仰向けになる。
「おまえは・・・、そうか・・・そう、だったのか」
笑ったような声で、ルナは言う。
時折痛むのか、顔をゆがめ、それを見られたくないのか両腕で顔を隠しながら、息を吐く。
その目はとろりと潤んでいる。
「なんの・・・・ことでしょう?」
クウリはかすれながら、暴露してしまいたいような、自身の壊れかけた計画を守ろうというような、
言い訳に思い及んだが、どれにしてもこの窮地は逃れられそうもない。
是非、どちらとでも取れる言い方をした。
261 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:09:40 ID:PU1OFF/K
「・・・・お前は、知ってたのか?」
「は」
聞き返すような含みを持たせつつ、彼は膝をついた。
「知っていたの?」
ここでルナは息を止め、顔を隠した指の間から堪えきれないように涙をこぼす。
「このために、私を呼んだのか?」
「は」
クウリはもはやあきらめて、彼女からの、次こそ断罪を待った。
ルナは言葉を切ってから、すう、と息を吸い、大きく吐いた。
「なぜ、会わせたの?」
ルナは吐き出して、「あんな生活を、カイヤはしてたのよ!!」と激しく言った。
構えていたクウリは、まず言葉の意味を斟酌し、そこに自分への追及がないのを慎重にかみ締めてから、
疑うようにルナの様子に目をやった。
「見たくなかった、見たくなかった!あんなカイヤ、見たくなかった!!」
突然堰が切れたようにルナは大声を出し、「私が助けたカイヤは、不幸でしかなかった、どうして?!」
「私は、このまま一生ずっと・・・・・
いや、いや、いや!!」
262 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:10:38 ID:PU1OFF/K
「どう、されましたか・・・・?」
クウリは、少し離れてこの彼女の錯乱を黙ってみていて、やっと、口を挟んだ。
「どうしもしやしないわ、どうもしやしない・・・」
ルナはクウリに背を向けるように横に転がり、涙を抑えようとした。
「もう、あのカイヤは売られてしまう・・・・」
私のせいだ・・・とひくっと息を上げて、「どうして・・・・」
白いシーツをルナは体に巻きつけながら、呆然と涙をこぼす。
裸足のつま先は紅に染まっていて、果物のようなみずみずしさを見せ、かと思えば、
頬を覆っていた黒髪は、涙に張り付いた数本を残して、しゃくりあげるのに合わせてさらりと流れる、
しなやかな四肢を捩じらせるたび、肩やうなじや、白く透明な肌があらわにされていく。
あまりに、無防備な姿だった。
まるでそれが部屋着のように、ルナは恥らうこともなく、やがてしゃくりあげた。
所在無くクウリは頭をかいていた。
「僕には、どうしようも・・・・」
なんでそうなるのだ、騙された、となぜ気がつかない?狐につままれたような思いで、
「できませんでしたよ」
「・・・なぜ?」ルナは濡れた声で言う。
あるいは罠か?とクウリが疑い、眉をかすかに寄せたとき、
ルナは「どうして、何ゆえに私を止めた?なぜ、あのまま始末を終えさせてくれなかった?」
号泣していたくせに、急に追随を許さないように、背を向けたまま問う。
クウリは一瞬にして嫌悪感に包まれ、眉をひそめた。
263 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:11:51 ID:PU1OFF/K
「あのまま、やりたかったんですか?」
物憂げな彼女の表情、あのまま、快楽に身を任せたかったのか?
ただ単に、溺れていただけかよ?
カイヤが、とかきれいなこといいやがって、結局は、それかよ。
鼻を鳴らし「なんだと?」ルナは不機嫌あらわな声で言ったが、
クウリはけっとばかりそっぽを向き、自嘲するように笑った。
「そうでしたか、サクラだけでは物足りないとはね」
嫌味たらしくクウリが言うと、
ルナは「・・・キヤを売られたら、悲しむのは私だけではないでしょう?」
二人の間に、気まずい沈黙が下りる。
お互いの応酬には誤解があった、そうではない、と語るには長すぎる理由。
否定するような間柄でもないから、逆に干渉しすぎたというような、意識した沈黙が。
「あなた、キヤがどんな女だかわかってますか?」クウリは静かに聞く。
この意図をルナは勘違いした。「お前に応える必要はない」と言い返す、お前が選んだ女だ・・・・
クウリは暴露するかを迷い、が、僕の計画に気がつかなかった、だとしたら、
まだ、なんとかすることが出来るかもしれない、と考えた。
何とかして、この人を自分の駒にしなくてはならないのだ、
キヤを、ルナは信じているのだ。利用しない手があるものか。
ただの、女だ。
264 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:12:57 ID:PU1OFF/K
「・・・向こうを向いていろ」
唐突にルナはいい、シーツを肩まで引き上げた。
無言で向き直るクウリを横目で確認しながら、彼女は身に付けていたものを確認し、足りないものがないことに安堵して、きびきびとそれらを身に付けた。
下着を身に着けるとき、素肌に擦れる感触にびくりとした。
後ろに、クウリがいる。
サクラのことといい、今回のことといい、ルナは微かに解っているような気がした。
なにか――――、私の体は・・・・。
抑えられなくなってきていた。
クウリの後姿、大きな背中を盗み見て、ぞくり、とするのを感じて、慌てる。
ばかな、私はいま何を考えた?
あの腕・・・・
後ろ向きに私を押さえて―――――・・
楼主のあの太い指・・・
ばかなことを・・・・
「先に帰れ」
ルナは言い放つ。
265 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:13:59 ID:PU1OFF/K
クウリは振り返ることもなく「では」と小さくあごを見せ、立ち上がった。
「くれぐれも、街にお帰りなさいませんよう。
そんなことしたら、今度こそあなた、戻れませんよ」
見透かされたような思いに、ルナは「解っている!!」と怒鳴った。
指、唇、ヒルのようなそれらがこの肌を這い・・・
クウリの姿が消えていくのに、
追いかけてしまいたくなるのを、ルナは自身を抱いて堪えた。
抱いてくれ、とすがりそうだ、スーの街に行って、楼主にすがりそうだ。
「助けて・・・・」
欲情がルナの体の中で暴走し、めまいがした。
目を覚ましたときから、ずっと、クウリの腕を、胸を、肌を思っていた。
自分の体をさらけ出す結果も、私は、知っていたのだ・・・
「助けて・・・」
ゆっくりと横に倒れたルナの視界がきらめいた。
川辺には、水晶のような透明な石が転がっている。
その中の石、赤の透き通った石を手に取るとルナはそれを日にかざした。
「大佐・・・」
あの時、カイヤの棚にあった、薬・・・・
さまざまな推測が成り立つ、無意識にルナは石に口付けた。
噛み付くような、攻撃的な口付けだった。
266 :
ルナ:2007/06/30(土) 03:14:55 ID:PU1OFF/K
以上です。
リアル投下遭遇?支援(・∀・)
GJです。
クウリ、行っちゃえばよかったのに!
ルナの色っぽいようすの描写や葛藤する様子が良かったです。
続き楽しみにしてます。
アリューシア…
アビゲイル…
ヘタレ魔王の続編を見たい俺は、多分異端だ
アリューシア待ってる(・∀・)
へたれ魔王って最初からこのスレだっけ?
確か一番初めの話はここのスレだったよ
で、出てくるヒロインがお姫様になったときに、姫スレにもまたがって
投下されたんだと思う
保守
姫スレの方にシーアとルーゼンのシリーズの派生ものを投下しました。
良かったら、見に行ってみて下さい。
おっ!関連作品投下楽しみにしてました!
副長の日々マダー?
ルナGJ!!
なんか同じ人しか来てないか?
日本語でおk
282 :
投下準備:2007/07/18(水) 18:03:48 ID:MyilARbv
リクエストにお答えしてヘタレ書きました。
女兵士モノではないのでご容赦を。
「メリー、メリー、メリーのおっぱい可愛いね〜」
その日はこっそり囲っているメリーと遊べて、僕はすっかりごきげんだった。
お城で一緒に暮らしたいのだが、クローディアが許さないので都の郊外に内緒で預けてあるのだ。
鼻歌を歌いながら廻廊を歩いていると、裏庭に何やら不審な物体があった。
(ん、なんで銀貨が落ちてるんだろ?)
むろん、半年前ならともかく今の僕に銀貨程度は何でも無い代物だ。
それよりも重要なのは……
(なんだ? あの籠は?)
銀貨の上につっかえ棒に支えられた大きな籠が準備されている事だ。
籠はかなり大きな代物で、子供一人すっぽり入る位の物だった。
つっかえ棒は紐が括り付けられており、紐は庭の木立に伸びている。
どうも気になって、僕はそちらに引き寄せられた。
あくまでもその仕掛けが気になったからであって、
王様の癖に落ちてるお金は放置できない貧乏性では無いから念のため…… 本当だよ?
さて、銀貨と大籠を目の前にして、僕は右手を一振りする。
「むにゃむにゃ………… ほいっ」
指輪の魔法で引き寄せた一本の杖。
僕はそれを籠の下に差し入れて、紐でつっかえ棒が引っ張られても籠が落ちないようにした。
その上で銀貨を拾えば……
「あーっ、駄目ェー!! 」
大声で静止された。
「つっかえ棒追加するのは反則ー!やり直してよ!」
茂みから、見覚えのない女の子が飛び出して僕の行為を詰った。
背は僕より大分低い。
この辺りの国では見かけない変わった服だし、お城の人間ではなさそうだ。
(まあこんな事をする人間が城勤めをすることも無いだろうが)
どこから忍び込んだのだろうと思いつつ、僕は銀貨を籠の下に戻す。
「うん、じゃあもう一度ねっ」
そう言うと、女の子は茂みの陰に戻った。
何が起きてるかは判らないが、僕はもう一度銀貨に手を伸ばし……
ガ サ ッ !!
紐に引っ張られてつっかえ棒は外れ、支えを失った籠は僕の頭に落ちてきた。
「やったー! つーかまえたーっ!!」
大喜びで、さっきの女の子が飛び出してきた。
籠の編み目の隙間から、その子の方をもう一度見る。
顔の作りも身体つきも、普通よりちょっと小さい。
でも栗色の髪の毛をした、くりくりと大きな目をした可愛い女の子だ。
ぴょんぴょんと跳ね回るたびに、三つ編みにしたお下げが頭の横でひょこひょこ踊っていた。
「さあっ、捕まえたわよ。この泥棒め〜!」
「?」
「出して欲しかったら、盗んだ物を返しなさいっ」
「??」
話がいまいち繋がらない。
一つ、僕はこの娘からナニか盗んだ憶えは無い。
二つ、この籠から出ようと思えば、この娘に頼むまでも無い。
「ほいっ」
こうやって籠を退かせば十分だ。
「へ? 何で出れるのよ?」
何でといわれても、こんなので出れなくなるのは鳥さんぐらいだ。
「『籠を被せられたら、そこから出ちゃいけない』って事も知らないの?
もう一度被りなさいよ〜!」
(……初めて聞いたよ、そんな事)
でも僕が知らないだけで、ひょっとして世間ではそんな決まりやしきたりがあったりするんだろうか?
うん、なら試して見るべきだよね。
「えいっ」
僕は籠を目の前で騒いでいる女の子に被せた。
僕を収めるには小さかったけど、この娘はすっぽり入る。
「えっ? ……ええ〜っ? 何で私が被せられちゃったのぉ!?」
そんな事、僕に聞かれても困る。
そもそも何で僕に籠を被せようとしたのか知りたいよ。
「ちょっと、出られないじゃないのよ!」
「籠を持ち上げて隙間から出てくれば?」
「ばっ、バカな事を言わないでよ!? そんな事出来ないわよ!」
……やっぱりどうも話が通じない。
ここは一から相互の理解を探るべきだろう。
「えーっと、君の名前は? ここにはどこから入ってきたの?」
「私? 私はグレダよ。地上へはトンネルを掘って来たの」
トンネル?そんなのあったかなあ?
「歳は幾つ? ここは子供が入ってきていい場所じゃないんだよ」
「むう、子供呼ばわりしないでよ! 十年に一度生える『お化け茸』をもう三回は食べてるんだからっ」
えっ、信じられないがこのコは僕よりも大分年上なのか。
可愛らしい顔立ちや肌の艶、そして発育が悪そうな身体の所為でそうは見えないけど。
十年に一度しか生えない茸を三回食べてるという事は、少なくとも………… えーっと、計算できない。
自分で飼ってた羊よりも大きな数を数える必要がなかったから、僕は算数が苦手だ。
まあ年齢なんてどうでもいいか。
「ここに何しに来たの? さっき僕に盗んだ物を返しなさいって言ってたけど」
「そうっ、そうよ! そのために来たのよ。
アンタが持ってる指輪は私たち大地の小人が持つべきものなの」
「指輪?」
「その指輪は、今は亡きうちのおじーちゃんが河の精霊から魔法の黄金を盗み出したモノなのよ。
意地汚い神々に取られちゃったけど、正式な持主はおじーちゃんなの」
そこら辺の話は僕も昔話で知ってる。
いろんな持主の元を変遷した魔法の指輪は、最後は河の精霊の元に還されたのだ。
神様や巨人や英雄達も、結構えげつない真似するんだよなあ。
「……盗み出したという時点で、正式も何も無いと思うんだけど」
「うっ、それはえーっと、『運命は持つべき者の手にそれを与える』ってヤツよ!」
その伝で言うと、河の底で指輪を手に入れた僕が新しい正式な持主じゃあなかろうか?
こちらも『勝手に持ち出した』と言われても仕方ないのだが、
少なくともそれは河の精霊たちが主張するべき事であって、
この小人娘さんに言われる筋合いはない。
「かえせ〜、かえせ〜! ここから出せ〜!」
「指輪は還せないけど、籠から出る分には構わないってば」
「も〜、アンタ何にも知らないのね……
籠を被せられたら、出ちゃいけないって決まりが土小人にあるんだってば!」
なるほど、それで僕を閉じ込めて指輪を取り戻そうとした訳か。
話が大分判ってきたぞ。
つまり、籠に閉じ込めて僕に言う事を聞かせようとしてたんだ。
でも僕は小人族ではないので、籠を被せられても何の意味も無いけどね。
「卑怯者!ドロボー!バカー!変態!ろくでなし!不能!ドアホー!ミミズー!!」
思いっきり罵声を浴びせかけてくるグレダだけど、決まりに従って籠から出ようとはしない。
でもミミズって小人族にとって悪口なのか。
「はいはい、何とでも言ってくれよ。出して欲しい?」
「当たり前でしょ!」
「じゃあ、僕の言う事を何でも聞いてくれる?」
「へ?」
「さっき出して欲しければ指輪を寄越せっていってたでしょ。
そういう交換条件は成立するんだよね?」
「わわわ。ずるいわよ、そんなの!」
「ずるいも何も、最初にそっちから仕掛けてきたんじゃないか」
「うぐぐぐ…… どうすればいいのよ」
「僕の指輪のことを言いふらさない事、書いたり身振り手振りでも人に悟らせちゃ駄目だよ」
あんまり指輪のことが大っぴらになると、僕から奪い取ろうとする輩が出てくるからね。
「判ったわよ。誰にも言わなきゃいいんでしょ」
「約束だよ」
「くどいわよ! 人間や神と違って小人は嘘を付かないんだから」
このまま閉じ込めておいてもしょうがないので、僕は籠を持ち上げてグレダを出してやる。
「はいよ、もう僕に籠を被せようとしないでよね……」
その言葉が終わらないうちに、グレダは隙間からスルリと抜け出し、茂みの奥に消えしまった。
「やーい、バーカバーカ!抜け出しちゃえばこっちのモノよ!
絶対指輪は取り返すんだからっ。月の無い夜は背後に気をつけなさいよねー」
物騒な捨て台詞と共に、小人娘は居なくなってしまった。
茂みを掻き分けて見ると、底には大きな穴がぽっかりと開いていた。
どうやらここから地上に出てきたらしい。
「……」
あの娘の頭の程度では、ほっといても大した事なかったかもしれないけど、
誰かに背中を狙われるというのは気持ちのいいものじゃない。
僕は指輪の魔力を開放する。
『大地の霊よ。お前の胎の中に小人娘のグレダがいるのなら、彼女を吐き出しておくれ!』
呪文を唱え軽く地面を踏みしめると、穴から女の子が飛び出してきた。
「きゃわんっ!?」
確認するまでも無く、さっきのグレダだ。
飛び出た拍子に尻餅をついた彼女の襟首を捕まえる。
「あわわわわ……」
何が起こったのか、いまいち把握出来ていないようだ。
「で、月の無い夜は何だっけ?」
「ひええっ」
慌て怯えた様子で、グレダは僕の言葉に縮みあがる。
それを見て、僕の中で悪戯心がむらむらと沸き起こった。
この木立の中なら、誰かに覗かれる心配はなさそうだ。
「人を後ろから刺そうとするなんて、許せないな」
「あわわ、あれはうそ!うそウソ嘘です〜!」
「ん〜、大地の小人は人間と違ってウソを吐かないんじゃなかったかな?」
「ひゃわわぁ! あれも嘘です〜、ウソを吐く時はウソを言います〜!」
手足をジタバタさせる小人娘を、僕は地面に押し倒した。
(しかし、小さい身体だなあ。小さいから小人なんだろうけど)
「なっ、何をするつもり?」
「嘘つきの悪い小人を懲らしめるためのお仕置き」
「わわわ! そんな必要ありません!
私はすっかり改心いたしましたっ、もう指輪を狙ったりしませーんっ!」
「小人はときどきウソを吐くんだろ?
今度僕のモノを狙ったらどうなるか、身体に思い知らせてあげないとね」
出来るだけ悪そうな作り笑いを浮かべ、僕はそう宣言する。
実のところ、僕は悪そうな顔が下手だ。
『それじゃあ田舎の小悪党だってビビらないわよ? もっとあくどい顔をして』と
クローディアに指摘され、ショックを受けた事がある)
「うぎゃーっ、悪い人間に犯される! 殺される! 喰べられちゃうーーーっ!!」
でもグレダには十分通用してくれたようだ。
その反応が嬉しくなって、僕の調子も上がってくる。
「えーっと、『ぐへへっ。大人しくしてろよ、お嬢ちゃん』」
「あーれーっ」
んー、実に悪っぽいね。
こんなに悪っぽいのは久しぶりだ。
「えいっ……」
ちゅっ、
「む、ふむむむむぅー」
小人娘の小さな唇に、僕の唇が重なる。
うーん、柔らかい。
味わうように小人娘の口を堪能しながら、相手が大人しくなるまで唇を貪る。
(舌はまだ入れないけどね)
グレダは僕の身体を押しのけようと頑張ったけれど、体格の違いは如何ともしがたい。
圧し掛かった僕を重みに負け、腕に力を込めるのにも疲れたのか、とうとう抵抗が止んだ。
これ位なら大丈夫かなと思い、一寸だけ舌を挿れてみた。
「むに?」
噛まれるかと心配だったけど大丈夫みたいだ。
小さなグレダの頭を抱き締めるように引き寄せて、暫くの間彼女と深いキスを交わした。
「ふみぃ…………」
散々口の中を堪能した後で僕が顔を離しても、グレダはまだ放心状態だった。
「ひょっとして、初めてだった?」
「……ひょっとしなくても初めてなのよぅ」
うっすらと涙が浮かんだ瞳を見て、ちょっとだけ罪悪感が浮かぶ。
グレダの柔らかいほっぺに、僕はもう一度僕はキスをする。
「あんっ、駄目よっ、くすぐったいじゃないの」
可愛らしい声で抗議されたが、それを無視して僕は頬から首筋、鎖骨へとキスを続ける。
(………)
そんななか、僕はグレダの身体にとっても懐かしい感想を覚えた。
最初は何でだか判らなかったけど、唇を這わせるうちに次第にその理由が明らかになる。
「うーん、くんくん」
「なっ、何を嗅いでるのよ?」
(そうだ、この子の身体からは土の匂いがするんだ)
クローディアはお姫様だし、グロリア殿は王太后さまだ。
王様になって手を付けた女官たちもそこそこの身分の女の子で、みんな香水や脂粉の薫りがした。
こんな化粧っ気のない女の子は初めてだし、僕にとっては故郷の懐かしい思い出が胸に蘇ってきた。
「懐かしい匂いだなぁ。ふるさとの平原を思い出すよ」
僕は小人娘の真っ平な胸に頬擦りしながら郷愁にふける……
「ばっ、バカバカバカーっ! 平らで悪かったわね!! 他の種族は膨らみ過ぎなのよ!!」
怒られた。
最初はこれ以上するつもりは無かったんだけど、グレダの身体に色々しているうちに
下半身がかなりやる気を出してしまった。
『野外で』『無理矢理』『年端もいかない女の子(外見のみ)を』という状況が、
普段より興奮度を増しているのだろうか。
充血した僕のモノが、ズボンを押し上げて山を作っている。
「きゃわーっ!? 止めてぇー!!」
小さい腕で妨害されるのを振り払い、僕はグレダの服を解く。
ベルトを外し、ブーツと脚衣きを引っぺがすと、初々しい乙女の秘め所があらわになった。
「ひっ、ひやぅ……」
「大丈夫、優しくするから(多分)」
生娘の貝の様に閉じた裂け目に、いきなり僕のモノを入れるような真似はしない。
(そんな高等技術は僕には出来ないし)
まずぴったり合わさった外側の花びらを、なるべく優しく触ってみる。
触った瞬間、むずかるようにグレダが震えた。
皮を被ったままの突起から、お尻の谷間に至るまでを裂け目に沿って撫でていった。
約束どおり優しくしていくつもりなので、花蕊を強引に剥いて弄るのは止めておいた。
僕は何度か割れ目を往復して、その弾力の有る肉感を楽しんだ。
そして逃れようともがく彼女を押さえつけたまま、花弁を割ってその中へと指を侵入させる。
「あぁん」
(狭いなぁ……)
その小ささに僕はビックリすると同時に、心配になってしまう。
奥まで入れるのも苦労するほど、グレダのそこはきつかった。
僕のもそんなに立派な物ではないけど、これだけ狭いと大変そうだ。
けど、とりあえず今は指でアソコをほぐしてあげないと。
後から思えば、指か股をよく舐めて、少し濡らしておいた方が彼女の負担が軽くなっただろうと思う。
僕もまだまだ女体の扱いが下手だなあ。
ちょっと、いや大分反省しないと。
そうしてきつい膣道を指でかき回すうちに、少しずつそこが潤いを帯びてきた。
その頃には喚き疲れたのか、丁度グレダも大人しくなってきた。
(そろそろ良いかな?)
グレダの胎内から指を抜いて、僕は小人娘の細い足を開かせる。
彼女は脚を閉じようとしたけれど、何とか僕は股の間に身体を入り込ませた。
「いやぁん、それだけは駄目ーっ!!」
最後の力を振り絞ってか、この期に及んでグレダは暴れだした。
手で引っ掻き、脚で僕を撥ね退けようとする。
(お陰で僕の顔や手に、幾つも爪の跡がついてしまった)
必死の抵抗を受けながらも、僕は彼女の小さな裂け目にいきり立つ物を宛がい、
その中へと挿入しようと試みる。
「いぎ、痛いっ!痛い痛いーっ」
さらに大きな声でグレダは絶叫する。
身を割かれる激痛が彼女に襲い掛かっているのだから、その叫びも当然だ。
だけど、こっちだって負けずに痛い。
狭い肉の環の中に自分の肉体の一部を捻り込もうというのだから、
気持ち良さより締め付けられる痛みの方が強い位だ。
それでも、ここまで来て止めるわけにはいかない。
片手でグレダを押さえ込みながら、もう一方の手で狙いが逸れないように位置を定め、
少しずつその小さな隙間を押し広げていった。
「いーっ、痛いっ、痛すぎるってばっ!死ぬっ、痛すぎて死んじゃうよぉ!!」
「だっ、大丈夫だよ。えーっと…… 大きく息を吐いて、力を抜いて」
「そんな大きいの入るわけないわよぉ!
抜いてっ、抜いてちょうだいっ、抜きなさいよぉ!」
まだ先っぽしか入っていないのにこの痛がり様。
(やっぱサイズが合わないのかな)
と思った矢先、前進を阻んでいた抵抗が急に弱くなった。
(あっ?)
「ぴぎぃっ!!?」
大きく瞳を見開いて、グレダは奇妙な呻き声を上げた。
(破けたんだ……)
肉のきつさは変わらないけど、僕のモノがそれまでより深く入っていった。
「あうう……」
小さなグレダの身体は、あまり奥行きが深くなかった。
絞られるような痛さにも慣れてくると、少しだけ冷静さを取り戻す事ができた。
僕の身体の下でいたいけな女の子(に見える小人娘)が破瓜の痛みに涙を溢している。
思わず僕は『痛かった?大丈夫?』なんて馬鹿なことを口走りそうになってしまった。
言うまでもなく痛いし大丈夫じゃないに決まってるだろうに。
(うっ、お仕置きといってもやり過ぎかな)
今更ながら後悔にも似た苦い思いが沸き起こる。
こうして思い切りの悪い所が、僕の欠点なのだ。
「よいしょ、っと」
「ぁぅ……」
とりあえず、この行為に区切りをつけるため、僕は腰を進める。
最大の難関を破ってしまうと、少女の身体からは力が抜け、突き当たりまでなんとか貫けた。
一度筋道を通してしまえば、次からは簡単だ。
なるべく痛みを与えないようにゆっくりと戻し、そしてまた奥まで突き入れる。
「ああぁん!!」
僕が動くたびに、グレダの喉から叫び声が上がる。
いつの間にか、彼女の手は僕の服にしがみ付いていた。
痛みを堪えるため、何かに縋り付きたい一心なのだろう。
無茶な動かし方も出来ず、前に後ろに単調に腰を動かす僕。
そんな僕に圧し掛かられて、もはや抗うことも出来ずに終わるのを待っているグレダ。
「もっ、もう直ぐ終わるから。あとちょっとだけ我慢して……」
そう言って、僕は彼女の頭を軽く撫で、頬にキスをした。
気休めにもならない言葉だけど、もう直ぐ終わりそうだというのは本心だ。
グレダの中はきつ過ぎて、いくら優しく動かしているとはいえ
正直我慢が出来そうにないほどだったのだ。
「あうっ……」
「きゃっ!?」
何度彼女の中を往復したか判らないけど、繰り返して出し入れするうちに不意に僕の物から
迸るように体液が吐き出された。
どくどくと脈動する射精感が堪らずに心地よい。
「はぁ〜〜〜っ」
僕は思わずため息を漏らした。
そして脱力感のあまり、そのまま地面に倒れ伏したくなってしまい……
「ぷぐっ!?」
あっ、まずい!
危うくグレダを押し潰してしまうところだった……
「ごっご免! 大丈夫?」
「……大丈夫じゃなわけないでしょお!
乙女の純潔を無理矢理散らした挙句、終わったとたん押し殺そうとするなんて……」
非難の意志が篭った瞳で睨まれ、僕は思わずたじろいでしまう。
「えーっとその、何だ、押し潰そうと云う訳じゃなくって、その……」
「酷いーっ、地上の人間なんかに手篭めにされちゃったーっ!!
もう絶対お嫁にいけないわよぉ! ううん、それどころか地中の国に戻れなーい!! うわぁ〜ん!!」
えーっとえーっと……
どうしよう?
・・・・・・・・・
「メリー、メリー、メリーはとっても可愛いね〜」
藁と動物の匂いのする家畜小屋で、僕はメリーのおっぱいを搾った。
「ほれ、王様や。手が開いたらマキを運んでおくれ」
「はーい」
小屋の外からお婆さんの声がする。
ここは僕がメリーを預けている家だ。
ちゃんと王様だという事を打ち明けて、僕が居ない間メリーの世話を頼んだのだけど、
どうも僕の事を『王様を自称するほら吹き青年』としか見ていない節が有る。
(まあこんなに家畜の世話や薪割りが上手な王様なんて、ちょっと考えられないんだろうな)
メリーを預けた時に謝礼は渡してあるのだが、こうしてそれ以外にも色々使われている次第だ。
「それにしても王様や、メリーの世話をお願いされた時も金貨渡されてびっくりしたけど、
今度の子はどっから攫ってきたんだい?」
「攫ってきたなんて人聞きの悪い…… そこら辺はちょっと話しづらい事情があるんだよ」
「まあねえ、そりゃあんたが人攫いだなんて思ってはいないけどねえ」
そんな会話をしている間に、元気な声が響いてきた。
「お婆さ〜ん。繕い物終わったよ〜」
「あらあら、仕事の速いこと。じゃあそろそろ昼食の支度をしようかね」
「はーい」
「ふふふ、ちょっと変わってるけど、働き者のいい娘だね。
私もそろそろ針仕事がしんどくなってきたから、ありがたい事さ……
あんな良い娘に惚れられて、アンタも幸せモンだ」
「へっ?」
「ほほほ、婆の目はごまかせないよ?
あの子があんたを好いているってことはちゃーんと判るんだ」
……お婆さん、高齢の所為でかなり目が悪くなってきるんじゃ?
「どうせ親御に反対されて、駆け落ちかなんかしてきたんだろう。
いいねえ若いモンは」
「あのね、お婆さん。グレダと僕の関係はそんなものじゃなくって……」
「おやおや、この期に及んでまだあの子と懇ろになってないって言うのかい?」
「それは……」
「ほほほ、恥ずかしがらなくってもいいじゃないか。
そりゃちょっとあの子が幼すぎるけど、もう四五年もすればあの子も大人になるさ。
したらアンタとも釣り合いが取れた、いい夫婦になるってものだよ」
(……あの子は外見は子供ですが、実は僕よりはるかに年上なんですよ?)
本当のことを言ってしまいたい気もするが、どうせ信じてもらえまい。
「はあっ……」
僕は事の成り行きに思いを馳せつつ、軽いため息をついた。
あの時、怪しい銀貨に手を伸ばしたのがいけなかったのか。
それより挿れたのが拙かったのか。
いや、そもそも国に戻れないと泣くグレダを放って、やり逃げしてしまえば良かったのだろうか。
悪になりきれないのに、下手に情をかけるもんじゃないなぁ。
「ん?」
「……」
「はいはい、お前の事を忘れてたわけじゃないよ?」
放っておかれたメリーが不機嫌そうに僕を覗き込むので、白くて可愛いお尻を撫でてあげる。
そういえば、今回の件がクローデイアにバレたらどうなっちゃうんだろ?
結構やきもち焼きだからなぁ。
若干心配になってきたが、とりあえずその事は忘れておくことにする。
僕は再び歌い出す。
「メリー、メリー、メリーだけは僕の味方だよね〜……」
メ゙ ェ ーー
ちなみにメリーとは雌山羊の名前だ。
時々無性に乳搾りや毛刈りが懐かしくなるんだけど、
『国王が山羊の乳搾りなんてみっともない』とクローディアに叱られたので、
一人暮らしのお婆さんに飼ってもらっているのだった。
(終わり)
GJ!であります。
どっちも素晴らしい文章ですな。
素晴らしい!!
笑って和んで萌え萌えしたよ。
ヘタレ魔王も小人たんもヘタレすぎなんだぜ。
だが、それがいい……
しかし掛け算がまともに出来ないとか、相変わらず神を細部に宿してますな。
GJ!!!
おお!大好きなへたれ魔王来たGJ!
へたれ魔王GJです!
しかしクローディアさんの嫉妬は怖そうだなあwww
そろそろ来そうな圧縮。
回避のためにsageほしゅ。
ほっしゅ
神待ち
アビゲイル、突然途切れてしまって蛇の生殺し状態。
作者さんが書く気が無くなってるならしょうがないけど、
病気でもなっているのではないかと密かに心配している。
下から十番目という微妙な位置なので浮上。
折角夏なんだから、職人諸氏には
「汗ばむ陽気のせいで甲冑姿の女戦士が匂いを気にして水浴び。
しかし、川辺の茂みにはその引き締まった肢体を覗く不埒な瞳が・・・」
とかいう作品を書いてもらいたいな。
お約束だが、
そこまで出ているなら是非書いてくれ
最近知って保管庫読みあさってハァハァしてきたんだが
アビゲイルの人の続き欲しいな…
あと騎士と生意気な魔法使いの人のが好きなんだが
この人ももう投下はないのかな…
催促スレというか、リクエストは書き手さんの励みになるだろうけど
途中で放棄して、何ヶ月も音沙汰がない人のはそろそろ察してやれ、
とは確かに思うな
あの人は書き逃げなんてしない!きっと病気なんだと思いたいのかもしれんが
書きかけのまま放置というのはこの板にはよくあることだよ
そうそう。
お前らこの板初めてか。まとめて力抜けよ。
つかなんか最近○○から来ました!とか保管庫全部見ました!とか多いね。
はやってんのか?
305訂正
×催促スレ
○催促レス
夏だから……かな。
"アビゲイル"で検索すればわかるが、昔からの人だろう。
ただ、それを待っているのはお前さんだけじゃないこと、
催促すれば続きが投下されるというわけではないことに
いい加減気付いてほしい。
>306
ほらほら、若者は夏休み入った頃だから仕方ないんじゃない?
書けなくなってFO状態の作品に「続きを待ってます」ってレスがつくことで
書けるようになる、とか結構あると思うけどな。それが数ヵ月経った作品ならなおさら。
まあその逆で、書こうとしてるとこに水さされちゃうこともよくあるんだが。
しつこいな311w
うざいならスルーすればヨシ!イラカリすんなよ
カリカリするよりカリを……
しゃぶれよ
圧縮避け保守
俺はアリューシアもアビゲイルも待ってるよ。
神作品だし続きあるなら是非読みたいと思う。
勿論今リアルに投下してくれてるシリーズも首を長くして待ってるし、
新しい作品との出会いも待ってる。
夢見つつ、ホッシュ
>>301を見て、この連日の暑さでは
確かに女兵士には水浴びをして欲しいものだと思いながら
書いたものを投下。
とりあえず前半を投下します。エロは後半。
319 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:06:11 ID:zAM27VBh
太古、水の神の一族が住んだという神殿群は、回廊を縦横無尽に水路が
巡らされている。
不思議なことに、どの神殿も中央の塔からは廃墟となった今も枯れることなく豊富に
水が湧き出て、壁のいたるところを滝となって流れている。
流れ出た水は水路を伝い、中庭にある人工の泉に注ぎ込まれていた。
その泉に、たった一人で水浴びをする娘がいる。
「気持ちいい……」
フィアは背中の、丁寧に組まれた石のなだらかな傾斜に寄りかかり、
水に浸かったまま空を仰いで、うっとりと呟いた。
山頂の主神殿から切り立った崖を下り、チカル山の一番下の第五神殿に到着する頃には
灼熱の太陽がすっかりと頭上高くに昇っていた。
水面にせり出すように枝を伸ばす樹木は凶暴な日差しを遮り、良いぐあいに陰を作る。
木漏れ日がフィアの顔の上でちらちらと踊っている。
枝葉の隙間から見上げる空は何処までも青い。
泉には水の流れ込む水路はいくつもあるのに、流れ出す水路は一つも無い。
どんな不思議な力が働いているのだろうかと思うが、神殿兵士のフィアにも
太古の遺跡の仕組みはよく分からない。
第四神殿までは神の住む聖域だが、此処はもともと神に仕える人間達の神殿だったと聞く。
透き通った水をなみなみとたたえる、見るからに涼しげな泉に身を浸して、
フィアが炎熱による疲労を癒し、汚れた体を清めても、ここでなら許されるだろう。
もっとも、この廃墟に彼女を見咎める者など、今はもう誰も居ないのであるが。
水は刺すように冷たい。
しかし、焼き焦がされるような日差しに晒された体に篭った熱を冷ますには丁度よかった。
「………ふう」
こうして水の中をたゆたっていると、乾ききっていた細胞の一つ一つが
じんわり潤っていくのがわかるようである。
褐色の肌にまつわりついた長い黒髪を後ろに流し、咽を反らして息をはく。
すらりとのびた肢体は、清らかな水の中で存分に伸ばされている。
腕を掬い上げると、汗と埃が綺麗に流された滑らかな肌を水滴が伝い落ちた。
320 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:08:26 ID:zAM27VBh
立ち上がり、一段深くなっている所めがけて水飛沫を上げて飛び込み、
魚のように潜水する。
魔物の住む森に囲まれた山中に建つ神殿群。
廃墟となった今は人はおろか、獣さえも魔獣を恐れて此処には脚を踏み入れない。
誰にも見られる心配は無い。
形の良い豊かな乳房や、丸みのあるくびれた腰を惜しげもなく白昼の元にさらし、
フィアは存分に水のなかで戯れた。
(辛い旅だったけれど、こうしているとその苦労が吹きとぶようね)
気の済むまで泳いだあと、フィアは岩に寄りかかりそう一人ごちた。
* * *
王都の神殿では、先日、先代の巫女が亡くなり、新しい巫女が後を引き継いだ。
神殿兵士のフィアはその巫女の番い(つがい)の相手となる水の神を
この遺跡に求めに来ていたのである。
言い伝えによると、水の神とは、或る竜の一族を指している。その竜は縄張り意識が強く
番いになった雌の住む土地を病魔や魔物、様々な厄災から守る習性があるという。
チユタ国では昔から、五穀豊穣をつかさどる大地の神の代理人である巫女が
この竜の番いの相手となり、国を守っていた。
巫女が世を去ると、その番いの竜も後を追うかのように姿を消してしまうので、
新しい巫女のためには、新たな竜が必要になる。
竜は病気や寿命で命が尽きかけると、この神殿の石の中に篭り、しばらく水に沈んだ後、
再び蘇るのだという。
竜が自分から人里に姿を見せることはまず無い。だから、チユタの民は竜を望んだ時は、
この太古の神殿に『竜の入った石』を拾いに来るのである。
新しい巫女の従姉妹にあたるフィアは、巫女の縁あるものとしてその大役を
神殿から仰せつかっていた。
321 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:12:44 ID:zAM27VBh
* * *
いくつもの野山を越え、孤独と炎熱に耐えながらの苦しい旅の果てにたどり着いた
神殿の内部の光景は、実に不思議なものであった。
主神殿の奥の洞窟にはどこからか水が流れ込み、やはりどこか分からぬ所へ
流れ去っていく。
その常に流れのある水に浸り、いくつかの石の球体が静かに床に点在していた。
そのなかの一つが、今フィアの背負い袋の中に入っている。
フィアはちらりと泉の縁に置いた袋に目をやった。
いくつかあった石のなかの、一番目に付いたものを選んで持ってきたが、
それでよかったのだろうか。
竜が中に入っているのなら何か反応があるはずと思い、神殿で教わった呪文を
何度も唱えてみたが、予想に反して石は何の反応も示さなかった。
過去の遺跡や伝承に詳しい神官たちに見せるまでは確信がもてないのは、
なんとも不安なものである。
「…………一応、あれも綺麗に洗っておこう」
フィアは立ち上がり、袋を探り、中から石を取り出した。
片手に乗るくらいの大きさの石は、水面から出ていた部分にびっしり緑のコケが
生えている。
暗い洞窟内では仄かに青白く輝き、幻想的でさえあったが、こうしてじっくりと日の下で
見てみると完全な球であるという事をのぞけば、変哲の無いただの汚れた石だ。
「………………」
「─────お前、女だったんだな」
「きゃあっ?!」
突然石から低い声が聞こえ、フィアは驚きのあまりそれを取り落としそうになった。
「おい、気をつけろ。石が割れたらどうする」
「……………み、水の神?」
フィアはしっかりと石を掌に包み込み、恐る恐る問いかけた。
322 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:15:18 ID:zAM27VBh
「ああ、お前たちはそう呼んでるな」
「…………口がきけるのね」
「当然だ」
「昨日私が呼びかけたときは、ちっとも反応が無かったわ」
「そりゃ、お前があんな格好をしていたからだ。
むさくるしいマントとフードで顔と体型すっぽり隠して、
てっきり野郎が来たんだと思ってた。
今みたいな格好で呼びかけられてたら、昨日の段階で応えてやってたぞ」
裸を晒していることを指摘された形となり、フィアは体を隠すように、だぶん、と
水の中にしゃがみこんだ
「今更何を恥らう。良い目の保養をさせてもらった。
………ふむ。こうやって真上から眺めるのも悪くないな。
押しつぶされた胸の谷間のむっちり感がなんともいえん」
しゃがみこみ片手で胸を押さえ、できる限り自分の体から離そうと、石を持った手を
頭上にあげていたフィアの顔が沸騰したように赤くなった。
「くうぅ〜〜」
怒りのままに渾身の力を込めて投げ捨ててしまいたいのを何とかこらえ、
フィアは石の視界を遮るように両手ですっぽりと包み込んだまま、袋を引き寄せた。
「なんだ。ヌードショーはもうおしまいか?」
「ヘンな事いわないで!」
柳眉を逆立て、フィアは石を袋の中に放り込んだ。
「まあ、待て。少し落ち着け。周りを見てみろ。気が付かないのか」
「えっ……」
何を、と言おうとした次の瞬間、フィアはすっと表情を引き締めた。
石柱の影、茂みの中、そして、泉の底にも。
いたるところにこちらを窺う異様な気配があった。
フィアは袋の横に置いてあった剣に素早く手を伸ばした。
(獣か魔物か、どちらかは分からないが、狙いは私……)
323 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:17:08 ID:zAM27VBh
山に入る前に、呪術師に魔よけの文様を体に入れてもらってある。
今まではそれが効いていたはずであった。
何故急に魔よけが効かなくなってしまったのだろう。
「ここを流れる水はすべて聖なる水だ。何でも洗い流されて、清められてしまうんだ。
魔よけの文様も然り」
彼の言うとおり、汗や水では消えることの無い文様が手足からきれいさっぱり消えている。
おそらくは背中に付けてあった文様も流されてしまっているであろう。
迂闊だった。ただの水だと思っていたのに。
「こいつらお前を食う気らしいぞ。どうする」
「どうするも何も、片付けるしかないじゃない」
フィアは鋭い目付きで辺りを窺った。
一糸纏わぬ姿で(しかもこんな助平そうな奴に見られながら)魔獣退治など出来るだけ
避けたいことだが、そうも言っていられない。
フィアは闘志をむき出しにして、剣を構えた。
引き締まった小麦色の裸体に水の珠が伝い、ぽたぽたと雫が水面にこぼれ落ちていく。
「おい、神殿の中で流血沙汰は勘弁してくれ。こんなやつら俺が追っ払ってやる。
石から出るから、力を貸せ」
「えっ」
「え、じゃないだろ。俺をなんだと思っている。どうせ魔よけにするつもりなんだろ。
ヌードショーの礼に、いっぺん実力を見せてやろう」
「…………なんだか少し納得できない部分もあるけど、わかった」
フィアは周囲に隙を見せずに、袋から再び石を取り出した。
「よし、今から教えてやるから、俺の名を呼ぶんだ。
充分な眠りの後に、聖なる乙女の呼びかけがあれば俺は石から生まれ出ることが出来る」
「聖なる乙女?私は巫女じゃないわよ」
獲物をしとめようと、異形の獣達がじりじりと近づいてきている。
それを気にしながら片手に剣、片手に石を持ちフィアは答えた。
「処女のことだ、処女」
「処女でもない」
「え──────────────────」
「何その落胆ぶりは。で、どうするの?やはり私が倒そうか?」
324 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:19:40 ID:zAM27VBh
「…………………じゃあ、女だ、女」
「結局なんでも良いってわけね」
「むむ………いいか、こう呼ぶんだ。
レルモス・レルモフィリア・シム・ラウル・リカーテ」
「レルモス・レルモフィリア・シム、えっと?…」
「ラウル・リカーテ」
「ラウル・リカーテ!」
フィアがそう呼んだ瞬間、轟音と共に水面から一斉に勢い良く水柱が上がった。
水は人ならざる力によって空高く突き上げられ、うねり、碧空を覆い、
絶え間なく地に降り注ぐ。
白い水の飛沫が、水煙となって辺り一帯に舞い上がる。
スコールのように落ちる大粒の水が激しく全身を叩き、フィアは堪えきれず
目を瞑った。
息も出来ないほどの凄まじい水流が、怒涛のようにフィアの周りで渦巻き、荒れ狂う。
激流に脚を取られ、よろめいたフィアの腕を何者かが力強く掴んだ。
* * *
水の勢いが徐々に弱まってきた。
フィアが目を開けると、目の前には彼女の腕を掴む若い男が立っている。
視線が会うと、男はにやりと口の端を吊り上げた。
「…………」
空に打ち上げられた水の残片が雨のように降り注ぐなか、フィアは目を眇めた。
「…………あなたが?」
「そうだ」
初めて水の神と対面したフィアは、目の前に立つ逞しい風貌の若者を呆然と眺めた。
(これが水の神……)
325 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:22:59 ID:zAM27VBh
驚きのあまり、言葉も出ない。
竜、と言うから、鱗を持った4本足の獣を想像していたのに……人間と変わらないでは
ないか。
たしかに、灰色とも違う暗い銀色の髪はチユタの民には見慣れぬものであった。
だが、力強いまなざしが印象的な風格の漂う顔も、隆々たる筋肉のつく均整のとれた体も、
まさしく若い人間の──青年のそれだ。
青年の……当然のことなのだが、彼は何も身につけていない。
フィアが目のやり場に困って、顔をそむけながら後ずさろうとすると、ぐいと強い力で
体を引かれた。
「きゃあっ!」
大きな水音をたててフィアはその場に倒れこんだ。
はっと我に返った時には、息のかかりそうなほど近くに美しい男の顔がある。
その髪の先から、ぽたぽたと水の珠が零れ、フィアの頬にかかった。
自分の上に覆いかぶさるように男がいる、という事を理解するのに時間はかからなかった。
「ちょっと、なにをするの!」
「ああ?」
「私を襲ってどうするの!あなたが襲うのはあっちでしょ!」
「さっきの魔獣か?よく見てみろ。もうそんなのは何処にもいないぞ」
「えっ」
「あんな雑魚どもなら、俺が姿を見せただけで恐れをなしてどこかに消える。安心しろ」
「………」
すばやく男の体の隙間から周囲を窺うと、確かに、先程までの飢えた獣の禍々しい気配は
すっかり無くなっていた。
フィアは信じられない、と言った面持ちで男を見あげた。
男はその端整な顔にニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「………なぁ」
男がへんな猫なで声を出した。
「お前の身を守ってやったぞ。我が番いの相手よ。これからここで、自己紹介がてら
じっくりと互いを知り合うことにしようじゃないか」
326 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:25:02 ID:zAM27VBh
「つがい……」
ただならぬ男の気配を察し、フィアは震え上がり、慌ててかぶりを振った。
「違うわ。私はあなたの番いの相手じゃない。あなたの相手は王都の神殿にいるの。
今から連れて行ってあげるから、勘違いしないで」
「それまで大人しく待てというのか。無理だな」
そう言いながら、股間の硬いものが恥ずかしげも無くフィアの脚に擦り付けられる。
「もうお前でいい」
馴れ馴れしい仕草で、男はフィアの頬に手をのばしていった。
{つづく}
327 :
水の神殿:2007/08/02(木) 02:26:16 ID:zAM27VBh
後半へ続く。
世間が夏休みの間には投下する予定。
ほかの職人様、どうかこちらを気にせずに投下なさってください。
職人様キテタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
竜のわがままっぷりに噴いたw
しかし番になっちゃったら、フィアが巫女になっちまうのか?
なんにせよwktkしつつ続きを全裸で待ってます
すげえ萌えたw
特に落胆シーンw
って続きが、夏休み中…っ!
ヘタすると後ひと月近く!?
そ、そんな待てないよ!
イイヨイイヨー(・∀・)
文章もうまいし、構成もうまい!
楽しみにしてるよー。
ktkr!!!!
もっともっとキボン!
禿しく萌えたw神ありがとう!
竜面白いよ竜www
続きwktk!
激しくGJ!
続きお待ちしてます
GJ!気の強い神殿兵士もエロ神もいいよ。
ところでこのスレの住人に聞きたいのだが、
何か女兵士モノでオススメの小説、漫画はないだろうか?
この際エロ無しでもいいから萌えるやつを頼む。
「ばいばい、アース」はどうだろう?
作者はうぶかたとう(変換できねえ)
ラノベっぽい萌えではないけど
>女兵士モノでオススメの小説、漫画
脇役では無くてはならないものだけど、それが主役のものって少ないのかね
自分も良いものがあれば、知りたいんだけど
ファンタジー世界の女兵士、では無いのかもしれないけど
自分は未来少年コナンに出てたモンスリーという女船長が好きだ
行動的で、凛々しくて、時々ちらりと少女っぽい一面もあって
子供心に萌え萌えした
思えばあれが自分の女兵士萌えの第一歩かもしれん
期待あげ
>>337 ダイス船長とのからみでは古典的なツンデレでもあった
あの「バカねえ」というセリフがたまらん
340 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 16:21:25 ID:AJEpHB8C
デルフィニア戦記おすすめ。
神よ・・・カモン!
ほしゅほしゅ
萌えるのは田中芳樹のアルスラーン戦記かな。
タイプの違う強い女性がいろいろ出てくるので楽しめると思う。
第二部からgdgdになるので、第一部だけ読むと吉。
ファンタジー世界の女兵士とは少し違うかもしれないけど竹宮恵子のファラオの墓に出てくるアウラ姫は結構好きだな
登場するのは物語中盤以降だけど
>343
エロスラーンですか?
偶然ですが中世ペルシャを舞台にして構想を練ってまして、
現在王書と七王妃物語を読んで勉強をしてるところです。
ただ、魔王の話が進まないうちに別の話を平行して始めるのもどうかと思うので
あちらが一区切りするまでお待ち下さい。
停滞してるみたいなんで案だけ書き込ませてもらうけど、このスレ的には銃兵隊の話もOK?
自動小銃だのリボルバーだのの近代連発銃じゃなく、マスケット銃なんかの先込単発銃を扱う話。
歩兵、騎兵、砲兵の三兵撰述の世界観ぐらいとか。
剣と魔法の……ってテンプレにあるからダメかな?
銃の登場する県と魔法の話ってラノベに結構あるから(オーフェンとかゼロ魔とか)
ありじゃないかな。
個人的にはベルばらくらいの時代までならOK。
女海賊だと大砲使うだろうし。
ちなみに仮想戦記でエロパロってスレもあるよ。
三銃士の時代ならわりとイメージわきやすい人も多いのでは?
あれに魔法が入ったと思えば。
>>345に驚きの単語があって感動している
あなたの文章は大好きなので自分個人としては好きに書いてもらいたいと思っている
アビゲイル放置申し訳ないm(−_−;)m
もう書きあがってたので、すっかり忘れておりました・・・
ちょろりっと投下しまする
352 :
邂逅X1/4:2007/08/14(火) 14:22:13 ID:A22KvvqS
タイロンは丁寧にアビゲイルの陰部を辿り、その造形を確かめる。
アビゲイルの喘ぎ声は高さを変えて、タイロンの耳を喜ばせた。
両足を閉じたせまい状態で股間を弄るのがまどろっこしくなり、左手でアビゲイルの左膝の裏を高々と抱え上げた。
やわらかい彼女の股関節は軽々と開脚し、身体の中心が露になる。
アビゲイルの身体の中心は濡れ光っていた。
下草は髪よりやや暗いとはいえ色素の薄い栗色であるので、花弁を隠すことなく縁取っている。
花弁はタイロンが与え続けた刺激で充血し、赤く膨らむ。
中心の核は完全に姿を現し、南海で取れる真珠のような輝きを見せた。
そして、その最奥はとめどなく湧く泉と化していた。
353 :
邂逅X2/4:2007/08/14(火) 14:22:58 ID:A22KvvqS
鏡に映ったその光景にタイロンは時を忘れた。手が完全に止まっていることも意識していない。
朦朧としていたアビゲイルがタイロンを伺い見て、その視線を追い、鏡にさらされた自分に気が付く。
「ぃやあぁ・・・」
アビゲイルは痺れているように儘ならない肢体をそれでも必死に動かして、本来外気にさらされるべきでない女の部分を隠そうと悶えた。
タイロンも我にかえり押さえにかかる。
抵抗むなしく、前よりも身体を開かされ、おまけに足を抱え込んだ左手に右胸を弄ばれるような体勢を取らされて、アビゲイルは唇をかみ、天を仰ぐしかない。
「だめだ、アビゲイル。ちゃんと鏡をみて。」
ありありと情欲を湛える自分を認めたくなかった。弱弱しく首をふる。
「じっと おとなしくして」
「ちゃんと おれが することを みるんだ」
アビゲイルは、普段より低く抑えられたタイロンの声に抵抗できない。
視線は誘導されるように鏡に、自分の秘部に向けられる。
354 :
邂逅X3/4:2007/08/14(火) 14:24:02 ID:A22KvvqS
タイロンはわざとゆっくりと右手で中心核にふれ、円を描くように刺激をはじめた。
「ぁぁ」止め処なく口の端から艶かしい声が漏れる。「・・・ぅん」
身体の隅々が熱い。特にタイロンの指が触れる場所は燃え上がるようだ。
つつ、と中指が奥の泉へ移動していった。
入口を数回なぞると、泉は決壊して零れ落ちたものが右足を伝い落ち始める。「あぁ・・・」
「すごいな」感嘆するタイロンの声は耳に入らなかった。
タイロンの中指が胎内へ埋め込まれるさまを、アビゲイルは自分の目でみた。
熱い異物感を感じる。
腰のあたりから眉間にむけて震えのような快感が駆け抜けていった
視覚と触覚ともたらされる快楽にタイムラグが生じているようで、自分が正気を保っているのか自信がない。
「こ、わ・・・い」
「アビゲイル、何が?」応えるタイロンも余裕などないのだが。
アビゲイルは気が付かないが、額の天眼は全開である。
両手はアビゲイルを愛でることに忙しく、開眼するままになっている。
従って、タイロンの男根も着物の中で硬く熱く勃起しており、快楽を通り過ぎ痛い、という状態である。
355 :
邂逅X4/4:2007/08/14(火) 14:25:12 ID:A22KvvqS
「なにが、こわい?俺か?」
「・・・わから、な、いぃっ・・くぅ」
いつのまにか差し込まれる指の本数が増えている。既に熱いのはタイロンの指なのか自分の体なのか判別がつかなくなっていた。
二本に増えた指を胎内へ吸い込むように入口が蠢くことを自覚した。
指が出し入れされるたび、露が伝い落ち、とうとうその先端が踵から床の絨毯に到達したのが見えた。
爪先から細かい漣のような快楽が徐々に大きなうねりに変化しながら露のつけた道をせり上がる。
「あびげいる おまえを まっていた」
快楽が爆発した刹那、鏡に写りこむタイロンの額に金の真円を認めて、アビゲイルは混乱のまま意識を手放した。
356 :
邂逅X:2007/08/14(火) 14:26:29 ID:A22KvvqS
つづきはまた〜
暑気払い。
おお、私達もアビゲイル待っていたよ。
アビゲイルキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!キタタキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
このときをぜんらでせいざしてまっていました。GJ!
359 :
邂逅Y 1:2007/08/14(火) 20:05:29 ID:A22KvvqS
ぐったりとしたアビゲイルを広い寝台に横たえる。
アビゲイルの呼吸を確かめ、乱れた額の髪を撫でながら、タイロンはいとおしげに溜息をついた。
「・・・説明しがたいよなぁ」
鏡を振返り、金の天眼と大きく勃起したままの男根を認め、また一つ溜息。
「とりあえず一つ仕事を終わらせようか」立ち上がり、鏡へ歩み寄る。
タイロンは躊躇なく枠に手をかけ、仕掛け扉をひらいた。
・・・鏡の裏から赤銅色の髪と髯をもつ、かつての偉丈夫が転がり出る。
着物の前をみっともなく開き、股間から髪と同じように赤銅色に変色し、はちきれんばかりに大きくなった股間を露出させたままだ。
「汚いなぁ・・・」
姿見は、裏から透けて見える細工がしてあり、裏にはこの偉丈夫の男根が吐瀉したと思われる、白い残滓が床にたれていた。
「・・・覗き見のうえ、自慰ですか」溜息まじりにつぶやく。
「しかもアビゲイルにかけた言霊に縛られて身動きがとれないなんて、少々情けなくおもいませんか。」
痛烈なタイロンの言葉に男が赤面しつつも反応した。「お前は・・・何だ?」
「お初にお目にかかります、大叔父殿」
儀礼にのっとり、完璧な立礼を施す。「トトクが3子ツバイ・イエ、王命を拝し北城にまかりこしまして」
驚愕に、かつては赤鬼と呼ばれ、いまは見る影もなく醜く肥え、老いた男の目が見開かれる。「・・・まさか」
「父と同じ金の真円眼では納得いただけませんかね。」
タイロンは顔をしかめつつ、へたり込んでいる男の着物を調えてやった。
「最近のご城主の仕事振りに対して、父がひどく怒っておりまして・・・」
クンツ・イエの男根は着物に隠れてもなお、自己主張をする。
「手を抜きすぎですよ、ご城主。北と東北東を結ぶ結界はがたがたでした。」
タイロンの表情は心底残念そうにみえる。が、額の天眼は怒りを映しクンツを睨みつけていた。
「国主が異国のものに国土を犯されていることに気付かないとでも?」
クンツは弁明することもできないようだ。額に汗が玉を結び、全身に鳥肌を浮かべて震える。
「・・・王都にお戻りください。」
任を解く、といわれてクンツが慌てて立ち上がろうともがくが、儘ならなかった。
無様に尻をついたまま、呻く。「しかし、この地の守り石はどうなる・・・石がいなければ結界は・・・」
王の息子は屈託のない笑顔を前城主にむける。
「引継ぎし宝玉が到着するまで、私の天眼がこの地を鎮護いたしましょう。多少バランスが悪いですが。」
クンツ前城主はがっくりと、首を垂れた。
「王都へのご帰還、快く承知していただき、ありがとうございます。」丁重な声が、最期通告となった。
「不服で ある」
その声は玲瓏と響いた。むろんクンツの声ではない。
「我には 納得が いかぬ」
声はタイロン・ツバイ・イエの真後ろから発せられた。
タイロンは咄嗟に体をかわし、クンツの後ろに回りこんだ。
暗い室内に浮かび上がったのは・・・一糸まとわぬアビゲイル、だった。
「2人とも 久方ぶりである」
艶然と微笑む佇まいはアビゲイルのものではない。
「・・・母なる大地よ」
「・・・わが女神」
同時に漏れたつぶやきは、両方ともかすれており、2人の王族のどちらが発したか、判別できなかった。
2人が注視するなか、アビゲイルの形をした女は優雅に歩みを進める。
ゆっくりと確実にクンツ・イエの正面に移動した。
「我は そちを 慈しんだというのに」左手でクンツの顎をつまみ、上を向かせた。
「交わした 約定を たがえ」右手がクンツの額に開く赤銅を撫でた。
「我を よそものが 犯すに まかせるなど」クンツに恐怖の表情が浮かぶ。
なんの抵抗もなく右の指が額に吸いこまれる。「許すことなど できぬ」
「おおおおおおおお」激痛にクンツの口からはとめどなく、呻き声と泡が流れ出す。
女の指は赤銅色の眼球をつまみ、引き抜いた。「すぐ 死に 至ることは ないわ」
わざと天眼をクンツの眼前にかざす。それはみるみる結晶し、美しい楕円の宝玉に変じた。
「史書には 病死と 記される だろうよ」
クンツは昏倒した。
365 :
邂逅Y :2007/08/14(火) 20:11:32 ID:A22KvvqS
きょうはおしまいで〜
本当に放置申し訳ありません;
ちょ!神!全裸どころか骨でお待ちしてました!
続きが!続きが!
GJすぎます
書きあがったってどこまでなんだろうか。
しかしGJです。アビゲイル続き全裸でお待ちしてます
368 :
邂逅Z:2007/08/15(水) 22:46:17 ID:a71q5FjC
本日の分でござる。
369 :
邂逅Z1/5:2007/08/15(水) 22:47:59 ID:a71q5FjC
本来、神と人は完全に存在する次元がちがう。
天眼を持つ者のみが、神と呼ばれる存在と対話する能力を持っていた。
供物を差し出すかわりに安寧を。
侵入者から国土を守るかわりに豊饒を。
人と神との間に、保守と豊饒を約束する基本的な契約関係が出来上がったのは遠い昔のことだ。
神と対話できる一部の者が、特権階級となるのは自然なことだ。
人と神との接触は、一種のトランス状態で得られる。
王の始祖達は手っ取り早い方法を発見した。
誰にでも訪れる忘我の境地・・・有態にいえば、依代との性行為である。
神の依代として無垢なるもの、それはたとえば童貞であったり、処女であったりするのであるが、を得るため神婚というシステムが長い時間をかけて発達し、定着した。
大いなる存在は気まぐれであり、出会うことすら稀であり、接触があるからといって、毎回契約が交わされるわけではない。
一生なんの契約もない王族も存在するのだ。
むろん一般の民は知らない理である。
370 :
邂逅Z2/5:2007/08/15(水) 22:48:52 ID:a71q5FjC
タイロン・ツバイ自身は初体験のおり、父王の耳目となり王都に生じた不具合を正すという契約を神と交わし、天眼を閉じても言霊を結ぶことのできる力を神から与えられた。
その後3年ほどは神婚に女神が降臨することもなく、契約の履行に励みつつ、大過なくすごす。
王都での役目と生活、義務として行われる性行為に倦怠を覚えた頃、久々に彼を性行為に没頭させた処女が現れた。
神婚の相手とは二度と会うことはないことは知っていたものの、タイロン・ツバイは執着を感じた。
その交歓の末期に女神と2度目の邂逅を果たしたのだ。
地母神はあきらかに王の子の執着をおもしろがっており、乙女の素性を餌に契約更新をもちかけたのだ。
王の子は国土の隅々まで愛撫することを女神に誓わされ、かわりに乙女を得た、筈であった。
性行為の終末、絶頂を迎えたタイロンは無意識に言霊をつむぎ、相手の女に呪をかけて縛ろうとした。
紡いだ言葉は「わがものとなれ」であったが、驚いたことに返しをうけた。
「そのまなこにのみわがみをゆるす」・・・言葉面のみ追えば求愛と返事だ。
しかし儀式の終了後、タイロン・ツバイは新婚時以外他の女に興味を示すことができない上、天眼者であることを隠しての生活をしているので、当のアビゲイルには正体を明かすわけにいかず、悶々と過ごすことになった。
縛った言葉以上に自分が縛りとらわれた、典型的倍返し。
ちなみに、呪と呪返のやりとりに地母神のいたずら心が動いたものとタイロンは信じている。
371 :
邂逅Z3/5:2007/08/15(水) 22:50:02 ID:a71q5FjC
「さて 吾子よ」
アビゲイルの姿をした高次の者は、アビゲイルが浮かべたことのないなまめかしい笑みを嫣然と浮べ、タイロンを手招きする。
タイロンには抗う術もない。吸い寄せられるように、足元に膝を折った。
その顎を前城主にしたのと同じように左手でつまみあげ、顔を正面から見て目を細めた。
「ずいぶんと 逞しく なったものだ」
ほほほ、と満足げに笑う。
両手で男のの頬を固定し、まず額の天眼に唇を落とした。
ぴしり、と楔のようにタイロン・ツバイに快感が打ち込まれる。
「そちは よく働いてくれる」小指がからかうように耳たぶを弄る。
触られているところからじわりと快楽が広がり、タイロンの眉間に皺が浮かぶ。
「この娘は 意外と 役に立つ」女神がにんまりと笑う。
「卑怯・・・」抗議のために開いたタイロン・ツバイの口に、女神の唇が重なった。
372 :
邂逅Z4/5:2007/08/15(水) 22:54:21 ID:a71q5FjC
ちゅ、ちゅと水気がたっぷりとつまった音が室内に響き渡っていた。
女のくちびるは貪欲で、男の咥内を蹂躙し、舌を吸い出し、唇を弄ぶことに飽きなかった。
タイロン・ツバイは口付けを中心にあふれる快楽でからめとられ、身動きが取れなくなっていた。
快楽のもたらす欲情に理性を押し流されまいと、やっと開放された唇をかみ締める。
その様子を見て、ほほほと女が艶やかに笑った。
「人とは 知恵がある分 少々 面倒な いきものよ」
するり、と右手を動かしタイロン・ツバイの股間を着物のうえから一撫でする。
ぴくり、とタイロン・ツバイの腰がはねる。
「身体は 素直であるが」
ほほほ、と高らかに笑うアビゲイルの姿に、タイロン・ツバイは眩暈を覚えた。
373 :
邂逅Z5/5:2007/08/15(水) 22:55:13 ID:a71q5FjC
よろける男の身体を支え、立たせる。男と女の顔の位置関係が変わった。
「我は 交わりが 好きだ」
上目使いで挑むような表情は本来、アビゲルがよくタイロン・ツバイに見せる。
いきいきと動く大きな目が印象に残り、アビゲイルを美しく見せる表情だと思っていた。
その顔が目線を絡めたまま、上唇をゆっくりと舐める。
欲情を隠さない表情のアビゲイルの顔も、気が遠くなるほど淫蕩で、やはり美しい。
ふいに目の前にあった顔が消え、爆発的な快楽がタイロン・ツバイの股間に生まれた。
両膝をついたアビゲイルの手のなかに、タイロン・ツバイの男根が囚われている。
硬目の布越しに女の手に包み込まれているだけで、彼方から射精感がやってくるのを、懸命に耐える。
女神は遠慮なくタイロン・ツバイの着物を引き摺り下ろし、躊躇いなく股間に顔を寄せた。
「生きとし 生けるモノはみな 交わり 生みだし 増え 満ちる ものだ」
人大杉でどうしようかと・・・
ちゃんと貼れてほっとしました。
お話は「邂逅」が書き終わってます。
構成もエロも素晴らしかったです。
書いてくれて本当にありがとう。
続きも待ってます。
生きててよかった気がします
早く続きを…
377 :
邂逅[:2007/08/16(木) 21:13:03 ID:W4SUAeFa
こんばんわー
本日の分でござる。
378 :
邂逅[1/4:2007/08/16(木) 21:14:14 ID:W4SUAeFa
ぬるり、とした感触が男根の先にきた。
ちゅちゅ、とわざと音を立てながら、タイロン・ツバイの先端から滲み出たものを口先だけで女が吸取る。
男根がぴくぴくと痙攣し硬度を増す様子を、楽しげに眺めたあと、おもむろに女は先端を口に含んだ。
丹念に舌で口の中の物を確かめていく。硬く尖らせた舌先を筒先にねじ込み、吸い上げる。
幹に添えた手がゆっくりと上下し、快楽に加速度をつける。
あいた左手も下草を弄ったり、男根から続く袋を撫で摩り、じっとしていることがない。
与えられる刺激に耐えられず、タイロン・ツバイは女の栗色の髪に指を絡めて自分の身体を支えた。
快楽のさなか、娼婦のような真似はやめてくれと思う反面、その先の快楽を求める自分を感じる。
蛇が大きな鳥の卵を呑むように、自分の男根がアビゲイルの口にのみこまれていく光景を、タイロン・ツバイは見ているしかなかった。
いいように弄ばれている羞恥、恋焦がれていた女への執着・・・狂おしい欲情の渦の中、自分の男根を咥える女と目があう。
潤んだ瞳が、口元から伝う唾液が、絡みつく舌先が、情欲の出口へタイロン・ツバイを追い込んだ。
379 :
邂逅[2/4:2007/08/16(木) 21:15:01 ID:W4SUAeFa
南海の大波のように、尽きることなく射精感があった。
アビゲイルの細い喉がこくり、こくりと動き、自分が施寫したものを嚥下するのがはっきりと見える。
やがて、女の口からゆっくりと男根が引き出された。勃起は収まっていない。
男根と口が離れた瞬間、もう一度痙攣し、残滓がアビゲイルの顔に散った。
口元のそれを舐め取りながら見上げる女の方が、絶頂にたどりつき立ち尽くす男より満足げに見えるのは気のせいか。
「先の そちの 行いを 真似て みた」
ぺろり、と上唇を舌でぬぐった。美しいが人の悪い笑顔が浮かぶ。
「羞恥は 快楽を 煽るであろう?」
くすくすと笑う吐息にタイロンは眩暈を覚え、耐え切れず、膝を折る。
380 :
邂逅[3/4:2007/08/16(木) 21:16:06 ID:W4SUAeFa
がくり、と崩れたタイロン・ツバイを女が鏡扉に持たせかけた。
タイロン・ツバイの疲弊した様子などお構いないしに、馬乗りになり腰元の衣服をすべて剥ぐ。
ひんやりとした鏡の感触が火照った背中に心地よい。両目を閉じ天眼を細めて、上がった息が落ち着くのを待つ。
「さて。」張りを失っていない男根に、女神が手を差し伸べた。
突き上げる快楽に、思わずのけぞり、したたか鏡の枠に頭を打ち付ける。
「おちつけ、吾子」ふふ、と笑いながらタイロンの男根をアビゲイルの内側へと導く。
男根の再先端を泉の滴りが出迎える。これから訪れる快楽に、タイロンは身震いした。
「愛おしい 吾子よ」
ほんのすこし、触れ合った状態で、女神は行為を止めた。
タイロン・ツバイの腰が無意識にアビゲイルを求めてうねった。
両腕が密着を求めて女の腰に伸びたが、それをやんわりと受け止め巧みに自由を奪う。
脱がせた衣で束ね、鏡の枠の飾りに引っ掛けてしまった。
381 :
邂逅[4/4:2007/08/16(木) 21:17:01 ID:W4SUAeFa
「みたび 契り 交わそうか」
限りなく優美に微笑む女に、吊り下げられたタイロンはなすすべもない。
爆発しそうな熱を抱え、それでも判断力を失うまいとタイロン・ツバイが首を振った。
「なにが望みだ」掠れた声に、力はない。
ほほほ、と無邪気に女が笑う。
笑いながら、ゆっくりと男根の上に腰を下ろしはじめる。
包み込まれ、締め付けられる快楽に、タイロン・ツバイは気が遠くなる。
時間をかけて、女が胎内にタイロン・ツバイを納めた。
どちらからともなく、満足の吐息が口の端からもれた。
読み返すと雑になってんな・・・
]はもうちょっと濃厚に書き換えたいので、ちょっと時間ください。
いつも乙です!
とゆー事は、9は時間を置かずに読めるということですか?
個人的にはアビゲイルの幸せを祈るばかりであります
GJGJGJ!!
女神のエロさがたまらん。
保守
386 :
投下準備:2007/08/21(火) 22:44:07 ID:N1cPXdYd
魔王の物語、今回は光側の幕間劇的な話です。
これまで登場した人物達はみんな強かったり芯のしっかりしたキャラでした。
しかし、世の中そんな人ばっかりじゃない……と思って書いたのですが、
読む前に以下の点にご注意を。
・女兵士非登場
・ダメ人間系の話に嫌悪感を抱く方は断固スルー推奨(ヘタレですら無い屑です)
では『クルガン王とヘルミオーネ』です。
クルガンは憤怒を鎮めようと杯をあおったが、酒は心中に渦巻く炎を鎮めはしなかった。
もとより味わうつもりも無く、ただ酔うためだけに飲む酒である。
酒で癒されるどころか、鬱々とした表情は益々険しくなっていた。
彼は大魔王を滅ぼした英雄ラルゴンの末裔にしてこの国の王。
そして本来ならば光の陣営の盟主たる筈の男である。
だが、今の宮廷において彼を正当に遇する者はいない。
少なくとも、クルガンはそう思っている。
今日の御前会議においても、彼が主張した積極策は言下に否定された。
魔王軍はエルフ族の居住区を攻撃している。
ならば、我々がその後背を襲えば一定の戦果は得られるのではないだろうか……
昨年の大敗で失われた主導権を取り戻すためにも、光の軍勢は今こそ動くべきだ。
そうなれば、先に大攻勢を主張した自分の権威も復活するというのに。
だが、王国元帥は一家臣に過ぎぬ身分でありながら、彼の発言を一蹴した。
『闇の軍勢の数を僅かに減らすなどという事は、戦略的に何の意味も無い。
それどころか、反撃を受けて希少な味方に損害を被る事の方が重大である』
廷臣たちの前で元帥にそう言われた時、怒りで爪が食い込むほど王座の手すりを握り締めた。
これは臣が主に言う言葉だろうか。
元帥は家臣でありながら王の威信に全く敬意を抱いていない。
臣下であるならば、主君の言葉に少しは配慮するべきではなかろうか?
いや、真の臣下ならば命令に従って、自分の意図することを実現するよう命を賭して働くべきなのだ。
再び杯をあおり、クルガンはそう思った。
宮廷には彼の言う『真の臣下』は誰一人いない。
少なくとも昨年までは彼にそう思わせる者はいたし、王の味方と呼べる者が多かった。
だが、今宮廷に居るのは本性を現した逆臣と不心得者の集団だ。
国王の忠実な臣下たちは、去年の大会戦で勇敢に戦った末に死に絶えてしまったのだ。
生き残り達は掌を返して責任を自分に押しつけ、信頼に値する家臣を失脚させてしまった。
あろうことか、彼は周囲からの突き上げに耐えかねて
彼が敬遠し宮廷から排除した老元帥を復帰させざるを得なかった。
王であるにもかかわらず、彼のなす事は全てがままならない。
抑え切れぬ憤懣が、私室に戻った国王を酒に向かわせている。
「……どうした? 注がぬか」
「陛下、そろそろお控えになられた方が……」
王の傍らに座る女性が哀しそうな顔で言った。
彼女はクルガンの王妃、ヘルミオーネである。
国王に見初められて十年間、彼と連れ添ってきた。
「酒が過ぎるというのか」
「どうぞご自愛のほどを」
「お前までっ、余の行いに口出しをする気か!」
杯を床に叩き付け、クルガンはいきり立った。
酒の勢いもあったか、妻の言葉にクルガンは激昂した。
宮廷は彼の敵ばかりであるが、おのれの伴侶までが自分に逆らおうとするのが我慢できなかった。
「余は国王なるぞっ! 神君ラルゴンの嫡流にして聖庁の擁護者、この国の統治者なのだぞっ」
「それでも陛下、荒んだ心で飲む酒は身体に悪いと申します……」
「黙れいっ!」
クルガンの掌が妻の顔をぶった。
躊躇なき一撃に、ヘルミオーネは椅子から転げ落ちる。
「あぅっ」
「余は王なのだっ! どれほど酒を飲もうと勝手なのだ! 誰も余に逆らう事は許されぬのだ」
荒い息を吐きながら、王は床に崩れ落ちた妻の姿を見下ろした。
夫に叩かれた頬を彼女は辛そうに押さえる。
それを見て、激情に駆られて王妃を殴ったクルガンにも悔恨が沸き起こった。
「……済まぬ」
「お気になさらずに…… 私も確かに口が過ぎました」
「いや、悪いのは余だっ」
クルガンは突然妻の傍らに跪き、彼女の身体にすがりついた。
「ヘルミオーネ…… 余が不甲斐ないばかりに、お前たちに辛い目を合わせてしまうのだ!
お前は余の身体を慮って呉れたのにな……」
王妃の胸に顔を埋め、クルガンは己の無力を嘆いた。
すすり泣き、嗚咽すら混じるその声を聞き、彼女は人払いをしておいて正解だったと思った。
一国の王が、いや四十を前にした一人前の男が、
かように泣き哭く様など余人に見せられるものではない。
無様な姿を晒す良人を、ヘルミオーネは包み込むように優しく抱き締めた。
「お前だけだ、本当の余の味方は……」
彼女は夫が暴君だとは思っていない。
感情の振幅と好悪の情が激しすぎるだけだと思っている。
おまけに気が弱く、寂しがり屋なのだ。
だが、どんなに頼りなくとも、この弱弱しい男が彼女の夫である。
王妃は胸の中で泣きじゃくる夫に、囁くように言葉をかけた。
「陛下、お案じ召されますな…… 私めはずっと貴方の側におります」
「ヘルミオーネ……」
「私は貴方の妻でございます。たとえ王宮中を敵に回したとしても、最後まで貴方の味方ですよ」
「おお……」
満面に笑みを溢れさせながら、クルガン王は先程より力を込めて王妃を抱き締めた。
王妃の豊かな胸乳に顔を埋め、ここに味方が存在しているということを確かめるかの如く、
王はひしとしがみ付く。
(可哀想な人……)
今更ながら、ヘルミオーネはそう思う。
少なくとも国王でなければ、夫の生涯は違ったものになっただろう。
その弱さも、判断の甘さも、庶人であればここまで自分を追い詰める事には至らぬはずだった。
しかし、彼は英雄王の嫡流であり、彼は王位を継がざるを得ない身であったのだ。
それは数多の民衆と廷臣たち、なにより本人自身にとって悲劇的なことであったが。
「ヘルミオーネ、ヘルミオーネ……」
顔を胸の谷間に押し付けたまま、クルガンは妻の名を繰り返し呼んだ。
「あっ……」
「ヘルミオーネ、お前だけは何処にも行かないでくれ。ずっと余の側に居てくれ……」
王妃を抱き締めていたクルガンの手が、いつのまにか彼女の臀部へ降りていた。
なだらかな膨らみをドレスの上から撫でる。
「しょうがない方……」
ヘルミオーネは夫の行為を咎める事はなかった。
自分まで拒めば、唯でさえ傷つき易い彼の心が微塵に砕けてしまうだろう。
誰かがこの弱い王を救ってやらなければならないのだ。
許容の言葉を聞いて、クルガンの愛撫は大胆になった。
熟れた果実の如く柔らかく張りのある乳房に、額や頬を擦り付けてその感触を楽しむ。
芳しい香水の匂い混じって薫る妃の仄かな体臭が、クルガンをさらに興奮させていった。
遠慮がちに愛撫していた彼の手は、衣装を捲り上げ直に肌に触れた。
瑞々しいその肌は、娶ってから十年を経ても若い頃と遜色無い。
むしろ女として成熟した肉置きになり、しっとりとした艶を帯びた現在の方が
より触れた男の淫心をくすぐる。
(うふふ……)
微笑を浮かべ、ヘルミオーネは胸の間に挟まった夫の頭を優しく撫でる。
それはまるで駄々っ子をあやす慈母の様だった。
妻の身体から伝わるいたわりの心に触れ、王はまさに救われる思いがした。
まさに彼女はささくれ立った己の精神を癒す女神だ。
今の彼には、妃の存在が世界でたった一人の味方に思えた。
もはやベッドへ行くのさえもどかしく、妻の身体を絨毯の上に押し倒す。
「やっ……、こんな所で」
「駄目だ。余はもう我慢できぬ」
夫の性急さに僅かに抗議の声を上げつつも、ヘルミオーネは受け入れた。
彼の身勝手は今に始まった事ではない。
クルガンは王妃に脚を広げさせ、寝そべった身体に覆い被さるように乗った。
下穿きから出された男根が、まだ潤いを帯びていない秘裂へとねじ込まれる。
「あぅ……」
ヘルミオーネは自分の中に強引に異物が挿入されるのを耐えた。
彼女の夫はいつもこうだ。
その気になれば、相手の気持ちなど構わなくなってしまう。
恐らくこれまで関係を持った(あるいは持たされた)女達は、
彼に男女で情感を高め合う事を教えなかったのだろう。
それが国王という身分に配慮してなのか、それとも愛を深めようと思わせる魅力が
欠けていたからなのかは定かではない。
とまれ、クルガンの不器用さを受け入れてしまうヘルミオーネも責の一旦は有る。
彼女は夫の振る舞いを咎める事も、詰る事もしなかった。
夫婦というものはこういう物だと、彼女なりに諦めてしまっていた。
ただし、貴婦人や女官達の噂する色恋話と違い、現実は随分味気ないものだと思ったものである。
「ちゅっ、」
酒臭い口付けが強引さを詫びるように与えられると、それを合図にクルガンは腰を揺すり始めた。
工夫の無い、単調な動きであったが、突き込まれるたびにヘルミオーネの乳房が上下に振られる。
クルガンはその様子を楽しみつつ、潤い始めた秘所と己が亀頭が擦れ合う快感を味わう。
若い頃の絞られるようなきつさは無いが、暖かく包み込み、そして絡みつく感触に酔い痴れた。
「おおう、良いぞ……」
クルガンは呻くような声を上げた。
ただ、彼の行為は相方を悦ばせる事に無頓着としか言い様がなかった。
ヘルミオーネも子供ではなく、三十路を前にした一人前の女である。
抽送に愉悦を感じない訳では無いが、快感が燃え上がって来た頃には、夫が終わってしまうのだった。
彼女は未だ、交合によってもたらされる弾けるような絶頂を感じた事が無かった。
豪華なドレスが立てる衣擦れに混じり、クルガンの腹が王妃の臀部を打つ音が部屋に響く。
それがどれほどの間続いただろうか。
快楽に耐え切れなくなった王の顔が歪む。
妻の腰を抱える腕に力が込められ、打ちつける拍子が次第に早くなっていった。
「うっ、ヘルミオーネ…… 余は、もう……」
「……」
「おぅっ、うっ…… 出る、出すぞっ……おおぅ!」
下卑た喘ぎ声と共に夫が胎内に精を吐き出すのを、ヘルミオーネは黙って受け止めた。
自分だけが満足する一方的な交わりであったが、彼女が不平を漏らす事も無い。
それが彼女のやり方だった。
自分には、夫に生き方を変えさせるだけの知恵も力もなく、
かといって見捨てる事も出来ない事を、彼女は知っているのだ。
「はあ、はあ…… はあ……」
クルガンが荒い吐息を漏らし、萎えた性器を妻の股から抜こうとした時だった。
「えっ!?」
ヘルミオーネは思わず声を上げた。
彼女は気が付いた。
いつの間にか、部屋の片隅に白い光を放つ霞が顕れ、次第に人の形を取り始めた事に。
「うあっ、な……何者だ!?」
「……我が末裔クルガンよ、驚く事はない」
「何と?」
「余は汝の祖にしてこの国が初代の王、ラルゴンなり。
今、光の軍勢の窮状を見かねて、現世に顕現したるぞ……」
光と共に、神々しい霊気が部屋中に満ち溢れた。
白い靄は輝く豪奢なマントを羽織り、王冠を被った老人の姿になる。
ラルゴン王の霊は、慈愛に満ちた微笑を二人に向けた。
「おお……、真に我が神祖ラルゴン王にあらせられますのか?」
「然り、我が裔よ。この身朽ちたりとはいえども、我が血脈の苦衷を如何に見捨てて置けようか」
「ああっ! 夢ではなかろうか? こうして英雄王のご託宣を頂けるとは!
よもや元帥めは御神祖のご顕現を仰いだ事はあるまいっ!
やはり、やはり余こそ英雄王の血筋であり、光の陣営を束ねる身なのですね?」
クルガンは、突如己の祖先を名乗る霊体が出現したことになんら疑いを持たず、
歓喜の声を上げてそれを迎えた。
心の底に眠っていた彼の最後の自負、自分が英雄王の血を継ぐ者であるという事実が、
王の理性を封じ込めていた。
否、彼は心のどこかで偉大なる先祖が子孫の為に現れ、彼の王位を肯定してくれる事を
望んでいたのかもしれない。
「まさに闇が世界を覆いつくさんとせり。
今こそ光の陣営は奮い立ち、最後の戦いを挑まねば」
「はい、まさしく……」
「魔王は古く深き森を攻め、大いに兵と魔力を費やしておる。
これこそ千載一遇の好機なり! この時を逃してはならぬ」
「おおっ! では余が出陣を主張したのは、誤りではなかったのですね!?」
「誤りであるものか。お主の言こそ正しい」
英雄王の霊体に賞賛され、クルガンは狂喜した。
先の軍議で臣下に否定された自説が、あろうことか救世主たる聖王ラルゴンに認められるとは。
だが、この光景を目の当たりにしたヘルミオーネは、どこか言葉にならない違和感を覚えていた。
圧倒的な光の波動が感じ取れ、この霊体が闇の存在とは信じられないにしても、
なにか胸騒ぎが止まらなかった。
(私が英雄王の血を引く人間ではないからかしら……?)
それは、夫を案じる妻の勘とでも云うものだったかもしれない。
「世界を救うため、余は一人の勇者を選び、聖別したるぞ。
その娘の名はアデラ……
光の代表者として、余に代わりて救世の功を立てるべき定めを負う者なり。
クルガンよ、かの者に神剣を委ね、魔王征伐に向かわしめよ……」
(終わり)
GJ
クルガン王はヘタレだ屑だと思う前に哀れみが…
ところで保管庫がエラー出るのは自分だけだろうか
魔王の人、あいかわらずGJ!
>>393 姫スレから、報告ページへのリンク有り。HDDクラッシュだとか。
な なんだと・・・
魔王シリーズ全部見てないのに・・・
魔王の人GJ!!
こういう暗愚な王も人間くさくてイイ!
次回も期待しております
「水の神殿」の残り半分を投下します。
前回感想ありがとうございました。
「お前『で』いいって…」
フィアがむっとして男を睨みつけると、
「む、言い方が悪かった。お前『が』いい」
男はすぐさま屈託も無くそう言い直した。
フィアはそんな男を呆れ顔で見上げたが、やがて宥めるような眼差しを向け、
子供に言い含めるように静かに話し始めた。
「…………私は巫女の資格を持たないただの神殿兵士だわ」
倒れた自分の体を囲むようにして両手両膝をつく男から、少しずつ体を横にずらしていく。
「神の番いの相手になる事は許されないの」
何とかこの体勢から抜け出そうと隙を探りながら。
それと悟られぬように。
少しずつ。
「神殿では、あなたにふさわしい女性が巫女として選ばれて、あなたが来るのを
待っているのよ。私みたいな女じゃなくて、誰が見ても神の花嫁にふさわしいと讃える、
富貴な家柄の、清らかで、とても美しい女性が」
「……ほう」
金属のような不思議な光沢を持つ男の目が、すいと細められた。
フィアがぴくりと身を強張らせるのにも構わず、ひと房、その漆黒の髪をすくい取る。
「では訊こう。許されないとは、『誰に』許されないのだ?
誰が、何の権限を持ってそれを決める。
神を差し置く傲慢な者がいるというのなら、その者の名を挙げてみよ。
────許されないだの、ふさわしくないだの、そんなくだらぬ取り決めは人間供が
俺の知らぬところで勝手に作り、勝手に守っているものであろう。
俺がそんなものに縛られる理由は無い」
「そんな………」
「お前はなかなか弁の立つ女のようだな、娘」
男は大きな掌でフィアの肩を掴むと、体をぐいと引き寄せた。
自分との間にじわじわと作られた隙間を一気に狭める。
「だか、詭弁はどんなに弄しても真理には勝てん。
俺のことは俺が決める。それが一番理にかなっているからだ」
そう言うと、目を爛々とさせフィアに体をすり寄せた。
「──な? だから、いいだろ? とりあえず一回」
言っている事は真理をついているのかもしれないが、
説得力が皆無なのは何故だろう。
神に向けるべき畏敬の念がまったく湧かないのも、いっそ清々しいくらいだ。
御託を述べつつやらせろやらせろと鼻息も荒く迫り来る男を、フィアは愕然と眺めた。
冗談ではない。
なにが水の神だ。
最初に水の中から出現した時の、荘厳なあの神神しさは何処へやら。
これではただの盛りのついたケダモノだ。
もしかしたら、自分は魔獣よりもたちが悪いものを相手にしてしまったのか。
フィアは何とか男から離れようと硬い胸板を手で押した。
「なんと言われようと、駄目なものは駄目よ。それに、私にだって婚約者が………」
「婚約者?」
眉目麗しいケダモノ…もとい、水の神の顔が不愉快そうにしかめられた。
「番いになる約束をした相手のことだな。そいつのことを気に入っているのか?」
「気に入っている……もなにも」
単刀直入に尋ねられ、フィアは言いよどんだ。
一度しか会ったことが無い相手で、顔もはっきりと覚えていない。
「……親の決めた相手だし」
「俺はお前が気に入った」
力強い眼差しでフィアの目を捕らえ、男はきっぱりと言い切った。
「そんな、はっきりと気に入ってると言えないような奴は止めとけ。俺に決めろ」
「そんな、無茶よ──」
歯切れの悪いフィアの耳朶に、男が素早く噛み付いた。
ふんわりと、ごく柔らかく。
「あっ……」
「感度が良さそうだな」
ちゅっと音を立てて耳朶を口に含み、舌で舐める。
男の片手がフィアの胸を無遠慮に掴んだ。
「や! ……んっ、やめて」
「言っておくが、最初に俺をその気にさせたのはお前のほうだからな、そんな姿で」
たっぷりとした柔らかな胸を揉みしだき、男はフィアの身体の自由を奪ったまま、
耳元に色気づいた声で甘く囁く。
「とりあえず、体の相性を調べよう。俺を拒む理由を考えるならそれからだって
遅くはないと思うぞ」
「…………早くやりたいだけにしか見えないんだけど」
「…………鋭いな。だが、察しの良い女も俺は好きだ」
咽元に喰らいつかれた男の唇が熱い。
自分の体がかなり冷たくなっているのだ。
拒む言葉を捜しながら、フィアの手は迷いをあらわすかのように、男のわき腹辺りを
彷徨った。
そもそも、ふたりとも既に裸で、この体勢。
拒むにしても、これでは分が悪すぎる。
性格はやや難有り──いや、かなり問題がありそうだが、姿を現しただけで魔獣を
追い払ってしまえるのだから、話に聞く通り、相当な力を持っているのだろう。
都から何日も掛けてたどり着いた遺跡で、苦労してようやく手にした水の神。
これから都の神殿に届けなければ。
下手な拒み方をして、機嫌を損ねるのは避けたい。
………違う。そんな計算などではなくて。
突然現れたくせに、俺に決めろといって迫る彼をどういうわけか強く拒否できない。
口説いてくる男など、普段なら簡単に撥ね付けてしまえる。それなのに……
冷えた素肌に、彼の熱い体は気持ちが良い。
「………ぅうん」
鼻にかかったような自分の甘い声に、フィアははっと我に返った。
「その気になってきたか? いいぞ」
「やっ。……あ」
フィアは絡みつく快楽から逃れようと、褐色の艶やかな身体を力なく捩じらせた。
黒い瞳は蕩けたように潤み始めている。
背中の大きな石に身を預けたまま、困惑を露にフィアは顔を赤らめた。
男の熱い吐息が肌にかかる。
指で乳房を弄び、ぬめった熱い舌がもう一方の胸の丸みに纏わりつく。
硬くなった桃色の小さな頂を舌先でくすぐられる。
その度に、甘い痺れがフィアの体を駆け巡った。
「───おい」
一心に胸を弄んでいた男がふいに顔をあげたので、フィアはようやく
快感からひと時開放された。
男がフィアの顔を覗き込む。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかった」
「……名前」
「そうだ、名前」
弾力のある乳房を掌で包んでゆっくりと撫で、男はフィアに囁いた。
「教えてくれ。お前の名前」
「フィア……」
肩で息をしてフィアが呟く。
「フィア?フィアか…………フィア」
男はかみ締めるように何度もその名前を繰り返した。
「フィア」
そう呼びながら、フィアの濡れた小麦色の肌を撫で、味わうように身体中に口付けを
施していく。
水の中で足が絡み合う。
脚の間に男の体が割り込まれていて、時折見なくてもそれと分かる
熱を持つ張り詰めたものが身体にあたる。
男が動くたびに、フィアが愛撫に体を震わすたびに、腰の高さの水面が音を立てて
大きく波打った。
男は脚の間に手を伸ばした。
その腕をフィアは慌てて掴み、首を横に振った。
「ね、いや……こんな事、やっぱり駄目よ」
「………駄目か?こんなふうになっているのに?」
フィアの小さな悲鳴をよそに、蜜でぬめる花弁を指で確かめる。
指の腹でゆっくりと嬲るように擦り上げると、フィアの身体が小魚のように跳ねた。
「ぁあっ!…や…、いやぁ……んっ………」
「こんなに反応がいいんじゃ、俺は励みがいがある」
興奮をその顔に隠すことなく、男は屹立したものの先端を
劣情をそそる色と形の肉の入り口にあてがった。
脚の間に膝をつき、フィアの腰を掴むとぐいと高く持ち上げ、自分の腰に
一気に押しつけた。
「あっ───ああっ!」
「…………おぉ」
フィアの胎内に根元まで納めて、男が熱い息を吐く。
「悪くない。いや…………良いな」
厚みのある肉は男の焼け付くような昂ぶりを優しく包み込む。
だが、同時に中を雄雄しく荒らされるのをねだるかのように、ひくひくと切なげに
男のものに吸い付いた。
中の具合を確かめるようにしばらく動きを止めた後、男はゆっくりと
抜き差しをはじめた。
「体は冷たいが、中は暖かいんだな」
硬いもので、ずるり、ずるりと繰り返し内壁を擦られ、
成すすべも無くフィアは息を乱した。
腰を高く持ち上げられているのを支えるのは浮力があるとはいえ苦しく、
フィアが苦痛に顔を歪めたのに男は気付き、動きを止めた。
「これはすこし無理があるか。すまなかった」
男はフィアの背中に腕をまわすと、彼女の体を易々と抱き起こした。
水の中に座り、フィアに自分の体を跨らせる。
「この方が良いか?」
問いかけるような口調だが、承諾を得るために聞いているのではないらしい。
フィアがなにも答えないうちに男は彼女の腰を掴み、その体を下ろしていく。
硬く隆起したものがゆっくりとフィアの中にめり込んでいった。
「あっ……ん……」
身体はしっかりと男を受け入れているというのに、男の胸板に手をやり
フィアは体の密着を避けようとする。
そのフィアの手を掴み、男は自分の首に廻した。
「ほら、俺にしっかりしがみ付け。遠慮はいらんぞ」
遠慮とか、そう言うことじゃなくて……そう反論させる余裕も与えずに
自分に縋りつかせ、男は大きな揺さぶりで下からフィアを突き上げた。
ずしりとした逞しい質感が、狭い肉の壁を押し広げつつフィアの胎内を往復する。
「ふっ………。はぁ…ん」
「───ぅおぅ」
フィアが耐え切れずに息を漏らすと、耳元に甘い息の吹きかかった男が身震いをした。
「いいぞ、フィア」
そう言いながらフィアの身体を抱えなおし、くしゃくしゃと頭を撫でる。
「気持ち良いか? もっと声を出せ」
遠慮のかけらも無く腰をぶつけられ、フィアは思わず男の躯に抱きついた。
ずっと男のペースに乗せられたままである。
これが当然のことであるかのような。
もう何度も肌を重ねてきた恋人同士のような。
そんな口調と態度に、まるで躊躇いのある自分のほうが間違っているのではないかとさえ
錯覚してしまう。
「……や、ん………あっ…、そんなに、したら、…ぁ…だめ……」
自分がどんどんどこかに押しやられていく感覚のなかでフィアは頬を紅潮させ、
ただ虚ろに喘ぎをあげるしかない。
「イきそうか?」
息を弾ませ、男はフィアに尋ねた。
「ほら、イっていいぞ。──顔をこっちに向けろ。おまえのイくところを見せるんだ」
激しい水音を立てながら、しっかりと掴んだフィアの体を勢い良く突き上げる。
フィアに最善の策を探す間を与えず、
苛めるように激しい快楽を送り込む動きを緩めるつもりも無いようだ。
突き上げにあわせて、フィアはすすり泣くかのような甘く切ない声を上げた。
無意識のうちに、柔らかな内腿が男のわき腹を挟み込むように絡められている。
水の中、水とは違うぬめりが下腹や腰に触れる。
それがフィアがあふれさせた蜜だと気付き、男は口の端を吊り上げる。
張りのある豊かな胸の丸みに唇を彷徨わせ、好きなように押し付ける。
淫らな摩擦を楽しみながら、男はフィアのきつい締め付けの中を存分に往復した。
「あ!…ああっ……いやっ!…いやぁっ。………あああああっ!」
快感の潮が一気にせり上がり、満ち溢れる。
激しい絶頂に襲われ、フィアは男にしがみ付いた。
身体はいやがうえにも歓喜に震え、包み込んでいたものを本能的に絞り上げる。
「フィア!」
男は強い力でフィアを抱きしめた。
フィアの身体の一番奥深くでひときわ硬くなったものを脈打たせる。
しっかりと腰を押さえ込み、男はフィアの中に熱い迸りを注ぎ込んだ。
* * *
石壁を撫でて水が流れていく音が聞こえる。
自分達さえ大人しくしていれば、此処は本当に静かな空間だ。
そう実感する。
水辺でフィアはくったりと仰向けに寝そべっていた。
男は彼女にぴったり寄り添うように横たわり、頬杖をついている。
彼の太く逞しい片腕はフィアが離れないよう、抜け目無く彼女の身体をしっかりと
押さえ付けていた。
「………よかったな。俺たちの相性はなかなか良さそうだ」
静寂を破って、満足げに男が言う。
「なにも問題は無い。そうだろう?」
問題……大有りだわ────そう思いながら、フィアは重くため息をついた。
あまりにも急な、予想外の展開。
しかし、彼に迫られて、わずかにでも迷った時点で
もう結論は出てしまっていたのだろうか。
「神官様にはなんて報告しよう……」
フィアはぽつりと、それだけを言葉にした。
「そんなの気にするな。神殿の勝手な都合など俺は知らん」
男はフィアの胸に頬をのせ、たっぷりとした乳房を押しつぶすように頬擦りをした。
実に楽しそうに。
「……とにかく、あなたを王都の神殿にまで連れて行くわ。きちんと私についてきて。
いいわね」
「うむ、いいだろう。
お前の行く所なら、何処にでもついていってやるぞ。我が番いの相手よ」
「番いの相手じゃないってば…………」
自分の顔のすぐ下に男の頭がある。
そのほとんど乾ききったさらさらな銀色の髪を、フィアはぼんやりといじった。
本当は、この寝そべり方は男女の位置が逆転しているんじゃないか、とひとこと
言いたかったのだが、番いどころか親しい恋人同士という間柄でもないので、
フィアはあえて突っ込まないことにした。
{おわり}
以上です。
読んでくれた方、どうもありがとう。
GJです!
素晴らしく萌えさせていただきました。ご馳走様でした
続き、ありますか?
GJ―!!!!!!
文章が綺麗で読んでて楽しかったです。
もし続きを考えてるなら是非!
待ってます。
よかったよ。
この後のふたりも気になるな
待ってました!
恋人同士というわけでもないのにこの二人すごいいいな
GJです
411 :
投下準備:2007/08/25(土) 12:47:53 ID:+Frqk+ER
保管庫がイってしまいましたか。
続き物で書かせて頂いてる身としては厳しいし残念です。
今回のはエロお休みです。
王都編中篇『閲兵式』をどうぞ。
412 :
閲兵式:2007/08/25(土) 12:49:10 ID:+Frqk+ER
狂騒の中で、閲兵式が始まろうとしていた。
喇叭を吹き鳴らし、軍鼓が打ち鳴らされる。
再編成された光の軍勢が旗を高々と掲げ、王が観閲する前を行進していく。
バルコニーの上から、クルガン王は上機嫌で彼らの敬礼を受けた。
見物する民衆達も熱狂していた。
闇の軍勢の攻勢に押され、冬の食糧難にも耐え続けた民衆にとって、
魔王を倒す光の勇者が現れたという知らせは、久しぶりの明るい報せであったのだ。
その様を見るため、マリガンも普段暮らしている裏路地から、都大路まで出張っていた。
彼女にとって、兵士や将官どもがいかに着飾っていても見る価値は無い。
その目に納めるべきものは、己が友、そして心を寄せたりもする娘、
さらに彼女の大望の鍵を握る閲兵式の主役、光の勇者アデラの姿に他ならなかった。
軍旗を先頭に、軍隊が整然と行進する。
勇者アデラはこの行列の目玉であり、行列の真中で現れるはずだ。
群集のなかで、マリガンはそれを心待ちにしていた。
それは、何の気配も感じさせなかった。
「あ奴が、先の遠征で余の軍勢を押し止めおった将帥か?」
突然隣から覚えのある声で囁かれ、マリガンは驚いて顔を向けた。
「魔──」
思わず叫びそうになったが、言葉途中で彼女の声は消えた。
口は開けども声は空気を震わせなかった。
(……沈黙の術?)
呪文を唱える暇は無かった筈だが、現に喉から音は発せられない。
「忍びだ」
漆黒のローブに身を纏った男は、それだけ言うと袖の中で指を鳴らす。
「あっ……」
マリガンの唇に言葉が戻る。
そして、驚きの余り口走りそうになったが、まさに敵陣の中枢たる王都で、
魔王の存在を明かしかけた愚を悟った。
「陛……、いえ大師」
悩んだ末、ようやくこの場で呼ぶに相応しい尊称を見つけ出す。
「こたびのお出ましは、何の目的で御座いますか?」
「そなたと同じだ。アデラの晴れ姿を一目見るためよ」
413 :
閲兵式:2007/08/25(土) 12:50:06 ID:+Frqk+ER
戦の最中、それだけの為に魔王が微行に訪れるとはマリガンも思わなかったが、
生半にこの相手に真意を語らせるのは難しい事は分かっている。
それでも、言葉の端々から手がかりを掴もうと話しかけた時、
魔王のさらに隣より発せられた少女の声に阻まれた。
「なんじゃ? あれは先に妾が喰い損ねた騎士娘ではないか。
あ奴が光の勇者だと云うのか?」
見れば、この王都でも珍しい程に見事な金髪をした女の子である。
可憐な顔立ちに愛らしい声。
その険の強そうな眉目を差し引いても、驚く位の美少女だ。
西国風の服も良く似合っているのだが、ただ首元に巻いた布が不自然であった。
行列の目玉となる部分は、未だここからゆうに五百歩は離れている。
しかし、一人と一匹の目には、その姿をしかと捉えることが出来るらしい。
「……大師、こちらは?」
「連れだ。この風体で一人は怪しまれようが」
魔王の言葉に一理有ると、マリガンは思った。
雑多な人間達が暮らすこの王都だが、同時に光の勢力の中枢でもある。
パレードを見物するため、彼女の様な裏路地の住人達も大路に繰り出して来ているとはいえ、
昼間からその漆黒ローブは少々不審だ。
だが、この可愛らしい少女を連れた男が闇の最高権力者だとは、誰一人として思うまい。
「おい、赤毛の小娘。
あそこの露台に立って、酔っ払った猿の如くはしゃいで手を振っておる
身なりだけは豪勢な間抜け面…… ありゃ何じゃ? 新手の道化か?」
「いえ、あの方はこの国の王、クルガン陛下であらせられます」
「なんと、そりゃ何の冗談じゃ? あれはどう見ても人の上に立つ顔では無いぞ。
せいぜい豚飼いがいい所だろうに」
バルコニーを指差した少女は、呆れたように目を丸くして言い放った。
その声があまりに大きかったので、二人と一匹の周りに居た者達の耳にも自ずと聞こえた。
けれど、少女の愉快な指摘は皆を苦笑いさせるだけだった。
「むう、隣の女子は脂が乗って旨そうだが…… あれは如何に妾でも食指が動かぬ」
「ティラナ、少し静かにせよ」
可愛らしい少女の奇矯な発言のお陰で、漆黒のローブを纏った連れの訝しさが些か軽減されていた。
この金髪金瞳の少女が、一度牙を剥けば殺戮を欲しいままにする魔獣だとは、
周りは気付きもしない。
414 :
閲兵式:2007/08/25(土) 12:51:00 ID:+Frqk+ER
そうして二人と一匹が他愛無い言葉を交わすうちに、周囲の歓声が一際高くなる。
「元帥閣下バンザーイ!」
光の軍勢の要とも言うべき老齢の将帥に、都の住人は絶大な信頼を寄せていた。
今回の閲兵式では主役をアデラに譲っていたが、彼の人気は衰えていない。
その人気が宮廷の一部で反感を買い、クルガン王の嫉妬を煽る原因にもなっているのだが。
「なかなか骨のありそうな奴じゃ…… ちと筋張っていそうだが」
ティラナは元帥をそう評した。
鞍上の彼だけは、周りの騎士達とは空気が違う。
七十を越えているはずの身体から、溢れるような精気が感じられた。
浴びせかけられる歓呼に愛想を振り撒かず、背筋を伸ばし正面を見据えている。
それでいて尚且つ、左右の観衆を睥睨するかのような威厳がある。
王と元帥を見比べれば、初見の者であってさえ器量の違いという物を納得するに相違ない。
元帥を乗せた軍馬が、一歩一歩進み、近付いてくる。
そして、漆黒のローブを纏った魔王の前を通り過ぎた時、僅かに元帥は目線を動かした。
魔王もケープの奥から元帥を見つめていた。
ごく短い間であったが、確かに二人の視線が絡まる。
元帥は何事も無かったかの様に進んでだが、しばらくの後に脇に控える従兵に何やら囁くと、
その兵士は即座に行列を離れて消えていった。
「目ざとい奴…… 余の存在に気が付きおった」
「えっ?」
「素性まで見抜けはせんだろうが、捕り物騒ぎは無粋よな……
ティラナ、去るぞ」
振り向きざまにそう言うと、まるで川面に浮かぶ木の葉が渓流を下る様に、
瞬く間に人込みを縫い掻き分け、その場を離れてゆく。
「待て、待たぬかっ! 待てというにっ」
一足離れて、ティラナはその姿を追う。
彼女の動きも、猫が地を駆けるが如きすばしこさであったが、それでも魔王には追いつけない。
「これっ、あいつはどうするつもりじゃ? 置いて行くのか!?」
その問いに、黒い影から応えは無かった。
・・・・・・・・・
415 :
閲兵式:2007/08/25(土) 12:51:53 ID:+Frqk+ER
元帥よりもやや遅れ、今回の閲兵式の主役が現れた。
銀の鎧に陽光を浴びて、白馬に跨ったアデラは都大路を練り歩く。
「ワーッ、勇者万歳!!」
「勇者アデラ万歳!」
「クルガン王陛下万歳!」
「アデラ!アデラ!」
「光の軍旗に栄光あれーー!」
「アデラさまーっ!」
「王国万歳!英雄王ラルゴン万歳!!」
光の勇者を加えた軍勢を、道の左右に集まった民が様々に讃える。
『威厳を保ちつつ、かつ澄ました顔をして反感を買わぬ様に』と指導されたが、
一週間前まで聖騎士団のただの前衛隊長の身であったアデラには、それは容易い事ではない。
これほど多くの視線と歓呼を一身に集めるなど、これまでの人生で経験が無い。
そればかりか、彼らが自分にかける期待…… それが重く圧し掛かった。
(勇者とは、かように万民の運命を担わなければならないのだ)
自分が勇者という身分に憧れた事が無いと言えば、それは嘘だ。
だが、実際にそう扱われれば、かっての願望など甘い妄想であった事が身に染みる。
少なくとも顔が引き攣らない様に心がけていたアデラに、
どこか聞き覚えの有る東国訛りの声が道の脇から掛けられた。
「アデラさまーー! こっちを見てくださーい!」
「……なっ?」
一瞬、『自分の目がどうにかなったのか』とさえ思った。
亜麻色の髪を項で短く切り落とした少女の姿は、忘れたくても忘れられるものではない。
多くの見物人の中から目を留めて貰うべく、ぴょこぴょこと跳ねつつ手を振っている。
行進が乱れるにもかかわらず、アデラは短髪の少女の前で馬を止めた。
「フィリオ!? 何で王都に?」
「良かった。気が付いて下さったんですね!」
その邪気のない笑顔は、まぎれもなくあの魔王の陣営に居た風呂係の少女だった。
「アデラ様が勇者に叙任されるというので、見届けさせて頂きたく参りました!」
「そ……、そうか?」
屈託のない言い様に、アデラは拍子抜けしかけた…… が、瞬間、驚愕すべき事実が脳裏を奔る。
『魔王の端女であるこの少女が、自分の意志で王都に来れる訳が無い!』
それに気が付いた刹那、アデラは事態をほぼ正確に見抜いた。
「まさかっ、奴もここに来ているのかっ!」
「はい。だけどいつの間にか、はぐれてしまって……」
相変わらずフィリオは笑みを絶やさない。
対照的に、アデラの顔はこれまでになく厳しくなっていた。
(魔王め、何処に居るっ…… そして何を企んでここに来たっ!)
だが、アデラが辺りを見渡したとき、既に魔王は大路を離れていた。
そして、これは彼女がこの日遭遇すべき事件の、ほんの前触れに過ぎなかった。
(続く)
416 :
投下完了:2007/08/25(土) 12:54:41 ID:+Frqk+ER
本来マリガンは「尊師」と呼ぶべきなのですが、
大事件を起こした輩のイメージと重ねないために「大師」となっております。
>>416 確かにあの「尊師」のイメージじゃ小物過ぎますなw
今回もGJです!
初登場の元帥キター
そして続き物っぽい雰囲気にwktk
んばんわ〜
いっぱい神が光臨中でうれしい限り。
続きの投下をしまする。
420 :
邂逅\1/5:2007/08/25(土) 23:04:47 ID:XjOMY/uz
「きつい・・・な」口にしたのは、女のほうだった。「この娘の 身体」
女の手のひらが自身の乳房を掬い上げる。しばらくじっと見つめた後、ゆっくりとこね始めた。
みるみる先端が硬くしこり、唇から吐息が押し出された。
「あ・・・あぁっ」乳房の自撫に応えて声が上がるのはタイロン・ツバイのほうだ。
乳房や頂に与えられる刺激に反応して、アビゲイルの内膜がよじれ、より男根を奥にいざなう。
女も湧き上がる快楽に目を細め、満足げである。「様々 依代は 借りたものだが・・・」
そのまま右手が下がり、痙攣するわき腹をなでまわした。
「絶品よのぉ」女の内部がざわめき、締め上げる。
うっとりと自らを愛撫する女を下から眺めるだけだというのに、タイロン・ツバイは確実に追い詰められていく。
421 :
邂逅\2/5:2007/08/25(土) 23:05:31 ID:XjOMY/uz
抜いて、挿す。
暖かい女の胎内とひんやりとした外気。
先程の施射のせいか、凄まじい刺激が駆け抜けるのに射精に至らない。
女が完全に男根を引き抜き、ひざ立ちでにんまりと笑う。
先程までの狂おしい快楽を求めて、男根がびく、と大きく脈打った。
すぐその先にあるのに、届かない。泉を求めて、抑えてけられている腰を動かそうとあがく。
「契約を かわそうか」
この熱を開放してくれるのなら、何でも承諾してしまいそうな自分が恐ろしい。
・・・もっとも、承諾以外に道はないのだが。
422 :
邂逅\3/5:2007/08/25(土) 23:06:27 ID:XjOMY/uz
「少々 西が きなくさい」
ささやく声と、タイロン・ツバイをまっすぐ射抜く目は真剣そのものだ。
しかし、反り返った幹の上を女の泉がゆっくりと行き来する。・・・飴と鞭
「戦か」やっとタイロン・ツバイが絞り出す声は掠れて、快楽の吐息に聞こえる。
女神の表情が憂いに曇った。「吾子」
「血は 流したく ないのお」女のため息は快楽ではない。
両手を男の顔に添え、天眼に口をつける。「砂漠の 国の 言葉を 与えよう」
次は右の瞼に口付けた。「凋落して みよ」
左の目にも接吻。
「御意」とタイロン・ツバイの口元が動いた。声は出なかった。
女神はついっと眼を細めて、満足げに微笑んだ。
「契約は 立てられた」ささやくと同時に、引き締まった腰を勢いよく男根の上に落とした。
423 :
邂逅\4/5:2007/08/25(土) 23:07:27 ID:XjOMY/uz
包み込まれ、吸い込まれる感覚。その快楽。
「戦など」今度は勢いよく引き抜く。密着したまま引きずり出される快さ、苦しさ・・・
「我の 大地には」悦楽が大波のように押し寄せる。
今度は引き潮。「いらぬわ」締め上げるような圧迫感と唐突な開放。
女の泉門が閉じる、ぴちゃり、という音が聞こえた。
2度目の開放の刺激に、タイロン・ツバイは耐えられなかった。
何一つ自由にならない体に湧き上がる射精感。あっけなく、獣じみた声を上げて果てる。
勢いよく飛び出した飛沫がアビゲイルの下腹に散り、自らの腹に落ちてくるのを、放心して見ているしかなかった。
424 :
邂逅\5/5:2007/08/25(土) 23:08:36 ID:XjOMY/uz
くぼみに溜まった残滓を、女が親指で掬う。
「おまえを 頼りにして おるのだ 吾子」
躊躇なく口元に運びぺろりとなめるしぐさのなまめかしさに、タイロン・ツバイは釘付けである。
荒い息のまま、タイロンが声を絞り出す。「仰せのままに」
アビゲイルの身体を借りた女神は満足げに眼を細めて、男の耳元に唇を寄せた。
「おまえは 本当に よく 働いて くれること」
耳たぶを甘く噛み、舌でもてあそびはじめ、十指は男の脇腹を行きつ戻りつ、撫で回す。
タイロン・ツバイは再び勃然した自分に唖然としつつ、くすぐったいような甘美な刺激をなすがままに享受する。
今日はおしまい。
神だ!GJ!!
GJ!
ところで、
保管庫、一個一個に説明書き付けてくれたりと丁寧な作りだっただけに、
管理人さんのショックもいかばかりか、と思うよ。
量もかなりあったしね。
個人的には保管庫復活してほしいんだが・・・・どうなるんだろ
しかし、保管庫の更新も四月ごろから止まっていたからね。管理人さんはかなり長い間はなれていたと思われる。
少し前に更新があった気がするんだが、あぼんですかorz
お、保管庫復旧してる
姫スレに保管庫の中の人のコメントあった。
ざっとだが復活してるらしい。
中の人が超絶忙しいために、格的に戻るのは9月ごろになるらしい。
良かった良かった。
保守
433 :
投下準備:2007/09/01(土) 19:55:16 ID:ScDEhAPl
王都編三作の最後、『魔王とヘルミオーネ』です。
※注意
・今回も女兵士との濡れ場がなくて反省
・タイトルどおりNT
・相変わらずエロ以外がやたら長い(読み飛ばし可)
・三連作の最後だが、先の二作を足したより長い。これまでで一番長いかも
・でも前の二作と直接繋がっているので、
>>387-392『クルガン王とヘルミオーネ』、
>>412-415『閲兵式』を先にお読み下さい
元帥府の一室で、老人の前に二人の男が畏まっていた。
「取り逃がしたと云うのか」
「面目次第もございませぬ……
閣下のご下命により黒装束の男を追いましたが、追者の内四名と連絡が取れぬ有様で……」
「消されたか」
「恐らくは。あの群集の中で胡乱な者を見抜かれた閣下のご慧眼、
感服の至りでございます」
「世辞はいい。重大なのは盗賊ギルド、魔道士ギルドの追跡を躱してのける曲者が侵入し、
今も行方が知れぬと云う事だ」
「真に、その通りで」
昼間の行進の中、老人は群集の中に立つ黒衣の男に気を引かれた。
それは、ただの直感であった。
大路に集まり、行進を見物していた人間など数え切れぬ程居た。
だが、あの男と視線が交わった瞬間だけは、背筋に稲妻が走った。
これまでの長い軍歴の中で、あのような感覚は初めてだった。
「引き続き探索を行え。同時に新手の間諜の侵入は見逃すな」
「承知しました」
命を受けた二人が部屋を辞すと、老人は窓の外を眺めた。
勇者の叙任という一大セレモニーの熱気が今も続いている。
否、上の熱病が下々にも伝染したのかも知れない。
思わず、老人はため息を漏らした。
昨年からこの方、殊にため息をつく事が多くなった。
この歳になっても、まだ彼は王国の兵事を双肩に支えなければならないのだ。
(魔王現れる時に勇者現る、勇者は魔王を倒して光と正義を取り戻す…… か)
光の王国の誰もが、子供の時分より教えられる詩の一節である。
一週間前の事だった。
朝議の場で、突如国王が『ラルゴン王の霊告により、光の勇者が選抜された』と言い出したのは。
初めは誰もが信じなかった。
しかし、王が聖庁及び聖騎士団の幹部を問い詰めて、
『神剣を抜いた聖騎士が居る』事を白状させると、失笑はどよめきに変わった。
件の聖騎士が召喚され、廷臣が見守る前で神剣がその騎士に渡された時、
英雄王の没後以来、誰も鞘から抜けなかった神器は、その娘の手によって解き放たれたのだ。
剣身から発せられる神々しい霊気は、それが小細工や贋物の類ではない事を証明していた。
もはや、その場の誰も王の主張に疑いを差し挟まなかった。
この国では、救世主である神君ラルゴンの権威は最も重い。
五十年に渡って王国の軍事を司ってきた老元帥でさえ、それにだけは勝てない。
そして神君の勅令として、クルガン王は闇の軍勢への再攻勢を命令したのだった。
確かに勇者が魔王を倒せば、戦いは決着する。
だが、老人は伝説を鵜呑みにするほど甘くなかった。
戦場において『勝てる』と『勝ちたい』の違いを混同した場合どういう目に会うか、
彼ほど熟知している人間は居ない。
なるほど、国王と英雄王の神霊が言うとおり、現在は千載一遇の好機に見える。
勇者という切り札が加わった今、そこを突けば光の陣営の大逆転は起こしうるだろう。
それでもなお、老元帥の心に引っかかる物があった。
雪解けの後に、魔王は王都へ直進しなかった。
そして『古く深き森』を攻める為に、その力を減らしている。
そんな時、丁度良く神君ラルゴンに認められた勇者が現れた。
彼女の働きによっては、戦局に光明が見出される……
(……出来すぎているな。
どうして、ここまで都合の良い話があるものか)
老将には、この一連の出来事が受け入れがたかった。
もちろんこれらは全て事実であるが、戦場での甘い話は十中九まで嘘と罠だ。
根拠は無いが、老人の長い戦歴で鍛えられた勘が告げている。
『魔王は誘っている……
我らが勇者を陣営に加えて攻勢に出る事こそが、魔王の目論見ではなかろうか?』
松明を掲げ、お祭騒ぎに浮かれる市街の様子が窓から眺め、老人はもう一度ため息をついた。
・・・・・・・・・
備蓄を放出し、民草にも光の勇者の出現を祝福させよと命じた国王だが、
彼自身もかなりその恩恵に与っていた。
「うぃ〜〜……」
「陛下、大丈夫でございますか?」
「……ん? この位、何でもないぞ…… 愛しきヘルミオーネよ……」
聖騎士アデラに自ら神剣を授け、正式に光の勇者と認定する儀式を執り行い、
クルガン王は非常に上機嫌だった。
この儀式こそ、彼が英雄王の末裔であり、光の陣営の盟主であることを証明するものなのだ。
不遜な元帥など、今日は単なる一老臣に過ぎない。
「ヘルミオーネ、奴は一日中浮かない顔をしていたぞ……」
「奴とは?」
「元帥よ……! 勇者に主役を奪われて不満なのだろう…… いい気味だなぁ」
叙任式の後に行われた宴で、クルガンは大いに酒盃を傾けた。
これほど陽気な酒はしばらく無かっただろう。
宴の後、飲みすぎて足元も定かではなくなった夫を連れて行くため、
妃のヘルミオーネは自ら肩を貸さねばならなかった。
クルガンは酒癖が良い方ではない。
扱い方を間違えれば、近臣にでも当り散らす人物だ。
なるべく醜態を晒させたくないので、王妃直々に夫に手を貸す。
機嫌の良いまま寝付いてもらおうと寝室へ入った時、
夜の暗闇を繰り抜いたような、漆黒のローブを纏う者がそこに居た。
「な、何だぁ貴様は?」
「さし当たって、お前に用は無い……」
「……へっ?」
黒い装束の袖が一振りされる。
すると、クルガンは何が起きたのか判らぬまま、口を開けた姿で立ち尽くした。
「えっ…… へ、陛下!?」
ヘルミオーネが叫んでも、王はもう微動だにしなかった。
その装束も硬直し、しなやかさの欠片すら失って固まっている。
王妃は夫の変わり果てた肌触りに驚愕した。
「石に!?」
「驚くほどの事もあるまい。石化術如き、見習いでも使う」
低く、冷たい声で語りながら、男はケープを後ろにずらした。
色の薄い頭髪と真白い素顔が露になる。
顔を見た限りでは、ヘルミオーネよりもやや若い。
だが、この男がいつ何処で生まれたのか、知っている者は誰も居ない。
「ヒッ……」
圧倒的な威圧感で王妃の脚が竦む。
男はゆっくりと近付いてくる。
彫像となった夫に縋りつくことで、彼女はようやく立っている有様だ。
漆黒の装束とは対照的に、驚くほど白い手がヘルミオーネの頤に伸びた。
値踏みするかの如く顎を上げさせられ、視線が交わる。
淡く赤みを帯びた瞳に見つめられたヘルミオーネは、勇気を振り絞って警告の言葉を紡ぎだす。
「わっ、わたくしはこの国の王妃ですよ!?」
「知っている」
「ならば控えなさいっ! わたくしにみだりに触れてはなりません!
王妃たる身に対して、あっ余りに無礼な振る舞いっ」
「王たらずば王妃に触れる事が許されぬと言うなら、余にその資格無しとは言えぬ」
「えっ……?」
「……」
男は何も言わず、ヘルミオーネを石になった王から引き剥がす。
そして片手で彼女の体を掴むと、寝台へと放り投げた。
「きゃあっ!?」
狙いたがわず、彼女は夫と自分のベッドの上に投げ飛ばされた。
柔らかい綿入れが落下の衝撃を吸収したため、怪我はない。
それにしても、人を一人軽々と投げて見せた黒衣の男の膂力は尋常ではなかった。
装束の上から見ても、筋骨逞しいとは見えない。
そして、寝台へ歩み寄る男の足音は、異常なほど静かなものだった。
「そ…… そなたは何者ですか!?」
「名乗るべき名は既に持たぬ。
『黒檀の玉座に坐る者』『闇の律法者』『混沌の淵より湧き出でし泡』『至邪の存在』……
好きなように呼ぶがいい」
「まさか……!」
背筋が凍りついた。
最も忌まわしく、かつ恐ろしい名の為に、容易に口からその言葉が出ない。
「ま、魔王……」
最も多くの者が呼ぶ名で、ヘルミオーネは呼んだ。
男は小さく頷くと、再び王妃に手を伸ばす。
ただし、今度は彼女の頤にではない。
細い指がドレスの襟にかけられると、魔王は下着や装身具ごとそれを引き裂いた。
「!?、ヤァーーーッ!!!」
絹の裂ける音に続いて、王妃の悲鳴が響いた。
必死に男の手を押しのけようとするが、か弱い腕での抵抗など魔王には無意味であった。
「やっ、止めなさい! 止めてっ、」
胸元を裂かれたに留まらず、相手の手は彼女の身体に残る布地を力ずくで剥ぎ取っていく。
何とかそれを食い止めようとヘルミオーネは手足を暴れさせ、必死に寝台から逃げようとした。
しかし、魔王は王妃を逃さなかった。
女の身体を覆うように圧し掛かると、その両手首を掴んで動きを封じる。
押さえ込まれた身体が、柔らかいベッドに沈む。
「っ…… はむっ、むむぅ……」
怯える王妃の唇に、魔王は己の唇を重ねた。
夫以外に初めて奪われた唇は、限りなく柔らかかった。
そして、ただ触れ合うだけではない。
唇自身が交わるように相手の唇は蠢き、自分の口中を啜り上げてくる。
舌で口中が舐められ、唇に吸い付かれる。
水音を立てつつ、王妃の口は貪られ続けた。
不自然な事だが、ここに至っても衛兵の一人も来ない。
平常ならば、先程の悲鳴を聞きつけて衛兵が乗り込んでくるべきであったが、
兵士どころか侍従すら現れなかった。
ただし、それを疑問に思うほどルミオーネに余裕はなかった。
許されざる行為に震える王妃の身体に跨り、魔王は女を見下ろしていた。
「……」
黒い装束が、誰の力も借りずに魔王の身体から脱げた。
蝋燭の炎に照らされて、贅肉のかけらさえない白い痩身が露になる。
「あっ、ああ……」
己の身体に与えられる陵辱を予感して、王妃は恐怖のあまり呻き声を漏らした。
「……」
「いっ、イヤぁ!!」
手首を離し、魔王の手は女の胸へ移る。
熟れた果実の如き膨らみをたたえた王妃の乳房を、白い指が握り締めるように掴む。
指先が柔肉の中に沈むように埋まり、形を歪める。
だが、押し潰される痛みと同時に、今まで味わった事の無い感覚が王妃の脳裏を貫いていた。
指の動きは、握り締めただけでは終わらない。
尖端にある突起を摘み、捻り上げる。
「っ、ぁぅ……ん」
その感触は痛いだけではない。
無理矢理に、乱暴に扱われながらも甘い歓びが身体の底から湧き上がる、そんな抓り方であった。
普段、国王はこのように自分を扱いはしない。
夫はいつも自分のやりたい様に、妻の身体を弄り廻す。
だが、今乳房を嬲るこの指は、身体の芯に眠っていた衝動を揺り動かすが如く優しく、
そして力強く食い込んでくるのだった。
痛覚と快楽の境界が曖昧に思えるほど巧みな愛撫を受けて、
王妃の脳裏に激しく警鐘が鳴り響いた。
(ダ…… このままでは駄目っ)
かすかに残った理性が、直ぐにこの男から離れるべきだと告げる。
何故逃げなくてはいけないのか、それは夫ある身として言葉に出来ない理由だ。
「や、止めて下さい……、お願い……」
己の身体を弄ぶ相手に、ヘルミオーネは哀願の言葉をかけねばならなかった。
だが、当たり前のようにそれは無視され、魔王はさらに甘美な責め苦を王妃に与えていく。
「ぁんっ!」
乳首に歯を立てられ、唇から悲鳴が漏れる。
それだけでなく、舌で転がされ、両手で捏ねるように揉みしだかれる。
しかし、両掌で乳房を嬲られることで、ヘルミオーネの手首は自由になった。
男の身体の下から脱け出そうと、精一杯の力を込めて両手を押し出す。
すると簡単に、相手との間に隙間を作る事が出来た。
急いで逃れようとした王妃だったが、ベッドの縁にたどり着くよりも先に、
魔王は素早く彼女の手首を捕える。
そして再び寝台の上に引きずり倒された。
「や……ぃっ!」
後ろから小手を捻り上げられ、無理に動こうとすれば肩が軋む。
男の片手で、ヘルミオーネは身動きを封じられた。
魔王がその気になれば、肩を外すどころか砕く事も容易だろう。
いや、捩り切る事も出来るかもしれない。
だが、王妃を後ろから取り押さえた魔王は、無用の痛みを与えるつもりはないようだった。
空いた片手で、王妃の白磁のような肌を撫でる。
艶のある、滑らかな肌であった。
魔王の白い指が、王妃の背中からわき腹、そして麗しい曲線を描く臀部へと撫で進む。
「はぅっ……」
肌をかすめる様な、軟らかな愛撫。
時折、悪寒にも似た感覚が背筋を走る。
指先は相手の耐え難い場所を文字通り手探りで探し、
女体が震え、呻き声をもらす箇所は執拗になぞり、いたぶる。
撫でられるだけでこれほどの官能が生まれうるとは、王妃はこれまで誰からも教わらなかった。
未知の歓びにわななく身体を楽しむが如く、五本の指は彼女の身体を丹念に撫で回してゆく。
しかし、指が臀部から太腿へ下り、内腿を経て彼女の体の中心へと目指した時、
にわかに彼女に理性の炎が点る。
「止めてっ…… 後生ですから、これ以上は許してっ」
「……」
「それ以上するなら、わたくしは舌を噛みますっ!」
今更ながら、男の指先が夫以外には決して許してはならない場所へ伸びている事に気が付く。
決死の思いを込めて、王妃は叫んだ。
関節を極められて逃げる方法も見出せぬ王妃には、声で相手に訴えるしかない。
「好きにせよ。舌ぐらい幾らでも繋いでやろう」
その無慈悲な宣告が、王妃の意志を打ち砕いた。
自分は自害によってさえ逃れる事が許されないのだと知り、悲哀の涙が滲んできた。
「っ!!、……あうう」
指が、ヘルミオーネの股間の裂け目に触れる。
茂みを掻き分けて、割れた花弁を丹念に弄っていく。
秘裂の上にある突起を魔王が摘んだ時、ヘルミオーネは鋭い叫び声で応じた。
「ひゃっ……!」
既に、花芯は膨らんでいた。
そこを弄りながら、魔王の指は充血した花弁を割ってヘルミオーネの中へ侵入する。
(いやっ、そんな…… そんな所を触らないでっ)
指が膣中をかき回すように動き、蹂躙していく。
陰核に愛撫を受けながら膣壁を弄られ、堪えようのない官能の昂りが沸き起こる。
いつの間にか、王妃のそこは愛液でしとどに濡れて出していた。
「駄目です…… もう、許して……」
もう何度、彼女はこの行為を止めるよう言っただろうか。
それが無意味だと頭のどこかで悟り、哀願の声は途切れ途切れになりつつも、
王妃は繰り返し魔王に懇願した。
しかし、男の指は止まることはなく、さらに指戯を与える。
「あ……うっ、」
ヘルミオーネの身体が小さく震える。
生まれて初めて、王妃は自分の指以外で達した。
背後から彼女の身体を捕らえていた手がようやく離され、王妃はベッドに倒れ込む。
(あっ、貴方……)
視界の端に、石になった夫の姿が見えた。
殺された訳でもなく、かといって自分の妻が敵の手で嬲られるのを見る事も聞く事も無い彼は、
相変わらず間の抜けた顔で虚空を見ている。
石化してしまった事は、いっそ国王にとって幸いだったのだろう。
けれど、夫が側に居るというのに自分が魔王の手で感じてしまったという事実、
それは罪悪感となって王妃の心を責めるのだった。
つい先刻までは、自分が見知らぬ男性に身体を触られるという事など夢想もしなかった。
頼りないとはいえ夫はこの国の王であり、自分はその貞淑な妻の筈だった。
一国の王妃に乱暴を働く者など、彼女は想像さえできなかったのだ。
同時に、自分の身体が他人の手でここまで快感を覚えたということに驚愕していた。
夫の手では感じられなかった愉悦。
自分で慰めるのとは違った、執拗な愛撫が彼女の肉体を蕩かした。
今それを感じながら、熱い吐息が唇から漏れた。
「ぅ……?」
気が付けば、魔王がこちらを見ている。
目が合った時、にわかに王妃は正気を取り戻し、羞恥心と背徳感に心を苛まれた。
(なっ、なんて事をされてしまったのかしら……)
いつも国王と夜を過ごす寝台で、自分は夫以外の男の手で感じてしまったのだ。
さらに、光の陣営最大の敵とも言うべき魔王の手で。
驚き、後悔、自責…… それらがヘルミオーネの心に渦巻く。
だが、女の心中など気にも留めず、魔王は王妃の腰を抱え上げた。
もちろん王妃も抵抗した。
しかし、魔王の腕力に対抗できるほどの力を、王妃は持たなかった。
尻に熱く硬い肉塊が当たる感触が、ヘルミオーネを震わせる。
その意味を悟り、ヘルミオーネは渾身の力で逃れようと足掻いたが、
男根は容赦なく股間の裂け目に埋められていった。
「いやぁっ!」
寝室に、絶叫が鳴り響く。
抵抗も空しく、王妃の秘所は魔王に貫かれた。
夫以外には許してはならない神聖な場所が穢される。
それも、夫の物とは比較にならないほど膣内が拡げられ、奥まで穿たれた。
(……嫌、こんなに奥までっ!)
己の指も、そこまで到達したことは無い。
今まで味わった事の無い硬さで、文字通り子宮さえ押し上げられる感覚。
(あっ、あの人以外の物が、中で……灼けるように……熱い)
ヘルミオーネは、それをまるで燃える杭が突き刺されたかのように感じていた。
未知の衝撃にわななくヘルミオーネの項に、魔王は舌を這わす。
羞恥と動揺で汗が滲む身体を、味わうように舐める。
背後からぬめる舌で首筋を舐められ、肩口を跡が残るほど吸われた。
貫かれたまま、背後から愛撫を受けるヘルミオーネは、その度に拒絶の声を発する。
ただしその声色は、幾分か喜悦が混じっているような、甘さを帯びた声であった。
まだ、貫いたまま魔王は腰を使わない。
女の物が己の身体に馴染むのを待つかのように、そのままゆっくり口付けを与える。
魔王の責めは唇だけではない。
寝台に這う王妃の乳房を搾るように揉み、かと思えば二人が繋がった場所に手を伸ばし、
花芯と花弁を存分に撫でる。
その手練の巧みさに、再び王妃の吐息は荒くなっていく。
「はあぅ、…… はっ、…………… あっ!、ああんっ!!」
男の手が陰核を摘み上げたのと同時に、二度目の絶頂が王妃に訪れた。
一度ならず二度までも、彼女は達してしまったのだ。
「やめ……、これ以上されたら……」
王妃は男の身体が、自分から離れないことに気付づく。
引き締まった魔王の痩身。
背中に圧し掛かる様に触れる冷たく猛々しい肉体を、ヘルミオーネは肌で感じていた。
自分が感じている事を白状するようで、とても口に出せない言葉が喉に詰まる。
(本当に、身体が蕩けて……どうにかなってしまいそう……)
その言葉に出来ぬ声が聞こえたのか否か、魔王の手はヘルミオーネの腰に移る。
秘裂はすでに潤みきっていた。
ゆっくりと、彼女の中から己の陽根を引き出し、再び突き入れる。
肉と肉がぶつかり合う小気味良い音が立った。
「ぃっ……」
膣壁を掻き出されるような感触が、王妃の快楽を掘り起こそうとする。
初めて男女の交わりの意味を知ってから十年間、未だ味わった事の無い官能。
自分は陵辱されているはずなのに、夫との行為で得られなかった歓びを何故感じてしまうのか?
まして、すぐそこに夫の姿があるというのに。
王妃の頬を涙が伝った。
喘ぎ声に嗚咽が混じる…… いや、嗚咽に喘ぎ声が混じっているのか。
自責の念を憶えつつも、王妃の胎内は交わりを求めている。
うねる膣壁は男根に絡みつき、しとどに溢れてくる愛液は、腿を滴り落ちてベッドを濡らす。
魔王もただ単調に奥まで突き込むのではない。
先に行った指での愛撫によって、特に彼女が反応したところを重点的に擦り上げるように突く。
深く浅く、緩急をつけた交合で、だんだんヘルミオーネは登りつめていった。
「あ、なたっ……!、わたくしをっゆ、許してっ…………」
最後に、かすかな呟きが王妃から洩れた。
寝室に響く肉の衝突音は、次第に速さを増してゆく。
もはや王妃の唇からは、意味を成す言葉は出なかった。
ただ肉の歓びに震える女の喘ぎと呻きを発するのみだった。
かってないほどに高められ、自分が自分でなくなるかのような開放感。
上っていくような、落ちていくような感覚。
「あ、あああああぁぁーーーーーーーっ!!!」
身体の奥底に熱い迸りを受け止めた感触と同時に、王妃はそこに到達したのだった。
法悦の波に揉まれ、獣のような叫び声をあげて王妃は気を失った。
・・・・・・・・・
意識を失ってベッドに横たわるヘルミオーネの横に、魔王は何も言わずに座していた。
そこに、屋外から少女の悲鳴が響いてくる。
耳を澄ませば、それは寝室の上方より王宮の屋根から屋根へ、次第に近付いてくる。
それを聞き、魔王は露台の方へと白い顔を向ける。
程なく、悲鳴の張本人と原因がそこへ現れた。
首筋にしがみ付いた少女を乗せ、金色の毛をした剣牙虎が寝室のベランダに音も無く降り立つ。
「ティラナさま…… もう少し優しく飛び跳ねて頂けませんか!?」
「ぶつくさ抜かすなっ。本来なら妾は、魔王以外の奴を乗っからせたりはせんのじゃぞ!」
「ひゃん!」
ティラナの背から、連れ戻された端女が床にふるい落とされる。
剣牙虎は寝台に坐る魔王と、その横で裸で寝そべる王妃の姿を目にし、
しゃがれた老婆の声で毒づいた。
「まっこと、つくづく王とは良い身分よなっ。
妾にこいつを拾いにやらせて、自分は美女とお愉しみか?」
「無聊を持て余すは性に合わぬ故な」
「けっ、石になった夫の前で妻を組み敷くとは、ご大層な暇つぶしがあったものよ!」
「たまには趣向を変えて契るも一興」
「ぐるるるる、」
不満そうに喉を鳴らすティラナだったが、魔王はまるで意に介さず、黒装束を再び纏う。
その時、石造りの屋根を走る革靴の音が天井を鳴らしたかと思うと、
先に剣牙虎が現れたベランダに、今度は光り輝く剣を携えた女騎士が降り立った。
「魔王っ、やはり貴様の差し金か!?」
「……生身で会うのは久しぶりだな。アデラ」
「ひつこい小娘じゃ。
魔王が戦いを禁じてさえおらねば、その腹噛み割いて五臓を撒き散らしてやったものを」
ティラナは忌々しそうに呟いたが、アデラの眼中には魔王の姿しかなかった。
間合いを確かめつつ、神剣を構える。
そんなアデラを前にしても、魔王は落ち着き払って言った。
「止めておけ。今宵はそなたと刃を交えに来た訳ではない」
「例え貴様にその気が無くとも、見逃せると思うのかっ!?」
「どうしてもと言うのなら、一戦交えても構わぬが……」
グ オ オ ァ ア ア ア ル ル ゥ ー ー ー ー ッ !!
突如、雷鳴にも似た轟きが王宮、そして王都全体を鳴動させる。
「っ、これは!?」
「竜族の始祖が嫡孫にして、今活動期にある竜の中で最も古きドレイク……
『煉獄を運ぶ者』の銘を冠する暗黒龍の嘶きだ」
魔王は窓の外を指差した。
禍々しい光を放つ星が天空を遊弋している。
地上の人間たちが、それが龍の瞳であったと気が付いた時、
ドレイクの大火炎が市街を焼き尽くすために放たれた。
「何だと!?」
「人間族が地上に創られた頃、既にあれは空の王者であった。
その力は、魔王を名乗りし歴代の者どもにおさおさ引けをとらぬ。
先代の魔王でさえ、あれの休眠期を襲ってようやく巣穴から追い払った程だ」
「それは、父上が攻め入った時に偶然奴が休眠期だったのじゃ!」
ティラナが即座に弁解するが、アデラにとってそのような事は少しも重要ではなく、
魔王は全く剣牙虎の言葉を無視した。
「百万の大軍を擁したとしても、雑魚どもでは敵にならぬ。
退ける術があるとしたなら、勇者たるそなたの力が不可欠であろうよ」
「……」
「それでも尚、余との決着を優先したいのならそれも良し。
今宵ここで光の勇者を屠り、王都を灰燼と化し、ラルゴンの王統を絶やし、
光の勢力の命脈全てを断ってくれよう……」
それだけ言うと、剣牙虎の背から振り落とされたフィリオの体を拾い上げる。
静かに、そして無造作に魔王はアデラの横をすり抜けた。
「クッ!」
アデラは歯を噛み締めた。
ドラゴンのことを差し引いても、無謀だとは理解できる。
ここには王妃と国王が居る。
彼らを巻き込まず、魔獣と魔王を相手に戦うのはおそらく無理だ。
さらに剣牙虎を追って屋根を飛び廻ったため、自分は甲冑はおろか盾さえ身に着けていないのだ。
相手の掌の上で好い様に転がされる屈辱に、アデラは歯軋りするのだった。
「では、またの邂逅を楽しみにしているぞ。勇者アデラ」
「がるる」
「アデラさま、どうかお達者でーー……」
主の両腕に抱えられながら、フィリオは手を振ってアデラに別れを告げる。
二人と一匹の姿は、露台からそのまま夜の闇へ消えていった。
・・・・・・・・・
『小癪な地虫風情メガ!!』
ドレイクは怒っていた。
鱗には、十数本の弩の矢が突き刺さっている。
己に歯向かう人間どもに懲罰を喰らわすべく、
喉を駆け上ってくる灼熱の炎を、ドレイクは存分に吹き付けた。
(しまったっ!)
とっさに回避体勢を取るが、炎から逃げるのが一瞬遅れた。
深手を覚悟したアデラであったが、何故か身体に当たる直前で炎が逸れた。
「おおッ! さすが勇者だっ。あの猛火にも焼かれないとはっ!」
「勇者アデラには英雄王ラルゴンのご加護があるのだ!」
「全員ドラゴンなど恐れるな! 我々には勇者が居るぞ……」
王都を囲む胸壁の上より、はるか遠方で繰り広げられる戦闘を眺める二つの影があった。
「今のはお主の仕業か?」
「いや、昼間会った女術師だ」
彼らの周りには、人型の黒い炭跡が点在している。
それらは魔王の呪力によって消滅した、警護魔道士の成れの果てだった。
ドレイクの来襲で手薄になった監視網を、魔王とティラナは易々と抜けた。
「よもやとは思うが、魔王よ。
初めからあの娘に『龍殺し』の武勲を建てさせてやる心算ではなかっただろうな?」
「……」
「神剣を手にしているとはいえ、兵の末端まで心服させた訳ではない。
勇者としての資格に疑いを持つ者も居るだろう。
だが、万民の前であの古龍を倒せば、光の勢力全てをその剣の下に集めうる。
まさか、此度の微行はそれを目論んでではあるまいな?」
金色の瞳が、疑うように漆黒の王を見つめた。
「あれとて神代より生き延びてきた純血の竜族。たとえ勇者だろうと容易く屠れるものではない」
「それはそうじゃが……」
「仮に、『その通り』と言えばどうだというのだ? 」
「ふんっ!」
一瞥さえ与えず、魔王はティラナに冷たく言い放った。
まるで『差し出口を挟むな』と言わんばかりの態度に、剣牙虎はふてくされて顔を背ける。
「……フィリオ」
「は、はいぃっ?」
不意に主君に話しかけられ、フィリオは驚愕して声が上ずった。
「アデラの様子はどうであったか?」
「えっ、その、アデラさまですか……
お食事やお風呂の世話も出来なかったので、よくは判りませんでしたが……」
「……」
「冬の前にお別れした時と、あまりお変わりなかったような……」
「そうか」
それだけ聞くと、再び魔王は沈黙し、竜と勇者の戦いに目を向ける。
その時、風に煽られて漆黒のケープが僅かにたなびいた。
抱きかかえられていたフィリオだけが、偶然主の顔を垣間見た。
だが、彼女が主の表情の意味を知ったのは、魔王と勇者の再戦の後になるのであった。
(終わり)
449 :
投下完了:2007/09/01(土) 20:24:45 ID:ScDEhAPl
保管庫復活ありがとうございいます。
こんな長く一つの話を書いてると、保管庫の存在が非常にありがたいです。
このスレから読み始めた人には、ティラナと剣牙虎の関係が判らなかったりするでしょうから。
リアルタイムでGJ!
GJ!
駄目男とその奥さんという組み合わせは好きです
GJ!!
魔王テラカッコヨス(`・ω・)
アビゲイル待ち保守
ヘタレ魔王待ち
アシュレ待ち
456 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 01:13:30 ID:x+gebmkW
アリューシア待ち
アリューシアがひょんな事から、慣れない正装(女装)で仕事するハメに…な〜んてシチュをキボーン!
このシチュでの2人の反応を妄想して妄想してたまらんのです(*´Д`)ハァハァ
作者さん、もしこのシチュおkなんて思ってくれたら書いてほしwww!!
いつになってもいいですので。
>慣れない正装(女装)で仕事するハメに…
女騎士が女装でする仕事って、例えばどんな仕事がありますかね
明らかに護衛と分かる者は参加できないお姫様主役の伝統行事とか、
政敵を油断させるために侍女に扮してマルゴット姫に付き添ったりとか・・・?
誰か偉そうな人の婚約者のフリとか。
主の婚約者の護衛として侍女となるとか。
婚約者が狙われているとかで。んでその婚約者が一癖あって主従の中に気づいて・・・とか。
>>458-461 なるほど。参考にさせてもらいます。
ただ、きちんとした作品として書けるかどうかはわからないので
待たずに忘れてください、と勝手ながらお願い(申し訳ないです)
とりあえず、レスありがとう。
保守
保守
465 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/13(木) 20:42:36 ID:I5KbEaKK
アリューシアの男友達に焼き餅を焼くグルドフが見たいです
アリューシアくるー!?のんびりと松
467 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:39:53 ID:+Afonf7L
エロナシ保守ss投下。
騎士VS女騎士のバトル物です。
以前姫スレに投下したssのオチに当たりますが、
今回の主役は女騎士なので他の職人様の投下を待つまでのおつまみにどうぞ。
剣戟が好きな方にオススメ、つーかチャンチャンバラバラが嫌いな人は読まない方が……
チャンバラ 七割
せつなさ 一割
その他諸々二割
エロ 零割
468 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:40:40 ID:+Afonf7L
空気を切り裂く飛来音が国境の峠道に鳴ったと同時に、
突如として男の乗る馬はもんどりうって倒れた。
「うぉ!?」
崩れ落ちる馬体から危うく逃れ降りる。
見事な身ごなしであった。
心得のない者であれば落馬の拍子に身体を打っていただろう。
「レド! 大丈夫ですか!?」
恋人の馬が倒れたのを見て、アイリス姫も鞍から降りて彼の側に駆け寄った。
「怪我はありませんか?」
「ご心配なく…… どこも打っておりません」
主を安心させるため、レドリックは笑いを浮かべてそう答えた。
その笑顔が、倒れた馬の首筋に太矢が突き刺さっているのを見て翳った。
「……」
峠を越える街道の先に目を向けると、岩陰から現れた女が一人、こちらに向かって歩いてきた。
整った顔立ちだが険のある眦をした女だった。
女にしては背が高く、並の男たちと同じ位もある。
長い髪は後ろで束ね、そのしなやかな身体を軍服に包んだその姿は、
美女というより稀代の美丈夫と言った方が相応しいかもしれない。
胸には、かってレドリックが下げていた物と同じ徽章が付けられている。
「遅かったな」
「……お前は速かった、ラーズ」
「馬を七頭ほど乗り潰したよ」
最も会いたくない人物が、二人の目の前に立ちはだかった。
そもそも今回の逃避行の成算は、この女剣士が国内に居ないということが前提だったのだ。
469 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:41:52 ID:+Afonf7L
「ラズリッサ……」
「ジャッロとオランジは死んだ。クラーネスも長くは持たんだろう」
石弓を地に放り、女騎士は腰に下げた曲刀を抜く。
「かって列国を震え上がらせた七剣士のうち、残ったのは私とお前の二人だけになったな」
「……」
「そして、この場で一人になる」
「言い訳になるが、彼ら相手では手加減はできなかった」
レドリックの前に立ちはだかった女は、その瞬間だけ追憶に浸るように瞳を閉じた。
だが、それはほんの僅かな時間であった。
先日までの戦友に剣先を向け、女騎士ラズリッサは宣告する。
「……元近衛騎士団筆頭剣士レドリック。
アイリス王女を宮廷より攫い、多数の将兵を殺傷せし反逆により、この場で貴様を斬る」
「姫、お下がりを……」
「レド……、ラーズ……」
レドリックは剛剣『墓碑銘彫り』を抜くと、王女を背に隠す形で元同輩と対峙した。
この女騎士相手に口舌を尽くしても無意味だという事は、長い付き合いで承知していた。
「裏切り者め…… 貴様が斬った同胞達の血。その命で償え」
「何と罵られようと俺は姫に剣を捧げた身。たとえお前だろうと、邪魔する者は退ける」
厚味の大剣を上段に振りかぶり、レドリックは構えた。
甲冑で全身を固めた戦士ですら、その一撃は両断する。
対するラズリッサの刀は、『墓碑銘彫り』に比べれば針金のように細い。
だが、その威力を一番知っているのはレドリックだった。
その細身の刀は『伊達男』の銘を持つ。
「七剣士」を制定した先代の王は、女騎士の剣にそう名づけた。
由来を知らぬ者が聞けば、騎士の佩刀に相応しくない銘だと思うだろう。
だが、多情な男は多くの女を泣かせる。
この刀も、これまで数知れない女たちを哭かせてきた。
それは愛する者を失って嘆く、遺された妻女の涙を諧謔的に表現した銘なのだ。
動いたのはラズリッサからであった。
飛ぶ鳥のように滑らかに、羽ばたきのように素早い打ち込みがレドリックを襲う。
それも、一撃ではなく三太刀。
アイリス姫は、鋼と鋼がぶつかる音を二度聞いた。
レドリックは初太刀を『墓碑銘彫り』の陰に身を隠して受け、次の崩しの一手は皮一枚の所で躱し、
三撃目は相手の刀を砕き散らさんとばかりに打ち返した。
尋常の相手であれば、ここで武器をへし折られるか飛ばされるかして終わりだ。
だが、彼と並んで七剣士中の双璧と謳われた女剣士は、その一閃に刹那に対応した。
男の意図を悟った瞬間、踏み込みと握りを緩め、『墓碑銘彫り』の一撃を『伊達男』の鎬で受けた。
むろん、渾身の剛剣をただ受けただけでは、細身の刀が折れるか曲がる。
連撃から防御に転じたラズリッサは、敵の攻撃の勢いを殺す最適の位置と角度に
瞬時に愛刀を持ち替えてさえいた。
470 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:42:52 ID:+Afonf7L
衝撃を受け流すために、ラズリッサは数歩飛びずさった。
再び二人の間に間合いが広がる。
「フッ……」
女は笑った。
男は笑わなかった。
互角に見えた先程の応酬だったが、レドリックの背中に寒気が走る。
女剣士のニ撃目を、彼は完全に見切った心算だった。
だが、彼女の太刀は予想を上回って伸び、彼の肌を裂いた。
さらに三撃目に至っては、完全な斬り返しの反撃に絶妙な対応を見せ、余裕を持って退いた。
「……腕を上げたな」
「私も昔のままの私では無い」
レドリックはここに至るまで数多の追手と闘い、手傷を負っていた。
しかし、ラズリッサも一週間昼夜を分かたず馬を駆り続けた疲労がある。
双方とも万全の体勢でなく、不利な要素は五分と五分。
ならば敵に見切りを誤らせた分、ラズリッサがこの時優勢を占めていた。
「いくぞっ」
「っ!」
レドリックはうかつに踏み込めない。
代わりにラズリッサが再び切り込んでいった。
今度は一呼吸のうちに、三太刀どころか七太刀。
「あっ!」
アイリス姫が驚嘆の叫びを上げた瞬間には、既に打ち込みは終わっていた。
一つとして同じ角度で放たれるものは無く、上下左右に敵の意識を振り回しつつ襲い掛かる斬撃。
その内五太刀は受けるか逸らしたものの、残りのニ太刀がレドリックの身体に当たっていた。
「ぐ……」
浅手に終わったが、少し見切りが誤れば致命傷になりかねなぬラズリッサの刀勢。
今度はレドリックが退いて間合いを外す。
七剣士の筆頭騎士が後退するなど、未だかってありえぬ光景であった。
471 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:43:43 ID:+Afonf7L
「殺す前に聞いておく。何故姫と逃げたのだ?」
「……」
「お前が姫に懸想していたのは知っていた。だが所詮は臣下の身。
叶わぬ望みである事は承知してただろうが?」
「俺は騎士として王国に命を捧げると誓ったが、心はアイリス姫に捧げた。
王国への献身と姫への忠誠は矛盾しない……
そう思っていたのだが、運命というものはそう単純ではない」
裏切りの理由を話すレドリックの顔は、誇らしげに微笑でいた。
「俺が諦めてしまった事を、姫は命じて下された。
『王国への忠誠よりも、私を選んで欲しい』と仰ったのだ。
全てを捨ててでも守るべきもの……それが分かたれてしまった時はどうすればいい?
「……」
「俺は気が付いてしまったのだよ。
全てを捧げるべきものは、アイリス姫に他ならぬという事に」
「……我ら将兵が駒として戦場で命を賭すが如く、姫にも王族としての責務が有る。
主が道を誤ろうとしたのなら、お諌めするのが臣の道ではないか」
「人は二つの道を同時に歩めないのだ。選んでしまった以上、俺は姫の想いに殉じる」
「……レド」
主君のために戦うのが騎士の義務、
愛する貴婦人のために戦う事は騎士の本懐。
分かたれた二つの内、レドリックは姫を選んだのだった。
「姫は俺に泣いて縋って下された。
俺は自分が愛し、剣を捧げた方の涙を止める為なら何でもしよう」
「それが……たとえ国を捨て、己の責務を捨てる事になってでもか?」
「そうだ」
「部下を、私……私たち生死を共にした仲間を斬ってでもか!?」
「……ああ、何とでも罵るがいい」
レドリックは剣を構え直した。
己が心中を吐露したその姿からは一切の気負いが消え、静かな殺気が辺りを満たした。
恋人の言葉を聞いた王女の顔に喜色が浮かび、対照的にラズリッサの表情が歪む。
「聞いておくものだな……やはり貴様は生かしておけぬ」
「……」
「国を捨て主家を捨て、同胞を手に掛けて愛に生きるなど、私の道が許さぬ。
もはや貴様が死ぬか、私が死ぬかだっ!」
ただでさえ険しいラズリッサの眼差しが、抑え切れない憤怒に逆立つ。
燃え滾る殺気が剣先から迸った。
472 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:44:41 ID:+Afonf7L
「シャァーーーーーーーーーーーーー!!!」
気合と共に、陽光を浴びて煌く『伊達男』が稲妻の如く宙を裂く。
それを『墓碑銘彫り』はことごとく、しかし辛うじて受け流した。
途切れることなく、斬撃は続く。
一拍子七太刀の紫電の刀勢が幾十度打ち込まれたか、
傍らで愛する男の身を案じて凝視していたアイリスでさえ数える事は出来なかった。
「どうしたっ!?攻め返してみろっ!」
「……」
嘲るように、ラズリッサが咆える。
呼吸を整えるために相手が退いた時でさえ、レドリックは攻撃に転じようとしない。
余りに迅い太刀捌きを前に、成すすべも無い……誰が見てもそう思う状況だった。
だが、一方的に攻勢に出たラズリッサの頬を汗が滴った。
女性らしい膨らみを隠す軍服の奥で、心臓が早鐘のように鳴っている。
これまでの戦歴で、ラズリッサは大抵の敵を一太刀も合わせさせぬまま屠った。
残る敵も、彼女に三太刀使わせる程の猛者は稀であった。
一拍子で七太刀を浴びせる秘剣を一対一で使わせる相手は、同輩である七剣士に限られていた。
それももっぱら模擬刀を用いての稽古だ。
密かに目線を向け、利き手に握る愛刀の状態を確かめる。
亀裂は無い。
ただ、微小な刃毀れが生じていた。
「……小ざかしい真似を」
相手の戦法を悟り、ラズリッサはそう吐き捨てた。
強者ぞろいの七剣士の中でレドリックが筆頭を勤められたのは、
剛剣を時に速く軽く、時には遅く重く、状況に応じて自在に操れるが故である。
大陸に冠絶する神速の太刀でさえも、守勢に徹したレドリックを切り崩せない。
このまま刃を交わし続ければ、細身の『伊達男』の刀身が耐えられなくなるだろう。
レドリックは刀を折って勝つ事が出来るが、ラズリッサには出来ない。
命をかけた戦場では、得物の差で勝つことも卑怯ではないのだ。
ラズリッサが勝つためには、相手の防御を斬り破らなければならない。
それには相当深い踏み込み──
致命傷を与えられなかった時は、反撃を覚悟せねばならない程の踏み込みが必要だ。
その一瞬こそ、レドリックの狙いであった。
「……」
「……」
二人ともそれを承知しているが故に動けない。
ただ、剣気の応酬は続く。
一足一刀の間合いから、誘い、虚勢、擬態、惑わし、晦まし……
高密度な鬩ぎあいが飛び交っていった。
473 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:45:46 ID:+Afonf7L
それを傍から理解することは、例え達人でさえ無理であったろう。
まして、剣の心得のないアイリスには不可能であった。
(何とかしないと、レドが……)
彼女の目には、レドリックが戦略的に五分の状況に持っていった事が見えなかった。
まだレドリックの剣は相手の身体に触れてさえいないのだ。
逆に恋人の身体には無数の切り傷が生じている。
流れ落ちる血の赤さが、王女を怯えさせていた。
かといって、アイリスは加勢できる力を持つ訳ではない。
愛する男に命をかけさせたまま守られるだけの自分が、あまりに不甲斐なく思えた。
(……)
ゆっくりと、ラズリッサは間合いを詰め始める。
摺り足が間合いを縮めるごとに、殺気はいよいよ濃密になってゆく。
必死必殺の一撃を繰り出せる距離にまで、潮が満ちるが如くじわりじわりと進む。
レドリックは動かない。
それをアイリスは『動けない』と見た。
尋常の撃尺を踏み越え、さらに半歩。
不意に、二人の殺気が消失した……昂りで剣先を鈍らせぬ為にだ。
最早アイリスにさえ判った。
(次の一歩で、どちらかが確実に死ぬっ……!)
己の為に全てを捨てた男が、命まで落とそうとしている──
アイリスは鮮血を迸らせて倒れる恋人の姿を想像した途端、
まるで憑かれたかのように奔っていた。
「!!」
「!?」
「レドっ、今ですっ!!」
王女はラズリッサの身体に飛び付いた。
まさに、二人が最後の剣を交えようとしていた一瞬だった。
その瞬間、一方は剣を止め── もう一方は止めなかった。
無我夢中で取ったアイリスの行動が、最強剣士同士の勝敗を決した。
474 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:47:15 ID:+Afonf7L
「ぐァッ……」
鋼鉄が、柔らかい肉を割いた。
ラズリッサが七剣士に任じられたのは、比類なき身ごなしの速さ故である。
しなやかに鍛え上げられ、飛天に準えられる鋭い動きは、戦場で多くの敵を葬り去っていた。
その瞬間、王女に抱きつかれたラズリッサは、間違いなく動きを鈍らされていた。
「……」
「レドリックっ?」
アイリスは愛する男の側に駆け寄る。
レドリックの瞳からは、まだ闘志が消えていない。
仕留め損ねた相手を睨み据え、剣を構え直そうとする。
「……止めておけ、片目では私に勝てん」
レドリックは熱い血潮が顎を伝うのを感じた。
左目を縦に切り裂かれ、滴り落ちる血の雫が地面を濡らす。
勝ちを拾ったのはラズリッサであった。
あの一瞬、愛する女を巻き込むことを恐れ、レドリックは『墓碑銘彫り』を止めた。
『伊達男』は、その隙を見逃さなかった。
躊躇無く、ラズリッサは剣を振るった。
王女の腕で抱き締められた分、致命傷に至る傷は与えられなかったが、
それさえ女騎士は計算して、確実に戦力を奪う一刀に太刀筋を転じていたのだった。
「駄目っ!レドリックを殺させはしません!!」
傷ついた恋人を背に庇う様に、アイリスはラズリッサの前に立ちはだかった。
「どうしてもレドリックを殺すというのなら、まず私を斬ってからになさい!」
「……それでも構いませんよ。
父上からは『たとえ骸に変えてでも連れ戻せ』と勅を得ております」
「くっ……」
「お下がり下さい。まだ俺は負けてはいません」
475 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:48:19 ID:+Afonf7L
愛する王女を守るため、再びレドリックは敵の前に身を晒そうとする。
「駄目ですっ!その傷では……」
「なんの、これしきっ……」
互いに庇いあう恋人達の間を切り裂くように、ラズリッサの太刀は再び煌いた。
「うぉっ……」
「レドっ!?」
死角から繰り出された神速の剣先は、レドリックの右肩を刺していた。
アイリスの金髪が数条、斬られて風に舞う。
ただし、精妙なる太刀筋は、王女の身体には触れさえしなかった。
「色恋に迷って判断力も失ったか?
隻眼で観る鍛錬もせずに、私の太刀が見切れるとでも?」
冷たく、ラズリッサは事実を指摘した。
それでも、レドリックは敵に立ち向かおうとする。
アイリス姫はそれを必死に押し止めた。
先程は敵を止めるために抱きついていた王女が、
皮肉にも今は恋人を死なせないために同じ行為をしているのだった。
「だめっ、だめっ!」
「姫……しかし戦わなければ、俺たちに未来はないのですよ……」
「だめっ、だめっだめっだめぇっ!」
それがどれほど正論であっても届いていない。
彼女の脳裏にあるのは、これ以上恋人を戦わせたくないという一心だった。
「アイリス様、もし貴女が国にお戻りになるのなら、その男を殺さずにおいても構いません」
「っ!?」
「王には『追跡中、レドリックは谷間に落ちた。骸は引き上げられなかった』と報告しましょう。
ただし、貴女が此奴への思いを全て断ち切り、北国への輿入れを承諾するのが条件です」
「……」
「なりませんっ、姫っ…… っぅ!!」
無慈悲な刃が、今度は男の左肩を刺した。
「貴様は黙っていろ。決めるのはアイリス様だ」
「……もし断れば?」
「まずその男を殺します。どうしても国に戻らないとなれば、貴女も殺します。
王は『逃げ切れぬと悟ったレドリックが娘を害した』と公表なさるでしょう」
476 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:50:31 ID:+Afonf7L
しばしの沈黙が三人を覆う。
だが、ついに王女がそれを破った。
「……判りました」
「姫っ!?」
「私が犠牲になれば、レドは見逃すのですね?」
「騎士の名誉にかけて誓いましょう」
「いけませんっ、姫……」
「ごめんなさい、レドリック……私はこれ以上貴方を戦わせることが出来ません」
それは、悲壮なる決意であった。
「貴方は私の為に全てを捨ててくれました。
地位も、名誉も、祖国も……でも、生命だけは捨ててはなりません」
「……」
「心の弱い私を責めても構いません。貴方は私の命よりも大切な人。
例えこの身がどうなろうと、貴方の死よりも辛い事はないのです……」
アイリスは恋人を抱き締める腕に力を込める。
もう二度と、愛しい男と抱き締めあう機会はないだろうと思うと涙がとめどなく流れた。
「もっと早くこの事に気が付いていれば……」
「……アイリス」
どちらからという事も無く、二人はキスを交わした。
何時終わるとも知らぬ、深い口付けだった。
「愁嘆場はその辺にして頂こうか」
「ラーズ……お前との決着は何時の日か必ず付ける」
「こちらは貴様の面なぞ見たくもない。二度とこの国に脚を踏み入れるな」
敵意に満ちた遣り取りの後、レドリックは王女の耳元で囁く。
(必ずお迎えに上がります……どうか、その日まで時間を下さい)
その囁きで、アイリスはようやく涙を止める事が出来た。
そしてそのまま、国境線の向こうを目指して一人歩いていくのだった。
男の背が見えなくなるまで、残された二人の女がそれを見つめ続けていた。
477 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:51:48 ID:+Afonf7L
「さて、そろそろこちらも引き上げるとしましょうか。
どうか約束を違えられませんように。
さもなくば、今からでもあの男を殺しに行きますよ」
「ラーズ、所詮貴女には判らないのでしょうね……
愛する人と引き裂かれ、彼の命を守る為に望まぬ男の元に嫁がねばならぬ女の気持ちなど」
急かす追っ手に皮肉を込めて、アイリスは言った。
その言葉を聞いた瞬間、ラズリッサの表情が変わった。
「貴女こそ……」
「えっ?」
「貴女こそ、お判りになりますまいなっ!
愛した男が別の女の為に裏切り者となり、その手で彼を斬るように命じられた──
そんな女の気持ちなぞっ!!」
「ラ、ラーズ……?」
ラズリッサから伝わるもの、それは憎悪と敵意だった。
今まで誰からも、アイリスはその様な目を直接向けられた事は無かった。
たじろぐ王女に背を向け、ラズリッサは馬を引きにゆく。
「詮無きことを申しました。どうかお忘れ下さい」
「……」
「アイリス様、上手く口裏を合わせて頂きますよ。
もし今日の事が発覚すれば、三人に待つのは破滅です」
もう女騎士は普段の声に戻っていた。
だが、その日ラズリッサは王女と顔を合わせようとしなかった。
逃げた二人も、追った一人も、誰もが心を引き裂かれたまま、この峠道を降りていった。
478 :
追う一人:2007/09/15(土) 11:52:43 ID:+Afonf7L
追記
アイリス王女
七剣士レドリックの反逆から救出されたアイリス姫は、北国の王子の元へ嫁いで行った。
南北の和解を象徴するその婚儀の盛大さは後世の語り草となった。
輿入れから三年後、夫の即位に伴い王妃に冊立される。
さらに一年後、王位継承者となる男児を生むも直後病に倒れ、生後六ヶ月の息子と共に死去した。
ただし、葬儀に当たって母子共に死体が公開されなかった事が、
宮廷陰謀説等、様々な憶測を生んだ。
また、彼女の死を契機に南北の関係が急速に悪化。
半年後には六年ぶりに国境地帯での紛争が勃発し、
以後十数年にわたる『北方戦役』の引き金となった。
ラズリッサ
レドリックの反逆で崩壊した七剣士は、その後再結成される事は無かった。
だが、王国最強剣士となったラズリッサに国王が寄せる信頼は厚く、
王女救出の功により、王族以外では二例目の女性将軍となる。
『北方戦役』においても活躍し数多の武勲を立てたが、
開戦から六年目の冬、戦傷の悪化が原因で陣没した。
死後、特例として爵位を追贈されるが、生涯未婚であったため七歳になる養子が家門を継いだ。
レドリック
アイリス姫誘拐事件の後、近衛騎士団長レドリックについての記述は両国の正史に登場しない。
ただし、『北方戦役』前後における諸国の野史に、
『隻眼の剛剣士』についての伝承が僅かに散見される。
(終)
GJでございます
オリジナルの方は知りませんが、
チャンバラに血沸き肉踊りましたw GJ!
王女さまと彼女に忠誠を誓った騎士って
ものすごくツボなシチュなのに、このお姫様には
どちらかというとムカついた、かな。
反対に女騎士さんの想いにぐっときた。
ストイックな人が好きなのかも。
この話で真っ先に連想したのがアーサー王伝説のランスロットだったりする
主君と貴婦人剣をささげた二人の人間の利害が対立するのは
騎士物語の定番ですね。ラズリッサが養子を迎えるときのエピソードが気になる
482 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 23:39:44 ID:WEh4IHSI
確かに愛しの王女はちと身勝手、その女の為にレドリックも同僚殺しすぎ
そのせいで悲劇のカップルに感情移入できなかったなぁ
ラズリッサは文句無しにカッコイイ女
そうだねえ、よく書けてるんだけどなあ。
恋のために全てを犠牲にするってのが…書いたの女の人なのかなあ
まあファンタジーでくらい、いいじゃない
アイリス姫とレドリックは評判悪いな。
>>480 まだ保管庫は完全復旧してないようですが、これの前編は読めますよ。
>>485 読んできましたありがとう
以下チラシの裏
アイリス姫の方はなんか自分のした事の重大さをわかって無かったというか
レドリックが同僚と殺しあわなくてはいけないもしかしたら殺されるかもしれない
ということを想定してなかったと思うんだ。そう考えてしまうと生死をともにした
同僚すら切り捨てるレドリックのアイリスへの愛>アイリスのレドリックへの愛
なんじゃないかとすら思える。いったん王女のあら捜しを始めると
レドリックを守るために逃亡を諦めた行為でさえ同僚の犬死感を強めて
しまった感じがある。逃げられなくなったら二人で自害しろといってるみたいで
自分でいってても無茶苦茶な意見ではありますが…
ここは女兵士スレなんだからキャラ立てが成功してると思うよ。
乙
ところでばーさんや、他のおなご兵士はどこに行ったんかのぅ。
乙!
489 :
邂逅]:2007/09/17(月) 00:22:04 ID:jsr091sn
んばんわ〜
人大杉で、苦労しております・・・
]投下しますね。
490 :
邂逅]1/4:2007/09/17(月) 00:26:59 ID:jsr091sn
整わない呼吸にもかかわらず、深く口付けを求める。空気より、女の唇が魅力的で、ひたすらに求める。
唇はタイロン・ツバイの求めるがままに任せて、女が再び男根の上に腰を下ろす。
2回も施寫したにもかかわらす、逞しく脈打つ男根を胎に納め、舌なめずりをして、男の目を覗き込んだ。
三度始まった出口への疾走に、タイロンが身震いする。
ぴたりと密着した結合場所を基点に、女が腰をグラインドさせ始めた。
泉からとめどなく湧く蜜のせいか、先程の残滓のせいか、さざなみの様な音が室内に響く。
491 :
邂逅]2/4:2007/09/17(月) 00:27:43 ID:jsr091sn
下から見上げる女神の肢体は艶かしく、うっすらと汗をかいてぬれ光る。
絡めとられた腕が使えないのがもどかしい。何とかして、彼女に快楽を打ち込みたいのだが、ままならない。
「・・・ぁぅ」時折もれる女神の吐息さえ、男根に注がれて男の力となり、脈打つ。
うねる腰に合わせてゆれる胸元がめまいを呼び起こす。
二人が繋がっている箇所へ前後から指が這い、くちゅ、くちゅと隠微な音が快楽に加速をつけていく。
「次の 極みで 我は 去る」
女神が恥骨を強くこすりつけ、捻じるように腰を使い、自らを追い込む。
「この娘を 労わって やれ」
タイロン・ツバイが訝しげに女神を仰ぎ見た。
「我は この娘が 気に入った」快楽に眉を寄せ、女神が執着を口にする。
結合部に遊ばせた指を、タイロン・ツバイの鍛えぬいた腹筋の上におき、体制を整えなおす。
「愛おしい 小さきもの」
492 :
邂逅]3/4:2007/09/17(月) 00:28:18 ID:jsr091sn
一度、大きく息を吸った。締まった下腹が小さく波うち、タイロンをくわえ込んでいる場所も窄まって震えた。
「朝夕 我を 褒め 称える」
腹に置かれた手のひらを支えに、小刻みに上下運動をはじめる。
「・・・はぅ 気分の よいものよ」
自重で沈み込む女の体は容赦なく男をくわえ込み、結合部から露を押し出す。
あふれ出た蜜が、タイロンの体を伝い降りてゆき、床に溜まりはじめた。
徐々に抜き差しのリズムが大きく、深くなる。
快楽の絶頂に向けて、女の体が自ら突き進んでいく。
「あぁ・・・ん」太腿に震えが走り、脇腹が痙攣する。
嬌声を押し出す喉元がしなった。
493 :
邂逅]2/4:2007/09/17(月) 00:28:59 ID:jsr091sn
闇に慣れた眼には、その体温が徐々に上がり、朝焼けの色に染まるのが透けて見える。
額から流れ落ちた汗が首筋を這い、鎖骨でしばしとどまったあと、吸い込まれるように乳房の間を落ちていく。
震える大腿が硬直してタイロン・ツバイの骨盤を圧迫する。
「・・・あっ ああぁ」
蕩けた泉が入り口から奥に向かって狭まり、タイロン自身を締め上げる。
ぴく、ぴくと腹筋が痙攣する。ぴんと勃起した乳首が痙攣に合わせて天を仰ぐ。
額に浮いた玉の汗に、寄せた眉根と空気を求めて喘ぐ口元・・・
女の体に絶頂の波が押し寄せている。
タイロン・ツバイはなすすべもなく荘厳な儀式を見上げているのみだ。
しまった!数字がおかしい・・・
ごめんちゃい
乙!
エロい喃。
GJGJ!!!
保管庫完全復活したかな?
保守
>>497 まだ管理BBSが死んでるし、相変わらず四月以降の作品は載ってないね。
本格的復活はここからかな
保管庫まだ一度も見れたこと無いんだけど
タイミングが悪いのかアク禁くらったか……
何か悪いコトしたかな
500 :
投下準備:2007/09/24(月) 10:52:37 ID:YIC62Htb
魔王の話が際限なく続きそうで我ながらゲンナリする中、
予告どおり私なりにペルシャ神話伝説等をベースに『王書』を読んでストーリーを作りました。
「アルスラーンと基礎設定が同じやんけ!」と思われるかもしれませんが、
そもそもあっちも『王書』を使ってるのでしゃーないのです。
ちなみにペルシャの神話、歴史に対する賞賛と羨望の気持ちはあっても、
悪い感情は一切持ってないので関係者さまが居たらご容赦を。
高笑いが似合う妖艶な美女が好きな方にオススメ。
Princess of Dark Snake です。
パルティアという名の国があった。
大陸の中心部にあるこの国は、かって魔物を率いる王が支配していた国である。
だが、全ての物に終わりが訪れる様に、魔物の王の治世はある英雄によって終わる。
そして、英雄は自らパルティアの王となって民を導いたのだ。
この物語は、神話の時代が過ぎ去り、英雄達の時代が終わろうとしていた頃の話である。
・・・・・・・・・
夜の帳が天空を覆い、辺りは闇に包まれた。
満天に煌く星辰図と満月の輝きだけが光源だった。
パルティアの王子、ファルハードは己の部隊とはぐれ、当ても無く荒野で馬を進める。
「チッ……」
自分の不覚に、思わず舌打ちした。
今更ながらに悔やまれる。
気が付いた時は既に夕暮れになっており、そして周りは敵だらけだった。
部下がついて来れない程に、彼は敵中に深入りしていたのだ。
ただし、彼にとって囲まれていた事など大した問題ではない。
味方が居ない事に『気が付いた』だけであり、気が付く前も味方の手を借りてはいなかったのだ。
たかが一騎と侮る身の程知らずを叩き潰し、逃亡した敵将を求めて追撃した。
彼一人の働きで、パルティアの総人口はかなり数を減らしたはずだ。
太陽が姿を隠した時、辺りに彼以外の生きた人間はいなかった。
日没まで生きていた人間はいるが、彼らは味方がどちらにいるか教えてくれない。
戦鎚で頭骨を割られ、頚椎を折られ、軍馬から吹き飛ばされた将兵達の骸が
あちらこちらに転がるだけだ。
彼は屍と会話する技能を持たないので、星の位置から勘で味方を探すしかなかった。
「あたら駿馬に乗るのも考え物だな。ここまで味方と離れてしまうとは……
それとも俺に思慮が足りないのか?」
ファルハードが乗る馬は、パルティア一の名馬である。
風の様に速く、戦象のように頑健、そして獅子よりも気性が荒い。
この愛馬に跨って戦場に出るのを楽しみにしていたのだが、
かえって勝利の凱歌さえ聞こえないほど戦場から離れてしまったらしい。
それで結局目的を達せられなかったのだから、彼の自嘲も無理からぬ事だった。
だが、恐らく味方は勝っているはずだ。
王子は赤く濡れた戦鎚に手を伸ばした。
自分なりに勝利に貢献した、いや自分の力でこの戦は勝った、ファルハードにはその自負がある。
この戦鎚で、敵方の高名な戦士たちを幾人も屠った。
そして、王位を求めて反乱を起こした叔父にも一撃を見舞ったのだ。
あの時敵方の勇将が割って入っていなかったら、叔父の脳漿は荒野を潤していたに違いない。
部下に抱えられて後退する叔父を仕留めようとしたが、
思いのほか邪魔者を片付けるのに時間を取られ、乱戦の中に獲物を見失ってしまった。
焦って敵陣深くを駆け回っていた挙句が、この有様だ。
『敵味方どちらでもよい、野営の火でも見えないものかな……』
味方に会えれば、王子であり一軍の将たる自分に粗略な扱いをするはずがない。
敵であれば、戦鎚に物を言わせて従えるつもりだった。
(む……)
思いが通じたか、ファルハードは遠方に小さな灯火を見つけた。
「ありがたい、神々は私を見捨て給わなかったな」
その時は、確かに彼はそう感じたのだった。
手綱を操り、灯火へ向かう。
近付くにつれ、ファルハードは気が付いた。
てっきり敵味方どちらかの部隊だと思っていたが、野営をしているのは兵士ではない。
奇妙な事に、焚き火の側に一人の女だけが座っていた。
厚手の絨毯を大地に敷き、火に枯れ枝をくべている。
パルティアの治安は他国に比べて安定しているとはいえ、女が一人旅をするのは危険だ。
おまけに現在は内乱の最中である。
いかにも不審であったが、それでもファルハードの辞書に怯懦の文字は存在しない。
「そこなる娘子よ、火にあたらせて貰いたいのだが?」
「よろこんで…… 私の客になって下さるあなたは、どちらの御方でございますか?」
「我はファルハード。カイクバードの末裔にして、父は『全ての王たちの王』アルダシール」
「おお…… 知らない事とは申しながら、パルティアの王子にとんだご無礼を致しました」
「そう畏まる必要は無い。今の我は、そちらのもてなしを乞うただの客に過ぎぬ」
頭を下げようとした女を、ファルハードは押し止めた。
乾燥した荒野に住まう人々は、客をとても大切にする。
客をもてなさない者、主客の礼節を弁えない者は、
周りから最低の人間だと蔑みの目で見られるのだ。
彼の言葉を聞き、女は嫣然と微笑んだ。
焚火の赤い灯りに照らされたその顔立ちは、まるで名工の手で宝玉を彫ったかの様だ。
都で美姫などは見慣れているファルハードでさえ、思わず唾を飲み込むほどの麗しさだった。
「ウフフ…… ありがたきお言葉。
憚りながら、カヤーニ家の御方々と私どもは些か縁のある家柄、いわば身内で御座います。
どうか、ご遠慮なく戦の疲れをお癒し下されば……」
「?」
その言葉の意味を悟れぬまま、ファルハードは女が差し出した銀の杯を手に取った。
「石蜜を溶かしたバラ水でございます…… あまり冷えておらず恐縮ですが」
「いや、ありがたいぞ」
渇いた喉を、甘く薫る液体が流れ落ちてゆく。
胃の腑に届く冷水が、戦で昂った体に堪らなく心地よい。
一息に飲み干したファルハードに、女は水差しから酌をする。
「そなたの名は? 父御はどちらの君侯だ」
「私のことはシャフルナーズとお呼び下さいまし。
父の名は…… 恐らくお耳に入った事はございますまい」
「これだけの銀器とバラ水を用意できる者なら、我も知らぬ筈はないのだが……
何ゆえ一人でこの様な所に? 近くで合戦があるとは知らなかったのか?」
「ここへは従者と共に参りましたわ。
戦の様子を見に行かせましたけど」
「女の身一人で夜を過ごすのは危なかろうに……」
女は微笑むだけで答えなかった。
ファルハードは無理に問い詰めようとはしなかった。
それよりも女の美貌に目を奪われていた。
光沢の有る艶やかな長い黒髪。
白く美しい肌。
形のよい目鼻立ち、赤い唇。
そして均整の取れた肢体……
糸杉の如くという例えがあるが、この女の前では他の女は枯れ木だ。
年は二十歳前にも見えるが、その落ち着きのせいか少し年嵩のようにも見え、
愛らしい笑顔のせいで若くも見える。
捉えどころどころのない美しさであった。
「ファルハードさま、水菓子をどうぞ」
女の指が果物の皮をむくのを、彼は黙って見つめていた。
細く、美しい指だった。
皿に乗せて並べられた果実を摘み、口に運ぶ。
甘い果汁が口中に広がるが、それが目の前の女が剥いた物だと思うと、
不思議なことに一層甘美な味にさえ思える。
「あんっ……」
気が付いた時には、シャフルナーズの手首を掴んでいた。
ファルハードの腕が、女の体を引き寄せる。
果実を乗せた皿が脚に当たって転がったが、紅を差した唇から漏れた声には、
突然の行為に対する非難は含まれていないように思えた。
間近で見るに、まさしく美女である。
長い睫毛の奥で女の瞳は挑発するように光っていた。
「王家の殿方は、随分ご性急なのですね……」
「我は兄達と違い、普段からこのような真似をしている訳ではない」
真珠の如き頬に指を寄せ、ファルハードは弁解した。
「では、今宵は何故にかような御振る舞いを?」
「そなたが美し過ぎるのがいけないのだろうな」
「おほほ、ありがたいお言葉でございますが、徒心では野の花を摘み取らないで下さいまし」
「徒心などではない」
ファルハードは、女を絨毯の上に組み敷いた。
下から彼を見上げる形になったシャフルナーズだが、男の行為に抵抗はしなかった。
「シャフルナーズ、お前は美しい」
「……」
「我も詩心を持たぬ朴念仁ではないが、お前の美しさを言い表すほどの才を持たないのが残念だ」
そう言うと、ファルハードは眼下に寝そべる女の唇に、軽い口付けを与えた。
彼女はそれを拒まず、そのまま受け入れた。
「……」
「拒んだりしないという事は、脈があると思っていいのかな」
「うふふ、王家の若獅子の爪から、女子の身で逃れる事などできましょうか?
こうなれば唯、御身の慈悲を願うばかりでございますよ」
「あいにくだが、我はそれほど慈悲深くは無いのでな」
「あら? アルダシール王の子ファルハードさまは、
狩場でも子連れの獲物は狙わない素晴らしい方と聞きましたが?」
「今宵からはそう呼ばれる事も無いかも知れんな…… だが、」
「やっ」
ファルハードの掌が女の乳房の上に乗せられる。
小さく甘い叫びが上げられるが、嫌がる素振りはない。
「そなたは子連れではないだろう」
「うふふ……」
絹の装束の上から胸を弄びつつ、もう一度唇を重ねる。
女の手が、今度は彼を抱え込むように絡みついてきた。
深く、熱い口付けが交わされる。
夜の静寂のなかに聞こえるのは、焚火にくべた枯れ枝が爆ぜる音と、
互いの唇を貪りあう淫らな水音。
月と星が見下ろす中、戦場となった荒野で二人は初めての契りを交わした……
・・・・・・・・・
絨毯に寝そべるファルハードは、その左腕を女へ枕代わりに貸していた。
その目線は、今しがた自らの傍らにある麗しき顔へ向いていた。
「……」
「何でございます?」
「いや、何でもない……」
本当はある。
まさか、生娘だとは思わなかった。
秘所から伝った鮮血が、体液と共に絨毯に染みを作っている。
破瓜の際に女が辛そうに顔をしかめた時まで、全く気が付かなかったのだ。
世慣れて見えた女の態度から、一度や二度は誰かの手が入っているものと勘違いしていた。
しかし、そんな事を言うのは余りに無礼なので口には出せなかった。
(この女を、どうやっても王宮へ連れて帰らなければならなくなったな……)
甘えるように頭を腕の上に乗せる女の髪を弄りながら、ファルハードはそう思った。
多分、父王の怒りを買うだろう。
戦場で自分の部隊を見失った失態に合わせて、帰陣した時には女連れとは!
(行方不明となって心配をかけた分、反動が怖いな)
それでも、この女に対して自分は責任があるし、この美しき女を捨てて帰る気はさらさら無い。
父に怒られてでも側に置く心算はしていた。
そんな風に、ファルハードが甘い思いに浸っていた時である。
風の音に混じって、何者かが土を踏む音がゆっくりと近寄ってくる。
ファルハードはそれを悟り、反射的に戦鎚へ手を伸ばした。
反乱軍の兵士が、焚火の灯りに引き寄せられてやってきたのだとすれば、
一戦交えねばならない。
シャフルナーズを背に庇う形で、土音の方を睨む。
その時、背後に隠した女が近寄ってくる者に向かって声を掛けた。
「爺や、首尾はどうだった?」
「だめじゃ。カーウースめの脳は砕かれておった。
近侍どもが必死に生かそうとしておったが、ああなっては如何に我らでも手の施しようが無いわ」
炎に照らされて、女の従者の姿が現れる。
「っ!!」
それを見た瞬間、戦鎚を握る手に力が篭った。
従者の小柄な身体は、まるで幼児の様だった。
頭は大きく、体は小さい。
しかし肌に子供の持つ艶はなく、むしろ皺とシミで薄汚れている。
だが、そんなことは額の角と背中に生えた蝙蝠の羽に比べれば何でもなかった。
「やれやれじゃ…… 意識さえあれば、魂と引き換えにもう一暴れする力を貸してやったのに喃。
ひい様が折角お出ましになられたというのに、ツイてない奴よ」
「あらまあ、とんだ無駄足だったわねえ。
こちらとしては、もう少し血と骸で大地を肥やしてもらいたかったのに」
「まあ近年は戦も疫病も少なかったから喃…… 小雨程度の血であっても、無いよりましじゃ」
「おのれらっ、化生か!?」
二人の会話を聞いたファルハードは、目にも留まらぬ速さで横殴りに女へ打ちかかった。
「……むっ!?」
巌をも砕く一撃だったが、そこには既に女の身体はなかった。
「情を交わしたばかりだというのに、なんとも惨い真似をなさいますのね」
霞の様に消えたかと思った女の声が、別の方向から聞こえる。
振り向けば、背後にあった枯木の枝に乗り、こちらを見下ろしていた。
何も身に纏わぬ女体の美しさに魅入られそうになったが、ファルハードは戦鎚を握り直した。
「だまれ人妖! 身内などと欺いて人を誑かしおって」
「おほほ……」
いかにも可笑しそうに、婀娜めいた哄笑が原野に響く。
「何が可笑しい?」
「欺くなどとは人聞きの悪い。私と貴方様は、確かに身内でありましてよ」
「嘘を付くなっ。我が王家に化生の身内などおらぬ!」
「ふふふ、王家ならばこそ。
神の嘉したもう英雄カイクバード、邪悪の化身ザッハーグを封じ込めて世界を救いたり……
蛇王を打倒しパルティアを建国した英雄王カイクバードの伝説、
今更語るまでも無くご存知でしょうが?」
「それがどうしたというのだ」
「カイクバード王はザッハーグの後宮から聖賢王ジャムシードの二人の姫を救い出し、
英雄王と彼女たちから貴方がた、カヤーニ家の王朝が始まりました……
しかし『蛇王が世を治めた千年の間、彼女たちが孕むことはなかった』と史書にございますか?」
「!?」
「カイクバードの子を産んだのですもの、彼女たちも石女ではございませんわ。
蛇の血脈は残ったのです…… もうお分かりでしょう?
私は蛇王ザッハーグの裔、シャフルナーズ。
英雄王の血を引く貴方様とは、聖賢王の血を介して繋がっているのです」
「な、なんだと……」
王位は男系で相続するのが通例であるし、カヤーニ家の血に蛇王の血が混じっている訳でもない。
それでも女の話が事実なら、忌まわしい蛇王家とカイクバード王朝は母系で姻戚という事になる。
カイクバードが王に推戴されたのは蛇王の暴政に終止符を打ったが故であり、
彼らにとってザッハーグの存在は、憎むべき最悪の敵以外ではありない。
愕然とする男に、悪戯っぽい口調でシャフルナーズは微笑みかけた。
「お判り頂けまして? 遠き血脈の御方」
「黙れっ、例え女だろうと蛇王の一門は見逃せぬぞっ!」
半ば己自身を叱咤する意味を込めて、ファルハードは叫んだ。
「うふふ。ファルハードさま、私は貴方様にバラ水を差し上げましたわね?
そして、水菓子も幾らか召し上がって頂きましたが、
それらは、何時の間に御身の体から消えなさったのかしら?」
「むっ!?」
「客として受け入れられておきながら、火の主に対してこの御振る舞い……
それがカヤーニ家の御流儀でございますの?」
女の言葉の意味はこうである。
客は、主に迎え入れられて最初に食べた物が体から出るまでの間、留まる事が出来るとされている。
どんな宿敵同士の間でも、一旦主と客になったら諍いは起こさないものだ。
その意味から言えば、もてなしを受けたファルハードが鎚でシャフルナーズを殺そうとしたのは
許され難い非礼といえる。
「……」
ファルハードは戦鎚を下ろさざるを得なかった。
踵を返して上着を拾い、そのまま愛馬の背に鞍を置く。
「あら、お帰りですの? もう少しゆっくりなさいまし」
「蛇のもてなしは受けられぬ。
……火を借りた以上、今回は見逃す。
だが、次に会った時は容赦せんぞ」
「まあ恐ろしい。でも私としては、また必ずお会いしたいですわ」
「ほざけっ、蛇め!」
吐き捨てるように言うと、忌まわしい場所から逃れようとばかりに馬へ飛び乗り、
鐙で腹を蹴りつける。
「うふふ…… 道中ご無事で、愛しいファルハードさま」
甘い声にあやうくファルハードは振り向きそうになったが、何とか思い止める事が出来た。
男の姿が闇に紛れ、遠く消えていくのを、シャフルナーズはずっと見送っていた。
いつの間にやら、傍らに老小鬼が脱ぎ散らかした衣服を捧げて彼女の側に居た。
だが、その目が何やら不満ありげに主に向いている。
長い付き合いである。
シャフルナーズはその視線の意味が判った。
「爺や、私に言いたい事があるの?」
「ひい様……、何故あやつに操を呉れてやりなすった」
「何故にとは?」
「知らぬ訳では無かろうに。あやつの一族と我らは万世の仇じゃ。
奴の父祖によって蛇王様は討たれ、我らは日の当たる世界より追い払われた」
「また古い話を……」
「新しかろうが古かろうが、事実に変わりはないわいっ!
あやつの態度を見ても判ろうが?
倶に天を戴かざるの敵に身体を許すとは、とても正気とは思えぬ!」
「おほほほほっ……」
苦りきった老小鬼の声を聞き、シャフルナーズは繊手を口に当てて高らかに笑った。
「なにが可笑しいのじゃ?」
「お前が余りに愚かしい事をお言いなのでねえ……
それこそ聖賢王の昔より、乙女の恋が正気で行われた例など在りはしないでしょうに?」
「ゲぇっ!?」
「そう、私はあの方を一目で気に入ってしまいました。
いくら守役のお前が小言を言おうと、大河の流れと女の恋心は神々でも止め難いと知りなさい」
驚きと呆れが五分五分に混じった顔で、老小鬼はまじまじと主を見る。
乳を求める赤子の頃から世話をしてきた姫君が、何時の間にやら自分の手の施しようの無い
悍馬に育ってしまったことを、今更ながらに思い知らされた。
「全く、お父上が何と言われるか……」
「マーザンダラーンには戻らないわよ。
叱責されると判っているのに、のこのこ顔を出す馬鹿は居ないでしょう」
「お叱りで済めば良いがな…… 爺がひい様の父親であれば、洞穴に百年も閉じ込めて置くわえ」
「ならばなおの事戻る事は出来ないわね。
百年も経ったら、ファルハード様がお前のような老爺になってしまうもの」
小うるさい従者の皮肉を、シャフルナーズは軽く受け流す。
ただでさえ皺だらけの顔であったが、老小鬼は眉に深い皺を寄せて主を見つめていた。
「…………」
「まだ言い足りない事があって?」
「一つだけ…… その昔、ジャムシードの娘二人は、父を殺した男に抱かれた。
そして蛇王が討たれた後、王の両肩から生えた二頭の蛇に口付けしたその紅き唇で、
簒奪者カイクバードの耳に愛を囁いたのじゃ」
「それで? 年の所為か、お前の話は最近回りくどいわねぇ」
「魔族はよく人を害するが、女子は我らよりもよっぽど性悪じゃ!
ザッハーグ王の血を引きなさり、おまけに女の身なるひい様は、
もう我らよりもよっぽどの……『蛇』じゃわい」
「うふふ…… お前に蛇と呼ばれるようなら、私も一人前ねえ」
パルティアの人々は蛇を嫌う。
悪人に対する侮蔑の言葉に『蛇の子め』『蛇王の一味だ』と使われる程である。
しかし、一般人にとっての侮蔑が万人にとっての蔑称とは限らない。
例えば妓楼において一度も客に蛇と呼ばれなかった妓女など居る筈が無いし、
彼女らにとってそれは勲章ですらある。
いわんや魔族にとっては。
「ふふっ、うふふっ…… おぉっほっほっほっーーーー……」
一層高い哄笑が、夜の荒野に響き渡った。
この夜、一人と一匹から蛇と呼ばれたシャフルナーズは、
その事をむしろ誇らしげに思い、可憐な声で笑うのであった。
(終わり)
年代記
パルティア王アルダシールの治世九年。
王弟カーウースの起こした内乱は、彼の死をもって鎮圧される。
510 :
投下完了:2007/09/24(月) 11:05:50 ID:YIC62Htb
妖姫シャフルナーズとファルハード王子の出会いでした。
この話は『王書』のザッハークに関係する章に、
・ジャムシード王の娘二人を後宮に納めた
・ファリードゥーンが彼女を救い出して妻にした
・ザッハークの一族は根絶やしにされたわけではなく、その血を引く末裔がその後登場する
とあるのをヒントに話が浮かび、ペルシャ物を作ろうというきっかけになったのでした。
千年も娘達が生きてたのかよという突っ込みは、神話だから無しですね。
しかし、これまでの発言からお気づきの方も居るかもしれませんが、
個人的にアルスラーンの野郎は大嫌いです。
ラジェンドラ王は大好き。
面白い作品でした。このお姫様の性格ならどのような結末を迎えようと
悲恋物語とは言われないに違いない
ラジェンドラ王の好物の果物の蜂蜜ヨーグルト和えが作中の
料理の描写で一番うまそうだとおもいます
このお姫様いいなあ。
アルスラーン未読でペルシャ系
疎いけど面白そうだな。
だからというわけでもないが
ラジェンドラって聞くと機械知性体のほう思い出すぜ
海賊課のほうは自分は好きだな。
アルスラーンならギーヴ。
GJ!
アルスラーンは途中から放置してた程度で、ペルシャにも詳しく無いけれど、
ねた本の『王書』を衝動買いしたくなるくらい、とても面白かった!
アルスラーンって「ぼくのかんがえたかんぺきなおうじさま」って感じで受け付けない。
緊急保守
ファンタジー世界の王は貴族に対し絶対的優位なのと
諸侯の中の代表者にすぎないのとどっちが好き?
貴族は王の権力に時に媚びへつらいつつ、自分のためには他国の王とだって抜け目なく通じようとしてて、
王は大貴族たちの勢力を削ごうと努力しているのだが、なかなか上手く行かない…って感じなのが好き。
中央集権国家と地方分権国家
帝政と王政で大分違うもんだな
捕囚
王様は保守
女装の女騎士を書いている途中に小ネタを思いついたので、
そちらを先に投下します。
すみませんがエロなしです。
それでは、「所有の証」です。
524 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:08:35 ID:02hFRV0C
薬師の家で過ごすのが、休日の習慣となりつつあったある日。
「………その、お前も所有の証を付けたいとか、思ったりするのか?」
帰り支度を済ませ、名残惜しくもあとは別れるばかりとなった頃に、
女騎士が唐突にそんな事を言い出した。
実りの季節には、日が傾くのを待ちかねたように、何処からかひんやりとした空気が
早々と足元に擦り寄ってくる。
じきに訪れる日暮れの支度に小屋の窓を閉めて回っていたグルドフは、
声の主の方を振り返った。
「所有の証?」
何を突然、と言わんばかりに彼は眉を顰める。
醒めたこげ茶色の目で冷静に聞き返されると、アリューシアはうっすらと
顔を赤らめた。
「あ、ああ。最近女の兵士の間でヘンなことが流行っていてだな、
脱衣場で着替える時などに、腕とか、胸元とか、首筋とかに恋人に付けられた跡を
見せびらかしたりし合っているのだ」
「──ああ」
抑揚の無い声で、ようやく合点がいったように彼は頷く。
「キスマークね」
「ん…そう…………キスマーク……」
キスマークを話題にするぐらい、今更どうって事も無いだろうに。
どういうわけか、女騎士の口調はぎこちない。
「そう言えば、少し前に、宮廷の貴族達がお遊びでそんな事をやってましたが」
「ああ、その遊びがいつのまにか護衛の兵士たちの間に飛び火したらしい」
窓に寄りかかり、ふうん、とあまり興味の無いそぶりで応えて
薬師はアリューシアを眺めた。
「………しかし、浴場は共同だから、他人に感づかれるような痕跡を残されるのは
絶対に困るって、貴方は確か言っていたのでは……」
525 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:09:58 ID:02hFRV0C
確かに付き合い始めたばかりのころ、アリューシアはそう言ったことがある。
その意見が尊重されたのか、どんなに気持ちが昂ぶり、激しく互いを求め合う
ことになっても、彼が跡を残すということは今までに一度たりとも無いことであった。
アリューシアは困ったような表情を浮かべ、俯いた。
「う……うう。そうだ。どの方面からめぐりめぐって姫のお耳に入るか分からぬからな。
姫に知らせるときは、人づてではなくきちんと自分の口から、お前との事は
知らせねばなるまいし……」
「でも、付けたいんですか」
「ぅ、別にそういう訳では…………」
言葉を濁した相手に追い討ちをかける様に、薬師は呟く。
「貴方みたいな厳格な方でも、人のノロケ話を聞いてうらやましくなることが
あるんですね」
図星だった女騎士の清麗な顔が、ますます赤く燃え上がった。
いつもは真っ直ぐに相手を見返す澄んだ藍色の瞳が、きまりの悪そうに、
古ぼけた床の木目を見詰めている。
普段は『己の言動に一点の恥ずべきところ無し』と言わんばかりに胸を張っている
有能な騎士のくせに。
自分でも、自分が矛盾を抱えているということは承知の上なのだろう。
それに、融通の聞かないこの人は、以前に跡を付けるなと言った手前、
いまさら掌を返してそれをねだることに随分と抵抗があるらしい。
まるで、欲しい物がはっきり言えなくて困っている
恥ずかしがり屋の子供のような仕草だ。
本当に、この人は分かりやすい。
しばしの沈黙の後、女騎士はもごもごと自分ひとりで納得するように呟き始めた。
「いや、言ってみただけだ。…………実際に付けられては確かに困る。
うむ。困るな。この話は無かったことにしてくれ」
「────付けてあげましょうか?」
怜悧な眼差しのまま、淡々とした口調を変えることなくグルドフは女騎士ににじりよった。
526 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:11:56 ID:02hFRV0C
「えっ?」
予想していなかった答えに驚き、アリューシアが弾かれたように顔を見上げる。
「所有の証」
声を低めてそう言うと、薬師は口の端を微かに吊り上げた。
その僅かな表情の変化から、彼がまた何かろくでもないことを考えていると
素早く察知したアリューシアは後ずさった。
しかし、数歩後退したたところで、とん、と腰に作業台の頑丈な天板が突き当たる。
退路無し。
恥じらいと困惑と焦りの入り混じった顔が、ゆっくりと長身な男の影に覆われていった。
「………いや、いい! やっぱりいい。言ってみただけだから! 本当に!!」
必死で声を上げるアリューシアを、そのまま作業台に押し上げる。
「うわ!ちょ…あっ、やっ……こら! 何処に、おまえ……あっ、ひゃぁ!」
動揺しまくる女騎士を、グルドフは力ずくで押さえ込みにとりかかった。
*
「みてみて〜! ほら。ここと、ここ」
「あれ? 会ってきたの?」
「うん。休憩時間に、こそっとね」
「やだー。もうっ、熱心なんだからぁ」
宵の口の女兵士宿舎の共同浴場に、女達のにぎやかな声が響く。
制服を着ている時はきりりと身を引き締める凛々しい彼女達も、ひとたび仕事が
終われば、ただの恋する年頃の娘達である。
貴族とは違い人目を避ける配慮は忘れずにいながらも、今日も湯煙のたつ浴場内では
そこかしこで、新しく付けられた『所有の証』の披露がはじまり、あちこちから
冷やかしの声があがっている。
証拠隠滅のためにアリューシアは薬師の家でいちど綺麗に身体を洗ってあるのだが、
不審に思われないように皆とともに宿舎の浴場に入り、傍でその様子を眺めていた。
527 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:13:23 ID:02hFRV0C
「アリューシアは今日は休暇だったんでしょ。何か見せるものは無いの?」
同僚の一人が、この話になると一向に注目を浴びない女騎士に水を向けた。
「私か?!………私は、無いな」
突然、話題をふられたアリューシアはぎくりと身を強張らせた。
「一度ぐらいアリューシアの披露も見たいわよねぇ」
「本当に何もないの?ちょっと、これ取って」
「わっ」
体を隠していた洗い布を強引に剥ぎ取られ、均整のとれた裸体を露にされる。
気心の知れた同僚たちから容赦のないチェックを受け、
胸と股間をかろうじて手で隠したアリューシアはその場に立ち竦んだ。
「………………」
剣の鍛錬で付けたという青あざ以外、本人の言うとおり、どこにも何も期待したものが
ないのを見て、同僚たちはつまらなそうに顔を見合わせた。
「まあ……そんな相手もいないしな」
というアリューシアの言葉に、いくつもの失望のため息が漏れた。
「あなたって本当に男っ気が無いわよね」
「もてない訳じゃないんだから、早く誰か彼氏を作ればいいのに」
「いっぺんやっちゃえば、後はどうってこと無いんですよ〜!」
最後の一人のあからさまな言葉に、辺り一面からきゃあきゃあと歓声が上がった。
その後も盛り上がる同僚たちを尻目に、アリューシアはこそこそと
洗い場のいすに座り、身体を流し始める。
(見せられん…)
湯に濡れた肌でまぎれているが、じっとりと脂汗が背中を伝う。
(元から人に見せるつもりは無かったが、よりにもよってこんな所につけるなんて……)
太腿の内側、脚の付け根のきわどい部分にくっきりとついた赤い跡。
日常の動作をしている限り、人に見られる心配はない場所ではあるが。
528 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:16:28 ID:02hFRV0C
(おまけに……)
結局キスマークだけで終わるはずがなく、帰り支度を整えた後なのに
期せずしてもう一戦交えることになってしまった。
安全な日という事を知った上で、深く繋がったまま彼が果てるのを受け止め、
その後くたりと横たわっている時だった。
普段薬の効能を説明するのと同じような口調で、薬師がこんなことを言った。
「知ってますか?子種は女の胎内に注がれると、中で数日間は生きているのだそうですよ」
まだ甘い痺れの残っているアリューシアの腰を、
大きな掌がゆっくりと撫で回す。
「要するに、別れたあとも2、3日は私が貴方の身体を占有しているって事ですかね」
湯を張った重い湯桶を持ち上げようと動いた弾みで、
とろりとしたものが奥から伝った。
あんな話を聞いてしまっては、いつも以上に意識してしまうのも当然のことである。
(ああ、もう、バカバカバカバカバカ──!)
薬師とのやり取りが何度も甦ってきては、その度に顔が熱くなる。
気持ちを切り替え、皆の前ではなるべく考えないようにと努めているのに。
──気恥ずかしさの中に、少しばかりうれしい気持ちも混ざりながら。
皆がみな、心地よい温度の湯にほんのりと顔を上気させる浴場の中。
誰にも気付かれず、アリューシアはひとりのぼせたような顔で
がしがしと身体を洗いはじめた。
(所有の証 END)
529 :
所有の証:2007/10/05(金) 02:18:27 ID:02hFRV0C
以上です。
読んでくれた方、どうもありがとう。
うおう、ごちそうさまでした。
アリューシアかわええー
GGGGGGGGGGJ!!!
悶えた、アリューシア可愛いなぁ、もう!
グルドフはアリューシアがだいすきなんですね ニヤニヤ
お待ちしてました、超GJです!!
このカップル、大好きです。
女装の女騎士も楽しみで楽しみで…!
やばい、アリューシア可愛すぎ。
悶え死ぬかと思った。
女装のやつ、期待して待ってます。
女装のやつ、本当に書いて下さってるんだ!
ありがとうございます。楽しみにしてます。
お願いしてみてよかったぁw!もうそれだけで感激。
…だけでなく、新しい作品がうpされているぅ!!
あぁ、また2人ともいい味だしてるよぅ。ハァハァ
GJです!
なんかいい連休が過ごせそうだ
このカップル大好きだ!ありがとうGJ!
神キテター!次のもwktk!
この二人は可愛いなぁ…
538 :
投下準備:2007/10/08(月) 21:27:36 ID:GGyDE62t
女装女騎士をお待ちの皆様はスレ更新してみてガッカリかもしれませんが、
蛇姫モノの二話目が出来たので投下します。
選び抜かれた石材を用いた王宮は、王都シャーシュタールの華である。
その特徴的な高楼と丸屋根が並び建つ宮殿は異国の旅人を嘆息させ、
パルティアの威光を見せ付けるに足る。
建築を行った五代前のパルティア王は、他国に同等のものを建てられぬ様にする為、
完成後に設計師を殺害したという言い伝えが残るほどだ。
遠く良石を産する山からわざわざ運ばれた白大理石の柱。
瑪瑙、紅瑪瑙、翡翠、そして瑠璃までも用いて幾何学文様を床に描いた廻廊。
仰ぎ見れば、建築力学の粋を込めて造られた天井が、空間の高さと広さを実感させる。
壁には漆喰や彫刻によって形作られた植物や獣、天使や幻想上の生き物たちが色取りを沿え、
来訪者に王国の繁栄を印象付ける。
だが、この美しい宮殿の住人達が、常に心安らいで暮らしている訳ではない。
現在宮廷の殆どの人間は、ある問題のために落ち着かぬ日々を過ごしていた。
現パルティア王の第三子、ファルハード王子もその一人である。
無言のまま、彼は自室へ戻った。
渋い表情はここ数日変わっていない。
これが夷狄の侵入や政治問題であるのなら手の打ちようもあるのだが、
事は彼の力の及ばない範囲の物なのだ。
(……)
金糸で刺繍を縫いこんだ綿入れに腰を下ろし、意味もなく天井の文様を眺める。
ファルハードは近侍を遠ざけ、一人物思いに沈んでいた。
一国の大事に、何も出来ない身が恨めしい。
平時においてはその剛勇を誇り、知恵も勇気も持ち合わせているはずの自分が、
今は事態の好転をただ待つばかりだった。
そうしてどれ程の時間、彼はたそがれていただろうか。
ふと、扉の向こうで女官が呼びかける声がする。
「おくつろぎ中の所失礼致します」
「ん?」
「殿下に面会を求めている者がございまして……」
「今は誰とも会う気分ではない。後にさせろ」
邪険に言い放つが、王子の命令を無視したかのように扉は開き、
ヴェールで顔を覆った女官がしずしずと入ってきた。
己の言葉に背いて入室してきた女を見て、ファルハードの声には怒気が混じった。
「聞こえなかったのか? 今は誰とも会う気分でないと言ったはずだぞ」
「そんな大きな声をお出しにならずとも、十分聞こえましてよ…… 愛しいファルハードさま」
「?、シャフルナーズ!」
「おほほ、憶えていてくださったのですね」
ファルハードには、その口調と声色には聞き覚えが有った。
白い手がヴェールを持ち上げると、後宮の美姫でさえ顔色無からしめる麗しき貌が現れる。
「一体全体、こんな所に何の様だ? ここはお前が足を踏み入れるべき場所ではないぞ」
「あら、舅の見舞いに来るのがそんなにいけない事でしょうか?」
「……誰が誰の舅だ」
「それは無論、貴方さまのお父上でありパルティアの今上王、アルダシール陛下でございますわ」
そう言って、シャフルナーズは目を細めて微笑んだ。
この女の素性さえ知らなければ、たちどころに心奪われていそうな笑みであった。
それ故一層、ファルハードの心はかき乱されるのだ。
部屋の主の許しもないまま美女は足を進め、王子の横に堂々と腰を下ろした。
「人の父親を勝手に舅呼ばわりするな。
悪王ザッハーグの血筋に連なる蛇が、我らが王家に輿入れ出来ると思うのか?」
女から顔を背け、ファルハードは言い捨てた。
普段ならば、彼はどんな時でも相手から視線を逸らす事は無い。
相手を正面から見据えることが出来ないのは、心に後ろぐらい所があるからだった。
「まあ、何と非道な言い草でしょう!
あの夜、わたくしを組み敷いて乙女の新鉢を割りなさった方が、
今になって知らぬ振りをなさいますの?」
「……」
「『徒心ではない』『何があっても、お前を手離したくない』などと耳障りの良い言葉で
娘を誑かすとは、カイクバードの正義と侠気も、代を重ねれば煤けてゆくものなのですね。
綸言汗の如しと申しますが、カヤーニ家の汗は直ぐに乾いてしまわれるの?
この卑怯者!色魔!ろくでなし!」
本来は王子にとても言えないような悪罵が続けられるが、そこを突かれるとぐうの音も出せない。
成り行きとは言え、彼は王家の敵と情を通じてしまったのだ。
さらに悪い事に、手を出したのは自分からで、手を付けたのは処女だった。
『一夜の過ちでも、ひょっとしたらとんだ重大事に繋がりかねない』
血気盛んな王子達に老いた教育係が繰り返して教えた言葉だが、それが今更ながらに身に染みる。
「生娘の体を弄んでおいて、全く恥知らずもいい所ですわ。
庶人だってもう少し己の言動に責任を取りますわよ」
「ぐ……」
「わたくしがカヤーニ家に嫁入りする資格が無いと仰るのなら、
貴方さまこそ王家に居る資格は有りませんわ。
『いっそザッハーグの婿にでもなってしまいなさい』」
「!?……」
「うふふ……」
「ふはははは、これは傑作だな。シャフルナーズ……」
「おほほ、本当ですわねえ。でも、もし貴方さまにその気がございますなら、
いつでも婿入りして下さってかまいませんのよ?」
面罵していた女も、罵られていた男も共に口を開けて笑った。
シャーシュタールでは『ザッハーグの婿になれ』というのは、
独身男性に使われるありふれた悪口であったからだ。
よっぽどその言い回しが気に入ったのか、彼は腹を抱えて笑っていた。
「くくくっ…… まさか、そんな言葉をかけられる日が来るとは、我は思いもよらなかったぞ?」
「わたくしも、パルティアの王子殿下をそう罵れるとは思ってもみませんでしたわ」
先程眉を吊り上げて男の不実を言い募っていたシャフルナーズだが、
今はもう普段どおり妖しい微笑みを浮かべるいつもの顔に戻っている。
実のところ、彼女はファルハードの言葉に怒りを感じたわけではない。
王子としての立場では、そう言うのが当然だとも思っている。
ただ、彼の言い方に後ろめたさがあるのに気が付き、
『ちょっと苛めてやろうかしら』と思っただけなのだ。
けれども、ファルハードにとって事は笑話で終われるものではない。
笑いが収まるにつれ、その精悍な顔に真剣味が戻ってくる。
「……しかしシャフルナーズ。
実際に、我らの家が敵同士だという事は揺ぎ無い事実だ」
「それがどうかいたしまして?」
「父や兄、一族郎党に至るまで、ザッハーグ家の娘を王宮に入れる事を肯んずる者は居まい。
言い難い事だが、何かの形で償いはする故、あの夜のことは許して貰いたいのだが……」
「おほほ、ひょっとしたらお義兄様方は応援して下さるかもしれませんよ?
出来の良くて目障りな弟が蛇王家と通じたとなれば、格好の攻撃材料でございますもの」
愉しそうに、家中の不和を女は指摘した。
この数日、彼の心が晴れない原因はそこにあるのだった。
パルティア王である父は突然倒れ、侍医たちも病の原因を突き止められないでいる。
万が一の事態も覚悟しなければならないと言われたが、
医学の心得のないファルハードには、苦しむ父親の手を握ってやる事ぐらいしか出来ない。
だが、そんな自分の無力さよりも腹立たしいのは、
気の早い廷臣たちが『次』はどうなるかの品定めし、色々蠢動し始めていること、
さらに兄達も盛んに画策している事なのだった。
もちろん彼の周りにもおせっかいな人間がハエのように集っており、
この夜一人自室で過ごしたかったのも、そんな醜悪な輩と会いたくなかったからであった。
シャフルナーズの口調が気に障ったのか、ファルハードは態度を硬くする。
「そこまでこちらの事情が判っているのなら、
今の我には、お前にかかずらっている暇が無いことも承知だろう?」
「あら、わたくしを追い出す御積りですか?」
「追い出すとは言い方が悪いな。そもそもお前が勝手に押しかけて来たのだろうが」
「あらあら、なんとも冷たいお言葉でございまえすこと…… いいですわ。
そんなに私の顔が見たくないというのなら、今宵はこれ位で帰ります」
シャフルナーズが拗ねたように言う。
目の前で不機嫌そうに表情を曇らせた顔もまた美しい。
ザッハーグの家でなければ、どんな家門の出自であっても引き止める所だが、
蛇王の悪逆を駆逐した偉業こそ、彼らカイクバード家の支配を正統化しうる所以であり、
彼としても譲れない部分なのだった。
心のどこかでそれを残念に思うと同時に、ファルハードは少々驚いてもいた。
この一筋縄でいかない蛇姫を、こんなに簡単に追い払えるとは思っていなかったのだ。
「では、次は御義父さまの葬儀の時にお目にかかるとしましょうか?
そう日を置きはしないでしょうけど」
「っ……不吉な事を言うな」
「おほほほほ……」
意味ありげに、シャフルナーズは横目でファルハードへ視線を送る。
「不吉であろうと事実は事実。
典医たちがどんなに匙を捏ね回そうと、効かぬものは効きませんことよ?
ああ、御義父上もお可愛そうに。
一天万乗のパルティア王が、哀れ天寿をまっとう出来ずに崩御なさるとは」
「待てッ!」
立ち上がろうとした女の手首を、彼は掴んだ。
血相を変えて問いただすファルハードに、腕をきつく握り締められても、
シャフルナーズは顔色一つ変えることはない。
「父の病の原因を知っているというのか? シャフルナーズ!」
「それはもう…… パンはパン屋でございますもの」
「教えろっ!」
「巫蟲の術でございますよ、ファルハードさま」
「!?」
「典医どもは『反逆者とはいえ弟君をお討ちになったご心労のため』などと
見当外れを申しておりますが、呪物を仕掛けられた事に気が付かぬとは、
揃いも揃って俸禄泥棒も良いところですわね」
ファルハードには、女の瞳が嘘を吐いている眼には見えなかった。
意味ありげな笑みを絶やさぬ得体の知れない女子だが、
そもそも嘘には吐く価値のある嘘と無い嘘がある。
「どうしたらその術は解ける!」
「あらまあ、医者よりもわたくしの言葉をお信じになりますの?」
「ここで病の元を欺いた所で、お前に何の利が有る? せいぜい我が心を一時惑わす程度だろうが」
「うふふ……」
「それに、お前が嘘を付くとしたら、こんな所でなけなしの信用を壊す真似はしそうにない。
もっと重要な局面で、人を奈落の底に突き落とすために欺く…… お前はそういう女に見える」
「おほほ、酷い言い様ですわねえ……」
かなり酷い言われ方なのだが、シャフルナーズに怒りの色は見られない。
愛しい男が必死に詰問してくるのを、むしろ嬉しげに受け止めている。
先には相手を詰って悦んだ女であったが、今は反対に悪し様に言われる事を楽しんでいるのだ。
ファルハードは彼女の血統から蛇と呼ばわるが、シャフルナーズの淫蕩さは
出自によらなくてもそう称されるに相応しいかもしれない。
「教えて差し上げてもよろしゅうございますが、
呪術の種明かしをするのは、魔道士の仁義に外れますのでねえ……」
「条件があるのなら、もったいぶるな」
「うふふふふ、ではお言葉に甘えて……」
細い人差し指が、ゆっくりと男の目の前に突きつけられる。
「一晩、御身がわたくしの物になって下さるというのなら、
義父上にかけられた呪いを解く方法をお教えしてもいいですわ」
「なんだと!?」
「わたしくは慎ましゅうございますから、愛しい方から貪ろうとは思いませぬ。
あの日のように一夜わたくしを慈しんで頂けるのならば、
いかなる秘密でもお教えしましてよ」
「我にお前と契れというのか?」
「はい── 別に減るものでもなし。簡単なことでございましょう」
「……そういう言い方は、姫君には相応しくないな」
「おや失礼。なにせ出自が出自でございますから、おほほ」
「他の物ではいかんのか? 一夜の歓楽よりも、形の残る謝礼を支払うぞ」
「ほう、それはどのような?」
「金でも、宝石でも、王室の宝物庫に有る物なら大抵の物は──」
「おおっほほほほほほっ……」
男の申し出がおかしくて堪らないといった風に、シャフルナーズははしたない程に大笑いした。
「お笑いして申し訳ございませんね、ファルハードさま。
ですが、金や宝物の類は、妖魔があなた達人間を堕落させ、魂を購う時に用いる代物では?」
「む……」
「妖から金銀を奪った貰ったという話は巷間に溢れておりますが、人が魔族に金を払うとは!
それこそ後の世の語り草になりましょうね…… うふふふふっ」
芝居めいた台詞とともに、幾つもの腕輪を嵌めたその白い手で笑いの止まらぬ口元を覆おうとする。
わざとらしい仕草だが、彼女の宝石付きの腕輪の価値は、
どれ一つとっても平均的なパルティア貴族の身代に勝りそうだ。
「金子や宝石は嫌いではございませんが、さし当たって不自由しておりませんの……」
「……」
「この世に金で換えがたいものは三つ。
人の命と骨肉の情、そして男女の愛── 違いまして?」
「……違わんな」
「では、悩む事はございませんでしょう?」
身を乗り出して、麗しいかんばせを愛しい男に寄せる。
芳しい花の薫りが、女の首筋から香った。
「御義父上のお命がかかっているのですから、よもやお断りになりますまい?
孝行息子のファルハードさま」
「仮にも父を舅と呼ぶのだから、無償でしてくれても良さそうなものだがな」
「まあ、わたくしの輿入れを認めさせて下さいますの?」
「それは……」
「おほほほほ、これでも十分お負けしている積りですけれど。
パルティア王の命と引き換えでございますもの。
一晩では済ませず一年二年、いえ『正式に妻に娶れ』と言ってもよろしゅうございますが、
両家のわだかまりを考慮して、それは言い出さずに置いたのですよ?」
「……くぅっ」
ファルハードの眉間に皺が寄る。
あの晩この妖姫と契ってしまったのは知らぬが故の過ちだが、二度目はそれで済ませられない。
けれども、女の言うとおり父の命には代えられぬ。
必要とあらば肉親でも政略の具にせねばならないのが、王族としての宿命。
一夜の我慢で命が買えるのならば、たとえ醜女とでも寝ねばならぬ。
相手の意のままになるのは忌々しいが、苦渋に満ちた表情でファルハードは頷くのだった。
「判った……」
「うふふ、そう言って下さると信じてましたわ」
「だが、こちらも王子の身を差し出す以上、後で虚言だったでは済まさぬぞ!?」
「ご心配なさらず、わたくしは愛しい方にはめったに嘘を申しませんもの」
男の首筋に両腕を絡ませ、シャフルナーズは体を相手に委ねる。
紅を引いた唇が、ファルハードの唇に重ねられた。
あの晩とは逆に、女が男の唇を奪う。
音を立てて、存分にシャフルナーズは吸った。
男の頭を抱え込み、より深い繋がりを求めて啜る。
余りの激しさにファルハードが辟易しかけた頃、ようやくシャフルナーズは顔を離した。
「恋人との口付けは、火の様に熱く、砂糖菓子より甘い……、古詩の通りでございますね」
「……『恋人』との口付けはな」
「まあ、ではわたくしとの接吻はどうなのです?」
「甘いが、同時にとてつもなく苦い」
「うふふ、ではもう少し甘みを効かせた口付けを心掛けるとしましょうか」
そうして頬へキスをしようとしたシャフルナーズだが、
ファルハードは彼女の細腰に手を回すと、妖の姫を軽々と抱きかかえた。
「それよりも、とっとと寝室で事を済ませてしまおう」
「床急ぎなさいますのねえ。
慌てなくても、夜は長うございますよ」
「我にとって、今日ほど夜の長さが恨めしいと思った日はないな」
「まあ、つれないお言葉。
ファルハードさまは舌の剣で女を傷つける名人ですわね」
「お前こそ弁舌の縄で男を縛る名人だ」
「おほほ、まだお縛りしたのは御身一人でございますよ……」
ベッドの上に運ばれて、今度は男の方から唇を寄せる。
二度目の契りを、二人はそうして交わした。
・・・・・・・・・
「王都の西小路に、シンド人が多く住む一角がございますの」
「……」
「そこの赤い呪い小屋にいる老婆が、御義父上の爪を入れた泥人形をこしらえて
日々太針で責め苛んでおりますわ」
「では、その老婆を殺し、泥人形を壊せば良いのだな」
「その通りでございますわ、愛しいファルハードさま」
それだけ聞き出すと、女の艶やかな黒髪を撫でていた手を止め、
ファルハードは身を起こそうとする。
「あん、そんなにお急ぎにならなくても…… まだ約束の夜は明けておりませんのよ」
「生憎とこちらは父の命がかかっているのでな。
一刻でも速く呪いを解いて差し上げたいのだ」
「ふふふ、本当かしら? わたくしから逃れたい口実ではありませんの?」
「それも有る」
「まあ、本当に酷い方…… わたくしをこんなにしておいて、飛ぶように去ってしまうのですもの」
まだ月は傾いていないが、シャフルナーズは巫蟲の秘密を喋った。
雄獅子の如きファルハードの体躯に存分に弄ばれ、彼女は息も吐けぬほどに疲れ切っていた。
本来なら、恋人同士の甘い睦言を期待するべき所だが、男が求めているのは呪物の秘密。
せっつく相方の詰問に堪えかね、シャフルナーズはとうとう口を開いたのだった。
「お前が激しくしろと言うのが悪いのだ」
「物には限度という物がありますわ。
お忘れかもしれませんが、私はこういう事をするのは二晩目なのですよ?」
「その割りに身体の反応は良かった」
「それはもう、教師の薫陶がよろしいもの。おほほ……」
互いにきわどい台詞をかけながら、ファルハードは衣装を調える。
彼の背中に、シャフルナーズはそっとしなだれかかった。
「なんだ、秘密を聞き出した以上もう用はないぞ」
「冷たい方…… わたくしとファルハードさまの関係に免じて一つお教えしますけど、
シンド人は何の理由もなく人を呪ったりしませんのよ」
「ん?」
「呪い師は呪物を売って口を糊する稼業。巫蟲術の裏には、依頼人が必ず居るものです」
「……」
「もし御義父上の病が治った後、無実の人間を呪物で陥れようとする者が現れたら、
それが今回の一件の依頼人ですわ──」
それだけ言い、シャフルナーズは恋人の頬に唇を当てた。
背中にかかっていた感触が不意に消えファルハードは振り向くが、
既に女の姿は無い。
ただ、窓から入り込む風に揺られて、カーテンがひらひらとたなびいていた。
・・・・・・・・・
「ええい、もっと探せ! そこもさらに深く掘れっ!」
背中に突き刺す父王の視線に震えながら、第二王子アタセルクスは工人たちを叱咤した。
「そこの床も剥がしてみろ。呪物の証拠は見逃すな!」
「……」
「そっ、そうだ! 天井裏に隠したかもしれん。そっちも……」
「……もうよいだろう、アタセルクス」
うんざりした口調で、アルダシールは息子を止めた。
「これだけ探して出てこないという事は、ファルハードは無実だろう」
「はっ、しかし……」
「しかしも何も無い、お前が『此度の病は、王位を狙うファルハードの呪術によるもの』
と申すから、こうして人数を繰り出して探しているのだぞ?
『第三王子の宮を探せば、直ぐに証拠が見つかる』と言っていたのはお前ではないか」
「そ、その通りではございますが……」
「こうして何も見つからぬのでは、お前の言が誤っているとしか余には思えん」
「はっ、ははーー…… も、申し訳ございません。
ええいっ、此奴めっ! さては手柄目当てに我が弟を讒しよったか!」
「えっ?」
やおら振り向いたかと思うとアタセルクスは、何の事か判らないといった風情の侍従に対して
抜き打ちに剣を振るった。
「ぎゃぁーー!?」
血が、第三王子宮の地面を濡らす。
アタセルクスは剣を鞘に収めると、父である王に向かって跪いた。
「申し訳ございません、父上。悪人に惑わされて宮廷をお騒がせした罪、万死に値します」
「謝るなら、余でなくファルハードに言え。
お前の所為で、自分の宮がここまで荒らされてしまったのだからな」
「はっ、はい…… 悪かったな、ファルハード」
「もっと真剣に謝れんのか?」
「……許してくれ、弟よ。讒言を信じた私が愚かだった。お前の宮は私が責任を持って元に戻す」
「いえ、済んだ事をお気になさらずに……兄上」
一応そう言ったファルハードだったが、兄の謝罪の言葉を完全に信じることが出来ずにいた。
シンド人の呪術師を斬った晩に囁かれた毒が、血を分けた肉親への絆を感じさせない。
蛇王家の女が予言した事が事実なら……
ファルハードは背中に薄ら寒いものを感じ、無理矢理その疑念を押し殺そうとしていた。
パルティア王アルダシールは、病が突然だったと同じように、突如として平癒した。
王宮中が表向き国王の回復を祝ったが、
直後に第二王子が弟を巫蟲の疑いで誣告するという事件が起きたのだ。
断固として否定する第三王子であったが、門閥の後押しを受けた第二王子は
第三王子宮を調査するとして、今日国王臨御の元に強引な捜索を行ったのだった。
その様を、王宮に聳える高楼の窓からこっそり眺めていた影があった。
「にしても恐ろしい奴じゃ……
父を呪殺して罪を弟に擦り付けようなど、カイクバードの裔とは思えん悪賢い奴。
あの見事な言い逃れようも褒めてやりたいわい」
「うふふ…… でも、あいつの所為でお前は一苦労させられたのよ?」
「ぺっ、苦労したのはひい様の所為じゃろが。
この年寄りに、王子宮に埋められた呪物の証拠を掘り出せなどと命じよって」
「おほほ、そうしなければファルハードさまが罪に落とされてしまうでしょう?
念のために、呪術とは関わりの無さそうな犬猫の骸まで掘り起こして貰ったけれど、
お前には本当に苦労をかけるわねえ」
「ふんっ! 女になってから、ひい様は一層人使いが荒ろうなったわい」
第三王子宮に埋められていた、おどろおどろしい文様が刻まれた頭骨を手で弄びつつ、
女は老いた従僕の不平を聞く。
それは今日の捜索で第二王子が発見する筈であった『魔術の証拠』であった。
「こんな子供騙しの代物では鼠一匹だって呪えはしないでしょうに、救いがたい素人の浅はかさね」
「俗人は信じたい物を信じるものじゃ。贋物でも人一人陥れる用は足せるわい」
「しかし、お前の言うとおりあの王子は中々の曲者ねえ……
今回は無事に終わりそうだけど、これからが楽しみだわ」
「憎きカヤーニ家同士の殺し合いは、正に望むところ。
せいぜい諍いをおこして我らに血と魂を啜らせて貰いたいものじゃ」
「そうねえ、ファルハードさまが困れば困るほど、私に頼らなければならなくなるもの」
「ひぇいっ、ひい様に見込まれたあ奴が哀れじゃ。儂にはそっちの方がよっぽど恐ろしいわ」
「うふふふふ、おおっほっほっほほほほほほほ……────」
誰も居ないはずの高楼に、女の哄笑が響き渡る。
呪物騒ぎは落着したが、幽霊が出るとして
この日を境に塔には宮廷の人間が近付かなくなったのだった。
(終わり)
年代記
パルティア王アルダシールの治世九年
国王病に倒れ、一時危篤となるも回復。
その直後、宮廷内に巫蟲騒ぎ有り。
>>549 このお姫さま大好き!
作者様 超GJです。続きも期待してます
お、おもしろいやんけ!
GJ!!
新作も楽しみですが、続きが読めるのも嬉しい限り。
GJ!マッチポンプをしなくても王宮には王子の苦難の種が
ゴロゴロしているから困る
もしかして誰もいない?
ずっと前から書いているけど、話のうまいまとめ方が分からなくなって次のを投下できずにいる俺もいるよ……
いろんな作品をまってる俺も居るよ。
わりと人いて安心した。
≫556
少しぐらいまとまってなくても全然構わんよ。期待してる。
結構人はいると思う。
でも、投下がないときはみんな静かだよねw
ヘタレな魔王の物語のリクエストを姫スレでもらったのだけど、
女兵士 姫 女兵士
1 → 2 → 3
という風に変則的に投下してしまったため、ここで次に姫スレに戻るのは
混乱の元かと思ってるのですが、どうでしょうかね?
そもそもスレ違いになるかと思って 2 を姫スレに書いたのが混乱の原因なのですが。
個人的にはえちぃの相手に合わせてスレをかえるか一貫して同じスレにするか
どちらでもかまわないので作者のやりたいようにやって欲しいな。それにしても
女兵士、姫、中世ファンタジーのスレは住人も職人も掛け持ちしてる人が多そうだ
作者様が投下したいと思うほうに投下したらいいと思う。
女兵士スレに投下した時は、姫スレのほうにその事をお知らせみたいな
感じにすれば問題ないんじゃないかな>ヘタレな魔王の物語
逆もまたしかりで。
期待
アリューシアこないかなぁ。
アシュレをしつこく待ってますw
アビゲイルも…
副長殿…
568 :
邂逅]T:2007/10/16(火) 23:35:42 ID:mUvecu7P
んばんわ。アビゲイルきました。
エロくないですが。ドゾー
男の腹の上で俯く女の肩が大きく上下していた。
タイロン・ツバイからは顔にかかる前髪のせいで表情がわからない。
「あ・・・ぅ・・・」焦点の定まりきらない視線が、あたりをさまよい始めた。血をながして倒れる城主、開いた窓。
自分と男の結合部を眺め、ゆっくりとタイロン・ツバイの顔へ。鏡の中の自分の顔を認めて、あたりをもう一度見渡す。
「・・・な」今一度タイロンの開いた天眼に視線を当てた。
「な・・・んなの、これは」
しん、とした室内に彼女の言葉が響いて消えた。
まとまらない思考を奮い立たせて、アビゲイルは今自分がおかれている状況を理解しようと努力していた。
しかし下腹部は熱を孕んで脈打ち、思考を邪魔する。
「アビゲイル」
眼下にはタイロンがいる。
先程まで、この男にいいようにあしらわれていたのではなかったのか?
今のタイロンは両腕を衣類でまとめて吊り下げられ、自分に組み敷かれている。
表情は苦しげで、すがる様にこちらを見上げる・・・まるで自分がこの男を犯しているようではないか。
身じろぎをすると下腹部に快楽が走り、まとまりかけた思考が拡散しかかった。
「・・・アビゲイル、俺を見て」
かすれたタイロン・ツバイの声に導かれて、アビゲイルが視線を動かした。
お互いに、病人のように潤んだ瞳を見つめあう。
つながったまま、どれほど視線を交わしていただろうか。
「・・・説明すると長くなる」口火を切ったのはタイロンだった。
アビゲイルが見慣れた人懐こい笑顔・・・と言っても苦笑なのだが、額の真円のせいで違和感を感じる。
「とりあえず、戒めを解いてくれ」
のろのろとアビゲイルが結わえられたタイロンの手を解放するために動き出した。
どこか体を動かすたびに、アビゲイルの体を快感が走り抜ける。
ぴりぴりと走る快感に腰が砕ける所を耐え抜いて、打ち込まれた楔をゆっくりと引き抜く。
泉から溢れたアビゲイルの蜜とタイロンの残滓が、つうっとタイロンの男根を滑り下りた。
思わずうめき声が漏れる。
タイロンを足の下においたまま、アビゲイルが戒めを解きにかかった。
「ややこしい・・・」
膝立ちになったアビゲイルの下腹部が、胸地が、闇の中でもほの白く陰影をつくり、なまめかしい。
「・・・ややこしい男だと思っていたんだ」
眩しいものを見上げるようにタイロンが見ている。
その視線がアビゲイルの四肢に快楽を与えていた。
「ここまで」
苦痛をこらえるようにせり上がる快楽をこらえ、唇をかみしめる。
引きむしるように、戒めを取り払った。
「ややこしくなくてもいいのに・・・」
絞り出すようなかすれ声にとともに、アビゲイルがぺたんとタイロンの腹の上に座り込んだ。
長く戒められていたせいで、タイロン・ツバイには腕の感覚がない。
「おれもそう思う」
自嘲気味に笑うタイロンに下から見上げられ、アビゲイルがうろたえて眼を伏せた。
妖艶な雰囲気は女神とともにさり、恥らう様子がかえって淫靡だ。
儘ならない腕を操ってアビゲイルの額に張り付いた髪を取り除く。
「私には、なにがなんだか・・・わからない。」
頑是ない子どもをあやすように、頬をなでた。
「おれも」
「うそつけ」アビゲイルがため息とも吐息ともとれる長い息をはいた。
タイロンはアビゲイルを落とさないようにゆっくりと身を起こし、彼女を抱えたまま立ち上がった。
「自分で歩ける。」
呟く抗議を無視して、城主をまたぎ越えて、寝台にそっと、壊れ物を扱うように優しくおろす。
そのように扱われたことがないのでアビゲイルは戸惑い、何のリアクションも起こすことができなかった。
先程の激しい行為で限界まで高まったからだの熱に、絹地がひんやりと心地よい。
かき寄せた絹を、タイロンはアビゲイルにかけてやった。
柔らかな薄布はアビゲイルのもつ曲線を隠さないので、かえって眼の置き場に困る。
結局アビゲイルの隣に背を向けて寝ころんだ。
「何から話せばいいのかぁ・・・」
心底困り果てた声音に、アビゲイルの頬がおもわず緩む。
「正直、どこまでわかってる?」タイロンの問いに、アビゲイルが考え込む。
いいように弄ばれて、達したところまではハッキリと脳裏に浮かぶ。痴態を思い出してしまい、頬が赤らむのが自分でもわかってしまう。
「・・・とりあえず、お前、じゃないな、タイロンさまの身分。」
タイロン・ツバイの気配が一瞬こわばる。「さま、は止してくれ」
発する声は今までになく自嘲にみちていて、普段の闊達さは消えうせている。
王に連なる貴い人。身分を隠して王の目となり耳となる者。
「クンツさま裁くのをみてた・・・」
本当の、タイロンの仕事。この男の得体の知れなさが事実を知った今なら腑に落ちる。
「・・・その後は?」
アビゲイルはタイロンの声に真剣なものが含まれていることを感じ取り、思いだそうと考え込む。
が、そのあとのことは絹地の向こうの出来事のようにぼんやりとかすんでいる。
両手で顔を覆う。「ひどく・・怒っていた。」
じっと手を見れば、確かにこの指で城主から天眼を奪った感覚がある。
「城主の天眼を捨てた」
「そうだ」
ふ、とタイロンの体臭が自分の手から漂うのをとらえた。
「ひどく昂ぶった」
「・・・ああ、そうだ。」
ゆっくりと、あったことを鮮明にしていく。
この手で、タイロンの男根を引きずり出し、口をよせた・・・混乱して、王の息子にしがみつく。
身分の尊い方だったのだ。
「タイロンを犯した」
手指が、小刻みに震えるが、自分では止めようもない。
神話のような過去と直近の過去と現在がない交ぜになって、気が遠くなりかけた。
「私ではないものが、私を満たしていた・・・」
頬にぴたぴたと当てられる手の冷たさで、ふと我に返った。
真近にタイロンの天眼が鈍く光る。「タイロン・・・さま」
心配顔に影が差す。「さまはなし、だ」ため息は深い。
自分を落ち着けるために、アビゲイルは目を閉じて、深く大きく息を吸い込んだ。
「私の中にいた・・・あれは何だ?」
「お前に依ったものは、大きく、貴きものだ。」たしかに、たとえようもなく大きな存在だった。
「この大地に豊かな実りをもたらす」アビゲイルの中に母のような慈愛を満たした。
「災厄をもたらすのも、あの貴きもの次第だ」父のような厳格さに満ちていた。
「われらは母神と呼ぶ。」目を閉じていても、タイロンの黄金の目がまぶしい。
腕の中の女がくったりと脱力して自分に身をゆだねてきた。
今日はここまで。
もうちょっとで終わりますよん。
うわ〜、本当にアビゲイル来た! GJです!!
完結篇も楽しみにしてます!
乙です!
続き正座して待っております
20kbを切ると長めの話は最後まで収まらなくなるので、
そろそろ次スレの季節と思われますが如何?
おお!そろそろ新スレの時期ですね。
自分は立てられないので、どなたか立てていただければありがたい。
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_ン ゝ、ilrlモi=、 lr'iモiゥ,イ,イン、´ 乙
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エロ無しですが埋めます。
女将軍が養子を迎える話で、全体のシメにあたります。
女将軍は死に瀕していた。
敵からは死神の如く恐れられ、味方からは畏敬の念を抱かれた彼女であっても、
有象無象の雑兵のと平等に死を迎え入れようとしていた。
「──私が死んでも、決して包囲を解いてはならぬ。なんとしてもあの街を落とすのだ」
「ははっ……」
ベッドに横たわる女の声は、かって馬上で軍兵を叱咤した頃とは比べ物にならぬほど弱弱しい。
しかし、まだ幕僚達にその執念を伝えることは出来た。
この街さえ陥ちれば、戦争の帰趨が見えてくる筈なのだ。
兵法上の常道に背いて市壁を囲んだままの越冬に臨んだのはそのためだ。
寒気に兵士が殺されていくなか、外部からの援助を断つために封鎖は続いている。
壁の内側も、飢えと寒さでさぞや惨いことになっている事だろう。
だが、冬は女将軍をも捕らえた。
軍中にはびこる流感が彼女の古傷を悪化させた。
剣を取れば未だ誰にも敗れたことの無い勇者が、いま病に敗れようとしている。
それも数日もかかるまい。
すでに発熱する病状は過ぎ、全身が寒気に襲われている。
意識の有るうちに、部下達に指示を残しておかねばならなかった。
「ブラッカ、そこに私の鎧櫃があるな?」
「はい、閣下」
「櫃の蓋は二重になっている。その間にあるモノを取り出すのだ」
彼女の忠実な副官は、命令の通りにそこに挟まれていた物を取り出した。
ブラッカは、既に腕を伸ばす力も無い上官のために、目の前にそれをかざす。
それは、一通の封筒だった。
あて先は彼女たちの主君である。
将軍の印章が押された封蝋が破られて居ない事を確認し、彼女は頷いた。
「では、────それを燃やしてくれ」
「……宜しいので?」
「いいのだ。今更未練がましい事だった」
将軍自筆の署名のある国王宛の封書であったが、本人がそうせよと命じた以上、
ブラッカは逆らうわけにはいかなかった。
幕僚達も、あのような場所に隠された密書の内容に興味はあっただろうが、
封筒は燃え盛る暖炉の炎にくべられる。
こうして公開されれば王国の行く末に波紋を投じかねなかった文書は、灰となって葬られた。
火が紙を焦がし、秘密が炭となって朽ちてゆくのを彼女は静かに眺めていた────
・・・・・・
「まあー、あだー……」
彼女の腕に、赤子が抱かれていた。
まだ生まれて一年に満たぬ子だ。
「ふふふ、可愛らしい御方だ」
「お前でも、そんな風に思うことがあるのだな」
「フッ、私にも可愛らしいものを愛しく感じる気持ち位あるさ」
テーブルをはさんで坐るのは大剣を背に帯びた傭兵風の男だった。
女将軍は相手の挑発めいた言葉さえ気にならぬように、腕の中の赤子に微笑みかけていた。
紅葉のように小さな掌を伸ばして、女将軍に手を繋いで欲しがっている。
「んん?、あくしゅですか? はーい、あくしゅですよー」
「国元の連中に見せてやりたいものだ。泣く子も黙る女剣士が、赤ん坊と『あくしゅ』とはな」
「貴様の言う『国元』とやらは何処の国だ? 私は反逆者と母国を同じくした覚えなど無いがな」
「……」
三つの瞳が、挑発的に交差する。
過去に横たわる恩讐は晴らされた訳ではない。
むしろ時間を重ねたことで、より一層複雑に絡み合ってさえいる。
「……う、ういぃゃぁーん! あぁーん!」
二人の間に漂いかけた不穏な空気を察したのか、赤ん坊は泣き出した。
慌てたように、女剣士は襁に包まれた赤子を持ち上げる。
「ああ、申し訳ございませんね! ほーら、高い高ーい」
必死になってなだめる女剣士を見ながら、男は杯を傾けた。
彼の左目は眼帯に覆われている。
それを奪った敵は、今目の前で子供をあやしている。
皮肉な事だ。
かって自分たちを引き裂いた女に、彼らは縋らなければならなかった。
さもなければ、子を産んで体力が衰えていた──妻を連れての逃避行は不可能だったろう。
「やれやれ、ようやく泣き止んでくださったか……
もうお休みさせた方がいいかもしれないなあ」
「そうだな。明後日には国境を越えたい。早めに寝ておいた方がいいだろう」
「……」
「国境を越えてまで、お前について来て貰う事はできない。済まなかったな」
「礼を言われる筋合いは無い。今回の事は私の罪でもある……貴様を生かしておいた」
五年前、彼女は一度だけ騎士の誓いに背いた。
その負債の証が、目の前にいる男と腕の中に居る赤子だ。
男の隻眼に僅かに殺意が含まれかけたが、直ぐに霧消した。
女の方も、それ以上のことは言わなかった。
共に剣を取って戦っている時だけは昔の戦友同士に戻れるのだが、
武器を鞘に収めれば、わだかまりは容易に溶けない。
「止めよう、もう終わった事だ」
「そうだな……」
「これからあの方を連れてどこへ行くつもりだ?」
「東へ、五年間で俺にも知り合いが増えたからな」
「逃げ切れるのか? 例え地の果てへでもこの国は暗殺者を送り込んでくるぞ」
「覚悟の上だ。あの方と共に死ねるのなら本望だ…… 今も、五年前もそうだった」
「……」
しばしの沈黙の間に、二人ともがあの日のことを思い出していた。
三人の運命が切り裂かれ、今に続く宿命が準備されたあの日のことを。
再び女剣士が口を開いたとき、その声には厳とした決意が込められていた。
「この子は私が預かる」
「なんだとっ?」
「貴様とあの方は死んでも本望かもしれんが、赤子を巻き込むのは止めろ。
この方は私が養育する」
「そんな事は……許さん。あの方にとってもこの子は心の支えなのだ」
「冷静に考えろ。身体の弱ったあの方と子供を連れて、これから先も逃げおおせられると思うのか?」
「……」
「私にとっても主筋にあたる方だ。決して粗略な扱いはしない──」
・・・・・・
「ブラッカ。あの子は私の刀を継ぎたがっていたが、
身体が大きくなって細身の刀法を使うのは、かえって窮屈な思いをするだろう……
もっとおおらかに、そして精緻に武器を扱う技を修める方があの子のためだと思う」
「はっ、ルーシス卿は剣術師範として多くの優れた弟子を育てております。
彼の元で修練なされば、閣下の様な達人になられるでしょう」
「私には財産を譲るべき身内は少ない。
公証人に遺言状を預けてあるが、お前は後見人として見守ってやって欲しい」
「お任せを、閣下」
「それから…… 困ったな、主君に申し上げたいことよりも、
あの子のために言い残したいことの方が多いではないか?」
「それが、母親の情というものでありましょう」
「母か…… あの子もそう思ってくれているだろうか」
「疑うまでもなく、ラズリオン殿は閣下のことを母と慕っておいでですよ」
「そうか」
その言葉を聞き、女将軍の目元が緩んだ。
一条の雫がそこから零れ落ちたのが、ブラッカには判った。
「最後に一つ頼みたい事がある。あの子の両親の事だ」
「はい」
「もしも、あの子の二親にその気があるのなら、きっと何時の日か名乗り出てくるだろう。
それまでは私の子、ラズリオンでいるがいい── そう伝えてくれ」
「……承りました。確かにお伝えいたします」
信頼する副官に養子の行く末を委ね、安堵したかのように彼女は笑った。
「国王陛下にはお詫び申し上げてくれ。
功をもって大罪を償おうと思っておりましたが、私めはこれ以上お役に立てませぬとな」
上官の言葉に、部下達は戸惑いを憶えた。
偉大な女将軍がいつどのような罪を犯したというのだろうか。
戦場での大功はあれど、償おうとしていた大罪とは一体なんだろうか?
結局、彼らはその言葉を彼女なりの謙遜か、病に冒されたが故の言い間違いと受け取った。
その裏にどれだけの意味が込められていたのかは、手紙が燃えた以上誰にも判らぬことだった。
秘密を胸に仕舞い込んだまま、女将軍は明け方には死んだ。
攻囲は春まで続いたが、本国からの増援が遅れたために街は陥落しなかった。
彼女の死は無駄になったが、その功績と家門は後世まで伝えられている。
(終わり)
GJ!ラズリッサのその後の話ですか
ぐじょーぶ
そして埋め。
埋めついでに富士見とか昔の角川とかみたいな
いかにもな冒険者ものをみてみたいと呟いてみる
じゃあ、最近、新潮文庫の某冒険物を読んだオレが
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il ー )ヽ)、'´,'´__,ィ,
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、_彡' ' ,'i,'_l、ヾ l、l_l」i, , ミー
_ン ゝ、ilrlモi=、 lr'iモiゥ,イ,イン、´ 埋めるぜ
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